第二部 人權卽チ債權及ヒ義務一般
前置條例
第三百十四條 第五百三條ニ義解シタル如キ人權卽チ債權ハ常ニ義務ト對當ス
義務ハ一人又ハ數人ヲ他ノ定マリタル一人又ハ數人ニ對シ或ル物ヲ與ヘ又ハ或ル事ヲ爲シ若クハ爲サルルコトニ羈束スル人定法又ハ自然法ノ繩索ナリ
義務ヲ負フ者ハ之ヲ債務者ト名ツケ義務ニ因テ利益ヲ得ル者ハ之ヲ債權者ト名ツク
本條ハ報吿委員ニテ一項ノ第五百三條ニ義解シタル如キノ十三字ヲ削リ「數人ヲ」ノ下「シテ」ノ二字ヲ加ヘ又「羈束スル」ノ四字ヲ刪リ「服從セシムル」ノ六字ヲ置キ又「繩索」ノ二字ヲ羈絆ニ換フ
(淸岡)
天然ノ義務ト自然ノ義務ト差別アルカ
(栗塚)
差別ナシ
(委員長)
法律上ヨリ云ヘバ自然ト云ヒトロワーヨリ云ヘバ天然ト云フニ定メタレバ如何
(栗塚)
反譯局ニテハ法律上ヨリ云ヘバ自然法ト云ヒトロワーナチユルヨリ云ヘバ天然法ト云フニ定メタリ此點ハ天然法トスルモ別ニ差支ナキモ尙ホ反譯局ニ協議スベシ
(松岡)
自然法ノ繩索ト云フハ如何
(栗塚)
自然法ノ繩索トハ自然義務ト云フガ如シ此レハ學者ノ說ハ兎モ角成文法ニハ別ニ要用ナシ
(委員長)
財產ハ權利ナリト云フ定義ヲ示シタル位ナレバ此所モ自然法ノ文字ナカルベカラズ
(栗塚)
然リ此區別ハ人定法ハ最初ニ訴權アリ自然法ハ權利者訴權アラザルモ義務者ハ其義務ヲ甘ンジ償還スレバ之ヲ取戻スコトヲ得ザルモノナリト
報吿委員修正ハ可決セラル
第三百十五條 人定法ノ義務卽チ法定ノ義務ハ法律及ヒ官憲ノ總テノ方法殊ニ裁判上ニ於ケル訴ノ方法ニ因リ其執行ニ債務者ヲ強要スルコトヲ得ルモノナリ
天然ノ義務ハ裁判上ノ訴權ヲ生セス其効力ハ此第二部ノ附錄ニ規定ス
法律ハ純然タル道徳ノ義務ノ執行ニ於テモ又宗教ノ本分ノ履行ニ於テモ干渉セス
本條ハ報吿委員ニテ法律及ヒ官憲ノトアルヲ法律ノ聽シタル方法ト修正シタリ
(淸岡)
法律ノ聽シタルモノニシテ官憲ニアラザルコトナシ
(栗塚)
公正證書ノ如キ官ノ威力ヲ籍ル場合ヲ示スニアリ
(栗塚)
報吿委員ノ修正シタル聽ノ字ハ許ノ字ニ替ヘラレタシ
(淸岡)
此點ハ法律及ビ法律ノ許シタル方法トシタシ法律ト云ヘバ體ニ屬シ法律ノ許シタル方法ト云ヘバ其作用上ニ屬スルモノナレバナリ
(栗塚)
此條ハ裁判所ノ判決ト又公證人ノ公正證書ノ如キ裁判所ノ判決ヲ用ヒザルモノノ如キヲ指ス
(淸岡)
租稅ヲ徵收サルル義務ノ如キハ此ニ當ラザルカ
(栗塚)
此法ハ私法ナレバ公法ハ包入セザルモ人定法トアルニ依リ公法ノ如キニモ適用セントスレバ適用セランザルコトアラズ
(南部)
ソレハ三百十六條ノ各號中何レノ項ヨリ其義務ノ生ズルモノトスルカ
(栗塚)
第四ヨリ生ズルモノトセラルベシ
(委員長)
官憲ト云フ字ハ國際ノ條約上ニモ推及スルヲ得ベキヤ
(栗塚)
官憲ハ法律以内ノ官憲ナルヲ以テ憲兵トカ檢事トカ云フガ如キモノニハ適用サルルモ國際條約上ニ屬スル如キハ否ラザルベシ
(淸岡)
本分ト云フコトハ信仰上ノ本分ト云フコトナルカ
(栗塚)
然フス宗教上ノ心務トカ云フ如キモノナリ
(淸岡)
然ラバ心務トカ本務トカニシテハ如何
(栗塚)
尙ホ反譯局ニ於テ妥當ノ文字ヲ精撰スベシ
第一章 義務ノ原由卽チ本源
前置條例
第三百十六條 義務ハ左ノ諸件ヨリ生ス
第一 合意又ハ契約
第二 不當ナル卽チ正當ノ原由ナキ利得
第三 有意ニテ又ハ不戒愼ニ因リ加ヘタル不當ノ損害
第四 法律ノ條例
(栗塚)
合意又ハト云フ又ハノ字ハ卽チノ誤リナリ
(淸岡)
不當ナルノナルヲ刪ルベシ
(栗塚)
之ヲ刪リテハ不可ナリ
(渡)
不戒愼ト云ハンヨリ不注意トシテハ如何不戒愼ハ受身的ニ屬シ不注意ト云ヘバ行爲的ニ屬ス況ンヤ有意ニ對スルヲ以テ不注意ト云フヲ可トス
(委員長)
此字ハ反譯局ニ於テ定メザレバ他ニモ差響キアラン卽チ反譯局ノ詮議ニ付ス
第一節 合意及ヒ契約
第三百十七條 合意ハ物權ト人權トヲ問ハス一箇ノ權利ヲ創設シ改設シ又ハ之ヲ消滅セシムルヲ目的トスル二人又ハ數人ノ意思ヲ合致ナリ
合意カ人權又ハ義務ノ創設ヲ主タル目的トスルトキハ其合意ハ契約ナル特別ノ名稱ヲ取ル
(松岡)
是ノ如ク法定スレバ裁判上用語トナルベシ
(南部)
然ルニ契約ノ所ヲ合意トスルコトアルモ根元ヲ詮議スレバ區別アリ
(松岡)
如是ナレバ土地ノ賣買ハ契約ト云ハズ合意ト云フベキニ至ラン何故ニ契約ト云フヲ得ザルカ
(栗塚)
財產ハ權利ナリト云フガ如ク財產ト物トヲ分チタルガ如シ家屋ノ賣買ノ如キハ合意ヲ以テ權利ヲ議與セリ若シ其代償ヲ拂ハザル場合ニハ人權卽チ義務成立ス
(委員長)
目的トスルトキハトハ如何
(栗塚)
之ヲ目的物ト云ハザルハ物事ヲ包スルヲ以テナリ
(松岡)
契約ハ創設ノミニ關シテ改樣ニハ關ラザルカ
(栗塚)
權利ヲ目的トシタルモノハ契約ニアラズ義務ノ目的ナリ
(松岡)
人權ノ改樣トハ如何ナルモノカ
(栗塚)
人權ニハ改樣ナシ物權ノミ改樣アリ
(村田)
擔保義務ヲ保證義務トシタルトキハ人權ノ改樣ナルベシ
(南部)
一個ノ義務ヲ變更スルコトヲ改樣トスベキモノニシテ一分ノ義務ヲ變ジタルヲ云ハズ
(尾崎)
金拂ノ契約ヲ米拂トスレバ改樣ナリ
(委員長)
物權ニ於テハ契約ト云フベカラザルニアラザルモ合意ト云フベキモノカ
(栗塚)
然リ
第一款 合意又ハ契約ノ諸書類
第三百十八條 契約ハ雙務ノモノタリ又ハ片務ノモノタリ
當事者互相ニ義務ヲ負フトキハ契約ハ雙務卽チ雙繋ノモノタリ
一人又ハ數人ノ當事者カ一人又ハ數人ノ他ノ當事者ニ對シ互相ナラスシテ義務ヲ負フトキハ契約ハ片務ノモノタリ〔第千百二條、第千百三條〕
合意又ハトアル又ハヲ卽チト修正ス
(村田)
諸種類ノ諸ノ字ハ不用ナリ
(淸岡)
双務ニハ一人若クハ數人ノ字ナキハ如何
(栗塚)
互相ト云ヘルヲ以テナリ
第三百十九條 契約ハ有價名義ノモノタリ又ハ無償名義ノモノタリ
當事者ノ各自カ他ノ當事者ノ爲メ又ハ第三者ノ爲メ捐給ヲ爲ストキハ契約ハ有償名義卽チ利益ニ係ルモノタリ
當事者ノ一方カ自己ノ方ヨリ何等ノ利益ヲモ給セスシテ他ノ一方ヨリ利益ヲ受クルトキハ契約ハ無償名義卽チ恩惠ノモノタリ〔第千百五條、第千百六條、伊民第千百一條〕
(尾崎)
捐給トハ如何
(栗塚)
犠牲ト云フ意ニシテ双方共ニ品物ヲ棄合フト云ガ如シ
(鶴田)
他ノ當事者ト云フ語ハ穩カナラズ
(淸岡)
各自ノ外ニ他ノ當事者アルニ似タリ
(栗塚)
當事者各自トハ認ムベカラザルカ
(村田)
捐給ノ上ニ他ノ當事者トスレバ可ナリ
(委員長)
契約ハ各當事者ガ他ノ當事者云々トシテハ如何
(南部)
原被吿ノ一方ガ他ノ一方ト云フガ如シ
(松岡)
各當事者トスレバ八百一條ニモ其例アルヲ以テ明了ナルベシ
(村田)
捐給ノ上ニ互ノ字ヲ挿入スレバ明了ナルベシ
(南部)
互ノ字ヲ挿入スレバ各當事者ガ互ニ又ハ第三者ノ爲メ云々トスルヲ可トス
(委員長)
一ノ當事者ガ他ノ當事者ノ爲メトシテハ如何
遂ニ各當事者ガ互ニ他ノ當事者ノ爲メト云フニ修正ス
第三百二十條 契約ハ諾成ノモノタリ又ハ給物ノモノタリ
契約カ其作成ニ付キ當事者ノ承諾ノミヲ要スルトキハ契約ハ諾成ノモノタリ
契約カ承諾ノ外目的タル物ノ引渡ヲ要スルトキハ契約ハ給物ノモノタリ
(鶴田)
作成ト云フハ成立ト云フ事カ
(栗塚)
成立ハ生存ノ意ナルモ作成ハ自ラ形成スルノ意ナリ
(委員長)
此字ハ組成ト云ヲ可トスルニアラズヤ
(栗塚)
組成ハ集合シテ爲シタルノ意トナルヲ以テ作成トシタリ又末項目的ノ上ニ其ノ字ヲ加フルヲ可トス
原案可決ス
第三百二十一條 契約ハ有式ノモノタリ又ハ無式ノモノタリ
承諾カ公ノ卽チ公正ノ證書ニ於テ與ヘラルヘキトキハ契約ハ有式ノモノタリ
其他總テノ場合ニ於テハ契約ハ無式ノモノタリ
(栗塚)
有式無式ハ穩當ノ譯字ニアラザルモ外ニ恰當ノ字ナシ
(淸岡)
公ノ卽チヲ公卽チトシタシ
第三百二十二條 契約ハ堅定ノモノタリ又ハ射倖ノモノタリ
契約ノ成立及ヒ其効力カ合意ノ時ヨリ的確ナルトキハ契約ハ堅定ノモノタリ
契約ノ成立又ハ其効力ノ全部若クハ一分カ偶然ニ係ル事件ニ屬シタルトキハ契約ハ射倖ノモノタリ
(松岡)
射倖ト云ヘバ米相場ノ如キカ
(栗塚)
然リ僥倖ヲ目的ニスルコトナリ
(松岡)
僥倖ト云ヘバ不正ノ嫌ヒアラザルカ
(南部)
僥倖ト云フモ不正ニ限ルモノニアラズ
第三百二十三條 契約ハ主タルモノタリ又ハ從タルモノタリ
契約ノ成立カ他ノ契約ノ成立ニ不關係ナルトキハ契約ハ主タルモノタリ
反對ノ場合ニ於テハ契約ハ從タルモノタリ主タル契約ノ無効ハ從タル契約ノ無効ヲ惹起ス但從タル契約ヲ主タル契約ノ無効ヲ補フヲ目的トスルトキハ此限ニ在ラス〔第千二百二十七條〕
從タル契約ノ無効ハ主タル契約ノ無効ヲ惹起セス但當事者カ其二個ノ契約ヲ不可分ナリト看做シタルトキハ此限ニ在ラス
(鶴田)
事實ノ關係アル契約ハ何レヲ主トスルカ明カナラザレバ共ニ從タラザルベカラザルガ如シ例バ貸金ノ契約ニハ抵當ノ契約アルベシ相互ニ關係スルモノナレバ主從ヲ分ツベカラズ
(南部)
貸金ハ抵當ナキモ成立セザルニアラズ然レバ貸金ノ成立ハ抵當ニ關係セザルナリ
(淸岡)
末項ノ但以下ハ如何ノ場合ナルカ
(栗塚)
甲者乙者ノ地面ヲ買フニ此地面ハ要役地ニナリトシテ買ヒシニ其地役ナカリシトキハ其契約ハ不過分ノ爲メ無効トナル
第三百二十四條 契約ハ有名ノモノタリ又ハ無名ノモノタリ
有名ノ契約ハ固有ノ名稱アリテ此法律又ハ商法ニ於テ特別ナル條例ノ目的タルモノナリ又有名ノ契約ハ之ニ關スル條例ヲ以テ格別ニ規定セサル總テノ場合ニ付テハ此第二部ノ規則ヲ以テ之ヲ管知ス
無名ノ契約ハ此一般ノ規則ニ從フ又有名ノ契約ノ特別ナル規則ハ其有名ノ契約ト最モ類似スル無名ノ契約ニ適用スルコトヲ得〔第千百七條〕
本條二項管知ハ第六百二十三條ノ修正ハ例ニヨリ支配ト修正ス
(淸岡)
之ニ關スル條例ト云フハ右記ノ條例ト同ジカルベキニ之ニ關スルト云ヘバ其意味却テ曖昧ナリ
(南部)
有名ノ契約ト云フニハ例バ賣買契約トカ交換契約トカ云フ固有ノ名稱アリソハ民法及商法ニ特示シ其有名ノ契約ニシテ賣買契約交換契約等ニ規定セザルトキハ云々スベシト云フノ意ナリ此所ハ有名ノ契約ハ右ノ條例ヲ以テ格別ニ云々トシテハ如何
可決ス
(淸岡)
此一般ト云フハ何レヲ指スカ
(尾崎)
第二部ノ規則ヲ云ヒシナリ
(淸岡)
此部ニ揭ゲタルトシテハ如何
末尾ノ契約ニ適用スルヲ得ノ契約ノ下ニ反譯上ニテ之ヲノ二字ヲ入ル
第二款 合意ノ成立及ヒ有効ノ條件
第三百二十五條 一般ニ合意ノ成立ニ付テハ左ノ三箇ノ條件ヲ必要トス
第一 當事者又ハ其代人ノ承諾
第二 的確卽チ定マリテ各箇人カ處分權ヲ有スル目的
第三 眞實ニシテ且合法ナル原由
有式ノ合意卽チ有式ノ契約ハ右ノ外要用ナル法式カ遵守セラレタルトキニアラサレハ成立セス又給物ノ契約ハ返還セラルヘキ物ノ引渡アリタルトキニアラサレハ成立セス〔第千百八條〕
(尾崎)
給物契約ハ返還セラルベキ物ノ引渡アリタルトキニアラザレバ成立セズトハ如何
(栗塚)
給物契約ハ使用貸借消費貸借寄託及ビ質ノ四種外ニ成立セズ此四種ハ皆返還スベキモノナルヲ以テ云稱スルナリ
第三百二十六條 合意ノ成立ニ必要ナル條件ニ關セス其有効ニ付キ左ニ揭クル他ノ二個ノ條件ヲ要ス
第一 承諾ニ瑕疵ヲ付スル錯誤又ハ強暴ノ無キコト〔第千百九條〕
第二 當事者ノ能力アルコト又ハ其有効ニ代理セラレタルコト〔第千百九條〕
折損ハ法律ヲ以テ定メタル場合ニアラサレハ合意ニ瑕疵ヲ付セス
本條ハ報吿委員ニテ條件ニ關セスヲ條件ノ外トス
(鶴田)
折損トハ何ゾ
(栗塚)
土地賣買及ビ分派等ノトキニ損害ヲ被ルコト賣者十分ノ七分派ハ四分ノ一ノ損害アル等ノ如キヲ云フ折損トハ此二樣ノ場合ニシカ使用セザルヲ損害トカ損失トカ云フ文字ヲ用ユルハ宜シカラズト云フニテ折損トセリ
第三百二十七條 承諾ハ利害ノ關係アル者トシテ合意ニ加ハル總テノ當事者ノ意思ノ合致ナリ
當事者ノ一人ノ承諾ナキコトハ他ノ當事者ノ間ニ於テモ合意ノ成ルコトヲ妨ク但之ニ異ナル意思ノ證アルトキハ此限ニ在ラス
(松岡)
本條二項ハ三人アルヲ想像シタルカ
(南部)
然リ
第三百二十八條 承諾ハ書面ニテ又ハ口頭ニテ又然ノミナラス態樣ヲ以テ之ヲ與フルコトヲ得但此終ノ場合ニ於テ同意ノ他ノ方式ニ妨碍アリ且當事者ノ充分ナル意思ノ的確ナル證アルコトヲ要ス
又承諾ハ情況ニ因リ默示タルコトヲ得
(委員長)
默示トハ如何ノ場合カ
(栗塚)
買ハントシタルトキ默シテ代價ヲ渡シタルガ如シ
(鶴田)
默示タルコトヲ得トハ緊當ナラズ
(淸岡)
默示スルヲ得トスレバ可ナリ元來示ノ字ニ弊アリ
(栗塚)
暗默ニ與ヘラルルコトヲ得トスレバ宜シカルベキモ默示ト云フ字ハ慣用ニ屬シタルヲ以テ此儘ヲ可ナリトセン又曰默示ニテ與フルコトヲ得トシテハ如何
(南部)
然ラバ默示ニテ之ヲ與フルコトヲ得トセザルベカラザルナリ寧ロ原案ヲ可トセン
(委員長)
默示ト云フ固定シタルモノアルトセバ原案ニテ不都合ナシ
(栗塚)
向ホ反譯局ニ協議スベシ
第三百二十九條 提供卽チ言込ハ之ヲ受ケタル者ニ知ラシメテ言消サザル間ハ受諾セラルルコトヲ得
提供卽チ言込ヲ爲シタル者カ死亡シ又ハ契約スルノ無能力ニ陷リタルトキハ他ノ當事者ノ受諾ハ其未タ此事實ヲ知ルニ至ラサル間ハ有効ナリ
若シ受諾ノ爲メ期間カ指定セラレタルトキハ提供ハ此期間ノ滿了ノミニ因テ終ル
郵便又ハ電信ノ錯誤ハ差出人ノ負擔トス但官署ニ對スル求償權アルトキハ之ヲ行フコトヲ妨ケス
(栗塚)
舊案ニハ「之ヲ受ケタル者ニ知ラシメテ言消等ノ文字」アラザルモ「カークード」ノ注意ヲ以テ起案者此文字ヲ挿入シタリ又此條ハ商法ト牴觸スルニ付若シ此儘議定シタレバ商法ハ此ニ關スル點ニ付テ其牴觸ヲ改メザルベカラズ
(尾崎)
牴觸トハ何處ノ所カ
(今村)
民法ノ主義ハ甲ノ商人ガ乙商人ニ書面ヲ以テ賣買契約ヲスルニハ乙之ヲ承知シ受諾ヲ發シタリトセンニ此場合ハ契約成立ス卽チ該契約ガ社會ニ成立シタルガ故ナリ商法ノ主義ハ受諾ノ返事ヲ發スルモ其返事未着ノ間ハ日後電信ヲ以テ其契約ヲ取消スヲ得ベシ
(委員長)
佛國法ニハ此點ハ如何アルカ
(栗塚)
佛國民法ニハ明文ナシ
(松岡)
此點ハ民事上ヨリモ商事上ニ關スル場合多カルベシ商事上ノ通例ハ書信ヲ發スルモ電信ヲ以テ取消スヲ得ベキモノナリシモ本條第一項ハ何ニシテモ不都合ナキニアラズヤ
(栗塚)
「ボアソナード」ハ受諾者受諾ノ返報ニ接セザルモ契約成立スルナリ「ロヘスレール」ハ之ヲ受諾スルモ返報ニ接セザル間ハ其契約成立セザルニ付キ取消スヲ得ベシトセリ
(委員長)
民法ニハ此場合稀ナルガ商法ニハ頻屡ナルベシ故ニ商事上ニ關シテハ「ボアソナード」ノ意見及ヒ「ロヘスレール」ノ意見トニ付キ可否決ヲ取ルベシ
(尾崎)
先ニ到着シタル申込ヲ以テ受諾スルモノナレバ夫ヲ以テ契約ノ合致トスベシ
(松岡)
初發ノ書面ヨリ後發ノ電信先着スルヲ以テ先着ノ音信ヲ以テ受諾スルモノナレバ電報ニ係ル受諾ヲ以テ合致トセザルベカラズ
(南部)
發信ハ之ヲ近所間ノモノト想像セバ先言ガ先傳スルニアラズヤ故ニ初信ヲ以テ契約成立ノ端トナサザルベカラズ
(栗塚)
「ボアソナード」ノ意見ハ提供者ヲ自在ニシテ受諾者ヲ束縛セリ「ロヘスレール」ハ受諾者ハ自由ニテ提供者ヲ束縛ス「ロヘスレール」ハ提供者申込ト同時若クハ未着ノ間ハ取消スヲ得ベシ「ボアソナード」ハ受諾者一旦發シタル受諾ハ之ヲ取消スヲ得ズトシタレバ此束縛ハ双方互角ナモノナリ要スルニ此點ハ受諾ガ何時成立スルカヲ示シタルナリ
(鶴田)
提供ヲ受タル者ハ受諾ノ旨未ダ提供者ニ逹セザル前又ハ逹スル同時迄ニ取消スコトヲ得トシテハ如何
(委員長)
先鶴田委員ノ修正說ヲ取リ他日「ボアソナード」ヨリ商法ニ付キ回答アル前此可否ヲ決スベシ
(今村)
先日ノ雨水溜ト云フハ「ボアソナード」ノ意ニテハ浄水溜ニシテ雨水ニアラズト
(栗塚)
三項ハ幾圓ノ代價物ヲ買取スベキニ付キ何日間ノ後ニ於テ取引スト云ヘバ何日間ノ期限ハ之ヲ守ラザルベカラズ
(松岡)
代價ヲ守ルノ義務トハ如何
(栗塚)
「ロヘスレール」ノ意見ハ代價ヲ變ズルコトヲ得ザルコトナリ
第三百三十條 當事者カ錯誤ニ因リ同一ノ合意ヲ爲スノ意ナリ又ハ同一ノ目的若クハ同一ノ原由ニ着服セサリシトキハ承諾ナシ
合意ノ縁由ニ付テノ錯誤ハ其レノミニテハ決シテ無効ノ原由タラズ但當事者ノ一方ノ行ヒタル詭譎ニ付キ定ムル所ノモノハ此限ニ在ラス
共同契約者ノ人ニ付テノ錯誤ハ恩惠ノ契約ニ於ケル如ク人ニ付テノ着目カ決意ノ原由タリシトキハ合意ノ絕對ノ無効ヲ惹起ス〔第千百十條第二項〕
債務者ノ無資力ノ危險又ハ物ヲ保存スルノ義務ヲ惹起スル有價名義ノ契約ニ於ケル如ク人ニ付テノ着目カ合意ノ附隨ノ原由ノミナルトキハ合意ハ人ニ付テノ錯誤ノ爲メ單ニ取消スコトヲ得ヘキモノタリ〔同上〕
(栗塚)
一項ハ買フベキト借ルベキト意思相違シタルトキハ同一ノ合意ニアラズ又黒丈ヲ得ベキ目的ガ白丈ニテアリシトキハ目的ノ異ルナリ原由ト云フハ目的ト表裏シタルモノニシテ一方ニ目的トスレバ一方ノ原由トナルベシ又一方ノ原由トナレバ他ノ一方ノ目的トナル
(委員長)
例バ丈ヲ贈付スルハ目的ニシテ其手立ハ原因ナラン
(南部)
目的ハ丈ノ黒白ニアルモ其丈ガ賣者ノ所有ニアラザルトキハ原由ノ目的ノ異ナルモノナリ
(委員長)
承諾ナシト云フハ「ナシ」トシテモ不可ナキカ
(松岡)
「ナキモノトス」トセバ可ナリ
可決ス
(栗塚)
二項縁由トハ家屋賣買ガ槻望ノ爲メトカ云フガ如キハ縁由ナリ
(淸岡)
縁由ハ縁因トシテハ如何
(松岡)
遠因トシテハ如何
(栗塚)
原語ハモチーフナルヲ以テ縁由ニ外ナラズ三項ハ共同事業ハ某人ニ限リ共同ヲ希望シタルトカ或ハ某人ニ書畫ヲ依頼スルトカハ恰モ恩惠契約ノ如ク誰レト限リシニ其決意ニ錯誤アリタルトキハ合意ハ無効ナリ絕對ハ對等ト相對シ無双ノ意ニシテ一般ニ向テ成立セズ對等トハ其人ニ限リ無効ナリト云フ意ナリ
(松岡)
共同ノ字仲間ノ如キ意アルヲ以テ刪ルベシ
可決ス
(委員長)
共同ヲ刪レバ相互トシテハ如何
(栗塚)
其錯誤ハ人ノ上ニ付テノ間違ナリ衆中ニ付テ誰某ハ財產家ト思ヒシニ異レリト云フ意ニアラズ四項ハ有償契約ナレバ對手人誰ニテモ差閊ヘナカルベキモノナルニ否ラズ例ヘバ某人ヨリ借家ノ來談アリシヲ以テ之ヲ諾シタルニ住家者ハ其人ニアラズシテ外人ナルトキハ其危險ヲ慮シ又保險上ノ損害タランコトヲ危ミ之ヲ借サザルベシ卽チ貸家ノ合意ニ附隨ノ原由タル人違ヒナルトキハ單ニ之ヲ取消シ得ベシ是對等ノ無効ナリ
第三百三十一條 物ニ付テノ錯誤カ當事者ノ其物ニ存在スト信セシ主タル品質ニシテ且其物ヲ要約若クハ諾約スルコト又ハ得取若クハ移付スルコトニ付キ當事者ヲ決意セシムルニ助成シタルモノノ一箇又ハ數箇ニ存スルトキハ錯誤ハ單ニ承諾ニ瑕疵ヲ付ス
物ノ原質タル品質ハ反對ノ證アルマテ當事者ノ意思ニ於テ主タル品質ト看做シタルモノト推定セラル
右ニ反シテ物ノ原質タラサル品質ハ主タル品質ト看做サレス但當事者ノ意思カ此事ニ付キ明示セラレ又ハ明カニ情況ヨリ見ハルルトキハ此限ニ在ラス
時代、出處又ハ用方ノ如キ物ノ無形ナル卽チ原理學上ノ品質ニ付テモ亦同シ
算數、名稱、日附又ハ場所ノ錯誤ハ第五百八十二條ニ之ヲ規定ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ文字ヲ修正セシモ其修正ハ採用セラレザルヲ望ム凡テ反譯ノ方ニ於テハ最初ノ反例トハ異ニシテ追々直譯體ニナリタル商法ノ如キハ最モ多シトス之ヲ報吿委員ニテ修正シタルハ文ヲ明了ニスルトカ或ハ難澁ヲ避クルトカ云フニ過ギズ元來報吿委員中ニテ修正スベキ所ハ當初反譯上ニテ圓滑ニ反譯スルヲ得ルモノナレバ反譯ノ際之ヲ訂正スルコトニスベシ又曰一項ハ目的物ハ異ナラズ例セバ其馬定アラビヤ種ト思考シ購買シタルニ其馬アラビヤニアラズ一個加フルニ猶ホ牛齡點モ相違シタルトキハ卽チ數箇ノ錯誤タリ
(委員長)
要約ト諾約トハ何ノ差アルカ
(栗塚)
負ハシメントスルハ要約買ハントスルハ諾約ナリ
(鶴田)
主タル原質トハ何カ
(栗塚)
例バ金煙管ヲ求メタシト云フトキハ金ガ主タル原質ナク又金銀何レニテモ彫刻アル煙管ヲ求メタシト云ヘバソハ原質ニアラザルモ刻物ガ主タル品質トナル
(鶴田)
反對ノ證アルマデトハ何フ
(今村)
三項ノ如キ原質ニアラザルモノヲ目的トシタルトキハ反對證ナク
(松岡)
如此錯誤ガ契約ノ瑕疵タルニ過ギザルカ
(栗塚)
然リ如此ハ絕對ノ無効タリト云フベカラズ
(委員長)
二項ノ物ノ主タル品質ハ云ハズトモ知ルベキニアラズヤ
(今村)
此ノ明記ナクンバ主タル品質ヲ定ムルニ苦ム
(松岡)
原質ト目的ノ差ハ如何
(栗塚)
例バ金ノ縁頭ト云フハ縁頭ガ目的ニシテ金ト云ヒ銀ト云フハ原質ナリ
(鶴田)
此點ハ主タル品質ハ原質ト否トニ拘ハラザルヲ示シタリ
(委員長)
四項ノ思想上トアル修正ハ尙ホ反譯局ニモ協議スベシ
本條ハ報吿委員修正ニテ「推定セラル」ヲ「推定ス」ト「看做サレス」ヲ「看做サス」ト「原理學上」ヲ「思想上」ト修正ス
第三百三十二條 法律ノ錯誤ハ或ハ合意ノ本性其適法ノ効力又ハ其原由ニ存スルトキ或ハ物又ハ人ノ適用ノ品質若クハ分限ニ存シテ其品質若クハ分限カ全部又ハ一分ニ付キ決意ヲ爲サシメシモノタルトキハ其法律ノ錯誤ハ事實上ノ錯誤ノ如ク承諾ヲ排除シ又ハ之ニ瑕疵ヲ付ス
然レトモ裁判所ハ染リ謹愼シ且情況ニ隨ヒ錯誤ヲ宥恕スルコトヲ得ヘキトキニアラサレハ法律ノ錯誤ノ爲メ合意ノ無効ヲ認許スルコトヲ得ス
法律ノ錯誤ハ責罰ニ對シ、時期ヨリ生スル適法ノ失權ニ對シ又ハ證書ニ付キ定メタル方式ノ違背ヨリ生スル無効ニ對シテモ又一般ニ公ノ秩序ニ係ル法律又ハ規則ノ條例ノ不知ニ關スルトキニ於テモ決シテ當事者ヲ復起セシムル爲メニ認許セラレス
本條ハ報吿委員ニテ一項法律ノ錯誤ハヲカト改ム或ハ物ノ下又ハ人ノ三字ヲ刪リ品質ノ下若クハノ三字ヲ又ハトレ其又ハノ下ヘ「人ノ適法ノ」五字ヲ加入ス末項認許セラレズヲ認許セズト修正ス
(栗塚)
合意ノ本性ノ錯誤ハ使用貸借ナリト恩惟シタルモノ賃貸借ナル場合ノ如キナリ適法ノ効力ト云フハ賣者ハ其賣物ニ擔保スル如キヲ云フ原由ニ存スルトハ義務ノ更改ニ依リ賣慰金ヲ證書ニ更改セントスル際其物ハ已ニ義務相殺ヲ以テ濟了ニ關シタル如キモノナリ物ノ適法ノ品質ノ錯誤ハ公有物ノ賣ルベカラザルモノヲ賣ルガ如キモノナリ人ノ適法ノ分限ハ能力アル人間ノ如キ是ナリ
(松岡)
公有物ノ賣買ハ元來不成立ノモノナルニ之ヲ瑕疵ノミトスルハ如何
(鶴田)
本條ハ末項ヲ初項ニ換置スベシ初項及ビ二項ハ其猶豫ヲ示シタルニ過ギズ
(淸岡)
事實上ノ錯誤ハ元ト之ヲ許ストシ法律上ノ錯誤モ此場合ニハ之ヲ許スト云フ譯ナリ
(委員長)
法律ノ錯誤ハノ下或ハヲ本性ノ下ニ轉置シテハ如何
(栗塚)
其ト云フ字ヲ以テ合意ヲ受タルヲ以テナリ
(委員長)
其品質若クハ分限ガヲノトシテハ如何
(栗塚)
全部又ハ一分ハ合意ノ全部若クハ一分ナルヲ以テナリ
(委員長)
詭譎ハ如何
(栗塚)
無妄ナル意ナリ
(委員長)
寧ロ注意シトスルヲ可ナリトスベキモ文字上ノ議論ナルヲ以テ反譯局ニ附ス
(栗塚)
注意ト改メタシト卽チ修正ス
(松岡)
三項條例ノ字ヲ刪リタシ成立セズ
第三百三十三條 詭譎ハ承諾ヲ排除セス又ハ之ニ瑕疵ヲ付セス但其詭譎カ前三條ニ記載セル如ク特立シテ承諾ヲ排除シ又ハ之ニ瑕疵ヲ付スルノ効力アル錯誤ノ一ヲ惹起シタルトキハ此限ニ在ラス
其他ノ場合ニ於テハ詭譎ハ之ヲ行ヒタル者ニ對スル損害賠償ノ訴權ノミヲ生スルコトヲ得
然レトモ若シ詭譎ヲ行フ者カ一方ノ契約者其者ニシテ且詐術カ若シ其詐術ナクハ欺カレタル他ノ一方ノ者ニ於テ契約セサルヘカリシ程ノモノタルトキハ其欺カレタル者ハ補償ノ名義ニテ合意ノ取消ヲ得又損害アルトキハ其賠償ヲモ得ルコトヲ得
此場合ニ於テ合意ノ取消ハ善意ナル第三者ヲ害スルコトヲ得ス〔第千百十六條第一項〕
報吿委員ニテ詭譎ヲ行フ者トアルヲ本人ト改メ「取消ヲ得」ヲ求メトシ「得ル」ヲ得ヲ求ムルヲ得トス
(栗塚)
二項ノ得ルコトヲ得ハ報吿委員ニテ求ムルコトヲ得ルトシテ差障ナシト云フニ付キ修正シタリ又曰其他ノ場合トハ排除セズ瑕疵ヲ付セズノ外ヲ指ス
(鶴田)
補償名義ニテトハ如何
(村田)
人權ヲ以テ取消スト云フコトナリ
(栗塚)
補償名義ヲ以テト云フハ第三者ニハ及ブベカラズ對人權ヲ以テスルノ意ナリ
(淸岡)
詭譎ノ本人ガ一方ノ契約者其者ニシテトアルハ晦暗ナルニアラズヤ
第三百三十四條 強暴ハ當事者ノ一人ノ合意ニ付テノ同意カ其者ノ抵抗スルコトヲ得サリシ暴行ニ因テ迫取セラレタルトキハ承諾ヲ排除ス
人ニ熟慮スル總テノ能力ヲ失ハシムル抗拒スルコトヲ得サル力ニ出テタル危難ト雖モ一個ノ急迫ナル危難ヲ避ル爲メ其人カ過度若クハ無思慮ナル約務ヲ契約シ又ハ無分別ナル移付ヲ爲シタルトキモ亦同シ
暴行、脅迫又ハ危害ノ抗抵ス可カラサルニアラスト雖モ或ハ當事者ノ身體又ハ其財產ノ爲メ或ハ他人ノ身體又ハ其財產ノ爲メ卽時若クハ切迫ナル一層重大ノ害ヲ避ル爲メ當事者ヲシテ契約スルコトニ決意セシメタルトキハ強暴ハ承諾ノ瑕疵タルノミ〔第千百十二條〕
(栗塚)
二項反譯上抗拒スルコトヲ得ザルヲ不可抗力トシ報吿委員ニテ一個ノ二字ヲ刪リ又三項ノ危害ヲ危難ト修正ス
(鶴田)
二項ノ不可抗力ニ出デタル危難ト雖モトハ如何
(栗塚)
強暴ニアラザル場合ト雖モト云フ意ナリ
(鶴田)
三項ハ強暴脅又ハ危難ノ外ヲ云フ乎
(栗塚)
此點ハ取テ格鬪セズ契約シタルトキヲ云フ
(委員長)
一項合意ニ付テノ同意トアルハ日本文ニテハ讀難キニアラズヤ先此儘ニ附ス
第三百三十五條 強暴又ハ脅迫ニ因リ身體又ハ財產ヲ危害ニ付セラレタル第三者カ契約者ノ配偶者、其直系ノ親屬又ハ姻屬ナルトキハ強暴ハ常ニ契約者其者ニ加ヘラレタリト看做サル〔第千百十三條〕
親屬ナルト姻屬ナルト又ハ外人ナルトヲ問ハス其他ノ人ニ付テハ裁判所ハ此等ノ者ニ對シテ爲サレタル脅迫カ契約者ノ承諾上ニ及ホシタル影響ヲ其情況ニ隨ヒテ査定ス〔伊民第千百十三條〕
原案通
第三百三十六條 強暴ハ上ニ爲シタル區別ニ從ヒ承諾ヲ排除シ又ハ之ニ瑕疵ヲ付ス但其強暴カ他ノ一方ノ所爲ニ出ツルト又ハ通謀ナキモ第三者ノ所爲ニ出ツルトヲ區別スルコトヲ要セス〔第千百十一條〕
異議ナシ
第三百三十七條 強暴ヲ受ケタル一方ノ者カ契約ノ無効ヲ得ルコトヲ得ル場合ニ於テ其者ハ強暴ヲ行ヒタル者ニ對シ損害賠償ノミヲ請求シテ其契約ヲ維持スルコトヲモ得
強暴カ合意ヲ決定セシメタルニアラスシテ不利ノ條件ヲ受諾セシメタルノミナルトキハ其合意ハ繼持セラル但賠償ヲ求ムルコトヲ妨ケス
本條ハ報吿委員ニテ契約ノ無効ヲ得ルコト云々ヲ契約ヲ無効ト爲スヲ得云々トス又末項維持セラルヲ無効トナラスト修正ス
(栗塚)
二項ハ不利益ノ契約ヲ爲シタルトキハ其合意ハ無効タラズ惟賠償ヲ求ムルヲ得ベシ
(鶴田)
馬ニ金轡ヲ含マシメタルトキ其金轡ヲ希望ニシテ其馬ヲ買ハント契約シ金轡ヲ附スベシト強令シタルトキ賣者ハ其馬ヲ賣ルト共ニ金轡ヲ附スルトキハ賣者ノ損害ナルヲ以テ賠償ヲ求ムベシト云フ譯ナラズヤ
(松岡)
家屋ヲ賣ルヲ契約セシ二三日ノ後ニアラザレバ此家ヲ引渡スヲ得ス然ルニ買者強テ直チニ之ヲ引渡サシムルトキハ賣者ハ大ニ損害ヲ被ルモノナリ卽チ其合意ハ無効トナラズシテ損害ハ賠償セラルルヲ得ベシ
第三百三十八條 強暴ノ總テノ場合ニ於テ裁判所ハ人ノ年齡、體性、身體並ニ精神ノ形狀及ヒ互相ノ身分ヲ斟酌スベシ〔第千百十二條〕
然レトモ卑屬親ノ尊屬親ニ對シ及ヒ婦ノ夫ニ對スル尊敬ノ畏懼ノミニテハ合意ヲ取消サシムルニ足ラス〔第千百十四條〕
(鶴田)
尊敬ノ畏懼ハ其徳ニ服スル點ヨリ云フモノニシテ親又ハ夫ト雖ドモ強暴ヲ用ヒシトキニ此條ニ當ラズ
(淸岡)
體性身體トハ如何
(栗塚)
體性トハ男女ト云フガ如シ身體トハ身體ノ強弱ヲ云フ
第三百三十九條 錯誤、強暴、詭譎、損失及ヒ無能力ハ推定セラレス之ヲ援唱スル者ニ因テ證セラルルコトヲ要ス〔第千百十六條第二項〕
當事者雙方ニ屬スル無効ノ方法ハ互ノ非理ニ基ツクトキト雖モ互ニ消滅セス但損害アルトキハ其賠償ノ相殺ヲ妨ケス
(栗塚)
本條ハ反譯上ニテ損失ハ折損ト修正シ消滅ハ毀滅ト修正ス報吿委員ニテ無能力ノ下ヘ之ヲノ二字ヲ加ヘ推定セラレズヲ推定セズトシ「之ヲ援唱」ト云フ上ニ卽チヲ加ヘ援唱スル者ニ因テトアルヲ者ヨリトシ證セラルルヲ證スルコトト修正ス
(鶴田)
二項ノ意ハ如何
(栗塚)
互ニ無能力者ナルトキヲ互ノ非理ト云ヒ毀滅セズハ互ニ無効トナルヲ以テ互ニ取消スヲ得ベシ
(鶴田)
互ニノ下ヘ之ヲノ二字ヲ挿入スルヲ可トス
(栗塚)
互ニ之ヲ申立ツルコトヲ得トシテハ如何
(南部)
如是シテハ爲スモ爲サザルモ自由トナル故不都合ナリ
(栗塚)
相殺トシテハ如何
(鶴田)
毀滅ヨリハ相殺ヲ可トス
(南部)
相殺トスルモ妥當ナラズ
(淸岡)
無効トナスノ方法トシテハ如何
結局此儘ニ附ス
第三百四十條 前數條ニ定メタル場合ニ於ケル無効ノ訴權ハ無能力者又承諾ニ瑕疵アル者ノミニ屬ス〔第千百二十五條第二項〕
然レトモ處刑言渡ヨリ生スル無能力ハ處刑言渡ヲ受ケタル者ト約定シタル者ヨリ援唱セラルルコトヲ得〔伊民第千百七條〕
報吿委員ニテ然レドモ處刑トアル下ヘノノ字ヲ加フ無能力ハノ下處刑ノ二字ヲ刪リ其ノ字ヲ加フ「者ヨリ」ノ下ヘ之ヲ加ヘ援唱セラルルヲスルト修正ス
(栗塚)
馬ヲ賣買セント云フトキ鹿ヲ付與シタルトキハ契約成立セザルニ付キ何レヨリモ無効トスルヲ得ルモ若シ合意アリタルトキハ被害者ヨリ取消スベシ又此無効ハ絕對カ對等カト云ヘバ對等ノ無効ヲ云ヘリ
(南部)
單ニ無効ト云ヘバ取消ノコトナリ
(委員長)
無効ノ中ニハ瑕疵モ包含セルカ
(栗塚)
然リ
(委員長)
排除ハ絕對カ
(栗塚)
然リ
(委員長)
對等ハ何々ノ場合カ
(栗塚)
取消ノトキ卽チ瑕疵無能力折損ノ三者ニ關ス特ニ受刑ノ無能力者ニ關シテハ相手方ヨリ無効ヲ主張スベシ
第三百四十一條 若シ取消スコトヲ得ヘキ合意カ第三章第七節ニ定メタル期間ニ於テ攻撃セラレサルトキハ默示ニテ認定セラレタリト看做サル
其他默示ノ認定ノ場合及ヒ明示ノ認定ノ方式ハ右同節ニ之ヲ規定ス〔第千百十五條〕
本條ハ報吿委員ニテ合意カヲ合意ヲトシ攻撃セラレサルヲ攻撃セサルト修正ス卽チ可決ス
第三百四十二條 合意ハ未來ノ物ニシテ且成立ノ不的確ナルモノヲ目的トスルコトヲ得此場合ニ於テ諾約者ハ其約束ノ實施ヲ妨ケ又ハ制限スル何等ノ事ヲモ爲ササルコトヲ要ス
又諾約者ハ其實施ニ便スルコトヲ得ヘキ何等ノ事ヲモ放却シ又ハ懈怠セサルコトヲ要ス
然レトモ開始セサル相續ニ付テノ權利ヲ與ヘ又ハ奪フノ合意ハ相續セラルル者ノ承諾アリト雖モ決シテ之ヲ爲スコトヲ得ス且法律ヲ以テ明確ニ取除キタル場合ハ此限ニ在ラス〔第千百三十條〕
(栗塚)
實施ニ便ニスルトハ其實施ヲ容易ニスルヲ云フ
(淸岡)
法律ヲ以テ取除ク場合トハ如何
(栗塚)
假令バ我子ニ財產ヲ分配スル如キ財產ニ付キ豫其部分ノミ早ク贈遺スベキヲ云フ
(淸岡)
相續セラルルモノハ父ヲ指ス如クナルモ日本ノ習慣ニテハセラルルト云ヘバ子ニ屬セザルベカラズ
(栗塚)
此字ハ被相續人卽チ相續ヲ與ヘル人ヲ云フ
(淸岡)
相續セラルルト云フニテハ通ズベカラズ
(栗塚)
然ラバ相續ヲ與フル者トカ讓レモノトカシテハ如何
(南部)
此點ハ人事篇ヲ議スルニ至ルマデ假リニ相續ヲ與フルモノトスベシ
可決ス
(淸岡)
父承諾スルモ子ハ父ノ死後ニ付キ約束スルヲ得ザルカ
(栗塚)
然リ
(淸岡)
父自分ノ死後ニ於テ其子ニ讓付セザルヲ以テ之ヲ他人ニ讓付スベシトシテ契約スルヲ得ルカ
(委員長)
如是ハ相續篇ニ於テ議定スベシ
第三百四十三條 合意カ不法又ハ不能ノ所爲又ハ對止ヲ目的トスルトキハ其合意ハ無効タリ〔第千百七十二條〕
第三者ノ所爲又ハ對止ノ約束カ合法又ハ可能ナリト雖モ若シ其第三者ニ對シ諾約者カ威權ヲ有セサルニ於テハ諾約者ニ在テ不能ノ所爲ノ約束ト看做サル〔第千百十九條〕
然レトモ何人ニテモ第三者ノ所爲又ハ對止ニ付キ明示ニテ擔保人タルコトヲ得此場合ニ於テハ諾約者ハ保證人ノ義務ニ從フ〔第千百二十條伊民第千百二十九條〕
又何人ニテモ第三者カ自己ノ爲メ爲サレタル約束ヲ履行セサル場合ニ對シ過怠約款ノ踐行ニ從フコトヲ得
若シ諾約者カ第三者ノ名ヲ以テ爲シタル約務ノ確認ヲ得セシムルコトノミヲ約シタルトキハ其第三者ノ確認シタル時ヨリ諾約者ハ其義務ヲ免カル〔同上〕
(村田)
三項ノ第三者ノ所爲又ハヲ若クハトセザルベカラズ
(栗塚)
其所ハ反譯ニ協議スベシ
(淸岡)
目的トハ封止ノミヲ云フカ
(栗塚)
所爲封止ニ關ス此所ハ不法ノ所爲又ハ封止不能ノ所爲又ハ封止ト云フ義ニシテ此條ハ第三者ヲ束縛スルヲ得ズト云フ譯ナリ
(委員長)
二項ハ如何
(栗塚)
後見人ノ如キ滅力アルモノハ之ヲ爲スヲ得ベシ
(委員長)
三項ハ如何
(栗塚)
第三者ノ爲ヲ約スルヲ得ザルモ擔保人トナリテ第三者ニ爲サシムベシト云フヲ得若シ爲サザルトキハ其擔保人之レガ實ニ當ル卽チ一ノ義務ヲ負ヘバナリ
(淸岡)
二項ノ場合ハ契約ノ保タルモノナリ例バ甲乙ニ謂テ曰ク丙ニ何ノ所爲ヲナサシムベシ若シ之ヲ爲サザルトキハ餘其實ヲ任ズベシト云フ丙其所爲ヲ乙ニ爲サザルトキハ乙ハ丙ヲ相手取ルヲ得ズ必ラズ甲ノ擔保人ニ係ルベシ其時ハ從タル契約ガ主タル如キニアラズヤ
(南部)
三百二十三條ニ但シ從タル契約ガ主タル契約ノ無効ヲ補フヲ目的トスルトキハ其限ニ在ラズト云フニ當ル
(淸岡)
過怠約款ノ踐行ニ從フコトヲ得トアル得ノ字ハ不都合ナリ
(尾崎)
過怠約款ヲ踐行スベシトスベカラザルカ
(栗塚)
過怠約款ニ從ヲ得ト云フハ尙ホ報吿委員ニテ不都合ナキヤ否ヲ調査シタル其議ニ決ス
(尾崎)
五項ハ如何
(栗塚)
第三者ニ代リ契約シタルトキ第三者之ヲ追認シタルトキハ代人ハ其實ヲ免ル
(委員長)
此點ハ代理ト云フ程ニモアラズ仲人ニ立チ爲シタル所爲ニ過ギズ
(委員長)
第三者ノ名ヲ以テト云フハ第三者ノ名ニ於テスベシト
可決ス
第三百四十四條 合意ハ要約者カ其合意ニ付キ正當ニシテ且金錢ニ見積ルコトヲ得ヘキ利害ヲ有セサルトキハ原中ナキ爲メ無効タリ〔第千百三十一條〕
要約カ第三者ノ利益ニ於テ爲サレ且之ニ過怠約款ノ件ハサルトキハ其要約ハ要約者ノ爲メ金錢ニ見積ルコトヲ得ヘキ利害ナキモノト看做サル〔第千百十九條〕
然レトモ他人ノ利害ニ於ケル要約ハ要約者カ自己ノ爲メ爲シタル要約又ハ諾約者ニ爲シタル贈與ノ從タル條件タルトキハ其要約ハ有効タリ〔第千百二十一條第一項〕
右二個ノ場合ニ於テ其從タル條件ノ不執行ハ要約者ニ合意解除ノ訴權又ハ要約セラレタル過怠約款ノ踐行ノ訴權ノミヲ與フ
本條ハ報吿委員ニテ第二項要約カト云フヲ要約ヲトシ、爲サレヲ爲シトシ、看做サルヲ看做ストシ、第四項ノ要約セラレタルヲ要約シタルト修正ス
(淸岡)
金錢ニ見積ルコトヲ得ベキ云々ト云フハ若シ金錢ニ見積ルコトヲ得ザルトキハ如何
(栗塚)
利害アラザレバ訴權ヲ生セズ
(淸岡)
世上ニ金錢ニ見積ルヲ得ザルモノナキニアラズ然ルニ之ヲ無効ニ歸スルハ如何
(栗塚)
利害ヲ有セザレバ合意成立セズ其利害ハ正當ナルヲ要シ金錢ニ見積ルヲ得ベキヲ要スト云フコトナリ
(村田)
利害ハ不可ナリ須ク利益ナルベキ筈ニアラズヤ
(淸岡)
決シテ金錢ニ見積ルニアラザレバ利害トナラズト云フ譯ニハアラズ
(尾崎)
利害ニ金錢ノ附隨セザルモノナシ
(松岡)
民事上ノ行爲ハ要スルニ金錢ニ歸セザルモノナシ
(淸岡)
利害ヲ金錢上ニ限ルハ範圍狹少ナルニ失ス
(委員長)
何カ根據アルニアラザレバ「ボアソナード」ガ特ニ明記スル筈ナカルベシ
(栗塚)
人ト約束スルニ利害アラザルコトハ殆ンドナカルベシ金錢ニ見積ルト云フモ價額ヲ定ルノミニアラズ惟損益ノアルト云フニ止マルナリ
(松岡)
評價スベキトシテハ如何
(委員長)
此金錢ニ見積ルト云フハ漠然タラザル根據ヲ示シタルモノナラン
(淸岡)
名譽上ノ如キハ金錢ニ關セザルモノナリ假令バ自己ノ名譽ヲ害センコトヲ恐レ或ル者ニ約シテ自己ノ履歴ヲ語セザラシム然ルニ或ル者其約束ヲ守ラザルモ其損害ハ之ヲ金錢ニ見積ルコト能ハズ
(渡)
之ヲ有價ナルトシテモ金錢ニ積ルベキトシテモ異聞同實ナレバ別ニ反譯局ニ於テ至當ノ文字アレバ協議ヲ乞フ卽チ其議ニ付ス
(尾崎)
二項ハ如何
(栗塚)
假令バ自分ガ貴細君ニダイヤモンドヲ與ヘント約ス然シテ自分之ヲ履行セザルトキハ貴細君ハ之ヲ知ラザリシニ依リ之ヲ訴ルヲ得ズ又貴君ハ利益ヲ得ル者ニアラザレバ又之ヲ訴フルヲ得ズ
(鶴田)
三項ハ如何
(南部)
自己ノ爲メ爲シタル要約ノ條件諾約者ニ爲シタル贈與ノ從タル條件ト云フ譯ナリ
(淸岡)
諾約者ニ爲シタル贈與ノ從タルトハ如何
(栗塚)
甲丙ニ向ヒ自己ノ地面ヲ賣ラントス果シテ其地面ヲ賣リシトキハ乙ニ其地役ヲ與ヘヨト約スルガ如シ其契約ノ如ク丙其地役ヲ乙ニ與ヘザレバ甲ハ其約束ヲ解除シ又過怠約款アレバ其約款ヲ踐行スルヲ得ルナリ
(委員長)
此點ハ從タル條件ノ強大ナルニアラズヤ第三者ノ利益ノ爲メニハ契約スルヲ禁ジタルヲ以テ末項ニ於テ其裏面ヲ表出スルニ至ル卽チ此ニ至テ從ガ主ヲ打碎スルニアラズヤ要約者ニ此權ヲ有セシムレバ諾約者ニモ皆少ナクトモ權利ヲ與ベキニアラズヤ
(村田)
諾約者ニ權利ヲ與ル場合ナシ
(委員長)
右二個トハ要約ト贈與ヲ指スカ
(南部)
然リ
第三百四十五條 主タリ又ハ從タル要約ハ相續法カ一人ノ相續人ヲ利シテ他ノ相續人ヲ害スルコトヲ許ス限度及ヒ條件ニ從ヒ常ニ要約者ノ相續人ノ一人又ハ數人ノ利益ニ於テ爲サルルコトヲ得
右ニ均シク主タリ又ハ從タル約束ハ諾約者ノ相續人ノ一人又ハ數人ノ負擔ニ於テ爲サルルコトヲ得〔第千二百二十一條第四號〕
(松岡)
此ニテ相續法ニ議及スルハ不都合ナリ
(南部)
限度ニ從フヲ以テ可ナリ
服修シテ爲サルルコトヲ得ト云ヲ之ヲ爲スヲ得トス
第三百四十六條 前二條ニ定メタル場合ニテ他人ノ利害ニ於テ爲サレタル要約ハ得益者ノ之ヲ受諾セサル間ハ要約者ノ利益ニ於テ廢罷セラレ又ハ要約者ヨリ他人ニ轉移セラルルコトヲ得〔第千百二十一條第二項〕
本條ハ報吿委員ニテ廢罷セラレトアルヲ廢罷シトシ轉移セラルルヲ轉移スルコトトシ爲サレタルヲ爲シタルトス
(村田)
乙ノ物ヲ丙ニ贈ラントス卽チ丙其第三者ノ受諾セサル間ハ合意成立セサルニ付ニ廢罷スルヲ得ベシ
第三百四十七條 合意ヲ證明スルニ供シタル證書ニ原由ヲ明示シタルト否トヲ問ハス其原由ノ成立セサルコト又ハ其處妄若クハ不法ナルコトヲ證スルハ被吿ノ責トス他又若シ原由カ明示セラレサリシトキハ被吿ハ債權者カ其合意ノ如何ナル原由ニ基ツキタリト主張スルヤヲ陳述スルコトニ付キ之ニ催吿スルコトヲ得但其原由ヲ爭フコトアルヘキトキハ之ヲ爭フコトヲ妨ケス〔第千百三十二條伊民第千百二十一條〕
本條ハ報吿委員ニテ他又ノ二字ヲ刪リ原由カ明示セサレサリシトキトアルヲ原由ヲ明示セサリシトキト修正ス
(栗塚)
英法ニハ括弧アルモ此法ハ之ヲ置カザルヲ以テ此條ノ如キハ其煩雜ナリ若シ括弧ヲ附スルヲ得バ實ニ見易キナリ
第三款 合意ノ効力
第一則 合意ノ當事者及ヒ其承權人ニ對スル効力
第三百四十八條 適法ニ成リタル合意ハ之ヲ爲シタル者ニ對シ法律ニ代ル
其合意ハ當事者ノ交互ノ承諾アルニアラサレハ廢罷セラルルコトヲ得ス但法律カ一方ノ意ヲ以テスル廢罷ノ訴ヲナス場合ハ此限ニ在ラス〔第千百三十四條第一項及ヒ第二項〕
本條ハ報吿委員ニテ廢罷セラルルトアルヲ之ヲ廢罷スルコトヲト修正ス
(淸岡)
法律ニ等シトアリ
(栗塚)
原書ノ註ニ合意ハ當事者双方ノ間ニハ法律トナルトアリ
遂ニ原案通ニ決ス
第三百四十九條 何人ニテモ特別ノ合意ヲ以テ普通法ニ外ツレ又ハ其効力ヲ增減スルコトヲ得但公ノ秩序ニモ又善良ナル風俗ニモ觸レサルコトヲ要ス〔第六條第千三百八十七條〕
(淸岡)
普通法ニ成定シタルモノヲ槪シテ其法律ヲ外ヅレテモ可ナリト云フハ何ノ意ゾヤ
(南部)
但書ニ反セザル以上ハ之ヲ爲スヲ得ルモノナリ
(淸岡)
秩序ニ觸レルト云フハ範圍廣過ギルニアラズヤ
(栗塚)
秩序ニ觸ルルト云フ法ハ特示アルニ付キ此特記ニ反セザレバ爲スヲ得ベシ
(淸岡)
此點ハ佛法ノ如クセバ別ニ異論ナカルベシ
(委員長)
普通法トセザレバ外ノ法モ入ル故不都合ナリ原案ニ決ス
第三百五十條 合意ハ當事者カ明示シタル効力及ヒ其默示ノ意思ニ包含セラレタル効力ノミナラス尙ホ公義、慣習又ハ法律カ合意ノ本性ニ隨ヒ之ニ附着セシメタル効力ヲモ生ス〔第千百三十五條第千百六十條〕
合意ハ善意ヲ以テ執行セラルルコトヲ要ス〔第千百三十四條第三項〕
本條ハ報吿委員ニテ當事者カトアルヲ當事者ノトシ包含セラレタルヲ包含シトシ執行セラルルコトト云フヲ執行スルコトト修正ス
(栗塚)
公義トハ公道ト云カ如シ
第三百五十一條 動產ト不動產トヲ問ハス各箇ニ定マリタル物卽チ特定物ヲ有償又ハ無償ノ名義ニテ與フルノ合意ハ卽時ニ且引渡ニ歸セス要約者ニ所有權ヲ轉移ス但合意ニ附屬スルコトアルヘキ停止ノ未必條件ニ付キ下ニ定ムヘキモノヲ妨ケス〔第千百三十八條第千五百八十三條〕
本條ハ報吿委員ニテ卽時ニ且ノ四字ヲ刪リ引渡ニ關セスノ下ヘ卽時ノ二字ヲ入ル
(栗塚)
所有權移轉ハ特定物ナレバ引渡シニ關セズ合意ノ卽時ニ成立ツヲ云フ
第三百五十二條 代補物又ハ數量尺度ヲ以テ見積リタル物ヲ與フルノ合意ハ諾約者ヲシテ其約束シタル物ヲ合意セラレタル本性品質及ヒ分量ニテ其物ノ所有權ヲ要約者ニ轉移スルノ義務ヲ負ハシム此場合ニ於テ所有權ハ引渡ニ因リ又ハ當事者立會ノ上爲シタル指定ニ因リ轉移ス〔第千五百八十五條〕
本條ハ報吿委員ニテ其約束シタル物云々トアルヲ其約束シタル物ノ所有權ヲ合意シタルト修正ス且ツ其物ノ所有權ヲノ數字ヲ刪ル
(委員長)
代補物トナレバ何種類ナルモ引渡シヲ要スルカ
(栗塚)
然リ代補物ハ人權ヲ生ズルノミ
(委員長)
數量尺度ヲ以テスルモノハ現物ヲ要スルカ
(栗塚)
又ハトアルハ卽チトセザルベカラズ代補物ハ卽チ數量尺度ヲ以テスルモノナリ
(村田)
代補物ト數量物トハ決シテ同物ニアラズ
(南部)
代補物ニアラザル量定物ハ如何
(栗塚)
此點ハ代補物卽チト云フ意ナリ依テ又ハノ字ハ反譯上ノ修正トスベシ
(松岡)
松林ノ薪ヲ賣ラント云フ其松ハ何レノ山ニモアルヲ以テ代補物トナルベシ代補物ハ己ニ存在スルモ其中何貫目ヲ買ハント約スレバ數量トナルベシ
(南部)
本條ハ量定物ト云ヘバ明了ナルベシ
(淸岡)
見積リタル物ヲ與フルトアルハ見積ルベキモノヲ與フルトセザルベカラズ
(松岡)
代補物中數量尺度ヲ以テスル場合ハ其見積リタル物ヲ與フル譯ナリ
(淸岡)
見積ルヲ定ムトスレバ可ナリ
(松岡)
代補物ナレバ定ムト云フモ可ナルベキモ數量物ハ見積リタル物トナルベシ
第三百五十三條 前二條ノ場合ニ於テハ與ヘラレ又ハ約束セラレタル物カ合意セラレタル時日及ヒ場所ニ於テ諾約者ノ注意及ヒ費用ニテ引渡サルルコトヲ要ス〔第千百三十六條〕
引渡ノ費用ハ要約者ノ負擔トス〔第千六百八條〕
證書ノ費用ハ若シ所爲カ有償ナルトキハ當事者雙方ノ負擔トシ又所爲カ無償ナルトキハ得益者ノ負擔トス〔第千五百九十三條〕
不動產ノ引渡ハ證書ノ交付及ヒ場所ノ明渡ニ因テ爲サル但簡短ノ引渡及ヒ占有ノ代辯ニ付キ第七百三條ニ記載シタルモノヲ妨ケス〔第千六百五條〕
債權ノ引渡ハ證書ノ交付ニ因テ爲サル〔第千六百八十九條〕
若シ引渡ニ付キ何等ノ期限ヲモ定メサリシトキハ引渡ハ卽時ニ要求セラルルコトヲ得
若シ引渡ノ場所ヲ定メサリシトキハ確定物ニ關シテハ合意ノ時其物ノ在リシ場所ニ於テ爲サレ又代補物ニ關シテハ其物ノ指定ヲ爲シタル場所ニ於テ爲サレ其他ノ場合ニ於テハ債務者ノ住所ニ於テ爲サル〔第千二百四十七條〕
本條ハ報吿委員ニテ文字上ノ修正アリ
(松岡)
取引ハ要約者ノ責ナルカ
(栗塚)
然リ
(鶴田)
特定物ト確定トハ異ルカ
(南部)
同ジキナリ
(村田)
占有ノ代辯ハ如何
(栗塚)
改設ノ如キナリ
(鶴田)
證書ノ費用ハ有償ナルトキハ當事者双方ノ負擔ト云ヘバ證書ニ印紙ヲ貼用スルモ双方ノ負擔タルベキト云ハンカ特別法ニ於テハ賣者ニ貼用セシムルモノトナレリ
(南部)
賣者ガ貼用シテ其償ヲ取ヲ可ナリ
(尾崎)
特別法アレバ民法ニ依ルヲ得ザルベシ
(村田)
其他ノ場合トハ如何
(栗塚)
物ノ所在不明且ツ指定シタル場所ナキ時ノ如シ
第三百五十四條 諾約者ハ特定物ノ引渡マテ善良ナル管理者ノ注意ヲ以テ其物ヲ保存スヘシ懈怠又ハ惡意ノ場合ニ於テハ其損害賠償ノ責ニ任ス〔第千百三十六條、第千百三十七條〕
然レトモ無償ノ移付ニ關シテハ諾約者ハ其物ノ看守ニ付キ自己ニ屬スル物ニ加フルト同一ナル注意ヲ加フルノ責ニ任スルノミ
其他債務者カ右同一ノ注意ノミヲ負擔スル場合ハ前項ニ揭ケタル例外ヲ許ス契約ノ事項ニ付キ之ヲ規定ス〔第千百三十六條、第千百三十七條〕
(委員長)
前項ニ揭ゲタル例外トハ何ゾ
(南部)
此例外ト云フハ卽チ前項ヲ云フ前項ハ例外ヲ許ス場合ニ於テスベシ
(村田)
前項ハ前一項二項共ニ之ヲ指スカ
(栗塚)
否ナ前二項ノミヲ云フ
(委員長)
負擔スル他ノ場合ハ其例外ヲ許ストスベシ
(栗塚)
債務者ガ右ト同一ノ注意ノミヲ負擔スル他ノ場合ハ其例外ヲ許ス云ルトスベシ
可決ス
第三百五十五條 與フルノ合意ノ目的タル物カ各個ニ定メラレタル總テノ場合ニ於テハ意外ノ事又ハ抗拒スルコトヲ得サルカニ出タル滅失又ハ損壞ハ要約者ノ損ニ歸ス但諾約者カ危險ヲ負擔シタル場合及ヒ停止ノ未必條件ニ付キ記載シタルモノハ此限ニ在ラス右ニ均シク物ノ總テノ增加ハ要約者ノ益ニ歸ス
然レトモ若シ諾約者カ物ヲ引渡スノ遲滯ニ在リ且物カ引渡サレタリシ場合ニ於テハ必ス滅失セサルヘク又ハ毀損ヲ受ケサルヘカリシトキハ其損失ハ諾約者ノ負擔ニ歸ス〔第千百三十八條、第千百四十八條、第千三百二條〕
本條報吿委員ニテ第一項ニ修正シ與フル合意ノ目的カ特定物ナル總テノ場合ニ於テハ意外ノ事又ハ不可抗力ニ出タル滅失又ハ損壞ハ諾約者カ危險ヲ負擔シタル時及ヒ停止ノ未必條件ニ付キ記載シタルモノヲ除クノ外要約者ノ損ニ歸ス右ニ均シク物ノ總テノ增加ハ要約者ノ益ニ婦ストス第二項ハ引渡サレタリシノタリヲ刪ル
(松岡)
此條ハ諾約者ガ危險ヲ負擔シタルトキ及ビ未必條件ヲ除クノ外皆要約者ノ負擔ニ屬スルヲ云フナラン
(南部)
然リ
(栗塚)
物カ各個ニ定メラレタルトハ特定物ノコトナリ
(村田)
右ニ均シクハ又ト云フガ如キモノナリ
(栗塚)
引渡スノ遲滯ニ在リトハ催吿シタル後ヲ云フ
(松岡)
如是義務者ヲ保護スルハ佛國ノ特法ニシテ大陸諸國ノ法ニアラズ
第三百五十六條 諾約者又ハ其他總テノ債務者ハ或ハ定期到來ノ後ニ爲シタル裁判所エノ請求又ハ善良ニシテ合式ナル催吿書若クハ要決書ニ因リ或ハ法律又ハ合意ヲ以テ明カニ定メアルトキハ定期ノ到來ノミニ因リ或ハ諾約者カ期節後ノ履行ハ最早要約者ニ有益ナルヲ得サルコトヲ知リテ其期節ヲ經過セシメタルノ所爲ニ因リ遲滯ニ付セラル〔第千百三十九條、第千百四十五條、第千百四十六條〕
報吿委員ニテ遲滯ニ付セラルトアルヲ遲滯ニ付ストス
(淸岡)
善良ニシテ合式ト云フハ宜シカラズ
(村田)
善良ナルノ四字ハ刪ルベシ
(委員長)
重ルハ宜シカラザルモ別ニ害モナキコト故起案者ガ合式ニテモ不善良ナレバ之ヲ許サザル意思ナレバ刪ルベカラズ
(栗塚)
此點ハ當然適合ナルノ意ナルカ尙ホ反譯局ニ協議スベシ
(松岡)
引渡月日ヲ極メナガラ之ヲ受取人ニ渡スヲ得ザルトキ其際他出ノ爲メ類燒ジタルトキハ如何
(栗塚)
要約者ノ損ナリ何トナレバ所有權移轉シタルヲ以テナリ然ルニ催吿シタルニ之ヲ引渡サザルトキハ要約者ノ損ニアラズ
(松岡)
書面ヲ送ラザルモ申入ニテハ不都合カ
(南部)
他日證據立スルニ困難ナルヲ以テ書面ナラザルヘカラズ
(松岡)
明カニ定アルトハ催吿書ハ送ラズシテ遲滯ニ付スルコトトスルナラン
(南部)
然リ
(松岡)
此ノ定規ハ日本ノ習慣ニハ背馳セリ
(栗塚)
松岡委員ノ說ハ催吿ハ爲サザルモ期限ヲ過ギタトキハ之ヲ遲滯ニ付スベシト云フ意カ
(松岡)
然リ日本ノ習慣ハ期限ハ催吿スルノ効アルニアラズヤ
(栗塚)
人ハ遺忘ト云フコトモアレバ期限到來シタルトキハ一應催吿スルハ宜シキニアラズヤ
(南部)
權利ハ期限到來シ始マルモ頗ル偏理ナリト云フベシ
第三百五十七條 爲シ又ハ爲ササルノ義務ヲ持スル合意ノ効力ハ第四百二條ニ之ヲ規定ス
(松岡)
義務ヲ持スルトハ如何
(栗塚)
有スルト云フガ如シ
(鶴田)
爲シ又爲サザルノ義務トハ如何
(南部)
事ヲ爲シ又事ヲ爲サザルノ義務ナリ
(栗塚)
註ニハ義務ヲ持スルノ字ナシ尙ホ此點ハ反譯ニ協議シタシ原按ニ決ス
第三百五十八條 合意ハ當事者ノ相續人及ヒ其他ノ一般ノ承權人ヲ利シ又ハ之ヲ害ス但法律又ハ合意ヲ以テ格別ニ定メタル場合ハ此限ニ在ラス〔第千百二十二條〕
(委員長)
法律又ハ合意ヲ以テト云フハ如何仰モ但以下ハ不用ニアラズヤ何トナレバ合意ノ利害ハ相續人ニ傳ハルベキモノナレバナリ
(南部)
例ハ貸主ニモ利害アリ借主ニモ利害アリト云ヘバ但書ハ此特別ニ屬スルモノナルコト知ルベシ前段ハ自然ニ利害ノ存スルヲ云ヒ後段ハ其特別ヲ示シタリ
第三百五十九條 債權者ハ自己ノ債權者ニ屬スル權利ヲ主張シ及ヒ物權ト人權トヲ問ハス其訴權ヲ行フコトヲ得
債權者ハ此事ニ付テハ或ハ差押ノ方法ニ依リ或ハ自己ノ債務者ヨリ又ハ自己ノ債務者ニ對シテ行ハレタル訴ニ於ケル參加ノ方法ニ依リ或ハ民事訴訟法ニ遵ヒ得タル裁判上ノ代位ニ憑レル第三者ニ對スル間接ノ訴ニ依リテモ處辨ス
然レトモ債權者ハ自己ノ債務者ニ屬スル單純ナル適法ノ權能又ハ專ラ債務者ノ一身ニ留保セラレタル權利ヲ行フコトヲモ又法律又ハ合意ヲ以テ差押フルコトヲ得サルモノト宣言セラレタル財產ヲ差押フルコトヲモ得ス〔第千百六十六條〕
(淸岡)
自己ノ債務者ニ屬スルノ屬ハ關スルニアラズヤ
(栗塚)
否ナ債務者自身ノ權利ヲ云フ
(尾崎)
裁判上ノ代位トハ如何
(栗塚)
數債主ヲ代表シテ訴訟スルコトナリ
(委員長)
差押ノ方法ハ直接ニ債務者ニ關セザルカ
(栗塚)
債務者ニ關スルハ勿論ニシテ此ニハ其點ヲ示シタルニアラズ第三者ニ關スル點ヲ定メタリ
(尾崎)
第三者ニ關スルトハ如何ナル譯カ
(栗塚)
乙ナル者丙ノ債務者ナリ然ルニ辨濟ヲ果ス能ハザルトキ乙ハ尙ホ甲ニ對スル債權アリシモ此債權ヲ行フタルモ直チニ丙ニ取去ラルルヲ以テ乙ガ甲ニ對シテ其債權ヲ行ハザル際丙直チニ甲ニ對シテ直接ニ其債權ヲ行フコトヲ得ルモノナリ
(尾崎)
丙ト甲トハ不知ノ人ナルニ何故ニ直接ニ債權執行スルヲ得ベキヤ
(栗塚)
此ハ法律ニ於テ規定スルモノナルヲ以テ不都合ナシ凡ソ債務者ノ身代ヲ知ラズシテ貸金スルモノニアラザレバ差押ノ方法ヲ以テ執行スルヲ得又自己ノ債務者ニ對シ他債主アリ訴ノ起リシトキハ自己モ債權アルヲ以テ其訴ニ參加シ依テ以テ代位スルヲ得ベシ
(委員長)
一項ノ債權者ハ債務者ノ物權ト人權トヲ問ハズ云々スルヲ得ベキ譯ナルモ債務者ニ屬スル權利ヲ主張シト云フト權利及ビ物權人權ト二種アルガ如シ
(栗塚)
此所ハ債務者ノ財產ニ付キ物權ト人權トヲ問ハズ云々スルノ意ナリ
(渡)
債權者ハ物權ト人權トヲ問ハズ自己ノ債務者ニ屬ス云々トシテハ如何
(栗塚)
其修正ニテハ佛文ヲ成サズト初メ之ヲ修正シテ債權者ハ物權ト人權トヲ問ハズ自己ノ債務者ニ屬スル權利ヲ主張シ及ビ共訴權ヲ行フコトヲ得トセシガ妥當ナリト思惟セラレズ
(淸岡)
此ノ如ク物權ト人權トヲ問ハズ自己ノ債務者ニ屬スル權利ヲ主張シト云ヘバ權利ハ物權人權ニ限ルヲ以テ末項然レドモ以下ノ取除ガ其薄弱ナルニアラズヤ
(南部)
原案ノ儘据置キタシ
(栗塚)
物權ト人權トヲ問ハズヲ刪ルベシ
(松岡)
負債者ハ財產外ニ債權者ノ權利ヲ及ボサルル譯ナシ皆財產内ノモノナルベシ依テ權利ヲ主張シノ文字モ物權人權モ共ニ財產タルヲ免レズ
(委員長)
然リ財產内ノモノタルベシ物權人權ノ外ニ權利ト云フモノアル如クナルトキハ人ノ私權ニ浸入スルニ至ルヲ以テ不可ナリ故ニ三項ノ取除アリ
(渡)
然ラバ三項ハ不用ナルカ
(委員長)
然ラズ三項ハ後見人ガ幼者ノ財產ヲ管理スルガ如キモノヲ押ユルヲ得ザル規定ナレバ肝要ナリ只物權ト人權ノ外ニ權利アル如ク見ユルガ不都合ナリ
遂ニ物權ト人權トヲ問ハズノ數字ヲ刪ルニ決ス
第三百六十條 右ノ反對ニテ債權者ハ自己ノ債務者ノ承諾シタル義務、抛棄及ヒ移付ノ効力ヲ受ク但債權者ノ權利ノ詐害ニ於テ爲シタル所爲ハ此限ニ在ラス
債務者其所爲ノ債權者ヲ害スルコトヲ知リテ自己ノ働方ヲ減シ又ハ自己ノ受方ヲ增シタルトキハ訴害アリトス〔第千百六十七條〕
報吿委員ニテ初項但ノ下ヘ債務者其ノ四字ヲ挿入ス
(栗塚)
此點ハ羅馬ノフレテユースト云フ人ノ發明シタル訴權ナリ前條ハ債權者ノ所爲ニ付キ示シタルカ此條ハ義務者ノ所爲ニ付キ權利者ヲ害セザル以上ハ債務者他人ニ義務ヲ負フモ物ヲ抛棄スルモ或ハ他人ニ移付スルモ權利者ハ之ニ從ヒ不服ヲ云フベカラズ
(委員長)
効力ヲ受クト云フハ妥當ナルカ
(栗塚)
仕方ナク受クルノ義ナリ
(委員長)
認承ストハ云ヘザルカ
(松岡)
債務者ノ所爲ノ自己ノ處分權ヲ以テスルモノナレバ之ヲ咎ムベカラズ
(委員長)
同按ニハ認容ストアリ默受トカ認承トカ云フ字ヲ用ヒタシ卽チ此點ハ報吿委員ノ修正ニ附ス
(松岡)
前條ハ債務者ノ不行爲ノトキハ債權者其權ヲ行フベクト云ヒ本條ニハ債務者ノ行爲ニ付キ咎ムベカラザルコトヲ示シタルモノナレバ不都合ナカルベシ
(委員長)
自己ノ債務者ガ第三者ニ對シ云々シタシ
可決ス
(委員長)
抛棄ノ字ハ權利ノ抛棄移付ハ權利ノ移付ト云フコト何レノ場合ト雖モ相違ナクンバ可ナリト雖ドモ否ラザレバ冠字ヲ置カザルベカラズ各員曰權利ト云フコト明了ナルベシ
(鶴田)
働方ニ滅シ又ハ自己ノ受方ヲ增ストハ如何
(栗塚)
權利ヲ減ジ義務ヲ增スト云フコトナリ
第三百六十一條 債權者ノ詐害ニ於テ爲シタル所爲ノ取消ハ次條ニ記載シタル區別ニ從ヒ債務者ト約定シタル者ニ對シ又轉得者ニ對スヘキトキハ之ニ對シ債權者ノ方ヨリ廢罷訴權ニ依テ裁判所ニ請求セラル
若シ債務者カ訴害ノ意ヲ以テ被吿トシテ敗訴シ又ハ原吿トシテ請求ヲ却下セラレタルトキハ債權者ハ民事訴訟法ニ從ヒ第三者故障ニ依テ訴フ
如何ナル場合ニ於テモ債務者ヲ訴訟ニ參カラシムルコトヲ要ス若シ所爲ノ廢罷カ其樣ニ被吿ヨリ得ラルルコトヲ得サルトキハ被吿ハ債權者ニ對シ損害賠償ヲ言渡サル
本條ハ被吿委員修正アリ第一項ハ債權者ノノ下ニ權利ノ二字ヲ入レ又轉得者ニ對ノ下「スヘキトキハ之ニ對」ト云ヲ刪リ債權者ノ方ヨリトアルノ方ノ二字ヲ除キ請求セラルトアルヲ之ヲ請求スト修正ス第二項被吿トシテ又ハ原吿トシテトアルヲ被吿ニテ又ハ原吿ニテトシ故障ニ依テトアルヲ故障ノ方法ニ依テト修正ス第三項ハ訴訟ニ參カラシムトアルヲ訴訟ニ參加セシムトシ第四項ハ若シ所爲ノトアルヲ若シ被吿ヨリ所爲ノトシ廢罷ガトアルヲ廢罷ヲトシ其儘ニ被吿ヨリ得ラルルコトヲ得ザルトキハトアルヲ其儘ニ得ル能ハザルトキハトシ損害賠償ヲ言渡サルトアルヲ損害賠償ノ言渡ヲ受クトス
(鶴田)
其儘得ル能ハザルトキハト云フハ如何
(委員長)
其儘廢罷スルヲ得ザルトキナルベシ
(南部)
一項ハ債務者ト第三者ト約定若クハ轉得シ債權者其害ヲ受ケタルトキハ其裁判ハ廢罷ヲ訴フルコトヲ得ト云フ譯ナリ
(村田)
此裁判ハ本案決定後ニ於テセザレバ爲スベカラザルナラン
(南部)
決定前ノコトハ參加訴訟ヲ以テスベシ
(淸岡)
其儘ト云フハ如何
(栗塚)
起案者ニ間フタルニ廢罷自ラヲト云フ譯ナリ
(淸岡)
廢罷ガ疵付カズニナスヲ得レバ可ナルモ其廢罷ニ疵アレバ亦タ損害賠償ヲ受クベカリシナラン
(栗塚)
然リ
第三百六十二條 攻撃セラレタル所爲ノ如何ヲ問ハス債權者ハ自己ノ債務者ノ詐害ノ證ヲ供スルコトヲ要ス其他有償名義ノ所爲ニ關シテハ債權者ハ債務者ト約定シ又ハ之ト訴訟セシ者ノ方ニ通謀又ハ詐害ノ關與アリタルコトヲ證スルコトヲ要ス
移付ノ廢罷訴權ハ有償又ハ無償ノ名義ノ轉得者カ最初ノ得取者ト約定スルニ當リ債權者ニ對シテ行ハレタル訴害ヲ知リタルトキニアラサレハ其轉得者ニ對シテ之ヲ行フコトヲ得ス
報吿委員ニテ一項冒頭ニ債權者ニハノ四字ヲ加ヘ攻撃セラレタルヲスルトシ問ハズノ下債權者ハノ四字ヲ刪リ通謀又ハヲ卽チトシ二項ノ對シテノ下行ハレヲ爲シト修正ス
(淸岡)
攻撃スル所爲トハ何ゾ
(栗塚)
債務者ノ詐害セシ所爲ナリ
(委員長)
所爲ハ債權者ノ所爲ナル如クナルニアラズヤ
(松岡)
所爲ノ上ニ債務者ノノ字ヲ加テハ如何又自己ノ二字ハ不用ナルニアラズヤ
(栗塚)
否此場合ハ債權者ノ二重ニ存スル場合ヲ想像シタリ故ニ直接ノ債務者ヲ顯ハサン爲メニ自己ノ字ヲ用ピタリ
(淸岡)
報吿委員修正ハ可ナリ
可決ス
(委員長)
轉得者ハ之ヲ知ルヲ得ベキナレバ何程ニモ及ブカ
(南部)
惡意ガ存續セズ中間ニ良意ノ轉得者アレバ中斷セラル
第三百六十三條 廢罷ハ債權者ノ中ニテ訴害所爲ノ以前ニ權利ヲ得タル者ニアラサレハ之ヲ請求スルコトヲ得ス然レトモ廢罷カ得ラレタルトキハ其廢罷ハ區別ナリ總テノ債權者ニ利ス但其債權者ノ間ニ於テ優先ノ適法ノ原由存スルトキハ此限ニ在ラス
本條ハ報吿委員ニテ廢罷カ得ラレテ廢罷ヲ得ト總テノ債權者ニト云フヲヲト改ム可決ス
第三百六十四條 廢罷訴權ハ詐害ノ所爲アリタル時ヨリ三十年ヲ經過スルニ因テ時効ニ係ル然レトモ其廢罷訴權ハ債權者カ詐害ヲ發見シタル當時ヨリ起算シテ二年ニ短縮セラル
右ト同一ノ規定ハ第三者故障ニ適用セラル
本條ハ報吿委員ニテ係ルノ二字ヲ刪リ因リ之ヲ失フノ六字ヲ挿入ス然レドモノ下其廢罷訴權ハノ六字ヲ刪リ發見シタルノ下ヘ「トキハ其廢罷訴權發見ノノ」數字ヲ加ヘ起算シテノ四字ヲ刪ル二年ニノ下「之ヲ」ヲ挿入シ短縮セラルヲストス二項規程ノ字ハ反譯上ニテ時効ト修正シ又タ報吿委員ニテ故障ニノ下ヘ之ヲノ二字ヲ入ル
(尾崎)
二年間ニ起訴セザルベカラザルハ餘リ短縮ニ過グ
(栗塚)
債權者ハ發見シタルトキハ早速訴出ルヲ欲スルモノナシニ二年ノ猶豫アレバ可ナルベキニアラズヤ
(南部)
取消訴權ヲ五年間ニ行フ得ベキモノトシタレバ此二年ハ其不權衡ナリ殊ニ日本ノ如キハ交易不便人文未開ナルヲ以テ期限ハ成ル丈ケ長カラザルベカラズ
(渡)
之ヲ知リシトキハ假令交通不便ナルモ民度開ケザルモ二年ノ猶豫アレバ可ナルニアラズヤ
(尾崎)
貧者ノ如キハ早ク訴フルヲ得ルモノニアラズ元來三十年ヲ經過セザレバ期滿効ノ生ゼザルモノナレバ二年ノ猶豫ハ短縮ナリ
(委員長)
債權者ヲ怠ラシメザル爲メナリ
(村田)
三年トシテハ如何
原案通二年トス
第二則 合意ノ第三者ニ對スル効力
第三百六十五條 合意ハ一般ニ契約者間及ヒ其承權人ニ對スルニアラサレハ効力ヲ有セス又合意ハ法律ニ定メタル場合ニ於テシ且法律ニ定メタル條件ニ從フニアラサレハ第三者ニ利セス又之ニ對抗スルコトヲ得ス〔第千百六十五條〕
第二則報吿委員ニテ合意ノ三字ヲ對スルノ下ニ換置ス
本條ハ報吿委員ニテ第三者ニ利セスヲ第三者ヲ利セストス
(鶴田)
合意ハ當事者ニアラザレバ有効ナラザルハ已ニ規定シタルニ付キ爰ニ此點ヲ示スニ及バサルベシ
(委員長)
承權人ハ第三者ナルベキニアラズヤ
(栗塚)
此原則ハ規定ノ點ヲ再示セリ
(尾崎)
承權人ハ第三者ト見ルベカラザルカ
(村田)
承權人ハ第三者トハ異ナリ
(鶴田)
此條ハ必竟「又合意ハ」以下入用ナルベシ
(委員長)
承權人ハ第三者ニアラズシテ契約者ノ一人タルカ
(栗塚)
然リ
(委員長)
法律ニ定メタル場合ト條件トハ別ナルカ同一ナルカ
(栗塚)
同一ナルベシ實ハ法律ニ定メタル場合ハ此限ニアラズト云フガ如シ
第三百六十六條 然レトモ若シ有體ノ動產カ所有者ノ方ニテ異別ナル二人ト爲シタル二箇ノ與フルノ合意ノ目的タリシトキハ其二人中ニテ動產ノ現實ノ占有ヲ爲ス者ハ證書ノ日附ハ後ナリトモ優先トセラレテ其所有者タリ但其者カ自己ノ合意ヲ爲ス當時ニ於テ最初ノ移付ヲ知ラス且最初ノ合意ヲ爲シタル者ノ財產ヲ管理スルノ責任ナキコトヲ要ス〔第千百四十一條〕
此條例ハ所持人式債權證書ニ適用スルコトヲ得
報吿委員之ヲ修正シ然レトモ若シトアル下ニ所有者カ一個ノト云フヲ挿入シ有體ノ動產カトアルヲ有體ノ動產ヲトシ所有者ノ方ニテト云フヲ刪リ二人ト爲シタルトアルヲ二人ニ與フルトシ二個ノ下「與フルノ」ト云フヲ刪リ目的タリシトキハトアルヲ目的ト爲リシトキハトシ「動產ノ現實ノ」トアルヲ現ニ其トシ優先トセラレテトアルヲ優先トシテトス
(栗塚)
所持人式債權證書ハ無記名式トシタトキモ商法ニ關スルヲ以テ決スル能ハズ
(委員長)
此無記名ノコトハ商法ニ差圖式トシタルカ尙ホ詮議ノ節ヲ報吿委員ニ委置シタルヲ以テ追テ之ヲ定ムベシ
(鶴田)
本條ハ如何
(栗塚)
假令バ己レノ馬ヲ二人ニ賣ルコトヲ約シタルトキハ日附ハ後チナルモ現物占有シタル者ニ與フルモノト云フニアリ
(鶴田)
然レドモ云々ハ正明了ナラズ
(栗塚)
最初然レドモ若シ所有者カ一個ノ有體ノ動產ヲ異別ナル二人ニ與フル二個ノ合意ノ目的ト爲シタルトキハト修正セシモ之ヲ廢止セリ各員曰其修正寧ロ可ナリ
(松岡)
二個ノ字ハナクモ異別ナルニテ二個タルヲ知ルベシ
(栗塚)
二個ハ要用ナリ異別ノ字ハ二人ニ關スルヲ以テナリ動產ヲト云フヲノ動詞二ツヲ要スルニ有體ノ動產ヲ云々トハ文理明カナラズ
(淸岡)
合意ノ目的ト云フコトハアルモ合意ヲ爲シタルト云フコト明カナラズ
(委員長)
云云異別ナル二人ニ與フル二個ノ合意ノ目的トスレバ可ナリ
(淸岡)
目的トナリシハ目的タリシトキトセザレバ不都合ナリ
(栗塚)
然リ報吿委員ノ修正ハ穩當ナラズ却テ原案ヲ可トス先原案ニ決ス
(松岡)
最初ノ合意ヲ爲シタル者トハ如何
(栗塚)
實ニ占有シタル人ヲ云フ
(松岡)
財產ヲ管理云々ハ如何
(栗塚)
其占有セシ者ノ財產ヲ管理セザル場合ナリ若シ其財產ヲ管理セルモノナレバ之ヲ知ルヲ得ベキナレバナリ
第三百六十七條 記名債權證書ノ讓受カ被讓債務者ニ合式ニ吿知セラレ又ハ被讓債務者カ公正證書若クハ確定日附ノ證書ヲ以テ其讓渡ヲ受諾シタル當時以後ニアラサレハ其讓受人ハ自己ノ權利ヲ以テ讓渡人ノ承權人又ハ被讓債務者ニ對抗スルコトヲ得ス〔第千六百六十五條〕
被讓債務者ノ受諾ハ讓渡人ニ對抗スルコトヲ得ヘカリシ總テノ抗辯又ハ拒却ノ理由ヲ以テ讓受人ニ對抗スルコトヲ妨ク又讓受ノ單純ナル吿知ハ被讓債務者ヲシテ其吿知後ニ生シタル抗辯ヲ失ハシムルノミ〔第千二百九十五條〕
前記ノ所爲ノ一アルマテハ債務者ノ辨濟若クハ義務免除ノ合意又ハ讓渡人ノ債權者ヨリ爲シタル拂渡差留卽チ拂渡故障又ハ合式ニ吿知シ若クハ受諾セラレタル債權ノ新ナル得取ハ總テ善意ニテ爲サレタルモノト推定セラレ懈怠ナル讓受人ニ對抗セラルルコトヲ得〔第千六百九十一條〕
當事者ノ惡意ハ其自白ニ因リ又ハ裁判所ニ於ケル宣誓ノ拒絕ニ因ルニアラサレハ證セラルルコトヲ得ス然レトモ讓渡人ト共謀シタル詐害アリシトキハ其通謀ハ總テノ通常ノ證據方法ヲ以テ證明セラルルコトヲ得
裏書ノ方法ヲ以テスル商ヒ證券ノ讓渡ニ特別ナル規則ハ商法ヲ以テ之ヲ定ム
(委員長)
記名債權モ商法ニ關スベキヲ以テ共ニ一定シタシ又受方ヲ修正シタルハ皆之ヲ修正スルカ願クハ原文ノ意ヲ用ヒタシ
(栗塚)
分ル丈ハ働キ掛ニシ分ラザル或ハ原文ノ儘ニスルツモリナリ
(委員長)
修正セザルモ宜シカルベキ處ニ其働方ニ修正シタルヲ以テ不都合アリ
(栗塚)
意味ノ異ナラザル處ハ分リ易キ樣ニスルヲ可トスト云フニアリ
(委員長)
之ヲ歐洲文ニ反譯スルトキニ當テ萬一間違ヒアルヤモ知ルベカラザルヲ以テ分ラザル處ハ働キ掛ニスルモ分リサヘスレバ原文ノ儘ニスベシ
(南部)
此後ニ左樣スルツモリナリ
(松岡)
歐文ニアル働方ヲ日本文ニテ受身ニスルトシテ分リ易キハ最モ希望スベシ
(委員長)
讀ムニハ讀ミ易キモ間違ヒアルヲ以テナリ
(松岡)
成ル丈耳目ニ慣レタル樣ニシタシ
(委員長)
起案者ノ受方トシタル處ヲ働方ニスルニハ皆然カスルニアラズ受方ナル所モアルベキヲ以テ其間ニ或ハ間違ヒナキニシモアラズ
(栗塚)
平素分リ易キ辭アルニ法律ニテハ之ヲ捨テ使用セザルハ不可ナリト思考ス
(委員長)
視易キ所ハ三人稱トシ視易カラザル所ハ二人稱トスレバ間違ノ度ガ少ナカルベシ
(松岡)
先ヅ此儘ニシ差支ヲ惹起シタルトキハ之ヲ改ムベシ
(委員長)
然カスベシト雖ドモ其差支アルトキハ受合人ノミ其責ヲ任ズルニ過ギズ外國人ト法律ノ解釋ヲ異ニシテ他日ノ心配ヲ惹起セザルベカラズ
(栗塚)
嘗テ斷リ置キタル通リ原後ノ「ラレ」「ラル」ノ修正ハ本修正ニアラズト領承アリタシ
(村田)
一項ノ讓受ト云フ下ニ人ト云フ字ヲ脫セシニアラズヤ
(栗塚)
讓渡ノ意味ニ見ラレタシ
(鶴田)
被讓債務者トハ何ゾ
(南部)
證書ニ記載ニアル借主ナリ
(栗塚)
乙者ガ甲ニ債權アル證書ヲ丙ニ讓リタルトキハ乙ハ讓渡人ニシテ丙ハ讓受人ナリ而シテ甲ハ被讓債務者ナリ
(南部)
記名債權證書ノ讓渡ハト云フ意味ナリ
(委員長)
吿知シト云フハ誰レヨリスルカ
(栗塚)
讓渡人及ビ讓受人ヨリス兎モ角モ被讓債務者ニ知ルレバ足レリ
(栗塚)
讓受ハ反譯上讓渡ハト修正スルツモリニ付キ左樣領承ヲ乞フ
(村田)
吿知セラレヲ吿知シト修正シ又受諾シタルトアルハ吿知セラレ受諾セラレトスルヲ可トス
(松岡)
被讓債務者ハ第三者ニ當ルニ被讓ト云フヲ妥當トスルヤ
(栗塚)
原被ノ被ハ兩人間ナレドモ此被ハ第三者ナリ
(淸岡)
妨トハ如何受諾ガ之ヲ妨グルモノニシテ對抗スルヲ得ザルモノトス
(尾崎)
初メ被讓渡人債權者ノ渝ルヲ欲セザル旨ヲ留保シ置ケバ格別己ニ被讓債務者ガ受諾シタルトキハ讓受人ニ對抗スルヲ得ズト云フ譯ナルベシ
(栗塚)
然リ
(松岡)
單純ト云フモ合式ノ吿知ナルベシ
(南部)
然リ
(松岡)
受諾ナキモ吿知アレバ單純ノ吿知ナリ
(栗塚)
單純ナル吿知アリタルトキハ被讓債務者ハ其吿知後ニ生ジタル抗辯及拒却ノ理由ヲ失フベシ
(栗塚)
前記ノ所爲ノ一トハ吿知ガ又ハ受諾アル迄ハト云フ譯ナリ
(委員長)
抗辯モ前記ノ所爲ノ一ニ入ラザレバ吿知前ノ抗辯ヲ爲スコトアレバナリ
(栗塚)
吿知又ハ受諾アル點ハ對抗スルコトヲ得ベキモノニシテ抗辯ハ其中ニ入ラザルナリ
(松岡)
宣誓ハ別ニシテ自白ニシテ惡意ナシトスルヲ得ベキヤ
(栗塚)
宣誓ハ他日證據篇ニ於テ報吿委員ヨリ刪除ノ意見ヲ呈出スルカモ知ルベカラズ
(委員長)
宣誓ノ方法ハ兎モ角モ存置スルヲ可トス
(栗塚)
他日此點ニ立戻リ議スルコトヲ要スルコトアルベキトキハ許容アリタシ
(委員長)
然リ
第三百六十八條 左ノ書類ハ財產所在地ノ戶長役場又ハ郡區役所ニ備ヘタル特別ノ帳簿ニ其全文ヲ登記ス
第一 公正證書ト私署證書トヲ問ハス又有償名義ト無償名義トヲ問ハス不動產所有權又ハ其他ノ不動產物權ノ移付ヲ記載シタル生存者間ノ總テノ證書
第二 右同一ノ權利ノ改樣又ハ抛棄ヲ記載シタル總テノ證書
第三 前記ノ目的ノ一ヲ有スル口頭ノ合意ノ成立ヲ證明シタル總テノ判決書
第四 不動產差押ノ上ノ公賣落札ノ總テノ判決書
第五 公用ニ因由スル所有權徵收ヲ宣吿シタル裁判上又ハ行政上ノ證書〔千八百五十五年三月二十三日佛法律第一條、第二條伊民第千九百三十二條〕
不動產ノ抵當及ヒ先取特權ノ公示ニ特別ナル規則ハ第四編ニ之ヲ定ム
本條ハ報吿委員ニテ戶長役場又ハ郡區役所ノ數字ヲ刪リ區裁判所トス其全文ヲ之トス
(委員長)
商ヒ證券ハ商法ト能ク照合シタルカ
(南部)
然リ
(村田)
生存者間ニ限リシハ如何
(南部)
合意ノ効力ノ所ヘハ遺囑ノ點ヲ記スルヲ得サルニ付キ其點ハ相續篇ニ於テスベシ又判決書ハ裁判書ト改メタシ
可決ス
第三百六十八條第二 登記ハ一個ノ規則ニ憑リ公示スヘキ證書ノ同樣ナル二個ノ原本ヲ登記役所ニ納ムルコトヲ以テ之ニ代フルコトヲ得其二個ノ原本ハ之ヲ校合シ相同シト認メタル後各葉每ニ其双方ノ縁邊ニ登記ノ割印ヲ付ス
其原本ノ一ハ其要旨ヲ特別ノ帳簿ニ記載シテ右ノ役所ニ之ヲ保有シ他ノ原本ハ其納付ヲ爲シタル場所ト時日トヲ縁邊ニ記載シテ當事者ニ還付ス
登記ニ關スル其他ノ法式ハ特別ノ規則及ヒ民事訴訟法ヲ以テ之ヲ定ム
(栗塚)
現ニ登記法アルヲ以テ一項二項ハ之ヲ刪除シ末項ハ登記ニ關スル其他ヲ總テノトシ三百六十九條ノ末項ニ附置スベシ
可決ス
第三百六十九條 登記ハ合式ノ辯明ノ後當事者ノ請願ニ因リ其費用ヲ以テ之ヲ爲ス
請願者ニハ登記セラレタル證書ノ主タル項目ノ拔抄シテ記載シタル登記ノ保證書ヲ交付ス
又何人ニテモ自己ノ指定シタル不動產ニ關スル登記帳簿ノ拔書ヲ自費ニテ要求スルコトヲ得〔同上第五條、佛民第二千百九十六條以下〕
本條報吿委員ニテ登記セラレタル證書ノ下「ノ主タル項目ノ拔抄シテ記載シタル」ヲ刪リニ付キヲ挿入ス
第三百七十條 上ニ揭ケタル所爲ノ効力ニ因リ得取セラレ改樣セラレ又ハ取回サレタル物權ハ其登記ニ至ルマテハ仍ホ其表見ノ本主タル當事者ト右ノ權利ニ付キ約定シ又ハ本主ヨリ若クハ其權利ニ依テ右ノ權利ト相容シサル權利ヲ得取シタル承權人ニ對抗セラルルコトヲ得ス但右二個ノ場合ニ於テ其承權人ハ善意ニシテ且其證書ノ登記又ハ記入ヲ要スルトキハ自ラ之ヲ爲サシメタルコトヲ要ス〔同上第三條伊民第千九百四十二條〕
惡意及ヒ通謀ハ第三百六十七條ニ從ヒ證セラルルコトヲ得〔佛民第千七十一條、千八百五十一年十二月十六日白耳義法律第一條〕
報吿委員ニテ所爲ヲ證書トシ本主タル當事者トアルヲ所有者トシ約定シノ下ヘタル承權人トシ又ハ本主ヨリトアルヲ又ハ約定セズシテ法律トシ若クハ其權利ニ依テトアルヲ若クハ裁判ニ依リトシ對抗セラルルトアルヲ對抗スルトシ第三百六十七條ニ從ヒノ下ヘ之ヲト云フ二字ヲ挿入シ證セラルルコトヲ得トアルヲ證スルコトヲ得ト修正ス
(委員長)
表見ノ所有者ハ本所有者ニアラズヤ
(栗塚)
所有權ヲ移シタル舊所有者ナリ
(委員長)
登記モ承權人ニ移リタルニ之ヲ表見ト云フハ如何
(南部)
表見シタルトキハ前者ガ所有者ナリ
(委員長)
承權人ガ未ダ登記セザルトキハ舊所有者ガ表見ナルモ承權人モ已ニ登記シタルトキハ舊所有者ハ表見ノ所有者ニアラズ
(淸岡)
相續者不在ニ付キ第二ノ相續者之ヲ相續シタルニ曩ニ不在ノ相續者歸來シタルトキハ如何
(松岡)
否ナ證書ニ依テ得ルモノナレバ相續トハ別ナリ
(南部)
得取セラレ改樣セラレトアルハ皆「シ」ト云フニシテハ如何
(委員長)
宜シカルベキカ但書以下ハ如何
(栗塚)
爲サシメタルニテ不都合ナシ自ラ登記官ニ登記セシムレバナリ
(委員長)
此等ノ文字ヲ修正スルヨリ表見ト如キ大切ナル文字ヲ修正セラレタシ
(松岡)
相容レザル權利トハ言ハザルトモ權利ニ二種アルナシ
(栗塚)
然ラズ所有者ト賃借リトノ如キ所有權ト用收權トノ如キモノアレバナリ
(松岡)
登記ニ付キ權利ノ爭ハ其衝突シタルトキニアリ然ルニ相容モノナレバ爭ノ起ルベキ理由ナシ
(村田)
相容ルルモノハ所有權ト用收權トニ過ギズ其他ハ皆相容レザルモノナリ
(栗塚)
相容レザル權利ト云フモ證言ニアラズ故ニ言ハズシテ可ナリト云ヘ可ナルベキモ丁寧ニ示シタルモノナリ
(鶴田)
登記ヲ要セザルモノハ自ラ對抗ヲ防ベギキモ其要セザルモノハ何ゾ
(松岡)
相續ノ如キハ直チニ登記スルヲ要セザルモノナリ
第三百七十一條 登記ヲ闕無ハ法律裁判又ハ合意ニ因リ最初ノ登記ヲ爲サシムルコトヲ任セラレタル次後ノ得取者又ハ讓受人カ善意タリトモ此等ノ者ヨリモ又其相續人又ハ一般ノ承權人ヨリモ最初ノ得取者ニ對抗セラルルコトヲ得ス〔第九百四十一條、伊民第千九百四十四條第三項〕
本條ハ報吿委員ニテ最初ノ登記ヲ爲サシムルコトヲ任セラレタルトアルヲ最初ニ登記ヲ爲スノ義務アルト修正ス
(栗塚)
最初登記ヲ爲スベキ義務アル者ガ其登記ヲ爲サザルトキハ次後之ヲ得取シタル其者モ又其相續人ヤ承繼人モ最初ノ所有者ニ向テ對抗スルヲ得ザルナリ
(松岡)
最初登記スベキ義務者ガ登記セズシテ次後自分ガ之ヲ得取セントスルモ得ザルベシ
(栗塚)
法律裁判又ハ合意ニ因リ最初ニ登記ヲ爲スノ義務アルモノ之ヲ爲サズシテ次後ノ得取者又ハ讓受人トナリタルトキハ善意タリトモ此等ノ者ヨリ又ハ其相續人若クハ一般ノ承繼人ヨリ登記ノ欠缺ヲ以テ最初ノ得取者ニ對抗セラルコトヲ得ズトスベシ
(淸岡)
承權人ヨリノ下モノ字ハ存スベシ
(松岡)
「モ」ヲ除キ此等ノ者ヨリヲモ除テハ如何
(栗塚)
此條ニテハ甲者無登記ニテ所有セル財產アリ乙之ヲ登記スベキ管理ノ義務アル際之ヲ爲サズ自ラ之ヲ得取シ登記シタルトキ其登記シタル者ハ最初甲ノ登記アラザル故餘ハ正當ノ所有者ナリト云フヲ得ズ又曰義務アルモノ之ヲ爲サズシテト云フハ語弊アリ
(淸岡)
然リ
(南部)
何レ登記ヲ爲サザル以前ヲ云ヒシナラン
(委員長)
栗塚ノ說明ノ如クナレバ合意ニ因リノ下ヘ他人ノト云フ字ヲ加ヘザレバ不可ナリ
(栗塚)
例バ郡長某アリ未ダ郡長タラザル前政府ガ或ル地所ヲ買上タリ其後郡長某ハ此地ニ未ダ登記ナキ場合ナレバ職務上登記スベカラザルニ之ヲ爲サズ自ラ買收シタルトキ之ヲ登記シテ直チニ政府ノ買上シトキハ登記ナカリシヲ以テ後ニ買得セシハ不都合ナシト云フヲ得ス故ニ之ヲ爲サズシテト云フハ語弊アリトス
(委員長)
他人ノ爲メヲ挿入セザレバ意味不明ナリ
(南部)
他人ヲ入ルレバ其他人ト云フハ最初ノ得取者ナリト云フコトハ認メザルベカラズ
遂ニ合意ニ因リノ下ニ他人ト云フ字挿入スルニ決ス
第三百七十二條 登記セラレタル移付ノ解除、銷除又ハ廢罷ヲ主旨トスル訴權カ善意ノ轉得者ノ害ニ於テ行ハルルコトヲ得サル場合ニ在テハ裁判所ニ於ケル請求ハ原吿ニ對抗スルコトヲ得ヘキ登記又ハ記入ヲ止ムル爲メ其攻撃セラレタル證書ノ登記ノ縁邊ニ拔抄シテ記載セラル
若シ前記ノ訴權カ區別ナク總テノ轉得者ニ對シテ行ハルルコトヲ訴サルルトキハ請求ハ攻撃セラレタル證書ノ登記ノ縁邊ニ記載セラレサル間ハ裁判所ニ於テ受理セラレス〔白耳義法律第三條及ヒ第四條〕
所爲ノ取消ヲ宣吿スル判決ハ亦假ノ執行タリトモ之ヲ執行ニ付スル以前請求ノ登記ノ末ニ記載スルコトヲ要ス又如何ナル場合ニ於テモ其判決カ攻撃スルコトヲ得サルモノト爲リタル時ヨリ一个月内ニ之ヲ記載スルコトヲ要ス若シ之ニ違ヒタルトキハ其判決ヲ得タル者二十圓乃至百圓ノ罰金ヲ科ス〔千八百五十五年佛法第四條〕
若シ請求カ却下セラレ又ハ其手續ノ失効ヲ宣吿セラレタルトキハ其却下又ハ其手續失効ノ判決カ攻撃スルコトヲ得サルモノト爲リタルトキニ至リテ實行セラルル爲メ裁判所ハ職權ヲ以テ其請求ノ記載ノ抹消ヲ命ス〔伊民第千九百三十三條、第千九百三十四條〕
若シ原吿カ取下ヲ爲ストキハ當事者ノ請願ニ因リ請求ノ記載ノ抹消ヲ爲ス
本條ハ報吿委員ニテ第一項ヲ「裁判所ニ於ケル請求ハ原吿」ト云フ文字ヲ刪リ原吿ハ自己ト四字ヲ挿入シ縁邊ニ拔抄シトアルヲ縁邊ニ裁判所ニ於ケル請求ヲ拔抄シトス第二項ハ「許サルルトキハ請求ハ」ト云フヲ刪リ得ル場合ニ在テハト云フ字ヲ挿入シ登記ノ縁邊ニ記載セラレサルトアルヲ登記ノ縁邊ニ請求ヲ記載セザルトシ、裁判所ニ於テ受理セラレズトアルヲ裁判所ニ於テ之ヲ受理セズトス第四項ハ亦假ノトアル亦ヲ刪リ「之ヲ執行ニ付スル」トアルヲ其執行トシ登記ノ末ニノ下ヘ亦之ヲト云フ字ヲ加ヘ十圓乃至百圓ノ罰金ヲ科ストアルヲ五圓以上五十圓以下ノ罰金ヲ科ストス第四項ハ「若シ請求カ却下セラレ」トアルヲ若シ請求ヲ却下シトシ宣言セラレトアルヲ宣言シトシ宣言シタルトキハノ下ヘ、裁判所ハト云フヲ加ヘ其ノ下「却下又ハ其手續失効ノ」ト云フヲ刪リ「爲リタルトキニ至リ」ノ「テ實行セラルル爲メ裁判所ハ職權ヲ以テ」ト云フヲ刪リ其請求ノ記載ノトアルヲヲトシ抹消ヲ命ズトアルヲ抹消スベキ爲メ職權ヲ以テ預メ之ヲ命ズト修正ス
(委員長)
轉得者ノ害ニ於テトハ如何
(栗塚)
轉得者ノ害トナル場合ニ於テト云フコトナリ
(鶴田)
攻撃セラレタル證書ノ登記ノ縁邊トハ如何
(南部)
解除銷除又ハ廢罷ノ證書ナリ
(栗塚)
乙ハ甲ノ之ヲ丙ニ賣リシ物ト云フヲ知ラズ自ラ之ヲ購買セリ丙ハ又之ヲ丁ニ賣リ丁ノ登記セントスル際乙ハ丙ノ所有中ハ其賣買ヲ取消スヲ得ルモ既ニ丁ノ登記ヲ爲シタル以上ハ之ヲ取回スヲ得ザルニヨリ其豫防手段ノ爲メ自ラ丙ヲ攻撃スベキ證書ノ登記ノ縁邊ニ裁判所ニ於ケル請求ヲ拔抄シテ記載スルト云フコトナリ
(鶴田)
二項ハ如何
(栗塚)
此場合ハ買戻シ契約ノ際往々見ル所ナリ
(委員長)
一項ノ轉得者ノ害ニ於テハ轉得者ガ害スル如ク見ルヲ以テ害トナリ行ハルルコトヲ得ザルトシテハ如何
(南部)
宜シカルベシ
(栗塚)
攻撃セラレタルヲシタルトスベシ
(淸岡)
二項ハ如何
(栗塚)
何人ニ得スルモ之ヲ訴フベシト雖ドモ請求ノ旨ヲ登記ノ縁邊ニ記示セザレバ不都合ナレバナリ
(鶴田)
三項ハ如何
(南部)
解除ノ訴立テ元ノ證文取消トナルトキ其判決ハ假令假ノ執行タリトモ最初ノ請求ノ登記ノ末ニ亦其旨ヲ記載スルヲ要ス
(淸岡)
宣吿スル判決云々ハ裁判所之ヲ爲ス如ク見ユルニ付キ宣吿シタルト云ハザレバ不可ナリ
(南部)
罰金ヲ科スハ過料ニ處ストスベシト可決ニ屬ス
(淸岡)
登記セザルモノノ過料ハ高キニアラスヤ
(南部)
此場合ニ登記セザルベカラザルヲ以テナリ
第三百七十三條 登記セラレタル證書ノ解除、銷除又ハ廢罷カ熟議ニテ承諾セラレタルトキハ其解除、銷除又ハ廢罷ハ總テノ場合ニ於テ任意ノ讓戻ト看做サレ第三百六十八條乃至第三百七十一條ヲ以テ命シ及ヒ定メタル登記ニ付セラル
前記ノ登記ハ帳簿ノ保管人取消サレタル證書ノ登記ノ縁邊ニ職權ヲ以テ之ヲ記載ス
(栗塚)
登記ノ帳簿ノ保管人ハ佛國ニ於テハ保管人ト云フモ日本ニ於テハ今日ノ所ニテハ治安、裁判所トシテモ宜カラン報吿委員ノ修正ニテハ登記ノ主管者トス
(淸岡)
三百六十八條ハ其儘テ可然ヤ
(栗塚)
條ノ改正ハ追テ之ヲ爲スヲ以テ其儘デ宜シ
第三百七十四條帳簿ニ爲シタル登記及ヒ縁邊記載ハ之ニ付キ利害ヲ有スル總テノ者ヨリ抹消シ又ハ改正スル爲メニ裁判上ニテ之ヲ爭フコトヲ得
請求及ヒ判決ハ第三百七十二條ニ記載シタル如ク且其條ニ揭ケタル罰ヲ以テ其爭ハレタル證書ノ登記ノ縁邊ニ記載セラル
能力アリ又ハ合式ニ名代セラレ若クハ輔佐セラレタル當事者ハ熟議ニテ抹消又ハ改正ヲ承諾スルコトヲ得
裁判上ニテ合式ニ命セラレ又ハ熟議ニテ承諾セラレタル抹消又ハ改正ハ正シク登記セラレ又ハ記入セラレタル權利ヲ有スル者ヲ其抹消又ハ改正ニ付キ異議ヲ爲シ又ハ承服スル爲メ召喚シタル上ニアラサレハ之ニ對抗セラルルコトヲ得ス
(栗塚)
且其條ニ揭ゲタル罰ヲ以テト云フハ三百七十二條ノ五圓以上五十圓以下ノ廉ニアタルモ且ツ其條ニ揭ゲタル罰ヲ以テト云フニテハ右ニ當ルヲ知ルヲ得ズ依テ報吿委員ハ之ヲ修正シテ登記ノ縁邊ニノ下ヘ之ヲノ二字ヲ入レ記載セラレト云フヲスルコトヲ要ス違ウ者ハ何條ノ過料ニ處セラルトシ二項ノ能力アリ云々ヲ能力アル當事者云々トス又反譯上ニテ權利ヲ有スル者ヲトアルヲカトシ異議ヲ爲ノ下「シ又ハ承服スル」ヲ刪リ異議ヲ爲ス爲メトシ召喚ノ下「シタル」ヲ刪リ召喚セラレ又ハ承服シタルト修正ス原文ニテハ承服スル爲メ召喚セラレタル如ク見ユレバナリ
(尾崎)
末項ハ稲晦澁ニ屬ス更ニ修正シテ命ゼラレヲ命ジ諾セラレヲ諾シ權利ヲ有スル者「カ」ヲ「ヲ」トシ召喚セラレヲ召喚シ又ハ其者ガトシ其者ニ對抗ト云修正ヲ原文ノ通リ之レトシ對抗セラルルヲスルコトト改ム
(松岡)
一項、抹消又ハ改正スル爲メヲ改正ハトスルヲ可トス
(村田)
英文ニテハ合式ニ名代セラレバ無能力ノ名代トシアリ
(栗塚)
否ナ不在ノ際ニモ名代セラルルヲ得ベキモノナレバ無能力ニ限ラザルモノナリ
(鶴田)
末項ノ意ハ裁判上ニテ合式ニ裁判シタルモノヲ抹消又ハ改正スルニ付キ更ニ此手續ヲ要スルカ
(栗塚)
然リ
(南部)
第三者ニ對スル場合ナレバナリ
第三百七十五條 帳簿ノ保管人ハ或ハ前數條ニ揭ケタル登記又ハ記入、抹消又ハ改正ニ於ケル或ハ帳簿ノ形狀ヲ知ラシムルニ供シタル保證者ニ於ケル漏脫又ハ不精確ニ付キ請願人又ハ當事者ニ對シ其責ニ任ス
本條帳簿ノ字ヲ登記ト修正ス
(松岡)
登記ノ保管人或ハト云フ或ハハ刪除シタシ
(栗塚)
如此文例ハ特ニ本條ニ止マラザルヲ以テ刪ルトセバ最初ヨリ刪ルベシ
(淸岡)
保證書ニ於ケル漏服ト云フハ晦澁ナリ
(栗塚)
漏脫又ハ不精確ハ上ノ全體ヲ受クベシ
(松岡)
帳簿ノ形狀トハ如何
(栗塚)
帳簿ニ記載セシ都合ナリ
第四款 合意ノ解釋
第三百七十六條 合意ノ解釋ニ付テハ裁判所ハ當事者ノ用ヒタル語辭ノ文字ノ儘ノ意義ニ據ランヨリ寧ロ當事者ノ共通ノ意思ヲ推求スルコトヲ要ス
本條ハ報吿委員ニテ文字ノ儘ノトアルヲ文字上トス
(尾崎)
文字ノ儘ト云フガ宜シキニアラズヤ
(松岡)
據ランヨリハト云フハ文字上ニ作ルハ至當ナルモ之レニ拘泥スルハ宜シカラズト云フ意味ナレバ何ゾ妥當ノ字ナキヤ
(栗塚)
固着又ハ粘着ト云フ原字アルヲ以テナリ此文字上ノトセシムハ如何
(渡)
儘ト云フ方宜シカラン
遂ニ報吿委員修正ニ決ス
第三百七十七條 一個ノ語句カ總テノ場所ニ於テ同一ノ意義又ハ同一ノ範域ヲ有セサルトキハ契約者雙方カ其住所ヲ有スル場所ニ於テ慣用スル意義ヲ擇ムコトヲ要ス又其住所カ同一ノ場所ニ在ラサルトキハ契約ヲ爲シタル場所ニ於テ慣用スル意義ヲ擇ムコトヲ要ス
一個ノ語句カ其レノミニテ二樣ノ意義ニ解セラルルコトヲ得ルトキハ其語句ハ合意ノ本性及ヒ目的ニ最モ適スル意義ニ解セラルルコトヲ要ス
(松岡)
又其住所カ同一ノ場所云々トハ例ヘバ東京人ト長崎人トカ大坂ニ於テ契約セシトキハ如何
(南部)
大坂ノ慣用ニ從フモノナリ
(淸岡)
末文ノ解セラルルハ解スルコトト修正スベシ
可決ス
(栗塚)
初ノ解セラルルモ解スルトスベシ
(南部)
初ハ自然ニ解セラルルト云フコト故原文ノ通リニテ可ナリ
(渡)
同一ノ意義ト云フ字アルヲ以テ又同一ノ範圍ト云フ字ヲ除クベシ
(栗塚)
此點ハ例ヘバ塀ト云ヘバ東京ノ人ハ板塀ト感ズルモ大坂ノ人ハ連塀モ入ルト云フ感アルヲ以テナリ意義ト云フモ節域ト云フモ強テ異ル所ナシ
遂ニ「又ハ同一ノ範圍」ヲ刪除ス
第三百七十八條 合意ノ總テノ條目ハ其各條目ニ證書ノ全體ト最モ善ク一致スル意義ヲ與ヘテ相互ニ解釋ス
若シ一ノ條目カ二樣ニ解釋セラルルコトヲ得テ其一ノミカ之ニ有益ナル効ヲ與フルトキハ之ニ有益ナル効力ヲ與フル樣ニ解釋スルコトヲ要シ之ニ何等ノ効力ヲモ與ヘサル樣ニ解釋セサルコトヲ要ス
(松岡)
之ニ何等ノ効力云々ハ不用ナリ
(淸岡)
刪ルベシ
(栗塚)
有益ナル効力ヲ與フル樣ニ解釋シトセバ明カナリ
(鶴田)
之ニ有益ナル効力トハ如何
(栗塚)
無効ナル意味ニ解セザルヲ云フ
(渡)
有益ナル樣ニトシテハ如何
(村田)
効力ノアル樣ニト云フ譯ナラン有益ノ上之ニ何等ノ上之ニノ二字ハ刪除スベシトナリシ
(委員長)
有益ノ上ニ代名詞アラザレバ甚不明ナリトアリシカ先ヅ刪除ニ決ス其一ノミカ之ニ有益ナルトアル之ニヲ條目ニト修正ス
第三百七十九條 合意ノ語辭カ如何ニ廣泛ナルモ其語辭ハ當事者ノ契約スルニ付キ企圖シタル目的ニアラサレハ包含セサルモノト推定セラル
又縱令當事者カ合意ノ天然若クハ適法ノ効力ノ一又ハ特別ノ場合ニ於ケル其適用ヲ明言シタリトモ當事者ハ其レノミニ因テ慣習又ハ法律カ其合意ニ付スル他ノ効力又ハ合意カ當サニ受クルコトヲ得ヘキ他ノ適用ヲ排除セント欲シタルモノト推定セラレス
(栗塚)
二項ハ不明ニ付キ報吿委員ニテ効力ノ一ノ下「ヲ明言シ」ノ四字ヲ挿入シ其適用トアルヲ合意ノ適用トシ慣習又ハヲ若クハトス
(渡)
包含セザルモノトハ如何
(栗塚)
目的ガ包含セザルモノト推定セラルルノ意味ナリ
(淸岡)
推定セラレズトハ推定スト云ヲ宜シトス
可決ス
(鶴田)
他ノ効力ノ他ノ字習慣若クハ法律ヲ以テ効力ヲ附シタルノ意ナレバ之ヲ除クベシ
(栗塚)
他ノ字ハ存在セシムベシ慣習法ガ明言シテ取除ケアル効力ヲ保護シテ失効タラシメザルノ意味ナレバナリ
(委員長)
合意ガ當サニ受クルコトヲ得ベキノ他ノ適用トハ如何
(栗塚)
假令バ合意ニテ明言シタルコトヲ云々スルノミナラズ尙ホ合意外ノコトヲ以テ云々スルコトヲモ得ベシト云フニアリ
第三百八十條 總テノ場合ニ於テ當事者ノ意思ニ疑アルトキハ合意ハ要約者ノ不利ト爲リ諾約者ノ利ト爲ル樣ニ解釋セラル
若シ合意カ雙撃ナルトキハ此規則ハ曖昧ナル又ハ多義ナル各條目ニ付キ各別ニ適用セラル
(鶴田)
雙撃ハ双務ト云フヲ得ザルカ
(栗塚)
兩方共同ノ義ナリ双務ノミニスレバ双撃トハ云フベカラザルニ至ラン
(淸岡)
曖昧トカ多義トカ云フ字ヲ用ヒズ何ゾ恰當ノ字ヲ擇取シタシ
(委員長)
要約者ノ不利ト爲リハ反對ヨリ云フトキハ不利トナルベキ故不利トセンカ
(栗塚)
要約者ニ逆フテ諾約者ノ利ト爲ル樣ニト云フ譯ナリ
(委員長)
佛文ニハ要約者ニ對シテトアリ要約者ノ不利トナル樣ニト云フト語弊アルヲ免レズ
(栗塚)
當事者ノ意思ニ疑アルトキハ其利益ヲ要約者ニ歸スルカ將タ諾約者ニ歸スルカト云ヘバ諾約者ニ歸スルモノナリ
(松岡)
恰モ弱者ヲ助クト云フガ如シ
(委員長)
弱者ヲ助クルハ可ナルモ爲メニ強者ヲ害スルト云フハ甚シキニアラズヤ
(栗塚)
疑ヒアルトキハ合意ハ要約者ノ損失ナリ諾約者ノ利トナル樣ニ解釋スベシト云フニアリ何レカ勝敗ヲ決セザルヲ得ザルトキハ權利者ヲ敗セシムル樣ニスベキモノナリ
第二節 不當ノ利得卽チ准契約
第三百八十一條 何人ニ限ラス有意ナルト無意ナルトヲ問ハス又錯誤ニ出ルト故意ニ出ルトヲ問ハス正當ノ原由ナクシテ他人ノ財產ニ付キ利ヲ得タル者ハ其不當ニ自己ノ利益ニ歸シタルモノノ取戻ニ從ハセラル
此條例ハ下ノ區別ニ從ヒ主トシテ左ノ諸件ニ適用ス
第一 他人ノ事務ノ管理
第二 負擔セラレタルニアラスシテ辨濟セラレタル物卽チ或ハ處妄又ハ不法ノ原由ノ爲メ或ハ成就セス又ハ成立スルコトヲ止メタル原由ノ爲メ供給セラレタル物ノ收受
第三 贈遺又ハ其他遺囑ノ負擔アル相續ノ受諾
第四 第三編第一部第二章ニ記載シタル如ク所有者ニ付キ他人ノ物ノ附添ヨリ又ハ他人ノ勞力ヨリ生スル增加
第五 他人ノ物ノ占有者カ不適法ニ收取シタル果實、產物並ニ其他ヲ利益及ヒ占有者カ其占有セル物ニ加ヘタル改良但第二百六條乃至第二百十條ニ定メタル區別ニ從フ
(淸岡)
取戻ニ從ハセラルヲ報吿委員ニテ受クト改メタルモ之ハ取戻ニ從フトスルヲ可トス
(村田)
第三ハ英文ニ依ルトキハ甚ダ不明ノ點アリ
(栗塚)
之ヲ第三者ニ贈遺スベシト云ハレ其相續シタルモノヲ第三者ノ爲メニ利セシムベキ受諾ナリ第二ノ卽チ或トアルハ第三百八十二條ニ於テ不都合ヲ見タルヨリ報吿委員ハ又ハト云フベキ所ナリト思惟セリ
(鶴田)
負擔セラレタルニアラズト云フヲ負擔ニアラズシテトシタシ
(栗塚)
負擔スベキニアラズトスベシ
(鶴田)
止メタル原由ノ爲メトハ止メタル爲ニ贈與シタル如クナルニアラズヤ
(栗塚)
否贈與スベキモノヲ贈與スルニ及バズトナリタルヲ知ラズシテ贈與シタルトキハ取戻サルルナリ供給セラレタルハ供給シタルト修正ス
(委員長)
不適法ト不當トハ何ノ差アルヤ
(栗塚)
法ノ許否ヲ問ハズ權利ナキニ權利アリトシタル如キハ不當ナリ不適法ハ法律ノ許サザルコトナリ
第三百八十二條 合意、適法又ハ裁判ノ委任ナクシテ不在者又ハ其他ノ人ニシテ其財產ニ患害アリト見ユルモノノ事務ノ全部又ハ一分ヲ好意ニテ管理スル者ハ其本主ノ物ヨリ收メタル總テノ利益ヲ返還シ且前記ノ管理ニ際シ自己ノ名ニテ得取スルコトヲ得タル權利及ヒ訴權ヲ其本主ニ轉移スルノ責アリ
管理者ハ本主又ハ其相續人カ自ラ管理ヲ爲シ得ル時ニ至ルマテ之ヲ繼續スルノ責アリ
管理者ハ其過愆又ハ懈怠ニ因リ本主ニ加ヘタル損害ノ責ニ任ス但管理者ヲシテ其管理ニ任スルニ至ラシメタル狀況ヲ酌量スルコトヲ要ス
(栗塚)
報吿委員ニテ冒頭ノ合意適法又ハ、裁判ノ委任ナクシテトアルヲ一分ヲノ下ニ轉置セリ
(南部)
裁判上トスルヲ宜シトス
可決ス
(松岡)
得取シタルコトヲ得ト云フハ如何
(栗塚)
得取シタナラバト云フ譯ナリ權利訴權ハ屹度得ルニ極ラズ若シ之ヲ得タルトキハト云フ意ナリ
(鶴田)
然レバ下文ニ附セザルベカラズ
(淸岡)
得取シ得タルトスベシ
(栗塚)
然バ原案ノ儘ニ附サレタシ
可決ス
(委員長)
患害アリト見ユルモノノト云フ見ユルノ字妥當ナリヤ
(栗塚)
例バ不在者ノ其家宅ヲ預リシ際將サニ其家宅ニ患害アラントスルヲ見テ云々スト云フコトナリ
第三百八十三條本人ハ自己ノ方ニ在テハ管理者カ管理ノ爲メニ爲シタル必要又ハ有益ナル總テノ出費ニ付キ之ニ賠償シ且管理者カ管理ノ名義ニテ自身ニ負擔シタル約務ニ付キ之ヲ免カレシメ又ハ擔保スルコトヲ要ス
本條ハ報吿委員ニテ「自己ノ方ニ在テハ」ノハ字ヲ刪リ之ニヲ之ヲト修正ス
(栗塚)
之ヲト云ヘバ出費ヲ指スニ當ルヲ以テ之ニト云ヘバ管理者ヲ指スモノトナレバ之ニトシタシ卽チ管理者ヲ指シタルナレバナリ故ニ之ヲトシタル
報吿委員ノ修正ハ可決ス
第三百八十四條 債權者ニアラスシテ辨濟ノ名義ヲ以テ給付ヲ受ケタル者ハ其善意ナルト惡意ナルトヲ別タス又辨濟シタル者ノ錯誤ニ出ルト故意ニ出ルトヲ別タス其取戻ニ從ハセラル
(栗塚)
本條ノ從ハセラルモ受クト修正セントス
可決ス
第三百八十五條 若シ辨濟ヲ受ケタル者カ債權者タルモ債務者ニアラサル他ノ者ヨリ之ヲ受ケタルトキハ辨濟ヲ爲シタル者カ錯誤ニテ之ヲ爲シタルトキニアラサレハ取戻ヲ許サス
又取戻ハ債權者カ辨濟アリタルニ因リ善意ニテ其債權ノ證書ヲ毀滅セシトキモ止ム
右二個ノ場合ニ於テ辨濟シタル者カ事務管理ノ訴權ニ依リ又ハ辨濟ノ事項ニ於テ揭ケタル如ク代位ノ利益ニ依リ眞ノ債務者ニ對シテ有スル求償權ヲ妨ケス
(委員長)
二項ハ如何
(栗塚)
錯誤ニテモ債權者證書ヲ毀滅シタルトキハ取戻シスルヲ得ザルナリ
(尾崎)
代位ノ利益ト云フモ代位ニアラズ直接ナルヲ以テナリ
(南部)
代位ノ庇蔭ニ依テト云フコトナリ
(委員長)
利益ニ依リハ外ニ尙ホ妥當ノ字アレバ改ムベシ
(栗塚)
然ルベシ
第三百八十六條 若シ辨濟カ眞ノ債務者ヨリ眞ノ債權者ニ爲サレタルトキハ債務者カ其負擔シタル物ヨリ他ノ本性ノ物又ハ自己ニ屬セサル物ヲ錯誤ニ因テ辨濟トシテ與ヘタルトキニアラサレハ取戻ハ存立セス
若シ辨濟カ或ハ期限前ニ於テ爲サレ或ハ辨濟ヲ實行スヘキ場所ヨリ他ノ場所ニ於テ爲サレ或ハ約束シタル品質價格又ハ良度ヨリ他ノ品質價格良度ノ物ヲ以テ爲サレタルトキハ取戻ハ存立セス但當事者ノ一方ニ錯誤アリタルトキハ其者カ自己ノ爲メ生シタル損失ヲ他ノ一方利益ノ限度ニ於テ賠償セシムルコトヲ妨ケス
報吿委員ニテ第二項約束シタルノ下品質價格又ハ良度ヨリノ字ヲ刪リ物ヲト云フ字ヲ挿入ス又他ノ一方ノ下ヨリ其ノ三字ヲ入ル
(鶴田)
當事者ノ一方云々ハ如何
(栗塚)
假令バ仙臺米ヲ渡スベキトキ肥後米ヲ渡シタルトキハ肥後米ニ付キ幾干ノ利益アルベシ其利益ニ付キ賠償ヲ爲サシムルニ妨ゲナシ
(委員長)
限度ハ限度内トハ云フベカラザルカ
(栗塚)
是迄限度ト爲シタルナリ
(委員長)
利益ノ限度ト云ヘバ假令バ金額拾圓ヲ受取リ過ギタルトキ其拾圓ヲ運用シテ設ケシ利子モ包含セルカ
(栗塚)
否ナ其利益ヲモ返サシムルニアラズ只損失ヲ賠償セシムルナリ英文ニハ利益ヲ踰ベカラズトアリ
(鶴田)
損失ハ幾干ナルモ利益高丈ケヲ償ハシムベシ
(委員長)
或ル幅物ヲ自分ニ所持セシトキハ拾圓ノ價ヒナルニ之ガ骨董商ノ手ニ移リシ爲メ二十圓ノ價トナリシトキハ如何
(栗塚)
二十圓ヲ償ハザルベカラズ
(委員長)
拾圓ニ止ルベシ
(松岡)
不當ノ利ハ十圓トナルベシ殘額拾圓ハ骨董商ノ働キナリ
(栗塚)
其金額二十圓ハ誰レニ賣ルモ代償二十圓ナレバ卽チ二十圓ノ不當ノ利益ナリ
(鶴田)
第二ノ利益ニ屬スル分ハ返濟スルニ及バザルベシ
(栗塚)
此ニ原被兩造アリ原吿ノ損失百園ニシテ被吿ノ利益百圓ナレバ卽チ百圓ヲ償ヲ足レリ原吿ノ損失百圓ニシテ被吿ノ利益七十圓ナレバ原吿ハ七十圓ノ償ヒニ忍バザルベカラズ原吿ノ損失百圓ニシテ被吿ノ利益百二十圓ナレバ二十圓ハ被吿之ヲ返スニ及バズ
遂ニ他ノ一方ノ利益云々ハ此儘ニ決ス辨濟カト云フヲ辨濟ヲトシ爲サレタルヲ爲シト修正ス
(鶴田)
他ノ本性ト云フト他ノ品質ト云フトノ差如何
(栗塚)
麥ト米トハ本性異ルモ米ノ中ニテ品質ノ同ジカラザルモノアリ
第三百八十七條 第三百八十一條第二項ニ定メタル他ノ給付カ辨濟ノ性質ヲ有セサルトキハ第三百八十四條ヲ之ニ適用ス
然レトモ不法ノ原由ノ爲メ與ヘラレタル物又ハ有償物ノ取戻ハ若シ其原由カ之ヲ與ヘタル者ノ方ニ於テ不法ナルトキハ許サレス
(栗塚)
反譯上ニテ第二項トシタルハ第二號ノ誤リニシテ第三百八十一條第二ノ又ハ以下ヲ指ス
(委員長)
如是ハ反譯局ニ委附スルヲ宜シトス曩ニ商法ニ於テ箕作氏ノ話アリタレバナリ
(松岡)
箕作氏ノ話ハ委員長ヘノ投込訴訟ニシテ委員會ハ之ヲ改メザリシ
(栗塚)
歐文ニハ項ノ字ナルモ此點ハ號ノ所タルベシ
(委員長)
歐文ヲ變セザレバ號トスベカラズ
(淸岡)
商法ニハ號ノ字ヲ入レザルニ決ス
(委員長)
商法ハ歐文ニ項トアルヲ號ト改正セシニ付キ箕作氏ヨリ項ト改メタシト云フ話アリシカ此所ニ於テハ歐文ヲ變ヘザレバ歐文ト反譯字ト異義ニ關シテハ不可ナリ
(栗塚)
起案者ニ質問シタルニ號ノ字ナリト云フ返答ナリシモ曩ニ委員會ニ於テ種々議論モアリシヲ以テ報吿委員ニ於テハ此儘ニ呈出シタルカ向後號ト云フ字ノ必要アルナラント思考セリ
(渡)
商法ニテ項ヲ號トセシトキハ箕作ノ異論アリシハ歐文ト反譯字ト異ナルヲ以テナリシ元ト反譯字ノ當否ハ反譯局ニ委タルナルニ委員會ノ之ヲ變ジタルハ委員會ガ越權ニ渉リタルヲ以テ委員會ハ異議スベキニアラズ
(尾崎)
意義ニ關セザルヲ以テ此所ハ號トスベシ
(委員長)
然リ
(淸岡)
不法ノ原由云云ハ如何
(栗塚)
例バ或ル人ヲ殺スベシトテ與ヘタル刀劍ノ如キハ取戻スベカラズ然ルニ人ヲ殺ス爲メニ受ケタル刀劍ノ如キハ與ヘシ人之ヲ命ゼザル以上ハ取戻スコトヲ得
(委員長)
他ノ給付ノ他ノ字ハ除テハ如何
(栗塚)
必要ナルベシ第三百八十一條第二項ノ内ニ於テ今迄記示シタル外ニト云フコトナリ
(鶴田)
許サレズバ之ヲ許サズトスベシ
可決ス
(委員長)
他ノ字ハ何分解釋ニ苦ム
(箕作)
此所ハ云々給付ニシテ辨濟ノ性質ヲ有セザルモノモ亦第三百八十四條ヲ適用ストセバ可ナリ
第三百八十八條 第三百八十一條第二號ニ定メタル給付ヲ惡意ニテ受ケタル者ハ訴ノ日ニ不當ニ利ヲ得テアルシモノノ外元金ヲ受ケタル時ヨリノ其適法ノ利息、確定物ノ果實及ヒ產物ヲ收取スルコトヲ怠リタルトキト雖モ其果實產物及ヒ自己ノ過愆又ハ懈怠ニ因リ生シタル滅失又ハ毀損ハ勿論意外又ハ抗拒スルコトヲ得サル原由ニ出ツル滅失又ハ毀損ト雖モ若シ其滅失又ハ毀損カ物ヲ引渡シタル者ノ方ニ於テ生スヘカラサリシトキハ其償金ヲ返還スヘシ本條ハ報吿委員ニテ之ヲ修正シ第三百八十一條第二號ニ定メタル給付ヲ惡意ニテ受ケタル者ハ訴ノ日ニ不當ノ利ヲ得テアリシモノノ外左ノモノヲ返還スベシ第一元金ヲ受ケタル時ヨリノ適法ノ利息第二確定物ノ果實及ヒ產物但其收取ヲ怠リタルトキト雖モ亦同シ第三自己ノ過愆又ハ懈怠ニ因リ生シタル滅失又ハ毀損ノ償金然ノミナラス意外又ハ毀損ト雖トモ其滅失毀損カ物ヲ引渡シタル者ノ方ニ於テ生スヘカラサリシトキハ其償金トス
(村田)
訴ノ日ニト云フハ如何
(今村)
先ニ不當ニ得タル金額後ニ至テ訴ノ起リシ日ハ利息ヲニ重ニ拂フモノノ如ク思惟アラルルヲ以テ起案者ニ間フタルニ起案者ノ答ニ曰ク文字ニ拘泥スルトキハ如是ナルモ決シテ其意味ニアラザルナリト然ルニ此點ハ寧ロ惡意ニテ受ケタル者ハ不當ニ利ヲ得タルモノノ外トスレバ明了ナルベシ
(栗塚)
不當ノ所得ハ已ニ返還スベキモ訴日ニ至テ猶ホ利益ノ殘額アルトキハト云フ譯ナリ
(今村)
最初不當ニテ得タル金額モ訴ノ日ニ至テ損失アリシトキハ卽チ利ヲ得タルモノト云フベカラズ故ニ訴ノ日ハ刪ルベシ
(淸岡)
訴ト訴ヘザルトニ關セズ返償スベキモノタルヲ免レズ
(渡)
刪ルベシ
(松岡)
不當ニ利ヲ得タルモノノ外トスベシ
(栗塚)
不當ニ得タル物ノ外トシテハ如何
(尾崎)
可ナリ
遂ニ其議ニ決ス
第三百八十九條 若シ不當ニ受ケラレタル物カ不動產ニシテ且其不動產カ移付セラレタルトキハ之ヲ引渡シタル者ハ自己ノ撰擇ヲ以テ或ハ第三占有者ニ對シテ其回收ヲ訴ヘ、或ハ之ヲ移付シタ者ニ對シテ其取戻ヲ訴フルコトヲ得
惡意ノ場合ニ於テハ取戻ハ不動產ノ評價額タリ善意ノ場合ニ於テハ其不動產ニ付キ得タル代價又ハ其代價ノ事ニ關シテ存スル訴權タルノミ
(栗塚)
若シ不當ニ受ケラレタルヲ受ケタルトスベシ
可決ス且其不動產ガノ下ニ第三者ニト云フヲ挿入シ之ヲ引渡シタルノ上ニ最初ニト云フヲ加フ
(尾崎)
評價額ハ必ラズ高價ナリト云フヲ得ザルニ何故ニ惡意ノ者ハ評價額ニ作ルカ
(南部)
惡意者ハ往々低價ニ賣買スル場合アルヲ以テナリ
(松岡)
惡意ニテ賣リシトキハ高價ナルモ償還スベキトキハ安價タルモノナラシメバ惡意者ハ其間ニ利益アルニアラズヤ
(栗塚)
惡意ニテ取得シタル當時ノ評價額ナリ
(鶴田)
評價額ナリ取得ノ代價ナリ其還償ハ所有者ノ擇ム所ニ任ズルヲ得セシメザルベカラズ
(尾崎)
評價額ト云ヘバ却テ惡意者ニ利益アラシムレバナリ
(鶴田)
善意者ト雖ドモ現ニ得タル代價ヲ償還スルモノナレバ惡意者ハ現ニ得タル代價ハ勿論尙ホ當時ノ評價額ニ於テ上騰セル場合ナレバ其評價額ヲモ償還セザルベカラズ
(栗塚)
特ニ惡意者ノ働キヲ以テ得タル利益ヲモ償還セシムルモノトセバ所有者ハ却テ亦タ不當ノ利益タルモノトナルベシ
(松岡)
評價額ハ惡意者ガ第三ノ人ヘ移付シタル當時ノ代價タルベシ若シ之ヲ今日ノ代價トセバ惡意者ハ騰貴ノ利益ヲ取得セザルニ天然ノ代價騰貴シタルガ爲メニ不當ノ利益ヲ得ベケレバナリ
(南部)
前時ノ評價額トセバ其趣旨ヲ特示セザルベカラズ
遂ニ尙ホ其主意ヲ起案者ニ質議スルニ決ス
第三節 不正ノ損害卽チ犯罪及ヒ准犯罪
第三百九十條 自己ノ過愆又ハ懈怠ニ因リ他人ニ損害ヲ加ヘタル者ハ之ヲ償フノ責アリ
若シ害ト爲ルヘキ所爲カ有意ナルトキハ其所爲民事ノ犯罪ヲ成シ無意ナルトキハ准犯罪タルノミ
犯罪及ヒ准犯罪ノ責任ノ輕重ハ次章ノ第二節ニ記載シタル如ク合意ノ執行ニ於テ行ヒタル詭譎及ヒ過愆ノ責任ト同樣ニ之ヲ規定ス
異議ナシ
第三百九十一條 各人ハ自己ノ所爲又ハ懈怠ニ付キ其責ニ任スルノミナラス尙ホ自己ノ威權ノ下ニ在ル者ノ所爲又ハ懈怠ニ付キ及ヒ自己ニ屬スル物ニ付テモ下ノ區別ニ從ヒ其責ニ任ス
異議ナシ
第三百九十二條 父權ヲ行フ尊屬親ハ己レト同居スル未成年ノ卑屬親ノ加ヘタル損害ノ責ニ任ス
後見人ハ其受後見人ノ加ヘタル損害ニ付キ又夫ハ其婦ノ加ヘタル損害ニ付キ同一ノ責ニ任ス但右ニ同シク同居ノ條件アルコトヲ要ス
瘋癲者又ハ白痴者ヲ看守スル者ハ此等ノ者ノ加ヘタル損害ト爲ルヘキ所爲ノ責ニ任ス
教師、師長及ヒ工場長ハ未成年ノ生徒、徒弟及ヒ職工カ自己ノ監督ノ下ニ在ル時間ニ此等ノ者ノ加ヘタル損害ノ責ニ任ス
此條ニ指定シタル人ノ責任ハ若シ其人カ害ト爲ルヘキ所爲ヲ防止スル能ハサリシコトヲ證スルトキハ止ム
(今村)
本員ハ夫ハ其婦ノ加ヘタル云々ヲ刪除セント云フニアリ此點ハ人事篇ニ示定セル所ナルベケレバ其權限モ區別生ズベキカ此所ハ婚姻サヘ爲シタルトキハ如何ナル婦ガ如何ナル時ニ爲シタルコトモ夫其責ニ任ズト云フ畫一法ヲ立ツルハ不可ナリ婦ト雖ドモ往々夫ニ勝ルモノナキニアラズ
(栗塚)
普通法ハ如此ナラザルベカラズ日本ノ習慣ハ家族ノ過失ハ戶主ノ責ニ任ゼリ特ニ婦女ハ從來三從ト云フ風習モアレバナリ又刑法ニモ婦女ハ瘋癲白痴ト列記セラレタリ
(今村)
人ノ所爲ニ付キ責ニ任ズルト云フハ餘程理由ナクンバアラズ佛國ノ如キハ幼者ニ對シテ之ヲ檻禁スルヲ得ベキコトアルト共ニ又其責ニ任ズベキカ夫婦ノ如キニ於テハ然ルコトヲ得ザルナリ又條約改正ノ曉ニハ外國ノ女性ヲ娶ル如キアルベシ其場合ニ於テハ此法ヲ以テスレバ充分ニ其妻ヲ取締ラザルベカラズ充分ノ巖力ヲ加ヘザレバ取締リヲ得ザルベシ
(栗塚)
日本ノ習慣ニ於テハ婦ノ所爲ハ夫其責ニ任ゼザレバ夫ハ社會ニ立テ得ザル場合アリ殊ニ日本ノ婦ノ如キ財產アルモノ少ナシ勢ヒ夫ノ責ニ歸セザレバ其償ヲ得ザルモノニシテ夫ハ又其責ニ任ゼザルベカラズ
(渡)
婦ニ財產ナキヲ以テ其賠償ヲ爲スヲ得ザルヲ以テ婦ハ悉ク夫ノ下ニ立タザルベカラズト云フ譯ナシ財產アル婦モ澤山アルベケレバナリ
(松岡)
凡テ財產上ノ關係ニ由ラザルベカラズ從來ノ婦ニハ財產モアラザルヲ以テ實際夫ノ妻ノ過愆ニハ責任ヲ負ハザルベカラズ人事篇ニ於テ規定立ツニアラザレバ此ニ論定スベカラズ
(南部)
此點ハ過愆ノミナラズ故意ニ損害ヲ與ヘタルモノナリ下等輩ニ至テハ婚姻モ簡易ノ間ニ成立ツモノナレバ充分其女ノ身元ヲ詮議スルニ遍アラザルコトアリ如此妻女ガ竊踰シタル爲メニ夫其責メニ任ズベキハ酷ナリ
遂ニ此點ハ刪除ニ決ス
第三百九十三條 主人及ヒ親方工事、運送又ハ其他ノ給務ノ企作人公私ノ事務所ハ其召使人職工、使用人又ハ屬員カ己レニ委任セラレタル職務ヲ行フニ付キ又ハ之ヲ行フニ際シニ加ヘタル損害ノ責ニ任ス
本條ハ報吿委員ニテ親方トアル下ヘ又ハノ二字ヲ入ル運送ノ下又ハノ二次ヲ刪ル
(淸岡)
給務ト云フハ如何
(栗塚)
此所ハ主人ト召使人ト親方ト職工工事運送其他ノ給務ノ企作人ト使用人公私ノ事務所ト屬員ト連屬スルナリ
(渡)
兵士ガ野外ノ演習ニ損害ヲ與ヘタル田野ハ官衙ヨリ之ヲ償却セリ卽チ此條ノ精神ニ恰當ス
第三百九十四條 動物ノ加ヘタル損害ノ責任ハ其所有者又ハ損害ノ當時ニ於ケル其使用者ニ歸ス但意外ノ事變又ハ不可抗力ニ出ツルモノハ此限ニ在ラス
(委員長)
不可抗力ノ取除ハ通則ヲ以テ示スベキニ各條ニ記示セルハ如何
(南部)
此條ハ騎兵ノ如キ上手ノ者ト雖ドモ其責ヲ免ルルヲ得ザルモノニシテ明記セザルヲ得ズ
第三百九十五條 建物、露臺又ハ其他ノ築造シタル工作物ノ所有者ハ此等ノ工作物ノ墮倒カ修繕ノ闕無又ハ建築ノ瑕疵ノ結果ナルトキハ其墮倒ニ因リ加ヘタル損害ノ責ニ任ス但此𥿫ノ場合ニ於テ企作人ニ對スル求償權アルトキハ之ヲ行フコトヲ妨ケス
堤ノ破潰ニ因リ又ハ樹木、柱竿、目隱、看板、屋瓦及ヒ建物ノ堅牢ヲ缺キタル其他ノ部分ノ堕倒ニ因リ加ヘタル損害ニ付テモ又投錨又ハ繋續ノ宜キヲ失ヘル船舶又ハ小舟ニ因リ加ヘタル損害ニ付テモ亦同一ノ責任アリ
(栗塚)
柱竿ハ竹竿ノコトナリ
(鶴田)
其他ノ部分ハ建物ノ上ニ置カザレバ不明ナリ
(尾崎)
此點ハ漠然例示シタルニ付キ原案ノ儘ニテ可ナリ其他ヲ建物ノ上ニ轉置スレバ樹木ノ堅牢ヲモ缺キタルト云フ如クナルベシ
遂ニ其他ノト建物トヲ互ニ轉置スルニ決ス
第三百九十六條 既脫後見ナルト否トヲ問ハス未成年者ハ其有意又ハ不注意ニテ加ヘタル不正ノ損害ノ全部又ハ一分ニ付テハ刑事上ノ責任ヲ免ルヘキトキト雖モ民事上責任アリト宣言セラルルコトヲ得
其未成年者ハ亦其召使人若クハ屬員又ハ自己ニ屬スル物ノ加ヘタル損害ニ付キ民事上其責ニ任セシメラル但後見人ニ對スル求償權アルトキハ之ヲ行フコトヲ妨ケス
本條ハ報吿委員ニテ其未成年者ノ上ニ又ノ字ヲ入レ其下ノ亦ノ一字ヲ刪ル
(栗塚)
不正ノ損害ト云フハ刑事上ニ屬スルヤノ嫌ヒナキニアラザルモ決シテ然ラザルニ付キ掛念アリトセバ之ヲ改直セラレタル
(淸岡)
宣言セラルルコトヲ得ト云フハ宜シカラズ
(栗塚)
裁判所ガ責任アリトモ無シトモ宣言スルヲ得ベシ依テ宣言セラルルコトアリトシテモ可ナリ
(委員長)
セラルルコトアリト云フモ裁判所ガ立入ルベキヤ否ノコト不明ナリ
(栗塚)
宣言スルコトヲ得トシテハ如何
(松岡)
未成年者ノ有意云云宣言スルヲ得トセザレバ不可ナリ然ルニ宣言セラルコトアリトス
(鶴田)
屬員ト云フ字アルモ如是ハ如何ナル場合カ
(栗塚)
工業所トカ云フモノヲ所有セシコトアルベケレバナリ
(渡)
第二項ハ未脫後見ヲヲ意味スベキモ此等ハ穩當ニアラザルベシ
(栗塚)
襁褓中ノ乳兒ガ姫傅ノ過失ニ付キ其責アリト云フ結果アルニ於テハ不都合ナルカ此點ハ十五六歳ノ者ヲ想像シタルモノナリ
其責ニ任ゼシメラルトアルハ任ゼシメラルルコトアリト修正ス
第三百九十七條 前數條ニ定メタル場合ニ於テ若シ害ト爲ルヘキ所爲ヲ爲シタル者カ其所爲ニ付キ自身ニ責任アリト看做サルルコトヲ得ルトキハ裁判所ハ其者ニ對シ主タル裁判ヲ言渡シ且民事上責任アル人ノ從タル義務ノ廣狹ヲ定ム但民事上責任アル人ヨリ犯罪者ニ對スル求償權アルハ當然ナリ
他人ノ所爲ニ付キ民事上責任アル人ハ法律ヲ以テ特ニ定メタル場合ニアラサレハ犯罪者ニ對シ言渡サルコトアルヘキ罰金ノ責ニ任セス
(栗塚)
但民事上責任アル人ヨリ云々ハ從タル義務者ヨリ主タル責任アル人ニ求償權アルヲ示セリ又二項ハ假令バ家僕ガ賭博シタル爲メ罰金刑ニ處セラルルコトアルモ主人ハ其刑ニ付キ責任ヲ被ラシメラレザルヲ云フ
(鶴田)
犯罪者ハ民事犯罪者ナルカ
(栗塚)
民刑包含セル犯罪者ナルカ損害賠償ノ點ヨリ瞰トシタルトキハ民事犯罪ノモノトナレリ
第三百九十八條 此節ニ定メタル總テノ場合ニ於テ若シ數人カ同一ノ所爲塀ニ付キ責ニ任シ各自ノ過愆又ハ懈怠ノ部分ヲ知ルコト能ハサルトキハ其義務ハ連帶ナリ
異議ナシ
第三百九十九條 若シ民事犯罪又ハ准犯罪カ同時ニ刑法ヲ以テ罰セラルル犯罪ヲ成ストキハ犯罪者其者ニ付テモ又民事上責任アル人ニ付テモ刑事訴訟法ヲ以テ定メラレタル如キ民事ノ訴ノ管轄及ヒ時効ニ關スル規則ヲ遵守ス
報吿委員ニテ末文ノ守ストアルヲ刪リ規則ニ遵フト改ム可決ス又定メラレタルノラレヲ刪ルニ決ス
第四節
第四百條 或ル義務ハ現時ノ所爲ニ拘ハラス法律ニ依リ負ハシメラル卽チ左ノ如シ
或ル親屬及ヒ姻屬ノ間ノ養料ノ義務
宥恕又ハ免除ヲ許ササル場合ニ於テ後見ヲ爲スノ義務
共有者ノ間及ヒ相隣者ノ間ノ義務カ地役ヲ爲ササルトキ其義務
此等ノ義務ハ之ニ特別ナルモノニ付テハ其關係アル事項ニ於テ之ヲ定ム
(栗塚)
宥恕卽チハ報吿委員ニテ之ヲ刪ルベシト云フ說アリ佛國ノ如キハ宥恕モ免除モ同一ニシテ二樣ナケレバナリ然ルモ別ニ修正案ヲ呈出セザルニ付キ先ヅ原案ノ儘ニ附セラレタシ
(淸岡)
共有者ノ間ノ義務云々ハ如何
(栗塚)
之ヲ日本文ナレバ共有者ノ間ノ義務相隣者ノ間ノ義務トシテ但シ其地役ヲ成サザルトキト記スベキナリ
(鶴田)
地役ノ義務ニアラザルトキト云フコトカ
(栗塚)
然リ物權タラザル義務ニシテ地役ヨリ生ズル人權ヲ云フ
(鶴田)
免除ヲ許サザル場合ニ於テ後見ヲ爲スノ義務トハ如何
(栗塚)
之ヲ日本文ニスレバ後見ヲ爲スノ義務但シ免除ヲ許サザルトキト記スベキナリ然ルニ斯ク修正セバ限ルトカ云フ文字ヲ置キタシ
卽チ三項四項ハ栗塚說明委員ノ說明ノ儘ニ可決ス
(淸岡)
此等ノ義務ハ之ニ特別ナルモノニ付テハ云々ト云フハ宜シカラズ
(委員長)
之ニ特別ナルヲ其特別ナルモノトスベシ
可決ス
(委員長)
第四節法律ト云フハ一般ヲ云フナレバ法律ト云フベキカ義務ノ内ノ法律ナル故法律上ノ義務トテモ爲サザレバ宜シカラズ
(栗塚)
此點ハ三百十六條ノ第四ヨリ出タルモノニシテ其所ニ法律ノ條例トアレバ此節ニハ法律ト云フテ可ナルニアラズヤ
(南部)
法律上ノ義務ト云ヘバ不當ノ利得ノ如キモ不當ノ利得ノ義務ト云ハザルヲ得ザルニ至ラン
(委員長)
此點ハ人ガ命ジタル義務ニアラズ法律ガ命ジタル義務ト云フコト知リ難ニアラズヤ
(渡)
法律ト云フノミニテハ解シ易カラザルヲ以テ意義ヲ害セザル以上ハ舊案ノ如クシタシ
(鶴田)
第三百十六條ニ法律ノ條例トアレバ此所モ法律ノ條例トシタシ各員同可ナリ
(淸岡)
第三百十六條ニアル法律ノ條例ト云フ條例ノ字ヲ刪リ此所モ法律トシタシ
(委員長)
可ナリ
(淸岡)
第三百十六條ニアル法律ノ條例ト云フ條例ノ字ヲ刪リ此所モ法律トシタシ
(委員長)
法律ニ依リ負ハシメラルヲ負ハシムトスベシ
可決ス
(委員長)
或ル親屬云々ノ義務ノ字ヲ後項ト等シキ例ニシタシ
(栗塚)
原案ノ通リニテ可ナルベシ
第二章 義務ノ効力
前置條例
第四百一條 義務ノ主タル効力ハ下ノ第一節第二節及ヒ第三節ニ記載シタル區別ニ從ヒ其義務ノ直接ノ履行ノ爲メ又不履行ノ場合ニ於テハ從トシテ損害賠償ノ爲メノ訴權ヲ債權者ニ與フルニ在リ
右ノ外義務ノ前記ノ効力ニハ第四節ニ定メタル如キ義務ノ諸種ノ樣體ニ隨ヒテ廣狹アリ
(松岡)
契約ノ効力ト云ヘバ可ナルモ直接ニ義務ノ効力ト云フハ如何
(栗塚)
然ルトキハ契約ノミニ義務ノ生ズルコトトナリ不當ノ利益抔ヨリハ義務ノ生ズルヲ見ルベカラザルニ至ラン又曰此以下ハ義務ノ直接ノ履行ト若シ不履行ナル場合ニハ損害賠償ヲ得ルトノ二種ニ付キ記示セリ且ツ樣罷ハ反譯トニテ樣態トナルベシ
(松岡)
樣態ハ當ラズ
(松岡)
第三百二十八條ニ於テハ態樣トアリ
(栗塚)
此兩形ハ大ニ差異アリ
第一節 直接ノ履行ノ爲メノ訴權
第四百二條 義務ノ方式及ヒ實旨ニ從ヒ其義務ノ直接ノ履行カ債權者ヨリ求メラレ且債務者ノ身體ヲ拘束セスシテ得ラルルコトヲ得ル總テノ場合ニ於テハ裁判所ハ其直接ノ履行ヲ命スルコトヲ要ス
引渡スヘキ有體物ニシテ債務者ノ財產中ニ在ルモノニ關シテハ裁判所ノ威權ヲ以テ之ヲ差押ヘ債權者ニ引渡ス
行フヘキ所爲ニ關シテハ裁判所ハ債務者ノ費用ヲ以テ第三者ニ之ヲ行ハシムルコトヲ債權者ニ許ス
爲ササルノ義務ニ關シテハ債權者ハ義務ニ背キ爲サレタルモノヲ亦債務者ノ費用ヲ以テ毀滅セシメ及ヒ將來ノ爲メ適當ナル處分ヲ爲スコトヲ許サル
總テノ此等ノ場合ニ於テ損害アルトキハ其賠償ヲ爲サシムルコトヲ妨ケス
債務者ニ對スル強制執行ノ方法ハ民事訴訟法ヲ以テ之ヲ規定ス
本條ハ報吿委員ニテ第四項爲ササルノ上ニ又ノ一字ヲ加ヘ債務者ノ上ノ亦ノ一字ヲ刪除セリ
(松岡)
方式トハ何ヲ指スカ
(栗塚)
契約ノ公正證書ヲ要スベキアリ又双方ニ證書アルベキヲ要スベキアリ卽チホルムニ從ヒト云フコトナリ
(鶴田)
此四項ノ末文許サルハ許ストスベキニアラズヤ
(南部)
然カスレバ義務ニ背キ爲サレタルモノヲ爲シタルトセザルベカラズ
遂ニ其修正ヲ可トシテ尙ホ處分ヲ爲スコトヲノ下ノ債權者ニノ四字ヲ入ル
(鶴田)
實旨トハ何ゾ
(栗塚)
契約書面ニアル主旨ト云フコトナリ
第三百二十九條
本條ハ曩ニ起案者ヘ質議ニ附シタルカ卽チ其改正案ナリ
(南部)
二項ハ改正案可ナリ
(淸岡)
三項ハ如何
(松岡)
明示及ヒ默示ニテ與ヘタル期間滿了シタルトキハ取消スヲ得サルナリ
(淸岡)
四項ハ實ニ究屈ナルモノナリ假令バ申越サレタル趣承知ス暫時勘考ノ次第アルニ付キ何日間待タレタシト云フ返書ヲ發シタルトキハ彼ノ提供書ハ之ヲ他賣スルヲ得ザルナリ
(委員長)
此四項ノ暗示トアルハ默示トスベシ
可決ス
(栗塚)
一項ノ末文ハ之ヲ受諾スルコトヲ得トシタシ
(淸岡)
提供者ガ受諾スルコトヲ得トナルニアラズヤ
(栗塚)
其者之ヲ受諾スルコトヲ得トシテハ如何
(委員長)
其者ト云フハ受諾者ヲ指スカ明カナラズ受諾者之ヲ受諾スルヲ得ト云バ稱明了ナルベシ
(村田)
原案ノ儘ヲ可トス
遂ニ其者之ヲ受諾スルヲ得トス二項ハ云云之ヲ言消スコトヲ得トス三項ハ許與セラレヲ許與シタルトス
(鶴田)
四項ノ其受取トアルハ如何
(南部)
提供ノ受取リナリ
(淸岡)
其受取リハ不必要ナリ
(栗塚)
承知シタト云フコトヲ云ヒ送ルコトニシテ受取書ヲ發スルコトニアラズ又曰受取ヲ出シト云フ中ニ卽チ云々述ベタルトキハヲ包含セルモノニアラズ寧ロ卽チ以下云々述ベタルトキ迄ヲ刪ルベシ刪ラザレバ卽チハ又ハトセザルベカラズ
遂ニ其受取ヲ出シタルトキ卽チノ數字ヲ刪除ス
(松岡)
五項ノ卽チ言込ノ四字ヲ刪ルベシ提供ヲ爲シタル者ガトシテ明了ナレバナリ
可決ス
第二節 損害賠償ノ訴權
第四百三條 債務者ノ義務履行ノ拒絕又ハ其責ニ歸スヘキ義務履行ノ不能ノ場合ハ勿論履行ノ遲延ノミノ場合ニ在テモ債權者ハ強制執行ノ闕無ニ於テハ債務者ニ對シテ損害賠償ノ言渡ヲ得
法律ヲ以テ損害賠償ヲ定メタル場合ノ外當事者ノ之ヲ定メサリシトキハ下ノ區別及ヒ條件ニ從ヒ裁判所ヨリ之ヲ定ム
(鶴田)
執行ノ缺無トハ如何
(栗塚)
執行シ得ザルトキナルベキモ其場合ト云フニハ執行スルコト能ハサルト之ヲ爲シ得ルモ爲サザルトアルベシ故ニ執行シ能ハザルトモ言難キ故缺無ト云シナルベシ
(委員長)
損害賠償ノ言渡ヲ得トアルハ債務者之ヲ得ルガ如キ嫌ビアルニアラズヤ
(淸岡)
裁判所カ債務者ニ對シ其言渡ヲ爲スヲ云フモノナリ
(栗塚)
英文ニテハ債務者ニ對スル損害賠償ノ言渡ヲ得トセルカ此所ハ債務者ヲシテ損害賠償ヲ言渡サルコトヲ得トシテハ如何
(松岡)
ソハ裁判所ニ命令スル樣ニナルベシ
遂ニ債務者ヲシテ損害賠償ノ言渡ヲ爲サシムルヲ得トス
(淸岡)
損害賠償ノ言渡トハ場合ヲ云フカ金額ヲ云フカ
(栗塚)
場合ヲ云フナリ
第四百四條 損害賠償ハ債務者カ第三百五十六條ニ從ヒ遲滯ニ付セラレタル後ニアラサレハ之ヲ負擔セス
然レトモ若シ義務カ爲ササルモノナルトキハ債務者ハ常ニ當然遲滯ニ在リ
(鶴田)
爲サザルハ不爲ノ義務ナルベシ不爲トシテハ如何
(栗塚)
所爲無爲ト云フ字ハ用ヒザルコトニ決セリ
(南部)
爲サザルト爲シ來レリ
第四百五條 一般ニ損害賠償ハ債權者ノ受ケタル損失ノ償金ト失ヒタル利補トヲ包含ス
然レトモ若シ不履行又ハ遲延カ詭譎ナク卽チ惡意ナクシテ債務者ノ懈怠ノミニ出ツルトキハ損害賠償ハ當事者カ合意ノ時ニ豫見シ又ハ豫見スルコトヲ得タリシ損失又ハ利得ノ損失ノミヲ包含ス
惡意ノ場合ニ於テハ損害カ不履行ノ避クルコトヲ得サル結果タルトキハ豫見セラレサルモノト雖トモ債務者其賠償ヲ負擔ス
(鶴田)
不履行ノ避クルコトヲ得ザル結果タルトキハ云々トハ如何
(栗塚)
履行セザルトキハ現當ニ損害アルベキモノナルモ履行スルヲ得ザル場合ノ結果ト云フ譯ナリ
(村田)
間接ノ損害賠償ハ如何
(栗塚)
間接ト云フト損害賠償ノ程度ヲ明ニスルコトヲ得ザル故起案者ハ間接トハ云ハザルナリ
(淸岡)
豫見シ豫見スルコトヲ得タリシト云フハ等シク豫見シタルコトナルベシ故ニ豫見スルコトヲ得ベカリシト云ハザルベカラズ
(栗塚)
豫見セントスレバ豫見スルコトヲ得ベキモノト云フコトナルカ其意味ヲ失ハザレバ修正スルモ可ナルベシ
(鶴田)
豫見セラレザルモノト云フ所ハ豫見スルヲ得ベカラザルモノマデモト云フ譯ナラザルベカラズ
(栗塚)
惡意ノ場合ハ豫見スベカラザルモノモ豫見スベクシテ豫見セザルモノト云フニ意味スベシ原文ニテハ豫見シテナカリト云フ字ナリ
(委員長)
二項ニハ豫見スルコトヲ得ベカリシトシタルヲ以テ三項ニ於テモ豫見シ得ザルトシテハ如何
(栗塚)
此點ハ得ル得ザルノ點ヲ云ヒシモノニアラズ
(委員長)
豫見セラレザルト云フニ豫見スルヲ得ザルノ意味モ包含セルモノトハ思惟シ難シ
(村田)
例バ植木師ニ命ジテ芭蕉ノ霜除ヲ爲サシム植木師已ムヲ得ザル事故ヲ以テ之ヲ爲サザルトキハ其芭蕉ハ霜氣ニ枯葉スト云フハ豫見スルヲ得ベキモノナリ又其植木師惡意ヲ以テ其手入ヲ爲サザル爲メ芭蕉枯敗シ其腐液ヨリ他ノ植木マデモ枯敗セシムルニ至テハ所謂豫見スルヲ得ザル場合ナリ三項卽チ惡意ノ際ハ其場合マデモ損害賠償ノ負擔ヲ免ルベカラザルモノトス
(淸岡)
豫見セザリシト修正スベシ
(栗塚)
愈修正スベクンバ反譯局ヘ附セラレタシ
可決ス
第四百六條 損害賠償カ主タル訴ノ目的タルトキハ裁判言渡ハ金錢ニテ其高ヲ定ム
若シ損害賠償カ直接ノ履行ノ爲メノ訴又ハ解除ノ爲メノ訴ノ從トシテ請求セラルルトキハ裁判所ハ主タル請求ヲ決スルニ當リ不足ノ損害賠償ヲ給與スルコトヲ得其淸算ハ差出スヘキ證明ニ依リ日後爲サルル爲メニ之ヲ留保ス
又裁判所ハ債務者ニ直接ノ履行ヲ命スルニ當リ其履行ノ爲メ極度ノ期間ヲ定メ若シ此期間ヲ過クレハ確定裁判ヲ爲スヘシトシテ遲延ノ各日又ハ各月每ニ條件附ノ償金ヲ債權者ニ給與スルコトヲ得
此終ノ場合ニ於テハ債務者ハ常ニ卽時ノ淸算ヲ促カスコトヲ得
(栗塚)
報吿委員ニテ三項ノ確定裁判ヲ爲スベシヲ確定ニ決スベシト修正セシハ原案ノ通リニテハ確定裁判アル如ク見ユルヲ以テナリ
(委員長)
一項ハ異議ナカルベシ
(鶴田)
日後爲サルル爲メニ之ヲ保留ストハ如何
(淸岡)
日後淸算スルヲ得ベキモノト爲シ置クト云フコトナリ
(委員長)
第二項ノ給與スルコトヲ得トアルハ妥當ヲ得タルヤ
(栗塚)
賠償スベシト云フ譯ナリ
(委員長)
裁判所ガ給與スル如クナルニアラズヤ
(栗塚)
不定ノ賠償ナルヲ以テ裁判上ニテ之ヲ給與スルモノナリ
(南部)
給與ノ字ヲ言渡シトスレバ可ナリト
可決ス又日後爲サルルハ爲スベキト修正ス
(松岡)
直接履行ヲ命ズルモノヲ履行セザルトキハ裁判所之ニ猶豫ノ期限ヲ置キ損害賠償ヲ與フベシト云フベキモノニアラズ直接ニ履行スベキモノ卽チ物品引渡ノ如キモノハ必ラズ直接ニ履行セシメザルベカラズ償金ヲ給與シテ現物ノ引渡ヲ止ムルガ如キコトアルニ至テハ社會ノ契約ハ甚薄弱ナル力ラニ陷ルベシ故ニ此點ハ書師ニ書ヲ依頼シタルガ如クナルベキモノカトモ想像セラル
(南部)
此場合ハ從タル損害賠償ノ請求ニ關スルヲ以テ本件ノ履行不履行ニ關セザルナリ
(栗塚)
四項ハ行フベキ義務ニ關スベキナリ然ルニ三項ハ行フベキ義務ニ止マラズ總テノ義務ヲ指シタルモノナリ
(松岡)
此點ハ尙ホ起案者ニ質問シタシ
(栗塚)
然リ
(淸岡)
遲延ノ各日云々ハ期間後ノ事ト思惟セシニ期間内ト云フ解釋アルハ如何
(栗塚)
期間内ナリ假令バ今日ヨリ十日限リニ爲スベシ今日ヲ過ギタレバ償金ヲ要求スベシト約セシニ其十日ヲ過ギテ爲サザルニ至テ其期間内ノ各日ニ當ル損害要償ヲ求ムルモノナリ
(南部)
三項ニ給付スルヲ得トアルハ給與スルノ言渡ヲ爲スコトヲ得トセザレバ前項ト釣合ハズ
遂ニ三項ハ給與スルノ言渡ヲ爲スコトヲ得トシ前項ハ給與ヲ言渡スコトヲ得トス
(委員長)
各日各月ハ每日每月トスベシ
可決ス
第四百七條 若シ當事者ニ遲延又ハ不履行ニ關シ互相ノ非理アルトキハ裁判所ハ損害賠償ヲ定ムルニ付キ之ヲ斟酌ス
原案通
第四百八條 當事者ハ豫メ過怠約款ヲ設ケ不履行又ハ遲延ノミヲ豫見シテ損害賠償ヲ規定スルコトヲ得
(松岡)
ノミト云フ字ハ遲延ノミノノミカ
(栗塚)
然リ單純ノ遲延ノミト云フ譯ナリ故ニ又ハ單ニ遲延ノミヲ豫見シトスルヲ可トス
(南部)
ソレニテハ豫見ガ不履行ヘ屬セザルナリ
(栗塚)
然レバ單ニ遲延ヲ云々トシノミノ二字ヲ除ヲ可ナリ
(鶴田)
過怠約款ハ商法ニ於テハ損害賠償ニアラズ此所ハ過怠約款ノ註解ガ損害賠償ナリ
第四百九條 裁判官ハ決シテ過怠約款ヲ增スコトヲ得ス又履行カ一部分アリシトキ又ハ不履行若クハ遲延カ債務者ノ過愆ノミニ出テサルトキニアラサレハ過怠約款ヲ減スルコトヲ得ス
(栗塚)
裁判官ノ字ハ反譯上ニテ判事ト改正ス
(淸岡)
一部ノ履行アリシモ不明ニ屬スルコトアルカ其時ト雖ドモ過怠約款ヲ減ズルヲ得ルカ
(南部)
得ズトアリ
(栗塚)
品ニ依ルベキ假令バ書ハ人首ノミ出シモ用ヲ爲サザルカ米拾俵ヲ收ムベキニ或ハ一俵ヲ得タルトキハ其一俵ハ之ヲ減ズルヲ得ベシ
第四百十條 雙繁卽チ雙務ノ契約ノ場合ニ於テ義務ノ不履行ノ爲メ過怠ヲ要約シタル債權者ハ其解除ノ權利ヲ失ハス但債權者カ明確ニ其權利ヲ抛棄シタルトキハ此限ニ在ラス
債權者ノ遲延ノミノ爲メニ過怠ヲ要約シタルトキニアラザレバ解除ト過怠トヲ併ハスコトヲ得ス
(委員長)
雙繁卽チ雙務ト云フ如キハ總體ニ最初ニ詳示シタルトキハ其他ハ之ヲ推シ及スコトヲ得ル樣ニシタシ
(尾崎)
損害賠償ヲ得タルトキハ之ヲ解除スルヲ得ルカ
(栗塚)
遲延ノ爲メ過怠ヲ要約シタルトキニアラザレバ解除スヲ得ザルナリ
(鶴田)
不履行ノ爲メ過怠金ヲ出シタルトキハ契約ノ解除モ受ケザルヲ得ズ其時解除セザルトキハ如何
(栗塚)
解除スルヲ以テ不履行ナリニ擱クヲ得ベシ
(松岡)
馬匹賣買ノ契約ニ於テ鳥ヲ賣ラザルトキハ如何
(栗塚)
其時ハ罰金ヲ得ベキ筈ナルモ其罰金ヲ要メズシテ契約ヲ解除スルコトヲモ得
(松岡)
馬疋ヲ賣ラザルトキハ買者ハ賣者ニ對シテ罰金ヲ取ルヲ得ベキヲ以テ契約ヲ濟了シタルニアラズヤ其時ニ至テハ最早解除ト云フベキコトナシ
(栗塚)
契約不履行ノ時ハ罰金ヲ取ルコトモ得又罰金ヲ得ズ其契約ヲ廢止スルコトヲモ得
(松岡)
罰金ヲ得ス契約ヲ廢止スルハ權利者全揭タルニアラズヤ
(南部)
過怠金ヲ收メズ契約ヲ解シタルトキハ損害賠償ヲ得ル能ハザルベシ
(栗塚)
過怠金ヲ要セズ最初ヨリ契約ナキモノトナル然ルニ其契約アリシ爲メニ他ヨリ馬ヲ買フヲ得ザル爲メ損害アルニ付キ契約執行ニ關スル訴ハ之ヲ爲スヲ得ザルモ爲メニ損害ヲ被リシ點ハ別ニ損害賠償ヲ得ルヲ妨ゲザルナリ
(村田)
此點ハ債權者ガ過怠金ヲ得取スルモ又解除シテ損害賠償ヲ得ルトスルモ擇ム所ニ從ヲ得ベシ
(松岡)
二者其一ヲ擇ムガ如キハ債權者ハ利益アルベキモ債務者ハ實ニ困迷ナル場合ニ遭遇スベシ
(南部)
不動產賣買ノ契約ノ際代金ヲ請取ラザル場合其不動產買者ノ名ヲ以テ登記セラレタルトキハ些少ノ過怠金ヲ取リ登記上取戻シヲ配セザレバ其不動產第三者ノ手中ニ移ルヲ以テナリ
(委員長)
合意上此契約不履行ノ時ハ過怠金ヲ取ルト云フ確然タルモノアルニ其過怠金ヲ取ラズ契約ヲ解除シテ損害賠償ヲ得ベシト云フコトヲ爲シ得ルカト云ヲ極メザルベカラズ
(松岡)
南部委員ノ擧例ニ於テ不動產賣買ノ論アリシカ稍穩當ノ例ナリト雖ドモソレモ最初ニ契約未ダ履行シ了ラザル趣ヲ附記セザルベカラズ故ニ最初得取シタル罰金ヲ以テ第三者ニ移轉シタル不動產ヲ取戻スベキ權利アリト云ハザルベカラズ
(南部)
賃貸借ニ於テ之ヲ見ルニ賃借人大ニ違約シタルトキハ過怠金ヲ取ルヲ得又解除スルヲモ得ベシトセザルベカラズ
(栗塚)
解除權ヲ失ハシムル如キ結果アルニ至テハ驚愕ニ堪ヘザルナリ
(委員長)
後段過怠金ヲ取ル時ニシテモ解除スルコトヲモ得ベキニ付キ解除ニ屬シタル契約卽チ損害賠償ヲモ爲スベキニ至ラン然ラバ過怠金ト損害賠償ト併得スルニ至ルノ不都合アリ
(栗塚)
過怠金ヲ得テ契約ヲ解除スルコトモ得ベシト云フニ過ギズ
(委員長)
然レバ前段ニ於テ解除スレバ損害要償ヲ得ベシトハ認ムベカラザルニアラズヤ
(南部)
後段ノ解除ハ遲延ニ關セズ解除ト云フハ履行ト不履行トニ關スルモノナレバ卽チ不履行ノ解除ト云ハザルベカラズ
(委員長)
然レバ債務者ニ對シテ遲延ニ於ケル過怠ト尙ホ不履行ナル場合ニハ解除スルヲ得ト云フ二段ノ請求ヲ爲スベキニ至レバ遲延ノ過怠金ト不履行ノ爲メ解除シテ損害賠償ヲモ要請セラルルハ苛酷ナルニアラズヤ
(栗塚)
遲延ト不履行ト二種ノ不都合アレバナリ
(鶴田)
然レバ後段ハ文章不明ナルベシ
(南部)
解除ハ不履行ニ關スルト云フコトハ原則アルヲ以テ混雜セザルナリ
遂ニ再議ニ附スルトナリ未決ニ止ム
第四百十一條 義務カ金額ヲ目的トスルトキハ遲延ノ爲メノ損害賠償ハ裁判所ニ於テ利息ヲ適法ノ割合ト異ナル高ニ之ヲ定ムルコトヲ得ス但法律ヲ以テ取除キタル場合ハ此限ニ在ラス
若シ當事者カ自ラ損害賠償ヲ規定スルトキハ當事者ハ合意上ノ利息ノ最上限ノ割合ヨリ以下ノ高ヲ定ムルコトヲ得然レトモ其以上ノ高ヲ定ムルコトヲ得ス
(鶴田)
適法ノ割合トハ標準ナクンバアラズ
(栗塚)
起案者ハ六朱ノ割合トセリ合意上ハ千圓以上ハ一割ノツモリナリ
(委員長)
遲延ノ爲メノ損害賠償トアルモ不履行ノ場合ハ如何
(栗塚)
金額ガ其目的タルトキハ不履行ナシ假令身代限ニ至ルモ之ヲ得取スルヲ以テナリ
(渡)
以下ノ高ヲ定ムルコトヲ得ト云フハ不要ナルベシ復言セシニ過ギザレバナリ
(淸岡)
然レドモノ字ノ如キハ尙ホ不用ナリ
然ルニ遂ニ原案ニ決ス
第四百十二條 此等ノ損害賠償ヲ得ル爲メニハ債權者ハ何等ノ損失ヲモ證明スルノ責ニ任セス又債務者ハ意外ノ事又ハ不可抗力ヲ證スルコトヲ許サレス
(栗塚)
又以下ハ債務者ニハ意外ノ事又ハ不可抗力ヲ證スルコトヲ許サズトセバ更ニ明了ナルベシ
(村田)
物品ナラバ不都合ナキモ金額ナルヲ以テ其情實ヲ許サザルナラン
遂ニ債務者ノ下ヘ「ニ」ノ字ヲ挿入スルニ決ス
第四百十三條 遲延ノ利息ヲ生セシムル爲メ必要ナル付遲滯ハ右利息ノ裁判所ニ於ケル請求又ハ債務者ノ特別ナル追認ノミヨリ生スルコトヲ得但法律カ當然此利息ヲ生セシムル場合及ヒ法律カ催吿ノミニ因リ又ハ之ニ等シキ所爲ニ因リ此利息ヲ生セシムルコトヲ許ス場合ハ此限ニ在ラス
(南部)
右利息ノ裁判所ニ於ケルト云フハ裁判所ニ於ケル其利息ノ云々トスルニ決ス
第四百十四條 要求スルコトヲ得ヘキ元金ノ利息ハ塡補ノモノナルト遲延ノモノナルトヲ問ハス滿期ト爲リタル一个年ノ後ニノミ爲シ且此ノ如ク年每ニ爲シタル特別ノ合意又ハ裁判所ニ於ケル請求ニ憑リ及ヒ其時ヨリ後ニアラサレハ利息其モノニ利息ヲ生セシムル爲メ之ヲ元金ト爲スコトヲ得ス
然レトモ家屋又ハ土地ノ借賃、無期又ハ終身ノ年金權ノ利子、果實又ハ產物ノ返還ノ如キ滿期ト爲リタル入額ハ一个年未滿ニ於テ負擔セラレタルトキト雖モ請求又ハ合意ノ時ヨリ利息ヲ生スルコトヲ得
債務者ノ免責ノ爲メ第三者ヨリ拂ヒタル元金ノ利息ニ付テモ亦同シ
(栗塚)
本條第一項ハ要求スルコトヲ得ベキ元金ノ利息ハ塡補ノモノナルト遲延ノモノナルトヲ問ハズ利息其モノニ利息ヲ生ゼシムル爲メ之ヲ元金ト爲スコトヲ得ズ滿期ト爲リタル一个年ノ後ニ爲シタル合意又ハ裁判所ニ於ケル請求且此ノ如ク年每ニ爲シタル請求ノ爾後ニアラザレバ利息ヲ元金ニ組入ルルヲ得ズ
(村田)
一年分ノ利子ニアラザレバ元金ニ繰込ムヲ得ズト云フ譯カ
(松岡)
六ケ月分ノ利息ニテモ一年間ヲ經過スレバ元金中ニ算入スルヲ得ベシト云フ譯ナリ
(栗塚)
昨年一月一日ノ貸金ハ其年十二月三一日ハ其利子ヲ元金ニ組入ルルヲ得ザルモ今年ノ一月一日ヨリ元金ニ入ルルヲ得ベキナリ
(南部)
中間一年ヲ經過スルニアラザレバ元金ニ組入ルルヲ得ズ
(委員長)
然ルベシ
(栗塚)
此點ハ藏ノ終リニアラザレバ爲スベカラズ六月トカ七月トカニハ組入ヲ爲サズ一年ノ終リナルヲ要ス
(淸岡)
然リ故ニ二項ニ於テハ此等ハ一个年未滿ニ於テモ利息ヲ生ズベシ民法復歸ニ更ニ一ケ年ノ後ト云フニアラズト云フコトアルヲ以テ中一ケ年ヲ過ギザルモ可ナリ
(委員長)
滿期一个年ノ後ト又年每ニト云フ二樣ニハアラズヤ
(栗塚)
歐文ニテハ每年裁判所ニ請求スルカ否ノ點不明ナリ
(淸岡)
合意ハ每年々々之ヲ爲サザルモ最初一度之ヲ爲シ置ケバ足レルニアラズヤ若シ其合意ヲ肯ンゼザレバ度々裁判所ニ訴ヘザルヲ得ズト云フハ甚煩累ニ屬スベシ
(栗塚)
此ハ高利貸ヲ制スルマデニシテ必要ナリト云フベシ且借人ヲシテ成ルベク返金ヲ怠ラシメザルヲモ保護スルモノナリ
遂ニ一項ハ「滿期ト爲リタル」ヲ刪リ一个年ノ上ニ每ノ一字ヲ置キ每一个年ノ後ニノ下年每ニマデヲ刪リ及ビヲ且ツト修正ス
(鶴田)
負擔セラレタルトキト雖ハ負擔シタルトキト雖ドモトシタシ
(栗塚)
一个年未滿ノ負擔タルトキト雖ドモトスベシ
可決ス
第三節 擔保
第四百十五條 何人ニテモ物權ト人權トヲ問ハス一箇ノ權利ヲ付與シ又ハ付與セント約シタル者ハ讓渡以前ノ原由又ハ讓渡人ノ責ニ歸スヘキ原由ニ基キタル總テノ追奪又ハ權利ノ總テノ妨碍ニ對シ其權利ノ完全ナル行用及ヒ自由ナル收益ヲ保シ卽チ擔保スルノ責アリ
擔保ニ二箇ノ目的アリ卽チ第三者ノ主張ニ對スル讓受人ノ防禦卽チ擔保及ヒ防止スルコト能ハサリシ妨碍並ニ追奪ノ償金是ナリ
(委員長)
二項ノ意義ハ如何
(栗塚)
讓渡人ハ讓受人ヲ保護セザルベカラザルノ義務アルヲ以テ第三者ノ主張ヲ拒止シタルモ第三者ノ理由ニ屈シタルトキハ追奪ノ償金ヲ出サザルヲ得ザルナリ
第四百十六條 擔保ハ有償名義ノ所爲ニ於テハ特別ノ要約アラサルトキハ當然負擔セラル又擔保ハ無償ノ所爲ニ於テハ之ヲ約束シタルトキニアラサレハ存セス
然レトモ如何ナル場合ニ於テモ又如何ナル要約ノ爲メニモ讓渡人自ラ讓受人ニ妨碍ヲ加ヘサルコトヲ要ス又讓受人ハ擔保ナクシテ爲シタル讓渡ノ以前ト雖モ己レノ付與シタル權利ニ憑リ第三者ノ加ヘタル總テノ妨碍又ハ追奪ノ擔保人タリ
讓渡人ノ相續人ハ右ニ均シキ義務ニ服ス
本條ハ報吿委員ニテ又ノ下擔保ハノ三字ヲ刪ル
(鶴田)
要約アラザルトキハト云フハ要約アルニアラザレバトシタシ
(栗塚)
歐文ノ意ハ反對ノ要約ナキトキハト云フ譯ナリ卽チ反對ノ要約ナキトキトス
(栗塚)
二項ノ己ノ付與シタル權利ニ憑リ云々トス甲者自己ノ家屋ヲ丙者ニ讓渡シタルニ其讓渡前己ニ之ヲ乙者ニ其權利ヲ附與シタル場合ヲ云ヒシナリ其場合ハ乙者ヨリ丙者ニ加フベキ妨害又ハ追奪ニ對シテハ甲者其擔保人タラザルヲ得ザルナリ
(渡)
讓渡後ニ其權ヲ第三者ヘ付與シタルトキハ如何
(栗塚)
其際ハ讓渡人之ヲ擔保スルコト勿論ナリ又曰己レノノ字ヲ刪リ第三者ニノ字ヲ插塡シ權利ニ憑リノ下ヘ其ノ字ヲ加ヘテハ如何
可決ス
第四百十七條 買主及ヒ賃借人ノ爲メ賣主及ヒ賃貸人ノ擔保並ニ共同派分者ノ互相ノ擔保ニ特別ナル規則ハ其擔保ヲ生スル契約及ヒ所爲ノ事項ニ於テ之ヲ定ム
異議ナシ
第四百十八條 他人ト共ニ又ハ他人ノ爲メニ義務ヲ負擔スル者ハ保證連帶及ヒ不可分ノ事項ニ於テ規定セラレタル如ク他人ノ免責ノ爲メ辨濟シタルモノニ付キ擔保ノ求償權ヲ有ス
又債權者ノ一人カ連帶又ハ不可分ノ義務ノ全キ高ヲ受ケタルトキハ他ノ債權者ハ他ノ特別ナル訴權ノ缺無ニ於テハ其一人ノ收メタル利益ノ分與ニ付キ之ニ對シテ擔保ノ訴權ヲ有ス
(栗塚)
本條第一項ハ日本人ノ感情ニ於テハ裏面ニ出ヅルノ情況アルモノノ如シ假令バ甲者アリ乙者ニ負債アルトキ丙者其保證人ナリシニ丙者ハ甲者ニ代テ之ヲ乙者ニ辨濟シタルトキハ甲者ハ丙者ニ對シテ擔保ノ責任ヲ有スベシ故ニ丙者ハ甲者ニ對シテ擔保ノ求償權ヲ有スルモノナリ
(鶴田)
二項ノ闕無ト云フハ如何
(栗塚)
假令バ甲乙丁戊數人連滯又ハ不可分ニテ丙者ニ債權ヲ有スルトキ丙者債權者ノ一人ニ對シテ負債ノ全部ヲ償却シタルトキハ債權者中其償還ヲ受ケザル一人ハ他ノ償還ヲ受ケザル徒ノ代理權等ノ訴權ヲ以テ請求スルヲ得ザルトキハ擔保ノ訴權ヲ以テ請求スベシト云フニアリ
(淸岡)
二項他ノ特別ナル訴權云々ハ負債者ニ對スル訴權ノ如ク思惟セラルルニアラズヤ
(栗塚)
然レバ他ノ特別ナル訴權ノ闕無ニ於テハト云ヘルヲ之ニ對シテノ下ニ轉置スレバ如何
可決ス
(委員長)
一項ノ意義ハ字面上ニテハ不明了ニアラズヤ
(栗塚)
爾後ハ總テ字面上ノミニテハ決シテ明了ナラズ惟他ノ關係ヲ照應シテ了解スルニ過ギズ
第四百十九條 擔保ニ付キ權利ヲ有スル者ハ其訴ヘラレタル當時ニ於テ民事訴訟法ニ定メタル方式ニ從ヒ擔保人ノ訴訟參加ヲ請求スルコトヲ得
保證人債權者ニ對シテ辨濟シタルニ付キ負債者ハ保證人ニ對シテハ擔保人ナリ卽チ擔保ニ付キ權利ヲ有スルモノハ其保證人ナリ
(渡)
保證人ハ負債者ノ辨濟ヲ保證スルカ
(栗塚)
日本ノ現行法ニテハ負債者債權者ニ對シテ身代限リトナラザレバ保證人ハ其責ニ任ゼザルモ佛國ニ於テハ負債者返濟期限ニ返濟セザルトキハ直チニ保證人ニ係ルヲ得ベシ
(渡)
夫故負債者ハ其保證人ニ擔保者トナルカ
(栗塚)
然リ
第四百二十條 若シ擔保人カ訴訟ニ參加セシメラレサリシトキハ追奪ヲ受ケ又ハ他人ノ債務ヲ辨償シタル者ハ主タル訴權ヲ以テ擔保ノ訴ヲ爲スコトヲ得但擔保人カ請求ヲ却下セシムルニ有効ナル方法ヲ有セシコトヲ證スルトキハ此限ニ在ラス
(淸岡)
擔保人ガト云フヲ擔保人ヲトセザルベカラズト卽チ擔保人ヲトシ又ラレノ二字ヲ刪ル
(尾崎)
擔保人ガ請求ヲ却下セシムルニ有効ナル方法云々トハ如何
(南部)
參加人自分ニ於テ其訴訟ニ參加シタルトキハ其訴訟ハ云々ノ次第ヲ以テ被吿ノ敗訴トナル理由ナシト證明シ被追奪者ノ請求ヲ拒否スルヲ得ベキヲ云フ
(委員長)
追奪ヲ受ケトハ如何
(栗塚)
例バ家宅ノ買主ガ第三者ニ其家宅ヲ追奪サレタルトキハ賣主ニ對シテ擔保ノ請求ヲ爲スヲ得ベキモノナリト云フニアリ
第四節 義務ノ諸種ノ樣態
第四百二十一條 義務ノ効力ハ下ノ諸款ニ記シタル如ク義務ニ左ノ區別アルニ從ヒテ改樣セラル
第一 義務ノ成立ニ關シテ單純ナリ有期ナリ又ハ條件付ナルトキ
第二 負擔シタル目的ニ關シテ單一ナリ擇一ナリ又ハ任意ナルトキ
第三 債權者又ハ債務者ノ數ニ關シテ單一ナリ又ハ複合ナルトキ
第四 義務ノ本性又ハ其履行ニ關シテ可分ナリ又ハ不可分ナルトキ
働方並ニ受方ノ連帶ノ効力及ヒ合意上ノ不可分ノ効力ハ債權ノ抵保トシテ第四編ニ之ヲ規定ス
(淸岡)
上文ニナリナリトアリテ結尾ニナルトキト云フハ宜シキヤ
(南部)
文例アリ
(松岡)
義務ハ原因ニシテ効力ハ結果ナリトシ原因異ルニ從テ其結果同ジカラズト云フ意ナルカ
(南部)
然リ
(淸岡)
贊成者ナキモ本員ハ「ナリ」「ナル」等ハ皆ナルトキト一定シタシ式ハナリナリヲ除テ單純トシ有期トシテ切點ヲ附シタシ
遂ニナリヲ刪リ切點ヲ附ス
第一款 成立ニ關シテ單純ナリ、有期ナリ又ハ條件付ナル義務
第四百二十二條 義務ノ成レル當時ヨリ其成立カ保セラレ且其要求スルヲ得ヘキコトカ卽時ナルトキハ其義務ハ單純ナリ
(栗塚)
保セラレトハ確カナリト云フ意ナリ確的ニシテ未來ニ關セザル義務卽チ條件附ニアラズ期限ナシト云フモノナリ的確トセザルハ現知スルト云フニ了解セラレンコトヲ恐レテナリ
第四百二十三條 債權者カ或ル時期前又ハ到來期節ハ不確實ナルモ到來スルニ相違ナキ定マリタル事件前ニ履行ヲ求ムルコトヲ得サルトキハ其義務ハ有期ナリ
期限カ當事者ニ因リ定メラレ又ハ法律ニ因リ與ヘラレタルトキハ其期限ハ權利上ノ期限ト稱セラル
若シ債務者カ自己ノ爲シ得ヘキ時又ハ自己ノ欲スル時ニ辨濟スヘシト言ハレタルトキハ裁判所ハ債權者ノ請求ニ因リ狀況及ヒ當事者ノ推定セラレタル意思ニ從ヒ履行ノ爲メ期間ヲ定ム但當事者カ無期ノ年金權ヲ設ケント欲シタル場合ハ此限ニ在ラス
(栗塚)
本條三項言ハレタルトキトアルハ報吿委員ニテ定メアルトキト修正ス
(南部)
末項ノ狀況ノ下ヘ推定シタル當事者ノ意思ニ從ヒト修正シタシ
可決ス
(松岡)
權利上ノ期限ト云ヒシハ如何
(栗塚)
恩惠上ノ期限ニアラザルヲ區別セリ
(栗塚)
第四百二十一條改樣セラルハ改樣ストシテ可ナリ本條ノ期限ト稱セラルヲ稱スト修正ス又辨濟スベシト言ハレタルトキト云ヘバ債務者ガ云々言ハレタルト云フ嫌ヒアルヲ以テ定メアルト修正ス何トナレバ書面ニ云々記シアルトキハト云フ意ナレバナリ
(淸岡)
但書ハ必要アルカ
(栗塚)
必要ナルベシ
(委員長)
推定シトハ何カ推定スルカ
(南部)
裁判所ガ推定スル意義ナリ
(委員長)
事柄ハ固ヨリ裁判官ノ推定スベキコトハ明カナリト雖ドモ何分裁判官ノ推定トハ認メ難シ佛文ニテハ裁判官ノ推定シタル意思トアルガ當事者ノ推定シタル意思トセザレバ意思ハ當事者ノ意思ニシテ推定ハ裁判官ノ推定ト云フニハ認メ難シ
(栗塚)
推定シタルノ文字ヲ除テ之ヲ讀メバ當事者ノ意思ト云フコト判然スベシ又曰但以下ノ意義ハ甚ダ明了ナラザルモ無期ノ年限ハ元金ヲ請求スルヲ得ザルモノニシテ例バ公債證書ハ政府ニ向テ元金ヲ返償スベシト云フヲ得ザルモ債務者ノ方ヨリ之ヲ返償スルヲ得ベキモノアレバ債務者ヨリ返償スベシト云フトキハ格別ナルベシト云フ意ナリ故ニ債權者ガ此期限ヲ定メンコトヲ望ムヲ得ザルモノナレバ裁判所ニ向テ期限ヲ定ムルコトヲ請求スルヲ得ズ又裁判所モ其期限ヲ定ムルヲ得ザルモノナリ
第四百二十四條 債務者ハ期限ノ利益ヲ抛棄シ滿期前ニ其義務ヲ履行スルコトヲ得但要約ニ因リ又ハ事實ノ狀況ニ因リ期限ハ當事者雙方ノ利益又ハ專ラ債權者ノ利益ノ爲メ定メラレタルコトカ證セラルルトキハ此限ニ在ラス此終ノ場合ニ於テハ債權者モ亦期限ヲ抛棄スルコトヲ得
當事者カ錯誤ニ因リ滿期前ニ辨濟シタル場合ハ第三百八十六條ニ之ヲ規定ス
(淸岡)
此終ノ場合ハ如何
(栗塚)
債權者ノ利益ノ爲メト云フ點ヲ指セリ
第四百二十五條 債務者ハ左ノ場合ニ於テ權利上ノ期限ノ利益ヲ失フ
第一 若シ債務者カ破產シ又ハ顯然無資力ト爲リタルトキ
第二 若シ債務者カ其財產ノ多分ヲ移付シ又ハ其多分カ他ノ債權者ヨリ差押ヘラレタルトキ
第三 若シ債務者カ自己ノ供シタル特別ノ抵保ヲ毀滅シ若クハ減少シ又ハ自己ノ約束シタル抵保ヲ供スルコトヲ缺キタルトキ
第四 若シ債務者カ塡補ノ利息ヲ拂フコトヲ缺キタルトキ
(栗塚)
本條ハ日本ニ必要ニシテ債權身代限ノ爲メニ損失ヲ受クルガ如キヲ免レシメントス
(委員長)
特別ノ抵保ト云フハ如何
(南部)
起案者ノ註示ニテハ例バ山林地面ヲ書入レシトキ其山林地面ニアル材料ヲ採伐シタルトキノ如キヲ云フト
(栗塚)
特別ノ字ニハ別ニ意義ナカルベシ
(南部)
前項ハ一般ニ屬シ此項ハ特別ニ屬スル差アリ
(村田)
第三ノ場合ニ於テ債務者天災ノ爲メ其抵保ヲ毀滅シタルトキハ如何
(南部)
更ニ之ヲ塡補セシムレバ可ナリ
(栗塚)
此所ハ天災ノ毀滅ハ包含セザルナリ
(淸岡)
無期ノ年金ノ如キハ債務者ノ此境遇ニ陷リタルトキハ如何
(栗塚)
年々ノ利息ヲ領收スルモノハ如是場合ハ債務者期限ノ利益ヲ失フモ其元金ニ對シテハ仕方ナシ
(南部)
其點ハ第千三百八十八條ニ示セリ
(淸岡)
例バ三年ノ期限アルトキニ於テスラ其期限ヲ失スルモノナレバ無期限ノ場合ハ固ヨリ其利益ヲ受ケザルベカラズ
(松岡)
然ルベシ
(南部)
無期ノモノハ期限ノ利益ヲ得ル云ハレナシ
(栗塚)
請求ノ爲セルト否トハ格別期限ナキモノハ此期限ノ利益ヲ受クベキ理由ヲ見ザルナリ
(松岡)
無期ノ際ト雖ドモ裁判所ヘ出訴シタルトキハ裁判所ハ其請求ヲ可認セザルベカラズ
(南部)
然リ破產ノ場合ニ至テハ其分配ヲ受クルニ差支ナシ
(栗塚)
債權者ガ裁判所ニ向テ期限ヲ定メンコトヲ請求スルヲ得ベキニ無期限ノモノト雖ドモ破產ノ際ニ至テハ其利益ヲ受ケ得ラレザル云ハレナシ
(委員長)
無期年金ノ件ハ第千三百八十八條ニ示セルヲ以テ足レルカ第四百二十三條若シ以下ノ際ハ本條ノ支配ヲ受ケザルベカラズ
(南部)
期限ト云フモノハ裁判所ニ請求スルニアラザレバ期限ノ生ズルモノニアラズ期限未ダ生ゼザルモノニシテ此條ノ支配ヲ受クベキ理由ナシ
第四百二十六條 權利上ノ期限アルト否トヲ問ハス又執行力アル證書アルトキト雖モ若シ債務者ノ不幸及ヒ善意ナルトキ且債權者カ猶豫ノ爲メ顯實ナル損害ヲ受ケサルヘキトキハ裁判所ハ債務者ニ相應ノ恩惠期間ヲ許與スルコトヲ得
又裁判所ハ右ト同一ナル條件ニ從ヒ債務ノ一分ツツノ履行ヲ許スコトヲ得
右ニ反スル總テノ要約ハ無効ナリ
(鶴田)
要約ヲ無効トスルハ如何
(南部)
裁判所ニ於テ恩惠期間ヲ得ルモ之ヲ受クベカラザルベシト云フ約束アルモ其約束ハ無効ナルベシ
(栗塚)
此條アルニ依リ債務者ハ恩惠ノ保護ヲ被ルモノナリ
(松岡)
確實ナル損害ヲ受ケザル證憑ヲ立テザルベカラザルカハ實ニ迷惑ト云フベシ
(村田)
損害ノ有無ヲ債權者ニ問フベシ
(栗塚)
然リ
(渡)
債務者ノ延期ヲ願出デタルトキ裁判官ハ債權者ヲ召シテ其損害ノ有無ヲ問フベシ其時債權者損害アル旨ヲ申立テタルトキハ如何
(栗塚)
其時ハ裁判官ニ於テ淸況ヲ看察セザルベカラズ
(渡)
看察ニ依テ裁判官ハ損害ナシト認ムルトキハ債務者ニ恩惠期限ヲ與フルハ其得失如何ゾヤ
(淸岡)
不幸ト善意トニ依テ恩惠期間ヲ與フルハ亦タ弊害ナシトセズ凡ソ人情ハ弱者ヲ助クルノ傾キアルモノナレバ自ラ裁判官ニ愛國心ヲ生ゼシムルニ至レバナリ
(南部)
本員ノ大阪神戶ノ間ニ在リシ際外國人ガ日本ノ裁判所ハ原被吿ニ自談セヨト云フコトアルモ裁判所ノ命令ヲ以テ之ヲ爲サシメザルハ如何ト云フ疑團ヲ□メルコトアリ且ツ「ボアソナード」ハ此點ニ於テ特ニ之ヲ記示シタルモノナレバ存在セシムベシ
(松岡)
起案者ハ佛國民法ノ不足ナル點ヲ補シタリト云ヘルカ此條ハ可ナルベシ
第四百二十七條 恩惠期間ヲ得タル債務者ハ第四百二十五條ニ定メタル原由ノ爲メ且其他左ノ場合ニ於テモ其恩惠期間ヲ失フ
第一 若シ債務者カ逃亡シ又ハ其住所ヲ去リテ債權者ニ其居所ヲ隱秘スルトキ
第二 若シ債務者カ一年又ハ更ニ長キ禁錮ニ處セラレタルトキ
第三 若シ債務者カ判決ヲ以テ負ハシメラレタル條件ノ一ヲ行フコトヲ缺キタルトキ
第四 若シ債務者カ適法ノ相殺カ爲サレ得ヘキ場合ニ於テ自ラ其債權者ノ債權者ト爲リタルトキ
恩惠期間ハ裁判所ニ因リ延ハサルルコトヲ得ス
(栗塚)
本條ハ第四百二十五條ト共ニ其制裁ヲ示シタリ
(渡)
恩惠上ノ期間云々ハ如何
(栗塚)
一度延期シタルトキハ再ビ延期スルヲ得ズ
(鶴田)
第四ハ如何
(栗塚)
恩惠期間アレバ相殺ハ爲スヲ得ザル如ク見ユルモ之ヲ爲スニ差障ナシト云フニアリ其際會ニハ恩惠ノ期間ハ消滅スルモノナリ
遂ニ相殺カヲ相殺ヲト修正ス
第四百二十八條 當事者又ハ法律カ義務ノ起生又ハ其解除ヲ未來ニシテ且不的確ナル事件ニ關セシムルトキハ其義務ハ條件付ナリ第一ノ場合ニ於テハ條件ハ停止ト稱セラレ又第二ノ場合ニ於テハ解除ト稱セラル
又主タルト從タルトヲ問ハス物權ハ停止又ハ解除ノ條件ニシメラルルコトヲ得
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ二項主タルノ上ニ物權ハノ三字ヲ挿入シ問ハズノ下物權ハノ三字ヲ刪ル
可決ス又停止ト稱セラルヲ稱シトシ解除ト稱セラルヲ稱ストシ條件ニ從ハシメラルルヲ從ハシムト修正ス
(尾崎)
金圓ヲ得タルトキハ他日之ヲ買フベシト云フハ停止ナルモ之ヲ買ハザルトキハ解除ナルベシ
(淸岡)
否ラズ
(委員長)
又ノ字ヲ刪ルベシ
卽チ刪除ス
第四百二十九條 預見セラレタル事件カ成就スルトキハ停止ノ條件ハ合意ノ日ニ遡リテ効アリ
解除ノ條件ノ成就ハ當事者ヲシテ合意前ノ互相ノ地位ニ復セシム
(栗塚)
報吿委員ニテ停止ノ條件ハ豫見セラレタル云々トセリ
可決ス豫見セラレタルハ豫見シタルト修正ス
第四百三十條 停止又ハ解除ノ條件カ成就セサル間ハ當事者ノ各自ハ合意ノ目的ニ付キ自己ノ權利ト同一ナル條件ニ從フタル權利ヲ付與スルコトヲ得
然レトモ條件カ第三百六十七條及ヒ其下ノ條ニ記載シタル公示ノ方法ヲ以テ知ラシメラレタルニアラサレハ當事者ノ一方又ハ其承權人ヨリ他ノ一方ノ承權人ニ之ヲ對抗スルコトヲ得ス
(栗塚)
本條第二項ハ報吿委員ニテ「及ヒ其下ノ條」ノ六字ヲ刪リ以下ト修正ス
可決ス
(南部)
付與ノ上ニ第三者ノ字ヲ挿入スレバ更ラニ明了ナルベシ
(松岡)
付與ハ移付ニアラズ
(栗塚)
讓渡ト云フニ過ギズ
(淸岡)
之ヲ對抗スルヲ得ズトハ如何
(栗塚)
條件ヲ對抗スルヲ得ザルナリ
(委員長)
第三者ハ挿入セザルカ
(栗塚)
挿入セザルモ可ナリ卽チ挿入セザルコトトス
(鶴田)
二項ハ條件ノ上ニ其ノ字ヲ挿入シ條件ノ下カヲヲトスベシ
可決ス
(尾崎)
當事者ノ一方云々ハ如何
(栗塚)
假令バ甲乙間ニ條件付ノ契約アリ乙ハ之ヲ丙ニ讓リ甲ハ之ヲ丁ニ讓リシトキハ乙丙者ハ其條件ヲ丁ニ對抗スルヲ得ズ
(尾崎)
甲ニ對シテハ如何
(栗塚)
甲ハ固ヨリ條件ヲ知得セルモノ故之ニ對抗スルヲ得ズ
(委員長)
之ヲ對抗スルヲ得ズト云フハ之ニト云ハザレバ不明ナルニアラズヤ
(栗塚)
條件ヲ向附ケルコトヲ得ズト云フ意味ナリ
(松岡)
之ヲノ二字ヲ置カザルモ條件ヲト云フコトハ知ルベシ何トナレバ起頭ニ其條件ヲト云フコトアレバナリ
(栗塚)
然ラベ其條件ハト云ハザレバ明カナラズ
第四百三十一條 解除ニ從フヘキ權利ヲ有スル者ノ善意ニテ且法律ニ從ヒ爲シタル管理ノ所爲ハ第三者ノ利益ノ爲メニ維持セラル
第三者ト解除セラルルコトアルヘキ權利ヲ有スル當事者トノ間ニ爲サレタル判決ハ他ノ當事者又ハ其承權人ニ因テ援唱セラルルコトヲ得然レトモ右ノ判決ハ他ノ當事者又ハ其承權人カ異議ヲ述フル爲メニ召喚セラレサリシトキハ之ニ對抗セラルルコトヲ得ス但其判決カ管理ノ所爲ノミニ關係スル場合ハ此限ニ在ラス
(栗塚)
本條ハ稍ヤ文字外ニ想像ヲ及サザルヲ得ザルモノアリ例ハ前段ハ甲者解除條件ヲ以テ自己ノ家宅ヲ乙者ニ賣渡シ乙者ハ其家屋ヲ丙者ニ賃借ス其内甲者ノ解除條件到着セシヲ以テ甲乙ノ契約ハ解除セラルベシ然ルニ丙者ハ其當時乙者ニ向テ借家賃ヲ支拂ヒシニ於テハ甲者ハ丙者ニ向テ其利益ヲ支ヘザルベカラズ又後段ハ乙者ノ家屋ヲ丙者ニ賣レリ甲者之ヲ第三者卽チ丙者ニ向テ曰此家ハ乙者ノ所有ニアラズ此契約ハ解除スベシトアリシトキハ他ノ當事者ナルベキ乙者及ビ乙者ノ相續人ハ自己ノ利益ニ於テハ甲丙者間ニ受ケタル裁判ヲ利用シテ丙者ノ所有ナリシト云フヲ得ベシ然ルニ右ノ判決ハ乙者及ビ乙者ノ相續人異議ヲ述ブル爲メニ召喚セラレザリシトキハ乙者及ビ其相續人ニ對抗スルヲ得ズ
(松岡)
前段ニハ解除ニ從フベキトアリ後段ニハ解除セラルルコトアルベキトアリテ同ジカラズ須ラク一定スベシト卽チ前段ヲ解除セラルルコトアルベキト修正ス
(淸岡)
之ニ對抗セラルルコトヲ得ズトハ如何
(栗塚)
此點ハ人ヲ指シタリト雖ドモ充分明了ナラズ故ニ其當事者及ヒ承權人ニ之ヲ對抗スルコトヲ得ズトセバ稍明了ナルベシ
(松岡)
承權人カラヲトシテハ如何
(淸岡)
後段ハ無用ナリ
(栗塚)
乙者及ビ其承權人ノ爲メニハ大ニ利益アリ
(淸岡)
若シ必要ナレバ明了ニ修正ヲ加ヘザルベカラズ
(委員長)
之ニ對抗スルヲ得ズハ不明ナリ
(南部)
前條ノ之ヲノ二字ヲ知ラシメタルノ上ニ設置スレバ可ナルニアラズヤ
(委員長)
前條二項ハ然レドモ其條件ハトスレバ下ノ之ヲノ二字ヲ除クモ可ナルベシ
(栗塚)
之ヲノ二字アラザレバ向附ケルト云フ働キヲ示サザルベシ
(委員長)
此等ノ場合ニハ之ヲ以テトセザルベカラズ
(栗塚)
前條二項ノ然レドモ其條件ヲハカトシテハ如何
(淸岡)
對抗ノ字ハ向附ケルト云フ意義ノ妥當ナル文字ヲ採擇シタシ
(栗塚)
尙ホ詮讓スベシ
遂ニ本條ハ假ニ栗塚說明委員ノ修正說ノ如ク其當事者又ハ承權人ニ之ヲ對抗スルヲ得ズトス
第四百三十二條 條件カ成就スルトキハ物又ハ金額ヲ引渡シ又ハ返還スヘキ當事者ノ一方ハ其條件ノ成就セサル時間ニ於テ收取シ又ハ滿期ト爲リタル果實若クハ利息ヲ供給スルコトヲ要ス但當事者ノ之ニ反スル意思ノ證カ狀況ヨリ生スルトキハ此限ニ在ラス
(委員長)
意思ノ證ガ狀況ヨリ生ズルトキトハ狀況證カ
(栗塚)
然リ默示ノ如キ反證ヲ云フ
(鶴田)
引渡ス義務ハ如何
(栗塚)
引渡スベキ停止ノ條件ハ往時ニ遡リ例ヘバ賣轉スベキ契約アル家屋ノ未ダ賣附セザル以前領收シタル家賃ノ如キハ引渡ノ當時最日契約セシ以後ノ家賃ヲ悉皆引渡サザルベカラズト云フニアリ
第三百八十九條第二項ハ起案者ニ吿問シタルニ更ラニ改案シ來レリ
第四百六條
(栗塚)
本條二項ハ松岡委員ノ說ノ如ク行フベキ義務卽チ畫工ガ畫ヲ書ク所ナラント云ハレシ點ヲ以テ起案者ニ吿問シタルニ起案者ハ意見ハ賣附スベキ契約スルモ或ハ其契約者ノ財產中ニ存セザルモノモアルベケレバ唯行フベキ義務ノミナラズ引渡シノ義務ニシテ其引渡スベキ物件ノ賣者ノ財產中ニアラズト云フ場合ヲモ包含ス
第四百三十三條 若シ合意ノ主タル目的カ不能又ハ不法ノ條件ニ從フトキハ其合意ハ無効ナリ
條件ハ當事者ノ一方カ或ハ禁セラレタル所爲ヲ行ヒ又ハ本分ヲ對止スルニ因テ之ニ利スヘク或ハ禁セラレタル所爲ヲ對止シ又ハ本分ヲ行フニ因テ之ニ害スヘキトキハ其條件ハ不法ナリ
若シ不能又ハ不法ノ條件カ合意ノ從タル効力ノミニ關係スルトキハ之ニ關スル約款ノミ不成立ナリ
(栗塚)
本條二項ハ報吿委員ニテ「之ニ利スヘク」ヲ「之ニ利スヘキトキ」ト修正ス
(渡)
所爲ヲ對止シト云フハ自ラ行ハサルヲ云フカ
(栗塚)
然リ又曰二項ノ當事者カ或ハ禁ゼラレタル所爲ヲ行ヒトハ例バ政府ノ秘密文書ヲ他人ニ吿知スルガ如キ又ハ本分ヲ對止スルニ因テ之ニ利スベキトキト云フハ例バ政府ニ差出スベキ書類ヲ差出サズシテ自ラ利スルトキヲ云フ
(松岡)
或ハ禁ゼラレタル所爲ヲ對止シトハ例バ堵博ハ禁制物ナリ其禁制物ヲ對止シテ爲サザルニ依リ害アルトキ卽チ之ヲ爲ストキハ利アルノ結果ニ至ルトキヲ云フナランカ
(南部)
然リ
(淸岡)
本分ヲ對止スルト云フハ甚不明ナリ何トナレバ本分ハ自ラ動クモノナレバナリ
(栗塚)
然ラバ本分ヲ行ハザルト修正シテハ如何可決シテ前段ハ行ハザルトシ後段ハ行ハズト修正ス
(松岡)
之ニ利スベキ之ニ害スベキト云フハ之ヲト云フガ如クナルニアラズヤ
(栗塚)
外ニモ文例アレバ詮議ノ上一定スベシ
第四百三十四條 偶然ノ條件及ヒ全部又ハ一分ニ於テ要約者ノ意ニ關スル條件ハ其成就ヲ妨ケタル者カ諾約者ナルトキハ成就セシモノト看做サル
(栗塚)
要約者ノ意ニ關スルトハ要約者自身ガ云々シタトキハト云フコトニシテ本條ハ偶然ノ條件ト又要約者ノ意ニ關スル條件ノ全部又ハ一部ナルトナリ
(南部)
一分ニ於テハ一分カトシタシ
(鶴田)
意ニ關スルト云ヘバ心配ト云フ如クニシテ任意ノ意味ニアラズ
(栗塚)
意ニ關スルトハ修正スベカラザルカ
(尾崎)
意ニ任ズルトシテハ如何
可決ス
(松岡)
他ノ條ニ於テモ能ク詮議ヲ盡シ同一ニ修正スベシ
(栗塚)
全部又ハ一分ニ於テハヲカト云フハ却テ不可ナリ
(鶴田)
全部又ハ一部トハ如何
(栗塚)
例バ競馬ノ時ニ馬三疋ヲ出サント云フニ當テ三疋出スベキハ全部ナリ若シ一疋ヲ出スベキハ一部ナリ
(南部)
意ニ任ズルノ修正ハ原案ノ儘ニ据置カレタシ
(栗塚)
全部又ハ一分ガ要約者ノ意ニ關スルトスレバ宜シキニアラズヤ
(鶴田)
意ニ關スルハ如何ニモ不明ナリ任意ト云フ熟字アレバ意ニ任ズルトスベシ
遂ニ云々一分ガトシ意ニ關スルハ任ズルノ修正ニ決ス又看做サルハ看做スト修正ス
第四百三十五條 若シ條件カ隨意卽チ當事者ノ一方ノ意ノミニ關スルトキハ他ノ當事者ハ若シ條件カ成就セスシテ經過スレバ其條件ハ缺ケタリト看做サルヘキ時間ヲ定メント裁判所ニ請求スルコトヲ得
(栗塚)
本條ノ意ノミニ關スルハ任意ニアラザルベシ例バ汝ヂハ綱渡リヲ爲スヲ得ルカト云ヘバ綱渡リハ其人ノ謄力ニ關スルモノニシテ任ズルモノニアラザルナリ若シ任意ガ妥當ナリトシテ修正セラルベキハ格別意ニ關スルト云フヲ得ザルモノトハ云フベカラズ
(淸岡)
前條ノ如キハ意ニ關スルト云ハザレバ何分宜シカラズ
(南部)
兩條共暫ク未定ニ措クベシ
可決ス
(渡曰)
本條ノ意義ハ如何
(栗塚)
例バ旅行シタルトキハ自己ノ馬匹ヲ賣讓スベシトシタルニ爾後未ダ旅行セザルトキハ契約ノ期間ヲ定メンコトヲ請求スベシ
第四百三十六條 若シ有爲ノ條件カ或ハ當事者ニ因リ或ハ裁判所ニ因リ或ル定マリタル時期ニ制限セラレタル場合ニ於テ此時期カ事件ノ到來スルコトナクシテ過キタルトキハ其條件ハ缺ケタリト看做サル又條件ノ成就ノ爲メニ定メタル時期アルト否トヲ問ハス事件ノ成就スルヲ得サルコトカ的確ト爲リタル時ヨリ其條件ハ缺ケタリト看做サル
或ル定マリタル時期ニ制限セラレタル無爲ノ條件ハ豫見セラレタル事件カ其定マリタル時期ニ於テ到來セサルトキハ成就セルモノノ看做サル又其條件カ定マリタル時期ノアルト否トヲ問ハス事件ノ到來セサルコトカ的確ト爲リタル時ヨリ成就セルモノト看做サル
右何レノ場合ニ於テモ當事者ノ定メタル期間ハ判事ニ因リ延ハサルルコトヲ得ス
(栗塚)
末項判事ニ因テ延バサルルコトヲ得ズト云フハ反譯上ニテ判事之レヲ延バスコトヲ得ズト修正セリ
(南部)
看做サルハ皆一樣ニ看做ストシタシ
可決ス
(栗塚)
本條ハ一項若シ有爲ノ條件カヲヲトシ或ハヲ刪リ當事者ノ下「ニ因リ或ハ」ヲ刪リ「又ハ」トシ、裁判所ニ因リテ裁判所カトシ時期ニ制限セラレヲ制限シトシ二項ノ制限セラレモ同ク修正シ豫見セラレモ豫見シト修正スレバ宜シト
可決ス
第四百三十七條 若シ當事者ノ一方又ハ雙方共ニ條件ノ成就シ又ハ缺クル前ニ死亡シタルトキハ合意ハ其相續人ニ對シ働方又ハ受方ニテ存留ス但條件カ其本性ニ因リ又ハ當事者ノ意思ニ因リ要約者又ハ諾約者ノ一身ノミニ附着シ又ハ負ハシメラレタルトキハ此限ニ在ラス
(鶴田)
本條ハ相續人ニ對シトアルガ第四百三十條ノ如ク當事者又ハ相續人ヨリ吿知セザルベカラザルカ
(栗塚)
然リ
(鶴田)
第四百三十條ニハ相續人ハ包含セルカ
(栗塚)
然ラズ彼ノ場合ハ承權人ハ矢張當事者中ノ者ト看做セリ
(鶴田)
然リ四百三十條ハ當事者ノ死後ヲモ云ヒシニアラズ生存中ヲノミ云ヒシモノナレバナリ
第四百三十八條 其他如何ニ條件カ完成セラルヘキヤ又如何ナル時ニ於テ條件ハ成就シ又ハ缺ケタリト看做サレ得ルヤヲ知ルコトニ關スル問題ハ當事者ノ明示又ハ默示ノ意思ニ從ヒ決セラル其條件ノ一分ノ成就カ有スルコトヲ得ル効力ニ付テモ亦同シ
(栗塚)
本條ハ完成セラルヲ完成シトシ看做サレヲ看做シトシ意思ニ從ヒノ下ニ之ヲノ二字ヲ挿入シ決セラルヲ決スト修正スレバ可ナリ
可決ス
(渡)
其條件ノ一分ノ成就トハ如何
(栗塚)
例バ東京ヨリ東海道ヲ經テ西京ニ至ラントスルニ尾州迄至リシ如キヲ云フ
第四百三十九條 若シ約束セラレ又ハ讓渡サレタル物カ諾約者又ハ讓渡人ノ過愆ナクシテ停止條件ノ成就前ニ其價格ノ全部又ハ其半ハヨリ多キ部分ニ付キ喪失シタルトキハ合意ハ不成立ト看做サレ且何レノ方ヨリモ何等ノ要求ヲモ爲スコトヲ得ス
之ニ反シテ若シ約束又ハ讓渡カ解除ノ條件ニテ爲サレタルトキハ右同一ノ喪失又ハ損壞ハ權利ノ確定ト爲リタル要約者又ハ讓受人ノ負擔ニ歸シ此等ノ者ハ何等ノ返還ヲモ要求スルコトヲ得ス
若シ同一ノ場合ニ於テ喪失又ハ損壞カ價格半ヲ踰ヘサルトキハ條件ノ成就ハ合意セラレタル効力ヲ生ス
(栗塚)
一項ハ若シ約束セラレトアルヲ約束シ又ハ讓渡サレトアルヲ讓渡シトシ看做サレハ看做シトスベシ又二項ノ解除條件ニテ爲サレヲ爲シトシ又三項合意セラレヲシト修正スベシ
可決ス
(淸岡)
二項ノ場合ニ於テ買戻ス際ハ例ヘバ半燒ニ係リタル家屋ノ如キヲ前代價ヲ與ヘザルベカラザルハ不都合ナリ如是場合ハ半燒ノ價直ヲ減殺セザルベカラズ何故ニ半ヲ踰ヘザルトキハ其効アリトスルカ
(南部)
未必條件ニ屬スルヲ以テナリ一體停止ノトキニハ其物ノ一部分ガ喪失シタルトキハ之ヲ不成立ト看做シ又解除ノ場合ニハ其物ノ一部分ガ喪失シタルトキハ之ヲ解除スルニ故障スルハ不都合ナリ之ニ反シテ若シ利益アリシトキハ如何必ラズ前代價ヨリ高價ナラザルベカラズ
(栗塚)
停止條件ノ場合ハ買受人ノ損失ニ歸シ解除條件ノ場合ハ賣渡人其損失ニ任ゼザルベカラズ
(淸岡)
停止條件ノ際ニ於テ目的物半ヲ踰ヘザル損壞アリシトキ其條件到來シタルトキハ他ノ一方ハ最初契約ノ代價ヲ以テ引取ラザルベカラザルカ
(栗塚)
然リ
(淸岡)
如是ナルトキハ其不都合ニ屬ス
(栗塚)
條件附ノ賣買ニアラザルトキハ如何
(淸岡)
其時ハ所有權他ノ一方ニ歸シタルモノナレバ無論ナリ
(栗塚)
然ラバ未必條件ト雖ドモ所有權ハ巳ニ他ノ一方ニ移レルヲ以テ其責ニ任ズルハ至當ナルニアラズヤ
(淸岡)
此條ハ全部又ハ其半以上ノ喪失ハ不成立トシ其半ヲ喩ヘザルトキハ契約ハ成立スルモノナリト云フヲ示シタルニ過ギズシテ成立セル以上ハ其通リニテ取引スベシト云フニハアラザルベキナラン
(栗塚)
伊國ニテハ停止ノ際ハ九歩九厘迄損害シタルトキト雖ドモ之ヲ受取ラザルベカラズトアリ然ルニ「ボアソナード」ハ目的物ガ九歩九厘モ喪失セルニ之ヲ受取ラザルベカラザルハ甚ダシキナリト云フ意ニテ半ヲ踰ヘザルトセリ
(南部)
淸岡委員ノ論ノ如キハ頗ル極端ニ渉レリ起案者ハ其中間ヲ取リシモノナレバ此旨意甚ダ至當ナルベシ
(渡)
淸岡委員ノ說モ一理アルモ其說ニ從ヘバ未必條件ノ精神ヲ失スベシ先刻ヨリ餘程議論モアリタレバ最早可否ヲ決セラレタシ
(栗塚)
尙ホ此議論アリシ趣ハ起案者ニモ吿知スベシ
(渡)
若シ同一ノ字ハ二項ノミニ關スル如ク見ユルニアラズヤ
(栗塚)
喪失又ハ損壞ノ文字アルヲ以テ兩項ニ關渉シタルコト知ルベシ
(渡)
歐文ニハ標點アルモ日本文ニハ目標アラザルヲ以テナリ
(栗塚)
然レバ前二項ト修正スベシ
可決ス
第四百四十條 當事者ノ一方ノ責ニ歸スヘキ喪失又ハ損壞ノ場合ニ於テハ他ノ一方ハ自己ノ撰擇ニテ損失ノ賠償ト共ニ合意ノ履行ヲ請求シ又ハ損害賠償ト共ニ解除ヲ請求スルコトヲ得
(淸岡)
本條ノ如キ例ヘバ甲者自己ノ家屋ヲ他日乙者ニ賣讓スベキヲ約シタル後暫クアツテ甲者ノ家族其家屋ニ失火シタルトキ甲者ハ乙者ヨリ損害賠償ヲ請求セラルル如キアルハ甚ダ迷惑ナリト云フベシ
先ヅ原案ニ決ス
第四百四十一條 解除ノ條件ハ義務ヲ履行シ又ハ履行スルコトヲ供スル當事者ノ利益ノ爲メ他ノ當事者カ其義務ヲ全ク履行セサル場合ニ付キ總テノ雙繋契約中ニ常ニ包含セラル
此場合ニ於テ解除ハ當然成ラス害ヲ受ケタル當時者ヨリ之ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ要ス然レトモ裁判所ハ第四百二十六條ニ從ヒ他ノ當事者ニ恩惠期間ヲ許與スルコトヲ得
(栗塚)
本條一項ハ報吿委員ニテ總テノ雙繋契約中ニハ當事者ノ一方ガ其義務ヲ全ク履行セザル場合ニ於テ義務ヲ履行シ又ハ履行スルコトヲ提供スル他ノ當事者ノ利益ノ爲メ常ニ解除ノ條件ヲ包含スト修正ス義務ヲ履行シ又履行スベキ提供ヲ爲シタルトキハ其者ハ他ノ一方ニ對シテ解除スベキ權利ヲ有スト云フニアリ
(委員長)
雙務ノ契約ニハ其利益アリト云フコトカ
(栗塚)
然リ
(委員長)
此修正ハ可ナルベシト
卽チ可決ス
(松岡)
全クハ全キト云ハザレバ不可ナルニアラズヤ
(栗塚)
全クハ動詞ニ使用シタルヲ以テ替フベカラズ全キト云ヘバ名詞ノ場合タラザルヲ得ズ
(鶴田)
全クハ完全ニトシタシ
可決ス
(淸岡)
契約中ノ中ハ必要ナラザルニアラズヤ
(村田)
中ノ字ハ必要ナリ
(鶴田)
解除ハ當然成ラズトハ如何
(栗塚)
當然場所ヲ持タズト云フ意ナリ
(淸岡)
當然ニ成ラズトシテハ如何
(村田)
當然成立セズトシタシ
(委員長)
成立セズトセバ如何
(栗塚)
成立セズト云ヘバ物ノ成存ヲ論ズル如クナルヲ以テナリ
(委員長)
行ハレズトセバ如何
(栗塚)
行ハレズトセバ敢テ不都合ナシ
遂ニ當然ニ行ハレズト修正ス
第四百四十二條 當事者ハ明確ナル合意ヲ以テ前記ノ解除ヲ排除スルコトヲ得
又當事者ハ解除カ履行スルコトノ遲滯ニ付セラレタル當事者ニ對シ當然成ルヘキコトヲ明示ニテ合意スルコトヲ得然レトモ遲滯ニ付セラレタル者ハ當事者カ己レニ對シ其行ハレタル解除ヲ援唱スルトキニアラサレハ之ヲ利唱スルコトヲ得ス
本條ハ報吿委員ニテ一項前記ヲ前條ト改メ二項履行ノ上ノ解除カノ三字ヲ刪リ當然ノ上ニ解除カノ三字ヲ挿入シ他ノ上ニ己レニ對シノ五字ヲ挿入シ己レニ對シ其行ハレタルノ數字ヲ刪リ其ノ字ヲ挿入スルニ修正ス
(松岡)
遲滯ニ付セラレタルモノ他ノ當事者ヨリ解除セント云フトキ之ヲ利唱スルハ何ノ利益アルカ
(栗塚)
他ノ當事者其解除ヲ援唱シタルトキハ遲滯ニ付セラレタル者モ其場合ニ於テハ之ヲ解除スベシト云フヲ得ルナリ
(松岡)
他ノ當事者カ解除セントスレバ付遲滯者ノ一方ニ於テ解除ヲ要メザルモ同結果ニ至ルヲ以テ無用ニ屬ス
(栗塚)
否ナ若シ他ノ當事者解除ヲ言込ムモ或ハ其解除ヲ差扣ントスルヤモ料ルベカラズ其際ニハ付遲者ノ一方ヨリ〓次其解除ヲ促ガスヲ得ベシ
第四百四十三條 不履行ニ因リ害ヲ受ケタル當事者ハ默示ノ解除ノ場合ニ於テ未タ裁判上ニ其請求ヲ爲サス又ハ明示ノ解除ヲ利唱スルコトヲ述ヘサル間ハ其解除ヲ抛棄スルコトヲ得
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ明示ノ解除ノ下ヘ「ノ場合ニ於テ未タ之」ノ數字ヲ挿入ス
(松岡)
利唱ハ援唱トセザルベカラズ
(淸岡)
然リ前條ノ例ニ遵テ援唱トスルヲ宜シトス
(栗塚)
援唱トスルモ不都合ナシ
(尾崎)
默示ノ解除トハ何ヲ指スカ
(栗塚)
第四百四十二條解除ノ條件ヲ包含スト云フカ如キ是レナリ
第四百四十四條裁判上ニ解除ヲ請求シ又ハ當然ニ行ハレタル解除ヲ援唱スル當事者ハ其他受ケタル損害ノ補償ヲ得ルコトヲ得
(鶴田)
當然ニ行ハレタルハ裁判上ニ於テ解除スベシトナリシコトカ
(南部)
裁判上ニアラズ明示ノ未必條件ノ解除ナリ
第四百四十五條 當事者ハ其權利カ停止條件ニ從ヒ又ハ其訴權カ權利上ノ期限若クハ恩惠期限ニ因リ遲延セラルルト雖モ其間ニ此法律及ヒ民事訴訟法ニ規定シタル如ク自己ノ權利ノ總テノ保存處分ヲ爲スコトヲ得
(渡)
自己ノ權利ノ總テノ保存處分トハ何ゾ
(栗塚)
差押ノ如キ云フ
(淸岡)
停止條件ノ遲延ト云フハ如何
(栗塚)
例バ他ノ家屋ヲ購置シタルトキ自分ノ家屋ヲ賣却スベシト云フガ如シ
(淸岡)
ソレハ期限ナキ故遲延ニアラズ
(栗塚)
成ル程此遲延ハ訴權ノ遲延セラルルトキヲ指サザルベカラズ
(委員長)
當事者ハ其訴權ガ權利上ノ期限若クハ恩惠上ノ期限ニ因リ遲延セラレ又ハ其權利ガ停止條件ニ從フト雖ドモ云々トシテハ如何
可決ス
第四百四十六條 賣買契約ニ於テ特ニ慣用セラルル隨意ノ停止又ハ解除ノ條件ハ第三編第十二章第六百六十六條乃至第六百六十九條ニ之ヲ規定ス
本條ハ慣用セラルルヲ慣用スルト修正ス
第二款 負擔シタル目的ニ關シテ單純ナリ、擇一ナリ又ハ任意ナル義務
第四百四十七條 義務カ或ハ各箇ニ定メラレタル一箇又ハ數箇ノ物或ハ數量及ヒ品質ヲ以テノミ定メラレタル類定物或ハ物ノ聚集又ハ包括ヲ目的トシテ有スルトキハ其義務ハ單純ナリ
又義務カ或ハ同時或ハ順次ノ別異ナル數箇ノ給付ヲ目的トシテ有スルトキモ其給付カ唯一ノ合意又ハ連繋ノ合意ニ憑リテ負擔セラルルニ於テハ尙ホ其義務ハ單純ナリト看做サル
右數箇ノ場合ニ於テハ債務者ハ負擔シタル總テノ物ノ給付ニ因ルニアラサレハ其義務ヲ免カレス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ一項ノ名詞ヲ特ニト修正シ目的トノ下シテ有ノ三字ヲ刪リ二項義務ガノ下或ハノ二字ヲ刪リ同時ノ下或ハヲ又ハトシ目的トノ下シテ有ノ三字ヲ刪ルト又曰其給付カヲヲトシ合意ニ憑リヲ合意ニ於テトシ負擔セラルルヲ負擔スルトスベシ
(鶴田)
唯一ノ合意連繋ノ合意トハ如何
(栗塚)
家ヲ賣ル契約ハ唯一ナリ造作モ共ニ賣ルト云フハ連繋ノ合意ナリ
(淸岡)
類定物トハ如何
(南部)
類ヲ以テ定メタル品物ナリ
(栗塚)
量定物ト云フモ同ジキナリ然ルニ量定ノ限ニモアラズ一層範圍ノ汎濶ナルモノナリ
第四百四十八條 義務カ各別ナル二箇又ハ數箇ノ目的ヲ有スルモ債務者カ其中ノ一箇又ハ數箇ノ給付ニ因リ義務ヲ免ルヘキトキハ其義務ハ擇一ナリ
與フヘキ物ノ撰擇ハ債務者ニ屬ス但其撰擇カ債權者ニ許與セラレタルトキハ此限ニ在ラス
然レトモ債務者ハ擇一ニテ負擔シタル數箇ノ物ノ一分ヲ受クルコトヲ債權者ニ強ヒ又債權者ハ其一分ヲ與フルコトヲ債務者ニ強ユルコトヲ得ス
(栗塚)
本條三項ハ報吿委員ニテ一分ノ上ニ何レモ各ノ字ヲ加フ
(栗塚)
此所ハ各ノ意ニシテ假令バ米及ビ麥ノ各一部ヲ與ヘタリトシテ義務ヲ免ルベカラズ約束物ノ一タラザルベカラズト云フニアリ
本條許與セラレヲ許與シト修正ス
第四百四十九條 撰擇カ債務者ニ屬スルトキ二箇ノ物ノ一カ其過愆ニ因リ滅失シタルトキハ義務ハ其殘ル所ノ物ニ存シ債務者ハ滅失シタル物ノ價額ヲ與ヘテ其義務ヲ免ルルコトヲ得ス
若シ二箇ノ物カ債務者ノ過愆ニテ順次ニ滅失シタルトキハ債務者ハ後ニ滅失シタル物ノ代價ヲ負擔ス
又二箇ノ物カ同時ニ滅失シテ債務者カ其二箇ニ對シ又ハ一箇ノミニ對シ過愆アルトキハ撰擇ハ一又ハ他ノ物ノ價格ヲ得ル爲メ債權者ニ轉移ス
(淸岡)
當事者カヲ當事者ノトセザレバ明了ナラズ卽チ當事者ノ云々トス
(尾崎)
二箇ノ物ガ全ク滅失シタルトキハ義務ハ消ユト云フハ目的物ハ引渡サザルモ代金ハ領收スルヲ得ルカ
(栗塚)
契約成立セザル以上ハ所有權他ノ一方ニ移ルヲ以テナリ
(松岡)
其場合ハ必ラズ特定物ナラザルベカラズ
(鶴田)
本條ハ一項ト二項トニ意外ノ事ト云フヲ置キ二項ニ意外ノ事ト云フコトナキニ依リ一項及ビ三項ハ之ヲ一併ニ附スベシ
(南部)
一項ハ滅失ノ意外ニ關スルヲ云ヒ二項ハ全滅ヲ云ヒ三項ハ壞損又ハ喪失ノ點ヲ云フモノナレバ區別アルベシ
(村田)
三項ノ不可抗力ノ字ハ刪ルベシ一項ノ意外ノ事ノ下ニモ不可抗力ナク又意外ノ事ト云フコトアレバ不可抗力ハ無用ナリ卽チ刪除ス
(渡)
喪失ト云ヒ滅失ト云フ殊異ナラシムル必要アルカ
(栗塚)
歐文ニ其區別セルヲ以テナリ
(委員長)
此ノ如キ文字ハ能ク意義ヲ糺シテ一定スベシ
(栗塚)
唯々
第四百五十條 撰擇カ債務者ニ屬スル右ト同一ノ場合ニ於テ若シ負擔シタル二箇ノ物ノ一カ債權者ノ過愆ニテ滅失シタルトキハ債務者ハ義務ヲ免カル但債務者カ殘ル所ノ物ヲ與ヘテ滅失シタル物ノ價額ヲ己レニ償還セシムルコトヲ撰ムトキハ此限ニ在ラス
若シ二箇ノ物カ債權者ノ過愆ニテ滅失シタルトキハ債務者ハ自己ノ撰擇ヲ以テ一又ハ他ノ物ノ價額ヲ己レニ償還セシムルコトヲ得
若シ二箇ノ物カ一ハ債權者ノ過愆ニ因リ他ハ意外ノ事ニ因リ同時ニ滅失シタルトキハ債務者ハ義務ヲ免レ債權者ニ對シテ取戻ヲ求ムルコトヲ得ス
(栗塚)
一旦有効ニ行ハレタル撰擇トハ債務者ハ實物ヲ提供シ債權者ハ正當ノ方法ヲ以テ裁判所ニ請求シタルトキハ其一方ノ當事者之ヲ承諾シタルニアラザレバ之ヲ言消スルヲ得ザルナリ
(鶴田)
有効ニ行ハレタルヲ行フタルトシ債務者ニ因リ債權者ニ因リテ何レモヨリトスベシト
可決ス
(淸岡)
前條三項ニ於テハ目的物ノ半分ニ至ル迄ノ損壞喪失ハ債務者ニ於テ未ダ擇一ヲ失ハザルヲ以テ其損壞物若クハ喪失物ヲ債權者ニ引渡スヲ得ベシトナルカ實ニ不都合ナリト云フベシ何トナレバ元ト債權者擇一義務ヲ承諾シタルハ品格相類シタル間ニ於テ成立チタルモノナリ然ルヲ他日其一品物ガ半分以下喪失又ハ損壞シタルモノヲ給付サルルニ至テハ迷惑千萬ト云ハザルヲ得ズ
(栗塚)
擇一義務ニ於テハ撰擇ノ權債務者ニ存スルヲ以テ已ムヲ得ザルナリ
(南部)
採擇ノ權債權者ニ存スルトキハ其完全物ヲ得取スベキヲ以テ權衡ヲ得タルニアラズヤ
第四百五十一條 撰擇カ合意ヲ以テ債權者ニ與ヘラレシトキ二箇ノ物ノ一カ債務者ノ過愆ニテ滅失シタルニ於テハ債權者ハ殘ル所ノ物ヲ請求シ又ハ滅失シタル物ノ價額ヲ請求スルコトヲ得
若シ二箇ノ物カ共ニ債務者ノ過愆ニテ滅失シタルトキハ債權者ハ一又ハ他ノ物ノ價額ニ付キ撰擇ヲ有ス
若シ二箇ノ物カ一ハ債務者ノ過愆ニ因リ他ハ意外ノ事ニ因リ同時ニ滅失シタルトキモ亦同シ
(鶴田)
末項ニ於テハ債務者二箇ノ物ヲ過愆ヲ以テ滅失セシメタルトキハ代價ハ其二個ノ物ニ於テ撰擇スルモ一個ハ天災ニ依リ喪失シ他ノ一個ノミ債務者ノ過愆アリシトキハ其過愆アリシ物ニ就テ代價ヲ領收セザルベカラズ天災ニ罹リシ物ヲモ合併ニ撰擇セシムルハ不可ナリ又二個ノ物ガ同時ニ滅失シタルトキハ其撰擇ノ權債權者ニ移轉スルモ不可ナリ元來撰擇權ハ債務者ニ存スルモノナレバ二個ノ物同時ニ滅失スル時ト雖ドモ其撰擇ハ債務者ニアラザルベカラズ
(委員長)
意外ノ變災アリシトキト過愆ノ場合トハ同ジカラザルベシ此點ハ天災ヲ包含スルカ
(栗塚)
二個ノ物同時ニ滅失シ其一個ノミニ過愆アルトキハ他ノ物ハ天災ト認メザルヲ得ズ
(南部)
例ハ二疋ノ馬アリ一馬ハ天災ニ依テ滅失シタルトキハ債務者其責ヲ免レンガ爲メニ他ノ一馬ヲモ滅失サスルカモ知ルベカラザレバナリ
(栗塚)
先ヅ次條ヲ朗讀スレバ此點モ亦タ了解ニ便利アラン
(委員長)
然レバ次條ニ移ルベシ
第四百五十二條 撰擇カ債權者ニ屬スル右ト同一ノ場合ニ於テ二個ノ物ノ一カ債權者ノ過愆ニテ滅失シタルトキハ債務者ハ義務ヲ免ル
若シ二個ノ物カ共ニ債權者ノ過愆ニテ同時ニ滅失シタルトキハ撰擇ハ一又ハ他ノ物ノ價額ヲ己レニ與ヘシムル爲メ債務者ニ轉移ス
右ニ同シキ同時ノ滅失ノ場合ニ於テ若シ物ノ一ハ債權者ノ過愆ニ因リ他ハ意外ノ事ニ因リ滅失シタルトキハ債務者ハ義務ヲ免レ債權者ニ對シテ取戻ヲ求ムルコトヲ得ス
(南部)
本條ハ報吿委員ニテ右ト同一ノノ五字ヲ刪リ冒頭ニ右ト同ジクノ五字ヲ冠置セリ
(鶴田)
債務者二個ノ馬匹ヲ債權者ニ擇一義務ヲ以テ引渡シノ義務アル時一馬天災ノ爲メニ滅失シ一馬債權者ノ過愆ニ依リ滅失シ其過愆ニ値ヒシ馬ガ良馬ニシテ債務者ハ此ノ良馬ハ元ト擇一義務ナルヲ以テ債權者ニ引渡サザル心思ナリ然ルニ債權者ノ過愆ヲ以テ其良馬ヲ滅失サルルニ至テハ實ニ迷惑ナルヲ以テ前條ノ三項ト其權衡ノ宜シキヲ得ザルナリ
(村田)
本條ハ尙ホ次條ニ至テ論議スルヲ便利ナリトス
(南部)
前條三項ハ債務者ノ過愆ニシテ本條一項ハ債權者ノ過愆ナルヲ以テ不權衡ニアラズ
(松岡)
次條ニ移テ併論シタシ
第四百五十三條 撰擇ヲ有スル當事者カ孰レタルヲ問ハス若シ二個ノ物ノ一カ意外ノ事ニ因リ滅失シタルトキハ義務ハ單純ト成リ殘ル所ノ物ニ存ス
若シ二個ノ物カ全ク滅失シタルトキハ義務ハ消ユ
若シ二個ノ物ノ一カ意外ノ事又ハ不可抗力ニ因リ其價額ノ半ヨリ多クニ付キ損壞又ハ喪失シタルトキハ其物ハ最早債務者ノ撰擇ノ目的タルコトヲ得ス
(村田)
本條三項ニテハ其物債務者債權者何レニ屬セシヤ知ルベカラズ
(南部)
品物ハ双方ノ間ニ存セズ必ラズ債務者ノ手裏ニアルベシ
(委員長)
第四百五十一條三項ト第四百五十三條ノ末項ニ於テモ等シク天災モ人爲モ混淆シタルモノニシテ共ニ不都合ナルベシ故ニ此點及ビ第四百五十一條三項撰擇權ノ債權者ニ移轉スルノ義トヲ起案者ニ吿問スベシ
(渡)
天災ヲ目度ニスルト過愆ヲ目度ニスルトノ區別故重大ナル問題ナリ
(栗塚)
右ノ動議ニ從フトキハ二個ノ品物ノ其一ガ滅失シタルトキハ擇一義務ハ消滅スルニ至ラン報吿委員ニテ冒頭撰擇カヲ刪リ債權者ニノ下ニ撰擇ヲノ三字ヲ挿入シ「與ヘラレ」ヲ與ヘシト修正スルハ
可決ス
第四百五十四條 若シ撰擇ヲ有スル當事者カ數人ノ相續人ヲ遺シテ死亡シタルトキハ其數人ノ相續人ハ不可分義務ノ事項ニ於テ記シタル如ク唯一ノ撰擇ヲ行フ爲メ協合スルコトヲ要ス
或ハ實物提供ノ方法ニテ債務者ニ因リ或ハ正當ナル方式ニ於ケル請求ニテ債權者ニ因リ一旦有効ニ行ハレタル撰擇ハ他ノ當事者ノ承諾ナクシテ最早言消サルルコトヲ得ス
本條モ報吿委員ニテ冒頭撰ノ上「右ト同シク」ノ五字ヲ加ヘ「右ト同一ノ」五字ヲ刪ル可決ス
第四百五十五條 前數條ノ明文ニ從ヒ擇一ノ義務カ一箇ノ物ノミニ存スルニ至リタルトキ又ハ撰擇カ其權利ヲ有スル當事者ニ因リ物ノ一ニ付キ行ハレタルトキハ其効力ハ停止ノ條件付ノ義務ノ事項ニ於テ第四百二十九條ニ記シタル如ク遡リテ効力アリ
(尾崎)
所有權移轉シタルトキ例ヘバ家屋ノ賣渡シノ如キハ未ダ家屋ヲ引渡サザレバ引渡サザル間ノ家賃ハ之ヲ所有者ニ拂ハザルベカラザルカ
(南部)
否ラズ引渡以前ノモノハ償却ノ義務生ズルモノニアラズ
(松岡)
然ルニ其結果ヲ得ベキハ所有者ノ權利ナルヲ以テ引渡シ以前ニ係ルモノハ之ヲ結實トセザルベカラズ又其賣讓シタル家屋ハ之ヲ第三者ニ賃貸シタリトセシニ所有權移轉後ハ其賃金ハ之ヲ買受人ニ引渡サザルベカラズ故ニ賣讓者未ダ退去セザル間ハ同ジク家賃ヲ買受人ニ償却セザルベカラズ
(栗塚)
如是ハ決シテ結果ノ生ズベキモノニアラズ未ダ引渡サザル以前賣讓者ノ住居スルヲ以テ結實トハ決シテ云フベカラザルナリ
(淸岡)
擇一義務ヲ未必條件ノ如クスルニハ及バザルナラン擇一ハ停止ニナルモ否ラザルモ別物ニシテ可ナリ
(栗塚)
然ルニ往時ニ遡リ其利害ヲ研究スルトキニ至テハ本條ノ如キ規定ナキニアラザレバ不可ナリ
(南部)
擇一義務ニ付テハ必ラズ反致ノ効力ヲ有スルカ否ノ問題ハ直チニ生ズベキナリ
(委員長)
例バ遠方ニ物品ヲ輸送スル場合途中ニ於テ其物損壞シタルトキシムルコトヲ得若シ二個ノ物カ一ハ意外ノ事ニ因リ他ハ債權者ノ過愆ニ因リ同時ニ滅失シ其過愆カ孰レノ物ノ上ニ存スルヤヲ知ルコトヲ得サルトキハ債務者ハ義務ヲ免カレ且債權者ニ對シ自己ノ撰擇ヲ以テ二個ノ價額ノ一ヲ取戻スコトヲ得
(栗塚)
本條末項ハ反譯上ノ修正ニテ「自己ノ撰擇ヲ以テ二個」ノ十字ヲ刪リ「任意ニテ負擔セラレタル物」ノ十二字ヲ插ミ又價額ノ下ノ一ノ二字ヲ刪レリ又報吿委員ニテ二項ヲ修正シ「主タル物」ノ下ヘ「ノ負擔ハ」ト云フヲ挿入シ「物ノ辨濟ノ」ハ物ノ辨濟ニ因リトシ解除ノ下ヘスベシノ三字ヲ加入シ條件ヲノ下「以テ負擔」ノ數字ヲ刪リ「付」ノ字ヲ加フ
(尾崎)
任意ト擇一ハ如何
(栗塚)
任意トハ例バ甲者アリ死ニ瀕シテ相續者ニ命ジテ曰餘死去ノ後此ノ家屋ヲ乙者ニ讓與セヨ若シ之ヲ讓與セザレバ金圓ヲ交付セヨト云フガ如キモノニシテ其家屋ガ卽チ目的物ナルヲ以テ若シ其家屋燒失シタルトキハ金圓ヲモ交付スルニ及バズ擇一ハ之ト異ニシテ目的物カ二個アルヲ以テ何レカ其一ヲ交付セザルベカラズ又例ハ馬ヲ賣付ハ卽チ送出前ノ契約ニ遡テ論ゼザレバ不都合ナリ
第四百五十六條 債務者カ主トシテ一箇又ハ數箇ノ定マリタル物ヲ負擔スルモ他ノ一箇又ハ數箇ノ物ヲ與ヘテ義務ヲ免ルルノ權能ヲ有スルトキハ其義務ハ任意ト稱セラル
主タル物ハ任意ニテ負擔セラレタル物ノ辨濟ノ解除ノ條件ヲ以テ負擔セラレタリト看做サル
若シ主トシテ負擔セラレタル物カ意外ノ事又ハ不可抗力ニ因リ滅失シタルトキハ債務者ハ義務ヲ免カル
若シ主トシテ負擔セラレタル物カ債務者ノ過愆ニテ減失シタルトキハ債務者ハ損害賠償ト共ニ其價額ヲ負擔ス然レトモ債務者ハ任意ニテ負擔セラレタル物ヲ與ヘテ義務ヲ免カルルノ權能ヲ保有ス
若シ二個ノ物ノ一カ債權者ノ過愆ニテ滅失シタルトキハ債務者ハ其義務免除ヲ援唱シ又ハ滅失シタル物ノ爲メ己レニ賠償セシメテ殘ル所ノ物ヲ與フルコトヲ得
若シ二個ノ物カ債權者ノ過愆ニテ滅失シタルトキハ債務者ハ義務ヲ免カレ且自己ノ撰擇ヲ以テ一又ハ他ノ物ノ價額ヲ己レニ償還セスルカ家屋ヲ賣付スルカノ時ハ之ヲ撰擇シタル以上ニアラサレハ義務ノ目的確然セサルモ任意ノ義務ハ最初ヨリ義務ノ目的確然タルベシ
(委員長)
末項ノ任意ニテ負擔セラレタル物トハ起案者ノ修正カ又タ反譯局ニテ修正シタルカ
(栗塚)
起案者ヨリ修正シ來レリ本條モセラレハ何レモシタルト修正シ又サルハスト修正ス
第三款 債權者及ヒ債務者ニ關シテ單一ナリ又ハ複合ナル義務
第四百五十七條 唯一人ノ債權者及ヒ唯一人ノ債務者ノミナルトキハ義務ハ單一ナリ又或ハ初メヨリ或ハ數人ノ相續人ヲ遺シタル當事者ノ一人ノ死亡ニ因リ數人ノ債權者又ハ數人ノ債務者アルトキハ義務ハ複合ナリ
複合ノ義務ハ連合又ハ連帶ナリ又其義務ハ次款ニ定メタル如ク不可分タルコトヲ得
(栗塚)
單一ナリト云フナリヲ刪ル
(淸岡)
唯一人ト云フ唯ノ字ハ唯一ノ字ト紛混ヲ生ズルニアラズヤ
(栗塚)
初メヨリトハ初メヨリ數人ノ債權者及ビ債務者アルトキハト云フ意ナリ
(南部)
初メヨリノ下ヘ右ノ文字ヲ挿入シタシ
(栗塚)
此儘ニ措テハ如何
遂ニ初メヨリノ下ヘ債權者又ハ數人ノ債務者アルトキト云ヘル數字ヲ挿入ス
(栗塚)
又或ハノ或ハヲ刪ルヲ宜シトス
(南部)
否刪ルニ及バズ
(渡)
此儘ニシテ可ナリ
(栗塚)
然ラバ文例ヲ一定ニスベシ
(松岡)
不可分タルコトヲ得バ不可分ニ爲スモ爲サザルモ自由ナルベシト云フ如クナル故不可分タルコトアリト修正シタシ
(南部)
固ヨリ契約スル際可分ニスルモ不可分ニスルモ自由ナリ
(栗塚)
タルコトアリト云フモタルコトヲ得ト云フモ意味差違ナキニ付キ反譯局ニテ詮議スベシ
第四百五十八條 連合ノ義務ニ於テハ次款ニ定メタル如ク債權者ノ各自ハ債權ニ於ケル自己ノ部分ノ爲メニアラサレハ履行ヲ求ムルコトヲ得ス又債務者ノ各自ハ債務ニ於ケル自己ノ部分ノ爲メニアラサレハ訴追セラルルコトヲ得ス
連帶ニ義務ニ於テハ各債權者又ハ各債務者ハ自己ノ名ヲ以テ自己ノ部分ノ爲メニスルト他人ノ名ヲ以テ他人ノ部分ノ爲メニスルトヲ問ハス全部ニ付キ履行ヲ求メ又ハ訴追セラルルコトヲ得但第四編第一部第二章ニ記載シタル如ク各自カ其現實ノ部分ヲ踰ヘテ受ケ又ハ拂ヒタルモノノ爲メ擔保訴權ニ因レル互相ノ求償權ヲ妨ケス
(松岡)
連合義務トアルハ連合義務ト云ハザルベカラザルカ
(栗塚)
連名シタル義務ニシテ其結果ハ連帶トハ同ジカラズ
(南部)
連却ハ連帶ト云フ明文アラザレバ連合タルモノナリ
(松岡)
連合義務ト云フガ不可ナリト云フニアラザルモ尙ホ妥當ノ文字ハナキヤト云フニアリ本員ハ各分トシタシ
(栗塚)
然カスルトキハ證文面ニ連名シタルヲ知ルベカラズ
(松岡)
訴追セラルルコトヲ得ズト云フハナシトシタシ
(淸岡)
訴追ハ債權者ノ爲スベキモノ故訴追スルヲ得ズトスベシ
(栗塚)
得ズヲナシトスルコトヲ得ルカ得ザルカバ之ヲ反譯局ニ詮議スベシ
第四款 本性又ハ其履行ニ關シテ可分ナリ又ハ不可分ナル義務
第四百五十九條 第四百五十七條ニ定メタル單一ノ義務ハ債權者ト債務者トノ間ニ在テハ不可分タル如クニ履行セラルルコトヲ要ス但第四百二十六條ヲ以テ一分ノ辨濟ヲ許スコトニ付キ裁判所ニ與ヘタル權能ヲ妨ケス
(栗塚)
可分ナリト云フナリハ刪ルベシ
(栗塚)
不可分タル如クト云フハ不可分トシテト云フ如キ意義ナリ
(栗塚)
履行ノ上ニ之ヲヲ入ルベシ
(南部)
如クニトアレバ之ヲハ不要ナリ
(栗塚)
之ヲヲ加フレバ尙ホ文章ニ宜シキヲ加フ
可決ス
(委員長)
債務者トカ債權者トカ不可分ト云フハ如何
(南部)
債權者ニ在テハ債權ガ義務ト不可分ナリ債務者ニ在テハ債務ガ債權ト不可分ナリ
(委員長)
債權者ト債務者トノ間ニアル單一ノ義務ハ不可分云々トスルカ又ハ單一ナル義務ハ不可分タル如クニ債權者ト債務者ト云々トスレバ宜シ
(淸岡)
權能ハ不都合ナキヤ
先ヅ原案ニ決ス
第四百六十條 連合義務ニ於テ債權者ノ各自カ履行ヲ求ムルコトヲ得又ハ債務者ノ各自カ訴追セラルコトヲ得ル現實ノ部分ハ合意ニ從ヒ又ハ事實ノ狀況ニ從ヒ定メラル
若シ此部分カ此ノ如ク定メラルルコトヲ得サルトキハ其部分ハ平分ナリ卽チ分頭ニテ計算セラル但債權ノ利益又ハ債務ノ負擔ニ於テ各自ヲ其現實ノ部分ニ復スル爲メ互相ノ求償權ヲ妨ケス
(渡)
訴追セラルコトヲ得バ前條ノ決ニヨリ訴追セラルルコトアリトナルベシ
(松岡)
狀況ニ從ヒ定メラルハ之ヲ定ムトナルベシ又二項ノ定メラルヲ定ムトシ計算セラルヲ計算スト修正ス
(委員長)
但書ノ意義ノ如キハ最初ニ定メラルルニアラズヤ
(南部)
實情知レ難キモノアレバナリ
第四百六十一條 債權者又ハ債務者ノ死亡ノ場合ニ於テ單一又ハ連合ノ義務ハ各相續人カ死者ヲ名代スル部分ニ付キ働方又ハ受方ニテ其各ノ間ニ分タル
連帶義務モ右ニ等シク當事者ノ相續人ノ間ニ可分タリ
(栗塚)
一項其各ノ間ニ分タルトアルハ之ヲ分ツトスベシ
(鶴田)
連帶中負債者ノ一人死亡シタルトキハ各相續人ハ可分トナルトキハ債權者ハ連帶ノ一部分ノ効ヲ失フ何故ニ各相續人一人ト看做シ之ヲ連帶トセザルヤ
(栗塚)
相續者數人ニ對シテハ可分ノ請求ヲ爲スヲ得ルニ過ギズ
(委員長)
單一ノ義務ハ負債者死亡シタルトキ各相續者アレバ其相續者ニ可分ノ請求ヲ爲スカ
(栗塚)
然リ
第四百六十二條 複合ノ義務ハ左ノ場合ニ於テ債權者又ハ債務者ノ間ニ不可分タリ
第一 負擔シタル目的ノ本性ニ從ヒ一分ノ履行カ形體上及ヒ權利上不能ナルトキ
第二 義務ハ其本性ニ因リ可分ナルモ或ハ當事者ノ明示ナル意思或ハ其企圖シタル目的又ハ事實ノ其他ノ情況ヨリ生スル意思ニ從ヒ一分ニ付キ之ヲ履行スルコトヲ得スト爲シタルトキ
(栗塚)
馬ノ如キハ形體上分ツ能ハザルモノナリ
(松岡)
地役ノ如キハ權利上分ツベカラザルモノナラン
(淸岡)
事實ノ其他ノ情況トハ如何
(栗塚)
企圖シタル目的ノ如キモ事實ナル故其他ノ情況ト云フコトナリ
(委員長)
日本語ニテ云ヘバ其他事實ノ情況ト云ヘバ可ナル可シ
可決ス
第四百六十三條 義務ハ其本性ニ因リ可分ナルモ左ノ場合ニ於テハ尙ホ當事者ノ意思ニ因リ受方ノミニテ不可分タリ
第一 債務者ノ一人ノ處分ニ在ル特定物ノ引渡ニ關スルトキ此場合ニ於テ其一人ハ全部ニ付キ訴追セラルルコトヲ得然レトモ若シ同時ニ數人ノ債權者アルトキハ其一人ノ債務者ハ此等ノ債權者ニ對シ同時ニ義務ヲ免ルル爲メ其總テノ債權者ノ訴訟參加ヲ要求スルコトヲ得
第二 若シ債務者ノ一人カ債務ノ設定名義ニ因リ獨リ履行ニ任セラレタルトキハ履行ハ其一人ノミニ對シ要求セラルルコトヲ得
(淸岡)
當事者トハ債權者ヲ指スカ
(栗塚)
否雙方ノ契約者ヲ云フ
(南部)
第二ノ設定名義ト云フハ雙方ノ意思ニアラザレバ爲スヲ得ズ
(松岡)
單一義務ノ場合カ
(栗塚)
然リ例バ二疋ノ馬ヲ一人ニテ所有セシトキ其所有者之レヲ處分スルガ如シ
第四百六十四條 不可分ハ第四編第一部第三章ニ規定シタル如ク本性ニ因リ可分ナル債務ノ履行ノ抵保トシテ之ヲ連帶ニ併合シ又ハ併合セスシテ債務者ノ負擔ニ於テ之ヲ要約スルコトヲモ得
(尾崎)
可分ナル債務ノ履行ノ抵保トシテ之ヲ連帶ニ併合シトハ如何
(栗塚)
此所ハ不可分ヲ連帶ニ合併スルシ又連帶ナシニ辨濟ヲ約スルヲモ得ベキコトナリ又曰本條要約スルコトヲモ得ノモヲ報吿委員ニテ刪除セリ
(尾崎)
債務者ノ負擔ニ於テト云フノハ如何
(南部)
受方ト云フヲ示シタルニ過ギズ
第四百六十五條 債權者中ニテ己レ一人ニ不可分ノ債務ノ履行ヲ得タル者ハ他ノ債權者ノ權利ノ限度ニ於テ之ニ其利益ヲ分與スルコトヲ要ス
右ニ等シク債務者中己レ一人ニテ義務ヲ履行シタル者ハ義務ノ原由ニ從ヒ又ハ前來ノ互相ノ關係ニ從ヒ他ノ債務者ノ分擔スヘキ部分ニ付キ之ニ對シ擔保ノ求償權ヲ有ス
(渡)
本條ハ數人ノ債權者アルトキヲ云フカ
(栗塚)
然リ
第四百六十六條 如何ナル債權者ニテモ要約シタル如ク辨濟ヲ受クルニアラサレハ他ノ債權者ノ權利ヲ減シ又ハ消スコトヲ得ス
若シ債權者ノ一人カ更改、債務ノ釋放又ハ總テノ債務者若クハ其中ノ一人ノ義務免除ヲ主旨トスル或ハ他ノ合意ヲ爲シタルトキ又ハ其一人ノ債權者ニ對シ適法ノ相殺ノ原由存スルトキト雖モ他ノ債權者ハ尙ホ債務ノ全部ノ履行ヲ請求スルコトヲ得然レトモ他ノ債權者ハ右一人ノ債權者ノ其權利ヲ失ハサリシナラハ第五百二十三條第四項、第五百三十七條第二項、第五百四十三條第三項並ニ第四項ニ記載シタル如ク且此等ノ條項ニ記シタル區別ニ從ヒ其一人ノ債權者ニ對シテ負擔スヘカリシ價額ニ付キ訴追セラレタル債務者ニ對シテ計算ヲ爲ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ債權者ニ對シテ負擔ト云フ對シテ負擔ノ文字ヲ刪除シ分與ト修正シタリ
(淸岡)
其修正ノ如クスレバ債權者ニ分與スル如クニアラズヤ
(栗塚)
然リ他ノ債權者ガ其一人ノ債權者ニ分與スルモノナリ
(鶴田)
然レドモ以下ハ債權者中ノ一人相殺更改釋放等ヲ爲シタルトキハ他ノ債權者ハ右一人ノ債權者ガ其權利アル場合ニ於テハ其一人ニ分與スベキ價格ハ之ヲ義務者ニ還付スルト云フコトナルカ
(栗塚)
然リ債務中右ノ債權者ト關係シタル一人ニ對シ其利益ヲ還付セザルベカラズ
(鶴田)
不可分ニ於テ三人連合シテ金錢ヲ貸付スルトキ三人中ノ一人之ヲ放釋シタルトキハ如何
(松岡)
利益ヲ放釋スルハ之ヲ許スモ他ノ債權者ヲ害スル行爲ハ之ヲ爲スヲ許サザルナリ
第四百六十七條 右ニ反シテ債權者ノ一人ノ爲シタル付遲滯及ヒ其他ノ保存ノ所爲ハ他ノ債權者ニ利ス
之ニ等シク債權者ノ一人ノ利益ニ於テ時効ヲ停止スル適法ノ原由ハ同時ニ他ノ債權者ノ利益ニ於テ之ヲ停止ス
(南部)
本條ハ債務者一人ニシテ債權者數名アルトキヲ想像シタルモノナリ
第四百六十八條 如何ナル債務者ニテモ他ノ債務者ノ地位ニ加重スルコトヲ得ス又債務者ノ一人ノ付遲滯ハ他ノ債務者ニ之ヲ對抗スルコトヲ得ス
然レトモ債務ノ追認及ヒ其他債務者ノ一人ニ對抗スルコトヲ得ル時効ノ中斷又ハ停止ノ原由ハ等シク他ノ債務者ニ之ヲ對抗スルコトヲ得
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ地位ニヲ地位ヲト修正ス此意味ハ債務者ハ負債ヲ返還スベキ苦痛アルニ依リ尙ホ苦痛ヲ加重スルヲ得ズト云フ義ナリ
(委員長)
地位ヲ加重スルト云フハ穩當ヲ缺クニアラズヤ情況トカ事情トカニ當ル意義ナレバナリ
遂ニ負擔ト修正ス
第四百六十九條 若シ債務者ノ一人ノ過愆ニ因リ不可分義務カ履行セラルルコトヲ得サルトキハ過愆約款カ可分義務ノ全部ノ履行ヲ保スル爲メ設ケラレタルトキト雖モ損害賠償又ハ要約セラレタル罰ハ過愆ニ在ル者ノミ之ヲ負擔ス
(委員長)
可分義務ノ全部ヲ過怠約款ニ附スルコトアルカ
(栗塚)
其場合アルベシ
(尾崎)
例ヘバ三人中ノ一人過愆ノ責任ヲ被リタルトキハ他ノ二人ハ其義務ヲ免カルルカ
(栗塚)
然リ損害賠償又ハ要約セラレタル責罰ハ過愆ヲ爲シタル者ノミ之ヲ任ズルト云フハ伊國兩法モ皆同ジ然ルニ過怠約款ノ場合ニ於テハ伊國兩法ハ過怠者ノミ之ヲ任ズルニアラザルモ如是ハ甚不理ナルヲ以テ此草案ニハ之ヲ同一ニシタリ
(渡)
過愆者舊貧ニシテ其責ニ任ズルヲ得ザルトキハ如何
(栗塚)
其時ハ債權者ノ所損トナルベシ然ルニ連帶義務ノ時ハ之ニ異リテ他ノ義務者ハ其義務ヲ免ルルコト能ハザルモノナリ
(淸岡)
過怠約款ノトキハ過愆者ノミ其責ニ任ズベキモ可ナルベキカ損害賠償ノ如キモ他ノ義務者其義務ヲ免ルルニ至ルハ不都合ニアラズヤ
(栗塚)
起案者ハ反對ノ考案ナリ過怠約款ノ如キハ損害賠償ト區別判然スルモノニアラズ
第四百七十條 第四百六十二條ノ場合ニ於テ不可分義務ノ履行ノ爲メ訴ヘラレタル債務者ハ若シ他ノ債務者ヲシテ己レト共ニ併合シテ言渡ヲ受ケシムヘキトキハ之ヲ受ケシムルコトニ付キ他ノ債務者ヲ訴訟ニ參加セシムル爲メ及ヒ是等ノ債務者ニ對スル自己ノ補隨ノ求償ヲ決セシムル爲メ期間ヲ請求スルコトヲ得
(渡)
自己ノ權隨ノ求償トハ如何
(栗塚)
自己ガ他ノ義務者ニ立替ヘタルモノヲ補充スル爲メ求償ヲ爲ス期間ナリ
(松岡)
補隨ハ補塡ト云フコトカ
(栗塚)
然リ補塡附隨ノ義ナリ
第三章 義務ノ消滅
第四百七十一條 義務ハ左ノ諸件ニ因リ消滅ス
第一 辨濟
第二 更改
第三 合意上ノ釋放
第四 相殺
第五 混同
第六 履行ノ不能
第七 銷除
第八 廢罷及ヒ解除
第九 免責時効
異議ナシ
第一節 辨濟
第四百七十二條 辨濟卽チ義務ノ方式及ヒ實旨ニ從フ其履行ハ下ノ第一款及ヒ第四款ニ記シタル區別ニ從ヒ單純ナルコト又ハ代位ヲ以テスルコトヲ得
數箇ノ債務アリテ只一箇ノ辨濟アルトキハ第二款ニ從ヒ債務ノ一箇又ハ數箇ニ付キ辨濟ノ充當ヲ爲ス
若シ債權者カ辨濟ヲ受クルコト能ハス又ハ欲セサルトキハ債務者ハ第三款ニ記載シタル如ク實物提供及ヒ供託ノ方法ヲ以テ自ラ義務ヲ免カルルコトヲ得
債務者カ其債權者ニ自己ノ財產ノ抛棄卽チ委付ヲ爲スコトヲ許サルル場合ハ民事訴訟法ニ之ヲ規定ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニ於テ「抛棄」ノ下卽チ委付ノ四字ヲ刪ル抛棄ト云ヘバ委付ト云フ必要ナケレバナリ
(村田)
抛棄ヨリハ委付ノミニシテハ如何
(淸岡)
原案可ナリ
遂ニ報吿委員ノ修正ニ決ス
第一款 單純ナル辨濟
第四百七十三條 辨濟ハ債務者ニ因リ又ハ若シ債務カ連帶若クハ不可分ナルトキハ共同義務者ノ一人ニ因リ有効ニ爲サルルコトヲ得ルノミナラス尙ホ保證人又ハ債務ノ抵當タル財產ノ第三保有者ノ如キ補隨ノ義務者又ハ利害ノ關係アル者ニ因テモ有効ニ爲サルルコトヲ得
又辨濟ハ利害ノ關係ナキ第三者ニ因リ或ハ債務者ノ名ヲ以テ或ハ自己ノ名ヲ以テ爲サルルコトヲ得
(栗塚)
本條「補隨ノ義務者」ノ下「又ハ」ヲ卽チト改ム又單純ノ字ハ追テ反譯上ニテ單一ト修正スルヤモ知ルベカラザルニ付キ一應報吿シ置クベシ
(淸岡)
補隨ノ義務者トシテ置キ卽チ利益ノ關係アル者ト云フハ不當ナリ
(栗塚)
「ボアソナード」ハ特ニ補隨ノ義務者ト云フニ力ヲ有セシメタレバ刪除說ナレバ利害ノ關係アル者ト云フヲ刪ルヲ宜シトス
(南部)
第三保有者ハ不動產ノ買受讓受人ヲ云ヒシガ後條
遂ニ記示シタルヲ以テ殊ニ注意アリタシ
(鶴田)
又ハ若シトアル若シノ字ヲ刪ルベシ卽チ之ヲ刪除ス
(松岡)
ニ因リヲ何レモヨリトシ爲サルルヲ何レモ爲スト修正スベシ
可決ス
第四百七十四條 債權者ノ承諾ハ利害ノ關係アリ又ハ利害ノ關係ナキ第三者ノ爲シタル辨濟ノ有効ニ付キ必要ナラス但債務者ノ一身カ特ニ債權者ニ因リ着目セラレタル爲スノ義務ニ關スルトキハ此限ニ在ラス
又債務者ハ第三者カ爲シタル辨濟ヲ承諾スルコトヲ必要トセス但第三者ニ利害ノ關係ナキトキト雖モ亦同シ此終リノ場合ニ於テ債務者モ又債權者モ辨濟ヲ承諾セサルトキハ其辨濟ハ存立スルコトヲ得ス
(栗塚)
本條一項債務者ノ一身ヲ債務者其人トシ第二項ハ「第三者カ」ヲ第三者ノト改メ但以下ハ利害ノ關係ナキ第三者ノ爲シタル辨濟ノ場合ニ於テ債務者モ之ヲ承諾セザルトキハ其辨濟ハ存立スルコトヲ得ズト修正ス又ニ因リヲヨリト改ム
第四百七十五條 辨濟シタル第三者カ法律又ハ合意ニ因リ債務者ノ權利ニ代位セラレタル場合ノ外ニシテ代理ナキトキハ其第三者ハ辨濟カ債務者ニ得セシメタル利益ノ限度ニ於テ之ニ對シ求償權ヲ有ス
(栗塚)
本條ハ代位モナキ代理モナキ場合ノ權利ヲ定ム
(鶴田)
代理ナキトキハトハ如何
(栗塚)
代理訴權ナキトキヲ云フナリ代理權モナク代位權モナキトキハ、求償權ヲ有スト云フコトナリ
(鶴田)
代理ナキトキハト云フノミニシテハ文義明カナラズ
(栗塚)
代理契約ナキトキナルヲ以テ代理ニアラズシテ辨濟セラレタルトキハトスベシ
可決シ且ツ代位セラレヲ代位シトシ冒頭ノ辨濟シタルノ五字ヲ刪ル
第四百七十六條 義務カ量定物ノ所有權ノ轉移ヲ目的トスルトキハ引渡又ハ其他ノ方法ヲ以テスル其辨濟ハ之カ所有者ニシテ且之ヲ移付スルノ能力アル者ニ因ルニアラサレハ爲ササルコトヲ得ス
若シ他人ノ物カ引渡サレタルトキハ當事者双方ヨリ辨濟ノ無効ヲ陳辨スルコトヲ得
若シ物カ移付スルノ能力ナキ所有者ニ因リ引渡サレタルトキハ其所有者ノミ辨濟ノ無効ヲ請求スルコトヲ得
右何レノ場合ニ於テモ債務者ハ有効ナル辨濟ヲ提供スルニアラサレハ引渡シタル物ヲ取戻スコトヲ得ス
債務者ハ若シ債權者カ辨濟ニ受ケタル動產物ヲ善意ニテ消費シ又ハ移付シタルトキハ最早取戻ヲ爲スコトヲ得ス
又債務者ハ他人ノ物ノ辨濟ヲ確認スルコトヲ得但眞ノ所有者ヨリ回收ヲ訴ヘタル場合ニ於テ債務者ニ對スル其擔保訴權ヲ妨ケス
(栗塚)
本條一項ハ報吿委員ニテ義務ガ量定物ノ所有權ノ轉移ヲ目的トスルトキハ其物件ノ所有者ニシテ且之ヲ移付スルノ能力アル者ニ因ルニアラザレバ引渡又ハ其他ノ方法ヲ以テ其辨濟ヲ爲スコトヲ得ズト修正シ四項ハ冒頭ノ債務者ヲ刪リ最早ノ上ニ債務者ヲ挿入シ取戻ノ上ニ其ノ字ヲ加フ又本會於テ物ヲトシ「ニ因リ」ヲ「ヨリ」トシ「引渡サレ」ヲ「引渡シ」ト修正ス
第四百七十七條辨濟ハ債權者又ハ其代人ニ之ヲ爲スコトヲ要ス然レトモ辨濟ヲ受クルノ分限ヲ有セサル者ニ爲シタル辨濟ハ若シ債權者カ之ヲ確認シ又ハ之ニ因テ利シタルトキハ有効ナリ
原案通
第四百七十八條 眞ノ債權者ニアラスシテ債權ヲ占有シタル者ニ爲シタル辨濟ハ若シ債務者カ善意ニテ之ヲ爲シタルトキハ有効ナリ
表見ナル相續人又ハ其他ノ包括ノ承繼人、記名債權ノ表見ナル讓受人所持人ニ拂フヘキ證書ノ占有者ハ債權ノ占有者ト看做サル
(栗塚)
本條ハ眞ノ債權者ニアラザル債權占有者ニ辨濟スルモ有効ナリト云フニアリ
第四百七十九條 受クルノ能力ナキ債權者又ハ占有者ニ爲シタル辨濟ハ其債權者又ハ占有者ノ請求ニ因リ之ヲ取消スコトヲ得但其利シタル部分ニ付テハ此限ニ在ラス
(淸岡)
債權者又ハ占有者ヨリ請求シタルトキニ限ルカ
(南部)
然リ只債務者ヨリ取戻スルヲ得ザルモノトス
第四百八十條 若シ辨濟カ民事訴訟法ニ從ヒ正シク爲シ及ヒ續行シタル債權ノ拂渡差押ノ後爲サレタルトキハ差押債權者ハ其受ケタル損害ノ限度ニ於テ更ニ辨濟スヘキコトヲ債務者ニ強要スルコトヲ得但辨濟ヲ受ケタル債權者ニ對スル債務者ノ求償權ヲ妨ケス
(栗塚)
正シク爲シハ拂渡差押ニ關スルモ文義不明ニ付キ冒頭ノ若シ辨濟ガノ數字ヲ刪リ拂渡差押ノ後ノ下ハ辨濟ヲ爲シタルトキハ云々トスベシ
可決ス
(栗塚)
差押債權者ト辨濟ヲ受ケタル債權者トハ各別ナリ
(尾崎)
續行トハ如何
(栗塚)
每月差押ヲ申入ルルヲ云フ
(鶴田)
債權者ノ異ル所ハ如何
(栗塚)
例ヘバ甲ハ乙ノ債權者ナリ又乙ハ丙ノ債權者ナリ當時乙殆ンド無資力ニ切迫シタルヲ以テ甲ハ乙ガ己レニ償還スルヲ得ザルヲ虞シ丙ニ對シテ財產ノ差押ヲ爲シ乙ニ償還セザラシム其時丙其差押ヲ受ケナガラ乙ニ償還シタルトキハ更ニ甲ヨリ償還スベキヲ催促セラルルニアリ
(淸岡)
丙ハ甲ニ對スル債務者ト云テ可ナルヤ
(栗塚)
差押ヲ受ケタルモノナルヲ以テ債務者トスベシ
(淸岡)
債權ノ拂渡シト云フハ不可ナリ
(松岡)
義務者ノ拂渡ヲ差押フルモ實ハ債權者ノ手ヲ執ヲ債權ヲ得セシメシニアラズ
(委員長)
拂渡ノ字ハ反譯局ニ於テ詮議スベシ
第四百八十一條 債權者ハ己レニ對シテ負擔セラレタル物ヨリ他ノ物ヲ辨濟ニ受クルノ責ニ任セス但提供セラレタル物ノ價格カ高キトキト雖モ亦同シ
又債務者ハ自己ノ負擔シタル物ヨリ他ノ物ヲ與フルノ責ニ任セス但請求セラレタル物ノ價格カ低キトキト雖モ亦同シ
種別ノミニ因テ定マリタル代補スルコトヲ得ヘキ本性ノ物ニ關シテハ債務者ハ最良ノ品質ヲ與ヘ又債權者モ最惡ノ品質ヲ受クルノ責ニ任セス
(渡)
但ノ字ハ反對ノ所ニ使用スベキニ本條ノ但ハ如何
(栗塚)
如是場所ニモ但ト云フヲ使用スルコト少シトセズ
(淸岡)
種別ノミニ因テト云フハ如何
(栗塚)
代補物ト云フガ如シ
(委員長)
單ニ種別ノミニ因テト云フガ如シ
第四百八十二條 若シ共同一致ニテ物ヲ金圓ノ代リニ若クハ金圓ヲ物ノ代リニ又ハ一箇ノ物ヲ他ノ物ノ代リニ辨濟ノ爲メ與ヘ又ハ約束シタルトキハ原ノ義務ハ更改セラレタリト看做サレ其行爲ハ場合ニ從ヒ賣買又ハ交換ノ規則ニ因テ管知セラル
(栗塚)
本條ハ更改セラレヲ更改シトシ看做サレヲ看做シトシ規則ニ因テヲ規則ヲ以テ之レヲトシ管知セラルヲ管知ストスベシ
可決ス
第四百八十三條 特定物ノ債務者ハ引渡ヲ爲スヘキ當時ニ於テ存スル形狀ニテ其物ヲ引渡スニ因リ義務ヲ免ル但第四百三十九條ニ於テ條件付ノ義務ニ於テ危險ノ事ニ關シ記載シタルモノハ此限ニ在ラス
若シ物カ債務者ノ費用ニテ保存若クハ改良セラレ又ハ其過愆若クハ懈怠ニ因リ損壞セラレタルトキハ償金ハ第一章第二節及ヒ第三節ニ從ヒ當事者互相ニ之ヲ負擔ス
(委員長)
第一章第二節ト云フハ用收者ノ權利ヲ云フカ
(栗塚)
否不得ノ利得不正ノ損害ニ關スルナリ故ニ此部ノト云フ字ヲ加ヘザルベカラズ
(村田)
條件付トハ未必條件ナルカ
(栗塚)
然リ
(淸岡)
過愆若クハ懈怠云々ハ如何
(栗塚)
本條ハ第三百五十四條及ビ第三百五十五條ノ原則ヨリ生ズルモノナリ
(委員長)
互相ト云ハ當ラザルニアラズヤ
(栗塚)
ベスヘクチーフハ互相ト譯スル例ナリ
(淸岡)
互相ト云ヘバ分頭ト云フ如クニモ思惟セラル
(委員長)
ベスヘクチーフハ尙ホ反譯局ニテ詮議スベシ
(栗塚)
唯々
第四百八十四條 若シ債務カ金圓ニ係ルトキハ債務者ハ其撰擇ヲ以テ金若クハ銀ノ國貨又ハ強制通用ヲ有スル紙幣ヲ與ヘテ義務ヲ免ル
債務者ハ如何ナル法律上ノ變更カ貨幣ノ名價又ハ其正味ノ配合ニ付キ生スルモ約束シタル數額多クモ又少クモ決シテ負擔セス
前記ノ二箇ノ規則ノ一ニ外ツルル合意ハ無効タリ但第四百八十六條第二項ニ記載シタルモノハ此限ニ在ラス
本條ハ數額ノ下ニヨリノ二字ヲ挿入ス
(淸岡)
強制紙幣ヲ揭グベキ必要アルカ
(栗塚)
現在ノ紙幣ヲ認メタルモノナリ今日ノ紙幣ハ卽チ強制ナレバナリ
(淸岡)
商法ニ於テ強制ト云ヒシ定義ハ之ト異レリ
(渡)
然リ商法ニ於ケル強制紙幣ハ戰時非常ノ際ニ發スルモノニシテ全價額ヲ有スル紙幣ニアラズトセリ
(委員長)
「ボアソナード」ハ強制紙幣モ全價ヲ有スル紙幣モ合視セリ
(淸岡)
外國ニ於ケル強制流通紙幣ハ日本ニ於テ通用スル紙幣トハ同ジカラザルベシ
(委員長)
日本ニ於テ強制流通紙幣ト云フハ大政官札ヲ相續セル紙幣及ビ西南戰爭ノ際發行シタル紙幣ノ如キ卽チ強制流通ノ紙幣ト云ハザルベカラズ現今兌換券ノ如キハ全價額ヲ有スル紙幣ニシテ強制ノ性質ヲ有スルモノニアラザレバナリ
(栗塚)
兌換券ノ如キハ國貨ニ包含ス又此點ハ正貨ト政府ノ紙幣トヲ示シタリ
(鶴田)
限行券ノ如キハ強制流通ナルモ此ニ包含セザルガ如シ
(栗塚)
銀行紙幣ノ如キハ政府ノ紙幣ト交換スルモノニ過ギズシテ強制紙幣ニアラザルナリ
(鶴田)
此點ハ政府ノ紙幣ニ限ラズ銀行紙幣ト雖ドモ其義務ニ充ツルヲ得ベキモノトセザルベカラズ故ニ商法ノ如ク各種ノ紙幣ヲ示サザルベカラズ
(松岡)
銀行紙幣ノ如キハ其銀行ノ信用如何ニ依リ高低アルモノナレバ強制紙幣ニアラズ故ニ單ニ強制紙幣ノミヲ認メ置ケバ銀行紙幣モ其中ニ在テ流通スベシ鶴田委員ノ說ノ如クスレバ強制ノ性質ナキ紙幣ヲモ其使用ニ充テラルルニ至ルベシ
(委員長)
此點ハ紙幣ヲ論ズルモノニアラズ金銀カ若クハ其金銀ニ代補スルモノナレバ之ヲ以テ其辨濟ニ充ツベシト云フニアリ
(松岡)
本條ノ初項ハ金貨ガ金九銅一ノ配合ヨリ成ルモ金八銅二ノ配合ヨリ成ルモ又金銀ヲ代表スル強制力アル紙幣ヲ以テスルモト云フ意義ナルニ依リ銀行紙幣ノ如キ強制力ナキモノハ其度外ニ附セザルベカラズ
(栗塚)
此點ハ報吿委員中ニテモ協議シタシ
(委員長)
然リ尙ホ起案者ニモ吿問スベシ
第四百八十五條 右ニ反シ辨濟ヲ要求スルコトヲ得ル當時ニ於テ爲換市價ヨリ生スル貨幣又ハ紙幣ノ互相ノ騰貴又ハ下落ノ差ハ債務者ノ意ニ適スル法律上ノ貨幣ヲ以テスル平均價額ノ辨濟ニ因リ當事者ノ間ニ之ヲ塡補スヘキ合意ヲ爲スコトヲ得
(鶴田)
本條ハ金銀貨紙幣ノ間ニ騰貴ノ差アルトキハ之ヲ塡補スルコトヲ得ベキヲ云ヒシカ
(栗塚)
合意ヲ以テ其契約ヲ爲スヲ得ベシ合意アラザレバ其差ヲ塡補スルヲ得ズ
(委員長)
本條ハ前條ト共ニ起案者ノ意見ヲ詮議スベシ
第四百八十六條 若シ負擔シタル金額カ金貨又ハ銀貨ノ價格ヲ以テ指定セラレタルトキハ債務者ハ獨リ爲換相場ノ損失ヲ受ケ又ハ其利益ヲ得テ常ニ法律上ノ他ノ貨幣ヲ以テ義務ヲ免ルルコトヲ得
若シ負擔シタル金額カ金貨又ハ銀貨ヲ以テ辨濟セラルヘキコトヲ要約シタルトキモ亦同シ若シ辨濟カ外國ノ貨幣ヲ以テ爲サルヘキコトヲ合意シタルトキハ債務者ハ前記ノ二箇ノ條例ニ記載シタル如ク自己ノ撰擇スル法律上ノ貨幣ニテ其外國貨幣ノ價額ヲ供給シテ常ニ義務ヲ免ルルコトヲ得
(松岡)
本條初項ハ負擔ノ金額ガ假令ヒ金貨ノ約束ナルモ債務者ハ紙幣ヲ以テ其差ヲ塡補スレバ之ヲ以テ彼レニ代ユルヲ得ト云フニアリ
(栗塚)
然リ
(南部)
紙幣ニアラズ銀ヲ以テ金ニ代補スルト云フニアリ
(栗塚)
否法律上ノ貨幣ト云ヘバ金銀紙ヲ包含スルナリ
第四百八十七條 銅貨ハ五圓ヨリ多クニ付キ又五十錢已下ノ補助銀貨ハ五十圓ヨリ多クニ付キ之ヲ與フルコトヲ得ス但右ニ反スル合意アルトキハ此限ニ在ラス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ五圓ヲ壼圓ト五十圓ヲ十圓ト修正シタリ
(淸岡)
如是ハ貨幣條例ニ於テ規定スルモノニシテ民法ニ揭グベキモノニアラズ
(南部)
權利ヲ以テ之ヲ拒絕シ又合意ヲ以テ契約スルモノノ如キハ民法ニ屬ス
(栗塚)
鑄造ハ貨幣條例ニ屬スルモ之ヲ使用スル點ニ至テハ民法ニ屬セザルベカラズ
(淸岡)
此等使用ノ變更ハ政府ガ財政上ノ都合ニ依リ時々變更スルモノナリ
遂ニ貨幣條例ニ讓ルトシテ此點ハ刪除ス
第四百八十八條 金圓ノ貸借ニ特別ナル規則ハ第八百十八條ニ之ヲ定ム
異議ナシ
第四百八十九條 若シ辨濟ヲ爲スヘキ場所カ當事者ニ因リ定メラレサリシトキハ辨濟ハ債務者ノ現實ノ住所ニ於テ之ヲ爲ス但或ル契約ニ關シ後ニ記載スルモノ及ヒ第三百五十三條ニ從ヒ特定物ノ引渡ニ關スル條例ハ此限ニ在ラス
若シ當事者中其住所ニ於テ辨濟ノ爲サルヘキ者カ詐僞ナクシテ住所ヲ變換シタルトキハ辨濟ハ其新住所ニ於テ之ヲ爲ス然レトモ其當事者ハ爲換相場ノ差額及ヒ人ノ往復又ハ負擔シタル物ノ運送ノ補足費用ヲ他ノ當事者ニ計算ス
辨濟ノ其他ノ費用ハ債務者ノ負擔ナリ
(栗塚)
當事者中其住所ニ於テ辨濟ヲ爲サルベクハ受クベクト修正セザルベカラズ
(淸岡)
否ナ此點ハ義務者ノ辨濟スルヲ云フモノナリ故ニ爲スベクトセザルベカラズ
(南部)
此點ハ權利者ガ受クルモ義務者ガ爲スモ契約ヲ以テ如何トモスベキ故兩意義ヲ有スルモノナリ故ニ受クベキモ宜シカラズ又爲スベクニモアラズ原案ノ如ク爲サルベキト云フヲ可トス
(松岡)
爲サルベキト云フヲ以テ兩意義アルヲ見ルコトヲ得ベキヤ
(渡)
故ニ當事者中トアルナラン
原案ニ可決ス
(委員長)
第四百八十七條ノ補助銀貨ト云フヲ十圓ヨリ云々トアルモ補助銀貨ト云ヘバスタンタートノ外ナル故一圓以下又ハ其以上ヲモ云フニアラズヤ
(村田)
貨幣條例ニハ五十錢二十錢十錢トアルニ付キ以下ニ屬スベシ
(松岡)
此條ハ貨幣條例ニ讓ラン
卽チ刪除ス
第四百九十條 辨濟ヲ爲スヘキ期節ニ關スルモノハ第四百二十三條乃至第四百二十八條ニ於テ之ヲ規定セリ
若シ辨濟ノ爲メ定メタル日カ法律上ノ休暇日ナルトキハ辨濟ハ其翌日ニアラサレハ之ヲ要求スルコトヲ得ス
(松岡)
法律上ノ休暇ノミナラバ地方祭ノトキノ如キハ包入セザルベシ
第二款 辨濟ノ充當
第四百九十一條 同一ノ債權者ニ對シ同一ノ本性ノ數箇ノ債務ヲ有スル債務者カ之ヲ悉ク消スコトヲ得サル辨濟ヲ爲ストキハ債務者ハ辨濟ノ當時ニ於テ其何レノ債務ヲ償還セシトスルヤノ意ヲ述ヘ且此ノ如ク爲シタル充當ヲ受取證書中ニ記入セシムルコトヲ得
然レトモ債務者ハ債權者ノ承諾ヲ得ルニアラサレハ債權者ノ利益ノ爲メ定メタル期限ノ至ラサル債務ニ付キ充當ヲ爲シ又費用及ヒ利息前ニ元金ニ付キ充當ヲ爲シ又一分宛數箇ノ債務ニ付キ充當ヲ爲スコトヲ得ス
(淸岡)
償還セントスルヤノ意ヲ述ヘトアルヤノ字ハ債務者ノ問ヒシ如クナルヲ以テ不可ナリ卽チヤノ字ヲ刪ル又二項ノ報吿委員ノ修正ニヨリ利息前ニトアルヲ利息ニ先チトス
第四百九十二條 債務者ニ因レル有効ナル充當ノ缺無ニ於テハ債權者ハ自ラ自由ニ受取證書ニ於テ辨濟ノ充當ヲ爲スコトヲ得但會社契約ニ關シ第七百七十七條ニ記載スルモノハ此限ニ在ラス
若シ債務者カ異議ナク又異議ヲ留保セスシテ受取證書ヲ受諾シタルトキハ債務者ハ自己ノ方ニ錯誤アリ又ハ債權者ノ方ニ詐欺若クハ欺瞞アリタルトキニアラサレハ充當ヲ非難スルコトヲ得ス
(鶴田)
充當ノ缺無ト云ヘバ充當ナキニ似タリト雖ドモ實ハ充當アルニアラズヤ
(南部)
債務者ヨリ有効ナル充當ヲ爲サザルニ於テハトシテハ如何
可決ス
(松岡)
詐欺卽チ欺瞞ト云フハ重複ニアラズヤ
(栗塚)
詐欺ノ輕點ヲ示セリ
第四百九十三條 若シ充當カ債務者ニ因テモ又債權者ニ因テモ有効ニ爲サレサルトキハ充當カ當然成ルコト左ノ如シ
第一 期限至リタル債務ヲ先ニシ期限ノ至ラサル債務ヲ後ニス
第二 費用及ヒ利息ヲ先ニシ元金ヲ後ニス
第三 若シ債務カ總テ期限ニ至リ又ハ總テ期限ニ至ラサルトキハ債務者カ辨濟スルコトニ最モ利益ヲ有スルモノヲ先ニス
第四 若シ債務者カ此ヲ辨償スルヨリモ彼ヲ辨償スルニ付テモ最早利益ヲ有セサルトキハ最モ先キニ期限ノ至リタル債務又ハ滿期ノ最モ近キ債務ヲ先キニス
第五 諸事カ相ヒ均シキトキハ充當ハ割合ニ應シテ之ヲ爲ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第四ノ此ヲ辨償スルヨリモト云フヲニ付テモトシ第五ハ諸事ガノ三字ヲ刪リ冒頭ニ總テノ債務ガ何レノ點ニ於テモト云フ數字ヲ加フ
可決ス
(南部)
若ノ下充當ガノ三字ヲ刪レルヲ以テ「ニ因テモ」トアルヲ何レモヨリトシ有効ニノ下充當ヲノ三字ヲ挿入シ爲サレザルヲ爲サザルトシ當然成ルヲ當然ニ成ルトスベシ
可決ス
第四百九十四條 前記ノ諸規則ハ交互計算ニテ爲シタル拂込ニ之ヲ適用セス此拂込ハ之ヲ爲シタル者ノ貸方ニ之ヲ記入ス
原案通
第三款 辨濟ノ提供及ヒ供託
第四百九十五條及ヒ第四百九十六條 (此二箇條ハ一條ト爲スヘキモノニシテ條號ノ刪除ハ第三百六十九條ヲ以テ之ヲ補フ)若シ債權者カ辨濟ヲ受クルコトヲ欲セス又之ヲ受クルコト能ハサルトキハ債務者ハ下ノ區別ニ從ヒ提供及ヒ供託ノ方法ヲ以テ義務ヲ免ルルコトヲ得
第一 若シ債務カ金圓ニ係ルトキハ提供ハ實物ヲ以テスルコト卽チ貨幣ノ提示ニ件ハルルコトヲ要ス
第二 若シ負擔シタル物カ特定物ニシテ其存スル場所ニ於テ引渡サルヘキトキハ債務者ハ其物ノ引渡ヲ爲スコトニ付キ債權者ニ催吿ヲ爲ス
第三 若シ特定物カ債權者ノ住所又ハ其他ノ場所ニ於テ引渡サルヘクシテ其運送カ多費困難又ハ危險ナルトキハ債務者ハ提供ニ於テ其引渡ヲ合意ニ從ヒ卽時ニ實行スルコトニ準備シタルコトヲ述フ
第四 量定物ニ關シテモ亦同シ
第五 債權者ノ立會又ハ參同ヲ要スル爲メノ義務ニ關シテハ債務者カ其義務ヲ履行スルコトニ準備シタルコトヲ述フルヲ以テ足ル
(栗塚)
本條第一ノ實物ノ下「ヲ以テスルコト」ヲ刪リ提示ニ件ハルルコトヲ要スト云フヲ提供ニテ之ヲ爲スコトヲ要ストス又第三ノ債務者ハノ下「提供ニ於テ」ヲ刪リ準備シタルコトヲノ下ヘ提供中ニノ數字ヲ入ル
(南部)
立會又ハ參同ハ如何
(栗塚)
立會ハ顯ハレタルニ付キ云ヒ參同ハ與ニスルト云フコトナリ
第四百九十七條 提供ハ右ノ外辨濟ノ有効ニ付キ上ニ定メタル條件ヲ併有シ且民事訴訟法ニ記載シタル方式及ヒ條件ニ從ヒ之ヲ爲シタルトキハアラサレハ有効ナラス
(淸岡)
條件ヲ併有シト云ヘバ上ニ定メタル條件ヲ悉皆併有セザルベカラズト云フ如ク思惟セラルルモ否ラザルベシ
(栗塚)
有効ナル條件ヲ併有スト云フニアリ
(渡)
有効ニ付キ上ニ定メタルトハ如何
(栗塚)
補助貨ハ何圓以下トカ云フガ如キナリ
第四百九十八條 有効ニシテ且有益ノ時ニ於テ爲サレタル提供ハ法律ヲ以テ定メ若クハ合意ヲ以テ要約シタル失權、解除、責罰ヲ豫防ス
其提供ハ付遲滯ヲ防止ス又付遲滯アリタルトキハ提供ハ將來ニ向テ其効力ヲ止マシメ且遲延ノ利息ノ進行ヲ停ム
(栗塚)
本條起頭ノ有効ニシテ且ノ數字ヲ刪リ有益ノ時ニ於テ爲サレタルヲ有益ノ時ニ於テ爲シ且有効ナルト修正シ時ノ有効ニ關セザルヲ明ニシタリ又二項防止スヲ防止シトシ將來ノ上提供ハノ三字ヲ刪ル
(淸岡)
止マシメハ止メトシテ可ナルベキニアラズヤ
(委員長)
止メトスルトヤメト思考スルニアラザルカ此點ハトドメノ意義ニシテヤメト云フ意ニアラズヤメト云ヘバ自ラヤムルナルモトドメハ他動ヲトドメタルモノナレバナリ此點ハヅ先原案ノ儘ニス
第四百九十九條 若シ債權者カ提供ヲ受諾スルコトヲ拒ムトキハ債務者ハ供託ノ日マテニ債務ニ生シタル塡補ノ利息ト共ニ其金額ノ供託ヲ供託物取扱所ニ爲スコトヲ得
特定物又ハ量定物ニ關シテハ債務者ハ其物ヲ供託スヘキ場所ヲ指定シ且其監守人又ハ預リ人ヲ選任スルコトヲ裁判所ニ請求ス
供託ノ方式及ヒ其他ノ條件ハ民事訴訟法ニ之ヲ規定ス
(鶴田)
供託物取扱所ヲ定ムルガ難議ナルベシ
(栗塚)
必ラズ銀行ノ如キ確正ナル所ニ於テスベシ此法ノ成ルトキハ世間ニハ大ニ利益ヲ受クベシ現ニ自分モ此場合ニ投合シタルカ些少ノ借金ニ幾千ノ公債證ヲ抵當ニ附シタリ他日之ヲ償却セントスルニ債權者ハ身形ヲ隱クシテ金額ヲ領收セズ自然ニ期限ヲ經過シテ其公債證ヲ設取セント欲スレバナリ
(鶴田)
二項ノ意義ハ過日モ此點ニ關スル意義ト議定シタルガ裁判所ヨリ指定スルコト及ビ裁判所ガ其看守人又ハ預人ヲ撰任スルコトトヲ裁判所ニ請求スルモノナリ
(渡)
指定シヲ指定スルコト及ビ云々トシテハ如何
可決ス
第五百條 有効ニ爲シタル供託ハ債務者ニ義務ヲ免レシメ且債務者カ自ラ意外ノ事ニ任シタルトキト雖トモ其物ヲ債務者ノ危險ニ付ス
然レトモ債權者カ供託ヲ受託セス又ハ其供託カ債務者ノ請求ニ因リ被判事物ノ力ヲ得タル判決ヲ以テ有効ト宣言セラレサル間ハ債務者ハ其供託ヲ引取ルコトヲ得テ其義務免除ハ不成立ト看做サル
債權者ハ受諾又ハ確定ト爲リタル有効ノ判決ノ後債務者ハ尙ホ債權者ノ承諾ヲ以テ供託ヲ引取ルコトヲ得然レトモ共同債務者及ヒ保證人ノ義務免除ヲモ動產質權及ヒ抵當權ノ消滅ヲモ又供託セラレタル物ニ付キ債權者ノ權利ニテ爲シタル差押故障ヲ妨ケス
(栗塚)
本條二項請求ニ因リテ請求ニテトシ判決ヲ以テトアルヲ判決ニ因リトシ引取ルコトヲ得テト云フテ引取ルコトヲ得トシ其下ニ且ツノ字ヲ加フ又三項ノ債權者ノ權利ニテヲ債權者ガトシ差押故障ヲノ下ヘモノ字ヲ加フルニ修正セリ
(淸岡)
被判事物トハ如何
(栗塚)
裁判ヲ受ケタル物ト云フコトナリ
(淸岡)
裁判確定ニ至ラザレバ被判事物ト云フベカラザルカ
(南部)
然ルナラン
(委員長)
債務者ハ尙ホ債權者ノ承諾ヲ以テ供託ヲ引取ルコトヲ得トアルモ債務者一旦供託シタルモノヲ又引取ルコトヲ得ベキハ如何
(栗塚)
然レドモ以下ヲ云ハンガ爲メナリ又末段ノ意義ハ義務免除ヲモ得抵當權ノ消滅ヲモ得又差押故障ヲ爲スコトヲモ得ベシト云フ意義ニシテ初ノ二種ハ停止ニ屬シ後ノ一種ハ成立ニ屬スルナリ
(委員長)
被判事物ト云フハ恰當ナルカ
(栗塚)
尙ホ反譯局ニ詮議スベシ
(委員長)
債務者ハ尙ホ債權者ノ承諾ヲ以テ供託ヲ引取ルコトヲ得ハ何ノ要用アルカ殆ンド不必要タルベシ
(栗塚)
債權者ノ承諾アレバ一旦供託シタルモノト雖ドモ又引取ルヲ得ベキト云フコトヲ示セリ
第四款 代位辨濟
第五百一條 代位ヲ以テ第三者ノ爲シタル辨濟ハ債權者ニ對シ債務者ニ義務ヲ免レシメ且債權ニ附セラレタル擔保及ヒ効力ト共ニ債權其モノヲ第三者ニ移轉ス但場合ニ從ヒ第三者ノ有スル事務管理又ハ代理ノ訴權ヲ妨ケス
代位ハ下ノ區別ニ從ヒ債權者、債務者又ハ法律ニ因テ付與セラル
(栗塚)
本條ハ頗ル緊要ナル條項ナリ本條ハ別ニ困難ナルニモアラザレドモ爰ニ一個ノ人ヲ定メ置キ以下之ニ做ハシムベシ
(淸岡)
事務管理又ハ代理ノ際ハ代位ト云フベカラザルカ
(南部)
代位ノ地位ヲモ有スベシ
(栗塚)
代理訴權ノ如キハ最初無利息ノ貸借ナルモ代理辨濟シタルトキハ其代理シタル日ヨリ第三者ハ利息ヲ得ルニ妨ゲナシ
(委員長)
代位ト代理ト混同スル場合アルカ
(南部)
之レアリ利息ヲ得ルニハ代理ト云ヒ抵當物ヲ得取スルニハ代位ト云フヲ以テ二個ノ資格ヲ併有スルヲ得ベシ
第五百二條 債務者ノ付與シタル代位ハ受取證書中ニ明ニ記載セラレタルトキニアラサレハ有効ナラス但第三者ハ辨濟スルコトニ利害ノ關係ヲ有スルヤ否ヤヲモ又自己ノ名又ハ債務者ノ名ニテ辨濟スルヤヲモ區別スルコトヲ要セス
(栗塚)
報吿委員ニテ記載セラレタルトキニアラザレバ有効ナラズトアルヲ記載セラルルコトヲ要スト修正ス
(栗塚)
原案ノ如ク有効ナラズトアレバ卽チ効力ナキモノトナルベシ故ニ要ストスレバ其憂ヒナカルベシ
(南部)
此點ハ成ル丈ケ證書ヲ要スルモノナリ然ルニ若シ有効ナラズトセバ効力ヲ失スベシ故ニ記載セラルルコトヲ要ストセリ
(栗塚)
若シ證書ナキトキハ人證ヲ許スベキ金額内ニ在テハ之ヲ用ユベシ
(鶴田)
此點ハ受取證書ヲ要スル場合ニ於テハ明記スルヲ要ストシテハ如何
(栗塚)
報吿委員ニテハ有効ナラズトアルトキハ證據ノ端アルトキモ證人アルトキモ之ヲ利用スルヲ得ザル如クナルヲ以テ不都合ナリト云フニアリ
(委員長)
明ニ之ヲ記載スベシト云フ命令ニシタシ
可決ス
(松岡)
債權者債務者相殺ノ協和シタル場合ヲ知ラス代位辨濟シタルトキハ之ヲ取還スヲ得ルカ
(栗塚)
然リ
第五百三條 債務者ハ其債務ノ辨償ニ必要ナル金額又ハ有價物ヲ己レニ貸シタル第三者ヲ債權者ノ承諾ナクシテ自ラ債權者ノ權利ニ代位セシムルコトヲ得
之カ爲メ借用證書ニハ其金額又ハ有價物ノ用方ヲ記載シ又受取證書ニハ辨濟ニ與ヘラレタル有價物ノ出所ヲ記載ス
公正證書又ハ確定ノ日附ヲ有スル證書ノミカ第三者ニ對シ前記ノ行爲ノ證トシテ許サル
然レトモ借用ト辨濟トノ間ニ必要ナルヨリ更ニ長キ時間カ經過シタルトキハ裁判所ハ代位ヲ不成立ト宣言スルコトヲ得
(栗塚)
本條二項ハ受取證書ニハノ下辨濟ニ與ヘラレタル有價物ノノ數字ヲ刪ル其ノ一字ヲ挿入ス
(松岡)
確定ノ日附ト云フハ大切ナリ
(栗塚)
登記法ニ於テ其方法ヲ定ムベシ佛國ノ如キハ日用取爲換スル證文又ハ訴訟書類ト雖ドモ萬般ヲ登記收稅ス日本ニ於テハ決シテ佛國ノ如キ法ヲ立ツベキニアラズ宜シク適宜ノ方法ヲ立テザルベカラズ
(渡)
一項ノ債權者ノ承諾ナクシテ云々ハ其期限中債權者ヲ交代スベキ場合ナルヲ以テ明示シタルカ
(南部)
然リ
第五百四條 代位ハ左ノ者ノ利益ニ於テ當然成ル
第一 或ハ自身ニテ或ハ先取特權又ハ抵當ノ負擔アル財產ノ第三保有者トシテ他人ト共ニ又ハ他人ノ爲メ義務ヲ負擔シタルニ因リ其義務ヲ辨償スルニ利害ノ關係ヲ有スル者
第二 或ハ抵當訴權豫防スル爲メ或ハ不動產差押又ハ契約解除ノ請求ヲ停ムル爲メ他ノ債權者ニ辨濟シタル債權者
第三 自己ノ財產ヲ以テ相續ノ債務ノ全部又ハ一分ヲ辨濟シタル享益相續人又ハ表見ニシテ善意ナル相續人
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一ノ超頭或ハノ下ヘ契約ニテ他人ト共ニ又ハ他人ノ爲メ義務ヲ負擔シタルニ因リト云フ字ヲ挿入シ自身ニテノ四字ヲ刪リ又「他人ノ爲メ共ニ又ハ」ノ數字ヲ刪ル
(今村)
契約ニテノ文字ハ却テ不都合ナリ契約アラザル場合モアルベケレバナリ
(南部)
契約ニテハ刪ルベシト卽チ修正中ヨリ契約ニテノ四字ヲ刪ル
(淸岡)
第三保有者ト云フハ不都合ニアラズヤ
(今村)
卽チ第三者ヲ云フ
(淸岡)
先取特權ハ如何ナルモノニ繋屬スルカ
(栗塚)
先取特權ノ負擔アル財產ナリ
(淸岡)
第二ハ如何
(栗塚)
債權者二人アルトキ其一方ノ債權者ハ抵當訴權ヲ他ノ一方ノ債權者ニ得取セラレザル爲メ債務者ニ代テ其負債ヲ辨濟スル如キヲ云フナリ
(委員長)
第三ノ善意ナルト云フハ享益相續人ト表見相續人ト兩方ニ當ルニアラザルカ
(栗塚)
善見ハ表見ノ相續人ニ限ルナラン享益相續人ニハ惡意ノアルベキ云ハレナシ實ハ辨濟シタル相續人トアレバ宜シカランナレドモ「ボアソナード」ハ何時モ延長ニ記示スルヲ以テナリ
第五百五條前三條ニ定メタル代位ハ人權ト物權トヲ問ハス舊債權者ニ其債權ノ効力又ハ擔保トシテ屬セシ總テノ權利及ヒ訴權ヲ行フコトヲ代位者ニ許ス但左ノ例外アリ
第一 若シ當事者カ代位者ニ轉移シタル權利及ヒ訴權ヲ制限シタルトキハ其制限ハ遵守セラル
第二 若シ第三保有者カ其保有者タルハ分限ヲ以テ債務ヲ辨濟シタルトキハ其第三保有者ハ元資ノ立替ヲ爲スニアラサレハ抵當ノ滌除方法ヲ以テ不動產ニ負擔ヲ免レシムルコトヲ得サリシ金額ノ爲メニノミ保證人ニ對シ代位セラル
第三 第三保有者ニ因レル辨濟ノ右同一ノ場合ニ於テ若シ同一ノ債務ニ付キ抵當ト爲リテ他ノ第三保有者ノ手ニ存スル他ノ不動產アルトキハ辨濟シタル者ノ代位ハ各不動產ノ價格ノ割合ニ應スルニアラサレハ他ノ第三保有者ニ對シテ行ハレス
第四 若シ債務カ互ニ擔保人タル共同債務者ノ一人ニ因リ辨濟セラレタルトキハ債務ヲ辨濟シタル者ハ他ノ共同債務者カ債務ニ付キ結局分擔スヘキ限度ニ於ケルニアラサレハ其各自ニ對シタ代位セラケス
(今村)
本條第二ハ債務者其抵當物ヲ第三者ニ賣讓シタルトキ第三者ハ債權者ニ對シテ辨償シタルトキハ其債權者卽チ第三者ハ保證人ニ對シテ返濟ヲ求ムベシ又保證人債務者ニ代テ債權者ニ返濟シタルトキハ第三者ニ對シテ償却ヲ求ムヘシ彼是相通ジテ訴訟ノ止ム期ナシ佛國法ニ於テハ此點ニ對スル明示ナキヲ以テ學者間ニ議論一定セズ「ボアソナード」ハ此點ヲ明示セントシテ此條ヲ置キタリ故ニ如是保證人ト第三者ノ間ニ於テ保證人ノ任ズベキ限度ヲ定メントスルモノナリ第三者ハ其不動產ニ對スル賣價額ヲ以テ保證人ニ其責ヲ負ハシムル能ハズ第三者其購買ヲ受ケシ不動產ノ價額ヲ以テ償却スル能ハズ己ノ資金ヲ補足シテ其負債ヲ償却シタル立替金額アラザレバ登記上滌除方法ヲ以テ不動產ノ負擔ヲ免レシムルコトヲ得ズ又其立替金額ニアラザレバ保證人ニ對シテ請求スルヲ得ザルナリ
(栗塚)
然レドモ以下ハ負債者抵當アル故保證人モ之ヲ保證シタルニ付キ其目的トシテ保證シタル抵當物ヲ第三者ニ贈與スレバ保證人ハ保證ノ目的ヲ失ヒタルヲ以テ第三者ハ保證人ニ請求スルコト能ハザルモ保證人ノ保證ガ負債者ノ抵當ヲ供スル前之ヲ保證シタルトキハ其抵當ヲ目的トシテ保證シタルニアラザルヲ以テ第三者ノ請求ヲ辞スルコトヲ得ズ
(今村)
然レドモ以下ハ刪除スベシ抵當ノ有無ニ付キ保證シタリト云フハ不都合ナレバナリ
(栗塚)
然レドモ以下ハ無償名義ノトキハ第三者ハ無代價ニテ受得シタルニ其價額全額ヲ保證人ニ請求スルハ酷ナリト云フヲ以テ今村報吿委員ノ刪除說アルモノナラント雖ドモ抵當ノ前後ニ拘ハラズ其責任アリ
(松岡)
第三者ノ贈與ヲ得タルハ眞ニ得タルモノニアラズ何トナレバ負債者ノ抵當ハ債權者ニ附屬シタルモノナレバ債權者ハ物權ヲ有スベケレバ第三者ノ所有トナル譯ナシ然レバ保證人ヘ請求ヲ爲サシムベキ理由ナシ
(南部)
無償名義ニテ其物ヲ得タルトキハ第三者ハ恰モ天然ニ得一タル財產ノ如シ故ニ負債者ニ對シテ償却スルトキ自己ノ財產ヲ以テ償了シタル故ニ保證人ニ請求スルモ不都合ニアラズ假令又保證人其抵當アルヲ知リタル後之ヲ保證シタルニモセヨ其抵當ヲ無クシタルトキハ保證ノ責ニ當ラズト云フヲ得ズ何トナレバ債權者抵當ノ義務ヲ放釋スルヤモ知ルベカラザレバナリ故ニ保證前ニ抵當アル場合ハ保證人其責ヲ辞スルヲ得ズ
(今村)
此點ハ債務者ノ負債償却ハ第三者ヨリスルカ又保證人ヨリスルカト云フニアリシガ本員ハ無償名義ノ時ト雖ドモ折衷主義ニ依リ抵當價額外ノ金額ヲ保證人ニ請求スベシト云フニアリ
(松岡)
反對論者ノ議論ニスレバ抵當アリシトキハ保證人其責ニ任ジ抵當ヲ入ルト同時ニ保證セシトキモ其責ニ任ジ只抵當ナキ前ニ保證シタルトキハ第三者自己ノ出金現額ニアラザレバ保證人ニ請求スベカラズト云フニアリ吾々ノ議論ハ何レモ第三者自己ノ出金現額ニアラザレバ保證人ニ請求スルヲ得ズト云フニアリ
(今村)
抵當物ノ定價ノミハ保證人ニ責任ヲ負ハスベカラズ只第三者ノ出金額ニ止マルベシ
(委員長)
別項刪除論ハ未ダ「ボアソナード」ニモ吿知セザルベケレバ其說ヲ吿知シテ其意見ヲモ聽クコトニシタシ
卽チ其議ニ決シ未定ニ附ス
第五百六條 代位者ハ自己ノ拂ヒ出シタル金額ニ滿ツルマテニアラサレハ債權者ノ訴權ヲ行フコトヲ得ス
(淸岡)
滿ツルマデト云ハザルヲ得ザルカ金額ノミヲ云々トシテハ如何
(栗塚)
自己ノ拂ヒ出シタル金額ヲ踰ユルコトヲ得ズト云フニアリ
第五百七條 代位ハ原ノ債權者ニ害セサルコトヲ要ス此故ニ其債權者ハ其債權中ノ一ニ係ル代位辨濟カ他ノ債權ノ抵保ヲ減スルトキハ之ヲ拒ムコトヲ得
(栗塚)
報吿委員ノ修正ニテ原ノトアルノヲ刪ル
(南部)
債權者ニ害セザルトハ債權者ヲ害セザルトスベシ
可決ス
第五百八條 若シ代位辨濟カ一分ノミ成ルトキハ代位者ハ自己ノ辨濟シタルモノノ割合ニ應シテ原ノ債權者ト共ニ競分ス
然レトモ債權者ハ全部ノ辨濟ナキトキハ獨リ契約ノ解除ヲ行フ但代位者ニ賠償スルコトヲ要ス
(淸岡)
競分スハ如何カ
(栗塚)
競ヲ分ルト云フ意ニシテ參同ト云フニ異ナラズ
(淸岡)
此等ノ事柄ハ爲スヲ得ルカ
(鶴田)
相續ノトキニ於テ爲スヲ得ベシ
(栗塚)
競分ハ尙ホ反譯局ニテ詮議スベシ
(鶴田)
然レドモノ下原ノ字ヲ入ルベシ
可決ス
第五百九條 代位辨濟ニ因リ全部辨濟ヲ受ケタル債權者ハ債權ノ證書及ヒ質物ヲ代位者ニ交付スルコトヲ要ス
若シ債權者カ一分ノ辨濟ノミヲ受ケタルトキハ要用ニ應シテ代位者ニ證書ヲ通示シ且質物ノ保存ニ注意スルコトヲ之ニ許スコトヲ要ス
(淸岡)
通示トハ互ニ通用スルト云フ意カ
(栗塚)
否如是證書アルコトヲ通知スルト云フニアリ
(鶴田)
質物ノ保存ニ注意スルコトヲ之ニ許スコトヲ要ストハ代位者ニ許スコトヲ要スト云フコトカ
(栗塚)
代位者ニ對シテ汝ヂ此質物ニ付キ能ク注意ヲ乞フト云フニアリ
第五百十條 辨濟ノ有効ノ爲メ要セラレタル條件、辨濟ノ充當及ヒ提供並ニ供託ニ關スル前三款ノ條例ハ代位辨濟ニ之ヲ適用ス
異議ナシ
第二節 更改
第五百十一條 更改卽チ舊義務ヲ新義務ニ變スルコトハ左ノ四箇ノ方法ニ因テ成ル
第一 當事者カ義務ノ舊目的ニ代リタル新目的ヲ合意スルトキ
第二 負擔シタル目的ハ同一ニテ存スルモ當事者カ其目的ノ他ノ名義又ハ他ノ原由ニ因テ負擔セラルヘキコトヲ合意スルトキ
第三 新債務者カ舊債務者ニ代ハルトキ
第四 新債權者カ舊債權者ニ代ハルトキ
(栗塚)
本條第二又ハノ字ハ報吿委員ニテ卽チト修正ス本條ハ甚ダ緊要ナル條項ニシテ此條判明スレバ以下從テ釋了タルベシ目的ト云フハ目的物ト云フ譯ナレバ更ニ校正スルトキハ物ノ字ヲ挿入スルヲ要スベシ第一ハ假バ米ノ契約ヲ麥ニ變ズルトキ第二ハ受託物ヲ貸借物トシ貸借物ヲ受託物トスルガ如キヲ云フ
(淸岡)
一項ノ代リタルト云フタルノ字ハ不明ニアラズヤ
(栗塚)
同一ノ義ヲ表ゼシメタリ
(淸岡)
他ノ名義卽チ他ノ原由トハ如何
(栗塚)
正名義卽チ正原由無名義卽チ無原由ト云フガ如シ
第五百十二條 若シ當事者カ或ハ期限若クハ條件或ハ物上若クハ對人ノ抵保ノ附加又ハ滅殺ニ因リ履行ノ場所ノ變更ニ因リ又ハ負擔シタル物ノ數量若クハ品質ノ變更ニ因リ單ニ義務ヲ改樣シタルトキハ更改ナシ
商ヒ商券ヲ以テスル債務ノ完濟ニ付テモ其商券ニ債務ノ原由ヲ指示シタルトキハ更改ナシ又前債務ノ追認證書ニ付テハ執行書式アルトキト雖トモ尙ホ更改ナシ
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ條件ノ上ヘ附加又ハ滅殺ニ因リノ數字ヲ加ヘ履行ノ上ニ或ハノ字ヲ置キ負擔ノ上ノ又ハヲ或ハト修正ス
(鶴田)
前債務ノ追認證書ニ付テハ云々ハ如何
(栗塚)
此所ハ前時ノ債務證書ノ滅失ニ付テハ更ニ追認證書ヲ入ルルトキハ更改ニアラズト云フニアリ
(委員長)
前債務ハ上ノ商券ヲ受ケシ如ク思惟セラルルモ然ラザルベシ
(栗塚)
各別ナリ此所ハ只形ヲ變ズルモ義務ハ更改セズト云フニアリ
(松岡)
商ヒ商券ト云フハ當ヲ得ズ
(栗塚)
然リ重複スルノ嫌ヒアレバ尙ホ反譯局ニ詮議スベシ
(淸岡)
債務ノ完濟ニ付テモト云フハ債務ヲ全ク釋了シタル如クナリト雖ドモ此所ハ債券ヲ以テ償却スル故其債券ヲ以テ元金ヲ求メラレタルトキハ當主ハ更ニ償却セザルベカラズ然ラバ債務ヲ未ダ完濟シタルモノニアラズ何故ニ完濟ト云フベキカ
(栗塚)
約束手形ヲ以テ債務ヲ償却スルモノノ如シ其約束手形ニハ金額拂渡人ヲ示指シタルモノナリ故ニ完濟ニ付テモト云ヘリ
(松岡)
淸岡委員ノ疑點ハ完濟ニ付テモト云フヨリ完濟ニ充ツルモト云フ意タラザルベカラズト云ニアラン
卽チ充ツルモト修正ス
第五百十三條 債權者ハ其舊債權及ヒ之ヲ擔保セル抵保ヲ少ナクトモ有償名義ニテ處分スルノ能力ヲ有スルトキニアラサレハ更改ヲ承諾スルコトヲ得ス
右同一ノ規則ハ合意上、法律上又ハ裁判上ノ管理者及ヒ代理人ニ之ヲ適用ス但代理ノ一般ナラサルトキニ限ル
(鶴田)
少クトモ有償名義ニテトハ何ゾ
(栗塚)
無償名義ニテ爲スコトハ得ザルトモ責メテハ有償名義ヲ以テ爲スヲ得ル能力アルヲ要スト云フコトナリ
(淸岡)
但代理ノ一般ナラザルトキニ限ルト云フハ如何
(栗塚)
部理代人タルトキニ限ルト云フ意ナリ然ルニ總理部理ノ字ヲ用ユルハ不都合ナルニ付キ一般ノ字ヲ用ヒシナリ將來ハ總理部理等ノ文字ハ之ヲ廢シ一般特別等ノ語ヲ爲スニ至ルベシ猶ホ是等ノ文字ハ反譯局ヘモ協議スベシ
第五百十四條 更改スルノ意思ハ債權者ノ方ニ在テハ推定セラレス其意思ハ明カニ證書又ハ狀況ヨリ生スルコトヲ要ス
然レトモ若シ同一ノ當事者ノ間ニ更改アルヤ又ハ二個ノ義務ノ倶存アルヤノ疑アルトキハ其疑ハ第三百八十條ニ從ヒ債務者ノ利益ニテ更改ノ意義ニ解釋セラル
(鶴田)
其意思ハト云フハ更改スルノ意思カ
(栗塚)
然リ證書又ハ狀況ヲ擧ザルトキハ推定セラレズ佛國ノ法ニハ更改ノ意思ハ推定セズトアリ
(村田)
初項ハ債權者ヲ利スルヲ助ケザルナリ
(栗塚)
否ナ債權者ノ權利ヲ抛棄シタルモノトセズト云フ意義ナリ其意思ハノ四字ハ刪除セラレテハ如何
可決ス
第五百十五條 舊義務カ或ハ停止或ハ解除ノ條件付ナリシトキハ更改ハ同一ノ條件ニ罹ルモノト推定セラル
若シ又新義務カ條件付ナルトキハ更改ハ停止ノ條件カ成就シ又ハ解除ノ條件カ缺ケタルトキニアラサレハ成ラス
右何レノ場合ニ於テモ當事者カ單純ナル更改ヲ爲サント欲シタルノ證アルトキハ此限ニ在ラス
(松岡)
此條第二項ハ之ヲ刪除シテハ如何
(南部)
第一項ハ舊義務ノ條件付ナリシトキヲ云ヒ第二項ハ新義務ニ條件アルトキヲ云フモノナレバ要用タルベシ
(松岡)
二項ノ如キハ未必條件ト同一ノ結果ニ至ルベシ
(村田)
條件到來セザルトキハ舊義務存在セルヲ以テ未必條件トハ同ジカラズ
(栗塚)
本條ハ稍牴觸スルガ如キアリ卽チ舊義務條件附ニシテ其條件到來シタルトキハ卽チ停止條件ノ成就ニシテ更改ニアラザルナリ又解除條件ノ際ト雖ドモ右同狀ノ意義ナリ然ルニ此場合ニ於テ當事者更改ノ意思ナルトキハ其更改ハ成立セシムルナリト云フ譯ナリ
(松岡)
實物ニ就キ例示ヲ擧グレバ如何
(栗塚)
二項ニ付キ實物ノ例示ヲ爲サン今マ米ヲ引渡スノ義務ヲ麥引渡ノ義務ニ交換シ其米引渡ノ義務ヘハ條件ヲ附シタリトセン米ヲ麥ニ交換シタルトキハ舊義務ハ消滅シ更改シタルモノナリ併シ停止條件ガ到來セザリシトキハ舊義務ハ生存スルニ付キ更改ヲ爲サントスル卽チ條件到來ヲ待ツヲ要セザル意思アルトキハ其更改ハ成立セシムベキニ付キ理論上ニテハ未必條件ニ更改ハナキモノナルカ當事者ノ意思ニテ之ヲ爲スベキ意思アルトキハ其理論上ニ牴觸スルニ拘ハラズ之ヲ成立セシムルモノナリ
第五百十六條 若シ舊義務カ初ヨリ適法ニ成立セス又ハ法律ノ定ムル原由ノ一ニ因リ消滅シ若クハ取消サルルトキハ更改ハ無効ニシテ新義務ハ生成セス又新義務カ成立及ヒ有効ニ付テノ適法ノ條件ヲ併有セサルトキハ舊義務ハ存立ス
右何レノ場合ニ於テモ當事者カ法定ノ義務ヲ天然ノ義務ニ又ハ天然ノ義務ヲ法定ノ義務ニ換ヘント欲シタルノ證アルトキハ此限ニ在ラス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ又新義務ガノ下ヘ其ノ一字ヲ加フ二項ハ何レモ法定ヲ天然トシ天然ヲ法定トス
(松岡)
消滅シ若クハ取消スト云ヘバ二樣アルガ如シ如何
(栗塚)
若クハ卽チノ意ナリ
(南部)
混同相殺ノ場合ニ於テハ消滅ニシテ取消ニアラズ
(栗塚)
然リ執行シ能ハザル場合ノ如キハ取消シトナルベシ
(淸岡)
天然ト法定トノ修正ハ元案ノ儘ヲ可トス
(栗塚)
卽チ適法ニ成立セザル未丁年者ノ負債ハ債權者之ヲ請求スルノ權利ナキモ負債者之ヲ天然ノ義務ニ引直シ又適法ノ義務ニ錯誤アリ之ヲ取消サントスルニ於テ之ヲ天然義務ニ引直サントスレバ之ヲ爲スヲ得ベシト云フニアリ
第五百十七條 舊義務ヲ更改スル爲メ異議ナク又異議ヲ保留セスシテ有効ニ新義務ヲ契約シタル債務者ハ舊義務ニ對シテ存シ且己レノ知リタリシ無効ノ方法ヲ債權者ニ對抗スルコトヲ得ス
若シ債務者カ次條ニ從ヒ舊債權者ノ囑託ニ因リ新債權者ニ對シテ義務ヲ約シタルトキモ亦同シ
(淸岡)
本條ハ前條ノ意義ヲ包含セザルカ
(栗塚)
本條ハ異議ナク又異議ノ留保ナク有効ノ新義務ヲ契約シタル債務者ハ舊義務上ニ於ケル無効ノ方法ヲ債權者ニ對抗スルヲ得ズ
第五百十八條 債務者ノ變更ニ因レル更改ハ或ハ舊債務者ヨリ新債務者ニ爲ス囑託卽チ代理ニ因リ或ハ舊債務者ノ承諾ナクシテ新債務者ノ隨意ノ參與ニ因リ行ハル
囑託ハ完全ナリ又ハ不完全ナリ
第三者ノ隨意ノ參與ハ下ニ記載スル如ク除約又ハ單純ナル補約ヲ成ス
(淸岡)
完全ナリ不完全ナリハ完全ナルアリ不完全ナルアリトスベシ
可決ス
(鶴田)
參與ハ參同ト云フモ同ジキヤ
(栗塚)
然リ同ジ譯ナリ然ルニ何故參同ヲ參與トシタルカ私シヲ以テ起案者ニ質議スベシ
第五百十九條 囑託ハ債權者カ明カニ舊債務者ヲ免除スルノ意思ヲ表シタルトキニアラサレハ完全ナラスシテ且更改ハ行ハレス此意思ノ缺無ニ於テハ囑託ハ不完全ニシテ且二人ノ債務者ハ連帶ニテ訴追セラルルコトヲ得
第三 者ノ隨意ノ參與ノ場合ニ於テ若シ債權者カ舊債務者ヲ免除シタルトキハ除約ニ因レル更改アリ右ト反對ノ場合ニ於テハ單純ナル補約アリテ債權者ハ全部ニ付キ第二ノ債務者ヲ得然レトモ其債務者ハ連帶ノ義務ナシ
(淸岡)
更改ノ行ハレザルモノガ何故ニ二人ノ帶務者連帶ニテ訴追セラルルコトヲ得ルカ
(栗塚)
更改成就セザルガ故ニ連帶訴追ヲ受クルモノナリ新義務者ハ自ラ好ンデ義務者タラントスルモノナレバ之ヲ連帶訴追スルニ妨ゲナシ
(尾崎)
更改ノ行ハレザルモノナレバ新義務者ノ生ズベキ理由ナシ
(淸岡)
如此場合ニ於テ新義務者何故ニ生ズルカ
(南部)
新債務者更改ヲ吿知シ來リシ故債權者ハ舊義務者ハ決シテ免除セザルナリト云フ場合ナレバ關係上二人ノ債務者ヲ生ズベシ
(栗塚)
債權者之ヲ承諾セザルトキハ新義務者ハ其義務ヲ脫去スルヲ得ベシ
(淸岡)
補約トハ如何
(栗塚)
除約ハ除前約補約ハ前約ヲ補スルナリ
第五百二十條 完全ノ囑託及ヒ除約ノ場合ニ於テ若シ新債務者カ債務ヲ辨償スルコトヲ得サルトキハ債權者ハ新債務者カ囑託又ハ除約ノ當時ニ於テ既ニ無資力ニシテ債權者之ヲ知ラサリシトキニアラサレハ舊債權者ニ對シ擔保ノ求償權ヲ有セス但此擔保ヲ廣メ又ハ狹ハムルコトヲ得ル特別ノ合意ヲ妨ケス
(栗塚)
完全ノ囑託及ビ除約アルモ新債務者其債務ヲ辨償スルヲ得ザルトキハ債權者其當時之ヲ知ラザリシトキハ舊債務者ニ求償權ヲ有スベシ但シ特別ノ合意ヲ以テ擔保ヲ增シ又ハ之ヲ減ズルコトヲモ得ベシト云フ意義ナリ
(淸岡)
無資力ト云ヘバ金力ノ無キ樣ナルモ此點ハ破產トカ分產トカニ至リシヲ要スル譯ニアラズヤ
(栗塚)
否金力ナキ場合ヲ云ヒシナリ
(委員長)
債權者ハ新債務者ノ既ニ無資力タリシコトヲ知ラザリシ當時ニ於テ囑託又ハ除約シタルトキハトシテハ如何
(栗塚)
其修正ハ意義ニ於テ決シテ差閊ナシ
遂ニ債權者ハ囑託ノ當時ニ於テ新債務者ノ既ニ無資力タリシコトヲ知ラザリシトキハ云々ト修正ス
第五百二十一條 債權者ノ變更ニ因レル更改ハ債務者ト舊及ビ新債權者トノ承諾ヲ以テノミ成ル
異議ナシ
第五百二十二條 債務者カ或ハ無償ニテ自己ノ債權者ニ因リ囑託セラレ或ハ第五百二十五條ニ定メタル如ク原ノ債權ヲ擔保シタル抵保ノ全部又ハ一分ノ留保ヲ以テ囑託人ノ債務ノ免責ノ爲メ自己ノ債權者ニ因リ囑託セラレタルトキハ受囑託人ハ債權ノ讓渡ニ關シ第三百六十七條ニ定メタル條件ニ從フニアラサレハ第三者ニ對シテ右ノ債權ヲ握有セス
(栗塚)
本條ハ反譯上ニテ冒頭ノ債務者ガノ下或ハヨリ云々囑託セラレ或ハニ至ル迄ヲ刪ル又反譯ニテ留保ヲ以テノ下ヘ或ハ無償ニテ或ハノ數字ヲ挿入ス又報吿委員ニテ或ハ無償ニテノ下「囑託人ノ債務ノ免責ノ爲メ」ト云フ字ヲ刪リ囑託セラレタルトキハノ下ヘ或ハ其囑託人ノ債務ノ免責ノ爲メ囑託セラレタルトキハノ數字ヲ挿入ス
(渡)
本條ハ何ノ意義ゾ
(南部)
例バ甲乙丙三人アリ甲ハ債務者ナリ乙ハ債權者ナリ乙ハ甲ヨリ留保セル抵當アリ其抵當ヲ以テ丙ニ無償ニテ囑託シタリ其場合ハ甲ハ乙ノ爲メニ其抵保ヲ丙ニ囑託セラレタルモノナリ又乙自身ガ丙ニ債務アルニ付キ其債務ヲ免レン爲メ丙ニ對シ甲ヨリ留保シタル抵當ヲ囑託シタルトキハ甲ハ卽チ囑託セラレタルモノナリ本條ハ此點ヲ想像シタリ
(栗塚)
否ナ此點ハ三百六十七條ニ於ケルガ如ク甲乙丙丁戊ノ五人アリ甲ハ債權者ナレバ乙ノ抵當ヲ留保セリ又甲ハ自ラ丙ニ債務アルヲ以テ乙ニ對シテ己レニ拂フベキ金額ヲ丙ニ拂ハシムルカ又甲ハ丁ニ無償名義ニテ乙ノ己レニ拂フベキ金額ヲ遺附セシムルニ於テハ丙丁ハ戊ノ第三者ニ通知セザレバ有効ナラズ故ニ囑託者ハ甲ナリ被囑託者ハ乙ナリ丙丁ハ受囑託者ニ當ル
(淸岡)
債務者ガト云ヘル冒頭ノ起策ニテハ本條ノ文ヲ爲サザルナリ
(南部)
本員前說ハ稍誤解ニ屬スル所アリ今栗塚報吿委員ノ擧例ニ就テ考フルニ通知ハ丙者若クハ丁者ガ甲者トノ間ニ於ケル契約ヲ戊者ニ吿知セザレバ戊者ノ爲メニ財產差押ラルルノ虞アリト云フニアリ
(渡)
丙若クハ丁者ガ戊者ニ通知スルト云フハ丙若クハ丁者ハ無償名義ニテ受ケシトキハ何ニ依テ戊者アルヲ知ルベキカ
(南部)
ソハ確定ノ日附アレバナリ
(栗塚)
三百六十七條ニ定メタルト云ヘバ其條ニ就テ研究ヲ費サザレバ明了ナラズ尙ホ報吿委員ニ於テ此意義ヲ確認シタル上更ニ報吿スベキヲ以テ暫時此儘ニ附セラレタシ
其議ニ決ス
第五百二十三條 債權者ト連帶債務者ノ一人又ハ不可分債務ノ共同債務者ノ一人トノ間ニ爲サレタル更改ハ他ノ債務者及ヒ保證人ニ義務ヲ免レシム
然レトモ若シ債務者カ共同債務者及ヒ保證人ノ付加ヲ更改ノ條件ト爲シタルトキ共同債務者又ハ保證人ノ之ヲ拒ムニ於テハ更改ハ成立セス
連帶債權者ノ一人ト爲シタル更改ハ其債權者ノ部分ニ付テノミ債務者ニ義務ヲ免カレシム
若シ舊債務カ不可分ナルトキハ債權者ノ一人ト爲シタル更改ハ他ノ債權者ノ訴追ノ權利ヲ全部ニ付キ存立セシム但第四百六十六條ニ定メタル償金ヲ負擔スルコトヲ要ス
異議ナシ
第五百二十四條 保證人ト爲シタル更改ハ若シ當事者ノ反對ノ意思カ證セラレサルトキハ保證ニ付キ之ヲ爲シ主タル債務ニ付キ之ヲ爲ササルモノト推定セラル其更改ハ主タル債務者ニモ又他ノ保證人ニモ義務ハ免カレシメス
(栗塚)
保證人ト義務ノ更改ヲ爲シタリトテ債務者及ビ他ノ保證人ハ其利益ヲ得ル能ハザルナリ
(委員長)
然ラバ保證ノミノ更改ナルカ
(栗塚)
然リ
第五百二十五條 舊債權ヲ擔保シタル物上抵保ハ新債權ニ移ラス但債權者之ヲ留保シタルトキハ此限ニ在ラス
此留保ハ共同債務者及ヒ保證人ノ手裏ニ存スル抵當財產ニモ又第三保有者ノ手裏ニ存スル抵當財產ニモ之ヲ適用スルコトヲ得
此留保ニ付テノ承諾ハ更改ノ己ンニ對シテ爲サルル者ノ方ノミニ必要ナリ
總テノ場合ニ於テ財產ハ舊義務ノ限度ニ於テノミ抵當ト爲リテ存ス
(鶴田)
更改ハ己レニ對シテト云フハ舊債務者ニ對シテト云フコトカ新債務者ニ對シテト云フコトカ
(南部)
舊債務者ニ對シテノ意ナリ
(今村)
更改ハ舊義務消滅シテ新義務起生スルモノナリ舊義務者ノ抵當ニ付テハ舊債務者ノ承諾ヲ得ザルベカラズ
(栗塚)
舊債務者ニ對シテト修正シテハ如何
(南部)
抵當所有者ニ對シテト云フ意義ニ修正セザレバ効ナシ
(松岡)
註解ノ上ニハ新舊ヲ問ハズトアリ
(栗塚)
或ハ新債務者ノ承諾ヲ要スルコトモアラン例バ新債務者ハ舊債務者ノ抵當ヲ回取センコトヲ目的ニシタルヤモ知ルベカラザレバナリ
(今村)
新舊ヲ問ハズト云フハ新舊何レカ更改ヲ求メ來リシ人ヲ云ヒシモノナラン
(栗塚)
然ラバ自己ノ所有ニアラザル抵當ニ付キ承諾スルニ至ルノ不都合アリ此點ハ尙ホ起案者ニ質議スベシ
第三節 合意上ノ釋放
第五百二十六條 全部又ハ一分ニ付テノ債務ノ合意上ノ釋放卽チ免除ハ有償名義又ハ無償名義ニテ成ルコトヲ得
初ノ場合ニ於テハ釋放ハ狀況ニ隨ヒ代物辨濟、更改、和解又ハ解除ヲ成シ次ノ場合ニ於テハ贈與ヲ成ス然レトモ何等ノ特別ナル公式ニモ從フコトヲ要セス
破產シタル債務者ニ債權者ノ協議ヲ以テ許與シタル實假契約ト稱スル一分ノ釋放ハ商法ヲ以テ之ヲ規定ス
(淸岡)
本條然レドモノ文字ハ次ノ場合トアルノミニ關スルカ
(栗塚)
然リ相續ハ公式ニ從ヲ要スベキモノナレバナリ歐文ニテハ句讀ノ存スルヲ以テ次ノ場合トアルニノミ係ルコトヲ會得スルモ日本文ニテハ明了ナラズ
(淸岡)
然レバ解除ヲ成シヲ解除ヲ成ス又トスベシ
(栗塚)
宜シカラン
(松岡)
初ノ場合次ノ場合ト云フハ講義體ニアラズヤ
(今村)
「ボアソナード」ノ駄目埋ニシテ本草案ハ此ノ如キ例數多アリ
(栗塚)
贈與ノ如キハ必ラズ物類ヲ贈附セズトモ義務ヲ免除スルヲモ贈與ト云フベシ
(鶴田)
更改ノ如キハ別ニ更改ト云フモノアルニ之ヲ釋放トスルハ不可ナルニアラズヤ
(栗塚)
說明體ニ屬スルモノニシテ更改モ釋放ノ一部分タルベシ
(委員長)
表題ノ合意上ノ釋放ハ鶴田委員ハ債務ノ釋放トシタシト云ハルルガ如何
(栗塚)
佛國法ハ債務ノ釋放トアルモ「ボアソナード」ハ合意上トシタルハ單ニ合意上ノ釋放ヲ顯ハシタルモノニシテ法律上ノ釋放ハ意味セザルツモリナレバナリ
第五百二十七條 債務ノ釋放ハ明示又ハ默示ナルコトヲ得然レトモ疑アルトキハ釋放ハ推定セラレス但法律ヲ以テ特ニ定メタル場合ハ此限ニ在ラス
原案通
第五百二十八條 主タル債務者ニ爲シタル債務ノ釋放ハ保證人ニ義務ヲ免レシム
連帶債務者ノ一人ニ爲シタル釋放ハ他ノ債務者ニ義務ヲ免レシム但債權者カ他ノ債務者ニ對シ其權利ヲ留保シタル場合ハ此限ニ在ラス此場合ニ於テモ留保ハ釋放ヲ受ケタル者ノ部分ヲ扣除シテノミ其効アリ
不可分債務ノ債務者ノ一人ニ爲シタル釋放ニ付テモ又同シ然レトモ若シ債務カ其本性ニ因リ不可分ニシテ債權者カ他ノ債務者ニ對シ其權利ヲ留保シタルトキハ債權者ハ訴追セラレタル債務者ニ受惠者ノ部分ヲ計算シテ全部ニ付キ其權利ヲ行フ
(淸岡)
扣除シテノミ其効アリト云フハ稍明瞭ヲ缺クニ似タリ
(南部)
留保ハ釋放ヲ受ケタル者ノ部分ヲ扣除セザレバ之ヲ其他ニ及ボスヲ得ズ扣除シテ其他ニ効力ヲ及ボスベシ
(委員長)
部分ノミヲ扣除シテ其効アリトシテハ如何
(栗塚)
部分ヲ扣除スルニアラザレバ其効ナシト云フ意義ナリ
(今村)
歐文ニハ釋放ヲ受ケタル者ノ部分ヲ扣除シテ以上ニアラザレバ留保ノ効ナシト云フニアリ
(渡)
「ノミ」ヲ刪除セバ如何
(栗塚)
「ノミ」ヲ刪除セバ劉後ノ者ト云フコト明了ナラズ
遂ニノミノ二字ヲ刪除スルニ決ス
(委員長)
受惠者ト云フ字ハ釋放ヲ受ケタル者ヲ指スツモリナランカ受惠ト云ヘバ無償名義ノミノ如ク有償名義ノモノハ包含セザルガ如クナルニアラズヤ
(栗塚)
釋放ヲ受ケタル者ト修正シタシ
(淸岡)
釋放ニハ有償又ハ無償ノ二種アルカ受惠者ト云ヘバ釋放ヲ得タルモノトナルニアラズヤ
(栗塚)
有償名義ノモノニ受惠アリト云フベカラズ
遂ニ釋放ヲ受ケタル者ノト修正ス
第五百二十九條 一人ノ保證人ニ爲シタル債務ノ釋放ハ主タル債務者及ヒ他ノ保證人ニ義務ヲ免レシム
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ債務ノ釋放ハト云フヲ債務其者ノ釋放ハトシテ保證人ノ釋放ヲ爲スニアラズ債務其者ヲ釋放スルト云フ議ヲ明了ナラシメント欲スルナリ
(尾崎)
保證人ニ爲シタル債務ノ釋放トアルニ付キ保證人ヲ釋放スルト思惟スベキ理由ナシ故ニ原案ヲ可トス卽チ其修正ハ否決セラル
(鶴田)
債務ノ釋放アルニ付キ保證人ニ其義務ヲ免レシムルハ前條初項ニ於テ既ニ明カナルニアラズヤ
(尾崎)
本條ハ別ニ害アルコトニアラズ
遂ニ原案ニ可決ス
第五百三十條 債務ノ釋放ヲ受ケタル共同債務者及ヒ保證人ハ債權者ヨリ共通ノ免除ヲ得ル爲メ實際供給シタル價額ニ付テノミ他ノ共同債務者又ハ共同保證人ニ對シ求償權ヲ有ス
(鶴田)
本條ハ幾分カ償却シタルトキヲ云ヒシカ
(南部)
然リ
(栗塚)
例ハ甲乙丙三人アリ乙丙ハ甲ニ對シテ連帶借財アリシトキ乙丙ノ一方其借財ヲ甲ニ償了シタルトキハ追テ他ノ連借者ニ對シテ其求償權アリト云フ譯ナリ
第五百三十一條 債務者ノ一人ニ爲シタル連帶又ハ合意上ノ不可分ノ單純ナル釋放ハ他ノ債務者ノ部分ニ付キ一人ノ債務者ヲ免シ又其一人ノ部分ニ付キ他ノ債務者ヲ免ス
若シ天然上ノ不可分ノ釋放カ債務者ノ一人ニ爲サレタルトキハ債權者ハ他ノ債務者ノ各自ニ對シ全部ヲ請求スルノ權利ヲ留保ス然レトモ受惠者ノ部分ハ其各自ニ對シ價額ヲ以テ之ヲ計算スルコトヲ要ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ連帶ノ下ヘノミ又合意上ノ下ヘモノミノ二字ヲ挿入シ且ツ不可分ノ下ヘミノ字ヲ加ヘ單純ノ二字ヲ刪ル又二項ノ天然上ノ文字ハ本性ニ依レルト修正セリ
(鶴田)
本條ト第五百二十八條ト牴觸スルニアラズヤ
(栗塚)
連帶ノミ合意上ノミ其釋放ヲ得卽チ可分トナレリ
(委員長)
權利ヲ留保スト云フハ保存ノ意ニアラズヤ
(栗塚)
然リ保存ト修正アリタシ尙ホ反譯上ニモ詮議スベシ
(淸岡)
本性ニ依レル不可分ノ下ヘノミヲ挿入スベシ
可決ス
第五百三十二條 債權者ハ左ノ場合ニ於テハ債務者ノ一人ニ連帶又ハ合意上ノ不可分ヲ釋放セント欲シタリト推定セラル
第一 若シ債權者カ自己ノ擔保ノ權利ヲ留保セスシテ債務者ノ一人ヨリ其者ノ債務ニ於ケル部分ナリト述ヘタル金額又ハ有價物ヲ受取リタルトキ
第二 若シ債權者カ自己ノ擔保ヲ留保セスシテ債務者ノ一人ニ對シ〔其者ノ部分ナリト〕稱シテ裁判上ノ請求ヲ爲シタルニ其一人請求ニ承服シ又ハ辨濟スヘキノ言渡ヲ受ケタルトキ
第三 若シ債權者カ異議ヲ留保セスシテ債務者ノ一人ヨリ引續キ十年間債務ノ利息又ハ利子ニ於ケル其者ノ部分ノ辨濟ヲ受ケタルトキ
(栗塚)
本條第二ノ括弧ハ文字ヲ存シテ其括弧ノミヲ刪除スベシ又利子ノ字ハ年金ノ場合ニ利子ト云ヒ其他ノ場合ニ利息ト云フハ不都合ナリト云フ最初ヨリノ問題ナルガ追テ反譯局ニテ一定スベシ
(尾崎)
引續キ十年間ト云フハ長キニ過グルナリ
(栗塚)
五年間トシテハ如何
(松岡)
此推定ハ例示カ制限カ
(栗塚)
例示ナルベシ
第五百三十三條 一人ノ保證人ニ爲シタル保證ノミノ釋放ハ主タル債務者ニ義務ヲ免レシメス且保證ノ釋放ヲ受ケタル一人ノ部分ニ對スルニアラサレハ他ノ保證人ニ義務ヲ免レシメス但保證人カ其間ニ連帶ナル場合ハ此限ニ在ラス此場合ニ於テ若シ債權者カ第五百二十八條第二項ニ記載シタル如ク他ノ保證人ニ對シ自己ノ權利ヲ留保セサルトキハ總テノ保證人ハ義務ヲ免カル
(松岡)
日本ニテハ連合ヲモ連帶トスルガ佛國ニ於テハ連帶ノ明記アラザレバ連合トナレリ
(淸岡)
但保證人ガ云々ト云フハ如何
(栗塚)
保證人連帶ノトキハ一人ノ保證人ニ對スル其釋放ハ他ノ保證人ニモ及ブト云フヲ示シタリ此場合ニ於テ其但書ニ屬スル連帶人ノ釋放ヲ爲スベキ手續ヲ示シタルモノナリ
(鶴田)
留保セザルトキハ云々義務ヲ免カルトアルヲ留保スルトキハ云云義務ヲ免ガレシメズトシタシ否ラザレバ文章ノ叙次其官ヲ爲サザルヲ以テナリ
(尾崎)
但以下ハ別項ニシテハ如何
(南部)
別項ニスルハ不可ナリ
(栗塚)
連帶ナル場合ニ於テ若シ債權者ガ云々トセバ如何
可決ス
第五百三十四條 債權者ノ動產質又ハ抵當ノ抛棄ハ債權其モノヲ減ゼズ然レドモ若シ保證人ガ自ラ義務ヲ約スルニ當リ此擔保ニ付キ代位ヲ期シタルコトヲ證明スルトキハ保證人ハ其抛棄ニ基キ債權者ニ對シ其義務免除ヲ請求スルコトヲ得
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ此擔保トアルヲ此物上擔保ト修正シ保證人ノ擔保ト云ヘル紛レヲ避ケンガ爲メナリ尤モ本條ハ第五百五條ト關係スルヲ以テ彼條議定ニ至ルマデ本條ハ暫時未定ニ附セラレタシ
第五百三十五條 一人ノ共同債務者又ハ一人ノ保證人カ連帶不可分又ハ保證ノ單純ナル釋放ヲ得ル爲メ債權者ニ與ヘタルモノハ債務ヲ減セス且他ノ共同債務者ニ對スル何等ノ求償ノ目的トモ爲ルコトヲ得ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ連帶又ハ不可分ノ下何レモ「ノミ」ノ二字ヲ加ヘ保證ノ下ヘミノ一字ヲ加ヘ單純ノ二字ヲ刪ル又本條ハ第五百三十一條ノ裏面ヲ云ヘリ
(鶴田)
與ヘタルトハ何ヲ與ヘタルカ
(栗塚)
例バ自己ノ所有物ヲ貸與スルトカ又或ル物ヲ與ヘテ其義務ヲ免ガレンコトヲ求ムルトカ云フガ如シ
(鶴田)
賄賂ノ如キモノヲ與ヘテ義務ヲ免レントスルモ之ヲ免レ得ベキ所以ナシ
(栗塚)
保證人ト債權者ト通謀スルニ至テハ債務者ハ甚困迷ナルニ付キ債務ヲ減ゼズ云々トセザルベカラズ
(淸岡)
債務者其連帶ヲ免レン爲メ其不可分ヲ免ガレン爲メ又其保證ヲ免レン爲メ之ヲ債權者ニ請求スレバ幾分カ其債務償却セザレバ債權者ハ之ヲ許スモノニアラズ
(南部)
債務ヲ償却シタル場合ニアラズ債務者間ノ連帶ヲ絕タレンコトヲ欲シテ債權者ニ贈物スルト云フガ如キモノナリ
(委員長)
本條ハ釋放ヲ得タルモノトスルカ得ザルモノトスルカ
(南部)
釋放ヲ得タルモノトスベシ
(鶴田)
此點ハ蓋シ釋放ヲ得タルモノタラザルベカラズ
(委員長)
自分ハ釋放ヲ未ダ得ザル場合ト思惟セリ否ラザレバ保證人ト債權者ト密謀シテ債務者ニ甚シキ迷惑セシムルモノアレバナリ
(栗塚)
債權者ハ保證人ノ義務ヲ免ガラシムルヲ得ベシ何トナレバ偶成契約ニ屬スレバナリ保證人ハ債務者ノ無資力ナランコトヲ虞シ其禍言ヲ免レン爲メ贈物シテ其義務ヲ免レンコトヲ求ムルモノナレバナリ
(委員長)
然ラズ抑モ保證人ノ如キハ啻ニ債權者ノミノ爲メニアラズ之ヲ債務者ニモ屬セシムベキモノナレバナリ
(栗塚)
債權者ハ偶生契約ヲ以テ擔保ヲ免ジタルトキハ保證人ヨリ得タル金額ハ偶成契約ト爲シタル報償ヲ得タルニ過ギズ若シ其金額ヲ債務辨濟ニ充ツルモノトセバ債務者其債務ヲ償却スルヲ得ザルトキハ債權者ハ最初ヨリ擔保ノ利益ヲ失ヘルモノナリ
(委員長)
債務ノ償却ヲ受ケザルトキハ然ルナラント雖トモ其償却ヲ得タルトキハ債權者ハ其利益ヲ得ルモノト云フベシ併シ先ヅ此儘ニ附シ置クモ可ナリ只「モノハ」ト云フハ如何
(栗塚)
「モノハ」ニテモ敢テ不都合ナカルベシ此點ハ債權者ニ與ヘタル其モノヲ以テ債務ノ充當トスルヲ得ズト云フ意義ナリ
(鶴田)
物ノ字ニシテハ不可ナルカ
(淸岡)
物ノ字ニスレバ意味狹縮ニ屬ス
(南部)
與ヘシコトハト云フ意ニアラズヤ
(栗塚)
與ヘタリトテト云フ意味ナリ
(南部)
與ヘルト云フ行爲ヲ云フニアラズヤ
(栗塚)
先ヅ物ノ字ノ意ニ近キモ全ク物ト云フニモアラズ
(渡)
與ヘタリトモ其債務ヲ減ゼズトセバ宜シカルベシ
(栗塚)
モノハニテ可ナリ者ノ字ト異議ナルハ少シク其意味ヲ考フレバ判然スベシ
(今村)
爲スノ義務ヲ盡ス場合モ存スルヲ以テ物トハ云ヒ難シ價額ト云ヘバ尙ホ可ナルベシ
(委員長)
價額トシテハ如何
(淸岡)
與ヘハトセバ如何
(栗塚)
爲シタル給付ハトセバ妥當ナルベシ
遂ニ原案ニ決ス
第五百三十六條 特定物ヲ引渡シ又返還スヘキ義務ノ釋放ハ債務者ノ利益ニ於テ讓戻又ハ讓渡ヲ惹起セスシテ所有者ノ回狀ノ權利ヲ存立セス
(栗塚)
存立スト云フヲ報吿委員ニテ存立セシムト修正セリ
(淸岡)
本條ハ如何
(栗塚)
假令バ甲者アリ乙者ニ與ヘシ物ヲ引渡スベキ義務アリシガ其引渡ノ義務ノ釋放ヲ受ケタルトキハ甲者ハ引渡スベキ義務ハアラザルモ其與ヘシモノハ讓戻シトナリシニアラザレバ所有者之ヲ回收スルヲ得ベシ又甲者ニ返還スベキ物ヲ甲者ヨリ返還スルニ及バズトアリシトキハ乙者ハ自ラ之ヲ返還スルニ及バザルモ甲者ハ決シテ之ヲ乙者ニ讓渡シタルニアラザレバ所有者ハ之ヲ回收スルノ權利アリト云フ譯ナリ
(南部)
如此事實ハ起生スルコト殆ンド稀有ナルベシ又却テ此條ノ明文アル爲メニ禍害ヲ生出スルコトナシトセズ故ニ本條ハ刪除シタシ
(栗塚)
此場合ニ於ケル釋放ヲ得タルモノハ卽チ占有者ノ位地ニ立ツモノナリ
(松岡)
債務者釋放ヲ受ケタルモノハ債權者ニ回收ノ權利アルベキ理ナシ
(尾崎)
本條ハ却テ訟訴鑑起ノ種子トナルベシト
遂ニ刪除ニ決ス
第五百三十七條 連帶債權者ノ一人ノ爲シタル債務其者又ハ連帶ノミノ釋放ハ債權ニ於ケル其一人ノ部分ニ付テノミ他ノ債權者ニ對抗セラルルコトヲ得
若シ義務カ不可分ナルトキハ債權者ノ一人ノ爲シタル釋放ハ他ノ債權者ニ害スルコトヲ得ス他ノ債權者ハ第四百六十六條ニ從ヒ全債權ヲ行フ
(淸岡)
初項ノ他ノ債權者ニ對抗セラルルコトヲ得ト云フハ對抗スルコトヲ得トシテハ如何
(南部)
然リ之ヲト云フ字ヲ置キ之ヲ對抗スルコトヲ得トスベシ
可決ス
(鶴田)
二項ノ不可分ト云フハ本性ノ不可分ニアラザレバ合意ノ不可分ニテハ全債權ヲ行ヲ得ザルベキニアラズヤ
(栗塚)
然リ本性ノ不可分ナリ
第五百三十八條 債權者カ債務者ノ約務ヲ記載シタル原證書ニ任意ニテ債務者ニ交付シタルトキハ右ノ證書ニ免責ニ關スル何等ノ附記ヲモ爲サスト雖トモ債權者ハ債務ノ釋放ヲ爲シタリト推定セラル但債權者ノ右ニ異ナリタル意思ヲ有セシコトヲ證スルノ權利ヲ妨ケス
公證人證書又ハ判決書ノ寫卽チ正本ノ任意ノ交付ハ此等ノ書類カ執行ノ書式ヲ具フルトキト雖トモ債務ノ釋放ヲ推定セシムルニ足ラス但裁判所カ事實ノ狀況ニ因リ其釋放ヲ考定スルコトヲ放ケス其他債務者右ノ證書ヲ保有スルトキハ反對ノ證アルマテハ債權者ノ方ヨリ任意ノ引渡アリタルコトヲ推定セシム
(栗塚)
本條二項ノ判決書ノ寫シトアルヲ報吿委員ニテ「寫卽チ」ノ三字ヲ刪除シ又末項ノ引渡ヲ交付ト修正ス寫卽チノ三字ヲ刪リタルハ日本ニハ正本ハ一通シカアラザルヲ以テナリ
(尾崎)
二項ハ公證人ノ證書アルモ判決書アリトスルモ債務證書ノ交付アラザル以上ハ釋放ト推定スルヲ得ズルモノノ意ナリ
(淸岡)
末項ニ任意ノ交付アリタルコトヲ推定セシムト云フモ二項ニ於テハ任意ノ交付ハ推定セシムルニ足ラズトアルハ如何
(栗塚)
末項ハ任意ノ交付ガ強令ノ交付カラ推定スルモノナリ
第五百三十九條 債權者カ全證書又ハ債務者ノ署名若クハ證書ノ總テ其他ノ緊要ナル部分ヲ有意ニテ毀滅シ扯破シ又ハ抹殺シタルトキハ前條ニ記載シタル區別ニ從ヒ任意ノ別渡ト同一ノ度合ニテ債務ノ釋放ヲ推定セシム
其毀滅、扯破又ハ抹殺ハ若シ其證書カ當時債權者ノ占有ニ係リシトキハ反對ノ證アルマテ債權者ニ因リ又ハ其承諾ヲ以テ爲サレタリト推定セラル
(淸岡)
本條ノ扯破ト云フ字ハ普通字ニアラス
(松岡)
毀滅ノ字アレバ扯破ハ刪除シテハ如何
(栗塚)
此字ハ尙ホ反譯局ニ詮議スベシ
第五百四十條 債務ノ釋放ハ其明示ナルト默示ナルト又直接ニ證セラレタルト適法ニ推定セラレタルトヲ問ハス反對ノ證アルマテ有償名義ニテ爲シタリト推定セラル
然レトモ若シ釋放カ互ニ與ヘ又ハ受クルノ能力ナキ者ノ間ニ於テ成ルトキハ其釋放カ有償名義ニテ爲サレタルコトノ直接ノ證ヲ供スルコトヲ要ス
(鶴田)
本條二項ノ互ニ與ヘトアルハ能力者ニシテ受クルモノハ無能力者トナルカ
(渡)
相互ニ與ヘルトキ受クル一方ノ能力ナキモノヲ云ヒシナリ
(栗塚)
受クル方ニ能力ナキトキハ與フル方ニモ能力ナキモノナリ
(淸岡)
有償名義ナレバ之ヲ爲スヲ得ルト云フハ如何
(栗塚)
此能力ト云フハ未丁年者ト云フガ如キ無能力ニアラズ醫士ガ病人ヨリ贈物ヲ受クルコトヲ得ザルガ如キヲ云フナリ
第四節 相殺
第五百四十一條 二人互ニ債權者タリ債務者タルトキハ下ノ條件及ヒ區別ニ從ヒ法律上、任意上又ハ裁判上ノ相殺存立ス
右ノ場合ニ於テ二箇ノ債務ハ最寡ノ債務ノ額ニ滿ツルマテ消滅ス
(淸岡)
最寡ノ債務ト云フハ寡少ノ債務トスルニアラザレバ不可ナリ
(栗塚)
歐文ニハ最モカノ足ラザルモノトアリ兩方比較シテ寡額ナル方ヲ云フナリ
第五百四十二條 二箇ノ債務カ主タルモノノ互ニ代補スルコトヲ得ヘキモノ明確ナルモノノ要求スルコトヲ得ヘキモノニシテ且相殺カ法律ノ條例ニ因リ又ハ當事者ノ明示若クハ默示ノ意思ニ因リ禁セラレサルトキハ法律上ノ相殺ハ當事者ノ不知ニ於テモ當然行ハル
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ主タルモノノト云ヲ主タルモノトシ明確ナルモノノト云フヲ明確ナルモノトシタリ
(淸岡)
互ニ代補ト云ヘルヲ以テ主タルノ上ニ共ニト云フ字ヲ置クカ又ハ互ニト云フ字ヲ刪リテハ如何
(南部)
然スルトキハ明確ナルノ上ニモ共ニト云フ字ヲ置カザルヲ得ザルニ至ルヲ以テナリ
(淸岡)
不知ニ於テモハ知ラザルニ於テモトシテハ如何
(栗塚)
不知ニテモトセバ可ナリ
可決ス
第五百四十三條 主タル債務者ハ債權者カ保證人ニ對シ負擔スルモノノ相殺ヲ對抗スルコトヲ得ス然レトモ訴追セラレタル保證人ハ債權者カ主タル債務者ニ對シテ負擔スルモノニ付テモ又其己レニ對シテ負擔スルモノニ付テモ債權者ニ相殺ヲ對抗スルコトヲ得
連帶債務者ハ債權者カ其共同債務者ニ對シテ負擔スルモノニ付テハ債務ニ於ケル共同債務者ノ部分ニ對スルニアラサレハ相殺ヲ對抗スルコトヲ得ス然レトモ自己ノ權利ニテ相殺ヲ對抗スヘキトキハ全部ニ付キ之ヲ對抗スルコトヲ得
若シ數人ノ連帶債權者アルトキハ債務者ハ債權者ノ一人カ己レニ對シ負擔スル總テノモノノ相殺ヲ常ニ訴追者ニ對抗スルコトヲ得
若シ債務カ或ハ債務者ノ間或ハ債權者ノ間ニ不可分ナルトキハ相殺ハ受方又ハ働方ノ連帶ニ於ケルト同一ノ方法ニテ許サル
(松岡)
三項ノ總テノモノト云フハ全部ノモノト云フヲ得ザルカ
(栗塚)
總テノ借受額ヲ云フナレバ總テノト云フヲ可トス
(鶴田)
二項ノ意義ハ如何
(栗塚)
共同債務者ハ連帶債務者中ノ一人ナリ故ニ債權者ハ其債務者中ノ一人ニ負債アルトキハ其部分ニ付キ相殺ヲ爲スヲ得ベシ
(南部)
連帶義務者ハ自己ノ分頭ヲ自辨シ自己ノ分頭外ニ於テハ之ヲ擔保シタルモノニシテ恰モ保證人ノ如キモノナリ
(栗塚)
例バ甲乙二人ガ丙ニ千圓ノ債務アリ丙ハ甲者ニ對シ七百圓ノ債務アル場合ニ於テ丙者ガ乙者ニ對シテ償還ヲ求メタルトキハ乙者ノ分頭卽チ五百圓ニアラザレバ相殺スルヲ得ズ然ルニ丙者ガ甲者ニ對シテハ甲者ハ全部ニ對シテ相殺スルヲ得ベシ
(委員長)
共同債務者ハ必ラズ連帶債務者ト云フニアラズ連合債務者モ包含スルモノナルニ此所ハ連帶債務者ニ充ツルヲ以テ晦澁ニ屬セリ
(渡)
三項訴追者ハ誰ヲ指スヤ
(南部)
債權者中ノ訴追者ナリ
(淸岡)
四項ニ義務ガ債權者間ニ不可分ナルトキトハ何ゾ
(栗塚)
債權者ニ就テ云ヘバ債權ノ不可分ナラン
(南部)
此點ハ義務ハ債權者ト債務者トノ中間ニ存立セルモノト視ザルベカラズ
(栗塚)
成程然ルナラン此點ハ本性ノ不可分ニアラズ合意上ノ不可分ニ付テ視ザルベカラズ
(淸岡)
不可分義務ヲ連帶ノ方法ニ依テ相殺スルト云フハ不都合ニアラズヤ
(栗塚)
合意上ニ係ル不可分ハ連帶ノ方法ニテ云々スルト云フモノナレバ金錢ニ屬スル不可分ナリト視ザルベカラズ
(尾崎)
本性ニアラザル不可分ハ殆ンド連帶ト差異ナカルベシ
(淸岡)
然レバ不可分ト云ハザルヲ宜シトス既ニ不可分ト云ヘバ連帶トハ差別ヲ附セザルヲ得ザルナリ
(松岡)
不可分ヲ連帶ノ方法ニ依テ相殺スルトシテモ義務者ニ於テハ決シテ損害ヲ被ラザルモノナリ
(栗塚)
二項ハ連帶債務者ハ債權者ヨリ他ノ連帶債務者ニ對シテ負擔スルモノノ相殺ヲ對抗スルニハ債務ニ於ケル其他ノ債務者ノ部分ニ付テニアラザレバ之ヲ爲スコトヲ得ズ然レドモ債權者ヨリ自己ニ對シ負擔スルモノノ相殺ハ債務ノ全部ニ付キ之ヲ對抗スルコトヲ得トシテハ如何ト思考スルモ尙ホ報吿委員中ニテ協議スベシ
第五百四十四條 當事者ノ一方カ地方ノ公市場ニ於テ相場附シタル飮食物ノ給付ヲ他ノ一方ニ對シ定期ニテ負擔シタルトキハ其給付ハ他ノ一方ノ負擔スル金額ト相殺セラル
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ當事者ノ一方ガノ下ヘ他ノ一方ニ對シト云フ字ヲ挿入シ給付ノ上ノ定期ノ三字ヲ刪リ「他ノ一方ニ對シ定期ニテ」ト云フ字ヲ刪ル相場附ト云フ字ハ外ニ妥當ノ文字アラザルヲ以テナリ此字ヲ用ヒタリ
(松岡)
相場ノ定リタルトシタシ
(鶴田)
之ヲ意味上ヨリ云ヘバ定價アルトセバ可ナルモ相場ト云ヲ言顯ハサントスルニハ困難ナルベシ
(委員長)
此字ハ商法ニモ記示スル所アルベキヲ以テ協議ノ上一定スベシ
(松岡)
市場ト云ヘバ公ハ云ハザルモ勿論ナリ卽チ公ノ字ヲ刪ル
(松岡)
飮食物ト云フハ六百二十一條ニ於テ有價物トアルヲ以テ此所モ其例ニ倣フテハ如何
(松岡)
本條ノ如キ契約ハ日本ノ實際ニ於テ此例アルカ
(村田)
新聞紙ノ如キニハ此例アラン
(松岡)
新聞紙ハ此例ニ當ラズ總束シデ交付スルモノニアラズ定期ヲ以テスルモノナレバナリ且ツ飮食物ノ字ハ反譯局ノ修正ニ附セラレタシ
可決ス
第五百四十五條 債務ノ成立、其本性及ヒ其分量カ確實ナルトキハ其債務カ善意ニテ爭ハルルトキト雖モ債務ハ明確ナリ
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ本性ノ上ニ「目的ノ」三字ヲ挿入シ「分量」ノ上其ノ一字ヲ刪リ「善意」ノ上「カ」ヲ「ハ」ニ改メ「明確」ノ上「債務ハ」ノ三字ヲ刪ル
(松岡)
爭ハルルトキト雖ドモト云フハ爭訟中ナルモト云フ議カ
(南部)
然リ
(栗塚)
明確ニシテ已往ニ遡ルコトヲ得ベシ
第五百四十六條 裁判所ノ許與シタル恩惠上ノ期限ハ相殺ニ妨ヲ爲サス債務者ノ請求ニ因リ債權者ノ恩惠ニテ許與シタル期限ニ付テモ亦同シ
若シ二箇ノ債務ノ一カ解除ノ條件付ナルトキト雖モ相殺ハ成ル但未必ノ解除ヲ妨ケス
(栗塚)
本條ハ第四百二十七條ノ恩惠上ノ期限ニ付キ云ヒシモノナリ
(松岡)
妨ヲ爲サズト云フハ妨ゲズトハ云ハザルカ
(栗塚)
妨ゲズトシテモ不可ナシ
(松岡)
裁判所ガ債務者ノ請求ナキニ恩惠期限ヲ許與スル所以ナシ故ニ債務者ノ請求ニ因リト云フハ之ヲ明言セザルニ可ナルニアラズヤ
(鶴田)
債務者ノ請求ニ因リト云フコトアルモ不可ナシ此二項ノ意義ハ如何
(栗塚)
解除條件ヲ以テ單純ナル債務ト相殺スルヲ得ベシ然ルニ但書ノ場合ニ至テハ解除ハ已ンデ得取シタル價額ハ之ヲ拂戻サザルベカラズト云フニアリ
第五百四十七條 若シ二箇ノ債務カ同一ノ場所ニ於テ又ハ同一ノ貨幣ヲ以テ辨濟スヘキモノニアラサルトキト雖モ尙ホ相殺ハ成ル但初ノ場合ニ於テハ貨幣ノ運送費用又ハ爲替料ヲ計算シ次ノ場合ニ於テハ貨幣ノ兩替賃ヲ計算スルコトヲ要ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ運送ノ上「貨幣ノ」三字及ヒ「兩替」ノ上「貨幣ノ」三字ヲ刪ル貨幣ノ字ヲ刪除シタルハ貨幣ニアラザルモノ卽チ代補物ノ相殺ナキニアラザレバナリ
(鶴田)
相殺ハ運送スルニアラザルヲ以テ費用計算ヲ爲スニ及バズ
(南部)
運送スベキモノヲ運送セザル故費用ノ計算ヲ爲サザレバ一方ハ自然不當ニ利スルコトアルベシ
(村田)
東京ト長崎トノ間ニ於テ長崎ノ債權者東京ニ來リ在京ノ債務者ニ償却ヲ求メタルニ東京ノ債務者ハ長崎ノ債權者ニ債權アルヲ以テ義務相殺セントス其際長崎ノ債權者ガ東京ニ於テ別ニ借財セザルベカラザルヲ得ザル場合等アランカ故ニ運送費用ヲ償却スルモノナリ
(委員長)
貨幣ニアラザルモノモ相殺スルヲ得ルカ
(栗塚)
然リ
(渡)
貨幣ニアラザルモノナレバ爲替料ト云フモノアラザルナリ
(委員長)
此反譯者ハ此點ヲ貨幣ト見シナラン
(鶴田)
此點ハ例バ東京ヨリ長崎ニ運送シタルトキハ此物價騰貴ヲ得ルモ其物品ヲ運送セザルヲ以テ其運送スベキ費用ヲ領收セントスルノ意ナラン
(尾崎)
例バ長崎ヨリ東京ニ來リ在京ノ債權者ニ返還ヲ求メタルニ之ヲ相殺ニ附セラレタルトキハ更ニ長崎ヨリ金額ヲ取寄セ自分ノ費用ヲ辨セザルヲ得ズ故ニ其長崎ヨリ取寄タル費用ニ係ル分ハ其計算ヲ求ムルヲ得ルナリト云フニ過ギズ
(淸岡)
此條ハ例バ自分ト鶴田委員ト互ニ債權債務アリトセン鶴田委員ノ債務ハ直チニ自分ニ東京ニ於テ返濟スベキ約束ナリ自分ハ鶴田委員ニ肥前ノ國ニ於テ返濟スルノ約束アラバ自分ハ肥前ノ國ニ返濟ノ義務ヲ果サザルヲ得ザルノ意ナラン
(栗塚)
然リ
(委員長)
運送費用ト云フトキハ物品ト認メ爲替料ト云ヘバ貨幣ト認メザルヲ得ザルニアラズヤ報吿委員ハ此條ヲ實物ト視認シナガラ爲替料ト云フ字ヲ此儘ニ存在セシムルトキハ牴觸ノ見解ニアラズヤ
(栗塚)
此點ハ尙ホ起案者ニ質議スベシ
第五百四十八條 左ノ場合ニ於テハ法律上ノ相殺成ラス
第一 債務ノ一カ他人ノ財產ノ不正ナル得有ヲ原由トスルトキ
第二 變例ト稱セラレタル寄託物ノ返還ニ關スルトキ
第三 債權ノ一カ債權者ニ對シテ差押フルコトヲ得サル有價物ヲ目的トスルトキ
第四 當事者中ノ一方カ豫メ相殺ノ利益ヲ抛棄シタルトキ又ハ當事者中ノ一方カ債權者ト爲ルニ當リ企圖シタル目的カ相殺ヲ以テ逹セラレサルトキ
(栗塚)
本條第三ハ報吿委員ニテ債權者ニ對シテノ數字ヲ刪リ第四ハ債權者ト爲ルニ當リヲ債權者ト爲リテトシ相殺ヲ以テト云フヲ相殺ノ爲メト修正ス
(淸岡)
第一ノ場合ハ何ノ意義カ
(栗塚)
債務者ノ竊取シタル有價物ハ返還セザルベカラザル義務アルヲ以テ之ヲ相殺ニ附スベカラザルナリ
(淸岡)
第二ノ變例ト稱セラレタルト如何
(栗塚)
寄託物ニ正變アリ正則ノ寄託物ハ受託者之ヲ使用スルヲ得ズト雖ドモ變例ハ其使用ヲ許與シタルトキヲ云フ
(松岡)
法律上ノ相殺ニナラザルモノニシテ裁判上又ハ合意上ニテ相殺スルニハ不可ナシ
(淸岡)
稱セラレタルハ稱スルトシタシ
可決ス
(南部)
第四ハ當事者ノ一方ガ債權者ト爲リテト云フヲ爲ルニ於テハトスレバ宜シト思考ス
(鶴田)
第一ノ他人ト云フ字ハ第三者ノ如クナルニアラズヤ
(委員長)
相互ノ相手方ニ對セザレバ相殺ノ生ズベキ云ハレナシ故ニ他人ト云フハ相互間相手方タルベキコト知ルベシ
(鶴田)
說明ヲ聽キ其意味ハ分明ナルモ字面上ニ於テハ晦澁タリ
(村田)
目的ノ逹セラレザルトキト云フハ例バ金百圓ヲ以テ時計ノ購買ヲ依頼シタルニ其百圓ヲ以テ受託者ハ依託者ニ債權アルガ爲メニ相殺スルヲ得ズ相殺スルトキハ時計ヲ得ル能ハザレバナリ
(委員長)
爲ルニ當リヲ爲リテト云フ報吿委員ノ修正ヨリハ寧ロ原案ヲ可トス
(淸岡)
報吿委員ノ修正ヲ可トス
(尾崎)
債權者ト爲ル方ハ依託シタルモノヲ云フナラン
(栗塚)
然リ
(淸岡)
伊國民法ハ如何
(栗塚)
又ハ以下ハ默示ノ說明トナリ
(淸岡)
然ラバ原案ノ文字ヲ宜シトス
第五百四十九條 讓渡サレタル債務者ニ爲シタル債權ノ單純ナル吿知ハ債務者カ讓渡人ニ對抗スルコトヲ得ヘカリシ法律上ノ相殺ノ前來ノ原由ヲ讓受人ニ對抗スルノ權利ヲ其債務者ニ失ハシメス
若シ被讓渡人カ讓渡人ニ對シテ既ニ得タル法律上ノ相殺ニ於ケル其權利ヲ留保セスシテ讓渡ヲ受諾シタルトキハ被讓渡人ハ讓受人ニ對シ最早其權利ヲ利得スルコトヲ得ス
右二箇ノ場合ニ於テ被讓渡人カ相殺ヲ申立ツルコトヲ得サリシ金額又ハ有價物ヲ讓渡人ヲシテ己レニ償還セシムルノ權利ヲ妨ケス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ初項冒頭ノ讓渡サレタル債務者ヲ被讓債務者トシ爲シタル債權ノトアルヲ爲シタル債權讓渡ノトシ債務者ノ上ニ其ノ字ヲ加入ス又二項三項被讓渡人ハ何レモ被讓債務者ト修正ス
(淸岡)
末項ハ相殺ヲ申立ツルコトヲ得ザリシト云フ其相殺ハ得ベカラズヤ
(栗塚)
爲スヲ得ベキモノヲ爲サザリシトキヲ云フモノナリ
第五百五十條 拂方差押ヲ爲サレタル者ハ差押ヘラレタル債務者ニ對シテ事後ニ得取シタル債權ノ相殺ヲ差押人ニ對抗スルコトヲ得ス
又相殺ノ前來ノ原由ニ在テモ拂方差押ヲ爲サレタル者カ民事訴訟法ニ定メタル方式及ヒ期間ニ於テ其原由ヲ述ヘタルトキニアラサレハ其者ハ之ヲ對抗スルコトヲ得ス
右何レノ場合ニ於テモ拂方差押ヲ爲サレタル者カ己レニ對シテ差押ヘラレタル金額又ハ有價物ニ付テハ己レニ得ヘキモノノ爲メ差押人ト共ニ順序ニ從ヒ辨償ヲ受クルノ權利ヲ妨ケス
(栗塚)
本條モ報吿委員ニテ初項ハ拂方差押ヲ爲サレタルヲ受ケタルトシ債務者ノ下ニ卽チ自己ノ債權者ト云フ數字ヲ入レ二項ハ爲サレタル者ガヲ受ケタル者ハトシ其者ハノ三字ヲ刪リ對抗ノ上ニ差押人ニノ數字ヲ入レ三項ハ爲サレタルヲ受ケタルト修正ス
(委員長)
一項ニ自己ノ債權者ト云フ字ヲ入レタルハ果シテ其意義ナルカ
(栗塚)
然リ
(南部)
一項ノ意義ハ如何
(村田)
甲者ハ乙者ニ債權アリ乙者ハ丙者ニ債權アリ此時丙者ノ乙者ニ返濟スベキヲ甲者ノ爲メニ差押ヘヲ受クルトキハ乙者ハ差押ヘラレタル人ナリ故ニ丙者ハ自己ノ債權者卽チ乙者ニ對シテ其後債權ノ相殺アリト云フヲ以テ甲者ニ對抗スルヲ得ザルナリ
(栗塚)
銀行ノ例ヲ以テ之ヲ解スルヲ便トス銀行ハ差押ヲ受クルモノナリ其之ヲ受ケタル後差押人ニ對シテ先キノ債權ハ既ニ消滅シタリト云ヲ以テ差押人ニ對抗スベカラザルナリ
(淸岡)
三項ハ順序ニ從ヒ辨償ヲ受クルノ權利ヲ妨ゲズトアルモ差押ラレタル人ハ辨償スベキモノコソアレ辨償ヲ受クベキ理由ナキニアラズヤ
(栗塚)
事後ニ生ジタル債權アルトキ及ビ訴訟法ニ從ヒ其原由ヲ述ベザルトキニ於ケル場合アルヲ以テ云稱スルナリ
(淸岡)
差押人ト共ニ順序ニ從ヒト云フモ共ニスル順序ニ從フコトハ得ベカラザルモノナリ
(栗塚)
順序ニ從ヒト云フ字ニ付議論アルヲ以テ此字ハ反譯局ニ相談スベシ
第五百五十一條 相殺ニ因リ既ニ消滅シタル債務ヲ辨濟シタル者ハ其錯誤ニ出テタルトキト雖モ不當ノ利得還償訴權ノミヲ行フコトヲ得但次條ニ記載スルモノハ此限ニ在ラス
(淸岡)
本條ノ意義ハ相殺カ錯誤ニ出テタルトキト雖トモト云フ譯カ
(南部)
否相殺アリシニ再ヒ償却シタルトキハト云フコトナリ
第五百五十二條 前三條ニ定メタル場合ニ於テ相殺ニ因リ既ニ消滅シタル債務ヲ讓受人若クハ差押人ノ利益ニ於テ追認シ又ハ自己ノ債權者ニ辨濟シタル者ハ其舊債權ヲ擔保シタル保證先取特權若クハ抵當ヲ最早利唱スルコトヲ得ス但既ニ得タル相殺ヲ知ラサルコトニ付キ正當ノ原由ヲ有シタルコトヲ證スルトキハ此限ニ在ラス此場合ニ於テ原債權ハ其抵保及ヒ其他ノ性質ト共ニ其者ニ返還セラル
(渡)
既ニ消滅シタル債務ヲ讓受人若クハ差押人ノ利益ニ於テ追認シト云フハ如何
(栗塚)
消滅シタルコトヲ知ラズ償却スベシト云ヒタルトキナリ
第五百五十三條 任意ノ相殺ハ當事者中ニテ法律カ法律上ノ相殺ヲ拒絕スル爲メ利益ヲ受クル者ニ因リ對抗セラルルコトヲ得總テノ場合ニ於テ利害ノ關係アル各人ノ承諾アルトキハ相殺ハ合意上ノモノタルコトヲ得
任意ノ相殺ハ既往ニ遡ルノ効ナシ
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニ於テ當事者中ニテノ六字ヲ刪リ拒絕スルヲ許サザルト修正シ利益ヲ受クル者ノ下「ニ因リ」ヲ刪リ一方ノ當事者ヨリ之ヲ對抗スルコトヲ得ト修正ス
卽チ可決ス
第五百五十四條 裁判上ノ相殺ハ被吿カ原吿ニ對シ自己ノ利益ニ於テ債務ヲ追認又ハ淸算セシムルヲ趣旨トスル其反訴ノ方法ニ因テ得ラル
此場合ニ於テ裁判所ハ場合ニ從ヒ或ハ先ツ主タル訴ヲ決シ或ハ之ヲ中止シテ相殺ヲ行ヒ且債務ノ最多額ナル者ノミニ對シ辨濟スヘキノ言渡ヲ爲シテ二箇ノ訴ヲ併セテ決スルコトヲ得
裁判上ノ相殺ハ其對抗セラレタル日ニ遡リテ効アリ
(栗塚)
本條第一項債務ハ反譯上ニテ債權ト修正シ又報吿委員ニテ追認ヲ追認セシメトシ淸算セシムルヲ明確ナラシムルトシ其ノ一字ヲ刪ル又第二項ノ此場合ヲ此時ト改メリ
(尾崎)
中止シテ相殺ヲ行ヒトハ中止和解スルノ云ヒカ
(南部)
原吿ノ訴ヲ中止シテ相殺セシムルモノナリ
(栗塚)
一項末ノ方法ニ因テ得ラルトアルハ方法ニ因テ之ヲ得トシ二項末ノ對抗セラレタルトアルハ對抗シタルトシタシ
可決ス
(松岡)
法庭ノ相殺ハ被吿ノ請求アラザレバ裁判官ノ職權ヲ以テ之ヲ爲サシムルヲ得ザルカ
(栗塚)
然リ
(南部)
裁判上ノ相殺ハ之ヲ對抗シタル日ニ遡リ其効アリトシタシ
(栗塚)
然ルベシ
可決ス
第五百五十五條 若シ當事者ノ一方カ他ノ一方ニ對シ法律上又ハ裁判上ノ相殺ニ係リタル數箇ノ債務ヲ有スルトキハ其債務ノ相殺セラルル順序ハ第四百九十三條ニ規定シタル如ク辨濟ノ法律上ノ充當ノ順序タリ
若シ相殺カ任意上卽チ合意上ノモノナルトキハ充當ハ第四百九十一條及ヒ第四百九十二條ニ記載シタル規則又ハ當事者ノ協同一致ニ從フ
(栗塚)
本條二項任意上卽チハ又ハトスベキ反譯上ノ誤譯ナリ何トナレバ任意上ナレバ第四百九十一條及ビ第四百九十二條ニ記載シタル規則ニ從ヒ合意上ノモノナレバ當事者ノ協同一致ニ從フヲ以テ又ハト云ハザルベカラズ又第四百九十三條ハ利子附ト否トアルニ於テハ利子附ヲ先ニスルノ類ヲ云フ
(松岡)
其債務ノ相殺セラルル順序ト云フハ其債務ヲ相殺スルノ順序トシタシ
可決ス
(栗塚)
第四百九十三條ニ規定シタル如クト云フ如クハ如キトスベシ
可決ス
第五節 混同
第五百五十六條 義務ノ債權者タリ及ヒ債務者タルノ分限カ相續又ハ其他ノ事ニ因テ一人ニ併セラレタルトキハ義務ハ混同ニテ消滅ス
若シ右ノ混同カ前來ノ適法ナル原由ノ爲メ解除、銷除又ハ廢罷セラレタルトキハ義務ハ消滅セサリシモノト看做サル
(栗塚)
本條一義務ト云フハ報吿委員ニテ同一ノ義務トシ其他ノ事ニ因テ一人ニ併セラレタルヲ其他ニテ同一ノ人ニ併セラレトシ義務ハ混同ニテ消滅ストアルハ義務ハ混同ニ因テ消滅スト修正スベシ
(松岡)
其他ノ事ニ因テト云フヲ其他ニテト云フノミニテハ不分明ナリ
(栗塚)
起案者ハ其他ノ事ニ因テトシタルモノニアラザルヲ反譯ニテ事ニ因テトスルハ穩當ナラズ又事ニ因テノ字ナキモ敢テ不明ニアラズ強テ之ヲ挿入セントナラバ起案者ニ協議セザルベカラズ
(鶴田)
相續ノ解除銷除廢罷トハ如何
(栗塚)
子父ニ對シテ債權者トナリシトキハ其子其父ノ財產ヲ相續シタルトキハ權利義務ハ混同ニ依テ銷除セラルルモノナリ又看做サルハ看做ストスベシ
(松岡)
子ハ父ニ對スル債權アリト云フモ相續スレバ之ヲ請求セザルハ無論ナリ何ゾ之ヲ規示スルヲ要セン
(委員長)
二項ノ混同ハ解除セラルルト云ヘバ一時混同シタルモノガ解止シテ義務アルベキカ
(栗塚)
然リ
(鶴田)
假令債權者ガ債務者ノ養子トナリタルトキハ混同ニ屬スベキトスルモ離縁スルトキハ如何
(南部)
如是ハ前來ノ原由ト云フモノニアラズ
(栗塚)
双方ハ解除スルモ第三者ニハ及ボスベカラズ五百五十二條ノ精神ハ制限スルヲ得ザルモノナリ
第五百五十七條 若シ債權者カ連帶債務者ノ一人ニ相續シ又ハ連帶債務者一人カ債權者ニ相續シタルトキハ連帶債務ハ此債務者ノ部分ニ付テノミ消滅ス
若シ混同カ連帶債權者ノ一人ト債務者ノ間ニ行ハルルトキハ其混同ハ亦一分ニ付テノミ成ル
(栗塚)
本條連帶債務者一人ト云フハ連帶債務者ノ一人ト云フベキヲ反譯上ニテ寫字之ヲ脫セリ
第五百五十八條 若シ義務カ不可分ナルトキハ債權者ノ一人ト債務者ノ一人トノ間ノ混同ハ他ノ者ノ利益又ハ負擔ニ於テ全部ノ義務ヲ存立セシム然レトモ其身ニ就キ混同アリシ者ハ第四百六十六條ニ從ヒ一分ノ償金ヲ供シ又ハ受クルニアラサレハ全部ニ付キ訴追シ又ハ訴追セラルルコトヲ得ス
(栗塚)
訴追シ又ハ訴追セラルルコトヲ得ズハ訴追セラルルコトナシトスベキヤ否ノ論アリシモ尙ホ追正スベシ
第五百五十九條 若シ一人カ二人ノ連帶債權者又ハ二人ノ連帶債務者ノ分限ヲ併セタルトキハ權利又ハ義務ノ消滅ナシ其身ニ就キ併合ノ成リタル者ハ債權者ノ利益ニ從ヒ或ハ自己ノ名ヲ以テ或ハ己レカ相續シタル者ノ名及ヒ權利ヲ以テ全部ニ付キ訴追シ又ハ訴追セラルルコトヲ得
働方又ハ受方ニテ不可分ナル義務ニ付テモ亦同シ
(栗塚)
本條ハ報吿委員ヨリ起案者ニ吿問シタルニ未ダ返答ナシ本條ハ混同ニアラズ寧ロ併合ト云フベシ義務ト云フ資格ガ併合スルモノニシテ權利義務ノ混同ニアラズ
(鶴田)
然ラバ本條ハ刪除シテハ如何
(栗塚)
起案者ノ返詞ヲ待テ刪除スベシ
第五百六十條 若シ保證人カ債權者ニ相續シ又ハ債權者カ保證人ニ相續スルトキハ保證ハ其總テノ附從ノモノト共ニ消滅ス
若シ債務者カ保證人ニ相續シ又ハ保證人カ債務者ニ相續スルトキハ債權者ハ主タル債務者ニ對シテモ共同保證人ニ對シテモ又保證人ノ擔保人ニ對シテモ自己ノ訴權ヲ保存シ保證ニ附着シタル動產質及ヒ抵當モ亦存立ス
(栗塚)
本條二項モ前條ト同義ニシテ混同ニアラズ
(村田)
本條一項ハ債權ト債務トノ純然タル混同ニアラズ只間接ニ屬スルモノナリ
(栗塚)
保證人ト云ヘバ必ラズ義務アルモノナレバ全ク混同タルヲ得ベシ
(鶴田)
附從ノモノトハ如何
(栗塚)
保證ニ附隨シタル抵當ノ如キモノナリ
第六節 履行ノ不能
第五百六十一條 義務カ特定物ノ引渡ヲ目的トシタル場合ニ於テ其目的物カ債務者ノ過愆ナリ且債務者ノ遲滯ニ在ル前ニ滅失シ紛失シ又ハ通易スルコトヲ得サルモノト爲リタルトキハ其義務ハ消滅ス若シ義務カ定マリタル物ノ聚合中ヨリ取ルヘキ一箇ノ物ヲ目的トシタル場合ニ於テ其何レノ引渡モ不能ト爲リタルトキモ亦同シ
又爲シ又ハ爲ササルノ義務ハ其履行又ハ封止カ右同一ノ條件ニ於テ不能ト爲リタルトキハ消滅ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ「其何レノ引渡モ」ト云フヲカト修正シタリ
(渡)
其何レノ物ノ引渡ガトスベシ
可決ス
(鶴田)
遲滯ニ在ル前ト云フハ遲滯ニ付セラレザル前ニトシタシ
(栗塚)
此點ハ尙ホ詮議スベシ
第五百六十二條 若シ債務者カ意義ノ事及ヒ不可抗力ノ損失及ヒ危險ヲ擔任シ又ハ第三百五十六條及ヒ第四百四條ニ從ヒテ或ハ債權者ノ所爲ニ因リ或ハ義務ノ本性ニ因リ遲滯ニ付セラレタルトキハ其債務者ハ前記ノ原由ニ因テ義務ヲ免レス
犯罪ノ爲メ他人ノ物ヲ返還シ又ハ其物ノ滅失ヲ賠償スルノ責ニ任スル者ハ當然遲滯ニ在リト看做サル
(栗塚)
本條ハ損失及ビ危險ト云フヲ報吿委員ニテ危險及ビ損失トシタリ原文ノ意味ニ基キテナリ又二項ハ第三百八十八條ヲ參觀アリタシ又本條ノ註解ハ當然遲滯ニ在リト云フヲ金額ナレバ裁判所ヘ訴ヘシ以上ニアラザレバ利息ヲ生ゼズトアリシモ第三百八十八條ハ裁判所ニ訴フルヲ待タザルナリ此本文ハ別ニ其不都合ナキモ註解上ニ於テハ牴觸ヲ生ズベシ
(委員長)
前記ト云フハ前條ト云フコトカ
(栗塚)
然リ前條トセバ可ナリ
可決ス
第五百六十三條 債務者ハ自己ノ援唱スル意外ノ事又ハ不可抗力ヲ證スルノ責アリ
若シ債務者カ遲滯ニ在リナカラ第三百五十五條第二項ニ從ヒ其義務ヲ免ルル爲メ物カ債權者ノ方ニ在テモ等シク滅失スヘカリシコトヲ申立ツルトキハ其證ヲ立ツルコトヲ要ス
(栗塚)
第三百五十五條第二項ニ從ヒト云フハ同條ノ裏面ニ從フノ意味ナリ故ニ起案者ヘ質問シタルニ起案者ハ該條ノ二項ヲ本條ノ意義ニ修正スベシト云ヘリ故ニ本條ハ此儘ニシテ可ナリ
第五百六十四條 債務者カ履行ノ不能ニ因リテ義務ヲ免レタルトキハ其債務者ハ己レニ約セラレタル對價物ニ付テハ其履行ノ爲メ既ニ爲シタル出捐ノ限度ニ於テノミ權利ヲ有ス
(栗塚)
出捐ハ第三百十九條ノ捐給ト云フト同義ナリ故ニ該條ニ於テモ反譯上ニ於テ本條ト同樣出捐ト修正セリ
(鶴田)
本條ノ意義ハ如何
(栗塚)
例バ鐵砲製造ヲ注文セルニ鐵砲ハ通易物ニアラザルヲ以テ之ヲ製造スベカラザルコトトナレリ然ルニ其製造ノ爲メ買入レシタル鐵代金ニ付テハ代價ヲ請求スルノ權利アルベシ
(淸岡)
對價物トハ如何
(栗塚)
代價ト云フ譯ナリ
(淸岡)
物ト云フ字ヲ用ヒタルハ弊アリ
(栗塚)
對價ト云ヘバ如何
可決ス
第五百六十五條 物ノ全部又ハ一分ノ滅失ノ場合ニ於テ若シ債務者カ其滅失ノ爲メ第三者ニ對シ或ル補償訴權ヲ有スルトキハ債權者ハ物ニ付キ殘ル所ノモノヲ要求シ且右ノ訴權ヲ行フコトヲ得
(鶴田)
本條ノ意義ハ如何
(栗塚)
本條ハ例ヘバ甲者乙者ヘ對シ自己所有ノ確定物ヲ賣却セリ其際會丙者傍ヨリ其確定物ヲ壞滅シタリトセンニ此時ニ當テハ甲者ハ債務者ニシテ乙者ハ債權者ナリ其補償ヲ有スルモノハ所有權ハ契約ニ因テ起ルト云フ原則ニ從ヘバ乙者ヨリ直チニ其補償權ヲ行ヲ得ベシ別ニ甲者其補償權ヲ有スベキ理ナシ又本條如ク甲者羅馬法ノ原則ノ如ク其物未ダ引渡ヲ爲サザル以前ハ甲者ニ補償權アリトセバ乙者其訴權ヲ有スベキ譯ナシ此訴權ノ存スル點ハ如何ト云フニ付キ既ニ起案者ニ質問シ置ケリ
(鶴田)
補償權ハ乙者ニ存スベキモ甲者ヲシテ其訴權ヲ行ハシムルトスルニ不都合ナシト云フニアラン
(渡)
然ルベシ
(尾崎)
尙ホ起案者ノ回答ヲ待ツベシ
第七節 銷除卽チ無効
第五百六十六條 無能力者ノ契約シタル義務又ハ錯誤ニ因テ承諾ヲ與ヘ、他ノ一方ノ強暴ニ因テ承諾ヲ嚇取セラレ若クハ其詭譎ニ因テ承諾ヲ騙取セラレタル人ノ契約シタル義務ハ五个年間ニ在テハ或ハ此等ノ者又ハ其代人ノ請求ニ因リ或ハ履行ノ訴ニ付キ是等ノ者ヨリ對抗シタル無効ノ抗辯ニ因リ裁判上ニテ銷除セラレ卽チ取消サルルコトヲ得
同一ノ期間ハ折損ニ付テノ銷除訴權ノ行用ノ爲メ又ハ折損ノ抗辯ヲ對抗スル爲メ成年者ニ訴與セラル但法律カ右ノ訴權又ハ抗辯ヲ一層短キ期間ニ制限シタル特別ノ場合ハ此限ニ在ラス
(栗塚)
本條ノ報吿委員ニテ冒頭無能力者ノ下「ノ契約シタル義務」ノ數字ヲ刪リ他ノ一方ノ上ニ「タル人又ハ」ノ數字ヲ挿入シ五个年間ニ在テハト云フ「ニ在テ」ノ三字ヲ刪リ又二項ハ銷除訴權ノ行用ノト云フヲ銷除訴權ヲ行フトシ抗辯ヲ對抗スルトアルヲ抗辯ヲ援唱スルト修正セリ
(委員長)
折損ハ相續ノトキハ如何
(栗塚)
四分ノ一ナリ
(松岡)
抗辯ヲ援唱スルト云フ修正ハ原案ノ如クナシ置キ對抗ノ字ヲ修正シテハ如何
(鶴田)
銷除ト取消トハ差異アルカ
(栗塚)
差異ナシ
(南部)
之ヲ銷除シ卽チ取消スコトヲ得トスベシ
(淸岡)
五个年間トシタルハ如何
(栗塚)
此條ハ五个年間トシタルモ第六百八十條ニテ其區別ヲ爲シタルナリ
第五百六十七條 此時効ノ期間ハ強暴ノ場合ニ於テハ其強暴ノ止ムマテ錯誤ノ場合ニ於テハ其錯誤ヲ認メ知ルマテ詭譎ノ場合ニ於テハ其詭譎ヲ見出タスマテ無能力ノ場合ニ於テハ其無能力ノ止ムマテ停止セラル
然レトモ喪神ノ爲メノ禁治產者又ハ瘋癲者ト爲シタル合意ニ關シテハ此時効ハ是等ノ者カ能力ヲ恢復シタル以來其承諾シタル所爲ノ要旨ノ通知ヲ受ケ又ハ其所爲ヲ知リタル後ニアラサレハ經過シ始メス
法律上治產ヲ禁セラレタル處刑言渡サレ人ニ關シテハ無効ノ訴權及ヒ抗辯ハ其者ノ爲メニモ又之ニ對シテモ其刑期滿了以後ニアラサレハ時効ニ係ラス
成年者ノ折損ノ場合ニ於テハ時効ハ契約ノ時ヨリ經過シ始ム
其他免責時効ノ停止及ヒ中斷ノ通常ノ原由ハ此時効ニ之ヲ適用ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ處刑言渡サレ人ヲ處刑人ト改ム
(淸岡)
喪神ハ喪心トシテハ如何
(栗塚)
吾輩ノ考フル所ニテハ心ハ愛ノ出ル源ニシテ神ハ智ノ出ル源ナリ喪心ト云ヘバ薄情トナリ喪神ト云ヘバ智覺ヲ失シタルモノトナルベシ
(松岡)
哲學上ニテハ然ルベキカモ知ルベカラズト雖モ矢張喪心トシテハ如何
(鶴田)
經過シ始メズト云フハ經過ヲ始メズトシテハ如何
(栗塚)
此點ハ動詞ヲ用ヒタルヲ以テ經過シ始メズトシタルノミ又喪神ハ喪心トスルノ當否如何ハ尙ホ反譯局ニ詮議スベシ
(松岡)
瘋癲者ト云フ字ハ禁治產者ノ上ニ置示シテハ如何
(栗塚)
喪神者ハ禁治產ヲ受クルモノト受ケザルモノトアリト雖ドモ瘋癲者ハ必ラズ禁治產ヲ受クルモノナリ何トナレバ喪神者ハ一旦ノ發病ナルモノアルガ故ニ如是モノニ對シテハ禁治產ヲ爲サザルナリ此點ニ對スル禁治產ニ關シテハ人事篇ニ於テ規定セラルベシ
(鶴田)
浪費者ノ治產禁ハ包含セザルカ
(栗塚)
其點ハ人事篇ニ於テ規定セザルベカラズ人事篇ニ於テ無能力トナリシトキハ本條第一項ニ包入スベシ
(鶴田)
免責時効云々ハ此時効ヲ適用ストハ如何
(栗塚)
免責時効ノコトハ證據篇ニ於テ定ムベシ其方法ハ本條ニモ之ヲ適用スト云フニアリ
第五百六十八條 若シ無効訴權ヲ有シタル人カ前記ノ期間ノ滿了以前ニ死亡シタルトキハ訴權ハ其相續人ニ移ル
右ノ訴權者ハ相續人ニ對シテハ若シ期間カ死者ニ對シ未タ經過シ始メサリシトキハ相續人ノ權利開始ノ時ヨリ又反對ノ場合ニ於テハ未タ經過セサル殘期ヲ以テ時効ニ係ル
(栗塚)
本條二項ノ右ノ訴權者ハト云フ者ノ字ハ寫字上ノ衍字ナリ又本條ハ報吿委員ニテ相續人ニ對シテヲ相續人ニ付テハトシタリ
第四百八十四條
(本條ハ曩ニ未決ニ附シタリ)
(今村)
商法ニテハ強制紙幣ト不強制紙幣ト貨幣ト銀行紙幣トヲ以テ償却ニ充ツルヲ得ベキモノトナシタルニ依リ本條モ起案者ニ質問シテ此等ハ皆償却ニ充テシメザルベカラズト云フヲ以テシタルニ起案者ハ民法ト商法トヲ雜糅ニ付スルヲ得ズ民法ニ支配セラルルモノハ強制ト不強制ヲ分知スルヲ得ザレバナリ又全價額ヲ有スル紙幣ノ如キハ今日全價額ヲ有スルモ明日ハ全價額ヲ有セザルニ至ル虞ナシトセズ若シ全價額ヲ有セザルニ至ルモ商人ニ在テハ損失ヲ免ルヘキノ方法ヲ求ムベキモ非商人ニ在テハ蓋シ然ルコトヲ得ザルベシ
(松岡)
要スルニ此點ハ政府ノ發行紙幣ハ其通用ヲ拒ムヲ得ズト云フノ意ナラン
(渡)
此點ハ然ルベシトスルモ強制通用ノ紙幣ト同性格タラザルニ至ルベシ商法ノ強制通用ハ非常ノ際ニ至テ發行シ其通行ヲ拒ムヲ得ザラシメザルニアリ然ルトキハ政府ヨリ發行スル紙幣ハ皆其通用ヲ拒ムヲ得ザルモノナレバ強制通用ニアラザルハナシ
(委員長)
兌換券ノ如キハ強制通用ノ紙幣ニアラズ不換紙幣ニアラザレバナリ
(松岡)
兌換券ト銀行紙幣ハ法律ニ於テ通用ヲ拒ムコトヲ得ザルモノトナセリ故ニ強制ノ性質ヲ有セリ
(委員長)
通用ニ付テハ之ヲ拒ムコトヲ得ザルモ價額ノ高低ハ政府モ之ヲ強制スルヲ得ザルモノナリ
(淸岡)
全價額ヲ有スル紙幣トシテハ如何
(松岡)
全價額ヲ有スル紙幣トシタルトキハ市場ノ價額ハ高低頻數ニシテ政府ハ頗ル困難ニ陷ルベシ
(栗塚)
強制通用ト云フハ原文ニハ相場ヲ許サザル價額ヲ強定シタル紙幣ト云フ意ニアリ
(委員長)
民法ノ原案ノ儘ニスレバ銀行紙幣ノ如キハ其通用ヲ拒ムモノアルヤモ知ルベカラズ又商法ノ原案ニスレバ非商人ニシテ強制紙幣ト其他ノ紙幣トヲ甄別スルヲ得ズト云フニアリシガ如是クニ民商ヲ區別シ置クモ可ナルヤ否
(今村)
銀行紙幣ノ如キハ決シテ強制紙幣ニアラズ此紙幣ヲ以テ通常ノ通貨ト認ムルヲ得ザルナリ
(淸岡)
銀行紙幣ヲ以テ強制通用トセザルトキハ日本ノ銀行ハ半過破產スルニ至ルベシ
(松岡)
民法草按ニ於テ強制紙幣ト云フハ政府發行ノ紙幣ナレバ相場ノ高低アルモ否ラザルモ其償却ニ充ツベシト云フニアリ
(渡)
民法ハ此儘ニ議定シ商法ハ商法ニテ此點ニ關スル所ヲ論究シタシ
(淸岡)
見換券ノ如キハ政府ヨリ發行スルモ強制紙幣ニアラズト云フニアラズヤ故ニ兌換券ヲ以テ其使用ニ充ツルヲ得ザルニ至ルベシ然ルトキハ兌換券ハ通用ヲ拒マン銀行紙幣ハ強制紙幣ニアラズト云ニ依リ其通用ヲ拒マルルニ至テハ銀行ハ忽チ破產スベシ
(栗塚)
商事社會ニ在テハ廣ク其通用ヲ得セシメ民法ニ於テハ強制紙幣ノ外紙幣ハ通用ヲ拒ムコトヲモ得セシメザルベカラズ
(尾崎)
裁判上ニ於テ強制通用ニアラザル卽チ銀行紙幣ノ如キハ其通用ヲ拒ムヲ得ベシト云フ判決ヲ下サザルベカラザルニ至テハ實ニ容易ナラザルベシ
(栗塚)
實際上ハ困難ニ陷ルコトナカルベシ紙幣ノ通用ハ其信用如何ニアルモノニシテ不強制ナルニ依ルベカラザレバナリ
(今村)
民法ニ於テハ民法ノミ獨立ニ確定シ銀行紙幣ニ關スル如キハ別ニ論究スルヲ可トス
(尾崎)
然リ
(委員長)
強制紙幣ハ銀行紙幣モ包含スルカ否等ノ如キハ起案者ニ質問スベシ
(渡)
此點ハ尙ホ未定ニ附シ更ラニ起案者ニ質問ノ上議決スベシ本條ノ精神ハ銀行紙幣ノ如キモ其通用ヲ拒ムヲ得ザルコトニセザレバ之ヲ僅カニ商業社會ノ一部ニノミ通用スルコトニシテ非商人ニハ之ヲ拒ムヲ得ルモノトセバ財政上實ニ非常ノ不都合ヲ演ズルニ至ルベシ
(松岡)
強制通用ト云ヘバ佛獨ニ於テハ如何ノ區域範圍アルカヲ民商兩起案者ニ質問シタシ且ツ「ロヘスレール」ハ殊ニ強制通用ト銀行紙幣ト全價額ヲ有スル紙幣トノ區別ヲ聽キタシ
(委員長)
其主義ヲ質問スルハ可ナリト雖ドモ其意義ノ明ラカナラズト云フハ多數ニアラザルヲ以テ議定スベシト云フ說多ケレバ可否ヲ決スベシ
(淸岡)
強制通用ト云フニ付テハ泰西ノ學說モアルカモ知ルベカラザルニ付キ尙ホ質問シタシ
(今村)
佛國ニハ革命ノ頃日本銀行ノ如キモノアリテ其銀行手形ハ之ヲ取ルモノト拒ムモノトアリシガ獨乙ノ爲メニ敗績ヲ取リシヨリ償金セザルベカラザルニ至リ通貨缺乏シタルニ依リ其手形ヲ強制紙幣ト爲シタルガ如キアリ
結局銀行紙幣ハ強制通用ニ準ズベキヤヲ問フニ決ス
第五百六十九條 未成年者又ハ禁治產者ノ財產ニ關シ後見人ノ爲シタル合意及ヒ所爲ハ若シ無能力者ノ利益ニ於テ法律ノ定メタル方式及ヒ條件カ遵守セラレサルトキハ之ヲ銷除スルコトヲ得
總テノ場合ニ於テ禁治產者ノ爲シタル所爲要セラレタル方式ナクシテ未成年者ノ爲シタル所爲及ヒ裁判上ノ輔佐人ノ輔佐ナクシテ浪費者又ハ白痴者ノ爲シタル所爲ニ付テモ亦同シ
右ハ有能力者ノ爲メ銷除卽チ無効ノ訴權ヲ開始スル原由ニ付キ此等ノ訴權ノ行用ヲ妨ケス
(栗塚)
本條第二項ハ報吿委員ニテ禁治產者ノ爲シタル所爲ニ付テハ總テノ場合未成年者ノ爲シタル所爲ニ付テハ要セラレタル方式ナキトキ及ビ浪費者ノ爲シタル所爲ニ付テハ裁判上ノ輔佐人ノ輔佐ナキトキモ亦同ジト修正ス原案ノ白痴者ヲ刪除セシハ報吿委員ニテモ論說紛出シ尙ホ浪費者ヲモ刪除セント云フ議論モアリシ何トナレバ白痴者ト契約シタルモノハ之ヲ無効トスルト云ヘバ通常人ハ甚ダ迷惑ナルベシ何トナレバ今其白痴者タルヲ知ラズ契約センニ爾後之レガ白痴者トナルヲ以テ其契約ハ無効トナレバナリ浪費者モ其害ナキニアラザルモ既ニ喪神者ト契約シタル其者ノ經時効ニ關スル規定スラ存在スルヲ以テ浪費者モ之ヲ記示スルヲ可トスベシ白痴者ト雖ドモ禁治產ヲ受クルニ至レバ無論契約ハ無効タルヲ免レザルベシ
(松岡)
此點ハ浪費者ト契約シタルモノハ無効トスルノ旨趣ナルカ
(栗塚)
然リ
(松岡)
浪費者ト云フモ如何ナル度マデヲ制限スルカハ一問題ナリ白痴者ハ之ヲ刪除スルヲ可トス
(南部)
白痴者瘋癲者ハ禁治產ヲ受クルモノヲ契約無効トスベシ
(鶴田)
白痴ト云ヘバ喪神ノ爲メ禁治產者トナルモノハ契約無効トナルベシ禁治產ヲ受クザルモノハ其契約決シテ無効タラザルカ
(松岡)
瘋癲白痴ノ如キ其區分如何
(栗塚)
瘋癲者ニ關シテハ人事編ニ於テ明定セラルベキナラン
(鶴田)
有能力者ノ爲メ銷除云々ハ如何
(栗塚)
無能力者無効ノ訴權ハ前二項ニ止マラズ有能力者ガ無効訴權ヲ爲スベキ原由ニ付テハ無能力者モ亦タ其原由ニ依テ無効訴權ヲ爲スヲ得ベシ
(委員長)
冒頭右ハト云フ字ハ不都合ニアラズヤ又トシテハ如何
(南部)
此點ハ右ノ規則ハト云フ譯ニ付キ右ハト云ヲ宜シトス
(鶴田)
三項ハ頗ル暗澁ナリ
(栗塚)
有能力者ノ爲メ銷除卽チ無効ノ訴權ハ無能力者之ヲ行用スルヲ妨ゲズト云フ意ナリ
(委員長)
右ハト云字ヲ修正セバ他ハ原案ノ儘ヲ可トス
(松岡)
右ハ有能力者ノ爲メ定メタル無効訴權ノ行用ヲ妨ゲズト云ヘバ明了ナルベシ
(栗塚)
右ハ有能力者ガ銷除卽チ無効ノ訴權ヲ此等ノ訴權ノ行用ヲ妨ゲズト云フ意義ナリ
(淸岡)
右ハ有能力者ノ爲メ開始スル原由ニ付キ銷除卽チ無効ノ訴權ノ行用ヲ妨ゲズトシテハ如何
(委員長)
可ナルベシ有能力者ノ爲メ開始スル原由ニ付キト云フハ宜シカラズ
(松岡)
民法ノ直譯ハ如何アルヤ
(栗塚)
右ハト云フハ但シト云フ位ノ意味ニシテ有能力者ノ爲メ銷除卽チ無効ノ訴權ヲ妨ゲズ夫ノ原由アルトキハト云フニアリ
遂ニ右ハト云フ字ヲ刪リ有能力者ノ爲メ銷除卽チ無効ノ訴權ヲ開始スル原由アルトキハ此等ノ訴權ノ行用ヲ妨ゲズト修正ス
(委員長)
本條一項ハ後見人ノ文字アルモ管財人ノ文字ナシ管財人ヲ記示セズデハ不都合ニアラズヤ
(村田)
「ボアソナード」ハ禁治產者ノ場合ハ大低後見人トセリ破產ノトキハ之ヲ管財人ト云ヘリ
(委員長)
未丁年者ヘ對シ後見人ト云フハ勿論ナルモ禁治產者ヘ對シテ後見人ト云フハ當否詮議シタシ又輔佐ト云フ字ハ輔助トシテハ如何
(栗塚)
反譯局ヘ命ジテ輔助ト爲サシムベシト可決ス
(松岡)
第一項ハ「條件カ」ト云フヲ條件ヲトスベシ
可決ス
第五百七十條 何等ノ特別ナル分式又ハ條件モ要セラレサル合意又ハ所爲ニ關シテハ若シ未成年者一人ニテ其合意又ハ所爲ヲ承諾シタルトキハ銷除訴權ハ其未成年者ノ爲メ金圓ヲ以テ若クハ其他ニテ見積ルコトヲ得ヘキ折損卽チ損害アルトキニアラサレハ受理セラレス
若シ法律カ保管人ノ輔佐ノミヲ要シタルトキ其輔佐ナクシテ既脫後見ノ未成年者ノ爲シタル右ト同一ナル本性ノ所爲ハ折損ノ爲メニアラサレハ之ヲ攻撃スルコトヲ得ス
折損ハ所爲カ爲サレタル當時ニ於テ之ヲ見積リ偶然及ヒ不期ノ事件ヨリ生スル折損ハ之ヲ計算セス
(栗塚)
若クハ其他ニテノ文字ハ報吿委員ニテ刪除セリ金圓ヲ以テ見積ルコトヲ得ベキト云ヘバ充分ナリ何トナレバ其他折損ト云フ場合ハ殆ンドアラズ註ニハ妓樓アル地ノ間ニ借家スルガ如キ品徳ニ害アレバナリト云フニアルモ如是ハ緊要ノ點ニモアラザレバ金圓ヲ以テ見積ルコトト云ヘバ可ナリ
(村田)
折損ハ十二分ノ七ナルカ
(栗塚)
此點ハ否ラズ成年者ニ對シテハ賣買ハ十二分ノ一ナリ分派ハ四分ノ一ナリ幼年者ニ對シテハ其制限ナク毫厘ノ損失モ之ヲ折損ト云フナリ
(淸岡)
然ラバ折損ト云ハズ損害ト云フ文字ノミニテ足レリ
(今村)
幼者ヲ保護スルハ善事ナルベシト雖ドモ保護ハ必ラズ善ナリト云フベカラズ保護ヲ受ケルモノニハ利アリト雖モ保護ヲ受ケザル者ニ力於テハ害アレバナリ金圓ヲ以テ見積ルコトヲ得ベカラザルモノハ殆ンド直接ノ損害アルコトナシ
(委員長)
折損ハ刪除スルカ
(栗塚)
折損ハ存置セラレタシ銷除訴權ノ一タルヲ示スベキモノナレバナリ
(淸岡)
「之ヲ見積リ偶然及ヒ」トハ如何
(栗塚)
見積リ其偶然トシ不期ノ事件ヨリ生ズル折捐ハトアル折損ノ字ヲモノハト改修スベシ
可決ス
(鶴田)
二項ノ右ト同一ナル本性ノ所爲トハ如何
(栗塚)
第一項ハ何等ノ特別ナル方又ハ條件モ要セザルト修正スルカ
(松岡)
然リ
(栗塚)
二項ノ右ト同一ナル本性ノ所爲トハ特別ナル方式又ハ條件モ要セザル合意又ハ所爲ヲ指スモノナリ直譯ニスレバ右ト同一ナル本性ガ既脫後見ノ未成年者ノ爲シタルコトニシテ法律ガ保管人ノ輔佐ヲ要シタルトキ其輔佐ナキトキハ折損ノ爲メノミニアラザレバ之ヲ攻撃スルヲ得ズト云フ譯ナリ
第五百七十一條 未成年者ノ爲シタル成年タルノ單純ナル陳述ハ其無能力又ハ折損ノ爲メノ復初ニ妨ヲ爲サス但其成年タルコトヲ信セシムル爲メ詐術ヲ用ヒタルトキハ此限ニ在ラス
其他ノ無能力者ノ虛僞ノ陳述ニ付テモ亦同シ
(淸岡)
詐術ノ手段ヲ爲サザレバ訴陳ニ屬スルモ不都合ナキカ
(栗塚)
然リ
第五百七十二條 商業ヲ爲シ又ハ工業ヲ行フコトヲ許サレタル既脫後見ノ未成年者ハ其商業又ハ工業ニ關スル所爲ニ付テハ成年者ト看做サル
然レトモ其未成年者ハ未成年ニ關スル普通法ニ從フニアラサレハ自己ノ不動產ヲ移付スルコトヲ得ス
(松岡)
商法第十二條ニテハ成年者モ未成年者モ等シク自己ノ不動產ヲ移付スルコトヲ得ル筈トナリシヲ以テ本條ハ牴觸ニ屬ス
(南部)
不動產ヲ移付スルコトヲ得ズトアルニ書入質ヲ爲スニハ妨ゲナシトアルハ奇怪ニアラズヤ何トナレバ若シ其辨濟ヲ得レバ移付スルコトトナレバナリ
(松岡)
本條二項ハ刪除スベシ
可決ス
第五百七十三條 婦ノ所爲及ヒ約務ハ配偶者ノ互相ノ權利及ヒ本分ニ關シ此法律ニ定メタル場合ニアラサレハ婦又ハ夫ノ請求ニ因テ之ヲ銷除スルコトヲ得ス
(鶴田)
此場合ハ規定アルカ
(栗塚)
婚姻契約ト夫婦財產ノ場合ニ規定アリ
第五百七十四條 承諾ノ瑕疵又ハ折損ノ爲メ所爲若クハ約務ノ銷除ヲ得タル成年者ハ右ノ所爲ニ因テ受取リタル總テノモノヲ返還スルノ責ニ任ス
無能力者ニ關シテハ其無能力者カ取消サレタル所爲ニ因テ仍ホ現ニ利スルモノニアラサレハ返還スルノ責ニ任セス
右ノ返還ニ於ケル訴權ハ通常ノ時効ニ因ルニアラサレハ消滅セス
(栗塚)
本條末項「ニ於ケル」ノ四字ハ報吿委員ニテ刪除ス
(松岡)
二項ハ取消サレタル所爲トアルハ銷除ヲ得タル所爲トシテハ如何
可決ス
第五百七十五條 無能力、錯誤、若クハ強暴ニ因リ瑕疵ヲ付セラレ又ハ折損ノ爲メノ銷除ニ服シタル不動產ノ移付ハ第三百七十二條及ヒ第三百七十三條ニ記載シタル區別及ヒ條件ニ從ヒ第三得取者ニ對シテ取消サルルコトヲ得
(栗塚)
瑕疵ヲ付セラレハ瑕疵ヲ付セラレタル不動產ノ移付ト云フ意ナリ
(渡)
瑕疵アルトシテハ如何
(栗塚)
瑕疵アルト修正スレバ瑕疵アル不動產ノ移付トシ云々服シタル移付トスベシ
(南部)
其修正ハ不可ナリ
(栗塚)
第三得取者ニ對シテ取消サルルコトヲ得トアルハ取消スコトヲ得トスベシ
可決ス
第五百七十六條 折損ノ爲メノ銷除ノ訴ニ於ケル被吿ハ事實ノ判決カ攻撃スルコトヲ得サルモノト爲ルマテハ證明セラレタル折損ノ全部ノ償金ト裁判費用トヲ原吿ニ提供シテ其訴ノ効力ヲ停ムルコトヲ得
(尾崎)
本條ハ確定裁判ニ至ルマデ不足金ヲ提供シテ原吿ノ訴訟ヲ停ムルヲ云フカ
(南部)
然リ
(鶴田)
願下ヲ爲サシムルヲ云フ乎
(尾崎)
控訴ノ判決後ハ攻撃スルヲ得ザルモノナレバ控訴裁判濟マデヲ云フナラン
(南部)
控訴裁判濟ノ後ト雖ドモ大審院之レヲ破毀シタルトキハ攻撃スルヲ得ベキモノトナルベシ
(栗塚)
第五百六十九條ニ於テ委員長禁治產者ノ後見人ヲ管財人ニアラザルカト云ハレシガ詮議ヲ遂ゲタルニ後見人ナリシト云フニアリ
第五百七十七條 無効卽チ銷除ノ訴權ハ第五百六十六條乃至第五百六十八條ニ定メタル時効ノ外利害ノ關係アル當事者カ第五百六十七條ニ從ヒ訴權カ時効ニ係ルヘキモノト爲リタル當時ノ後其取消スコトヲ得ヘキ合意ヲ或ハ明示或ハ默示ニテ認定シタルトキハ其訴權ヲ最早行フコトヲ得ス
(栗塚)
本條ハ時効ノ外ト云フヲ報吿委員ニテ時効ニ因リ消滅スルノ外ト修正ス
(松岡)
通常ナレバ五年認定スレバ其時ヨリ時効ヲ得ベキカ
(栗塚)
然リ
(淸岡)
當時ノ後其取消スコトヲ得ベキトハ如何
(栗塚)
最初ハ取消スコトヲ得ベキ合意ヲ認定シタルトキハ其訴權ヲ行フコトヲ得ズ如何シテ認定スルカナレバ明示又ハ默示ニテト云フ意ナリ
(淸岡)
當時ノ二字ヲ刪除スベシ
可決ス
(松岡)
本節ハ銷除卽チ無効トアルニ本條ニテ無効卽チ銷除ト順置シタルハ如何
(栗塚)
深キ意味ナシ
(鶴田)
時効到着シタルトキハ如何
(南部)
時効到來シタルトキハ認定スルニ及バサルナリ
第五百七十八條 明示ノ認定ハ取消スコトヲ得ヘキ合意ノ要旨ヲ記シ合意ニ瑕疵ヲ付スル銷除ノ原由ヲ指示シ及ヒ無効ノ請求ヲ抛棄スル意ヲ述ヘタル明確ナル證書ヨリ生ス
若シ所爲ニ數個ノ瑕疵アルトキハ明示ノ認定ハ特ニ記載セラレタル一個又ハ數個ノ瑕疵ノミヲ銷除ス
成年者ノ利益ニ於テ折損ノ爲メ銷除スルコトヲ得ヘキ所爲ハ明示ノ認定ノミヲ受クルコトヲ得ヘク且其認定ハ銷除ニ服スル證書其モノニ存セサルコトヲ要ス
(栗塚)
本條末項證書其モノニ存セザルコトヲ要ストアルヲ報吿委員ニテ原證書ニ記載ナキコトヲ要スト修正セリ
(鶴田)
末項ノ意義ハ如何
(栗塚)
證書面ニ假令折損スルモ銷除セザルナリト云フコトノ記載アラザルヲ要スベシ
(松岡)
證書面ニ之ヲ認定シ其旨ヲ記載アルモノハ認定ノ効ナシト云フニアリ
(南部)
認定ハ證書ニ記載セザルヲ必要トスルト云フニアリ
(栗塚)
昔時ノ認定ハ眞個ノ認定ニアラズト云フ意ナリ
(委員長)
折損ノ爲メ銷除スルコトヲ得ベキ所爲ハ明示ノ認定ノミナラデハ受クルコトヲ得ズ且其認定ハ銷除ニ服スルコトヲ原證書三記載ナキコトヲ要ストコトヲノ三字ヲ挿入シテハ如何
(栗塚)
其修正ニテハ少シク原意ニ反ス
(松岡)
受クルコトヲ得ベクト云フハ何物カ之ヲ得ベキゾ
(栗塚)
其事柄ガ受クルコトヲ得ベキノ意ナリ
(南部)
此ノ明記アラザレバ權利者約束ヲ爲サザルニ至ルノ憂ヒアリ
(委員長)
銷除ニ服スルト云フモ未ダ服シタルモノニアラズ
(南部)
服スベキトシテモ可ナルベシ
(尾崎)
性質ガ銷除ニ服スルト云フ意義ナラン
(栗塚)
銷除ニ服シタルトシテハ如何
(淸岡)
服スルニテ可ナリ服スルト云ヘバ服スベキノ意アレバナリ
(栗塚)
服スベキト云フ意味トスレバ蓋シ吾々ノ解釋スル所ト異ナルベシ此點ハ銷除ニ服從シツツアル卽チ銷除ノ範圍内ニ在ルモノナレバナリ
(淸岡)
記載ナキコトヲ要スト云フハ記載セザルコトヲ要ストシタシ
(松岡)
セザルハ不可ナリ
(栗塚)
此點ハ銷除ニ服スル原證書ヨリ後ニ記示セザレバ不可ナリト云フ意味ナレバ修正モ其意味ニ基カザルベカラズ
遂ニ報吿委員ノ修正ニ可決ス
第五百七十九條 默示ノ認定ハ合意ノ全部若クハ一分ノ任意ノ履行又然ノミナラス異議ナク又異議ノ留保モナキ強制ノ執行ヨリ生ス又默示ノ認定ハ更改及ヒ物上又ハ對人ノ任意ノ擔保ノ付與ヨリ生ス尙ホ默示ノ認定ハ債權者ノ爲メニハ執行ノ目的ヲ以テスル裁判上ノ請求及ヒ取消スコトヲ得ヘキ合意ニ因リ得取シタル物ノ全部又ハ一分ノ任意ノ移付ヨリ生ス
默示ノ認定ニ關スル其他ノ場合ハ裁判所ノ査定ニ委ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項四行目「默示ノ認定」ノ五字ヲ刪リ又六行目「債權者ノ爲メニハ」ヲ「債權者ニ在テハ」ト修正ス
(村田)
對人ノ任意ノ擔保ト云フハ對人ノ擔保ノ任意ノト云ハザルベカラズ
可決ス
(委員長)
債權者ニ在テハ執行ノ目的ヲ以テスル裁判上ノ請求ト云フモノ何ヲ以テ默示ノ認定トナルカ
(栗塚)
例ヘバ甲者乙者ニ自己ノ所有地ヲ賣附ス其時甲者ハ乙者ノ其代價ヲ償却セザルニ付キ裁判所ヘ請求シタルトキハ爾後自己ニ折損アリトシテ無効ニ附スルコトヲ得ズ默示ノ認定アリト看做スモノナリ
(村田)
執行ヲ見ル爲メ裁判上ノ請求トシテハ如何
(委員長)
取消スコトヲ得ベキ合意ニ因リ云々トハ如何
(栗塚)
折損アルカ又ハ瑕疵アルニ付キ取消スヲ得ベキニ取消サズ其儘得取シテ他ニ賣附スルトキヲ云フナリ
第五百八十條 認定ハ無効訴權ヲ有スル者ノ特定ノ承權人ノ權利カ右ノ訴權ノ行用ニ繋ルトキハ其承權人ニ害スルコトヲ得ス
(栗塚)
幼年者自己ノ土地ヲ後見人ニモ謀ラス且手續ヲ經ス之ヲ他人ニ賣附セリ其時ハ幼年者ハ無効訴權ヲ有セリ又幼年者其土地ヲ後見人ニモ謀リ手續ヲ盡シテ賣附セリ是レ卽チ特定ノ承權人ナリ其場合ニ於テハ最初買得シタル權利者ハ幼年者ヲシテ認定セシメ特定ノ承權人ヲ害スルコトヲ得ズト云フニアリ
(淸岡)
本條ノ字面ニテハ說明委員ノ說明アリシ意味ヲ認ムル能ハズ
(栗塚)
右ノ訴權ノ行用ニ繋ルトキハ其承權人ニト云フ字ヲ除キ認定ハ無効訴權ヲ有スル者ハ其特定ノ承權人ノ權利ヲ害スルコトヲ得ズトセバ寧ロ解シ易キニアラズヤ
(尾崎)
第三ノ人ヲ害スル場合ニハ認定スルヲ得ザルナリト云フ譯ナラン
(栗塚)
然リ
(南部)
認定ハ銷除訴權ヲ有スル者ハ其銷除ニ服スル合意ヲ認定シテ特定ノ承權人ノ權利ヲ害スルコトヲ得ズトシテハ如何
(栗塚)
認定ハ無効訴權ヲ有スル者ノ特定ノ承權人ノ權利ヲ害スルコトヲ得ズトシテハ如何
可決ス
第五百八十一條 根本ヨリ無効ナル所爲ハ之ヲ認定スルコトヲ得ス但方式上無効ナル贈與又ハ遺囑ヲ相續人ヨリ認定スルコトニ關シ下ノ附錄ニ記載スルモノハ此限ニ在ラス
(栗塚)
附錄ト云フハ天然義務ヲ指スナリ
(松岡)
附錄ト云フ字ノ議ニ付キテハ決定シタルカ
(栗塚)
起案者ニ問合セタルニ起案者モ各國ノ法律ニハ附錄ト云フモノナキモ去レバトテ此點ハ篇部款節中ニ入ルヲ得ザレバ己ムヲ得ズ之ヲ附錄トシタリト云フニアリ
第五百八十二條 算數、氏名、日附又ハ場所ノ錯誤ノ改正ヲ目的トスル訴權ハ時効ニ係ルコトヲ得ス但右ニ關係スル權利ノ時効ヲ妨ケス
(栗塚)
氏名ト云フ字ハ前ニハ名稱トアリ一定セザルニ付キ反譯局ニ協議ヲ遂クベシ
第八節 廢罷及ヒ解除
第五百八十三條 債權者ノ訴害ニ於テ契約シタル約務ノ廢罷及ヒ廢罷訴權ノ時効ハ第三百六十條乃至第三百六十四條ニ之ヲ規定ス
贈與者及ヒ其相續人ノ利益ニ於テ設ケタル廢罷ノ特別ナル原由ハ贈與ノ事項ニ之ヲ規定ス
無異議
第五百八十四條 義務ハ第四百二十九條、第四百四十一條及ヒ第四百四十二條ニ從ヒ明示ニテ要約セラレ又ハ裁判上ニテ得ラレタル合意ノ解除ニ因テ消滅ス
解除カ裁判上ニテ請求セラルルコトヲ要スルトキハ解除訴權ハ通常ノ時効時間ノ經過ニ因ルニアラサレハ時効ニ係ラス但法律カ一層短キ期間ヲ定メタル場合ハ此限ニ在ラス
(栗塚)
一層短キ期間トハ第七百二十三條ノ買戻ニ關スル期間ナリ又曰要約シトシ得ラレタルヲ得タルトスベシ
(委員長)
解除訴權ハ通常ノ時効時間ノ經過ニ因ルニアラザレバ時効ニ係ラズト云フハ通常ノ期間卽チ三十年ヲ經過シテ開始スルト思惟セラルルニアラズヤ
(栗塚)
ノ經過ノ三字ヲ刪レバ可ナラン
可決ス
第九節 時効
第五百八十五條 免責時効ハ第五編第二部ニ於テ得取時効ト共ニ之ヲ規定ス
無異議
附錄 天然義務
第五百八十六條 天然義務ノ履行ハ訴ノ方法ニ因テモ又相殺ノ抗辯ニ因テモ之ヲ要求スルコトヲ得ス其履行ハ債務者ノ方ニ在テ任意ナルコトヲ要シ其履行ハ法律ニ因テ債務者ノ善意ト理心トニ委セラル
又天然義務ハ第三者ニ因リ或ハ債務者ノ名ヲ以テ或ハ自己ノ名ヲ以テ辨償セラルルコトヲ得
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ要シノ下ハ法律ハ之ヲ債務者ノ善意ト理心トニ委スト修正ス理心ノ字ハ報吿委員ニ於テ研究シタルモ事物ヲ辨別スルト云フニ妥當ノ字ヲ得ズ已ムヲ得ズ理心ノ字ヲ使用セリ
(淸岡)
理心ト云フ熟字アルヲ聽カズ道心トシテハ如何
(尾崎)
良心トシテハ如何
(栗塚)
良心ト云ヘル程度ニ浸入シタルニアラズ
(委員長)
道心トスルノ可否ヲ反譯局ニ詮議スベシ其議ニ決ス
(松岡)
天然義務ハ任意ナルコトヲ要シトシテ又法律ハ之ヲ債務者ノ善意ト理心トニ委セラルト云フハ如何
第五百八十七條 債務者自身又ハ第三者カ任意ニテ辨濟シ又ハ供給シタルモノハ不當ノ辨濟シタリトシテ之ヲ還償セシムルコトヲ得ス
天然債務ヲ辨償スル意思ノ證カ事實ノ狀況ヨリ生スルニ於テハ辨濟ノ原由ヲ明示スルコトヲ必要トセス
(尾崎)
第二項ハ原吿ニ於テ辨償シタルヲ取戻サントスルトキハ債權者ヨリ其辨償スルノ意思ノ證ガ事實ノ狀況ヨリ生スルニ於テハ辨濟ノ原由ヲ明示スルニ及バズト云フニアルカ
(栗塚)
然リ
(鶴田)
本條ハ文面ニテハ說明委員ノ云ハルル如ク了解シ難シ
(栗塚)
要スルニ證擧ハ何人ヨリ擧示スベキモノカト云フヲ示セリ
(鶴田)
債務者義務ヲ償還スルニ事實ノ情況ニ明ラカナルニ於テハ別ニ其原由ヲ明示スルニ及バズト云フノ意ニアラズヤ
(栗塚)
其解釋ニテモ通ゼザルニアラズト雖ドモ承前ノ意味ヨリ觀察スルトキハ被吿ニ擧證ノ責ナシト云フニ止マルベシ
(松岡)
二項ニ天然義務ト云フ字ヲ置キシハ如何
(南部)
天然義務ト云ヘバ不當ニ辨償セザルヲ表示スベキヲ以テナリ
(松岡)
一項ノ不當ニ辨濟シタリトシテト云ヘルニ天然義務ノ字ナキハ如何
(栗塚)
天然義務ハ不當ノ辨濟ニアラザルヲ以テ之ヲ明示スルヲ要セザルベシ
第五百八十八條 任意ノ履行ナキトキハ天然義務ハ債務者ノ明確ナル認知、第三者ニ因レル保證債務者若クハ第三者ノ方ニ於ケル更改又ハ動產質若クハ抵當ノ付與ノ目的タルコトヲ得
此諸種ノ場合ニ於テ認知セラレ更改セラレ又ハ擔保セラレタル天然義務ハ通常ナル法定ノ効力ヲ生ス
(鶴田)
本條ハ天然義務ノ法定義務ニ變換スルヲ云ヒシモノカ
(栗塚)
然リ
(尾崎)
任意ノ履行ナキトキハト云フハ「ナキモ」ト云フ譯ナルベシ
(栗塚)
此點ハ天然義務ノ履行ノ目的ハ業已ニ之ヲ明示シタルガ又本條ノ如キ云々ノ目的トスルヲモ得ベシト云フノ義ナリ
(松岡)
天然義務ト云フ事實ハ古來習慣上ニハ美風アルモ此法頒布シタルトキハ自ラ牴觸ヲ生ズルニ至ルベシ
(栗塚)
佛伊兩國ノ民法ニモ天然義務ハ僅ニ之ヲ規定セルモ「ボアソナード」ハ學者ノ說ニ依リ思心ナク此ノ數條ヲ規定シタリ
(淸岡)
天然義務ハ社會ノ道徳上ニ於テハ害アリ
(委員長)
「ボアソナード」ハ道徳ハ宗教家ニ託スルモ學校ノ教育ニ任スルモ外ニ法律ヲ以テ保護スルニアラザレバ獨立スルヲ得ズト云ヘルコトアリ天然義務ハ世ノ道徳ヲ鞏固ニスルノ規定ト云フベシ
(松岡)
乞食ニ惠與スルハ道徳ナリト雖ドモ元ト權利義務アルヲ認知スルヲ天然義務ト云フベシ
第五百八十九條 第三者カ債務者ノ代理ナクシテ天然義務ノ履行、更改又ハ擔保ヲ爲シタルトキハ債務者ハ償還ニ付テハ天然義務ノミヲ負擔ス
(栗塚)
本條ハ假令バ弟ノ天然義務ニ付其兄之ヲ履行シタルトキハ之レガ弟タルモノ其兄ニ對シ天然ノ義務ノミヲ負擔スルモノナリ
(委員長)
代理ナクシテハ代理アラズシテトスベシ
卽チ修正ス
第五百九十條 天然義務ノ任意履行其認知又ハ其擔保ハ移付シ又ハ義務ヲ負擔スルノ能力アル人ニ出ヅルニアラザレバ有効ナラズ
(栗塚)
本條ハ任意履行ノ下ヘハ起案者ニ協議シテ更改ノ二字ヲ挿入シ何レノ其ノ字ヲモ之ヲ刪除スベシ
第五百九十一條 天然義務ハ法定ノ承諾ヲ排除スル錯誤ノ爲メ目的ノ指定ノ缺無若クハ不足ノ爲メ又ハ要セラレタル公式ハ缺無ノ爲メ初ヨリ無効ナル合意ヨリ生スルコトヲ得
然レトモ方式ノ缺無ノ爲メ無効ナル贈與ニ關シテハ贈與者自ラ天然義務ノ履行又ハ認知ヲ爲スコトヲ得ス其相續人又ハ承權人ノミ之ヲ爲スコトヲ得
此條例ハ方式上無効ナル遺囑ヲ遺シタル者ノ相續人ニ之ヲ適用ス
(尾崎)
方式ノ缺無ノ爲メ無効ナル贈與ニ關シテハ贈與者自身ハ天然義務ノ履行又ハ認知ヲ爲スコトヲ得ズトアル其相續人又ハ承權人ノミ之ヲ爲スコトヲ得ト云フ反對ノ理由ハ甚微弱ナルベシ
(栗塚)
逐次ノ世代ニ居ルモノハ自然屬望ヲモ薄弱ナラシメザルベカラズ何トナレバ其財產ハ遞次相續中蕩盡スルヤモ料ルベカラザレバナリ
(鶴田)
承諾ヲ排除スル錯誤トハ如何
(栗塚)
此點ハ要スルニ天然義務ハ無効ヨリ生ズルコトヲ得ト云フ譯ナリ
(委員長)
然ラバ天然義務ハ正當ノ義務ニアラズ法律上ノ缺點アル義務ト云フガ如クナルニアラズヤ
(栗塚)
然リ天然義務ハ法律上ノ缺點アル權利ヨリ生ズルモノナリ
(委員長)
天然義務ハ正當ナル權利ヨリ生ジ又缺點アル權利ヨリモ生ズト云ハザレバ道理ニ適セリト云フベカラス
(栗塚)
法律ガ制裁ヲ附セザル義務ト云フベキモノナリ
第五百九十二條 原由ノ缺無又ハ不法ノ原由ノ爲メ無効ナル合意ハ天然義務ヲ生スルコトヲ得ス公ノ秩序ノ爲メ契約ノ目的トスルコトヲ禁セラレタル物ヲ目的ト爲ス合意ニ付テモ亦同シ
(委員長)
原由ノ缺無トハ如何
(栗塚)
賭博ノ如キ確存セザル貸借ヲ云フ
第五百九十三條 他人ノ所爲ノ約束及ヒ他人ノ利益ニ於ケル要約ニ關シ第三百四十三條及ヒ第三百四十四條ニ宣言シタル無効ハ諾約者ノ方ニ於ケル天然義務ノ作成ノ妨ト爲ラス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ宣言シタルヲ定メト修正ス
(松岡)
天然義務ノ作成ノ妨ト爲ラズトハ天然義務ノ生ズルコトヲ得ト其義務ノ生ズルコトヲ得ズトノ仲間ニ存スルモノト云フベシ
(委員長)
約束ト云フハ如何
(栗塚)
フロメシユスハ約束トス諾約ヲ云フナリ
第五百九十四條 債務者カ不當ノ利得、不正ノ損害又ハ法律ノ條例ニ依リ法律上義務ヲ負擔スルコトアルヘキ場合ノ外債務者ハ此名義ニテ天然義務ヲ負擔シタリト有効ニ自ラ認ムルコトヲ得
(鶴田)
此名義ト云フハ不當ノ利得、不正ノ損害法律ノ條例ノ三個ヲ指スカ
(栗塚)
然リ
(鶴田)
右ハ法律上ノ義務ヲ負擔スベキモノナルニ又此名義ヲ以テ天然義務ヲ負擔スルコトアリトハ如何
(淸岡)
法定義務ト天然義務ト二重ニ負擔スルト云フ譯カ
(栗塚)
然リ假令バ其辨濟ハ拾圓ノ金員ニテ完濟スルモ尙ホ外ニ天然義務ヲ感ジ數圓ヲ加償スルヲ云フナリ
第五百九十五條 天然ノ義務ハ法定義務ノ取消、廢罷又ハ解除カ裁判上ニテ宣吿セラレタル後存立スルコトヲ得
法定義務カ其他ノ法律上ノ消滅方法ニ因リ消滅シタル後ニ於テモ亦同シ
(淸岡)
本條ノ如キハ何ノ効用アルヲ知ラズ
(松岡)
銷除卽チ無効ト云ヒ無効卽チ銷除ト云フガ如キハ畫一ニシテハ如何
(委員長)
追テ一定スベシ
第五百九十六條 免責又ハ得取ノ時効ノ利益ヲ用ヒ被判事物ノ力ヲ得タル判決ノ利益ヲ受ケ又ハ自己ノ權利若クハ自己ノ免責ノ總テノ其他ノ推定若クハ直接ナル證ヲ援唱スルコトヲ得ヘキ者ハ尙ホ天然上ニテ義務ヲ負擔シタリト自ラ認ムルコトヲ得
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ「用ヒ」ヲ「用ヒタル者」トシ「受ケ」ヲ受ケタル者ト修正ス
(鶴田)
利益ヲ得タルト云ハズ用ヒタルト云フハ如何
(栗塚)
利益ヲ使用シタル者ト云フ譯ナリ
(尾崎)
其他ノ推定トハ如何
(南部)
免責時効被判事物ハ皆推定ナルヲ以テ此推定ノ外尙ホ其他ノ推定ト云フニアリ
(鶴田)
其他ト云フ字ヲ此位置ニ存スルハ免責時効被判ノ外ト認ムルヲ得ズ
(尾崎)
總テノト云フハ何ヲ指スカ
(栗塚)
一切ト云フニアリ然ルニ總テノ字ハ刪除スルモ不都合ナシ
(松岡)
其他ト云ヘルヲ「受ケタル者」ノ下ニ轉置シテハ如何
(栗塚)
然カスルトキハ又權利ノ推定ヲ受ケタル人ト認メラルル如キ嫌ヒアレバナリ
(南部)
又ハ其他ノ權利若クハ免責ノ推定トシテハ如何
(委員長)
自己ノト云フ字ハ何レカ一個所ノミハ存シテハ如何
然ルニ遂ニ又ハ其他ノ權利若クハ免責ノ推定ト修正スルニ決ス
第五百九十七條 天然債權ノ法定ノ讓渡ハ破產者ノ債權者ノ方ヨリシ且寛恕約定ヲ以テ破產者ニ釋放セラレタル金額ニ付テノミ許サル
(鶴田)
天然債權ハ破產セシ以後ノ財產ニ向テ請求スル權利アルカ
(尾崎)
釋放ヲ受ケタル債務者ニシテ何ゾ償却ノ義務アランヤ
(村田)
身代限ニ付キ釋放ヲ受ケタルモノナルヲ以テ身代持直シノ上ハ償還スベキ義務アルモノナリ
(鶴田)
釋放シタル金額ガ天然義務トナルカ
(栗塚)
身代限リノ爲メ負債ヲ償却スルニ及バザルモノトナリタルモ世間ニ向テ面目ヲ立ントスルニハ其釋放ヲ受ケタル金額ヲ返還セザルベカラズ
(鶴田)
如此ハ天然義務トナルカ
(栗塚)
協諧契約ナルヲ以テ天然義務タルヲ得
(松岡)
議員タラント欲シ官吏タラント欲スルモノハ此義務ヲ履行セザルベカラス此義務ヲ履行セザレバ民權ヲ得ル能ハザルナリ
第五百九十八條 連帶又ハ不可分ノ性質ヲ有スル法定債務ニ換替シ又ハ之ヨリ後ニ遺存スル天然債務ハ連帶又ハ不可分タルコトヲ得
(栗塚)
法定債務ニ換替シハ第五百九十一條ヲ之ヨリ後ニ遺存シト云フハ第五百九十五條ヲ參觀セラレタシ
(松岡)
法定債務ニ換替シト云フハ法定債務ト交換シ又自ラ法定債務ト變換スル如クニ認視セラルルニアラズヤ
(南部)
法定債務ハ消滅シテ天然債務トナルヲ云フ
第五百九十九條 通常裁判所カ天然義務ノ任意履行、認知又ハ其他ノ法律上ノ効力ヲ決スヘキトキハ全權ヲ以テ債務者ノ意思ヲ判決ス然レトモ裁判所カ前記ノ法律ノ條例ニ付キ誤認ノ適用ヲ爲シタルトキハ其決定ハ破毀ニ付セラル
(尾崎)
本條ハ刪除スベシ實ニ無用ノ法律ト云フベシ
(淸岡)
全權ト云フハ穩當ナラズ
(尾崎)
通常裁判所ト云フハ大審院モ包入スルナラン
(南部)
大審院ハ破毀ニ付セラルト云フニ屬シ通常裁判所ニハ包含セズ
第六百條 當事者ハ天然義務ノ任意ノ履行又ハ認知アラサル前ト雖モ仲裁契約ヲ以テ其天然義務ノ成立又ハ廣狹ノ判決ヲ仲裁人ニ委スルコトヲ得此場合ニ於テハ天然義務ヲ宣言シタル仲裁人ノ決定ハ法定ノ義務ヲ生ス然レトモ若シ仲裁人カ法律ノ天然義務ヲ拒否スル場合ニ於テ其成立ヲ認許シ又ハ之ヲ認知スルコトヲ許シタル場合ニ於テ其不能ヲ宣言シタルトキハ其決定ハ無効タリ但右何レノ場合ニ於テモ當事者カ仲裁人ニ調停者タルノ全權ヲ與ヘタルトキハ此限ニ在ラス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ場合ニ於テト云フ於テヲ何レモ刪除シ法律ノ天然義務ト云フヲ法律ニ於テ天然義務ト云フニ修正ス
(南部)
法律ニ於テ天然義務ヲ禁拒シタリシ場合ヲ仲裁入之ニ背キ認許スルノ決定ヲ爲シタルトキハ其決定ハ無効ナリ然ルニ仲裁人ニアラズ調停人ニ委付シタルトキハ卽チ有効ナリ
(栗塚)
調停ト云ヘバ調停契約ト云フモノヨリ成立シ仲裁ト云ヘバ之ヲ裁判スル譯ノモノナリ故ニ可否黒白ニ決セザルベカラズ
第七百四十一條及ヒ同第四十二條
(今村)
此兩條ハ曩ニ未定ナリシガ今村報吿委員ヨリ原案通リト云フ說ヲ提出ス
可決ス
第五百五十九條及ヒ同第六十條二項
(今村)
此等起案者ニ質問スルニ混同ニアラズトハ如何ト云フヲ以テシタルニ起案者曰純然タル混同ニアラザルモ他ニ挿入スベキ位地ナキヲ以テ此類似ノ所ヲ幸ニ挿入セリト云フニ付キ報吿委員ニテ何處ヘカ挿入スベキヲ詮索シタルニ別ニ挿入スベキ好位地ナシ或ハ總則ヘ挿入セントスルニ總則ヘモ挿入シ難シ已ヲ得ザルニ付キ原案ノ儘可ナルベシト思惟セリト可決
第五百六十條
(今村)
本條モ曩ニ未定ナリシガ若シ債務者ガトアル「債務者カ」ト云フヲ刪除スベシ此條ハ元ト契約成立セル以上ハ物品ノ引渡アラザルモ所有權ハ移轉セルニアラズヤ云々ノ說ナリシカ起案者ニ質問シタルニ曖昧不明ナルヲ以テ重テ質問シタル所債務者ガノ四字ヲ刪除スルコトトナレリ