1271条
抵当ヲ滌除スルノ権利ハ主タル債務者ト為リ又ハ保証人ト為リテ一身上ニ抵当債務ノ責ニ任スル第三保有者ニ属セス
右ノ権利ハ亦設定者ノ連合共同債務者ニ属セス但第一ノ抵当訴追前ニ債務ニ於ケル自己ノ部分ヲ弁済シタルトキハ此限ニ在ラス
又如何ナル場合ニ於テモ右ノ権利ハ債務者ノ相続人ニシテ債務ニ於ケル自己ノ相続部分ノミヲ弁済シタル者ニ属セス
又右ノ権利ハ他人ノ債務ノ為メ自己ノ財産ニ付キ抵当ヲ設定シタル者又ハ其者ノ相続人ニ属セス
（委員長）
始メマシヨウ
第千二百七十一條朗讀ス
第千二百七十一條 抵當ヲ滌除スルノ權利ハ主タル債務者ト爲リ又ハ保證人ト爲リテ一身上ニ抵當債務ノ責ニ任スル第三保有者ニ屬セス
右ノ權利ハ亦設定者ノ連合共同債務者ニ屬セス伹第一ノ抵當訴追前ニ債務ニ於ケル自己ノ部分ヲ辨濟シタルトキハ此限ニ在ラス
又如何ナル場合ニ於テモ右ノ權利ハ債務者ノ相續人ニシテ債務ニ於ケル自己ノ相續部分ノミヲ辨濟シタル者ニ屬セス
又右ノ權利ハ他人ノ債務ノ爲メ自己ノ財產ニ付キ抵當ヲ設定シタル者又ハ其者ノ相續人ニ屬セス
（修正案） 第一項左ノ如ク改ム抵當ヲ滌除スルノ權利ハ第三所持者ニシテ主タル債務者ト爲リ又ハ保證人ト爲リテ一身上ニ抵當債務者ノ責ニ任スル者ニ屬セス第二項「債務」ノ上ニ「其」ノ一字ヲ加ヘ「ニ於ケル」ヲ「ノ」ト改ム第三項「財產ニ付キ」ヲ「財產ヲ」ト改メ「抵當ヲ設定」ヲ「抵當ト爲」ト改メ「者ノ」ノ二字ヲ刪ル
（栗塚）
次ノ項ハ「右云々又如何ナル場合ニ於テモ」マデ刪レマス第二項ハ刪リ三項モ「又如何ナル場合ニ於テモ」迄刪リマス
（元尾崎）
第三所持者ニシテ云々ハ
（南部）
連帶ト見レバ宜シイ
（元尾崎）
ソウシテ自分ガ債務者トナツテ居ルカ
（南部）
他ノ一人ノ持テ居ル不動產ヲ買フト云フ場合ニ抵當ヲ滌除ハ出來マセン前カラ債務者ダカラ
（槇村）
一身上ノ責ニ任ズル者ハ滌除デナイト云フノダネ
（栗塚）
左樣デス
（村田）
二項ヲ刪タノハ一項ニ含蓄スル旨意カ
（栗塚）
左樣デス
（委員長）
之ハ連帶トハ違フネ
（南部）
連合デ御座イマス
（栗塚）
起案者ガ此所ヘ置クコトハナランカラト云フテ刪タ鹽梅デス
（南部）
我等ハ間違ヒト思フ連合デ金ヲ借リテ居タ、スルト持テ居ル者ガ一人ハ抵當ヲ得タ者負債ハ別々ニナルノダカラ第三者ハ滌除ガ出來ル
（委員長）
合ト云フニ別々ニナツテ居ルノハオカシイネ
（栗塚）
左樣連帶デハ御座イマセン
（村田）
イランネ債務者自カラガ矢張出來タノダロウ、ダカラ相續人ハ無論出來ルト云フノダロウ
（栗塚）
第三所持者ハ滌除權ガアルト云フガ連帶債務者デアリ又保證人デアツタトキニハ矢張債務者ノ幾分カ負フテ居ルカラ出來ヌ又相續人デモ出來ヌゾヨト云フノデス
（委員長）
辨濟シタナラバ出來ヌゾヨ、ダロウ
（栗塚）
辨濟シタルトキハ出來ヌゾヨデス
（委員長）
辨濟シナケレバ矢張連帶義務者ト同ジニナツテ仕舞ダロウ
（栗塚）
辨濟シナケレバ出來ン相續人辨濟シタリト雖モ出來ンノデス
（委員長）
シタリトモ出來ンカ
（栗塚）
左樣デス辨濟シタラ出來ルト思フカ知レンガ滌除スル權ハナイト云フノデス、私ガ債務ヲ持テ死デ相續人ノ子供ガ三人遺シテ死ト内一人辨濟シタソレデモ滌除スル權ハナイゾヨト云フノデス
（槇村）
自己ノ分ノミヲ辨濟シタノダネ
（栗塚）
殘ラズ拂ヘバ出來マス
（委員長）
自己ノ分丈ケ拂テモ出來ンガ併シナガラ拂ハヌカラツテモ出來ヌダロウ
（栗塚）
拂ハヌデハ無論出來ン詰リ相續人ハ債務者ノ相續人デ義務ヲ負フテ居ルカラ出來ヌト云フノデアリマス
（委員長）
相續人ハ連帶義務ニナル者モアルガナランコトモアルネ
（栗塚）
卽チ債務者自カラヲ代表シテ居リマスカラ
（委員長）
モノニ依レバ債務者自カラ代表スル場合ト場合デナイトキモアルカラ
（南部）
一ノ債務ガ分レテ自分ノ相續スル分ヲ返セバ出來ルヨウニ見エルガソレデモ出來ヌト云フノデス
（委員長）
私ハ出來ヨウト思フ元ト債務者連帶シタトキトハ違フ自分ノ權利ヲ貰タノデ、ソレデ貰フ物ヲ貰ハンデ居ルニ外ノ兄弟ノ負擔マデ拂ハナケレバナラント云フハ酷ヒ責メ方デハナイカ
（栗塚）
併シナガラ、ドウデシヨウカ債權者ノモノヲ取テ見テハ
（委員長）
債權者ハドンナニデモ相續人ノ本人ヨリ取レンカラソレサヘ拂タラ其モノノ債務ガ滌除セラルルコトガ出來ルトシナイト若シドンナ路人デモ連帶者ガ責任ヲ儘サザル如クシテモ出來マイ
（栗塚）
茲ニ代價千圓スル一町歩ノ田地ヲ殘シテ死ダ人ガアル抵當ニ入レテ其相續人ガ二人アルソレデ殘ラズ拂ヘバ滌除ニ出來ルガ縱令其品物ヲ取テモ一人拂タ爲メニ債權者ガ滌除セラルルコトハナイ
（委員長）
權利者ノ爲メニ言ガ、義務者ノ身ニナツテ見ルト自分ガ最初カラ承知デ連帶辨償スルハ別ダガ相續ダカラ自分ノ受ケマイヨリ盡サン
（栗塚）
抵當物ヲ分ツコトガ出來ヌカラデス
（南部）
半分相續人自己ノ抵當ニ係テ居ルト云フコトハ出來ヌ不可分デ御座イマス
（委員長）
ソウダロウガ抵當不可分ト云フカラシテ一方ハ始終付カ
（元尾崎）
今日ハ金ヲ返サナケレバ抵當滌除ト云フコトハナイ
（栗塚）
御座イマセン
（元尾崎）
登記役所デ許サレンノデス
（栗塚）
義務ハ免カレテモ抵當ハ殘テ居ル
（南部）
滌除ガ出來ルト人ノヲ滌除ヲヤルト云フコトガアリマスカラ
（元尾崎）
コウ云フモノガアルト見テ之デ良カロウ
（栗塚）
實ハ一身上デ債務ノ責ヲ負フテ居ル人ハ如何ナ場合モ滌除ガ出來ヌト云ヘバ此條ハ或ハ盡キルノデスソレヲ保證人トカ連帶人トカ相續人トカ云フカラ分ランノデアリマス
（元尾崎）
他人ノ債務ノ爲メニ、ダカラ自分ガ負フテ居ルノデハナイ
（南部）
ナイカラ良イノデス
（元尾崎）
ダカラ之デ良クハナイカ
（栗塚）
之デ間然スル處ハナイ
（委員長）
末項ハ往ケソウナモノデス
（栗塚）
併シドウデシヨウ餘程ノ疑問デ佛蘭西學者ハ殘ラズ此說デス
（委員長）
私ガ民法ヲ書ケバ出來ルネ
（栗塚）
併シナガラ貴君ガ私ニ抵當ヲ貸テ遣ル、金ヲ借リ度ト思テ困テ居ルナラ南部サンカラ金ヲ借リルナラ私ノ家ヲ抵當ニ入レテ遣ロウト仰シヤツタ、スルト私ハ借リ主デ南部サンカラ借リテモ貴君ハ私ノ爲メニ抵當ヲ下スツタ人デ、其貴君ガ滌除スルコトガ出來ルト申シテハ債主ニ對シテ抵當ヲ遣ルト云フ口上ガ立タンヨウニナツテ仕舞抵當ヲ遣ルト言テモ滌除スルト仰シヤルト取消シタヨウナモノデス
（委員長）
滌除スルニハ金ヲ出サセン金ヲ出シタラ債權者金ヲ受取タラ宜シイ
（栗塚）
ソレデハ愈々私ガ拂フコトガ出來ヌトキハ貴君ハ私ニ代テ代位ナサルト債權ノ讓渡ニナツテ仕舞ヒマス
（委員長）
拂ヒガ出來テモ出來ンデモ此者ノ爲メニ我等ガ財產ヲ出シタノダカラ滌除スル
（栗塚）
ソウスレバ期限ノ來タトキ假令バ債務ノ滿期ニナツテ受出サントキハ貴君ハ金ヲ出シテ私ノ債權者ニナルガ宜シイ
（委員長）
期限ガ來テモ來ンデモ宜シイダロウ
（栗塚）
勿論來ヌトキノ話デ抵當ヲ遣ツタガ直グ滌除スルト抵當ヲ遣ツタトハ謂ヘヌヨウニナリマス
（委員長）
抵當サヘ遣ルノダカラ金ヲ出シテ取返ソウトモ宜サソウナモノデス
（栗塚）
抵當ノ目的ヲ逹シテノ後ハ宜シイ
（委員長）
金ヲ借リルノガ目的デソレヲ抵當ヲ出シテ目的ヲ逹シタカラネ
（栗塚）
金ハ南部サンカラ千圓借リテ抵當ニハ五六百圓ノ家ヲ入レタイガアリマセンカラ貴君ノ公債證書トカ家トカヲ入レタ其借リハ最早六百圓カモ知レン、スルト貴君ノ家ハ私ガ南部サンニ借リタ千圓ノ抵當ニ六百圓ノ家屋ヲ抵當トシテ私ノ爲メニ下スツタ南部サンガ承知シテ其翌日滌除シテハ南部サンハ詮ガナイ、跡ノ四百圓ハ南部サンハ無抵當ニナルカラ抵當ノ義務ガ無クナツテ仕舞貴君ガ六百圓ノ家屋ニ千圓ノ義務ガ付タモノガ無クナルノデス
（南部）
返シテシマエバ宜シイ
（委員長）
返サナクバ往クマイ
（元尾崎）
ソコガ辨濟ト滌除ト違フ所以デス
（栗塚）
南部サンノ權利ヲ保護スルガ爲メニ貴君ガ抵當ヲ出シテ下スツタノデ貴君ハ滌除スルコトハ出來マセンノデス
（委員長）
屬スルト云タラ宜カロウ
（栗塚）
スルト抵當ヲ今日出シテ翌日滌除スルト遂イ出サヌト同ジニナリマス
（委員長）
南部君ガ折合ワヌカラ
（栗塚）
折合ハヌデモ宜シイデソレガ滌除デアリマス
（委員長）
ソレハ爲シ得ラレナイ譯ケト思フテ居ル
（栗塚）
ソレダカラ爲シ得ラレナイヨウニ屬セズトヤツタノデ隨分議論モ出來ヨウト思ヒマス
（元尾崎）
コンナコトハ日本ニハナイト見テ宜シイ
（北畠）
書イテ置カント出來ル
（栗塚）
書イテ置カント出來マス
（委員長）
ソンナコトガアルモノカ、金ハ其儘抵當丈ケ滌除スル抔ト云フコトハ爲シ能ウモノデハナイ、言フベクシテ行ハレナイ
（栗塚）
此度私ガ南部サンカラ金ヲ借リルト千圓借ルニ千五百圓ノ家ヲ抵當ニシタソレカラ其千五百圓ノ家ヲ南部サンニ千圓ニシタトキドウモ金ニ困タカラ尙ホ借リラレンコトハナイ仕舞ニ千六百圓ニ元尾崎サンガ買テヤルト云フカラ滌除スルガ利益ダカラ南部サンニ向テ千圓ヲ遣ルゾヨト云フカラ滌除スルノハ當リ前デス
（委員長）
千圓貰タラ南部サンハ損ハナイ
（栗塚）
ソレデハ今ノ反對ノ例ニシテ、千圓ノ金ヲ借リテ私ノ家ガ實ハ千圓デ買タガ今日ハ段々下落シテ八百圓ニナツタ八百圓デ元尾崎サンニ買タ其トキ南部サンハ故障ガ言ヘルノデ勿論若シ八百圓デ賣ン南部サンノ權利ヲ害スレバ別ダガ南部サンガ折合ハヌデ私ガ元尾崎サンニ八百圓デ賣タ、スルト元尾崎サンガ千圓ノ抵當ダソウダガ御前八百圓デ賣タケレドモ千圓ノ片ダソウダガ滌除シナケレバナラント併シナガラ八百圓デ買フタガ南部サンガ承知スルカト云フト南部サンバ八百圓デハ否ト云フ、併シ貴君ノ貸タノハ千圓カハ知ランガ評價シテモ八百圓ゾヨト云フト南部サンハ損ガアルト云フコトハナイ仕方ガナイソレデ矢張滌除ガ出來ルノデ南部サンノ手ニ在ツテ高クナル見込ガアレバ削タカ幾ラ評價シテモ彼ノ家ハ建タトキ千圓ダガ相場ハ八百圓ト云フト元尾崎ニ掛合滌除シヨウト思フト云フト承諾セントキハ公賣シテ仕舞八百圓或ハ八百圓ヨリ減テ七百圓ニシカナランガ知レンコトデ御座イマス
（委員長）
ソウ云フ方カラ便利モアルカ知レンガ抵當ニナツタモノヲ滌除スルニハ元金ヲ返サナケレバナラント思フ、我輩ガ君ニ貸タ代リニ金ヲ貸スト同ジニナツテ南部サンニ金ヲ返シテ君ニ金ヲ貸シタモ同樣ニスルモ亦出來ント云フ保證人迄係ルト云フノデシヨウ
（栗塚）
ソウデハ御座イマセン千圓ニ這入テ居マシヨウトモ私ニ貴君ガ貸シテ下スツタ抵當トシテ下スツタ、六百圓スルト六百圓ノモノヲ拂テ南部サンニ借リテ居ルハ千圓ニモセヨ貴君ノ家屋ヲ六百圓ナレバ六百圓拂テ抵當ヲ免カレシムルコトハ出來ヌト云フノデアリマス
（委員長）
總テ債務ヲ辨濟セザルモ、ダカラ、シテモ、ダロウ
（栗塚）
シマシテハ、滌除デハナイ債務ガ無クナリ抵當ノ主タルモノガ無クナリマスカラ滌除デハナイ、滌除ハ債務ガ生キテ居テ不動產ニ付テ居ル煤丈ケヲ洗テ仕舞ト云フノデス
（松岡）
債權ト云フモノハ滌除ニ依テ皆ナ消滅スルノデハナイネ千圓ノ片ニ幾ラカ抵當ヲ取テ居タ其抵當ヲ賣テ見タラ八百圓ニシカナラン二百圓ハ無抵當債權者ニナルデシヨウ
（栗塚）
左樣
（松岡）
ダカラ第三所持者ニ抵當ニ入レタ抵當ハ今日評價ハ七百圓ダカ七百圓デ抵當ヲ放スガ宜シイト云フトソレハ無抵當トシテ三百圓ニナルノカ
（栗塚）
左樣デス
（松岡）
スルト自己ノ財產ヲ抵當トシテ千圓ノ所ヘ七百圓シカナイ云フトキハ其人ガ承知スレバ宜クハナイカ
（栗塚）
ソレハ旨意ニ背クト云フノデ義務ヲ負フテ居ルカラ、勿論抵當丈ケノ義務デ御座イマスネ、起案者ニ言ハセルト身體デ義務ヲ負フタノデハナイ物ガ負フタノデ、物ヲ賣ツタニモセヨ擔保シテ居ルカラ其擔保ナクナツテ仕舞ハオカシイ
（松岡）
無クナリマセンネ
（元尾崎）
折合ヲ付テスルカラ構ハン
（栗塚）
註ニ依ルト理由ハ自分デ約束シタコトヲ遵守シロト云フノデ、ト云フノハ貴君ニ抵當ヲ貸テ上デ貴君ハ南部サンカラ借リテ居タトキ私カ松岡サンガ急度返ス、ソレモ疑ルナレバ私ガ返スガ不動產ヲ返シテ松岡君ノ爲メニ抵當ヲ遣ルト云タラ其ノ約束ヲ遵守シナケレバナラン義務ガアルソレヲ滌除シテ仕舞ハ私ガ南部サンニ對シテノ約束ニ背クト云フ旨意デアリマス
（委員長）
オカシイネ
（松岡）
抵當ヲ無クスノデハナイ
（南部）
併シナガラ承知シテ自分ガ抵當ヲ入レタモノヲ滌除スルコトハ土臺出來ヌ話デ、スレバ債務者ガ抵當ヲ入レタモ亦出來ルト云ハナケレバナラン、ト同ジニナル
（松岡）
滌除ト云フノハ金ガ無カツタラ、ソレハ良イ
（栗塚）
第三者カラ論ズルトソウナルノデ買ツタ人ハ元尾崎サンダトネ元ト義務モ知テ居ルノダカラネ
（松岡）
契約ハ何ガ目的カ貸タモノヲ取ルノガ目的ダ
（栗塚）
佛蘭西デモ學者ノ說ハ皆之ニナツテ居ルノデス
（松岡）
ソウ云フモノカネ
（委員長）
ドウ云フ理窟カ
（栗塚）
抵當ノ滌除ト云フハ先刻カラ申ス通リ債務ハ拂ハズトモ千圓ト云フ借ガアツテ五百圓ノ抵當ガ這入テ居タラ抵當丈ケノ價ヲ拂サヘスレバ不動產ヲ取テ來ラルルガ滌除デ得タルモノハ誰カト云フト債權者ニハナイト云フ又保證人ニモナイ相續人モナシト抵當ヲ貸シテ遣タ者モナシト云フ何ゼ貸タ者ニナイカト云フニ債務者ニナイト云フ理窟ト同ジデス何ゼナレバ人ニ抵當ヲ貸テヤツタノハ矢張約束ガアルノデシヨウ、成程抵當ニ入レタ地所丈ケ義務ヲ負フテ居ルカラ義務ヲ免カレシメテ滌除ト云フカラ債務者ガ抵當ヲ入レテ置イテ又貴君ガ抵當ヲ入レタガ家丈ケ入レタラ抵當ヲ取テ言ヘルカソレハ云ヘマセン獨リ言ヘルハ第三者ノミデス
（委員長）
抵當ヲ貸タ人間ガ六十九條ノ原則通リニシテ總テ債務ヲ辨濟センデモ幾分ヲ辨濟シテモ矢張賣タリ買ツタリシタ代價トカ或ハ評價額トカ云フモノヲ辨濟シ又債權者ノ爲メ供託シテ免カルルコトガ出來ル第三者ガソレガ出來ルナレバ元ト抵當ヲ貸タ人間ハ自分ガ借リタノデハナイ、約束ヲ自分デシタノデハナイ
（南部）
自分デシテ居ルノデス
（委員長）
債務者トシテ居ルカ
（南部）
否債權者ハデアリマス
（栗塚）
抵當丈ケハ債權者ニ對シテ栗塚ノ爲メ出シテヤルト言タノデアリマス
（委員長）
言タニシテモ自分ガ借リテ居ルノデナイ人ノ爲メニ抵當ヲ出シテ遣タノダカラ其モノガ假令バ債務者ニ土地ヲ賣タトカ或ハ債務者ニ何カ外ノ取引デ買フタトカ云フトキ債務者ノ爲メ金ヲ拂テヤルト云フコトニハ抵當ヲ自分ノ望ニ依テ引出スコトガ出來ル第三者同樣ニ抵當ノ價ヒガ義務ノ幾ラカアル丈ケシカ拂フマイ千圓ト云テモ八百圓シカナイモノヲ何所ヘ持テ行テモ八百圓ダカラ價ヒ丈ケハ第三者ト同ジク言ヘルト云ワレソウナモノダソレヲ債務者同樣ニスルカ
（栗塚）
債務者ハ何ゼ出來ヌカ
（委員長）
金ヲ借リテ居ルカラ出來ン
（南部）
抵當ガ復タ抵當スル金ノ爲メ抵當スルト約束シタモノダソレフ背イテ引張リ出スコトハ出來マセン
（委員長）
金ヲ返セト云フノハ債務者ガ云フノダカラ、彼ノ男ガ借リテ居ル間ト云フノダカラネ
（南部）
其間抵當ヲ取消スト云フ初メノ約束ニ違フ
（委員長）
抵當ノ價ヒ丈ケ出セバ
（南部）
ソウスレバ債務者ト同ジデアリマス
（委員長）
債務者ハ抵當ヲ第二デ借リタノデ金ヲ返サント抵當ハ脫ケン
（南部）
何ゼデス
（委員長）
金ヲ借リテ居ルカラ
（南部）
金ヲ借リテ居ルガ抵當ハ金ヲ保證スル爲メデスカラ抵當ヲ取テ賣テモ金丈ケハ取レル譯ケデ其場合ニ於テ抵當丈ケノ借リノ金ヲサヘ遣レバ承知シナケレバナランガソレハ出來ン、約束デナイカラ、ト云フノデス
（委員長）
物ガナイトカ違フ抵當ハ金ヲ借リルニ付テ入レタノデアリマスカラネ
（南部）
第三者ノ方モソウデ御座イマシヨウ金ノ辨濟ニナル迄ハ抵當丈ケ返スコトハ出來マセン
（栗塚）
仰セノ如キモ佛蘭西學者中ニモアリマスガ併シ何方ガ善イカト云フニ契約ノ原則ニ違フト云フノデ此所デ說ノアツタ通リデアリマス貴君ノヨウナ說ヲ主張スル者ガ一身上ノ責ニ任ジテコソ出來ヌ物ノ上ニ付テ責ヲ負フテ居ル、債務者ノ資格ノナイモノニハ滌除ガ出來ヌト云フコトハナイト云フ說モアリマスガソレデハ契約ノ原則ニ背クカラ自分ガ物ノ上ニ付テ負フト言タ人ニ其契約ヲ自カラ破テ係ルコトハ出來ヌ抵當ヲ出ス契約ハ何所迄モ出スガ良イト云フ論ガアルノデ此間モ報吿委員デモ既ニ說ガアリマシタガ佛蘭西學者ノ說三人バカリ之ヲ撃ツノデソレハ契約ノ原則ヲ重ジナケレバナラント云フノデアリマス
（委員長）
撃ト云フノモ充分研究ガナイノダネ
（松岡）
事實ヲ云フト些ト理窟ニ、カラマツテ居ルノデス
（委員長）
變的ナモノデス
（栗塚）
貴君ノ說ニスルト報吿委員デモ此條ノ末項ガアル爲メ折角抵當シテヤツテモ良イト思フガ滌除ヲ許サント云フカラ、ヤラント云フノデ結句抵當ヲ貸シテ遣ロウト思テモ末項ノ爲メニ出サンデ金ノ融通ヲ妨ゲルト云フ說モ貴君ノ說ヲ主張スルモノモアリマシタ
（元尾崎）
債權者ガソンナラ宜シイト言ヘバ良シイ
（南部）
否ト云フノ理由ガナイ
（栗塚）
反對ノ說ヲ出シタト云フ丈ケデソレヲ主張スル人モナイヨウデス
（渡）
此方ハ穩カデアリマス
（委員長）
宜シケレバ先ヘヤリマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス