814条
人権即債権ハ第五百三条ニ定義シタル如ク常ニ義務ト相対ス
義務トハ一人又ハ数人ヲシテ他ノ定リタル一人又ハ数人ニ対シ事物ヲ与ヘ又ハ為シ又ハ為サヽラシムル所ノ制定法又ハ自然法ノ束縛ヲ云フ
義務ヲ負フ者ヲ債務者ト云ヒ義務ニ因リ利益ヲ受クル者ヲ債権者ト云フ
（委員長）
初メマシヨウ
第三百十四條朗讀ス
第二部 人權卽チ債權及ヒ義務一般
前置條例
第三百十四條 第五百三條ニ義解シタル如ク人權卽チ債權ハ一人又ハ數人ヲ他ノ定マリタル一人又ハ數人ニ對シ或ル物ヲ與ヘ又ハ或ル事ヲ爲シ若クハ爲サヽルコトニ羈束スル人定法又ハ自然法ノ繩索ナリ
義務ヲ負フモノハ之ヲ債務者ト名ツケ義務ニ因テ利益ヲ得ルモノハ之ヲ債權者ト名ツク
（修正案） 第一項中「第五百三條ニ義解シタル如キ」ノ十三字ヲ刪ル第一項中「數人」ノ下「ヲシテ」ノ三字ヲ加ヘ又「羈束スル」ノ四字ヲ刪リ「服從セシムル」ノ六字ヲ置キ又「繩索」ノ二字ヲ「羈絆」ニ換フ
（南部委員）
之ニ修正ガ御座イマス「五百三條ニ義解シタル如キ」ト云フ字ヲ刪リマシタ
（渡委員）
刪ツテ宜シイ
（松岡委員）
之ハ御尤モダ
（委員長）
刪テハ餘リオカシクハナイカ
（南部委員）
二項ニモ修正ガ御座イマス
（松岡委員）
後ノ方デ羈絆ト云フタ處ガ之ハ羈束ト繩索ト睨ンダノダ
（栗塚報吿委員）
羈束ト云フノハ言ヒ過ギデス「アストレンドル」ト云フノハ從ハセルト云フノデス
（鶴田委員）
繩索ト云フト繩墨ノ樣ニ見ヘル
（村田委員）
英吉利ノハ縛ルト云フ字ガ使ツテアル
（委員長）
「數人ヲシテ」ト云フノハ「アンベルス」ト云フ字ガアルカラ「シテ」トスルノカ
（栗塚報吿委員）
「義務ハ一人又ハ數人ニ對シ」ト云フノハ分ラヌコトハアリマセンガ、成ルベクハ「一人又ハ數人ヲシテ」トシタ方ガ此數人ト他ノ數人ト分チガ付キマスカラ
（委員長）
誰レガ「シテ」ト云フノカ
（栗塚報吿委員）
「人定法又ハ自然法ヲ以テ」デス
（鶴田委員）
對シテ向ウノ人ヲ縛ルノカ
（南部委員）
イイエ、此方ヲ縛ルノデス、縛ラルル者ハ初メノ一人又ハ數人デス
（鶴田委員）
數人ガ縛ラレル繩ト云フコトダ
（栗塚報吿委員）
ソウデス、私ガ貴君ニ金ヲ拂ハナケレバナラヌ私ヲシテ鶴田サンニ金ヲ返サセル繩ト云フノデス
（村田委員）
義務ニ向ヒ合テ居ルモノデアルト云フノダ
（栗塚報吿委員）
恰度表裏ト云フノデス、一方ニ人權ガアレバ其相手ニハ義務ト云フモノガアル
（松岡委員）
法律上デ云フ人權ト云フモノハ義務ト向ヒ合テ居ル者ニ限ル、自然法デハ權利者ノナイ場合モアル
（栗塚報吿委員）
自然法ハ言ヒ過ギダロウト思ヒマス
（鶴田委員）
茲ハ特別ニ「名付ク」ト書テアリマスガ、外ノ「云フ」ト云フ所トハ出違ヒマスカ
（栗塚報吿委員）
字ガ違ヒマス、「呼フ」ト云フ字ガ書テアリマス、「債務者ト呼フ、債權者ト呼フ」ト書テアリマス
（淸岡委員）
天然ト自然ト違ヘテ置ク積リデスカ
（栗塚報吿委員）
違ヘテ置ク程ノコトハアリマセン
（南部委員）
事實ハ同ジコトダ
（栗塚報吿委員）
「自然法」ヨリモ「天然法」ト云フタ方ガ良イノデスカ
（淸岡委員）
孰レカ一ツニ定メタ方ガ良イ
（委員長）
此前ハ天然ト云フタカ
（鶴田委員）
天然トヤリマシタ
（南部委員）
天然ト云フノハアリマスガ、天然法ト云フノハアリマセン
（栗塚報吿委員）
法律丈ケハ自然法ト云フモノヲ出タノデス
（委員長）
權ノ方カラ云フト天然ト云フ、法律ノ方カラ云フト自然法ト定メテ置クガ良イ
（松岡委員）
當リ前ノ天然ノ法ト云フモノニナレバ素ヨリ人ヲ服從セシムル功力ガアルト云フノデシヨウ、此所ハ服從セシムル位ノ自然法ト云フト服從サセル功力ガアルノデシヨウ
（南部委員）
前ノ天然ノ占有ト云フ字ト同ジカ知ラヌ
（委員長）
之ハ翻譯局デヤツテ貰オウ
（栗塚報吿委員）
天然ノ義務ハ天然ノ占有、天然ノ果實、總テ天然ト云フ字ヲ使テ來マシタ併シ法律丈ケハ天然ト云フコトヲ置イタノデアリマスガ天然法ト云ヲウトモ自然法ト云ヲウトモ言ヒ過ギデ御座イマス、之ハ狹イノデ、第二部ニ規定シテ居ルモノ外ナイノデ、一般ノ天然程廣イモノデナイ
（委員長）
天然ニ違ヒナイ、法律ノトキハ「自然法」ト云ヒ、物ノトキハ「天然」ト云フテ置ケバ良イ
（栗塚報吿委員）
早速翻譯ノ方ヘ問合セマシテ改メマス
（松岡委員）
甚ダ惑ヒヲ起シマスガ、義務ハ一方カラ一方ニ對シテ繩デ、其レハ人定法デ縛ルノハ無論、此邊ハ縛ル所ダガ、自然法デ縛ルノハドウ云フ處ヲ云フノデシヨウ
（栗塚報吿委員）
私ノ考デハ起案者ノ意ハ人定法又ハ自然法トアルガ、人定法卽チ自然法グライダロウト思ヒマス、茲ニ書キ分ケタノハ第二部ニ在ル幼年者ノトキ金ヲ借リ丁年者ニ貸シタノハ惡ルイカラ追求權ハナイ、子供ノトキニ金ヲ借リタト云フ恩義ニ感ジテ返ヘセバ其レヲ取返ヘスコトハ出來ヌゾト云フ又縱令時效ヲ經テ三十年經レバ法律ガ返ヘスニ及バヌト云フ、其レヲ好ンデ返ヘセバ取返スコトハ出來ヌ
（松岡委員）
夫レヲ權利者義務者ト云フコトハ出來ヌカ
（南部委員）
自然法カラ云ヘバ義務者ニナル
（尾崎委員）
自分デ借リタモノダカラ拂ハナケレバナラヌ貸シタモノモ取ルト云ヘバ債權者トナリ債務トナツテ取戻スコトガ出來ル
（南部委員）
自然法ハ自然法デ束縛スルノデス
（栗塚報吿委員）
人定法ガアレバ自然法ノ幅ガ狹クナリマス
（南部委員）
次ノ條ヲ見ルト能クワカリマス、人定法ノ義務ハ是迄ノ力ガアルト云フテアル
（松岡委員）
アルコトハアルケレドモ法律上デ權利ト義務ト分ケタノガ一ト口ニ服從セシムル羈絆ニ定メルカラ餘程分リ惡イ
（委員長）
此處ハ一體ニ法律上ノ義務トノミ云ハズシテ其他ノモノヲ含ンデ云ツタノデシヨウ
（栗塚報吿委員）
其他ノモノハ至テ狹イノデス
（委員長）
十四條デ見レバ大變廣ク見ヘル、其レヲ說明スルノダロウ
（南部委員）
私モソウ思フ、十四條ハ大抵ノコトヲ云フノダロウ人定法ト自然法ノ區別ハ十五條ニ在ル
（松岡委員）
五百三條ニ義解シタル如クト云フ知カラ見ルト自然義務ハ御負ケノ樣ニナル、人權物權ト分ケタノハ法律上カラ起ツタノダ
（村田委員）
此處ハ義務ノ義解ノ所ダカラ、此前モ「地役ハ何々ヲ云フ」トアルカラ茲ニモ「義務トハ何々ノ羈絆ヲ云フ」トシタラ良カロウ
（南部委員）
併シ「權利ナク」ト云フコトガアルカラ
（村田委員）
地役ノ所モソウナツテ居ル
（南部委員）
物權ノ所ヲ御覽ナサイ
（松岡委員）
自然法ハ別ニ書タラ良カロウ
（南部委員）
ソウスルト三百十五條ノ二項ガ出ナクナル
（栗塚報吿委員）
服從セシムルモ法律ノ羈絆ナリ、法律ニハ人定又ハ天然ノガアルト云フテ掛ケタノデスカラ、學問トシテハ良フ御座イマスガ法律トシテハオカシイ
（委員長）
此法ハ最初カラ「財產ハ權利ナリ」ト云フテ居ルカラ此處ニ至テ止メルコトハ出來ナイ
（栗塚報吿委員）
其レデ報吿委員モ此儘ニ置タノデ御座イマス
（淸岡委員）
自然法デモ羈絆ニ這入ルモノハ人定法ト同ジ樣ニナル
（栗塚報吿委員）
矢張リ人定法デス、子供ノ折ニ返ヘシタ金ハ取返ヘスコトハ出來ヌ
（鶴田委員）
矢張羈絆シテ居ルニ相違ナイ
（委員長）
幼年者ガ金ヲ借リタトキ返ヘシタモノハ法律ヲ知ラヌカラト言テ返ヘシタ以上ハ取戻ス權利ガアリソウナモノダガ、幼年者ハ返スノヲ、返サンデモ良ロシイト云フコトハナイ、裁判所デ認メサセテ返ヘシテ宜イ、左ウ云フ場合ハ羈絆ノ中ニ入イル
（南部委員）
其所迄論ズレバ人定法自然法ト分ケテ置ク方ガ都合ガ良イ樣デス
（栗塚報吿委員）
「所有權ハ自然ノ權利ナリ」ト云フコトヲ前ニ刪リマシタガ、若シアレバ茲ノ所有權ハ人定法デ支配センデ、自然法デ支配スルコトニナツテ、ニツチモ、サツチモ往カヌヤウニナリマス、然ルニ幸ヒニ刪リマシタカラ宜シウ御座イマス
（委員長）
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス