第三節
(栗塚曰)
本節ハ報吿委員ニテ之ヲ商法中ニ編入シタシト云フ意見ナルヲ以テ豫メ本會ノ議決ヲ請ヒタシ佛蘭ニ於テモ個ハ大抵商法ニ屬セシメリ
(委員長曰)
然ルベシ本節ハ之ヲ斟酌シ商法ニ編入スルニ決ス
(三島曰)
開卷第一ニ於テ財產ヲ以テ私產ヲ組成スルト云フハ文字上妥當ナラザルニ依リ財貨ヲ以テトスルカ將タ貨物ヲ以テトシタシ
(今村曰)
貨物ト云フハ不可ナリ
(箕作曰)
佛國ノヒヤント云フ字ハ財產ト云フニハ妥當セザルモノト云フハ明カナリト雖ドモ從來財產ト云フ字ヲ使用シ來リタルヲ以テ財產ト云フ字ハ俗間ニモ慣用シタルニ依リ容易ニ變更スルヲ得ザルベシ仍テ慣用語ヲ破テ之ヲ變更スルヲ廢シ多少字面上ニハ瑕疵アルモ此儘ニ存置スルヲ可トス
(栗塚曰)
私產ト云フ字ヲ身代トシテハ如何
(松岡曰)
財產ト云フモ私財ト云フモ決シテ差異ナカルベシ
(南部曰)
財產ト云フハ使用慣レタルニ付キ多少不都合ナルモ財產ト云フヲ可トス
(三島曰)
已ムヲ得ズンバ財ト云フ一字ニシテハ如何
(栗塚曰)
然カスルトキハ動財不動財ト云ハザルベカラザルニ至ル
(委員長)
財產ト云フ字ハ到底變更スベカラザルカ
(渡曰)
變更セザルヲ可トス
(三島曰)
財產ト云フハ慣用字ナリト雖モ上古ヨリノ慣用字ニアラズ近來法律ノ譯字ニ依テ成リタルニ過ギズ
(村田曰)
財產ノ字ハ既ニ法律上ニモ認置シタルモノナレバ變更スルヲ可トゼズ
(元尾崎曰)
財產ト云フ字ニハ何ノ害アルヤ
(栗塚曰)
別ニ害ナカルベシ
(委員長曰)
各員ノ多數ハ財產ト云フ字ニスルノ意見ナルヲ以テ先ヅ財產ト假決シ猶ホ各條ニ付キ財產トアルノ當否ヲ調査スベシ
(箕作曰)
別付各條ニ付キ之ヲ調査セザルモ大抵各員ノ腹案モ成リシナラント思推スレバ斷然決定スベシ
(委員長曰)
然リト雖ドモ三島氏ノ說モ亦タ理ナキニアラザルヲ以テ尙ホ調査ノ上法制局元老院帝國大學等ヘモ其當否ヲ質議スベシ
(今村曰)
地役ト云フ文字ニ付キ當否ヲ議定セラレンコトヲ希望ス地役ト云フ文字ハ安當ナラズ伊國法ニハ通務トアリ地役ト云フ字ハ慣用語トナリシニモアラザルヲ以テ更ニ妥當ノ文字ヲ撰用シタシ不動產役ト云フ字ニシテハ如何
(箕作曰)
本員曩ニ佛國民法ヲ反譯セシトキハ土地ノ義務トシタルハ狹隘ノ如クナルモ不動產ハ土地ヲ以テ主トスルモノナレバナリ不動產役ト云アモ法文上句調ノ整頓ヲ失スルノ嫌ヒアルベシ
(今村曰)
法律文ハ句調ノ整頓セザルガ爲メニ其意味ヲ害スルモ可ナリト云フニ忍ブヲ得ザルナリ
(村田曰)
不動產役ト云フヲ可トス
(元尾崎曰)
地役ト云フテ可ナリ不動產ハ土地ヲ主トスルノミナラズ家屋ノ如キ牆壁ノ如キ皆土地ニ關セザルモノナケレバナリ
(村田曰)
慣用語ハ其儘存スルヲ可トスルモ地役ト云フ字ハ新ニ本會ノ反譯ニ屬スルヲ以テ妥當ナル文字ヲ撰用セザルベカラズ
(栗塚曰)
家屋ニ屬スル義務モアルヲ以テ地役ト云フニテハ盡サザルモノアルガ如シ
(西曰)
家屋ニ關スル義務ト云フモ素土地ニ關スルニ依リ地役ト云フニテ可ナリ
(今村曰)
家屋ニ關スル場合ノ義務ハ土地ノ義務ニ同ジト云フヲ得ズ其家屋ヲ他ニ移シタルトキハ其土地ノ義務ヲ脫スルヲ以テナリ
(委員長曰)
多數ハ地役ヲ可トスル故ニ先ヅ地役トシ互有壁ノ場合ハ不都合ナキニ調査スベシ
(今村曰)
其不都合ハ醫スルニ術ナキヲ以テ私案ヲ呈出シタシ
其議ニ決ス
第二節 係爭物寄託
第九百十八條 係爭物寄託ハ二人又ハ數人ノ間ニ於テ爭若クハ反對ノ主張ノ目的タル物ヲ第三者ノ手裏ニ委付スル寄託ナリ〔第千九百五十六條〕
係爭物寄託ハ動產又ハ不動產ヲ目的トスルコトヲ得〔第千九百五十九條〕
係爭物寄託ハ合意上又ハ裁判上ノモノタリ〔第千九百五十五條〕
本條ハ報吿委員ニテ第一項爭若クハトアルヲ爭訟卽チトシ末項ハ合意上又ハトアルヲ合意上ノモノアリ又ハトシ裁判上ノモノタリトアルヲ裁判上ノモノアリトセリ
可決ス
第九百十九條 合意上ノ係爭物寄託ハ寄託其事ニ付テモ係爭物保管人タルヘキ者ノ選定ニ付テモ總テノ利害關係人ニ因リ承諾セラルルコトヲ要ス
裁判上ノ係爭物保管人ハ當事者カ其選定ニ付キ一致スルコトヲ得サルトキニ非サレハ裁判所ニ因リ職權ヲ以テ選定セラレス〔第千九百六十三條〕
裁判所ハ相爭ノ當事者ノ一人ヲ係爭物保管人ニ選任スルコトヲ得
本條ハ報吿委員ニテ第一項利害關係人ノ下「ニ因リ」ヲ削リ「ノ」ヲ入レ承諾セラルルコトヲ要ストアルヲ承諾アルコトヲ要ストシ第二項裁判所ノ下「ニ因リ」ヲ「ハ」ト改メ職權ヲ以テノ下ヘ「之ヲ」ト云フ二字ヲ插入シ選定セラレストアルヲ選定セストセリ可決ス
第九百二十條 合意上ナルト裁判上ナルトヲ問ハス係爭物保管人ハ報酬ヲ受クルコトヲ得此場合ニ於テ係爭物保管人ハ善良ナル管理者ノ通常ノ注意ヲ其物ニ加フルノ責ニ任ス〔第千九百五十八條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ係爭物保管人ハト云ヘル文字ヲ冒頭ニ轉置セリ
可決ス
第九百二十一條 裁判上ノ係爭物保管人ハ第百二十六條ニ從ヒ賃貸ヲ爲スコトヲ得然レトモ合意上ノ係爭物保管人ハ利害關係人ノ特別ノ委任ニ憑ルニ非サレハ之ヲ爲スコトヲ得ス
裁判上又ハ合意上ノ係爭物保管人ハ其占有ヲ保存シ又ハ回復スル爲メ占有ニ關スル訴權ヲ行フコトヲ得
係爭物保管人ノ占有ハ當事者中確定ニ爭ニ於テ勝ヲ得タル者ヲ利ス
(栗塚曰)
本條第二項回復ノ上ニ「之ヲ」ト云ヘル二字ヲ加ヘ末項ハ當事者中ノ下ヘ爭訴ニ於テト云フ文字ヲ插入シ確定ノ下「爭ニ於テ」ノ四字ヲ削レリ
可決ス
第九百二十二條 係爭物寄託ニ付セラレタル物ハ當事者中勝ヲ得タル者ニ之ヲ返還スルコトヲ要ス
然レトモ係爭物保管人ハ自己ノ責任ヲ免カルル爲メ相爭フ當事者ノ許諾又ハ裁判所ノ命令ヲ求ムルコトヲ得〔第千九百五十六條、第千九百六十條、第千九百六十二條〕
(栗塚曰)
本條第二項ハ報吿委員ニテ相爭フノ三字ヲ削レリ
(元尾崎曰)
本條第二項ハ勝ヲ得タル後ニ係ルカ
(南部曰)
確定判決前ヲ云フ
(元尾崎曰)
此字面ニテハ勝ヲ得タル後ニ於ケルモノト見ユベシ
(栗塚曰)
保管人ハ爭訟ノ確定スルマデ保管セザルベカラザルヲ以テ確定前其義務ヲ免レントスレバ當事者ノ許諾又ハ裁判所ノ命令ヲ求メテ其義務ヲ免カルルコトヲ得ト云フニアリ
(槇村曰)
此文面ニテハ其意味ヲ見ルヲ得ズ
(栗塚曰)
然レドモ係爭物保管人ハ爭訟ノ終ラザル前云々トスベシ
(元尾崎曰)
責任ヲ免ガルルト云フモ返還スルヲ得ベキト云フヲ見ル能ハズ假令バ其物腐敗物ナレバ腐敗シテモ責任ナシト云フガ如シ
(淸岡曰)
爭訟ノ終ラザル前ト云フ字ヲ入ルレバ充分ナリ
(元尾崎曰)
裁判所ノ命令ヲ求ムルコトヲ得トアルヲ裁判所ノ命令ヲ得テ寄託物ヲ返還スルヲ得トシタシ否ラザレバ寄託物ヲ返還セザルモ責ナキノ虞アリ
(村田曰)
返還スルヲ得ト云ハザルトキハ本人ニ返還セズ寄託所ニ寄託スルヤモ知ルベカラザルナリ
(淸岡曰)
返還スルニアラズ手放スノ義ナリ
第九百二十三條 右ノ外眞正ノ寄託ノ規則ハ合意上ノ係爭物寄託及ヒ裁判上ノ係爭物寄託ニ之ヲ適用ス〔第千九百五十八條、第千九百六十二條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ右ノ外合意上及ビ裁判上ノ係爭物寄託ニハ寄託ノ規則ヲ適用ストセリ
可決ス
第九百二十四條 差押ヘラレタル物ノ裁判上ノ保管及ヒ辨濟ニ提供シ債權者ノ受取ルコトヲ拒ミタル金額若クハ有價物ノ寄託卽チ供託ハ民事訴訟法ニ之ヲ規定ス〔第千九百六十一條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ保管トアルハ監守トセリ
(淸岡曰)
寄託卽チ供託トアルハ唯供託ハトシテハ如何
(栗塚曰)
說キ明シナルヲ以テ可ナルベシ
第二十章 代理
第一節 代理ノ本性
第九百二十五條 代理ハ當事者ノ一方カ自己ノ名ヲ以テ且自己ノ利益ニ於テ卽チ自己ノ爲メ或ル事ヲ爲スコトヲ他ノ一方ニ委任スル契約ナリ〔第千九百八十四條〕
若シ代理人カ自己ノ名ヲ以テスルモ常ニ委任者ノ利益ニ於テ卽チ委任者ノ爲メ事ヲ爲スコトヲ要スルトキハ其契約ハ仲買ト稱セラル(佛商第九十四條)
仲買ハ商法ニ之ヲ規定ス
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項ハ一方カトアル下自己ノト云フ三字ヲ其ニ換ヘ且ノ下自己ノトアルヲモ其トシ利益ノ下「ニ於テ」ヲ削リ自己ノ爲メトアルヲ計算ノ爲メトシ第二項ハ若シ代理人カ自己ノ名ヲ以テ事ヲ爲スベキモ常ニ委任者ノ利益卽チ其計算ノ爲メナルトキハ其契約ハ之ヲ仲買ト稱ストセリ
(淸岡曰)
第一項自己ノ名ヲ以テトアルヲ其名ヲ以テトシタルハ代理ノ名ヲ以テト云フ如クナルニアラズヤ
(元尾崎曰)
此仲買ト云フハ如何
(栗塚曰)
自己ノ名ニシテ他人ノ利益計算ヲ以テスルモノ卽チ大倉組カ政府ノ爲メニ外國ヨリ火器購入ヲ爲スガ如キヲ云フ
第九百二十六條 代理ハ默示ニテ之ヲ與ヘ及ヒ承諾スルコトヲ得〔第千九百八十五條〕
第九百二十七條 代理ハ若シ明示又ハ默示ノ反對ノ合意アラサルトキハ無償ナリ〔第千九百八十六條〕
第九百二十八條 代理ハ一般ナリ確定ナリ又ハ特別ナリ〔第千九百八十七條〕
一般ノ代理卽チ爲スヘキ所爲ノ別段ナル指定ナキ代理ハ委任者ノ資產ノ管理所爲ノミヲ包含ス〔第千九百八十八條〕
若シ代理カ管理又ハ處分若クハ義務負擔ノ別段ニシテ且制限セラレタル本性ノ所爲ノ全體ヲモ包含スルトキハ其代理ハ確定ナリ又其代理ハ或ハ原吿ト爲リ或ハ被吿ト爲リ又ハ訴訟ニ參カリテ裁判上ニテ爲スヘキ若干ノ行爲ヲ包含スルコトヲ得
若シ代理カ上ニ指定シタル本性ノ一箇又ハ數箇ノ成就スヘキ所爲ヲ目的トスルトキハ其代理ハ特別ナリ
第九百二十九條 總テ代理ハ一般ナルト確定ナルト特別ナルトヲ問ハス其目的タル所爲ヨリ必ス生スヘキ事件ヲ暗ニ包含ス〔第千九百八十九條第一項〕
然レトモ元本ノ義務ヲ負擔スルノ委任ハ其元本ハ償還スルノ委任ヲ包含セス
元本ヲ要約スルノ委任ハ其元本ノ辨濟ヲ受取ルコトヲ許サス
訴訟ヲ爲スノ委任ハ仲裁人ヲ選任スルコトヲモ又請求ニ承服スルコトヲモ又ハ訴訟ヲ取下クルコトヲモ又和解スルコトヲモ許サス和解スルノ委任ハ仲裁人ニ爭ヲ決セシムルコトヲ許サス又裁判所ニ爭ヲ決セシムルコトヲモ許サス〔第千九百八十九條第二項〕
又仲裁人ヲ選任スルノ委任ハ和解スルノ委任ヲ包含セス又裁判所ニ爭ヲ決セシムルノ委任ヲモ包含セス
第九百三十條 代理ハ自身ニテ事ヲ爲スノ能力ナキ人ニ有效ニ與ヘラルルコトヲ得然レトモ其代理人ハ委任者ニ對シテハ無能力者ノ制限セラレタル責任ノミヲ負擔ス〔第千九百九十條〕
本條ハ與ヘラルルコトトアルヲ付與スルコトトセリ可決ス
第九百三十一條 代理人ハ其管理所爲ノ全部又ハ一分ニ付キ他人ヲシテ己レニ代ハラシムルコトヲ得但右ノ委任カ明示ニテ己レニ拒絕セラレサルトキ又ハ事務ノ本性ニ因リ其事務ヲ專ラ代理人ノミニ委託シタリト看做スヘキニ非サルトキニ限ル此場合ニ於テ代理人ハ自己ノ管理ニ於ケルカ如ク其代人ノ管理ノ責ニ任ス〔第千九百九十四條第一項〕
若シ代理人ノ己レニ代ハラシムルコトヲ得ル人ヲ指定セラレタルトキハ代理人ハ指定セラレタル撰擇ニ適從スル能ハサル場合ニ於テモ他人ヲ選任スルコトヲ得ス若シ代理人カ指定セラレタル撰擇ニ適從シタルトキハ代理人ハ其代人ノ無能又ハ不誠實ニ付テハ自ラ是等ノ事實ヲ知リ委任者ニ之ヲ吿知シ又ハ代人ヲ解任スルコトヲ得ルノ時日アリタルニ非サレハ其責ニ任セス
禁止ニ拘ハラス代替ヲ爲シ又ハ許サレタル者ニ非サル者ヲ撰擇シタル場合ニ於テハ代理人ハ意外ノ事又ハ不可抗力ヨリ生スル損害ニ付テモ其責ニ任ス但右ノ代替ナケレハ損害ノ生セサルヘキトキニ限ル
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項ノ看做スベキニ非ザルトアルヲ看做ス可カラザルトシ其代人ノトアルヲ其復代人ノトシ第二項ハ若シ代人ガ其撰擇ニ適從シタルトキハ代理人ハ其復代人ノ無能又ハ不誠實ニ付テハ委任者ニ之ヲ吿知スルコトヲ怠リ又ハ復代人ヲ解任スルコトヲ怠リタルトキニ非ザレバ其責ニ任ゼズトシ第三項ハ禁止ニ拘ハラズ復代人ヲ任ジ又ハ許サレタル者ニ非ザル人云々トセリ
(元尾崎曰)
第一項ノ己レニ拒絕セラレザルトキトアルヲ己レニ禁止セラレザルトキトシタシ然カスルトキハ末項ノ禁止ニ拘ハラズト云フニ照應スレバナリ
(元尾崎曰)
代替ト云フハ妥當ヲ得ズ
(栗塚曰)
代任トスベシ然カスルトキハ復代人ヲ撰用スルヲ許サレザル場合ト其撰擇ニ適從スル能ハザル場合トヲ包指スベキヲ以テナリ
(尾崎曰)
事務ノ本性ニ因リ其事務ヲ專ラ代理人ノミニ委任シタルトキアルヤ
(栗塚曰)
假令バ區役所ヘ出頭スルカ如キ何人ナリトモ復代理ヲ受クルニ差支ナカルベシ
(尾崎曰)
從來ノ事柄ニ於テハ代理人ガ復代人ヲ撰用スルニ於テハ本人ニ通知セザルモノナシ
(南部曰)
否復任ヲ小童ニ命ズルガ如キアルニアラズヤ
(尾崎曰)
小童ヲ使用スルガ如キ微々タル事實ハ之ヲ本人ニ通知セザルモ大事ヲ復任スルニ本人ニ通知セザルモノナシ
(栗塚曰)
卽チ其微微タル用事ヲ云フモノナリ
(尾崎曰)
所爲ノ全部トアルヲ以テ微々タル用事ニ限ルベカラズ
(西曰)
大事ト雖ドモ或ル場合ニ於テハ本人ニ通セズシテ復任スルコトアルベシ
(委員長曰)
事務ノ本性ニ因リ其事務ヲ專ラ代理人ノミニ委託シタリトアルヲ大事ニ於ケルモノトスルカ又ハ小事ニ於ケルモノトスルカノ見解ニ在アリ
(栗塚曰)
大事ニ於テ復代人ヲ任用サルルヲ欲セザルトキハ必ラズ禁止スベシ又代理ハ無償ナリ依テ有償契約ノ如ク之ヲ嚴ニスルヲ得ズ
(尾崎曰)
代理ハ信用ニ成立スルモノナレバ之ヲ本人ニ通セズ復代人ヲ任ズルトキハ本人ノ不利益トナルベシ
(村田曰)
本人ノ不利益アルトキハ代理人之ヲ賠償スベシ
(栗塚曰)
伊國民法千七百四十八條ベルギーノ民法草案二千七十六條獨乙民法草案五百八十八條五百八十九條佛千九百九十四條ニアリ曩ニ佛民法千九百九十四條ヲ議スルニ當テカンハセレースト云ヘルモノ尾崎委員ノ說ノ如キ意見ヲ吐露シタリ然ルニ之ニ反對セル說ハ代理ハ無償ナリ故ニ之ヲ嚴シクスベカラズ又復代理ヲ許サザルトキハ代理人ノ病氣ナル場合ニ於テ委任者ハ甚迷惑ナルベシ代理人ハ其義務ヲ履行センガ爲メニ委任者ニ迷惑セシムルノ結果ヲ生ズベシト云フニアリ
(尾崎曰)
然ラバ敢テ前議ヲ主張セザルベシ
第九百三十二條 前條ノ初ノ二項ニ定メタル場合ニ於テ委任者ハ代人ノ管理ニ關スル訴權ヲ直接ニ其代人ニ對シテ行フコトヲ得又同一ノ名義ニテ其代人ニ對シ直接ニ責ニ任ス〔第千九百九十四條第二項〕
同條ノ第三項ニ定メタル反則代替ノ場合ニ於テ委任者ハ右直接訴權ト代理人ノ權利ヲ以テスル間接訴權トノ間ニ撰擇ヲ有ス然レトモ直接訴權ノ行用ハ代替ノ確認ヲ帶フ
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項委任者ハノ下復ノ字ヲ入レ復代人ニ對シ其管理ニ關スル訴權ヲ直接ニ行フコトヲ得ズ又之ニ對シ同一ノ名義ニテ直接ニ責ニ任ズトシ又第二項ハ撰擇ノ下ニ權ノ字ヲ加ヘ直接訴權ノ行用トアル下アリタルトキハ代替ノ確認アリタルモノト看做ストセリ
(元尾崎曰)
第一項ノ之ニ對シ同一ノ名義ニテトアルハ如何
(栗塚曰)
同一ノ理由ト云フガ如シ
(槇村曰)
同一ノ理由トスベシ
可決ス
(元尾崎曰)
末項直接訴權ノ行用云々トアルハ直接訴權ヲ行フタルトキ代任ヲ確認シタルモノト看做ストスベシ
可決ス
(栗塚曰)
代替ハ前例ニ依リ代任トナル
第二節 代理人ノ義務
第九百三十三條 代理カ第四節ニ列記シタル原由ノ一ニ因テ終了セサル間ハ代理人ハ明示セラレサルモ己レノ知リタル委任者ノ意思ヲモ斟酌シテ委任ノ方式及ヒ包有事項ニ從ヒ之ヲ成就スルノ責ニ任ス若シ之ニ違フトキハ損害賠償ヲ負擔ス〔第千九百九十一條第一項〕
若シ全部ノ執行ヲ爲スコト能ハサルトキハ一分ノ執行ハ委任者ニ有益ナルトキニ非サレハ代理人之ヲ爲スノ責ナク且之ヲ爲スコトヲ得ス
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ代理人ハノ下ニ委任ノ趣旨ニ從ヒ且ト云フ字ヲ加ヘ委任者ノ意思ヲモトアル「モ」ノ字及ヒ「委任ノ方式及ヒ包有事項ニ從ヒ之ヲ」ト云フヲ削リ有益ナルノ下トキノ字ヲ除ケリ
可決ス
第九百三十四條 若シ定マリタル代價ニテ買入ルルノ委任ヲ受ケタル代理人カ右ノ定ヲ超ユル代價ヲ以テスルニ非サレハ物ヲ得ルコト能ハサリシトキハ代理人ハ代價ノ超過額ヲ取戻スコトヲ抛棄シテ其買受ノ確認ヲ委任者ニ要求スルコトヲ得又委任者ハ自己ノ方ヨリハ代理人ノ辨濟シタル代價ヲ以テ物ノ引渡ヲ要求スルコトヲ得
若シ賣却スルノ委任ニ關スル場合ニ於テ代理人カ定メラレタル代價以下ニテ賣却シタルトキハ代理人ハ代價ノ差額ヲ補充シテ其賣却ヲ確認セシムルコトヲ得
(栗塚曰)
本條ハ定リタル代價ニテ委任ヲ受ケタル代理人カ右ノ定ヲ超ユル代價ヲ以テセサルヲ得サルニ付キ其超價額ヲ支拂ヒ目的物ヲ購買シタルモ委任者ハ契約代價ニアラサルヲ以テ之ヲ拒否セシヲ以テ代理人ハ其超過額ヲ抛棄シ約束代價ヲ以テ收領セシムルカ又委任者ハ追後其超過額ヲ補償シテ其物ノ引渡ヲ要求スルコトヲ爲スト得ベシ又別項ハ賣却上ニ付キ右ト反對ノ事實ヲ揭示セルニアリ報吿委員ニ於テハ本條ノ如キハ全然タル代理ニアラザルベシト云フヲ思考シ目下起案者ニ質問中ナリ
第九百三十五條 代理人ハ委任ノ成就ニ付テハ善良ナル管理者ノ總テノ注意ヲ加フルノ責ニ任ス〔第千九百九十二條第二項〕
然レトモ左ノ場合ニ於テハ代理人ノ過愆ハ較寛大ニ査定セラル
第一 代理人カ無償ニテ勤務ヲ爲ストキ
第二 代理人カ自ラ進ミテ代理ヲ爲シタルニ非サルトキ
第三 委任者カ代理人ノ不熟練ヲ知リ又ハ之ヲ推量シタルトキ
第四 代理人カ委任者ノ爲メ其豫期セサリシ利益ヲ生スル管理ノ或ル他ノ所爲ヲ爲シタルトキ
(北畠曰)
較ニトアルハ較ヤトスベシ
(栗塚曰)
寛大ニ査定セラルトアルハ寛大ニ之ヲ査定ストシテハ如何
可決ス
(渡曰)
第二ノ自ラ進ミテ云々トハ如何
(栗塚曰)
自ラ好ミテ代理ヲ爲シタルニアラザルトキト云フガ如シ
(槇村曰)
第四ハ如何
(栗塚曰)
管理中或ル事件ニ付キ損害ヲ惹起シタルモ他ノ事件ニ付キ利益アリシトキヲ云フ
(槇村曰)
或ルト云フ字ヲ削ル可シ
可決ス
第九百三十六條 代理人ハ代理ノ終了シタルトキ及ヒ其終了ノ前ニテモ若シ委任者ヨリ管理ノ計算ヲ求メタルトキハ證據書類ヲ添ヘテ其計算ヲ爲スノ責ニ任ス〔第千九百九十三條〕
無異議
第九百三十七條 代理人ハ委任者ノ爲メ又ハ自己ノ管理ニ因由シテ受取リタル總テノ金額若クハ有價物ヲ委任者ニ返還スルコトヲ要ス但其金額又ハ有價物カ正當ニ負擔セラレス又ハ代理人カ之ヲ受取ルコトヲ許サレサリシトキト雖トモ亦同シ〔第千九百九十三條〕
代理人ハ己レノ收取スルコトヲ怠リ又ハ己レノ過愆ニ因テ滅失セシメタル有價物ノ額ヲ前數條ニ憑リ負擔スル損害賠償ト共ニ其委任者ニ爲スヘキ返還中ニ附加ス然レトモ次節ニ從ヒ委任者ヨリ受取ルヘキモノヲ減除ス
第九百三十八條 委任者ノ許諾ヲ受ケスシテ其元本ヲ自己ノ利益ニ用ヒタル代理人ハ其元本使用ノ日ヨリ當然利息ヲ負擔ス但損害アリタルトキハ更ニ十分ナル賠償ヲ負擔スルコトヲ妨ケス
單ニ殘額タル金額ニ關シテハ代理人ハ其付遲滯ノ日ヨリ右金額ノ利息ヲ負擔ス〔第千九百九十六條〕
第九百三十九條 若シ同一ノ事務ニ付キ數名ノ代理人アルトキハ其唯一ノ證書ヲ以テ設定セラレタルト別箇ノ證書ヲ以テ設定セラレタルトヲ問ハス各代理人ハ自己ノ過愆ニ付テノミ其責ニ任シ連帶カ要約セラレタルトキ又ハ過愆カ連合ノモノタルトキニ非サレハ其間ニ於テ連帶ナシ〔第千九百九十五條〕
第九百四十條 代理人ハ委任者ノ爲メ其名ヲ以テ第三者ト爲シタル所爲ノ履行ニ付キ其第三者ニ對シテ責ニ任セス但代理人カ明示ニテ其履行ノ責ニ任シ又ハ第三者ニ對シテ己レノ有セサル權限ヲ有スルモノノ如クニ示シタルトキハ此限ニ在ラス
(栗塚曰)
本條ハ第三者ノ上ニアル其ヲ削リ對シノ下「テ」ノ字ヲ「其」ト改ム
(又曰)
委任者ノ爲メト云フハ委任者ノ計算ノ爲メトセザルモ可ナリヤ
(南部曰)
委任者ノ爲メト云フニテ可ナリ
第三節 委任者ノ義務
第九百四十一條 委任者ハ左ノ諸件ヲ負擔ス
第一 代理人カ代理ノ執行ノ爲メ支出シタル立替金及ヒ正當ノ費用ニ其支出シタル日以來ノ法律上ノ利息ヲ加ヘテ之ヲ代理人ニ辨償スルコト〔第千九百九十九條、第二千一條〕
第二 合意セラルルコト有リタル給料ヲ代理人ニ辨濟スルコト〔第千九百九十九條〕
第三 代理人カ其管理ニ因由シ又ハ其代理ニ關シ自己ノ過愆ナクシテ受ケタル損失又ハ損害ヲ代理人ニ賠償スルコト但豫見スルコト有リタル損害ニシテ全部又ハ一分ニ付キ給料ノ約束ノ理由ト爲リタルモノハ此限ニ在ラス〔第二千條〕
第四 代理人カ其管理ニ憑リ負擔スルコト有リタル一身上ノ約務ノ免除又ハ賠償ヲ之ニ得セシムルコト〔第千九百九十八條第一項〕
第九百四十二條 代理人ハ前條ニ規定シタル支出ヲ爲スコトヲ自ラ約セサルトキハ之ヲ爲スノ責ニ任セス然レトモ委任者ヨリ必要ナル準備ヲ供スルノ拒絕又ハ遲延ヲ證明セシメスシテ右ノ約束ナキ爲メ代理ノ執行ヲ遲延スルコトヲ得ス
第九百四十三條 給料ハ代理カ全ク執行セラレタル後ニ非サレハ之ヲ負擔セス但一分宛ニテ辨濟スヘキ要約アリタルトキハ此限ニ在ラス
若シ全部執行カ代理人ノ責ニ歸スルコトヲ得サル原因ニ因テ妨ケラレタルトキハ給料ハ代理人ノ爲シタルモノノ割合ニ應シテ負擔セラル
第九百四十四條 委任者ノ義務ノ辨償ニ至ルマテ代理人ハ代理ニ憑テ保有シ且債權者ト爲ルノ原由タル物ノ留置權ヲ亨有ス
第九百四十五條 若シ數人カ唯一ノ證書又ハ別箇ノ證書ヲ以テ共同事務ノ爲メ代理ヲ設定シタルトキハ委任者ノ各自ハ連帶シテ前記ノ義務ヲ負擔ス但反對ノ要約アルトキハ此限ニ在ラス〔第二千二條〕
無異議
第九百四十六條 委任者ハ其代理人カ約定セシ第三者ニ對シ其委任ニ從ヒ委任者ノ名ニテ負擔シタル總テノ約務ノ責ニ任ス〔第千九百十八條第一項〕
委任者ハ左ノ場合ニ於テハ自己ノ與ヘタル權限外ニ爲サレタルモノニ付テモ亦其責ニ任ス
第一 若シ委任者カ明示又默示ニテ所爲ヲ確認シタルトキ〔第千九百九十八條第二項〕
第二 若シ委任者カ其所爲ヲ利シタルトキ但其利益ノ限度ニ從フ
第三 若シ第三者カ善意ニシテ且代理人ニ權限アリト信スル正當ノ理由ヲ有シタルトキ
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項委任者ハノ下其ノ字ヲ削リ約定セシ第三者ニ對シ其トアルヲ除キ負擔ノ字ノ上ニ約定セシ第三者ニ對シト云ヘル數字ヲ加ヘ第二項自己ノトアルヲ代理人ノトシ第二ノ其所爲ヲ利シタルトキトアルヲ其所爲ニ因リ利ヲ得タルトキトセリ
可決ス
第四節 代理ノ絕止
第九百四十七條 代理ノ執行又ハ之ヲ執行スルノ不能及ヒ其代理ニ付スルコトアリタル期限又ハ條件ノ成就ノ外尙ホ代理ハ左ノ諸件ニ因リ了終ス
第一 委任者ノ爲シタル廢罷
第二 代理人ノ抛棄
第三 委任者又ハ代理人ノ死凶、破產、倒產、若クハ禁治產〔第二千三條〕
第四 代理ヲ付與シ又ハ之ヲ受諾シタル資格ノ其代理人又ハ委任者ノ身ニ於ケル絕止
第九百四十八條 委任者ノ唯一ノ利益ニ於テ設ケタル代理ノ廢罷ハ給料ヲ約シタルトキト雖トモ委任者何時ニテモ自己ノ意ヲ以テ之ヲ爲スコトヲ得
本條ハ委任者ノ唯一ノトアルヲ委任者ノミトシ給料ヲ謝金トシ自己ノ意ヲ以テトアルヲ隨意ニトセリ可決ス
第九百四十九條 廢罷ハ將來ニ向テノミ成リ其廢罷ニ至ルマテ有效ニ爲シタルモノヲ害セス
本條ハ成リヲ效アリトシ「其」ノ上ニ且ト云フ字ヲ加ヘリ可決ス
第九百五十條 若シ數名ノ委任者アルトキハ其中一人ノ爲シタル廢罷ハ他ノ者ノ代理ヲ了終セス
(栗塚曰)
本條ハ起案者ニ質問中ニ付キ未決ニ附シタシ
可決ス
第九百五十一條 代理ノ廢罷ハ默止タルコトヲ得ルモノニシテ或ハ同一ノ事務ニ付キ新代理人ノ設定或ハ委任者其管理ノ回復又ハ總テ其他ノ情況ヨリ生スルコトヲ得〔第二千二條〕
無異議
第九百五十二條 代理人ノ代理ノ抛棄ハ若シ其抛棄カ委任者ヲ害スヘキトキハ委任者ノ爲メ賠償ヲ生ス正當又ハ必要ノ原由ニ基キタル場合ハ此限ニ在ラス〔第二千七條〕
其抛棄ハ又默示ニテ之ヲ爲スコトヲ得
第九百五十三條 代理ヲ了終スル原由ハ委任者ヨリ出テタルト代理人ノ方ヨリ出テタルトヲ問ハス當事者ノ間ニ互ニ吿知セラレ又ハ其他確實ナル方法ニテ知ラレタルトキニ非サレハ其當事者ノ間ニ於テ互ニ之ヲ對抗スルコトヲ得ス〔第二千五條乃至第二千七條〕
當事者中一人ノ死凶シタル場合ニ於テハ其相續人ニ對シ又ハ其相續人ヨリ吿知ヲ爲スコトヲ要ス〔第二千十條〕
第九百五十四條 右ニ同シキ代理絕止ノ原由ハ委任者カ代理人ノ手裏ヨリ委任狀ヲ取戻シタルトキト雖トモ右代理ノ絕止後善意ニテ其代理人ト約定シタル第三者ニ之ヲ對抗スルコトヲ得ス〔第二千四條、第二千五條、第二千八條、第二千九條〕
本條ハ代理ノ上「ニ同シキ」ノ文字並ニ代理人ノ下「ノ手裏」代理ノ上「右」ノ字ヲ削レリ
(元尾崎曰)
委任狀ヲ回收シタル以上ハ委任者ト代理人トノ關係ハ消滅ス登記役所ノ如キモ其委任狀ニ依ラザレハ之ヲ登記セザレバナリ
(栗塚曰)
其代理人ヲ解止シタル事ヲ知ラザル第三者ヲ害スベキ理由ナシ
(元尾崎曰)
公債證書ノ如キハ委任狀ヲ附シテ轉々賣買スルモノナルヲ以テ本人ハ之ヲ第三者ニ通知スルニ由ナシ
(栗塚曰)
公債證ハ委任狀ニ依テ通行セルモノナルモ其委任朕ヲ回收セバ轉賣スルノ途ヲ失スベシ
(渡曰)
本條ノ反對ヲ思考シ第三者ニ之ヲ對抗スルコトヲ得ト云ヘバ世上殆ンド何事ヲモ爲スコトヲ得ザルニ至ラン
(尾崎曰)
委任者ハ之ヲ第三者ニ通知スベキ義務ナシ
第九百五十五條 代理カ上ニ指定シタル原由ノ一ニ因リ了終シタルトキハ代理人又ハ其相續人ハ委任者又ハ其相續人カ其既ニ起生シタル利益ヲ自ラ處理シ又ハ新代理人ヲシテ之ヲ處理セシムルコトヲ得ルニ至ルマテ其利益ヲ處理スルコトヲ要ス〔第千九百九十一條、第二千十條〕
此條例ハ代理ノ絕止カ委任者ニ因レル廢罷ニ出ツルトキヨリモ代理人ノ抛棄ニ出ツルトキハ一層嚴ニ之ヲ適用ス
無異議
第二十一章雇使及ヒ工作又ハ工業ノ賃貸
第一節 雇使ノ賃貸
第九百五十六條 使用人、番頭又ハ手代、主人ノ身ニ隨侍シ又ハ其家ニ奉仕スル僕婢、勞力者又ハ日雇人及ヒ農業又ハ工業ノ職工ハ年、月又ハ日ヲ以テ定メタル賃銀又ハ給料ヲ受ケテ其雇使ヲ賃貸スルコトヲ得〔第千七百十條、第千七百十一條第四項、第千七百七十九條第一號〕
右ノ場合ニ於テ賃貸ハ其他ノ慣習ニ因リ定マリタル時期又確定ノ慣習ナキトキハ總テノ時期ニ於テ雙方中孰レヨリモ豫メ與ヘタル解雇申入ニ因リ了終セサル間ハ繼續ス但其解雇申入ハ不利ノ時期ニ於テ爲サス又惡意ニ出テサルコトヲ要ス
(栗塚曰)
報吿委員ニテ雇使ヲ勞務トシ賃貸トアルヲ賃貸借トシ勞力者ヲ勞役者トシ日雇人トアルヲ日稼人トセリ
(松岡曰)
日雇人ト云フハ日稼人トシタシ
可決ス
(村田曰)
勞務ノ賃貸借ハ勞務ノ賃代トシテハ如何
(北畠曰)
勞務ノ賃雇ト云フモ追テ修正スベシ
(松岡曰)
其勞務ヲ賃貸スルコトヲ得トアルモ番頭僕婢ノ如キハ既ニ勞務ヲ供給セルヲ以テ其名アルニアラズヤ然ルヲ其勞務ヲ賃借スルコトヲ得ト云フベキ理ナシ
(渡曰)
番頭僕婢カ内職ヲ營ムカ如クナルベシ
(槇村曰)
賃銀ト云フハ賃料トシテ如何
(松岡曰)
普通ノ語ニテハ賃錢ト云フベシ
(渡曰)
賃銀トアリテ不都合ナシ
(北畠曰)
總テノ時期ト云フハ如何
(栗塚曰)
何時ト雖ドモト云フ義ナリ
(槇村曰)
何時ニテモトスベシ
(栗塚曰)
定マリタル時期ノ下「ニ於テ」ト云フヲ挿入シ總テノ時期ニ於テトアルヲ何時ニテモトスベシ
可決ス
(松岡曰)
豫メ與ヘタルハ豫メ爲シタルトシタシ
可決ス
(箕作曰)
本條ハ一字一句ノ修正ヲ爲スモ倒底好文ニ變セサレバ追テ全部ノ修正ヲ施スベシ
第九百五十七條 是等ノ者ノ雇使ノ賃貸ハ亦使用人及ヒ僕婢ニ付テハ五ケ年又職工及ヒ勞役者又ハ日雇人ニ付テハ一ケ年ヲ超ユルコトヲ得サル定期ニ付キ之ヲ爲スコトヲ得但徒弟契約ニ關シ下ニ記載スルモノヲ妨ケス〔第千七百八十條〕
一層長キ約務ヲ爲シタル場合ニ於テハ當事者中一方ノ意ニ從ヒ其時期ニ短縮ス但同一ノ期間ニ付キ無限ノ更新ヲ爲スノ權能ヲ妨ケス
第九百五十八條 雇使ノ賃貸カ定期ニ付テ爲サレタルトキト雖トモ其賃貸ハ或ハ當事者中一方ノ義務不履行ノ爲メノ解除ニ因リ或ハ雙方中一方ニ出テタル正當ニシテ且已ムヲ得スト認メラレタル原由ノ爲メ其定期前ニ了終スルコトヲ得
總テノ場合ニ於テ主人ノ死亡ハ其身ニ對スル雇使ノ賃貸ヲ當然了終セシム
本條ハ報吿委員ニテ第二項ヲ總テノ場合ニ於テ主人ノ一身ニ關スル勞役ノ賃貸借ハ其死亡ノ爲メ當然了終ストシ第一項ハ定期ニ付キヲ定期ニテトシ前例ニ因リ「雇使」ヲ「勞務」トシ賃貸ノ下ニ借ノ字ヲ加フ
(松岡曰)
双方中ト云フ三字ヲ削ルベシ
可決ス
第九百五十九條 若シ雇使ノ賃貸ヲ了終セシムル正當ノ原由カ主人又ハ工長ノ一身ニ起リテ地方ノ慣習ニ從ヒ雇使ノ賃貸主カ新約務ヲ契約シ難キ年ノ季節ニ生シタルトキハ裁判所ハ情況ニ從ヒ定メタル償金ヲ其賃貸主ニ付與ス
本條ハ報吿委員ニテ地方ノ上ニアル「テ」ヲ且トセリ
(北畠曰)
賃貸主ト云フハ被雇人ナルカ
(栗塚曰)
然リ
(箕作曰)
賃貸人トスベシ
可決ス
(村田曰)
又ハ工長ト云フハ削ルベシ工長ノ字ハ徒弟契約ノ場合ニ記存シ又前條工長ノ字ヲ用ヒザレバナリ
可決ス
(南部曰)
一身トアルハ方トスベシ
可決ス
第九百六十條 總テノ場合ニ於テ雇使ヲ供給スル者ノ死亡ハ契約ヲ了終セシム但其相續人ハ給料又ハ賃銀ノ中ニテ未タ經過セサル時期ニ付キ拂ハレタルモノヲ返還ス
無異議
第九百六十一條 前記ノ規則ハ俳優音樂師、蹈舞師、角力者又ハ幻技師ト演劇、觀物及ヒ其他公衆ノ觀覽ニ供スル遊戲ノ興行者トノ間ニ爲シタル賃貸ニ之ヲ適用ス
此規則ハ亦撃劍、武藝、工技又ハ工藝ノ授業者又ハ教師及ヒ獸醫ニ之ヲ適用ス
本條ハ報吿委員ニテ撃劍獸醫ノ四字ヲ削除セリ
(槇村曰)
蹈舞師ト云フハ踊舞ノ師匠カ
(栗塚曰)
踏舞師ノ師ハ師匠ノ師ト云フ意味ニアラズ表具師ノ師ト云フ義ノ如シ
(箕作曰)
第二項ハ削除シテハ如何
(松岡曰)
工技工藝ト云フ區別ハ如何
(栗塚曰)
工技ト云フハ職業ニ屬シ工藝ト云フハ成作上ノ細工ニ屬ス然ルニ上逹シタルトキハ美術トナルベシ
(箕作曰)
工藝ノ如キモ品格ヲ與ヘ美術ノ内ニ包有セシメテハ如何
結局第二項ハ削除シ第一項ハ踏舞師ト云ヘルヲ削リ幻技師及ビ此ノ如キモノト云々トス
第九百六十二條 醫師、代言人、學術、文學及ヒ美術又ハ心藝ノ教師ハ其勞務ヲ賃貸セス是等ノ者ハ其患者、訴訟人又ハ生徒ニ與フルコトヲ約シ若クハ與ヘ始メタル世話ヲ與ヘ又ハ繼續スルコトニ付キ民事上責ニ任セス又患者、訴訟人又ハ生徒ハ是等ノ者ノ世話又ハ勞務ヲ求メテ其約諾ヲ得タル後其世話又ハ勞務ヲ受クルノ責ニ任セス
然レトモ若シ世話又ハ勞務カ全部又ハ一分ニ於テ實際與ヘラレ又ハ供セラレタルトキハ其人互相ノ分限ト慣習及ヒ合意トヲ商量シテ其謝金又ハ報酬ヲ裁判上ニテ要求スルコトヲ得
是等ノ者ニ世話又ハ勞務ヲ約セシメタル當事者ノ一方カ正當ノ原由ナクシテ之ヲ受クルコトヲ拒絕シタルトキハ若シ其拒絕ヨリ他ノ一方ノ爲メ金錢上ノ損害ヲ生スルトキハ之ニ對シ賠償ノ言渡ヲ受ク
之ニ反シテ世話又ハ勞務ヲ約シタル後正當ノ原由ナクシテ之ヲ拒絕シタル者ハ因テ加ヘタル損害ヲ補償スルノ言渡ヲ受ク
(箕作曰)
本條ハ勞力ノ賃貸トアラサルヲ以テ全條ヲ削除シテ可ナリ
(栗塚曰)
醫士辯護士等ノ品格ヲ高尙セントスルノ必要アリ
(松岡曰)
病家醫師ヲ替ヘントスルトキハ之ヲ替ルニ妨グルヲ得ズ
(箕作曰)
本條ハ削除シテ無名契約ニ充ツルヲ得ベシ
(栗塚曰)
民法ニ此規定ナキトキハ不都合ナキヤ
(松岡曰)
教師ガ生徒ノ繼續シ來學セザルヲ以テ裁判所ニ訴フルモノニアラズ又生徒ガ或ル學校ノ教師ニ講學ヲ謝絕セラレタルヲ以テ其不服ヲ裁判所ニ訴フベキモノニアラザレバ除去シテ可ナリ
(北畠曰)
本條ハ第九百六十一條ニ類似スルヲ以テ之ヲ記示シタルベシ且ツ不用ト云フベキ點ハ唯本條ニ止マラザルベシ之ヲ存スルモ差支ナキ以上ハ敢テ削ラザルヲ可トス多數決ニ依リ存在セシムルモノトス
本條ハ結局第一項ヲ醫師辯護士及ヒ學術文學技藝ノ教師ハ其勞務ニ付賃貸セス是等ノ者ハ其患者訴訟人又ハ生徒ニ世話ヲ與ヘ又ハ與ヘ始メタル世話ヲ繼續スルコトニ付キ法庭上ノ義務ナシ又患者訴訟人又ハ生徒ハ是等ノ者ノ世話ヲ求メテ約諾ヲ得タル後其世話ヲ受クルノ責ニ任セス第二項然レドモ若シ實際世話ヲ與ヘタルトキハ互相ノ分限ト慣習及ヒ合意トヲ商量シテ謝金又ハ報酬ヲ裁判上ニテ要求スルコトヲ得第三項是等ノ者ノ世話ヲ受クルコトヲ約シタル後正當ノ原由ナクシテ之ヲ受クルコトヲ拒絕シタル者ハ其拒絕ヨリ是等ノ者ニ金錢上ノ損害ヲ生セシメタルトキハ賠償ノ言渡ヲ受ク第四項之ニ反シテ世話ヲ與フルコトヲ約シタル後云々ト修正ス
第二節 徒弟契約
第九百六十三條 工業人、工匠又ハ商人ハ「徒弟契約」ト稱スル特別ノ契約ヲ以テ男女ノ徒弟ニ自己ノ工技又ハ職業ノ知識ト實驗トヲ教ユルコトヲ約スルコトヲ得又徒弟ハ自己ノ方ニ於テ是等ノ者ノ勞働ニ付キ之ヲ助クルコトヲ約ス
未成年ノ徒弟ハ其父、後見人又ハ其他總テ自己ニ對シ權力ヲ有スル人ニ輔佐セラレ又ハ代理セラレズシテ徒弟契約ヲ爲スコトヲ得ズ
本條ハ報吿委員ニテ本節ノ下第一項徒弟契約ヲ習業契約トシ徒弟トアルヲ習業者トシ工技又ハノ四字ヲ削リ約スルコトヲ得トアルヲ約シトシ末項ノ約ストアルヲ約スルコトヲ得トセリ
(栗塚曰)
徒弟ヲ習業トシタルハ學校生徒ト云フニ嫌アルヲ避ケンガ爲メナリ
(箕作曰)
反譯局ニテ徒弟トシタルハ現時高等商業學校ニテ徒弟ト云ヘルヲ以テナリ第二項ハ徒弟ハトアルヲ習業者ハトシ權力ヲ有スル人ニ輔佐セラレトアルヲ權力ヲ有スル人ノ輔佐又トシ又ハ代理セラレズシテ徒弟契約トアルヲ又ハ代理ナクシテ習業契約トセリ
(松岡曰)
第一項自己ノ方ニ於テトアルヲ削ルベシ
可決ス
(松岡曰)
第二項ノ未成年ノ徒弟ハトアルヲ報吿委員ニテ未成年ノ習業者ハトセシカ未成年者ハトシタシ
可決ス
第九百六十四條 合式ニ輔佐セラレタル未成年者又ハ其代人ノ爲シタル徒弟約務ハ其未成年ノ時期ヲ超ユルコトヲ得ス但成年ニ逹シタル徒弟ノ之ヲ更新シ又ハ伸長スルコトヲ妨ケス
第九百六十五條 徒弟契約ハ當事者互相ノ義務ノ本性及ヒ廣狹ヲ規定ス
徒弟契約ニ缺ケタルモノハ主人又ハ工長カ其業務ヲ行フ地方ノ慣習ニ從テ補ハルルコトヲ得
(栗塚曰)
本條第二項ハ報吿委員ニテ主人又ハ工長カ其職業ヲトアルヲ主人ノトシ補ハルルコトヲ得ト云ヘルヲ之ヲ補フコトヲ得トセリ
(松岡曰)
本條ノ註解ニテハ成ル可ク其書面ヲ用ユベシトアルモ必ラズ其書面ヲ用ユルコトヲ命ゼザレバ效用ナシ
(南部曰)
成ル可ク契約ヲ詳細ニスベシト云フニアレバ不可ナシ
第九百六十六條 主人又ハ工長ハ反對ノ要約又ハ地方慣習ナキトキハ徒弟ニ住居、食料、扶持及ヒ職業ノ器具又ハ器械ヲ供給スルコトヲ要ス
又主人又ハ工長ハ徒弟ニ其徒弟契約ノ目的タル工技又ハ職業ヲ學フコトヲ得セシムル爲メニ必要ナル時間世話及ヒ總テノ便利ヲ與フルコトヲ要ス
若シ未成年ノ徒弟カ未タ讀書筆算ヲ知ラサルトキハ工長ハ何等ノ反對ノ合意アルニモ拘ハラス徒弟ニ其習業ノ爲メ休憩時間外ニテ每日少ナクトモ一時間ヲ與フルコトヲ要ス
本條ハ報吿委員ニテ第一項又ハ工長ヲ削リ地方慣習ト云ヘルヲ地方ノ慣習トシ又ハ器械ノ四字ヲ削リ第二項ハ又ハ工長ノ四字及ヒ工技又ハノ四字ヲ削リ筆算ヲ計算トシ工長ヲ主人トセリ
第九百六十七條 又徒弟ハ其總テノ時間ト其學ハント欲スル工技又ハ職業ニ關スル勞役ヲ工長ニ供スルコトヲ要ス
第九百六十八條 若シ徒弟カ疾病又ハ其他自身又ハ自身ノ方ニ於テ生スル不可抗ノ原由ニ因リ一个月以上引續キテ其勞役ヲ供スル能ハサルコト一回又ハ數回ニ及ヒタルトキハ徒弟ハ其成年ニ逹シタル後ト雖モ徒弟契約ノ期限滿了ノ後以前ニ同シキ互相ノ條件ヲ以テ休業セシ時間タケ其勞役ヲ伸長スルコトヲ要ス
第九百六十九條 徒弟契約ハ左ノ諸件ニ因リ當然了終ス
第一 工長又ハ徒弟ノ死亡
第二 工長又ハ徒弟ノ陸海軍ノ服役
第三 三个月以上ノ禁錮ヲ惹起スル重罪又ハ輕罪ノ爲メ工長又ハ徒弟ノ處刑言渡
第四 合意又ハ法律ヲ以テ定メタル期限ノ滿了
第九百七十條 左ノ原由アルトキハ契約ノ解除ハ利害關係人ノ請求ニ因リ裁判上ニテ宜吿セラルルコトヲ得
第一 不可抗ノ原由ニ因ルモ互相ノ義務ノ不履行
第二 徒弟ニ對スル工長ノ苛酷ナル取扱
第三 徒弟ノ平常ノ不品行
第四 前條ニ定メタル場合ノ外工長又ハ徒弟ノ犯罪
第五 合意ヲ履行スヘキ府縣外ニ工長ノ轉居
本條ニ憑リ解除ノ宣吿ヲ受ケタル當事者ノ一方ハ若シ自己ノ方ニ於テ過愆アルトキハ他ノ一方ニ對シ亦損害賠償ノ言渡ヲ受ク前條ニ定メタル處刑言渡ノ場合ニ於テモ亦同シ
〔千八百五十一年二月二十二日ニ議決シ四月八日ニ頒布シタル佛法律〕
(栗塚曰)
本條ハ左ノ原由アルトキハノ下契約ノ解除ハト云ヲ削リ宣吿セラルルコトヲ得トアルヲ契約ノ解除ヲ宣吿スルコトヲ得トシ第一「不可抗ノ原由ニ因ルモ」トアルヲ削除シ但不可抗ノ原由ニ因ルトキモ亦同シトシ第五府縣ヲ土地トシ末項ノ亦ヲ尙ホトセリ
可決ス
(松岡曰)
第五繁都ノ如キ轉居頻屡ナル地ハ嚴縮スルヲ不可ナリトス
第四節 工作又ハ工業ノ賃貸
第九百八十一條 一個人カ或ハ仕事ノ全部ニ付キ或ハ其各部分又ハ各尺度ニ付キ豫定代價卽チ請負ニテ工業又ハ手工ノ定マリタル仕事ヲ爲スコトニ任シタルトキハ其合意ハ若シ仕事ヲ託シタル者ヨリ主タル材料ヲ供シタルトキハ工作又ハ工業ノ賃貸ナリ若シ又製造人又ハ職工ヨリ主タル材料ト仕事トヲ供スルトキハ仕事ヲ爲ス可キ條件ノ附キタル賣買ナリ〔第千七百八十七條〕
報吿委員ニテ本節ノ下ヲ仕事ノ請負トシ本條ハ工技又ハ勞力ノ定マリタル仕事ヲ其全部又ハ一分ニ付テノ豫定代價ニテ爲スノ合意ハ若シ註文者ヨリ主タル材料ヲ供スルトキハ仕事ノ請負ナリ又請負人ヨリ主タル材料ト仕事トヲ供スルトキハ仕事ヲ爲ス可キ條件ノ附キタル賣買ナリトセリ
(栗塚曰)
本條ハ請負ト條件附ノ賣買トヲ區別シタルモ右ハ法理上ノ區別ニシテ實際上差違ナカルベシ
(箕作曰)
動產ニ附テハ請負仕事ト條件付ノ賣買トノ區別アリ假令ハ洋服裁縫商ノ如キ該店ノ羅紗ニ就テ裁縫ヲ命ズル如キハ賣買タル範圍ニ入ルベキモノトスレバナリ
第九百八十二條 前條ニ定メタル二箇ノ場合ニ於テ若シ全部又ハ一分ニ付キ既ニ仕事ノ爲サレタル物カ意外ノ事又ハ不可抗力ニ因リ滅失シタルトキハ材料ノ滅失ハ其材料ノ屬スル者之ヲ負擔シ職工ハ仕事賃ヲ失フ但他ノ一方カ仕事ヲ調査シ且之ヲ受取ルノ遲滯ニ在リタルトキハ此限ニ在ラス〔第千七百八十八條、第千七百九十條〕
若シ當事者ノ一方カ滅失ノ原由ヲ成シ又ハ引渡若クハ調査ニ付キ遲滯ニ在ルトキハ其一方ノミカ材料及ヒ手間ニ付キ其滅失ヲ負擔ス但更ニ大ナル損害アルトキハ之カ賠償ヲ妨ケス〔第千七百八十九條〕
職工ヨリ材料ヲ供シタルトキハ一分ノ滅失又ハ單一ナル毀損ハ若シ其滅失又ハ毀損カ物ニ價額ノ半ヨリ多クヲ失ハシムルトキハ之ヲ全部ノ滅失ト同視ス若シ又減價カ半ヨリ少ナキトキハ第百五十八條、第四百三十九條第三項及ヒ第四百四十條ヲ適用ス
若シ註文者ヨリ材料ヲ供シタルトキハ其註文者ハ存在スル材料ノ部分カ增價シタル限度ヲ以テ仕事賃ヲ辨濟スルノ責ニ任ス
(栗塚曰)
本條ハ第一項既ニ以下既ニ仕事ヲ爲シタル後意外ノ事又ハ不可抗力ニ因リ其物ノ滅失シタルトキハ材料ノ滅失ハ其材料ノ屬スル者之ヲ負擔シ請負ハ仕事賃ヲ失フ但シ註文者ガ仕事云々トセリ第二項ハ若シ當事者ノ一方カノ下ニ其所爲ニ因リ滅失ヲ來タシ云々トシ手間ヲ仕事賃トシ更ニヲ一層トシ之カヲ其トシ賠償ヲ妨ゲズトアルヲ賠償ノ責ニ任ズトス第三項ハ職工ヲ請負人トシ「トキハ」ヲ場合ニ於テトシ單一ナル毀損ノ下「ハ若シ其滅失又ハ毀損」ト云ヘルヲ削リ若シノ二字ヲ除ケリ又末項部分カトアルハ部分ノトセリ
(松岡曰)
第一項但以下ノ意味ト第二項トノ區別ハ如何
(箕作曰)
第一項ノ但以下ヲ削除スベシ
可決ス
(村田曰)
第一項ノ一分ト第三項ノ一分トハ同一意ニアラズヤ
(南部曰)
第一項ノ一分ハ成作ノ一分ヲ云ヒ第三項ノ一分ハ毀滅ノ一分ヲ云フ
(村田曰)
第二項ハ調査ヲ受取トシテハ如何
(松岡曰)
調査請取トシテハ如何
(栗塚曰)
日本語ニテハ受取ト云ヘバ職工ノ仕事ヲ受繼ク如キ意味ニモ解セラルルモノアレバ不可ナリ若シ此本ノミ受取ト決セラルルモ次後ハ調査トシタシ
結局受取トス
(村田曰)
本條ハ當事者一方ノ所爲ノ滅失ト天災ニ原因シタル滅失トノ區別アラズ
(元尾崎曰)
減價半額以下ナルトキハ過失アラザルトキハ契約ハ成立スベシ
(南部曰)
然リ
(槇村曰)
第百五十八條ト第四百三十九條ハ矛盾スルニアラズヤ
(栗塚)
過失アルト否ラザルトノ差別アリ
第九百八十三條 註文者ヨリ材料ヲ供シタル場合ニ於テハ引渡ハ仕事完成ノ後ニ非サレハ實行セラレサル可キトキト雖モ一分ニ付キ工作ノ調査セラレ且受取ラルルコトヲ合意スルコトヲ得此場合ニ於テ若シ註文者カ既成ノ仕事ヲ調査シテ受取リ又ハ之ヲ調査スルノ遲滯ニ在ルトキハ職工ハ其既成ノ仕事ノ危險ヲ免カル〔第千七百九十一條第一項〕
仕事中ニ註文者ヨリ前金又ハ内金ヲ供シタリト雖モ之ヲ以テ既成ノ仕事ヲ受取リタルト看做サス然レトモ若シ物カ註文者ノ明確ナル受取又ハ其付遲滯ノ前ニ滅失シタルトキハ註文者ハ爲サレタル仕事ヲ超ユルモノノ爲メニ非サレハ前金又ハ内金ヲ取戻スコトヲ得ス〔第千七百九十一條第二項〕
第九百八十四條 註文者留保ナクシテ工作物ヲ受取リタリト雖モ若シ註文者カ後日物ヲ其物ニ供シタル使用ニ不適當ト爲ラシムル不表見ノ瑕疵ヲ發見スルトキハ註文者ハ其受諾ヲ取消シテ代價ノ減殺又ハ一分ノ返還ヲ請求スルノ權利ヲ失ハス
此權利ニ基キタル要求訴權ハ註文者ニ屬スル動產又ハ不動產ニ付キ爲シタル仕事ニ關スルトキハ全部ノ工作物受取ノ後三个月ニテ消滅ス
職工ヨリ材料ヲ供シタル製作物ニ關シテハ第七百四十六條ヲ適用ス
(栗塚曰)
本條ハ第一項ヲ報吿委員ニテ後日ノ下ニ「其」ノ字ヲ加ヘ其物ノ供シタルト云フ七字ヲ削リ爲ラシムルトアルヲ爲ストシ一分ノ上ニ其ノ字ヲ入ル末項職工ハ請負人トセリ
可決ス
第九百八十五條 建物、屋根、牆壁、露臺、堤又ハ其他地上ニ爲シタル右ニ類似ノ大工作物ノ請負ニテ爲ス製造ニ關シテハ其工事ヲ指揮シ又ハ爲シタル工匠又ハ請負人ハ築造ノ瑕疵又ハ土地ノ瑕疵ヨリ生シタル右工作物ノ全部若クハ一分ノ滅失又ハ重大ナル損壞ノ責ニ任ス但請負人カ他人ノ土地ニ築造シタルト自己ノ土地ニ築造シタルト材料ヲ供シタルト之ヲ供セサリシトヲ區別セス
右責任ノ繼續期ハ左ノ如シ
牆壁、露臺及ヒ木、石又ハ瓦ヲ附從トシテ用ヰタル其他ノ土工ニ付テハ其受取後二个年
木材カ主タル材料タル建物ニ付テハ五个年
石又ハ煉瓦ノ建物及ヒ倉又ハ土藏ニ付テハ十个年〔第千七百九十二條、第二千二百七十條〕
本條ハ報吿委員ニテ第一項屋根ノ二字ヲ削リ大工作物トアルヲ大ナル工作物トシ製造ハ築造トシ「其工事ヲ指揮シ又ハ爲シタル工匠又ハ」ト云フヲ削リ第二項ハ木石ノ上ニ其他ト云フヲ加ヘ土工ノ上ノ其他ノヲ削リ木材ガ主タル材料タルトアルハ木造ノトシ「倉又ハ」ノ三字ヲ削除セリ
(箕作曰)
第一項露臺ト云フヲ削ルベシ
(栗塚曰)
建物牆壁ニ包含スルヲ以テ建物牆トシテ可ナリ卽チ露臺ノ二字ヲ削除セリ
(栗塚曰)
第二項ノ露臺ハ存スベシ第一項ニ其他地上ニ爲シタル云々トアルヲ以テ不都合ナケレバナリ
(元尾崎曰)
露臺トハ如何ナルモノカ
(栗塚曰)
築山ノ如キモノナリ
(箕作曰)
築山ノ如キヲ露臺ト云フハ妥當ナラズ
(南部曰)
露臺ヲ削ルベシ
可決ス
第九百八十六條 右ノ責任ニ基ク賠償ノ訴權ハ左ノ時期ヲ以テ時效ニ係ル
物ノ全部滅失ノ場合ニ於テハ其滅失ノ時ヨリ一个年
一分滅失又ハ損壞ノ場合ニ於テハ請負人ノ責ニ任ス可キ期間ノ滿了ノ時ヨリ六个月
無異議
第九百八十七條 若シ原圖劃ノ變更ヨリ生スル代價ノ增額又ハ減額ヲ書面ヲ以テ定メサルトキハ其圖劃ノ變更ヲ口實トシテ工匠又ハ請負人ハ合意セラレタル代價ノ增額ヲ請求スルコトヲ得ス又註文者ハ其減額ヲ請求スルコトヲ得ス〔第千七百九十三條〕
若シ請負中ニ包含セラレタル建築ト全ク異別ナル建築ノ增加又ハ合意セラレタル工事中分別シタル部分ノ廢止アリタルトキハ此條例ヲ適用セス此場合ニ於テ當事者間ニ一致ナキトキハ裁判所ハ原代價ノ增減ヲ定ム
請負人ハ原圖劃又ハ變更セラレタル圖劃カ註文者ヨリ命セラレタルヲ口實トシテ亦第九百八十五條ニ定メタル責任ヲ免カルルコトヲ得ス但請負人カ書面ヲ以テ右ニ關スル責任ノ免除ヲ得タルトキハ此限ニ在ラス
第九百八十八條 請負人カ仕事ノミヲ供スルト材料ヲ併セ供スルトヲ問ハス註文者又ハ其相續人ハ常ニ自己ノ意ノミヲ以テ契約ヲ銷除スルコトヲ得然レトモ請負人ノ既ニ爲シタル仕事ト其準備シタル材料ニ付キ受ケタル損失ト其他ノ損害トヲ請負人ニ賠償シ且請負人ノ其契約ヨリ得ヘキ正當利益ノ全部ヲ之ニ辨濟スルノ義務ヲ負擔ス〔第千七百九十四條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ仕事ノ下ニ「ノ賃銀」ト云フ文字ヲ入レ正當ノ下ニ「ナル」ノ二字ヲ加フ
(槇村曰)
註文者又ハ其相續人トアル相續人ハ明示スルニ及バザルベシ
(元尾崎曰)
又ハ其相續人ト云フ字ヲ削リタシ
(栗塚曰)
之ヲ削ルモ差支ナシ
(槇村曰)
正當ナル利益ノ全部トハ如何
(栗塚曰)
報吿委員中實際裁判官タリシ人ノ說ニハ正當ナル利益ト云ヘバ契約銷除ニ付キ何割ノ損害ヲ讓セリト云フニ付キ賠償ヲ求ムベキモノナルモ個ハ殆ンド稀少ナルベシト然ルニ材木料ト手間賃ヲ支拂ヘバ通常利益アルモノナレバ自ラ正當ノ利益ヲ得ベシ
第九百八十九條 契約ヲ銷除シタルト又ハ他人ノ材料ノ全部若クハ一分ヲ以テ仕事ヲ爲シタルトヲ問ハス請負人又ハ職工ハ仕事ノ爲メ又ハ銷除ノ賠償ノ爲メ自己ノ受ク可キモノノ皆濟ニ至ルマテ其材料ヲ留置スルコトヲ得
此留置權ハ動產物ノミニ之ヲ適用ス〔第五百七十條〕
第九百九十條 註文者カ請負人其者ノ仕事ヲ主眼トシテ契約ヲ爲シタルトキハ其契約ハ請負人ノ死亡又ハ其仕事ヲ爲スノ不能ニ因テ解除セラル〔第千七百九十五條〕
右二個ノ場合ニ於テ註文者ハ請負人又ハ其相續人ニ對シ自己ノ企圖シタル目的ニ付キ利シタル仕事又ハ材料ノ價額ヲ辨濟スルノ責ニ任ス〔第千七百九十六條〕
第九百九十一條 仕事ノ一部分ヲ爲スコトヲ任シタル下請負人ハ其主タル請負人トノ各別ナル關係ニ付テハ前記ノ規則ニ從フ〔第千七百九十九條〕
主タル請負人カ下請負人ニ負擔スルモノヲ辨濟セサルトキハ下請負人ハ註文者カ尙ホ請負人ニ對シテ債務者タル限度ニ於テ註文者ニ對シ自己ノ名ヲ以テ直接ニ訴ヲ起スコトヲ得〔第千七百九十八條〕
尋常職工ハ己レヲ雇ヒタル者カ給料ヲ辨濟セサルトキハ註文者ニ對シテ右同一ノ權利ヲ有ス〔同上〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項ハ一部分ヲ爲スコトヲ任ジタルトアルヲ一部分ヲ爲スコトニ任ジタルトシ「下請負人ハ其主タル」トアルヲ「下請負人ト」シ第二項冒頭ノ主タルト云フ三字ヲ削リ負擔スルノ上ニ對シノ字ヲ入レ「辨濟セサルトキハ下請負人ハ」ノ下自己ノ名ヲ以テ直接ニ註文者ニ對シ其註文者ノ尙ホ請負人ニ辨濟スベキ債務ノ限度ニ於テ訴ヲ起スコトヲ得トシタリ
(元尾崎曰)
前記ノ規則ハ註文人ト請負人トノ間ニ付キ損害賠償ヲ爲シ留置權ヲ有スト云フヲ記示シタルモノニシテ之ヲ請負人ト下請負人トニ關シテ適用スルヲ得ザルモノアリ
(尾崎曰)
各別ナル關係ニ付テハト云フハ請負人ガ註文者ニ對シ幾分ノ仕事ハ下請負人ニ爲サシムル旨ヲ吿知シタル場合ニアラズヤ
(栗塚曰)
否如此ナレバ下請負人ト註文者トノ關係トナルベシ各別ナル關係ト云フハ請負人ト下請負人トノ間ノミニ於ケルト云フ意ナリ
(箕作曰)
各別ナル關係ト云フハ下請負人中ノ各自ヲ云ヘルモノナラン
(松岡曰)
各別ナル關係ニ付テハト云ヘルヲ削除スベシ
(元尾崎曰)
註文者ト請負人トノ關係ハ請負人ト下請負人トノ關係トハ差異アルニアラズヤ
(栗塚曰)
請負人ガ下請負人ニ對スルトキハ請負人ハ恰モ註文人ノ地位ニ立ツモノナレバ差異ナシ
(元尾崎曰)
註文者ハ請負賃ヲ支拂ヒシニ請負人ハ未ダ請負賃ヲ領收セザルト云フヲ以テ下請負人ニ賃拂ヲ爲サザルトキハ下請負人ハ留置權アルガ爲メニ註文者ハ訴ヲ起サザレバ之ヲ受取ルヲ得ズ
(渡曰)
第三者ニ對スル場合ハ之ヲ適用スルヲ得ズ請負人ト下請負人トノ關係ニ止マルノミ
(松岡曰)
適用ハ準用トシテハ如何
(栗塚曰)
第三項ハ「者カ」トアルヲ請負人カトセリ
第二十三章 畜類ノ賃貸
(今村曰)
畜借ニ關シテハ報吿委員ニテ種々論究ノ末遂ニ之ヲ削除スベシト云フニ決セリ其理由ハ起案者ハ畜借ヲ物權ト說明シアルニ其物權タル畜借ヲ人權ノ管下ニ置キシハ甚怪訝ニ堪ヘザルヲ以テ質問シタルニ起案者ハ畜借ハ會社ニ等シキ場合アルヲ賃借中ニ編入スルヲ得ズ依テ編纂上ノ順序斯ニ置クヲ宜シトスルニアリ然ルニ賃借ハ有價物ニアラザレバ定義ニ乖離スルモノナルニ畜借ハ有價物ニアラズシテ勞力ナルヲ以テ賃借ノ部類ニ屬スベキモノニアラズ又起案者ハ蕃畜ハ追々日本ニ於テ需用ヲ倍スルヲ以テ別ニ此規定ナカルベカラズト云フモ日本ノ需用上最モ必要ナレバ農事タルベシ然ルニ其農事ニ付テハ特別ノ規定ヲ擧ゲザルニ未ダ必要ニ切迫セザル畜類賃借ヲ揭グルニ及バズ
(委員長曰)
先ヅ遂條ヲ朗讀スベシ
第一節 單純ナル畜類ノ賃貸
第九百九十二條 單純ナル家畜ノ賃貸ハ大小ノ畜類馬又ハ其他家畜ノ賃貸ニシテ此ニ因リテ賃借人カ其畜類ノ產物ノ一部分ヲ得テ其畜類ノ群又ハ若干頭ヲ保持シ飼養シ及ヒ世話スルノ責ニ任スルモノナリ〔第千八百條、第千八百二條〕
特別ナル合意アラサルトキハ賃借人ハ產子並ニ絨毛ノ半及ヒ乳、卵、肥料並ニ畜類使役ノ全部ヲ有ス〔第千八百四條、第千八百二條第六項及ヒ第七項〕
本條ハ報吿委員ニテ家畜ヲ畜類トシ賃貸ハ賃貸借トシ大小ノ畜類ヲ牛羊トシ此ニ因リテヲ削リ一部分ヲ一部トシ保持シトアルヲ監守シトシ第二項全部ノ下「ニ付權利」ノ四字ヲ加フ
(今村曰)
岩手縣ニ於テ馬種ヲ改良セントスル目的ヲ以テ產馬會社ヲ設ケ縣廳ニ於テ馬群ヲ貸シ其利益ヲ分ケルガ如キ卽チ是ナリ
第九百九十三條 賃借人ハ畜類ノ全部又ハ一分ノ滅失カ直接又ハ間接ニ自己ノ過愆ヨリ生シタルトキニ非サレハ其滅失ヲ負擔セス〔第千八百四條、第千八百七條、第千八百十條〕
賃借人ハ意外ノ事又ハ不可抗力ノ災害ノ責ニ任スルコトヲ得ス〔第百八十二條第一項乃至第五項〕
借畜ニ付シタル評價ハ若シ賃借人カ後日借畜ニ意外ノ減價アリタルコトヲ證明セサルトキハ賃借人ノ責任ヲ定ムルノ基礎ト爲ル〔第千八百五條、第千八百八條〕
右同一ノ場合ニ於テ賃貸人ハ全部滅失ノ後借畜ニ生シタル增價ヲ申立ツルコトヲ得ス
本條第三項ハ報吿委員ニテ若シ後日意外ノ原由ニテ借畜ニ減價アリタルコトヲ賃借人ガ證明セザルトキハ其責任ヲ定ムルノ基礎ト爲ルトセリ可決ス
第九百九十四條 賃借人ハ斃死シタル又ハ用ヲ爲ササルノ畜類ヲ補ヒタル後ニ殘ル所ノモノニ非サレハ產子ノ派分ヲ請求スルコトヲ得ス
又賃借人ハ賃貸人ニ豫吿シタル後ニ非サレハ絨毛ヲ剪取スルコトヲ得ス〔第千八百十四條〕
本條ハ畜類ノ上ニアル「ノ」ヲ削レリ
第九百九十五條 當事者カ期限ヲ定メサリシ畜類ノ賃貸ハ一个年間繼續ス〔第千八百十五條〕
若シ更ニ長キ期間ノ定アルトキハ賃借人ハ一个年後ニ其賃借ヲ抛棄スルコトヲ得但賃貸人カ新賃借人ヲ發見スルニ足ル可キ時間ヲ存シテ豫メ之ニ吿知スルコトヲ要ス
賃借ノ繼續ニ付キ期限ノ定アルト否トヲ問ハス若シ賃借人カ其賃借ノ適正ニ了終スルコト有ル可キ時期後尙ホ引續テ借畜ヲ占有スルトキハ更ニ一个年ノ時期ニ付キ默示ノ更新アリ
第九百九十六條 若シ賃借人カ他ノ所有者ニ屬スル耕地ノ小作人ナルトキハ其土地所有者ハ若シ畜類カ小作人ニ屬セサルコトヲ知ラサルトキハ借地賃ノ辨濟ノ爲メ畜類ヲ差押フルコトヲ得〔第千八百十三條〕
(今村曰)
本條ハ畜類差押ノ點ニ付キ起案者ニ質問セリ
第二節 小作人又ハ分收小作人ニ爲シタル畜類ノ賃貸
第九百九十七條 小作又ハ分收小作ニ於ケル耕地ノ賃貸人カ其小作人又ハ分收小作人ニ其利用ノ一分ヲ爲スモノトシテ馬又ハ家畜ヲ交付シタルトキハ其畜類ノ賃貸ハ主タル賃貸ノ附從ニシテ之ト同一ノ繼續期ヲ有ス然レトモ其他ニ付テハ下ノ例外ヲ除キ前節ノ規則ニ從フ〔第千八百二十九條〕
本節賃貸ハ賃貸借トシ本條其小作人トアル其ヲ削リ馬又ハ家畜ヲトアルヲ畜類ヲトセリ
(村田曰)
畜類中ニハ七面鳥ノ如キヲモ其中ニ入ルカ
(栗塚曰)
然リ
第九百九十八條 小作人ハ右畜類ノ總テノ產物ヲ有ス但斃死シタル又ハ用ヲ爲ササル畜類ヲ每年產子ヲ以テ補フコトヲ要ス〔第千八百二十一條以下〕
又小作人ハ明示ノ合意ヲ以テ意外ノ滅失ヲ自己ノ負擔ト爲スコトヲ得〔第千八百二十五條〕
第九百九十九條 分收小作人ハ乳汁ノ全部ヲ有ス然レトモ產子及ヒ絨毛ハ土地ノ果實ニ於テ有スルト同一ノ部分ノミヲ有ス但總テ之ニ異ナリタル合意ヲ妨ケス
分收小作人ハ畜類ノ意外ノ滅失ヲ自己ノ負擔ト爲スコトヲ得ス〔第千八百二十八條第四項〕
總テノ場合ニ於テ畜類ノ肥料及ヒ使役ハ專ラ之ヲ借地ニ用ユルコトヲ要ス〔第千八百二十四條〕
(栗塚曰)
第一項ハ全部ヲ有ストアルヲ全部ニ付權利ヲ有ストシ同一ノ部分ノミヲ有ストアルヲ同一ノ部分ノミニ付權利ヲ有ストシ末項ハ小作人又ハ分收小作人ハ畜類ノ肥料及ビ使役ヲ專ラ云々トセリ
(元尾崎曰)
同一ノ部分ト云フハ假令バ分收小作ナレバ其收額ト同一ノ割合ニ付キト云フニアルカ
(栗塚曰)
然リ
第三節 共通卽チ會社ニ於ケル畜類ノ賃貸
第千條 第九百九十二條ニ記載シタル本性ノ畜類ノ所有者ハ均等又ハ不均等ノ出資ヲ爲シテ共通元資ヲ成シ其中ノ一人ニ飼養、保持及ヒ世話ヲ委スルコトヲ得〔第千八百十八條〕
產子及ヒ絨毛ハ出資ノ割合ニ應シテ派分セラル〔第千八百十九條第二項〕
畜類ノ乳汁、肥料及ヒ使役ハ其保持ニ任スル者ノミヲ利ス〔第千八百十九條第一項〕
意外ノ事又ハ不可抗力ニ因ル滅失ハ右ニ等シキ割合ヲ以テ各自之ヲ負擔ス〔第千八百十八條〕
其他單純ナル畜類ノ賃貸ノ規則ハ會社ニ於ケル畜類ノ賃貸ニ之ヲ適用ス〔第千八百二十條〕
本節「卽チ會社」ノ四字ヲ削リ賃貸ハ賃貸借トセリ本條ハ第一項ヲ不均等ノ下「ノ出資ヲ爲シテ」ヲ「ニ畜類ヲ出シテ」トシ元資ヲトアルヲ元資トトナシ保持ヲ監守トシ應シテノ下「之ヲ」ノ二字ヲ入レ派分セラルトアルヲ派分ストシ末項ハ右ニ等シキトアルヲ出資ノトシ會社トアルヲ共通トセリ
(渡曰)
本條ニ於テ本章ヲ通過シ終リタルヲ以テ從是全部存廢論ニ付キ議定セラレザルベカラザルナリ本員ハ本章ヲ削除シ他日畜借ノ規定ヲ必要トスル場合ニ於テ之ヲ規定シテ可ナリトス
(松岡曰)
日本ガ此法ヲ必要トスル氣運ニ際スベキハ極テ欲望スルニ堪ヘザル所ナルガ今日ハ未ダ其必要ヲ感ゼザルニ付キ削除スルヲ可トス
(委員長曰)
本章ハ目下必要ニアラザルモ追々獸畜ノ蕃生ヲ促ガスヲ以テ向後必要ニ屬スベキハ瞭々トシテ明ナリ編纂ノ順序ニ於テ議論上牴觸スルハ不可ナルニ付キ其不都合ヲ避クルノ方法ヲ求メタシ實際上實ヲ見ザル限リハ削除セザルハ本會ノ根底トスル所ナレバナリ
(箕作曰)
事實上ニ實點ヲ見ザルモ必要ナラザル條項ヲ設クルガ爲メ民法大體ニ於テ價値ヲ損スルノ害アルニアラズヤ
(委員長曰)
其實ヲ慮ルニ於テハ畜類貸借ニ因ルニアラズ又小作條例ノ如キハ素ヨリ必要ニシテ民法ニ規定シタトキモ時日ノ遑アラザルト容易ニ調査スルヲ得ザルトニアリ
(栗塚曰)
然ラバ農商務省ニ間合スベシ
第八百七十七條 若シ借用物ニ借主ノ知ラスシテ貸主ノ知リタル不表見ノ瑕疵アリ其瑕疵カ身體又ハ財產ニ損害ヲ加フヘキ本性ニシテ且其瑕疵カ實際借主ヲ害シタルトキハ貸主ハ貸借カ無償ナルトキハ自己ノ方ニ於テ詭譎又ハ害スルノ意思アリタルトキニアラサレハ其損害ノ責ニ任セス〔第千八百九十一條、第千八百九十八條〕
若シ貸借カ利息附ナルトキハ貸主ノ知ラサリシ隱レタル瑕疵ト雖モ之ヲ知ルコトヲ得ヘキトキハ其責ニ任ス
其他賣買ノ廢却訴權ニ關スル第七百四十一條乃至第七百四十八條ノ條例ハ適用スルヲ得ヘキタケハ之ヲ貸借ニ適用ス
第八百九十二條 借主ハ物ノ本性ニ因リ又ハ合意ニ因リ定マリタル使用ニ於テ且貸付セラレタル時間ニ於テノミ其借用物ヲ用ユルコトヲ要ス〔第千八百八十條〕
借主ハ他ノ使用又ハ期限後ノ使用ヨリ生スヘキ滅失又ハ損壞ハ勿論又其使用カ遠因ト爲リタル意外ノ滅失ニ付テモ其責ニ任ス〔第千八百八十一條〕
第九百二十八條 代理ハ一般ナリ、確定ナリ又ハ特別ナリ〔第千九百八十七條〕
一般ノ代理卽チ爲スヘキ所爲ノ別段ナル指定ナキ代理ハ委任者ノ資產ノ管理所爲ノミヲ包含ス〔第千九百八十八條〕
若シ代理カ管理又ハ處分若クハ義務負擔ノ別段ニシテ且制限セラレタル本性ノ所爲ノ全體ヲモ包含スルトキハ其代理ハ確定ナリ又其代理ハ或ハ原吿ト爲リ或ハ被吿ト爲リ又ハ訴訟ニ參カリテ裁判上ニテ爲スヘキ若干ノ行爲ヲ包含スルコトヲ得
若シ代理カ上ニ指定シタル本性ノ一箇又ハ數箇ノ成就スヘキ所爲ヲ目的トスルトキハ其代理ハ特別ナリ
本條モ起案者ニ質問セシニ一般ト確定ト特別トニ區別セシハ別ニ理由ナシト云フヲ以テ確定ナリト云フヲ削リ第三項ハ若シ代理カ或ハ管理或ハ處分或ハ義務ニ關シ一箇又ハ數箇ノ制限セラレタル所爲ヲ目的トスルトキハ其代理ハ特別ナリトシ下文ハ總テ之ヲ削除ス
第九百二十九條 總テ代理ハ一般ナルト確定ナルト特別ナルトヲ問ハス其目的タル所爲ヨリ必ス生スヘキ事件ヲ暗ニ包含ス〔第千九百八十九條第一項〕
然レトモ元本ノ義務ヲ負擔スルノ委任ハ其元本ヲ償還スルノ委任ヲ包含セス
元本ヲ要約スルノ委任ハ其元本ノ辨濟ヲ受取ルコトヲ許サス
訴訟ヲ爲スノ委任ハ仲裁人ヲ選任スルコトヲモ又請求ニ承服スルコトヲモ又ハ訴訟ヲ取下クルコトヲモ又和解スルコトヲモ許サス和解スルノ委任ハ仲裁人ニ爭ヲ決セシムルコトヲ許サス又裁判所ニ爭ヲ決セシムルコトヲモ許サス〔第千九百八十九條第二項〕
又仲裁人ヲ選任スルノ委任ハ和解スルノ委任ヲ包含セス又裁判所ニ爭ヲ決セシムルノ委任ヲモ包含セス
本條モ起案者ニ質問ノ末第一項確定ナルトヲ除去シ所爲ヨリ必ズ生ズベキ事件ヲトアルヲ所爲ノ必要ナル續キヲトシ第二項ハ其元本ハトアルヲ之ヲトシ第三項「元本ノ」トアルヲ削リ第五項仲裁人ニノ下「モ又裁判所ニモ」ト云フヲ加ヘ又裁判所云々以下ヲ除去シ末項ハ委任ヲ包含セズトアルヲ委任ヲモトセリ
(箕作曰)
必要ナル續キヲト云フハ適恰ナラザルガ如シ
(栗塚曰)
報吿委員ニテハ必ラズ生ズベキモノヲトシテハ如何ト云フ說モアレリ
(松岡曰)
必ズ生ズベキモノヲトスベシ
可決ス
(委員長曰)
義務ヲ負擔スルノ委任ト云ヘバ義務ヲ償了スル委任ト云フ意味ニ紛ハシカラズヤ
(元尾崎曰)
義務ヲ諾約スルノ委任トシテハ如何
可決ス
第四編 債權卽チ人權ノ抵保卽チ擔保
前置條例
第千一條 法律ノ條例又ハ人ノ處分ニ因リ差押フルコトヲ得スト定メタル物ヲ除キ債務者ノ總テノ財產ハ動產ナルト不動產ナルト現在ノモノナルト將來ノモノナルトヲ問ハス其債權者ノ共同ノ抵保ナリ(第二千九十二條)
差押ヘタル財產カ債務者ノ總テノ義務ヲ辨償スルニ足ラサル場合ニ於テハ其價額ハ債權ノ目的、原由、態樣又ハ相互ノ日附如何ニ拘ハラス其債權額ノ割合ニ應シテ諸種ノ債權者ニ之ヲ付與ス但其債權者ノ間ニ優先ノ正當ナル原由アルトキハ此限ニ在ラス(第二千九十三條)
財產ノ差押並ニ賣買及ヒ順序ニ因レル代價配當卽チ分配ノ方式ハ民事訴訟法ニ於テ之ヲ規定ス(第二千二百十八條)
第千二條 義務ノ履行ハ對人ト物上トヲ問ハス特別ナル擔保ヲ以テ之ヲ保スルコトヲ得
對人ノ抵保卽チ擔保ハ左ノ如シ
第一 保證
第二 債務者又ハ債權者ノ間ノ連帶
第三 任意ノ不可分
是等ノモノハ此編第一部ノ目的タリ
物上ノ抵保卽チ擔保ハ左ノ如シ
第一 留置權
第二 動產質權
第三 不動產質權
第四 先取特權
第五 抵當權
是等ノモノハ此編第二部ノ目的タリ
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ對人ト物上トヲ問ハズトアルヲ對人又ハ物上ノトシ對人ノ下抵保卽チト云フ字ヲ削リ第三第五ノ次是等ノモノ云々ノ行ヲ削レリ
(尾崎曰)
第二債務者ノ下間ノ字ヲ挿入スベシ
可決ス
(栗塚曰)
債務者間又ハ債權者間ノ連帶ト云ヒ任意ノ不可分ト云フモノノ擔保トナルト云フハ奇異ナルガ如シト雖ドモ否ラズ後條追々其然ラザルヲ得ザルモノヲ示セリ
第一部 對人ノ抵保卽チ擔保
第一章 保證
第千三條 保證ハ債務者ヨリ任意ニテ債權者ニ供セラル但其法律上文ハ裁判上ニテ命セラレタル場合ハ此限ニ在ラス
此章ノ條例ハ三種ノ保證ニ共通ナリ
法律上及ヒ裁判上ノ保證ニ特別ナル規則ハ下ノ附錄ニ之ヲ記載ス
本條ハ報吿委員ニテ第一項ヲ保證ハ任意ノモノ有リ法律ノモノ有リ裁判上ノモノ有リトシ第二項條例トアルヲ規定トシ第三項ハ削除スベシト云フニアリ
(南部曰)
第二項ヲモ削除スベシ
可決ス
第一節 保證ノ目的及ヒ本性
第千四條 保證ハ或ル人カ第三者ノ其義務ヲ履行セサルニ於テハ之ヲ辨償スルコトヲ約スル契約ナリ此約務ハ右ノ不履行カ債務者ノ過愆ニ歸ス可キトキハ其不履行ニ付キ債權者ニ賠償スルノ約務ヲ暗ニ包含ス〔第二千十一條〕
本條ハ報吿委員ニテ辨償ヲ履行トシ右ノ不履行カトアル六字ヲ削リ歸ス可キトキハ其不履行ニ付キトアルハ歸ス可キ不履行ノ場合ニ於テトセリ
(村田曰)
履行ノ場合トセシハ履行不能ノ場合ニ於テトシタシ
可決ス
(松岡曰)
過愆ハ過失トスベシ
可決ス
(淸岡曰)
辨償ヲ履行トセシハ不可ナリ
(淸岡曰)
履行ト云フモ辨償ト云フモ差異ナシ
(南部曰)
履行トスルヲ可トス
(松岡曰)
第三者ハ債務者トシテハ如何
(南部曰)
第三者ト云フモ惑ヒナシ
第千五條 保證ハ若シ主タル義務ノ目的ニ非サル目的ヲ有スルトキハ保證トシテハ無效ナリ
然レトモ保證人ハ主タル債務者ノ約シタル物又ハ所爲ノ對價ト看做シ不履行ヲ豫見シタル過怠約定ト看做シタル金額ヲ有效ニ諾約スルコトヲ得
第千六條 保證人ノ義務ハ主タル義務ヨリ一層大ナルコトヲ得ス又主タル義務ヨリ一層重キ條件又ハ態樣ニ服スルコトヲ得ス若シ保證人ノ負擔シタル義務カ一層大ナルトキ又ハ一層重キトキハ主タル義務ノ限度及ヒ態樣ニ之ヲ減ス〔第二千十三條〕
本條ハ「主タル義務ヨリ」及ビ「條件又ハ」ノ四字「負擔シタル」ノ五字ヲ削除ス
第千七條 債務者カ其主タル義務ノ爲メ物上ノ抵保卽チ擔保ヲ供セサルトキハ前條ノ禁止條例ハ保證人カ其從タル義務ノ物上ノ抵保卽チ擔保ヲ供スルコトヲ妨ケス又保證人カ主タル債務者ヨリ一層嚴ナル執行方法ニ服スルコトヲモ妨ケス
保證人ハ亦自ラ「保證人ノ引受人」ト稱スル第三者ヲシテ己レヲ保證セシムルコトヲ得此引受人ニ對シテハ保證人ハ主タル債務者ノ資格ヲ有ス〔第二千十四條第二項、佛訴第百三十五條第五號〕
本條ハ報吿委員ニテ第一項「擔保ヲ供スルコトヲ妨ケス」ノ上ハ債務者ヨリ其主タル義務ノ爲メ物上ノ擔保ヲ供セサルトキハ前條禁止ノ規定ハ保證人ヨリ其從タル義務ノ物上ノ擔保ヲ供スルコトヲ妨ゲストシ第二項ハ「自ラ保證人ノ引受人ト稱スルノ十三字ヲ削リ「第三者ヲ」ノ下ニ「引受人ト」ノ四字ヲ挿入セリ
(村田曰)
前條禁止ノ規定ハト云ヘルヲ冒頭ニ轉置スベシ
可決ス
第千八條 金額又ハ定マリタル物ニ制限セラレタル保證ハ負擔セラレタル物ノ利息ニモ果實ニモ又其他ノ附從物ニモ及フコト無シ
然レトモ主タル義務ノ無限ノ保證ハ要約セラレタルト遲延ナルトヲ問ハス其利息及ヒ其他右債務ノ天然上、法律上又ハ合意上ノ附從物ニ及フ其保證ハ亦主タル債務者ニ對シテ爲サレタル最初ノ請求ノ費用及ヒ訴追カ保證人ニ吿知セラレタル後主タル債務者ニ對シテ爲サレタル費用ニ及フ〔第二千十六條〕
本條ハ報吿委員ニテ保證ハノ下「其負擔セラレタル物ノ」トアルヲ削リ要約セラレタル下ニ利息ノ字ヲ遲延ノ下ニ利息ノ字ヲ加ヘ債務者ニ對シテ爲サレタルトアルヲ債務者ニ對シテ爲シタルトシ請求ヲ訴トシ訴追カトアルヲ其訴ヲトシ吿知セラレタルトアルヲ吿知シタルトシ後主タル債務者ニ對シテ爲サレタルト云ヘルヲ削リ以後ノトセリ
(松岡曰)
物ニ制限セラレタルハ物ニ付制限シタルトシタシ
(南部曰)
物ニ制限シタルトスベシ
可決ス
(松岡曰)
要約セラレタル利息ハ要約ノ利息トシタシ
(栗塚曰)
契約ノ利息トスベシ
可決ス
第千九條 總テ有效ナル義務ハ保證セラルルコトヲ得
無能力者ノ取消スコトヲ得ヘキ義務ト雖モ亦有效ニ保證セラルルコトヲ得テ其義務カ裁判上ニテ取消サレタル後ト雖モ保證ハ其效力ヲ保存ス但保證人カ其保證ノ際債務者ノ無能力ヲ知リタルトキニ限ル〔第二千十二條〕
其他第三者ニ天然義務ノ法定保證ノ場合ハ第五百八十八條以下ニ之ヲ規定ス
本條ハ報吿委員ニテ第一項ヲ義務ハ云々ヲ義務ハ之ヲ保證スルコトヲ得トシ第二項ハ亦有效ニ保證セラルルコトヲ得トシ第二項ハ亦有效ニヲ保證スルコトヲ得且トセリ
(松岡曰)
且ハ又トスベシ
可決ス又保存ストアルヲ存ストス
第千十條 何人ニテモ將來ノ債務ヲ保證スルコトヲ得然ノミナラス債權者又ハ債務者ノ方ニ於テ隨意ノ條件ニ繋ル債務ヲモ保證スルコトヲ得但保證人ニ於テ其債務ノ本性及ヒ廣狹ヲ査定スルコトヲ得ルトキニ限ル
第千十一條 何人ニテモ債務者ノ委任ヲ受ケ又ハ其不知ニ於テ又然ノミナラス其意ニ反シテ其債務者ノ保證人ト爲ルコトヲ得〔第二千十四條第一項〕
辨濟シタル保證人ノ其債務者ニ對スル求償ノ種々ノ場合ハ第二節第二款ニ於テ之ヲ規定ス
(松岡曰)
債務者ノ意思ニ反シテ其保證人ト爲ルコトヲ得ト云フハ必要アリヤ
(南部曰)
義理ノ蘊奧ニ至テハ此等ノ場合モ存スベキヲ以テナリ
(尾崎曰)
然ノミナラズハ削除スベシ
可決ス
第千十二條有效ニ第三者ノ保證人ト爲ルニハ債務者ニ對スルト一般ナルトヲ問ハス無償名義ニテ義務ヲ負擔スルノ能力ヲ有スルコトヲ要ス
然レトモ若シ主タル契約カ有償名義ナルトキハ債務ニ對スル保證人ノ相對無能力ハ債權者カ其無能力ヲ知リタルトキニ非サレハ保證人ヨリ債權者ニ之ヲ對抗スルコトヲ得ス
本條ハ報吿委員ニテ第三者ノト云フ字ヲ削リ第二項ハ契約ガ有償名義ナルトキハノ下保證人ノ債務者ニ對スル無能力ハ債權者カ之ヲ知リタルトキニ非ザレハ保證人ヨリ債權者ニ其無能力ヲ對抗スルコトヲ得ズトセリ
(松岡曰)
第一項債務者ニ對スルト一般ナルトヲ問ハズトアルヲ削リタシ
可決ス
第千十三條 債務ヲ保證スルノ意思カ明確ニ表示セラレサルトキハ其意思ハ明ニ情況ヨリ生スルコトヲ要ス然レトモ其意思ハ契約者ノ一方ヲ他ノ一方ニ薦メ又ハ其一方ノ現在又ハ將來ノ有資力ヲ確言シタル事實ノミヨリ其意思ヲ推測スルコトヲ得ス〔第二千十五條〕
若シ證書ノ署名者中一人カ共同債務者ナリヤ又ハ保證人ナリヤニ付疑アルトキハ其一人ハ單純ナル保證人ト看做サル
本條ハ報吿委員ニテ第一項「薦メ」ヲ慫慂シトシ其意思ヲトアルヲ之ヲトシ第二項署名者中一人カトアルヲ署名者中ノ一人カトシ其一人ハトアルヲ之ヲトシ看做サルヲ看做ストセリ
(松岡曰)
慫慂トセシハ原案ノ薦メトアルヲ可トス
(南部曰)
然リ慫慂ハ否決セラル
第千十四條 保證人ノ約務ハ其相續人ノ負擔ニ歸シ又債權者ノ相續人ノ利益ニ歸ス但反對ノ要約アルトキハ此限ニ在ラス〔第二千十七條〕
無異議
第千十五條 債務者カ保證人ヲ供ス可キ合意ヲ以テ義務ヲ負ヒタルトキハ其債務者ハ債務ノ本性及ヒ重要ニ關シ顯然ナル又ハ證明ススルニ容易ナル有資力ノ人ニ非サレハ保證人トシ又ハ保證人ノ引受人トシテ供スルコトヲ得ス
若シ右ノ如クニ供セラレタル保證人又ハ其引受人カ無資力ト爲リタルトキハ債務者ハ之ト同一ノ條件ヲ具フル他ノ者ヲ供スルコトヲ要ス〔第二千二十條第一項〕
其他保證人ハ辨濟ノ爲サル可キ控訴院ノ管轄地内ニ於テ住所ヲ有シ又ハ之ヲ選定スルコトヲ要ス〔第二千十八條、第二千十九條〕
債權者ヨリ人ヲ指定シテ保證人ヲ要約シタルトキハ前記ノ條件ヲ要セス〔第二千二十條第二項〕
本條ハ報吿委員ニテ第一項顯然ナル又ハ證明スルニ容易ナルトアルヲ削リ保證人トシ又ハトアルヲ保證人トシテ供スルコトヲ得ズ但シトシ保證人ノ引受人トシテ供スルコトヲ得ズトアルヲ保證人ノ引受ニ付テモ亦同ジトセリ
(松岡曰)
保證人トシ又ハ保證人ノ引受人トシテ供スルコトヲ得ズトアル原案ヲ可トス
第千十六條 若シ債務者カ上ニ要セラレタル條件ヲ具フル保證人又ハ引受人ヲ供スルコト能ハサルトキハ裁判所ノ認可ヲ得テ動產又ハ不動產ノ物上抵保ヲ與フルコトヲ得〔第二千四十一條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ又ハ引受人トアルヲ削除シタキモ前條ニ於テ又ハ其引受人ト云フヲ削除スルノ否決セラレタルニ依リ本條モ自然之ヲ存在セシメザルヲ得ズ抵保ハ擔保トセリ
(松岡曰)
本條ハ強テ必要トスルニアラザルモ就中裁判所ノ認可ヲ得テト云フハ愈其不要ナルベシ議協ハザルトキハ裁判所ノ認可ヲ經ルコトアルベキモ協議上差支ナキ場合ニハ決シテ裁判所ノ認可ヲ受クベキ必要ナシ
(尾崎曰)
裁判所ノ認可ヲ得テト云ヘバ何レノ場合ト雖ドモ必ラズ裁判所ノ認可ヲ得ザルベカラサルガ如シ
(栗塚曰)
議協ハザルトキハ自然裁判所ノ認可ヲ得ザルベカラズ
(村田曰)
裁判所之ヲ認可スルモ債權者其擔保ヲ甘諾セザルトキハ其擔保ヲ供スルヲ得ザルベシ
(渡曰)
裁判所ノ認可ヲ得テト云フ字ハ存在セシムルモ不都合ナシ
(北畠曰)
但議協ハザルトキハ裁判所ノ認可ヲ得ベシト云フニシテ末尾ニ附シテハ如何
(栗塚曰)
明カニ但シト云フニ及ハザルベシ百圓額ノ債務ニ付テハ百圓額ニ相當スル擔保ヲ與ヘザルベカラズ其擔保ハ動產ヲ供スルト不動產ヲ供スルトハ債務者及ビ債權者ノ便宜上ニ於テ議協ハザルコトナシト云フベカラズ其議協ハザルトキハ裁判所ノ認可ヲ得ザルベカラズ
(委員長曰)
裁判所ノ認可ヲ得テ與フルコトヲ得トアルヲ以テ裁判所ノ認可ヲ得ザルベカラザルトキト否トアリ
(南部曰)
双方議協ハザル場合ヲ除クノ外裁判所ノ認可ヲ得ルニ及バザルコト言ヲ俟タズ苟シクモ多少法律ニ通ズルモノノ惑ヒナキ所ナリ
(栗塚曰)
末尾ニ若シ議協ハザルトキハ裁判所ノ認可ヲ受クベシト云フヲ附シテハ如何
(西曰)
其修正ハ甚不可ナリ争ヒアラザル事件ヲ以テ裁判所ノ認可ヲ受クベキモノニアラズ
多數ニ依リ原案ニ可決ス
(槇村曰)
冒頭ノ若シ債務者カトアルハ債務者ハ若シト云フベキニアラズヤ
(渡曰)
個ハ修正スベキ必要ナシ
(村田曰)
動產又ハ不動產ノト云フ字ハ必要ニアラズ物上擔保ト云ヘバ動產ト不動產ヲ包含スベキモノナレバナリ
(栗塚曰)
冒頭ハ債務者若シ云々トシテハ如何
可決ス
(松岡曰)
動產又ハ不動產ノト云フ字ハ削除スルニ同意ナリ
(槇村曰)
然リ
(渡曰)
動產又ハ不動產ノト云フヲ削ルト云フハ好事者ト云フベシ
結局動產又ハ不動產ノトアルヲ削除ス
第千十七條 商ヒ證券ノ保證ノ特例及ヒ仲買人カ委託者ニ對シテ約シタル擔保ハ商法ニ於テ之ヲ規定ス
(松岡曰)
本條ハ削除スベシ民法外ノ特例ハ其特例ニ於テ記示スベケレバナリ
(村田曰)
本條ヲ削除スルト云フハ不可ナリ
(南部曰)
本條ハ商法ノ報吿委員ニ協議シタシ
可決ス
第二節 保證ノ效力
第一款 保證人ト債權者トノ間ニ於ケル保證ノ效力
第千十八條 債權者ハ債務者ニ爲シタレトモ效果アラサリシ辨濟又ハ履行ノ催吿ノ證ヲ供セスシテ保證人ヲ訴追スルコトヲ得ス〔第二千十一條〕
然レトモ若シ債務者カ行方知レス又ハ宣吿セラレタル破產若クハ顯然タル無資力ノ形狀ニ在ルトキハ右ノ催吿ヲ必要トセス
本條ハ報吿委員ニテ債務者ニノ下「爲シタルトモ效果アラサリシ」ト云フヲ削リ履行ノ催吿ノ證ヲ供セストアルヲ履行ノ催吿ヲ爲シタルモ其效果アラザリシコトノ證據ヲ供セズトセリ
(松岡曰)
辨濟又ハ履行トアルモ辨濟ト云ヘバ履行ヲ包含シ履行ト云ヘバ辨濟ヲ包含スルモノナルヲ以テ辨濟又ハ履行ト云フニ及バザルベシ
(栗塚曰)
辨濟又ハノ字ヲ削ルモ可ナリ
(淸岡曰)
履行ノミニテハ不充分ニアラズヤ
(栗塚曰)
義務ノ字ヲ挿入スベシ
可決ス
(松岡曰)
第二項行方知レズト云フハ妥當ナリヤ
第千十九條 其他保證人ハ下ノ制限及ヒ條件ニ從ヒ債權者カ豫メ債務者ノ財產ヲ討索シテ之ヲ賣ラシムルコトヲ債權者ニ要求スルコトヲ得〔第二千二十一條〕
第千二十條 保證人カ明示又ハ默示ニテ財產討索ノ利益ヲ抛棄シ又ハ主タル債務者ト連帶シテ義務ヲ負擔シタルトキハ保證人ハ討索ノ利益ヲ享ケス〔第二千二十一條〕
總テノ場合ニ於テ若シ保證人カ基本ニ於テ主タル債務ヲ爭フノ前ニ債權者ニ討索ノ利益ヲ對抗セサリシトキハ保證人ハ其利益ヲ失フ〔第二千二十二條〕
第千二十一條 討索ヲ要求スル保證人ハ債權者ノ訴追ニ於テ債務者ノ不動產ニシテ辨濟ノ爲サル可キ控訴院ノ管轄地内ニ在ルモノヲ指示スルコトヲ要ス
保證人ハ爭ニ係ル不動產ヲモ又優先ニテ他ノ債權者ニ抵當ト爲サレタル不動產ヲモ又訴追シタル債權者ニ抵當ト爲サレタル不動產カ第三保有者ノ手裏ニ存スルトキハ不動產ヲモ指示スルコトヲ得ス〔第二千二十三條〕
債務者ニ屬スル物又ハ移動有價物ニ關シテハ保證人ハ其物又ハ有價物カ物上抵保トシテ既ニ債權者ニ供セラレタルトキニ非サレハ其討索ヲ要求スルコトヲ得ス
第千二十二條 若シ債權者カ有效ニ討索ヲ對抗セラレタル債務者ノ財產ヲ討索スルコトヲ怠リテ債務者カ其後無資力ト爲リタルトキハ保證人ハ債權者カ討索ニ因リ得タル可キ金額ニ滿ツルマテ其義務ヲ免カル〔第二千二十四條〕
第千二十三條 若シ一人ノ債務者ノ爲メ數名ノ保證人アルトキハ債務ハ分頭卽チ均等ノ部分ニテ當然其間ニ分タル但其部分カ右ニ異ナリテ定メラレ又ハ右ノ保證人カ或ハ債務者ト共ニ或ハ自己ノ間ニ連帶シテ義務ヲ負擔シ若クハ其他ノ方法ニテ分割ヲ抛棄シタルトキハ此限ニ在ラス
保證ノ約務カ各別ノ證書ヨリ生スルトキト雖モ右ノ利益存在ス〔第二千二十五條乃至第二千二十七條〕
本條ハ報吿委員ニテ第一項分頭卽チトアルヲ削リ第二項右ノトアルヲ分割ノトセリ
(栗塚曰)
利益ノ下ニ「ハ」ノ字ヲ入レテハ如何
可決ス
(松岡曰)
各保證人中無資力ニ陷リシモノアルトキハ債權者ハ自己ノ損耗ニ歸スベキモノニシテ各保證人中ニ連却義務ヲ有セザルベシ
(委員長曰)
第二項ハ如何
(栗塚曰)
保證ハ借用證中ニ記載スベキモノナルモ否ラズシテ別紙ノ證書ニ依リ保證義務ノ生ジタルトキト雖ドモ分割ノ利益ハ存在スト云フニアリ
(委員長曰)
然ラバ前項ト牴觸スルニアラズヤ何トナレバ前項ニハ右ニ異ナリテ定メラレ又ハ右ノ保證人カ自己ノ間ニ連却シ義務ヲ負擔シタルトキハ此限ニアラズトアルニ第二項ニテハ各別ノ證書ヨリ生ズルトキト雖ドモ分割ノ利益ハ存在ストアルヲ以テナリ
(栗塚曰)
各別ノ證書ト云フハ同一ノ證文ニアラザルヲ云フモノナリ
(村田曰)
契約ヲ別個ニ爲シタルトキト雖ドモトシテハ如何
(栗塚曰)
各別ノ契約トシテハ如何ト思考スルモ之ヲ各別トスルモ委員長ノ疑團ヲ解クベカラズ
(南部曰)
原案ノ儘ニテ了然ナルベシ
第千二十四條 保證人カ討索ノ利益ヲ用ヰタルト否トヲ問ハス又分割ノ利益ヲ享クルト否トヲ問ハス裁判上ニテ訴追セラレタルトキハ其保證人ハ第千二十九條ニ明示シタル目的ヲ以テ債務者ヲ訴訟ニ參カラシムル爲メ基本ニ於ケル總テノ答辯前ニ民事訴訟法ニ定メタル方式及ヒ條件ニ從ヒ債權者ニ延期抗辯ヲ對抗スルコトヲ得〔佛訴第百七十五條以下〕
本條ハ報吿委員ニテ「トキハ其」トアルヲ削レリ
可決ス
第千二十五條 保證人カ基本ニ付テ答辯スルトキハ債權者ニ主タル債務ノ組成又ハ其消滅ヨリ生シタル抗辯又ハ不受理ノ理由ヲ對抗スルコトヲ得
保證人カ債務ヲ保證スルニ當リ債務者ノ無能力又ハ其承諾ノ瑕疵ヲ知ラサリシトキハ保證人ハ亦是等ノ事項ヨリ生スル無效方法ヲ對抗スルコトヲ得〔第二千三十六條〕
第千二十六條 右ノ抗辯ニ付キ債權者ト保證人トノ間ニ爲サレタル判決ハ債務者ヲ害スルコトヲ得ス然レトモ之ヲ利スルコトヲ得
然レトモ右ノ判決ノ牽連シタル箇條ハ債務者ニ利ナルモノト不利ナルモノトヲ分ツコトヲ得ス
本條ハ報吿委員ニテ第二項ノ然レドモ右ノト云フヲ削リ但其トシテ之ヲ別項ニスベシト云フニアリ
(槇村曰)
但其ト云フヲ別項ニスルハ不都合ナリ
(栗塚曰)
債務者ハ其判決ニ付キ之ヲ利スルコトヲ得ルモ其牽連シタル箇條ニ付テハ利不利ヲ分ツコトヲ得ズト云フニアリ
(淸岡曰)
本條ハ如何ナル場合カ
(南部曰)
假令バ甲者金千圓ヲ借用セシニ乙者其保證人タリ右甲者無能力者ナルカ爲メ其債務ヲ消除セザルベカラズ然ルニ借用金中既ニ半額ヲ以テ家屋ヲ建築シタリトセバ乙者ハ右ノ保證ヲ免ルルヲ得ベキモ建築費ニ付テハ不當ノ利益ナルヲ以テ乙者ハ其保證ノ責メニ任ゼザルベカラズ
(委員長曰)
但其トアルハ然レドモ右ノトスベシ
(村田曰)
然レドモ其トスルヲ可トス
可決ス
第千二十七條 債務者ニ對シテ時效ヲ中斷シ又ハ債務者ヲ遲滯ニ付スル所爲ハ保證人ニ對シテ同一ノ效力ヲ生ス〔第二千二百五十條〕
保證人ニ對シテ爲シタル右同一ノ所爲ハ保證人カ債務者ノ委任ヲ受ケ又ハ債務者ト連滯シテ義務ヲ約シタルトキニ非サレハ債務者ニ對シテ時效ヲ中斷セス
本條ハ報吿委員ニテ第二項保證人ニ對シテ爲シタルトアル「テ爲シ」ノ三字ヲ削リ時效ヲ中斷セストアルヲ效力ヲ生セストセリ
可決ス
第千二十八條 主タル債務者ノ爲シタル自白又ハ債務ノ認知及ヒ債務者ト債權者トノ間ニ爲シタル裁判外ノ宣誓又ハ其拒絕ハ保證人ヲ利シ又ハ之ヲ害ス
保證人ト債權者トノ間ニ爲シタル右同一ノ所爲ハ債務者ヲ利ス然レトモ委任又ハ連帶アル場合ニ非サレハ之ヲ害セス〔第千三百六十五條第三項第五項及ヒ第六項〕
本條ハ報吿委員ニテ裁判外ノト云フ文字ヲ削除セリ
(松岡曰)
裁判所外ノミナラズ裁判所内ト雖ドモ宣誓ナカルベシ
(委員長曰)
宣誓スルモノアルトキハ裁判所ハ之ヲ許サズト云フヲ得ザルベシ
(松岡曰)
日本ノ習俗ニハ宣誓シテ債務ヲ決定スルコトナカルベシ
(南部曰)
證據篇ニ至テ此點ヲ議決シタシ
(村田曰)
債務ノ認知トアル債務ハ自白ニモ關スルニアラズヤ
(栗塚曰)
自白ニモ關スルヲ以テ債務ノト云フ三字ヲ自白ノ上ニ轉入スベシ
可決ス
第二款 保證人ト債務者トノ間ニ於ケル保證ノ效力
第千二十九條 債權者ヨリ訴追セラレタル保證人ハ第四百十九條及ヒ第千二十四條ニ揭ケタル如ク主タル請求ニ對シ債務者ノ答辯ヲ要ス可キ場合ニ於テ其答辯ヲ爲サシムル爲メ又債務者カ敗訴ノ言渡ヲ受クル場合ニ於テハ其債務者ニ對シ次條ニ定メタル賠償ノ言渡ヲ得ル爲メ附帶ノ請求ヲ以テ債務者ヲ訴訟ニ召喚スルコトヲ得
右ノ附帶ノ擔保請求ハ債務者ノ委任ヲ受ケテ義務ヲ約シタル保證人ノミニ屬ス
第千三十條 主タル債務ヲ任意ニテ辨濟シ又ハ其他自己ノ出損ヲ以テ債務者ニ義務免除ヲ得セシメタル保證人ハ下ニ定メタル區別ニ從ヒ債務者ヲシテ己レニ賠償セシムル爲メ之ニ對シテ擔保訴權ヲ有ス
第一 若シ保證人カ債務者ノ委任ニ憑テ義務ヲ約シタルトキハ其保證人ハ其債務者ニ義務免除ヲ得セシメ又ハ債務者ノ名ニテ辨濟シタル元本及ヒ利息ノ額、其擔當シタル費用、立替ヲ爲シタル時ヨリ其立替金ノ利息及ヒ其他損害アルトキハ總テ其損害賠償ノ金額ヲ債務者ヲシテ己レニ償還セシム
又此委任ノ場合ニ於テ保證人ハ其保證人タルノ分限ヲ以テ言渡ヲ受ケタル時ヨリ賠償ヲ受クル爲メ訴フルコトヲモ得
第二 若シ保證人カ債務者ノ知ラサルニ事務管理者トシテ義務ヲ約シタルトキハ其保證人ハ債務者ノ義務免除ノ日ニ於テ之ニ得セシメタル有益ノ限度ニ於テ右ノ賠償ヲ受ク
若シ保證人カ債務者ノ意ニ反シテ義務ヲ約シタルトキハ右ノ賠償ハ保證人ノ求償ノ日ニ於テ債務者ノ爲メ存在スル有益ノ限度ニ非サレハ保證人ニ辨濟セラレス〔第二千二十八條〕
(栗塚曰)
本條ハ保證人ハノ下「下ニ定メタル區別ニ從ヒトアルヲ削リ債務者ヲシテトアルヲ債務者ヨリトシ己レニノ三字ヲ削リ賠償セシムルトアルヲ賠償ヲ受クルトシ擔保訴權ヲ有ストアル下ニ但左ノ區別ニ從フノ一句ヲ補足シ第一ハ「其保證人ハ」ト云ヘルヲ削除シ利息ノ額トアルヲ利息トシ立替金ノ利息及ビトアル及ビヲ削リ總テ其損害賠償トアルヲ其賠償トシ債務者ヲシテトアルヲ債務者ヨリトシ「己レニ」ノ三字ヲ削リ保證人タルノ分限トアルヲ保證人タル分限トス第二其保證人ハトアルヲ削リ有益ノ限度ニ於テト云ヘルヲ有益ノ限度ニ從ヒトシ「右ノ賠償ハ」トアルヲ削リ保證人ニ辨濟セラレズトアルヲ「右ノ賠償ヲ受クルコトヲ得ストセリ
(松岡曰)
主タル債務ヲ任意ニテトアル任意ニテハ削リタシ
(栗塚曰)
第一ニ義務免除ヲ得セシメトアルハ必要ニ付キ任意ニテ償却セシト任意ニアラズシテ償却シタルトヲ甄別スルハ必要ト云フベシ
(村田曰)
任意ニテト云フハ保證人ヲシテ眞個ノ辨濟ニアラズト云フヲ得ザラシメンガ爲メ必要ナリ
(松岡曰)
任意ハ強制ニ對スル文字ナルヲ以テ債權者カ強制ニ償却セシメシニアラザル以上ハ任意ノト云ハザルベカラズ故ニ任意ノ字ハ殆ンド無用ナリ
(尾崎曰)
出損ト云フハ適當ニアラザルベシ
(栗塚曰)
出損ハ自己ノ資力ヲ犠牲ニシテト云フ義ナリ
(北畠曰)
保證人ハ第二ノ義務者ナレバ其義務ヲ盡サルルヲ得ズ
(栗塚曰)
保證人ガ債務者ヲシテ其義務免除ヲ得セシムルモ自己ノ出損ヲ爲サザルベカラズト云フニアリ
(尾崎曰)
出損トアル損ハステルト云フ字ナルヲ以テ自ラ出損シタルモノニ付キ求償權アルベキ理ナシ
結局出損ノ二字ハ再調査ノ詮議ニ附スベシ任意ニテノ四字ハ削除シ決ス
(栗塚曰)
本條ハ第千十一條ト交渉シ債務者ノ委任ヲ受テ其保證トナリタル場合ヲ云ヒ第二ハ不知ニテ及ビ其意ニ反シテ保證人ト爲リシ場合ヲ云フ其意ニ反シテハ尙ホ起案者ニ代位辨濟ト異ナルヤ否ヲ質問シ置シニ付追テ變更スルヤ知ルベカラズ
第千三十一條 連帶又ハ不可分ニテ責ニ任スル數名ノ債務者ヨリ保證人ニ委任ヲ爲シタル場合ニ於テハ其總テノ債務者ハ第九百四十五條ニ從ヒ保證人ニ對シ連帶ノ擔保人タリ
第千三十二條 第千三十條ニ定メタル求償權ハ債務者カ請求ニ對抗ス可キ手續失效ノ答辯方法ヲ有シタルコトヲ證明スルトキハ其債務者ヲ訴訟ニ參カラシムルコトヲ怠リタル保證人ニ屬セス
若シ債務者カ債權者ニ對抗ス可キ延期抗辯ノミヲ有シタルトキハ懈怠ノ保證人ノ求償ニ對シ亦之ヲ對抗スルコトヲ得
(栗塚曰)
本條第一項ハ債務者ヲ訴訟ニ參加セシムルヲ怠リタル保證人ハ其債務者ニシテ債權者ニ對抗ス可キ排訴抗辯ヲ有シタルコトヲ證明スルトキハ第千三十條ニ定メタル求償權ナシト云フニアリ第二項ハ「亦」ヲ削レリ
(松岡曰)
排訴抗辯ハ妨訴抗辯ナルカ
(栗塚曰)
不受理ノ抗辯ノ如シ
(松岡曰)
排訴抗辯ハ訴訟法ト參酌シタシ
(栗塚曰)
然リ
(淸岡曰)
第二項懈怠ノ保證人トアルハ怠リタル保證人トシタシ
(村田曰)
然リ
(栗塚曰)
報吿委員ニテハ懈怠ノ保證人トシテ不可ナシト云フニアリ
第千三十三條 保證人カ有效ニ辨濟シタルモ債務者ニ有益ニ其辨濟ヲ通知スルコトヲ怠リテ債務者カ善意ニテ再ヒ辨濟シ又ハ其他ノ方法ヲ以テ有償名義ニテ自己ノ免責ヲ得タルトキハ保證人ハ亦其求償權ヲ失フ〔第二千三十一條〕
右ニ反シテ債務者カ自ラ債務ヲ消滅セシメタルコトヲ保證人ニ通知スルコトヲ怠リタルトキハ債務者ハ場合ニ從ヒ其債務ノ消滅後保證人ノ爲シタル辨濟ニ付キ責任アリト宣吿セラルルコトヲ得
是等種々ノ場合ニ於テ利害ノ關係アル當事者ハ受取ルコトヲ得サルモノヲ受取リタル債權者ニ對シテ求償權ヲ有ス〔同上〕
第千三十四條 委任ヲ受ケテ義務ヲ約シタル保證人ハ辨濟スル前然ノミナラス訴追セラルル前ト雖モ左ノ三箇ノ場合ニ於テ豫メ債務者ヨリ賠償ヲ受クル爲メ又ハ未定ノ損失ヲ擔保セシムル爲メ債務者ニ對シテ訴ヲ起スコトヲ得
第一 若シ債務者カ破產シ又ハ無資力ト爲リテ債權者カ淸算ニ於テ配當ヲ受ク可キ順序中ニ入ラサルトキ〔第二千三十二條第二號〕
第二 若シ債務ノ滿期ニ到リタルトキ〔第二千三十二條第四號、第二千三十九條〕
第三 若シ債務カ其日附ヨリ十ケ年ヲ過キテ其滿期カ極點ニ付テモ不定ナルトキ〔第二千三十二條第五號〕
第千三十五條 債權者カ完全ノ辨濟ヲ受ケサル間ハ前條及ヒ第千三十條ニ憑リ豫メ保證人ニ供ス可キ賠償ハ債務者其債權者ニ對シ自己ノ免責ヲ保スル爲メ債權者ノ名ヲ以テ之ヲ供託シ又ハ其他ノ方法ニテ之ヲ留保スルコトヲ得
(栗塚曰)
本條ハ豫メノ上ニ債務者ヨリト云フ文字ヲ加入シ債權者ニ對シトアルヲ債權者ニ對スルトセリ
(元尾崎曰)
本條ハ無要ニアラズヤ
(栗塚曰)
報吿委員ニテモ其論アリシモ削除スベカラズ之ヲ瞥見スレバ保證人ニ供スベキ賠償アレバ直チニ債權者ニ償還スレバ足レル如シト雖ドモ前條ニ於テ既ニ訴追前ニ係ル訴ヲ起スコトヲ得トアルヲ以テ本條ハ無用ト云フヲ得ズ
第千三十六條 主タル債務ヲ辨濟シ又ハ其他ノ方法ヲ以テ債權者ニ辨濟シタル保證人ハ己レノ權利ニテ有スル訴權ノ外第千三十二條及ヒ第千三十三條ニ定メタル制限ニ從ヒ債務者又ハ第三者ニ對シテ債權者ノ有シタル總テノ權利ニ付キ第五百四條第一號ニ從ヒテ代位ス〔第二千二十九條〕
右代位ノ利益ハ總テノ保證人ノ爲メニ存シ又債務者ノ意ニ反シテ義務ヲ約シタル保證人ノ爲メニモ存ス
若シ債權者カ債務者ノ不動產ニ付キ先取特權又ハ抵當權ヲ有シ其先取特權又ハ抵當權ノ記入ヲ爲シタルトキハ保證人ハ自己ノ得ヘキ代位ニ着目シテ自己ノ條件付ノ債權ヲ右記入ノ縁邊ニ附記セシムルコトヲ得又移付ノ場合ニ於テハ第三保有者ハ滌除ノ爲メノ提供中ニ保證人ノ條件付ノ債權ヲ包含セシムルコトヲ要ス
若シ債權者カ有益ナル時期ニ於テ記入ヲ爲ササリシトキハ保證人ハ第五百三十四條及ヒ第千四十五條ニ從ヒ債權者ニ對シテ自己ノ免責ヲ請求スルコトヲ得
第千三十七條 若シ連帶又ハ不可分ナル義務ノ數名ノ債務者アルトキハ保證人カ其中或ル者ヲ保證シ他ノ者ヲ保證セサルトキト雖モ保證人ハ右ノ代位ニ憑リ債務者ノ各自ニ對シ全部ニ付キ求償スルコトヲ得〔第二千三十條〕
(栗塚曰)
本條ハ若シノ二字ヲ削リ債務者アルトキハノ下保證人カトアルヲ保證人ハトシ右ノ代位ノ上ニアル「保證人ハ」ノ文字ヲ削レリ
(元尾崎曰)
委任セザルモノノ代位ヲ爲スハ如何
(栗塚曰)
連帶又ハ不可分義務ナルヲ以テナリ
第三款 共同保證人ノ間ニ於ケル保證ノ效力
第千三十八條 同一ノ債務ニ付キ數名ノ保證人卽チ共同保證人アリテ其中ノ一人カ債務ノ全部ヲ辨償シタルトキハ任意ニ出テタルト否トヲ問ハス保證人ハ主タル債務者ニ對スル其求償ニ付キ上ニ記載シタル條件、制限及ヒ區別ニ從ヒ或ハ事務管理ノ訴權ニ因リ或ハ債權者ノ訴權ニ因リ分頭部分ニ付キ他ノ保證人ノ各自ニ對シテ求償スルコトヲ得〔第二千三十三條〕
若シ右ノ保證人カ債務ノ全部ヲ辨償セスシテ自己ノ部分ヨリ多ク辨濟シタルトキハ右ノ超過額ノ爲メノ求償ハ他ノ共同保證人ノ間ニ平等ニ分タル
本條ハ其中ノ一人カノ下ハ任意ナルト否トヲ問ハズ債權ノ全部ヲ辨濟シタルトキハ其保證人ハ主タル債務者ニ對スル辨償ニ付キ云々「分頭部分ニ付キ」ヲ削ク各自ニ對シノ下均等部分ニ付辨償スルコトヲ得トセリ第二項辨償ヲ辨濟トシ右ノトアルヲ其トシタリ
(委員長曰)
分頭部分トセズ均等部分トシタルハ如何
(栗塚曰)
分頭部分ト云ヘバ分頭部分上差額ヲ生ズルヲ免レザル恐ニアレバナリ
(渡曰)
均等ト平等トハ差異ナカルベシ
(栗塚曰)
平等ハ均等トスベシ
可決ス
第千三十九條 若シ共同保證人ノ一人カ無資力ナルトキハ辨濟シタル者ハ無資力者ヲ保證シ卽チ引受ケタル者ニ對シテ求償權ヲ有ス引受人アラサルトキハ無資力者ノ部分ハ債務ヲ辨償シタル者ヲ加ヘ他ノ有資力ナル共同保證人ノ間ニ配當セラル〔第二千三十三條第一項〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ共同保證人中ニ無資力者アルトキハ辨濟シタル者ハ其無資力者ノ引受ケ人ニ對シテ云々トセリ
(松岡曰)
共同保證人中互相ハ連帶ノ契約アラザルニ其中一人ノ辨濟シタル部分ハ各自互ニ其配當ヲ受ケザルベカラザルカ
第千四十條 前條ニ憑テ訴ヘラレタル共同保證人ハ未タ主タル債務者ノ財產ノ討索アラサルトキハ第千二十條以下ニ於テ此事ニ付キ定メタル規則及ヒ條件ヲ遵守シテ豫メ主タル債務者ノ財產ノ討索ヲ請求スルコトヲ得
右同一ノ權利ハ保證人ノ引請人ニ屬ス
第千四十一條 若シ數名ノ保證人カ連帶シテ義務ヲ約シ又ハ不可分債務ノ爲メ義務ヲ約シタルトキハ全部履行ニ付キ訴ヘラレタル者ハ同一ノ判決ヲ以テ前數條ニ許サレタル言渡ヲ共同保證人ニ對シテ得ル爲メ本訴ニ附帶シテ其共同保證人ヲ擔保ニ召喚スルコトヲ得
本條ハ連帶又ハ不可分債務ノ爲メ義務ヲ約シタル數名ノ保證人中全部履行ニ付キ訴ヘラレタル者ハ本訴ニ附帶シテ共同保證人ヲ擔保ノ爲メ召喚シ之ニ對シ同一ノ判決ヲ以テ前數條ニ許サレタル言渡ヲ受ケシムルコトヲ得トセリ可決ス
第千四十二條 保證人ノ一人ニ對シテ爲サレタル時效中斷ノ所爲及ヒ付遲滯ハ他ノ保證人ニ對シテ其效ナシ但其約務カ連帶ナルトキハ此限ニ在ラス
債權者ト保證人一人トノ間ニ主タル債務ニ關シ爲サレタル判決、自白、認知及ヒ裁判外ノ宣誓又ハ其拒絕ハ他ノ保證人ヲ利ス可キトキハ之ヲ利ス然レトモ之ヲ害スルコトヲ得ス
本條ハ報吿委員ニテ第一項ヲ保證人ノ一人ニ對シテ時效ヲ中斷シ又ハ之ヲ遲滯ニ付スルノ所爲ハ他ノ保證人ニ對シ云々トシ
第二項ハ債權者ト保證人ノ一人トノ間云々保證人ヲ利スルコトヲ得然レトモ之ヲ害スルコトヲ得ストセリ可決ス
第千四十三條 保證人ノ一人又ハ數人カ無資力ト爲リタルトキハ相互ニ連帶シタル保證人ノ間又ハ債務者連帶シタル保證人ニ第千六十八條第千六十九條及ヒ第千七十條ヲ其各條ニ記載シタル區別ヲ以テ適用ス
(栗塚曰)
本條ハ債務者ノ下「ト」ノ字連帶シタル保證人ノ下「ノ間」ヲ挿入セリ
(委員長曰)
債務者ト連帶シタル保證人ノ間ニト云ヘバ債務者ト保證人ト連帶シタルモノニアラザルカ如シ
(栗塚曰)
相互ニ連帶シタル保證人ト債務者ト連帶シタル保證人トヲ云フニアリ
第三節 保證ノ消滅
第千四十四條 保證ハ義務消滅ノ通常ノ原由ニ因リ直接ニ消滅ス〔第二千三十四條〕
保證ノ更改、合意上ノ釋放、相殺及ヒ混同ハ第五百二十四條、第五百三十三條、第五百四十三條及ヒ第五百六十條ニ之ヲ規定ス〔第二千三十五條〕
第千四十五條 債權者カ故意ノ所爲ニ因リ又ハ單純ナル懈怠ニ因リテモ保證人ノ其代位ニ因リテ得取スルコトヲ得ヘキ抵保ヲ滅シ又ハ危クシタルトキハ保證人ハ債權者ニ對シ自己ノ免責ヲ請求スルコトヲ得〔第二千三十七條〕
總テ保證人ハ區別ナク又保證人ノ引受人ハ保證人ノ權利ニ依リ右ノ權利ヲ援唱スルコトヲ得
第千四十六條 保證ハ主タル義務ヲ了終スル總テノ原由ニ因リ間接ニ消滅ス〔第二千三十六條〕
債權者ト主タル債務者トノ間ニ爲サレタル代物辨濟、更改、合意上ノ釋放、相殺及ヒ混同ノ保證人ニ對スル效力ハ第四百八十二條、第五百二十三條、第五百二十八條、第五百四十三條及ヒ第五百六十條ニ之ヲ規定ス〔第千二百八十一條第二項、第千二百八十七條、第千二百九十四條第一項、第百三十條第一項及ヒ第二項第二千三十八條〕
(栗塚曰)
義務ヲ了終スルトアルヲ義務消滅トスベシ
可決ス
附錄 法律上ノ保證及ヒ裁判上ノ保證
第千四十七條 法律ノ條例又ハ判決ニ從ヒ保證人ヲ立ツルノ責ニ任スル者ハ自ラ保證人ヲ立テント約シタルトキト同一ノ條件及ヒ第千十五條並ニ第千十六條ニ定メタル如キ條件ヲ具フル保證人ヲ立ツルコトヲ要ス〔第二千四十條〕
法律上及ヒ裁判上ノ保證人承認ノ方式ハ民事訴訟法ニ之ヲ規定ス〔佛訴第五百十七條以下〕
第千四十八條 裁判所ハ法律ヨリ其裁判執行ノ爲メ保證人ニ立テシムルノ權能ヲ付與セラレタル場合ニアラサレハ其裁判執行ノ爲メ保證人ヲ立ツヘキコトヲ命スルコトヲ得ス
第千四十九條 裁判上ノ保證人モ又其引受人モ討索ノ利益ヲ有スルコトヲ得ス〔第二千四十二條第二千四十三條〕
第千五十條 法律上ノ保證人及ヒ裁判上ノ保證人ハ其債務者ニ對スル擔保ノ求償ニ關シテハ常ニ債務者ノ代理人ト看做サル
(村田曰)
法律上ノ保證人トアルハ法律上トスベシ報吿委員ニテハ常ニノ上ニ之ヲト云ヘル字ヲ入レ看做サルヲ看做ストシタルヲ「之レ」ハ常ニノ下ニ轉入スルヲ可トスト云フニ可決ス
第二章 債務者ノ間及債權者ノ間ニ於ケル連帶
前置條例
第千五十一條 目的ニ付テハ單一ナルモ主タル當事者トシテ之レニ關係スル人ニ付テハ複合ナル義務ハ第四百五十八條ニ指示シ且下二節ニ說明スル如ク受方又ハ働方ニテ連帶タルコトヲ得
本條ハ報吿委員ニテ目的ニ付テハトアルヲ義務ノ目的トシ關係スル人ニ付テハトアルヲ關係スル人トシ複合ナルノ下「トキハ其」ト云フ文字ヲ挿入セリ
(松岡曰)
受方又ハ働方トアルハ債務者間及ヒ債權者間トシテハ如何
(村田曰)
然リ
(委員長曰)
法律上ノ術語ニ屬スルモノハ容易ニ變更スベカラズ假令之ヲ變更スルモ世上ニ向テ其術語ヲ變更セシムルヲ得ザレバナリ
第一節 受方ノ卽チ債務者ノ間ニ於ケル連帶
第一款 受方連帶ノ本性及ヒ原由
第千五十二條 受方ノ卽チ共同債務者ノ間ニ於ケル連帶ハ共同債務者ヲシテ其共通ノ利益ニ於ケル債權者ノ利益ニ於ケルトヲ問ハス相互ニ代人タラシム其連帶ハ當事者間ノ合意又ハ遺囑又ハ法律ノ條例ヨリ生スルコトヲ得
連帶ハ推定セラレス總テノ場合ニ於テ明示ニテ之ヲ定ムルコトヲ要ス但不可分ニ關シ第千九十一條ニ記シタルモノハ此限ニ非ス〔第千二百二條〕
第千五十三條 數多ノ債務者ノ連帶義務ハ同一ノ證書ヲ以テ負擔セラレ又同一ノ時ニ於テ負擔セラレ又同一ノ場所ニ於テ負擔セラルルコトヲ要セス但義務ハ目的及ヒ原由カ同一ナルコトヲ要ス
連帶債務者ハ亦異別及ヒ不均ノ態樣又ハ負擔ヲ以テ責ニ任スルコトヲ得〔第千二百一條〕
(栗塚曰)
本條證書ノ字ハ反譯局ヨリ行爲ト改メタシト云フニ在リ行爲ヲ以テノ下並ニ同一ノ時ニ於テノ下ノ負擔セラレト云ヘル文字ヲ削リ但以下ハ義務ノ目的及ビ原由ハ同一ナルコトヲ要ストシ第二項「亦」ヲ削リ冒頭ニ又ヲ加フ
(村田曰)
異別ト不均ノ差ナカルベシ
(栗塚曰)
異別ト云ヘバ期限アルト否ラザルト利息附ト否ラザルトニアリ不均ト云ヘバ期限ノ長短利息ノ多寡ト云フガ如シ
(松岡曰)
態樣ト云フ字ハ未ダ了解スルヲ得ズ
(栗塚曰)
態樣ハ尙ホ再調査ニ讓ラレタシ其議ニ決ス
第二款 受方連帶ノ效力
第千五十四條 數名ノ連帶債務者アル債權者ハ其訴追セント擇ミタル債務者ニ對シ其債務者カ唯一人ノ債務者タル如ク且其債務者ヨリ討索ノ利益ヲモ又分割ノ利益ヲモ對抗セラルルコト無ク義務全部ノ履行ヲ要求スルコトヲ得〔第千二百條、第千二百三條〕
又債權者ハ皆濟ヲ受クルニ至ルマテ同時又ハ順次ニ總テノ債務者ヲ訴追スルコトヲ得〔第千二百四條〕
第千五十五條 各債務者ハ訴ヘラレタルト否トヲ問ハス連帶債務全部ノ辨濟ヲ受クルコトニ債權者ヲ強要スルコトヲ得〔第千二百三十六條第一項〕
無異議
第千五十六條 連帶債務者カ債務ノ全部又ハ債務ニ於ケル自己ノ部分ヨリ多クニ付訴ヘラレタルトキハ其共同債務者ヲ訴訟ニ召喚シ且附帶ノ擔保方法ヲ以テ共同答辯、又ハ辨濟ニ於ケル分擔ヲ得ル爲メ必要ナル期間ヲ請求スルコトヲ得〔第千二百二十五條〕
共同債務者ハ亦其利益保護ノ爲メ任意ニ自費ヲ以テ訴訟ニ參スルコトヲ得〔佛訴第百七十五條以下〕
第千五十七條 連帶債務ノ履行ニ付キ訴ヘラレタル各債務者ハ自己ノ權利ヲ以テスルト其共同債務者ノ權利ヲ以テスルトヲ問ハス義務ノ組成又ハ消滅ヨリ生スル抗辯卽チ答辯方法ヲ全部ニ付キ債灌者ニ對抗スルコトヲ得〔第二百八條第一項、第千二百八十一條〕
右ノ外更改、釋放、相殺及ヒ混同ニ關シテハ第五百二十三條、第五百二十八條、第五百三十一條第五百四十三條及ヒ第五百五十七條ヲ遵守ス〔第千二百九條、第千二百八十一條、第千二百八十四條、第千二百八十五條、第千二百九十四條第四號、第千三百一條第三項〕
第千五十八條 債務者ノ一人ノ無能力又ハ承諾ノ瑕疵ニ基キタル答辯方法ハ其一人ノ債務者自身ニ非サレハ之ヲ援唱スルコトヲ得ス然レトモ右ノ答辯方法カ一旦認許セラレタル上ハ他ノ債務者カ義務ヲ負擔スルニ當リ義務履行ニ付テノ無能力者又ハ承諾ニ瑕疵アル者ノ分擔ヲ期スルコト有リタルトキハ其答辯方法ハ債務ニ於ケル其者ノ部分ニ付キ他ノ債務者ヲ利ス〔第千二百八條第二項〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ答辯方法ハノ下其人自身ニ非ザレバ之ヲ援唱スルコトヲ得ズ然レドモ右ノ答辯方法ガ一旦認許セラレタル上ハ債務ニ於ケル其者ノ部分ニ付キ他ノ債務者ヲ利ス但他ノ債務者ガ契約ノ當時義務履行ニ付テノ其者ノ分擔ヲ期スルコト有リタルトキニ限ルトセリ
(委員長曰)
分擔ヲ期スルコトト云フニテ明カナリヤ
(栗塚曰)
其部分ニ係ル義務ヲ履行スルナラント計算中ニ包含シタルヲ云フニアリ
(委員長曰)
期スルハ豫期スルトシテハ如何
可決ス
(渡曰)
契約ノ當時ヲ契約ノ際トシタシ
(淸岡曰)
然ラバ義務履行ニ付トスベシ
可決ス
第千五十九條 前二條ニ規定シタル種々ノ事項ニ付キ債權者ト債務ノ一人トノ間ニ爲サレタル判決、自白及裁判外ノ宣誓又ハ其拒絕ハ他ノ債務者ノ損害又ハ其利益ニ於テ前二條ニ等シキ限度及ヒ區別ヲ以テ其效力ヲ生ス〔第千三百六十五條第四項及ヒ第五項〕
(栗塚曰)
裁判外ノ宣誓ハ證據法ニ於テ議定ヲ請ヒタキニ付キ暫時未定ヘ附セラレタシ又「損害又ハ其利益ニ於テ」トアルハ前例ニ依リ利害ニ於テトセリ
(委員長曰)
債務者ノ一人トノ間トアルモ數人ニ對スルモノハ如何
(栗塚曰)
連帶債務者一切ヲ云フニアラズ他ニ連帶債務者アルモノト認ムレバ可ナリ
(村田曰)
一人ト云フハ或人ト云フガ如シ
(委員長曰)
一人ト云ヘバ一人ニ限ル如クナルヲ以テ不可ナリ
(栗塚曰)
一人ヲ示シタル以上ハ二人若クハ三人ニモ適用スルヲ得ベシ只全數ニアラザレバ可ナリ
(委員長曰)
債務者中ノ或人ト云フ如クニ修正シタシ
(栗塚曰)
尙ホ報吿委員ニテ協議スベシ
第千六十條 一人ノ債務者ノ他ノ債務者ニ對スル連帶ノ成立ノミニ關シテ爲サレタル判決、自白及ヒ裁判外ノ宣誓又ハ其拒絕ハ他ノ債務者ノ一ヲ害セス又之ヲ利セス
(栗塚曰)
本條債務者ノ下「ノ一」ハ寫字上ノ衍字ナリ又報吿委員ニテ他ノ債務者ニ對スルトアルヲ他ノ債務者ニ於ケルトシ爲サレタルノ上ニ其一人ト債權者トノ間ニノ數字ヲ挿入セリ
(松岡曰)
本條ハ如何ナル意味カ
(栗塚曰)
債權者ハ債務者ノ一人トハ連帶ナシト云フヲ以テ他ノ債務者ニ對抗スルヲ得ザルナリ
第千六十一條 連帶債務者ノ一人ニ對シ債權者ノ利益ニ於テ時效ヲ中斷シ又ハ付遲滯ノ成ス原由ハ他ノ債務者ニ對シテ同一ノ效力ヲ有ス〔第千二百六條、第千二百七條、第二千二百四十九條第一項〕
債務者ノ一人ニ對シ債權者ノ利益ニ於テ成立スル時效停止ノ原由ハ他ノ債務者ノ利益ニ於テ其部分ノ爲メ時效ノ經過スルコトヲ妨ケス
(村田曰)
債權者ノ利益ニ於テ時效ヲ中斷シト云フハ債務者ノ風顛白痴ノ場合ノ如キヲ云フカ
(栗塚曰)
債務者ノ一人債權者ト伉儷シタルトキハ時效進歩セザルガ如シ本條ハ報吿委員ニテ第二項成立スルトアルヲ存スルトシ經過スルコトアルヲ經過ヲトセリ
(松岡曰)
夫婦間ハ債務ヲ催促スルヲ得ザルニ付キ時效ハ恰モ往來止トナレルヲ以テ債權者ノ爲メニハ利益トナルベシ
第千六十二條 若シ連帶債務者ノ一人カ數名ノ相續人ヲ遺シテ死凶シ其相續人ノ部分カ均等又ハ不均等ナルトキハ他ノ債務者ノ一人ニ關スル訴追ノ所爲、言渡、自白及ヒ宣誓又ハ其拒絕ハ債務ノ全部ニ於ケル各相續人ノ相續部分ノ爲メニ非サレハ其各相續人ニ對シテ效力ヲ生セス
各相續人ハ亦其相續部分ノ爲メニ非サレハ訴追セラレス又前記ノ所爲ノ效力ヲ受ケス此場合ニ於テ前記ノ所爲ハ亦從來ノ債務者ノ各自ニ對シ同一ノ限度ヲ以テ其效力ヲ生ス〔第千二百二十條、第二千二百四十九條、第三項〕
債權者ト右相續人ノ一人トノ間ニ爲サレタル右同一ノ所爲ハ其共同相續人ニ對シテ效力ナシ〔第二千二百四十九條第二項〕
第千六十三條 若シ負擔セラレタル物ノ滅失又ハ總テ其他ノ義務履行ノ不能カ連帶債務者ノ一人ノ過愆ニ因リ又ハ其付遲滯後ニ生スルトキハ他ノ債務者ハ債權者ニ對シ連帶シテ損害賠償又ハ過怠約定ノ責ニ任ス但債務者中過愆アリ又ハ遲滯ニ在リシ者ニ對スル他ノ債務者ノ求償權ヲ妨ケス〔第千二百五條〕
從來ノ債務者ノ一人カ死凶シタルトキハ他ノ債務者ト死者ノ相續人トノ相互ノ責任ハ前條ニ從ヒテ之ヲ規定ス
第千六十四條 連帶債務者中ニテ自己ノ出捐ヲ以テ全部又ハ一分ニ付キ債務ヲ辨濟シ又ハ共同ノ免除ヲ得セシメタル者ハ他ノ各債務者ニ對シ債務又ハ自己ノ辨濟シタルモノニ於ケル其各債務者ノ實擔部分ニ付キ自己ノ權利ヲ以テ求償權ヲ有ス〔第千二百十三條第千二百十四條第一項〕
右ノ求償中ニハ會社及ヒ代理ノ規則ニ從ヒ辨償金及ヒ必要ナル出捐ノ賠償ノ外辨償以後ノ法律上ノ利息及ヒ避クルコトヲ得サリシ費用ヲ包含ス
(栗塚曰)
本條ハ第一項「全部又ハ一分ニ付キ」及ビ「又ハ自己ノ辨濟シタルモノ」トアルヲ削リ各債務者ノ實擔部分トアルヲ各自ノ負擔部分トセリ
(松岡曰)
連帶債務者中ニテ債務ヲ辨償シ又ハ其他自己ノ出捐ヲ以テ共同ノ免除云々トシタシ
(委員長曰)
其他ト云ヘバ「又ハ」ト云フハ不要ナリ
(栗塚曰)
「又ハ」ヲ削ル可シ
可決ス第千六十三條又ハ總テ其他トアルヲ其他總テトシ第千三十條又ハ其他トアル又ハヲモ削レリ
(村田曰)
避クルコトヲ得ザリシ費用ト云フハ已ムヲ得ザル費用トシテハ如何
(南部曰)
商法ニハ避ク可カラザル費用ト云ヘル文字アリ
第千六十五條 債務ノ全部又ハ一分ヲ辨濟シタル債務者ハ亦債權者ノ實際受取リタルモノノ限度ニ於テノミ第五百四條第一號ニ從ヒ法律上ノ代位ニ因リ其債權者ノ權利及ヒ訴權ヲ行フコトヲ得〔第千二百五十一條第三號〕
然レトモ其債務者ハ前條ニ記載シタル如ク其共同債務者ノ各自ノ間ニ於テ自己ノ訴ヲ分ツノ義務アリ
第千六十六條 不注意ニテ辨濟シタル保證人ニ對シ第千三十二條及ヒ第千三十三條ニ揭ケタル求償ノ失權ハ之ト同一ノ場合ニ於テハ訴追又ハ辨濟ヲ共同債務者ニ吿知スルコトヲ怠リタル連帶債務者ニ對シ之ヲ宣吿スルコトヲ得
本條「於テハ」トアル「ハ」ヲ削レリ
(松岡曰)
之ヲ宣吿スルコトヲ得トアルハ之ヲ對抗スルコトアリトシタシ之ヲ宣吿スルコトヲ得ト云ヘバ裁判所ハ無吿ヲ裁判スルガ如クナレバナリ
第千六十七條 若シ共同債務者ノ一人カ上ニ指示シタル方法ノ一ニ因リ求償ノ行ハレタル當時ニ於テ無資力ナルモ要求者ノ責ニ歸スヘキ懈怠アラサリシトキハ無資力者ノ部分ハ辨濟シタル者ヲモ加ヘテ他ノ資力アル者ノ間ニ割合ニ應シテ之ヲ配當ス〔第千二百十四條第二項〕
(栗塚曰)
本條ハ冒頭ノ「若シ」トアルヲ削ルベシ
(松岡曰)
要求者ノ責ニ歸スベキ懈怠アラザリシトキハト云フハ必要ナキニアラズヤ
(栗塚曰)
懈怠ニ依リ催促スベキヲ催促セザルトキハ他ノ連帶者ハ頗ル困迷スベシ
(松岡曰)
懈怠ト云フハ如何
第千六十八條 若シ連帶債務者ノ一人ノ無資力カ何等ノ辨濟モ有ラサル前ニ生シタルトキハ債權者ハ其債權ノ全額ニ付キ淸算中ニ加ハルコトヲ得
此ノ如クニシテ債權者ノ辨濟ヲ受ケサルモノハ他ノ債務者之ヲ負擔シ其債務者ノ自己ノ部分外ニ辨濟シタルモノニ對スル求償カ其淸算ニ加ハリタル他ノ債權者ヲ害スルコトヲ得ス
第千六十九條 若シ債務者ノ一人カ無資力ト爲ル前ニ一回又ハ數回ノ一分辨濟アリタルトキハ債權者ハ其未タ受ケサルモノノ爲メニ非サレハ無資力者ノ財產ノ淸算中ニ加ハラス又ハ一分辨濟ヲ爲シタル一人又ハ數人ノ債務者ハ第千六十四條ニ從ヒ自己ノ受ク可キモノノ辨償ノ爲メ淸算ニ於テ債權者ト競分ス〔佛商第五百四十四條〕
第千七十條 總テノ連帶債務者又ハ其中ノ數人カ何等ノ辨濟モ有ラサル前ニ無資力ト爲リタル場合ニ於テ債權者ハ其債權ノ全額ノ爲メ各淸算中ニ自己ノ債權ヲ記入セシム
然レトモ債權者カ淸算ノ一ニ於テ最初ノ配當金ヲ受ケタルトキハ他ノ淸算ニ於テ其債權ノ全額ニ從ヒ債權者ニ付與ス可キ新配當金ハ其未タ受ケサルモノノ割合ニ應スルニ非サレハ債權者其拂渡ヲ受クルコトヲ得ス
殘餘ノ物ハ各自ノ淸算カ名稱債務ノ額内ニテ辨濟シタルモノノ割合ニ應シテ其各淸算ヲ賠フ爲メ特別ノ財團ヲ組成ス〔佛商第五百四十二條第五百四十三條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項ヲ何等ノ辨濟モ有ラザル前ニ總テノ連帶債務者又ハ其中數人ノ無資力ト爲リタル場合ニ於テ債權者ハ其債權ノ全額ニ付キ各淸算中ニ加ハルコトヲ得トシ第二項最初ノトアル三字ヲ削リ付與ス可キトアルヲ充テタルトシ其未ダトアルヲ以前ノ配當ニ於テ未ダトシ割合ニ應ズルニ非ザレバノ下之ヲ債權者ニ拂渡スコトヲ得ズトシ第三項右拂渡ノ殘餘ハ各淸算ニ返償ス但其各淸算カ辨濟シタルモノノ割合ニ從フトセリ
(栗塚曰)
本條ハ例セハ甲乙丙ノ三人戊ニ對シテ金一萬圓ノ債務ヲ負ヘルニ其連帶債務者ハ皆無資力ニ陷レリ依テ債權者ハ甲ノ財團ニ於テ五千圓ノ償還ヲ得タルニ付キ乙ニ對シテハ三千圓ヲ得丙ニ對シテハ二千圓ヲ得タルトキハ連帶債務者ニ對スル要求平均ナラザルニ付キ其過不足ヲ淸算セザルベカラズ
(尾崎曰)
拂渡ノ殘豫ト云フハ何ニ依テ之ヲ見ルベキヤ明了ナラズ
(西曰)
報吿委員ノ修正ハ可ナルヤ
(松岡曰)
原案ハ不明ナルニ付キ報吿委員ノ修正ニ由ラザルベカラズ
(栗塚曰)
各淸算カトアルハ各淸算ノトシタシ
可決ス
第三款 受方連帶ノ絕止
第千七十一條 債權者ノ其總テノ債務者ニ對スル連帶ノ抛棄ハ第四百五十八條第一項ニ規定シタル如ク其債務者ノ間ニ於テ單ニ連合ノモノトシテ義務ヲ成立セシメ義務ノ其他ノ性質ヲ變スルコト無シ
第千七十二條 若シ抛棄カ第五百三十二條ニ從ヒ明示又ハ默示ニテ債務者ノ一人又ハ數人ニ對シテノミ爲サレタルトキハ他ノ債務者ハ連帶ノ釋放ヲ得タル者ノ部分ニ於テノミ其義務ヲ免カル〔第千二百十條〕
若シ連帶ヲ免除セラレサル債務者中ニ無資力者アルトキハ債權者ハ其無資力中ニテ連帶ノ釋放ヲ爲シタル者ノ部分ヲ負擔ス〔第千二百十五條〕
第千七十三條 債權者カ連帶債務者ノ一人ヨリ供シタル抵保ニシテ他ノ債務者カ辨濟シテ代位スルコトヲ得ヘキモノノ全部又ハ一分ヲ毀損シ又ハ滅失セシメタルトキハ他ノ債務者ハ債權者カ其抵保ヲ失ヒタル者ノ部分ニ付キ連帶ノ義務ヲ免カレント請求スルコトヲ得
此ノ如ク宣吿セラレタル免責ハ連帶ノ任意釋放ト同一ノ效力ヲ有ス
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項債權者カ連帶債務者一人ヨリ供シタル擔保ノ全部又ハ一分ヲ毀損シ又ハ滅失セシメ且其擔保ニ對シ他ノ債務者カ辨濟シテ代位スルコトヲ得ベキトキハ他ノ債務者ハ其擔保ヲ供シタル者ノ部分ニ付キ云々トシ第二項右ノ請求ニ因リ宣吿シタル免責ハ云々トセリ
(松岡曰)
第二項ハ敢テ必要ニアラズ
(村田曰)
代位スルコトヲ得ベキトキハトアルハ代位スルコトヲ得ベキモノナルトキハトシテハ如何
(栗塚曰)
モノト云フハ何ヲ指スヤ
(村田曰)
擔保ヲ指スナリ
(栗塚曰)
擔保ヲ代位スルト云フヲ得ザルナリ
第四款 單ニ完全ナル義務
第千七十四條 第百五十二條、第三百九十八條第五百十九條第二項及ヒ其他總テ法律カ數人ノ債務者ノ義務ヲ其各自ニ對シ「完全卽チ全部ノモノ」ト定メタル場合ニ於テハ其債務者ハ全部又ハ一分ニ付キ完全辨濟ノ言渡ヲ受ケタルトキト雖トモ相互代理ニ付セラレタル連帶ノ效力ヲ之ニ適用スルコトヲ得ス
然レトモ一人ノ債務者ノ爲シタル辨濟ハ債權者ニ對シテ他ノ債務者ヲ免除シ辨濟シタル者ハ事務管理ノ訴權ニ依リ又ハ己レノ當然代位シタル債權者ノ訴權ニ依リ他ノ債務者ニ對シテ其部分ニ付キ求償權ヲ有ス
(栗塚曰)
款ノ下全部辨濟ノ義務トシ第一項ハ第三百九十八條、第五百十九條第二項及ビ其他總テ法律ガ數人ノ債務者ノ義務ヲ其各自ニ對シ全部辨濟ノモノト定メタル場合ニ於テハ相互代理ニ付シタル連帶ノ效力ヲ適用スルコトヲ得ズ但其債務者カ債務ノ全部ニ辨濟スルノ言渡ヲ受ケタルトキモ亦同ジトシ第二項債權者ニ對シテトアル「テ」ヲ削リ免除シトアルヲ免除セシム又トシ「己レノ當然代位シタル」ヲ削リ「債權者ノ」下代位ト云フ字ヲ入レリ
(南部曰)
本條第一項但以下ハ必要ニアラズ
(栗塚曰)
其點ハ起案者ヨリ申來レルモノアルヲ以テ次回ニ讓ラレタシ
第二節 働方卽チ債權者間ノ連帶
第一款 働方連帶ノ本性及ヒ原由
第千七十五條 同一債務者ノ數人ノ債權者間ニ於ケル連帶ハ權利ノ保存及ヒ行用ニ付キ其債權者ヲシテ互ニ代人タラシム
其連帶ハ合意遺囑又ハ法律ノ明定ノミヨリ生スルコトヲ得
第千七十六條 數人ノ連帶債權者ニ對スル債務者ノ約務ハ同一ノ所爲ヲ以テ又同一ノ時期ニ於テ又同一ノ場所ニ於テ之ヲ負擔スルコトヲ必要トセス其義務ノ目的及ヒ原由カ同一ナルコトヲ要ス
債務者ハ亦數人ノ債權者ニ對シ種々ノ態樣又ハ異別及ヒ不均ノ負擔ヲ以テ義務ヲ負フコトヲ得
(栗塚曰)
本條ハ第一項所爲トアルヲ例ニ依リ行爲トシ時期ニトアル期ヲ削リ必要トセズトアルヲ要セズトシ其義務ノ上ニ但ト云フ字ヲ加ヘ原由ガトアルヲ原由ハトシ第二項債務者ハ亦數人トアルヲ又債務者ハ數人トシ「種々ノ態樣又ハ」ノ字ヲ削リ不均ノトアル下態樣又ハト云フ文字ヲ入レ義務ヲ負フトアルヲ責ニ任ズルトセリ
(松岡曰)
本條ハ削除シタシ
(栗塚曰)
本條ハ第千五十三條ト同意味ニシテ主トシテ債務者ニ關スルヲ以テ目下起案者ニ對シテ質問シ置ケリ
(委員長曰)
起案者ノ回答ヲ得タル上削否ヲ決スベシ
第二款 働方連帶ノ效力
第千七十七條 各連帶債權者ハ唯一ノ債權者ナル如ク義務全部ノ履行ヲ債務者ニ要求スルコトヲ得〔第千百九十七條〕
債權者ノ一人カ訴ヲ起シタルトキハ他ノ各債權者ハ共通ノ利益及ヒ自己ノ利益ノ保護ノ爲メ訴訟ニ參カルコトヲ得
第千七十八條 債務者ハ自己ノ方ニ在テハ他ノ債權者ヨリ訴追又ハ適式ノ要求ヲ爲ササル間ハ債務ノ全額ノ辨濟ヲ受取ルコトニ債權者ノ各自ヲ強要スルコトヲ得之ニ反スル場合ニ於テハ要求者ニ對スルニ非サレハ辨濟ヲ爲スコトヲ得ス〔第千百九十八條第一項〕
若シ同時ニ數箇ノ要求アルトキハ債務者ハ合同シタル要求者ニ對スルニ非サレハ辨濟ヲ爲スコトヲ得ス
第千七十九條 義務組成ノ瑕疵ヨリ生シタル抗辯ニ付キ爲サレタル判決ハ總テノ債務ニ付キ總テノ債權者ノ不利ニ於テ又ハ其利益ニ於テ其效力ヲ生ス其名ヲ訴訟ニ表ハササリシ者ニ對シテモ亦同シ
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員三ア抗辯ニ付キトアルヲ答辯方法ニ付キトシ判決ハノ下「總テノ」ヲ削リ債務ニ付キトアルヲ債務ノ全部ニ對シトシ「不利ニ於テ又ハ其」トアルヲ削リ利益ヲ利害トシ其名ノ上ニ但ノ字ヲ加フ
(村田曰)
但其名ヲ訴訟ニ表ハサザリシ者ニ對シテモ亦同ジト云フハ其訴訟ニ關係セザリシ者ニ對シテモ亦同ジト云フガ如クナリ
(松岡曰)
但其訴訟ニ表ハサザリシ者ニ對シテモ亦同ジトスベシ
(渡曰)
原案ノ儘ニテ明了ナリ
(松岡曰)
第千八十條ニハ訴訟ニ參カラザリシト云ヒ本條ニハ其名ヲ訴訟ニ表ハサザルト云フハ如何
(西曰)
原案贊成說多數ナルヲ以テ次條ニ移リタシ
可決ス
第千八十條 若シ判決カ義務消滅ノ原由ヨリ生シタル抗辯ニ付キ爲サレタルトキハ其判決ハ下ノ區別ヲ以テスルニ非サレハ訴訟ニ參カラサリシ債權者ニ對シテ其效ナシ
第一 第千七十八條ニ定メタル條件ニ從ヒ債權者ノ一人ニ爲シタル辨濟ハ全部ニ付キ總テノ債權者ニ之ヲ對抗スルコトヲ得又第五百四十四條第三項ニ記シタル如ク債權者ノ一人ニ對シ債務者ノ得取シタル相殺ノ原由カ債務者ノ第千七十八條ニ從ヒ其債權者ニ有效ニ辨濟スルコトヲ得ヘキ時期ニ於テ生シタルトキハ其相殺ニ付テモ亦同シ
第二 一人ノ債權者ノ所爲又ハ權利ヨリ生スル更改、合意上釋放及ヒ混同ハ第五百二十三條第三項第五百三十七條第一項及ヒ第五百五十七條第二項ニ從ヒ其債權者ノ部分ニ非サレハ債務ヲ消滅セシメス右ノ所爲カ他ノ債權者ヨリ何等ノ訴追又ハ要求モ有ラサル前ニ爲サルコトヲ要ス又右ニ等シキ所爲ニ關シ及ヒ辨濟又ハ相殺ニ關スル裁判外ノ宣誓又ハ其拒絕及ヒ和解ニ付テモ亦同シ〔第千百九十八條第二項、第千三百六十五條第二項〕
第千八十一條 債權者中ノ一人ノ一身ニ關シ其債權者ニ對シ債務者ニ屬スル抗辯ニ付キ爲サレタル判決ハ他ノ債權者ヲ害セス又之ヲ利セス又債務者ト債權者ノ一人トノ間ニ於テ連帶ニ於ケル其債權者ノ權利ニ付キ爲サレタル宣誓又ハ其拒絕及ヒ和解ニ付テモ亦同シ
第千八十二條 債權者ノ一人ノ其債務者ニ對シテ時效ヲ中斷シ又ハ之ヲ遲滯ニ付スルノ所爲ハ全部ニ付キ他ノ債權者ヲ利ス〔第千百九十九條〕
債權者ノ一人ノ利益ニ於テ法律ノ設定シタル時效ノ停止ハ債權ニ於ケル其部分ニ限リ其一人ノミヲ利ス
第千八十三條 若シ連帶債權者ノ一人カ數人ノ相續人ヲ遺シテ死亡シタルトキハ債權ノ分割及ヒ前ニ指示シタル所爲ノ效力ハ第千六十二條ニ記載シタル如ク受方連帶ニ於ケルト同一ノ方法ヲ以テ働方ニテ生ス〔第千二百二十條〕
本條ハ例ニ依リ所爲ヲ行爲トセリ
(元尾崎曰)
從來ノ習慣ニテハ數人ノ相續人ナシ
(委員長曰)
從來ノ習慣上遺言ヲ以テスル分派相續ノ例アリ
(元尾崎曰)
遺言シテハ數人相續ノ例アルモ之ヲ法律ニ認ムルニ至テハ不都合ナリ
(松岡曰)
本條ハ數人ノ相續人ヲ遺シトアルモ其事柄ハ人事篇ニテ規定スベシ
(栗塚曰)
起案者ノ考案ニテハ人事上ニ付テハ餘ハ一言スルヲ得ズ此等ノ點ニ關スル規定ハ皆人事篇ノ規定如何ニ依ルベシト云フニアリ
(委員長曰)
人事篇ニ依テ規定セザルベカラザルコトハ固ヨリ人事篇ニ於テ規定スベキモ分派相續ノ如キハ人事篇ノ規定ヲ待タズ現ニ其慣例アルモノナレバ此點ヲ決スルニ差支ヲ見ズ否ナ之ヲ決セザルベカラストズ初メ餘ガ「ボアソナード」氏ニ談示シタルモノハ日本ハ從來武家ノ間ニ於テハ一人相續ニ止マリシモ武家ヲ除クノ外ハ數人相續ノ慣例アリト云フヲ以テセリ
(松岡曰)
其事柄ハ人事篇ニ於テ規定スベシ人事篇ニ於テ數人相續ヲ可トセザルトキハ唯リ本條ヲ適用セザルニ止マルノミ
(委員長曰)
日本ノ相續ニハ向來家督相續ト財產相續トヲ認メズト云フハ從來ノ習慣ニ違背スルヲ以テ穩當ナラズ
(元尾崎曰)
法律上ノ相續人ト遺言ヲ以テ財產ヲ得ルモノトハ差異アリ遺言ニ依ルモノハ英國ニ於テモ相續人ト云ハズ承權人ト云ヘリ
(委員長曰)
名稱ニ拘泥シテ事實ヲ沒スルコトヲ得ズ
(元尾崎曰)
家督相續ト遺言ト財產ノ分派トヲ同一ニスルハ不可ナリ
(栗塚曰)
家督相續ト財產分派トノ事實生ジタルトキハ數人ノ相續人ト云ハザルベカラズ
(松岡曰)
本條ハ事柄ノ生ジタル上ニ付テ之ヲ見ルヲ得ズ其事柄ノ生ジタルトキハ之ヲ適用スルニ止リ其事柄ノ生ゼザルトキハ自然無效ニ屬スベシ
(委員長曰)
人事篇ニ至ラザレハ相續人ト云ヘル性質ヲ定ムルヲ得ズト云フハ不可ナリ人事篇ノ規定アラザレバ他ノ各條ヲ議定スルヲ得ズト云フハ法律取調委員ノ資格ヲ以テ言フヲ得ベキモノニアラズ人事篇アラザルモ現時財產分派ノ事實存在スル以上ハ之ニ就テハ必ラズ本條ヲ以テ之ニ適用セザルベカラズ又數人ノ相續卽チ數人ノ財產分派ヲ得ルモノト云フモノノ慣例アルハ之ヲ認メザルベカラズ
第千八十四條義務ノ全部又ハ一分ノ履行ヲ得タル連帶債權者ハ他ノ債權者ノ特別ノ關係及ヒ共通ノ利益ニ於ケル其相互ノ部分ニ從ヒ之ニ其利益ヲ分ツコトヲ要ス
無異議
第三款 働方連帶ノ絕止
第千八十五條 働方連帶ハ抛棄ニ因テ止ム其抛棄ハ明示ニ非サレハ之ヲ爲スコトヲ得ス
第千八十六條 連帶ノ抛棄ハ債權者ノ一人若クハ數人又ハ其總員ヨリ之ヲ爲スコトヲ得
總テノ債權者ノ働方連帶ノ抛棄ハ第千七十二條ニ規定シタル如ク受方連帶ノ抛棄カ共同債務者ニ對シテ生セシムルト同一ノ效力ヲ其債權者間ニ生セシム若シ債權者ノ一人又ハ數人ノミカ抛棄ヲ爲シタルトキハ他ノ債權者ハ右抛棄ヲ爲シタル者ノ部分ニ付テノミ訴ヲ爲シ又ハ辨濟ヲ受クルノ權利ヲ失フ
(元尾崎曰)
債權者ノ働方連帶トアル働方モ債權者間ノトスルカ
(栗塚曰)
否債權者ノトアルヲ以テ働方連帶ニテ差支ナシ
(南部曰)
受方連帶ノ抛棄ニ對セシヲ以テ働方連帶トスベシ
(栗塚曰)
若シ債權者以下ハ別項トスベシ
可決ス
第三章 任意ノ不可分
第千八十七條 債務ハ負擔セラレタル物ノ本性或ハ契約者カ企圖シタル目的或ハ第四百六十二條及ヒ第四百六十三條ニ規定シタル如ク設定證書ヲ以テ債務者ノ一人ノ負擔ト爲ス債務ノ指定ヨリ生スル不可分ノ外亦第四百六十四條ニ指示シタル如ク全部履行ノ抵保又ハ擔保トシテ受方又ハ働方ノ連帶ニ連合シ又ハ連合セスシテ數人ノ債務者ノ負擔又ハ數人ノ債權者ノ利益ニ於テ不可分タルコトヲ得
此不可分ハ合意又ハ遺囑ヲ以テ之ヲ設定セラルルコトヲ得之ヲ稱シテ任意上ノモノト云フ
右二箇ノ場合ニ於テ其不可分ハ明示タルコトヲ要ス
第千八十九條 任意ノ不可分カ債務者ノ負擔又ハ債權者ノ利益ニ於テ明示ニテ設定セラレタルトキハ之ト同一ナル本性ノ連帶ハ默示ニテ設定セラレタルト看做サル但反對ノ約定アルトキハ此限ニ在ラス
第千九十條 若シ任意ノ不可分カ債務者ノ負擔ニ於テノミ設定セラレタルトキハ其不可分ハ同時ニ債權者ノ利益ニ於テ働方タル可キコトノ明定アリタルトキニ非サレハ存立セス
又債權者ノ利益ニ於テ設定シタル不可分ハ其同時ニ受方タル可キコトノ定メラレタルトキニ非サレハ債務者ノ負擔ニ於テ存立セス
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項債務者ノ負擔ニ於テ設定シタル不可分ハ同時ニ働方タル可キコトノ明示アルニ非ザレバ債權者ノ利益ニ於テ存立セズトシ第二項其同時ニトアル其ヲ削リ受方タル可キコトノ定メラレタルトキニトアルヲ受方タル可キノ明示アルニトセリ
第千九十一條 受方ナルト働方ナルトヲ問ハス任意ノ不可分カ明示ニテ設定セラレタルトキハ受方又ハ働方ノ連帶其モノカ明示ニテ排除セラレサルニ於テハ從來ノ債務者又ハ債權者ノ間ニ於テ右連帶ノ效力ヲ生セシム
其他若シ債務者又ハ債權者ノ一人カ數名ノ相續人ヲ遺シテ死亡シタルトキハ債務者ノ各相續人ハ全部履行ノ要求ヲ受ケ又債權者ノ各相續人ハ全部履行ノ要求ヲ爲スコトヲ得但其各自ノ間ニ於テ連帶アルコト無シ〔第二千二百四十九條第二項〕
第千九十二條 從來ノ債務者ノ一人ニ對シ又ハ死亡シタル債務者ノ相續人ノ一人ニ對シテ時效ヲ中斷スル原由ハ亦總テノ債務ニ付キ他ノ債務者又ハ相續人ニ對シテ中斷ヲ生ス
又從來ノ債權者ノ一人ノ權利又ハ死亡シタル債權者ノ相續人ノ一人ノ權利ヨリ生スル時效ノ中斷又ハ其停止ノ原由ハ他ノ債權者又ハ相續人ヲ利ス
第千九十三條 相續人ノ一人ノ付遲滯及ヒ過愆ハ他ノ相續人ヲ害セス
相續人ノ一人ニ不利ナル被判事物自白及ヒ裁判外ノ宣誓ニ付テモ亦同シ〔第千二百三十二條、第千二百三十三條〕
第千九十四條 債權カ同時ニ受方又ハ働方ニテ連帶及ヒ不可分ナルトキハ第五百三十二條及ヒ第千八十五條ニ記載シタル區別ニ從ヒ明示ナルト默示ナルトヲ問ハス連帶ノ抛棄ハ亦任意不可分ノ抛棄ヲ惹起ス
右ニ等シク二箇ノ擔保ノ併セ存スル場合ニ於テ不可分ノ抛棄ハ連帶ヲ存立セシム
第千九十五條 天然不可分ノ事項ニ關スル第四百六十五條乃至第四百七十條、第五百二十三條第四項、第五百二十八條第三項、第五百三十一條第一項、第五百三十五條、第五百三十七條第二項、第五百四十三條第四項、第五百五十八條及ヒ第五百五十九條第二項ノ條例ハ任意ノ不可分ニ適用スルコトヲ得ヘキトキハ之ヲ適用ス
債權者カ不可分ニテ義務ヲ負フタル債務者ノ代位ニ因テ得ルコト有ル可キ抵保ヲ滅失セシメ又ハ減少セシメタルトキハ其債務者ハ債權者ニ對シ第千七十三條ヲ援唱スルコトヲ得
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ天然不可分ノ事項ニ關スルトアルヲ除去シ條例ヲ規定トシ抵保ヲ擔保トシ第千七十三條ヲ援唱スルコトヲ得トアルヲ第千七十三條ノ免責ヲ申立ルコトヲ得トセリ
第二部 物上ノ抵保卽チ擔保
第一章 留置權
第千九十六條 留置權ハ此法律第二篇及ヒ第三篇ノ特別條例ヲ以テ債權者ノ爲メニ認メラレタル場合ノ外亦債權者カ既ニ正當ノ原由ニ依リ其債務者ノ動產物又ハ不動產物ヲ占有シ且債權カ此占有ニ連繋シ又ハ債權カ債權者ヨリ爲シタル其物ノ讓渡ニ因リ或ハ其物ノ保存ノ爲メニ爲シタル費用ニ因リ或ハ所有者カ其物ニ生セシメタル損害ノ責ニ任ス可キトキハ此損害ニ因リ其物ニ關シテ生シタルトキハ其債務者ノ動產物又ハ不動產物ニ付キ總テノ債權者ニ屬ス
委任ヲ受ケスシテ他人ノ事務ヲ管理シタル者ハ必要ノ費用及ヒ保持ノ費用ノ爲メニ非サレハ其管理シタル物ニ付キ留置權ヲ享有セス
第千九十七條 若シ債權者カ其留置スルノ權利ヲ有シタル物ノ一分ノミヲ留置シタルトキ保存シタル部分カ總テノ債務ヲ擔保スルニ足ルニ於テハ其部分ハ總テノ債務ヲ擔保ス之ニ反シテ債權者又ハ其相續人ハ債務者又ハ其相續人ヨリ一分ノ辨濟ヲ享ケタリト雖モ全部ノ辨濟ヲ受クルニ至ルマテ留置權ニ服シタル總テノ物ヲ保存スルコトヲ得〔第二千八十三條〕
第千九十八條 留置權ハ物ノ價額ニ付キ債權者ニ先取特權ヲ與ヘス
然レトモ若シ留置シタル物カ天然又ハ法定ノ果實又ハ產物ヲ生スルトキハ留置者ハ他ノ債權者ニ先タチテ之ヲ收取スルコトヲ得但其果實又ハ產物ハ其債權ノ利息ニ充當シ又附隨ニテ元本ニ充當スルコトヲ要ス
留置者ハ其收取スルコトヲ怠リタル果實及ヒ產物ニ付キ其責ニ任ス
第千九十九條 留置權ハ債務者カ留置セラレタル物ヲ移付シ又他ノ債權者カ之ヲ差押ヘ及ヒ之ヲ賣却セシムルノ妨ト爲ラス但其物カ差押フルコトヲ得サルモノナルトキハ此限ニ在ラス
然レトモ右孰レノ場合ニ於テモ取得者ハ留置債權者ニ全ク辨濟セスシテ其物ヲ占有スルコトヲ得ス
(栗塚曰)
本條ハ第一項ハ留置セラレタル物ヲ移付シトアルハ留置物ヲ讓渡シトシ差押ヘノ上「之ヲ」又但以下ヲ削レリ
可決ス
第千百條 右ノ外動產又ハ不動產ノ留置者ハ次ノ二章ニ規定シタル如ク動產質債權者又ハ不動產質債權ノ責任ト同一ノ責任ニ從フ
其他動產質及ヒ不動產質ニ關スル條例ハ此章ノ條例ニ觸レサル諸件ニ付キ留置權ニ之ヲ適用ス特ニ債權者カ實際留置權ヲ行フコトヲ怠リ又ハ之ヲ行フコトヲ止メタルトキハ其留置權ヲ失フ
本條ハ動產質債權者ヲ質取主トシ條例ヲ規定トシ諸件ヲ諸項トシ實際ヲ有意ニテトシ之ヲ行フコトヲ止メタルトアル上ニ實際ノ二字ヲ挿入セリ
(元尾崎曰)
質取主又ハ不動產質債權者ノ責任ト同一ノ責任ニ從フトアルハ動產又ハ不動產ノ質取主ト同一ノ責任ニ從フトスベシ
可決ス
第二章 動產質
第一節 動產質契約ノ本性及組成
第千百一條 動產質ハ債務者カ一箇又ハ數箇ノ動產ヲ特ニ其義務ノ擔保ニ供スル契約ナリ〔第二千七十一條、第二千七十二條第一項〕
(栗塚曰)
本條ノ本性トアルヲ性質トシ供スルトアルヲ充ルトセリ
(元尾崎曰)
充ルトスルハ原案ノ供スルトアルニ如カズ
第千百二條 動產質契約ハ亦債權者ト債務者ノ委任ヲ受ケ又ハ好意ニテ債務者ノ爲メ擔保ヲ供スル第三者トノ間ニ之ヲ爲スコトヲ得〔第二千七十七條〕
右孰レノ場合ニ於テモ動產質ヲ供シタル第三者ハ第千三十條及ヒ第千三十一條ニ從ヒ保證人ノ如ク債務者ニ對シテ求償權ヲ有ス
(栗塚曰)
本條ハ動產質契約ハトアル下「亦債權者ト」トアルヲ削リ第三者トノ間ニ之ヲ爲スコトヲ得トアルヲ第三者ト質取主トノ間ニモ亦之ヲ爲スコトヲ得トセリ
可決ス
第千百三條 債務者ヨリ動產質ヲ供シタルト第三者ヨリ之ヲ供シタルトヲ問ハス若シ此ニ因テ擔保セラレタル義務カ純粹ニ天然ノモノナルトキハ其場合ハ第五百八十八條及ヒ第五百八十九條ニ之ヲ規定ス
第千百四條 動產質ハ質ト爲シタル物ヲ處分スルノ能力ヲ有スル者ニ非サレハ有效ニ之ヲ供スルコトヲ得ス
合意上、法律上及ヒ裁判上ノ代理人及ヒ管理者ニ付テモ亦同シ是レ等ノ者ハ其權限ヲ踰エサルコトヲ要ス
若シ動產質カ債務ニ關係ナキ第三者ヨリ供セラレタルトキハ其第三者ハ第千十二條ニ記載シタル如ク無償名義ニテ處分スルノ能力ヲ有スルコトヲ要ス
第千百五條 動產質權ハ確定ノ日附ヲ有シ且主タル債權並ニ從タル債權アレハ其債權及ヒ質ト爲シタル物ヲ明ニ指定セル證書ヲ錄製シタルニ非サレハ同一ノ物ニ付キ債務者ト約定シタル第三者又ハ他ノ債權者ニ之ヲ對抗スルコトヲ得ス
右ノ物ハ之ヲ他物ニ易フルコトヲ得サル樣詳細ニ記載シ且已ムヲ得サレハ之ヲ評價スルコトヲ要ス
若シ右ノ物カ量定物ナルトキハ其種類、分量及ヒ其重量、數量又ハ尺度ヲ以テ之ヲ指定スルコトヲ要ス〔第二千七十四條第一項〕
(栗塚曰)
本條第一項ハ「主タル債權並ニ從タル債權アレハ其」ト云フ削リ債權及ビ質ト爲シタル物トアルヲ債權及ビ質物トシ第二項右ノ物ハトアルヲ右質物ハトシ且已ムヲ得ザレバトアルヲ尙ホ足ラザルトキハトシ第三項ハ若シ右ノトアルヲ若シ質トシ「分量及ヒ其重量」及ビ數量ノ下「又ハ」ノ二字ヲ削レリ第二項尙ホ足ラザルトキハトアルハ其形狀ヲ詳記スルモ周曲無洩ニ其形狀ヲ記スルコトヲ得ザルトキハ之ヲ評價セシムト云フニアリ
(松岡曰)
確定ノ日附ト云フハ公證及ビ私證ニモ適用サルベキニ私證ノ日附ヲ確定ニスルハ如何スベキヤ
(栗塚曰)
確定及日附ハ公證人ヲシテ之ヲ記セシメザルベカラズ
(元尾崎曰)
確定ノ日附ト云フハ何年何月何日ト詳細ニ記入スルヲ云フベキヲ以テ公證人ヲシテ之レニ記入セシムルニ及バズ
(南部曰)
確定ノ日附ト云フハ先取權ニ關スルヲ以テ公證人ヲシテ之ヲ記入セシメザルベカラズ
(松岡曰)
各國往々不動產ニ付キ日附ノ確定ヲ要スベキモ動產ニ付キ確定ノ日附ヲ要スト云フ例アリヤ否報吿委員ノ調査ヲ請ヒタシ
(栗塚曰)
然ルベシ
(委員長曰)
第二項尙ホ足ラザルトキハト云フハ如何
(栗塚曰)
詳細ニ記示スベカラザルトキハト云フニアリ
(委員長曰)
果シテ其意味ナラシメバ尙ホ盡サザルトキハト云ハザレバ不明ナリ
(栗塚曰)
尙ホ要用アルトキハトシテハ如何
(村田曰)
且要用アルトキハトスルヲ可トス
可決ス
第千八十七條 連帶ノ抛棄ハ債務者ノ承諾ナクシテ有效ナリ
然レトモ其抛棄ハ之ヲ債務者ニ吿知セシカ又ハ債務者明確ニ之ヲ知リタルトキニ非レハ前ノ規定ヲ以テ債務者ニ許シタル辨濟又ハ其他ノ行爲ニ對シテ之ヲ援唱スルコトヲ得ス
債務者ハ抛棄ヲ利唱スルノ利益アルトキハ之ヲ利唱スルコトヲ得又抛棄カ其權利ノ詐害ニ於テ爲サレタルトキハ之ヲ駁繋スルコトヲ得
第千百六條 法律ニ從ヒ證人ニ因リテ債權ヲ證スルコトヲ得ル場合ニ於テハ證書ノ作成ヲ要セス此場合ニ於テ債權ノ額及ヒ質ト爲シタル物ニ相違ナキコト又ハ其物ノ本性及ヒ價額ヲ或ハ併合シ或ハ各別ニ人證ヲ以テ證明スルコトヲ得〔第二千七十四條第二項〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ作成トアルヲ錄製トシ此場合ニ於テトアルヲ此場合ニ於テハトシ質ト爲シタル物ニトアルヲ質物ノトセリ
可決ス
第千百七條 動產質ハ動產質債權者カ質ト爲サレタル有體物ノ現實ニシテ且繼續ノ占有ヲ得且之ヲ保存シタルトキニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニモ他ノ債權者ニモ對抗スルコトヲ得ス〔第二千七十六條〕
然レトモ質物ハ當事者雙方ノ選定シ又ハ債權者カ自己ノ責任ヲ以テ選定シタル第三者ノ手裏ニ之ヲ寄託スルコトヲ得〔同上〕
此條例ハ所持人式債權證書ニ之ヲ適用ス
第千百八條 若シ質物カ記名債權タルトキハ動產質債權者ハ其債權ヲ證明スル公正又ハ私ノ證書ヲ占有スルコトヲ要ス
其他動產質ノ設定ハ轉讓ヲ吿知スル通常ノ方式ヲ以テ第三債務者ニ之ヲ吿知シ又ハ其第三債務者カ任意ニテ擔保移轉ノ所爲ニ參カルコトヲ要ス〔第二千七十五條〕
第三百六十七條ノ條例中ニテ前二項以外ノモノハ右ノ移轉ニ之ヲ適用ス
右ハ總テ裏書ヲ以テ取引ス可キ商ヒ證券事項ニ關シ商法ニ記載シタルモノノ妨ケト爲ラス
第千百九條 民事ト商事トヲ問ハス會社ノ記名ノ株券又ハ債券ニ關スルトキハ擔保移轉ハ證書交付ノ外會社定款又ハ法律ニ於テ株券又ハ債券ノ讓渡ノ爲メニ定メタル方式ヲ以テ之ヲ會社ニ吿知シ其帳簿ニ之ヲ記入スルコトヲ要ス
第千百十條 動產質ハ當事者ノ推定セラレタル意思ニ從ヒ働方及ヒ受方ニテ不可分タリ但明示シタル反對ノ合意アルトキハ此限ニ在ラス
動產質ハ債務者又ハ其相續人ノ一人ヨリ債務ノ一分ヲ辨償シタルトキト雖モ元本、利息及ヒ費用ノ皆濟ニ至ルマテ質ト爲サレタル物ノ全部及ヒ各箇ニ付キ存立ス
債權者ノ相續人ノ一人カ自己ノ部分ノ辨濟ヲ受ケタルトキト雖モ動產質ハ債權ニ於ケル他ノ相續人ノ部分ノ爲メ其相續人ノ擔保トシテ全部ニ於テ存立ス〔第二千八十三條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項動產質ハトアル下「當事者ノ」ヲ意思ニ從ヒトアル上ニ轉入シ但ノ下ニ反對ナルノ四字ヲ入レ明示シタル反對ノ合意トアルヲ明示ノ約束トシ第二項元本、利息トアルヲ元利トシ質ト爲サレタル物トアルヲ質物トセリ
可決ス
第二節 動產質契約ノ效力
第千百十一條 動產質債權者ハ質物ヲ返還スルマテ其監守及ヒ保存ニ付キ善良ナル管理者ノ總テノ注意ヲ加フルノ責アリ〔第二千八十條第一項〕
動產質債權者ハ債務者ノ許諾ヲ受ケスシテ質物ヲ賃貸スルコトヲ得ス又之ヲ自己ノ使用ニ供スルコトヲモ得ス但右ニ付キ債務者ノ許諾ヲ受ケタルトキ又ハ其使用カ物ノ保持及ヒ保存ノ天然ノ方法タルトキハ此限ニ在ラス
若シ動產質債權者カ質物ヲ濫用スルトキハ其權利ヲ失ヒタリトノ宣吿ヲ受クルコト有リ
(栗塚曰)
本條ハ第一項冒頭動產質債權者ハトアルヲ質取主ハトシ第二項動產質債權者ハ債務者ノトアル質取主ハ質置主ノトシ「之ヲ自己ノ使用ニ供スルコトヲモ得ス但右ニ付キ債務者ノ」トアルヲ削リ質置主ノト云フ文字ヲ加ヘ又ハ其使用カ物ノ保持及ビ保存ノ天然ノ方法タルトキハ此限ニ在ラズトアルヲ又ハ其物ノ使用カ其保存ニ必要ナルトキニ非ザレバ之ヲ自己ノ使用ニ供スルコトヲ得トセリ
(松岡曰)
原案但以下ハ許諾ヲ受ケタルトキハ賃貸スルヲ得又其物カ保存上ノ必要アルトキハ之ヲ自己ノ使用ニ供スルコトヲ得ト云フ義ニアラズヤ
(栗塚曰)
質取主ノ許諾ヲ受ケタルトキト云フモ報吿委員ハ使用ヲ承ケタルモノト視認ス
(松岡曰)
質物ヲ賃貸スルヲ得ザルモノトセバ保存上頗ル困難ナルコトアリ報吿委員ノ修正ニ由レバ例ハ乘馬術ニ暗熟セザルモノト雖ドモ質取馬ヲ他ニ賃貸スルヲ得ズ保存上必要ノ爲メニハ自ラ乘馬セザルベカラザルガ如シ尙ホ本條ノ意味ハ果シテ然ルヤ否起案者ニ質問シタシ
(栗塚曰)
然カスベシト雖ドモ本條ニ於ケル報吿委員ノ修正ハ假決セラレタシ
(委員長曰)
天然ノ方法ト云フヲ必要トシタルハ如何
(栗塚曰)
天然ト云フハ甚ダ漠然ナルモ必要ト云ヘバ之ヲ證明スルヲ得ベケレバナリ
(委員長曰)
必要ト云フモ其限度ヲ定ムルコト容易ナラズ又必要ニ付キ其證明スルヲ得ルモノトセバ天然ト云ヘル證明ヲ爲スコトヲモ得ベシ且必要ト云ヘバ意味狹縮ニシテ寧ロ天然ト云ヘルニ如カズ
(委員長曰)
自己ノ使用ニ供スルヲ得ザルモ他人ノ使用ニ供スルヲ得ベシト云フ義カ
(栗塚曰)
自己ノ使用ニモ又他人ノ使用ニ供スルヲ得ザルコト勿論ナリ
(南部曰)
穿チ論ヲ以テスレバ賃貸スルヲ得ズト云ヘルモ賃金ヲ得ザレバ之ヲ貸スヲ得ベシト云フニ至ラン奇怪ト云フベシ
第千百十二條 動產質債權者ハ自己ノ責任ヲ以テ質物ヲ自己ノ債權者ノ一人ニ自ラ質ト爲スコトヲ得但自己ノ債權者ニ質ト爲ササレハ生セサル可キ意外又ハ不可抗力ノ場合ニ付テモ亦其責ニ任ス
本條ハ報吿委員ニテ債權者ノ一人ニ自ラ質ト爲スコトヲ得トアルヲ債權者ニ質ト爲スコトヲ得トセリ
第千百十三條 若シ質物カ果實又ハ產物ヲ生スルトキハ動產質債權者ハ右ニ關シテハ留置權アル債權者ノ爲メ第千九十八條第二項ニ定メタル權利及ヒ義務ヲ有ス
質ト爲サレタル債權ニ關シテハ動產質債權者ハ右ニ同シク其債權ノ利息ヲ收取シ之ヲ自己ノ債權ニ充當ス然レトモ債務者ノ特許ヲ受ケスシテ其債權ノ元本ヲ受取ルコトヲ得ス但裏書ヲ以テ取引ス可キ證券ニ關スルトキハ此限ニ在ラス〔第二千八十一條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項冒頭若シヲ削リ產物トアルヲ產出物トシ第二項ハ債權ノ質ニ關シテハ其質取主ハ其債權ノ利息ヲ收取シ之ヲ自己ノ債權ニ充當ス然レドモ質置主ノ特別ナル委任ヲ受ケズシテ其元本ヲ受取ルコトヲ得ズ云々トセリ
第千百十四條 若シ動產質債權者カ質物ノ保持又ハ保存ノ爲メ必要ノ出費ヲ爲シタルトキハ其辨償ハ右債權者ノ爲メ自己ノ債權其モノニ先タチ動產質ヲ以テ擔保セラル〔第二千八十條第二項〕
質物ノ不表見ノ瑕疵ニ因リ債權者ノ受タルコト有ル可キ損害ノ賠償ニ付テモ亦同シ
本條ハ報吿委員ニテ第一項冒頭ノ「若シ」ヲ削リ質物ノ保持又ハ保存トアルヲ質物保存トシ「其モノ」トアルヲ削リ擔保セラルトアルヲ之ヲ擔保ストシ第二項質物ノ不表見ノトアルヲ質物ノ隱レタルトシ受クルコト有ル可キト云フヲ受ケタルトセリ
第千百十五條 動產質債權者ハ動產質ノ附キタル債務ノ主タルモノ並ニ從タルモノ及ヒ前條ニ從ヒ受ク可キ金額ノ皆濟ニ至ルマテ債務者及ヒ債務者ヨリ讓受ケタル者ニ對シ質物ノ占有ヲ留置スルコトヲ得〔第二千八十二條第一項〕
債權者ハ其債權ノ滿期ニ至ラサル間ハ債務者ノ他ノ債權者ヨリ爲ス質物ノ差押及ヒ其競賣ニ對抗スルコトヲ得
本條ハ報吿委員ニテ第一項ヲ質取主ハ動產質ノ附タル主從ノ債務及ヒ前條ニ從ヒ受クヘキ金額ノ皆濟ニ至ルマテ質置主及ヒ其讓人ニ對シ云々トシ第二項ハ債權者ヲ質取主トシ債務者トアルヲ質置主トシ競賣トアルヲ公賣トセリ可決ス
第千百十六條 動產質ノ附キタル債務カ要求ス可キモノト爲リタルトキ債務者履行ヲ爲ササルニ於テハ動產質債權者又ハ總テ其他ノ債權者ヨリ質物ノ公ケノ競賣ヲ求ムルコトヲ得動產質債權者ハ他ノ債權者ニ先タチ元本、利息及ヒ費用トシテ受ク可キモノト第千百十四條ニ明示シタル原由ニ付キ賠償ノ名義ニテ受ク可キモノトノ辨濟ヲ受ク
本條ハ報吿委員ニテ動產質ノ附タル債務カ滿期ト爲リタルトキ質置主履行ヲ爲ササルニ於テハ質取主又ハ其他ノ債權者ヨリ質物ノ公賣ヲ求ムルコトヲ得質取主ハ他ノ債權者ニ先タチ元利費用及ヒ第千百十四條ニ揭ケタル賠償金ノ辨濟ヲ受クトセリ可決ス
第千百十七條 若シ他ノ債權者ヨリ競賣ヲ求メス又ハ競賣ヲ實行スルコトヲ得サルトキハ動產質債權者カ債務者ト一致セサルニ於テハ其債權者ハ質物カ鑑定人ノ評價シタル價額ニ滿ツルマテ辨濟ノ爲メ付與セラル可キコトヲ債務者ニ送付シタル請願書ヲ以テ裁判所ニ請求スルコトヲ得〔第二千七十八條第二項〕
質物ノ價額カ動產質債務ヲ超ユル場合ニ於テハ債權者ハ債務者ニ其超過額ヲ辨償スルコトヲ要ス
本條ハ報吿委員ニテ第一項他ノ債權者ヨリ公賣ヲ求メズ又ハ之ヲ實行スルコトヲ得ザルトキハ質取主ガ質物ヲ己レノ有ト爲サントスルニ付キ質置主ト一致セザルニ於テハ質取主ハ鑑定人ノ評價シタル價額ニ滿ツルマデ質物ヲ辨濟ニ充ツ可キコトヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得但其請求書ヲ質置主ニ提示スルコトヲ要ス第二項ハ動產質ノ三字ヲ削レリ
(元尾崎曰)
鑑定人ノ評價シタル價額ニ滿ツルマデ質物ヲ辨濟ニ充ツ可キコトヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得ト云フハ如何
(栗塚曰)
其質物ニ付キ鑑定人ノ評價シタル評價額ニ限リ債權ニ充ツベシト云フニアリ
(委員長曰)
但書ヲ附シタル爲メ手續ヲ逆倒シタルニアラズヤ
(栗塚曰)
提示ノ上ニ「豫メ」ノ二字ヲ加フハ然ラザルヲ明了ニス
可決ス
第千百十八條 總テ動產質契約ノ約款又ハ債務要求期前ノ合意ニシテ債權者ニ其債權ノ全部又ハ一分ニ付キ裁判上ノ評價ナクシテ辨濟ノ爲メ質物ヲ保存スルコトヲ許スモノハ當然無效タリ〔第二千七十八條第二項〕
債務者カ或ハ折損ヲ以テ又ハ折損ナク或ハ賃借シ又ハ賃借セスシテ債權者ニ爲シタル買戻約定附ノ賣却又ハ其他總テ本條禁止ヲ犯ス爲メ爲シタル合意ハ之ヲ無效ト宣吿スルコトヲ得本條ニ定メタル無效ハ債權者ヨリ之ヲ援唱スルコトヲ得スシテ債務者又ハ其承權人ノミ之ヲ援唱スルコトヲ得
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項債務要求期前トアルヲ債務滿期前トシ合意ヲ約束トシ債權者ヲ質取主トシ一分ニ付キノ下ニ辨濟ノ爲メト云フ字ヲ入レ辨濟ノ爲メ質物ヲ保存スルコトトアルヲ流質トシ第二項ハ質置主カ質取主ニ爲シタル買戻約定附ノ賣却又ハ其他本條ノ禁止ヲ犯ス爲メノ約束ハ之ヲ無效ト宣吿ストシ本條ニ定メタル以下ハ別項トシ債權者ヲ質取主トシ援唱ヲ申立トシ債務者ヲ質置主トセリ
(淸岡曰)
買戻約定附ノ賣却トアルハ本條ノ禁止ヲ犯カス爲ノ約束ニ由シテ認メ難シ
(栗塚曰)
本條ノ禁止ヲ犯カス爲メ買戻約定附ノ賣却又ハ其他ノ約束ハトシテハ如何
(松岡曰)
此儘ニシテ可ナリ
(栗塚曰)
其他ノ上ニアル「又ハ」ト云フ字ヲ削ルベシ
(元尾崎曰)
買戻契約附ノ賣却ハ之ヲ無效ト宣吿スルヲ得ト云フハ不可ナリ
(栗塚曰)
眞正ナル買戻約定附ノ賣却ハ皆之ヲモ無效宣吿ヲ爲スト云フニアラズ本條ノ禁止ニ觸ルル買戻約定附ノ賣却ヲ無效トスルモノナリ故ニ質置主ニ爲シタル買戻約定附ノ賣却又ハ其他ノ約束ニシテ本條ノ禁止ヲ犯カスモノハ之ヲ無效ト宣吿スルコトヲ得トシタシ
(委員長曰)
其他以下ハ其他ノ約束ニシテ本條ヲ犯カス爲メ之ヲ爲シタルモノハ之ヲ無效ト宣吿スルコトヲ得トスベシ
可決ス
第千百十九條 質物カ債權者ノ手裏ニ存スル事ノミヲ以テハ債權者ノ利益ニ於テ債務者ノ免責時效ノ成就ヲ停止セス
本條ハ債權者ノ手裏ニトアルヲ質取主ノ方ニトシ事ノミトアルヲ事實ノミトシ債權者ノ利益ニ於テトアルヲ其トシ債務者トアル者ノ字ヲ削レリ本條ノ意味ハ質物カ質取主ノ方ニ存在スルモ其存在ノミヲ以テ債務ノ免責時效ヲ停止セズト云フニアリ然ルニ佛國ノ如キハ學者間ニモ種々ノ論アリ多クハ質物質取主ノ方ニ存在スル以上ハ其義務ヲ免ルルコトヲ得ズト云フニアリ
(元尾崎曰)
質物質取主ノ手裏ニ存スル以上ハ借主其負債ヲ辨濟シタリトスルヲ得ズ
(栗塚曰)
起案者ノ意見ハ質物未ダ存在スルモ他人ヨリ或ル事情ニ依リ既ニ之ヲ返濟シタルコトナキニシモアラズ依テ質物ノ質取主ノ手裏ニ存在スルノミヲ以テ免責時效ノ成就ヲ停止スルヲ得ズト云フニアリ
(委員長曰)
本條ハ各國ノ法條ヲ照合シテ不都合ナキ樣シタキニ依リ先ヅ未定ニ附シ置クベシ
(栗塚曰)
本條ハ私シノミハ報吿委員中ノ說ト異ナルヲ以テ起案者ニ質問シ置ケリ
第千百二十條 質物ノ占有ハ常ニ容假ノ占有ニシテ其占有ノ繼續期ノ如何ニ拘ハラス又債務カ辨濟又ハ其他ノ方法ニテ消滅シタル後ト雖トモ動產質債權者ハ得取時效ヲ援唱スルコトヲ得ス〔第二千七十九條〕
然レトモ第百九十七條ニ定メタル二箇ノ場合ニ於テハ容假タルコトハ止ム
(栗塚曰)
本條ハ動產質債權者トアルヲ質取主トシ援唱ヲ申立トスベシ
可決ス
第三章 不動產質
第一節 不動產質ノ目的、本性及ヒ組成
第千百二十一條 不動產質契約ハ不動產質債權者ニ他ノ債權者ヨリ先ニ不動產ノ果實及ヒ入額ヲ收取スルノ權利ヲ付與ス但不動產質債權者ハ其果實及ヒ入額ヲ債權ノ利息ニ充當シ超過額アルトキハ附隨ニテ之ヲ元本ニ充當シ又債權カ利息ヲ生セサルトキハ其果實及ヒ入額ノ全部ヲ元本ニ充當スルコトヲ要ス〔第二千八十五條第二項〕
(栗塚曰)
第一節ノ下本性トアルハ例ニ依リ性質トシ本條第一項ハ報吿委員ニテ不動產質ハ質取主ニ他ノ債權者ヨリ先ニ其不動產ノ果實及ビ入額ヲ債務ノ滿期前ニ收取スルノ權利ヲ付與ストシ第二項ハ期限ニ至レバ質取主ハ抵當權アル債權者ノ權利ヲ行フトシ第三項ハ其期限ハ三十年ヲ超過スルコトヲ得ズ之ヲ過グルトキハ當然三十年ニ減縮ストシ第四項ハ其期限ハ假令之ヲ更新スルモ前後通算シテ三十年以上ニ伸スコトヲ得ズトセリ
(元尾崎曰)
本條ノ末項更新スルモ前後通算シテ三十年以上ニ伸スコトヲ得ズト云フハ事理支吾スベシ既ニ之ヲ更新スル以上ハ其期限モ更ニ之ヲ起算セザルベカラズ
(栗塚曰)
假令更新スルモ其期限ハ之ヲ延引スルヲ得ズ
(南部曰)
其期限中ハ契約ヲ新更スルモ之ヲ延引スルヲ得ズ若シ更新ニ依テ之ヲ延引スルヲ得ハ自然期限上ノ制限ヲ無效タラシムベシ
(松岡曰)
前後通算シテト云ヘルヲ削ルベシ更新スルモ前後ヲ通算スルヲ得ザル理由ナシ
(委員長曰)
此點ハ假令、ハ最初ノ契約ニテ十年ヲ期限トシタルニ之ヲ更新シテ更ラニ三十年卽チ前後ヲ通シテ四十年ノ期限トスルヲ得ズト云フニアルベシ
(尾崎曰)
然ルベシ
(栗塚曰)
伸バスコトヲ得ズトアルヲ增展スルコトヲ得ズトシテハ如何原案ノ精神ハ此契約ノ期限ハ半途ニシテ假令ヒ之ヲ更新スルモ三十年以上ニ延伸スルヲ得ズト云フニアレバナリ
(元尾崎曰)
更新ト云フハ期限ノ更新ト云フモノカ
(栗塚曰)
然リ更新ハ期限ニ係ラズ義務ナラシメバ之ヲ更改ト云フベシ
(淸岡曰)
本條末項ハ之ヲ削除シ前後三十年ヲ超過スルトアルヲ更新スルトシテハ如何
(槇村曰)
末項ノ更新スルモトアルヲ延期スルモト修正シ其期限ハ假令之ヲ延期スルモ前後通算シテ三十年以上ニ伸バスコトヲ得ズトスベシ
(松岡曰)
三十年ノ期限ハ二十年トシテハ如何
可決ス
第千百二十二條 不動產質ハ債務者ノ爲メ第三者ヨリ之ヲ設定スルコトヲ得其不動產質ハ債務者ト設定者トノ間ニ於テハ同一ノ方法ニテ設定セラレタル動產質ノ爲メ第千百二條ニ定メタル效力ヲ生ス〔第二千九十條〕
第千百二十三條 不動產質ハ不動產ノ所有者タル者又ハ用收者永借人、土地賃借人家屋賃借人又ハ不動產質債權者ノ如キ少ナクモ不動產質權ニ等シク又ハ此ヨリ多少廣大ナル不動產收益ノ物權ヲ有スル者ニシテ動產質ノ爲メ第千百四條ニ記載シタル區別ニ從ヒ不動產ヲ處分スルノ能力ヲ有スル者ニ非サレハ之ヲ設定スルコトヲ得ス
如何ナル場合ニ於テモ不動產質ハ設定者ノ收益ノ繼續期ヲ超ユルコトヲ得ス
第千百二十四條 不動產質ハ之ヲ證明スル證書又ハ之ヲ設定シタル口頭合意ノ成立ヲ認定スル判決書ヲ第三百六十八條第一號及ヒ第三號ニ從ヒ登記シテ公ニ爲シタル當時ヨリ後ニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス〔千八百五十五年三月二十三日ノ法律第二條第一號、第二號、第三號、第二千八十五條第一項〕
第千百二十五條 登記シタル證書又ハ判決書ニハ不動產質ト爲シタル不動產ノ精確ナル指示ノ外元本及ヒ利息ニ於ケル債權ノ額ヲ記載スルコトヲ要ス
右ノ指示カ不十分ナル場合ニ於テハ既ニ爲シタル登記ノ縁邊ニ補足合意ヲ附記シテ之ヲ補フ
第千百二十六條 若シ不動產質ト爲シタル物權カ用收權賃借權永借權又ハ從前ノ不動產質權ナルトキハ右權利ノ設定證書ノ登記ノ縁邊ニ其不動產質權ヲ附記スルヲ以テ足レリトス
(栗塚曰)
本條ハ起案者ヨリ更ラニ若シ質ト爲シタル物權カ用收權、賃借權、又ハ永借權ナルトキハ右權利ノ設定證書ノ登記ノ縁邊ニ其質權ヲ附記スルヲ以テ足レリトスト改正シ來レリ報吿委員ニテハ冒頭ノ若シト云フ二字ヲ削ルベシト云フニアリ
第千百二十七條 不動產質債權者ハ右ノ外動產質ニ關シ第千百七條ニ記載シタル如ク其債權ヲ擔保スル不動產權ノ現實ノ占有ヲ得且之ヲ保存スルコトヲ要ス
第千百二十八條 不動產質ハ第千百十條ニ於テ動產質ニ付キ記載シタル如ク働方及ヒ受方ニテ不可分タリ〔第二千九十條〕
無異議
第二節 不動產質ノ效力
第千百二十九條 不動產質債權者ハ其債權ノ擔保ノ爲メ受取リタル不動產又ハ權利ヲ第百二十六條乃至第百二十九條ニ規定シタル制限ニ從ヒ賃貸スルコトヲ得
又不動產質債權者ハ其不動產又ハ權利ヲ自己ノ權利ノ繼續期間ニ限リ動產質ニ付キ第千百十二條ニ記載シタル如ク自己ノ責任ヲ以テ自ラ不動產質ト爲スコトヲ得
(栗塚曰)
本條ハ不動產質債權者トアルヲ何レモ質取主トシ第二項自ラ不動產ノ五字ヲ削除セリ
(松岡曰)
本條ハ質取主其不動產又ハ權利ヲ自己ノ權利ノ繼續期間外ニ管理ノ所爲ヲ以テ更ラニ之ヲ質物ニ附スルコトヲ得ベシトアリ
(委員長曰)
質取主ハ自己ガ質權アル期限内ニアラザレバ更ラニ之ヲ質物ニ附スルヲ得ザルベシ
(栗塚曰)
假令バ爰ニ契約上十年間質入シタルニ爾後二年ヲ經過シ義務辨償ヲ爲スモ其質權ハ最初契約ノ如ク十年間ハ依然存續セザルベカラズ然ラザレバ質取シテ金貸スルヲ得ザルベシ
(尾崎曰)
質取主ニ害損ヲ釀成スルニ至レバ質入主ハ之ヲ賠償セザルベカラズ
(栗塚曰)
然リ但質契約ノ期限ヲ超過スルヲ得ズトスベシ
(西曰)
質契約ノ期限ヲ超過スルヲ得ズト云ハサルモ質權期限ノ外之ヲ質入スルヲ得ザルコト明ナリ
第千百三十條 不動產質債權者ハ租稅及ヒ入額ノ其他ノ每年ノ負擔ヲ辨償スルノ責ニ任ス
不動產質債權者ハ亦保持ノ修繕及ヒ必要ニシテ且急迫ナル大修繕ヲ爲スノ責ニ任ス若シ之ニ違フトキハ損害賠償ヲ負擔ス〔第二千八十六條〕
第千百三十一條 債權者ハ果實及ヒ入額ヲ其債權ニ充當スル前ニ栽培及ヒ管理ノ費用ノ如キ前記ノ立替金ヲ先取ス
然レトモ當事者ハ費用ヲ扣除セサル果實及ヒ入額カ其多少ニテ債權者ニ損益アルニ拘ハラス債權ノ利息ニ充當セラル可キコトヲ合意スルコトヲ得然レトモ此合意カ不動產質債權者ニ法律ノ許シタル利息ニ著シク且明ニ超ヘタル利益ヲ得セシムルトキハ債務者又ハ他ノ債權者ヨリ其合意ニ付キ異議ヲ申立ツルコトヲ得此場合ニ於テハ其利益ノ超過額ヲ減除ス〔第二千八十九條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項ヲ質カ建物宅地ニ存スルトキハ質取主ハ自ラ之ヲ占領スルト之ヲ賃貸スルトヲ問ハズ其借賃ヲ自己ノ債權ノ利息ニ充當シ若シ超過額アルトキハ附隨シテ又ハ債權カ利息ヲ生ゼザルトキハ全部ニテ元本ニ充當ストシ第二項ハ若シ質ノ田畑山林ニ存スルトキハ當事者ノ間ニ於テ果實ノ計算ヲモ又利息ノ計算ヲモ爲サズ其果實ト利息トハ互ニ之ヲ相殺ニ供シタリト看做ス但反對ノ約束アルカ又ハ他ノ債權者ニ對シ顯著ナル詐偽アルトキハ此限ニ在ラズトセリ
(元尾崎曰)
田畑山林ハ之ヲ日本ノ習慣ニ依ラシメ建物宅地ハ之ニ異ナルハ如何
(栗塚曰)
日本ニハ建物宅地ヲ質入スル成例ナキヲ以テナリ本條ハ最初起案者ニ對シ日本ニハ田畑山林ヲ質入スルノ習慣アルモ建物宅地ヲ質入スルノ習慣ナキヲ以テ習慣アルモノハ其習慣ヲ破ラザルヲ服膺スベシト云フヲ以テシ起案者ハ之ヲ容レテ其原案ヲ改正シ來レリ
(松岡曰)
建物宅地ト田畑山林トヲ區別スルノ必要ヲ見ズ是等ハ同一ニ其習慣ニ從ハシムベシ
(元尾崎曰)
宅地ヲ質入スルノ習慣ハ絕無ニアラズ
(南部曰)
宅地ト建物トハ隨伴スルモノナリ建物ヲ質入スルカ如キハ全國殆ンド校實ナシ
(栗塚曰)
借金セントスル者ハ金圓ノ融通切迫ニ際シ自己ノ所有物ニ於ケル利益ヲ顧慮スルニ遑マアラズ百方力ヲ盡シテ其借受ヲ爲スベシ故ニ法律ハ其正當ナル點度ヲ保護シ借金ノ利息ヲ差引キ殘剩ハ之ヲ返還セシムルヲ至當トス
(尾崎曰)
建物宅地ト田畑山林トハ之ヲ區別シテ可ナリ
(委員長曰)
借賃トアルハ借賃トスルカ貸賃トスルカ
(槇村曰)
借質トスベシ
(尾崎曰)
貸賃トスベシ
(栗塚曰)
賃料トスレバ貸借何レニ屬スルヤノ疑ヒナシ
結局借賃トスルヲ可トスルニ決ス
(委員長曰)
田畑山林中ニハ池沼ノ如キヲ包含スルカ
(栗塚曰)
然リ之ヲ類推スベシ
第千百三十二條 債權者ハ如何ナル反對ノ合意アルニ拘ハラス己レノ爲メ負擔重キニ過クルト見ユル不動產質ヲ將來ニ向テ常ニ抛棄スルコトヲ得〔第二千八十七條第二項〕
第千百三十三條 不動產質債權者ハ主タリ及ヒ從タル債務ノ皆濟ヲ受クルマテ不動產質ト爲サレタル不動產又ハ權利ノ占有ヲ留置スルコトヲ得〔第二千八十七條第一項〕
然レトモ不動產質債權者ハ債務ノ滿期前又滿期後ニ熟議ヲ以テスルト競賣ヲ以テスルトヲ問ハス債務者又ハ他ノ債權者ヨリ求メタル賣却ニ故障ヲ申立ツルコトヲ得ス然レトモ右二箇ノ場合ニ於テ得取者ハ不動產質債權者ノ留置權ヲ尊重スルノ責アリ〔第二千九十一條第一項〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項ヲ質取主ハ債務ノ皆濟ヲ受クルマデ質ニ取リタル云々トシ第二項競賣ハ公賣トセリ
(元尾崎曰)
債務ノ皆濟トアルハ債務ノ元利ノ皆濟トシテハ如何
第千百三十四條 若シ債權者カ不動產質ト爲サレタル不動產ニ付キ同時ニ先取特權又ハ抵當權ヲ有スルトキハ債權者ハ賣却ノ場合ニ於テハ右優先ノ原由ヲ自己ノ順位ニ於テ利唱スルコトヲ得但未タ辨濟ヲ受ケサルコト有ル可キモノノ爲メ自己ノ質權ヲ失ハス〔第二千九十一條第二項〕
然レトモ若シ不動產質債權者カ自ラ競賣ヲ求メタルトキハ其不動產質權ハ消滅ス但其競賣ニ於テ明示シテ此權利ヲ留保シタルトキハ此限ニ在ラス
第千百三十五條 第千百十一條、第千百十四條第千百十五條、第千百十八條、第千百十九條及ヒ第千百二十條ハ動產質債權者ニ於ケル如ク不動產債權者ニ之ヲモ適用ス〔第二千八十八條〕
(栗塚曰)
本條ハ起案者動產質ノ上ニ不ノ字ヲ加ヘ不動產質ニモ之ヲ適用スト改正シ來レリ
第四章 先取特權
前置條例
第千百三十六條 先取特權ハ合意上ノ質ナキ場合ニ於テ或ル債權ノ原由ニ附着シタル優先權ナリ〔第二千九十五條〕
先取特權ノ存在スルニ必要ナル原由、條件及ヒ其存在スル目的物ハ法律ニ制限シテ之ヲ定ム
先取特權カ第三保有者ニ對シ追及權ヲ與フル場合及ヒ其權利行用ノ條件ハ亦法律ヲ以テ之ヲ定ム
第千百三十七條 先取特權ハ第千百十條及ヒ第千百二十八條ニ於テ動產質及ヒ不動產質ニ付キ記載シタル如ク働方及ヒ受方ニテ不可分タリ
無異議
第千百三十八條 若シ先取特權ノ負擔アル物カ第三者ノ方ニテ滅失シ又ハ毀損シ第三者カ此カ爲メ債務者ニ賠償ヲ負擔シタルトキハ先取特權アル債權者ハ他ノ債權者ニ先タチ右ノ賠償ニ於ケル債務者ノ權利ヲ行フコトヲ得但其先取特權アル債權者ハ辨濟前ニ適正ノ方式ニ從ヒ辨濟ニ付キ異議ヲ述フルコトヲ要ス
先取特權ニ屬シタル物ノ賣却又ハ賃貸アル場合及ヒ其物ニ關スル法律上又ハ合意上ノ權利ノ行用ノ爲メ債務者ニ金額又ハ有價物ヲ辨濟ス可キ總テノ場合ニ於テモ亦同シ但災害ノ場合ニ於テ保險者ノ負擔スル賠償ニ關シ第八百三十九條ニ記載シタルモノヲ妨ケス〔伊民第千九百五十一條〕
第千百三十九條 先取特權ノ種類ハ左ノ如シ
第一 一般ノモノ卽チ債務者ノ總テノ動產及ヒ附隨ニテ其總テノ不動產ニ係ルモノ〔第二千九十九條、第二千百條、第二千百一條、第二千百四條、第二千百五條〕
第二 或ル動產ニ付キ特別ノモノ〔第二千百二條〕
第三 或ル不動產ニ付キ特別ノモノ〔第二千百三條〕
第千百四十條 一般又ハ特別ノ先取特權ヲ有スル債權者ノ相互ノ順位ハ此章ノ各節ニ之ヲ規定ス
不動產ニ付キ先取特權ヲ有スル債權者ハ其同一ノ不動產ニ付キ抵當權ヲ有スル債權者ニ先ツタ但法律カ之ニ異ナリテ規定シタル場合ハ此限ニ在ラス〔第二千九十五條〕
同名義又ハ同順位ノ先取特權アル債權者ハ其債權額ノ割合ニ應シテ辨濟ヲ受ク〔第二千九十七條〕
無異議
第千百四十一條 此法律ニ定メタル先取特權ハ商法又ハ各人若クハ公ノ金庫ノ爲メ特別法ニ設定シ又ハ設定ス可キ先取特權ノ妨ケト爲ラス〔第二千九十八條〕
其他右ノ先取特權ハ別段ノ規定ナキ總テノ點ニ付テハ下ニ定メタル一般ノ規則ニ從フ
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項ハ先取特權ハノ下各人又ハ國庫ノ爲メ商法又ハ特別法ヲ以テ設定シ又ハ設定スベキ先取特權ノ妨ゲト爲ラズ
(松岡曰)
設定ハ規定トスベシ
(北畠曰)
前條ニモ規定ストアルヲ以テ本條モ設定ヲ規定トスベシ
可決ス
(委員長曰)
第二項ノ總テノ點ニ付テハトアルハ如何
(栗塚曰)
總テノ事ニ付テハト云ヘルガ如クナレバ總テノ場合ニ於テハトシテハ如何
(元尾崎曰)
其他右ノ先取特權トハ如何
(南部曰)
商法又ハ特別法ヲ以テ規定スル先取特權ヲ指スベシ
(元尾崎曰)
其意味ニ了解スルヲ得ズ
(松岡曰)
其他ヲ削リ總テノ點ニ付テハトアルヲ場合ニ於テハトスベシ
可決ス
第一節 動產及ヒ不動產ニ係ル一般先取特權
第一款 一般先取特權ノ原由
第千百四十二條 動產及ヒ不動產ニ係ル先取特權ノ附キタル債權ハ下ニ定メタル制限及ヒ條件ヲ帶ヒタル左ノ諸件トス
第一 訴訟費用
第二 葬式費用
第三 最後ノ疾病ノ費用
第四 雇人ノ給料
第五 飮食品ノ供給〔第二千百一條、第二千百四條〕
(栗塚曰)
第一款ノ下一般先取特權トアルハ一般ノ先取特權トシ本條債權ハ下ニ定メタルトアルヲ債權ハ左ノ如シ但下ニ定メタルトシ條件ヲ帶ビタル左ノ諸件トストアルヲ條件ニ從フトセリ
(松岡曰)
飮食品ハ日用品ト修正シ來リタルカ本條飮食品ノ中ニハ薪炭類ヲモ包含セザルカ
(栗塚曰)
薪炭類ハ之ヲ包含セズ米味噌醤油ノ如シ
(南部曰)
本條飮食品ノ供給ハ此儘ニ附シ置キ日用品ニ關シテハ下文三記入スベシ
第一則 訴訟費用ノ先取特權
第千百四十三條 訴訟費用ト稱スル費用ノ先取特權ハ或ハ債務者ノ財產ノ保存ヲ保スル爲メ或ハ其財產ヲ淸算シ、之ヲ換價シ及ヒ有權者間ニ其代價ヲ配當スル爲メ金圓ノ立替ヲ爲シタル債權者又ハ各債權者ノ共同利益ニ於テ正當ニ爲シタル裁判上若クハ裁判外ノ總テノ所爲ニ付キ給料若クハ謝金ヲ受ク可キ債權者ニ屬ス〔第二千百一條第一號〕
若シ或ハ費用ハ財產ノ爲メニノミ爲サレ又ハ總テノ債權者ニ有益ナラサリシトキハ先取特權ハ特別ノモノニシテ其利益ニ於テ費用ノ爲サレタル債權者ニ對スルニ非サレハ之ヲ對抗スルコトヲ得ス
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項ヲ訴訟費用ノ先取特權ハ或ハ債務者ノ財產ヲ保存スル爲メ或ハ其財產ヲ淸算シ之ヲ換價シ及ビ有權者ニ其代價ヲ配當スル爲メ各債權者ノ共同利益ニ於テ正當ニ爲シタル裁判上若クハ裁判外ノ總テノ行爲ニ付キ金圓ノ立替ヲ爲シ又ハ給料若クハ謝金ヲ受ク可キ債權者ニ屬ストシ第二項ヲ若シ或ハ財產ノ爲メニノミ爲シ總テノ債權者ニ有益ナラザリシ費用ニ付テハ先取特權ハ特別ノモノニシテ其費用ヲ生ゼシメタル債權者ニ對スルニ非ザレバ之ヲ對抗スルコトヲ得ズトセリ
(松岡曰)
其費用ヲ生ゼシメタル債權者ニ對シト云フハ如何
(元尾崎曰)
費用ヲ要シタル人ノ爲メニ對スルヲ云フベシ
(栗塚曰)
費用ヲ要セシメタル債權者ニ對スルヲ云フ
(委員長曰)
假令バ幼年者ノ爲メニ爲シタル後見人ノ所爲ニ付テハ幼年者ニ對シ其費用ヲ請求スルガ如クナルベシ然ラバ幼年者ノ爲メニセシ校實ヲ顯示スルニアラザレバ不可ナリ
(栗塚曰)
然リ後見人ハ其幼年者ニ對スルニアラザレバ費用ヲ請求スルヲ得ズ
(委員長曰)
甲者ガ乙者ニ成リ代リ爲シタル所爲ハ必ラズ乙者ノ利益ニアラズ乙者ハ甲者ヲシテ其費用ヲ生ゼシメタルニアラズ甲者ハ徒ラニ自ラ其費用ヲ支出シタルモノト云フベシ依テ乙者ハ爲以ラク甲者ハ無用ノ周旋ヲ爲シ呉レタリト
(栗塚曰)
其爭點ハ世間往々免ルベカラザルモ乙者ハ其責ヲ辭スル能ハザルベシ倒底其場合ハ代理契約事務管理ヲ以テ措置スルヲ得ベシ
第二則 葬式費用ノ先取特權
第千百四十四條 債務者ノ自分ニ應シ且慣習ニ從ヒ其斂葬、土葬、又ハ火葬ノ爲メ爲シタル俗事上及ヒ宗教上ノ費用ハ先取特權アリ〔第二千百一條第二號〕
先取特權ハ亦債務者ノ擔當タル其同居ノ家族ノ葬式ノ爲メ爲シタル費用ニ之ヲ適用ス
其先取特權ハ葬式ニ連續シタル出費ニ及ハス但其出費カ慣習上ノモノタルトキモ亦同シ
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項「其斂葬、土葬又ハ火葬ノ爲メ」ヲ削リ俗事上及ビ宗教上トアルヲ葬式トシ先取特權アリトアルヲ先取特權アル者トストシ第二項ハ債務者ノ上亦ヲ削リ費用ニノ下「モ亦」ヲ加入スベシトセリ
(村田曰)
第二項ノ冒頭ヘ其ト云フ字ヲ加ヘタシ
(委員長曰)
敢テ然カスルニモ及バザルベシ
(元尾崎曰)
葬式執了後彼ノ菓餠分配ノ如キハ包含セザルモ車夫傭入ノ費用ハ之ヲ包含セシメザルベカラズ
(栗塚曰)
本條ノ精神ハ車夫傭入ノ費用ノ類ハ包含セシメズ
第三則 最後ノ疾病ノ費用ノ先取特權
第千百四十五條 最後ノ疾病ノ費用ノ先取特權ハ債務者又ハ前條ニ指定シタル家族ノ死亡前或ハ債務者ノ無資力前ノ疾病ニ關シ爲シタル内科ノ醫師藥商、看病人及ヒ其他ノ費用ヲ包含ス〔第二千百一條第三號〕
長病ノ場合ニ於テハ右ノ名義ニ於テ爲シタル費用ノ先取特權ハ最後ノ年ノ費用ニ之ヲ制限ス
債務者又ハ其家族カ事變ノ爲メニ死亡シ又費用ノ爲サレタル疾病ノ外ナル原由ノ爲メ死亡シタルトキト雖トモ先取特權ハ尙ホ存在ス
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項或ハ債務者ノ無資力前ト云ヘルヲ疾病ニ關シノ下ニ轉置シ其疾病ニ關シノ下「ノ債務者又ハ其家族ノ疾病ニ關シト云ヘルヲ加ヘ「内科又ハ外科ノ」ヲ削レリ第二項ノ「名義ニ於テ爲シタル」トアルヲ削リ最後ノ年トアルヲ最後ノ一ケ年トシ第三項費用ノ爲サレトアルヲ費用ヲ生ゼシメトセリ
(松岡曰)
債務者ノ無資力前云々ハ但書ニスベシ
可決ス
第四則 雇人給料ノ先取特權
第千百四十六條 雇人ノ先取特權ハ債務者ノ一身、債務者ノ擔當タル其同居ノ親族ノ一身ニ附從シ或ハ債務者ノ家又ハ都市若クハ田舎ノ所有物ニ附從シタル雇人ニ屬ス
右ノ先取特權ハ最後ノ年ノ賃銀又ハ給料ノミヲ擔保ス〔第二千百一條第四號〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項一身ニ附從シトアルヲ一身ニ附着シトシ所有物ニ附從シテ土地ニ附着シトシ第二項最後ノ年ヲ最後ノ一ケ年トセリ
(松岡曰)
一身ノ附着シトスルハ一身ニ附屬シトスベシ
可決ス
(栗塚曰)
債務者ノ家又ハ都市若クハ田舎ノトアルヲ債務者ノ家屋又ハトシテハ如何
(委員長曰)
家屋又ハ土地ト云フニテ田畑池沼及ビ船頭夫ノ如キモ包含スルカ
(栗塚曰)
船頭夫ハ債務者ノ一身ニ附屬スルモノナリ
(委員長曰)
船頭夫ノ如キ船中ニ起居スルモノハ船舶ヲ以テ家屋トスルニアラズヤ
(南部曰)
船舶ト家屋ト同一視スルヲ得ズ
(委員長曰)
船舶中ニ起居スル雇人ハ何ニ屬スルヤ
(栗塚曰)
債務者ノ一身ト家屋トニ屬スベシ
(委員長曰)
其所屬判然セザルハ不可ナリ
(元尾崎曰)
船舶ノ雇人ハ家屋ニ屬セシムベキニアラズヤ
(南部曰)
船舶ノ雇人ハ恰モ門番ト同一ニシテ一番人ト云フベシ
(北畠曰)
土地ヲ所有物トスレバ意味廣闊ナルヲ以テ不都合ナシ
(委員長曰)
然ラバ家屋其他ノ所有物ニ附屬シタルトスベシ
可決ス
第五則 飮食品供給ノ先取特權
第千百四十七條 飮食品供給ノ先取特權ハ債務者又ハ債務者ト同居スル家族及ヒ是等ノ者ノ雇人ニ供給シタル飮食品ニノミ之ヲ適用ス
右ノ先取特權ハ最後ノ六ケ月間ニ爲シタル右ノ供給ノミヲ包含ス〔第二千百一條第三號〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項債務者ト同居スルトアルヲ其同居ノトシ「是等ノ者ノ」五字ヲ削リ第二項ハ六ケ月間ノ下「ニ爲シタル右」トアルヲ除ケリ
(委員長)
本條第一項中生活ニ必要ナルノ文字ヲ挿入スルベキヤ
(松岡曰)
飮食品ニハ薪炭類ヲモ包含スベキヲ以テ日用品トシタシ
(南部曰)
薪炭類ヲ包含セズ先取特權ハ可及的其債權者ヲ害セザルニ傾向セシメザルベカラズ
(北畠曰)
飮食品ノ下ニ薪炭油ト云ヘバ註脚ヲ加ヘテハ如何
(元尾崎曰)
生活ニ必要ナル飮食品ノミヲ之ヲ適用ストスベシ
可決ス
第二款 一般先取特權ノ效力及ヒ順位
第千百四十八條 一般先取特權ハ先取特權アル各債權者カ動產ニ付キ配當順序中ニ入リタル後尙ホ其受ク可キモノノ爲メニ非サレハ不動產ニ付キ之ヲ行フコトヲ得ス
然レトモ若シ動產ノ代價ノ配當ニ先タチテ不動產ノ代價ノ配當アルトキハ債權者ハ不動產ノ代價ニ付キ條件附ニテ自己ノ配當順序ヲ定メシムルコトヲ得但右ノ配當順序ニ於テハ動產ニテ辨濟ヲ受ケサルモノノミヲ受ク
動產ノ代價配當ニ付キ有益ノ時期ニ出席スルコトヲ怠リタル債權者ハ動產ニテ自己ノ受クヘカリシモノノ限度ニ於テ不動產ニ付キ其優先權ヲ失フ
第千百四十九條 一般先取特權ノ全部又ハ一分カ互ニ牴觸スル場合ニ於テハ第千百四十三條乃至第千百四十七條ニ列記シタル相互ノ順序ニ從テ配當順序ヲ定ム〔第二千百一條〕
前記ノ數條ニ揭ケタル同一ナル法律上ノ名稱中ニ在ル總テノ債權ハ同順位ニ於テ配當順序ヲ定メラル
若シ一般先取特權カ動產ニ係ル特別先取特權ト牴觸スルトキハ其動產ニ係ル特別先取特權ニ對スル一般先取特權ノ順位ハ下ノ第二節ニ之ヲ規定ス
一般先取特權ハ不動產ニ係ル特別先取特權ニ先タタル又後ニ設定セラレタリト雖詐害ナキニ於テハ特別抵當ニ因テ先タタル〔第二千百五條〕
然レトモ一般先取特權ハ其發生ノ一般抵當ハ勿論其得取シタル一般抵當ニモ先タツ一般抵當ノ負擔アル總テノ不動產ヲ同時ニ賣却シタル場合ニ於テハ一般先取特權ハ各不動產ノ賣却代價ノ割合ニ應シテ其總テノ不動產ニ付キ配當順序ヲ定メラル
若シ順次ニ右ノ不動產ヲ賣却スルトキハ一般先取特權ハ初ノ賣却ニ付キ全部充當セラレ又次ノ賣却ニ付キ附隨ニテ充當セラル且各不動產間ノ配當ハ初ニ右ノ先取特權ノ負擔ヲ受ケタル債權者ノ利益ニ於テ求償ノ方法ヲ以テノミ之ヲ爲ス
第千百五十條 不動產カ債務者ニ屬スル間ハ一般先取特權ヲ他ノ債權者ニ對抗スル爲メニ其不動產ニ付テノ記入ヲ免除セラル〔第二千百七條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ一般ノ先取特權ハ不動產カ債務者ニ屬スル間ハ他ノ債權者云々トセリ
可決ス
第二節 動產ニ係ル特別先取特權
第一款 動產ニ係ル特別先取特權ノ原由及ヒ目的
第千百五十一條 上ノ第二章ニ於テ先取特權ヲ設定セラレタル動產質債權者ノ外左ノ各人ハ下ニ指定シタル債權ノ爲メ下ニ指定シタル動產物ニ付キ先取特權ヲ有ス
第一 不動產ノ賃貸人
第二 種子及ヒ肥料ノ供給者
第三 農業及ヒ工業ノ職工
第四 動產物ノ保存者
第五 動產物ノ賣主
第六 旅店主人
第七 舟車運送營業人
第八 保證ニ服シタル公役員ノ負擔ノ所爲ニ付キ其役員ニ對スル債權者
第九 右ノ保證ノ元資ヲ貸タル者〔第二千百二號〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ上ノ第二章ニ規定シタル先取特權ヲ有スル動產質取主ノ外下ニ指定シタル動產物ニ付キ先取特權ヲ有スル債權者左ノ如シトシ第三ノ職工ヲ稼人トシ第六ハ放店ノ主人トシ第八公役員ヲ公吏トシ役員ヲ吏員トシ第九右ノトアル「ノ」ヲ削レリ
(委員長曰)
稼人ハ被雇人トナルカ
(栗塚曰)
稼人ハ雇ハレテ農業及ビ工業ノ役ヲ執ルモノヲ云フベシ尙ホ此文字ハ後條ニ於テ規定セラレタシ
第一則 不動產賃貸人ノ先取特權
第千百五十二條 居宅、倉庫又ハ其他ノ建物ノ賃貸人ハ賃借人ノ使用、商業又ハ工業ノ爲メ右ノ建物内ニ備ヘタル動產物ニ付キ先取特權ヲ有ス〔第二千百二條第一號〕
右ノ物カ賃借人ニ屬セスト雖モ若シ賃貸人カ其事實ヲ知ラス且賃貸シタル場所内ニ物ヲ持込ムコトヲ知リタル當時ニ於テ右ノ事實ヲ豫見スルニ足ル可キ理由アラサリシトキハ先取特權ハ尙ホ存在ス〔第二千百二條第四號、第三項〕
賃貸人ノ先取特權ハ現金賃借人又ハ其家族ノ一身ノ使用ニ供シタル珠寶寶石ニ付キ又所持人式ナルモ債權證書ニ付キ之ヲ行フコトヲ得ス
第千百五十三條 賃貸人ハ賃借人カ其賃借シタル場所内ニ現期間ノ借賃及ヒ後ノ一期分ノ借賃ノ辨濟ヲ擔保スルニ足ル可キ動產ヲ備フルコトヲ要求スルコトヲ得賃借人之ヲ爲サス且右期間ノ借賃ノ前拂又ハ之ニ相當スル其他ノ抵保ヲ供セサルトキハ賃貸人ハ損害アレハ其賠償ヲ得テ賃貸ヲ消除スルコトヲ得
若シ賃貸シタル場所ニ備ヘタル動產ヲ賃貸人ノ許諾ナクシテ取去リタルモ別ニ詐害ナキトキハ賃貸人ハ其擔保カ不足ト爲リタルトキ尙ホ賃借人ニ屬スル權利ノ限度内ニ非サレハ右ノ取去ラレタル動產ヲ賃貸シタル場所ニ復セシムルコトヲ得ス
然レトモ賃貸人ノ權利ヲ詐害シテ爲サレタル所爲ノ場合ニ於テハ賃貸人ハ第三百六十一條以下ニ記載シタル條件及ヒ區別ニ從ヒ第三者ニ對シテ其所爲ヲ廢罷スルコトヲ得
右ハ總テ第千百三十八條ニ憑リ賃貸人ニ屬スル權利ヲ妨ケス〔第二千百二條第一號、第五項〕
第千百五十四條 賃貸ト永貸トヲ問ハス田舎ノ土地ノ賃貸人ハ居宅並ニ土地利用ノ建物内ニ備ヘタル動產物ニ付キ及ヒ賃貸土地ノ利用ニ供シタル用具其他ノ器具又ハ機器ニ付キ右ト同一ノ限度ニ於テ先取特權ヲ有ス〔第二千百二條第一號、第一項〕
其他右ノ賃貸人ハ賃貸シタル土地ノ收獲物及ヒ其他ノ天然產物カ尙ホ土地ニ附着スルト土地ニ保存セラルルトヲ問ハス其收獲物及ヒ產物ニ付キ先取特權ヲ有ス〔同上〕
鑛坑、炭坑又ハ石坑ニ關シテハ先取特權ハ鑛物、炭、石及ヒ其他ノ物料ノ既ニ採掘セラレテ仍ホ賃貸シタル土地ニ存スルモノニ及フ
分果賃貸人ハ賃貸シタル土地ノ收穫物及ヒ其他ノ產物中ニテ自己ノ權利ヲ有スル部分カ尙ホ分果賃借人ノ手裏ニ存スル間ハ他ノ債權者ニ先タチ直接ニ之ヲ己レニ交付セシメテ其收穫物及ヒ其他ノ產物ニ付キ先取特權ヲ行フ
第千百五十五條 永借ト賃借ト分果賃借トヲ問ハス賃借人ハ賃貸人ノ擔保ノ爲メ賃借シタル土地ニ其年ノ收穫物及ヒ其他ノ產物ヲ保存スルノ責アリ但其收穫物及ヒ產物カ保存スルコトヲ得ヘキモノニシテ且其場所カ保存ニ適スルトキニ限ル〔第千七百六十七〕
賃借人ハ如何ナル場合ニ於テモ賃貸人ノ許諾ヲ受ケス又ハ其年ノ自己ノ義務ヲ履行スル前ニ其收穫物及ヒ產物ヲ搬移シ又ハ之ヲ處分スルコトヲ得ス
第千百五十三條ヲ以テ賃貸人ノ利益ニ於テ定メタル剽取物ノ取戻權及ヒ賃貸解除權ハ田舎ノ土地又ハ總テ其他ノ土地ノ利用ニ供シタル物ノ賃貸ニ之ヲ適用ス
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ永貸借ト賃貸借ト分果賃貸借トヲ問ハズ賃借人ハ賃貸人ノ擔保ノ爲メ其年ノ收穫物及ビ其他ノ產出物ヲ保存スルノ責アリ但其物カ保存スルコトヲ得ベキモノナルトキニ限ルトシ第二項ハ「搬移シ又ハ之ヲ」ヲ削リ第三項ハ剽取ヲ隱竊トシ賃貸ヲ賃貸借トシ田舎ノ土地ヲ田畑山林トシ土地ノ利用ニ供シタル物トアル「ニ供シタル物」ノ六字ヲ削レリ
(松岡曰)
本條ハ全削スベシ
(北畠曰)
本條ノ規定アレバ賃貸人ハ之ヲ取押ルヲ得ベキモ此規定アラザレバ之ヲ取押フルコトヲ得ズ
(松岡曰)
處分スルコトヲ得ズト云ハバ之ヲ食用ニ供スルコトヲモ得ザルベシ
(淸岡曰)
貧農ハ未ダ青苗中ヨリ之ヲ收穫シテ食用ニスルモノアルニ之ヲ處分スルヲ得ザルモノトナルトキハ困難ナルベシ
(委員長曰)
本條ハ貸人ヲ保護スルニ厚キモ借人ヲ保護スルニ薄キモノナレバ其中庸ヲ得ズ
(栗塚曰)
其年ノトアル上ニ賃貸人ノ請求アルニ於テハト云ヘルノ一語ヲ加フレバ足レリ
(南部曰)
擔保ノ爲メトアル上ニ請求アルニ於テハ其ト云フヲ加フベシ
(栗塚曰)
然リ且但以下ハ之ヲ刪ルベシ
可決ス
(松岡曰)
第二項モ不用ニ屬スベシ
(村田曰)
然リ
可決ス
(淸岡曰)
第三項其他ノ土地ト云フ字ハ何ノ必要アルヤ
第千百五十六條 賃借權ノ讓渡又ハ轉貸ノ場合ニ於テハ賃貸人其賃貸シタル場所ニ備ヘ有ル動產及ヒ其他ノ物カ讓受人又ハ轉借人ニ屬スルコトヲ知ルト雖モ賃貸人ノ先取特權ハ是等ノ物ニ及フ
此場合ニ於テ先取特權ハ亦第千百三十八條ニ從ヒ讓渡又ハ轉貸ノ代價トシテ主タル賃借人ノ受ク可キ金額ニ及フ但前拂ヲ以テ賃貸人ニ對抗スルコトヲ得ス〔佛訴第八百二十條〕
第千百五十七條 賃借人ノ財產ノ總淸算ノ場合ニ於テハ賃貸人ハ前年ト本年ト翌年トノ爲メニ非サレハ借家賃又ハ借地賃及ヒ其他每年ノ負擔ニ付テハ前數條ニ定メタル先取特權ヲ享ケス〔第二千百二條第一號、第一項、第二項〕
其他先取特權ハ賃貸ヨリ生スル他ノ合意上ノ義務、前年ト本年トノ間ノ賃借人ノ過愆又ハ懈怠ノ爲メ賃貸人ノ受ク可キ賠償及ヒ賃貸人カ將來ニ向テ宣吿セシムルコト有ル可キ銷除ニ添フタル損害賠償ヲ擔保ス〔同上第三項〕
第千百五十八條 其他ノ債權者ハ初ヨリ如何ナル轉貸ノ禁止アルニ拘ハラス自己ノ利益ニ於テ賃借ノ銷除ヲ防止シ其賃借權ヲ轉貸シ又ハ讓渡スルコトヲ得但經過ス可キ賃借殘期ノ爲メ賃貸人ニ借家賃、借地賃又ハ其他納額ヲ擔保スルコトヲ要ス〔佛民同上佛商第五百五十條千八百七十二年二月十二日決議シ二十日ニ頒布シタル佛法律〕
(栗塚曰)
本日ハ報吿委員ニテ冒頭ニ右淸算ノ場合ニ於テト云フヲ加ヘ其ノ字ヲ刪リ妨止シノ下及ビノ二字ヲ加ヘタリ
(委員長)
賃借權ヲ讓渡スルトナルベキモ債務者ト云ヘル如キ主的ヲ示サザレハ不可ナリ
(松岡曰)
別ニ主的ヲ示スニ及バズ
第二則 種子及ヒ肥料ノ供給者ノ先取特權
第千百五十九條 所有者、用收者、賃借人又ハ占有者ニ土地ニ用ユル種子及ヒ肥料ヲ供給シタル者ハ右ノ供給物ヲ用ヰタル年ノ收穫ノ果實ニ付キ先取特權ヲ有ス〔第二千百二條第一號第四項〕
其年ニ於テ蠶種及ヒ蠶ノ飼養ニ供スル桑葉ヲ供給シタル者ニ付テモ亦同シ
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項用收者ヲ用益者トシ「土地ニ用ユル」文字ヲ刪リ右ノ供給物トアルヲ之トシ第二項ハ其年ニ於テトアル冒頭ノ文字ヲ刪除セリ
可決ス
第三則 農業及ヒ工業ノ職工ノ先取特權
第千百六十條 雇人ニ非スシテ其年ノ產物ノ栽培及ヒ收入ニ使役セラレタル職工ハ其年ニ受ク可キ給料ノ爲メ右ノ產物ニ付キ先取特權ヲ有ス〔第二千百二條第四項〕
右同一ノ先取特權ハ森林、鑛坑、炭坑、石坑、養蠶場ニ於テ使役セラレタル職工ニ屬ス但其年ノ給料中最後ノ三ケ月分ノミニ限ル
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項雇人ノ外其年ノ產出物ノ栽培及ビ收穫ノ爲メニ勞働シタル稼人ハ其年ニ云々トシ第二項ハ使役セラレタル職工トアルヲ勞働シタル稼人トシ三ケ月分ノトアル下ニ爲メノト云ヘル三字ヲ加ヘタリ
可決ス
第四則 動產物保存者ノ先取特權
第千百六十一條 動產物ノ修繕又ハ保存ノ費用ノ爲メ債權者タル者ハ第千九十六條ニ從ヒ己レニ屬スル留置權ヲ行ハサルトキト雖モ其修繕シ又ハ保存シタル物ニ付キ先取特權ヲ有ス〔第二千百二條第三號〕
右同一ノ先取特權ハ金額有價物又ハ其他總テノ動產物ニ於ケル人權又ハ物權ヲ債務者ノ利益ニ於テ認知セシメ、保存セシメ又ハ實行セシメタル裁判上又ハ裁判外ノ所爲ノ費用ニ之ヲ適用ス
(栗塚曰)
本項ハ報吿委員ニテ第一項保存ノ費用ノ爲メ債權者タルモノハトアルヲ保存ノ費用ニ付テノ債權者ハトシ第二項ハ「同一」ノ文字又其他ノ上「又ハ」ノ二字及「總テノ」トアルヲ削リ於ケルトアルヲ關スルトシ所爲ヲ行爲トシ認知ハ反譯上ニテ追認ト更正スベシト云フニアリ
(委員長曰)
本條第二項ハ如何ナル意味カ
(南部曰)
第三者ヲシテ債務者ノ爲メ追認セシメ保存セシメ實行セシメタル費用ト云フニアリ
(元尾崎曰)
債務者ノ利益ニ於テトアルヲ債務者ノ爲メニトシタシ
(尾崎曰)
債務者ノ爲メトスルノミニテハ利益ト云ヘルヲ包含スルヤ否ヲ知ルベカラズ
(松岡曰)
追認セシメト云フハ誰ヲシテ其認知ヲ爲サシムルヤ
(栗塚曰)
債務者ノ債務者ヲシテ之ヲ認知セシムルガ如キヲ云フベシ
(元尾崎曰)
利益ニ於テトアルハ利益ノ爲メトシテハ如何
可決ス
第五則 動產物賣主ノ先取特權
第千百六十二條 動產物ノ賣主ハ代價辨濟ニ付キ期限ヲ與ヘタルト否トヲ問ハス賣却代價及ヒ利息アラハ其利息ノ爲メ賣却物ニ付キ先取特權ヲ有ス〔第二千百二條第四號〕
若シ補足額ヲ以テスル交換アリテ其補足額カ移付シタル物ノ價額ノ半ヨリ多キトキハ先取特權ハ其補足額ニ付キ存在ス
第千百六十三條 先取特權ハ賣却物カ用方ニ因リ又ハ不動產ニ合體スルニ因リ不動產ト爲サレタルトキト雖モ變形セスシテ尙ホ買主ノ占有ニ存スル間ハ存續ス但合體ノ場合ニ於テハ不動產ヲ損壞セスシテ其物ヲ離分スルコトヲ得且如何ナル場合ニ於テモ其物カ變形セラレサルコトヲ要ス
第千百六十四條 賣主ノ先取特權ハ第六百八十四條及ヒ第七百二十一條ニ規定シタル其留置及ヒ解除ノ權利ヲ妨ケス〔第二千百二條第四號、第二項〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ「其」ト云ヘル字ヲ刪レリ
可決ス
第六則 旅店主ノ先取特權
第千百六十五條 旅店主ハ旅人、其雇人及ヒ此ニ卒來レル駄負又ハ牽挽ノ獸ノ宿泊及ヒ食料ノ債權ノ爲メ其旅客ノ携帶シテ尙ホ旅館又ハ旅店ノ内ニ存スル手荷物ニ付キ先取特權ヲ有ス〔第二千百二條第五號〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ旅店ノ主人ハ旅客並ニ其從者及ビ獸類ノ宿泊及ビ食料ノ爲メ其旅客ノ携帶シテ尙ホ旅店ニ存スル手荷物ニ付キ先取特權ヲ有ストセリ
可決ス
第七則 舟車運送營業人ノ先取特權
第千百六十六條 商人タルト否トヲ問ハス舟車運送營業人ハ荷物又ハ商品若クハ人ノ運送賃並ニ食料ヲ携ヘタラハ其食料ノ運送賃ノ爲メ及ヒ關稅又ハ其他正當ナル附從ノ費用ノ爲メ旅客ト共ニ又ハ旅客ト別ニ運送シ尙ホ自己ノ手裏ニ存スル物ニ付キ先取特權ヲ行フ〔第二千百二條第二號〕
若シ運送營業人カ引渡ヨリ四十八時内ニ債務者又ハ債務者ノ名ヲ以テ荷物ヲ受取リタル者ニ對シテ其物ノ占有ヲ返還シ又ハ自己ノ受取ル可キモノヲ辨濟ス可キノ催吿ヲ爲シ且其效果ヲ生セシムル爲メ短キ期間内ニ裁判上ノ請求ヲ爲シタルトキハ其先取特權ハ物ノ引渡後ト雖モ存續ス
如何ナル場合ニ於テモ第三得取者ニ對シテ物ノ回收ヲ請求スルコトヲ得ス但第千百五十三條ニ規定シタル如ク詐偽アル場合ハ此限ニ在ラスシテ且第千百三十八條ノ適用ヲ妨ケス
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項「商品若クハ人ノ運送賃並ニ食料ヲ携ヘタラハ其食料」トアルヲ刪リ旅客ノ文字ヲ挿入セリ
(委員長曰)
商品食料ヲ刪除シタルハ如何
(栗塚曰)
商品食料ハ荷物ノ文字中ニ包含スベシト云フニアリ
(委員長曰)
商法ニテハ荷物ト商品トノ區別アリシト記憶セリ仍テ荷物ト商品トノ區別アリシト記憶セリ仍テ荷物ト商品トニ付テハ商法ヲ調査スベシ
(栗塚曰)
然スベシ又報吿委員ハ關稅ノ下「又ハ」及ヒ「旅客ト共ニ又ハ旅客ト別ニ運送シ尙ホ」ト云ヘル文字ヲ刪リ手裏ニ存スルトアル下ニ「運送」ノ二字ヲ入レ「行フ」ヲ「有ス」トシ第二項運送營業人カトアル下ニ「運送物ノ」ト云ヘル四字ヲ入レ荷物トアルヲ其物トシ占有ヲ返還シトアルヲ占有ヲ返還ス可キノ催吿トシ第三項得取者トアルヲ取得者トシ在ラズシテトアルヲ在ラズトセリ
(松岡)
運送營業人ニ付テハ商法ト照量セザルベカラズ
(栗塚曰)
商法ノ起案者ハ運送營業人ノ規定ハ悉皆之ヲ民法ニ移スベシト云ヘリ
(元尾崎曰)
短キ期間内ト云フハ幾時日ナルヤ知ルベカラズ
(村田曰)
相當ノ期間トシテハ如何
(栗塚曰)
相當トスルモ幾時日ナルカ知ルベカラズ
(元尾崎曰)
短キ時間内トスベシ
可決ス
第八則 負擔ノ所爲ノ爲メノ債權者ノ先取特權
第千百六十七條 保證ニ服シタル公役員ノ其職務履行ニ於テ爲シタル負擔ノ所爲、過愆又ハ濫用ヨリ生スル債權ハ其保證金ニ付キ先取特權アリ〔第二千百二條第七號〕
(栗塚曰)
報吿委員ニテ本則ノ下負擔トアルハ職務上トシ公役員ノ其職務履行ニ於テ爲シタル負擔ノ所爲トアルヲ公吏ノ職務上ノトシ過愆ヲ過失トセリ第千百五十一條第八ハ本條ト同ジク公吏ノ負擔ノ所爲ニ付キトアルヲ公吏ノ職務上ノ所爲ノ爲メトスベシ
(元尾崎曰)
第八則ハ職務上ノ所爲ニ付キ公吏ニ對スル債權者ノ先取特權トスベシ
(委員長曰)
負擔ト云フ字ヲ除去シテ可ナルヤ
(栗塚曰)
負擔トセシハ職務トスベキ誤譯ナリ
(淸岡曰)
第八則ハ元トノ如ク報吿委員ノ修正ノ儘ニシタシ
可決ス
第九則 保證金貸主ノ先取特權
第千百六十八條 保證トシテ差出シタル金圓カ第三者ヨリ借受ケタルモノニシテ其第三者ハ貸付ノ當時ニ於テ又ハ辨濟ニ付キ何等ノ異議ヲモ述ヘサル前ニ於テ規則ニ從ヒ其權利ヲ證明シタルトキハ其第三者ハ第二ノ順序ニ於テ卽チ負擔ノ所爲ヨリ害ヲ受ケタル者ノ辨濟ノ後右保證金ニ付キ先取特權ヲ有ス〔千八百五年一月十五日、千八百五年二月二十五日、千八百六年八月二十八日、千八百十二年十二月二十二日ノ佛法律〕
第二款 動產ニ係ル特別先取特權ノ順位
第千百六十九條 動產ニ係ル特別先取特權ト一般先取特權ノ全部又ハ一分トノ間ニ牴觸アルトキハ優先ノ順序ヲ左ノ如ク規定ス
第一 訴訟費用ハ其費用ノ有益タリシ總テノ債權者ニ其有益ノ限度又ハ割合ニ應シテ先タツ
第二 其他四箇ノ一般先取特權ハ亦其相互ノ重要ノ割合ニ應シ且第千百四十一條ニ定メタル順序ヲ以テ總テノ特別先取特權ニ先タツ但他ノ先取特權ニ服セサル動產ノ不足ナル場合ニ限ル
第千百七十條 若シ同一ノ動產ニ付キ特別先取特權ヲ有スル諸種ノ債權者ノ間ニ牴觸ノ起ルトキハ其相互ノ優先權ハ下ノ順序及ヒ區別ニ從ヒテ生ス
第一ノ順位ハ先取特權ノ目的物ヲ保存シタル者ニ屬ス
若シ保存ノ漸次ノ所爲ニ因リ數名ノ債權者アルトキハ優先權ハ其間ニテ最モ近キ保存所爲ヲ爲シタル者ニ屬ス
第二ノ順位ハ明示卽チ合意上ノ動產質ニ因リ或ハ不動產ノ賃貸人旅店ノ主人又ハ運送營業人ノ如ク默示ノ動產質ニ因リ物ヲ握有シタル債權者ニ屬ス
第三ノ順位ハ右ノモノノ賣主ニ屬ス
然レトモ質物トシテ握有スル債權者ハ動產質設定ノ時其物ノ保存費用カ未タ支拂ハレサルコトヲ知ラサリシトキハ第一ノ順位ヲ得
之ニ反シテ質物トシテ握有スル債權者ハ若シ賣却代價カ未タ支拂ハラレサリシコトヲ知リタルトキハ賣主ニ先セラル
收穫物ニ關シテハ第一ノ順位ハ農業ノ職工ニ屬シ第二ノ順位ハ種子及ヒ肥料ノ供給者ニ屬シ第三ノ順位ハ土地ノ賃貸人ニ屬ス
工業ノ職工ハ亦鑛坑、石坑及ヒ其他土地ノ採掘事業又ハ土地ノ工業ヨリ生スル產物ニ付キ賃貸人ニ先タツ
公役員ノ保證金ニ關シテハ負擔所爲ノ爲メ其役員ニ對スル各債權者ハ相共ニ其相互ノ債權ノ割合ニ應シ其債權ノ日附ニ關セスシテ總テノ他ノ債權者ニ先タチ又保證ノ金圓ヲ貸シタル債權者ニモ先タチ其保證ノ金圓ヲ貸シタル債權者ハ保證金ノ殘額ニ付キ「第二ノ順序ニ」稱スル先取特權ヲ行フ
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項冒頭若シヲ刪リ特別先取特權トアルヲ特別ノ先取特權トシ諸種ノ債權者ノ間ニ牴觸ノ起ルトキハトアルヲ諸種ノ債權相會スルトキハトシ區別ニ從ヒテ生ズトアルヲ區別ニ從ヒ之ヲ定ムトシ第三項ハ若シ數名ノ債權者漸次ニ保存ヲ爲シタルトキハ優先權ハ最後ノ保存者ニ屬ストシ第四項合意上トアルヲ約束上トシ握有シタルトアルヲ質ニ取リタルトシ第五項「右ノ」ノ二字ヲ刪リ第六項質物トシテ握有スルトアルヲ物ヲ質ニ取リタルトシ第七項質物トシテ握有スルトアルヲ質ニ取リタルトシ若シノ二字ヲ刪リ第八第九項職工ヲ稼人トシ第十項公役員ヲ公吏トシ負擔ヲ職務上ノトシ其役員トアルヲ其吏員トシ保證ノ金圓トアルヲ何レモ保證金トシ順序ト稱スルトアルヲ順序ニ於テトシ「行フ」ヲ有ストセリ
(元尾崎)
工業ノ稼人ハ工業ノ職工トスルヲ可トスルニアラズヤ
(栗塚曰)
職工ハ凡テ稼人ト爲シ來レバナリ
(元尾崎曰)
鑛坑ノ上ニアル「亦」ヲ刪ルベシ
可決ス
(委員長曰)
土地ノ採掘事業ハ農事ニ屬セザルカ養蠶ノ如キモ農業ナレバナリ仍テ此區別ハ起案者ニ質問シタシ
(栗塚曰)
然カズベシ
第三節 不動產ニ係ル特別ノ先取特權
第一款 不動產ニ係ル特別ノ先取特權ノ原由及ヒ目的物
第千百七十一條 左ノ債權ニ付テハ下ニ定メタル條件ニ從ヒ不動產ニ係ル先取特權アルモノトス
第一 賣買、交換又ハ其他ノ有償所爲若クハ負擔ヲ帶ル無償所爲ニ關ルモ不動產ヲ移付シタル者ハ其移付シタル不動產ニ付キ先取特權ヲ有ス
第二 共同派分者ハ派分中ニ包含シタル不動產ニ付キ先取特權ヲ有ス
第三 工匠、土木師及ヒ工事請負人ハ自己ノ工事ニ因リテ不動產ニ生スル增價ニ付キ先取特權ヲ有ス〔第二千百三條〕
第四 先取特權ヲ發生セシムル所爲ノ當時ニ於テ全部又ハ一分ニテ移付者、共同派分者、工事請負人ニ支拂ヒタル金圓ノ貸主ハ右同一ノ不動產ニ付キ先取特權ヲ有ス〔第二千百三條第二號及ヒ第三號〕
第五 死亡者ノ資產ト相續人ノ資產トノ離分ヲ請求スル相續ノ債權者及ヒ受囑者ハ相續ノ不動產ニ付キ先取特權ヲ有ス〔第八百七十八條乃至第八百八十條、第二千百十一條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ「左ノ債權ニ付テハ」ヲ刪リ先取特權アルモノトストアルヲ先取特權ヲ有スル債權者左ノ如シトシ第一ハ賣買交換其他有償ノ所爲ニ因リ又無償名義ニモセヨ負擔ヲ帶ル所爲ニ因リ不動產ヲ讓渡シタル者ハ其讓渡シタル不動產ニ付キ先取特權ヲ有ストシ第三ハ土木師トアルヲ技師トシ「自己ノ」ノ三字ヲ刪リ第四發生セシムル所爲ヲ生ゼシムル行爲トシ全部又ハ一分ニテヲ刪リ移付者トアルヲ讓渡人トセリ
(委員長曰)
無償名義ニモセヨ負擔ヲ帶フルト云フハ如何
(栗塚曰)
自己ノ不動產ヲ讓渡シテ將來自己ノ子ノ成育ヲ依頼スルカ如キヲ云フニアリ
(委員長曰)
負擔アルモノハ之ヲ無償名義トスルヲ得ザルベキニアラズヤ
(南部曰)
贈興ト雖ドモ負擔アル場合ナキニアラズ無償名義ナレバ何時モ負擔ナシト云フヲ得ズ
(栗塚曰)
負擔ハ代價ト認ムルヲ得ザルナリ
第一則 移付者ノ先取特權
第千百七十二條 移付者ノ先取特權ハ左ノ各人ニ屬ス
第一 元本又ハ無期若クハ終身ノ年金ニテ定メタル賣却代價、利息又ハ利子及ヒ賣買ノ其他ノ負擔ニ付テハ賣主〔第二千百三條第一號〕
第二 交換ニ於テ受ク可キ補足額並ニ負擔ニ付キ及ヒ對換トシテ受取リタル物ニ於テ受クルコト有ル可キ追奪ノ擔保ニ付テハ共同交換者
第三 贈與ノ負擔ニ付テハ贈與者又ハ其承繼人
又受クルコト有ル可キ的確又ハ未定ノ對價ニ付キ及ヒ得取者ノ課セラレタル負擔ニ付テハ有償又ハ無償ノ名義ニ於ケル不動產ノ總テノ移付者
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一ハ元本ノ下「ニテ」ヲ加ヘ「無期若クハ終身ノ」トアルヲ刪リ年金ノ下「權」ノ字ヲ加ヘ利子ヲ年金トシ第二ハ交換ノ補足額並ニ負擔及ビ交換物ノ追奪擔保ニ付テハ交換者トシ第三承繼人トアルヲ承接人トシ末項ハ其他有償又ハ無償ノ名義ニ於ケル不動產ノ讓渡人ハ一般ニ其對價及ビ負擔ニ付キ先取特權ヲ有ストセリ
可決ス
第千百七十三條 賣却代價及ヒ交換補足額ノ外此等ノ移付ノ負擔並ニ贈與ノ負擔及ヒ交換並ニ其他有償名義ノ合意ニ於ケル追奪擔保ノ未定ノ賠償ハ移付ノ證書又ハ日後ノ別證書ヲ以テ金圓ニテ之ヲ定ムルコトヲ要ス
其他右ノ證書ハ次款ニ記載スル如ク之ヲ公示スルコトヲ要ス
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項ヲ賣却代價交換足額ノ外賣買交換並ニ贈與ノ負擔及ビ交換其他有償名義ノ約束ニ於ケル追奪擔保ノ未定ノ賠償ハ讓渡ノ證書又ハ日後ノ證書ヲ以テ金圓ニテ之ヲ定ムルコトヲ要ストセリ
可決ス
第千百七十四條 交換又ハ不動產ノ其他ノ移付ノ對價トシテ受取リタル不動產ノ追奪擔保ニ付テノ先取特權ハ其追奪カ移付ノ時ヨリ十ケ年内ニ生シ且確定ト爲リタル判決ニ因リテ一旦追奪ヲ受ケタル上一个年内ニ擔保ノ請求ヲ爲シテ之ヲ公示シタルトキニ非サレハ存在セス
對價トシテ受取リタル動產權利ニ關シテハ擔保ノ先取特權ハ追奪カ一个年内ニ生シ且確定ト爲リタル判決ヨリ一个月内ニ請求ヲ爲シテ之ヲ公示シタルトキニ非サレハ存在セス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項交換ノ下又ハトアルヲ其他トシ不動產ノ其他ノ移付ノトアルヲ不動產讓渡ノトシ第二項動產ノ下權利ノ二字ヲ刪レリ
可決ス
第二則 共同派分者ノ先取特權
第千百七十五條 共同相續人、社員又ハ其他不分ノ共有者ハ或ハ抽籤ノ方法ニ因リ或ハ合意上ノ指定ニ因リ或ハ不分物公賣ニ因レル派分ヨリ生スル左ノ債權ノ爲メニハ其派分ニ於テ各自ノ得タル不動產ニ付キ互ニ先取特權ヲ有ス
第一 補足額又ハ配當部分ノ取戻ノ爲メニハ其補足額ヲ負擔セル共同派分者ニ歸シタル不動產ニ付キ先取特權ヲ有ス〔第二千百三條第三號、第二千百九條〕
第二 不分物ノ公賣ノ代價ノ爲メニハ其公賣シタル不動產ニ付キ先取特權ヲ有ス〔第二千百九條〕
第三 共同派分者ノ一人カ其配當部分ニ於テ受ケタル擔保追奪ノ擔保ノ爲メニハ他ノ共同派分者ニ歸シ又ハ他ノ共同派分者ノ爲メ指定シタル總テノ不動產ニ付キ先取特權ヲ有ス但義務ニ於ケル各共同派分者ノ部分ニ限ル〔同上、第八百八十四條、第八百八十五條〕
(栗塚曰)
本條第一項ハ冒頭共同ノ二字ヲ刪リ社員又ハ其他不分ノ共有者トアルヲ社員其他トシ第一ヲ補足額ノ爲又ハ配當ノ過分ノ爲メニハ之ヲ負擔セル共同派分者ニ歸シタル不動產ニ付キ先取特權アリトシ第二不分物ノトアル「ノ」ヲ刪リ先取特權ヲ有ストアルヲ先取特權アリトシ第三「又ハ他ノ共同派分者ノ爲メ指定シ」ヲ刪リ先取特權ヲ有ストアルヲ先取特權アリトセリ
(元尾崎曰)
第三ノ但書ハ如何ナル意味カ
(栗塚曰)
共同派分者ノ義務アル限度ニ限ルベシト云フニアリ
可決ス
第千百七十六條 右ノ擔保ハ共同派分者ノ一分派分ニ因リテ己レニ歸シタル動產及ヒ不動產ノ受ケタル追奪ニ之ヲ適用ス
右ノ擔保ハ亦左ノ諸件ニ之ヲ適用ス
第一 共同相續人又ハ社員ニシテ他ノ共同相續人又ハ社員ニ對シ補足額又ハ不可分物公賣ノ代價ヲ負擔シタル者ノ無資力
第二 債權カ一人ノ配當部分ニ加ヘラレタルトキ共同派分者タルト外人タルトヲ問ハス相續又ハ淸算ニ於ケル會社ノ債務者カ派分ノ當時ニ既ニ無資力タルニ於テハ其債務者ノ無資力
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一ノ冒頭共同ノ二字ヲ刪リ第二ハ共同派分者タルト外人タルトヲ問ハズト云ヘルヲ會社ノ債務者カトアル下ニ轉置セリ
(元尾崎曰)
本條動產及ヒ不動產ノ受ケタル追奪ニモ之ヲ適用ストアルモ不動產ニ適用スト云フニ及バザルニアラズヤ
(栗塚曰)
本條ト前條第三トハ如何ノ區別アルヤト云フ疑團ニ付キ起案者ニ質問中ナリ
(尾崎曰)
第二ノ意味ハ如何
(栗塚曰)
債權者其派分ヲ爲シタルトキ各派分者中ノ一人ハ其債權ヲ第三者ヨリ得取スベキトナリタルニ其第三者派分ノ際無資力トナリシトキハ他ノ派分者之ヲ擔保セザルヲ得ズト云フニアリ
第千百七十七條 第千百七十四條ハ共同派分者間ノ追奪擔保ノ先取特權ニ之ヲ適用ス
共同派分者タルト否トヲ問ハス債務者ノ無資力ニ關シテハ其擔保ハ要求期限ニ逹シタル元本ノ全部又ハ一分ヲ辨濟セサルヨリ一ケ年内ニ請求ヲ爲シテ公示シタルトキニ非サレハ當事者ノ間ニテモ又第三者ニ對シテモ負擔セラレス
若シ債務カ無期又ハ終身ノ年金タルトキ債務者ノ無資力カ派分ノ日ヨリ十个年後ニ生シタルニ於テハ其擔保ハ負擔セラルルコトヲ止ム
債務カ利息ヲ生スル元本ニシテ其滿期カ十个年以上ニ及フトキモ亦同シ
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第二項負擔セラレズトアルヲ之ヲ負擔セシムルコトヲ得ズトシ第三項其擔保ハ負擔セラルルコトヲ止ムトアルヲ其擔保ノ負擔ハ止ムトセリ
(元尾崎曰)
擔保ノ負擔ハ止ムト云フハ妥當ナラズ
(栗塚曰)
擔保ノ義務ハ止ムト云フノ義ナリ
(委員長曰)
公示ハ登記法ヲ以テ見ルヲ云フカ
(南部曰)
然リ
第三則 工匠、技術師及ヒ工事請負人ノ先取特權
第千百七十八條 工匠、技術師及ヒ工事請負人ハ建物、露臺、堤塘若クハ掘割ノ造設若クハ修繕ノ爲メ又ハ地上ニ爲シタル乾滴、灌漑、開墾、置土及ヒ其他之ニ類似スル土工ノ爲メ自己ノ指揮シ又ハ擧行シタル工事ヨリ生スル債權ニ付キ先取特權ヲ有ス〔第二千百三條第四號〕
右同一ノ先取特權ハ鑛坑及ヒ石坑ノ開掘若クハ利用又ハ其閉鎖若クハ廢止ニ關スル地下又ハ外部ノ工事ノ爲メ技術師及ヒ工事請負人ニ屬ス
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ技術師ヲ技師トシ露臺ノ文字ヲ刪レリ
(槇村曰)
露臺ヲ刪レルハ如何
(栗塚曰)
露臺ハ建物中ニ包含スベシト云フニアリ
第千百七十九條 前記ノ工事ヨリ生スル先取特權ハ其工事ニ因リ土地又ハ建物ニ生セシメタル增價ニシテ先取特權行用ノ當時ニ於テ尙ホ存在スルモノノミニ付キテ存立ス〔第二千百三條第二項〕
右ノ增價ハ裁判所ヨリ任命シタル鑑定人ノ作レル三箇ノ調書ヲ以テ之ヲ證明スルコトヲ要ス
其第一調書ハ工事ヲ始ムル前ニ之ヲ作リテ場所ノ現狀ヲ證明シ且目論見タル工事ノ槪略ヲ指示スルコトヲ要ス
其第二調書ハ工事ノ受取カ爭ハレ又ハ遲延セラレタルトキト雖モ其工事ノ竣成又ハ原由ノ如何ヲ問ハス其工事ノ絕止ヨリ三ケ月内ニ之ヲ作リ且右ノ工事ヨリ現ニ生スル增價ヲ證明スルコトヲ要ス〔第二千百三條第四號、第一項及ヒ第二千百十條〕
其第三調書ハ配當順序指定ノ請求ノ當時ニ於テ之ヲ作リ且右ノ增價中ニ就キ存在スル所ノモノヲ證明スルコトヲ要ス
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項「付キテ」トアル「テ」ヲ刪レリ第四項其第二調書ハ工事ノ竣成ヨリ又ハ原由ノ如何ヲ問ハズ其絕止ヨリ三ケ月内ニ之ヲ作リ且其工事ヨリ現ニ生ズル云云トシタルモ絕止ノ上ニ工事ノトアリシハ存在セシメタシ
(松岡曰)
然ルベシ
可決ス
(栗塚曰)
第三項ハ順序指定トアルヲ加トシ存在スル所ノトアル「所ノ」ヲ刪ルベシ
可決ス
第四則 金圓ノ貸主ノ先取特權
第千百八十條 前數條ニ揭ケタル先取特權ハ移付、派分又ハ工事請負人トノ契約ノ當時ニ於テ賣買若クハ不分物公賣ノ代價、交換若クハ派分ノ補足額又ハ工事ニ付キ内金トシテ支拂ヒタル金額ノ辨濟ノ爲メ金圓ヲ貸付ケタル者ニ直接ニ且法律ニ憑テ屬ス但其金圓ノ貸付及ヒ使用ヲ此等ノ所爲ノ關係アル證書中ニ記載シタルトキニ限ル〔第二千百二條第二號、第五號〕
若シ移付者、共同派分者又ハ工事請負人ノ利益ニ於テ先取特權ノ發生セル後ニ金圓ヲ貸付ケタルトキハ貸主ハ第五百二條及ヒ第五百三條ニ定メタル條件ト方式トニ從ヒ債權者又ハ債務者ヨリ合意上ノ代位ヲ得タルトキニ非サレハ先取特權ヲ得取セス〔同上〕
右孰レノ場合ニ於テモ若シ金圓ノ貸主カ債務ノ一分ノミヲ辨濟シタルトキハ貸主ハ先取特權ノ行用ニ於テハ其辨濟シタルモノノ割合ニ應シ第五百八條ニ從ヒテ主タル債權者卽チ原債權者ト競分ス〔第千二百五十二條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項「工事ニ付キ」ハ「工事ニ付テノ」トシ内金ノ下トシテ支拂ヒタル金額ノトアル文字ヲ刪リ直接ニ且法律ニ憑リテ屬ストアルヲ法律ニ憑リ直接ニ屬ストシ第二項發生セルトアルヲ生ゼシトシ第三項第五百八條ニ從ヒノ下「テ主タル債權者卽チ」トアルヲ刪リ
(元尾崎曰)
競分スト云ヘルハ如何
(栗塚曰)
共ニ分ツト云フニアリ
(北畠曰)
第五百八條ノ競分トアルモ共分トスベシ
(栗塚曰)
本條ノ競分モ第五百八條ノ競分モ之ヲ共分トシタシト云フヲ以テ再調査員ニ通吿スベキ依リ先ヅ此儘ニ差措カレタシ
(南部曰)
然リ
(元尾崎曰)
工事ニ付テノ内金トアルハ工事ニ付テノ支拂トシタシ
(南部曰)
工事ニ付テノ代金トスベシ
(栗塚曰)
工事ニ付テノ全部ハ勿論其「部分ニ付テモト云フ義ナルガ又ハ工事ノ代金トシテハ如何
可決ス
第五則 資產離分ノ先取特權
第千百八十一條 相續ノ債權者及ヒ受囑者カ死亡者ノ資產ト相續人ノ資產トノ離分ヲ請求スルノ權利ヲ行フニ付キ服從スル所ノ條件ハ相續ノ章ニ之ヲ規定ス〔第八百七十八條乃至第八百八十條、第二千百十一條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ服從スル所ノトアルヲ服從ス可キトセリ
(元尾崎曰)
受囑者ノ文字ハ更正スベキヤ
(栗塚曰)
然リ
第千百八十二條 移付者、共同派分者及ヒ資產ノ離分ヲ請求シタル債權者並ニ受囑者ノ先取特權ハ債務者自己ノ所爲又ハ其權ニ基キ且債務者ノ費用ヲ以テ不動產ニ加ヘタル增加及ヒ改良ニ及ハス
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ移付者トアルヲ讓渡人トシ債務者自己ノ所爲トアルヲ債務者ノ所爲ニ因リトシ其權ニ基キトアルヲ其權利ニ基キトシ債務者ノ費用トアルヲ其費用トセリ
可決ス
第二款 不動產ニ係ル特別先取特權ノ債權者間ニ於ケル效力及ヒ其順位
第千百八十三條 前款ニ揭ケタル先取特權ハ下ニ定メタル方法、條件及ヒ期間ヲ以テ公示セラレ且保存セラレタルトキニ非サレハ之ヲ以テ他ノ債權者ニ對抗スルコトヲ得ス〔第二千百六條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ公示セラレトアルヲ公示シトシ保存セラレトアルヲ保存シトセリ
可決ス
第千百八十四條 賣却代價及ヒ補足額ノ爲メノ賣主及ヒ共同交換者ノ先取特權ハ代價又ハ補足額ノ全部又ハ一分ヲ未タ辨濟セサル旨ヲ記シタル所有權移轉證書ノ登記ニ依リテ保存セラル〔第二千百八條〕
又證書ノ登記ハ交換ニ於ケル追奪擔保ノ爲メ及ヒ賣買、交換其他所有權ヲ移轉スル契約ノ附從負擔ノ爲メ先取特權ヲ保存ス但擔保及ヒ負擔カ證書其モノニ於テ金圓ニテ評價セラレタルトキニ限ル
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項ヲ賣却代價ノ爲メ賣主ノ先取特權及ビ補足額ノ爲メ交換者ノ先取特權ハ代價又ハ補足額ノ全部又ハ一分ヲ未ダ辨濟セザル旨ヲ記シタル所有權移轉證書ノ登記ヲ以テ之ヲ保存ストシ第二項ハ又交換ニ於ケル追奪擔保ノ爲メ及ビ賣買交換其他所有權ヲ移轉スル契約ノ附從負擔ノ爲メノ先取特權ハ證書ノ登記ヲ以テ之ヲ擔保ス但擔保及ビ負擔ノ評價ヲ證書中ニ記載シタルトキニ限ルトセリ
可決ス
第千百八十五條 共同派分者ノ先取特權ハ裁判上又ハ裁判外ノ派分ヲ爲ス所有權認定ノ證書ニシテ不可分物公賣ノ代價額又ハ補足額若クハ配當部分ノ取戻額及ヒ追奪擔保ノ評價額其他各配當部分ニ付セラレタル的確又ハ未定ノ負擔ノ評價額ヲ記載シタルモノヲ登記スルニ因リテ保存セラル〔第二千百九條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ代價額トアルヲ代價トシ配當部分ノ取戻權トアルヲ配當ノ過分トシ「的確又ハ未定ノ」ト云ヘル文字ヲ刪リ登記スルニ因リテ保存セラルトアルヲ登記スルニ因リ之ヲ保存ストセリ
(松岡曰)
裁判上ト裁判外トノ區別ヲ廢スルヲ得ザルカ
(栗塚曰)
裁判ノ内外ハ示サザルベカラズ
(松岡曰)
認定ト云ヘルハ如何
(栗塚曰)
認定ハ宣吿ト云ヘルニ等シク元ト何某ノ所有ナリシト云フヲ明カニスルニアリ
(委員長曰)
代價額トアル額ノ字ヲ除去シテ可ナルヤ
(栗塚曰)
負擔ノ評價ヲトセシハ「負擔ノ評價ノ額ヲ」トシテハ如何
可決ス
第千百八十六條 右ノ移付又ハ派分ノ所爲カ登記セラレサル間ハ凡ソ得取者又ハ共同派分者ノ承諾シ又ハ其權ニ基キテ生シタル物上抵保ハ工事ヨリ生スル先取特權アル債權ヲ除クノ外前記ノ抵保カ公示セラレタルトキト雖トモ其物上抵保ヲ以テ先取特權アル債權者又ハ其一般若クハ特別ノ承權人ニ對抗スルコトヲ得ス然レトモ利害關係人ハ原契約者ノ承諾ヲ得スト雖トモ何時ニ拘ハラス右ノ登記ヲ爲サシムルコトヲ得〔千八百五十五年三月二十三日ノ佛法律、伊民第千九百四十二條第二項〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ右ノ讓渡又ハ派分ノ證書ガ登記セラレザル間ハ得取者又ハ共同派分者ノ承諾シ又ハ其權利ニ基キテ生ジタル物上抵保ハ公示シタルトキト雖ドモ之ヲ以テ先取特權アル債權者又ハ其承接人ニ對抗スルコトヲ得ズ但工事ヨリ生ズル先取特權ハ此限ニ在ラズトシ別項ニテ然レドモ利害關係人ハ原契約者ノ承諾ヲ得ズト雖ドモ常ニ右ノ登記ヲ爲サシムルコトヲ得トセリ
(委員長曰)
承權人ハ承接人トスベキヤ
(栗塚曰)
權利義務ヲ繼承シタルモノヲ承接入トスルニ依リ此承權人ハ承接人トスベシ
(元尾崎曰)
本條ノ意味ハ如何
(松岡曰)
得取者又ハ共同派分者ノ一人其物ヲ物上抵保ニ附シタルニ其債權者ハ先取特權ヲ以テ他ノ得取者又ハ共同派分者ニ對抗スルヲ得ズト云フニアリ
(委員長曰)
別項ハ如何
(南部曰)
利害關係人ハ原契約者ノ承諾ヲ得ズシテ之ヲ登記セシムルヲ以テ假令バ甲者乙者ニ對スル負債金額ニ對シ一不動產ヲ抵當ニ附シ置キ爾後其負擔ノ幾分ヲ償却シタルモ尙ホ幾干ノ殘額アル場合ニ於テ其不動產ヲ第三者ニ抵當トシタルトキ第三者ハ原契約者ノ未濟殘額ノ抵當タル部分ニ付テハ自ラ之ヲ左右スルヲ得ザルベシ
(渡曰)
承諾ヲ得ズト雖ドモト云ヘバ原契約者ニ對シテハ通吿スルニ及バザルガ如シ
(松岡曰)
契約證書ハ契約者双方ノ手ニ存在スルヲ以原契約者ニ通吿セザレバ登記ヲ請求スルヲ得ザルベシ惟甲乙ナル原契約者ノ承諾ヲ得ザルモ可ナリト云フニアリ
(栗塚曰)
假令バ乙者ハ甲者ヨリ買得代價未濟ナル不動產ヲ以テ之ヲ丙者ニ抵當トシタルモ丙者ハ其抵當權ヲ確認スル爲メ甲乙ノ承諾ナキモ之ヲ登記セシムルヲ得ベシト云フニアリ
(南部曰)
丙者ハ此不動產カ甲者ヨリ乙者ニ正當ニ移轉シタル旨ヲ登記スルニアリ
(委員長曰)
其登記ハ如何ノ證據ニ憑ルベキヤ
(南部曰)
乙者ノ所持セル證書ニ憑リ之ヲ登記スベシ
(委員長曰)
丙者ハ乙者ヨリ自己ニ移リシ權利ヲ登記スルニアラズシテ甲乙者間ノ移轉ヲ登記スルヲ云フカ
(南部曰)
然リ
(栗塚曰)
丙者自己ノ抵當權ヲ確實ナラシメン爲メ乙者ノ證書ヲ借リ果シテ甲乙者間ハ正當ニ授受シタルヲ以テ自己ノ得取セル此抵當ノ確實ナルヲ證スベシ
(委員長曰)
不動產ノ賣買ハ必ラズ登記セザルベカラズトアルヲ正則トシタルニ本條ハ何ノ必要アリテ第三者ノミ單ニ其登記ヲ爲シ得ルトシタルカ
(栗塚曰)
個ハ便法タルニ過ギザルナリ
(委員長曰)
現行法ニテハ甲乙間ノ賣買登記ハ甲乙間ノ承諾ヲ得ザルベカラズトアルニ之ヲ乙丙者ニ關スル抵當登記ニ於テ丙者ハ乙者ノ承諾ヲ得ザルモ之ヲ登記スルヲ得ベシト云フハ不都合ニアラズヤ
(栗塚曰)
其賣買若クハ抵當ハ双方ノ承諾ナカルベカラズト雖ドモ登記上ハ双方ノ承諾ヲ要セズ
(委員長曰)
甲乙間ニ於ケル登記ハ之ヲ要セザルモ乙丙間ノ登記ハ原契約者ノ承諾ナキモ登記スルヲ得ベシト云フハ如何
(栗塚曰)
丙者ノ登記スル點ハ甲乙間ニ於ケル賣買ノ關係ヲ登記スルノミ
(松岡曰)
甲乙間ニ於ケル契約ノ證書ヲ丙者ハ如何ナル神通力ヲ以テ之ヲ登記スルヲ得ルカ
(栗塚曰)
丙者ハ乙者ト契約スル際乙者ノ所持スル證書ニ依テ以テ登記スルヲ得ベシ
(松岡曰)
丙者ハ甲乙間ヲ承諾セシメ以テ登記ヲ爲サザレバ丙者ハ原契約者ノ證書ヲ得ルニ不便ナルベシ
(委員長曰)
登記ハ双方登記官ノ面前ニ出ザルベカラザルニ本條ハ何ヲ以テ双方ノ出頭ヲ要セザルヤ報吿委員ニテ詮議スベシ
(栗塚曰)
然カズベシ
第千百八十七條 若シ移付又ハ派分ノ證書ニ其對價物ノ全部若クハ一分ヲ未タ辨濟セサルコト又ハ負擔ノ付セラレタルコトヲ記載セサルトキハ債務ノ成立スル間ハ日後ノ證書ヲ以テ此遺脫ヲ補フコトヲ得テ其證書ハ債權者ノ注意ヲ以テ移付ノ證書ト相合シテ之ヲ公示スルコトヲ得
若シ右ノ證書ヲ登記ヲ以テ公示セサルトキハ移付者ハ何時ニテモ抵當ノ章ニ定ムル所ノ方式ニテ爲シタル要旨ノ記入ヲ以テ其證書ヲ表顯スルコトヲ得然レトモ此場合ニ於テ先取特權ハ單純ナル法律上ノ抵當ニ變性ス
二回ノ公示ノ間ニ於テ債務者ニ移轉セラレタル不動產ニ付テノ物權ヲ債務者ノ權ニ基キテ得取シ且合式ニ之ヲ公示シタル第三者ニハ右ノ抵當ヲ以テ對抗スルコトヲ得ス
若シ移付若クハ派分ノ證書ニ記シタル負擔又ハ擔保ノ未定債權カ主タル證書ヨリ後ノ證書ニ於テノミ評價セラレタルトキモ亦同シ但其證書ノ抵當記入ハ其記入ヲ爲シタル日附ノミニ於テ債權者ニ其順位ヲ付與ス
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項移付ヲ讓渡トシ負擔ノ付セラレタルトアルヲ負擔ノ付シ有ルトシ其證書ハノ上「テ」ヲ且トシ相合シテトアル相ヲ刪リ第二項ハ若シ右ノトアルヲ若シ右日後ノトシ登記ヲ以テトアルヲ登記ト共ニトシ定ムル所ノトアル「所ノ」ヲ刪リ然レドモトアルヲ但トシ第三項ハ二回トアルヲ右ノ抵當ハ二箇ノトシ「債務者ニ移轉セラレタル不動產ニ付テノ物權ヲ」トアルヲ刪リ權ニ基キテトアルヲ權利ニ基キ物權ヲトシ右ノ抵當トアルヲ「之」トシ第四項ハ移付ヲ讓渡トシ未定債權ガ主タルトアルヲ評價ヲ日後ノトシ證書ヨリ後ノ證書ニ於テノミ評價セラレタルトアルヲ證書ニ記載シタルトシ日附ノミニ於テトアルヲ日附ニ從ヒトシ付與ストアルヲ定ムトセリ
(松岡曰)
第一項讓渡ノ證書ト合シテトセシハ更ラニ讓渡又ハ派分ノ證書ト合シテトスベシ
可決ス
(元尾崎曰)
第二項讓渡人ハ債權者トシテハ如何
(栗塚曰)
可ナリ
(松岡曰)
第二項若シ右日後ノ證書ヲ登記ト共ニト云フハ如何
(栗塚曰)
若シ右ノ日後ノ證書ヲ讓渡又ハ派分ノ證書ト共ニトスレバ明カナラン
可決ス
(松岡曰)
第一項ハ讓渡又ハ派分ト共ニ證書ニハ對價ヲ公示スベシト云ヒ第二項ハ若シ右日後ノ證書ヲ讓渡又ハ派分ト共ニ公示セザルトキハ代價未濟額ニ對シテ抵當トナリ第三項ハ公示スルヲ得ザルトキハ第三者ニ對抗スルヲ得ズト云フ義ナルカ
(栗塚曰)
然リ
第千百八十八條 賣主及ヒ其他ノ移付者又ハ共同派分者ノ先取特權カ法律上ノ抵當ニ變性シタルトキハ右抵當ノ記入前ニ移付又ハ派分ノ目的タル不動產ニ付テノ物權ヲ債務者ノ權ニ基キテ得取シ且合式ニ保存シタル第三者ヲ害シテ義務不履行ノ爲メノ解除訴權ヲ行フコトヲ得ス〔千八百五十五年三月二十三日ノ佛法律第七條〕
(栗塚曰)
本條ハ抵當記入後ハ解除訴權ヲ行フコトヲ得ト云フニ歸スルヲ以テ法律上ノ抵當ニ變性シタル以上ハ何ヲ以テ解除訴權アリヤト云フニ付キ起案者ニ質問中ナレバ追テ報吿スベシ
第千百八十九條 工匠、技師又ハ工事請負人ノ先取特權ハ第千百七十九條ニ定メタル最初ノ二箇ノ調書ノ記入ニ因リテ保存セラル
場所ノ現狀ヲ證明シ及ヒ行フ可キ工事ヲ指示スル第一調書ハ工事ヲ始ムル前ニ之ヲ記入スルコトヲ要ス
竣成シ又ハ絕止シタル右ノ工事ヨリ生スル增價ヲ證明スル第二調書ハ前記ノ條ニ定メタル期間ニ爲セシ其作成ヨリ一个月内ニ於テ之ヲ記入スルコトヲ要ス
第二調書ノ記入ノ效力ハ第一調書ノ日附ニ遡及シ總テ工事前又ハ工事後ニ債務者ト約定シタル各人ニ對シ先取特權アル債權者ニ其增價ニ付キ優先權ヲ保ス〔第二千百十條〕
利害關係人中一人ノ爲シタル右調書ノ記入ハ委任ナキトキト雖モ他ノ者ニ利シ且總テノ者ヲシテ其債權ノ割合ニ應シテ辨濟ヲ受クル爲メ同一ノ順位ヲ保有セシム但此カ爲メニハ有益ノ時期ニ於テ必要ナル證明ヲ爲スコトヲ要ス
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項最初ノ二箇トアルヲ第一第二トシ調書ノ記入ニ因リテ保存セラルトアルヲ調書ノ記入ヲ以テ之ヲ保存ストシ第二項ハ第一調書ハ工事ヲ始ムル前ニ之ヲ記入スルコトヲ要ストシ第三項ハ其第二調書ハ作成ヨリ一ケ月内ニ於テ之ヲ記入スルコトヲ要ストセリ
(元尾崎曰)
第二ノ上ニアル其ヲ刪リ作成ノ上ノ其ハ存スベシ
可決ス
(栗塚曰)
報吿委員ニテ第四項第二調書ノ記入ノ效力ハ第一調書ノ日附ニ遡及シ且工事ノ前後債務者ト約定シタル各人ニ對シ其增價ニ於ケル優先權ヲ先取特權アル債務者ニ保有セシムトシ第五項他ノ者ニトアルヲ他ノ關係人ヲトシ總テノ者ヲシテトアルヲ總テノ者ニトシ同一ノ上ニ「ノ」ヲ加ヘタリ又但以下ハ別段記載スルノ效ナキニアラズヤト云フニ付キ起案者ニ質問ニ置ケリ依テ追テ報吿スベシ
第千百九十條 若シ前條ニ指定シタル期間ニ於テ二箇ノ調書中一箇ノ記入ヲ爲ササリシトキハ先取特權ハ法律上ノ抵當ニ變性シ其抵當ノ順位ハ增價ニ付テハ左ノ日附ヲ以テ定メラル
第一 若シ第二調書ヲ工事ノ竣成又ハ絕止ノ時ヨリ三ケ月内ニ於テ作成シ且次月内ニ之ヲ記入シタルトキハ第一調書ノ遲延記入ノ日附
第二 若シ右ノ三个月内ニ於テ第二調書ヲ作成セス又ハ三个月内ニ於テ之ヲ作成シタルモ次月内ニ之ヲ記入セサルトキハ其第二 調書記入ノ日附〔第二千百十三條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ一箇ヲ其一トシ抵當ノ順位ハ增價ニ付テハトアルヲ順位ハトシ定メラルトアルヲ之ヲ定ムトセリ
可決ス
第千百九十一條 得取、派分又ハ工事ノ爲メ初メニ金圓ヲ貸付ケタル者ニ第千百八十條第一項ニ從ヒテ屬スル先取特權ハ其者ノ代リタル債權者ト同一ノ方法ヲ以テ保存セラル
若シ右貸主カ後日代位ニ因リテ債權者ニ承繼シタルトキ未タ先取特權カ公示セラレサルニ於テハ其貸主ハ主タル證書及ヒ代位證書ノ登記又ハ記入ニ因リテ其公示ヲ爲サシム〔第二千百八條、第二千百十條〕
若シ公示カ代位ニ先タツトキハ右貸主ハ登記シタル證書ノ縁邊ニ代位證書ノ附記ヲ請求スヘシ
右同一ノ公示ハ先取特權アル債權ノ讓受人ニ因リテ與ヘラル〔第二千百十二條〕
此終ノ二箇ノ場合ニ於テ其規定セラレタル附記ヲ爲サシムルコトヲ怠リタル代位者又ハ讓受人ハ以前善意ニテ債務者又ハ其承繼人トノ間ニ爲サレタル辨濟又ハ其他ノ免除ノ所爲ヲ非難スルコトヲ得ス
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ者ニトアルヲ者ノトシ第一項ニ從ヒテ屬スルトアルヲ第一項ニ從ヒ有スルトシ「其者ノ代リタル債權者ト」トアルヲ「賣主共同派分者又ハ工事請負人ニ於ケルト」トシ保存セラルトアルヲ之ヲ保存ストシ第二項ハ代位ニ因リテ債權者トアルヲ代位ニ因リテ賣主共同派分者又ハ工事請負人トシ第三項「公示カ」ヲ刪リ代位ニ先ダツトキハトアルヲ代位前ニ公示アリタルトキハトシ貸主ハノ上右ヲ刪リ第四項冒頭右同一ノ公示ハトアルヲ「又」トシ債權ノ讓受人ニ因リテ與ヘラルトアルヲ債權ヲ讓受ケタル者ハ讓渡ノ證書ノ附記ヲ請求スベシトシ第五項ハ此末ノ二箇ノ場合ニ於テ附記ヲ爲サシムルコトヲ遲延シタル代位者又ハ讓受人ハ其以前善意ニテ債務者又ハ其承接人ト原債權者トノ間ニ爲シタル辨濟其他ノ免除ノ所爲ヲ非難スルコトヲ得ズトセリ
(委員長曰)
本條第一項ハ如何ナル意味カ
(栗塚曰)
假令バ工事請負人ニ資金ヲ貸付シタル債權者ハ其工事請負人ノ有スベキ先取特權ヲ以テ之ヲ保存スト云フニアリ
(渡曰)
第二項未ダ先取特權ガ公示セラレザルニ於テハトアルヲ未ダ先取特權ノ公示ナキニ於テハトシタシ
可決ス
第千百九十二條 利息又ハ利子ヲ生スル先取特權又ハ抵當ノ附キタル債權ニシテ上ニ記載シタル如クニ保存セラレタルモノハ利息又ハ利子ノ二个年分ノミニ付テハ元本ト同一ノ順位ニ其配當順序ヲ定ムルコトヲ得滿期ノ利息又利子ノ最モ舊キモノノ爲メ順次ニ特別ノ抵當記入ヲ爲ス可キ債權者ノ權利ヲ妨ケス〔第二千百五十一條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ利息又ハ年金ヲ生ズル先取特權又ハ抵當ノ附キタル債權ニシテ上ニ記載シタル如クニ保存シタルモノハ利息又ハ年金ノ二个年分ノミニ付テハ元本ト同一ノ順位ニテ配當ニ加入スルコトヲ得ズ但滿期ノ利息又年金ノ中ニテ二年以外ノモノノ爲メ漸次ニ特別ノ抵當記入ヲ爲ス可キ債權者ノ權利ヲ妨ゲズトシタシ
(元尾崎曰)
二个年分ノミニ付テハト云フハ非ナリ
(栗塚曰)
二个年分以内ニ非ザレバトシテハ如何
(元尾崎曰)
然ルベシ
可決ス
第千百九十二條〔第二〕 死凶者ノ不動產ニ關シテ資產ノ離分ヲ請求スル債權者及ヒ受囑者ハ自己ノ抵保ノ爲メ留置セント欲スル財產ニ付キ相續ノ發開ヨリ六ケ月内ニ其債權又ハ贈遺ヲ記入スルコトヲ要ス
其記入ニハ債權又ハ贈遺ノ額ト其記入ヲ爲ス主旨トヲ附記スルコトヲ要ス
相續人ノ權ニ基キ右ノ期間内ニ爲シタル記入又ハ登記ハ離分者ニ之ヲ以テ對抗スルコトヲ得ス但請負人ノ先取特權ニ關シ次條ニ記載スルモノハ此限ニ在ラス〔第二千百十一條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ自己ノ抵保トアルハ擔保トシ第三項權ニ基キトアルヲ權利ニ基キトシ但ノ下工事ノ二字ヲ挿入セリ
(元尾崎曰)
離分者ト云フハ如何
(栗塚曰)
離分ヲ請求スル債權者及ビ受囑者ヲ指スベシ離分請求者トシテハ如何
可決ス
(元尾崎曰)
工事請負人ヲ擧ゲシハ如何
(松岡曰)
工事請負人ハ離分請求者ニ對抗スルヲ得ベシト云フニアリ
(委員長曰)
前條ニ年金ヲ生ズルトアルモ年金ヲ生ズルト云フヲ得ベキヤ
(栗塚曰)
年金ヲ生ズル債權ト云フニアルヲ以テ年金ヲ生ズルト云ヒシモ利息又ハ年金ノ附キタル先取特權又ハ抵當アル債權ニシテトシテハ如何
可決ス
第千百九十三條 不動產ニ付キ先取特權アル債權者ノ間ニ於ケル相互ノ優先權ハ左ノ順序ニ從フ
第一 工匠、技術及ヒ工事請負人ノ債權カ後ニ生シタルトキト雖トモ是等ノ各人其工事ヨリ生スル增價額カ此等ノ各人ニ全ク辨濟スルニ足ラサル場合ニ於テハ此等ノ各人ハ其債權ノ割合ニ應シ皆同一ノ順位ニテ配當順序ヲ定メラル
第二 移付者又ハ共同派分者
逐次ノ移付又ハ派分ノ場合ニ於テハ優先權ハ相互ノ間ニ於テ最モ舊キ債權者ニ屬ス〔第二千百三條第一號〕
金圓ノ貸主ハ或ハ初ヨリ或ハ合意上ノ代位ニ因リ其金圓ニテ全部又ハ一分ノ辨濟ヲ受ケタル債權者ト同一ノ順位ヲ有ス
資產ノ離分ヲ請求スル債權者及ヒ受囑者ハ死亡者ノ財產ニ付テハ其財產カ相續人ニ歸シタル後相續財產ニ增價ヲ與ヘタル工匠、技術師及ヒ工事請負人ノミニ因リテ先セラル
資產ノ離分ハ死凶者ノ債權者及ヒ受囑者ノ間ニ於ケル其相互ノ權利ヲ變更セス
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一ヲ工匠、技師及ビ工事請負人但其債權カ後ニ生ジタルトキモ亦優先權ヲ有ストシ別項此等ヲ右トシ「此等ノ各人ハ其」ヲ刪リ皆同一トアルヲ同一トシ順序ヲ加入トシ定メラルトアルヲ定ムトシ末項先セラルノ上「因リテ」ノ三字ヲ刪レリ
可決ス
第千百九十四條 先取特權ノ記入ノ方法、其更新及ヒ記入ノ抹殺又ハ減少ヲ爲ス可キトキハ其抹殺又ハ減少ニ關スル規則ハ先取特權及ヒ抵當權ニ共通ノモノニシテ抵當ノ事ニ付キ次章ニ於テ之ヲ揭示ス
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ「又ハ減少ヲ爲ス可キトキハ其抹殺」ヲ刪リ抵當ノ事ニ付キ次章ニ於テ之ヲ揭示ストアルヲ之ヲ定ムトセリ
(委員長曰)
記入ノ抹殺トアル記入ハ刪ルベシ其更新トアルヲ以テ明カナレバナリ
(渡曰)
先取特權ノ記入其更新及ビ記入ノ抹殺トスベシ
可決ス
第三款 第三保有者ニ對スル不動產ニ係ル先取特權ノ效力
第千百九十五條 前款ニ記載シタル如ク合式ニ公示シテ保存シタル先取特權ハ其先取特權ヲ負擔シタル不動產ニ付テハ第三保有者ノ手裏ニ於テ之ニ追及ス
第三保有者カ後ノ條ニ定ムル方法ノ一ニ因リテ先取特權アル債權者ニ辨償セサルトキハ其先取特權アル債權者ハ不動產ノ代價ヲ先取特權及ヒ抵當權アル各債權者ノ間ニ其優先權ノ順序ニ從ヒテ配當スル爲メ第三保有者ニ對シ其不動產ヲ差押ヘテ之ヲ競賣ニ付スルコトヲ得〔第二千百六十六條、第二千百六十九條〕
(栗塚曰)
報吿委員ニテ本款ノ下保有者トアルヲ所持者トシ本條ハ第一項ヲ合式ニ公示シタル先取特權ハ其負擔アル不動產ヲ第三所持者ノ方ニ追及ストシ第二項ハ第三所持者カ後ニ定ムル方法ノ一ニ因リ先取特權アル債權者ニ辨償セザルトキハ其債權者ハ第三所持者ニ對シ其不動產ヲ差押ヘ之ヲ公賣ニ付スルコトヲ得トセリ
(元尾崎曰)
第一項ハ負擔アルノ文字ヲ刪リタシ
(栗塚曰)
負擔アルト云フ字ハ極テ必要ナリ
第千百九十六條 一般ノ先取特權ハ第三保有者ノ得取證書ノ登記前ニ記入セラレタルトキニ非サレハ其第三保有者ノ手裏ニ移轉シタル不動產ニ付キ追及權ヲ與ヘス
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ登記前ニノ下「之ヲ」ヲ入レ記入セラレヲ記入シトシ第三保有者ノ手裏トアルヲ第三所持者トセリ
可決ス
第千百九十七條 初メニ登記シタル轉得者ノ證書ノ登記前ニ登記セラレサル移付又ハ派分ニ因リテ先取特權ヲ有スル債權者ハ自己ノ先取特權ヲ生セシメタル證書ヲ登記セシムルコトニ付キ轉得者ヨリ催吿ヲ受ケタレトモ其催吿カ距離ニ應シテ法律上ノ期間ヲ增加シタル一个月間其效ナカリシトキニ非サレハ其追及權ヲ失ハス
然レトモ新得取者ハ讓渡人カ十个年ヲ踰ユル時期間不動產ニ付キ法定ノ占有ヲ爲シタルトキハ右ノ催吿ヲ爲スノ責ナクシテ舊所有者ノ總テノ先取特權ヲ免レタリト自ラ看做スコトヲ許サル
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ轉得者ノ證書ノ登記前ニ登記セザル讓渡又ハ派分ニ因リテ先取特權ヲ有スル債權者ハ先取特權ノ生ジタル證書ヲ登記セシムルコトニ付キ轉得者ヨリ催吿ヲ受ケタレドモ一个月内ニ其登記ヲ爲サシメザリシトキニ非ラザレバ追及權ヲ失ハズトシ第二項ハ然レドモ轉得者ハ讓渡人カ十个年以上不動產ニ付法定ノ占有ヲ爲シタルトキハ右ノ催吿ヲ爲スノ責ナリ且舊所有者ノ總テノ先取特權ヲ免ルトセリ
可決ス
第千百九十八條 不動產ノ工事ニ因リテ先取特權ヲ有スル債權者ハ第一調書ノ記入ニ依リテ追及權ヲ行フコトヲ得但工事ノ竣成又ハ其絕止ノ前ニ移付ノ證書ノ登記ヲ爲シタルコトヲ要ス
工事カ竣成シ又ハ絕止セラレタルトキ工事ノ受取ト第二調書ノ記入トニ關スル二箇ノ期間カ未タ經過セサルニ於テハ右ノ債權者ハ右期間ノ滿了後又ハ其月内ニ於テ第二調書ヲ記入セシム可キ催吿ヲ受ケタルニ其催吿ニ應セサリシ後ニ非サレハ先取特權ヲ失ハス
本條第一項ハ報吿委員ニテ「第一調書ノ記入ニ依リテ追及權ヲ行フコトヲ得但」ヲ刪リ移付ノトアルヲ讓渡アリテ其トシ登記ヲ爲シタルトアルヲ登記アリタルトシ「コトヲ要ス」トアルヲ「トキハ第一調書ノ記入ニ依リ追及權ヲ行フコトヲ得」トシ第二項工事受取ノ期間ト云ヘルハ如何ト云ヘルニ付キ起案者ニ質問シ置ケバ追テ報吿スヘシ
第千百九十九條 先取特權アル債權者ニシテ追及權ヲ保存シ及ヒ之ヲ行フ爲メニ必要ナル公示ヲ其先取特權ニ與ヘサル者カ自カラ債權者タルコトヲ知ラシメ且代價ノ辨濟前又順序ヲ定ムルノ手續カ開始セラレタル場合ニ於テハ其順序ヲ定ムル手續ノ閉鎖前ニ自己ノ債權ヲ證明シタルトキハ其先取特權アル債權者ハ第三保有者ノ負擔シタル讓受代價ニ付キ優先權ヲ失ハス
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ追及權ヲ保存シ及ビ之ヲ行フ爲メニ必要ナル公示ヲ爲サザル先取特權アル債權者ハ第三所持者ノ負擔シタル讓受代價ニ付優先權ヲ失ハズ但代價ノ辨濟前又順序配當手續ノ閉鎖前ニ自ラ債權者タルコトヲ知ラシメ且之ヲ證明シタルトキニ限ルトセリ
可決ス
第千二百條 追及權、其條件並ニ其效力及ヒ第三保有者カ所有權ノ徵收ヲ避クル爲メノ方法ニ關シテ先取特權及ヒ抵當權ニ共通ノ規則及ヒ先取特權ノ消滅スル原由ハ次章ノ附錄ニ記載スル如ク抵當權ノ事項ニ於テ之ヲ定ム
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ保有者ヲ所持者トシ「次章ノ附錄ニ記載スル如ク」ト云フ十二字ヲ刪レリ
可決ス
第五章 抵當
第一節 抵當ノ本質及ヒ目的
第千二百一條 抵當ハ質ヲ設クルコトヲ要セスシテ法律又ハ人意ニ因リ或ル義務ヲ他ノ義務ニ先チテ辨償スルニ供シタル不動產ノ上ノ物權ナリ〔第二千百十四條第一項〕
(栗塚)
報吿委員ニテ本節ノ下本質トアルヲ性質トシ本條ハ抵當ハ法律又ハ人意ニ因リ他ノ義務ニ先チ或ル義務ノ辨償ニ充テタル不動產上ノ物權ナリ但其不動產ノ握有ヲ要セストセリ
(元尾崎)
他ノ義務ト云フハ如何
(栗塚)
他ノ負債者ニ先チト云フニアリ
第千二百二條 抵當ハ動產質及ヒ不動產質ニ付キ記載シタル如ク反對ノ合意アルニ非サレハ働方及ヒ受方ニテ不可分タリ〔第二千百十四條第二項〕
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ「反對ノ合意アルニ非サレハト云ヘルヲ刪リ末尾ニ但書ヲ附シ但反對ノ約束アルトキハ此限ニ在ラズトセリ
可決ス
第千二百三條 抵當ハ不動產ノ完全所有權ノ上ノミナラス父母ノ法律上ノ用益權ヲ除クノ外ノ用益權、賃借權、永借權及ヒ地上權ノ上ニモ又虛有權ノ上又ハ右等ノ權利ヲ支分シタル不動產ノ上ニモ之ヲ設定スルコトヲ得〔第二千百十八條〕
然レトモ完全ノ所有權ヲ有スル者ハ虛有權又ハ用益權ヲ離分シテ別々ニ之ヲ抵當ト爲スコトヲ得ス又建築若クハ植付ナクシテ土地ヲ抵當トナシ又ハ土地ナクシテ此等ノ物ヲ抵當ト爲スコトヲ得ス
之ニ反シテ右ノ者ハ其不動產ノ分レタル部分又ハ分レサル部分ヲ抵當ト爲スコトヲ得
地役ハ要役地ヨリ離分シテ抵當ト爲スコトヲ得ス又用方ニ因ル不動產ハ其附着スル不動產ヨリ離分シテ抵當ト爲スコトヲ得ス
鑛坑ノ開掘カ特許セラレタル場合ニ於テハ鑛坑ト土地ノ表面トカ同一ノ所有者ニ屬スルト否トヲ問ハス同一ノ債權者又ハ異別ナル債權者ノ爲メ其鑛坑及ヒ土地ノ表面ニ各別ニ抵當ヲ設クルコトヲ得〔千八百十年四月二十一日ノ佛法律第七條及ヒ第十七條乃至第二十一條〕
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項「虛有權ノ上又ハ」ヲ刪リ第二項ハ然レドモ完全ノ所有權ヲ有スル者ハ虛有權又ハ用益權ノミヲ離分シテ之ヲ抵當ト爲スコトヲ得ズ又建築若クハ植付ヲ離分シテ土地ノミヲ抵當ト爲シ又ハ土地ヲ離分シテ此等ノ物ノミヲ抵當ト爲スコトヲ得ズトシ第三項ハ之ニ反シテ右ノ所有者ハ其不動產ノ限界ニ因リ定リタル部分又ハ其不分ノ幾部分ヲ抵當ト爲スコトヲ得トシ第四項ハ抵當ノ上何レモ「之ヲ」ノ二字ヲ加ヘ第五項ハ刪除セリ
(元尾崎)
本條第二項ニハ土地ト建物ヲ離分シ又ハ土地ト植付物ヲ離分シテ之ヲ抵當トスルヲ得ズト云フニアルモ頗ル從來ノ習慣ニ反シ甚ダシキ不都合ヲ釀生スルモノト云フベシ
(北畠)
大和國ニハ或ル素封家十四日デ山林殆ンド二十有餘里ヲ買取シ其地ノ全村ハ皆其山林ニ生植スル材木ヲ採伐スルヲ得ベシト云ヘル約束アリ
(栗塚)
如此ハ條件付ノ賣買ト云フベシ
(西)
植付ヲ抵當トスルニハ土地ヨリ離分セザルヲ得ザル結果ヲ生ズルニ付キ之ヲ抵當トスルニハ土地ト植付物トヲ離分スルヲ得ザルベシ
(渡)
植付物モ之ヲ土地ヨリ分離シタルトキハ動產トナルモ未ダ離分セザル以前ハ不動產タルベシ
(松岡)
第二項ハ又以下ヲ刪リタシ
可決ス
第千二百四條 下ニ揭クルモノハ之ヲ抵當ト爲スコトヲ得ス
使用權並ニ住居權及ヒ移付スルコトヲ得ス又ハ差押フルコトヲ得サル其他ノ財產
第十一條第二號及ヒ第三號ニ揭ケタル不動產債權
同第十一條第四號ニ揭ケタル如キ國ニ對スル年金權及ヒ不動產トセラレタル其他ノ債權但之ヲ不動產ト爲スコトヲ許可スル法律カ其抵當ノ許ササルトキニ移ル
動產但特別法ニ於テ船舶ニ付キ記スルモノヲ除ク〔第二千百十九條、二千百二十條、千八百七十四年十二月十日ニ決議シ同二十二日ニ頒布シタル佛法律〕
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項下ニトアルヲ左ニトシ第二項移付ヲ讓渡トシ第四項ハ「國ニ對スル年金權及ヒ」トアルヲ刪リ又「其他ノ」三字ヲ除ク其抵當ヲ許サザルトキニ限ルトアルヲ其抵當ヲ許シタルトキハ此限ニ在ラズトシ第五項ハ動產但船舶ニ付キ特別法ニ規定シタルモノハ此限ニ在ラズトセリ
(元尾崎)
不動產上之レヲ抵當トスルヲ得ザルモノアルカ
(栗塚)
然リ
(松岡)
第二項差押フルコトヲ得ザル其他ノ財產ト云フ實例ハ如何
(南部)
第二項ハ使用權並ニ住居權其他ノ財產ト云ヘルモノトス
(栗塚)
公有物ノ如キハ之ヲ差押フルコトヲ得ザルベシ
第千二百五條 此法律ノ條例ハ商法及ヒ特別法ニ之ト異ナリタル規定ヲ設ケタル總テノ點ニ付テハ商法及ヒ特別法ニ設定シタル抵當ニ之ヲ適用ス
(松岡)
本條ハ必要ナル成條ニアラズ
(南部)
刪除スルニ及バズ
(淸岡)
此法律ノ條例ハト云ヘルハ穩當ナラズ
(栗塚)
此法律トアルヲ此章トスベシ
可決ス
第千二百六條 抵當ハ漸積地ノ如キ意外及ヒ無償ノ原由ニ因リ或ハ建築、植付又ハ其他ノ工作ノ如キ債務者ノ所爲及ヒ費用ニ因リ不動產ニ生スルコトアルヘキ增加又ハ改良ニ當然及フモノトス但他ノ債權者ニ對シテ詐偽ナキコトヲ要シ且前章ニ規定シタル如キ工匠及ヒ工事請負人ノ增價ニ對スル先取特權ヲ妨ケス〔第二千百三十三條〕
其抵當ハ債務者カ新圍障ノ設立ニ因リ又ハ舊圍障ノ廢棄ニ因リ隣接地ヲ抵當不動產ニ合體シタルトキト雖トモ債務者ノ有償ハ勿論無償ニテ得取シタルモノタリトモ其隣接地ニ及ハサルモノトス
本條ハ報吿委員ニテ第一項植付ノ下「又ハ」ヲ刪リ第二項ハ其抵當ハ債務者カ縱令無償ニテ取得シタルモノタリトモ其隣接地ニ及バザルモノトス但新圍障ノ設立ニ因リ又ハ舊圍障ノ廢棄ニ因リ隣接地ヲ抵當不動產ニ合體シタルトキモ亦同シトセリ
(松岡)
本條第一項ハ抵當ニ附シタル地所ヘ建築シタルトキハ抵當權其建築物ニ波及スベシ
(村田)
抵當ニ附シタル地面ニ建築シタルモ其建築物ニ及バズ土地及ビ建築物ヲ併セテ之ヲ抵當ニ附シタルモノニアラザレバナリ
(元尾崎)
建增又ハ植付ハ之ヲ抵當ニ追加スルヲ得ズ
(栗塚)
一室ノ建增シヲ爲シタルカ爲メニ之ヲ公賣處分ニ附スルコトヲ得ザルトキハ債權者ハ困難ニ陷ルニアラズヤ
(淸岡)
最初假ニ狹隘ナル建築ヲ爲シ置キ追テ倍大ノ增築ヲ爲シタルトキ其增築部分ヲモ抵當中ノモノナリト云フハ不可ナリ
(大尾崎)
公賣處分ニ際シテハ債權者債務者ト協議スルナラン
(栗塚)
協議ヲ得ザルトキハ如何
(大尾崎)
債權者ノ取損ナルベシ
(松岡)
增加ヲ附屬トシテハ如何
(栗塚)
名稱ヲ何トスルモ其廣狹ヲ決セザレハ不可ナリ
(松岡)
增加ハ狹少ノ主義ト認メザルベカラズ尙ホ此點ノ修正文ハ報吿委員ニ附シタシ
可決ス
(槇村)
第二項ハ必要ニ屬セザレバ之ヲ刪除スベシ
(元尾崎)
然リ
(淸岡)
第二項但書ハ常例ニ適セズ
(松岡)
本條ハ報吿委員ニ對シ全文ノ修正ヲ求メタシ
可決ス
第千二百七條 意外若クハ不可抗ノ原由又ハ第三者ノ所爲ニ出テタル抵當財產ノ滅失、減少又ハ損壞ハ債權者ノ損失タリ但先取特權ニ關シ第千百三十八條ニ記載シタル如ク賠償ヲ受クヘキ場合ニ於テハ債權者ノ賠償ヲ受クルノ權利ヲ妨ケス
若シ抵當財產カ債務者ノ所爲ニ因リ又ハ其保持ヲ爲ササルニ因テ減少又ハ損壞ヲ受ケ之カ爲メ債權者ノ擔保カ不十分ト爲リタルトキハ債務者ハ債權者ニ抵當ノ補足ヲ與フルノ責ニ任ス〔第二千百三十一條〕
若シ其補足抵當ヲ與フルコト能ハサル場合ニ於テハ債務者ハ債權者ノ擔保カ不十分ト爲リタル限度ニ於テ滿期前ト雖モ債務ヲ辨償スルノ責ニ任ス〔第千百八十八條〕
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項「賠償ヲ受クヘキ場合ニ於テハ」ヲ刪リ受クルノ權利ヲ妨ゲズトアルヲ受ク可キ場合ニ於テハ其權利ヲ妨ゲズトシ第二項「因テ」ヲ「因リ」トシ第三項「抵當」ノ二字ヲ刪ルベシトセリ
可決ス
第千二百八條 抵當財產ノ差押ラレサル間ハ債務者ハ第百二十六條及ヒ第百二十七條ニ定メタル期間中其不動產ヲ賃貸シ、土地ヲ離レサルモノト雖モ其果實及ヒ產物ヲ移付シ及ヒ一般ニ總テ管理ノ所爲ヲ爲スノ權利ヲ保存ス〔佛訴第六百八十一條乃至第六百八十五條〕
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ差押ラレサルトアルヲ差押ナキトシ不動產ヲ賃貸シトアルヲ不動產ヲ賃貸スルコトヲ得又トシ所爲ヲ行爲トシ爲スノ權利ヲ保存ストアルヲ爲スコトヲ得トセリ
(松岡)
「一般ニ」ノ三字ヲ刪ルベシ
可決ス
第二節 抵當ノ種類
第千二百九條 抵當ハ法律上、合意上又ハ遺囑上ノモノタリ〔第二千百十六條、第二千百十七條〕
(南部)
佛國ニハ裁判上ノ抵當ト云ヘルモノアルニ「ボアソナード」氏ハ之ヲ除去シタルモ既ニ登記法第九條ニモ裁判上ノ抵當アルヲ認メタレバ之ヲ採存スベシト云フ主意ニテ起案者ニ質問シタシ
(大尾崎)
「ボアソナード」氏ガ之ヲ除去シタル意見ハ如何
(栗塚)
「ボアソナード」氏ハ抵當ハ合意上ニ生ズルモノナレバ裁判上ニ敗訴シタルカ爲メ抵當ヲ得セシムベキニアラズト云フニアリ
(槇村)
起案者ニ質問シタシ
(淸岡)
起案者ニ質問スベシト云フニ決ス
第一款 法律上ノ抵當
第千二百十條 抵當ハ總テ要約ニ關セス左ノ各人ノ利益ニ於テ當然成立ス
第一 婦カ其夫ニ對シテ有スルコトアルヘキ總テノ債權ノ爲メニハ婚姻ノ日ニ於テ現ニ夫ニ屬スル財產ト名義ノ如何ニ拘ハラス後日之ニ屬スルコトアルヘキ財產トヲ問ハス夫ノ未成年タルトキト雖モ其夫ノ總テノ不動產ニ對シ婚姻シタル婦ノ利益ニ於テ〔第二千百二十一條第一項、第二千百三十五條第二號〕
第二 未脫後見ノ未成年者及ヒ亂心ノ爲メ裁判上ニテ治產禁ヲ受ケタル者又ハ處刑言渡ノ效力ニ因リ法律上ニテ治產禁ヲ受ケタル者ノ其後見人ニ對シテ有スル總テノ債權ノ爲メニハ現在ト將來トヲ問ハス後見人ノ總テノ財產ニ對シ此等ノ者ノ利益ニ於テ〔第二千百二十一條第二項、第二千百三十五條第一號〕
第三 行政法ヲ以テ定メタル限度ト條件トニ從ヒ會計役員ノ管理ニ付テハ其會計役員ノ財產ニ對シ國、「デパルトマン、」「コンミユーヌ」及ヒ公設所ノ利益ニ於テ〔第二千百二十一條第三項〕
又第千百八十七條及ヒ第千百九十條ノ明文ニ從ヒ變性シタル先取特權ヨリ生スル抵當ハ之ヲ法律上ノ抵當ト看做ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ本項抵當ハノ上ニ左ノト云ヘル二字ヲ加ヘ「左ノ各人ノ利益ニ於テ」ヲ刪リ第一ハ債權ノ爲メニハトアルヲ債權ノ爲メトシ不動產ニ對シ婚姻シタル婦ノ利益ニ於テトアルヲ不動產ニ付キ有スル抵當トシ第二ハ未成年者及ビ治產禁ヲ受ケタル者カ其後見人ニ對シテ有スル總テノ債權ノ爲メ現在ニ屬スルト將來ニ得ルトヲ問ハズ後見人ノ總テノ財產ニ付キ有スル抵當トシ第三ハ會計役員トアルヲ會計吏員トシ管理ニ付テハ云々トアルヲ管理ニ關シ其吏員ノ財產ニ付キ國府縣市町村及ヒ公設所ノ有スル抵當トセリ
可決ス
第二款 合意上ノ抵當
第千二百十一條 合意上ノ抵當ハ公正證書ノ通常ノ方式ニ從ヒ公證人ノ面前ニテ爲シタル合意ノミヨリ生スルコトヲ得若シ之ニ違フトキハ全ク無效トス〔第二千百十七條第三項、第二千百二十七條〕
委任者ノ財產ニ對シ抵當ヲ承諾スルノ委任ハ特別ニシテ且右ニ同シク公證人ノ面前ニテ之ヲ與フルコトヲ要ス又其委任ハ抵當ノ合意中ニ其要旨ヲ揭クルコトヲ要ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項合意ノミヨリ生ズルコトヲ得トアルヲ約束ニ非ザレバ之ヲ設クルコトヲ得ズトシ第二項ハ委任者ノ財產ニ對シトアルヲ代理人ヲ以テトシ承諾ヲ設定トシ「且」ヲ刪リ與フルヲ爲ストセリ
(元尾崎)
本條ハ約束上ノ抵當ハ公證人ノ面前ニ於テスベキモノトナリシモ抵當ハ既ニ登記役所ニ出頭シ之ヲ登記セシムベシトアルニ尙ホ之ヲ公證人ノ面前ニ於テセシムルハ重複煩累不便至極ナルニアラズヤ
(南部)
公證人ノ面前ニ於テスルハ毫モ不便ニアラズ數里遠隔ノ裁判所ヘ出頭スベキ煩累ナシ
(松岡)
登記セシムルカ公證人ヲシテ認知セシムルカ二者其一ニ從フベシ
(南部)
二者其一ニ從フハ有式ト云フヲ得ズ
第千二百十二條 日本ニ存在スル財產ニ關シ外國ニ於テ爲シタル抵當ノ合意ハ此種類ノ所爲ノ爲メ外國ニ於テ用ユル方式ニ從ヒ日本人ノ間ニ之ヲ爲シタルトキハ其效ヲ生スルコトヲ得然レトモ第千二百十九條及ヒ第千二百二十五條以下ニ定メタル條件ヲ遵守スルニ非サレハ右ノ合意ニ依リ日本ニ於テ其記入ヲ爲スコトヲ得ス〔第二千百二十八條〕
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ合意ハ約束トシ所爲ヲ行爲トシ「日本人ノ間ニ」ハ衍文ニ屬セリ
(南部)
外國ノ方式ニ從ヒ之ヲ爲シタルモ日本ニ於テ之ヲ登記セザルベカラザルカ
(栗塚)
然リ
第千二百十三條 抵當設定ノ證書ニハ義務ノ擔保ニ供シタル不動產ヲ其本質及ヒ所在ニ因テ特ニ指示スルコトヲ要ス〔第二千百二十九條第一項〕
若シ抵當ノ設定カ債務者ノ現在ノ各不動產ヲ特ニ指示セスシテ其不動產ノ全部又ハ一分ヲ包含スルトキハ債務者ノ請求ニ因リ債權ノ擔保ニ必要ナルモノニ其抵當ノ設定ヲ減少スルコトヲ得〔同上〕
債務者ノ將來ノ財產ニ對スル一般又ハ特別ノ抵當ノ設定ハ全部ニ付キ無效タリ〔第二千百二十九條第二項〕
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項供シトアルヲ充テトシ第二項其抵當ノ設定トアル「ノ設定」ヲ刪リ第三項財產ニ對スルトアルヲ財產ニ付テノトシ「全部ニ付キ」ヲ刪レリ
可決ス
第千二百十四條 合意上ノ抵當ノ設定證書ニハ右ノ外義務ノ原由、態樣及ヒ主タルト從タルトヲ問ハス義務ノ目的物ヲ明カニ指示スルコトヲ要ス
目的物カ直接ニ金額タラサルトキハ金額ヲ以テ之ヲ評價スヘシ然レトモ此終ノ條件ハ第千二百二十六條ニ記載スル如ク記入ニ於テノミ之ヲ履行スルコトヲ得〔第二千百三十二條〕
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項「合意上ノ」ヲ刪リ義務ノトアルヲ其トシ第二項目的物ガトアルヲ義務ノ目的ガトシ此終ノ條件ハトアルヲ其評價ハトシ記入ニ於テノミ之ヲ履行スルコトヲ得トアルヲ記入ノ場合ニ於テモ亦之ヲ爲スコトヲ得トシタルモ亦ハ更ラニ尙ホトセラレタシ
可決ス
第千二百十五條 抵當ハ抵當ニ供セント欲スル物ノ所有權又ハ收益權ヲ有シ且債務ノ原由ニ從ヒ有償又ハ無償ニテ之ヲ處分スルノ能力ヲ有スル者ニ非サレハ之ヲ承諾スルコトヲ得ス但第三者ノ抵當設定ニ付キ第千二百十七條「﹇記載シタルモノヲ妨ケス〔第二千百二十四條〕
若シ一時ノ權利ニ關スルトキハ抵當ハ主タル權利ニ付キ定メラレタル時期外ニ效力ヲ生スルコトヲ得ス但右ノ時期ニ於テ抵當權カ既ニ或ル事變ニ因リ物ノ價額ヲ代表スル賠償金ニ移リタルトキハ此限ニ在ラス〔第二千百二十五條〕
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ之ヲ起案者ニ質問シタルニ起案者ハ此條文ニ修正ヲ加フベシト云フニアルヲ以テ暫ク此儘未定ニ附スベシ其議ニ決ス
第千二百十六條 未成年者、禁治產者及ヒ失踪者ノ財產ハ第一編ニ定メタル原由ノ爲メ同編ニ定メタル方式ヲ以テスルニ非サレハ其代人ニ於テ之ヲ抵當ト爲スコトヲ得ス〔第二千百二十六條〕
商ヲ爲スコトヲ許サレタル既脫後見ノ未成年者及ヒ婚姻シタル婦ニ於テ抵當ヲ設定スルノ能力ハ商法ニ之ヲ規定ス〔佛商第六條、第七條〕
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項原由ノ下ハ及ビ方式ニ依ルニ非ザレバ其代人ニ於テ之ヲ抵當ト爲スコトヲ得ズトシ第二項ハ既脫後見ノ未成年者及ビ婦ニシテ商業ヲ爲スコトヲ許サレタル者ノ抵當ヲ設定スルノ能力ハ商法ニ之ヲ規定ストセリ
(松岡)
第二項ハ刪除スベシ商法ニ於テハ本項ノ如キ規定ナケレバナリ卽チ刪除ニ決ス
(松岡)
第千二百十一條第二項ハ代理人ヲ委任スルニハ委任者受任者共ニ公證人ノ面前ニ出頭スルカ
(元尾崎)
委任ヲ設クルニ自ラ出頭スベキニ及バズ
(栗塚)
本條ノ委任者及ビ受任者ハ共ニ出頭スルノ意義ナリ
第千二百十七條 合意上ノ抵當ハ第千百三條、第千百四條及ヒ第千百二十二條ニ於テ動產質及ヒ不動產質ニ付キ記載シタル如ク第三者ノ債務ヲ擔保スル爲メニ之ヲ與フルコトヲ得
此合意上ノ抵當ハ常ニ債務者ニ對シテハ恩惠ナリトス又其抵當ハ債權カ無償ノ原由ヲ有スルトキ又ハ其抵當カ有償ナルモ約束シタルコトナクシテ主タル合意以後ニ之ヲ設定シタルトキハ債權者ニ對シテモ恩惠ナリトス
(栗塚)
本條第一項第條トアルハ第千百三條第千百四條及ビ第千百二十二條トナルベシ報吿委員ニテ第二項此合意上トアルヲ右トシ又以下ヲ別項ニシ又抵當ハ債權カ無償ノ原由ヲ有スルトキ又ハ有償ナルモ諾約ナクシテ主タル約束以後ニ之ヲ設定シタルトキハ債權者ニ對シテモ恩惠ナリトストセリ
(元尾崎)
恩惠ナリトスト云ヒシハ何ノ必要アリヤ
(栗塚)
無償名義ハ通常無能力者ナルモ之ヲ爲スヲ得ベク又擧證法ニ於テモ有償名義ト同ジカラザレバナリ
第三款 遺囑上ノ抵當
第千二百十八條 抵當ハ遺囑者ノ贈遺ノ全部若クハ幾分ノ擔保又ハ第三者ノ債務ノ擔保ノ爲メニ非サレハ遺囑者ノ一箇又ハ數箇ノ不動產ニ對シ遺囑ヲ以テ之ヲ與フルコトヲ得ス〔第千八百五十一年十二月十六日ノ白耳義法律第四十三條、第四十四條〕
有效ニ遺囑上ノ抵當ヲ設定スルニハ設定者ヨリ債務者及ヒ債權者ニ對シ遺囑ニ因テ互ニ授受スルノ能力アルコトヲ要ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項遺囑者ノト云フ三字及ビ「遺囑者ノ一箇又ハ數箇ノ不動產ニ對シ」トアルヲ刪レリ
(元尾崎)
遺囑上ノ抵當ハ刪リタシ
(槇村)
互ニ授受スルノ能力アルモノト云フハ如何
(栗塚)
病者ノ醫師ニ對スル遺囑授受ハ其能力ナシ
第三節 抵當ノ公示
第一款 記入ノ條件、方式及ヒ繼續期
第千二百十九條 總テ法律上、合意上又ハ遺囑上ノ抵當ハ下ニ定メタル條件及ヒ方式ニ從ヒ抵當不動產所在地ノ登記役所ニ於テ記入セラレタルニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス〔第二千百三十四條、第二千百四十六條〕
若シ財產カ甚タ廣大ナルニ因リ二箇又ハ數箇ノ役所ノ管轄ヲ受クル場合ニ於テ其全部抵當ト爲サレタルトキハ其財產ノ主タル部分ノ所在地ヲ管轄スル役所ニ於テ記入ヲ爲シ其他ノ役所ニ於テハ右ノ記入ト其日附トノ記載ノミヲ爲ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項抵當不動產トアルヲ其不動產トシ登記所ニ於テトアル「於」ヲ刪リ非ザレバトアルヲ於テハトシ第二項ハ二箇又ハ數箇ノ登記所ノ管轄ニ跨ル不動產ノ全部ヲ抵當ト爲シタルトキハ其主タル部分ノ所在地ヲ管轄スル登記所ニ於テ記入ヲ爲シ其他ノ登記ニ於テハ右ノ記入ト其日附トノ記載ノミヲ爲ストセリ
(松岡)
第一項登記所ニ於テトアルハ原案ノ通リ登記所ニ於テトスベシ
可決ス
第千二百二十條 抵當ハ左ノ二箇ノ場合ニ於テハ債務者ニ對シ有效ニ之ヲ記入スルコトヲ得ス
第一 抵當發生ノ後債務者ノ無資力カ適正ニ宣吿セラレ又ハ其具財產ノ全部又ハ其大部分ノ差押ニ因リ顯然ト爲リタルトキ但商法ニ於テ破產ノ場合ニ於ケル記入ノ權利ニ加フルコトアルヘキ其他ノ制限ヲ妨ケス
第二 債務者カ死亡シテ相續ヲ受クヘキ總テノ相續人カ單純ニ其相續ヲ受諾セサルトキ〔第二千百四十六條〕
若シ抵當ヲ負擔シタル財產ヲ移付シタルトキハ債權者ノ第三保有者ニ對シテ記入スル權利ノ制限ハ第五節ニ之ヲ定ム
本條ハ報吿委員ニテ第一抵當發生ヲ抵當設定トシ債務者ノ無資力トアル上ニ「ニ於テ」ヲ加ヘ「全部又ハ其大部分ノ」ヲ刪リ「商法ニ於テ」ヲ其他トシ其他ノトアルヲ商法ノトセリ
(元尾崎)
「債務者ニ對シ」ト云ヘルヲ刪ルベシ
可決ス
第千二百二十一條 若シ債權者カ其財產ノ管理權ヲ有セサルトキハ其法律上又ハ裁判上ノ代人ニ於テ記入ヲ爲スモノトス
抵當ノ記入ハ亦一般代理人及ヒ法律上又ハ合意上ノ抵當ノ附着シタル所爲ヲ行フノ委任ヲ受ケタル特別ノ代理人ノ權利及ヒ責任ニ屬スルモノトス
記入ハ亦債權者ノ爲メニ事ヲ行フ事務管理人ニ於テ其債權者ノ委任ナクシテ之ヲ爲スコトヲ得
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項ヲ債權者カ財產ノ管理權ヲ有セザルトキハ抵當ノ記入ハ法律上又ハ裁判上ノ代人之ヲ爲ストシ第二項ハ抵當ノ記入ハ一般代理人及ビ法律上又ハ約束上ノ抵當ノ附着シタル行爲ヲ行フノ委任ヲ受ケタル特別ノ代理人ノ權利及ビ義務ニ屬ストシ第三項又記入ハ其債權者ノ委任ナクシテ事務管理人之ヲ爲スコトヲ得トセリ
(元尾崎)
一般代理人トハ如何
(栗塚)
ゼネラールヲ云フ
(元尾崎)
ゼネラールヲ一般代理人トスルハ不可ナリ
(松岡)
一般代理人ト云フトキハ總理及ビ特別ノ代理人ヲ包含スルガ如シ
(栗塚)
一般代理人ヲ總理代人トシ特別代理人ヲ部理代人トシテハ如何
可決ス
第千二百二十二條 婦ノ法律上ノ抵當ハ夫カ條件附ナルモ契約又ハ其他ノ方法ニテ婦ノ債務者ト爲リタルトキヨリ夫又ハ裁判所ノ許可ヲ要セス婦ノ請求ニ因リ之ヲ記入スルコトヲ得又其記入ハ婦ノ適當ト思考スル如ク不動產ノ全部又ハ一分ニ付キ之ヲ爲スコトヲ得但第千二百四十一條ニ記載スル如キ夫ノ減少ノ權利ヲ妨ケス
婦ノ記入ヲ爲ササルトキハ夫ハ其債務者タル右ノ場合ニ於テ負擔ナク又ハ不十分ノ負擔アリテ婦ノ擔保ノ爲メ十分ナル不動產ニ對シ成ル可ク婦ノ爲メニ記入ヲ爲スコトヲ要ス
婦又ハ夫ノ記入ヲ爲ササルトキハ假令委任ナキモ婦ノ血屬又ハ縁屬中ノ一人ニ於テ之ヲ爲スコトヲ得但婦ノ故障又ハ抛棄アラサルコトヲ要ス〔第二千百三十五條乃至第二千百三十九條〕
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項夫カ條件附ナルモ契約又ハトアルヲ夫ガ契約トシ婦ノ債務者ト爲リタルトアルヲ婦ニ對シ條件附ナルモ其債務者ト爲リタルトシ思考スル如クトアル「如ク」ヲ刪リ記載スル如キトアルヲ記載スル如クトシ夫ノ減少トアルヲ夫ノ有スル抵當ノ減少トシ第二項冒頭婦ヲ右トシ記入ヲ爲サザルトキハトアルヲ記入ナキトキハトシ其債務者タル右ノ場合ニ於テ負擔ナク又ハ不十分ノ負擔アリテトアルヲ刪リ不動產ニ對シ成ル可クトアルヲ不動產ニ付キトシ爲メニトアル「ニ」ヲ刪リ第三項夫ノ記入トアルヲ夫ガ記入トシ抛棄アラザルトアルヲ抛棄ナキトセリ
(元尾崎)
條件附ナルモ其ト云フ字ハ無用ナレバ刪除スベシ
(委員長)
條件附ノ文字ヲ刪ルトキハ却テ疑團ヲ生ズルヲ以テ刪除セザルヲ可トス
第千二百二十三條 未成年者ノ法律上ノ抵當ハ夫ニ對スル婦ノ法律上ノ抵當ト同一ノ場合ニ於テ之ト同一ノ條件ニ從ヒ後見人ノ注意及ヒ請求ニ因リ之ヲ記入スルコトヲ要ス
後見人ノ注意ニテ記入ヲ爲ササルトキハ後見人監督者又ハ親族會議各員ノ請求ニ因テ右抵當ノ記入ヲ爲スコトヲ要ス若シ之ヲ爲ササルトキハ是等ノ者ハ未成年者ニ對シ連帶シテ損害賠償ヲ負擔ス〔同上〕
未成年者既ニ後見ヲ脫シタル後ハ未成年者自身ノ請求ニ因リ亦其抵當ノ記入ヲ爲スコトヲ得
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項注意及ビ請求トアルヲ世話トシ第二項後見人ノ世話ニテ記入ナキトキハ副後見人又ハ親族會議員ハ其記入ヲ爲スコトヲ要ス若シ之ヲ爲サザルトキハ未成年者ニ對シ連帶シテ損害賠償ヲ負擔ストシ第三項未成年者モ亦後見ヲ脫シタル後ハ其記入ヲ求ムルコトヲ得トセリ
(淸岡)
世話ト云フハ不可ナリ
(栗塚)
世話ト譯スルヲ妥當トスルニ依リ之ヲ世話トセリ
(委員長)
後見人ノ世話ニテ記入ナキトキハト云ヘルハ文章ヲ爲サズ
(元尾崎)
世話ハ注意トスベシ
(南部)
注意ト云フハ意味ヲ輕フスルノ嫌ヒアリ
(村田)
注意トモ世話トモ云フニ及バズ
(北畠)
然リ後見人之ヲ記入スルコトヲ要ストスベシ
可決ス
(元尾崎)
親屬會議員ハ親屬會員トシテハ如何
(西)
然ルベシ
可決ス
(元尾崎)
第三項ノ原案ノ儘ヲ可トス
(委員長)
第二項副後見人トアルハ後見人監督者ト云フヲ可トスルニアラズヤ副後見人ト云ヘバ後見人補助タル資格ノ如クナレバナリ
(西)
人事篇ニハ倣ヒシモノナラン到底後見人トスルニ決ス
第千二百二十四條 前條第一項及ヒ第二項ノ條例ハ亂心ノ爲メナルト處刑言渡ノ爲メナルトヲ問ハス治產禁ヲ受ケタル者ノ法律上ノ抵當ニ之ヲ適用ス
處刑言渡ニ因レル禁治產ノ場合ニ於テハ禁治產者ノ特別ノ代理人ヨリモ記入ヲ求ムルコトヲ得
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項ヲ前條第一項及ヒ第二項ノ條例ハ禁治產者ノ法律上ノ抵當ニ之ヲ適用ストシタリ
(村田)
第二項特別ノ代理人トアルハ如何
(栗塚)
處刑言渡ノ場合ハ風癲者ニアラザルヲ以テ後見人アラザレバ特別ノ代理人ヲ置カシム
第千二百二十五條 抵當ノ記入ヲ求ムル者ハ下ニ記スル如ク己レノ利益ノ爲メ又ハ己レノ代表スル債權者ノ利益ノ爲メ抵當ノ成立スルコトヲ抵當保管人ニ證明スルコトヲ要ス
婚姻シタル婦、未成年者又ハ禁治產者ノ法律上ノ抵當ニ關スルトキハ法律ニ依リ抵當ノ生スル原因タル婚姻又ハ後見ノ證ニ因テ證明スルコトヲ要ス
合意上ノ抵當ニ關スルトキハ抵當ヲ設定シタル公正證書ノ謄本ニ因テ證明スルコトヲ要ス〔第二千百四十八條第一項〕
遺囑上ノ抵當ニ關スルトキハ遺囑書ノ正本又ハ其公正ナル寫書ニ因テ證明スルコトヲ要ス
總テノ場合ニ於テ若シ保管人カ抵當ノ成立ニ付キ供セラレタル證ヲ爭フトキ又ハ債務者ト帳簿ニ記載シタル如キ記入ノ求メラレタル不動產ノ所有者ト同人ナルコトカ十分保管人ニ證明セラレサルトキハ抵當保管人ハ自己ノ責任ニテ記入ヲ拒絕スルコトヲ得但其保管人ハ職權ヲ以テ其拒絕ノ精確ナル原由ノ陳述書ヲ供スルノ義務アリ
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項抵當ノ成立スルコトトアルヲ抵當ノ成立トシ抵當保管人トアルヲ登記官吏トシ第二項ハ婚姻シタルトアルヲ刪リ法律ニ依リ抵當ノ生ズル原因トアルヲ抵當ノ原因トシ後見人ノ證ニ因テトアルヲ後見人ノ證據ニ因リトシ第三項合意上ヲ約束上トシ公正證書ノ謄本ニ因テ證明スルコトヲ要ストアルヲ公正證書ノ謄本ニ因リ證明ヲ爲スコトヲ要ストシ第四項ハ遺囑上ノ抵當ニ關スルトキハ遺囑書ノ正本又ハ其公正ナル寫書ニ因リ證明ヲ爲スコトヲ要ストシ第五項總テノ場合ニ於テ登記官吏ガ抵當ノ成立ノ證據ヲ爭フトキ又ハ債務者ト帳簿ニ記載シタル不動產所有者ト同人ナルコトガ十分ニ證明セラレザルトキハ登記官吏ハ自己ノ責任ニテ記入ヲ拒絕スルコトヲ得但第千三百四條ニ記載スル如ク裁決ヲ受クル爲メ同條ノ規定ニ從フコトヲ要ストセリ
可決ス
第千二百二十六條 請求者ハ其他左ノ諸件ヲ精確ニ指示スル二通ノ正本ニ於ケル明細書ヲ差出スモノトス
第一 債權者ノ氏名、職業、住所又ハ居所
第二 成ルヘキ丈債務者ノ氏名、職業、住所又ハ居所
第三 抵當ノ原由及ヒ法律上ノ抵當以外ノ抵當ニ關スルトキハ設定證書ノ本質及ヒ日附
第四 債權ノ證書ノ本質、其日附、右ノ證書ニ記載シタル金額又ハ不確定ナル價額ノ債權ニ關スルトキハ現ニ金圓ニテ評價シタル金額及ヒ債務ノ要求期限
第五 抵當ト爲シタル不動產ノ本質及ヒ其所在地〔第二千百四十八條〕
前來ノ記入ノ縁邊ニ附記スヘキ讓渡又ハ合意上若クハ法律上ノ代位ノ場合ニ於テハ明細書ニ新債權者及ヒ其證書ノ指示ヲ記載スルヲ以テ足レリトス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項指示スルノ下二通ノ正本ニ於ケルトアルヲ刪リ明細書ノ下「ノ正本二通」ト云ヘルヲ挿入シ第一ハ職業ノ下「及ヒ」住所ノ下「又ハ」ヲ「若クハ」トシ第二ヲ債務者ノ氏名及ビ成ル可ク職業住所若クハ居所トシ第四ハ債權ノ本質其日附其債權證書ニ記載シタル金額又ハ其價額ノ不確定ナルトキハ現ニ評價シタル金額及ビ債務ノ要求期限トセリ
可決ス
第千二百二十七條 若シ婚姻シタル婦、未成年者又ハ禁治產者ノ法律上ノ抵當ニ因テ擔保セラレタル債權カ一箇ノ權利名義ヨリ生セサルトキハ債權ノ原由トシテ請求者ノ申述シタル事實及ヒ其主張シタル權利ノ金圓ニ於ケル評價ノ要旨ヲ明細書ニ指示スヘシ
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ婦未成年者又ハ禁治產者ノ法律上ノ抵當ニ因リ擔保シタル債權カ不當ノ利得又ハ不正ノ損害ノ如キ事實ヨリ生ゼシトキハ其事實ノ要旨及ビ權利ノ評價ヲ明細書ニ指示スベシトセリ
可決ス
第千二百二十八條 若シ債權者ノ本住所カ記入ヲ爲ス後所ノ管轄地内ニ在ラサルトキハ記入シタル抵當ニ關シテ其債權者ニ爲スヘキ通知ノ爲メ記入ニ於テ其債權者ノ爲メ特別住所ノ選定ヲ爲スコトヲ要ス
其住所ハ右ニ同シキ場所ト公示トノ條件ヲ以テ何時ニテモ之ヲ變更スルコトヲ得〔第二千百四十八條第一號、第二千百五十二條〕
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項ヲ債權者カ記入ヲ爲ス登記所ノ管轄地内ニ住所ヲ有セザルトキハ其抵當ニ關シテ自己ノ受ク可キ通知ノ爲メ假住所ヲ選定シ其記入ヲ求ムルコトヲ要ストシ第二項其假住所ハ右ノ條件ニ從ヒ何時ニテモ之ヲ變スルコトヲ得トセリ
(松岡)
抵當ヲ得取シタルトキハ其登記所ノ管轄地内ニ假住所ヲ要セシムルノ必要ナカルベシ
(栗塚)
登記所ヨリノ通知ヲ受ケザルベカラザレバナリ
(松岡)
現今ト雖ドモ殆ンド書入質ニ付キ登記所ヨリ通知ヲ受クル場合ナシ
(元尾崎)
抵當ヲ得取スルニ依リ假住所ヲ置カザルベカラズト云ヘバ貸金貸營業者輩ハ各所ニ假住所ヲ置カザルベカラズ
(南部)
本條ハ記入濟ニ至ルマデ假住所ヲ定メシムベシ
(村田)
本條ハ固ヨリ記入濟マデニ屬スベシ
(南部)
本條ノ文面ニテハ記入濟マデト云フヲ認ムベカラズ
(松岡)
何ノ必要ニ依リ登記濟ニ至ルマデ假住所ヲ要スベキヤ
(南部)
抹殺サルル場合又拒否スル都合等ノ爲メ其管轄地ニ假住所ヲ定メザルベカラズ
(委員長)
債權者假住所ヲ置カザルモ自己ニテ可トスルトキハ假住所ヲ定メザルモ可ナルベシ
(元尾崎)
本條ハ權利者ノ隨意ニアラズ法律上ノ命令ナリ如此ハ實ニ有害ノ法律タルニ過ギザレバ之ヲ刪ルベシ
(委員長)
假令バ長崎ノ住民ニシテ東京ニ抵當ヲ得ルコトアリ又東京ノ住民ニシテ大阪ニ抵當ヲ取ルコトアレバ抵當ヲ得取シタル地ニハ必ラズ各假住所ヲ置カザルベカラズ登記所ハ登記スベキ物件ニ付キ權利義務アリト認ムベキモノナレバ其登記サレタル抵當物件ハ其物ニ係ル權利義務ニ對シテハ自ラ辯明セザルベカラズト云フニ歸スレバ於是乎債權者ノ假住所ヲ定ムベキ必要ヲ生ズベシ
(栗塚)
登記請求者ノ住所何地ニアルモ登記所ハ尙管轄地ニ住居スルモノト認ムベシ
(北畠)
約束ヲ以テ假住所ヲ定メタルモ其假住所ノ主人ハ之ヲ本人ニ通知スルニ付キ相當期間ヲ經過シタルトキハ抵當權ヲ失スルヤ
(栗塚)
然リ
(委員長)
治安裁判所ノ權限上管轄外ニ在ル人ト雖ドモ之ヲ召喚スルヲ得ベキモノナレバ他管遠隔ノ地ニ在ル人ト雖ドモ遙々其登記所ニ出頭セザルベカラザルヲ以テ債權者及ビ債務者ニモ不便ヲ感ゼシムベシ依テ此點ハ實際上ノ講究ヲ要スベキニ付キ治安裁判所ニ聽合スベシ其讓ニ決ス
第千二百二十九條 保管人ハ上ニ指定シタル書類ヲ受取リタル時請求者ノ面前ニテ切取帳簿ヨリ切離シタル受取證ヲ其請求者ニ付與ス但其受取證ニハ第千二百五十三條ノ適用ヲ保スル爲メ同日ノ受取番說號ト共ニ其受取ノ日ヲ記載スヘキモノトス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ請求者ノトアルヲ請求者ニ其トシ切取帳簿ヲ受取簿トシ受取證ヲトアル下「其請求者ニ」ヲ刪リ記載スベキモノトストアルヲ記載ス可シトセリ
(松岡)
本條ノ如キ手續上ニ屬スルモノハ之ヲ登記法ニ讓リテハ如何
(村田)
本條ハ權利者ノ順序ニ關係アルヲ以テ必要トス
第千二百三十條 若シ請求者カ原債權者ノ相續人又ハ讓受人トシテ請求スルトキハ其原債權者ノミノ名ヲ以テ或ハ自己ト原債權者トノ連名ヲ以テ記入ヲ爲スコトヲ得
若シ債權者ノ代理人又ハ事務管理人ヨリ記入ヲ求ムルトキハ委任者ノ名及ヒ分限ト共ニ其代理人又ハ事務管理人ノ名及ヒ分限ヲ特別ニ記載スヘシ
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項「若シ請求者カ」及ビ「トシテ請求スルトキ」ヲ刪リ記入ヲ爲ストアルヲ記入ヲ求ムルトシ第二項ハ「委任者ノ名及ヒ分限ト共ニ」ヲ刪リ特別ノ上ノ本人ノ名及ビ分限ト共ニト云フ字ヲ加ヘリ
(北畠)
特別ニトアルハ蛇足ナルニ付キ刪除スベシ
可決ス
第千二百三十一條 若シ債務者カ死亡シタルトキハ記入ハ記入者ノ選擇ニ因リ其債務者ニ對シ又ハ相合シテ其總テノ相續人ニ對シ之ヲ爲スコトヲ得〔第二千百四十九條〕
負擔アル不動產カ相續ノ派分ニ因テ相續人中一人ノ配當部分ニ歸シタル場合ニ於テハ其相續人ノミニ對シ記入ヲ爲スコトヲ得
若シ第三者ノ債務ノ爲メニ抵當ヲ設定シタルトキハ設定者ニ對シテ記入ヲ爲スモノトス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項「若シ」ヲ刪リ記入者ヲ請求者トシ第二項ハ負擔アル不動產ガ相續ノ派分ニ因リ一人ノ相續人ニ歸シタル場合ニ於テハ其一人ノミニ對シ記入ヲ爲ス可シトシ第三項若シ第三者ガ抵當ヲ供シタルトキハ其第三者ニ對シテ記入ヲ爲スモノトセリ
(元尾崎)
第三項ハ第一項及ビ第二項ト連絡セザルガ如シ
(栗塚)
第三項ハ別義ナリ
(南部)
第三項若シヲ刪ルベシ
可決ス
(元尾崎)
第三項ハ第一項ニ轉置シタシ否ラザレバ債務者ノ死シタル場合ナルヤト云ヘル惑ヒアレバナリ
(元尾崎)
第三項ハ之ヲ第一項トスルニ及バズ
結局第一項記入者ヲ請求者トシタルハ更ニ債權者トシ第二項記入ヲ爲スコトヲ得トアルヲ記入ヲ爲ス可シトセシハ原案ノ通リニ決ス
第千二百三十二條 保管人カ記入帳簿ニ明細書ノ包有事項ヲ記載シタルトキハ其各明細書ニ記入ノ在ル帳簿ノ册數及ヒ葉數ト請取帳簿ノ順序ノ番號トヲ指示シテ記入ノ所爲、場所及ヒ日附ヲ證明シタル上、二箇ノ明細書ノ各葉ニ同一ノ割印ヲ押捺ス
明細書ノ一通ハ抵當ノ證明書ト共ニ之ヲ請求者ニ之ヲ還付シ他ノ一通ハ保管人自己ノ擔保ノ爲メ之ヲ保存ス
此ノ如クニ檢署割印シ及ヒ每年併合シタル明細書ハ記入ノ正本ヲ成シ又一箇ノ帳簿ニ其記入ノ見出ノミヲ記スヘキコトハ規則ヲ以テ之ヲ定ムルコトヲ得
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項ヲ登記官吏ガ記入簿ニ明細書ノ箇條ヲ記載シタルトキハ其各明細書ニ記入ノ在ル簿册及ビ葉數ト請求簿ノ順序ノ番號トヲ指示シテ記入ノ所爲場所及ビ日附ヲ證明シタル上二通ノ明細書ノ各葉ニ同一ノ割印ヲ押捺ストシ第二項ハ還付ノ上「之ヲ」ヲ刪リ第三項ハ右保存シタル明細書ヲ每年併合シテ記入ノ正本ト成スコト及ビ其記入ノ見出簿ヲ作ルコトハ規則ヲ以テ之ヲ定ムトセリ
(元尾崎)
第二項自己ノ擔保ノ爲メトアルヲ刪ルベシ
可決ス
第千二百三十三條 第三者ニ於テ記入ノ不完全ナルカ爲メ其知ルコトニ利益ヲ有セシ抵當ノ或ル要點ヲ知リ得サリシヨリ生シタル損害ヲ證明スルトキハ其第三者ノ請求ニ因リ明細書ニ於ケル前規定ノ記載ニ遺脫、不十分又ハ不精確ノ廉アルカ爲メ記入ノ無效ヲ宣吿スルコトヲ得
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ前ニ規定セル明細書ノ箇條ノ遺脫不足又ハ不精確ニ因リ不完全ナル記入ノ爲メ第三者ガ抵當ノ或ル要點ヲ知リ得ザリシヨリ生ジタル損害ヲ證明スルトキハ其請求ニ因リ記入ノ無效ヲ宣吿スルコトヲ得トセリ
可決ス
第千二百三十四條 法律上、合意上又ハ遺囑上ノ抵當ノ記入ハ三十年其效力ヲ保存スルノミニシテ此期限後ニ於テハ債權ノ時效カ中斷セラレ又ハ停止セラレタルトキト雖モ其記入ノ效力ヲ失フ
右ノ期間ハ無能力者ニ對シテ進行ス但其代人ニ對スル求償ヲ妨ケス
然レトモ三十年ノ期間滿了前ニ記入ヲ更新シテ前記入ノ日附ヲ精確ニ記載シタルトキハ其記入ハ抵當ニ前記入ト同一ノ日附ヲ以テ其順位ヲ保存セシム
記入ノ效力ヲ失ヒシ後ノ更新ハ通常ノ記入ニ等シク其更新ノ日附ニ於テノミ效力ヲ生ス〔佛民第二千百五十四條、伊民第二千一條〕
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項三十年ノ下間ノ字ヲ入レ其效力ヲ保存スルノミニシテ此期限後トアルヲ其效力ヲ有ス三十年後云々トシ第二項右ノ期間ハトアルヲ右抵當ノ時效トシ無能力者ニ對シテ進行ストアルヲ無能力者ニ對シ停止セズトシ第三項更新シテ前記入トアルヲ更新シテ舊記入トシ「其記入ハ抵當ニ前記入ト」同一ノ日附ヲ以テ其順位ヲ保存セシムトアルヲ同一ノ日附ニ於ケル順位ヲ抵當ニ保存セシムトシ第四項通常ノトアルヲ新トセリ
可決ス
第千二百三十五條 三十年ノ期間内ニ於ケル記入ノ更新ハ原記入後ニ起リタル債務者ノ破產、無資力又ハ死亡ニ拘ハラス之ヲ許ス然レトモ右ノ事故ハ第千二百二十條ニ記載シタル如ク既ニ效力ヲ失ヒタル記入ノ更新ヲ妨ク
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ原記入トアルヲ舊記入トシ之ヲ許ストアルヲ之ヲ爲スコトヲ得トシ然レドモ以下ハ之ヲ刪除セリ
(渡)
然レドモ以下ハ起案者ニ質問スルヤ
(栗塚)
既ニ質問シタルニ「ボアソナード」氏ハ第千二百二十條ニ記載シタル如クト云ヘバ之ヲ刪ルベキモ右ノ事故ハ既ニ效力ヲ失ヒタル記入ノ更新ヲ妨グト云ヘルハ刪ルベカラズト
(渡)
然レドモ以下ハ無用ナルベシ
(栗塚)
然レドモ以下ハ之ヲ刪ルヲ可トス
可決ス
第千二百三十六條 保管人ハ前記入ニ關スル正本二通ノ請求書ヲ受取リタル上ニテ記入ノ更新ヲ爲シ其正本一通ニハ割印ヲ附シ及ヒ其更新ヲ爲シタル旨並ニ其日附ヲ記シテ之ヲ請求者ニ還付ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ登記官吏ハ舊記入新更ノ請求書ノ正本二通ヲ受取リタル上ニテ其更新ヲ爲シ其一通ニハ割印ヲ押シ及ビ更新ヲ爲シタル旨並ニ其日附ヲ記シテ之ヲ請求者ニ還付ストセリ
可決ス
第千二百三十七條 記入ノ費用ハ債權ヲ有償名義ニテ得取シ且反對ノ合意アラサルトキハ債務者及ヒ債權者各其半額ヲ負擔ス
更新ノ費用ハ債權者獨リ之ヲ負擔ス〔第二千百五十五條〕
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ得取ヲ取得トシ「且反對ノ合意アラサ」ヲ刪リ「ルトキハ」ノ上ニ「タ」ノ字ヲ加ヘ其半額ヲ負擔ストアル下ニ但反對ノ約束アルトキハ此限ニ在ラズトシ第二項獨リトアルヲ「ノミ」トセリ
(村田)
但反對ノ約束アルトキハ此限ニ在ラズト云ヘルハ不都合ニ付キ之ヲ刪ルベシ
可決ス
第千二百三十八條 記入ニ關スル爭ハ抵當財產所在地ノ裁判所ニ之ヲ訴ヘ又債權者ニ對スル召喚又ハ吿知ハ記入ニ於テ選擇シタル住所ニ之ヲ爲ス〔第二千百五十六條、第二千百五十九條〕
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ記入ニ於テトアルヲ記入ニ付キトシ撰擇シタルトアル下ニ假ノ字ヲ入レリ
(委員長)
本條ハ第千二百二十八條ト關連セルニ付キ同條ト共ニ論決スベシ卽未定ニ附ス
第二款 記入ノ抹殺、減少及ヒ改正
第千二百三十九條 左ノ場合ニ於テハ記入ヲ抹殺ス
第一 記入ノ關係スル債權カ無效タリ若クハ取消スヘキモノタルトキ又ハ其債權カ全部消滅シタルトキ
第二 記入ヲ爲シタル抵當カ有效ニ設定セラレス及ヒ法律ニ從テ成立セサルトキ〔第二千百六十條〕
第三 記入其モノカ第千二百三十三條ニ依リ取消スヘキモノナルトキ
右ハ總テ第千二百四十五條ニ記載シタル如ク或ル不動產ニ對スル記入ノ抹殺ヲ妨ケス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ左ノ場合ニ於テハ記入ヲ抹殺ストアルヲ記入ノ抹殺ハ左ノ場合ニ於テ之ヲ爲ストシ第一ハ其債權カ全部消滅トアルヲ全部ノ消滅トシ第二及ビトアルハ起案者ヨリ卽チト改メ來レリ第三ハ「其モノ」ヲ刪リ第二項ハ「總テ」ヲ刪リ不動產ニ對スルトアルヲ不動產ニ付テノトセリ
可決ス
第千二百四十條 記入ノ抹殺ハ債務者又ハ其承權人ノ請求ニ因リ裁判上ニテ之ヲ宣吿スルコトヲ要ス但下ニ規定シタル方式ニ於テ債權者ヨリ之ヲ許シタルトキハ此限ニ在ラス〔第二千百五十七條〕
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ承權人ヲ承接トシ「裁判上ニテ」ヲ刪レリ
可決ス
第千二百四十一條 婚姻シタル婦ノ法律上ノ抵當カ或ル不動產ニ制限セラレサルトキ又ハ債權カ婚姻契約ニ因リ若クハ配偶者間ノ特別合意ニ因テ定マリタル金額ニ評價セラレスシテ婦ノ未定ノ擔保ニ必要ナルヨリ多クノ不動產ニ對シテ記入ヲ爲シ若クハ債權ノ正當ナル評價ヨリ更ニ大ナル金額ノ爲メニ記入ヲ爲シタルトキハ夫又ハ其承權人ハ或ハ不動產ニ關シ或ハ評價シタル金額ニ關シ裁判上ニテ右記入ノ減少ヲ請求スルコトヲ得〔第二千百四十四條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ婦ノ法律上ノ抵當ガ其債權ノ擔保ニ必要ナルヨリ多クノ不動產ニ付キ記入アリ又ハ其債權ノ正當ナル評價ヨリ更ニ多キ金額ノ爲メニ記入アリタルトキハ夫又ハ其承權人ハ不動產又ハ金額ニ關シ裁判上ニテ右記入ノ減少ヲ請求スルコトヲ得但抵當ガ或ル不動產ニ付キ制限ナキトキ又ハ婚姻契約若クハ配偶者間ノ特別ニ約束ニ因リ債權額ノ評價ナキトキニ限ルトセリ
(松岡曰)
但以下ハ如何ナル意味カ
(栗塚曰)
假令バ或ル土藏又ハ或ル家屋ト云ヘル特指ナキトキヲ云フニ在リ
第千二百四十二條 右ニ等シキ後見人又ハ其承權人ハ其職務ニ就キタル當時又ハ其後ニ於テ後見會議ノ決議ニ因リ或ル不動產ニ抵當ヲ制限スルコト又ハ定マリタル金額ニ債權ヲ評價スルコトヲ爲ササリシトキハ未成年者又ハ禁治產者ノ擔保ニ必要ナルモノノ外ニ爲シタル記入ノ減少ヲ請求スルコトヲ得〔第二千百四十三條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ右ニ同ジク後見人又ハ其承接人ハ未成年者又ハ禁治產者ノ擔保ニ必要ナルモノノ外ニ爲シタル記入ノ減少ヲ請求スルコトヲ得但後見會議ノ決議ニ因リ或ル不動產ニ付キ抵當ノ制限ナク又ハ債權額ノ評價ナキトキニ限ルトセリ
可決ス
第千二百四十三條 抵當カ合意上ノモノタルトキハ債務者ハ其抵當カ現在ノ財產ニ係ル一般ノモノニシテ第千二百十三條ニ記シタル如ク過度ナルトキニ非サレハ裁判上ニテ其減少ヲ請求スルコトヲ得ス
總テノ場合ニ於テ債務者ハ設定證書又ハ別證書ヲ以テスル評價アラサルトキハ記入ニ於テ債權者ノ爲シタル債權ノ評價ノ減少ヲ請求スルコトヲ得〔第二千百六十條末文、第二千百六十三條、第二千百六十四條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項ハ約束上ノ抵當ハ債務者ノ現在ノ總財產ニ關シ第千二百十三條ニ記載シタル如ク過度ナルトキニ非ザレバ債務者ノ請求ニ依リ之ヲ減少スルコトヲ得ズトセリ
(松岡曰)
債務者ノ請求ニ依リ之ヲ減少スルヲ得ズトアルハ安當ナラズ
(栗塚曰)
債務者其減少ヲ請求スルコトヲ得ズトス可シ
可決ス
(栗塚曰)
第二項ハ債務者ハ常ニ記入ニ於テ債權者ノ爲シタル債權ノ評價ノ減少ヲ請求スルコトヲ得但設定證書又ハ別證書ヲ以テ評價ヲ爲サザルトキニ限ルトセリ
可決ス
第千二百四十四條 遺囑上ノ抵當ハ相續ノ不動產ニ關シ遺囑者ヨリ制限ナク之ヲ設定シ又ハ債權ニ關シ評價ナクシテ之ヲ設定シタルトキハ亦相續人ノ請求ニ因リ之ヲ減少スルコトヲ得〔第二千百六十一條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ遺言上ノ抵當ハ相續ノ不動產ニ付キ遺言者制限ヲ爲サズシテ之ヲ設定シタルトキハ相續人ノ請求ニ依リ之ヲ減少スルコトヲ得トセリ
可決ス
第千二百四十四條ノ二 若シ債務カ半額以上消滅シタルトキハ記入セラレタル金額ノミニ關シ亦三種ノ抵當ノ記入ヲ減少ス
債務者ハ其爲シタル一分ノ辨濟ヲ何時ニテモ自費ニテ記入ノ縁邊ニ附記セシムルコトヲ得
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項記入セラレタルヲ刪リ金額ノミニ關シ亦トアルヲ金額ノミニ付キ尙ホトシ記入ヲ減少ストアル下「ルコトヲ得」ト云ヘル四字ヲ加ヘ第二項ハ債務者ハ一分ノ辨濟ヲ爲シタルトキハ常ニ自費ニテ記入ノ縁邊ニ之ヲ附記スルコトヲ得トセリ
(尾崎曰)
本條ハ抵當ノ減少ヲ云ヒシモノカ
(栗塚曰)
假令バ千圓ノ負債ニ五百圓ヲ還付シタルトキハ五百圓ニ對スル抵當部分ヲ減少スルコトヲ得ベキモ抵當其物ヲ減少スルヲ得ズ
(松岡曰)
本條第一項金額ノミノ記入ニアラズシテ抵當ノ記入ヲ爲スガ如キ嫌ヒアリ
(栗塚曰)
尙ホ三種ノ抵當ニ付キ金額ノミノ記入ヲ減少スルコトヲ得トシテハ如何
可決ス
第千二百四十五條 全都又ハ一分ニ付キ債務者ノ請求ヲ認可スル判決ニハ若シ抵當ヲ免カレシムル不動產アラハ其不動產又ハ評價ヲ改メタル其金額ヲ指示ス
右第一ノ場合ニ於テハ負擔ヲ免レタル不動產ニ對シテ爲シタル記入ヲ抹殺シ第二ノ場合ニ於テハ之ヲ減少ス〔第二千百四十五條第二項〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項ヲ債務者ノ請求ヲ正當トスル判決ニハ若シ抵當ヲ免ガレタル不動產又ハ評價ヲ改メタル金額ヲ指示ストシ第二項ハ右第一ノ場合ニ於テハ抵當ノ記入ヲ抹殺シ第二ノ場合ニ於テハ之ヲ減少ストセリ
可決ス
第千二百四十六條 前數條ニ從ヒ或ル不動產ニ記入ヲ減少シタル場合ニ於テ若シ右ノ不動產カ債權者ノ擔保ニ不十分ト爲リタルトキハ假令意外ノ原由又ハ不可抗ノ力ニ出ツルトキト雖トモ債權者ハ抵當ノ補足ヲ請求スルコトヲ得〔第千百三十一條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項ヲ前數條ニ從ヒ記入ヲ或ル不動產ニ減少シタル場合ニ於テ其不動產ガ債權者ノ擔保ニ不十分ト爲リタルトキハ意外ノ事又ハ不可抗ノ力ニ因ルトキト雖ドモ債權者ハ抵當ノ補足ヲ請求スルコトヲ得トシ第二項ノ起案者ノ新設ハ報吿委員ハ之ヲ記入ノ抹殺及ビ減少ハ確定判決ニ依ルニ非ザレバ之ヲ爲スコトヲ得ズトセリ
(松岡曰)
不可抗ノ力トアルハ不可抗力トスベシ
可決ス
(元尾崎曰)
抵當物ノ過半ヲ毀損シタルコト意外ニ出ヅルニ非ラザレバ抵當ノ補足ヲ請求スルコトヲ得ザルガ如シ
(南部曰)
否ラズ
第千二百四十七條 記入ノ抹殺及ヒ減少ハ公正ノ方式ニ於ケル證書ヲ以テスルニ非サレハ債權者ニ於テ之ヲ承諾スルコトヲ得ス
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ「方式ニ於ケル」ノ六字及ビ「於」ノ一字ヲ刪除セントスルモ前條ノ末項ト合併シ記入ノ抹殺及ビ減少ハ確定判決又ハ公正證書ニ依ルニ非ザレバ之ヲ爲スコトヲ得ズトシタシ又前條第二項ハ刪除セリ
可決ス
第千二百四十八條 任意ノ抹殺又ハ減少カ債務ノ全部又ハ一分ノ消滅ニ基クトキハ其抹殺又ハ減少ヲ承諾スルニハ債權者其債務ノ辨濟ヲ受取リ又ハ之ヲ認知スルノ能力ヲ有スルヲ以テ足レリトス
若シ又抹殺又ハ減少カ第千二百三十九條ニ記載シタル他ノ原由ノ一ニ基クトキハ債權者和解スルノ能力ヲ有スルコトヲ要ス
若シ右ノ抹殺又ハ減少カ抵當ノ無償ノ抛棄又ハ合意上ノ釋放ノ性質ヲ有スルトキハ債權者無償ニテ債權ヲ處分スルノ能力ヲ有スルコトヲ要ス〔第二千百五十七條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項「全部又ハ一分ノ」ヲ刪リ其抹殺又ハ減少ヲ「之ヲ」トシタルモ之ヲト云フニテハ語詞不足ナルノ感アリ
(渡曰)
其抹殺又ハ減少ヲバ原案ノ儘トスベシ
可決ス第二項
「又」ヲ刪リ他ノ原由ノ上ニ「此」ヲ加ヘ第三項ハ又抹殺又ハ減少カ抵當ヲ無償ニテ抛棄スルノ性質ヲ有スルトキハ債權者無償ニテ債權ヲ處分スルノ能力ヲ有スルコトヲ要ストセリ
(松岡曰)
第二項ハ若シ抹殺ガ右ノ外第千二百三十九條ニ記載シタル原由ノ一ニ基クトキハ債權者和解スルノ能力ヲ有スルコトヲ要ストスベシ
可決ス
(北畠曰)
本條第三項ノ義ハ如何
(栗塚曰)
抵當ノ減少ガ無償ニテ抛棄スルトキハト云フ意ナリ
(北畠曰)
性質ト云フ字ハ穩當ナラズ
(元尾崎曰)
性質ヲ有スルトキハト云フハ「モノナルトキ」ハト云フガ如シ
(松岡曰)
抵當ヲ抛棄スルヲ得ルモノハ債權ヲ處分スルノ能力アルヲ要スト云フニアリ
結局報吿委員修正ノ儘決ス
第千二百四十九條 記入ノ抹殺又ハ減少ヲ承諾スル爲メノ委任ハ亦公正證書ヲ以テ之ヲ與フルコトヲ要ス
然レトモ若シ抹殺又ハ減少カ債務ノ全部又ハ一分ノ消滅ニ基クトキハ債務者ノ義務免除ニ參加スルノ權限ヲ有シタル總テノ代理人ニ於テ其抹殺又ハ減少ヲ承諾スルコトヲ得
若シ和解又ハ無償ノ抛棄アルトキハ委任ハ明示ノモノタルコトヲ要ス
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項「亦」ヲ刪リ第二項「若シ」及ビ「全部又ハ一分ノ」ト云ヘルヲ除ケリ義務ニ參加スルトアルヲ義務免除ヲ承諾スルトシ第三項委任ハ明示ノモノタルコトヲ要ストアルヲ委任ニ之ヲ要ストセリ
(松岡曰)
「總テノ」ト云フ三字ハ蛇足ナリ
(栗塚曰)
總テノト云ヘル三字ヲ刪ルベシ
可決ス
(松岡曰)
無償ノ抛棄アルトキハトアルハ無償ノ抛棄ヲ爲ストキハトシタシ
(栗塚曰)
「若シ」ヲ刪リ「アルトキ」トアルヲ「ニ付テ」トスベシ
可決ス
第千二百五十條 抹殺及ヒ減少ハ其抹殺及ヒ減少ヲ許シタル合意又ハ之ヲ命シタル判決ヲ記入ノ縁邊ニ附記スルニ因リ之ヲ爲ス
保管人ハ公證人ノ證書又ハ判決書ノ公正ナル謄本ヲ受取リタル上ニ非サレハ右ノ附記ヲ爲サス但判決書ノ謄本ヲ差出ス場合ニ於テハ裁判所書記其謄本ニ判決ノ確定ト爲リタル旨ヲ證明スルコトヲ要ス〔第二千百五十八條〕
第千二百二十五條ノ末項ハ保管人ノ拒絕及ヒ其責任ニ之ヲ適用ス
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項ヲ抹殺又ハ減少ヲ爲スニハ之ヲ許シタル合意又ハ之ヲ命ジタル判決ヲ記入ノ縁邊ニ附記スルコトヲ要ストセリ
(松岡曰)
抹殺又ハ減少ヲ爲スニハ其約束又ハ判決ヲ記入ノ縁邊ニ附記スルコトヲ要ストスベシ
可決ス又第二項ハ報吿委員ニテ保管人ハヲ登記官吏ハトシ右ノ附記ヲ爲サズトアルヲ右ノ附記ヲ爲スコトヲ得ズトシ裁判所書記トアルヲ其トシ確定ト爲リタル旨ヲ證明スルコトヲ要ストアルヲ確決ト爲リタル旨ヲ裁判所書記ノ證明シタルコトヲ要ストセリ
(松岡曰)
公正ナル謄本ト云フハ訴訟法ト照査スベシ
(栗塚曰)
然カスベシ
第千二百五十一條 若シ抹殺又ハ減少カ後日ノ判決ニ因テ取消サレ若クハ解除セラレタルトキハ其判決ヲ更ニ記入ノ縁邊ニ附記シテ其記入ハ前債權者ニ關シテ效力ヲ回復ス然レトモ二箇ノ判決ノ間ニ於テ不動產ニ對シテ權利ヲ得取シ第二ノ判決ノ公示前ニ其權利ヲ記入シタル第三者ニ右ノ記入ヲ以テ對抗スルコトヲ得ス
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ抹殺又ハ減少ヲ後日ノ判決ニテ銷除若クハ解除シタルトキハ更ニ記入ノ縁邊ニ之ヲ附記ス此場合ニ於テハ其記入ハ前債權者ニ對シ其效力ヲ回復ス然レドモ前後ノ判決ノ間ニ於テ不動產ニ付キ權利ヲ得取シ後ノ判決ノ公示前ニ其權利ヲ記入シタル第三者ニ右ノ記入ヲ以テ對抗スルコトヲ得ズトセリ
(松岡曰)
前債權者ト云フハ如何
(村田曰)
最初ノ債權者ナリ
(南部曰)
本條ハ甲乙ノ債權者アリ甲ハ第一債權者ニシテ乙ハ第二ノ債權者ナルトキ甲債權者其抵當權ヲ抹殺シタルトキハ乙者ヲ第一債權者トスルモ後日甲者ハ其抵當ノ抹殺ヲ後日ノ判決ニテ銷除シタルトキハ甲者ハ乙ニ對シテハ舊ノ如ク第一位ヲ占ムルモ其抹殺後其權利ヲ得取シタル第三者ニ對シテハ讓歩セザルヲ得ズト云フニアリ
(栗塚曰)
前債權者ニ關シテ前債權者ノ爲メトシタシ
可決ス
(淸岡曰)
前債權者トアルヲ其債權者トシタシ
(南部曰)
前債權者ト云ハザレバ不當ナリ
(松岡曰)
原債權者ト云フガ如シ
(栗塚曰)
原債權者ト云フハ債權讓渡ノ際ニ於ケル用語ナルヲ以テ前債權者ト爲シタルナラン
(渡曰)
第三者ニトアルヲ第三者ニハトスベシ
可決ス
(淸岡曰)
甲者ハ第三者卽チ丙者ノ後ニ屬シ乙者ノ前ニ立ツベキヤ
(南部曰)
乙者ハ元來第二ニ立ツテ以テ丙者ハ第一位ニ立チ乙者ハ第二位ニ居ラザルベカラズ然ラバ甲者ハ第三位トナルベシ
(尾崎曰)
然リ
第千二百五十二條 若シ最初ノ記入、更新、抹殺又ハ減少ニ不精確又ハ遺脫ノ廉アルモ之カ爲メ取消ヲ爲サシムルニ足ラサルトキ當事者ノ協議セサルニ於テハ判決ヲ以テ其不精確又ハ遺脫ヲ改正ス
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ記入、更新、抹殺又ハ減少ニ不精確又ハ遺脫アルモ之ガ爲メ銷除ヲ爲スニ足ラザルトキハ當事者ノ協議又ハ判決ヲ以テ之ヲ正誤ストセリ
(松岡曰)
銷除ハ取消トスルヲ可トスルニ付キ追テ再調査ノ節之ヲ取消トスベシ
第四節 債權者間ニ於ケル抵當ノ效力及ヒ順位
第千二百五十三條 總テ不動產ニ付キ有效ニ記入シタル抵當債權者ハ其不動產ノ代價ニ付キ有益ニ配當順序ノ定メヲ受クルコトヲ得ルニ因リ無特權債權者ニ先ツモノトス
法律上、合意上又ハ遺囑上ノ抵當ヲ有スル債權者ノ間ニ於テハ配當順序ハ數名ノ債權者ニ關スルニ二箇又ハ數箇ノ記入ヲ同日ニ爲シタルトキト雖モ其記入ノ前後ニ因テ之ヲ定ム但保管人ノ第千二百二十九條ニ從ヒ交付ノ番號ヲ遵守セサル場合ニ於テハ之ニ對スル責任ノ訴權ヲ妨ケス〔第二千百四十七條、伊民第二千八條、第二千九條〕
(栗塚曰)
報吿委員ニテ本節ノ下「ニ於ケル」ヲ「ノ」トシ本條ハ第一項凡ソ不動產ニ付キ有效ニ記入シタル抵當債權者ハ其不動產ノ代價ノ配當ニ有益ニ加入スルコトヲ得ルニ因リ無特權債權者ニ先ツモノトストシ第二項法律上、約束上又ハ遺言上ノ抵當ヲ有スル數人ノ債權者ニ於テハ其配當加入ノ順位ハ數箇ノ記入ヲ同日ニ爲シタルトキト雖ドモ其記入ノ前後ニ因リテ之ヲ定ム但保管人ノ第千二百二十九條ノ規定ヲ遵守セザル場合ニ於テハ之ヲ對スル責任ノ訴權ヲ妨ゲズトセリ
(松岡曰)
有效ニト云ヒ有益ニト云フ區別ヲ附スルモ文字上ノ働ヲ異ニスルコトナシ
(栗塚曰)
「有效ニ」ヲ刪ルベシ
可決ス
第千二百五十四條 記入ハ債權ノ利息ニ其滿期トナリタル最後ノ二个年分ニ限リ主タル債權及ヒ之ニ添ヘル定期ノ從タル債權ト同一ノ順位ヲ得セシム但債權者ノ一層舊キ利息ノ爲メ後ニ記入ヲ爲スノ權利ヲ妨セスト雖モ此記入ハ其日附ニ於テノミ效ヲ生スルモノトス〔第二千百五十一條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ記入ハ揭載シタル利息及ビ定期ノ附從物ニ其經過シタル最後ノ二个年分ニ限リ主タル債權ハ同一ノ順位ヲ得セシム但二个年以外ノ利息及ビ附從物ノ爲メ債權者ノ日後記入ヲ爲スノ權利ヲ妨ゲズ然レドモ此記入ハ其日付ニ於テノミ效ヲ生ズルモノトストセリ
(松岡曰)
第千百九十二條ニテ年金ノ二个年分以内ニ非ラザレバト云ヘルニ非ラズヤ
(栗塚曰)
再調査ノ際之ヲ同一ニスベシ
(松岡曰)
附從物ト云フハ如何
(栗塚曰)
金錢ニ非ラズ米麥ヲ以テ利息ニ充ツルヲ云フ
(尾崎曰)
最後ノ二个年分ト云フハ其年度ヲモ算入スルヤ
(松岡曰)
其年及ビ昨年分ヲモ云フベシ
(村田曰)
其年ハ算入セザルベシ
(元尾崎曰)
收獲物ニ依リ其年其收獲ヲ得ザルトキハ昨年及ビ一昨年ニ遡リ云フベシ
(尾崎曰)
經過シタルト云ヘバ其年ヲ算入セザルベシ
(栗塚曰)
定期物ノ如キハ自然其年ノ收獲ヲ得ザルモノアルニ付キ其年ヲ算入スルヲ得ザル場合アラン
(南部曰)
金錢ハ其年及ビ昨年ナルモ收獲物ノ如キハ其年ヲ算入スルヲ得ザル場合アリ
第千二百五十五條 抵當ノ順位ハ債權カ條件附タルトキ又ハ信用ノ開始ニ於ケル如ク順次ノ拂込ヨリ生スルトキト雖モ亦記入ニ因テ之ヲ定ム〔伊民第二十七條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ信用ノ開始ニ於ケル如ク順次ノ拂込ヨリトアルヲ信用ヲ開キテ爲ス貸付ノ如ク漸次ノ支拂ヨリトセリ
(元尾崎曰)
信用ヲ開キト云フハ妥當ナラズ
(松岡曰)
信用ヲ開キテ爲ス貸付ト云フハ根抵當ヲ以テ漸次貸付スルヲ云フナラン
(栗塚曰)
漸次ニ貸付ケタリト雖ドモ抵當記入ニ因テ順位ヲ定ムベシト云フニアリ
(元尾崎曰)
信用ト云フハ如何
(栗塚曰)
クレジツトノ義ナリ
(松岡曰)
本條ハ條件附ト信用貸トヲ云ヘルモノナラン「如ク」ノ字ハ不都合ナリ
(栗塚曰)
信用貸ト云フハ無抵當貸ナルモ本條ハ無抵當ノ場合ニアラズ
(渡曰)
信用ノ字ハ商法ヨリ來レル字ナルヲ以テ信用ノ開始ニ於ケル如ク順序ノ支拂ヨリト爲シ置キ同字ハ商法ニ於テ議定シ追テ本條ヲ議決スベシ
結局信用ヲ開キテ爲ス貸付ノ如ク漸次ノ支拂ヨリ生ズルト云フニ爲シ置キ商法ノ信用ヲ議決シタル上本條ヲ論決定スルベシト云フニ決ス
第千二百五十六條 債權者カ各箇ノ代價ノ同時ニ淸算セラレタル數箇ノ不動產ニ付キ抵當ヲ有スルトキハ其債權ハ總テノ不動產ニ其重要ノ割合ニ應シテ之ヲ配當ス可シ
順次ノ淸算ノ場合ニ於テ若シ右ノ債權者カ不動產中一箇ノ代價ニ因テ全ク辨濟ヲ受ケ此一箇ノ不動產ニ付キ其債權者ノ次ニ抵當ヲ有スル一人又ハ數人ノ債權者ノ爲メニ損失ノ生スルトキハ其一人又ハ數人ノ債權者ハ他ノ各不動產ニ付テハ其己レニ先チタル債權ニ於ケル其各不動產ノ分擔部分ニ對シ自己ノ債權ノ爲メ其相互ノ順位ヲ以テ右辨濟ヲ受ケシ債權者ノ抵當ニ當然代位ス〔伊民第二千十一條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項債權ガ數箇ノ不動產ニ付キ抵當ヲ有シ其各箇ノ代價ガ同時ニ淸算アリタルトキハ其債權ハ總不動產ノ重要ノ割合ニ應ジテ之ヲ分配ス可シトシ又第二項順次ヲ漸次トシ「若シ」ヲ刪リ分擔部分ニ對シテ分擔部分ニ限リトセリ
(尾崎曰)
本條ハ如何ナル意義カ
(栗塚曰)
假令バ甲乙丙ノ債權者數箇ノ不動產ニ付キ互ニ債權ヲ有ス甲ハ數箇ノ不動產中一箇ノ不動產ヨリ辨濟ヲ得タレバ乙丙ハ他ノ不動產ニ對シ甲ノ有スベキ權利ヲ代位スベキヲ以テ乙丙ハ甲ノ辨濟ヲ受ケタル不動產ヨリ辨濟ヲ得ザル代リニ他ノ不動產ニ對シ甲ノ有スベキ權利ヲ代位シ自己ノ債權ヲ全フスト云フニアリ
第千二百五十七條 前條ノ代位ハ右ノ如ク其權利ノ移轉セラレタル債權者ニ次テ右不動產ニ付キ記入ヲ爲シタル債權者ニ對シテ其效ヲ生ス
若シ右ノ代位者カ其爲シタル記入ノ縁邊ニ其代位ヲ附記セシメタルトキハ其代位者ハ順序規定ノ手續中ニ指名シテ之ヲ加ハラシムルコトヲ要シ其承諾アルニ非サレハ何等ノ抹殺又ハ減少ヲモ爲スコトヲ得ス
若シ辨濟ヲ受ケシ債權者ノ抵當ニ供シタル他ノ不動產ニ付キ其抵當ヲ記入セサリシトキハ代位者其記入ヲ爲シ且右ト同一ノ目的ニテ其縁邊附記ヲ爲スコトヲ得〔同上〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項「右ノ如ク其權利ノ移轉セラレタル」ヲ刪リ債權者ニ次デトアル上ニ原ノ字ヲ挿入シ第二項ハ起案者ニ質問中ナリ第三項ハ若シ右ノ不動產ニ付キ抵當ノ記入アラザリシトキハ代位者其記入ヲ爲シ且右ト同一ノ目的ニテ其縁邊附記ヲ爲スコトヲ得トセリ
(松岡曰)
本條ハ如何ナル義カ
(栗塚曰)
第一項前條ノ代位乙丙ハ原債權者卽チ甲ニ次デ右不動產ニ付キ記入ヲ爲シタル他ノ債權者ニ對シテ其效ヲ生ズト云フニアリ
第千二百五十八條 總テ債權ヲ處分スルノ能力アリ又ハ合式ニ代理セラレ若クハ此カ爲メニ許可セラレタル抵當債權者ハ抵當ヲ有スルト無特權ナルトヲ問ハス同一債務者ノ他ノ債權者ノ利益ニ於テ自己ノ抵當又ハ單ニ其順位ヲ抛棄スルコトヲ得但第五百二十二條及ヒ第五百二十五條ニ更改ニ關シテ記載シタルモノヲ妨ケス
若シ抵當債權カ順次ニ讓渡、抛棄又ハ代位ノ目的タリシトキハ優先權ハ既ニ爲シタル記入ノ縁邊ニ自己ノ權利ノ設定證書ヲ附記シ又記入カ未タ爲サレサリシトキハ特ニ之ヲ爲シテ其得取ヲ第一ニ公示シタル承權人ニ屬ス〔千八百五十五年三月二十三日ノ佛法律第九條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項凡ソ債權ヲ處分スルノ能力アル抵當債權者ハ同一債務者ノ他ノ債權者ノ利益ニ於テ自己ノ抵當又ハ其順位ノミヲ抛棄スルコトヲ得但第五百二十二條及ビ第五百二十五條ニ於テ更改ニ關シ規定シタルモノヲ妨ゲズトシ第二項順次ヲ漸次トシ「既ニ爲シタル」ヲ承權人中ト云フ文字ヲ挿入シ又記入ガ未ダ爲サレザリシトアルヲ又ハ記入ノアラザリシトシ「特ニ」ヲ刪リ得取ヲ取得トシ承權人ニ屬ストアルヲ者ニ屬ストセリ
(松岡曰)
漸次ニ讓渡ト云フハ同時ニ讓渡サルヲ云フカ
(村田曰)
漸次ト云ヘルハ數次トスベキニアラズヤ
(尾崎曰)
數次ト云フヲ可トス
(槇村曰)
漸次ニ讓渡ト云フハ如何
(尾崎曰)
假令バ其父ノ估却シタルヲ知ラズシテ子其物ヲ他ニ估却シタルガ如キ卽チ事實上再賣ニ係リシトキヲ云フ
(栗塚曰)
數人ニ對シ讓渡トシテハ如何
(槇村曰)
數人ニ對シト云ヘバ數人ノ連合中ノ一人ニ對シト云ヘル嫌ヒアリ
(南部曰)
若シ抵當債權ヲ數次ニ數人ニ對シ讓渡トシテハ如何
可決ス目的タリシトキハトアルヲ目的ト爲セシトキハトスルニ決ス
(淸岡曰)
抛棄ノ目的トハ如何
(松岡曰)
假令バ甲ガ優先權ヲ抛棄シタルヲ乙丙ニ吿知シタルトキハ乙丙中其登記ヲ先ンジタル者其效アリト云フニアリ
第千二百五十九條 右ノ外第千二百九十一條ノ條例ハ前二條ノ場合ニ之ヲ適用ス
(栗塚曰)
本條ハ條例ヲ規定ト爲シタリ
(松岡曰)
千二百九十一條ハ何ノ必要アリヤ
(南部曰)
千百九十一條ノ誤ナラン
第千二百六十條 抵當債權者又ハ無特權債權者カ記入セサル抵當ヲ知リテ之ヲ自認シタリト雖モ其債權者ヲシテ記入ノ欠缺ヲ利唱スルノ權利ヲ失ハシメス
本條ハ報吿委員ニテ無特權債權者ガ記入セザルトアルヲ無特權債權者ハ記入ナキトシ「其債權者ヲシテ」ヲ刪リ利唱スルトアルヲ申立ルトシ權利ヲ失ハシメズトアルヲ權利ヲ失ハズトセリ
(尾崎曰)
本條ハ如何ナル義カ
(工藤曰)
他ニ抵當債權者アルモ無記入ニ付キ其抵當物タルヲ領知スルモ自身モ亦タ嘗テ之ヲ抵當トシテ得取シ其記入ヲ缺キタルヲ裁判所ニ申立ル權利アリト云フニアリ
(松岡曰)
自認ノ字ハ妥當ナラズ自認ハ自己ノ所爲ヲ自ラ認ムルノ謂ヒニシテ他人ノ所爲ヲ認ムベキヲ謂フモノニアラズ
(元尾崎曰)
抵當ヲ認知シタリト雖ドモトシテハ如何
(西曰)
自己ノ領地アリシコトヲ自認スルノ意味ナルヲ以テ自認シタリト云フモ差支ナシ
(元尾崎曰)
本條ハ抵當債權者又ハ無特權債權者ハ他ニ記入ナキ抵當債權者アルコトヲ知リ之ヲ認メリト雖ドモ記入ノ欠缺ヲ申立ルノ權利ヲ失ハズトシテハ如何
(尾崎曰)
他ノト指スハ不可ナリ
(西曰)
報吿委員ノ修正ニ從フヲ可トス
(松岡曰)
文字上ノ修正論ハ區々一定セザルヲ以テ本會ニ於テ圓滑ノ修正ヲ施スヲ得ザルベシ
第千二百六十一條 不動產賣拂代價ヲ以テ全部ノ辨濟ヲ受ケサル抵當債權者ハ其尙ホ受ク可キモノニ付テハ無特權債權者タリ
若シ不動產ノ賣拂ニ先チテ動產有價物ノ全部又ハ一分ノ配當ヲ爲ストキハ抵當債權者ハ其債權全額ノ爲メ無特權債權者トシテ假リニ其配當ニ加ハル
其後ニ至リ抵當不動產ノ代價ヲ配當スルトキハ右ノ債權者ハ動產有價物ニ付キ何等ノモノヲモ受取ラサリシカ如ク其配當順序ニ加ハル然レトモ此ノ如クシテ全ク辨濟ヲ受ク可キ者ハ無特權債權者トシテ受取リタル金額ヲ減除スルニ非サレハ其抵當ノ配當額ヲ受クルコトヲ得スシテ其減除シタル金額ハ動產財團中ニ之ヲ返還ス
抵當ニ因テ一分ノミノ辨濟ヲ受クルコトヲ得可キ者ニ付テハ其動產財團ニ對スル權利ハ有益ニ順序ニ加ハラサル所ノ金額ニ從ヒ確定ニ定メラレ其者ノ右ノ割合外ニ受取リタルモノハ其抵當ノ配當額中ヨリ扣除シ之ヲ動產財團中ニ返還ス
右ノ如ク返還セラレタル金額ハ純粹ノ無特權債權者ト配當順序ニ加ハルヲ得ス又ハ債權ノ一分ノミニ付キ之ニ加ハリタル抵當債權者トノ間ニ於ケル新配當ノ目的ヲ成ス〔佛商第五百五十二條乃至第五百五十六條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項其尙ホ受ク可キモノトアルヲ其殘額トシ第二項ハ動產有價物ノ全部又ハ一分トアル「ノ全部又ハ一分」ヲ刪リ其配當ニ加ハルトアルヲ其配當ニ加入ストシ第三項代價ヲ配當スルトアルヲ代價ノ配當アルトシ「右ノ」ヲ「抵當」トシ加ハルトアルヲ加入ストシ配當順序トアル順序ノ文字ヲ刪リ此ノ如クシテトアルヲ配當ニ於テトシ無特權債權者トシテトアルヲ動產ノ配當ニテトシ得ズシテトアル「シテ」ヲ刪リ第四項ハ不動產ノ代價ノ配當ニ於テ一分ノミノ辨濟ヲ受クルコトヲ得可キ者ニ付テハ配當ニ加ハルコトヲ得ザリシ殘額ニ從ヒ其動產財團ニ野スル權利ヲ定ム但此割合外ニ受取リタルモノハ其抵當ノ配當額中ヨリ扣除シ之ヲ動產財團中ニ返還ストシ第五項ハ右ノ返還金額ハ純粹ノ無特權債權者ト有益ニ配當ニ加入スルコトヲ得ザルカ又ハ債權ノ一分ノミニ付キ之ニ加入シタル抵當債權者トノ間ニ於テ更ニ之ヲ配當ストセリ
(松岡曰)
第三項何等ノモノヲモ受取ラザリシガ如クト云フハ妥當ナラズ
(渡曰)
債權者ハ動產有價物ニ付キ何等ノモノヲモ受取ラザリシカ如クト云フハ贅文ニ屬スベシ
(元尾崎曰)
何等ノモノヲモトアルハ何等ノ辨濟ヲモトスベシ
可決ス
(松岡曰)
配當ニ加入スルヲ得ザルガトアルヲ配當ニ加入スルヲ得ズトスベシ
(尾崎曰)
得ザルガト云フヲ可トス
(栗塚曰)
配當ニ加入スルコトヲ得ザル債權者トシテハ如何
結局報吿委員ノ修正ニ決ス
第五節 第三保有者ニ對スル抵當ノ效力
前置條例
第千二百六十二條 抵當不動產カ全部又ハ一分讓渡サレ又ハ用益權若クハ其他ノ物權ヲ負擔スルトキハ讓渡又ハ所有權支分ノ設定證書ヲ登記スル前ニ其不動產ニ對シ記入ヲ爲シタル抵當債權者ハ第三取得者ニ對シ尙ホ己レニ受ク可キモノノ辨濟ヲ請求スルノ權利ヲ保存シ又右不動產カ讓渡サレス又ハ支分セラレサルトキノ如ク自己ノ抵當順位ヲ以テ其代價ニ因リ辨濟ヲ受ケル爲メ右不動產ノ徵收ヲ訴追スルノ權利ヲ附隨ニテ保存ス〔第二千百六十六條及ヒ第二千百六十七條〕
然レトモ第百二十六條及ヒ第百二十七條ニ記載シタル繼續期ヲ以テ爲シ又ハ更新シタル賃借ハ既ニ記入シタル債權者ニ於テ之ヲ遵守スルコトヲ要ス
(栗塚曰)
本節ノ下第三保有者トアルヲ第三所持者トシ前置條例ヲ總則トシ本條ハ第一項抵當不動產カ讓渡サレ又ハ用益權若クハ其他ノ物權ヲ負擔シタルトキハ其設定證書ノ登記前ニ記入ヲ爲シタル抵當債權者ハ第三取得者ニ對シ債務ノ辨濟ヲ請求スルノ權利ヲ保存シ又右不動產ノ賣拂代價ヲ以テ辨濟ヲ受クル爲メ其不動產ノ徵收ヲ訴追スルノ權利ヲ附隨ニテ保存ストシ第二項ハ記載ヲ規定トシ繼續期トアルヲ期間トシ既ニ記入シタルトアルヲ抵當トセリ
(委員長曰)
一項附隨ト云ヘルハ自己ノモノノ如クニト云フ意味カ
(栗塚曰)
本條一項ハ代金ノ辨濟ヲ請求スルノ權ト代金ヲ支拂ハザルトキハ其不動產ヲ徵收スルノ訴權ヲ有スベシト云フ義ナリ依テ附隨トシテハ如何
可決ス
(南部曰)
用益權ノ下若クハノ三字ヲ刪ルベシ
可決ス
第千二百六十三條 若シ抵當カ所有權ノ支分ニ存シテ債務者其權利ヲ抛棄シタルトキハ其抛棄ノ登記前ニ記入シタル債權者ハ其抛棄ニ拘ハラス追及權ヲ保存ス
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ存シテトアル「テ」ヲ刪リ記入シタルトアルヲ記入ヲ爲シタルトシ保存ストアルヲ保有ストセリ
可決ス
第千二百六十四條 抵當ハ其記入カ公賣競落ノ登記前ニ爲サレタルトキニ非サレハ抵當不動產ヲ差押ヘテ之ヲ賣却セシメタル無特權債權者ニ之ヲ以テ對抗スルコトヲ得ス但第千二百二十條ニ揭ケタル二箇ノ場合ニ於テ爲シタル記入ノ無效タルヲ妨ケス〔千八百五十五年三月二十三日ノ佛法律第一條第四號、第三條及ヒ第六條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ抵當ハ其不動產ヲ差押ヘ之ヲ賣却セシメタル無特權債權者ニハ公賣競落ノ登記前ニ記入ヲ爲シタルトキニ非ザレバ之ヲ以テ對抗スルコトヲ得ズ但第千二百二十條ニ揭ゲタル二箇ノ場合ニ於テ爲セル記入ノ無效タルコトヲ妨ゲズトセリ
(松岡曰)
本條但書ハ無用ニアラズヤ第千二百二十條ハ何人ト雖ドモ有效ノ記入ヲ爲スヲ得ザレバナリ
第千二百六十五條 第三保有者ノ破產無資力又ハ死亡ハ其取得證書ノ登記アルマテハ抵當記入ノ妨碍ト爲ラス
本條ハ前例ニ從ヒ第三保有者ヲ第三所持者トス
第千二百六十六條 第三保有者ノ場合ニ從ヒ左ノ方法ヲ用フルコトヲ得
第一 總テノ抵當債務ヲ辨濟スルコト
第二 滌除スルコト
第三 討索ノ抗辯ヲ以テ對抗スルコト
第四 不動產ヲ委棄スルコト
第五 所有權徵收ヲ受クルコト
本條ハ報吿委員ニテ第三ノ討索ヲ檢財トシ抗辯ヲ排斥答辯トセリ第三保有者ハ第三所持者トシ排斥答辯ハ抗辯トシ第四委棄ハ訴訟法ノ抛棄ト照査スルニ決ス
第一款 抵當債務ノ辨濟
第千二百六十七條 第三保有者カ抵當債務ノ滿期ト爲ルニ從ヒ之ヲ辨濟スルニ於テハ其第三保有者ハ所有權徵收又ハ妨碍ヲ受クルコト無シ〔第二千百六十七條〕
本條ハ報吿委員ニテ第三所持者ハ抵當債務ノ滿期ニ從ヒ之ヲ辨濟スルトキハ所有權徵收又ハ妨碍ヲ受クルコト無シトセリ
(尾崎曰)
徵收ノ字穩當ヲ得ズ
(松岡曰)
徵收ノ字ハ政權ヲ以テスルヲ云フ
(栗塚曰)
徵收ノ字ハ尙ホ詮議スベシ
(松岡曰)
辨濟スルトキハト云ヘルハ辨濟スルニ於テハト云フヲ可トス
可決ス
第千二百六十八條 第三保有者カ債務ノ全部又ハ一分ヲ辨濟シタルトキハ其第三保有者ハ第五百四條第一號及ヒ第五百五條第三號及ヒ第四號ニ從ヒ自己ノ辨濟シタル債權者ノ其他ノ抵當抵保及ヒ利益ニ代位ス
又第三保有者ハ其辨濟セサリシ債權者ヨリ所有權徵收ノ訴追ヲ受クルコトアル可キ場合ノ爲メ自己ノ保有スル不動產ノ負擔スル抵當ニ付キ未定ノ代位ヲモ取得ス〔第千二百五十一條第二號〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項ハ第三所持者ハ債務ノ全部又ハ一分ヲ辨濟シタルトキハ第五百四條第一號第五百五條第三號及ビ第四號ニ從ヒ其辨濟ヲ得タル債權者ニ屬スル他ノ抵當擔保及ビ利益ニ代位ストシ第二項ハ其辨濟セザリシトアルヲ其辨濟ヲ得ザリシトシ保有トアルヲ所持トシ未定ノ代位ヲモ取得ストアルヲ辨濟ヲ得タル債權者ニ未定ニテ代位ストセリ
可決ス
第二款 滌除
第千二百六十九條 第三保有者ハ記入シタル總テノ抵當債務ヲ辨濟セサルモ債權者ニ其記ノ順序ヲ以テ辨濟シ又ハ債權者ノ爲メニ自己ノ取得代價若クハ不動產ノ評價額若クハ之ニ超ユル金額ヲ供託シテ不動產ノ負擔ヲ免カレシムルコトヲ得但右ニ付テハ下ニ規定セル如キ提供及ヒ滌除ト稱スル手續ヲ爲シタル後債權者ニ於テ明示又ハ默示ニテ承諾シタルコトヲ要ス
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第三所持者ハ記入シタル總テノ抵當債務ヲ辨濟セザルモ債權者ニ其記入ノ順序ニ從ヒ不動產ノ取得代價、其評價額若クハ之ニ超ユル金額ヲ辨濟シ又ハ債權者ノ爲メニ之ヲ供託シテ不動產ノ負擔ヲ免ガレシムルコトヲ得但右ニ付テハ下ニ規定セル如キ提供及ビ滌除ノ手續ヲ爲シタル後債權者ノ明示又ハ默示ノ承諾アリタルコトヲ要ストセリ
(委員長曰)
本條ハ如何ナル意義カ
(栗塚曰)
第三得取者ハ債務者ニ代表シ得取代價ヲ以テ債權者ニ辨償スル手續ヲ示シタリ
第千二百七十條 停止條件附ノ取得者ハ其權利カ條件ノ成就ニ因テ固定セサル間ハ滌除スルコトヲ得ス
解除條件附ノ取得者ハ其權利カ條件ノ缺クルニ因テ固定セサル前ト雖モ滌除スルコトヲ得
此場合ニ於テ若シ第三保有者ノ提供カ承諾セラレタルモ元資ノ不足スル抵當抹殺ノ後其第三保有者ノ取得カ解除セラルルニ於テハ抹殺シタル記入ハ第千二百四十九條ニ從ヒ之ヲ回復ス
若シ右ノ場合ニ於テ提供カ承諾セラレスシテ下ニ規定セル如ク不動產ヲ競賣ニ付シタルトキハ競落ハ其第三保有者ノ利益ニ於テ宣吿セラレタルト其他ノ者ノ利益ニ於テ宣吿セラレタルトヲ問ハス以後解除ヲ免カルルモノトス
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項停止條件附ニテ不動產ヲ取得シタル者ハ條件ノ成就セザルニ因リ其權利ノ定マラザル間ハ滌除スルコトヲ得ズトシ第二項解除條件ニテ取得シタル者ハ條件ノ到來セザルニ因リ其權利ノ定マル前ト雖ドモ滌除スルコトヲ得トシ第三項此場合ニ於テ若シ第三所持者ノ提供カ承諾ヲ得タルモ其金額ハ抵當債務ヲ全ク辨濟スルニ足ラズシテ其抵當ヲ抹殺シタル後第三所持者ノ取得カ條件ノ到來ニ因リ解除スルニ於テハ辨濟ヲ得ズシテ抹殺ヲ受ケタル抵當債權者ノ記入ハ第千二百五十一條ニ從ヒ之ヲ回復ストシ第四項ハ若シ右ノ場合ニ於テ抵供ガ承諾ヲ得ズシテ下ニ規定セル如ク不動產ヲ公賣ニ付シタルトキハ競落ハ第三所持者ノ利益ノ爲メ宣吿アリタルト其他ノ者ノ爲メ宣吿アリタルトヲ問ハズ以後解除條件ヲ免ガルルモノトセリ
(委員長曰)
本條第三項ハ如何
(栗塚曰)
第三所持者ノ提供シタル金額ヲ以テ抵當債權ヲ全ク辨濟スルヲ得ズ其抵當ハ相當代價ヲ以テ第三者之ヲ買受ケタルニ依リ其抵當ヲ抹殺シタル以後第三所持者ノ買受ガ解除ニ係ルトキハ最初抵當債權者ノ辨濟未濟ニ居ルモノハ其解除復故ニ依リ效力ヲ回復スベシト云フ意味ナリ
(委員長曰)
解除條件附ノ不動產ヲ公賣ニ附スルトキハ其解除條件ハ消滅スルニ至ルベシ
(元尾崎曰)
債務者ハ其債務ヲ辨濟スルヲ得ザルトキハ債務者ノ不動產ハ債務者自ラ之ヲ有スルモ將タ第三所持者アルモ之ヲ債權者ニ得取セラルルヲ免レザルベシ
(委員長曰)
假令バ第三所持者ハ其不動產ヲ千圓ニ買得シタルトキハ第三所持者ハ其千圓ヲ債務者ニ辨償スベシ然ルニ其不動產ヲ公賣ニ附シタルニ公費代價八百圓ナリトセバ債務者ハ其金額ヲ以テ債權者ノ辨濟ヲ終ヘルヲ得ザルニ依リ債務者ハ所損ヲ招クニアラズヤ
(栗塚曰)
債務者ノ所損ト云フヲ得ズ
第千二百七十一條 抵當ヲ滌除スルノ權利ハ主タル債務者ト爲リ又ハ保證人ト爲リテ一身上ニ抵當債務ノ責ニ任スル第三保有者ニ屬セス
右ノ權利ハ亦設定者ノ連合共同債務者ニ屬セス但第一ノ抵當訴追前ニ債務ニ於ケル自己ノ部分ヲ辨濟シタルトキハ此限ニ在ラス
又如何ナル場合ニ於テモ右ノ權利ハ債務者ノ相續人ニシテ債務ニ於ケル自己ノ相續部分ノミヲ辨濟シタル者ニ屬セス
又右ノ權利ハ他人ノ債務ノ爲メ自己ノ財產ニ付キ抵當ヲ設定シタル者又ハ其者ノ相續人ニ屬セス
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項抵當ヲ滌除スルノ權利ハ第三所持者ニシテ主タル債務者ト爲リ又ハ保證人ト爲リテ一身上ニ抵當債務ノ責ニ任ズル者ニ屬セズトシ第二項ハ起案者自ラ刪除シタリ第三者ハ起案者「又如何ナル場合ニ於テモ」ヲ刪リ報吿委員ニテ債務ニ於ケルトアルヲ其債務ノトシ第四項ノ財產ニ付キトアルヲ財產ヲトシ抵當ヲ設定シタルトアルヲ抵當ト爲シタルトシ其者ノトアル「者ノ」ヲ刪レリ
(委員長曰)
第二項ハ起案者如何ナル理由ヲ以テ之ヲ刪除セシヤ
(栗塚曰)
第一項ニ包含セリト云フ意見ナリ
(委員長曰)
相續人ハ自己ノ相續部分ノミヲ辨濟シ滌除スルニ妨ゲナキニアラズヤ
(栗塚曰)
相續人ハ連帶ノ責ヲ負ハザルベカラズ
(委員長曰)
他人ノ債務ノ爲メ自己ノ財產ヲ抵當ト爲シタル者ハ滌除スルヲ得ザルハ如何
(栗塚曰)
他人ノ債務ノ爲メニ自己ノ財產ヲ抵當ト爲ス者ハ好意上他人ヲ惠助シタルニアラズヤ然ルヲ其抵當ヲ滌除スルト云フハ最初ノ好意ニ反スベシ
(松岡曰)
千圓ニ對スル債務ノ爲メ千二百圓ノ不動產ヲ抵當貸ニ爲シタル者ハ債額千圓ヲ支拂ヒ若クハ之ヲ供托シテ其抵當ヲ滌除スルヲ得ザルヤ
(栗塚曰)
假令ヒ千圓ヲ給付スルモ其擔保ヲ消滅スルヲ得ルノ理ナカルベシ
(南部曰)
抵當物ヲ貸シタル者其抵當ヲ動カスヲ得ザルハ債務者ノ抵當物ヲ動カスヲ得ザルニ同ジ
(委員長曰)
債額ヲ給付シタルトキハ之ヲ滌除スルモ不可ナカルベシ
(栗塚曰)
佛蘭西ニモ其說アレドモ起案者ハ斯クノ如キハ契約ノ原則ニ反スルモノト思惟スルモノノ如クナリ
第千二百七十二條 抵當債權者ノ參加スル爲メニ招喚セラレタル不動產差押ノ上ノ公競落、增競買ノ上ノ公競落、抵當訴追ノ上ノ公競落又ハ其他ノ公競落ニ付テハ滌除ヲ爲スコトヲ得ス〔佛訴第六百九十二條、第七百八條、第七百十七條第七項、第九百六十五條、第九百七十三條第六項、第九百八十八條〕
公益ニ因由スル所有權徵收ニ付テモ亦同シ〔千八百四十一年五月三日ノ佛法律第十七條〕
右ハ抵當債權者ノ其順位ヲ以テ競落代價又ハ所有權徵收ノ賠償金ニ付キ配當順序ノ定メヲ受クルノ權利ヲ妨ケス〔同上〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項抵當債權者ヲ參加セシメタル總テノ公賣ニ付テハ滌除ヲ爲スノ限ニ在ラズトシ第二項公用徵收ニ付テモ亦同ジトシ第三項競落ヲ公賣トシ所有權徵收ノ賠償金ニ付キ配當順序ノ定メヲ受クルノ權利ヲ妨ゲズトアルヲ徵收償金ノ配當ニ加入スルノ權利ヲ妨ゲズトセリ
(元尾崎曰)
本條第一項並ニ第二項ハ滌除スルヲ得ザルヲ示シタリヤ
(栗塚曰)
然リ
(尾崎曰)
第三項ハ何ノ必要アルヤ
(栗塚曰)
滌除ヲ爲ササルモ債權者ノ權利ヲ妨ゲズト云フニアリ
(松岡曰)
公賣ニ付キ落札ヲ爲シタル者ハ滌除スルモノアラザルベシ故ニ滌除スルノ必要アラザル落札者ニ付テハ滌除ヲ爲スノ限ニ在ラズト云フノ必要ナシ
(栗塚曰)
公賣ト滌除トハ同種類ナルガ如キヲ以テ此區別ヲ明證セリ卽チ公賣ハ滌除ヲ爲サズト云フガ如シ
(松岡曰)
公賣ハ滌除ヲ爲サズト云フハ意味ヲ爲サズ
(南部曰)
公賣ハ滌除ノ手續ニ依ラズト云フ義ナリ
(松岡曰)
公賣上得取シタル者ガ滌除ヲ爲サザルヲ得ズト云フ懸念ヲ生ズベキ所以ナシ
(栗塚曰)
公賣上得取シタル者ハ別ニ滌除スルヲ得ザルベシト云フ意味ナリ
第千二百七十三條 使用權、住居權及ヒ地役權ニ付テハ滌除ヲ爲ササルモノニシテ債務者ノ是等ノ權利ノ負擔セシメタル不動產ニ付キ抵當ヲ有スル債權者ハ右ノ如クニ付與シタル是等ノ權利ヲ斟酌セスシテ債務者ニ對シ其不動產ノ賣却ヲ訴追スルコトヲ得
債務者ノ第千二百六十二條ニ記シタル制限ヲ超ヘテ爲シタル賃貸ニ付テモ亦同シ
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ地役權ノ下「ニ付テ」ヲ刪リ滌除ヲ爲サザルモノニシテトアルヲ滌除ニ係ラザルモノトストシ債務者ノトアルヲ若シ抵當不動產ニトシ負擔セシメタル不動產ニ付キトアルヲ負擔アルトキハ其トシ「抵當ヲ有スル債權者ハ右ノ如クニ付與シタル是等ノ」トアルヲ刪リ債務者ニ對シノ下「其」ヲ除リ第二項ハ記シタルトアルヲ記載シタルトシ賃借ハ賃貸借トセリ
(淸岡曰)
權利ヲ負擔アルトキハト云フハ權利ヲ振廻ハスコトヲ得ベキガ如シ
(栗塚曰)
權利ヲ振廻ハスコトヲ得ザルベシ
第千二百七十四條 第三保有者ハ債權者ヨリ訴追ヲ受ケサル間ハ何時タリトモ滌除スルコトヲ得又遲クトモ辨濟スルヤ又ハ不動產ヲ委棄スルヤノ催吿ヲ受ケタル後一全月内ニ滌除スルコトヲ得但之ニ違フトキハ失權ト爲ルモノトス〔第二千百八十三條第一項〕
然レトモ右ノ失權ハ當然生スルモノニ非スシテ裁判所ニ之ヲ請求スルコトヲ要ス但裁判所ハ第三保有者カ正當ノ障碍アリシコトヲ證明シ且債權者ノ其遲延ノ爲メニ現實ノ損害ヲ受ケサルヘキニ於テハ失權ヲ宣吿セサルコトヲ得
又債權者提供ニ答フル爲メ第千二百七十八條ニ依リ付與セラレタル一个月ノ期間ニ失權ヲ請求セサルニ於テハ失權ヲ宣吿スルコトヲ得ス
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項債權者ヨリトアルヲ債權者ノトシ何時タリトモトアルヲ何時ニテモトシ又遲クトモトアルヲ遲クトモノ三字ヲ刪リ不動產ヲ委棄スルヤト云ヘル上ノ「又ハ」ヲ除キ但ノ下之ニヲ此ニトシ失權ト爲ルモノトストアルヲ其權ヲ失フトシ第二項當然生ズルモノニ非ズシテトアルヲ當然生ゼズトシ「ヘキ」ヲ「可キ」トシ第三項ハ又債權者ヨリ第千二百七十八條第二號ニ規定シタル一个月ノ期間ニ失權ヲ請求セザルニ於テハ失權ヲ宣吿スルコトヲ得ズトセリ
(松岡曰)
受ケザル可キニ於テトアルハ受ケザルニ於テハトスベシ
可決ス
(委員長曰)
第一項債權ノトシタルモ債權者ヨリト云ヘルヲ可トス
(元尾崎曰)
債權者ノト云フヲ可トス
(委員長曰)
不動產ノ上「又ハ」ト云フハ刪除スベカラズ
(栗塚曰)
辨濟スルヤ不動產ヲ委棄スルヤト云ヘル「ヤ」ノ字アルヲ以テ「又ハ」ヲ刪レリ若シ「又ハ」ヲ存在スレバ「ヤ」ハ贅字タルニ至ラン
第千二百七十五條 第三保有者ハ滌除ノ豫式トシテ第三者ニ對シテ自己ノ權利ヲ固定シ且第千百八十四條及ヒ第千百八十五條ニ從ヒ讓渡人ノ先取特權ヲ公示スル爲メ自己ノ證書ヲ登記セシムルコトヲ要ス〔第二千百八十一條〕
右ノ後第三保有者ハ保管人ヲシテ自己ノ不動產ノ負擔セル先取特權又ハ抵當ノ目錄ヲ交付セシム
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ豫式トアルヲ準備トシ「第三者ニ對シテ一ヲ刪リ自己ノ權利ヲ固定シトアルヲ自己ノ權利及ビトシ「且第千百八十四條及ヒ第千百八十五條ニ從ヒ」トアルヲ刪リ第二項ハ「保管人ヲシテ自己ノ」ヲ刪リ交付セシムトアルヲ登記官吏ニ請求ストセリ
(委員長曰)
第一項且云々ヲ刪リシハ如何
(栗塚曰)
且以下ハ之ヲ除去スルモ凡ソ民法ヲ讀ム者ハ是等ニ惑ヒナカルベシト思惟セリ
(元尾崎曰)
登記官吏ニ請求スト云フハ如何
(栗塚曰)
目錄ヲ請求スルモノトス
(南部曰)
他ニ負擔ノ有無ヲ看ルベキモノトス
(松岡曰)
第千百八十四條云々ヲ刪除スルハ不可ナリ
(委員長曰)
自己ノ權利ヲ固定シ云々トシテハ如何
(南部曰)
第三者ト云フ字ヲモ存在セシメザルベカラズ
(委員長曰)
報吿委員カ第三者ヲ刪リシハ如何
(南部曰)
公示スル爲メト云フニ關係アルヲ以テナリ
(委員長曰)
公示ハ第三者ニ對スルコトナルハ登記法ニ明示シタリ
結局自己ノ權利ヲ公示シ且ツ第千百八十四條及ビ第千百八十五條ニ從ヒ云々トスルニ決ス