旧民法・法例(明治23年)

法律取調委員会 民法草案再調査案議事筆記(要録)

参考原資料

備考

  • 未校正のテキストデータです.
民法草按
第二編 財產
前置條例 財產及ヒ物ノ區別
第一條 財產ハ各人又ハ公私ノ無形人ノ資產ヲ組成スル權利ナリ
此權利ニ二種アリ物權及ヒ人權是ナリ
(委員長)
本條ノ資產ト云フ字ハ身代トシテハ如何ト云フニ付キ意見ヲ承知シタシ
(渡)
身代ト云フハ資產ト云フヲ可トス何トナレバ資產ト云フ文字ハ既ニ習慣ヲ爲シタルモノニシテ差支ナシ又資產ヲ身代ト替ルモ國ノ身代ト云フニ至テハ妥當ナラザルノ嫌ヒアリ
(委員長)
財產ハ資產ヲ組成スルト云ヘバ資產ノ產ハ冷淡ノ意味ニ視認シテ原案ノ通リニ附シ置クベシ
(村田)
財產ハ權利ナリト云フハ財產トハ權利ヲ云フトシタシ
(尾崎)
原案ノ儘ニシタシ
可決ス
第二條 物權ハ直チニ物ノ上ニ行ハレ且總テノ人ニ對抗シ得ヘキモノニシテ主タル有リ從タル有リ
主タル物權ハ之ヲ左ニ揭ク
第一 完全又ハ虧缺ノ所有權
第二 用益權使用權及ヒ住居權
第三 賃借權、永借權及ヒ地上權
第四 占有權
從タル物權ハ之ヲ左ニ揭ク
第一 地役權
第二 留置權
第三 動產質權
第四 不動產質權
第五 先取特權
第六 抵當權
右第一ハ所有權ノ從タル物權ニシテ第二以下ハ人權ノ擔保ヲ爲ス從タル物權ナリ
(箕作)
對抗ト云フ字ハ妥當ナリヤ
(三島)
主張ト云フ字ヲ用ユベシトスル說アリシカ主張ト云ヘバ必ラズ對手ヲ存セザルモ漠然タル場合ニ使用スルコトナキニアラザルヲ以テ對抗トスルヲ可トス
(渡)
用益權ト云フハ用收權ノ改名ナルカ
(今村)
用益權ハ三島氏ノ意見ニ於テ用收ト云フハ使用、收益ト云フヲ約シタルモノナルヲ以テ等シク熟語ノ尾字ヲ用ユルヲ可トスト云フニアリ
(村田)
從タル物權ハ第一、地役權トシ第二、質權トシテ其質權中ニ各種類アルモノトシテハ如何
(栗塚)
其說ノ如クナレバ第二擔保權トスレバ足レル如シト雖ドモ然カスルヲ得ザルナリ
第三條 人權卽チ債權ハ定マリタル人ニ對シ法律ノ認ムル原因ニ由リテ其負擔スル作爲又ハ不作爲ノ義務ヲ盡サシムル爲メ行ハルルモノニシテ亦主タル有リ從タル有リ
從タル人權ハ債權ノ擔保ヲ爲ス保證及ヒ連帶ノ如シ
(箕作)
從タル人權ハ債權ノ擔保ヲ爲ストアルハ從タル人權ハ他ノ人權ノ擔保ヲ爲ストシテハ如何
(南部)
他ノ債權トシタシ
(西)
本條ハ初項ニ於テ主タルアリ從タル有リトシ主從ノ區別ヲ爲セシニ別項ニハ從タル人權ノミヲ說明シタルハ如何
(栗塚)
從タル人權ハ主タル人權ノ如ク明認シ易カラザルヲ以テ特書セルモノナリ
(箕作)
債權ノ擔保ヲ爲ス從タル人權ハトシテハ如何
(元、尾崎)
別項ハ從タル人權ト云ヘルモノノ說明ナルヲ以テ從タル人權ハト云フヲ冠置セザルベカラズ
(村田)
從タル人權ハ債權ヲ擔保スルトシタシ
(松岡)
別項ハ全刪スベシ從タル人權ヲ說明スルニ止ヤリ主タル人權ニ關係ヲ有セザレバナリ
(元、尾崎)
然ルベシ
結局原案ニ決ス
第四條 著述者ノ著書ノ發行、技術者ノ技術物ノ製出又ハ發明者ノ發明ノ施行ニ付テノ權利ハ特別法ヲ以テ之ヲ規定ス
(村田)
本條ハ殆ンド其必要ヲ視ズ依テ之ヲ全除シタシ此ニ關シテハ特別法ヲ以テ之ヲ規定スルモノナレバナリ
(今村)
本條ハ一應之ヲ看過スレバ必要ニアラズト雖ドモ此權利ハ民法中ヨリ抛棄スルヲ得ズ何トナレバ民法ニ於テ之ヲ特別法ニ附スルト云フヲ明示シ置カザレバ全民法ニ因故ナキニ至ルヲ以テナリ又「ボアソナード」氏ハ此權利ハ所有權トスルヲ得ザルニ依リ斯ニ條記セザルベカラズト云フニアリ
(松岡)
此權利ハ所有權ニアラズト云フヲ得ズ既ニ法律上版權所有ト云フヲ以テナリ右ノ所有權中ニ挿入スルヲ可トス
(今村)
此權利ハ所有權ナリト云フハ西洋ノ學者社會ニモ其說一定セザルヲ以テ決シテ所有權ニアラズト云フヲ得ズ依テ本條ハ第三十一條ノ次位ニ置クベキヲ可トス
(栗塚)
起案者ノ說ニハ版權者ト書籍店トノ間ニハ人權ナリト云フニアリ
(松岡)
然ラバ不動產ノ貸借ト雖ドモ貸主ト借主トノ間ニ於テハ人權ノ存立セザルモノナシ
(栗塚)
著述者ガ或ル書籍ヲ著述シタルトキハ著述者ノ所有權ト云フヲ得ベキヤ恐クハ所有權トスルヲ得ズ
(今村)
著書ノ發行所有權ナルト否ト云フハ學者間ノ問題ナルヲ以テ本會ニ於テ之ヲ決スルノ要アラザルベシ依テ本條ノ位置ハ何處ニ屬スベキヤヲ論究シタシ
(委員長)
政府ノ趣旨ハ日本民法ハ「ボアソナード」氏ノ起案ニ據ルト云フニアレバ「ボアソナード」氏ガ此點ヲ斯ニ明示シタルモノニ付テハ他ノ理由アルニアラザレバ同氏ノ說ニ依遵セザルベカラズ且ツ起案者ハ此點ハ人權物權雜種ノモノナルモ先人種ノ管下ニ屬セシムルヲ以テ適當ナリト云フニアリ
(北畠)
別段害ナキ以上ハ舊案モ通過シタルヲ以テ此儘ニ附シタシ
(委員長)
本條ハ他ニ挿入スベキ適當ノ場所アラバ起案者ニ質問スベシ否ラザレバ此儘ニ附シ置クノ外ナシ
第五條 權利ハ物權ト人權トヲ問ハス目的物ノ種々ノ區別ニ從ヒ其樣ヲ變ス其區別ハ物ノ性質人ノ意思又ハ法律ノ規定ヨリ生ス卽チ下ニ揭クル如シ
(淸岡委員)
性質ト云フ字ハ他ノ場合ニモ性質ト皆同ジキヤ
(今村)
原語ハ同一ナルモ日本文ノ上ニ於テ文字ノ異ルコトアリ
第六條 物ニ有體ナル有リ無體ナルアリ
有體物ハ人ノ感官ニ觸ルルモノニシテ地所建物、動物、器械ノ如シ
無體物ハ智能ノミヲ以テ理會スルモノニシテ左ニ揭クル如シ
第一 物權及ヒ人權
第二 著述、技術及ヒ製作ニ關スル權利
第三 發開シタル相續解散シタル會社又ハ淸算中ナル共通ニ屬スル財產及ヒ償務ノ括策
(本條第二ハ製作トアルヲ發開トシ第三括束トアルヲ多數ニ依リ包括)
第七條 物ハ其性質ニ因リ又ハ所有者ノ用方ニ因リ遷移スルト否トニ從ヒ移動物卽チ動產タリ不移動物卽チ不動產タリ此他法律ノ規定ノミニ因リテ動產タリ不動產タル物アリ
(南部委員)
移動物卽チト云フ字ヲ刪リタシ
(栗塚)
移動物卽チ不動物卽チト云フ字ハ曩ニ本會ノ議定ニ係ルヲ以テ報吿委員ニテ此儘ニ附シタルモ右等ノ丈字ハ刪リタシ
可決ス
(箕作)
規定「ノミ」トアル「ノミ」ノ字ヲ刪リタシ
可決ス
第八條 性質ニ因ル不動產ハ左ノ如シ
第一 耕地、宅地、道路、其他土地ノ部分
第二 湖、池、河川、溜井、溝渠、堀割、泉源
第三 堤塘、水刎、波止場其他此類ノ工作物
第四 土地ニ定着シタル浴場、水車、風車又ハ水力蒸氣ノ機器
第五 森林、竹木其他ノ植物但第十三條ニ記載シタルモノハ此限ニ在ラス
第六 果實及ヒ收獲物ノ未タ土地ヨリ離レサルモノ但第十三條ニ記載シタルモノハ此限ニ在ラス
第七 鑛物、坑石、泥炭及ヒ肥料土ノ未タ土地ヨリ離レサルモノ
第八 建物及ヒ其外部ノ戶扉但第十三條ニ記載シタルモノハ此限ニ在ラス
第九 墻、籬、柵
第十 水ノ出入又ハ瓦斯溫氣ノ引入ノ爲メ土地又ハ建物ニ附着シタル筒管
第十一 土地又ハ建物ニ附着シタル電氣器具
其他總テ性質ニ因リ移動スヘキモノト雖トモ建物ニ必要ナル附屬物
(村田)
水刎トハ如何
(今村)
蛇籠ヲ以テ水勢ヲ防グモノノ數ナリ
(村田)
道路ノ下ニ橋梁ト云フ字ヲ入レタシ
第九條 動產ノ所有者カ其土地又ハ建物ノ利用、便益若クハ裝飾ノ爲メニ永遠又ハ不定ノ時間其土地又ハ建物ニ供附ケタル動產ハ性質ノ何タルヲ問ハス用方ニ因ル不動產タリ卽チ左ノ如シ但シ反對ノ證據アルトキハ此限ニ在ラス
第一 土地ノ耕作、利用又ハ肥料ノ爲メニ供ヘタル獸畜
第二 耕作用ニ供ヘタル器具、種子藁、草及ヒ肥料
第三 養蠶場ニ供ヘタル蠶種
第四 樹木ノ支持ニ供ヘタル柵架及ヒ杭柱
第五 土地ニ生スル物品ノ化製ニ供ヘタル器具
第六 工業場ニ供ヘタル機械及ヒ器具
第七 不動產ノ常用ニ供ヘタル浮橋及ヒ小舟但其水流ノ公有ニ屬スルトキモ亦同シ
第八 園庭ニ裝置シタル石燈籠、水鉢及ヒ岩石
第九 建物ニ供ヘタル疊、建具其他ノ補足物及ヒ毀損スルニ非サレハ取離スコトヲ得サル遍額、玻鏡、彫刻物其他各種ノ裝飾物
第十 修繕中ノ建物ヨリ取離シテ再ヒ之ニ用ユ可キ材料
(舊第二第三及ヒ第十二號ハ他號ヘ合ス)
(元尾崎)
家屋ヲ賣却スルモ石燈籠水鉢ノ類ヲ添付スルト云フハ當時ノ習慣ニ反スベシ
(槇村)
古來ノ習慣上ニテハ雨戶障子ノ外ハ添付セザルモノトス
(栗塚)
反對ノ證據アレバ此限ニ在ラズト云フニ在ルヲ以テ不都合ナシ
(元尾崎)
此種ノ物件ハ記載セザルヲ可トス
(槇村)
然リ
(栗塚)
記載ヲ不可トスルハ何レノ點カ
(元尾崎)
先ハ第八第九ノ兩號ヲ刪ルベシ
(栗塚)
此點ニ付テハ前回ニモ種々議論アリテ實地裁判官ニモ詮議シタルニ東京ノ如キハ疊建具ハ家屋ニ附屬セザルモ全國ヲ通觀シタルトキハ大抵此習慣ハ疊建具付ト云フニアリ
(槇村)
理窟上ハ疊建具ノ添付スルヤモ知ルベカラズト雖ドモ習慣上ハ決シテ否ラザルナリ
(委員長)
然ラバ先ヅ之ヲ動產トシテ不都合ナキヤ家屋ノ如キハ此等ノ添付物アルヲ以テ價値ヲモ有スベキニ悉皆此等ノ添付物ヲ剥取スルトキハ大ニ償値ニ損害アルベシ
(北畠)
本條ハ第一第二ノ如キ決シテ用方ニ因ル不動產トスルハ殆ンド其必要ヲ視ズ恰モ舊幕ノ際土地ノ賣買ヲ禁ジタルト同ジカルベシ平素曠野ノ稀少ナル日本ニシテ幾町歩ヲモ耕作スルモノ寡ナカズ然ラバ個々ノ地面ヲ耕作スルニ供ヘタルモノト云フベシ
(栗塚)
大岡越前守ノ裁判ニ農夫ガ高利貸ニ金員ヲ借受ケタルモ之ヲ返濟スルヲ得ズ依テ債權者ハ其農県ヲ差押ヘタルヲ以テ爲メニ農事ノ障害ヲ惹起シタレバ借金ハ返濟セシメタルモ負債者ニ對シテ損害賠償ヲ與ヘシメタリト云ヘルコトアリ今此農具ヲ用方上不動產トセントスルハ差押ノ際不動產ニ對スル手續ヲ盡サザレバ簡易ニ之ヲ差押フルヲ得ザルノ便アルヲ以テ農業保護上ニ效能アリ
結局原案ニ決ス
(北畠)
玻鏡トアルハ玻璃鏡トスベシ
可決ス
(第十條ハ前條ニ合ス)
第十一條 法律ノ規定ニ因ル不動產ハ左ノ如シ
第一 上ニ列記シタル有體不動產ノ上ニ存スル物權
第二 不動產ノ上ニ存スル物權ヲ取得セントシ又ハ取回セントスル人權
第三 建築師ノ材料ヲ以テ建物ヲ築造セシムル債權
第四 動產ニ係ル債權ニシテ法律ニ因リテ不動產ト爲シ又ハ各人カ法律ノ規定ニ依リテ不動產ト爲シタルモノ
(箕作)
本條第四ノ法律ニ因リテトアルヲ法律ガトスベシ
(今村)
法律ニ因リテトアルハ法律ガトスベキ寫字上ノ誤ナリ又動產ニ係ルトアルハ動產タルト云フノ寫字上ノ誤ナリ
第十二條 自力又ハ他力ニ因リテ遷移スルコトヲ得ル物ハ性質ニ因ル動產タリ但第八條及ヒ第九條ニ記載シタルモノハ此限ニ在ラス
無異議
第十三條 假ニ土地ニ定着セシメタル物ハ用方ニ因ル動產タリ卽チ左ノ如シ
第一 建築ノ足場及ヒ支柱
第二 建築ヲ爲スノ間其用ニ供ヘタル小屋
第三 種樹者カ賣ル爲メニ培養又ハ保存シタル草木
第四 取毀ツ爲メニ讓渡シタル建物其他ノ工作物又ハ收去ル爲メニ讓渡シタル樹木及ヒ收獲物
(箕作)
第四ノ收去ル爲メトアルハ收去スル爲メトスベシ
可決ス
第十四條 法律ノ規定ニ因ル動產ハ左ノ如シ
第一 上ニ列記シタル動產ノ上ニ存スル物權
第二 有體動產ヲ取得シ又ハ取回セシトスル債權但不動產ヲ以テ其擔保ニ充テタルトキモ亦同シ
第三 所爲ヲ成就セシメ又ハ權利ノ行使ヲ止メシムル債權縱令其權利カ不動產タルトキモ亦同シ
第四 無形人タル會社存立ノ間社員カ其會社ニ對シ有スル權利縱令不動產カ會社ニ屬スルトキモ亦同シ
第五 著述、技術及ヒ製作ニ關スル權利
(今村)
本條第五ノ製作モ前例ニ依リ發明トスベシ
可決ス
第十五條 發開シタル相續、解散シタル會社又ハ淸算中ナル共通ニ屬スル財產ノ一分ニ付テ有スル權利ノ其動產タリ不動產タル性質ハ分割ニ於テ各當事者ノ受クル財產ノ性質ニ因リテ定マル
當事者ノ一方ノ選擇ニ任スル動產又ハ不動產ヲ目的トスル擇一債權ノ性質モ亦其辨濟ニ付テ選擇シタル物ノ性質ニ因リテ定マル
(北畠)
發開シタル相續トハ如何
(今村)
先人死亡シ相續ノ開キタルトキヲ云フ
(箕作)
動產ノ上ニアル其字ヲ刪ルベシ
可決ス
第十六條 物ハ他ニ附屬セスシテ完全ナル效用ヲ爲スト否トニ從ヒ主タル有リ
用方ニ因ル不動產ハ性質ニ因ル不動產ノ從ナリ地役ハ要役地ノ從ナリ債權ノ擔保ハ債權ノ從ナリ
(第三項ハ起案者自ラ之ヲ第四十三條ノ次ニ移ス)
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ其舊案ノ第三項ハ他ニ移スヲ可トスルニアラズヤト云ヘルヲ起案者ニ質問シタルニ起案者ハ之ヲ第四十三條ノ次ニ移スベシト
第十七條 物ハ左ノ如ク之ヲ觀定スルコトヲ得
第一 特定物卽チ某家、某田、某獸ノ如キ殊別ナル物
第二 定量物卽チ金幾圓、米幾石、布幾反ノ如キ數量尺度ヲ以テ算フル物
第三 聚合物卽チ群畜、書庫ノ書籍、店舗ノ商品ノ如キ增減シ得ヘキ多少、類似ナル物
第四 括束財產卽チ相續ノ總動產若クハ總不動產又ハ相續ノ全部若クハ一分ノ如キ資產ノ全部又ハ一分ヲ組成スル物
本條第四括束トアルモ前條ニ依リ包括トス
第十八條 物ハ其性質ニ因リ一回ノ使用ニテ消耗スルト否トニ從ヒ消耗物タリ不消耗物タリ
(第二項削除建議)
無異議
第十九條 物ハ當事者ノ意思又ハ法律ノ規定ニ因リテ同種ノ物ヲ以テ代フルコトヲ得ルト否トニ從ヒ代替物タリ不代替物タリ
定量物及ヒ一回ノ使用ニテ消耗スル物ハ槪シテ當事者ノ意思ニ因ル代替物ト看做サル
(村田)
代替物ハ代補物トシタシ
(三島)
代補ト云ヘバ補缺ニ當ルヲ以テ交替ト云フ意味ナシ
(渡)
看做サルトアルハ看做ストシタシ
(松岡)
然リ
(委員長)
看做サルヲ看做トスルガ如キハ佛文ニハ區別アルヲ以テ充分注意アリタシ
(渡)
佛文ニテハエートルノ受身ヲ以テ看做サルト云フ如ク記セルモ日本文ニ反譯スレバ看做ストセザルヲ得ズ
(今村)
看做サルヲ看做ストスレバ槪シテトアル下ニ之ヲト云フ字ヲ置カザルベカラズ可決ス
第二十條 物ハ其性質、當事者ノ意思又ハ法律ノ規定ニ因リ形體上又ハ智能上分割スルコトヲ得ルト否トニ從ヒ可分物タリ不可分物タリ
或ル地役及ヒ或ル作爲又ハ不作爲ノ義務ハ性質ニ因ル不可物ナリ
物ノ一分ノ給付ヲ以テ約束ノ目的タル便益ヲ與フル能ハサルトキハ其物ハ當事者ノ意思ニ因ル不可分物ナリ
抵當及ヒ債權ノ物上擔保ハ法律ノ規定ニ因ル不可分物ナリ
(三島)
合意ト云フハ〓肯ヲ得タルニモアラズ支那譯ニテハ合同トアリ同意ト云フモ妥當ニアラザルヲ以テ約束トシタリ
可決ス
第二十一條 物ハ所有ニ屬スルモノ有リ所有ニ屬セサルモノ有リ
所有ニ屬スル物トハ公又ハ私ノ資產ノ部分ヲ爲スモノヲ謂フ
所有ニ屬セサル物トハ無主又ハ公共ノモノヲ謂フ
(三島)
本條公又ハ私ノトアルハ公私ノトスベキ寫字上ノ誤ナリ
<第二十二條及ヒ第二十三條ヲ第二十六條ノ次ニ移スコトハ原案者ノ承諾ヲ得タリ>
第二十二條 公ノ資產ノ部分ヲ爲ス物ニ公有及ヒ私有ノ二種アリ
(第二項ハ人事篇中公無形人ノ權利行用ノ部内ニ移スヘシ)
(今村)
本條第二項ハ物ノ區別ニアラズ權利ノ種類ニ屬シ權利ニハ無形人ト有形人トトノ區別アリ有形人財產ヲ管理スルト云フモ無形人財產ヲ管理スルト云フモ其管理スルト云フニ至テハ同一ナルヲ以テ等シク人事篇中ニ移スベキモノトス又本條ハ第二十一條ト順置スルヲ可トス依テ舊本條ハ舊第二十六條ノ下ニ轉置シタシト云フニ付キ起案者ノ同意ヲ得タリ
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニ於テハ舊案ノ儘ニ存置シタシト云フニ在リ何トナレバ此編若シ人事編ニ先ンジテ頒布スルコトアラバ必要ナルベシト云フニ在リ
(松岡)
再調査案ヲ可トス
(今村)
此編ト人事篇ト同時ニ頒布セラルルヤ否ハ別ニ關係ヲ有セザルベシ
(栗塚)
人事編頒布ナリシトキハ自ラ他ノ各編ニモ影況スルモノナルベキヲ以テ舊第二項モ一時此場所ニ記入シ置キ他日人事編ト牴觸スルトキハ此點ヲ刪ルベシ
結局第二項ハ挿入セザルニ決ス
<舊第二十五條>
第二十三條 公ノ無形人ニ屬シ國用ニ供ヘタル物ハ公有ノ部分ヲ爲ス卽チ左ノ如シ
第一 國領ノ海及ヒ海濱但海濱ハ春分、秋分最高潮ノ到ル處ヲ以テ限ト爲ス
第二 道路、鐵道、舟若クハ筏ノ通ス可キ川又ハ掘割及ヒ其床地
第三 城砦、壘壁其他陸海防禦ノ工作物
第四 軍用ノ倉庫、船艦、兵器械其他ノ物品
第五 皇宮及ヒ官廳ノ建物
(今村)
本條第四ハ兵器ノ下器ノ字ヲ寫字上ニテ脫漏セシニ付キ記入セラレタシ
(栗塚)
本條ハ公ノ無形人ニ屬シトアルヲ刪リ國用ニ供ヘタル物ハ公有ノ部分ヲ爲ス左ノ如シトシタシ
(箕作)
公ノ無形人ニ屬シト云フハ存在セシムルヲ可トス
(松岡)
第二十四條公ノ無形人カトアルヲ以テ本條ニハ國用ニ供ヘタル公ノ無形人ト云フヲ顯ハスヲ可トス
(箕作)
公ノ無形人ノ國用ニ供ヘタル物ト公ノ無形人ノ金錢ニ見積ルコトヲ得ル收入ヲ生ズベキモノトヲ示スヲ可トス多數ニ依リ公ノ無形人ニ屬シト云フハ存在スルニ決ス
<舊第二十六條>
第二十四條 公ノ無形人カ各人ト同一ノ名義ニテ所有スル物ニシテ金錢ニ見積ルコトヲ得ル收入ヲ生ス可キモノハ其私有ノ部分ヲ爲ス卽チ國有ノ海、瀉、森林、牧場ノ如シ
所有者ナキ不動產及ヒ相續人ナクシテ死亡シタル者ノ遺產ハ當然國ニ屬ス
(第二項ヲ第六百三十七條ノ次ニ移シ第三項ヲ削ルコトハ原案者之ヲ諾ス)
(本條モ森林トアルハ樹林トス
(松岡)
本條ノ所有スルトアルハ原語ハ占有ノ字ニアラズヤ
(今村)
原語ハ占有ノ文字ナルモ斯ニハ占有ト云ヘバ奇異ナルヲ以テ所有トセザルベカラズト云フニアリ
<舊第十二條>
第二十五條 無主物トハ何人ニモ屬セスト雖モ所有權ノ目的ト爲ルコトヲ得ルモノヲ謂フ卽チ委棄ノ物品、山野ノ鳥獸、河海ノ魚介ノ如シ
(箕作)
日本語ニ於テ委棄ノ物品ト云フヲ得ベキヤ
(栗塚)
報吿委員ハ委棄物トシテハ如何ト云フニアリ
(今村)
本條ハ總テ自然上ニ就キ云ヘルヲ以テ委棄ノ物品トスルヲ可トス
<舊第二十三條>
第二十六條 公共物トハ何人ノ所有ニモ屬スルコトヲ得スシテ總テノ人ノ使用スルコトヲ得ルモノヲ謂フ卽チ空氣、光線、流水、大洋ノ如シ
無異議
<舊第二十三條>
第二十七條 物ハ私ノ所有權又ハ私ノ債權ノ目的ト爲ルコトヲ得ルト否トニ從ヒ又所有者カ其物ヲ約束ノ目的ト爲スコトヲ得ルト否トニ從ヒ融通物タリ不融物タリ
爵位、勳章、官職及ヒ發明セサル相續ノ如キ公ノ秩序ノ爲メ法律ニ於テ處分ヲ禁シタル物及ヒ公有ノ財產ハ不融通物ナリ
(箕作)
本條ハ物ハ私ノ所有權又ハ約束ノ目的ト爲スコトヲ得ルト否トニ從ヒ云々トシテハ如何私ノ債權ノ目的ト約束ノ目的トハ同種類ニアラズヤ
(栗塚)
成程此點ハ同種類タルモノナリ
(今村)
物ハ私ノ所有權又ハ約束ノ云々トセバ私ノ字ハ約束ノ上ニモ係ルヲ以テ可ナリ
可決ス
(今村)
第二十八條第二十九條及ビ第三十條ハ刪除シタキ意見ナルニ付キ其理由ヲ開陳スベシ右三條ハ前置條例トシテ設置スル必要ヲ見ズ假令斯ニ之ヲ記スルモ又他ノ場合ニ於テ更ラニ之ヲ記セザルベカラザルヲ以テナリ若シ前置條例ニ於テ此三條ヲ存在スルモ不都合ナシト云フナラバ其他起案者カ註解上ニ明記シナガラ前置條例中ニ記セザルコトアレバナリ
(栗塚)
其點ニ付キ報吿委員ヨリ起案者ニ質問シタルニ起案者ハ此三條ハ日常實際ニ往々惹起スルモノナルヲ以テ明記セリト云フニアリ依テ報吿委員ニテハ此三條ハ存在セシメタシ
(松岡)
假令此三條ヲ存在セシムルモ斯條ノミヲ以テ足レリトセズ
(箕作)
第二十八條ハ之ヲ刪リ第二十九條及ビ第三十條ハ之ヲ存在セシムベシ
(松岡)
第二十八條ノ如キハ何ノ必要アルカ
(栗塚)
前置條例ニ於テ物ノ區別ヲ立テ空氣太陽ノ公共物タルヲモ記載シタル位ナルニ依リ此條モ存在セシメタシ
(委員長)
再調査案ニ同意ヲ表スルモノハ起立スベシ卽チ起立者五名
(箕作)
本員ハ二十八條ハ刪除シタシ第二十七條アラバ足レリト思考ス
(委員長)
箕作委員ニ同意ヲ表スルモノハ如何卽チ同意者三名此三條ハ多數ヲ以テ存在セシムベシ
第二十八條 物ハ讓リ渡スコトヲ得ルモノアリ讓リ渡スコトヲ得サルモノアリ
所有權ヨリ支分シタル使用權若クハ住居權要役地ヨリ引離セルモノト看做シタル地役及ヒ政府ノ與ヘタル開礦ノ特許其他ノ特權若クハ專占權ハ槪シテ融通物ナリト雖トモ讓リ渡スコトヲ得サルモノナリ
其他法律ニ於テ讓渡ノ禁セサル物又ハ法律カ任意ヲ以テ讓リ渡ヲ禁スルコトヲ許ス場合ニ於テ之ヲ禁セサル場合ハ讓渡スルコトヲ得ルモノナリ
(栗塚)
末項ハ報吿委員ニテハ除去セリ
可決ス
第二十九條 物ハ法律ニ定メタル條件ヲ具備スル占有ニ付着スル所得ノ推定ヲ受クルト否トニ從ヒ時效ニ罹ルコトヲ得ルモノ有リ時效ニ罹ルコトヲ得サルモノアリ
(今村)
本條ハ起案者少シク改案セリ
(栗塚)
報吿委員ハ更ニ物ハ法定ノ占有ニ付着セル所得ノ推定ヲ受クルト否トニ從ヒ時效ニ係ルコトヲ得ルモノ有リ又之ニ係ルコトヲ得ザルモノ有リトセリ
(箕作)
法定ノト云ヘル三字ハ刪ルベシ
(松岡)
然リ
(箕作)
時效ハ取得時效ナルカ
(今村)
然リ
(箕作)
取得時效ナレバ取得時效ト云ハザレバ免責時效ニ混スベシ
(今村)
「ボアソナード」氏ハ時效ヲ獲得トセズ證據トシタルニ付キ獲得時效ト云フヲ得ズ獲得ヲ證スル時效ト云フベシ本條ハ物ハ時效ニ係ルモノアリ係ラザルモアリトシテハ如何
(栗塚)
物ハ法律ニ定メタル條件ヲ具備スル占有ニ付着セル云々トスベシ
可決ス
(三島)
係ハ罹トスベシ
可決ス
第三十條 物ハ其所有者ノ債權者カ強制賣却ヲ請求スルコトヲ得ルト否トニ從ヒ差押フルコトヲ得ルモノアリ差押フルコトヲ得サルモノ有リ
融通スルコトヲ得サル物、讓渡スルコトヲ得サル物其他法律若クハ人ノ處分ニテ差押ヲ禁シタル物ハ差押フルコトヲ得サル物ナリ卽チ文武ノ恩給金及ヒ無償名義ノ設定ヲ以テ差押ヲ禁シタル養料終身年金權ノ如シ
(栗塚)
報吿委員ニテハ第一項ヲ物ハ其所有者ノ債權者カ強制賣却ヲ請求スルコトヲ得ルト否トニ從ヒ云々トシ第二項ノ不融物ヲ融通スルコトヲ得ザル物トシ無償名義ヲ恩惠トセリ所有者ノ上ニ其ノ字ヲ置クハ可決シ不融物トアルハ融通スルヲ得ザルモノトスルニ決ス〔第二十八條、第二十九條及ヒ第三十條削除建議〕
第一部 物權
第一章 所有權
第三十一條 所有權トハ自由ニ物ノ使用、收益及ヒ處分ヲ爲スノ權利ヲ謂フ
此權利ハ法律又ハ約束ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ制限スルコトヲ得ス
(第三項削除建議)
(今村)
本條第二項ヲ刪除シタルハ添付ハ悉皆獲得篇ニ記載セルヲ以テナリ
可決ス
第三十二條 不動產ノ所有者ハ適法ニ認定シ及ヒ宣言シタル公益ニ因由シ公用徵收法ニ從ヒテ定メタル償金ノ拂渡ヲ豫メ受クルニ非サレハ公用徵收ノ爲メ其所有權ノ讓渡ヲ強要セラルルコト無シ
動產ノ公用徵收ハ每回定ムル特別法ニ依ルニ非サレハ之ヲ行フコトヲ得ス
官府ニ屬スル先買權及ヒ徵發令ヲ以テ定メタル物ノ徵發又ハ凶災ノ時ニ行フ物ノ徵求ニ付テハ本條ノ例ヲ用ヰス
(松岡)
本條ハ舊案ニハ所有權徵收法トアルヲ公用徵收法トシタルモ所有權徵收法ト云ヘルヲ可トスベシ
(今村)
公用徵收法ト云フハ特別法律ノ名稻ト爲シ置クヲ便利ナリトス
(槇村)
公益ニ因由シト云フハ必要ナルヤ
(今村)
必要ナリ公益ニ因由シト云ヘルト公用徵收法ト云ヘルトハ格別ニシテ同種ノモノヲ複言シタルニアラズ
(南部)
所有權徵收法ト云フヨリ公用ニ因由シテ徵收サルルモノナレバ公用徵收法トスルヲ可トス
(槇村)
公益ニ因由シ公用徵收法ニ從ヒト云ヘバ裏面ノ觀察ニ於テ公益ニ因由セザル公用徵收法アルガ如シ
(今村)
公益ニ因由セザル徵收法ナシ
(尾崎)
公用徵收法ハ徵收ノ名稱ナリ其徵收ハ公益ニ因由スルモノト云フベシ
(松岡)
公用徵收ノ爲メトアル文字ハ必要ニアラズ
(淸岡)
公用徵收ノ爲メト云フ字ヲ除去スレバ其徵收ハ何ノ目的ヲ以テセラルルヤ知ルベカラズ
(尾崎)
公用徵收ノ爲メト云フハ刪除スルモ差支ナシ
(村田)
公用徵收ノ爲メト云フ字ハ刪除スベカラズ此點ハ假令公用徵收法ニ依ルモ償金ヲ受ケザルトキハ之ヲ公用ニ供セザルヲ示シタルモノナレバナリ
(箕作)
公用徵收法ト云フハ法律ノ名稱ニシテ公用徵收ノ爲メト云フハ其目的ヲ示シタレバ此文字ハ除去スルヲ得ズ
結局此點ハ未定ニ附ス
(槇村)
舊案ニハ「先タチ拂渡サルルニアラサレハ」トアルニ豫メ受クルニ非ザレバトセバ異意ナルニアラズヤ
(尾崎)
主客ヲ異ニシタルノミ
(淸岡)
官廳ヲ官府トシタ此項ハ二十七條ノ末項ニ入ルルハ適當ナルカ
(三島)
官府ト云フヲ可トス
第三十三條 所有者ハ償金ヲ得ルニ於テハ公用工事ノ便利ノ爲メ所有物ノ一時ノ占據ヲ強要セラルルコト有リ
(松岡)
公用工事トアルハ公益工事トシテハ如何第三十四條ニモ公益ノ爲メトアルヲ以テナリ
(淸岡)
公用ト云ハザレバ政府用トスベシ
(今村)
原文ノ意味ニ依レバ公益ト云フヲ可トス
可決ス
第三十四條 物料ノ採掘道路ノ劃線、樹木ノ伐採、水其他ノ物ノ收得ニ付キ全國又ハ一地方ノ公益ノ爲メ設ケタル地役ハ行政法ヲ以テ之ヲ規定ス
(第三十五條削除建議)
本條ハ報吿委員ニテ存在セシメタリトシテ修正文ヲ呈出ス曰土地ノ所有者ハ其地上ニ一切ノ建築栽植ヲ爲シ又ハ之ヲ廢スルコトヲ得第一項又其地下ニ一切ノ開鑿及ヒ採掘ヲ爲スコトヲ得第二項右何レノ場合ニ於テモ一般ノ利益ノ爲メ行政法ヲ以テ定メタル規則及ヒ制限ニ從フコトヲ要ス第三項其他相隣地ノ利益ノ爲メ所有權ノ行使ニ付シタル制限及ヒ條件ハ地役ノ章ニ之ヲ規定ス第四項
(村田)
本條ハ第三十一條アルヲ以テ充分ナレバ刪除スベシ
(松岡)
自己ノ所有地ニ建築スルヲ得ザルモノト云フ想像ノ起ルベキ所以ナシ
(南部)
本條ハ刪除スベカラズ
(尾崎)
本條ハ敢テ必要ト云フニアラザルモ刪除スルニ及バズ多數ニ依リ存在スルニ決ス
(淸岡)
存在スルニ決シタル以上ハ報吿委員ノ意見ニ對スル調査委員ノ意見ヲ承知シタシ
(渡)
然リ
(今村)
然ラバ報吿委員呈案ノ第一項ノミヲ採用スベシ以下ハ敢テ必要ヲ見ズ
(栗塚)
報吿委員ノ呈案ハ全部採用セラレタシ一般ノ利益ノ爲メニスル制限ト相隣地ノ利益ノ爲メニスル制限トヲ示サントスルニアレバナリ
(淸岡)
報吿委員呈案ノ第三項第四項ハ必要ナシ
(西)
本條ハ報吿委員呈案全部ヲ採用スベシ
(今村)
本條ノ存廢ノミヲ決セラルレバ文字上ニ付テハ調査委員ニ委付セラレタシ
(渡)
本條ハ存在セシムルト云フニ決スルモ各項ニ付キ採否ヲ決セザレバ調査委員ハ文字上ノ修正ニ着手スルヲ得ザルベシ
(尾崎)
報吿委員呈案ノ第一項第二項ヲ採用シ第三項第四項ハ刪除スベシ
(淸岡)
本條ハ全部ヲ再調査員ニ付シテ充分ノ考案ヲ下サシムベシ
(南部)
然リ
(栗塚)
第一項ハ第二項ハ存在セシムルニ決シタルヲ以テ第三項第四項ハ追テ委員長出席アリシ際ニ決議セラレタシ又再調査委員ハ報吿委員呈案ヲ採用スレバ第三項一般ノ利益トアルヲ公益トシ第四項行使ニ付シタルトアルヲ行使ノトシ地役ノ章ナトアル下ニ於テト云フ字ヲ置カレタシ
(村田)
第三項第四項ノ刪否ヲ決シタシ
(北畠)
第三項第四項ヲ刪ルモノトセバ全條ヲ刪除スベシ第一項第二項ヲ存在セントセバ第三項第四項ヲモ存在セシムベシ
遂ニ多數ニ依リ第三項第四項ハ之ヲ存在セシメ且ツ再調査委員ノ修正文モ可決ス
第三十六條 鑛物ノ所有權及ヒ其試掘若クハ開抗ハ特別法ヲ以テ之ヲ規定ス
無異議
第三十七條 所有者其物ノ占有ヲ妨ケラレ又ハ奪ハレタルトキハ所持者ニ對シ回復訴權ヲ行フコトヲ得但動產及ヒ不動產ノ時效ニ關シ第五編ニ記載シタル規則ハ此限ニ在ラス
又所有者ハ第二百十二條乃至第二百二十五條ニ定メタル規則ニ從ヒ占有ニ關スル訴權ヲ行フコトヲ得
(第三項削除建議)
(今村)
本條ハ再調査委員ノ修正ニアラズ「ボアソナード」氏ノ改案ナリ占有ハ一ケ年ヲ經過セザレバ相隣地ノ防害物ヲ除斥スルヲ得ズト云フハ不都合ナル場合アリト云フヲ以テ起案者ニ質問シタルニ起案者之ヲ認諾シテ卽チ本條ノ如ク改正シ來レリ又第三項ハ本條ノ他ニモ訴訟手續ハ民事訴訟法ニ從ヒト云フコトアルヲ以テ起案者ニ質問シタルモ未ダ返答ヲ得ザルガ先ヅ第三項ヲ刪除シタリ
可決ス
第三十八條 數人一物ヲ不分ニテ共有スルトキハ持分ノ均不均ニ拘ハラス各共有者其物ノ全部ヲ使用スルコトヲ得但其用方ニ從ヒ且他ノ共有者ノ使用ヲ妨ケサルコトヲ要ス
各共有者ノ持分ハ相均シキモノト推定ス但反對ノ證據アルトキハ此限ニ在ラス
天然又ハ法定ノ果實及ヒ產出物ハ各共有者ノ權利ノ限度ニ應シ定期ニ於テ之ヲ分割ス
各共有者ハ其物ノ保存ニ必要ナル管理其他ノ行爲ヲ爲スコトヲ得
各共有者ハ其持分ニ應シテ諸般ノ負擔ニ任ス
右規定ハ使用、收益又ハ管理ヲ格別ニ定ムルノ約束ヲ妨ケス
無異議
第三十九條 處分權ニ付テハ各共有者ハ他ノ共有者ノ承諾アルニ非サレハ其物ノ形體ヲ變スルコトヲ得ス又自己ノ持分外ニ物權ヲ付スルコトヲ得ス
共有者ノ一人其持分ヲ讓渡シタルトキハ讓受人ハ他ノ共有者ニ對シ讓渡人ニ代ハリ其地位ヲ有ス但第十五條ニ揭ケタル分割ノ效力ヲ妨ケス
無異議
第四十條 各共有者ハ如何ナル約束アルニ拘ハラス共有物ノ分割ヲ請求スルコトヲ得
然レトモ共有者ハ五ケ年ヲ超エサル定期ノ時間分割セサルヲ約スルコトヲ得
此約束ハ何時ニテモ之ヲ更新スルコトヲ得但其時間ハ亦五ケ年ヲ超ユルコトヲ得ス
右規定ハ數箇ノ所有地ニ共通ナル通路、井戶、籬壁、溝渠ノ互有ヨリ生スル共有權ニ之ヲ適用セス
(今村)
本條第一項如何ナル約束アルニ拘ハラズトアルハ如何ナル約束アルモトシテハ如何
可決ス
(松岡)
第三項此約束ハト云ヘルト其時間ハト云ヘルトハ舊案ヲ改メタルハ如何
(今村)
時間ハ五ケ年ト云フニ屬セシムルヲ可トシ又時間ヲ更新スルト云フヲ得ザルニ付キ之ヲ約束ハト修正ス
可決ス
第四十一條 相續人、夫婦、又ハ社員ノ共有權ニ付テハ第三篇相續、夫婦財產契約及ヒ會社ノ各章ニ定メタル規則ニ從フ
無異議
第四十二條 數人ニテ一家屋ヲ區分シ各其一部分ヲ所有スルトキハ相互ノ權利及ヒ義務ハ左ノ如ク之ヲ規定ス
各共有者ハ離隔セル所有物ノ如クニ自己ノ持分ヲ處分スルコトヲ得
諸般ノ租稅及ヒ建物並ニ其附屬物ノ共用ノ部分ニ係ル大小修繕ハ各自ノ持分ノ價格ニ應シテ之ヲ負擔ス
各自ハ己レニ屬スル部分ノ床板及ヒ隔壁ノ費用ヲ一人ニテ負擔ス
(淸岡)
本條第四項隔壁ト云フハ隔障トシテハ如何
(今村)
隔障ト云ヘバ俗ニ衝立ト云ヘルモノト紛ハシキヲ以テナリ
第四十三條 所有權ハ當事者ノ間ニ於ケルモ第三者ニ對スルモ本編及ヒ第三編ニ記載シタル原因及ヒ方法ニ依リ之ヲ取得シ保存シ及ヒ轉付ス
主タル物ノ處分ハ從タル物ノ處分ヲ帶フ但反對ノ明示アルトキハ此限ニ在ラス
(今村)
本條第二項ハ前置條例ヨリ來レリ
第四十四條 所有權ハ左ノ諸件ニ因リテ消滅ス
第一 任意又ハ強要ノ讓渡
第二 他人ノ物ニ自己ノ物ノ添付
第三 法律ニ依リテ宣吿シタル沒收
第四 取得ノ解除、銷除又ハ廢罷
第五 物ヲ處分スル能力アル所有者ノ任意ノ委棄
第六 物ヲ不融通物ト爲シタル當該官ノ命令
第七 物ノ全部ノ毀滅
(南部)
當該官トアレバ役人ノ如クナルニアラズヤ
(今村)
然ラバ當該官府トスベシ
(淸岡)
官府ト云ヘル上ニ當該ノ字ヲ置ク例ナシ相當官府トシテハ如何
可決ス
(槇村)
抛棄ハ遺棄ト修正シタルカ
(今村)
權利ニ付テハ抛棄ト云ヒ物ニ付テハ遺棄トセリ
第四十五條 動產及ヒ不動產ノ所有權ノ取得及ヒ消滅ニ關シ取得時效ト稱スルモノノ性質及ヒ效力ニ付テハ第五編末章ノ規定ニ從フ
(淸岡)
得取ト云フハ取得トシタリヤ
(今村)
然リ取得トスベキハ三島氏ノ意見ナリ
第三十二條
(三島)
本條ハ未決ニ附シ置カレンカ公用徵收ノ爲メト云フ字ハ之ヲ刪除スルハ文理不通ニアラザルモ文章上ノ意脈ヲ好クベシ
(委員長)
公用徵收ノ字ハ存在スルコトニ決スベシ
第一條
(三島)
財產ト資產トハ殆ンド其差異ヲ見ザルニ依リ資產ヲ定產トシテハ如何
(渡)
漢字上ニ於テハ稱不都合ナルモ原語ニ於テハ判然區別アルヲ以テ不可ナシ
(今村)
前置條例ト云フハ總則トシタシ
可決ス
又第六條第二項左ニ揭グル如シアルヲ左ノ如シトセシバ卽チ左ノ如シトシ無體物ハトアルヲ無體物トハナシ理會スルモノニシテトアルヲ理會スルモノヲ謂フトスベシ可決ス又初項モ其例ニ依リ有體物トハトシ觸ルルモノニシテトアルヲ觸ルルモノヲ謂フトシ地所ト云フ文字ノ上ニ卽チノ文字ヲ加フルモノトシ第三十七條回復トアルハ權原トシタシ回復ニテハ意義狹縮ナルヲ以テナリ又第三十八條不分ニテト云フ字ハ日本人ノ通用語ニアラザルヲ以テ之ヲ刪除シタシ
可決ス
第二章 用益權使用權及ヒ住居權
第一節 用益權
<第二項刪除建議>
第四十六條 用益權トハ所有權ノ他人ニ屬スル物ニ付キ有期ニテ使用及ヒ收益ヲ爲スノ權利ヲ謂フ
使用權及ヒ住居權ニ特別ナル規則ハ本章ノ附錄ト爲ス
(今村)
本條第二項ハ刪除シタシ法律ニ附錄ヲ置クハ法律ノ體面上ニ瑕瑾ヲ加フルヲ以テナリ
可決ス
(今村)
第一項ハ原案ノ儘ニテハ定義ト義務トヲ混同スルニ依リ其義務ト定義トヲ判別セザルベカラズト云フニアリ用收權ノ定義ハ他人ニ屬スルモノ有期ニテ使用收益スルモノトス其本性ヲモ又其元質ヲモ變スルコトナリト云フハ義務ニ屬スルモノナレバ之ヲ刪除シタリ
(栗塚)
本性元質ヲ變スルコト無ク且善良ナル管理者ノ如クト云フガ如キハ報吿委員ニテハ之ヲ定義トス義務トスル見解ニ付テハ各自同カラザレバ刪除スルハ甚不可ナリ佛、伊、白ノ三國ノ法律ニハ本性又ハ元質ヲモ變ズルコトナク且善良ナル管理者ノ如クト云フハ用收權ノ定義トシタルニ特リ日本ニ於テ之ヲ義務ノ部内ニ挿入シ其趣向ヲ異ニスルハ危險ナリトス
(南部)
別ニ危險ト云フニアラザルモ原案ノ儘ニ存在シタシ
(元尾崎)
再調査案ノ修正ハ絕妙ナリ
(村田)
用收權ハ善良ナル管理者ノ如クト云フハ罹馬法以來ノ定義ニ屬セル要語ナルモノナレバ原案ノ儘ニ附スベシ原案ニ決ス
(元尾崎)
前置條例ハ刪除シテ第一節トスルヤ
(今村)
然リ總則ヲ置クベキ必要ナケレバナリ
第一款 用益權ノ設定
第四十七條 用益權ハ法律、又ハ人意ニ因リテ設定スルモノトス
法律ニ因ル用益權ノ設定ハ父權及ヒ相續ノ各章ニ定メタル規則ニ從フ
人意ニ因ル用益權ノ設定ハ所有權ノ取得及ヒ移轉ニ關スル規則ニ從フ
又用益權ハ有償又ハ無償ノ名義ニテ讓渡シタル財產ノ上ニ之ヲ留存シテ設定スルコトヲ得
夫婦ノ共通財產又ハ婦ノ特有財產ニ於ケル夫ノ用益權ハ第三編夫婦財產契約ノ章ニ定メタル規則ニ從フ
時效ヲ以テ用益權ノ取得ヲ證スル要件ハ時效ヲ以テ完全ノ所有權ノ取得ヲ證スル要件ニ同シ
(元尾崎)
第二項父權及ビ相續ノ各章ニ定メタル規則ニ從フト云フ文字ハ必要ナシ
(渡)
此儘ヲ可トス
第四十八條 用益權ハ動產ト不動產ト有體物ト無體物トヲ問ハス一切ノ融通物ノ上ニ之ヲ設定スルコトヲ得
又用益權ハ他ノ用益權、終身年金權又ハ包括資產ノ上ニ之ヲ設定スルコトヲ得
無異議
第四十九條 用益權ハ始時若クハ終時ヲ定メ又ハ時期ヲ定メスシテ之ヲ設定スルコトヲ得
又用益權ハ其始時又ハ終時ヲ未必條件ノ成就ニ繋ケテ之ヲ設定スルコトヲ得
右孰レノ場合ニ於テモ其時期ハ用益者ノ終身ヲ超ユルコトヲ得ス
(今村)
原案ニハ時期ヲ定メザル場合ヲ單純ニトセシヲ以テ曖昧ノ文字ハ可成之ヲ刪除シ時期ヲ定メズシテトセリ
(委員長)
成就ニ繋ケト云フハ妥當ナリヤ
(今村)
成就ニ繋ケテト云フハ事實明了ナリト思考ス
第五十條 用益權ハ一人又ハ數人ノ終身ヲ期シテ之ヲ設定スルコトヲ得數人ノ終身ヲ期シテ設定シタルトキハ數人同時ニ又ハ順次ニ之ヲ行フ
右孰レノ場合ニ於テモ用益權ハ其權利發開ノ時既ニ出生シ又ハ胎内ニ在ル者ノ爲メニスルニ非サレハ之ヲ設定スルコトヲ得ス
(委員長)
數人ノ終身ヲ期シテトアルモ數人ノ終身ヲ期セザル有期ノ場合モアルニアラズヤ
(今村)
有期ノ場合ニハ明約スレバ足レリ
(委員長)
數人中ノ一人死去シタルトキハ現存セル數人ハ順次ニ之ヲ行フヲ得セシメザルベカラザルニ其意味明了ナラズ
(今村)
本條ハ留保シテ起案者ニ質問スベシ質問ニ決ス
(箕作)
起案者ノ意ハ終身ノモノナリト云フニアリ
(委員長)
有期ノ場合ヲ示サザルハ如何用益者數人中ノ一人死去スレバ死者ニ對シテ用益ノ順次ヲ與フベキヤ又其部分ハ虛有者ニ返還スベキヤ
(今村)
終身ヲ期セザル場合ハ合意ニ依ルベシ
(委員長)
合意アラザルトキハ如何
(今村)
合意アラザル場合ヲ探出セントスレバ特ニ此點ニ止マラズ數人中ノ用益者死去シタルモノアルトキハ第百三條ニ依ルヲ得ベシ
(委員長)
然リ用益者ガ死去アルトキハ該條ニ依ルヲ得ベシト雖ドモ有期ノ規定ヲ置カザルハ不備ナリトス
(村田)
有期ノ規定ナキハ不都合ナリ
(今村)
本條ハ契約者數人ノ終身ヲ期スルニアリテ之ヲ相續スルモノアリテ其利ヲ享クルモ其利益ハ用益者畢生間ニ止マルモノナリ
(元尾崎)
數人ノ爲メトアルヲ數人ノ終身トシタルハ却テ不明ナリ
(委員長)
然ラバ序ノ節之ヲ質問スベシ
第二款 用益者ノ權利
第五十一條 用益者ハ其權利ノ發開シタルトキ若シ始時ノ定メ有ラバ其時期ノ到來シタルトキハ次款ニ定メタル不動產形狀書、動產目錄ヲ作リ及ヒ保證ヲ立ルノ義務ヲ履行シタル後其用益權ノ存スル物ノ占有ヲ要求スルコトヲ得
用益者ハ用益物ヲ其現狀ニテ受取ル可ク修繕又ハ調適ヲ求ムルコトヲ得ス但權利發開ノ後設定者若クハ其相續人ノ過失ニ因リ又ハ發開ノ前ト雖トモ其惡意ニ因ツテ用益物ヲ毀損シタルトキハ此限ニ在ラス
(槇村)
設定者ト云フハ虛有者ナルカ
(今村)
然リ
第五十二條 用益者カ收益ヲ始ムルコトヲ得ルヨリ以後ニ虛有者ノ收取シタル果實ハ用益者ニ屬ス縱令用益者カ自ラ其收益ヲ遲延シタルモ亦同シ但其果實ノ收取及ヒ保存ノ費用ヲ虛有者ニ償還スルコトヲ要ス
用益者ハ收益ヲ始ムル時根枝ニ由リテ土地ニ附着スル果實ヲ其成熟ニ至リ收取スルノ權利ヲ有ス但耕耘、種子、栽培ノ費用ヲ虛有者ニ償還スルコトヲ要セス
(委員長)
償還スルコトヲ要スト云フハ償還スルコトヲ得トスベキニアラズヤ
(南部)
得ト云ヘバ償還スルト否トハ用收者ノ自由ニ屬スルヲ以テ不可ナリ
(淸岡)
得ルヨリ以後トアルハ得ル以後ニトシテハ如何此儘ニ決ス
第五十三條 用益者ハ其權利ノ繼續間用益物ヨリ生スル天然及ヒ法定ノ一切ノ果實ニ付キ所有者ニ同シキ權利ヲ有ス
無異議
第五十四條 天然ノ果實ハ自然ニ生シタルト栽培ニ因リテ得タルトヲ問ハス土地ヨリ之ヲ離シタル時直チニ用益者ニ屬ス縱令事變又ハ盜奪ニ因リテ離レタルモ亦同シ
然レトモ果實カ其成熟前ニ土地ヨリ離レ且用益權カ通常ノ收取季節前ニ消滅シタルトキハ其利益ハ虛有者ニ歸ス
無異議
第五十五條 獸畜ノ子ハ其產出ノ時ヨリ用益者ニ屬ス乳汁、肥料及ヒ剪毛季節ニ剪取シタル絨毛モ亦同シ
無異議
第五十六條 法定ノ果實ハ其拂渡時期ノ如何ヲ問ハス收益ヲ始ムルコトヲ得ル時ヨリ用益權ノ消滅スルマテ用益者日割ヲ以テ之ヲ取得ス
法定ノ果實ハ用益物ニ付キ第三者ヨリ金錢ヲ以テ拂フ可キ納額卽チ土地、建物ノ借賃、借入金ノ利息會社ノ配當金年金權ノ年金鑛坑ノ償金、石坑ノ借料ノ類ナリ
(南部)
借入金トアルハ借金トシテハ如何
(今村)
借入金ハ通常民間互相ノ借金ニ止マラズ政府人民ヨリ借入スルヲモ包含スルニ付キ借入金トセリ
(委員長)
拂渡ト云フハ義務者ノ一方ヨリ立言シタルハ妥當ナリヤ
(西)
預金ノ利息ヲ刪除シタルモ預金ノ利益ハ例類タルヲ免レザルベシ
(今村)
然リ若シ預金ヲ記示スレバ預り金トセザルベカラズ
(松岡)
年金權ノ年金ト云フハ妥當ナリヤ
(今村)
年金權ノ年金ハ妥當ト思考セサルモ別ニ好案ナシ
(松岡)
鑛坑ノ償金ハ原案ニモ刪除シアレバ調査案モ之ヲ刪リタシ
可決ス
第五十七條 用益物中ニ金穀其他日用品ノ如キ消耗スルニ非サレハ使用シ及ヒ收益スルコトヲ得サル動產アルトキハ用益者ハ之ヲ消耗シ又ハ讓渡スコトヲ得但用益權消滅ノ時同數量同品質ノ物ヲ返還シ又ハ收益ヲ始ムル以前ニ評價ヲ爲シタルニ於テハ其價金ヲ返還スルコトヲ要ス
右規定ハ用益權ヲ設定シタル商業株中ニ存スル商品其他ノ代替物ニ之ヲ適用ス
(南部)
第二項商業株中ニ存スル商品其他ノ代替物ト云フワ代替物ヲ主トスルニアラズヤ
(村田)
代替物ヘ用收權ヲ設定セシニアラザルベシ
(南部)
代替物ニ付キ用收權ヲ設定スルモノナリ
(松岡)
用收權ハ一回ノ使用ニ依リ消滅サルルモノニ設定シ又一回ノ使用ニアラザルニモ代替物ニ之ヲ設定スト云フ義ナリ
(委員長)
用收權ハ代替物其物ニ設定セズ被代替ニ設定スベシ然ルヲ代替物ト云ヘバ代替ヲ受クベキモノニアラズシテ代替物其物ヲ云フガ如シ
(西)
代替物ト云フハ代替サルベキ原物ヲ云フモノナリ
(南部)
然リ
(松岡)
商業株中ト云フハ如何
(今村)
用益權ハ日用品ノ如キ消耗スルモノニ設定ストセシニ付キ商業品ニハ假令バ陶器其物ニ附テハ估却シテ他人ノ手裏ニ移付スレバ用益權ヲ設定スト云フヲ得ズ依テ其估物ニ付キ用益權ヲ設定スト云フ義ナリ卽チ其估物ハ商業株中ヘ包裏セラルルモノト云フベシ
(渡)
資本ト云フヲ得ザルヤ
(今村)
資本ト云ヘバ暖簾及ビ得意向ヲ指スヲ得レバナリ
(南部)
再調査案ノ儘ニ附シ置クベシ
(渡)
商業株ト云フモ妥當ヲ得ズ
結局再調査案ニ決ス
第五十八條 住居用ノ器具其他使用ニ因リテ毀損スヘキ用益物ニ付テハ用益者ハ其用方ニ從ヒテ之ヲ使用シ且用益權消滅ノ時其現狀ニテ之ヲ返還スルコトヲ得但用益者ノ過失又ハ懈怠ニ因リテ重大ノ毀損ヲ致シタルトキハ此限ニ在ラス
又賃貸スルコトヲ得ヘキ性質ノ用益物ニ付テハ用益者ハ自己ノ責任ヲ以テ之ヲ賃貸スルコトヲ得ス
無異議
第五十九條 終身年金權ノ用益者ハ年金權者ト同シク其年金ヲ收取スルノ權利ヲ有ス但反對ノ條件アルトキハ此限ニ在ラス
既ニ設定シタル用益權ニ付キ更ニ用益權ヲ得タル者ハ原用益者ニ屬スル一切ノ權利ヲ行使ス
無異議
第六十條 種類及ヒ員數ノミヲ以テ定メタル畜群ノ用益者ハ保存ヲ要セサル部分ヲ每年處分スルコトヲ得但其子ヲ以テ全數ヲ保持スルコトヲ要ス
(南部)
畜群ト云フハ妥當ナリヤ
(今村)
員數ノミヲ以テト云フ文字アレバ不都合ナシ
第六十一條 用益者ハ大小木ノ樹林及ヒ竹林ニ付キテハ從來ノ所有者ノ慣習及ヒ採伐方ニ從ヒ定期ノ採伐ヲ爲シテ收益ス
採伐方ノ未タ確ニ定マラサルトキハ用益者ハ重モナル所有者又ハ公ノ無形人ニ屬スル近傍樹林ノ慣習ニ從フ但採伐スル一ケ月前ニ虛有者ニ豫吿スルコトヲ要ス
(村田)
大小木ノ樹林トアルハ妥當ナリヤ
(三島)
大小ノ樹林トスレバ大樹林小樹林ト云フニ紛ハシ
(委員長)
採伐方トアルハ採伐方トセザレバ不可ナリ
(今村)
原語ニハ栽ユルト云フ意味ナシ
(淸岡)
原語ニハ栽ユルト云フ意味ナシトスルモ栽トシテ不都合ナシ
(松岡)
栽ユルト云フ意味ナシトスレバ用益者ノ權利トナルヲ以テ大ニ異ナリ結局採伐トスルニ決ス
第六十二條 從來ノ所有者ノ定期採伐ヲ爲ササリシ保存木及ヒ大樹木ニ付テハ用益者ハ其樹木ノ定期產出物ノミヲ得ルノ權利ヲ有ス
然レトモ用益權ノ存スル建物ノ大修繕ヲ要スルトキハ用益者ハ枯レ又ハ倒レタル大樹木ヲ之ニ用ユルコトヲ得且若シ生木ヲ要スルトキハ虛有者立會ニテ其必要ヲ證セシ後之ヲ採伐スルコトヲ得
無異議
第六十三條 用益者ハ用益樹木ヲ支持スルニ必要ナル柵架、支柱又ハ杭伐ニ用ユル竹木ヲ何時ニテモ其用益地ノ樹林及ヒ竹林ヨリ採取スルコトヲ得
(村田)
杭〓ト云フバクヒト云フ字ナルヤ
(三島)
杭ノ字ハ墓表ノ如キモノニシテ杙トハ異ナレルモ世俗杭杙ノ字ヲ用ユルヲ以テ其儘ニ存在セシメリ
(松岡)
用益樹木ヲ支持スルニ用益地ノ樹林及ビ竹林ヨリ採取スルト云フハ他ノ用益樹林竹林ヨリ採取スルヲ云フニアリ
(今村)
支柱ヲ要スル樹林竹木モ支柱ニ用ユベキ木竹モ共ニ用益權アラザルベカラズ
(村田)
用益樹木ヲ支持スルトアルハ用益木竹ヲ支持スルトシタシ
(南部)
然ズベカラズ
第六十四條 用益者ハ用益樹木ヲ植續キ又ハ植增ス爲メ其用益地ノ苗床ヨリ苗木ヲ採取スルコトヲ得
又用益者ハ其苗床ノ苗木ヲ定期ニ賣ルコトヲ得但從來此用方アルトキ又ハ其生殖カ用益地ノ需要ニ餘ルトキニ限ル
右孰レノ場合ニ於テモ用益者ハ苗芽又ハ種子ヲ以テ苗床ヲ保持スルコトヲ要ス
(渡)
原案ニ栽培場トアルヲ苗床トシタルハ如何
(三島)
通俗ニ從ヒシナリ
第六十五條 用益地ニ既ニ採掘ヲ始メ且特別法ニ從フヲ要セサル石類、石灰類其他ノ物ノ石坑アルトキハ用益者ハ從來ノ所有者ノ如ク其收益ヲ爲ス
其石坑ヲ未タ採掘セス又ハ既ニ廢止シタルトキハ用益者ハ其用益財產中ノ建物、牆壁其他ノ部分ノ大小修繕ニ必要ナル材料ノミヲ採取スルコトヲ得但其土地ヲ損傷セシメス且第六十二條ニ記載シタル如ク豫メ其必要ヲ證セシムルコトヲ要ス
又用益者ハ前二項ノ區別ニ從ヒ其用益地ノ泥炭及ヒ肥料土ニ付キ收益スルコトヲ得
(南部)
土地ヲ損傷セシメズ必要ヲ證セシムルトアルハ土地ヲ損傷セズ必要ヲ證スルコトヲ要ストスベシ「シメ」ノ字ハ不用ナリ
可決ス
(委員長)
廢止シタルト云フハ採掘ヲ廢止スベキニ石坑ヲ廢止スルト云フニ誤レル憂ヒナキヤ
(今村)
既ニトアルハ其採掘トスベキ寫字上ノ誤ナリ
(第六十六條議場削除)
第六十七條 用益者ハ用益地ヲ增加スル寄洲、中洲其他ノ添附地ニ付キ收益ス
然レトモ虛有者カ償金ヲ拂フニ非サレハ添附地ヲ取得スルコトヲ得サリシトキハ用益者ハ用益權ノ繼續間虛有者ニ其償金ノ利息ヲ拂フコトヲ要ス
用益者ハ用益不動產ニ於テ第三者ノ發見シタル埋藏物ニ付キ權利ヲ有セス
無異議
第六十八條 用益者ハ用益地ニ於テ狩獵及ヒ捕漁ヲ爲スノ權利ヲ有ス
無異議
第六十九條 用益者ハ用益不動產ニ屬スル一切ノ地役權ヲ行フ若シ不使用ニ因リテ之ヲ消滅セシメタルトキハ虛有者ニ對シ其責ニ任ス
無異議
第七十條 用益者ハ直接ニ虛有者及ヒ第三者ニ對シ其收益權ニ關スル占有及ヒ權原ノ物上訴權ヲ行フコトヲ得
又用益者ハ用益不動產ノ働方又ハ受方ノ地役ニ付キ自己ノ權利ノ範圍内ニ於テ占有ニ係ルト權原ニ係ルトヲ問ハス要請又ハ拒却ノ訴權ヲ行フコトヲ得
右孰レノ場合ニ於テモ第百一條ノ規定ヲ適用ス
(村田)
末項ハ新ニ起案者ヨリ加入セシヤ
(今村)
然リ
(委員長)
第百一條トハ參加ヲ指セシヤ
(今村)
然リ
(委員長)
本條第一項ハ收益權トアルハ用益權ト異ルカ
(今村)
用益權ト云ヘバ意義狹編ニシテ用收權ト云ヘバ意義廣闊ナリ用益權ナキモ用收權ヲ有スル場合アレバナリ用益權ト云ヘバ用益者ノミノ權利ナルモ用收權ト云ヘバ取用者ニ於ケルモ用益者ニ於ケルモ賃借人ニ於ケルモ用收權アリト云フベシ
(松岡)
收益權ト云ハズ用益權トスベシ
(委員長)
用益權中ヨリ收益權ヲ刪除シタルトキハ用益權ハ成立セザルベシ
結局此儘ニ決ス
第七十一條 父母ノ外ナル用益者ハ有償又ハ無償ノ名義ニテ其用益權ヲ讓渡シ賃貸シ又ハ用益ニ付スルコトヲ得且用益物カ抵當ト爲ル可キモノナルトキハ其權利ヲ抵當ト爲スコトヲ得
如何ナル場合ニ於テモ用益者ノ付與シタル權利ハ其用益權ト同シキ期間、制限及ヒ條件ニ從フ但シ賃貸借ヲ繼續期間及ヒ其更新ニ付テハ第百二十六條乃至第百二十九條ノ規定ヲ適用ス
(元尾崎)
父母ノ外ナル用益者ト云フハ如何
(今村)
父母ハ子ニ對スル用益權ヲ有セリ此用益權外他人ノ用益權ヲ有スルトキハト云ヘルモノナリ
(松岡)
抵當ト爲ル可キモノナルトキハト云ヘルハ抵當ト爲ス可キトキハトシテハ如何
(今村)
但ハ働キニ付云フニアラズ性質ヲ云フモノナリ
第七十二條 用益者ハ用益權消滅ノ時其收取セサリシ果實及ヒ產出物ノ爲メ償金ヲ求ムルノ權利ヲ有セス其果實及ヒ產出物ノ猶ホ土地ニ附着スルトキト雖トモ亦同シ
又用益物ニ改良ヲ加ヘテ價直ヲ增シタルトキト雖モ其改良ノ爲メ虛有者ニ對シ償金ヲ求ムルコトヲ得ス
用益者ハ自己ノ設ケタル建物、樹林、裝飾物其他ノ附加物ヲ收去スルコトヲ得但其用益物ヲ原狀ニ復スルコトヲ要ス
(今村)
樹林ト云フ字ハ原案ニハ植附物トアリシモ植附物ト云ヘバ樹木ノ植附ト菜根ノ植附トノ區別ナキニ付キ起案者ニ質問シタルニ起案者ハ菜根ノ如キモノハ植附物ト云ハズ植附物ハ必ラズ樹木ナラザルベカラズト云ヘルモ植附物ト云フハ樹林ト修正スルノ勝レルニ如カズト思考ス
(三島)
改良ト云フ字ハ漢學者流ノ眼ヲ以テスレバ良ヲ改ムルト云フニアリヲ惡ト云フニナルヲ以テ一應注意アリタシ良ト云フ字ハ自然ニ屬スル意義ナルヲ以テ善良ニスルト云フ意ニアラズ支那譯ニハ改好トアリ
(今村)
改良ノ字ハ既ニ勅詔ニモ使用セル文字ナルヲ以テ改良ニテモ可ナルベシ
第七十三條 虛有者ハ用益權消滅ノ時、用益者又ハ其相續人カ前條ニ從ヒ收去スルコトヲ得ヘキ建物及ヒ樹林ヲ鑑定人ノ評價シタル現時ノ價直ヲ以テ先買スルコトヲ得
用益者ハ虛有者ニ右先買權ヲ行フヤ否ヲ述フ可キノ催吿ヲ爲シ其後十日内ニ虛有者カ先買ノ陳述ヲ爲サス又ハ之ヲ拒絕シタルトキニ非サレハ其收去ニ着手スルコトヲ得ス
虛有者カ先買ノ陳述ヲ爲シタリト雖トモ鑑定人又ハ裁判所ノ處決ノ確定シタル時ヨリ一ケ月内ニ其代金ヲ辨濟セサルトキハ先買權ヲ失フ但損害アルトキハ賠償ノ責ニ任ス
用益者又ハ其相續人ハ代金ノ辨濟ヲ受クルマテ建物ヲ占有スルコトヲ得
(今村)
本條ハ賃借權永借權及ビ地上權ノ場合ニモ示シアルヲ以テ其場合ニ至テ議論變更シタルトキハ本條モ又影況ヲ受クベキニ付キ各位ノ領承ヲ乞フ
(委員長)
取毀ト云フ字ヲ刪リシハ如何
(今村)
收去ノ文字ニ包含セシメリ
第三款 用益者ノ義務
第七十四條 用益者ハ用益財產ノ占有ヲ始ムル前ニ虛有者ト立會ヒ又ハ合式ニ之ヲ召喚シ完全精確ニ動產ノ目錄不動產ノ形狀書ヲ作ルコトヲ要ス
第四十六條
(今村)
本條ト第八十七條トノ關係ハ如何
(村田)
善良ナル管理者ノ如クト云フハ必要ナリ第八十七條ト重複ナリト云ヲ以テ善良ナル管理者ノ如クト云フヲ除去スベカラズ
(西)
善良ナル管理者ノ如クト云フハ差支ナシ
(淸岡)
善良ナル管理者ノ如クト云ヘルハ刪ルベシ
結局有期ニテノ上ニ有用方ニ從ヒ其元質本性ヲ變スルコトナク且ト云フヲ挿入スルニ決ス
第七十四條
(松岡)
完全精確トアルハ刪ルベシ
(村田)
然リ
(尾崎)
原案ノ儘ニテ可ナリ
第七十五條 當事者カ双方出會シ共ニ能力アルトキ又ハ有效ニ代理ヲ立テタルトキハ目錄及ヒ形狀書ハ私署ヲ以テ之ヲ作ルコトヲ得反對ノ場合ニ於テハ公吏之ヲ作ル
無異議
第七十六條 目錄ニ記シタル代替物ノ評價ハ賣買ニ同シキ效力ヲ有ス但反對ノ明言アルトキハ此限ニ在ラス不代替物ノ評價ハ目錄ニ明記アルニ非サレハ賣買ニ同シキ效力ヲ有セス
有償名義ヲ以テ用益權ヲ設定シタルトキハ目錄及ヒ評價ノ費用ハ用益者、虛有者各其半額ヲ負擔シ無償名義ノ場合ニ於テハ用益者一人ニテ之ヲ負擔ス
(今村)
本條末項ハ起案者新ニ之ヲ加附ス
(村田)
用益者一人ニテトアル一人ニテノ四字ヲ刪ルベシ
可決ス
第七十七條 用益權設定ノ時用益者ノ目錄又ハ形狀書ヲ作ルノ義務ヲ免除シタリト雖モ虛有者ハ常ニ用益者ト立會ヒ又ハ合式ニ之ヲ召喚シ自費ヲ以テ目錄又ハ形狀書ヲ作ルコトヲ得但此事ニ付キ虛有者ハ十一日以上收益ヲ遲延セシムルコトヲ得ス
第七十五條及ヒ第七十六條第一項ハ右ノ場合ニ之ヲ適用ス
無異議
第七十八條 目錄又ハ形狀書ヲ作ルノ義務アル用益者カ之ヲ作ラスシテ收益ヲ始メタルトキハ善良ナル形狀ニテ不動產ヲ受取リタリト推定セラル但反對ノ證據アルトキハ此限ニ在ラス
動產ニ付テハ虛有者ハ通常ノ證據ハ勿論世評ヲ以テ其實狀及ヒ價格ヲ證スルコトヲ得
第七十八條 用益者ハ目錄又ハ形狀書ヲ作ルノ義務ヲ履行セスシテ收益ヲ始メタルトキハ善良ナル形狀ニテ不動產ヲ受取リタリトノ推定ヲ受ク但反對ノ證據アルトキハ此限ニ在ラス
目錄又ハ形狀書ヲ作ルノ義務ヲ履行セズシテトアルハ目錄又ハ形狀書ヲ作ラズシテトシテハ如何
(元尾崎)
再調査案ノ儘ヲ可トス
(南部)
前條ニハ目錄又ハ形狀書ヲ作ルノ義務ヲ免除シタリト雖モトアルヲ以テ之ヲ一定ニシテハ如何此儘ニ附ス
第七十九條 用益者ハ用益權消滅ノ時負擔ス可キ返還及ヒ償金ノ爲メ保證人ヲ立テ又ハ他ノ相應ナル擔保ヲ供フルニ非サレハ收益ヲ始ムルコトヲ得ス
無異議
第八十條 擔保ノ性質ニ付キ當事者ノ間ニ議協ハサルトキハ裁判所ハ顯然資力アル第三者ノ引受ヲ認許シ又ハ供託物取扱所若クハ當事者ノ認諾スル第三者ニ金錢若クハ有價物ヲ寄託スルヲ認許シ又ハ動產質若クハ抵當ヲ認許スルコトヲ得
(元尾崎)
寄託物取扱所ハ特別法ヲ以テ之ヲ規定スベキヤ
(今村)
寄託物取扱所ハ行政法ニ屬スルモノナリ
(元尾崎)
當事者ノ認諾スル第三者アルトキハ裁判所ハ別ニ干渉スル必要ナシ
(今村)
第三者其人ニ付テハ當事者之ヲ認諾スルモ其物件ヲ寄託スルニ議協ハザルコトアレバナリ
第八十一條 擔保ス可キ金額ニ付テハ裁判所ハ用益權ノ直接ニ存スル金高未滿ニ其金額ヲ定ムルコトヲ得ス又動產ノ評價カ賣買ニ同シキ效力ヲ有スルトキハ其評價ハ全額未滿ニ之ヲ定ムルコトヲ得ス又評價カ賣買ニ同シキ效力ヲ有セサルトキハ其評價ノ半額未滿ニ之ヲ定ムルコトヲ得ス
然レトモ右ノ末ノ場合ニ於テ若シ用益者カ評價セシ動產ニ係ル權利ヲ用益權ノ繼續間ニ讓渡シ又ハ賃貸シタルトキハ虛有者ハ常ニ評價ノ全額ニ對シテ擔保ヲ要求スルコトヲ得
不動產ノ擔保金額ノ多寡ハ裁判所之ヲ裁定ス
(元尾崎)
用益權ノ直接ニ存スル金高ト云フハ如何
(今村)
金員ヲ云フナリ
第八十二條 擔保ノ設定證書ニハ前條ニ定メタル金額ニ對スル保證人又ハ用益者ノ一身ノ引受ヲ併記ス
(南部)
保證人又ハ用益者ノ一身ノ引受ト云フハ保證人ノ一身用益者ノ一身ノ引受ト云フ義ナリ
(松岡)
約務ト云フベキヲ引受トシタルハ可ナリ
第八十三條 用益者カ動產又ハ不動產ニ對シ相應ナル擔保ヲ供フル能ハス且當事者ノ間ニ別段ノ約束ナキトキハ左ノ如ク處辨ス
日用品其他ノ代替物ハ之ヲ公賣シ其代金ハ虛有者、用益者連名ニテ用益權ノ直接ニ存スル金錢ト共ニ供託物取扱所ニ供託シ又ハ之ヲ國債券ニ換ヘ用益者ハ其利息ヲ收取ス
其他ノ動產ハ虛有者之ヲ占有ス
不動產ハ之ヲ第三者ニ賃貸シ又ハ虛有者カ賃借ノ名義ニテ之ヲ保存シ用益者ハ保持費用及ヒ第九十二條ニ記載シタル負擔ヲ扣除シテ貸賃ヲ收取ス
無異議
第八十四條 用益者カ擔保ノ一分ニ非サレハ供フル能ハサルトキハ引渡ヲ受ク可キ用益物ニ付キ其擔保ノ限度ニ應シテ選擇ヲ爲ス
無異議
第八十五條 用益者ノ保證人ヲ立ツルノ義務ハ設定ノ名義又ハ其後ノ行爲ヲ以テ之ヲ免除スルコトヲ得但用益者ノ無資力ト爲リタルトキハ此免除ハ其效ヲ失フ若シ用益者カ既ニ收益ヲ始メタルトキハ其用益物ヲ虛有者ニ返還シ且前二條ニ從ヒテ處辨ス
無異議
第八十六條 父母ノ法律上ノ用益權ニ付テハ保證人ヲ立ツルノ義務ナシ
生存者間ノ贈與物ニ付キ贈與者カ自己ノ利益ノ爲メ留存シタル用益權ニ付テモ亦同シ
然レトモ父母又ハ贈與者ノ無資力ノ場合ニ於テハ用益金錢ニ對シ及ヒ第七十六條ニ從ヒ賣買ニ同シキ效力ヲ有スル評價額ニ對シテ保證人ヲ立ツルコトヲ要ス
(元尾崎)
父母ノ無資力トナリシトキハ用收權ニ對スル相當ノ保證人ヲ立テザルベカラズトスルハ不都合ナリ
(淸岡)
曩ニモ既ニ之ヲ刪除セシト云フニアリシ結局第三項ヲ刪除ス
(西)
人事篇ニ於テ影響ヲ受クベキヤモ知ルベカラザルヲ以テ此點ハ先ヅ假刪除ナルベシ
第八十七條 用益者ハ用益物ノ元質本體及ヒ用方ヲ變スルコトヲ得ス
用益者カ收益ヲ始メタルトキハ善良ナル管理者ノ如ク用益物ノ保存ニ注意スルコトヲ要ス
用益者ハ其過失又ハ懈怠ヨリ生スル用益物ノ喪失又ハ毀損ノ責ニ任ス但虛有者ノ權利ヲ保護スル爲メ用益者ニ對シ第百七條ニ許可シタル處置ヲ爲スコトヲ妨ケス
(本條第一項ハ第四十六條ニ於テ之ヲ記セシニ付キ之ヲ刪除ス)
第八十八條用益物ノ全部又ハ一分カ火災ニテ喪失シタルトキハ用益者ニ過失アリト推定ス但反對ノ證據アルトキハ此限ニ在ラス
無異議
第八十九條 用益者ハ動產及ヒ不動產ノ小修繕ヲ負擔シ求償權ヲ有セス
大修繕ハ用益者ノ過失ニ因リ又ハ小修繕ヲ爲ササルニ因リテ必要ト爲リタルトキニ非サレハ用益者之ヲ負擔セス
屋根若クハ重モナル牆壁ノ修繕又ハ重モナル梁柱若クハ基礎ノ變更ヲ建物ノ大修繕トス
石垣堤塘及ヒ圍牆ノ改造モ亦之ヲ大修繕ト看做ス
(槇村)
本條第一項求償權ヲ有セズトアル上ニ其ノ字ヲ入ルベシ
可決ス
第九十條 過失又ハ懈怠ノ場合ノ外用益者ハ虛有者ヲ立會ハシメ鑑定人ヲシテ大修繕ノ必要ヲ證明セシメタル後虛有者其大修繕ヲ爲スコトヲ拒ミタルトキハ自ラ之ヲ爲スコトヲ得
用益權ノ終ニ於テ虛有者ハ右修繕ヨリ生シタル現時ノ增價額ヲ用益者ニ辨償スルノ責ニ任ス
若シ虛有者カ大修繕ヲ爲ストキハ用益者ヲ立會ハシメ鑑定人ヲシテ其必要及ヒ費用ヲ證明セシメ用益者ハ每年其費用ノ利息ヲ虛有者ニ辨償ス
(今村)
本條第二項用益權ノ終ニ於テトアルハ調査上見落ニ付キ此點ハ用益權ノ消滅ノトキトセラレタシ
(今村)
本條末項證明セシメトアルハ報吿委員ニテハ證明セシムトセントス此儘ニ決ス
第九十一條 前條ノ規定ハ建物カ朽敗ノ爲メ崩頽シ又ハ事變ニ因リテ破壞シタル場合ニモ之ヲ適用ス但第百十條ニ定メタル如ク此等ノ事ニ因リテ用益權ノ消滅ヲ致ストキハ此限ニ在ラス
本條第一項求償權ヲ有セズトアル上ニ其ノ字ヲ加ヘリ
第九十二條 用益物ニ賦セラルル租稅及ヒ每年通常ノ公課ハ其全國ニ係ルモノト一地方ニ係ルモノトヲ問ハス用益者之ヲ負擔ス
用益權ノ繼續間用益物ニ賦セラルルコト有ル可キ非常ノ公課又ハ租稅ニ付テハ虛有者ハ其元本ヲ拂ヒ用益者ハ此時間每年ノ利息ヲ辨償ス
非常ノ公課又ハ租稅ト看做スモノハ左ノ如シ
第一 強要ノ借入
第二 增稅又ハ新稅但其法令ニ於テ臨時又ハ非常ノ名稱ヲ付シタルトキニ限ル
(淸岡)
公課ト云フハ租稅ノ類カ
(三島)
租稅ノミナラズ政府ノ借入等ヲモ包有ス
第九十三條 用益者又ハ虛有者カ通常又ハ非常ノ租稅ヲ納メサルトキハ不動產ハ完全ノ所有權ニ於テ之ヲ差押ヘ且賣却シ其代金ヲ怠納租稅ニ充ツ若シ殘額アラバ其元本ハ虛有者ニ屬シ其收益ハ用益者ニ屬ス
此場合ニ於テ用益者ハ第百十三條ニ定メタル如ク其收益金額ニ付キ保證人ヲ立ツルコトヲ要ス
本條第二項ハ起案者之ヲ刪除シ後ニ至テ此點ノ意味ヲ示スベシト云フ
(槇村)
本條ハ頗ル奇異ナリ
(今村)
然リ他人ノ損害ニ付キ自己ニ於テ其責任ヲ負ハザルベカラズト云フハ殆ンド不當ナリ
(北畠)
本條ハ各員モ贊成ヲ表シタルモノニアラザレバ之ヲ刪リタシ
(松岡)
元來用益權ハ日本ニ不用ナルモ歐洲ノ主義ニ反スルト云ヒ内閣ノ意思ニモ協ハザルト云フヲ以テ之ヲ存置スルモノトシタル以上ハ之ヲ刪除スルモ其效ナシ
第九十四條 虛有者カ用益權設定ノ前ニ火災ニ對シ建物ヲ保險ニ付シタルトキハ用益者ハ每年保險料ノ利息ヲ拂フノ責ニ任ス但虛有者ハ火災ノ場合ニ於テ得タル償金ノ收益ヲ用益者ニ取ラシムルコトヲ要ス
又用益者ハ自己及ヒ虛有者ノ利益ノ爲メ自費ヲ以テ保險ヲ約スルコトヲ得此場合ニ於テハ用益者ハ償金ノ額内ヨリ自己ノ拂ヒタル保險料ヲ扣取シ其殘額ニ付テ收益ス
海上ノ危險ニ對シ保險ニ付シタル船舶ニ付キ用益權ヲ設定シタルトキモ亦右ノ規定ヲ適用ス
本條ハ起案者ヨリ第二項ヲ改正シ舊第二項ハ第九十五條ニ送ルト云フニアリ
第九十五條 用益者カ其用益權ノ價額ノミニ付キ建物ヲ保險ニ附シタルトキハ用益者ハ一人ニテ每年ノ保險料ヲ專擔ス
凍雹其他天然ノ事變ニ對シ用益者カ收穫物又ハ產出物ヲ保險ニ付シタルトキモ亦同シ
本條ハ起案前條ノ舊第二項ヲ一項トシ第二項ヲ修正シテ若シ用益者カ其用收權ノ價額ノミニ付キ建物ヲ保險ニ付シタルトキハ用益者ハ一人ニテ每年ノ保險料ヲ專擔ストセリ可決ス
第九十六條 第四十八條ニ定メタル如ク相續ノ包括又ハ包括名義ノ用益者ハ其得益ノ割合ニ應シ相續ノ債務ノ利息ヲ負擔ス
右相續ノ負擔タル養料又ハ終身年金權ノ年金モ亦同上ノ割合ニ應シテ之ヲ負擔ス
此儘ニ決ス
第九十七條 特定財產ノ用益者ハ其用益財產カ抵當又ハ先取特權ヲ負擔スルトキト雖トモ設定者ノ債務ノ辨濟ヲ分擔セス
用益者カ所持者トシテ追訴ヲ受ケタルトキハ債務者ニ對スル求償權ヲ有ス但用益權ノ設定者又ハ其相續人ニ對シ追奪擔保ノ訴權ヲ妨ケス
(今村)
追訴トアルハ裁判所構成法ニ訴追トアルヲ以テ之ニ倣ヘリ
第九十八條 虛有者カ元本ヲ負擔シ用益者カ其利息ヲ負擔ス可キ諸般ノ場合ニ於テハ左ノ三箇ノ方法ノ一ニ依リテ處辨ス
第一 虛有者カ元本ヲ拂ヒ用益者カ其每年ノ利息ヲ拂フ
第二 用益者カ元本ヲ立替ヘ虛有者カ用益權ノ終ニ之ヲ用益者ニ償還ス
第三 要求ヲ受ク可キ金額ニ滿ツルマテ用益財產ノ一分ヲ賣却ス
(村田)
左ノ三箇ノ方法トアルハ左ノ方法トシタシ
可決ス
第九十九條 用益權ノ繼續間用益不動產ニ第三者カ虛有者ノ權利ヲ害ス可キ侵奪ヲ加ヘ又ハ營作ヲ爲ストキハ用益者ハ其事實ヲ虛有者ニ吿發スルコトヲ要ス若シ此吿發ヲ爲ササルトキハ爲メニ生シタル總テノ損害及ヒ第三者ノ取得スル時效又ハ占有權ニ付キ其責ニ任ス
(淸岡)
吿發ト云フハ柵キニ吿知トシタルニアラズヤ
(今村)
吿發ト云フ文字ハ修正スルモ差支ナシ
(南部)
此儘ニシテ不都合ナシ
第百條 虛有者カ原吿又ハ被吿トシテ用益物ノ完全ノ所有權ニ係ル訴訟ヲ爲ストキハ用益者ヲ其訴訟ニ召喚スルコトヲ要ス
用益者ハ右訴訟費用ノ利息及ヒ收益ノミニ關スル訴訟ノ費用ヲ負擔ス然レトモ用益權ノ設定證書ヲ以テ用益者ニ追奪擔保ノ權利ヲ與ヘタルトキハ用益者ハ總テノ訴訟費用ヲ負擔セス
如何ナル場合ニ於テモ用益者ハ虛有權ノミニ關スル訴訟ノ費用ヲ分擔セス
無異議
第百一條 訴訟ニ參加ス可クシテ之ニ參加セシメラレサリシ虛有者又ハ用益者ハ其判決ノ害ヲ受クルコト無シ然レトモ事務管理ノ規則ニ從ヒ其利ヲ受クルコトヲ得
(村田)
判決ノ害トアルモ判決直チニ其害アルナシ
(元尾崎)
判決ノ害ト云フモ差支ナシ
第四款 用益權ノ消滅
第百二條 用益權ハ第四十四條ニ記載シタル所有權消滅ノ原因ト同一ノ原因ニ由リテ消滅スルノ外尙ホ左ノ原因ニ由リテ消滅ス
第一 用益者ノ死亡
第二 用益權ヲ設定シタル期間ノ經過
第三 用益者ノ明示シタル用益權ノ抛棄
第四 三十ケ年間繼續シタル不使用
第五 用益者ノ收益ノ濫妄ニ因ル用益權ノ廢罷
無異議
第百三條 數人ノ終身ヲ期シテ同時ニ且不分ニテ用益權ヲ設定シタルトキハ死亡者ノ持分ハ生存者ヲ利ス其用益權ハ最後ノ死亡者ノ死亡ニ因ルニ非サレハ消滅セス
(村田)
數人ノ終身ヲ期シテトアルハ不可ナリ
(南部)
前原案意味ハ此義ナリトス
第百四條 無形人ノ爲メニ設定シタル用益權ハ三十ケ年ノ期間ヲ以テ消滅ス但三十ケ年ヨリ短カキ期間ヲ以テ設定シタルトキハ此限ニ在ラス
無異議
第百五條 用益者ハ用益權ノ抛棄ヲ以テ其抛棄前ニ履行セサリシ義務ヲ免カルコトヲ得ス
又其抛棄ハ用益者ノ權ニ基キ物ノ上ニ權利ヲ取得シタル第三者ヲ害スルコトヲ得ス
(今村)
原案ニハ用收者ヨリ得タル物ノ上ニトアルモ用收者ヨリ得タル物ノ上ニト云ヘバ用收者ト相談ノ上ト云フ意味ノ如クナルヲ以テ再調査ニ於テ用益者ノ權ニ基キトセリ用益者ノ權ニ基キト云フハ用益者ノ頭上ヨリト云フ意味ニシテ相談上ニアラズ其權利ヲ得取シタルモノヲ云フ
第百六條 不使用ハ未成年者ニモ其他ノ人ニシテ之ニ對シ時效ノ經過スルコトヲ得サル者ニモ對抗スルコトヲ得ス
免責時效ニ關スル此他ノ規則ハ不使用ニ之ヲ適用ス
(元尾崎)
其他ノ人ト云フハ如何
(今村)
風癲白痴者ヲ云フ
第百七條 用益者カ用益物ニ重大ノ毀損ヲ加フルトキ又ハ保持ノ欠缺若クハ收益ノ濫妄ニ因リテ用益物ノ保存ヲ危フスルトキハ裁判所ハ用益權消滅ノ他ノ原因ノ其一ノ生スルマテ用益者ノ費用ヲ以テ用益物ヲ監守ニ付シ又ハ此時間虛有者ヨリ每年用益者ニ拂フ可キ金額若クハ果實收額ノ部分ヲ定メ虛有者ノ爲メ用益權ノ廢罷ヲ宣言スルコトヲ得
裁判所ハ右ト同時ニ其年ノ果實及ヒ產出物ノ分割ヲ定ム
將來ニ於テ用益者ニ拂フ可キ金額又ハ果實ノ價額ハ用益者日割ヲ以テ之ヲ取得ス用益權ノ時ノ計算ハ其年用益權ノ繼續シタル日數ニ應シテ之ヲ爲ス
本條ハ起案者ヨリ末項用益權消滅云々ヲ刪除シ來レリ
第百八條 用益權ノ廢罷ハ其廢罷前ニ用益者ノ加ヘタル損害ノ賠償ヲ妨ケス
無異議
<本條ヲ第百十五條ノ次ニ入ル建議>
第百九條 第百七條ニ揭ケタル場合ヲ除クノ外用益權ノ消滅ノ時猶ホ土地ニ附着スル果實及ヒ產出物ハ虛有者ニ屬ス其栽培又ハ作業ノ費用ハ之ヲ償還スルコトヲ要セス但不動產賃借人カ果實ニ付キ既ニ得タル權利ヲ妨ケス
(今村)
本條ハ位置其宜シキヲ得ザルニ依リ第百十四條ノ次ニ轉置シタシ
可決ス
第百十條 事變又ハ朽敗ニ因リテ用益權ノ存スル建物ノ全部カ毀滅シタルトキハ用益者ハ土地ニ付テモ材料ニ付テモ收益スルコトヲ得ス但建物カ用益權ノ存スル土地ノ從タルトキハ此限ニ在ラス
無異議
第百十一條 虛有者又ハ用益者ノ保險ニ付セシ建物カ燒失シタルトキハ用益者ハ第九十四條ニ記載シタル區別ニ從ヒ其償金ニ付キ收益ス
<前條ノ改正案>
第百十一條 用益物カ公用徵收ヲ受ケタルトキハ用益者ハ其償金ニ付キ收益ス
虛有者又ハ用益者ノ保險ニ付セシ建物カ燒失シタルトキハ用益者ハ第九十四條及ヒ第九十五條ニ記載シタル區別ニ從ヒ其償金ニ付キ收益ス
此等ノ場合ニ於テ用益者ハ其收益スル金額ニ對シ保證人ヲ立ツルコトヲ要ス但此等ノ場合ヲ豫見シテ特ニ其義務ヲ免除シタルトキハ此限ニ在ラス
第九十三條ニ規定シタル場合ニ於テモ亦同シ
<前條再改正案>
第百十一條 用益物カ公用徵收ヲ受ケタルトキハ用益者ハ其償金ニ付キ收益ス此場合ニ於テ用益者ハ其收益スル金額ニ對シ保證人ヲ立ツルコトヲ要ス但此ノ場合ヲ豫見シテ特ニ其義務ヲ免除シタルトキハ此限ニ在ラス
第九十三條第九十四條及ヒ第九十五條ニ規定シタル場合ニ於テモ亦同シ
(村田)
本條ハ第九十四條ニ示シタルモノト重複ナルニ付キ刪リタシ
(槇村)
刪除スベシ
(今村)
本條ノ刪否ハ次回ニ決セラレタシ其議ニ決ス
第百十二條 用益物カ公用徵收ヲ受ケタルトキハ用益者ハ其償金ニ付キ收益ス
無異議
第百十三條 前二條ノ場合ニ於テ用益者ハ其收益金額ニ對シ保證人ヲ立ツルコトヲ要ス但此場合ヲ豫見シテ特ニ其義務ヲ免除シタルトキハ此限ニ在ラス
本條ハ起案者ヨリ修正シ來レリ第一項ハ用收者ハ前二條ニ依リ收益スル金額ニ對シ保證人ヲ立ツルコトヲ要ス但右ノ場合ヲ豫見シテ特ニ其義務ヲ免除シタルトキハ此限ニ在ラストシ第二項ハ第九十三條ニ規定シタル場合ニ於テモ亦同シトス可決ス
第百十四條 湖池ノ用益權ハ其永久乾涸スルニ至リシトキハ消滅ス
之ニ反シテ土地ノ用益權ハ水ノ永久其土地ヲ浸沒スルニ至リシトキハ消滅ス
無異議
<削除建議>
第百十五條 畜群ノ用益權ハ全群滅盡スルニ至リシトキハ消滅ス
若シ卒然ノ事變ニ因リテ滅盡シタルトキハ用益者ハ其皮ヲ虛有者ニ還付スルコトヲ要ス
(今村)
本條ハ刪除シタシ何トナレバ其皮ヲ還付スベキモノトセバ骨角モ還付セザルヲ得ザルベシ又家屋崩頽スレバ材木ヲ返還セザルニ至ルヲ以テナリ
可決ス
第二節 使用權及ヒ住居權
第百十六條 使用權ハ使用者及ヒ其家屬ノ需用ノ程度ニ限ルノ用益權ナリ
用益權ハ建物ノ使用權ナリ
使用權及ヒ住居權ハ用益權ト同一ノ方法ニ因リテ成立シ及ヒ同一ノ原因ニ由リテ消滅ス
無異議
第百十七條 使用權及ヒ住居權ノ程度ヲ定ムル爲メ使用者ノ家屬ヲ組成スト看做サルル者ハ使用者ト同居スル正當ノ配偶者其正當養私ノ卑族親又ハ尊族親及ヒ使用者又ハ此等ノ親屬ノ隨身僕婢ナリ
(今村)
親屬トアルハ親族トスベシ
(村田)
親族ト云フハ親屬ヲ可トスルニアラズヤ
(今村)
家屬ハ骨肉ノ關係ニアラズ家族ヲ骨肉間ノ稱トス
(村田)
家族ト云フハ不可ナリ刑法治罪法其他廢明淸ノ法律ニモ親屬ノ字ヲ使用セリ
(南部)
親屬ノ文字ハ其詮議ヲ三島氏ニ託シタシ
可決ス
(淸岡)
本條ハ兄弟姉妹ヲ包合スルヤ否
(南部)
其點ハ人事編ニ於テ規定スルコトトナレリ前條再改
第百十八條 設定ノ名義又ハ其後ノ約束ヲ以テ土地ノ使用權ヲ行フノ方法ヲ定メス又ハ住居權ヲ行フ可キ建物ヲ定メサルトキハ當事者立會ノ上裁判所其意見ヲ聽キテ之ヲ定ム
無異議
第百十九條 使用權及ヒ住居權ハ之ヲ讓渡シ又ハ之ヲ賃貸スルコトヲ得ス
無異議
第百二十條 使用權又ハ住居權ヲ有スル者ハ用益者ト同シク動產ノ目錄及ヒ不動產ノ形狀書ヲ作リ且保證人ヲ立ツルノ責ニ任ス
又用益者ト同一ノ注意ヲ爲シ及ヒ自己ノ過失ニ付テハ之ト同一ノ責ニ任ス
又其收益ノ割合ニ應シ用益者ト同シク修繕ノ費用、每年ノ公課及ヒ訴訟ノ費用ヲ分擔ス
(村田)
每年ノ公課トアルハ租稅公課トシタシ
可決ス
(南部)
修繕ノ費用トアルハ修繕費用トスベシ
可決ス
第四章 占有
第一節 占有ノ種類及ヒ占有シ得ヘキ物
第百九十一條 占有ニ法定、自然及ヒ容假ノ三種アリ
(村田)
第四章占有ノ下ニ權ノ字ヲ附スベシ
(南部)
然ルニ及バズ
(北畠)
容假トハ如何
(今村)
所有者ノ許ヲ得之ヲ占有セシヲ云フ
<末項削除建議>
第百九十二條 法定ノ占有トハ占有者カ自己ノ爲メニ有スルノ意思ヲ以テスル有體物ノ所持又ハ權利ノ行使ヲ謂フ
權利ハ物權ト人權トヲ問ハス法定ノ占有ヲ受クルコトヲ得其種々ノ效力ハ場合ニ從ヒ下ニ之ヲ定ム
人ノ身分ニ適用スル占有ハ第一編ニ之ヲ規定ス
(今村)
本條末項ハ人ノ身分ニ係リ財產ニアラズ依テ之ヲ刪リタシ
可決ス
第百九十三條 法定ノ占有カ占有シタル權利ヲ授付ス可キ性質アル權利行爲ニ基クトキハ讓渡人カ授付スルノ分限ナキヲ以テ其效力ヲ生スル能ハサルトキト雖トモ其占有ハ正名義ノ占有ナリ
占有カ侵奪ニ成リタルトキハ其占有ハ無名義ノ占有ナリ
(松岡)
法定ノト云ヘルハ刪ルヲ得ザルヤ
(今村)
法定ノ占有中ニ正名義アリ無名義アリ
第百九十四條 正名義ノ占有ハ名義創設ノ當時ニ於テ占有者カ其名義ノ瑕疵ヲ知ラサリシトキハ之ヲ善意ノ占有トシ此ニ反スルトキハ惡意ノ占有トス
法律上ノ錯誤ハ善意ニ付テノ利益ヲ受クル爲メニ之ヲ申立ツルコトヲ許サス但第二百六條ニ記載シタル規則ヲ妨ケス
善意タルコトハ名義ノ瑕疵ヲ發見シタルトキハ止ム
(今村)
本條末項發見ノ丈字ハ覺知トスルヲ可トス依テ發見ハ覺知トスベシ
可決ス
(三島)
法律ノ錯誤ト云フハ法律ノ間違ヒト云フ如クナルヲ以テ法律ノ誤認トシタシ
(今村)
法律ノ錯誤ト云フハ既ニ用洋語上ノ習慣トナリシヲ以テ法律ノ錯誤トスルヲ可トス
可決ス
第百九十五條 強暴又ハ隱密ノ占有ハ之ヲ瑕疵ノ占有トス
占有カ暴力又ハ脅迫ニ因リテ成リ又ハ保持セラレタルトキハ其占有ハ強暴ノ占有ナリ
占有カ公顯且表白ノ所爲ニテ當事者ニ相應ニ見ハレサルトキハ其占有ハ隱密ノ占有ナリ
右占有カ平穩ト爲リ又ハ公顯ト爲リタルトキハ其瑕疵ハ消滅ス
(村田)
本條第二項暴力トアルハ暴行トシタシ
(今村)
暴行トスルモ不都合ナカルベシ
(尾崎)
公顯ト表白トノ殊異アルヤ
(三島)
敢テ差異ナシ
(松岡)
原案ニテハ不可ナリヤ
(三島)
原案ハ公然ト云ヘル形容詞ナルヲ以テ往々差支アリ
(元尾崎)
公顯且表白ノ所爲ニテ當事者ニ相應ニ見ハレザルトアルモ公顯且表白ノ所爲ナレバ相應ニ見ハルベキ筈ニアラズヤ
(今村)
公顯且表白ノ所爲當事者ニ見ハレザルトキハト云フニアリ
(松岡)
占有ノ所爲内密ニアラザルモ其所爲當事者ニ相應ニ見ハレザルトキト云フ義ナリ
(委員長)
原案ノ如ク公然ニシテ外見ノ所爲ニ因リトアルヲ可トス公顯ト云ヒ表白ト云フハ不可ナリ
(松岡)
公顯ノ所爲ニ依リトシテハ如何
(渡)
公然且外見ノ所爲ニ因リト云フヲ可トス
可決ス
(松岡)
平穩ト爲リ又ハ公顯ト爲リハ如何此儘ニ決ス
第百九十六條 自然ノ占有トハ占有者カ自己ノ權利ヲ主張セスシテ爲ス有體物ノ所持ヲ謂フ
公有物ニ付テハ各人ハ自然ノ占有ノミヲ爲スコトヲ得
(元尾崎)
公有物ハ空氣大陽ノ如キヲ云フカ
(村田)
空氣大陽ハ公共物ナリ公有物トハ道路河川ノ如キヲ云フ
第百九十七條 容假ノ占有トハ占有者カ他人ノ名ヲ以テ其人ノ爲メニスル物ノ所持又ハ權利ノ行使ヲ謂フ
容假ノ占有者カ自己ノ爲メニ占有ヲ始メタルトキハ其占有ノ容假ハ止シテ法定ト爲ル
然レトモ占有ノ基本タル名義ノ性質ヨリ生スル容假ハ左ニ揭クル原因ノ一ニ由ルニ非サレハ止マス
第一 占有ノ利益ヲ受クル人ニ吿知シタル裁判上又ハ裁判外ノ行爲ニシテ其人ノ權利ニ對スル明確ノ異議ヲ含メルモノ
第二 契約者又ハ第三者ニ出テタル名義ノ轉換ニシテ其占有ニ新原因ヲ付スルモノ
無異議
第百九十八條 占有者ハ常ニ自己ノ爲メニ占有スルモノトノ推定ヲ受ク但占有ノ名義又ハ事實ノ情況ニ因リテ容假ノ證據アルトキハ此限ニ在ラス
無異議
第百九十九條 正名義ノ證據アル占有ハ之ヲ善意ノ占有ナリト推定ス但反對ノ證據アルトキハ此限ニ在ラス
無異議
第二百條 強暴ノ證據ナキ占有ハ之ヲ平穩ノ占有ト推定ス
公顯ハ推定ヲ以テ之ヲ認メス必ス其證明ヲ爲スコトヲ要ス
前後二箇ノ時期ニ於テ證據ヲ得タル占有ハ其中間繼續シタリトノ推定ヲ受ク但其占有ノ截斷又ハ停止ノ證據アルトキハ此限ニ在ラス
(栗塚)
本條末項ハ前後二箇ノ時期ニ於テ證據ヲ得タル占有ハトアルハ直チニ占有ノ證據ト云フヲ得ザルニ付キ報吿委員ニテハ前後二箇ノ時期ニ於テ占有ノ證據ヲ得タル其占有ハト云フ意味ニシタシ
(今村)
前後二箇ノ時期ニ證明シタルトシタシ
(南部)
前後二回ノ證明シタルト云フ意ニアラズシテ前ニ證明シタル證據ヲ擧グルヲ云フナラン
(村田)
然リ
(今村)
原文ノ意味前後二回ノ證明ヲ爲スベキニアリ
結局前後二箇ノ時期ニ於テ證據アリタル占有ハトスルニ決ス
第二節 占有ノ取得
第二百一條 法定ノ占有ハ或ル物ノ所有權又ハ或ル權利ヲ自己ノ有ト爲スノ意思ヲ以テ其物ヲ把握シ又ハ其權利ヲ實行スルノ所爲ニ因リテ之ヲ取得ス
(村田)
把握トアルハ修正スベシ此儘ニ決ス
第二百二條 物ヲ所持シ又ハ權利ヲ行使スルノ所爲ハ之ヲ第三者ニ委スルコトヲ得但占有スルノ意思ハ占有ニ付キ利益ヲ得ント主張スル其人ニ存スルコトヲ要ス
然レトモ無能力者及ヒ無形人ハ其名代人ノ意思及ヒ所爲ニ因リテ占有ノ利益ヲ受クルコトヲ得
無異議
第二百三條 把握ノ所爲ハ簡易ノ引渡又ハ占有ノ改定ヲ以テ之ニ代フルコトヲ得
權利ノ行使ニ付テハ初メ他人ノ名ヲ以テ行使セル者カ爾後自己ノ爲メニ行使スルニモ亦當事者ノ意思ノミニテ足ル又初メ自己ノ爲メ行使セル者カ爾後他人ノ爲メニ行使スルニ付テモ亦同シ
初メ容假ノ名義ヲ以テ占有シタル物ヲ其占有者ニ爾後自己ノ物ト看做スコトヲ得セシムル新名義ニ依リテ之ヲ留存セシメタルトキハ簡易ノ引渡アリタリトス
初メ物ヲ自己ニ屬ストシテ占有シタル占有者カ爾後他人ノ名ヲ以テ其人ノ爲メ占有ヲ繼續スルコトヲ承諾シタルトキハ占有ノ改定アリタリトス
(今村)
本條第二項ハ起案者更ラニ之ヲ設置ス
可決ス
第二百四條 占有ハ前主ニ於テ存シタル占有ノ性質及ヒ瑕疵ヲ以テ其相續人及ヒ包括承繼人ニ移轉ス物又ハ權利ノ特定名義ノ取得者ハ其利益ニ從ヒ或ハ自己ノ占有ノミヲ申立テ或ハ自己ノ占有ニ讓渡人ノ占有ヲ併セテ申立ツルコトヲ得
(渡)
援唱ヲ申立トシタルハ穩當ナリ
(委員長)
援唱利唱ト云フ字ヲ除去スルハ和文ニ於テハ平易ナルモ自今學問上及ビ法庭ニ於テ唱用スルニハ其不都合ヲ見ルニアラズヤ
(今村)
援唱利唱ヲ除去スルモ申立トスレバ決シテ不都合ナシトス
第三節 占有ノ效力
第二百五條 法定ノ占有者ハ反對ノ證據ノ出ル有ルニ非サレハ其行使セル權利ヲ適法ニ有スルモノトノ推定ヲ受ク其權利ニ關スル權原ノ訴ニ付テハ常ニ被吿タルモノトス
(村田)
反對ノ證據ノ出ル有ルニ非ザレバト云フハ證據有ルニ非ザレバトスベシ
(委員長)
回收ノ字ナキハ如何
(今村)
權原中ニ包含ス
(委員長)
權原ノ訴ヘト云ヘバ回收ノ訴ヘト云ハザルモ可ナルヤ起案者ニ質問シタシ
(今村)
起案者權原ノ訴ヘノ註釋ニ回收ヲ包括シタルヲ示セリ
第二百六條 正名義且善意ノ占有者ハ天然ノ果實及ヒ產出物ニ付テハ自身又ハ代人ヲ以テ土地ヨリ分離シタル時ニ於テ之ヲ取得シ法定ノ果實ニ付テハ用益者ニ關シ規定シタル如ク日割ヲ以テ之ヲ取得ス
占有者カ正名義ヲ有セスシテ事實上又ハ法律上ノ錯誤ニ因リテ惡意ナキトキハ其消耗シタル果實ニ付キ利益ヲ得サリシ證據ヲ擧クルニ於テハ之ヲ返還スルノ責ニ任セス
占有者カ其占有セシ物又ハ權利ノ自己ニ屬セサルコトヲ發見シタルトキハ將來ニ向テ其返還ノ責ヲ生ス又訴訟ニ於テ確定ニ敗訴シタルトキハ其出訴ノ時ヨリ此責ヲ生ス
本條發見ノ文字ハ前例ニ依リ之ヲ覺知トス
(村田)
末項ノ將來ニ向テ其返還ノ責ヲ生ズトアルハ物ノ返還ヲ爲スベキ丈ケノ如シ原案ノ右ノ利益ハ將來ニ向テ止ムトアルヲ可トス
(南部)
其トアルヲ右ト云フニスベシ
(委員長)
其ヲ果實トスベシ
(村田)
果實ト云ヘバ平易ニシテ可ナリ
可決ス
第二百七條 惡意ノ占有者ハ回復ノ要求ヲ受ケタル物又ハ權利ハ勿論現物ニテ仍ホ占有スル果實及ヒ產出物ヲ返還シ且其既ニ消耗シ又ハ過失ニ因リテ損傷シ又ハ收取ヲ怠リタル果實及ヒ產出物ノ價金ヲ返還スルノ責ニ任ス
回復者ハ果實ノ通常ノ負擔タル費用ヲ占有者ニ償還スルコトヲ要ス
強暴又ハ隱密ノ占有者ハ其名義ノ正當ナルコトヲ自ラ信セシトキト雖モ果實ニ關シテハ常ニ之ヲ惡意ノ占有者ト看做ス
無異議
第二百八條 占有者ハ善意ナルト惡意ナルトヲ問ハス物ノ保存ノ爲メ又ハ物ノ增價ノ爲メ費シタル金額ヲ回復者ヨリ償還セシムルコトヲ得
右孰レノ占有者モ其分限ノミニテハ奢樂ノ爲メ費シタル金額ノ償還ヲ求ムルコトヲ得ス
(元尾崎)
奢樂ト云フハ奢靡トスベシ
(今村)
樂ト云フニハ奢ニ屬セザルモノアルヲ以テ奢樂トシタリ
(松岡)
奢樂ハ誤樂トスベシ
(三島)
俗語ヲ以テ之ヲ云ヘバ贅澤ト云フベシ
(渡)
意味ニ變更ナキヲ以テ此儘ニスベシ
可決ス
第二百九條 前二條ノ場合ニ於テ善意ノ占有者ハ回復者ノ言渡サレタル保存又ハ增價ノ爲メノ費用ノ全償ヲ得ルマテ物ノ上ニ留置權ヲ有ス
惡意ノ占有者ハ保存ノ費用ノミニ付キ留置權ヲ有ス
(委員長)
保存ト增價トノ區別ヲ爲セシモ保存スルカ爲メニ增價ヲ生ズルニアラズヤ
(松岡)
保存ト云ヘバ其持續ニ堪ヘルノミ
第二百十條 物カ毀損ヲ受ケ又ハ價格ヲ減シ其責ヲ占有者ニ歸ス可キトキハ惡意ノ占有者ニ在テハ如何ナル場合ニ於テモ所有者ニ賠償ヲ爲シ善意ノ占有者ニ在テハ其毀損又ハ減價ニ因リ利益ヲ得タル場合ニ於テ其利益ノ限度ニ應シ賠償ヲ爲スコトヲ要ス
無異議
<削除建議>
第二百十一條 占有者カ動產及ヒ不動產ノ所有權ノ取得時效ニ逹スルコトヲ得ヘキ條件ハ第五編ニ之ヲ規定ス
(今村)
本條ハ不用ニ付キ之ヲ刪除シタシ
可決ス
第二百十二條 占有者ハ占有ヲ保持シ又ハ回收スル爲メ下ノ區別ニ從ヒテ占有ニ關スル訴權ヲ有ス
占有訴權ハ保持訴權、新工吿發訴權、急害吿發訴權及ヒ回收訴權ノ四種ナリ
無異議
第二百十三條 保持訴權ハ不動產ト動產包括ト特定動產トヲ問ハス其占有ニ關シ第三者ヨリ反對ノ主張ヲ含メル事實上又ハ權利上ノ妨害ヲ受クル占有者ニ屬ス
此訴權ハ妨害ヲ止マシメ又ハ賠償ヲ得ルヲ以テ其目的トス
(南部)
動產包括トアルヲ動產ノ包括トシタシ
(松岡)
不動產ト動產トヲ問ハズトスベシ
(元尾崎)
其占有ニ關シトアル以上ノ文字ハ刪除シタシ
(今村)
佛蘭西ニハ有體物及ヒ無體物ヲモ包含スルヤニ付キ學者間ノ議論アルヲ以テ之ヲ區別セリ
(松岡)
「動產ノ包括ト」トスベシ
(西)
動產ノ包括トスレバ財產包括モ財產ノ包括トセザルベカラズ
(今村)
動產包括ハ無體動產ノ名詞ナルヲ以テ動產ノ包括ト云フヲ得ズ
(南部)
動產包括ト云フハ不明了ナルヲ免レズ
結局動產ノ包括トスルニ決ス
(西)
財產包括ハ如何
(今村)
其點ハ第二ノ問題トスベシ
第二百十四條 新工吿發訴權ハ竣成ノ上占有ノ妨害ト爲ル可キ隣地ノ新工事ヲ止マシメ又ハ變更セシムル爲メ不動產ノ占有者ニ屬ス
(村田)
新工事ヲ止マシメトアルハ第二百二十二條ト等シク新工事ヲ廢止セシメトスベシ
可決ス
第 條(新) 急害吿發訴權ハ或ハ建物、樹木其他ノ物ノ傾倒ニ因リ或ハ堤塘、水溜、水樋ノ破潰ニ因リ或ハ火燃燒物、爆發物ノ必要ノ豫防ヲ爲ササル使用ニ因リテ隣地ヨリ生スル損害ヲ懼ル可キ至當ノ事由アル不動產ノ占有者ニ屬ス
此訴權ハ右危險ニ對スル豫防ノ處分ヲ命令セシメ又ハ未定ノ損害ニ對スル賠償ノ保證人ヲ立テシムルヲ以テ其目的トス
無異議
第二百十五條 保持訴權及ヒ新工吿發訴權ハ平穩且公顯ナル法定ノ占有者ノミニ屬ス但不動產又ハ動產包括ニ付テハ其占有ノ滿一ケ年以來繼續シタルコトヲ要ス
本條モ例ニ依リ動產ノ包括トアルヲ動產ノ包括トスルニ決ス
第二百十六條 回收訴權ハ暴行、脅迫又ハ詐術ヲ以テ不動產若クハ動產包括若クハ特定動產ノ全部又ハ一分ノ占有ヲ奪ハレタル占有者ニ屬ス但其占有カ被吿ニ對シ此等ノ瑕疵ノ一ヲモ帶ヒサルコトヲ要ス
此訴權ハ侵奪ノ占有ヲ特定名義ニテ承繼シタル者ニ對シ之ヲ行フコトヲ得ス但其者カ侵奪ノ不法ノ所爲ニ關與シタルトキハ此限ニ在ラス
無異議
第 條(新) 回收訴權及ヒ急害吿發訴權ハ法定ノ占有者及ヒ容假ノ占有者ニ屬ス縱令其占有カ未タ一ケ年ニ滿タサルモ亦同シ
(委員長)
保持訴權ハ一ケ年ヲ期滿得免トスベキニ之ヲ記セザルハ如何
(今村)
保持訴權ニ付テハ第二百十七條ニ記示セリ
第二百十七條 保持及ヒ回收ノ訴ハ妨害又ハ侵奪ヲ受ケタルヨリ一ケ年内ニ非サレハ之ヲ受理セス
新工吿發ノ訴ハ其工事ノ終ラサル間ハ之ヲ受理ス但其工事ニ付キ占有者カ妨害ヲ受ケタルトキハ其工事竣成ノ前後ニ拘ハラス妨害ヨリ一ケ年内ニ於テ保持訴權ノミヲ行フコトヲ得
急害吿發ノ訴ハ危險ノ存スル間ハ之ヲ受理ス
無異議
第二百十八條 占有ノ訴ハ權原ノ訴ト並行スルコトヲ得ス
判事ハ當事者ノ權利ノ本源ヨリ出テタル理由ニシテ其權利ヲ豫決ス可キモノニ基キテ占有ノ訴ヲ裁判スルコトヲ得ス
又判事ハ權原ノ訴カ既ニ審理中ニ在ルモ占有ノ訴ノ判決ヲ猶豫スルコトヲ得ス
無異議
第二百十九條 占有ノ訴ヲ起シタル後當事者ノ一方カ其裁判所又ハ他ノ裁判所ニ權原ノ訴ヲ起シタルトキハ占有ノ訴ノ確定判決ニ至ルマテ權原ノ訴ノ訴訟手續ヲ中止スルコトヲ要ス
權原ノ訴ノ被吿カ第二百二十一條ニ定メタル如ク其訴訟中ニ占有ノ訴ノ原吿ト爲リタルトキモ亦同シ
(元尾崎)
權原ノ訴ヲ起シタルトキハ占有ノ訴ハ之ヲ措クモ可ナルニアラズヤ
(南部)
占有ノ訴ハ區裁判所ニ屬シ容易ニシテ且ツ燒眉ノ急ナレバ權原ノ訴ハ後ニセザルベカラズ
(元尾崎)
兩訴シテハ如何
(南部)
一人ニシテ權原占有ノ兩訴ヲ爲スコトヲ得ザルベシ
第二百二十條 權原ノ訴ノ原吿ハ訴ヲ取下クルト雖モ其訴以前ノ事實ノ爲メニ更ニ占有ノ訴ヲ起スコトヲ得ス然レトモ既ニ起シタル占有ノ訴ニ付テハ原吿タルト被吿タルトヲ問ハス之ヲ繼續スルコトヲ得
凡ソ權原ノ訴ニ於テ確定ニ敗訴シタル者ハ占有ノ訴ヲ起スコトヲ得ス
本條ハ第二項ノ凡ソト云ヘルヲ刪レリ
第二百二十一條 權原又ハ占有ノ訴ノ被吿ハ其訴訟中原吿ト同一ノ訴權又ハ他ノ訴權ニ依リ反訴ニテ占有ノ訴ノ原吿ト爲ルコトヲ得
無異議
第二百二十二條 判事ハ占有ノ訴ニ於テ原吿ヲ直者ト認ムルトキハ場合ニ從ヒ妨害ノ斷止侵奪物ノ返還、吿發新工ノ廢止若クハ變更又ハ吿發急害ノ豫防處分ヲ命令ス可ク若シ損害アラバ同時ニ其賠償ヲ言渡ス可シ
又判事ハ急害吿發ノ訴ニ付テハ其將來不定ノ損害額ヲ斷定シ之ニ對スル保證人ヲ立ツ可キヲ被吿ニ命令スルコトヲ得
(南部)
原吿ヲ直者ト認ムルトキハト云フハ少シク過言ニアラズヤ
(今村)
原吿ヲ正當ト認ムルトキハト云ヘル意味ナリ
(村田)
占有ノ訴ヲ正當ナリト認ムルトキハトスベシ
可決ス
(元尾崎)
新工ノ吿發ト急害ノ吿發トアルハ共ニ刪除スベシ
可決ス
(村田)
新工ハ新工事トシタシ吿發ノ字ヲ刪リシ以上ハ新工事ト云ハザレバ不可ナリ
可決ス
(南部)
將來不定トアルハ將來ナルニ付キ未定ト云フヲ得ザルベシ依テ不定トシタルナラン
第二百二十三條 占有ノ訴ニ於テ敗訴シタル原吿ハ仍ホ權原ノ訴ヲ起スコトヲ得
占有ノ訴ニ於テ敗訴シタル被吿モ亦仍ホ權原ノ訴ヲ起スコトヲ得但既ニ受ケタル言渡ヲ履行セシ後ニ限ル若シ言渡ノ金額カ未定ナルトキハ其言渡ヲ履行スルニ相應ナル金額ヲ裁判所書記局ニ供託ス可シ
(松岡)
本條ハ原吿ト被吿ト置替ヘシヤ
(今村)
然リ
(村田)
言渡ノ金額トアルハ原案ニテハ金ノ字ナシ單ニ額ト云ヘバ金錢物品ヲ包含スベシ金額ト云ヘバ金員ノミニ限レリ
(松岡)
言渡ノ數額トスベシ
(松岡)
此ニ裁判所書記局ト云フハ如何
(南部)
訴訟呈起ノ場合ナルヲ以テ裁判所書記局ト云フモ不都合ナシ
<本條削除建議>
第二百二十四條 (起案者削除)
本條ハ起案者之ヲ刪除ス
第二百二十五條 占有ノ訴ニ關スル裁判管轄及ヒ其他方式ノ規則ハ帝國裁判所構成法及ヒ民事訴訟法ヲ以テ之ヲ規定ス
(今村)
本條ハ不要ナルニ付キ刪除スベシ
可決ス
第四節 占有ノ喪失
第二百二十六條 占有ハ左ノ諸件ニ因リテ喪失ス
第一 自己又ハ他人ノ爲メニ占有スル意思ノ斷止
第二 物ノ所持又ハ權利ノ行使ノ任意ノ抛棄又ハ其法律上強要ノ抛棄
第三 不法ト否トヲ問ハス第三者ノ占有ノ握取但其占有カ保持訴權又ハ回收訴權ノ行使ヲ受クルコト無クシテ一ケ年ヨリ長ク繼續シタルトキニ限ル
第四 占有ノ目的タル物ノ全部ノ毀滅又ハ其權利ノ消滅
(南部)
第三ニ不法トアルハ不適法ト云ヘル意カ
(今村)
然リ
(村田)
第四物ノ全部毀滅トアルハ權利ヲ包含セザルカ
(松岡)
權利ハ毀滅ト云フヲ得ズ
第百十一條
(今村)
本條ハ起案者之ヲ改正シテ第百十二條及ビ第百十三條ヲ合併シテ第一項用益物ガ公用徵收ヲ受ケタルトキハ用益者ハ其償金ニ付キ收益セズトシ第二項虛有者又ハ用益者ノ保險ニ付セシ建物ガ燒失シタルトキハ用益者ハ第九十四條及ビ第九十五條ニ記載シタル區別ニ從ヒ其償金ニ付キ收益ストシ第三項此等ノ場合ニ於テ用益者ハ其收益スル金額ニ對シ保證人ヲ立ツルコトヲ要ス但此等ノ場合ヲ豫見シテ特ニ其義務ヲ免除シタルトキハ此限ニ在ラズトシ第四項第九十三條ニ規定シタル場合ニ於テモ亦同ジトス再調査委員ハ之ヲ修正シテ第一項用益物ガ公用徵收ヲ受ケタルトキハ用益者ハ其償金ニ付キ收益スル金額ニ對シ保證人ヲ立ツルコトヲ要ス但此場合ヲ豫見シテ特ニ其義務ヲ免除シタルトキハ此限ニ在ラズトシ第二項第九十三條第九十四條及ビ第九十五條ニ規定シタル場合ニ於テモ亦同ジトセリ
(南部)
此修正ハ可ナリ
可決ス
第五章 地役
總則
第二百二十七條 地役トハ或ル不動產ノ便益ノ爲メ他ノ所有者ニ屬スル不動產ノ上ニ設ケタル負擔ヲ謂フ
地役ハ法律又ハ人爲ヲ以テ之ヲ設定ス
無異議
第一節 法律ヲ以テ設定シタル地役
第一款 隣地ノ立入又ハ通行ノ權利
第二百二十八條 凡ソ所有者ハ土地ノ分界ニ於ケルカ又ハ自己ノ土地ニ工事ヲ爲シ得ルノ餘地ナキ距離ニ於テ牆壁若クハ建物ヲ築造シ又ハ修繕スル爲メ隣地ノ立入ヲ求ムルコトヲ得
(村田)
分界ノ文字ハ第二百五十七條經界ノ文字ト同一ニスル筈ニアラズヤ
(南部)
分界ト經界トハ同一ニアラズ
(松岡)
隣地ノ立入ヲ求ムルトアルハ隣地ニ立入ルコトヲ求ムルトシタシ
可決ス
第二百二十九條 右築造又ハ修繕ノ工事ハ急要又ハ極メテ必要ノ場合ヲ除クノ外收穫ヲ害ス可キ季節ニ於テモ隣地ノ所有者又ハ占有者ノ一時不在ノ場合ニ於テモ之ヲ爲ササルコトヲ要ス
如何ナル場合ニ於テモ隣人ノ承諾アルニ非サレハ右工事ノ爲メ其住家ニ立入ルコトヲ得ス縱令其修繕ヲ要スル建物カ隣人ノ住家ニ連接スルモ亦同シ
(村田)
修繕ヲ要スル建物カ隣人ノ住家ニ連接スルモ亦同ジトアレバ築造ノ場合ハ如何
(南部)
築造ハ連接スルヲ得ザルコト勿論ナリ
(淸岡)
爲サザルコトヲ要ストアルハ要スノ字穩當ナラズ
(松岡)
爲スベカラズトスルヲ得ザルヤ
(今村)
爲スベカラズトシタル例文ナシ
第二百三十條 立入ヲ許諾セル隣人ハ工事ノ性質及ヒ時期ヲ商量シテ其受ケタル妨害ニ應スル償金ヲ要求スルコトヲ得
本條ハ應スルノ上相ノ字ヲ加フルニ決ス
第二百三十一條 或ル土地カ他ノ土地ニ圍繞セラレテ袋地ト爲リ公路ニ通スル能ハサルトキハ圍繞地ハ公路ニ至ルノ通路ヲ其袋地ニ供スルコトヲ要ス但下ニ記載シタル如ク二樣ノ償金ヲ拂ハシムルコトヲ得
土地カ掘割若クハ河海ニ由ルニ非サレハ他ニ通スル能ハサルトキ又ハ崖岸アリテ公路ト著シキ高低ヲ爲ストキハ之ヲ袋地ト看做スコトヲ得縱令其掘割カ公有ニ屬スルモ亦同シ
(村田)
末項縱令以下ハ刪除シテ可ナリ
(南部)
原案ニ公私トアルヲ可トス
(松岡)
河海アリ崖岸アリテ公路ニ通スル能ハザルトキハ袋地ト云フ
(村田)
掘割ノミ公私ノ區別ヲ附スルハ不可ナリ
(今村)
縱令以下ハ削除スルモ可ナリ河海アリ崖岸アル地ハ公私ノ別ナク袋地ト看做スト云フニアレバナリ
可決ス
第二百三十二條 袋地ノ利用又ハ其住居人ノ需用ノ爲メ定期又ハ不斷ニ車輛ヲ用ユルコトヲ要スルトキハ通路ノ幅ハ其用ニ相應スルコトヲ要ス
通行ノ必要又ハ其方法及ヒ條件ニ付當事者ノ議協ハサルトキハ裁判所ハ成ル可ク袋地ノ需用及ヒ通行ノ便利ト承役地ノ損害トヲ斟酌調和スルコトヲ要ス
(松岡)
第一項ハ必要ヲ見ズ
(元尾崎)
第一項ハ裁判官ニ標準ヲ示スモノナレバ必要アリ
第二百三十三條 通路ノ開設及ヒ保持ノ工事ハ袋地ノ負擔ニ屬ス
承役地ノ建物又ハ樹林ヲ取除キ又ハ變更セシムルノ必要アルトキハ一回限ノ償金ヲ其所有者ニ辨償ス
其他承役地ノ使用又ハ耕作ヲ減シ及ヒ永ク其地ノ價格ヲ減スルニ付テノ償金ハ每年之ヲ辨償ス
(松岡)
樹木ヲ樹林トスルハ如何
(今村)
原書ニハ樹林トアルヲ以テナリ
(松岡)
樹林ニアラザル地ナレバ其樹木ヲ無償ニテ取除クモ不可ナキヤ
(今村)
樹木ト雖ドモ辨償セザルベカラザルトキアリ樹林トアルニ依リ類推スベシ
(村田)
樹林ト云ヘバ竹林モ其中ニ包括スベシ
第二百三十四條 袋地タルコトノ止ミタルトキハ通行ノ權利及ヒ償金ノ義務ハ隨テ消滅ス
要役地ノ所有者ハ未タ拂期限ノ至ラサル償金ノ六ケ月分ヲ拂ヒテ常ニ通行ノ權利ヲ抛棄シ及ヒ之ニ對スル義務ヲ免カルコトヲ得
(松岡)
第一項ノ原案ヲ修正シタルハ如何
(今村)
別ニ意味ヲ變ジタルニアラズ
<削除建議>
第二百三十五條 當事者ハ通行ヨリ生スル永久損害ノ償金ヲ定ムルニ元本ヲ以テシ又ハ每年償金ヲ拂フノ義務ヲ贖回スルノ契約ヲ取結フコトヲ得
右孰レノ場合ニ於テモ袋地タルコトノ止ミタルトキハ元本ノ半額ヲ返還ス可シ但此ニ異ナル契約アルトキハ此限ニ在ラス
(今村)
本條ハ第二項ヲ主眼トスルニアリト雖ドモ元本ノ半額ヲ返還スベシト云フハ穩當ナラザルニ付キ當事者ノ契約ニ任スベシト云フヲ以テ之ヲ刪除シタシ
可決ス
第二百三十六條 土地ノ一分ノ讓渡又ハ共有者間ノ分割ニ因リテ袋地ノ生シタルトキハ讓渡人又ハ分割者ハ償金ヲ受クル無クシテ通路ヲ供スルノ義務ヲ負擔ス此義務ハ公路ノ創設ニ因リテ袋地タルコトノ止ミタルトキハ消滅ス
無異議
第二款 水ノ疏通、使用及ヒ引入
第二百三十七條 低地ノ所有者ハ人工ニ因ラスシテ自然ニ高地ヨリ流下スル雨水及ヒ泉水ヲ承クルノ義務アリ
人工ヲ以テ水ノ疏通路ヲ創設シ又ハ變更セシト雖モ其工事カ三十ケ年前ニ在ルカ又ハ年月ヲ知ル可カラサルトキハ亦同シ
無異議
第二百三十八條 堤塘其他水ヲ湛フル工作物ノ破潰ニ因リ又ハ水樋掘割ノ阻塞ニ因リ高地ノ水量ヲ增シテ衝激ヲ致シ又ハ方向ヲ變セントスルトキハ低地ノ所有者ハ第二百十四條ノ二及ヒ第二百二十二條ニ從ヒ急害ノ吿發ヲ爲シ、及ヒ高地ノ所有者ノ費用ヲ以テ其修繕ヲ爲スコトヲ得
事變ニ因リ低地ニ於テ水流ノ阻塞シタルトキハ高地ノ所有者ハ平常ノ疏通ニ復スル爲メ自費ヲ以テ必要ノ工事ヲ爲スノ權利ヲ有ス然レトモ其義務ヲ負擔セス
(村田)
急害ノ吿發トアルハ急害吿發ト決セシニアラズヤ
(委員長)
衝激ヲ致シト云フハ妥當ナリヤ
<第一項ハ第二百五十二條末項ト重複ナルヲ以テ削除>
第二百三十九條 所有者ハ雨水ノ直チニ隣地ニ落ツル如キ屋根其他ノ工作物ヲ設クルコトヲ得ス
無異議
第二百四十條 泉源ノ所有者ハ隨意ニ之ヲ使用シ且自然ニ隣地ニ流ル可キ餘水ヲ隣人ニ給セサルノ權利ヲ有ス但次條及ヒ第二百九十六條ノ規定其他鑛泉ノ利用、收益ニ關スル行政法ノ規定ヲ妨ケス
(今村)
給セザルト云フハ與ヘザルトセラレタシ
第二百四十一條 泉源ノ水カ一町村又ハ一部落ノ住民ノ家用ニ必要ナルトキハ所有者ハ其水ノ不用ノ部分ヲ流過セシムルノ責ニ任ス
又町村ハ自費ヲ以テ水ノ合及ヒ引入ニ必要ナル工事ヲ泉源ノ土地ニ施スコトヲ得但其工事ノ爲メ償金ヲ拂ヒ且其土地ニ永久ノ損害ヲ生セシメサルコトヲ要ス
其他町村ハ水ノ使用ノ爲メ償金ヲ拂フコトヲ要ス但三十ケ年間無償ニテ使用ヲ爲シタルトキハ此限ニ在ラス
(松岡)
一町村トアレバ一部落ト云フハ必要ナカルベシ
(今村)
一町村内ニ部落アル町村ナキニアラザレバナリ
(南部)
部落ハ町村内ノ小部分ナレバ刪ルベカラズ
第二百四十二條 私有泉源ノ餘水カ何人ノ利益ヲモ爲サスシテ外ニ流出スルトキハ其水ノ出口ニ最近ナル住人ハ前條ニ記載シタル如ク必要ノ工事ヲ爲シ容假ニテ己レノ方ニ其水ヲ導クノ權能ヲ求ムルコトヲ得
(淸岡)
求ムルコトヲ得ト云ヘバ求メラルルトキハ拒ムコトヲ得ザルガ如シ
(松岡)
本條ハ必要ナキヲ以テ本員ハ曩ニモ刪除論ヲ發セシモ成立セサリシナリ
(元尾崎)
其水ヲ導クノ權能ヲ求ムルコトヲ得ト云ヘバ必ラズ之ヲ求メ得ラルベキガ如シ
(南部)
起案者ノ註示ニハ本條ノ意義ハ恰モ乞丐者ニ食物ノ餘剩ヲ投遣スルト等シト云ヘリ
(松岡)
本條ハ斷然刪除シタシ
可決ス
第二百四十三條水流、掘割又ハ池ノ沿岸者ニシテ其床地ヲ所有スル者ハ家用及ヒ農工業用ニ其水ヲ使用スルコトヲ得然レトモ其水路及ヒ幅員ヲ變スルコトヲ得ス
同上ノ流水ノ通過スル土地ノ所有者ハ右ト同一ノ需用ノ爲メ其地内ニ於テ水路ヲ變轉スルコトヲ得然レトモ其水ノ出口ニ於テハ之ヲ自然ノ水路ニ復スルコトヲ要ス
右孰レノ場合ニ於テモ沿岸者ハ地方ノ規則ニ從ヒ捕漁ノ權利ヲ有ス
沿岸者ハ對岸者ニ損害ヲ及ホス可キトキハ己レノ方ニ於テ堤防ヲ築クコトヲ得ス
(村田)
池ノ沿岸者トアルハ流水ノ池ト云フモノアリヤ
(三島)
支那ニテハ渓水ノ流下シテ水溜ヲ爲シ又其水溜ヨリ流出ヲ爲スガ如キハ其水溜ノ部分ヲ池ト云フ
(元尾崎)
沼岸ニ住居セシモノト雖ドモ河床所有者ニアラザルモノアリ
(南部)
沿岸者ト云フハ沿岸ニ住居セル者ヲ云フニアラズ河床所有者ヲ云フナリ
(北畠)
沿岸者ニシテ其床地ヲ所有スル者トアルハ沿岸住居者ト床地所有者トヲ云フ其床地トアルヲ連接地トシタシ
(南部)
沿岸者ト河床所有者トハ事實上ハ大抵同一人ナルベシ
第二百四十四條 前條ニ定メタル二箇ノ場合ニ於テ其水ヲ有用トス可キ沿岸者又ハ低地ノ所有者ヨリ爭ヲ起シタルトキハ裁判所ハ地方ノ慣習ヲ斟酌シ且衞生ノ需用ト農工業ノ利益トヲ調和シテ之ヲ決ス
(今村)
本條衞生ト云フ字ハ原案ニハ家内ノ衞生トアリ衞生ト云フニハ西洋ニテモ公ノ衞生ト私ノ衞生トノ區別アリ「ボアソナード」氏ハ家内ノ衞生トシタルハ私ノ衞生ト云ヘルヲ一層狹縮ニシタリト云フニアルモ家内ノ衞生ノミニ注意シ公ノ衞生ヲ顧ミザルト云フヲ得ザルヲ以テ單ニ衞生トスルヲ可トス
(三島)
改正其水ヲ有用トス可キトアルハ其水ヲ利用ス可キトシテハ如何
可決ス
第二百四十五條 右流水ニ關スル取締ハ地方官ニ屬ス府縣廳ハ其流水ノ疏通、保持及ヒ魚類ノ保育ニ付キ必要ノ處分ヲ命スルコトヲ得
(今村)
本條ハ起案者修正ヲ加ヘタリ流水ニ關スルモノ官廳之ニ干渉シ其費用ハ租稅ト同樣之ヲ徵收セントスルハ不都合ナルヲ以テ此點ハ一切行政法ニ讓ルベキ意見ヲ以テ之ヲ起案者ニ協議シタルニ起案者ハ漸ク之ヲ旨肯シテ第二百四十六條乃至第二百四十八條ヲ刪リ本條ハ之ヲ修正シ假令行政法ニ讓ルトスルモ民法ノ範圍内ニ於テ其大體ヲ規定シ置カザルヲ得ザルベカラズト然ルニ本員ハ本條ヲモ刪除シテ行政法ニ讓ルノ送リヲ要スル點ハ第二百四十九條ニ附記シタシトス
(栗塚)
第二百四十九條ニ示セル公有ニ屬スル河川ハ行政法ニ讓ルベシト雖ドモ私有ニ屬スル河川ハ民法ニ規定セザルベカラズト云フヲ以テ此各條ヲ刪除スルハ不可ナリ
(今村)
日本ハ私有ノ河川ヲ小ナリトスベカラザレバ行政法ニ讓ルベシ
(淸岡)
行政官ニ屬スル權限ヲ民法上ニ規定スルハ不可ナリ
(南部)
水流ハ私有ニ屬スルモノニアラズ公有ニ屬スル水ハ第二百四十九條ニ明記セルヲ以テ本條モ必要ナシ
(今村)
原案ノ修正屡次ニシテ頗ル錯累セシヲ以テ直正ノ原案ハ何レナリヤト云フヲ「ボアソナード」ニ質問シタルニ同氏ハ餘ノ手持スル原案ヲ正シトスト云フニ付キ人ヲシテ其手持ノ原案ヲ寫サシメ今之ヲ看ルニ第二百四十九條ヲ改變セリ其意味ハ全國又ハ一地方ノ公有ニ屬スル水ノ外ニ國府縣又ハ町村ニ屬スル私有ノ水アリト云フヲ示シタリ
(委員長)
流水ヲ私有トスルハ田畝灌漑上ノ不便ヲ起スニ依リ流水ハ公有ニ屬スルモノトセザルベカラズ
(渡)
第二百四十九條ノ正シキ原案ヲ承知シタシ
(今村)
第二百四十九條第一項ハ全國又ハ一地方ノ公有又ハ私有ニ屬スル水ノ使用及ビ取締ハ行政法ニ從ヒ中央政府々縣廳其他ノ地方廳ニ於テ之ヲ規定ストアリ
(渡)
第二百四十五條ノ刪否ヲ決シタシ
(今村)
本條ニハ起案者流水ノトアル下ニ築堤ノ文字ヲ置ケリ
(委員長)
第二百四十五條ハ何故ニ之ヲ刪ルカ
(南部)
第二百四十九條ニ合併セントス
(委員長)
第二百四十九條ニ附スルモノナレバ本條ヲ刪ラザルモ可ナルニアラズヤ
(今村)
本條ヲ刪ルハ宜シカラズ唯位置ヲ轉ズベシ
(栗塚)
水ノ屬スル所二種アリ第二百四十三條ノ水ハ民法ニ屬シ第二百四十九條ハ行政法ニ屬スベシ既ニ民法ニ屬スベキ水アル以上ハ其水ノ取締ヲ附スルモノナクンバアルベカラズ依テ第二百四十五條ハ報吿委員ニ於テハ刪除スベカラズトス〔第二百四十五條ヲ削除シ第二百四十九條ニ新タニ一項ヲ加フルノ建議〕
(委員長)
第二百四十五條ハ第二百四十九條ニ附スルノ必要ナシ現行上ニ於テハ流水ニ關スル取締ハ實際府縣廳ノ掌ルモノナレバ敢テ實アリト云フ證據ナキ以上ハ本條ハ此儘ニ存スルヲ可トス
可決ス
(村田)
築堤ノ二字ハ刪ルベシ
(委員長)
保持トアルヲ以テ築堤ハ必要ナシ
(村田)
府縣聽ハトアルヲ地方廳トシタシ然ラザレバ北海道廳ヲ包含セシムルヲ得ザレバナリ
(今村)
地方廳ト云フ意義ヲ確定セザルベカラズ
(村田)
地方廳ハ道府縣廳ヲ指スモノトスベシ
(松岡)
「ボアソナード」氏ハ既ニ地方廳トシテ同府縣廳ニ限ラズ地方ノ官署ト云フ意味トセリ
(槇村)
地方官トアルモ地方廳トスベキヤ
可決ス又必要ノ處分ヲ命スノ下「ルコトヲ得」トアルヲ刪レリ
<第二百四十九條第二項追加建議>
第二百四十九條 全國又ハ一地方ノ公有ニ屬スル水ノ使用及ヒ取締ハ行政法ヲ以テ之ヲ規定ス
第二百四十三條ニ揭ケタル水ノ疏通、保持及ヒ其魚類ノ保育ニ付テモ亦同シ
本條ハ公有又ハ私有トアルヲ公有若クハ私有トシ行政法ノ下ハ「ヲ以テ之ヲ規定ス」トシ第二項ハ刪除ス
第二百五十條 自己ノ土地外ニ在ル天然又ハ人工ノ水ヲ用ユル權利ヲ有スル所有者ハ家用又ハ農工業用ノ爲メ償金ヲ拂ヒ中間ノ土地ニ於テ其水ノ通過ヲ要求スルコトヲ得
(松岡)
天然ハ自然トシテハ如何
(今村)
天然ト云フヲ可トス
第二百五十一條(削除)
本條ハ起案者之ヲ刪除ス
第二百五十二條 低地ノ所有者ハ浸水地ノ排洩又ハ乾涸ニ由ル水ノ疏通ノ爲メ及ヒ家用又ハ農工業用ノ餘水ノ排洩ノ爲メ公路、公流又ハ下水道ニ至ルマテ其通路ヲ供スルノ責ニ任ス
家用又ハ農工業用ノ爲メニ變質シタル水ノ疏過ハ地下ニ於ケルニ非サレハ之ヲ要求スルコトヲ得ス
無異議
第二百五十三條 水ノ疏路ハ成ル可ク承役地ノ損害少ナキ場所ニ之ヲ設クルコトヲ要ス
如何ナル場合ニ於テモ建物ノ下ヲ經又ハ住家ニ連接シタル庭園ヲ經テ水ノ疏過ヲ要求スルコトヲ得ス
無異議
第二百五十四條 水ノ通路ニ必要ナル工作物ノ築造及ヒ保持費用ハ其工作物ニ付キ利益ヲ得ル所有者之ヲ負擔ス
無異議
<一句削除建議>
第二百五十五條 承役地ノ所有者ハ其土地ニ存スル水路ヲ要役地ニ出入スル水ノ全部又ハ一分ノ通路ニ供スルコトヲ得但從來其掘割ヲ通過スル水カ要役地ニ供シタル水ヲ變スルノ性質ナラサルトキニ限ル
又承役地ノ所有者ハ其土地ニ要役地ノ所有者ノ爲シタル工作物ヲ右ト同一ノ條件ニ從ヒテ水ノ通過ノ爲メ使用セント請求スルコトヲ得
右孰レノ場合ニ於テモ他人ノ爲シタル工作物ヲ使用スル者ハ自己ノ利益ノ割合ニ應シテ其築造及ヒ保持ノ費用ヲ分擔ス
(三島)
其土地ニ存スル水路トアルヲ其土地ニ存スル掘割トセラレタシ
可決ス
第二百五十六條 第二百四十三條第一項ニ從ヒ流水ヲ使用スルノ權利ヲ有スル所有者ハ堰ヲ設ケテ水ヲ高ムルノ要用アルトキハ償金ヲ拂ヒテ其堰ヲ對岸ニ支持セシムルコトヲ得
同一ノ權利ヲ有スル對岸地ノ所有者ハ前條ニ記載シタル如ク費用ヲ分擔シテ右ノ堰ヲ便用スルコトヲ得
無異議
第三款 經界
第二百五十七條 凡ソ相隣者ハ地方ノ慣習ニ從ヒ樹石杭杙ノ如キ標示物ヲ以テ其連接シタル所有地ノ界限ヲ定メント各自ニ強要スルコトヲ得
(南部)
各自ニト云フ字ハ報吿委員ニテハ原ノ如ク互ニトシタシトス
(委員長)
各自ト云フハ互ニトスルヲ可トス
可決ス
第二百五十八條 經界訴權ハ建物ニ付キ及ヒ垣柵等ノ圍障アル土地ニ付テハ行ハレス公路又ハ公流ニテ隔テタル土地ニ付テモ亦同シ
無異議
第二百五十九條 經界訴權ハ協議上又ハ裁判上ニテ界限ノ定マラサル間ハ何時ニテモ之ヲ行フコトヲ得
經界ノ訴ニ付キ被吿カ原吿ノ土地ノ全部又ハ一分ニ對シ取得時效又ハ一ケ年以上ノ占有ヲ申立ツルトキハ原吿ハ先ツ回復又ハ回收ノ訴ヲ爲スコトヲ要ス
(南部)
原案時效ニ係ルコトナクシテトアルヲ何時ニテモト修正シタルハ如何
(今村)
別ニ意味アルニアラズ
(南部)
然ラバ原ノ如ク時效ニ係ルコトナクシテトシタシ何時ニテモ之ヲ行フコトヲ得トアルハ結局時效ニ罹ルコトナシトスルニ決ス
第二百六十條 經界ハ界限ノ確定セサルトキ又ハ爭論アルトキハ所有權ノ證書ニ記載シタル坪數及ヒ界限ニ從ヒテ之ヲ爲ス其證書ナキトキハ之ニ代フルニ足ル他ノ證據又ハ書類ニ依リテ之ヲ爲ス
所有權ニ付キ爭論アルトキハ豫メ其裁判ヲ受クルコトヲ要ス
(淸岡)
本條ハ必要ニアラズ
(元尾崎)
此規定ナキトキハ經界訴權ニ於テ所有權ヲ定ムルニ至ルノ恐レアレバナリ
(南部)
然リ
第二百六十一條、第二百六十二條
〔議場削除〕
第二百六十三條 當事者カ協議ヲ以テ界限ヲ定メタルトキハ適宜ノ方式ニ從ヒテ其證書ヲ作ルコトヲ得此證書ハ坪數及ヒ界限ニ付キ各當事者ノ利害ヲ問ハス確定名義ノ效ヲ有ス
當事者ノ議協ハサルトキハ判決ヲ以テ坪數及ヒ界限ヲ定メ其裁判書ニ圖面ヲ添フ此圖面ニハ界標ヲ指示シ且各界標ノ距離及ヒ其近傍ノ移動ナキ目標ト各界標トノ距離ヲ記載ス
(元尾崎)
確定名義ノ效ヲ有スト云フハ如何
(今村)
判決ヲ受ケテ其判決カ確定シタル名義ノ效ヲ有スト云フ義ナリ
(淸岡)
名義ト云フハ如何
(今村)
佛語ノチートルト云フ字ハ意義廣汎ニシテ名義ト云フノ外ナシ
(南部)
證書ト云フヲ得ザルカ
(今村)
證書ト云フモ判明ナラズ名義ト云フハ權利ノ證據ナリ
第二百六十四條 樹石杭杙ノ代價其設置ノ費用及ヒ證書幷ニ訴訟ノ費用ハ相隣者平分シテ之ヲ負擔ス然レトモ判決ニ因リテ不當ト爲リタル爭論ノミニ關スル訴訟ノ費用ハ敗訴者之ヲ負擔ス
測量ノ費用ハ當事者其土地ノ廣狹ニ應シテ之ヲ分擔ス
無異議
第二百六十五條 經界訴訟ノ裁判管轄及ヒ其他ノ方式ハ帝國裁判所構成法及ヒ民事訴訟法ヲ以テ之ヲ規定ス
(今村)
本條モ例ニ依リ之ヲ刪除シタシ
可決ス
第四款 圍障
第二百六十六條 凡ソ所有者ハ適宜ノ材料ヲ用ヒ適宜ノ高サニ於テ自己ノ不動產ニ圍障ヲ設クルコトヲ得但其不動產カ法律上又ハ人爲上ニテ隣人ノ立入又ハ通行ノ地役ニ服スルトキハ其地役ヲ行フノ權能ヲ妨クルコトヲ得ス
(今村)
本條ハ原案第二項ヲ但書トシタルハ文理ノ勢ヒ但書ニ有ルモノナルヲ以テナリ
第二百六十七條 二箇ノ住家又ハ農工業用建物ノ間ニ在ル中庭又ハ園圃ノ土地カ各個ノ所有者ニ分屬スルトキハ所在地ノ如何ヲ問ハス各自其隣人ニ分界圍障ノ分擔ヲ強要スルコトヲ得
當事者ノ議協ハサルトキハ其圍障ハ板塀又ハ竹垣ノ類ニ非サレハ之ヲ要求スルコトヲ得ス
其高サハ分界線ノ平面ヨリ少ナクトモ六尺タル可シ
(村田)
本條第一項所在地ノ如何ヲ問ハズトアルハ不用ニ屬スルニアラズヤ
(松岡)
然リ卽チ所在地ノ如何ヲ問ハズトアルヲ刪除ス
(村田)
二箇ノ住家又ハ農工業用建物トアルハ二箇ノ建物トシテハ如何
(槇村)
茶室ヲ建築シテモ其費用ヲ分擔セシメラルルハ不都合ニ付キニ箇ノ住家又ハ農工業用ト云フ文字ハ必要ナラン
第二百六十八條 圍障ノ設置、保持及ヒ修繕ノ費用ハ相隣者平分シテ之ヲ負擔ス
相隣者ノ一人ハ前條ニ定メタル材料ヨリ良好ナル他ノ材料ヲ用ヒ又ハ高サヲ增シテ圍障ヲ築造スルコトヲ得但築造費用ノ差額ヲ拂ヒ且保持及ヒ修繕費用ノ全額ヲ負擔ス
(村田)
差額ト云ヘルヲ餘分トシテハ如何
(南部)
差額ニテ可ナリ
第二百六十九條 相隣者ノ一人カ他ノ一人ヲ圍障分擔ノ遲滯ニ付セスシテ之ヲ築造シ又ハ修繕シタルトキハ其人ニ對シ費用ノ分擔ヲ要求スルコトヲ得ス
無異議
第五款 互有
<修正>
第二百七十條 前款ニ定メタル義務ニ因リ又ハ任意且協議ニ因リ共擔ノ費用ヲ以テ土地ノ分界線上ニ築造シタル圍障ハ其性質ノ如何ヲ問ハス敷地ト共ニ相隣者ノ共有ニ屬ス
性質ノ如何ヲ問ハス相隣者ノ建物ノ隔壁及ヒ溝渠、生籬、柴垣ニシテ共擔ノ費用ヲ以テ土地ノ分界線上ニ設ケタルモノモ亦同シ
(村田)
共有ニ屬ストアルヲ互有ニ屬ストシタシ
可決ス〔本條ハ削除建議修正〕
(松岡)
分界線上ト云ヘバ分界線ニ跨ル如シ
(今村)
然リ「ボアソナード」氏ハ分界線ノ間トスルヲ以テ日本人ノ感觸ニ入リ易キナラント思惟セシモ本員ノ考案ニテハ分界線上トスレバ分界線ニ跨リト云意味ヲ悟ルベシト思量シテ分界線上トセリ互有ノ如キハ東京銀座ノ煉瓦中ニハナキニシモアラザルベシト雖ドモ其外日本國中如此モノハ殆ンドアラザルベシ日本ニ稀少ナルモノ事相ヲ民法上推定ノ原則トスルハ不都合ナレバ「ボアソナード」氏ニ協議シテ互有ニ屬セズト云ヘル立詞ニ書替ヘラルベシト云フヲ以テシタルモ之ヲ承諾セズ
(村田)
第二項性質ノ如何ヲ問ハズトアルハ相隣者ノ建物ノ隔壁トアル下ニ轉置シタシ
(松岡)
建物ハ共擔費用ヲ以テ土地ノ分界線上ニ設クルノ意カ
(今村)
然リ
(松岡)
建物ノ分界線上ニアルヲ認メ難シ
(今村)
反譯ニハ誤ナシ
<修正>
第二百七十一條 凡ソ土地ノ圍障又ハ建物ノ隔壁ニシテ分界線上ニ在ルモノハ其性質及ヒ所在地ノ如何ヲ問ハス共擔ノ費用ヲ以テ設ケタルモノトシテ之ヲ互有ト推定ス但或ハ證書ニ因リ或ハ證人ニ因リ或ハ三十ケ年ノ時效ニ因リ下ニ示シタル非互有ノ目標ニ因リテ反對ノ證據アルトキハ此限ニ在ラス
(村田)
本條證人ニ因リト云フヲ記シタルハ如何
(南部)
證人ニ因リト云フハ必要ナリ金銀貸借ノ如キハ證書ニ依ルベキモ本條ノ如キハ證書ノミニ由ルヲ得ザルコトアレバナリ
<修正>
第二百七十二條 相隣者ノ一人ノ專有權ヲ定ムル直接ノ證據又ハ時效ノ存セサルトキハ非互有ヲ推定ス可キ目標ハ左ノ如シ
第一 土造、石造、煉瓦造ノ牆壁ニ付テハ屋根ノ傾斜面又ハ小檐、牖孔其他ノ工作物又ハ粧飾物カ一方ノミニ存スルコト
第二 板塀、垣柵ニ付テハ其支柱カ一方ノミニ存スルコト
第三 溝渠ニ付テハ掘浚ノ泥土カ一方ノミニ存スルコト
第四 生籬、柴垣ニ付テハ一方ノ土地ノミ四面ヲ圍マレタルコト
此四箇ノ場合ニ於テ專有權ハ右目標ノ存スル一方又ハ土地ノ全ク圍マレタル一方ノ相隣者ニ屬ス
(元尾崎)
假令分界線上ニアルモ本條ノ證憑アルトキハ非互有ト認ムルカ
(今村)
然リ
<數字削除建議>
第二百七十三條 高サノ不同ナル二箇ノ建物ヲ隔ツル牆壁ニ付テハ其牆壁カ低キ建物ヲ踰ユル部分ニハ互有ノ推定ヲ適用セス
又牆壁カ一箇ノ建物ノミヲ支持スルトキハ右ノ推定ハ如何ナル部分ニモ之ヲ適用セス
無異議
第二百七十四條 二箇ノ土地ヲ分界スル一箇ノ圍障其他ノ工作物ニ互有ノ目標ト非互有ノ目標トノ併存スルトキハ裁判所ハ狀況ニ從ヒテ其所有權ノ共通ナルヤ專屬ナルヤヲ査定ス
無異議
第二百七十五條 互有界ノ保持及ヒ修繕ハ互有者平分シテ之ヲ負擔ス但其一人ノ所爲ヨリ毀損ノ生シタルトキハ此限ニ在ラス
然レトモ第二百六十七條ニ定メタル義務上ノ圍障ニ非サルトキハ互有者ノ各自ハ互有權ヲ抛棄シテ保持及ヒ修繕ノ負擔ヲ免カルルコトヲ得但自己ノ建物ヲ支持スル牆壁ノ保持及ヒ修繕又ハ自己ノ所爲ニ因リテ必要ト爲リタル修繕ヲ負擔ス可キトキハ此限ニ在ラス
(今村)
本條ニ免ガルルトアルハ免ガルトシタシ
(元尾崎)
互有界ト云フハ妥當ナリヤ
(委員長)
互有界ト云フノ外ナシ
(尾崎)
互有權ヲ抛棄シタルトキハ抛棄者ハ負擔ヲ受ケズシテ其利益ヲ享有セラルベシ
(今村)
互有權ヲ抛棄サレタルトキハ隣家ナキ地ニ建物シタルト同ジ
第二百七十六條 相隣者ハ互有界ヲ其性質及ヒ用本ニ從ヒ使用スルコトヲ得但其堅牢ヲ傷ハサルコトヲ要ス
相隣者ハ互有ノ牆壁ニ其厚サ四分ノ三ニ至ルマテ梁棟ヲ穿入シテ建物ヲ支持シ又ハ之ニ煖爐ヲ嵌入シ若クハ煙突、水管、瓦斯管、其他家用、工業用ノ爲メ筒管ヲ通スルコトヲ得但其牆壁ノ性質及ヒ厚サカ此ニ耐フルトキニ限ル然レトモ互有者ハ其牆壁ニ牖孔ヲ鑿チ又室内用ノ爲メ些少ノ凹穴ヲモ鑿ツコトヲ得ス
互有者ハ互有ノ牆壁ノ高サヲ增スコトヲ得但其牆壁ノ堅牢此ニ耐フルトキ又ハ自費ニテ堅牢ノ工事若クハ改築ヲ爲ストキニ限ル此場合ニ於テ其高サヲ增シタル部分ハ互有ニ非ス
互有者ハ互有ノ溝渠ニ雨水又ハ家用、工業用ノ水ヲ流入スルコトヲ得
互有者ハ互有ノ生籬ヲ剪伐シタル樹枝ヲ平分スルコトヲ得又其生籬ニ存スル高木ノ伐除ヲ請求スルコトヲ得
(元尾崎)
厚サ四分ノ三ニ至ルマデ梁棟ヲ穿入スルヲ得ベキニ些少ノ凹穴ヲモ鑿ツコトヲ得ザルヤ
(南部)
本條ハ報吿委員ニテ第三項堅牢ノ工事若クハ改築ヲ爲ストキニ限ルトアルヲ工事ヲ加ヘ若クハ改築ヲ爲シテ堅牢ナラシムルトキニ限ルトシタシ
(今村)
工事ハ堅牢ニスルモ改築ハ不堅牢ニテ可ナリヤト云ヘルニ至テハ不都合ニ付キ報吿委員ノ修正ニ從フモ可ナリ
(村田)
別ニ修正ヲ加ヘザルモ可ナリ
(委員長)
報吿委員ノ修正ハ可ナリ
可決ス
<修正>
第二百七十七條 相隣者ノ一人カ石又ハ煉瓦ニテ土地ノ圍障又ハ建物ノ牆壁ヲ分界線ニ接シ又ハ之ヨリ一尺ニ滿タサル距離ニ於テ築造シタルトキハ他ノ一人ハ現時ノ相場ニテ材料代及ヒ築工費ノ半額ヲ償ヒテ常ニ其互有權ノ讓渡ヲ要求スルコトヲ得前條第三項ニ從ヒテ增築シタル牆壁ニ付テモ亦同シ
互有權ノ讓渡ヲ要求スル相隣者ハ圍障牆壁ノ敷地及ヒ之ト分界線トノ間ノ地面ニ付キ地上權ノミヲ要求スルコトヲ得此地上權ニ付テハ鑑定人ノ評定シタル年額ヲ建物ノ存立間拂フノ責ニ任ス
增築セシ牆壁ノ互有權ヲ取得シタル者ハ前條ノ規定ニ從ヒテ之ヲ使用スルコトヲ得然レトモ人爲上ノ觀望ノ地役トシテ其牆壁ニ設ケタル牖孔ヲ塞カシムルコトヲ得ス
石造煉瓦造ニ非サル圍障、隔壁及ヒ籬柵、溝渠土手ニ付テハ共擔ノ費用ヲ以テセル設定又ハ協議上ノ讓渡ニ因ルニ非サレハ互有權ヲ生セス
<此項削除建議>
本條ノ規定ハ土藏ニ之ヲ適用セス
(今村)
本條ヲ修正シタル結果ハ殆ンド每用ニ屬セリ
(委員長)
舊案ニテハ前ニ土地ノ圍障ヲ築造シタルモノハ相隣者ノ爲メニ每代價ニテ互有權ヲ得ラルベキモ本條ノ通リナラバ其憂ナシ
(元尾崎)
末項ヲ刪除スルハ如何ナル理由カ
(渡)
倉庫ハ大抵石造煉瓦造ニ非ザルヲ以テ關係ナケレバナリ
(元尾崎)
近時ハ倉庫ニモ煉瓦造ヲ爲スニ至レリ
(渡)
煉瓦造ナル建物ハ本條ノ規定ニ當ルベシ
結局末項ハ刪除ス
第二百七十七條ノ二 所有者ハ石造煉瓦造ニ非サル建物ヲ築造スルトキハ其建物ト土地ノ分界線トノ間ニ少クトモ一尺ノ距離ヲ存スルコトヲ要ス
此距離ヲ存セスシテ築造スルトキハ一方ノ相隣者ハ築造ノ間ハ第二百十四條ニ從ヒ新工吿發ノ占有訴權ヲ行フコトヲ得
右築造竣成ノ後一方ノ相隣者カ建物ヲ築造セントシ其工事ノ爲メ自己ノ地上ニ於テ分界線ヨリ一尺ヲ超ユル距離ヲ要スルニ因リ建物ヲ一尺外ニ却ケタルトキハ其餘分ニ却ケタル地面ニ應シ前築造者ニ對シ償金ヲ要求スルコトヲ得
(元尾崎)
石造煉瓦造ニ非ザル建物ハ其建物ト土地ノ分界線トノ間ニ少クトモ一尺ノ距離ヲ存スルコトヲ要スト云ヘバ石造煉瓦造ナルトキハ其距離ヲ存スルニ及バザルカ
(今村)
石造煉瓦造ハ互有壁トスルヲ得ベシ
(元尾崎)
西洋流ノ建築ニハ頗ル權利アルモ日本流ノ建築ニハ其權利ナキガ如シ
(今村)
互有壁ヲ發スベシト云フハ格別ナリト雖ドモ既ニ互有壁ヲ法許スル以上ハ如此ナラザルベカラズ
(松岡)
東京ノ如キ繁華都會ノ地ニ於テ兩箇家作ノ間ニ二尺ノ距離ヲ置カントスルハ容易カラザルベシ
(委員長)
本條ハ小ナラザル關係ヲ有セルヲ以テ東京府廳ヘモ其實際ヲ質問スベシ
第六款 他人ノ所有地ニ對スル觀望及ヒ明取窓
第二百七十八條 二箇ノ土地ノ分界線ヨリ少ナクトモ三尺ノ距離アルニ非サレハ建物ニ窓又ハ縁ヲ設ケテ他人ノ所有地ヲ直線ニ觀望スルコトヲ得ス
此距離ハ窓又ハ縁ノ突出シタル部分ヨリ直角線ニテ分界線ニ至ルマテヲ測算ス
(淸岡)
明取窓ト云フハ如何
(三島)
明取窓ト云フ漢字ナシ依テ俗語ニ從フベシ
第二百七十九條 右距離ノ制限ヲ遵守スルニ不便ナルトキハ目隱ヲ以テ窓ヲ蔽フコトヲ要ス但其目隱ハ分界線上ニ突出スルコトヲ得ス
目隱ヲ設クル能ハサルトキハ寛假ノ明取窓ニ非サレハ之ヲ設クルコトヲ得ス此明取窓ハ其下部ヨリ座上マテ少ナクトモ六尺ト爲シ鐵又ハ木ノ格子ヲ附着シ其格眼ハ一寸以内タルコトヲ要ス
此場合ニ於テ隣地ノ所有者ハ目隱ノ一尺以上分界線ヲ踰ユルヲ許シテ之ヲ設ケシムルコトヲ得
(南部)
格眼トアルハ舊案ノ如ク格子目トスベシ
可決ス〔此項削除建議〕
(委員長)
其下部ヨリ座上マデト云フハ二階座敷ヲ云フカ
(槇村)
窓下ヨリ座上迄ヲ云フ
(委員長)
床板ヲ座上トシタルハ如何
(今村)
床板ト云フハ座敷板ヲ指スヤノ疑ヒアルヲ以テナリ
(委員長)
床板ト云フモ其疑ヒナカルベシ
可決ス
第二百八十條 觀望又ハ明取窓ニ關スル前二條ノ規定ハ建物ト對向スル隣地ノ建物ニ窓ナキトキハ之ヲ適用セス
無異議
第七款 或ル工作物ニ要スル距離
第二百八十一條 自己ノ土地ニ井戶、用水溜、下水溜又ハ糞尿坑ヲ穿タントスル所有者ハ分界線ヨリ少ナクトモ六尺ノ距離ヲ存スルコトヲ要ス但土砂ノ崩壞又ハ水液ノ滲漏ヲ防クニ必要ナル工事ヲ爲ス可シ
乾燥シテ覆蓋アル地窖ニ付テハ右距離ヲ三尺ニ減ス
水路ニ供シタル石樋又ハ溝渠ニ付テハ右距離ハ少ナクトモ其深サノ半ニ均シキコトヲ要ス然レトモ三尺ヲ踰ユルコトヲ要セス
右溝渠ハ分界線ノ方ノ崖ヲ斜ニ削下シ又ハ石垣若クハ木柵ヲ以テ之ヲ支持ス可シ
無異議
第二百八十二條 高サ三間ニ踰ユル樹木ハ分界線ヨリ六尺ニ滿タサル距離内ニ之ヲ植付ケ又ハ保持スルコトヲ得ス
高サ三間ニ滿タス一間ニ踰ユル樹木ニ付テハ二尺ノ距離ヲ存スルコトヲ要ス
其他矮小ノ樹木ハ直チニ之ヲ分界線ニ接着セシムルコトヲ得
右孰レノ場合ニ於テモ相隣者ハ樹木ノ所有者ニ對シ分界線ヲ踰エタル枝ノ剪除ヲ要求スルコトヲ得又自己ノ土地ヲ侵セル根ヲ自ラ截去スルコトヲ得
無異議
第二百八十三條 右ニ異ナリテ古ク且爭ハレサル地方ノ慣習アルトキハ前二條ノ規定ニ依ラスシテ其慣習ヲ遵守ス
前二條ノ規定ハ二箇ノ土地ノ分界カ互有ナルトキト雖モ之ヲ適用ス
無異議
第二百八十四條 危險ヲ含ミ衞生ヲ害シ又ハ障碍ヲ爲ス工業ニ付キ近隣ノ利益ノ爲メニ要スル條件ハ行政法ヲ以テ之ヲ規定ス
(南部)
工業ト云フ字ハ曩ニ本會ニ於テ營業トシタルニ更ラニ之ヲ工業トシタルハ如何
(委員長)
工業ト云ヘバ意味狹隘ナルヲ以テ營業トスベシ
可決ス
前諸款ニ共通ナル規則
<修正>
第二百八十五條 本節ノ規定ハ公ノ無形人ノ私有及ヒ公有ノ財產ニ付キ働方及ヒ受方ニテ之ヲ適用ス
然レトモ公有財產ハ水樋及ヒ互有要求ノ權ニ服セス
(南部)
本條第二項水樋トアル下ニ「ノ權」ト云フ二字ヲ挿入シタシ
(三島)
互有要求ノ權トアルヲ以テ差支ナシ
(栗塚)
小樋要求ノ權ト誤認スルノ恐レアリ此儘ニ可決ス
第二節 人爲ヲ以テ設定シタル地役
第一款 人爲ヲ以テ設定シタル地役ノ性質及ヒ種類
第二百八十六條 相隣者ハ其不動產ノ利益又ハ負擔ニテ諸種ノ地役ヲ設定スルコトヲ得但其地役カ公ノ秩序ニ反セサルコトヲ要ス
<第二項削除建議>
所有者若クハ其不動產ニ在ル或人ノ勞力ヲ主トスル負擔又ハ所有者若クハ之ニ代ハル人ノ一身ノ利益ヲ主トスル負擔ハ之ヲ地役ト看做サス此第一ノ負擔ハ雇使ノ人權トシテ效力ヲ有シ第二ノ負擔ハ情況ニ從ヒテ使用若クハ賃貸借ノ物權トシ又ハ使用貸借ヨリ生スル人權トシテ效力ヲ有スルコトヲ得但第三百五條第二項ノ規定ヲ妨ケス
本條ハ再調査委員ニテ第二項刪除ノ建議ナリ
(今村)
本條第二項ハ頗ル曖昧ナリ隣人每朝運動ノ爲メ此地上ニ散歩スベシト云フモ決シテ地役ニアラズ又或人常ニ此地面ニ草根ヲ掃除スルノ契約ヲ爲シタルニ地主其人ノ別替セシトキハ其草根ヲ掃除スルヲ止ムルヲ得ベシ決シテ地役ニアラザルナリ
(栗塚)
報吿委員ニ於テハ本條二項ハ頗ル要用ナリトス已ムヲ得ズンバ此第一云ニ效力ヲ有スルコトヲ得ト云フニ至ルマデヲ刪ルコトニ止メタシ
結局此二項ハ刪除ニ決ス
第二百八十七條 地役ハ不動產ノ所有權カ何人ニ移轉スルモ働方又ハ受方ニ於テ其不動產ニ從トシテ附着ス
働方ノ地役ハ要役地ヨリ引離シテ之ヲ讓渡シ賃貸シ又ハ抵當ト爲スコトヲ得ス又其地役ニ他ノ地役ヲ負ハシムルコトヲ得ス
無異議
第二百八十八條 地役ハ不動產カ數人ノ共有ニ屬スルトキハ其一人自己ノ持分ニ付キ要役地ニ地役ヲ失ハシメ又承役地ニ之ヲ免レシムルコトヲ得サルニ因リテ之ヲ不可分トス
又土地ノ分割又ハ其一分ノ讓渡ノ場合ニ於テ地役ハ不可分ニテ承役地ノ各部分ヲ累ハシ又ハ要役地ノ各部分ヲ利ス但其地役カ承役地ノ一部分ニ對スルニ非サレハ有益ニ行ハレス又ハ要役地ノ一部分ノ爲メニ非サレハ便益ヲ得セシメサル場合ハ此限ニ在ラス
無異議
第二百八十九條 要役地ノ所有者ハ自己ニ屬スト主張スル地役ニ付キ占有ニ係ルト權原ニ係ルトヲ問ハス要請訴權ヲ行フコトヲ得
又承役地ナリトノ主張ヲ受ケタル不動產ノ所有者ハ其爭フ地役ノ行使ヲ拒ミ又ハ之ヲ止マシムル爲メ占有ニ係ルト權原ニ係ルトヲ問ハス拒却訴權ヲ行フコトヲ得
右孰レノ場合ニ於テモ占有ノ章ニ定メタル規則及ヒ區別ヲ遵守ス可シ
<削除建議>
地役ニ關スル用益者及ヒ賃借人ノ權利、訴權並ニ義務ハ第六十九條、第七十條、第九十九條、第百四十四條及ヒ第百五十一條ニ之ヲ規定ス
本條ハ例ニ依リ末項ヲ刪除ス
第二百九十條 前三條ノ規定ハ法律ヲ以テ設定シタル地役ニ之ヲ適用ス
無異議
第二百九十一條 地役ノ種類ハ左ノ如シ
第一 繼續又ハ不繼續ノ地役
第二 表見又ハ不表見ノ地役
第三 有爲又ハ無爲ノ地役
<削除建議>
右孰レノ地役モ其設定、行使及ヒ消滅ハ下三款ノ規定ニ從フ
本條ハ末項刪除ノ建議ニ可決ス
第二百九十二條 地役カ場所ノ位置ノミニ因リ人ノ助力ヲ要セスシテ間斷ナク要役地ニ便ヲ與ヘ承役地ニ累ヲ爲ストキハ繼續地役ナリ
地役カ要役地ノ便益ノ爲メ人ノ現時ノ所爲ヲ要スルトキハ不繼續地役ナリ
無異議
第二百九十三條 地役カ外見ノ工作物又ハ形跡ニ因リテ顯露スルトキハ表見地役ニシテ之ニ反スルトキハ不表見地役ナリ
無異議
第二百九十四條 地役ハ左ノ場合ニ於テハ有爲地役ナリ
第一 不動產ノ所有者カ他人ノ不動產ヨリ或ル便益ヲ取ルコトヲ得ルトキ
第二 不動產ノ所有者カ相隣便益ノ爲メ法律ノ普通ニ制禁スル或ル工作ヲ自己ノ不動產ニ爲スコトヲ得ルトキ
地役ハ左ノ場合ニ於テハ無爲地役ナリ
第一 不動產ノ所有者カ普通ニ所有者ニ許サレタル所爲ヲ隣人ノ自己ノ不動產ニ爲スヲ禁スルコトヲ得ルトキ
第二 不動產ノ所有者カ普通ニ從ヒ自己ノ不動產ニ於テ相隣便益ノ爲メニ爲ス可ク又ハ許ス可キノ所爲ヲ爲サス又ハ許ササルコトヲ得ルトキ
無異議
第二款 地役ノ設定
第二百九十五條 地役ハ約束又ハ遺言ヲ以テ之ヲ設定スルコトヲ得
右孰レノ場合ニ於テモ當事者ノ間ニ於ケルト第三者ニ對スルトヲ問ハス地役ノ有效ナル爲メニハ不動產物權ノ無償又ハ有償ノ名義ノ讓渡ニ關スル通常規則ヲ遵守ス可シ
無異議
第二百九十六條 不動產所有權ニ關シ時效ヨリ生スル法律上ノ取得推定ハ繼續且表見ノ地役ニノミ之ヲ適用ス
隣地ヨリ引ク水ノ取得ニ關スル時效ノ期間ハ其時效ヲ申立ツル所有者カ自己ノ土地又ハ承役地ニ於テ其便益ノ爲メ水ヲ聚合シ及ヒ引入スル外見ノ工作物ヲ作リタル當時ヨリ起算ス
無異議
第二百九十七條 初メ一人ノ所有ニ屬シタル二箇ノ土地カ未分ノ時既ニ繼續且表見ノ地役ノ成立ス可キ位置ヲ成シ其分離ノ時此形狀ヲ變更セス又之ヲ變更スルコトヲ約束セサリシトキハ所有者ノ用方ヲ以テ此種ノ地役ヲ設定シタルモノト看做ス
無異議
第二百九十八條 不繼續地役及ヒ不表見地役ハ第二百九十五條ニ記載シタル二箇ノ名義ノ一ニ依ルニ非サレハ之ヲ設定スルコトヲ得ス
無異議
第二百九十九條 要役權ヲ有スト主張スル所有者ハ承役地ノ所有者又ハ其前所有者ノ一人ヨリ出タル地役追認ノ證書ヲ差出スコトヲ得ルトキハ前ニ揭ケタル方法ノ一ニ依レル地役設定ノ直接ノ證據ヲ擧クルコトヲ要セス
無異議
第三款 地役ノ效力
第三百條 適法ニ取得シタル地役權ハ其性質ニ從ヒテ行使ニ必要ナル從タル權利及ヒ機能ヲ帶フ
右ノ外約束又ハ遺言ヲ以テ設定シタル地役ニ付テハ其約束又ハ遺言ノ解繹ニ關スル普通ノ規則ニ從フ又時效ニ因リテ取得シタル地役ニ付テハ實際占有ノ廣狹ヲ量リ所有者ノ用方ニ因リテ生シタル地役ニ付テハ設定者ノ意思ヲ推定シテ其權利ノ廣狹ヲ定ム
(村田)
解繹ト云フハ解釋ニアラズヤ
(三島)
其趣旨ヲ尋繹推究スルノ意味ナリ
第三百一條 通行ノ地役、繼續若クハ不繼續ナル取水ノ地役、牧畜又ハ物料採取ノ地役ニ付キ設定名義又ハ其後ノ約束ニ於テ行使ノ時日、場所、方法又ハ收取ノ數量ヲ定メサリシトキハ當事者ノ一方ハ常ニ他ノ一方ト立會ノ上其定メヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得
此定メ方ニ付テハ裁判所ハ雙方ノ需用ヲ斟酌シ且地役權行使ノ從來ノ實蹟ヲ照査ス可シ
無異議
第三百二條 取水ノ地役ニ服スル不動產ノ所有者ハ自己ノ所爲ニ因リテ水ノ缺乏ヲ生セシメタルトキニ非サレハ其責ニ任セス
二箇ノ不動產ノ需用ノ爲メニ水ノ不足スルトキハ先ツ家用ニ次ニ農業用ニ次ニ工業用ニ之ヲ供ス右ハ總テ其不動產ノ分度ニ割合フ可シ
數箇ノ要役地アルトキハ各要役地ハ家用ノ爲メ相共ニ水ヲ使用ス農工業用ニ付テハ取水ノ先後ハ地役權取得ノ先後ニ從フ
無異議
第三百三條 地役權ヲ有スル者ハ承役地ノ所有者ノ承諾アルニ非サレハ正シク定置キタル行使ノ時日、場所又ハ方法ヲ變更スルコトヲ得ス但承役地ノ所有者カ如何ナル損害ヲモ受ケサルトキハ此限ニ在ラス
又承役地ノ所有者カ右變更ニ付キ正當ナル利益ヲ得且要役地ノ所有者カ如何ナル損害ヲモ受ケサルトキハ承役地ノ所有者ハ其變更ヲ請求スルコトヲ得
無異議
第三百四條 地役ヲ設定スル爲メ或ル工作物ヲ必要トスルトキハ其費用ハ要役地ノ所有者ノ負擔ニ屬ス但承役地ノ所有者ノ負擔ニ屬ス可キコトヲ約束シタルトキハ此限ニ在ラス
無異議
第三百五條 地役ノ行使ニ關スル工作物ノ保持及ヒ修繕ハ亦要役地ノ所有者ノ負擔ニ屬ス但修繕カ承役地ノ所有者ノ過失ニ因リテ必要ト爲リタルトキハ此限ニ在ラス
又承役地ノ所有者カ保持及修繕ヲ負擔ス可キヲ約束スルコトヲ得此場合ニ於テ承役地ノ所有者ハ地役ノ存スル不動產ノ部分ヲ要役地ノ所有者ニ委付スルトキハ常ニ右ノ負擔ヲ免カルコトヲ得
(村田)
第二項又承役地ノ所有者カトアルハ又承役地ノ所有者ハト云フベキニアラズヤ
(南部)
負擔スベキニ關スルヲ以テ「カ」トスルヲ可トス
第三百六條 承役地ノ所有者ハ地役ノ行使ニ如何ナル妨碍ヲモ爲サス又其便益ニ如何ナル減少ヲモ生セサルニ於テハ其所有權ノ固有スル適法ノ權能ヲ行フコトヲ得
又承役地ノ所有者ハ地役ノ行使ノ爲メ其不動產ニ設ケタル工作物ヲ使用スルコトヲ得但其所有者カ工作物ヨリ收ムル便益及ヒ其使用ニ因リテ增加ス可キ費用ニ應シ其建設又ハ保持ノ費用ヲ分擔ス
(南部)
第二項使用スルコトヲ得トアルハ便用スルコトヲ得ト云フベキニアラズヤ
(三島)
然リ寫字ノ誤ナリ
第四款 地役ノ消滅
第三百七條 地役ハ左ノ諸件ニ因リテ消滅ス
第一 地役ヲ設定シタル期間ノ滿了
第二 設定名義又ハ設定者ノ權利ノ解除、銷除又ハ廢罷
第三 承役地ノ公用徵收
第四 抛棄
第五 混同
第六 三十ケ年間ノ不使用
第三者カ地役ナキモノトシテ承役地ヲ占有シ其占有ニ不動產所有權ノ取得ニ關スル占有ニ必要ナル條件ヲ具フルトキハ地役ハ正當ナル原因ニ由リテ消滅シタルトノ推定ヲ受ク
(今村)
本條ハ舊案ノ第七ヲ刪リ第三者云々ト云ヘルヲ記シ來リタルニ其旨意第三百十二條ト重複スルヲ以テ更ニ起案者ニ質問シタルニ起案者ハ第三百十二條ヲ刪除シタリ
第三百八條 地役ノ抛棄ハ之ヲ明示スルコトヲ要ス然レトモ繼續地役ノ行使ノ爲メ承役地ニ設ケタル工作物ノ毀壞又ハ其使用ノ廢止ニ付キ要役地ノ所有者カ異議ヲ留メスシテ明示ノ承諾ヲ與ヘタルトキハ其地役ヲ抛棄シタリト看做ス
抛棄ハ抛棄者カ自己ノ不動產權利ヲ讓渡スノ能力ヲ有スルトキニ非サレハ其效ナシ
無異議
第三百九條 地役ハ要役地及ヒ承役地ヲ一人ノ所有ニ併セタルトキハ混同ニ因リテ消滅ス然レトモ其併合ノ行爲ヲ裁判上ニテ解除シ銷除シ又ハ廢罷シタルトキハ其地役ヲ曾テ消滅セサリシモノト看做ス
右不動產ヲ再ヒ分離シタルトキハ繼續且表見ノ地役ハ第二百九十七條ノ規定ニ從ヒテ再生出ス
(三島)
本條所有ニ併セタルトアルハ併合シタルトセラレタシ
可決ス
第三百十條 地役ハ要役地ノ所有者カ任意タルト否トヲ問ハス其地役權ヲ行フ無クシテ三十ケ年ヲ經過シタルトキハ不使用ニ因リテ消滅ス
右期間ハ不繼續地役ニ付テハ最後ノ使用ノ行爲ヨリ之ヲ起算シ繼續地役ニ付テハ地役ノ自然ノ作用ニ對スル形體上ノ妨碍ノ起レル當時ヨリ之ヲ起算ス
右妨碍カ承役地ニ起發シタル事變ヨリ生スルトキハ要役地ノ所有者ハ自費ニテ舊狀ニ復スルコトヲ得又其妨碍カ承役地ノ所有者ノ所爲ヨリ生スルトキハ其費用ヲ以テ復舊ス
無異議
第三百十一條 要役地カ數人ノ共有ニ屬スルトキハ其一人ノ權利ノ行使ニ因リテ他ノ人ノ權利ヲ保存ス
此他免責時效ノ進行ノ停止又ハ截斷ニ關スル規則ハ地役ノ不使用ニ之ヲ適用ス
無異議
第三百十二條 (削除)
本條ハ起案者之ヲ削除ス
第三百十三條 地役權ノ行使ノ時日、場所及ヒ方法ニ關スル利益ハ不使用又ハ時效ノ結果ニ因リテ減却ヲ受クルコト有リ
(村田)
時日ト云フニテハ時間ト云フ意味ヲ覺知スル能ハズ
(南部)
時ト云フヲ可トス
(北畠)
時間ト云フモ可ナラン
(今村)
間ノ字ヲ入ルルハ不可ナリ
結局時日ハ時トス
(三島)
減却ハ減殺トスベシ
可決ス
(委員長)
第三百十一條中斷ト云フ字ヲ截斷トシタルハ原ノ如ク中斷トスルヲ可トス
(今村)
既ニ議過シタル條々中ニモ截斷トシタルハ原ノ如ク中斷トスベキヤ
(委員長)
然リ
可決ス
第二部 人權及ヒ總般ノ義務
總則
<留保>
第三百十四條 人權卽チ債權ハ常ニ義務ト對當ス
義務ハ一人又ハ數人ヲシテ他ノ定マリタル一人又ハ數人ニ對シ或ル物ヲ與ヘ又ハ或ル事ヲ爲シ若クハ爲ササルコトニ服從セシムル人定法又ハ自然法ノ羈絆ナリ
義務ヲ負フ者ハ之ヲ債務者ト名ツケ義務ニ因リテ利益ヲ得ル者ハ之ヲ債權者ト名ツク
(栗塚)
此再調査案ハ今村氏及ビ三島氏ノ擔任スル處ナルモ今村氏出頭スルヲ得ザル間ハ暫時同氏ニ代理シ又尙ホ報吿委員ヲモ代表シテ辯明スベシ今村氏ハ自然義務ヲ認メルカ否ニ付キ意見ヲ有セシニ付キ右ニ關係シテ暫旦ノ間之ヲ留保ニ附シタルナラン
(元尾崎)
總般トアルハ訴訟法ニ於テモ一般ト爲シタルニ付キ一般トシテハ如何
(村田)
人權及ビ義務ト爲シ置キタシ
可決ス
(栗塚)
本條ノ自然法ノ羈絆ナリト云ヘルハ自然法ノ極マリ樣ニ從テ存廢ヲ決スベシ
<留保>
第三百十五條 人定法ノ義務ハ其履行ニ付キ法律ノ許セル諸般ノ方法ニ依リテ債務者ヲ強要スルコトヲ得ルモノナリ
自然ノ義務ニ對シテハ訴權ヲ生セス
法律ハ道徳及ヒ宗教ノ義務ニ干渉セス
(松岡)
本條ノ末項ハ必要アリヤ
(元尾崎)
歐羅巴ニテハ既ニ不必要ニ屬シタルベケレドモ日本ニ於テハ甚ダ必要ナリ
第一章 義務ノ原因
總則
第三百十六條 義務ハ左ノ諸件ヨリ生ス
第一 契約
第二 不當ノ利得
第三 有意又ハ粗忽ニテ加ヘタル不正ノ損害
第四 法律ノ規定
無異議
第一節 契約
第三百十七條 契約トハ或ル權利ヲ創設シ變更シ又ハ之ヲ消滅セシムルヲ目的トスル二人又ハ數人ノ意思ノ合致ヲ謂フ
<末項削除建議>
約束カ人權ノ創設ヲ主タル目的トスルトキハ其約束ハ之ヲ契約ト名ツク
(栗塚)
本條ニ就テハ特ニ委員各位ノ注意ヲ乞ヒタキモノアリ今村氏ハ民法ヨリ合意ト云ヘルモノヲ除去シ單ニ契約ノミトセントス然ルニ契約ト合意トハ法律學上區別アルモノニシテ契約ト云ヘバ義務ヲ生ズベキモ合意ト云ヘバ義務ヲ生ゼザル場合ニモ用ヒ實際上ハ甚シキ不都合ヲ見ズト雖ドモ法律學上區別アルモノナレバナリ
(元尾崎)
合意ハ民法中ニ存在セシメタシ
(淸岡)
合意ヲ存在セシムルトセバ約束カ人權ノ創設ト云ヘルハ合意カ人權ノ創設トシタシ
(松岡)
合意ノ創設ハ契約ニシテ合意ノ解除ハ契約ニアラズ單ニ合意トスベキヤ
(南部)
合意ヲ解除スル場合ニハ法律上之ヲ契約ト云ハザルナリ
(松岡)
斯クノ如キハ法語ノ新設ヲ強ユルモノト云フベシ
(渡)
合意ヲ決スルハ今村氏ノ出頭ヲ待ツベシ
(松岡)
然リ
(村田)
第三百十六條第三ハ不正ノ損害トシタシ
(南部)
此儘ヲ可トス
(元尾崎)
單ニ不正ト云ヘバ粗忽ト云フ意味ヲ失スベシ
(村田)
第三百九十條ヲ見レバ粗忽ヲ包含スベシ
(栗塚)
只今今村氏ヨリ書面ヲ送附シ來レリ第三百十四條及ビ第三百十五條ノ字句ハ自然義務ニ關係アルヲ以テ之ヲ留保ニ附シ第三百十七條ハ人權ノ創設ニ係ルヲ以テ之ヲ契約トシ人權ノ解除ハ之ヲ約定又ハ約束ト云フ文字ヲ用ユベシト合意ヲ除去スレバ約定又ハ約束等ノ文字ヲ使用セザルベカラズ
(元尾崎)
第三百十六條第一ハ合意卽チ契約トシタシ
(槇村)
第一節モ合意及ビ契約トスベシ
(松岡)
前ニハ合意卽チ契約トシ後ニハ合意及ビ契約トスルハ奇異ナリ
(栗塚)
前ノ合意卽チ契約ト云フハ契約部分ノ合意ヲ云ヒ後ノ合意ト云フハ契約部分ノ合意及ビ契約部内ノ意味トス
結局第三百十六條第一ハ合意卽チ契約トシ第一節ハ合意及ビ契約トシ本條第一項ノ合意トハ物權ト人權トヲ問ハズ或ル權利ヲ創設シ變更シ又ハ之ヲ消滅セシムルヲ目的トスル二人又ハ數人ノ意思ノ合致ヲ謂フトシ第二項ハ合意ガ人權又ハ義務ノ創設ヲ主タル目的トスルトキハ之ヲ契約ト名ヅクトセリ
第一款 契約ノ種類
第三百十八條 契約ニハ双務ノモノ有リ片務ノモノ有リ
當事者相互ニ義務ヲ負擔スルトキハ其契約ハ双務ノモノナリ
一方ノ當事者ノミカ他ノ一方ノ當事者ニ對シテ義務ヲ負擔スルトキハ其契約ハ片務ノモノナリ
(元尾崎)
第一款ノ下契約ノ種類トアルモ合意卽チ契約ノ種類トシテハ如何
(松岡)
本款ハ契約ノ事項ノミニ屬スルヲ以テ契約ノ種類トシテ可ナリ
第三百十九條 契約ニハ有償名義ノモノ有リ無償名義ノモノ有リ
各當事者カ出捐ヲ爲シテ相互ニ利益ヲ得又ハ第三者ヲシテ之ヲ得セシムルトキハ其契約ハ有償名義ノモノナリ
一方ノ當事者ノミカ何等ノ利益ヲモ給セスシテ他ノ一方ノ當事者ヨリ利益ヲ受クルトキハ其契約ハ無償名義ノモノナリ
無異議
第三百二十條 契約ニハ諾成ノモノ有リ要物ノモノ有リ
契約カ當事者ノ承諾ノミヲ以テ成立スルトキハ其契約ハ諾成ノモノナリ
契約カ當事者ノ承諾ノ外尙ホ目的物ノ引渡ヲ要スルトキハ其契約ハ要物ノモノナリ
(南部)
要物ト云フハ諾成ニ對シテハ至當ナリ給物ト云フハ要物トシタルノ當然ナルニ如カズ
第三百二十一條 契約ニハ要式ノモノ有リ不要式ノモノ有リ
公正證書ヲ以テ承諾ヲ與フ可キ契約ハ要式ノモノナリ
此他ノ場合ニ於ケル契約ハ不要式ノモノナリ
無異議
第三百二十二條 契約ニハ正定ノモノ有リ射倖ノモノ有リ
契約ノ成立及ヒ效力カ契約ノ當初ヨリ確實ナルトキハ其契約ハ正定ノモノナリ
契約ノ成立又ハ其效力ノ全部若クハ一分カ偶然ノ事ニ繋カルトキハ其契約ハ射倖ノモノナリ
(栗塚)
本條ハ反譯局ニモ協議シ正定ヲ實定トシ射倖ヲ懸空トセリ
(元尾崎)
實定ヲ可トス
(栗塚)
實定ノ反對ハ懸空ト云フベキヲ可ト可決ス
第三百二十三條 契約ニハ主タルモノ有リ從タルモノ有リ
契約ノ成立カ他ノ契約ノ成立ニ關係ナキトキハ其契約ハ主タルモノナリ
反對ノ場合ニ於テハ其契約ハ從タルモノナリ
主タル契約ノ無效ハ從タル契約ノ無效ヲ惹起ス但從タル契約カ主タル契約ノ無效ノ場合ニ於テ之ニ代フルヲ目的トスルモノナルトキハ此限ニ在ラス
從タル契約ノ無效ハ主タル契約ノ無效ヲ惹起セス但當事者カ其二箇ノ契約ヲ分離ス可カラサルモノト看做シタルトキハ此限ニ在ラス
無異議
第三百二十四條 契約ニハ有名ノモノ有リ無名ノモノ有リ
有名ノ契約ハ固有ノ名稱アリテ本法又ハ商法ニ於テ各別ノ規則ヲ設クルノ目的タルモノナリ各別ノ規則ヲ設ケサル總テノ場合ニ於テハ其契約ハ本部ノ規則ニ從フ
無名ノ契約ハ本部ニ揭ケタル契約ノ通則ニ從フ又有名ノ契約ニ特別ナル規則ハ其契約ト最モ類似スル無名ノ契約ニ之ヲ適用スルコトヲ得
(栗塚)
本條第二項各別ノ規則ヲ設クルノ目的トアルハ各別ノ規則ノ目的トスベキ誤ナリ故ニ商法ニ於テトアルヲ商法ニ於ケルトシ「ヲ設クル」ヲ刪ルベシ
可決ス
(村田)
各別ノ規則ノ目的タルモノナリトアル各別ハ特別トスベシ
(栗塚)
然リ
可決ス
第二款 契約ノ成立及ヒ有效ノ條件
<數字削除建議>
第三百二十五條 凡ソ契約ノ成立スル爲メニハ左ノ三箇ノ條件ヲ具備スルヲ必要トス
第一 當事者ノ承諾
第二 確定ニシテ各人カ處分權ヲ有スル目的事物
第三 眞實且合法ノ原因
右ノ外尙ホ要式ノ契約ハ必要ノ方式ヲ遵守シ要物ノ契約ハ返還ス可キ物ノ引渡ヲ爲シタルニ非サレハ成立セス
(栗塚)
本條ハ今村氏ヨリ第一ヲ當事者又ハ其代人ノ承諾トセラレタシト言ヒ來レリ
(南部)
代人ノト云フハ代理人トスベシ
(松岡)
然リ
(委員長)
訴訟法ト協議スベシ第二目的トアルヲ目的事物トシタリ
(栗塚)
事物トアル事ノ字ハ物ノ中ニ包含スベシ
可決ス
第三百二十六條 契約ノ成立ニ必要ナル條件ノ外尙ホ其有效ナル爲メニハ左ニ揭クル二箇ノ條件ヲ具備スルヲ必要トス
第一 承諾ノ瑕疵ヲ成ス可キ錯誤又ハ強暴ノ無キコト
<數字削除建議>
第二 當事者ノ能力アルコト又ハ有效ニ代表セラレタルコト
缺損ハ法律ヲ以テ定メタル場合ニ非サレハ契約ノ瑕疵ヲ成サス
(栗塚)
本條ハ今村氏ヨリ第二ノ尾ニ又ハ有效ニ代表セラレタルコトノ文字ヲ加フルヲ遺脫セリト言ヒ來レリ
(三島)
折損ト云フハ損失シタル義ナレバ元來無的ヲ指スヲ得ズ依テ缺損ト爲シタリ
第三百二十七條 承諾トハ利害關係者トシテ契約ニ加ハル總當事者ノ意思ノ合致ヲ謂フ
當事者中ノ一人カ承諾セサルトキハ他ノ當事者カ承諾シタルモ契約ハ成立セス但此ニ異ナル意思ノ存セシ證據アルトキハ此限ニ在ラス
無異議
第三百二十八條 承諾ハ書面、口頭又ハ容態ヲ以テ之ヲ與フルコトヲ得但此末ノ場合ニ於テハ他ニ同意ヲ表スル所作ヲ得ス且其十分ニ承諾スル意思ノ確證アルコトヲ要ス
又承諾ハ事情ニ因リテ默示ヨリ成ルコトヲ得
(栗塚)
本條ハ所作ヲ得ズトアルヲ報吿委員ニテ「ノ手段ナキコトトシ「其十分ニ」ヲ刪レリ
可決ス
第三百二十九條 遠隔ノ地ニ於テ取結フ契約ノ言込ハ其承諾ノ爲メ明示又ハ默示ノ期間ナキトキハ承諾ノ報ナキノ間ハ之ヲ言消スコトヲ得但言消ノ報ノ逹スルニ先タチ承諾ノ報ヲ發シタルトキハ其承諾ハ有效ニシテ其言消ハ無效ナリ
右ニ反シ明示又ハ默示ノ期間アルトキハ其期間ハ言込ヲ言消スコトヲ得ス但言消ノ報カ言込又ハ期間指示ノ報ニ先タチ又ハ同時ニ先方ニ逹シタルトキハ此限ニ在ラス
此指示期間ニ承諾ヲ爲ササルトキハ言込ハ期間滿了ノミニテ消滅ス
承諾モ亦之ヲ言消スコトヲ得但其報カ承諾ノ報ニ先タチ又ハ同時ニ言込人ニ逹スルコトヲ要ス
言込人カ死亡シ又ハ契約スル能力ヲ失ヒタルモ先方カ未タ此事實ヲ知ラサル間ハ其承諾ハ有效ナリ
郵便、電信ノ錯誤ハ差出人ノ責ニ歸ス但郵便、電信ノ官署ニ對スル求償權アルトキハ之ヲ行フコトヲ妨ケス
(栗塚)
此條ハ本會ニ於テモ曩ニ三回ノ修正ヲ經タルガ爾後起案者ハ商法ノ意味ヲモ斟酌シ更ラニ修正ヲ加ヘタリ又承諾ノ字ハ受諾トスルカ應諾トスルカ
(三島)
受諾ト云ヘル受ハ物ヲ受ケルト云フ義ナルヲ以テ受諾ト云フヲ得ズ
(元尾崎)
承談ヲ可トス
(栗塚)
商法ニ於テハ受諾トセリ
(委員長)
歐文ニスルトキハ受諾ニアラザレバ差支アルベシ
可決ス
第三百三十條 當事者ノ錯誤ニテ契約ノ性質、目的又ハ原因ノ着眼ニ相違アリシトキハ其錯誤ハ承諾ヲ阻却ス
契約ノ縁由ノ錯誤ハ其錯誤ノミニテハ無效ノ原因ヲ成サス但當事者ノ一方ノ詭譎ニ關シテ定ムル規則ヲ妨ケス
<引例削除建議>
當事者ノ身上ノ錯誤ハ其身上ニ付テノ着眼カ決意ノ原因タリシトキハ契約ノ不成立ヲ惹起ス
<同上>
身上ノ着眼カ契約ノ附隨ノ原因タルニ過キサルトキハ其契約ハ身上ノ錯誤ノ爲メ單ニ取消スコトヲ得ヘキモノナリ
(栗塚)
本條ハ今村氏ヨリ引例ニ屬スル部分ヲ刪除シ來レリ
(元尾崎)
單ニ取消スコトヲ得ベキモノナリト云フハ如何
(栗塚)
取消スマデハ有效ナリ
(委員長)
第二項定ムル規定ヲ妨ゲズトアルハ元トノ如ク定ムルモノハ此限ニ在ラズトスベシ
可決ス
<已ムヲ得サル修正建議>
第三百三十一條 物上ノ錯誤カ物ノ品質ニ存シ且其品質ニ付テノ着眼カ當事者ノ決意ヲ助成シタルトキハ其錯誤ハ承諾ノ瑕疵ヲ成ス
之ニ反シテ物ノ品格ニ存スル錯誤ハ承諾ノ瑕疵ヲ成サス但品格ニ着眼スルノ當事者ノ意思カ明示又ハ事情ニ因リテ明白ナルトキハ此限ニ在ラス時代出處又ハ用方ノ如キ物ノ思想上ノ品格ニ付テモ亦同シ
算數、名稱、日附又ハ場所ノ錯誤ニ付テハ第五百八十二條ノ旧規定ニ從フ
(栗塚)
本條ハ第二項物ノト云ヘル字ハ時代ノ字ノ上ニ輕置シ思想ノ字ノ上ニ其字ヲ入ルベシ
(淸岡)
其ノ字ノ蛇足ナリ
(栗塚)
今村氏ハ本條ニ修正ヲ加ヘ品質ト品格ノ二種トシ原質ト品質トヲ等シク品質トシ原質タラザル品質ト云ヘルヲ品格ト爲シタリ
(委員長)
前案第二項ハ刪リシヤ
(栗塚)
然リ
第三百三十二條 法律ノ錯誤カ或ハ契約ノ性質、原因ニ存シ或ハ契約ノ法律上ノ效力ニ存スルトキ或ハ物ノ法律上ノ資格又ハ人ノ法律上ノ分限ニ存シテ其資格若クハ分限カ決意ヲ爲サシメタルトキハ其錯誤ハ事實ノ錯誤ノ如ク承諾ヲ阻却シ又ハ其瑕疵ヲ成ス
然レトモ裁判所ハ深ク注意シ且宥恕ス可キ情狀アルニ非サレハ右錯誤ノ爲メ契約ノ無效ヲ認許スルコトヲ得ス
法律ノ錯誤ハ責罰ニ對シ時期ヨリ生スル法律上ノ失權ニ對シ又ハ證書ノ違式ヨリ生スル無效ニ對シテモ其他公ノ秩序ニ係ル法律ノ不知ニ關シテモ當事者ヲ救護スル爲メニ之ヲ認許セス
(栗塚)
本條ハ第一項ハ報吿委員ニテ法律ノ錯誤カ或ハ合意ノ性質、原因又ハ效力ニ存スルトキ或ハ物ノ資格又ハ人ノ分限ニ存シテ其資格若クハ分限カ決意ヲ爲サシメタルトキハ其錯誤ハ事實ノ錯誤ノ如ク承諾ヲ阻却シ又ハ其瑕疵ヲ成ストシ第三項ハ法律ノ不知ニ關シテモトアルヲ法律規則ノ不知ニ關シテモトセリ
可決ス
第三百三十三條 詭譎ハ承諾ヲ阻却セス又其瑕疵ヲ成サス但詭譎カ錯誤ヲ惹起シ其錯誤ノミヲ以テ前三條ニ記載セル如ク承諾ヲ阻却シ又ハ其瑕疵ヲ成ストキハ此限ニ在ラス
此他ノ場合ニ於テハ詭譎ハ之ヲ行ヒタル者ニ對スル損害賠償ノ訴權ノミヲ生ス
然レトモ當事者ノ一方カ詭譎ヲ行ヒ其詭譎カ他ノ一方ヲシテ契約ヲ爲スコトニ決意セシメタルトキハ其一方ハ報復ノ名義ニテ契約ノ取消ヲ求メ且損害アルトキハ其賠償ヲ要求スルコトヲ得但其契約ノ取消ハ善意ナル第三者ヲ害スルコトヲ得ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ其賠償ヲ要求スルコトヲ得トアルヲ其賠償ヲ求ムルトセリ
可決ス
第三百三十四條 當事者ノ一方カ抵抗スルコトヲ得サル暴行ヲ受ケタルニ因リ枉ケテ契約ニ同意ヲ表シタルトキハ其強暴ハ承諾ヲ阻却ス
當事者ノ一方カ不可抗ノ力ニ出テタル急迫ノ災害ヲ避クル爲メ熱慮スルノ暇ナクシテ過度ナル義務ヲ約束シ又ハ無思慮ナル讓渡ヲ爲シタルトキモ亦同シ
暴行又ハ脅迫カ抵抗ス可カラサルニ非サルモ當事者又ハ第三者ノ身體財產ノ爲メ切迫ニシテ一層重大ノ害ヲ避クル爲メ當事者ヲシテ契約ヲ爲スコトニ決意セシメタルトキハ其承諾ニハ瑕疵アリトス
〔此項ヲ第三百三十六條ノ第二項トスルノ建議〕
(栗塚)
本條ニ於ケル今村氏ノ意見ハ其第二項ヲ第三百三十六條ト合併シ以テ第三百三十八條ノ次位ニ置カントス何トナレバ本條ハ災害ニ出ツルト暴行ニ出ツルトヲ合同シタルモ暴行ト災害トハ異ナリト云フニアリ報吿委員ハ暴行ニ出ツルモ災害ニ出ツルモ事已ムヲ得ザル場合ニ迫マリシ事實ハ同一ナレバ暴行ト災害トヲ分ツニ及バズト云フニアリ依テ第一項ハ冒頭ニ強暴ハト云ヘルヲ加ヘ第三項ハ暴行脅迫又ハ災害カ抵抗スベカラザルニ非ザルモ云々トシ其承諾ニハ云々ヲ強暴ハ承諾ノ瑕疵ヲ成ストシタシ
可決ス
(松岡)
第一項暴行ノ下脅迫ト云フ字ヲ入レタシ
可決ス
(北畠)
合意ニ同意ヲ表シタルトキハト云フハ奇異ナリ
(栗塚)
合意ヲ爲シタルトキハトスベシ
可決ス
(南部)
第二項不可抗ノ力トアルハ不可抗力トスベシ
可決ス
(北畠)
強暴ハ承諾ノ瑕疵ヲ成ストアル其強暴中ニ暴行脅迫又ハ災害ヲ包含セシムルヲ得ズ
(南部)
強暴ハ天災地異ヲモ包括スルコトトナレリ
(松岡)
別ニ好當ノ文字ナキヤ
(三島)
暴烈トシテハ如何
(渡)
卽案ヲ用ヒズ熟慮ヲ乞ヒタシ
第三百三十五條 強暴ニ因リテ身體財產ニ危難ノ恐ヲ受ケタル第三者カ當事者ノ配偶者又ハ直系ノ親族若クハ姻族ナルトキハ其強暴ハ常ニ之ヲ當事者其人ニ加ヘタリト看做ス
此他ノ人ニ付テハ親族ナルト姻族ナルト又ハ外人ナルトヲ問ハス裁判所ハ此等ノ者ニ對シ加ヘタル強暴カ當事者ノ承諾ニ及ホセシ影響ヲ其事情ニ從ヒテ審判ス
(栗塚)
本條ハ審判ストアルヲ審定ストシ當事者其人ニトアル其人ヲ刪リ族ハ屬トセラレタシ
可決ス
<此條ヲ第三百三十八條ノ次ニ移ス建議>
第三百三十六條 強暴ハ當事者ノ一方ノ所爲ニ出テタルト第三者ノ所爲ニ出テタルト又其第三者カ通謀セルト否トヲ問ハス上ノ區別ニ從ヒテ承諾ヲ阻却シ又ハ其瑕疵ヲ成ス
當事者ノ一方カ不可抗ノ災害ヲ避クル爲メ危難ニ臨ミ熟慮スルノ暇ナクシテ過度ナル義務ヲ約束シ又ハ無思慮ナル讓渡ヲ爲シタルトキハ總テ強暴ニ關シ上ニ定ムル規則ニ從フ
(栗塚)
本條ハ其第三者カ通謀セルトアルヲ第三者カ其一方ニ通謀セルトシタシ
可決ス
第三百三十七條 強暴ヲ受ケタル一方ハ契約ヲ無效ト爲スコトヲ得ル場合ニ於テ強暴ヲ行ヒタル者ニ對シ損害賠償ノミヲ請求シテ其契約ヲ保持スルコトヲ得
強暴カ契約ノ決意ノ原因ト爲ラスシテ不利條件ノ承諾ノ原因ト爲リタルトキハ其契約ハ無效ト爲ラス但賠償ノ請求ヲ妨ケス
(栗塚)
本條第二項ハ報吿委員ニテ張暴ガ合意ノ決意ヲ爲サシメタルニ非ラズシテ單ニ不利ナル條件ヲ承諾セシメタルトキハ其契約ハ無效ト爲ラズ但賠償ノ請求ヲ妨ゲズトシタシ
可決ス
第三百三十八條 強暴ノ場合ニ於テ裁判所ハ當事者ノ男女、年齡、強弱、智愚、及ヒ相互ノ身分ヲ斟酌ス可シ
<一句削除建議>
然レトモ卑屬親ノ尊屬親ニ對スル尊敬ノミニ出テタル畏懼ハ契約ヲ取消スノ理由ト爲ラス
(栗塚)
本條第二項ハ婦ノ夫ニ對スルト云フヲ刪除シタルハ夫婦ハ親子ノ關係トハ異ナルヲ以テ幾分カ對等ノ傾向アルモノナレバナリ
第三百三十九條 錯誤、強暴、詭譎、缺損及ヒ無能力ハ之ヲ推定セス其申立人ヨリ之ヲ證明スルコトヲ要ス
當事者雙方ニ屬スル無效ノ理由ハ相互ノ非理ニ基ツクトキト雖モ相殺セス但損害アルトキハ其賠償ノ相殺ヲ妨ケス
(栗塚)
本條第二項無效ノ理由ハトアルハ無效訴權ノ方法ハトシ相殺セズトアルヲ互ニ毀滅セズトシタシ相殺セズト云ヘバ殘剩アル意味トナレバナリ
可決ス
第三百四十條 前數條ノ場合ニ於ケル無效ノ訴權ハ無能力者又ハ瑕疵アル承諾ヲ與ヘタル者ノミニ屬ス
然レトモ處刑ノ言渡ヨリ生スル無能力ハ其言渡ヲ受ケタル者ト契約ヲ爲シタル者ヨリ之ヲ申立ツルコトヲ得
本條ハ契約ヲ合意トス
第三百四十一條 若シ取消スコトヲ得ヘキ契約ヲ第三章第七節ニ定メタル期間ニ攻撃セサルトキハ默示ニテ之ヲ認諾シタルモノト看做ス
此他默示認諾ノ場合及ヒ明示認諾ノ方式ハ右同節ノ規定ニ從フ
本條ハ「若シ」ヲ刪ルコトトス
第三百四十二條 契約ハ未來ニ係リ且生成ノ不的確ナル物ヲ目的トスルコトヲ得此場合ニ於テ諾約者ハ其契約ノ實施ヲ妨碍シ若クハ減縮スル何等ノ事ヲモ爲サス又其實施ニ便ス可キ何等ノ事ヲモ放却シ若クハ懈怠セサルコトヲ要ス
然レトモ發開セサル相續ニ於ケル權利ヲ授受シ又ハ取舎スルノ契約ハ其相續ヲ遺留ス可キ人ノ承諾アリト雖モ之ヲ爲スコトヲ得ス但法律ヲ以テ特例ヲ明示シタル場合ハ此限ニ在ラス
(栗塚)
本條第二項授受シ又ハ取舎スルトアルヲ與奪スルトシ遺留スヲ遺ストシ第一項生成ノ不的確トアルハ成立ノ不的實トスベシ
可決ス
(淸岡)
實施ニ便ス可キト云フハ愚文ニアラズヤ
(栗塚)
實施ヲ便ニス可キトシテハ如何
(松岡)
妨碍シ若クハ減縮スルトアルヲ妨グルトシタシ何トナレバ便ス可キトアルヲ便ス可キ又ハ延バス可キト云ハザルヲ得ザレバナリ
(南部)
然リ
(委員長)
便ス可キヲ修正スルハ可ナリト雖ドモ妨碍シ若クハ減縮スルヲ修正スルハ不可ナリ
結局此儘ニ附ス
第三百四十三條 契約ハ不法又ハ不能ノ作爲又ハ不作爲ヲ目的トスルトキハ無效ナリ
契約ノ目的タル第三者ノ作爲又ハ不作爲カ合法又ハ可能ナリト雖モ若シ諾約者カ其第三者ニ對シテ威權ヲ有セサルトキハ其契約ハ之ヲ不能ノ作爲又ハ不作爲ヲ目的トセルモノト看做ス
然レトモ何人ニテモ第三者ノ作爲又ハ不作爲ニ付キ明示ニテ擔保人ト爲ルコトヲ得此場合ニ於テハ諾約者ハ保證人ノ義務ニ服ス
又何人ニテモ第三者ニ代リテ諾約ヲ爲シ若シ其第三者カ之ヲ履行セサルニ於テハ過怠金ヲ辨濟ス可キノ責ニ服スルコトヲ得
何人ニテモ第三者ノ名ヲ以テ引受ヲ爲シ第三者ヲシテ之ヲ確認セシム可キコトノミヲ約束シタルトキハ其第三者ノ確認シタル時ヨリ義務ヲ免カル
(栗塚)
本條ハ第四項引受トアルヲ合意トシ約束ヲ諾約トスベシ
可決ス
第三百四十四條 要約者カ契約ニ付キ正當ニシテ且金錢ニ見積ルコトヲ得ヘキ利益ヲ有セサルトキハ其契約ハ原因ナキ爲メ無效ナリ
第三者ノ利益ノ爲メニ要約ヲ爲シ且之ニ過怠約款ヲ加ヘサルトキハ其要約ハ之ヲ要約者ニ於テ金錢ニ見積ルコトヲ得ヘキ利害ヲ有セサルモノト看做ス
然レトモ第三者ノ利益ニ於ケル要約カ要約者カ自己ノ爲メ爲シタル要約ノ從タリ又ハ諾約者ニ爲シタル贈與ノ從タル條件ナルトキハ其要約ハ有效ナリ
右二箇ノ場合ニ於テ從タル條件ノ履行ヲ得サルトキハ要約者ハ單ニ契約解除ノ訴權又ハ過怠約款履行ノ訴權ヲ行フコトヲ得
(栗塚)
本條ハ第三項其要約ハト云フヲ刪ルベシ
可決ス
(渡)
金錢ニ見積ルコトヲ得ベキハ曩ニ商法ト對査スルコトトシタリシカ如何
(栗塚)
タシカ此儘ニテ可ナリトナレリ
(委員長)
尙ホ詮議スベシ
<削除建議>
第三百四十五條 主タリ又ハ從タル要約ハ相續法カ一人ノ相續人ヲ利シテ他ノ相續人ヲ害スルコトヲ許セル限度及ヒ條件ニ從ヒ常ニ要約者ノ相續人ノ一人若クハ數人ノ利益ノ爲メ之ヲ爲スコトヲ得
又主タリ又ハ從タル諾約ハ諾約者ノ相續人ノ一人若クハ數人ノ負擔トシテ之ヲ爲スコトヲ得
(栗塚)
今村氏ハ本條及ビ次條ハ之ヲ刪除スベシト云ヘリ
(南部)
本條ヲ刪除スレバ相續人ノ利益ノ爲メニ之ヲ爲スコトヲ得ザルモノトナルベシ
(委員長)
刪除スルニハ或ハ害アルヤモ知ルベカラザレドモ之ヲ存在セシムルニハ害ナカルベシ
(栗塚)
本條第一項ハ主タリ又ハ從タル要約ハ常ニ要約者ノ相續人ノ一人若クハ數人ノ利益ノ爲メ之ヲ爲スコトヲ得但相續法カ一人ノ相續人ヲ利シテ他ノ相續人ヲ害スルコトヲ許セル限度及ビ條件ニ從フトシテハ如何
可決ス
<削除建議>
第三百四十六條 前二條ノ場合ニ於テ第三者ノ利益ノ爲メニ爲シタル要約ハ得益者ノ云ヲ承諾セサル間ハ要約者ハ自己ノ利益ノ爲メ之ヲ廢罷シ又ハ之ヲ他人ニ移轉スルコトヲ得
(栗塚)
本條ハ第三者ノ下ヘ「又ハ相續人」ト云ヘル數字ヲ挿入スベシ原文ハ其意味ナルヲ以テナリ
可決ス
第三百四十七條 契約ノ證書ニ原因ヲ明示シタルト否トヲ問ハス其原因ノ不成立、虛妄又ハ不法ナルコトノ證明ハ被吿ヨリ之ヲ爲ス可キモノトス但原因ノ明示ナキトキハ被吿ハ先ツ債權者ヲシテ其原因ヲ陳述セシムル爲メニ之ヲ催吿スルコトヲ得
無異議
第三款 契約ノ效力
第一則 當事者及ヒ其承接人ニ對スル契約ノ效力
第三百四十八條 適法ニ取結ヒタル契約ハ當事者間ニ於テ法律ニ同シキ效力ヲ有ス
其契約ハ當事者ノ雙方カ承諾スルニ非サレハ之ヲ廢罷スルコトヲ得ス但法律カ一方ノ意思ヲ以テ廢罷スルコトヲ許セル場合ハ此限ニ在ラス
(栗塚)
第一則ノ下承接人ニ對スル契約トアルハ承接人間ノ合意ト云フ意味ナルヲ以テ承接人間ノ合意トセラレタシ
可決ス
第三百四十九條 當事者ハ特別ノ契約ヲ以テ普通法ノ規定ニ由ラス又ハ其效力ヲ增減スルコトヲ得但公ノ秩序及ヒ善良ノ風俗ニ觸ルルコトヲ得ス
(栗塚)
本條又ハトアル「ハ」ハ愆文ナリ
第三百五十條 契約ハ當事者ノ明示及ヒ默示シタル效力ノミナラス尙ホ公正ノ理若クハ慣習ノ例ヨリ生シ又ハ契約ノ性質ニ從ヒテ法律ノ規定ヨリ生スル效力ヲ有ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ公正ノ理トアルヲ條理トシ慣習ノ例ヨリトアルヲ慣習ヨリトシ又明示及ビ默示シタルトアルモ默示シタル效力ト云フヲ得ベカラザルニ依リ默示ノトスベシ
可決ス
第 條 契約ハ善意ヲ以テ之ヲ履行スルコトヲ要ス
(栗塚)
本條ハ新ニ之ヲ設ケントスルニアリ
可決ス
第三百五十一條 特定物ヲ授與スルノ契約ハ引渡ヲ要セスシテ直チニ其所有權ヲ移轉ス但停止條件ニ關スル下ノ規定ヲ妨ケス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ但以下ヲ但合意ニ附却スル停止條件ニ關シ下ニ規定スルモノヲ妨ゲズトセリ
可決ス
第三百五十二條 代替物又ハ定量物ヲ授與スルノ契約ハ諾約者ヲシテ其物ノ所有權ヲ契約上ノ性質、品質及ヒ分量ヲ以テ要約者ニ移轉スルノ義務ヲ負ハシム此場合ニ於テ所有權ハ物ノ引渡ニ因リ又ハ當事者立會ニテ爲シタル其指定ニ因リテ移轉ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ代替物ノ下「又ハ量定物」トアルヲ刪リ契約上ノ性質品質トアルハ約束シタル性質品格トスベシ
(委員長)
量定物ハ代替物ニ包含スベシト云フニアルカ
(栗塚)
然リ
可決ス
第三百五十三條 前二條ノ場合ニ於テハ契約上ノ時日及ヒ場所ニ於テ諾約者ノ注意及ヒ費用ニテ物ノ引渡ヲ爲スコトヲ要ス
引取ノ費用ハ要約者之ヲ負擔ス
證書ノ費用ハ有償行爲ニ於テハ當事者雙方之ヲ負擔シ無償行爲ニ於テハ得益者之ヲ負擔ス
不動產ノ引渡ハ證書ノ交付及ヒ場所ノ明渡ヲ以テ之ヲ爲ス但簡易ノ引渡及ヒ占有ノ改定ニ關スル第二百三條ノ規定ヲ妨ケス
債權ノ引渡ハ證書ノ交付ヲ以テ之ヲ爲ス
引渡ノ期限ヲ定メサリシトキハ卽時ニ引渡ヲ要求スルコトヲ得
引渡ノ場所ヲ定メサリシトキハ特定物ニ付テハ契約ノ當時其物ノ存在セシ場所代替物ニ付テハ引渡前ニ其物ノ指定ヲ爲シタル場所其他ノ場合ニ在テハ諾約者ノ住所ニ於テ引渡ヲ爲ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項契約上ノトアルヲ約束シタルトシ注意ハ世話トシタリ第二項行爲ニ於テハトアルハ行爲ニ付テハトシ末項ハ「引渡前ニ」トアルヲ刪リ第三項改定ニ關スルヲ改定ニ關シトシ規定ヲ妨ゲズトアルヲ規定シタルモノヲ妨ゲズトセリ
可決ス
<末項削除建議>
第三百五十四條 諾約者ハ特定物ノ引渡ヲ爲スマテ善良ナル管理者タルノ注意ヲ以テ其物ヲ保存スルコトヲ要ス懈怠又ハ惡意アルトキハ損害賠償ノ責ニ任ス
無償ニテ讓渡シタル物ノ保存ニ付テハ諾約者ハ自己ノ物ニ加フルト同一ノ注意ヲ加フルノミノ責ニ任ス
此他諾約者カ右ト同一ノ注意ノミヲ負擔スル場合ハ其各事項ニ於テ之ヲ規定ス
(栗塚)
本條注意ハ世話トスベシ
(渡)
管理者トアルヲ以テ注意トスルヲ可トス
(南部)
前回ニハ前條ハ注意トスルモ本條ハ世話トセザルベカラズト云ヘリ各其所見ヲ異ニスルヲ以テ一定ニスベシ
(委員長)
前條ヲモ注意トスベシ
可決ス
第三百五十四條
(栗塚)
本條ハ今村氏ヨリ第三項ヲ刪除シタシト云フ建議アリ各事項ニ於テ之ヲ規定スト云ヘルハ到底無用ニ屬スレバナリト別條建議
(南部)
個ハ存在セシメタシ
(栗塚)
第三百五十三條末項ハ今村氏ヨリ起案者ニ質問シタルニ起案者ハ當事者ガ明示若クハ默示シテ引渡ノ場所ヲ定メザルカ又ハ義務ノ性質ニ因リ其辨濟ノ場所ガ一定セザルトキハ特定物ニ付テハ云々トセリ引渡ノ場所ノ定メザリシトキハト云フノミニテハ人ノ働キニ屬シ義務ノ性質ニ關セザルモノトナレバナリ
(松岡)
引渡ノ場所ノ定マラザルトキハトスベシ
可決ス
(委員長)
本條末項ハ存廢如何多數ヲ以テ存在セシムルニ決ス
第三百五十五條 授與スルノ契約カ特定物ヲ目的トスルトキハ意外ノ事又ハ不可抗ノ力ニ出テタル其物ノ滅失又ハ毀損ハ諾約者カ危險ヲ負擔シタル場合及ヒ停止條件ニ關スル規定ヲ除クノ外要約者ノ損ニ歸シ其物ノ增加ハ要約者ノ益ニ歸ス
然レトモ諾約者カ物ノ引渡ノ遲滯ニ付セラレ且若シ引渡ヲ爲シタルニ於テハ滅失又ハ毀損ヲ致ササル可キトキハ其損失ハ諾約者ノ負擔ニ歸ス
本條ハ例ニ從ヒ契約ヲ合意トシ不可抗ノ力トアルヲ不可抗力トス
第三百五十六條 左ノ場合ニ於テハ諾約者其他ノ債務者ハ遲滯ニ付セラレタルモノトス
第一 期限ノ到來後ニ裁判所ニ請求ヲ爲シ又ハ合式ニ催吿若クハ督促ヲ爲シタルトキ
第二 期限ノ到來ノミニ因リテ遲滯ニ付スルコトヲ法律又ハ契約ヲ以テ定メタル場合ニ於テ其期限ノ到來シタルトキ
第三 諾約者カ或ル時期ニ後レタル履行ハ要約者ニ無用ナルコトヲ知リテ其時期ヲ經過セシメタルトキ
(松岡)
合式ノ催吿若クハ督促ト云フハ如何
(栗塚)
催吿ト云フハ返金スベシト云フ言込ナリ督促ハ執行力アル要譯書ナリ
(松岡)
本條ハ訴訟法ト關係ヲ有セリ
(南部)
督促ハ執行命令書ヲ云フナラン
(委員長)
訴訟法ト對査シテ之ヲ一定ニスベシ
(栗塚)
本條ハ暫時未定ニ附セラレタシ
第三百五十七條 作爲又ハ不作爲ノ義務ヲ定ムル契約ノ效力ハ第四百二條ノ規定ニ從フ
無異議
第三百五十八條 契約ハ當事者ノ相續人及ヒ其承接人ヲ利シ又ハ之ヲ害ス但法律又ハ契約ニ於テ格別ノ定メヲ爲シタル場合ハ此限ニ在ラス
(栗塚)
本條ハ其承接人トアルハ其他一般ノ承接人トスベシ承接人ニハ特別ノ承接人ト一般ノ承接人トアレバナリ
結局相續人其他一般ノ承接人ヲトス
第三百五十九條 債權者ハ其債務者ニ屬スル權利ヲ申立テ及ヒ其訴權ヲ行フコトヲ得
債權者ハ此事ノ爲メ或ハ差押ヲ爲シ或ハ債務者カ原吿又ハ被吿タル訴ニ參加シ或ハ民事訴訟法ニ從ヒテ得タル裁判上ノ代位ヲ以テ第三者ニ對スル間接ノ訴ヲ行フ
然レトモ債權者ハ債務者ニ屬スル純然タル權能又ハ債務者ノ一身ニ專屬スル權利ヲ行フコトヲ得ス又法律又ハ契約ノ明文ヲ以テ差押ヲ禁シタル財產ヲ差押フルコトヲ得ス
(栗塚)
本條第三項ハ純然タルトアルヲ報吿委員ハ單純ナルトシタシトス
(松岡)
純然タルト云フニテ可ナリ
第三百六十條 右ニ反シ債權者ハ其債務者カ第三者ニ對シ承諾シタル義務、抛棄又ハ讓渡ニ付キ其損害ヲ受ク但債權者ノ權利ヲ詐害スルノ行爲ハ此限ニ在ラス
債務者カ其債權者ヲ害スルコトヲ知リテ自己ノ働方財產ヲ減シ又ハ自己ノ受方財產ヲ增シタルトキハ之ヲ詐害ノ行爲トス
(委員長)
抛棄トアルハ文字上債務者ガ權利ノ抛棄ト云フ意味ノ嫌アルガ如シ
(栗塚)
承諾ノ抛棄ナリ
第三百六十一條 詐害ノ行爲ノ廢罷ハ債務者ト約束シタル者又ハ轉得シタル者ニ對シ次條ノ區別ニ從ヒ債權者ヨリ廢罷訴權ヲ以テ之ヲ請求ス
債務者カ詐害スルノ意思ヲ以テ故ラニ訴訟ニ失敗シ又ハ請求ノ却下ヲ受ケタルトキハ債權者ハ民事訴訟法ニ從ヒ第三者故障申立ノ方法ニ依リテ訴フルコトヲ得
右孰レノ場合ニ於テモ債務者ヲ訴訟ニ參加セシムルコトヲ要ス
債權者カ詐害ノ行爲ノ廢罷ヲ得ル能ハサルトキハ被吿ニ對シ損害賠償ヲ要求スルコトヲ得
(栗塚)
本條第一項又ハ轉得シタル者トアルハ轉得者トスベシ轉得者ニ對シノ上「其」ノ字ヲ入レテハ如何
(南部)
「其」ハ不用ナリ
(松岡)
第二項却下トアルハ訴訟法ニハ棄却ノ場合ト却下ノ場合トアルヲ以テ對査セラレタシ
第三百六十二條 債權者ハ攻撃スル行爲ノ如何ヲ問ハス其債務者ノ詐害ヲ證明スルコトヲ要ス又有償名義ノ行爲ニ付テハ債務者ト約束シ又ハ之ト訴訟シタル者ノ通謀ヲ證明スルコトヲ要ス
讓渡ニ對スル廢罷訴權ハ有償名義又ハ無償名義ノ轉得者カ最初ノ讓受人ト約束スルニ當リ債權者ニ加ヘタル詐害ヲ知リタルニ非サレハ其轉得者ニ對シ之ヲ行フコトヲ得ス
(栗塚)
本條第一項有償名義ノ上又トアルヲ其他トセラレタシ
(三島)
其他ハ此他トスベキ文例トナレリ
可決ス
(栗塚)
詐害ヲ證明スルトアルハ詐害ヲ證スルトスベシ訴訟法ニテモ同一ナレバナリ
(松岡)
證スルト云ヒ證明スルト云使用ヲ明カニセラレタシ
(栗塚)
證スルト云ヘバ爭點ニ關シ證明ハ爭點ニ係ラザル場合ナリ
(南部)
訴訟法ニテハ之ヲ疏明トセリ
(栗塚)
假令バ某學校ノ卒業生ナリト云卒業證書ヲ差出スカ如キヲ證明スルト云フ從來辯明ト云ヘルト同一ナリ
(松岡)
訴訟法ト對査スベシ
(委員長)
然スベシ
(栗塚)
本條第二項最初ノ讓受人トアルハ最初ノ取得者トセラレタシ
(松岡)
第二項ハ有償名義ノ際モ無償名義ノ場合モ同旨義トシタルモ第一項ハ有償名義ノミヲ云ヘリ其殊異如何
(栗塚)
第二ノ轉得者ハ讓受人ノ詐害アルヲ知リタルトキニ非ラザレバ債權者ノ對抗ヲ受クベキ理ナシト云フニアリ
第三百六十三條 詐害行爲ニ先タチ權利ヲ取得シタル債權者ニ非サレハ廢罷ヲ請求スルコトヲ得スト雖モ廢罷ヲ得タルトキハ其廢罷ハ總債權者ヲ利ス但各債權者ノ間ニ於テ適法ノ優勝原因ノ存スルトキハ此限ニ在ラス
(栗塚)
本條ハ冒頭ニ廢罷ハノ三字ヲ加ヘ「ト雖トモ」ノ三字ヲ刪リ「然レトモ」トシ「其廢罷ハ」ヲ刪リ又但以下ハ無用ニ付キ刪除スベシ
(尾崎)
然レドモト云フハ若シトスベキニアラズヤ
(松岡)
然レドモヲ可トス
(委員長)
但以下ハ如何ニ決スルヤ
(尾崎)
存在セシムルモ害ナカルベシ
(栗塚)
但以下ヲ存在セシムルトセバ優勝ト云フ字ハ優拔トスベシト云フニアリ優勝ト云フハ優勝劣敗ノ優勝ト異ナルヲ以テナリ
(南部)
優先トシテハ如何
(栗塚)
先取原因トシテハ如何
可決ス
第三百六十四條 廢罷訴權ハ詐害所爲ノ有リタル時ヨリ三十ケ年ニシテ時效ニ罹リ消滅ス若シ債權者カ詐害ヲ覺知シタルトキハ其覺知ノ時ヨリ二ケ年ニシテ消滅ス
右ノ時效ハ第三者故障申立ノ訴權ニ之ヲ適用ス
無異議
第二則 第三者ニ對スル契約ノ效力
第三百六十五條 契約ハ當事者間ニ於テシ及ヒ其承接人ニ對スルニ非サレハ效力ヲ有セス然レトモ法律ニ定メタル場合ニ於テシ但其條件ニ從フトキハ第三者ニ對シテ效力ヲ生ス
(栗塚)
本條ハ當事者間ニ於テシ及ビ其承接人ニ對スルニ非ザレバトアルヲ當事者及ビ其承接人ノ間ニ非ザレバトシ然レドモトアルヲ「ト雖トモ」トスベシ
可決ス
第三百六十六條 所有者カ一箇ノ有體動產ヲ二箇ノ契約ヲ以テ各別ニ二人ニ與ヘタルトキハ其二人中現ニ占有スル者ハ證書ノ日附ハ後ナリトモ其所有者タリ但其者カ自己ノ契約ヲ爲ス當時ニ於テ前ノ讓渡ヲ知ラス且前ノ契約ヲ爲シタル者ノ財產ヲ管理スル責任ナキコトヲ要ス
此規則ハ無記名證券ニ之ヲ適用ス
無異議
第三百六十七條 記名證券ノ讓受人ハ債務者ニ其讓受ヲ合式ニ吿知シ又ハ債務者カ公正證書若クハ確定日附ノ證書ヲ以テ之ヲ承諾シタル後ニ非サレハ自己ノ權利ヲ以テ讓渡人ノ承接人及ヒ債務者ニ對抗スルコトヲ得ス
債務者ハ讓渡ヲ承諾シタルトキハ其原債權者ニ對スル排斥理由又ハ拒却理由ヲ以テ新債權者ニ對抗スルコトヲ得ス又讓渡ニ付テノ單一ナル吿知ハ債務者ヲシテ其吿知後ニ生スル排斥理由ノミヲ失ハシム
右ノ行爲ノ一ヲ爲スマテハ債務者ノ辨濟、義務免除ノ契約、讓渡人ノ債權者ヨリ爲シタル拂渡差止又ハ合式ニ吿知シ若クハ承諾ヲ得タル新讓渡ハ總テ善意ニテ之ヲ爲シタルモノト推定シ懈怠ナル讓受人ハ之ニ抗爭スルコトヲ得ス
當事者ノ惡意ハ書面上又ハ裁判上ニ爲シタル其自白ニ因ルニ非サレハ之ヲ證明スルコトヲ得ス然レトモ讓渡人ト通謀シタル詐害アリシトキハ其通謀ハ通常ノ擧證方法ヲ以テ之ヲ證明スルコトヲ得
裏書ヲ以テスル商證券ノ讓渡ニ特別ナル規則ハ商法ヲ以テ之ヲ規定ス
(栗塚)
本條ハ排斥理由又ハ拒却理由ト云ヘルハ排斥理由卽チ拒却理由ト云ヘル意味ナリ排斥理由ハ辯護方法トシタシ
(委員長)
第四項擧證方法トアルハ證據方法トスベキヤ
(渡)
辯護方法ハ如何
(南部)
報吿委員ハ辯護方法トスベシト雖モ訴訟法ニ於テ防禦方法ト云フニ當ルヤ否別ニ詮議シタシ
(委員長)
拒却理由ハ如何
(南部)
辯護方法中ニ包含スベシト云フニアリ
(渡)
排斥理由ノミヲ失ハズトアルハ如何
(西)
排斥理由ノミトアルハ不可ナリ排斥理由ノミト云ヘバ拒却理由ハ如何スルヤノ問題ヲ起スベシ
(南部)
假リニ防禦方法トシ置キタシ其議ニ附ス
(三島)
第三項「之ヲ爲シタルモノト」アルヲ之ヲ爲シタルモノトノ」トシ推定シトアルハ推定ヲ受ケトシ懈怠ナルノ上ニ且之ヲ以テト云フ字ヲ置キ讓受人ハ之ヲ抗爭スルコトヲ得ズトアルヲ讓受人ニ對抗スルコトヲ得トスベシ
(委員長)
推定ヲ受ケト云フハ債務者カ推定ヲ受クルト云フ意味ナリヤ
(三島)
裁判所ヨリ推定ヲ受クルト云フ意ナリ
(松岡)
原案ノ儘ヲ可トス
結局修正案ニ決ス
(三島)
第四項裁判上ニノ下「ヲ」ノ字ヲ入レタシ
可決ス
第三百六十八條(ノ一) 左ニ揭クル書類ハ財產所在地ノ區裁判所ニ備ヘタル登記簿ニ之ヲ登記ス
第一 公正ト私署トヲ問ハス有償名義又ハ無償名義ヲ以テスル不動產所有權其他ノ不動產物權ノ讓渡ヲ記載シタル生存者間ノ證書
第二 右同一ノ權利ノ變更又ハ抛棄ヲ記載シタル證書
第三 前二號ノ行爲ノ一ヲ目的トスル口頭契約ノ成立ヲ認定シタル裁判書
第四 差押ヘタル不動產ノ競落ノ裁判書
第五 公用徵收ヲ宣言シタル裁判上又ハ行政上ノ證書
不動產ノ抵當及ヒ不動產ニ關スル先取特權ノ公示ハ第四編ノ規定ニ從フ
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一「公正ト私署トヲ問ハス」トアルヲ刪リ生存者間ノ證書トアルヲ生存者間ノ私署證書トシ裁判書ハ訴訟法ニテ判決書トシタルヲ以テ之ヲ判決書トシ第二項ハ刪除スベシトス
(松岡)
第二項ハ刪除スルニ及バズ
結局第二項ハ存在セシムルニ決ス
第三百六十八條 登記ハ公示スヘキ證書ノ正本二通ヲ區裁判所ニ寄托スルヲ以テ之ニ代フルコトヲ得區裁判所ハ其正本二通ヲ校合シタル後各通每葉ノ縁邊ニ登記ノ割印ヲ押捺ス
正本ノ一通ハ其要旨ヲ登記簿ニ記載シテ區裁判所ニ之ヲ保存シ他ノ一通ハ其寄托ノ場所ト日附トヲ縁邊ニ記載シテ當事者ニ還付ス
登記ニ關スル此他ノ法式ハ特別ノ規則及ヒ民事訴訟法ヲ以テ之ヲ規定ス
(栗塚)
本條ハ曩ニ刪除セラレタルモ簡便上存置セシメタシ
(南部)
簡便ナリト云フモ登記上恐ラクハ錯誤ヲ生ズルニ至ラン
(松岡)
然リ
(元尾崎)
第三百六十八條(ノ一)ハ全文ノ登記ナリヤ
(栗塚)
然リ
(南部)
全文登記ト云フニアラズ前回ニ於テ全文ノ文字ヲ刪除シタリ故ニ人民ノ希望ニ依リ全文ヲ記載スルモ又要旨ヲ抄記スルコトヲモ得ベシ
(長)
現行ノ登記法アルモ尙ホ簡便法アレバ其手續ニ依リタシ
(松岡)
敢テ簡便ト云フニアラズ
(元尾崎)
本條ハ除去スベシ
(栗塚)
獨乙ニモ契約ノ要旨ヲ登記スルモ蓋シ證書ノ全文ヲ添付シテ屆ケ置クベキニアラザルカ
(松岡)
登記上ニ付キ全文記載ヲ爲サザルヲ得ザルニ至レバ現行法ニ牴觸スベシ
結局刪除ニ決ス
第三百六十九條 登記ハ關係人ノ請願ニ因リ其合式ニ證明シタル後其費用ヲ以テ之ヲ爲ス
請願者ニハ證書ヲ登記シタル保證書ヲ交付ス
何人ニテモ某ノ不動產ニ關スル登記簿ノ抄本ヲ其費用ヲ以テ要求スルコトヲ得
登記ニ關スル方式ハ特別法及ヒ民事訴訟法ヲ以テ之ヲ規定ス
(栗塚)
本條ハ第一項關係人ハ當事者トシ第三項「某ノ」ヲ刪ルベシ
(委員長)
第一項合式ノ上ノ其ハ如何
(栗塚)
刪リタシ
(三島)
第一項ハ其ヲ重タルヲ以テ合式ノ上ノ其ヲ刪ルベシ
可決ス
第三百七十條 第三百六十八條ニ揭ケタル證書ノ效力ニ因リテ取得シ變更シ又ハ取回シタル物權ハ其登記ヲ爲スマテハ仍ホ名義上ノ所有者ト此物權ニ付キ約束シタル承接人又ハ此所有者ノ權ニ基キテ此物權ト相容レサル權利ヲ取得シタル承接人ニ對抗スルコトヲ得ス但其承接人ノ善意ニシテ且其行爲ノ登記ヲ要スルモノナルトキハ豫メ之ヲ爲シタルトキニ限ル
惡意及ヒ通謀ニ付テハ第三百六十七條ノ規定ニ從ヒ之ヲ證明スルコトヲ得
(栗塚)
本條ハ第一項此物權ニ付キ約束シタルノ下ニ「者又ハ其所有者ヨリ此物權ト相容レザル權利ヲ取得シタル者ニ對抗スルコトヲ得ズ但其者ノ善意ニシテ且其行爲ノ登記又ハ記入ヲ要スルモノナルトキハ豫メ之ヲ爲シタルトキニ限ルトシ第二項ハ證明ノ明ヲ刪ルベシ
(元尾崎)
登記アラザルトキハ第三者ニ對抗スルコトヲ得ズト云フニアラズヤ
(栗塚)
登記アラザレバ第三者ニ對抗スルヲ得ズト云フニアレドモ此物權ト相容レザル卽チ抵當權ノ如キ場合ヲ示シタルモノナリ
第三百七十一條 法律、裁判又ハ契約ニ因リテ前取得者ノ爲メ登記ヲ爲スノ義務アル者カ之ヲ爲サスシテ後ニ取得者ト爲リタルトキハ善意タリト雖モ自己又ハ其相續人若クハ總般承接人ヨリ登記ナキコトヲ申立テテ前取得者ニ對抗スルコトヲ得ス
(栗塚)
本條ハ契約ヲ合意トシ總般ヲ一般トスベシ
可決ス
第三百七十二條 登記ヲ經タル讓渡ノ解除、銷除又ハ廢罷ヲ爲サントスル訴カ善意ノ轉得者ニ對シテ行ハレサル場合ニ在テハ原吿ハ爾後自己ニ對抗シ得ヘキ登記ヲ防止スル爲メ其攻撃スル行爲ノ登記ノ縁邊ニ訴狀ヲ抄記セシム
右ノ訴權ヲ總テノ轉得者ニ對シテ行フコトヲ得ル場合ニ在テハ其攻撃スル行爲ノ登記ノ縁邊ニ訴狀ヲ抄記セサル間ハ裁判所ニ於テ其訴訟ヲ受理セス
行爲取消ノ判決書ハ假執行タリトモ其執行以前ニ訴狀ノ登記ノ末尾ニ之ヲ記載スルコトヲ要ス縱令執行ナキモ亦其判決ノ確定ト爲リタル時ヨリ一ケ月内ニ之ヲ記載スルコトヲ要ス此ニ違ヒタルトキハ其判決ヲ得タル者ヲ五圓以上五十圓以下ノ過料ニ處ス
裁判所ハ請求ヲ却下シ又ハ其手續ノ失效ヲ宣言シタルトキハ其判決ノ確定ニ至リテ請求ノ記載ヲ抹消セシムル爲メ職權ヲ以テ豫メ其抹消ヲ命ス
原吿カ取下ヲ爲シタルトキハ關係人ノ請願ニ因リテ請求ノ記載ヲ抹消ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項訴ガトアルヲ訴權ガトシ登記ヲ防止スルトアルヲ登記又ハ記入ヲ防止スルトシ行爲ノ登記トアルヲ行爲ノ證書ノ登記トシ訴狀ヲ拔記セシムトアルヲ訴狀ヲ拔シテ附記セシムトシ第二項ハ行爲ノ登記トアルヲ行爲ノ證書ノ登記トシ抄記ヲ附記トシ第三項訴狀ノ登記トアルヲ訴狀附記トシ第四項請求ノ記載トアルヲ訴訟ノ附記トシ第五項關係人ヲ當事者トシ請求ノ記載トアルヲ訴訟ノ附記トスベシ
可決ス
(松岡)
第三項「五圓以上」ヲ刪ルベシ
可決ス
第三百七十三條 登記ヲ經タル行爲ノ協議上ノ解除、銷除又ハ廢罷ハ總テ之ヲ任意ノ讓戻ト看做シ第三百六十八條乃至第三百七十一條ノ規定ニ從ヒ登記ヲ爲スコトヲ要ス
右登記ハ登記官吏其職權ヲ以テ原行爲ノ登記ノ縁邊ニ之ヲ記入ス
(栗塚)
本條第二項ハ原行爲トアルヲ取消ト爲リタル行爲ノ證書ノトシ記入ストアルヲ附記ストスベシ
可決ス
第三百七十四條 登記及ヒ縁邊記入ハ總テ利害ノ關係ヲ有スル者ヨリ其抹消又ハ改正ヲ請求スルコトヲ得
右請求及ヒ其判決ハ第三百七十二條ニ規定シタル如ク其爭訟スル行爲ノ登記ノ縁邊ニ之ヲ記入スルコトヲ要ス此ニ違フ者ノ責罰モ亦同條ノ規定ニ從フ
能力ヲ有シ又ハ合式ニ代理セラレ若クハ輔佐セラレタル當事者ハ協議ニテ抹消又ハ改正ヲ承諾スルコトヲ得
裁判上ニテ合式ニ命シ又ハ協議ニテ承諾シタル抹消又ハ改正ハ正當ニ登記ヲ爲シタル權利者ヲ此事ニ付キ異議ヲ爲ス爲メニ召喚シ又ハ其承服ヲ得タルニ非サレハ之ニ對抗スルコトヲ得ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ記入ヲ附記トシ登記ヲ爲シトアルヲ登記又ハ記入ヲ爲シタルトシ行爲ノ登記トアルヲ行爲ノ證書ノ登記ノトセシモ然ルニ行爲ノ證書ノト云フヲ得ルカ
(元尾崎)
行爲ヲ刪リ證書ノ登記トスベシ
(栗塚)
第三百七十二條ノ如キ攻撃スル證書ト云フヲ得ベキヤ
(淸岡)
證書ヲ登記シタルヲ以テ其登記ニ對シテ攻撃スルモノナリ此儘ニ附ス
第三百七十五條 登記官吏ハ前數條ニ揭ケタル登記、記入、抹消若クハ改正又ハ登記保證書ニ於ケル脫漏又ハ訛誤ニ付キ請願人又ハ關係人ニ對シテ其責ニ任ス
(栗塚)
本條ハ記入ヲ記載トスベシ
可決ス
第四款 契約ノ解繹
第三百七十六條 契約ノ解繹ニ付テハ裁判所ハ當事者ノ用ヒタル語辭ノ字義ニ拘ハランヨリ寧ロ當事者ノ共通ノ意思ヲ推尋スルコトヲ要ス
(村田)
解繹ト云フハ解釋トスベシ
可決ス
第三百七十七條 一箇ノ語辭カ各地ニ於テ意義ヲ異ニスルトキハ當事者雙方ノ住所ヲ有スル地ニ於テ慣用スル意義ニ從フ
一箇ノ語辭ニ本來二條ノ意義アルトキハ其契約ノ性質及ヒ目的ニ最モ適スル意義ニ從フ
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項ノ尾ニ若シ同一ノ地ニ住所ヲ有セザルトキハ合意ヲ爲シタル地ニ於テ慣用スル意義ニ從フト云フヲ加ヘタシ
可決ス
第三百七十八條 契約ノ各項目ハ契約ノ全體ト最モ善ク一致スル意義ニ從ヒテ相互ニ之ヲ解釋ス
一箇ノ項目ニ二樣ノ意義アリテ其一カ項目ニ有益ナル效力ヲ與フルトキハ其意義ニ從フ
(栗塚)
本條ハ解繹ヲ解釋トスルノミ
第三百七十九條 契約ノ語辭カ何樣ニ廣泛ナルモ其語辭ハ當事者ノ契約ヲ爲スニ付キ期望シタル目的ノミヲ包含セルモノト推定ス
當事者カ契約ノ自然若クハ法律上ノ效力ノ一ヲ明言シ又ハ特別ノ場合ニ於ケル其適用ヲ明言シタルモ慣習若クハ法律ニ因リテ生スル他ノ效力又ハ適當ニ受ク可キ他ノ適用ヲ阻却セント欲シタルモノト推定セス
無異議
<削除建議>
第三百八十條 總テノ場合ニ於テ當事者ノ意思ニ疑ヒ有ルトキハ其契約ノ解釋ハ諾約者ノ利ト爲ル可キ意義ニ從フ
雙務ノ契約ニ於テハ此規定ハ各項目ニ付キ各別ニ之ヲ適用ス
(三島)
本條ハ諾約者一方ノ利益ト爲ルベキ意義ニ從フト云フハ偏着ナルヲ以テ之ヲ刪リタシ
(尾崎)
諾約者ハ義務者ナルヲ以テ其利益ニ歸スベキ意味ニ解釋スルハ是ナリト云フベシ
第二節 不當ノ利得
第三百八十一條 何人ニテモ有意ト無意ト又錯誤ト故意トヲ問ハス正當ノ原因ナクシテ他人ノ財產ニ付キ利ヲ得タル者ハ其不當ノ利得ノ取戻ヲ受ク
此規定ハ下ノ區別ニ從ヒ主トシテ左ノ諸件ニ之ヲ適用ス
第一 他人ノ事務ノ管理
第二 負擔セスシテ辨濟シタル物及ヒ虛妄若クハ不法ノ原因ノ爲メ又ハ成就セス若クハ消滅シタル原因ノ爲メニ供與シタル物ノ領受
第三 贈遺其他遺言ノ負擔ヲ付シタル相續ノ承諾
第四 第三編第一部第二章ニ規定シタル如ク所有物ニ他人ノ物ノ添附シ又ハ他人ノ勞力ヨリ生スル增加
第五 他人ノ物ノ占有者カ不法ニ收取シタル果實、產出物其他ノ利益及ヒ之ニ反シテ占有者カ其占有物ニ加ヘタル改良但第二百六條乃至第二百十條ニ規定シタル區別ニ從フ
(栗塚)
本條第二ハ負擔セズシテトアルヲ負擔ナクシテトシタシ
可決ス
(委員長)
消滅ト云フ字ハ妥當ナルヤ尙ホ詮議スベシ
(村田)
不當ノ利得ノ下ニ卽チ准契約ノ文字ヲ加ヘタシ
(槇村)
不可ナリ
(栗塚)
報吿委員ニテ第四ヲ「他人ノ物ノ添附ヨリ又ハ他人ノ勞力ヨリ生スル所有物ノ增加トシタシトス
可決ス
第三百八十二條 不在者其他ノ人ノ物ニ患害アリト見ユルトキ契約上、法律上又ハ裁判上ノ委任ナク好意ヲ以テ其事務ヲ管理スル者ハ本主ノ物ヨリ收メタル利益ヲ返還シ且其管理ノ際自己ノ名ニテ取得シタル權利及ヒ訴權ヲ本主ニ移轉スルノ責アリ
右管理者ハ本主又ハ其相續人カ自ラ管理ヲ爲シ得ルニ至ルマテ其管理ヲ繼續スルノ責アリ
又右管理者ハ過愆又ハ懈怠ニ因リテ本主ニ加ヘタル損害ノ責ニ任ス但管理者カ其管理ニ任スルニ至レル事情ヲ酌量スルコトヲ要ス
(栗塚)
本條第一項ハ「物」ヲ「財產」トシ第三項過愆ハ過失トスベシ
可決ス
第三百八十三條 本主ハ管理者カ管理ノ爲メニ出シタル必要又ハ有益ナル諸費用ヲ賠償シ及ヒ管理者カ其管理ノ爲メニ自身ニ負擔シタル義務ヲ免カレシメ又ハ其擔保ヲ爲スコトヲ要ス
無異議
第三百八十四條 債權者ニ非スシテ辨濟ノ名義ヲ以テ供與ヲ受ケタル者ハ其善意ト惡意ト又辨濟者ノ錯誤ト故意トヲ問ハス總テ其取戻ヲ受ク
(栗塚)
本條ハ辨濟ノ名義ヲ以テ供與ヲ受ケタルトアルヲ辨濟ヲ受ケタルトスベシ
可決ス
第三百八十五條 辨濟ヲ受ケタル者カ債權者ナルモ債務者ニ非サル者ヨリ之ヲ受ケタルトキハ辨濟者カ錯誤ニテ辨濟ヲ爲シタルトキニ非サレハ其取戻ヲ許サス
債權者カ辨濟ヲ受ケタル爲メニ善意ニテ其債權證書ヲ毀滅セシトキモ亦同シ
右二箇ノ場合ニ於テ辨濟者カ事務管理ノ訴權ニ依リ又ハ辨濟ノ部ニ揭ケタル代位ノ規則ニ依リ眞ノ債務者ニ對シテ有スル求償權ヲ妨ケス
(栗塚)
本條第二項亦同ジトアルヲ亦其受戻ヲ許サズトシ第三項辨濟ノ部ヲ辨濟ノ節トスベシ
可決ス
第三百八十六條 眞ノ債務者ヨリ眞ノ債權者ニ辨濟ヲ爲シタル場合ニ在テハ債務者カ其負擔シタル物ニ異ナル性質ノ物又ハ自己ニ屬セサル物ヲ錯誤ニ因リ辨濟トシテ與ヘタルトキニ非サレハ其取戻ヲ許サス
或ハ期限ニ先タチテ辨濟ヲ爲シ或ハ辨濟ヲ實行ス可キ場所外ニ於テ辨濟ヲ爲シ或ハ約束シタル物ニ異ナル品質、品格若クハ價格ノ物ヲ以テ辨濟ヲ爲シタルトキモ亦其取戻ヲ許サス但當事者ノ一方ノ錯誤ニ出テタルトキハ其一方ハ爲メニ受ケタル損失ヲ他ノ一方ノ得タル利益ノ割合ニ應シテ賠償セシムルコトヲ妨ケス
(委員長)
本條ハ良度ノ文字ヲ除去シタルハ如何
(栗塚)
良度ハ品格デ包含スベケレバナリ
第三百八十七條 第三百八十一條第二號ニ揭ケタル供與ニシテ辨濟ノ性質ヲ有セサルモノニモ亦第三百八十四條ノ規定ヲ適用ス
然レトモ不法ノ原因ノ爲メ供與シタル物又ハ有價物ハ其原因カ之ヲ供與シタル者ノ方ニ於テ不法ナルトキハ其取戻ヲ許サス
無異議
第三百八十八條 第三百八十一條第二號ニ揭ケタル供與ヲ惡意ニテ領受シタル者ハ其不當ニ得タル物ノ外ニ尙ホ左ノ物ヲ返還ス可シ
第一 元本ヲ領受セシ時ヨリノ適法ノ利息
第二 特定物ノ果實及ヒ產出物但其收取ヲ怠リタルトキト雖モ亦同シ
第三 自己ノ過失又ハ懈怠ニ因ル物ノ滅失又ハ毀損ノ替償縱令其滅失又ハ毀損カ意外ノ事又ハ不可抗ノ力ニ因ルモ其物カ供與者ノ方ニ在ルニ於テハ此損害ヲ受ケサリシトキハ亦同シ
(栗塚)
本條第三替償ハ報吿委員ニテ償金トシタシトス限日償金ハ當否如何
(南部)
償金ト云フヲ可トス
可決ス
(松岡)
受ケザリシト云フハ受ケザルベカリシトシテハ如何
(栗塚)
然ルベシ
可決ス
第三百八十九條 不當ニ領受シタル物カ不動產ニシテ且之ヲ第三者ニ讓渡シタルトキハ初ノ引渡人ハ其選擇ヲ以テ或ハ第三占有者ニ對シテ回復ヲ訴ヘ或ハ領受者ニ對シテ取戻ヲ訴フルコトヲ得
善意ナル領受者ニ對シテハ單ニ不動產ノ讓渡代金ヲ取戻シ又ハ其代金ニ關スル訴權ヲ要求シ惡意ナル領受者ニ對シテハ其評價額ノ替償ヲ取戻スコトヲ得
本條ハ第二項其許價額ノ替償ヲトアルヲ其代金ヲ評價ニテトス
第三節 不正ノ損害卽チ犯罪及ヒ準犯罪
第三百九十條 過失又ハ懈怠ニ因リテ他人ニ損害ヲ加ヘタル者ハ其賠償ヲ爲スノ責ニ任ス
其損害ノ所爲カ有意ニ出テタルトキハ其所爲ハ民事ノ犯罪ヲ成シ無意ニ出テタルトキハ準犯罪ヲ成ス
犯罪、及ヒ準犯罪ノ責任ノ輕重ハ契約ノ履行ニ於ケル詭譎、及ヒ過失ノ責任ノ輕重ニ關スル次章第二節ノ規定ニ從フ
(村田)
第三節卽チ犯罪及ビ準犯罪ヲ刪ルベシ
可決ス
(委員長)
本條末項責任ノ輕重ニ關スルトアルヲ責任ニ關スルトスベシ
可決ス
第三百九十二條 父權ヲ行フ尊屬親ハ己レト同居スル未成年ノ卑屬親ノ加ヘタル損害ニ付キ其責ニ任ス
後見人ハ己レト同居スル受後見人ノ加ヘタル損害ニ付キ其責ニ任ス
瘋癲者ノ看守人ハ瘋癲者ノ加ヘタル損害ニ付キ其責ニ任ス
教師、師長又ハ工場長ハ未成年ノ生徒、徒弟又ハ職工カ自己ノ監督ノ下ニ在ルノ間ニ加ヘタル損害ニ付キ其責ニ任ス
本條ニ指定シタル責任者ハ損害ノ所爲ヲ防止スル能ハサリシコトヲ證明スルトキハ其責ニ任セス
(栗塚)
本條瘋癲者トアルハ白痴瘋癲者トスベシ
(西)
看守人ト云フハ保管者トシテハ如何
(栗塚)
白痴ヲ挿入セザルカ
(元尾崎)
白痴ヲ挿入スルニ及バズ
(槇村)
白痴ヲ挿入スベシ
結局瘋癲白痴者ヲ保管スル者ハ瘋癲白痴者ノ加ヘタル損害ニ付キ其責ニ任ズトス
(栗塚)
第四項師長ト云フハ師匠トシ徒弟ヲ修業者トシテハ如何
可決ス
(栗塚)
本條ニ指定シタル責任者ト云フハ本條ノ責任アル者ハトスベシ
(元尾崎)
原案ノ儘ニテ可ナリ
可決ス
第三百九十三條 主人、親方又ハ工事、運送等ノ營業人若クハ公私ノ事務所ハ其使用人、職工、又ハ屬員カ受任ノ職務ヲ行フ爲メ又ハ之ヲ行フニ際シテ加ヘタル損害ニ付キ其責ニ任ス
(栗塚)
主人、親方トアルモ日本ニテハ主人ト親方トハ二樣ナシ
(委員長)
否ラズ主人ト親方トハ同一ナラズ
第三百九十四條 動物ノ加ヘタル損害ノ責任ハ其所有者又ハ損害ノ時ニ於ケル其使用者ニ歸ス但其損害カ意外ノ事又ハ不可抗ノ力ニ出テタルトキハ此限ニ在ラス
(元尾崎)
馬匹ガ汽車ノ爲メニ驚奔シタルトキハ不可抗力ナルカ
(栗塚)
馬丁ニ於テハ之ヲ不可抗力ト云フヲ得ザルベシ
第三百九十五條 建物其他ノ工作物ノ所有者ハ此等ノ工作物ノ崩頽カ修繕ノ欠缺又ハ築造ノ瑕疵ノ結果ニ出テタルトキハ其崩頽ニ因リテ加ヘタル損害ノ責ニ任ス但此末ノ場合ニ於テハ築造營業人ニ對スル求償權ヲ妨ケス
堤防ノ破潰ニ因リ、投錨若クハ繋纜ノ粗忽ニ因リ又ハ樹木、柱竿、目隱、看板、屋瓦其他堅牢ヲ缺ケル建物ノ部分ノ崩頽墮落ニ因リテ加ヘタル損害ニ付テモ亦同シ
(栗塚)
本條ハ第一項瑕疵ノ結果トアル「ノ結果」ヲ刪ルベシ
可決ス
第三百九十六條 既脫後見ナルト否トヲ問ハス未成年者ハ其有意又ハ粗忽ニテ加ヘタル不正ノ損害ニ付テハ刑事上責任ヲ免カル可キトキト雖モ民事上責任アリト宣言セラルルコト有リ
又右未成年者ハ其使用人若クハ屬員又ハ自己ニ屬スル物ノ加ヘタル損害ニ付キ民事上其責ニ任セシメラルルコト有リ但後見人ニ對スル求償權ヲ妨ケス
無異議
第三百九十七條 前數條ノ場合ニ於テ加害者ニ責任アリト認ムルトキハ裁判所ハ之ニ對シテ主タル裁判ヲ言渡シ且民事擔當人ノ從タル義務ノ廣狹ヲ定ム但民事擔當人ハ犯罪者ニ對シテ當然求償權ヲ有ス
民事擔當人ハ法律ニ特定シタル場合ニ非サレハ犯罪人ノ言渡サレタル罰金ノ責ニ任セス
(栗塚)
本條廣狹ノ文字ハ曩ニ輕重ノ字ヲ使用シタル例アレバ一定シタシ卽チ輕重トスルニ決ス
(栗塚)
犯罪人ハ犯罪者トスベシ
可決ス
第三百九十八條 本節ニ定メタル總テノ場合ニ於テ數人カ同一ノ所爲ニ付キ責ニ任シ各自ノ過失又ハ懈怠ノ部分ヲ知ル能ハサルトキハ其義務ハ併同ナリ
(栗塚)
其義務ハ併同ナリト云フヲ報吿委員ニテ各自其全部ノ義務ヲ負擔ストシタシトス
(元尾崎)
各自其全部ノ義務ヲ負擔スト云ヘバ假令バ百圓ノ債額ニ對シ五人ノ連合アルトキハ卽チ五百圓ヲ負擔スルノ結果ヲ生ズベシ
(栗塚)
然ラバ併同ヲ可トスルヤ
(南部)
併同ト云フハ不可ナリ
(元尾崎)
連帶トシテハ如何
(栗塚)
連帶トハ異ニシテ代理ノ資格ヲ有セザルナリ
(西)
各自其全部ニ付キ義務ヲ負擔ストシテハ如何
結局各自全部ニ付義務ヲ負擔ストスルニ決ス
第三百九十九條 民事ノ犯罪又ハ准犯罪カ刑事ノ犯罪ヲ成ストキハ犯罪人ニ付テモ民事擔當人ニ付テモ刑事訴訟法ヲ以テ定メタル民事訴訟ノ管轄及ヒ時效ニ關スル規則ヲ適用ス
(栗塚)
本條犯罪人トアルヲ犯罪者トスベシ
可決ス
第四節 法律ノ規定
<修正建議>
第四百條 或ル義務ハ人ノ所爲ニ拘ハラス法律ニ依リテ之ヲ負擔セシム卽チ左ノ如シ
第一 或ル親屬間又ハ或ル姻屬間ノ養料ノ義務
第二 後見ノ義務但法律上免除ヲ得サル場合ニ限ル
第三 共有者間ノ義務
<留保>
第四 相隣者間ノ義務但地役ヲ成ササルトキニ限ル
此等ノ義務ニ特別ナル規則ハ其各事項ニ於テ之ヲ揭ク
(栗塚)
本條ハ今村氏ヨリ現時ノ二字ニハ却テ解釋ニ苦マシムベキヲ以テ之ヲ刪除セリト云フ
第二章
總則
第四百一條 義務ノ主タル效力ハ下ノ第一節第二節及ヒ第三節ニ定メタル區別ニ從ヒ其義務ヲ直接ニ履行セシムル爲メ又不履行ノ場合ニ於テハ從トシテ損害ヲ賠償セシムル爲メノ訴權ヲ債權者ニ與フルニ在リ
右ノ外義務ノ效力ハ第四節ニ定メタル義務ノ諸種ノ體樣ニ從ヒテ其廣狹ヲ異ニス
(栗塚)
本條ハ其廣狹トアルハ例ニ從ヒ輕重トシ「從トシテ」ハ「附隨」トスベキノ誤譯ナリ依テ附隨トスベシ
(元尾崎)
廣狹ハ輕重トセズ廣狹ト爲シ置クベシ
(栗塚)
然ラバ第三百九十條及ビ第三百九十七條ノ輕重ノ文字ヲモ廣狹トセザルヲ得ズ
結局輕重ハ廣狹トスルテ決ス
第一節 直接履行ノ訴權
<留保 訴訟法報吿委員報知ス可キモノ>
第四百二條 義務ノ本旨ニ從ヒテ直接ノ履行ヲ債權者ヨリ請求シ且債務者ノ身體ヲ拘束セスシテ履行セシムルコトヲ得ル場合ニ於テハ裁判所ハ其直接履行ヲ命スルコトヲ要ス
引渡ス可キ有體物ニシテ債務者ノ財產中ニ在ルモノニ付テハ裁判所ノ威權ヲ以テ差押ヘ之ヲ債權者ニ引渡ス
作爲ノ義務ニ付テハ裁判所ハ債務者ノ費用ヲ以テ第三者ニ之ヲ作爲セシムルコトヲ債權者ニ許スコトヲ要ス
不作爲ノ義務ニ付テハ其義務ニ背キテ作爲シタルモノヲ債務者ノ費用ヲ以テ毀壞セシメ及ヒ將來ノ爲メ適當ノ處分ヲ爲スヲ債權者ニ許スコトヲ要ス
此等ノ場合ニ於テ損害アリタルトキハ其賠償ヲ爲サシムルコトヲ妨ケス
債務者ニ對スル強制執行ノ方法ハ民事訴訟法ヲ以テ之ヲ規定ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第三項作爲セシムルトアルヲ行ハシムルトシ許スノ下「コトヲ要ス」ヲ刪リ第四項ハ作爲シタルヲ爲シタルトシ處分ヲ爲スヲトアルヲ處分ヲ爲スコトヲトシ許スノ下「コトヲ要ス」ヲ刪レリ
(元尾崎)
作爲トアルハ行ヒトスベシ
(南部)
行ヒトスルハ不可ナリ
(南部)
爲シタルトスベシ
(長)
第三項作爲ノ文字ハ爲サシムトスベシ
可決ス
(栗塚)
本條ハ今村氏ヨリ前案ニハ義務ノ方式及ビ實旨トアルヲ本旨トスルニ付キ佛蘭西語ニテハ方式及ビ實旨ニ當リ目本語ニテハ本旨ト云ヘバ十分ナルベシト云フヲ以テ起案者ニ質問中ナリト云フ
第二節 損害賠償ノ訴權
第四百三條 債務者カ義務履行ヲ拒絕シ又ハ義務履行ノ不能カ其責ニ歸ス可キ場合及ヒ義務履行ノ遲延シタルノミノ場合ニ於テモ債權者ハ強制執行ヲ得サルトキハ債務者ヲシテ損害賠償ヲ爲サシムルコトヲ得
法律ヲ以テ損害賠償ノ額ヲ定メタル場合ノ外當事者之ヲ定メサリシトキハ下ノ區別及ヒ條件ニ從ヒ裁判所之ヲ定ム
無異議
第四百四條 損害賠償ハ債務者カ第三百五十六條ニ從ヒ遲滯ニ付セラレタル後ニ非サレハ之ヲ負擔セス
<第五百六十二條ノ末項ヲ此ニ移スノ建議>
然レトモ不作爲ノ義務ニ於テハ債務者ハ常ニ當然遲滯ニ在リ犯罪ニ因リ他人ニ屬スル金錢其他ノ有價物ヲ返還スルノ責ニ任スル者モ亦之ニ准ス
(栗塚)
今村氏ハ第五百六十二條ノ末項ヲ本條ノ二項トシタルモ報吿委員ハ之ヲ可トセズ
(南部)
假令バ盜取品ハ盜取シタル日ヨリ當然遲滯ニ附スベキモノナリ依テ此修正ハ可ナリ
可決ス
第四百五條 損害賠償ハ債權者ノ受ケタル損失ノ替償及ヒ其失ヒタル利得ノ塡補ヲ包含ス
然レトモ債務者ノ惡意ナク懈怠ノミニ出テタル不履行又ハ遲延ニ付テハ損害賠償ハ當事者カ契約ノ時ニ豫見シ又ハ豫見スルヲ得タル損失ノ替償及ヒ利得ノ塡補ノミヲ包含ス惡意ノ場合ニ於テ豫見スルヲ得サル損害カ不履行ノ避ク可カラサル結果タルトキハ債務者其賠償ヲ負擔ス
(栗塚)
本條ハ第二項償金替償ト塡補トヲ刪除スベシ何トナレバ替償ト塡補トヲ豫見スルノ意味ニアラザレバナリ
(松岡)
原案ノ儘ニシテ不可ナシ
結局又豫見スルコトヲ得ベカリシ損失及ビ利得ノ喪失ノ塡補ノミヲ包含ストス
(栗塚)
第二項惡意ニ於テトアル下ニ「ハ」ヲ入レ損害カトアルヲ損害ト雖ドモトスベシ
可決ス
第四百六條 損害賠償カ主タル訴ノ目的タルトキハ裁判所ハ金錢ニテ其額ヲ定ム
損害賠償ノ請求カ直接履行ノ訴又ハ契約解除ノ訴ノ從タルトキハ裁判所ハ主タル請求ヲ決スルト同時ニ先ツ數額不定ノ損害賠償ヲ債務者ニ言渡シ其淸算ハ證明ヲ待チテ日後ニ之ヲ爲サシムルコトヲ得
又裁判所ハ債務者ニ直接履行ヲ命スルト同時ニ極度ノ期間ヲ定メ若シ此ヲ過クレハ確定ニ決ス可シトシテ其遲延スル日每ニ又ハ月每ニ若干ノ替償ヲ拂フ可キヲ言渡スコトヲ得此場合ニ於テハ債務者ハ常ニ卽時ノ淸算ヲ請求スルコトヲ得
(栗塚)
本條第三項極度ノ上ニ「其」ヲ入ルベシ
可決ス
第四百七條 不履行又ハ遲延ニ關シ當事者雙方ニ非理アルトキハ裁判所ハ損害賠償ヲ定ムルニ付キ之ヲ斟酌ス
無異議
第四百八條 當事者ハ豫メ過怠約款ヲ設ケ不履行又ハ遲延ニ付テノ損害賠償ヲ約束スルコトヲ得
(栗塚)
本條ハ定ムルコトニ付キ之ヲ斟酌ストアルヲ定ムルコトヲ得トスベシ
可決ス
(松岡)
前案ニハ遲延ノ文字ノ上ニ單ニノ字アルヲ以テ之ヲ入レ單ニ遲延ノミニトシテハ如何
結局遲延ノミニ付テノトス
第四百九條 裁判所ハ過怠約款ノ數額ヲ增スコトヲ得ス又不履行若クハ遲延カ債務者ノ過失ノミニ出テサルトキ又ハ一分ノ履行アリタルトキニ非サレハ其數額ヲ減スルコトヲ得ス
無異議
第四百十條 雙務ノ契約ニ於テ不履行ニ付テノ過怠約款ヲ設ケタル債權者ハ其解除ノ權利ヲ失ハス但明白ニ其權利ヲ抛棄シタルトキハ此限ニ在ラス
債權者ハ遲延ニ付テノ過怠約款ヲ設ケタルトキニ非サレハ解除ト過怠トヲ併セテ要求スルコトヲ得ス
(南部)
本條遲延ノ下ヘ「ノミ」ヲ入ルベシ
可決ス
第四百十一條 金錢ヲ目的トスル義務ノ遲延ノ損害賠償ニ付テハ裁判所ハ法律上ノ利息ノ割合ト異ナル額ニ之ヲ定ムルコトヲ得ス但法律ノ特例アル場合ハ此限ニ在ラス
當事者カ損害賠償ノ數額ヲ定ムルトキハ契約上ノ利息ノ最上限以下タルコトヲ要ス
(元尾崎)
契約上ノ利息ノ最上限ト云ヘルハ制限上ノ利息ノ最上限トシタシ
(南部)
現行ノ利息制限法ニ法律上ノ利息ト契約上ノ利息トノ二種アリ
(松岡)
契約上ハ合意上トスベキヤ
(渡)
契約上ト爲シ置クベシ
(栗塚)
契約上ニテ不都合ナシ
第四百十二條 債權者ハ右ノ損害賠償ヲ請求スル爲メニ何等ノ損失ヲモ證明スルノ責ニ任セス又債務者ハ其請求ヲ拒ム爲メニ意外ノ事又ハ不可抗ノ力ヲ申立ツルコトヲ得ス
無異議
第四百十三條 遲延利息ヲ生セシムル爲メ債務者ヲ遲滯ニ付スルニハ裁判所ニ其利息ヲ請求シ又ハ債務者ノ特別ノ追認ヲ得ルコトヲ要ス但法律カ當然此利息ヲ生セシメ及ヒ催吿其他ノ行爲ニ因リテ此利息ヲ生セシムルヲ許セル場合ハ此限ニ在ラス
(栗塚)
本條ハ但以下ハ但法律ガ當然此利息ヲ生ゼシムル場合及ビ法律ガ催吿其他ノ行爲ニ因リテ此利息ヲ生ゼシムルヲ許セル場合ハ此限ニ在ラズトスベシ
可決ス
第四百十四條 要求スルヲ得ヘキ元本ノ利息ハ塡補タルト遲延タルトヲ問ハス其一ケ年分ノ延滯セル每ニ特別ニ約束シ又ハ裁判所ニ請求シ且其時ヨリ後ニ非サレハ此ニ利息ヲ生セシムル爲メ元本ニ組入ルルコトヲ得ス
然レトモ家屋又ハ土地ノ貸賃無期又ハ終身ノ年金權ノ年金、返還ヲ受ク可キ果實又ハ產出物ノ如キ滿期ト爲リタル入額ハ一ケ年未滿ノ延滯タルトキト雖モ請求又ハ契約ノ時ヨリ其利息ヲ生スルコトヲ得
債務者ノ免責ノ爲メ第三者ノ拂ヒタル利息ニ付テモ亦同シ
(栗塚)
第二項ハ利息ノ上ニ元本ノ字ヲ脫セリ
(委員長)
第一項此ニト云フハ何ヲ指スカ
(松岡)
利息ヲ指スベシ
(三島)
第三百三十八條及ビ第三百三十九條等ニ記セル強暴ハ何レモ暴實トスルヲ可トス
可決ス
明治二十一年十月四日
賃貸借ニ關スル議事
(光妙寺)
本議ノ前ニ建議アリ元來「ボアソナード」氏ノ草案ハ賃借權ヲ物權トスルヲ可ナリトシタルカ若シ人權說ニ決スルトキハ今村氏ノ建議中ニ示シタル如ク十數日ニ右起案ヲ了ルモノトセバ他日廢案ニ屬スルトキハ徒勞ニ過ギズト雖ドモ此點ハ畢竟大問題ニ屬スルヲ以テ先ヅ其起案ヲ看彼此相對照シ依テ以テ論決アランコトヲ希望ス
(委員長)
起案者草案ノ主義ヲ改メントスレバ數時月ヲ要スベケレバ右ハ一ノ建議ト爲シ置キ兎ニ角賃貸借ハ人權トスベキヤ物權トスベキヤノ問題ニ付其當否ヲ決スベシ依テ磯部ノ意見書ヲ朗讀スベシ
(磯部)
意見書朗讀
(井上)
賃借權ハ人權ナリト云フ說ヲ贊成ス可シ最モ永小作ト云ヘルモノヲ永貸借ト譯シタルハ穩當ナリヤ否ト云フハ問ハズシテ永小作ハ物權ニシテ通常ノ賃貸借權ハ人權ナリト思考ス第一人權ト物權トヲ區別スル標準ニ付キ論說スベシ個ハ最モ困難ナルベシト雖モ其標準ニ於テハ其權利ヲ第三者ニ對抗シ得ルヲ以テ物權ナリトス假令バ甲乙間ニ關係ヲ有シ甲者ノ權利ヲ乙者ノミニ對抗シ得レバ之ヲ人權ナリトスルヲ以テ區別ノ標準トスベシ此區別ハ確乎タル區別ノ標準ナリト思惟ス然ルニ假令物權タリト雖ドモ第三者ニ對抗スルヲ得ザルモノアリ一例ヲ擧グレバ動產ナリ不動產ナリ佛法ニ依ルモ甲乙間賣買契約ヲ以テ双方承諾アレバ其物權ハ賣主ヨリ買主ニ移轉スベシ特定財產ヲ賣却シタル場合ニ於テ買主ハ直チニ物上權ヲ第三者ヘ對抗スルヲ得ベキヤ否ト云フニ必シモ對抗スルヲ得ベシト云フヲ得ズ動產ナレバ其引渡ヲ受ケ不動產ナレバ之ヲ登記シタル以上ニアラザレバ第三者ニ對抗スルヲ得ズ去レバ人權ト物權トハ如何ト云フニ特定物ニ付テハ他人ノ補助ヲ受ケズ直チニ其物ニ就テ利用シ得ルノ權利ヲ有スルトキハ卽チ物權ナリ若シ其物カ損壞スルニ當テハ賃貸人ノ補助ヲ得テ之ヲ修繕セザレバ直チニ利用シ得ザルモノ卽チ賃借ヨリ生ジタル賃借權ハ人權ナリトス永小作ニ就テノ賃借人ハ其物カ破壞シタルトキ賃貸人之ヲ修繕スルノ義務ナク賃借人自ラ其修繕ヲ爲スニアラザレバ之ヲ利用スルヲ得ズ故ニ永小作ニ付テノ永借權ハ物上權ニシテ通常賃借ニ付テノ賃借權ハ人權ナリト云フ所以ナリ然ルニ實際上ニ至テハ登記アルヲ以テ之ヲ物權トスルモ敢テ差支ナシト雖モ理論上ハ賃借權ハ人權ナリト云ハザルベカラズ
(熊野)
該問題ハ頗ル困難ニシテ容易ニ決スルヲ得ザルモノナルモ第一問題ハ若シ人權トスレバ「ボアソナード」君ノ編纂ノ順序ヲ改ムルノ困難アルヤモ知ルベカラズ終リノ第三問題ハ未ダ之ヲ研究スルノ材料ニ乏シク現ニ日本ノ小作ニ該當スルヤ否ハ論ズル能ハズ併シ賃借權ヲ人權トスルヤ物權トスルヤヲ重モトセルヲ以テ其點ハ之ヲ研究スルヲ得ベシ而シテ其何レカ是ナリヤト云フニ付キ虛心之ヲ思考スルニ人權ニ屬スルヲ以テ正當ナリトス「ボアソナード」君ガ之ヲ以テ物權トシタルハ大ニ理由アリテ然シタルモノト思惟ス其理由ハ「ボアソナード」君草案中明言アラザルヲ以テ能ク之ヲ知ルヲ得ベカラザルモ第三者ニ對抗セラルルヲ以テ一歩ヲ進メテ之ヲ物權ト爲シ尙ホ此外ニ之ヲ物權トスル理由アリテ然ルナラン其理由ハ「ボアソナード」君ガ物權ノ定義ヲ與ヘテ物權ハ之ヲ物上ニ行ヒ諸人ニ對抗スルヲ得ルモノナクトシタリ此定義ヨリ勢ヒ之ヲ物權トセシニアラズヤ賃借人ノ權利ハ他人ノ物ヲ自由ニ使用シ其權利ハ物ノ上ニ行ハレ又佛蘭西法ノ轉得者ニモ對抗スルコトヲ得ルモ其權利ハ物ノ上ニ行ハルルコトトセバ殆ンド物權ナリトス若シ廣ク之ヲ對抗シ得ベシトセバ眞ノ物權ト異ナルコトナシ故ニ「ボアソナード」君ガ賃借ヲ物權トシタルハ同氏ガ物權ノ定解ヲ與ヘ之ニ誤ラレテ物權トスルニ至リシモノニハアラザルカ賃貸借權ハ物權カ人權カハ眞ニ物ノ上ニ行ハルルヤ否ヲ看ルニ一見セバ賃借權ハ家屋ナラバ住居シ土地ナラバ耕作シ其權利ハ物ノ上ニ行ハレタルガ如クナリト雖モ之レ卽チ外形ニ止マレリ其實權利ハ物上ニ行ハルルニアラズ昔時ヨリ之ヲ以テ人權ト爲シタルハ人權ト同樣ノ性質ナルヲ以テ世間ハ一般ニ之ヲ人權ナリトス「ボアソナード」ハ之ヲ混淆シテ物ノ上ニ行ハルルモノト視認シタルベシ使用賃借ニ至テハ其權利ハ外見上物ノ上ニ行ハルル如クナレドモ然ラズ賃貸人ニモ又賃借人ヲシテ其收益ヲ得セシムルノ義務アリ故ニ賃借人ノ權利ハ眞ニ物ノ上ニ行ハルルニアラズシテ賃貸人ノ所爲ヲ以テ其權利ヲ生ゼシムルモノナレバ賃貸人ニハ爲スノ義務アルモノト云フベシ卽チ物ノ上ニ實益ヲ得セシムルヲ以テ「ボアソナード」ノ誤マラレタルハ蓋シ此ニ基因シタルナルベシ使用貸借ト賃貸借ノ權利トヲ比較スルニ使用貸借ノ場合ニハ借人ニハ如何ナル地位アリヤト云フニ物ヲ使用スル上ニ於テハ賃借人ト異ナラズ「ボアソナード」ハ其使用貸借ヲ人權トセシカ寧ロ物權ニ屬スベシ何トナレバ賃借ノ權利ハ賃貸人ニ收益ヲ得セシムルノ義務アリ使用貸借ハ貸人ニハ其義務アラザレバナリ賃借ノ權利ハ人權トスルヲ妥當ナリトス之ヲ人權トスルカ可ナリヤ否ト云ヘバ寧ロ人權トスルヲ便利ナリトス自己ノ所有權ハ之ヲ他人ニ與フルコトヲ得亦收益ノミヲ約シ收益ノミ他人ニ得セシムルハ一ノ便利ニ相違ナシ又所有者ニ於テハ其支分權ヲ與ヘ收益ノミヲ得サシムルコトヲ得ル二個ノ方法ノアルヲ便利ナリトス然ルニ賃借權ヲ物權トセバ之ヲ措置スルノ方法唯一ニ止マルベキモ用收權ハ其物權ヲ讓ラントスレバ之ヲ讓ルコトヲ得又其支分權ヲ讓ラント欲セバ之ヲ讓ルコトヲ得ベシ若シ用收權ト賃借權トヲシテ之ヲ並立セシムルヲ得バ甚ダ便利ナルベシ用收權ハ實際稀有ニシテ賃借ノ契約ハ多カルベシ用收權ハ物權トシテ之ヲ與ヘ賃借權ハ人權トシテ之ヲ與フルトキハ賃借權ハ人權ナルヲ以テ其力薄弱ナレドモ實際上ニ行ハルルコト多シ卽チ世上用收權ヨリ賃借權ノ多ク行ハルルハ用收權ニ於ケル便益ヨリ賃借權ニ於ケル便益ノ多キニ居ル所以ナリ依テ賃借權ハ人權トスルノ便利ナルニ如カズ賃借權ハ用收權ヨリ便益アルニ相違ナシ其便益ハ如何ト云ヘバ賃借ノ權利ハ自己ニ物ノ利益ヲ得ルニ止マラズ賃貸人ニ義務アリテ其收益ヲ得セシメザルベカラズ若シ收得アラザレバ借料ヲ減ズルヲ得ベシ故ニ人權ノ場合ニハ賃貸人ニ義務アルヲ以テ賃借人ハ全損ヲ受クルコトアラザルベシ之ニ反シテ物權トセバ賃借人ニハ收益アラザルモ其損失ヲ引受ケザルベカラズ物權ハ借主其損失ヲ引受ケザルヲ得ザルヲ以テ賃借權ヲ設定スルコト少ナカルベシ賃借權ヲ物權トスレバ賃借權ハ行ハレ難キニ至ルベシ故ニ立法上之ヲ兩存シ一ハ物權ノ用ヲ爲シ一ハ人權ノ用ヲ爲サシムルヲ便益ナリトス去ナガラ用收權ト賃借權ト併立シテ一ハ物權トシ一ハ人權トセバ用收權ハ實際ノ用ヲ爲サザルベシ其理由ハ佛蘭西ノ法律ニテ羅馬以來用收權ハ畢生間ノ權利ナリトシタルヲ以テ自然偶生ノ性質タルベシ故ニ其性質ヲ改メテ有期ノ權利トセザルベカラズ之ヲ有期ノ權利トシテ其利益ヲ得ルニ安堵ナラシメバ用收權ノ效用ヲ害セザルベシ又反對論者ノ根據トスル所ハ轉得者ニ對抗スルコトヲ得ルト云フニアリ總テ人權ヨリ物權トスルコト能ハズ人權ヲ變シテ物權ト爲シタルモノニアラズトセバ賃借人ノ權利ハ轉得者ニ對抗スルヲ得ズ賃貸人カ其權利ヲ他ニ讓與シタル場合ニ於テ其讓受人ハ契約ヲ尊重シテ賃借ノ權利ヲ奪フコト能ハズ讓受人ハ前所有者ノ爲シタル所爲ヲ尊重セザルベカラズ卽チ他人ノ契約卽チ前所有者ノ爲シタル契約ハ後ノ所有者ヲシテ之ヲ尊重セシメザルベカラズト如此スレバ「ボアソナード」ノ之ヲ物權トシタル利益ハ減少スルニ至ルベシ
(光明寺報吿委員)
曰餘モ如何ナル理由アリテ「ボアソナード」ノ草案ニ賃貸借ヲ物權トセシヤヲ考究シタレドモ其理由ヲ發見スルコト能ハザリシナリ然ルニ只今隈野報吿委員ノ述ベシ處ニ因レバ物權ノ適用上斯ノ如クナリシト或ハ然ラン草案ハ地上權賃貸借權永小作等ヲ同一ニ爲シタレドモ地上權ヲ物權ト爲セシヨリ漸次耕地ノ賃借モ物權トナリ他ノモノモ物權ニ引キ込マレタルナラント思考ス斯ク述ブレバ餘ハ人權論者ニ雷同スルニ似タレドモ餘ハ初メヨリ賃貸借權ヲ以テ人權ト確信セシ者ナリ磯部報吿委員ノ說ニ對シ一々辯駁スルコト能ハザレドモ隈野氏ハ用收權トノ比較ヲ取テ論ジ又井上氏ノ述ブル如ク第三者ニ對抗シ得ルヲ以テ物權ニ非ザルハ餘ノ同意ヲ表スル處ナリ人權ニシテ物權ニ近ヅクハ賃貸者ノ賃借者ヲ保護スルノ止ヲ得ザルデ出テタルモノニシテ性質上人權ナルコトハ更ニ疑ヲ容レザル處ナリ其實際上幾分カ物權ニ似タル人權アルハ是レ賃借者ノ利益ヲ保護スルノ點ヨリ起ルモノニシテ立法上人權タルノ原則ヲ動カ可カラザルモノト爲ス能ハズ元來其性質ハ人權ニシテ保護上第三者ニ對抗スルヲ以テ賃借貸ヲ物權ト爲シタルニハアラザルナリ隈野氏ノ所謂用收權ハ物權ヲ有シ賃貸借權ハ人權ヲ有シテコソ始メテ相俟テ其要ヲ爲スコトハ明カナリト信ズ建議者ノ論據モ悉ク適當ノモノトスル能ハザレドモ要スルニ賃借權ノ人權ナルコトハ疑ヲ容ルベキ處ナシ其他編纂ノ順序ニ關スルコトハ之ヲ改ムルノ必要ヲ見ズ且餘ハ本邦ノ慣習上賃貸借ハ物權ナルヤ人權ナルヤハ知ラザルナリ
第三節 擔保
<留保>
第四百十五條 權利ヲ讓渡シタル者ハ讓渡以前ノ原因又ハ自己ノ責ニ歸ス可キ原因ニ基キタル追奪又ハ妨碍ニ對シ其權利ノ完全ナル行使及ヒ自由ナル收益ヲ擔保スルノ責ニ任ス
擔保ニ二箇ノ目的アリ卽チ第三者ノ主張ニ對スル讓受人ノ防禦及ヒ防止スル能ハサリシ妨碍若クハ追奪ノ替償是ナリ
(栗塚)
權利ヲ讓渡シタル者トシタルハ讓渡以前ト云ヘルニ付テハ前案ノ如ク約シタル者ト云フヲ得ザレバナリ
(南部)
本條ハ冒頭ニ物權ト人權トヲ問ハズト云ヘルヲ加ヘタシ
可決ス替償ハ償金トス
第四百十六條 擔保ハ有償名義ノ行爲ニ付テハ返對ノ要約ナキトキハ當然存立シ無償名義ノ行爲ニ付テハ之ヲ諾約シタルニ非サレハ存立セス
然レトモ如何ナル場合ニ於テモ又如何ナル要約ノ爲メニモ讓渡人ハ自ラ讓受人ニ妨碍ヲ加フルコトヲ得ス又第三者カ讓渡人ノ授與シタル權利ニ依リ讓受人ニ妨碍ヲ加ヘ又ハ追奪ヲ爲シタルトキハ讓渡人ハ無擔保ニテ讓渡ヲ爲シ且授與カ讓渡ノ以前ニ在リト雖モ亦其擔保ヲ爲スノ責ニ任ス
右擔保ノ義務ハ讓渡人ノ相續人ニ移轉ス
(栗塚)
本條第二項讓渡人ノ授與シタルトアルヲ讓渡人ヨリ得タルトシタシ
(南部)
讓渡人ヨリ授與シタルトスベシ
(淸岡)
原案ノ儘ヲ可トス
可決ス
<削除建議>
第四百十七條 買主又ハ賃借人ノ爲メニスル賣主又ハ賃貸人ノ擔保及ヒ共同分割者ノ相互ノ擔保ニ特別ナル規則ハ其擔保ヲ生スル契約及ヒ行爲ノ各事項ニ於テ之ヲ規定ス
(栗塚)
本條ハ送リヲ附シタルニ過ギザレバ之ヲ刪ルベシ
(南部)
存在スベシ
可決ス
<削除建議第千二十九條以下第千六十四條以下第千八十四條、第千九十四條、及ヒ第四百六十五條參觀>
第四百十八條 他人ト共ニ又ハ他人ノ爲メニ義務ヲ負擔スル者ハ保證連帶及ヒ不可分ノ事項ニ於テ規定シタル如ク他人ノ免責ノ爲メニ爲シタル辨濟ニ付キ擔保ノ求償權ヲ有ス
又債權者ノ一人カ連帶又ハ不可分ノ義務ノ皆濟ヲ受ケタルトキハ他ノ債權者ハ其一人ノ收メタル利益ノ分配ニ付キ之ニ對シテ特別ノ訴權ヲ有セサルトキハ擔保ノ訴權ヲ有ス
(栗塚)
今村氏ハ本條ヲ刪ルベシ何トナレバ本條ノ意義ハ第千二十九條以下第千六十條以下第千八十四條第千九十四條及ビ第四百六十五條ニ散在セリト云フニアリ然ルニ本條ハ刪除セザルヲ可トス
可決ス
第四百十九條 擔保ヲ受クル權利ヲ有スル者ハ訴ヲ受ケタルトキ民事訴訟法ニ從ヒ擔保人ノ訴訟參加ヲ請求スルコトヲ得
(栗塚)
本條ハ權利ヲ有スル者ハ訴ヲ受ケタルトキトアル「トキ」ハ當時トセザレバトキト云フニテハ漠然ニ屬スベシ又擔保ヲ受クルトアルヲ擔保ニ付キトスルヲ可トス
(尾崎)
擔保ヲ受クルトアルヲ擔保ニ付トシ訴ヲ受ケタルトキトアルハ此儘ニテ可ナルベシ
可決ス
第四百二十條 擔保人ヲ訴訟ニ參加セシメスシテ追奪ヲ受ケ又ハ他人ノ債務ヲ辨濟シタル者ハ主タル訴權ヲ以テ擔保ヲ要求スルコトヲ得但擔保人カ請求ヲ却下セシムルニ有效ナル方法ヲ有セシコトヲ證明スルトキハ此限ニ在ラス
(栗塚)
本條ハ請求ノ上ニ「前ノ」ト云フ字ヲ入レタシ
(元尾崎)
前ノ請求ト云ヘバ後ノ請求ト云フモノアラザルベカラズ
(栗塚)
信最初ノ請求ト後ノ請求トアルベシ
(渡)
前ノト云フ字ヲ挿入スベシ
可決ス
第四節 義務ノ諸種ノ體樣
第四百二十一條 義務ハ左ノ場合ニ從ヒテ其體樣ヲ變ス
第一 義務ノ成立ノ單一、有期又ハ有條件ナルトキ
第二 負擔ノ目的ノ單一、選擇又ハ任意ナルトキ
第三 債權者又ハ債務者ノ單數又ハ複數ナルトキ
第四 義務ノ性質又ハ其履行ノ可分又ハ不可分ナルトキ
義務ハ其體樣ノ變スルニ從ヒテ其效力モ亦變ス
<末項刪除建議>
働方並ニ受方ノ連帶ノ效力及ヒ契約上ノ不可分ノ效力ハ債權ノ抵保トシテ第四編ニ之ヲ規定ス
(栗塚)
本條第一ハ單一トアルヲ單純トシ有條件トアルヲ條件付トシタシ又末項ハ連帶ノ效力及ビ合意上ノ債權ノ不可分ノ效力ハ債權ノ擔保編ニ之ヲ規定ストシタシ
可決ス
(淸岡)
體樣ト云フ字ハ別ニ妥當ノ文字ナキヤ
(栗塚)
義務ノ種類トシテハ如何
(南部)
此儘ニテ可ナリ
(栗塚)
尙ホ再調査スベシ
第一款 成立ノ單一、有期又ハ有條件ナル義務
第四百二十二條 義務ノ成立カ初ヨリ正確ニシテ且卽時ニ要求スルコトヲ得ヘキトキハ其義務ハ單一ナリ
(栗塚)
單一ハ單純トシ有條件ハ條件付トスベシ
可決ス
第四百二十三條 債權者カ或ル時期前又ハ時期ハ確定セサルモ必ス到來ス可キ或ル事件ノ到來前ニ履行ヲ求ムルコトヲ得サルトキハ其義務ハ有期ナリ
當事者ノ定メタル期限又ハ法律ニ依リ許與シタル期限ハ之ヲ權利上ノ期限トス
債務者ノ爲シ得ヘキ時又ハ欲スル時ニ辨濟ス可シト約束シタルトキハ裁判所ハ債權者ノ請求ニ因リ事情ニ從ヒ及ヒ當事者ノ意思ヲ推定シテ其履行ノ期間ヲ定ム但當事者カ無期ノ年金權ヲ設定セント欲シタル場合ハ此限ニ在ラス
(栗塚)
本條第三項辨濟ス可シト約束シタルトキハトアルヲ辨濟ス可シトノ語辭アルトキハトスベシ
可決ス
第四百二十四條 債務者ハ期限ノ利益ヲ抛棄シテ滿期前ニ其義務ヲ履行スルコトヲ得但要約ニ因リ又ハ事情ニ因リ當事者雙方ノ利益又ハ債權者ノミノ利益ノ爲メ期限ヲ定メタル證據アルトキハ此限ニ在ラス
債權者ノミノ利益ノ爲メニ期限ヲ定メタル場合ニ於テハ債權者モ亦其期限ヲ抛棄スルコトヲ得
<末項刪除建議>
當事者カ錯誤ニ因リ滿期前ニ辨濟シタル場合ハ第三百八十六條ニ之ヲ規定ス
(栗塚)
末項ハ今村氏之ヲ刪除シタシト云フモ存在セシメテ可ナリ
(淸岡)
場合ハトアルヲ場合ニ於テハトシ規定ストアルヲ規定ニ從フトスベシ
可決ス
第四百二十五條 債務者ハ左ノ場合ニ於テハ權利上ノ期限ノ利益ヲ失フ
第一 債務者カ破產シ又ハ顯然無資力ト爲リタルトキ
第二 債務者カ財產ノ多分ヲ讓渡シ又ハ其多分カ他ノ債務者ノ差押ヲ受ケタルトキ
第三 債務者カ其供シタル特別ノ抵保ヲ毀滅シ若クハ減少シ又ハ其豫約シタル抵保ヲ供セサルトキ
第四 債務者カ塡補利息ヲ拂ハサルトキ
(元尾崎)
塡補利息ト云フハ合意上ノ利息トシテハ如何
(南部)
合意上ノ利息ト法律ノ利息ト相對シ塡補ノ利息ト遲延利息ト相併フモノナリ
第四百二十六條 權利上ノ期限ノ有無ヲ問ハス又執行力ヲ有スル證書アル場合ト雖モ債務者カ不幸且善意ニシテ債權者カ猶豫ノ爲メ確實ノ損害ヲ受ケサル可キトキハ裁判所ハ債務者ニ相應ナル恩恵上ノ期間ヲ許與スルコトヲ得
又裁判所ハ右ト同一ナル條件ニ從ヒ債務ノ一分ツツノ履行ヲ許スコトヲ得
右ニ反スル要約ハ總テ無效ナリ
無異議
第四百二十七條 恩惠上ノ期間ヲ得タル債務者ハ第四百二十五條ニ定メタル原因ニ由リテ之ヲ失フノ外尙ホ左ノ場合ニ於テモ之ヲ失フ
第一 債務者カ逃亡シ又ハ住所ヲ去リテ債權者ニ其居所ヲ隱秘スルトキ
第二 債務者カ一ケ年以上ノ禁錮ノ刑ヲ受ケタルトキ
第三 債務者カ言渡ヲ受ケタル條件ノ一ヲ行ハサルトキ
第四 債務者カ法律上ノ相殺ヲ爲シ得ヘキ場合ニ於テ自ラ其債權者ノ債權者ト爲リタルトキ
恩惠上ノ期間ハ裁判所ニ於テ更ニ之ヲ延フルコトヲ得ス
(村田)
禁錮ノ刑ト云フハ禁錮トスベシ
(松岡)
受ケタルトキト云ヘバ前ニ禁錮刑ヲ受ケタル如クナルベシ
第四百二十八條 當事者又ハ法律カ義務ノ發生又ハ消滅ヲ未來且不確定ノ事件ノ有無ニ繋テシムルトキハ其義務ハ有條件ナリ此條件ハ第一ノ場合ニ於テハ停止ニシテ第二ノ場合ニ於テハ解除ナリ
又物權ハ主タルト從タルトヲ問ハス之ヲ停止又ハ解除ノ條件ニ繋ラシムルコトヲ得
(栗塚)
本條消滅ハ解除トセラレタシ消滅ト解除トハ其結果ヲ同フセズ有條件ハ條件付トスベシ
(元尾崎)
消滅ハ廢棄トシテハ如何
(南部)
裁判ノ廢棄ト云フ文字アルヲ以テ之ヲ廢棄トスルヲ得ズ
(村田)
取消トスベシ
(栗塚)
取消ト云ヘバ其取消スマデハ成立シタルモノトシ解除ト云ヘバ既往ニ遡リ之ヲ無的ニスルヲ以テ同ジカラズ
(南部)
定義ノ文字ハ容易ニ改ムベカラズ原案ニ決ス
(栗塚)
第二項又物權トアルヲ物權モ亦トシタシ
可決ス
(三島)
主タルト從タルトヲ問ハズトアルハ主從ヲ問ハズトシタシ
(淸岡)
不可ナリ原案ニ附ス
第四百二十九條 停止條件ノ成就スルトキハ契約ノ日ニ遡リテ其效ヲ生ス
解除條件ノ成就スルトキハ當事者ヲシテ契約前ノ各自ノ地位ニ復セシム
無異議
第四百三十條 停止又ハ解除ノ條件カ成就セサル間ハ當事者ノ各自ハ條件ヲ帶ヒタル權利ヲ其儘ニ第三者ニ授與スルコトヲ得
然レトモ其條件ヲ第三百六十七條以下ニ定メタル方法ニ從ヒテ公示シタルニ非サレハ當事者ノ一方又ハ其承接人ハ之ヲ以テ他ノ一方ノ承接人ニ對抗スルコトヲ得ス
無異議
第四百三十一條 解除條件ヲ帶ヒタル權利ヲ有スル者ノ善意ニ出テ且法律ニ從ヒテ爲シタル管理ノ行爲ハ第三者ノ利益ノ爲メニ之ヲ保持ス
解除條件ヲ帶ヒタル權利ヲ有スル當事者ノ一方ト第三者トニ對シテ言渡サレタル判決ハ他ノ一方ノ當事者又ハ其承接人之ヲ援用スルコトヲ得
然レトモ右判決ハ他ノ一方ノ當事者又ハ其承接人ヲ異議申述ノ爲メニ訴訟ニ召喚セサリシトキハ之ヲ以テ其當事者又ハ承接人ニ對抗スルコトヲ得ス但其判決カ管理ノ行爲ノミニ關スルトキハ此限ニ在ラス
(南部)
本條言渡サレタルトアルハ言渡シタルトスベシ
(淸岡)
原案ノ儘ヲ可トス
可決ス
第四百三十二條 條件ノ成就シタルトキハ物又ハ金錢ヲ引渡シ又ハ返還ス可キ當事者ハ其成就セサル間ニ收取シ又ハ滿期ト爲レル果實若クハ利息ヲ交付スルコトヲ要ス但當事者間ニ反對ノ意思アル證據カ事情ヨリ生スルトキハ此限ニ在ラス
無異議
第四百三十三條 契約ノ主タル目的ヲ不能又ハ不法ノ條件ニ繋ラシメタルトキハ其契約ハ無效ナリ
當事者ノ一方カ或ハ禁止ノ所爲ヲ行ヒ又ハ本分ノ責務ヲ盡ササルニ因リテ自己ニ利ヲ得或ハ禁止ノ所爲ヲ行ハス又ハ本分ノ責務ヲ盡スニ因リテ自己ニ害ヲ受ク可キトキハ其條件ハ不法ナリ
不能又ハ不法ノ條件カ契約ノ從タル效力ノミニ關スルトキハ其約款ノミ成立セス
(三島)
不能ノ文字ハ今村氏モ之ヲ妥當ナラズトテ不可爲トスベシト云フ不能ハ自動的ノ意味ナリ不可爲ノ意味ニアラザレバナリ
(南部)
報吿委員ハ不能ヲ可トスト法律上ニ於ケル不能ナレバナリ
(元尾崎)
先ヅ此儘ニ附スベシ
第四百三十四條 條件カ偶然ナルトキ又ハ其全部若クハ一分カ要約者ノ隨意ナルトキ諾約者カ其成就ヲ妨ケタルニ於テハ其條件ハ之ヲ成就シタルモノト看做ス
(松岡)
全部若クハ一部ヲ刪ルベカラズヤ
(南部)
全部若クハ一部ニ關スル場合アリ
第四百三十五條 條件カ全ク當事者ノ一方ノ隨意ナルトキハ他ノ一方ハ其成否ヲ決ス可キ或ル期間ヲ定メント裁判所ニ請求スルコトヲ得
(元尾崎)
或ル期間ヲ定メントハ或ル期間ヲ定メンコトヲトスベシ
可決ス
(三島)
請求スルコトヲトアル「コト」ヲ刪ルベシ
可決ス
第四百三十六條 有爲條件ノ爲メ當事者又ハ裁判所カ或ル期間ヲ定メタル場合ニ於テ事件カ到來セスシテ此期間ヲ經過シタルトキハ其條件ハ之ヲ成就セサルモノト看做ス又條件ノ成否ノ爲メ期間ヲ定メタルト否トヲ問ハス事件ノ到來セサルコトノ確實ト爲リタルトキハ亦同シ
無爲條件ノ爲メ或ル期間ヲ定メタル場合ニ於テ事件カ到來セスシテ此期間ヲ經過シタルトキハ其條件ハ之ヲ成就シタルモノト看做ス又其期間ヲ定メタルト否トヲ問ハス事件ノ到來セサルコトノ確實ト爲リタルトキハ亦同シ
右孰レノ場合ニ於テモ裁判所ハ當事者ノ定メタル期間ヲ延フルコトヲ得ス
(南部)
有爲條件ト云ヒ無爲條件トアルハ報吿委員ニテ有的條件又ハ無的條件トスベシト
(淸岡)
可ナリ
(槇村)
有期條件又ハ無期條件トスベシ
(村田)
有ルノ條件無ノ條件トシテハ如何
(尾崎)
有的無的ヲ可トス
可決ス
(南部)
確實ト爲リタルトキハトアルハ確實ト爲リタルトキモトスベシ
可決ス
(南部)
第一項條件ノ上「又」第二項其期間ノ上「又」ヲ刪ルベシ
可決ス
第四百三十七條 當事者ノ一方又ハ雙方カ條件ノ成就又ハ不成就ノ前ニ死亡シタルトキハ契約ノ效力ハ其相續人ニ對シ働方又ハ受方ニテ存在ス但條件カ其性質ニ因リ又ハ當事者ノ意思ニ因リテ要約者又ハ諾約者ノ一身ノミニ附着シタルトキハ此限ニ在ラス
無異議
第四百三十八條 條件カ如何樣ニ成就ス可キヤ又如何ナル時ニ成就シ又ハ成就セスト看做サル可キヤヲ知ルノ問題ハ當事者ノ明示又ハ默示ノ意思ニ從ヒテ之ヲ決ス其條件ノ一分ノ成就ヨリ生ス可キ效力ニ付テモ亦同シ
(渡)
問題ハト云フ字ハ刪ルベシ
(元尾崎)
問題ノ文字ヲ刪ルハ不可ナリ
(南部)
問題ハ刪ルモ差支ナカルベシ
(淸岡)
「ノ問題」ヲ「コト」トスベシ
可決ス
第四百三十九條 約束シ又ハ讓渡シタル物カ諾約者又ハ讓渡人ノ過失ナクシテ停止條件ノ成就前ニ其價格ノ全部ヲ喪失シ又ハ其過半ノ毀損ヲ受ケタルトキハ契約ハ之ヲ成立セスト看做シ且孰レノ方ヨリ何等ノ要求ヲモ爲スコトヲ得ス
之ニ反シ解除條件ヲ以テ約束シ又ハ讓渡シタルトキハ右同一ノ喪失又ハ毀損ハ要約者又ハ讓受人ノ權利ヲ確定シテ其負擔ニ歸シ且何等ノ返還ヲモ要求スルコトヲ得ス
前二項ノ場合ニ於テ喪失又ハ毀損カ價格ノ半ヲ超エサルトキハ條件ノ成就ハ契約ノ效力ヲ生ス
約束ト云ヘルハ如此約束ニテ可ナルヤ
(栗塚)
諾約トスベシ
可決ス
(淸岡)
孰レノ方ヨリトアルハ孰レノ方ヨリモトスベシ
(南部)
何等ノ要求ヲモト云ヘル「モ」ノ字アルヲ以テ孰レノ方ヨリモノ「モ」ハ無用ナリ
第四百四十條 當事者ノ一方カ喪失又ハ毀損ノ責ニ任ス可キトキハ他ノ一方ハ自己ノ選擇ヲ以テ或ハ損失ノ替償ト共ニ契約ノ履行ヲ請求シ或ハ損害ノ賠償ト共ニ其解除ヲ請求スルコトヲ得
無異議
第四百四十一條 凡ソ雙務契約ニハ當事者ノ一方カ義務ヲ完全ニ履行セサル場合ニ於テ義務ヲ履行シ又ハ履行ノ言込ヲ爲セル他ノ一方ノ利益ノ爲メ常ニ解除條件ヲ包含ス
此場合ニ於テ解除ハ當然ニ行ハレス損害ヲ受ケタル一方ヨリ之ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ要ス然レトモ裁判所ハ第四百二十六條ニ從ヒ他ノ一方ニ恩惠上ノ期間ヲ許與スルコトヲ得
(栗塚)
本條當然ニトアル「ニ」ヲ刪ルベシト云フ說モアリ如何刪ルニ決ス
第四百四十二條 當事者ハ前條ノ解除ヲ行ハサル旨ヲ明約スルコトヲ得
又當事者ハ履行ノ遲滯ニ付セラレタル一方ニ對シ解除ノ當然ニ行ハル可キ旨ヲ明約スルコトヲ得然レトモ遲滯ニ付セラレタル一方ハ自己ニ對シテ他ノ一方カ其解除ヲ申立ツルニ非サレハ自己ヨリ之ヲ申立ツルコトヲ得ス
(元尾崎)
本條ハ何ノ必要アリヤ
(栗塚)
明約ヲ爲サザルベカラズト云フニアリ
(栗塚)
當然ニトアル「ニ」ヲ刪ルベシ
可決ス
第四百四十三條 不履行ノ爲メニ損害ヲ受ケタル當事者ハ默示ノ解除ノ場合ニ於テ未タ之ヲ裁判上ニテ請求セス又ハ明示ノ解除ノ場合ニ於テ未タ之ヲ援用スル旨ヲ述ヘサル間ハ其解除ヲ抛棄スルコトヲ得
無異議
第四百四十四條 裁判上ニテ解除ヲ請求シ又ハ當然ニ行ハレタル解除ヲ援用スル當事者ハ其受ケタル損害ノ賠償ヲ要求スルコトヲ得
本條ハ當然ニトアル「ニ」ヲ刪レリ
第四百四十五條 當事者ハ其權利カ停止條件ニ服シ又ハ其訴權カ權利上若クハ恩惠上ノ期限ノ爲メニ阻止ヲ受クルト雖モ其間ニ於テ本法及ヒ民事訴訟法ノ規定ニ從ヒ自己ノ權利ノ保存處分ヲ爲スコトヲ得
(栗塚)
本條ニ服シトアルハ繋リトスベシ
可決ス
<本條刪除建議>
第四百四十六條 賣買契約ニ於テ特ニ慣用スル隨意ノ停止又ハ解除ノ條件ハ第六百六十六條乃至第六百六十九條ニ於テ之ヲ規定ス
(松岡)
本條ハ單ニ送リヲ附シタルニアラズ
(南部)
解除ノ條件ハトアルヲ解ノ條件ニ付テハトシ第六百六十九條ニ於テ之ヲ規定ストアルヲ第六百六十九條ノ規定ニ從フトスベシ
可決ス
第二款 負擔ノ目的ノ單一、選擇又ハ任意ナル義務
<留保>
第四百四十七條 義務カ特定物、定量物或ハ物ノ聚集又ハ財產ノ包括ヲ目的トスルトキハ其義務ハ單一ナリ
又義務カ同時又ハ順次ニ各別ナル數箇ノ供與ヲ爲スヲ目的トスル場合ト雖モ唯一又ハ連繋ノ契約ヲ以テ其供與ヲ負擔シタルトキハ尙ホ其義務ハ之ヲ單一ナリト看做ス
右孰レノ場合ニ於テモ債務者ハ負擔シタル總テノ物ヲ供與スルニ非サレハ其義務ヲ免カルコトヲ得ス
(栗塚)
本條ハ第一項義務カトアル下ニ一箇又ハ數箇ノヲ加ヘ第二項供與ヲ爲スヲトアル「爲スヲ」ヲ刪ルベシ
可決ス
(村田)
財產ノ上又ハヲ刪ルベシ
(栗塚)
義務カ一箇又ハトアル又ハヲ若クハトシ定量物ノ上ニ又ハヲ加ヘ財產ノ上「又ハ」ヲ刪ルベシ
可決ス
第四百四十八條 義務カ各別ナル二箇又ハ數箇ノ目的ヲ有スルモ債務者カ其中ノ一箇又ハ數箇ノ供與ヲ爲スニ因リテ義務ヲ免カル可キトキハ其義務ハ選擇ナリ
供與ス可キ物ノ選擇ハ債務者ニ屬ス但其選擇ヲ債權者ニ許與シタルトキハ此限ニ在ラス
然レトモ債務者ハ選擇ニテ負擔シタル數箇ノ物ノ各ノ一分ヲ受クルコトヲ債權者ニ強ヒ又債權者ハ其各ノ一分ヲ與フルコトヲ債務者ニ強フルコトヲ得ス
(淸岡)
強フルト云フ「フ」ハ「ユ」トスベキニアラズヤ
(栗塚)
前ニ強ヒトシタルヲ以テハヒフヘホノ音通ニ從ヒ「フ」トシタリ
(北畠)
假名ノ用方正シカラズ
(南部)
假名ハ尙ホ詮議スベシ
第四百四十九條 選擇ヲ有スル當事者ノ孰レタルヲ問ハス二箇ノ物ノ一カ意外ノ事又ハ不可抗ノ力ニ因リテ滅失シタルトキハ義務ハ單一ト爲リテ其殘ル所ノ物ニ存ス
二箇ノ物カ共ニ全部滅失シタルトキハ義務ハ消滅ス
二箇ノ物ノ一カ意外ノ事又ハ不可抗ノ力ニ因リテ其價ノ半額ヨリ多キ部分ヲ喪失シタルトキハ其物ハ債務者ノ選擇ノ目的タルコトヲ得ス
(栗塚)
本條ヨリ第四百五十六條マデハ物ノ滅失シタル場合ニ於ケル損害ノ歸與ヲ規定シタルモノナリ
(渡)
滅失ト云フハ前回ニ在テモ紛論アリ
(元尾崎)
滅失ト云フハ全部ノ亡ブルヲ云ヒ喪失ト云フハ一部ノ亡ブル義ナルベシ
(村田)
然ラズ
(松岡)
債權者ノ撰擇スルアルベキモ債務者ノ撰擇スルアリヤ
(栗塚)
假令バ下總產ノ雜種ナルカ鬼神戶ナルカト云フニ付キ債務者ノ撰擇スルアルベシ
第四百五十條 選擇ヲ有スル當事者カ數人ノ相續人ヲ遺シテ死亡シタルトキハ其相續人ハ不可分義務ニ關シ規定シタル如ク唯一ノ選擇ヲ行フ爲メ協合スルコトヲ要ス
債務者カ實物ノ提供ヲ爲シ又ハ債權者カ合式ノ請求ヲ爲シテ一旦有效ニ行フタル選擇ハ他ノ當事者ノ承諾アルニ非サレハ之ヲ言消スコトヲ得ス
無異議
第四百五十一條 選擇カ債務者ニ屬スル場合ニ於テ二箇ノ物ノ一カ其過失ニ因リテ滅失シタルトキハ義務ハ殘ル所ノ物ニ存シ債務者ハ滅失シタル物ノ價金ヲ與ヘテ其義務ヲ免カルコトヲ得ス
二箇ノ物カ債務者ノ過失ニ因リテ順次ニ滅失シタルトキハ債務者ハ後ニ滅失シタル物ノ價金ヲ負擔ス
又二箇ノ物カ同時ニ滅失シ債務者カ其二箇又ハ一箇ニ對シテ過失アリタルトキハ選擇ハ債權者ニ移轉シ之ヲシテ一箇ノ物ノ價金ヲ得セシム
(栗塚)
價金ト云フハ代價トシタシ
(松岡)
他ノ條項ニハ價金ノ字ナキヤ
(村田)
第五十七條ニ價金ノ字アルヲ以テ此儘ヲ可トス
可決ス
第四百五十二條 同上ノ場合ニ於テ二箇ノ物ノ一カ債權者ノ過失ニ因リテ滅失シタルトキハ債務者ハ義務ヲ免カル但債務者ハ自己ノ選擇ヲ以テ殘ル所ノ物ヲ與ヘ滅失シタル物ノ償金ヲ要求スルコトヲ得
二箇ノ物カ共ニ債權者ノ過失ニ因リテ滅失シタルトキハ債務者ハ自己ノ選擇ヲ以テ一箇ノ物ノ償金ヲ要求スルコトヲ得
二箇ノ物カ一ハ債權者ノ過失ニ因リ一ハ意外ノ事ニ因リテ同時ニ滅失シタルトキハ債務者ハ義務ヲ免カレ債權者ニ對シテ價金ヲ要求スルコトヲ得ス
(栗塚)
本條ニ償金トアルハ價金トナルベキ寫字ノ誤ナリ
(淸岡)
他人ノ物ヲ破滅シタル場合ナレバ償金ト云フベキニアラズヤ
(南部)
第一項債務者ハ義務ヲ免ガルトアルニ但云々要求スルヲ得ト云フハ穩當ナラズ但ト云ヘバ云々ノ限ニ在ラズト云フ歸着ニ落サルベカラズ
(淸岡)
但云々ハ不都合ナシ
(渡)
價金ハ償金ト云フヲ可トス
(村田)
本條末項ハ意外ノ事ニ因リテト云フノミニシテ不可抗力ヲ入レザルハ如何
(栗塚)
不可抗力ト云フハ意外事中ニ包含セルモノトス
(渡)
不可抗力ヲ入ルベシ
可決ス
(村田)
價金ヲ償金トスレバ前條ニアル價金ヲモ償金トスベシ
(南部)
前條ハ歐文ニ價金ノ字アリ本條ハ償金ノ字等シク價金ト修正シタルモ歐文ハ價金ト償金トヲ分別シタルヲ以テナリ
(元尾崎)
前案ヲ可トス
(南部)
本條ハ既ニ償金ト極リシ故償金ト做シ置クベシ
(栗塚)
一般ニ價金トスベシ
(槇村)
償金ト爲スベシ
可決ス
第四百五十三條 契約ヲ以テ債權者ニ選擇ヲ與ヘタル場合ニ於テ二箇ノ物ノ一カ債務者ノ過失ニ因リテ滅失シタルトキハ債權者ハ殘ル所ノ物ヲ要求シ又ハ滅失シタル物ノ價金ヲ要求スルコトヲ得
二箇ノ物カ共ニ債務者ノ過失ニ因リテ滅失シタルトキハ債權者ハ自己ノ選擇ヲ以テ一箇ノ物ノ價金ヲ要求スルコトヲ得二箇ノ物カ一ハ債務者ノ過失ニ因リ一ハ意外ノ事ニ因リテ同時ニ滅失シタルトキモ亦同シ
(松岡)
二箇ノ物共ニ不可抗力ニ因リ滅失シタルトキハ如何
(栗塚)
其義務ヲ免ルベシ
(松岡)
一物ハ不可抗力ニ因リ滅失シ他ノ物ハ過失ニ因リ減失シタルトキハ如何
(尾崎)
過失ノ責メアルトキハ權利者ニ選擇ノ權アルベシ
第四百五十四條 同上ノ場合ニ於テ二箇ノ物ノ一カ債權者ノ過失ニ因リテ滅失シタルトキハ債務者ハ義務ヲ免カル
二箇ノ物カ共ニ債權者ノ過失ニ因リテ同時ニ滅失シタル時ハ選擇ハ債務者ニ移轉シ之ヲシテ一箇ノ物ノ價金ヲ得セシム
二箇ノ物カ一ハ債權者ノ過失ニ因リ一ハ意外ノ事ニ因リテ滅失シタルトキハ債務者ハ義務ヲ免カレ債權者ニ對シテ償金ヲ要求スルコトヲ得ス
(南部)
本條ノ場合ハ過失ニ因リテ滅失シタルト不可抗力ニ因リテ滅失シタルトキト同時ニ起發シタルモノナレバ債務者ニ選擇セシメザルベカラズ
第四百五十五條 前數條ノ規定ニ從ヒ選擇ノ義務カ一箇ノ物ニ歸着シタルトキ又ハ當事者カ其選擇ヲ爲シタルトキハ其義務ノ效力ハ停止條件ノ義務ニ關シ第四百二十九條ニ規定シタル如ク既往ニ遡ホル
(栗塚)
本條ハ又ハ當事者カトアル上ニ其權利ヲ有スト云フ字ヲ加ヘ其選擇トアル其ヲ刪リ其義務ノ效力ハトヽヽヽヽヽヽヽアルヲ其義務ハトシ遡ボルトアルヲ遡リテ效ヲ生ズトシタシ
可決ス
第四百五十六條 債務者カ某ノ物ヲ主トシテ負擔スルモ他ノ物ヲ與ヘテ義務ヲ免カルノ權能ヲ有スルトキハ其義務ハ任意ナリ
右義務ハ任意ニテ負擔スル物ノ辨濟ヲ以テ條件トスル一種ノ解除條件ニ服スルモノナリ
主トシテ負擔スル物カ意外ノ事又ハ不可抗ノ力ニ因リテ滅失シタルトキハ債務者ハ義務ヲ免カル
主トシテ負擔スル物カ債務者ノ過失ニ因リテ滅失シタルトキハ債務者ハ其價金ノ償還及ヒ損害ノ賠償ニ任ス然レトモ債務者ハ任意ニテ負擔スル物ヲ與ヘテ義務ヲ免カルノ權能ヲ有ス
二箇ノ物ノ一カ債權者ノ過失ニ因リテ滅失シタルトキハ債務者ハ其義務免除ヲ申立テ又ハ殘ル所ノ物ヲ與ヘテ滅失シタル物ノ價金ヲ要求スルコトヲ得
二箇ノ物カ共ニ債權者ノ過失ニ因リテ滅失シタルトキハ債務者ハ義務ヲ免カレ且自己ノ選擇ヲ以テ一箇ノ物ノ價金ヲ要求スルコトヲ得
二箇ノ物カ一ハ意外ノ事ニ因リ一ハ債權者ノ過失ニ因リテ同時ニ滅失シ其過失カ孰レノ物ノ上ニ存シタルヤヲ知リ得サルトキハ債務者ハ義務ヲ免カレ且任意ニテ負擔シタル物ノ價金ヲ要求スルコトヲ得
(栗塚)
本條第一項某ノトアルヲ一定ノトシ右義務ハトアルヲ主トシテ負擔スルモノヲ與フルノ義務ハトシ「條件トスル一種ノ」トアルヲ刪リ解除條件ニ服スルモノナリトアルヲ解除スル條件ニ繋ルモノト看做ストシタシ
可決ス
(元尾崎)
第五項ニ於テ二箇ノ物ノ一ト云ヘバ選擇ノ場合ト同ジカラズ
(栗塚)
二箇ノ物ノ一ハ主トシテ負擔スルモノヲ與フルノ義務ヲ指スベシ
(南部)
第五項價金ハ償金トスベキニアラズヤ
(栗塚)
原案ノ儘ニヲ意味シ差支ナシ依テ報吿委員ニテ間違ヲ生ゼザル樣ニ調査スベシ
第三款 債權者及ヒ債務者ノ單數又ハ複數ノ義務
第四百五十七條 債權者及ヒ債務者カ各一人ナルトキハ其義務ハ單數ナリ
債權者又ハ債務者カ初ヨリ數人ナルトキ又ハ當事者カ數人ノ相續人ヲ遺シテ死亡シタルニ因リ債權者又ハ債務者カ數人ナルトキハ其義務ハ複數ナリ
複數ノ義務ニハ連合ノモノ有リ連帶ノモノ有リ不可分ノモノ有リ
(栗塚)
本條ハ起案者ヨリ末項不可分ノモノ有リト云フ上ニ全部ノモノ有リト云フヲ加入シ來レリ
第四百五十八條 連合ノ義務ニ於テハ次款ニ定ムル如ク各債權者又ハ各債務者ハ自己ノ部分外ニ履行ヲ要求シ又ハ訴追ヲ受クルコトヲ得ス
<但以下削除建議>
連帶ノ義務ニ於テハ各債權者又ハ各債務者ハ自己ノ名ヲ以テ自己ノ部分ノ爲メニスルト他人ノ名ヲ以テ他人ノ部分ノ爲メニスルトヲ問ハス全部ニ付キ履行ヲ求メ又ハ訴追ヲ受クルコトヲ得但第四編第一部第二章ニ規定シタル如ク各自カ其實地ノ部分ヲ踰エテ受取リ又ハ支拂ヒタルトキハ擔保訴權ニ因レル相互ノ求償權ヲ妨ケス
(栗塚)
本條ハ但以下ヲ刪ルベキ建議アルモ但書ノ擔保訴權以下ヲ存在シテハ如何
(元尾崎)
但以下ハ全存スベシ
(北畠)
但擔保訴權ニ因レル相互ノ求償權ヲ妨ゲズトスルヲ可トス
可決ス
(村田)
第一項履行ヲ要求シトアルヲ履行ヲ求メトシテハ如何
(栗塚)
可ナリ
(渡)
履行ヲ求ムルコトヲ得ズ又訴追ヲ受クルコトナシトスベシ
可決ス第二項履行云々ハ履行ヲ求ムルコトヲ得又訴追ヲ受クルコトアリトス
第四款 性質又ハ履行ノ可分又ハ不可分ノ義務
第四百五十九條 第四百五十七條ニ揭ケタル單數ノ義務ハ債權者ト債務者トノ間ニ在テハ不可分タル如ク之ヲ履行スルコトヲ要ス但第四百二十六條ヲ以テ一分ノ辨濟ヲ許スコトニ付キ裁判所ニ與ヘタル權能ヲ妨ケス
(栗塚)
本款ノ下性質又ハ履行ノ可分又ハ不可分ノ義務トアルハ少シク變異ニ屬スル如クナルヲ性質又ハ履行ノト云フ字ヲ除カント思惟シタルモ報吿委員中ニテハ同意ヲ得ザルナリ
(松岡)
本條第四百五十七條ニ揭ゲタルトアルヲ刪リタシ
可決ス
第四百六十條 連合ノ義務ニ於テハ債權者ノ各自カ履行ヲ求メ又ハ債務者ノ各自カ訴追ヲ受ク可キ實地ノ部分ハ契約ニ從ヒ又ハ事情ニ從ヒテ之ヲ定ム
前項ノ規定ニ從フヲ得サルトキハ其實地ノ部分ハ平分ニテ之ヲ計算ス但債權ノ利益又ハ債務ノ負擔ニ於テ各自カ其實地ノ部分ニ服スル相互ノ求償權ヲ妨ケス
(栗塚)
本條第二項其實地ノトアルヲ其各自ノトシ第一項契約ニ從ヒトアルヲ合意トスベシ
可決ス
第四百六十一條 債權者又ハ債務者ノ死亡シタル場合ニ於テ單數又ハ連合ノ義務ハ各相續人カ死亡者ヲ代表スル部分ニ付キ働方又ハ受方ニテ其各自ノ間ニ可分ナリ
連帶ノ義務モ當事者ノ相續人ノ間ニ於テハ亦可分ナリ
(村田)
第二項「亦」ハ當事者ノ上ニ轉置スベシ
可決ス
第四百六十二條 複數ノ義務ハ左ノ場合ニ於テ債權者又ハ原債務者及ヒ其相續人ノ間ニ不可分ナリ
第一 負擔スル目的ノ性質ニ因リテ一分ノ履行カ形體上及ヒ權利上不能ナルトキ
第二 義務カ性質ニ因リテ可分ナルモ當事者ノ明示又ハ默示ニテ一分ノ履行ヲ許ササルノ意思アルトキ
(栗塚)
本條ハ前案ト對照セラレタシ第一項原債務者ト云フハ卽チ債務者ヲ指スモノニシテ相續人ニ對スル原ナレバ到底無用ナレバ刪除シタシ
可決ス
(栗塚)
第一ハ目的トアルヲ目的物トシ第二ハ義務カ性質ニ因リテ可分ナルモ當事者ノ明示ノ意思又ハ其期望シタル目途其他事情ヨリ顯ハルル意思カ一分ノ履行ヲ許サザルトキトシタシ
可決ス
第四百六十三條 義務ハ其性質ニ因リテ可分ナルモ左ノ場合ニ於テハ尙ホ當事者ノ意思ニ因リ受方ノミニテ不可分ナリ
第一 債務者ノ一人ノ處分權内ニ在ル特定物ノ引渡ニ關スルトキ
第二 債務者ノ一人カ債務ノ設定名義ニ因リ獨リ履行ニ任シタルトキ
右第一ノ場合ニ於テ數人ノ債權者アルトキハ其一人ノ債務者ハ此數債權者ニ對シテ同時ニ義務ヲ免カル爲メ其數債權者ノ訴訟參加ヲ要スルコトヲ得
(渡)
免ガル爲メトアルハ免ガルル爲メトセザルベカラズ可決ス
<削除建議 第千八十七條參觀>
第四百六十四條 不可分ハ第四編第一部第三章ニ規定シタル如ク性質ニ因リテ可分ナル債務ノ履行ノ抵保ノ爲メ連帶ニ併合シ又ハ併合セスシテ之ヲ要約スルコトヲ得
(栗塚)
本條ハ「第四編第一部第三章ニ規定シタル如」ヲ刪ルベシ
(委員長)
抵保ハ擔保トスルカ
(栗塚)
然リ
(松岡)
債務ノ履行ノ擔保ノ爲メハ債務ノ擔保ノ爲メトシテハ如何
第四百六十五條 債權者ハ一人ニテ不可分債務ノ履行ヲ得タルトキハ他ノ債權者ノ權利ノ限度ニ應シテ之ニ其利益ヲ分與スルコトヲ要ス
又債務者ハ一人ニテ義務ヲ履行シタルトキハ義務ノ原因ニ從ヒ又ハ從來相互ノ關係ニ從ヒテ他ノ債務者ノ分擔ス可キ部分ニ付キ之ニ對シ擔保ノ求償權ヲ有ス
無異議
第四百六十六條 債權者ノ一人ハ要約シタル如ク辨濟ヲ受クルニ非サレハ他ノ債權者ノ權利ヲ減少シ又ハ消滅セシムルコトヲ得ス
債權者ノ一人カ總債務者若クハ其一人ノ義務解脫ヲ主旨トスル更改、免除其他ノ契約ヲ爲シタルカ又ハ其一人ノ債權者ニ對シ適法ナル相殺ノ原因ノ存スルモ他ノ債權者ハ尙ホ債務ノ全部ノ履行ヲ請求スルコトヲ得然レトモ他ノ債權者ハ右一人ノ債權者カ其權利ヲ失ハサリシナラバ第五百二十三條第四項、第五百三十七條第二項、第五百四十三條第三項第四項ノ規定ニ從ヒ其一人ノ債權者ニ分與ス可キ利益ニ付キ訴追ヲ受ケタル債務者ニ對シテ計算ヲ爲ス
(栗塚)
其他ノ契約ヲ爲シタルカトアルハ其他ノ合意ヲ爲シタルトスベシ
可決ス
第四百六十七條 債權者ノ一人ノ爲シタル付遲滯其他ノ保存ノ行爲ハ他ノ債權者ヲ利ス
又債權者ノ一人ノ利益ノ爲メニ時效ヲ停止スル適法ノ原因アルトキハ亦他ノ債權者ノ利益ノ爲メ之ヲ停止ス
(栗塚)
本條ハ「亦他ノ」トアル亦ヲ刪除シタシ
可決ス
第四百六十八條 債務者ノ一人他ノ債務者ノ負擔ヲ加重スルコトヲ得ス又債務者ノ一人ノ付遲滯ハ之ヲ以テ他ノ債務者ニ對抗スルコトヲ得ス
然レトモ債務ノ認定及ヒ其他債務者ノ一人ニ對抗スルコトヲ得ヘキ時效ノ中斷又ハ停止ノ原因ハ之ヲ以テ他ノ債務者ニ對抗スルコトヲ得
(栗塚)
認定トアルハ追認トスベキ誤ナリ
第四百六十九條 債務者ノ一人ノ過失ニ因リテ不可分ノ義務ヲ履行スルコトヲ得サルトキハ損害賠償又ハ過怠約款ハ過失者ノミ之ヲ負擔ス可分義務ノ全部ノ履行ヲ保スル爲メ過怠約款ヲ設ケタルトキト雖モ亦同シ
(栗塚)
可分義務ノ場合ト雖モ過失者ノミ之ヲ負擔スベシ
第四百七十條 第四百六十二條ノ場合ニ於テ不可分義務ノ履行ノ爲メ訴ヘラレタル債務者ハ若シ己レト共ニ言渡ヲ受ケシム可キトキハ之ヲ受ケシムルコトニ付キ他ノ債務者ヲ訴訟ニ參加セシムル爲メ及ヒ之ニ對スル自己ノ求償ヲ裁決セシムル爲メ期間ヲ請求スルコトヲ得
(栗塚)
訴ヘラレタルトアルヲ訴ヲ受ケタルトシタシ
(南部)
訴追ヲ受ケタルト云ヘル例ニ從ヒ訴ヲ受ケタルトスルヲ可トス
可決ス
(委員長)
訴訟ニ參加セシムルト云フハ此儘ニテ可ナルヤ
(松岡)
吿知參加ナルベシ
(栗塚)
然リ
(元尾崎)
「第四百六十二條ノ場合ニ於テ」ヲ刪リタシ
可決ス
第三章 義務ノ消滅
第四百七十一條 義務ハ左ノ諸件ニ因リテ消滅ス
第一 辨濟
第二 更改
第三 免除
第四 相殺
第五 混同
第六 履行ノ不能
第七 銷除
第八 廢罷及ヒ解除
<末項削除建議>
債務者カ免責ト稱スル時效ヲ申立ツルコトヲ得ルノ條件ハ第五編第二部ニ之ヲ規定ス
(栗塚)
本條ノ末項ハ現時起案者ニ質問中ニ係ルヲ以テ追テ報吿スベシ時效ハ證據部類ニ屬スベキモノトシタルヲ以テ免責ト云フヲ得ザルベシ
民法第十九回改正(十月十一日配付)
第四百七十一條末項左ノ如ク改ム
其他義務ハ免責ト稱スル時效ノ條件カ第五編第二部ニ從ヒ具備スルトキハ消滅シタルモノト看做ス
第一節 辨濟
<留保 第二項及ヒ第三項ハ削除建議>
第四百七十二條 辨濟ハ義務ノ本旨ニ從フノ履行ナリ
數箇ノ債務アリテ只一箇ノ辨濟ヲ爲ストキハ第二款ニ從ヒ債務ノ一箇又ハ數箇ニ付キ辨濟ノ充當ヲ爲ス
債權者カ辨濟ヲ受クルコト能ハス又ハ欲セサルトキハ債務者ハ第三款ニ記載シタル如ク實物提供及ヒ供託ノ方法ヲ以テ自ラ義務ヲ免カルコトヲ得
債務者カ債權者ニ對シテ自己ノ財產ヲ委棄スルコトヲ得ル場合ハ民事訴訟法ヲ以テ之ヲ規定ス
(栗塚)
本條第一項ハ前案ノ旨意ニ背クヲ以テ舊ニ復セラレタシ
(淸岡)
現案ノ儘ニテ可ナリ
(三島)
第一項ハ現案ノ儘ニシ別項ニ辨濟ハ單純ナルアリ代位ナルアリトシテハ如何
(栗塚)
第二頂ハ第二款ニ從ヒト云フハ存在スベキヤ
(南部)
刪ラザルベカラズ
(元尾崎)
第二款ニ從ヒト云フハ標題ナルヲ以テ必要ナリ
(南部)
辨濟ハ單純ナルアリトアルヲ辨濟ハ下ノ第一款及ヒ第四款ニ記載シタル區別ニ從ヒ單純ナルアリトシタシ
可決ス
(栗塚)
第二項辨濟ヲ受クルコト能ハサルトアルハ訴ヲ受クルト云フ受クルノ意味ノハ別ニシテ受取ルノ意味ナレハ受取ノトキハ受取リトシテ受クルト區別シタシ
可決ス