第 條(新) 土地ノ賃貸借ニシテ期間ヲ定メサルモノ又ハ期間ヲ定メタルモ默示ノ更新アリタルモノハ耕地ニ付テハ主タル收穫季節ヨリ不耕地ニ付テハ返却セシム可キ時期ヨリ一个年前ニ解約申入ヲ爲スニ因リテ終了ス
賃貸セシ建物ニ具ヘタル動產又ハ用方ニ因ル不動產ト看做ス可キ動產ノ賃貸借ト其建物ノ賃貸借ノ終了スルニ非サレハ終了セス
(元尾崎)
土地ノ賃貸借ハ槪ネ耕地ノ貸借ナルベシ
(松岡)
山林ノ如キ之ヲ貸借スルハ稀少ナルベシ
(村田)
牧場等ノ貸借アリ
(淸岡)
返却セシム可キ時期ヨリ云々トアルモ未ダ返却スベキ時期ニ至ラズ
(南部)
返却セシメントスル時期ヨリト云フガ如シ
第百六十三條 解約申入及ヒ返却ノ時期ニ關スル前數條ノ規定ハ其時期ニ付キ確實ナル地方ノ慣習ナキトキニ非サレハ之ヲ適用セス
(栗塚)
本條確實ナルト云フ文字ハ刪除シタシ
可決ス
第百六十四條 如何ナル場合ニ於テモ賃借人ノ權利ノ存スル一切ノ收穫物ヲ收去スル前ニ賃貸借ノ終了シタルトキハ賃貸人又ハ新賃借人ハ前賃借人ノ之ヲ收去スルニ委ヌルコトヲ要ス
又賃借人ハ土地ノ收穫物ヲ收去シタル部分ニ於テ賃貸借ノ終了前ニ急要ノ作業ヲ爲スコトヲ賃貸人又ハ新賃借人ニ許スコトヲ要ス但賃借人此カ爲メ確實ノ妨害ヲ受ク可キトキハ此限ニ在ラス
(栗塚)
本條モ確實ト云フ文字ハ必要ナシトス
(村田)
本條ハ確實ト云フ文字ヲ存在セシメタシ
(栗塚)
此點ハ確カト云フ意味ニアラズ尤モナルト云フ義ナリ
(松岡)
刪除スルモ不可ナシ
第百六十五條 賃貸人カ賃貸物ヲ讓渡サントシ又ハ自己ノ爲メ若クハ他ノ特別ナル原因ノ爲メ之ヲ回收サントスルトキハ期間ノ滿了前ト雖トモ賃貸借ヲ解除スルコトヲ得ルノ權能ヲ留存シタル場合又賃借人カ賃貸借ノ無用ト爲ル可キ未定事故ヲ慮カリテ同一ノ權能ヲ留存シタル場合ニ於テハ各自ニ前數條ニ定メタル時期ニ於テ豫メ解約申入ヲ爲スコトヲ要ス
(栗塚)
本條ハ回收ヲ取戻ドシ留存ハ留保トスベシ
可決ス
(松岡)
解除ハ銷除トスベキヤ
(栗塚)
然リ
第二節 永借權及ヒ地上權
第一款 永借權
第百六十六條 永貸借トハ期時二十个年ヲ超エル不動產ノ賃貸借ヲ謂フ
永貸借ハ五十个年ヲ超ユルコトヲ得ス此期間ヲ超ユル貸借ハ之ヲ五十个年ニ短縮ス
永貸借ハ常ニ之ヲ更新スルコトヲ得然レトモ其更新ノ時ヨリ五十个年ヲ超ユルコトヲ得ス
當事者カ永貸借契約ナルコトヲ明示シ其期間ヲ定メサルトキハ其貸借ハ四十个年ニシテ終了ス
本法頒布以前ニ期間ヲ定メテ爲シタル不動產ノ賃貸借ハ五十个年ヲ超ユルモノト雖モ其全期間有效ナリ
本法頒布以前ニ期間ヲ定メスシテ爲シタル荒蕪地又ハ未耕地ノ賃貸借及ヒ永小作ト稱スル賃貸借ノ終了ノ時期及ヒ條件ハ日後特別法ヲ以テ之ヲ規定ス
(渡)
最初永貸借權トアリシニ永借權ト修正シタルカ
(栗塚)
賃借權永借權トセリ權ト云ハザルトキハ永貸借ト三字ヲ連用セリ
(元尾崎)
永貸借ハ五十个年ノ期間ヲ超ユルコトヲ得ズトシタル以上ハ其期間ヲ定メザルトキモ五十个年トスルヲ當然トス
(北畠)
期間ノ定メナキ爲メ永貸借ノ最長期ヲ服守セシメントスルハ不可ナリ
第百六十七條 永貸借ハ永貸借契約ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ設定スルコトヲ得ス其贈遺又ハ豫約ニ付テハ第百二十四條ノ規定ニ從フ
本除ハ贈遺トアルヲ遺贈トセリ
第百六十八條 當事者相互ノ權利及ヒ義務ハ永貸借ノ設定契約ヲ以テ之ヲ定ム
特別ノ約束ナキトキハ下ノ規定ニ從フノ外通常賃貸借ノ規則ニ從フ
(栗塚)
設定契約トアルハ設定名義トシ約束ハ合意トスベシ
(箕作)
設定名義ト云フコトハ允當ヲ失スルニ付キ契約トスベシ
可決ス
第百六十九條 永借人ハ永借地ノ形質ヲ變スルコトヲ得但永久ノ毀損ヲ生セシメサルコトヲ要ス
永借人ハ常ニ沼澤ヲ乾涸スルコトヲ得又永借地ノ作業ニ益ス可キトキハ其土地ヲ通過スル水流ヲ變轉スルコトヲ得
(村田)
形質トアルハ性質トシテハ如何
(渡)
形狀ト性質トヲ包含シタルベシ
(淸岡)
假令バ圓地ヲ角地トスルモ畑地ヲ耕地トスルモ妨ゲナシト云フニアリ
第百七十條 永借人ハ原野ヲ開墾スルコトヲ得然レトモ所有者ノ承諾アルニ非サレハ輪伐ニ供ヘタル小木林ヲ取除クコトヲ得ス輪伐ニ供ヘサル樹木ト雖モ既ニ二十个年ヲ過キ且其成長ノ年期カ貸借ノ期間ヲ超ユ可キモノハ亦同シ
(栗塚)
原野ト云ヘルヲ叢棘トシタシ
(松岡)
叢棘トスベカラズ
(栗塚)
原野ト云ヘバ曠野ト云フガ如キ意味トナレバナリ
(箕作)
那須野原ノ如キハ如何
(栗塚)
那須野原ノ如キヲモ包含スベシト雖モ多クハ荊棘ト云フ意味ナレバナリ
(淸岡)
輪伐ト云ハ順伐ノ義ニシテ定期採伐ノ云ヒニアラズ
(渡)
定期採伐トシタシ
(松岡)
小樹林ハ定期採伐ニ供セザルベシ定期採伐ニ供ヘタルモノハ大樹林ニ限ルベシ
(村田)
小樹林ハ定期採伐ニ供ヘタル部分ヲ取除クヲ得ザレドモ定期採伐ニ供シタル外ハ隨意ニ採伐スルヲ得ベシ
(槇村)
小樹林ト云ヘバ定期採伐ニ供ヘタルモノト云フヲ得ルカ
(松岡)
然リ
(淸岡)
小樹林ト云フハ定期採伐スルヲ得ト云フ限リナシ小樹林ト云ヘバ生木ノ短小ナルヲ云フベシ
(松岡)
輪伐ニ供ヘタルト云フ文字ハ刪除シ小木林ト云ヘル文字ニテハ採伐スベキト云フ義ヲ顯著ナラシメザレバ小木林ト云フ文字ヲ改正スルヲ要ス
(栗塚)
日本ニ於テハ年年小稚木ヲ採伐スベキ山林ヲ如何稱呼スルヤ
(元尾崎)
牧山或ハ薪山トモ云フベシ
(北畠)
薪林トシテハ如何
(栗塚)
起案者ノ註釋ニハ薪炭ノ必需ニ供フル爲メトアリ
(元尾崎)
小木林ハ採伐林トスベシ
(南部)
採伐林トスルヲ得ズ何トナレバ林ト云ヘバ採伐セザルモノナキガ故ナリ
(元尾崎)
末文「亦同シ」ト云フハ取除ヲ得ザルモ採伐スルヲ得ト云フ結果トナルベシ
(南部)
小木林トシテ可ナリ
(槇村)
輪伐ニ供ヘタルト云ヘルハ定期採伐ニ供サルトスベシ
可決ス
(箕作)
樹木ト雖ドモトアルハ樹木ニシテトスルヲ可トス
可決ス
(渡)
「亦同シ」ト云フハ採伐スルヲ得ザルノ義ナルベシ
(栗塚)
拔取又ハ採伐スルヲモ得ザル義ナリ
(槇村)
採伐ニ供ヘザル樹木ト雖ドモ二十个年ヲ過ギザルトキハ採伐スルヲ得ベキヤ
(南部)
二十个年以下ト雖ドモ採伐スルヲ得ザルベシ
(栗塚)
二十个年以下ノ樹木ハ之ヲ採伐スベキモ差支ナシトス
(南部)
二十个年以内ニ於テハ拔取スルヲ得ルモ伐取スルヲ得ザルベシ
(栗塚)
拔取スルヲ得ルモノトセバ伐取スルニ妨ナキハ言ヲ竢タザルナリ
(淸岡)
二十个年以下ノ樹木ヲ伐取スルヲ得ルト云フ旨ヲ明スハ不可ナリ
(南部)
取除クトアルハ拔取ルトスベシ
可決ス
(元尾崎)
「亦同シ」「ハ伐採スルコトヲ得ス」トスベシ
可決ス
第百七十一條 永借人ハ如何ナル場合ニ於テモ所有者ノ承諾アルニ非サレハ主タル建物ヲ取除クコトヲ得ス從タル建物ト雖トモ其存立ノ時期カ貸借ノ期間ヲ超ユ可キモノハ亦同シ
無異議
第百七十二條 前二條ニ從ヒ永借人カ建物又ハ樹木ヲ取除キタルトキハ其物料及ヒ材木ハ所有者ニ屬ス
無異議
第百七十三條 永借人ハ其分限ヲ以テ地底ニ在ル鑛物ノ採掘ヲ繼續スルコトヲ得ス
永借人ハ採鑛ノ特許ヲ得タル者ヨリ所有者ニ拂ヘル償金ニ付キ何等ノ權利ヲモ有セス然レトモ右特許ヲ得タル者ノ地表ニ加ヘタル損害ノ爲メ賠償ヲ受クルノ權利ヲ有ス
無異議
第百七十四條 永借地ニ既ニ採掘ヲ始メ且特別法ニ從フヲ要セサル石類、石炭類其他ノ物ノ石坑アルトキハ永借人ハ其收益ヲ繼續ス
其石坑ヲ未タ採掘セス又ハ其採掘ヲ廢止シタルトキハ永借人ハ永借地ノ改良ノ爲メ石其ノ他ノ物料ヲ採取スルコトヲ得
(栗塚)
本條ハ採掘ヲ始メトアルヲ採掘ヲ始メタルトシ且特別法ニ從フテ要セザルト云フ文字及ビ「類」ヲ刪リタシ
(松岡)
原案ノ儘ヲ可トス
(栗塚)
石坑ニ關スル閣令ノ發布アレバナリ
(南部)
行政上ノ令達ニ依リ法文ヲ動カスハ不可ナリ
(栗塚)
改良ノ爲メトアルハ改良ノミノ爲メトシタシ
(元尾崎)
「ノミ」ハ記入スルニ及バズ
第百七十五條 永貸人ハ永貸借契約ノ當時ノ現狀ニテ永貸物ヲ引渡スモノトス
永貸人ハ貸借ノ期間大小修繕ヲ負擔セス
無異議
第百七十六條 意外ノ事又ハ不可抗ノ力ニ因リテ貸借ノ期間ニ起リタル毀損ハ借賃ヲ減スルノ理由ト爲ラス但第百八十一條ニ定メタル解除ノ權利ヲ妨ケス
(淸岡)
貸借ノ期間内ニ起リタル毀損ヲ等閑ニ附シ置クハ所有者ノ忍ビザルモノナレバ借賃ヲ減ジ借主ヲシテ其修繕ヲ爲サシムベシ
(槇村)
永貸借ハ地目ヲモ變換スルヲ得ベシ故ニ貸借期間内ハ永借人自己ノ收益ヲ害セザルヲ限リ修繕スベシ故ニ永貸人ハ其修繕ヲ負擔セザルモノトス
第百七十七條 永借物ニ賦セラルル通常又ハ非常ノ租稅其他ノ公課ハ永借人之ヲ負擔ス租稅法ニ依リテ永貸人ヨリ徵收スルトキハ永借人ハ之ヲ償還スルコトヲ要ス
(淸岡)
租稅法ト云ヘル上ニ「若シ」ト云フ文字ヲ挿入シタシ
(元尾崎)
租稅ハ永貸人ヨリ徵收サルベキモノナレベ本條ニ於テ永借人之ヲ負擔スト云フヲ示シタルベシ
第百七十八條 數人カ一箇ノ契約ヲ以テ一箇ノ不動產ヲ永借シタルトキハ借賃ヲ拂フノ義務ハ各永借人又ハ其相續人ニ在テハ連帶ニシテ且不可分ナリ
(栗塚)
本條ハ第百四十六條ノ次ニ移スノ建議アルモ此儘ニ附シタシ
(元尾崎)
建議案可ナリ
(村田)
建議案ハ動產中ニ入ルヲ以テ不可ナリ
(松岡)
一個ノ物體ヲ數人ニ貸借スルトキハ連帶スルヲ可トス
(栗塚)
本條ヲ連帶トスレバトテ尋常ノ賃貸借ニモ連帶ノ性質ヲ帶ハシメントスルハ不都合ト云フベシ
(淸岡)
尋常貸借ト永貸借トハ差別ヲ附シ置クヲ可トス
(栗塚)
本條ノ連帶ヲ採ラザルハ可ナルモ此ニ連帶トセシヲ以テ尋常貸借ノ場合ニモ連帶セシムルト云フハ暴論ナリ數人ノ永貸借ハ恰モ會社ノ如キヲ以テ連帶義務トスルニ差支ナキモ之ヲ尋常貸借ノ場合ニ及サントスルハ殆ンド其理由ノ存スル所ヲ知ラズ
(村田)
本條ヲ前ニ移スニ於テハ不動產ト云フ字ハ如何スルヤ之ヲ動產ニ適用スルヲ得ザルベシ
(元尾崎)
動產不動產トシテハ如何
(松岡)
建議ノ如ク二個ノ永字ヲ賃トシ第百四十六條ノ次ニ移ストシタシ
可決ス
(村田)
動產上ノ措置ニ適用スルヲ得ザルカ
(松岡)
動產ノ文字ナキ以上ハ之ヲ動產處分ニ適用スルヲ得ザルナリ
第百七十九條
起案者刪除ス
第百八十條 永貸人ハ三个年間引續キ貸賃ノ拂入ヲ受ケサルトキハ永貸借ノ解除ヲ請求スルコトヲ得
又永借人カ他ノ債權者ノ追訴ニ因リテ破產者又ハ無資力者ト宣言セラレタルトキハ永貸人ハ拂入ノ不足ノ多少ニ拘ハラス解除ヲ請求スルコトヲ得但其債權者カ借賃ヲ規約ニ依リテ拂入ルルコトヲ擔保スルトキハ此限ニ在ラス
(松岡)
本條ハ拂入ノ有無ニ拘ハラズ銷除ヲ請求スルヲ得ベキヤ
(村田)
拂入ノ有無ト云フ義ニアラズ拂入ヲ爲スモ些少ノ不足アルモ銷除スルヲ得ベキ義ニシテ拂入完淸シタル場合ヲ云フニアラズ
(元尾崎)
三个年間引續貸賃ノ拂入ヲ受ケザルニアラザレバ永貸借ノ銷除ヲ請求スルヲ得ザルニ假令無資力ト宣言セラレタルトキト雖ドモ拂入殘リアルトキニアラザレバ之ヲ銷除スベカラズト云フヲ至當トス
(栗塚)
規約ニ依リテトアルヲ延怠ナリトスベシ
(箕作)
現時拂入ニ些少ノ不足ヲ生ゼザルモ到底後時拂入ヲ爲スヲ得ザルモノナレバ卽チ以テ銷除ヲ請求スベシ
(元尾崎)
拂入完濟シタルニ無資力ト爲リタル爲メ其契約ヲ銷除サルルト云フハ苛酷ト云フベシ
(松岡)
破產無資力ト云フモノ銷除ノ要件ト云フベシ
(松岡)
厘毛ノ拂殘アリタルトキハ銷除スルヲ得完淸シタルトキハ銷除スルヲ得ズト云フ理由ヲ發見セズ
(南部)
解釋上各異ナレバ之ヲ起案者ニ質問スベシ
(淸岡)
永貸人租稅ヲ上納シタルモ賃借人之ヲ償還セザルトキハ如何
(松岡)
政府ハ一期分上納ヲ缺クモ公賣處分ヲ爲スニ永貸人ハ三个年ノ期間ヲ待タザルベカラズトハ不可ナリ
(村田)
貸賃ノ未拂三个年間引續カザレバ銷除スルヲ得ザルニ一期間租稅ノ償還ヲ得ザルヲ以テ其契約ヲ銷除サルルハ酷ナリ
(南部)
租稅ハ一期ノ不納アリト雖ドモ之ヲ公賣處分ニ附セラルルモノナレバ其償還ヲ爲サザルトキハ假令ヒ一期タリトモ銷除サルベシ
(渡)
第一項永貸人ハトアル下ニ第百七十七條ノ償還ヲ受ケズト云フ文字ヲ記入スベシ永借人ノ負擔ト云フハ永借人ニ對スル負擔ナラザレバ現行ノ租稅法ニ反スレバナリ
(尾崎)
第百七十七條ハ前議ニ從ヒタシ
(元尾崎)
呈書案ノ儘ニスベシ
(栗塚)
第百七十七條ノ前議ハ此呈書案ト意味ヲ異ニセザルナリ
結局第百七十七條ハ永借物ニ賦セラルル通常又ハ非常ノ租稅其他ノ公課ハ永貸人ヨリ之ヲ徵收スト雖ドモ永借人ハ之ヲ償還スルコトヲ要ストシ本條ハ第一項永貸人ハノ下「前條ノ償還ヲ受ケス又ハ」ト云ヘル數字ヲ挿入スルニ可決ス
第百八十一條 永借人ハ意外ノ事又ハ不可抗ノ力ニ因リテ三个年間引續キ全ク不動產ノ收益ヲ得ル能ハス又ハ其一分ノ毀損ニ因リテ將來ノ收益カ借賃ノ年額ヲ超エ可キ見込ナキトキハ永貸借ノ解除ヲ請求スルコトヲ得
無異議
第百八十二條 永借人カ永借地ニ加ヘタル改良及ヒ栽植シタル樹林ハ永貸借ノ終了又ハ其言渡サレタル取消ニ當リ賠償ナクシテ之ヲ殘置クモノトス
建物ニ付テハ通常賃、貸借ニ關シ第百五十六條ニ記載シタル規定ヲ適用ス
(栗塚)
本條ハ永借地ニ加ヘタルトアルヲ永借地ニ爲シタルトシ栽植シタル樹木ハトアルヲ栽植ハトシ終了ヲ滿期トシ其言渡サレタル取消トアルヲ其銷除トスベシ
(淸岡)
栽植ト云ヘルノミニテハ米麥ノ如キヲモ意味セラルルガ如シ
(箕作)
栽植シタル樹木トスルカ
(栗塚)
此點ハ報吿委員ノ修正ヲ採用セラレザレバ樹林ヲ樹木トセザルベカラズ
第二款 地上權
第百八十三條 地上權トハ他人ノ所有ニ屬スル土地ノ上ニ於テ建物又ハ樹林ノ完全ノ所有權ヲ以テ所有スルノ權利ヲ謂フ
(栗塚)
樹林ハ樹木トシ所有スルトアルヲ占有スルトスベシ
可決ス
第百八十四條 地上權設定ノ時其土地ニ建物又ハ樹林ノ既ニ存スルト否トヲ問ハス設定ノ基本、方式及ヒ公示ハ有償又ハ無償名義ノ不動產讓渡ノ通則ニ從フ
(栗塚)
本條ハ設定ノ基本トアルヲ設定行爲ノ基本トシ「有償又ハ無償名義ノ」ヲ刪リ通則ヲ一般ノ規則トスベシ
可決ス
第百八十五條 地上權者カ讓受ケタル建物又ハ樹林ノ存スル土地ノ面積ニ應シテ土地ノ所有者ニ定期ノ納額ヲ拂フ可キトキハ其權利及ヒ義務ハ其拂フ可キ納額ニ付テハ通常賃貸借ニ關スル規則ニ從ヒ其繼續スル期間ニ付テハ第百八十八條ノ規定ニ從フ
右納額ニ付テハ新ニ建物ヲ築造シ又ハ樹林ヲ栽植スル爲メ土地ヲ賃借シタルトキモ亦同シ
(栗塚)
本條ハ其拂フ可キ納額ニ付テハトアルヲ此事ニ付キトスベシ
(箕作)
此事ト云ヘルハ納額ヲ指スベケレバ原案ノ儘ヲ可トス
(淸岡)
舊案第百八十四條ハ刪除サレシヤ
(栗塚)
再調査員ニテ刪除シタリ
第百八十六條 既ニ存セル建物又ハ樹林ニ於ケル地上權ノ設定ニ際シ從トシテ之ニ屬ス可キ周邊ノ地面ヲ明示セサルトキハ左ニ揭クル規定ニ從フ
建物ニ付テハ地上權者ハ其建坪ノ全面積ニ均シキ地面ヲ得ルノ權利ヲ有ス此配置ハ鑑定人ヲシテ土地及ヒ建物ノ周圍ノ形狀ト建物ノ各部ノ用方トヲ斟酌セシメテ之ヲ爲ス
樹林ニ付テハ地上權者ハ其最長大ナル外部ノ枝ノ蔭蔽ス可キ地面ヲ得ルノ權利ヲ有ス
無異議
第百八十七條 地上權設定後ニ築造シタル建物又ハ栽植シタル樹林ニ付テハ地上權者ハ此種ノ物ノ爲メニ法律ヲ以テ相隣者ノ爲メニ規定シタル距離及ヒ條件ヲ遵守ス可シ縱令其相隣者カ地上權ノ設定者ナルモ亦同シ
又地上權者ハ働方又ハ承方ニテ其他ノ地役ノ規則ニ從フ
(栗塚)
此種ノ物ノ爲メトアルヲ此種ノ作業ノ爲メトシ相隣者ノ爲メニトアルヲ相隣者ニ命ジタルトシタシ
(槇村)
作業ト云フハ可ナリ相隣者ニ命ジタルハ不可ナリ其議ニ決ス
第百八十八條 既ニ存セル建物又ハ地上權者ノ築造ス可キ建物ニ付キ設定名義ヲ以テ地上權ノ繼續期間ヲ定メサルトキハ右建物ノ存立ニ均シキ時期間其權利ヲ設定シタルモノト推定ス但其大修繕ハ土地ノ所有者ノ承諾アルニ非サレハ之ヲ爲スコトヲ得ス
既ニ存セル樹林又ハ地上權者ノ栽植ス可キ樹林ニ付テハ其地上權ハ樹林ヲ採伐スル時期マテ又ハ其有用ナル最長大ニ至ル可キ時期マテ之ヲ設定シタリト推定ス
地上權者ハ一个年前ニ豫吿ヲ爲シ又ハ未タ拂期限ノ至ラサル納額ノ一个年分ヲ拂フトキハ常ニ解約申入ヲ爲スコトヲ得
其他地上權ハ通常賃貸借權ト同一ノ原因ニ因リテ消滅ス但所有者ノ爲ス解約申入ハ此限ニ在ラス
(栗塚)
本條末項其他地上權ハ云々ハ前項地上權者云々ト相轉置スベシ其他ト云フハ解約申入ヲ指スニアラズ採伐スル時期及ビ最長大ニ至ル可キ時期ヲ指シタレバナリ
可決ス
第百八十九條 建物又ハ樹林ハ契約前ヨリ存スルト否トヲ問ハス土地ノ所有者カ鑑定人ノ評償ニ從ヒ其讓渡ヲ要求セサルニ非サレハ地上權者之ヲ收去スルコトヲ得ス
地上權者ハ土地ノ所有者ニ先買權ヲ行フヤ否ヲ述フ可キノ催吿ヲ一个月前ニ爲シタルニ非サレハ右建物又ハ樹林ヲ收去スルコトヲ得ス
右先買權ニ付テハ此他尙ホ第七十三條ノ規則ニ從フ
(村田)
本條ハ建物又ハ樹林ハ契約前ヨリ存スルト否トヲ問ハズトアル以下ヲ地上權者ハ云々ト連接セシメ兩項ノ區別ヲ廢止シタシ第七十三條ト對照シテ斯ク修正セザルベカラズトス
(元尾崎)
賣ルコトヲ得ズト云フ意義ナラバ可ナリト雖ドモ收去スルコトヲ得ズト云フヲ禁ズルハ不可ナリ
(箕作)
地上權者トアル下ニ之ヲ賣ラントスルトキハト云フ文字ヲ加入スレバ可ナリ
(元尾崎)
一个月前ニ爲シタルトキ云々トアルヲ一个月前ニ爲スコトヲ要ストスベキ可決ス
第百九十條 本法頒布ノ時ニ存スル地上權ハ左ノ規定ニ從フ
期限ヲ立テテ設定シタル地上權ハ其期限ニ至リ當然消滅ス
期限ヲ立テスシテ設定シタル地上權ハ第百八十八條ニ從ヒ建物ノ存立ト同シク繼續ス
右兩樣ノ地上權ハ共ニ第百八十九條ニ規定シタル先買權ニ服ス
(元尾崎)
期限ニ至リ當然消滅スト云ヘルハ習慣ニ背反スベシ
(栗塚)
習慣ニ背反スルニアラズ
(元尾崎)
契約上何時タリトモトアルトキハ如何
(南部)
何時タリトモト云ヘルハ期限ニアラズ
(栗塚)
第百八十九條トアルハ前條トスベシ
可決ス
(栗塚)
第二十三章畜類ノ賃貸借ニ關シ農商務省ニ間合セシニ農務局長ノ返答ニハ三但州抔ニ於テハ羊ノ貸借ハアラザルモ牛馬ニ付テハ貸借ノ習慣アリテ其貸借ハ或ハ分娩ヲ目的ニスルモノアリ或ハ使用ヲ目的ニスルアリ使用ヲ目的トスル貸借ハ貸主他ノ牛馬ヲ貸付シテ初貸ノ牛馬ト換替スルヲ得ルモ分娩ヲ目的トスル貸借ハ期限中他ノ牛馬ヲ以テ之ニ換替スルヲ得ズト右領承ノ儘之ヲ議場ニ報吿スト
債權擔保編
總則
第千一條 債務者ノ總財產ハ動產ト不動產ト現在ノモノト將來ノモノトヲ問ハス其債權者ノ共同ノ擔保ナリ但法律ノ規定又ハ人ノ處分ニテ差押ヲ禁シタル物ハ此限ニ在ラス
差押ヘタル財產カ債務者ノ總テノ義務ヲ辨濟スルニ足ラサル場合ニ於テハ其價額ハ債權ノ目的、原由、體樣ノ如何ト日附ノ前後トニ拘ハラス其債權額ノ割合ニ應シテ之ヲ各債權者ニ分與ス但其債權者ノ間ニ優先ノ正當ナル原因アルトキハ此限ニ在ラス
財產ノ差押、賣却及ヒ其代價ノ順序又ハ共分ノ配當方式ハ民事訴訟法ヲ以テ之ヲ規定ス
(栗塚)
原由トアルハ原因ノ誤ニシテ又總テノ義務トアルヲ總義務トスベキモ本員ハ敢テ之ヲ贊成セザルナリ
(松岡)
差押タル財產トアル「差押ヘタル」ノ五字ハ必要ヲ見ズ
(元尾崎)
總義務ト云フハ不可ナリ又差押ヘタル財產ト云ヘルハ其財產トスルヲ可トス
(栗塚)
債務者ノ財產ガ總テノ義務ヲ辨濟スルニ足ラザル場合ニ於テハトシテハ如何
可決ス
(元尾崎)
體樣ハ方式トスルヲ得ザルヤ
(栗塚)
方式ト云フ文字ハ證書ノ方式ト云ヒ之ニ使用シ來レバナリ
(箕作)
末項代價ノ順序トアル下ニ配當ノ二字ヲ挿入シ共分ノ配當方式トアルヲ共分配當ノ方式ハトシタシ
可決ス
第千二條 義務履行ノ特別ノ擔保ハ對人ノモノ有リ物上ノモノ有リ
對人擔保ハ左ノ如シ
第一 保證
第二 債務者間又ハ債權者間ノ連帶
第三 任意ノ不可分
物上擔保ハ左ノ如シ
第一 留置權
第二 動產質權
第三 不動產質權
第四 先取特權
第五 抵當權
(村田)
對人擔保ト云ヘルハ奇異ノ感ナキニアラズ
(栗塚)
以下各個ノ定解ヲ與ヘタルモノナレバ本條ハ此儘ニ經過シタシ
第一部對人擔保
第一章保證
第千三條 保證ハ任意ノモノアリ法律上ノモノ有リ又裁判上ノモノ有リ
下ノ第一節乃至第三節ノ規定ハ右三種ノ保證ニ共通ナリ
(村田)
本條ハ最初別項ヲ刪除シタルニアラズヤ
(栗塚)
最初附錄ノ部分ヲ節ニ改メタルヲ以テ斯ク示シ置クヲ可トス
第一節保證ノ目的及ヒ性質
第千四條 保證ハ或ル人カ第三者ノ其義務ヲ履行セサルニ於テハ之ヲ履行スルコトヲ諾約スル契約ナリ此義務ハ債務者ノ過失ニ歸ス可キ不履行ノ場合ニ於テハ債權者ニ賠償スルノ義務ヲ暗ニ包含ス
(村田)
諾約スル契約ナリトアルハ約スル契約ナリトシテハ如何
(南部)
此義務ハトアルヲ此約務ハトスベシ
(松岡)
義務ヲ暗ニ包含ストアルモ約務ヲ暗ニ包含ストスベシ
可決ス
(元尾崎)
第三者トアルハ債務者トシタシ
可決ス
(松岡)
不履行ト云フハ不能トスベシ
(箕作)
不履行ト云フニテ妨ナシ
(栗塚)
假令バ金子ヲ返還スベキニ之ヲ返還セザルヲ云フベシ
(松岡)
其場合ハ履行セザルト云フ中ニ包含スベシ
第千五條 保證ハ主タル義務ノ目的ト異ナルモノヲ目的ト爲ストキハ保證トシテハ無效ナリ
然レトモ保證人ハ主タル債務者ノ諾約シタル物又ハ所爲ノ對價トシテ不履行ヲ豫見シタル過怠金額ヲ有效ニ諾約スルコトヲ得
(松岡)
對價ト云ヘル文字ハ商法中報酬ト云フ意義ニ使用シタリ
(元尾崎)
原案ニテ不可ナシ
第千六條 保證人ノ義務ハ主タル義務ヨリ一層大ナルコトヲ得ス又一層重キ體樣ニ服スルコトヲ得ス若シ保證人ノ義務カ一層大ナル又ハ一層重キトキハ主タル義務ノ限度及ヒ體樣ニ之ヲ減ス
(松岡)
最初ハ一層大ナルノ下「トキ」ト云フ文字アリ如何
(村田)
「トキ」ヲ記入スベシ
可決ス
第千七條 前條禁止ノ規定ハ債務者ヨリ其主タル義務ノ爲メ物上擔保ヲ供セサルトキ保證人ヨリ其從タル義務ノ物上擔保ヲ供スルコトヲ妨ケス又保證人カ主タル債務者ヨリ一層嚴ナル執行方法ニ服スルコトヲモ妨ケス
保證人ハ亦第三者ヲ引受人トシテ己レヲ保證セシムルコトヲ得此引受人ニ對シテハ保證人ハ主タル債務者ノ資格ヲ有ス
(松岡)
資格ヲ有スト云フハ嚴然威示スルガ如シ
(箕作)
演劇者ノ役割ノ如キモノトス
(村田)
位置ヲ有ストシテハ如何
(北畠)
地位トシタシ
(元尾崎)
地位ニ在リトストシタシ
(松岡)
地位ヲ有ストスベシ
可決ス
第千八條 金額又ハ定マリタルモノニ制限シタル保證ハ其利息ニモ果實ニモ其他ノ附從物ニモ及フコト無シ
然レトモ主タル義務ノ無限ノ保證ハ要約シタル利息、遲延ノ利息其他右債務ノ天然上、法律上又ハ合意上ノ附從物ニ及ヒ又主タル債務者ニ對シテ爲シタル最初ノ訴ノ費用及ヒ其訴ヲ保證人ニ吿知シタル以後ノ費用ニモ及フ
(元尾崎)
本條ハ假令バ元債ノミノ保證ニ止マル旨ヲ記示セザルヲ得ザルヤ
(栗塚)
然リ
第千九條 總テ有效ナル義務ハ之ヲ保證スルコトヲ得
無能力者ノ取消スコトヲ得ヘキ義務ト雖トモ亦有效ニ之ヲ保證スルコトヲ得其義務カ裁判上ニテ取消サレタル後ト雖トモ保證ハ其效力ヲ存ス但保證人カ其保證ノ際債務者ノ無能力ヲ知リタルトキニ限ル
其他第三者ノ自然義務ノ法定保證ノ場合ハ第五百八十八條以下ニ於テ之ヲ規定ス
(栗塚)
本條末項ハ自然義務ノ議決ニ至ルマデ未定ニ附セラレタシ其議ニ決ス
第千十條 何人ニテモ將來ノ債務ヲ保證スルコトヲ得又債權者又ハ債務者ノ方ニ於テ隨意ノ條件ニ繋ル債務ヲモ保證スルコトヲ得但保證人ニ於テ其債務ノ性質及ヒ廣狹ヲ査定スルコトヲ得ルトキニ限ル
(松岡)
本條ハ最初「將來」ノ下物ヲ目的トスルト云フ文字アリ如何
(渡)
然リ物ヲ目的トスルト云フ文字ヲ示シ置キタシ
(委員長)
將來ノ債務ヲ保證スルト云フハ向後ニ屬スル義務ヲ云フヤ
(村田)
向後ノ事項ヲモ包含スベシ
第千十一條 何人ニテモ債務者ノ委任ヲ受ケ又ハ其不知ニ於テ又其意ニ反シテモ其保證人ト爲ルコトヲ得
辨濟シタル保證人ノ其債務者ニ對スル求償ノ場合ハ第二節第二款ニ於テ之ヲ規定ス
(松岡)
佛蘭西民法ハ委任ヲ受ケ又ハ其不知ニ於テト云フ規定アルノミ
(元尾崎)
其意ニ反シテモト云フハ奇怪千萬ト云フベシ
(南部)
其意ニ反シテモト云フヲ刪除スルモ代位辨濟アルヲ以テ恰モ其意ニ反シテ保證サレタルト同一ノ結果ヲ見ルベシ
第千十二條 有效ニ保證人ト爲ルニハ無償名義ニテ義務ヲ負擔スルノ能力ヲ有スルコトヲ要ス
然レトモ主タル契約カ有償名義ナルトキハ保證人ノ債務者ニ對スル無能力ハ債權者カ之ヲ知リタルトキニ非サレハ保證人ヨリ債權者ニ其無能力ヲ以テ對抗スルコトヲ得ス
(元尾崎)
利息付ノ貸金ハ有償名義ナルヤ
(栗塚)
雙務契約ニアラズト雖ドモ有償名義タルベシ
第千十三條 債務ヲ保證スルノ意思ハ之ヲ明示セサルトキハ明ニ事情ヨリ生スルコトヲ要ス然レトモ其意思ハ契約者ノ一方ヲ他ノ一方ニ勸メ又ハ其一方ノ現在若クハ將來ノ有資力ヲ確言シタル事實ノミヨリ之ヲ推測スルコトヲ得ス
若シ證書ノ署名者中ノ一人カ共同債務者ナリヤ又ハ保證人ナリヤニ付キ疑アルトキハ之ヲ保證人ト看做ス
(箕作)
第二項ノ場合ハ現今多々アリ
(南部)
單ニ借用證文ニ連名シタルトキハ皆連帶者ト視認スベシ
(淸岡)
「ナリヤ」ト云ヘルハ「ナルヤ」トスベシ
可決ス
第千十四條 保證人ノ義務ハ其相續人ノ負擔ニ歸シ又債權者ノ相續人ノ利益ニ歸ス但反對ノ要約アルトキハ此限ニ在ラス
(松岡)
要約ハ約務トスベシ原案ニ決ス
第千十五條 債務者カ保證人ヲ立ツ可キ合意ヲ以テ義務ヲ負ヒタルトキハ其債務者ハ債務ノ本性及ヒ重要ニ關シ有資力ノ人ニ非サレハ保證人トシ又ハ保證人ノ引受人トシテ之ヲ立ツルコトヲ得ス
若シ右ノ保證人又ハ其引受人カ無資力ト爲リタルトキハ債務者ハ前項ト同一ノ條件ヲ具フル他ノ者ヲ立ツルコトヲ要ス
其他保證人ハ辨濟ノ有ル可キ控訴院ノ管轄地内ニ於テ住所ヲ有シ又ハ之ヲ選定スルコトヲ要ス
債權者ヨリ人ヲ指定シテ保證人ヲ要約シタルトキハ前記ノ條件ヲ要セス
(栗塚)
前記ノ文字ヲ本條トシ本性ノ文字ヲ性質トスベキニ然ラザリシハ誤ナリ
(松岡)
實際ハ本條ノ必要ナシ
(元尾崎)
控訴院ノ管轄地内ニ住居スル者ヲ保證人ニ選定スベキモノトセバ假令バ東京ノ債務者ニシテ新潟人ヲ以テ保證トスルニ至ルベシ
(栗塚)
報吿委員中ニハ始審裁判所ノ管轄内トスベシト云フモ然カスルトキハ區域狹隘ニ失シ保證人ヲ得難シト云フニアリ
(箕作)
又ハ保證人ノ引受トシノ數字ヲ刪除スベシ
可決ス
(栗塚)
保證人ノ引受人ト云フヲ明記セザルモ可ナルベシ依テ第一項「又ハ保證人ノ引受人トシ」第二項又ハ「其引受人」ノ數字ヲ刪除スベシ
可決ス
(委員長)
重要ニ關シト云フハ妥當ナルヤ
(箕作)
重要ノ加減ト云フ義ナリ
(委員長)
重要ニ關シト云ヘルハ大小ニ應ジトスベシ
可決ス
第千十六條 債務者カ前條ノ條件ヲ具フル保證人又ハ引受人ヲ立ツルコト能ハサルトキハ裁判所ノ認可ヲ得テ物上擔保ヲ與フルコトヲ得
(箕作)
「又ハ引受人」ヲ刪ルベシ
可決ス
(村田)
裁判所ノ認可ヲ得テト云フ文字ヲ刪ルベシ保證人ヲ立ツルコト能ハザルトキハ裁判所ノ認可ナキモ物上擔保ヲ與フルノ外ナシ
(栗塚)
保證人ヲ立ツベキ契約ニシテ物上擔保ヲ付與サレテハ迷惑ナルニアラズヤ
(村田)
債權者モ保證人ヲ認メザル前貸金スルト云フハ債權者ノ粗忽ト云フベシ
(栗塚)
債務者ハ最初誰某ヲ以テ保證人ニ立ツベキ契約ナルニ其契約ノ目的ナル人物ヲ保證人ニ立テズシテ粗大ノ擔保物ヲ供與セラルルコトアルハ債權者ハ困迷ナルベシ
(村田)
誰某ヲ保證人ニ立ツベキ指定ノ意味ナシ
(南部)
物上擔保ノ上ニ十分ナルト云フ文字ヲ挿入スレバ可ナリ
可決ス
第千十七條 商證券ノ保證ノ特例及ヒ仲買人カ委託者ニ對シテ諾約シタル擔保ハ商法ニ於テ之ヲ規定ス
(箕作)
本條「ノ特例」ノ文字ハ「擔保」ノ下ニ轉入スベシ
可決ス
第二節保證ノ效力
第一款保證人及ヒ債權者間ノ保證ノ效力
第千十八條 債權者ハ債務者ニ義務履行ノ催吿ヲ爲シタルモ其效果アラサリシコトノ證據ヲ保證人ニ示サスシテ之ヲ訴追スルコトヲ得ス
然レトモ債務者カ行方知レス又ハ破產ノ宣吿ヲ受ケ若クハ顯然タル無資力ノ形狀ニ在ルトキハ右ノ催吿ヲ必要トセス
無異議
第千十九條 保證人ハ右ノ外下ノ制限及ヒ條件ニ從ヒ債權者カ豫メ債務者ノ財產ヲ檢索シテ之ヲ賣ラシムルコトヲ債權者ニ要求スルコトヲ得
無異議
第千二十條 保證人ハ明示又ハ默示ニテ財產檢索ノ利益ヲ抛棄シ又ハ主タル債務者ト連帶シテ義務ヲ負擔シタルトキハ檢索ノ利益ヲ享ケス
總テノ場合ニ於テ保證人ハ主タル債務ノ基本ヲ爭フノ前ニ檢索ノ利益ヲ以テ債權者ニ對抗セサリシトキハ其利益ヲ失フ
(箕作)
保證人ガ主タル債務者ト連帶シテ義務ヲ負擔シタルトキハト云フハ保證人ナルカ連帶債務者ナルカ判然セス
(栗塚)
最初保證人ナリシトキ半途ニ於テ連帶債務者トナルコトアルベシ
(南部)
半途ニ連帶債務者トナルニアラズ保證人ト連帶債務者トノ兩資格ヲ包有スルモノナルベシ
第千二十一條 檢索ヲ要求スル保證人ハ債務者ノ不動產ニシテ辨濟ノ有ル可キ控訴院ノ管轄地内ニ在ルモノヲ債權者ニ指示スルコトヲ要ス
保證人ハ爭ニ係ル不動產ヲモ又他ノ債權者ニ優先ニテ抵當ト爲リタル不動產ヲモ又訴追シタル債權者ニ抵當ト爲リタル不動產ニシテ第三所持者ノ手ニ存スルモノヲモ指示スルコトヲ得ス
債務者ニ屬スル動產ニ付テハ債務者之ヲ物上擔保トシテ既ニ債權者ニ供シタルトキニ非サレハ保證人其檢索ヲ要求スルコトヲ得ス
(松岡)
檢索ハ債務者ノ取有ニ係ル動產ニ施スヲ得ザルヤ
(栗塚)
動產ハ轉々シ易キモノナレバ爲ス能ハズ
(委員長)
訴追シタル債權者ト云ヘルハ此事柄ニ關スル債權者ナリヤ
(栗塚)
然リ
(淸岡)
動產ヲ檢索セザルハ不可ナリ
(松岡)
商賣ノ如キハ不動產ヨリモ寧ロ動產ヲ有スルモノ多カルベシ然ルヲ動產ヲ檢索セザルハ不都合ト云フベシ
(委員長)
土藏ハ之ヲ檢索スルヲ得ルモ記名公債ノ如キハ之ヲ檢索スルニ差支アラズ
(栗塚)
隱匿スルコトヲ得ザル動產ハ物上擔保ニ供シタルト云フニテ取締ヲ附スルヲ得ベシ
(松岡)
報吿委員ニテ修正ヲ乞ヒタシ其議ニ決ス
第千二十二條 債權者檢索ノ有效ナル對抗ヲ受ケ其檢索ヲ爲スコトヲ怠リテ債務者其後無資力ト爲リタルトキハ保證人ハ債權者ノ檢索ニ因リ得タルコト有ル可キ金額ニ滿ツルマテ其義務ヲ免カル
無異議
第千二十三條 一人ノ債務者ノ爲メ數人ノ保證人アルトキハ債務ハ均一ニテ當然其間ニ分タル但不均一ニテ分別スルコトヲ定メ又ハ其保證人カ或ハ債務者ト共ニ或ハ各自ノ間ニ連帶シテ義務ヲ負擔シ若クハ其他ノ方法ニテ分別ヲ抛棄シタルトキハ此限ニ在ラス
保證ノ義務カ各別ノ證書ヨリ生スルトキト雖モ分別ノ利益ハ存在ス
(栗塚)
分割ノ文字ヲ分別トシタリ
第千二十四條 保證人ハ檢索ノ利益ヲ用ヰタルト否ト分別ノ利益ヲ享クルト否トヲ問ハス訴追ヲ受ケタルトキハ第千二十九條ニ明示シタル目的ヲ以テ債務者ヲ訴訟ニ參加セシムル爲メ基本ニ付テノ答辯前ニ民事訴訟法ニ定メタル方式及ヒ條件ニ從ヒ延期抗辯ヲ以テ債權者ニ對抗スルコトヲ得
(元尾崎)
基本ニ付テノ答辯ト云フハ如何
(栗塚)
本案ニ於ケル答辯ヲ云フ
第千二十五條 保證人カ基本ニ付テ答辯スルトキハ主タル債務ノ組成又ハ其消滅ヨリ生スル抗辯又ハ不受理ノ理由ヲ以テ債權者ニ對抗スルコトヲ得
保證人ハ債務ヲ保證スルニ當リ債務者ノ無能力又ハ其承諾ノ瑕疵ヲ知ラサリシトキハ是等ノ事項ヨリ生スル無效ノ理由ヲ以テモ對抗スルコトヲ得
(箕作)
又ハ不受理ノ理由ヲ以テト云フハ必要ヲ見ズ
(栗塚)
卽チ不受理ノ理由ト云フニ過ギザレバ刪除スベシ
可決ス
第千二十六條 右ノ抗辯ニ付キ債權者ト保證人トノ間ニ有リタル判決ハ債務者ヲ害スルコトヲ得ス然レトモ之ヲ利スルコトヲ得但其判決ノ牽連シタル箇條ハ債務者ニ利ナルモノト不利ナルモノトヲ分ツコトヲ得ス
無異議
第千二十七條 債務者ニ對シテ時效ヲ中斷シ又ハ債務者ヲ遲滯ニ付スル行爲ハ保證人ニ對シテ同一ノ效力ヲ生ス
保證人ニ對シタル右同一ノ行爲ハ保證人カ債務者ノ委任ヲ受ケ又ハ債務者ト連帶シ義務ヲ負擔シタルトキニ非サレハ債務者ニ對シテ效力ヲ生セス
無異議
第千二十八條 主タル債務者ノ爲シタル債務ノ自白又ハ認知及ヒ債務者ト債權者トノ間ニ爲シタル裁判外ノ宣誓又ハ其拒絕ハ保證人ヲ利シ又ハ之ヲ害ス
保證人ト債權者トノ間ニ爲シタル右同一ノ所爲ハ債務者ヲ利ス然レトモ委任又ハ連帶アル場合ニ非サレハ之ヲ害セス
(栗塚)
本條ハ裁判外ノ宣誓ト云フニ付キ最初之ヲ留保ニ付シタルモ未ダ決セザルナリ
第二款 保證人及ヒ債務者間ノ保證ノ效力
第千二十九條 債權者ヨリ訴追ヲ受ケタル保證人ハ第四百十九條及ヒ第千二十四條ニ揭ケタル如ク主タル請求ニ對シ債務者ノ答辯ヲ爲サシムル爲メ擔保ノ附帶ノ請求ヲ以テ債務者ヲ訴訟ニ召喚スルコトヲ得又保證人ハ其敗訴ノ言渡ニ附隨シテ債務者ニ對シ次條ニ定メタル賠償ノ言渡ヲ求ムルコトヲ得
右擔保ノ附帶ノ請求ハ債務者ノ委任ヲ受ケテ義務ヲ負擔シタル保證人ノミニ屬ス
(栗塚)
本條ハ債務者ヲ訴訟ニ召喚スルコトヲ得ト云ヘルト債務者ニ對シ賠償ノ言渡ヲ求ムルコトヲ得ト云ヘルトノ兩義ヲ包含シタルニ舊案ニテハ債務者ヲ訴訟ニ召喚スルヲ得ト云ヘル一義ヲ有スルニ過ギザルガ如シ
(松岡)
本條ハ債務者ヲ召喚スルト云フヲ本旨トスルニアリ擔保ノ附帶ノ請求ヲ以テト云ヘルハ卽チ賠償ノ言渡ヲ求ムル爲メニアルベシ又訴訟ニ參加セシムル爲メ附帶ノ請求ト云フコトナシ
(南部)
前決議案ニ復スルヲ可トス
可決ス
(淸岡)
第二項ハ「擔保ノ」ヲ刪ルベシ
(栗塚)
別項ハ此儘ニ附スベシ
可決ス
(淸岡)
第一項ハ附帶ノ請求トアル上ニ「擔保ノ」ト云ヘル三字ヲ加ヘ置クヲ可トス
可決ス
第千三十條 主タル債務ヲ辨濟シ其他自己ノ出捐ヲ以テ債務者ニ義務免除ヲ得セシメタル保證人ハ債務者ヨリ賠償ヲ受クル爲メ之ニ對シテ擔保訴權ヲ有ス但左ノ區別ニ從フ
第一 保證人カ債務者ノ委任ヲ受ケテ義務ヲ負擔シタルトキハ其債務者ニ義務免除ヲ得セシメ又ハ債務者ノ名ニテ辨濟シタル元利、其擔當シタル費用、立替ヲ爲シタル時ヨリ其利息其他損害アルトキハ其賠償ノ金額ヲ債務者ヨリ償還セシムルコトヲ得又此委任ノ場合ニ於テ保證人ハ其分限ヲ以テ言渡ヲ受ケタル時ハ直チニ其賠償ヲ受クル爲メ訴ヲ爲スコトヲモ得
第二 保證人カ債務者ノ不知ニテ義務ヲ負擔シタルトキハ債務者ノ義務免除ノ日ニ於テ之ニ得セシメタル有益ノ限度ニ從ヒ右ノ賠償ヲ受ク
若シ保證人カ債務者ノ意ニ反シテ義務ヲ負擔シタルトキハ保證人ノ求償ノ日ニ於テ債務者ノ爲メ存在スル有益ノ限度ニ非サレハ右ノ賠償ヲ受クルコトヲ得ス
(箕作)
自己ノ出捐ヲ以テト云フハ俗ニ所謂自腹ヲ切ルト云フガ如シ
(栗塚)
義務免除トアルハ義務ヲ免レシメタルトスベシ
可決ス
(淸岡)
委任ヲ受ケテ義務ヲ負擔シタルト云フハ允當ニアラズ囑託ヲ受クルト云フ義ナレバナリ
(南部)
委任ヲ受ケト云フニテ不可ナシ
第二十三章 畜類ノ賃貸借
第一節 畜類ノ尋常ノ賃貸借
第九百九十二條 畜類ノ尋常ノ賃貸借ハ賃貸人カ牛、羊、馬其他ノ家畜ノ全群又ハ若干頭ヲ看守シ飼養シ及ヒ世話スル責ニ任スルノ賃貸借ナリ
特別ノ契約ナキトキハ賃借人ハ產子、絨毛ノ一半及ヒ乳、卵、肥料ノ全部ヲ收取シ且專ラ其畜類ヲ使役スルノ權利ヲ有ス
畜類賃借人ノ權利ハ物權ニシテ之ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得但反對ノ契約アルトキハ此限ニ在ラス
(栗塚)
畜類ノ賃貸借ニ付テハ嘗テ委員長ノ命令ニ依リ過日農商務省ニ出頭シ農務局長ニ質問シタレバ農務局長ハ嘗テ他府縣ヲ巡回セシメタル屬官ヲ召シ下問シタル所長野福島其他山陰道ノ諸縣ニ於テハ牛馬ニ關スル賃貸借アリト其目的ハ使用ニ供スルモノアリ又ハ產子ヲ得ントスルニアリテ使用ニ供スルモノハ期限中ト雖モ他ノ牛馬ヲ以テ之ニ換替スルヲ得ルモ產子ヲ得ントスルモノハ期限中ハ他ノ牛馬ヲ以テ之ニ換替スルヲ得ズト此等ハ元來佐賀縣ニ創肇スルモノナリト云ヘリ然ルニ羊ノ賃貸借ト全群又ハ若干頭ヲ賃貸借スルトノ習慣ハ未ダ本邦中ニ存在セザルナリト云フ
(南部)
畜類繁殖漸々夥多ニ至リ其使用モ愈繁多ニ趣クトキハ是非共本則ヲ存在セシムルヲ可トス
(村田)
農商務省ニ在ル類例ノ如キハ尋常ノ賃貸借ニ依テ以テ支配スルヲ得ベシ
(淸岡)
畜類ノ貸借ノ規定ヲ民法中ニ揭ゲタルニ依リ別段民法ノ體面ヲ毀損セザルベシ
(栗塚)
畜類ノ貸借本邦中ニ存在セザレバ各別ナリト雖モ既ニ其習慣ノ存在セル以上ハ本邦ノ規定ニシテ前來ノ習慣ニ適合スルヤ否ヤヲモ研究セザルベカラズ
(松岡)
本法ノ畜貸借ハ從來ノ習慣ニ反スルノ結果ヲ見ルノ恐ナキヤ
(尾崎)
本法畜類ニ關スル各條ハ之ヲ實際上ニ適用セントスルモ恐クハ能ハザルベシ
(淸岡)
畜貸借ノ規定ヲ全廢スルハ不可ナルニ依リ各條ニ付キ其可否ヲ研究スベシ
(元尾崎)
此點ハ速了ノ議決ニ附セズ農商務省ニ附セズ農商務省ニ此原案ヲ送付シ意見ヲ聽キ愈之ヲ規定スベキ必要アレバ日後特別法ヲ以テ發布スルモ妨ゲナシ
(委員長)
最初此點ハ如何ニ論決シタルカ
(栗塚)
一時廢案ニ歸セントシタルモ尙ホ農商務省ニ質問スベシト云フニテ未決ニ附シタリシナリ
(松岡)
此規定ハ必ズ制文法ニ明記セザルモ其他ノ習慣上ニテ差支ヲ生ジタルニ非ラザル以上ハ其習慣ニ委シテ可ナリ
(委員長)
畜類ノ繁殖ハ隨次退減スルカ隆盛ニ赴クカト云ヘバ必ラズヤ隆盛ニ赴クニハ相違ナシ故ニ一般畫一ノ規定アラザルトキハ各地其規則ヲ異ニシ又主務省ニ於テハ其不都合ヲ感覺スルニ於テハ其權限ノ許ス限リハ自由ニ其規程ヲ制作スベシ
(栗塚)
大地主數ガ多ノ小作ヲ約スルガ如ク畜類所有者ハ之ヲ小農ニ貸付スベシ
(淸岡)
民法中ニハ蜂蜜ニ關スル條項ヲ規定シタルニ畜類ニ關スル規定ヲ缺如スルハ奇異ナリ
(委員長)
此規定ヲ全刪スレバ習慣ニ依ルヲ得ザルベシ何トナレバ民法中ニ賃貸借ノ款節アルヲ以テナリ
結局多數決ヲ以テ本章ヲ刪除ス
第千三十一條 連帶又ハ不可分ニテ責ニ任スル數人ノ債務者ヨリ保證人ニ委任ヲ爲シタル場合ニ於テハ其債務者ハ第九百四十五條ニ從ヒ保證人ニ對シ連帶ノ擔保人タリ
(栗塚)
保證人ハ債務者ノ擔保ト爲リ債務者ハ保證人ノ擔保ト爲ルベシ
第千三十二條 債務者ヲ訴訟ニ參加セシムルコトヲ怠リタル保證人ハ其債務者カ債權者ニ對抗ス可キ排訴抗辨ヲ有シタルコトヲ證明スルトキハ第千三十條ニ定メタル求償權ヲ有セス
若シ債務者カ債權者ニ對抗ス可キ延期抗辨ノミヲ有シタルトキハ懈怠ノ保證人ノ求償ニ對シ之ヲ以テ對抗スルコトヲ得
(栗塚)
本條ハ證明トアルヲ疏明トスベシ
(松岡)
本條ハ證明ト云フヲ可トス
(栗塚)
證明ノ文字ハ前ニモ記載セザルニ依リ證明ノ儘ニテ可ナルト云フ精神ナレバ證スルトスベシ
可決ス
(松岡)
證スルト云ヒ疏明ト云フガ如キ異字同意ハ訴訟法ト一樣ニシタシ
(栗塚)
關係ノ文字ハ都度々々訴訟法組合ヘ通知セリ
(委員長)
只通知ノミニテハ協議ヲ得ザルニ付キ能ク熟議スベシ
(箕作)
懈怠ノ保證人トアルハ懈怠ナル保證人トスベシ
可決ス
第千三十三條 保證人ハ有效ニ辨濟シタルモ債務者ニ有益ニ其旨ヲ通知スルコトヲ怠リ爲メニ債務者カ善意ニテ再ヒ辨濟シ其他有償名義ニテ自己ノ免責ヲ得タルトキモ亦其求償權ヲ失フ
右ニ反シテ債務者カ自ラ債務ヲ消滅セシメタルコトヲ保證人ニ通知スルコトヲ怠リタルトキハ債務者ハ場合ニ從ヒ其債務ノ消滅後保證人ノ爲シタル辨濟ニ付キ責任アリトノ宣吿ヲ受ケルコトアリ
孰レノ場合ニ於テモ利害ノ關係アル當事者ハ受取ルコトヲ得サルモノヲ受取リタル債權者ニ對シテ求償權ヲ有ス
(松岡)
本條第二項ハ場合ニ從ヒ云々責任アリトノ宣吿ヲ受クルコト有リト云ヒシハ場合ニ從ヒ責任アリトシテハ如何
(元尾崎)
原案ノ儘ニシテ可ナリ
(栗塚)
松岡委員ノ論難ハ法意ニアラズシテ文字上ニ過ギザルベシ原案ニ可決ス
第千三十四條 委任ヲ受ケテ義務ヲ負擔シタル保證人ハ辨濟ヲ爲ス前又訴追ヲ受クル前ニテモ債務者ヨリ豫メ賠償ヲ受クル爲メ又ハ未定ノ損失ヲ擔保セシムル爲メ左ノ三箇ノ場合ニ於テ之ニ對シ訴ヲ爲スコトヲ得
第一 債務者カ破產シ又ハ無資力ト爲リ且債權者カ淸算ノ配當ニ加入セサルトキ
第二 債務ノ滿期ノ到リタルトキ
第三 滿期ノ不定ナル債務カ其日附ヨリ十个年ヲ過キタルトキ
(松岡)
淸算配當ノ手續ヲ破產又ハ無資力ニ適用スベキモノト云フトキハ無資力ト云フハ商事上ノ破產ト異ナルナキヤ
(栗塚)
無資力ハ破產ト手續ヲ同フスルモ原因及ビ結果ヲ同セズ破產ハ既往ニ遡ル效力ヲ有スベシト雖モ無資力ト云フトキハ否ラザルナリ
(元尾崎)
民法中ニハ無資力ノ手續ナシ
(箕作)
財產差押ヲ爲シタレバ迚無資力ニアラズ自ラ破產法ノ手續ニ依ラザルベカラズ
(元尾崎)
第千一條ハ無資力ニ適用スル手續トナラザルカ
(松岡)
動產差押ハ別ニ公吿ノ手續ヲ盡スニアラザレバ之ヲ淸算配當ニ加入スルヲ得ズ
(栗塚)
起案者ノ精神ハ自己ノ財產ニ超過スル債務ヲ負フタルトキハ無資力トナリ其手續ハ破產手續ト異ナラズ
(箕作)
訴訟法ハ差押ノ規定ニ過ギズ無資力處分ノ手續ニアラザレバ其方法ヲ訴訟法ニ明記セザルベカラズ
(栗塚)
差押ニハ先取特權ヲ有スト云ヘルコトアラザレバ差押ノ手續ハ無資力處分ノ方法タルベシ
(南部)
無資力ト云フハ差押ノ結果ニシテ差押手續ヲ盡シタル後無資力ト云ヘルヲ惹起スベシ
(栗塚)
無資力ト云フハ假令バ數債權者一債務者ニ償還ヲ要ムル爲メ其債務者ノ財產差押ヲ爲シタルニ其財產數債權者ニ辨償スルヲ得ザルトキハ各債權者ハ互ニ幾何ノ損分ヲ受ケザルベカラズト云フニ至ルベシ卽チ無資力ト云フベシ
(委員長)
此點ハ井上報吿委員ノ主意ヲ要スベキモノナレバ尙ホ同人ニ吿知シ置クベシ
第千三十五條 債權者カ完全ノ辨濟ヲ受ケサル間ハ前條及ヒ第千三十條ニ依リ債務者ヨリ豫メ保證人ニ供ス可キ賠償ハ債務者其債權者ニ對スル自己ノ免責ヲ保スル爲メ債權者ノ名ヲ以テ之ヲ供託シ又ハ其他ノ方法ニテ之ヲ留畜スルコトヲ得
(栗塚)
留畜ハ留保ノ誤ナリ
(渡)
留保ハ留存トスベシ
可決ス
第千三十六條 主タル債務ヲ辨濟シタル總テノ保證人ハ第千三十二條及ヒ第千三十三條ニ定メタル制限ニ從フニ於テハ己レノ權利ニ基キ有スル訴權ノ外債務者又ハ第三者ニ對シテ債權者ノ有シタル總テノ權利ニ付キ第五百四條第一號ニ從ヒテ代位ス
若シ債權者カ債務者ノ不動產ニ付キ先取特權又ハ抵當權ヲ有シ其記入ヲ爲シタルトキハ保證人ハ代位ヲ目的トシテ自己ノ條件付ノ債權ヲ右記入ノ縁邊ニ附記セシムルコトヲ得又讓渡ノ場合ニ於テハ其不動產ヲ所持スル第三者ハ滌除ノ爲メ債權者ノ外保證人ニ對シテモ亦提供ヲ爲スコトヲ要ス
債權者カ有益ナル時期ニ於テ右ノ記入ヲ爲ササリシトキハ保證人ハ第五百三十四條及ヒ第千四十五條ニ從ヒ債權者ニ對シテ自己ノ免責ヲ請求スルコトヲ得
(松岡)
附記セシムルトアルハ附記スルコトトスベシ
可決ス
(松岡)
第一項ハ債務ヲ辨濟シタル保證人ハ代位訴權アルヲ示シタルニ第二項ニハ若シ債權者云々ニテハ意義連慣セザルナリ
(元尾崎)
第二項ハ保證人未ダ辨濟セザル場合ナリト云フハ之ヲ推知スルヲ得ベシト雖モ前項トノ脈絡貫通セザルガ如シ
(松岡)
此一條ハ之ヲ兩條ニ分離シテハ如何
(委員長)
意味稍明鬯ヲ缺クベキモ別ニ利害ニ關係セザルベケレバ原案ノ儘ニスベシ
可決ス
第千三十七條 連帶又ハ不可分ナル義務ノ數人ノ債務者アルトキハ保證人ハ其中或ル者ヲ保證シ他ノ者ヲ保證セサルトキト雖モ右ノ代位ニ依リ債務者ノ各自ニ對シ全部ニ付キ求償スルコトヲ得
(元尾崎)
債務者中既ニ辨濟シタルモノアルトキ如何
(南部)
連帶義務ナルヲ以テ償還セザルヲ得ズ
(松岡)
前條第二項若シヲ刪ルベシ
可決ス
(栗塚)
右記入トアルハ別條ニアラザレバ此記入トスベシ
可決ス
第三款 共同保證人間ノ保證ノ效力
第千三十八條 一箇ノ債務ニ付キ數人ノ保證人アリテ其中ノ一人カ任意ナルト否トヲ問ハス債務ノ全部ヲ辨濟シタルトキハ其保證人ハ主タル債務者ニ對スル求償ニ關シ上ニ記載シタル條件、制限及ヒ區別ニ從ヒ或ハ事務管理ノ訴權ニ因リ或ハ債權者ノ訴權ニ因リ他ノ保證人ノ各自ニ對シ均一部分ニ付キ求償スルコトヲ得
右ノ保證人カ債務ノ全部ヲ辨濟セスシテ自己ノ部分ヨリ多ク辨濟シタルトキハ其超過額ノ爲メノ求償ハ他ノ共同保證人ノ間ニ均一ニ分タル
(栗塚)
第二項均一ニ分タルト云ヘルハ均一ニ之ヲ分ツトスベシ
可決ス
第千三十九條 共同保證人中ニ無資力者アルトキハ辨濟シタル者ハ其無資力者ノ引受人ニ對シテ求償權ヲ有ス若シ引受人アラサルトキハ無資力者ノ部分ハ債務ヲ辨濟シタル者ヲ加ヘル他ノ有資力ナル共同保證人ノ間ニ於テ之ヲ分配ス
(南部)
之ヲ分配スノ上「於テ」ノ文字ハ贅字ナレバ刪除スベシ
可決ス
(委員長)
之ヲ分配ストアルハ前條ト等シク之ヲ分ツトスベシ
可決ス
第千四十條 前條ニ依リ訴ヲ受ケタル共同保證人ハ未タ主タル債務者ノ財產ノ檢索アラサルトキハ第千二十條以下ニ定メタル規則及ヒ條件ニ從ヒ豫メ主タル債務者ノ財產ノ檢索ヲ請求スルコトヲ得
右同一ノ權利ハ保證人ノ引受人ニモ屬ス
無異議
第千四十一條 連帶又ハ不可分ナル債務ノ爲メ義務ヲ負擔シタル數人ノ保證人中全部履行ニ付キ訴ヲ受ケタル者ハ本訴ニ附帶シテ共同保證人ヲ擔保ノ爲メ召喚シ之ニ對シ同一ノ判決ヲ以テ前數條ニ許サレタル言渡ヲ受シムルコトヲ得
(栗塚)
受シムルコトヲ得トアルハ受ケシムルコトヲ得トスベシ
可決ス
第千四十二條 保證人ノ一人ニ對スル時效中斷又ハ付遲滯ノ行爲ハ他ノ保證人ニ對シテ其效ナシ但其義務カ連帶ナルトキハ此限ニ在ラス
債權者ト保證人ノ一人トノ間ニ主タル債務ニ關シ爲サレタル判決、自白、認知及ヒ裁判外ノ宣誓又ハ其拒絕ハ他ノ保證人ヲ利スルコトヲ得然レトモ之ヲ害スルコトヲ得ス
(栗塚)
本條第二項ハ例ニ依リ未定ニ附セラレタシ
(元尾崎)
同一證文ニ連名スルモ之ヲ連帶トスルヲ得ザルカ
(村田)
連帶ハ連帶ト云ヘル明記ナカラザルベカラズ
第千四十三條 保證人ノ一人又ハ數人カ無資力ト爲リタルトキハ相互ニ連帶シ又ハ債務者ト連帶シタル保證人ノ間ニ第千六十八條、第千六十九條及ヒ第千七十條ヲ其各條ニ記載シタル區別ニ從ヒ適用ス
(元尾崎)
本條ハ債務者ト共同保證人トノ關係ノ如キカ
(栗塚)
然ラズ
(箕作)
保證人ノ間ニトアルヲ保證人ノ一人又ハ數人ノ無資力ト成リタルトキハ各保證人ノ間ニトシテハ如何
(松岡)
相互ニ連帶シ又ハ債務者ト連帶シタル保證人ガ無資力ト爲リタル者アリタルトキハ各保證人ノ間ニ第千六十八條云々トシテハ如何
可決ス
第三節 保證ノ消滅
第千四十四條 保證ハ義務消滅ノ通常ノ原因ニ由リ直接ニ消滅ス
保證ノ更改、免除、相殺及ヒ混同ハ第五百二十四條、第五百三十三條、第五百四十三條及ヒ第五百六十條ニ於テ之ヲ規定ス
(元尾崎)
消滅スト云ヘルハ保證義務消滅スルト云フ義カ
(箕作)
然リ
第千四十五條 債權者カ故意又ハ懈怠ニテ保證人ノ其代位ニ因リテ取得スルコトヲ得ヘキ擔保ヲ滅シ又ハ危クシタルトキハ保證人ハ債權者ニ對シ自己ノ免責ヲ請求スルコトヲ得
總テ保證人ハ區別ナク又保證人ノ引受人ハ保證人ノ權利ニ基キ右ノ權利ヲ援用スルコトヲ得
無異議
第千四十六條 保證ハ主タル義務消滅ノ總テノ原因ニ由リ間接ニ消滅ス
債權者ト主タル債務者トノ間ニ爲シタル代物辨濟、更改、免除、相殺及ヒ混同ノ保證人ニ對スル效力ハ第四百八十二條、第五百二十三條、第五百二十八條、第五百四十三條及ヒ第五百六十條ニ於テ之ヲ規定ス
(委員長)
條順ニハ相違ナキヤ
(栗塚)
條順ハ起案者ノ原案ノ儘ナリ
第四節 法律上及ヒ裁判上ノ保證ニ特別ナル規則
第千四十七條 法律ノ規定又ハ判決ニ從ヒ保證人ヲ立ツルノ責アル者ハ自ラ保證人ヲ立テント約束シタルトキト同一ニシテ第千十五條及第千十六條ニ定メタル如キ條件ヲ具フル保證人ヲ立ツルコトヲ要ス
法律上及ヒ裁判上ノ保證人ヲ承認スルノ手續ハ民事訴訟法ニ於テ之ヲ規定ス
(松岡)
法律上及ヒ裁判上ノ保證人ヲ承認スルノ手續ハ訴訟法ニ規定セザルベカラズ
第千四十八條 裁判所ハ法律カ裁判執行ノ爲メ保證人ヲ立テシムルノ權能ヲ付與シタル場合ニ非サレハ之カ爲メ保證人ヲ立ツ可キコトヲ命スルコトヲ得ス
無異議
第千四十九條 裁判上ノ保證人モ其引受人モ財產檢索ノ利益ヲ有スルコトヲ得ス
無異議
第千五十條 法律上及ヒ裁判上ノ保證人ハ其債務者ニ對スル擔保ノ求償ニ關シテハ常ニ之ヲ債務者ノ代理人ト看做ス
(栗塚)
債務者ノ代理人ト看做スト云フハ事務管理者ニ非ラザルヲ示セリ
(箕作)
前條保證人モトアルハ保證人及ビトスベシ
可決ス
第二章 債務者間及ヒ債權者間ノ連帶
總則
第千五十一條 義務ノ目的單數ナルモ主タル當事者トシテ之ニ關係スル人複數ナルトキハ其義務ハ第四百五十八條ニ指示シ且下ノ二節ニ說明スル如ク受方又ハ働方ニテ連帶タルコト有リ
(松岡)
說明ト云フ文字ハ法文ニハ不都合ナラズヤ
(栗塚)
記載スル如クトスベシ
可決ス
第二節 債務者間ノ連帶
第一款 債務者間ノ連帶ノ性質及ヒ原因
第千五十二條 債務者間ノ連帶卽チ受方連帶ハ共同債務者ヲシテ其共通ノ利益ニ於テモ又債權者ノ利益ニ於テモ相互ニ代人タラシム
此連帶ハ合意、遺言又ハ法律ノ規定ヨリ生スルコトヲ得
連帶ハ之ヲ推定セス如何ナル場合ニ於テモ明示ニテ之ヲ定ムルコトヲ要ス但不可分ニ關シ第千八十九條ニ記載シタルモノハ此限ニ在ラス
(村田)
第千八十九條ト云ヘルハ最初第千九十一條トアリ
(栗塚)
起案者更ラニ第千九十條ト改正シ來レリ
第千五十三條 數多ノ債務者ノ連帶義務ハ同一ノ行爲ヲ以テ又同時同所ニ於テ之ヲ契約スルコトヲ要セス但其義務ノ目的及ヒ原因ハ同一ナルコトヲ要ス
又連帶債務者ハ別異及ヒ不均一ノ體樣又ハ負擔ヲ以テ責ニ任スルコトヲ得
(元尾崎)
別異ト云フハ如何
(栗塚)
利息附ト利息附ニアラザルトノ別アルヲ云フ
(元尾崎)
斯ノ如キハ體樣ニアラズヤ
(栗塚)
別異ノ體樣ト云フ義ナリ
(村田)
期限附又ハ無期限ト云ヘルガ如シ
第二款 債務者間ノ連帶ノ效力
第千五十四條 數人ノ連帶債務者ヲ有スル債權者ハ其訴追セント擇ミタル債務者ニ對シ唯一人ノ債務者ニ於ケル如ク且其債務者ヨリ檢索又ハ分別ノ利益ノ抗辯ヲ受クルコト無ク義務全部ノ履行ヲ要求スルコトヲ得
又債權者ハ皆濟ヲ受クルニ至ルマテ同時又ハ順次ニ總債務者ヲ訴追スルコトヲ得
(松岡)
「利益ノ」ト云ヘル三字ハ刪除シテハ如何
(南部)
前ニモ檢索ノ利益トシタルヲ以テ利益ト云フ字ハ存シ置キタシ
可決ス
第千五十五條 各債務者ハ訴ヲ受ケタルト否トヲ問ハス連帶債務全部ノ辨濟ヲ受取ルコトヲ債權者ニ強要スルコトヲ得
無異議
第千五十六條 連帶債務者ニシテ債務ニ於ケル全部又ハ自己ノ部分ヨリ多額ニ付キ訴ヘラレタル者ハ共同債務者ヲ訴訟ニ召喚スル爲メ必要ナル期間ヲ請求スルコトヲ得
且附帶ノ擔保方法ヲ以テ其債務者ヲシテ答辯又ハ辨濟ヲ分擔セシムル爲メ必要ナル期間ヲ請求スルコトヲ得
共同債務者ハ亦其利益保護ノ爲メ任意ニ自費ヲ以テ訴訟ニ參加スルコトヲ得
(栗塚)
本條且附帶云々ト云フヲ第二項トシタルハ誤ナリ分擔セシムル爲メト云フハ一分ノ擔任ナリヤ又ハ必ズ辨濟スベキヤト云フニ付キ起案者ニ質問中ナリ
(淸岡)
召喚シ且附帶ノト接屬セシムベシ
(元尾崎)
召喚セシムル爲メトシテハ如何
(松岡)
召喚セシムル爲メニアラズ答辯若クハ辨濟ヲ分擔セシムル爲メト云フニアリ
結局召喚シ附帶ノ擔保云々ト接屬セシムルニ決ス
(元尾崎)
末項「亦」ヲ除去スベシ
(村田)
除去スルニ及バズ
第千五十七條 連帶債務ノ履行ノ爲メ訴ヲ受ケタル各債務者ハ自己ノ權利ニ基クト共同債務者ノ權利ニ基クトヲ問ハス義務ノ組成又ハ消滅ヨリ生スル答辯方法ヲ以テ債務ノ全部ニ付キ債權者ニ對抗スルコトヲ得
右ノ外更改、免除、相殺及ヒ混同ニ關シテハ第五百二十三條、第五百二十八條、第五百三十一條、第五百四十三條及ヒ第五百五十七條ノ規定ニ從フ
(村田)
權利ニ基キト云ヘルハ英文ニテハ利益ニ基キト云フ意味トス
(栗塚)
身柄ト云フ義ニシテ從前權利ト爲シ來レリ
第千五十八條 債務者ノ一人ノ無能力又ハ承諾ノ瑕疵ニ基キタル答辯方法ハ其人自身ニ非サレハ之ヲ申立ツルコトヲ得ス然レトモ右ノ答辯方法カ一旦許容アリタル上ハ債務ニ於ケル其物ノ部分ニ付キ他ノ債務者ヲ利ス但他ノ債務者カ契約ノ際義務履行ニ付キ其者ノ分擔ヲ豫期スルコトアリタルトキニ限ル
(村田)
右ノトアルヲ前例ニ從ヒ「此」トスベシ
可決ス
(栗塚)
豫期スルコトアリヲ豫期スルコト有リトスベシ
第千五十九條 前二條ニ規定シタル種々ノ事項ニ付キ債權者ト債務者ノ一人トノ間ニ爲サレタル判決、自白及ヒ裁判外ノ宣誓又ハ其拒絕ハ他ノ債務者ノ利害ニ於テ前二條ニ等シキ限度及ヒ區別ヲ以テ其效力ヲ生ス
(栗塚)
宣誓ハ例ニ依リ未定ニ附セラルベシ
可決ス
第千六十條 一人ノ債務者ノ他ノ債務者ニ於ケル連帶ノ成立ノミニ關シテ其一人ト債權者ノ間ニ爲サレタル判決、自白及ヒ裁判外ノ宣誓又ハ其拒絕ハ他ノ債務者ヲ害セス又之ヲ利セス
(南部)
其一人ト債權者トノ間ニ爲サレタルトアルヲ其一人ト債權者トノ間ニ爲シタルトスベシ
(松岡)
其一人ト債權者トノ間ニト云ヘバ冒頭一人ノ債務者ノ他ノ債務者ニ於ケルトアル文字ハ徒冗ニアラズヤ
(南部)
然ラズ
(箕作)
一人ノ債務者ト他ノ債務者トノ間ニ於ケルトシタシ
可決ス
第千六十一條 連帶債務者ノ一人ニ對シ債權者ノ利益ニ於テ時效ヲ中斷シ又ハ付遲滯ヲ成ス原因ハ他ノ債務者ニ對シテ同一ノ效力ヲ有ス
債務者ノ一人ニ對シ債權者ノ利益ニ於テ存スル時效停止ノ原因ハ他ノ債務者ノ利益ニ於テ其部分ノ爲メ時效ノ經過ヲ妨ケス
(箕作)
第二項利益ニ於テトアルニ由リ經過ヲ妨ゲズトアルヲ經過スルヲ妨ゲズトスベシ
(村田)
經過ノ文字ハ第三百十一條ニ於テ進行ノ文字ヲ使用シタル例ニ從ヒタシ
可決ス
(委員長)
時效停止ト云フハ如何ナル場合カ
(村田)
幼年者若クハ婚姻等ノ場合ヲ云フ
第千六十二條 若シ連帶債務者ノ一人カ數名ノ相續人ヲ遺シテ死亡シタルトキハ他ノ債務者ノ一人ニ關スル訴追ノ行爲、判決、自白及ヒ宣誓又ハ其拒絕ハ其各相續人ニ對シ債務ノ全部ニ於ケル其相續部分ノ割合ニ非サレハ效力ヲ生セス
各相續人ハ亦其相續部分ノ割合ニ非サレハ訴追セラレス又前記ノ行爲ノ效力ヲ受ケス此場合ニ於テ前記ノ行爲ハ亦從來ノ債務者ノ各自ニ對シ同一ノ限度ヲ以テ其效力ヲ生ス
債權者ト右相續人ノ一人トノ間ニ爲サレタル右同一ノ所爲ハ他ノ相續人ニ對シテ效力ナシ
(村田)
第一項冒頭ノ「若」ハ冗字ナレバ刪除スベシ
可決ス
(元尾崎)
數人ノ相續人アラザルニ數人ノ相續人トスルハ不可ナリ英國ノ如キハ法律上相續人ハ一人ニシテ他ハ遺言ニ依レリ
(尾崎)
從來數人ノ相續人ト云フモノナシ此民法ニ於テ初テ制定セントスルニアリ
(元尾崎)
相續人ニ關スルコトハ人事篇ニ於テ規定スベキ筈ナルニ未ダ人事篇ヲ議セザルニ先ンジ數人ノ相續人アリトスルハ甚ダ不可ナリ
(松岡)
本條ノ數名ノ相續人ト云ヘルハ人事篇ニ於テ數名ノ相續人ヲ認ムルトキハ恰當レ若シ人事篇ニ於テ數名ノ相續ヲ認メザルトキハ之ヲ適用セザルニ止マルベシ
(渡)
本條ノ數名ノ相續人ト云ヘル文字ハ最初人事篇ニ讓リ置ク筈ニアラズヤ故ニ人事篇ニ於テ數名ノ相續人ト云フヲ認メザルトキハ本條ノ數名ノ相續人トアル文字ヲ刪除セザルベカラズ
(松岡)
人事篇ノ議定ハ未ダ知ルベカラザルニ擔保篇ノ如キハ先ヅ頒布ヲ要スベキモノナレバ日後此文字ヲ刪除スルニ不都合ナルベシ
(北畠)
本條ノ數名ノ相續人ト云フ文字ハ刪除シテハ如何
(松岡)
數名ノ承繼人トシテハ如何
(委員長)
此種ノ議論ハ屡起ルモノト雖モ最早民法ヲ制定セザル以上ハ此事實ハ認メ置クコトトセザルベカラズ從前ハ數名ノ相續人ト云フ可キ名義ナキモ其事實ナキニアラザルナリ
(元尾崎)
從前ハ受遺者ナキニアラザルモ數名ノ相續人ト云フモノナシ
(委員長)
從來ハ失踪者アリテ正統ノ相續人ナキトキハ親戚之ヲ分取スルカ又ハ親戚ナキトキハ町村ノ管理ニ歸スベシ相續ト云フ名稱ハ平穩ナリトセザレバ別ニ稱謂ヲ求ムベシ兎モ角モ數名ノ相續人ト云フ如キモノアルヲ認メザルベカラズ
(尾崎)
本條ハ先ヅ此儘ニ經過シ其得失ハ人事篇ノ議ヲ待テ之ヲ決スベシ
(委員長)
此ニ數名ノ相續人ト云フ文字アルモ之ヲ口實トシテ人事篇ヲ議スルモノニアラザルナリ
(槇村)
從來ノ經驗上裁判所構成法抔ヲ引キ推シ通サレタル例アレバ確カニ留保セザレバ此儘ニ經過スルヲ得ズ
(元尾崎)
人事篇ヲ議スルトキ此點ニ於ケル決議ノ精神ヲ以テ推シ通サザルヲ期スベカラズ
(淸岡)
本邦ニハ從來ノ習慣上相續人ノ定リアルニ此ニ數名ノ相續人ト云ヘル文字アルトキハ人心ヲシテ疑惑ノ巷ニ彷徨セシムベシ
(栗塚)
人事篇ト關係ヲ有スルト云フニテ該篇ヲ議スル際ニ讓ルベシ
(委員長)
人事篇ノ議決ニ關係アルニ付キ急ニ之ヲ議決セント云フニアリトスレバ早ク人事篇ヲ議セザルヲ得ズ
(南部)
此點ハ此儘ニ經過シ他日人事篇ニ於テ數名ノ相續ヲ認メズシテ自然本條ニ撞着ヲ生ズルトキハ其際ニ當テ之ヲ刪除スルノ外ナカルベシ
(委員長)
本條ハ相續ノ規定ヲ立ツルモノニアラズ其處分法ニ止マルモノナレバ至重ノ關係ヲ有スルニモアラズ
(栗塚)
相續ト云フ上ニ財產ト云ヘル文字ヲ冠シテハ如何
(松岡)
財產相續トスルモ別ニ紛論ヲ避クルコトヲ得ズ
(槇村)
最早數刻ヲ移シタレバ可否ヲ決セラレタシ
(村田)
既ニ第七百三十一條ニ於テ數名ノ相續ト云ヘル事實ヲ認メ可決シタレバ更ラニ可否決ヲ擧グルノ必要ヲ見ザルナリ
(松岡)
相續人ヲ數名トスルカ一名トスルカト云フニ付キ未ダ可決セズ
(尾崎)
何レ人事篇ヲ議スルニ當テ其得失ヲ決シ其場合ニ於テ本條ト牴觸ヲ生ズルトキハ數名ノ相續人ト云ヘル文字ヲ刪ルモ可ナリ
(渡)
本條ノ若シノ文字ハ最初萬一此等ノ事實アルトキハト云ヘル意味ヲ以テ之ヲ存シ置キタル覺ヘアレバ之ヲ存在スベシ
(村田)
若シト云フ文字アルハ本條ニ限ラズ
(渡)
若シバ存スベシ
第千六十三條 義務ノ目的物ノ滅失其他總テ義務履行ノ不能カ連帶債務者ノ一人ノ過失ニ因リ又ハ其付遲滯ニ生スルトキハ他ノ債務者ハ債權者ニ對シ連帶シテ損害賠償又ハ過怠約款ノ責ニ任ス但過失アリ又ハ遲滯ニ在リシ債務者ニ對スル他ノ債務者ノ求償權ヲ妨ケス
債務者ノ一人カ死亡シタルトキハ他ノ債務者及ヒ死者ノ相續人トノ相互ノ責任ハ前條ノ規定ニ從フ
(栗塚)
第二項「相續人トノ」ハ「相續人ノ」トスベシ
(松岡)
第一項其付遲滯後ニ生ズルトキハト云ヘルト其付遲滯後ニ生ズルコトアルモト云フ意味ニシテ一人ノ文字ヲ受クルモノナレバ生ズルトキハト云フハ不可ナリ
(南部)
原案ノ儘ニテ妨ゲナシ
第千六十四條連帶債務者中ニテ債務ヲ辨濟シ其他自己ノ出捐ヲ以テ共同ノ免責ヲ得セシメタル者ハ他ノ債務者ニ對シ辨濟又ハ免責ノ限度ニ於テ其各自ノ負擔部分ニ付キ自己ノ權利ニ基キ求償權ヲ有ス
右ノ求償中ニハ會社及ヒ代理ノ規則ニ從ヒ辨償金及ヒ必要ナル出捐ノ賠償ノ外辨償以後ノ法律上ノ利息及ヒ避クルコトヲ得サリシ費用ヲ包含ス
(元尾崎)
會社及ビ代理ノ規則ニ從ヒト云フハ如何
(栗塚)
社員五相ノ權ト云フニアリ
(尾崎)
社員中當前出資スベキ外立替金其他ノ出資ヲ爲シタルトキハ其賠償ヲ得ベシ
第千六十五條 債務ヲ辨濟シタル債務者ハ債權者ノ實際受取リタルモノノ限度ニ於テノミ第五百四條第一號ニ從ヒ法律上ノ代位ニ因リ其債權者ノ權利及ヒ訴權ヲ行フコトヲ得
然レトモ其債務者ハ前條ニ記載シタル如ク其共同債務者ノ各自ノ間ニ於テ自己ノ訴ヲ分ツコトヲ要ス
無異議
第千六十六條 不注意ニテ辨濟シタル保證人ニ對シ第千三十二條及ヒ第千三十三條ニ規定シタル求償ノ失權ハ訴追又ハ辨濟ヲ共同債務者ニ吿知スルコトヲ怠リタル連帶債務者ニ對シ之ヲ適用ス
無異議
第千六十七條 共同債務者ノ一人カ上ニ指示シタル方法ノ一ニ因リ求償ノ行ハレタル當時ニ於テ無資力ナルトキハ無資力者ノ部分ハ辨濟シタル者ヲモ加ヘテ他ノ資力アル者ノ間ニ割合ニ應シテ之ヲ分配ス但要求者ノ責ニ歸スヘキ懈怠アリシトキハ此限ニ在ラス
(箕作)
求償ノ行ハレタルト云ヘルハ求償ヲ爲シタルトシテハ如何
(栗塚)
求償ヲ爲シタルトスルヲ得ズ求償アリタルトキハトシテハ如何
(元尾崎)
求償ノ行ハレタルト云フハ如何
(栗塚)
共同債務者ノ一人他ノ債權者ヨリ求償セラレタル場合ヲ云フ
(南部)
求償ノ行ハレタルト云フヲ可トス
可決ス
第千六十八條 何等ノ辨濟モ有ラサル前ニ連帶債務者ノ一人ノ無資力ト爲リタルトキハ債權者ハ其債權ノ全額ニ付キ淸算ニ加入スルコトヲ得
此場合ニ於テ辨濟ノ殘額ハ他ノ債務者之ヲ負擔ス但其債務者ノ自己ノ部分外ニ負擔シタルモノニ對スル求償ハ其淸算ニ加ハリタル他ノ債權者ヲ害スルコトヲ得ス
無異議
第千六十九條 債務者ノ一人ノ無資力ト爲リタル前ニ一分ノ辨濟アリタルトキハ債權者ハ辨濟殘額ノ爲メニ非サレハ其淸算ニ加ハルコトヲ得ス又一分ノ辨濟ヲ爲シタル他ノ債務者ハ第千六十四條ニ從ヒ自己ノ受取ル可キモノヲ辨償セシムル爲メ淸算ニ加ハルコトヲ得
無異議
第千七十條 何等ノ辨濟モ有ラサル前ニ總テノ連帶債務者又ハ其中ノ數人ノ無資力ト爲リタル場合ニ於テ債權者ハ其債權ノ全額ニ付キ各淸算ニ加ハルコトヲ得
然レトモ債權者カ淸算ノ一ニ於テ配當金ヲ受ケタルトキハ他ノ淸算ニ於テ其債權ノ全額ニ從ヒ債權者ニ充テタル新配當金ハ以前ノ配當ニ於テ未タ受取ラサルモノノ割合ニ應スルニ非サレハ之ヲ債權者ニ拂渡スコトヲ得ス
右拂渡ノ殘額ハ各淸算ニ返償ス但各淸算ノ辨濟シタルモノノ割合ニ從フ
無異議
第三款 債務者間ノ連帶ノ終了
第千七十一條 債權者カ總債務者ニ對シテ連帶ヲ抛棄スルトキハ第四百五十八條第一項ニ規定シタル如ク其債務者ノ義務ハ單ニ連合ノモノトナリテ存シ其他ノ性質ヲ變スルコト無シ
(渡)
連帶ヲ抛棄スルト云フコトハ如何
(南部)
債權者ガ債務者ニ對シ連帶ヲ宥恕スルヲ云フニアリ
第千七十二條 第五百三十二條ニ從ヒ明示又ハ默示ニテ債務者ノ一人又ハ數人ニ對シテノミ連帶ノ抛棄アリタルトキハ他ノ債務者ハ連帶ノ免除ヲ得タル者ノ部分ニ於テノミ其義務ヲ免カル
若シ連帶ノ免除ヲ得サル債務者中ニ無資力者アルトキハ債權者ハ其無資力ニ付キ連帶ノ免除ヲ得タル者ノ部分ヲ負擔ス
(松岡)
第二項「若シ」ヲ存シタルハ如何
(栗塚)
間違ナリ
第千七十三條 債權者カ連帶債務者ノ一人ヨリ供シタル擔保ニシテ他ノ債務者ノ辨濟シテ代位スルコトヲ得ヘキモノノ全部又ハ一分ヲ毀損シ又ハ滅失セシメタルトキハ他ノ債務者ハ其擔保ヲ供シタル者ノ部分ニ付キ連帶ノ義務ヲ免レント請求スルコトヲ得
右ノ請求ニ因リ宣吿シタル免責ハ連帶ノ任意免除ト同一ノ效力ヲ有ス
(栗塚)
免責ハ免除トス可シ
可決ス
(元尾崎)
本條ハ如何ナル意義カ
(南部)
債權者自カラ擔保物ヲ毀損シタルニ付毀損ノ部分ニ於ケル損害ハ自己ニテ負擔セザルベカラズト云フニ在リ
第四款 全部義務
第千七十四條 第三百九十八條、第五百十九條第二項及ヒ其他法律カ數人ノ債務者ノ義務ヲ其各自ニ對シ全部ノモノト定メタル場合ニ於テハ相互ニ代理ニ付シタル連帶ノ效力ヲ適用スルコトヲ得ス但其總債務者又ハ其中ノ一人カ債務ノ全部ヲ辨濟スルノ言渡ヲ受ケタルトキモ亦同シ
然レトモ一人ノ債務者ノ爲シタル辨濟ハ債權者ニ對シ他ノ債務者ヲ免レシム又辨濟シタル者ハ事務管理ノ訴權ニ依リ又ハ債權者ノ代位訴權ニ依リ他ノ債務者ニ對シ其部分ニ付キ求償權ヲ有ス
(栗塚)
本條ハ連帶ト同義ナルガ如クナリト雖モ連帶中相互ニ代理スルヲ得ザルナリ
(元尾崎)
求償權ヲ有セザルカ
(松岡)
求償權ナキニアラズ事務管理ノ性質ニ屬スベシ
(栗塚)
起案者モ不十分ナル連帶ナリト云ヘリ最初ヨリ代理者ノ資格ヲ有スルモノナシ故ニ時效ヲモ中斷スルヲ得ズ又利息ヲモ附スルコトヲ得ズ
(松岡)
連帶ト云フハ明示ニアラザルベカラズト云フニアルヨリ其明示ナキトキハ全部義務ヲ負擔スベシト云フニ作爲シタルモノナルベシト雖モ此結果ヲ事務管理ト視認スルハ不可ナリ事務管理ト云フハ任意ノモノナルニ全部義務ハ必竟強制上ノ負擔ト云フガ如キニ外ナラザレバナリ
(栗塚)
單ニ全部ノ義務ヲ辨濟シタルモ連帶ノ明約アラザルニ連帶ト同效果ヲ生ゼシメテ可ナリヤ
(松岡)
此種ノ如キハ連帶ト云ヘル性質ヲ生ゼズ
(栗塚)
起案者之ヲ事務管理ト視タルハ義務者互相間ニ於テセズ權利者ガ求償スベキ義務者其人ニ向テ之ヲ事務管理者ト看タルモノト云フベシ
(尾崎)
訴訟ヲ受ケタル義務者ノ一人ハ此加害ハ自己一人ノ所爲ニアラザル旨主張シ他ノ共ニ加害シタルモノヲ參加セシムルヲ得ザレバ如何
(松岡)
其參加ヲ許シタルトキハ連帶トナルベケレバナリ尾崎參加ヲ許サザルトキハ訴訟ヲ受ケタル義務者ノ一人ハ頼々迷惑ナル地位ニ陷レルモノト云フベシ求償權アリト雖モ其效ヲ見ズ
(元尾崎)
連帶ハ合意ニアラザレバ成立セズト云フ原則アルヲ以テ此種ノ如キハ連帶トスルヲ得ザルニ至レリ
(栗塚)
連帶ニモ法律上ノ連帶ト云フモノアルヲ以テ必ズ合意アリト云フヲ要セズ
(元尾崎)
訴訟ヲ受ケタル義務者ノ一人ハ他ノ義務者ヲ參加セシメントスルモ得ベカラズ要償スルモ他ノ義務者之ニ應ゼザルトキハ訴訟ヲ受ケタル義務者ハ危險極マルト云フベシ
(栗塚)
第五百十九條ノ註解ヲ閲釋アリタシ註解ヲ閲スレバ純然タル連帶ハ不十分ナル連帶トノ差異アルヲ覺知スベシ
(松岡)
本條ハ第三百九十八條ト云ヘル文字ヲ刪除スルニ止ムベシ該條ハ全ク連帶ノ性質ヲ具スルモノナレバナリ
(尾崎)
起案者ニ質問ノ上ニテ決シタシ
其議ニ決ス
第二節 債權者間ノ連帶
第一款 債權者間ノ連帶ノ性質及ヒ原因
第千七十五條 債權者間ノ連帶卽チ働方連帶ハ權利ノ保存及ヒ行使ニ付キ其債權者ヲシテ互ニ代人タラシム
此連帶ハ合意又ハ遺言ヨリ生スルコトヲ得
(村田)
法律ノ規定ト云フヲ刪除シタルハ如何
(栗塚)
法律ノ規定ノ場合何レニアリヤト云フヲ起案者ニ質問シタルニ之ヲ除去シ示セリ
第千七十六條 數人ノ連帶債權者ニ對スル債務者ノ約務ハ同一ノ行爲ヲ以テ又同時同所ニ於テ之ヲ契約スルコトヲ要セス但其義務ノ目的及ヒ原因ハ同一ナルコトヲ要ス
又債務者ハ數人ノ債權者ニ對シ別異及ヒ不均一ノ體樣又ハ負擔ヲ以テ責ニ任スルコトヲ得
無異議
第二款 債權者間ノ連帶ノ效力
第千七十七條 各連帶債權者ハ唯一人ノ債權者ナルカ如ク義務全部ノ履行ヲ債務者ニ要求スルコトヲ得
債權者ノ一人カ訴ヲ起シタルトキハ他ノ各債權者ハ共通ノ利益及ヒ自己ノ利益ノ保護ノ爲メ訴訟ニ參加スルコトヲ得
(村田)
第二項保護ノ爲メトアル下ニ自費ヲ以テト云ヘル文字ヲ入レタシ第千五十六條ニモ自費ノ文字アレバナリ
(栗塚)
自己ノ利益ヲ保護スルハ自己ノ利益ヲ以テスルコト言ヲ待タザルベシ
第千七十八條 債務者ハ債權者ノ一人ヨリ訴追又ハ合式ノ要求ヲ受ケサル間ハ債務ノ全額ノ辨濟ヲ受取ルコトヲ債權者ノ各自ニ強要スルコトヲ得此ニ反スル場合ニ於テハ要求者ニ對スルニ非サレハ辨濟ヲ爲スコトヲ得ス
若シ同時ニ數人ノ要求者アルトキハ債務者ハ總要求者ニ對スルニ非サレハ辨濟ヲ爲スコトヲ得ス
無異議
第千七十九條 義務組成ノ瑕疵ニ基キタル抗辯ニ付キ有リタル判決ハ債務ノ全部ニ對シ總債權者ノ利害ニ於テ其效力ヲ生ス但訴訟ニ其名ヲ出ササリシ者ニ對シテモ亦同シ
無異議
第千八十條 義務消滅ノ原因ニ基キタル抗辯ニ付キ有リタル判決ハ效ナシ
第一 第千七十八條ニ定メタル條件ニ從ヒ債權者ノ一人ニ爲シタル辨濟ハ全部ニ付キ總債權者ニ之ヲ以テ對抗スルコトヲ得又第五百四十三條第三項ニ記載シタル如ク債權者ノ一人ニ對シ債務者ノ取得シタル相殺ニ付テモ亦同シ但相殺ノ原因カ第千七十八條ニ從ヒ債務者ヨリ其債權者ニ有效ニ辨濟スルコトヲ得ヘキ時期ニ於テ生シタルトキニ限ル
第二 債權者ノ一人ノ行爲ヨリ生スル更改、免除及ヒ混同ハ第五百二十三條第三項第五百三十七條第一項及ヒ第五百五十七條第二項ニ從ヒ其債權者ノ部分ニ非サレハ債務ヲ消滅セシメス但右ノ行爲ハ他ノ債權者ノ訴追又ハ要求ノ前ニ在リシコトヲ要ス
又右同一ノ行爲ニ關シ及ヒ辨濟又ハ相殺ニ關スル裁判外ノ宣誓又ハ其拒絕及ヒ和解ニ付テモ亦同シ
無異議
第千八十一條 債權者中ノ一人ノ一身ニ限ル債務者ノ抗辯ニ付キ有リタル判決ハ他ノ債權者ヲ害セス又之ヲ利セス又債權者ノ一人カ其連帶ニ於ケルノ權利ニ付債務者ト爲シタル宣誓又ハ其拒絕及ヒ和解ニ付テモ亦同シ
(栗塚)
本條第四項「付」ノ下「キ」ノ字ヲ附スベシ
第千八十二條 債權者ノ一人カ債務者ニ對シテ時效ヲ中斷シ又ハ其債務者ヲ遲滯ニ付スルノ行爲ハ全部ニ付他ノ債權者ヲ利ス
債權者ノ一人ノ利益ニ於テ法律ノ設定シタル時效ノ停止ハ債權ニ於ケル其部分ニ限リ其一人ノミヲ利ス
無異議
第千八十三條 連帶債權者ノ一人カ數人ノ相續人ヲ遺シテ死亡シタルトキハ債權ノ分別及ヒ前ニ指示シタル行爲ノ效力分別ハ第千六十二條ニ記載シタル如ク受方連帶ニ於ケルト同一ノ方法ヲ以テ働方ニテ成ル
(南部)
本條モ第千六十二條ノ如ク冒頭ニ若シト云フ字ヲ附シ置クヲ可トス
(栗塚)
歴史アリト云フニテ若ノ文字ヲ附スベシ
可決ス
(村田)
效力分別ハトアルハ效力ハトスベシ
(栗塚)
分別ト云フ字ハ誤入ナリ
第千八十四條 義務ノ全部又ハ一分ノ履行ヲ得タル連帶債權者ハ他ノ債權者ノ特別ノ關係及ヒ其相互ノ部分ニ從ヒ之ニ其利益ヲ分ツコトヲ要ス
無異議
第三款 債權者間ノ連帶ノ終了
第千八十五條 債權者間ノ連帶ハ抛棄ニ因テ止ム其抛棄ハ明示ニアラサレハ之ヲ爲スコトヲ得ス
無異議
第千八十六條 連帶ノ抛棄ハ債權者ノ一人若クハ數人又ハ其總員ヨリ之ヲ爲スコトヲ得
總債權者ノ働方連帶ノ抛棄ハ第千七十一條ニ規定シタル如ク受方連帶ノ抛棄カ共同債務者ニ對シテ生セシムルト同一ノ效力ヲ其債權者間ニ生セシム
若シ債權者ノ一人又ハ數人ノミカ抛棄ヲ爲シタルトキハ他ノ債權者ハ右抛棄ヲ爲シタル者ノ部分ニ付テノミ訴ヲ爲シ又ハ辨濟ヲ受クルノ權利ヲ失フ
無異議
第千八十七條 連帶ノ抛棄ハ債務者ノ承諾ナクシテ有效ナリ
然レトモ其抛棄ハ之ヲ債務者ニ吿知セシカ又ハ債務者明確ニ之ヲ知リタルトキニ非サレハ前ノ規定ヲ以テ債務者ニ許シタル辨濟其他ノ行爲ニ對シテ債權者ヨリ之ヲ申立ルコトヲ得ス
債務者ハ抛棄ヲ申立ツルノ利益アルトキハ之ヲ申立ルコトヲ得又抛棄カ其權利ノ詐害ニ於テ爲サレタルトキハ之ヲ駁撃スルコトヲ得
(松岡)
駁撃ノ文字ハ攻撃トシテハ如何
(栗塚)
原字ノ同ジカラザルガ爲メナリ
(松岡)
前ノ規定ト云フハ如何
(南部)
前記ノ規定トスベシ
(村田)
前記トスレバ前數條ト認ムルヲ得ベシ
第三章 任意ノ不可分
第千八十八條 債務ハ第四百六十二條及ヒ第四百六十三條ニ規定シタル不可分ノ外尙ホ數人ノ債務者ノ負擔又ハ數人ノ債權者ノ利益ニ於テ不可分タルコトヲ得但第四百六十四條ニ指示シタル如ク債務履行ノ擔保トシテ受方又ハ働方ノ連滯ニ併合シ又ハ併合セサルコトアリ
此不可分ハ合意又ハ遺言ヲ以テ之ヲ設定スルコトヲ得之ヲ任意ノ不可分ト云フ
任意ノ不可分ハ明示タルコトヲ要ス
(元尾崎)
連帶ニ併合シ又ハ併合セサルコト有リト云フハ如何
(栗塚)
不可分ト連帶ト合併スルコトアリ又併合セザルコトアリト云フ義ナリ
第千八十九條 債務者ノ負擔又ハ債權者ノ利益ニ於テ任意ノ不可分ヲ設定シタルトキハ之ト同一ナル性質ノ連帶ヲ暗ニ設定シタルモノト看做ス但反對ノ約定アルトキハ此限ニ在ラス
(村田)
約定ハ合意トシテハ如何
(松岡)
約定ハ最初ヨリ約定ト爲シ來レリ
(栗塚)
原字ハ約款ノ意味ナリ
(村田)
合意トスベシ
可決ス
第千九十條 債務者ノ負擔ニ於テ設定シタル不可分ハ同時ニ働方タル可キコトノ明示アルニ非サレハ債權者ノ利益ニ於テ存立セス
又債權者ノ利益ニ於テ設定シタル不可分ハ同時ニ受方タル可キコトノ明示アルニ非サレハ債務者ノ負擔ニ於テ存立セス
無異議
第千九十一條 受方ナルト働方ナルトヲ問ハス任意ノ不可分ヲ設定シタルトキハ受方又ハ働方ノ連帶ヲ明示ニテ阻却セサル場合ニ限リ債務者又ハ債權者ノ間ニ此連帶ノ效力ヲ生セシム
其他債務者又ハ債權者ノ一人カ數人ノ相續人ヲ遺シテ死亡シタルトキハ債務者ノ各相續人ハ全部履行ノ要求ヲ受ケ又債權者ノ各相續人ハ全部履行ノ要求ヲ爲スコトヲ得但其各自ノ間ニ於テ連帶ナシ
無異議
第千九十二條 債務者ノ一人又ハ債務者ノ相續人ノ一人ニ對シテ時效ヲ中斷スル原因ハ總債務ニ付他ノ債務者又ハ相續人ニ對シテ中斷ヲ生ス
又債權者ノ一人又ハ債權者ノ相續人ノ一人ノ權利ヨリ生スル時效ノ中斷又ハ其停止ノ原因ハ他ノ債權者又ハ相續人ヲ利ス
(元尾崎)
數名ノ相續人アル組立トシタルカ
(栗塚)
然リ不可分ハ大抵數名ノ相續人アル場合ニ存スルモノナリ
第千九十三條 相續人ノ一人ノ付遲滯及ヒ過愆ハ他ノ相續人ヲ害セス
相續人ノ一人ニ不利ナル既判力、自白及ヒ裁判外ノ宣誓ニ付テモ亦同シ
(村田)
過愆ト云フ文字ハ過失トスベシ
可決ス
第千九十四條 債權カ受方又ハ働方ニテ同時ニ連帶及ヒ不可分ナルトキハ第五百三十二條及ヒ第千八十五條ニ記載シタル區別ニ從ヒ明示ナルト默示ナルトヲ問ハス連帶ノ抛棄ハ亦任意不可分ノ抛棄ヲ惹起ス
右二個ノ擔保ノ共ニ存スル場合ニ於テ不可分ノ抛棄ハ連帶ヲ存立セシム
無異議
第千九十五條 第四百六十五條乃至第四百七十條、第五百二十三條第四項、第五百二十八條第三項、第五百三十一條第一項、第五百三十五條、第五百三十七條第二項、第五百四十三條第四項、第五百五十八條及ヒ第五百五十九條第二項ノ規定ハ任意ノ不可分ニ適用スルコトヲ得可キトキハ之ヲ適用ス
債權者カ不可分ニテ義務ヲ負フタル債務者ノ代位ニ得ルコト有ル可キ擔保ヲ滅失セシメ又ハ減少セシメタルトキハ其債務者ハ債權者ニ對シ第千七十三條ノ免責ヲ申立ルコトヲ得
無異議
第二部 物上擔保
第一章 留置權
第千九十六條 留置權ハ本法財產編及ヒ取得編ニ於テ特別ニ之ヲ規定シタル場合ノ外債權者カ既ニ正當ノ原因ニ由リ其債務者ノ動產又ハ不動產ヲ占有シ及ヒ其債權カ其物ノ讓渡ニ因リ或ハ其物ノ保存ノ費用ニ因リ或ハ其物ヨリ生シタル損害賠償ニ因リ其物ニ關シ且其占有ニ連繋シテ生シタルトキハ其占有シタルモノニ付キ債權者ニ屬ス
委任ナクシテ他人ノ事務ヲ管理シタル者ハ必要ノ費用及ヒ保存ノ費用ノ爲メニ非サレハ其管理シタル物ニ付キ留置權ヲ享有セス
(松岡)
第一項ハ要スルニ留置權ハ債權者ニ屬スト云フ意義ナルニ仲間區々ハ殷落アルモノナリ
(村田)
第二項享有セズトアルヲ有セズトスベシ
可決ス
第千九十七條 債權者カ留置スルノ權ヲ有シタル物ノ一分ノミヲ留置シタルトキ其部分ハ總債務ヲ擔保スルニ足ルニ於テハ之ヲ擔保ス
此ニ反シテ債權者又ハ其相續人ハ債務者又ハ其相續人ヨリ一分ノ辨濟ヲ受取タリト雖トモ全部ノ辨濟ヲ受取ルニ至ルマテ留置權ニ服シタル總テノ物ヲ留置スルコトヲ得
無異議
第千九十八條 留置權ハ留置物ノ價額ニ付キ債權者ニ先取特權ヲ與ヘス
然レトモ留置物ヨリ天然又ハ法定ノ果實又ハ產出物ノ生スルトキハ留置權者ハ他ノ債權者ニ先チテ之ヲ收取スルコトヲ得但其果實又ハ產出物ハ其債權ノ利息ニ充當シ猶ホ餘分アルトキハ元本ニ充當スルコトヲ要ス
留置權者ハ其收取スルコトヲ怠リタル果實及ヒ產出物ニ付キ其責ニ任ス
(村田)
第一項債權者ハト云ヘルハ卽チ留置權者ナルニ付キ後ニ留置權者トアル如ク此點モ之ヲ留置權者トシテハ如何
(栗塚)
第一項ノ場合ハ未ダ留置權者ト云フ名稱ヲ附スルコトヲ得ザルナリ
第千九十九條 留置權ハ債權者カ留置物ヲ讓渡シ又他ノ債權者カ之ヲ差押ヘ及ヒ賣却セシムルノ妨ト爲ラス
然レトモ孰レノ場合ニ於テモ取得者ハ留置權者ニ全ク辨濟セスシテ其物ヲ占有スルコトヲ得ス
無異議
第千百條 右ノ外動產又ハ不動產ノ留置權者ハ次ノ二章ニ規定シタル如ク動產又ハ不動產ノ質取主ト同一ノ責任ニ從フ
其他動產質及ヒ不動產質ニ關スル規定ハ此章ノ規定ニ觸レサル限リハ諸項ニ付キ留置權ニ之ヲ適用ス特ニ債者權カ有意ニテ留置權ヲ行フコトヲ怠リ又ハ實際之ヲ行フコトヲ止メタルトキハ其留置權ヲ失フ
(栗塚)
第一項質取主ト云ヘルハ質取債權者トシ第二項諸項ニ付キト云ヘル文字ハ誤寫ニ付刪除スベシ
可決ス
第二章 動產質
第一節 動產質契約ノ性質及ヒ組成
第千百一條 動產質ハ債務者カ一個又ハ數個ノ動產ヲ特ニ其義務ノ擔保ニ充ツル契約ナリ
無異議
第千百二條 動產質契約ハ債務者ノ委任ヲ受ケ又ハ好意ニテ債務者ノ爲メ擔保ヲ供スル第三者ト債權者トノ間ニモ亦之ヲ爲スコトヲ得
孰レノ場合ニ於テモ動產質ヲ供シタル第三者ハ第千三十條及ヒ第千三十一條ニ從ヒ保證人ノ如ク債務者ニ對シテ求償權ヲ有ス
無異議
第千百三條
削除
第千百四條 動產質ハ其物ヲ處分スルノ能力ヲ有スル者ニ非サレハ有效ニ之ヲ供スルコトヲ得ス
合意上、法律上及ヒ裁判上ノ代理人及ヒ管理者ニ付テモ亦同シ是等ノ者ハ其權限ヲ踰エサルコトヲ要ス
若シ債務ニ關係ナキ第三者ヨリ動產質ヲ供シタルトキハ其第三者ハ第千十二條ニ記載シタル如ク無償名義ニテ物ヲ處分スルノ能力ヲ有スルコトヲ要ス
(村田)
第二項「代理人及ヒ」ト云フヲ刪除スベシ第百二十八條ニ記載アレバナリ
可決ス
第千百五條 動產質權ハ確定ノ日附ヲ有シ且債權及ヒ質物ヲ明ニ指定セル證書ヲ錄製シタルニ非サレハ同一ノ物ニ付キ債務者ト約定シタル第三者又ハ他ノ債權者ニ之ヲ以テ對抗スルコトヲ得ス
右質物ハ之ヲ他物ニ易フルコトヲ得サル樣詳細ニ記載シ且要用アルトキハ之ヲ評價スルコトヲ要ス
若シ質物カ定量物ナルトキハ其種類、數量尺度ヲ以テ之ヲ指定スルコトヲ要ス
(元尾崎)
質取ヲ實取シ置カズ書面ニテ取置クヲ云フヤ
(栗塚)
質物ハ其物ノ取在ヲ自己ノ方ニ移シ置カザルベカラズ
(松岡)
本條ハ確定日附ニ付最初議論アリシナリ
(栗塚)
確定日附ト云フハ如何ナル方法ヲ以テスルヤト云フ點ニアリ
(南部)
確定ノ日附ト云フハ證據編ノ議ニ至ルマデ未定ニ付セラレタシ
(松岡)
確定日附ハ保護ノ點ニアラズシテ寧ロ收稅主義ニ出ヅルモノナリ
(栗塚)
確カナル日附トシテハ如何
結局確定日附ト云フニ付テハ他日證據編ノ議ニ至ルマデ未定ニ附スルコトト決ス
第千百六條 法律ニ從ヒ證人ニ依リテ債權ヲ證スルコトヲ得ル場合ニ於テハ證書ノ錄製ヲ要セス此場合ニ於テハ債權ノ額及ヒ質物ノ相違ナキコト、其性質、價額ヲ或ハ併合シ或ハ各別ニ人證ヲ以テ證スルコトヲ得
無異議
第千百七條 動產質ハ質取債權者カ有體ナル質物ヲ現實ニ且繼續シテ占有スルニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニモ他ノ債權者ニモ對抗スルコトヲ得ス
然レトモ質物ハ當事者雙方カ選定シ又ハ債權者カ自己ノ責任ヲ以テ選定シタル第三者ノ手ニ之ヲ寄託スルコトヲ得
此規定ハ無記名證券ニモ之ヲ適用ス
無異議
第千百八條 質物カ記名債權タルトキハ質取債權者ハ其證券ヲ占有スルコトヲ要ス
其他記名證券ノ質ノ設定ハ債權ノ讓渡ヲ吿知スル通常ノ方式ヲ以テ第三債務者ニ其設定ヲ吿知シ又ハ其第三債務者カ任意ニテ之ニ參加スルコトヲ要ス
此他第三百六十七條ノ規定ハ右ノ場合ニ之ヲ適用ス
右ハ總テ裏書ヲ以テ取引ス可キ商證券又ハ商品ノ質ニ關シ商法ニ記載シタルモノヲ妨ケス
(村田)
第一項記名債權ト云フハ記名商券トセザレバ不可ナリ
(松岡)
債權ニ記名ト云フモノナシ
(栗塚)
質物ガ記名商券ノ債權タルトキハトシテハ如何
(元尾崎)
記名商券ノ質ノ設定ハ之ヲ第三債務者ニ吿知スベシト云フハ如何
(松岡)
第三債務者ニ吿知シ置カザレバ第三債務者ノ支拂ヲ受クル能ハザレバナリ
(槇村)
質物ガ記名債權タルトキハト云ヘルハ如何ニスルヤ
(南部)
質物ガ債權ノ記名證券タルトキハトスベシ
可決ス
(村田)
第二項冒頭ニ其他ト云ヘル文字ヲ冠シ第三項ノ冒頭ニ此他ト云フ文字ヲ冠セシメシハ不都合ニアラズヤ
(南部)
此儘ニ附シ置クベシ
可決ス
第千百九條 會社ノ記名ノ株券又ハ債券ヲ質ト爲ストキハ證券交付ノ外會社定款又ハ法律ニ於テ株券又ハ債券ノ讓渡ノ爲メニ定メタル方式ヲ以テ之ヲ會社ニ吿知シ其帳簿ニ之ヲ記入スルコトヲ要ス
(村田)
株券ニ記名ト無記名ノ區別アラザレバ記名株券ト云フハ不可ナリ
(松岡)
無記名ノ株券ナキニアラズ
(南部)
株券ノ文字ハ刪除ス可シ株券ハ一切商法ニ讓レリ
(元尾崎)
株式會社ノ設立ニ付テハ商法ニ屬スベキモノナルモ株式ノ質入ニ於ケル如キハ民法中ニ規定ヲ要スベシ
(南部)
株式會社ハ商法ニ規定シ株券ノ質入ヲ民法中ニ規定スルハ不可ナリ
(村田)
株券ノ質入ハ皆商法ニ屬セシメ民法中ノ支配ヲ用ユルヲ得ズト云フ理由ナシ
(松岡)
株券ト云ヘバ根元ハ之ヲ商法ニ規定シタルニ其用法ニ係ル質入ヲ民法中ニ規定スルト云フハ奇怪ナリト云フベシ
(元尾崎)
質入ハ民事上ニテ之デ支配スルニ差支ナシ
(南部)
債權ノ讓渡ノ爲メニ定メタル方式ト云フハ民法中ニ規定ナシ此規定ハ商法ニ規定シタレバ民法ヲ以テ之ヲ支配スルヲ得ズ
(栗塚)
株券質入ニ關スル質入ノ方法ハ商法ニ規定スルモノニシテ本條ハ株券モ質入スルヲ得ベシト云フ送リヲ附スルニ過ギザルモノト思惟スベシ
(南部)
其見解ナルトキハ妨ゲナシ
第千百十條 動產質ハ當事者ノ意思ニ從ヒ働方及ヒ受方ニテ不可分タリ但反對ナル明示ノ合意アルトキハ此限ニ在ラス
動產質ハ債務者又ハ其相續人ノ一人ヨリ債務ノ一部ヲ辨濟シタルトキト雖トモ元利及ヒ費用ノ皆濟ニ至ルマテ質物ノ全部及ヒ各個ニ於テ存立ス
質取債權者ノ相續人ノ一人カ自己ノ部分ノ辨濟ヲ受ケタルトキト雖トモ動產質ハ債權ニ於ケル他ノ相續人ノ部分ノ爲メ其相續人ノ擔保トシテ全部ニ於テ存立ス
無異議
第二節 動產質契約ノ效力
第千百十一條 質取債權者ハ質物ヲ返還スルマテ其監守及ヒ保存ニ付キ善良ナル管理者ノ注意ヲ加フルノ責アリ
質取債權者ハ債務者ノ許諾ヲ受スシテ質物ヲ賃貸スルコトヲ得ス又債務者ノ許諾ヲ受ケタルトキ又ハ物ノ使用カ其保存ニ必要ナルトキニ非サレハ自ラ之ヲ使用スルコトヲモ得ス
若シ質取債權者カ質物ヲ濫用スルトキハ其失權ノ宣吿ヲ受クルコト有リ
無異議
第千百十二條 質取債權者ハ自己ノ責任ヲ以テ質物ヲ自己ノ債權者ニ轉質ト爲スコトヲ得此場合ニ於テハ轉質ヲ爲ササレハ生セサル可キ意外又ハ不可抗ノ危險ニ付テモ亦其責ニ任ス
(渡)
亦其責ニ任ズト云ヘルハ如何
(松岡)
通常ノ場合ト雖モ其責アリ本條ノ場合ト雖ドモ亦其責アルベシト云フニアリ
第千百十三條 質物カ果實又ハ產出物ヲ生スルトキハ質取債權者ハ之ニ關シ留置權者ノ爲メ第千九十八條第二項ニ定メタル權利及ヒ義務アリ
質ト爲シタル債權ニ關シテハ質取債權者ハ其利息ヲ收取シ之ヲ自己ノ債權ニ充當ス然レトモ債務者ノ特別ナル委任ヲ受ケスシテ其元本ヲ受取ルコトヲ得ス但裏書ヲ以テ取引ス可キ證券ニ關スルトキハ此限ニ在ラス
無異議
第千百十四條 質取債權者カ質物保存ノ爲メ必要ノ出費ヲ爲シタルトキハ其辨償ハ此債權者ノ爲メ其債權ニ先チ動產質ヲ以テ之ヲ擔保ス
質物ノ隱潛ノ瑕疵ニ因リ債權者ノ受ケタル損害ノ賠償ニ付テモ亦同シ
(栗塚)
本條隱潛ノト云ヘルハ例ニ從ヒ隱レタルトスベシ
第千百十五條 質取債權者ハ動產質ノ附キタル主從ノ債務及ヒ前條ニ從ヒ受取ル可キ金額ノ皆濟ニ至ルマテ債務者及ヒ其讓受人ニ對シ質物ノ占有ヲ留置スルコトヲ得
右債權者ハ其債權ノ滿期ニ至ラサル間ハ債務者ノ他ノ債權者ヨリ爲ス質物ノ差押及ヒ其競賣ニ對抗スルコトヲ得
無異議
第千百十六條 動產質ノ附キタル債務カ滿期ト爲リタルトキハ債務者履行ヲ爲ササルニ於テハ質取債權者又ハ其他ノ債權者ヨリ質物ノ競賣ヲ求ムルコトヲ得質取債權者ハ他ノ債權者ニ先タチ元利、費用及ヒ第千百十四條ニ揭ケタル賠償金ノ辨濟ヲ受ク
無異議
第千百十七條 他ノ債權者ヨリ競賣ヲ求メス又ハ之ヲ實行スルコトヲ得サルトキ質取債權者ハ質物ヲ己レノ有ト爲サントスルコトニ付キ債務者ト一致セサルニ於テハ鑑定人ノ評價シタル價額ニ滿ツルマテ質物ヲ辨濟ニ充ツ可キコトヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得但其請求書ヲ債務者ニ豫メ提示スルコトヲ要ス
質物ノ價額カ債務ヲ超ユル場合ニ於テハ質取債權者ハ債務者ニ其超過額ヲ辨償スルコトヲ要ス
無異議
第千百十八條 總テ動產質契約ノ約款又ハ債務滿期前ノ合意ニシテ債權者ニ其債權ノ全部又ハ一部ニ付キ辨濟ノ爲メ裁判上ノ評價ナクシテ流質ヲ許スモノハ當然無效タリ
本條ノ禁止ヲ犯ス爲メ債務者カ債權者ニ爲シタル受戻約款附ノ賣買其他ノ合意ハ之ヲ無效ト宣吿スルコトヲ得
本條ニ定メタル無效ハ質取債權者ヨリ之ヲ申立ルコトヲ得スシテ債務者又ハ其承繼人ノミ之ヲ申立ツルコトヲ得
(元尾崎)
流質スルコトヲ得ザルヤ
(栗塚)
然リ
(元尾崎)
質商ハ如何
(栗塚)
質商ニ關スル規則ハ特別法ヲ以テスベシト云フノ議決ナリ
第千百十九條 質物カ質取債權者ノ方ニ存スル事實ノミニテハ其債務ノ免責時效ノ成就ヲ停止セス
(栗塚)
本條ハ最初起案者ニ質問スベキ筈ニアリ
第千百二十條 質物ノ占有ハ常ニ容假ノ占有ニシテ其占有ノ繼續期ノ如何ニ拘ハラス又債務カ辨濟又ハ其他ノ方法ニテ消滅シタル後ト雖モ質取債權者ハ取得時效ヲ申立ルコトヲ得ス
然レトモ第百九十七條ニ定メタル二個ノ場合ニ於テハ容假タルコトハ止ム
(元尾崎)
容假タルノ止ムトキハ眞占有トナルカ
(村田)
法定ノ占有トナルベシ
第三章 不動產質
第一節 不動產質ノ目的性質及ヒ組成
第千百二十一條 不動產質契約ハ不動產質債權者ニ他ノ總債權者ヨリ先ニ其不動產ノ果實及ヒ入額ヲ收取スルノ權利ヲ付與ス
債務ノ期限ニ至レハ債權者抵當權アル債權者ノ權利ヲ行フ
其期限ハ三十年ヲ超過スルコトヲ得ス之ニ過クル場合ニ於テハ當然三十年ニ減縮ス
其期限ハ縱令之ヲ延期スルモ前後通算シテ三十年ヲ超過スルコトヲ得ス
(栗塚)
不動產質ハ議決以來起按者更ニ改正シ來リ其改正案ト及ビ最初ノ議決案トニ基キ修正ヲ加ヘタルニ依リ諒知アルベシ
(村田)
其期限ハト云フハ其何タルノ分明ナルヤ
(松岡)
不動產質ノ期限ヨリ外ナシ
(箕作)
前後通算ト云フハ如何
(栗塚)
最初ノ期限ト延期後ノ期限トヲ云フニアリ
第千百二十二條 不動產質ハ債務者ノ爲メ第三者ヨリ之ヲ設定スルコトヲ得其不動產質ハ債務者ト設定者トノ間ニ於テハ動產質ノ爲メ第千百二條ニ定メタル效力ヲ生ス
無異議
第千百二十三條 不動產質ハ第千二百三條及ヒ第千二百四條ニ從ヒ抵當ト爲スコトヲ得ヘキ權利ノ上ニ非サレハ之ヲ設定スルコトヲ得ス
其他設定者ハ質ト爲シタル物件又ハ權利ノ收益權ヲ自カラ有スルコトヲ要ス其質ハ如何ナル場合ニ於テモ其收益權ノ繼續期ヲ超過スルコトヲ得ス
不動產質設定ノ爲メニ要スル能力ハ第千二百十五條及ヒ第千二百十六條ニ定メタル抵當設定ノ能力ト同一ナリ
(村田)
第千二百四條ニテハ抵當ノ禁止物タリ然ルヲ本條ニテ抵當ト爲スコトヲ得ベキト云フハ牴觸ナリ
(栗塚)
第千二百四條ニ禁ゼシ場合ト云フ意義ナリ
(南部)
第千二百四條ノ裏面ヲ指シタルモノナラン
(箕作)
物件ト云フ文字ハ稀珍ナリ
(南部)
「件」ヲ刪除スベシ
可決ス
(松岡)
第二項物又ハ權利ノ收益權ト云ヘルハ物ノ收益權又ハ權利ノ收益權ト云フ義カ
(箕作)
然リ
(松岡)
物ノ收益權ト云ヘバ權利ノ收益權ト云フハ必要ニ非ズ權利ノ收益權ト云ヘバ支分權ノ收益權ナルベシ
(栗塚)
物ノ收益權ト支分權トニ非ズ物卽チ權利ノ收益ト云フ義ナルベシ
(箕作)
起案者ハ虛有權ハ不動產質トスルヲ得ザルトシタルニアラズヤ
(松岡)
然リ收益權アルニアラザレバ質入スルヲ得ザルベシ
(村田)
不動產質ハ所有權ヲ有セザルモ收益權ヲ有スレバ之ヲ質スルヲ得ベシ
(松岡)
物又ハ權利ノ收益權トアルハ物ノ收益權トスベシ
(箕作)
「物又ハ」ヲ刪除シテハ如何權利ノ收益權ト云ヘバ財產ハ權利ナリト云ヘル定義ヨリ推ストキハ物ノ意ヲモ包含スベケレバナリ
(南部)
原案ヲ不可トスレバ「物又ハ」ヲ刪除スベシ
(淸岡)
權利ノ收益ト云フハ不明ナリ
(栗塚)
理窟上ハ權利ノ收益ト云フヲ可トス
(元尾崎)
設定者ト云フハ質置主ヲ云フカ
(箕作)
然リ
(栗塚)
質ト爲シタルトアルヲ質ト爲ストシタシ
(元尾崎)
質ト爲サントスルトシタシ
(松岡)
物又ハ權利ト云ヘバ物ノ持主ト又ハ權利ノミヲ有スル者トノ二樣ヲ云フニアリ
結局質ト爲ス物又ハ權利ノ收益權トスルニ可決ス
第千百二十四條 不動產質カ合意上ノモノナルトキハ其質ハ合意上ノ抵當ノ爲メ第千二百十一條ニ定メタル公正證書ヲ以テスルニ非サレハ當事者ノ間ニ之ヲ設定スルコトヲ得ス
又不動產質ハ第千二百十八條ニ從ヒ遺言上ノ抵當ノ許ササル場合ニ於テハ遺言ヲ以テ之ヲ設定スルコトヲ得
不動產質ハ之ヲ證明スル證書又ハ判決書ヲ第三百六十八條第一號及ヒ第三號ニ從ヒ登記シタル後ニ非ラサレハ之ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
右ノ登記ハ抵當ノ順位ヲ保存スルタメ記入ニ等シキ效力ヲ有ス
(箕作)
不動產質ハ當事者間ト雖ドモ公正證書ヲ有シ第三者ニ對シテハ登記スルニ非ラザレバ對抗スルヲ得ズト云フニアリ
(松岡)
不動產質ノ當事者間ニ在テハ公正證書ニアラザルモ私證書ニテ足レルニアラズヤ
(元尾崎)
公證人ノ面前ニ於テスベキヲ要スト云ヘバ不便ノ爲メ世上ノ不融通ヲ釀成スベシ
(南部)
既ニ公正證書ヲ置カルル以上ハ不動產質ニハ公正證書ヲ要スルモノトセザルベカラズ
(栗塚)
公正證書ハ事體ノ重大ナル場合ニハ之ニ依ラシムルベシト云フニアレバ要スルニ不動產質ハ事體ノ重大ナルモノカ否ラザルモノカト云フニアリ
(松岡)
不動產質ハ事體ノ輕少ナルモノニアラズ故ニ口頭契約ヲ許スハ不可ナリト雖モ敢テ有式契約トスルニ及バズ私證書ヲ以テ契約ヲ爲スコトヲ得セシムベシ
(南部)
有式無式ノ契約ヲ原則トシタル以上ハ公正證書ト云フ文字ヲ刪除スルヲ得ズ敢テ之ヲ刪除セントスルハ不都合モ亦甚ダシト云フ可シ
結局合意上ノ抵當ノ爲メ第千二百十一條ニ定メタル公正ト云ヘル數字ヲ刪除ス
第千百二十五條 登記ス可キ證書又ハ判決書ニハ質ト爲シタル不動產ノ精確ナル指示ノ外元利ノ債權額ヲ記載スルコトヲ要ス
右ノ指示カ不十分ナル場合ニ於テハ既ニ爲シタル登記ノ縁邊ニ補足ノ合意ヲ附記シテ之ヲ補フ然レトモ此附記ハ其日附後ニ非サレハ效力ヲ生セス
無異議
第千百二十六條 質ト爲シタル物權カ用益權賃借權又ハ永借權ナルトキハ此權利ノ設定證書ノ登記ノ縁邊ニ其質權ヲ附記スルヲ以テ足レリトス
(松岡)
質ト爲シタルトアルハ前例ニ從ヒ質ト爲ストスベシ
(南部)
本條ハ質ト爲シタルト云フニテ可ナリ
(村田)
賃借權ヲ質入スルヲ得ベキニ地上權ヲ記示セザルハ如何
(栗塚)
地上權ニハ收益ト云フモノアリヤ
(村田)
地上權ニ收益ナシト云フヲ得ズ
(栗塚)
家作及ビ樹木ハ之ヲ質入スルヲ得ベキモ單ニ地上權ヲ質入スル場合アリヤ其家作及ビ其樹木ヲ質入ニ附スルトキハ地上權ハ自ラ之ニ附從スルモノナルベシ
(松岡)
本條ハ制限法ニアラズ其類例ヲ示シタルニ過ギザルベケレバ地上權ヲ質入セントスルトキハ之ヲ爲スニ妨ゲナカルベシ
(元尾崎)
質取主ハ其質物ヲ更ラニ他ニ質入スルヲ得ルヤ
(南部)
更ラニ質入スルヲ得ズ
(栗塚)
物權ヲ有スルモノハ更ラニ質入スルモ妨ゲナカルベシ此點ハ起案者ニ質問スルニ決ス
第千百二十七條 質取債權者ハ右ノ外動產質ニ關シ第千百七條ニ記載シタル如ク其債權ヲ擔保スル不動產ノ現實ノ占有ヲ得且之ヲ保存スルコトヲ要ス
(松岡)
本條ハ最初不動產又ハ權利ヲ現實ニ云々トシタルニ又ハ權利ノ文字ヲ刪除スルハ不可ナリ
(元尾崎)
又ハ權利ノ文字ナキモ可ナリ
結局不動產ヲ現實ニ占有スルコトヲ要ストス
第千百二十八條 不動產質ハ動產質ニ關シ第千百十條ニ記載シタル如ク働方及ヒ受方ニテ不可分タリ
無異議
第二節 不動產質ノ效力
第千百二十九條 質取債權者ハ其債權ノ擔保ノ爲メ受取リタル不動產ヲ第百二十六條乃至第百二十九條ニ規定シタル制限ニ從ヒ賃貸スルコトヲ得但反對ノ合意アルトキハ此限ニ在ラス
又不動產質債權者ハ其不動產又ハ權利ヲ自己ノ權利ノ繼續期間ニ限リ動產質ニ關シ第千百十二條ニ記載シタル如ク自己ノ責任ヲ以テ其不動產質ヲ讓渡スルコトヲ得
(村田)
不動產ヲ讓渡スルコトヲ得ト云フハ不可ナリ
(栗塚)
不動產ヲ交付シ置クヲ云フ
(箕作)
讓渡ハ讓渡スコトヲ要ストスベシ
可決ス
(松岡)
第一項制限ニ從ヒトアル下ニ前議決ノ如ク質契約ノ期間ニ限リト云ヘル文字ヲ挿入セザルヲ得ズ否ラザレバ質契約ノ期間ヲ過グル場合アルヲ以テナリ
(栗塚)
起案者ト質契約後ト雖ドモ管理行爲ヲ以テ賃貸借ヲ繼續スルヲ得ト云フニアリ
(元尾崎)
前議決ノ旨ニ從ヒタシ
可決ス
(栗塚)
第二項ハ其不動產又ハ權利ヲト云ヘル文字ヲ刪除スベシ又ハ權利ノミヲ刪除スル迄ニテハ文語ヲ成サザレバナリ
第千百三十條 質取債權者ハ租稅其他每年ノ公課ヲ負擔ス
質取債權者ハ保持ノ修繕及ヒ必要且急迫ナル大修繕ヲ爲スノ責ニ任ス若シ之ニ違フトキハ損害賠償ヲ負擔ス但此大修繕ノ費用ハ債務者之ヲ償還ス
(村田)
保持修繕ト云フ文字ハ皆小修繕トシタルニ付キ本條モ小修繕トセザルベカラズ可決ス
第千百三十一條 質カ建物宅地ニ存スルトキハ債權者ハ自ラ之ヲ領スルト之ヲ賃貸スルトヲ問ハス其借賃ヲ自己ノ債權ノ利息ニ充當シ又超過額アルトキハ附隨ニテ又ハ債權カ利息ヲ生セサルトキハ全部ニテ元本ニ充當ス
質カ田畑山林ニ存スルトキハ當事者ノ間ニ於テ果實ト利息トハ計算ヲ爲サス相殺シタリト看做ス但反對ノ合意アルトキ又他ノ債權者ニ對シ又ハ利息ノ法律上ノ制限ニ付キ顯著ナル詐害アルトキハ此限ニ在ラス
借賃又ハ果實ヲ利息ニ充當スルニハ每年ノ公課及ヒ保持、管理、栽培ノ費用ヲ扣除シタル純益價額ニ付テ之ヲ爲スモノトス
(村田)
之ヲ領スルト之ヲ賃貸スルトヲ問ハズトアル領スルノ文字ハ賃貸ト對セシムベシ
(元尾崎)
最初ハ占領トナセリ
(南部)
占領ト云ヘバ占有ニ紛レアルヲ以テナリ
(松岡)
田畑山林ト建物トノ質入規定ヲ異ニスルハ如何
(栗塚)
此點ハ起案者ニ注吿シ田畑山林ハ現行法ニ及セザル樣規定セシメシモ建物ノ質入ハ現行法アラザルニ付キ個ハ佛蘭西主義ニ從フモ可ナリト云フニアリ
<削除ノ意ニテ質問>
第千百三十二條 質取債權者ハ如何ナル反對ノ合意アルニ拘ハラス常ニ己レノ爲メ負擔重キニ過クルト見ユル收益權ヲ將來ニ向テ抛棄シ抵當權ノミヲ存スルコトヲ得
然レトモ適當ノ時期ニアラサレハ之ヲ爲スコトヲ得ス
(栗塚)
本條ハ起案者ニ質問中ニシテ既ニ答案モ回附アリシモ未ダ反譯ノ遑アラザルニ依リ追テ報吿スベシ
第千百三十三條 債權者ハ債務ノ皆濟ニ至ルマテ質ニ取リタル不動產ノ占有ヲ留置スルコトヲ得
然レトモ質取債權者ハ債務ノ滿期前又滿期後ニ熟議ヲ以テスルト競賣ヲ以テスルトヲ問ハス債務者又ハ他ノ債權者ヨリ求メタル賣却ニ故障ヲ申立ツルコトヲ得ス
又質取債權者ハ自ラ賣却ヲ申立ツルコトヲ得右ハ下ニ指示シタル異別ノ效力ヲ生ス
(箕作)
第二項滿期前又滿期後トアルハ滿期前又ハ滿期後トスベシ
可決ス
(箕作)
本條ニ留保ノ符徵アルハ如何
(奧山)
次條ニハ競賣ヲ求メタルトキハ其收益權及ヒ留置權ハ消滅ストアリ質權ノ年限ニ到ラサルニ右權消滅スルハ如何ト云フニアリテ起案者ニ質問中ナリ
(栗塚)
第千百三十二條乃至第千百三十五條ハ起案者ノ登案ヲ報吿スベキ際議定アリタシ其議ニ決ス
<起案者ノ更正ヲ猶ホ修正ス>
第千百三十四條 債務者ニ對シ又ハ債務者ヨリ爲シタル賣却ノ場合ニ於テハ質取債權者ハ其順位ニ於テ其抵當權ヲ行ヒ且其債權者カ總テノ先取特權又ハ抵當權アル債權者ニ先タツトキハ取得者ハ質取債權者ノ尙ホ受取ル可キモノノ爲メ第千百二十一條ニ從ヒ質ノ終了スヘキ時期ニ至ルマテ其留置權ヲ妨ケサルノ責アリ
然レトモ若シ不動產質債權者カ自ラ競賣ヲ求メタルトキハ其收益權及ヒ留置權ハ消滅ス但其順位ノ如何ニ拘ハラス先取特權又ハ抵當ヲ有スル他ノ債權者アラサル場合ニ於テノミ賣却ニ明示シテ此權利ヲ留保シタルトキハ此限ニ在ラス
民法草按第三十六回修正
第千百三十四條 他ノ債權者ヨリ債務者ニ對シ求メタル賣却ノ場合ニ於テハ質取債權者ハ其順位ニ於テ其抵當ヲ行ヒ且其債權者カ如何ナル先取特權又ハ抵當權アル他ノ債權者ニモ先ンセラレサルトキ又ハ先ンセラルルトキト雖トモ他ノ債權者カ總テノ代價ヲ取リ盡サスシテ殘餘アルトキハ取得者ハ質取債權者ノ尙ホ受ク可キモノノ爲メ第千百二十一條ニ從ヒ質ノ終了スヘキ時期ニ至ルマテ留置權ヲ尊重スル責アリ(第二千九十一條第二項)
先取特權若クハ抵當權アル他ノ債權者又ハ質取債權者ノ請求ニ因リ增加競賣ノアリタル場合ニ於テモ亦同シ
<修正質問スル筈>
第千百三十五條 第千百十一條、第千百十四條、第千百十五條及ヒ第千百十八條乃至第千百二十條ハ不動產質ニモ之ヲ適用ス
第四章 先取特權
總則
第千百三十六條 先取特權ハ或ル債權ノ原由ニ附着シタル優先權ナリ但動產質及ヒ不動產質ニ關シ合意ヨリ生スル先取特權ハ此限ニ在ラス
先取特權ハ法律ノ制限シテ定メタル原因、條件及ヒ目的物ニ於ケルニ非サレハ存セス
先取特權カ第三所持者ニ對シ追及權ヲ與フル場合及ヒ其權利行使ノ條件モ亦法律ヲ以テ之ヲ定ム
無異議
第千百三十七條 先取特權ハ動產質及ヒ不動產質ニ關シ第千百十條及ヒ第千百二十八條ニ記載シタル如ク働方及ヒ受方ニテ不可分タリ
無異議
第千百三十八條 先取特權ノ負擔アル物カ第三者ノ方ニテ滅失シ又ハ毀損シ第三者之カ爲メ債權者ニ賠償ヲ負擔シタルトキハ先取特權アル債權者ハ他ノ債權者ニ先チ右ノ賠償ニ於ケル債務者ノ權利ヲ行フコトヲ得但其先取特權アル債權者ハ辨濟前ニ合式ニ拂渡差留ヲ爲スコトヲ要ス
先取特權ノ負擔アル物ヲ賣却又ハ賃貸シタル場合及ヒ其物ニ關シ債務者ニ金額又ハ有價物ヲ辨濟ス可キ總テノ場合ニ於テモ亦同シ但災害ノ場合ニ於テ保險者ノ負擔スル賠償ニ關シ商法第條ニ記載シタルモノヲ妨ケス
(元尾崎)
商法第條ニ記載シタルトアルハ商法ニ記載シトシテハ如何
(村田)
差留ハ差押トナルヤ
(栗塚)
然リ
(渡)
商法ハ第何條ニ當ルカ
(栗塚)
尙ホ調査ス可シ
(箕作)
商法ニ記載トスルヲ可トス
(南部)
第條ハ尙ホ詮議スベキニ付キ此儘ニ措レタシ
第千百三十九條 先取特權ノ種類ハ左ノ如シ
第一 債務者ノ總動產及ヒ附隨ニテ其總不動產ニ係ル一般ノ先取特權
第二 或ル動產ニ係ル特別ノ先取特權
第三 或ル不動產ニ係ル特別ノ先取特權
無異議
第千百四十條 一般又ハ特別ノ先取特權ヲ有スル債權者ノ相互ノ順位ハ此章ノ各節ニ於テ之ヲ規定ス
不動產ニ付キ先取特權ヲ有スル債權者ハ其同一ノ不動產ニ付キ抵當權ヲ有スル債權者ニ先タツ但法律ニ於テ特別ニ規定シタル場合ハ此限ニ在ラス
同名義又ハ同順位ノ先取特權アル債權者ハ其債權額ノ割合ニ應シテ辨濟ヲ受ク
(箕作)
同名義又ハ同順位ト云フ區別ハ如何
(栗塚)
其結果ハ逕庭ナシ
第千百四十一條 本法ニ定メタル先取特權ハ各人又ハ國庫ノ爲メ商法又ハ特別法ヲ以テ規定シ又ハ規定ス可キ先取特權ノ妨ケトナラス
右ノ先取特權ハ別段ノ規定ナキ場合ニ於テハ下ニ定メタル一般ノ規則ニ從フ
(箕作)
別段ノ規定ナキ場合ト云フハ民法中別段ノ規定ト云フ義カ
(栗塚)
民法以外商法ノ如キ特別法ヲ云フニアリ
(南部)
第二項右ノトアルハ其トシテハ如何
(元尾崎)
右商法又ハ特別法ノ先取特權ト雖ドモトシテハ如何
(栗塚)
右商法又ハ特別ノ先取特權ハトスベシ
可決ス
第一節 動產及ヒ不動產ニ係ル一般ノ先取特權
第一款 一般ノ先取特權ノ原因
第千百四十二條 動產及ヒ不動產ニ係ル先取特權アル債權ハ左ノ如シ但下ニ定メタル制限及ヒ條件ニ從フ
第一 訴訟費用
第二 葬式費用
第三 最後疾病費用
第四 雇人給料
第五 飮食品供給
(元尾崎)
訴訟費用ノ殘餘ヲ生ゼザルトキハ葬式費用ヲ先取スルヲ得ザルカ
(栗塚)
然リ
第一則 訴訟費用ノ先取特權
第千百四十三條 訴訟費用ノ先取特權ハ或ハ債務者ノ財產ヲ保存スル爲メ或ハ其財產ヲ淸算シ之ヲ換價シ及ヒ有權者間ニ其代價ヲ配當スル爲メ各債權者ノ共同利益ニ於テ正當ニ爲セル裁判上若クハ裁判外ノ總テノ行爲ニ付キ金圓ノ立替ヲ爲シタル又ハ給料若クハ謝金ヲ受取ルヘキ債權者ニ屬ス
債權者ニ有益ナラサリシ費用ニ付テハ先取特權ハ特別ノモノニシテ其費用ノ爲メ利益ヲ得タル債權者ニ對スルニ非サレハ之ヲ以テ對抗スルコトヲ得ス
無異議
第二則 葬式費用ノ先取特權
第千百四十四條 債務者ノ身分ニ應シ且慣習ニ從ヒ爲シタル葬式ノ費用ハ先取特權アルモノトス
先取特權ハ債務者ノ擔當タル其同居ノ親屬ノ葬式ノ費用ニモ亦之ヲ適用ス
其先取特權ハ葬式ニ連續シタル出費ニ及ハス縱令其出費カ慣習上ノモノタルモ亦同シ
無異議
第三則 最後疾病費用ノ先取特權
第千百四十五條 最後疾病費用ノ先取特權ハ債務者又ハ前條ニ指定シタル家屬ノ死亡前ノ疾病ニ關スル醫師、藥商、看病人及ヒ其他ノ費用ヲ包含ス但債務者ノ無資力前ノ疾病及ヒ其親屬ノ疾病ニ關スルモノモ亦同シ
長病ノ場合ニ於テハ右費用ノ先取特權ハ最後ノ一ケ年ノ費用ニ之ヲ制限ス
債務者又ハ其親屬右費用ヲ生セシメタル疾病ノ外ノ原因ノ爲メ死亡シタルトキト雖トモ先取特權ハ尙ホ存ス
(箕作)
無資力ト云フ上ニ破產又ハト云フ文字ヲ加ヘタシ
(栗塚)
原文ニハ破產ノ文字アレバ破產又ハ無資力トスベシ
可決ス
第四則 雇人給料ノ先取特權
第千百四十六條 雇人ノ先取特權ハ債務者又ハ其同居ノ親屬ノ一身ニ附屬シ或ハ債務者ノ家屋其他ノ所有物ニ附屬シタル雇人ニ屬ス
右ノ先取特權ハ最後ノ一ケ年ノ給料ノミヲ擔保ス
無異議
第五則 飮食品供給ノ先取特權
第千百四十七條 飮食品供給ノ先取特權ハ債務者又ハ其同居ノ親屬及ヒ雇人ニ供給シタル生活ニ必要ナル飮食品ノミニ之ヲ適用ス
右ノ先取特權ハ最後ノ六个月間ノ供給ノミヲ包含ス
(松岡)
生活ニ必要ナル飮食品ト云フハ生活ニ必要ナル日用品トシテハ如何
(栗塚)
日用品ト云フトキハ汎義ニ失スルヲ以テナリ
第二款 一般ノ先取特權ノ效力及ヒ順位
第千百四十八條 一般ノ先取特權ハ先取特權アル各債權者カ動產ニ付キ配當ヲ受ケ尙ホ不足アルニ非サレハ不動產ニ付キ之ヲ行フコトヲ得ス
然レトモ若シ動產代價ノ配當ニ先タチ不動產代價ノ配當アルトキハ債權者ハ條件附ニテ不動產代價配當ニ加入スルコトヲ得但右ノ配當加入ニ於テハ日後動產代價ノ配當加入ニ於テ辨濟ヲ受ケサルモノノミヲ受ク
動產代價ノ配當ニ有益ナル時期ニ出席スルコトヲ怠リタル債權者ハ動產ニ付キ受クヘカリシモノノ限度ニ於テ不動產ニ付キ其優先權ヲ失フ
(元尾崎)
受クベカリシ限度ト云フハ受得ラルル丈ケト云フ義カ
(南部)
然リ
(元尾崎)
優先ト先取トハ如何ナル〓渭アルヤ
(南部)
合意上ノ場合ニハ優先ト云ヒ他ノ場合ニハ先取ト云フト雖ドモ其實ヤ同義ナリ
第千百四十九條 一般ノ先取特權ノ互ニ競合スル場合ニ於テハ第千百四十三條乃至第千百四十七條ニ列記シタル相互ノ順序ニ從ヒ配當加入ヲ定ム
右ノ數條ニ揭ケタル同名義ノ債權ハ同順位ニテ配當ニ加入ス
若シ一般ノ先取特權カ動產ニ係ル特別ノ先取特權ト競合スルトキハ其順位ハ下ノ第二節ニ於テ之ヲ規定ス
不動產ニ係ル特別ノ先取特權ハ一般ノ先取特權ニ先タチ又特別ノ抵當ハ後ノ設定ニ係ルト雖トモ詐害ナキニ於テハ一般ノ先取特權ニ先タツ
然レトモ一般ノ先取特權ハ其發生前ノ取得ニ係ル一般ノ抵當ニモ先タツ
一般ノ抵當ノ負擔アル總不動產ヲ同時ニ賣却シタル場合ニ於テハ一般ノ先取特權ハ各不動產ノ賣却代價ノ割合ニ應シテ其總不動產ニ付キ配當ニ加入ス
若シ順次ニ右ノ不動產ヲ賣却スルトキハ一般ノ先取特權ハ初ノ賣却ニ付キ全部之ヲ充當シ又次ノ賣却ニ付キ附隨ニテ之ヲ充當ス此先取特權ヲ負擔セシ不動產ニ付キ抵當ヲ有スル債權者ハ他ノ不動產ヲ賣却代價ニ付キ求償權ヲ有ス
(村田)
競合ト云フ文字ハ允當ナラス
(栗塚)
最初ハ牴觸トアルヲ相會スルト修正シタルニ又更ラニ競合トシタリ
(淸岡)
出會トスルヲ可トス
(栗塚)
競爭トシテハ如何
(槇村)
競合ト云フニテ可ナリ
可決ス
(元尾崎)
末項ノ抵當ヲ有スルト云ヘルハ一般ノ抵當ヲ有スルト云フ義ナリヤ
(南部)
然リ
(元尾崎)
一般ノ抵當ヲ有スルトシタシ
可決ス
(元尾崎)
附隨ニ之ヲ充當スト云フハ次ノ賣却ニ付キ償還シタル殘額ヲ收得スルガ如ク意味セラルベシ
(箕作)
尙ホ附隨ニテ次ノ賣却ニ付キ之ヲ充當ストシテハ如何
可決ス
第千百五十條 一般ノ先取特權ハ不動產カ債務者ニ屬スル間ハ他ノ債權者ニ對抗スル爲メ其不動產ニ付テノ記入ヲ要セス
無異議
第二節 動產ニ係ル特別ノ先取特權
第一款 動產ニ係ル特別ノ先取特權ノ原因及ヒ目的
第千百五十一條 上ノ第二章ニ規定シタル先取特權ヲ有スル動產質取債權者ノ外下ニ指定シタル動產物ニ付キ先取特權ヲ有スル債權者左ノ如シ
第一 不動產ノ賃貸人
第二 種子及ヒ肥料ノ供給者
第三 農業ノ稼人及ヒ工業ノ職工
第四 動產物ノ保存者
第五 動產物ノ賣主
第六 旅店ノ主人
第七 舟車運送營業人
第八 保證ヲ供スルノ義務アル公吏ノ職務上ノ所爲ニ對スル債權者
第九 右保證金ノ貸主
(箕作)
本條先取權ハ列記ノ順位ニ從フベキヤ
(栗塚)
然リ
第一則 不動產賃貸人ノ先取特權
第千百五十二條 居宅、倉庫其他ノ建築物ノ賃貸人ハ賃借人ノ使用又ハ商工業ノ爲メ此建物内ニ備ヘタル動產物ニ付キ先取特權ヲ有ス
右ノ動產物カ賃借人ニ屬セヌト雖トモ先取特權ハ猶ホ存ス但賃貸人カ賃貸場所ニ此動產物ノ持込ヲ知リタル當時其物ノ賃借人ニ屬セサル事實ヲ知ラス且其事實ヲ豫見スルニ足ル可キ理由アラサリシトキニ限ル
賃貸人ノ先取特權ハ現金ニ付キ又賃借人及ヒ其家屬ノ一身ノ使用ニ供シタル金玉寳石ニ付キ又無記名ナルモ證券ニ付キ之ヲ行フコトヲ得ス
(箕作)
前條第九ハ右保證ノ元資ノ貸主トシテハ如何
可決ス
第千百五十三條 賃貸人ハ家賃ノ當期分及ヒ後ノ一期分ノ辨濟ヲ擔保スルニ足ル可キ動產ヲ賃貸シタル場所ニ備フルコトヲ賃借人ニ要求スルコトヲ得賃借人之ヲ爲サス且右家賃ノ前拂又ハ之ニ相當スル其他ノ擔保ヲ供セサルトキハ賃貸人ハ賃貸借ヲ銷除スルコトヲ得但損害アルトキハ其賠償ヲ求ムルコトヲ得
賃借場所ニ備ヘタル動產ヲ賃貸人ノ許諾ナクシテ取去リタルモ別ニ詐害ナキニ於テハ賃貸人ハ其擔保カ不足トナリタルトキ且賃借人ニ屬スル權利ノ限度内ニ非サレハ此動產ヲ其場所ニ復セシムルコトヲ得ス
然レトモ賃貸人ノ權利ヲ詐害シテ爲シタル所爲ニ付テハ賃貸人ハ第三百六十一條以下ニ記載シタル條件及ヒ區別ニ從ヒ第三者ニ對シテ其行爲ヲ廢罷セシムルコトヲ得
右ハ總テ第千百三十八條ニ依リ賃貸人ノ有スル權利ヲ妨ケス
(松岡)
第一項但ト云フ字ハ且トスベキ意味ニアラズヤ
(箕作)
尙ホトシテハ如何
可決ス
第千百五十四條 賃貸借ト永貸借トヲ問ハス田畑山林ノ賃貸人ハ賃借人カ居宅竝ニ土地利用ノ建物内ニ備ヘタル動產物ニ付キ及ヒ土地ノ利用ニ供シタル動物農具其他ノ器具ニ付キ上ト同一ノ限度ニ於テ先取特權ヲ有ス
其他右ノ賃貸人ハ賃貸シタル土地ノ收獲物其他ノ產出物カ猶ホ土地ニ附着スルト土地ニ保存シ有ルトヲ問ハス其收獲物及ヒ產出物ニ付キ先取特權ヲ有ス
分果賃貸人ハ賃貸シタル土地ノ收獲物其他ノ產出物中ニテ自己ノ權利ヲ有スル部分カ猶ホ分果小作人ノ方ニ存スル間ハ他ノ債權者ニ先タチ直接ニ其收獲物其他ノ產出物ヲ己レノ有トシテ先取特權ヲ行フ
(村田)
第一項動產物ニ付キトアルヲ動產ニ付キトシタシ
可決ス
第千百五十五條 永貸借ト賃貸借ト分果小作トヲ問ハス賃借人ハ賃貸人ノ求メアルニ於テハ其擔保ノ爲メ其年ノ收獲物其他ノ產出物ヲ保存スルノ責アリ
第千百五十三條ヲ以テ賃貸人ノ利益ニ於テ定メタル隱竊物ノ取戻權及ヒ賃貸借ノ解除權ハ田畑山林ノ利用ニ供シタル物ノ賃貸借ニ之ヲ適用ス
(箕作)
隱竊物ト云フ文字ハ商法ニテハ藏匿トシタリ如何
(栗塚)
民法ニテハ隱竊ノ文字ヲ使用シ來レリ
(尾崎)
賃借人收獲物ヲ保存スルノ責アリト云フハ賃借人困却スルナラン
(村田)
解除ハ銷除トスベシ
可決ス
(淸岡)
隱竊ハ藏匿トシタシ
(村田)
〓移ト云フ意味ナリ
(箕作)
隱匿トスベシ
可決ス
第千百五十六條 賃借人ノ讓渡又ハ轉貸ノ場合ニ於テハ賃貸人カ賃貸場所ニ備ヘアル動產物ノ讓受人又ハ轉借人ニ屬スルコトヲ知ルト雖トモ其先取特權ハ是等ノ物ニ及フ
此場合ニ於テ先取特權ハ第千百三十八條ニ從ヒ讓渡シ又ハ轉貸ノ代價トシテ主タル賃借人ノ受ク可キ金額ニ及フ但前拂ヲ以テ賃貸人ニ對抗スルコトヲ得ス
(栗塚)
動產物ノハ例ニ從ヒ動產ノトスベシ
可決ス
第千百五十七條 賃借人ノ財產ノ總淸算ノ場合ニ於テハ賃貸人ハ土地家屋ノ借賃其他每年ノ負擔ニ付キ前年、本年及ヒ翌年ノ分ニ非サレハ前數條ニ定メタル先取特權ヲ有セス
其他先取特權ハ賃貸借ヨリ先スル他ノ合意上ノ義務、前年及ヒ本年ニ於テノ賃借人ノ過失又ハ懈怠ノ爲メ賃貸人ノ受ク可キ賠償及ヒ賃貸人カ將來ニ向テ請求スルコト有ルヘキ銷除ニ添フタル損害賠償ヲ擔保ス
(松岡)
總淸算ト云フ文字ハ如何
(元尾崎)
總淸算ト云フハ可ナリ
(松岡)
第百八十條トノ照應不都合アラスヤ
(栗塚)
不都合ナシ
第千百五十八條 右淸算ノ場合ニ於テ他ノ債權者ハ自己ノ利益ニ於テ賃貸借ノ銷除ヲ妨止シ及ヒ初メヨリ轉貸又ハ讓渡ノ禁止アルニ拘ハラス其賃貸借權ヲ轉貸シ又ハ讓渡スルコトヲ得但賃貸借殘期ノ爲メ賃貸人ニ土地家屋ノ賃貸其他ノ納額ヲ擔保スルコトヲ要ス
無異議
第二則 種子及ヒ肥料供給者ノ先取特權
第千百五十九條 所有者、用益者、賃借人又ハ占有者ニ種子及ヒ肥料ヲ供給シタル者ハ之ヲ用ヰタル年ノ果實ニ付キ先取特權ヲ有ス
蠶種及ヒ蠶ノ飼養ニ供スル桑葉ヲ供給シタル者ニ付テモ亦同シ
無異議
第三則 農業稼人及ヒ工業職工ノ先取特權
第千百六十條 雇人ノ外其年ノ收獲ノ爲メ勞働シタル稼人ハ其一ケ年間ノ給料ノ爲メ收獲物ニ付キ先取特權ヲ有ス
又樹林、鑛坑、炭坑、石坑、養蠶場ニ於テ勞働シタル職工ハ其產出物ニ付キ先取特權ヲ有ス但其年ノ給料中最後ノ三ケ月間ノ爲メノミニ限ル
(松岡)
第二項ニ製造場ノ職工ト云フヲ包含セザルノ不都合アリ
(委員長)
本法ノ文例トシテ往々類推法ヲ用ヒ樹木ト云フニ木竹ヲ包含スルガ如キアリ
(栗塚)
製造場ノ職工ハ商法ニ屬スベキニアラザルカ
(松岡)
之ヲ商法ニ屬セシムルモノトセバ其他ノ職工モ商法ニ屬スベシ商法ニハ別ニ此規定ナシ
(淸岡)
此農業工業ト云フハ小事業ノ場合ニアラズヤ
(委員長)
其區別ナシ
(南部)
第二項ハ又工業ノ職工ハトシ尙ホ起案者ニモ質問スベシ
(栗塚)
其產出物トアル其ヲ刪リ產出物又ハ製造品ノ文字ヲ加フ可シ
可決ス
第四則 動產物保存者ノ先取特權
第千百六十一條 動產物ノ修繕又ハ保存ノ費用ニ付テノ債權者ハ第千九十六條ニ從ヒ己レニ屬スル留置權ヲ行ハサルトキト雖モ其修繕又ハ保存シタル物ニ付キ先取特權ヲ有ス
右ノ先取特權ハ金額有價物其他動產物ニ關スル人權又ハ物權ヲ債務者ノ爲メニ追認、保存又ハ實行セシメタル裁判上又ハ裁判外ノ行爲ノ費用ニ之ヲ適用ス
無異議
第五則 動產物賣主ノ先取特權
第千百六十二條 動產物ノ賣主ハ代價辨濟ノ爲メ期限ヲ與ヘタルト否トヲ問ハス其代價及ヒ利息ノ爲メ賣却物ニ付キ先取特權ヲ有ス
若シ補足額ヲ以テスル交換アリテ其補足額カ讓渡シタル物ノ價額ノ半ヲ超ユルトキハ先取特權ハ其補足額ノ爲メ交換物ニ付キ存ス
無異議
第千百六十三條 先取特權ハ賣却物カ用方ニ因リ又ハ不動產ニ合體スルニ因リ不動產ト爲リタルトキト雖モ猶ホ買主ノ占有ニ在リ且變形セサル間ハ存續ス但合體ノ場合ニ於テハ不動產ヲ毀損セスシテ其物ヲ分離シ得ルコトヲ要ス
無異議
第千百六十四條 賣主ノ先取特權ハ第六百八十四條及ヒ第七百二十一條ニ規定シタル留置及ヒ解除ノ權利ヲ妨ケス
(松岡)
先取權ト解除トハ併行スルヲ得ズ
第六則 旅店主人ノ先取特權
第千百六十五條 旅店ノ主人ハ旅客其從者及ヒ牛馬ノ宿泊料、食料ノ爲メ其旅客ノ携帶シテ尙ホ旅店ニ存スル手荷物ニ付キ先取特權ヲ有ス
無異議
第七則 舟車運送營業人ノ先取特權
第千百六十六條 舟車運送營業人ハ荷物又ハ旅客ノ運送賃ノ爲メ及ヒ關稅其他正當ナル附從ノ費用ノ爲メ自己ノ手ニ存スル運送物ニ付キ先取特權ヲ有ス
運送營業人カ運送物ノ引渡ヨリ四十八時間内ニ債務者又ハ其名ヲ以テ其物ヲ受取リタル者ニ對シ其物ヲ返還スルヤ又ハ運賃其他ノ費用ヲ辨濟スルヤノ催吿ヲ爲シ且其效果ヲ生セシムル爲メ短キ時間内ニ裁判上ノ請求ヲ爲シタルトキハ其先取特權ハ物ノ引渡後ト雖モ存續ス
如何ナル場合ニ於テモ第三取得者ニ對シテ物ヲ回復スルコトヲ得ス但第千百五十三條ニ規定シタル如ク詐害アル場合ハ此限ニ在ラス且第千百三十八條ノ適用ヲ妨ケス
(松岡)
運送營業人ニ關シテハ商法ト對照シタリヤ運送物ノ引渡及ビ受取ニ付テハ留置權上ノ關係ヲ生ズベケレバナリ
(栗塚)
留置ニ付テハ本法留置權ノ場合ニ其規定アリ
(委員長)
本條ハ尙ホ商法ト對査スベシ其議ニ決ス
第八則 職務上ノ所爲ニ對スル債權者ノ先取特權
第千百六十七條 保證ヲ供スルノ義務アル公吏ノ職務上ノ過失、又ハ濫忘ヨリ生スル債權ハ其保證金ニ付キ先取特權アリ
(栗塚)
其保證金トアルハ例ニ從ヒ其保證ノ元資トスベシ
可決ス
(元尾崎)
濫忘ハ濫用トスベシ
(委員長)
濫忘ニテモ可ナルベシ
可決ス
第九則 保證金貸主ノ先取特權
第千百六十八條 前條ノ保證金ヲ貸付タル第三者ハ職務上ノ所爲ヨリ害ヲ受ケタル者ニ辨濟アリシ後第二位ニテ此保證金ニ付キ先取特權ヲ有ス但第三者カ貸付ノ當時又ハ他ノ債權者ヨリ何等ノ故障ヲモ述ヘサル前規則ニ從ヒ其權利ヲ證明シタルトキニ限ル
(栗塚)
保證ノ元資トスルハ妥當ナラザレバ前條及ビ本條ハ保證金トシテハ如何
(南部)
第千五十一條ニテハ保證ノ元資トシタルヲ以テ一定ナラザルベカラズ
(渡)
第千五十一條ハ保證金トスベシ
結局皆保證金トスルニ決ス
第二款 動產ニ係ル特別ノ先取特權ノ順位
第千百六十九條 動產ニ係ル特別ノ先取特權ト一般ノ先取特權ト競合スルトキハ優先ノ順序ヲ左ノ如ク規定ス
第一 訴訟費用ハ其費用ノ有益タリシ總債權者ニ先タツ但有益ノ限度又ハ割合ニ從フ
第二 其他四個ノ一般ノ先取特權ハ第千百四十二條ニ定メタル順序ヲ以テ總テノ特別ノ先取特權ニ先タツ但特別ノ先取特權ニ服セサル他ノ動產ノ不足ナル場合ニ限ル
(村田)
動產ノ場合ニハ特別特權ハ一般ノ先取特權ニ優勝スルモ動產ノ場合ニ於テハ然ラザルカ
(栗塚)
然リ
(委員長)
四個ト云フハ如何
(村田)
第千百四十二條第二以下ヲ指ス可シ
(淸岡)
第一但割合ニ從フト云フハ記載ヲ要セズ何トナレバ實際割合ヲ以テスルニアラザルベシ
(松岡)
割合ニ從フモノトス例バ甲種ノ物品ニ權利アリト云フヲ以テ其種ノ物品ヲ取去ラレタルトキハ乙種ノ物品ニ於ケルモノノ金錢ニ不足ヲ生ズベケレバナリ
第千百七十條 一個ノ動產ニ付キ特別ノ先取特權ヲ有スル諸種ノ債權競合スルトキハ其相互ノ優先權ハ下ノ順序及ヒ區別ニ從ヒ之ヲ定ム
第一ノ順位ハ先取特權ノ目的物ヲ保存シタル者ニ屬ス
若シ數人ノ債權者漸次ニ保存ヲ爲シタルトキハ優先權ハ其間ニテ最後ノ保存者ニ屬ス
第二ノ順位ハ合意上ノ動產質ニ因リ或ハ不動產ノ賃貸人、旅店ノ主人又ハ運送營業人ノ如ク默示ノ動產質ニ因リ物ヲ質ニ取リタル債權者ニ屬ス
第三ノ順位ハ物ノ賣主ニ屬ス
然レトモ質取債權者ハ動產質設定ノ時其物ノ保存費用ノ未タ支拂ナキコトヲ知ラサリシトキハ第一ノ順位ヲ得
之ニ反シテ質取債權者カ賣却代價ノ未タ支拂ナキコトヲ知リタルトキハ賣主之ニ先タツ
收獲物ニ關シテハ第一ノ順位ハ農業ノ稼人ニ第二ノ順位ハ種子及ヒ肥料ノ供給者ニ第三ノ順位ハ土地ノ賃貸人ニ屬ス
工業ノ職工ハ鑛坑、石坑、其他土地ノ採掘事業又ハ土地ノ工業ヨリ生スル產出物ニ付キ賃貸人ニ先タツ
公吏ノ保證金ニ關シテハ職務上ノ所爲ニ對スル各債權者ハ相共ニ債權ノ割合ニ應シ其債權ノ割合ニ應シ其債權ノ日附ニ關セス他ノ債權者ニ先タチ又證金ヲ貸シタル債權者ニモ先タツ其保證金ヲ貸シタル債權者ハ保證金ノ殘額ニ付キ第二位ニテ先取特權ヲ有ス
(元尾崎)
第一ノ順位ト云フハ如何
(松岡)
第一ノ順位ハ目的物ヲ保存シタル者ニ權利アリ
(元尾崎)
第三ハ如何
(栗塚)
工業ヨリ生ズル產出物又ハ製造品ニ付キ賃貸人ニ先ダツトスベシ
可決ス
(委員長)
第六項未ダ支拂ナキコト云々トアルハ文義不都合ニアラズヤ未ダト云フ文字ハ不ノ字ノ意味トナルベケレバナリ
(栗塚)
俗ニ所謂「マダ」ト云フ義ナリ故ニ未ダ支拂アラザルコトヲ知ラザリシトキトシテハ如何
可決ス
第三節 不動產ニ係ル特別ノ先取特權
第一款 不動產ニ係ル特別ノ先取特權ノ原因及ヒ目的物
第千百七十一條 左ノ債權者ハ下ニ定メタル債權ノ爲メ及ヒ其條件ニ從ヒ不動產ニ付キ先取特權ヲ有ス
第一 賣買、交換其他有償ノ行爲ニ因リ又無償ニモセヨ負擔ヲ帶ル行爲ニ因リ不動產ヲ讓渡シタル者ハ其讓渡シタル不動產ニ付キ先取特權ヲ有ス
第二 共同分割ハ分割中ニ包含シタル不動產ニ付キ先取特權ヲ有ス
第三 工匠技師及ヒ工事請負人ハ工事ニ因テ不動產ニ生シタル增價ニ付キ先取特權ヲ有ス
第四 先取特權ヲ生セシムル行爲ノ當時ニ於テ讓渡人、共同分割者、工事請負人ニ支拂ヒタル金錢ノ貸主ハ右同一ノ不動產ニ付キ先取特權ヲ有ス
第五 死亡者ノ遺產ト相續人ノ資產トノ分離ヲ請求スル相續ノ債權者及ヒ受遺者ハ相續ノ不動產ニ付キ先取特權ヲ有ス
(淸岡)
債權ノ爲メ及ビ其條件ト云フハ如何
(栗塚)
債權ノ爲メ其條件ニ從ヒ不動產ニ付キ先取特權アルトノ意ナレバ「及ヒ」ヲ刪除シテハ如何
可決ス
(淸岡)
無償ニモセヨトアルハ無償ナルモノトスベシ
可決ス
第一則 讓渡人ノ先取特權
第千百七十二條 讓渡人ノ先取特權ハ左ノ各人ニ屬ス
第一 賣買ノ代價利息其他ノ負擔ニ付テハ賣主
第二 交換ノ補足額、負擔及ヒ交換物ノ追奪擔保ニ付テハ交換者
第三 贈與ノ負擔ニ付テハ贈與者又ハ其承繼人
其他有償又ハ無償名義ノ不動產讓渡人ハ一般ニ其對價及ヒ負擔ニ付キ先取特權ヲ有ス
(南部)
第一ハ賣買ノ代價トアル下ニ及ビト云フ文字ヲ挿入スベシ
可決ス
(委員長)
年金權ト云ヘルヲ刪除シタルハ如何
(栗塚)
代價利息ト云ヘバ年金權トスルハ當人ノ自由ナルベシ
(委員長)
年金トスルトキハ賣買代價ト云フヲ得可キヤ
(栗塚)
代價タルベシ
第千百七十三條 賣買代價交換補足額ノ外賣買交換、贈與ノ負擔及ヒ交換其他有償名義ノ合意ニ於ケル追奪擔保ノ未定ノ賠償ハ讓渡ノ證書又ハ日後ノ證書ヲ以テ金錢ニテ之ヲ定ムルコトヲ要ス
其他右ノ證書ハ次款ニ記載スル如ク之ヲ公示スルコトヲ要ス
(委員長)
賣買交換等ノ負擔ニアラザルトキハ如何
(栗塚)
其他有償名義ノ合意ト云フニ入ル可シ
第千百七十四條 交換其他不動產ノ讓渡ノ對價トシテ受取リタル不動產ノ追奪擔保ノ爲メノ先取特權ハ其追奪カ讓渡ノ時ヨリ十ケ年内ニ生シ且廢罷スヘカラサル判決ヨリ一ケ年内ニ擔保ノ請求ヲ爲シ之ヲ公示シタルトキニ非サレハ存在セス
對價トシテ受取リタル動產ニ關シテハ擔保ノ爲メノ先取特權ハ追奪カ一ケ年内ニ生シ且廢罷ス可カラサル判決ヨリ一ケ月内ニ請求ヲ爲シ之ヲ公示シタルトキニ非サレハ存在セス
無異議
第二則 共同分割者ノ先取特權
第千百七十五條 相續人、社員其他ノ共有者ハ或ハ抽籤ノ方法或ハ合意上ノ指定或ハ不分物競賣ニ因レル分割ヨリ生スル左ノ債權ノ爲メ其分割ニ於テ各自ノ得タル不動產ニ付キ互ニ先取特權ヲ有ス
第一 補足額ノ爲メ又ハ配當ノ過分ノ爲メニハ之ヲ負擔セル分割者ニ歸シタル不動產ニ付キ先取特權アリ
第二 不分物競賣ノ代價ノ爲メニハ其競賣シタル不動產ニ付キ先取特權アリ
第三 分割者ノ一人カ其配當部分ノ動產又ハ不動產ニ於テ受ケタル追奪ノ擔保ノ爲メニハ他ノ分割者ニ歸シタル總不動產ニ付キ先取特權アリ但債務ニ於ケル各分割者ノ部分ニ限ル
無異議
第千百七十六條 左ノ擔保ハ亦左ノ諸件ニ之ヲ適用ス
第一 相續人又ハ社員ニシテ他ノ相續人又ハ社員ニ對シ補足額又ハ不分物競賣ノ代價ヲ負擔シタル者ノ無資力
第二 分割者ノ一人ノ配當部分ニ債權ヲ充テタルトキ其債務者ノ無資力但其債務者ハ分割者タルト外人タルトヲ問ハス分割ノ當時無資力タリシコトヲ要ス
(村田)
無資力ノ上ニ破產又ハノ數字ヲ要セザルヤ
(栗塚)
無資力ト云フ文字ニテ破產ヲモ類推スベシ
(村田)
第千百四十五條破產又ハノ文字ヲ刪除シタシ
(栗塚)
該條ハ原文ニ破產ニ當ル文字アレバナリ
(淸岡)
配當部分ニ債權ヲ充テタルトキ其債務者ノ無資力ト云フハ如何
(栗塚)
貸金證文アルモ其債務者ノ無資力ナル場合ヲ云フニアリ
第千百七十七條 第千百七十四條ハ分割者間ノ追奪擔保ノ先取特權ニ之ヲ適用ス
分割者タルト否トヲ問ハス債務者ノ無資力ニ關シテハ其擔保ハ元本ニ於ケル債務ノ滿期ヨリ一ケ年内ニ請求ヲ爲シ之ヲ公示シタルトキニ非サレハ當事者ノ間ニテモ又第三者ニ對シテモ之ヲ負擔セシムルコトヲ得ス
債務カ無期又ハ終身ノ年金權タルトキ債務者ノ無資力カ分割ノ日ヨリ十ケ年後ニ生スルニ於テハ其擔保ノ負擔ハ止ム
債務カ利息ヲ生スル元本ニシテ其滿期カ十ケ年以上ニ及フトキモ亦同シ
無異議
第三則 工匠技師及ヒ工事請負人ノ先取特權
第千百七十八條 工匠、技師及ヒ工事請負人ハ建物、堤塘若クハ堀割ノ築造若クハ修繕ニ付キ又ハ地上ニ爲シタル排洩、灌漑、開墾、置土、其他之ニ類似スル土工ニ付キ自己ノ指揮又ハ擧行シタル工事ヨリ生スル債權ノ爲メ先取特權ヲ有ス
右ノ先取特權ハ鑛坑及ヒ石坑ノ開掘、利用、閉鎖又ハ廢止ニ關スル地下又ハ外部ノ工事ノ爲メ工匠、技師及ヒ工事請負人ニ屬ス
(箕作)
本條第一項土工ニ付キトアルハ土工其物ニ對シ債權アルニアラズ之ヲ指揮又ハ擧行シタル工事ヨリ生ズル債權ナレバナリ
(栗塚)
修繕ノ下「ニ付キ」ヲ刪リ且ツ「土工ニ付キ自己ノ指揮又ハ擧行シタル」ト云ヘル數字ヲ刪除スベシ
可決ス
第千百七十九條 右ノ工事ヨリ生スル先取特權ハ其工事ニ因リ土地又ハ建物ニ加ヘタル增價ニシテ先取特權行使ノ當時猶ホ存在スルモノノミニ付キ存ス
右ノ增加ハ裁判所ノ選定シタル鑑定人ノ作レル三個ノ調書ヲ以テ之ヲ明定スルコトヲ要ス
其第一調書ハ工事ヲ始ムル前ニ之ヲ作リテ場所ノ現狀ヲ明定シ且目論見タル工事ノ槪略ヲ指示スルコトヲ要ス
其第二調書ハ工事ノ竣成ヨリ又ハ原因ノ如何ヲ問ハス其工事ノ絕止ヨリ三ケ月内ニ之ヲ作リ且其工事ヨリ現ニ生スル增價ヲ明定スルコトヲ要ス
其第三調書ハ配當加入ノ請求ノ當時之ヲ作リ且右增價ノ存在スルモノヲ明定スルコトヲ要ス
無異議
第四則 金錢貸主ノ先取特權
第千百八十條 前數條ニ揭ケタル先取特權ハ讓渡若クハ分割ノ當時又ハ工匠、技師若クハ工事請負人トノ契約ノ當時ニ於テ賣買若クハ不分物競賣ノ代價、交換若クハ分割ノ補足額又ハ工事ノ代金ノ辨濟ノ爲メ金錢ヲ貸付タル者ニ法律ニ依リ直接ニ屬ス但其金錢ノ貸付及ヒ使用ヲ此等ノ行爲ノ證書中ニ記載シタルトキニ限ル
若シ讓渡人、分割者又ハ工事ノ爲メノ債權者ノ利益ニ於テ先取特權ノ生セシ後ニ金錢ヲ貸付ケタルトキハ貸主ハ第五百二條及ヒ第五百三條ニ定メタル條件及ヒ方式ニ從ヒ債權者又ハ債務者ヨリ合意上ノ代位ヲ得タルトキニ非サレハ先取特權ヲ取得セス
孰レノ場合ニ於テモ金錢ノ貸主カ債務ノ一分ノミヲ辨濟シタルトキハ貸主ハ其辨濟シタルモノノ割合ニ應シ第五百八條ニ從ヒ原債權者ト共ニ先取特權ヲ行フ
(箕作)
債權者又ハ債務者ヨリ合位上ノ代位ト云ヘルハ如何
(南部)
第三者債權者ニ辨濟スレバ其代位ヲ得又第三債務者ヨリ金錢ヲ得テ其代位ヲ得ベシト云フニアリ
第五則 資產分離ノ先取特權
第千百八十一條 相續ノ債權者及ヒ受遺者カ死亡者ノ遺產ト相續人ノ資產トノ分離ヲ請求スルノ權利ヲ行フニ付キ服從ス可キ條件ハ相續ノ事項ニ之ヲ規定ス
(村田)
本條ハ贅條ニ屬スベケレバ刪除シタシ
(栗塚)
本條ハ次條ト連關シタルモノニ付刪否ハ次條ニテ決シタシ
第千百八十二條 讓渡人、分割者及ヒ資產分離ヲ請求シタル債權者並ニ受遺者ノ先取特權ハ債務者ノ所爲ニ因リ又ハ其權利ニ基キ且其費用ヲ以テ不動產ニ加ヘタル增加及ヒ改良ニ及ハス
(淸岡)
資產分離ノ點ノミヲ刪リタシ
(尾崎)
兩條共ニ存在スベシ
(元尾崎)
本條ノ讓渡人ト云フハ資產分離ノ讓渡人ニアラズシテ一般ノ讓渡人ナルヤ
(箕作)
然ルナラン
(元尾崎)
讓渡人ハ一般ノ讓渡人トスレバ表題ニ恰當セズ又債務者ノ所爲ニ因リ又ハ其權利ニ基キ且其費用ヲ以テ不動產ニ加ヘタル增加及ビ改良ニ先取特權ノ及バザルコト勿論ナリトス
(箕作)
勿論ナルヤ否ハ疑團ナキニアラズ
(栗塚)
讓渡人分割者及ビト云ヘル冒頭ノ文字ヲ刪リ別項ニ右ノ規定ハ不動產ノ讓渡人又分割者ノ先取特權ニ之ヲ適用ストシタシ
可決ス
(元尾崎)
第五則ハ全除スルヲ得ザルヤ
(箕作)
然カスルヲ得ズ
第二款 不動產ニ係ル特別ノ先取特權ノ債權者間ノ效力及ヒ順位
第千百八十三條 前款ニ揭ケタル先取特權ハ下ニ定メタル方法、條件及ヒ期間ヲ以テ公示シ且保存シタルトキニ非サレハ之ヲ以テ他ノ債權者ニ對抗スルコトヲ得ス
(松岡)
此先取特權ハ注意周到ナル者ニ對シ褒賞スルト等シカルベシ
(栗塚)
否ナ其原因ヲ同フセズ
第千百八十四條 賣買代價ノ爲メノ賣主ノ先取特權及ヒ補足額ノ爲メノ交換者ノ先取特權ハ代價又ハ補足額ノ全部又ハ一分ヲ未タ辨濟セサル旨ヲ記シタル所有權移轉證書ノ登記ヲ以テ之ヲ保存ス
又交換ニ於ケル追奪擔保ノ爲メ及ヒ賣買、交換其他所有權移轉契約ノ附從負擔ノ爲メノ先取特權ハ證書ノ登記ヲ以テ之ヲ保存ス但擔保及ヒ負擔ノ評價ヲ證書中ニ記載シタルトキニ限ル
無異議
第千百八十五條 分割者ノ先取特權ハ所有權表白ノ效力アル分割ノ證書ヲ登記スルニ因リ之ヲ保存ス但其證書ニ不分物競賣代價又ハ補足額若クハ配當ノ過分及ヒ追奪擔保ノ評價其他各配當部分ノ負擔ノ評價ヲ記載シタルトキニ限ル
(栗塚)
本條ノ表白ト云ヘル文字ハ認定トナルベシ
(箕作)
認定ノ文字ナキモ不明ニアラズ
(栗塚)
本條ハ所有權移轉ニアラザル旨ヲ明ニセリ
(元尾崎)
所有權認定ノ效力アルト云フ文字ハ必要ヲ見ズ
(松岡)
認定ト云フ字ハ表白ト云ヘル文字ヨリハ明了ナリト雖モ認定ノ效力アルト云フ數字ニ必要アリヤ
(箕作)
認定ノ效力アル分割ノ證書ト云ヘバ認定ノ效力ナキ分割ノ證書アルガ如シ
(栗塚)
認定ノ文字ハ前條ノ移轉ト對シ本條ノ分割ノ證書ト前條ノ契約トアル文字ト相對セリ
(箕作)
認定ノ效力アルト云ヘバ認定ノ效力ナキト云フ裏面ヲ表スベシ
結局所有權認定ノ效力アルト云ヘル數字ヲ刪除ス
第千百八十六條 右讓渡又ハ分割ノ證書ノ登記ナキ間ハ取得者又ハ分割者ノ承諾シ又ハ其權利ニ基キテ生シタル物上擔保ハ公示シタルトキト雖モ之ヲ以テ先取特權アル債權者又ハ其承繼人ニ對抗スルコトヲ得ス但工事ヨリ生スル先取特權アル債權ハ此限ニ在ラス
然レトモ利害關係人ハ原契約者ノ承諾ヲ得スト雖モ常ニ右ノ登記ヲ爲サシムルコトヲ得
(槇村)
本條ハ最初報吿委員ノ再調ニ付ストアル如何
(松岡)
最初報吿委員ノ說明ハ原契約者ノ承諾ヲ得ル場合ニ限ルト云フ旨ニアリト雖モ然ラズシテ此場合ニハ假令原契約者ノ承諾ナキモ之ヲ強制シテ登記セシムルヲ得ト云フニ思意トセリ
第千百八十七條 讓渡又ハ分割ノ證書ニ其對價物ノ全部若クハ一分ノ未タ辨濟ナキコト又ハ負擔ノ付シアルコトヲ記載セサルトキハ日後ノ證書ヲ以テ此遺脫ヲ補フコトヲ得且其證書ハ債權者ノ注意ヲ以テ讓渡又ハ分割ノ證書ト共ニ之ヲ公示スルコトヲ得
右日後ノ證書ヲ讓渡又ハ分割ノ證書ノ登記ト共ニ公示セサルトキハ債權者ハ何時ニテモ抵當ノ章ニ定ムル方式ニ從ヒ要旨ノ記入ヲ以テ其證書ヲ公示スルコトヲ得但此場合ニ於テハ先取特權ハ單純ナル法律上ノ抵當ニ變性ス
右ノ抵當ハ二個ノ公示ノ間ニ於テ債務者ノ權利ニ基キ物上擔保ヲ取得シ且合式ニ之ヲ公示シタル債權者ニ之ヲ以テ對抗スルコトヲ得ス
讓渡若クハ分割ノ證書ニ記シタル負擔又ハ擔保ノ評價ヲ日後ノ證書ニ記載シタルトキモ亦同シ但其證書ノ抵當記入ハ其記入ヲ爲シタル日附ニ從ヒ債權者ノ順位ヲ定ム
(村田)
債權者ノ注意ヲ以テトアル注意ヲ以テノ字ハ別ニ必要ノ文字ニアラズ債權者ヨリトシテハ如何
(栗塚)
債權者ヨリトスレバ文體ヲ變ゼザルベカラズ
第千百八十八條 賣主其他讓渡人又ハ分割者ノ先取特權カ法律上ノ抵當ニ變性シタルトキハ右抵當ノ記入前ニ讓渡又ハ分割ノ目的タル不動產ニ付テノ物上擔保ヲ債務者ノ權利ニ基キテ取得シ且合式ニ保存シタル債權者ヲ害シテ義務不履行ノ爲メノ解除訴權ヲ行フコトヲ得
無異議
第千百八十九條 工匠、技師又ハ工事請負人ノ先取特權ハ第千百七十九條ニ定メタル第一第二ノ調書ノ記入ヲ以テ之ヲ保存ス
其第一調書ハ工事ヲ始ムル前ニ之ヲ記入スルコトヲ要ス
第二調書ハ其錄製ヨリ一ケ月内ニ於テ之ヲ記入スルコトヲ要ス
第二調書ノ記入ノ效力ハ第一調書ノ日附ニ遡及シ且工事ノ前又ハ後債務者ト約束シタル各人ニ對シ其增價ニ付テノ優先權ヲ先取特權アル債權者ニ保有セシム
利害關係人中一人ノ爲シタル右調書ノ記入ハ委任ナキトキト雖モ他ノ關係人ヲ利シ且總關係人ニ其債權ノ割合ニ應シテ辨濟ヲ受クル爲メノ同一ノ順位ヲ保有セシム但總テノ者カ有益ノ時期ニ於テ必要ナル證明ヲ爲スコトヲ要ス
無異議
第千百九十條 前條ニ指定シタル期間ニ二個ノ調書中其一ノ記入ヲ爲ササリシトキハ先取特權ハ法律上ノ抵當ニ變性シ其順位ハ左ノ日附ヲ以テ之ヲ定ム
第一 工事ノ竣成又ハ絕止ノ時ヨリ三ケ月内ニ第二調書ヲ錄製シ且次月内ニ之ヲ記入シタルトキハ第一調書ノ遲延記入ノ日附
第二 右ノ三ケ月内ニ第二調書ヲ錄製セス又ハ三ケ月内ニ之ヲ錄製シタルモ次月内ニ之ヲ記入セサルトキハ其第二調書記入ノ日附
(松岡)
錄製ト云ヒ作製ト云フハ如何
(村田)
調書ニ付テハ皆錄製トシタリ
(委員長)
前條ニ疏明ノ文字ヲ揭ゲシハ本法ニモ疏明ノ文字ヲ可ナリト云フニアリヤ
(栗塚)
疏明ト云フ外ナカルベシ
(松岡)
此文字ハ訴訟法ト對照スベキト云フニアリ
第千百九十一條 取得、分割又ハ工事ノ爲メ初メニ金圓ヲ貸付タル者ノ第千百八十條第一項ニ從ヒ有スル先取特權ハ賣主、分割者又ハ工事請負人ニ於ケルト同一ノ方法ヲ以テ之ヲ保存ス
右貸主カ後日代位ニ因リテ賣主、分割者又ハ工事請負人ニ承繼シタルトキ未タ先取特權ノ公示ナキニ於テハ其貸主ハ主タル證書及ヒ代位證書ノ登記又ハ記入ニ因リテ其公示ヲ爲サシム
若シ代位前ニ公示アリタルトキハ貸主ハ登記シタル證書ノ縁邊ニ代位證書ノ附記ヲ請求ス可シ
又先取特權アル債權ヲ讓渡タル者ハ讓渡證書ノ附記ヲ請求ス可シ
此末ノ二個ノ場合ニ於テ附記ヲ爲サシムルコトヲ遲延シタル代位者又ハ讓受人ハ其以前善意ニテ債務者又ハ其承繼人ト原債權者トノ間ニ爲シタル辨濟其他ノ免責ノ行爲ヲ非難スルコトヲ得ス
(松岡)
非難ト云フ文字ハ可ナルヤ
(栗塚)
曩ニ駁撃ノ文字ヲ使用シタレバ今モ駁撃トシテハ如何
可決ス
第千百九十二條 上ニ記載シタル如クニ保存シタル先取特權又ハ抵當アル債權ニシテ利息又ハ年金ノ附キタルモノハ利息又ハ年金ノ滿期トナリタル最終ノ二ケ年分ニ非サレハ元本ト同一ノ順位ニテ配當ニ加入スルコトヲ得ス但滿期ノ利息又ハ年金ノ中ニテ二ケ年以外ノモノノ爲メ漸次ニ特別ノ抵當記入ヲ爲ス可キ債權者ノ權利ヲ妨ケス
(松岡)
先取特權上ノ利息ハ二ケ年以上ニ出ヅルコトヲ得ザルヲ以テ債權者意外ノ場合アルベシ
第千百九十二條〔第二〕 資產分離ヲ請求スル債權者及ヒ受遺者ハ擔保ノ爲メ留置セント欲スル財產ニ付キ相續ノ發開ヨリ六ケ月内ニ其債權又ハ遺贈ヲ記入スルコトヲ要ス
其記入ニハ債權又ハ遺贈ノ額ト其記入ヲ爲ス主旨トヲ附記スルコトヲ要ス
相續人ノ權利ニ基キ右ノ期間ニ爲シタル記入又ハ登記ハ分離請求者ニ之ヲ以テ對抗スルコトヲ得ス但工事請負人ノ先取特權ニ關シ次條ニ記載スルモノハ此限ニ在ラス
〔第二〕
(委員長)
右ノ期間ニ爲シタル記入ト云フハ如何
(箕作)
相續人ノ債權者之ヲ爲スベシ
第千百九十三條 不動產ニ付キ先取特權アル債權者間ノ相互ノ優先權ハ左ノ順序ニ從フ
第一 工匠、技師及ヒ工事請負人但其債權カ後ニ生シタルトキモ亦優先權ヲ有ス
其工事ヨリ生スル增價額カ右ノ各人ニ全ク辨濟スルニ足ラサル場合ニ於テハ債權ノ割合ニ應シ同一ノ順位ニテ其配當加入ヲ定ム
第二 讓渡人又ハ分割者
逐次ノ讓渡又ハ派分ノ場合ニ於テハ優先權ハ債權者間最モ舊キ者ニ屬ス
金錢ノ貸主ハ或ハ初メヨリ或ハ合意上ノ代位ニ因リ其金錢ニテ全部又ハ一分ノ辨濟ヲ受ケタル債權者ト同一ノ順位ヲ有ス
資產ノ分離ヲ請求スル債權者及ヒ受遺者ハ死亡者ノ遺產ニ付キ其遺產カ相續人ニ歸シタル後之ニ增價ヲ與ヘタル工匠技師及ヒ工事請負人ノミニ先セラル
資產ノ分離ハ死亡者ノ債權者間及ヒ受遺者間ノ相互ノ權利ヲ變更セス
(南部)
金錢ノ貸主ハト云ヘルハ第二中ノ別項ニアラスシテ本條第二項トナルベキニアラズヤ
(栗塚)
然リ誤寫ナリ
(元尾崎)
資產ノ分離ト云ヘルモ項ハ二個共ニ擡頭シ第三項第四項トスルカ
(栗塚)
然リ
第千百九十四條 先取特權ノ記入及ヒ其更新、抹殺、減少ニ關スル規則ハ先取特權及ヒ抵當權ニ共通ナリ且之ヲ次章ニ規定ス
(渡)
「且之ヲ」ノ文字ハ贅文ナリ
(村田)
且以下ハ刪除シタシ
(南部)
共通ナリト云ヘルヲ共通ニシテト云フ接屬詞トスレバ不都合ナシ
可決ス
第三款 第三所持者ニ對スル不動產先取特權ノ效力
第千百九十五條 合式ニ公示シタル先取特權ハ其負擔アル不動產ニ付キ第三所持者ノ方ニマテ追及ス
第三所持者カ下ニ定ムル方法ノ一ニ依リ先取特權アル債權者ニ辨償セサルトキハ其債權者ハ第三所持者ニ對シ其不動產ヲ差押ヘ之ヲ競賣ニ付スルコトヲ得
(松岡)
辨償ヲ辨濟トスベシ
可決ス
第千百九十六條 一般ノ先取特權ハ第三所持者ノ取得證書ノ登記前ニ之ヲ記入シタルトキニ非サレハ其第三所持者ニ移轉シタル不動產ニ付キ追及權ヲ與ヘス
無異議
第千百九十七條 轉得者ノ證書ノ登記前ニ登記セサル讓渡又ハ分割ニ因リ先取特權ヲ有スル債權者ハ其先取特權ノ生シタル證書ヲ登記セシムルコトニ付キ轉得者ヨリ催吿ヲ受ケタレトモ一ケ月内ニ其登記ヲ爲サシメサリシトキニ非サレハ追及權ヲ失ハス但此一ケ月ニハ距離ニ應シ法律上ノ期間ヲ加フ
然レトモ轉得者ハ讓渡人カ十ケ年以上不動產ニ付キ法廷ノ占有ヲ爲シタルトキハ右ノ催吿ノ爲スノ責ナク且舊所有者ノ總テノ先取特權ヲ免カル
(松岡)
第一項證書ヲ登記セシムルコトニ付キトアルヲ登記スルコトニ付キトシ其登記ヲ爲サシメザリシトアルヲ其登記ヲ爲サザリシトスベシ
可決ス
(元尾崎)
第二項讓渡人ガトアルヲ讓受人又ハ分割者ガトシテハ如何
(栗塚)
讓渡人ト云ヘバ分割者ヲモ包含スベキモ此場合ハ最早讓渡人ト分割者ノ區別ヲ要セズ等シク轉得者ニ對スルトキハ讓渡人タルベケレバナリ
(箕作)
讓渡人ノ上ニ其ト云フ字ヲ加フベシ
可決ス
第千百九十八條 工事ニ因リ先取特權ヲ有スル債權者ハ工事ノ竣成又ハ其絕止ノ前ニ讓渡アリテ其證書ノ登記アリタルトキハ第一調書ノ記入ニ依リテ追及權ヲ行フコトヲ得
工事ノ竣成シ又ハ絕止シタルトキ第二調書ノ錄製及ヒ記入ノ二個ノ期間カ未タ經過セサルニ於テハ右ノ債權者ハ此期間ノ滿了後又ハ第二調書ヲ錄製シ且記入セシムヘキ催吿ヲ受ケタルモ一ケ月ノ期間ニ之ニ應セサリシ後ニ非サレハ先取特權ヲ失ハス
(南部)
本條且記入セシムベキトアルモ且記入スベシトスベシ
可決ス
(元尾崎)
記入ス可キ催吿スルモノアリヤ實際上稀少ナルベシ
第千百九十九條 追及權ヲ保存シ及ヒ之ヲ行フ爲メニ必要ナル公示ヲ爲ササル先取特權アル債權者ハ第三所持者ノ負擔シタル讓受代價ニ付キ優先權ヲ失ハス但代價ノ辨濟前又ハ順序配當手續ノ閉鎖前ニ自ラ債權者タルコトヲ知ラシメ且其債權ヲ證明シタルトキニ限ル
無異議
第千二百條 先取特權ニ關スル追及權其條件效力竝ニ第三所持者カ所有權徵收ヲ避クルノ方法及ヒ先取特權消滅ノ原因ハ次章ノ第三節第五節乃至第七節ノ規定ニ從フ但先取特權ノ固有ノ規則ニ及スルモノハ此限ニ在ラス
(栗塚)
報吿委員ニテ抵當ノ章末ニ附錄ト云フモノアルヲ刪リ本條ヲ修正セリ
可決ス
第五章 抵當
第一節 抵當ノ性質及目的物
第千二百一條 抵當ハ法律又ハ人意ニ因リ或ル義務ヲ他ノ義務ニ先チテ辨償スル爲メニ充テタル不動產ノ上ノ物權ナリ但其不動產ヲ質入スルコトヲ要セス
(松岡)
質入スルコトヲ要セズトアルハ握有ヲ要セズト云ヘルヲ可トス
(元尾崎)
不動產ノ上ノ物權ナリト云ヘルハ不動產上ノ物權ナリトシタシ
(栗塚)
質入ト云ヘル文字ヲ使用シタルハ債權者ノ方ニ付テ云ハズ債務者ノ方ヨリ云ヒシモノナレバナリ
(尾崎)
質入ト云フ字ハ握有トシタシ
(箕作)
但以下ハ記載シ置クノ必要ナシ
(栗塚)
質ト抵當トノ區別ヲ顯ハサン爲メナリ
(南部)
質入スルヲ要セズト云ヘルハ抵當上ノ一條件ナレバ存立シタシ
(松岡)
但以下ヲ刪除スルヲ可トス
可決ス
第千二百二條 抵當ハ動產質及ヒ不動產質ニ付キ記載シタル如ク働方及ヒ受方ニテ不可分タリ但反對ノ合意アルトキハ此限ニ在ラス
無異議
第千二百三條 抵當ハ不動產ノ完全所有權ノ上ノミナラス父母ノ法律上ノ用益權ヲ除クノ外ノ用益權、賃借權、永借權及ヒ地上權ノ上ニモ又此等ノ權利ヲ支分シタル所有權ノ上ニモ之ヲ設定スルコトヲ得
然レトモ完全ノ所有權ヲ有スル者ハ虛有權又ハ用益權ノミヲ分離シテ之ヲ抵當ト爲スコトヲ得ス又土地及ヒ建物ヲ所有スル者ハ土地ヲ分離シテ建物ノミヲ抵當ト爲シ又ハ建物ヲ分離シテ土地ノミヲ抵當ト爲スコトヲ得ス
此ニ反シテ右ノ所有者ハ其不動產ノ限界ニ因リ定マリタル部分又ハ其不分ノ幾部分ヲ抵當ト爲スコトヲ得
地役ハ要役地ヨリ分離シテ之ヲ抵當ト爲スコトヲ得ス又用方ニ因ル不動產ハ其附着スル不動產ヨリ分離シテ之ヲ抵當ト爲スコトヲ得ス
(箕作)
本條ノ又以下修正復舊ノ建議トアルハ如何
(栗塚)
例令バ地所ト家屋トヲ合セ金千圓ノ價値アルモノヲ五百圓ノ債務ニ對シ其地所ト家屋トヲ抵當トシタルトキハ更ラニ五百圓ノ債務ヲ起サントスル場合ニハ前抵當ヲ再抵當ト爲シ前抵當物ハ第一抵當トシ後抵當ハ第二抵當トスルヲ得ベシ故ニ地所ト家屋トハ之ヲ分離セザルヲ便利ナリトスベシ
(松岡)
又以下修正復舊ノ建議地所ト家屋トヲ合併ノ抵當トセズ分離セシムルヲ可トス元來地所ト家屋トハ性質上之ヲ分離スルヲ得ベキモノナルニ何ニ依リ之ヲ合併セザルヲ得ザルヤ
(栗塚)
物權ハ分離シテ價値ヲ減少シ合併シテ價値ヲ增加スルコトアリ果シテ然ルトキハ債務者ノ爲メニハ利益ナルニアラズヤ
(元尾崎)
又以下復舊ノ說ハ非ナリ刪除スベシ
可決ス
(栗塚)
此ニ反シテノ下「右ノ」ト云ヘルニ字ヲ刪除ス可シ
可決ス
(淸岡)
前項又以下ヲ刪除スル以上ハ後項ノ此ニ反シテト云フ必要ナシ
(南部)
此ニ反シテト云フニ妨ゲナシ
第千二百四條 左ニ揭クルモノハ之ヲ抵當ト爲スコトヲ得ス
使用權、住居權、其他讓渡スコトヲ得ス又ハ差押フルコトヲ得サル財產
第十一條第二號及ヒ第三號ニ揭ケタル如キ不動產債權
同第十一條第四號ニ揭ケタル如キ不動產ト爲シタル債權但之ヲ不動產ト爲スコトヲ許可スル法律カ其抵當ヲ許ササルトキニ限ル
船舶ノ抵當ニ付テハ特別法ノ規定ニ從フ
(箕作)
特別法トアルハ商法トスベシ
(南部)
第二項冒頭「同」ノ字ハ贅ナリ
(委員長)
特別法トアルヲ商法トスルハ可ナリヤ若シ商法以外ニ船舶ノ抵當アルトキハ不都合ナリ
(南部)
特別法ト云ヘバ過ナシ
(箕作)
商法トシテ過ナシ
可決ス
(南部)
「同」ノ字ヲ除去スルハ如何刪除ニ決ス
第千二百五條 此章ノ規定ハ商法其他特別法ニ於テ異例ヲ設ケサル限リハ此等ノ法律ヲ以テ設定シタル抵當ニ之ヲ適用ス
無異議
第千二百六條 抵當ハ漸積地ノ如キ意外及ヒ無償ノ原因ニ由リ或ハ建造、栽植其他ノ工作ノ如キ債務者ノ所爲及ヒ費用ニ因リ不動產ニ生スルコト有ス可キ增加又ハ改良ニ當然及フモノトス但他ノ債權者ニ對シテ詐害ナキコトヲ要シ且前章ニ規定シタル如キ工匠、技師及ヒ工事請負人先取特權ヲ妨ケス
抵當ハ債務者カ縱令無償ニテ取得シタルモノタリトモ其隣接地ニ及ハサルモノトス但新圍障ノ設立又ハ舊圍障ノ廢棄ニ因リ隣接地ヲ抵當不動產ニ合體シタルトキモ亦同シ
(元尾崎)
且前章以下ハ其必要ヲ見ズ
(箕作)
且以下ハ存在スルヲ可トス
(松岡)
增加改良トアル區域明瞭ナラズ
結局原案ニ決ス
第千二百七條 意外若クハ不可抗ノ原因又ハ第三者ノ所爲ニ出テタル抵當財產ノ滅失、減少又ハ毀損ハ債權者ノ損失タリ但先取特權ニ關シ第千百三十八條ニ記載シタル如ク債權者ノ賠償ヲ受ク可キ場合ニ於テハ其權利ヲ妨ケス
若シ抵當財產カ債務者ノ所爲ニ因リ又ハ保持ヲ爲ササルニ因リ減少又ハ毀損ヲ受ケ之カ爲メ債權者ノ擔保カ不十分ト爲リタルトキハ債務者ハ抵當ノ補充ヲ與フルノ責ニ任ス
其補充ヲ與フルコト能ハサル場合ニ於テハ債務者ハ擔保ノ不十分ト爲リタル限度ニ應シ滿期前ト雖モ債務ヲ辨濟スルノ責ニ任ス
(松岡)
第三者ノ所爲ニテト云ヘル文字ハ第千百三十八條ニハ第三者ノ方ニテトアリ如何
(南部)
本條ハ其場合同シカラザレバ第三者ノ所爲ニテト云ヘルモ可ナリ
第千二百八條 抵當財產ノ差押ナキ間ハ債務者ハ第百二十六條及ヒ第百二十七條ニ定メタル期間中其不動產ヲ賃貸スルコトヲ得又其果實及ヒ產出物ヲ讓渡シ及ヒ管理ノ總テノ行爲ヲ爲スコトヲ得
無異議
第二節 抵當ノ種類
第千二百九條 抵當ハ法律上、合意上又ハ遺言上ノモノタリ
(栗塚)
裁判上ノ抵當ハ伊白蘭淸國ノ如キハ既ニ之ヲ廢シタレバ日本ニ於テモ之ヲ認メザルヲ可トス
(松岡)
裁判上ノ抵當ハ世上ノ便利アルニアラズヤ
(栗塚)
裁判上ノ抵當ヲ許ストキハ他ノ抵當債權者ヲ害スベシ
(南部)
裁判上ノ抵當ハ平同主義ニ反スベシ若シ裁判上ノ抵當ヲ許ストキハ差押債權者ニ質權ノ生ズルト云フモ可ナルニ至ルベシ
第一款 法律上ノ抵當
第千二百十條 左ノ抵當ハ總テノ要約ニ關セス當然成立ス
第一 婦カ其夫ニ對シテ有スルコト有ル可キ總債權ノ爲メ婚姻ノ日現ニ夫ニ屬スルト後日之ニ屬ス可キトヲ問ハス其夫總不動產ニ付キ婦ノ有スル抵當但夫ノ未成年タルトキモ亦同シ
第二 未成年者及ヒ禁治產者カ其後見人ニ對シテ有スル總テノ債權ノ爲メ現在ニ屬スルト將來ニ得ルトヲ問ハス後見人ノ總不動產ニ付キ有スル抵當
第三 國府縣市町村及ヒ公設所カ行政法ノ定メタル限度ト條件トニ從ヒ會計吏員ノ管理ノ爲メ其不動產ニ付キ有スル抵當
又第千百八十七條及ヒ第千百九十條ニ從ヒ變性シタル先取特權ヨリ生スル抵當ハ之ヲ法律上ノ抵當ト看做ス
(元尾崎)
婦ガ夫ニ對シテ抵當權ヲ有スルコトアリヤ
(箕作)
本法ニテ之ヲ設ケントスルニアリ
(松岡)
準禁治產者ト云フモノアリヤ
(栗塚)
準禁治產者ヲ認メズ
(松岡)
人事篇ニハ準禁治產者ノ認メアリ
(栗塚)
他日人事篇議事ノ際其認否ヲ決スベシ
第二款 合意上ノ抵當
第千二百十一條 合意上ノ抵當ハ公正證書ノ方式ニ從ヒ公證人ノ面前ニテ爲シタル合意ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ設クルコトヲ得ス之ニ違フトキハ全ク無效ナリ
代理人ヲ以テ抵當ヲ設定スルノ委任ハ特別ニシテ右ニ同シク公證人ノ面前ニテ之ヲ與フルコトヲ要ス又委任ノ要旨ヲ抵當ノ合意中ニ揭クルコトヲ要ス
(元尾崎)
合意上ノ抵當ハ公證人ノ面前ニテ爲シタル合意ヲ以テスルニ非ザレバ之ヲ設クルコトヲ得ズトアルハ曩ニ公證人ノ面前ニ於テスル要件ヲ廢止シタルニ付キ不都合ニアラズヤ
(栗塚)
公證人ノ面前ニ於テスルト云フ手續ハ簡易ナラザルガ如キモ公正證書ハ執行力ヲ有スベキ性質ヲ有スルニ依リ公正證書ハ裁判上ノ手續ヲ省略スルノ簡便アリ蓋シ公證人ハ裁判所ノ數ヨリ多カルベケレバ裁判所ノ設置多カラザル國ニ於テハ此方法ハ肝要ナルベシ
(元尾崎)
公證人ノ面前ニ於テスルヲ便利ナリト勸考スルトキハ敢テ法律ヲ以テ之ヲ驅逐セザルモ水ノ下ニ就クガ如ク自カラ其手續ヲ求ムベシ
(村田)
公證人ノ制ハ爭ヒヲ絕ツト云フニアリ世間爭ヒノ多キハ爭ノ少ナキニ如カザレバ訴訟ニ至ルノ結果ヲ見ルヨリハ訴訟ナキニ止ムノ途ヲ取ラザルベカラズ
(松岡)
現今登記法ノ手續スラ民間ニハ手數ノ繁雜ニ苦メリ然ルヲ此上ニモ公證人ノ手續ヲ要セシムルトスルハ不便ヲ重ルモノト云フベシ又契約上ノ證明カハ既ニ登記ノ效ニ依テ多ナリ敢テ公證人手續ヲ踏マシムルノ必要アランヤ
(村田)
公證人手續ヲ經ルトキハ登記官吏モ安心ニ登記スルヲ得ベキモ公證ナキトキハ登記官吏ハ登記スベキ事件ノ元由ニ付キ大ニ吟味ヲ盡サザルベカラズ
(松岡)
公證人手續ハ非ナリト云フニアラズ只之ヲ強制セズ任意ノ法トスルヲ可トス
(南部)
曩ニ議決シタル旨意ヲ取消シ本條ノ精神ニ決セラレンコトヲ希望ス
(渡)
從來ノ慣行上ニハ異ナルモ不動產ノ抵當ニ付テハ完備ノ手續ヲ蓋サザルベカラズ
(南部)
證明事件ニ付テハ從前區戶長役場ニ於テ之ヲ管司シタル場合ハ非常ノ錯誤混雜ヲ生ジ登記所ヘ引繼ノ後大ニ其錯雜ヲ免レタルモ然レドモ未ダ絕無トスルヲ得ズ故ニ公證人ノ手續ヲ要スルトキハ其錯雜ヲ避クベキモノナレバ之ニ依ラシメザルベカラズ
(委員長)
伊國民法ノ如ク公正證書又ハ私署證書ヲ以テスルニ非ザレバトシテハ如何
(松岡)
然ルベシ第千百二十四條ト共ニ同一ニ之ヲ修正ス可シ
可決ス
(箕作)
之ニ違フトキハ全ク無效ナリト云フハ刪除スベシ
可決ス
(尾崎)
第二項ハ如何スベキヤ
(元尾崎)
代理人ヲ以テ抵當ヲ設定スルトキハ委任ノ要旨ヲ抵當ノ合意中ニ揭グルコトヲ要ストスベシ
可決ス
第千二百十二條 日本ニ存在スル財產ニ付キ外國ニ於テ爲シタル抵當ノ合意ハ此種類ノ行爲ノ爲メ外國ニ於テ用ユル方式ニ從ヒ之ヲ爲シタルトキハ其效ヲ生スルコトヲ得然レトモ第千二百十九條及ヒ第千二百二十四條以下ニ規定シタル條件ニ從フニ非サレハ此合意ニ依リ日本ニ於テ記入ヲ爲スコトヲ得ス
(北畠)
日本ト云フ文字ハ本邦トシテハ如何
(南部)
本邦ト云フハ不可ナリ
(松岡)
第千二百二十四條ト云ヘルハ最初起案者第千二百二十五條トシタルニアラズヤ
(栗塚)
然リ
(委員長)
日本ト云ヘル文字ハ本邦トシテハ如何
可決ス
第千二百十三條 抵當設定ノ證書ニハ義務ノ擔保ニ充テタル不動產ヲ其性質及ヒ所在ヲ以テ特ニ指示スルコトヲ要ス
若シ抵當ノ設定カ債務者ノ現在ノ各不動產ヲ特ニ指示セスシテ其全部又ハ一分ヲ包含スルトキハ債務者ノ請求ニ因リ債權ノ擔保ニ必要ナルモノニ其抵當ヲ減少スルコトヲ得
債務者ノ將來ノ財產ニ付テノ一般又ハ特別ノ抵當ノ設定ハ無效タリ
(箕作)
全部又ハ一分ヲ包含スルトキト云ヘル包含ハ穩當ナリヤ
(栗塚)
全部又ハ一部ニ係ルトシテハ如何
(南部)
包含ト云フヲ妥當ナリトス委員長不動產ヲ其性質及ビ所在ヲ以テ特ニ指示スルコトヲ要スト云ヘルハ文體妥當ナリヤ
(栗塚)
外ニ好文字ナキニ苦メリ
(尾崎)
一分ヲ包含スルト云フ詞ナシ
(栗塚)
假令バ風呂敷ノ中ニ家具ノ全部ヲ包ミシカ又ハ其一分ヲ包ミシカト云フガ如シ
(委員長)
債權ノ擔保ニ必要ナルモノニ其抵當ヲ減少スルコトヲ得ト云ヘルハ文章上不完ナルニアラズヤ
(村田)
債權ノ擔保ニ必要ナル部分ニ其抵當ヲ減少スルコトヲ得トシテハ如何
結局原案ノ儘ニ可決ス
第千二百十四條 抵當ノ設定證書ニハ右ノ外義務ノ原因、體樣及ヒ其主從ノ目的ヲ明カニ指示スルコトヲ要ス
義務ノ目的カ金錢タラサルトキハ之ヲ評價スヘシ然レトモ其評價ハ第千二百二十六條ニ記載スル如ク記入ノ場合ニ於テモ尙ホ之ヲ爲スコトヲ得行スルコトヲ得
(渡)
記入ノ場合ニ於テモト云ヘルハ如何
(栗塚)
記入ノ當時ト云フ義ナリ
(淸岡)
記入ノ際ニ於テモトシテハ如何
(箕作)
起案者ノ意見ハ其記入ニ於テモト云フニアリ
(元尾崎)
記入ニ於テモトスベシ
可決ス
第千二百十五條 抵當ハ抵當ニ充テント欲スル物ノ所有權又ハ收益權ヲ有シ且有償又ハ無償ニテ其物ヲ處分スルノ能力ヲ有スル者ニ非サレハ之ヲ承諾スルコトヲ得ス但第三者ノ抵當設定ニ關スル第千二百十七條ノ規定ヲ妨ケス
若シ有期ノ權利ヲ抵當ト爲シタルトキハ其抵當ハ右ノ權利ノ時期外ニ效力ヲ生スルコトヲ得ス然レトモ抵當ト爲リタル權利カ此時ノ滿了前或ル出來事ニ因リ物ノ價額ヲ代表スル償金ニ移リタルトキハ債權者此償金ニ付キ其權利ヲ行フ
(南部)
出來事ト云ヘル文字ハ舊案ニ揭ゲタル如ク事變トシタシ
(元尾崎)
出來事ト云フヲ可トス
(松岡)
奧羽ノ俗ニハ呉レルト云ヘル事實ヲ出來ルト云ヒ出來ルト云フ場合ニハ出ルト云フ語アリ
(北畠)
奧羽ノミナラズ甲州邊ニ於テモ出來ルト云フ詞ハ五畿内ノ詞ト同ジカラズ古言ニモ月ハ出來タガ團子ハ出ナイト云フコトアレバナリ
結局原案ノ文字ニ可決ス
第千二百十六條 未成年者、禁治產者及ヒ失踪者ノ財產ハ法律ニ定メタル原因及ヒ方式ニ依ルニ非サレハ其代人ニ於テ之ヲ抵當ト爲スコトヲ得ス
無異議
第千二百十七條 約束上ノ抵當ハ第千百三條及ヒ第千百二十二條ニ於テ動產質及ヒ不動產質ニ付キ記載シタル如ク第三者ノ債務ヲ擔保スル爲メニ之ヲ與フルコトヲ得
右ノ抵當ハ常ニ債務者ニ對シテハ恩惠ナリトス
又抵當ハ債權カ無償ナルトキ又ハ有償ナルモ諾約ナクシテ主タル合意以後ニ之ヲ設定シタルトキハ債權者ニ對シテモ恩惠ナリトス
(元尾崎)
抵當ハ恩惠ナリト云ヘルハ必要ノ言ナリヤ
(松岡)
他ノ抵當ト結果ヲ同フセザルナリ
(箕作)
第千百二條ノ第三者ト本條ノ第三者トハ其人ヲ異ニスルニアラズヤ
(栗塚)
本條ハ債務者ヲ第三者トシ第千百二條ハ抵當ヲ供シタル人ヲ指シタルノ差ヒアリ
(松岡)
本條ハ第三者ノ債務云々トアルヲ債務者ノ債務ヲ擔保スル爲メ第三者ヨリ之ヲ與フルコトヲ得トシテハ如何
可決ス
第三款 遺言上ノ抵當
第千二百十八條 抵當ハ遺贈ノ全部若クハ幾分ノ擔保又ハ第三者ノ債務ノ擔保ノ爲メニ非サレハ遺言ヲ以テ之ヲ與フルコトヲ得ス
有效ニ遺言上ノ抵當ヲ設定スルニハ設定者ト債務者又ハ債權者トノ間遺言ニ因テ互ニ授受スルノ能力アルコトヲ要ス
(村田)
設定者ト債務者又ハ債權者トノ間トアル間ノ下「ニ」ノ字ヲ入レタシ
(箕作)
「ニ」ヲ入ルルヲ可トス
(松岡)
「ハ」ノ字ヲ入ルベシ
(栗塚)
「ニ」ヲ入ルルヲ可トス
可決ス
(村田)
幾分ト云フ文字ハ一分トシタシ何レニモ全部若クハ幾分トシタル文例ナケレバナリ
(南部)
文例ナキヲ保セズ報吿委員ニテ調査スベシ
(松岡)
遺言上ノ抵當ハ第三者ノ債務ノ擔保ノ爲メニ非ザレバ之ヲ與フルコトヲ得ズト云フトキハ自己ノ債務ニ付テハ之ヲ抵當トスルヲ得ザルベシ右ハ他ノ債權者ヲ害セザランガ爲メニ自己ノ債務ニ抵當トスルヲ得ズト云フ義ナルベキモ他人ノ債務ノ爲メニハ之ヲ抵當トスルヲ得ト云フハ不理ニアラズヤ
(箕作)
抵當ハ贈遺ノ全部若クハ一分ノ擔保ノ爲メニアラザレバ遺言ヲ以テ之ヲ與フルコトヲ得ズトシテハ如何
(委員長)
然ルベシ尙ホ起案者ニモ問合スベシ
(松岡)
第二項ハ必要ヲ見ズ何トナレバ遺言ヲ以テ之ヲ與フルコトヲ得ズトアル以上ハ其能力アルヲ要スルコト勿論ナレバナリ
(箕作)
前項ノ第三者ノ債務ト云ヘル文字ヲ刪除スルトキハ設定者ト債務者又ハ債權者トノ間ニト云フ關係ヲ示スニ及バザルベシ
(元尾崎)
第二項ハ全刪スベシ
可決ス
第三節 抵當ノ公示
第一款 記入ノ條件、方式及ヒ期間
第千二百十九條 凡ソ法律上、合意上又ハ遺言上ノ抵當ハ下ニ定メタル條件及ヒ方式ニ從ヒ其不動產所在地ノ登記所ニ於テ記入シタルニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
數箇ノ登記所ノ管轄ニ跨ル不動產ノ全部ヲ抵當ト爲シタルトキハ其主タル部分ノ所在地ヲ管轄スル登記所ニ於テ記入ヲ爲シ他ノ登記所ニ於テハ其記入及ヒ日附ノ記載ノミヲ爲ス
無異議
第千二百二十條 抵當ハ左ノ二箇ノ場合ニ於テハ有效ニ之ヲ記入スルコトヲ得ス
第一 抵當設定ノ後ニ於テ債務者ノ無資力カ適正ニ宣吿セラレ又ハ其財產ノ全部若クハ過半ノ差押ニ因リ顯然ト爲リタルトキ但破產ノ場合ニ於ケル記入ノ權利ニ付テノ商法ノ制限ヲ妨ケス
第二 債務者カ死亡シテ法律ニ因リ相續ヲ受ク可キ總テノ相續人カ單純ニ其相續ヲ受諾セサルトキ
抵當財產ノ讓渡アリタルトキ其讓受人ニ對シ債權者ノ記入スル權利ノ制限ハ第五節ニ於テ之ヲ規定ス
(松岡)
有效ニ之ヲ記入スルコトヲ得ズト云ヘルハ之ヲ記入スルモ無效ナリト云ヘル義ナリヤ
(箕作)
然リ
(元尾崎)
單純ニ其相續ヲ受諾セザルトキト云フハ如何
(村田)
相續ヲ諾セザルヲ云フベシ
(渡)
差押ニ因リ顯然ト爲リトアル顯然ノ文字ハ如何
(村田)
無資力ノ顯然タルヲ云フニアリ
第千二百二十一條 債權者カ財產ノ管理權ヲ有セサルトキハ抵當ノ記入ハ法律上又ハ裁判上ノ代人之ヲ爲ス
抵當ノ記入ハ總理代人及ヒ法律上又ハ合意上ノ抵當ノ附着シタル行爲ヲ爲スノ委任ヲ受ケタル部理代人ノ權利及ヒ義務ニ屬ス
又記入ハ債權者ノ委任ナクシテ事務管理人之ヲ爲スコトヲ得
(栗塚)
兄弟親屬ノ間ハ事務管理ト看做スモノナリ
(元尾崎)
財產ノ管理權ヲ有セサルトキト云フハ如何
(箕作)
無能力者ナルトキハト云フニアリ
第千二百二十二條 婦ノ法律上ノ抵當ハ夫カ婦ニ對シ契約其他ノ方法ニテ條件附ナルト否トヲ問ハス債務者ト爲リタルトキヨリ夫又ハ裁判所ノ許可ヲ要セス婦ノ請求ニ因リ之ヲ記入スルコトヲ得又其記入ハ婦ノ適當ト思考スル不動產ノ全部又ハ一分ニ付キ之ヲ爲スコトヲ得但第千二百四十一條ニ記載スル如ク夫ノ有スル抵當減少ノ權利ヲ妨ケス
婦カ記入ヲ爲ササルトキハ夫ハ婦ノ擔保ノ爲メ十分ナル不動產ニ付キ記入ヲ爲スコトヲ要ス
婦又ハ夫カ記入ヲ爲ササルトキハ縱令委任ナキモ婦ノ親屬又ハ姻屬ニテ之ヲ爲スコトヲ得但婦ノ故障又ハ抛棄ナキコトヲ要ス
(淸岡)
婦ノ適當ト思考スル不動產ノ全部又ハ一分ニ付キ之ヲ爲スコトヲ得ト云フハ酷劇ナリトス
(南部)
抵當減少ノ權利ヲ妨ゲズトアルニ依リ不可ナシ
第千二百二十三條 未成年者ノ法律上ノ抵當ハ夫カ婦ノ法律上ノ抵當ヲ記入スルト同一ノ場合ニ於テ同一ノ條件ニ從ヒ後見人之ヲ記入スルコトヲ要ス
後見人記入ヲ爲ササルトキハ後見監督人又ハ親屬會議員ハ其記入ヲ爲スコトヲ要ス若シ之ヲ爲ササルトキハ未成年者ニ對シ連帶シテ損害賠償ヲ負擔ス
未成年者モ亦後見ヲ脫シタル後ハ其記入ヲ求ムルコトヲ得
無異議
第千二百二十四條 前條第一項及ヒ第二項ノ規定ハ禁治產者ノ法律上ノ抵當ニ之ヲ適用ス
處刑言渡ニ因レル禁治產ノ場合ニ於テハ禁治產者ノ特別ノ代理人ニテモ記入ヲ求ムルコトヲ得
(元尾崎)
處刑言渡ニ因レル禁治產ノ場合ニ於テハ後見人ヲ置クカ
(村田)
後見人ヲ置クベシ
(元尾崎)
如此場合ニ於テハ財產管理人ヲ設クベキニアラズヤ
(村田)
後見人ヲ置クベシ
第千二百二十五條 抵當ノ記入ヲ求ムル者ハ下ニ記スル如ク己レノ利益ノ爲メ又ハ己レノ代表スル債權者ノ利益ノ爲メ抵當ノ成立ヲ登記官吏ニ證明スルコトヲ要ス
婦未成年者又ハ禁治產者ノ法律上ノ抵當ニ關スルトキハ抵當ノ原因タル婚姻又ハ後見ノ證據ニ依リ其證明ヲ爲スコトヲ要ス
合意上ノ抵當ニ關スルトキハ抵當ヲ設定シタル公正證書ノ謄本ニ依リ其證明ヲ爲スコトヲ要ス
遺言上ノ抵當ニ關スルトキハ遺言書ノ正本又ハ其公正ナル寫書ニ依リ其證明ヲ爲スコトヲ要ス
總テノ場合ニ於テ登記官吏カ抵當ノ成立ノ證據ヲ爭フトキ又ハ債務者ト帳簿ニ記載アル不動產所有者ト同人ナルコトノ十分ナル證明ナキトキハ登記官吏ハ自己ノ責任ニテ記入ヲ拒絕スルコトヲ得但第千三百四條ニ記載スル如ク裁決ヲ受クル爲メ同條ノ規定ニ從フコトヲ要ス
(栗塚)
本條第三項公正證書ノ謄本ニ依リトアルハ證書ニ依リトスベシ
可決ス
(箕作)
公正ナル寫書トアルハ公正ナル謄本トスベシ公證人規則中ニハ爲シノ文字ナケレバナリ
可決ス
(元尾崎)
登記官吏ガ抵當ノ成立ノ證據ヲ爭フトキト云フハ如何
(栗塚)
登記官吏其證據ニ付キ疑團卽チ異議アル場合ヲ云フニアリ
(槇村)
證據ニ異議アルトキトシテハ如何
(南部)
異議ト云フモ適切ヲ得ズ
(尾崎)
不十分ナルトキトシテハ如何
(栗塚)
證據書類ノ完備セザルヲ云フ
(委員長)
證據ヲ不十分ナリトスルトキトシテハ如何
結局抵當成立ノ證據ヲ不十分トスルトキトスルニ可決ス
(箕作)
裁決ヲ受クル爲メト云ヘル文字ハ妥當ナリヤ
(委員長)
裁決ト云ヘバ意義廣汎ナレバ裁判トシテハ如何
可決ス
第千二百二十六條 記入ノ要求者ハ右ノ外左ノ諸件ヲ精確ニ指示スル明細書ノ正本二通ヲ差出スモノトス
第一 債權者ノ氏名、職業及ヒ住所若クハ居所
第二 債務者ノ氏名及ヒ成ル可ク職業、住所若クハ居所
第三 抵當ノ原因及ヒ法律上ノ抵當外ノ抵當ニ關スルトキハ設定證書ノ性質及ヒ日附
第四 債權ノ性質、其證書ノ日附、之ニ記載シタル金額又ハ其價額ノ不確定ナルトキハ現ニ評價シタル金額及ヒ債務ノ要求期限
第五 抵當ト爲シタル不動產ノ性質及ヒ其所在地
從來ノ記入ノ縁邊ニ附記スヘキ讓渡又ハ代位ノ場合ニ於テハ明細書ニ新債權者及ヒ其證書ノ指示ヲ記載スルヲ以テ足レリトス
(南部)
本條末項其證書ト云ヘル文字ハ最初原證書トアルニアラズヤ
(槇村)
起案者ニ質問ノ筈トアリ如何
(栗塚)
其證書ト云ヘルハ原證書ナルヤ否ノ點ニアリ
(松岡)
其證書ト云ヘルハ原證書トシタシ
(栗塚)
讓渡シタル證書ナルベシ
(箕作)
新債權誰某及ビ如何ナル名義ニテ讓渡シタルト云フ意義ナリ
(栗塚)
證書ト云ヘルハ誤記ナレバ其名義トスベシ
可決ス
第千二百二十七條 婦、未成年者又ハ禁治產者ノ法律上ノ抵當ニ因リ擔保セラレタル債權カ不當ノ利得又ハ不正ノ損害等ノ事實ヨリ生セシトキハ要求者ノ申立タル事實ノ要旨及ヒ其主張シタル債權ノ評價ヲ明細書ニ指示スヘシ
(南部)
本條末文「ヘシ」トアルハ「可シ」ノ誤ナリ
(元尾崎)
本條ハ如何ナル意義カ
(箕作)
夫カ婦ニ對シ不正ノ損害ヲ掛ケタルニ付キ婦ハ夫ニ對シ債權ノ生シタル等ニアリ
第千二百二十八條 債權者カ記入ヲ爲ス登記所ノ管轄地内ニ住所ヲ有セサルトキハ其抵當ニ關シテ自己ノ受ク可キ通知ノ爲メ假住所ヲ選定シ之ヲ記入セシムルコトヲ要ス
其假住所ハ右ノ條件ニ從ヒ何時ニテモ之ヲ變更スルコトヲ得
(栗塚)
記入セシムルトアルヲ記入スルトスベシ
可決ス
(槇村)
本條ハ最初治安裁判所ニ問合セノ筈ナリ
(栗塚)
假住所選定ニ付キ治安裁判所ニ問合セノ筈ナリシモ假住所選定ハ當然ノ義ナレバ別ニ問合セニ及バザルベシ
(元尾崎)
本條ハ刪除スベシ
(南部)
假住所選定ト云フハ必要ナリ
(元尾崎)
假令バ麹町區ノ住民ガ京橋區登記所ノ登記ヲ受ケタルトキハ京橋區内ニ假住所ヲ選定ニ置カザルベカラザルト云フハ不便ナリ
(栗塚)
刪除ノ理由ハ不便ナリト云フニアリヤ
(元尾崎)
然リ
結局刪除ニ決ス
第千二百二十九條 登記官吏ハ上ニ指定シタル書類ヲ受取リタル時要求者ノ面前ニテ受取簿ヨリ切離シタル受取證ヲ之ニ付與ス但受取證ニハ第千二百五十三條ノ適用ヲ保スル爲メ受取ノ日附ト共ニ其日ノ受取番號ヲ記載ス可シ
(松岡)
本條登記上ノ手續ニ屬スレバ本法發布ノ上ハ登記法ノ細則ハ自然之ヲ變更セザルヲ得ザレバ此種ノ手續ニ屬スルモノハ其細則ニ讓リ置クベシ
(村田)
本條ハ單ニ手續ニアラズ權利上ニ關係スルモノナレバ刪除スルヲ得ズ
(松岡)
權利ハ記入ニ依テ定マルベシ
(村田)
記入上番號ノ順次ニ依ルベシ
(栗塚)
報吿委員中ニモ刪除說ナキニシモアラズト雖モ此ニ存在セシメタレバトテ別ニ害ナシトス
(松岡)
番號ノ如キハ受取アルニ依リ定マルト云フニアラズ
(南部)
受取ニ依リ番號上ノ權利ヲ生ズベシ
(尾崎)
本條中數個ノ文字ニ付キ刪ルベシトスルモ全刪ハ不可ナリ
結局登記官吏ハ上ニ指定シタル書類ヲ受取リタル時要求者ニ受取證ヲ附與ストスルニ決ス
第千二百三十條 債權者ノ相續人又ハ讓受人ハ原債權者ノミノ名ヲ以テ或ハ自己ト原債權者トノ連名ヲ以テ記入ヲ求ムルコトヲ得債權者ノ代理人又ハ事務管理人ヨリ記入ヲ求ムルトキハ其名及ヒ分限ヲ本人ノ名及ヒ分限ト共ニ記載ス可シ
無異議
第千二百三十一條 債務者カ死亡シタルトキハ記入ハ債權者ノ選擇ニ因リ其債務者ニ對シ又ハ其總テノ相續人ニ對シ之ヲ爲スコトヲ得
抵當ノ負擔アル不動產カ相續ノ分割ニ因リ一人ノ相續人ニ歸シタル場合ニ於テハ其一人ノミニ對シ記入ヲ爲スコトヲ得
第三者ノ設定シタル抵當ニ關シテハ設定者ニ對シ記入ヲ爲スモノトス
(元尾崎)
債務者死亡シタルモ第三者ノ抵當ヲ供シタル場合ニハ更ラニ手續ヲ爲スニ及バザルベシ
(栗塚)
或ハ疑ヲ容ルル者アラン何トナレバ第三者ハ元義務者ニアラザレバ抵當物ヲ供スルノ義務ナキモノナレバナリ
第千二百三十二條 登記官吏カ記入簿ニ明細書ノ箇條ヲ記載シタルトキハ其各明細書ニ記入簿ノ册數及ヒ葉數ト受取簿ノ順序番號トヲ指示シ且記入ノ所爲、場所及ヒ日附ヲ登記シタル上、二通ノ明細書ノ各葉ニ同一ノ割印ヲ押捺ス
明細書ノ一通ハ抵當ノ證明書ト共ニ之ヲ要求者ニ還付シ他ノ一通ハ登記官吏自己ノ擔保ノ爲メ之ヲ保存ス
右保存シタル明細書ヲ每年併合シテ記入ノ正本ト成スコト及ヒ其記入ノ見出簿ヲ作ルコトハ規則ヲ以テ之ヲ定ム
(松岡)
本條ハ詳記シ置クトキハ却テ宜シヲ得ザルニ付キ僅カニ粗記スルニ止メ可成手續細則ニ讓リ置クヲ可トス
(南部)
本條ハ第一項ヲ登記官吏ガ記入簿ニ明細書ノ箇所ヲ記載シタルトキハ其二通ノ明細書ノ各葉ニ同一ノ割印ヲ押捺シ其一通ハ抵當ハ抵當ノ疏明書ト共ニ之ヲ要求者ニ還付シ他ノ一通ハ登記官吏自己ノ擔保ノ爲メ之ヲ保存ストシ第二項ハ其他ノ細則ヘ別ニ之ヲ定ムトシタシ
可決ス
第千二百三十三條 明細書ノ箇條ノ脫漏不足又ハ訛誤ニ因リ不完全ナル記入ノ爲メ第三者カ抵當ノ或ル要點ヲ知リ得サリシヨリ生シタル損害ヲ證明スルトキハ其請求ニ因リ記入ノ無效ヲ宣吿スルコトヲ得
無異議
第千二百三十四條 法律上、合意上又ハ遺言上ノ抵當ノ記入ハ三十年間其效力ヲ有ス三十年後ハ債權ノ時效カ中斷又ハ停止ニ係リタルトキト雖モ其記入ノ效力ヲ失フ
右抵當ノ時效ハ無能力者ニ對シテ停止セス但其代人ニ對スル求償ヲ妨ケス
然レトモ三十年ノ期間滿了前ニ記入ヲ更新シ舊記入ノ日附ヲ精確ニ記載シタルトキハ抵當ノ順位ハ舊記入ト同一ノ日附ニテ存ス
記入ノ效力ヲ失ヒシ後ノ更新ハ新記入ニ同シク其更新ノ日附ニ於テノミ效力ヲ生ス
(松岡)
債權ノ時效ガ中斷又ハ停止ニ係リタルトキト雖モ主タル債權ハ成存セルニ其記入ノ效力ヲ失フト云フハ不都合ナリ
(村田)
主タル債權未ダ消滅セザルニ從タル擔保ノ效力ヲ失スルト云フハ原則ニ反セリ又賃借權ノ場合ニ於テ期限ノ更新シタルトキハ其擔保消滅ストシタルニ本條ハ更新スルモ抵當ハ消滅セザルモノノ如ク前後且吾スルモノトス
(南部)
債權ノ時效ガ中斷又ハ停止ニ係リタルトキハ其記入ノ效力ヲ失フト云フハ他ノ債權者ヲ害スルノ恐レアレバナリ
(栗塚)
從タル擔保ニハ中斷又ハ停止ノ場合アラザルヲ以テ自ラ消滅ニ歸スベシ
第千二百三十五條 三十年ノ期間内ニ於ケル記入ノ更新ハ舊記入後ニ起リタル債務者ノ破產、無資力又ハ死亡ニ拘ハラス之ヲ爲スコトヲ得
無異議
第千二百三十六條 登記官吏ハ更新ノ要求書ノ正本二通ヲ受取リタル上ニテ記入ノ更新ヲ爲シ其一通ニハ割印ヲ押シ其更新ノ陳述及ヒ日附ヲ記入シテ之ヲ要求者ニ還付ス
無異議
第千二百三十七條 記入ノ費用ハ債權ヲ有償名義ニテ取得シタルトキハ債務者及ヒ債權者各其半額ヲ負擔ス
更新ノ費用ハ債權者ノミ之ヲ負擔ス
(元尾崎)
無償名義ノ場合ニ於ケル更新ハ債務者ノ負擔ニ屬スベキヤ
(栗塚)
然リ
(南部)
前條ハ其更新ノ陳述及ビ日附ヲ記シテト云ヘルヲ刪除スベシ何トナレバ第千二百三十二條ヲ修正シタル旨ニ從ヒシナリ
第千二百三十八條 記入ニ關スル爭ヒハ抵當財產所在地ノ裁判所ニ之ヲ訴ヘ又債權者ニ對スル召喚又ハ吿知ハ記入ニ付キ選擇シタル假住所ニ之ヲ爲ス
(松岡)
本條ハ第千二百二十八條刪除ノ旨ニ從ヒ又債權者以下ヲ刪ルベシ
可決ス
(元尾崎)
「訴ヘ」トアルヲ「訴フ可シ」トスベシ
可決ス
第二款 記入ノ抹殺、減少及ヒ正誤
第千二百三十九條 記入ノ抹殺ハ左ノ場合ニ於テ之ヲ爲ス
第一 記入ノ關係スル債權カ無效タリ若クハ銷除スヘキモノタルトキ又ハ其全部ノ消滅シタルトキ
第二 記入ヲ爲シタル抵當カ有效ニ設定セラレス卽チ法律ニ從テ成立セサルトキ
第三 記入カ第千二百三十三條ニ依リ銷除スヘキモノナルトキ
右ハ第千二百四十五條ニ記載シタル如ク或ル不動產ニ付テノ記入ヲ抹殺スルコトヲ妨ケス
(元尾崎)
第一ノ全部ノ消滅ト云ヘルハ債權ノ消滅シタルトキヲ云フヤ
(栗塚)
然リ
(元尾崎)
第一ノ記入ノ關係スルト云ヘル文字ハ刪除シテハ如何
(南部)
單ニ債權ト云フニテハ何ノ債權タルヲ知ルベカラズ
(村田)
第一ハ記入ノ關係スルヲ刪リ第二ハ記入ヲ爲シタルノ文字ヲ除クベシ
可決ス
第千二百四十條 記入ノ抹殺ハ債務者又ハ其承繼人ノ請求ニ因リ之ヲ宣吿スルコトヲ要ス但下ニ規定シタル方式ニ於テ債權者ヨリ之ヲ許シタルトキハ此限ニ在ラス
無異議
第千二百四十一條 婦ノ法律上ノ抵當カ其債權ノ擔保ニ必要ナルヨリ多クノ不動產ニ付キ記入アリ又ハ其債權ノ正當ナル評價ヨリ更ニ多キ金額ノ爲メニ記入アリタルトキハ夫又ハ其承繼人ハ不動產又ハ金額ニ關シ裁判上ニテ此記入ノ減少ヲ請求スルコトヲ得但抵當カ或ル不動產ニ付キ制限ナキトキ又ハ婚姻契約若クハ配偶者間ノ特別合意ニ因リ債權額ノ評價ナキトキニ限ル
(栗塚)
本條以下ハ最初再調査ヲ兼既ニ議了シタルモノニ係ルヲ以テ諒知セラレタシ
第千二百四十二條 右ニ同シク後見人又ハ其承繼人ハ未成年者又ハ禁治產者ノ擔保ニ必要ナルモノノ外ニ爲シタル記入ノ減少ヲ請求スルコトヲ得但親屬會議ノ決議ニ因リ或ル不動產ニ付キ抵當ノ制限ナク又ハ債權額ノ評價ナキトキニ限ル
(村田)
後見會議ト云フモノナキカ
(栗塚)
然リ
(箕作)
但親屬會議ノ決議ニ因リトアルハ但親屬會議ノ決議ニ因ルトスベキニアラズヤ
(栗塚)
或ル不動產ニ付キトアルヲ或ル不動產ニトシ抵當ノトアルヲ抵當ヲトシ制限ナクトアルヲ制限セズトシ債權額ノ評價ナキトアルヲ債權額ヲ評價セザルトシ前條モ之ト同一ニ改ムベシ
可決ス
第千二百四十三條 合意上ノ抵當ハ債務者ノ現在ノ總財產ニ關シ第千二百十三條ニ記載シタル如ク過度ナルトキニ非サレハ債務者其減少ヲ請求スルコトヲ得ス
債務者ハ常ニ債權者ノ記入シタル債權ノ評價ノ減少ヲ請求スルコトヲ得但設定證書又ハ別證書ヲ以テ評價ヲ爲ササルトキニ限ル
無異議
第千二百四十四條 遺言上ノ抵當ハ相續ノ不動產ニ付キ遺言者制限ヲ爲サス又ハ債權ニ付キ評價ヲ爲サスシテ之ヲ設定シタルトキハ相續人其減少ヲ請求スルコトヲ得
(村田)
本條ハ債權ニ付キ評價ヲ爲サズシテトアルヲ債權ヲ評價セズシテトスベシ
可決ス
(栗塚)
制限ト云ヘル文字ノ上ニ「其」ト云フ字ヲ加ヘシ
可決ス
第千二百四十四條ノ二 債務カ半額以上消滅シタルトキハ猶ホ三種ノ抵當ニ付キ金額ノミノ記入ヲ減少スルコトヲ得
債務者ハ一分ノ辨濟ヲ爲シタルトキハ常ニ自費ニテ記入ノ縁邊ニ之ヲ附記スルコトヲ得
(箕作)
一分ノ辨濟ヲ爲シト云ヘルハ些少ノ辨濟ヲ爲スモト云フニアリヤ
(南部)
然リ
(尾崎)
本條ノ規定アラザルモ抵當ヲ減少スルニ差支ナシ
(南部)
抵當ハ減少スルヲ得ベキモノニアラズ
(箕作)
半額以上ト云フ制限ヲ附シタルハ如何
(栗塚)
個ハ別種ノ問題ニシテ半額以上トスルカ四分一以上トスルカノ論點ニ歸スベシ
(箕作)
金額ノミノ記入ヲ減少スルハ誰ノ利益ナリヤ
(栗塚)
債務ノ半額以上ヲ辨濟シタルトキハ記入ノ減少ヲ爲ス假令バ最初千圓金ノ記入アルモノハ五百圓ノ辨濟ヲ爲シタルトキハ五百圓ノ記入ヲ減少シ世上ノ信用ヲ維持スルコトヲ得ベシ只半額以上ニ至ラザル間ハ其辨濟シタル額ノミヲ欄外ニ附記スルヲ得ベシト云フニアリ
(南部)
個ハ此儘ニ經過シ他ノ關係ノ條ニ於テ併論セラレタシ其義ニ決ス
第千二百四十五條 債務者ノ請求ヲ正當トスル判決ニハ抵當ヲ免カレタル不動產又ハ評價ヲ改メタル金額ヲ指示ス
右第一ノ場合ニ於テハ抵當ノ記入ヲ抹殺シ第二ノ場合ニ於テハ之ヲ減少ス
無異議
第千二百四十六條 前數條ニ從ヒ記入ヲ或ル不動產ニ減少シタル場合ニ於テハ其不動產カ債權者ノ擔保ニ不十分ト爲リタルトキハ意外ノ事又ハ不可抗力ニ因ルト雖モ債權者ハ抵當ノ補充ヲ請求スルコトヲ得
無異議
第千二百四十七條 記入ノ抹殺及ヒ減少ハ確定判決ニ依ルニ非サレハ之ヲ爲スコトヲ得ス又公正證書ヲ以テスルニ非サレハ債權者之ヲ承諾スルコトヲ得ス
(村田)
抹殺及ビトアルハ抹殺又ハトスベシ
可決ス
(村田)
公正證書トアル公正ノ文字ヲ刪除スベシ
可決ス
第千二百四十八條 任意ノ抹殺又ハ減少カ債務ノ消滅ニ基クトキハ其抹殺又ハ減少ヲ承諾スルニハ債權者其債務ノ辨濟ヲ受取リ又ハ之ヲ追認スルノ能力ヲ有スルヲ以テ足レリトス
若シ抹殺カ右ノ外第千二百三十九條ニ記載シタル原因ノ一ニ基クトキハ債權者和解スルノ能力ヲ有スルコトヲ要ス
又抹殺又ハ減少カ抵當ヲ無償ニテ抛棄スルノ性質ヲ有スルトキハ債權者無償ニテ債權ヲ處分スルノ能力ヲ有スルコトヲ要ス
(栗塚)
第二項冒頭ノ「若シ」ハ刪除スベシ
可決ス
第千二百四十九條 記入ノ抹殺又ハ減少ヲ承諾スル爲メノ委任ハ公正證書ヲ以テ之ヲ與フルコトヲ要ス
然レトモ抹殺又ハ減少カ債務ノ消滅ニ基クトキハ債務者ノ免責ヲ承諾スルノ權限ヲ有シタル代理人ニ於テ其抹殺又ハ減少ヲ承諾スルコトヲ得
和解又ハ無償ノ抛棄ニ付テハ委任ハ明示タルコトヲ要ス
(箕作)
本條ノ公正證書トアル公正ノ文字ハ刪除スベキヤ
(栗塚)
然リ
第千二百五十條 抹殺又ハ減少ヲ爲スニハ其合意又ハ判決ヲ記入ノ縁邊ニ附記スルコトヲ要ス
登記官吏ハ公證人ノ證書又ハ判決書ノ公正ナル謄本ヲ受取リタル上ニ非サレハ右ノ附記ヲ爲スコトヲ得ス但判決書ノ謄本ヲ差出ス場合ニ於テハ其判決ノ確定ト爲リタル旨ヲ裁判所書記ノ證記シタルコトヲ要ス
第千二百二十五條末項及ヒ第千三百四條ハ登記官吏ノ拒絕及ヒ其責任ニ之ヲ適用ス
(箕作)
減少ヲ爲スニハ其合意又ハ判決ヲ記入ノ縁邊ニ附記スルト云フハ如何
(南部)
合意又ハ判決アリシ旨ヲ附記スルノ義ナリ
(栗塚)
第二項ハ公證人ノ證書又ハ判決書トアルヲ證書ノ正本又ハ判決書トスベシ然ラザレバ公正ナル證書ト云フ意味ノ如クナレバナリ
可決ス
(南部)
第千二百二十五條第四項證書ニ依リトアルヲ證書ノ正本ニ依リトシタシ
可決ス
第千二百五十一條 抹殺又ハ減少ヲ後日ノ判決ニテ銷除若クハ解除シタルトキハ其判決ハ更ニ記入ノ縁邊ニ之ヲ附記ス此場合ニ於テハ其記入ハ前債權者ノ爲メ其效力ヲ回復ス然レトモ前後ノ判決ノ間ニ於テ不動產ニ付キ權利ヲ取得シ後ノ判決ノ公示前ニ其權利ヲ記入シタル第三者ニハ此記入ヲ以テ對抗スルコトヲ得ス
(栗塚)
本條ハ留保中ノ一ニ當ルヲ以テ追テ報吿スベシ
第千二百五十二條 記入、更新、抹殺又ハ減少ニ訛誤又ハ脫漏アルモ之カ爲メ銷除ヲ爲スニ足ラサルトキハ當事者ノ協議又ハ判決ヲ以テ之ヲ正誤ス
無異議
第四節 債權者間ノ抵當ノ效力及ヒ順位
第千二百五十三條 凡ソ不動產ニ付キ記入シタル抵當債權者ハ其不動產ノ代價ノ配當ニ有益ニ加入スルコトヲ得ルニ因リ無特權債權者ニ先ツモノトス
法律上、合意上又ハ遺言上ノ抵當ヲ有スル數人ノ債權者間ニ於テハ其配當加入ノ順位ハ數箇ノ記入ヲ同日ニ爲シタルトキト雖モ其記入ノ前後ニ因リテ之ヲ定ム但登記官吏ノ第千二百二十九條ノ規定ヲ遵守セサル場合ニ於テハ之ニ對スル責任ノ訴權ヲ妨ケス
(箕作)
第一項加入スルコトヲ得ルニ因リ云々トアル「ルニ因リ」云々ヲ刪除シ其不動產トアル上ニ無特權債權者ニ先チト云ヘル文字ヲ加フベシ
可決ス
第千二百五十四條 記入ハ揭載シタル利息及ヒ定期ノ附從物ニ其經過シタル最後ノ二个年分ニ限リ主タル債權ト同一ノ順位ヲ得セシム但二个年以外ノ利息及ヒ附從物ノ爲メ債權者ノ日後記入ヲ爲スノ權利ヲ妨ケス然レトモ此記入ハ其日附ニ於テノミ效ヲ生スルモノトス
(尾崎)
日後記入ヲ爲スノ權利ヲ妨ゲズト云フハ如何
(箕作)
債權者日後ノ記入ヲ爲スノ權利ト云フハ二个年以外ノ場合ヲ云フベシ
(村田)
效ヲ生ズルトアルヲ效力ヲ生ズルトスベシ
可決ス
第千二百五十五條 抵當ノ順位ハ債權ヲ條件附ナルトキ又ハ信用ヲ開キテ爲ス貸付ノ如ク漸次ノ支拂ヨリ生スルトキト雖モ亦記入ニ因リテ之ヲ定ム
無異議
第千二百五十六條 債權者カ數箇ノ不動產ニ付キ抵當ヲ有シ其各個ノ代價カ同時ニ淸算アリシトキハ其債權ハ總不動產ノ價額ノ割合ニ應シテ之ヲ分配ス可シ
漸次ノ淸算ノ場合ニ於テ右ノ債權者カ不動產中一箇ノ代價ニ依リテ全ク辨濟ヲ受ケ此一箇ノ不動產ニ付キ其債權者ノ次ニ抵當ヲ有スル一人又ハ數人ノ債權者ノ爲メニ損失ノ生スルトキハ其一人又ハ數人ノ債權者ハ他ノ各不動產ニ付テハ其己レニ先チタル債權ニ於ケル其各不動產ノ分擔部分ニ限リ自己ノ債權ノ爲メ其相互ノ順位ヲ以テ右辨濟ヲ受ケシ債權者ノ抵當ニ當然代位ス
無異議
第千二百五十七條 前條ノ代位ハ原債權者ニ次テ右各不動產ニ付キ記入ヲ爲シタル債權者ニ對シテ其效ヲ生ス
右ノ代位者カ記入ノ縁邊ニ其代位ヲ附記シタルトキハ其代位者ヲ順序配當手續中ニ加ハラシムルコトヲ要シ且其承諾アルニ非サレハ何等ノ抹殺又ハ減少ヲモ爲スコトヲ得ス
若シ右ノ不動產ニ付キ抵當ノ記入アラサリシトキハ代位者其記入ヲ爲シ且右ト同一ノ目的ニテ其縁邊附記ヲ爲スコトヲ得
(元尾崎)
本條ハ記載ヲ要セズ
(箕作)
第三項ハ原債權者ノ記入ナキトキヲ云フカ
(栗塚)
然リ原債權者ノ文字ヲ挿入シ記入アラザリシトキトアルヲ記入ナキトキトシタシ
(淸岡)
原債權者ノ抵當ノ記入ヲ爲サザルトキトシテハ如何
(箕作)
原債權者ノ抵當ノ記入ナキトキト云ヘルヲ可トス
可決ス
(村田)
「若シ」ヲ刪ルベシ
(南部)
此「若シ」ハ刪除スルニ及バズ
第千二百五十八條 凡ソ債權ヲ處分スルノ能力アル抵當債權者ハ同一債務者ノ他ノ債權者ノ利益ニ於テ自己ノ抵當又ハ其順位ノミヲ抛棄スルコトヲ得但第五百二十二條及ヒ第五百二十五條ニ於テ更改ニ關シ規定シタルモノヲ妨ケス
若シ抵當債權ヲ數次ニ數人ニ對シ讓渡、抛棄又ハ代位ノ目的トナセシトキハ優先權ハ承權人中記入ノ縁邊ニ自己ノ權利ノ設定證書ヲ附記シ又ハ記入ノ有ラサリシトキハ之ヲ爲シテ其取得ヲ第一ニ公正シタル者ニ屬ス
無異議
第千二百五十九條 右ノ外第千百九十一條ノ規定ハ前二條ノ場合ニ之ヲ適用ス
無異議
第千二百六十條 抵當債權者又ハ無特權債權者カ記入ナキ抵當ヲ知リテ之ヲ自認シタリト雖モ記入ノ欠缺ヲ申立ツルノ權利ヲ失ハス
(淸岡)
記入ノ欠缺ト云ヘルハ他ノ債權者ノ記入ノ欠缺ヲ指スカ
(箕作)
然リ
(栗塚)
申立ツルト云フ文字ハ最初利唱ノ文字ヲ使用シタルモ修正セラレタリ
(尾崎)
利唱ト云ヘル文字ヲ回有スベシ
可決ス
第千二百六十一條 不動產賣拂代價ヲ以テ全部ノ辨濟ヲ受ケサル抵當債權者ハ其殘額ニ付テハ無特權債權者タリ
若シ不動產ノ賣拂ニ先チテ動產有價物ノ配當ヲ爲ストキハ抵當債權者ハ其債權全額ノ爲メ無特權債權者トシテ假リニ其配當ニ加入ス
其後ニ至リ抵當不動產ノ代價ノ配當アルトキハ抵當債權者ハ動產有價物ニ付キ何等ノ辨濟ヲモ受ケサリシカ如ク其配當ニ加入ス然レトモ此配當ニ於テ全ク辨濟ヲ受ク可キ者ハ動產ノ配當ニテ受取リタル金額ヲ減除スルニ非サレハ其抵當ノ配當額ヲ受クルコトヲ得ス其減除シタル金額ハ動產財團中ニ之ヲ返還ス
不動產ノ代價ノ配當ニ於テ一分ノミノ辨濟ヲ受クルコトヲ得可キ者ニ付テハ配當ニ加ハルコトヲ得サリシ殘額ニ從ヒ其動產財團ニ對スル權利ヲ定ム但此割合外ニ受取リタルモノハ其抵當ノ配當額中ヨリ扣除シ之ヲ動產財團中ニ返還ス
右ノ返還金額ハ純粋ノ無特權債權者ト有益ニ配當ニ加入スルヲ得サルカ又ハ債權ノ一分ノミニ付キ之ニ加入シタル抵當債權者トノ間ニ於テ更ニ之ヲ配當ス
(元尾崎)
末項ハ如何ナル意義カ
(南部)
配當ニ加入スルヲ得サル抵當債權者又ハ之ニ加入シタル抵當債權者ト云フニアリ
(村田)
第三項得可キ者トアル文字ハ得ヘキ者トスルヲ要ス
可決ス
第五節 第三所持者ニ對スル抵當ノ效力
總則
第千二百六十二條 抵當不動產カ讓渡サレ又ハ用益權其他ノ物權ヲ負擔シタルトキハ其設定證書ノ登記前ニ記入ヲ爲シタル抵當債權者ハ第三取得者ニ對シ債務ノ辨濟ヲ請求スルノ權利ヲ保有シ又此不動產ノ賣拂代價ヲ以テ辨濟ヲ受クル爲メ其不動產ノ徵收ヲ訴追スルノ權利ヲ附從ニテ保有ス
然レトモ第百二十六條及ヒ第百二十七條ニ規定シタル期間ヲ以テ爲シ又ハ更新シタル賃貸借ハ抵當債權者之ヲ遵守スルコトヲ要ス
本條ハ其設定證書トアル設定ノ二字ヲ刪除ス
第千二百六十三條 抵當カ所有權ノ支分ニ存シ債務者其權利ヲ抛棄シタルトキハ其抛棄ノ登記前ニ記入ヲ爲シタル債權者ハ其抛棄ニ拘ハラス追及權ヲ保有ス
無異議
第千二百六十四條 抵當ハ其不動產ヲ差押ヘ之ヲ賣却セシメタル無特權債權者ニハ競落ノ登記前ニ其記入ヲ爲シタルトキニ非サレハ之ヲ以テ對抗スルコトヲ得ス但第千二百二十條ニ揭ケタル二箇ノ場合ニ於テ爲セル記入ノ無效タルコトヲ妨ケス
(元尾崎)
既ニ差押ヲ爲シタル債權者アルニモ拘ハラズ其財產ニ付キ記入ヲ爲スコトヲ得ベキヤ
(栗塚)
記入スベキ原因差押ノ前ニ在ラザルベカラズ
(南部)
差押後ノ記入ハ公正證書ニ依ルベキヲ要スルニ既ニ公正證書ニ依ラシムベキ精神ヲ除去シタルハ不可ナルニアラズヤ
(淸岡)
本條ノ場合ニ於テハ私證書ヲ以テスルヲ得ザルベキ旨ヲ示スベシ
(元尾崎)
公正證書ヲ以テ設定スル抵當ハ其不動產ヲ差押ヘ之ヲ賣却セシメタル無特權債權者ニハ競落ノ登記前ニ其記入ヲ爲シタルトキハ之ヲ以テ對抗スルコトヲ得但云々トシタシ
可決ス
第千二百六十五條 第三所持者ノ破產無資力又ハ死亡ハ其取得證書ノ登記アルマテハ抵當記入ノ妨碍ト爲ラス
無異議
第千二百六十六條 第三所持者ハ場合ニ從ヒ左ノ方法ヲ用フルコトヲ得
第一 抵當債務ヲ辨濟スルコト
第二 滌除スルコト
第三 財產檢索ノ抗辯ヲ以テ對抗スルコト
第四 不動產ヲ委棄スルコト
其他第三所持者ハ所有權徵收ヲ受クルコト有リ
(淸岡)
其他第三者ハ所有權徵收ヲ受クルコト有リト云フハ如何
(栗塚)
左ノ方法ヲ用ユルコトヲ得ト云フニテ第一乃至第四ノ件目ヲ示シタレバ其他云々ト云フ除外ヲ示セリ
(委員長)
自由ニ任カスベシト云フモ亦一方法ニアラズヤ
(委員長)
方法ヲ用フルコトヲ得トアルヲ方法ニ依ルコトヲ得トシ其他云々ノ項ハ第五所有權徵收ヲ受クルコトトシタシ
可決ス
第一款 抵當債務ノ辨濟
第千二百六十七條 第三所持者ハ抵當債務ノ滿期ト爲ルニ從ヒ之ヲ辨濟スルニ於テハ所有權徵收又ハ妨碍ヲ受クルコト無シ
無異議
第千二百六十八條 第三所持者カ債務ノ全部又ハ一部ヲ辨濟シタルトキハ第五百四條第一號第五百五條第三號及ヒ第四號ニ從ヒ其辨濟ヲ得タル債權者ノ屬スル他ノ抵當、擔保及ヒ利益ニ代位ス
又第三所持者ハ其辨濟ヲ得サリシ債權者ヨリ所有權徵收ノ訴追ヲ受クルコトアル可キ場合ノ爲メ自己ノ所持スル不動產ノ負擔スル抵當ニ付キ辨濟ヲ得タル債權者ニ未定ニテ代位ス
(箕作)
他ノ抵當ト云ヘルハ如何第三者債務者ノ爲メニ代償シタルトキハ債權者ノ有セル其抵當ニ代位スルニ非ズヤ
(栗塚)
他ノ抵當ニモ代位スベキ場合アルベシ
第二款 滌除
第千二百六十九條 第三所持者ハ記入シタル總テノ抵當債務ヲ辨濟セサルモ債權者ニ其記入ノ順序ニ從ヒ不動產ノ取得代價、其評價若クハ之ニ超ユル金額ヲ辨濟シ又ハ債權者ノ爲メニ之ヲ供託シテ不動產ノ負擔ヲ免カレシムルコトヲ得但下ニ規定セル如キ提供及ヒ滌除手續ヲ爲シタル後債權者ノ明示又ハ默示ノ承諾アリタルコトヲ要ス
(委員長)
本條但以下ハ如何ナル意味カ
(箕作)
提供及ビ滌除ヲ爲スニハ債權者ノ明示又ハ默示ノ承諾アリシモノナラザルベカラズト云フニアリ
第千二百七十條 停止條件附ニテ不動產ヲ取得シタル者ハ條件ノ成就ニ因リ其權利ノ定マラサル間ハ滌除スルコトヲ得ス
解除條件附ニテ取得シタル者ハ條件ノ到來セサルニ因リ其權利ノ定マル前ト雖モ滌除スルコトヲ得
此場合ニ於テ第三所持者ノ提供カ承諾ヲ得タルモ其金額ハ抵當債務ヲ全ク辨濟スルニ足ラスシテ其抵當ヲ抹殺シタル後第三所持者ノ取得カ條件ノ到來ニ因リテ解除スルニ於テハ辨濟ヲ得スシテ抹殺ヲ受ケタル抵當債權者ノ記入ハ第千二百五十一條ニ從ヒ之ヲ回復ス
又右ノ場合ニ於テ提供カ承諾ヲ得スシテ下ニ規定セル如ク不動產ヲ競賣ニ付シタルトキハ競落ハ第三所持者ノ爲メ宣吿アリタルト其他ノ者ノ爲メ宣吿アリタルトヲ問ハス以後解除條件ヲ免カルルモノトス
(元尾崎)
解除條件ニテ取得シタル者ハ同時解除セラルルヤ知ルベカラザルニ之ヲ滌除スルモノアリヤ
(南部)
個ハ解除條件ノ性質ナリ
(元尾崎)
條件ノ成就ニ因リトアルハ條件ノ成就セザルニ因リト云フ義ニアラズヤ
(栗塚)
條件ノ成就セズ其權利ノ定マラザルト云フ義ナリ
(箕作)
末項ノ解除條件ヲ免カルルト云ヘルハ道理上奇異ニ屬スベシ
第千二百七十一條 抵當ヲ滌除スルノ權利ハ第三所持者ニシテ主タル債務者ト爲リ又ハ保證人ト爲リテ自身ニテ抵當債務ノ責ニ任スル者ニ屬セス
右ノ權利ハ債務者ノ相續人ニシテ其債務ノ自己ノ部分ノミヲ辨濟シタル者ニ屬セス
又右ノ權利ハ他人ノ債務ノ爲メ自己ノ財產ヲ抵當ト爲シタル者又ハ其相續人ニ屬セス
(元尾崎)
滌除ト辨濟トハ如何ナル差異アリヤ
(南部)
滌除ハ其物ニ對スル代價ヲ支拂フベキニ依テ之ヲ爲スベシ辨濟ト云ヘバ其物ニ付キ負擔シタル債務ヲ一切償却セザルベカラザルナリ
第千二百七十二條抵當債權者ヲ參加セシメタル總テノ競落ニ付テハ滌除ヲ爲スノ限ニ在ラス
公用徵收ニ付テモ亦同シ
右ハ抵當債權者ノ其順位ヲ以テ競落代價又ハ徵收償金ノ配當ニ加入スルノ權利ヲ妨ケス
無異議
第千二百七十三條 使用權、住居權及ヒ地役權ハ滌除ニ係ラサルモノトス若シ抵當不動產ニ是等ノ權利ノ負擔アルトキハ抵當債權者ハ其權利ヲ斟酌セスシテ債務者ニ對シ不動產ノ賣却ヲ訴追スルコトヲ得
債務者ノ第千二百六十二條ニ記載シタル制限ヲ超ヘテ爲シタル賃貸借ニ付テモ亦同シ
(栗塚)
前條第一項總テノ競落トアルハ總テノ公賣トシテハ如何
可決ス
(元尾崎)
第千二百六十二條ヲ引援シタルハ適當ナラズ該條中ニ示シタル第百二十六條及ビ第百二十七條ニ必要アルニ過ギザレバナリ
(南部)
第千二百六十二條ヲ引援シタルモ不都合ナシ
(村田)
第千二百六十二條第二項ニ記載シタルトスベシ
可決ス
第千二百七十四條 第三所持者ハ債權者ヨリ訴追ヲ受ケサル間ハ何時ニテモ滌除スルコトヲ得又辨濟スルヤ不動產ヲ委棄スルヤノ催吿ヲ受ケタル後一个月内ニ滌除スルコトヲ得但此ニ違フトキハ其權ヲ失フ
然レトモ右ノ失權ハ當然生セス裁判所ニ之ヲ請求スルコトヲ要ス但裁判所ハ第三所持者カ正當ノ障碍アリシコトヲ疏明シ且債權者ノ其遲延ノ爲メニ現實ノ損害ヲ受ケサル可キニ於テハ失權ヲ宣吿セサルコトヲ得
又債權者ヨリ第千二百七十八條第二號ニ規定シタル一个月ノ期間ニ失權ヲ請求セサルニ於テハ失權ヲ宣吿スルコトヲ得ス
(委員長)
又辨濟スルヤ不動產ヲ委棄スルヤトアル辨濟ノ文字ハ不動產ニハ關係ナキヤ
(栗塚)
辨濟ハ金錢ヲ以テスルヲ云フ
第千二百七十五條 第三所持者ハ滌除ノ準備トシテ自己ノ權利ヲ公示シ且第千百八十四條及ヒ第千百八十五條ニ從ヒ讓渡人ノ先取特權ヲ公示スル爲メ自己ノ證書ヲ登記スルコトヲ要ス
右ノ後第三所持者ハ其不動產ノ負擔セル先取特權又ハ抵當ノ目錄ヲ登記官吏ニ要求ス
(淸岡)
讓渡人ト云ヘルハ債務者ヲ指スカ
(元尾崎)
然ルベシ
(淸岡)
債務者先取特權アリヤ
(栗塚)
賣主ヲ指スベシ
(元尾崎)
個ハ三個ノ人ニ交渉セル場合ニシテ其第一ノ人ノ有セル先取特權ヲ云フベシ
(箕作)
且以下ハ且以上ノ註解ノ如シ又「證書ヲ登記スルコトヲ要ス」トアル上ニ取得ノ二字ヲ加ヘタシ
可決ス
第千二百七十六條 上ニ記載シタル一个月ノ期間ニ第三所持者ハ記入シタル各債權者ト第千百二十四條、第千百八十四條及ヒ第千百八十五條ニ從ヒ登記カ記入ニ同シキ效力ヲ有スル債權者トニ左ノ諸件ヲ吿知スルコトヲ要ス
第一 取得證書ノ旨趣、其日附及ヒ登記ノ日附、讓渡人及ヒ取得者ノ氏名、職業、住所讓渡ケタル不動產ノ性質、其所在地、讓渡ノ代價及ヒ其負擔ヲ指示スル要領書但公換、贈與若クハ遺贈ニ因リテ權利ヲ取得シタルトキハ其評價ヲ指示ス可シ
第二 各記入ノ日附、其帳簿ノ葉數、其債權者ノ氏名假住所及ヒ主タル債權トシテ記入シタル金額ヲ明示スル記入表
第三 不動產所在地ノ裁判所ノ管轄内ニ於ケル第三所持者ノ假住所ノ選定
第四 第三所持者ハ右ノ債權者カ法律ニ從ヒ且一个月ノ期間ニ增價競賣ヲ求メサルニ於テハ滿期、未滿期又ハ條件附ノ債權ヲ區別セスシテ各債權者ノ記入ノ順序ニ從ヒ之ニ不動產ノ代價、其評價若クハ之ニ超ユル金額ノ辨濟又ハ其債權者ノ爲メニ金額ノ供託ヲ爲サントスル旨ノ陳述但一个月ノ期間ハ距離ニ應シテ之ヲ增加スルモノトス
(栗塚)
本條ハ第二「假住所」ヲ刪リ第三ハ全除スルヲ要ス
(箕作)
左ノ諸件ヲ吿知スルコトヲ要ストアルヲ左ノ書類ヲ送達スルコトヲ要ストシテハ如何
(淸岡)
第三ハ存在セシメタシ
(村田)
吿知ヲ送達スルハ妥當ニアラズ
(淸岡)
但一介月ノ期間ハト云ヘルヲ但此期間ハトシテハ如何
(箕作)
其債權者ノ爲メニトアルハ其債權者ノ名ヲ以テトシタシ
可決ス
第千二百七十六條ノ二 記入シタル債權者ノ中ニ先取特權ヲ有スル讓渡人又ハ分割者アルトキハ前條第四號ニ定メタル陳述ニハ此債權者ヲシテ同一ノ期間ニ其解除訴權ヲ行ハント欲スル旨ヲ述ヘシムル爲メノ催吿ヲ添フルコトヲ要ス但第千百八十七條及ヒ第千百八十八條ノ明文ニ因リ法律上ノ抵當ニ變性シタル先取特權ヲ有スル者ニ付テモ亦同シ
無異議
第千二百七十七條 讓渡證書中ニ抵當ト爲シ又ハ爲ササル財產アルトキハ取得者ハ抵當財產ノ爲メニ非サレハ提供ヲ爲スコトヲ得ス又增價競賣ノ要求ハ其提供ノ後ニ非サレハ之ヲ爲スコトヲ得ス
(淸岡)
又ハ爲サザル財產ト云ヘルハ意義分明ナラズ
(元尾崎)
增價競賣ト云ヘルハ提供シタル以上ノ事タルニ屬スベシ
(箕作)
提供ニ於テスルニアラザレバ增價競賣スルヲ得ザルナリ第千二百七十六條(ノ二)陳述ノ文字ヲ提供トシ「旨」ヲ刪ルベシ
可決ス
(元尾崎)
本條ハ又以下ヲ又增價競賣ハ此提供ニ基キ之ヲ爲スコトヲ要ストシテハ如何
可決ス
(栗塚)
抵當財產ノ爲メニ非ザレバ提供ヲ爲スコトヲ得ズトアルヲ抵當財產ノ爲メニノミ提供ヲ爲スコトヲ得トスベシ
可決ス
第千二百七十八條 凡ソ記入シタル債權者ニシテ上ニ定メタル提供ヲ承諾セサル者ハ左ノ方式、期間及ヒ條件ヲ以テ抵當財產ノ競賣ヲ要求スルコトヲ要ス
第一 其要求ニハ提供金額ノ上少クモ十分一ノ增價ニテ買受クルコトト其增額シタル代價ノ全部及ヒ費用ノ爲メ十分ナル保證人又ハ擔保ヲ供スル旨ノ陳述トヲ添フルコトヲ要ス若シ之ニ違フトキハ其要求ハ無效タリ但此場合ニ於テハ總テノ正本ニ要求者又ハ其特別代理人ノ署名アルコトヲ要ス
第二 右ノ要求ハ提供通知ヨリ一个月内ニ第三所持者ニ其選定シタル住所ニ於テ之ヲ通知スルコトヲ要ス若シ之ニ違フトキハ其要求ハ亦無效タリ但此期間ハ債權者ノ選定シタル住所ト其日本ニ在ル本住所トノ間ニ於テ書類往復ノ爲メ八里每ニ一日ヲ增加ス
第三 右ノ期間ニ於テ債務者タルト否トヲ問ハス前所有者ニ右ニ同シキ通知ヲ爲スコトヲ要ス
第四 主タル債務者ニ非サル者カ抵當ヲ設定シタルトキモ亦同一ノ期間ニ於テ其債務者ニ通知ヲ爲スコトヲ要ス
右ノ期間ニ長短アルトキハ最長キ期間ニ從フ
(栗塚)
本條第二日本ト云ヘル文字ハ本邦トシ又住所撰定ト云ヘル事柄ハ必要アルニ付第千二百七十六條第三ハ回存シタシ
(箕作)
要求ト云フハ裁判所ニ向テ爲スヲ云フカ
(栗塚)
然リ
(元尾崎)
其增額シタル代價ノ全部トアルハ增額シタル部分ニ止マラス代價ノ全額ヲ指スベキヤ
(箕作)
然リ
(元尾崎)
日本ニ在ル本住所ト云フヲ記示シタルハ如何
(栗塚)
日本人ト雖モ上海又ハ香港等ニ住所ヲ有スルコトナキニシモアラザレバナリ
(箕作)
第千二百七十六條第三ハ回存セザレバ本條トノ權衡不都合アルヲ免レス
可決ス
(栗塚)
然ル以上ハ假住所ヲモ回存セザルベカラズ
(元尾崎)
假住所ニ付テハ既ニ刪除シタルヲ以テ之ヲ回存スベシト云フハ不可ナリ
(栗塚)
然ラバ本條ノ場合ハ如何スベキヤ
(南部)
滌除ノ場合ニハ假住所ヲ設クベキモノトシ本條第二ハ滌除ノ通知ヲ受ケタル者ハ假住所ヲ設クベキ旨ヲ示シタシ
(尾崎)
然ルベシ
(箕作)
其修正ハ報吿委員ノ調査ニ讓リタシ
(委員長)
假住所ノ義ハ滌除ノ場合ニノミ設置シ其他ノ場合ハ假住所ヲ設置スルニ及バズト云フハ同一轍ニ出デザルヲ以テ此義ハ別ニ定ムルコトトシ本法中ヨリハ除去スベシ
(栗塚)
訴訟法中ニ挿入スルコトトスベシ其義ニ決ス
第千二百七十八條ノ二 讓渡人又ハ分割者ニシテ其解除訴權ノ行使ヲ留保セスシテ前條ニ規定シタル如ク增價競賣ヲ爲シタル者ハ其訴權ヲ抛棄シタルモノト看做ス
若シ讓渡人又ハ分割者カ右ノ訴權ヲ保存セント欲スルトキハ增價競賣ノ爲メ許與セラレタル期間ト同一ノ期間ニ第三所持者ニ其旨ヲ吿知スルコトヲ要ス若シ之ニ違フトキハ無效タリ但主タル債務者トシテ前所有者ニ對シテ此ニ同シキ吿知ヲ爲スコトヲ妨ケス
(箕作)
前條右ノ期間ニ長短アルトキハ最モ長キ期間ニ從フト云フハ刪除シテハ如何
(村田)
然ルベシ
(元尾崎)
第千二百七十二條第四但以下ヲモ刪除スベシ
可決ス
(箕作)
第一項增價競賣ヲ爲シタル者ハトアルハ增價競買ヲ要求シタルトスベシ主タル債務者トシテトアルヲ主タル債務者ナルトスベシ
可決ス
第千二百七十九條 定マリタル方式及ヒ期間ヲ以テ增價競賣ノ通知アリタルトキハ其競賣ノ要求者ハ他ノ記入シタル債權者ノ承諾ナクシテ之ヲ言消スコトヲ得ス其債權者ハ此增價競賣ノ實行ヲ要求スルコトヲ得
若シ競賣ノ實行アリタルトキハ下ノ第千二百九十條以下ヲ適用ス
(元尾崎)
言消スト云フ字ハ不當ナリ
(栗塚)
言消ト云フ字ハ已ニ議決シタル文字ナレバ變更スルハ不可ナリ
(箕作)
言消スコトヲ得ズト云フハ一度發言シタルコトハ命言スルヲ得ズト云フ義ナリ
(箕作)
之ヲ言消スコトヲ得ズト云ヘル「之ヲ」ハ何ヲ指スカ
(栗塚)
競賣ヲ指スベシ
(箕作)
其競賣トシタシ
可決ス
第千二百八十條 債權者ノ何人ヨリモ有效ニ競賣ヲ求メサリシトキハ不動產ノ滌除ハ債權者ノ間ニ發開シタル熟議上若クハ裁判上ノ順序ヲ以テスル辨濟ニ因リ又ハ豫メ實物提供ヲ爲サスシテ債權者ノ名ヲ以テスル供託ニ因リテ成ル
此場合ニ於テ總テノ抵當ハ之ヲ抹殺ス其元資ノ不足シタルモノト雖モ亦同シ
(委員長)
不動產ノ滌除ハト云フハ適當ナリヤ
(栗塚)
不動產ニ債務ト云フ汚物ノ附着シアルヲ滌除スルノ義ナリ
(箕作)
第一項ノ末ニ但此供託ニ付テハ豫メ實物提供ヲ爲スコトヲ要セズトシ辨濟ニ因リ又ハトアル下「豫メ實物提供ヲ爲サスシテ」ト云ヘル文字ヲ刪除スベシ
可決ス
(元尾崎)
發開シタルト云フ文字ヲ刪除シタシ何トナレハ此熟議ハ債權者ニ止マラス第三者ニモ關係スベケレバナリ
(箕作)
債權者ノ熟議ス若クハ裁判上ノ順序ト云フ義ナレバ債權者ノ間ノ熟議上云々トスベシ
可決ス
第千二百八十一條 右ノ如ク滌除ヲ實行シタル後第三所持者ハ左ノ區別ニ從ヒ其讓渡人ニ對シ擔保ノ求償權ヲ有ス
第一 賣買ノ場合ニ於テハ其取得代價外ニ提供シ及ヒ辨濟シタルモノノ爲メ
第二 交換其他ノ有償契約ノ場合ニ於テハ讓渡人ニ對スル自己ノ義務外ニ辨濟シタルモノノ爲メ但自己ノ供給シタル對價物ノ返還ヲ受ケサルトキニ限ル
第三 贈與又ハ遺贈ノ場合ニ於テハ贈與者又ハ遺言者ノ免責ニ付キ辨濟シタルモノノ爲メ
第四 總テノ場合ニ於テ自己ノ負擔シタル滌除手續ノ費用ノ爲メ
(元尾崎)
第三ノ場合ハ如何
(箕作)
無償ニテ受ケタル者ヲ云フ
(淸岡)
取得代價ト云フハ賣買代價トシタシ
可決ス
第三款 財產檢索ノ抗辯
第千二百八十二條 自身ニテ且主トシテ抵當債務ノ責ニ任セサル第三所持者ハ訴追債權者ニ對シ同一債務ノ爲メニ抵當ト爲リタル他ノ不動產ヲ豫メ檢索シテ之ヲ賣却セシメント求ムルコトヲ得但之カ爲メニハ左ノ諸件ヲ具備スルコトヲ要ス
第一 其不動產カ辨濟ノ有ル可キ場所ノ控訴院ノ管轄内ニ在ルコト
第二 其不動產カ猶ホ主タル債務者ニ屬スルコト
第三 其不動產カ爭ニ係ラサルコト
第四 其不動產カ債權者ノ記入ノ順位ト其價額トヲ斟酌シテ之ニ全部ノ辨濟ヲ得セシムルニ不十分ナルノ明白ナラサルコト
右ノ抗辯ハ訴追ノ當初ニ之ヲ提出スルコトヲ要ス
(元尾崎)
第四ハ換言スレハ不足カ充分ナルコトト云フ義ナリ
(栗塚)
正面上不足カ不充分ナルコトト云フヲ得ザルナリ
(槇村)
財產檢索ノ抗辯ト云フハ如何
(箕作)
先ヅ他ノ財產調ヲ爲サシムル義ナリ
第千二百八十三條 第三所持者ハ第千二十條乃至第千二十三條ニ從ヒ保證人ノ分限ヲ以テ己レニ屬スル檢索ノ利益ヲ抛棄シタルトキト雖モ抵當檢索ノ抗辯ノ利益ヲ失ハス
(元尾崎)
保證人ノ檢索ノ抗辯ト第三所持者ノ檢索トノ抗辯ハ同義ニアラザルカ
(南部)
抗辯ノ要件ニ差異アリ
(箕作)
抵當檢索トアルヲ抵當財產檢索トスベシ
可決ス
第千二百八十四條 他人ノ債務ノ爲メ自己ノ不動產ヲ抵當ト爲シタル者及ヒ其相續人ハ檢索ノ抗辯ヲ以テ對抗スルコトヲ得
主タル債務者ノ相續人中ニテ訴追前ニ債務ニ於ケル自己ノ部分ヲ辨濟シタル者ニ付テモ亦同シ
無異議
第四款 委棄
第千二百八十五條 第三所持者ハ所有權徵收ノ手續中何時ニテモ訴追ノ目的タル不動產ヲ委棄スルコトヲ得
第三所持者ハ委棄ニ因リ訴追債權者ニ所持ノミヲ委棄シテ不動產ノ所有權ト其法定ノ占有トヲ保存シテ其危險ヲ擔任ス
(村田)
第二項所持ノミヲトアル文字穩當ニアラズ
(槇村)
委棄ト云フハ如何
(南部)
汝能ク之ヲ處セヨト云フベキ打任セノ義ナノ
(箕作)
第二項ハ委棄ノ效力ヲ擧ゲタルモノナリ
(槇村)
第二項ハ其委任ニ因リ云々スルコトヲ得ト云フ意味ニ思惟セラルル恐ンアリ
(箕作)
本條ハ第一項及ビ第二項ヲ合併シ委棄スルコトヲ得トアル下「其委棄ニ因リ第三所持者ハ訴追債權者ニ所持ノミヲ委付シ不動產ノ所有權ト其法定ノ占有トヲ保存シテ其危險ヲ擔任ス」トシタシ
可決ス
第千二百八十六條 主タル債務者又ハ保證人トシテ自身ニ債務ヲ負擔シタルモノニ非サル第三所持者ノミ委棄ヲ爲スコトヲ得
債務者ノ相續人中ニテ訴追ノ間ト雖モ債務ニ於ケル自己ノ部分ヲ辨濟シタル者及ヒ供物保證人ハ委棄ヲ爲スコトヲ得
(村田)
訴追ノ間ト雖モトアルハ相續人ノミナラズ供物保證人ニモ關係スベシ
(箕作)
訴追ノ間ト云ヘル義ハ供物保證人ハトアル下ニ位置スルヲ可トス
(元尾崎)
供物保證人ハノ下訴追中ノト雖モノ數字ヲ挿入シ債務者ノ相續人中ニテ訴追ノ間ト雖モトアルヲ債務者ノ相續人中ニテトスベシ
可決ス
第千二百八十七條 有效ニ委棄ヲ爲スニハ自身ナルト代人ノ資格ナルトヲ問ハス所有權徵收ノ訴追ニ被吿トシテ出頭スルノ能力ヲ有スルヲ以テ足レリトス
無異議
第千二百八十八條 委棄ハ委棄者又ハ其部理代理人ノ署名シ且訴追債權者ニ吿知シタル陳述ヲ以テ抵當財產所在地ノ裁判所ノ書記局ニ於テ之ヲ爲スモノトス
裁判所ハ訴追債權者又ハ第三所持者其他ノ利害關係人ノ求ニ因リ委棄ニ付テノ管財人ヲ選任ス但所有權徵收ノ訴追ハ此管財人ニ對シ繼續ス
(尾崎)
本條第一項ハ如何
(南部)
委棄ハ裁判所書記局ニ於テスト云フ義ナリ
(箕作)
委棄ハ裁判所ニ其屆出ヲ爲シ且ツ之ヲ訴追債權者ニ吿知スベシト云フ義ナリ
(元尾崎)
第一項ハ委棄ハ委棄者又ハ其部理代理人抵當財產所在地ノ裁判所ノ書記局ニ於テ之ヲ陳述シ其陳述書ニ署名シテ訴追債權者ニ之ヲ吿知スルコトヲ要ストシタシ
(栗塚)
同文中ニ之ヲノ字二個アルモ其指ス處ヲ異ニスルト云フヲ領知セラルベシ
(渡)
之ヲ吿知スルコトヲ要スト云フ「之ヲ」ノ字ヲ除去スベシ
(村田)
委棄ニ付テノトアルハ委棄財產ニ付テノトスベシ原案ノ儘ニ經過ス
第千二百八十九條 第三所持者又ハ其代人ハ競落アルマテハ訴追債權者ニ對スル總債務ト其時マテノ費用トヲ一个月内ニ辨濟シ又ハ供託スルニ於テハ何時ニテモ委棄ヲ爲シタルト同一ノ方式ヲ以テ之ヲ言消スコトヲ得但他ノ債權者ノ訴追ノ權利ヲ妨ケス又滌除ノ期間カ經過セサルニ於テハ其債權者ニ對スル滌除ノ權利ヲモ妨ケス
(槇村)
之ヲ言消スト云フハ如何
(栗塚)
委棄ヲ言消スノ義ナリ
(槇村)
委棄ヲ言消ストシテハ如何
(栗塚)
原案ノ儘ニテ明了ナリ
(元尾崎)
委棄ト同一ノ方式ニ依リ委棄ヲ言消スコトヲ得ト云フハ語路ヲ得ズ
(栗塚)
例ヘバ作爲シタルト同一ノ方法ヲ以テ之ヲ破壞スルヲ得ト云フガ如シ
(淸岡)
一个月内ト云ヘルハ委棄ノ言消ヲ爲シタル以後一个月内ニ辨濟セザルベカラズト云フ義ナルヤ
(箕作)
第三所持者又ハ其代人ハ競落アルマデハ何時ニテモ委棄ヲ爲シタルト同一ノ方式ヲ以テ之ヲ言消スコトヲ得此場合ニ於テハ訴追債權者ニ對スル總債務ト其時マデノ費用トヲ一个月内ニ辨濟シ又ハ供託スルコトヲ要ス但云々トスベシ
(槇村)
之ヲ言消スノ文字ハ其委棄ヲ言消ストセザレバ競落ヲ言消ス義ナラザルヤノ疑ヒアレバナリ
可決ス
第五款 競賣及ヒ所有權徵收
第千二百九十條 第三所持者カ辨濟ヲ爲サス、委棄ヲ爲サス又滌除ヲ提出セサルトキ又ハ滌除ノ目的ニテ爲シタル提供ノ受諾ヲ得サルニ因リテ增價競賣ノ求メアリタルトキハ民事訴訟法ニ規定シタル方式ト公示トヲ以テ不動產ヲ競賣ニ付ス
(淸岡)
增價競賣ノ求メアリタルトキハト云ヘルハ第三所持者ヨリ求メアルガ如キ感アルベシ
(南部)
增價競賣ノ求メアリテトアルニ付キ第三所持者ノ求メタルニアラザルヤ知ルベシ
第千二百九十條ノ二 前讓渡人又ハ分割者カ第千二百七十八條ノ二ノ明文ニ從ヒ其先取特權又ハ法律上ノ抵當權ヲ擱テ其解除訴權ヲ行ハント欲スル旨ヲ陳述シタルトキハ競賣前ニ其訴ノ判決ヲ求ムルコトヲ要ス但第三所持者ノ要求ニ因リ裁判所カ此事ニ付キ定メタル期間ヲ過クルコトヲ得ス
(箕作)
其訴ノ判決ヲ求ムルコトヲ要スト云ヘルハ其訴ヲ爲スコトヲ要スト云フ義ナリ
(元尾崎)
其訴ト云ヘルハ如何
(箕作)
解除訴權ヲ指スベシ
(淸岡)
前讓渡人トアル前ノ字ハ刪除スベシ
可決ス
(栗塚)
其訴ノ判決ヲ求ムルコトヲ要ストアルヲ其訴ヲ爲スコトヲ要ストシテモ妨ゲナシ
可決ス
(淸岡)
但以下ハ刪除シテハ如何
(南部)
然ルベカラズ
第千二百九十一條 總テノ場合ニ於テ解除ノ請求ナク又ハ其認許ナキトキハ第三所持者ハ競賣ノ際競買人ト爲ルコトヲ得
若シ第三所持者ノ利益ニ於テ競落ヲ宣吿シタルトキハ其判決ハ原證書確認ノ證書トシテ其原證書ノ登記ノ縁邊ニ之ヲ附記スルノミ
(元尾崎)
認許ナキトキト云フハ如何
(栗塚)
請求スルモ其認許ヲ得ザルトキハト云フ義ナリ
(淸岡)
裁判上ニ認許ト云フベキ言詞ヲ使用シタル例ナシ
(元尾崎)
其請求ガ成立ザルトキトシテハ如何
(槇村)
請求ヲ受理セザルノミナラズ敗訴ニ歸着シタルトキヲモ含ムナラン
(栗塚)
然リ
(南部)
別ニ委當ノ文字ヲ詮議スベシ若シ其文字アラザルトキハ原案ノ文字ニ決セラレタシ其義ニ決ス
第千二百九十二條 第三所持者ニ非サル者ノ利益ニ於テ競落ヲ宣吿シタルトキハ其判決ハ所有權移轉ノ證書トシテ特ニ之ヲ登記シ且前登記ノ縁邊ニ之ヲ附記ス
無異議