旧民法・法例(明治23年)

民法(旧民法) 財産取得編

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財産取得編 総則 第一条 物上及ヒ対人ノ権利ハ財産編ニ規定シタル原因ニ由ル外尚ホ本編ノ規定ニ従ヒ之ヲ取得スルコトヲ得 第一章 先占 第二条 先占ハ無主ノ動産物ヲ己レノ所有ト為ス意思ヲ以テ最先ノ占有ヲ為スニ因リテ其所有権ヲ取得スル方法ナリ 第三条 狩猟、捕漁ノ権利ノ行使及ヒ漂流物、遺失物ノ取得ハ特別法ヲ以テ之ヲ規定ス 戦時ニ於ケル海陸ノ掠奪物ニ付テモ亦同シ 第四条 遺棄物ヲ先占シタリト主張スル者ハ原所有者ノ任意ノ遺棄ヲ証スル責ニ任ス 第五条 他人ニ属スル物ノ中ニ於テ偶然ニ発見シタル埋蔵物ハ所有者ノ知レサルトキハ其一半ヲ発見者ニ付与ス 埋蔵物カ埋レ又ハ隠レタル所ノ物ノ所有者ノ権利ハ次章ノ規定ニ従フ 第六条 埋蔵物ノ原所有者ハ発見後三个年間ニ非サレハ前条ノ付与ニ反シテ自己ノ権利ヲ主張スルコトヲ得ス 此期間ハ原所有者カ埋蔵物ノ埋レ又ハ隠レタル所ノ物ノ所有者タルニ於テハ其発見ヲ知リタル後一个年間ニ之ヲ短縮ス 然レトモ埋蔵物ノ占有者カ悪意ナルトキハ通常ノ時効ヲ適用ス 第二章 添附 第七条 動産ト不動産トヲ問ハス或ル物ノ所有者ハ其物ニ附従トシテ合シタル物ヲ下ノ区別ニ従ヒテ取得ス 第一節 不動産上ノ添附 第八条 建築其他ノ工作及ヒ植物ハ総テ其附著セル土地又ハ建物ノ所有者カ自費ニテ之ヲ築造シ又ハ栽植シタリトノ推定ヲ受ク但反対ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス 右建築其他ノ工作物ノ所有権ハ土地又ハ建物ノ所有者ニ属ス但権原又ハ時効ニ因リテ第三者ノ得タル権利ヲ妨ケス 植物ニ関スル場合ハ第十条ノ規定ニ従フ 第九条 土地又ハ建物ノ所有者カ他人ニ属スル材料ヲ以テ建築其他ノ工作ヲ為シタルトキハ其工作物ヲ毀壊シテ材料ヲ返還スル強要ヲ受ケス又材料ノ本主ニ其取去ヲ強要スルコトヲ得ス 然レトモ右ノ所有者ハ財産編第三百八十五条ノ規定ニ従ヒテ材料ノ本主ニ償金ヲ払フノ責ニ任ス 第十条 他人ニ属スル草木ノ栽植ニ付テハ其栽植ヲ為シタル土地ノ所有者又ハ占有者ハ一个年内ニ其草木ヲ抜取リ且之ヲ返還スル強要ヲ受ク尚ホ損害アルトキハ之ヲ賠償ス 右草木ノ所有者カ其返還ヲ欲セス又ハ栽植ノ時ヨリ一个年ヲ経過シタルトキハ其所有者ハ償金ヲ受ク 第十一条 他人ノ土地又ハ建物ノ善意ノ占有者ニシテ其土地又ハ建物ニ自己ノ材料又ハ草木ヲ以テ築造又ハ栽植ヲ為シタル者ハ所有者ヨリ不動産回復ノ請求ヲ受クルニ当リ其工作物又ハ草木ヲ取払フ責ニ任セス所有者ハ其選択ヲ以テ占有者ニ材料及ヒ手間賃ヲ払ヒ又ハ不動産ノ増価額ヲ払フ 築造又ハ栽植ヲ為シタル者カ悪意ノ占有者タリシトキハ所有者ハ工作物及ヒ草木ヲ除去シテ場所ヲ旧状ニ復セシメ且損害アルトキハ之ヲ賠償セシムルコトヲ得又所有者ハ前項ノ規定ニ従ヒ占有者ニ償金ヲ払ヒテ右ノ工作物及ヒ草木ヲ保存スルコトヲ得 第十二条 舟筏ノ通ス可キト否トヲ問ハス河川ノ寄洲、中洲、干潟ノ所有権又ハ水路ノ変換ニ因リ生スル浸没地及ヒ旧川床ノ所有権ノ帰属ハ別ニ之ヲ定ム但海ノ干潟ニ付テハ財産編第二十三条ノ規定ニ従フ 第十三条 私有池ノ魚又ハ鳩舎ノ鳩カ計策ヲ以テ誘引セラレ又ハ停留セラレタルニ非スシテ他ノ池又ハ鳩舎ニ移リタルトキ其所有者カ自己ノ所有ヲ証シテ一週日間ニ之ヲ要求セサレハ其魚又ハ鳩ハ現在ノ土地ノ所有者ニ属ス 群ヲ為シテ他ニ移転シタル蜜蜂ニ付テハ一週日間之ヲ追求スルコトヲ得 飼馴サレタルモ逃ケ易キ野栖ノ禽獣ニ付テハ善意ニテ之ヲ停留シタル者ニ対シ一个月間其回復ヲ為スコトヲ得 第二節 動産上ノ添附 第十四条 各別ノ所有者ニ属スル数箇ノ動産物カ所有者ノ意ニ非スシテ第三者ニ因リテ附合セラレ其各物共ニ著シキ毀損又ハ減価ヲ受ケスシテ容易ニ分タル可キトキハ所有者ノ各自ハ其分離ヲ請求スルコトヲ得但損害アルトキハ附合ヲ為シタル者之ヲ賠償ス 附合ノ為メニセル物ノ変様ハ之ヲ毀損ト看做ス 第十五条 二箇ノ物カ分ツ可カラサルカ又ハ之ヲ分ツカ為メ著シキ毀損、減価ヲ為シ若クハ過分ノ費用、時日ヲ要スルトキハ孰レノ所有者モ分離ヲ請求スルコトヲ得スシテ其物ハ附合ノ儘ニテ主タル物ノ所有者ニ帰属ス但此所有者ハ従タル物ノ所有者ニ損害ヲ加ヘテ己レヲ利シタル限度ニ応シ賠償ヲ負担ス 或ル物ノ便益、粧飾又ハ補完ノ為メニ附合セラレタル物ハ之ヲ従タル物ト看做ス主従ノ区別ニ付キ疑アルトキハ価格ノ低キ物ヲ以テ従タル物トス 此他ノ場合ニ於ケル物ノ主従ノ区別ハ之ヲ裁判所ノ査定ニ委ス 第十六条 附合カ主タル物ノ所有者ノ過失又ハ詐欺ニ因リテ成リ前条ノ規定ニ従ヒテ其分離ヲ為ス可カラサルトキハ従タル物ノ所有者ノ受ク可キ賠償ハ財産編第三百七十条及ヒ第三百八十五条ニ依リテ其額ヲ定ム 従タル物ノ所有者カ附合ヲ為シタルトキハ主タル物ノ所有者ノ利益ノ限度ニ応シテノミ其損失ノ賠償ヲ受ク 第十七条 不都合ナシニハ物ヲ分離スルコトヲ得サル右同一ノ場合ニ於テ其性質、品質又ハ価格ニ因ルモ主従ノ区別ヲ為シ難キトキハ其物ハ平等ノ権利ニテ各所有者之ヲ共有ス但過失又ハ悪意アル者ヨリ賠償ヲ受クルコトヲ妨ケス 第十八条 前数条ノ規定ハ各別ノ所有者ニ属スル流動物、固形物又ハ金属ノ混和ニモ亦之ヲ適用ス 然レトモ分離スルコトヲ得サル物カ其性質及ヒ品質ノ同シキニ因リテ共有ト為ル可キトキハ各自ノ権利ハ己レヨリ出テタル物ノ数量ノ割合ニ応ス 第十九条 附合又ハ混和カ所有者ノ一人ノ所為ヨリ生スル場合ニ於テハ他ノ所有者ハ専属ノ所有権ヲモ共有権ヲモ承諾スル責ニ任セス添附ヲ為シタル者ニ対シテ同品質ノ物又ハ其代価ヲ要求スルコトヲ得 第二十条 或人カ他人ノ物料ヲ以テ新ナル用方ノ物ヲ作リタルトキハ物料ノ所有者ハ手間賃ヲ払フテ其物ノ所有権ヲ要求スルコトヲ得 然レトモ手間賃カ著シク物料ノ価額ヲ超ユルトキハ新ナル物ノ所有権ハ製作者ニ属ス但製作者ハ物料ノ所有者ニ賠償スルコトヲ要ス 製作者カ物料ノ幾分ヲ供シタルトキハ其物料ノ価額ハ優先権ヲ定ムル為メ之ヲ手間賃ニ合算ス 所有者ノ承諾ナクシテ物料ヲ用ヰタルトキハ其所有者ハ常ニ自己ノ優先権ヲ抛棄シテ同品質、同数量ノ物又ハ其代価ヲ要求スルコトヲ得 第二十一条 附合、混和又ハ製作カ所有者ノ明示又ハ黙示ノ承諾ヲ以テ成ルトキハ所有権ハ合意ニ従ヒテ之ヲ定ム若シ疑アルニ於テハ分離カ容易ナリト雖モ其分離ヲ要求スルコトヲ得ス且優先権及ヒ共有権ニ関スル前数条ノ規定ヲ適用ス 第二十二条 前数条ニ定メサル動産物添附ノ場合ニ於テハ裁判所ハ前数条ノ規定ノ援引ス可キハ之ヲ援引シ且条理ニ基キテ所有権及ヒ賠償ノ論点ヲ審定ス 第二十三条 第五条ニ従ヒテ発見者ニ属セサル埋蔵物ノ部分ハ添附ニ因リテ其埋蔵物ノ埋レ又ハ隠レタル所ノ動産又ハ不動産ノ所有者ニ属ス 右動産又ハ不動産ノ所有者自身ニテ意外ニ発見シタル埋蔵物ハ一半ハ先占ニ因リ一半ハ添附ニ因リテ全部其所有者ニ属ス 所有者ノ所為又ハ其指図ヲ受ケ若クハ受ケサル第三者ノ所為ニテ特ニ捜索ヲ為スニ因リテ発見シタル埋蔵物ハ添附ヲ以テ全部所有者ニ属ス 原所有者ノ回復ニ対シ埋蔵物ノ発見者ノ為メ第六条ヲ以テ定メタル時効ハ右ノ場合ニ之ヲ適用ス 第三章 売買 第一節 売買ノ通則 第一款 売買ノ性質及ヒ成立 第二十四条 売買ハ当事者ノ一方カ物ノ所有権又ハ其支分権ヲ移転シ又ハ移転スル義務ヲ負担シ他ノ一方又ハ第三者カ其定マリタル代金ノ弁済ヲ負担スル契約ナリ 売買契約ハ下ノ規定ニ従フ外有償且双務ナル契約ノ一般ノ規則ニ従フ 第二十五条 売買ハ当事者ノ承諾ノミヲ以テ完全ニ成立ス 然レトモ当事者ハ売買ノ成立ヲ各自ノ証拠ニ供スル公正証書又ハ私署証書ノ調製ノ条件ニ繋ラシムルコトヲ得 第二十六条 売渡又ハ買受ノ一方ノミノ予約アルトキハ要約者カ財産編第三百八条ノ条件及ヒ区別ニ従ヒテ契約ノ取結ヲ要求スル時ヨリ諾約者ハ其予約ニ於テ定メタル代価及ヒ条件ヲ以テ契約ヲ取結フ義務ヲ負担ス 第二十七条 諾約者カ契約ヲ取結フコトヲ拒ムトキハ裁判所ハ売買カ成立シタリトノ判決ヲ為ス不動産権ノ売買ニ関スルトキハ其判決ヲ登記ス 売渡ノ予約ヲ登記シタルトキハ右判決ハ登記ニ之ヲ附記ス其登記ハ売主ノ承継人ニ対シ既往ニ遡リテ効力ヲ生ス 第二十八条 売渡及ヒ買受ノ相互ノ予約アルトキハ当事者ノ一方ハ前条ニ従ヒ他ノ一方ニ対シテ契約ノ取結ヲ強要スルコトヲ得 裁判所ハ此場合ニ於テ当事者ノ意思ヲ解釈シ売買ノ予約カ即時ノ売買ノ効ヲ有スルモノト判決シ又期間ノ定アルトキハ其期間ハ履行ノミニ適用セラルルモノト判決スルコトヲ得 第二十九条 前四条ニ従ヒ当事者ノ双方又ハ一方カ日後売渡及ヒ買受ノ契約ヲ取結フ義務又ハ単ニ証書ヲ作ル義務ヲ負担シタル場合ニ於テ予約ノ担保トシテ手附ヲ授受シタルトキハ契約ヲ取結フコト又ハ証書ヲ作ルコトヲ拒ム一方ハ其与ヘタル手附ヲ失ヒ又ハ其受ケタル手附ヲ二倍ニシテ還償ス 第三十条 即時ノ売買ニ於テハ手附ハ之ヲ与ヘタル者ノ利益ノ為メニノミ解約ノ方法ト為ル但買主ノ与ヘタル手附カ金銭ナルトキハ其地ノ慣習ニテ之ニ解約ノ性質ヲ付スル場合ノ外合意ニテ此性質ヲ明示スルコトヲ要ス 契約ノ全部又ハ一分ノ履行アリタルトキハ如何ナル場合ニ於テモ解約ヲ為スコトヲ得ス 第三十一条 試験ニテ為ス売買ハ事情ニ随ヒ買主ノ適意ノ停止条件又ハ拒絶ノ解除条件ヲ帯ヒテ之ヲ為シタルモノト看做スコトヲ得 試味ノ慣習アル日用品ノ売買ハ適意ノ停止条件ヲ帯ヒテ之ヲ為シタルモノト推定ス 第三十二条 前条ニ定メタル二箇ノ場合ニ於テ買主カ己レニ属スル権能ノ行使ニ付キ期限ヲ定メサルトキハ短キ期間ニ於テ決答ス可キ催告ヲ受ク若シ其決答ヲ為サスシテ売渡物ノ引渡ヲ受ケタルトキハ買主ハ受諾シタリトノ推定ヲ受ケ反対ノ場合ニ於テハ拒絶シタリトノ推定ヲ受ク 第三十三条 売買ノ代価ハ全額ヲ以テセサルモ其目安ヲ契約ニ定ムルコトヲ要ス 又其代価ハ或ハ同種類ノ商品ノ現時又ハ近日ノ市価ニ委ネ或ハ契約ヲ以テ指定シタル第三者ノ評価ニ委ヌルコトヲ得 右評価カ錯誤ニ出テタルカ又ハ明カニ公平ニ反スルトキハ其評価ニ異議ヲ為スコトヲ得但其異議ハ損失ヲ受ケタリト主張スル一方カ評価ヲ知リタル時直チニ之ヲ為スコトヲ要ス 第三者ト当事者ノ一方トノ間ニ共謀ノ詐欺アルトキハ財産編第三百十二条及ヒ第五百四十四条ノ規定ヲ適用ス 当事者ハ元本又ハ無期若クハ終身ノ年金権ヲ以テ代価ヲ定ムルコトヲ得然レトモ第三者ハ元本ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ定ムルコトヲ得ス但当事者カ明示ニテ一層広キ権限ヲ第三者ニ与ヘタルトキハ此限ニ在ラス 第三十四条 売買契約ノ費用ハ当事者双方平分シテ之ヲ負担ス但双方カ別段ノ定ヲ為シタルトキハ此限ニ在ラス 第二款 売渡又ハ買受ノ無能力 第三十五条 配偶者ノ間ニ於テハ動産ト不動産トヲ問ハス売買ノ契約ヲ禁ス 配偶者ノ一方カ他ノ一方ニ対シテ負担スル真実且正当ナル債務ヲ消滅セシムルニハ相互ニ代物弁済ヲ為スコトヲ得 右代物弁済ハ相当ノ疏明ヲ為セル後裁判所ノ認許ヲ得タルニ非サレハ配偶者ノ間ニ於テ有効且完全ナラス 又此代物弁済カ不動産物権ヲ目的トスルトキハ其代物弁済ハ登記中ニ右認許ヲ附記シタルニ非サレハ第三者ニ対シテ効力ヲ有セス 第三十六条 前条ニ基キタル銷除ノ訴権ハ売渡又ハ認許ナキ代物弁済ヲ為シタル配偶者、其相続人又ハ承継人ノミニ属ス但其訴権ハ財産編第五百四十四条以下ノ一般ノ規則ニ従フ 第三十七条 法律上、裁判上若クハ合意上ノ管理人ハ直接ニ自己ノ名ヲ以テスルモ間介人ニ依ルモ売渡ノ任ヲ受ケタル財産ニ付キ協議上又ハ競売上ノ取得者ト為ルコトヲ得ス 此制禁ハ競売ヲ処理シ又ハ指揮スルコトヲ法律ニ依リテ任セラレタル公吏ニ之ヲ適用ス 第三十八条 前条ノ規定ニ背キタル売買ノ銷除訴権ハ原所有者、其相続人及ヒ承継人ノミニ属ス 第三十九条 判事、検事及ヒ裁判所書記ハ争ニ係ル物権又ハ人権ニシテ其職務ヲ行フ裁判所ノ管轄ニ属ス可キモノノ取得者ト為ルコトヲ得ス 此制禁ハ右同一ノ条件ヲ以テ弁護士及ヒ公証人ニ之ヲ適用ス 第四十条 前条ヨリ生スル銷除訴権ハ譲渡人、権利ヲ争フ相手方、其双方ノ相続人及ヒ承縫人ニ非サレハ之ヲ行フコトヲ得ス 又権利ヲ争フ相手方、其相続人又ハ承継人ハ譲受人ニ譲渡ノ現価ト弁済ノ日ヨリノ利息トヲ弁償シテ其権利ノ受戻ヲ為スコトヲ得 右ノ規定ハ違背者ニ対スル懲戒ノ罰ヲ妨ケス 第三款 売渡スコトヲ得サル物 第四十一条 売買カ性質ニ因リテ一般ニ融通スルコトヲ得サル物又ハ特別法ヲ以テ各人ニ処分ヲ禁シタル物ヲ目的トスルトキハ其売買ハ無効ナリ 此売買ノ無効ハ抗弁ニ依ルモ訴ニ依ルモ当事者各自ニ之ヲ援用スルコトヲ得 当事者ノ一方カ詐欺ヲ以テ売買ノ制禁ナルコトヲ隠秘シタルトキハ損害賠償ノ責ニ任ス 第四十二条 他人ノ物ノ売買ハ当事者双方ニ於テ無効ナリ 然レトモ売主ハ売買ノ際其物ノ他人ニ属スルコトヲ知ラサルニ非サレハ其無効ヲ援用スルコトヲ得ス 第四十三条 売買契約ノ当時ニ於テ物カ既ニ全部滅失シタルトキハ其売買ハ無効ナリ但売主カ此滅失ヲ知リタルトキ又ハ売主ニ之ヲ知ラサル過失アルトキハ善意ノ買主ニ対スル損害賠償ヲ妨ケス 物ノ一分ノ滅失ノ場合ニ於テ買主之ヲ知ラサリシトキハ買主ハ其選択ヲ以テ或ハ残余ノ部分カ用方ニ不十分ナルコトヲ証シテ売買ヲ銷除シ或ハ割合ヲ以テ代価ヲ減少シテ売買ヲ保持スルコトヲ得但此二箇ノ場合ニ於テ売主ニ過失アルトキハ其損害賠償ヲ妨ケス 売買銷除ノ請求ハ買主カ一分ノ滅失ヲ知リタル時ヨリ六个月ヲ過キ又代価減少ノ請求ハ此時ヨリ二个年ヲ過クレハ之ヲ受理セス 第二節 売買契約ノ効力 第一款 所有権ノ移転及ヒ危険 第四十四条 売買契約ハ売渡物ノ所有権ノ移転及ヒ其物ノ危険ニ付テハ財産編第三百三十一条、第三百三十二条、第三百三十五条及ヒ第四百十九条ニ定メタル如キ普通法ノ規則ニ従フ 第四十五条 売買ノ目的カ不動産ナルトキハ其契約ヲ以テ売主ノ特定且善意ノ承継人ニ対抗スルニハ財産編第三百四十八条以下ノ規定ニ従ヒテ登記ヲ為スコトヲ要ス 財産編第三百四十六条及ヒ第三百四十七条ハ右同一ノ目的ヲ以テ有体動産及ヒ債権ノ売買ニ之ヲ適用ス 第二款 売主ノ義務 第四十六条 売主ハ定量物ノ所有権ヲ移転スル義務ノ外尚ホ売渡物ヲ引渡ス義務、引渡ニ至ルマテ其物ヲ保存スル義務及ヒ妨碍、追奪ニ対シテ買主ヲ担保スル義務ニ任ス 第一則 引渡ノ義務 第四十七条 売主ハ売渡物ヲ其合意シタル時期及ヒ場所ニ於テ現存ノ形状ニテ引渡ス責ニ任ス但其保存ニ付キ懈怠アルトキハ買主ニ対シテ賠償ヲ負担ス 引渡ノ時期及ヒ場所ニ付キ合意ヲ為ササリシトキハ財産編第三百三十三条第六項及ヒ第七項ノ規定ニ従フ 然レトモ買主カ代金弁済ニ付キ合意上ノ期間ヲ得サリシトキハ売主ハ其弁済ヲ受クルマテ売渡物ヲ留置スルコトヲ得 売主ハ代金弁済ノ為メ期間ヲ許与シタルトキト雖モ買主カ売買後ニ破産シ若クハ無資力ト為リ又ハ売買前ニ係ル無資力ヲ隠秘シタルトキハ尚ホ引渡ヲ遅延スルコトヲ得 第四十八条 売主ハ契約ニ定メタル数量ヲ過不足ナク引渡スコトヲ要ス 然レトモ下ノ数条ニ定メタル場合及ヒ区別ニ従ヒテ売主又ハ買主ハ約シタル数量ヨリ多ク譲渡シ又ハ取得スル責ニ任ス 第四十九条 売渡物カ特定不動産ニシテ契約ニ其全面積ヲ明言シ且各坪ノ代価ヲ指示シタル場合ニ於テ現実ノ面積カ指示ノ面積ニ不足アルトキハ売主ハ面積ヲ担保セサル旨ヲ明言シタルトキト雖モ割合ヲ以テ代価減少ノ要求ニ服ス 現実ノ面積カ指示ノ面積ニ超過アルトキハ買主ハ割合ヲ以テ代価補足ノ要求ニ服ス 第五十条 全面積ヲ明言シ唯一ノ代価ヲ以テ不動産ヲ売渡シ其面積ノ不足ノ場合ニ於テ売主ハ悪意ナルトキ又ハ善意ナルモ面積ヲ担保シタルトキ又ハ不足ノ坪数カ少ナクトモ二十分一ナルトキニ非サレハ代価減少ノ要求ニ服セス 面積ヲ担保セス又ハ面積ハ概算ナリトノ附記ハ悪意ナル売主ノ責任ヲ減セス 超過ノ場合ニ於テハ買主ハ其超過カ二十分一ニ及ヘルトキニ非サレハ代価補足ノ要求ニ服セス 第五十一条 建物ノ存スルト否トヲ問ハス数箇ノ土地ヲ一箇ノ契約ヲ以テ其各箇ノ面積ヲ指示シ唯一ノ代価ニテ売渡シタル場合ニ於テ其面積カ一箇ノ土地ニ超過アリ一箇ノ土地ニ不足アルトキハ其坪ノ箇数ニ従ハス価額ニ従ヒテ相殺ス 此相殺ノ後猶ホ原価二十分一ノ過不足アルトキハ割合ヲ以テ代価ヲ増加シ又ハ之ヲ減少ス 此規定ハ一箇ノ土地内ニ於テ別異ノ性質アル各部分ノ面積ヲ指示シタル場合ニモ之ヲ適用ス 第五十二条 買主ハ面積不足ノ為メ代価減少ニ付キ権利ヲ有スル場合ニ於テ尚ホ損害ノ賠償ヲ要求スルコトヲ得又買主ハ約シタル面積カ其用方ニ必要ナルコトヲ証シテ契約ノ銷除ヲモ請求スルコトヲ得但面積ヲ担保セサル旨ヲ明言シタル売買ハ此限ニ在ラス 超過ノ場合ニ於テ買主ハ二十分一以上ノ代価補足ヲ弁償スルコトヲ要スルトキハ単純ニ契約ヲ銷除スルコトヲ得 第五十三条 上ノ規則ハ目方、員数及ヒ尺度ヲ以テ指示シタル数量カ買主ニ於テ容易且即時ニ調査スルコトヲ得サル日用品及ヒ動産物ノ売買ニ之ヲ適用ス 第五十四条 前数条ヨリ生スル代価改正、損害賠償又ハ契約銷除ノ訴権ハ不動産ニ付テハ一个年動産ニ付テハ一个月ノ期間ニ之ヲ行フコトヲ要ス 右期間ノ経過ハ売主ニ在テハ契約ノ日ヨリ買主ニ在テハ引渡ノ日ヨリ始マル 第五十五条 動産又ハ不動産ノ売買ニ於テ錯誤カ其物ノ品質ニ存スルトキハ財産編第三百十条ノ規定ヲ適用ス 第二則 追奪担保ノ義務 第五十六条 他人ノ物ヲ売買シタル場合ニ於テ担保ノ事ニ付キ何等ノ特別ナル合意モ有ラサリシトキハ買主ハ未タ追奪ノ恐アルニ至ラサルトキト雖モ売買無効ノ判決ヲ求ムルコトヲ得又買主カ契約ノ当時其物ノ売主ニ属セサルコトヲ知リ売主カ之ヲ知ラサリシトキト雖モ亦同シ 第五十七条 買主カ悪意ナリシトキハ売買ノ無効及ヒ追奪担保ノ効果ハ買主ニ其猶ホ負担スル代金弁済ノ義務ヲ免カレシメ又ハ其既ニ弁済シタル代金ヲ取戻スコトヲ許スニ在ルノミ 買主ハ買受物ノ価格カ減少シタルトキト雖モ右取戻ニ於テ代金ノ減少ヲ受クルコト無シ但価格ノ減少カ自己ノ詐欺ニ出テ又ハ自己ノ利益ト為リタルトキハ此限ニ在ラス 如何ナル場合ニ於テモ買主カ其弁済シタル代金ヲ取戻シタルトキハ物ノ占有ヲ売主ニ返還スルコトヲ要ス 第五十八条 買主ハ契約ノ当時善意ナリシトキハ右ノ外尚ホ左ノ諸件ノ弁償ヲ受ク 第一 買主ノ支払ヒタル契約費用ノ部分 第二 買受物ニ付キ買主カ支払ヒタル費用ニシテ所有者ヨリ其弁償ヲ受クルコトヲ得サルモノ 第三 買受物ニ生シタル増価額但意外ノ事ニ因ルモ亦同シ 第四 所有者ノ請求後ニ収取シ之ニ返還スルコトヲ要スル果実 然レトモ買主ハ果実ニ換ヘテ之ニ対当スル時期間ノ売買代金ノ法律上ノ利息ヲ受クルコトヲ欲スルトキハ之ヲ請求スルコトヲ得 又善意ナル買主ハ此他所有者ノ回復ノ訴ニ対スル答弁ノ費用及ヒ担保請求ノ費用等総テノ損害賠償ヲ普通法ニ従ヒテ請求スルコトヲ得 第五十九条 売主ハ契約ノ当時善意ナリシトキハ財産編第三百八十五条ニ従ヒテ正当ニ予見スルコトヲ得ヘカリシ限度ニ非サレハ前条ノ第二号第三号及ヒ末項ニ定メタル賠償ヲ負担セス 第六十条 善意ナル売主ハ契約後ニ売渡物ノ他人ニ属スルコトヲ覚知シタルトキハ買主ヨリ代金ヲ提供スト雖モ其物ノ引渡ノ請求ヲ受クルニ当リ売買ノ無効ヲ申立テ且抗弁ノ方法ニ依リテ担保ノ定方ノ判決ヲ求ムルコトヲ得但買主カ追奪ノ場合ニ於ケル求償権ヲ抛棄スル旨ヲ明白ニ陳述シタルトキハ此限ニ在ラス 第六十一条 右覚知カ引渡後ニ在リタルトキハ売主ハ買主カ即時ニ担保訴権ヲ行フヤ又ハ己レト立会ヒ第五十八条ニ従ヒテ現時負担ノ賠償額ヲ評定スルヤニ付キ買主ヲ遅滞ニ付スルコトヲ得 此末ノ場合ニ於テ売主ハ其受取リタル代金ト共ニ右評価ノ金額ヲ提供シテ供託シタルトキハ縦令担保ノ請求アルモ此他ノ責任ヲ負担セス 供託シタル金額ヲ引取ルノ権利ヲ財産編第四百七十八条ニ従ヒテ行使シタル売主ハ再ヒ本条ノ許与セル権能ヲ援用スルコトヲ得ス 第六十二条 他人ノ物ノ売主ハ日後其物ノ所有者ト為リタルトキハ買主ヲシテ売買ヲ認諾スルヤ担保訴権ヲ行フヤノ一ヲ択マシムルコトヲ何時ニテモ催告スルコトヲ得 右同一ノ権利ハ他人ノ物ノ売主ノ相続人ト為リタル真所有者ニ属ス 第六十三条 買受物ノ分割ノ部分カ完全所有権又ハ虚有権ニテ第三者ニ属スル場合ニ於テ買主カ此部分ヲ取得スルヲ得サルコトヲ知レハ初ヨリ其物ヲ買ハサル可キ程ニ其性質又ハ広狭ニ因リテ有益ナルコトヲ証スルトキハ全部追奪ノ為メ定メタル如ク損害ノ賠償ヲ得テ契約ヲ解除スルコトヲ得 買主ハ契約ノ解除ヲ求メサルトキハ其受ケタル直接且現時ノ損失ノ限度ニ於テ賠償ヲ要求スルコトヲ得 第六十四条 買受物ノ不分ノ部分カ第三者ニ属スルトキハ其部分ノ重要ノ如何ニ拘ハラス買主ハ損害賠償ヲ得テ契約ヲ解除スル権利ヲ有ス 買主ハ契約ノ解除ヲ求メサルトキハ買受物ノ価格ノ減少シタルトキト雖モ常ニ此ニ対当スル買受代金ト契約費用トノ部分ヲ取戻シ又其価格ノ増加シタルトキハ其損害ノ賠償ヲ受ク 第六十五条 或ハ売渡シタル土地ニ属スルモノトシテ契約ニ於テ述ヘタル働方地役ノ追奪アリタルトキ或ハ契約ニ於テ述ヘサル人為ヲ以テ設定シタル受方地役ニ関シ又ハ財産ノ一分ニ存スル用益権、賃借権ニ関シテ第三者ノ要求アリタルトキハ第六十三条ノ規定ヲ適用ス財産ノ全部ニ存スル用益権又ハ賃借権ニシテ其経過ス可キ残余時期カ建物ニ付テハ一个年土地ニ付テハ二个年ヲ超エサルモノニ関シテモ亦同シ 売買ノ財産ノ全部ニ存スル用益権又ハ賃借権ノ継続時期カ建物ニ付テハ一个年土地ニ付テハ二个年ヲ超ユ可キトキハ買主ハ尚ホ自己ニ残存セル権利ノ不十分ナルヲ証スルコトヲ要セスシテ前条ニ従ヒ売買ヲ解除スルコトヲ得 第六十六条 契約ニ於テ述ヘタルト否トヲ問ハス売渡シタル土地ニ先取特権又ハ抵当権ノ負担アリテ買主カ其代金ノ弁済ノ前又ハ弁済ノ時其土地ヲシテ此負担ヲ免カレシムル為メニ必要ナル方式ヲ履行セサルニ因リ売主ノ債権者ノ為メニ所有権ヲ取上ケラレタルトキハ買主ハ売主ニ対シ第五十八条及ヒ第五十九条ノ規定ニ従ヒテ担保ノ求償権ヲ有ス 第六十七条 差押ヘタル財産ノ競落人カ追奪ヲ受ケタルトキハ被差押人ニ対シテ代金ノ返還ヲ求ムルコトヲ得若シ被差押人カ無資力ナルニ於テハ代金ノ配当ヲ受ケタル債権者ニ対シテ其代金ノ返還ヲ求ムルコトヲ得 競落人ハ差押人カ差押ノ際ニ其財産ノ債務者ニ属セサルコトヲ知リタルニ非サレハ之ニ対シテ損害賠償ヲ要求スルコトヲ得ス又債務者カ其財産ニ存スル第三者ノ権利ヲ詐欺ヲ以テ隠秘シタルニ非サレハ之ニ対シテ損害賠償ヲ要求スルコトヲ得ス 競売条件書ノ調製及ヒ競落ノ処理ニ任シタル公吏ハ其職分ヲ欠キタル為メ買主ノ錯誤ヲ惹起シタルニ非サレハ損害賠償ノ責ニ任セス 第六十八条 債権ノ売主ハ当然自己ノ債権ノ存立及ヒ其有効ノ担保ノ責ニ任ス 又売主ハ明示ニテ債務者ノ有資力ノ担保ヲ諾約シタルニ非サレハ其担保ノ責ニ任セス 有資力ノ担保ニ任シタル場合ニ於テモ売主ハ債権カ既ニ満期ト為リタルトキハ譲渡ノ日ニ於ケル有資力ノミニ付キ且受取リタル代金ノ限度ニ従ヒテ其責ニ任ス但一層広大ナル担保ノ明約ト裏書ヲ以テ譲渡ス商証券ノ特別規則トヲ妨ケス 未タ満期ト為ラサル債権ノ譲渡ニ於テ譲渡人カ他ノ特約ナクシテ債務者ノ将来ノ有資力ヲ担保シタルトキハ其担保ハ満期ヨリ一个年又無期年金権ニ付テハ其譲渡ヨリ十个年ニテ絶止ス 第六十九条 物権ト人権トヲ問ハス争ニ係ル権利ノ譲渡ニ於テハ譲渡人ハ特別ノ合意ナク且譲受人カ争アルコトヲ知リタルトキハ其主張ノ虚構ナラサルコトヲ担保スルノミニシテ譲渡シタル権利ノ真ノ成立ヲ担保セス 裁判上ト裁判外トヲ問ハス本権ニ関スル明白ノ争ノ目的タル権利ニ付テノミ右ノ規定ヲ適用ス譲渡人ハ其主張ノ虚構ナリシ場合ニ於テハ譲渡代金ノ返還ノ外譲受人カ正当ニ期望シタル利益ノ賠償ヲ負担ス 第七十条 会社ニ於ケル自己ノ権利ヲ売渡シタル者ハ其権利ノ存立及ヒ其売買契約ニ示セル権利ノ広狭ニ付テノミ担保ノ責ニ任ス 会社ノ従前ノ営業ヨリ生シ既ニ清算済ト為リタル売主ノ権利及ヒ義務ハ買主ニ利害ノ関係ヲ及ホスコト無シ 売主ト会社トノ間ニ於ケル特別ノ計算ニ付テモ亦同シ 第七十一条 上ノ場合ニ於テ無担保ニテ売買スルトノ契約ヲ為シタルトキト雖モ買主カ追奪ヲ受ケタルニ於テハ売主ハ代金ヲ返還スル責ニ任ス但買主カ売買ノ時ニ於テ追奪ノ危険アルコトヲ了知シタルトキハ売主ハ此返還ヲ負担セス 売主ハ買主ノ危険負担ニテ売買スルトノ契約ヲ為シタルコトノミニ因リテ亦代金ヲ返還スル責ヲ免カル 然レトモ如何ナル場合ニ於テモ又如何ナル約款ニ依ルモ売主ハ売買ノ前後ヲ問ハス第三者ニ授与シタル権利ヨリ生スル妨碍又ハ追奪ノ担保ヲ免カルルコトヲ得ス 第七十二条 売主カ担保ノ義務ノ全部又ハ一分ヲ買主ノ悪意ノ故ヲ以テ免カレント主張スルトキハ売渡物ニ関スル行為カ第三者ノ利益ノ為メニ登記シ有リト雖モ其登記ノミニテハ買主ノ悪意ヲ証スルニ足ラス尚ホ売主ハ登記官吏ノ認証書ニ依リ又ハ其他ノ方法ヲ以テ買主カ売買ノ前ニ此行為ヲ了知シタル直接ノ証拠ヲ供スルコトヲ要ス 第七十三条 財産編第三百九十九条及ヒ第四百条ハ担保ノ為メニスル売主ノ召喚ニ付キ及ヒ追奪ヲ受ケタル買主カ担保人ヲ訴訟ニ参加セシメサル為メニ生スル失権ニ付キ之ヲ適用ス 第三款 買主ノ義務 第七十四条 買主ハ合意シタル時期ニ於テ代金ヲ弁済スルコトヲ要ス又其時期ニ付キ特別ノ合意ナキトキハ引渡ノ時ニ於テ之ヲ弁済スルコトヲ要ス 引渡ヲ日後ニ延フルノ合意アルトキハ代金ノ弁済ヲモ暗ニ日後ニ延フルモノト推定ス 売主カ引渡ノ為メ恩恵期限ヲ裁判所ヨリ得タルトキハ買主ハ代金弁済ノ為メ同一ノ期間ヲ享有ス 代金弁済ノ恩恵期限ハ引渡ノ為メ売主亦之ヲ享有ス 第七十五条 代金弁済ノ場所ヲ合意セサルトキハ其弁済ハ有体動産ニ付テハ引渡ヲ為ス場所不動産、債権、争ニ係ル権利又ハ会社ニ於ケル権利ニ付テハ証書ノ交付ヲ為ス場所ニ於テ之ヲ為ス 引渡ノ前又ハ後ニ代金ノ弁済ヲ要求スルコトヲ得ヘキトキハ其弁済ハ買主ノ住所ニ於テ之ヲ為ス 第七十六条 買受物カ果実其他金銭ニ見積ルコトヲ得ヘキ定期ノ利益ヲ生スルトキハ買主ハ引渡ノ時ヨリ当然代金ノ利息ヲ負担ス 反対ノ場合ニ於テハ利息ハ特別ノ合意又ハ弁済ノ催告ニ依ルニ非サレハ之ヲ負担セス 第七十七条 買主カ物上訴権ニ因リテ妨碍ヲ受ケ又ハ妨碍ヲ受クル恐アル正当ノ事由ヲ有スルトキハ売主カ其妨碍若クハ危険ヲ止マシムルマテ又ハ追奪アリタルニ於テハ代金ヲ返還スル為メノ保証人ヲ立ツルマテ買主ハ此訴権ノ軽重ニ従ヒテ代金ノ全部又ハ一分ノ弁済ヲ拒ムコトヲ得 此規定ハ買主カ買受物ノ他人ニ属スルヲ直接ニ証スルコトヲ得ルトキハ売買無効ノ判決ヲ求メ及ヒ担保ノ訴権ヲ行フコトヲ妨ケス 第七十八条 買受ケタル不動産ニ付キ抵当権又ハ先取特権ノ登記アルトキハ買主ハ滌除ノ方式ヲ行フタル後ニ非サレハ代金ヲ弁済スル責ナシ但法律上ノ期間ニ於テ滌除ヲ行フコトヲ要ス 第七十九条 前二条ノ場合ニ於テ売主ハ其先取特権及ヒ第三者ニ対スル解除ノ権利ヲ保存スル為メノ公示ヲ為ササリシトキハ当事者双方ノ名ヲ以テ買主ヲシテ猶予ナク代金ヲ供託セシムルコトヲ得但其代金ハ当事者双方ノ承諾又ハ裁判所ノ判決ニ依リ且諸手続ノ終了後ニ非サレハ之ヲ引取ルコトヲ得ス 第八十条 動産物ノ買主カ代金ヲ弁済シタルト否トヲ問ハス引渡ヲ受クル権利ヲ有スル時ニ於テ其引渡ヲ受クルコトヲ拒ミタルトキハ売主ハ財産編第四百七十四条乃至第四百七十八条ニ従ヒテ其売渡物ノ提供及ヒ供託ヲ為スコトヲ得 然レトモ日用品其他速ニ敗損ス可キ物ニ付テハ売主ハ買主ノ為メ之ヲ転売スルコトヲ得ルトキハ其転売ヲ為スコトヲ要ス 第三節 売買ノ解除及ヒ銷除 第一款 義務ノ不履行ニ因ル解除 第八十一条 当事者ノ一方カ上ニ定メタル義務其他特ニ負担スル義務ノ全部若クハ一分ノ履行ヲ欠キタルトキハ他ノ一方ハ財産編第四百二十一条乃至第四百二十四条ニ従ヒ裁判上ニテ契約ノ解除ヲ請求シ且損害アレハ其賠償ヲ要求スルコトヲ得 当事者カ解除ヲ明約シタルトキハ裁判所ハ恩恵期限ヲ許与シテ其解除ヲ延ヘシムルコトヲ得ス然レトモ此解除ハ履行ヲ欠キタル当事者ヲ遅滞ニ付シタルモ猶ホ履行セサルトキニ非サレハ当然其効力ヲ生セス 第八十二条 買主カ弁済其他ノ義務ヲ欠キタル為メノ解除ハ買主ノ猶ホ代金ノ全部若クハ一分ノ負担又ハ他ノ負担ヲ明示シタル売買証書ニ依リ登記ヲ為シタルニ非サレハ売主ヨリ転得者ニ対シテ之ヲ請求スルコトヲ得ス但債権担保編第百八十二条ノ規定ヲ妨ケス 第八十三条 弁済期限ノ定アル動産ノ売買ニ於テ其引渡ヲ実行シタルトキハ弁済ヲ欠キタル為メノ売主ノ解除ノ権利ハ買主ノ他ノ債権者ヲ害シテ之ヲ行フコトヲ得ス 弁済期限ノ定ナキ売買ニ付テハ売主ハ引渡ヨリ八日内ニ売買ヲ解除スルコトヲ得然レトモ善意ナル第三者ノ既得ノ物権ヲ害スルコトヲ得ス 第二款 受戻権能ノ行使 第八十四条 売主ハ売買証書ニ明記シタル受戻ノ約款ニ依リ買主ノ弁済シタル代金ト費用ノ部分トヲ指定ノ期間ニ買主ニ返還スルニ於テハ其売買ヲ解除ス可キコトヲ要約スルヲ得 右期間ハ不動産ニ付テハ五个年、動産ニ付テハ二个年ヲ超ユルコトヲ得ス此ヨリ長キ時期ノ要約ハ当然之ヲ此期限ニ短縮ス 一旦期間ヲ定メタル以上ハ右制限内ト雖モ之ヲ伸長スルコトヲ得ス 然レトモ其伸長ハ之ヲ再売買ノ予約ト看做スコトヲ得此場合ニ於テハ第二十六条及ヒ第二十七条ノ規定ニ従フ 売買後ニ於テ為シ又ハ別証書ヲ以テ為シタル受戻ノ要約ニ付テモ亦同シ 売主ハ代金ノ半額以上ノ弁済ノ為メ期限ヲ与ヘ且其期限カ受戻ノ為メ定メタル期間ノ半以上ニ及ヘルトキハ有効ニ受戻ノ権能ヲ要約スルコトヲ得ス 第八十五条 不動産ニ付テハ法律ノ定メタル期間ニ其定メタル条件ヲ以テ為シタル受戻権能ノ行使ハ買主カ第三者ニ授与シ又ハ第三者カ買主ノ権ニ基キテ取得シタル物権ヲ排除シテ其不動産ヲ売主ニ復セシム但賃借権ニシテ残期ノ一个年ヲ超エサルモノハ此限ニ在ラス 動産物ニ付テハ受戻ノ権能ハ善意ニテ其動産物上ニ物権ヲ取得シタル第三者ニ対シテ之ヲ行フコトヲ得ス 第八十六条 売主ノ債権者ハ売主ニ代ハリテ受戻ノ権能ヲ行フコトヲ得 然レトモ買主ハ右債権者カ予メ其債務者ノ無資力ヲ証シ且財産編第三百三十九条ニ従ヒテ受戻権能ノ行使ノ為メ裁判上ニテ売主ニ代位スルヲ要求スルコトヲ得 買主ハ同一ノ場合ニ於テ鑑定人ノ評価シタル買受物ノ現時ノ価額ト第八十八条ニ従ヒテ売主ヨリ己レニ返還ス可キ金額トノ差額ニ達スルマテ売主ノ債務ヲ弁済シテ債権者ノ訴ヲ止ムルコトヲ得 第八十七条 売主カ受戻ノ約款ニテ売渡シタル物ヲ日後抵当トシ又ハ之ニ其他ノ物権ヲ負担セシメタルトキハ其権利ノ効力ハ売主又ハ其債権者ノ受戻権能ヲ行ヒタル後ニ非サレハ生セス 売主カ受戻ニ服スル物ノ所有権ヲ譲渡シタルトキハ譲受人ハ自己ノ名ヲ以テ受戻ヲ為スコトヲ得然レトモ譲渡前ニ売主カ他人ニ対シテ承諾シ且登記ヲ経タル此他ノ物権ヲ妨碍スルコトヲ得ス但其担保訴権ヲ失フコト無シ 第八十八条 売主カ受戻ノ権能ヲ行ハントスルトキハ指定ノ期間ニ売買代価及ヒ契約費用ノ外尚ホ物ノ保存費用ヲ買主ニ弁償スルコトヲ要ス 買主カ右金額ヲ受取ルコトヲ拒ミタルトキハ売主ハ猶予ナク之ヲ供託スルコトヲ要ス 売主ハ物ノ改良費用ヲモ弁償スルコトヲ要ス然レトモ裁判所ハ此弁償ニ付テハ売主ニ猶予ヲ許スコトヲ得 買主ハ右金額ノ皆済ヲ受クルマテ其物ノ上ニ留置権ヲ有ス 第八十九条 不動産ノ共有者ノ一人カ其不分ノ部分ヲ受戻約款ニテ売リタル場合ニ於テ買主カ他ノ共有者ヨリ促カサレタル競売ニ因リテ競落人ト為リタルトキハ売主ハ前条ニ掲ケタル金額ニ競売ノ代金ヲ加ヘテ其不動産ノ全部ニ対スルニ非サレハ受戻ヲ為スコトヲ得ス又買主ハ之ニ故障ヲ述フルコトヲ得ス 買主カ自ラ競売ヲ促シタルトキハ売主ハ其売渡シタル部分ニ付テノミ受戻ヲ為スコトヲ得又買主ハ全部ノ受戻ニ故障ヲ述フルコトヲ得 第九十条 孰レヨリ競売ヲ促カシタルヲ問ハス買主ニ非サル共有者ノ一人又ハ外人ノ競落シタル場合ニ於テ売主ハ競売ニ召喚セラレサリシトキハ其売渡シタル部分ニ付テノミ競落人ニ対シテ受戻ノ権利ヲ有シ之ニ反スルトキハ其権利ヲ失フ 第九十一条 現物ヲ以テ分割シタルトキ売主カ其分割ニ召喚セラレタルニ於テハ売主ハ孰レヨリ分割ヲ促カシタルヲ問ハス他ノ所有者ニ帰シタル部分ニ付キ何等ノ要求ヲモ為スコトヲ得スシテ買主ニ帰シタル部分ノミヲ受戻スコトヲ得但買主ノ供与シ又ハ受取リタル補足代金ヲ売主買主ノ間互ニ計算スルコトヲ妨ケス 売主カ分割ニ召喚セラレサリシトキハ売主ハ選択ヲ以テ或ハ其分割ヲ認諾シ買主ニ対シテ前項ニ示シタル権利ヲ行ヒ或ハ第八十八条ニ掲ケタル金額ヲ買主ニ弁償シ共有者ニ対シテ再分割ヲ促カスコトヲ得 第九十二条 不分物ノ共有者カ一箇ノ契約及ヒ唯一ノ代価ニテ其物ヲ受戻ノ約款ヲ以テ売渡シタルトキハ買主ハ一分ニ付キ受戻ヲ受クル責ナシ 又買主ハ売主ノ一人ヨリ為ス全部ノ受戻ニ故障ヲ述フルコトヲ得 之ニ反シテ数人ノ共有者カ各別ノ契約ヲ以テ各自ノ部分ヲ売渡シタルトキハ各別ニ受戻ヲ為スコトヲ得但第八十九条及ヒ第九十一条ノ規定ハ之ヲ此場合ニ適用スルコトヲ得 第九十三条 数人ノ買主カ一箇ノ契約又ハ各別ノ契約ヲ以テ一箇ノ財産ヲ受戻ノ約款ニテ取得シタルトキ売主カ買主ノ間ニ分割ヲ為ササル前ニ受戻ヲ為サント欲スルニ於テハ売主ハ総買主ニ対シ又ハ一人若クハ数人ノ買主ニ対シテ其各自ノ部分ニ付キ受戻ヲ為スコトヲ得 既ニ分割ヲ為シタルトキハ売主ハ各買主ニ対シ分割又ハ競売ニ因リテ其各自ニ帰シタル部分ノミニ非サレハ受戻ヲ為スコトヲ得ス 第三款 隠レタル瑕疵ニ因ル売買廃却訴権 第九十四条 動産ト不動産トヲ問ハス売渡物ニ売買ノ当時ニ於テ不表見ノ瑕疵アリテ買主之ヲ知ラス又修補スルコトヲ得ス且其瑕疵カ物ヲシテ其性質上若クハ合意上ノ用方ニ不適当ナラシメ又ハ買主其瑕疵ヲ知レハ初ヨリ買受ケサル可キ程ニ物ノ使用ヲ減セシムルトキハ買主ハ其売買ノ廃却ヲ請求スルコトヲ得 此場合ニ於テハ買主ハ弁済代金ト契約費用トヲ取戻シ其代金ノ利息ハ請求ノ日ニ至ルマテノ物ノ収益又ハ使用ト之ヲ相殺ス 第九十五条 買主カ隠レタル瑕疵ノ売買廃却訴権ヲ行フ可キ程ニ重大ナルヲ証スルコト能ハス又ハ物ヲ保有スルコトヲ欲スルトキハ買主ハ便益ヲ失フ割合ニ応シテ代価ノ減少ヲ請求スルコトヲ得 第九十六条 買主カ売主ニ対シ売買ノ廃却又ハ代価ノ減少ヲ得タルニ拘ハラス売主カ初ヨリ其瑕疵ヲ知リタルトキハ買主ハ尚ホ其受ケタル損害又ハ失ヒタル利益ニ付テノ賠償ヲ要求スルコトヲ得 第九十七条 隠レタル瑕疵ヲ担保セストノ要約ハ売主ヲシテ初ヨリ自ラ了知シ且詐欺ヲ以テ隠秘シタル瑕疵ニ付テノ責任ヲ免カレシメス 第九十八条 売買ノ当時ニ於テ物ニ瑕疵アリタルコト其瑕疵ヨリ買主ニ損害ヲ生シタルコト及ヒ買主又ハ売主カ其瑕疵ヲ了知シタルコトハ人証、鑑定其他ノ法律上ノ証拠方法ヲ以テ之ヲ証ス 第九十九条 売買廃却、代価減少及ヒ損害賠償ノ訴ハ左ノ期間ニ於テ之ヲ起スコトヲ要ス 第一 不動産ニ付テハ六个月 第二 動産ニ付テハ三个月 第三 動物ニ付テハ一个月 右期間ハ引渡ノ時ヨリ之ヲ起算ス 然レトモ此期間ハ買主カ瑕疵ヲ知レル証拠アリタル日ヨリ其半ニ短縮ス但其残期カ此半ヲ超ユルトキニ限ル 買主カ意外ノ事又ハ不可抗力ニ因リテ右期間ニ隠レタル瑕疵ヲ覚知スル能ハサリシコトヲ証スルトキハ其期間ノ満了後ニ於テモ訴ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テハ意外ノ事又ハ不可抗力ノ止ミタル時ヨリ通常期間ノ三分一ヲ以テ新期間ト為ス 第百条 隠レタル瑕疵ニ基キタル代価減少ノ訴権ハ買主カ買受物ヲ無償又ハ有償ニテ譲渡シタルモ之ヲ失ハス但有償ノ譲渡ノ場合ニ於テハ其瑕疵ノ為メ買主カ損失ヲ受ケタルトキ又ハ譲受人ヨリ訴ヘラレ若クハ訴ヘラルルノ恐アルトキニ限ル 第百一条 売渡物カ意外ノ事又ハ不可抗力ニ因リテ全部又ハ半以上滅失シタルトキハ売買廃却訴権ヲ行フコトヲ得ス 滅失部分ノ多少ニ拘ハラス代価減少ノ訴権ハ残存部分ノ割合ニ応シテ存立ス 如何ナル場合ニ於テモ売主ハ隠レタル瑕疵ヨリ生スル全部又ハ一分ノ滅失ノ責ニ任ス 第百二条 合式ノ強制売却ハ売買廃却訴権ヲモ代価減少訴権ヲモ生セス 第百三条 或ル動物又ハ日用品ノ隠レタル瑕疵ニ付テハ特別法ヲ以テ其売買上ノ効果ヲ定ムルニ至ルマテ本法ノ規定ヲ適用ス 第四節 不分物ノ競売 第百四条 不分財産ノ分割ヲ為スニ当リ共有者ノ一人タリトモ現物ノ分割ヲ拒ム者アルトキハ其財産ノ協議売却又ハ競売ヲ為シ各共有者ノ権利ノ限度ニ応シテ其代金ヲ配当ス 第百五条 共有者カ其一人若クハ第三者ニ協議売却ヲ為シ又ハ相互ノ間ニ競売ヲ為スニ付キ一致ヲ得ル能ハサルトキ又ハ共有者中ニ失踪者若クハ無能力者アルトキハ裁判所又ハ裁判所ノ指定シタル公吏ノ前ニ於テ不分物ノ競売ヲ為ス但民事訴訟法ニ定メタル競売方式ニ従フコトヲ要ス 共同競売人ノ各自ハ常ニ競売ニ外人ノ参与ヲ許スヲ要求スルコトヲ得共有者ノ一人カ失踪シ又ハ無能力ナルトキハ外人ノ参与ハ当然且必要ナリトス 第百六条 共有者ノ一人カ不分物ノ全部ヲ取得シタルトキハ其競売又ハ協議売却ハ共有者間ノ分割ノ行為ト看做サレ会社ノ分割ニ関シ規定シタル効力ヲ生ス 第三者ニ競落又ハ協議売却ヲ為シタルトキハ其売買ハ第三者ト原共有者トノ間ニ於テ本章ニ規定シタル売買ノ効力ヲ生ス 第四章 交換 第百七条 交換ハ当事者ノ一方カ或ル物ノ所有権其他ノ権利ヲ他ノ一方ヨリ取得シ又ハ之ヲシテ諾約セシメ其対価トシテ或ル物ノ所有権其他ノ権利ヲ他ノ一方ニ移転シ又ハ移転スルコトヲ諾約スル契約ナリ 相互ノ権利ノ価額カ均一ナラサルトキハ金銭其他ノ物ノ補足ヲ以テ之ヲ均一ニス 金銭ノ補足カ交換ニ供シタル物ノ価額ヲ超ユルトキハ其契約ハ之ヲ売買ト看做ス 第百八条 当事者ハ交換ニ供シ又ハ諾約シタル物又ハ権利ニ対スル妨碍及ヒ追奪ノ担保ヲ相互ニ負担ス 当事者ノ一方カ他ノ一方ノ諾約シタル物又ハ権利ヲ取得スルコトヲ得サリシトキハ其選択ヲ以テ或ハ金銭ノ対価ヲ要求スルコトヲ得或ハ契約ノ解除ヲ請求シテ自己ノ供与シタルモノヲ取戻スコトヲ得但孰レノ場合ニ於テモ損害アレハ其賠償ヲ受ク 右解除ノ権利ハ取戻ニ服スル不動産ニ付キ権利ヲ取得シタル第三者ニ対シテ之ヲ行フコトヲ得ス但財産編第三百五十二条第一項ニ従ヒテ請求ノ公示前ニ其第三者ノ権原ノ登記アリタルトキニ限ル 第百九条 売買ノ規則ハ左ノ例外ヲ以テ交換ニ之ヲ適用ス 交換ハ配偶者ノ間ニ之ヲ為スコトヲ許ス但交換物ノ価額ノ差カ間接ノ利益ヲ成ストキハ贈与ヲ禁制シ又ハ之ヲ制限スル規則ニ従フ 当事者ノ一方又ハ双方カ指定ノ期間ニ於テ任意ニ交換ヲ解除スルコトヲ要約シタルトキハ第二十七条ニ依リ売買ノ予約ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ル条件ニ従フニ非サレハ其解除ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス 第五章 和解 第百十条 和解ハ当事者カ交互ノ譲合又ハ出捐ヲ為シテ既ニ生シタル争ヲ落著セシメ又ハ生スルコト有ル可キ争ヲ予防スル契約ナリ 和解ノ成立、有効、効力及ヒ証拠ハ下ノ規定ヲ除ク外合意ニ関スル一般ノ規則ニ従フ 第百十一条 和解ハ法律ノ錯誤ノ為メ之ヲ銷除スルコトヲ得ス但其錯誤カ相手方ノ詐欺ニ起因スルトキハ此限ニ在ラス 第百十二条 和解ハ偽造ノ書類又ハ無効ノ行為ニ依リ承諾シタルコトヲ理由トシテ之ヲ銷除スルコトヲ得ス但此等ノ申立ヲ為スヲ得ヘキ当事者ニ於テ其書類ノ偽造ヲ知ラス又ハ其行為ヲ法律ニ於テ無効ナラシムル所ノ事実ヲ知ラサリシトキハ此限ニ在ラス 第百十三条 定マリタル争ニ付キ為シタル和解ハ新ニ発見シタル証書ニ因リテ当事者ノ一方カ争ノ目的ニ付キ何等ノ権利ヲモ有セス又ハ他ノ一方カ其目的ニ付キ完全且争フ可カラサル権利ヲ有スルコトノ顕ハレタルトキハ事実ノ錯誤ノ為メ亦之ヲ銷除スルコトヲ得 確定シタル判決又ハ攻撃スルヲ得サル契約ニ因リ既ニ争ノ落著シタル場合ニ於テ其判決又ハ契約ヲ知ラスシテ和解ヲ為シタルトキモ亦同シ 然レトモ和解カ従前ノ原因ヨリ生スルコト有ル可キ総テノ争ヲ落著セシメ又ハ之ヲ予防スルヲ目的トシタルトキハ当事者ノ一方ノ利益タル確定証書ノ発見ハ其和解ノ銷除ヲ生セス但其証書カ相手方ノ所為ニ因リテ控留セラレタルトキハ此限ニ在ラス 第百十四条 有効ノ和解ハ当事者ノ相互ニ追認シタル権利又ハ利益ニシテ既ニ生シ又ハ予見シタル争ノ目的タルモノニ付テハ当事者間ニ在テハ確定判決ノ権利ト均シキ認定ノ効力ヲ生ス此場合ニ於テハ其権利又ハ利益ハ従前ノ原因ニ由リテ保持シタルモノト看做ス但当事者双方ニ更改ヲ為ス意思アリシトキハ此限ニ在ラス 之ニ反シテ相互ニ供与シ又ハ諾約シタル権利又ハ利益ノ全部若クハ一分ニシテ争ノ目的タラサリシモノニ付テハ和解ハ物権又ハ人権ヲ生シ之ヲ移転シ若クハ之ヲ消滅セシムル有償合意ノ規則ニ従フ 第六章 会社 第一節 会社ノ性質及ヒ設立 第百十五条 会社ハ数人カ各自ニ配当ス可キ利益ヲ収ムル目的ニテ或ル物ヲ共通シテ利用スル為メ又ハ或ル事業ヲ成シ若クハ或ル職業ヲ営ム為メ各社員カ定マリタル出資ヲ為シ又ハ之ヲ諾約スル契約ナリ 第百十六条 商事会社ニ特別ナル規則ハ商法ヲ以テ之ヲ定ム 第百十七条 社員ノ出資ハ或ハ動産又ハ不動産ノ所有権若クハ収益権或ハ金銭又ハ技術、労力ヲ以テスルコトヲ得 出資ハ不均一ナルコトヲ得 第百十八条 民事会社ハ当事者ノ意思ニ因リテ之ヲ法人ト為スコトヲ得 此場合ニ於テハ会社ニ社名ヲ付シ且其契約ハ商事会社ノ公示ノ為メ法律ニ規定シタル方式ニ従ヒテ之ヲ公示スルコトヲ要ス但社名ヲ付シ又ハ公示ヲ為シタルトキハ其会社ヲ法人ト為ス意思アリト推定ス 第百十九条 合意ノ一般ノ規則殊ニ当事者ノ承諾、能力、合意ノ目的、原因及ヒ証拠ニ関スルモノハ会社ニ之ヲ適用ス 第百二十条 会社ハ其目的ノ商事ニ在ラサルモ資本ヲ株式ニ分ツトキハ商法ノ規定ニ従フ 第二節 社員ノ権利及ヒ義務 第百二十一条 会社ハ契約ノ日ヨリ開始ス但明示又ハ黙示ニテ他ノ期限ヲ定メ又ハ条件ヲ附シタルトキハ此限ニ在ラス 各社員ハ会社ノ開始スル時ニ於テ其諾約シタル出資ヲ差入ルルコトヲ要ス之ヲ差入レサルトキハ其社員ハ出資ニ生スル果実及ヒ利息ヲ当然負担ス且遅延ノ為メ損害ヲ生シタルトキハ出資ノ金銭ヲ以テスルトキト雖モ其賠償ヲ負担ス 第百二十二条 技術又ハ労力ノ出資ヲ諾約シタル社員カ其諾約ヲ欠キタルトキハ其社員ハ他ノ社員ノ選択ニ従ヒ会社ニ対シテ或ハ其義務ノ履行ヲ欠キタル当時ヨリ会社ノ受ケタル損害ヲ賠償シ或ハ其労力ヲ会社外ニ用ヰテ得タル利益ヲ分与スル責ニ任ス 第百二十三条 動産ト不動産トヲ問ハス特定物ノ所有権ヲ出資ト為スコトヲ諾約シタル社員ハ会社ニ対シ売主ト同シク其物ノ妨碍、追奪又ハ面積、数量ノ不足及ヒ隠レタル瑕疵ニ付キ担保ノ責ニ任ス 又社員カ物ノ収益権ノミヲ出資ト為スコトヲ諾約シタルトキハ賃貸人ト同シク担保ノ責ニ任ス 第百二十四条 会社契約ヲ以テ社員中ヨリ一人又ハ数人ノ業務担当人ヲ選任シタルトキハ其各員ハ受任ノ権限ヲ踰ユルコトヲ得ス 権限ノ定マラサル業務担当人ハ共同又ハ各別ニテ通常ノ管理行為ヲ為スニ止マル 又業務担当人ハ会社ノ目的中ノ重要ナル行為ニ付テハ共同ニテノミ之ヲ為スコトヲ得但異議アル場合ニ於テハ其行為ヲ中止シ総社員ノ過半数ヲ以テ之ヲ決ス 第百二十五条 会社契約ヲ以テ業務担当人ヲ選任セサル場合ニ於テ総社員ノ一致ニテ之ヲ選任セサル間ハ社員ノ各自ハ前条ニ規定シタル行為ヲ其条件ニ従ヒテ為ス権ヲ有ス 第百二十六条 会社契約ヲ以テ業務担当人ニ選任セラレタル社員ハ正当ノ原因アルトキ又ハ其承諾及ヒ総社員ノ同意ヲ得タルトキニ非サレハ委任ノ期限内ニ之ヲ解任スルコトヲ得ス 会社設立以後ノ契約ヲ以テ選任シタル業務担当人ハ之ヲ選任シタルト同一ノ方法ヲ以テ其承諾ヲ要セスシテ之ヲ解任スルコトヲ得 第百二十七条 業務担当人ヲ選任シタル方法ノ如何ヲ問ハス其中ノ一人又ハ数人ノ死亡、辞任又ハ解任アリテ此等ノ事件ノ為メニ会社ノ解散セサルトキハ総社員ノ過半数ヲ以テ其補闕者ヲ選任ス 第百二十八条 右ノ外会社定款ノ執行ニ関スル総テノ処分ハ亦社員ノ過半数ヲ以テ之ヲ定ム 定款ニ反スル行為又ハ定款外ノ行為ニ付テハ総社員ノ一致ヲ得ルヲ必要トス 本条ハ定款又ハ法律ノ之ニ反スル規定ヲ妨ケス 第百二十九条 第三者カ会社ト業務担当社員ノ一人トニ対シテ同性質ノ債務ヲ負担シタルトキ其第三者カ二箇ノ債務ヲ消滅セシムルニ足ラサル金銭又ハ有価物ヲ此社員ニ弁済スルニ於テハ其社員ハ会社ノ債権額ト自己ノ債権額トノ割合ニ応スルニ非サレハ自己ノ債権ノ弁済ニ之ヲ充当スルコトヲ得ス但債務者ノ為シタル充当ヲ変更スルコトヲ得ス 然レトモ債務者カ正当ノ利益ナクシテ社員ノ債権額ノ全部ニ充当シタルトキハ社員ハ其弁済ノ額内ヨリ右ノ割合ニ応スル部分ヲ会社ニ分与スル責ニ任ス 債務者又ハ社員カ有効ナル充当ヲ為ササルトキハ財産編第四百七十二条ニ従ヒテ法律上ノ充当ノ規則ヲ適用ス 第百三十条 業務担当人タルト否トヲ問ハス社員ニシテ会社ノ債務者ヨリ会社ニ対スル債務ノ一分ヲ受取リタル者ハ場合ノ如何ニ拘ハラス会社ニ其利益ヲ得セシムルコトヲ要ス但自己ノ持分トシテ受取証書ヲ与ヘタルトキト雖モ亦同シ 第百三十一条 業務担当人タルト否トヲ問ハス各社員ハ其過失又ハ懈怠ニ因リテ会社ニ加ヘタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス 此損害ハ社員カ会社営業ノ他ノ事件ニ付キテ会社ニ得セシメタル利益ト相殺スルコトヲ得ス但其事件ノ互ニ連絡シタルトキハ此限ニ在ラス 第百三十二条 会社契約ヲ以テ業務担当人ヲ選任セサルカ為メニ業務ヲ取扱フ社員ハ自己ノ業務ニ於ケルト同一ノ注意ヲ加ヘサルトキニ非サレハ其過失ノ責ニ任セス 第百三十三条 各社員ハ会社資本中ニ於テ使用スルコトヲ得ル金額ナキトキハ会社ノ所属物ニ関スル必要及ヒ保持ノ費用ヲ自己ノ権利ノ割合ニ応シテ分担スル責ニ任ス 第百三十四条 業務担当人タルト否トヲ問ハス各社員ハ会社ヲシテ自己ノ出資外ニ会社ノ為メ有益ニ立替ヘタル金額ヲ返還セシメ又ハ会社ノ利益ノ為メ善意ニテ負担シタル義務ヲ認諾セシメ又ハ会社ノ営業ノ為メ自己ノ財産ニ受ケタル避クルヲ得サル損害ヲ賠償セシムルコトヲ得 第百三十五条 会社営業ノ為メ社員ノ立替ヘタル金額ハ其使用ノ日ヨリ当然利息ヲ生ス 之ニ反シテ各社員ハ自己ノ営業ノ為メ会社資本中ヨリ引出シタル金額ニ付テハ当然会社ニ対シテ其利息ヲ負担シ尚ホ損害アルトキハ賠償ノ責ニ任ス 第百三十六条 社員ハ会社解散ノ際ニ現在スル資本ニ於ケル各自ノ持分ヲ会社契約又ハ其後ノ契約ヲ以テ随意ニ定ムルコトヲ得但第百三十八条ニ掲ケタル二箇ノ場合ハ此限ニ在ラス 第百三十七条 社員ハ其一人又ハ数人ノ持分カ利益及ヒ損失ニ於テ同一ナラサルヲ合意スルコトヲ得 然レトモ利益ノミヲ予見シテ右ノ持分ヲ定メタルトキハ損失ニ付テモ同一ノ定方ヲ合意シタリトノ推定ヲ受ク 如何ナル場合ニ於テモ受ケタル損失ヲ控除シ会社ノ貸方トシテ残ル所ノモノニ非サレハ配当ス可キ利益ト看做サス又右貸方ヲ竭シタル後借方トシテ残ル所ノモノニ非サレハ損失ト看做サス 然レトモ会社ノ存立中ニ詐害ナクシテ既ニ為シタル利益又ハ損失ノ一分ノ配当ハ之ヲ変更セス 第百三十八条 会社資本ノ全部又ハ会社ノ得タル利益ノ全部ヲ社員中ノ一人ニ帰ス可キ約款ハ無効ナリ 技術又ハ労力ヲ出資ト為シタル社員ニ非サル社員ニ全ク損失ノ負担ヲ免カレシム可キ約款モ亦同シ 会社契約ニ右ノ約款ヲ附記シタルトキハ其約款ハ契約ヲシテ全ク無効ナラシム又日後ニ右ノ約款ヲ追加シタルトキハ其約款ハ契約ノ存立ヲ妨ケスシテ会社ノ清算ハ第百四十一条ニ従ヒテ之ヲ為ス 第百三十九条 社員ハ自己ノ選任セシ又ハ選任ス可キ社員又ハ外人タル一人若クハ数人ノ仲裁人ヲシテ会社解散ノ際各自ノ持分ヲ定メシムルコトヲ会社契約又ハ其後ノ契約ヲ以テ合意スルコトヲ得 仲裁人ノ為シタル定方ハ仲裁人カ仲裁ノ適法ノ方式又ハ仲裁契約ヲ以テ授ケラレタル条件ヲ履行セサルカ又ハ明カニ公平ヲ失シタルトキニ非サレハ之ヲ攻撃スルコトヲ得ス 右定方ノ無効ノ請求ハ此ニ因リテ害ヲ受ケタリト主張スル社員ニ在テハ其社員カ定方ノ執行ニ加ハリタルトキ又ハ其定方ヲ知リタルヨリ三个月ヲ経過シタルトキハ之ヲ為スコトヲ得ス 第百四十条 会社契約ヲ以テ持分ノ定方ヲ仲裁人ニ委任ス可キコトヲ定メタル場合ニ於テ少ナクトモ社員ノ過半数カ仲裁人ヲ選任スルコトニ一致セサルトキハ裁判所ニ於テ其選任ヲ為ス 選任セラレタル仲裁人カ定方ヲ為スコトヲ欲セス又ハ之ヲ為スコト能ハサルニ当リ社員カ其改選ニ付キ一致セサルトキモ亦同シ 第百四十一条 社員自身ニテ若クハ仲裁人ヲ以テ持分ノ定方ヲ為サス又ハ仲裁人ノ定方ノ無効ト為リタルトキハ会社資本及ヒ利益又ハ損失ハ社員ノ出資額ノ割合ニ応シテ之ヲ配当ス 社員ノ出資ト為シタル技術又ハ労力ノ評価ナキトキハ裁判所ハ各般ノ事情ヲ斟酌シテ其出資ノ価額ヲ定ム 技術又ハ労力ト財産トヲ出資ト為シタル社員ハ前項ニ定メタル価額ノ外尚ホ其財産ノ価額ニ従ヒテ計算シタル持分ノ配当ヲ受ク 第百四十二条 各社員ハ自己ノ持分ニ第三者ヲ組合サシムルコトヲ得又其持分ヲ質入シ又ハ之ヲ譲渡スコトヲ得然レトモ此等ノ行為ハ之ヲ以テ会社ニ対抗スルコトヲ得ス但会社契約ヲ以テ社員ニ此権利ヲ認許シタルトキハ此限ニ在ラス此場合ニ於テ会社カ社員ノ譲渡サント欲スル持分ヲ消却スル為メ先買権ヲ留保シタルトキハ自己ノ持分ヲ譲渡サントスル社員ハ会社カ其先買権ヲ行フカ抛棄スルカニ付キ之ヲ遅滞ニ付スルコトヲ要ス 第百四十三条 業務担当人カ会社ノ名ヲ以テ又ハ会社ノ営業ノ為メ有効ニ負担シタル義務ハ会社カ法人ヲ成セルトキハ各社員ノ一身上ノ債権者ニ先タチ会社資本ヲ以テ之ヲ担保ス 会社資本ノ不十分ナル場合又ハ訴追債権者ニ其資本ヲ示ササル場合ニ於テハ総社員ハ連帯シテ会社ノ義務ヲ負担ス会社カ法人ヲ成ササルトキモ亦同シ 右ノ場合ニ於テ各社員間ノ決算ハ第百三十六条乃至第百四十一条ニ規定シタル貸方及ヒ借方ニ於ケル各自ノ持分ニ従ヒテ之ヲ為ス 第三節 会社ノ解散 第百四十四条 会社ハ左ノ諸件ニ因リテ当然解散ス 第一 会社契約ヲ以テ指定シタル期間ノ満了又ハ解除条件ノ成就 第二 会社ノ目的タル事業ノ成功又ハ其成功ノ不能 第三 会社資本ノ全部又ハ半額以上ノ損失 第四 社員ノ一人ノ技術、労力又ハ収益ヲ以テスル継続ノ出資ヲ為スノ不能 第五 社員ノ一人ノ死亡、禁治産、破産又ハ顕然ノ無資力但第百四十七条ノ規定ヲ妨ケス 第百四十五条 会社ハ左ノ諸件ニ因リテ之ヲ解散スルコトヲ得 第一 如何ナル場合ヲ問ハス社員ノ一致ノ意思 第二 会社ニ明示又ハ黙示ノ一定ノ期間ナキ場合ニ於テ悪意ニ非ス又不都合ノ時期ニ非スシテ解散ノ請求ヲ為ストキハ社員一人ノ意思 第三 会社ニ一定ノ期間アルトキト雖モ社員ノ一人ノ義務不履行ニ基キタル解除ノ訴又ハ正当ノ理由ニ基キタル解散ノ請求 第百四十六条 社員ハ会社ノ期間ノ満了前ニ明示又ハ黙示ニテ其期間ヲ伸長スルコトヲ得 黙示ノ伸長ハ一定ノ期間ノ満了後ニ於テ社員ノ一人タモ故障ヲ為サスシテ会社営業ノ継続シタル事実ヨリ生スルコトヲ得此場合ニ於テ会社ハ前条第二号ニ従ヒ社員ノ一人ノ意思ヲ以テ之ヲ解散スルコトヲ得 第百四十七条 社員ハ第百四十四条第五号ニ掲ケタル原因ニ由リテ会社ヲ解散セス且闕員ノ持分ヲ定メ他ノ社員ニテ之ヲ継続スルヲ合意スルコトヲ得 又社員ハ死亡シタル社員ノ相続人又ハ無能力ト為リタル社員ト共ニ会社ヲ継続スルヲ合意スルコトヲ得 前項ノ場合ニ於テハ相続人又ハ無能力者ノ合式ノ代人ノ新ナル承諾ヲ要ス 第四節 会社ノ清算及ヒ分割 第百四十八条 会社ノ解散シタルトキハ社員ノ各自又ハ其承継人ヨリ清算ヲ請求スルコトヲ得 清算ハ分割前ニ之ヲ為スコトヲ要ス但社員ノ多数カ全部又ハ一分ノ分割ヲ先ニスルコトヲ請求シタルトキハ此限ニ在ラス 又会社ノ各債権者ハ清算前ニ分割ヲ為スコトニ付キ故障ヲ申立ツルコトヲ得 第百四十九条 清算ハ左ノ諸件ヲ包含ス 第一 著手シタル業務ノ成就 第二 会社ノ債務ノ弁済及ヒ其債権ノ取立 第三 各社員ト会社トノ間ノ特別ナル計算 第四 分割ス可キ貸方又ハ負担ス可キ借方ニ於ケル各社員又ハ其代人ノ持分ノ指定 第百五十条 会社契約ニ清算人ノ選任及ヒ其権限ニ関スル約款ナキトキハ清算ハ或ハ総社員之ヲ為シ或ハ社員ノ一致ヲ以テ委任シタル一人若クハ数人ノ社員之ヲ為シ或ハ社員ノ一致ヲ以テ選任シタル第三者之ヲ為ス 社員カ清算人ノ選任ニ付キ一致セサルトキハ裁判所ニ於テ之ヲ選任ス 第百五十一条 清算人ハ如何ナル場合ヲ問ハス速ニ毀損又ハ滅尽ス可キ物ヲ譲渡スコトヲ要ス 満期ト為リタル債務ノ弁済ノ為メ必要ナルトキハ此他ノ動産ヲ譲渡スコトヲ得 不動産ニ付テハ清算人ハ社員ノ特別ナル委任ヲ受クルニ非サレハ之ヲ抵当トシ又ハ譲渡スコトヲ得ス 前項ノ譲渡ハ競売競落ニ依ルニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス但協議上ノ譲渡ヲ許シタル場合ハ此限ニ在ラス孰レノ場合ニ於テモ社員ノ過半数ヲ以テ決スルコトヲ要ス 清算人ハ社員ノ名ヲ以テ原告又ハ被告トシテ訴訟ヲ為スコトヲ得 清算人カ会社ノ債務又ハ債権ニ付キ承諾シタル和解及ヒ仲裁ハ第三者ト通謀シタル詐欺ノ為メニ非サレハ之ヲ攻撃スルコトヲ得ス 第百五十二条 清算ニ於ケル総計算ハ社員ノ認可ヲ受クルコトヲ要ス 右ノ計算ヲ認可スルニハ社員ノ過半数ノ議決ヲ以テ足レリトス 此議決ハ総計算ニ付キ之ヲ為シ又ハ計算ノ或ル部分ニ付キ各別ニ之ヲ為スコトヲ得 認可ヲ得サル計算ニシテ仕直スコトヲ得ヘキモノナルトキハ清算人其費用ヲ以テ之ヲ為ス若シ仕直スコトヲ得サルトキハ清算人ハ代理ノ規則ニ従ヒ其過失ニ因リテ加ヘタル損害ノ責ニ任ス 清算人ノ受任シタル権限ニ依リ又ハ前条ニ従ヒテ為シタル行為ハ善意ナル第三者ニ対シテ之ヲ取消スコトヲ得ス 第百五十三条 会社ノ清算後ハ不分ニテ存スル財産ノ分割ハ社員ノ各自又ハ其承継人ヨリ之ヲ請求スルコトヲ得但当事者カ財産編第三十九条ニ従ヒ不分ニテ存スルコトヲ会社ノ解散後ニ合意シタルトキハ此限ニ在ラス 第百五十四条 分割部分ノ定方又ハ其配付ニ付キ当事者ノ一致セサルトキハ財産共通ノ分割ノ為メ別ニ定メタル規則ニ従フ 第百五十五条 会社資本中ノ物ニシテ分割ニ因リ各社員ニ帰シタルモノニ関スル其社員ノ権利ハ会社解散ノ日ニ遡リテ効力ヲ有シ又清算中他ノ社員ヨリ其物ニ付キ第三者ニ授与シタル権利ハ之ヲ解除ス 第百五十六条 分割者ハ分割ニ因リテ取得ス可キ権利ノ上ニ受クルコト有ル可キ妨碍及ヒ追奪ニ付キ其各自ノ部分ニ応シテ相互ニ担保ヲ為ス 分割者ノ一人カ無資力ナルトキハ其一人ノ負担シタル賠償ノ部分ハ被担保人ヲ併セテ他ノ共同分割者ノ間ニ之ヲ分ツ 第七章 射倖契約 総則 第百五十七条 射倖契約トハ当事者ノ双方若クハ一方ノ損益ニ付キ其効力カ将来ノ不確定ナル事件ニ繋ル合意ヲ謂フ 第百五十八条 射倖契約ニハ其性質ニ因ルモノ有リ当事者ノ意思ニ因ルモノ有リ 博戯、賭事、終身年金権其他終身権利ノ設定、陸上、海上ノ保険及ヒ冒険貸借ハ性質ニ因ル射倖ノモノナリ 此他成立又ハ効力ヲ停止又ハ解除ノ偶成ノ条件ニ繋ラシムル契約ハ当事者ノ意思ニ因ル射倖ノモノナリ 第百五十九条 陸上、海上ノ保険及ヒ冒険貸借ハ商法ヲ以テ之ヲ規定ス 第一節 博戯及ヒ賭事 第百六十条 博戯ハ博戯者ノ勇気、力量、巧技ヲ発達ス可キ性質ナル体躯運動ヲ目的トスルニ非サレハ其義務履行ノ為メ訴権ヲ許サス 賭事ニ基ク訴権ハ右ノ如キ体躯運動ヲ為ス人ノ為メ又ハ賭者ノ直接ニ関係スル農工商業ノ進歩ノ為メニ非サレハ亦之ヲ許サス 右ノ博戯又ハ賭事ニ於テ諾約シタル金額又ハ有価物カ事情ニ照シテ過度ナリト見ユルトキハ裁判所ハ之ヲ減少スルコトヲ得スシテ全ク其請求ヲ棄却スルコトヲ要ス 第百六十一条 前条ノ場合ノ外博戯及ヒ賭事ハ自然義務ヲモ生セス且其債務ノ追認、更改又ハ保証ハ総テ無効ナリ 然レトモ右博戯又ハ賭事ニ因ル有能力者ノ任意ノ弁済ハ之ヲ取戻スコトヲ許サス但勝者ニ於テ詐欺又ハ欺瞞アリタルトキハ此限ニ在ラス 第百六十二条 官許ヲ得サル富講ハ訴権ナキ博戯及ヒ賭事ト同視ス 商品又ハ公ノ証券ノ投機ノ定期売買ニ付テモ初ヨリ当事者カ諾約シタル金額又ハ有価物ノ引渡及ヒ弁済ヲ実行スルニ意ナク単ニ相場昂低ノ差額ヲ計算スルノミヲ目的トシタルコトヲ被告ノ証スルトキモ亦同シ 第百六十三条 前二条ノ場合ニ於テ被告ヨリ銷除ヲ申立テサルトキハ判事ハ職権ヲ以テ其銷除ヲ言渡スコトヲ得但契約又ハ請求ニ於テ博戯、富講又ハ相場差額ノ賭事カ債務ノ原因タルコトヲ明言セシトキニ限ル 第二節 終身年金権 第一款 終身年金権ノ設定 第百六十四条 終身年金権ハ動産若クハ不動産ナル元本ノ譲渡ノ報酬又ハ既往若クハ将来ノ勤労ノ報酬トシテ有償ニテ之ヲ設定スルコトヲ得 又贈与又ハ遺贈ヲ以テ無償ニテ之ヲ設定スルコトヲ得 又終身年金権ハ有償又ハ無償ニテ譲渡シタル元本ノ上ニ留存シテ之ヲ設定スルコトヲ得 第百六十五条 終身年金権ハ対価物ノ供与者ニ非サル人ノ利益ノ為メ之ヲ要約スルコトヲ得 此場合ニ於テハ要約者ト諾約者トノ間ニ在テハ有償契約ノ規則ニ従ヒ要約者ト得益者トノ間ニ在テハ贈与ノ規則ニ従フト雖モ贈与ノ方式ニ従フコトヲ要セス 第百六十六条 終身年金権ハ債権者若クハ債務者ノ終身ヲ期シ又ハ第三者ノ終身ヲ期シテ之ヲ設定スルコトヲ得 此末ノ場合ニ於テ契約カ有償ナルトキハ其成立ニ付キ第三者ノ承諾ヲ必要トス然レトモ此承諾前ニ弁済シタル年金ハ之ヲ取戻スコトヲ得ス 第百六十七条 終身年金権ハ同時又ハ順次ニ数人ノ債権者ノ終身ヲ期シテ之ヲ設定スルコトヲ得 此場合ニ於テハ財産編第百条ノ用益権ニ関スル規定ヲ適用ス 第百六十八条 有償ノ終身年金権ノ契約ハ其設定ノ為メ終身ヲ期セラレタル人カ合意ノ当時ニ於テ既ニ死亡シタルトキハ当事者双方其死亡ヲ知ラスト雖モ無効ナリ 右ノ人カ合意ノ当時ニ於テ既ニ罹レル疾病ノ為メ六十日内ニ死亡シタルトキハ其契約ハ当然之ヲ解除ス 第百六十九条 無償ノ終身年金権ハ設定者ニ於テ之ヲ譲渡スコトヲ得ス且差押フルコトヲ得サルモノト定ムルコトヲ得 右約款ハ設定証書ニ記入シタルニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス 養料トシテ無償ニテ設定シタル終身年金権ハ当然譲渡スコトヲ得ス且差押フルコトヲ得サルモノナリ 本条ノ規定ハ贈与者ノ利益ノ為メ贈与財産ノ上ニ留存シタル終身年金権及ヒ支払時期ノ至リタル年金ニ之ヲ適用セス 第百七十条 終身年金権ノ譲渡及ヒ差押ノ禁止ハ其一事ノミヲ要約シタルトキト雖モ二事共ニ存立ス 第二款 終身年金権ノ契約ノ効力 第百七十一条 債務者ハ年金権ノ設定ノ為メ終身ヲ期セラレタル人ノ生存中ハ其年金権ノ年金ヲ支払フコトヲ要シ且買戻ヲ為スコトヲ得ス但其買戻ニ付キ特別ノ合意アルトキハ此限ニ在ラス 第百七十二条 年金ハ毎月又ハ此ヨリ長キ時期ニ於テ其支払ヲ為ス可キトキト雖モ債権者日割ヲ以テ之ヲ取得ス 然レトモ年金ヲ前払ス可キトキハ債務者ハ既ニ支払時期ノ始マリタル全一期分ヲ負担ス 第百七十三条 債権者ハ解除ノ権利ヲ留保セサルトキハ年金支払ノ欠缺ノ為メ契約ノ解除ヲ請求スルコトヲ得ス只其債務者ノ財産中ニ於テ年金ヲ受クルニ足ル可キ部分ヲ差押ヘ之ヲ売却セシメ其売却代金ヨリ生スル利息ヲ以テ年金ノ支払ニ充ツルコトヲ得但他ノ債権者ノ競取ヲ拒ムコトヲ得ス 終身年金権ヲ無償ニテ設定シ又ハ贈与若クハ遺贈ノ元本ノ上ニ留存シタルトキモ亦右ト同一ニ処弁ス 第百七十四条 終身年金権ノ債務者ハ年金権ノ設定ノ為メ終身ヲ期セラレタル人カ支払ノ時期ニ生存セシコトヲ債権者ヨリ生存認証書ヲ以テ証セサルトキハ其年金ノ支払ヲ拒ムコトヲ得 此認証書ハ其人ノ現住地ノ受持公証人又ハ身分取扱人之ヲ交付ス 第三款 終身年金権ノ消滅 第百七十五条 有償ノ終身年金権ノ債務者カ年金支払ノ為メ諾約シタル担保ヲ供セス又ハ供シタル担保ヲ減少スルトキハ債権者ハ契約ノ解除ヲ請求スルコトヲ得但既ニ取得シタル年金ヲ返還スル責ナシ 贈与又ハ遺贈ノ元本ノ上ニ留存シタル終身年金権ノ債権者モ亦右ト同一ノ権利ヲ有ス 右ノ解除ハ年金権ノ設定ノ為メ終身ヲ期セラレタル人カ確定判決前ニ死亡シタルトキハ之ヲ宣告セス 第百七十六条 普通法ニ於テ許シタル銷除及ヒ廃罷ノ原因ハ終身年金権ニ之ヲ適用ス 終身年金権ハ此他尚ホ更改、合意上ノ免除、混同、時効及ヒ要約シタル受戻ニ因リテ消滅ス 然レトモ終身年金権カ第百六十九条及ヒ第百七十条ニ従ヒ法律又ハ人為ニ依リテ譲渡スコトヲ得ス又ハ差押フルコトヲ得サルモノナルトキハ其年金権ハ時効ニ罹ラス 如何ナル場合ニ於テモ年金ハ支払時期後五个年ニシテ時効ニ罹ル 第百七十七条 終身年金権ハ其設定ノ為メ終身ヲ期セラレタル人ノ死亡ニ因リテ消滅ス但第百六十八条ノ規定ヲ妨ケス 然レトモ終身ヲ期セラレタル人カ債務者ノ責ニ帰ス可キ不正ノ原因ニ由リテ死亡シタル場合ニ於テ其年金権ヲ有償ニテ又ハ贈与若クハ遺贈ノ負担トシテ設定シタリシトキハ其契約又ハ恵与ハ之ヲ解除ス且債務者ハ既ニ支払ヒタル年金ヲ取戻サスシテ其取得シタル財産ヲ返還スルコトヲ要ス 右ト同一ノ死亡ノ場合ニ於テ其年金権ヲ直接ニ贈与シ又ハ遺贈シタリシトキハ年金ノ支払ハ裁判所カ終身ヲ期セラレタル人ノ生命ノ継続期ト推測スル期間之ヲ継続セシム 第八章 消費貸借及ヒ無期年金権 第一節 消費貸借 第百七十八条 消費貸借ハ当事者ノ一方カ代替物ノ所有権ヲ他ノ一方ニ移転シ他ノ一方カ或ル時期後ニ同数量及ヒ同品質ノ物ヲ返還スル義務ヲ負担スル契約ナリ 第百七十九条 当事者カ返還ノ時期ヲ定メサリシトキハ裁判所ハ当事者ノ意思ヲ推測シ且事情ヲ斟酌シテ之ヲ定ム 返還ノ場所ノ定マラサリシトキハ無利息ノ貸借ニ付テハ貸主ノ住所又利息附ノ貸借ニ付テハ借主ノ住所ニ於テ其返還ヲ為ス 第百八十条 不可抗力ニ因リテ借用物ヲ返還スルコト能ハサルトキハ借主ハ其物ノ不可抗力ニ罹リシ日及ヒ場所ノ相場ニ従ヒテ算定シタル其物ノ価額ヲ負担ス 第百八十一条 貸主ニ属セサル物ノ貸借ハ無効ナリ其貸借カ利息附ニシテ且借主カ善意ナリシトキハ貸主ハ借主ニ対シテ担保ノ責ニ任ス 然レトモ此貸借ハ左ノ場合ニ於テハ有効ナリ 第一 借主カ善意ニテ借用物ヲ消費シタルトキ 第二 借主カ時効ニ因リ真所有者ノ回復ノ請求ヲ排却シタルトキ 第三 真所有者カ貸借ヲ認諾シタルトキ 第百八十二条 貸借物ニ借主ノ了知セスシテ貸主ノ了知シタル隠レタル瑕疵アリテ借主為メニ損害ヲ受ケタルトキト雖モ貸主ハ無利息ノ貸借ニ付テハ其損害ノ責ニ任セス但貸主ニ詐欺アリ又ハ加害ノ意思アリタルトキハ此限ニ在ラス 此貸借カ利息附ナルトキハ貸主ノ了知セサリシ隠レタル瑕疵ト雖モ之ヲ了知スルコトヲ得ヘキトキハ其責ニ任ス 此他売買廃却訴権ニ関スル第九十四条乃至第百一条ノ規定ハ之ヲ消費貸借ニ適用スルコトヲ得 第百八十三条 財産編第四百六十三条乃至第四百六十六条ハ正貨又ハ強制通用ノ紙幣ニテ為シタル消費貸借ニ之ヲ適用ス 然レトモ貸主カ財産編第四百六十五条ノ許セル金貨若クハ銀貨ヲ以テ指定シタル価額ノ弁済ヲ受ケ又ハ此等ノ正貨ノ一ヲ以テ弁済ヲ受クルコトヲ要約スルニハ同性質ノ正貨又ハ他ノ正貨若クハ紙幣ヲ以テ対当ノ価額ヲ実際ニ貸付スルコトヲ要ス 第百八十四条 貸借ヲ金銀塊ニテ為シタルトキハ借主ハ他ノ商品ノ貸借ノ如ク同一ノ性質、重量及ヒ品格ノ金銀塊ヲ返還スルコトヲ要ス 第百八十五条 金銭、日用品又ハ商品ノ借主ハ使用ノ報酬トシテ元本ノ外ニ利息ノ名目ヲ以テ借用物ノ割合ニ応スル金額又ハ有価物ノ弁済ヲ約スルコトヲ得 第百八十六条 利息ハ要約シタルニ非サレハ借主ニ対シテ之ヲ要求スルコトヲ得ス 借主ヨリ利息ヲ弁済ス可キノ合意アリテ其額ノ定ナキトキハ其割合ハ法律上ノ利息ニ従フ 要約セラレサル利息ヲ法律ノ制限内ニテ任意ニ弁済シタル借主ハ之ヲ取戻シ又ハ之ヲ元本ノ弁済ニ充当スルコトヲ得ス 第百八十七条 合意上ノ利息ハ法律上ノ利息ヲ超ユルコトヲ得但法律ヲ以テ特ニ定メタル合意上ノ利息ノ制限ヲ超ユルコトヲ得ス 法律ノ制限ヲ超エテ顕然ニ利息ヲ定メタルトキハ之ヲ法律ノ制限ニ減却シ此制限ヲ超エテ為シタル弁済ハ之ヲ元本ノ弁済ニ充当シ又ハ之ヲ取戻スコトヲ得 債権者カ実際ニ貸付シタル元本ヲ超ユル元本ヲ認メシメ又ハ其他ノ方法ヲ以テ不正当ノ利息ヲ隠秘シタルトキハ債務者ハ其不正当ノ利息ヲ弁済スルコトヲ要セス若シ弁済シタルトキハ之ヲ取戻スコトヲ得 第百八十八条 貸主ハ支払時期ノ至リタル利息ニ付キ異議ヲ為サスシテ元本ノ全部又ハ一分ヲ受取リタルトキハ其利息ヲ受取リ又ハ之ヲ抛棄シタリトノ推定ヲ受ク但反対ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス 第百八十九条 十个年ヲ超ユル期間ヲ以テ利息附ノ貸借ヲ為シタルトキハ借主ハ如何ナル反対ノ合意アルモ十个年後ハ常ニ弁済ヲ為ス権能ヲ有ス 然レトモ年賦金ヲ以テ利息ノ外尚ホ元本ノ幾分ヲ漸次ニ弁済ス可キトキハ其取越弁済ヲ為スコトヲ得ス 第百九十条 第百八十六条乃至第百八十九条ノ規定ハ消費貸借ヨリ生スル義務ヲ除ク外金銭又ハ定量物ノ義務及ヒ合意上、法律上ノ利息ニ之ヲ適用ス 第二節 無期年金権ノ契約 第百九十一条 貸主ハ元本ノ要求ヲ為スコトヲ自ラ禁止シ年金ノミヲ受取ルコトヲ要約スルコトヲ得之ヲ無期年金権ノ設定ト謂フ 此禁止ハ明示ナルカ又ハ明カニ事情ヨリ生スルコトヲ要ス 第百九十二条 無期年金ノ債務ヲ負担スル借主ハ如何ナル反対ノ合意アルモ常ニ其受取リタル元本ノ弁済ヲ為スコトヲ得 然レトモ借主ハ十个年ヲ超エサル或ル時期前ニ弁済ヲ為ササルヲ約スルコトヲ得 右期間ハ常ニ之ヲ更新スルコトヲ得然レトモ亦十个年ヲ超ユルコトヲ得ス若シ之ヲ超ユルトキハ十个年ニ短縮ス 弁済ハ反対ノ合意アラサルトキハ全部タルコトヲ要ス 債務者ハ六个月前ニ弁済ヲ為ス意思ヲ債権者ニ予告スルコトヲ要ス但当事者ニ於テ他ノ期間ヲ定メタルトキハ此限ニ在ラス 債務者ハ自己ノ定メタル時期ニ於テ弁済ヲ為ササルトキハ其損害賠償ノ責ニ任ス然レトモ弁済ノ強要ヲ受クルコト無シ但更改アリタルトキハ此限ニ在ラス 第百九十三条 債務者ハ財産編第四百五条第一号乃至第三号ニ依リテ尋常ノ債務者カ権利上ノ期限ノ利益ヲ失フ場合又ハ合式ノ付遅滞ヲ受ケタル後引続キ二个年間年金ノ弁済ヲ欠キタル場合ニ於テハ元本弁済ノ強要ヲ受ク 此末ノ場合ニ於テ裁判所ハ財産編第四百六条ニ従ヒ債務者ニ恩恵上ノ期限及ヒ分割弁済ヲ許与スルコトヲ得 第百九十四条 前二条ノ規定ハ不動産譲渡ノ代価若クハ条件トシテ設定シ又ハ無償ニテ設定シタル無期年金権ニ之ヲ適用ス 右孰レノ場合ニ於テモ弁済ハ当事者ノ評定シタル元本ヲ以テ之ヲ為シ又元本ノ評定ナキトキハ法律上ノ利息ノ割合ニ従ヒテ計算シタル年金ヲ生ス可キ元本ヲ以テ之ヲ為ス 日用品ヲ以テ年金ニ充ツルトキハ弁済ハ特別ノ合意アルニ非サレハ前十个年間ノ其平均代価ニ基キ計算シタル元本ヲ以テ之ヲ為ス 第九章 使用貸借 第一節 使用貸借ノ性質 第百九十五条 使用貸借ハ当事者ノ一方カ他ノ一方ノ使用ノ為メ之ニ動産又ハ不動産ヲ交付シ明示又ハ黙示ニテ定メタル時期ノ後他ノ一方カ其借受ケタル原物ヲ返還スル義務ヲ負担スル契約ナリ 此貸借ハ本来無償ナリ 第百九十六条 借主ハ使用ノ物権ヲ取得セス単ニ貸主及ヒ其相続人ニ対シテ人権ヲ取得ス 借主ノ権利ハ其相続人ニ移転セス但其相続人カ当事者ノ意思ノ之ニ異ナルコトヲ証スルトキハ此限ニ在ラス又其相続人カ他ヨリ同種ノ物ノ使用ヲ得ル為メ裁判所ヨリ返還猶予ノ期限ヲ受クルコトヲ妨ケス 第二節 使用貸借ヨリ生シ又ハ其貸借ニ際シテ生スル義務 第百九十七条 借主ハ借用物ノ性質又ハ合意ニ因リテ定マリタル用方ニ従ヒ且貸借期間ニ非サレハ其物ヲ使用スルコトヲ得ス 借主ハ此他ノ使用又ハ期限後ノ使用ニ因リテ生スル借用物ノ滅失又ハ毀損ニ付テハ勿論又其使用ニ際シ意外ノ事又ハ不可抗力ニ因リテ生スル滅失又ハ毀損ニ付テモ其責ニ任ス 第百九十八条 借主ハ自己ノ物ヲ用ヰテ借用物ノ滅失又ハ毀損ヲ免カレシムルコトヲ得ヘキトキ又ハ自己ノ物ト借用物トカ同時ニ危険ヲ受クルニ際シ自己ノ物ノミヲ救護シタルトキモ亦意外ノ事又ハ不可抗力ニ因リテ生スル借用物ノ滅失又ハ毀損ノ責ニ任ス 第百九十九条 借主ハ借用物保持ノ通常費用ヲ負担シ貸主ニ対シテ其償還ヲ求ムルコトヲ得ス 第二百条 借主ハ合意セシ時期ニ於テ借用物ヲ返還スルコトヲ要ス其時期前ト雖モ許サレタル使用ヲ終リシトキハ亦同シ但第二百三条第二項ノ規定ヲ妨ケス 返還ノ時期ヲ定メス且物ノ使用カ継続ス可キモノナルトキハ裁判所ハ貸主ノ請求ニ因リテ返還ノ為メ相応ナル時期ヲ定ム 第二百一条 借主カ借用物ノ第三者ニ属スルコトヲ了知スルトキト雖モ貸主又ハ其代人ニ之ヲ返還スルコトヲ要ス但第三者カ其返還ニ付キ合式ニ故障ヲ為シタルトキハ此限ニ在ラス 此末ノ場合ノ外返還ハ貸主又ハ其代人ノ住所ニ於テ之ヲ為ス 第二百二条 数人連合シテ同時又ハ交互ニ用ユル為メ一箇ノ物ヲ借用シタルトキハ各自連帯ニテ上ノ義務ヲ負担ス 第二百三条 貸主ハ明示又ハ黙示ニテ借主ニ許シタル期限前ニ貸付物ノ返還ヲ要求スルコトヲ得ス 然レトモ其物ニ付キ急迫ニシテ且予期セサル要用ノ生シタルトキハ貸主ハ裁判所ニ請求シテ期限前ニ一時又ハ永久ノ返還ヲ為サシムルコトヲ得 第二百四条 貸主ハ借主カ借用物保存ノ為メ支出シタル必要且急迫ナル費用ヲ之ニ弁償スル責ニ任ス 又貸主ハ貸付物ノ瑕疵ノ為メニ借主ノ受ケタル損害ニ付テハ第百八十二条第一項ノ規定ヲ適用ス 第二百五条 借主ハ前条ニ依リテ自己ノ受ク可キ賠償ヲ得ルマテ借用物ニ付キ留置権ヲ行フコトヲ得 第十章 寄託及ヒ保管 第一節 寄託 第二百六条 寄託ハ一人カ動産ヲ交付シ他ノ一人カ之ヲ看守シ要求次第直チニ原物ヲ返還スル契約ナリ 寄託ハ本来無償ナリ 寄託ニハ任意ノモノ有リ急迫ノモノ有リ 第一款 任意寄託 第二百七条 任意ノ寄託ハ寄託者カ寄託ノ時日、場所及ヒ受寄者ヲ自由ニ選択スルコトヲ得ル場合ニ於テ成ルモノナリ 第二百八条 寄託ハ所有者ノミナラス尚ホ物ノ看守及ヒ保存ニ付キ利害ノ関係アル人又ハ其代理人之ヲ為スコトヲ得 又寄託ハ無能力者ノ法律上ノ代人之ヲ為スコトヲ得 第二百九条 寄託ハ契約ヲ為ス完全ノ能力ヲ有スル者ニ非サレハ之ヲ受クルコトヲ得ス 然レトモ無能力者ハ猶ホ自己ノ手ニ存スル寄託物ノ返還又ハ寄託ニ因リテ得タル利益ノ返還ニ付キ民事上其責ニ任ス但背信ニ付テノ公訴ヲ妨ケス 第二百十条 受寄者ハ受寄物ノ看守及ヒ保存ニ付テハ自己ノ財産ニ加フルト同一ノ注意ヲ為スコトヲ要ス 然レトモ受寄者カ自ラ求メテ寄託ヲ受ケ又ハ単ニ自己ノ利益ヲ目的トシ要用ニ従ヒ受寄物ヲ使用スルノ許諾ヲ得テ寄託ヲ受ケタルトキハ受寄者ハ善良ナル管理人ノ注意ヲ為ス責ニ任ス但此末ノ場合ニ於テ受寄者カ其物ヲ使用シタルトキハ第百九十八条ノ規定ヲ適用ス 第二百十一条 受寄物返還ノ遅滞ニ付セラレタル受寄者ハ普通法ニ従ヒ意外ノ事又ハ不可抗力ニ因ル滅失ノ責ニ任ス 第二百十二条 寄託者カ受寄者ニ寄託物ノ性質ヲ隠秘シタルトキハ受寄者之ヲ知ラント探求スルコトヲ得ス又其性質ヲ受寄者ノミニ知ラシメタル場合ニ於テモ受寄者之ヲ他人ニ漏泄スルコトヲ得ス若シ之ヲ漏泄シタル為メ損害アルトキハ其賠償ノ責ニ任ス 第二百十三条 受寄者ハ受寄物ヲ使用シ又ハ其果実ヲ消費スルコトヲ得ス但此カ為メ寄託者ノ明示又ハ黙示ノ許諾アリタルトキハ此限ニ在ラス 此許諾ハ寄託ニ使用貸借ノ性質ヲ与フルニ足ラス 第二百十四条 受寄者ハ其収取シタル果実及ヒ産出物ト又之ヲ金銭ニ換ヘサルヲ得サリシトキハ其代金ト共ニ原物ヲ返還スルコトヲ要ス但前条ノ規定ヲ妨ケス 受寄者カ受寄物ニ付キ或ル償金又ハ或ル権利若クハ利益ヲ取得シタルトキハ之ヲ寄託者ニ移転スルコトヲ要ス 又受寄者カ故意ニテ受寄物ヲ消費シ譲渡シ又ハ隠匿シタルトキハ遅滞ニ付セラルルコト無クシテ当然損害賠償ノ責ニ任ス但背信ニ付テノ公訴ヲ妨ケス 第二百十五条 受寄者ノ相続人カ受寄物ナルコトヲ知ラスシテ其物ヲ消費シ又ハ之ヲ譲渡シタルトキハ其相続人ハ此ニ因リテ得タル利益ノ額ニ満ツルマテ賠償ノ責ニ任ス 右ノ規定ハ遺忘又ハ錯誤ニ因リ自己ノ物トシテ受寄物ヲ処分シタル受寄者ニ之ヲ適用ス 第二百十六条 寄託物ノ返還ハ寄託者又ハ其法律上若クハ合意上ノ代人ニ之ヲ為スコトヲ要ス 第二百十七条 返還ニ付キ場所ヲ定メサリシトキハ受寄者カ受寄物ヲ移置シタルモ其現在ノ場所ニ於テ之ヲ返還ス但寄託者ヲ詐害スル意思アルトキハ此限ニ在ラス 第二百十八条 寄託者ノ要求次第物ヲ返還ス可キ受寄者ノ義務ハ左ノ場合ニ於テ消滅ス 第一 受寄者カ其物ノ自己ニ属スルコトヲ証スルコトヲ得ルトキ 第二 受寄者カ次条ニ従ヒテ留置権ヲ行フコトヲ得ルトキ 第三 受寄者カ払渡差押ノ合式ノ告知ヲ受ケタルトキ 第四 受寄者カ受寄物ノ盗品ナルコトヲ覚知シ且其所有者ヲ知リタルトキ但此場合ニ於テ受寄者ハ所有者ニ其寄託ヲ受ケタルコトヲ通知シ且指定セル相応ノ期間ニ寄託者ト立会ノ上ニテ其物ヲ要求ス可ク若シ此期間ヲ過クルモ立会ハサルトキハ寄託者ニ返還ヲ為ス可キ旨ヲ催告スルコトヲ要ス 第二百十九条 寄託者ハ寄託物ノ保存ノ為メ受寄者ノ支出シタル必要ノ費用ト其物ノ為メニ受寄者ノ受ケタル損害トヲ賠償スルコトヲ要ス 右賠償ノ皆済ヲ受クルマテ受寄者ハ受寄物ノ上ニ留置権ヲ行フコトヲ得 第二款 急迫寄託及ヒ旅店寄託 第二百二十条 寄託者カ火災、洪水、難船、地震又ハ暴動ノ如キ不測ニシテ且不可抗ノ事変ニ因リ已ムヲ得ス寄託ヲ為ストキハ之ヲ急迫ノ寄託ト謂フ 急迫ノ寄託ハ諸般ノ方法ニ依リ又ハ事情ヨリ生スル事実ノ推定ニ依リテ之ヲ証スルコトヲ得 此他急迫寄託ハ任意寄託ノ規則ニ従フ 第二百二十一条 旅店及ヒ下宿屋ノ主人ハ其止宿セシムル旅人ノ携帯シタル手荷物ノ受託ニ付テハ之ヲ急迫ノ受寄者ト看做ス 舟車運送人其他水陸運送ノ営業人モ亦其運送ヲ任セラレタル荷物ニ付テハ之ヲ急迫ノ受寄者ト看做ス 然レトモ本条ノ受寄者ハ有償合意ヨリ生スル通常ノ義務ヲ負担ス 第二節 保管 第二百二十二条 保管トハ数人ノ間ニ於テ争論ノ目的タル物ヲ第三者ニ寄託スルヲ謂フ 保管ハ動産又ハ不動産ヲ目的トスルコトヲ得 保管ニハ合意上ノモノ有リ裁判上ノモノ有リ 第二百二十三条 合意上ノ保管ハ其保管ニ付テモ保管人ノ選定ニ付テモ当事者ノ承諾アルコトヲ要ス 裁判上ノ保管人ハ当事者カ其選定ニ付キ一致セサルトキニ非サレハ裁判所ハ職権ヲ以テ之ヲ選定スルコトヲ得ス 裁判所ハ当事者ノ一人ヲ保管人ニ選任スルコトヲ得 第二百二十四条 合意上ト裁判上トヲ問ハス保管人ハ報酬ヲ受クルコトヲ得此場合ニ於テ保管人ハ善良ナル管理人ノ通常ノ注意ヲ保管物ニ加フル責ニ任ス 第二百二十五条 裁判上ノ保管人ハ財産編第百十九条ニ従ヒテ保管物ヲ賃貸スルコトヲ得然レトモ合意上ノ保管人ハ当事者ノ特別ノ委任ヲ受クルニ非サレハ賃貸スルコトヲ得ス 裁判上又ハ合意上ノ保管人ハ其占有ヲ保持シ又ハ之ヲ回収スル為メ占有訴権ヲ行フコトヲ得 保管人ノ占有ハ争訟ニ於テ確定ニ勝ヲ得タル当事者ヲ利ス 第二百二十六条 保管ニ付シタル物ハ勝ヲ得タル当事者ニ之ヲ返還スルコトヲ要ス 然レトモ保管人ハ自己ノ責任ヲ免カルル為メ当事者ノ許諾又ハ裁判所ノ命令ヲ求ムルコトヲ得 第二百二十七条 右ノ外合意上及ヒ裁判上ノ保管ハ尋常ノ寄託ノ規則ニ従フ 第二百二十八条 差押物ニ於ケル裁判上ノ保管及ヒ債務者カ弁済ニ提供シテ債権者ノ受取ルコトヲ拒ミタル金銭若クハ有価物ノ供託ハ特別法ヲ以テ之ヲ規定ス 第十一章 代理 第一節 代理ノ性質 第二百二十九条 代理ハ当事者ノ一方カ其名ヲ以テ其利益ノ為メ或ル事ヲ行フコトヲ他ノ一方ニ委任スル契約ナリ 代理人カ委任者ノ利益ノ為メニスルモ自己ノ名ヲ以テ事ヲ行フトキハ其契約ハ仲買契約ナリ 仲買契約ハ商法ヲ以テ之ヲ規定ス 第二百三十条 代理ハ黙示ニテ之ヲ委任シ及ヒ之ヲ受諾スルコトヲ得 第二百三十一条 代理ハ無償ナリ但反対ノ明示又ハ黙示ノ合意アルトキハ此限ニ在ラス 第二百三十二条 代理ニハ総理ノモノ有リ部理ノモノ有リ 総理代理ハ為ス可キ行為ノ限定ナキ代理ニシテ委任者ノ資産ノ管理ノ行為ノミヲ包含ス 代理カ或ハ管理或ハ処分或ハ義務ニ関シテ一箇又ハ数箇ノ限定セル行為ヲ目的トスルトキハ其代理ハ部理ナリ 第二百三十三条 凡ソ代理ハ総理ナルト部理ナルトヲ問ハス其目的タル行為ヨリ必然ニ生ス可キ事柄ヲ暗ニ包含ス 然レトモ元本ヲ諾約スル委任ハ其弁済ヲ為ス委任ヲ包含セス 元本ヲ要約スル委任ハ其弁済ヲ受クル委任ヲ包含セス 訴訟ヲ為ス委任ハ仲裁人ヲ選任シ請求ニ承服シ訴訟ヲ取下ケ又ハ和解ヲ為ス委任ヲ包含セス 和解ヲ為ス委任ハ仲裁人又ハ裁判所ヲシテ争論ヲ裁決セシムル委任ヲ包含セス 仲裁人ヲ選任スル委任ハ和解ヲ為シ又ハ裁判所ヲシテ其争論ヲ裁決セシムル委任ヲ包含セス 第二百三十四条 代理ハ無能力者ニモ有効ニ之ヲ委任スルコトヲ得然レトモ其代理人ハ委任者ニ対シテハ無能力者ノ制限アル責任ノミヲ負担ス 第二百三十五条 代理人ハ其管理行為ノ全部又ハ一分ニ付キ他人ヲシテ自己ニ代ハラシムルコトヲ得但此ヲ明示ニテ禁止セサルトキ又ハ事件ノ性質ニ因リテ専ラ代理人ノミニ委任シタリト看做ス可カラサルトキニ限ル此場合ニ於テ代理人ハ自己ノ管理ニ於ケル如ク其復代人ノ管理ノ責ニ任ス 委任者カ復代人ヲ指定シタルトキハ代理人ハ其指定ニ従フコト能ハサル場合ニ於テモ他人ヲ選任スルコトヲ得ス代理人カ其指定ニ従ヒ選任ヲ為シタル場合ニ於テハ代理人ハ其復代人ノ無能又ハ不誠実ニ付キ委任者ニ之ヲ告知スルコトヲ怠リ又ハ復代人ヲ解任スルコトヲ怠リタルニ非サレハ其責ニ任セス 委任者ノ禁止シタルニ拘ハラス復代人ヲ選任シ又ハ其許諾セサル人ヲ選任シタル場合ニ於テハ代理人ハ意外ノ事又ハ不可抗力ニ因リテ生スル損害ニ付テモ其責ニ任ス但此復代人ノ選任ヲ為ササレハ其損害ノ生セサル可カリシトキニ限ル 第二百三十六条 前条第一項及ヒ第二項ノ場合ニ於テ委任者ハ復代人ニ対シ其管理ニ関スル訴権ヲ直接ニ行フコトヲ得又之ニ対シ直接ニ責任ヲ負担ス 同条第三項ノ場合ニ於テ委任者ハ直接訴権ト代理人ノ名ヲ以テスル間接訴権トノ間ニ選択権ヲ有ス然レトモ直接訴権ヲ行ヒタルトキハ其復代人ノ選任ヲ認諾シタルモノト看做ス 第二節 代理人ノ義務 第二百三十七条 代理ノ終了セサル間ハ代理人ハ委任ノ本旨ニ従ヒ且明示ナキモ自己ノ了知シタル委任者ノ意思ヲ斟酌シテ委任事件ヲ成就スル責ニ任ス此ニ違フトキハ損害賠償ヲ負担ス 全部ノ履行ヲ為スヲ得サルトキハ委任者ニ有益ナルニ非サレハ代理人ハ一分ノ履行ヲ為ス責ナク且之ヲ為スコトヲ得ス 第二百三十八条 指定ノ代価ニテ物ヲ買入ルル委任ヲ受ケタル代理人カ其指定ヲ超ユル代価ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ得ル能ハサリシトキハ代理人ハ其超過額ヲ抛棄シテ買入ノ認諾ヲ委任者ニ要求スルコトヲ得又委任者ハ代理人ノ弁済シタル代価ヲ以テ物ノ引渡ヲ要求スルコトヲ得 物ヲ売却スル委任ヲ受ケタル場合ニ於テ代理人カ指定ノ代価以下ニテ之ヲ売却シタルトキハ代理人ハ代価ノ差額ヲ補足シテ其売却ヲ認諾セシムルコトヲ得 第二百三十九条 代理人ハ委任事件ヲ成就セシムルコトニ付テハ善良ナル管理人タルノ注意ヲ為ス責ニ任ス 然レトモ左ノ場合ニ於テハ代理人ノ過失ハ較ヤ寛大ニ之ヲ査定ス 第一 代理人カ無償ニテ代理ヲ為ストキ 第二 代理人カ自ラ求メテ代理ヲ為シタルニ非サルトキ 第三 委任者カ代理人ノ不熟練ナルコトヲ了知シ又ハ之ヲ推量シタルトキ 第四 代理人カ管理ノ或ル行為ニ付キ委任者ヲシテ其予期セサリシ利益ヲ得セシメタルトキ 第二百四十条 代理人ハ代理ノ終了シタルトキハ証拠書類ヲ添ヘテ其計算ヲ為ス責ニ任ス其終了前ト雖モ委任者ノ之ヲ求メタルトキハ亦同シ 第二百四十一条 代理人ハ委任者ノ名ヲ以テ又ハ管理ニ関シ自己ノ名ヲ以テ受取リタル金額若クハ有価物ヲ委任者ニ返還スルコトヲ要ス又委任者カ正当ニ受取ルコトヲ得ス又ハ代理人ニ受取ルコトヲ託セサリシ金額若クハ有価物ト雖モ之ヲ受取リタルトキハ亦同シ然レトモ次節ニ従ヒテ委任者ヨリ受取ル可キ金額ヲ控除ス 代理人ハ自己ノ収取スルコトヲ怠リ又ハ自己ノ過失ニ因リテ滅失セシメタル金額若クハ有価物ノ価額ヲ前数条ニ依リテ負担スル損害賠償ト共ニ前項ノ返還中ニ附加ス 第二百四十二条 委任者ノ許諾ヲ受ケスシテ其元本ヲ自己ノ利益ニ用ヰタル代理人ハ其使用ノ日ヨリ当然利息ヲ負担ス其他損害アルトキハ賠償ノ責ニ任ス 計算残余ノ金額ニ付テハ代理人ハ其遅滞ニ付セラレタル日ヨリ利息ヲ負担ス 第二百四十三条 一箇ノ事件ニ付キ数人ノ代理人アルトキハ唯一ノ証書ヲ以テ之ヲ委任シタルト各別ノ証書ヲ以テ之ヲ委任シタルトヲ問ハス各代理人ハ自己ノ過失ニ付テノミ其責ニ任シ連帯ヲ要約シタルトキ又ハ過失ノ連合ナルトキニ非サレハ其間ニ連帯ヲ成サス 第二百四十四条 代理人カ委任者ノ為メ委任者ノ名ヲ以テ第三者ト為シタル行為ノ履行ニ付テハ代理人ハ其第三者ニ対シテ責ニ任セス但代理人カ明示ニテ履行ノ責ニ任シ又ハ第三者ニ対シテ己レノ有セサル権限ヲ有スルモノノ如ク示シタルトキハ此限ニ在ラス 第三節 委任者ノ義務 第二百四十五条 委任者ハ代理人ニ対シテ左ノ義務ヲ負担ス 第一 代理人カ代理ノ履行ノ為メ支出シタル立替金又ハ正当ノ費用ノ弁償及ヒ其支出シタル日以来ノ法律上ノ利息ノ弁償 第二 合意シタル謝金ノ弁済 第三 代理人カ其管理ニ因リ又ハ其管理ヲ為スニ際シ自己ノ過失ニ非スシテ受ケタル損害ノ賠償但予見シタル損害ニシテ其全部又ハ一分ニ付キ特ニ謝金ヲ諾約スル理由ト為リタルモノハ此限ニ在ラス 第四 代理人カ其管理ニ因リテ負担シタル一身上ノ義務ノ解脱又ハ其賠償 第二百四十六条 代理人ハ前条ニ掲ケタル支出ヲ為スコトヲ約セサルトキハ其責ニ任セス然レトモ委任者ヨリ必要ナル資金ヲ供スルコトヲ拒絶シ又ハ遅延セシコトノ証拠ナキニ於テハ支出ヲ約セサル為メ代理ノ履行ヲ遅延スルコトヲ得ス 第二百四十七条 謝金ハ代理ノ全部履行アリタル後ニ非サレハ委任者之ヲ負担セス但一分ツツ弁済ス可キコトヲ諾約シタルトキハ此限ニ在ラス 代理人ノ責ニ帰セサル原因ニ由リテ全部ノ履行ニ妨碍アリタルトキハ謝金ハ其履行ノ割合ニ応シテ委任者之ヲ負担ス 第二百四十八条 委任者カ義務ヲ弁済スルニ至ルマテ代理人ハ代理ニ依リテ所持シ且債権者ト為レル原因タル物ノ上ニ留置権ヲ有ス 第二百四十九条 数人カ唯一ノ証書又ハ各別ノ証書ヲ以テ共同事件ノ為メ代理ヲ委任シタルトキハ委任者ノ各自ハ連帯シテ上ノ義務ヲ負担ス但反対ノ要約アルトキハ此限ニ在ラス 第二百五十条 委任者ハ代理人カ委任ニ従ヒ委任者ノ名ニテ約束セシ第三者ニ対シテ負担シタル義務ノ責ニ任ス 委任者ハ左ノ場合ニ於テハ代理人ノ権限外ニ為シタル事柄ニ付テモ亦其責ニ任ス 第一 委任者カ明示又ハ黙示ニテ代理人ノ行為ヲ認諾シタルトキ 第二 委任者カ代理人ノ行為ニ因リテ利益ヲ得タルトキ但其利益ノ限度ニ従フ 第三 第三者カ善意ニシテ且代理人ニ権限アリト信スル正当ノ理由ヲ有シタルトキ 第四節 代理ノ終了 第二百五十一条 代理ノ履行又ハ其履行ノ不能及ヒ代理ニ付シタル期限ノ到来又ハ条件ノ成就ノ外尚ホ代理ハ左ノ諸件ニ因リテ終了ス 第一 委任者ノ為シタル廃罷 第二 代理人ノ為シタル抛棄 第三 委任者又ハ代理人ノ死亡、破産、無資力若クハ禁治産 第四 委任者カ代理ヲ委任シ又ハ代理人カ之ヲ受諾セシ原因タル資格ノ絶止 第二百五十二条 委任者ノミノ利益ノ為メニ委任セシ代理ノ廃罷ハ謝金ヲ諾約シタルトキト雖モ委任者ハ何時ニテモ随意ニ之ヲ為スコトヲ得 第二百五十三条 廃罷ハ将来ニ向ヒテノミ有効ナリ且其廃罷前ニ有効ニ為シタル事柄ヲ害セス 第二百五十四条 数人ノ委任者アルトキハ其中ノ一人ノ為シタル廃罷ハ他ノ人ノ代理ヲ終了セシメス 第二百五十五条 代理ノ廃罷ハ黙示タルコトヲ得黙示ノ廃罷ハ同一ノ事件ニ付キ新代理人ノ選任又ハ委任者ノ管理ノ回復其他ノ事情ヨリ生スルモノナリ 第二百五十六条 代理ノ抛棄カ委任者ニ損害ヲ生セシメタルトキハ代理人ハ其賠償ノ責ニ任ス但正当又ハ已ムヲ得サル原因ニ基キタルトキハ此限ニ在ラス 代理ノ抛棄モ亦黙示ニテ之ヲ為スコトヲ得 第二百五十七条 代理終了ノ原因ハ委任者ヨリ出テタルト代理人ヨリ出テタルトヲ問ハス当事者カ其告知ヲ受ケタルカ又ハ確実ニ之ヲ知リタルトキニ非サレハ当事者互ニ之ヲ以テ対抗スルコトヲ得ス 当事者ノ一方ノ死亡シタル場合ニ於テハ其相続人ヨリ告知スルコトヲ要ス 第二百五十八条 委任者カ代理人ヨリ委任状ヲ取戻シタルトキト雖モ懈怠ナシニ代理ノ終了ヲ知ラスシテ代理人ト約束シタル第三者ニハ代理終了ノ原因ヲ以テ対抗スルコトヲ得ス 第二百五十九条 代理カ上ニ掲ケタル原因ノ一ニ由リテ終了セシトキハ代理人又ハ其相続人ハ委任者又ハ其相続人カ既ニ生シタル利益ヲ自ラ処理シ又ハ新代理人ヲシテ之ヲ処理セシムルコトヲ得ルニ至ルマテ其利益ヲ処理スルコトヲ要ス 此規定ハ代理ノ終了カ代理人ノ抛棄ニ因レルトキハ委任者ノ廃罷ニ因レルトキヨリモ一層厳ニ之ヲ適用ス 第十二章 雇傭及ヒ仕事請負ノ契約 第一節 雇傭契約 第二百六十条 使用人、番頭、手代、職工其他ノ雇傭人ハ年、月又ハ日ヲ以テ定メタル給料又ハ賃銀ヲ受ケテ労務ニ服スルコトヲ得 雇傭ハ地方ノ慣習ニ因リ定マリタル時期ニ於テ又ハ確定ノ慣習ナキトキハ何時ニテモ一方ヨリ予メ解約申入ヲ為スニ因リテ終了ス但其解約申入ハ不利ノ時期ニ於テ之ヲ為サス又悪意ニ出テサルコトヲ要ス 第二百六十一条 雇傭ノ期間ハ使用人、番頭、手代ニ付テハ五个年職工其他ノ雇傭人ニ付テハ一个年ヲ超ユルコトヲ得ス但習業契約ニ関スル下ノ規定ヲ妨ケス 此ヨリ長キ時期ヲ約シタルニ於テハ当事者ノ一方ノ随意ニテ右ノ時期ニ之ヲ短縮ス但更新ヲ為ス権能ヲ妨ケス 第二百六十二条 雇傭ハ時期ヲ定メタルトキト雖モ当事者ノ一方ノ義務不履行ニ因ル解除ノ為メ又ハ一方ヨリ出テタル正当ニシテ且已ムヲ得サル原因ノ為メ其定期前ニ於テ終了ス 如何ナル場合ニ於テモ主人ノ一身ニ関スル雇傭ハ其死亡ノ為メ当然終了ス 第二百六十三条 雇傭ヲ終了セシムル正当ノ原因カ主人ヨリ出テ且地方ノ慣習ニ従ヒ雇傭ノ新契約ヲ為スニ困難ナル季節ニ生シタルトキハ裁判所ハ事情ニ従ヒテ定ムル償金ヲ雇傭人ニ付与セシムルコトヲ得 第二百六十四条 如何ナル場合ニ於テモ雇傭人ノ死亡ハ契約ヲ終了セシム但其相続人ハ給料又ハ賃銀ノ取越過額ヲ返還ス 第二百六十五条 上ノ規定ハ角力、俳優、音曲師其他ノ芸人ト座元興行者トノ間ニ取結ヒタル雇傭契約ニ之ヲ適用ス 第二百六十六条 医師、弁護士及ヒ学芸教師ハ雇傭人ト為ラス此等ノ者ハ其患者、訴訟人又ハ生徒ニ諾約シタル世話ヲ与ヘ又ハ与ヘ始メタル世話ヲ継続スルコトニ付キ法定ノ義務ナシ又患者、訴訟人又ハ生徒ハ此等ノ者ノ世話ヲ求メテ諾約ヲ得タル後其世話ヲ受クル責ニ任セス 然レトモ実際世話ヲ与ヘタルトキハ相互ノ分限ト慣習及ヒ合意トヲ酌量シテ其謝金又ハ報酬ヲ裁判上ニテ要求スルコトヲ得 此等ノ者ノ世話ヲ受クルコトヲ諾約シタル後正当ノ原因ナクシテ之ヲ受クルコトヲ拒絶シタル者ハ其拒絶ヨリ此等ノ者ニ金銭上ノ損害ヲ生セシメタルトキハ其賠償ノ責ニ任ス 之ニ反シテ世話ヲ与フルコトヲ諾約シタル後正当ノ原因ナクシテ之ヲ拒絶シタル者ハ因リテ加ヘタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス 第二節 習業契約 第二百六十七条 工業人、工匠又ハ商人ハ習業契約ヲ以テ習業者ニ自己ノ職業上ノ知識ト実験トヲ伝授シ習業者ハ其人ノ労務ニ助力スルヲ約スルコトヲ得 未成年者ハ其父、後見人其他自己ニ対シテ権力ヲ有スル人ノ保佐又ハ名代ニ依ルニ非サレハ習業契約ヲ取結フコトヲ得ス 第二百六十八条 合式ニ保佐ヲ受クル未成年者又ハ其代人ノ取結ヒタル習業契約ハ其未成年ノ時期ヲ超ユルコトヲ得ス但習業者カ成年ニ達シタル後其契約ヲ更新シ又ハ之ヲ伸長スルコトヲ妨ケス 第二百六十九条 習業契約ハ当事者相互ノ義務ノ性質及ヒ広狭ヲ定ム 習業契約ノ不備ハ師匠又ハ親方ノ其職業ヲ行フ地方ノ慣習ニ従ヒテ之ヲ補完スルコトヲ得 第二百七十条 師匠又ハ親方ハ習業者ニ衣食及ヒ職業ノ器具ヲ与ヘ且日常ノ便用ヲ足ラシムルコトヲ要ス但反対ノ合意ナク且地方ノ慣習ノ此ニ異ナラサルトキニ限ル 師匠又ハ親方ハ習業者ニ其習業契約ノ目的タル職業ヲ学フコトヲ得セシムル為メ必要ナル時間ヲ与ヘ世話ヲ為シ及ヒ諸般ノ便利ヲ図ルコトヲ要ス 未成年ノ習業者カ未タ算筆ヲ知ラサルトキハ師匠又ハ親方ハ何等ノ反対ノ合意アルモ習業者ニ算筆修習ノ為メ休憩時間外ニ於テ毎日少ナクトモ一時間ヲ与フルコトヲ要ス 第二百七十一条 習業者ハ其習ハント欲スル職業ニ関シ日日ノ時間及ヒ労務ヲ師匠又ハ親方ニ供スルコトヲ要ス 第二百七十二条 習業者カ自己又ハ其親属ノ疾病其他不可抗ノ原因ニ由リテ一个月以上引続キ労務ヲ供スルコト能ハサルトキハ習業者ハ其成年ニ達シタル後ト雖モ習業契約ノ期限満了後ニ於テ前契約ニ同シキ相互ノ条件ヲ以テ休業シタル時間ヲ補足スルコトヲ要ス 第二百七十三条 習業契約ハ左ノ諸件ニ因リテ当然終了ス 第一 師匠、親方又ハ習業者ノ死亡 第二 師匠、親方又ハ習業者ノ陸海軍ノ現役 第三 師匠、親方又ハ習業者ノ重罪又ハ三个月ヲ超ユル禁錮ノ処刑 第四 合意又ハ法律ヲ以テ定メタル期間ノ満了 第二百七十四条 左ノ原因アルトキハ解除ノ利益ヲ得ル一方ノ当事者ノ請求ニ因リ裁判所ハ契約ノ解除ヲ宣告スルコトヲ得 第一 相互ノ義務ノ不履行但不可抗ノ原因ニ由ルトキモ亦同シ 第二 習業者ニ対スル師匠又ハ親方ノ苛酷ナル取扱 第三 習業者ノ平常ノ不品行 第四 前条ニ掲ケタル場合ノ外師匠、親方又ハ習業者ノ犯罪 第五 契約ヲ履行ス可キ土地外ニ師匠又ハ親方ノ転居 本条ニ依リテ解除ノ宣告ヲ受ケタル当事者ノ一方ハ自己ニ過失アルトキハ他ノ一方ニ対シテ尚ホ其損害ヲ賠償ス可キノ言渡ヲ受ク前条ニ掲ケタル処刑言渡ノ場合ニ於テモ亦同シ 第三節 仕事請負契約 第二百七十五条 工技又ハ労力ヲ以テスル或ル仕事ヲ其全部又ハ一分ニ付キ予定代価ニテ為スノ合意ハ注文者ヨリ主タル材料ヲ供スルトキハ仕事ノ請負ナリ若シ請負人ヨリ主タル材料ト仕事トヲ供スルトキハ仕事ヲ為ス可キ条件附ノ売買ナリ 第二百七十六条 前条ニ掲ケタル二箇ノ場合ニ於テ物ノ全部又ハ一分ニ付キ既ニ仕事ヲ為シタル後ニ意外ノ事又ハ不可抗力ニ因リテ其物ノ滅失セシトキハ材料ノ滅失ハ其材料ノ属スル者之ヲ負担シ請負人ハ仕事賃ヲ損失ス 当事者ノ一方カ其所為ニ因リテ滅失ヲ来タシタルカ又ハ引渡若クハ受取ニ付キ遅滞ニ在ルトキハ其一方ノミ材料及ヒ仕事賃ニ付キ其滅失ヲ負担ス但損害アルトキハ其賠償ノ責ニ任ス 請負人ヨリ材料ヲ供シタル場合ニ於テ一分ノ滅失又ハ単一ナル毀損カ物ニ其価額ノ半以上ヲ失ハシムルトキハ之ヲ全部ノ滅失ト同視ス又其減価カ半以下ニ在ルトキハ財産編第百四十六条、第四百十九条第三項及ヒ第四百二十条ノ規定ヲ適用ス 注文者ヨリ材料ヲ供シタルトキハ注文者ハ滅失又ハ毀損ノ後存在スル材料ノ部分ノ増価シタル限度ニ従ヒテ仕事賃ヲ弁済スル責ニ任ス 第二百七十七条 注文者ヨリ材料ヲ供シタル場合ニ於テハ仕事完成ノ後ニ非サレハ引渡ヲ実行セサル可キトキト雖モ一分宛仕事ヲ調査シ且之ヲ受取ルヲ合意スルコトヲ得 此場合ニ於テ注文者カ既成ノ仕事ヲ調査シテ受取リタルトキ又ハ之ヲ調査スルコトノ遅滞ニ在ルトキハ請負人ハ既成ノ仕事ニ付キ其危険ノ責ヲ免カル 仕事中ニ注文者ヨリ前金又ハ内金ヲ供シタルモ此ヲ以テ既成ノ仕事ヲ受取リタリト看做サス然レトモ物カ注文者ノ明白ナル受取又ハ其付遅滞ノ以前ニ滅失シタルトキハ注文者ハ既成ノ仕事ヲ超ユル部分ニ非サレハ前金又ハ内金ヲ取戻スコトヲ得ス 第二百七十八条 注文者カ異議ヲ留メスシテ工作物ヲ受取リタルモ後日其物ノ使用ニ不適当ナル隠レタル瑕疵ヲ発見スルトキハ注文者ハ其受取ヲ取消シテ代価ノ減殺又ハ其一分ノ返還ヲ請求スル権利ヲ失ハス 此権利ニ基キタル訴権ハ注文者ニ属スル動産又ハ不動産ノ上ニ施シタル仕事ニ付テハ全部ノ工作物ヲ受取リタル後ノ三个月ニテ消滅ス 職工ヨリ材料ヲ供シタル製作物ニ付テハ第九十九条ノ規定ヲ適用ス 第二百七十九条 建物、牆壁其他地上ニ於ケル大ナル工作物ヲ請負ニテ築造シタルトキハ請負人ハ築造ノ瑕疵又ハ地盤ノ瑕疵ヨリ生シタル其工作物ノ全部若クハ一分ノ滅失又ハ重大ナル損壊ノ責ニ任ス但請負人カ他人ノ土地ニ築造シタルト自己ノ土地ニ築造シタルト材料ヲ供シタルト否トヲ区別セス 右責任ハ左ノ時期ノ間継続ス 第一 牆壁其他土工ニ付テハ其受取後二个年 第二 木造ノ建物ニ付テハ三个年 第三 石又ハ煉瓦ノ建物及ヒ土蔵ニ付テハ十个年 第二百八十条 右ノ責任ニ基キタル賠償訴権ハ左ノ時期ヲ以テ時効ニ罹ル 第一 物ノ全部ノ滅失ノ場合ニ於テハ其滅失ノ時ヨリ一个年 第二 物ノ一分ノ滅失又ハ重大ノ毀損ノ場合ニ於テハ請負人ノ責ニ任ス可キ期間ノ満了ノ時ヨリ六个月 第二百八十一条 経画ノ変更ヨリ代価ノ増減ヲ生ス可キモ書面ヲ以テ之ヲ定メサルトキハ其変更ヲ口実トシテ請負人ハ原代価ノ増加ヲ請求シ注文者ハ其減少ヲ請求スルコトヲ得ス 請負中ニ包含シタル建築ト全ク別ナル建築ヲ為シ又ハ請負中ノ区分アル建築ヲ廃セシトキハ此規定ヲ適用セス此場合ニ於テ当事者ノ間ニ一致ヲ得サルトキハ裁判所原代価ノ増減ヲ定ム 請負人ハ経画又ハ其変更カ注文者ノ指図ニ出テタルコトヲ口実トシテ第二百七十九条ニ定メタル責任ヲ免カルルコトヲ得ス但請負人カ書面ヲ以テ此責任ヲ免カルルコトヲ得タルトキハ此限ニ在ラス 第二百八十二条 請負人カ仕事ノミヲ供スルト材料ヲ併セ供スルトヲ問ハス注文者ハ常ニ自己ノ意思ノミヲ以テ契約ヲ解除スルコトヲ得然レトモ注文者ハ請負人ノ既成ノ仕事ノ賃銀及ヒ準備ノ材料ニ受ケタル損失其他ノ損害ヲ賠償シ且其契約ニ因リテ得ヘキ正当ナル利益ノ全部ヲ弁済スル義務ヲ負担ス 第二百八十三条 他人ノ材料ヲ以テ仕事ノ全部ニ供シタルト一分ニ供シタルト又其仕事ヲ実行シタルト契約ヲ解除シタルトヲ問ハス請負人ハ仕事ノ為メ又ハ解除ノ賠償ノ為メ自己ノ受ク可キ金額ノ皆済ニ至ルマテ其材料ヲ留置スルコトヲ得但此留置権ハ動産物ノミニ之ヲ適用ス 第二百八十四条 注文者カ請負人其者ノ仕事ヲ主眼トシテ契約ヲ取結ヒタルトキハ其契約ハ請負人ノ死亡又ハ其仕事ノ不能ニ因リテ之ヲ解除スルコトヲ得 右二箇ノ場合ニ於テ注文者ハ自己ノ期望セシ目途ニ付キ利シタル仕事又ハ材料ノ価額ノミヲ請負人又ハ其相続人ニ弁済スル責ニ任ス 第二百八十五条 仕事ノ一分ニ任シタル下請負人ト請負人トノ関係ニ付テハ上ノ規定ニ従フ 請負人カ下請負人ニ対シ負担スル金額ヲ弁済セサルトキハ下請負人ハ自己ノ名ヲ以テ直接ニ注文者ニ対シ其注文者ノ猶ホ請負人ニ弁済ス可キ債務ノ限度ニ於テ訴ヲ起スコトヲ得 職工モ亦己レヲ雇ヒタル者カ賃銀ヲ弁済セサルトキハ注文者ニ対シテ右ト同一ノ権利ヲ有ス 第十三章 相続 総則 第二百八十六条 相続ニ二種アリ家督相続及ヒ遺産相続是ナリ 第一節 家督相続 第二百八十七条 家督相続トハ戸主ノ死亡又ハ隠居ニ因ル相続ヲ謂フ 第一款 家督相続ノ通則 第二百八十八条 家督相続ヲ為スハ一家一人ニ限ル 何人ト雖モ二家以上ノ家督相続ヲ為スコトヲ得ス 第二百八十九条 婚姻又ハ養子縁組ニ因リ他家ニ入リテ其家ニ在ル者ハ実家其他ノ家ノ家督相続ヲ為スコトヲ得ス 第二百九十条 一人ニシテ数家ノ家督相続人ニ指定セラレ又ハ選定セラレタル者ハ其中ノ一ヲ選択スルコトヲ得 第二百九十一条 推定家督相続人ハ他家ノ家督相続人ニ指定セラレ又ハ選定セラレタルモ其指定又ハ選定ハ無効トス 第二百九十二条 被相続人ヲ死ニ致シ又ハ死ニ致サントシタル為メ刑ニ処セラレタル者ハ相続ヨリ除斥セラル但過失ニ因ルモノハ此限ニ在ラス 第二百九十三条 相続除斥ノ訴権ハ被相続人ノ明示ノ宥免ニ因リテ消滅ス 第二百九十四条 家督相続人ハ姓氏、系統、貴号及ヒ一切ノ財産ヲ相続シテ戸主ト為ル 系譜、世襲財産、祭具、墓地、商号及ヒ商標ハ家督相続ノ特権ヲ組成ス 第二款 家督相続人ノ順位 第二百九十五条 法律ニ於テ家督相続人ト為ル可キ者ノ順位ヲ定ムルコト左ノ如シ 第一 被相続人ノ家族タル卑属親中親等ノ最モ近キ者 第二 卑属親中同親等ノ男子ト女子ト有ルトキハ男子 第三 男子数人アルトキハ其先ニ生マレタル者但嫡出子ト庶子又ハ私生子ト有ルトキハ嫡出子 第四 女子ノミ数人アルトキハ其先ニ生マレタル者但嫡出子ト庶子又ハ私生子ト有ルトキハ嫡出子 然レトモ右ノ規定ニ従ヒテ家督相続人タル可キ者カ被相続人ニ先タチテ死亡シ又ハ第二百九十七条ニ掲ケタル原因ニ由リテ廃除セラレタル場合ニ於テ其者ニ卑属親アルトキハ其卑属親ハ法定ノ順位ニ依リテ家督相続人ト為ル 第二百九十六条 被相続人ハ正当ノ原因アルニ非サレハ法定ノ推定家督相続人ヲ廃除スルコトヲ得ス 第二百九十七条 法定ノ推定家督相続人ヲ廃除スルコトヲ得ヘキ正当ノ原因ハ左ノ如シ 第一 失踪ノ宣言 第二 民事上禁治産及ヒ准禁治産 第三 重禁錮一年以上ノ処刑 第四 家政ヲ執ルニ堪ヘサル不治ノ疾病 第五 祖父母、父母ニ対スル罪ノ処刑 第六 重罪ニ因レル処刑 第二百九十八条 推定家督相続人ノ廃除ハ遺言書ヲ以テ之ヲ為シ又ハ身分取扱吏ニ申述シテ之ヲ為スコトヲ得 申述ニ基ク家督相続人ノ廃除ハ被相続人之ヲ取消スコトヲ得 廃除ノ取消ハ身分取扱吏ニ申述シテ之ヲ為ス 第二百九十九条 法定ノ家督相続人アルトキハ被相続人ハ家督相続人ヲ指定スルコトヲ得ス但此規定ニ違ヒタル指定ト雖モ被相続人ノ死亡ノ日ニ法定ノ家督相続人アラサルトキハ有効トス 第三百条 家督相続人ノ指定ハ遺言書ヲ以テ之ヲ為ス可シ 第三百一条 法定又ハ指定ノ家督相続人アラサル場合ニ於テ其家ニ死亡者ノ父アルトキハ父、父アラサルトキハ母ハ左ノ順序ニ従ヒ家族中ヨリ家督相続人ヲ選定ス 第一 兄弟 第二 姉妹 第三 兄弟姉妹ノ卑属親中親等ノ最モ近キ男子若シ男子アラス又ハ抛棄シタルトキハ女子 第三百二条 前条ノ場合ニ於テ父母アラサルトキハ家督相続人選定ノ権利ハ親族会ニ属ス但親族会ハ前条ニ定メタル選定ノ順序ヲ変更スルコトヲ得ス 第三百三条 第三百一条ノ規定ニ従ヒ選定ス可キ家督相続人アラサルトキ又ハ皆抛棄シタルトキハ其家ニ在ル尊属親中親等ノ最モ近キ者任意ニ家督相続ヲ為スコトヲ得 第三百四条 前条ノ家督相続人アラサルトキハ配偶者家督相続ヲ為スコトヲ得 第三百五条 親族会ハ前数条ニ記載シタル相続人アラサルトキ又ハ皆抛棄シタルトキニ非サレハ他人ヲ選定スルコトヲ得ス 第三款 隠居家督相続ノ特別規則 第三百六条 隠居ヲ為スニハ左ノ条件ノ具備スルコトヲ要ス 第一 満六十年以上ナルコト 第二 任意ニ出タルコト 第三 成年ニシテ且実際家政ヲ執ルノ能力アル家督相続人カ単純ノ受諾ヲ為シタルコト 第四 配偶者ノ承諾シタルコト 第三百七条 隠居者カ重病其他ノ原因ノ為メニ実際家政ヲ執ル能ハサルトキ又ハ分家ノ戸主カ本家ヲ承継スルノ必要アルトキハ本人ノ申立ニ因リ区裁判所ハ年齢ノ条件ヲ宥恕スルコトヲ得 第三百八条 隠居者ノ配偶者、親族及ヒ検事ハ左ノ原因ノ一ニ基キ隠居届出ノ日ヨリ六十日内ニ故障ヲ申立ツルコトヲ得 第一 第三百六条第一号乃至第三号ノ条件ニ違ヒタル事実 第二 家督相続ヲ為ス者カ推定家督相続人ニ非サル事実 又隠居カ任意ニ出テサリシ場合ニ於テハ隠居者モ亦故障ヲ申立ツルコトヲ得 第三百九条 隠居カ第三百六条第四号ノ条件ニ違ヒタル事実アルトキハ隠居者ノ配偶者ニ限リ故障ヲ申立ツルコトヲ得 又隠居者カ債権者ヲ詐害スルノ意思ヲ以テ隠居ヲ為サントスルトキハ債権者ハ故障ヲ申立ツルコトヲ得 前条ノ期間ハ本条ニモ亦之ヲ適用ス 第三百十条 隠居ヲ為ストキハ当事者ヨリ其旨ヲ身分取扱吏ニ届出ツ可シ 第三百十一条 隠居家督相続ハ届出前ノ利害関係人ニ対シテハ第三百八条ニ定メタル期間満限ノ日ヨリ又故障アリタルトキハ其故障ノ棄却確定シタル日ヨリ死亡ニ因ル相続ト同一ノ効力ヲ生ス但隠居者ノ終身ヲ限度トスル権利及ヒ義務ヲ消滅セシメス 第二節 遺産相続 第三百十二条 遺産相続トハ家族ノ死亡ニ因ル相続ヲ謂フ 第三百十三条 家族ノ遺産ハ其家族ト家ヲ同フスル卑属親之ヲ相続シ卑属親ナキトキハ配偶者之ヲ相続シ配偶者ナキトキハ戸主之ヲ相続ス 第三百十四条 卑属親カ遺産ヲ相続スル場合ニ於テハ第二百九十五条ノ規定ヲ適用ス 第三節 国ニ属スル相続 第三百十五条 相続人アラサル財産ハ当然国ニ属ス 国ハ限定ノ受諾ヲ以テ相続ス 第三百十六条 国ニ属ス可キ相続財産ハ其領収ヲ為スニ至ルマテ相続人曠欠ノ財産ヲ管理スル如ク之ヲ管理ス 第四節 相続ノ受諾及ヒ抛棄 第三百十七条 相続人ハ相続ニ付キ単純若クハ限定ノ受諾ヲ為シ又ハ抛棄ヲ為スコトヲ得但法定家督相続人ハ抛棄ヲ為スコトヲ得ス又隠居家督相続人ハ限定ノ受諾ヲ為スコトヲ得ス 第三百十八条 隠居家督相続ヲ除ク外相続人ハ相続財産ヲ調査スル為メ相続ノ日ヨリ三个月ノ期間ヲ有ス但裁判所ハ情況ニ因リ更ニ三个月内ノ延期ヲ許スコトヲ得 受諾又ハ抛棄ヲ決定スル為メ一个月ノ期間ヲ有ス此期間ハ調査期間満限ノ日又ハ其前ニ実際ノ調査ヲ終了シタル日ヨリ之ヲ算ス 第三百十九条 相続人ハ調査又ハ決定ノ期間内相続財産ニ関スル一切ノ訴訟手続ヲ停止セシムルコトヲ得 第三百二十条 相続財産ニ関スル訴訟ニ要セシ費用ハ法律上ノ期間内ニ係ルモノト裁判所ノ許シタル延期内ニ係ルモノトヲ問ハス総テ相続財産ノ負担トス但相続人ノ所為又ハ過失ニ因リテ要セシ費用ハ此限ニ在ラス 第三百二十一条 相続財産中ニ損敗シ易ク又ハ保存スルニ著シキ費用ヲ要スル物品アルトキハ調査又ハ決定ノ期間内ト雖モ区裁判所ノ許可ヲ得テ其物品ヲ競売ニ付スルコトヲ得但日用品ハ裁判所ノ認可ヲ経スシテ之ヲ処分スルコトヲ得 第一款 単純ノ受諾 第三百二十二条 相続人カ被相続人ノ財産ニ関シ明示又ハ黙示ニテ其代表者ト為ルノ意思ヲ顕ハストキハ単純ノ受諾トス 第三百二十三条 左ノ如キ場合ニ於テハ黙示ノ受諾アリトス 第一 相続財産ノ一箇又ハ数箇ニ付キ他人ノ為メニ所有権ヲ譲渡シ又ハ其他ノ物権ヲ設定シタルトキ但財産編第百十九条以下ノ制限ニ従ヒタル賃借権ノ設定ハ此限ニ在ラス 第二 相続人カ第三百十八条ノ期間内ニ限定受諾又ハ抛棄ヲ為ササルトキ 右ノ外尚ホ第三百二十七条第二号ノ場合ハ単純ノ受諾ヲ成ス 第三百二十四条 受諾ハ左ノ原因ノ一アルニ非サレハ之ヲ銷除スルコトヲ得ス 第一 身体又ハ財産ニ強暴ヲ加ヘラレタルニ因リテ受諾シタルトキ 第二 詐欺ノ為メニ受諾シタルトキ 第三 無能力者又ハ後見人カ方式ニ違ヒテ受諾シタルトキ 第四 受諾ノ時成立セルコトヲ知ラサル債務ノ為メ破産又ハ無資力ト為ルニ至ル可キトキ 此銷除訴権ハ財産編第五百四十四条以下ニ規定シタル銷除訴権ノ期間及ヒ条件ニ従フ 第二款 限定ノ受諾 第三百二十五条 相続人カ相続財産ノ限度マテニ非サレハ債務ノ弁償ノ責ニ任セサルトキハ限定ノ受諾トス 第三百二十六条 相続人ニシテ限定ノ受諾ヲ為スノ意思ヲ有スル者ハ第三百十八条ノ期間内ニ調査シタル財産ノ目録ヲ相続地ノ区裁判所ニ差出タシ其申述ヲ為シ裁判所ハ別段ニ備ヘタル帳簿ニ之ヲ記載ス可シ 第三百二十七条 左ノ場合ニ於テハ相続人ハ限定受諾ヲ為スノ権利ヲ失フ 第一 単純ノ受諾ヲ為シタルトキ 第二 相続財産ヲ私取シ若クハ隠匿シ又ハ悪意ヲ以テ財産目録中ニ相続財産ノ幾分ヲ記載セサリシトキ 第三百二十八条 限定受諾者ハ其特有財産ニ於ケルト同一ノ注意ヲ以テ相続財産ヲ管理シ債権者及ヒ受遺者ニ其計算ヲ為ス可シ但此計算ハ債務及ヒ遺贈ノ弁済ノ為メ相続財産ヲ払尽シタル後一个月内ニ之ヲ完了スルコトヲ要ス 第三百二十九条 限定受諾者ハ動産ト不動産トヲ問ハス総テ相続財産ノ売却ヲ要スルトキハ区裁判所ノ許可ヲ得テ之ヲ競売ニ付ス可シ 第三百三十条 限定受諾者ハ適法ニ売却シタル財産ノ各箇ニ付テ得タル代価ヲ混同セス其各箇ニ付テ優先権ヲ有スル債権者ニ順次ニ弁済ス可シ 第三百三十一条 相続ノ負担スル債務又ハ遺贈ノ弁済ヲ差押ヘ又ハ其弁済ニ付キ異議ヲ述フル債権者又ハ受遺者アルトキハ限定受諾者ハ裁判ヲ以テ定メタル順次及ヒ方法ニ従フニ非サレハ其弁済ヲ為スコトヲ得ス 第三百三十二条 前条ノ差押又ハ異議アラサルトキハ債権者又ハ受遺者ノ要求ニ従ヒテ弁済ヲ為ス 弁済ノ為メニ相続財産ヲ払尽シタル後ト雖モ第三百二十八条ニ規定シタル計算ヲ完了セサル前ニ要求ヲ為ス債権者又ハ受遺者ハ左ノ区別ニ従ヒ既ニ弁済ヲ得タル債権者及ヒ受遺者ニ対シテ求償権ヲ行フコトヲ得 第一 債権者ハ先ツ受遺者ニ対シ次ニ債権者ニ対スルコト 第二 受遺者ハ単ニ受遺者ニ対スルコト 第三百三十三条 相続人カ計算ノ完了ヲ遅延シタル場合ニ於テハ債権者中未タ弁済ヲ得サル者ヨリ既ニ弁済ヲ得タル受遺者及ヒ債権者ニ求償スルコトヲ得ヘキ額ヲ直チニ相続人ノ特有財産ニ付キ求償スルコトヲ得 第三百三十四条 相続財産ヲ払尽シ計算ヲ完了シタル後ニ要求ヲ為ス債権者ハ単ニ弁済ヲ得タル受遺者ニ対スルニ非サレハ求償権ヲ行フコトヲ得ス 第三百三十五条 前三条ノ求償権ハ三个年間之ヲ行フコトヲ得但此期間ハ計算ノ完了前ニ係ルトキハ初メ相続人ニ要求シタル日又完了後ニ係ルトキハ其完了ノ日ヨリ之ヲ算ス 第三款 抛棄 第三百三十六条 相続ヲ抛棄セントスル相続人ハ相続地ノ区裁判所ニ其旨ヲ申述シ裁判所ハ別段ニ備ヘタル帳簿ニ之ヲ記載ス可シ 第三百三十七条 抛棄シタル相続ハ他ニ受諾シタル相続人アラサル間ハ抛棄者更ニ之ヲ受諾スルコトヲ得然レトモ此受諾ハ第三百十八条ノ期間内ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス但相続財産ニ付キ第三者ノ有効ニ得タル権利ヲ害スルコト無シ 第三百三十八条 相続ヲ抛棄シタル者ハ他ニ受諾シタル相続人アリト雖モ左ノ場合ニ於テハ其抛棄ヲ銷除スルコトヲ得 第一 身体又ハ財産ニ強暴ヲ加ヘラレタルニ因リテ抛棄シタルトキ 第二 詐欺ノ為メニ抛棄シタルトキ 第三 無能力者又ハ後見人カ方式ニ違ヒテ抛棄シタルトキ 此銷除訴権ハ財産編第五百四十四条以下ニ規定シタル期間及ヒ条件ニ従フ 第三百三十九条 債権者ヲ詐害スル意思ニ出テタル抛棄ハ財産編第三百四十一条以下ニ定メタル区別及ヒ期間ニ従ヒ債権者自己ノ利益ノ為メ之ヲ廃罷スルコトヲ得 第三百四十条 適法ニ受諾シ又ハ受諾者ト推定セラレタル者ハ抛棄ヲ為スコトヲ得ス 第三百四十一条 相続ニ包含スル物ヲ私取シ又ハ隠匿シタル相続人ハ其相続ヲ抛棄スル権利ヲ失フ 第四款 相続人ノ曠欠セル相続財産ノ処分 第三百四十二条 相続人現出セス相続人ノ有無分明ナラス又ハ相続人相続ヲ抛棄シタルトキハ相続人ノ曠欠セルモノト看做ス 第三百四十三条 相続地ノ区裁判所ハ利害関係人又ハ検事ノ請求ニ因リテ相続財産ノ管理人ヲ命ス可シ 第三百四十四条 管理人ハ利害関係人ヲ召喚シテ相続財産ヲ調査シ其目録ヲ作リ財産ノ形状ヲ検証セシム可シ 管理人ハ此手続ヲ終了シタル後相続ニ属スル権利ヲ行使シ之ヲ訟求シ又其相続ニ対スル訟求ニ答弁ス可シ 金銭ハ相続財産中ニ存スルモノト其売却ヨリ得タルモノトヲ問ハス供託所ニ之ヲ供託ス可シ 相続ノ負担スル債務ハ区裁判所ノ許可ヲ得ルニ非サレハ之ヲ弁済スルコトヲ得ス 第三百四十五条 限定受諾者ノ義務及ヒ責任ニ関シ第三百二十八条以下ニ定メタル規則ハ管理人ニ之ヲ適用ス 第三百四十六条 管理人ハ計算ヲ完了シテ尚ホ相続財産ノ存スルニ於テハ区裁判所ノ許可ヲ得テ之ヲ競売ニ付シ其得タル金額ヲ供託所ニ供託ス可シ 管理人ハ其領収証ヲ区裁判所ニ差出タシ区裁判所ハ之ヲ保存ス可シ 第三百四十七条 相続人現出スルトキハ其相続人ハ区裁判所ヨリ供託所ノ領収証及ヒ相続人タル身分ノ証明書ヲ得テ之ヲ供託所ニ提出シ供託金額ヲ領収ス可シ 第三百四十八条 相続人アラサルコト確実ニ至リタルトキハ国ハ特別法ニ従ヒ供託金額ヲ領収ス可シ 第十四章 贈与及ヒ遺贈 総則 第三百四十九条 贈与トハ当事者ノ一方カ無償ニテ他ノ一方ニ自己ノ財産ヲ移転スル要式ノ合意ヲ謂フ 第三百五十条 贈与ハ単純、有期又ハ条件附ナルコト有リ 贈与ハ法律ノ認メタル原因アルニ非サレハ之ヲ廃罷スルコトヲ得ス 第三百五十一条 贈与者ハ贈与物ノ妨碍及ヒ追奪ヲ担保セス但其贈与以後ニ係ル贈与者ノ所為ヨリ生シタル妨碍及ヒ追奪ハ此限ニ在ラス 第三百五十二条 遺贈トハ当事者ノ一方カ他ノ一方ニ無償ニテ自己ノ財産ヲ遺言ニ因リテ死亡ノ時ニ移転スル行為ヲ謂フ 遺贈ハ遺言者随意ニ之ヲ廃罷スルコトヲ得 第三百五十三条 遺言書中ニ存スル不能又ハ不法ノ条件ハ之ヲ記セサルモノト看做ス 贈与書中ニ不能又ハ不法ノ条件アルトキハ其贈与ヲ無効ト為ス 第一節 贈与又ハ遺贈ヲ為シ又ハ収受スル能力 第三百五十四条 法律上特ニ無能力者ト定メタル者ヲ除ク外何人ニ限ラス贈与及ヒ遺贈ヲ為シ又ハ収受スル能力ヲ有ス 第三百五十五条 左ニ掲クル者ハ贈与ヲ為ス能力ヲ有セス 第一 贈与ヲ為ス時ニ於テ喪心シタル者 第二 禁治産者 第三 瘋癲ノ為メ病院又ハ監置ニ在ル者 第四 未成年者但夫婦財産契約ノ為メ法律ノ特ニ許ス場合ハ例外トス 第三百五十六条 准禁治産者ハ財産譲渡ノ為メ法律ノ要スル方式ニ従フニ非サレハ贈与ヲ為スコトヲ得ス 第三百五十七条 左ニ掲クル者ハ遺贈ヲ為ス能力ヲ有セス 第一 遺贈ヲ為ス時ニ於テ喪心シタル者 第二 民事上ノ禁治産者 第三 瘋癲ノ為メ病院又ハ監置ニ在ル者 第四 未成年者但自治産者ハ此限ニ在ラス 第二節 贈与 第一款 贈与ノ方式 第三百五十八条 贈与ハ分家ノ為メニスルモノト其他ノ原因ノ為メニスルモノトヲ問ハス普通ノ合意ノ成立ニ必要ナル条件ヲ具備スル外尚ホ公正証書ヲ以テスルニ非サレハ成立セス 然レトモ慣習ノ贈物及ヒ単一ノ手渡ニ成ル贈与ニ付テハ此方式ヲ要セス 第三百五十九条 贈与ハ贈与者ノ現有ノ財産ノミヲ包含ス若シ将来ノ財産ヲ包含シタルトキハ其財産ニ付テハ贈与ハ無効トス 然レトモ数額ノ定マリタル金銭又ハ定量物ノ贈与ハ贈与者ノ現有スルト否トヲ問ハス有効トス 第三百六十条 贈与ノ性質又ハ諾約ニ因リテ受贈者カ贈与者ノ債務ヲ弁済スル義務ヲ負ヒタルトキハ其義務ハ贈与ノ時既ニ存在シタル債務ニ非サレハ包含セス 受贈者カ贈与者ノ将来ノ債務ヲ弁済ス可キノ諾約ヲ為シタルトキハ其諾約ハ無効トス 第三百六十一条 贈与者ハ自己ノ利益ニ於テスルニ非サレハ自己ニ先タチテ受贈者ノ死亡スルトキ其贈与ヲ解除ス可キ条件ヲ要約スルコトヲ得ス 若シ贈与者カ其相続人又ハ第三者ノ利益ニ於テ此解除条件ヲ要約シタルトキハ其条件ハ無効トス 第三百六十二条 前条第一項ノ規定ニ従ヒテ有効ニ要約シタル解除条件ノ成就ハ受贈者ノ相続人ニ対スルト第三者ニ対スルトヲ問ハス普通ノ合意ニ於テ要約シタル解除条件ト同一ノ効力ヲ生ス 然レトモ受贈者ノ婦ハ解除ニ拘ハラス左ノ二箇ノ条件具備スルトキハ贈与財産ニ付キ法律上ノ抵当権ヲ保有ス 第一 贈与カ夫婦財産契約ヲ以テ夫ノ為メ為サレタルモノナルトキ 第二 贈与財産ノ外ナル夫ノ財産ヲ以テ婦ノ特有財産ノ返還ヲ担保スルニ足ラサルトキ 第二款 贈与ノ廃罷 第三百六十三条 贈与ハ合意ヲ無効ト為ス普通ノ原因ノ外尚ホ贈与者ノ要約シタル条件ノ不履行ノ為メ之ヲ廃罷スルコトヲ得 第三百六十四条 条件ノ不履行ニ基ク贈与ノ廃罷ハ贈与者又ハ其承継人ヨリ之ヲ請求スルコトヲ得 第三百六十五条 条件ノ不履行ニ基キ贈与ヲ廃罷シタル場合ニ於テハ受贈者ニ対スルト第三者ニ対スルトヲ問ハス未必条件ノ成就ニ因リテ合意ヲ解除シタルトキト同一ノ効力ヲ生ス 第三節 夫婦間ノ贈与ノ特例 第三百六十六条 未成年ノ夫又ハ婦ハ婚姻ノ許諾ヲ与フ可キ人ノ許諾及ヒ立会ヲ得且夫婦財産契約ヲ以テスルニ非サレハ贈与ヲ為スコトヲ得ス 第三百六十七条 夫婦間ノ贈与ハ何等ノ約款アルニ拘ハラス婚姻中贈与者随意ニ之ヲ廃罷スルコトヲ得 贈与ノ廃罷ハ第三者ニ対シテ効力ヲ有セス但贈与ノ登記ニ廃罷ノ訴状ヲ附記シタル後ニ受贈者ノ遺産所持者ヨリ贈与財産ニ付キ物権ヲ取得シタル第三者ニ対シテハ此限ニ在ラス 第四節 遺贈 第一款 遺言ノ方式 第三百六十八条 遺言ハ遺言者ノ自筆ノ証書、公正証書又ハ秘密ノ方式ニ依リテ之ヲ為スコトヲ得 然レトモ二人以上ノ人ハ一箇ノ証書ヲ以テ遺言ヲ為スコトヲ得ス 第三百六十九条 自筆ノ遺言書ハ遺言者カ其全文、日附及ヒ氏名ヲ自書シテ捺印シタルニ非サレハ其効ヲ有セス 第三百七十条 公正証書ニ依ル遺言ハ公証人一人及ヒ証人二人ノ前ニ於テ遺言者カ遺言ノ旨趣ヲ口授シ公証人之ヲ筆記シ朗読シタル後遺言者及ヒ証人各其氏名ヲ自書シテ捺印シタルニ非サレハ其効ヲ有セス 然レトモ氏名ヲ自書スル能ハサル者アルトキハ其事由ヲ証書ニ記載スルヲ以テ足ル 第三百七十一条 秘密ノ方式ニ依ル遺言書ハ遺言者ノ自書シタルト他人ノ之ヲ書シタルトヲ問ハス左ノ諸件ヲ具備スルニ非サレハ其効ヲ有セス 第一 遺言者カ氏名ヲ自書シテ捺印シタルコト 第二 遺言書ヲ封シテ遺言者カ之ニ封印シタルコト 第三 遺言者カ公証人一人及ヒ証人二人ノ前ニ封書ヲ提出シテ自己ノ遺言書タル旨ヲ陳述シタルコト 第四 公証人カ遺言者ノ陳述ト之ヲ聴キタル日附トヲ封紙ニ記シテ遺言者及ヒ証人ト共ニ各其氏名ヲ自書シテ捺印シタルコト但此場合ニ於テ氏名ヲ自書スル能ハサル証人アルトキハ公証人其事由ヲ封紙ニ記スルヲ以テ足ル 公証人ハ遺言者ノ死亡ノ後其相続人ノ立会ノ上ニ非サレハ開封セサル旨ヲ記シタル領収書ヲ遺言者又ハ其指定シタル証人中ノ一人ニ授付ス可シ 第三百七十二条 秘密ノ方式ニ依ル遺言トシテ有効ナル為メ前条ニ定メタル条件ニ欠クルモノ有リト雖モ其全文、日附及ヒ氏名共ニ遺言者ノ自書ニ係ルトキハ自筆ノ遺言書トシテ有効トス 第三百七十三条 受遺者、遺言ニ立会フ公証人ノ筆生其他普通ノ無能力者ハ証人ト為ルコトヲ得ス 第二款 遺言ノ特別方式 第三百七十四条 軍人及ヒ軍属ニシテ遠征中ニ在ル者又ハ内地ト雖モ交戦中若クハ合囲中ニ在ル者ハ将校一人証人二人ノ補助ヲ以テ遺言書ヲ作ルコトヲ得 第三百七十五条 遠征中、交戦中又ハ合囲中ニ在ル軍人及ヒ軍属ニシテ疾病又ハ傷痍ノ為メ病院ニ在ル者ハ其院ノ医官及ヒ事務官ノ補助ヲ以テ遺言書ヲ作ルコトヲ得 第三百七十六条 伝染病ノ為メ行政処分ヲ以テ交通ヲ遮断シタル地方ニ在ル者ハ其疾病中ナルト否トヲ問ハス警察官一人及ヒ証人一人ノ補助ヲ以テ遺言書ヲ作ルコトヲ得 第三百七十七条 航海中ニ在ル者ハ軍艦ニ在テハ将校一人其他ノ船舶ニ在テハ事務員一人及ヒ証人二人ノ補助ヲ以テ遺言書ヲ作ルコトヲ得 第三百七十八条 海上ニテ遺言書ヲ作リタルトキハ其旨ヲ航海日誌ニ記載ス可シ 第三百七十九条 本款ノ規定ニ従ヒテ作リタル遺言書ニハ遺言者、代書者及ヒ立会人各其氏名ヲ自書シテ捺印ス可シ 氏名ヲ自書シ又ハ捺印スル能ハサル者アルトキハ其事由ヲ遺言書ニ記載スルヲ以テ足ル 第三百八十条 外国ニ在ル日本人ハ第三百六十九条ニ定メタル自筆ノ方式ニ依リ又ハ其地ニ用ユル公正ノ方式ニ従ヒテ遺言ヲ為スコトヲ得 第三百八十一条 外国ニ於テ作リタル遺言書ハ遺言者ノ日本国内ニ有スル住所ノ区裁判所ノ帳簿ニ之ヲ登録シ若シ住所ノ知レサルトキハ最終居所ノ区裁判所ノ帳簿ニ之ヲ登録シタル後ニ非サレハ日本国内ニ在ル財産ニ付キ其遺言ヲ執行スルコトヲ得ス 又其遺言書ニ日本国内ニ在ル不動産ノ処分ヲ包含スルトキハ其不動産所在地ノ区裁判所ニ登記ヲ求メタル後ニ非サレハ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス 第三百八十二条 日本ニ在ル外国人ハ日本ノ法律ニ従ヒ又ハ其本国ノ法律ニ従ヒテ遺言ヲ為スコトヲ得 第三款 遺贈ヲ為スコトヲ得ル財産ノ部分 第三百八十三条 遺贈ヲ為スコトヲ得ル財産ト相続人ニ貯存ス可キ財産トノ部分ヲ定ムルニハ家督相続ノ特権ヲ組成スルモノヲ控除ス 第三百八十四条 法定家督相続人アルトキハ被相続人ハ相続財産ノ半額マテニ非サレハ他人ノ為メ遺贈ヲ為スコトヲ得ス 家族ノ遺産ヲ相続スル卑属親アルトキモ亦同シ 第三百八十五条 用益権ノ如キ其存立時間ノ不確実ナル権利ハ相続ノ時ニ於ケル価額ヲ査定シテ遺贈ヲ為スコトヲ得ル部分ヲ定ム 其権利ノ価額カ遺贈ヲ為スコトヲ得ル部分ヲ超過スルトキハ相続人ハ或ハ被相続人ノ遺贈ヲ履行シ或ハ遺贈ヲ為スコトヲ得ル部分ノ完全ナル所有権ヲ与ヘテ其権利ヲ受戻スコトヲ得 第三百八十六条 遺贈ヲ為スコトヲ得ル部分ヲ超過スル遺贈ハ之ヲ其部分マテニ減殺ス 第三百八十七条 減殺ス可キ分量ハ相続ノ時ニ現存スル総テノ財産ノ評価額ヨリ被相続人ノ債務額ヲ控除シタル剰余額ニ付キ之ヲ算定ス 第三百八十八条 遺贈ノ幾分ヲ減殺シテ貯存ス可キ財産ノ分量ヲ組成ス可キトキハ包括ノ遺贈ト特定ノ遺贈トヲ問ハス其価額ノ割合ヲ以テ総テノ遺贈ヲ減殺ス可シ 第三百八十九条 総テ贈与ニシテ贈与者ノ死亡ノ後執行ス可キモノハ遺贈ト其効力ヲ同フス 第四款 遺言ノ効力及ヒ執行 第三百九十条 単純又ハ有期ノ遺贈ハ遺言者ノ死亡ノ時ヨリ受遺者ノ知ルト否トヲ問ハス包括ノ遺贈ニ付テハ其包含スル財産及ヒ債務ヲ受遺者ニ移転シ特定ノ遺贈ニ付テハ其遺贈物ノ権利ヲ受遺者ニ移転ス然レトモ有期ノ遺贈ハ満期ニ至ルマテ其執行ヲ止ム 停止又ハ解除ノ条件附ニ於ケル遺贈ノ効力ハ合意ノ事項ニ関シテ規定シタル如ク其条件ノ成就如何ニ従フ 遺贈ノ目的物カ代替物ナルトキハ其所有権ハ財産編第三百三十二条ノ規定ニ従ヒテ移転ス 如何ナル場合ニ於テモ受遺者ハ遺贈ヲ抛棄スルコトヲ得 第三百九十一条 遺言者カ不分ノ権利ヲ有スル物ヲ遺贈シタルトキハ受遺者ハ遺言者ト同一ナル権利ヲ取得ス 第三百九十二条 受遺者ハ遺贈物ノ引渡ヲ要求シタル時ヨリ後ニ非サレハ遺贈物ノ果実ヲ収受スル権利ヲ有セス但期限ノ到来シ又ハ未必条件ノ成就シタルコトヲ要ス 然レトモ左ノ三箇ノ場合ニ於テハ受遺者ハ遺言者ノ死亡、満期又ハ条件成就ノ時ヨリ要求ヲ待タスシテ直チニ果実ヲ収受スル権利ヲ有ス 第一 遺言者カ果実ヲ収受スル権利ヲ明示シタルトキ 第二 遺贈カ養料ノ性質ヲ有スルトキ 第三 相続人カ悪意ヲ以テ遺言ヲ隠秘シタルトキ 第三百九十三条 遺贈物ハ其遺贈ノ単純ナルトキハ当然ノ附従物ト共ニ遺言者ノ死亡ノ時ニ於ケル現状ニテ之ヲ引渡ス可シ其遺贈ノ有期又ハ未必条件附ナルトキハ引渡ヲ請求スルコトヲ得ヘキ時ニ於ケル現状ニテ之ヲ引渡ス可シ 相続人カ遺贈物ニ加ヘタル改良又ハ毀損ハ相続人ト受遺者トノ間相互ニ賠償ヲ請求スル権利ヲ生ス 解除ノ未必条件ヲ以テ遺贈ヲ為シタル場合ニ於テ其条件ノ成就シタルトキハ受遺者又ハ其相続人ヨリ遺贈物ヲ現状ニテ返還ス可シ但人為ニ因ル改良又ハ毀損ニ付キ双方ノ間ニ於ケル相互ノ賠償ヲ妨ケス 第三百九十四条 遺言者カ遺言ノ後ニ取得シタル土地又ハ建物ハ遺贈ノ不動産ニ接著シ又ハ其不動産ノ利用ヲ改良スル為メニ供ヘタルモノト雖モ其不動産ノ受遺者ヲ利セス 第三百九十五条 遺言書ハ公正証書ヲ除ク外相続地ノ区裁判所ノ検認ヲ得タル後ニ非サレハ之ヲ執行スルコトヲ得ス 封印アル遺言書ハ区裁判所ニ於テスルニ非サレハ開封スルコトヲ得ス 前二項ノ規定ニ違フ者ハ百円以下ノ過料ニ処ス 第三百九十六条 遺言ノ執行及ヒ遺贈物ノ引渡ニ関スル費用ハ相続財産ノ負担トス但貯存財産ニ負担セシムルコトヲ得ス 第三百九十七条 不動産物権ノ遺贈ハ遺言者ノ死亡ノ後受遺者カ其遺贈ヲ知リタル時ヨリ三十日内ニ之ヲ登記シタルニ非サレハ遺言者ノ死亡ノ日ニ遡リテ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス 登記ノ費用ハ受遺者ノ負担トス 第三百九十八条 遺言者ハ合意又ハ遺言ヲ以テ遺贈ノ執行ヲ一人又ハ数人ニ委託スルコトヲ得 遺言執行者ハ代理人ノ普通義務ニ服ス 第五款 遺言ノ廃罷及ヒ失効 第三百九十九条 遺言ハ遺言者随意ニ之ヲ廃罷スルコトヲ得廃罷ハ明示又ハ黙示ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得 第四百条 遺言者カ遺言ノ方式ニ従ヒ遺言ノ全部又ハ一分ヲ廃罷スル意思ヲ証書ニ記載シタルトキハ其廃罷ハ明示ノモノトス 第四百一条 後ノ遺言ヲ以テ前ノ遺言ニ包含スル特定物ヲ処分シタルトキハ其物ニ付テハ前ノ遺言ヲ黙示ニテ廃罷シタルモノトス 遺言者カ生存中遺言ニ包含スル特定物ヲ有償又ハ無償ニテ処分シタルトキモ亦同シ 第四百二条 廃罷ニ帰シタル遺言ハ前条ノ処分ノ無効ト為ルトキト雖モ有効ニ復セス 第四百三条 遺言ハ受遺者ノ条件不履行ノ為メ又ハ遺言者ヲ死ニ致シタル原因ノ為メ相続人ヨリ廃罷ヲ請求スルコトヲ得 第四百四条 遺言ハ方式上完全ノモノト雖モ左ノ場合ニ於テハ其効ヲ失フ 第一 受遺者カ遺言者ヨリ先ニ死亡シタルトキ 第二 停止条件附ノ遺言ニ付キ其条件ノ成就前ニ受遺者ノ死亡シタルトキ 第四百五条 廃罷又ハ失効ニ帰シタル遺言ノ部分ニ付テハ曽テ遺言アラサリシモノト看做ス但遺言者カ明示ヲ以テ其部分ヲ利得ス可キ者ヲ指定シタルトキハ此限ニ在ラス 第五節 包括ノ贈与又ハ遺贈ニ基ク不分財産ノ分割 第四百六条 包括ノ贈与又ハ遺贈ヲ為シタルニ因リ贈与者又ハ相続人ト受贈者又ハ受遺者トノ間ニ不分財産ヲ生シタルトキハ下ノ規定ニ従ヒ之ヲ分割ス受贈者又ハ受遺者数人アルトキモ亦同シ 第一款 分割 第四百七条 不分財産ノ所有者ノ各自ハ其財産ノ分割ヲ要求スルコトヲ得但財産編第三十九条ノ規定ニ従ヒテ分割セサルコトヲ約シタルトキハ此限ニ在ラス 第四百八条 分割ハ明示ヲ以テ之ヲ為スコトヲ要ス財産ヲ区別シテ収益スル事実ハ分割トセス 第四百九条 不分財産ノ分割ハ所有者各自ノ合意ヲ以テ自由ニ之ヲ為スコトヲ得 然レトモ左ノ場合ニ於テハ裁判ヲ以テスルニ非サレハ其分割ヲ為スコトヲ得ス 第一 所有者中ニ未成年者、禁治産者又ハ瘋癲者アリテ其後見人又ハ仮管理人アラサルトキ 第二 所有者中ニ不在者アリテ有効ニ分割ヲ承諾スル権限ヲ有スル合意上ノ代理人アラサルトキ 第三 所有者中ニ合意上ノ分割ヲ承諾セサル者アルトキ 第四百十条 裁判上ノ分割ヲ要スルトキハ相続地ノ区裁判所ハ相続人、債権者又ハ検事ノ請求ニ因リ封印ヲ為シ及ヒ目録ヲ作ラシム可シ 第四百十一条 裁判上ノ分割ヲ要セサルトキト雖モ債権者ハ区裁判所ノ許可ヲ得テ封印及ヒ目録調製ヲ請求スルコトヲ得但執行力アル証書ヲ有スルトキハ此許可ヲ要セス 封印ノ除去ニ付テハ総テノ債権者異議ヲ述フルコトヲ得 第四百十二条 所有者ノ各自ハ不分財産ノ現物ニテ其部分ノ引渡ヲ要求スルコトヲ得但債権者其引渡ヲ差押ヘタルトキ又ハ所有者ノ多数ヲ以テ其財産ノ負担スル債務及ヒ費用ヲ予メ弁済スル為メ売却ヲ必要ト決シタルトキハ此限ニ在ラス 第四百十三条 未成年者、禁治産者、瘋癲者又ハ不在者ノ為メ定メタル規則ニ違ヘル分割ハ其者ノ利益ニ於テノミ仮定ノモノトス 第四百十四条 分割ノ際利益ノ相反スル無能力者又ハ不在者ノ数人アルトキハ其各自ノ為メ臨時保佐人又ハ管理人ヲ指定ス可シ 第四百十五条 分割ノ結了シタルトキハ各所有者ハ其領収シタル物ノ証書ヲ保有ス 所有者ノ総体又ハ数人ニ分割シタル一箇ノ物ノ証書ハ其最大ノ部分ヲ領収シタル者之ヲ保有ス 最大ノ部分ヲ領収シタル者ナキトキハ各所有者ノ協議ヲ以テ其保有者ヲ定ム若シ議協ハサルトキハ裁判所之ヲ指定ス 何レノ場合ニ於テモ証書ノ保有者ハ他ノ所有者ノ求メニ応シテ之ヲ便用セシム可シ 第四百十六条 所有者ハ各自ニ受クル部分ノ割合ヲ以テ債務ヲ分担ス 第二款 分割ノ効力及ヒ担保 第四百十七条 分割ノ効力ニ付テハ第百五十五条ノ規定ヲ適用ス 第四百十八条 各所有者ハ分割前ノ原因ニ基ク分割物ノ妨碍及ヒ追奪ニ付キ互ニ担保ノ責ニ任ス但別段ノ合意ヲ以テ担保ヲ免除シタルトキハ此限ニ在ラス 第四百十九条 債権ニ付テハ分割ノ当時ニ於ケル債務者ノ資力ノ限度マテニ非サレハ各所有者担保ノ責ニ任セス 第三款 分割ノ銷除 第四百二十条 分割ハ財産編第三百四条以下ニ定メタル区別ニ従ヒ不成立又ハ無効タル外尚ホ所有者ノ一人カ其領収シタル部分ニ付キ四分一以上ノ欠損ヲ被フリタルトキハ其欠損ノ為メ之ヲ銷除スルコトヲ得 欠損ノ査定ハ分割ノ時ニ於ケル物ノ価格ニ従ヒテ之ヲ為ス可シ 第四百二十一条 分割銷除ノ訴権ハ財産編第五百四十四条以下ニ定メタル時効及ヒ認諾ニ因リテ消滅ス 第十五章 夫婦財産契約 第一節 総則 第四百二十二条 夫婦財産契約ハ婚姻ノ儀式前ニ之ヲ為シ及ヒ公証人ヲシテ其証書ヲ作ラシムルニ非サレハ成立セス 婚姻ノ儀式後ハ契約ヲ変更スルコトヲ得ス 第四百二十三条 婚姻ヲ為スコトヲ得ル未成年者ハ婚姻ノ許諾ヲ与フ可キ尊属親又ハ後見人ノ立会ニテ財産契約ヲ為スコトヲ得 第四百二十四条 財産契約ヲ為サスシテ婚姻ヲ為シタルトキハ財産ノ関係ハ法定ノ制ニ従フ 第四百二十五条 日本ニ於テ財産契約ヲ為サスシテ婚姻ヲ為シタル外国人ハ夫タル者ノ本国ニ行ハルル普通ノ制ニ従ヒタルモノト看做ス 第二節 法定ノ制 第四百二十六条 婦又ハ入夫カ婚姻ノ儀式ノ時ニ於テ現ニ所有シ又ハ将来ニ所有ス可キ特有財産ヨリ婚姻中ニ生スル果実及ヒ自己ノ労力ニ因リテ婚姻中ニ得タル所得ハ婚姻中ノ費用分担ノ為メニ之ヲ配偶者ニ供出シタルモノト看做ス 第四百二十七条 夫又ハ戸主タル婦カ配偶者ノ特有財産ニ付テ有スル権利ハ用益者ノ権利ニ同シ又配偶者ノ特有財産ニ関シテ収益ヲ為ス夫又ハ戸主タル婦ハ用益者ノ負担スル修繕其他収益ヲ以テ弁済ス可キ義務ヲ負フ 第四百二十八条 夫ハ婦ノ特有財産入夫ハ戸主タル婦ノ財産ヲ管理ス 第四百二十九条 夫又ハ入夫ハ婦又ハ戸主タル婦ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ婦ノ特有財産又ハ戸主タル婦ノ財産ヲ譲渡シ又ハ之ヲ担保ニ供スルコトヲ得ス但人事編第二百二十九条及ヒ第二百七十五条ノ場合ハ此限ニ在ラス 第四百三十条 入夫ハ戸主タル婦ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ婚姻中ノ所得ヲ譲渡シ又ハ之ヲ担保ニ供スルコトヲ得ス但其特有財産ヨリ生スル果実及ヒ自己ノ労力ニ因リテ得タル所得ハ此限ニ在ラス 第四百三十一条 夫カ婦ノ特有財産ニ付キ入夫カ戸主タル婦ノ財産ニ付キ其承諾ヲ得スシテ為ス賃貸借ニ関シテハ財産編第百十九条以下ノ規定ヲ適用ス 第四百三十二条 管理ノ失当ニ因リ夫又ハ入夫カ婦ノ特有財産又ハ戸主タル婦ノ財産ヲ危険ニ置クトキハ婦又ハ戸主タル婦ハ自ラ其財産ヲ管理セント請求スルコトヲ得 第四百三十三条 婦又ハ入夫カ婚姻ノ儀式ノ時ニ於テ負ヘル債務及ヒ婚姻中ニ生スル債務ニ付テハ債権者ハ婦又ハ入夫ノ特有財産ニ対シテ権利ヲ行フコトヲ得 第四百三十四条 婦ノ名ヲ以テ生セシメタル債務ニ付テハ債権者ハ其債務カ家事管理ノ為メニ生シタルコトヲ証スルトキニ限リ夫ニ対シテ其弁済ヲ請求スルコトヲ得 入夫ノ名ヲ以テ生セシメタル債務ニ付テハ債権者ハ其債務ノ財産管理ノ為メニ生シタルコトヲ証スルトキニ限リ戸主タル婦ニ対シテ其弁済ヲ請求スルコトヲ得 第四百三十五条 婦又ハ入夫ノ特有財産タルコトヲ証セサル財産ハ総テ夫又ハ戸主タル婦ニ属スルモノト看做ス