（書記朗讀）
第百二條 代理人ハ能力者タルコトヲ要セス但代理人カ無能力者ナルトキハ其代理人ハ本人ニ對シテ無能力者ニ特別ナル責任ノミヲ負フ
（參照）取二三四、代人規則三、佛一九九〇、澳一〇一八、蘭一八三五、伊一七四三、モンテネグロ四一三、二項、西一七一六、獨二草一三五、印契一八四
富井政章君
本條ハ旣成法典財產取得編第二百三十四條ノ規定ヲ載セタモノデアリマス、旣成法典ニハ本人ト代理人トノ間ニ於ケル委任契約ノ關係ヨリ見テ此規定ヲ掲ゲテアリマス、併シ此代理人ノ能力ノコトハ本人ト代理人トノ間ヨリ見ルコトモ出來マスケレドモ亦第三者トノ關係ヨリモ見ルコトガ出來ル、本節ヲ設ケテ代理人ノ事ヲ規定スル精神ハ先程モ申ス通リ主トシテ此代理ノ點カラシタノデアリマス、最モ此第三者ニ對スル關係ヲ見ルコトガ大切デアラウト思ヒマシタカラ此處ニ置イタ譯デアリマス、此條ノ規定ハ委任ニ依ル代理ト法律上ノ代理トノ共通ノ規定ノ積リデアリマス、併シ實際ハ殆ンド委任ノ場合ニ付テノミ適用セラルルデアラウト考ヘマス、委任ノ場合ニ於テ代理人ガ無能力者タルコトヲ妨ゲナイト云フノハ諸君モ充分ニ御承知ノ通リ代理人ト云フ者ハ本人ニ代ハツテ行爲ヲ爲ス者デアリマス、其行爲ニ依テ權利ヲ得義務ヲ負フ者ハ代理人デナクシテ本人デアル、然ラバ代理人ニ能力ノアルト云フ事ハ必要デナイコトト思ヒマス、苟モ本人ニ於テ己レノ代理人トシテ代理人ト爲スベキ者ノ適任如何ヲ定メルコトヲ得ル以上ハ縱令無能力者デアツテモ己レヲ代理スルニ適任デアルト思慮シタ以上ハ之ニ代理ヲ委任スルニ何ノ差支ヘモナイコトデアリマス、元ト法律ガ或人ヲ無能力者ト定ムル所以ハ其人ヲ保護スル爲メデアリマス、代理ノ場合ニ於テハ其理由ヲ適用スルコトハ出來ヌ、代理人ハ本條但書ニ係ル責任ノアル外ハ是ハ極ク狹イ責任ノ積リデアリマス、多分旣成法典ト同ジヤウニナルノデアリマセウ、又責任ノアル外ハ自ラ其行爲ニ依テ損害ヲ受ケルコトガナイ、夫故ニ委任者ノ選ビニ任カス、無能力者ニデモ委任スル事ガ出來ルトスルガ至當デアラウト思ヒマス、法律上ノ代理ニ付テハ少シ只今ノ申上ゲタ理由ニ依ルコトハ出來マセヌ、併ナガラ廣イ規定ニシテ置イタ方ガ實際便利デアラウト考ヘタ、若シ委任ニ限ル規定トシテ置ケバ法律上ノ代理ニ付テハ一々反對ノ規定ヲ掲ゲネバナラヌ事ニナリマス、然ルニ其必要ハナカラウト思フノデアリマス、其譯ハ無能力ノ原因中ニ於テ先ヅ禁治產ハ本章ノ本節ノ第百十三條ニアリマス如ク代理權消滅ノ原因ト爲ツテ居ル、夫故ニ始メカラ禁治產者ガ代理人トナルコトガ出來ヌ、殘ルモノハ未成年者ト准禁治產者デアリマス、然ルニ此法律上ノ代理ノ最モ重モナ後見ニ付テハ人事編ニ特別ノ規定ガアツテ後見人ハ未成年者デアル事モ出來ヌ、又准禁治產者デアルコトモ出來ヌ斯ウナツテ居リマス、多分其規定ヲ御採用ニナルコトデアラウト思ヒマス、又失踪ノ場合ノ如キニ於テハ實際裁判所ガ未成年者又ハ准禁治產者ヲ選任スルコトハ決シテナカラウト思ヒマス、若シ萬一アツタ時ハ其未成年者ト云ヒ又ハ准禁治產者ト云フモノヲ裁判所ガ適任者ト見タノデアリマスカラ別段弊害ハナカラウト考ヘル、夫故ニ本條ハ委任ニ限ラナイ廣イ規定トシテ置イタノデアリマス
土方寧君
本條ノ本文ハ極ク明瞭デアリマスガ只今ノ御說明ニ依テ但書ノコトニ付テ疑ヒヲ起シマシタ、此書キ方デゴザイマスト法律上ノ代理人モ其他ノ委任ニ基ク代理人モ包含サセテ居リマスケレドモ如何ニモ法律上ノ代理人ガ無能力者ト云フ事ハアルマイト思ヒマス、然ウシタナラバ實際外ノ法律上ノ代理人ノ規則ニ付テノ適用上ノ法律上ノ代理人ニ這入ラヌト思ヒマス、若シ這入ラヌトスレバ委任ニ基ク代理人丈ケデアル、然ウスレバ委任ガ契約デアルトスレバ契約ノ所ニ入レテ置イテ此但書ハ置カヌデモ宜イ、委任契約ニ基ヒテ委任ト云フコトガ生ズルコトモアル、代理權ヲ授ケルコトモアルケレドモ契約ノ外ノ原因ヨリシテ或事實カラ關係シテ委任ト云フモノガ生ズル場合ガアルト云フコトヲ見テ夫レガ契約ノ場合ニ限ルト云フコトナラバ或ハヽヽヽヽヽヽソコデ其委任ト云フモノガ契約デアルカナイカト云フ問題ガ起リハシナイカト思ヒマス、若シ委任ガ契約デアルト云フコトニナレバ此文カラ但書ヲ削ツテ仕舞ツテ此委任契約ト云フ中ニ讓ツテ仕舞ツタ方ガ宜カラウト思ヒマスガソコハ如何デゴザイマセウカ
富井政章君
只今モ申シマシタ通リ本條ハ法律上ノ代理人、其適用モ極メテ少ナイダラウト思ヒマス、若シアツタ場合ニハ此但書モ適用セラルル考ヘデアリマス、例ヘバ父ガ代理人トナルコトガアル法律上ノ代理人、未成年者デアツテモ子ノ財產ニ付テハ代理人トナル事ガアル、其場合ニハ矢張リ限定責任ヲ負ハセルコトガ至當ノコトデアラウト考ヘル
富井政章君
委任ノ場合ニハ無論當嵌マルノデアリマス、委任契約ノコトハ書カナクモ宜イコトニナリマス
土方寧君
夫レデハ法律上ノ代理人ニハ十中ノ八九ハ當ルマイ、併シ或ハ未成年者ノ父ガ法律上ノ代理人デアツタ時ハ這入ルカモ分カラナイ、夫レガ爲メニ但書ヲ書イテ置イタト云フ事デアリマスレバ其但書ガ置イテアル理由ニナルカモ知レマセヌガ、ケレドモ法律上ノ代理人が這入ラヌトシタナラバ委任ガ契約デアレバ契約ノ方ニ讓ツテ仕舞ツテ宜カラウト思ヒマス
富井政章君
復タ同ジコトヲ云フヤウデ變ハリマセヌガ、本條ノ規定ガ實際法律上ノ代理、法律上ノ代理人ガ無能力者デアルト云フコトハ實際認メラレテ居ルト思ヒマス實際アリ得ル、アツタ時ニハ此但書モ適用セラルル斯ウ云フ積リデアリマス
菊池武夫君
私ハ此但書ノ削除アランコトヲ望ミマス、何故ナラバ無能力者ト云フ者ノ其種類ニ依リマシテ責任ノ程度ト云フ者ハ自ラ前ノ處デ定マツテ居ルコトト思フ、而シテ其無能力者ガ責任ノ制限アル無能力者ガ人ノ代理ト爲ツタガ爲メニ夫レト異ナル所ノ責任ヲ負フデアラウト云フ推測ハ決シテ生ズルコトハナイデアラウト思ヒマス、代理人ニナラウガ自分ガシヤウガ法律デ以テ負ハセラレテ居ル丈ケノ責任ヨリシカ負フコトハ出來ヌ事ニ私ハ極マツテ居ラウト思ヒマス、左樣致シマスレバ但書ガナカツタナラバ人ノ代理人トナツタ時ニハ殊更ニ違ツタ責任ヲ負フデアラウ、又殊更ニ平生ナラバ負フベキ所ノ責任ヲ遁ガレルデアラウト云フ疑ヒハ起ラヌデアラウト思ヒマスカラ此但書ハ無用ノ事ト考ヘマスルカラシテ削除說ヲ提出致シマス
磯部四郎君
私モ菊池君ノ削除案ニ同意ヲ表スルノデアリマス、元來只今起草委員カラ御示シニナツタ通リ此條ハ舊トノ法典ノ二百三十四條デゴザイマスガ此二百三十四條デハ此但書ノヤウナ法文ガ何故必要デアルカト申シマスルト云フト旣成法典デハ代理ハ卽チ契約主義デ起ツテ居リマス、而シテ此旣成法典ニハ「代理ハ無能力者ニモ有効ニ之ヲ委任スルコトヲ得」トアリマス此「有效ニ委任スルコトヲ得」ト云フテアルト云フト完全ニ代理契約トナル、然ウスルト普通ノ代理人ニ於ケルガ如ク幼者ニモ負ハセナケレバナラヌト云フ必要ヲ感ズルカモ知レヌカラソコデ此旣成法典デハ此但以下ノヤウナ斯ウ云フ制限アル責任ヲ負ハセルコトノ必要ト云フモノガ出テ來マシタ、詰リ夫レハ代理契約カラ來ルコトモアラウシ、又單純ナル委任デ夫レヲスルトシナイトハ勝手デアル、有效ニ契約ヲスルコトガ出來ルト云フヤウナ文章ヲ此處ニ示サザル以上ハ固ヨリ代理ヲシヤウガ何事ヲシヤウガ無能力者其人ニ一般ノ法律ヲ以テ定メテ居ル責任シカ負ハセナイト云フ事ハ殆ンド明瞭ノ事デアラウト思ヒマス、旣成法典ノ如キハ但書ノ必要ガアツテ始メテ存ジテ居リマスルガ只今本案ニ依ルト決シテ但書以下ノ法文ハ必要ハナイコトト考ヘルカラ私モ菊池君ノ卽チ削除說ニ同意スルト同時ニ一寸其理由ヲ述ベテ置キマス
富井政章君
或ハ贊成スルカモ知レマセヌガ今一應確メテ置キタイ事ハ兩君ノ理由ガ少シ違ツテ居ルヤウニ解セラルル菊池君ノ理由デハ委任契約ノ所デモ斯ウ云フ規定ハ置カレヌデモ宜シイト云フ事デアラウト思ヒマス、之ニ反シテ磯部君ノ理由デハ委任契約ノ所ニハ要ルト云フヤウニ聽キ取リマシタガ尙ホ御兩君ニハ簡單ニ其點ヲ述ベテ載キタイ、或ハ贊成スルカモ知レマセヌ
菊池武夫君
私ノ說ハ御察シノ通リデアリマス理由ガ違ツテモ結果ハ同ジ事ニナル
横田國臣君
一寸御尋ネ致シマスガ此處ノ「能力者タルコトヲ要セヌ」ト云フノハ此無能力者ノ所ノ聾者トカ唖者トカ何ントカ氣違ヒモ何モカモ籠ルノデアリマス
富井政章君
此點ニ付テ一寸申シテ置キマスガ、本條ハ行爲能力ノコトヲ規定シタノデアリマスカラ意思能力ハ無論必要デアルト云フ見解デアリマス、代理行爲ハ何處迄モ代理人ノ代理行爲デ意思表示ハ何處迄モ代理人ノ意思表示デアルト云フコトハ第百條ニ於テ「本人ニ對シテ其效力ヲ生ス」ト云フ中ニモ含ンデ居ル積リデアリマス又第百三條ニモ其適用ガ現ハレテ居ル考ヘデ丸デ氣違ヒデ知覺精神ノナイ者ハ意思能力ノナイト云フ方カラ往ケヌモノデアラウト思フ、本條ハ禁治產者デアルトカ未成年者デアルトカ然ウ云フ行爲、無能力者ノ事ヲ言フタ積リデアリマス
土方寧君
本條ハ只今成立ツテ居リマスル削除說ガ通リマスレバ短イヤウニナツテ物足リナイヤウニ思ヒマスケレドモ夫レカト云ツテ要ラヌ事ヲ書イテ置ク必要ハナイト思フ、夫レデ私モ今ノ削除說ニ贊成致シマス、理由ハ別ニ申シマセヌ、大體ハ兩君ノ說ヲ贊成スル、夫レカラ其外ニ本條ハ但書ガ取レルトスルト「代理人ハ能力者タルコトヲ要セス」ト云フ事ノミニナリマスルガ併ナガラ此本項ノ所ヲ前條ニ照ラスト何ウナリマスカ一寸質問シタイ、若シ其無能力者ガ代理人デアツテ然ウシテ本人ノ爲メニスルコトヲ示サナイデ意思表示ヲ爲シタ場合ニハ何ウナリマスカ
富井政章君
只今ノ土方君ノ御質問ハ能ク聽取レマセヌデアリマシタカラ尙ホ一應
土方寧君
前ニ申シタコトハ別ニ申シマセヌ、此百二條ノ「代理人ハ能力者タルコトヲ要セス」ト云フコトハ是ハ結構ナコトデアリマスルガ、前ノ方ノ條ト照合ハセタナラバ何ウナリマセウカ、卽チ無能力者ガ代理人デアツタ時分ニ本人ノ爲メニスルコトヲ示サナカツタ場合ハ何ウナリマスカ
富井政章君
同ジコトデセウ、代理人タルコトヲ得ル以上ハ代理人
土方寧君
矢張リ自己ノ爲メニハ之ヲ爲シタルモノト看做スト云フノデアリマスカ
土方寧君
夫レデハ何ウモ第三者ト委任シタ本人トノ間ノ双方ノ保護ヲスル程度ヲ失シテ居リハシナイカト思ヒマス、殊ニ未成年者ガ代理人デアツテ然ウシテ其本人ハ誰ダト云フ氏名ハ言ハナカツタ、其氏名ヲ明カニ又暗ニ本人ガ誰某ト云フコトガ分カラナカツタ場合ニ百一條ニ這入ルト云フ御辯明デアツタ、未成年者タル代理入ガ第三者ト取引ヲシタ場合、然ウ云フ場合ニハ本人ト第三者ノ關係ハ成立タナイ、第三者ニ對シテ現ニ事ヲ爲シタ代理人ガ未成年者デアツタ時ハ取消スコトガ出來ル、充分ニ能力ガナイ、ナケレバ仕方ガナイ丸デ能力ガナケレバからつぽうデアルカ
三浦安君
私ハ只今ノ修正說ト意思ハ同ジデアリマスガ斯樣ニ致シタイ、「代理人ハ能力者タルコトヲ要セス」トアル下ノ「但」丈ケヲ省イテ頭カラ「代理人カ無能力者ナルトキハ其代理人ハ本人ニ對シテ無能力者ニ特別ナル責任ノミヲ負フ」ト云フ事ニシタイト思ヒマス
土方寧君
只今質問シテ置キマシタガ百一條ノ規定ニ依テ本人ト第三者トノ關係ハ成立タナイ、代理人ガ無能力者デアツタ時分ニハ成立ツト言フテモ充分ノ效力ハナイ、代理人ト云フコトハ分カツテモ本人ガ誰デアツタト云フ事ガ分カラナイ時、然ウ云フ時ハ第三者ト無能力者トノ間ニハ成立ツテ無能力者ナルガ爲メニ取消スコトガ出來ルト云フコトデアリマスカ
富井政章君
左樣デアリマス、先刻モ申シタ通リ意思表示ハナクテハナラヌ、純粹ノ氣違ヒハ省ケテ仕舞ウ、禁治產者ハ先程申シタ通リ省ケテ仕舞ウ、酷イヤウデアリマスケレドモ總テ無能力者ガ法律行爲ヲ爲シタ場合ハ然ウデス、無能力者ガ其法律上ノ代理人ノ同意ヲ得ズ或ハ保佐人ノ同意ヲ得ズシテ爲シタ事ハ取消スコトモ出來ル、此條モ外ノ場合ト違ツタ事ハナイト思ヒマス矢張リ取消スコトガ出來ル
土方寧君
本人ガ委任シタコトハ事實デアル本人ガ爲サシメタト云フコトハ此場合ハ違フ
梅謙次郎君
只今ノ土方君ノ御疑ヒハ斯フ云フコトデアラウト思ヒマス、土方君ノ御考ヘデハ他人ノ爲メニ爲シタト云フコトヲ言フ以上ハ旣ニ本人ニ對シテ效力ヲ生ズベキ筈ヂヤト云フノデ始メニ他人ト云フ事ヲ極メテ置イテ夫レカラ議論ヲ立テラレルカラ酷トカ可愛想トカ云フ議論ガ起ツテ來ル、私共ハ然ウハ思ハヌ、私ガ人ノ爲メニ遣リマスト言ヘバ其外ノ人ハ私ヨリカ確カナ人デアラウト云フ事ヲ想像スルト云フ事ハ私ハ却テ其方ガ無理デハナイカト思ヒマス、故ニ他人ノ爲メヂヤト云ツテモ他人ノ名ヲ示サヌデ遣ツタ場合ハ本人ニ對シテ效力ヲ生ジナイ本人ニ對シテ效力ヲ生ゼヌナラバ其代理人ニ對シテ效力ヲ生ズル、而シテ其代理人ト云フ者ハ元々未成年者デアレバ其者ガ未成年者丈ケノ責任シカ負ハナイト云フコトハ始メ契約ヲスル相手方ガ知ツテ居ラナケレバナラヌ
土方寧君
實ハ今私ガ質問ヲ致シマシタノハ百二條ノ規則ト百一條ノ規則ト一緒ニ併セテ申シタノデアリマスガ、前ノ條ニ立戻ツテ言フヤウニナリマスカラ止メマス、止メマスガ此但書ヲ削除スルト云フコトニハ贊成デ夫レハ只今迄質問シタ所デ見テモ甚ダ此但書ハ不必要ニナルト思ヒマス、何故ナラバ第三者ニ對シテハ何ウカト云フヤウナコトハ一般ノ無能力者ノ規則ニ適用シテ居ル、本人ニ對シテハ是ハ一般ノ無能力者ノ規定ヲ適用シテ宜シイト思ヒマスカラ此但書ハ削ツテモ宜シイ
横田國臣君
私ハ「其代理人ハ」トアル下ノ「本人ニ對シテ」ト云フ六字ヲ削ルト云フ說ヲ出シマス、デ夫レハ百一條ノ場合ノ如キモ之ヲ矢張リ無能力者ガ代理人デアツテ自分ガ其本人ト云フ事ヲ示サズシテヤツタ場合ニハ矢張リ之ガ總テ自分ガ負擔スル義務ト云フ事ニナツテハ酷イ、夫レハ矢張リ外ノ者モ無能力トスル時分ニハ其心デスルノダカラ此「本人ニ對シテ」ト云フ六字ヲ削ツテ仕舞ウ方ガ宜シイト思ヒマス
箕作麟祥君
一寸只今ノ削除說竝ニ横田君ノ六字丈ケ削ルト云フ說ニ付テ疑ヒヲ起シマシタカラ一寸起草委員ニ質問ヲ致シマス、「本人ニ對シテ無能力者ニ特別ナル責任ノミヲ負フ」ト云フコトハ何ウ云フコトデゴザイマスルカ、何ンゾ此事ヲ書イテ置クト云フト前ノ第一章ニ私權ノ享有、能力トアツテ普通ノ能力ノ事ニ付テノ、無能力ニ付テノ通則ガアリマシタガ其通則丈ケノ事ヲスルト云フコトデアリマスカ、又ハ「本人ニ對シテ無能力者ニ特別ナル責任ノミヲ負フ」ト云フコトハ前ノ能力ト云フ所ノ卽チ此無能力者ニ關係シタ通則其普通ノ規則ト違ツテ特別ナル責任ノミヲ有スト云フコトデアリマスカ、然ウ云フ譯デアリマスレバ此所モ或ハ必要カト思ヒマスルガ然ウデハナイ前ノ民法ノ始メニ在ル通則、無能力者ニ關スル通則丈ケノ責任ヲ負フト云フコトデアリマスレバ無用ノ事ト思ヒマスガ、此「本人ニ對シテ」ト云フコトニ付テハ丁度横田君カラ言ハレタ通リニ第三者ニ對シテハ姑ク措テ本人卽チ委任者ニ對シテハ能力者デナイ一種特別ノ責任ヲ有スト云フ御考ヘデアリマセウカ甚ダ不分明デアリマスカラ尙ホ御面倒ナガラ御辯明ヲ願ヒマス
富井政章君
是ハ先キデ何ウナルカ分カラヌコトデアリマス、佛蘭西民法抔ノ解釋トシテ私ノ考ヘテ居リマス所デハ詐欺ダノ夫レカラ故意ヲ以テシタル損害、是丈ケノ責任ヲ負フノデス斯フ云フ場合ニ委任者ニ對シテ、夫レ位ノ事ハ必要デアラウ、先キデ明文ヲ以テ極メルコトニナルカ、或ハ自ラ然ウ云フ事ニ解釋セネバナラヌコトニナルカ夫レガ分カリマセヌガ是程ノ責任ガアルト云フ事ニ先キニ往ツテ極マルデアラウト豫定シテ置イタノデアリマス、夫レハ無能力者ノ責任デモナシ又丸デ無責任デモナイ、夫レデ特別ナル責任ト云フタノデアリマス
箕作麟祥君
夫レデハ前ノ無能力者ノ普通ノ無能力者ノ規定デハナイ、一種特別ノ無能力者ノ程度ガアルト云フ御積リデアリマスカ
富井政章君
先キノ無能力者ニ付テハ法律行爲ヲ獨斷ニスルコトガ出來ヌ通常ノ場合ニハ、爲シタ場合ニハ取消スコトガ出來ル斯ウ云フ事ヲ規定シタノデアリマス、此場合ハ其相手方ニ對シテ取消スト云フコトハ考ヘナンダ、夫レナラバ始メノ通則ニ依テ宜イ譯デアリマスケレドモ委任者ニ對シテ責任ガアル、委任者ニ對シテハ取消スト云フヤウナ問題ハ起ラナイ、夫レナラバ代理ノ責任ニ付テハどれ丈ケノ責任ガアルト云フコトハ別ニ極メネバナラヌ
箕作麟祥君
別ニト云フノハ何處デ極マルノデアリマスカ
富井政章君
卽チ此處デ極マルノデアリマスケレドモ何處ニナリマスカ先キト申シマシタガ不正ノ損害カ不當ノ利得ト云フ位ノ所ニナルダラウト思ハレマス、是ハ契約モ何モナイ唯自分ノ故意ニ依テ人ニ損害ヲ加ヘタトカ、或ハ不當ノ利得ヲ得タ其利益ヲ失ツタ者ニ對シテハ賠償ノ責ガアル、不當ノ利得ニモ關係ヲシ不正ノ損害ニモ關係シテ居リマスカラあの邊ニデモ規定ヲ置クコトニナルデアラウト思ハレマス、何處カニナクテハナラヌト云フ考ヘデ置タノデアリマス
土方寧君
只今箕作君ノ御質問ニ對シテ富井君ガ御說明ニナリマシタガ、私ノ解スル所デハ富井君ノ御說明デハ當ツテ居ラヌト思ヒマス、夫レニ付テ疑ヒヲ起シマシタガ無能力者ノ特別ノ責任ト云フノハ詐欺トカ惡意トカ又ハ重大ナル過失ニ依テ損害ヲ加ヘタノハ賠償ヲシナケレバナラヌト云フコトデアリマス、夫レハ如何ニモ然ウナルデゴザイマセウ、然ウスルト特別ナル責任ト云フノハ無能力者ニ對スル責任ト云フノデ何モ其無能力者ガ代理人デアツタ時分ニ無能力者タル代理人ニ特別ナル責任ト云フ事デハナイ、然ウスルト此處ニナクテ宜シイト云フコトニナルト思ヒマス質問ノ意デハ、私ノ解シタ所デハ特別ナル責任ト云フノハ無能力者ガ代理人デアツタ時分ニ代理人デアルト云フ位置ニ居ツテシタト云フ丈ケデ無能力者ノ代理人ト云フヤウナ所デ別ニ極メルカト云フヤウナ御質問デアツタヤウニ思ヒマスルガ然ウシタ所ガ其御答ヘハ然ウデハナイ、詰リ無能力者ガ代理人デアツタト云フ特別ノ責任デハナイト思ヒマスルガ然ウスルト此但書ヲ削ルト云フ結果ニナツテモ決シテ差支ヘナイ、何故ナラバ無能力者ノ責任ノ取消トカ損害ヲ賠償スルトカ不當ノ利得ヲ返還スルトカ云フヤウナ所ニ往ツテ宜シイ、無能力者ガ代理人デアツタガ爲メニ別ニ此處ニ斯ウ云フ規定ヲ設ケテ置クノ必要ハナイト思ヒマス
磯部四郎君
一寸起草委員ニ御尋ネシマスガ但書以下ノ精神ハ旣成法典ノ二百三十四條ノ「然レトモ」以下ノ精神ト變ハツテ居ルノデゴザイマセウカ如何デゴザイマセウカ
富井政章君
全ク同ジデアリマス、先刻酷ク過ヲ申シマシタカラ速記録ガアリマスカラ改メテ置キタイト思ヒマス、禁治產者ハ代理權消滅ノ原因デアルカラ始メカラ禁治產者ハ代理人トナルコトハ出來ヌト申シマシタガ、何ウモ是ハ再ビ考ヘテ見ルト間違ヒデアルト思ヒマス、然ウ始メカラ代理人トナルコトガ出來ヌト云フノト代理權ガ消滅スルト云フコトハ別モノデアリマス、始メハ禁治產者モ代理人ト爲ス事ガ出來ルト云フ方ガ正シイト思ヒマスカラ一寸是丈ケハ直ホシテ置キマス、夫レカラ削除說ハ御尤モナ御說ト思ヒマスカラ私ハ實ハ横田君等ノ說ニ迷フテ居ルノデス、どちらニ贊成シテ宜イカ詰リ一般ノ原則ニ因ル譯ニナリマスカラ取ツテ仕舞フコトニ私丈ケハ贊成シマセウ
横田國臣君
私ハ之ヲ主張スルト云フノハ削除說ト餘リ變ハルノデハアリマセヌ、何故ナラバ此處ニ「代理人ハ能力者タルコトヲ要セス」ト云フ事ヲ擧ゲタ以上ハ前ノ通則ヲ打消シタヤウニ見ヘル是ハ注意ノ爲メニ但書ハ甚ダ必要デアル、一體當リ前カラ往ケバ斯ンナ事ヲ言ハヌデモ宜シイケレドモ假ニ一寸見ルト、爲ル可ラザル者ガ氣違ヒガ代理人ニナツタリ色々ナ事ニナルカラ是ハ疑ヒガ直チニ出テ來ル、一體無能力者ト云フ者ハ何モ出來ヌト云フノデアルノガ其無能力者ガ出來ルト云フカラシテ之ガ必要トナツテ來ル然ウシテ又其責ヲ負フト云フノガアルノガ甚ダ必要ト思ヒマス
富井政章君
贊成者ガアリマセヌカラ之ニモ贊成シテ置キマシテモウ一ツガ潰レタ折ニハ贊成シマス
議長（西園寺侯）
然ウスルト是ハ但以上ヲ削ルト云フ說ニハ贊成ガナカツタ、但以下ヲ削ルト云フ說ニ贊成ガアツタ、夫レカラ今ノ横田君ノ說ニ贊成ガアツタ、此二ツ丈ケ成立ツテ居ル、然ウスルト此削除說カラ先キニ採リマス、此但以下ヲ削ルト云フ說ニ贊成ノ方ハ起立ヲ請ヒマス
起立者多數
磯部四郎君
旣ニ此但書以下ヲ御削除ニナルト百二條ハ「代理人ハ能力者タルコトヲ要セス」ト云フコトニナル、詰リ文章ガ餘リ短イカラ是ハ規則上如何デアリマスカ、此第百二條ノ「代理人ハ能力者タルコトヲ要セス」ト云フ文章ヲ百條ノ第三項トシテ持チ往キマシタナラバ場所モ其宜シキヲ得ヤウト思ヒマスルガ、併シ百條ハ旣ニ御議定濟ニナツテ居リマスカラ然ウ云フ事ハ差支ヘルト云フ譯デアリマスレバ如何トモ仕方ガナイガ如何デゴザイマセウカ文章上是ハ何ウシテモ百條ノ末項ニ置イテ相當ノ場所ト考ヘル
議長（西園寺侯）
贊成者ガアリサヘスレバ宜シウゴザイマセウ――他に御發議ガナクバ次ニ移リマス