6 自己契約及び双方代理等(民法第108条関係)
民法第108条の規律を次のように改めるものとする。
(1) 代理人が自己を相手方とする行為をした場合又は当事者双方の代理人として行為をした場合には,当該行為は,代理権を有しない者がした行為とみなすものとする。
(2) 上記(1)は,次のいずれかに該当する場合には,適用しないものとする。ア 代理人がした行為が,本人があらかじめ許諾したものである場合
イ 代理人がした行為が,本人の利益を害さないものである場合
(3) 代理人がした行為が上記(1)の要件を満たさない場合であっても,その行為が代理人と本人との利益が相反するものであるときは,上記(1)及び(2)を準用するものとする。
(注1)上記(1)については,無権代理行為とみなして本人が追認の意思表示をしない限り当然に効果不帰属とするのではなく,本人の意思表示によって効果不帰属とすることができるという構成を採るという考え方がある。
(注2)上記(3)については,規定を設けない(解釈に委ねる)という考え方がある。
(概要)
本文(1)は,民法第108条本文が自己契約及び双方代理を対象とする規定であることをより明確にするとともに,自己契約及び双方代理の効果について,これを無権代理と同様に扱って本人が追認の意思表示をしない限り当然に効果不帰属とするという判例法理(最判昭和47年4月4日民集26巻3号373頁等)を明文化するものである。自己契約及び双方代理の性質上,代理行為の相手方との関係で表見代理の規定の適用が問題となることはない。他方,代理行為の相手方からの転得者との関係では,本人が転得者の悪意を主張立証した場合に限り本人は代理行為についての責任を免れることができるとする判例
(上記最判昭和47年4月4日等)が引き続き参照されることを想定している。もっとも, 以上の判例法理に対しては,自己契約及び双方代理は対外的には飽くまで代理権の範囲内の行為であるから無権代理と同様に扱うのは相当でないとの指摘があり,この指摘を踏まえ,本人が効果不帰属の意思表示をすることによって効果不帰属とすることができるという構成を採るべきであるとの考え方(代理権の濫用に関する後記7参照)がある。この考え方を(注1)で取り上げている。
本文(2)アは,民法第108条ただし書の規定のうち本人が許諾した行為に関する部分を維持するものである。
本文(2)イは,民法第108条ただし書の規定のうち「債務の履行」に関する部分を「本人の利益を害さない行為」に改めるものである。債務の履行には裁量の余地があるものもあるため,一律に本人の利益を害さないものであるとは言えない。そこで,同条ただし書がもともと本人の利益を害さない行為について例外を認める趣旨の規定であることを踏まえ,端的にその旨を明文化するものである。
本文(3)は,自己契約及び双方代理には該当しないが代理人と本人との利益が相反する行為について,自己契約及び双方代理の規律を及ぼすことを示すものである。一般に,自己契約及び双方代理に該当しなくても代理人と本人との利益が相反する行為については民法第108条の規律が及ぶと解されており(大判昭和7年6月6日民集11巻1115頁等参照),この一般的な理解を明文化するものである。本文(3)の利益相反行為に該当するかどうかは,代理行為自体を外形的・客観的に考察して判断するものであり(最大判昭和42年4月18日民集21巻3号671頁等参照),他方,本文(2)イの「本人の利益を害さないもの」に該当するかどうかは,より実質的な観点から当該代理行為が本人の利益を害するものかどうかを判断するものである。そのため,本文(3)の利益相反行為に該当するものであっても,本文(2)イの「本人の利益を害さないもの」に該当することがあり得る。ま た,代理行為の相手方や転得者との関係については,本人が相手方や転得者の悪意を主張立証した場合に限り本人は代理行為についての責任を免れることができるとする判例(最判昭和43年12月25日民集22巻13号3511頁等)が引き続き参照されることを想定している。もっとも,以上に対しては,自己契約及び双方代理に該当しない利益相反行為はその態様が様々であることから,その規律全体を引き続き解釈に委ねるべきであるという考え方があり,これを(注2)で取り上げている。