伊太利王国民法

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伊太利王国民法(総則)

伊太利王国民法 第一巻 人件 第一篇 国民ノ権理及ヒ民法上ノ権理ノ保有 第一条 国民タル者ハ刑法上ノ罰責ヲ受ケテ国民タルノ権理ヲ剥奪セラルヽニ非サレハ則チ総テ民法上ノ権理ヲ保有ス 第二条 邑、州及ヒ僧俗院舎等凡テ法律上ノ認可ヲ得タル者ハ即チ一個人ト看做サレ行政上ノ法律及ヒ慣例ニ従テ民法上ノ権理ヲ保有ス 第三条 外国人モ亦王国人民ニ属スル民法上ノ権理ヲ得有スルコトヲ得可シ 第四条 国民タル父ノ子ハ均シク国民ト為ス 第五条 仮令ヒ父タル者カ其子ノ生産以前ニ国民タル権理ヲ喪失スルコト有ルモ其子カ王国内ニ生産シ而シテ王国内ニ住所ヲ占定スルニ於テハ則チ亦国民ト看做ス 然レトモ其子タル者ハ我民法ニ規定セル丁年ニ達スル以後ノ一年内ニ其在住スル地方ノ掌籍吏ノ面前ニ公言シテ以テ外国人タル身位ヲ択定スルコトヲ得可シ若シ其子カ外国ニ在住スルニ於テハ則チ其本国ノ公使若クハ領事官ニ向テ之ヲ公言ス 第六条 父タル者カ其子ノ生産以前ニ国民タル権理ヲ喪失セルニ於テハ則チ其子ノ外国ニ在テ生産シタル者ハ外国人ト看做サル可シ 然レトモ前条ニ掲載スル所ノ公言ヲ為シタル以後ノ一年内ニ其住居ヲ王国内ニ占定スレハ則チ国民ト為ルコトヲ得可シ 王国ニ於テ公務ニ従事シ若クハ海陸軍ニ服役シ或ハ外国人タル身位ヲ申明セスシテ以テ募兵ニ応シタル外国人ハ国民ト看做サル可シ 第七条 国民タル婦女ノ子ニシテ其父ヲ知ル可カラサル者ハ国民ト為ス 若シ母タル者カ其子ノ生産スル以前ニ国民タル権理ヲ喪失セルニ於テハ則チ其子ニ向テ前二条ノ条文ヲ擬施ス 其母ヲ知ル可カラサル子ト雖モ王国内ニ生産スル者ハ国民ト為ス 第八条 十年以来間断無ク其住居ヲ王国内ニ占定セル外国人ノ子ニシテ王国内ニ生産シタル者ハ国民ト看做ス但商業ノ為メニ開設スル居所ハ以テ住居ヲ占定セル者ト看做サス 然レトモ第五条ニ掲載セル期間ニ於テ同条ニ規定セル方法ニ従ヒ公言シテ以テ外国人タル身位ヲ択定スルコトヲ得可シ 若シ外国人カ十年以来其住居ヲ王国内ニ占定セルニ非サレハ則チ其子ハ外国人ト看做ス然レトモ第六条ノ第二項及ヒ第三項ノ条文ハ其子ニ向テ之ヲ擬施ス可キ者トス 第九条 外国人タル婦女ニシテ王国人ト結婚スル者ハ其結婚ニ因テ国民タルノ身位ヲ得有シ其夫ヲ亡スルノ以後ト雖モ尚ホ其身位ヲ保有ス 第十条 外国人ハ法律若クハ国王ノ命令ニ因テ認可スル入籍方法ヲ執行シテ以テ国民タルノ権理ヲ得有ス 国王ノ命令ハ外国人カ其住居ヲ占定セント欲シ若クハ既ニ之ヲ占定セシ地方ノ掌籍吏ノ簿録ヲ経由シ且其外国人カ掌籍吏ニ向テ国王ニ忠節ヲ竭シ王国ノ憲法及ヒ法律ヲ遵奉ス可キ誓言ヲ為スノ法式ヲ践行シテ始メテ其効力ヲ生スル者トス 国王ノ命令ハ其記日ヨリ以後ノ六月内ニ於テ之カ簿録ヲ為サヽレハ則チ無効ニ帰ス 国民タル権理ヲ得有セシ外国人ノ妻及ヒ其未丁年ノ子ハ其住居ヲ王国内ニ占定スルニ因テ始メテ国民ト為ル者トス然レトモ其子ハ第五条ニ掲記スル法式ヲ履行シテ以テ外国人タル身位ヲ択定スルコトヲ得可シ 第十一条 次項ニ掲記スル人ハ国民タル身位ヲ喪失ス可シ 第一項 自巳ノ住居ヲ占定セシ地方ノ掌籍吏ノ面前ニ於テ公言ヲ為シテ以テ国民タル身位ヲ辞棄シ而シテ其住居ヲ外国ニ転移スルノ人 第二項 外国ニ於テ其国民ト為レルノ人 第三項 王国政府ノ許可ヲ得スシテ自私ニ外国政府ノ公役ニ従事シ若クハ其兵役ニ服従スルノ人 国民タル身位ヲ喪失セル人ノ妻及ヒ其未丁年ノ子ハ外国人ト看做ス但依然其住居ヲ王国内ニ占定スル者ハ此限ニ在ラス 然レトモ其妻ハ第十四条ニ規定セル方法ニ准シ其子ハ第六条ニ規定セル方法ニ准シテ王国ノ国民タル権理ヲ回復スルコトヲ得可シ 第十二条 前条ノ各項ニ特記スル事由アルカ為メニ国民タル権理ヲ喪失スルモ之ニ拠テ以テ王国ノ兵役ニ服従ス可キノ責務及ヒ故国ニ向テ兵刃ヲ擬スルノ罪事ヲ避免スルニ足ラス 第十三条 国民ニシテ第十一条ニ掲記セル事由ノ其一アルカ為メニ国民タル権理ヲ喪失セル者ハ次項ノ時会ニ於テ之ヲ回復スルコトヲ得可シ 第一項 王国政府ノ特許ヲ得テ王国ニ帰来スルノ時会 第二項 外国ニ在テ其国民タル身位ヲ辞棄シ若クハ外国ニ在テ従事セシ公務或ハ兵役ヲ辞棄シタルノ時会 第三項 掌籍吏ニ向テ王国内ニ自巳ノ住居ヲ占定スルコトヲ公言シ一年内ニ於テ現実ニ其住居ヲ占定セシノ時会 第十四条 国民タル婦女ニシテ外国人ト結婚スル者カ其結婚ニ因テ夫タル者ト国籍ヲ同クスルニ於テハ則チ外国人ト為ル者トス 其夫ヲ亡シタルノ以後ニ若シ王国内ニ居留シ或ハ王国内ニ帰来シ而シテ掌籍吏ニ向テ王国内ニ其住居ヲ占定スルコトヲ公言スルニ於テハ則チ其国民タル権理ヲ回復スルコトヲ得可シ 第十五条 前数条ノ時会ニ於テ国民タル権理ヲ得有シ若クハ之ヲ回復スルモ共ニ其効力ハ法律ニ設定セル規約及ヒ法式ヲ履行セル本日ヨリシヲ始メテ起生スル者トス 第二篇 民法上ノ住居及ヒ其居所 第十六条 国民タル者ノ住居ハ其人カ主要ナル職業及ヒ関係ヲ有スル場地ニ在ル者トス 又其居所ハ其人カ常ニ居留スル場地ニ在ル者トス 第十七条 他ノ場地ニ自巳ノ主要ナル産業ヲ卜定セルノ心算ニ於テ居所ヲ其場地ニ転移スルヲ以テ其住居ヲ転換セル者ト看做ス 此心算ハ其人カ離去スル甲邑ノ民籍局ニ於テ為セル所ノ公言ト新タニ住居ヲ占定スル乙邑ノ民籍局ニ於テ為セル所ノ公言トニ因リ若クハ其情状ヲ証徴ス可キ他ノ事件ニ因テ之ヲ推度ス可キ者トス 第十八条 法律上ニ於テスル夫妻別居ヲ為サヽル所ノ婦女ハ夫タル者ノ住居ヲ以テ其住居ト為ス其夫ヲ亡スルノ以後ト雖モ別ニ他ノ住居ヲ択定セサルニ於テハ則チ尚ホ其亡夫ノ住居ヲ保有スル者トス 未丁年者ニシテ未タ丁年権ノ認可ヲ得サル者ハ父母ノ住居若クハ後見人ノ住居ヲ以テ其住居ト為ス 治産ノ禁ヲ受ケタル丁年者ハ後見人ノ住居ヲ以テ其住居ト為ス 第十九条 某ノ職業若クハ其ノ行為ニ関シテ特別ノ住居ヲ択定スルコトヲ得可シ 此住居ノ択定ハ録記ノ証憑ニ因テ其効力ヲ生出スル者トス 第三篇 失踪 第一章 失踪ノ推定及ヒ其効力 第二十条 末期ノ住居若クハ末期ノ居所ヨリ失踪セシ人ニシテ其後絶ヘテ消息ヲ知ル可カラサル者ハ失踪者ト推定ス 第二十一条 失踪ヲ推定セル期間ニ於テハ其失踪者ノ末期ノ住居若クハ末期ノ居所ノ管轄法衙ハ若シ其失踪者カ代理人ヲ留存セサリシニ於テハ則チ失踪者ノ財産ニ権理ヲ有スル人若クハ推定ヲ以テスル承産者若クハ検事ノ請求ニ応シ裁判上ニ於テ失踪者ニ代理タラシムル為メ或ハ失踪者ノ関係ヲ有スル財産目録ノ録製、計算、売弁及ヒ分配ニ関シテ失踪者ニ代理タラシムル為メニ撰命スル一個ノ人ヲ指定シ而シテ失踪者ノ資産ヲ保存スルニ必要ナル一切ノ方法ヲ施行ス 若シ失踪者カ代理人ヲ留存セシニ於テハ則チ管轄法衙ハ唯々其代理人カ代理委任ノ明文ニ依リ若クハ法律ニ依テ執行スルコトヲ得サレ行為ニ向テノミ其処分ヲ為ス 第二章 失踪ノ公告 第二十二条 失踪ヲ推定セルヨリ三年ノ以後(若シ失踪者カ其資産ヲ管理スル為メニ代理人ヲ留存セシニ於テハ則チ六年ノ以後)ハ推定ヲ以テスル准規承産者、遺嘱承産者及ヒ失踪者ノ資産ニ対シテ其死亡ニ関係スル権理ヲ有スルノ人ハ管轄法衙ニ向テ失踪ノ公告ヲ為スコトヲ請求スルヲ得可シ 第二十三条 若シ失踪公告ノ請求ヲ允許ス可キニ於テハ則チ管轄法衙ハ其失踪者ノ捜索ヲ為ス可キコトヲ宣告ス 失踪者ノ捜索ヲ為サシム可キノ宣告書ハ之ヲ失踪者ノ末期ノ住居若クハ末期ノ居所ノ門戸外ニ榜貼セシム可ク且其宣告ノ事旨ハ請求ヲ為シタル各人及ヒ失踪者ノ代理人ニ通知ス可キ者トス 此宣告書ハ一月ヲ隔テヽ本管轄内ノ裁判ニ関スル広告新聞及ヒ王国公報ニ掲載スル二回ナルコトヲ要ス 第二十四条 其捜索期間ヲ満了シ第二回ノ公告ヲ為スヨリ六月ノ以後ニ於テ管轄法衙ハ始メテ失踪公告ノ請求ニ対シテ失踪ノ宣告ヲ為ス 第二十五条 既ニ失踪ノ宣告ヲ為セハ則チ第二十三条ノ条文ニ従テ之ヲ通知シ及ヒ之ヲ公告ス 第三章 失踪公告ノ効力 第一節 失踪者財産仮有ノ命付 第二十六条 失踪宣告ノ第二回ノ公告ヨリ六月ノ以後管轄法衙ハ若シ失踪者ノ遺嘱書アリシニ於テハ則チ失踪者ノ財産ニ向テ権理ヲ有スル各人ノ請求若クハ検事ノ請求ニ応シテ之ヲ拆披スルコトヲ指命ス 失踪者ノ准規承産者、遺嘱承産者又ハ遺嘱承産者ヲ欠ク時会ニ在テ若シ失踪者カ其死生ニ関シテ消息ヲ発シタル日ニ死亡セシニ於テハ則チ准規承産者タル可キ人若クハ失踪者ノ互相承産者ハ失踪者ノ財産仮有ノ命付ヲ請求スルコトヲ得可シ 受遺者、受贈者ハ失踪者ノ財産ニ向テ其死亡ニ関係セル権理ヲ有スル一切ノ人ト一般ニ承産者ト共ニ其権理仮有ノ認可ヲ請求スルコトヲ得可シ 然レトモ承産者ハ前条ニ記載スル各種ノ人ト一般ニ管轄法衙ノ指定スル保金ヲ提供スルニ非サレハ則チ失踪者ノ財産ノ占有若クハ其権理ノ使用ヲ認可セラレサル者トス 失踪者ノ配偶者ハ婚姻上ノ財産契約及ヒ承産法ニ依テ自己ニ帰属スル権理ノ外ニ於テ若シ給養費ヲ要スルコト有レバ則チ法衙ニ向テ之ヲ請求スルコトヲ得可ク而シテ其給養費ハ系属ノ等位ト失踪者ノ資産ノ数額トニ照准シテ以テ之ヲ指定ス可キ者トス 第二十七条 若シ推定ヲ以テスル承産者或ハ失踪者ノ財産ニ向テ権理ヲ有スル各人中ノ一人カ保金ヲ提供シ能ハサルニ於テハ則チ法衙ハ其人ノ身位並ニ其失踪者ニ対スル系属及ヒ其他ノ情況ヲ酌量シテ以テ失踪者ノ利益ヲ保護スル為メニ必要ト判定スル所ノ諸般ノ方法ヲ施行ス 第二十八条 財産仮有ノ命付ハ其命付ヲ受ケタル人及ヒ失踪者ノ承産者ヲシテ失踪者ノ財産ノ管理裁判上ニ於テ其財産ヲ処分セシムルノ権理及ヒ後条ニ設定スル制限ニ従テ収額ヲ使用スルノ権理ヲ得有セシムル者トス 第二十九条 財産仮有ノ命付ヲ受ケタル人ハ失踪者ノ動産物件ノ目録書及ヒ其不動産物件ノ明註書ヲ録製セサル可カラス 法衙ノ許可ヲ得ルニ非サレハ則チ失踪者ノ不動産物件ヲ転付シ若クハ券記抵当ト為シ若クハ或ハ普通管理ノ制限ヲ踰越スルノ行為ヲ為スコトヲ得可カラス 法衙ハ時ニ或ハ動産物件ノ全部若クハ一部ノ売付ヲ指命スルコト有ル可シ此時会ニ当テハ其価直ハ之ヲ実用ニ運転ス可キ者トス 第三十条 財産仮有ノ許可ヲ得タル先親、後親及ヒ配偶者ハ其収額ノ全部ヲ以テ自己ノ利益ト為ス 第三十一条 若シ財産仮有者カ六等以内ノ親属タルニ於テハ則チ失踪ノ本日ヨリ十年間ハ其収額ノ五分一ヲ貯存シ爾後三十年ニ至ル迄ハ其十分ノ一ヲ貯存セサル可カラス 六等以外ノ親属タル人及ヒ親属ニ非サル人ハ十年間ハ其収額三分ノ一ヲ貯存シ爾後三十年ニ至ル迄ハ其六分ノ一ヲ貯存セサル可カス 三十年ノ期間ヲ満過スルニ於テハ則チ何等ノ時会タルヲ問ハス其収額ノ全部ハ仮有者ニ帰属ス 第三十二条 若シ財産仮有ノ期間ニ某ノ人カ失踪推定ノ当時ニ現今ノ占有者ヨリ高等ナル権理若クハ同等ナル権理ヲ保有セシコトヲ証明スルニ於テハ則チ現時ノ占有者ニ其占有権ヲ褫奪シ若クハ其占有権ヲ共有スルコトヲ得可シ然レトモ其収額上ノ権理ハ法衙ニ向テ之ヲ請求シタル本日ヨリ起生スル者トス 第三十三条 若シ財産仮有ノ期間ニ失踪者カ帰来スルコト有ルカ或ハ其生存セルコトヲ明知スルコト有ルニ於テハ則チ失踪公告ノ効力ハ総テ消滅ニ帰ス但第二十一条ニ規定セル資産ノ保存及ヒ管理ニ関スル保証ハ若シ之ヲ要スル時会ニ於テハ即チ尚ホ存在スル者トス 財産仮有者ハ其財産ヲ還付シ且第三十一条ニ規定セル方法ニ照准シテ以テ其収額ヲ還付セサル可カラス 第三十四条 若シ財産仮有ノ期間ニ失踪者ノ死亡シタル日時ヲ確知スルコト有ルニ於テハ則チ其遺産ハ失踪者ノ現時ノ准規承産者、遺嘱承産者若クハ其承産者ノ為メニ開行ス可ク而シテ其財産ヲ占有セシ人ハ直チニ之ヲ還付シ且第三十一条ニ規定セル方法ニ准拠シテ其収額ヲ還付セサル可カラス 第三十五条 凡ソ財産仮有ヲ命付セシ以後ハ何人タルヲ問ハス失踪者ニ対シテ権理ヲ有スル人ハ其仮有ノ命付ヲ受ケタル人ニ向テ自己ノ証憑ヲ出示セサル可カラス 第二節 失踪者財産確有ノ命付 第三十六条 失踪者カ若シ財産仮有ヲ命付セラレタル以後三十年ノ期間ヲ満過スルモ尚ホ帰来セス或ハ若シ失踪者ノ生日ヨリ百年ニ達シ且失踪者ノ最終ノ消息ヲ発シタルヨリ三年ヲ閲過セルニ於テハ則チ法衙ハ失踪者ノ財産ニ向テ権理ヲ有スル人ノ請求ニ応シテ其財産確有ノ命付ヲ宣告シ併セテ保人及ヒ其他ノ保証ヲ解除スルコトヲ宣告ス 第三十七条 財産確有ノ命付ヲ宣告セルノ以後ハ行政権ノ監視及ヒ裁判権ノ管轄ハ総テ銷滅シ而シテ仮有ノ命付ヲ受ケタル人及ヒ其承産者ハ確定ノ財産分配ヲ執行シ自由ニ其財産ヲ安排スルコトヲ得可シ 第三十八条 失踪公告ノ以前若クハ失踪公告ノ以後若クハ財産仮有命付ノ以前ニ既ニ失踪者ノ生日ヨリ百年ヲ満過スルノ時会ニ当テハ失踪者ノ財産ニ向テ権理ヲ有スル人ハ(第一項ノ時会ニ於テハ失踪宣告ノ以後)財産占有ノ権理及ヒ失踪者ノ死亡ニ関係スル権理ノ保有ヲ確然ニ認識セラルヽコトヲ請求シ得可シ然レトモ失踪者ノ最終ノ消息ヲ発シタルヨリ三年ヲ閲過セシコトヲ要ス 第三十九条 若シ財産確有ノ命付ヲ得タル以後ニ失踪者カ帰来スルコト有ルカ或ハ其生存スルコトヲ明知スルコト有ルニ於テハ則チ失踪者ハ其財産ノ現時ノ形況ニ従テ之ヲ収回シ或ハ其転付セル価直ニシテ未タ支弁ヲ了セサル者ヲ要求シ或ハ此価直ヲ以テ得有シタル財産ヲ要求スルノ権理ヲ有ス 第四十条 失踪者ノ子及ヒ其後親ハ財産確有ノ命付ヲ得タル以後ノ三十年ヲ満過スレハ則チ前条ニ掲記スル規則ニ照准シテ失踪者ノ死亡ニ因テ自巳ニ帰属ス可キ権理ヲ要求スルコトヲ得可シ而シテ失踪者ノ生死ノ如何ハ復タ之ヲ証明スルコトヲ要セス 第四十一条 若シ財産確有ノ命付ヲ得タル以後ニ失踪者ノ死亡シタル日時ヲ知得セルニ於テハ則チ失踪者ノ現時ノ承産者、受遺者若クハ其死亡ニ関係スル権理ヲ有スル人若クハ又此等ノ人ノ承産者ハ自已ニ帰属スル訟権ヲ行用スルコトヲ得可シ但占有者カ期満法ニ依テ得有スル権理及ヒ既ニ領取セル収額ニ関シ良意ヲ以テセルノ効力ハ依然存在スル者トス 第三節 失踪者ニ帰属ス可キ未必ノ権理ニ関スル失踪ノ効力 第四十二条 何人タルヲ問ハス死生ヲ知ル可カラサル人ノ為メニ其保有セシ権理ヲ要求スルコトヲ得ス然レトモ其権理ノ起生スル時日ニ於テ現ニ失踪者タル其人カ生存セシコトヲ証明スル如キハ此限ニ在ラス 第四十三条 一個ノ遺産分配ノ開始ニ関シ一個ノ人ニシテ其実ニ生存スルコトヲ証明ス可カラサル者カ其全部若クハ一部ヲ承襲ス可キコト有ルニ於テハ則チ其遺産ハ此人ト共ニ遺産ヲ承襲ス可キ人若クハ此人ヲ欠クノ時ニ於テ承襲ス可キ人ニ帰属ス但遺産替承ノ権理アル如キハ此限ニ在ラス 此人ヲ欠クニ因テ遺産ヲ承襲スルノ人ハ其動産ノ目録書及ヒ不動産ノ明註書ヲ録製セサル可カラス 第四十四条 前二条ノ条文ハ遺産要求ノ訟権及ヒ其他ノ権理ニシテ失踪者、失踪者ノ代理人若クハ其受権者ニ帰属スル所ノ者ニ妨阻ヲ為スコト無シ此権理ハ期満法ニ規定スル期間ヲ満過シ乃チ始メテ消滅スル者トス 第四十五条 遺産ヲ承襲セル人ハ失踪者ノ帰来スルノ日若クハ自已カ失踪者ニ属スル訟権ヲ施用スルコトヲ得ルノ日ニ至ル迄ハ良意ヲ以テ領収セシ収額ヲ還付スルコトヲ要セス 第四章 失踪者ノ未丁年ナル子ノ監視及ヒ其後見 第四十六条 若シ失踪者ト推定セラレタル人カ未丁年ナル子ヲ留存セシニ於テハ則チ其未丁年者ノ母ハ第二百二十条ノ規則ニ照准シテ父タル権ヲ行用ス可キ者トス 第四十七条 若シ父タル者ノ失踪ノ推定ニ関シ之ヲ捜索スル時ニ当リ其母タル者カ生存セス或ハ其母タル者カ其失踪公告ノ以前ニ死亡シ或ハ其母タル者カ父権ヲ行用スルコト能ハサルノ情況ニ在ルコト有ルニ於テハ則チ其未丁年者ノ監視ハ親属協会ニ於テ第二百四十四条ニ設定セル順序ヲ経由シテ以テ其最近親属ナル先親ニ委付ス若シ其先親ヲ欠クコト有レハ則チ其監視ヲ仮設後見人ニ委付ス 第四篇 及ヒ姻族 第四十八条 一個ノ人ノ其後親タル数人ニ関係スル連結ヲ名ケテ親属ト曰フ 法律ノ此関係ヲ認可スルハ唯十等親内ニ止マル 第四十九条 親属等位ノ遠近ハ其代数ヲ以テ之ヲ定ム 一代ヲ以テ一親等ト為ス 第五十条 親等ノ継続ヲ以テ世系ト為ス数個ノ人ニシテ其一人ハ他ノ一人ヨリ出ツル所ノ親等ノ継続ヲ直系ト為シ数個ノ人ノ其一人カ他ノ一人ヨリ出テスシテ同一ノ所出ニ係レル親等ヲ旁系ト為ス直系ヲ分ツテ後親ノ直系及ヒ先親ノ直系ノ二者ト為ス 後親ノ直系ハ某ノ人ト其人ヨリ出ツル所ノ人トニ関係シ先親ノ直系ハ某ノ人ト其人ノ出ツル所ノ人トニ関係ス 第五十一条 直系ハ代数ヲ以テ其親等ヲ計算シ其始祖タル一人ヲ算入セス 旁系ハ其親族ノ一人ヨリ其始祖タル一人ニ遡リ又降ツテ他ノ一人ニ至リ其代数ヲ以テ之ヲ計算ス而シテ其始祖タル一人ハ亦之ヲ算入セス 第五十二条 姻族トハ配偶者ノ一方ト他ノ一方ノ親族トノ間際ニ生スル連結ヲ謂フ 世系及ヒ親等ニ関シテハ配偶者ノ親属タルト一般ニ他ノ配偶者ニ対シテ姻族ト為ル者トス 姻族ノ由テ生スル所ノ配偶者カ仮令ヒ其子ヲ留存セスシテ死亡スルモ其姻族ノ連結ハ絶ヘサル者トス或種ノ効力ニ関シ及ヒ法律ニ於テ特ニ明記セル時会ノ如キハ此限外ニ在リトス 第五篇 婚姻 第一章 婚姻ノ約束及ヒ婚姻ヲ締結スル為メニ必要ナル規約 第一節 婚姻ノ約束 第五十三条 婚姻上互相ノ約束ハ之ヲ締結スルニ関シテ法律上ノ責務ヲ生セス又此約束ヲ決行スル為メニ結約シタル行為ヲ履行セシムルニ足ラサル者トス 第五十四条 若シ此約束ヲシテ丁年者若クハ未丁年者カ其婚姻ノ有効タルニ必要スル人ノ承諾ヲ得テ公式若クハ私式ノ証書ヲ以テ締結セル者ニ係ラシメ或ハ又此約束ヲシテ掌籍吏ノ公告ヲ以テ締結セル者ニ係ラシムレバ則チ結約者ノ至当ナル理由ナクシテ其履行ヲ拒却スル所ノ人ハ他ノ約主カ此婚姻上ノ約束ニ関シテ支消シタル費用ヲ弁償セサル可カラス 然レトモ其約束ヲ決行ス可キ期日ヨリ満一年ノ以後ニ於テスル弁償ノ請求ハ採用セラレサル者トス 第二節 結婚ノ為メニ必要ナル規約 第五十五条 男子ハ満十八歳女子ハ満十五歳ヨリ以前ニ在テハ婚姻ヲ締結スルコトヲ得ス 第五十六条 既ニ結婚セル人ハ重テ婚姻ヲ締結スルコトヲ得ス 第五十七条 婦女ハ其婚姻ノ解消若クハ解破ノ以後満六月ヲ経過セセサレハ則チ更ニ結婚スルコトヲ得ス但第百七条ニ特載スル時会ノ如キハ此例外ニ在リトス 此制禁ハ婦女ノ分娩セル本日ニ於テ廃止ス 第五十八条 直系ニ於テハ正族若クハ私族及ヒ直系ノ姻族トヲ問ハズ先親後親ノ結婚スルコトヲ禁止ス 第五十九条 旁系ニ於テハ次項ノ人ノ結婚スルコトヲ禁止ス 第一項 正族ト私族トヲ問ハス兄弟姉妹ノ間 第二項 姻族ノ兄弟姉妹ノ間 第三項 叔姪ノ間 第六十条 次項ノ人ノ結婚スルモ亦禁止ノ例ニ在リトス 養父母ト養子女及ヒ其後親ノ間 一個ノ人ノ養子ト養女トノ間 養子女ト養父母ノ男子女子トノ間 養子女ト養父母ノ配偶者及ヒ養父母ト養子女ノ配偶者ノ間 第六十一条 失心ニ因テ治産ノ禁ヲ受ケタル人ハ結婚スルコトヲ得ス 若シ治産ノ禁ニ関シテ訴訟ヲ搆起セルノ間タルニ於テハ則チ其結婚ノ礼式ノ執行ハ終審ノ宣告ヲ受クル迄之ヲ仮停ス 第六十二条 刑事訴訟ニ於テ配偶者ノ一人ノ故殺若クハ故殺不果ニ関シ首犯若クハ従犯ト審判セラレタル所ノ者ハ他ノ配偶者ノ一人ニシテ尚ホ生存スル者ト結婚スルコトヲ得ス 若シ唯被告タルノ訴状或ハ拘留ノ命令ヲ受ケタルニ於テハ則チ婚姻ノ礼式ノ執行ハ終審ノ宣告ヲ受クル迄之ヲ仮停ス可キ者トス 第六十三条 男子ハ満二十五歳女子ハ満二十一歳ヨリ以前ニ在テハ其父母ノ許可ヲ得ルニ非サレハ則チ結婚スルコトヲ得ス 若シ其父母ノ意見同一ニ出テサルニ於テハ則チ唯其父ノ許可ヲ取ルノミヲ以テ足レリトス 若シ父母ノ一人カ死亡セルカ若シクハ其意見ヲ明言スルコト能ハサル状況ニ在ルニ於テハ則チ唯々他ノ 人ノ許可ヲ取ルノミヲ以テ足レリトス 養子ニシテ満二十一歳ニ達セサル所ノ人ノ婚姻ニ関シテハ其父母ノ許可ヲ取ルノ外ニ尚ホ其養父ノ許可ヲ取ルコトヲ要ス 第六十四条 若シ父母共ニ死亡セルカ若クハ其意望ヲ明言スルコト能ハサル状況ニ在ルニ於テハ則チ満二十一歳ニ達セサル未丁年者ハ其祖父母ノ許可ヲ得ルニ非サレハ則チ婚姻ヲ締結スルコトヲ得ス若シ其祖父母ノ意見同一ナラサレハ則チ唯々祖父ノ許可ヲ取ルノミヲ以テ足レリトス 両系属族ノ意見同一ナラサレハ則チ婚姻ヲ許可セサル者トス 第六十五条 若シ父母、養父母、祖父母共ニ死亡セルカ或ハ此等ノ人カ其意見ヲ明言スルコト能ハサル状況ニ在ルニ於テハ則チ満二十一歳ニ達スル未丁年者ハ親属協会ノ許可ヲ得ルニ非サレハ則チ結婚スルコトヲ得ス 第六十六条 第六十三条ノ条文ハ法律ノ認可ヲ得タル私生ノ子ニ擬施ス可ク若シ其父若クハ母若クハ養父母カ許可ヲ与フルコトヲ得サルニ於テハ則チ後見協会之ヲ許否ス 父母ノ認可ヲ得サル私生ノ子ノ婚姻ニ関シ若シ之ヲ養育スル者ナキニ於テハ則チ後見協会其許可ヲ与フ 第六十七条 丁年ノ子ハ其先親、親族協会、後見協会ノ婚姻許可ノ拒却ニ対シ之ヲ控訴法衙ニ申訴スルコトヲ得可シ 此申訴ハ女子及ヒ未丁年ノ男子ノ為メニ其親族若クハ姻族或ハ検事ニ因テ搆起セラルヽ者トス 此申訴ヲ審査スルニ関シ法衙ハ其訟廷ヲ密開シ訟主及ヒ検事ノ申明ヲ得テ以テ其裁判ヲ宣告ス 代理人若クハ其他ノ弁護者ハ此申訴ニ関与スルコトヲ得ス 法衙ノ其裁判ヲ宣告スルニハ審判ノ理由ヲ具記セス唯其訟廷ニ於テ許可ヲ与フルコトノミヲ掲載スルニ過キス 第六十八条 国王ハ至重ナル理由アルノ時会ニ当テハ特ニ第五十九条ノ第二項及ヒ第三項ノ結婚ヲ認可スルコトヲ得可シ 国王ハ年齢ニ関スル一種ノ特権ヲ以テ満十四歳ニ達スル男子及ヒ満十二歳ニ達スル女子ノ結婚ヲ認可スルコトヲ得可シ 第六十九条 第五十五条第五十九条ノ第二項第三項及ヒ第六十七条ノ各条文ハ国王若クハ王族ニ擬施ス可カラス 王子王女ノ婚姻ヲシテ有効タラシムルニハ必ス国王ノ允可ヲ取ルコトヲ要ス 第二章 結婚以前ノ法式 第七十条 婚姻ノ礼式ヲ執行スル以前ニ於テ掌籍吏ハ二次ノ公告ヲ為サヽル可カラス 此公告ハ結婚セント欲スル人ノ姓名、職業並ニ其出生及ヒ居所ト其父母ノ姓名、職業及ヒ居所トヲ掲記ス 第七十一条 此公告ハ双方ノ結婚者カ其居所ヲ占定セル本邑ニ於テ之ヲ為サヽル可カラス 若シ現時ノ居所ニ在ル未タ一年ニ満タサルニ於テハ則チ其従前居所ヲ占定セル本邑ニ於テモ亦必ス此公告ヲ為サヽル可カラス 第七十二条 此公告ハ連二週ノ日曜日ニ於テ邑庁ノ門戸外ニ之ヲ掲示ス 第一次ノ公告ト第二次ノ公告トノ間之ヲ掲存シ第二次ノ公告ノ以後ト雖モ尚ホ三日ノ間之ヲ掲存ス 第七十三条 公告ハ双方ノ結婚者、其父、其後見人若クハ特別ニシテ公正ナル代任ヲ帯ヒタル人ニ因テ請求セラルヽ者トス 第五十四条ニ照准シテ締結シタル婚姻ノ約束ハ其公告ヲ為スコトヲ請求スルニ足ル者トス 第七十四条 婚姻ニ関シ先親親族協会後見協会ノ許可ヲ取ルコトヲ要スルノ時会ニ在テハ掌籍吏ニ向テ其許可アリシコトヲ証明スルニ非サレハ則チ掌籍吏ハ其公告ヲ為スコトヲ得ス 第七十五条 若シ掌籍吏カ公告ヲ為ス可ラスト思料スルニ於テハ則チ其公告ヲ為スコトヲ拒却スルノ理由ヲ掲記セル証書ヲ付与ス 若シ公告ヲ請求スル人カ拒却セラル可キ理由ナシト思料スルニ於テハ則チ之ヲ法衙ニ申明シ法衙ハ検事ノ記述セル意見ヲ得テ而ル後ニ其裁判ヲ宣告ス 第七十六条 婚姻ノ礼式ハ第二次ノ公告ヲ為スヨリ四日ノ以後ニ非サレハ則チ之ヲ執行スルコトヲ得ス 第七十七条 若シ婚姻公告ノ以後百八十日ノ期間ニ在テ婚姻ノ礼式ヲ執行セサルニ於テハ則チ其公告ハ無効ニ帰ス 第七十八条 国王若クハ管轄庁ハ至重ナル理由ニ対シテ二次ノ公告ノ其 ヲ認免スルコトヲ得可シ此時会ニ於テハ其一次ノ公告ニ於テ其事実ヲ掲載ス 最大至重ナル理由アルニ於テハ則チ二次ノ公告ヲ併セテ之ヲ認免スルコトヲ得可シ此二次ノ公告ノ認免ヲ得ル為メニハ五名ノ証人(結婚者ノ親族タルモ亦可ナリ)カ証書ヲ以テ其結婚者ノ一人ノ請求ニ因テ検事ノ面前ニ於テ立誓シ以テ其結婚者ヲ熟知スルコトヲ公言シ且結婚者及ヒ其父母ノ姓名職業並ニ居所ヲ指示シ第五十六条ヨリ第六十二条ニ至ル各条カ此婚姻ヲ禁制スルコト無キヲ証徴スルコトヲ要ス 検事ハ此証書ヲ供出セシムル以前ニ於テ前項ニ挙示セル各条ヲ朗読シ其証言ノ重要ナルト及ヒ婚姻ニ由テ起生スル所ノ結果ノ至重ナルトヲ告知ス 第七十九条 結婚者ハ其婚姻ノ礼式ヲ執行スル本邑ノ民籍局ニ向テ次項ノ文書ヲ供出セサル可カラス 産生証書ノ写本 前次ノ婚姻ノ解離若クハ其無効ヲ証明スル宣告書若クハ配偶者ノ死亡証書 法律ニ因テ必要スル先親、親属協会若クハ後見協会ノ許可ヲ得タルコトヲ証徴スル証書 現実ニ公告ヲ為シタル証書若クハ其認免ヲ得タル証書 其他ノ文書ニシテ諸般ノ時会ニ於テ結婚者ノ身分ヲ証明スルニ必要ナル文書 第八十条 若シ結婚者ノ一人カ其産生証書ヲ供出スルコト能ハサルニ於テハ則チ其出生セシ土地若クハ其住所ノ管轄法衙ノ検事ノ面前ニ於テ録製スル保証書ヲ以テ之ニ換代スルコトヲ得可シ 此保証書ハ五名ノ証人(男女ヲ問ハス結婚者ノ親族タルモ亦可ナリ) 公言ヲ包載ス此公言ヲ以テ確実ニ結婚者及ヒ其父母ノ姓名、職業居所ヲ指示シ並ニ結婚者ノ出生セシ土地及ヒ年月日ト其産生証書ヲ供出シ能ハサルノ理由ト各証人ノ之ヲ知悉セルノ原委トヲ指示ス 第八十一条 若シ先親カ自巳親カラ掌籍吏ノ面前ニ在テ其許可ヲ与ヘサルニ於テハ則チ此許可ヲ必要スル結婚者及ヒ他ノ一方ノ結婚者ノ申明ヲ掲記スル公正証書ヲ以テ此許可ニ代用スルコトヲ得可シ 此証書ニハ必ス許可ヲ与フル人ノ姓名、職業、居所及ヒ其等親ヲ掲記ス親属協会若クハ後見協会ノ許可ハ其情況ヲ掲記セル協議書ヨリ成立スル者トス 第三章 婚姻ノ妨阻 第八十二条 父母若クハ祖父母ハ仮令ヒ其男子男孫カ満二十五歳ニ達シ其女子女孫カ満二十一歳ニ達スト雖モ若シ法律上ニ於ケル婚姻ノ障碍ト為ル可キ理由ノ存在スル有ルニ於テハ則チ其婚姻ヲ妨阻スルコトヲ得可シ 第八十三条 次項ノ時会ニ当テ若シ絶ヘテ先親ノ現在スル者ナキニ於テハ則チ兄弟姉妹伯叔父母及ヒ丁年ノ従兄弟ハ婚姻ノ妨阻ヲ為スコトヲ得可シ 第一項 第六十五条ニ掲記スル許可ヲ欠クノ時会 第二項 結婚者ノ一方カ失心セルノ時会 第八十四条 前条ノ時会ニ在テハ親属協会ノ認可ヲ得タル後見人若クハ副後見人モ亦婚姻ヲ妨阻スルコトヲ得可シ 第八十五条 更ニ結婚セント欲スル人ノ配偶者モ亦其結婚ヲ妨阻スルノ権理ヲ有ス 第八十六条 未亡人カ第五十七条ニ違背シテ結婚セント欲スルノ時会ニ在テハ其夫タリシ者ノ最近先親及ヒ其他ノ親属ハ其婚姻ヲ妨阻スルノ権理ヲ有ス 前次ノ婚姻カ無効ト為レルノ時会ニ在テハ婚姻ヲ妨阻スルノ権理ハ其結婚セシ所ノ人ニ帰属ス 第八十七条 検事ハ婚姻ノ障碍アルコトヲ知ルニ於テハ則チ之カ妨阻ヲ為サヽル可カラス 第八十八条 婚姻妨阻ノ訴牒ニ妨阻ヲ為ス所ノ人ノ身位、妨阻ノ理由及ヒ婚姻礼式ヲ執行スル本裁判管轄区内ノ某邑ニ択定セル住所トヲ包載ス 第八十九条 婚姻妨阻ノ訴牒ハ尋常訴牒ノ体式ヲ用ヒ以テ結婚者及ヒ其婚姻礼式ヲ執行ス可キ掌籍吏ニ報送ス 第九十条 法律ニ掲載スル理由ニ依拠シテ其権理ヲ有スル人ノ行用スル婚姻ノ妨阻ハ既決裁判ノ宣告ニ於テ其妨阻ヲ認可セサルニ至ル迄ハ婚姻礼式ノ執行ヲ仮停ス 第九十一条 婚姻ノ妨阻ヲ認可セサルノ時会ニ当テハ先親若クハ検事ニ非サル他ノ妨阻者ハ或ハ償金ヲ科徴セラルヽコト有ル可シ 第九十二条 本章及ヒ前章ノ各条ハ国王及ヒ王族ニ擬施ス可カラス 第四章 婚姻ノ礼式 第九十三条 婚姻ノ礼式ハ結婚者ノ一人カ其住居若クハ居所ヲ占定セル本邑ノ邑庁ニ於テ掌籍吏ノ面前ニ在テ公然ニ之ヲ執行ス 第九十四条 結婚者ノ指定セル期日ニ於テ掌籍吏ハ二名ノ証人(親族モ亦可ナリ)ノ面前ニ於テ結婚者ニ対シ本篇第百三十条第百三十一条及ヒ第百三十二条ノ条文ヲ朗読シ結婚者ヲシテ各自互相ニ夫ト為リ妻ト為ルコトヲ公言セシメ直チニ法律上ニ於テ其二人ハ婚姻ニ因テ結連スル者ト明言ス 結婚式ノ執行ヲ終ルノ以後ニ直チニ之ヲ婚姻公簿ニ登記ス 第九十五条 互相ニ夫ト為リ妻ト為ルノ公言ハ予メ期限若クハ規約ヲ以テスルコトヲ得可カラス 若シ結婚者カ強テ予メ期限若クハ規約ヲ以テスルコトヲ欲スルニ於テハ則チ掌籍吏ハ結婚式ヲ執行ス可カラス 第九十六条 若シ第九十六条ニ規定スル本邑ニ非サル他邑ニ在テ結婚式ヲ執行ス可キコトヲ要スルニ於テハ則チ掌籍吏ハ其結婚式ヲ執行ス可スキ地方ノ掌籍吏ニ向テ其請求ヲ為サヽル可カラス 此請求ハ必ス婚姻公簿ニ登記ス 結婚式執行ノ明日ニ於テ之ヲ執行セル掌籍吏ハ公正ナル婚姻証書ヲ作リテ他ノ掌籍吏ニ送付ス 第九十七条 若シ結婚者ノ一人カ疾病若クハ其他ノ事故ニ因テ親カラ邑庁ニ到ルコトヲ得サルニ於テハ則チ掌籍吏ハ書記員ト共ニ其結婚者ノ家ニ就キ四名ノ証人ノ面前ニ於テ第九十四条ノ制規ニ照准シテ以テ結婚式ヲ執行ス 第九十八条 掌籍吏ハ唯法律ニ指示セル理由ヲ以テノミ結婚式ノ執行ヲ拒却スルコトヲ得可シ 結婚式ノ執行ヲ拒却スル時会ニ当テハ其理由書ヲ付与セサル可カラス 若シ結婚者カ自己其理由ノ存在スルコト無シト思料スルニ於テハ則チ法衙ハ検事ノ意見ヲ聴取スルノ以後ニ之カ裁判ヲ宣告ス而シテ結婚者ハ其宣告ニ対シテ控訴ヲ搆起スルコトヲ得可シ 第九十九条 国王若クハ王族ノ婚姻ニ関シテハ王国上院議長カ掌籍吏ニ代テ其礼式ヲ執行ス 国王ハ自カラ其結婚式ヲ執行スル場所ヲ指定ス而シテ其結婚式ハ代理者ヲシテ之ヲ執行セシムルコトヲ得可シ 第五章 外国ニ於テ締結スル国民ノ婚姻及ヒ王国ニ於テ締結スル外国人ノ婚姻 第百条 外国ニ於テ国民ト国民若クハ国民ト外国人カ締結スル婚姻ハ有効ノ者トス但其婚姻ハ其国ノ定則ニ准依シテ以テ執行シ而シテ国民ハ本篇第一章第二節ノ各条文ニ違背セサルコトヲ要ス 其婚姻ノ公告ハ第七十条及ヒ第七十一条ノ法則ニ照准シテ之ヲ為サヽル可カラス若シ国民タル結婚者カ其居所ヲ王国内ニ占定セサルニ於テハ則チ其末期ノ住居ヲ占定スル邑内ニ於テ其公告ヲ為スコトヲ要ス 第百一条 外国ニ於テ結婚セシ国民ハ王国ニ帰来スル以後ノ三月内ニ其居所ヲ占定セル本邑ノ民籍公簿ニ其婚姻ノ登記ヲ申請セサル可カラス若シ其登記ヲ為サヽルニ於テハ則チ百「フラン」以内ノ罰金ヲ責徴ス 第百二条 結婚ニ関スル外国人ノ権理ハ其本国ノ法律ニ依拠スル者トス 然レトモ外国人モ亦本篇第一章第二節ニ掲載セル婚姻上ノ禁法ヲ恪遵ス可キ者トス 第百三条 王国内ニ於テ結婚セント欲スル外国人ハ其本国管轄庁ノ下付スル証書ニシテ本国ノ法律ニ於テ其婚姻ニ何等ノ障碍ヲモ与フルコト無キコトヲ証明スル所ノ者ヲ王国ノ民籍局ニ出示セサル可カラス 若シ其外国人カ王国内ニ居所ヲ占定セルニ於テハ則チ此民法ノ条則ニ照准シテ以テ婚姻公告ヲ為サヾル可カラス 第六章 婚姻無効ノ訟求 第百四条 第五十五条第五十六条第五十八条第五十九条、第六十条及ヒ第六十二条ニ違犯シテ締結セル婚姻ハ配偶者、其最近先親、検事及ヒ其他都テ其婚姻ニ関シ正当現実ノ利益ヲ有スル者ノ訟撃ヲ受ケサルコトヲ得ス 本管轄ニ非サル他ノ掌籍吏カ礼式ヲ執行セル婚姻若クハ合式ノ証人ナクシテ執行セル婚姻ハ前項ノ各人ノ訟撃ヲ受ケサルコトヲ得ス 婚姻礼式ヲ執行セル以後ノ一年ヲ経過スレハ則チ掌籍吏ノ管轄誤錯ニ関スル無効ノ訟求ハ之ヲ受理セス 第百五条 結婚者ノ一人ニシテ其承諾カ自由ノ心情ニ出テサリシ者ハ其婚姻ヲ訟撃スルコトヲ得可シ 身分上ニ関シテ誤錯アリシ時会ニ在テハ結婚者ノ一人ニシテ其誤錯ヲ被フリタル者ハ婚姻無効ノ訟権ヲ行用スルコトヲ得可シ 第百六条 若シ配偶者カ其自由ヲ得若クハ其誤錯ヲ知リタル以後一月間尚ホ同居セルニ於テハ則チ前条ニ掲載セル無効ノ訟求ハ受理セラレサル者トス 第百七条 配偶者ノ一人カ常存セル身体ノ不能力ヲ有シ而シテ其不能力カ結婚以前ニ係ルニ於テハ則チ他ノ一人ハ其不能力ヲ以テ婚姻無効ヲ訟求スルノ理由ト為スコトヲ得可シ 第百八条 先親、親属協会若クハ後見協会ノ許可ヲ得スシテ締結セル婚姻ハ其許可ヲ与フ可キ人及ヒ結婚者ノ一方ニシテ其許可ヲ要セシ所ノ者ノ訟撃ヲ受ケサルコトヲ得ス 結婚ノ時ニ於テ既ニ満二十一歳ニ達スル男子ハ其婚姻ヲ訟撃スルコトヲ得ス 第百九条 前条ノ時会ニ在テ若シ結婚者及ヒ其許可ヲ与フ可キ人カ明示若クハ暗示ヲ以テ其婚姻ヲ認可シ或ハ其婚姻ヲ聴知スル以後ノ六月内ニ之カ訟撃ヲ為サヽルニ於テハ則チ其訟権ヲ行用スルコトヲ得ス 丁年ニ達スル以後ニ其訟権ヲ行用セスシテ六月ヲ経過スル配偶者ハ此訟権ヲ行用スルコトヲ得ス 第百十条 合法ノ年齢ニ達セサル人カ締結セシ婚姻ト雖モ次項ノ時会ニ於テハ之ヲ訟撃ス可カラス 第一項 合法ノ年齢ニ達スル以後ノ六月ヲ経過セルノ時会 第二項 合法ノ年齢ニ達セサル婦女カ懐孕セルノ時会 第百十一条 結婚セントスル双方若クハ其一方カ未タ合規ノ年齢ニ達セサル以前ニ締結セル婚姻ハ其先親、親属協会若クハ後見協会之ヲ許可シタルニ於テハ則チ此等ノ人ハ之ヲ訟撃スルコトヲ得ス 第百十二条 失心ニ因テ治産ノ禁ヲ受ケタル者ノ婚姻ハ若シ其結婚ノ時際ニ於テ既ニ治産禁止ノ終審裁判ノ宣告ヲ受ケ或ハ其結婚以後ニ此宣告ヲ受クルモ其宣告ヲ為スノ理由タル失心カ既ニ結婚ノ時際ニ存在セシ者タルニ於テハ則チ其治産ノ禁ヲ受ケタル者、其後見人、親属協会及ヒ検事ハ之ヲ訟撃スルコトヲ得可シ 若シ治産解禁ノ以後六月間夫妻同居セシニ於テハ則チ婚姻ノ無効ヲ宣告ス可カラス 第百十三条 配偶者ノ一方ハ何等ノ時会ニ於テスルモ他ノ一方ノ婚姻ヲ訟撃スルコトヲ得可シ若シ前次ノ婚姻ノ無効ニ依拠シテ之ニ抗対スルニ於テハ則チ先ツ其抗対ニ向テ其裁判ヲ宣告スルコトヲ要ス 失踪者ノ配偶者カ締結セル婚姻ハ其失踪ノ期間ニ在テハ之ヲ訟撃スルコトヲ得可カラス 第百十四条 配偶者ノ一人ノ死亡セル以後ニ在テハ検事ハ其婚姻無効ノ訟権ヲ行用スルコトヲ得可カラス 第百十五条 婚姻ノ無効ヲ配偶者ノ一人ヨリ訟求セル時会ニ当テハ法衙ハ其一方ノ訟求ニ応シ其争訟ノ結落スルニ至ル迄仮リニ夫妻別居ヲ命スルコトヲ得可シ若シ配偶者ノ双方或ハ一方カ未丁年者タルニ於テハ則チ法衙ハ訟求ヲ待タスシテ夫妻別居ヲ宣告スルコトヲ得可シ 第百十六条 無効ノ公言ヲ受ケタル婚姻ト雖モ良意ヲ以テ締結セシ者ハ配偶者及ヒ其子ニ関シテ民法上ノ効力ヲ生スル者トス仮令ヒ其子ハ結婚以前ニ産生スル者ト雖モ其無効ノ公言ヲ受クル以前ニ在テ其子タルコトヲ認識セルニ於テハ則チ亦然リトス 若シ唯配偶者ノ一人ノミ良意ヲ以テシタリシニ於テハ則チ其婚姻モ亦唯良意ヲ以テセシ配偶者及ヒ其子ニ向テノミ民法上ノ効力ヲ生スル者トス 第七章 婚姻礼式執行ノ証憑 第百十七条 何人ヲ問ハス配偶者タル身位及ヒ法律上ノ婚姻ノ効力ヲ要求スル為メニハ結婚式執行ノ証書即チ婚姻公簿ノ写本ヲ出示セサル可カラス然レトモ第三百六十四条ニ掲記セル時会ノ如キハ此限外ニ在リトス 第百十八条 夫妻ノ如ク同居セル状況ノミヲ以テシテハ仮令ヒ双方ノ人カ夫妻タルコトヲ称言スルモ婚姻証書ヲ出示ス可キ責務ヲ認免スルニ足ラス 第百十九条 夫妻ノ如ク同居セル状況カ其婚姻証書ニ適合スルニ於テハ則チ他ノ婚姻上ノ違式ヲ補正スルニ足ル可シ 第百二十条 第百十七条及ヒ第百十八条ノ条則ニ関セス若シ公然ニ夫妻ノ如ク同居セシ人ニシテ共ニ既ニ死亡シタル所ノ者ノ遺子カ其出生証書ニ背反セサル実際ノ情況ニ因テ正出ノ子タルコトヲ証徴シ得ルニ於テハ則チ唯其婚姻証書ヲ欠クノ理由ノミヲ以テ其正出ニ非サルコトヲ訟撃スルヲ得ス 第百二十一条 若シ掌籍吏ノ詐偽或ハ錯誤ニ因テ婚姻証書カ婚姻公簿ニ登記セラレサリシ疑状アルニ於テハ則チ結婚者ハ民籍証書ヲ欠クル時会ノ為メニ設定セル規則ニ照准シ其婚姻ノ存在ヲ公言セシムルコトヲ得可シ然レトモ此時会ニ於テハ必ス次項ノ規約ヲ践行スルコトヲ要ス 第一項 婚姻公告ノ写本若クハ其認免証書ヲ供出スルコト 第二頂 実際ノ情況ニ於テ疑フ可カラサル証憑アルコト 第百二十二条 若シ結婚式執行ノ証徴カ刑事訴訟ヨリ起生セルニ於テハ則チ民籍公簿ニ其刑事ノ宣告ヲ登記セルヲ以テ其結婚式ノ当日ニ追遡シ結婚者及ヒ其子ニ対シテ民法上ニ於ケル婚姻ノ効力ヲ生セシムル者トス 第八章 罰則 第百二十三条 結婚者及ヒ掌籍吏ニシテ法律ノ必要スル婚姻公告ヲ為スコト無クシテ結婚式ヲ執行セル所ノ者ニ向テハ二百「フラン」以外千「フラン」以内ノ罰金ヲ責徴ス 第百二十四条 掌籍吏ニシテ自己明カニ婚姻ノ障碍若クハ制禁ノ在ル有ルコトヲ知了セル人ノ結婚式ヲ執行セル所ノ者ニ向テハ五百「フラン」以外二千「フラン」以内ノ罰金ヲ責徴ス 若シ掌籍吏カ自已ノ管轄ニ属セサル婚姻ノ礼式ヲ執行シ或ハ結婚者カ期限若クハ規約ヲ以テスル婚姻或ハ第七十九条及ヒ第八十条ニ掲記スル文書ヲ民籍局ニ出示セスシテ締結セル婚姻ノ礼式ヲ執行セルニ於テハ則チ亦前項ノ罰金ヲ責徴ス 第百二十五条 掌籍吏ニシテ結婚者ノ訟求若クハ其承諾ナク或ハ第七十四条ニ違犯シテ結婚式ヲ執行セル所ノ者ニ向テハ亦百「フラン」以外五百「フラン」以内ノ罰金ヲ責徴ス 第百二十六条 掌籍吏ニシテ第七十二条第七十五条第七十六条第九十三条第九十四条第九十六条第九十八条及ヒ第百三条ノ条則ニ違犯シ若クハ又本章中ノ特別ナル罰則ヲ掲記セサル他ノ罰則ニ触犯スル所ノ者ニ向テモ亦前項ノ罰金ヲ責徴ス 第百二十七条 結婚者ノ一方カ婚姻ノ障碍アルコトヲ覚知シ他ノ一方ヲシテ之ヲ覚知セシメス而シテ其婚姻ハ其障碍ノ為メニ無効ノ宣告ヲ受ケタルニ於テハ則チ此犯法ノ結婚者ハ千「フラン」以外三千「フラン」以内ノ罰金ヲ責徴シ且其情状ニ従テ或ハ六月ニ超過セサル禁獄ニ処断スル有ル可ク又他ノ配偶者ニ向テハ仮令ヒ此配偶者カ其被フレル損害ノ明詳ナル証憑ヲ出示セサルモ其賠償ノ責ニ応セサル可カラス 第百二十八条 第五十七条ニ違背シテ結婚セル婦女及ヒ此婚姻ヲ執行セシ掌籍吏及ヒ配偶者ハ三百「フラン」以外千「フラン」以内ノ罰金ヲ責徴ス 前項ノ婦女ハ其先夫ノ贈与、婚姻贈与及ヒ遺産ニ関スル諸般ノ権理ヲ喪失スル者トス 第百二十九条 前数条ニ掲記セル罰則ニ関スル訟権ハ総テ検事ニ帰属シ検事ハ懲戒法衙ニ向テ其請求ヲ為ス 第九章 婚姻ヨリ起生スル権理及ヒ義務 第一節 配偶者ノ間ニ於ケル互相ノ権理及ヒ義務 第百三十条 婚姻ハ夫妻タル者一家ニ同居シ貞信ヲ守テ以テ彼此扶助ス可キ互相ノ責務ヲ生スル者トス 第百三十一条 夫タル者ハ一家族ノ長ト為ス故ニ妻タル者ハ其夫ノ民法上ニ於テ保有スル身位ニ随属シテ其姓氏ヲ冒シ其夫カ便宜ニ占定スル居所ニ同居ス可キノ責務ヲ有ス 第百三十二条 夫タル者ハ其妻ヲ保護シ自巳ノ家裏ニ同居セシメ且自巳ノ資産ニ応シテ其給養ニ必要ナル諸般ノ事物ヲ備弁セサル可カラス 妻タル者ハ若シ其夫ノ資産カ周給セサルコト有ルニ於テハ則チ其夫給養ヲ備弁セサル可カラス 第百三十三条 夫タル者カ其妻ノ給養ヲ備弁ス可キノ責務ハ其妻カ至当ナル理由ナクシテ夫家ヲ出テ去リ而シテ帰リ来ルコトヲ拒難スルコト有レハ則チ随テ消滅ニ帰スル者トス 司法権ハ其情況ニ応シテ夫タル者及ヒ其子ヲシテ其妻ニ属スル収額ノ一部ヲ仮リニ勒抵セシムルコトヲ宣命スル有ル可シ 第百三十四条 妻タル者ハ其夫ノ認可ヲ得ルニ非サレハ則チ其不動産物件ヲ贈与シ転付シ若クハ之ヲ券記ノ抵当ト為シ或ハ貸借ノ契約ヲ為シ資本額ヲ譲与シ若クハ領受シ或ハ他人ノ保人ト為リ又此等ノ行為ニ関シテ協約ヲ為シ或ハ告訴ヲ搆起スルコトヲ得サル者トス 夫タル者ハ公式ニ准依スル証書ヲ以テ前項各種ノ行為ニ向テ普通ナル認可ヲ与ヘ若クハ某々ノ行為ニ向テ特別ナル認可ヲ与フルコトヲ得可シ然レトモ夫タル者ハ常ニ其認可ヲ収回シ得可キノ権理ヲ保有ス 第百三十五条 妻タル者ハ次項ノ各時会ニ於テハ夫タル者ノ認可ヲ取ルコトヲ必要ナリト為サス 第一項 夫タル者ノ未丁年、其治産ノ禁止其失踪若クハ其一年以上ノ禁獄ヲ科加セラレタル刑期内ニ在ルノ時会 第二項 夫タル者カ其夫ノ過失ニ因テ法律上ノ別居ヲ為セルノ時会 第三項 妻タル者カ商業ヲ営為スルノ時会 第百三十六条 夫タル者カ其妻ニ認可ヲ与ヘサルノ時会或ハ夫妻ノ利益カ相反スルノ時会或ハ其妻カ自己ノ過失ニ因リ若クハ自己及ヒ其夫ノ過失ニ因リ若クハ双方ノ領諾ニ因テ法律上ノ別居ヲ為セシノ時会ニ於テハ法衙ノ公認ヲ得ルコトヲ必要ナリトス 法衙ハ先ツ其夫ノ申明ヲ聴取シ或ハ之ヲ内審廷ニ召入スルニ非サレハ則チ此認可ヲ与フルコトヲ得ス但急遽措閣ス可カラサルノ時会ハ此限ニ在ラス 第百三十七条 認可ヲ欠クヨリ起生スル所ノ契約ノ無効ハ唯夫タル者、其妻、其承産者若クハ受権者ノミ之ヲ称言スルコトヲ得ル者トス 第二節 夫妻ノ其子ニ対スル権理及ヒ義務並ニ親属ノ間際ニ生出スル衣食ノ権理 第百三十八条 婚姻ハ夫妻ヲシテ其子ヲ養育教誨ス可キノ貴務ヲ負担セシムル者トス 此責務ハ父母タル者カ其資産ニ応シテ之ヲ負担ス可キ者ニシテ母タル者ノ嫁資ノ収額ハ此醵出額内ニ算入ス 若シ父母カ充分ナル資産ヲ有セサルニ於テハ則チ此責務ハ其順序ヲ逐テ最近ノ先親ニ帰属ス 第百三十九条 子タル者ハ其父母及ヒ先親ノ窮乏ナル者ニ対シテ衣食ヲ備弁セサル可カラス 第百四十条 互相ニ衣食ヲ備弁ス可キノ責務ハ外父母ト婿男嫁婦ノ間際ニ於テモ亦復タ存在スル者トス 此責務ハ次項ノ各時会ニ於テハ消滅ニ帰スル者トス 第一項 外母若クハ嫁婦カ再婚セルノ時会 第二項 姻族ノ起因タル配偶者、其配偶者トノ間ニ産生セル子及ヒ其後親ノ死亡セルノ時会 第百四十一条 兄弟姉妹ハ唯々其身体ノ孱弱若クハ心神ノ昏耗其他自己ヨリ起生セサルノ理由ニ因テ自カラ其衣食ヲ備弁スルコト能ハサルノ時会ニ於テノミ必要ナル衣食ノ供給ヲ請求シ得可キノ権理ヲ有ス 第百四十二条 衣食ヲ供給スル責務ノ順序ハ第一ニ配偶者第二ニ後親第三ニ先親第四ニ婿男及ヒ嫁婦第五ニ外父及ヒ外母第六ニ兄弟姉妹ニ帰属スル者トス 後親中ニ於テ此責務ヲ負担スルノ順序ハ衣食ノ供給ニ権理ヲ有スル人ノ准規遺産ヲ承襲ス可キ後親ノ順序ニ照准シテ之ヲ規定ス 第百四十三条 衣食ハ之ヲ要求スル人ノ費用ト之ヲ備弁スル人ノ資産トニ応シテ之ヲ供給ス可キ者トス 第百四十四条 若シ衣食ヲ供給セシ以後ニ在テ之ヲ備弁スル人若クハ之ヲ領受スル人ノ身位ニ変換ヲ起生スルコト有レハ則チ法衙ハ其状況ニ従テ衣食供給ノ廃止減少若クハ増加ヲ宣命ス 第百四十五条 衣食ヲ備弁スル人ハ其供給ニ権理ヲ有スル人ニ年金ヲ給与スルト其人ヲ自己ノ家裏ニ招致シテ其供給ノ費用ヲ備弁スルトノ二個ノ方法ノ其一ヲ択定シテ以テ其責務ヲ履行スルコトヲ得可シ 然レトモ法衙ハ其状況ニ応シテ衣食備弁ノ方法ヲ指定スルコトヲ得可■ 急遽措閣ス可カラサルノ時会ニ於テハ法衙ハ衣食供給ノ責務ヲ有スル数人中ノ一人ニ賦課シテ暫時其備弁ヲ為サシムルコトヲ得可シ而シテ此一人カ均シク供給ノ責務ヲ有スル他ノ各人ニ対シテ其還償ヲ請求スル如キハ此限外ニ在リトス 第百四十六条 衣食ヲ備弁ス可キノ責務ハ裁判執行ヨリ生出スル者タリト雖モ其責務ヲ負担スル人ノ死亡ニ因テ消滅ニ帰スル者トス 第百四十七条 子タル者ハ其婚姻若クハ他ノ事件ニ因テ一家ヲ立ル為メニハ其父母ニ向テ訟権ヲ有セサル者トス 第十章 婚姻ノ解消及ヒ夫妻ノ別居 第百四十八条 婚姻ハ唯々配偶者ノ一人ノ死亡ニ因テノミ解消スル者トス然レトモ夫妻ノ別居ハ法律ノ認可スル所ノ者トス 第百四十九条 夫妻別居ヲ請求スルノ権理ハ唯々法律ヲ以テ限定セル時会ニ於テ均シク其夫妻タル者ニ帰属ス 第百五十条 夫妻別居ハ奸通若クハ故意ノ棄捨、過慾、苛虐、脅嚇及ヒ己甚ナル醜辱ノ理由ニ依拠シテ以テ之ヲ訟求スルコトヲ得可シ 夫タル者カ自家若クハ外宅ニ於テ公然ニ妾ヲ畜ヘ若クハ諸般ノ事件ノ湊合セルヲ以テ妻タル者ニ向ヒ已甚ナル醜辱ヲ与ヘタルト看做ス可キ時会ニ当テノミ奸通ノ為メニ夫妻別居ヲ訟求スルノ理由ト為スコトヲ得可シ 第百五十一条 配偶者ノ一方カ重刑ニ処断セラレタルニ於テハ則チ他ノ一方ハ夫妻別居ヲ訟求スルコトヲ得可シ但々其刑事ノ宣告カ結婚ノ以前ニ在テ他ノ配偶者カ之ヲ知了シタル時会ノ如キハ此限ニ在ラズ 第百五十二条 夫タル者カ至当ナル理由無クシテ其居所ヲ確定セス若クハ充分ナル生活ノ方図ヲ有スト雖モ然レトモ其身位ニ相応ナル居所ヲ占定スルコトヲ拒却スル時会ニ在テハ其妻タル者ハ別居ヲ訟求スルコトヲ得可シ 第百五十三条 夫妻復和ハ復タ夫妻別居ヲ訟求スルノ権理ヲ褫除シ又既ニ為セシ所ノ訟求ヲ放棄セシムル者トス 第百五十四条 夫妻別居ヲ宣告スル所ノ法衙ハ夫若クハ妻カ其子ノ看守及ヒ其養育教誨ニ任処ス可キコトヲ併セテ宣告セサル可カラス 法衙ハ至重ナル理由アルニ於テハ則チ其子ヲシテ教育学舎ニ入学セシメ若クハ之ヲ第三位ノ人ニ委託スルコトヲ宣命ス 第百五十五条 其子ヲ委託セラレタル人ノ何人ニ係ルヲ問ハス其父母ハ其教育ヲ監視スルノ権理ヲ保有ス 第百五十六条 配偶者ニシテ自已ノ過失ニ因リ夫妻別居ノ宣告ヲ受ケタル者ハ嫁資ノ利益及ヒ他ノ一方ノ配偶者カ婚姻上ノ財産契約ニ因テ付与セシ所ノ一切ノ利益且准規収額得有ノ権理ヲモ併セテ之ヲ喪失ス可シ 他ノ一方ノ配偶者ハ仮令ヒ互相ノ契約ヲ為シタル者ト雖モ尚ホ前項ノ権理ヲ保有ス 若シ別居ノ裁判カ配偶者ノ双方ノ過失タルコトヲ宣告スルニ於テハ則チ配偶者ノ双方ハ共ニ権理ヲ喪失スル者トス但々衣食ノ供給ヲ訟求スルノ権理ノ如キハ此限ニ在ラス 第百五十七条 別居ノ夫妻ハ相協議シテ以テ更ニ明確ナル公言或ハ同居ノ事実ニ因テ別居ヲ宣告セル裁判ノ効力ヲ停止スルコトヲ得可シ而シテ之ニ関シテ法衙ノ間入ヲ要セサル者トス 第百五十八条 配偶者ノ承諾ノミヲ以テセル夫妻別居ハ法衙ノ公認ヲ取ルコトヲ必要ト為ス者トス 第六篇 親系 第一章 結婚ノ間ニ懐胎シ若クハ産生セル子ノ親系 第百五十九条 夫タル者ハ結婚ノ間ニ懐胎セル子ノ父ト為ス 第百六十条 結婚式ヲ執行スルヨリ百八十日ノ以後或ハ解婚シ若クハ破婚スルヨリ三百日ノ以後ニ産生スル所ノ子ハ結婚ノ間ニ懐胎セル者ト推定ス 第百六十一条 結婚スルヨリ百八十日ノ以前ニ産生セル子ト雖モ次項ノ各時会ニ於テハ夫タル者又其死亡セル以後ニ在テハ其承産者ハ父子ノ親系アルコトヲ認諾セラル可カラス 第一項 夫タル者カ結婚スルヨリ以前ニ其妻ノ懐胎セルコトヲ知了セルノ時会 第二項 夫タル者カ自カラ其子ノ産生ヲ帳簿ニ登記セシメ若クハ公正ナル証書ヲ以テ特ニ委任ヲ受ケタル一個ノ人カ之ヲ登簿セシメタルコトヲ産生証書ニ因テ証明ス可キノ時会 第三項 其子カ生存ス可カラサル者ト公言セラレタルノ時会 第百六十二条 夫タル者ハ若シ其子ノ産生スルヨリ以前ノ第三百日ヨリ第百八十日ノ期間其家裏ニ在ラサリシカ若クハ其他ノ事故ニ因テ実ニ其妻ト同居シ能ハサリシ状況アリシコトヲ証徴スルニ於テハ則チ其結婚ノ間ニ産生スル子ト雖モ之ヲ認諾セサルコトヲ得可シ 第百六十三条 夫タル者ハ亦若シ其子ノ産生スルヨリ以前ノ第三百日ヨリ第百八十日ノ期間法律上ノ夫妻別居ヲ為シタルニ於テハ則チ結婚ノ間ニ懐胎セル子ト雖モ之ヲ認諾セサルコトヲ得可シ 若シ暫時ト雖モ夫妻復和センコト有ルニ於テハ則チ此権理ハ其夫ニ属セサル者トス 第百六十四条 夫タル者ハ自己ノ不能力ヲ称言シテ以テ其産生ノ子ヲ認諾スルコトヲ拒却スルヲ得ス但々其不能力ハ明確ニシテ疑フ可カラサル者ハ此限ニ在ラス 第百六十五条 夫タル者ハ其妻カ産生セルコトヲ隠匿スルニ非サレハ則チ奸通ヲ理由ト為シテ其子ヲ認諾スルコトヲ拒却スルヲ得ス此時会ニ当テハ夫タル者ハ奸通及ヒ産生隠匿其他父ニ非サルコトヲ証明ス可キノ事実ヲ指挙シ諸般ノ方法(産生ノ子ヲ認諾スルコトヲ拒却スル訴訟法ヲ行用スルモ亦可ナリ)ヲ以テ其子ニ非サルコトヲ証明スルヲ得可シ 其母タル者ノ明言ノミヲ以テシテハ夫タル者ヲシテ其産生ノ子ヲ認諾スルコトヲ阻止セシムルニハ足ラサル者トス 第百六十六条 夫タル者カ産生ノ子ヲ認諾セサルコトヲ得可ギノ時会ニ在テハ次項ノ期間ニ於テ法衙ニ向ヒ其請求ヲ為サヽル可カラス 若シ其子ノ産生シタル場地ニ在ルニ於テハ則チ二月以内ノ期間若シ其場地ニ在ラサリシニ於テハ則チ其子ノ産生セル場地若クハ其住所ニ帰来セシ以後三月以内ノ期間 産生ヲ隠匿セルノ時会ニ当テハ之ヲ覚知セシ以後三月以内ノ期間 第百六十七条 若シ夫タル者カ其訟権ヲ行用セスシテ法律上ノ期間内ニ死亡シタルニ於テハ則チ其承産者ハ彼ノ遺子カ死亡者ノ遺産ヲ占有セシ時期若クハ此承産者カ彼ノ遺子ニ依テ其財産占有ヲ障碍セラレシ時期ヨリ二月以内ニ其子ノ准規ノ者ニ非サルコトヲ訟撃スルヲ得可シ 第百六十八条 若シ其遺子カ既ニ丁年ニ達セルニ於テハ則チ父タルコトヲ拒却スルノ訟権ハ直チニ此子ニ向テ行用スルコトヲ得可ク又若シ其遺子カ未タ丁年ニ達セス若クハ治産ノ禁ヲ受ケタルニ於テハ則チ其訴訟ヲ搆起セル管轄法衙ノ指命セル保管人ノ臨同ヲ得テ以テ訴牒ヲ投呈ス可キ者トス 何等ノ時会タルヲ問ハス其母タル者ハ訟廷ノ召喚ニ応セサル可カラス 第百六十九条 婚姻ヲ解消シ若クハ解破スルヨリ三百日ノ以後ニ産生セル子ノ准規ノ者ニ非サルコトハ都テ其事ニ関シ利益ヲ有スル人ノ訟撃スル所ト為ル可キ者トス 第二章 准規親系ノ証憑 第百七十条 親系ノ准規タルコトハ民籍公簿ニ登記セル産生証書ニ依拠シテ以テ之ヲ証徴ス可キ者トス 第百七十一条 前条ノ証憑ヲ欠クニ於テハ則チ准規ノ子タル実状ヲ有スルヲ以テ足レリトス 第百七十二条 実状ヲ有スルコトハ一個ノ人ト其人カ所属ト称言スル親属トノ間ニ子タリ父タルノ関係アルコトヲ証明ス可キ事件ノ湊合ヨリ生出スル者トス 其事件ハ大抵次項ノ各事件ニ在テ存ス 其人カ常ニ自巳ノ父ト称言スル人ノ姓氏ヲ冒セシノ事件 父タル者カ子ヲ以テ其人ヲ遇視シ其養育教誨及ヒ執業ヲ担任セシノ事件 其人カ交際上常ニ其父タル者ノ子ト看認セラレシノ事件 其父タル者ノ親属ニ因テ子ト看認セラレシノ事件 第百七十三条 何人ヲ問ハス准規ノ子タル産生証書ニ依テ自已ニ属スル身位ニシテ其実状モ亦此証書ニ適合セル所ノ者ヲ除クノ外又他ノ身位ヲ有スルコトヲ要求スルヲ得ス 実状カ其産生証書ニ適合セル准規ニ対シテハ之ヲ駁撃スルコトヲ得サル者トス 第百七十四条 産生証書ヲ有セス又其実状ヲ有セサルノ時会若クハ其子カ偽名ヲ以テシ或ハ其父母ヲ知ル可カラストシテ登簿セラレタルノ時会若クハ其父ト為ス可キコトニ疑状アリ或ハ詐偽アルノ時会ニ於テハ子タルノ証憑ハ証人ヲ立テ以テ之ヲ証明スルコトヲ得可シ第二第三ノ時会ニ於テハ仮令ヒ其実状ニ適合セル産生証書アルト雖モ亦然リトス 証人ノ証憑ハ既ニ録記セル証憑ノ端緒アリ若クハ事実ヨリ起生スル所ノ推定或ハ徴験カ之ヲ採用スルニ足ル者アルノ時会ニ於テノミ採用ス可キ者トス 第百七十五条 録記セル証憑ノ端緒ハ親族ノ文書、公簿、父若クハ母ノ私際ノ書類准規ニ非サルコトヲ訟撃シ得可キ人若クハ其人ニシテ尚ホ生存セシナレハ准規ナラサルニ利益ヲ有ス可キ者ヨリ出ツル公私ノ証書ヨリ成立スル者トス 第百七十六条 反対ノ証憑ハ其請求者カ果シテ其母ト称言スル婦女ノ子ニ非ス若クハ仮令ヒ其母タルコトヲ証明シ得ルモ其母ノ夫タル者ノ子ニ非サルコトヲ証徴スルニ切当ナル諸般ノ方法ヨリ成立スル者トス 第百七十七条 准規ノ子タルコトヲ要求スル訟権ハ其子ニ関シテハ期満ニ因テ喪失ス可キ者ニ非ス 第百七十八条 此訟権カ身位ノ保有ヲ要求セサリシ子ノ承産者若クハ其後親ニ因テ行用セラルヽハ唯々其子カ未丁年ニシテ死亡シ若クハ其丁年ニ達セル以後ノ五年以内ニ死亡セシノ時会ノミニ限ル者トス 其子カ此訟権ヲ行用シタル時会ニ在テ若シ此争訟カ停止セラレ若クハ期満ニ因テ中止セラレサルニ於テハ則チ其子ノ承産者若クハ後親ハ其争訟ヲ継続スルコトヲ得ル者トス 第三章 婚姻ノ外ニ産生セル子ノ親系及ヒ其正出ノ認諾 第一節 婚姻ノ外ニ産生セル子ノ親系 第百七十九条 私生ノ子ハ其父母ニ因テ協認セラレ或ハ其父若ク■其母ニ因テ認諾セラルヽ者トス 第百八十条 次項ノ子ハ之ヲ認諾ス可カラサル者トス 第一項 懐胎セル時期ニ於テ他ノ人ト結婚セシ人ノ子 第二項 直系ニ於テハ一般無限ニ旁系ニ於テハ二等親内ニ在ルノ親属若クハ姻族タルヲ以テ結婚ス可カラサル人ノ子 第百八十一条 私生ノ子ノ認諾ハ其産生証書若クハ其産生セル以前或ハ以後ニ於テ録製シタル公正ナル証書ヲ以テス可シ 第百八十二条 私生ノ子ノ認諾ハ唯々其父若クハ母ノ認諾シタル者ニ向テノミ其効力ヲ有シ其子ハ他ノ一人ニ向テハ何等ノ権理ヲモ有セサル者トス 第百八十三条 配偶者タル一人ノ私生ノ子ニシテ結婚ノ以前ニ産生シ結婚ノ以後ニ認諾セラレタル者ハ其配偶者ノ一方ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ則チ之ヲ其家裏ニ招キ入ルコトヲ得可カラス但々此一方ノ人カ其子タルノ認諾ヲ与フルニ際シテ既ニ己ニ其承諾ヲ与ヘタルコト有ルカ如キハ此限ニ在ラス 第百八十四条 私生ノ子ヲ認諾セル父若クハ母ハ其子ノ未丁年ノ間ハ法律上ノ後見ノ任ヲ帯フ可キ者トス 若シ父母共ニ之ヲ認諾セルニ於テハ則チ其後見ノ任ハ其父ニ帰属ス可キ者トス 此後見ニ向テハ第二百二十一条ヨリ第二百二十七条ニ至ルノ各条及ヒ第二百三十三条ヲ擬施ス可キナリ 第百八十五条 私生ノ子ハ其認諾ヲ受ケタル人ノ姓氏ヲ冒シ若シ其父母共ニ之ヲ認諾セシニ於テハ則チ其父ノ姓氏ヲ冒ス 第百八十六条 父若クハ母タル者ハ其認諾セル私生ノ子ヲ養育教誨シ之ヲシテ職業ヲ執ラシム可キ者トス若シ此私生ノ子カ配偶者若クハ後親ヲ有セサルニ於テハ則チ其窮乏ノ時ニ際シテハ之カ衣食ヲ備弁ス可キノ責ヲ有ス 父若クハ母タル者ハ若シ死亡セル私生ノ子ノ妻若クハ其母族ノ先親カ衣食ノ給養ヲ備弁シ能ハサル情況ニ在ルニ於テハ則チ其私生ノ子ノ准規後親ニ向テ前次ノ責務ヲ有ス 第百八十七条 私生ノ子ハ若シ其父若クハ母タル者カ先親准規後親若クハ配偶者カ衣食ヲ備弁シ能ハサル情況ニ在ルニ於テハ則チ其父若クハ母ニ対シテ衣食ヲ給養ス可キノ責ヲ有ス 第百八十八条 私生ノ子ノ認諾ハ正出ノ子タル者及ヒ其他此事ニ関シテ利益ヲ有スル一切ノ人ノ訟撃スル所ト為ル可キ者トス 第百八十九条 父タル者ヲ捜索スルハ制禁ニ属ス但強誘若クハ強淫ニ関シ其事実カ懐胎ノ日ト符合セルノ時会ノ如キハ此限ニ在ラス 第百九十条 母タル者ヲ捜索スルハ制禁ノ例ニ在ラス 其母ヲ捜索スル私生ノ子ハ自己カ其母ノ分娩セル子タルコトヲ証徴セサル可カラス証人ニ依テ証明スル証憑ハ既ニ録記ニ係ル証憑ノ端緒アルカ若クハ事実ヨリ起生スル推定及ヒ徴験カ之ヲ許可ス可キ者アルノ時会ニ於テスルニ止マル 第百九十一条 父若クハ母タルノ宣告ヲ要求スル私生ノ子ハ其事ニ関シテ利益ヲ有スル一切ノ人ノ訟撃スル所ト為ル可キ者トス 第百九十二条 私生ノ系属タルコトヲ公言スルノ裁判宣告ハ以テ認諾ノ効力ヲ生スル者トス 第百九十三条 認諾ヲ禁止スルノ時会ニ於テハ私生ノ子ハ其父若クハ其母ヲ捜索スルコトヲ得可カラス 然レトモ私生ノ子ハ次項ノ各時会ニ於テハ常ニ衣食ノ給養ヲ請求スルノ訟権ヲ有ス 第一項 父タリ若クハ母タルコトカ民事若クハ刑事ノ宣告ヨリシテ間接ニ起生スルノ時会 第二項 父タリ若クハ母タルコトカ無効ト公言セラレタル婚姻ヨリ起生スルノ時会 第三項 父タリ若クハ母タルコトカ其父若クハ母ノ書類中ニ於テ特ニ公言セラレタルヨリシテ起生スルノ時会 第二節 私生ノ子ノ正出ノ認諾 第百九十四条 正出ノ子タル認諾ハ婚姻ノ外ニ産生シタル子ヲシテ准規ノ子タル身位ヲ有セシムル者トス 正出ノ子タル認諾ハ私生ノ子ヲ有スル父母カ婚姻ヲ締結スルニ因リ若クハ国王ノ命令ニ因テ成ル者トス 第百九十五条 法律ニ於テ認諾ス可カラサル私生ノ子ハ前条ノ婚姻若クハ国王ノ命令ヲ以テスルモ正出ト認諾ス可カラサル者トス 第百九十六条 死亡セル私生ノ子ノ正出ノ認諾ハ其子ノ後親ノ為メニ之ヲ為スコトヲ得可シ 第百九十七条 婚姻ニ因テ正出ノ認諾ヲ得タル子ハ若シ其父母ノ結婚ノ時際若クハ其以前ニ於テ認諾セラレタルニ於テハ則チ其結婚ノ本日ヨリ准規ノ子ノ権理ヲ有シ若シ結婚ノ以後ニ認諾ヲ得タルニ於テハ則チ其認諾ノ本日ヨリ其権理ヲ有ス 第百九十八条 国王ノ允可ヲ以テスル正出ノ認諾ニ関シテハ必ス次項ノ規約ヲ具備スルコトヲ要ス 第一項 父母若クハ其一人カ之ヲ請求スルコト 第二項 請求者カ准規ノ子、正出ノ認諾ヲ与ヘシ子及ヒ其後親ヲ有セサルコト 第三項 請求者カ現実ニ婚姻ニ因テ其子ニ正出ノ認諾ヲ与フル能ハサル情況ニ在ル 第四項 請求者カ結婚セル者タルニ於テハ則チ其配偶者ノ承諾ヲ出示スルコト 第百九十九条 父若クハ母タル者カ其遺嘱書若クハ他ノ公正ナル書類中ニ於テ其私生ノ子ニ正出ノ認諾ヲ与フルノ意望ヲ表明シタルニ於テハ則チ其私生ノ子ハ其父若クハ其母ノ死亡セル以後ニ其正出認諾ノ許可ヲ請求スルコトヲ得可シ但其死亡セル時際ニ於テ前条ノ第二項及ヒ第三項ニ掲記スル規約ヲ具備スルコトヲ要ス 此時会ニ於テハ死亡者ノ二個ノ最近親属ニシテ第四等親内ニ在ル人ニ向テ其請求ヲ通報ス 第二百条 正出認諾ノ許可ノ請求ハ之ヲ証徴ス可キ書類ト共ニ請求者カ其居所ヲ占有スル所ノ控訴法衙ニ向テ之ヲ供出ス 法衙ハ検事ノ申明ヲ聴取スルノ以後ニ内審廷ニ於テ其請求カ前数条ニ掲記セル規約ニ准拠スルカヲ審査シ其正出認諾ノ請求ヲ許可ス可キト許可ス可カラサルトヲ宣告ス 若シ法衙カ之ヲ許可ス可キ者ト判決スルニ於テハ則チ検事ハ書類ヲ副具シテ之ヲ司法卿ニ送呈ス司法卿ハ其許可ニ関シテ参議院ノ意見ヲ聴取スルノ以後ニ之ヲ国王ニ上奏ス 若シ国王カ之ヲ允可スルニ於テハ則チ其命令ハ嘗テ意見ヲ送呈セシ法衙ニ下付シ之ニ関スル公簿ニ登記ス而シテ比認諾ニ利益ヲ有スル人ハ認諾ヲ請求セル子ノ民籍公簿ニ之ヲ登記セシム 第二百一条 国王ノ命令ヲ以テスル正出認諾ノ允可ハ婚姻ニ因テ認諾スル者ト同一ノ効力ヲ生ス然レトモ其効力ハ国王ノ命令ノ記日ヨリシテ始メテ之ヲ生出スル者ニシテ且唯其請求ヲ為セシ父若クハ母タル者ニ向テノミ存在セシムル者トス 第七篇 養子 第一章 養子及ヒ其効力 第二百二条 養子ヲ為スニハ准規ノ後親若クハ正出認諾ノ後親ヲ有セサル人ニシテ男女ヲ問ハス満五十歳ニ達シ而シテ其年齢カ養子ト為サント欲スル人ノ年齢ト十八年ノ懸隔アル所ノ者ニ限リ始メテ之ヲ許可ス 第二百三条 何人ヲ問ハス同一ノ行為ヲ以テスルニ非サレハ則チ数個ノ人ヲ養子ト為スコトヲ得ス 第二百四条 何人ヲ問ハス同時ニ数個ノ人ノ養子ト為ルコトヲ得ス但夫妻タル者ノ養子ト為ルハ此限ニ在ラス 第二百五条 婚姻ノ外ニ産生セル子ハ其父若クハ其母ノ養子ト為ルコトヲ得ス 第二百六条 未丁年者ハ満十八歳ノ年齢ニ達スルニ非サレハ則チ養子ト為ルコトヲ得ス 第二百七条 後見人ハ其管理スル所ノ財産ノ決算ヲ為スノ以後ニ非サレハ則チ其後見ノ権下ニ在ルノ人ヲ養子ト為スコトヲ得ス 第二百八条 養子ノ契約ハ養父母ト養子ノ承諾ニ因テ成ル者トス 若シ養子或ハ養父母カ其父母或ハ配偶者ヲ有スルニ於テハ則チ必ス此等ノ人ノ承諾ヲ取ルヲ要ス 第二百九条 若シ養子カ未丁年者ニシテ其父母カ生存セサルニ於テハ則チ親属協会若クハ後見協会ノ承諾ヲ取ルコトヲ要ス 第二百十条 養子ハ養父母ノ姓氏ヲ以テ自已ノ姓氏ニ附加ス又養父母ノ遺産ニ関スル養子ノ権理ハ遺産篇ニ於テ之ヲ規定ス 第二百十一条 養父母ハ養子ノ教育ヲ為シ其要用スル資助ヲ与■並ニ衣食ヲ供給セサル可カラス 窮乏ノ時ニ際シ互相ニ衣食ヲ供給ス可キノ責務ハ養父母ト養子ノ間ニ存在スル者トス然レトモ養父母ハ正父母若クハ私父母ニ先タツテ此責務ヲ有シ養子ハ養父母ノ正出若クハ私生ノ子ト共ニ此責務ヲ負担ス 第二百十二条 養子ハ所出ノ親属ニ向テ其権理及ヒ義務ヲ存有ス 養子ノ契約ハ婚姻ノ篇ニ規定セル法則ヲ除クノ外ハ養父母ト養子ノ親属トノ間又養子ト養父母ノ親属トノ間ニ於テハ民法上何等ノ関係ヲモ生出スルコト無シ 第二章 養子ノ法式 第二百十三条 養子ヲ為サント欲スル人及ヒ養子ト為ラント欲スル人ハ養父母カ其住居ヲ占定スル地方ノ控訴裁判所長ノ面前ニ於テ自カラ互相承諾ノ法式ヲ執行シ其法衙ノ書記員之ヲ領受ス 第二百八条及ヒ第二百九条ニ准拠シテ承諾ヲ為ス可キノ人ハ自己ヲ以テシ若クハ代理人ヲ以テシテ其法式ニ臨同セサル可カラス 第二百十四条 爾後十日ノ期間内ニ於テ前条ノ法式ヲ執行セシ一人ハ養子証書ノ写本ヲ法衙ニ提出シ其認可ヲ受ク可シ 第二百十五条 法衙ハ至当ナル探知ヲ為スノ以後ニ於テ次項ノ事件ヲ審査スルコトヲ要ス 第一項 法律上ノ規約ヲ践行シタルカ 第二項 養子ヲ為サント欲スル人ハ如何ナル世評ヲ有スル者タルカ 第三項 養子ノ契約ヲ果シテ養子ニ利益アルカ 第二百十六条 法衙ハ検事ノ申明ヲ聴取シ直チニ内審廷ニ於テ唯々養子ヲ為ス可ク若クハ養子ヲ為ス可カラサルコトヲ宣告シ復タ他ノ訴訟法式ヲ履行セス又何等ノ理由ヲモ公言セサルナリ 第二百十七条 法衙ニ於テ認可セラレタル養子ノ契約ハ承諾ノ本日ニ追遡シテ其効力ヲ生出スル者トス然レトモ法衙ノ宣告ヲ得サルノ間ハ養父母若クハ養子ハ其承諾ヲ変改スルコトヲ得可シ 養子ヲ為サント欲スル人カ法衙ニ於テ承諾ヲ為シタル以後其認可ヲ得サル以前ニ死亡スルコト有ルモ尚ホ其順序ヲ履行シテ養子タルコトヲ認可ス可キニ於テハ則チ之ヲ認可ス 養子ヲ為サント欲スル者ノ承産者ハ検事ヲ経由シテ養子ヲ認可ス可カラサル理由ノ意見書ヲ投呈スルコトヲ得可シ 第二百十八条 養子ヲ認可スル控訴法衙ノ宣告ハ其必要ト思料スル場地ニ向テ至当ノ員数ヲ以テ其宣告書ヲ榜貼公告シ且其管轄内ノ裁判公告新聞及ヒ王国公報ニ掲載シテ之ヲ広告ス 第二百十九条 法衙ノ宣告ヲ経ル以後ノ二月内ニ養子契約書ノ写本ヲ民籍公簿中其養子ノ産生証書ノ余白ニ登記ス 此登簿ハ養子契約書ノ公正ナル写本、控訴法衙ノ宣告書及ヒ其公告ノ貼示ヲ為セシ証書ヲ出示セシメテ以テ之ヲ執行ス若シ其期限内ニ此登簿ヲ執行セラレサリシニ於テハ則チ其養子ノ効力タル第三位ノ人ニ向テハ其登簿ノ本日ヨリシテ始メテ之ヲ生出スル者トス 第八篇 父権 第二百二十条 子タル者ハ其年齢ノ幼壮ナルニ関セス常ニ其父母ニ対シテ恭敬ヲ尽サヽル可カラス 子タル者ハ其丁年ニ達スル迄若クハ其丁年権ノ認可ヲ得ル迄ハ其父母ノ権下ニ属ス 結婚ニ関シテハ此権ハ父タル者之ヲ行用シ若シ父タル者之ヲ行用シ能ハサル時会ニ於テハ母タル者之ヲ行用ス 婚姻解消ノ以後ハ父母ニシテ其生存スル所ノ者カ此権ヲ使用ス 第二百二十一条 子タル者ハ父母ノ許諾ヲ得ルニ非サレハ其父母ノ家若クハ其父カ指定セシ家ヲ離レ去ルコトヲ得可ラス但自ラカ好テ兵役ニ従事スルハ此限ニ在ラス若シ子タル者カ許諾ヲ経スシテ其家ヲ離レ去リタルニ於テハ則チ其父ハ之ヲ召還スルノ権理ヲ有シ己ムヲ得サレバ則チ之ヲ裁判所長ニ申訴ス 若シ至当ナル理由アリテ子タル者カ其父母ノ家ヲ離レ去ルコトヲ要スルニ於テハ則チ法衙ハ其親属若クハ検事ノ請求ニ応シ訴訟法式ヲ履行セス唯其事情ヲ探知シ而シテ其理由ヲ公言セスシテ以テ至当ノ処分ヲ為ス 急遽措閣ス可カラサルノ時会ニ当テハ検事ハ仮リニ其処分ヲ為シ直チニ裁判所長ニ具陳ス而シテ此仮行ノ処分ヲ認可シ停止シ若クハ変改スルハ即チ裁判所長ノ権内ニ帰属ス 第二百二十二条 父タル者カ其子ノ不善ヲ誡禁シ能ハサル時会ニ於テハ其資産ニ応シ必要ナル衣食ヲ供給シテ以テ其家ヲ去ラシメ或ハ裁判所長ニ陳明シテ其脩身ニ適当ナル教育院舎若クハ懲戒院舎ニ入学セシムルコトヲ得可シ 法衙ノ許可ハ口述ヲ以テ之ヲ請求スルコトヲ得可ク裁判所長ハ何等ノ法式ヲモ履行セス且何等ノ理由ヲモ公言セスシテ直チニ其処分ヲ為ス 第二百二十三条 前二条ノ時会ニ於テハ裁判所長ノ処分ニ向テ之ヲ控訴裁判所長ニ控告スルコトヲ得可シ此時会ニ於テハ検事ノ意見ヲ聴取スルヲ要スル者トス 第二百二十四条 父タル者ハ民法上諸般ノ行為ニ関シ懐妊セル子若クハ産生セル子ニ替代シテ且其財産ヲ管理ス 父タル者ハ其子ノ財産ヲ転付シ券記抵当シ及ヒ典質スルコトヲ得ス又其子ノ名義ヲ以テ借用シ若クハ普通管理ノ制限ニ超過スルノ他ノ責務ヲ生出セシムルコトヲ得ス但々其子ノ為メニ必要若クハ有益ナル時会ニ於テ民事法衙ノ許可ヲ得テ以テ此等ノ行為ヲ施行スル如キハ此限ニ在ラス 若シ同一ノ父権ノ下モニ在ル子ト子ノ間若クハ子ト其父ノ間ニ利益ノ相反スル者アルニ於テハ則チ其子ノ為メニ特別ノ保管人ヲ指命ス 此保管人ハ訴訟ヲ構起セル所ノ管轄法衙ニ於テ之ヲ指命シ他ノ時会ニ於テハ民事法衙之ヲ指命ス 第二百二十五条 資本金ノ領受及ヒ毀壊ス可キ動産物件ノ売付ニ関シテハ唯々邑長ノ許可ヲ得ルノミヲ以テ足レリトス其価金ヲ実用スル規約ニ関シテハ必ス邑長カ其用法ノ危険ナラサルコトヲ認可スルヲ要ス 第二百二十六条 父タル者ノ権下ニ在ル子ニ帰属スル遺産ハ其父カ目録書ノ制限ヲ帯ヒテ以テ之ヲ領受ス 若シ其父カ之ヲ領受スルコトヲ得ス或ハ之ヲ領受スルコトヲ欲セサルニ於テハ則チ法衙ハ其子、其親属ノ一人若クハ検事ノ請求ニ応シテ特別ナル管保人ヲ指命シ其子ノ申明ヲ聴取スル以後ニ其領受ヲ宣命ス 第二百二十七条 前数条ニ違背セル行為無効ノ宣告ハ父タル者ハ子タル者若クハ其承産者及ヒ受権者ノミ之ヲ請求スルコトヲ得可シ 第二百二十八条 父タル者ハ其子カ承産、贈与若クハ其他ノ名義ニ依テ得有セシ財産ニ向テ収額得有ノ権理ヲ有シ其子ノ丁年若クハ丁年認可ニ至ル迄之ヲ保有ス 第二百二十九条 次項ニ列記スル財産ハ父タル者ノ収額得有権ニ属セス 第一項 父タル者カ収額得有権ヲ有ス可カラサルノ規約ヲ以テ其子ニ留存シ若クハ贈与セル財産然レトモ此規約カ准規部分トシテ其子ニ貯存ス可キ財産ニ関シテハ其効力ヲ有セサルナリ 第二項 其子ヲシテ職業ヲ執ラシメ若クハ技術ヲ習ハシムル為メニ留存シ若クハ贈与セシ財産 第三項 父タル者ノ意見ニ反シテ其子ノ利益ノ為メニ領受セル遺産贈遺若クハ贈与ニ因テ其子ニ帰属セル財産 第四項 子タル者カ文武ノ公務ニ因リ若クハ職業、技術ニ因リ若クハ自已一身ノ執行或ハ其父ト殊異ナル産業ニ因テ得有セル財産 第二百三十条 収額得有権ニ関スル責課ハ次項ノ如シ 第一項 其子ノ給養教誨ニ関スル費用 第二項 収額得有権ヲ行用スル本日ヨリ支弁ス可キ年賦額若クハ利息額 第三項 収額得有者ニ帰属ス可キ一切ノ責課 第二百三十一条 前数条ノ条文ハ父権ヲ行用スル母タル者ニ向テモ亦之ヲ擬施ス 其父権ハ尚ホ父タル者ニ因テ行用セラルヽモ若シ其父カ収額得有ノ権内ヨリ斥除セラレタルニ於テハ則チ其権理ハ母タル者ニ転移ス 第二百三十二条 合法ノ収額得有権ハ其子ノ死亡及ヒ其父若クハ母ノ再婚ニ因テ罷ム者トス 第二百三十三条 若シ父或ハ母カ其子ニ対スル義務ヲ怠忽シ若クハ其子ノ財産ニ向テ失宜ノ管理ヲ為シ以テ其父権ヲ妄用スルニ於テハ則チ法衙ハ最近親属若クハ検事ノ請求ニ応シ其子ニ一個ノ後見人ヲ指命シ其財産ニ一個ノ管理人ヲ指命シ以テ其父或ハ母ノ収額得有権ノ全部若クハ一部ヲ剥奪シ其子ノ利益ノ為メニ適当ナル方法ヲ宣命ス 第二百三十四条 収額得有権ヲ喪失スル以後若シ其父或ハ母カ代任権ヲ有セスト雖モ亦之ヲ妨阻スル者モ無ク若クハ代任権ヲ有スルモ其収額ノ決算ヲ為ス可キ規約ヲ立ルコト無クシテ依然尚ホ其子ノ財産ヲ使用スルニ於テハ則チ父若クハ母及ヒ其承産者ハ請求ヲ受ケタル本日ヨリ其収額ヲ還付セサル可カラス 第二百三十五条 父タル者ハ遺属書若クハ公正ナル証書ヲ以テ其子ノ教育及ヒ其子ノ財産ノ管理ニ関シ生存スル母ニ向テ規約ヲ指示スルコトヲ得可シ 此規約ヲ守ルコトヲ欲セサル母ハ其認免ヲ得ルカ為メニ邑長ニ請求シテ第二百五十二条及ヒ第二百五十三条ニ規定セル親属協会ヲ招開スルコトヲ得可ク而シテ親属協会ハ其認免ノ請求ノ当否ヲ協議ス 親属協会ノ協議ハ法衙ノ認可ヲ取リ法衙ハ検事ノ申明ヲ得テ以テ其認可ヲ宣命ス 第二百三十六条 若シ夫タル者ノ死亡セル時会ニ当リ其妻カ懐胎セルニ於テハ則チ法衙ハ利益ヲ有スル一切ノ人ノ請求ニ応シテ懐胎セル子ノ保管人ヲ指命ス 第二百三十七条 再婚セント欲スル母ハ其結婚ノ以前ニ第二百五十二条及ヒ第二百五十三条ニ照依シ親属協会ヲ招開セサル可カラス 親属協会ハ財産管理ヲ其母ニ委付ス可キカ此管理及ヒ其子ノ教育ニ関シ規約ヲ設定ス可キカヲ議決ス 親属協会ノ議決ハ法衙ノ認可ヲ取リ法衙ハ第二百二十五条ニ規定セル法式ニ照准シテ其認可ヲ宣告ス 第二百三十八条 前条ニ掲記スル親属協会ノ招開ヲ為サヽル時会ニ当テハ母タル者ハ財産ヲ管理スルノ権理ヲ喪失シ其夫タル者ハ其管理及ヒ爾後失宜ニ保持セシ管理ニ関シ其妻ト共ニ其責任ヲ負担ス可キ者トス 邑長ハ検事或ハ第二百五十二条及ヒ第二百五十三条ニ指定スル人ノ請求ニ因リ若クハ自カラ親属協会ヲ招開シテ其子ノ教育及ヒ其財産ニ向テ指命スル保管人ノ規約ヲ議決セシム 親属協会ハ母タル者ヲシテ尚ホ其財産ノ管理ニ復任セシムルコトヲ得可シ 第二百三十七条ノ第二項ハ親属協会ノ議決ニ向テ擬施ス可キ者トス 第二百三十九条 母タル者カ財産ノ管理ヲ保持シ若クハ之ニ復任スルニ於テハ則チ其夫タル者ハ其管理ニ関シ母タル者ト互相特担ノ責任ヲ有ス 第九篇 未丁年、後見及ヒ丁年権ノ認許 第一章 未丁年 第二百四十条 其年齢満二十一歳ニ達セサル人ヲ以テ未丁年者ト做ス 第二章 後見 第一節 後見人 第二百四十一条 若シ父母タル者カ死亡シ或ハ失踪ノ公言ヲ受ケ或ハ刑事ノ宣告ヲ被フリタルニ因テ父権ヲ喪失セルニ於テハ則チ後見ノ事務ヲ開始ス 第二百四十二条 後見人(親属タルト否ラサルトヲ問ハス)ヲ指定スルノ権理ハ時ニ生存セル父母ニ帰属ス 後見人ハ公式証書若クハ遺嘱書ヲ以テ之ヲ指定ス可キ者トス 第二百四十三条 死亡スル時ニ於テ父権ヲ有セサリシ父若クハ母カ指定シタル後見人ノ撰命ハ無効ノ者トス 第二百四十四条 父若クハ母カ後見人ヲ指定セサリシニ於テハ則チ後見ノ権理ハ父族ノ祖父ニ帰属シ若シ之ヲ欠ク時会ニ在テハ母族ノ祖父ニ帰属ス 第二百四十五条 若シ未丁年ノ子カ父母或ハ其父母ノ撰命シタル後見人ヲ有セス又父族若クハ母族ノ祖父ヲ有セス又本条ニ掲載スル後見人カ総テ法律ニ因テ斥除ヲ受ケ若クハ認免ヲ得タルニ於テハ則チ親属協会ハ他ノ後見人ヲ撰命ス 第二百四十六条 其子ノ一人タルト数人ナルトニ拘ハラスシテ唯一個ノ後見人ヲ撰命ス 同一ノ後見ニ属スル未丁年ノ子ト子トノ間ニ利益ノ相反スルコト有レハ則チ第二百二十四条ニ指定セル方法ニ准拠ス 第二百四十七条 何人ヲ問ハス未丁年者ヲ以テ自己ノ承産者ト為スコト有レハ則チ其遺存スル財産ヲ管理セシムル為メニ特別ナル保管人ヲ指命スルコトヲ得可ク而シテ其未丁年者ノ尚ホ其父権ニ属スルコトヲ妨阻セス 第二百四十八条 第百八十四条ニ准依シ私父母ニ属スル後見カ若シ其子ノ未丁年間ニ中止シ若クハ其父母ヲ知了ス可カラサル未丁年ノ子ニシテ育児院ノ給養ヲ受ケサル者ニ関シテハ後見協会ニ於テ其後見人ヲ撰命ス 第二節 親属協会 第二百四十九条 後見ヲ開始ス可キ時ニ当テハ其後見期間ニ向テ未丁年者ノ職業ニ関スル主要ナル場所ヲ占有スル本邑ノ邑長ノ私宅ニ於テ親属協会ヲ招開ス 然レトモ若シ後見人カ他ノ邑内ニ居住シ或ハ其住居ヲ他ノ邑内ニ転移セルニ於テハ則チ民事法衙ノ判決ニ従テ親属協会ヲ其地ニ転移スルコトヲ得可シ 第二百五十条 掌籍吏ニシテ未丁年ノ子ヲ留存セル人ノ死亡ノ公言若クハ未亡人ノ再婚ノ公言ヲ受ケタル者ハ速カニ之ヲ邑長ニ通報セサル可カラス 父若クハ母ノ指定シタル後見人、合法ノ後見人、親属ノ後見人則チ法律ニ於テ親属協会員タル者カ後見ヲ設置ス可キ事旨ヲ本邑ノ邑長ニ通報セサルニ於テハ則チ其損害ニ関シテハ互相特担ノ責任ヲ有ス 邑長ハ適宜ノ探知ヲ為スノ以後ニ於テ末丁年者ノ利益ニ関シ必要ナル方法ヲ設定スル為メニ速カニ親属協会ヲ招開セサル可カラス 第二百五十一条 親属協会ハ之ヲ招開スル邑長及ヒ他ノ四名ノ人員ヲ以テ結成スル者ニシテ邑長之カ長ト為ル 後見人、副後見人及ヒ未丁年者ニシテ丁年権ノ認許ヲ得タル者ノ保管人ハ共ニ親属協会ノ会員タル者トス 年齢満十六歳ニ達スル未丁年者ハ親属協会ニ臨席スルノ権理ヲ有スルモ其議決ニ関与スルコトヲ得ス然レトモ会集ノ時ニ当テハ之ヲ未丁年者ニ報知セサル可カラス 第二百五十二条 若シ他ノ名義ヲ以テ既ニ親属協会ノ会員ト為リタルニ非サレハ則チ順序ヲ逐テ会員ト為ル可キ所ノ者ハ即チ第一ニ未丁年者ノ先親タル男子第二ニ同父母ノ兄弟第三ニ叔伯父是ナリ 各級位ニ於テハ最近親属ヲ以テ先ト為シ同親等ニ於テハ年長者ヲ以テ先ト為ス 第二百五十三条 前条ニ掲記スル人ヲ欠クノ時会若クハ会員ノ未タ満タサルノ時会ニ当テハ邑長ハ務メテ未丁年者ノ最近親属若クハ姻族中ニ於テ他ノ人ヲ撰定スルコトヲ要ス 親属及ヒ姻族ノ現存スルコト無キノ時会ニ於テハ邑長ハ第二百六十一条ニ照准シテ以テ其人ヲ撰定ス 第二百五十四条 邑長ハ若シ隔遠ニ住居スルノ理由或ハ他ノ重要ナル理由ニ因テ親属協会会員ノ認免ヲ請求スル人アルニ於テハ則チ之ヲ認免スルコトヲ得可シ此時会ニ於テハ前二条ノ条則ニ准拠シ他ノ人ヲ以テ之ニ代ラシム 邑長ハ同上ノ規則ニ准拠シテ後見ノ終期ニ至ラスシテ会員ノ職ヲ終ル旨ノ為メニ更ニ他ノ人ヲ撰命ス 第二百五十五条 親属協会ノ会員タル者ハ身親カラ其会ニ臨席セサル可カラス若シ理由ナクシテ闕席スル者ハ五十「フラン」ニ超過セサル罰金ヲ責徴ス 常ニ闕席スル会員ノ在ル有レハ則チ邑長ハ他ノ人ヲ以テ之ニ代ラシム而シテ其闕席カ若シ至当ナル理由ナキニ於テハ則チ邑長ハ之ヲ検事ニ報告シ検事ハ此会員ヲ民事法衙ニ追理シ五百「フラン」ニ超過セサル罰金ノ責徴ヲ請求ス 第二百五十六条 親属協会ノ第一次会ニ於テ各会員ノ身位ノ由テ生スル所ノ事実ヲ審査シテ之ヲ筆記シ其協会ノ合法ニ結成セル者タルコトヲ公言ス 第一次会ヲ開行セル本日ヨリ六月ヲ経過セルノ以後ハ其親属協会ノ行為ニ対シ越権若クハ違法ノ事由ニ依拠シテ之ヲ訟撃スルコトヲ得ス此六月ノ期間ト雖モ亦良意ナル第三位ノ人ニ向テハ其行為ヲ無効ト為スコトヲ得ス 第二百五十七条 後見ノ期間ニ於テ邑長ハ若シ後見人、副後見人、保管人若クハ二名ノ会員若クハ至当ナル利益ヲ有スル人ノ請求スル有ルニ於テハ則チ親属協会ヲ招開セサル可カラス 邑長ハ請求ヲ受クルコト無キモ自カラ之ヲ招開スルコトヲ得可シ 検事モ亦親属協会ノ招会ヲ宣命スルコトヲ得可シ 第二百五十八条 親属協会ノ議決ヲシテ効力ヲ有セシムル為メニハ各会員ヲ召集シ而シテ邑長ヲ除クノ外現実ニ三名ノ会員ノ臨席セシコトヲ要ス此会議ハ投票過半数ヲ以テ之ヲ決定シ若シ同数ニ係レル時会ニ於テハ邑長之ヲ判決ス 第二百五十九条 親属協会会員ハ自已カ利益ヲ有スル所ノ会議ニ臨席スルコトヲ避ケサル可ラス 後見人ハ副後見人ノ撰命認免若クハ斥除ニ関シテハ投票ヲ為スコトヲ許サス又副後見人ハ後見人ノ認免若クハ斥除或ハ更任ニ係ル後見人ノ撰命ニ関シテ投票ヲ為スコトヲ許サス 第二百六十条 若シ其議決カ全会ノ一致ニ出テサルニ於テハ親属協会会員ノ意見ヲ筆記ス 後見人、副後見人、保管人及ヒ会議ニ臨席セル会員ハ議決ニ同意ナル会員ニ対シ法衙ニ向テ其議決ヲ訟撃スルコトヲ得可シ 第二百六十一条 婚姻ノ外ニ産生シタル子ノ為メニ特ニ後見協会ヲ施設ス但第百八十四条ノ明文ニ准拠シテ父若クハ母タル者カ合法ノ後見ヲ為スノ時会ハ此限ニ在ラス 若シ其子ノ親系カ既ニ法律ノ認可若クハ公言ヲ経タルニ於テハ則チ其後見協会ハ邑長及ヒ邑長カ父若クハ母ノ朋友中ヨリ撰命セル四名ノ人ヲ以テ之ヲ編成ス又若シ其子ノ親系ヲ知ル可カラサルノ時会ニ当テハ則チ其後見協会ハ邑長及ヒ二名ノ邑会議員若クハ邑長カ指命スル他ノ二名ノ人ヲ以テ之ヲ編成ス 親属協会ニ関スル条則ニシテ後見協会ニ擬施スルコトヲ妨ケサル条則ハ亦之ヲ擬施ス可シ 第二百六十二条 何等ノ名義何等ノ称号タルコトヲ問ハス育児院ニ鞠養セラルヽ児子ニシテ其親属及ヒ之カ後見ヲ為ス可キ人ヲ有セサル者ハ其育児院ノ管理ニ委付ス育児院ハ邑長ノ居間ヲ要セスシテ其後見協会ヲ編成シ若シ後見人ヲ要スルニ於テハ則チ育児院管理人ノ員内ノ一人ヲシテ之ニ後見タラシム 第二百六十三条 親属協会及ヒ後見協会ニ関スル邑長若クハ他ノ官吏ノ職務ニ対シテハ協会会員ノ職務ト一般ニ給俸ヲ付与セサル者トス 第三節 副後見人 第二百六十四条 後見人ヲ指定スル権理ヲ有スル人ハ同一ノ法式ヲ履行シテ以テ副後見人ヲ指定スルコトヲ得可シ然ラサレハ則チ親属協会之ヲ撰命ス 若シ親属協会カ後見人及ヒ副後見人ヲ撰命スルニ於テハ則チ先ツ後見人ヲ撰定シ其同一集会ニ於テ又更ニ副後見人ヲ撰定ス 第二百六十五条 後見人ハ未タ副後見人ヲ撰定セサル以前ニ在テハ後見ノ事務ヲ執行スルコトヲ得ス 若シ副後見人ナキニ於テハ則チ速ニ之カ撰定ヲ請求セラル可カラス 第二百六十六条 若シ後見人カ前条ノ条則ニ違背スルコト有レハ則チ損害弁償ノ責ニ応ス可ク時ニ或ハ其職務ヲ免除セラル可シ 未丁年者ノ利益カ其後見人ノ利益ト相反スルコト有レハ則チ副後見人カ未丁年者ニ替代シ且其事務ヲ執行ス 後見ノ闕職若クハ放棄ノ時会ニ於テハ副後見人ハ其後見人ノ撰命ヲ請求セサル可カラス此期間ニ在テハ副後見人ハ未丁年者ニ替代シ財産保存ノ行為及ヒ急遽ナル財産管理ノ行為ヲ執行スルコトヲ得可シ 第二百六十七条 副後見人ノ権理ハ更任ノ後見人ノ撰定ニ因テ即チ罷ム而シテ親属協会ハ之ヲ再撰スルコトヲ得可シ 第四節 後見職務ノ不合格並ニ其職務ノ斥除及ヒ免除 第二百六十八条 次項ノ人ハ後見人、副後見人、保管人及ヒ親属協会会員ト為ルコトヲ得ス若シ現ニ後見ノ職務ニ関与セル者有ルモ亦必ス之ヲ放棄セサル可カラス 第一項 婦女但先親及ヒ未タ結婚セサル同父母ノ姉妹ヲ除ク 第二項 自己ノ財産ニ関シテ自由ナル管理権ヲ保有セサル人 第三項 未丁年者ノ身位若クハ其財産ノ主要ナル部分ニ関シテ其未丁年者ト現ニ争訟ヲ搆発シ若クハ争訟ヲ搆発セントスル人並ニ其子其先親若クハ其配偶者 第二百六十九条 次項ノ人ハ後見ノ職務ヨリ斥除セラル可キ者トス若シ現ニ之ニ関与セル者有ルモ亦必ス斥遠セラレサル可カラス 第一頂 重刑ヲ受ケタル罪犯者 第二項 偷盗、拐騙、詐偽若クハ風俗ヲ壊敗スル犯罪ニ因テ禁獄ノ処刑ヲ受ケタル人 第三項 悪行若クハ財産管理ニ不合格ナリト看認セラレタル人、負信及ヒ怠惰ト看認セラレタル人、若クハ後見職務ノ執行ニ関シテ嘗テ権理ヲ妄用シタル人 第四項 破産シテ未タ復権セサルノ人 第二百七十条 前条ノ第二項ニ掲記セサル種類ノ犯罪ニ因テ懲戒ノ罰責ヲ受ケタル時会ニ於テハ其罰責ノ期間ヲ満過スルニ非サレハ則チ後見人ト為ルコトヲ得ス 若シ既ニ後見人ト為リ而シテ其受刑カ一年以外ノ禁獄タルニ於テハ則チ其後見人タルノ権理ヲ喪失シ其受刑ノ期間ヲ満了スルニ非サレハ則チ復職スルコトヲ得ス若シ其刑期カ一年以内タルニ於テハ則チ親属協会之ヲ免除スルコトヲ得可シ 第二百七十一条 前二条ニ因テ起生スル所ノ請求ハ親属協会之ヲ決定ス但之ヲ法衙ニ告訴スル如キハ此例外ニ在リトス 此告訴ノ権理ハ検事ニ専属ス 後見人若クハ副後見人ヲ斥除シ或ハ免除スルニ関シテハ親属協会其申明ヲ聴取シ若クハ之ヲ召喚スル以後ニ於テスルニ非サレハ則チ協議ヲ為スコトヲ得ス 第五節 後見人及ヒ副後見人ノ職務ヲ認免ス可キノ理由 第二百七十二条 次項ノ人ハ後見人及ヒ副後見人タルコトヲ認免セラルヽヲ得可シ 第一項 王族ノ王子但同族ノ他ノ王子ニ後見タルハ此例外ニ在リトス 第二項 上院及ヒ下院ノ議長 第三項 各省長官 第四項 参議院長、会計検査院長、各裁判所長及ヒ各検事局長 第五項 中央政府所属ノ各書記官、各局長及ヒ地方長官 第二百七十三条 後見人及ヒ副後見人ノ職務ヲ認免セラル可キ権理ヲ有スル人ハ即チ次項ノ如シ 第一項 後見人タルコトヲ得可キノ婦女 第二項 年齢満六十五歳ニ達セシ人 第三項 常ニ孱弱不具ノ状況ニ在ルノ人 第四項 現ニ生存スル五人ノ子ヲ有スル人但々海陸二軍ニ服役シテ以テ死歿セシ子ハ五人ノ数中ニ算入ス可シ 第五項 既ニ一個ノ後見職務ニ現任スル人 第六項 現ニ兵役ニ服事スルノ人 第七項 公務ヲ以テ王国外ニ在ルノ人若クハ公務ニ因テ後見ヲ設定スル裁判管轄区外ニ在ルノ人 第二百七十四条 未丁年者ノ親属或ハ姻族ニ非サル人ハ若シ後見ヲ設定スル裁判管轄区内若クハ未丁年者ノ財産ノ主要ナル一部ヲ有スル裁判管轄区内ニ後見ノ職務ヲ執ルニ合格ニシテ法律上ノ認免ヲ得サル親属若クハ姻族アルニ於テハ則チ其後見若クハ副後見ノ職務ヲ執ルコトヲ要強セラレサル者トス 若シ親属或ハ姻族ノ其認免ヲ受ケタル原由カ消滅スルニ於テハ則チ親族ニ非サル後見人若クハ副後見人ハ其職務ノ認免ヲ請求スルコトヲ得可シ 第二百七十五条 後見ノ認免ハ親属協会ニ付シテ之ヲ議決セシム 後見人若クハ副後見人ハ其認免ノ請求ヲ拒却スル親属協会ノ議決ヲ訟撃スルコトヲ得可シ請求者ハ其宣告ヲ受クル迄ハ依然尚ホ其職務ヲ執行セサル可カラス 前項ノ時会ニ於テハ親属協会ノ代理人ハ法衙ニ向テ其議決ヲ弁明ス 第二百七十六条 親属協会ハ若シ後見人、副後見人及ヒ保管人カ其解職ヲ承諾シ且親属協会モ亦未丁年者ノ利益ニ関シ其解職ヲ必要ト為スニ於テハ則チ何等ノ時会ヲ問ハス其職務ヲ認免スルコトヲ得可シ 親属協会ノ議決ハ全会ノ一致ヲ以テスルニ非サレハ則チ必ス法衙ノ認可ヲ受ケサル可カラス 第六節 後見職務ノ執行 第二百七十七条 後見人ハ未丁年者ノ身上ヲ監視シ民法上諸般ノ行為ニ関シテ其代理ヲ為シ且其財産ヲ管理スル者タリ 第二百七十八条 親属協会ハ若シ父族若クハ母族ノ先親カ後見ノ職務ヲ執行スルニ非サレハ則チ未丁年者ヲ養育ス可キ場所及ヒ之ヲ教誨ス可キ方法ニ関シテ会議ヲ開行ス若シ未丁年者ノ年齢カ満十年ニ達セルニ於テハ則チ其未丁年者ノ意望ヲ問フ可キ者トス 第二百七十九条 後見人ハ若シ未丁年者ノ行状ニ関シ苦情ヲ鳴ラス可キノ理由アルニ於テハ則チ之ヲ親属協会ニ通知シ親属協会ハ第二百二十二条ニ指定セル方法ヲ施行センコトヲ裁判所長ニ申訴スルヲ許否ス 第二百八十条 未丁年者ハ其後見人ニ対シテ恭順ナラサル可カラス 若シ後見人カ其権理ヲ妄用シ其職務ヲ怠忽スル有ルニ於テハ則チ未丁年者ハ其苦情ヲ親属協会ニ鳴訴スルコトヲ得可シ 第二百八十一条 後見人ハ法律上ニ於テ其身位ヲ得有セル本日ヨリ以後ノ十日内ニ財産ノ封鎖ヲ開拆スルコトヲ請求シ直チニ未丁年者ノ財産目録書ヲ録製セサル可カラス 財産目録書ハ一月内ニ之ヲ録製セサル可カラス特ニ其状況ニ応シテ邑長カ其期限ヲ延展スル如キハ此限ニ在ラス 第二百八十二条 財産目録書ハ副後見人ノ面前ニ於テ親属若クハ朋友ヨリ撰定セル二名ノ証人及ヒ未丁年者ノ父母或ハ親属協会ノ指命セル公証人ノ臨同ヲ得テ以テ之ヲ録製ス 若シ其財産カ三千「フラン」ノ価額ニ超過セサルニ於テハ則チ邑長若クハ親属協会ハ公証人ノ臨同ナクシテ財産目録書ヲ録製スルコトヲ得可シ 財産目録書ハ之ヲ邑庁ニ寄託ス 後見人及ヒ副後見人ハ立誓シテ以テ寄託証書中ニ於テ其財産目録書ノ公正ナルコトヲ証言スルコトヲ要ス 第二百八十三条 財産目録書ハ動産、貸付及ヒ負債ノ数額ヲ登記シ其資産ノ現況ニ関スル一切ノ書類ヲ写載シ且不動産ヲ併セテ之ニ登記ス 邑長若クハ親属協会ハ動産ノ評価ヲ為シ不動産ノ明註書ヲ録製スル方法ヲ指定ス 第二百八十四条 若シ未丁年者ノ財産中ニ商業若クハ職業ニ関スル建造物ヲ有スルニ於テハ則チ商業上ノ慣例ニ従テ副後見人及ヒ邑長若クハ親属協会カ其臨同ヲ必要スルト思料スル他ノ人ノ面前ニ於テ其目録書ヲ録製ス 此目録書モ亦之ヲ邑庁ニ寄託シ其件項ヲ撮要シテ之ヲ目録全書ニ記載ス 第二百八十五条 後見人ニシテ未丁年者ノ負責者若クハ責者タル者ハ目録書ヲ録製スルヨリ以前ニ公証人ノ問ニ応シテ之ヲ公言セサル可カラス 公証人ハ其問目ト後見人ノ答言トヲ目録書中ニ登記ス 公証人ノ幇助ヲ得スシテ目録書ヲ録製スルノ時会ニ於テハ邑長其問目ヲ後見人ニ付示シ後見人ノ答言ヲ寄託ノ筆記書ニ登載ス 第二百八十六条 若シ後見人カ其貸付権或ハ其他ノ要求ス可キ権理アルコトヲ知悉シ自己ニ付示セラルヽノ問目ニ対シテ其公言ヲ為サヽリシニ於テハ則チ其権理ヲ喪失ス 其負責者タルコトヲ知悉シテ之カ公言ヲ為サヽリシニ於テハ其後見ヲ免除セラルヽ者トス 第二百八十七条 未丁年者ノ財産中ニ在ル現金額無記名証票及ヒ其他重要ナル物件ハ之ヲ法衙ノ保管局若クハ邑長ノ指示スル保管局ニ寄託ス而シテ此等ノ物件ハ親属協会カ其処置ニ関スル議決ヲ為スニ至ル迄之ヲ民籍局ニ留存ス 第二百八十八条 後見人カ若シ認免ヲ得スシテ定期内ニ合法ノ財産目録書ヲ調製セス若クハ正確ナラサル財産目録書ヲ録製スルコト有レハ則チ此事ニ関シテ起生スル損害ノ責ニ応ス可ク尚ホ且其後見ノ職任ヲ免除セラル可キナリ 第二百八十九条 財産目録書ノ録製ヲ終ハラサルノ間ハ後見人ハ唯淹滞措閣ス可カラサル事務ノ管理ヲ為スニ止マル 第二百九十条 後見人ハ財産目録書ヲ録製スル以後ノ二月内ニ於テ未丁年者ニ属スル動産ヲ公売ニ付ス可シ 親属協会ハ後見人ニ対シテ其動産ノ全部若クハ一部ヲ保存シ若クハ之ヲ私売ニ付スルコトヲ認可シ得可シ 第二百九十一条 財産目録書ヲ録製スル以後ニ於テ親属協会ハ未丁年者ノ給養、教誨及ヒ其資産ノ管理ニ必要ナル歳費額ヲ限定シ歳入ノ贏余額ニシテ後見人カ之ヲ実用ス可キ責務ヲ有スル金額及ヒ其実用ノ方法並ニ期限ヲ規定ス 前項ノ金額ニ関シテ親属協会ノ議決ヲ取ラサリシ後見人ハ三月ノ以後ニ於テ必要スル費用ノ贏余金額ニ向テ其利息ヲ支弁ス可キノ責務ヲ有ス 第二百九十二条 父族母族ノ祖父ニ非サル後見人ハ親属協会ノ議決ト法衙ノ認可トヲ経由シテ其認免ヲ得ルニ非サレハ則チ保人ヲ立定セサル可カラス 親属協会ハ後見人ノ供出ス可キ保金ノ数額ヲ限定ス 若シ後見人カ別種ノ保証法ヲ択定スルニ非サレハ則チ親属協会ハ後見人ノ財産ニシテ法律上ノ券記抵当ト為ス可キ者ヲ指定ス若シ後見人カ充分ノ財産ヲ有セサルニ於テハ則チ更任ノ後見人ヲ撰命ス 親属協会ハ第一次ノ会集ニ於テ前項ノ事件ヲ議決ス 第二百九十三条 親属協会ハ後見期間ニ於テ保金ノ認免ヲ受ケタル後見人ニ向ヒ保金ノ供出ヲ要求スルコトヲ得可ク又既ニ供出セル保金ヲ認免スルコトヲ得可シ 親属協会ハ保金ニ換易シテ公簿ニ登録セル券記抵当ノ価額ヲ増加シ減降シ若クハ全ク之ヲ塗消スルコトヲ得可シ 此等ノ時会ニ於テハ親属協会ノ議決ハ必ス法衙ノ認可ヲ取ルコトヲ要ス 第二百九十四条 親属協会ハ第二百九十一条ニ限定セル歳入ノ贏余額ノ領受若クハ実用ニ関シテハ特別ノ保証ヲ要求スルコトヲ得可シ 第二百九十五条 親属協会ハ特別ノ時会ニ於テ後見人カ其管理ニ関シ自己ノ答明ス可キ責務ヲ以テ一名若クハ数名ノ俸金ヲ付与スル人ヲシテ自已ノ事務ヲ幇助セシムルコトヲ認可スルヲ得可シ 第二百九十六条 後見人ハ親属協会ノ認可ヲ得ルニ非サレハ則チ下項ノ事務ヲ料理スルコトヲ得可カラス即チ未丁年者ノ資本額ヲ領受シ之ヲ実用シ借用ノ契約ヲ為シ、不動産若クハ動産(収額及ヒ速カニ壊消ス可キ動産物件ヲ除ク)ヲ典質ト為シ若クハ券記抵当ト為シ之ヲ転付シ、貸権若クハ貸券ヲ譲与シ若クハ転付シ不動産若クハ動産(家事若クハ資産ノ管理ニ必要ナル者ヲ除ク)ヲ売付シ、九年ヲ超過スル不動産ノ賃貸ヲ締約シ、遺産ヲ領受シ若クハ拒却シ、責課若クハ規約ヲ帯ヒタル贈与及ヒ贈遺ヲ領受シ、財産配分ヲ執行シ若クハ法律上之ヲ請求スルコトヲ得可カラサル者是ナリ 後見人ハ此親属協会ノ認可ヲ得ルニ非サレハ則チ協約ヲ為シ裁判上ニ於テ訟権ヲ行用スルコトヲ得ス但占有ニ関スル訟権若クハ歳入額ノ領収ニ関スル争訟及ヒ急遽措閣ス可カラザル時会ハ此限ニ在ラス 第二百九十七条 親属協会ハ諸般ノ行為ニ普通ナル認可ヲ付与スルコトヲ得ス唯各般ノ行為ニ向テ特別ノ認可ヲ付与スルコトヲ得可キノミ 不動産売放ノ認可ニ関シテハ親属協会其之ヲ公売ニ付スルト私売ニ付スルトヲ指定ス 第二百九十八条 未丁年者ノ財産中ニ在ル無記名券票ハ親属協会カ之ヲ実用スル為メニ売放スルコトヲ指命セサルニ於テハ則チ後見人ハ未丁年者ノ名義ヲ以テ其無記名券票ヲ公簿ニ登記セサル可カラス 第二百九十九条 未丁年者ノ財産中ニ在ル商業若クハ職業ニ関スル建造物ハ親属協会ノ規定スル方法ト保証トニ准依シテ之ヲ転付シ売放スルコトヲ得可シ 親属協会ハ明確ニ未丁年者ノ利益タルコトヲ知悉スルニ於テハ則チ其商業若クハ職業ヲ継続スルコトヲ許可ス然レトモ此許可ハ必ス法衙ノ認許ヲ取ルコトヲ要ス 第三百条 後見人及ヒ副後見人ハ未丁年者ノ財産ヲ売放シ未丁年者ニ対スル貸付若クハ其他ノ権理ノ譲与ヲ受クルコトヲ得ス又親属協会ノ認可ヲ得ルニ非サレハ則チ其不動産ヲ未丁年者ニ賃借スルコトヲ得ス 第三百一条 親属協会ノ議決ニシテ未丁年者ノ財産ノ転付、典質若クハ券記抵当ト為スノ認可ニ係ル者ハ総テ必ス法衙ノ認許ヲ経由スルコトヲ要ス 後見人ヲシテ債金資借ノ契約ヲ締結セシムルノ認可及ヒ未丁年者カ利益ヲ有スル協約及ヒ財産分配ニ関スル議決モ亦必ス法衙ノ認許ヲ経由ス可キ者トス 第七節 後見管理ノ決算 第三百二条 後見人ハ其管理ヲ完結スルノ時際ニ於テ其決算ヲ為サヽル可カラス 第三百三条 後見人ハ父族母族ノ祖父ヲ除クノ外ハ毎年其管理ノ報告書ヲ親属協会ニ供出セサル可カテス而シテ親属協会ハ会議ニ付スル以前ニ一名ノ会員ヲシテ之ヲ検査セシム 此報告書ハ何等ノ裁判法式ヲモ履行セスシテ無証印紙ヲ以テ録製シ価直ヲ要セスシテ之ヲ送付シ而シテ親属協会ノ議決ヲ経テ之ヲ邑庁ニ寄託ス 第三百四条 決算ヲ為スノ責務、年報ヲ供出スルノ責務ノ認免ハ更ニ効力ヲ有セサル者トス 第三百五条 後見ノ決算ハ未丁年者カ丁年ニ達シ若クハ丁年権ノ認可ヲ受ケタル時ニ於テ之ヲ報告ス 決算ノ費用ハ未丁年者之ヲ負担シ後見人ハ之ヲ予弁ス 至当ノ費用及ヒ未丁年者ニ有益ナル費用ハ後見人ヲシテ負担セシム可キ者ニ非ス 第三百六条 後見人ノ管理カ未丁年者ノ丁年ニ達スル以前若クハ其丁年権ノ認可ヲ受クル以前ニ於テ罷ムノ時会ニ於テハ後見人ハ副後見人ノ面前ニ於テ更任後見人ニ其管理ノ決算ヲ報告セサル可カラス然レトモ此決算ハ親属協会ノ認可ヲ経テ始メテ完了スル者トス若シ受後見者カ其丁年ニ達スル以前ニ死亡スルニ於テハ則チ其承産者ニ向テ決算ヲ報告ス 第三百七条 若シ後見カ受後見者ノ丁年ニ達スルニ因テ完結スルニ於テハ則チ其丁年者ニ決算ヲ報告ス然レトモ後見人ハ副後見人若クハ邑長カ指命スル他ノ人ノ臨同ニ依テ其決算ヲ検査スルニ非サレハ則チ其責務ヲ全免スルコトヲ得可カラス 後見管理ノ決算ノ認可ニ至ル迄ハ後見人ト丁年ニ達セル者トノ間際ニ何等ノ契約ヲモ締結スルコトヲ許サス 第三百八条 後見人カ決算上ニ於テ未丁年者ニ逋負スル所ノ金額ハ仮令ヒ其利息ノ請求ヲ為サヽルモ其決算報告ノ本日ヨリ利息ヲ支付ス可キ者トス 未丁年者カ後見人ニ逋負スル所ノ金額ノ利息ハ決算報告ノ以後ニ於テ裁判上ノ請求ヲ為セシ本日ヨリ起算シテ之ヲ支付ス可キ者トス 第三百九条 未丁年者カ後見人及ヒ副後見人ニ向テ有スル所ノ訟権並ニ後見人カ後見管理ニ関シ未丁年者ニ対シテ有スル所ノ訟権ハ共ニ未丁年者カ丁年ニ達スル本日若クハ其死亡スルノ本日ヨリ十年ノ期満ニ因テ消滅ス然レトモ期満ノ中止及ヒ仮停ニ関スル条則ハ依然存在スル者トス 本条ニ規定セル期満法ハ決算贏余額ノ請求ニ関スル訟権ニ擬施ス可キ者ニ非ス 第三章 丁年権ノ認許 第三百十条 未丁年者ハ結婚ニ因テ丁年権ヲ得有ス 第三百十一条 年齢満十八歳ニ達スル未丁年者ハ父権ヲ有スル父母之ヲ欠クノ時会ニ於テハ親属協会カ其丁年権ヲ認許ス 丁年権ヲ認許スルハ邑長ノ面前ニ於テスル父母ノ公言ヲ以テシ若クハ親属協会ノ決議ヲ以テス 第三百十二条 私生ノ子ハ合法ノ後見人タル父若クハ母之ヲ欠クノ時会ニ於テ後見協会カ前条ノ法式ヲ履行シテ以テ其丁年権ヲ認許ス 第三百十三条 第二百六十二条ニ掲記スル未丁年者ノ丁年権ノ認許ニ関シテハ邑長其後見協会ノ長ト為ル 第三百十四条 丁年権ヲ認許スル以後ニ於テ親属協会若クハ後見協会ハ其丁年権ヲ受得セル未丁年者ニ向テ一個ノ保管人ヲ指命ス 然レトモ若シ父或ハ母カ丁年権ヲ認許シタルニ於テハ則チ丁年権ノ認許ヲ受得セル未丁年者ハ其認許ヲ付与シタル人ヲ以テ保管人ト為ス 第三百十五条 結姻ニ因テ丁年権ノ認許ヲ受得セル未丁年者ハ其父之ヲ欠クノ時会ニ於テハ其母ヲ以テ保管人ト為ス 若シ父母共ニ存在セサルニ於テハ則チ親属協会若クハ後見協会其保管人ヲ指命ス 結婚セル未丁年ノ婦女ハ其夫ヲ以テ保管人ト為ス若シ其夫モ亦未丁年者タリ或ハ心神ノ耗弱ナルカ為メニ保管人ヲ帯有スルニ於テハ則チ其夫ノ保管人ヲ以テ自已ノ保管人ト為ス若シ其夫カ治産ノ禁ヲ受ケタルニ於テハ則チ其夫ノ後見人ヲ以テ自己ノ保管人ト為ス若シ其婦女カ未亡人タリ或ハ夫妻別居シ若クハ財産ヲ分別セルニ於テハ則チ其父若クハ母ヲ以テ保管人ト為ス之ヲ欠クノ時会ニ於テハ親属協会若クハ後見協会其保管人ヲ撰命ス 第三百十六条 財産管理ノ決算ハ丁年権ノ認許ヲ受ケタル未丁年者カ保管人ノ臨同ヲ得テ始メテ其領諾スル所ト為ル若シ此保管人カ決算ヲ為ス可キ保管人タルニ於テハ則チ親属協会若クハ後見協会カ特別ノ保管人ヲ撰命ス 第三百十七条 丁年権ノ認許ハ未丁年者ヲシテ普通ナル財産管理ノ界限ヲ踰越セサル諾般ノ行為ヲ為スコトヲ得セシムルノ権理ヲ付与スル者トス 第三百十八条 未丁年ニシテ丁年権ノ認許ヲ受得セル人ハ其保管人ノ臨同ヲ以テスルニ非サレハ則チ資本額ヲ領収シ若クハ裁判上ニ於テ請求者及ヒ弁護者タルコトヲ得ス且其資本額ヲ領収スルニハ適良ナル実用ニ供ス可キ規約ヲ以テセサル可カラス 第三百十九条 普通ナル財産管理ノ界限ヲ踰越スル諸般ノ行為ニ関シテハ必ス保管人ノ認諾ヲ得ルノ外ニ親属協会若クハ後見協会ノ認許ヲ取ルコトヲ要ス 丁年権ノ認許ヲ受得セル未丁年者ノ資産ニ関スル各協会ノ議決ハ第三百一条ニ掲記スル時会ニ於テハ法衙ノ公認ニ付ス可キ者トス 第三百二十条 保管人カ認諾ヲ拒却スルノ時会ニ当テハ未丁年者ハ之ヲ親属協会ニ請求スルコトヲ得可シ 第三百二十一条 丁年権ノ認諾ヲ受得セル未丁年者ト雖モ若シ其行為カ財産ノ管理ニ不能ナルコトヲ証徴スルニ足ル可キ者有レハ則チ親属協会若クハ後見協会其認許ヲ収回ス 各協会ノ丁年権ヲ認許セシ父若クハ母ノ尚ホ生存セル者ノ請求ニ因テ丁年権収回ノ当否ヲ議決ス 未丁年者ハ丁年権ノ認許ヲ収回セラレタル本日ヨリ其父母ノ権下若クハ後見人ノ権下ニ復属シ其丁年ニ達スル迄ハ依然其権下ニ留在セサル可カラス 第三百二十二条 未丁年者ノ利益ヲ保護スルカ為メニ本篇ノ条則ニ違背セル所ノ行為ノ無効ハ唯後見人、未丁年者及ヒ其承産者若クハ受権者ノミ之ヲ請求スルコトヲ得可シ 第十篇 丁年、治産禁止及ヒ准治産禁 第一章 丁年 第三百二十三条 年齢満二十一歳ニ達スルヲ以テ丁年ト為ス 丁年者ハ民法上諸般ノ行為ヲ為スコトヲ得可シ但特別ノ条則ヲ以テ設定セル特例ハ此限ニ在ラス 第二章 治産禁止 第三百二十四条 丁年者及ヒ丁年権ノ認許ヲ受得セル未丁年者ハ心神ノ耗弱ニ因テ自己ノ財産ヲ管理スルニ不能ナル状況ニ在ルニ於テハ則チ治産ノ禁止ヲ受ク可キ者トス 第三百二十五条 丁年権ノ認許ヲ受得セサル未丁年者ハ其未丁年ノ期間ヲ満了スル本年ニ於テ治産ノ禁止ヲ受ク可シ 第三百二十六条 治産ノ禁止ハ一切ノ親属、配偶者及ヒ検事ノ之ヲ請求ス可キ者トス 第三百二十七条 治産ノ禁止ハ親属協会若クハ後見協会ノ意見ヲ聴取シ且其禁止ヲ受ク可キ人ヲ査糾スル以後ニ非サレハ則チ之ヲ宣告スルコトヲ得ス 治産ノ禁止ヲ受ク可キ人ノ配偶者及ヒ後親並ニ之ヲ請求セシ親属ハ其終審宣告ヲ得ルニ至ル迄ハ親属協会若クハ後見協会ニ列加シテ其会議ニ関与スルコトヲ得ス然レトモ此等ノ人ハ各協会ニ向テ其申明ヲ為スノ権理ヲ有ス 法衙ハ其査糾ヲ為シタル以後ニ於テハ治産ノ禁止ヲ受ク可キ人ノ身上ヲ監護シ及ヒ其財産ヲ管理スル為メニ仮設ノ管理人ヲ指命ス 第三百二十八条 治産ノ禁止ハ其宣告ノ本日ヨリシテ其効力ヲ生出スル者トス 第三百二十九条 治産ノ禁止ヲ受ケタル者ハ後見ノ権下ニ帰属ス 未丁年者ノ後見ニ関スル各条則ハ之ヲ受治産禁者ノ後見ニ擬施スルコトヲ得可シ 第三百三十条 丁年ノ配偶者ニシテ法律上ノ夫妻別居ヲ為セル人ハ失心ニ因テ治産ノ禁止ヲ受ケタル一方ノ配偶者ノ後見人ト為ル可キ者トス 受治産禁者ノ父之ヲ欠クノ時会ニ於テハ其母ハ配偶者ニ次キテ後見人ト為ル可キ者トス 配偶者、父及ヒ母ノ後見ヲ欠クニ於テハ則チ親属協会若クハ後見協会其後見人ヲ撰命ス但父若クハ母カ其子ノ治産ノ禁止ヲ受ク可キコトヲ予知シ遺嘱書若クハ公式証書ヲ以テ其後見人ヲ指定シタル有ル如キハ此限ニ在ラス 第三百三十一条 若シ配偶者、父或ハ母カ後見ノ職任ヲ執行スルニ於テハ則チ親属協会若クハ後見協会ハ其後見人ニ向テ第三百三条ニ掲記セル年報ヲ供出セシムルノ責務ヲ認免スルコトヲ得可シ 第三百三十二条 受治産禁者ノ後見人ハ其親属ノ現住スル家屋ノ什具タル動産物件ヲ売放セシムルコトヲ要セス 第三百三十三条 配偶者、先親及ヒ後親ヲ除クノ外ハ何人タルヲ問ハス十年以外継続シテ受治産禁者ノ後見ヲ担任スルコトヲ要セス 第三百三十四条 受治産禁者ノ子ノ嫁資及ヒ他ノ婚姻上ノ財産契約ハ親属協会若クハ後見協会之ヲ規定ス 第三百三十五条 治産禁止ノ宣告ノ以後若クハ仮設管理人指命ノ以後ニ於テ受治産禁者ノ為シタル行為ハ全ク無効ノ者トス 其行為ノ無効ハ唯後見人受治産禁者及ヒ其承産者若クハ受権者ノミ之ヲ請求スルコトヲ得可シ 第三百三十六条 治産禁止ノ以前ニ係ル行為ト雖モ若シ治産ノ禁止ヲ受ク可キ原由カ既ニ其行為ヲ為セシ時際ニ存在シ或ハ契約ノ性質或ハ其行為ニ由テ起生シ若クハ起生ス可キ重要ナル損失及ヒ其他ノ情況ニシテ受治産禁者ト結約セシ人ノ良意ナラサルコトヲ証徴シ得可キ者アルニ於テハ則チ之ヲ無効ト為スコトヲ得可シ 第三百三十七条 某ノ人ノ為シタル行為ハ其死亡ノ以後ハ唯治産ノ禁止カ其死亡ノ以前ニ在テ請求セラレ若クハ其失心ノ証徴カ自カラ其行為ヨリ起生スルノ時会ニ於テノミ其失心ノ理由ニ依拠シテ之ヲ訟撃スルコトヲ得可シ 第三百三十八条 治産ノ禁止ハ若シ之ヲ為シタル原由カ罷止セルニ於テハ則チ父母配偶者若クハ検事ノ請求ニ応シテ之ヲ解免ス 親属協会若クハ後見協会ハ治産禁止ノ原由ノ実ニ罷止セルヤ否ヤヲ認識スルニ注意セサル可カラス 第三章 准治産禁 第三百三十九条 心神ノ耗弱ナルモ治産ノ禁止ヲ受ク可キニ至ラサル人及ヒ浪費者ハ親属協会若クハ後見協会カ指命スル保管人ノ臨同ヲ得ルニ非サレハ則チ次項ノ各事ヲ決行ス可カラサルコトヲ法衙ニ依テ公言セラル可シ其事タルヤ争訟ヲ搆起シ、協約ヲ締結シ、借用契約ヲ締結シ、資本額ヲ領収シ、其領受証票ヲ付与シ、財産ヲ転売シ若クハ券記抵当ト為シ其他総テ普通ナル財産管理ノ界限ヲ踰越スルノ行為ヲ為ス者即チ是ナリ 此准治産禁ハ唯真正ノ治産禁止ヲ請求スル権理ヲ有スル人ノミ之ヲ請求スルコトヲ得可シ 第三百四十条 生来ノ聾唖人及ヒ盲目人ハ仮令ヒ丁年ノ年齢ニ達スルモ前条ニ掲記セル行為ヲ為スニ不合格ナル者トス但々法衙カ自己ノ職業ヲ営為スルニ合格ナリト公言シタル者ノ如キハ此限ニ在ラス 第三百四十一条 前条ノ不合格者カ其保管人ノ臨同ヲ得スシテ為シタル行為ノ無効ハ唯々其不合格者、其承産者若クハ其受権者ノミ訟求スルコトヲ得可シ 第三百四十二条 本章ノ不合格ハ彼ノ治産ノ禁止ト一般ニ其不合格タル原由カ罷止スルニ随テ亦罷止スル者トス 第十一篇 未丁年者若クハ受治産禁者ノ後見ニ関シ並ニ丁年権ノ認許ヲ受得セル未丁年者及ヒ其他ノ不合格者ノ保管ニ関スル公簿 第三百四十三条 各邑庁ニ於テハ未丁年者若クハ受治産禁者ニ関スル公簿ト丁年権ノ認許ヲ受得セル未丁年者及ヒ其他ノ不合格者ノ保管ニ関スル公簿トヲ供備ス 第三百四十四条 後見人若クハ保管人ハ其任職以後ノ十五日以内ヲ期シ必ス其後見若クハ保管ニ任スル事旨ヲ公簿ニ登録スルコトヲ要ス又親属協会若クハ後見協会ハ其登簿ヲ為サシムルニ注意セサル可カラス而シテ邑長之ヲ命付ス 第百八十四条ニ准依シテ父母ニ帰属スル合法ノ後見ハ之カ登簿ヲ為スコトヲ要セス 第三百四十五条 後見ニ関スル公簿ハ之ヲ数章ニ区別シ而シテ各章ニ次項ノ事旨ヲ掲載ス 後見ノ権下ニ帰属スル人ノ姓名、身分、年齢及ヒ住居 後見人、副後見人、親属協会会員若クハ後見協会会員ノ姓名、身分及ヒ住居 後見人若クハ副後見人タルノ身分ノ付与ス可キノ名義若クハ治産ノ禁止ヲ宣告スル判決 後見開始ノ記日 財産目録書録製ノ記日 協会会集ノ記日及ヒ会議ノ事由 第三百四十六条 後見人ノ財産管理ニ関スル年報及ヒ其財産ノ現況ヲ公簿ニ登記ス 第三百四十七条 若シ後見ノ事務ヲ他邑ニ転移スルニ於テハ則チ後見人ハ其離レ去ル所ノ邑庁ノ公簿ト其後見ノ事務ヲ転移セル所ノ邑庁ノ公簿トニ向テ之カ登記ヲ為サヽル可カラス 第三百四十八条 丁年権ノ認許ヲ受得セル未丁年者及ヒ其他ノ不合格者ノ保管ニ関シテ供備セル公簿モ亦之ヲ数章ニ区別シ各章ニ次項ノ事件ヲ包載ス 丁年権ノ認許ヲ受得セル未丁年者若クハ其他ノ行為ヲ為スニ不合格ナリト公言セラレタル人ノ姓名、身分、年齢及ヒ住居 丁年権ヲ認許セル父若クハ母或ハ丁年権ノ認許ニ関与セル親属協会会員若クハ後見協会会員ノ姓名、身分、及ヒ住居 丁年権認許ノ記日若クハ准治産禁ノ宣告ノ記日 丁年権ノ認許ヲ受得セル未丁年者若クハ不合格者ノ為メニ指命シタル保管人及ヒ親属協会会員若クハ後見協会会員ノ姓名、身分及ヒ住居 保管人タル身位ヲ付与ス可キノ名義 各協会会集ノ記日及ヒ議決ノ事由 第三百四十九条 邑長ハ公簿ノ処理方法ヲ監視シ毎年年末ニ於テ法律ノ執行ノ為メニ設定シタル方法ニ関シテ検事ニ其報告書ヲ送呈ス 公簿ハ無証印紙ヲ以テ録製シ登簿ハ費用ヲ要セサル者トス 第十二篇 民籍公簿 第一章 総則 第三百五十条 産生、婚姻及ヒ死亡ノ各証書ハ其事件ノ起生セシ本邑ニ於テ之ヲ録製ス可キ者トス 第三百五十一条 民籍証書及ヒ掌籍吏ノ面前ニ於テ為ス可キ公言ハ男子タル二名ノ証人ニシテ満二十一歳ノ年齢ニ達シ同邑ニ居住スル者ノ臨同ヲ得テ以テ之ヲ領受ス 第三百五十二条 民籍ニ関スル証書ハ次項ノ事件ヲ登記スル者トス 其事件タルヤ其身分ノ公言ヲ為シタル本邑、邑庁、年月日、其公言ヲ受ケタル掌籍吏ノ姓名、身分、申明者即チ公言ヲ為セシ本人及ヒ証人ノ姓名、年齢、職業、住居或ハ居所是ナリ而シテ其登記ヲ為スニハ前項ノ事件ニ関スル書類ヲ供出セサル可カラス 掌籍吏ハ其証書ヲ朗読シ此法式ヲ執行セシコトヲ登記ス 第三百五十三条 民籍証書ハ申明者、証人及ヒ掌籍吏カ之ニ記名ス若シ申明者若クハ証人カ記名スル能ハサルニ於テハ則チ其記名シ能ハサル事由ヲ記註ス 第三百五十四条 民籍証記ニ利益ヲ有スル人ハ其身親カラ臨同スルコトヲ要セサルノ時会ニ於テハ則チ公正ニシテ且特別ナル代理人ヲ以テ自己ニ替代セシムルコトヲ得可シ 第三百五十五条 掌籍吏カ民籍証記ヲ為スニハ唯各証書ニ向テ法律カ命令シ若クハ許可スル公言及ヒ稟告ノミヲ登記ス可キ者トス 第三百五十六条 民籍公簿ハ必ス二箇ノ原本ヲ設備スルコトヲ要ス 第三百五十七条 民籍公簿ハ民籍証記ヲ為ス以前ニ於テ民事裁判所長若クハ其代理タル裁判官カ布令ニ照准シテ毎紙葉ヲ検閲シ而シテ其布令ノ全文ヲ民籍公簿ノ第一葉ニ明記ス 裁判所長若クハ其代理裁判官ハ民籍公簿ヲ編成セル紙葉ノ数ヲ其第一葉ニ掲記ス 第三百五十八条 民籍公簿ハ順序ヲ逐テ民籍証書ヲ登記シ決シテ空白ヲ存スルコトヲ許サス 文宇ヲ塗抹シ及ヒ参照ヲ附記スルハ民籍公簿ヲ完結スル以前ニ於テ公認ヲ受ク可キ者トス凡ソ簿記ハ略体ノ文字ヲ用ユルコトヲ禁ス又其記日ハ唯々数字ノミヲ以テスルコトヲ許サス 第三百五十九条 既ニ民籍公簿ニ証記セル民籍証書ニ向テ追記ヲ為スニハ法律ノ公認ヲ得タルノ後ニ掌籍吏カ証記ニ利益ヲ有スル人ノ請求ニ応シ現存ノ民籍公簿若クハ邑庁ノ記録局ニ貯蔵スル民籍公簿ノ余白ニ追記ス又法衙ノ記録局ニ貯蔵スル民籍公簿ニハ法衙ノ書記員カ其追記ヲ為ス可キ者トス此事ニ関シテハ掌籍吏ハ三日以内ニ之ヲ検事ニ報告シ検事ハ其追記カ果シテ二箇ノ民籍公簿ニ同一様ニ為シタルヤ否ヤヲ点検ス 第三百六十条 掌籍吏ハ毎年年末ニ於テ最後ニ民籍公簿ニ登記スル民籍証書ノ後尾ニ記名シテ以テ其民籍公簿ヲ完結シ而シテ十五日間ヲ期シ原本ノ其一ヲ邑庁ノ記録局ニ其一ヲ法衙ノ記録局ニ送付シテ之ヲ貯蔵セシム 第三百六十一条 民籍証記ニ関スル代理証書及ヒ其他ノ書類ハ掌籍吏ノ記名ヲ得テ法衙ノ記録局ニ存留スル原本ニ附綴ス 第三百六十二条 民籍公簿ハ公衆ノ請求ニ応シテ之ヲ出示ス可キ者トス掌籍吏ハ其請求ヲ受ケタル民籍公簿ノ抜抄及ヒ反対証書ノ付与ヲ拒却スルコトヲ得ス又掌籍吏ハ其管掌スル民籍公簿ニ関シテハ各人ノ請求スル需索ヲ為サヽル可カラス 民籍公簿ノ㧞抄ハ原本ノ余白ニ登記シタル一切ノ証記ヲ包載ス 第三百六十三条 前数条ノ条則ニ准拠シテ録製シタル民籍証書ハ掌籍吏ノ面前ニ於テ属セシ行為ニ関シテハ誤錯ノ証記ト称スル特殊ノ訴訟法ヲ以テ之ヲ訟撃スルニ至ル迄ハ真正ナル者ト為ス 民籍証記ニ臨同シタル人ノ公言ハ反対ノ証憑ヲ呈出スルニ至ル迄ハ真正ナル者ト為ス 第三百六十四条 若シ民籍公簿ヲ設備セス或ハ民籍公簿ノ全部若クハ一部カ毀滅シ若クハ散亡シ或ハ其簿記ニ脱漏アルノ時会ニ当テハ産生、婚姻及ヒ死亡ハ他ノ文書若クハ証人ニ依テ之ヲ証徴セシムルコトヲ得可シ 若シ民籍公簿ノ闕欠若クハ毀滅散亡及ヒ脱漏カ全ク請求者ノ詐偽ニ係ルニ於テハ則チ本条ニ許可スル証憑ハ之ヲ採用ス可カラサル者トス 第三百六十五条 検事ハ民籍公簿ノ合法ナル設備ニ注意スルコトヲ担任シ常ニ其現状ヲ検査スルコトヲ得可シ 検事ハ毎年法衙ノ書記局ニ向テ民籍公簿ヲ送付スル時際ニ於テ其検査ヲ為シ書記員ノ臨同ヲ得テ検査ノ結果ヲ筆記ス又検事ハ其民籍公簿ヲ法衙ノ記録局ニ貯蔵セシメ民籍証記ニ利益ヲ有スル人ヲ召喚シテ以テ犯則者ニ対シテ罰金ヲ科加シ及ヒ公益ノ為メニ請求スル公簿ノ正誤ヲ命付ス 第三百六十六条 若シ第三百六十四条ニ掲記スル時会ノ其一アルニ於テハ則チ法衙ハ検事ノ請求ニ応シテ次項ノ事件ヲ命付スルコトヲ得可シ即チ闕欠毀滅若クハ散亡シタル証書ヲ再製スルコトヲ得可キニ於テハ則チ之ヲ再製シ若クハ公証人ノ証書ニ准依シ証記ニ利益ヲ有スル人ヲ召喚シ而シテ其状況ヲ知悉シ誠実ヲ疑フ可カラサル四名ノ証人ノ立誓セル公言ヲ以テ公簿ノ闕欠ヲ追補セシムルコトヲ命付スル者是ナリ 其管轄ニ非サル掌籍吏ノ面前ニ於テ結婚式ヲ執行シタルノ疑状アルニ関シ若シ之ヲ駁撃スル訟権ヲ中止シタルニ於テハ則チ法衙ハ検事ノ請求ニ応シ其宜ク結婚式ヲ執行ス可カリシ掌籍吏ニ婚姻証書ノ公正ナル写本ヲ送付ス可キコトヲ命付スルヲ得可シ 第三百六十七条 外国ニ於テ録製シタル民籍証書若シ其法式カ其国ノ法律ニ准拠セルニ於テハ則チ公正ナル者ト為ス 此等ノ各証書ヲ録製セシメタル国民ハ三月以内ニ其外国ニ駐在スル公使若クハ領事ニ其写本ヲ送付セサル可カラス然レトモ後条ノ掌籍吏ニ向テ直チニ之ヲ送付スルコトヲ択定シ得可キ者ノ如キハ此限ニ在ラス 第三百六十八条 王国外ニ在住スル国民ハ公使若クハ領事ヲシテ其産生婚姻及ヒ死亡ノ各証書ヲ接収セシムルコトヲ得可シ但々必ス此民法ニ規定スル法式ヲ履行スルコトヲ要ス 公使若クハ領事及ヒ之ニ替代スル官吏ハ三月以内ヲ期シ其接収シタル各証書ヲ王国外務卿ニ送付セサル可カラス而シテ外務卿ハ次項ニ規定スル順序ニ准拠シテ以テ其送付ヲ為ス 産生証書ハ之ヲ子ノ父(若シ其父ヲ知ル可カラサルニ於テハ)母ノ住居ヲ占有スル地方ノ掌籍吏ニ送付ス 婚姻証書ハ之ヲ結婚者カ末期ニ住居ヲ占有セシ本邑ノ掌籍吏ニ送付ス 死亡証書ハ之ヲ死亡者カ末期ニ住居ヲ占有セシ本邑ノ掌籍吏ニ送付ス 第三百六十九条 国王及ヒ国王ノ親属ノ産生、婚姻及ヒ死亡ノ各証書ニ関シテハ上院議長カ王族所属ノ公証人ノ臨同ヲ得テ以テ掌籍吏ノ職務ヲ執行ス 第三百七十条 前条ノ各証書ハ二箇ノ原本タル民籍公簿ニ登記ノ其一ハ王国ノ中央記録局ニ其一ハ上院規則第三十八条ノ明文ニ照依シテ以テ上院ノ記録局ニ留存ス 第二章 産生証書及ヒ親系ノ認諾 第三百七十一条 産生ハ其分娩ヨリ五日以内ニ本地ノ掌籍吏ニ向テ之ヲ申明セサル可カラス且其産生セシ子ハ之ヲ掌籍吏ニ掲示スルコトヲ要ス 掌籍吏ハ重要ナル時会ニ当テハ其産生ノ実状ヲ検査シ其産生ノ子ノ携示ヲ認免スルコトヲ得可シ 第三百七十二条 産生ノ以後五日ヲ経過スレハ民籍証書ノ正誤ニ関シテ規定セル訴訟法ニ准依スルニ非サレハ則チ其申明ヲ為スコトヲ得可カラス 第三百七十三条 産生ハ其父若クハ特別ノ代理人ヲ以テ其申明ヲ為ス可キ者トス然ラサレハ則チ内科医師外科医師、産婆若クハ其他ノ人ニシテ分娩ニ臨同セシ者カ其公言ヲ為ス若シ常ニ住居スル家外ニ於テ分娩セシコト有レハ則チ家長若クハ其分娩ヲ為セシ院舎ノ代理人カ其公言ヲ為ス 母タル者若クハ其代理人モ亦産生ノ公言ヲ為スコトヲ得可シ 産生証書ハ直チニ之ヲ登簿スル者トス 第三百七十四条 産生証書ハ産生ノ本邑、屋舎、日時、其子ノ男女及ヒ小名ヲ包載ス 若シ申明者カ其子ニ小名ヲ付与セサルニ於テハ則チ掌籍吏カ之ヲ填記ス 若シ二胎ノ分娩ニ係ルニ於テハ則チ其各証書ニ之ヲ記載シ且其産生順序ノ前後ヲ登記ス 若シ産生公告時際ニ当テ其子カ生存セサルニ於テハ則チ掌籍吏ハ其子ノ分娩以前若クハ以後ニ死亡セシトノ公言ニ関セスシテ唯其実況ヲ簿記ス 第三百七十五条 若シ産生カ婚姻ノ結果ニ出ツルニ於テハ則チ其父母ノ姓名、職業及ヒ住居ヲ併セテ之ヲ登記ス 第三百七十六条 婚姻外ノ産生ニ関シテハ唯父母若クハ其一人ノ申明者ノ姓名、職業及ヒ住居ノミヲ申明ス 父母ニ非サル他ノ人カ其申明ヲ為スニ当テハ若シ其母タル者カ自己ノ姓名ヲ公言スルヲ承諾セシコトヲシテ公正ナル証書ヨリ起生セシムルニ於テハ則チ其母ノ姓名、職業及ヒ住居ヲ登簿ス 第三百七十七条 棄児ニ遇着シタル者ハ其衣服及ヒ其他ノ物件ト共ニ之ヲ掌籍吏ニ解付シ其遇着シタル土地、日時及ヒ其他ノ情況ヲ併セテ公言ヲ為サヽル可カラス 其子ノ推定ス可キ年齢其男女其小名ト之ヲ解付シタル官庁ノ名号ヲ掲挙セル詳細書ヲ録製セサル可カラス 此詳細書ハ之ヲ公簿ニ登記ス 第三百七十八条 若シ棄児カ育児院ニ解付セラレタルニ於テハ則チ育児院長ハ三日以内ニ其主任者ヲシテ記述ニ係ル公言ヲ以テ育児院所在ノ本邑ノ掌籍吏ニ其子ヲ解付シタル日時其男女、其推定ス可キ年齢及ヒ其子ノ帯属シタル物件等ヲ報告ス 育児院長ハ其子ニ付与シタル姓名及ヒ証簿セル番号ヲ掌籍吏ニ報告ス 第三百七十九条 父母タル者カ其住居若クハ其居所ヲ占有スル本邑ノ外ニ於テ其子ノ産生スルコト有ルノ時会ニ於テハ其公言及ヒ証書ヲ収接スル掌籍吏ハ十日以内ニ其公正ナル写本ヲ原邑ノ掌籍吏ニ送付ス原邑ノ掌籍吏ハ其写本ヲ収接セル記日ニ於テ之ヲ公簿ニ登記ス 第三百八十条 若シ、航海ノ間ニ其子ノ産生スルコト有ルニ於テハ則チ其産生証書ハ二十四時以内ニ海軍所属ノ船艦ニ在テハ海軍理事官若クハ之ニ替代スル人他ノ船舶ニ在テハ船長船頭若クハ之ニ替代スル人カ其証書ヲ収接ス 産生証書ハ海員公簿ノ末紙葉ニ登記ス 第三百八十一条 若シ船舶ノ停泊スル埠頭カ王国外ニシテ且其地ニ王国ノ公使若クハ領事アルニ於テハ則チ理事官、船長、船頭ハ其録製セル産生証書ノ公正ナル写本ヲ其公使若クハ領事ニ交付ス若シ其埠頭カ王国内ニ在ルニ於テハ則チ其原本ヲ海軍所属ノ地方庁ニ留存シ地方庁ハ第三百六十八条ニ掲記セル如ク掌籍吏ニ向テ其送付ヲ為ス 第三百八十二条 子タルコトヲ認諾スル証書ハ其記日ト共ニ之ヲ公簿ニ登記ス若シ産生証書アルニ於テハ則チ其認諾ヲ証書ノ余白ニ登記ス 第三章 婚姻証書 第三百八十三条 婚姻証書ハ次項ノ事件ヲ包載ス可キ者トス 結婚者ノ姓名、年齢、職業産生ノ本地及ヒ其住居若クハ居所 先親或ハ親属協会若クハ後見協会ノ認可ヲ要スル時会ニ在テハ其認可若クハ第六十七条ニ掲記セル法衙ノ決定 婚姻公告ノ記日若クハ其認免ヲ得タル命令書 第六十八条ニ掲記セル障碍ノ其一ニ向テ付与セル認免命令ノ記日 婚姻ヲ締結スル夫妻ノ公言 第九十七条ニ掲記セル時会ニ於ヲ結婚式ヲ履行セル場地及ヒ掌籍吏カ其場地ニ抵リシ原由 掌籍吏カ法律ニ依拠シ其夫妻ヲシテ結婚セシムルノ公言 第三百八十四条 婚姻ノ無効ヲ宣告スル終審判決書ハ請求者ノ自費ヲ以テ其宣告ヲ為セシ法衙ノ書記員ニ因リ其公正ナル写本ノ結婚セシ本邑ノ掌籍吏ニ送付ス 婚姻証書ノ余白ニ其宣告書ヲ登記ス 第四章 死亡証書 第三百八十五条 掌籍吏ノ許可ヲ得ルニ非サレハ則チ屍体ヲ埋葬スルコトヲ得ス此掌籍吏ノ許可ハ証印紙ヲ要セス又他ノ費用ノ支弁ヲ要セスシテ之ヲ付与ス 掌籍吏ハ自己若クハ代理人ニ依テ死亡ヲ検査シ死亡以後二十四時間ヲ経過スルニ非サレハ則チ其許可ヲ付与スルコトヲ得ス但々時例ノ規則ヲ設定スル時会ハ此限ニ在ラス 第三百八十六条 死亡証書ハ其事実ヲ知悉セル二名ノ証人ノ公言ニ憑拠シテ掌籍吏カ其登簿ヲ為ス者トス 第三百八十七条 死亡証書ハ死亡セシ場地、日時、死亡者ノ姓名、年齢、職業及ヒ其住居若クハ居所ト其申明ヲ為ス人ノ姓名、年齢、職業及ヒ其住居若クハ居所ヲ包載ス若シ死亡者カ結婚者ニ係レハ其生存セル配偶者ノ姓名ヲ附記シ若シ死亡者カ未亡人ナレハ其亡夫ノ姓名ヲ附記ス 其父母ノ姓名、職業及ヒ住居並ニ死亡者ノ産生ノ場地モ亦務メテ之ヲ登簿セルコトヲ要ス 第三百八十八条 病院学校若クハ其他ノ院舎ニ死亡者アルノ時会ニ於テハ院長、校長若クハ之ニ替代スル者ニ二十四時以内ニ前条ニ掲記スル条則ニ照准シテ之ヲ掌籍吏ニ報告ス 第三百八十九条 変死ノ徴候アリ若クハ他ノ形況ニシテ変死ノ疑状アルノ時会ニ於テハ警察吏ハ内科医師若クハ外科医師ノ臨同ヲ得テ屍体ノ形状並ニ之ニ関係スル諸般ノ情況及ヒ其死亡者ノ姓名、年齢、職業、産生ノ場地且其住居ニ関シテ詳細書ヲ録製スルノ以後ニ於テスルニ非サレハ則チ其埋葬ヲ為スコトヲ許サス 第三百九十条 警察吏ハ直チニ其人ノ死亡セル場地ノ掌籍吏ニ詳細書ヲ送付シ掌籍吏ハ之ニ依拠シテ以テ死亡証書ヲ録製ス 第三百九十一条 屍体ヲ捜索シ得可カラス若クハ之ヲ認識シ得可カラサル死亡ニ関シテハ主任官吏其状況ヲ明記セル詳細書ヲ検事ニ送呈ス検事ハ法衙ノ公認ヲ得テ其詳細書ヲ民籍公簿ニ附加ス 第三百九十二条 若シ主任吏ノ公認ヲ得スシテ屍体ヲ埋葬セシニ於テハ則チ其死亡者ニ関係ヲ有スル人若クハ検事ノ請求ニ向テ裁判宣告ヲ為スノ以後ニ於テスルニ非サレハ則チ死亡証書ヲ録製スルコトヲ得可カラス 裁判宣告書ハ之ヲ公簿ニ登記ス 第三百九十三条 牢獄内ニ於テ死亡スル者アルニ当テハ監獄吏卒ハ直チニ之ヲ掌籍吏ニ報告ス可キ者トス 第三百九十四条 法衙ノ書記員ハ死刑処断ノ以後二十四時以内ニ第三百八十四条ニ掲記スル事項ヲ其死刑ヲ処断セル本地ノ掌籍吏ニ報告セサル可カラス掌籍吏ハ此報告ニ依拠シテ死亡証書ヲ録製ス 第三百九十五条 牢獄内ニ変死若クハ死刑ノ処断等アルニ於テハ則チ民籍公簿上更ニ其事実ヲ発記セス但死亡証書ハ第三百八十七条ノ法式ヲ履行シテ之ヲ録製ス 第三百九十六条 航海中ニ死亡者アルニ於テハ則チ其死亡証書ハ第三百八十条ニ指定スル簿記主任者カ第三百八十一条ノ条則ヲ履行シテ以テ之ヲ録製ス可キ者トス 破船ニ因テ船員船客共ニ死亡セルノ時会ニ当テハ海軍管轄庁ハ其死亡者ノ貫属本邑ノ各公簿ニ之ヲ証記セシム 破船ニ因テ船員船客ノ一部カ死亡シ簿記ヲ管掌スル者モ亦其死亡者中ニ在ルニ於テハ則其死亡証書ハ外国ニ於テハ領事官、王国内ニ於テハ海軍所轄地方庁カ其生存セル人ノ公言ニ依拠シテ以テ之ヲ録製ス 第三百九十七条 若シ某ノ人カ其居所ニ非サル他ノ場所ニ在テ死亡シタルニ於テハ則チ其死亡ノ公言ヲ領受スル掌籍吏ハ十日以内ニ其死亡者カ居所ヲ有スル本邑ノ掌籍吏ニ其写本ヲ送付セサル可カラス 第五章 従軍ノ軍人ノ民籍公簿 第三百九十八条 従軍ノ軍人若クハ軍隊所属ノ人ノ民籍証書ニ関シテハ其掌籍吏ノ職務ハ特別ノ規則ヲ以テ之ヲ管掌スル人ヲ指定ス 第三百九十九条 産生死亡ニ関シテハ務メテ速カニ其公言ヲ為シ本篇中前数章ニ規定スル条則ニ照准シテ之ヲ履行セサル可カラス 第四百条 掌籍吏ノ事務ヲ執行スル士官ハ其領受セル証書ヲ陸軍卿若クハ海軍卿ニ送付シ陸軍卿若クハ海軍卿ハ第三百六十八条ニ指示スル掌籍吏ニ之ヲ転付ス 第六章 民籍公簿ノ正誤 第四百一条 民籍証書ノ正誤ハ其正誤ヲ要スル公簿ヲ管掌スル民籍局ノ所在ノ管轄法衙ニ向テ之ヲ請求ス 第四百二条 公簿正誤ノ宣告書ハ其正誤請求ニ関与セサリシ人若クハ其申訴ノ時際訟廷ニ召喚セラレサリシ人ニ向テハ効力ヲ有セサル者トス 第四百三条 若シ公簿正誤ノ宣告書カ既決ノ効力ヲ有スル者タルニ於テハ則チ請求者ハ其公簿ヲ管掌スル民籍局ニ向テ公正ナル写本ヲ送呈セサル可カラス 掌籍吏ハ公簿ノ余白ニ其写本ヲ登記ス 第七章 罰則 第四百四条 本篇ノ各条則ニ違背スル者ハ民事法衙ニ於テ十「フラン」以外二百「フラン」以内ノ罰金ヲ責徴ス 此訟権ハ検事ニ依テ使用セラルヽ者トス 第四百五条 民籍証書及ヒ民籍公簿ニ誤錯及ヒ脱漏アルニ於テハ則チ刑法ニ規定スル罰則ノ外ニ於テ要償ノ訟権ヲ使用スルコトヲ得可シ 第二巻 財産、所有権及ヒ所有権ノ種類 第一篇 財産ノ区別 第四百六条 公私ヲ問ハス凡テ所有ノ標准ト為ル可キ物件ヲ区分シテ不動産物件及ヒ動産物件ノ二種ト為ス 第一章 不動産 第四百七条 財産ハ其品質ニ因リ若クハ其使用法ニ因リ若クハ其所属ノ物件ニ因テ不動産ト為ル 第四百八条 其品質ニ因テ不動産ト為ル者ハ即チ土地、製造所、風車水車及ヒ其他ノ建造物ニシテ柱礎ヲ具シ若クハ他ノ建造物一部分ヲ為ス者是ナリ 第四百九条 水車、浴船及ヒ其他ノ水上ニ在ル建造物ハ若シ綱索ヲ以テ之ヲ河岸ニ繋住シ且河岸上ニ於テ別ニ其使用ニ充ツ可キ他ノ建造物アレハ則チ之ヲ不動産ト看做ス 本条ノ水車浴船及ヒ其他ノ水上ニ在ル建造物ハ其使用ニ充ツ可キ建造物及ヒ其所有主ノ自己ニ属有セサル水上ト雖モ之ヲ繋住シ得可キ権理ト共ニ一箇ノ物件ト看做サヽル可キ者タリ 第四百十条 樹木ノ未タ斫伐セラレサル者ハ不動産ト為ス 第四百十一条 土地ノ収獲及ヒ樹木ノ収果ノ未タ其土地ヲ離レス又未タ摘取セサル者ハ不動産ト為ス其既ニ土地ヲ離レ又既ニ摘取シタル者ハ仮令ヒ之ヲ他所ニ運搬セサルモ動産ト為ス但之ニ反スル法則アル如キハ此限ニ在ラス 第四百十二条 水源水塘及ヒ水流ハ共ニ不動産ト為ス 水流ヲ建造物若クハ土地ノ供用ニ導引スル溝渠モ亦不動産ニシテ即チ其水流ヲ供用スル建造物若クハ土地ノ一部分ト為ス 第四百十三条 土地ノ所有主カ所有ノ土地ヲ使用シ以テ抽利スル為メニ其土地ニ設置スル物件ヲ名ツケテ使用上ノ不動産ト曰フ其物件ノ種類ハ次項ノ如シ 耕耘ニ供用スル獣畜 潅漑ノ器械 土地賃借者及ヒ佃農ニ供備スル乾草及ヒ穀種 藁稈飼草及ヒ肥糞ノ料物 鴿舎ノ鴿 兎圏ノ兎 蜜蜂窩 池沼ノ養魚 榨器、釜鍋、蒸溜器、桶及ヒ樽 鎔鋳製紙、水車及ヒ其他ノ製造ニ必要ナル器械 此他ノ物件ニシテ土地ノ所有主カ土地ヨリ抽利スル為メニ土地賃借者若クハ佃農ニ交付シタル者モ亦均シク不動産ト為ス 耕耘ノ為メニ土地ノ所有主カ土地賃借者若クハ佃農ニ交付シタル獣畜ハ仮令ヒ預メ其価直ヲ指定スル者タルモ其獣畜カ契約ニ因テ賃佃ノ土地ニ附属スルニ於テハ則チ之ヲ不動産ニ部入ス之ニ反シテ所有主カ土地賃借者若クハ佃農ニ非サル他ノ人ニ賃貸シタル獣畜ハ之ヲ動産ト看做ス 第四百十四条 所有主カ所有ノ土地若クハ建造物ニ密着附属セシムル所ノ動産物件ハ之ヲ使用上ノ不動産ト為ス 其動産物件ノ種類タル即チ鉛、灰泥、石灰若クハ其他ノ物品ヲ以テ土地若クハ建造物ニ密着シ或ハ之ヲ敗壊毀損セシムルニ至ルニ非サレハ則チ其附属セル土地若クハ建造物ヨリ分離シ得可カラサル者是ナリ 玻璃鏡、画図扁及ヒ其他ノ装飾物品ニシテ屋板、屋壁、屋財、ト混同附属スル者ハ之ヲ建造物ニ密着セル者ト看做ス 彫像ハ之ヲ容納スル為メニ特設スル凹形龕ハ安置シ若クハ前項ニ指定スル如ノ建造物ノ一部分ト為ル者タルニ於テハ則チ之ヲ不動産ト看做ス 第四百十五条 法律ニ於テ次項ノ物件ヲ附属物件ニ関スル不動産ト為ス 土地ヲ譲与シテ年租ヲ交付セシムル人ノ権理及ヒ永期佃農カ永期佃田ニ向テ保有スルノ権理 不動産ニ関スル収額得有ノ権理及ヒ使用ノ権理並ニ占住ノ権理土地ノ通務 不動産若クハ不動産ニ関スル各般ノ権理ヲ要求スルノ訟権 第二章 動産 第四百十六条 財産ハ其品質ニ因リ若クハ法律ノ命定ニ因テ動産ト為ル 第四百十七条 品質ニ因ル動産トハ獣畜ノ如ク他ノ動力ヲ仮ラスシテ能ク自カラ動作スル者ト無情物ノ如ク他ノ動力ヲ仮ルニ非ラサレハ則チ移転シ得可カラサル者トヲ問ハス総テ此処ヨリ彼処ニ移転シ得可キ者ヲ謂フ此種ノ物件カ一箇ノ聚集物ヲ為シ若クハ買売ノ標率ト為ル如キハ復タ問フ所ニ非ス 第四百十八条 法律ノ指定スル動産トハ金額若クハ動産物件ニ関スル権理、責務及ヒ訟権(券配抵当ノ訟権モ亦然リ)商社若クハ工業社ノ股分票若クハ其利息額(此会社カ不動産ヲ所有スルモ亦然リ)ヲ謂フ第二項ノ時会ニ於テハ此股分票若クハ利息額ハ唯其会社ノ立存スル期間ノミ社員ノ為メニ動産ト看做ス 終身年金及ヒ永期年金ハ其負責者ノ官府タルト民人タルトヲ問ハス之ヲ動産ト為ス但々公債ニ関スル条則ハ此限外ニ在リトス 第四百十九条 船舶、水車、浴船等凡ソ水上ニ在ル建造物ニシテ第四百九条ニ掲記セサル所ノ者ハ之ヲ動産ト為ス 第四百二十条 建造物ノ壊毀セルニ因テ得ル所ノ材料或ハ新タニ築造スル為メニ聚集シタル材料ハ其建築ニ使用スルニ至ル迄ハ之ヲ動産ト為ス 第四百二十一条 法律ノ条文中若クハ契約ノ款文中ニ填用スル「ビアン、メウブル」「エフェー、モビリエー」「ヴァレゥール、モビエール」ノ語辞ハ若シ他ノ語辞ヲ附加セス又其意義ヲ縮減スルコト無ケレハ則チ前条ニ於テ規定スル一切ノ動産ヲ包括ス 第四百二十二条 法律ノ条文中若クハ契約ノ款文中ニ填用スル「メウブル」ノ語辞ハ若シ他ノ語辞ヲ附加セス又其意義ヲ伸張セス若クハ不動産ニ反対シテ之ヲ填用セサルニ於テハ則チ次項ノ物件ヲ包括セス其物件タル即チ貨幣並ニ貨幣ニ代用スル者、珠玉公債証票、商業工業ニ関スル証票、書籍、兵器、扁額、彫像、宝貨、記念牌若クハ学問技術ニ関スル器具、衣裳、馬匹並ニ馬具、穀種、酒類、乾草及ヒ其他ノ生殖物及ヒ売買ノ標率ト為ル可キ物品是ナリ 第四百二十三条 「モビリエー」「メウブル、メウブラン」ノ語辞ハ堂房ノ常用及ヒ装飾ニ供充スル動産ヲ包括ス即チ氍毺、簾帷、臥床、椅子、玻璃鏡、時辰儀、卓子、陶器及ヒ其他ノ類似物件是ナリ 堂房ノ装具タル扁額、彫像モ亦此語辞中ニ包括ス然レトモ扁額、彫像及陶器ヲ聚集シテ以テ観覧ニ供スル者及ヒ之ヲ観覧ニ供スル為メニ特ニ一室ニ攤列スル者ノ如キハ之ヲ包活セス 第四百二十四条 「メーゾン、メウブレー」語辞ハ唯「モビリヱー」ノミヲ包括ス又「メーゾン、アヴェク、ツース、キース、ツルーヴ」ノ語辞ハ諸般ノ動産ヲ包括ス但貨弊並ニ貨幣ニ代用スル者其家中ニ蔵在スル貸付及ヒ其他ノ証券ハ此限外ニ在リトス 第三章 財産ト其財産ヲ所有スル人トノ関係 第四百二十五条 財産ハ政府若クハ州若クハ公同院舎及ヒ其他ノ無形人若クハ民人ニ属ス 第四百二十六条 政府ニ属スル財産ヲ区分シテ公有、私有ノ二種ト為ス 第四百二十七条 国道、海岸、港埠、海湾鹵地、大河、城関、城壁、城壕、城塁、砦塁ヲ以テ公有地ト為ス 第四百二十八条 政府ニ属スル其他ノ財産ハ之ヲ政府ノ私有物ト為ス 第四百二十九条 城砦ノ基地ニシテ既ニ軍防ノ用ニ供セサル者及ヒ其他ノ財産ニシテ既ニ公同ノ使用若クハ全国ノ防禦ニ供セサル者ハ政府ノ公有ヨリ私有ニ移入ス 第四百三十条 政府ノ公有財産ハ之ヲ買付スルコトヲ得可カラス政府ノ私有財産ハ之ニ関スル法律ニ照依シテ之ヲ転付スルコトヲ得可シ 第四百三十一条 鉱坑及ヒ塩坑ハ特別ノ法律ノ管知スル所ト為ス 第四百三十二条 州及ヒ邑ニ属スル財産モ亦公同ノ使用ニ供スル公有財産ト私有財産トノ二種ニ区分ス 公同ノ供用ニ関スル方法及ヒ規約私有財産ニ関スル管理及ヒ買付ノ方法ハ特別ノ法律ニ於テ之ヲ規定ス 第四百三十三条 僧俗院舎及ヒ其他ノ無形人ニ属スル財産ハ王国ノ法律カ其財産ノ得有及ヒ占有ヲ認可スルニ於テハ則チ之ヲ所有スルヲ得可シ 第四百三十四条 僧侶ニ属スル院舎ノ財産ハ民法ノ管知スル所ト為ス而シテ政府ノ認可ヲ得ルニ非サレハ則チ之ヲ買付スルコトヲ得ス 第四百三十五条 以上数条ニ掲記セサル財産ハ総テ民人ノ私有ニ属ス 第二篇 所有権 第一章 総則 第四百三十六条 所有権トハ総テ物件ヲ使用シ及ヒ自由ニ之ヲ処理スルノ権理ヲ謂フ但々法律若クハ法則ノ制禁スル所ノ使用ハ之ヲ為スコトヲ得サルノミ 第四百三十七条 著作ノ所有権ハ特別ノ法律ヲ以テ規定セル規則ニ准拠シテ其著作者ニ属セシム 第四百三十八条 何人ヲ問ハス其所有権ノ転付ヲ要強セラレ若クハ他人ノ使用ヲ認許スルコトヲ要強セラルヽコト無カル可シ但法律上ニ於テ認可ヲ以テ公言セル公同ノ利益ノ為メニシテ且相当ナル賠償金ヲ予弁スル時会ノ如キハ此限ニ在ラス 公同ノ利益ノ為メニ私有財産ノ所有権ヲ其所有主ニ褫奪スルノ規則ハ特別ノ法律ヲ以テ之ヲ制定ス 第四百三十九条 一箇ノ物件ノ所有主タル者ハ其物件カ何等ノ占有者若クハ何等ノ現有者ノ手中ニ在ルモ其要還ヲ訟求スルコトヲ得可シ但法律ノ制定シタル特例アルハ此限外ニ在リトス 若シ占有者或ハ現有者カ要還ノ訟求ヲ受ケタル以後ニ自巳ノ行為ニ因テ其物件ノ占有ヲ放棄スルニ於テハ則チ自已ノ費用ヲ以テ訟求者ノ為メニ其物件ヲ収回セサル可カラス若シ之ヲ収回スルコトヲ得可カラサルニ於テハ則チ其価直ヲ弁償セサル可ラス訟求者ハ又第二ノ占有者若クハ現有者ニ向テ其訟権ヲ使用スルコトヲ得可シ 第四百四十条 土地ノ所有権ハ其地表面ノ所有権及ヒ総テ地表面ノ上下ニ在ル所有権ヲ併有スル者トス 第四百四十一条 凡ソ土地ノ所有主ハ隣接セル土地ノ所有主ニ向ヒ共同ノ費用ヲ以テ境界ヲ釐正スルコトヲ要強スルヲ得可シ 第四百四十二条 各土地所有主ハ其土地ニ藩籬ヲ設クルコトヲ得可シ但々他ノ人カ其土地ニ向テ通務ノ権ヲ有スル者ノ如キハ此限外ニ在リトス 第四百四十三条 動産ト不動産トヲ問ハス総テ一箇物件ノ所有権ハ其物件ヨリ生出スル所ノ者及ヒ天然ニ出テ若クハ人為ニ因テ其物件ニ併合スル所ノ者ヲ併有ス此権理ヲ名ケテ随属ノ権理ト曰フ 第二章 一箇ノ物件ヨリ生出スル所ノ者ニ関スル随属ノ権理 第四百四十四条 天然ニ出ルノ収果及ヒ人為ニ成ルノ収果ハ随属ノ権理ニ因テ生出スル所ノ物件ノ所有主ニ併属ス 人工ノ幇助ヲ以テスルト否ラサルトヲ問ハス一箇ノ物件ヨリ直接ニ生出スル所ノ収果ヲ天然ニ出ルノ収果ト為ス例之ハ穀種、乾草、樹木、獣畜ノ蕃殖及ヒ鉱坑、石坑、炭泥場ヨリ生出スル者ノ如キ是ナリ 一箇ノ物件ニ関シテ得有スル所ノ収果ヲ人為ニ成ルノ収果ト為ス例之ハ資本金ノ利息、永期、佃田ノ年租、終身年金契約若クハ此他各種ノ年金、契約ノ年金ノ如キ是ナリ 家屋賃貸及ヒ田地賃貸ノ賃金モ亦人為ニ成ルノ収果ト為ス 第四百四十五条 一箇ノ物件ノ収果ヲ摘取スル者ハ耕耘、撒種ノ費用及ヒ他人ノ労作ヲ弁償ス可キノ責務ヲ有ス 第三章 一箇ノ物件ニ混合シ或ハ併合スル者ニ関スル随属ノ権理 第四百四十六条 一箇ノ物件ニ混合シ或ハ併合スル所ノ者ハ以下各条ニ掲載スル規則ニ因テ其物件ノ所有主ニ併属ス 第一節 不動産物件ニ関スル随属ノ権理 第四百四十七条 土地ノ所有主ハ其土地ノ上面ニ於テ自己ノ欲スル所ニ随セテ家屋ヲ建築シ若クハ樹木ヲ植栽スルコトヲ得可シ但地務ノ章中ニ制定スル特例アルカ如キハ此限ニ在ラス 其土地ノ下面ニ於テモ亦自己ノ欲スル所ニ随セテ建築ヲ為スコトヲ得可シ但砿坑ニ関スル法律及ヒ警察ニ関スル法則ニ抵触スル者アルカ如キハ此限ニ在ラス 第四百四十八条 他人ノ材料若クハ樹木ヲ以テ自己ノ土地ニ建築シ若クハ植栽スル所ノ所有主ハ其材料、樹木ノ価直ヲ支弁セサル可ラス若シ所有主カ良意ヲ以テセサルカ若クハ己甚ナル過失アルノ時会ニ於テハ更ニ賠償金ヲ支付セサル可ラサルノ責務ヲ有ス然レトモ材料、樹木ノ所有主ハ之ヲ搬取シ得可キノ権理ヲ有セス唯其建築ヲ破壊セス又其植栽ヲ毀傷セスシテ之ヲ搬取シ得ル如キハ此限ニ在ス 第四百五十条 某人カ自己ノ材料、樹木ヲ以テ他人ノ所為ニ属スル土地ニ建築シ若クハ植栽シタル時会ニ於テハ其土地ノ所有主ハ其建築若クハ植栽ヲ領取シ或ハ某人ヲシテ之ヲ搬取セシムルコトヲ得可シ若シ土地ノ所有主カ其建築若クハ植栽ヲ搬取スルコトヲ請求セルニ於テハ則チ其搬取ノ費用ハ建築若クハ植栽ヲ為シタル所ノ人ノ負担ニ帰ス可クシテ啻ニ之カ賠償ヲ要求スルコトヲ得サルノミナラス却テ土地ノ所有主カ被フリタル損害ヲ弁償セサル可ラサルノ責務ヲ有ス 若シ土地ノ所有主カ其建築若クハ植栽ヲ領取セント欲スルニ於テハ則チ其材料、樹木ノ価直及ヒ労作ノ賃金ヲ支弁スルカ若クハ其建築若クハ植栽ニ因テ土地ノ価直ヲ増加セシ金額ヲ支弁ス可キ者トス 然レトモ土地ノ所有主ハ建築若クハ植栽ヲ為セシ人ニシテ其土地ヨリ排斥セラルヽモ良意タルニ因テ其収果ノ還付ヲ免除セラルヽ者ニ向テハ其建築若クハ植栽ノ搬取ヲ請求スルコトヲ得ス此時会ニ於テハ所有主ハ前項ニ掲載スル所ノ二種ノ方法ノ其一ヲ自択シテ以テ材料、樹木ノ価直ヲ支付セサル可ラス 第四百五十一条 若シ某人カ自己ノ所有ニ属セサル材料、樹木ヲ以テ他人ノ土地ニ建築シ若クハ植栽シタルニ於テハ則チ材料、樹木ノ所有主ハ其材料、樹木ヲ要求スルノ権理ヲ有セス然レトモ之ヲ使用セシ所ノ人ニ向テ賠償ヲ要求スルノ権理ヲ有ス若シ土地ノ所有主カ某人ニ支付ス可キ金額アルニ於テハ則チ直チニ其土地ノ所有主ニ向テ之ヲ訟求スルコトヲ得可シ 第四百五十二条 若シ家屋ヲ建築スルニ偶然ニ其隣接ノ土地ノ一部内ニ侵入セシコトヲ覚知セス而シテ其建築ヲ為スヤ隣接ノ土地ノ所有主カ之ヲ覚知スルモ敢テ妨阻ヲ為サヽリシニ於テハ則チ其建築及ヒ其土地ハ建築者ノ所有ト為スコトヲ得可シ然レトモ此時会ニ於テハ建築者ハ土地ノ所有主ニ向テ其土地ノ価直ノ二倍額及ヒ賠償金ヲ支付セサル可カラス 第四百五十三条 河川ノ沿岸地ニ於テ人ノ覚知スルコト無ク漸々ニ結成スル所ノ堆積ノ洲地ヲ「アリェヴィヲン」ト曰フ 此堆積洲地ハ其河川沿岸ノ地主ノ所有ニ属ス而シテ其河川ノ舟筏ヲ行ル可キ者ト否ラサルトヲ問ハサルナリ然レトモ若シ其河川カ舟筏ヲ行ル可キ者タルニ於テハ則チ法則ニ准拠シテ沿岸ノ通路若クハ䌫路ヲ留存ス可キノ責務ヲ有ス 第四百五十四条 水流カ人ノ覚知スルコト無クシテ自然ニ此一方ノ沿岸ヲ遠サカリ他ノ一方ノ沿岸ヲ浸スニ因テ露出スル所ノ土地ハ其露出スル沿岸ノ地主ノ所有ニ属ス而シテ対岸ノ地主ハ其失フタル土地ヲ要求スルコトヲ得ス 海潮ノ退落スルニ因テ露出スル所ノ土地ニ関シテハ此権理ヲ生出セサル者トス 第四百五十五条 湖沼、池沢ノ満漲スル時ニ於テ其水ノ淹浸スル所ノ土地ヲ常有スル所ノ人ハ其湖沼、池沢ニ向テ其堆積洲地ヲ所有スルコトヲ得ス其水積カ低下スル時ト雖モ亦然リトス 湖沼、池沢ノ所有主ハ亦洪水ニ因テ淹浸スル所ノ沿岸ノ土地ニ向テ何等ノ権理ヲモ有セサル者トス 第四百五十六条 若シ河水ノ暴漲スルニ因リ沿岸ノ土地ニシテ識知シ得可キ一部分ヲ囓断シ去テ之ヲ下流ノ沿岸若クハ対岸ニ推盪堆積セルニ於テハ則チ其土地ノ一部分ヲ失フタル所有主ハ一年以内ニ其所有権ヲ要求スルコトヲ得可シ此期限ヲ超過スレハ其請求ヲ為スコトヲ得ス但其囓断セル部分ノ附着セシ土地ノ所有主カ未タ之ヲ占有セサリシ時会ノ如キハ此限ニ在ラス 第四百五十七条 舟筏ヲ行ル可キ河川ノ中央ニ露出スル島嶼及ヒ堆積洲地ハ政府ニ帰属ス之ニ反スル証憑若クハ期満法アル者ハ然ラス 第四百五十八条 舟筏ヲ行ル可ラサル河川中ニ露出スル島嶼及ヒ堆積洲地ハ其河川ノ中心ニ画引スル想定界線ノ左側若クハ右側ニ在ルヲ以テ其所有主ヲ指定ス若シ其島嶼及ヒ堆積洲地カ界線ニ跨在セルニ於テハ則チ其界線ヲ以テ彼此沿岸ノ両所有主ノ権理ヲ限定ス 一方ノ沿岸ニ在ル数箇ノ所有主ニ分属スル島嶼若クハ堆積洲地ノ所有部分ハ河川ノ中心ニ画引スル想定界線ヲ横断シテ沿岸ノ所有地ニ達スル他ノ想定界線ニ依拠シテ之ヲ限定ス 第四百五十九条 以上二条ノ条文ハ河川ノ激漲カ沿岸ノ土地ヲ囓断シ河川ノ中心ニ推盪堆積シテ以テ島嶼ヲ生成スル時会ニハ之ヲ擬施ス可ラス 前項ノ時会ニ於テハ其一部ヲ推盪シ去ラレタル土地ノ所有主カ之ヲ所有スル者トス然レトモ舟筏ヲ行ル可キ河川ニ関シテハ政府ハ相当ナル賠償金ヲ付与シテ以テ其所有権ヲ譲与セシムルコトヲ得可シ 第四百六十条 若シ河川カ支流ヲ派分シテ沿岸ノ土地ヲ侵蝕シ及ヒ之ヲ囲繞シ以テ一箇ノ島嶼ヲ生成セルニ於テハ則チ其島嶼ニ向テハ沿岸ノ土地ノ所有主カ其所有権ヲ保存ス但前条ニ掲記スル特権ハ政府ニ存在ス 第四百六十一条 若シ河川カ其旧水路ヲ棄テ新水路ヲ取リタルニ於テハ則チ其旧水路ヲ沿岸ノ所有主ノ所有ニ属ス其所有主ハ各自ノ沿岸所有地ノ広狭ニ随テ其旧水路ヲ分有ス 第四百六十二条 鳩、兎及ヒ魚類カ他ノ鳩舎、兎圏若クハ魚池ニ移転スルニ於テハ則チ其鳩舎、兎圏、魚池ノ所有主ノ所有ニ帰属ス但詐偽ノ術策ヲ以テ之ヲ拐誘シタルハ此限ニ在ラス 第二節 動産物件ニ関スル随属ノ権理 第四百六十三条 随属ノ権理ニシテ数個ノ所有主ニ属スル動産ニ関スル者ハ天然ノ公理ニ従テ其所有部分ヲ規定ス 次項ノ条則ハ法官ヲシテ法律ニ掲記セサル特会ト雖モ其特別ノ景況ニ応シテ判決ヲ下タサシムル標率ト為ル可キ者トス 第四百六十四条 二個ノ所有主ニ属スル二箇ノ物件カ併合シテ以テ一箇ノ全物ヲ結成シ而シテ己甚ナル毀壊ヲ其一ニ与フルコト無クシテ之ヲ分離シ得可キニ於テハ則チ二個ノ所有主ハ各自ニ其物件ノ所有権ヲ保存シ且其分離ヲ要求スルノ権理ヲ有ス然レトモ若シ二箇ノ物件カ己甚ナル毀壊ヲ其一ニ与フルニ非サレハ之ヲ分離シ得可ラサルニ於テハ則チ其全部ハ主要ノ部分ヲ結成セル物件ノ所有主ニ属ス此所有主ハ他ノ所有主ニ向テ其併合セル物件ノ価直ヲ支付セサル可カラス 第四百六十五条 某ノ部分カ唯々使用、装飾若クハ補缺ノ為メニ併合セル者タルニ於テハ則チ他ノ部分ヲ以テ主要ノ部分ト看做ス 第四百六十六条 然ルニ若シ其併合セル物件カ主要ノ物件ヨリモ貴重ナル者ニシテ且其所有主ノ認諾ヲ取ラスシテ之ヲ使用セルコト有ルニ於テハ則チ此所有主ハ其主要ノ物件ノ価直ヲ其所有主ニ支付シテ以テ其全部ヲ得有スルト他ノ部分ノ毀壊スルニ拘ハラスシテ其併合セシ部分ノ分離ヲ請求スルトノ二方法ノ其一ヲ択定スルノ権理ヲ有ス 第四百六十七条 若シ一個ノ全物ヲ結成スル為メニ併合シタル二箇ノ物件ノ其一箇ヲ他ノ一箇ノ附随物件ト看做ス可ラサルニ於テハ則チ高等ノ価直ヲ有スル部分ヲ以テ其主要ノ部分ト看做ス又若シ其価直カ殆ント同等ナルニ於テハ則チ最多ナル部分ヲ以テ其主要ノ部分ト看做ス 第四百六十八条 若シ一箇ノ職工或ハ其他ノ人カ新タニ一箇ノ物件ヲ製作スル為メニ自已ニ属セサル材料ヲ使用シタルニ於テハ則チ其使用シタル材料ヲ其原ニ復シ得可キト否サルトヲ問ハス其材料ノ所有主ハ職工若クハ其他ノ人ニ労作ノ賃金ヲ支付スルニ於テハ則チ其製作物件ノ所有権ヲ得有ス 第四百六十九条 一箇ノ人カ新タニ一箇ノ物件ヲ製作スル為メニ一部ハ自巳ニ属スル材料ヲ使用シ一部ハ自已ニ属セサル材料ヲ使用シ而シテ此二種ノ材料ヲ分離セントスルヤ共ニ毀壊ヲ各一種ニ与フルコト無シト雖モ若シ之ヲ分離スレハ則チ必ス其物件ノ功用ヲ失ハシム可キノ時会ニ当テハ其物件ハ二個ノ所有主ノ共有スル所ト為ル何トナレハ則チ其一人ハ自已ニ属スル材料ニ因リ他ノ一人ハ自已ニ属スル材料ト労作ノ賃金ニ因テ各自ニ其権理ヲ得有スルヲ以テナリ 第四百七十条 然レトモ若シ其労作ノ工直カ著シク其使用セシ材料ノ価直ヨリモ超過スルニ於テハ則チ其労作ヲ以テ主要ノ部分ト看做シ而シテ製作者ハ自己使用セシ材料ノ価直ヲ其所有主ニ支付シ以テ其製作物件ヲ保有スルノ権理ヲ有ス 第四百七十一条 一箇ノ物件カ数個ノ所有主ニ属スル数箇ノ材料ノ併合ニ因テ結成セル者ニシテ而カモ其材料ハ結成物件ヲ毀壊スルコト無クシテ之ヲ分離シ得可キニ於テハ則チ其併合ヲ認諾セサリシ所有主ハ其分離ヲ要求スルノ権理ヲ有ス 若シ其材料ハ復タ分離ス可カラサルカ或ハ損害スル有ルニ非サレハ之ヲ分離シ得可ラサルニ於テハ則チ其物件ハ各自ニ属スル材料ノ価直ニ抵算シ以テ各自ノ共有ト為ス 第四百七十二条 然レトモ若シ各所有主ノ中一人ニ属スル材料カ主要ノ物件ト看做サレ且其価直カ他ノ材料ヨリモ高貴ニシテ而カモ其各箇ノ材料カ分離ス可ラサルカ若クハ毀傷スル有ルニ非サレハ之ヲ分離ス可ラサルニ於テハ則チ其主要ニシテ且高貴ナル材料ノ所有主ハ他ノ各所有主ニ其各箇ノ材料ノ価直ヲ支付シ以テ併合ニ因テ結成セル物件ヲ所有ス 第四百七十三条 一箇ノ物件カ数個ノ所有主ニ属スル材料ノ併合ニ因テ結成セルカ為メニ共有物件ト為ルノ時会ニ当テハ其各共有主ハ共同ノ費用ヲ以テ之ヲ公売ニ付スルコトヲ請求スルヲ得可シ 第四百七十四条 所有主ニ告知セスシテ其材料ヲ使用シタルコト有ルニ於テハ則チ所有主ハ其物件ノ所有権ヲ要求スルコトヲ得可シ而シテ此時会ニ於テハ所有主ハ同種同額ノ材料ノ還付ヲ要求スルト其材料ノ価直ヲ要求スルトノ二者ノ其一ヲ択定スルノ権理ヲ有ス 第四百七十五条 所有主ノ認諾ヲ得スシテ其材料ヲ使用シタル所ノ人ハ賠償金ヲ責徴セラルヽコト有ル可シ又或ル他ノ時会ニ於テハ刑事上ノ追理ヲ受クルコト有リトス 第三篇 所有権ノ種類 第一章 収額得有権使用権及ヒ占住権 第四百七十六条 収額得有、使用及ヒ占住ノ権理ハ其証憑ニ従テ之ヲ規定ス可キ者ニシテ法律ハ唯々其証憑ヲ欠クノ時会ノミヲ補足ス之ニ反スル法律アル如キハ此限ニ在ラス 第一節 収額得有権 第四百七十七条 収額得有権ハ即チ他人ノ所有ニ属スル物件ヲ以テ自己其所有タルカ如ク之ヲ使用スルコトヲ得ルノ権理是ナリ然レトモ収額得有者ハ其物件ノ品質ト形体トヲ保存ス可キノ責務ヲ有ス 第四百七十八条 収額得有権ハ法律ニ因リ若クハ人為ニ因テ起生スル者トス 収額得有権ハ動産ト不動産トヲ問ハス諸種ノ財産ニ向テ期限若クハ規約ヲ以テ之ヲ約定スルコトヲ得可シ 第一款 収額得有者ノ権理 第四百七十九条 収額得有者ハ其権理ノ存在スル物件ニ生出スル所ノ天然若クハ人為ノ収額ヲ得有スルノ権理ヲ有ス 第四百八十条 天然ノ収額ニシテ収額得有権ノ始期ニ於テ未タ其物件ヨリ分離セサル所ノ者ハ即チ其収額得有者ノ得有ニ帰ス又収額得有権ノ終期ニ於テハ此収額ハ其物件所有主ノ所有ニ属ス此二項時会ニ於テハ労作ノ工直及ヒ播下セシ種子ヲ弁償スルコトヲ要セス然レトモ収額得有権ノ始期若クハ終期ニ於テ佃農ノ佃耕スル者アルニ於テハ則チ其佃農ニ帰属ス可キ収額ノ一部分ニ関シテハ決シテ佃農ノ権理ヲ妨害スルコトヲ得ス 第四百八十一条 人為ノ収額ハ日子ヲ計算シテ之ヲ得有ス可キ者ニシテ其権理ノ存在スル期間ニ応シ収額得有者ニ帰属ス 第四百八十二条 終身年金ノ収額ハ其権理ノ存在スル期間ノ日子ヲ計算シ以テ年金領受ノ権理ヲ収額得有者ニ付与ス 期限ニ先ツテ領受シタル剰過額ハ之ヲ還付セサル可カラス 第四百八十三条 若シ収額得有権ノ存在スル物件カ貨幣、穀物、酒漿ノ如キ之ヲ消費スルニ非サレハ則チ其使用ニ充ツ可ラサルコト有ルヤ即チ収額得有者ハ之ヲ使用スルノ権理ヲ有ス而シテ其権理ノ終期ニ於テ其権理ノ始期ニ額定シタル評価ニ従テ其物件ノ価直ヲ支付ス可キノ責務ヲ有ス若シ此評価ヲ額定セサリシニ於テハ則チ収額得有者ハ同等同額ノ物件ヲ還付スルト収額終期ノ現時ノ価直ヲ支付スルトノ二者ノ其一ヲ択定スルコトヲ得可シ 第四百八十四条 若シ収額得有権カ衣服、家具ノ如ク一時ニ之ヲ消費セサルモ其使用ノ為メニ漸々ニ敗壊ス可キノ物件ニ存在スルヤ即チ収額得有者ハ其物件ニ適応ナル使用ヲ為ス可シ其権理ノ終期ニ於テハ其物件ノ現状ニ照シテ以テ之ヲ還付ス然レトモ悪意若クハ過失ニ因テ之ヲ毀壊シタルニ於テハ則チ其所有主ニ向テ償還セサル可カラサルノ責務ヲ有ス 第四百八十五条 若シ収額得有権カ山林ニ向テ存在スルニ於テハ則チ収額得有者ハ所有主ノ旧慣ニ沿仍シテ其樹木ヲ伐採スルノ順序ト数額トヲ確守セサル可ラス然レトモ収額得有者ハ其権理ノ存在スル期間ニ於テ小樹、中樹若クハ大樹ヲ以テ結成セル山林ヲ伐採セサリシヲ口実ト為シ賠償金ヲ要求スルコトヲ得ス 第四百八十六条 収額得有者ハ所有主ノ立定シタル慣例ト時期トニ確遵シ自巳ノ権理ノ存在スル山林ノ境界ヲ限定シテ以テ毎期ニ伐採スルト其山林ノ全部ニ向テ樹木ノ所在ヲ劃限シテ伐採スルコトヲ問ハス通規ニ准依シ大樹ヲ以テ結成セル山林ノ部分ニ向テ之ヲ伐採スルノ権理ヲ有ス 第四百八十七条 此他ノ時会ニ於テハ収額得有者ハ大樹ヲ以テ結成セル山林ヲ伐採スルコトヲ得ス但田野ニ孤立スル樹林ニシテ其土地ノ慣例ニ従ヒ毎期節ニ之ヲ伐採スル者ノ如キハ此限ニ在ラス 第四百八十八条 収額得有者ハ其負担スル修理ノ為メニスルニ於テハ則チ非常ノ事為ニ因テ摧折シ若クハ倒仆シタル樹木ヲ使用スルコトヲ得可シ又或ル必要ノ時会ニ於テハ修理ノ為メニ生材ヲ伐採スルコトヲ得可シ然レトモ此時会ニ於テハ所有主ニ向テ其必要ノ修理タルコトヲ証明セサル可ラス 第四百八十九条 収額得有者ハ土地ノ慣例ト所有主ノ慣行トニ沿仍シテ樹木ノ歳収額ヲ得有スルト一般ニ其権理内ニ包有スル葡萄圃ニ供用スル撐木ヲ其山林ヨリ伐採スルコトヲ得可シ 第四百九十条 果樹ノ枯槁セル者及ヒ非常ノ事為ノ為メニ倒仆シ若クハ摧折セル者ハ収額得有者ノ得有ニ属ス而シテ収額得有者ハ更ニ之ニ代ル所ノ果樹ヲ植栽ス可キノ責務ヲ有ス 第四百九十一条 培養場ノ樹苗ハ収額得有者ノ得有ニ属ス其之ヲ採取スル方法、時期及ヒ之ニ代ル所ノ植栽ハ収額得有者カ総テ其土地ノ慣例ニ准依シ以テ之ヲ為ス可キノ責務ヲ有ス 第四百九十二条 収額得有者ハ要報若クハ不要報ノ契約ヲ以テ其権理ヲ他人ニ譲与スルコトヲ得可シ 第四百九十三条 収額得有者カ五年ニ超過スル期間ヲ以テ認諾シタル賃貸契約ハ若シ其期間内ニ収額得有権ノ終期ノ至ルコト有レハ則チ唯其契約ノ終期ニ当レル五年ノ期間ニ向テノミ其効力ヲ有ス而シテ此五年ノ期間ハ第一ノ期間ニ於テハ賃貸契約ヲ締結セル本日ヨリ起算シ其他ノ期間ニ於テハ其前回ノ期間ノ終了セル本日ヨリ起算ス 収額得有者カ田地ノ賃貸ニ関シテハ一年以前ニ於テシ家屋ノ賃貸ニ関シテハ六月以前ニ於テ結約シ若クハ改約シタル五年期間若クハ五年期間ニ超過スル賃貸ハ其収額得有権ノ終期ニ先ツテ其契約ヲ実行セサリシニ於テハ則チ効力ヲ有セサル者トス 若シ収額得有権カ確定セル期限ニ告終ス可キ者ニ関シテハ収額得有者カ結約シタル賃貸ハ唯其権理ノ終期ニ当レル一年ニ向テノミ其効力ヲ有ス然レトモ其田地ノ収額カ毎二年若クハ毎三年ニ得有スル者タルニ於テハ則チ其賃貸ハ其権理ノ終期ニ当レル時ヨリ以後ノ二年若クハ三年ノ収期ニ向テ其効力ヲ有ス 第四百九十四条 収額得有者ハ其収額ヲ得有セル物件ニ附属スル通務ノ権理及ヒ総テ所有主カ其物件ニ向テ保有スル諸般ノ権理ヲ有スル者トス 収額得有者ハ煤炭坑、石材坑及ヒ泥炭場ニシテ其権理ノ始期ニ於テ現ニ其物料ヲ開採スル所ノ者ニ向テハ之ヲ得有スルノ権理ヲ有ス然レトモ煤炭坑、石材坑及ヒ泥炭場ニシテ尚ホ未タ其物料ヲ開採セサル所ノ者或ハ其権理ノ存在スル期間ニ於テ発見シタル財宝ニ向テハ何等ノ権理ヲモ有スルコト無シ但々其収額得有者カ特ニ発見ニ関スル権理ヲ有スル者ノ如キハ此限ニ在ラス 第四百九十五条 所有主ハ収額得有者ノ権理ヲ妨阻スルコトヲ得ス而シテ収額得有者若クハ之ニ代ルノ人ハ其権理ノ終期ニ於テ物件ヲ改良シタル事為ニ向テ要償ノ権理ヲ有セス仮令ヒ其物件ノ価直カ其改良ニ因テ増加シタルモ亦然リトス 然レトモ其価直ノ増加ハ已甚ナル過失ニ非スシテ収額得有者カ為シタル毀損ト相償填スルコトヲ得可シ 若シ相償填ス可キノ事為ナキニ於テハ則チ収額得有者ハ自己カ其土地ニ附着セシメタル物件ヲ搬去スルコトヲ得可シ然レトモ其搬去ハ能ク自己ニ利益シ而シテ其土地ニ毀害セサラシムルコトヲ要ス但所有主カ収額得有者ニ向テ其利益ニ相応スル金額ヲ支付シテ其物件ヲ留存スル如キハ此限ニ在ラス 収額得有者ハ玻璃鏡、画図扁其他ノ装飾物品ニシテ自己ノ設置シタル者ヲ搬去スルコトヲ得可シ但々其家屋ノ原形ヲ毀損ス可ラサルノ責務ヲ有スルノミ 第二款 収額得有者ノ責務 第四百九十六条 収額得有者ハ其権理ニ属スル物件ノ現存ノ形況ヲ以テ之ヲ領受ス然レトモ其物件ハ所有主ヲ召喚シ其面前ニ於テ其権理ニ属スル動産ノ目録書及ヒ不動産ノ明註書ヲ録製シタル以後ニ非サレハ則チ之ヲ使用スルコトヲ得ス 目録書ヲ録製スル費用ハ収額得有者ノ支弁ス可キ者トス 若シ収額得有者カ目録書録製ノ認免ヲ得タルニ於テハ則ヲ所有主ノ請求ニ因テ之ヲ録製シ其費用ハ所有主ノ負担スル所ト為ル 第四百九十七条 収額得有者ハ若シ其権理ヲ得有スル時際ニ於テハ特ニ認免ヲ得ルニ非サレハ則チ恰モ好家主人タルト一般ニ其物件ヲ使用ス可キコトヲ保証スルノ保人ヲ立テサル可ラス 父及ヒ母ニシテ其子ノ財産ニ向ヒ准規ノ収額得有権ヲ有スル者及ヒ売付者若クハ贈与者ニシテ自已ニ収額得有権ヲ存留スル者ハ為メニ保人ヲ立ルノ責務ヲ有ス 第四百九十八条 若シ収額得有者カ確実ナル保人ヲ立ルコト能ハサルニ於テハ則チ後項ノ処分ヲ為スコトヲ要ス 不動産ハ之ヲ賃貸シ若クハ法衙ノ管守ニ付ス然レトモ収領得有権ニ属スル家屋ハ収額得有者カ之ニ占住スルコトヲ請求スルヲ得可シ 収額得有権ニ属スル金額ハ之ヲ息貸ス可シ 無記名証票ハ所有主ノ為メニ記名証票ト為シ而シテ其証票ニ収額得有権ニ属スルコトヲ記載ス 穀物ハ之ヲ売放シテ其価金ヲ息貸ス 此諸般ノ時会ニ於テハ資本金額ノ利息、貸金ノ年金等ハ収額得有者ノ得有ニ属ス 第四百九十九条 収額得有者カ保人ヲ立ルコト能ハサルニ於テハ則チ所有主ハ使用ニ因テ消耗ス可キ動産ヲ売放シ其価金ハ穀物ノ価金ト一般ニ之ヲ息貸スルコトヲ要求スルヲ得可ク而シテ収額得有者ハ其利息額ヲ使用ス 然レトモ或ル時会ニ於テハ法官ハ収額得有者ノ請求ニ応シ其使用ニ必要ナル動産ノ一部ヲ存留スルコトヲ指命スルヲ得可シ此ノ時会ニ於テハ収額得有権ノ終期ニ於テ其物件ヲ還付ス可キノ責務ヲ有ス 第五百条 収額得有者カ保人ヲ立ルコトヲ延滞スルハ以テ其権理ヲ喪失セシムルノ事由ト為スニ足ラサル者トス 第五百一条 収額得有者ハ尋常ノ修理ヲ負担ス其重大ノ修理ノ如キハ唯其権理ヲ得有シタル以後ニ於テ修理ヲ為サヽリシ為メニ起生スル者ノミ之ヲ負担セサル可ラス 第五百二条 重大ノ修理ヲ為シタル収額得有者ハ所有主ヲシテ其工作ノ費用金額ニ利息ヲ附加セスシテ之ヲ還付セシムルノ権理ヲ有ス然レトモ収額得有権ノ終期ニ於テ尚ホ其修理ノ利益ノ存在スル者タルコトヲ要ス 第五百三条 若シ収額得有者カ重大ノ修理ノ為メニ必要ナル費用金額ヲ予支スルコトヲ欲セスシテ所有主其自費ヲ以テ其修理ヲ挙行スルコトヲ認諾セルニ於テハ則チ収額得有者ハ其権理ノ存在スル期間ハ此費用金額ノ利息ヲ所有主ニ支弁セサル可カラス 第五百四条 重大ノ修理トハ即チ墻壁、仰板ノ修理、棟梁ノ改換、屋蓋ノ全部若クハ其大半ノ部分及ヒ地板ノ改造、塘堤、水渠及ヒ之ヲ支撑囲繞スル塢壩ノ改築是ナリ 此他ノ修理ハ総テ之ヲ尋常ノ修理ト言フ 第五百五条 収額得有権ニ属スル土地ノ為メニ必要ナル附属物件ヲ結成セル建築ノ一部カ許多ノ歳月ヲ経過シタルニ因リ若クハ非常ノ事変ニ因テ崩潰シタルニ於テハ則チ第五百二条及ヒ第五百三条ノ条則ヲ擬施ス可キ者トス 第五百六条 収額得有者ハ其権理ノ存在スル期間ハ其土地ニ属スル諸般ノ歳課ヲ負担ス例之ハ年税、年租及ヒ慣例ニ於テ収額得有権ノ責課ニ帰セシムル所ノ諸般ノ責課ノ如キ是ナリ 第五百七条 所有主ハ収額得有権ノ存在スル期間ハ其物件ニ関スル責課ヲ負担ス然レトモ収額得有者ハ其支弁セシ金額ノ利息ヲ所有主ニ還付セサル可ラス 若シ収額得有者カ其金額ヲ支弁シタルニ於テハ則チ権理ノ終期ニ於テ其金額ノ還付ヲ請求スルノ権理ヲ有ス 第五百八条 物件ヲ特記セル贈遺ニ因テ一箇若クハ数個ノ物件ニ向テ権理ヲ有スル収額得有者ハ土地ヲ以テ券記ノ抵当ト為シタル負債及ヒ其土地ノ責課タル租税及ヒ普通ノ年金ヲ負担セス又若シ之ヲ支弁シタルニ於テハ則チ所有主ニ向テ其償還ヲ請求スルコトヲ得可シ 第五百九条 遺産全部若クハ遺産一部ノ贈遺ヲ受ケタル収額得有者ハ其領受シタル遺産カ負担ス可キ無期ノ年金若クハ終身ノ年金ノ金額及ヒ其遺産ニ関スル負債若クハ贈遺ノ利息ノ全部若クハ一部ヲ支弁セサル可カラス 其資本金ニ関シテハ若シ収額得有者カ之ヲ予支シタルニ於テハ則チ其権理ノ終期ニ於テ利息ヲ賦加セサル資本金ヲ領受ス可キ者トス又若シ収額得有者カ之ヲ予支セサリシニ於テハ則チ所有主ハ此金額ヲ支弁スルト其収額得有権ニ属スル財産ノ一部ニシテ其負債金額ノ支弁ニ充ルニ足ル可キ者ヲ買放スルトノ二者ノ其一ヲ択定スルコトヲ得可シ第一項ノ時会ニ於テハ収額得有者ハ其権理ノ存在スル期間ハ利息ヲ所有主ニ支付セサル可カラス 第五百十条 収額得有者ハ其権理ニ関シテ搆起スル訴訟ノ裁判費用及ヒ其訴訟ニ関シテ宣告セラルヽ罰金ヲ負担ス可キ者トス 若シ訴訟カ同時ニ所有権ト収額得有権トニ関シテ搆起セル者タルニ於テハ則チ所有主、収額得有者共ニ其権理ニ応分ナル裁判費用ヲ負担ス 第五百十一条 若シ収額得有権ノ存在スル期間ニ於テ他ノ人カ其財産ヲ侵掠シ若クハ所有主ノ権理ニ妨害ヲ及ホスコト有ルニ於テハ則チ収額得有者ハ之ヲ所有主ニ報知セサル可ラス若シ之カ報知ヲ怠忽セルニ於テハ則チ所有主ノ之カ為メニ被フレル一切ノ損害ヲ自己ニ負担セサル可ラサルノ責務ヲ生出ス 第五百十二条 若シ収額得有権カ一箇ノ獣畜ニ存在シ而ヲテ其獣畜カ収額得有者ノ過失ニ因ルニ非スシテ死亡シタルニ於テハ則チ収額得有者ハ他ノ獣畜ヲ以テ所有主ニ還付シ或ハ其価直ヲ支弁スルコトヲ須ヒス 第五百十三条 若シ収額得有権カ羊群若クハ他ノ獣群ニ向テ存在シ而シテ収額得有者ノ過失ニ因ルニ非スシテ其獣群全ク死亡シタルニ於テハ則チ収額得有者ハ唯其皮革若クハ皮革ノ価直ヲ所有主ニ還付ス可キノ責務ヲ有スルノミ 若シ羊群若クハ他ノ獣群カ悉皆死亡シタルニ非サレハ則チ収額得有者ハ其獣群ノ頭数カ初メテ減耗ヲ来タセシ時日ヨリ起算シテ以テ其獣畜ノ嘗テ生殖シタル頭数ニ達ス可キノ頭数ヲ補足セサル可カラス 第五百十四条 収額得有権ニ属セシ土地ニ附着セル獣畜ニシテ之ヲ消費ス可キ者ニ関シテハ第四百八十三条ノ条則ヲ擬施ス 第三款 収額得有権ノ消滅ノ方規 第五百十五条 収額得有権ハ次項ノ時会ニ於テ消滅スル者トス 収額得有者ノ死亡セルノ時会 収額得有権ノ期限満了セルノ時会 所有権ト収額得有権トカ混併シテ一人ニ帰属セルノ時会 三十年間収額得有権ヲ使用セサリシノ時会 収額得有権ニ属スル物件カ全ク毀消シタルノ時会 第五百十六条 収額得有者カ其財産ヲ他人ニ転付シ若クハ之ヲ毀損シ若クハ修理ヲ加ヘスシテ之ヲ毀消セシムル等総テ其権理ヲ妄用シタルニ於テハ則チ其権理ハ消滅ニ帰スル者トス 法衙ハ其景況ニ応シテ次項ノ処分ヲ命付スルコトヲ得可シ即チ収額得有者カ仮令ヒ保人ヲ立ルコトヲ認免セラレタルノ時会ト雖モ保人ヲ立テシメ或ハ収額得有権ニ属スル財産ヲ賃貸セシメ或ハ収額得有者ノ自費ヲ以テ之ヲ法衙ノ管守ニ付セシメ或ハ共使用ヲ所有主ニ委属セシメ或ハ其収額得有権ノ存在スル期間ハ収額得有者若クハ其受権者ニ限定セル金額ヲ支付セシムルノ処分是ナリ 収額得有者ニ対スル債主ハ損害ノ賠償ヲ負担シ若クハ将来ノ保任ヲ提供シ以テ自已ノ権理ヲ防護スル為メニ訴訟ニ間入スルコトヲ得可シ 第五百十七条 第三位ノ人カ某ノ年齢ニ至ルヲ期限ト為シテ以テ立定シタル収額得有権ハ仮令ヒ其限定セル年齢ニ達セサル以前ニ其人カ死亡スルコト有ルモ其権理ハ期限ニ至ル迄存在スル者トス 第五百十八条 邑若クハ其他ノ無形人ノ為メニ彼此生存ノ契約若クハ遺嘱ヲ以テ立定シタル収額得有権ハ三十年ノ期限ヨリ超過スルコトヲ許サス 第五百十九条 若シ収額得有権ニ属スル物件ノ一部カ消滅ニ帰シタルニ於テハ則チ其権理ハ残余ノ部分ニ向テ存在スル者トス 第五百二十条 若シ収額得有権カ建造物アル土地ニ存在シ而シテ其建造物カ毀滅シタルニ於テハ則チ収額得有者ハ尚ホ其土地及ヒ其材料ニ向テ権理ヲ有スル者トス 収額得有権カ唯建造物ノミニ存在スルノ時会ト雖モ亦然リトス然レトモ此時会ニ於テ若シ所有主カ他ノ家屋ヲ建造セント欲スルコト有レハ則チ所有主ハ収額得有権ノ存在スル期間ハ土地及ヒ材料ノ価直ノ利息ヲ収額得有者ニ支付シテ以テ其土地及ヒ材料ヲ使用スルノ権理ヲ有ス 第二節 使用ノ権理及ヒ占住ノ権理 第五百二十一条 一箇ノ土地ニ向テ使用ノ権理ヲ有スル者ハ唯々自己及ヒ自己ノ親属ノ需用ニ必要ナル収額ノミヲ採取スルコトヲ得可シ 第五百二十二条 一箇ノ家屋ニ向テ占住ノ権理ヲ有スル者ハ自己ノ親属ト共ニ之ニ占住スルコトヲ得可シ 第五百二十三条 使用ノ権理若クハ占住ノ権理ヲ得有セシ以後ニ産生シタル子モ亦其親属中ニ算入ス可キ者トス仮令ヒ権理者カ其権理ヲ得有スルノ時際尚ホ未タ結婚セサリシモ亦然リトス 第五百二十四条 占住ノ権理ハ其権理者ノ品等ニ応シ権理者及ヒ其親属ノ占住ニ必要ナル部分ニ随テ以テ之ヲ限定ス 第五百二十五条 使用ノ権理若クハ占住ノ権理ハ収額得有ノ権理ト一般ニ其権理者カ保人ヲ立定シ及ヒ動産ノ目録書並ニ不動産ノ明註書ヲ録製シタル以後ニ非サレハ則チ其権理ヲ使用スルコトヲ得可ラサル者トス然レトモ法衙ハ其景況ニ随テ保人ヲ立定スルノ責務ヲ認免スルコトヲ得可シ 第五百二十六条 使用者及ヒ占住者ハ好家主人タルト一般ニ其権理ヲ使用ス可キ者トス 第五百二十七条 若シ使用者カ其土地ニ属スル一切ノ収額ヲ得有シ占住者カ其家屋ノ全部ヲ占用スルニ於テハ則チ其使用者若クハ其占住者ハ収額得有者ト一般ニ耕耘ノ費用、修理ノ費用及ヒ租税ノ納致ヲ負担セサル可カラス 若シ唯其収額ノ一部ノミヲ得有シ或ハ唯々其家屋ノ一部ノミヲ占用スルニ於テハ則チ其権理者ハ其部分ニ相応ナル費用ヲ負担ス可キ者トス 第五百二十八条 使用ノ権理若クハ占住ノ権理ハ之ヲ他人ニ譲与シ若クハ之ヲ貸付スルコトヲ得可ラサル者トス 第五百二十九条 使用ノ権理若クハ占住ノ権理ハ収額得有ノ権理ト一般ナル方規ニ従テ消滅ニ帰スル者トス 第五百三十条 山林ニ向テ存在スル使用ノ権理ハ特別ノ法則ヲ以テ其方法ヲ規定ス 第二章 土地ニ関スル通務 第五百三十一条 他ノ所有主ニ属スル土地ノ使用ニ関シ若クハ便益ニ関シテ一箇ノ土地カ負担スル所ノ責課ヲ名ケテ通務ト曰フ 第五百三十二条 通務ハ法律若クハ人為ヲ以テ設定スル者トス 第一節 法律ヲ以テ設定スル通務 第五百三十三条 法律ヲ以テ設定スル通務ハ公同ノ利益若クハ私際ノ利益ヲ以テ其標率ト為ス 第五百三十四条 公同ノ利益ノ為メニ設定スル通務トハ水流ノ線路、舟筏ヲ行ル可キ河渠ノ岸路及ヒ道路ノ築造若クハ修理等ニ関スル者是ナリ 凡テ此種ノ通務ハ法律若クハ特別ノ規則ヲ以テ之ヲ制定ス 第五百三十五条 法律カ私際ノ利益ノ為メニ負担セシムル通務ハ道路警察ノ規則及ヒ本章第一節ノ条款ヲ以テ之ヲ制定ス 第一款 土地ノ位置ニ因テ生スル通務 第五百三十六条 低下ナル土地ハ高上ナル土地ヨリ人為ニ因ラスシテ自然ニ流出スル所ノ水ヲ受ケサル可カラス 低地ノ所有主ハ何等ノ方法ヲ以テスルモ其水流ヲ阻塞スルコトヲ得ス 高地ノ所有主ハ低地ノ受ク可キ通務ヲ増加スルコトヲ得ス 第五百三十七条 某ノ土地ニ在テ水流ヲ堰留スル為メニ設ケタル岸厓若クハ堤防カ崩潰シ或ハ水流ノ変遷ニ因テ之ヲ堰留スル工事ヲ必要スル時会ニ当リ若シ其土地ノ所有主カ之ヲ築造若クハ修理スルコトヲ欲セサルニ於テハ則チ其損害ヲ被フリ若クハ損害ヲ被フル可キ危難ニ在ル所ノ所有主ハ自費ヲ以テ必要ナル築造若クハ修理ヲ為スコトヲ得可シ然レトモ其工事ハ法衙カ関係ヲ有スル人ノ申告ヲ聴取スル以後ニ於テスル允可ヲ経由シ及ヒ水利ニ関スル規則ニ照准シ其土地ノ所有主ニ損害ヲ被フラシメサル方法ヲ以テ挙行セサル可ラス 第五百三十八条 某ノ土地若クハ某ノ坑壕、溝渠、窖穴等ヲ壅塞スル阻碍物ニシテ隣接ノ土地ニ損害ヲ被フラシメ若クハ将サニ被フラシメントスル者ヲ搬撤スルニ関シテモ亦前条ノ如ク処分スルコトヲ得可シ 第五百三十九条 前二条ニ掲記スル岸厓及ヒ堤防ノ保存若クハ阻碍物ノ搬撤ニ利益ヲ有スル所有主ハ自巳ノ利益ニ有スル部分ニ応シテ其費用ヲ負担セサル可ラス但堤防ヲ毀損シ若クハ阻碍物ヲ聚堆シタル者ニ向テ損害要償ノ訟権ヲ使用スル者有ルカ如キハ此限ニ在ラス 第五百四十条 自己所有地域内ニ水源ヲ有スル者ハ自己ノ欲スル所ニ随ヒテ之ヲ使用スルコトヲ得可シ但低地ノ所有主カ証憑若クハ期満法ニ因リ其水源ニ向テ権理ヲ有スル如キハ此限ニ在ラス 第五百四十一条 前条ノ時会ニ於テハ三十年間連続セル占有ニ因リテ期満得権スル者トス而シテ其期間ハ低地ノ所有主カ其地域内ニ水流ヲ導引スル為メニ高地内ニ挙行セシ工事ノ完了スル本日ヨリ起算ス但其工事ハ連続シ且人目ニ触ル可キ者タルコトヲ要ス 第五百四十二条 水源ノ所有主ハ若シ其水源カ本邑ノ全部若クハ一部ノ住民ノ必要ナル用水ニ供給スル者タルニ於テハ則チ其水路ヲ変更スルコトヲ得ス然レトモ其住民カ其水流ヲ使用スル権理ヲ得有セサルニ於テハ則チ所有主ハ賠償金ヲ請求スルノ権理ヲ有ス 第五百四十三条 人為ヲ仮ラスシテ自然ニ某ノ土地ニ沿フテ流ルヽ所ノ水脈アリテ而カモ其水流ハ第四百二十七条ニ因テ公有ニ属スル者ト公言セラレス且他ノ人カ其水流ニ向テ権理ヲ有スルコト無キニ於テハ則チ其沿流ノ地主ハ自己ノ土地ヲ潅漑シ若クハ其地内ニ他ノ工事ヲ興創スル為メニ其水流ヲ使用スルコトヲ得可シ但之ヲ使用シタルノ以後ハ再ヒ其自然ノ線路ヲ復セシメサル可ラス 若シ水流カ某ノ土地ヲ通過スルコト有ルニ於テハ則チ其地主ハ之ヲ使用スルコトヲ得可シ但其水流カ地域外ニ出ツルニ於テハ復タ自然ノ線路ヲ取ラシメサル可ラス 第五百四十四条 若シ水流ニ向テ利益ヲ有スル数個ノ所有主カ争訟ヲ起生セルコト有ルニ於テハ則チ法衙ハ必ス務メテ耕耘若クハ工業ノ利益ト所有権トヲ調和セシムルコトヲ要ス而シテ水流ノ疏通及ヒ使用ニ関スル特別ノ地方規則ハ亦必ス之ヲ遵奉セサル可ラス 第五百四十五条 水流ノ所有主若クハ占有者ハ若シ証憑或ハ期満法カ之ニ反スル有ルニ非サレハ則チ随意ニ之ヲ使用シ或ハ他人ヲシテ之ヲ使用セシムルコトヲ得可シ然レトモ之ヲ使用シタルノ以後ハ其水路ヲ転回シテ他ノ土地即チ其所有主カ高地ノ所有主ヲシテ漲溢其他ノ患害ヲ被フラシメス以テ之ヲ使用スル者ニ其利益ヲ失ハシメサルコトヲ要ス若シ水源或ハ他ノ水流ニシテ高地ノ所有主ニ属スル者タルニ於テハ則チ低地ノ所有主ハ相応ナル賠償金ヲ支付セサル可ラス 第二款 両属ノ墻壁、建造物及ヒ坑壕 第五百四十六条 両箇ノ建造物ヲ区劃スル墻壁ニシテ其高度ノ均同ナル者ハ其最高所ニ至ル迄其高度ノ均同ナラサル者ハ最低ナル建造物ノ高度ニ達スル迄ヲ両属ト看做ス又庭園ヲ区劃スル墻壁及ヒ田野ニ在テ地域ノ周囲ヲ区劃スル墻壁モ亦両属ト看做ス但之ニ反スル証憑アル如キハ此限ニ在ラス 第五百四十七条 庭園若クハ田圃ヲ区劃スル墻壁ノ所有権ハ其墻壁ノ一方ノ斜面ト其斜面ノ広狭トニ因テ之ヲ指定ス 若シ墻檐及ヒ其他之ニ類似スル者又空地ニシテ其深積ノ墻壁厚積ノ半ニ超過スル者カ墻壁ト同時ニ建造セラレタルニ於テハ則チ其墻壁ハ此等ノ証憑ヲ有スル一方ノ所有主ニ属スル者ト看做ス此等ノ証憑ハ唯其一箇ノ存在スルノミヲ以テ足レリトス 此種ノ証憑ノ一箇若クハ数箇カ一方ニ存在シ他ノ一方ニモ亦一箇若クハ数箇ノ証憑ノ存在スル時会ニ当テハ其墻壁ハ両属ノ者ト看做ス但墻壁ニ斜面アルハ他ノ証憑ニ圧勝スルニ足ル者トス 第五百四十八条 両属墻壁ノ必要ナル修繕及ヒ改築ハ其墻壁ニ向テ権理ヲ有スル者カ其権理ノ存在スル部分ニ比例シテ之ヲ負担ス可キ者トス 第五百四十九条 然レトモ両属墻壁ノ共有主ハ其権理ヲ放棄シテ以テ修理及ヒ改築ノ費用ヲ醵出スルコトヲ免ルヽヲ得可シ但両属ノ墻壁カ自己ノ家屋ヲ支撐スル者ハ此限ニ在ラス 然レトモ権理ノ放棄ハ放棄者ヲシテ自己ノ事為ニ因テ起生スル修理及ヒ改築ノ責ヲ免レシムルニハ足ラサルナリ 第五百五十条 両属墻壁ノ支撐スル家屋ヲ拆撤セント欲スル者ハ両属ノ権理ヲ辞拒スルコトヲ得可シ然レトモ此時会ニ於テハ其拆撒ニ因テ隣人ニ損害ヲ被フラシムルコトヲ避クル為メニ必要ナル修理ハ唯一回ノミ之ヲ負担セサル可カラス 第五百五十一条 凡テ両属墻壁ノ共有主ハ其墻壁ニ撐倚シテ建築ヲ為シ及ヒ其墻壁ヲシテ棟材、粱桁ヲ支撐セシムルコトヲ得可シ然レトモ其墻壁ノ厚積ニ五「サンチメートル」ノ余地ヲ存セサル可ラス若シ他ノ共有主カ墻壁ノ同所ニ棟材ヲ架構シ或ハ凹龕若クハ煙窓ヲ築造セント欲スルニ於テハ則チ其棟材ヲ墻壁ノ中央ニ引退セシムルノ権理ヲ有ス 第五百五十二条 両属墻壁ノ共有主ハ其墻壁ヲ堅牢ナラシムル為メニ壁骨木ヲ以テ其中心ヲ貫通シ鉄栓ヲ以テ之ヲ堅杻スルコトヲ得可シ然レトモ其壁骨木ハ墻壁ノ隣人ニ属スル他ノ一方ノ表面ヨリ五「サンチメートル」以内ニ在ラシムルコトヲ要ス此工事ハ両属墻壁ノ堅牢ヲ傷害ス可ラス又壁骨木及ヒ鉄栓ヲ設クル為メニ起生セル損害ハ之ヲ賠償セサル可ラス 第五百五十三条 両属墻壁ノ共有主ハ其墻壁ヲ増高スルコトヲ得可シ然レトモ之ヲ増高スルノ費用増高セル部分ノ尋常ナル修理及ヒ其増高スルニ因テ墻壁ノ堅牢ヲ失ハスシテ能ク支撐シ得ル為メニ必要ナル工事ヲ負担セサル可ラス 第五百五十四条 若シ両属ノ墻壁カ其増高ニ堪ヘサル者タルニ於テハ則チ之ヲ増高セント欲スル者ハ自費ヲ以テ全ク之ヲ改築セサル可ラス而シテ其増加セル厚積ハ自己ノ一方ニ向テノミ展拡セサル可ラス 本条及ヒ前条ノ時会ニ於テハ墻壁ヲ増高セント欲スル者ハ其増高若クハ改築ノ為メニ暫時隣人ニ被フラシメタル損害ト雖モ之カ賠償ヲ為サヽル可ラス 第五百五十五条 隣人ニシテ墻壁ノ増高ヲ分担セサリシ者ハ其増高セル費用ノ半額及ヒ厚積ヲ増加スル為メニ供充シタル土地ノ価直ノ半額ヲ支付シテ以テ両属ノ権理ヲ得有スルコトヲ得可シ 第五百五十六条 墻壁ニ隣接セル土地ノ所有主ハ其墻壁ノ全部若クハ一部ニ向テ両属ノ権理ヲ有スルコトヲ得可シ此権理ヲ有スル為メニハ自己ノ所有地ノ広狭ニ応シテ其墻壁ヲ両属ト為シ而シテ墻壁ノ所有主ニ其全部ノ価直ノ半額若クハ其両属ト為サント欲スル部分ノ価直ノ半額及ヒ其墻壁ヲ築造シタル土地ノ価直ノ半額ヲ支付シ且ツ隣人ヲシテ何等ノ損害ヲモ被フラシメサル方法ヲ以テ必要ナル工事ヲ為ス可キコトヲ負担セサル可ラス 此条則ハ公同有益ノ使用ニ供充スル建築ニハ之ヲ擬施ス可ラス 第五百五十七条 両属墻壁ノ共有主ノ一人ハ他ノ一人ノ認諾ヲ得ルニ非サレハ則チ其墻壁ニ凹所ヲ築造シ若クハ其墻壁ヲシテ他ノ建造物ヲ撐住セシムルコトヲ得ス他ノ一人カ之ヲ拒却スルノ時会ニ於テハ評鑑者ヲシテ其築造ハ他ノ一人ノ権理ヲ妨害セサル為メニ必要ナル方法ヲ案定セシメサル可ラス 第五百五十八条 肥料木材泥土若クハ其他此ト同質ナル物件ハ其沾湿其推圧若クハ其高聳及ヒ其他ノ事故ニ因テ墻壁ヲ毀損セサルノ予防ヲ為セル以後ニ非サレハ則チ之ヲ両属墻壁ノ傍側ニ堆置スルコトヲ得ス 第五百五十九条 市廓内及ヒ市廓外ニ在ル各自ノ家屋若クハ庭園ヲ区別スル墻壁ノ築造若クハ修理ノ費用ハ何人ヲ問ハス其隣人ヲシテ之ヲ分担セシムルコトヲ得可シ其墻壁ノ高卑ハ特別ノ規則ニ照准シテ以テ之ヲ限定ス若シ其規則若クハ其契約ナキニ於テハ則チ隣接ノ墻壁ニシテ将来共同ノ費用ヲ以テ之ヲ築造ス可キ者ハ三「メートル」ノ高度ヲ以テ其程度トス 第五百六十条 市廓内及ヒ市廓外ニ在テ一箇ノ墻壁カ二箇ノ土地ノ其一箇ハ他ノ一箇ヨリモ高位ニ在ル者ヲ区劃スルニ於テハ則チ其高地ノ所有主ハ其土地ノ高度ニ達スル迄ハ全ク其墻壁ノ築造及ヒ修理ノ費用ヲ自己ニ負担セサル可ラス然レトモ其墻璧ノ部分ニシテ其高地ノ高度ヨリ前条ニ掲載スル高度ニ達スル迄ハ両所有主ノ共同費用ヲ以テ之ヲ築造シ及ヒ之ヲ修理セサル可ラス 第五百六十一条 前二条ノ時会ニ於テ二個ノ隣接セル所有主ノ一人ニシテ周囲若クハ分劃スル墻壁ノ築造若クハ修理ヲ為スコトヲ欲セサル者ハ其墻壁ヲ築造ス可キ土地ノ半部ヲ放棄シ及ヒ其両属ノ権理ヲ辞拒シテ以テ其築造若クハ修理ニ関与セサルコトヲ得可シ但第五百五十六条ノ特例アルハ此限ニ在ラス 第五百六十二条 一箇ノ家屋ノ数階カ数個ノ所有主ニ共属シ而シテ其所有スル証書ニ於テ修理及ヒ改築ノ方法ヲ規定セサルニ於テハ則チ次項ノ方法ニ准拠ス可シ 外壁及ヒ屋蓋ハ各所有主カ自己ニ属スル階層ノ価直ニ応シテ之ヲ負担ス庭戸、井池、水渠其他各所有主ニ共属スル者モ亦然リトス但共同厠窖ハ之ニ通導スル管数ニ応シテ其費用ヲ負担ス 各階層ノ所有主ハ其踏ム所ノ地板及ヒ自己ニ属スル房室ノ仰板ノ修理ヲ負檐ス 階俤ハ常ニ之ニ沿リテ昇降スル所有主カ層階ノ価直ニ応シテ其修理ヲ負担ス 地窖及ヒ最上ニ在ル階層等総テ家屋ノ一層階ト同一ニ看做ス 第五百六十三条 数個ノ所有主ニ属スル一家屋ノ屋蓋ノ修繕若クハ其再造ニ関スル費用ヲ分担スルノ規則ハ以テ台榭若クハ露台ノ修理ニ擬施ス可シ 若シ台榭カ各所有主ノ需用ニ供充セサルニ於テハ則チ之ヲ専領スル所ノ所有主ハ修理費用ノ四分ノ一ヲ負担ス其四分ノ三ハ其他ノ所有主ト共ニ前条ニ規定シタル比例ヲ以テ之ヲ負担ス特別ノ結約アルハ此限ニ在ラス 第五百六十四条 一家屋ノ最高階層ノ所有主ハ他ノ数階層ノ所有主ノ認諾ヲ得ルニ非サレハ則チ更ニ一階層ヲ増築シ或ハ他ノ所有権ノ価格ヲ減削ス可キ工事ヲ起スコトヲ得ス但々台榭ノ欄干ニ関スル工事ハ此限ニ在ラス 第五百六十五条 二箇ノ土地ノ界域ニ在ル坑壕ニ関シ共同費用ヲ以テ之ヲ修理スルニ於テハ則チ両属ノ者ト看做ス之ニ反スル証憑若クハ標記アルハ此限ニ在ラス 第五百六十六条 若シ穿掘シタル土砂カ一方ニノミニ堆聚シ或ハ其土砂カ三年以来堆聚セルニ於テハ則チ両属ニ非サルノ標記ト為ス 其坑壕ハ土砂ヲ穿掘シ若クハ堆聚シタル一方ノ専有ニ属ス 第五百六十七条 若シ坑壕カ唯々一個ノ所有主ノ土砂ヲ投棄スルニ供充セル者タルニ於テハ則チ両属ニ非サル標記アル者トス 第五百六十八条 凡テ二箇ノ土地ノ界域ニ在ル植籬ハ両属ノ者ト看做シ共同費用ヲ以テ之ヲ修理ス但其植籬カ一方ノ土地ヲ周囲セス或ハ他ニ境界ヲ接シ或ハ之ニ反スル証憑アル者ノ如キハ此限ニ在ラス 第五百六十九条 両属ノ植籬中ニ生植スル樹木ハ両属ノ者ト看做ス而シテ各所有主ハ之ヲ伐採スルコトヲ請求スルノ権理ヲ有ス 二個ノ所有地ヲ区劃スル画線ニ生殖スル樹木ハ両属ノ者ト看做ス但之ニ反スル証憑アル者ノ如キハ此限ニ在ラス 土地ノ界域ニ供用スル樹木ハ両所有主ノ認諾ヲ以テスルニ非サレハ則チ之ヲ伐採スルコトヲ得ス而シテ尚ホ且法衙カ其伐採ヲ必要若クハ有益ト認可スルコトヲ要ス 第三款 建造掘地及ヒ植栽ニ関シテ必要スル距離及ヒ両所有地ノ間際ニ挙行スル工事 第五百七十条 一宇ノ家屋ヲ建築シ若クハ一所ノ墻壁ヲ築造セント欲スル人ハ自己ノ所有地ノ界線上ニ跨テ之ヲ築造スルコトヲ得可ク而シテ其隣接地ノ地主ハ第五百五十六条ニ照依シ其墻壁ヲ両属ト為サシムルノ権理ヲ有ス 第五百七十一条 仮令ヒ其界線上ニ跨テ之ヲ建造セサルモ若シ其隣接地ニ一「メートル」半ノ距離ヲ存セシメサルニ於テハ則チ其隣接地ノ地主ハ墻壁ノ価直ノ半額ト墻壁ヲ建築セル基地ノ価直トヲ支弁シテ以テ其墻壁ヲ両属ト為シ及ヒ其墻壁ニ掌倚シテ建築ヲ為スコトヲ得可シ但其隣接地ノ地主カ界線ヲ限リ其家屋ヲ増築スルコトヲ択定スル如キハ此限ニ在ラス 若シ隣接地ノ地主カ此権理ヲ使用スルコトヲ欲セサルニ於テハ則チ其建築ヲ為スニ当テ此ノ墻壁ヨリ彼ノ墻壁ニ至ル迄必ス三「メートル」ノ距離ナル余地ヲ存セサル可ラス 隣接セル建築カ界線ヨリ三「メートル」以内ニ在ルノ時会ニ於テモ亦前項ノ距離ナル余地ヲ存セサル可ラス 家屋若クハ墻壁ヲ増築スル如キモ亦之ヲ新築ト看做ス 第五百七十二条 前二条ノ条文ハ第五百五十六条ノ末項ニ掲載シタル建築ニ擬施ス可ラス 又公共ノ場地若クハ道路ニ関スル墻壁ニシテ之カ為メニ特別ナル法律及ヒ規則ノ設立セル有ル者ニモ亦此条文ヲ擬施ス可ラス 第五百七十三条 井池、滲涜、厠窖若クハ塵壒ヲ他人ニ属スル墻壁ノ傍側ニ設置セント欲スル人ハ仮令ヒ其墻壁ハ両属ノ者ト雖モ其所有地ノ経界ノ線ト墻壁内部ニ在ル井池等ノ隣接地ヲ去ル最近ノ点トノ間際ニハ必ス二「メートル」ノ距離ナル余地ヲ存セサル可ラス 糞尿若クハ汚穢物ヲ流走セシムル暗渠或ハ屋檐ヨリ流下スル雨霤ヲ承納ス可キ水管或ハ喞水器及ヒ其他器械ヲ以テ導水ヲ噴昇セシムル水管ニ関シテハ必ス界線ヨリ一「メートル」ノ距離ナル余地ヲ存セサル可ラス 前項ノ暗渠ノ支派若クハ水管ノ支管ニ関シテモ亦必ス同一ノ距離ナル余地ヲ存セサル可ラス而シテ其距離ハ経界ノ線ト渠管外部ノ界線ニ面スル最近ノ点トヲ以テ之ヲ計算ス 然レトモ若シ此距離ヲ余存スルモ尚ホ其隣接地ニ損害ヲ被フラシムルコト有ルニ於テハ則チ其距離ヲ増加シ且尚ホ其隣接地ノ修理保存ニ必要ナル工事ヲ為サヽル可ラス 第五百七十四条 両属若クハ分劃ノ墻壁ノ傍側ニ煙突、竃炉、鋳鉄廠、馬厩若クハ食塩及ヒ其他ノ腐蝕質ヲ有スル物品ヲ貯蔵スル倉庫ヲ建造ノ或ハ他人ノ所有地ノ近傍ニ滊気ヲ以テ運転スル器械ヲ設置シ或ハ各種ノ製造所ニシテ火災、轟裂災ヲ起発シ若クハ毒気ヲ散布スル災害ヲ起発ス可キ者ヲ建造セント欲スル人ハ法則ニ准依シテ其工事ヲ挙行シ而シテ合法ノ距離ナル余地ヲ存セサル可ラス若シ法則ニ准依セサルニ於テハ則チ法衙ハ隣地主ヲシテ其危害ヲ避遠セシムル為メニ臨時ニ其距離ヲ指定ス 第五百七十五条 坑壕若クハ溝渠ヲ築設スルニハ其深積ト同一ノ距離ナル余地ヲ自己ノ所有地ト他人ノ所有地ノ間際ニ存セサル可ラス若シ其地方ノ慣例ヲ以テ尚ホ隔遠ナル距離ヲ指定スル有ル者ハ此限ニ在ラス 第五百七十六条 其距離ハ坑壕若クハ溝渠ノ厓辺ノ上部ト界線ノ最近点トノ間際ニ於テ之ヲ計算ス而シテ其厓辺ハ斜形ナル可ク且之ヲ支撐スル建築ヲ以テ隣接地ヲ防護ス可キヲ要ス 若シ所有地ノ境界カ両属ニ係ル坑壕或ハ両属ニ係リ又ハ通務ヲ負担スル道路ニ在ルニ於テハ則チ其距離ハ前項ノ厓辺ト両属坑壕ノ厓辺或ハ新築溝渠ニ近接セル道路ノ外部トノ間際ニ於テ之ヲ計算ス而シテ前項ノ斜形ニ関スル条則ハ常ニ之ヲ確遵ス可キ者トス 第五百七十七条 若シ坑壕若クハ溝渠カ両属墻壁ノ傍側ニ掘開セル者タルニ於テハ則チ前条ノ距離ヲ余存スルコトヲ要セス然レトモ是カ為メニ起生ス可キ一切ノ損害ヲ捍防スル建築ヲ為サヽル可カラス 第五百七十八条 水源ヲ鑿開シ或ハ噴水若クハ飲泉ノ為メニ水池若クハ水渠ヲ築設シ或ハ其他ノ溝渠若クハ坑壕ヲ築設シ或ハ水路ヲ掘開シ若クハ之ヲ深クシ若クハ之ヲ広クシ或ハ水流ヲ急ニシ若クハ之ヲ緩ニシ或ハ水流ノ形勢ヲ変換スル等ノ工事ヲ挙行セント欲スル人ハ其景況ニ応シテ上条ニ掲載スル距離ヨリ一層隔遠ナル距離ヲ余存シ且又他人ノ所有地及ヒ既ニ存在セル水源、水池、水渠水坑ニシテ潅漑ニ供充シ若クハ建造物ヲ囲繞スル所ノ者ニ損害ヲ被フラシム可ラス 若シ彼此両地ノ所有主ノ間際ニ争訟ヲ起生スル有ルニ於テハ則チ法衙ハ務メテ所有権ト水利ノ使用ニ因テ起生スル耕作若クハ工業ノ利益トヲ調和セシメサル可ラス時ニ或ハ其景況ニ応シテ其一個ノ所有主ヲシテ他ノ所有主ニ賠償金額ヲ支付セシムルコト有ル可シ 第五百七十九条 隣接セル彼此両地ノ境界ニ樹木ヲ植栽スルニハ其地方ノ慣例ニ准依シテ距離ヲ余存セサル可ラス若シ慣例ノ在ルコト無キニ於テハ則チ次項ニ掲記スル距離ヲ以テ其程度ト為ス 第一項 大樹ニ関シテハ三「メートル」ノ距離ヲ以テ程度ト為ス 距離ニ関シテ大樹ト看做ス可キハ其樹木ノ単幹ナルト数幹ナルトヲ問ハス若干ノ高度ニ達スル者ニシテ例之ハ即チ胡桃樹栗樹、櫟樹、松樹、柏樹、楡樹、「ベウブリヱー」樹名楓樹其他之ニ類似スル樹木是ナリ 「ロピニヱー」樹名及ヒ支那国産ノ桑樹モ亦距離ニ関シテハ之ヲ大樹ト看做ス 第二項 大樹ニ非サル樹木ニ関シテハ一「メートル」半ノ距離ヲ以テ程度ト為ス 大樹ニ非サル樹木ト看做ス可キハ其幹高喬ナラスシテ数椏ニ分ルヽ者ニシテ例之ハ即チ梨樹、林檎樹、桜桃樹等ノ果樹ニシテ第一項ニ記列セサル者並ニ桑樹、柳樹及ヒ之ニ類似スル樹木是ナリ 第三項 葡萄、棘叢、植籬、低幹ノ桑樹及ヒ他ノ低幹ノ果樹等ニシテ其高度二「メートル」半ニ達セサル者ニ関シテハ半「メートル」ノ距離ヲ以テ程度ト為ス 然レトモ榿樹、栗樹若クハ其他之ニ類似スル樹木ニシテ毎期ニ其枝条ヲ伐採スル者ヲ以テ構成スル植籬ニ関シテハ一「メートル」ヲ以テ程度ト為シ「ロビニヱー」ノ植籬ニ関シテハ二「メートル」ヲ以テ程度ト為ス 若シ特別ノ墻壁或ハ両属ノ墻壁ヲ以テ自己所有ノ土地ト隣人所有ノ土地トヲ区劃シタルニ於テハ則チ本条ノ距離ヲ余存スルヲ必要セス然レトモ其植樹カ墻壁ノ高度ニ踰越セサルコトヲ要ス 第五百八十条 土地ノ境界上即チ河渠ノ厓岸若クハ邑路ノ傍側ニ自生スル樹木若クハ林中ニ植栽スル樹木ニシテ共ニ水流運輸等ニ妨害ヲ為サヽル所ノ者ニ関シテハ其法則ノ存スル無キ時際ニ於テハ地方ノ慣例ニ准拠シ慣例ノ在ル無キ時際ニ於テハ上条ニ掲記スル距離ニ准拠ス 第五百八十一条 隣接地ノ地主ハ以上数条ノ距離以内ニ自生シ若クハ植栽セシ所ノ樹木及ヒ構成セシ所ノ籬笆ヲ芟除スルコトヲ要求シ得可シ 第五百八十二条 隣接地ニ植在セル樹木ノ枝葉カ我カ所有地ヲ掩翳スルコト有レハ則チ之カ伐採ヲ要強スルコトヲ得可シ又其樹根ノ我カ所有地ニ侵入スル者ハ我自カラ之ヲ芟除スルコトヲ得可シ但橄欖樹ニ関スル法則及ヒ地方ノ慣例有ル者ハ此限ニ在ラス 第四款 窓明及ヒ眺矚ニ関スル通務 第五百八十三条 隣接ノ家屋主タル一人ハ他ノ一人ノ認諾ヲ得ルニ非サレハ則チ両属ニ係ル墻壁ニ窓窓若クハ其他ノ穴口ヲ穿開スルコトヲ得ス仮令ヒ其窓窓ニハ透明ナラサル暗濁ノ玻璃版ヲ嵌填スルモ亦然リトス 第五百八十四条 両属ニ非サル墻壁ニシテ他人ノ土地ニ隣接スル者ノ所有主ハ其墻壁ニ暗濁ナル玻璃版ヲ嵌填シ且鉄格ヲ以テ外面ヲ遮蔽スル窓窓ヲ穿開スルコトヲ得可シ 本条ノ窓窓ハ其格子眼一「デシメートル」ヨリ稀疎ナラサル鉄格ト暗濁ナル玻璃版、ヲ嵌填スルコトヲ要ス 隣人ハ此窓窓ヲ穿開セル有ルニ拘ハラス其墻壁ニ向テ両属ノ権理ヲ得有スルコトヲ得可シ然レトモ其窓窓ヲ壅塞シ得ルハ唯々墻壁ニ傍テ家屋ヲ建造スル時会ノミニ限ル 第五百八十五条 前条ノ窓窓カ平屋内ニ在ル者ニ関シテハ光線ヲ放入セノト欲スル場所ノ地板若クハ土地ヨリ二「メートル」半以下ノ高度ニ於テ之ヲ穿開スルコトヲ得ス若シ第一階層以上ニ在ルニ於テハ則チ二「メートル」以下ノ高度ニ於テ之ヲ穿開スルコトヲ得ス 地平ヨリ二「メートル」半ノ高度ハ隣接ノ土地ヲ下瞰スル一方ニ向テハ常ニ必ス之ヲ恪守セサル可ラス 第五百八十六条 両属ニ係ル墻壁ヲ増高シタル人ハ其増高シタル部分即チ隣人カ共有スルコトヲ欲セサリシ部分ニ於テハ窓窓ヲ穿開スルコトヲ得ス 第五百八十七条 若シ隣接ノ土地ト墻壁トノ間際ニ一「メートル」半ノ距離ヲ余存セサルニ於テハ則チ其隣人ノ土地(鎖閉セルト否サルトヲ問ハス)若クハ其屋上ニ向テ直線ノ下瞰則チ眺矚ニ供スル窓窓若クハ楼觜ノ如キ斗出セル者ヲ造設スルコトヲ得ス 本条ノ制禁ハ両所有地ノ間際ニ公共ノ道路ノ通スル有レハ則チ止ム 第五百八十八条 若シ半「メートル」ノ距離ナル余地ヲ存スルニ非サレハ則チ隣接地ニ向テ斜線ニ下瞰ス可キ窓窓ヲ穿開スルコトヲ得可ラス 然レトモ本条ノ制禁ハ若シ斜線ニ下瞰ス可キ窓窓カ同時ニ公共ノ道路ニ向テ直線ノ下瞰ヲ為ス可キニ於テハ則チ止ム此時会ニ於テハ地方ノ慣例ニ准依ス可シ 第五百八十九条 直線ノ下瞰ニ関スル距離ハ墻壁ノ外面ニ於テ之ヲ計算ス若シ楼觜或ハ他ノ斗出セル者アルニ於テハ則チ其外部ト両所有地ノ界線トノ間際ニ於テ之ヲ計算ス 斜線ニ下瞰スル者ニ関シテハ窓窓若クハ楼觜ノ最近ナル部分ト界線トノ間際ニ於テ之ヲ計算ス 第五百九十条 結約若クハ其他ノ事為ニ因テ隣接地ニ向ヒ直線ノ下瞰即チ眺矚ノ窓窓ヲ穿開スルノ権理ヲ得有シタルニ於テハ則チ隣接地ノ所有主ハ三「メートル」ノ距離即チ前条ニ准拠シテ計算シタル距離以内ニ建築ヲ為スコトヲ得ス 第五款 檐霤 第五百九十一条 家屋ノ所有主ハ其屋蓋ヲ建造スルニ当リ雨霤ヲシテ自己ノ所有地内ニ降下シ若クハ特別ノ法規ニ准拠シテ公共ノ道路ニ降下セシムルコトヲ要ス決シテ之ヲ其隣接地ニ降下セシムルコトヲ得可ラス 第六款 通行ノ権理及ヒ通水ノ権理 第五百九十二条 凡テ土地ノ所有主ハ其隣人ノ一己ノ便益或ハ共同ノ便益ニ関シテ墻壁ノ築造若クハ修理若クハ他ノ工事ヲ挙行スル為メニ必要ナリト認識スルノ時会ニ当テハ他人ノ其所有地内ニ通行スルコトヲ許諾セサル可ラス 第五百九十三条 他人ノ所有地ニ囲繞セラレタル土地ニシテ公共ノ道路ニ通スル径路ヲ有セス若クハ之ヲ有スル為メニハ許多ノ費用若クハ巨大不便アル者ヲ所有スル人ハ其土地ヨリ収利シ及ヒ其土地ニ相応ナル使用ニ供スル為メニ其隣接地ニ向テ通行ノ権理ヲ得有スルコトヲ得可シ 本条ノ通路ハ其土地ヨリ公共ノ道路ニ通スルニ最近ナル方線ニシテ其通行スル他人ノ所有地ニ与フル損害ノ最少ナル場処ニ向テ之ヲ開設セサル可ラス 隣人ノ所有地内ニ通路ヲ有スル人カ確定セル某ノ事件ニ関シ馬車ヲ通過セシムル為メニ其通路ヲ展広センコトヲ要スル時会ニ当テモ亦本条ヲ擬施ス 第五百九十四条 以上ノ二条ニ掲記スル通路ニ因テ起生セシメタル損害ニ対シテハ必ス応分ノ賠償ヲ為ス可キ者トス 第五百九十五条 若シ一箇ノ土地カ売買、交換若クハ分配ノ為メニ他ノ土地ニ囲繞セラレタルニ於テハ則チ売付者、交換者若クハ分配者ハ何等ノ賠償ヲモ要求スルコト無クシテ其通路ノ開設ヲ許諾セサル可ラス 第五百九十六条 若シ囲繞セラレタル土地カ他ノ土地ノ公共ノ道路ニ通接スル者ト併合シタルニ因テ特ニ其通路ノ開設ヲ要セサルニ於テハ則チ通務ヲ受ク可キ土地ノ所有主ハ其領収シタル賠償金ヲ還付シ若クハ結約シタル年金ヲ辞却シテ以テ通行ノ権理ヲ消滅セシムルコトヲ得可ク又囲繞セラレタル土地ノ為メニ新タニ通路ヲ開設スルコト有ル如キモ亦同一ノ処分ヲ為スコトヲ得可シ 第五百九十七条 第五百九十四条ニ掲記セル賠償金ニ関スル訟権ハ期満ニ因テ失権ニ帰ス仮令ヒ既ニ訟権ヲ受理ス可ラサルノ時会タルモ亦其通路ノ権理ハ依然存在スル者トス 第五百九十八条 凡テ土地ノ所有主ハ某人カ其日用ノ為メ若クハ耕作及ヒ工業ノ為メニ使用ノ権理(其権理ハ無期ト有期トヲ問ハス)ヲ有スル諸種ノ水流ヲ自己ノ所有地内ニ通過セシム可キノ通務ヲ有ス家屋、庭園等ハ本条ノ通務ヲ免カル可キ者トス 第五百九十九条 水流ヲ通過セシムルコトヲ請求スル人ハ現ニ存在セル溝渠ニシテ他ノ水流ニ供スル者ニ依テ其水流ヲ通過セシムルコトヲ得スシテ新タニ溝渠ヲ築造セサル可ラス然レトモ其土地ノ所有主ニシテ現ニ存在セル溝渠及ヒ其水流ノ所有主タル者ハ其溝渠ニ水流ヲ通過セシメテ以テ新タニ溝渠ヲ其所有地内ニ築造セシメサルコトヲ得可シ但通水ヲ請求スル人ノ為メニ太甚ナル損害無カラシムルコトヲ要ス此時会ニ於テハ其流注スル水量、溝渠ノ価直新タニ水流ヲ通過セシムル為メニ必要ナル工事及ヒ修理ノ費用ニ相当スル賠償ヲ其溝渠ノ所有主ニ支付セサル可ラス 第六百条 適応ノ方法ニ依リ土地ノ形勢ニ随ヒ及ヒ溝渠ノ状況ニ応シテ自己ノ所有スル溝渠ニ他人ノ水流ヲ通過セシム可キノ通務ヲ有ス但其通過セシムル水流ノ水勢若クハ其水量ノ為メニ在来ノ水流カ妨阻シ徐緩シ若クハ満溢スル等ノ災害無カラシムルコトヲ要スルノミ 第六百一条 水流ヲ導引スル為メニ若シ公共ノ道路若クハ河川ヲ越過セシメサル可ラサルニ於テハ則チ道路及ヒ水利ニ関スル特別ノ法律ニ恪遵シテ以テ其工事ヲ挙行セサル可ラス 第六百二条 他人ノ所有地内ニ水流ヲ通過セシメント欲スル人ハ左項ノ事件ヲ証明セサル可ラス其事件タル即チ其請求スル通水ノ期間内ハ其水流ヲ使用シ得可ク又其水流ハ其使用ニ供スルニ充分ナル可ク又其請求スル通水ノ路線カ其隣地ノ位置ニ関シテ導引、流勢及ヒ流走ニ必要ナル傾斜及ヒ其他ノ景況ニ関シテ最モ便宜ヲ得可ク且其受務地ノ被フル可キ捐害ハ最少ナル等ノ如キ是ナリ 第六百三条 他人ノ所有地内ヲ経テ水流ヲ導引セント欲スル人ハ其溝渠ヲ築造スル以前ニ於テ先ツ其溝渠ヲ築造スル某地ノ価直ニ其五分ノ一ヲ増加シテ以テ之ヲ支付セサル可ラス而シテ其基地ノ負担ス可キ租税及ヒ其他ノ責課ニ関シテ特別ニ賠償スルコトヲ要スル無キモ其土地ヲ区劃スルニ因テ直接ニ起生スル損害及ヒ其他ノ損害ハ之ヲ賠償セサル可ラス 然レトモ鑿掘シタル砂石若クハ浚濬シタル砂土ヲ堆聚スル土地ニ関シテハ唯其地価ノ半額及ヒ其価直五分ノ一ヲ支付スルヲ以テ足レリトス而シテ其土地ノ負担スル租税及ヒ其他ノ責課ハ之ヲ賠償スルコトヲ須ヒス又受務地ノ所有主ハ此土地ニ向テ樹草ヲ植栽シ若クハ堆聚シタル土石ヲ他所ニ搬撤スルコトヲ得可シ但溝渠ヲ毀損シ或ハ其浚濬及ヒ修理ヲ妨阻セサルコトヲ要スルノミ 第六百四条 若シ水流ヲ通過セシムル請求ヲシテ九年ニ超過セサルノ期間ニ係ラシムルニ於テハ則チ基地ノ価直及ヒ損害ノ賠償ハ唯々前条ノ半額ノミヲ以テ足レリトス但々其期間ノ終末ニ至リ其土地ヲ原状ニ復シテ以テ之ヲ還付ス可キノ責務アリトス 本条ニ掲記スル定期通水ノ権理ヲ得有シタル人ハ其定期ノ終末以前ニ於テ残計ニ属スル半額ト其溝渠ヲ築造シタル本日ヨリ起算セル合法利息トヲ支付シテ以テ其権理ヲ無期ノ者ト為スコトヲ得可シ然レトモ其定期ヲ満過シタル以後ハ其定期ノ権理ヲ得有スル為メニ支付シタル金額ヲ算入スルコトヲ得可ラス 第六百五条 他人ノ所有地内ニ向テ溝渠ヲ有スル人カ一層多量ノ用水ヲ通過セシメント欲スルニ於テハ則チ先ツ其溝渠カ増多ノ水量ヲ包容スルヲ得ルコトト其受務地ニ何等ノ損害ヲモ被フラシメサルコトトヲ証明セサル可ラス 若シ多量ノ用水ヲ通過セシムルニ関シテ其溝渠ノ幅員ヲ展広スルコトヲ必要スルニ於テハ則チ先ツ其水利及ヒ水量ヲ審定シ第六百三条ノ方法ニ准拠シテ其基地ノ価直及ヒ損害ノ賠償額ヲ支付スル以後ニ於テスルニ非サレハ則チ之ヲ展広スルコトヲ得可ラス 溝渠ヲ以テ流水ヲ通過セシムルニ関シ明渠ヲ暗渠ニ改造シ暗渠ヲ明渠ニ改造スル如キモ亦本条ニ准拠ス 第六百六条 通水ニ関スル以上数条ノ条文ハ左項ノ時会ニ向テモ亦之ヲ擬施ス即チ自己ノ所有地ニ必要スル用水ノ其過量ノ余水ヲ隣接地内ニ受容スルコトヲ欲セサル隣地主ニ向テ通水ノ権理ヲ得有センコトヲ請求スル時会是ナリ 第六百七条 受務地ノ所有主ハ区劃セル通水路線ノ各処ニ標記ノ木杙ヲ樹立シテ以テ確然ニ溝渠ノ幅員ヲ限定セシムルコトヲ得可シ然レトモ若シ其溝渠ノ築造ヲ許諾シタル第一期間ニ此権理ヲ使用セサリシニ於テハ則チ其木杙ノ樹立ニ必要スル費用ノ半額ヲ負担セサル可ラス 第六百八条 若シ水流ノ潅漑或ハ通過ニ因テ其隣接地ノ地主カ其所有地ニ出入スルコトヲ得サルニ於テハ則チ此水流ヲ使用スル人ハ其水流ニ因テ得有スル利益ニ応シテ為メニ橋梁ヲ架造シ若クハ其他通行ニ利便スル方法ヲ施設シ若クハ暗渠、明渠ノ築造等其潅漑若クハ通過ニ必要スル工事ヲ創興セサル可ラス但契約若クハ期満法ニ因テ特別ノ権理ヲ有スル者ノ如キハ此限外ニ在リトス 第六百九条 土地ノ所有主ニシテ其土地ヲ掘開シ泥地ノ水沢ヲ放乾シ或ハ其他ノ方法ヲ以テ其土地ノ水沢ヲ放乾シ若クハ其土地ヲ改良セント欲スル者ハ予メ其起生ス可キ損害ヲ賠償シ且務メテ其損害ヲ微少ナラシメテ以テ自己ノ所有地ト劃定セル隣接地トニ溝渠ヲ築造シ其水流ヲ通過セシムルコトヲ得可キノ権理ヲ有ス 第六百十条 他人ノ所有スル溝渠ノ為メニ横断セラレタル土地ノ所有主ニシテ前条ニ准拠シ創興セル工事ニ利益ヲ有スル所ノ者ハ其土地ヲ改良スル為メニ其溝渠ヲ使用スルコトヲ得可シ唯々既ニ改良シタル土地ノ為メニ損害ヲ起生セシメサルト其所有主カ次項ノ費用ヲ負担ス可キトノ二事ヲ要スル有ルノミ 第一項 既ニ挙行シタル工事ヲ自己ノ所有地ノ供用ニ充ル為メニ之ヲ改更スルニ必要ナル費用ヲ支出スルコト 第二項 既ニ支弁シタル費用ト将来共同ノ費用トヲ応分ニ支出スルコト 第六百十一条 第五百九十八条ノ末項及ヒ第六百条第六百一条ノ条文ハ以上ノ数条ニ掲載スル工事ノ挙行ニ擬施ス 第六百十二条 若シ泥地ヨリ湧出スル水流ニ権理ヲ有スル人カ泥地ノ水沢ヲ放乾スルコトヲ許諾セス而シテ其工事ノ費用ハ其工事ノ目的タル利益ト相償フコトヲ要スルヲ以テ双方ノ利害ヲ調和ス可ラサルノ時会ニ当テハ法衙ハ其一方ヲシテ他ノ一方ノ権理者ニ相応ナル賠償金ヲ支付セシメ以テ之ヲ放乾スルコトヲ允許ス 第六百十三条 大河、奔流、細流、溝渠湖塘ノ水ヲ転流セシムルノ権理ヲ有スル人ハ其岸厓ニ就キテ防水ノ工事ヲ為スコトヲ得可シ然レトモ之ニ因テ起生スル損害ヲ賠償フルト其隣接地ニ損害ヲ被フラシメサルノ工事ヲ為ストノ二箇ノ責課ヲ有スル者トス 第六百十四条 前条ニ掲記スル如ク水脈ヲ転流セシメ及ヒ之ヲ使用スル権理ヲ有スル人ハ其水流ノ淤滞、激漲若クハ転流ニ因テ其上流或ハ下流ノ水ヲ使用スル権理ヲ有スル人ニ妨阻スルコトヲ避ケサル可ラス 上項ノ時会ニ於テ他人ニ損害ヲ被フラシメタル人ハ啻ニ其損害ヲ賠償セサル可ラサルノミナラス尚ホ田圃警察規則ニ照依スル所ノ罰責ヲ受ク可キ者トス 第六百十五条 水流ノ使用ニ関スル政府ノ許可ハ其水流ニ向テ正当ニ得有シタル在来ノ権理ニ妨阻ヲ為サヽル者トス 第二節 人為ニ因テ立定スル通務 第一款 財産ニ向テ立定ス可キ各種ノ通務 第六百十六条 土地ノ所有主ハ其所有地ニ負担セシムルノ通務若クハ其所有地ノ利益ノ為メニスル通務ヲ立定スルコトヲ得可シ但々其通務ハ一箇ノ土地ノ為メニハ利益ニシテ他ノ一箇ノ土地ノ為メニハ責務タル可ク而シテ公同ノ秩序ニ背反セサルコトヲ要ス 通務ノ権理ヲ行用シ及ヒ之ヲ広弘スルハ必ス証憑ニ依拠シテ以テ之ヲ規定ス若シ其証憑ヲ欠クノ時会ニ於テハ以下数条ノ条文ニ准拠ス 第六百十七条 凡ソ通務ニ間断無キ者有リ又間断有ル者有リ 人ノ現行ヲ要スルコト無クシテ常ニ行用スル所ノ通務ヲ指シテ間断無キ通務ト言フ例之ハ通水、承霤、眺矚及ヒ其他之ニ類似スル通務ノ如キ即チ是ナリ 其通務ノ権理ヲ行用スル為メニ人ノ現行ヲ要スル者ヲ指シテ間断有ル通務ト言フ例之ハ通行、汲水、採秣及ヒ其他之ニ類似スル通務ノ如キ即チ是ナリ 第六百十八条 凡ソ通務ニ触眼ス可キ者アリ又触眼ス可ラサル者アリ 其触眼ス可キ通務トハ其通務ノ存在スル物体ノ眼目ニ触ル可キ者有ルヲ謂フ例之ハ扉戸、窓窓、水渠ノ如キ即チ是ナリ 触眼ス可ラサル通務トハ其通務ノ存在スル物体ノ眼目ニ触ル可キ者無キヲ謂フ例之ハ一箇ノ地所ニ向テ屋舎ヲ建造スルノ禁止若ククハ某ノ高度ニ超越スル屋舎ヲ建造スルノ禁止ノ如キ即チ是ナリ 第六百十九条 溝渠ノ開通其他之ニ類似スル工事ヲ挙行シテ以テ用水ヲ導引スルノ通務タル仮令ヒ其水流ハ何等ノ使用ニ供スル者タルモ其通務ハ間断無ク且触眼ス可キ通務ニ部入ス又仮令ヒ其水流ノ使用ニ間断有テ時ヲ剋シ若クハ日ヲ限テ之ヲ使用スル者タルモ亦復タ然リトス 第六百二十条 水流ヲ使用スルニ其分量ヲ限定シテ以テ之ヲ転流スル為メニ予メ其閘槽及ヒ器械ノ形状ヲ約定セル有ルニ於テハ則チ其形状ハ依然トシテ存セシムルコトヲ要シ而シテ其契約主ハ水量ノ過多若クハ缺乏ヲ口実ト為シテ紛争ヲ起発スルコトヲ得可ラス但其水量ノ過多若クハ缺乏カ溝渠若クハ水路ノ変換ニ起因スル者ノ如キハ此限ニ在ラス 若シ予メ閘槽及ヒ器械ノ形状ヲ約定セルコト無キモ其用水ヲ転流スル閘槽及ヒ器械ヲ設置セシ以後ノ五年間平和ニ之ヲ占有シタルニ於テハ則チ此期間以後ニ至テ水量ノ過多若クハ缺乏ヲ口実ト為シ何等ノ要求ヲモ為スコトヲ許サス但前条ニ掲記セル如ク其溝渠若クハ水路ニ変換ヲ起生セル有ルハ此限外ニ在リトス 契約或ハ前項ノ占有ヲ闕クノ時会ニ当テハ其閘槽若クハ器械ノ形状ハ法衙ニ於テ之ヲ指定ス 第六百二十一条 確定セル使用ニ関シテ水流ヲ賃貸シ而シテ其水量ヲ限定セサリシニ於テハ則チ其水量ハ其使用ニ必須ナル分量ヲ賃貸シタル者ト看做ス此事ニ関シテ利益ヲ有スル人ハ唯々其使用ニ必須ナル水量ヲ使用スルノミニ限止シ毫モ之ヲ妄用スルコト無キニ於テハ則チ何レノ日時ヲ論セス法衙ニ請求シテ其閘槽及ヒ器械ノ形状ヲ指定セシムルコトヲ得可シ 然レトモ若シ予メ其閘槽若クハ器械ノ形状ヲ約定シ或ハ其約定ナキモ確定セル形状ヲ以テ五年間平和ニ其用水転流ノ権理ヲ占有シタルニ於テハ則チ双方ノ契約主ハ決シテ裁判上要求ヲ為スコトヲ得ス但々前条ニ掲記セル溝渠若クハ水路ニ変換ヲ起生セル有ルハ此限外ニ在リトス 第六百二十二条 水流ノ賃貸ニシテ其使用ノ水量ヲ限定シ以テ之ヲ明約セルニ於テハ則チ其水量ハ「モヂュル」ニ准依シテ以テ其契約書中ニ明記セサル可ラス 「モヂュル」トハ水流ノ分量ヲ限定スルノ原准ヲ謂フ 「モヂュル」ハ即チ百「リットル」ノ量積ナル水カ一秒時間ニ流レ到ル者ニシテ之ヲ分ツニ十分百分及ヒ千分ヲ以テス 第六百二十三条 間断無ク水流ヲ使用スル権理ヲ有スル人ハ何レノ日時ヲ問ハス随意ニ其権理ヲ行用スルコトヲ得可シ 第六百二十四条 此権理ハ夏天ノ水流ニ向テハ春分ヨリ秋分ニ至リ冬天ノ水流ニ向テハ秋分ヨリ春分ニ至ル迄之ヲ行用スルコトヲ得可シ又時、日、週、月若クハ其他ノ期間ヲ限定シテ使用スル水流ニ向テハ其契約若クハ占有ニ准拠シテ以テ其権理ヲ行用スルノ期間ヲ指定ス 又毎日若クハ毎夜ヲ限定シテ使用スル水流ニ向テハ其権理ヲ行用スル時間ハ通常ノ時間ニ准拠ス 祭日ヲ限リ使用スル水流ニ向テハ其契約ヲ締結シ若クハ其占有ヲ開始セル時際ニ於テ現行シタル所ノ祭日ニ准拠ス 第六百二十五条 数個ノ人カ逓番ニ分配使用スル水流ニ向テハ其流水カ某ノ使用者ノ閘槽ニ到ル為メニ必要スル時間之ヲ使用スルコトヲ得可ク而シテ其余水ハ最終ノ使用者ニ属ス 第六百二十六条 逓番ニ分配使用スル水流ニ向テハ其水ノ湧出スル者ト漏洩スル者トヲ問ハス之ヲ其溝渠ノ外ニ泛流セシメサルニ於テハ則チ逓番ニ輪当シタル使用者ハ其水流ヲ遏塞シ若クハ之ヲ転流スルコトヲ得可シ 第六百二十七条 前条ニ掲記スル溝渠ノ水流ニ向テハ其各使用者ハ彼此ノ協諾ヲ得テ以テ其逓番ヲ換易スルコトヲ得可シ然レトモ其逓番ヲ換易セル為メニ他ノ各使用者ニ対シテ損害ヲ被フラシムルコト無キヲ要ス 第六百二十八条 器械ヲ運転スルノ動力ニ供スル為メニ水流ヲ使用スル権理ヲ有スル人ハ若シ其証書ニ明記セル有ルニ非サレハ則チ水流ヲ阻碍シ若クハ之ヲ徐緩ナラシメテ以テ之ヲ泛溢セシメ若クハ之ヲ淤滞セシムルコトヲ得可ラス 第二款 人ノ行為ニ因テ通務ヲ立定スルノ方法 第六百二十九条 間断無ク且触眼ス可キ通務ハ証憑若クハ三十年ノ期満法若クハ所有主ノ定例ニ依拠シテ以テ之ヲ指定ス 第六百三十条 間断無ノ且触眼ス可ラサル通務及ヒ触眼ス可キト触眼ス可ラサルトヲ問ハス間断有ル通務ハ唯証憑ノミニ依拠シテ之ヲ指定ス 其起初ヲ知ル可ラサルノ占有ニ係ルト雖モ亦本款ノ通務ヲ立定スルニハ足ラサル者トス 第六百三十一条 許約ノ通務ニ向テハ其占有ノ期満期限ハ行務地主カ其受務地ニ向テ通務ノ権理ヲ行用セル初日ヨリ之ヲ起算ス 禁約ノ通務ニ向テハ其占有ノ期満期限ハ受務地主ノ自在ナル使用ヲ拒止スル為メニ行務地主カ明確ノ禁約ヲ立定セル初日ヨリ之ヲ起算ス 第六百三十二条 所有主ノ意度ハ各種ノ証拠ヲ以テ左項ノ一事ヲ証明シタル時会ニ於テ之ヲ確定ス即チ現ニ二区ニ分劃セル土地カ嘗テ一人ノ所有主ノ占有スル所ト為リ而シテ其所有主カ其土地ニ向テ通務ヲ生セシム可キノ因由ヲ遺存シタル者是ナリ 第六百三十三条 若シ二区ノ土地カ一人ノ所有主ノ所有ヨリ他ノ人ニ分属スルニ当リ通務ニ関シテ何等ノ行為ヲモ遺存セシメタルコト無キニ於テハ則チ其通務ハ分割セル一方ノ土地ノ為メニ其一方ノ土地ニ向テ行務若クハ受務ヲ立定シタル者ト看做ス 第六百三十四条 通務即チ其権理ヲ得有スル為メニ証憑ヲ以テ証明スルコトヲ必要スル所ノ通務ニ関シテハ唯々通務ヲ認識スル文書ニシテ受務地主ノ記製シタル所ノ者ノミ其証憑ニ換易スルニ足ル可キ効力ヲ有スル者トス 第六百三十五条 土地ノ所有主ハ収額得有者ノ承諾ヲ取ルコト無キモ其収額得有権ヲ妨害セサルニ於テハ則チ其所有地主ニ負担スル通務ヲ立定スルコトヲ得可シ又仮令ヒ収額得有権ヲ妨害スル者ト雖モ収額得有者ノ承諾ヲ取リタルニ於テハ則チ亦通務ヲ立定スルコトヲ得可シ 第六百三十六条 分割ス可ラサル土地ニシテ其共有主中ノ一人ノ許諾ヲ得タル通務ハ他ノ各共有主ノ同時ノ許諾若クハ各巳ノ許諾ヲ得ルニ非サレハ則チ真正ニ之ヲ立定シ及ヒ現実ニ効功ヲ有スル者ト看做サス 共有主中ノ一人ノ許諾セル通務ハ仮令ヒ何等ノ証憑ニ依拠シテ以テ之ヲ立定シタル者ニ係レルモ他ノ各共有主ノ許諾ヲ得ルニ至ル迄ハ尚ホ未確定ノ者ト看做ス 然リト雖モ共有主中ノ一人カ他ノ各共有主ノ許諾ニ関セスシテ単独ニ為シタル許諾ハ啻ニ其許諾者ヲシテ其許諾セシ権理ノ行用ヲ妨碍セサル可キノ責務ヲ負担セシムルノミナラス其承産者其受遺者及ヒ其受権者ヲシテ同ク其責務ヲ負担セシムル者トス 第六百三十七条 他人ノ所有スル土地ヲ経過シ来ルノ水流ニ向テハ其水流ヲ受容スル土地ノ為メニ其乱流ヲ遏止シ得可キ通務ノ権理ヲ結成スルコトヲ得セシム 此通務ノ権理ヲ得有スル方法カ期満法ニ属スルニ於テハ則チ其期満期限ハ左項ノ日時ヨリ之ヲ起算ス即チ行務地主カ受務地ニ向テ触眼ス可ク且間断無キ工事ニシテ自巳ノ利益ノ為メニ水流ヲ導引シ及ヒ其使用ニ供スル為メニスル工事ヲ挙行シタル初日若クハ行務地主カ受務地主ノ抗阻ノ行為ニ関セスシテ其権理ノ行用ヲ開始シ若クハ之ヲ続行シタル初日ヨリ之ヲ起算スル者是ナリ 第六百三十八条 他人ノ所有地内ニ掘開シタル貯水池塘ノ定期アル浚濬及ヒ其貯水ヲ導引スル為メニ畳築セル石砌ノ修理ヲ挙行スルハ即チ其池塘ヲシテ行務地主ノ所有ニ属スルコトヲ明認セシムルニ足ル者トス之ニ反対スル証書憑記及ヒ証拠アル者ノ如キハ此限ニ在ラス 其反対ノ証憑ト看做ス可キ者ハ其池塘ノ現在スル土地ノ地主カ其築造及ヒ修理ヲ負担スル所ノ工事ニ向テ存ス 第三節 通務権理ノ行用 第六百三十九条 通務ノ権理ハ其通務ノ行用ニ必要ナル一切ノ事件ヲ包含ス 是ノ故ニ他人ノ所有スル泉水ニ向テ之ヲ汲取スルノ通務ハ其泉水ノ在ル処ニ通行スルノ権理ヲ包含ス 又他人ノ所有地ニ向テ水路ヲ通過セシムルノ権理ハ其水路ヲ導引スル方法ヲ監守スル為メニ其溝渠ノ沿岸ヲ通行スルノ権理ヲ包含シ及ヒ受務地主ヲシテ溝渠ヲ疏浚シ及ヒ之ヲ修理セシムルノ権理ヲ有ス 若シ其受務地カ塀墻ヲ以テ囲遮セル者タルニ於テハ則チ其所有主ハ前項ノ通務ヲ有スル人ノ為メニ容易ニ其塀墻ヲ出入シ得可キノ門戸ヲ開設セサル可ラス 第六百四十条 通務ノ権理ヲ有スル人ハ其権理ヲ行用シ及ヒ之ヲ保続スル為メニ必要ナル工事ヲ挙行シ以テ務メテ其受務地主ノ不便ヲ減少セシメサル可ラス 第六百四十一条 此等ノ工事ハ行務地主ノ費用ヲ以テ之ヲ挙行セサル可ラス之ニ反対スル証憑有ル者ノ如キハ此限ニ在ラス 然リト雖モ行務地主及ヒ受務地主カ通務ヲ有スル土地ニ向テ其使用権ヲ共有スルニ於テハ則チ前条ノ工事ハ各自ノ収利ニ応シテ之ヲ派分ス但々之ニ反対スル他ノ証憑アル者ハ即チ然ラス 第六百四十二条 流水ヲ汲取シ及ヒ導引スルノ通務ニ関シ若シ反対ノ証憑無キニ於テハ則チ受務地主ハ行務地主ノ費用ヲ以テ常ニ其貯水ノ池塘ヲ疏浚シ及ヒ其厓岸ヲ修理セシムルコトヲ請求シ得可キノ権理ヲ有ス 第六百四十三条 仮令ヒ受務地主カ証憑ノ在ル有ルカ為メニ通務権理ノ行用及ヒ保存ニ必要ナル費用ヲ負担スルノ時会ト雖モ其受務地ヲ行務地主ニ放与スルニ於テハ則チ其責務ヲ避免スルコトヲ得可シ 第六百四十四条 若シ通務権理ノ存在スル土地カ偶分割セラルヽコト有ルニ於テハ則チ是カ為メニ受務ノ責課ヲ其一方ニ加重セシムルコト無クシテ依然其分割セル部分ニ相応スル通務ヲ公均ニ負担セシム可キ者トス故ニ其通務カ通行ノ権理ニ関スルニ於テハ則チ其行務地ノ一部分ヲ所有スル人ハ同ク其旧開ノ径路ヲ通行セサル可ラス 第六百四十五条 受務地主ハ其通務ヲ行用スル方法ヲ縮減セシメ若クハ之ヲ不便ナラシムル如キノ行作ヲ為スコトヲ得可ラス 故ニ其受務地ノ形状ヲ変換シ或ハ通務ノ行用ヲシテ最初ニ指定セル場処ニ非サル他ノ場処ニ転移スルコトヲ得可ラス 然リト雖モ若シ最初ニ指定セル通務行用ノ方法カ受務地主ヲシテ過重ノ責務ヲ負担セシメ或ハ其受務地ニ挙行スル工作、修理若クハ改良ニ妨害スルニ於テハ則チ受務地主ハ行務地主ノ其権理ヲ行用スルニ便宜ナル場処ヲ供出シテ以テ之ヲ避免スルコトヲ得可ク而シテ行務地主ハ決シテ之ヲ拒難スルコトヲ得可ラス 若シ行務地主カ通務ヲ行用スル場処ノ転換ヲ請求スルニ於テハ則チ行務地主ハ其転換カ自己ノ為メニハ巨大ナル利益ヲ為シ而シテ受務地主ニ対シテハ何等ノ損害ヲモ与フルコト無キヲ証明セサル可ラス 第六百四十六条 通務ノ権理ヲ有スル人ハ唯其証憑若クハ占有ニ依拠シテノミ其権理ヲ行用スルコトヲ得可ク而シテ其行務地及ヒ受務地ニ向テ新創ノ工事ヲ挙行スルコトヲ得可ラス 第六百四十七条 通務権理ノ広狭ニ関シテ疑議ヲ起発セルコト有ルニ於テハ則チ其権理ノ行用ハ行務地ニ便宜ナル行用ニ必要ナルト受務地ニ向テハ務メテ損害ヲ軽微ナラシムルトヲ以テ其界限ト為ス 第六百四十八条 水流ヲ通過セシムルノ権理ハ其権理者ヲシテ溝渠沿辺ノ土地若クハ水源ノ基地若クハ溝渠ノ基地ヲ所有セシムルノ権理ヲ包含スル者ニ非ス此等ノ受務地ニ関スル地税及ヒ其他ノ責課ハ其所有主ノ負担ス可キ所ノ者ト為ス 第六百四十九条 若シ特別ノ契約無キニ於テハ則チ泉水若クハ溝水ノ賃貸主ハ左項ノ事為ヲ践行セサル可ラス其事為タル即チ其使用者ノ為メニ水流ノ線路及ヒ導引ニ必要ナル一切ノ工事ヲ挙行シ其築造ヲ保護シ泉源若クハ溝渠ノ幅員及ヒ厓岸ヲ存持シ定期ノ浚濬ヲ施行シ及ヒ其水ヲ転流シ及ヒ之ヲ導引スルノ工事ヲシテ至当ナル期間ニ竣成セシムルニ必要ナル督催並ニ注意ヲ為サヽル可ラサル者是ナリ 第六百五十条 然レトモ若シ水流カ自然ニ缺乏シ若クハ他人ノ行為ニ因テ缺乏ヲ致シ而シテ間接タルト直接タルトヲ問ハス其缺乏ノ責務ヲ賃貸者ニ負担セシム可キノ事故ナキニ於テハ則チ賃貸者ハ其使用者ニ向テ何等ノ賠償ヲモ交付スルコトヲ要セス然レトモ未タ領収セス及ヒ既ニ領収セシ賃金額ニ向テ相当ナル減降ヲ為サヽル可ラス但其損害ニシテ賃貸主若クハ賃借主カ其妨害者ニ向テ訟権ヲ行用スルハ此限外ニ在リトス 使用者カ妨害者ヲ追理シタルニ於テハ則チ使用者ハ賃貸主ヲシテ其訴訟ニ間入セシメ水流ノ缺乏ヲ致セル妨害者ヲシテ損害ヲ賠償セシムル為メニ賃貸主ノ行用シ得可キ方法ヲ竭尽シテ以テ自己ノ訴訟ヲ援助スルコトヲ要強スルヲ得可シ 第六百五十一条 水流ヲ引用スル権理ヲ有スル人ハ其水流缺乏ノ損害ニ任耐セサル可ラス但々前条ニ掲記セル如ク賃借ノ賃金若クハ買収ノ価金ヲ減降シ及ヒ損害ノ賠償ヲ要求スル如キハ此限ニ在ラス 第六百五十二条 水流ノ缺乏ハ其各使用者中ノ証憑若クハ占有ニ関スル年月ノ最モ浅近ナル人ヨリシテ先ツ其損害ニ任耐セサル可ラス若シ其各使用者ノ権理カ均同ナルニ於テハ則チ最モ下流ニ在ル所ノ人ヨリシテ先ツ其損害ニ任耐セサル可ラス 各使用者ハ水流ヲ缺乏セシメタル人ニ向テハ損害賠償ノ訴訟ヲ搆起スルコトヲ得可シ 第六百五十三条 若シ確定ノ使用ニ供スル為メニ一箇ノ水流ヲ受譲シ貯存シ若クハ占有シ而シテ其余水ヲ原所有主ニ還付スルノ約責アルニ於テハ則チ此使用ノ権理ハ其還付ス可キ原所有地ニ損害ヲ被フラシム可キノ変換ヲ為スコトヲ得可ラス 第六百五十四条 用水ノ余水若クハ賸剰ノ余水ヲ其所有主ニ還付ス可キノ約責ヲ有スル地主ハ一層多量ノ水積ヲ増加シ若クハ他ノ水流ヲ混併スト言フヲ口実ト為シテ以テ其水ヲ他ノ方線ニ転流セシムルコトヲ得可ラスシテ必ス其水ノ全量ヲ行務地ニ流注セシムルコトヲ要ス 第六百五十五条 其水ノ全量ヲ行務地ニ流注セシム可キノ通務ハ受務地主ヲシテ其所有地ノ利益ノ為メニ自由ニ流水ヲ使用シ其所有地ノ収利ノ方法ヲ変換シ及ヒ其潅漑ノ利益ノ全部若クハ一部ヲ放棄スル等ノ権理ニ妨阻ヲ為ス者ニ非ス 第六百五十六条 一個ノ流水若クハ其余水ヲ某ノ土地ニ流注セシム可キノ通務ヲ有スル土地ノ所有主ハ其受務地主ニ対シテ幾多ノ水量ヲ買取シ而シテ其負担セル通務ヲ解卸スルコトヲ得可シ其水量ハ諸般ノ景況ニ応シ法官之ヲ指定ス 第六百五十七条 用水ノ流注若クハ使用土地ノ改良若クハ放乾ニ関シテ共同ノ利益ヲ有スル人ハ其権理ヲ行用シ保存シ及ヒ防護スル為メニ特ニ其社ヲ団結スルコトヲ得可シ 此共同ノ利益ヲ有スル人ノ協認及ヒ結社規則ハ必ス之ヲ文書ニ明記セサル可ラス 第六百五十八条 其結社既ニ成定シ結社規則ノ条文ニ明記セル権限方規及ヒ過半数ヲ以テセル議決ハ第六百七十八条ニ准依シテ以テ其効力ヲ生成ス可キ者トス 第六百五十九条 共同ノ権理ニシテ若シ之ヲ分離スレハ則チ甚大ナル損害ヲ来タス可キ所ノ者ノ行用、保存及ヒ防護ニ関シテハ法衙ハ其共同ノ利益ヲ有スル多数ノ人ノ請求ニ応シ他ノ少数ノ人ノ申述ヲ聴断シテ以テ其結社ヲ公認ス此時会ニ於テハ其多数ノ人ノ議決セル結社規則モ亦均シク法衙ニ於テ之ヲ公認ス 第六百六十条 此結社ヲ解散スルハ唯々其四分ノ三ニ超過スル多数ノ人ノ之ヲ議決シ若クハ其共同ノ権理ヲ分離スルニ関シテ甚大ナル損害ヲ来タスコト無クシテ其社員タル一人ノ之ヲ請求スル時会ノミニ限止ス 第六百六十一条 此他結社ニ関スル一切ノ事件ハ財産ノ共有、会社ノ財産及ヒ財産ノ分配ニ関シテ制定セル規則ヲ以テ之ニ擬施ス 第四節 通務権理ノ消滅 第六百六十二条 凡ソ通務ノ権理ハ其通務ノ存在スル物件カ使用ニ供ス可ラサルノ景況アルニ至レハ則チ消滅ニ帰スル者トス 第六百六十三条 又其物件カ再ヒ使用ニ供ス可キノ景況ニ復スルコト有レハ則チ其通務モ亦随テ生出スル者トス但々消滅セシ期間内ニ於テ期満失権セル者ノ如キハ即チ然ラス若シ墻壁若クハ家屋カ此期間内ニ再造セルニ於テハ則チ其通務ハ依然トシテ存在スル者トス 第六百六十四条 行務地ノ所有権ト受務地ノ所有権トカ一人ニ併属スルコト有レハ則チ其通務ハ消滅ニ帰スル者トス 第六百六十五条 夫タル者カ其妻ノ嫁資ニ係ル土地ノ為メニ得有セル所ノ通務若クハ土地ヲ永期ニ賃借スル人カ其土地ノ利益ノ為メニ得有セル所ノ通務ハ其婚姻ノ解離及ヒ其賃貸契約ノ終期ニ因テ消滅ニ帰セサル者トス然レトモ此等ノ人ノ為メニ此等ノ土地カ負担セル所ノ通務ハ即チ消滅ニ帰スル者トス 第六百六十六条 凡ソ通務ノ権理ハ三十年間之ヲ行用セサルニ於テハ則チ消滅ニ帰スル者トス 第六百六十七条 此三十年ノ期間ハ間断有ル通務ニ関シテハ其使用ヲ罷止シタル本日ヨリ之ヲ起算シ間断無キ通務ニ関シテハ其通務ニ反対スル行為アリシ本日ヨリ之ヲ起算ス 第六百六十八条 通務ヲ行用スル方法ハ通務ト一併ニ期満失権スル者トス 第六百六十九条 嘗テ用水ヲ汲取シ及ヒ導引スル為メニ設開シタル通路若クハ溝渠ノ在ル有リト雖モ是レ決シテ期満法ニ抗阻スルコトヲ得ル者ニ非ス故ニ期満法ニ抗阻スル為メニハ其水ヲ汲取スル器械及ヒ之ヲ導引スル溝渠カ現実ニ使用シ得可キノ景況ヲ以テ存在スル有ルコトヲ要ス 第六百七十条 契約若クハ占有ニ因テ限定セシ期間外ニ通務ノ権理ヲ行用スルハ以テ期満法ニ抗阻スルニハ足ラサル者トス 第六百七十一条 若シ行務地カ数人ニ共属シテ之ヲ分離ス可ラサルニ於テハ則チ唯其一人ノミ通務ノ権理ヲ行用スルヲ以テ他ノ各共有主ノ為メニ期満法ニ抗阻スルコトヲ得セシムルコト無シ 第六百七十二条 共有主中ノ一人ノ為メニ期満法ノ施行ヲ仮停シ若クハ中止スルコト有レハ則チ他ノ各共有主ヲシテ均シク其利益ヲ得有セシム 第四篇 財産共有ノ権理 第六百七十三条 財産ノ共有ハ特別ノ契約若クハ特別ノ行為ナキニ於テハ則チ後条ノ法則ヲ以テ之ヲ規定ス 第六百七十四条 各共有主ノ共有物件ニ関スル権理ハ反対ノ証憑有ルニ非サレハ則チ均同ナル者ト看做ス 各共有主ハ各自ノ所有部分ニ応シテ共有物件ニ関スル利益ヲ得有シ且其責課ヲ負担ス 第六百七十五条 各共有主ハ其共有物件ヲ使用スルコトヲ得可シ唯其共用ニ適当ナル方法ヲ以テ之ヲ使用ス可クシテ決シテ共有権理ノ利益ニ反対シ若クハ他ノ共有主カ其権理ニ応シテ之ヲ使用スルコトニ妨害セサルヲ要スルノミ 第六百七十六条 各共有主ハ他ノ共有主ヲシテ其共有物件ノ保存ニ必要ナル費用ヲ分担セシムルノ権理ヲ有ス但々他ノ共有主カ自巳ノ権理ヲ放棄シテ以テ費用ノ分担ヲ避免スル有ル如キハ此限ニ在ラス 第六百七十七条 共有主中ノ一人ハ仮令ヒ各共有主ニ利益スル有リト雖モ其許諾ヲ得ルニ非サレハ則チ其共有物件ニ向テ新創ノ工事ヲ挙行スルコトヲ得ス 第六百七十八条 共有物件ノ管理及ヒ良好ナル使用ニ関シテ共有主ノ過半数ヲ以テセル議決ハ反対意見者ト雖モ必ス之ニ協同セサル可ラス 過半数ヲ以テスル議決トハ其議場ニ於テ共有物件ニ関スル利益ノ部分ノ過半ナル部分ヲ以テ之ヲ決定スル者ヲ謂フ 若シ議決カ過半部分ヲ得ス或ハ議決カ共有物件ニ太甚ナル損害ヲ与フルコト有ルニ於テハ則チ法衙ハ適宜ノ処分ヲ指命シ時ニ或ハ別ニ一個ノ管理者ヲ撰命スルコトヲ得可シ 第六百七十九条 各共有主ハ其応分ノ所有権及ヒ之ニ関スル収利額若クハ収入額ヲ得有ス若シ其権理カ人件ニ関セサルニ於テハ則チ其部分ヲ転付シ譲与シ若クハ券記抵当ト為シ或ハ其応分ノ使用ニ関シ自己ニ替代セシムルコトヲ得可シ然レトモ転付及ヒ券記扺当ノ効力ハ唯其共有物件ヲ分配スル時ニ於テ其人ニ帰属ス可キ部分ノミニ限止ス 第六百八十条 共有主ニ対スル債主若クハ受譲者ハ自巳ノ間入スル無クシテ決行シタル共有物件ノ分配ヲ訟撃シ而シテ自費ヲ以テ之ニ間入スルコトヲ得可シ然レトモ其既ニ完結セル分配ハ之ヲ訟撃スルコトヲ得ス但々其分配ニ詐偽ノ事為アル時会或ハ債主若クハ受譲者ノ抗阻スル有ルニ拘ラスシテ分配ヲ決行シタル時会ノ如キハ即チ然ラス且負責者若クハ譲与者ニ向テ其権理ヲ請求スルハ此限外ニ在リトス 第六百八十一条 何人タルヲ問ハス物件ノ共有ヲ存守ス可キコトヲ要強セラルヽコト無シ故ニ各共有主ハ常ニ他ノ共有主ニ向テ此権理ヲ行用スルコトヲ要求スルヲ得可シ 然レトモ共有権理カ確定セル期間ニ向テ存守ス可キノ契約有テ而カモ其期間カ十年ニ超過セサルニ於テハ則チ其協議ハ有効ノ者ト為ス 若シ至重要急ノ理由カ其共有物件ノ分配ヲ必要スルコト有ルニ於テハ則チ法衙ハ其結約期限ノ以前ニ係ルト雖モ其共有ノ解廃ヲ宣告スルコトヲ得可シ 第六百八十二条 秣芻ノ刈収ニ関シ互相ノ権理ヲ有スル土地ニ向テ其秣芻刈収ノ応分ナル共有権ノ全部若クハ一部ヲ転売セント欲スル人ハ一年以前ニ之ヲ他ノ共有主ニ告知セサル可ラス而シテ此期限以後ハ其共同使用ノ権理ヲ引退セル部分ノ土地ニ比例シテ以テ他ノ土地ニ存在シタル秣芻刈収ノ権理ヲ喪失ス 本条ノ告知ハ本邑ノ邑庁ニ開申シ而シテ邑庁ノ掲示場ニ公掲ス 若シ之ニ関シテ争訟ヲ起生スルコト有レハ則チ民事法衙ニ於テ之ヲ審判ス然レトモ若シ其土地ノ在ル所ノ本邑内ノ公益ニ関シ重大公明ナル理由アルニ非サレハ則チ此引退ノ権理ハ何等ノ時会ニ於ケルモ之ヲ剥奪スルコトヲ得可ラス 法衙ハ此引退ヲ允可シ同時ニ其方法ト其効力トヲ規定ス特ニ共同使用ノ権理ヲ引退セル土地ノ肥磽ト広狭トニ注意スルコトヲ要ス 第六百八十三条 一個ノ物件ニシテ之ヲ分配スレハ則チ其適当ナル使用ヲ為スコトヲ得可ラサル者ヲ共有スル人ハ其共有ヲ解廃スルコトヲ請求スルヲ得ス 第六百八十四条 遺産ノ分配ニ関スル法則ハ移シテ以テ此共有物件ノ分配ニ擬施ス可シ 第五篇 占有ノ権理 第六百八十五条 占有トハ即チ一箇ノ物件ヲ収占シ若クハ一個ノ権理ヲ行用スルヲ謂フ而シテ其物件ノ収占若クハ其権理ノ行用ハ其人躬親カラ之ヲ為シ若クハ其人ノ名義ヲ以テ他人ニ之ヲ為サシムルコトヲ得可シ 第六百八十六条 合規ノ占有タラシムル為メニハ其占有ヲシテ間断スルコト無ク中止スルコト無ク平和公明ニシテ疑議ヲ容ル可キ無カラシメ且自己ノ物件トシテ之ヲ収占スルノ意度ヲ有スル者タルコトヲ要ス 第六百八十七条 若シ占有者カ他人ノ名義ヲ以テ占有ヲ開殆セルコトヲ証明ス可ラサルニ於テハ則チ其人ハ躬親カラ所有主タルノ名義ヲ以テ其物件ヲ占有スル者ト看做ス 若シ他人ノ名義ヲ以テ占有ヲ開始シタル者ニ関シテハ其占有ニ反対ノ証憑アルニ非サレハ則チ同一ノ名義ヲ以テシタル者ト看做ス 第六百八十八条 随意ノ行為及ヒ黙許ノ行為ハ以テ合規ノ占有ヲ得有スルノ基本ト為スコトヲ得ス 第六百八十九条 脅嚇ノ行為若クハ隠秘ノ行為ハ共ニ合規ノ占有ヲ得有スルノ基本ト為スコトヲ得ス然レトモ其脅嚇若クハ其隠秘ヲ断止セシ時ヨリシテ又其占有ヲ開始スルコトヲ得可キ者トス 第六百九十条 所有権ヲ得有ス可ラサル物件ノ占有ハ法律上ノ効力ヲ有セス 第六百九十一条 現時ノ占有者ニシテ旧時ニ占有シタルコトヲ証明スル所ノ人ハ其中間ニ於テモ亦占有シタル者ト看做ス但々反対ノ証憑アル者ハ即チ然ラス 第六百九十二条 現時ノ占有ハ以テ旧時ノ占有ヲ証明スルニ足ラス但々其占有者カ証憑ヲ有スルハ此限ニ在ラス此時会ニ於テハ其証憑書ノ記日ヨリシテ占有シタル者ト看做ス之ニ反対スル証憑アル者ハ即チ然ラス 第六百九十三条 遺産全部ノ承襲者ハ直チニ死亡者ノ占有権ヲ続有ス 遺産一部ノ承襲者ハ其占有権ノ効力ヲ喚求シテ以テ之ヲ使用スル為メニ自已ノ占有権ヲ死亡者ノ占有権ニ連結スルコトヲ得可シ 第六百九十四条 一年以還不動産若クハ物権若クハ動産ノ全部ヲ合規ニ占有スル所ノ人ハ若シ其占有ヲ他人ニ妨阻セラルヽコト有レハ則チ妨阻ヲ受ケタル年内ニ於テ其占有権ノ保続ヲ請求スルコトヲ得可シ 第六百九十五条 動産タルト不動産タルトヲ問ハス脅嚇若クハ隠秘ノ行為ニ因テ占有権ヲ強奪セラレタル人ハ其強奪ヲ受ケタル年内ニ於テ強奪者ニ対シ自已ノ占有権ノ収復ヲ訟求スルコトヲ得可シ 第六百九十六条 此占有権ノ収復ニ関シテハ法官ハ訟主カ其対主ニ向テ訟状ヲ投示セル以後ニ於テ其強奪ノ事実ハ衆人ノ皆之ヲ知悉スルノ理由ニ根拠シ要急訴訟法ニ准依シ迅速ニ之ヲ審判セサル可ラスシテ復タ其対主ノ何人タルト其物件ノ何物タルトヲ問ハサルナリ 第六百九十七条 占有権ヲ強奪セラレタル時会ニ於テ之ヲ収復スルハ以テ占有者カ占有ニ関スル他般ノ訟権ヲ使用スルコトヲ妨阻スル者ニ非ス 第六百九十八条 自己ノ所有地内若クハ他人ノ所有地内ニ於テ他人カ新創ノ工事ヲ挙行スル有ルカ為メニ自己ノ所有スル不動産物権其他ノ所有物件ニ損害ヲ被及ス可キノ危惧ヲ懐ク所ノ人ハ其新創ノ事為ヲ法衙ニ申告スルコトヲ得可シ但々此申告ハ其事為ノ未タ竣成セス及ヒ其事為ヲ挙行セルヨリ一年内ニ於テ之ヲ為スコトヲ要ス 法官ハ其事為ノ梗概ヲ審査シ而ル後ニ其事為ノ続行ヲ禁止シ若クハ之ヲ認許スルコトヲ宣告ス其禁止ヲ宣告スル時会ニ於テ若シ其事為ノ竣成ニ妨阻スルノ理由無シト認識スルコト有レハ則チ法官ハ訟主ヲシテ其事為ノ中止ニ因テ起生ス可キ損害ヲ賠償スルニ相当セル保任ヲ立定セシム又其認許ヲ宣告スル時会ニ於テ若シ申告者カ其事為ヲ利益スル終審ノ裁判ヲ得タルニ於テハ則チ其二事ヲ毀撤シ減少シ若クハ其被及セラルヽ損害ノ賠償ヲ要求スルコトヲ得可シ 第六百九十九条 屋舎ノ建造若クハ樹木ノ植栽若クハ其他ノ新創物件ノ工事カ自已ノ所有地若クハ自己ノ占有物件ニ向テ巨大ニシテ且急遽ナル損害ヲ被及セシム可キノ危惧ヲ懐クニ足ル可キノ理由有ルニ於テハ則チ其事由ヲ法官ニ申告シ且其景況ニ応シテハ其危難ヲ避免スルニ相当ナル措置ヲ為サシメ若クハ其隣接地主ヲシテ其起生ス可キ損害ノ為メニ予メ保任ヲ立定セシムルコトヲ得可シ 第七百条 通務ニ係ル占有ハ其占有上ノ一切ノ事件ニ関シテハ其前年ノ成例ニ依拠シ又一年間其権理ノ行用ヲ間断シ得可キノ通務ニ関シテハ其前期ノ成例ニ依拠シテ以テ行務者受務者若クハ其他ノ関係者ノ権理及ヒ責務ヲ指定ス可キ者トス 第七百一条 占有者ニシテ其所有権ニ瑕疵ノ存在スルコトヲ覚知セス完全ノ所有権ト自認シ其所有権ヲ他人ニ転付シ得可キ所有主ノ如ク之ヲ占有スル所ノ人ハ即チ良意ヲ以テスル占有者ト看做サル可キ者トス 第七百二条 占有ハ常ニ良意ヲ以テセル者ト看做ス若シ其良意ヲ以テセサル者ト為スノ抗争ヲ受クルコト有レハ則チ抗争者カ其証明ヲ為サヽル可ラス 良意ヲ以テスル占有者タル為メニハ唯々其占有ノ権理ヲ得有セル時際ニ於テ実ニ良意ヲ以テシタル有ルノミニシテ足レル者トス 第七百三条 良意ヲ以テスル占有者ハ其占有物件ノ収額ヲ得有スルコトヲ得可ク而シテ其所有主ニ還付ス可キ者ハ唯々裁判上ノ訟求ヲ受ケタル以後ノ収額ノミニ限止ス 第七百四条 仮令ヒ良意ヲ以テスル占有者タルモ若シ其占有物件ヲ所有主ニ還付スルノ時際ニ於テ其改良ノ景況カ存在スルコト無キニ於テハ則チ其改良ヲ理由ト為シテ以テ賠償ヲ要求スルコトヲ得可ラス 第七百五条 占有者ハ良意ヲ以テスルト良意ヲ以テセサルトヲ問ハス其占有物件ノ改良ニ関シテハ唯其改良ノ為メニ支消シタル費用額ト其改良ノ為メニ占有物件ニ増加セシメタル価直額トヲ比較シテ以テ其少額ナル一方ノミヲ要求スルノ権理ヲ有スルニ過キス 第七百六条 占有物件ヲ真実ニ改良シ若クハ其改良ノ景況ノ尚ホ現存スル有ルカ為メニ其物件ノ還付ヲ勒住スルコトヲ得ルハ唯良意ヲ以テスル占有者ノミニ限止ス而シテ其改良ノ賠償ヲ請求スルハ必ス其還付ニ関スル訴訟ノ未タ結落セサルノ日ニ於テシ且其改良ノ景況ノ現存スルコトヲ証明セサル可ラス 第七百七条 其性質ヨリシテ動産ニ部属スル物件及ヒ記名証券ノ占有ニ関シテハ其占有ハ良意ヲ以テセル人ノ為メニ其効力ヲ生出スル者トス然レトモ此条則ハ動産ノ全部ヲ総括スル占有ニハ之ヲ擬施ス可ラス 第七百八条 然レトモ一個ノ占有物件ヲ亡失シ若クハ盗窃セラレタル占有者ハ其物件ノ現有者ニ向テ其収回ヲ要求スルコトヲ得可ク又其現有者モ亦均シク自己ニ転付シタル人ニ向テ其賠償ヲ要求スルコトヲ得可シ 第七百九条 若シ他人ノ所有物件ニシテ亡失シ若クハ盗窃セラレタル所ノ者ヲ現有スル人カ市場若クハ公売場ニ於テ之ヲ買取シ若クハ類似物件ヲ販売スル商賈ヨリ之ヲ買取シタルニ於テハ則チ其物件ノ所有主ハ其占有者ノ最初ニ交支シタル価金額ヲ弁償スルニ非サレハ則チ其物件ヲ収回スルコトヲ得可ラス 第三巻 所有権及ヒ其他物件ニ関スル各般ノ権理ヲ得有シ若クハ転付スルノ方法 総則 第七百十条 所有権ハ獲占ニ因テ之ヲ得有ス 所有権及ヒ其他物件ニ関スル各般ノ権理ハ遺産承襲ニ因■贈与ニ因リ及ヒ約定ノ効力ニ因テ之ヲ得有シ若クハ之ヲ転付ス 此諸種ノ権理ハ期満ニ因テモ亦之ヲ得有ス 第一篇 獲占 第七百十一条 某人ノ所有ニ非サル物件ニシテ而カモ其所有ト為ルコトヲ得可キ所ノ者ハ獲占ニ因テ之ヲ得有ス其物件タル例之ハ狩猟若クハ漁釣ノ標率ト為ル可キ動物若クハ宝貨若クハ放棄ニ付シタル動産物件ノ如キ即チ是ナリ 第七百十二条 狩猟及ヒ漁釣ニ関スル条件ハ特別ノ法律ヲ以テ之ヲ規定ス 然レトモ狩猟ノ為メニ土地ノ占有者ノ禁約ニ違犯シ其土地ノ域内ニ侵入スルコトヲ得可ラス 第七百十三条 蜂窩ノ所有主ハ他人ノ所有地内ニ向テ逸去セル蜜蜂ヲ追求スルノ権理ヲ有ス然レトモ蜂窩ノ所有主ハ之カ為メニ土地ノ占有者ニ被ラシメタル損害ヲ賠償セサル可ラス若シ蜂窩ノ所有主カ二日以内ニ其逸去セル蜜蜂ヲ追求セサルカ若クハ何等ノ時会ト雖モ二日間其追求ノ擱停スルニ於テハ則チ土地ノ占有者ハ之ヲ占取シ及ヒ之ヲ留養スルコトヲ得可シ 此収回ノ権理ト同一ナル権理ハ家畜ノ所有主ニ向テモ亦均シク存在スル者タリ但々第四百六十二条ニ掲記セル時会ノ如キハ此例外ニ在リトス然レトモ若シ其所有主カ二十日内ヲ期シテ逸去セル獣畜ヲ要求セサルニ於テハ則チ其獣畜ハ之ヲ占取シ及ヒ之ヲ留養スル所ノ人ニ帰属ス 第七百十四条 宝貨ハ其発見シタル土地ノ所有主ニ帰属ス若シ他人ノ所有地内ニ於テ宝貨ヲ発見スルコト有レハ則チ其半数ハ発見シタル土地ノ所有主ニ帰属シ其半数ハ之ヲ発見シタル人ニ帰属ス但必ス其発見ノ偶然ニ係ル者ニ限ル 宝貨トハ隠蔵シ若クハ埋没セル動産ニ係リ且価格ノ有スル物件ニシテ一人タモ其所有主タルコトヲ証明シ得サル所ノ者ヲ謂フ 第七百十五条 動産物件ニシテ宝貨ノ品質ヲ有セサル所ノ者ヲ発見シタル人ハ其物件ノ原占有者ニ還付セサル可ラス若シ之ヲ発見シタル人カ其物件ノ原占有者ヲ知得スルコト能ハサルニ於テハ則チ直チニ其発見シタル土地ノ管轄庁ニ寄託ス 第七百十六条 管轄庁ハ二次ノ日曜日ニ於テ通常法式ニ准依シ其公告ノ榜示ヲ改換スル必ス二回ナルコトヲ要ス 第七百十七条 此第二回ノ公告ヲ為スヨリ以後ノ二年ヲ満過スルモ所有主ノ還付ヲ申請スル有ルコト無ケレハ則チ其物件若シ其物件ノ発売ヲ要シタル時会ニ当テハ其物件ノ価直ハ之ヲ発見シタル人ニ帰属セシム 此遺失物件ノ所有主及ヒ之ヲ発見シタル人ハ其物件若クハ其物件ノ価直ヲ領収スルニ当リ其物件ニ関スル一切ノ費用ヲ支弁セサル可ラス 第七百十八条 遺失物件ノ所有主ハ若シ拾得シタル人カ賞物ヲ要求スルコト有レハ則チ其金額若クハ物件ノ常価十分ノ一ヲ付与セサル可ラス若シ其金額若クハ物件ノ常価カ二千リーヴルニ超過スルコト有レハ則チ超過額ニ関スル賞物ハ其二十分ノ一ヲ付与ス可キ者トス 第七百十九条 海中ニ投擲セシ物件若クハ海波ニ随テ漂到セル物件若クハ海洲ニ自生スル草藻ニ関スル得有権ハ特別ノ法律ヲ以テ之ヲ規定ス 第二篇 遺産ノ承襲 第七百二十条 遺産ハ法律ニ依リ若クハ遺嘱ニ依テ之ヲ承襲ス 遺産ノ全部若クハ一部ニ向テ遺嘱ヲ缺クコト有ルノ時会ニ於テノミ准規承産法ヲ施行ス 第一章 准規ノ承産 第七百二十一条 法律カ准規後親、先親、傍系親属、私生ノ子及ヒ配偶者ニ対シ系統ノ叙次ヲ逐ヒ下条ニ規定スル所ノ法則ニ照准シテ以テ遺産ヲ各自ニ分属セシム若シ此各親属ヲ闕クニ於テハ則チ其遺産ハ政府ノ所有ニ帰属ス 第七百二十二条 法律カ承産法ノ規定スルニ関シテハ専ラ親属ノ親疎ヲ商量ス其系統ノ特権及ヒ財産ノ由来ハ復タ之ヲ商量スルコト無シ但法律ノ特定セル時会及ヒ方法ノ如キハ此限ニ在ラス 第一節 承産ニ関スル合格 第七百二十三条 一切ノ人ハ遺産ヲ承襲スルニ合格ナル者トス但々法律ニ於テ現定スル特例ニ係ル者ハ此限外ニ在リトス 第七百二十四条 左項ニ列挙スル所ノ人ハ遺産ヲ承襲スルニ不合格ナル者トス 第一項 遺産ノ承襲ヲ開始スル時会ニ当リ尚ホ未タ懐孕セサリシ子 第二項 仮令ヒ分娩シタルモ必然ニ生存スルコト能ハサル可キ子 若シ子タル者カ胎内ニ死セスシテ生レタルコトニ関シ疑議ヲ起発スル有レハ即チ法律上ニ於テ必然ニ生存ス可キノ者ト推定ス 第七百二十五条 遺産承襲ニ関シ不当ト認断シテ以テ承産ニ不合格ナリト為ス所ノ人ハ即チ左項ノ如シ 第一項 自己カ遺産ヲ承襲ス可キ其人ヲ故殺シ若クハ故殺セントシタルノ人 第二項 重刑ヲ以テ罰セラル可キ罪犯ト為シテ以テ遺産ヲ承襲ス可キ其人ヲ追告シ而シテ其追告カ裁判上ニ於テ誣告ニ帰シタルノ人 第三項 遺嘱書ヲ録製シ若クハ之ヲ変換スルコトヲ要強シタルノ人 第四項 遺嘱ヲ為シ若クハ既ニ為シタル遺嘱ヲ改修スルコトヲ妨阻シタルノ人或ハ後定ニ係ル遺嘱書ヲ毀滅シ若クハ隠匿シ若クハ変換シタルノ人 第七百二十六条 不当ト認断セラレタルノ人ト雖モ若シ遺産ヲ承襲ス可キ其人ノ公式ノ文書若クハ其遺嘱書ニ明示シテ以テ承産ヲ認許セルニ於テハ則チ其遺産ヲ承襲スルコトヲ得可シ 第七百二十七条 不当ト認断シテ承産ノ権理ヨリ斥除セラレタルノ人ハ遺産承襲ヲ開始セル時限ヨリ享有シタル一切ノ収額ヲ還付スルコトヲ要強セラル可キ者トス 第七百二十八条 父若クハ母若クハ先親ニシテ不当ト認断セラルヽノ人ニ関シテハ其子若クハ其後親カ自己ノ名義ヲ以テ遺産ヲ承襲スルト替承ノ権理ニ依テ遺産ヲ承襲スルトヲ問ハス其不当ノ為メニ自己承産ノ権理ヲ妨害セラルヽコト無シ 然レトモ父若クハ母タル者ハ其子ニ帰属ス可キ資産ノ部分ニ向テ法律カ家長ニ対シ付与スル所ノ収額得有及ヒ財産幹理ニ関スル権理ヲ有セス 第二節 替承 第七百二十九条 替承権ハ替承者ヲシテ被替承者ニ代替シテ其地位等親及ヒ権理ノ承受セシムルノ効力ヲ有ス 第七百三十条 此替承権ハ直系ノ後親ニ関シテ其界限ヲ設立スルコト無ク且諸般ノ時会ニ於テ存在スル者トス即チ遺産者ノ子カ他ノ早世シタル子ノ後親ト共ニ承産スルノ時会ト遺産者ノ一切ノ子カ遺産者ノ死亡スルヨリ以前ニ早世シ此各子ノ後親ハ同等若クハ異等ニ係リ若クハ仮令ヒ同等ノ中ニ於テ此各子ノ後親ノ一連系ニ在ル人員ニ多少有ルモ共ニ承産スルノ時会トヲ問ハスシテ其替承権ノ存在スル者是ナリ 第七百三十一条 先親ニ関シテハ替承権ヲ存在スルコト無クシテ最近先親カ他ノ先親ヲ排却ス 第七百三十二条 旁系ニ関シテハ替承権カ死亡者ノ兄弟姉妹ノ子及ヒ其後親ノ為メニ存在ス即チ此子及ヒ其後親カ其伯叔若クハ伯叔母ト共ニ承産スルノ時会ト遺産者ノ兄弟姉妹カ遺産者ニ先タツテ死亡シ而シテ遺産者ノ遺産カ同等親若クハ異等親ノ後親ニ帰属スルノ時会トヲ問ハスシテ其替承権ノ存在スル者是ナリ 第七百三十三条 替承ヲ認許スル諸般ノ時会ニ於テハ遺産ハ毎一連系ニ向テ之ヲ分配ス 若シ各個ノ連系カ数多ノ支派ヲ有スルニ於テハ則チ其遺産派分法ハ各支派ノ毎一連系ニ向テ之ヲ分配シ而シテ其支派族ノ間ニ於テハ各一人ニ向テ之ヲ分配ス 第七百三十四条 生存スル承産者ニ関シテハ之ニ替テ遺産ヲ承襲スルコトヲ得可ラス但失踪者若クハ承産ニ不合格ナル人ニ替ル如キハ此限ニ在ラス 第七百三十五条 某人ニ向テ其遺産ノ承襲ヲ拒却セルモ亦之ニ替テ他ノ遺産ヲ承襲スルコトヲ得可シ 第三節 准規親属ノ承産 第七百三十六条 准規ノ子及ヒ准規ノ後親ハ男女ヲ問ハス又仮令ヒ其所出ヲ異スニル者タルモ其父其母及ヒ其他一切ノ先親ノ遺産ヲ承襲ス 一切ノ後親カ共ニ一等親ニ係ルニ於テハ即チ各自ニ派分シテ以テ遺産ヲ承襲ス若シ其一切ノ人若クハ其一人カ替承権ニ依テ遺産ヲ承襲スルコト有レハ則チ其一連系ニ於テ之ヲ承襲ス 第七百三十七条 准規ノ子ナル名義ノ中ニハ正出認諾ノ子養子及ヒ後親ヲ包含ス 養子及ヒ其後親ハ正出ノ子ト共ニ遺産ヲ承襲スルコトヲ得可シト雖モ養父ノ親属ノ遺産ヲ承襲スルコトヲ得可ラス 第七百三十八条 死亡者カ若シ子孫兄弟姉妹及ヒ其後親ヲ併セテ共ニ之ヲ遺存セサルニ於テハ則チ其遺産ハ之ヲ其父及ヒ其母ニ均分スルカ或ハ其父若クハ其母ニシテ生存スル所ノ一人ニ帰属ス 第七百三十九条 死亡者カ若シ子孫、父母、兄弟姉妹及ヒ其後親ヲ併セテ共ニ之ヲ遺存セサルニ於テハ則チ父属ノ先親カ遺産全額ノ半数ヲ承襲シ母属ノ先親カ其半数ヲ承襲ス而シテ其遺産ノ由来ノ如キハ復タ問フ所ニ非サルナリ 然レトモ若シ先親カ同等親ニ係ラサルニ於テハ則チ遺産ハ父属ト母属トヲ問ハスシテ最近親属ニ帰属ス 第七百四十条 若シ死亡者ノ同父母兄弟姉妹カ死亡者ノ父母若クハ父母ノ其一人ト共ニ承産スルニ於テハ則チ各自ニ派分シテ以テ遺産ヲ承襲スルコトヲ得可シ但々何等ノ時会ニ於テスルモ父母若クハ父母ノ其一人カ承襲スル部分ハ遺産全額三分ノ一ヨリ減殺スルコトヲ得可ラス 若シ同父異母ノ兄弟姉妹若クハ同母異父ノ兄弟姉妹ノ存在スル有ルニ於テハ則チ此等ノ人モ亦同ク遺産ヲ承襲スルコトヲ得可シ然レモ同父母ノ兄弟姉妹ト共ニ承産スルノ時会ト単ニ此等ノ人ノミ承産スルノ時会トヲ問ハスシテ唯同父母ノ兄弟姉妹ニ帰属ス可キ遺産部分ノ半数ノミヲ得有ス 凡ソ兄弟姉妹ノ後親ハ第七百三十二条及ヒ第七百三十三条ニ照准シ毎一連系ニ於テ遺産ヲ承襲ス 生存スル父母ニ帰属ス可キ遺産部分ハ若シ父母ヲ缺クコト有ルヤ即チ前条ニ規定セル方法ニ照准シテ以テ最近先親ニ帰属ス 第七百四十一条 死亡者カ若シ子孫父母及ヒ他ノ先親ヲ併セテ共ニ之ヲ遺存セサルニ於テハ則チ死亡者ノ兄弟姉妹ハ各自ニ派分シテ以テ遺産ヲ承襲シ而シテ其後親ハ毎一連系ニ於テ之ヲ承襲ス 然レトモ同父異母ノ兄弟姉妹若クハ同母異父ノ兄弟姉妹及ヒ其後親ハ同父母ノ兄弟姉妹若クハ其後親ト共ニ承産スルニ於テハ則チ同父母ノ兄弟姉妹ニ帰属ス可キ遺産部分ノ半数ニ向テノミ之ヲ得有スルノ権理ヲ有スルニ止マル 第七百四十二条 死亡者カ若シ子孫、父母、先親、兄弟姉妹及ヒ其後親ヲ併セテ共ニ之ヲ遺存セサルニ於テハ則チ遺産ハ父属ト母属トヲ問ハスシテ最近親属ニ帰属ス 遺産承襲ノ権理ハ唯十等親以内ノ親属ノミ之ヲ保有ス 第四節 私生ノ子ノ承産 第七百四十三条 私生ノ子ハ法律上ニ於テ親系ノ認定ヲ得若クハ親系ノ認允ヲ得タル者ニ非サレハ則チ其父母ノ遺産ヲ承襲スルノ権理ヲ有セス 第七百四十四条 法律上ニ於テ親系ノ認定ヲ得若クハ親系ノ認允ヲ得タル私生ノ子ハ正出ノ子若クハ其後親ト共ニ承産スルニ於ニハ則チ唯々自己若シ正出ノ子タルニ於テハ則チ当サニ承襲ス可キ遺産部分ノ半数ヲ得有スルノミニ止マル 正出ノ子若クハ其後親ハ私生ノ子ニ帰属ス可キ遣産部分ハ金額ヲ以テ之ニ交付シ若クハ相当ナル価格ヲ評定セル遺産額内ノ不動産ヲ以テ之ニ交付スルコトヲ得可シ 第七百四十五条 私生ノ子ノ父若クハ母タル者カ准規ノ子若クハ其後親ヲ併セテ共ニ之ヲ遺存セス而シテ其父母若クハ父母ノ其一人若クハ他ノ先親若クハ自己ノ配偶者ヲ遺存スルニ於テハ則チ其私生ノ子ハ遺産全額三分ノ二ヲ承襲シ其一ハ先親若クハ配偶者ニ帰属ス 私生ノ子カ若シ父若クハ母ノ先親及ヒ父母ノ生存スル其一人ト共ニ承産スルニ於テハ則チ先親ノ為メニ遺産全額三分ノ一ヲ供充シ父母ノ其一人ノ為メニ又遺産全額四分ノ一ヲ供充シ而シテ其余分ハ自已之ヲ承襲ス 第七百四十六条 私生ノ子ハ本篇第三章第四節ノ条則ニ准依シテ以テ其父若クハ其母ヨリ受得シタル財産ニシテ供還セサル可ラサル者ニ関シテハ其承襲ス可キ遺産部分ノ額内ニ於テ必ス之ヲ扣除セラル可ク且遺産分配ニ関スル費用モ亦必ス之ヲ負担セサル可ラス 第七百四十七条 私生ノ子ノ父若クハ母タル者カ准規後親、先親及ヒ配偶者ヲ併セテ共ニ之ヲ遺存セザルニ於テハ則チ其私生ノ子ハ遺産ノ全部ヲ承襲スルコトヲ得可シ 第七百四十八条 遺産者ニ先タツテ死亡セル私生ノ子ノ准規後親ハ前数条ニ於テ私生ノ子ノ為メニ規定セル各般ナル権理ノ得有ヲ要請スルコトヲ得可シ 第七百四十九条 私生ノ子ハ仮令ヒ法律上ニ於テ親系ノ認定ヲ得タル者タルモ其父若クハ其母ノ親属ノ遺産ニ向テハ何等ノ権理ヲモ保有スルコト無ク又此親属モ亦私生ノ子ノ遺産ニ向テハ何等ノ権理ヲモ保有スルコト無シ 第七百五十条 私生ノ子カ若シ其後親及ヒ其配偶者ヲ遺存セスシテ死亡シタルニ於テハ則チ其遺産ハ父若クハ母ニシテ其親系ヲ認定シタル一人或ハ法律上ニ於テ其子ト認允セラレタル父若クハ母ノ一人ニ帰属ス若シ其私生ノ子カ父母共ニ其親系ヲ認定シタル者タルニ於テハ則チ遺産ハ之ヲ均分シテ其父母ニ帰属ス 第七百五十一条 私生ノ子カ若シ其後親ヲ遺存セス唯其配偶者ノミヲ遺存シテ死亡シタルニ於テハ則チ遺産ノ半数ハ配偶者ニ帰属シ其半数ハ前条ノ規則ニ照准シテ父若クハ母若クハ父母ニ帰属ス 第七百五十二条 前数条ニ掲記セル各般ノ権理ハ法律上ノ認定ヲ得サル私生ノ子ニ推及スルコトヲ得可ラス 然レトモ此種ノ私生ノ子ハ第百九十三条ニ掲記セル時会ニ当テハ衣食ノ供給ヲ要請スルノ権理ヲ保有ス此衣食ノ供給ハ父母ノ資産ト准規承産者ノ人員及ヒ等親トニ応シテ相当ナル数額ヲ指定ス可キ者トス 第五節 生存スル配偶者ノ権理 第七百五十三条 死亡セル配偶者カ准規ノ子ヲ遺存スルニ於テハ則チ生存スル配偶者ハ遺産ニ向テ准規ノ各子ノ承襲部分ト均同ナル承襲部分ノ収額得有権ヲ保有ス而シテ遺産ニ関シテハ之ヲ各子中ノ一人ト看做シテ以テ其分配ヲ計算ス 私生ノ子カ准規ノ子ト共ニ承産スルニ於テハ則チ生存スル配偶者ノ収額得有権ハ准規ノ各子ノ承襲部分ト均同ナル承襲部分ニ向テ存在スル者トス 此収額得有権ニ関スル承襲部分ハ決シテ遺産全額四分ノ一ヨリ超過スルコトヲ得可ラス而シテ其承襲部分ハ第八百十九条ニ規定スル方法ニ准依シテ以テ之ヲ結成ス可キ者トス 第七百五十四条 死亡セル配偶者カ准規ノ子ヲ遺存セスシテ先親若クハ私生ノ子若クハ兄弟姉妹若クハ其後親ヲ遺存スルニ於テハ則チ遺産全額三分ノ一ハ生存スル配偶者ノ所有ト為シテ以テ之ヲ得有セシム 然レトモ若シ生存スル配偶者カ准規ノ先親及ヒ私生ノ子ト共ニ承産スルニ於テハ則チ唯々遺産全額四分ノ一ニ向テノミ之ヲ得有スルノ権理ヲ有ス 第七百五十五条 死亡セル配偶者カ若シ承産権ヲ有スル他ノ親属ヲ遺存スルニ於テハ則チ遺産全額三分ノ二ハ生存スル配偶者ニ帰属ス 死亡セル配偶者カ承産権ヲ有スル六等以内ノ親属ヲ遺存セサルニ於テハ則チ遺産ノ全部ハ生存スル配偶者ニ帰属ス 第七百五十六条 生存スル配偶者ニシテ他ノ承産者ト共ニ承産スルニ於テハ則チ婚姻ノ契約及ヒ嫁資ノ利益ニ依テ得有スル所ノ財産ハ必ス其承襲スル遺産部分ノ額内ニ於テ之ヲ控除セラル可キ者トス 第七百五十七条 生存スル配偶者ニ帰属ス可キ承産権ハ若シ死亡セル配偶者カ既決ノ効力ヲ有スル夫妻別居ノ裁判宣告ヲ請受シタルコト有レハ則チ其生存スル配偶者ノ一方ニハ帰属セサルナリ 第六節 政府ノ遺産収入権 第七百五十八条 前数節ニ規定セル法則ニ照依シテ死亡者ノ遺産ヲ承襲ス可キ親属ノ存在スル無キニ於テハ則チ其死亡者ノ遺産ハ挙ケテ之ヲ政府ノ所有ニ帰属ス 第二章 遺嘱ノ承産 第七百五十九条 遺嘱トハ日後ニ収銷スルコトヲ得可キ行為ニシテ之ニ依リ某人カ法律ニ制定セル規則ニ照准シ自己ノ死亡セル以後ニ於テ其資産ノ全部若クハ一部ヲ一箇ノ人若クハ数箇ノ人ニ付与スル所ノ者ヲ謂フ 第七百六十条 遺嘱者ノ資産ノ全部若クハ一部ヲ包有スル遺嘱ノ行為ハ全括ノ名義ヲ冒シ而シテ承産者タルノ分限ヲ有セシムル者トス 此他ノ遺嘱ノ行為ハ特示ノ名義ヲ冒シ而シテ受遺者タルノ分限ヲ有セシムル者トス 第七百六十一条 二箇ノ人若クハ数箇ノ人カ一箇ノ行為ニ因テ遺嘱ヲ為シ或ハ第三位ノ人ノ利益ノ為メニ遺嘱ヲ為シ或ハ互相承産ノ行為ヲ以テ遺嘱ヲ為スハ共ニ之ヲ禁止ス 第一節 遺嘱ニ依テ遺産ヲ処分スルノ合格 第七百六十二条 法律上ニ於テ不合格ト公言セラレサル所ノ人ハ遺嘱ニ依テ遺産ヲ処分スルノ権理ヲ有ス 第七百六十三条 左項ニ列挙スル所ノ人ハ遺産ヲ処分スルニ不合格ナル者トス 第一項 年齢満十八歳ニ達セサルノ人 第二項 失心ノ為メニ治産ノ禁止ヲ受ケタルノ人 第三項 仮令ヒ治産ノ禁止ヲ受ケサルモ遺嘱ヲ為セル時際ニ於テ本然ノ精神ヲ有セサリシ人 此第二項及ヒ第三項ニ掲記セル不合格ハ唯遺嘱ヲ為セル時際ニ於テ其事件ノ存在シタル人ニ向テノミ遺嘱ノ有効タルコトヲ妨阻スル者トス 第二節 遺嘱ニ依テ遺産ヲ承襲スルノ合格 第七百六十四条 法律上ニ於テ准規承産ニ不合格ト公言セラレタル所ノ人ハ遺嘱ニ依テ遺産ヲ承襲スルニ不合格ナル者トス 然レトモ確定セル人ニシテ遺嘱者ノ死亡セル時際ニ於テ生存セル所ノ者ノ子ハ仮令ヒ尚ホ未タ胎孕ニ在ラサリシ者タルモ亦遺嘱ニ依テ遺産ヲ承襲スルコトヲ得可シ 第七百六十五条 法律上ニ於テ不当ト公言セラレタル所ノ人ノ子ハ此承産権ヨリ斥除セラレタル所ノ人ニ帰属ス可キ遺産ノ准規部分ヲ承襲スルノ権理ヲ保有ス 第七百六十六条 遺嘱ニ依テ遺産ヲ承襲スルニ不当ナル所ノ人ニ向テハ第七百二十六条第七百二十七条及ヒ第七百二十八条ノ末項ノ条則ヲ擬施ス可キナリ 第七百六十七条 婚姻外ニ産生セル遺嘱者ノ子ニシテ法律上ノ認定ヲ得サル所ノ者ハ唯々衣食ノ供給ノミヲ要請スルニ合格ナル者トス 第七百六十八条 私生ノ子ニシテ法律上ノ正出認諾ヲ得サル所ノ者ハ若シ遺嘱者カ其後親若クハ其先親ヲ遺存スルコト有レハ則チ法律カ無遺嘱承産法ニ於テ私生ノ子ニ帰属セシムル部分ヨリ超過スル部分ヲ遺嘱ニ依テ承襲スルニ不合格ナル者トス 第七百六十九条 後見人ハ受後見人カ後見終期ノ決算ヲ領諾スルヨリ以前ニ於テ受後見人ノ為シタル遺嘱ノ行為ニ関シテハ其利益ヲ得有スルコトヲ得可ラス仮令ヒ遺嘱者カ後見終期ノ決算ヲ領諾セル以後ニ死亡セルノ時会ニ於ケルモ亦復タ然リトス 然レトモ受後見人カ其後見人ニシテ先親、後親、兄弟姉妹若クハ配偶者タル人ノ為メニスル遺嘱ノ行為ハ効力ヲ有スル者トス 第七百七十条 再婚セル配偶者ハ遺嘱ニ依テ以テ其新配偶者ニ対シ初婚ノ間ニ産生スル子ニシテ遺産ノ最少額ヲ承襲ス可キ所ノ者ノ得有ス可キ部分ヨリ超過スル部分ヲ留与スルコトヲ得可ラス 第七百七十一条 公証人若クハ其他ノ文職官吏陸海軍人若クハ領事官ニシテ公式ノ遺嘱書ヲ接収シタル者若クハ遺嘱ニ干渉シタル証人ノ為メニスル贈遺ハ効力ヲ有セサル者トス 第七百七十二条 遺嘱者ニ代リテ私式ノ遺嘱書ヲ録記セル所ノ人ノ為メニスル贈遺モ亦効力ヲ有セサル者トス但其贈遺カ遺嘱者ノ手書ニ因リ若クハ遺嘱書ヲ託付スル文書ニ因テ認諾セラレ若クハ証明セラレタル者ノ如キハ此限ニ在ラス 第七百七十三条 第七百六十七条第七百六十八条第七百六十九条第七百七十条第七百七十一条及ヒ第七百七十二条ノ各条ニ掲記セル不合格者ニ向テ為シタル遺嘱ノ行為ハ仮令ヒ要報契約ノ体裁ヲ以テ之ヲ為シタルモ若クハ間介者ノ名義ヲ以テ之ヲ為シタルモ共ニ効力ヲ有セサル者トス 間介者ト看做サル可キ者ハ不合格者ノ父母後親及ヒ配偶者即チ是ナリ 第三節 遺嘱書ノ程式 第一款 通常ノ遺嘱書 第七百七十四条 法律上ニ於テ通常ノ遺嘱書ニ関スル二種ノ程式ヲ認識ス即チ手記ノ遺嘱書及ヒ公証人ノ面前ニ於テ録製スル遺嘱書是ナリ 第七百七十五条 手記ノ遺嘱書トハ遺嘱者カ躬親カラ其全文ヲ手記シ記日シ及ヒ署名セル者ヲ謂フ 遺嘱書ノ記日ハ必ス年月日ヲ併セテ明記スルコトヲ要ス 遺嘱書ノ署名ハ必ス遺嘱各項ノ末尾ニ明署スルコトヲ要ス 第七百七十六条 公証ニ関スル行為ヲ以テ録製スル遺嘱書ニハ公式ニ属スル者ト私式ニ属スル者トノ差別有リトス 第七百七十七条 公式ノ遺嘱書ハ四箇ノ証人ノ眼同ニ依テ一箇ノ公証人之ヲ接収シ若クハ二箇ノ証人ノ眼同ニ依テ二箇ノ公証人之ヲ接収ス 第七百七十八条 遺嘱者ハ証人ノ面前ニ於テ其意望ヲ公証人ニ公言シ而シテ公証人此意望ヲ録記ス 公証人ハ証人ノ面前ニ於テ遺嘱者ニ其遺嘱書ヲ読示ス 此法式ヲ執行セシコトハ之ヲ其遺嘱書ニ特記ス 第七百七十九条 此遺嘱書ハ必ス遺嘱者ノ之ニ署名スルコトヲ要ス若シ遺嘱者カ実ニ結字スルコト能ハス若クハ偶々署名スルコトヲ得サル有レハ則チ必ス手署ヲ闕クノ事由ヲ公言スルコトヲ要シ而シテ公証人ハ其公言ヲ証記セサル可カラス 第七百八十条 此遺嘱書ハ証人及ヒ公証人カ必ス之ニ署名スルコトヲ要ス 第七百八十一条 若シ遺嘱書カ二個ノ公証人ノ接収スル所ト為レハ則チ遺嘱者ハ其二箇ノ公証人ニ向テ其意望ヲ公言シ而シテ其一箇ノ公証人之ヲ録記ス 此遺嘱書ハ証人及ヒ二箇ノ公証人カ必ス之ニ署名スルコトヲ要ス 前三条ノ規則ハ此遺嘱書ニ向テモ亦之ヲ擬施ス可キナリ 第七百八十二条 私式ノ遺嘱書ハ遺嘱者カ之ヲ手記シ若クハ第三位ノ人ヲシテ之ヲ録記セシムルコトヲ得可シ若シ遺嘱書カ遺嘱者ノ手記ニ成レル者ニ関シテハ必ス遺嘱者カ其遺嘱各項ノ末尾ニ署名スルコトヲ要シ又若シ遺嘱書ノ全部若クハ一部カ第三位ノ人ノ録記ニ成レル者ニ関シテハ其末尾ノ署名ノ外ニ於テ別ニ必ス遺嘱者カ其毎紙葉ニ向テ一々ニ署名スルコトヲ要ス 第七百八十三条 遺嘱ヲ記載スル用紙若クハ外包ノ用紙ハ必ス符号ヲ点記シ若シ之ヲ毀裂スルカ若クハ全ク之ヲ換易スルニ非サレハ則チ其遺嘱書ヲ抽取ス可カラサル如ク縝密ニ緘封スルコトヲ要ス 遺嘱者ハ此ノ如ク摺緘シ及ヒ印封シテ以テ四個ノ証人ノ面前ニ於テ之ヲ一個ノ公証人ニ託付スルカ若クハ此公証人及ヒ証人ノ面前ニ於テ他ノ一人ヲシテ之ヲ摺緘シ及ヒ之ヲ印封セシメ而シテ遺嘱者ハ其緘封書中ニハ自己ノ遺嘱ノ存在スルコトヲ公言ス 公証人ハ遺嘱ヲ記載セル用紙若クハ外包ノ用紙ニ填記スル受付証文中ニハ左項ノ各事件ヲ包載スルコトヲ要ス 遺嘱者ノ託付及ヒ公言ノ事為 封印ノ顆数及ヒ符号ノ点記 前文ニ掲記セル各般ノ法式ニ関スル証人ノ臨同 此受付証文ハ必ス遺嘱者証人及ヒ公証人ノ之ニ署名スルコトヲ要ス 若シ或種ノ事障ノ為メニ遺嘱者カ此受付証文ニ署名スルコトヲ得サル有レハ則チ第七百七十九条ニ規定セル法式ヲ践行セサル可カラス 此等ノ法式ハ中間ニ於テ他ノ事為ニ渉ルコト無ク相ヒ接続シテ之ヲ践行スルコトヲ要ス 第七百八十四条 読書ヲ解スルモ結字ヲ知ラサル遺嘱者若クハ他ノ一人ヲシテ其遺嘱ノ行為ヲ録記セシメ而シテ自己之ニ署名スルコトヲ得サル遺嘱者ハ共ニ必ス其之ヲ検読セシコトヲ公言シ而シテ之ニ署名スルコトヲ得サルノ事由ヲ証明シ且其遺嘱書ノ受付証文ニ此事由ヲ掲記スルコトヲ要ス 第七百八十五条 読書ヲ解セス若クハ之ヲ能クセサル所ノ人ハ私式ノ遺嘱書ヲ録製スルコトヲ得可カラス 第七百八十六条 聾唖者若クハ唖者ハ手記ノ遺嘱書若クハ公証人ノ接収ヲ得ル私式ノ遺嘱書ヲ以テ其意望ヲ遺嘱スルコトヲ得可シ 此等ノ人ハ私式ノ遺嘱書ヲ録製シ而シテ証人及ヒ公証人ノ面前ニ於テ其緘封書中ニハ自己ノ遺嘱ノ存在スルコトヲ受付証文ニ明記セサル可カラス若シ其遺嘱書カ第三位ノ人ノ録記ニ成レル者タルニ於テハ則チ遺嘱者ノ之ヲ検読セシコトヲ加記セサル可カラス 公証人ハ受付証文中ニ於テ遺嘱者カ自己及ヒ証人ノ面前ニ於テ前文ニ掲示セル事項ヲ履行セシコトヲ証記セサル可カラス此他ノ事項ニ関シテハ総テ第七百八十三条ニ規定セル法則ニ准依スルコトヲ要ス 第七百八十七条 全ク耳聾シタル人ニシテ公式ノ遺嘱書ヲ録製セント欲スル所ノ者ハ一切ノ必要ナル法式ヲ践行スルノ外ニ於テ自カラ其遺嘱書ヲ検読セサル可カラス而シテ必ス其事由ヲ遺嘱書中ニ明記スルコトヲ要ス 若シ遺嘱者カ其遺嘱書ヲ検読スルコト能ハサルニ於テハ則チ五箇ノ証人ノ眼同ヲ得ルヲ必要ト為ス 若シ其遺嘱書カ二個ノ公証人ノ接収スル所ト為ルニ於テハ則チ三箇ノ証人ノ眼同ヲ得ルヲ以テ足レリトス 第七百八十八条 遺嘱書ノ録製ニ関シテ証人ト為ル可キ為メニハ男子ニシテ丁年ニ達シ王国ノ国民若クハ王国内ニ住居ヲ占定スル外国人ニシテ刑事ノ裁判宣告ニ因テ民法権理ヲ行用スルノ権理ヲ禠奪セラレサル所ノ者タルコトヲ要ス 訟師及ヒ遺嘱書ヲ接収セル公証人ノ嘱書ハ証人ト為ルコトヲ得可カラス 第二款 特別ノ遺嘱書 第七百八十九条 瘟疫病及ヒ其他ノ伝染質ト看做ス可キ病患ノ流行スル地方ニ於テハ公証人裁判官邑長及ヒ其職務ノ代摂者若クハ僧侶カ二箇ノ証人ノ眼同ヲ得テ録製スル所ノ遺嘱書ハ効力ヲ有スル者トス 此遺嘱書ハ必ス之ヲ接収スル人ノ署名ヲ要ス又其時際ノ景況ニ在テ能ク為シ得可キニ於テハ則チ務メテ遺嘱者及ヒ証人ヲシテ之ニ署名セシムルコトヲ要ス仮令ヒ遺嘱者及ヒ証人ノ署名スル無キモ此法式ヲ履行ス可カラサルノ事由ヲ其遺嘱書ニ明記セルニ於テハ則チ其遺嘱書ハ効力ヲ有スル者トス 此種ノ遺嘱書ニ関シテハ男女ヲ問ハス年齢満十六歳ニ達スル所ノ人ハ其証人ト為ルコトヲ得可シ 第七百九十条 前条ニ掲記セル遺嘱書ハ遺嘱者ノ居住スル地方ニ於テ流行病ノ消滅セルヨリ以後ノ六月若クハ遺嘱者カ流行病無キ地方ニ転移セルヨリ以後ノ六月ヲ満過スレハ則チ効力ヲ喪失スル者トス 若シ遺嘱者カ此六月ノ期間内ニ死亡スルコト有レハ則チ其遺嘱書ハ務メテ速カニ之ヲ接収セル人ノ住居スル地方ノ証記公署ニ寄託セサル可カラス 第七百九十一条 航海中ニ於テ録製シタル遺嘱書ハ海軍ニ轄属スル軍艦ニ関シテハ其艦長カ海軍事務官ト共ニ之ヲ接収シ若シ此職員ヲ闕クコト有レハ則チ其職務ヲ代摂スル人之ヲ接収ス商船ニ関シテハ其副船長カ其船長ト共ニ之ヲ接収シ此職員ヲ闕クコト有レハ則チ其職務ヲ代摂スル人カ之ヲ接収ス 此二項ノ時会ニ在テハ共ニ其遺嘱書ハ男子ニシテ丁年ナル二箇ノ証人ノ面前ニ於テ之ヲ接収スルコトヲ要ス 第七百九十二条 海軍ニ轄属スル軍艦ニ関シテハ其艦長及ヒ海軍事務官ノ遺嘱書又商船ニ関シテハ其船長及ヒ其副船長ノ遺嘱書ハ共ニ前条ニ規定セル法則ニ准依シ其次職ニ在ル所ノ人之ヲ接収ス 第七百九十三条 前二条ニ掲記セル遺嘱書ハ必ス正本二通ヲ録製スルコトヲ要ス 第七百九十四条 軍艦若クハ商船ニ於テ録製スル遺嘱書ハ遺嘱者、接収者及ヒ証人カ之ニ署名セサル可カラス 若シ遺嘱者若クハ証人カ署名スルコトヲ解セサルカ若クハ署名スルコトヲ得サルニ於テハ則チ其署名ヲ缺クノ事由ヲ証記セサル可カラス 第七百九十五条 航海中ニ於テ録製シタル遺嘱書ハ必ス其艦船ニ在テ最モ重要ナル文書ト共ニ之ヲ保蔵スルコトヲ要シ且其事実ハ必ス之ヲ航海日記簿及ヒ船員姓名簿ニ明記セサル可カラス 第七百九十六条 此艦船カ外国ノ港埠ニシテ我カ王国ノ公使領事若クハ外交官吏ノ駐在スル所ノ処ニ繋泊スレハ則チ遺嘱書ヲ接収シタル人ハ遺嘱書ノ正本一通ト航海日記簿及ヒ船員ノ姓名簿ニ明記セシ事実ノ写本トヲ其公使若クハ領事若クハ外交官吏ニ寄託セサル可カラス 此艦船カ王国内ニ航帰スレハ則チ其卸載スル港埠ニ於テ遺嘱書ノ正本二通若シ既ニ其一通ヲ寄託セルヤ他ノ一通ト航海日記簿及ヒ海員姓名簿ニ明記セシ事実ノ写本ト共ニ其地方ノ管船公署ニ交付セサル可カラス 管船公署ニ於テハ必ス本篇ニ規定セル受付証文ヲ交付スルコトヲ要シ而シテ此受付証文ハ又之ヲ航海日記簿及ヒ船員姓名簿ニ記載セサル可カラス 第七百九十七条 公使、領事、外交官吏若クハ王国地方ノ管船公署ハ遺嘱書ヲ接収セル事由書ヲ録製シ総テ之ヲ海軍卿ニ送致セサル可カラス海軍卿ハ其正本ノ一通ヲ記録局ニ保存セシメ他ノ一通ヲ遺嘱者ノ住所若クハ終期ノ住居ノ所在地方ノ証記公署ニ送付セサル可カラス 第七百九十八条 第七百九十一条ヨリ以下ノ各条ニ照准シ航海中ニ於テ録製シタル遺嘱書ハ若シ其遺嘱者カ航海中ニ於テ死亡スルコト無キカ若クハ其遺嘱者カ通常ノ法式ニ照准シテ遺嘱書ヲ録製シ得可キノ土地ニ上陸セシヨリ以後ノ三月ヲ満過スレハ則チ効力ヲ喪失スル者トス 第七百九十九条 軍人及ヒ軍隊附属者ノ遺嘱ハ其本隊ノ軍曹其他同級ノ士官若クハ上級ノ士官若クハ会計軍吏若クハ陸軍事務官カ第七百九十一条ニ規定セル分限ヲ有スル二個ノ証人ノ面前ニ於テ之ヲ聴取ス此遺嘱ハ必ス之ヲ録記シ而シテ其署名ヲ為スニ関シテハ第七百九十四条ニ規定セル法則ニ照准セサル可カラス 本隊ヨリ分距セル隊伍ニ属スル軍人ノ遺嘱書ハ其士官若クハ其他ノ下士官ニシテ隊伍ヲ統管スル所ノ人カ之ヲ接収ス 第八百条 遺嘱者カ疾病ニ嬰ルカ若クハ傷痍ヲ被フルニ於テハ則チ其遺嘱ハ隊属ノ軍医カ前条ニ規定セル法則ニ准依シ二個ノ証人ノ面前ニ於テ之ヲ聴取ス 第八百一条 前二条ニ掲記セル遺嘱書ハ共ニ速カニ之ヲ本営ニ送致シ本営ニ於テハ又之ヲ陸軍卿ニ転送シ而シテ陸軍卿ハ又之ヲ遺嘱者ノ住所若クハ其終期ノ住居ノ所在地方ノ証記公署ニ送付セサル可カラス 第八百二条 外国ト王国内トヲ問ハス凡ソ軍役ノ名義ヲ以テ遣発セラレタル人、王国外ノ地ニ駐屯スル人、歒国歒軍ニ擒獲セラレタル人敵軍ノ囲攻スル砲台ヲ防守スル人若クハ通路ヲ絶タレタル土地ニ拠守スル人ニ限リ第七百九十九条及ヒ第八百条ニ規定セル特別ノ法式ニ准依シテ其遺嘱ヲ為スコトヲ得可シ 第八百三条 前数条ニ規定セル法式ニ准依シテ為シタル遺嘱ハ其遺嘱者カ通常ノ法式ニ准依シテ遺嘱書ヲ録製シ得可キノ地方ニ帰到セルヨリ以後ノ三月ヲ満過スレハ則チ其効力ヲ喪失ス 第三款 各般ノ遺嘱ニ通施スル条則 第八百四条 第七百七十五条第七百七十七条第七百七十八条第七百七十九条第七百八十条第七百八十一条第七百八十二条第七百八十三条第七百八十四条第七百八十六条第七百八十七条第七百八十八条第七百八十九条第七百九十一条第七百九十三条第七百九十四条第七百九十九条及ヒ第八百条ニ規定セル法式ハ若シ之ニ准依セサレハ則チ其遺嘱ハ効力ヲ有セサル者ト為ル 然レトモ私式ノ遺嘱書ニシテ之ヲ接収スルノ権理ヲ有スル公証人若クハ他ノ司訟吏ノ接収シタル所ノ者ハ仮令ヒ遺嘱タルノ効力ヲ有セサルモ若シ手記遺嘱ノ法式ニ適合スルニ於テハ則チ手記ノ遺嘱書タル効力ヲ有スルコトヲ得可シ 第四節 遺嘱ヲ以テ自由ニ処分スルコトヲ得可キ遺産ノ部分 第一款 後親及ヒ先親ニ帰属ス可キ遺産ノ准規部分 第八百五条 遺嘱ヲ以テスル贈与ハ若シ遺嘱者ノ死亡スルニ当リ其子ヲ遺存スルニ於テハ則チ其人員ノ多少ヲ論セス遺産ノ半数ヨリ超過セシムルコトヲ得可カラス 残余ニ係ル半数ハ其子ノ為メニ留存シテ以テ遺産ノ准規部分ヲ結成ス 第八百六条 前条ニ子ト言ヘルノ名義中ニハ正出ノ子正出認諾ノ子子養ノ子及ヒ其後親ヲ包含ス 然レトモ此後親ハ其人員ノ多少ニ関セス唯替承ス可キ一人ト看做シテ之ヲ計算ス 第八百七条 遺嘱者カ若シ子及ヒ後親ヲ遺存セスシテ唯々先親ノミヲ遺存スルニ於テハ則チ資産全額ノ三分ノ二ハ自由ニ之ヲ処分スルコトヲ得可シ 准規部分即チ三分ノ一ハ之ヲ均分シテ以テ其父及ヒ其母ニ帰属セシム若シ父母ノ其一人ヲ缺クコト有レハ則チ全ク其一人ニ帰属ス 遺嘱者カ若シ其父及ヒ其母ヲ遺存セスシテ其父族及ヒ其母族ニ先親ヲ遺存シ而シテ其先親カ同等親ニ係レハ則チ遺産ノ准規部分ヲ均分シテ之ニ帰属シ若シ異等親ニ係レハ則チ准規部分ヲ全括シテ之ヲ父族若クハ母族ノ最近親族ニ帰属セシム 第八百八条 准規部分ハ即チ遺産額内ノ一部分ニシテ純全ナル所有ト為シテ以テ子、後親及ヒ先親ニ帰属スル者トス故ニ遺嘱者ハ此准規部分ニ向テハ之ヲシテ何等ノ責課及ヒ何等ノ規約ヲモ負担セシムルコトヲ得可カラス 第八百九条 遺嘱者カ若シ後親及ヒ生存スル先親ヲ遺存セサルニ於テハ則チ其資産ノ全部ハ全括ノ名義ヲ以テスルト特示ノ名義ヲ以テスルトヲ問ハス自由ニ之ヲ処分スルコトヲ得可シ 然レトモ本節第二款ノ条則ニ於テ規定ス可キ所ノ生存スル配偶者及ヒ私生ノ子ノ権理ハ必ス之ヲ留存セサル可カラス 第八百十条 遺嘱者カ収額得有権若クハ終身年金収入権ヲ某人ニ贈遺シ而シテ其歳収額カ自由贈遺部分ヨリ超過スルコト有ルニ於テハ則チ承産者ニシテ法律上之カ為メニ准規部分ヲ留存スル所ノ人ハ此贈遺ノ行為ヲ践履スルカ若クハ自由贈遺部分ノ所有権ヲ放棄スルカノ二者ノ其一ヲ択定スルコトヲ得可シ 准規部分ノ得権者ハ遺嘱者カ自由贈遺部分ヨリ超過セル部分ノ物体所有権ヲ贈遺シタル時会ニ於テモ亦此択定ノ権理ヲ行用スルコトヲ得可シ 第八百十一条 遺産ノ准規部分ニ向テ権理ヲ有スル一人ノ承産者ハ終身年金収入権ノ売買契約若クハ物体所有権ノ売買契約ヲ以テ転付セラレタル財産ノ全価ヲ自由贈遺部分ノ数額ニ比算シ若シ之ニ超過スルニ於テハ則チ其超過スル数額ハ必ス之ヲ供還セサル可カラス 均シク共ニ准規部分ニ権理ヲ有スル他ノ承産者ニシテ此等ノ売買契約ヲ為スコトヲ承諾シタル所ノ人ハ此醵還ヲ訟求スルコトヲ得可カラス 第二款 遺嘱承産ニ関シ生存スル配偶者及ヒ私生ノ子ノ保有スル権理 第八百十二条 配偶者ニシテ自己カ既決ノ効力ヲ有スル夫妻別居ノ裁判宣告ヲ受ケサル所ノ人ハ他ノ一方ノ配偶者ノ死亡スルニ当リ其准規ノ子若クハ其後親ヲ遺存セルニ於テハ則チ其死亡者ノ遺産ニ関シテハ准規部分ノ名義ヲ以テ各子ニ帰属ス可キ部分ト均同ナル部分ニ向テ収額得有権ヲ有ス而シテ其准規部分ノ分配ニ関シテハ此配偶者ヲ以テ各子中ノ一人ト看做シテ以テ之ヲ計算ス 第八百十三条 遺嘱者カ若シ後親ヲ遺存セスシテ唯先親ノミヲ遺存スルニ於テハ則チ生存スル配偶者ニ帰属ス可キ者ハ即チ遺産全額四分ノ一ノ収額得有権ト為ス 第八百十四条 遺嘱者カ若シ後親及ヒ准規部分ノ遺産ニ権理ヲ有スル先親ヲ併セテ共ニ之ヲ遺存セサルニ於テハ則チ生存スル配偶者ノ承産権ハ遺産全額三分ノ一ノ収額得有権ト為ス 第八百十五条 遺嘱者カ准規ノ子若クハ先親及ヒ法律上ノ認定ヲ得タル私生ノ子ヲ遺存スルニ於テハ則チ此私生ノ子ハ若シ正出ノ子ニ係レルヤ即チ当然ニ自由ニ帰属ス可キ遺産部分ノ半数ヲ得有スルノ権理ヲ有ス 私生ノ子ニ帰属ス可キ遺産部分ヲ計算スルニハ正出ノ子ノ一人ト看做シテ以テ之ヲ計算ス准規ノ子ハ第七百四十四条ニ規定セル法則ニ准依シ私生ノ子ノ権理ニ対シテ之ヲ弁償スルコトヲ得可キノ権理ヲ有ス 第八百十六条 遺嘱者カ若シ准規先親及ヒ准規後親ヲ併セテ共ニ之ヲ遺存セサルニ於テハ則チ私生ノ子ハ若シ正出ノ子ニ係レルヤ即チ当然ニ自己ニ帰属ス可キ遺産部分三分ノ二ヲ得有スルノ権理ヲ有ス 第八百十七条 早世シタル私生ノ子ノ准規後親ハ前数条ニ於テ私生ノ子ノ為メニ規定セル権理ヲ請求スルコトヲ得可シ 第八百十八条 生存スル配偶者及ヒ私生ノ子ニ帰属ス可キ遺産部分ハ准規後親若クハ准規先親ニ帰属ス可キ准規部分ヲ減殺セス専ラ自由贈遺部分ヲ減殺シテ以テ之ヲ結成ス 第八百十九条 承産者ハ生存スル配偶者ノ権理ニ対シ之ヲ弁償スルニ関シテハ終身年金ノ契約ヲ以テシ或ハ不動産若クハ資本金若クハ遺産額内ノ資本金ニシテ其時際ノ景況ニ従ヒ彼此ノ協議ニ因テ評定シ或ハ法衙ニ於テ評定シタル収額ヲ交付シテ以テ之ヲ弁償スルコトヲ得可キノ自由ヲ保有ス 生存スル配偶者ハ自己ノ得有ス可キ遺産部分ノ弁償方ノ確定スルニ至ル迄ハ遺産ノ全額ニ向テ其収額得有権ヲ有ス 第八百二十条 生存スル配偶者及ヒ私生ノ子ハ各自ニ帰属ス可キ遺産ノ収額及ヒ其所有ノ権理ニ関シテハ准規部分ノ得権者カ准規部分ニ向テ享有スル所ノ権理ト同一ノ権理ヲ有シ及ヒ同一ノ保証ヲ受ク但第八百十五条及ヒ第八百十九条ニ掲記セル事件ノ如キハ此例外ニ在リトス 然レトモ生存スル配偶者及ヒ私生ノ子ハ啻ニ遺嘱ニ因テ得有スル財産ニ関スルノミナラス其権理ヲ有スル部分ニ関シテモ亦必ス扣断ヲ受ク可キ者有リトス即チ生存スル配偶者ニ在テハ婚姻ニ関スル財産契約ニ依テ自己ニ帰属スル者私生ノ子ニ在テハ遺産者ノ生存中ニ領有シ而シテ本篇第三章第四節中ノ条則ニ准依シテ必ス扣断ヲ受ク可キ者是ナリ 第三款 遺嘱贈遺ノ減殺 第八百二十一条 遺嘱ノ行為ニシテ自由贈遺部分ヨリ超過スル部分ハ承産法ヲ開始スル時ニ於テスル此自由贈遺部分ノ額内ニ就キ之ヲ減殺ス 第八百二十二条 此減殺ヲ行フ為メニハ先ツ遺嘱者ノ負債額ヲ扣断シ而シテ其死亡セル時際ニ現在シタル財産ノ総額ヲ計算ス 次ニ遺嘱者カ贈与ノ名義ヲ以テ処分シタル財産ハ動産物件ニ関シテハ其贈与ヲ為セル時際ノ価格ニ従ヒ不動産物件ニ関シテハ其贈与ヲ為セル時際ノ景況ニ従ヒ而シテ其価格ハ贈与者ノ死亡セル時際ノ数額ニ従テ以テ其価直ノ総額ヲ計算ス此ノ如ク算定セル総額ニ向テ更ニ准規部分ニ権理ヲ有スル承産者ノ分限ニ関シテ其遺嘱者ノ自由ニ処分スルコトヲ得可キ部分ノ幾許ナリシカヲ算定ス 第八百二十三条 若シ贈与セシ財産ノ価額カ自由贈遺部分ヨリ超過スルカ若クハ同額ニ係ルニ於テハ則チ一切ノ遺嘱ノ贈遺ハ総テ効力ヲ有セサル者トス 第八百二十四条 若シ遺嘱ノ贈遺カ自由贈遺部分若クハ自由贈遺部分ニシテ贈与ノ価額ヲ扣断セル所ノ者ヨリ超過スルニ於テハ則チ其減殺方ハ承産者ト受遺者トニ区別ヲ為サス彼此ニ比例シテ之ヲ減殺ス 第八百二十五条 然レトモ若シ遺嘱者カ此ノ贈与ハ他ノ贈与ヨリモ択取セシメンコトヲ欲スト公言シタルニ於テハ則チ其意望ノ如ク処分スルコトヲ得セシム而シテ此ノ如キ行為ニ関シテハ他ノ贈与ノ価額カ准規部分ヲ充全セシムルニ足ラサルノ時会ニ於ケルニ非サレハ則チ減殺ヲ受クルコト無キ者トス 第八百二十六条 減殺ス可キ遺嘱ノ贈遺カ若シ不動産物件ニシテ其分割ハ便宜ニ為シ得可キ者ニ係レハ則チ其減殺方ハ其不動産物件ノ減殺価額ニ相当スル部分ヲ分割シテ以テ之ヲ交付ス 若シ其不動産物件カ便宜ニ分割スルコトヲ得可カラス而シテ受遺者カ其不動産物件ニ向テ自由贈遺部分ニ超過スル其四分ノ一以上ノ権理ヲ有スルニ於テハ則チ此受遺者ハ其不動産物件ヲ以テ全ク之ヲ遺産ノ額内ニ留存セサル可カラス但自由贈遺部分ニ関スル価直ヲ請求スル如キハ即チ特別ノ事ニ属ス若シ超過セル価額カ四分ノ一ト均同ナルカ若クハ之ヨリ減少セルニ於テハ則チ受遺者ハ准規部分ノ得権者ニ対シ価金ヲ弁償シテ以テ全ク其不動産物件ヲ収有スルコトヲ得可シ 然レトモ受遺者ニシテ准規部分ニ権理ヲ有スル人ハ全ク其不動産物件ヲ収有スルコトヲ得可シ但々其不動産物件ノ価額ハ自由贈遺部分及ヒ准規部分ノ額内ニ於テ当然ニ自己ニ帰属ス可キ部分ノ価額ヨリ超過セサルコトヲ要ス 第五節 承産者ノ指定及ヒ贈遺 第八百二十七条 遺嘱ノ行為ハ承産者指命ノ名義若クハ贈遺ノ名義若クハ其他遺嘱者ノ意望ヲ明表ス可キ名義ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得可シ 第八百二十八条 全括ノ名義若クハ特示ノ名義ヲ以テスル遺嘱行為ニシテ其事由タルヤ差錯ト認定ス可ク且遺嘱者カ単ニ此事由ノミニ因テ為シタル者タルニ於テハ則チ効力ヲ有セサル者トス 第一款 遺嘱行為ノ標率ト為ル可キ人件及ヒ物件 第八百二十九条 遺嘱書中ニ指定セル某人ノ為メニスル行為ハ唯是レ外貌ノ約束タルニ過キスシテ其内実ハ他ノ某人ニ向テ之ヲ為シタリト証言スルコトヲ許サス仮令ヒ遺嘱書ノ文面カ此ノ如ク看做ス可ク若クハ此ノ如ク推定ス可キ者ニ似タル有ルモ決シテ然カク証言スルコトヲ得可カラス 前項ノ条件ハ承産者ノ指定及ヒ遺嘱ノ贈遺カ其承産者ノ承産ニ不合格ナル為メニ他ノ間介者ニ向テ之ヲ為シタリト言フノ攻撃ヲ来タセル時会ニハ之ヲ擬施スルコトヲ得可カラス 第八百三十条 一箇ノ人ニシテ得テ確認ス可カラサル如ク其レ不定ナル者ノ為メニスル遺嘱ノ行為ハ効力ヲ有セサル者トス 第八百三十一条 我カ霊魂ノ為メニシ若クハ人ノ霊魂ノ為メニ冥福ヲ修セヨト泛言セル遺嘱ノ行為ハ効力ヲ有セサル者トス 第八百三十二条 貧窶者若クハ其他ノ窮乏者ノ為メニスト泛言セル遺嘱ノ行為ニシテ其供用ヲ指定セス若クハ慈済ノ為メニシ若クハ公同陰舎ノ為メニスルコトヲ指定セス若クハ遺嘱者ノ此等ノ事件ヲ指定スルコトヲ委任シタル人カ其委任ヲ果行スルコト能ハサルカ若クハ其委任ヲ諾受スルコトヲ欲セサルニ於テハ則チ遺嘱者ノ死亡セル土地ノ貧窶者等ノ為メニ贈遺セル者ト看做シ遺産ヲ其土地ノ済貧院舎ニ帰属セシム 第八百三十三条 「ベネフィス、サンプル」「シャペルニー、ライック」共ニ寺観ノ一種若クハ之ニ類似セル院舎ニ襯施スルノ目的ヲ以テ為シタル遺嘱ノ行為ハ総テ効力ヲ有セサル者トス 第八百三十四条 第三位ノ人ヲシテ指示セシム可キ不定ノ人ノ為メニスル遺嘱ノ行為ハ効力ヲ有セサル者トス 然レトモ遺嘱者ノ指定シタル親属ニ係リ若クハ無形人ニ係レル数箇ノ人ノ中ニ就キテ第三位ノ人ヲシテ択定セシム可キ一箇ノ人ノ為メニスル特示ノ遺嘱行為ハ効力ヲ有スル者トス又遺嘱者カ此ノ如ク択定セル無形人タル一箇ノ社団ノ為メニスル特示遺嘱ノ行為モ亦効力ヲ有スル者トス 第八百三十五条 承産者若クハ第三位ノ人ニ対シテ贈遺ノ部分ヲ限定ス可キ権理ヲ留存セル所ノ遺嘱行為ハ効力ヲ有セサル者トス但々遺嘱者ノ臨終ニ其疾病ヲ診療シ看護セル人ニ対シ報酬ノ名義ヲ以テ為シタル遺嘱行為ノ如キハ此限ニ在ラス 第八百三十六条 承産者若クハ受遺者タル人カ仮令ヒ正当ニ指示セラレサルモ其遺嘱書中ノ文面若クハ此他ノ書類ノ文面ニ於テ遺嘱者ノ指定シタル人ノ確カニ誰某タルコトヲ証徴ス可キ明白ナル事件ノ在ル有レハ則チ其遺嘱ノ行為ハ効力ヲ有スル者トス 贈遺物件カ仮令ヒ正当ニ指示セラレス若クハ正当ニ詳記セラレサルモ人看テ以テ明確ニ遺嘱者ノ意望ノ在ル所ヲ証徴ス可キ者ノ如キモ亦然リトス 第八百三十七条 他人ノ所有ニ属スル物件ノ贈遺ハ効力ヲ有セサル者トス但遺嘱書中ニ於テ遺嘱者カ其物件ノ現ニ他人ノ所有ニ属スルコトヲ明言シタル如キハ此限ニ在ラス此時会ニ於テハ承産者カ受遺者ニ交付スル為メニ其物件ヲ購買スルト相当ナル価直ヲ以テ受遺者ニ交付スルトハ一ニ承産者ノ意思ニ任カス 若シ贈遺物件カ遺嘱書ヲ録製セル時際ニ在テハ他人ノ所有ニ属シタルモ遺嘱者ノ死亡セル時際ニ当テハ既ニ自己ノ所有ニ帰シタルニ於テハ則チ其遺嘱ノ行為ハ効力ヲ有スル者トス 第八百三十八条 承産者ニ帰属スル物件若クハ受遺者ニシテ贈遺物件ヲ第三位ノ人ニ交付ス可キコトヲ委託セラレタル人ニ帰属スル物件ノ贈遺ハ共ニ効力ヲ有スル者トス 第八百三十九条 遺嘱者、承産者若クハ受遺者カ唯贈遺物件ノ一部若クハ贈遺物件ニ関スル権理ノミノ所有者タルニ於テハ則チ其贈遺ハ亦唯々其一部若クハ其権理ニ向テノミ効力ヲ有スル者トス但遺嘱者ノ意望カ第八百三十七条ニ准依シ其物件ノ全部ヲ挙ケテ贈遺セル者ト看認ス可キニ於テハ則チ其全部ヲ贈遺セル者ト認定ス 第八百四十条 某類中若クハ某種中ノ不定ナル動産物件ニ関スル贈遺ハ仮令ヒ其類其種ノ動産物件カ遺嘱書ヲ録製セル時際ニ於テ遺嘱者ノ財産中ニ現在スルコト無ク若クハ又遺嘱者ノ死亡セル時際ニ於テ其財産中ニ現在スルコト無キモ亦効力ヲ有スル者トス 第八百四十一条 遺嘱者カ某類中若クハ某種中ニ於テ特示シ若クハ含存セシムル動産物件ヲ以テ自己ノ所有ニ属スル者ト為シテ以テ之ヲ贈遺シタルコト有ルモ若シ其動産物件カ遺嘱者ノ死亡スル時際ニ於テ其財産中ニ現在スルコト無ケレハ則チ其贈遺ハ効力ヲ有セサル者トス 若シ其動産物件カ遺嘱者ノ死亡スル時際ニ於テ其財産中ニ存在スルコト有ルモ其限額ヨリ減耗セルニ於テハ則チ其贈遺ハ唯現ニ存在スル数額ニ向テノミ効力ヲ有スル者トス 第八百四十二条 某ノ場地ニ於テ一箇ノ物件若クハ若干ノ物数ヲ占取セシム可キノ贈遺ハ若シ其物件若クハ其物数カ其場地ニ現在スルニ於テハ則チ効力ヲ有スル者トス又若シ遺嘱者ノ指示スル額数ノ現在セサルニ於テハ則チ唯々其現在スル部分ニ向テノミ効力ヲ有スル者トス 第八百四十三条 一個ノ物件ニシテ遺嘱書ヲ録製セル時際ニ当リ既ニ受遺者ノ所有ニ属スル者ノ贈遺ハ効力ヲ有セサル者トス 若シ受遺者カ遺嘱書ヲ録製セル以後ニ於テ他ノ人ヨリ此贈遺物件ヲ得有シ而シテ第八百三十七条ニ規定セル各般ノ景況ノ在ル有レハ則チ受遺者ハ第八百九十二条ニ規定スル事件有ルニ拘ハラスシテ其贈遺物件ノ価直ヲ得有スルノ権理ヲ有ス但々此二箇ノ時会ニ於テ其贈遺物件カ不要報ノ名義ニ因テ受遺者ニ帰属セシ者ノ如キハ此限ニ在ラス 第八百四十四条 行責権若クハ債額棄捐権ノ贈遺ハ唯遺嘱者ノ死亡セル時際ニ於テ現存セル部分ニ向テノミ効力ヲ生スル者トス 此種ノ贈遺ニ関シテハ承産者ハ唯々贈遺セル貸付証券ニシテ遺嘱者ノ手中ニ保存シタル者ヲ受遺者ニ交付スルノミヲ以テ足レリトス 第八百四十五条 若シ遺嘱者カ自己ノ負債額ヲ明記セスシテ債主ニ他ノ贈遺ヲ為シタルニ於テハ則チ其贈遺ハ受遺者ニ対スル負債額弁償ノ為メニスル者トハ看認ス可カラス 第八百四十六条 生計ナル名義ヲ以テスル贈遺ハ食料、衣服、住屋、其他受遺者ノ生存中ニ必要スル各般ノ物件ヲ包含シ且或ル時会ニ於テハ受遺者ノ身位ニ相当スル教育ニモ推及ス可キ者トス 第八百四十七条 一箇ノ不動産物件ノ所有権ヲ贈遺シタル人カ爾後更ニ購買シテ以テ其不動産ヲ増加セルコト有ルヤ仮令ヒ此増加セル者カ在来ノ者ト連接スルモ特別ノ約款有ルニ非サレハ則チ贈遺部分ニハ算入ス可カラス 然レトモ贈遺スル不動産物件ニ加フルノ修飾若クハ新タニ之ニ設クルノ建築若クハ其周囲ニ環繞スル籬柵ノ拡展ノ如キハ皆是レ在来ノ不動産ノ一部分ト看做ス 第二款 規約ヲ帯ヒ若クハ期限ヲ帯ヒタル遺嘱ノ行為 第八百四十八条 全括ノ名義ヲ以テシ若クハ特示ノ名義ヲ以テスル遺嘱ノ行為ハ規約ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得可シ 第八百四十九条 遺嘱書中ニ於テ不做得ノ規約、法律ニ違犯シ若クハ風俗ニ乖戻スル規約ヲ記載シタルハ未タ嘗テ之ヲ記載セサリシ者ト看做ス 第八百五十条 遺嘱ノ行為ニシテ初次ノ婚姻若クハ再次ノ婚姻ヲ妨阻スル規約ヲ立ツル者ノ如キハ即チ法律ニ反対スル者ト為ス 然レトモ収額得有権、使用権、占住権、年金収入権若クハ此他ノ定期収入権等ニシテ不婚独居ヲ為シ若クハ鰥寡居ヲ為セルノ時会若クハ其期間ニ向テ為ス所ノ贈遺ニ関スル受遺者ハ唯々其不婚独居ヲ為シ若クハ鰥寡居ヲ為セルノ時会若クハ其期間ニ於テノミ之ヲ享有スルコトヲ得可シ 一方ノ配偶者カ他ノ一方ノ配偶者ノ為メニスル遺嘱ノ行為ニシテ其鰥寡居ヲ為セルノ期間ニ関スル規約ノ如キモ亦効力ヲ有スル者トス 第八百五十一条 全括ノ名義ヲ以テスル遺嘱ノ行為ニ関シテ之ヲ開始シ若クハ之ヲ終了スルノ本日ヲ遺嘱書ニ記載スルコト有ルヤ未タ嘗テ之ヲ記載セサリシ者ト看做ス 第八百五十二条 遺嘱者カ自己モ亦其承産者若クハ受遺者ノ遺嘱ニ因テ利益ヲ得有ス可キノ規約ヲ帯セタル全括若クハ特示ノ名義ヲ以テスル遺嘱ノ行為ハ効力ヲ有セサル者トス 第八百五十三条 停住ニ関スル規約ヲ帯ヒタル遺嘱ノ行為ハ之ニ関シテ利益ヲ有スル人カ其規約ヲ未タ充全セサル以前ニ死亡スルコト有レハ則チ効力ヲ喪失スル者トス 第八百五十四条 遺嘱者ノ意思ニ在テハ唯々其遺嘱行為ノ履行ヲ停止スルノミノ規約ノ如キハ承産者若クハ受遺者カ此規約ノ未タ充全セサル以前ト雖モ其権理ヲ得有シ更ニ之ヲ自己ノ承産者ニ転付スルコトヲ妨阻セサル者トス 第八百五十五条 遺嘱者カ若シ承産者若クハ受遺者ヲシテ某ノ事件ヲ為サヽルノ責務若クハ某ノ物件ヲ転付セサルノ責務ヲ負担セシメテ以テ遺産ヲ留存シ若クハ之ヲ贈遺シタルニ於テハ則チ承産者若クハ受遺者ハ此等ノ責務ヲ履行セサルノ時会ニ於テハ当サニ其留存セル遺産若クハ贈遺ノ帰属ス可キ人ニ対シテ遺嘱者ノ意望ヲ果行スル為メニ充分ナル保人ヲ立定シ若クハ保金ヲ供出セサル可カラス 第八百五十六条 遺嘱者カ若シ某人ニ向テ規約ヲ帯ヒタル贈遺ヲ為シ若クハ或ル期間ノ後ニ至リ果行ス可キ贈遺ヲ遺留シタルニ於テハ則チ其果行ヲ委託セラレタル人ハ受遺者ニ対シテ保人ヲ立定シ若クハ保金ヲ供出セサル可カラス 第八百五十七条 若シ停住ニ関スル規約ヲ以テ承産者ヲ指定セル有ルニ於テハ則チ此規約ノ充全ヲ得ルカ若クハ確然ニ之ヲ充全シ得可カラサルニ至ル迄ハ其贈遺セル遺産ニ向テ一箇ノ管理者ヲ指命セラル可キ者トス 承産者若クハ受遺者カ前二条ニ規定セル保人ヲ立定ス可キ責務ヲ践行セサル時会ニ於テモ亦然リトス 第八百五十八条 贈遣セル遺産ノ管理ハ之ヲ共同承産者ニ委託セラル可キ者トス然レトモ規約ヲ帯ヒスシテ指定セラレタル承産者ト規約ヲ帯ヒテ指定セラレタル承産者トノ間ニ派増ノ権理ヲ共有ス可キノ時会ニ在テハ其管理ハ規約ヲ帯ヒサル承産者ニ委託セラル可キ者トス 第八百五十九条 若シ規約ヲ帯ヒタル承産者カ共同承産者ヲ有セス若クハ自己ト共同承産者トノ間ニ派増ノ権理ノ存在スルコト無キニ於テハ則チ其管理ハ遺嘱者ノ推定准規承産者ニ委託セラル可キ者トス但法衙カ至当ナル理由ノ在ル有ルニ因リ他ノ方法ヲ施行スルヲ以テ便宜ナリト判決セル時会ノ如キハ此例外ニ属ス 第八百六十条 前三条ノ条則ハ第七百六十四条ニ掲記セル生存シ且確定シタル人ノ子ニシテ尚ホ未タ胎孕セラレザリシ所ノ者カ承産ス可キ時会ニ向テモ亦之ヲ擬施スルコトヲ得可シ 若シ此指定セル承産者カ其後ニ胎孕セラルヽコト有レハ則チ贈遺セル遺産ノ管理ハ其父若シ之ヲ缺ケハ其母ニ委託セラル可キ者トス 第八百六十一条 前数条ニ掲記セル管理者ハ主者ヲ知ル可カラサル遺産ノ保管者ト同一ナル任務ヲ負担シ及ヒ同一ナル権理ヲ保有ス 第三款 贈遺ノ効力及ヒ其弁償 第八百六十二条 単純ナル贈遺ハ受遺者ヲシテ遺嘱者ノ死亡セル本日ヨリ其贈遺物件ヲ領受スルノ権理ヲ有セシメ而シテ其権理ハ受遺者ノ承産者ニ向テ之ヲ転付スルコトヲ得可キ者トス 第八百六十三条 受遺者ハ贈遺物件ノ交付ヲ遺嘱者ノ承産者ニ請求セサル可カラス 第八百六十四条 受遺者ハ裁判上ニ於テ贈遺物件ノ交付ヲ請求シタル本日若クハ贈遺物件ノ交付ヲ約束シタル本日ヨリ以後ニ於テスルニ非サレハ則チ其贈遺物件ニ関スル収額若クハ利息ヲ得有スルコトヲ得可カラス 第八百六十五条 贈遺物件ニ関スル利息若クハ収額ニシテ受遺者ノ為メニ遺嘱者ノ死亡スル本日ヨリ起算ス可キ者ハ即チ左項ノ時会ニ在リトス 第一項 遺嘱者カ特ニ其起算ヲ遺命セルノ時会 第二項 其贈遺物件カ他所若クハ資本金其他凡ソ収額ヲ生殖ス可キ所ノ者ニ係レルノ時会 第八百六十六条 若シ終身年金契約ノ権理若クハ終身年金恩給ノ権理ヲ贈遺セルニ於テハ則チ遺嘱者ノ死亡セル本日ヨリ其収額若クハ利息ヲ起算ス 第八百六十七条 毎定期ノ弁償例之ハ毎年若クハ毎月若クハ其他ノ期限ニ照シテ確定ノ額数ヲ弁償ス可キノ贈遺ニ関シテハ其第一期ハ遺嘱者ノ死亡セル時際ヨリ起算シ受遺者ハ仮令ヒ第一期ノ期間以後ニ死亡スルコト有ルモ亦其当期ニ弁償ス可キ全額ニ向テ之ヲ得有スルノ権理ヲ有ス 然レトモ其期間ノ終末ニ至ルニ非サレハ則チ其弁償額ノ交付ヲ請求スルコトヲ得可カラス 生計ノ名義ヲ以テスル贈遺ニ関シテハ各定期ノ初頭ニ於テ其交付ヲ請求スルコトヲ得可シ 第八百六十八条 若シ数箇ノ承産者中ニ於テ一人タモ特ニ贈遺物件ノ弁償ヲ委託セラレタル者無キニ於テハ則チ各承産者カ各自ニ得有スル部分ニ派当シテ以テ之ヲ弁償セサル可カラス 第八百六十九条 若シ特ニ贈遺物件ノ弁償ヲ承産者中ノ一人ニ委託セラレタルニ於テハ則チ其承産者ハ自已全ク之ヲ弁償セサル可カラス 共同承産者中ノ一人ニ属スル物件カ贈遺ニ供充セラレタルニ於テハ則チ他ノ共同承産者ハ遺産ニ向テ得有スル各自ノ部分ニ派当シ金額若クハ地所ヲ以テ其物件ノ価直ヲ弁償セサル可カラス但遺嘱者カ之ニ反対セル意望ヲ有シタルコトヲ推断ス可キ時会ノ如キハ此限ニ在ラス 第八百七十条 某類中若クハ某種中ニ包含セル不定ナル物件ノ贈遺ニ関シテハ其物件ヲ択定スル権理ハ承産者ニ帰属ス而シテ承産者ハ其物件ノ最良ナル者ヲ交付セサル可カラサルノ責務ヲ有セス又其最悪ナル者ヲ交付スルコトヲ得可キノ権理ヲ有セス 第八百七十一条 若シ此択定ノ権理カ第三位ノ人ノ専断ニ委付セラレタル時会ニ於テモ亦同一ノ法則ヲ擬施スルコトヲ得可シ 第八百七十二条 第三位ノ人カ若シ其択定ヲ為スコトヲ拒却スルカ若クハ死亡或ハ他ノ事障有ルカ為メニ之カ択定ヲ為スコトヲ能ハサルニ於テハ則チ亦同一ノ法則ニ准依シ法衙ニ於テ之ヲ択定ス 第八百七十三条 若シ其択定ヲ為スノ権理ヲ受遺者ニ委付セラレタルニ於テハ則チ受遺者ハ遺嘱者ノ遺産中ニ就キテ其最良ナル者ヲ択取スルコトヲ得可シ然レトモ若シ受遺者カ自カラ択取ス可キ者無シト思量スルニ於テハ則チ承産者ノ択定ヲ為スニ関シテ規定セル法則チ之ニ擬施スルコトヲ得可シ 第八百七十四条 二箇ノ物件ノ其一ヲ択定ス可キノ贈遺ニ関シテハ其択定ヲ為スノ権理ハ之ヲ其承産者ニ委付シタル者ト推定ス 第八百七十五条 択定ヲ為スノ権理ヲ有スル承産者若クハ受遺者カ択定ヲ為スコトヲ得サリシニ於テハ則チ此権理ハ此等ノ承産者ニ移属ス若シ既ニ一タヒ此択定ヲ為シタルニ於テハ則チ決シテ之ヲ収鎖スルコトヲ得可カラス 若シ遺嘱者ノ資産中ニ於テ贈遺ニ供充セシ某類若クハ某種ニ係レル物件カ唯其一箇ノミト雖トモ現存セルコト有レハ則チ承産者若クハ受遺者ハ遺嘱者ノ資産外ニ向テ之ヲ択定スルコトヲ得可カラス但々之ニ反対スル遺嘱ノ在ル有ル如キハ此限ニ在ラス 第八百七十六条 贈遺物件ハ必要ニ之ニ随属スル所ノ物件ト共ニ遺嘱者ノ死亡セル時際ノ景況ヲ以テ之ヲ交付ス可キ者トス 第八百七十七条 贈遺物件ノ交付ニ関スル必要ノ費用ハ其遺産ニ負担セシム可キ者トス但法律上ニ於テ留存セシムル准規部分ヲ減殺スルコトヲ得可カラス 遺産承襲ニ関スル税金ハ承産者ノ負担ス可キ者トス但々贈遺物件カ之ヲ負担ス可キ者タルニ於テハ則チ承産者ハ受遺者ニ向テ其弁償ヲ要求シ得可キノ権理ヲ有ス 第八百七十八条 若シ贈遺物件カ定期年金契約、地所ヲ以テスル年金契約、通務権若クハ其他地所ニ密着スル責課ヲ負担セシメラレタルニ於テハ則チ其責課ハ受遺者之ヲ負担セサル可カラス 然レトモ若シ贈遺物件カ単純ナル年金契約遺産若クハ第三位ノ人ノ負債ノ為メニ之ヲ勒抵セラレタルニ於テハ則チ承産者ハ其年金若クハ利息ヲ弁償シ及ヒ其負債ノ性質ニ応シテ母金ヲ弁償セサル可カラス但遺嘱者カ之ニ異ナル処分ヲ為シタル者ノ如キハ此限ニ在ラス 第四款 共同承産者ノ間若クハ共同受遺者ノ間ニ存在スル派増ノ権理 第八百七十九条 若シ指定セラレタル共同承産者中ノ一人カ遺嘱者ニ先タツテ死亡スルカ若クハ遺産ノ承襲ヲ拒却スルカ若クハ承産ニ不合格ナルノ時会ニ於テ派増ノ権理ノ存在スルコト有レハ則チ此一人ノ承襲部分ハ他ノ共同承産者ニ分属ス但第八百九十条ニ規定スル時会ノ如キハ此限ニ在ラス 第八百八十条 増ノ権理ノ各共同承産者ノ間ニ存在スルハ其共同承産者カ一箇ノ遺嘱中及ヒ一箇ノ条款中ニ於テ相共ニ承産者ト指定セラレ且遺嘱者カ其承産者ニ向テ各自ノ承産部分ヲ派定セサリシノ時会ニ於テスル者トス 第八百八十一条 承産部分ヲ派定セリト推定ス可キハ唯遺嘱者カ其承産者ノ各自ニ向テ特ニ其承産部分ヲ派定シタルノ時会ニ於テスル者トス且唯々均一ノ部分若クハ均一ノ区分ト言ヘルノ語辞ノミヲ以テスルモ派増ノ権理ヲ喪失セシムルコト無シ 第八百八十二条 共同承産者ニシテ派増ノ権理ニ依拠シ欠缺承産者ノ承襲部分ヲ得有スルノ人ハ其欠缺承産者ノ負担ス可キ責課ヲ負担セサル可カラス 第八百八十三条 派増ノ権理ノ存在スル無ケレハ則チ欠缺承産者ノ承襲部分ハ准規承産者ニ帰属ス 此准規承産者ハ其欠缺承産者ノ負担ス可キ責課ヲ負担セサル可カラス 第八百八十四条 共同受遺者中ノ一人カ遺嘱者ニ先タツテ死亡スルカ若クハ贈遺ヲ辞却スルカ若クハ受遺ニ不合格ナルカ若クハ規約ヲ以テ受遺者ト為リシニ其規約カ充全ナラサルニ於テハ則チ第八百八十条及ヒ第八百八十一条ノ条則ニ照依シ其共同受遺者ノ間ニ派増ノ権理ヲ得有セシム又一個ノ遺嘱中ニ於ケル各別ノ条款ヲ以テスルモ一個ノ物件ヲ数箇ノ人ニ贈遺スルノ時会ハ亦之ニ准ス 第八百八十五条 若シ数箇ノ人ニ対シテ一箇ノ収額得有権ヲ留存シ而シテ其各自ノ間ニ前数条ニ規定セル法則ニ遵依セル派増ノ権理ノ存在スルコト有ルニ於テハ則チ其欠缺受遺者ノ領受部分ハ仮令ヒ既ニ之ヲ領受セルノ以後ニ係ルモ亦均シク他ノ各受遺者ニ分属ス若シ各受遺者ノ間ニ派増ノ権理ノ存在スルコト無キニ於テハ則チ其欠缺受遺者ノ領受部分ハ物体所有権ニ混併スル者トス 第八百八十六条 若シ各受遺者ノ間ニ派増ノ権理ノ存在スルコト無キニ於テハ則チ欠缺受遺者ノ領受部分ハ遺嘱者ノ承産者若クハ贈遺物件ノ弁償ヲ委託セラレタル受遺者ニ帰属ス又若シ遺産カ贈遺物件ノ弁償ヲ負担セルニ於テハ則チ各承産者ノ承襲部分ニ比例シテ以テ各自ニ帰属ス 第八百八十七条 第八百八十二条即チ欠缺承産者ニ関スル条則ハ共同受遺者ニシテ派増ノ権理ヲ有スル人承産者若クハ受遺者ニシテ領受者ヲ欠ク所ノ贈遺ニ利益ヲ有スル人ニ対シテモ亦之ヲ擬施ス可シ 第五款 遺嘱行為ノ収銷及ヒ無効 第八百八十八条 遺嘱書ヲ録製スル時際ニ於テ子若クハ後親ヲ有セス或ハ之ヲ有スルコトヲ知ラサリシ所ノ遺嘱者カ為シタル全括若クハ特示ノ遺嘱行為ハ准規ノ子若クハ後親ノ現ニ存在スルカ若クハ爾後ニ産生スルコト有レハ則チ其遺嘱書ヲ収銷スルコトヲ得可シ其子若クハ後親ニ関シテハ復タ其遺嘱者ノ死亡セル以後ニ産生スル者正出ノ認諾ヲ得タル者、子養セラレタル者トノ区別ヲ問ハサルナリ 遺嘱書ヲ録製スル時際ニ於テ現ニ胎孕セラレタル子又正出認諾ヲ受ケタル私生ノ子ニシテ遺嘱以前ニ遺嘱者ニ認定セラレ遺嘱以後ニ正出認諾ヲ受ケタル者ニ関シテモ亦之ニ准ス 遺嘱者カ子若クハ此子ノ後親ノ現ニ存在スルカ若クハ爾後ニ産生ス可キヲ予知セルニ於テハ則チ其遺嘱書ヲ収銷スルコトヲ得可ラス 第八百八十九条 若シ遺嘱以後ニ産出セル子若クハ後親カ遺嘱者ニ先タツテ死亡スルコト有レハ則チ其遺嘱ノ行為ハ効力ヲ有スル者トス 第八百九十条 若シ遺嘱ノ行為ニ当タル可キ人カ遺嘱者ノ死亡以後ニ生存セサルカ若クハ承産ニ不合格ナルコト有レハ則チ其遺嘱ノ行為ハ効力ヲ有セサル者トス 然レトモ遺嘱者ニ先タツテ死亡シ若クハ不合格ト為レル所ノ承産者若クハ受遺者ノ後親カ遺産ヲ承襲シ若クハ贈遺ヲ領受ス可キハ此等ノ後親ノ為メニ替承ノ権理ヲ存在シ而シテ無遺嘱ノ承産ニ関スル時会ニ於テスル者トス但々遺嘱者カ他ノ方法ヲ以テ遺産ヲ処分シタルカ若クハ収額得有権ノ贈遺或ハ本来ノ性質ニ於ケル人件ノ権理ニ関スル者ノ如キハ此例外ニ在リトス 第八百九十一条 遺嘱ノ行為ハ之ヲ辞却スル承産者若クハ受遺者ニ対シテハ闕消スル者トス 第八百九十二条 遺嘱者カ贈遺物件ノ全部若クハ一部ニ向テ為シタル転付ハ仮令ヒ買還ノ規約ヲ以テ之ヲ売付シタルモ其転付シタル物件ニ関シテハ贈遺ノ収銷ヲ来タス可キ者トス又其転付カ無効ニ帰シ若クハ其物件カ再ヒ遺嘱者ノ所有ニ復スルモ亦然リトス 又若シ遺嘱者カ贈遺物件ヲ他ノ物件ニ変換シ而シテ其物件ハ原形ヲ存セス及ヒ名目ヲ更フルニ至ルノ時会ノ如キモ亦之ニ准ス 第八百九十三条 若シ贈遺物件カ遺嘱者ノ生存中ニ全ク毀滅スルコト有レハ則チ其遺嘱ノ行為ハ効力ヲ喪失スル者トス又若シ贈遺物件カ遺嘱者ノ死亡以後ニ承産者ノ過失ニ因ルニ非スシテ全ク毀滅スルコト有ルヤ仮令ヒ承産者カ之ヲ交付スルコトヲ遅延セルノ時会ニ於ケルモ若シ受遺者ノ手中ニ保存スト雖モ亦均シク毀滅ス可キノ景況有ルニ於テハ則チ其贈遺ハ効力ヲ喪失スル者トス 第八百九十四条 若シ数箇ノ物件カ逓交ノ約束ヲ以テ贈遺セラレタルニ於テハ即チ仮令ヒ唯其物件ノ一箇ノミヲ残存スル時会ト雖モ亦其贈遺ハ効力ヲ有スル者トス 第六節 代承 第八百九十五条 指定承産者若クハ受遺者カ遺産ヲ承襲シ若クハ贈遺ヲ領受スルコトヲ欲セサルノ時会ニ当テハ他ノ人ヲシテ之ニ代ラシムルコトヲ得可シ 数箇ノ人ヲ以テ一箇ノ人ニ代ラシメ若クハ一箇ノ人ヲ以テ数箇ノ人ニ代ラシムルコトヲ得可シ 第八百九十六条 遺嘱者カ代承ニ関スル二箇ノ時会ノ唯々其一即チ第一位ノ人カ其遺産ヲ承襲シ若クハ贈遺ヲ領受スルコト能ハス或ハ之ヲ承襲シ若クハ之ヲ領受スルコトヲ欲セサルノ時会ノミヲ明言セルニ於テハ則チ他ノ一箇ノ時会ハ其中ニ包含スルコトヲ暗示セル者ト看做ス但遺嘱者ノ意望ノ之ニ反対セル者無キコトヲ要ス 第八百九十七条 代承者ハ自己カ代承スル其人ノ負担ス可キ責課ハ必ス之ヲ充践セサル可カラス但々遺嘱者ノ意望カ明白ニ此責課ノ負担ヲシテ唯々第一位ノ人ノミニ限止セシムルコトヲ表示セル者ノ如キハ此例外ニ属ス 然レトモ承産者若クハ受遺者ニ向テ特ニ立定セル規約ハ若シ代承者ニ向テモ亦存在セシムルコトヲ明言セルコト無キニ於テハ則チ存在セサル者ト看做ス 第八百九十八条 若シ数箇ノ承産者若クハ受遺者ニシテ其承襲部分若クハ領受部分ニ多少ノ差額ヲ存スル者ノ間ニ向テ互相ノ代承ヲ予定セル有ルニ於テハ則チ此前定ニ係ル承襲若クハ領受ノ部分ハ代承ニ関シテ亦均シク存在スル者トス 然レトモ若シ代承ニ関シテ他ノ一人カ第一位ノ人即チ承産者若クハ受遺者ト共ニ指示セラレタルニ於テハ則チ領受者ヲ欠ク所ノ部分ハ之ヲ均分シテ以テ各代承者ニ帰属セシム 第八百九十九条 遺嘱ノ行為ハ仮令ヒ何等ノ辞旨ヲ以テスルモ之ニ依テ承産者若クハ受遺者カ第三位ノ人ノ為メニ其物件ヲ保存シ且之ヲ交付ス可キ者タルニ於テハ則チ嘱託ノ代承ト為ス 此種ノ代承ハ制禁ニ属ス 第九百条 承産者ノ指定若クハ贈遺ノ行為ニ嘱託代承ヲ附加セル有ルモ其嘱託代承ノ無効ハ以テ其指定若クハ其行為ノ有効ヲ妨阻スルコト無シ然レトモ此他ノ一切ノ代承ハ仮令ヒ第一級ノ者ニ係ルモ亦皆効力ヲ有セサル者トス 第九百一条 収額得有権若クハ他ノ歳収権ヲ以テ逓次ニ数箇ノ人ニ留存スル所ノ行為ハ第一位ノ人ヲシテ唯遺嘱者ノ死亡スル時際ニ於テ之ヲ享有セシムルノミノ効力ヲ有ス 第九百二条 有期若クハ無期ノ歳収権ニシテ貧窮ヲ済賑シ若クハ篤行及ヒ功労ヲ褒賞シ若クハ他ノ公同利益ヲ標率ト為ス所ノ者ハ仮令ヒ其行為ニ関シテ確定セル某ノ分限ニ係リ若クハ某ノ族属ニ係レル人ヲ指示セル者有ルモ亦復タ之ヲ禁遏スルコト無シ 第七節 遺嘱執行者 第九百三条 遺嘱者ハ一箇若クハ数箇ノ遺嘱執行者ヲ指命スルコトヲ得可シ 第九百四条 責務ヲ負担スルコト能ハサル人ハ遺嘱執行者ト為ルコトヲ得可カラス 第九百五条 未丁年者ハ仮令ヒ父若クハ後見人若クハ保管人ノ許諾ヲ受クルモ遺嘱執行者ト為ルコトヲ得可カラス 第九百六条 遺嘱者ハ自己所有スル動産物件ノ全部若クハ一部ヲ即時ニ占有スルコトヲ遺嘱執行者ニ委託スルヲ得可シ然レトモ此占有期間ハ遺嘱者ノ死亡以後ノ一年内ニ限止ス可キ者トス 第九百七条 承産者ハ遺嘱執行者ニ向テ贈遺ニ係ル動産物件ヲ弁償スル為メニ充分ナル保金ヲ即時ニ交付ス可シト発言シ若クハ之ヲ弁償セシコトヲ証明シ若クハ遺嘱者ノ欲スル方法ト期限トニ照依シテ之ヲ弁償スルコトヲ保任シ以テ遺嘱執行者ヲシテ前条ノ占有ヲ停罷セシムルコトヲ得可シ 第九百八条 遺嘱執行者ハ各承産者ノ員中ニ未丁年者、受治産禁者、失踪者若クハ無形人ノ在ル有ルニ於テハ則チ遺産物件ニ封鎖ヲ施サル可カラス 遺嘱執行者ハ推定承産者ノ面前ニ於テシ若クハ特ニ之ヲ招喚シ以テ遺産物件ノ目録書ヲ録製ス 若シ贈遺ヲ弁償スルニ充分ナル金額ノ遺存セサルニ於テハ則チ遺産中ノ動産物件ヲ売放スルコトヲ得可シ 遺嘱執行者ハ宜ク務メテ遺嘱ノ執行ニ尽力ス可ク若シ遺嘱事件ニ関シテ争訟ヲ起発スル有ルノ時会ニ当テハ其遺嘱ノ有効タルコトヲ主持スル為メニ法衙ノ裁判ニ臨参スルコトヲ得可シ 遺嘱執行ハ遺嘱者ノ死亡以後ノ一年内ヲ期シ其管理スル遺産ノ処分ヲ完結セサル可カラス 第九百九条 遺嘱執行者ノ任務ハ其承産者ニハ推移セサル者トス 第九百十条 遺嘱執行者タルコトヲ領諾シタル数箇ノ人ハ若シ他ノ各遺嘱執行者ヲ缺クノ時会ニ当テハ唯一人ノミヲ以テスルモ其遺嘱ヲ執行スルコトヲ得可シ然レトモ若シ遺嘱者カ各遺嘱執行者ノ担任部分ヲ派定セス若クハ各遺嘱執行者ノ担任部分ヲ限定セサリシニ於テハ則チ各遺嘱執行者ハ其委託セラレタル動産物件ノ処分ヲ為スニ関シテハ互相特担ノ責務ヲ有ス 第九百十一条 遺嘱執行者ハ其管理スル遺産ノ目録書ヲ録製セル費用遺産ノ処分ヲ完結スル為メニ支消セル費用及ヒ其任務ヲ執行スルニ必要スル諸般ノ費用ハ共ニ遺産ニ負担セシムルコトヲ得可シ 第八節 手記遺嘱書ノ寄託並ニ私式遺嘱書ノ拆披及ヒ公示 第九百十二条 手記ニ係ル遺嘱書ハ何人タルヲ問ハス凡ソ之ニ依テ利益ヲ有スト思量スル人ノ請求スルニ因テ本管轄ノ勧解裁判所長及ヒ二個ノ証人ノ臨同ヲ得テ以テ其遺嘱ヲ開行セル場地ノ公証人ノ手中ニ寄託ス可キ者トス 遺嘱ヲ記載スル紙葉ハ其毎紙葉ニ二個ノ証人勧解裁判所長及ヒ公証人之ニ検記スルコトヲ要ス 公式証書ノ法式ニ照准シテ以テ寄託供状書ヲ録製シ而シテ公証人ハ此遺嘱書ノ形状ト其記載セル文辞トヲ明確ニ其寄託供状書中ニ移写セサル可カラス若シ夫レ遺嘱書ノ緘封セル者ニ関シテハ公証人ハ其之ヲ拆披セシコト並ニ自己カ勧解裁判所長及ヒ証人ト共ニ之ニ検記セシコトヲ明掲セサル可カラス 此寄託供状書ハ請求者、証人、勧解裁判所長及ヒ公証人ノ共ニ之ニ署名スルコトヲ要シ而シテ公証人ハ遺嘱書遺嘱者ノ死亡証書ノ写本若クハ第二十六条ニ准依シテ裁判所長ノ下付セル裁判宣告書ト一併ニ之ヲ保蔵ス 第九百十三条 手記遺嘱書ニシテ遺嘱者ノ自カラ之ヲ一箇ノ公証人ニ寄託スル者ニ関シテハ前条ニ掲示セル法式ハ其寄託ヲ接受スル公証人ノ自宅ニ於テ之ヲ践行ス 第九百十四条 前二条ニ掲示セル法式ヲ践行セル以後ニ於テハ手記ニ係ル遺嘱ハ其執行ヲ開始セラルヽコトヲ得可シ但々其遺嘱ヲ攻撃スル争訟ヲ投申スル裁判庁若クハ要急ノ時会ニ在テ勧解裁判所長カ其寄託ヲ受クルノ日ニ於テ遺嘱書ニ関係ヲ有スル人ヲ保護スル為メニ至当ナル処理ヲ為ス如キハ此限外ニ在リトス 第九百十五条 私式ノ法式ヲ以テ録製スル遺嘱書ハ何人タルヲ問ハス之ニ依テ利益ヲ有スト思量スル人ノ請求スルニ因テ本管轄ノ勧解裁判所長及ヒ受付ノ行為ニ臨同セシ二人以上ノ証人ノ臨同ヲ得テ公証人之ヲ拆披シ及ヒ之ヲ公示ス若シ此証人ヲ尋求ス可カラサルニ於テハ則チ遺嘱書ノ形状及ヒ其署名ヲ証認セシムル為メニ別ニ他ノ二個ノ証人ヲ要徴ス遺嘱ヲ記載セル紙葉ハ其毎紙葉ニ二箇ノ証人、勧解裁判所長及ヒ公証人之ニ検記スルコトヲ要ス而シテ公証人ハ受付証書ト共ニ之ヲ保蔵ス 公証人ハ公式証書ノ法式ニ准依シテ以テ此遺嘱書ノ拆披及ヒ公示ニ関スル供状書ヲ録製シ而シテ公証人ハ此供状書中ニ於テ遺嘱書ノ形状ヲ明掲シ併セテ自己カ勧解裁判所長及ヒ証人ト共ニ之ニ検記セシコトヲ明掲セサル可カラス 此供状書ハ請求者、証人、勧解裁判所長及ヒ公証人共ニ之ニ署名スルコトヲ要シ而シテ公証人ハ第九百十二条ノ末項ニ掲記セル死亡証書ノ写本若クハ裁判宣告書ト一併ニ之ヲ保蔵ス 第九節 遺嘱ノ収銷 第九百十六条 仮令ヒ何等ノ法式ヲ以テスルモ遺嘱ニ依テ為シタル行為ヲ収銷シ若クハ変更スルノ権理ヲ自棄スルコトヲ得可カラス且之ニ反対スル約款若クハ規約等ハ総テ効力ヲ有セサル者トス 第九百十七条 後定遺嘱書ヲ以テ前定遺嘱書ノ其全部若クハ一部ヲ収銷スルコトヲ得可ク又署名セル四箇ノ証人ノ面前ニ於テ一箇ノ公証人ノ接受スル文書ニシテ遺嘱者カ之ニ依テ自カラ前定ニ係ル遺嘱行為ノ其全部若クハ一部ヲ収銷スト公言スル所ノ文書ヲ以テスルモ亦之ヲ収銷スルコトヲ得可シ 第九百十八条 無効ノ遺嘱書ハ前定遺嘱書ヲ収銷スル為メニ公証人ノ臨同ヲ以テ録製スル所ノ文書ノ効力タモ有セサル者トス 第九百十九条 第九百十七条ニ規定セル法則ニ准依シテ収銷スル所ノ遺嘱行為ハ後定遺嘱書ヲ以テスルニ非サレハ則チ之ヲ復生セシムルコトヲ得可カラス 第九百二十条 後定遺嘱書ニシテ明カニ前定遺嘱書ヲ収銷セサル所ノ者ハ唯々其前定遺嘱書中ノ約款ニシテ後定遺嘱書中ノ約款ト相抵触シ若クハ相反対セル者ノミヲ収銷ス 第九百二十一条 後定遺嘱書ヲ以テスル収銷ハ仮令ヒ此遺嘱カ指定承産者若クハ受遺者ノ死亡ニ因リ其不合格ニ因リ若クハ其承襲ニ因リ若クハ其領受ヲ拒却スルニ因テ執行ヲ果サヽルモ亦能ク完全ナル効力ヲ有スル者トス 第九百二十二条 私式ノ遺嘱書ハ手記ノ遺嘱書ニシテ既ニ寄託セル所ノ者ト同ク遺嘱者ハ何等ノ日時ヲ問ハスシテ之ヲ公証人ノ手中ヨリ要還スルコトヲ得可シ 公証人ハ遺嘱者及ヒ二個ノ証人ノ面前ニ於テ本管轄ノ勧解裁判所長ノ間入ヲ得テ以テ遺嘱書ヲ還付セル供状書ヲ録製セサル可カラス勧解裁判所長ハ特ニ遺嘱者ノ身上ニ関シテ差錯無キヤ否ヤヲ査点スルコトヲ要ス 此還付供状書ハ遺嘱者、証人、勧解裁判所長及ヒ公証人共ニ之ニ署名セサル可カラス若シ遺嘱者カ署名ヲ為スコトヲ得サル有レハ則チ必ス其事由ヲ証記セサル可カラス 若シ遺嘱書ノ公同記録署ニ寄託セル者ニ関シテハ其還付供状書ハ公同記録署吏員カ本管轄ノ勧解裁判所長ノ間入ヲ得テ以テ之ヲ録製シ而シテ遺嘱者、証人、勧解裁判所長及ヒ公同記録署吏員之ニ署名セサル可カラス 前数項ニ掲記セル供状書ハ規定ノ法則ニ准依シテ之ヲ保蔵シ而シテ遺嘱書ヲ還付スルニハ受付証書若クハ寄託証書ノ空白或ハ紙尾ニ於テ其事旨ヲ填記スルコトヲ要ス 第三章 准規承産及ヒ遺嘱承産ニ通施スル条則 第一節 承産権ノ開始及ヒ承産者ノ身上ニ関スル占有権ノ続行 第九百二十三条 遺産ノ承襲ハ死亡者ノ最終ノ住所ノ場地ニ於テ之ヲ開始ス 第九百二十四条 若シ承産ニ与カル所ノ二箇若クハ数個ノ人ノ間ニ於テ其孰レカ先キニ死亡セルカノ点ニ関シテ疑ヲ容ル可キ者有ルニ於テハ則チ其一人ノ先キニ死亡セルコトヲ主張スル所ノ人ハ必ス之カ証明ヲ為サヽル可カラス若シ其証拠ヲ缺クニ於テハ則チ総テ同一時ニ死亡セル者ト推定ス故ヲ以テ其死亡セル一人ノ権理ハ以テ他ノ一人ニ転移ス可キ者ニ非ス 第九百二十五条 死亡者ノ遺産物件ニ関スル占有権ハ承産者カ現実ニ之ヲ占有スルコトヲ要セスシテ直チニ承産者其人ニ帰属ス 第九百二十六条 若シ他ノ人カ遺産物件ニ権理ヲ有スト称言シテ以テ之ヲ占有セルニ於テハ則チ承産者ハ事実上ニ関シテ其占有ヲ奪減セラレタル者ト看做シ而シテ合法占有者ニ属スル各般ノ訟権ヲ行用スルコトヲ得セシム 第九百二十七条 私生ノ子ニシテ准規ノ子ト相与ニ遺産ノ一部ニ権理ヲ有スル所ノ者ハ准規ノ子ニ向テ其一部ノ交付ヲ請求ス可キ者トス 第九百二十八条 遺産ノ封鎖ヲ施シ若クハ之ヲ解クノ時会及ヒ法式ハ訴訟法典ニ於テ之ヲ規定ス 第二節 遺産承襲ノ諾受及ヒ拒却 第一款 承産ノ諾受 第九百二十九条 遺産ハ単純ニ之ヲ諾受シ若クハ遺産目録ノ利益ヲ以テ之ヲ諾受スルコトヲ得可シ 第九百三十条 未丁年者若クハ受治産禁者ニ帰属スル所ノ遺産ハ第一巻ノ第八篇及ヒ第九篇ニ規定セル法式ニ准依シ遺産目録ノ利益ヲ以テスルニ非サレハ則チ有効ニ之ヲ諾受セル者ト為スニ足ラス 第九百三十一条 丁年者ニシテ准治産禁ヲ受ケタル人ハ保管人ノ許諾ヲ得且遺産目録ノ利益ヲ以テスルニ非サレハ則チ承産ヲ諾受スルコトヲ得可カラス 第九百三十二条 無形人ニ帰属セル遺産ハ政府ノ許可ヲ以テスルニ非サレハ則チ之ヲ諾受スルコトヲ得可カラス此許可ハ特別ノ法律ニ規定セル法式ニ照依シテ以テ之ヲ付与スル者トス 此種ノ遺産ニ関シテハ各般法則ニ於テ規定セル法式ニ准依シ遺産目録ノ利益ヲ以テスルニ非サレハ則チ之ヲ諾受スルコトヲ得可カラス 第九百三十三条 承産諾受ノ効力ハ遺産ノ承襲ヲ開始セル本日ニ追遡ス然レトモ第三位ノ人カ外観上ノ承産者ニ対シ良意ヲ以テ締結セシ要報契約ニ依テ得有シタル所ノ権理ノ如キハ依然存在スル者トス又若シ此外観上ノ承産者カ良意ヲ以テ遺産物件ヲ転付シタルニ於テハ則チ唯々其収受セシ価直ヲ還付スルノミヲ以テ足レリトス然レトモ若シ購買者カ尚ホ未タ価直ヲ交付セサルニ於テハ則チ亦唯此購買者ニ対シテ行用ス可キ訟権ヲ転付スルノミヲ以テ足レリトス 良意ヲ以テセル外観上ノ承産者カ遺産物件ニ関シテ還付ス可キ収額ハ裁判上ニ於テ其請求ヲ受ケタル本日ヨリ之ヲ起算ス 第九百三十四条 承産ノ諾受ハ明示シ若クハ暗示シテ以テ之ヲ為スコトヲ得可シ 承産者カ公式証書若クハ私事文書ニ依テ承産者ノ名義ヲ冒シ若クハ分限ヲ取リタル如キハ即チ明示ノ諾受ニ係レル者トス 承産者カ一個ノ行為ニシテ必然ニ承産ヲ諾受セシコトヲ推想ス可ク且承産者ノ分限ヲ以テスルニ非サレハ則チ為ス可カラサル所ノ行為ヲ為セル如キハ即チ暗示ノ諾受ニ係レル者トス 第九百三十五条 単純ナル物件保存ニ関スル行為、物件看守ニ関スル行為若クハ物件仮管ニ関スル行為ハ承産者カ承産者ノ名義ヲ冒シ若クハ分限ヲ取ラサルニ於テハ則チ承産ノ諾受ヲ生出セシムルコト無シ 第九百三十六条 共同承産者中ノ一人カ其承産権ヲ他ノ人若クハ共同承産者ノ数人若クハ其一人ニ贈与シ売付シ或ハ譲与シタルニ於テハ則チ承産ノ諾受ヲ為シタル者ト看做ス 第九百三十七条 共同承産者中ノ一人カ共同承産者ノ数人若クハ其一人ニ対シ仮令ヒ報酬ヲ要スルコト無キモ為メニ承産ヲ拒却シ或ハ誰某タルコトヲ指示セサルモ各共同承産者ノ為メニ承産ヲ拒却セルニ関シテ報酬ノ価直ヲ要取セルニ於テハ則チ亦共ニ承産ノ諾受ヲ為シタル者ト看做ス 第九百三十八条 共同承産者中ノ一人ノ為シタル承産ノ拒却カ一切ノ准規承産者若クハ一切ノ遺嘱承産者即チ拒却セル遺産部分ノ帰属ス可キ人ノ利益ノ為メニ報酬ヲ要取セスシテ之ヲ為セルニ於テハ則チ承産ノ諾受ヲ為シタル者ト看做サ 第九百三十九条 若シ遺産ヲ承襲ス可キ人カ明示シ若クハ暗示シテ以テ其承産ノ諾受ヲ表明セスシテ死亡セルコト有レハ則チ承産ノ権理ハ其各承産者ニ転移ス 第九百四十条 此各承産者カ承産ヲ諾受シ若クハ之ヲ拒却スルニ関シテ各自ノ意見ノ協同セサルコト有レハ則チ其諾受ノ為シタル所ノ承産者ハ独リ遺産ニ関スル一切ノ権理ヲ得有シ及ヒ其一切ノ責課ヲ負担ス又其拒却ヲ為シタル所ノ承産者ハ遺産ニ向テハ全然ニ関係ヲ有スルコト無シ 第九百四十一条 承産者ニシテ自己ノ承襲ス可キ死亡者ニ帰属セル遺産ヲ諾受シタル者ト雖モ此死亡者ニ帰属セル遺産ニシテ而カモ其未タ諾受セサリシ所ノ者ヲ拒却スルコトヲ得可シ然レトモ此遺産ノ拒却ハ併セテ自己ニ帰属セシ遺産ノ拒却ヲモ起生シ来ル者トス 第九百四十二条 承産ノ諾受ハ決シテ自カラ之ヲ訟撃スルコトヲ得可カラス但々其諾受カ強迫若クハ詐偽ノ結果タル者ハ此限ニ在ラス 損害ノ事由ニ依拠スルモ亦承産ノ諾受ヲ訟撃スルコトヲ得可カラス 然レトモ其遺産ヲ諾受セル時際ニ於テハ絶ヘテ知ラサリシ所ノ遺嘱書カ日後ニ発見スルコト有ルヤ承産者ハ必ス其遺嘱書中ニ包載スル贈遺ヲ弁償セサル可カラス但々其贈遺ノ金額カ遺産ノ価格ヨリ超過スルニ於テハ則チ其超過額ハ之ヲ弁償スルコトヲ要セス若シ夫レ自己ニ帰属ス可キ准規部分ニ係レル遺産ノ価格ハ素ヨリ此計外ニ在ル者トス 第九百四十三条 承産ヲ諾受スルノ権理ハ三十年ノ期満法ニ遭罹スルニ非サレハ則チ之ヲ喪失スルコト無シ 第二款 承産ノ拒却 第九百四十四条 承産ノ拒却ハ決シテ之ヲ推断スルコトヲ得可キ者ニ非ス 承産ノ拒却ハ必ス之ヲ遺産承襲ヲ開始スル土地ノ本管轄ナル勧解裁判所ノ書記局ニ於テ之カ為メニ設備セル帳簿ニ証記スルコトヲ要ス 第九百四十五条 承産ヲ拒却スル所ノ人ハ未タ嘗テ遺産承襲ニ関係ヲ有セサル所ノ人ノ如ク看做ス 然レトモ承産ノ拒却ハ其承産者ヲシテ贈遺ヲ領受スルノ権理ヲ喪失セシムル者ニ非ス 第九百四十六条 准規承産ニ関シテハ承産ヲ拒却セル人ノ部分ハ其共同承産者ノ間ニ派増ス若シ共同承産者無キニ於テハ則チ其次位ノ等親ニ在ル人ニ帰属ス 第九百四十七条 承産ヲ拒却セル人ニ代テ其遺産部分ヲ承襲スルコトヲ得可カラス若シ拒却セル人カ其同等親ノ親属ヲ有セサルカ若クハ一切ノ共同承産者カ共ニ之ヲ拒却セルニ於テハ則チ其各共同承産者ノ子カ自己ノ承産権ニ依テ其遺産部分ヲ承襲シ而シテ之ヲ各自ノ間ニ均分ス 第九百四十八条 遺嘱承産ニ関シテハ承産ヲ拒却セル人ノ部分ハ第八百八十条及ヒ第八百八十三条ニ准依シ共同承産者若クハ准規承産者ニ帰属ス 第九百四十九条 承産者カ債主ニ損害ヲ与フル有ルニ関セスシテ承産ヲ拒却セルニ於テハ則チ其債主ハ負債主ノ名義及ヒ地位ニ憑拠シ裁判上ニ於テ其遺産ヲ領収スルノ認許ヲ受クルコトヲ得可シ 此時会ニ於テハ承産ノ拒却ハ拒却セル承産者ノ為メニ全ク其効力ヲ喪失スルニ非スシテ唯其債主ノ為メニ債額ニ達スル部分ニ向テノミ其効力ヲ喪失スル者トス 第九百五十条 承産ヲ諾受スルノ権理カ之ヲ拒却セル承産者ノ未タ期満失権ニ帰セサルノ間ニ於テ若シ此承産部分カ尚ホ未タ他ノ承産者ニ帰属セサルニ於テハ則チ此拒却セル承産者カ追テ之ヲ諾受スルコトヲ得可シ然レトモ第三位ノ人カ期満法ニ依拠シ若クハ無主遺産ノ保管人ニ対シテ締結セル有効ノ契約ニ依拠シ其遺産物件ニ向テ得有シタル所ノ権理ヲ妨害セサルコトヲ要ス 第九百五十一条 若シ遺産ニ向テ訟権ヲ有スル某人カ遺嘱承産者若クハ准規承産者ニ対シテ遺産ヲ諾受スルカ若クハ拒却スルカヲ決定スルコトヲ要強スル為メニ此承産者ヲ裁判庁ニ召喚スルコト有レハ則チ其裁判庁ハ承産者ヲシテ此決定ノ公言ヲ為サシムルノ期限ヲ指定ス若シ此期限ヲ満過スルモ承産者カ決定ノ公言ヲ為サヽルニ於テハ則チ承産ヲ拒却セル者ト看做ス 第九百五十二条 前数条ニ規定セル事件有ルニ関セス承産ス可キ人ニシテ既ニ現ニ遺産ヲ結成スル所ノ資財ヲ占有スル所ノ者ハ若シ遺産承襲ヲ開始セル本日若クハ遺産ノ自己ニ帰属セル報告ヲ得タル本日ヨリ以後ノ三月内ニ於テ目録ノ利益ニ関スル条則ヲ践行セサルニ於テハ則チ承産ヲ拒却スルノ権理ヲ喪失シ且仮令ヒ此資財ハ他ノ名義ニ依テ之ヲ占有スト称言スルモ亦唯々単純承産者ト看做サル可キ者トス 第九百五十三条 遺産物件ヲ妄用シ若クハ之ヲ隠蔵セル承産者ハ承産ヲ拒却スルノ権理テ喪失シ仮令ヒ之ヲ拒却スルモ亦唯単純承産者ト看做サル可キ者トス 第九百五十四条 仮令ヒ婚姻ニ関スル財産契約ヲ以テスルモ生存スル人ノ遺産ヲ拒却シ其遺産ニ因テ得有ス可キ不定ノ権理ヲ転付スルコトヲ得可カラス 第三款 遺産目録ノ利益及ヒ其効力並ニ利益承産者ノ責務 第九百五十五条 承産者ノ遺産目録ノ利益ヲ以テ其分限ヲ取ルト為ス所ノ公言ハ遺産承襲ヲ開始スル場地ノ本管轄ナル勧解裁判所庁ノ記録局ニ於テ之ヲ為ス此公言ハ承産拒却ノ公言ヲ証記スル為メニ設備セル帳簿ニ証記ス 此公言ヲ為セル以後ノ一月内ヲ期シ記録局吏員カ遺産承襲ヲ開始スル場地ノ券記抵当ヲ管理スル公署ノ帳簿ニ就キテ之ヲ証記シ且之ヲ裁判広報新聞紙ニ抄載ス 第九百五十六条 承産者ハ遺嘱者ノ予定セル禁約有ルニ拘ハラスシテ遣産目録ノ利益ヲ以テ承産スルコトヲ得可キ権理ヲ有ス 第九百五十七条 上条ノ公言ハ訴訟法典ニ規定セル法則ニ照准シ下条ニ指定スル期限内ニ於テ遺産目録ヲ録製スルヨリ以前ニ之ヲ為シ若クハ其以後ニ之ヲ為スニ非サレハ則チ其効力ヲ生出セサル者トス 第九百五十八条 若シ数箇ノ承産者ノ間ニ於テ其一人ハ遺産目録ノ利益ヲ以テスルニ非サレハ承産ノ諾受ヲ為スコトヲ欲セス他ノ各人ハ此規約ヲ以テセサルモ承産ノ諾受ヲ為スコトヲ欲スルニ於テハ則チ遺産ハ目録ノ利益ヲ以テ之ヲ諾受ス可キ者トス 此時会ニ於テハ唯其一人ノ公言ヲ為スノミヲ以テ足レリトスル 第九百五十九条 現実ニ遺産物件ヲ占有スル所ノ人ハ遺産承襲ヲ開始スル本日若クハ遺産物件ノ自己ニ帰属スル報告ヲ聞知スル本日ヨリ以後ノ三月内ヲ期シ必ス遺産目録ヲ録製セサル可カラス若シ其遺産目録ノ録製ニ着手シ而シテ此期限内ニ之ヲ竣成スルコト能ハサルニ於テハ則チ遺産承襲ヲ開始スル場地ノ本管轄ナル勧解裁判庁ニ向テ更ニ三月間ノ延期ヲ請求スルコトヲ得可シ但特別ニシテ且重要ナル景況有ルカ為メニ更ニ幾多ノ展期ヲ要スル如キハ此例外ニ在リトス 第九百六十条 若シ三月内ニ於テ承産者カ遺産目録ノ録製ニ着手セス若クハ此期限内ニ之ヲ竣成スルコト能ハス若クハ延期ヲ請求シタル期限内ニ於テモ亦之ヲ竣成スルコト能ハサルニ於テハ則チ承産者ハ単純ニ承産ヲ諾受セル者ト看做ス 第九百六十一条 未タ第九百五十五条ニ掲記セル公言ヲ為サヽル所ノ人ハ遺産目録ノ録製ヲ竣成セルヨリ以後ニ於テ承産ノ諾受若クハ拒却ヲ決定スル為メニ遺産目録ノ竣成セル以後四十日ノ期間ヲ有ス此期間ヲ満過スルモ尚ホ未タ決定ヲ為サヽルニ於テハ則チ其承産者ハ単純ニ承産ヲ諾受セル者ト看做ス 第九百六十二条 現実ニ遺産物件ヲ占有セサル承産者ニシテ其遺産ニ干渉スルコト無キ所ノ人ニ関シ若シ争訟ノ起発スル有ルニ於テハ則チ遺産目録ヲ録製シ及ヒ諾受拒却ヲ決定スル為メニ指定セル期間ハ裁判権ノ之ヲ指定スル本日ヨリ起算ス可シ 然レトモ若シ此承産者ニ関シ何等ノ争訟ヲモ起発スルコト無キニ於テハ則チ此承産者ハ期満法ニ因テ承産ヲ諾受スルノ権理ヲ喪失スルニ至ル迄ハ依然トシテ遺産目録ヲ録製スルノ権理ヲ保有ス 第九百六十三条 未丁年者、受治産禁者、准受治産禁者ハ若シ上条ノ期限内ニ本款ノ条則ヲ践行セサルコト有レハ則チ唯其丁年ニ達セル翌年ノ終ル時若クハ治産ノ禁止ヲ放釈セラレタル時若クハ不合格ノ銷除セル時ニ於テノミ遺産目録ノ利益ヲ以テ承産スルノ権理ヲ喪失ス 第九百六十四条 遺産目録ヲ録製シ若クハ諾受拒却ヲ決定スル為メニ付与セラレタル期間内ハ遺産ヲ承襲ス可キ所ノ人ハ復タ特ニ承産者ノ名義ヲ冒スルコトヲ須ヒス 然レトモ此人ハ遺産ノ保管人ト看做サル故ヲ以テ遺産ニ関シ起発スル争訟ニ対シテハ此分限ヲ以テ其遺産ニ代理シ及ヒ其争訟ニ答弁スル為メニ裁判庁ニ召喚セラル可キ者トス若シ召喚ニ応シテ訟廷ニ出テサルニ於テハ則チ裁判庁ハ此ノ如キ争訟ニ関シ其遺産ニ代理タラシムル為メニ一個ノ保管人ヲ指命ス 第九百六十五条 若シ遺産中ニ保存ス可カラサル物件若クハ保存スル為メニハ巨多ナル費用ヲ支消セサル可カラサル物件ノ在ル有レハ則チ承産者ハ上条ノ期限内ニ於テ裁判庁ノ適当ナリト認識スル方法ニ准依シ其物件ヲ売放スルコトヲ得可シ然レトモ人之ヲ認メテ承産ヲ諾受セル者ト做スコトヲ得可カラス 第九百六十六条 若シ承産者カ上条ニ指定セル期間若クハ展延ヲ認許セル期間内ニ於テ承産ヲ拒却スルヨリ以前ニ遺産ニ関シテ正当ニ支消シタル費用ハ其遺産ノ負担ニ帰セシム 第九百六十七条 遺産額内ニ在ル或種ノ物件ヲ故意若クハ悪意ニ因テ遺産目録中ニ記載セサル所ノ承産者ハ遺産目録ノ利益ニ関スル権理ヲ喪失ス 第九百六十八条 遺産目録ノ利益ニ関スル権理ノ効力ハ承産者ヲシテ下項ノ利益ヲ得有セシムル者トス 遺産ニ負担スル逋債及ヒ贈遺ニ対シ自己ノ承産部分ニ超過スル数額ヲ支弁スルコトヲ須ヒス而シテ遺産物件ノ全部ヲ債主及ヒ受遺者ニ放棄シテ以テ自己全ク其責任ヲ避免スルコトヲ得可シ 自己ノ属身財産ト死亡者ノ遺留財産トヲ混淆セシメス而シテ此遺留財産ニ向テ自己ノ貸付額ノ還償ヲ請求スルコトヲ得可キ権理ヲ保有ス 第九百六十九条 遺産目録ノ利益ヲ有スル承産者ハ遺産物件ヲ管理シ且債主及ヒ受遺者ニ向テ其管理ニ関スル報明書ヲ出示セサル可カラス 自己ノ属身財産ヲ以テ弁償スルコトヲ要強セラル可キ時会ハ唯々此報明書ヲ出示スルコトヲ要求セラレ而シテ其責務ヲ果行セサルノ時会ノミニ限止ス 遺産管理ノ計算ヲ清完シタル以後ニ於テハ唯自己ノ逋債ニ係ル金額ニ達スル迄其属身財産ヲ以テ弁償スルコトヲ要強セラル可キニ過キス 第九百七十条 遺産目録ニ関スル利益ヲ有スル承産者ハ唯々自己ノ已甚ナル過失ノ為メニ其管理スル遺産物件ニ被ラシメタル損害ニ向テ其弁償ヲ負担スルノ責任ヲ有スルノミ 第九百七十一条 債主及ヒ受遺者ハ承産者ヲシテ管理ニ関スル報明書ヲ出示スルノ日期ヲ限定セシムルコトヲ得可シ 第九百七十二条 准規部分ニ権理ヲ有スル承産者ハ仮令ヒ遺産目録ノ利益ヲ以テ承産ヲ諾受セサルモ遺嘱者カ共同承産者ニ向テ為シタル贈与及ヒ贈遺ノ数額ヲ減殺セシムルコトヲ得可シ 第九百七十三条 承産者カ若シ法衙ノ許可ヲ得ス若クハ訴訟法典ニ規定セル法則ニ遵依セスシテ遺産ニ属スル不動産物件ヲ売放スルコト有レハ則チ遺産目録ノ利益ニ関スル権理ヲ喪失ス 第九百七十四条 承産者カ遺産目録ノ利益ヲ以テ承産ヲ諾受スト公言セルヨリ五年ノ期間ノ満過セサル以前ニ若シ法衙ノ許可ヲ得ス若クハ訴訟法典ニ規定セル法則ニ遵依セスシテ遺産ニ属スル動産物件ヲ売放スルコト有レハ則チ亦遺産目録ノ利益ニ関スル権理ヲ喪失ス又若シ此五年ノ期間ノ既ニ満過セル以後ニ於テハ何等ノ法則ニモ遵依スルコト無クシテ随意ニ其動産物件ヲ売放スルコトヲ得可シ 第九百七十五条 債主若クハ遺産ニ権理ヲ有スル所ノ人カ請求スルコト有ルニ於テハ則チ承産者ハ遺産目録中ニ包載セル動産物件ノ価直、不動産物件ノ収額及ヒ不動産物件ノ価直ニシテ券記抵当権ヲ有スル債主ニ弁償シタル金額ノ残余ニ属スル所ノ者ノ為メニ相当ナル保証ヲ立定セサル可カラス若シ此保証ヲ缺クニ於テハ則チ法衙ハ遺産ニ向テ利益ヲ有スル所ノ人ヲ保護スル為メニ特ニ之カ処分ヲ為ス有ル可シ 第九百七十六条 債主若クハ遺産ニ権理ヲ有スル所ノ人カ承産者ニ向テ抗阻ヲ為シタルニ於テハ則チ承産者ハ法衙ノ指定セル順序及ヒ方法ニ遵依シテ以テ弁償ヲ為サヽル可カラス 若シ此抗阻ヲ為サヽルニ於テハ則チ承産者ハ第九百五十五条ニ規定セル証記及ヒ抄載ヲ為シタル以後若クハ先ツ公告ヲ為シタル時会ニ在テハ遺産目録ヲ完結セルヨリ一月ノ期間ヲ満過シタル以後ハ先後ノ順序如何ヲ問ハス債主若クハ受遺者ノ来リ求ムルニ応シテ弁償ヲ為ス可キ者トス但領先権ヲ有スル人ノ在ル有ル如キハ此限外ニ属ス 第九百七十七条 抗阻ヲ為サヽリシ債主ニシテ遺産管理ニ関スル計算ノ既ニ完清シ及ヒ弁償残額ノ既ニ支付セラレタル以後ニ来リ求ムル所ノ人ハ唯々受遺者ニ対シテノミ其還付ヲ要求スルノ訟権ヲ有ス 此訟権ハ最終ノ弁償ヲ為セル本日ヨリ以後ノ三年ヲ満過スレハ則チ消滅ニ帰スル者トス 第九百七十八条 遺産ノ封鎖、目録及ヒ計算ニ関スル費用ハ共ニ遺産ノ負担ニ帰セシム 第九百七十九条 承産者ニシテ取ル可キ無キノ理由ニ依拠シ他人ノ正当ナル訴訟ヲ抗拒シタル所ノ人ハ其訴訟費用ヲ支弁セサル可カラス 第四款 無主ノ遺産 第九百八十条 承産者ヲ知ル可カラサルカ若クハ遺嘱承産者、准規承産者カ承産ヲ拒却セルニ於テハ則チ遺産ハ無主ノ者ト看做シ而シテ保管人ヲシテ其遺産物件ヲ管理シ及ヒ之ヲ保存セシム 第九百八十一条 保管人ハ遺産承襲ヲ開始スル場地ノ本管轄ナル勧解裁判庁カ其遺産ニ利益ヲ有スル所ノ人ノ請求ニ応シテ之ヲ指令シ若クハ直接ニ之ヲ指命ス 保管人ヲ指命スル辞令書ハ勧解裁判庁ノ記録局吏員カ之ヲ裁判広告新聞紙ニ抄載ス 第九百八十二条 保管人ハ遺産目録ヲ録製シ遺産ニ関スル権理ヲ行用シ及ヒ之ヲ訟求シ遺産ニ関シテ搆起スル訴訟ニ答弁シ遺産物件ヲ管理シ現存スル金額並ニ動産物件若クハ不動産物件ヲ売放シテ以テ収得シタル金額ヲ寄託公署ニ寄託シ及ヒ遺産管理ニ関スル決算ヲ報告ス可キ者トス 第九百八十三条 本節第三款中遺産目録ノ利益ヲ有スル承産者ノ当任ス可キ遺産目録ノ録製及ヒ遺産管理ノ報明ニ関スル条則ハ無主遺産ノ保管人ニ対シテモ亦均シク之ヲ擬施ス可シ 第三節 遺産ノ分配 第九百八十四条 遺産ノ分配ハ仮令ヒ遺嘱者ノ禁約有ルモ之ヲ請求スルコトヲ得可シ 然レトモ指定セル一切ノ承産者若クハ各承産者中ノ二三ノ人ヲ未丁年ニ在ルニ於テハ則チ遺嘱者ハ其最モ幼少ナル承産者ノ丁年ニ達スルノ翌一年ヲ過クルニ至ル迄其遺産ノ分配ヲ禁停スルコトヲ得可シ若シ重要ニシテ且急迫ナル事情ノ在ル有レハ則チ法衙ハ特ニ其分配ヲ許可スルノ権理ヲ有ス 第九百八十五条 共同承産者中ノ一人カ遺留財産ノ一部分ヲ特別ニ享有シタルモ亦遺産ノ分配ヲ請求スルコトヲ得可シ但々既ニ遺産ヲ分配セルコトヲ証明シ若クハ期満得権ノ為メニ完全ナル占有ヲ為シタル者ノ如キハ此限ニ在ラス 第九百八十六条 共同承産者カ若シ協議ノ分配ヲ為スニ関シテ其意思ノ合致セサルコト有ルニ於テハ則チ下条ノ規則ニ准依スルコトヲ要ス 第九百八十七条 共同承産者ハ各自ニ遺産ニ属スル動産物件及ヒ不動産物件ノ自己ニ帰属ス可キ部分ニ向テ其実物ヲ以テスル分配ヲ請求スルコトヲ得可シ然レトモ若シ債主カ動産物件ヲ勒抵スルカ若クハ債主カ他人ノ之ヲ勒抵スルコトヲ抗阻スルカ若クハ共同承産者ノ多数カ遺産ノ負担セル逋債及ヒ責課ヲ弁償スル為メニ之ヲ売放スルコトヲ必要ナリト思量スル有レハ則チ其動産物件ハ公売法ニ依テ之ヲ売放ス 第九百八十八条 若シ不動産物件カ便宜ニ分割スルコトヲ得可カラサルニ於テハ則チ亦之ヲ公売ニ付ス可シ 然レトモ若シ遺産分配者カ総テ丁年ニ在リ且共ニ認諾スル有レハ則チ協同シテ以テ択定シタル公証人ノ面前ニ於テ其不動産物件ヲ競売スルコトヲ得可シ 第九百八十九条 売放ニ関スル責課及ヒ規約ハ若シ共同分配者カ此事ニ協同セサルニ於テハ則チ法衙之ヲ指定ス 第九百九十条 動産物件若クハ不動産物件ヲ評価シ及ヒ売放セル以後ニ於テ法衙ハ其景況ニ応シ共同分配者ニ命シテ遺産分配委員タル裁判官ノ面前若クハ共同分配者ノ択定セル公証人或ハ其択定ニ関シテ意見ノ協同セサル為メニ法衙ノ指定セル公証人ノ面前ニ出候セシム 此裁判官若クハ公証人ノ面前ニ於テ共同分配者ノ亘相ニ為ス可キ決算、遺産ノ現有額貸付額資借額トヲ列記スル計表ノ録製、各承産部分及ヒ各共同分配者ノ間ニ於ケル互相ノ資借額ノ償消ヲ執行ス 第九百九十一条 各共同承産者ハ下条ニ規定スル法則ニ准依シテ各自ニ贈与セラレタル諸般ノ物件及ヒ各自ニ負担スル債額ヲ供還セサル可カラス 第九百九十二条 若シ其供還カ実物ニ係ラサルニ於テハ則チ共同承産者ニシテ其供還物件ニ権理ヲ有スル所ノ人ハ遺産ノ全額内ニ就キテ先ツ供還ス可キ部分ト同一ノ部分ヲ領取スルコトヲ得可シ 此領取ヲ為スニハ務メテ実物ヲ以テ供還スル物件ト同一ノ性質ニシテ且同一ノ品等ニ係レル者ヲ以テスルコトヲ要ス 第九百九十三条 此領取ヲ為シタル以後ニ於テ遺産全額内ノ残余部分ニ就キ各承産者若クハ共同分配者タル一連系ノ得有ス可キ部分ノ派賦ヲ執行ス 第九百九十四条 此得有部分ノ派賦及ヒ結成ニ関シテハ務メテ細少ニ其地所ヲ分割スルコトヲ避ケ又分割ニ因テ其収利ヲ妨害スルコトヲ避ケサル可カラス且務メテ其各得有部分中ニハ同一ノ性質ト同一ノ価格トヲ有スル動産、不動産、権理若クハ貸付権ヲ均一ニ派賦スルコトヲ要ス 第九百九十五条 遺産部分中其実物ノ派賦ニ関シテ起生スル不同額ハ公私債証券若クハ金額ヲ以テ均一ニ派賦スルコトヲ要ス 第九百九十六条 共同承産者ハ其一人若クハ他ノ人ヲシテ遺産ヲ分配セシムルコトニ協同シテ之ヲ委託シ而シテ其択定セラレタル人カ其委託ヲ承諾シタルニ於テハ則チ其人之ヲ分配ス之ニ反対スル時会ニ当テハ法衙ニ於テ其分配ヲ為サシム可キ鑑定者ヲ指命ス 其各承産部分ハ抽籤法ヲ以テ之ヲ分取ス然レトモ若シ各承産者カ均同ナル承産部分ヲ得有ス可キ時会ニ非サルニ於テハ則チ法衙ハ抽籤法ヲ以テ其全部若クハ一部ヲ抽取セシム可キカ若クハ直チニ之ヲ各自ニ分配ス可キカヲ判定ス 第九百九十七条 各承産部分ノ抽籤法ヲ執行スルヨリ以前ニ於テ各共同分配者ハ承産部分ノ結成ニ向テ意見ヲ開陳スルノ権理ヲ有ス 第九百九十八条 分配ス可キ遺産全額ノ分割ニ関シテ規定セル法則ハ共同分配者タル一連系ノ間ニ於テスル細小分割ニ関シテモ亦均シク之ヲ擬施ス可シ 第九百九十九条 此分配ヲ完了セル以後ニ於テ共同分配者ニ向テ各自ニ派賦シタル財産及ヒ権理ニ関スル書類ヲ付与ス可キ者トス 分配セル一個ノ所有物件ニ関スル書類ハ其物件ノ最大部分ヲ得有シタル人ノ手中ニ保存セシム然レトモ其物件ニ利益ヲ有スル他ノ共同分配者ノ請求スル有ルニ応シテ節次ニ其書類ヲ出示セサル可カラス 遺産ノ全額ニ関係スル書類ハ各共同承産者中ニ於テ特ニ其人ヲ択定シテ以テ之ヲ保存セシム而シテ其人モ亦他ノ共同承産者ノ請求スル有ルニ応シテ節次ニ其書類ヲ出示セサル可カラス 若シ此保存者ヲ択定スルニ関シテ各共同承産者ノ間ニ紛議ヲ起生スルコト有レハ則チ法衙ニ於テ其人ヲ指定ス 第千条 此他ノ事件ニシテ本節中ニ処分法ヲ規定セサル所ノ者ニ関シテハ別ニ財産共有篇中ニ包載セル条則ニ遵依シテ之ヲ処分ス 第四節 財産ノ供還及ヒ扣断 第千一条 子若クハ後親ニシテ仮令ヒ遺産目録ノ利益ヲ以テスルモ其兄弟姉妹及ヒ其兄弟姉妹ノ後親ト共ニ承産スル所ノ者ハ死亡者ノ為シタル直接若クハ間接ノ贈与ニ因テ収受シタル物件ハ総テ自己ノ共同承産者ニ向ヒ之ヲ供還セサル可カラス但々贈与者カ他ノ方法ヲ以テ之ヲ処分シタル者ノ如キハ此限ニ在ラス 第千二条 子若クハ後親カ仮令ヒ贈与物件供還ノ認免ヲ受ケタルモ唯自由贈与部分ニ超過セサル部分ヲ得有スルコトヲ得ルノミ其超過セル部分ハ必ス之ヲ供還セサル可カラス 第千三条 承産者ニシテ遺産承襲ヲ拒却スル所ノ人ハ自由贈与部分ニ超過セサル迄ハ贈与ヲ留存シ及ヒ贈遺ヲ請求スルコトヲ得可シ然レトモ准規部分ニ関スル名義ヲ以テシテハ贈与ヲ留存シ及ヒ贈遺ヲ領受スルコトヲ得可カラス 第千四条 承産者ノ後親ニ向テ為シタル贈与ハ常ニ必ス其供還ヲ認免シタル者ト看做ス 先親ニシテ贈与者ノ遺産ヲ承襲スル所ノ人ハ贈与物件ヲ供還スルコトヲ須ヒス 第千五条 後親ニシテ直接ニ贈与者ノ遺産ヲ承襲スル所ノ人ハ先親ノ贈与セル物件ヲ供還スルコトヲ須ヒス仮令ヒ其先親ノ遺産ヲ承襲スル者ト雖モ亦然リトス 然レトモ若シ替承権ニ依テ遺産ヲ承襲シタルニ於テハ則チ其先親ノ受贈シタル物件ハ之ヲ供還セサル可カラス仮令ヒ替承ス可キ遺産ヲ拒却シタル時会ニ於ケルモ亦之ニ准ス 第千六条 後親ノ配偶者ニ向テ為シタル贈与ハ常ニ必ス其供還ヲ認免シタル者ト看做ス 若シ配偶者ノ双方ニ向テ為シタル贈与ニシテ其一方カ贈与者ノ後親ニ係レルニ於テハ則チ唯々其後親タル一方ノミ贈与物件ヲ供還ス可キ者トス 第千七条 死亡者カ後親タル婦女ノ嫁資匳装ニ供スル為メ若クハ後親ノ宗教上ノ資産ヲ結成スル為メ若クハ後親ノ奉職保証金ニ供スル為メ若クハ後親ノ逋債弁償ニ供スル為メニ支消シタル費用ノ如キハ総テ之ヲ供還セサル可カラス 若シ後親タル婦女ノ為メニ嫁資ヲ供弁セシ先親カ充分ナル保証ノ在ル無クシテ夫タル者ニ向ヒ其嫁資ヲ交付シタルニ於テハ則チ其婦女ハ唯其夫ニ対シテ行用スル訟権ヲ供還ス可キ者トス 第千八条 遺嘱ヲ以テ留存シタル一切ノ遺産物件ハ総テ之ヲ供還セサル可カラス之ニ反対セル約款有ルノ時会及ヒ第千二十六条ニ指定スル事件有ルノ時会ハ此例外ニ属ス 第千九条 給養、保育及ヒ教誨ニ関スル費用、衣服及ヒ婚姻式並ニ婚姻餽贈ニ充用スル如キ慣習上ニ於ケル普通ノ費用ハ総テ供還ス可キノ限ニ在ラス 第千十条 承産者カ死亡者ニ対シテ締結セル契約ニ関シテ抽取シタル利益ノ如キモ亦供還ス可キノ限ニ在ラス但々其契約ヲ締結セル時際ニ於テ其契約ハ承産者ノ為メニ何等ノ間接ナル利益ヲモ包含スルコト無キ者タルコトヲ要ス 第千十一条 死亡者ト其承産者タル可キ一人トノ間ニ詐偽ヲ挟ムコト無クシテ団結シタル会社ハ若シ其規約カ正確ナル記日ヲ存スル証書ニ因テ立定セル者タルニ於テハ則チ其規約ヨリ生出スル事件ニ関シ何等ノ者ヲモ供還スルコトヲ須ヒス 第千十二条 受贈者ノ過失ニ因ラス偶然ノ事故ニ因テ毀滅セル不動産物件ハ復タ之ヲ供還スルコトヲ須ヒス 第千十三条 供還ス可キ物件ノ収額及ヒ利息ハ唯々遺産承襲ヲ開始スル本日ヨリ起算シテ以テ之ヲ弁償ス可キ者トス 第千十四条 供還ハ第千一条ノ規則ニ准依シ後親タル承産者カ他ノ共同承産者ニ対シテ為ス可キ者ニシテ決シテ他ノ承産者、受遺者及ヒ遺産ニ権理ヲ有スル債主ニ対シテ為ス可キ者ニ非ス但々贈与者若クハ遺嘱者ノ予定セル約款或ハ第千二十六条ニ指示スル事件ノ在ル有ル如キハ此例外ニ属ス 自由贈与部分ヲ享有セル受贈者若クハ受遺者ニシテ且准規部分ニ権理ヲ有スル承産者タル所ノ人ハ唯々其准規部分ノ定額ヲ完全ナラシムル為メニ贈与物件ノ供還セシムルコトヲ得可キモ自由贈与部分ヲ結成スル為メニ贈与物件ヲ供還セシムルコトヲ得可カラス 第千十五条 供還ハ贈与物件ノ実物ヲ以テ為スモ贈与物件ノ価直ヲ自己ノ承産部分ノ額内ヨリ扣断セシムルモ共ニ供還ヲ為ス人ノ択定ニ任ス可シ 第千十六条 不動産物件ノ受贈者カ之ヲ他人ニ転付シ若クハ抵当ニ供充セルコト有レハ則チ其供還ハ亦均シク自己ノ承産部分ノ額内ヨリ扣断セシムルコトヲ得可シ 第千十七条 此扣断法ヲ以テスル供還ハ遺産承襲ヲ開始セル時際ニ於ケル其不動産ノ価格ニ准算シテ之ヲ為ス可キ者トス 第千十八条 受贈者ノ贈与物件ヲ改良スル為メニ支消シタル費用ハ遺産承襲ヲ開始セル時際ニ於ケル其物件ノ価格ニ准算シテ之ヲ受贈者ニ償付セサル可カラス 第千十九条 受贈者ノ贈与物件ヲ保存スル為メニ支消シタル必要ノ費用ハ仮令ヒ其物件ニ改良ヲ与フルコト無キモ亦之ヲ受贈者ニ償付セサル可カラス 第千二十条 受贈者ハ自己ノ行作、過失若クハ怠忽ニ因テ贈与ニ係ル不動産物件ノ価格ヲ減降セシムルコト有レハ則チ其損害ノ責ニ任セサル可カラス 第千二十一条 受贈者カ贈与ニ係ル不動産物件ヲ他人ニ転付シタルニ於テハ則チ其買受者ノ為シタル改良若クハ毀損ハ前三条ノ規則ニ照准シテ之ヲ償付シ若クハ之ヲ賠還セサル可カラス 第千二十二条 供還ヲ認免スルノ規約ヲ帯ヒテ以テ後親ニ贈与シタル物件カ一個ノ不動産ニ係リ而シテ其数額カ自由贈与部分ニ超過セルニ於テハ則チ受贈者ハ其不動産物件ノ実物ヲ以テ供還スルカ若クハ第八百二十六条ニ規定セル法則ニ准依シテ全ク之ヲ留存スルコトヲ得可シ 第千二十三条 贈与ニ係ル不動産物件ノ実物ヲ以テ供還スル共同承産者ハ其物件ニ関シテ費消シ及ヒ改良シタル賠償ヲ完収スルニ至ル迄ハ其不動産物件ヲ占有シ及ヒ之ヲ留存スルコトヲ得可シ 第千二十四条 動産物件ヲ以テスル贈与ヲ供還スルニ関シテハ受贈者ハ扣断法ヲ施行シ初メ贈与ヲ為シタル時際ニ於テ其物件ノ保有セシ価格ニ准算シ贈与ニ関スル書類ニ副具セシ価格ニ比例シテ以テ之ヲ自己ノ承産部分ノ額内ヨリ扣断セシムルコトヲ得可シ若シ此評価ヲ缺クコト有レハ則チ評価人ヲシテ其価格ヲ評定セシム 第千二十五条 貨幣ヲ以テスル贈与ヲ供還スルニ関シテハ受贈者ハ遺産額内ニ現存スル貨幣ニシテ自己ノ承産部分ノ額内ヨリ之ヲ扣減セシム可キ者トス 若シ遺産額内ニ現存スル貨幣カ受贈額ヨリモ缺少ナルニ於テハ則チ受贈者ハ遺産額内ノ動産物件若シ之レ無ケレハ不動産物件ニシテ自己ノ承産部分ノ額内ニ就キ受贈額ニ達スル部分ヲ割放シテ以テ供還ニ充ルコトヲ得可シ 第千二十六条 第千八条及ヒ第千十四条ノ条則有ルニ関セス准規部分ニ権理ヲ有スル受贈者若クハ受遺者カ他ノ受贈者、共同承産者若クハ受遺者(仮令ヒ親属ニ係ラサル者タルモ)■為メニ為サレタル贈与若クハ贈遺ハ自由贈与部分ニ超過セリト做シテ以テ之ヲ減殺スルコトヲ請求スルニ於テハ則チ自己ノ得有ス可キ贈与若クハ贈遺ニ係レル部分ハ自己ノ准規部分■額内ニ就キテ扣断ヲ受ク可キ者トス但特ニ供還ノ認免ヲ得タル如キハ此限ニ在ラス 此供還ノ認免ハ自己ノ先位ニ在ル受贈者ニ向テ損害ヲ延及セシム可キノ効力ヲ有セス 前数条ニ規定セル法則ニ准依シテ以テ供還ノ認免ヲ与フ可キ贈与及ヒ贈遺ハ共ニ均シク扣断ノ認免ヲ与フ可キ者トス 第五節 遺産ニ属スル逋債ノ弁償 第千二十七条 共同承産者ハ其承産部分ニ比例シ遺産ニ属スル逋債及ヒ責課ノ弁償ヲ分担セサル可カラス但遺嘱者カ他ノ方法ヲ以テ之ヲ処分セル有ルカ如キハ此限外ニ在リトス 第千二十八条 遺産額内ノ不動産物件カ買還シ得可キ年金契約ノ為メニ券記抵当ニ供充セラレタルニ於テハ則チ各共同承産者ハ各自ノ承産部分ノ結成ヲ執行スルヨリ以前ニ不動産物件ノ債課ヲ償清シテ無責財産ト為スコトヲ請求スルヲ得可シ若シ各共同承産者カ遺産ノ現状ニ従テ之ヲ分配スルニ於テハ則チ債課ヲ負担スル地所ハ年金ニ相当スル資本金額ヲ地所ノ価額内ヨリ扣除シ他ノ不動産ニ比例シテ以テ其価額ヲ評定ス 各共同承産者中ノ人ニシテ此債課ヲ負担スル地所ノヲ得有シタル所ノ者ハ独力ヲ以テ其年金ヲ弁償スルコトニ当任シ其共同承産者ニ対シテ之ヲ保証スルノ責務ヲ有ス 第千二十九条 承産者ハ遺産ニ属スル逋債及ヒ責課ニ関シテハ躬親カラ其承産部分ニ比例シテ其弁償ヲ分担シ券記抵当権ニ関シテハ其債主ニ対シ各承産者ニ代テ以テ其弁償ヲ特担セサル可カラス但共同承産者ノ間ニ於テハ其各自ノ承産部分ニ比例シテ以テ之カ賠還ヲ要求スルコトヲ得可キノ権理有リトス 第千三十条 共同承産者中ノ一人ニシテ券記抵当権ニ対シ自己ノ分担スル部分ニ超過セル金額ヲ弁償シタル所ノ人ハ他ノ共同承産者ニ向テ唯其各自ニ分担スル責課ニ比例シテノミ之カ賠還ヲ要求スルコトヲ得可シ仮令ヒ其責課ヲ弁償シタル所ノ承産者カ債主ノ権理ニ替代スル如キ時会ト雖モ亦然リトス然レトモ共同承産者中ノ一人ハ自己ノ貸付権ヲ弁償セシムルニ関シテハ他ノ通常債主ト一般ニ自己承産者タル為メニ分担ス可キ所ノ者ヲ扣除シテ以テ其余額ノ交付ヲ要求スルノ権理ヲ有ス 第千三十一条 共同承産者中ノ一人カ分担スル責課ヲ弁償スル能ハサルコト有レハ則チ券記抵当ニ関スル逋債ノ責課部分ハ更ニ之ヲ他ノ各共同承産者ニ派当シテ以テ之ヲ分担セシム 第千三十二条 遺産ニ向テ権理ヲ有スル債主若クハ受遺者ハ本巻第二十四篇中ニ包載スル条則ニ遵依シ死亡者ノ資産ト承産者ノ資産トヲ分離セシムルコトヲ請求スルヲ得可シ 第千三十三条 受遺者ハ遺産ニ属スル逋債ヲ弁償スルコトヲ須ヒス然レトモ贈遺ニ係レル地所ニ向テ券記抵当権ヲ有スル債主ノ権理ヲ妨碍スルコト無キヲ要ス但々其資産分離ニ関スル権理ノ如キハ尚ホ之ヲ保存ス然レトモ受遺者カ贈遺ニ係レル地所ニ属スル逋債ヲ弁償シタルニ於テハ則チ承産者ニ対シ原債主ノ権理ニ替代スルコトヲ得可シ 第六節 遺産分配ノ効力及ヒ承産部分ノ保証 第千三十四条 各共同承産者ハ其承産部分ニ包有スル各種ノ物件及ヒ共同承産者ノ間ニ於ケル競売ニ因テ自己ニ帰属シタル各種ノ物件ニ関シテハ自己一人カ之ヲ遺産者ヨリ直接ニ承襲シ而シテ遺産額内ニ在ル他ノ物件ハ未タ嘗テ所有セサリシ者ト看做ス 第千三十五条 各共同承産者ハ遺産分配ノ以前ヨリ存在セル理由ニ因起スル占有権ノ擾碍及ヒ褫奪ニ遭フコト有レハ則チ互相ニ之ヲ保任セサル可カラス 若シ其褫奪ニ遭ヘル物件カ遺産分配証書中ニ明確ニシテ特別ナル約款ヲ以テ之ヲ予示シタル者タルカ若クハ共同承産者カ自己ノ過失ニ因テ之ヲ喪失シタルニ於テハ則チ保任ス可キノ限ニ在ラス 第千三十六条 共同承産者ハ各自ノ承産部分ニ比例シ其共同承産者ノ褫奪ニ遭ヒタル損害ヲ分担セサル可カラス 若シ共同承産者中ノ一人カ其分担スル派当額ヲ支弁スルコト能ハサルニ於テハ則チ其人ノ派当額ハ更ニ弁償ニ耐ユル所ノ各承産者ヲシテ之ヲ分担セシム 第千三十七条 年金ニ関スル負債主ノ弁償ニ耐ユル所ノ保証ハ遺産ヲ分配セル以後ノ五年間ヲ以テ其期限ト為ス 若シ弁償ニ耐ユル能ハサルノ事実カ遺産ノ分配ヲ完了シタル以後ニ起生スルニ於テハ則チ之カ為メニ保証ノ責務ヲ起生スルコト無シ 第七節 遺産分配ノ破毀 第千三十八条 遺産ノ分配ハ脅迫若クハ詐偽ノ在ル有リトスル理由■依拠シテ之ヲ破毀スルコトヲ得可シ 共同承産者中ノ一人カ承産ニ関シテ四分ノ一以外ニ係レル損失ヲ受ケタルコトヲ証明スルノ時会ニ於テモ亦此破毀ノ訟権ノ存在スル者トス又遺産額内ニ在ル一個ノ物件ヲ漏脱シタル如キハ此破毀ノ訟権ヲ認識スルニ足ラスシテ唯々分配ノ追加ヲ為サシム可キ者トス 第千三十九条 此破毀ノ訟権ハ各共同承産者ノ間ニ存スル遺産ノ共有ヲ罷止セシムル諸種ノ行為ニ向テ之ヲ行用ス可キ者トス仮令ヒ其行為ハ売買、交換、協約若クハ此他ノ方法ニ遵依スル者タルモ亦然リトス 然レトモ遺産ノ分配若クハ之ニ代ル可キ行為ヲ執行シタル以後ハ此破毀ノ訟権ハ先次ノ行為ノ現実ナル困難ニ関シテ為シタル協約ニ向テハ之ヲ行用スルコトヲ得可カラス而シテ其困難ハ之カ為メニ何等ノ争訟ヲモ起発セサリシ者ト雖モ亦復タ然リトス 第千四十条 此破毀ノ訟権ハ共同承産者中ノ一人カ詐偽ヲ挟■コト無ク及ヒ利害ヲ顧ミルコト無クシテ他ノ各共同承産者若クハ其一人ニ向テ為シタル自己承産部分ノ権理ノ売買ニ関シテハ存在セサル者トス 第千四十一条 遺産ノ分配ニ関シ果シテ四分ノ一以外ニ係レル損失有リシヤ否ヤヲ知ル為メニハ其分配ノ時際ニ於ケル景況及ヒ価格ニ従テ其物件ノ評価ヲ施行ス 第千四十二条 此破毀訟権ノ為メニ攻撃セラレタル所ノ人ハ其訟求者ニ向テ承産部分ヲ追加スル物件ヲ交付シ若クハ金額ヲ交付シテ其裁判ヲ解止シ以テ更ニ遺産ノ分配ヲ改行セサルコトヲ得可シ 第千四十三条 共同承産者ニシテ自己ノ承産部分ノ全部若クハ一部ヲ他人ニ転付シタル人ハ若シ其転付カ詐偽ノ発覚シ若クハ脅迫ノ断止セル以後ニ於テ之ヲ為シタルニ於テハ則チ其詐偽若クハ脅迫ノ事由ニ依拠シテ破毀訟権ヲ行用スルコトヲ得可カラス 第八節 父若クハ母若クハ先親ノ処分スル遺産ノ分配 第千四十四条 父母及ヒ他ノ先親ハ其子及ヒ後親ノ為メニハ自由贈与部分ニ属セサル財産ヲ併セテ之ニ分配シ及ヒ派当スルコトヲ得可シ 第千四十五条 此分配ハ贈与及ヒ遺嘱ニ関シ規定セル法則ニ遵依シ彼此生存贈与ノ行為若クハ遺嘱ノ行為ニ因テ以テ之ヲ為スコトヲ得可シ 彼此生存贈与ノ行為ノ因テ為ス所ノ分配ハ唯々現有財産ノミヲ包括スルコトヲ得ルニ過キス 第千四十六条 若シ遺産分配ノ物数内ニ先親ノ其死亡スル時際ニ遺留シタル一切ノ財産ヲ包括セサルニ於テハ則チ此漏脱ニ係ル財産ハ法律ニ燕照准シテ之ヲ分配ス 第千四十七条 遺産分配ノ人員内ニ承産ス可キ一切ノ子及ヒ早世シタルノ子ノ後親ヲ包括セサリシニ於テハ則チ其遺産分配ハ全ク効力ヲ有セサル者トス 此時会ニ於テハ啻ニ其遺産分配ニ漏脱セル子若クハ後親ノミニ止マラス他ノ遺産分配ニ関与シタル承産者ト雖モ亦均シク更ニ遺産ノ分配ヲ改行スルコトヲ請求スルヲ得可シ 第千四十八条 若シ先親ノ為シタル遺産分配若クハ其他ノ行為ヨリシテ遺産ノ分配ヲ領受シタル一人カ其准規部分ノ減損ヲ被フル有ルニ於テハ則チ此遺産ノ分配ハ之ヲ訟撃スルコトヲ得可シ又若シ此遺産ノ分配カ彼此生存贈与ノ行為ヲ以テ為セル者タルニ於テハ則チ第千三十条ニ掲記スル明文ニ准依シ四分ノ一以外ノ損失ヲ受クルト言フノ理由ニ依拠シテ之ヲ訟撃スルコトヲ得可シ 第千四十九条 前条ニ掲示シタル理由ノ其一ニ依拠シテ先親ノ為シタル遺産ノ分配ヲ訟撃スル所ノ子ハ先ツ分配ニ関スル評価ノ費用ヲ供出シ而シテ之ヲ訟撃セサル可カラス若シ其訴訟ニ曲敗ヲ取リタルニ於テハ則チ此評価費用及ヒ裁判費用ヲ併セテ之ヲ支弁セサル可カラス 第三篇 贈与 第千五十条 贈与トハ純然ニ自已ノ意思ニ発スル恵施ニシテ之ニ依リ贈与者カ受贈者ニ向テ贈与物件ヲ現ニ自已ノ所有ヨリ収銷■ス可カラサル如ク剥褫シ受贈者ノ之ヲ領受スルヲ謂フ 第千五十一条 謝恩ノ為メ若クハ受贈者ノ功労ヲ犒フ為メ若クハ特別ノ報酬ノ為メニスル恵施ハ即チ贈与ト為ス又他ノ恵施ニシテ或種ノ責課ヲ受贈者ニ負担セシムル者ノ如キモ亦即チ贈与ト為ス 第一章 贈与ヲ為シ及ヒ之ヲ領受スルノ合格 第千五十二条 左項ニ列記スル所ノ人ハ贈与ヲ為スコトヲ得可カラス 即チ遺嘱ヲ為スコトヲ得サルノ人准治産禁ヲ受ケタル〔准治産禁ノ宣告ヲ訟求セラレタル本日ヨリ以後ニ在ル〕ノ人丁年権ノ認許ヲ得タル未丁年者是ナリ此最後ノ人ニ就キテハ若シ婚姻上ノ財産契約ニ関スル条則ノ在ル有レハ則チ此限外ニ属ス 第千五十三条 遺嘱行為ノ章中ニ規定セル所ノ時会及ヒ方法ニ准依シ遺嘱ニ因テ贈遺ヲ領受スルニ不合格ナル人ハ仮令ヒ間介者ノ名義ヲ以テスルモ贈与ヲ領受スルコトヲ得可カラス 第千五十四条 配偶者ハ其婚姻ノ存在スル間ニ於テハ其一方カ他ノ一方ニ向テ何等ノ贈与ヲモ為スコトヲ得可カラス但々臨終行為ニ関シテ規定セル法則ニ准依シテ之ヲ為ス如キハ此限ニ在ラス 第千五十五条 不合格者ニ向テ為シタル贈与ハ仮令ヒ要報契約ノ外貌ヲ仮リテ之ヲ為スモ亦効力ヲ有セサル者トス 第二章 贈与ノ程式及ヒ効力 第千五十六条 贈与ハ総テ公式ノ行為ニ依テ之ヲ為サヽル可カラス然ラサレハ則チ無効タル者トス 第千五十七条 贈与ハ唯々其諾受セラレタル本日ヨリシテ贈与者ニ其責任ヲ負担セシメ及ヒ其効力ヲ生出スル者トス 諾受ハ贈与ト同一ノ行為ニ依テ之ヲ為シ若クハ日後ニ於テ更ニ公式ノ行為ニ依テ之ヲ為スコトヲ得可シ但々贈与者ノ死亡以前ニ於テスルコトヲ要ス然レトモ此後項ノ時会ニ於テハ其贈与ハ唯々諾受ノ行為カ贈与者ニ通報セラレタル本日ヨリシテ其効力ヲ生出スル者トス 第千五十八条 若シ受贈者カ丁年ニ達セル人タルニ於テハ則チ諾受ハ其人カ之ヲ為シ若クハ公正ナル代理者ニシテ此丁年者ニ対シテ為シタル贈与ヲ諾受スル権理若クハ一般ニ贈与ノ諾受スル権理ヲ有スル所ノ人カ之ヲ為スコトヲ要ス 第千五十九条 丁年権ノ認識ヲ得サル未丁年者若クハ受治産禁者ニ対シテ為シタル贈与ハ父若クハ後見人カ之ヲ諾受ス 仮令ヒ父ノ生存スルモ母タル者又仮令ヒ父母ノ生存スルモ先親タル者ハ共ニ後見人ニ非サルモ未丁年者若クハ受治産禁者ニ対シテ為シタル贈与ヲ諾受スルコトヲ得可シ然レトモ此時会ニ当テハ民事裁判庁ノ許可ヲ得ルヲ必要ナリトス 父若クハ母カ贈与ヲ為シ其諾受ヲ為スニ関シテ他ノ人ヲ指命スルコトヲ民事裁判庁ニ委託スル時会ノ如キモ亦之ニ准ス 確定シ且生存スル人ノ子ニシテ未タ産生セサル所ノ者ニ対シテ為サレタル贈与ハ上項ト同一ノ方法ニ照准シ父、母、祖父若クハ其他ノ先親カ其諾受ヲ為ス可キ者トス 丁年権ノ認識ヲ得タル未丁年者若クハ准治産禁ヲ受ケタル丁年者ハ保管人ノ承諾ヲ取テ以テ贈与ヲ諾受スルコトヲ得可シ 第千六十条 無形人ニ対シテ為サレタル贈与ハ第九百三十二条ニ掲記セル政府ノ准許ヲ受クルニ非サレハ則チ之ヲ諾受スルコトヲ得可カラス 第千六十一条 若シ諾受ヲシテ前数条ノ法則ニ照准シテ以テ之ヲ為セル者ニ非サラシムレハ則チ贈与者、其承産者若クハ受権者ハ贈与ノ無効ヲ抗言スルヲ得可シ 第千六十二条 正当ニ諾受シタル贈与ハ其契約主ノ間ニ在テハ完全ノ効功ヲ有スル者トス而シテ其贈与物件ノ所有権ハ特ニ之ヲ授受スルコトヲ要セスシテ受贈者其人ニ転移シタル者ト看做ス 確定ニシテ而カモ未来ニ係ル婚姻ノ為メニ其夫妻ノ間ニ於テシ或ハ其夫妻若クハ其婚姻ノ間ニ産生スル後親ノ為メニスル他ノ人ニ因テ為サレタル贈与ハ諾受ヲ缺クノ理由ニ依拠シテ以テ之ヲ訟撃スルコトヲ得可カラス 第千六十三条 未丁年者、受治産禁者及ヒ其他一切ノ受贈者ハ贈与ノ諾受ヲ缺クコト有ルニ於テハ則チ之ヲ得有スルコトヲ得ス但々諾受ヲ為スコトヲ担当スル人ニ向テ訟権ヲ行用スル如キハ格別ノ事ニ属ス 第千六十四条 贈与ハ唯々贈与者ノ現有ノ財産ノミヲ包含ス可シ若シ未来ノ財産ヲ包含スルコト有レハ則チ贈与ハ此財産ニ向テハ効力ヲ有セサル者トス 第千六十五条 不做得ノ規約ヲ以テシ或ハ法律ニ違犯シ若クハ懿媺ノ風俗ニ乖戻スル規約ヲ以テスル一切ノ贈与ハ総テ効力ヲ有セサル者トス 第千六十六条 或種ノ規約ニシテ其執行カ唯々贈与者ノ意望ノミニ専関スル所ノ者ヲ以テスル一切ノ贈与モ亦総テ効力ヲ有セサル者トス 第千六十七条 若シ贈与カ其贈与ヲ為セル時際ニ存在シタル逋債若クハ責課ニ非サル他ノ逋債若クハ責課或ハ特ニ贈与ノ行為中ニ指示セル逋債若クハ責課ヲ弁償スルノ規約ヲ以テスル者タルニ於テハ則チ亦均シク効力ヲ有セス 第千六十八条 未来ノ婚姻ノ為メニ為シタル贈与ハ若シ日後ニ其婚姻カ締結セラレサルコト有レハ則チ其効力ヲ有セサル者トス 其婚姻カ無効ニ帰スルノ時会ニ在テモ亦然リ然レトモ子ノ身上ニ専関スル所ノ贈与ニシテ第百十六条ニ掲記セル如キノ時会ニ於ケル者ハ即チ其効力ヲ有ス但々第三位ノ人カ中間ニ於テ得有シタル権理ハ依然存在スル者トス 第千六十九条 贈与者カ贈与ノ行為中ニ包括スル物件若クハ贈与ノ財産中ニ包括スル金額ヲ自由ニ処分スルノ権理ヲ自巳ニ貯存シ而シテ未タ自由ニ之ヲ処分スルニ及ハスシテ偶々死亡スルコト有レハ則チ此物件若クハ此金額ハ即チ贈与者ノ承産者ニ帰属ス仮令ヒ之ニ反スル約款若クハ定約ノ在ル有ルモ亦然リト為ス 第千七十条 動産物件ノ贈与ハ贈与証書中ニ特記シテ以テ価直ヲ指示セル物件或ハ贈与者公証人及ヒ受贈者若クハ受贈者ニ代テ諾受ヲ為ス人ノ署名セル価直目録書ニ記載セル物件ニ向テノミ其効力ヲ有ス此価直目録書ハ贈与証書ノ正本ト一併ニ之ヲ保存ス 第千七十一条 贈与者ハ唯々受贈者一人ノミ自已ニ先タツテ死亡スルノ時会受贈者及ヒ其後親カ尽ク自已ニ先タツテ死亡スルノ時会ニ当テ其贈与物件ハ再ヒ自已ニ復帰ス可キノ約束ヲ立定スルコトヲ得可シ 此復帰ノ権理ハ唯贈与者ニ向テノミ存在スル者トス 第千七十二条 此復帰ノ権理ハ贈与物件ノ転付ヲ破毀シ其物件ヲシテ一切ノ責課権若クハ券記抵当権ヲ脱卸シテ以テ再ヒ贈与者ニ復帰セシムルノ効力ヲ有ス但々其抵当権ハ嫁資、嫁資ニ関スル利益若クハ婚姻上ノ財産契約ニ係ル者ニシテ受贈者タル配偶者ノ他ノ財産ハ其抵当タルニ周足セス而シテ其贈与ハ婚姻上ノ財産契約中ニ於テ之ヲ為シ是ニ依テ■責課権若クハ券記抵当権ノ生出スル時会ノ如キハ此限ニ在ラス 第千七十三条 贈与ヲ代受セシムル約款ハ唯々臨終ノ行為ニ関シテ規定セル時会及ヒ界限ニ於テノミ之ヲ認許■ 贈与ヲ代受セシムル約款ノ無効ハ以テ其贈与ノ有効ヲ妨害スルコト無シ 第千七十四条 贈与者ハ自己ノ為メ次ニ一個若クハ数個ノ人ノ為メニ動産若クハ不動産ヲ問ハス其贈与物件ノ使用権若クハ収額得有権ヲ貯存スルコトヲ得可シ然レトモ其数人ノ間ニ於テハ之ヲシテ挨次ニ貯存セシムコトヲ得可カラス 第千七十五条 「ベネフィス、サンプル」「シャペラニー、ライック」若クハ他ノ之ニ類スル院舎ヲ建造シ若クハ之ニ襯施スルノ目的ヲ以テスル贈与ハ効力ヲ有セサル者トス 第千七十六条 若シ動産物件ノ贈与カ収額得有権ヲ貯存シテ以テ為サレタル者ニ関シテハ受贈者ハ其収額得有権ノ終期ニ至リ其贈与物件ノ実物ノ現状ヲ以テ之ヲ領受ス可ク又受贈者ハ其贈与証書中ニ於テ贈与物件ニ向ヒ評定セル価直ノ数額ニ均当スル価格ヲ現存セサル物件ニ関シテハ贈与者若クハ其承産者ニ対スル訟権ヲ有ス但■其物件カ偶然ノ事故ニ因テ毀滅ニ帰シタル如キハ此限ニ在ラス 第千七十七条 贈与者ハ其贈与物件ニ関シ被フル可キノ褫剥ニ向テ受贈者ヲ保護スルノ責任ヲ有セス 然レトモ此規則ハ第千三百九十六条ニ掲示スル時会ノ外即チ左項ニ掲示スル時会ニ向テハ之ヲ擬施ス可カラス 第一項 贈与者カ特ニ其保護ヲ為ス可キコトヲ約諾シタルノ時会 第二項 其褫剥カ贈与者ノ詐偽若クハ贈与者其人ノ事為ニ関シテ起生スルノ時会 第三項 受贈者ニ向テ責課ヲ負担セシムル贈与ニ関スルノ時会此時会ニ於テハ其保護ハ唯責課ノ軽重ニ応シテ之ヲ為ス可キ者トス 第三章 贈与ノ収銷 第千七十八条 贈与ハ解破ニ係ル規約ノ効力、負恩ノ理由若クハ生子ノ理由ニ依拠シテ以テ之ヲ収銷スルコトヲ得可シ 第千七十九条 贈与ニ附着セシメタル解破ノ規約カ実ニ成リタル有ルニ於テハ則チ其贈与物件ハ受贈者ノ之ニ負担セシメタル責課若クハ抵当権ヲ脱卸シテ以テ贈与者ニ復帰シ而シテ贈与者ハ贈与セル不動産物件ノ現有者タル第三位ノ人ニ対シテハ自己ノ受贈者ニ対シテ有スル各般ノ権理ト同一ナル権理ヲ有ス 第千八十条 若シ受贈者ニ負担セシメタル責課ヲ果行セサル時会ノ為メニ予メ立定セル暗示若クハ明示ノ規約カ実ニ成リタル有ルニ於テハ則チ贈与者ハ贈与物件ノ収銷ヲ請求スルコトヲ得可シ然レトモ此請求ノ登簿ノ本日ヨリ以前ニ第三位ノ人カ不動産物件ニ向テ得有セル権理ハ之ヲ妨害スルコトヲ得可カラス 第千八十一条 負恩ノ理由ニ依拠スル贈与ノ収銷ハ唯々左項ニ掲示スル時会ニ於テノミ之ヲ請求スルコトヲ得可シ 受贈者カ贈与者ニ対シテ其生命ヲ断タント為シタル時会 受贈者カ贈与者ニ対シテ上項ノ外ナル罪事ヲ犯シ若クハ甚大ナル醜辱ヲ与ヘ若クハ酷虐ヲ加ヘタルノ時会 受贈者カ贈与者ニ対シテ其衣食ノ供給ヲ不当ニ拒却シタルノ時会 第千八十二条 負恩ノ理由ニ依拠スル贈与収銷ノ請求ハ其負恩事故ノ起発スル本日若クハ贈与者カ其事故ヲ覚知スル本日ヨリ以後ノ一年内ヲ期シテ之ヲ為サヽル可カラス 此請求ハ贈与者カ受贈者ノ承産者ニ対シテ之ヲ為スコトヲ得可カラス又贈与者ノ承産者カ受贈者ニ対シテ之ヲ為スコトヲ得可カラス但此後項ノ時会ニ於テハ其訟権カ既ニ贈与者ノ行用スル所ト為リ若クハ贈与者カ負恩事故ノ起発セルヨリ一年内ニ死亡シタル如キハ此例外ニ在リトス 第千八十三条 贈与ヲ為セル時際ニ生存スル准規ノ子若クハ准規ノ後親ヲ有セサリシ所ノ人ノ為シタル贈与ハ贈与者ノ准規ノ子(仮令ヒ贈与者ノ死亡以後ニ産生スル所ノ子ニ係レルモ)ノ産生スル理由若クハ追成ノ婚姻ニ因テ私生ノ子ヲ正出視シタル理由ニ依拠シテ之ヲ収銷スルコトヲ得可シ但々此准規ノ子ハ必ス生存ス可キ景況ヲ以テ産生セル者タルコトヲ要シ此私生ノ子ハ必ス贈与ヲ為セルヨリ以後ニ於テ産生セル者タルコトヲ要ス 互相ノ贈与ニ関シテハ其一方ノ贈与者ノ生子ノ理由ニ依拠スル贈与ノ収銷ハ以テ他ノ一方ノ贈与ノ収銷ヲ生出スル者トス 第千八十四条 各般ノ約款若クハ約定ニシテ之ニ依リ贈与者カ自カラ其生子ノ理由ニ依拠シテ贈与ヲ収銷スルノ権ヲ放棄スル所ノ者ハ其効力ヲ有セス 第千八十五条 贈与者ノ子ニシテ贈与ヲ為セル時際ニ既ニ胎孕セラレタル所ノ者ニ関シテモ亦其贈与ヲ収銷スルコトヲ得可シ 第千八十六条 仮令ヒ受贈者ハ既ニ贈与物件ノ占有ヲ為シ而シテ贈与者カ其子ノ生レタル以後尚ホ受贈者ヲシテ依然其占有ヲ為サシメタリシ時会ト雖モ亦其贈与ハ収銷スルコトヲ得可キ者タリ然レトモ受贈者ハ贈与物件ノ性質如何ヲ問ハス裁判上ノ請求ヲ受ケタル本日ヨリ起算シテ其獲有シタル収額ヲ還付スルヲ以テ足レリトス 第千八十七条 単ニ報酬ノ為メニスル贈与及ヒ確定セル婚姻ノ為メニスル贈与ハ前数条ニ掲記セル条則ノ外ニ在ル者ニシテ負恩ノ理由ニ依拠スルト生子ノ理由ニ依拠スルトヲ問ハスシテ共ニ之ヲ収銷スルコトヲ得可カラス但々其贈与カ自由贈与部分ニ超過セルニ於テハ則チ贈与者ノ子カ其超過額ノ減殺ヲ請求スル権理ヲ有スル如キハ此限ニ在ラス 第千八十八条 負恩ノ理由若クハ生子ノ理由ニ依拠スル贈与ノ収銷ハ此請求ノ登簿ノ本日ヨリ以前ニ於テ第三位ノ人カ不動産物件ニ向テ得有シタル権理ヲ妨害スルコトヲ得可カラス 第千八十九条 贈与ヲ収銷セラレタルノ以後ニ於テ受贈者ハ其収銷ノ請求ヲ受ケタル時際ニ於ケル贈与物件ノ価格ニ比例シテ以テ其転付シタル物件ノ価直ヲ還付シ而シテ其収額ハ請求ヲ受ケタル本日ヨリ起算シテ以テ之ヲ還付セサル可カラス 第千九十条 生子ノ理由ニ依拠シテ贈与ヲ収銷スル贈与者ノ訟権ハ最終ノ子ノ産生セルヨリ以後ニ於ケル五年ノ期間ノ全満スルニ因テ喪失スル者トス 贈与者ハ子若クハ其後親ノ死亡スルコト有レハ則チ此訟権ヲ行用スルコトヲ得可カラス 第四章 贈与ノ減殺 第千九十一条 各般ノ贈与ハ其理由ノ何事タルト其誰某ノ為メニセルトヲ問ハス若シ贈与者ノ死亡スル時際ニ於テ其贈与ハ贈与者カ本巻第二篇第二章中ニ規定セル法則ニ准依シテ自由ニ処分スルコトヲ得可キ財産ノ部分ニ超過スト認定セラルヽニ於テハ則チ減殺ヲ受ク可キ者トス 第八百十条及ヒ遺嘱行為ノ減殺ニ関シ第八百二十一条ヨリ以下ノ数条ノ規定セル法則ハ贈与行為ノ減殺ニ関シテモ亦均シク之ニ照准ス可キ者トス 第千九十二条 贈与ノ減殺ハ法律カ為メニ遺産ノ准規部分若クハ他ノ部分ヲ貯存スル其人及ヒ其承産者若クハ其受権者カ之ヲ請求ス可キ者トス 此等ノ人ハ贈与者ノ生存スル間ニ於テハ仮令ヒ特別ノ公言ヲ為スモ其贈与ニ認諾ヲ与フルモ共ニ此減殺請求ノ権理ヲ放棄スルコトヲ得可カラス 受贈者、受遺者及ヒ死亡者ノ債主ハ贈与ノ減殺ヲ請求スルコトヲ得可カラス又其減殺ニ関シテ利益ヲ得有スルコトヲ得可カラス 第千九十三条 先ツ遺嘱ニ依テ処分シタル財産ヲ減殺スル方法ヲ行用シ尽シタル以後ニ於テスルニ非サレハ則チ贈与ノ減殺ヲ為スコトヲ得可カラス而シテ此贈与ノ減殺ヲ為スヤ先ツ最終ニ為シタル贈与ヨリ開手シ挨次ニ最初ニ為シタル贈与ニ遡及ス 第千九十四条 贈与者ノ死亡セルヨリ以後ノ一年内ニ贈与ノ減殺ヲ請求スルコト有ルニ於テハ則チ受贈者ハ贈与者ノ死亡セル本日ヨリ起算シテ其自由贈与部分ニ超過スル部分ヲ還付シ若シ一年内ニ之ヲ請求スルコト無キニ於テハ則チ其請求ヲ受ケタル本日ヨリ起算シテ以テ之ヲ還付ス可キ者トス 第千九十五条 贈与ノ減殺ニ因テ贈与者ニ復帰スル贈与物件ハ受贈者ノ之ニ負担セシメタル逋債及ヒ抵当権ヲ償清セシムルコトヲ得可シ 第千九十六条 贈与ノ減殺若クハ収銷ニ関スル訟権タルヤ贈与者ノ承産者カ贈与部分ニ係レル不動産物件ニシテ受贈者ノ転付シタル所ノ者ノ現有者タル第三位ノ人ニ対シテハ猶ホ贈与者ノ受贈者ニ対シテ訟権ヲ行用スル順序ト同一般ナル順序ニ准依シ先ツ受贈者ノ財産ヲ罄竭シテ以テ之ヲ行用スルコトヲ得可キ者トス而シテ此訟権ハ先ツ最終ノ転付ヨリ開手シ挨次ニ転付ノ順序ヲ追遡シテ以テ之ヲ行用セサル可カラス 第四篇 責務及ヒ契約ノ通則 第一章 責務ノ原因 第千九十七条 責務ハ法律、契約、准契約、犯罪若クハ准犯罪ニ起生スル者トス 第一節 契約 第一款 前加規則 第千九十八条 契約トハ二個若クハ数個ノ人カ彼此ノ間ニ法律上ノ連結ヲ組成シ若クハ之ヲ規定シ若クハ之ヲ解罷スル為メニ為ス所ノ協諾ヲ謂フ 第千九十九条 結約者ノ一方カ他ノ一方ニ向テ互相ニ責務ヲ負担スルニ於テハ則チ其契約ハ対責ノ契約ト為ス 第千百条 一個若クハ数個ノ人カ他ノ一個若クハ数個ノ人ニ対シテ責務ヲ負担シ而シテ他ノ一個若クハ数個ノ人カ責務ヲ負担スルコト無キニ於テハ則チ其契約ハ単責ノ契約ト為ス 第千百一条 一個ノ契約ニシテ其各結約者カ同価格ノ物件ヲ以テ利益ヲ得有セント欲スルニ於テハ則チ其契約ハ要報ノ契約ト為ス又結約者ノ一方カ同価格ノ物件ヲ要求セスシテ以テ他ノ一方ニ利益ヲ得有セシメント欲スルニ於テハ則チ其契約ハ不要報即チ恩恵ノ契約ト為ス 第千百二条 二個ノ結約者カ其一方ノ結約者ニ対シ某ノ利益ヲ不定ノ事故ニ繋着セシムルニ於テハ則チ其契約ハ偶然即チ偶中ノ契約ト為ス 例之ハ保険ノ契約若クハ危険ノ目的ヲ以テスル貸借若クハ賭博若クハ終身ヲ期スル契約ノ如キ是ナリ 第千百三条 契約ハ其事実ニ相当スル名義ヲ有スルモ若クハ之ヲ有セサルモ共ニ本篇ノ標率タル通則ニ照准ス可キ者トス 民事法律上ノ某種ノ契約ニ擬施ス可キ特別ノ条則ハ其各種ノ契約ニ関スル篇中ニ於テ之ヲ規定ス又商業ニ専関スル特別ノ契約ハ商事法典ニ於テ之ヲ規定ス 第二款 契約ノ有効タルニ必要ナル規約 第千百四条 契約ヲシテ有効タラシムル為メニ必要スル規約ハ即チ左項ノ如シ 結約者ノ合格 結約者ノ有効ナル承諾 契約ノ事為タル可キ標率 責務ヲ負担スルニ合法ナル理由 第一 結約者ノ合格 第千百五条 法律上ニ於テ不合格者ト公言セラレサル所ノ人ハ諸般ノ契約ヲ締結スルコトヲ得可シ 第千百六条 法律ニ掲記セル時会ニ於テ契約ヲ締結スルコトヲ得可カラサルノ不合格ハ即チ左項ノ人ニ存ス 未丁年者 受治産禁者 准治産禁ヲ受ケタル人 結婚セル婦女 法律カ或種ノ契約ヲ締結スルコトヲ禁止セル人 第千百七条 責務ヲ負担スルニ合格ナル人ハ未丁年者、受治産禁者、受准治産禁者若クハ結婚セル婦女其人ノ不合格ヲ称言シテ以テ其締結セル契約ニ対抗スルコトヲ得可カラス 然レトモ刑事上ノ罰責ノ理由ニ因テ受ケタル治産ノ禁止ヨリ生出スル不合格ハ何人タルヲ問ハス其不合格ヲ称言シテ以テ対抗スルコトヲ得可シ 第二 結約者ノ承諾 第千百八条 若シ承諾カ誤錯ニ因テ之ヲ取リ或ハ脅迫ニ因テ之ヲ要シ或ハ詐偽ニ因テ之ヲ索メタル者タルニ於テハ則チ其承諾ハ効力ヲ有セス 第千百九条 法律上ニ於ケル誤錯ハ唯々其誤錯カ契約ノ単一ナル理由若クハ主要ナル理由ニ存スルノ時会ニ於テノミ其契約ノ効力ヲ喪失セシムル者トス 第千百十条 事実上ニ於ケル誤錯ハ唯其誤錯カ契約ノ標率タル物件ノ本質ニ存スルノ時会ニ於テノミ其契約ノ効力ヲ喪失セシムル者トス 若シ其誤錯カ結約者ノ身上ニ存スルノ時会ニ於テハ其契約ノ効力ヲ喪失セシムルコト無シ但々其人即チ之ニ対シテ結約セント欲スル其人ニ関スル誤錯カ契約ノ主要ナル理由タル時会ノ如キハ此例外ニ在リトス 第千百十一条 契約ニ因テ責務ヲ負担セル人ニ対シテ為シタル所ノ脅迫ハ仮令ヒ其脅迫カ契約ニ利益ヲ有スル人ニ非サル他ノ人ニ出テタルノ時会ニ於ケルモ亦其契約ヲシテ効力ヲ喪失セシムルノ原因ト為ル者トス 第千百十二条 承諾カ脅迫ニ因テ之ヲ要セラレタリト看做ス可キハ其脅迫カ通常ノ人ニ向テ感触ヲ起サシメ其身体若クハ其財産ニ著甚ノ損害ヲ被フル可キ当然ナル危惧ヲ懐カシムルノ性質ヲ有スル者即チ是ナリ此事ニ関シテハ関係者ノ年齢、男女及ヒ情況ノ如何ヲ商量セサル可カラス 第千百十三条 脅迫ハ仮令ヒ結約者ノ配偶者若クハ先親若クハ後親ノ身体、財産ニ向テ為シタル者タルモ亦必ス契約ヲ無効ニ帰セシムルノ理由ヲ結成ス又此等ノ人ニ非サル他ノ人ニ関シテハ裁判官カ其景況ヲ商量シ契約ノ無効ニ関シテ之カ宣告ヲ下ス 第千百十四条 脅迫ノ在ルコト無クシテ唯尊敬ニ因ルノ畏惧ハ以テ契約無効ノ理由ト為スニ足ラサル者トス 第千百十五条 詐偽ニ関シテハ結約者ノ一方ノ為シタル術策カ若シ之無カリセハ他ノ一方カ契約ヲ締結セサル如キ者タルニ於テハ則チ其契約ヲ無効ニ帰セシムルノ原因ト為ル者トス 第三 契約ノ標率 第千百十六条 売買スルコトヲ得可キ物件ニ非サレハ則チ契約ノ標率ト為スコトヲ得可カラス 第千百十七条 契約ノ標率ト為スコトヲ得可キ物件ハ必ス其種類ヲ確定セサル可カラス 其物件ノ数額ハ若シ確定スルコトヲ得可キ者タルニ於テハ則チ之ヲ不定ニ委スルヲ妨ケス 第千百十八条 将来ニ在ル物件ヲ以テ契約ノ標率ト為スコトヲ得可シ 然レトモ尚ホ未タ開始セサル遺産承襲ノ権理ヲ拒却スルコトヲ得可カラス又自己カ遺産ヲ承襲ス可キ其人ニ対シ若クハ自己カ其人ノ承諾ヲ受クルモ第三位ノ人ニ対シ此遺産ニ向テ何等ノ契約ヲモ締結スルコトヲ得可カラス 第四 契約ノ原因 第千百十九条 原因無キノ責務及ヒ虚偽ノ原因若クハ違法ノ原因ニ根拠スル所ノ契約ハ共ニ効力ヲ有セサル者トス 第千百二十条 契約ハ仮令ヒ其理由ヲ明言セサル者タルモ亦其効力ヲ有ス 第千百二十一条 契約ノ原因ハ其反対ヲ証明セラルヽコト無キニ於テハ則チ存在スル者ト推定ス 第千百二十二条 契約ノ原因カ法律、善良ノ風俗若クハ公同ノ秩序ニ反対スル有ルニ於テハ則チ違法ノ者ト看做ス 第三款 契約ノ効力 第千百二十三条 法律ニ遵依シテ締結セル所ノ契約ハ其結約者彼此ノ間ニ於テハ法律ノ価格ヲ有ス 此契約ハ協諾ニ因リ若クハ法律ニ因テ認識セラル可キ理由ニ依拠スルニ非サレハ則チ之ヲ解消スルコトヲ得可カラス 第千百二十四条 契約ハ必ス良意ヲ以テ之ヲ履行スルコトヲ要シ而シテ啻ニ其契約ニ関シ明言セル事物ニ向テ責務ヲ有スルノミナラス正理及ヒ慣習ニ従ヒ其契約ヨリ生出スル所ノ成跡ニ向テモ亦均シク責務ヲ有セサル可カラス 第千百二十五条 所有権若クハ其他ノ権理ヲ転付スル目的ヲ以テ締結セル契約タルニ於テハ則チ其所有権若クハ権理ハ正当ニ表明セル承諾ノ効力ニ因テ転移スル者トス然リ而シテ其物件ハ仮令ヒ現実ニ之ヲ交付セサルモ其物件ニ起生スル所ノ危害ハ得有者之ヲ負担セサル可カラス 第千百二十六条 若シ某人カ前後両次ニ二個ノ人ニ対シテ転付シ若クハ交付スルコトヲ結約シタル所ノ一個ノ物件カ純質動産若クハ無記名券票タルニ於テハ則チ物件ノ占有ヲ得タル其一人カ他ノ一人ヨリモ指択セラル可キ権理有リトス仮令ヒ契約ノ名義ニ関シテ其記日ノ彼ヨリ後クルヽ者タルモ其占有カ良意ニ出テタルニ於テハ則チ亦然レリ 第千百二十七条 凡ソ契約ハ各人自己ノ為メ其承産者及ヒ受権者ノ為メニ之ヲ締結シタル者ト看做ス但々特ニ之ニ反対スル事項ヲ約定セル者若クハ之ニ反対スル事項カ契約ノ本質上ヨリ生出スル者ノ如キハ此限ニ在ラス 第千百二十八条 各人ハ自己ノ名義ヲ以テシテハ唯々自己ノ利益ノ為メニノミ要約ヲ為スコトヲ得可シ 然レトモ自己ノ為メニセル要約カ若シ他人ニ向テ為シタル贈与ノ規約ヲ帯フルニ於テハ則チ第三位ノ人ノ利益ノ為メニ要約ヲ為スコトヲ得可シ此要約ヲ為シタル人ハ若シ第三位ノ人カ其利益ヲ得有ス可シト公言セルニ於テハ則チ其ノ要約ヲ収回スルコトヲ得可カラス 第千百二十九条 第三位ノ人ノ所為ヲ目的トシテ要約ヲ為シ以テ他ノ人ニ対シテ責務ヲ負担スルコトヲ得可シ此要約ハ責務ヲ負担セル人ニ対シ若クハ第三位ノ人カ責務ノ履行ヲ拒却スル時会ニ当リ其第三位ノ人ニ承諾セシムルコトヲ約束セル人ニ対シテ賠償ヲ要求スル権理ヲ付与スルノ効力ヲ有ス 第千百三十条 契約ハ唯々結約者彼此ノ間ニ於テノミ其効力ヲ有スル者トス故ニ法律ニ規定セル時会ヲ除クノ外ハ第三位ノ人ニ向テ損害ヲ与フルコト無ク又利益ヲ為スコト無シ 第四款 契約ノ釈明 第千百三十一条 契約ニ関シテハ其語辞ノ文字上ニ於ケル意義ニ拘局スルヨリハ寧ロ結約者ノ協同セル意望ノ果シテ何等ノ点ニ在リシカヲ審査スルコトヲ要ス 第千百三十二条 一個ノ約款カ二個ノ意義ニ交渉スルコト有ルニ於テハ則チ其約款ノ何等ノ効力ヲモ起生セサル者ヨリモ寧ロ或種ノ効力ヲ有シ得可キ者ニ向テ其意義ノ解釈ヲ与フルコトヲ要ス 第千百三十三条 二個ノ意義ニ岐分ス可キ一個ノ語辞ハ最モ能ク其契約ノ性質ニ適当スル意義ニ従テ以テ之カ解釈ヲ下タサヽル可カラス 第千百三十四条 意義ノ曖昧ナル契約ハ其結約セル地方ノ慣例ニ従テ之カ解釈ヲ為ス可キ者トス 第千百三十五条 契約ニ関シテハ慣習上ノ約款ハ仮令ヒ其契約ニ之ヲ明言スルコト無キモ亦自カラ存在セル者ト看做サヽル可カラス 第千百三十六条 契約ニ関スル約款ハ其一ハ其他ニ依拠シテ以テ互相ノ解釈ヲ与フルコトヲ要ス而シテ其各個ノ約款ニ向テ契約ノ全体上ニ生出スル所ノ意義ヲ有セシム可キ者トス 第千百三十七条 契約ニ関シ疑義ヲ起生スルコト有ルニ於テハ則チ責務ヲ負担セシムル人ニ利益スルヨリモ寧ロ責務ヲ負担スル人ニ利益スルノ解釈ヲ下タスコトヲ要ス 第千百三十八条 契約ノ語辞ハ仮令ヒ広泛ナル意義ヲ含有スルモ物件即チ之ニ関シテ結約者カ特ニ結約セリト看認ス可キ物件ノミヲ包含セル者ト推定ス 第千百三十九条 一個ノ契約ニ関シ其契約ノ性質ヲ表明スル為メニ一個ノ時会ヲ特言セルニ於テハ則チ其特言セサル他ノ時会ニシテ其契約カ正当ニ推及ス可キ所ノ者ヲ除外シタリトハ看做ス可カラス 第二節 准契約 第千百四十条 准契約トハ結約者ノ意度ニ出テタル合法ノ所為ニシテ之ニ依テ第三位ノ人ニ対スル責務若クハ結約者彼此ノ間ニ於テスル互相ノ責務ヲ生出スル所ノ者ヲ謂フ 第千百四十一条 自カラ好ンテ他人ノ事務ヲ負担スル所ノ人ハ其開始セル幹理事務ヲ続行シ而シテ其主者カ能ク幹理事務ヲ自弁スルノ景況ニ達スルニ至リ始メテ之ヲ終ル可キノ責務ヲ負担スル者トス然リ而シテ幹理事務ノ一切ノ結果及ヒ代理契約ヨリ生成スル一切ノ責務ヲ負担セサル可カラス 第千百四十二条 若シ未タ幹理事務ヲ終ラサルノ日ニ於テ其主者ノ死亡スルコト有レハ則チ幹理者ハ主者ノ承産者カ能ク幹理事務ヲ自弁スルニ至ル迄ハ依然其幹理ヲ続行セサル可カラス 第千百四十三条 幹理者ハ其幹理事務ニ関シテハ必ス好家主長タルト一般ナル注意ヲ為スコトヲ要ス然レトモ法衙ハ其幹理者カ幹理事務ヲ負担セル時際ノ景況ニ従テ其過失若クハ其怠忽ヨリ起生セル所ノ損害ヲ評定シテ之ヲ軽減セシムルコトヲ得可シ 第千百四十四条 若シ幹理者カ事務ヲ善良ニ幹理セルニ於テハ則チ主者ハ幹理者カ主者ノ名義ヲ以テ負担セル所ノ責務ヲ履行シ幹理者ノ自カラ締結セル所ノ約束ニ関シ之カ弁償ヲ為シ及ヒ幹理者ノ支消シタル必要若クハ有益ナル費用ハ其費用ヲ支消シタル本日ヨヨリ起算セル利息ヲ賦加シテ以テ之ヲ償還セサル可カラス 第千百四十五条 自己ノ貸付セサル事物ヲ誤錯ニ因リ若クハ事実ヲ知テ而カモ領受セル所ノ人ハ事物ヲ付与シタル其人ニ向テ之ヲ還付セサル可カラス 第千百四十六条 自カラ負責主ト誤認シテ他人ニ係ル逋債ヲ弁償セル所ノ人ハ其責主ニ向テ之ヲ要還スルノ権理ヲ有ス 若シ責主カ此弁償ヲ得タルニ因テ其貸付権ニ関スル訟権及ヒ保証ヲ良意ニ放却セルニ於テハ則チ要還ノ権理ハ消滅ニ帰スル者トス此時会ニ在テハ弁償ヲ為シタル所ノ人ハ真正ノ負責主ニ対シテ要還ノ権理ヲ有ス 第千百四十七条 若シ此弁償ヲ領受セル人カ悪意ヲ以テシタルニ於テハ則チ其母金額及ヒ弁償ヲ領受セル本日ヨリ起算スル利息額若クハ収入額ヲ還付セサル可カラス 第千百四十八条 一個ノ物件ヲ不当ニ領受セル人ハ若シ其物件カ現存スルニ於テハ則チ其実物ヲ還付セサル可カラス又其物件カ現存セス若クハ毀損シタルニ於テハ則チ其悪意ヲ以テ領受セル人ハ仮令ヒ其物件カ偶然ノ事故ニ起因セル消滅若クハ毀損ヲ受クルコト有ルモ亦必ス其価直ノ全額ヲ還付セサル可カラス然レトモ若シ良意ヲ以テ之ヲ領受シタルニ於テハ則チ唯々其物件ニ因テ自己ノ抽利シタル所ノ者ヲ還付スルヲ以テ足レリトス 第千百四十九条 一個ノ物件ヲ良意ニ領受セル所ノ人カ之ヲ売付シタルニ於テハ則チ其売付ニ因テ自己ニ収得シタル価直額ヲ還付スルカ若クハ価直額ヲ要求スル訟権ヲ転付スルヲ以テ足レリトス 第千百五十条 物件ノ還付ニ権理ヲ有スル人ハ其物件ヲ保存スル為メニ支消シタル費用及ヒ第七百五条ニ准依シテ支消シタル有益ノ費用ハ仮令ヒ悪意ノ占有者ニ対スルモ亦必ス之ヲ弁償セサル可カラス 第三節 犯罪及ヒ准犯罪 第千百五十一条 某人ノ所為ニシテ他ノ人ニ損害ヲ被フラシメタル所ノ者ニ関シテハ必ス其人即チ其過失ニ因テ損害ヲ起生セシメタル其人ヲシテ之カ弁償ヲ負担セシム 第千百五十二条 各人ハ唯々其所為ニ関スルノミナラス其怠忽若クハ其闕慮ニ因テ起生セシメタル損害ニ関シテモ亦均シク其責ニ任セサル可カラス 第千百五十三条 各人ハ啻ニ自己ノ所為ニ因テ起生セシメタル損害ノ責ニ任ス可キノミナラス自己ニ轄属スル人ノ行為若クハ自己ノ管守ニ属スル物件ニ因テ起生セシメタル損害ニ対シテモ亦其責ニ任セサル可カラス 父タル者若シ之レ無ケレハ母タル者ハ其未丁年ノ子ニシテ同居セル所ノ者ノ起生セシメタル損害ニ関シ其責ニ任セサル可カラス 後見人ハ其受後見者ニシテ同居セル所ノ人ノ起生セシメタル損害ニ関シ其責ニ任セサル可カラス 主長及ヒ嘱任主ハ婢僕及ヒ被嘱任者カ其託付セラレタル業務ノ執行中ニ於テ他ノ人ニ損害ヲ被フラシメタルコト有レハ則チ其責ニ任セサル可カラス 教師及ヒ匠師ハ学生及ヒ徒弟カ其監護中ニ在テ他ノ人ニ損害ヲ被フラシメタルコト有レハ則チ其責ニ任セサル可カラス 然レトモ此父母、後見人、教師若クハ匠師ハ損害ヲ起生セシメタル所為即チ其責ニ任ス可キ所ノ所為ヲ防止スルコトヲ得可カラサリシ事実ヲ証明スルニ於テハ則チ其責ヲ避免スルコトヲ得可シ 第千百五十四条 家畜ノ所有主若クハ之ヲ使用スル人カ其使用スル期間ニ於テハ家畜ノ其看守ノ下トニ在ルト迷逸シ若クハ遁走スルトヲ問ハス其家畜カ他ノ人ニ損害ヲ被フラシメタルコト有レハ則チ其責ニ任セサル可カラス 第千百五十五条 建造物ノ所有主カ其建造物ノ崩壊セルニ因テ他人ニ被フラシメタル損害ノ責ニ任ス可キハ其崩壊カ修繕ヲ闕キ若クハ建造ノ粗悪ナル為メニ起生セルノ時会ニ限ル者トス 第千百五十六条 若シ犯罪若クハ准犯罪カ数個ノ人ニ擬当ス可キノ時会ニ於テハ其数個ノ人カ其起生セシメタル損害ヲ互相ニ特担ス可キ者トス 第二章 各種ノ責務 第一節 規約ヲ帯ヒタル責務 第千百五十七条 責務ニシテ其存在若クハ其解破ヲ未来且不定ナル事故ニ繋着セシムル所ノ者ハ即チ規約ヲ帯ヒタル責務ト為ス 第千百五十八条 責務ヲシテ未来且不定ナル事故ニ繋着セシムル所ノ者ハ即チ停住ノ規約ト為ス 一個ノ規約ニシテ其規約ノ完成スルニ当リ物件ヲ原状ニ於テ還付シ未タ嘗テ責務ノ存在セルコト有ラサリシ如クナラシムル者ハ即チ解破ノ規約ト為ス 第千百五十九条 偶然ナル事為ニ繋着セシムル規約ニシテ其事為ハ責主モ負責主モ共ニ得テ能クセサル所ノ者ハ即チ偶然ノ規約ト為ス又一個ノ規約ニシテ其完成ヲ結約者ノ一方ノ意望ニ繋着セシムル所ノ者ハ即チ随意ノ規約ト為ス又一個ノ規約ニシテ其完成ヲ同時ニ結約者ノ一方ノ意望及ヒ第三位ノ人ノ意望若クハ偶然ナル事故ニ繋着セシムル所ノ者ハ即チ夾雑ノ規約ト為ス 第千百六十条 善良ノ風俗及ヒ法律ニ反対スル規約若クハ不做得ノ事為ヲ果行スルコトヲ要強スル規約ハ共ニ効力ヲ有セス且之ニ繋着セシムル所ノ責務モ亦均シク効力ヲ有セサル者トス 第千百六十一条 不做得ノ事為ヲ果行ス可カラサルノ規約ハ此規約ノ為メニ約諾セル責務ヲ無効ニ帰セシムルコト無シ 第千百六十二条 責務ヲ負担スル人ノ意望ニ繋着セシムル規約ヲ以テ約諾セルノ責務ハ効力ヲ有セサル者トス 第千百六十三条 責務ヲ停住ノ規約ニ繋着セシメテ以テ之ヲ約諾シ而シテ其規約ノ未タ完成セサル以前ニ其責務ノ標率タル物件カ銷滅シ若クハ毀損スルコト有レハ則チ次項ノ規則ニ准依シテ以テ之ヲ処分ス 若シ物件カ負責主ノ過失ニ因ルニ非スシテ全ク銷滅ニ帰スルコト有レハ則チ其責務ハ未タ嘗テ約諾セサリシ者ト看做ス 若シ物件カ負責主ノ過失ニ因テ全ク銷滅ニ帰スルコト有レハ則チ負責主ハ責主ニ対シテ其損害ヲ弁償セサル可カラス 若シ物件カ負責主ノ過失ニ因ルニ非スシテ毀損スルコト有レハ則チ責主ハ其価直ヲ扣減スルコト無ク而シテ毀損物件ノ現状ニ照シテ之ヲ領受セサル可カラス 若シ物件カ負責主ノ過失ニ因テ毀損スルコト有レハ則チ責主ハ其契約ヲ解破スルカ若クハ毀損物件ノ現状ニ照シテ領受シ併セテ損害ノ賠償ヲ要求スルコトヲ得可シ 第千百六十四条 解破ニ係ルノ規約ハ以テ責務ノ履行ヲ停住スルコト無シ但々其規約ニ於テ予期シタル事故ノ到来スルコト有レハ則チ此規約ハ責主ヲシテ其既ニ領受セル物件ヲ還付セシムルコトヲ要強スルノ効力ヲ有スル者トス 第千百六十五条 対責ノ契約ハ結約者ノ一方ノ其責務ヲ履行セサル時会ノ為メニ解破ノ規約ヲ必然ニ含蓄スル者ト看做ス 此時会ニ於テハ其契約ハ直チニ解破ニ帰スル者ニ非ス結約者ノ一方即チ責務ヲ履行セサル他ノ一方ニ対スル所ノ人ハ他ノ一方ヲ要強シ務メテ責務ヲ履行セシムルト其契約ノ解破ヲ請求スルトノ二者ノ其一ヲ択定シ併セテ損害ノ賠償ヲ要求スルコトヲ得可シ 契約ノ破解ハ必ス裁判上ニ於テ之ヲ請求スルコトヲ要シ而シテ法衙ハ其景況ニ応シ弁護者ノ為メニ延期ヲ認許スルノ権理アリトス 第千百六十六条 凡ソ規約ハ大抵結約者ノ希図思料セシ如ク完成スルコトヲ要ス 第千百六十七条 一個ノ責務ニシテ某ノ事故カ指定セル時期ニ到来セシナレハト言ヘルノ規約ヲ以テ約諾セラレタル者ニ関シテハ若シ其時期ヲ経過スルモ其事故ノ到来セサルニ於テハ則チ此規約ハ完成セサル者ト看做ス又若シ時期ヲ指定セサリシニ於テハ則チ此規約ハ何レノ日時ヲ問ハスシテ之ヲ充践スルコトヲ得可ク而シテ其事故ノ到来セサルコトヲ確認スルニ非サレハ則チ其規約ハ必ス完成セサル者ト断定スルコトヲ得可カラス 第千百六十八条 一個ノ責務ニシテ某ノ事故カ指定セル時期ニ到来セサリシナレハト言ヘルノ規約ヲ以テ約諾セラレタル者ニ関シテハ若シ其時期ヲ経過スルモ其事故ノ到来セサルニ於テハ則チ此規約ハ完成セル者ト看做ス又若シ其時期ヨリ以前ニ係ルモ其事故ノ到来セサルコトヲ確認ス可キ者タルニ於テハ則チ亦此規約ハ完成セル者ト看做ス又若シ時期ヲ指定セサリシニ於テハ則チ其事故ノ到来セサルコトヲ確認スルニ非サルヨリハ決シテ此規約ハ必ス完成セサル者ト断定スルコトヲ得可カラス 第千百六十九条 規約ヲ充践ス可キ負責者カ其規約ノ完成ヲ妨阻スルコト有レハ則チ其規約ハ完成セル者ト看做ス 第千百七十条 完成セル規約ハ最初其責務カ約諾セラレタルノ本日迄追遡シテ効力ヲ有ス若シ責主カ其規約ノ未タ完成セサル以前ニ死亡スルコト有レハ則チ此権理ハ其承産者ニ転移ス 第千百七十一条 責主ハ其規約ノ未タ完成セサル以前ニ於テスルモ其権理ノ保存ニ関スル諸般ノ行為ヲ決行スルコトヲ得可シ 第二節 限期ノ責務 第千百七十二条 責務ニ関シテ約諾セル期限ノ規約ニ異ナル所以ノ者ハ以テ其責務ノ履行ヲ停住スルコト無クシテ唯々責務ノ決行ヲ延捱スルニ在ルノミ 第千百七十三条 期限ヲ約定セルコト無キノ責務ニシテ若シ其責務ノ性質若クハ其責務ヲ履行スル方法若クハ其責務ヲ履行スル為メニ約定セル場地カ一個ノ期限即チ法衙ノ指定ヲ仰ク可キノ期限ヲ必要セサル者タルニ於テハ則チ其責務ハ即時ニ決行ス可キ者トス 若シ期限カ負責主ノ意望ニ委付セラレタル者タルニ於テハ則チ其責務ヲ充践セシムル為メニ相当ナル期限ヲ指定スルノ権理ハ即チ法衙ニ帰属ス 第千百七十四条 指定セル期限ニ向テ逋負スル所ノ事物ハ其期限ノ未タ満了セサル以前ニ在テハ決シテ交付ノ要求ヲ受ケサル者トス然レトモ其期限ヨリ以前ニ交付セル者ハ之ヲ収回スルコトヲ得可カラス仮令ヒ負責主カ期限ノ存在セルコトヲ知ラサリシ時会ニ於ケルモ亦然リトス 第千百七十五条 若シ約定上若クハ景況上ニ於テ其期限ノ果シテ責主ノ為メニ約定セル者タルノ事証ヲ認取セサルニ於テハ則チ其期限ハ常ニ負責主ノ為メニ約定セル者ト看做ス 第千百七十六条 若シ負責主カ支弁ニ耐ヘサルノ景況ニ陥ルカ若クハ自己ノ所為ニ因テ責主ニ供出セル保証ヲ減耗セシムルカ若クハ約束シタル保証ヲ供出セサルコト有レハ則チ其負責主ハ業ニ已ニ期限ニ関スル利益ヲ有セサル者トス 第三節 揀択ニ関スル責務 第千百七十七条 揀択ノ責務ニ関スル負責主ハ揀択責務中ニ包含スル物件ノ其一ヲ責主ニ交付シテ以テ其責務ヲ解卸スルコトヲ得可シ然レトモ責主ヲシテ一個ノ物件ノ一部ト他ノ一個ノ物件ノ一部トヲ領受セシムルコトヲ要強スルヲ得可カラス 第千百七十八条 此揀択ヲ為スノ権理ハ特ニ之ヲ責主ニ認許セルコト無ケレハ則チ常ニ必ス負責主ニ帰属ス 第千百七十九条 若シ約束セル二個ノ物件ノ其一カ責務ノ標率ト為ル可カラサル者タルニ於テハ則チ其責務ハ揀択ノ方法ヲ以テ約束セル者ト雖モ亦是レ単純ノ責務ト為ス 第千百八十条 若シ約束セル二個ノ物件ノ其一カ銷滅ニ帰スルカ若クハ交付ス可カラサルカ是レ仮令ヒ負責主ノ過失ニ因テ交付ス可カラサルモ亦其責務ハ単純ノ責務ト為ル者トス 此物件ノ価直ヲ物件ニ換ヘ以テ之ヲ供出スルコトヲ得可カラス 若シ二個ノ物件カ共ニ銷滅ニ帰シ而シテ其一ノ銷滅カ負責主ノ過失ニ因テ起生シタルニ於テハ則チ負責主ハ其後次ニ銷滅セル物件ノ価直ヲ弁償セサル可カラス 第千百八十一条 前条ニ明記セル時会ニ於テ其揀択ノ権理カ責主ニ認許セラレタルニ当リ若シ二個ノ物件ノ其一カ負責主ノ過失ニ因ルニ非スシテ偶々銷滅ニ帰スルコト有レハ則チ責主ハ其残存セル他ノ一個ノ物件ヲ領受セサル可カラス又若シ負責主ノ過失ニ因テ之ヲ銷滅セシメタルニ於テハ則チ責主ハ其残存物件ヲ請求シ若クハ銷滅物件ノ価直ヲ請求スルコトヲ得可シ又若シ二個ノ物件カ共ニ銷滅ニ帰シ而シテ其二個ノ物件ノ銷滅若クハ其一個ノ物件ノ銷滅カ負責主ノ過失ニ因テ起生シタルニ於テハ則チ責主ハ自己ノ揀択スル所ニ任セ二個ノ其一ノ価直ヲ請求スルコトヲ得可シ 第千百八十二条 若シ二個ノ物件カ負責主ノ過失ニ因ルニ非ス且未タ其交付ヲ為ス可キ状況ニ在ラサル以前ニ共ニ銷滅ニ帰スルコト有レハ則チ其責務モ亦第千二百九十八条ノ規則ニ准依シテ以テ消滅ニ帰スル者トス 第千百八十三条 本節ニ於テ立定セル規則ハ二個以上ノ物件カ揀択責務中ニ包含セル有ルノ時会ニ向テモ亦之ヲ擬施ス可シ 第四節 互相特担ノ責務 第一款 各責主ノ間ニ於テスル互相特任ノ責務 第千百八十四条 契約カ特ニ数個ノ責主ノ各人ニ其貸付全額ノ弁償ヲ要求スルノ権理ヲ付与シ而シテ仮令ヒ其責権ハ共同責主ノ間ニ分配ス可キノ利益有ル者ニ係レルモ亦其一人ニ向テ為シタル弁償カ以テ負責主ノ責務ヲ解卸セシムルニ足ル可キ者タルニ於テハ則チ其責務ハ共同責主ノ間ニ於テスル互相特任ノ者ト為ス 第千百八十五条 負責主ハ共同責主中ノ一人カ裁判上ノ請求法ニ依テ交付督促ノ通報ヲ受クルコト無キニ於テハ則チ其共同責主中ノ一人ニ向テ弁償ヲ為スコトヲ得可キノ権理ヲ有ス然レトモ共同責主中ノ一人ノ為シタル棄捐ハ唯々其一人ノ責主ノ保有スル責権ノ部分ニ向テノミ負責主ノ責務ヲ解卸セシムル者トス 第二款 各負責主ノ間ニ於テスル互相特担ノ責務 第千百八十六条 数個ノ負責主ハ其各人ニ負債全額ノ弁償ヲ要求セラルヽ如ク一個ノ物件ニ向テ責務ヲ負担シ而シテ其一人ノ為シタル弁償ハ以テ責主ニ対スル他ノ共同負責主ノ責務ヲ解卸セシムル者タルニ於テハ則チ其責務ハ共同負責主ノ間ニ於テスル互相特担ノ者ト為ス 第千百八十七条 仮令ヒ各負責主中ノ一人カ一個ノ物件ノ弁償ニ関シ他ノ各人ニ比スレハ異様ニ責務ヲ負担シ例之ハ其一人ノ責務ハ規約ヲ帯フル者ニシテ他ノ各人ノ責務ハ単純ノ者ニ係リ或ハ其一人ノ責務ハ弁償ノ期限ヲ有スル者ニシテ他ノ各人ノ責務ハ之ヲ有セサル者ニ係ル如キモ亦其責務ハ互相特担ノ者ト為ス 第千百八十八条 互相特担ノ責務ハ得テ推断ス可キ者ニ非サルニ由リ必ス特ニ之ヲ約定セサル可カラス 此規則ハ唯々互相特担ノ責務カ法律ニ頼リテ特ニ契約ヲ為サヽルモ必然ニ存在スル時会ニ於テノミ之ヲ施行セサル者トス 第千百八十九条 各責主ハ其択定スル所ニ随テ各負責主中ノ一人ニ向テ弁償ヲ要求スルコトヲ得可ク而シテ其負責主ハ責務ヲ分割スルノ利益ヲ把執シテ之ト対抗スルコトヲ得可カラス 第千百九十条 責主カ各負責主中ノ一人ニ向テ為シタル弁償ノ要求ハ以テ他ノ各責主ノ保有スル同様ノ訟権ヲ剥褫スルコト無シ 第千百九十一条 逋負スル所ノ物件カ仮令ヒ互相特担ヲ以テスル一個若クハ数個ノ負責主ノ過失ニ因リ若クハ其物件ノ交付ヲ要求セラレタル以後ニ於テ之ヲ銷滅ニ帰セシムルコト有ルモ他ノ共同負責主ハ其価直ヲ支弁ス可キノ責務ヲ避免スルコトヲ得ス然ルモ亦其損害ヲ賠償ス可キノ責務ヲ負担ス可キ者ニ非ス 責主ハ唯々負責主即チ其人ノ過失ニ因リ若クハ交付ノ要求ヲ受ケタル以後ニ於テ物件ヲ銷滅ニ帰セシメタル所ノ負責主ニ向テ其損害ノ賠償ヲ要求スルコトヲ得可シ 第千百九十二条 互相特担ノ共同負責主中ノ一人ニ向テ為シタル利息支弁ノ請求ハ他ノ各負責主ニ向テモ亦均シク其効力ヲ生スル者トス 第千百九十三条 責主ノ追求ヲ受ケタル互相特担ノ共同負責主中ノ一人ハ啻ニ排拒ノ理由ノ自己ニ属スル者ノミナラス他ノ各負責主ニ属スル排拒ノ理由ニ依拠シテ以テ之ト対抗スルコトヲ得可シ 然レトモ特ニ他ノ共同負責主中ノ一人ニ属スル排拒ノ理由ニ依拠シテ以テ之ト対抗スルコトヲ得可カラス 第千百九十四条 共同負責主中ノ一人カ責主ノ承産者ト為ルカ若クハ責主カ共同負責主中ノ一人ノ承産者ト為ルコト有レハ則チ其互相特任ノ責権ハ唯々其人ノ一部分ノミ消滅ニ帰スル者トス 第千百九十五条 責主ニシテ共同負責主中ノ一人ノ為メニ負債ノ分割弁償ヲ承諾セル所ノ人ハ他ノ共同負責主ニ向テハ依然トシテ其互相特任ノ責権ヲ貯存ス 第千百九十六条 責主カ共同負責主中ノ一人ノ弁償部分ヲ領受シ而シテ其領受証単ニ互相特任ノ責権若クハ一般ノ権理ヲ自己ニ貯存スルコトヲ明記セサルニ於テハ則チ其責主ハ唯々此負責主一人ニ対シテノミ之ヲ放棄セル者ト看做ス 責主カ共同負責主中ノ一人ノ派当部分ニ相当スル金額ヲ領受シ而シテ其領受証単ニ特ニ其人ノ弁償部分トシテ領受セシコトヲ明記セサルニ於テハ則チ其責主ハ此負責主一人ニ対シテ互相特任ノ責権ヲ放棄セル者ト看做スコトヲ得可カラス 共同負責主中ノ一人ニ対シ特ニ其一人ノ派当部分ノ弁償ヲ請求スルニ関シテハ若シ此負責主カ其請求ヲ承諾セサルカ若クハ法衙カ其請求ニ関シテ弁償ノ宣告ヲ下タサヽルニ於テハ則チ亦然リトス 第千百九十七条 責主カ共同負責主中ノ一人ヨリ特ニ其人ノ派当部分ノ利息ヲ領受セルニ於テハ則チ其領受セル時日ヨリ以前ニ係ル互相特任ノ責権ヲ喪失ス然ルニ此時日ヨリ以後ニ係ル利息及ヒ母額ニ関シテハ即チ然ラス但々其十年間特ニ弁償スルコトヲ認諾セラレタル者ノ如キハ此例外ニ在リトス 第千百九十八条 責主ニ向ヒ互相特担ヲ以テ約諾セル責務ハ其共同負責主ノ間ニ於テハ素ヨリ之ヲ各已ニ分割ス可キ者トス故ニ此共同負責主ハ各己ノ間ニ在テハ唯々其各己ノ派当部分ノミヲ負担ス 第千百九十九条 互相特担ニ係ル共同負責主中ノ一人ニシテ其負債ノ全額ヲ弁償セル所ノ人ハ他ノ共同負責主ニ向テ各己ノ派当部分ニ照シ其填償ヲ要求スルコトヲ得可シ 若シ共同負責主中ノ一人ニシテ弁償ニ耐ヘサルノ景況ニ陥ル者有レハ則チ此景況ニ生出スル所ノ損失ハ他ノ共同負責主ニシテ弁償ニ耐ル所ノ人ト其既ニ弁償ヲ為シタル所ノ人トノ間ニ派当シテ之ヲ負担ス 第千二百条 責主カ共同負責主中ノ一人ニ対シ互相特任ノ責権ニ関スル訟権ヲ放棄セルノ時会ニ於テ若シ他ノ共同負責主中ノ一人若クハ数人カ弁償ニ耐ヘサルノ景況ニ陥ルコト有レハ則チ此負責主ノ派当部分ハ他ノ共同負責主ノ間ニ派当シテ之ヲ負担ス仮令ヒ責主ニ因テ互相特担ノ責務ヲ除免セラレタル負責主タルモ亦此派当ヲ避免スルコトヲ得可カラス 第千二百一条 若シ互相特担ヲ以テ起債ヲ結約セル創興事業カ唯々其共同負責主中ノ一人ノミニ専関スル者タルニ於テハ則チ此負責主ハ他ノ共同負責主ニ対シテ其負債全額ノ弁償ヲ負担セサル可カラス然リ而シテ他ノ共同負責主カ此負責主トノ間ニ於ケル関係ニ就キテハ唯々其保人タルニ過キサル者ト看做サル 第五節 分割スルコトヲ得可キノ責務及ヒ分割スルコトヲ得可カラサルノ責務 第千二百二条 責務カ其標率トシテ分割スルコトヲ得可カラサルノ物件若クハ事件ヲ有スル者ニ係リ或ハ其物件若クハ事件タル其本質上ニ在テハ素ト分割スルコトヲ得可キ者ニ係ルモ結約者ノ商量ニ因テ分割スルコトヲ得可カラスト為セルニ於テハ則チ其責務ハ分割スルコトヲ得可カラサルノ責務ト為ル 此他各種ノ責務ハ総テ分割スルコトヲ得可キノ責務ト為ス 第千二百三条 互相特担ヲ以テ約諾セル責務ハ必シモ分割スルコトヲ得可カラサルノ性質ヲ得有セル者ニ非ス 第一款 分割スルコトヲ得可キノ責務 第千二百四条 分割スルコトヲ得可キノ責務ハ責主ト負責主トノ間ニ於テハ猶分割スルコトヲ得可カラサルノ責務ト一般ニ之ヲ履行セサル可カラス 凡ソ分割スルコトヲ得可シト為ス所ノ規則ハ専ラ結約主双方ノ承産者ノ間ニ擬施ス可キ者タリ故ニ其一方ノ承産者ハ責主ニ替代シテ唯々其自已ニ帰属スル部分ニ向テノミ責権ノ決行ヲ要求シ他ノ一方ノ承産者モ亦負責主ニ替代シテ唯々其自已ニ負担スル部分ニ向テノミ弁償ヲ為ス可キ者トス 第千二百五条 左項ノ各時会ニ在テハ分割スルコトヲ得可シト為ス所ノ規則ノ施行ヲ負責主ノ承産者ニ認許セサル者トス 第一項 確定セル物件ヲ逋負スルノ時会 第二項 承産者ノ一人カ特別ノ証憑有ルカ為メニ責務ノ履行ヲ担任セサル可カラサル時会 第三項 責務ノ本質ニ因リ責務ノ標率タル物件ニ因リ若クハ契約ニ因テ各自ニ希図スル所ノ目的ヨリシテ結約者ノ意望ニ於テハ其負債ヲ各別ニ弁償セシムルコトヲ欲シタルノ証徴ヲ生出スルノ時会 此第一項及ヒ第二項ノ時会ニ於テハ現ニ其逋負スル物件ヲ占有スル承産者若クハ其負債ヲ特担スル承産者第三項ノ時会ニ於テハ共同承産者カ其債額ノ全部ニ関シテ追求ヲ受ケサル可カラス但々他ノ共同承産者ニ対シ填償ヲ要求スル如キハ此限ニ在ラス 第二款 分割スルコトヲ得可カラサルノ責務 第千二百六条 連帯シテ以テ分割スルコトヲ得可カラサル起債ヲ結約セル共同負責主ハ仮令ヒ其責務ハ互相特担ヲ以テ約諾セルコト無キモ各己ニ其起債ノ全額ヲ負担セサル可カラス 連帯ノ責務ヲ約諾セル共同負責主ノ承産者ニ関シテモ亦之ト同一ナリトス 第千二百七条 責主ノ共同承産者中ノ一人ハ他ノ共同承産者ニ対シテ弁償ヲ為ス為メニ相当ナル保人ヲ立定スルノ責務ヲ帯ヒテ以テ分割スルコトヲ得可カラサルノ責務ヲ全ク履行セシムルコトヲ請求スルヲ得可シ然レトモ自己一人ノ専断ヲ以テ其債額ノ全部ヲ棄捐シ若クハ物件ニ換ルノ価直ヲ領受スルコトヲ得可カラス 若シ此共同承産者中ノ一人ノ専断ヲ以テ債額ノ全部ヲ棄捐シ若クハ物件ニ換ルノ価直ヲ領受セルコト有レハ則チ他ノ共同承産者ハ唯々此一人ノ承産者ノ派当部分ヲ扣断シテノミ其分割スルコトヲ得可カラサル物件ノ交付ヲ負責主ニ要求スルコトヲ得可シ 第千二百八条 負責主ノ共同承産者中ノ一人カ債額ノ全部ニ関シテ追求ヲ受ケタルニ於テハ則チ他ノ共同承産者ヲシテ此責務ニ共任セシムル為メニ弁償ヲ為スノ延期ヲ請求スルコトヲ得可シ但々其負債ノ本質カ其追求ヲ受ケタル一人ノ承産者ニ因テ弁償スルコトヲ得可カラサル所ノ者タルコトヲ要ス若シ之ニ反対スル時会ニ於テハ其追求ヲ受ケタル一人ノ承産者カ弁償ノ宣告ヲ下タサル可キ者トス但他ノ共同承産者ニ対シ填償ヲ要求スルコトヲ得ル如キハ此限ニ在ラス 第六節 罰款ヲ帯ヒタル責務 第千二百九条 罰款トハ即チ之ニ依テ以テ責務ノ履行ヲ保証シ而シテ其責務ヲ履行セサルカ若クハ之ヲ遅滞スル有ル時会ノ為メニ約束スル所ノ罰責ノ約款ヲ謂フ 第千二百十条 主本タル責務ノ無効ハ随テ其罰款ノ無効ヲ生出ス 然レトモ罰款ノ無効ハ決シテ其主本タル責務ノ無効ヲ生出スルコト無シ 第千二百十一条 責主ハ負責主即チ弁償ノ請求ヲ受ケタル負責主ニ対シ其約束セル罰款ノ決行ニ換ヘテ主本タル責務ノ履行ヲ要求スルコトヲ得可シ 第千二百十二条 罰款ハ責主カ主本タル責務ノ履行ヲ得サル為メニ起生スル損害ノ填償ニ充ツル者トス 若シ責主カ主本タル責務ノ履行ノ遅延スル時会ノ為メニ罰款ヲ要約セサリシニ於テハ則チ其責主ハ同時ニ其主本タル物件ト罰金トノ交付ヲ請求スルコトヲ得可カラス 第千二百十三条 若シ主本タル責務カ其履行ノ期限ヲ包有セルニ於テハ則チ罰款ハ其期限ノ満過ニ因テ之ヲ決行セラル可キ者トス又若シ責務カ期限ヲ包有セサルニ於テハ則チ其罰款ハ負責主ニ向テ弁償ヲ追求スルノ日ニ当リ之ヲ決行セラル可キ者トス 第千二百十四条 主本タル責務カ若シ其一部ヲ履行セラレタルニ於テハ則チ其罰款ハ法衙ニ於テ之ヲ減少スルコトヲ得可シ 第千二百十五条 罰款ヲ帯ヒテ以テ約諾セル所ノ主本タル責務カ分割スルコトヲ得可カラサルノ物件ヲ其標率ト為シタルニ於テハ則チ仮令ヒ唯々負責主ノ共同承産者中ノ一人ノミ約束ニ違背スルニ関シテモ亦其罰款ノ決行ヲ要求セラレサル可カラス故ニ此罰款ニ関シテハ違約者ニ対シテ全部ノ決行ヲ要求スルコトヲ得可ク若クハ共同承産者ノ各己ノ部分ニ向テ之ヲ要求スルコトヲ得可ク且券記抵当権ニ関シテハ全部ノ決行ヲ要求スルコトヲ得可シ但々其共同承産者カ共同承産者中ノ違約者ニ対シ填償ヲ要求スル如キハ此限外ニ属ス 第千二百十六条 罰款ヲ帯ヒテ以テ約諾セル責務カ分割スルコトヲ得可キ物件ヲ其標率ト為シタルニ於テハ則チ其罰款ハ唯々負責主ノ共同承産者中ノ一人ニシテ約束ニ違背セル所ノ者ノ負担ス可キ主本タル責務ノ部分ノミニ比例シテ之ヲ決行セラル可ク而シテ他ノ共同承産者ハ復タ此罰款ノ決行ニ関係ヲ有スルコト無シ 然レトモ罰款カ分割弁償ヲ為スコトヲ得サル為メニ特ニ之ヲ契約書ニ明記シ而シテ共同承産者中ノ一人カ全ク其責務ノ履行ヲ妨阻シタルニ於テハ則チ前項ニ異ナリトス此時会ニ於テハ其罰款ノ全部ハ此妨阻者一人ニ因テ之ヲ決行セラル可ク而シテ他ノ共同承産者ハ唯其各己ノ部分ニ向テノミ決行ノ要求ヲ受ク可キ者トス但此妨阻者タル承産者ニ対シ填償ヲ要求スル如キハ此限外ニ属ス 第千二百十七条 契約ヲ締結スル時際ニ於テ予交セル物件ハ若シ結約者カ他ノ意望ヲ表明スルコト無キニ於テハ則チ其契約ヲ履行セサル時会ニ当リ損害ヲ賠償スルコトヲ保証シタル者ト看做シ之ヲ称シテ「アール」即チ予交罰金ト謂フ 若シ結約者ニシテ過失無キ所ノ人カ其契約ノ履行ヲ要求スルコトヲ欲セサルニ於テハ則チ其領収セル予交罰金ヲ貯存スルカ若クハ予交罰金ノ倍額ヲ要求スルコトヲ得可シ 第三章 責務ノ効力 第千二百十八条 一個ノ責務ヲ約諾セル結約者ハ必ス確実ニ之ヲ履行スルコトヲ要ス然ラサレハ則チ賠償ヲ支弁セサル可カラス 第千二百十九条 転付ス可キノ責務ニ関シテハ其物件ヲ交付スルニ至ル迄ハ依然其責務ヲ含存スル者ト看做ス 若シ負責主カ其物件ヲ交付ス可キノ追求ヲ受ケタルニ於テハ則チ其物件ニ関スル危険ハ負責主之ニ当任セサル可カラス然レトモ其交付ノ追求ヲ為スヨリ以前ニ於ケル物件ノ危険ハ責主之ニ当任ス可キ者トス 第千二百二十条 某ノ事ヲ為スノ責務ヲ履行セサルノ時会ニ於テハ責主ハ負責主ノ費用ニ資リテ自已之ヲ履行スルコトヲ認許セラル可キ者トス 第千二百二十一条 若シ一個ノ責務ニシテ某ノ事ヲ為サヽル所ノ者ニ関シテハ此約束ニ違背スル負責主ハ唯々其違約セルノミノ為メニ損害ヲ賠償ス可キノ責ヲ有ス 第千二百二十二条 責主ハ某ノ事ヲ為サヽルノ責務ニ違背シテ為シタル者ヲ解破セシムルコトヲ請求スルノ権理ヲ有シ而シテ負責主ノ費用ニ資リテ自己之ヲ毀撤スルコトヲ得可ク併セテ其損害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得可シ 第千二百二十三条 若シ一個ノ責務ニシテ某ノ物ヲ転付シ若クハ某ノ事ヲ為ス所ノ者ニ関シテハ負責主ハ唯々其結約セル期限ノ満了スルノミヲ以テシテ既ニ之ヲ果行セサル可カラサルノ景況ニ立ツ者トス 若シ結約セル期限カ負責主ノ死亡セル以後ニ到来シタルニ於テハ則チ其承産者ハ果行ノ請求ヲ受ケ若クハ果行ノ請求ニ比当ス可キ行為ヲ受ケタル以後ノ八日ヲ経過スルヤ乃チ其責務ヲ果行セサル可カラサルノ景況ニ立ツ者トス 若シ契約上ニ於テ何等ノ期限ヲモ約定セシコト無ケレハ則チ負責主ハ唯々果行ノ請求ヲ受ケ若クハ果行ノ請求ニ比当ス可キ行為ヲ受ケタルノミニシテ直チニ其責務ヲ果行セサル可カラサルノ景況ニ立ツ者トス 第千二百二十四条 責務ノ果行ニ関シテ為ス可キノ配慮ハ其責務カ結約者ノ一方ノ利益若クハ双方ノ利益ヲ以テ目的ト為ス者タルモ共ニ必ス好家主長ノ配慮ト一般ナルコトヲ要ス但々第千八百四十三条ニ掲記スル如ク寄託ヲ為スノ時会ニ関シテハ則チ然ラス 此規則ハ民法中ニ於テ或種ノ時会ノ為メニ設定セル条則ニ准依シ正当ニ若クハ稍ヤ正当ヲ欠クモ総テ之ヲ擬施スルコトヲ得可シ 第千二百二十五条 負責主ハ責務ノ履行ヲ欠キ若クハ之ヲ遅緩セルノ事実カ自己ニ推諉セラル可カラサルノ理由ニ起生シタルコトヲ証明セサルニ於テハ則チ仮令ヒ悪意有ルニ非サリシモ其履行ヲ欠キ若クハ其之ヲ遅緩セル為メニ損害賠償ノ宣告ヲ受ケサル可カラス 第千二百二十六条 偶然ノ時会若クハ己ムヲ得サル時会ノ為メニ負責主カ某ノ物ヲ転付スルコトヲ妨阻セラレ若クハ某ノ事ヲ為スコトヲ妨阻セラレ若クハ自己ニ禁止セラレタルノ事為ヲ冒行シタルニ関シテハ負責主ハ何等ノ賠償ヲモ支弁スルコトヲ須ヒス 第千二百二十七条 責主ハ其被フレル損害若クハ其失ヒタル利益ニ関シテハ総テ其賠償ヲ要求スルコトヲ得可キヲ通則ト為ス但々後条ニ規定スル裁制及ヒ特例ヲ除ク有ルノミ 第千二百二十八条 負責主ハ其責務ノ履行ヲ欠クノ事実カ詐偽ニ由来スルコト無キニ於テハ則チ唯々最初契約ヲ締結セル時際ニ当リ予見シ若クハ予見シ得可カリシ損害ノミヲ賠償ス可キ者トス 第千二百二十九条 仮令ヒ責務ノ履行ヲ欠キタルノ事実カ負責主ノ詐偽ニ由来スルモ責主ノ被フレル損害及ヒ其失ヒタル利益ニ関スル賠償ハ唯々責務ノ履行ヲ欠キタル為メニ直接ニ生出セルノ成跡タル事件ノミニ限止ス可キ者トス 第千二百三十条 契約上ニ於テ若シ其履行ヲ欠キタル結約者カ損害ノ賠償トシテ限定セル金額ヲ交付ス可キコトヲ約束セル有レハ則チ法衙ハ其金額ニ超過シ及ヒ減殺セル金額ヲ支弁セシムルコトヲ得可カラス 賠償ノ金額ハ即チ罰款ヲ以テシ若クハ最初契約ヲ締結セル時際ニ交付セシ予交罰金ヲ以テ之ヲ限定シタル者ト雖モ亦然リトス 第千二百三十一条 一個ノ金額ヲ標率ト為セル責務ニ関シ若シ特別ナル契約ヲ為サヽリシニ於テハ則チ其責務ノ履行ヲ遅緩スル為メニ生出セル損害ノ賠償ハ唯々合法ノ利息ヲ支付スルノミヲ以テ足レリトス但々商業、保金若クハ結社ニ関スル特別ノ規則有ル者ノ如キハ此限ニ在ラス 此賠償金額ハ其果行ス可キノ景況ニ到着スル本日ヨリシテ支弁ス可キノ責務ヲ生出スル者トス故ニ責主ハ何等ノ損害ヲモ証明スルコトヲ要セス 第千二百三十二条 支付ヲ延滞セル利息金ハ裁判上ノ請求ヲ為シタル本日ヨリシテ合法ノ利息ヲ以テシ或ハ利息支付ノ期限ヨリ以後ニ約定セル方法ニ依テ更ニ其利息ヲ生出セシムル者トス 商業上ニ関スル利息金ノ利息ハ此他別ニ慣習及ヒ例法ニ従テ之ヲ規定ス 民事上ノ負債ニ関シテ支付ヲ延滞セル利息金ノ契約上若クハ法律上ノ利息ハ満一年間延滞セル利息金ニ係レルニ非サレハ則チ之ヲ生出セシムルコト無シ但々蓄積金保管局及ヒ他ノ之ニ類スル公署カ其特別ナル規則ヲ以テ利息法ヲ制定セル者ノ如キハ此例外ニ属ス 第千二百三十三条 交付ヲ延滞セル収額金例之ハ年租金借屋金及ヒ無期若クハ終身ヲ以テセル年金契約ノ年金ノ如キハ裁判上ノ請求ヲ為シタル本日若クハ契約ヲ締結セル本日ヨリシテ其利息ヲ生出セシムル者トス 収額金ノ還付及ヒ第三位ノ人カ負責主ノ為メニ責主ニ為シタル利息金ノ支弁ニ関シテモ亦之ト同一ノ規則ヲ施行ス可キ者トス 第千二百三十四条 責主ハ其貸付セル債額ヲ収回スル為メニハ負責主ニ属スル諸般ノ権理ヲ行用スルコトヲ得可シ但々負責主ノ一身ニ属スル権理ノ如キハ此限ニ在ラス 第千二百三十五条 責主ハ自己ノ名義ヲ以テ負責者カ責主ノ権理有ルニ拘ハラス詐偽ヲ夾ミテ以テ為シタル行為ヲ訟撃スルコトヲ得可シ 若シ其行為カ要報ノ行為ニ係レルニ於テハ則チ其詐偽ハ必ス双方ノ結約者ニ因テ生出セル者タルコトヲ要ス又若シ其行為カ不要報ノ行為ニ係レルニ於テハ則チ其詐偽ハ唯々負責主ニ因テ生出セル者ノミヲ以テ足レリトス 然レトモ其行為毀銷ノ請求ハ其詐偽ニ関与セサル第三位ノ人ニシテ此毀銷ノ請求ヲ公簿ニ証記スルヨリ以前ニ不動産ニ向テ権理ヲ得有シタル所ノモノニ損害ヲ与フル如キノ効力ヲ生出スル者ニ非ス 第四章 責務銷滅ノ方法 第千二百三十六条 責務ハ次項ニ列挙スル各事件ニ因テ銷滅セシムルコトヲ得ル者トス 責務ノ弁償 責務ノ転換 債額ノ棄捐 責務ノ償殺 責務ト責権トノ混併 逋負スル物件ノ毀滅 責務ノ無効及ヒ損失ニ関スル責務ノ毀傷 解破ニ係ル規約ノ効力 期満ノ方法 第一節 責務ノ弁償 第一款 責務弁償ノ通則 第千二百三十七条 凡ソ弁償ヲ為スニ関シテハ必ス負債ノ在ル有ル者ト推断ス故ニ負債無キニ誤ツテ弁償ヲ為シタルニ於テハ則チ其還付ヲ要求スルノ標率ト為スコトヲ得可シ 情義上ノ責務ニシテ自己任意ニ弁償ヲ為シタル所ノ者ニ関シテハ其還付ヲ要求スルコトヲ得可カラス 第千二百三十八条 責務ハ其責務ニ関スル一切ノ人例之ハ共同負責主若クハ保人カ弁償ヲ為スニ因テ消滅ニ帰セシムルコトヲ得可シ 又責務ハ第三位ノ人ニシテ其責務ニ関係ヲ有セサル人カ弁償ヲ為スニ因テ消滅ニ帰セシムルコト有リ此第三位ノ人ハ必ス負責主ノ名義ニ依リ其負責主ヲシテ責務ノ負担ヲ脱卸セシムル為メニ弁償ヲ為セル者タルコトヲ要ス仮令ヒ此第三位ノ人カ自己ノ名義ヲ以テ弁償ヲ為スコト有ルモ決シテ責主ノ権理ニ代替スルコトヲ得可カラス 第千二百三十九条 某ノ事ヲ為スノ責務ニ関シ責主カ負責主ノ自カラ其責務ヲ履行スルニ因テ利益ヲ有スル者タルニ於テハ則チ負責主ハ責主ノ此意望ニ反シ第三位ノ人ヲシテ弁償ヲ為サシムルコトヲ得可カラス 第千二百四十条 弁償ニシテ其弁償物件ノ所有権ヲ責主ニ転移スルヲ以テ標率ト為ス所ノ者ニ関シテハ若シ弁償物件ノ所有主ニシテ其物件ヲ転付スルニ合格ナラサル人ニ因テ之ヲ転付セラレタルニ於テハ則チ其弁償ハ効力ヲ有セサル者トス 金額若クハ使用ニ因テ消耗スル物件ヲ以テスル弁償ニ関シテハ良意ヲ以テ之ヲ消費シタル責主ニ対シ其還付ヲ要求スルコトヲ得可カラス仮令ヒ其弁償物件カ物件ノ所有主若クハ転付スルニ合格ナラサル人ニ因テ転付セラレタル者ニ係ルモ亦然リトス 第千二百四十一条 弁償ハ必ス責主若クハ法衙及ヒ法律ニ於テ領受スルコトヲ認許セラレタル人ニ向テ之ヲ為スコトヲ要ス 責主ノ為メニ領受スルコトヲ認許セラレサル人ニ向テ為シタル弁償ト雖モ若シ責主カ追テ之ヲ認諾セルカ若クハ之ヲ利益セルコト有ルニ於テハ則チ効力ヲ有スル者トス 第千二百四十二条 貸付証券ヲ現有スル人ニ対シ良意ヲ以テ為シタル弁償ニ関シテハ仮令ヒ此人カ日後ニ其占有ノ権理ヨリ斥除セラルヽコト有ルモ亦其弁償ハ効力ヲ有スル者トス 第千二百四十三条 責主ニ為シタル弁償ニ関シ若シ其責主カ之ヲ接収スルニ合格ナラサルニ於テハ則チ其弁償ハ効力ヲ有セサル者トス但々負責主カ其弁償物件ノ実ニ責主ニ利益ヲ与ヘタルコトヲ証明スル時会ノ如キハ此例外ニ属ス 第千二百四十四条 負責主カ法律上ニ規定セル程式ニ遵依シテ以テ為セル所ノ勒抵若クハ抗沮ノ行為有ルニ拘ハラス一個ノ責主ニ為シタル弁償ニ関シテハ此勒抵者若クハ抗沮者ノ行為ハ責主ニ対シテ効力ヲ有セサル者トス然レトモ此等ノ責主ハ自巳ニ関係スル物件ニ向テハ負責主ヲシテ更ニ弁償ヲ為サシムルノ権理ヲ有ス此時会ニ於テハ負責主ハ最初ニ弁償ヲ領受セシ責主ニ対シ要還ノ訟権ヲ行用スルコトヲ得可シ 第千二百四十五条 責主ハ自己ノ領受ス可キ物件ニ非サル他ノ物件ヲ領受スルコトヲ要強セラル可キ者ニ非ス仮令ヒ其物件ノ価格ハ同位ノ者ニ係リ若クハ更ニ超増セル者ニ係ルモ亦然リトス 第千二百四十六条 負責主ハ一個ノ負債ヲ弁償スルニ関シテハ仮令ヒ其債額ハ分割スルコトヲ得可キ者タルモ唯々其一部ノミノ接収ヲ責主ニ要強スルコトヲ得可カラス 第千二百四十七条 確定セル一個ノ物件ヲ逋負スル所ノ負責主ハ其物件ヲ交付ス可キ時期ニ於ケル現状ニ照シテ之ヲ交付シ以テ其責務ヲ脱卸スルコトヲ得可シ但々其物件ニ起生セル毀損ニ関シテハ負責主ハ其毀損ノ自己ノ所為若クハ過失及ヒ自己ニ当任ス可キ人ノ所為若クハ過失ニ因レルニ非サリシコトヲ証明スルヲ要シ且其毀損ヲ起生セルヨリ以前ニ既ニ之ヲ交付ス可キノ景況ニ非ラサリシコトヲ要ス 第千二百四十八条 逋負スル一個ノ物件ニシテ唯々其種類ノミヲ確定セル所ノ者ニ関シテハ負責主ハ其責務ヲ避免スル為メニ其最上品ヲ交付スルコトヲ要セス然レトモ亦其最下品ヲ交付スルコトヲ得可カラス 第千二百四十九条 凡ソ弁償ハ必ス契約上ニ指定セル場地ニ於テ之ヲ為スコトヲ要ス若シ其場地ヲ指定セサルモ確定セル物件ニ関スル弁償ハ契約ヲ締結セル時際ニ当リ其結約ノ標率タル物件ノ現在シタル場地ニ於テ之ヲ為スコトヲ要ス 此ノ二個ノ時会ヲ除クノ外ハ必ス負責主ノ住宅ニ於テ弁償ヲ為ス可キ者トス但々第千五百八条ニ規定スル時会ノ如キハ此限ニ在ラス 第千二百五十条 弁償ニ関スル費用ハ負責主ノ負担ニ帰ス可キ者トス 第二款 責権ヲ替有スル為メニスル弁償 第千二百五十一条 第三位ノ人ニシテ弁償ヲ為シタル者ノ為メニ責主ノ権理ニ代ラシムルノ替有ハ契約ヲ以テ之ヲ為ス者有リ又法律ニ依テ之ヲ為ス者有リ 第千二百五十二条 責権ノ替有ハ次項ノ時会ニ於テハ契約ヲ以テ之ヲ為ス者トス 第一項 責主カ第三位ノ人ノ弁償ヲ接収シテ以テ自己カ負責主ニ対シテ有スル所ノ責権、訟権及ヒ領先特権ヲ此人ニ替有セシメ若クハ券記領先権ヲ替有セシムル者即チ是ナリ此責権ノ替有ハ必ス之ヲ明言シ且弁償ト同時ニ之ヲ為スコトヲ要ス 第二項 負責主カ其負債ヲ弁償スル為メニ一個ノ金額ヲ称借シ而シテ此称貸者ヲシテ責主ノ権理ヲ替有セシムル者即チ是ナリ此責権ノ替有ヲシテ効力ヲ有セシムル為メニハ借用証券及ヒ領受証票カ公簿上ノ記日ヲ有シ且借用証券中ニ於テ其金額ハ負債ヲ弁償スル為メニ称借セルコトヲ公言シ領受証票中ニ於テ其弁償ハ新責主ニ因テ是カ為メニ借弁セラレタル金額ヲ以テ之ヲ為セルコトヲ公言スルヲ要ス此責権ノ替有ハ責主ノ間入ヲ待ツコト無クシテ以テ成ル所ノ者トス 第千二百五十三条 責権ノ替有ハ次項ニ列挙スル人ニ関シテハ法律ニ依テ之ヲ為ス者トス 第一項 責主ニシテ自己唯々私式証書ノミニ依拠シ而シテ他ノ責主即チ領先特権若クハ券記領先権ニ依拠シテ自己ヨリモ指択セラル可キ権理ヲ有スル責主ニ向テ弁償ヲ為シタル所ノ人ノ為メニスル責権ノ替有 第二項 不動産物件ノ買受者ニシテ一個若クハ数個ノ責主即チ其人ノ為メニ不動産ヲ抵当ニ供充セシメタル責主ニ向テ買受価金ノ数額ニ達スル金額ヲ支弁シタル所ノ人ノ為メニスル責権ノ替有 第三項 負債ヲ弁償スル為メニ他ノ人ト同ク若クハ他ノ人ノ為メニ責務ヲ負担シ而シテ其負債ヲ弁償スルニ関シテ利益ヲ有セル所ノ人ノ為メニスル責権ノ替有 第四項 遺産目録ニ利益ヲ有スル承産者ニシテ自己ノ資財ヲ以テ遺産ニ負担スル債額ヲ弁償シタル所ノ人ノ為メニスル責権ノ替有 第千二百五十四条 前二条ニ規定セル責権替有ノ方法ハ保人ニ関シテモ亦猶負責主ニ於ケル如ク存在スル者トス 責主ニシテ唯々債額ノ一部ノミヲ領受シタル所ノ人及ヒ他ノ責主ニシテ此責主ニ対シ其債額ノ分割弁償ヲ為シタル所ノ人ハ共ニ自已ノ貸付セル債額ニ比例シテ各其権理ヲ行用スルコトヲ得可シ 第三款 弁償ノ擬当 第千二百五十五条 同種類ナル数項ノ逋債ヲ負ヘル所ノ人ハ弁償ヲ為ス時際ニ於テ必ス其弁償スル逋債ハ某項ニ係ルコトヲ公言スルヲ要ス 第千二百五十六条 利息若クハ年金ヲ生出スル逋債ヲ負ヘル所ノ人ハ責主ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ則チ其年金若クハ其利息ノ弁償ヲ為スヨリモ先ツ其母金ノ弁償ニ擬当スルコトヲ得可カラス其母金及ヒ其利息ニ向テ為セル弁償カ若シ全額ニ充ツルニ足ラサレハ則チ先ツ其利息ニ擬当ス可キ者トス 第千二百五十七条 若シ同一人ニ向テ数項ノ逋債ヲ負ヘル所ノ人カ一個ノ領受証票即チ之ニ依テ責主ノ特ニ債額ノ其一ニ擬当セル弁償金額ヲ領受センコトヲ証明スル所ノ領受証票ヲ接収セルニ当リ責主ニ詐偽ノ在ルコト無ケレハ則チ負責主ハ其弁償ヲ他項ノ債額ニ擬当セシムルコトヲ得可カラス 第千二百五十八条 領受証票ニ何等ノ債額ニモ擬当スルコトヲ明記セル無キニ於テハ則チ其弁償ハ弁償期限ノ斉シク到来セル債額ノ中ニ就キテ負責主ニ甚大ナル利益ヲ付与スル所ノ者ニ擬当セサル可カラス若シ其期限ノ斉シク到来セサル債額ニ関シテハ仮令ヒ負責主ニ便宜ヲ為サヽルモ先ツ其期限ノ到来セル債額ニ擬当セサル可カラス若シ数項ノ債額カ同一性質ノ者ニ係レルニ於テハ則チ其弁償ハ先ツ最旧ノ貸付額ヨリ償消ス可キ者トス 第四款 弁償ノ提供及ヒ寄託 第千二百五十九条 責主カ弁償ノ領受ヲ拒却スルコト有レハ則チ負責主ハ実物ヲ提供シ及ヒ逋負物件ヲ寄託シテ以テ其責務ヲ脱卸スルコトヲ得可シ 其利息ハ法律ニ照遵シ寄託ヲ為シタル本日ヨリシテ其賦加ヲ停止シ而シテ寄託物件ニ起生スル危険ハ責主ノ負担ニ帰セシムル者トス 第千二百六十条 実物ノ提供ヲシテ効力ヲ有セシムル為メニハ必ス左項ノ各事件ヲ具備スルコトヲ要ス 第一項 実物ノ提供ハ必ス弁償ヲ要求スルニ合格ナル責主若クハ責主ノ為メニ領受スル権理ヲ認許セラレタル人ニ向テ之ヲ為スコトヲ要ス 第二項 実物ノ提供ハ必ス弁償ヲ為スニ合格ナル人ノ之ヲ為スコトヲ要ス 第三項 実物ノ提供ハ必ス逋債ノ全額、逋負スル物件、収額、利息額既ニ支消セル費用額、未タ支消セサル費用額及ヒ要用ニ応シテ追支ス可キ金額ヲ包含スルコトヲ要ス 第四項 若シ弁償ノ期限カ責主ノ為メニ約定セラレタル者タルニ於テハ則チ必ス其期限ノ全ク満了シタルコトヲ要ス 第五項 其起債ヲ結約セシ規約ハ必ス果行セラレタルコトヲ要ス 第六項 実物ノ提供ハ必ス弁償ヲ為スコトヲ約束セル場地ニ於テ之ヲ為スコトヲ要ス若シ弁償ヲ為スノ場地ニ関シテ特別ノ約束ヲ為サヽリシニ於テハ則チ其提供ハ必ス責主ニ対シ若クハ責主ノ住所ニ於テシ若クハ契約ヲ履行スル為メニ択定セル場地ニ於テシテ之ヲ為スコトヲ要ス 第七項 実物ノ提供ハ必ス公証人若クハ此等ノ行為ニ関渉スルコトヲ認許セラレタル訟吏ノ間介ニ因テ之ヲ為スコトヲ要ス 第千二百六十一条 実物ノ寄託ヲシテ効力ヲ有セシムル為メニハ必シモ其寄託ノ法官ニ因テ認許セラレタル者タルコトヲ要セズ唯左項ノ各事件ヲ具備スルヲ以テ足レリトス 第一項 実物ノ寄託ヲ為スヨリ以前ニ必ス先ツ責主ニ対シテ日時及ヒ提供物件ヲ寄託セル場地ヲ包載セル迫催書ヲ送付スルコトヲ要ス 第二項 負責主ハ必ス其提供スル物件及ヒ寄託ヲ為ス本日ニ至ル迄ノ利息金ヲ併セ此等ノ寄託ヲ接収スル為メニ指定セル場所ニ向テ之ヲ寄託シ以テ其物件ノ占有ヲ放擲スルコトヲ要ス 第三項 実物ノ寄託ヲ為スニハ必ス訟吏ニ因テ供状書即チ提供スル物件、責主ノ其物件ニ対スル拒却、責主ノ出会ヲ為サヽルノ事由及ヒ寄託ヲ為スノ事実ヲ包載スル供状書ヲ録製セシムルコトヲ要ス 第四項 責主カ出会ヲ為サヽルニ於テハ則チ其寄託ノ供状書ハ必ス寄託物件ヲ接受セシムル迫催書ト一併ニ之ヲ責主ニ報送スルコトヲ要ス 第千二百六十二条 実物ノ提供若クハ実物ノ寄託ニ関スル費用ハ若シ能ク此等ノ行為カ効力ヲ有スルニ於テハ則チ責主ノ負担ニ帰セシム 第千二百六十三条 寄託ノ物件ハ責主ノ之ヲ接受セサルノ間ニ在テハ負責主之ヲ収回スルコトヲ得可シ若シ負責主カ之ヲ収回セルニ於テハ則チ共同負責主及ヒ保人カ必ス其責ニ任セサル可カラス 第千二百六十四条 負責主カ既決ト為ス可キノ裁判宣告即チ之ニ依テ其提供及ヒ寄託ノ有効タルコトヲ認識セラレタル裁判宣告ヲ得タルニ於テハ則チ仮令ヒ責主ノ承諾ヲ以テスルモ其共同負責主若クハ其保人ノ損害有ルニ関セスシテ寄託物件ヲ収回スルコトヲ得可カラス 第千二百六十五条 責主ニシテ有効ノ寄託タルコトヲ宣告セラレタル以後ニ於テ負責主ノ寄託物件ヲ収回スルコトヲ承諾スル所ノ人ハ其責権及ヒ責権ニ属スル領先特権若クハ券記領先権ノ為メニ自己ノ権理ヲ主持スルコトヲ得可カラス 第千二百六十六条 若シ逋負スル物件カ確定セラレ而シテ其物件ノ現存スル場地ニ於テ交付ス可キ者タルニ関シテハ負責主ハ責主ヲシテ之ヲ搬去セシムルノ催督書ヲ責主ニ報送スルコトヲ要ス此催督ヲ為シタル以後尚ホ責主カ其物件ヲ搬去セサルニ於テハ則チ負責主ハ之ヲ他ノ場地ニ搬移スルノ認許ヲ法官ニ請求スルコトヲ得可シ 第二節 責務ノ転換 第千二百六十七条 責務ノ転換ハ左項ニ列挙スル三個ノ時会ニ於テ生成スル者トス 第一項 負責主カ責主ニ対シテ新債ヲ起シ以テ旧債ニ換ルコトヲ結約スルノ時会 第二項 新負責主カ旧負責主ニ代替シ而シテ其旧負責主カ責務ヲ脱卸スルノ時会 第三項 新責主カ新責権ヲ得有シテ旧責主ニ代替シ而シテ負責主カ旧責主ニ対スル責務ヲ脱卸スルノ時会 第千二百六十八条 責務ノ転換ハ契約ヲ締結スルニ合格ナル人ニ非サレハ則チ有効ニ之ヲ為スコトヲ得可カラス 第千二百六十九条 責務ノ転換ハ決シテ推断スルコトヲ得可キ者ニ非ス必ス之ヲ為サント欲スル意望ノ其行為ニ因テ表明スル有ルコトヲ要ス 第千二百七十条 負責主ノ代替スルニ因テ生成スル責務ノ転換ハ旧負責主ノ承諾ヲ取ルコト無クシテ之ヲ果行スルコトヲ得可シ 第千二百七十一条 一個ノ負責主カ責主ニ対シテ他ノ負責主ヲ指示シ其負責主ヲシテ自己ノ責務ヲ負担セシムル所ノ代任ハ若シ責主カ其代任ニ因テ負責主ノ責務ヲ解卸セシムルコトヲ明言セサルニ於テハ則チ責務ノ転換ヲ生成セサル者トス 第千二百七十二条 代任ニ因テ負責主ノ責務ヲ解卸セシメタル責主ハ仮令ヒ代任者カ支弁ニ耐ヘサルノ景況ニ陥ルコト有ルモ負責主ニ対シテ償還ヲ要求スルノ権理ヲ有セス但々其代任ノ行為中ニ明言ノ予虞ヲ包含セシメタルカ若クハ代任者ノ其受任スル時際ニ於テ既ニ己ニ支弁ニ耐ヘス或ハ将サニ倒産セントスルノ景況ニ在リシ如キハ此限ニ在ラス 第千二百七十三条 負責主カ自己ニ代替シテ弁償ヲ負担セシム可シト称言スル所ノ単一ナル指示ハ以テ責務ノ転換ヲ生成スル者ニ非ス 責主カ自己ニ代替シテ弁償ヲ領受セシム可シト称言スル所ノ単一ナル指示モ亦以テ責務ノ転換ヲ生成スル者ニ非ス 第千二百七十四条 旧責権ニ属スル領先特権及ヒ券記領先権ハ若シ責主カ特別ナル明言ノ予虞ヲ為サヽリシニ於テハ則チ其代替セル新責権ニ転移セサル者トス 第千二百七十五条 責務ノ転換カ負責主ノ代替ニ因テ果行スル者タルニ於テハ則チ原初ノ領先特権及ヒ券記領先権ハ新負責主ノ財産ニ移及スルコト無シ 第千二百七十六条 若シ責務ノ転換カ責主ト互相特担ニ係ル共同負責主中ノ一人トノ間ニ生成スル者タルニ於テハ則チ旧責権ニ属スル領先特権及ヒ券記領先権ハ唯々新起債ヲ結約セル所ノ一人ノ負責主ノ財産ニ向テ存在スル有ルノミ 第千二百七十七条 責主ト互相特担ニ係ル共同負責主中ノ一人トノ間ニ生成セル責務ノ転換ニ因テ他ノ共同負責主ハ其責務ヲ解卸スルコトヲ得可シ 主本者タル負責主ニ対シテ果行シタル責務ノ転換ハ以テ其保人ヲシテ責務ヲ解卸セシムル者トス 然レトモ若シ責主カ第一項ノ時会ニ於テ共同負責主ノ新責務ヲ認諾スルコトヲ要求シ第二項ノ時会ニ於テ保人ノ新責務ヲ認諾スルコトヲ要求シ而シテ其新起債ノ結約ヲ拒却スルニ於テハ則チ旧責権ハ依然トシテ存在スル者トス又其共同負責主及ヒ保人カ新責務ノ認諾ヲ拒却スルニ於テハ則チ旧負債ハ依然トシテ存在スル者トス 第千二百七十八条 責主ノ代替ヲ承諾シタル負責主ハ旧責主ニ対抗スル排拒法ニ依拠シテ以テ新責主ニ対抗スルコトヲ得可カラス唯々旧責主ニ対シテ訟権ヲ行用スルコトヲ得ル有ルノミ 然レトモ人ノ分限ニ繋着スル排拒法ニ関シテハ若シ其分限ヲシテ負責主カ責主ノ代替ヲ承諾セル時際ニ当リ既ニ己ニ存在シタル者タラシメハ則チ此排拒法ニ依拠シテ新責主ニ対抗スルコトヲ得可シ 第三節 債額ノ棄捐 第千二百七十九条 責主ノ発意ニ因リ負責主ニ対シテ決行セル私式貸付証券ノ原本ヲ以テスル債額ノ棄捐ハ独リ其負責主ノ為メノミナラス他ノ共同負責主ノ為メニモ亦其責務ヲ解卸セシムルノ証憑ト為ル者トス 第千二百八十条 抵当権ヲ棄捐スルモ以テ債額ヲ棄捐スル者トハ推断ス可カラス 第千二百八十一条 責主ニシテ互相特担ニ係ル共同負責主中ノ一人ニ対シテハ債額ヲ棄捐シ他ノ共同負責主ニ対シテハ之ヲ棄捐スルコトヲ欲セサル所ノ人ハ特ニ他ノ共同負責主ニ対シ其責権ヲ保存スルコトヲ明言セサル可カラス然レトモ此時会ニ於テハ必ス棄捐ヲ為シタル一人ノ負責主ノ負担部分ヲ扣除シテ以テ其責権ヲ行用スルコトヲ要ス 第千二百八十二条 主本者タル負責主ニ対シテ許与シタル契約上ノ債額ノ棄捐ハ以テ其保人ヲシテ責務ヲ解卸セシムル者トス然レトモ保人ニ対シテ許与シタル責務ノ解卸ハ以テ其主本者タル負責主ヲシテ責務ヲ解卸セシムルニ非ス 第千二百八十三条 責主カ共同保人中ノ一人ニ対シテ許与シタル責務ノ解卸ニ関シテハ其解卸ヲ受ケタル保人ノ担当部分ハ以テ他ノ共同保人ノ為メニ利益スル者トス 第千二百八十四条 責主カ保証ヲ解卸セシムル為メニ共同保人中ノ一人ヨリ領収スル所ノ金額ハ主本タル債額ノ計内ニ就キテ之ヲ扣断シ而シテ主本者タル負責主及ヒ他ノ共同保人ノ保証ニ向ヒ其金額ニ比例シテ以テ責務ヲ解卸セシメサル可カラス 第四節 責務ノ償殺 第千二百八十五条 二個ノ人カ互相ニ負責主ト為ルコト有レハ則チ其間ニ於テ責務ノ償殺即チ二個ノ負債ヲシテ次後数条ノ方法及ヒ時会ニ因テ互相ニ其債額ヲ償消セシムルコトヲ得可キ者有リトス 第千二百八十六条 責務ノ償殺ハ二個ノ債額ニシテ其相均当スル数額ニ向ヒ互相ニ償消スルコトヲ得ル所ノ者カ同時ニ存在スルノ時会ニ在テハ仮令ヒ負責主ノ認諾ヲ経ルコト無キモ法律ニ依拠シテ直チニ之ヲ決行スルコトヲ得可シ 第千二百八十七条 責務ノ償殺ハ二個ノ逋債ニシテ共ニ金額ヲ以テ其標率ト為ス者或ハ同一種類ノ二個ノ物件即チ弁償ニ関シ其一カ他ノ一ニ換代スルコトヲ得可ク而シテ共ニ確実ニ限定セラレ且弁償期限ノ既ニ到来セル所ノ物件ノ数額ヲ以テ其標率ト為ス者トノ間ニ於テ之ヲ決行スルコトヲ得可シ 穀類若クハ或種ノ産物ニシテ其価直カ市場ノ時価書ヲ以テ評定セラレタル者ノ事障無キ貸付ハ以テ他ノ金額ヲ標率ト為セル負債ニシテ弁償期限ノ既ニ到来セル所ノ者ト相償殺スルコトヲ得可シ 第千二百八十八条 責主カ不要報ヲ以テ許与シタル弁償期限ノ延展ハ以テ責務償殺ノ妨阻ヲ為ス者ニ非ス 第千二百八十九条 二個ノ逋額ノ其一若クハ他ノ一ニ存スル事由ハ仮令ヒ何等ノ者ニ係レルモ左項ニ列挙スル四個ノ時会ヲ除クノ外ハ総テ相償殺スルコトヲ得可シ 第一項 物件所有主カ不当ニ奪取セラレタル物件ノ還付ヲ請求スルノ時会 第二項 寄託シ若クハ恩貸セル物件ノ還付ヲ請求スルノ時会 第三項 勒抵ス可カラスト公言セル給養費ヲ逋負シタルノ時会 第四項 負責主カ予メ償殺ヲ為スコトヲ拒却シタルノ時会 第千二百九十条 保人ハ責主カ主本者タル負責主ニ負フ所ノ債額ニ向テ償殺ヲ決行セシムルコトヲ得可カラス然レトモ主本者タル負責主カ保人即チ自己ニ負フ所ノ債額ニ向テ償殺ヲ決行セシムルコトヲ得可シ 互相特担ニ係ル共同負責主中ノ一人ハ責主カ其共同負責主ニ負フ所ノ債額ニ向テ決行スルノ償殺ハ唯此一人ノ負責主ノ負担スル部分ニ達スル迄ハ之ヲ決行スルコトヲ得可シ 第千二百九十一条 負責主ニシテ責主ノ第三位ノ人ニ責権ヲ譲与スルコトニ関シ絶テ規約ヲ立定セス又予虞ヲ留存セスシテ其譲与ヲ認許セシ所ノ人ハ其譲与ノ領諾セラルヽ以前ニ譲与者ニ対抗スルコトヲ得可カリシ所ノ償殺法ニ依拠シテ以テ受譲者ニ対抗スルコトヲ得可カラス 然レトモ負責主カ認許ヲ与フルコト無クシテ唯通知ノミヲ受ケタル所ノ譲与ニ関シテハ其通知ヲ受ケタル以後ノ責権ニ対スルニ非サレハ則チ償殺ノ決行ヲ妨阻スルコト無シ 第千二百九十二条 二箇ノ債額ニシテ同一ノ場地ニ於テ弁償ス可キ所ノ者ニ非サレハ則チ其弁償ス可キ場地ニ移到スル費用額ヲ算取シテ以テ償殺ヲ決行スルコトヲ得可シ 第千二百九十三条 同一人ニシテ償殺ヲ為スコトヲ得可キ数個ノ債額ヲ有スル所ノ者カ償殺ヲ為スニハ弁償ノ擬当ニ関シ第千二百五十八条ニ規定セル法則ニ准依ス可キ者トス 第千二百九十四条 責務ノ償殺ハ第三位ノ人ノ既ニ得有セル権理ノ存在スル有ルニ於テハ則チ之ヲ決行スルコトヲ得可カラス故ニ負責主ニシテ第三位ノ人ノ為メニ自己ノ債額ヲ勒抵セラレタル以後ニ転シテ責主ト為レル所ノ人ハ勒抵者ノ損害有ルニ関セス償殺法ニ依拠シテ以テ其負責主ニ対抗スルコトヲ得可カラス 第千二百九十五条 償殺ニ因テ消滅シタル負債ヲ弁償セル人ニシテ其以後ニ償殺法ニ依拠シテ対抗セサリシ責権ヲ追求スル所ノ者ハ第三位ノ人ノ損害有ルニ関セス其責権ニ属スル領先特権券記領先権若クハ保証ニ関スル権理ヲ主持スルコトヲ得可カラス但々其責権カ其負債ト償消スルコトヲ得ルヲ知覚セサリシ正当ナル理由ノ在ル有ル者ノ如キハ此限ニ在ラス 第五節 責権ト責務トノ混併 第千二百九十六条 責主ト負責主トノ分限カ同一人ニ帰集セルニ於テハ則チ権理上ノ混併即チ責権ト責務トヲ消滅セシムル者有リトス 第千二百九十七条 責主ト主本者タル負責主トノ分限カ同一人ニ帰集セルニ因テ生成スル所ノ混併ハ以テ保人ニ利益スル者トス 責主ト主本者タル負責主トノ分限カ保人ニ帰集セルニ於テハ則チ主本タル責務ハ消滅ニ帰セサル者トス 互相特担ニ係ル共同負責主中ノ一人ノ身上ニ於ケル混併ハ唯々自己ノ負責部分ニ向テノミ他ノ共同負責主ニ利益スル者トス 第六節 逋負スル物件ノ毀滅 第千二百九十八条 一個ノ確定セル物件ニシテ責務ノ標率ト為レル所ノ者カ毀滅ニ帰スルカ若クハ売買ス可カラサル者ト為ルカ若クハ全ク其存在ヲ知ル可カラサル如ク亡失スルコト有レハ則チ其責務ハ消滅スル者トス但其物件カ負責主ノ過失ニ因ラス且未タ交付ス可キ景況ニ迨ハサルヨリ以前ニ於テ毀滅ニ帰シ若クハ売買ス可カラサル者ト為リ若クハ亡失セル者タルコトヲ要ス 仮令ヒ負責主カ既ニ其物件ヲ交付ス可キノ景況ニ在ルモ若シ偶然ニ起生スル所ノ物件ノ毀滅ニ関スル損害ヲ自己ニ負担セス且若シ其物件カ既ニ交付セラレタル時会ニ於テ責主ノ家裏ニ在リシモ亦均シク毀滅ニ帰ス可カリシニ於テハ則チ其責務ハ消滅スル者トス負責主ハ必ス其偶然ノ時会タルコトヲ証明セサル可カラス 奪取シタル物件ハ仮令ヒ何等ノ景況ニ因テ毀滅シ若クハ亡失シタルモ其毀滅若クハ其亡失ハ以テ其奪取者カ価直ヲ還付セサル可カラサルノ責務ヲ認免スルニハ足ラサル者トス 第千二百九十九条 物件カ負責主ノ過失ニ因ラスシテ毀滅ニ帰シ若クハ売買ス可カラサル者ト為リ若クハ亡失セルコト有レハ則チ其物件ニ関シテ負責主ニ属スル権理及ヒ訟権ハ即チ其責主ニ転移ス 第七節 責務ヲ無効ト為シ及ヒ責務ヲ毀銷スル訟権 第千三百条 契約ヲ無効ト為シ若クハ之ヲ毀銷スル訟権ハ特別ノ法律ヲ以テ短促ナル期間ヲ限定セサル諸般ノ時会ニ於テハ五年ノ間之ヲ行用スルコトヲ得可シ 此五年ノ期間ハ脅迫ノ事為有リシ時会ニ於テハ其脅迫ノ解止セル本日ヨリシ誤錯若クハ詐偽ノ事為有リシ時会ニ於テハ其発覚セル本日ヨリシ受治産禁者若クハ不合格者ノ行為ニ関シテハ其治産禁若クハ其不合格ノ解除セル本日ヨリシ未丁年者ノ行為ニ関シテハ其丁年ニ達セル本日ヨリシ結婚セル婦女ノ行為ニ関シテハ其婚姻ノ解離セル本日ヨリシテ之ヲ起算ス 第千三百一条 此訟権ハ承産者ニ転移ス然レトモ唯々其遺産者ノ留存シタル期間ニ於テノミ之ヲ行用スルコトヲ得可キ者トス但々期満法ニ於ケル期間ノ仮停若クハ中止ニ関スル条則有ル者ノ如キハ此限ニ在ラス 第千三百二条 契約ノ無効若クハ毀銷ニ関スル排拒法ハ契約履行ノ追求ヲ受クル所ノ人カ無効若クハ毀銷ノ訟権ヲ行用スルコトヲ得可キ諸般ノ時会ニ於テ之ヲ行用スルコトヲ得ル者トス 此排拒法ノ行用期間ハ第千三百条ニ規定セル期満法ノ制限ヲ受ケサル者トス 第千三百三条 未丁年者ノ責務ニ関シテハ其無効ト為スノ訟権ハ左項ニ列挙スル三個ノ時会ニ於テ之ヲ行用スルコトヲ認許ス 第一項 丁年権ノ認許ヲ受ケサル未丁年者カ合法ナル代理者ノ間入ヲ得スシテ自カラ一個ノ行為ヲ決行シタルノ時会 第二項 丁年権ノ認許ヲ受ケタル未丁年者カ法律上ニ於テ保管人ノ臨同ヲ必要スル一個ノ行為ニ関シテ自カラ之ヲ決行シタルノ時会 第三項 法律上ニ於ケル特別ノ条則ヲ以テ或種ノ行為ノ為メニ規定セル程式ノ践行ヲ闕キタルノ時会 第千三百四条 未丁年者受治産禁者若クハ不合格者ノ利益ノ為メニ法律ニ因テ規定セル程式ヲ践行スル所ノ行為ハ全ク合格ナル丁年者ノ決行セル行為ト一般ナル効力ヲ有スル者トス 第千三百五条 未丁年者ニシテ詐偽ノ術策ニ因リ其未丁年タルコトヲ掩匿シタル所ノ人ハ其契約ヲ訟撃スルコトヲ得可カラス又未丁年者ノ為シタル丁年ノ公言ハ以テ其未丁年者ヲシテ詐偽ノ景況ニ立タシムルニハ足ラサル者トス 第千三百六条 未丁年者ハ其犯罪若クハ其准犯罪ノ行為ニ起生スル責務ニ関シテハ丁年者ニ准視セラル可キ者トス 第千三百七条 無効ト訟撃セラルヽ所ノ責務ニ関シ未丁年者受治産禁者不合格者若クハ結婚婦女ニ向テ支弁シタル逋債ノ還付ハ何人タルヲ問ハス若シ其支弁シタル物件ノ実ニ此等ノ人ニ利益セシコトヲ証明セサルニ於テハ則チ之ヲ要求スルコトヲ得可カラス 第千三百八条 損失ノ理由ニ依拠シテ契約ヲ毀銷スル所ノ訟権ハ仮令ヒ未丁年者ニ関スルモ特ニ法律上ニ明掲セル時会ニ於テシ及ヒ規約ヲ以テスルニ非サレハ則チ之ヲ行用スルコトヲ得可カラス 此訟権ハ其行用ヲ認許セラル可キ時会ニ於テモ第三位ノ人ニシテ毀銷ニ関スル請求ノ公簿ニ証記セラルヽヨリ以前ニ先ツ不動産ニニ向テ権理ヲ得有シタル所ノ者ニ損害ヲ与フ可キノ効力ヲ有セス 第千三百九条 責務即チ之ニ反シテ法律カ其無効ヲ認許スル所ノ責務ニ関スル追認ハ若シ其責務ノ事実其責務ヲ不完全ノ者ト為スノ理由及ヒ訟権ノ因起スル瑕疵ヲ補完スト為スノ公言ヲ含有セサルニ於テハ則チ効力ヲ有セサル者トス 追認ノ行為ヲ闕クコト有リト雖モ亦唯々責務ノ有効ニ追認セラル可キ時期ヨリ以後ニ於テ其責務ニ瑕疵ヲ帯ルコトヲ覚知スル所ノ人ニ因リ其全部若クハ其大半部分ヲ履行セラルヽヲ以テ足レリトス 法律上ニ掲記セル程式ニ遵依シ期限内ニ於テ為シタル追認若クハ任意ノ履行ハ其責務ニ対抗スルコトヲ得可キ排拒法及ヒ其他ノ方法ヲ放棄セル者ト看做ス但々第三位ノ人ノ権理ニ関渉スル有ル時会ノ如キハ此限ニ在ラス 本条ノ各項ハ損失ノ理由ニ依拠スル毀銷ノ訟権ニ向テハ之ヲ擬施スルコトヲ得可カラス 第千三百十条 程式ノ践行ヲ闕クニ因テ純然ニ無効タル行為ニ関スル瑕疵ハ仮令ヒ如何ナル追認ノ行為ヲ以テスルモ決シテ之ヲ銷滅スルコトヲ得可カラス 第千三百十一条 贈興若クハ遺嘱行為ニ関シ贈与者若クハ遺嘱者ノ死亡セル以後ニ於テ其承産者ノ為セル追認若クハ任意ノ履行ハ程式ニ関スル瑕疵ノ理由ニ依拠シ及ヒ他ノ排拒法ニ依拠シテ以テ対抗スルコトヲ得ルノ権理ヲ放棄スル者トス 第五章 責務ノ証憑及ヒ責務ノ消滅ニ関スル証憑 第千三百十二条 責務ノ履行ヲ請求スル人ハ必ス其責務ノ存在スルコトヲ証明セサル可カラス又責務ノ解卸ヲ得タリト称言スル人ハ必ス其責務ノ弁償ヲ完了シ及ヒ其責務ノ消滅ヲ起生シタル所ノ事実ヲ証明セサル可カラス 第一節 録記ニ係ル証憑 第千三百十三条 録記ニ係ル証憑ハ公式証書若クハ私式証書ニ因テ生成スル者トス 第千三百十四条 左項ニ列挙スル契約ハ必ス公式証書若クハ私式証書ニ因テ之ヲ締結スルコトヲ要ス然ラサレハ則チ効力ヲ有セサル者トス 第一項 不動産ノ所有権若クハ他ノ券記抵当ニ供充ス可キ財産若クハ権理ヲ転移スルノ契約但々国債証券ニ関スル条則ノ在ル有ル者ハ此限外ニ在リトス 第二項 土地ニ関スル通務若クハ使用及ヒ占住ニ関スル権理ヲ設定シ或ハ之ヲ改換スルノ契約並ニ収額得有権ニ関スル行用権ヲ転移スルノ契約 第三項 第一項第二項ニ掲記セル各種ノ権理ヲ棄却スルノ契約 第四項 九年ニ踰越スル期間ヲ以テスル賃貸ノ契約 第五項 不動産ノ使用ヲ以テ目的ト為ス所ノ結社ノ契約但々其結社期間ノ無限ナル者若クハ九年ニ踰越スル者ニ係ルノ時会ノミニ限止ス 第六項 無期若クハ終身ヲ以テスル年金ノ契約 第七項 協約 第八項 此他ノ行為ニシテ特ニ法律ニ明記セル所ノ者 第一款 公式証書 第千三百十五条 公式証書トハ公証人若クハ此他ノ訟吏ニシテ此行為ヲ践行セル場地ニ於テ其行為ニ公正ノ証憑ヲ付与ス可キ人ニ因リ程式ニ遵依シテ公認セラレタル契約証書ヲ謂フ 第千三百十六条 訟吏ノ合格ナラス若クハ程式ノ践行ヲ闕キタル為メニ公式証書タル効力ヲ有セサルノ証書ト雖モ結約者ノ署名セル者タルニ於テハ則チ猶私式証書ト一般ナル信憑ヲ有ス 第千三百十七条 公式証書ハ契約及ヒ其他ノ事為ニシテ公証人若クハ公認ヲ付与セル人ノ面前ニ於テ其程式ヲ践行シタル者タルコトヲ信徴スルニ供ス 然レトモ詐偽ニ成レル証書ニ関シ主本ノ訴訟ヲ搆起セルコト有ルノ時会ニ当テハ其詐偽ニ成レリト称言セラレタル行為ノ践行ハ逮捕状ニ因テ仮停セラル可キ者トス若シ其逮捕状ノ未タ下付セラレサルノ間若クハ詐偽ニ成レル証書ニ関シ旁起ノ訴訟ヲ搆起セルコト有ルノ時会ニ当テハ法衙ハ暫ク其行為ノ践行ヲ仮停スルコトヲ得可シ 第千三百十八条 公式証書若クハ私式証書ハ結約主ノ間ニ在テハ唯端緒ノミヲ略掲シテ以テ明言シタル事件ト雖モ亦信徴ニ供スルニ足ル可キノ効力ヲ有ス但々其略掲セル明言ノ直接ニ契約ノ条件ニ関係スル者タルコトヲ要ス 契約ノ条件ニ関係セサル略掲ノ明言ハ以テ証憑ノ端緒ト為スコトヲ得可カラス 第千三百十九条 私式証書ヲ以テ為シタル変約ニ関スル秘密ノ証書ハ唯々結約主及ヒ遺産全部ノ受権者ノ間ニ在テノミ効力ヲ有スル者トス 第二款 私式証書 第千三百二十条 私式証書ニシテ之ニ依テ対抗ス可キ其人ノ認諾ヲ得タル所ノ者若クハ法律上ニ於テ認識セラレタリト看做ス所ノ者ハ之ヲ録製セル結約者及ヒ其受権者ノ間ニ在テハ公式証書ト一般ナル信憑ヲ有ス 第千三百二十一条 私式証書ニ依テ対抗セラル可キ其人ハ其証書ノ書写及ヒ署名ヲ明確ニ認識スルカ若クハ明確ニ非斥セサル可カラス 其承産者若クハ其受権者ハ遺産者ノ遺留シタル証書ノ書写及ヒ署名ヲ認識スルコト能ハスト公言スルヲ得可シ 第千三百二十二条 結約者カ其証書ノ書写及ヒ署名ヲ非斥シ而シテ其承産者若クハ其受権者モ亦之ヲ認識スルコト能ハスト公言スルニ於テハ則チ裁判上ニ於テ之カ検査ヲ為ス可キ者トス 第千三百二十三条 公証人ニ因テ公正ナリト公言セラレタル署名ハ認識ヲ得タル者ト看做ス 公証人ハ結約者タル本人ヲ確認シタル以後ニ自己ノ面前及ヒ二個ノ証人ノ面前ニ於テ手記セシメタル署名ニ非サレハ則チ其公正ナルコトヲ認識セサル可キ者トス 第千三百二十四条 書写若クハ署名カ認識セラレ若クハ認識ス可キ者ト看做サレタルノ時ニ当リ私式証書ニ依テ対抗セラル可キ其人ハ其私式証書ニ包載セル条件ニ反対スル事由ヲ提出スルコトヲ得可キノ権理ヲ有ス仮令ヒ其認識ヲ得タリシ時際ニ於テ抗沮ノ予虞ヲ為スコト無カリシ者ト雖モ亦然リ 第千三百二十五条 証券若クハ私式ニ成レル約券ニシテ結約者ノ一人カ他ノ一人ニ向ヒ某ノ金額若クハ他ノ有価物件ヲ交付スルノ責務ヲ約束スル所ノ者ハ責務者カ其全面ヲ手記シ若クハ金額物件ノ数額ヲ真字ニ記載シ且可認若クハ承允ノ文字ヲ其手記ノ署名ニ加記セサル可カラス 此条則ヲ移シテ以テ之ヲ商業上ノ事為ニ擬施スルコトヲ得可カラス 第千三百二十六条 私式証書ニ記載シタル金額ト可認シタル金額トニ差異ノ在ル有レハ則チ仮令ヒ証書及ヒ可認カ共ニ負責主ノ手記ニ成リタルモ其責務ハ最少ノ金額ニ存在スル者ト推断ス但々確実ニ其一方ノ金額ノ誤写ニ係レルコトヲ証明スル者ノ如キハ此限ニ在ラス 第千三百二十七条 私式証書ノ記日カ確実ニシテ以テ第三位ノ人ニ対シ効功ヲ有ス可キハ即チ其証書ヲ証記局ノ公簿ニ証記スルノ本日之ヲ証記局ニ寄託スルノ本日之ヲ書写シタル人ノ死亡シ若クハ其一人ノ死亡シ若クハ書写スルコトヲ得可カラサル情状ニ罹リタル本日其証書ノ条件カ訟吏ニ因テ録製セラレタル証書例之ハ遺産封鎖若クハ遺産目録ニ関スル供状書ニ依テ証明セラレタル本日若クハ其証書ノ記日カ他ノ同一効力ヲ有スル証憑ニ因テ生出スル本日ヨリスル者トス 第千三百二十八条 商売ノ帳簿ハ商売ニ非サル人ニ対シテハ其帳簿上ニ記載セル物件ニ関シテ効力ヲ有セス然レトモ其帳簿ハ法官ヲシテ約主タル一人ニ誓言ヲ為サシムルニ足ル者トス 第千三百二十九条 商売ノ帳簿ハ自己ノ利益ニ反対スル証憑ト為ル者トス然レトモ其帳簿ニ依拠シテ利益ヲ抽収セント欲スル人ハ其自己ノ利益ニ反対スル件項ヲ帳簿中ヨリ刪去スルコトヲ得可カラス 第千三百三十条 帳簿及ヒ其他家事ニ関スル文書ハ左項ノ時会ニ在テハ之ヲ書写セル其人ノ為メニハ信憑ト為ラスシテ却テ其人ノ利益ニ反対スル信憑ト為ル者トス 第一項 其簿書ニ弁償ヲ領受セシコトヲ明確ニ記載シタルノ時会 第二項 其簿書ニ責主ノ利益トシテ証書ノ缺欠ヲ補完スル為メニ追記ヲ為セシコトヲ特別ニ記載シタル時会 第千三百三十一条 責主ニ因テ証書ノ下端、横側及ヒ背面ニ就キテ為サレタル追記カ負責主ノ責務ヲ解卸セシムルニ関シテ便宜ヲ付与スル有ルニ於テハ則チ仮令ヒ其追記カ責主ノ手記ニ係ル署名及ヒ記日ノ存スル無キモ亦信憑ト為ル可キ者トス但々此証書ノ常ニ責主ノ手中ニ留存スル者タルコトヲ要ス 責主ニ因テ負責主ニ属ス可キ証書ノ副本若クハ前期ノ弁償ニ係ル領受証票ノ下端、横側及ヒ背面ニ就キテ為サレタル追記モ亦之ニ准ス但此書類ノ現ニ負責主ノ手中ニ留存スル者タルコトヲ要ス 第三款 符牌 第千三百三十二条 符牌ニシテ其一片ニ刻記ノ符信ヲ現存スル所ノ者ハ二個ノ人カ零細売買ヲ為ス物件ノ証憑ニ充ツル慣習法ヲ行用スルニ関シテハ其証憑ト為スコトヲ得可シ 第四款 公式証書及ヒ私式証書ノ写本 第千三百三十三条 公式証書ノ写本カ原本ノ抄録ニ係リ而シテ公証人或ハ訟吏即チ公認ヲ付与スル訟吏若クハ正当ニ公認ヲ付与スルノ許可ヲ得タル訟吏ニ因テ公正ナリト認識セラレタル所ノ者ハ原本ト同一ナル信憑ヲ有ス 私式証書ニシテ其原本ハ公同記録局ニ寄託セル所ノ者ノ写本カ規則ニ准依シ記録吏員ニ因テ交付セラレタルニ於テハ則チ亦均シク原本ト同一ナル信憑ヲ有ス 第千三百三十四条 公証人及ヒ訟吏即チ法律カ公正ナル公式証書ノ写本ヲ公同記録局ニ寄託ス可キノ責務ヲ負担セシムル所ノ公証人及ヒ訟吏ニ因テ公同記録局ニ寄託セル公式証書ノ写本ニ就キ記録吏員カ規則ニ准依シテ以テ抄録シタル所ノ写本モ亦均シク原本ト同一ナル信憑ヲ有ス 第千三百三十五条 前二条ニ掲記セル時会ニ在テハ訟主ハ其訴訟ヲ搆起スル場地ニ於テ公同記録局ニ寄託セル証書ノ原本若クハ写本ヲ出示セシムルコトヲ要求スルヲ得可カラス然レトモ訟主ハ其写本ヲ原本ニ対照スルコトヲ要求スルヲ得可ク若シ原本ヲ闕クニ於テハ則チ公同記録局ニ寄託セル写本ニ対照スルコトヲ要求スルヲ得可シ 第千三百三十六条 若シ公同記録局ニ寄託セル原本及ヒ写本ヲ併セテ之ヲ闕クコト有ルニ於テハ則チ第千三百三十三条及ヒ第千三百三十四条ニ照准シテ抄録セル公正ナル写本ヲ以テ信憑ニ充ツルコトヲ得可シ但其写本ノ文字ニ改竄ヲ加フルコト無ク其他疑ヲ置ク可キノ事由無キ者タルコトヲ要ス 第千三百三十七条 前条ニ掲記セル写本カ証記局ニ保存セルカ若クハ常人ノ手中ニ保存セルニ当リ若シ法官ノ命令ニ従ヒ関係者カ訟求ヲ受ケタルニ因リ若クハ自己躬親カラ本管轄ナル公同記録局ニ寄託シタルニ於テハ則チ之ヲ以テ原本ニ代用シ及ヒ之ニ就キテ他ノ写本ヲ録製スルコトヲ得可シ 第千三百三十八条 公同記録局ニ寄託セル原本及ヒ写本ヲ併セテ之ヲ闕クコト有ルニ於テハ則チ其事ニ当任スルノ認許ヲ受ケサル訟吏ニ因テ抄録セラレタル写本ニシテ其既ニ三十年ヲ経タル所ノ者ヲ以テ証憑ノ端緒ニ充ツルコトヲ得可シ然レトモ若シ其写本カ未タ三十年ニ達セサル所ノ者タルニ於テハ則チ唯其景況ニ応シテ単純ナル参考ニ供スルコトヲ得ルノミ 第千三百三十九条 単ニ公簿ニ記載セル所ノ写本モ亦唯々録記ニ係ル証憑ノ端緒ニ充ツルコトヲ得ルノミ 第五款 認識証書 第千三百四十条 認識証書ハ若シ負責主若クハ其承産者若クハ其受権者カ契約ノ原書ヲ出示シテ以テ其認識証書ニ誤錯有ルコトヲ証明スルニ非サレハ則チ此等ノ人ニ反対スルノ証憑ト為ル者トス 数個ノ認識証書ノ在ル有ルニ於テハ則チ其最モ新近ナル者ヲ以テ最モ信憑ヲ有スル者トス 第二節 証人ヲ以テスル証憑 第千三百四十一条 一個ノ物件ニシテ其価直五百「フラン」ニ超過スル所ノ者ヲ目的ト為セル契約ハ仮令ヒ随意ノ寄託ニ係レルモ証人ヲ以テ之ヲ証明セシムルコトヲ許サス又此証憑ノ方法ハ録記ノ証書ニ記載セル所ニ反対スル事件若クハ記載セサル他ノ事件若クハ録記ノ行為ヲ執行スルヨリ以前同時及ヒ以後ニ称言シタリト為ス所ノ事件ニ関シテ之ヲ行用スルコトヲ許サス仮令ヒ其物件ノ価直ノ五百「フラン」ヨリ減降セル所ノ者ヲ以テ目的ト為セル契約ニ関シテモ亦然リ然レトモ商業上ニ関シテ規定セル法律ハ依然存在スル者トス 第千三百四十二条 前条ノ規則ハ告訴カ母金額ヲ請求スルノ外ニ利息額ノ請求ヲモ包含スル者ニシテ其利息額ヲ母金額ニ合算スレハ其全額五百「フラン」ニ超過スルノ時会ニ向テモ亦之ヲ擬施スルコトヲ得可シ 第千三百四十三条 五百「フラン」ニ超過スル金額ニ向テ訟求ヲ為ス所ノ訟主ハ仮令ヒ其訟求ノ金額ヲ減降スルモ証人ヲ以テ之ヲ証明セシムルコトヲ許サス 第千三百四十四条 五百「フラン」ヨリ減降スル金額ニ関スル訟求ト雖モ此金額ハ証書ヲ以テ証明セサル所ノ鉅多ナル貸付ノ残額若クハ其一部ニ係ルト公言スル者タルニ於テハ則チ亦証人ヲ以テ之ヲ証明セシムルコトヲ許サス 第千三百四十五条 若シ一訴訟中ニ於テ訟主カ数項ノ請求ヲ為スモ録記ニ係レル証憑ヲ有セス而カモ其数項ヲ合算スレハ五百「フラン」ニ超過スル者タルニ於テハ則チ仮令ヒ訟主カ其貸付権ハ諸種ノ事由ニ起生シ各般ノ時会ニ成立シタルコトヲ称言スル有ルモ亦証人ヲ以テ之ヲ証明スルコトヲ許サス但々其貸付権カ承産、贈与若クハ其他ノ事由ニ起生セル者ノ如キハ此限ニ在ラス 第千三百四十六条 文書ヲ以テ証明スルコト能ハサル諸般ノ訟求ハ仮令ヒ其訟求ノ事由ハ何等ノ者ニ係レルモ必ス一訴訟中ニ包括シテ以テ之ヲ為サヽル可カラス 逓次ノ告訴ニ因テ為ス所ノ訟求ニ関シテハ証人ヲ以テ証明セシムルコトヲ許サス 第千三百四十七条 前数条ニ制定セル規則ハ録記ニ係レル証憑ノ端緒有ルニ於テハ則チ特例ヲ受ケサル可カラス 此証憑ノ端緒ハ訟求ヲ受ケタル其人若クハ其人ノ代理者ノ出示スル文書ニシテ其称言スル事由ノ認メテ以テ確実ト做ス可キ所ノ者ニ因テ生出ス 第千三百四十八条 前条ニ掲記セル規則ハ若シ証人カ負責主ト結約セル責務ニシテ録記ニ係レル証憑ヲ出示スルコトヲ得サルカ若クハ責主カ予見ス可カラサル偶然ノ事故ニ因リ及ヒ措擱ス可カラサル急遽ノ事故ニ因テ録記ニ係レル証憑ヲ亡失セルコト有レハ則チ亦特例ヲ受ケサル可カラス 其第一ノ特例ハ左項ノ時会ニ存スル者タリ 第一項 准契約犯罪若クハ准犯罪ニ因テ責務ヲ起生スルノ時会 第二項 火災、崩壊、騒擾若クハ船舶破没ノ時際ニ於テ為シタル必須ノ寄託或ハ旅人カ其投寓スル旅舎ニ於テ為シタル寄託或ハ旅人カ運車手ニ向テ為シタル寄託ニ関スルノ時会ニ於テハ其人ノ分限ト其事故ノ景況トニ応シテ之ヲ酌量スルコトヲ要ス 第三項 予知ス可カラサル事変ニシテ録記ニ係レル証憑ヲ作ルコトヲ得サル時際ニ於テハ結約セル責務ニ関スルノ時会 第三節 推断法 第千三百四十九条 推断トハ法律若クハ裁判官カ既ニ知得セル事実ヨリ他ノ知得ス可カラサル事実ヲ抽出スル所ノ結果ヲ謂フ 第一款 法律上ノ推断法 第千三百五十条 法律上ノ推断ハ特別ノ法律カ某ノ行為若クハ某ノ事実ニ擬当スル所ノ推断ヲ謂フ 其推断ヲ下タス可キ事例タル即チ左項ノ如シ 第一項 法律カ法律上ノ条則ヲ規避シテ以テ為セル者ト認ムル行為ニシテ其本質上ニ於テ無効ト公言ス可キ所ノ者 第二項 所有権若クハ責務ノ解卸カ指定セル某ノ事為ヨリ生出スルノ時会 第三項 法律カ既決事件ニ擬当スル所ノ効力 第千三百五十一条 既決事件ニ擬当スル所ノ効力ハ唯々裁判宣告ノ標率ト為レル所ノ事件ニ向テノミ存在スル者トス故ニ其事件ニ既決ノ者タラシムル為メニハ訟求スル物件カ同一物件ニ係リ訟求スル事由カ同一事由ニ拠リ而シテ其訟求ハ同一約主ノ間ニ於テ同一分限ヲ有スル一方ニ因リ若クハ其一方ニ向テ之ヲ為ス所ノ者タルコトヲ要ス 第千三百五十二条 法律上ノ推断ハ推断ヲ下タス可キ其人ニ対シ諸般ノ証憑ヲ出示スルコトヲ認免スル者トス 第千三百五十三条 推断ノ根拠ニ関シ若シ法律カ或種ノ行為ヲ無効ト認定シ若クハ裁判上ニ於テ或種ノ訟権ヲ認識セサルニ於テハ則チ其法律上ノ推断ニ反対スル何等ノ訟憑ヲモ出示スルコトヲ許サス 第二款 法律外ノ推断法 第千三百五十四条 法律上ニ於テ規定セサル所ノ推断法ハ全ク裁判官ノ注慮ニ委付シ而シテ裁判官ハ法律カ証人ノ証明ヲ認許スルノ時会ニ於テノミ重要正確且整全ナル推断ヲ下タス可キ者トス 第四節 訟主ノ自認 第千三百五十五条 訟主ノ自認ハ裁判上ニ於テスル者有リ又裁判外ニ於テスル者有リ 第千三百五十六条 裁判上ニ於テスル自認トハ訟主若クハ其特別ノ代理者カ裁判官ノ坐前ニ於テ為シ若クハ他ノ管轄裁判所ノ裁判官ノ坐前ニ於テ之ヲ為ス所ノ公言即チ是ナリ 此自認ハ之ヲ為シタル所ノ人ニ反対スル証憑ト為ル者トス 第千三百五十七条 裁判外ニ於テスル自認トハ法廷ノ外ニ於テ為ス所ノ公言即チ是ナリ 第千三百五十八条 若シ裁判外ニ於テスル自認カ訟主若クハ其特別ノ代理者ニ対シテ為セル者タルニ於テハ則チ完全ナル証憑ト為ル者トス 又若シ裁判外ニ於テスル自認カ第三位ノ人ニ対シテ為セル者タルニ於テハ則チ唯々是単純ニ証憑ノ一端ニ供シ得ルノミニ過キス 第千三百五十九条 裁判外ニ於テスル自認ハ罰金即チ法律カ其自認ニ対シテ証人ノ証明ヲ認許セサル所ノ罰金ニ関シテハ証人ヲ以テ之ヲ証明セシムルコトヲ得可カラス 第千三百六十条 裁判上ニ於テスル自認若クハ裁判外ニ於テスル自認ハ其自認ヲ為シタル人ノ損害有ルニ拘ハラスシテ其一部分ヲ取捨スルコトヲ得可カラス 自認ハ事実上ノ誤錯ニ関スル者ニ非サレハ則チ之ヲ収回スルコトヲ得可カラス 法律上ノ誤錯ヲ称言シテ以テ自認ヲ収回スルコトヲ得可カラス 第千三百六十一条 自認ヲシテ効力ヲ生出セシムル為メニハ必ス責務ヲ負担スルニ合格ナル人ノ之ヲ為スコトヲ要ス 後見人若クハ管理人ノ為セル自認ハ其権下ニ在ル人ニ損害ヲ及ホスコト無シ但々其後見人若クハ其管理者カ自己ノ権下ニ在ル人ヲシテ責務ヲ負担セシムル為メニ合法ノ程式ニ遵依シテ以テ為シタル自認ノ如キハ此例外ニ属ス 第五節 誓言 第千三百六十二条 誓言ハ必ス本人ノ之ヲ為スコトヲ要ス決シテ代理者ヲシテ之ヲ為サシムルコトヲ許サス 第千三百六十三条 誓言ニ二種ノ差別有リトス 第一項 訟主ノ一方カ其争訟ノ結落ヲ繋着セシムル所ノ誓言ニシテ称シテ決審誓言ト曰フ者 第二項 裁判官カ訟主ノ一方ニ対シテ命令スル所ノ誓言 第一款 決審ノ誓言 第千三百六十四条 決審ノ誓言ハ民事上ノ諸般ノ争訟ニ関シテ之ヲ為サシムルコトヲ得可シ 此決審ノ誓言ハ罪犯ノ事実ニ関スル一個ノ契約ニシテ其有効タル為メニ法律カ録記ニ係レル証憑ヲ要スル所ノ者或ハ一個ノ事為ニテ公式ノ行為ニ因テ為シ若クハ訟吏ニ因テ公認セラレタル所ノ者ヲ争訟スルニ関シテハ之ヲ為スコトヲ得可カラス 第千三百六十五条 決審ノ誓言ハ唯々之ヲ為スコトヲ要徴セラレタル其人ノ身上ニ繋着スル確定ノ事件若クハ単純ニ知リ得タル事実ニ関シテノミ之ヲ為サシムルコトヲ得可シ 第千三百六十六条 決審ノ誓言ハ諸般ノ事由ニ関シテ之ヲ為サシムルコトヲ得可シ仮令ヒ訟求若クハ排拒即チ之ニ関シテ誓言ヲ為サシム可キ証憑ノ端緒タモ有セサルノ時会ニ於ケルモ亦然リトス 第千三百六十七条 決審ノ誓言ヲ要徴セラレタル其人カ之ヲ為スコトヲ拒却スルカ若クハ反テ対主ニ向テ之ヲ要徴セサルニ於テハ則チ其訟求若クハ其排拒ニ関シテ必ス曲敗ヲ取ラサル可カラス又其対主ハ自己ニ要徴セラレタル誓言ヲ為スコトヲ拒却スルニ於テハ則チ亦其訟求若クハ其排拒ニ関シテ曲敗ヲ取ラサル可カラス 第千三百六十八条 決審ノ誓言ヲ要徴セラレタル訟主ハ随即ニ其誓言ヲ為ス可シト公言セル以後ニ在テハ決シテ対主ニ向テ誓言ヲ要徴スルコトヲ得可カラス 第千三百六十九条 決審誓言ノ標率ト為ス可キ事為カ双方ノ訟主ニ共通ス可カラスシテ唯誓言ヲ要徴セラレタル其人ノミニ専関スル者タルニ於テハ則チ反テ対主ニ向テ誓言ヲ要徴スルコトヲ得可カラス 第千三百七十条 訟主若クハ対主カ決審ノ誓言ヲ為シタル以後ニ在テハ決シテ其誓言ノ虚偽ニ出テタルコトヲ証明スルヲ得可カラス 第千三百七十一条 決審ノ誓言ヲ要徴シ若クハ反テ之ヲ要徴シタル訟主ハ其対主ニシテ随即ニ誓言ヲ為ス可シト公言セル人ニ向テハ其之ヲ為スコトヲ認免スルヲ得可シ此場合ニ於テハ之ヲ為シタル者ト看做ス 第千三百七十二条 決審ノ誓言ヲ要徴スル訟主ハ其対主カ随即ニ之ヲ為ス可シト公言セサルカ若クハ反テ之ヲ要徴セサルカ若クハ或ハ誓言ヲ採用スル為メニ改換ス可カラサル宣告ヲ受ケサルノ間ニ在テハ其誓言ノ要徴ヲ収銷スルコトヲ得可シ 若シ要徴セシ詛誓ノ言詞カ宣告文中ニ誤載セラレタルニ於テハ則チ訟主ハ其宣告ヲ受ケタル以後若クハ対主カ公言ヲ為シタル以後ト雖モ亦其要徴ヲ収銷スルコトヲ得可シ但々訟主カ宣告ヲ受ケタル以後ノ行為ニ因テ其言詞ノ誤載ヲ承認セル如キハ此限ニ在ラス 誓言ヲ要徴シタル訟主ハ若シ其対主カ随即ニ之ヲ為ス可シト公言セルニ於テハ則チ決シテ其要徴ヲ収銷スルコトヲ得可カラス 第千三百七十三条 既ニ誓言ヲ為シ若クハ誓ヲ為スコトヲ拒却シタルニ於テハ則チ唯々之ヲ要徴シタル訟主及ヒ其承産者若クハ其受権者ノ利益ノ為メニシ若クハ其利益ニ反シテノミ証憑ト為ル可キ者トス 互相特任ニ係ル共同責主中ノ一人カ負責主ニ要徴シテ以テ為サシメタル所ノ誓言ハ唯々其一人ノ責主ノ責権部分ニ向テノミ負責主ノ責務ヲ解卸セシムル者トス 主本者タル負責主カ要徴ヲ受ケタル誓言ハ其保人ノ責務ヲ解卸セシムル者トス 互相特担ニ係ル共同負責主中ノ一人カ要徴セラレタル誓言ハ他ノ共同負責主ノ責務ヲ解卸セシムル者トス 保人カ要徴セラレタル誓言ハ主本者タル負責主ノ責務ヲ解卸セシムル者トス 此後二項ノ時会即チ互相特担ニ係ル共同負責主ノ一人若クハ保人ノ為セル誓言ノ他ノ共同負責主若クハ主本者タル負責主ニ利益スルノ時会ハ其誓言カ負債ニ関シテ要徴セラルヽ者ニシテ互相特担ノ責務若クハ保証ニ関シテ要徴セラルヽニ非サル時会ノミニ限ル 第二款 命令ノ誓言 第千三百七十四条 裁判官ハ訴訟ノ結落ヲ誓言ニ繋着セシムル為メ若クハ単ニ宣告文中ニ記載スル負債ノ数額ヲシテ確定ノ者タラシムル為メニ訟主一方ニ向テ誓言ヲ為スコトヲ命令スルヲ得可シ 第千三百七十五条 裁判官ハ訟求ニ関スルト排拒ニ関スルトヲ問ハス次項ノ規約ノ具備セルニ非サレハ則チ誓言ヲ為スコトヲ命令スルヲ得可カラス 第一項 訟求若クハ排拒ノ理由ノ全ク証明スルコトヲ得ルノ時会 第二項 訟求若クハ排拒ノ理由ノ全ク証明スルコトヲ得サルノ時会 此二個ノ時会ヲ除クノ外ニ於テハ裁判官ハ其訟求ヲ採用スルカ若クハ之ヲ拒却セサル可カラス 第千三百七十六条 裁判官カ訟主ノ一方ニ命令シテ以テ為サシムル所ノ誓言ニ関シテハ其訟主ハ反テ対主ニ向テ誓言ヲ要徴スルコトヲ得可カラス 第千三百七十七条 裁判官ハ訟求スル物件ノ価直ニ関シ復タ他ニ証憑ヲ得ルニ由シ無キノ時会ニ於テスルニ非サレハ則チ誓言ヲ為スコトヲ命令スルヲ得可カラス 此時会ニ於テハ裁判官ハ訟求者ノ誓言ニ向テ信用ヲ置クニ足ル可キノ程度ニ達セシムル金額ヲ限定セサル可カラス 第五篇 婚姻上ノ財産ニ関スル契約 第一章 総則 第千三百七十八条 財産ニ関スル配偶者ノ間ノ結合ハ双方ノ契約ニ因リ若クハ法律ニ因テ之ヲ規定ス 第千三百七十九条 配偶者ハ一家ノ主長ニ属スル権理、法律ニ因テ配偶者ノ其一人若クハ他ノ一人ニ属スル権理及ヒ民事法律ニ掲記スル禁例ノ条則ニ違背スルコトヲ得可カラス 第千三百八十条 配偶者ハ遺産承襲ニ関スル法律上ノ順序ヲ変換セントスルノ契約ヲ締結シ若クハ此ノ如キノ拒却ヲ決行スルコトヲ得可カラス 第千三百八十一条 配偶者ハ一般ニ其婚姻上ノ財産ハ地方ノ慣習ニ因リ若クハ法律即チ自己カ当然ニ遵奉ス可キ者ニ非サル他ノ法律ニ因テ規定セラル可シト結約スルコトヲ得可カラス 第千三百八十二条 婚姻上ノ財産契約ハ婚姻契約ヲ締結スル以前ニ公証人ノ面前ニ於テ公式ノ行為ヲ以テ之ヲ締結スルコトヲ要ス 第千三百八十三条 結婚以前ニ為スコトヲ必要スル所ノ婚姻上ノ財産契約ニ関スル変換条件モ亦均シク公式ノ行為ヲ以テセサル可カラス 何等ノ変換条件若クハ何等ノ反対款項ト雖モ婚姻契約ニ関渉シタル一切ノ人ノ臨同及ヒ承諾ヲ得スシテ之ヲ為シタルニ於テハ則チ総テ効力ヲ有セサル者トス 第千三百八十四条 諸般ノ変換条件及ヒ反対款項ハ仮令ヒ前条ニ掲記セル公式ノ行為ヲ以テシタル者ニ係レルモ若シ婚姻財産契約書ノ原本ノ横側若クハ下端ニ於テ其変換条件若クハ反対款項ヲ挿記セサルニ於テハ則チ第三位ノ人ニ対シテハ効力ヲ有セサル者トス此挿記ハ均シク亦此挿記ヲ公認シタル公証人ニ因テ以テ公同記録局ニ寄託セル婚姻財産契約書ノ写本ニ挿記セラルヽコトヲ要ス又若シ其婚姻財産契約書カ証記局ノ公簿ニ写載セラレタルニ於テハ則チ亦均シク之ニ挿記セラルヽコトヲ要ス 公証人及ヒ公同記録局吏員カ若シ此挿記ヲ為サスシテ婚姻財産契約書ノ写本ヲ付与セルコト有レハ則チ其契約主ニ対シテ損害ヲ賠償ス可キノ罰責ヲ受ケ時ニ或ハ尚ホ加重ナル罰責ヲ受ケサル可カラス 第千三百八十五条 婚姻上ノ財産契約ハ其種類ノ如何ヲ問ハス既ニ婚姻法式ヲ執行セル以後ニ在テハ何等ノ方法ニ依拠スルモ決シテ之ヲ変換スルコトヲ得可カラス 第千三百八十六条 婚姻ヲ締結スルニ合格ナル未丁年者ハ若シ其婚姻ノ有効タルニ関シテ承諾ヲ受ケサル可カラサル其人ノ臨同ヲ得タルニ於テハ則チ其婚姻上ノ財産契約ニ関シテ為ス所ノ有効ナル一切ノ要約若クハ贈与ニ向テ承諾ヲ与フルニ合格ナル者トス 第千三百八十七条 准治産禁ノ宣告ヲ受ケタル人若クハ自己ニ対スル此種ノ搆訟ヲ受ケタル人カ婚姻上ノ財産契約ニ関シテ為セル所ノ要約若クハ贈与ヲシテ有効タラシムル為メニハ此等ノ事為ニ関シテ指命セラレタル保管人ノ臨同ヲ得ルヲ以テ緊要ト為ス 第二章 嫁資 第千三百八十八条 嫁資ハ即チ一種ノ財産ニシテ特ニ此名義ヲ以テ婦女若クハ他ノ人カ此婦女ノ為メニ婚姻中ノ費用ヲ支持スルニ充テ以テ其夫家ニ齎ラス所ノ者ヲ謂フ 第一節 嫁資ノ備弁 第千三百八十九条 嫁資ハ婦女ノ所有ニ属スル現在ノ財産若クハ将来ノ財産ノ全部若クハ一部或ハ確定物件ヲ以テ之ヲ備弁スル者トス 嫁資ノ備弁ニ関シ婦女ノ所有ニ属スル一切ノ財産ト言ヘル数中ニハ其将来ノ財産ヲ包含セサル者トス 第千三百九十条 若シ婦女カ再婚ヲ為スコト有レハ則チ其初婚ニ関シテ備弁シタル嫁資モ亦暗ニ存在スル者トハ看做ス可カラス 第千三百九十一条 嫁資ハ婚姻ノ存在スル間ニ在テハ配偶者ニ因テ新タニ之ヲ備弁シ若クハ之ヲ増加スルコトヲ得サル者トス 第千三百九十二条 若シ父及ヒ嫁資額外ニ財産ヲ有スル母カ共同シテ以テ彼此ノ区別ヲ為スコト無ク其婦女ノ嫁資ヲ備弁セルニ於テハ則チ其嫁資ハ父母カ各自ニ均一ナル部分ヲ供出シテ以テ備弁シタル者ト看做ス 第千三百九十三条 若シ父若クハ母ニシテ生存スル所ノ者カ父ニ属スル財産若クハ母ニ属スル財産タルコトヲ特示セスシテ嫁資ヲ備弁セルニ於テハ則チ其嫁資ハ最先ニ死亡セル父若クハ母ノ財産ニ向テ結婚婦女ノ保有スル権理ニ照シテ之ヲ収取シ而シテ余額ハ嫁資ヲ備弁セル父若クハ母ノ財産中ヨリ収取ス可キ者トス 第千三百九十四条 嫁資ハ若シ反対款項ノ在ル有ルニ非サレハ則チ仮令ヒ父及ヒ母ニ因テ嫁資ヲ備弁セラル可キ婦女カ自己ノ属身財産ニシテ其収額得有権ハ父母ニ属スル所ノ者ヲ有スルモ亦必ス父母ノ財産中ヨリ収取ス可キ者トス 第千三百九十五条 若シ嫁資カ父一人ニ因テ父及ヒ母ノ財産ヲ以テ之ヲ備弁スト称言セラレタルニ於テハ則チ仮令ヒ其母ハ婚姻上ノ財産契約ニ臨同シタルモ亦其責務ヲ有セスシテ其嫁資ノ備弁ハ全ク其父ノ負担ニ帰スル者トス 第千三百九十六条 嫁資ヲ備弁スル人ハ必ス其嫁資ニ供充スル財産ノ現在スルコトヲ保証セサル可カラス 第千三百九十七条 嫁資ニ生出スル利息ハ仮令ヒ其嫁資ヲ支弁スル期限ヲ約束セル者タルモ若シ反対款項ノ在ル有ルニ非サレハ則チ嫁資ノ備弁ヲ約諾セル人ハ必ス約諾セル本日ヨリシテ之ヲ交付セサル可カラス 第千三百九十八条 婚姻上ノ財産契約ニ関シ配偶者カ其生存スル一方ノ為メニ嫁資ノ数額ニ照シテ互相ニ得益ヲ収有スルノ契約ヲ締結スルコトヲ得可シ 若シ最先ニ死亡セル配偶者カ後親ヲ遺存セサルニ於テハ則チ此得益ハ所有ノ権理ヲ帯ヒテ以テ生存スル配偶者ニ帰属ス又若シ後親ヲ遺存スルニ於テハ則チ唯々其収額得有権ノミ生存スル配偶者ニ帰属ス但々配偶者カ他ノ方法ニ従テ約束シタル事項ノ在ル有ル如キハ此限外ニ属ス 嫁資ニ関スル此得益ハ他ノ人ニ因テ備弁セラレ若クハ婚姻後ニ於テ増加セラレタル嫁資ニ向テ之ヲ要約スルコトヲ得可カラス又准規ノ遺産部分ニ権理ヲ有スル承産者ニ損害ヲ被フラシムルコトヲ得可カラス 第二節 嫁資ニ関スル夫タル者ノ権理及ヒ嫁資財産ノ転付 第千三百九十九条 夫タル者カ自己単特ニ嫁資財産ヲ管理シ且嫁資ノ支弁ヲ逋負スル負責者若クハ嫁資財産ノ現有者ニ対シテ其交付ヲ訟求シ其嫁資財産ノ収額及ヒ所得額ヲ収徴シ原資額ノ還付ヲ要求スルノ権理ヲ有ス 然レトモ婚姻上ノ財産契約ニ関シ妻タル者ハ自己日用ノ零細支費及ヒ自巳随身ノ供給ノ為メニ自己ノ領収証票ヲ以テ毎年其嫁資財産ニ生出スル収額ノ一部分ヲ領収スルコトヲ結約スルヲ得可シ 第千四百条 夫タル者ハ若シ嫁資備弁ノ契約ニ関シテ責務ヲ有スルコト無ケレハ則チ其領受セル嫁資ノ為メニ特ニ保人ヲ立定スルコトヲ要セス 然レトモ結婚以後ニ於テ夫ノ資産ニ変転若クハ減耗ヲ来タスコト有リテ嫁資ノ保存ニ危害ヲ起生シ而シテ其嫁資ヲ備弁セシ人若クハ嫁資ノ備弁ニ逋責ヲ負ヘル人カ衣食ヲ供給ス可キ責務ヲ有スル人ノ数内ニ在ルニ於テハ則チ裁判官ハ此等ノ人ノ請求ニ応シテ嫁資ノ保存ヲ安固ナラシムル為メニ相当ナル保護ノ方法ヲ指令ス可キ者トス 第千四百一条 若シ嫁資ノ全部若クハ其一部カ婚姻上ノ財産契約ニ関シ評価ヲ経タル動産物件ニシテ此評価ハ売放ノ効力ヲ有スル者ニ非スト公言セラレサル所ノ者ヲ以テ成立シタルニ於テハ則チ夫タル者ハ其物件ノ所有主ト為リ而シテ唯々其物件ニ向テ評定セル価格ニ関シテ責務ヲ有スルノミニ止マル 第千四百二条 嫁資ニ供充セル不動産物件ノ評価ハ特別ナル公言ノ在ル無キニ於テハ則チ其所有権ハ其夫ニ転移セサル者トス 第千四百三条 嫁資タル金額ヲ以テ買得セル不動産物件ニ関シテハ若シ其嫁資金額ヲ不動産ニ買換スル規約ヲ婚姻上ノ財産契約中ニ包含セサルニ於テハ則チ嫁資不動産トハ為ラサル者トス 金額ヲ以テ備弁ス可キ嫁資ニ換供シタル不動産物件モ亦之ニ准ス 第千四百四条 嫁資ハ若シ婚姻上ノ財産契約中ニ之ヲ転付シ若クハ券記抵当ニ供充スルコトヲ認許セル有ルニ於テハ則チ之ヲ転付シ若クハ之ヲ券記抵当ニ供充スルコトヲ得可シ 第千四百五条 前条ニ掲示セル時会ヲ除クノ外凡ソ嫁資及ヒ嫁資ニ属スル婦女ノ権理ハ其婚姻中ニ在テハ仮令ヒ何等ノ人ノ為メニスルモ決シテ之ヲ転付シ若クハ之ヲ券記抵当ニ供充スルコトヲ得可カラス此等ノ権理ハ夫妻ノ承諾ニ拠リ及ヒ法衙ノ命令即チ明白ナル必要若クハ有益ナル時会ニ於テ許可ヲ付与スル所ノ命令ヲ以テスルニ非サレハ則チ之ヲ転付シ若クハ之ヲ券記抵当ニ供充スルコトヲ得可カラス 第千四百六条 認許ヲ得テ以テ嫁資タル不動産物件ヲ他ノ不動産物件ニ換易スルコト有レハ則チ換収セル不動産物件ハ即チ嫁資不動産ト為リ而シテ其価直ノ剰過額モ亦均シク嫁資金ト為シテ以テ之ヲ不動産ニ換易ス可キ者トス 明白ナル有益ノ理由ニ因テ認許ヲ得タル嫁資不動産ノ売買価直ハ亦均シク嫁資金ト為シテ以テ之ヲ不動産ニ換易ス可キ者トス 本条ノ二個ノ時会ニ於テハ法衙ハ其価直金ノ果シテ規定セル方法ニ従テ之ヲ不動産ニ換易セシヤ否ヤヲ監視セサル可カラス 第千四百七条 嫁資ヲ転付シ若クハ之ヲ券記抵当ニ供充スルコトニ関シテハ仮令ヒ夫妻ノ間ニ於テ之ヲ承諾スルモ若シ婚姻上ノ財産契約中ニ明許セルカ若クハ前数条ニ掲記シタル規則ニ遵行スルニ非サレハ則チ総テ効力ヲ有セサル者トス 夫タル者ハ婚姻中ニ在テハ嫁資ノ転付セラレ若クハ券記抵当ニ供充セラレタル者ヲ収回スルノ権理ヲ有ス此権理ハ婚姻解破ノ以後ト雖モ尚ホ妻ニ存在スル者トス然レトモ其之ヲ転付シ若クハ之ヲ券記抵当ニ供充スルコトヲ承諾シタル夫ハ若シ此等ノ契約中ニ其物件ノ嫁資物件ニ係レルコトヲ公言セサリシニ於テハ則チ其結約主ニ対シテ損害ノ賠償ヲ要求スルノ権理ヲ有ス 婚姻解破ノ以後ニ於テハ嫁資ヲ結成シタル所ノ財産ニ対スル責主ハ夫妻タル者ノ婚姻中ニ約諾セル責主ニ向テ訟権ヲ行用スルコトヲ得可キ者トス 第千四百八条 夫タル者ハ嫁資財産ニ関シテハ収額得有者ノ負担ス可キ一切ノ責務ヲ負担ス可ク且自己ノ怠忽ニ因テ到来セシムル期満及ヒ起生セシムル毀損ヲ賠償ス可キ者トス 第三節 嫁資ノ還付 第千四百九条 若シ嫁資カ不動産若クハ婚姻上ノ財産契約ニ関シテ評価ヲ為サヽル動産若クハ評価ノ為メニ其婦女ニ対シテ所有権ヲ褫奪セサル可シトスル公言ヲ以テ評価ヲ為セル動産ヲ以テ成立シタル者タルニ於テハ則チ若クハ其承産者ハ婚姻解破ノ以後ニ在テハ登時ニ其嫁資ヲ還付ス可キノ要強ヲ受ケサル可カラス 第千四百十条 若シ嫁資カ金額若クハ婚姻上ノ財産契約ニ関シ評価ヲ為シ而シテ其評価ノ為メニ所有権ヲ夫ニ転移セスト公言セラレタル動産ヲ以テ成立シタル者タルニ於テハ則チ婚姻解破以後ノ一年ヲ満過スルニ非サレハ其還付ヲ要強スルコトヲ得可カラス 第千四百十一条 若シ動産ニシテ其所有権ノ妻ニ帰属セル所ノ者カ夫ノ過失ニ因ルニ非スシテ全ク其使用ノ為メニ毀損スルコト有レハ則チ夫タル者ハ唯々残存セル物件ノ現状ニ照シ之ヲ還付スルノミヲ以テ足レリトス 妻タル者ハ何等ノ時会タルヲ論セス其所有ニ属スル尋常ニシテ且必要ナル衣服ハ之ヲ齎ラシ去ルコトヲ得可シ若シ其衣服カ最初齎ラシ来レル日ニ於テ評価ヲ経タル者ニ係レハ則チ其価額ヲ嫁資額内ヨリ扣除スルコトヲ要ス 第千四百十二条 若シ評価ヲ経サル嫁資ノ額内ニ資本金若クハ年金ヲ包括シ而シテ其資本金若クハ年金カ夫ノ怠忽ニ帰セシム可キ事故ニ非サル他ノ事故ノ為メニ減耗スルコト有レハ則チ夫タル者ハ訟権及ヒ其訟権ニ属スル文書ヲ其妻ニ還付シテ以テ其責務ヲ解卸スルコトヲ得可シ 第千四百十三条 若シ嫁資カ収額得有権ヲ以テ備弁シタル者タルニ於テハ則チ夫若クハ其承産者ハ婚姻解破ノ以後ニ在テハ唯其収額得有ノ権理ヲ還付スルノミニシテ復タ其婚姻中ニ得有シタル収額ヲ還付スルコトヲ要セス 第千四百十四条 若シ婚姻カ嫁資ヲ交付スル為メニ指定セル期限ヨリ以後十年間継続シ而シテ妻自カラ其嫁資ヲ供出ス可キノ責務ヲ有スルコト無ケレハ則チ妻若クハ其承産者ハ復タ夫タル者ノ嫁資ヲ領受セシコトヲ証明スルヲ要セスシテ婚姻解破ノ以後ニ至リ夫若クハ其承産者ニ対シ嫁資ノ還付ヲ要求スルコトヲ得可シ但々夫タル者カ嫁資ヲ交付セシムル為メニ周旋セシモ其事ノ無功ニ帰シタルコトヲ証明スル如キハ此例外ニ属ス 第千四百十五条 若シ婚姻カ妻ノ死亡ニ因テ解破セルニ於テハ則チ其還付ス可キ嫁資ニ関スル利息額若クハ収額ハ解破ノ本日ヨリシテ妻ノ承産者ノ為メニ登時ニ生出スル者トス 又若シ婚姻カ夫ノ死亡ニ因テ解破セルニ於テハ則チ妻タル者ハ其居喪ノ年内ニ在テハ嫁資ニ関スル利息額若クハ収額ヲ要求スルカ或ハ同期間内ハ亡夫ノ遺産額内ヨリ衣食ヲ供給セシムルカノ二者ノ其一ヲ択定スルコトヲ得可シ此二箇ノ時会ニ於テハ其遺産ハ此他別ニ妻ノ住居及ヒ其喪服ノ供給ヲ負担セサル可カラス 第千四百十六条 婚姻解破ノ時際ニ於ケル不動産若クハ金額若クハ収額得有権ヲ以テ成立シタル嫁資ニ関スル利息額若クハ収額ハ生存スル配偶者ト死亡セル配偶者ノ承産者トノ間ニ於テ其最終ノ一年内ニ於ケル婚姻継続ノ期間ニ比例シテ以テ之ヲ分配ス 前項ニ言ヘル一年ハ婚姻ヲ締結セル本日ヨリ之ヲ起算ス 第千四百十七条 若シ嫁資不動産カ婚姻ノ間ニ其夫ニ因テ賃貸ニ付セラレタルニ於テハ則チ収額得有者ノ為シタル賃貸ニ関スル規則ニ准依シテ以テ之ヲ処分ス 第四節 妻ノ嫁資ト夫ノ資産トノ分離 第千四百十八条 妻ノ嫁資ト夫ノ資産トノ分離ハ若シ嫁資ノ失亡スルコトヲ危惧スルカ若クハ其夫ノ財務整粛ナラサル為メニ夫ノ資産ヲ以テ妻ノ権理ニ償当スルコトヲ得サルコトヲ危惧スルノ時会ニ当タリ妻タル者カ之ヲ法衙ニ請求スルコトヲ得可シ 嫁資ノ分離ハ妻ニシテ其夫ニ対スル夫妻別居ノ宣告ヲ得タル所ノ者カ之ヲ請求スルコトヲ得可シ 裁判外ニ於テスル嫁資ノ分離ハ其効力ヲ生出セサル者トス 第千四百十九条 法衙ニ因テ宣告セラレタル嫁資ノ分離ハ若シ其宣告ヲ受ケタル以後ノ六十日内ニ妻カ公式証書ヲ以テ其権理ヲ証明シ而シテ現実ナル領収ニ因テ其夫ノ資産ノ現有額ニ達スル迄其分離ヲ決行セサリシカ若クハ此期間内ニ於テ妻カ必要ナル追理ヲ搆起セサリシニ於テハ則チ其効力ヲ喪失スル者トス 第千四百二十条 嫁資ノ分離ヲ宣告スル裁判ハ請求ヲ為シタル本日ニ追遡セシムルノ効力ヲ有スル者トス 嫁資ノ分離ヲ宣告スル裁判ニ関スル費用及ヒ嫁資ヲ還付スルニ関スル費用ハ総テ夫タル者ノ負担ニ帰セシム 第千四百二十一条 単特ニ妻タル者ニ対スル責主ハ妻タル者ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ則チ其嫁資ノ分離ヲ法衙ニ請求スルコトヲ得可カラス 第千四百二十二条 夫タル者ニ対スル責主ハ法衙ニ因テ宣告セラレタル嫁資ノ分離ノ其既ニ決行セル者ト雖モ若シ自己ノ責権ニ沮善ヲ受クルコト有ルニ於テハ則チ其責権ヲ行用スルコトヲ得可ク又嫁資分離ノ請求ヲ妨阻スル為メニ其訴訟ニ間入スルコトヲ得可シ 第千四百二十三条 嫁資ノ分離ヲ請求シ得タル所ノ妻ハ自己ノ資産額及ヒ其夫ノ資産額ニ比例シテ以テ家事ニ関スル費用及ヒ其子ノ教育ニ関スル費用ヲ分担セサル可カラス 第千四百二十四条 嫁資ヲ分離セル所ノ妻ハ自由ニ其嫁資ヲ幹理スルコトヲ得可シ 嫁資ハ決シテ転付スルコトヲ得サル者トス故ニ妻タル者カ嫁資ニ換ヘテ以テ領受セル所ノ金額ハ即チ是レ嫁資ニシテ之ヲ不動産ニ換フルニハ必ス法衙ノ許可ヲ取ラサル可カラス 第三章 嫁資ニ非サル財産 第千四百二十五条 妻ノ財産ニシテ嫁資ニ供充ス可カラサル所ノ者ハ之ヲ「パラフェルナル」ト称ス 第千四百二十六条 若シ嫁資ニ非サル財産ヲ有スル所ノ妻カ婚姻上ノ財産契約ニ因テ婚姻中ノ費用ヲ支持ス可キ部分ヲ限定セラレサルニ於テハ則チ第百三十八条ニ規定セル比例ニ照査シテ以テ其費用ヲ分担セサル可カラス 第千四百二十七条 妻タル者ハ嫁資ニ非サル財産ノ所有権、幹理権及ヒ使用権ヲ存有ス故ニ其夫ハ妻ノ代理委任ヲ受クルニ非サレハ則チ其財産ヲ幹理シ及ヒ之ニ関スル貸付権ノ行用ヲ訟求スルコトヲ得可カラス但々第一巻第五篇第九章ノ各条則ニ規定セル時会ノ如キハ此限外ニ在リトス 第千四百二十八条 妻タル者カ其夫ニ対シ収額ヲ算還セシム可キノ規約ヲ以テ嫁資ニ非サル財産ヲ幹理スルノ代理ヲ其夫ニ委任セルニ於テハ則チ夫タル者ハ其妻ニ対シ他ノ代理者ト同一ナル責務ヲ有ス 第千四百二十九条 若シ夫タル者カ仮令ヒ其妻ノ代理ノ委任ヲ受ケサルモ其妻ノ為メニ妨阻セラルヽコト無クシテ嫁資ニ非サル財産ヲ使用シ若クハ代理ノ委任ヲ受ケタルモ収額ヲ算還ス可キノ規約ヲ以テセスシテ之ヲ使用シタルニ於テハ則チ夫若クハ其承産者ハ妻ノ要求スル時際若クハ婚姻ノ解破スル時際ニ現在スル収額ヲ還付セサル可カラス但々其既ニ支消セル収額ハ之ヲ弁償ス可キノ責ヲ有セス 第千四百三十条 若シ夫タル者カ其妻ノ裁判外ニ於ケル行為ヲ以テスル妨阻有ルニ拘ハラスシテ嫁資ニ非サル財産ヲ使用シタルニ於テハ則チ夫及ヒ其承産者ハ妻ニ対シテ現在ノ収額ヲ還付ス可キノミニ止マラス尚ホ且其既ニ支消セル収額ヲモ弁償セサル可カラス 第千四百三十一条 嫁資ニ非サル財産ヲ使用セル所ノ夫ハ収額得有者ノ負担ス可キ一切ノ責務ヲ負担セサル可カラス 第千四百三十二条 第千四百二十八条第千四百二十九条第千四百三十条及ヒ第千四百三十一条ノ各条則ハ妻タル者カ其夫ノ財産ヲ幹理シ及ヒ之ヲ使用スルノ時会ニ向テモ亦均シク之ヲ擬施ス可キ者トス 第四章 夫妻ノ間ニ於テスル財産ノ共通 第千四百三十三条 夫妻ノ間ニ在テハ其婚姻中ニ得有セル財産全部ノ共通ニ非サル他ノ財産全部ノ共通ヲ結約スルコトヲ許サス凡ソ共通ハ仮令ヒ嫁資ヲ齎ラスノ契約有ルモ亦之ヲ結約スルコトヲ得可シ 此共通ノ契約ハ必ス婚姻上ノ財産契約中ニ於テ之ヲ締結スルコトヲ要シ且其契約ヲシテ婚姻礼式ヲ執行スルノ日時ニ非サル他ノ日時ニ創起セシムルノ約束ヲ為スコトヲ得可カラス 第千四百三十四条 夫妻ノ間ニ在テハ財産ノ共通ニ関シ特別ナル契約ヲ締結スルコトヲ得可ク若シ此特別ナル契約ヲ闕クニ於テハ則チ会社篇ニ規定スル条則ヲ移シテ以テ之ニ擬施ス可シ然レトモ諸般ノ時会ニ於テ必ス後数条ノ規則ニ遵行セサル可カラス 第千四百三十五条 夫妻カ現有シ貸付スル財産逋負スル財産及ヒ共通契約ノ期間ニ於テ承産若クハ贈与ニ因テ夫妻ニ帰属スル財産ハ之ヲ共通財産額ニ加入スルコトヲ得可カラス然レトモ現在若クハ将来ニ於ケル動産若クハ不動産ノ使用権ハ之ヲ共通契約中ニ加入スルコトヲ得可シ 第千四百三十六条 共通契約ノ効力ハ夫妻カ共通契約ノ期間ニ於テ相与ニ為シ若クハ各別ニ為シタル得益ヲ共通シ若クハ分割スルコトヲ得セシムル者トス而シテ其得益ノ共同セル営業ヨリ生出シ夫妻ノ有スル収額ニ生出シ若クハ合醵セル費用ヲ節約スル者ニ係ルヲ問ハサルナリ然レトモ其共通財産ニ負担スル逋債ハ必ス先ツ之ヲ還償スルコトヲ要ス 第千四百三十七条 結婚セントスル以前ニ於テ夫妻ノ間ニ現有スル動産ノ公正ナル目録書ヲ録製セサル可カラス又財産共通ノ期間ニ夫妻ノ間ニ得有スル動産ニ関シテモ亦均シク其目録書ヲ録製セサル可カラス若シ此目録書若クハ其他ノ公正ナル証憑ヲ闕クニ於テハ則チ其動産物件ハ共通財産中ニ帰属ス可キ者ト看做ス 第千四百三十八条 夫タル者ハ特リ共通財産ヲ幹理シ且共通財産ニ属スル訟権ヲ行用スルコトヲ得可シ然レトモ若シ要報ノ契約ヲ以テスルニ非サレハ則チ共通財産タル物件ヲ転付シ若クハ之ヲ券記抵当ニ供充スルコトヲ得可カラス 第千四百三十九条 収額得有者ノ為セル賃貸ニ関スル規則ハ夫タル者カ妻ノ財産ニシテ其使用権ヲ共通セル所ノ者ノ賃貸ニ向テモ亦之ヲ擬施ス可シ 第千四百四十条 夫妻ノ間ニ締結セル婚姻中ニ得有スル財産ヲ偏多ニ分取スルノ契約若クハ生存スル一方カ最先ニ抽取スルノ契約ハ其本質ニ於テモ其体式ニ於テモ共ニ贈与ニ関スル規則ノ管知スル贈恵ト看做ス可カラス 然レトモ配偶者ノ一方カ共通財産ニ負担ス可キ逋債ニ関シ其現有額内ヨリ自己ニ得有スル所ノ利益額ニ超過スル逋債ヲ負担セサル可シト為ス如キノ契約ヲ締結スルコトヲ得可カラス 第千四百四十一条 共通契約ハ唯々夫妻タル一人ノ死亡ニ因リ失踪ノ公告ニ因リ既決ノ宣告ヲ受ケタル夫妻別居ニ因リ若クハ裁判上ノ財産分離ニ因テノミ之ヲ解破スルコトヲ得可シ 第千四百四十二条 裁判上ニ於テスル財産分離ハ唯共通財産ノ幹理ノ其宜キヲ得サル時会若クハ其夫ノ財務ノ整粛ナラサルヨリシテ妻ノ財産ニ危害ヲ及ホス可キ時会ニ於テノミ之ヲ請求スルコトヲ得可シ 第千四百十八条第千四百二十条及ヒ第千四百二十一条ノ各条則ハ此裁判上ニ於テスル財産分離ニ擬施ス可キ者トス 第千四百四十三条 若シ共通契約ヲ解破セル以後ニ其夫妻カ再ヒ共通契約ヲ締結センコトヲ欲スルニ於テハ則チ公式証書ニ依テ以テ之ヲ締結スルコトヲ得可シ此時会ニ於テハ其共通ハ猶未タ嘗テ分離セルコト有ラサリシ者ノ如ク其効力ヲ有スル者トス但第三位ノ人カ其分離セシ時日間ニ得有セル権理ヲ妨害スル無キコトヲ要ス 初次ニ締結セル共通契約ノ規約ニ異ナル規約ヲ以テ締結スル後次ノ共通契約ハ効力ヲ有セサル者トス 第千四百四十四条 共通契約ヲ解破セシ以後ニ於テハ妻若クハ其承産者ハ其共通財産ノ領受ヲ拒却シ若クハ目録ノ利益ヲ以テ之ヲ領受スルコトヲ得可キノ権理ヲ有ス但々遺産承襲ニ通施スル章中ニ於テ遺産承襲ノ拒却若クハ遺産目録ノ利益ヲ以テスル遺産ノ領受ニ関シテ規定セル条則ニ准依スルコトヲ要ス若シ之ニ違犯スレハ則チ亦此条則ニ規定セル罰責ヲ受ケサル可カラス 第千四百四十五条 共通財産ノ分配ニ関シテハ夫妻若クハ双方ノ承産者又共通財産ノ拒却若クハ目録ノ利益ヲ以テスル共通財産ノ領受ニ関シテハ妻若クハ其承産者ハ第千四百三十七条ノ条則有ルニ拘ハラス動産物件ニシテ共通契約ヲ締結スルヨリ以前ニ自己ニ帰属シ若クハ共通契約ノ期間ニ承産若クハ贈与ニ因テ自己ニ帰属シタルコトヲ法律上ニ認識セル諸般ノ方法ニ依拠シテ以テ証明シ得ル所ノ者タルニ於テハ則チ最先ニ之ヲ抽取スルコトヲ得可シ 妻若クハ承産者タル其子ハ承産若クハ贈与ノ名義ヲ以テ自己ニ帰属シタル物件ハ仮令ヒ許多高貴ナル価直ヲ有スル者タルモ亦証人ヲ以テ之ヲ証明セシムルコトヲ得可シ 妻若クハ其承産者ハ妻ノ所有ニ属スル動産物件ニシテ共通財産中ヨリ除外セル所ノ者ハ若シ共通財産ヲ分配スル時会ニ当リ其実物ノ現存セサルニ於テハ則チ共価直ノ還付ヲ要求スルノ権理ヲ有シ且此時会ニ在テハ其動産物件ノ価直ハ単ニ衆評ヲ把テ之ヲ証明スルコトヲ得可シ 第千四百四十六条 前条ニ於テ認許セル最先ノ抽取ハ若シ共通財産ニ関スル所有権ノ公正ナル証憑ヲ闕クコト有レハ則チ共通財産ヲ幹理スル夫タル者ニ対シテ契約ヲ締結セル所ノ第三位ノ人ノ権理ヲ妨害スルコトヲ得可カラス但々妻若クハ其承産者カ夫ニ帰属ス可キ共通財産ノ部分若クハ夫ノ属身財産ノ部分ニ向テ証権ヲ行用スル如キハ此限外ニ在リトス 第六篇 売買契約 第一章 売買契約ノ性質及ヒ程式 第千四百四十七条 売買ハ一種ノ契約ニシテ之ニ依リ一個ノ人カ一個ノ物件ヲ交付シ而シテ他ノ一個ノ人カ其物件ノ価直ヲ交付スル者即チ是ナリ 第千四百四十八条 物件ト其価直トニ関シテ約主双方ノ意望ノ合致セルニ於テハ則チ其物件ハ尚ホ未ク之ヲ交付セサルモ又其価直ハ尚ホ未タ之ヲ支弁セサルモ約主双方ノ間ニ在テハ売買契約ハ既ニ己ニ完成シ而シテ其物件ノ所有権ハ買主カ売主ニ対シテ既ニ巳ニ之ヲ得有セル者トス 第千四百四十九条 売買契約ハ単純ニ之ヲ締結シ或ハ停住若クハ解破ノ規約ヲ帯ヒテ以テ之ヲ締結スルコトヲ得可シ 売買契約ハ二個若クハ数個ノ物件ノ中ニ就キ揀択ヲ為スノ規約ヲ以テ其標率ト為スコトヲ得可シ 凡テ此等ノ時会ニ於テハ其売買契約ノ効力ハ契約ニ関スル総則ニ准依シテ以テ之ヲ限定ス可キ者トス 第千四百五十条 束売ヲ為スニ非スシテ重量数額若クハ尺量ヲ以テ売付スル商販物品ニ関シテハ尚ホ未タ其物件ヲ秤称シ若クハ之ヲ計算シ若クハ之ヲ度量セサルノ間ハ其売買契約尚ホ未タ完成セサル者トス是ノ故ニ此際ニ於テ売付物件ニ起生スル危険ハ売主之ヲ負担セサル可カラス然レトモ買主ハ物品ヲ交付セラレス若クハ契約ヲ履行セラレサル為メニ起生スル損害ノ賠償ヲ要求スルコトヲ得可シ 第千四百五十一条 前条ニ反シ若シ商販物品ヲ束売セルニ於テハ則チ其売買契約ハ即時ニ完成セル者トス 若シ商販物件カ其重量数額尺量等ニ関係セス一箇ノ確定セル価直ヲ以テ売付セラルヽカ若クハ唯々其毎重量、毎数額、毎尺量ニ価直ノ数額ヲ約定シテ売付セラルヽニ於テハ則チ之ヲ束売ト看做ス 第千四百五十二条 酒油其他ノ物件ニシテ之ヲ買取スル以前ニ先ツ試嘗スル慣行ニ因テ買取スル所ノ者ニ関シテハ買主カ之ヲ試嘗シテ以テ売買ヲ約束セル品種タルコトヲ認定スルニ非サレハ則チ其売買契約ハ尚ホ未タ完成セサル者トス 第千四百五十三条 試験ヲ経テ以テ売買ヲ為ス可キ規約ヲ帯ヒタル売買契約ハ必ス停住ノ規約ヲ帯ヒテ以テ締結シタル者ト看做ス 第千四百五十四条 売買ノ価直ハ約主ニ因テ之ヲ確定シ及ヒ之ヲ特記セラル可キ者トス 然レトモ価直ハ売買契約ニ関シ約定ノ択定セル第三位ノ人ヲシテ之ヲ評定セシムルコトヲ得可ク又約主ノ協議ヲ以テ売買契約ヲ締結スル以後ニ之ヲ確定スルコトヲ得可シ但々売買契約書中ニ於テ約主ノ意思ノ協合セサルニ当リ其評定者ヲ択定スルニハ契約ヲ締結セシ場地若クハ約主ノ一方ノ住所ノ本管轄勧解裁判所長ニ因テ指揮セラル可キコトヲ明記セル有ルヲ要ス若シ売買契約ニ関シテ価直ヲ評定セシムル為メニ評定シタル人カ其評定ヲ為スコトヲ欲セサルカ若クハ之ヲ為スコトヲ得サルニ於テハ則チ其契約ハ効力ヲ有セサル者トス又価直ハ売買市場ノ時価書ニ因テ之ヲ量定スルコトヲ約束スルヲ得可シ 第千四百五十五条 売買証票ノ録製及ヒ其他ノ行為ニ関スル費用ハ買主ノ負担ニ帰ス可キ者トス但々特別ナル約束ノ在ル有ル者ハ此限ニ在ラス 第二章 売買ヲ為スニ合格ナル人 第千四百五十六条 一切ノ人ニシテ法律カ売買ヲ禁止セサル所ノ者ハ諸般ノ物件ヲ売付シ及ヒ買取スルコトヲ得可シ 第千四百五十七条 左項ニ列挙スル人ハ左項ニ列挙スル時会ニ於テハ直接ニ於テスルト間介者ノ間介ニ因ルトヲ問ハス仮令ヒ公売法ヲ以テスルモ決シテ買主ト為ルコトヲ得可カラス 父母タル者カ其権下ニ在ル子ノ財産ニ関スルノ時会 後見人、副後見人若クハ保管人カ其後見、副後見若クハ保管ノ権下ニ在ル人ノ財産ニ関スルノ時会 代理者カ売放スルコトヲ委任セラレタル財産ニ関スルノ時会 管理者カ其管理ニ付セラレタル邑属ノ財産若クハ公同院舎ノ財産ニ関スルノ時会但々特別ナル時会ノ為メニ此等ノ財産ノ売買ヲ認許スル行為ニ准拠シ其管理者ノ公売ニ関与スルコトヲ認識セラレタル如キハ此限外ニ属ス 訟吏カ其管轄区域内若シクハ事務処理ノ権限内ニ在ル財産ニ関スルノ時会 第千四百五十八条 裁判官、検事、裁判記録吏、使吏、代言人、代書人及ヒ公証人ハ其統属セラルヽ所ノ上等裁判所、裁判所、勧解裁判所若クハ自己ノ職務ヲ執行スル裁判管轄内ニ在テハ訴訟若クハ争訟ニ属スル権理及ヒ訟権ニ関シテ其受譲者ト為ルコトヲ得可カラス若シ之ニ違犯スレハ則チ啻ニ其受譲無効ノ訟撃ヲ受ク可キノミナラス併セテ其事ニ関スル一切ノ費用ヲ支弁セサル可カラス 共同承産者ノ間ニ存在セル遺産ニ属スル訟権若クハ負債ノ弁償ニ供充セル貸付権ノ譲与若クハ占有スル財産ノ保護ニ関スル各時会ハ前項ノ規則ノ例外ニ在ル者トス 代言人及ヒ代書人ハ其担任スル訴訟ニ関係ヲ有スル物件ニ就キテハ自己若クハ間介者ヲ以テスルモ委任者ニ対シテ売買、贈与、交換其他之ニ類似スル何等ノ契約ヲモ締結スルコトヲ得可カラス若シ之ニ違犯スレハ則チ啻ニ其契約無効ノ訟撃ヲ受ク可キノミナラス併セテ其事ニ関スル一切ノ費用ヲ支弁セサル可カラス 第三章 売付スルコトヲ得可カラサル物件 第千四百五十九条 他人ノ所有ニ属スル物件ヲ売買スルノ契約ハ効力ヲ有セサル者トス若シ買主カ其物件ノ他人ノ所有ニ属スル者タルコトヲ覚知セサリシニ於テハ則チ売主ニ向テ損害ノ賠償ヲ要求スルコトヲ得可シ 前項ニ掲記スル無効ノ一事ハ売主ノ之ニ依拠シテ以テ対抗スルコトヲ得可キ者ニ非ス 第千四百六十条 生存スル人ノ遺留ス可キ財産ニ関スル権理ヲ売買スルノ契約ハ仮令ヒ其人ノ承諾ヲ得ルコト有ルモ亦効力ヲ有セサル者トス 第千四百六十一条 若シ売買ヲ為セル時際ニ於テ其売付物件カ既ニ全ク毀滅ニ帰スルコト有レハ則チ其ノ売買契約ハ効力ヲ有セザル者トス 又若シ唯々其物件ノ一部ノミカ毀滅ニ帰スルコト有レハ則チ買主ハ其売買契約ヲ解破スルカ若クハ其価直ヲ全額ニ比例シテ以テ毀滅部分ヲ扣減シ而シテ残存部分ノ交付ヲ要求スルカヲ択定スルコトヲ得可シ 第四章 売主ノ責務 第千四百六十二条 売主タル者ハ二個ノ重要ナル責務ヲ有ス即チ売付物件ヲ交付スルノ責務及ヒ売付物件ヲ保証スルノ責務是ナリ 第一節 売付物件ノ交付 第千四百六十三条 交付トハ売付セシ物件ヲ以テ買主ノ権下ニ置キ及ヒ其占有ニ属セシムル為メニ之ヲ転移スルヲ謂フ 第千四百六十四条 売主ハ売付セシ所有権ニ関シテハ其証券ヲ交付シ又建造物ニ関シテハ其鎖鑰ヲ交付スレハ則チ其不動産ヲ交付スルノ責務ヲ履行シタル者ト看做ス 第千四百六十五条 動産物件ノ交付ニ関シテハ現実ニ其物件ヲ交付シ若クハ其物件ヲ蔵存スル建造物ノ鎖鑰ヲ交付スルニ因テ其責務ヲ履行シタル者ト看做ス若シ其物件カ売買契約ヲ締結スル時際ニ於テ之ヲ交付スルコトヲ得可カラサルカ若クハ第三位ノ人カ他ノ名義ヲ以テ之ヲ占有スルコト有レハ則チ唯々約主双方ノ協諾ニ因テ以テ其交付ヲ為シタル者ト看做ス 第千四百六十六条 無形物ノ交付ニ関シテハ其証券ヲ交付シ若シクハ買主カ売主ノ承諾ヲ得テ其証券ヲ使用スルニ因テ完成セル者トス 第千四百六十七条 売付物件ノ交付ニ関スル費用ハ売主ノ負担ニ帰セシメ而シテ其物件ノ運搬ニ関スル費用ハ買主ノ負担ニ帰セシム但々反対約款ノ在ル有ル者ハ此例外ニ属ス 第千四百六十八条 売付物件ノ交付ハ売買契約ヲ締結セル時際ニ其物件ノ現存スル場地ニ於テ之ヲ為ス可キ者トス但々他ノ約款ノ在ル有ル如キハ此例外ニ属ス 第千四百六十九条 価直ノ支弁ニ関シテ延期ヲ許諾セサリシ売主ハ若シ買主カ其価直ヲ支弁セサルニ於テハ則チ売付物件ヲ交付スルコトヲ用ヒス 仮令ヒ価直ノ支弁ニ関シテ延期ヲ許諾セルモ若シ売買契約ヲ締結シタル以後ニ於テ買主ノ破業若クハ破産ノ景況ニ陥リシ為メニ売主カ其価直ヲ損失ス可キ急遽危険ノ時会ニ遭フコト有レハ即チ売付物件ヲ交付スルコトヲ須ヒス但々買主カ約束セシ定期ニ照シテ支弁スルコトヲ保証シテ以テ保人ヲ立定スル有ル如キハ此限ニ在ラス 第千四百七十条 売付物件ハ売買契約ヲ締結セシ時際ニ於ケル景況ヲ以テ之ヲ交付セサル可カラス 売買契約ヲ締結セシ本日ヨリシテ売付物件ニ関スル一切ノ収額ハ総テ買主ニ帰属ス 第千四百七十一条 売付物件ヲ交付ス可キノ責務中ニハ其物件ニ随属スル者及ヒ永常ノ使用ニ供スル諸般ノ者ヲ交付ス可キノ責務ヲモ包含セル者トス 第千四百七十二条 売主ハ売買契約書中ニ於テ承諾セル所ノ包載額ニ照シテ之ヲ交付セサル可カラス但後数条ノ変換条件ノ在ル有ル如キハ此限外ニ属ス 第千四百七十三条 不動産物件ノ売買契約書中ニ包載額毎一区部ニ価直幾許ト為スノ比例ヲ特記セルニ於テハ則チ売主ハ交付ヲ要求スル買主ニ対シ唯々其包載額ノミヲ交付ス可キノ責務ヲ有ス 売付セル不動産物件ノ其包載額ヨリ減缺スルコト有ルカ若クハ買主カ其包載額ニ照シテ交付ス可キコトヲ要求セサルニ於テハ則チ売主ハ価直ノ全額ニ比例シテ以テ減缺部分ニ相当スル価直ノ減降ヲ承諾セサル可カラス 第千四百七十四条 前条ノ時会ニ於テ若シ其現実額カ包載額ヨリモ増多スルコト有レハ則チ買主ハ其価直ヲ追増シテ以テ之ヲ支付セサル可カラス然レトモ若シ其増多額カ包載額二十分ノ一ニ超過スルコト有レハ則チ買主ハ其売買契約ヲ解破スルコトヲ得可キノ権理ヲ有ス 第千四百七十五条 此他ノ時会即チ其売買契約ニ於テ確定セラレ若クハ劃限セラレタル物件或ハ別異シ若クハ分離セラレタル地所ニ関スルノ時会或ハ又其売買契約カ売付地所ノ歩積ヲ先ニシテ品種ヲ後ニシ若クハ品種ヲ先ニシテ歩積ヲ後ニシタルノ時会ニ在テハ此歩積ナル語辞カ売主ノ為メニハ歩積ノ増多額ニ向テ其価直ヲ増加セシメ又買主ノ為メニハ歩積ノ減缺額ニ向テ其価直ヲ減降セシム可キハ唯々歩積ノ現実額ト包載額トノ差異カ売付物件ノ全部ノ価直ニ比例シテ其二十分ノ一ヲ増多シ若クハ減缺スルコト有ルノ時会ノミニ於テスル者トス但反対約款ノ在ル有ル如キハ此限ニ在ラス 第千四百七十六条 前条ノ規則ニ照遵シ歩積ノ増多額ニ比例シテ以テ其価直ヲ増加ス可キノ時会ニ当テハ買主ハ其売買契約ヲ解破スルカ若クハ其価直ヲ増加シ且増多額ニ比例スル利息ヲ賦加シテ以テ之ヲ交付スルカヲ択定スルコトヲ得可シ 第千四百七十七条 買主カ売買契約ヲ解破ス可キ各般ノ訟権ヲ行用スルノ時会ニ在テハ売主ハ其既ニ領収シタル価直ノ外ニ別ニ其売買契約ヲ締結スル為メニ支消シタル費用ヲ還付セサル可カラス 第千四百七十八条 前数条ニ掲記セル時会ニ於テ其価直ヲ増加スルニ関シテ売主ニ属スル所ノ訟権及ヒ其価直ヲ減降シ若クハ契約ヲ解破スルニ関シテ買主ニ属スル所ノ訟権ハ売買契約ヲ締結シタルヨリ以後ノ一年内ヲ期シテ之ヲ行用セサル可カラス然ラサレハ則チ其訟権ヲ喪失スル者トス 第千四百七十九条 一個ノ契約ニ依リ同一価直ヲ以テ二個ノ地所ヲ売付シ而シテ各別ニ其地所ノ歩積ヲ指示セル者ニシテ其一箇ノ地所ハ包載額ヨリ減缺シ他ノ一個ノ地所ハ包載額ヨリ増多セルコト有レハ則チ其包載額ニ満ツル迄互相ニ之ヲ填殺シ而シテ其価直ヲ増加シ若クハ之ヲ減降スルニ関スル訟権ハ前数条ニ掲記セル規則ニ遵依シテ以テ之ヲ行用ス可キ者トス 第千四百八十条 売付物件ニシテ尚ホ未タ交付ヲ為サヽル所ノ者ニ起生スル毀滅若クハ毀損ハ売主ノ負担ニ帰セシム可キカ若クハ買主ノ負担ニ帰セシム可キカノ一事ハ一般ノ責務及ヒ契約ニ関スル篇中ノ条則ニ准依シテ以テ之ヲ判決ス 第二節 売付物件ノ保証 第千四百八十一条 売主カ買主ニ対シテ負担ス可キ保証ノ責務二個有リトス其第一ハ売付物件ノ静寧ナル占有ニ関スル保証其第二ハ売付物件ニ隠存セル瑕疵ニ関スル保証即チ是ナリ 第一款 売付物件ノ褫奪ニ関スル保証 第千四百八十二条 売買契約ニ関シテハ仮令ヒ其保証ヲ為スコトヲ約束セル無キモ亦売主ハ第三位ノ人カ其売付物件ノ全部若クハ一部ヲ買主ヨリ収取セントスル所ノ褫奪ニ関シ或ハ第三位ノ人カ其売付物件ニ負担セシメタリト称言スル所ノ責課ニシテ売買契約中ニ約諾セサリシ所ノ者ニ向テハ其保証ノ責ニ任セサル可カラス 第千四百八十三条 結約者ハ特別ノ契約ヲ立テ以テ保証ノ責務ヲ増多シ若クハ減少スルコトヲ得可ク又売主ハ何等ノ保証ヲモ為サヽルヲ約束スルコトヲ得可シ 第千四百八十四条 売主ハ仮令ヒ何等ノ保証ヲモ為サヽル可シト約束セルコト有ルモ亦自己ノ身上ニ密着スル事件ニ起生スル所ノ保証ハ得テ之ヲ避免ス可カラス故ニ之ニ反対スル契約ハ効力ヲ有セサル者トス 第千四百八十五条 保証ヲ為サヽル可キ契約ノ存在スル時会ニ於テ若シ褫奪ノ事有ルニ遭ヘハ売主其価直ヲ還付セサル可カラス但々買主カ売買契約ヲ締結セル時際ニ於テ褫奪ニ遭フコト有ル可キヲ知悉セシカ若クハ褫奪ノ事障ヲ担任シテ以テ買取シタル者ノ如キハ此限ニ在ラス 第千四百八十六条 若シ保証ヲ結約セルカ若クハ保証ヲ結約セサリシニ於テハ則チ褫奪ヲ受ケタル買主ハ売主ニ対シ左項ニ列記スル物件ヲ要求スルノ権理ヲ有ス 第一項 価直ノ還付 第二項 収額ノ還付蓋シ是買主カ買取物件ノ還付ヲ要求スル所有主ニ向テ収額ヲ還付ス可キノ責務ヲ有スル時会ニ於テ此権理ヲ行用スル者トス 第三項 買主カ売主ニ対シテ保証ヲ追求スル訴訟ニ関スル費用及ヒ主本タル請求者ノ訴訟ニ関スル費用ノ弁償 第四項 相当ナル賠償及ヒ契約締結ニ関スル正当ナル費用ノ弁償 第千四百八十七条 若シ褫奪ヲ受クルノ時際ニ於テ其売付物件カ買主ノ怠忽ニ因ルト若クハ偶然ノ事故ニ因ルトヲ問ハスシテ其価直ヲ減降スルコト有ルカ若クハ甚大ナル毀損ヲ受クルコト有レハ則チ売主ハ其価直ヲ還付セサル可カラス 第千四百八十八条 然レトモ若シ買主カ自己ノ怠忽ニ起生セル毀損ヨリシテ利益ヲ得有セルニ於テハ則チ売主ハ其還付スル価直額内ニ就キ其利益額ニ比例スル金額ノ交付ヲ勒止スルコトヲ得可キノ権理ヲ有ス 第千四百八十九条 若シ売付物件カ褫奪ヲ受クルノ時際ニ於テ偶価格ヲ増加スルコト有レハ則チ仮令ヒ其価格ノ増加ハ買主ノ行為ニ因ルニ非サルモ亦売主ハ最初売付セル価直ヨリ超過スル所ノ金額ヲ買主ニ交付ス可キノ責務ヲ有ス 第千四百九十条 売主ハ売付地所ニ加ヘタル各般ノ修繕及ヒ有益ナル改良ニ関スル費用ヲ買主ニ還付スルカ若クハ売付地所ノ還付ヲ要求スル所ノ人ヲシテ此費用ヲ買主ニ還付セシムルノ責務ヲ有ス 第千四百九十一条 若シ売主カ悪意ヲ以テ他人ノ所有ニ属スル地所ヲ売付スルコト有レハ則チ買主カ其地所ニ関シテ支消シタル一切ノ費用ハ仮令ヒ華靡ニ渉レル者タルモ亦必ス之ヲ弁償セサル可カラス 第千四百九十二条 若シ買主カ買取物件ノ一部ニ褫奪ヲ受ケ而シテ其一部ハ全部ニ関スル緊要ナル部分即チ若シ此一部ノ在ル無キヤ初ヨリ其物件ヲ買取セサル可キ如ク其レ緊要ナル部分ニ係レハ則チ買主ハ其売買契約ヲ解破スルコトヲ得可シ 第千四百九十三条 若シ売付地所ノ一部ニ褫奪ヲ受クルノ時会ニ於テハ其褫奪部分ノ価直ハ其価格ノ増多セルト減降セルトヲ問ハス且其売買ヲ為セル時際ノ価直ニ比例セス直チニ其褫奪ヲ受ケタル時際ノ評価ニ取准シ売主之ヲ買主ニ還付セサル可カラス 第千四百九十四条 若シ売付地所カ触眼ス可カラサル通務ヲ負担セシモ売主其事ヲ公言セス而シテ其通務タル即チ若シ買主カ之ヲ知覚スルヤ初メヨリ其地所ヲ買取セサル可キ如ク其レ緊要ナル者タルニ於テハ則チ買主ハ其売買契約ヲ解破スルノ権理ヲ有ス但買主カ唯其損害ノ賠償ヲ要求スルノミヲ以テ自カラ足レリト為ス者ノ如キハ此限ニ在ラス 第千四百九十五条 売買契約ヲ履行セサル有ルカ為メニ買主ニ対シテ賠償ヲ交付ス可キノ損害ニ関シテ起生スル所ノ事件ハ一般ノ責務及ヒ契約ニ関スル篇中ニ規定セル普通ノ条則ニ准依シテ以テ之ヲ判決ス可キ者トス 第千四百九十六条 買主カ若干ノ金額ヲ支付シテ以テ地所ノ褫奪ヲ避免セルニ於テハ則チ売主ハ買主ノ支付シタル金額利息額及ヒ費用額ヲ買主ニ弁償シ以テ保証ニ関シテ起生スル一切ノ責務ヲ解卸スルコトヲ得可シ 第千四百九十七条 買主カ売主ヲ訟廷ニ勾召スルコト無ク而シテ終審ノ裁判ニ因テ罰責ノ宣告ヲ甘受シ而シテ若シ売主カ第三位ノ人ノ要求ヲ拒却スルニ十分ナル保証ノ在ル有リシコトヲ証明シ得ルニ於テハ則チ褫奪ニ関スル保証ハ乃チ止ム 第二款 売付物件ニ隠存スル瑕疵ニ関スル保証 第千四百九十八条 売付物件ニ隠存スル瑕疵ニシテ其物件ヲ供充スル所ノ使用ニ堪ヘサラシメ或ハ買主若シ之ヲ知覚スルヤ初ヨリ其物件ヲ買取セサル可カリシカ若クハ僅少ナル価直ヲ供出ス可カリシ如キ所ノ者ニ関シテハ売主其保証ノ責ニ任セサル可カラス 第千四百九十九条 売主ハ触眼ス可キ瑕疵ニシテ買主能ク之ヲ覚知シ得可キ所ノ者ニ関シテハ其保証ヲ為ス可キノ責務ヲ有セス 第千五百条 売主ハ仮令ヒ自己ノ覚知シ得可カラサル如キノ瑕疵ニ係ルモ亦必ス其保証ヲ為ス可キノ責務ヲ有ス但此時会ニ於テハ若シ何等ノ保証ヲモ為サヽル可キコトヲ結約セル者ハ此例外ニ属ス 第千五百一条 第千四百九十一条及ヒ第千五百条ニ掲示セル時会ニ於テハ買主ハ買取物件ヲ還付シテ其価直ヲ要求スルト買取物件ヲ還付セスシテ其価直ノ一部即チ法衙ノ量定スル金額ヲ要求スルトヲ択定スルコトヲ得可シ 第千五百二条 若シ売主カ売付物件ニ瑕疵ノ在ル有ルコトヲ覚知シタルニ於テハ則チ買主ニ対シテ其価直ヲ還付スルノ外ニ別ニ其損害ヲ賠償セサル可カラス 第千五百三条 若シ売主カ売付物件ニ瑕疵ノ在ル有ルコトヲ覚知セサリシニ於テハ則チ唯々単ニ其価直ト売買ニ関シテ支消シタル費用トヲ還付スルノミヲ以テ足レリトス 第千五百四条 若シ瑕疵ヲ隠蔵セル売付物件カ其本質ノ劣悪ナル為メニ毀滅ニ帰スルコト有レハ則チ其毀滅ニ関スル損害ハ売主之ヲ負担シ而シテ買主ニ対シテ其価直ヲ還付シ及ヒ前二条ニ挙示スル費用ヲ弁償セサル可カラス 然レトモ偶然ノ事故ニ因テ起生スル売買物件ノ毀滅ハ買主其損害ヲ負担ス可キ者トス 第千五百五条 売買物件ノ瑕疵ニ関スル訟権即チ「レヂビトアール」ト称スル訟権ハ不動産ニ関シテハ其売買ヲ為シタル以後ノ一年内ニ買主ニ因テ行用セラレサル可カラス 獣畜ニ関シテハ四十日内ニ行用セサル可カラス又動産ニ関シテハ其授受ヲ為シタル以後ノ三月内ニ行用セサル可カラス但々特別ナル慣例ニ依テ此定則ヨリモ長ク若クハ短キ期限ヲ指定セル有ル如キハ此限ニ在ラス 獣畜ノ売買ニ関シテハ此「レヂビトアール」ノ訟権ハ唯々法律若クハ地方ノ慣例ニ依テ規定セル瑕疵ニ向テノミ之ヲ行用ス可キ者トス 第千五百六条 裁判上ノ売買ニ関シテハ「レヂビトアール」ノ訟権ヲ行用スルコトヲ得可カラス 第五章 買主ノ責務 第千五百七条 買主ノ負担ス可キ重要ナル責務ハ売買契約ニ関シテ指定セル日期及ヒ場地ニ於テ其価直ヲ支付セサル可カラサル者即チ是ナリ 第千五百八条 前条ニ挙示セル事項ニ関シ何等ノ約束ヲモ為サヽリシニ於テハ則チ買主ハ売買物件ヲ交付ス可キ日期及ヒ場地ニ於テ其価直ヲ支付セサル可カラス 第千五百九条 若シ特別ナル契約ノ在ルコト無キ時会ニ当テハ買取シ且既ニ接収シタル物件カ収額若クハ他ノ歳入ヲ生出スル者タルニ於テハ則チ買主ハ仮令ヒ其価直ヲ支付ス可キノ景況ニ在ルコト無キモ其支付ス可キ本日ヨリ起算スル利息ヲ支付セサル可カラス 第千五百十条 若シ買主カ券記抵当権若クハ要還権ノ為メニ買取物件ニ妨阻ヲ受クルノ危惧ヲ懐クコト有レハ則チ売主ノ其妨阻ヲ排脱スルニ至ル迄ハ価直ノ支付ヲ停住スルコトヲ得可シ但売主カ保人ヲ立定スルカ若クハ買主カ妨阻ノ有無ニ関ゼス価直ヲ支付スルコトヲ約束セル如キハ此限ニ在ラス 第千五百十一条 不動産物件ノ売買契約ニ関シ買主カ其契約ヲ履行セザル時会ニ於テ行用ス可キ解破ノ規約ハ其明示ニ係ル者ト其暗示ニ係ル者トヲ問ハスシテ第三位ノ人即チ解破ノ規約ヲ公簿ニ証記スルヨリ以前ニ既ニ権理ヲ得有シタル所ノ人ノ権理ヲ妨害スル者ニ非ス 第千五百十二条 動産物件ノ売買ニ関シ買主カ物件交付ノ為メニ約定セル期限ノ尚ホ未タ満過セサル以前ニ其物件ヲ接収スル為メニ出会セサルカ若クハ其物件ヲ接収スル為メニ出会セルモ之ト同時ニ価直ヲ提供セサルニ於テハ(但価直ノ支付ニ関シテ延期ヲ約束セル者ヲ除ク)則チ其売買契約ノ解破ハ売主ニ利益スル為メニ之ヲ決行スルコトヲ得セシム 第千五百十三条 若シ動産物件ノ売買ニ関シ価直ノ支付ニ延期ヲ与フルコト無キニ於テハ則チ売主ハ其価直ノ支付ヲ得サルニ当リ其売付物件カ買主ノ占有ニ帰スルニ至ル迄ハ其物件ノ還付ヲ要求シ若クハ其物件ノ転売ヲ沮止スルコトヲ得可シ但々其物件還付ノ要求ハ必ス売買セシ以後ノ十五日内ニ於テ之ヲ為シ而シテ其売付物件ヲシテ最初ニ交付セシ時際ノ景況ニ在ラシムルコトヲ要ス 然レトモ物件ノ還付ヲ要求スル権理ハ動産物件ヲ貸付家屋若クハ貸付地所ニ供備スルノ時際ニ於テ其物件ノ価直ハ尚ホ未タ之ヲ支付セスト公言セシコトヲ証明セサルニ於テハ則チ領先特権ヲ妨阻スルノ効力ヲ有セス 此権理ハ物件還付ノ要求ニ関スル法律及ヒ商業上ニ於ケル慣例ニ違悖シテ以テ之ヲ行用スルコトヲ得可カラス 第六章 売買契約ノ解破及ヒ毀銷 第千五百十四条 本篇中ニ掲記シタル契約ニ擬施ス可キ無効及ヒ解破ノ理由並ニ諸般ノ契約ニ通施ス可キ無効及ヒ解破ノ理由ノ外此売買契約ハ買還ノ規約若クハ損失ノ理由ニ依拠シテ以テ之ヲ解破スルコトヲ得可キ者トス 第一款 売買契約ニ於テスル買回 第千五百十五条 売買契約ニ於テスル買回トハ一個ノ約款ニシテ之ニ依リ売主カ価直ノ還付ト第千五百二十八条ニ掲記スル弁償トニ関スル方法ヲ行用シテ以テ売付物件ヲ自己ニ買回スル権理ヲ貯存スル所ノ者ヲ謂フ 第千五百十六条 買回ノ権理ハ五年ニ踰過スル期間ニ向テ要約スルコトヲ得可カラス 五年ニ踰過スル期間ニ向テ要約セルコト有レハ則チ此期間ニ迄減縮セラレサル可カラス 第千五百十七条 此期間ハ確定ノ者ニシテ決シテ之ヲ延展スルコトヲ得可カラス 第千五百十八条 若シ売主カ約束セシ期間内ニ買回ノ権理ヲ行用セサリシニ於テハ則チ買主ハ収還ヲ受ケサル可キ確定ノ所有主ト為ル 第千五百十九条 比期間ハ一切ノ人仮令ヒ未丁年者ニ関シテモ亦総テ之ヲ算取スル者トス但其権理ノ行用ヲ担任スル其人ニ対シ償還ニ関スル訟権ヲ行用スル如キハ此限ニ在ラス 第千五百二十条 買回ヲ要約セル売主ハ第三位ノ人ニ対シテモ亦其権理ヲ行用スルコトヲ得可シ仮令ヒ其最初要約セル買回ノ約款ヲ後次ノ契約書ニ明記セサル時会ニ於テモ亦然リ 第千五百二十一条 買回ノ約款ヲ帯ヒテ以テ買取セル買主ハ売主ニ属スル一切ノ権理ヲ行用スルコトヲ得可ク且此事ニ関スル期満法ハ真正ノ所有主若クハ買取物件ニ向テ権理ヲ有シ及ヒ券記抵当権ヲ有スト称言スル人ニ対シテモ亦買主ノ為メニ存在スル者トス 買主ハ売主ノ責主ニ対シテハ売主ヲシテ先ツ其財産ヲ傾竭セシムル利益ヲ以テ対抗スルコトヲ得可キノ権理ヲ有ス 第千五百二十二条 若シ買回ノ約款ヲ帯ヒテ以テ分割ス可カラサル地所ノ一部ヲ買取セル買主カ自己ニ対シテ搆起スル競売ニ因テ其地所ノ全部ヲ買取スル中票人ト為ルコト有レハ則チ買主ハ若シ売主カ買回ノ権理ヲ行用セント欲スルヤ売主ヲシテ其全部ヲ買取セシムルコトヲ要強スルヲ得可シ 第千五百二十三条 若シ数個ノ人ノ其間ニ共有スル地所ヲ以テ単一ナル契約ニ因リ之ヲ売付スルコト有レハ則チ各自ニ買回ノ権理ヲ有ス然レトモ唯各自ノ分当額ニ向テ其権理ヲ有スルノミニ過キス 第千五百二十四条 若シ一区ノ地所ヲ売付シタル人カ数個ノ承産者ヲ遺存セルノ時会ニ於ケルモ亦之ニ准ス 各承産者モ亦唯々各自ニ承襲ス可キ部分ニ向テノミ買還ノ権理ヲ有スル者トス 第千五百二十五条 然レトモ買主ハ前二条ニ掲記セル時会ニ当リ共有物件ノ各売主若クハ其各承産者ヲシテ其売付物件ノ全部ヲ買回スル訟求ニ関シ各自ノ意思ヲ合致セシムル為メニ之ヲ勾喚スルコトヲ得可シ若シ此等ノ各人ノ意思カ合致セサルニ於テハ則チ其買回ニ関スル訟求ハ拒却セラル可キ者トス 然レトモ若シ共同承産者若クハ共有物件売主ノ一人若クハ数人カ買回ヲ為スコトヲ欲セサルニ於テハ則チ他ノ一人若クハ数人ハ自己ノ為メニ売付物件ノ全部ヲ買回スルコトヲ得可シ 第千五百二十六条 若シ共同所有主カ連合シテ以テ一区ノ地所ノ其全部ヲ売付セルニ非スシテ各自ニ其派当部分ヲ売付セルニ於テハ則チ各自ノ派当部分ヲ買回スルニ関シテ各別ニ其訟権ヲ行用スルコトヲ得可シ 買主ハ此買回ノ権理ヲ各別ニ行用スル所ノ売主ニ対シ其全部ヲ買回セヨト要強スルコトヲ得可カラス 第千五百二十七条 若シ買主カ数人ノ承産者ヲ遺存セルニ於テハ則チ売付物件ノ尚ホ未タ各承産者ニ分配セラレサル時会ト既ニ己ニ分配セラレタル時会トヲ問ハス其買回ノ訟権ハ唯々各承産者ノ派当部分ニ向テノミ之ヲ行用スルコトヲ得可シ 然レトモ若シ買主ノ遺産カ既ニ分配セラレ而シテ売付物件カ一人ノ承産者ノ派当部分内ニ帰属シタルニ於テハ則チ其買回ノ訟権ハ此一人ノ承産者ニ対シ其物件ノ全部ニ向テ之ヲ行用スルコトヲ得可シ 第千五百二十八条 買回ノ約款ヲ決行シタル売主ハ買主ニ対シ啻々最初ニ領受セシ価直ヲ還付ス可キノミニ止マラス売買契約ニ関スル正当ノ費用、必要ナル修繕ノ為メニ支消シタル費用ヲ弁償シ又若シ売付地所ノ価格ヲ増加スル有レハ則チ其増加額ヲ併セテ之ヲ弁償セサル可カラス故ニ売主ハ全ク此等ノ責務ヲ充践セル以後ニ於テスルニ非サレハ則チ決シテ其占有ノ権理ヲ収復スルコトヲ得可カラス買回ノ約款ニ依拠シテ以テ売付地所ニ関スル占有ノ権理ヲ収復セント欲スル売主ハ買主カ其地所ニ負担セシメタル諸般ノ責課ヲ解卸シテ以テ之ヲ収復スルコトヲ得可シ然レトモ買主カ詐偽ヲ夾ムコト無クシテ締結セル賃貸契約ノ三年ニ踰越セサル期間ヲ以テシタル者ノ在ル有レハ則チ売主ハ其契約ヲ保続セシメサル可カラス 第二款 損失ノ理由ニ依拠スル売買契約ノ毀銷 第千五百二十九条 不動産物件ノ売付ニ関シ其正当ナル価格ノ半額ヨリ以外ニ渉レル損失ヲ受ケタル売主ハ其売買契約ノ毀銷ヲ請求シ得可キノ権理ヲ有ス仮令ヒ売主カ其契約書中ニ於テ特ニ此契約毀銷ノ訟権ヲ行用スル権理ヲ放棄スルコトヲ明記シ且其価直ノ剰余額ハ之ヲ贈与ニ充ツルコトヲ公言セル者タルモ亦然リトス 第千五百三十条 半額ヨリ以外ニ渉レル損失ヲ計知スル為メニハ其不動産物件ノ売買ニ付セラレタル時際ノ景況ト価格トニ依拠シテ以テ之ヲ評量スルコトヲ要ス 第千五百三十一条 此訟権ハ売買ヲ為シタル以後ノ二年ヲ満過スレハ則チ之ヲ許与セサル者トス 此期間ハ失踪者、受治産禁者及ヒ丁年ナル売主ノ受権者タル未丁年者ニ向テモ亦均シク存在スル者トス 又此期間ハ買回ノ為メニ要約セラレタル時日間ト雖モ亦停住セラルヽコト無クシテ以テ存在スル者トス 第千五百三十二条 損失ニ関スル証拠ハ唯売主ノ称言スル事実カ果シテ損失有リシ者ト推断スルニ足ル可キ如ク確実且緊要ナル時会ニ於テノミ之ヲ供出スルコトヲ認許ス 第千五百三十三条 価直ニ関スル証拠ハ評価人ヲシテ之ヲ供出セシム 証人ヲ以テ証明スル証拠ハ唯々評価人ノ評定シ得サル所ノ事故ニ向テノミ之ヲ供出スルコトヲ認許ス 第千五百三十四条 毀銷ノ訟権ヲ許与セラレタル時会ニ当リ買主ハ買取物件ヲ還付スルカ若クハ正当ナル追支金ヲ交付シテ以テ其物件ヲ存置スルカノ二者ノ其一ヲ択定スルコトヲ得可シ 第千五百三十五条 若シ買主カ買取物件ヲ存置スルコトヲ択定セルニ於テハ則チ毀銷ノ請求ヲ受ケタル本日ヨリ起算スル追支金ノ利息額ヲ支付セサル可カラス 若シ買主カ買取物件ヲ還付シテ以テ其支付シタル価直ヲ要求スルコトヲ択定セルニ於テハ則チ訟求ヲ受ケタル本日ヨリ起算スル収額ヲ支付セサル可カラス 又買主ハ其最初ニ支付シタル価直ニ生出スル所ノ利益ハ其訟求ヲ受ケタル本日ヨリ起算シテ以テ之ヲ領収スルコトヲ得可ク若シ何等ノ利益ヲモ生出セシコト無ケレハ則チ其支付セル本日ヨリ起算スル利息額ヲ領収スルコトヲ得可シ 第千五百三十六条 損失ノ理由ニ依拠スル毀銷ノ訟権ハ買主ニ対シテハ決シテ之ヲ許与スルコト無シ 公売法ニ准依シテ以テ締結セル売買契約ノ如キモ亦其毀銷ヲ訟求スルコトヲ得可カラス 第千五百三十七条 本章第一款中ニ掲記セル規則即チ数個ノ人カ連合シ若クハ各別ニ売付セル時会及ヒ買主若クハ売主カ数個ノ承産者ヲ遺存セル時会ニ関スル規則ハ此毀銷ノ訟権ニ向テモ亦均シク之ヲ擬施スルコトヲ得可シ 第七章 貸付権若クハ其他ノ権理ノ譲与 第千五百三十八条 貸付権若クハ其他ノ権理若クハ訟権ノ売付即チ譲与ハ其譲与ス可キ貸付権若クハ其他ノ権理ト其価直トニ関シ双方之ヲ協諾セルニ於テハ則チ仮令ヒ其占有権ヲ転付スルコト無キモ亦既ニ完成セル者ニシテ其所有権ハ買主即チ受譲者ニ転移ス 占有権ハ其証券即チ貸付権若クハ其他ノ権利ノ存在ヲ証明スル所ノ証券ヲ交付スルニ因テ之ヲ転付シタル者ト認定ス 第千五百三十九条 受譲者ハ譲与ヲ為スノ事旨ヲ負責主ニ通報セラレタル以後若クハ負責主カ公式証書ヲ以テ譲与ヲ領諾シタル以後ニ於テスルニ非サレハ則チ第三位ノ人ニ対シテ権理ヲ有スルコト能ハス 第千五百四十条 負責主ハ譲与者若クハ受譲者カ譲与ヲ為スノ事旨ヲ通報スルヨリ以前ニ其負債ヲ弁償シタルニ於テハ則チ有効ニ責務ヲ解卸スルコトヲ得ル者トス 第千五百四十一条 貸付権ノ売付即チ譲与ハ其貸付権ニ関スル随属ノ権理例之ハ領先特権若クハ券記抵当権ノ如キ者ヲ包含ス然レトモ支付ヲ延滞セル利息額及ヒ収額ハ特ニ契約ヲ締結セル有ルニ非サレハ則チ之ヲ包含セサル者トス 第千五百四十二条 貸付権若クハ其他ノ権理ヲ譲与スル人ハ仮令ヒ保証ヲ立定スルコト無クシテ譲与ヲ為シタルモ其譲与ヲ為スノ時際ニ現在スル事件ニ関シテハ其保証ニ任セサル可カラス 第千五百四十三条 譲与者カ負責主ヲシテ弁償ヲ為サシム可キノ責ニ応スルハ唯譲与カ此事ニ関シテ約諾ヲ為シ其譲与セル貸付権ヨリ抽取セル利益額ニ達スル金額ヲ負担スルノ時会ノミニ限止ス 第千五百四十四条 譲与者カ負責主ヲシテ弁償ヲ為サシム可キノ保証ヲ約定シ而シテ其保証ニ関シ何等ノ期間ヲモ約定セシコト無キヤ若シ其弁償期限ノ既ニ到来セルニ於テハ則チ其保証期間ハ貸付権ヲ譲与セル本日ヨリ以後ノ一年ニ限止セル者ト見做ス 若シ譲与セル貸付権カ期限以内ニ弁償ス可キ者ニシテ而カモ其期限ノ未タ到来セサルニ於テハ則チ保証ニ関スル此一年ノ期間ハ其間限ノ満過スル本日ヨリ起算ス可キ者トス 若シ譲与セル貸付権カ無期ノ年金ニ関スル者タルニ於テハ則チ其保証ニ関スル期間ハ譲与ヲ為セル本日ヨリ以後ノ十年ヲ以テ其定限ト為ス 第千五百四十五条 物件ノ種類ヲ特記セスシテ一個ノ遺産ヲ売付セル人ハ唯々自己カ承産者タル身位ヲ有スルコトヲ保証スルノミヲ以テ足レリトス 若シ此遺産ヲ売付セル人カ既ニ某ノ地所ニ生出セル利益額ヲ収入シタルカ若クハ遺産ニ随属セル貸付額ヲ収復シタルカ若クハ遺産部内ニ在ル或種ノ物件ヲ売付シタルニ於テハ則チ買主ニ対シテ之ヲ償還セサル可カラス但々其売買契約ニ於テ此等ノ行為ヲ決行ス可キ権理ヲ自己ニ貯存シタル者ノ如キハ此限ニ在ラス 買主ハ売主カ遺産ニ負担スル逋債及ヒ責課ヲ弁清シタル所ノ金額及ヒ其遺産ニ関シ買主カ売主ニ逋負スル所ノ金額ハ若シ反対約款ノ在ル有ルニ非サレハ則チ併セテ之ヲ売主ニ償還セサル可カラス 第千五百四十六条 争訟ニ関スル権理ノ譲与ヲ受ケタル其人ノ為メニ抗争セラルヽ所ノ人ハ譲与ノ実価、正当ノ費用及ヒ受譲者カ価直ヲ交付シタル本日ヨリ起算スル利息ヲ支弁シテ以テ自己ノ受譲者ニ対スル責務ヲ解卸スルコトヲ得可シ 第千五百四十七条 争訟ニ関スル権理ト看做ス可キハ其権理ノ既ニ己ニ裁判上ニ於テ存在ノ如何ヲ争訟セラルヽ所ノ者即チ是ナリ 第千五百四十八条 第千五百四十六条ニ掲記セル規則ハ左項ノ各時会ニ向テハ之ヲ擬施スルコトヲ得可カラス 第一項 其譲与カ譲与スル権理ニ関スル共同承産者中ノ一人若クハ共同所有主ノ一人ニ向テ為サレタルノ時会 第二項 其譲与カ一人ノ責主ニ負担スル逋債ヲ弁償スル為メニ其責主ニ向テ為サレタルノ時会 第三項 其譲与カ争訟ニ関スル権理ノ標率タル地所ノ所有主ニ向テ為サレタルノ時会 第七篇 交換ノ契約 第千五百四十九条 交換トハ一種ノ契約ニシテ之ニ依リ一個ノ人カ一個ノ物件ヲ得有スル為メニ他ノ一個ノ人ニ向テ一個ノ物件ヲ交付スル所ノ者ヲ謂フ 第千五百五十条 交換契約ハ猶売買契約ノ如ク唯々彼此ノ承諾ノミヲ以テ完成スル者トス 第千五百五十一条 若シ契約者ノ一方カ交換ニ因テ交付セラルヽ物件ヲ接受セシ以後ニ至リ他ノ一方ノ其物件ノ所有主ニ非サリシコトヲ証明スルニ於テハ則チ自巳ノ約束セシ物件ノ交付ヲ要強セラルヽコト無クシテ唯々其既ニ接受セシ物件ヲ還付スルノミヲ以テ足レリトス 第千五百五十二条 交換契約ニ依テ接受セシ物件ヲ褫奪セラレタル所ノ結約者ハ其損害ノ賠償ヲ要求スルカ若クハ其交付セシ物件ノ還付ヲ要求スルカノ二者ノ其一ヲ択定スルコトヲ得可シ 第千五百五十三条 前二条ニ掲記セル交換契約ノ解破ニ関スル時会ニ於テハ其解破ノ請求ヲ公簿ニ証記スルヨリ以前ニ第三位ノ人ノ得有シタル権理ハ依然トシテ存在スル者トス 第千五百五十四条 損失ノ理由ニ依拠スル契約毀銷ノ一事ハ此交換契約ニ向テ之ヲ擬施ス可カラス 然レトモ若シ結約者ノ一方ノ交換契約ニ依テ交付セシ不動産物件ノ価直ノ補缺額カ貨幣ヲ以テ支付ス可キ者タルニ於テハ則チ其交換契約ハ認メテ売買契約ト為シ而シテ其毀銷ノ訟権ハ補缺金ヲ領受ス可キ其人ニ帰属ス 第千五百五十五条 売買契約ニ関シテ立定セル規則ハ此交換契約ニ向テモ亦之ヲ擬施ス可シ 第八篇 賃佃契約 第千五百五十六条 土地ノ譲与ハ一種ノ契約ニシテ之ニ依リ地所ヲ改良シ及ヒ金額若クハ収獲物ヲ以テスル定額ノ年租ヲ納致スル責課ヲ立定シテ以テ其地所ヲ有期若クハ無期ニ賃佃スル所ノ者ヲ謂フ 第千五百五十七条 賃佃契約ハ第千五百六十二条第千五百六十三条及ヒ第千五百六十四条ノ各条則ニ反対スル者ニ非サルヨリハ結約者双方ノ約諾ヲ以テ之ヲ締結スルコトヲ得可シ 第千五百五十八条 賃佃者ハ賃佃地所ニ属スル地租及ヒ其他ノ責課ヲ負担セサル可カラス若シ特別ナル契約ノ在ルコト無キニ於テハ則チ下条ノ規則ニ准依ス可キ者トス 第千五百五十九条 賃佃者ハ非常ノ荒歉ニ遭ヒ若クハ収獲ヲ喪失セル為メニ年租ノ延期若クハ減蠲ヲ請求スルコトヲ得可カラス 第千五百六十条 若シ賃佃地所カ全ク毀滅ニ帰スルコト有レハ則チ年租ヲ納致ス可キ責課モ亦随テ消滅ニ帰スル者トス 若シ賃佃地所ノ其一部分ノミ毀滅ニ帰シ而シテ其残存スル他ノ部分カ能ク年租ヲ納致スルニ耐ユ可キニ於テハ則チ賃佃者ハ年租ノ減蠲ヲ請求スルコトヲ得可カラス然レトモ此時会ニ当リ若シ賃佃地所ノ其大部分ノ帰滅ニ帰スルコト有レハ則チ賃佃者ハ賃佃地所ヲ所有主ニ還付シテ以テ其権理ヲ放棄スルコトヲ得可シ 第千五百六十一条 賃佃者ハ賃佃地所ニ生出スル収獲物及ヒ其地所ニ随属スル物件ノ所有者ト為ル者トス 賃佃地所ニ於テ発見スル宝貨若クハ鉱物ニ関シテハ賃佃者ハ所有主ト同一ナル権理ヲ有ス 第千五百六十二条 賃佃者ハ彼此生存中ノ行為ニ係ルト遺嘱ノ行為ニ係ルトヲ問ハス賃佃地所及ヒ其地所ニ随属スル物件ハ自由ニ之ヲ処分スルコトヲ得可シ 賃佃地所ヲ転付スルニ関シテハ如何ナル方法ヲ以テ之ヲ転付スルモ是カ為メニ所有主ニ対シ何等ノ納租ヲモ為スコトヲ須ヒス 複賃佃ヲ為ス如キハ之ヲ禁止ス 第千五百六十三条 所有主ハ二十九年毎トニハ賃佃地所ヲ現有スル人ニ向テ自己ノ其地所ノ所有主タルコトヲ認識セシムルコトヲ得可シ」 此所有権認識ノ行為ニ関シテハ所有主ハ何等ノ費用ヲモ要スルコトナク而シテ其費用ハ総テ賃佃地所ヲ占有スル人ノ負担ニ帰セシム可キ者トス 第千五百六十四条 賃佃者カ合法利息額ニ根拠スル年租額ニ比例シ総計ノ母金額若クハ収獲物ヲ以テ年租ヲ納致スル賃佃ニ関シテハ賃佃者ハ現時ヨリ以前ニ遡ル十年間ノ収獲額ニ根拠スル年租額ニ比例シ総計ノ母金額ヲ支弁シテ以テ賃佃地所ヲ買取スルコトヲ得可シ然レトモ結約者ハ上文ニ掲記セル総計ノ母金額ヨリ減少スル金額ヲ以テ賃佃地所ヲ売買スルコトヲ得可シ又限期賃佃ニシテ三十年ニ踰越セサル所ノ者ニ関シテハ結約者ハ総計ノ母金額ヨリ超多スル金額ヲ以テ賃佃地所ヲ売買スルコトヲ得可シ但々最初ニ約定セル賃金額四分ノ一ヨリ超多スルコトヲ得可カラス 第千五百六十五条 所有主ハ賃佃者カ前条ノ規則ニ准依シテ其賃佃地所ヲ買取スルコトヲ択望セサルニ於テハ則チ左項ノ時会ニ当リ其地所ノ還付ヲ要求スルコトヲ得可シ 第一項 正当ナル督促ヲ受ケタル以後賃佃者カ二年間相続キテ年租ノ納致ヲ逋滞スルノ時会 第二項 賃佃者カ賃佃地所ヲ毀損スルカ若クハ改良ヲ加フ可キ責務ヲ践行セサルノ時会 賃佃者ニ対スル責主ハ自己ノ責権ヲ保守スル為メニ時ニ或ハ賃佃者ニ帰属スル所ノ買取ノ権理ヲ行用シ損害ノ賠償ヲ供出シ及ヒ将来ニ向テハ特ニ保人ヲ立定シテ以テ訴訟ニ間入スルコトヲ得可シ 第千五百六十六条 賃佃地所ヲ還付スル時会ニ当リ賃佃者ハ其地所ニ加ヘタル改良ニ向テ之ヲ賠償セシムルノ権理ヲ有ス 此改良ノ賠償ハ若シ賃佃者ノ過失ニ因テ賃佃地所ヲ還付スル者タルニ於テハ則チ其改良ニ関スル費用ト改良ノ為メニ増加セル価格トヲ比較シ其最モ少額ナル者ヲ以テスルコトヲ要ス 又若シ賃佃契約ノ期限ノ満了スルニ因テ其地所ヲ還付スル者タルニ於テハ則チ其改良ニ関スル賠償ハ其還付セル時際ニ現存スル改良ノ価格ニ准算スルコトヲ要ス 第千五百六十七条 賃佃地所ヲ還付スル時会ニ当テハ賃佃者ノ為シタル券記抵当ノ負債額ハ改良ノ為メニ所有主カ逋負スル所ノ賠償額ニ就キテ之ヲ扣断スルコトヲ得可シ 賃佃地所ヲ買取スル時会ニ当テハ所有主ノ為シタル券記抵当ノ負債額ハ買取ノ為メニ支弁ス可キ価直額ニ就キテ之ヲ扣断スルコトヲ得可シ 第九篇 賃貸契約 第一章 総則 第千五百六十八条 賃貸契約ハ物件若クハ作業ヲ以テ其標率ト為ス 第千五百六十九条 物件ノ賃貸トハ一種ノ契約ニシテ之ニ依リ約主ノ一方カ定額ノ賃直即チ他ノ一方ヲシテ自己ニ支弁ス可キノ責務ヲ有セシメ而シテ限定セル期間ニ向ヒ一個ノ物件ヲ他ノ一方ニ使用セシムル責務ヲ負担スル所ノ者ヲ謂フ 第千五百七十条 作業ノ賃貸トハ亦是一種ノ契約ニシテ之ニ依リ結約者ノ一方カ約束セル賃直ヲ以テ他ノ一方ノ為メニ某ノ作業ヲ為ス所ノ者ヲ謂フ 第二章 物件ノ賃貸 第一節 家屋及ヒ田地ノ賃貸ニ通施スル規則 第千五百七十一条 不動産物件ヲ以テスル賃貸契約ハ三十年ニ踰越スル期間ヲ以テ之ヲ締結スルコトヲ得可カラス若シ此ヨリ延長ナル期間ヲ以テ締結セル賃貸契約ハ其結約セル本日ヨリ起算シテ以テ三十年ニ減縮セシム 占住ノ為メニスル家屋ノ賃貸契約ニ関シテハ賃借主ノ終身間若クハ其死亡以後ノ二年間ニ至ル迄之ヲ存続セシムルコトヲ結約スルヲ得可シ 荒蕪地所ノ賃貸契約ニシテ之ヲ開墾シテ以テ耕牧ニ供スル規約ヲ帯フル所ノ者ニ関シテハ其期間ハ三十年ニ踰越スルコトヲ得可シ然レトモ百年ヨリ以内ニ限止セサル可カラス 第千五百七十二条 九年ニ踰越スル期間ヲ以テスル賃貸契約ハ唯々単純ナル管理ノ行為ノミヲ決行シ得ル所ノ人ノ如キハ之ヲ締結スルコトヲ得可カラス 第千五百七十三条 賃借者ハ若シ制禁ノ存在スル有ルニ非サレハ則チ其賃貸物件ヲ複賃貸ニ付シ若クハ其契約ニ関スル権理ヲ他人ニ譲与スルコトヲ得可キノ権理ヲ有ス 此権理ハ全部若クハ其一部ニ向テ制禁ヲ立定スルコトヲ得可シ然レトモ此制禁ハ特別ナル契約ヲ以テスル有ルニ非サレハ則チ存在セサル者トス 第千五百七十四条 複賃借者ハ賃貸者ニ向テハ唯複賃借ニ関シ約束セル賃直ニシテ賃借者カ要求ヲ受クル時際ニ於テ逋負スル所ノ者ニ向テ其責務ヲ有スルノミニ過キス而シテ予支セシ賃直ニ依拠シテ以テ対抗スルコトヲ得可カラス 然レトモ地方ノ慣例ニ従テ為シタル複賃借者ノ支付ハ認メテ予支ト做ス可カラサル者トス 第千五百七十五条 賃貸者ハ特別ナル契約ノ立存スルコト無キモ賃貸契約ノ本質上ヨリシテ左項ノ責務ヲ必践セサル可カラス 第一項 賃借者ニ対シテ賃貸物件ヲ交付スルノ責務 第二項 賃貸物件ヲシテ約束セシ使用ニ供充ス可カラシムルノ景況ニ保持スルノ責務 第三項 賃貸期間ニ在テハ寧静ナル享用ヲ得セシムルコトヲ賃借者ニ保証スル責務 第千五百七十六条 賃貸主ハ必ス諸般ノ修繕ヲ加ヘ良好ナル景況ヲ以テ賃貸物件ヲ交付セサル可カラス 賃貸者ハ賃貸期間ニ在テハ必要ナル修繕ヲ負担セサル可カラス但々細少ナル修繕ノ慣習上ニ於テ賃借者ノ負担ニ帰セシム可キ所ノ者ハ此限外ニ在リトス 第千五百七十七条 賃貸者ハ賃貸物件ニ存在スル各種ノ瑕疵ニシテ其使用ニ妨害有ル所ノ者ニ関シテハ仮令ヒ賃貸シタル時際ニ於テ賃貸主ノ之ヲ覚知スルコト無キモ亦必ス保証ノ責ニ任セサル可カラス若シ賃借者カ其瑕疵ノ為メニ損害ヲ被フルコト有ルヤ賃貸者ハ実ニ之ヲ覚知セサリシコトヲ証明スルニ非サレハ則チ其損害ヲ賠償セサル可カラス 第千五百七十八条 若シ賃貸期間ニ於テ賃貸物件カ全ク毀滅ニ帰スルコト有レハ則チ其賃貸契約モ亦随テ消滅ニ帰スル者トス又若シ賃貸物件ノ一部カ毀滅ニ帰スルコト有レハ則チ賃借者ハ其景況ニ応シテ賃直ヲ減少スルカ若クハ賃借契約ヲ解破スルコトヲ得可シ此二個ノ時会ニ於テハ若シ其賃貸物件カ偶然ノ事故ニ因テ毀滅ニ帰スルヤ即チ損害賠償ノ責ヲ生出スルコト無シ 第千五百七十九条 賃貸者ハ賃貸期間ニ在テハ賃貸物件ノ形状ヲ変換スルコトヲ得可カラス 第千五百八十条 若シ賃貸期間ニ在テ賃貸物件カ要急ノ修繕ニシテ賃貸期間ノ満了スル迄措擱ス可カラサル所ノ者ヲ必要スルコト有レハ則チ賃借者ハ仮令ヒ此修繕ヲ挙行スル時間其賃貸物件ノ一部ノ使用ヲ闕クコト有ルモ其修繕ニ起生スル所ノ不便ニ耐ヘサル可カラス 然レトモ若シ其修繕ヲ挙行スル時間カ二十日以外ニ渉レルニ於テハ則チ其賃直ハ賃借者ノ使用ヲ闕キタル部分ト其費消シタル日数トニ比例シテ以テ之ヲ減少セラル可キ者トス 又若シ其修繕カ賃借者及ヒ其家族ノ占住スル部分ヲシテ得テ占住ス可カラサラシムル如キ者タルニ於テハ則チ賃借者ハ其景況ニ応シテ賃借契約ヲ解破スルコトヲ得可シ 第千五百八十一条 賃貸者ハ第三位ノ人カ実際ニ賃借者ノ使用ヲ撹擾シ而シテ其人ハ賃貸物件ニ向テ何等ノ権理ヲモ有スルコトヲ証明セサルニ於テハ則チ賃借者ニ対シテ其保証ノ責ニ任セス但賃借者カ自己ノ名義ヲ以テ其撹擾ヲ追理スル如キハ此限外ニ在リトス 之ニ反シテ若シ賃借者カ賃借物件ノ所有ニ関スル訟権ノ為メニ其使用ニ撹擾ヲ受クルニ於テハ則チ家屋若クハ地所ノ賃直ニ比例シテ以テ其賃直ヲ減少セシムルコトヲ得可キノ権理ヲ有ス但々其撹擾若クハ其障碍ノ事旨ハ必ス之ヲ賃貸者ニ通報スルコトヲ要ス 第千五百八十二条 若シ実際ニ撹擾ヲ為シタル第三位ノ人カ賃借物件ニ権理ヲ有スト称言シ若クハ第三位ノ人カ賃借者ヲシテ賃借物件ノ全部若クハ一部ヲ放棄ス可ク或ハ通務ノ行用ニ耐ユ可キノ宣告ヲ受ケシムル為メニ裁判上ニ追訴スルコト有レハ則チ賃借者ハ此撹擾ヲ排拒スル為メニ賃貸者ヲシテ其訴訟ニ関参セシメサル可カラス且若シ自巳要望スル有ルヤ賃貸者即チ其名義ヲ以テ賃借物件ヲ占有スル所ノ賃貸者ヲ指示シテ以テ自己其訴訟ノ局外ニ立ツコトヲ得可シ 第千五百八十三条 賃借者ハ左項二個ノ重要ナル責務ヲ負担ス 第一項 賃借者ハ賃借物件ニ関シテハ好家主長ト一般ナル注意ヲ以テ賃借契約上ニ於テ約束シタル使用方ニ従ヒ若シ其約束無キニ於テハ則チ其景況ニ応シテ推定シ得可キ使用方ニ従テ之ヲ使用ス可キノ責務 第二項 結約セル期限ニ照シテ賃直ヲ支弁ス可キノ責務 第千五百八十四条 若シ賃借者カ約定セル賃借物件ノ使用方ニ非サル他ノ使用方ニ従テ之ヲ使用セルカ若クハ賃貸者ノ損害ト為ル如キノ使用方ニ従テ之ヲ使用セルニ於テハ則チ賃貸者ハ其景況ニ応シテ賃貸契約ヲ解破スルコトヲ得可シ 第千五百八十五条 賃借者ハ最初自己ト賃貸者トノ間ニ於テ録製シタル賃借目録書ニ照依シ賃借物件ヲ接受セシ所ノ者ヲ以テ還付セサル可カラス但々歳月ヲ経閲シテ故廃スルニ因リ或ハ偶然ノ事故ニ遭フニ因テ其物件ノ毀滅シ若クハ毀損スル如キハ此限外ニ属ス 第千五百八十六条 若シ賃借地所ニ関スル明細書ヲ録製セサリシニ於テハ則チ賃借者カ其地所ニ属スル修繕ノ良好ナル景況ヲ以テ接受シタル者ト推断ス而シテ賃借者ハ必ス同一景況ヲ以テ還付セサル可カラス但反対ノ事実ヲ証明スル有ル者ノ如キハ此限ニ在ラス 第千五百八十七条 賃借者ハ賃借物件ニ向テ他人ノ侵奪ヲ受クルコト有レハ則チ必ス速ニ其事旨ヲ賃貸者ニ通報スルコトヲ要ス然ラサレハ則チ其侵奪ニ関スル一切ノ費用ヲ支弁シ及ヒ損害ヲ賠償セサル可カラス 第千五百八十八条 賃借者ハ賃借物件ヲ使用スルノ間ニ於テ起生スル毀損及ヒ損害ニ関シテハ若シ自己ノ過失ニ因ラサリシコトヲ証明スルニ非サレハ則チ其責ニ応セサル可カラス 賃借者ハ其家族者若クハ複賃借者ノ起生セシメタル賃借物件ノ毀損及ヒ損害ニ関シテハ自己其責ニ応セサル可カラス 第千五百八十九条 賃借者ハ左項ノ各事由ヲ証明スルニ非サレハ則チ火災ニ関スル損害ノ責ニ応セサル可カラス 其火災ノ実ニ偶然ノ時会ニ因リ若クハ己ムヲ得サルノ時会ニ因リ若クハ建造ノ宜キヲ得サルニ因テ起発シ或ハ精細ナル注意ヲ以テスル好家主長ト一般ナル注意ヲ以テシタルモ尚ホ偶々之ヲ起発シタルノ事由 其火災ノ実ニ隣家若クハ隣地ニ起発シテ以テ延及シタルノ事由 第千五百九十条 若シ一個ノ家屋ヲ区分シテ数個ノ人カ之ニ占住シ賃貸者モ亦同ク其一部分ニ占住スルニ於テハ則チ其数個ノ人ハ賃貸者ト一併ニ各自ノ占住スル部分ノ価格ニ比例シテ以テ其損害ノ責ニ応ス可キ者トス 然レトモ其火災ノ実ニ一人ノ占住スル部分ヨリ起発シタルコトヲ証明シ得ルニ於テハ則チ其一人カ全部ニ関スル損害ノ責ニ応セサル可カラス 若シ又其一人カ自己ノ占住スル部分ヨリ起発セサリシコトヲ証明シ得ルニ於テハ則チ全部ニ関スル損害ノ責ニ応スルコトヲ須ヒス 第千五百九十一条 期間ヲ限定シテ以テ結約セル賃貸ハ告終ヲ待ツコト無ク其期間満了スレハ即チ消滅ニ帰スル者トス 第千五百九十二条 若シ賃借契約ニ因テ限定セル期間ノ既ニ告終スルモ賃借者カ依然保続シテ賃借物件ヲ占有シ賃貸者モ亦之ヲ不問ニ措クニ於テハ則チ更ニ賃借契約ヲ締結セル者ト看做ス而シテ其効力ハ期間ヲ限定セサル賃借契約ヲ締結スル条則ニ准依シテ以テ之ヲ規定ス可キ者トス 第千五百九十三条 若シ賃借契約ノ期間ノ告終スルニ当リ賃借者カ之ヲ通報セルニ於テハ則チ賃借者ハ仮令ヒ依然トシテ賃借物件ヲ使用スルモ更ニ黙諾ノ賃借契約ヲ締結スル者ト為シテ以テ対抗スルコトヲ得可カラス 第千五百九十四条 前二条ノ時会ニ於テハ賃貸契約ニ関シテ立定セル保証及ヒ保人ノ責任ハ期間ヲ延展セルニ因テ生出スル責務ニハ推及セサル者トス 第千五百九十五条 賃貸契約ハ若シ其賃貸物件カ全ク毀滅ニ帰スルコト有レハ則チ亦随テ消滅ニ帰スル者トナス 若シ結約者ノ一方カ主要ナル責務ノ履行ヲ闕クコト有レハ則チ他ノ一方ハ第千百六十五条ノ規則ニ准依シテ以テ其契約ノ解破ヲ訟求スルコトヲ得可シ 第千五百九十六条 賃貸契約ハ賃貸者ノ死亡スルコト有ルモ若クハ賃借者ノ死亡スルコト有ルモ共ニ解破ニ帰セサル者トス 第千五百九十七条 若シ賃貸者カ賃貸物件ヲ売付セルコト有レハ則チ賃借者ハ公式証書若クハ正実ナル記日ヲ有スル私式証書ニ依拠シテ以テ其賃借契約ノ実ニ其売買ヲ為スヨリ以前ニ之ヲ締結シタルコトヲ証明シ得ルニ於テハ則チ其賃借ヲ保続スルコトヲ得可シ但々賃貸者カ売買ヲ為スノ時会ニ於テハ其賃貸ヲ解止スルコトヲ予約セル有ル如キハ此例外ニ属ス 第千五百九十八条 仮令ヒ賃借者カ公式証書若クハ正実ナル記日ヲ有スル私式証書ニ依拠セサルモ実ニ其占有カ売買ヲ為スヨリ以前ニ係レルニ於テハ則チ買主ハ期間ヲ限定スルコト無クシテ賃借契約ヲ締結セル者ト看做ス可キ期間ニ係レル年月ハ其買取物件ヲ賃借者ノ使用ニ供セサル可カラス 買主カ前項ニ指示スル期間ノ告終スルニ当リ賃借者ヲ拒絶セント欲スルニ於テハ則チ地方ノ慣例ニ従テ限定セル期間内ニ其告終ノ事旨ヲ賃借者ニ通報セサル可カラス 第千五百九十九条 若シ賃貸契約中ニ於テ売買ヲ為スニ当テハ賃借者ヲ拒絶ス可キコトヲ明約セル有ルニ於テハ則チ賃借者ハ賃貸者若クハ買主ニ対シ何等ノ賠償ヲモ支弁セシム可キノ権理ヲ有セス但々反対約款ノ在ル有ル如キハ此限ニ在ラス 第千六百条 買主ニシテ売買ヲ為セル時会ニ当リ賃借者ニ対シ賃貸契約上ニ立存スル拒絶ノ権理ヲ行用セント欲スル所ノ人ハ地方ノ慣例ニ於テ拒絶ヲ決行スル為メニ限定セル期間内ニ其事旨ヲ賃借者ニ通報セサル可カラス 地所ノ賃貸ニ関シテハ賃貸者ハ必ス一年以前ニ拒絶ノ事旨ヲ賃借者ニ通報スルコトヲ要ス 第千六百一条 公式証書若クハ正実ナル記日ヲ有スル私式証書ヲ闕ク所ノ賃貸契約ニ関シテハ買主ノ為メニ拒絶ヲ受ケタル賃借者ハ賃貸者ニ対シテ相当ナル賠償ヲ要求スルコトヲ得可シ 第千六百二条 買回ノ規約ヲ帯ヒテ以テ不動産物件ヲ買取スル所ノ買主ハ買回ノ為メニ約定シタル期限ノ満了スルニ因テ確然ニ其物件ノ所有主ト為ルニ至ル迄ハ賃借者ヲ拒絶スル権理ヲ行用スルコトヲ得可カラス 第二節 家屋ノ賃貸ニ特施スル規則 第千六百三条 家屋ニ供備スルニ十分ナル各種ノ器具ヲ有セサル賃借者ハ若シ賃直ヲ支弁ス可キ保証ヲ供出セサルニ於テハ則チ斥逐ヲ受ケサル可カラス 第千六百四条 細少ナル修繕ニシテ若シ反対約款ノ在ル無ケレハ則チ賃借者ノ負担ニ帰ス可キ所ノ者ハ地方ノ慣例ニ従テ以テ之ヲ規定ス但々左項ニ列記スル所ノ修繕ハ特ニ賃借者ノ負担ニ帰セシム 奥竃ノ火炉、奥竃ノ火室、火室ノ辺領及ヒ火室ノ上額ノ版石 房室其他家屋ノ裏面ニ在ル墻壁ノ高度一「メートル」ニ達スル部分ノ塗墁 房室ノ地版若クハ敷磚但々其一部分ノ毀損セル者ノミニ限ル 窓窓ノ玻璃版但々霰雹若クハ偶然ノ事故若クハ捍防ス可カラサル事故ニ因テ毀損セル者ハ賃借者ノ負担ニ帰セシメス 門戸ノ撐柱物、窓窓ノ縁辺、房室ノ隔壁、家屋ノ表面ノ壁版、枢鈕、戸■鎖鑰 第千六百五条 然レトモ前条ニ列記スル所ノ修繕ト雖モ其故廃スルニ因リ若クハ捍防ス可カラサル事故ニ因テ之ヲ要スルニ至レル者ノ如キハ賃借者ノ負担ス可キ者ニ非ス 第千六百六条 川井ノ浚清及ヒ厠甌ノ抒浄ハ賃貸者ノ負担ス可キ者トス 第千六百七条 全家屋、房室、店舗若クハ其他ノ建造物ニ供備スル器具ノ賃貸ニ関シテハ常ニ地方ノ慣例ニ従ヒ其全家屋、房室、店舗若クハ其他ノ建造物ヲ賃貸スル期間ニ向テ之ヲ賃貸セル者ト看做ス 第千六百八条 器具ヲ供備セル房室ノ賃貸ニ関シテハ若シ其賃直カ毎一年ニ幾許ト約朿セル者ハ一年間毎一月ニ幾許ト約束セル者ハ一月間毎一日ニ幾許ト約束セル者ハ一日間之ヲ賃貸セル者トス 若シ其賃貸カ一年間一月間若クハ一日間ヲ以テセシコトヲ証明スルニ適当ナル景況ノ在ル無キニ於テハ則チ地方ノ慣例ニ従テ之ヲ規定ス 第千六百九条 若シ賃貸カ期間ヲ限定スルコト無クシテ結約セシ者タルニ於テハ則チ結約者ノ一方ハ地方ノ慣例ニ従テ規定セル期間ニ准依スルコト無クシテ他ノ一方ヲ拒絶スルコトヲ得可カラス 第千六百十条 若シ賃借者カ賃借契約ニ因テ限定セル期間ヲ満過スルモ依然トシテ之ニ占住シ而シテ貸借者カ毫モ抗阻スルコト無キニ於テハ則チ地方ノ慣例ニ従テ限定セルノ期間ハ前次ト同一ノ規約ヲ以テ其賃借契約ヲ保続スル者ト看做ス而シテ若シ前次ト同一ノ慣例ニ従テ限定セル期間内ニ於テ拒絶ヲ為シタル以後ニ非サレハ則チ其家屋ヲ離去シ及ヒ斥逐スルコトヲ得可カラス 第千六百十一条 賃借者ノ過失ニ因テ賃借契約ノ解破スル時会ニ於テハ賃借者ハ新賃貸ニ必要ナル日ニ至ル迄ノ賃直ヲ支弁シ且賃借物件ヲ妄用セルヨリ起生セシメタル損害ヲ賠償セサル可カラス 第千六百十二条 賃貸者ハ仮令ヒ自己其賃貸セシ家屋ニ占住スルコトヲ欲スト公言スルモ特別ナル約款ノ在ルコト無キニ於テハ則チ其賃貸契約ヲ解破スルコトヲ得可カラス 第千六百十三条 賃貸契約中ニ於テ賃貸者カ其賃貸家屋ニ占住ス可キコトヲ明約シタルコト有レハ則チ賃貸者ハ地方ノ慣例ニ従テ限定セル期間内ニ於テ拒絶ノ事旨ヲ賃借者ニ通報セサル可カラス 第三節 田地ノ賃貸ニ特施スル規則 第千六百十四条 若シ田地ノ賃貸ニ関シ其地所ノ現実ノ歩積ヨリ超多シ若クハ缺少スル歩積ヲ賃貸契約書ニ記載セルニ於テハ則チ必ス売買契約篇中ニ設定セル時会、制限及ヒ規則ニ遵依シテ以テ其賃直ヲ増加シ若クハ減降セサル可カラス 第千六百十五条 若シ田地ノ賃借ニ関シ賃借者カ抽利ニ必要スル獣畜及ヒ器械ヲ供備セサルカ若クハ耕種ヲ委棄スルカ若クハ好家主長ト一般ナル注意ヲ以テ其耕種ヲ為サヽルカ若クハ約束セル供用方ニ非サル他ノ供用方ヲ以テ其地所ヲ供用スルカ之ヲ要スルニ賃借者カ賃借契約ノ約款ヲ履行セス且是カ為メニ賃貸者ニ損害ヲ被フラシムルコト有レハ則チ賃貸者ハ其景況ニ応シテ賃貸契約ノ解破ヲ訟求スルコトヲ得可シ 前項ニ列掲スル諸般ノ時会ニ於テ賃借者ハ契約ノ履行ヲ闕クニ因テ起生セシムル一切ノ損害ヲ負担セサル可カラス 第千六百十六条 田地ヲ賃借スル賃借者ハ其収獲物ヲ以テ契約上ニ指定セル場地ニ存蔵セサル可カラス 第千六百十七条 若シ数年ノ期間ニ向テ田地ノ賃貸ヲ結約シ而シテ其期間内ニ於テ収獲物ノ全額若クハ其半額以上カ偶然ノ事故ニ因テ毀滅ニ帰スルコト有レハ則チ賃借者ハ年租ノ減降ヲ請求スルコトヲ得可シ但々前年ノ収獲物ヲ以テ此損失ヲ償填スルニ足ル有ル如キハ此限ニ在ラス 若シ賃借者カ此償填ヲ得サルニ於テハ則チ賃借契約ノ終期ニ至リ以テ其減降額ヲ評定ス此時会ニ於テハ賃借期間ニ係ル各年ノ収獲額ヲ均較シテ以テ之ヲ評定ス可キ者トス 然レトモ法衙ハ賃借者ノ受ケタル損失額ニ比例シテ以テ賃借者ニ対シ仮リニ其賃直ノ一部分ノ支弁ヲ認免スルコトヲ得可シ 第千六百十八条 若シ唯々一年ノ期間ニ向テ地所ノ賃貸ヲ結約シタル者ニシテ賃借者カ収獲物ノ全額若クハ半額以上ヲ亡失スルコト有ルニ於テハ則チ賃借者ハ其賃直額ニ比例スル部分ノ支弁ヲ認免セラルヽコトヲ得可シ 若シ其亡失カ半額以下ニ係レルニ於テハ則チ其賃直ハ何等ノ減降ヲモ認免セラルヽコトヲ得可カラス 第千六百十九条 若シ収獲物ノ亡失カ其収獲物ノ地所ヨリ分離セル以後ニ起生セルニ於テハ則チ賃借者ハ其賃直ノ減降ヲ請求スルコトヲ得可カラス但其賃借契約ニ於テ実物ヲ以テ賃貸者ニ納致スルコトヲ約束セル者ノ如キハ此限外ニ在リトス此時会ニ於テハ賃貸者ハ賃借者ニ過失有ルカ若クハ賃借者カ収獲物ノ一部ヲ自己ニ交付ス可キ景況ニ在ルコト無キニ於テハ則チ自己ノ部分ニ関スル損失ヲ負担セサル可カラス 若シ損害ヲ起生ス可キ事由カ其賃貸契約ヲ締結セル時際ニ当テ既ニ己ニ存在シ若クハ覚知セシ者タルニ於テハ則チ賃借者ハ復タ其賃直ノ減降ヲ請求スルコトヲ得可カラス 第千六百二十条 賃借者ハ時ニ或ハ特別ナル契約ニ因テ偶然ノ事故ニ起生スル損害ノ責ニ応ス可キ者有リトス 第千六百二十一条 此種ノ契約ハ唯尋常ナル偶然ノ事故例之ハ霰雹雷震若クハ冴寒ニ関スル如キ時会ノミニ推及スルニ止マル者トス此種ノ契約ハ決シテ非常ナル偶然ノ事故例之ハ戦乱ノ剽掠若クハ洪水即チ其地方ノ常ニ被フル所ノ水害ニ関スル如キ時会ニハ推及セサル者トス但々賃借者カ諸般ノ偶然ノ時会ニシテ其予知ス可キ者ト其予知ス可カラサル者トヲ問ハス総テ之ヲ負担スルコトヲ約束セル有ル如キハ此例外ニ在リトス 第千六百二十二条 期間ヲ限定セスシテ結約セル所ノ田地ノ賃借ニ関シテハ賃借者カ其地所ニ生出スル一切ノ収獲物ヲ収有スル為メニ必要ナル時期ニ向テ其賃借ヲ結約シタル者ト看做ス 既ニ耕種ヲ加ヘタル田地ノ賃佃ニ関シテハ若シ其地所カ各年ニ其植物ヲ異ニスルノ区分ヲ立定セル者タルニ於テハ則チ其区分ヲ立定セル年数ニ向テ其賃借ヲ結約シタル者ト看做ス 第千六百二十三条 田地ノ賃貸ハ仮令ヒ期間ヲ限定セスシテ結約セル所ノ者タルモ亦前条ノ規則ニ准依シ定例ノ期間即チ定例ニ照シテ結約セル者ト看做ス可キ期間ヲ満了スレハ則チ解消ニ帰スル者トス 第千六百二十四条 若シ田地ノ賃貸カ期間ヲ限定セル所ノ者ニシテ其期間ノ満了スル時際ニ当リ賃借者カ依然保続シテ其賃借物件ヲ占有シ賃貸者モ亦之ヲ不問ニ措クニ於テハ則チ更ニ賃貸契約ヲ締結セル者ト看做シ而シテ其効力ハ第千六百二十二条ノ法則ニ准依シテ以テ之ヲ規定ス 第千六百二十五条 旧賃借者ハ自己ニ継替シテ耕種ノ抽利ニ従事スル新賃借者ノ為メニ相当ナル建造物及ヒ次年ノ耕種事業ニ便益ナル諸般ノ物件ヲ留存セサル可カラス又新賃借者ハ旧賃借者ヲシテ相当ナル建造物及ヒ秣芻ノ刈収並ニ収獲ニ便益スル諸般ノ物件ヲ使用セシメサル可カラス 如何ナル時会タルヲ問ハス凡テ地方ノ慣例ニ遵行スルコトヲ要ス 第千六百二十六条 旧賃借者ハ若シ最初其賃借地所ヲ享用スルノ日ニ於テ麦稈秣芻及ヒ肥料ノ類ヲ領収セルコト有レハ則チ自己モ亦必ス之ヲ留存セサル可カラス若シ最初ニ領収セルコト無ケレハ則チ賃貸者ハ評価ヲ経テ以テ之ヲ留存セシムルコトヲ得可シ 第三章 作業ノ賃貸 第千六百二十七条 作業及ヒ工業ノ賃貸ニハ左項三種ノ差別有リトス 第一項 某人カ自己ノ労動ヲ他人ノ需用ニ供スルコトヲ約束スル所ノ賃貸 第二項 某人カ一個ノ人若クハ一個ノ物ヲ陸路若クハ水程ニ運輸スルコトヲ約束スル所ノ賃貸 第三項 某人カ包兜契約ニ因テ作業ヲ包兜スルコトヲ約束スル所ノ賃貸 第千六百二十八条 他人ノ需用ニ供スル為メニ自己ノ作業ヲ賃貸スル契約ハ限定セル期間若クハ確定セル起業ニ関スルニ非サレハ則チ之ヲ締結スルコトヲ得可カラス 第千六百二十九条 陸路若クハ水程ノ運輸ヲ結約セル運輸者ハ委託ヲ受ケタル物件ノ保存ニ関シテハ争訟物件、寄託篇中ニ掲記スル旅舎主人ノ責務ト一般ナル責務ヲ有ス 第千六百三十条 運輸者ハ唯船上若クハ車上ニ於テ接受セシ物件ノミニ止マラス船上若クハ車上ニ搭載スル為メニ寄頓廠ニ於テ接受セシ物件ニ関シテモ亦其保存ノ責ニ任セサル可カラス 第千六百三十一条 運輸者ハ自巳ニ委託セラレタル物件ノ毀損及ヒ毀滅ニ関スル損害ノ責ニ応セサル可カラス但々其物件カ偶然ノ事故ニ因リ或ハ捍防ス可カラサル事故ニ因テ毀滅ヲ受ケ若クハ毀滅ニ帰シタルコトヲ証明シ得ル者ノ如キハ此限ニ在ラス 第千六百三十二条 陸路及ヒ水程ノ公同運輸ニ関スル起業者及ヒ公同運輸ニ関スル運輸者ハ其運輸ヲ負担シタル貨幣、物件及ヒ包■ハ必ス之ヲ簿録セサル可カラス 第千六百三十三条 公同運輸ノ起業者、主幹者、運輸者及ヒ船舶ノ首長ハ特別ナル規則ニシテ此等ノ人ト此等ノ人ニ向テ結約セル人トコト間ニ於ケル関係ヲ管知スル所ノ者ニ准依スルコトヲ要ス 第千六百三十四条 某人ヲシテ某種ノ作業ヲ為サシムル所ノ契約ニ関シテハ其人ハ作業若クハ工業ヲ供出スルカ若クハ其目的タル物件ヲ供出スルコトヲ得可シ 第千六百三十五条 職工カ物件ヲ供出スル賃貸契約ニ関シテハ仮令ヒ何等ノ事故ニ因ルモ若シ其物件カ未タ交付ヲ了セサル以前ニ以テ毀滅ニ帰スルコト有ルヤ嘱託者カ之ヲ領収ス可キ景況ニ在ルニ非サレハ則チ其帰滅ニ関スル損害ハ職工之ヲ負担セサル可カラス 第千六百三十六条 職工カ作業若クハ工業ヲ供出ス可キノ賃貸契約ニ関シテハ若シ其物件カ毀滅ニ帰スルコト有レハ則チ職工ハ唯自己ノ過失ニ関シテ其責ニ任ス可キノ責ヲ有スルノミ 第千六百三十七条 前条ノ時会ニ当リ若シ其物件カ未タ交付ヲ了セサル以前ニ職工ノ過失ニ因ラスシテ毀滅ニ帰シ而シテ嘱託者ハ尚ホ未タ其物件ノ検査ヲ為ス可キ景況ニ在ラサルニ於テハ則チ職工其工直ヲ要求スルノ権理ヲ喪失スル者トス但其物件カ材料ノ性質ノ不良ナル為メニ毀滅ニ帰シタル者ノ如キハ此限ニ在ラス 第千六百三十八条 若シ工事カ個数ヲ以テシ若クハ寸尺ヲ以テスル契約ニ関シテハ嘱託者ノ検査ハ其竣成セル部分ニ随テ之ヲ為ス可キ者トス而シテ若シ嘱託者カ其竣成スル部分ニ随テ工直ヲ職工ニ交付セルニ於テハ則チ其工直ヲ交付セル部分ハ既ニ其検査ヲ経了シタル者トス 第千六百三十九条 若シ一個ノ建造若クハ他ノ巨大ナル工作ヲ竣成シタル本日ヨリ以後ノ十年内ニ其建造物若クハ工作物ノ全部若クハ一部カ壊頽スルコト有ルカ若クハ建築ノ粗悪若クハ基地ノ鬆脆ナルニ因テ壊頽ス可キ危険ヲ起発スルコト有レハ則チ木匠及ヒ工作包兜者カ其責ニ応セサル可カラス 損害ノ賠償ヲ要求スル訟権ハ上項ニ掲示スル時会ノ其一カ現実ニ起発シタルヨリ以後ノ二年間ヲ期シテ之ヲ行用スルコトヲ要ス 第千六百四十条 木匠及ヒ工作包兜者カ土地ノ所有主ニ対シテ結約セル工作、経画図様ニ照シテ包兜工作ヲ結約シタルニ於テハ則チ職工ノ直銀若クハ材料ノ価直ノ昂貴セルヲ口実ト為シ或ハ工作経画、図様ヲ展広シ若クハ変換セルヲ口実ト為シテ以テ包兜額外ニ増収ヲ要求スルコトヲ得可カラス但其昂貴若クハ変換等ノ事項ヲ契約書ニ明記シ而シテ其包兜額外ニ増減ス可キコトヲ協約セル有ル者ノ如キハ此例外ニ属ス 第千六百四十一条 嘱託者ハ仮令ヒ既ニ工事ニ開手セシ者タルモ工作包兜者ニ対シテ其既ニ消用シタル費金、工力及ヒ工作包兜者カ其工作ニ関シテ収得ス可キ利益額ヲ支弁シテ以テ髄意ニ其包兜契約ヲ解破スルコトヲ得可シ 第千六百四十二条 作業ヲ供出ス可キ賃貸契約ニ関シテハ其作業ヲ負担セル職工木匠若クハ工作包兜者ノ死亡スルニ因テ解破ニ帰スル者トス 第千六百四十三条 然レトモ土地ノ所有主ハ其既ニ消用シタル工力及ヒ材料カ自己ニ有益ナルニ於テハ則チ包兜契約ニ因テ約定セル価額ニ比例シテ以テ彼等ノ承産者ニ其価直ヲ交付セサル可カラス 第千六百四十四条 工作包兜者ハ其使役スル職工ノ工事上ニ関スル過失ノ責ニ応セサル可カラス 第千六百四十五条 家屋ノ建造其他ノ工作ニ使役セラレタル石工、木匠若クハ雇役者ハ工作ヲ起創シタル其人ニ対シテハ唯自己カ訟権ヲ行用スル時際ニ於テ其人ノ工作包兜者ニ逋負スル所ノ金額ニ向テノミ工直要求ノ訟権ヲ行用スルコトヲ得ルニ止マル 第千六百四十六条 石工、木匠若クハ雇役者ニシテ直接ニ工直ヲ約定セル所ノ人ハ本章ニ設定スル条則ニ遵依ス可キ者トス而シテ其執作スル工事ノ部分ニ関シテハ全ク之ヲ工作包兜者ノ如ク看做ス 第四章 収獲物分取賃貸契約 第千六百四十七条 賃貸者ト共ニ収獲物ヲ分取スル約束ヲ以テ賃借地所ニ耕種スル所ノ人ヲ称シテ「メテイヱー」若クハ「コロン、パルシヱール」ト曰ヒ而シテ此収獲物分取契約ヲ称シテ「メテリー「若クハ「コロナー」ノ賃貸契約ト曰フ 物件ノ賃貸ニ関スル一般ノ規則特ニ地所ノ賃貸ニ関スル規則ハ総テ此収獲物分取契約ニ擬施スルコトヲ得可ク唯々下条ニ掲示スル所ノ時会ヲ除ク有ルノミ 第千六百四十八条 偶然ノ事故ニ因テ分取ス可キ収獲物ノ全部若クハ其一部カ毀滅ニ帰スルコト有レハ則チ其損害ハ賃貸者及ヒ賃耕者カ之ヲ分担シ而シテ其帰滅ニ関シテハ結約者ノ一方カ他ノ一方ニ向テ損害要償ノ訟権ヲ行用スルコトヲ得可カラス 第千六百四十九条 賃耕者ハ若シ収獲物分取契約ニ於テ特ニ自己ニ認許セラレタル有ルニ非レハ則チ複賃耕ヲ為シ及ヒ其契約ニ関スル権理ヲ譲与スルコトヲ得可カラス 此規則ニ違犯セル時会ニ於テハ賃貸者ハ賃貸地所ニ関スル使用権ヲ収回シ得可キノ権理ヲ有ス而シテ賃耕者ハ収獲物分取契約ヲ履行セサルニ因テ起生セシメタル損害ヲ賠償セサル可カラス 第千六百五十条 賃耕者ハ賃貸者ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ則チ麦稈秣芻及ヒ肥料ヲ売放シ且他人ノ為メニ之カ運搬ヲ為スコトヲ得ス 第千六百五十一条 収獲物分取契約ニ関シテハ仮令ヒ何等ノ方法ヲ以テ其賃貸ヲ結約シタルモ若シ告終ノ通報ヲ為スコト無ケレハ則チ解消セサル者トス故ニ地方ノ慣例ニ於テ限定セル時期ニ従テ賃貸者賃耕者共ニ其契約ノ解止ヲ通報セサル可カラス 第千六百五十二条 収獲物分取契約ヲ解破スルニ関シテハ若シ正当ナル理由例之ハ賃貸者若クハ賃耕者カ其約束ニ違背スルカ若クハ賃耕者カ痼疾ニ嬰リテ賃借地所ヲ耕種スルニ耐ヘサルカ若クハ其他之ニ類似スル事由ノ在ル有レハ則チ仮令ヒ約定セル期限ノ外ニ於テスルモ亦其解破ヲ訟求スルコトヲ得可シ 此理由ヲ商量スルハ法衙ノ明裁及ヒ公判ニ委付スル者トス 第千六百五十三条 収獲物分取契約ハ収獲年度ノ終期ニ当リ賃耕者ノ死亡スルコト有レハ則チ解消ニ帰スル者トス然レトモ若シ其死亡カ終期ノ四月内ニ在ルニ於テハ則チ死亡者ノ子若クハ其承産者ニシテ死亡者ト同居スル所ノ人カ其次年ニ至ル迄依然契約ヲ続行スルコトヲ得可シ若シ同居スル承産者ノ在ル無キカ若クハ此承産者カ契約続行ノ権理ヲ行用スルコトヲ欲セサルニ於テハ則チ其権理ハ死亡セシ賃耕者ノ寡婦ニ帰属ス 承産者若クハ寡婦カ収獲年度ノ残期若クハ其次年ニ在ハ好家主長ト一般ナル注意ヲ以テ賃借地所ノ耕種ヲ為サヽルコト有レハ則チ賃貸者ハ自己ノ費用ヲ以テ之ニ耕種シ而シテ承産者若クハ寡婦ノ得有ス可キ収獲額内ニ就キ其支消シタル費用ヲ扣断スルコトヲ得可シ 第千六百五十四条 前数条ノ規則若クハ特別ノ規則ヲ以テ規定セラレサル収獲物分取契約ニ関スル事件ハ宜ク其地方ノ慣例ニ准依ス可キ者トス 地方ノ慣例及ヒ特別ノ規則ヲ闕ク所ノ事件ニ関シテハ宜ク下条ノ規則ニ遵行ス可キ者トス 第千六百五十五条 地所ヲ耕鋤シ及ヒ地所■肥沃ナラシムル為メニ必要スル獣畜、獣畜冬間ノ飼料ニ供充スル秣芻及ヒ地所ニ抽利スルニ必要スル器械ハ賃耕者之ヲ備弁ス可キ者トス 獣畜ノ頭数ハ収獲物分取ノ賃貸ニ付シタル地所カ其獣畜ノ豢養ニ供スル生植物料ノ多少ニ比例ス 第千六百五十六条 播種スル種子ハ賃貸者賃耕者ノ共ニ之ヲ供弁ス可キ者トス 第千六百五十七条 田野ニ関スル尋常ノ耕耘及ヒ果物ノ収獲ノ為メニ支消スル費用ハ賃耕者之ヲ負担ス可キ者トス 第千六百五十八条 尋常ノ栽種ニシテ枯稿シ若クハ偶然ニ倒仆シ若クハ契約期間ニ於テ果実ヲ生セサルニ至レル植物ニ換替スル所ノ者ハ賃耕者之ヲ為シ稚苗ヲ備弁シ及ヒ稚苗ニ必要スル柴棚、紮縄扶木ヲ供出スル如キハ賃貸者之ヲ負担ス可キ者トス 若シ賃貸者カ其稚苗ヲ賃貸地所ノ域内ニ在ル養苗場ヨリ採取セルニ於テハ則チ是カ為メニ賃耕者ニ対シテ何等ノ賠償ヲモ支弁スルコトヲ須ヒス 第千六百五十九条 溝渠ノ疏浚ハ其賃貸地所ノ域内ニ在ル者ト公共道路ノ沿辺ニ在ル者トヲ問ハス本邑カ公共道路ノ保存ニ関シテ命付スル所ノ工事ト一般ニ賃耕者之ヲ担任ス可キ者トス 尋常ナル任車ノ運転ハ地所並ニ耕廬ヲ修繕スルト収果物ヲ賃貸主ノ家裏ニ輸送スルトヲ問ハス賃耕者之ヲ担任ス可キ者トス 第千六百六十条 賃耕者ハ賃貸者ニ通報スルニ非サレハ則チ穀物ヲ収獲シ若クハ之ヲ打枷シ或ハ葡萄ヲ収摘スルコトヲ得可カラス 第千六百六十一条 凡テ地所ニ生出スル収果物ハ其自然ニ係ル者ト耕種ニ成ル者トヲ問ハス賃貸者ト賃耕者トノ間ニ之ヲ分取ス 葡萄ヲ支撐スル為メ及ヒ地所ニ関スル他ノ使用ニ供充スル為メニ必要ナル柴木ハ多分ニ之ヲ伐採スルモ亦賃耕者之ニ耐ヘサル可カラス而シテ其使用シタル残材ハ伐採費用ヲ負担スル所ノ賃貸者ニ帰属シ且其伐採シタル柴木ノ根株モ亦均シク賃貸者ニ帰属ス 樹木ノ枝葉ヲ洗剪シ及ヒ枯死倒折セル樹木ノ枝葉ヲ伐採スルニ必要ナル工事ハ賃耕者之ヲ負担セサル可カラス而シテ其賃耕者ハ唯賃借地所ノ供用及ヒ自己ノ使用ニ必要ナル部分ニ向テノミ此物件ヲ収有スルニ止マリ其他ノ部分ハ総テ賃貸者ニ帰属ス可キ者トス 第千六百六十二条 若シ賃貸者ノ底簿ニ時日ト事由トヲ明示セル貸付及ヒ借受ノ条項ヲ併載シ而シテ其同一ノ条項カ他ノ回帳即チ賃耕者ノ手中ニ保存スル所ノ回帳ニモ亦叙次ヲ逐フテ之ヲ記載セル有ルヤ此底簿ハ賃耕者カ終期ノ算清ヲ為ス可キ本日ヨリ以後ノ四月内ニ要求ヲ為スコト無キニ於テハ則チ賃貸者ニ利益シ若クハ之ニ反対セル事項ヲ併セテ共ニ信憑ヲ有スル証拠ト為ル 賃耕者ノ手中ニ保存スル所ノ回帳ハ上項ニ掲示セル規則ニ准依シ賃貸者ノ之ヲ記載セルニ於テハ則チ賃耕者ノ為メニハ十分ナル信憑ヲ有スル証拠ト為ル者トス 賃貸者若クハ賃耕者カ自己ノ怠忽ニ因リ或ハ亡失セルニ因テ帳簿ヲ供出セサルニ於テハ則チ法衙ハ唯其供出セル帳簿ノミニ依拠シテ以テ之ヲ判決ス 第千六百六十三条 前条ニ規定セル程式ニ准依シ賃貸者若クハ賃耕者ノ管有スル帳簿ハ均シク又本章中ニ立定セル規則ヲ増加シ若クハ修正シテ以テ双方ノ間ニ締結シタル所ノ契約ニ関シ信憑ヲ有スル証拠ト為ル者トス 第千六百六十四条 期間ヲ限定スルコト無キ収獲物分取ノ賃貸ハ唯々一年間ニ向テノミ之ヲ結約セル者ト看做ス此一年ノ期間ハ其歳ノ十一月十一日ニ昉マリ翌歳十一月十一日ニ終ル者トス 若シ告終ヲ通報スルコト無クシテ翌歳ノ三月ヲ経過セルニ於テハ則チ其賃貸ハ更ニ一年ノ期間ニ向テ改約セル者ト看做ス 第五章 牧畜賃貸契約 第一節 総則 第千六百六十五条 牧畜ノ賃貸ハ一種ノ契約ニシテ之ニ依リ結約者ノ一方カ他ノ一方ニ向テ獣畜ノ若干頭ヲ交付シ他ノ一方カ約束セル規約ニ従テ之ヲ看守シ之ヲ豢養シ及ヒ之ヲ監護スル所ノ者ヲ謂フ 第千六百六十六条 牧畜賃貸契約ニハ各種ノ差別アリトス 単純ニシテ且尋常ナル獣畜ノ賃貸 双方ヨリ同種ノ獣畜ヲ供出スルノ賃 賃貸者カ賃借者若クハ賃耕者ニ対シテ結約スル獣畜ノ賃貸 不当ニ慣称シテ獣畜賃貸ト為ス所ノ獣畜ノ賃貸 第千六百六十七条 諸種ノ獣畜ニシテ乳殖ス可キ所ノ者或ハ耕耘若クハ商業ニ供用ス可キ所ノ者ハ総テ賃貸ニ付スルコトヲ得可シ 第千六百六十八条 若シ特別ナル契約ヲ闕クニ於テハ則チ此獣畜賃貸契約ハ下条ノ規則ニ准依シテ以テ之ヲ規定ス 第二節 単純ナル獣畜ノ賃貸 第千六百六十九条 単純ナル獣畜ノ賃貸トハ一種ノ契約ニシテ之ニ依リ結約者ノ一方カ他ノ一方ヲシテ獣畜ヲ看守シ之ヲ豢養シ及ヒ之ヲ監護セシメ而シテ其獣畜ノ増殖セル部分ノ一半ヲ賃借者ニ得有セシムル所ノ者ヲ謂フ又増殖トハ其獣畜カ乳殖シ及ヒ其獣畜カ貸借契約ノ期間ニ於テ最初ニ評定セシ価格ニ比例シテ以テ其価格ヲ増多スルヨリ成立スル所ノ者ヲ指言ス 第千六百七十条 獣畜賃貸契約ニ関シ其獣畜ニ向テ為シタル評価ハ以テ其獣畜ニ存スル所有権ヲ賃借者ニ転移スルコト無ク唯々其賃貸契約ノ終期ニ於テ生出スル所ノ損益ヲ断定スルノミノ効力ヲ有セシムル者トス 第千六百七十一条 賃借者ハ賃借獣畜ニ関シテハ好家主長ト一般ナル注意ヲ以テ之ヲ使用スルコトヲ要ス 第千六百七十二条 賃借者カ偶然ノ事故ニ因テ起生スル損害ノ責ニ応ス可キハ唯々其事故ノ起生スルヨリ以前ニ係レル過失ニシテ若シ之無ケレハ則チ其獣畜カ毀滅ニ帰スルニ至ラサル可キ所ノ者ノミニ限ル 第千六百七十三条 争訟ヲ起発セル時会ニ於テハ賃借者ハ其損害ノ偶然ノ事故ニ因ルコトヲ証明シ賃貸者ハ賃借者ノ所為ノ過失ニ因ルコトヲ証明セサル可カラス 第千六百七十四条 賃借者ニシテ偶然ノ事故ニ因テ起生スル損害ノ弁償ヲ為ス可キコトヲ約束セサリシ所ノ人ト雖モ獣畜ノ毛皮及ヒ現ニ残存スル獣畜ハ必ス之ヲ賃貸者ニ還付セサル可カラス 第千六百七十五条 若シ獣畜カ賃借者ノ過失ニ因ルニ非スシテ毀滅ニ帰スルカ若クハ最初ニ保有セシ価格ヲ減降スルコト有レハ則チ其損失ハ賃貸者之ヲ負担セサル可カラス 第千六百七十六条 賃借者ハ専ラ賃借獣畜ニ生出スル乳潼肥糞及ヒ労動力ヲ利得ス 毳毛及ヒ乳仔ハ之ヲ賃貸者ト賃借者トニ分取ス 第千六百七十七条 結約者ハ左項ニ掲記スル事件ヲ帯ヒタル契約ヲ締結スルコトヲ得可カラス 賃借者カ自己ノ過失ニ因ルニ非スシテ偶然ノ事故ニ起生スル獣畜ノ損害ト雖モ亦其半数以上ニ係ル損害ヲ負担スルコト 貸借者カ自己ノ得有ス可キ利益額ニ超過スル損失額ヲ負担スルコト 賃貸者カ最初賃貸ニ付シタル獣畜ノ頭数ヨリモ増多セル部分ヲ賃貸契約ノ末期ニ抽取スルコト 此ノ如キ性質ニ係レル諸般ノ契約ハ総テ効力ヲ有セサル者トス 第千六百七十八条 賃借者ハ賃貸者ノ承諾ヲ取ルニ非サレハ則チ賃借獣畜及ヒ其乳仔ノ一頭タモ自由ニ之ヲ処分スルコトヲ得可カラス又賃貸者モ亦賃借者ノ承諾ヲ取ルニ非サレハ則チ自由ニ之ヲ処分スルコトヲ得可カラス 第千六百七十九条 他人ノ地所ヲ賃借スル賃耕者ニ対シ牧畜賃貸契約ヲ締結セルニ於テハ則チ其結約セル事旨ハ必ス其賃貸地所ノ所有主ニ通報スルコトヲ要ス然ラサレハ則チ地所ノ所有主ハ賃耕者ノ自己ニ逋負スル債額ノ為メニ其賃借獣畜ヲ勒抵シ及ヒ之ヲ売付セシムルコトヲ得可シ 第千六百八十条 賃借者カ賃貸者ニ通報スルニ非サレハ則チ賃借獣畜ノ毳毛ヲ剪取スルコトヲ得可カラス 第千六百八十一条 若シ牧獣賃貸ノ期間ヲ其契約上ニ限定セサリシニ於テハ則チ三年間存続スル者ト看做ス 第千六百八十二条 若シ賃借者カ契約ニ関スル責務ヲ践行セサルコト有レハ則チ賃貸者ハ賃貸期間ニ在リト雖モ其契約ヲ解破スルコトヲ得可シ 第千六百八十三条 牧畜賃貸契約ノ告終若クハ解破ノ時際ニ当リ更ニ其獣畜ノ評価ヲ施行ス可キ者トス 賃貸者ハ最初ノ評価額ニ達スル迄ハ其獣畜ノ群中ニ就キテ之ヲ抽取スルコトヲ得可ク而シテ其余ハ之ヲ双方ニ分取ス 若シ最初ノ評価額ニ達ス可キ獣畜ヲ現存セサルニ於テハ則チ賃貸者ハ其現ニ残存スル獣畜ヲ収回ス可ク而シテ賃借者ハ其缺減スル頭数ヲ弁償スルコトヲ須ヒス 第三節 双方ヨリ同数ノ獣畜ヲ供出スル賃貸 第千六百八十四条 双方ヨリ同数ノ獣畜ヲ供出スル賃貸ハ一種ノ契約ニシテ之ニ依リ一個ノ会社カ各自ニ同数ノ獣畜ヲ供出シ而シテ其利益及ヒ其損害モ亦彼此ニ共通スル所ノ者ヲ謂フ 第千六百八十五条 賃借者ハ猶尋常ノ牧畜賃貸ノ如ク賃借獣畜ノ乳潼肥糞及ヒ労動力ヲ利得ス 賃貸者ハ唯々賃貸獣畜ノ毳毛及ヒ其頭数ノ半部ニ向テノミ権理ヲ有スル者トス 第千六百八十六条 此他ノ事項ニ関シテハ単純ナル獣畜賃貸契約ニ関スル規則ヲ以テ此種ノ獣畜賃貸契約ニ擬施スルコトヲ得可シ 第四節 賃貸者カ賃耕者若クハ賃佃者ニ対シテ結約スル牧畜ノ賃貸 第一款 賃貸者カ賃耕者ニ対シテ結約スル牧畜ノ賃貸 第千六百八十七条 賃貸者カ賃耕者ニ対シテ結約スル牧畜ノ賃貸即チ「シェテル、ド、フェール」ト称スル者ハ一種ノ契約ニシテ之ニ依リ結約者ノ一方カ地所ヲ賃貸シ其契約期間ノ終末ニ於テ他ノ一方カ最初ニ接受セシ獣畜ノ評価格ニ均シキ価格ヲ有スル獣畜ヲ還付ス可キ規約ヲ以テ地所ヲ賃耕スル所ノ者ヲ謂フ 第千六百八十八条 賃耕者ニ交付セル獣畜ノ評価ハ以テ其獣畜ノ所有権ヲ賃耕者ニ転付スル者ニ非ス然レトモ其評価ハ以テ獣畜ニ関スル危険ヲ賃耕者ニ負担セシムル者トス 第千六百八十九条 反対約款ノ在ル有ルニ非サレハ則チ契約期間ニ於テ生出スル一切ノ得益ハ総テ賃耕者ニ帰属ス 第千六百九十条 此種ノ牧畜賃貸ニ関シテハ其肥糞ハ賃耕者ノ特別ナル利得ト為ス可カラスシテ全ク賃耕地所ニ供用ス可ク即チ特ニ耕種ニ供用ス可キ者トス 第千六百九十一条 若シ他ノ方法ヲ以テスル規約ノ在ル有ルニ非サレハ則チ賃借獣畜ノ全部ニ渉レル毀滅ノ損害ト雖モ亦全ク賃耕者ノ負担ニ帰ス可キ者トス 第千六百九十二条 賃貸期間ノ終末ニ当リ賃耕者ハ最初ノ評価額ヲ支弁シテ以テ其賃貸契約中ニ包含スル獣畜ヲ収取スルコトヲ得可カラス必ス其最初ニ接受セシ獣畜ノ評価額ニ均シキ獣畜ヲ留存スルコトヲ要ス 其獣畜ノ評価額ヨリ缺減スル所ノ者ハ総テ賃耕者ノ負担ニ帰セシム故ニ賃耕者ハ必ス之ヲ弁償セサル可カラス又其獣畜ノ評価額ヨリ超増スル所ノ者ハ亦総テ賃耕者ノ利得ニ帰セシム 第二款 賃貸者カ賃佃者ニ対シテ結約スル牧畜ノ賃貸 第千六百九十三条 結約者ハ左項ニ掲記スル事件ヲ帯ヒタル契約ヲ締結スルコトヲ得可シ 賃佃者カ毳毛ノ自己ニ得有ス可キ部分ヲ尋常ノ価格ヨリ低降スル価格ヲ以テ賃貸者ニ売付スルコト 賃貸者カ賃佃者ノ得有ス可キ部分ヨリ超多ナル利益ヲ収取スルコト 賃貸者カ乳潼ノ半部ヲ収取スルコト 第千六百九十四条 賃貸者カ賃佃者ニ対シテ結約セル牧畜賃貸ノ期間ハ其地所賃佃ノ期間ト共ニ解止スル者トス 第千六百九十五条 此他ノ事項ニ関シテハ単純ナル牧畜賃貸契約ニ関スル規則ヲ以テ此種ノ牧畜賃貸契約ニ擬施スルコトヲ得可シ 第五節 不当ニ慣称シテ牧畜賃貸ト為ス所ノ牧畜ノ賃貸 第千六百九十六条 不当ニ慣称シテ以テ牧畜賃貸ト為ス所ノ牧畜賃貸ハ某ノ人カ一個若クハ数個ノ牝牛ヲ看守シ及ヒ豢養セシムル為メニ他ノ人ニ交付スル時会ニ於テ存在スル者トス而シテ賃貸者ハ唯乳殖スル犢牛ヲ利得シ其牝牛ノ如キハ依然トシテ賃借者ニ委放ス 第十篇 会社契約 第一章 総則 第千六百九十七条 会社ノ団結ハ一種ノ契約ニシテ之ニ依リ二個若クハ数個ノ人カ某ノ物件ヲ共用シ其物件ヨリ生出スル利益ヲ分収スル所ノ者ヲ謂フ 第千六百九十八条 凡テ会社ヲ団結スルニハ合法ノ物件ヲ以テ標率ト為シ而シテ結約者ノ共通利益ノ為メニ其契約ヲ締結スルコトヲ要ス 社員ハ貨幣其他ノ動産物件若クハ作業ヲ供出スルコトヲ得可シ 第二章 会社ノ差別 第千六百九十九条 会社ニ挙産ノ者有リ又特定ノ者有リトス 第一節 挙産会社 第千七百条 挙産会社ニ二種ノ差別有リトス即チ現有財産ノ全部ヲ以テシ及ヒ得益財産ノ全部ヲ以テスル者是ナリ 第千七百一条 現有財産ノ全部ヲ以テスル会社ハ社員カ其現有スル一切ノ動産物件及ヒ不動産物件ヲ挙ケテ以テ会社共通ノ者ト為シ而シテ会社カ其財産ヨリ抽取スル所ノ利益ヲ各社員ニ共有ス 此種ノ会社ハ他ノ諸般ノ得益ヲモ亦共通ト為スコトヲ得可シ然レトモ社員カ承産若クハ贈与ニ因テ各自ニ得有スル財産ニ関シテハ唯其使用権ノミヲ共通ト為スニ止マル故ニ此種ノ財産ヲ挙ケテ共通ト為サント欲スル契約ハ総テ効力ヲ有セサル者トス 第千七百二条 得益ノ全部ヲ共通スル会社ハ其結社ノ期間ニ在テハ仮令ヒ何等ノ名義ヲ以テスル者ニ係レルモ総テ社員ノ其作業ニ因テ得有スル利益ヲ包括ス然レトモ各社員カ会社ヲ結約スル時際ニ於テ現有スル一切ノ動産物件及ヒ不動産物件ニ関シテハ唯々其使用権ノミヲ共通ノ者ト為ス 第千七百三条 単ニ挙産会社ト称スル契約ニ別ニ他ノ公言ヲ為スコト無キ所ノ者ハ唯々得益財産ノ全部ヲ供出スルニ止マル所ノ会社ヲ結成ス 第千七百四条 何等ノ会社ト雖トモ唯々互相ニ転付ヲ為シ若クハ領諾ヲ為スニ合格ナル人ニシテ他ノ人ノ権理ヲ損害シテ以テ利益ヲ得有スルコトヲ禁止セラレサル所ノ者ノ間ニ於テノミ之ヲ結成スルコトヲ得可シ 第二節 特定会社 第千七百五条 特定会社トハ特別ニ確定セル某種ノ物件若クハ其物件ノ使用権若クハ其物件ヨリ抽取スル収額ヲ共通スルヲ其結社ノ標率ト為ス所ノ者即チ是ナリ 第千七百六条 数個ノ人カ確定セル某種ノ起工若クハ某種ノ職業ヲ挙行スル為メニ会社ヲ団結スル所ノ契約モ亦均シク特定会社ノ契約ニ部属スル者トス 第三章 社員カ其各社員トノ間ニ於テシ若クハ第三位ノ人ニ対シテ負担ス可キノ責務 第一節 社員カ其各社員トノ間ニ於テ負担ス可キノ責務 第千七百七条 会社ハ若シ特ニ他ノ期限ヲ明示スルニ非サレハ則チ其契約ヲ締結スルヤ即時ニ開創セル者ト看做ス 第千七百八条 若シ会社存続ノ期間ニ関シテ何等ノ約束ヲモ為サヽリシニ於テハ則チ其会社ハ社員ノ終身ニ向テ団結セル者ト看做ス但々第千七百三十三条ニ掲示スル特例ノ存スル有ルノミ又若シ其確定セル某種ノ事業ニ必要スル存続ノ期間在ル有ル所ノ者ニ関シテハ其存続ヲ必要スル期間ニ向テ団結セル者ト看做ス 第千七百九条 社員各自ニ会社ニ供出スルコトヲ約束セル一切ノ事物ニ関シテハ其会社ニ対スル負責主ト看做ス 其供出ス可キ者カ確定物件ニ係リ而シテ会社カ他人ノ褫奪ヲ受クルコト有ルニ於テハ則チ其物件ヲ供出シタル社員ハ会社ニ対シ売主カ買主ニ対シテ負担スル所ノ保証ノ責ト同一ナル保証ノ責ヲ負担セサル可カラス 第千七百十条 会社ニ向テ若干ノ金額ヲ供出スルコトヲ約束セル社員ニシテ而カモ之ヲ供出セサル所ノ人ハ其金額ヲ支付ス可キ本日ヨリ起算スル利息額ニ関シ会社ニ対スル負責主ト看做ス且若シ其金額ヲ支付セサル為メニ会社ニ損害ヲ被ラシムルコト有レハ則チ併セテ其賠償ノ責ニ応セサル可カラス 社員ハ会社ノ資本額内ヨリ収退スル金額ニ関シテハ自己ノ特別ナル利益ノ為メニ之ヲ収退シタル本日ヨリ起算スル利息額ニ関シ会社ニ対スル負責主ト看做ス 第千七百十一条 会社ニ対シテ自己ノ作業ヲ供用スルコトヲ約束セル社員ハ其結社ノ標率タル種類ニ係レル作業ヲ以テ自己ニ得有セル一切ノ収益ハ会社ニ向テ之ヲ計算ス可キ者トス 第千七百十二条 若シ社員ノ一人カ社外ノ一人ニ対シ既ニ要催ヲ為ス可キ金額ニシテ自己ニ特有スル所ノ者ニ関シテ責主ト為リ而シテ此社外ノ一人ハ会社ニ対シテモ亦均シク要催ヲ受ク可キ金額ニ関スル負責主ト為レルノ時会ニ於テハ此社員ハ此二項ノ貸付額ノ多少ニ比例シテ以テ自己ノ負責主ヨリ領収ス可キ者ト会社ノ負責主ヨリ領収ス可キ者トニ其弁償金額ヲ分当セサル可カラス仮令ヒ其領収証票ニハ全ク其弁償金額ヲ自己ノ貸付額ノ弁償ニ供充スルコトヲ記載セル者タルモ亦然リトス然レトモ若シ其領収証票ニ全ク会社ノ貸付額ノ弁償ニ供充スルコトヲ記載セルコト有ルニ於テハ則チ此公言ハ効力ヲ有スル者トス 第千七百十三条 若シ社員ノ一人カ共同貸付ニ関シテ自己ノ分当額ヲ領収シ而シテ爾後負責主カ弁償ニ耐ヘサルノ景況ニ陥ルコト有レハ則チ此社員ハ仮令ヒ特ニ自己ノ分当額ニ向テ領収証票ヲ付与セル者タルモ亦其領収シタル金額ヲ会社ニ提出セサル可カラス 第千七百十四条 社員ハ自己ノ過失ニ因テ会社ニ被フラシメタル損害ニ関シテハ会社ニ対シ其責ニ応ス可キ者ニシテ決シテ此社員ノ他ノ事業ニ関シ会社ニ得セシメタル利益ヲ以テ其損害ト償殺スルコトヲ得可カラス 第千七百十五条 若シ唯々使用権ノミヲ会社ニ供出シタル物件カ確定物件ニ係リ而シテ其使用ノ為メニ消耗セサル所ノ者タルニ於テハ則チ其物件ニ関スル危険ハ所有主タル社員之ヲ負担セサル可カラス 若シ供出物件カ其使用ノ為メニ消耗スル所ノ者若クハ存有スル日時間ニ毀隤スル所ノ者若クハ売付ニ供充スル所ノ者若クハ財産目録ヨリ生出スル評価額ヲ以テ会社ニ提出セラレタル所ノ者タルニ於テハ則チ其物件ニ関スル危険ハ会社之ヲ負担セサル可カラス 若シ供出物件カ評価ヲ経タル所ノ者タルニ於テハ則チ此社員ノ権理ハ唯々其評価ノ金額ヲ要求スルノミニ限止ス 第千七百十六条 社員ハ会社ニ対シテハ啻ニ自己ノ供弁シタル金額ノ還付ヲ要求スルノ訟権ヲ有スルノミナラス尚ホ且会社ノ利益ノ為メニスル事業ニ関シテ約諾シタル所ノ責務及ヒ其事業ノ幹理ト相密着スル所ノ損害ニ向テモ亦其賠償ヲ要求スルノ訟権ヲ有ス 第千七百十七条 若シ会社契約ヲ以テ得益若クハ損失ニ関スル各社員ノ分当額ヲ限定セサリシニ於テハ則チ其分当額ハ各自ニ会社ノ資本額ニ供出シタル金額ノ多少ニ比例ス可キ者トス 単ニ自己ノ作業ノミヲ供出シタル社員ノ分当額ニ関シテハ会社ノ得益若クハ損失ハ共ニ各社員中ノ最少額ヲ供出シタル人ノ分当額ニ比例ス可キ者トス 第千七百十八条 若シ社員カ各自分当額ノ限定ヲ社員ノ一人若クハ社外ノ一人ノ擅決ニ委付スルコトヲ約束セルニ於テハ則チ此分当額ノ限定ニ関シテハ唯々当然ノ事理ニ反対スル時会ニ於テノミ之ヲ訟撃スルコトヲ得可シ 損害ヲ被フリタリト称言スル社員カ分当額限定ノ通報ヲ受ケタル本日ヨリ以後ノ三月ヲ経過シタルカ若クハ此社員カ躬親カラ各自ノ分当額ヲ限定シタルニ於テハ則チ此事ニ関シテ何等ノ要求ヲモ為スコトヲ認許セラレサル可キ者トス 第千七百十九条 社員ノ一人ニ向テ時ニ会社ノ得益ノ全額ヲ収占セシムル如キノ契約ハ効力ヲ有セサル者トス 一人若クハ数人ノ社員ノ会社ニ供出シタル資本額ヲシテ損失ヲ分担スルコトヲ特免スル如キノ契約モ亦均シク効力ヲ有セサル者トス 第千七百二十条 会社契約ニ於ケル特別ノ約款ヲ以テ事務ノ幹理ヲ委任セラレタル社員ハ他ノ社員ノ抗沮スル有ルニ拘ハラス其幹理ニ関スル諸般ノ事為ヲ為スコトヲ得可シ但々詐偽ニ渉レル行為無キコトヲ要ス 此任務ハ正当ナル理由有ルニ非サレハ則チ会社ノ存続期間ニ在テハ之ヲ収奪スルコトヲ得可カラス然レトモ若シ其任務カ会社ヲ団結セルヨリ以後ノ行為ニ因テ付与セシ者タルニ於テハ則チ猶単純ナル代任ト一般ニ之ヲ収奪スルコトヲ得可シ 第千七百二十一条 若シ数人ノ社員カ事務ノ幹理ヲ負担シ而シテ其職掌ノ権限ヲ定メラルヽコト無キカ若クハ其員内ノ一人カ他ノ各員ノ協同ヲ得テ以テ事務ヲ処分ス可キコトヲ公言セラルヽコト無キニ於テハ則チ其人ハ各自ニ其事務ヲ処分スルコトヲ得可シ 第千七百二十二条 若シ幹理ニ当任スル数社員中ノ一人カ他ノ各員ノ協同ヲ得テ以テ事務ヲ処分ス可キ約束ノ在ル有ルヤ其人ハ特別ニ改換セル約束ニ依拠スルニ非サレハ則チ其処分ヲ決行スルコトヲ得可カラス仮令ヒ他ノ各員カ実ニ幹理ノ事務ニ関参スルコトヲ得可カラサルノ時会ニ於ケルモ亦然リトス但要急ノ事為ニシテ若シ其処分ヲ措擱スレハ則チ会社ノ為メニ回済ス可カラサル甚大ノ損害ヲ起生セシム可キ所ノ者ノ如キハ此例外ニ属ス 第千七百二十三条 幹理ノ方法ニ関シ特別ナル契約ヲ闕クコト有レハ則チ必ス左項ノ規則ニ准依スルコトヲ要ス 第一項 各社員ハ其一人カ他ノ一人ノ為メニ其事務ヲ幹理スルノ権理ヲ互相ニ付与シタル者ト看做ス故ニ其一人カ各自ニ為シタル事為ハ仮令ヒ各社員ノ承諾ヲ取ルコト無キモ亦各社員ニ対シテ効力ヲ有スル者トス但々各社員若クハ其一人ハ其事為ノ尚ホ未タ成完セサル以前ニ在テハ之ヲ抗沮スルコトヲ得可キノ権理ヲ有ス 第二項 社員タル各人ハ会社ニ属スル物件ヲ使用スルコトヲ得可シ但必ス地方ノ慣例ニ依テ指定セル使用法ニ従テ之ヲ使用スルコトヲ要シ且会社ノ利益ニ反対セス及ヒ各社員ノ其権理ニ依拠シテ以テ之ヲ使用スルニ妨碍セサル如ク之ヲ使用スルコトヲ要ス 第三項 社員タル各人ハ会社ニ属スル物件ヲ保存スル為メニ必要スル費用ハ自己ト共ニ之ヲ負担スルコトヲ他ノ各社員ニ要強スルコトヲ得可シ 第四項 社員タル各人ハ会社ニ属スル不動産ニ関スル新創ノ事業ハ若シ他ノ各社員ノ協認スルニ非サレハ則チ之ヲ興記スルコトヲ得可カラス仮令ヒ其新創ノ事業ノ能ク会社ニ利益スル有ル可シト思量スル所ノ者ニ係ルモ亦然リトス 第千七百二十四条 幹理ニ当任セサル各社員ハ会社ニ属スル物件ニシテ仮令ヒ動産ニ係レル者タルモ亦之ヲ転付シ若クハ之ヲ抵当ニ付スルコトヲ得可カラス 第千七百二十五条 社員タル各人ハ他ノ各社員ノ承諾ヲ取ルコト無キモ自己カ会社ニ向テ権理ヲ有スル部分ニ関シテハ第三位ノ人ト結約スルコトヲ得可シ然レトモ他ノ各社員ノ承諾ヲ取ルニ非サレハ則チ第三位ノ人ヲシテ会社ニ加入セシムルコトヲ得可カラス仮令ヒ自己カ会社事務ノ幹理ニ当任スルノ時会ニ於ルモ亦然リトス 第二節 社員カ第三位ノ人ニ対シテ負担ス可キノ責務 第千七百二十六条 商業ヲ以テ団結スル会社ニ非サル他ノ種類ノ会社ニ関シテハ其各社員ハ会社ノ逋債ヲ互相ニ特担スルコト無シ而シテ其各社員ハ社員タル一人ニ向テ特ニ権理ヲ付与スルニ非サレハ則チ其人ヲシテ責務ヲ負担セシムルコトヲ得可カラス 第千七百二十七条 社員タル各人ハ其結約セル所ノ責主ニ対シテハ各目ニ均派スル部分ニ向テ其責務ヲ負担ス可キ者トス仮令ヒ社員タル一人カ会社ニ在テハ最少数ノ資本額ヲ供出セル者タルモ若シ会社契約ニ於テ特ニ其最少数ニ比例シテ以テ責務ヲ減少スルコトヲ約束セサリシニ於テハ則チ亦然リトス 第千七百二十八条 社員ノ責務ハ会社ノ為メニ之ヲ約諾スト為セル所ノ契約ニ関シテハ唯々其契約ヲ締結シタル社員ノミ其責務ヲ負担ス可キ者ニシテ他ノ各社員ハ全ク之ニ関係スルコトヲ要セス但々他ノ各社員カ其結約シタル社員ニ向テ特ニ権理ヲ付与シタルコト有ルカ若クハ其結約ノ標率タル事物カ自カラ会社ノ利益ト為リシコト有ル如キハ此限ニ在ラス 第四章 会社ノ解散ス可キ諸般ノ方法 第千七百二十九条 会社ハ左項ノ各時会ニ於テ解散スル者トス 第一項 会社カ結約セシ存続期間ノ全ク満了シタルノ時会 第二項 会社ノ標率タル物件ノ毀滅シ若クハ創興セル事業ノ竣成シタルノ時会 第三項 社員タル一人カ死亡シタルノ時会 第四項 社員タル一人カ治産ノ禁止ヲ受ケ若クハ支弁ニ耐ヘス若クハ倒産ニ陥リタルノ時会 第五項 社員タル一人若クハ数人カ会社ヲ存続スルコトヲ欲セサルノ時会 第千七百三十条 限定セル期間ニ向テ団結シタル会社ノ存続期間ヲ延展スルハ唯会社契約ノ存在ヲ証明スル為メニ認許セル方法ニ依テノミ之ヲ証明スルコトヲ得可シ 第千七百三十一条 若シ社員タル一人カ一個ノ物件ノ所有権ヲ会社ノ共有ニ付スルコトヲ約束シ而シテ其物件カ実ニ供出ス可キ期日ヨリ以前ニ毀滅ニ帰スルコト有レハ則チ其会社ハ他ノ各社員ニ向テモ亦解散ニ帰ス可キ者トス 一個ノ物件ノ占有権ヲ会社ノ共有ニ付シ而シテ其所有権ハ之ヲ社員タル一人ノ手中ニ貯存スルニ於テハ則チ其会社ハ何等ノ時会タルヲ問ハス其物件ノ毀滅ニ帰スルニ因テ亦均シク解散ニ帰ス可キ者トス 然レトモ既ニ所有権ヲ供出シタル物件ノ毀滅ニ関シテハ其会社ハ決シテ解散ニ帰セサル者トス 第千七百三十二条 社員タル一人ノ死亡セル時会ニ当テハ其会社ハ死亡セル社員ノ承産者ト契約ヲ保続スルカ若クハ他ノ各社員ト契約ヲ保続スルコトヲ得可シ此後項ノ時会ニ在テハ死亡セル社員ノ承産者ハ其会社カ遺産者ノ死亡セル時際ニ於ケル景況ニ照シテ分配額ヲ要求スルノ権理ヲ有シ而シテ其死亡セル以後ノ権理ニ関シテハ其権理カ実ニ遺産者ノ死亡セル以前ニ執行シタル事業ニ関シ必然ニ生成ス可キ結果ニ係レルニ於テハ則チ承産者之ヲ分有スルコトヲ得可シ 第千七百三十三条 社員タル一人若クハ数人ノ意望ノ為メニスル会社ノ解散ハ唯々結社期間ヲ限定セサル会社ニ向テノミ之ヲ擬施ス可シ此解散ハ各社員ニ対シテ為ス所ノ退社ノ通知ニ依テ決行スル者トス但其退社ハ良意ヲ以テ之ヲ為シ而シテ時宜ニ適合セサル時会ニ於テ之ヲ為サヽルコトヲ要ス 第千七百三十四条 社員タル一人カ社員ノ共同シテ以テ抽取セシト約束シタル所ノ利益ヲ自己一人ニ収占スル為メニ退社セルニ於テハ則チ其退社ハ良意ヲ以テセサル者ト看做ス 又若シ会社ノ標率タル事物カ完全ナラサルニ因テ其会社ノ解散カ遅延スルコトヲ必要スル時際ニ当リ退社セルニ於テハ則チ其退社ハ時宜ニ適合セサル者ト看做ス 第千七百三十五条 限定セル期間ニ向テ団結セル会社ニ関シテハ其結約セル存続期間ノ未タ満了セサル以前ニ在テハ正当ナル事由例之ハ社員タル一人カ約束ニ違背スルコト有ルカ若クハ常ニ痼疾ヲ抱ク為メニ会社ノ事務ヲ幹理スルコト能ハサルカ此他之ニ類似スル如キノ事由有ルニ非サレハ則チ社員タル一人ニ因テ其解散ヲ請求スルコトヲ得可カラス 此事由ヲ商量スルハ法衙ノ戒慮ニ委付スル者トス 第千七百三十六条 遺産ノ分配、其分配ノ程式及ヒ其分配ニ関シテ共同承産者ノ間ニ生出スル責務ニ関スル規則ハ会社社員ノ間ニ於テスル分配ニ向テモ亦之ヲ擬施ス可シ 第十一篇 代任 第一章 代任ノ性質 第千七百三十七条 代任ハ一種ノ契約ニシテ之ニ依リ一個ノ人カ自己ニ向テ委託セル其人ノ為メニ報酬ヲ要求スルコト無ク若クハ給料ヲ領収シテ以テ某ノ事為ヲ為スコトヲ約束スル所ノ者即チ是ナリ 第千七百三十八条 代任契約ハ明示ヲ以テシ若クハ暗示ヲ以テシテ之ヲ締結スルコトヲ得可シ 代任ノ領諾モ亦暗示ヲ以テシ若クハ明示ヲ以テシテ之ヲ為スコトヲ得可ク即チ受任者カ委託セラレタル事為ヲ為スニ因テ生成スル者トス 第千七百三十九条 代任契約ハ若シ反対約款ノ在ル有ルニ非サレハ則チ総テ報酬ヲ要求スルコト無キ者ト看做ス 第千七百四十条 一個ノ事務若クハ一種ノ事業ニ関シテ委託スル代任ハ即チ特別ノ代任契約ト為シ又委任者ノ身上ニ関スル一切ノ事務ノ幹理ヲ委託スル代任ハ即チ総凡ノ代任契約ト為ス 第千七百四十一条 広汎ナル語辞ヲ以テ委託スル代任ト雖モ亦唯々幹理ニ関スル行為ノミヲ包括スルニ過キス 財産ノ転付若クハ抵当若クハ其他ノ行為ニシテ尋常ナル幹理ノ権限ヲ踰越スル所ノ者ニ関シテハ必ス代任契約書中ニ其事旨ヲ特記スルコトヲ要ス 第千七百四十二条 受任者ハ代任契約ノ権限ニ踰越スル行為ハ総テ之ヲ為スコトヲ得可カラス故ニ一箇ノ事件ニ関シテ協諾ヲ為スノ権理ハ仲裁人ヲ撰定シテ之ヲ裁決セシムルノ権理ヲ包含ス 第千七百四十三条 丁年権ノ認許ヲ受ケタル未丁年者ハ受任者ト為ルコトヲ得可シ然レトモ委任者ハ未丁年者タル受任者ニ対シテハ未丁年者ノ責務ニ関スル一般ノ規則ニ依拠スルニ非サレハ則チ訟権ヲ有セサル者トス 婦女タル者ハ其夫ノ認諾ヲ取ルニ非サレハ則チ代任ヲ領諾スルコトヲ得可カラス 第千七百四十四条 受任者カ自己ノ名義ヲ以テ其委託セラレタル事務ヲ処理シタルニ関シテハ委任者ハ受任者ノ結約セル第三位ノ人ニ対シテ何等ノ訟権ヲモ有スルコト無シ 此時会ニ於テハ受任者ハ其結約セル第三位ノ人ニ対シテ猶自己ノ身上ニ密着スル所ノ事務ヲ幹理スルト一般ナル直接ノ責務ヲ有ス 第二章 受任者ノ責務 第千七百四十五条 受任者ハ其任務期間ニ在テハ代任事務ヲ決行シ而シテ其決行ヲ闕クニ因テ起生セシメタル損害ノ責ニ応セサル可カラス 受任者ハ委任者ノ死亡セル時際ニ起生シタル事件カ若シ危険ヲ含有スル者タルニ於テハ則チ必ス其事件ヲ結落セシムルコトヲ要ス 第千七百四十六条 受任者ハ啻ニ代任事務ノ執行中ニ於テ為シタル詐偽ニ関スルノミナラス過失ニ関シテモ亦其ノ責ニ応セサル可カラス 此過失ノ責タル若シ其代任契約ニ関シテ報酬ヲ要求スルコト無キニ於テハ則チ報酬ヲ要求スル代任契約ニ比スレハ稍々軽減ニ従フ可キ者トス 第千七百四十七条 受任者ハ其任務ヲ結落スルヤ即チ委任者ニ対シ代任ニ因テ領受セシ諸般ノ事物ニ関スル説明ヲ為サヾル可カラス仮令ヒ委任者カ其事物ニ向テ権理ヲ有セサル所ノ者タルモ亦然リトス 第千七百四十八条 受任者ハ左項ノ時会ニ於テハ幹理事務ニ関シテ自己ニ代替セシメタル其人ノ為メニ責任ヲ負担セサル可カラス 第一項 委任者カ他ノ人ヲシテ事務ノ幹理ニ代替セシムルコトヲ受任者ニ認許セサルノ時会 第二項 此代替ニ関スル権理カ其人ヲ指定スルコト無クシテ受任者ニ認許セラレ而シテ受任者ノ撰択シタル其人カ明白ニ不能力ノ人タルカ若クハ支弁ニ耐ヘサルノ人タルノ時会 何等ノ時会ニ於テスルモ委任者ハ受任者カ代替セシメタル其人ニ対シテ直接ニ訟権ヲ行用スルコトヲ得可シ 第千七百四十九条 同一ノ行為ニ因テ指命セラレタル数人ノ受任者ノ在ル有ルヤ其数人ノ間ニ在テハ若シ明言ノ約束無キニ於テハ則チ互相特担ノ責務ヲ有セサル者トス 第千七百五十条 受任者ハ自已ノ供用ニ充テタル金額ニ関シテハ其使用セル本日ヨリ起算シテ以テ其利息ヲ支弁ス可ク又其交付ス可キ金額ニ関シテハ其交付ス可キ本日ヨリ起算シテ以テ其利息ヲ支弁セサル可カラス 第千七百五十一条 受任者ニシテ其受任者タル分限ヲ以テ結約スル一方ノ人ニ対シ自己ノ権限ヲ開示シタル所ノ人ハ仮令ヒ其権限ノ外ニ渉レル事物ヲ処分スルコト有ルモ亦何等ノ責ヲモ有セサル者トス但々躬親カラ其責ニ応ス可キコトヲ約束セル有ル如キハ此限ニ在ラス 第三章 委任者ノ責務 第千七百五十二条 委任者ハ受任者カ委託セラレタル権限ニ照シ約諾シタル責務ヲ必践セサル可カラス 委任者ハ受任者カ其権限ノ外ニ於テ処分シタル事物ニ関シテハ唯暗示ヲ以テシ若クハ明示ヲ以テシテ之ヲ追認シタル事物ニ向テノミ其責務ヲ必践ス可キ者トス 第千七百五十三条 委任者ハ受任者カ代任事務ヲ執行スル為メニ那移支弁シタル金額及ヒ其事ニ関スル費用ノ金額ヲ償還シ又若シ約束セル有ルニ於テハ則チ其給料ヲ交付セサル可カラス 若シ受任者ニ何等ノ過失タモ有ルコト無キニ於テハ則チ委任者ハ仮令ヒ其代任事務ノ完成ヲ見ルコト無キモ亦前項ノ償還及ヒ交付ニ関スル責務ヲ避免スルコトヲ得可カラス又其償還シ及ヒ交付ス可キ金額ノ過多ナルヲ口実ト為シテ以テ之ヲ減少スルコトヲ得可カラス 第千七百五十四条 委任者ハ受任者ニ何等ノ過失タモ有ルコト無キニ於テハ則チ受任者カ其代任事務ニ関シテ受ケタル損失ヲ弁償セサル可カラス 第千七百五十五条 委任者ハ受任者カ那移支弁シタル金額ノ利息ハ其那移支弁ノ確認セラレタル本日ヨリ起算シテ以テ之ヲ支付セサル可カラス 第千七百五十六条 若シ共同事務ノ為メニ数個ノ人カ代任ヲ委託セルニ於テハ則チ其各人ハ代任ヨリ生出スル諸般ノ功効ニ関シテハ受任者ニ対シ其責ニ応セサル可カラス 第四章 代任契約ノ解消スル諸般ノ方法 第千七百五十七条 代任契約ハ左項ノ事為ニ因テ解消ニ帰スル者トス 委任者カ為ス所ノ代任ノ収回 受任者カ為ス所ノ代任ノ放棄 委任者若クハ受任者ノ死亡、受治産禁若クハ倒産 委任者若クハ受任者ノ准受治産禁但々其代任契約カ委任者若クハ受任者ノ保管人ノ臨同ヲ必要スル行為ヲ以テ其標率ト為シタル者ノミニ限ル 第千七百五十八条 委任者ハ随意ニ其委託シタル代任ヲ収回シ而シテ代任契約ノ証憑タル証書ノ還付ヲ受任者ニ要求スルコトヲ得可シ 第千七百五十九条 唯受任者ノミニ向テ告知シタル代任ノ収回ハ以テ第三位ノ人ニシテ其収回ノ告知有リシコトヲ知ラス受任者ト結約シタル所ノ者ニ対抗スルコトヲ得可カラス然レトモ委任者ハ受任者ニ対シテ其訟権ヲ行用スルコトヲ得可シ 第千七百六十条 同一ナル代任事務ニ関シテ更ニ新タニ執行スル受任者ノ指命ハ以テ其ノ事旨ヲ最初ノ受任者ニ告知スル本日ヨリシテ其最初ノ受任者ニ委託シタル代任ノ収回ニ匹当スル者トス 第千七百六十一条 受任者ハ代任ノ拒却ヲ委任者ニ告知シテ以テ其領諾シタル任務ヲ放棄スルコトヲ得可シ 然レトモ若シ其放棄カ委任者ニ捐害ヲ与フルコト有ルニ於テハ則チ受任者ハ其損害ヲ賠償セサル可カラス但受任者カ自己モ亦甚大ナル損害ヲ被フル有ルニ非サレハ則チ其代任ノ任務ヲ続行スル能ハサル時会ノ如キハ此例外ニ在ル者トス 第千七百六十二条 受任者ハ委任者ノ死亡若クハ其他ノ事故ニシテ代任契約ノ解消ニ帰ス可キ所ノ者有ルコトヲ知ラス委任者ノ名義ニ依拠シテ以テ執行シタル諸般ノ事為ハ総テ効力ヲ有スル者トス但其結約セル第三位ノ人モ亦良意ヲ以テセシ者タルコトヲ要ス 第千七百六十三条 受任者ノ死亡セル時会ニ於テハ其代任契約ノ存在スルコトヲ知悉セル承産者ハ委任者ニ向テ死亡ノ事旨ヲ告知シ而シテ其景況カ委任者ノ利益ノ為メニ必要スル所ノ事為ノ如キハ必ス之ヲ為サヽル可カラス 第十二篇 協諾契約 第千七百六十四条 協諾ハ一種ノ契約ニシテ之ニ依リ結約者カ各自ニ或種ノ事物ヲ転付シ約束シ若クハ存持シテ以テ既ニ争訟ヲ起発セル所ノ事件ヲ結落シ若クハ将サニ争訟ヲ起発セントスル所ノ事件ヲ和解スル所ノ者ヲ謂フ 第千七百六十五条 協諾契約ヲ締結スル為メニハ其協諾契約中ニ包含スル所ノ事物ヲ自由ニ処分スルニ合格ナル権理ヲ具有スルコトヲ要ス 第千七百六十六条 犯罪ヨリ生出スル民事上ノ訟権ニ関シテモ亦協諾契約ヲ締結スルコトヲ得可シ 此種ノ協諾契約ハ以テ検事ノ追求ニ妨阻ヲ為サヽル者トス 第千七百六十七条 協諾契約ニ関シテハ其履行ヲ闕ク有ル時会ノ為メニ罰款ヲ要約スルコトヲ得可シ 此罰款ハ其履行ヲ遅延スル為メニ起生スル損害ニ代フル所ノ者ニシテ決シテ協諾契約ノ履行ニ関スル責務ヲ消滅セシムルコト無シ 第千七百六十八条 協諾契約ノ効力ハ其標率ト為ス所ノ事物ノ外ニ在ル事物ニ推及ス可キ者ニ非ス又諸般ノ権理及ヒ訟権ノ棄捐ノ如キモ亦其効力ハ唯々其協諾契約ヲ要シタル争訟ニ関係スル事物ノミニ限止ス 第千七百六十九条 協諾契約ハ其結約者カ特別若クハ広泛ナル語辞ヲ以テ各自ノ意思ヲ表示シタルト此意思カ其明言シタル事物ニ必要ナル成跡ニ係レルトヲ問ハスシテ唯其契約上ニ指示セル所ノ争訟ヲ結落セシムルヲ以テ其目的ト為ス者トス 第千七百七十条 若シ自己ノ名義ヲ以テ保有スル権理ニ関シテ協諾契約ヲ締結シタル人カ爾後ニ他人ノ名義ヲ以テ同様ナル権理ヲ得有スルコト有ルヤ其新タニ得有シタル権理ニ関シテハ協諾契約ノ羈縛ヲ受ケサル者トス 第千七百七十一条 関係者ノ一人ニ因テ特ニ締結シタル協諾契約ハ以テ他ノ関係者ヲ羈縛スル者ニ非ス又他ノ関係者ハ此協諾契約ニ依拠シテ以テ対抗スルコトヲ得可カラス 第千七百七十二条 協諾契約ハ其結約者ノ間ニ在テハ既決裁判ノ宣告ニ匹当スル権力ヲ有スル者トス 協諾契約ハ権理誤錯ノ理由若クハ損失ノ理由ニ依拠シテ以テ之ヲ訟撃スルコトヲ得可カラス然レトモ計算ノ差誤ニ関シテハ其改正ヲ訟求スルコトヲ得可シ 第千七百七十三条 然リト雖モ若シ詐偽、脅迫有ルノ時会若クハ差錯即チ人件若クハ争訟ニ関スル物件ニ存スル差錯有ルノ時会ニ於テハ此協諾契約ニ関シテモ亦契約無効ノ訟権ヲ許与セラル可キ者トス 第千七百七十四条 効力ヲ有セサル名義ヲ以テ締結シタル協諾契約ノ如キモ亦之ヲ訟撃スルコトヲ得可シ但々結約者カ特ニ其無効タルコトヲ知悉シ而シテ尚ホ之ニ向テ結約セル者ノ如キハ此限外ニ在リトス 第千七百七十五条 一個ノ証券ニシテ爾後ニ虚偽ノ証券タルコトヲ覚知セル所ノ者ニ向テ締結シタル協諾契約ノ如キモ亦全ク効力ヲ有セサル者トス 第千七百七十六条 結約ノ双方若クハ其一方カ既決裁判ノ宣告ニ因テ既ニ己ニ結落シタル争訟タルコトヲ知悉セスシテ是カ為メニ締結シタル協諾契約ノ如キモ亦均シク効力ヲ有セサル者トス 第千七百七十七条 結約者ノ双方カ其間ニ生出スル諸般ノ事件ニ向テ広泛ニ協諾契約ヲ締結シタルニ於テハ則チ其結約セル時際ニ在テハ覚知セサリシ証券ニシテ爾後ニ発見シタル所ノ者ハ以テ其協諾契約ヲ訟撃スルニ十分ナル根拠ト為スニ足ラス但々其証券カ結約者ノ一方ノ為メニ隠匿セラレタル者ノ如キハ此限ニ在ラス 然レトモ若シ協諾契約カ一個ノ物件ニ専関スル者ニシテ而シテ其日後ニ発見シタル証券ニ依テ結約者ノ一方ノ実ニ其物件ニ何等ノ権理ヲモ有セサルコトヲ証明シ得可キニ於テハ則チ其協諾契約ハ効力ヲ有セサル者トス 第十三篇 年金設定契約 第千七百七十八条 一人カ他ノ一人ニ向テ一個ノ不動産ヲ譲与シ若クハ若干ノ資本金ヲ交付シ而シテ其人ヲシテ金額若クハ収獲物ヲ以テ年租金ヲ自己ニ納致セシムルヲ要約スルコトヲ得可シ但々其不動産若クハ資本金ハ決シテ還付ヲ要求スルコトヲ得可カラス 第千七百七十九条 年金ノ設定ハ無期若クハ終身ニ向テ之ヲ要約スルコトヲ得可シ 終身年金ノ設定ハ次篇ニ掲示スル規則ニ遵依シテ以テ之ヲ要約スルコトヲ得可シ 第千七百八十条 不動産ヲ売付セシ価直ヲ交付シ若クハ不動産ヲ譲与スル規約ヲ立定シテ以テ設定スル年金契約ハ其要報ノ者ト其不要報ノ者トヲ問ハスシテ之ヲ「ラント、フォンシエール」則チ地所ニ関スル年金契約ト称ス 第千七百八十一条 前条ニ掲記セル不動産ノ譲与ハ反対約款ノ在ル有ルニ拘ハラス受譲者ニ対シテ完全ナル所有権ヲ転付スル者トス 若シ其譲与カ要報契約ノ名義ヲ以テ之ヲ為セル者タルニ於テハ則チ売買契約ニ関シテ設定セル規則ニ遵依スルコトヲ要シ又若シ其譲与カ不要報契約ノ名義ヲ以テ之ヲ為セル者タルニ於テハ則チ贈与ニ関シテ設定セル規則ニ遵依スルコトヲ要ス 第千七百八十二条 資本金ヲ交付シテ以テ設定スル年金契約ハ之ヲ単純ノ年金契約ト称シ若クハ之ヲ「サンス」ト称ス而シテ負責主ハ指定セル地所ヲ供出シテ券記抵当ト為シ以テ之ヲ確保セサル可カラス然ラサレハ則チ其資本金ノ還付ヲ要求セラル可キ者トス 第千七百八十三条 前二条ノ明文ニ遵依シテ以テ設定セル年金契約ハ反対約款ノ在ル有ルニ拘ハラスシテ負責主之カ解破ヲ訟求スルコトヲ得可シ 然レトモ此年金契約ノ解破ハ譲与者ノ終身間若クハ限定セル期間内ニ於テ之ヲ決行セスト約束スルコトヲ得可シ此期間ハ地所ノ年金契約ニ関シテハ三十年、其他ノ年金契約ニ関シテ十年ニ踰越セシムルコトヲ得可カラス 又負責主ハ責主ニ向テ通報ヲ為スヨリ以後ニ於ケル若干ノ期間ヲ満過スルニ非サレハ則チ年金契約ノ解破ヲ決行セスト約束スルコトヲ得可シ此期間ハ一年ニ踰越セシムルコトヲ得可カラス 若シ前二項ニ規定セル期間ニ踰越スル期間ニ向テ締結セル所ノ年金契約ハ此制限ニ減縮セラル可キ者トス 第千七百八十四条 単純ノ年金契約ニ関スル解破ハ年金契約ヲ設定スル為メニ交付セラレタル資本金ヲ還償スルニ因テ完成シ又地所ノ年金契約ニ関スル解破ハ合法ノ利息額ニ根拠シテ以テ年金額ニ比例スル金額ヲ支弁スルカ若クハ年金契約ノ価直金ニ比例スル金額ヲ支弁スルニ因テ完成ス又若シ年租カ収獲物ヲ以テ約束シタル者ニ関シテハ其終期ニ当レル十年間ノ年租額ヲ比較平均スル金額ヲ支弁スルニ因テ完成ス但年金契約上ニ於テ尚ホ此資本金額ヨリモ低減セル資本金額ヲ約定セル者ノ如キハ此例外ニ属シ而シテ此時会ニ於テハ負責主ハ約定セル資本金額ヲ還償シテ以テ其責務ヲ解卸スルコトヲ得可シ 第千七百八十五条 年金契約上ニ明言セル契約解破ノ時会ノ外ニ左項ニ列記スル時会ニ在テハ負責主其解破ノ要強ヲ受ケサル可カラス 第一項 負責主カ合規ノ督促ヲ受ケタル以後ノ二年間尚ホ其年金ヲ責主ニ納致セサリシノ時会 第二項 負責主カ年金契約ニ於テ約定セル保証ヲ責主ニ供出セサリシノ時会 第三項 負責主ノ提供セル保証カ缺失シタルモ更ニ之ニ換代ス可キ保証ヲ責主ニ供出セサルノ時会 第四項 転付若クハ分配ノ効力ニ依拠シテ以テ年金契約ノ設定及ヒ確保ニ供充シタル地所カ三人以上ノ占有者ノ間ニ分配セラレタルノ時会 第千七百八十六条 負責主カ倒産シ若クハ支弁ニ耐ヘサル景況ニ陥ルコト有レハ則チ亦其年金契約ヲ解破ス可キ者トス 然レトモ地所ノ年金契約ニ関スル時会ニ於テ若シ負責主カ倒産シ若クハ支弁ニ耐ヘサル景況ニ陥ルヨリ以前ニ其年金契約ニ供充セル地所ヲ転付シ而シテ其地所ノ占有者カ年金ノ納致ニ応ス可シト公言シ其納致ヲ確保スルニ十分ナル保証ヲ供出セルニ於テハ則チ責主ハ其年金契約ノ解破ヲ要強シ得可キノ権理ヲ有セス 第千七百八十七条 責課ヲ践履セサル時会ノ為メニスル明示若クハ暗示ノ規約ハ以テ其契約解破ノ訟求ヲ公簿ニ証記セラルヽヨリ以前ニ第三位ノ人ノ得有シタル権理ヲ妨阻スルコトヲ得可カラス 第千七百八十八条 第千七百八十三条第千七百八十四条第千七百八十五条及ヒ第千七百八十六条ノ各条則ハ何等ノ名義ヲ以テスルニ拘ハラス仮令ヒ遺嘱ノ行為ヲ以テスル者タルモ亦他ノ無期ニ於テスル年納契約ニ擬施スルコトヲ得可シ但々官有水流ノ譲与ニ関スル年納契約及ヒ地所ノ賃佃ニ関スル年納契約ノ如キハ此例外ニ在ル者トス 第十四篇 終身ニ向テ設定スル年金契約 第一章 終身年金契約ノ有効タル為メニ必要スル規約 第千七百八十九条 終身年金契約ハ一個ノ金額若クハ他ノ動産物件若クハ不動産物件ヲ把リ要報ノ契約ヲ以テ之ヲ設定スルコトヲ得可シ 第千七百九十条 又此終身年金契約ハ贈与若クハ遺嘱ノ行為ニ依リ不要報ノ契約ヲ以テスルモ亦之ヲ設定スルコトヲ得可シ此等ノ時会ニ於テスル終身年金契約ハ必ス此等ノ行為ニ関シテ規定セル法律上ノ程式ヲ践行シテ以テ之ヲ設定スルコトヲ要ス 第千七百九十一条 贈与ニ因リ若クハ遺嘱ニ因テ設定セル終身年金契約ハ若シ遺産ニ向テ自由ニ処分スルコトヲ認許セラレタル部分ニ超過スルコト有レハ則チ減殺ヲ受ケサル可カラス又若シ諾受ヲ為スニ不合格ナル人ノ為メニ設定セル終身年金契約ハ其効力ヲ有セサル者トス 第千七百九十二条 終身年金契約ハ其価直額ヲ備弁スル其人ノ生存中ニ向テ之ヲ設定シ若クハ第三位ノ人ニシテ其年金ニ権理ヲ有セサル其人ノ生存中ニ向テ之ヲ設定スルコトヲ得可シ 第千七百九十三条 終身年金契約ハ一人若クハ数人ノ生存中ニ向テ之ヲ設定スルコトヲ得可シ 第千七百九十四条 終身年金契約ハ仮令ヒ他ノ人カ其価直額ヲ供弁スルモ亦第三位ノ人ノ為メニ之ヲ設定スルコトヲ得可シ 此時会ニ於テハ其終身年金契約ハ仮令ヒ恩恵ノ性質ヲ有スルモ亦復タ贈与ニ関シテ規定セル程式ヲ践行スルコトヲ要セス然レトモ第千七百九十一条ニ掲示スル時会ニ於テハ其契約ハ減殺ヲ受クルカ若クハ無効ニ帰ス可キ者トス 第千七百九十五条 終身年金契約ヲ設定セル時際ニ既ニ己ニ死亡シタル人ヲ以テ其標率ト為シタル終身年金契約ハ何等ノ効力ヲモ生出スルコト無シ 第二章 結約者ノ間ニ於ケル終身年金契約ノ効力 第千七百九十六条 自己ノ利益ノ為メニ終身年金契約ヲ設定セラレタル其人ハ若シ結約者カ其結約ニ関スル保証ヲ供出セサルコト有レハ則チ之カ解破ヲ訟求スルコトヲ得可シ 第千七百九十七条 年金納致ノ延滞ハ以テ自己ノ利益ノ為メニ終身年金契約ヲ設定セラレタル其人ヲシテ資本金ノ還償ヲ訟求シ若クハ不動産ノ占有ヲ収復セシムルニハ足ラサル者ニシテ其人ハ唯々負責主ノ財産ヲ勒抵セシメ若クハ之ヲ売放セシムルノ権理ノミヲ有ス而シテ若シ負債主カ之ヲ承諾セサルニ於テハ則チ其売放セル価直額内ヨリ年金ノ支弁ニ十分ナル金額ヲ供弁セシムルコトヲ法衙ニ訟求スルヲ得可シ 第千七百九十八条 負責主ハ資本金ヲ還償シ而シテ其既ニ納致セシ年金ノ還付ヲ要求スル権理ヲ放棄シ以テ其終身年金契約ヲ解破スルコトヲ得可カラス故ニ一個若クハ数個ノ人ヲ以テ標率ト為シタル終身年金契約ヲ設定セラレタル其人ノ生存スル間ニ在テハ仮令ヒ其人ノ生命カ長久ニ渉ルコト有ルモ其年金納致ノ責課カ損失ヲ与フルコト有ルモ亦必ス其約定セル年金ヲ支弁セサル可カラス 第千七百九十九条 終身年金契約ハ所得者ノ生存■ル間ノ日数ニ比例シテ以テ之ヲ支弁ス可キノ責務ヲ負責主ニ負担セシムル者トス 然レトモ若シ年金ヲ予支ス可キ約束ヲ以テセル年金契約ニ関シテハ各期ニ派当セル部分ノ年金ハ其支弁ス可キ本日ヨリシテ之ヲ得有スル者トス 第千八百条 終身年金契約ハ唯々不要報ノ契約ヲ以テ設定セル時会ニ於テノミ其年金ハ勒抵ヲ受ケサル可シト約束スルコトヲ得可シ 第千八百一条 終身年金契約ハ所有者ノ其民法上ノ権理ヲ喪失スルニ因テ解消ニ帰セサル者トス而シテ其年金ハ所得者ノ生存スル間ニ在テハ法律上ニ於テ指定セル其人ニ対シテ之ヲ納致セサル可カラス 第十五篇 遊戯及ヒ賭博 第千八百二条 法律ハ遊戯若クハ賭博ニ因テ逋負スル所ノ債額ノ弁償ニ関シテハ何等ノ訟権ヲモ許与スルコト無シ 第千八百三条 遊戯ニシテ身体ノ運動ニ資助スル所ノ者例之ハ兵器ヲ操演シ若クハ闘走競車擲毬及ヒ其他此種ノ性質ニ属スル遊戯ノ如キハ此限ニ在ラス然レトモ法衙ハ此種類ノ遊戯ニ向テ約賭セル金額カ過多ニ渉レル者ニ対シテハ其弁償ノ訟求ヲ拒却スルコトヲ得可シ 第千八百四条 賭博ニ関シテ失敗ヲ取リタル人ハ何等ノ時会ニ於テスルモ自己任意ニ交支シタル所ノ者ノ還付ヲ訟求スルコトヲ得可カラス但々其得勝ヲ占メタル人ニ詐偽若クハ詭策ノ在ル有リテ失敗ヲ取リタル人カ未丁年者受治産者若クハ准受治産禁者ニ係レル如キハ此限ニ在ラス 第十六篇 使用権貸借 第一章 使用権貸借ノ性質 第千八百五条 「コンモダー」即チ使用権ノ貸借ハ一種ノ契約ニシテ之ニ依リ結約者ノ一方カ一個ノ物件ヲ他ノ一方ニ交付シ其一方カ若干ノ期間約定セル使用法ニ従テ其物件ヲ使用シ而シテ原物ヲ以テ還付ヲ為ス可キ責務ヲ有スル所ノ者ヲ謂フ 第千八百六条 使用権貸借ノ契約ハ其性質タル純然ニ不要報ノ契約ニ係レル者トス 第千八百七条 使用権ノ貸借ニ関シテ為ス所ノ約諾ハ貸付者借用者共ニ其承産者ニ転移スル者トス 然レトモ使用権貸借ノ契約カ専ラ借用者ノ商量ニ成リ而シテ単ニ其人ニ密属スル所ノ者タルニ於テハ則チ其承産者ハ借用物件ノ使用ヲ続行スルコトヲ得可カラス 第二章 借用者ノ責務 第千八百八条 借用者ハ借用物件ヲ看守シ及ヒ之ヲ保存スルニ関シテハ好家主長ト一般ナル注意ヲ以テスルコトヲ要シ且其借用物件ノ性質若クハ契約上ニ指定セル使用法ニ従テ之ヲ使用スルコトヲ要ス然ラサレハ則チ其由テ以テ起生セシムル所ノ損害ヲ賠償セサル可カラス 第千八百九条 若シ借用者カ約定セル使用法ニ非サル他ノ使用法ニ従テ借用物件ヲ使用スルカ若クハ契約上ノ使用期限ヨリ以後尚ホ之ヲ使用スルニ於テハ則チ偶然ノ事故ニ因テ起生セル毀滅ニ関スル損害ト雖トモ亦必ス其責ニ応セサル可カラス但々借用者カ仮令ヒ他ノ使用法ニ従テ其借用物件ヲ使用セサリシモ若クハ契約上ノ使用期限ニ照シテ之ヲ還付シタリシモ亦均シク必ス毀滅ニ帰ス可カリシ事由ヲ証明スルコトヲ得ル者ノ如キハ此例外ニ在リトス 第千八百十条 若シ借用物件カ偶然ノ事故ニ因テ毀滅ニ帰スルコト有ルニ当リ若シ借用者カ自己所有ノ物件ニ係ラハ則チ其災害ヲ遅免セシムルコトヲ得可カリシカ若クハ唯々二個ノ物件ノ其一ノミ僅カニ救脱セシムルコトヲ得可キノ時会ニ在テ自己所有ノ物件ヲ救脱セシメタルニ於テハ則チ其借用物件ニ関スル損害ノ責ニ応セサル可カラス 第千八百十一条 若シ借用物件カ其貸借ヲ結約スルノ時際ニ評価ヲ経タル者タルヤ仮令ヒ偶然ノ事故ニ因テ起生スル損害ニ係ルモ反対約款ノ在ルコト無キニ於テハ則チ借用者其責ニ応セサル可カラス 第千八百十二条 若シ借用物件カ貸借ニ付セラレタル使用法ノ効力ニ依拠スル使用ノ為メニ毀損シ而シテ其毀損カ毫モ借用者ノ過失ニ因ルコト無キニ於テハ則チ借用者其ノ責ニ応スルコトヲ須ヒス 第千八百十三条 若シ借用者ヲシテ借用物件ノ使用ニ関シ費用ヲ支消セシメタルコト有レハ則チ貸付者ハ賠償ヲ要求スルコトヲ得可カラス 第千八百十四条 若シ数個ノ人カ連帯シテ以テ一個ノ物件ヲ借用セルニ於テハ則チ此共同借用者ハ貸付者ニ対シテ互相特担ノ責務ヲ有ス 第三章 使用権ヲ貸付スル人ノ責務 第千八百十五条 貸付者ハ約定セシ期間ヲ満了セル以後若シ期間ヲ約定セサリシナラハ貸付物件カ貸借ニ付セラレタル使用法ノ効力ニ依拠スル使用ヲ完了セル以後ニ於テスルニ非サレハ則チ其貸付物件ヲ収回スルコトヲ得可カラス 第千八百十六条 然リト雖モ若シ約定セル期限ヨリ以前若クハ約束シタル使用ノ未タ完了セサル以前ニ急遽ニシテ且予知ス可カラサル要用ノ貸付者ニ起発スルコト有ルニ於テハ則チ法衙ハ其景況ヲ酌量シ借用者ニ対シテ借用物件ノ還付ヲ命令スルコトヲ得可シ 第千八百十七条 若シ貸借期間ニ在テ借用者カ借用物件ノ保存ニ関シ非常且必需ナル費用ニシテ貸付者ニ通報シテ以テ支弁セシムルニ暇マ無キ如ク其レ急遽ナル所ノ者ヲ支弁シタルニ於テハ則チ貸付者ハ必ス其費用ヲ借用者ニ還償セサル可カラス 第千八百十八条 若シ貸与物件カ借用者ヲシテ損害ヲ被フラシム可キ如キノ瑕疵ヲ含有シ而シテ貸付者カ其瑕疵ヲ知悉スルモ之ヲ借用者ニ告知セサリシニ於テハ則チ貸付者ハ其損害ノ責ニ応セサル可カラス 第十七篇 貸借 第一章 貸借ノ性質 第千八百十九条 消費物件ノ貸借ハ一種ノ契約ニシテ之ニ依リ結約者ノ一方カ他ノ一方ニ物件ノ若干ヲ交付シ其一方カ同種同質且同額ナル消費物件ヲ以テ還付ヲ為ス可キ責務ヲ有スル所ノ者ヲ謂フ 第千八百二十条 借用者ハ貸借契約ノ効力ニ依拠シテ以テ其借用物件ノ所有主ト為ル故ニ其物件ハ仮令ヒ何等ノ事故ニ因テ毀滅ニ帰スルコト有ルモ其毀滅ニ関スル損害ハ総テ借用者ノ負担ス可キ者トス 第千八百二十一条 貨幣ヲ以テスル貸借ニ生出スル責務ハ其貸借契約書ニ掲記セル数額ニ向テ存在スル者トス故ニ弁償期限ノ未タ到来セサル以前ニ貨幣ノ価格カ増昂シ若クハ減降スルコト有ルモ負責主ハ貸借契約書ニ掲記セル数額ニ確照シテ之ヲ弁償ス可キ者タルニ拠リ唯其弁償ヲ為ス可キ時際ニ通用スル所ノ貨幣ヲ把リ掲記ノ数額ヲ弁償スルノミヲ以テ足レリトス 第千八百二十二条 若シ金貨若クハ銀貨ヲ以テ貸付ヲ為シ而シテ同種同額ノ貨幣ヲ以テ還償ス可キ約束ヲ立定シタル者ニ対シテハ前条ノ規則ヲ擬施スルコトヲ得可カラス 又若シ貸借セシ貨幣カ其品位ニ変換ヲ生シタルカ若クハ其貨幣ノ同種類ナル貨幣ヲ供弁スルコト能ハサルカ若クハ其貨幣カ通用ヲ廃止セラルヽコト有ルニ於テハ則チ其貨幣カ貸借ニ付セラレタル時際ニ保有セシ実価ニ准算シ他ノ貨幣ヲ以テ之カ弁償ヲ為ス可キ者トス 第千八百二十三条 若シ貸借カ金属ノ料塊ヲ以テシ若クハ穀果ヲ以テシテ之ヲ為セル者タルニ於テハ則チ負責主ハ仮令ヒ其借用物件ノ価格ニ昂低ヲ生スルコト有ルモ同質同額ノ物件ヲ以テ之カ弁償ヲ為スコトヲ得可シ 第二章 貸付者ノ責務 第千八百二十四条 消費物件ノ貸借ニ関シテハ貸付者ハ第千八百十八条ニ規定セル使用権ノ貸借ニ関スル貸付者ノ責務ト同一ナル責務ヲ有ス 第千八百二十五条 貸付者ハ約定セル期限ノ未タ到来セサル以前ニ在テハ貸付物件ノ還付ヲ要求スルコトヲ得可カラス 第千八百二十六条 若シ其還付ニ関シテ何等ノ期限ヲモ約定セサリシニ於テハ則チ法衙ハ其景況ニ応シテ延期ヲ認許スルコトヲ得可シ 第千八百二十七条 若シ借用者カ弁償ヲ為シ得可キ時会ニ遭ヒ若クハ弁償ヲ為シ得可キ方法ヲ有スレハ則チ弁償ヲ為ス可シト結約シタル所ノ貸借ニ関シテハ法衙ハ其景況ニ応シ弁償ヲ為サシム可キノ期限ヲ指定ス 第三章 借用者ノ責務 第千八百二十八条 借用者ハ借用物件ト同質同額ノ物件ヲ以テ約束セシ期限ニ照シ之カ弁償ヲ為サヽル可カラス若シ此弁償物件ヲ闕クコト有ルニ於テハ則チ其貸借契約ニ確遵シ指定シタル時日及ヒ場地ニ於ケル貸借物件ノ時価ニ准算シテ以テ之カ弁償ヲ為サヽル可カラス 若シ其貸借契約上ニ時日及ヒ場地ヲ指定セサリシニ於テハ則チ其弁償ハ借用者カ弁償ヲ為ス可キ景況ニ在ルノ時際ト貸借ヲ為シタル場地トニ於ケル貸借物件ノ時価ニ准算シテ以テ之カ弁償ヲ為サヽル可カラス 第四章 加息貸借 第千八百二十九条 貨幣若クハ穀果若クハ他ノ動産物件ヲ以テスル貸借ニ関シテハ其利息ヲ賦加スルノ要約ヲ為スコトヲ得可シ 第千八百三十条 約束セサリシ利息ヲ支弁シ若クハ約束セル利息ニ超過スル利息ヲ支弁シタル借用者ハ其還付ヲ要シ若クハ母額ノ計内ニ就キテ之ヲ扣断スルコトヲ得可カラス 第千八百三十一条 利息額ヲ限定スルニハ法律上ニ於テスル者有リ契約上ニ於テスル者有リ 法律ノ利息ハ民事ニ関シテハ一百分ノ五ト為シ商事ニ関シテハ一百分ノ六ト為ス是仮令ヒ利息ヲ支弁ス可キノ約束無キモ当然ニ利息ヲ支弁セシム可キ時会ニ向テ之ヲ擬施スル所ノ者トス 契約上ノ利息ハ結約者ノ意度ニ任セテ之ヲ限定スル所ノ者トス 民事ニ関シテハ法律上ノ利息ニ超過スル契約上ノ利息ハ録記ノ証券ニ確照スルコトヲ要ス之ニ反対スル時会ニ於テハ何等ノ利息ヲモ支弁スルコトヲ要セス 第千八百三十二条 負責主ハ貸借契約書ノ記日ヨリ以後ノ五年ヲ満過スレハ則チ反対約款ノ在ル有ルニ拘ハラス法律上ノ制限ニ超過スル利息ヲ賦加セル所ノ母額ヲ還償スルコトヲ得可シ然レトモ六月以前ニ於テ録記ノ通報ヲ為サヽル可カラス而シテ此通報ハ嘗テ約束セシ期限延展ノ権理ヲ放棄スル者トス 第千八百三十三条 前条ノ規則ハ年金設定契約及ヒ年賦法ヲ以テ年々ニ利息ト母額トヲ償減スル契約ニ向テ之ヲ擬施ス可シ 此条則ハ政府若クハ邑若クハ其他ノ無形人ニシテ法律上ニ必要スル認許ヲ経タル所ノ者ノ興創セル公債ニ向テモ亦之ヲ擬施ス可シ 第千八百三十四条 利息ニ関スル事項ヲ記載セサル母額ノ領収証票ト雖モ依テ以テ利息ヲ支付シタリト推断スルコトヲ得可キ者トス故ニ若シ反対ノ証拠ノ在ル有ルニ非サレハ則チ既ニ弁償ヲ清完シタル者ト看做ス 第十八篇 寄託及ヒ争訟ニ関スル寄託 第千八百三十五条 一般ニ寄託ト称スルハ即チ一個ノ行為ニシテ之ニ依リ某ノ人カ他ノ人ヨリ物件ヲ接受シ且管守シテ以テ復タ之ヲ其人ニ還付ス可キ責務ヲ有スル所ノ者ヲ謂フ 第千八百三十六条 寄託ニハ二種ノ差別有リトス即チ正当ノ寄託ト慣称スル寄託及ヒ争訟ニ関スル寄託是ナリ 第一章 正当ノ寄託 第一節 寄託ノ性質 第千八百三十七条 正当ノ寄託ハ一種ノ契約ニシテ純然ニ不要報ニ係リ単ニ動産物件ヲ以テ其標率ト為ス所ノ者ヲ謂フ 寄託契約ハ物件ヲ授受スルニ非サレハ則チ未タ以テ成立セサル者トス 物件ノ授受カ双方ノ承諾ニ因テ成ルハ唯々受託者カ既ニ他ノ名義ヲ以テ其寄託セント約束スル所ノ物件ヲ自己ノ手中ニ存持スル時会ノミニ限止ス 第千八百三十八条 寄託ハ必ス任意ニ因テ之ヲ為シ若クハ緊要ニ因テ之ヲ為スコトヲ要ス 第二節 任意ノ寄託 第千八百三十九条 任意ノ寄託ハ物件ヲ寄託スル人ト之ヲ接受スル人トノ衷心ニ出ル承諾ニ因テ成立スル者トス 第千八百四十条 任意ノ寄託ハ寄託物件ノ所有主ノ承諾ニ因リ或ハ所有主ノ暗示若クハ明示ノ承諾ニ因テ成立スル者トス 第千八百四十一条 任意ノ寄託ハ契約ヲ締結スルニ合格ナル人ノ間ニ於テスルニ非サレハ則チ之ヲ為スコトヲ得可カラス 然レトモ契約ヲ締結スルニ合格ナル人ニシテ不合格ナル人ノ寄託スル物件ヲ接受セル所ノ者ハ真正ナル受託者ニ関スル一切ノ責務ト同一ナル責務ヲ有シ而シテ此人ハ寄託者ノ後見人若クハ管理人ノ為メニ裁判上ノ追求ヲ受ケサル可カラス 第千八百四十二条 若シ任意ノ寄託ニシテ合格ナル人カ不合格ナル人ニ向ヒ為シタル所ノ者ニ関シテハ寄託者ハ其寄託物件カ受託者ノ手中ニ存在スルニ於テハ則チ之ヲ要還スルノ訟権ヲ有シ又若シ其寄託物件カ受託者ノ得益ヲ為シタルニ於テハ則チ其得益ノ数額ニ達スル迄ハ之ヲ還償セシムルノ訟権ヲ有ス 第三節 受託者ノ責務 第千八百四十三条 受託者ハ受託物件ノ管守ニ関シテハ自己ノ所有物件ノ管守ニ関スル注意ト同一ナル注意ヲ以テ之ヲ管守スルコトヲ要ス 第千八百四十四条 前条ノ規則ハ左項ノ時会ニ向テハ一層厳密ニ之ヲ擬施セサル可カラス 第一項 受託者カ自カラ進ンテ寄託ヲ領諾セルノ時会 第二項 受託物件ノ管守ニ関シテ謝金ヲ要約セルノ時会 第三項 寄託カ単ニ受託者ノ利益ノ為メニ為サレタルノ時会 第四項 受託者カ特ニ諸般ノ過失ニ向テ其責ニ応ス可キコトヲ約束セルノ時会 第千八百四十五条 受託者ハ捍防ス可カラサル事故ニ因テ起生スル事変ニ関シテハ其責ニ応スルコトヲ須ヒス但々受託者カ其受託物件ヲヲ還付ス可キノ景況ニ在リシ時会ノ如キハ此限外ニ在リトス 第千八百四十六条 受託者ハ寄託者ノ特示ノ承諾若クハ推定ス可キ承諾ヲ取リタルニ非サレハ則チ受託物件ヲ使用スルコトヲ得可カラス 第千八百四十七条 受託者ハ若シ受託物件カ鎖鐍セル箱函中ニ入レ若クハ封緘セル橐袱中ニ盛リテ以テ寄託セラレタルニ於テハ則チ其物件ノ何物タルコトヲ捜窺スルコトヲ得可カラス 第千八百四十八条 受託者ハ其接受シタル受託物件ノ原物ヲ以テ還付ヲ為サヽル可カラス 第千八百四十六条ニ規定セル法則ニ照准シ受託者カ受託貨幣ヲ使用セルニ於テハ則チ其価格ノ昂増スルト低減スルトヲ問ハス受託貨幣ト同一種類ナル貨幣ヲ以テ還付ヲ為サヽル可カラス 第千八百四十九条 受託者ハ受託物件ノ其還付ヲ為ス可キ時期ニ於ケル現状ニ照シ之ヲ還付スルヲ以テ足レリトス又受託者ノ過失ニ因ルニ非スシテ起生セル毀損ハ寄託者其損失ヲ負担セサル可カラス 第千八百五十条 受託物件カ捍防ス可カラサル事故ニ因テ奪取セラレ而シテ之ニ代ルノ貨幣若クハ動産物件ヲ接受セルニ於テハ則チ受託者ハ其接受シタル物件ヲ以テ還付ヲ為サヽル可カラス 第千八百五十一条 受託者ノ承産者ニシテ受託物件タルコトヲ覚知セス良意ヲ以テ之ヲ売放シタル所ノ人ハ唯其領収セシ価直ヲ寄託者ニ還付スルヲ以テ足レリトス若シ未タ其価直ヲ領収セサルニ於テハ則チ買主ニ対スル訟権ヲ寄託者ニ転付ス可キ者トス 第千八百五十二条 受託者ハ受託物件ニ生出スル収額ニシテ自己ノ獲取セル所ノ者ハ必ス之ヲ寄託者ニ還償セサル可カラス 受託者カ受託貨弊ノ金額ニ生出スル利息ニ関シテ其負責主ト為ルノ時会ハ唯々其還付ヲ為ス可キ景況ニ在ル本日ヨリ起算スル所ノ者ノミニ限止ス 第千八百五十三条 受託者ハ受託物件ヲ自己ニ寄託セル其人若クハ某者ノ名義ヲ以テ寄託セラレタル其人若クハ領収スル為メニ指定セル其人ニ対スルニ非サレハ則チ其受託物件ヲ還付スルコトヲ得可カラス但第千八百四十一条ニ掲記スル時会ノ如キハ此例外ニ在リトス 第千八百五十四条 受託者ハ寄託者ヲ要強シテ其実ニ寄託物件ノ所有主タルコトヲ証明セシムルヲ得可カラス 然レトモ若シ寄託物件カ盗贓物ニ係リ而シテ其真正ノ所有主ノ誰某タルコトヲ発覚セルニ於テハ則チ受託者ハ其物件ノ自巳ニ寄託セラレタルコトヲ其所有主ニ通知シ而シテ余裕有ル期間ヲ指示シテ以テ其収回ヲ督催スルコトヲ要ス但々刑法ニ関スル条則ハ之ヲ除ク若シ通知ヲ受ケタル所有主カ其収回ノ請求ヲ怠忽セルコト有レハ則チ受託者ハ寄託者ニ向テ受託物件ヲ還付シ以テ有効ニ受託ノ責務ヲ解卸ス 第千八百五十五条 寄託者ノ死亡セル時会ニ当テハ寄託物件ハ其承産者ニ還付ス可キ者トス 若シ数人ノ承産者ノ在ル有レハ則チ寄託物件ハ各自ニ派分シテ以テ之ヲ還付ス可キ者トス 又若シ其寄託物件カ分割スルコトヲ得可カラサル者タルニ於テハ則チ各承産者ハ合同シテ以テ之ヲ領受スルノ方法ヲ択定セサル可カラス 第千八百五十六条 若シ寄託者ノ分限ニ変換ヲ起生シ寄託ヲ為シタル以後ニ其財産ヲ管理スル権理ヲ喪失セルコト有ルニ於テハ則チ其寄託物件ハ寄託者ノ財産管理人ニ向テ之ヲ還付スルコトヲ要ス 第千八百五十七条 若シ物件カ最初後見人若クハ其他ノ管理人ニ因テ寄託セラレ而シテ其物件ヲ還付ス可キ時期ニ至リ既ニ己ニ管理期間ノ満過セルコト有レハ則チ其寄託物件ハ主本者或ハ代替セル後見人若クハ管理人ニ向テ之ヲ還付スルコトヲ要ス 第千八百五十八条 若シ寄託契約上ニ還付ヲ為ス可キ場地ヲ指定セル有ルニ於テハ則チ受託者カ受託物件ヲ其場地ニ搬到ス可キ者トス又若シ搬到ニ関シテ費用ヲ要スルコト有レハ則チ寄託者之ヲ負担セサル可カラス 第千八百五十九条 若シ寄託契約上ニ還付ヲ為ス可キ場地ヲ指定セル無キニ於テハ則チ寄託物件ノ現在スル場地ニ就キテ其還付ヲ為ス可キ者トス 第千八百六十条 寄託物件ハ寄託者カ其還付ヲ要求スルヤ仮令ヒ其契約上ニ還付期限ヲ指定セルコト有ルモ亦必ス直チニ之ヲ還付セサル可カラス但々受託者ノ手中ニ法律上ノ程式ニ遵依シテ録製セル勒住証書若クハ故障ノ証書ノ存在スル有ル如キハ此限ニ在ラス 受託者モ亦寄託者ヲ要強シテ以テ其寄託物件ヲ収回セシムルコトヲ得可シ然レトモ若シ特別ノ理由ニ依拠シ寄託者カ其収回ヲ拒却スルコト有ルニ於テハ則チ其裁決ヲ為スノ権理ハ法衙ニ属ス 第千八百六十一条 若シ受託者カ自己其受託物件ノ所有主タルコトヲ覚知シ而シテ之ヲ証明スルニ於テハ則チ受託者ニ関スル一切ノ責務ハ即チ消滅ニ帰スル者トス 第四節 寄託者ノ責務 第千八百六十二条 寄託者ハ受託者カ寄託物件ノ保存ニ関シテ支消シタル一切ノ費用ヲ還償シ且寄託ニ関シテ受託者ニ被ラシメタル一切ノ損失ヲ賠償セサル可カラス 第千八百六十三条 受託者ハ受託ニ関シ寄託者カ自己ニ逋負スル一切ノ費用及ヒ損失ノ償清ヲ得ルニ至ル迄ハ其受託物件ヲ勒住スルコトヲ得可シ 第五節 緊要ノ寄託 第千八百六十四条 緊要ノ寄託ハ一種ノ行為ニシテ之ニ依リ某ノ人カ某ノ事変例之ハ火災、頽崩、侵掠、難船其他予知ス可カラサル事変ヲ防避スル為メニ他ノ某ノ人ニ寄託ヲ要請スル所ノ者ヲ謂フ 第千八百六十五条 緊要ノ寄託ヲ為スニハ任意ノ寄託ニ関スル各条則ニ准依ス可キ者トス但々第千八百四十八条ニ規定セル所ノ者ハ之ヲ除ク 第千八百六十六条 旅舎主人及ヒ客房主人カ投宿スル旅客ノ携齎物件ヲ管守スルニ関シテハ受託者ト一般ニ其責ニ応セサル可カラス 第千八百六十七条 旅舎ノ携齎物件ニ関スル盗失及ヒ損害カ其旅舎ノ婢僕、雇役者及ヒ旅舎ニ出入スル外人ニ因テ起生スル時会ト雖モ旅舎主人其責ニ応セサル可カラス 第千八百六十八条 旅舎主人ハ持凶器ノ強盗若クハ他ノ捍防ス可カラサル事故若クハ所有主ノ己甚ナル怠忽ニ因テ起生スル盗失及ヒ損害ニ関シテハ其責ニ応セサル者トス 第二章 争訟ニ関スル寄託 第一節 争訟ニ関スル各種ノ寄託 第千八百六十九条 争訟ニ関スル寄託ニハ契約ヲ以テ為ス者有リ裁判上ニ於テ為ス者有リトス 第二節 契約ヲ以テスル争訟物件ノ寄託 第千八百七十条 契約ヲ以テスル争訟物件ノ寄託トハ二個若クハ数個ノ人カ争訟ニ係ハル物件ヲ以テ第三位ノ人ノ手中ニ寄託スルノ行為ニシテ其第三位ノ人ハ争訟ノ裁判ヲ経テ争訟物件ノ帰属スル其人ニ向ヒ受託物件ヲ還付ス可キ責務ヲ有スル所ノ者ヲ謂フ 第千八百七十一条 争訟物件ノ寄託ハ不要報ノ契約ヲ以テセサルモ亦之ヲ為スコトヲ得可シ 第千八百七十二条 争訟物件ノ寄託カ不要報ノ契約ヲ以テ為サレタルニ於テハ則チ一般ノ寄託ニ関スル条則ニ准依ス可キ者ニシテ唯下条ニ指示スル所ノ差異有ルノミ 第千八百七十三条 争訟物件ノ寄託ハ動産物件及ヒ不動産物件ヲ以テ其標率ト為スコトヲ得可シ 第千八百七十四条 争訟物件ノ寄託ニ関スル受託者ハ其争訟ノ未タ結落セサル以前ニ在テハ各訟主ノ承諾ヲ得ルカ若クハ正当ナル理由ヲ有スルニ非サレハ則チ其責務ヲ解卸スルコトヲ得可カラス 第三節 裁判上ニ於テスル争訟物件ノ寄託 第千八百七十五条 訴訟法典ニ規定セル時会ノ外左項ニ掲記スル時会ニ当テハ法衙ニ於テ其争訟物件ノ寄託ヲ指命スルコト有リトス 第一項 二個若クハ数個ノ人ノ間ニ於テ動産物件若クハ不動産物件ニ関スル占有権ヲ争訟スルノ時会 第二項 負責主カ其責務ヲ解卸スル為メニ動産物件若クハ不動産物件ヲ提供スルノ時会 第千八百七十六条 裁判上ニ於テスル争訟物件ノ看守者ノ設定ニ関シテハ其勒抵者ト此看守者トノ間ニ責務ヲ生出ス故ニ看守者ハ勒抵ヲ受ケタル物件ノ保存ニ関シテハ好家主長ト一般ナル注意ヲ為スコトヲ要ス 看守者ハ公売ニ関シ勒抵者ニ向テ交付スル為メニスルト勒抵ヲ解除スル時会ニ於テ勒抵ヲ受ケタル其人ニ向ヒ看守物件ヲ還付スル為メニスルトヲ問ハス共ニ其看守物件ヲ供出セサル可カラス 勒抵者ノ責務ハ法律上ニ限定スル謝金若シ之ヲ限定セサル時会ニ於テハ法衙ノ限定スル謝金ヲ看守者ニ支弁スルニ在テ存ス 第千八百七十七条 裁判上ニ於テスル争訟物件ノ寄託ニ関シテハ訟主カ彼此ノ間ニ協諾シテ指定スル人若クハ法衙カ指命スル人ニ向テ之ヲ委託ス可キ者トス 何等ノ時会タルヲ問ハス争訟物件ヲ委託セラレタル其人ハ契約ヲ以テスル争訟物件ノ受託者ニ関シテ規定セル各般ノ責務ト同一ナル責務ヲ有スル者トス 第十九篇 典質 第千八百七十八条 典質ハ一種ノ契約ニシテ之ニ依リ負責主カ責主ニ対シ其貸付権ヲ確保スル為メニ自己所有ノ動産物件ヲ交付シ而シテ負債ヲ償清スルヤ即チ其原物ヲ還付セラル可キ所ノ者ヲ謂フ 第千八百七十九条 典質ハ責主ニ対シ典質物件ニ関シテハ領先特権ヲ有シテ以テ其貸付額ヲ弁償セシムルコトヲ得可キ権理ヲ付与スル者トス 第千八百八十条 此領先特権ノ存在スルハ唯公式証書若クハ私式証書ニシテ負債ノ数額及ヒ典質物件ノ種類性質ヲ明記シタル者若クハ典質物件ノ重量尺度ヲ明記シタル目録書ヲ有スル時会ノミニ限止ス 然レトモ此等ノ書類ノ録記ハ其価直五百「フラン」ニ超過スル典質物件ニ関スル時会ニ非サレハ則チ之ヲ必要セサル者トス 第千八百八十一条 此領先特権カ貸付権ニ向テ存在スルハ唯々公式証書若クハ私式証書ニ因テ典質ヲ為シ且其貸付権ノ負責主ニ向テ典質ニ関スル通報ヲ為シタル時会ノミニ限止ス 第千八百八十二条 何等ノ時会タルヲ問ハス此領先特権ノ典質物件ニ存在スルハ唯々其典質物件カ責主若クハ結約者ノ指定セル其人ノ手中ニ存有セラルヽ時会ノミニ限止ス 第千八百八十三条 典質物件ハ第三位ノ人カ負責主ノ為メニ之ヲ供出スルコトヲ得可キ者トス 第千八百八十四条 責主ハ若シ其貸付額ヲ弁償セラレサルニ於テハ則チ自由ニ典質物件ヲ処分スルコトヲ得可キ権理有リトス故ニ責主ハ評価人ノ評価ニ従テ其貸付額ニ達スル迄典質物件ヲ自己ノ手中ニ存有スルカ若クハ公売ニ付スルコトヲ裁判上ニ訟求シテ以テ法衙ヲシテ之ヲ命令セシムルコトヲ得可シ 責主カ全ク典質物件ヲ得有スルカ若クハ前項ニ規定セル程式ヲ践行セスシテ自由ニ典質物件ヲ処分ス可シト為セル如キノ契約ハ総テ効力ヲ有セサル者トス 第千八百八十五条 責主ハ責務及ヒ一般ノ契約ニ関スル篇中ニ規定セル法則ニ准依シ自己ノ怠忽ニ因テ起生セシムル典質物件ノ毀滅若クハ毀損ノ責ニ応セサル可カラス 又負責主ニ在テハ責主カ典質物件ノ保存ニ関シテ支消シタル必要ノ費用ヲ還償セサル可カラサルノ責務有リトス 第千八百八十六条 若シ利息ヲ生出スル貸付権ヲ典質ニ供スル有ルニ於テハ則チ責主ハ負責主カ自己ニ逋負スル債金ノ利息額ト其貸付権ノ利息額トヲ較算シテ以テ互相ニ扣断ス可キ者トス 若シ債金即チ之ヲ保証スル為メニ典質物件ヲ供出セル所ノ債金カ利息ヲ生出セサル者タルニ於テハ則チ其債金ノ母額内ニ就キテ貸付権ニ生出スル利息額ヲ扣断ス可キ者トス 第千八百八十七条 若シ責主カ濫妄ニ典質物件ヲ使用セルニ於テハ則チ負責主ハ其典質物件ヲ第三位ノ人ノ監視ニ属セシムルコトヲ法衙ニ請求スルヲ得可シ 第千八百八十八条 負責主ハ債金即チ之カ為メニ典質物件ヲ供出セル所ノ債金ノ母額、利息及ヒ費用ヲ併セテ全ク之ヲ弁償セル以後ニ於テスルニ非サレハ則チ典質物件ノ還付ヲ要求スルコトヲ得可カラス 若シ同一ノ負責主カ典質物件ヲ責主ニ交付セル以後同一ノ責主ニ向ヒ更ニ他ノ起債ヲ結約シ而シテ此後次ノ債金カ前次ノ債金ニ先タツテ其弁償ヲ為ス可キ者タルニ於テハ則チ責主ハ仮令ヒ後次ノ債金ニ向テ其典質物件ヲ抵供スルノ約束無キモ全ク前後両次ノ債金ノ弁償ヲ得ルニ至ル迄ハ決シテ典質物件ヲ還付ス可キノ要求ヲ受ケサル者トス 第千八百八十九条 債額ハ仮令ヒ負責主ノ承産者若クハ責主ノ承産者ノ間ニ分割ス可キ者タルモ其典質ノ如キハ決シテ分割ス可カラサル者トス 負責主ノ承産者ニシテ債額ノ自己ノ派当部分ヲ弁償シタル人ハ其全債額ノ弁償ヲ完了セサルノ間ニ在テハ其典質物件ニ向テ自己ノ派当部分ノ還付ヲ要求スルコトヲ得可カラス 責主ノ承産者ニシテ貸付額ノ自己ノ派当部分ヲ領収セル所ノ人モ亦尚ホ未タ弁償ヲ領収セサル他ノ共同承産者ノ損害有ルニ拘ハラスシテ其典質物件ヲ還付スルコトヲ得可カラス 第千八百九十条 前数条ノ条則ハ商事及ヒ物品ヲ典取シテ金額ヲ貸付スルコトヲ准許セラレタル商会ニ関スル法律並ニ特別ノ規則ニ違悖スル者ニ非ス 第二十篇 不動産物件ノ典質 第千八百九十一条 不動産物件ノ典質ハ一種ノ契約ニシテ之ニ依リ責主カ負責主ノ所有スル不動産物件ニ生出スル収額ヲ自己ノ所有ト為スノ権理ヲ得有シ又若シ利息ヲ生出スル貸付金ニ関シテハ先ツ其収額ヲ利息ニ抵算シ而シテ次ニ其残計ヲ母額ニ抵算スル所ノ者ヲ謂フ 第千八百九十二条 責主ハ若シ反対約款ノ在ル無キニ於テハ則チ典質ニ抵供セシ不動産物件ノ年租及ヒ年金ヲ支弁セサル可カラス 責主ハ典質ニ抵供セラレタル不動産物件ニ必要スル支持及ヒ修繕ヲ周弁ス可キ者トス然ラサレハ則チ是カ為メニ起生セシムル損害賠償ノ責ニ応セサル可カラス 此支持及ヒ修繕ニ関スル費用ハ収額ノ計内ヨリ算取ス可キ者トス 第千八百九十三条 負責主ハ全債額ノ弁償ヲ完了セサルノ間ハ決シテ典質ニ抵供セシ不動産物件ノ使用権ヲ回復スルコトヲ得可カラス然レトモ責主ニシテ前条ニ規定セル責務ヲ解卸セント欲スル所ノ人ハ何等ノ時会タルヲ問ハス負責主ヲ要強シテ以テ典質ニ抵供セシ不動産物件ノ使用権ヲ収回セシムルコトヲ得可キ権理ヲ有ス但々責主カ此権理ヲ棄捐セル如キハ此限ニ在ラス 第千八百九十四条 責主ハ約定セル期限ニ至リ負責主カ弁償ヲ闕クコト有ルモ未タ直チニ典質ニ抵供セシ不動産物件ノ所有主ト為ル者ニ非ス之ニ反対スルノ各般ノ契約ハ総テ効力ヲ有セサル者トス若シ弁償ヲ闕クコト有ルニ於テハ則チ責主ハ法律上ノ順序ヲ践行シテ以テ負責主ノ不動産物件ヲ抵償強売スルコトヲ追求スルヲ得可シ 第千八百九十五条 結約者ハ典質ニ抵供セシ不動産物件ノ収額ノ全部若クハ一部ヲ以テ貸付権ノ利息額ト償殺スルコトヲ結約スルヲ得可シ 第千八百九十六条 第千八百八十三条第千八百八十八条及ヒ第千八百八十九条ノ各条則ハ猶動産物件ノ典質ニ於ケルト一般ニ此不動産物件ノ典質ニ向テモ亦之ヲ擬施スルコトヲ得可シ 第千八百九十七条 不動産物件ノ典質ハ責主ト其承産者トノ間ニ於ケル関係ヲ除クノ外ハ総テ効力ヲ有セサル者トス 第二十一篇 保証 第一章 保証ノ性質及ヒ界限 第千八百九十八条 責務ニ関シテ其保証者ト為ル所ノ人ハ若シ負責主カ其責務ヲ充践セサルコト有レハ則チ責主ニ対シテ自己其責務ヲ充践スルコトヲ約諾スル者トス 第千八百九十九条 保証ハ有効ノ責務ニ関シテ約諾スルニ非サレハ則チ成立セサル者トス 然レトモ一個ノ責務即チ単ニ負責主ニ密着スル排拒法、例之ハ未丁年者タルニ依拠シテ以テ無効ト排拒セラル可キ所ノ責務ノ如キハ之カ保証ヲ為スコトヲ得可シ 第千九百条 保証ハ負責主ノ逋負スル債額ヨリモ超過スル債額若クハ主本タル規約ヨリモ加重ナル規約ニ向テ之ヲ約諾スルコトヲ得可カラス 保証ハ債額ノ一部若クハ軽減セル規約ニ向テ之ヲ約諾スルコトヲ得可シ 債額ノ全部ニ超過スル債額若クハ加重ナル規約ニ向テ約諾シタル保証ハ主本タル責務ノ程度ヲ限リ其効力ヲ有スル者トス 第千九百一条 主本タル負責主ノ嘱託ヲ受クルコト無ク又負責主ノ全ク関カリ知ルコト無キモ亦他ノ人カ其責務ニ向テ保証者ト為ルコトヲ得可シ又唯々主本タル負責主ノ保証者ト為ルコトヲ得ルノミニ止マラスシテ更ニ其保証者ノ保証者ト為ルコトヲ得可シ 第千九百二条 保証ノ成立ハ以テ推断シ得可キ者ニ非スシテ必ス之ヲ特示スルコトヲ要シ且其結約セル権限ハ決シテ之ヲ推拡スルコトヲ得可カラス 第千九百三条 主本タル責務ニ関シテ約諾スル無限ノ保証ハ負債額ニ随属スル各般ノ事物及ヒ第一次ノ訟求ニ関スル費用並ニ此訟求ヲ保証者ニ通報セシ以後ニ於ケル他ノ各般ノ訟求ニ関スル費用ニ迄推及ス可キ者トス 第千九百四条 保証者ヲ立定セサル可カラサル負責主ハ契約ヲ締結スルニ合格ナル人ニシテ其責務ニ応スルニ十分ナル財産ヲ有シ而シテ其住所カ保証ヲ供出スル場地ノ本管轄控訴裁判所ノ管轄内ニ現在スル所ノ者ヲ以テ之ニ充テサル可カラス 第千九百五条 保証者カ責務ノ弁償ニ任シ得ル所ノ財産ハ唯々券記抵当ニ供充シ得可キ所ノ者ノミニ限止ス但々商事ノ業務ニ関スル時会若クハ負債額ノ僅少ナル者ニ関スル時会ノ如キハ此例外ニ属ス 争訟ニ関スル財産若クハ所在ノ場地ノ遠距セル為メニ処分ニ難ンスル財産ノ如キモ亦保証ノ数内ニ算入ス可カラサル者トス 第千九百六条 責主ノ承諾ヲ取リ若クハ裁判上ニ於テ指命セラレタル保証者カ其以後ニ支弁ニ耐ヘサル景況ニ陥ルコト有レハ則チ負責主ハ更ニ他ノ保証者ヲ立定セサル可カラス 此規則ハ保証者カ一個ノ契約即チ之ニ依リ責主カ某ノ人ヲ以テ保証者ト為スコトヲ要求シタル所ノ契約ニ因テ指定セラレタル時会ニ於テハ此例外ニ属スル者トス 第二章 保証ノ効力 第一節 責主ト保証者トノ間ニ於ケル保証ノ効力 第千九百七条 保証者ハ主本タル負責主ノ弁償ヲ闕クノ時会ニ当テハ自己其債額ヲ弁償セサル可カラス然レトモ先ツ負責主ヲシテ財産ヲ罄竭セシムルコトヲ要ス但々保証者カ此財産罄竭ノ権理ヲ棄捐スルカ若クハ保証者カ負責主ト共ニ互相特担ノ責務ヲ有スル時会ノ如キハ此例外ニ属ス此後項ノ時会ニ在テハ其保証ノ効力ハ互相特担ニ係ル負債額ニ関シテ之ヲ規定ス可キ者トス 第千九百八条 責主ハ保証者カ自己追求ヲ受クル為メニ負責主ノ財産罄竭ヲ要求スルノ時会ニ於テスルニ非サレハ則チ主本タル負責主ニ対シ財産罄竭法ヲ行用スルコトヲ得可カラス 第千九百九条 財産罄竭ヲ要求スル保証者ハ主本タル負責主ノ財産ヲ責主ニ指示シ且財産罄竭法ノ行用ニ関スル費用ヲ予支セサル可カラス 主本タル負責主ノ財産ニシテ弁償ヲ為ス可キ場地ノ本管轄控訴裁判所ノ管轄外ニ現在スル所ノ者若クハ争訟ニ係ハル所ノ者若クハ負債ヲ確保スル為メニ既ニ現ニ券記抵当ニ供充シ而シテ負責主ノ処分権内ニ属セサル所ノ者ヲ指示スルモ亦之ヲ以テ財産罄竭ノ数内ニ算入ス可カラス 第千九百十条 保証者カ前条ノ規則ニ遵依シテ負責主ノ財産ヲ指示シ而シテ財産罄竭法ノ行用ニ関スル必要ノ費用ヲ予支シタルニ於テハ則チ責主ハ自己追求ヲ為スノ遅緩ナル為メニ主本タル負責主カ支弁ニ耐ヘサル景況ニ陥ルコト有ルヤ即チ保証者ニ対シ保証者ノ指示シタル財産ノ数額ニ達スル迄ハ自己其責ニ応セサル可カラス 第千九百十一条 数個ノ人カ同一ノ負債ノ為メニ同一ノ責主ニ対シテ保証ヲ約諾セルニ於テハ則チ各自ニ其負債ノ全額ニ関スル責務ヲ負担セサル可カラス 第千九百十二条 然リト雖モ各自カ其分割ノ利益ヲ放棄セルコト無ケレハ則チ責主ヲシテ先ツ其訟権ヲ分割シテ以テ之ヲ各自ニ派当セシムルコトヲ要求スルヲ得可シ 又若シ共同保証者ノ一人カ分割ノ利益ヲ請求シ得タルノ時会ニ於テ他ノ各保証者ニシテ支弁ニ耐ヘサル景況ニ陥ル人有レハ則チ此保証者ハ其支弁ニ耐ヘサル部分ニ比例シテ以テ其責務ヲ負担セサル可カラス然レトモ此保証者ハ分割ヲ為シタル以後ニ起生スル所ノ支弁ニ耐ヘサル景況ニ関シテハ何等ノ責務ヲモ負担セサル者トス 第千九百十三条 若シ責主自カラ好ミテ其訟権ヲ分割セルニ於テハ則チ仮令ヒ其ノ分割ヲ承諾スル時際ヨリ以前ニ既ニ支弁ニ耐ヘサル保証者ノ在ル有ルモ決シテ此分割ヲ収銷スルコトヲ得可カラス 第千九百十四条 保証者ノ保証者カ責主ニ対シテ責務ヲ有スルハ唯々主本タル負責主及ヒ各保証者カ支弁ニ耐ヘサルカ若クハ負責主及ヒ各保証者カ其人件ニ密属スル排拒法ニ依拠シテ以テ責務ヲ避免スルノ時会ノミニ限止ス 第二節 負責主ト保証者トノ間ニ於テスル保証ノ効力 第千九百十五条 弁償ヲ為シタル保証者ハ仮令ヒ主本タル負責主カ保証ノ存在スルコトヲ覚知セサリシモ亦其負責主ニ対シ還償ニ関スル訟権ヲ有ス 此還償ニ関スル訟権ハ債金ノ母額、利息及ヒ費用ニ向テ存在スル者トス然レトモ此費用ニ関シテハ保証者ハ唯々自己ノ受ケタル追求ヲ主本タル負責主ニ通報セル以後ニ支消シタル費用ニ向テノミ其訟権ヲ有スルニ過キス 保証者ハ仮令ヒ債金ノ母額ハ利息ヲ生出セサル者タリシモ主本タル負責主ノ為メニ弁償シタル利息ニ就キテハ還償ニ関スル訟権ヲ有シ時ニ或ハ損害ノ賠償ニ関シテモ亦其訟権ヲ有ス 然レトモ責主ニ対シテ逋負セサル所ノ利息ニ関シテハ保証者カ弁償ヲ為シタルコトヲ主本タル負債主ニ通報スル本日ヨリ起算ス可キ者トス 第千九百十六条 債額ヲ弁償シタル保証者ハ責主カ負責主ニ対シテ有セシ所ノ各般ノ権理ヲ替有スル者トス 第千九百十七条 若シ同一ノ債額ニ対シ互相特担ニ係ル数個ノ主本タル負責主ノ在ル有ルニ於テハ則チ保証者ニシテ此共同負責主ノ為メニ其責務ヲ負担スル所ノ人ハ共同負責主ノ各自ニ対シ自己ノ弁償シタル債額全部ノ還償ヲ要求スルノ訟権ヲ有ス 第千九百十八条 弁償ヲ為シタル保証者カ若シ弁償ヲ為シタルコトヲ主本タル負責主ニ通報セサリシニ於テハ則チ主本タル負責主ニシテ弁償ヲ為シタル所ノ人ニ対シテハ還償ニ関スル訟権ヲ有セス但責主ニ対シテ此訟権ヲ行用スル如キハ此限ニ在ラス 若シ保証者カ追求ヲ受クルコト無ク又主本タル負責主ニ通報スルコト無クシテ弁償ヲ為シ且其弁償ヲ為セル時際ニ当リ主本タル負責主カ其債額ノ既ニ己ニ消滅セルコトヲ公言セシムルノ方法ヲ有シタルニ於テハ則チ保証者ハ其負責主ニ対シ還償ニ関スル訟権ヲ有セス但々責主ニ対シテ此訟権ヲ行用スル如キハ此限ニ在ラス 第千九百十九条 保証者ハ弁償ヲ為スヨリ以前ニ於ケルモ左項ノ各時会ニ在テハ還償ヲ為サシムル為メニ負責主ニ対シテ此訟権ヲ行用スルコトヲ得可シ 第一項 保証者カ弁償ニ関シテ裁判上ノ追求ヲ受ケタルノ時会 第二項 負責主カ破産ニ陥リ若クハ支弁ニ耐ヘサル景況ニ在ルノ時会 第三項 負責主カ約定セル期間内ニ保証ノ責務ヲ解卸セシム可キコトヲ結約シ而シテ此期間ノ全満シタルノ時会 第四項 負債額カ弁償期限ノ満過セルニ因テ其弁償ノ要催ヲ受ク可キノ時会 第五項 結約セシ主本タル責務カ其弁償期限ヲ指定スルコト無ク而シテ既ニ全ク十年ヲ満過セルノ時会但々主本タル責務カ指定セル期限ヨリ以前ニ消滅ニ帰ス可キノ性質ヲ有スルコト猶彼ノ後見ニ関シテ生出スル責務ノ性質ト一般ナル者タルコトヲ要シ尚ホ且反対約款ノ存在スル無キ者タルコトヲ要ス 第三節 数個ノ保証者ノ間ニ於ケル保証ノ効力 第千九百二十条 数個ノ人カ同一ノ負債ニ関シ同一ノ負責主ノ為メニ保証ヲ約諾セルニ於テハ則チ其負債ヲ弁償シタル保証者ハ他ノ共同保証者ニ対シ其各自ノ派当部分ニ向テ還償ニ関スル訟権ヲ行用スルコトヲ得可シ 然レトモ此還償ニ関スル訟権ハ唯々前条ニ掲記セル各時会ノ其一ニ向ヒ保証者カ債額ヲ弁償シタル時会ニ於テノミ存在スル者トス 第三章 法律上ノ保証並ニ裁判上ノ保証 第千九百二十一条 一個ノ人カ法律ニ因リ若クハ裁判官ニ因テ保証者ヲ立定ス可キコトヲ命令セラルヽコト有レハ則チ其保証者ハ必ス第千九百四条及ヒ第千九百五条ニ掲記セル規約ヲ充践スルコトヲ要ス 第千九百二十二条 保証者ヲ立定ス可キ所ノ人ハ一個ノ典質物件若クハ他ノ確実ナル事物ニシテ貸付権ヲ保証スルニ十分ナリト認識セラルヽ所ノ者ヲ提供シテ以テ其立定ス可キ保証者ニ換代スルコトヲ得ルノ自由ヲ有ス 第千九百二十三条 裁判上ニ於テスル保証者ハ先ツ主本タル負責主ヲシテ財産ヲ罄竭セシムルコトヲ請求スルヲ得可カラス 第千九百二十四条 裁判上ニ於テスル保証者ノ保証者ト為ル所ノ人ハ其保証者ヲシテ先ツ財産ヲ罄竭セシムルコトヲ請求スルヲ得可シ 第四章 保証ノ消滅 第千九百二十五条 保証ヨリ生出スル所ノ責務ハ他ノ各般ナル責務ノ消滅スル理由ト同一ナル理由ニ因テ消滅スル者トス 第千九百二十六条 主本タル負責主ト保証者トノ責務ノ混併ハ以テ其一方カ他ノ一方ノ承産者ト為ルノ時会ニ於テ責主カ保証者ノ保証者ト為ル所ノ人ニ対シ有スル訟権ヲ消滅セシムル者ニ非ス 第千九百二十七条 保証者ハ主本タル負責主ニ帰属スル各般ノ排拒法ノ負債額ニ密接スル所ノ者ニ依拠シテ以テ責主ニ対抗スルコトヲ得可シ然レトモ主本タル負責主ノ其人件ニ密属スル排拒法ニ依拠シテ以テ対抗スルコトヲ得可カラス 第千九百二十八条 保証者ハ互相特担ノ責務ヲ有スル者タリト雖モ若シ責主ノ為セル事為カ其責権、券記抵当権及ヒ領先特権ノ替代ヲシテ保証者ノ為メニスル其効力ヲ失却スルニ至ラシムル如キコト有レハ則チ其互相特担ノ責務ヲ解卸スルコトヲ得可シ 第千九百二十九条 責主カ主本タル負責主ノ責務ノ弁償ニ充ツル一個ノ不動産物件若クハ其他ノ物件ヲ認諾シテ以テ之ヲ領収セルニ於テハ則チ仮合ヒ日後責主カ其物件ヲ褫奪セラルヽコト有ルモ保証者ハ既ニ其責務ヲ解卸シタル者トス 第千九百三十条 責主カ主本タル負責主ニ対シテ許諾スル弁償期限ノ延展ハ以テ保証者ノ責務ヲ解卸セシムル者ニ非ス此時会ニ於テハ保証者ハ負責主ヲ要強シテ以テ弁償ヲ為サシムル為メニ負責主ニ対スル訟権ヲ行用スルコトヲ得可シ 第千九百三十一条 主本タル負責主ニ許諾セラレタル弁償期限ト同一ナル期限ニ向テ保証ヲ約諾セル所ノ保証者ハ此期限以後ト雖モ尚ホ負責主ヲ要強シテ以テ弁償ヲ為サシムルニ必要スル時日間ハ其責任ヲ負担スル者トス但々此期限以後ノ二月内ニ於テ責主カ其弁償要強ノ訟権ヲ行用シ而シテ間断スルコト無ク之ヲ続行スル有ルヲ要ス 第二十二篇 行為ノ証記 第千九百三十二条 左項ニ列載スル各般ノ行為ハ公簿ニ証記シテ以テ公示スル者トス 第一項 要報ト不要報トヲ問ハス不動産物件ノ所有権若クハ其他ノ財産ニ関スル権理ニシテ券記抵当ニ供充シ得可キ所ノ者ヲ転付スル彼此生存中ノ行為但々国債証券ノ転付ハ之ヲ除ク 第二項 地務、使用若クハ占住ノ権理ヲ設定シ若クハ之ヲ変更シ或ハ収額得有権ヲ行用スル権理ヲ転付スル彼此生存中ノ行為 第三項 第一項第二項ニ掲記スル各般ノ権理ヲ棄捐スル彼此生存中ノ行為 第四項 不動産物件若クハ其他ノ財産若クハ権理ニシテ券記抵当ニ供充シ得可キ所ノ者ヲ誰某ニ帰属セシムル裁判ノ宣告但々第三位ノ占有者カ設定シタル券記抵当権ヲ滌除スル訴訟ニ関シ其第三位ノ占有者ノ利益ノ為メニスル裁判ノ宣告及ヒ共同分配者ノ間ニ於テスル競売ニ関シ共有物件ヲ誰某ニ帰属セシムル裁判ノ宣告ハ之ヲ除ク 第五項 九年ニ踰越スル期間ニ向テ結約スル賃貸ノ契約 第六項 不動産物件ノ使用権ヲ以テ標率ト為セル結社ノ契約但其結社期間ノ九年ニ踰越スル者若クハ無期限ノ者タルコトヲ要ス 第七項 或種ノ行為若クハ或種ノ宣告ニシテ之ニ依リ三年ニ踰越スル期間ニ向テ家屋若クハ地所ノ賃貸ヲ結約シ而シテ尚ホ未タ納致セサル賃金ノ納致若クハ譲与ヲ生出セシムル所ノ者 第八項 前数項ニ掲記セル各般ノ権理ノ其口述ニ因テ成立セルコトヲ公言スル裁判ノ宣告 第千九百三十三条 左項ニ列載スル各般ノ行為ヲシテ法律上ニ規定セル特別ノ効力ヲ有セシムル為メニハ必ス之ヲ公簿ニ証記セラルヽコトヲ要ス 第一項 不動産物件ノ追求法及ヒ執行法ニ関スル督促 第二項 第九百九十五条ノ末項ノ規則ニ遵依シ遺産目録ノ利益ヲ以テスル遺産諾受ノ公言 第三項 第千八十条、第千八十八条、第千二百三十五条、第千三百八条、第千五百十一条、第千五百五十三条及ヒ第千七百八十七条ノ各条ニ規定セル収回毀銷及ヒ解破ニ関スル請求 此第三項ノ請求ニ関スル行為ノ証記ハ転付ニ関スル行為ヲ証記シタル公簿ノ余白ニ填記ス可キ者トス 第千九百三十四条 証記ヲ為シタル行為ノ無効、解破、毀銷若クハ収回ヲ宣告スル裁判ハ此各行為ヲ証記シタル公簿ノ余白ニ填記ス可キ者トス 此填記ハ其裁判カ収回ス可カラサル者ト為レル本日ヨリ以後ノ一月内ニ其裁判ヲ請受セル訟主ノ代書人ノ注意ニ因テ之ヲ為スコトヲ要ス若シ之ヲ闕クニ於テハ則チ訟主躬親カラ之ヲ為スコトヲ要ス然ラサレハ則チ百「フラン」以上二百「フラン」以下ノ罰金ヲ責徴セラル可キ者トス 第千九百三十五条 公簿ノ証記ハ唯々裁判ノ宣告、公式ノ行為若クハ私式ノ行為ニ関シテノミ之ヲ為ス可キ者トス 然レトモ私式ノ行為ニ関シテハ結約者ノ署名カ公証人ニ因テ公認セラレ若クハ裁判上ニ於テ検証セラレタル所ノ者ニ非サレハ則チ公簿ニ証記セラルヽコトヲ得可カラス 外国ニ於テスル裁判ノ宣告及ヒ公式ノ行為ハ必ス正当ナル検証ヲ受ケサル可カラス 第千九百三十六条 権理ノ証記ヲ請求スル人ハ若シ公式ノ行為若クハ裁判ノ宣告ニ関スル者タルニ於テハ則チ其公正ナル写本ヲ券記抵当管理員ニ供呈セサル可カラス又若シ私式ノ行為ニ関スル者タルニ於テハ則チ其原本ヲ供呈セサル可カラス但々公同記録局若クハ公証人ノ管存ニ付セラレタル者ノ如キハ此限ニ在ラス此時会ニ於テハ公同記録局員若クハ公証人ノ録製セル写本即チ私式ノ行為カ前条ニ掲示セル規約ヲ具有スルコトヲ証明スル所ノ写本ヲ供呈スルヲ以テ足レリトス 第千九百三十七条 権理ノ証記ヲ請求スル人ハ券記抵当管理員ニ向テ其証券ノ写本及ヒ左項ニ列記スル事件ヲ包載スル二通ノ明細書ヲ供呈セサル可カラス 第一項 結約者ノ姓名、住所若クハ居所及ヒ其父ノ名 第二項 証記ヲ請求スル証券ノ性質及ヒ記日 第三項 行為ニ臨監シ若クハ署名ヲ公認セシ訟吏ノ姓名若クハ裁判ヲ宣告セシ法衙ノ指示 第四項 財産即チ証券カ関係ヲ有スル財産ノ種類、性質及ヒ其現在スル場地並ニ第千九百七十九条ニ掲記スル各般ノ表示事物 第千九百三十三条ノ第二項ニ掲記セル公言ノ証記ヲ得ル為メニハ明細書カ其公言中ニ特言セル所ノ表示事物ヲ包含スルヲ以テ足レリトス 第千九百三十八条 権理ノ証記ハ其権理ノ存在スル財産ノ現在場地ノ券記抵当管理局ニ向テ之カ請求ヲ為ス可キ者トス但々第九百五十五条ノ後項ニ掲記スル規則ノ如キハ此例外ニ属ス 第千九百三十九条 券記抵当管理員ノ接受セル証券ハ之ヲ其掌守スル記録簿冊中ニ編綴シ而シテ其証券ヲ接受セル月日及ヒ仮註帳ニ照シテ証券ニ点記セル番号並ニ証券ヲ編綴セル簿冊ノ記号ヲ指示シテ以テ明細書中ニ包載セル事件ヲ併セ特ニ証記ニ備設セル所ノ本簿ニ登載ス 券記抵当管理員ハ明細書ノ其一通ニ就キ前項ニ掲記セル各般ノ指示ヲ確証シタル事旨ヲ記註シテ以テ之ヲ請求者ニ還付ス 第千九百四十条 第千九百三十七条ニ掲記セル明細書中ニ列記ス可キ事件ノ其一ノ脱漏若クハ誤錯ハ若シ是カ為メニ其権理ノ転付ニ関シ若クハ其権理ノ標率タル不動産物件ニ関シテ明確ヲ闕カシムコト有ルニ非サレハ則チ其証記ノ有効タルニ害セサル者トス 第千九百四十一条 証券ノ証記ハ仮令ヒ何人ニ因テ之ヲ証記セラルヽモ其権理ニ関係ヲ有スル一切ノ人ニ利益ス 第千九百四十二条 第千九百三十二条ニ掲記セル裁判ノ宣告及ヒ公式ノ行為ハ其未タ証記ヲ得サルノ以前ニ在テハ第三位ノ人ニシテ何等ノ名義ヲ以テスルヲ問ハス不動産物件ニ向テ権理ヲ得有シ及ヒ合法ニ権理ヲ保存スル所ノ者ニ対シテ何等ノ権理ヲモ有スルコト能ハス 又其未タ証記ヲ得サルノ以前ニ在テハ新所有主ニ向テ得有スル権理ノ証記若クハ其領先証記ハ以テ第千九百六十九条ノ規則ニ遵依シ転付者ニ付与スル券記抵当権ニ阻害スル如キノ効力ヲ生出スルコト無シ 又其既ニ証記ヲ得タルノ以後ニ於テハ旧所有主ニ向テ得有スル権理ノ証記若クハ領先証記ニ仮令ヒ其権理ノ得有カ証券ノ証記ヲ為スヨリ以前ニ係レルモ亦得有者ニ対シテ何等ノ効力ヲモ有スルコト能ハス 第千九百四十三条 贈与ニ関シテハ若シ別通ノ証書ヲ以テ諾受ヲ為セル者タルニ於テハ則チ其贈与ノ証記ハ諾受カ其証記ヲ得タル本日ヨリシテ始メテ効功ヲ有スル者トス 第千九百四十四条 自已カ替代スル不合格者若クハ契約及ヒ訴訟ニ臨同スル不合格者ノ利益ノ為メニ契約ヲ締結シ若クハ裁判宣告ヲ請受シ若クハ公簿証記ヲ請求スルコトヲ要スル所ノ人ハ其裁判若クハ行為ノ証記ヲ得ルニ勉力セサル可カラス 若シ此証記ヲ闕キタルニ於テハ則チ未丁年者受治産禁者其他一切ノ不合格者ハ為メニ他ノ対抗ヲ受ケサル可カラス但々此等ノ不合格者カ証記ノ請求ヲ担任ス可キ後見人管理人及ヒ保管人ニ対シテ還償ニ関スル訟権ヲ行用スル如キハ此限ニ在ラス 然レトモ証記ノ請求ヲ担任ス可キ責務ヲ有スル人若クハ其承産者ハ此証記ヲ闕キタルコトヲ口実ト為シテ以テ他ニ対抗スルコトヲ得可カラス 第千九百四十五条 第千九百三十三条ノ第三項ニ掲示セル請求ノ証記及ヒ此請求ニ関シ転付ノ行為ヲ証記セル公簿ノ余白ニ於テスル填記ノ抹銷ハ若シ結約者ニ因テ正当ニ承諾セラルヽカ若クハ既結ノ効力ヲ有スル裁判ニ因テ命令セラルヽニ於テハ則チ之ヲ請求スルコトヲ得可シ 若シ請求者カ其請求ヲ放棄シタルカ若クハ其請求カ拒却セラルヽカ若クハ其訴訟カ毀廃セラルヽコト有レハ則チ裁判上ニ於テ其行為ニ関スル証記ノ抹銷ヲ指命セラル可キ者トス 第千九百四十六条 公簿ノ証記ハ仮令ヒ未タ其証券ニ関スル証記税ノ納致ヲ完了セサルモ王国内ニ於テ執行シタル公式ノ行為及ヒ王国ノ法衙カ宣告シタル裁判ニ関スル者タルニ於テハ則チ之ヲ請求スルコトヲ得可シ 然レトモ此時会ニ於テハ請求者ハ券記抵当管理員ニ向テ更ニ別ニ一通ノ明細書ヲ供呈セサル可カラス此明細書ハ検証ヲ経テ直チニ之ヲ証記税管理員ニ送付ス 第千九百四十七条 証記ニ関スル費用ハ若シ反対約款ノ在ル有ルニ非サレハ則チ得有者之ヲ負担セサル可カラス然レトモ其証記ヲ請求スル其人カ先ツ之ヲ支弁ス可キ者トス 若シ数個ノ得有者有ルカ若クハ其証記ニ利益ヲ有スル数個ノ人有ルニ於テハ則チ各自ニ其関係ヲ有スル部分ニ比例スル費用額ノ証記ヲ請受セル其人ニ還償セサル可カラス 第二十三篇 領先特権及ヒ券記抵当権 第千九百四十八条 何人タルヲ問ハス躬親カラ責務ヲ有スル人ハ現在ノ者ト将来ノ者トヲ論セス各般ノ動産物件若クハ不動産物件ニ向テ締結セル所ノ約諾ヲ践行セサル可カラス 第千九百四十九条 負責主ノ所有財産ハ即チ其各責主ノ責権ノ共同保証物ト為ス而シテ此各責主ハ若シ特択セラル可キ正当ノ事由有ルニ非サレハ則チ各自ニ均同ノ権理ヲ有スル者トス 第千九百五十条 特択セラル可キ正当ノ事由トハ即チ領先特権及ヒ券記抵当権ヲ指言スル者タリ 第千九百五十一条 若シ領先特権若クハ券記抵当権ニ提供シタル不動産物件ノ毀滅シ若クハ毀損スルコト有レハ則チ保険者ノ其毀滅若クハ毀損ニ関シテ支発ス可キ金額ハ其権理ノ順序ニ従ヒ領先特権若クハ券記抵当権ヲ帯有スル所ノ貸付権ノ弁償ニ供充セサル可カラス但々其金額カ毀滅ノ賠償若クハ毀損ノ修繕ニ供用セラレタル如キハ此限ニ在ラス 保険者ハ保険物件ノ毀滅若クハ毀損ノ起生シタル以後ノ三十日ヲ経過シ何等ノ故障ヲモ受クルコト無クシテ其保険金額ヲ支発セルニ於テハ則チ其責務ヲ解卸スル者トス 公同ノ利益ノ為メニスル土地ノ強買若クハ法律上ニ於テ負担セシムル土地ノ通務ノ事由ニ関シテ領受スル所ノ金額モ亦本条第一項ニ指示スル弁償ニ供充ス可キ者トス 第一章 領先特権 第千九百五十二条 領先特権トハ特択セラル可キ権理ニシテ法律カ其貸付ノ事由ニ根拠シテ以テ付与スル所ノ者ヲ謂フ 第千九百五十三条 領先特権ヲ帯有スル貸付権ハ他ノ各般ノ権理及ヒ券記抵当権ヨリモ尚ホ先ツ特択セラル可キ権理ヲ領有スル所ノ者トス 領先特権ヲ帯有スル数個ノ貸付権ノ間ニ在テハ其特択セラル可キ権理ハ各領先特権ノ種質ニ従ヒ法律ニ遵依シテ以テ之ヲ指定ス 第千九百五十四条 同級ノ領先特権ヲ帯有スル数個ノ貸付権ノ間ニ在テハ其貸付金額ノ多少ニ比例シテ以テ相競スル者トス 第一節 動産物件ニ向テ存在スル領先特権 第千九百五十五条 動産物件ニ向テ存在スル領先特権ニハ一切ノ財産ニ関スル者ト或種ノ財産ニ関スル者トノ二種ノ差別有リトス 第一項ノ領先特権ハ負責主ノ所有スル一切ノ動産物件ニ向テ存在シ第二項ノ領先特権ハ負責主ノ所有スル或種ノ動産物件ニ向テ存在ス 第一款 一切ノ動産物件ニ向テ存在スル領先特権 第千九百五十六条 左項ニ列載スル貸付権ハ一切ノ動産物件ニ向テ領先特権ヲ有スル者トス 第一項 各責主ノ共同利益ノ為メニ動産物件ノ其保存ノ行為若クハ裁判ノ執行ノ為メニ支消シタル裁判上ノ費用 第二項 慣例上ニ於テ必要スル埋葬ノ費用 第三項 負責主ノ生存末期ノ六月間ニ於テ其疾病ニ要用シタルノ費用 第四項 此六月ノ期間内ニ於テ負責主其人ノ為メ及ヒ其親属者ノ為メニ食餌ニ供充シタルノ物料並ニ同一期間内ニ於テ役使シタル雇人ノ給金 第千九百五十七条 本年ト前年トニ関スル政府ノ責額モ亦負責主ノ一切ノ動産物件ニ向テ領先ノ特権ヲ有ス此責額ハ邑及ヒ州ノ非常税金ノ逋額ヲモ包含スル者トス 此領先特権ハ地税ノ逋額ニハ推及セシメサル者トス 第二款 或種ノ動産物件ニ向テ存在スル領先特権 第千九百五十八条 左項ニ列載スル貸付権及ヒ費用額ハ特別ナル領先特権ヲ有スル者トス 第一項 税関税、証記税及ヒ其他ノ間税ニ関スル政府ノ責額ハ其各税金ノ標率タル動産物件ニ向テ之ヲ有ス 第二項 年租ニ関スル貸付額ハ其賃佃地所ニ於テ本年間ニ獲取セル収獲若クハ其賃貸地所ノ域内ニ在ル廠舎並ニ建造物中ニ貯存スル穀果ニシテ其地所ヨリ生出セル所ノ者ニ向テ之ヲ有ス 本項ノ領先特権ハ本年ト前年トノ年租ニ関スル責額ニ向テ存在スル者トス 第三項 不動産物件賃貸ノ賃直及ヒ年租ニ関スル責額ハ其賃貸地所ニ於テ本年間ニ獲取セル収額若クハ其賃貸地所ノ域内ニ在ル廠舎並ニ建造物中ニ貯存スル穀果ニシテ其地所ヨリ生出スル所ノ者及ヒ賃貸契約ニ関シテ抽利スル為メニ供用シ若クハ賃貸廠舎ニ供用シ若クハ賃貸家屋ニ供用スル各般ノ器具ニ向テ之ヲ有ス 本項ノ領先特権ハ若シ賃貸契約書カ確実ナル公簿証記ノ記日ヲ有スル者タルニ於テハ則チ本年前年及ヒ其賃貸契約書ニ明記セル期限ニ関スル責権ニ向テ存在シ又若シ賃貸契約書カ確実ナル公簿証記ノ記日ヲ有セサル者タルニ於テハ則チ本年及ヒ翌年ノ責権ニ向テ存在ス此二個ノ時会ニ於テハ他ノ責主ハ賃借者ノ権理ニ替代シ仮令ヒ賃貸契約ニ於テ認諾スルコト無キモ賃貸者カ其領先特権ヲ行用スルノ日時間ハ其賃貸物件ヲ複賃貸ニ付シ而シテ領先特権ニ関シテ逋負スル所ノ一切ノ債額ヲ賃貸者ニ弁償シ尚ホ且其期限ノ未タ到来セサル責権ノ部分ニ向テ保証ヲ賃貸者ニ提供シ以テ始メテ其貸直及ヒ年租ノ支弁ヲ複賃借者ニ要求スルコトヲ得ルノ権理ヲ有ス 前項ト同一ナル領先特権カ賃貸家屋若クハ賃貸地所ニ起生スル損害、賃貸地所ノ修繕、供用器具ノ還付及ヒ賃貸契約ヲ執行スルニ関シテ要用スル一切ノ事物ニ向テ賃貸者ノ為メニ存在スル有リトス 本項ニ於テ賃貸廠舎及ヒ賃貸家屋ニ供用スル動産物件ニ向テ賃貸者ニ付与シタル領先特権ハ啻ニ賃耕者、賃借者若クハ複賃耕者、複賃借者ノ所有ニ属スル動産物件ノミナラス他人ノ所有ニ属スル動産物件ト雖モ其賃貸廠舎若クハ賃貸家屋ニ現在スル所ノ者ニ迄推及セシム但々盗贓物件若クハ亡失物件若クハ其現在物件カ其廠舎家屋ニ搬入セラルヽ時際ニ於テ他人ノ所有ニ属スル者タルコトヲ証明シタル者ノ如キハ此例外ニ在リトス 領先特権ハ収額カ複賃耕者ノ所得ニ属スル時会ニ在リト雖モ亦其収額ニ向テ存在スル者トス 賃貸ニ付シタル不動産物件ニ供用シ及ヒ其抽利ニ関シテ供用セル器具ニ向テ存在スル領先特権ハ若シ其器具カ複賃耕者ニ帰属セルニ於テハ則チ其複賃耕者ノ逋負スル所ノ債額ニ向テ存在シ而シテ複賃耕者カ期限以前ニ予支セル所ノ者ハ其計内ニ算入セス 賃貸者ハ若シ領先特権ノ存在スル動産物件カ自巳ノ承諾ヲ経ルコト無クシテ賃貸家屋若クハ賃貸廠舎ヨリ他ノ場所ニ搬移セラルヽコト有ルニ於テハ則チ之ヲ勒住シ而シテ領先特権ヲ行用スルコトヲ得可シ若シ其動産物件カ賃貸田地ニ供用セシ者ニ係レハ則チ四十日ノ期間内ニ於テシ賃貸家屋ニ供用セシ者ニ係レハ則チ十五日ノ期間内ニ於テ其領先特権ヲ行用スルコトヲ要ス然レトモ其動産物件ノ搬移ヨリ以後ニ於テ第三位ノ人カ之ニ向テ権理ヲ得有シタル有ル時会ノ如キハ此限外ニ属ス 第四項 収獲物分取賃貸ノ賃直ニ関スル責権ハ賃貸者ト賃耕者トヲ問ハス其収獲物ノ互相ノ所得ニ属スル部分及ヒ動産物件ニシテ収獲物分取賃貸ニ付シタル地所若クハ家屋ニ供用セル所ノ者ニ向テ之ヲ有ス 第五項 耕耘、種子、及ヒ収獲ノ作業ノ為メニ逋負スル費金額ハ其獲取スル所ノ収獲ニ向テ之ヲ有ス 第六項 典質ノ提供ヲ受ケタル其人ノ責権ハ其人即チ責主ノ占有スル所ノ動産物件ニ向テ之ヲ有ス 第七項 動産物件ノ保存若クハ改良ニ関スル費用額ハ其保存シ若クハ改良シタル所ノ動産物件ニ向テ之ヲ有ス但々其費用ヲ支消セル人カ尚ホ其動産物件ヲ典有スルコトヲ要ス 第八項 旅舎ノ供給物料及ヒ宿食銀ニ関スル責権ハ旅人ノ携齎物件ニシテ尚ホ現ニ其旅舎ニ存置スル所ノ者ニ向テ之ヲ有ス 第九項 運輸ノ費用額及ヒ境関税若クハ邑関税ニ関スル費用額ハ運輸物件ニシテ尚ホ現ニ運輸者ノ屋舎内ニ存置スル所ノ者若クハ已ニ運輸者ヨリ遣所ノ主者ニ逓交シタル所ノ者ニ向テ之ヲ有ス但々此後項ノ時会ニ於テハ其物件カ尚ホ現ニ遣所ノ主者ノ手中ニ存在スルコトヲ要シ且其訟権ハ逓交セル本日ヨリ以後ノ三日内ニ之ヲ行要スルコトヲ要ス 第十項 官吏カ其職務ノ執行中ニ於テスル越権若クハ妄行ノ罰責ニ関スル責権ハ其官吏ノ供出セル保証金並ニ之ニ生出スル利息ニ向テ之ヲ有ス 第十一項 政府、州、邑若クハ其他ノ各種社団ノ会計吏員カ其職務ノ執行中ニ於テ逋負スル所ノ金額ハ其会計吏員ノ供出セル保証金並ニ之ニ生出スル利息ニ向テ之ヲ有ス 第三款 動産物件ニ向テ存在スル領先特権ノ先後順序 第千九百五十九条 第千九百五十六条ノ第一項ニ掲示セル裁判費用ニ関スル領先特権ハ第千九百五十八条ノ各項ニ掲示セル諸般ノ領先特権ヨリモ尚ホ先ツ特択セラル可キ者トス 第千九百五十六条ニ掲示セル一般ノ領先特権ハ第千九百五十七条ニ掲示セル他ノ一般ノ領先特権ヨリモ尚ホ先ツ特択セラル可キ者トス而シテ此前項ノ領先特権ハ後項ノ領先特権ト共ニ第千九百五十八条ノ第二項第三項及ヒ第四項ニ掲示セル特別ノ領先特権ヨリモ尚ホ先ツ特択セラル可キ者トス然レトモ此条ノ他ノ各項ニ掲示セル特別ノ領先特権ニ対シテハ乃チ其後ニ落チサル可カラス 第千九百六十条 同一ノ動産物件ニ向テ特別ノ領先特権ヲ有スル数個ノ貸付権カ相競スル時会ニ当テハ左項ノ順序ニ遵依シテ其特択ヲ執行セラル可キ者トス 第千九百五十八条ノ第一項ニ掲示セル各種税金ノ標率タル動産物件ニ関シテハ政府ノ責権カ他ノ責権ヨリモ尚ホ先ツ特択セラル可キ者トス 賃佃、賃耕若クハ収獲物分取賃貸ニ付シタル地所ノ収獲ニ関シテハ下項ノ責権カ賃貸者及ヒ賃借者ノ責権ヨリモ尚ホ先ツ特択セラル可キ者トス其責権タル即チ第一ニ収獲第二ニ耕耘第三ニ種子第四ニ第千九百五十八条ノ第二項ニ掲示セル年租ニ関スル所ノ者是ナリ 動産物件ニシテ賃貸家屋若クハ賃貸廠舎ニ供用スル所ノ者ニ関シテハ第千九百五十八条ノ第七項ニ掲示セル責権ハ賃貸者及ヒ賃借者ノ責権ヨリモ尚ホ先ツ特択セラル可キ者トス 第千九百五十八条ノ第八項ニ掲示セル責権ハ同条ノ第九項ニ掲示セル責権ヨリモ尚ホ先ツ特択セラル可キ者トス 第二節 不動産物件ニ向テ存在スル領先特権 第千九百六十一条 不動産物件ノ所有権ヲ抵償強売スル訟求及ヒ責主ノ申明スル順序並ニ署名ノ執行ニ就キテ支弁シタル費用ニシテ共同責主ノ利益ノ為メニスル所ノ者ニ関スル責権ハ其強売ニ付シタル不動産物件ニ向テ領先特権ヲ有シ而シテ他ノ諸般ノ責権ヨリモ尚ホ先ツ特択セラル可キ者トス 第千九百六十二条 本年ト前年トノ地税ニ関シ及ヒ加之州邑ノ非常税ヲ以テスル所ノ政府ノ責権ハ納税者カ其税金ヲ納致スル本邑ノ管轄内ニ現在スル一切ノ不動産物件並ニ其不動産物件ノ収額、年租、賃直ニ向テ領先特権ヲ有ス而カモ法律上ニ於テ認許セル特別ノ徴収法ヲ行用スルモ妨ケ無シトス 証記税及ヒ其他諸般ノ間税ニ関スル政府ノ責権ハ其税金ノ標率タル不動産物件ニ向テ領先特権ヲ有ス此領先特権ハ納税ヲ為ス可キ不動産物件ノ転付セラルヽヨリ以前ニ第三位ノ人カ其地所ニ向テ得有シタル諸般ノ物件上ノ権理ヲ防碍スルコトヲ得可カラス且其税金ノ追補ニ関シ第三位ノ人ニシテ其地所ヲ占有スル所ノ者ニ向テ支弁ヲ要求スルコトヲ得可カラス 又遺産承襲ノ権理ニ関スル税金ニ向テ存在スル前項ト同一ノ領先特権ハ以テ死亡者ニ対シ券記抵当権ヲ有スル責主ニシテ死亡以後ノ三月内ニ其券記抵当権ヲ公簿ニ証記シタル所ノ人若クハ責主ニシテ死亡者ノ資産ト其承産者ノ資産トヲ分離セシムル権理ヲ行用シタル所ノ人ニ損害ヲ与ヘ得可キノ効力ヲ生出スル者ニ非ス 第千九百六十三条 第千九百五十六条ニ掲示セル責権ハ負責主ノ所有スル不動産物件ノ価直ニ関シテ執行スル私式証書ニ明記セル責権ヨリモ尚ホ先ツ特択セラレ以テ其不動産ニ向テ再次ノ領収特権ヲ有スル者トス 第二章 券記抵当権 第千九百六十四条 券記抵当権ハ即チ責主ノ為メニ負責主若クハ第三位ノ人ノ所有財産ニ向テ設定スル物件上ノ権理ニシテ此財産ニ就キ其責務ノ弁償ヲ保任セシムル所ノ者ヲ謂フ 券記抵当権ハ分割スルコトヲ得可カラスシテ抵当ニ供出セル一切ノ財産、其財産ノ各個及ヒ其財産ノ各部ニ向テ完全ニ存在スル者トス 券記抵当権ハ財産ニ密着シ其財産ハ仮令ヒ何人ノ手中ニ落ルコト有ルモ亦依然トシテ存続スル者トス 第千九百六十五条 券記抵当権ハ若シ公示ノ者ニ係ルニ非サレハ則チ其効力ヲ有セス而シテ特ニ或種ノ財産ニ関シ確定セル金額ニ向テ存在スル者トス 第千九百六十六条 券記抵当権ハ券記シテ抵当セル不動産物件ノ各般ノ改良、各種ノ建造物及ヒ其他ノ随属事物ニ迄推及セシムル者トス 第千九百六十七条 左項ニ列掲スル物件ハ以テ券記抵当ニ供充スルコトヲ得可キ者トス 第一項 売買スルコトヲ得可キ不動産物件及ヒ其随属物件ニシテ不動産ト看做サル可キ所ノ者 第二項 前項ト同一ノ不動産物件及ヒ其随属物件ノ収額但々先親ノ有スル合法ノ収額得有権ヲ除ク 第三項 賃佃財産ニ関スル所有主若クハ賃佃者ノ権理 第四項 公債ニ関スル法律ニ於テ規定シタル方法ヲ以テ発行シタル政府ノ国債証券 第千九百六十八条 券記抵当権ニハ法律上ノ者有リ裁判上ノ者有リ又契約上ノ者有リトス 第一節 法律上ノ券記抵当権 第千九百六十九条 左項ニ列掲スル人ハ法律上ノ券記抵当権ヲ有ス 第一項 売主若クハ他ノ転付者ハ転付ノ行為ヨリ起生スル責務ヲ履行セシムル為メニ其転付セル不動産物件ニ向テ之ヲ有ス 第二項 共同承産者若クハ会社々員若クハ其他ノ共同分配者ハ派当部分ニ関スル補缺金ノ支弁ノ為メニ遺産若クハ会社若クハ共有ニ属スル所ノ不動産物件ニ向テ之ヲ有ス 第三項 未丁年者若クハ受治産禁者ハ第二百九十二条及ヒ第二百九十三条ノ規則ニ遵依シ其後見人ノ財産ニ向テ之ヲ有ス 第四項 妻タル者ハ其嫁資ノ得益ノ為メニ其夫ノ財産ニ向テ之ヲ有ス 若シ本項ノ券記抵当権カ婚姻上ノ財産契約ニ因テ確定セル財産ニ関シ之ヲ限レル者ニ非サレハ則チ其夫カ嫁資備弁ノ時際ニ於テ占有シタル一切ノ財産ニ推及セシム可キ者トス仮令ヒ嫁資ノ支付ハ其時際ヨリ以後ニ於テセル者タルモ亦之ニ准ス 遺産若クハ贈与ニ因テ成立スル嫁資額ニ関シテハ券記抵当権ハ遺産ノ承襲ヲ開始セル本日若クハ贈与ノ其効力ヲ生出セル本日ヨリシテ其時際ニ其夫ノ有スル所ノ財産ニ向テ存在ス 第五項 政府ハ重罪犯、軽罪犯若クハ違詿罪犯ニ関スル裁判上ノ費用並ニ官吏若クハ訟吏ニ対シテ支弁セシム可キ金額ヲ徴収スル為メニ犯罪者ノ財産ニ向テ之ヲ有ス 本項ノ券記抵当権ハ刑罰ヲ宣告スルヨリ以前求刑証状ヲ発下セルヨリ以後ニ於テ之カ証記ヲ為スヲ得可キ者トス又此券記抵当権ハ刑罰ノ宣告ニ因テ許与セラレタル損害賠償ノ支付ニ関シ民事訟主ノ為メニモ亦其利益ト為ル者トス 弁護ニ関スル費用ハ裁判ノ費用及ヒ損害賠償ノ支付ヨリモ尚ホ先ツ特択セラル可キ者トス 第二節 裁判上ノ券記抵当権 第千九百七十条 若干ノ金額ヲ支付ス可キ者或ハ動産物件ノ交付若クハ一個ノ責務ノ履行ニシテ罰金ノ支弁ニ帰着スル所ノ者ニ関スル裁判宣告ハ其宣告ヲ請得セル人ノ為メニ負責主ノ財産ニ向テ券記抵当権ヲ有セシム 第千九百七十一条 刑罰ノ宣告ハ以テ無主ノ遺産若クハ遺産目録ノ利益ヲ以テ諾受セル遺産ニ係レル財産ニ向テハ裁判上ノ券記抵当権ヲ生出スルコト無シ 第千九百七十二条 中裁人ノ決定ハ法衙ノ命令ニ依拠シテ之ヲ執行シ得可キ本日ヨリシテ始メテ券記抵当権ヲ生出スル者トス 第千九百七十三条 外国ノ法衙ニ於テ宣告セラレタル裁判ハ王国ノ法衙ニ於テ其執行ヲ命令セラルヽニ非サレハ則チ王国内ニ現在スル財産ニ向テ券記抵当権ヲ生出スルコト無シ但々国際条約中ニ掲記セル反対条款ノ在ル有ル如キハ此限外ニ属ス 第三節 契約上ノ券記抵当権 第千九百七十四条 不動産物件ヲ転付スルニ合格ナル人ニシテ始メテ不動産物件ヲ券記ノ抵当ニ付スルコトヲ得ル者トス 第千九百七十五条 転付ヲ為スニ不合格ナル人ノ財産及ヒ失踪者ノ財産ハ法律上ニ於テ規定セル理由ノ為メニシ且程式ニ遵行スルニ非サレハ則チ之ヲ券記ノ抵当ニ付スルコトヲ得可カラス 第千九百七十六条 不動産物件ニ向ヒ一個ノ規約ニ依テ保持スル権理若クハ或種ノ時会ニ当テ解破スル権理若クハ損失ニ関シテ毀銷ヲ為ス可キ名義ニ係ル権理ヲ有スル所ノ人ハ均シク不定ニ係ル券記抵当権ニ非サレハ則チ之ヲ設定スルコトヲ得可カラス但法律上ニ於テ特ニ解破若クハ毀銷ハ以テ第三位ノ人ニ損害ヲ与ヘ得可キ効力ヲ有セスト明言セル者ノ如キハ此限ニ在ラス 第千九百七十七条 契約上ノ券記抵当権ハ将来ニ得有ス可キ財産ニ向テ之ヲ設定スルコトヲ得可カラス 第千九百七十八条 契約上ノ券記抵当権ハ必ス公式ノ行為若クハ私式ノ行為ヲ以テ之ヲ設定スルコトヲ要ス 第千九百七十九条 券記抵当権ヲ設定スル証券中ニ明載シテ以テ抵当ニ提供セル不動産物件ハ其性質、其所在ノ市邑、其公簿証記ノ番号(若シ之有ラハ其図面)及ヒ其隣接スル三方以上ノ地区ニ因テ特ニ表示セラレサル可カラス 第千九百八十条 券記抵当権ニ提拱セル財産カ毀滅ニ帰シ若クハ毀損ヲ被リテ責主ニ対スル保任ニ充ツルニ足ラサル如キノ景況ニ至レルコト有レハ則チ責主ハ其券記抵当ヲ追補セシムルノ権理ヲ有シ若シ此ノ追補ヲ得サレハ則チ其責権ヲ弁償セシムルノ権理ヲ有ス 第四節 券記抵当権ノ公示 第一款 証記 第千九百八十一条 券記抵当権ハ其抵当ニ提供セル財産ノ現在スル場地ノ券記抵当管理局ノ証記ニ因テ公示セラレサル可カラス 第千九百八十二条 妻タル者ニ属スル法律上ノ券記抵当権ハ其夫及ヒ嫁資備弁ノ行為ヲ公認スル公証人ノ注意ニ因テ其行為ヲ決行セシ本日ヨリ以後ノ二十日内ニ於テ証記ヲ為サヽル可カラス 此券記抵当権カ或種ノ財産ニ限レル者ニ非サレハ則チ公証人ハ夫タル者ヲシテ其占有スル財産ノ現在スル場地及ヒ第千九百七十九条ニ掲示セル事項ヲ公言セシメサル可カラス 妻タル者ニ属スル法律上ノ券記抵当権ノ証記ハ何レノ日時ヲ問ハス嫁資ヲ備弁シタル人ニ因テ之ヲ請求スルコトヲ得可ク又何等ノ許可ヲモ受クルコトヲ要セスシテ妻自カラ之ヲ請求スルコトヲ得可シ 第千九百八十三条 未丁年者及ヒ受治産禁者ニ属スル法律上ノ券記抵当権ハ第二百九十二条及ヒ第二百九十三条ニ掲記セル親属協会ノ会議ヲ為シタル本日ヨリ以後ノ二十日内ニ後見人、副後見人及ヒ其会議ニ臨同セル書記員ノ注意ニ因テ証記ヲ為サヽル可カラス 此証記ハ未丁年者若クハ受治産禁者カ何人ノ臨同ヲモ要セスシテ自カラ之ヲ請求シ若クハ其親属者ニ因テ之ヲ請求スルコトヲ得可シ 第千九百八十四条 若シ前二条ノ規則ニ遵依シ法律上ノ券記抵当権ノ証記ヲ請求ス可キ責務ヲ有スル其人カ限定セル期間内ニ其責務ヲ履行セサリシニ於テハ則チ此事ニ関シテ起生スル一切ノ損害ノ責ニ応シ且千「フラン」ノ罰金ヲ責徴セラル可ク而シテ後見人若クハ副後見人ハ此他尚ホ其任務ヲ解罷セラル可キ者トス 検事ハ特ニ本条ノ規則ノ執行ニ注意シ時ニ或ハ前項ニ限定セル罰金ノ擬施ヲ請求シ時ニ或ハ上文ニ掲示セル券記抵当権ノ証記ヲ請求ス 第千九百八十五条 券記抵当管理員ハ転付ノ行為ヲ証記スルニ際シ第千九百六十九条ノ第一項ノ規則ニ遵依シ転付者ニ属セシムル法律上ノ券記抵当権ハ仮令ヒ請求ヲ受ケサルモ亦必ス之カ証記ヲ為サヽル可カラス然ラサレハ則チ此ノ事ニ関シテ起生スル損害ノ責ニ応セサル可カラス 若シ公証人ニ因テ公認セラレ若クハ裁判上ニ於テ検証セラレタル私式ノ行為ニシテ之ニ依リ責務ノ履行ヲ果セシコトヲ証明シ得可キ所ノ者ヲ供出スルニ於テハ則チ此証記ヲ為スコトヲ須ヒス 第千九百八十六条 裁判上ノ券記抵当権ハ負責主ノ所有財産ノ其何レノ物件ニ向テ之ヲ設定スルモ之カ証記ヲ為スコトヲ得可シ然レトモ裁判宣告ヨリ以来負責主ノ得有セル不動産物件ニ関シテハ其不動産物件カ負責主ニ帰属スルニ随テ即チ其証記ヲ為スコトヲ得可キ者トス 第千九百八十七条 証記ヲ請得スル為メニハ券記抵当管理局ニ向テ券記抵当権ヲ有スル証券及ヒ二通ノ明細書ニシテ其一通ハ証券ノ末尾ニ填記スルヲ得可キ所ノ者ヲ出示セサル可カラス此明細書ニハ必ス左項ノ事件ヲ掲記スルコトヲ要ス 第一項 責主及ヒ負責主ノ姓名、住所若クハ居所(之有ラハ其職業)並ニ其父ノ名 第二項 券記抵当管理局ノ設在セル地方ノ本管轄裁判所ノ管轄内ニ於テ責主ノ指定スル住所 第三項 証券ノ記日及ヒ性質並ニ証吏ノ其証券ヲ接受シ及ヒ之ヲ公認シタル所ノ者ノ姓名 第四項 逋債ノ金額 第五項 債額ニ生出スル利息額若クハ年納額 第六項 弁債要求ノ期限 第七項 券記抵当権ヲ負荷スル財産ノ性質及ヒ其現在スル場地並ニ第九百七十九条ニ掲記セル表示事項 第千九百八十八条 券記抵当管理員ハ証記ヲ為シタル以後ニ於テ証券ト二通ノ明細書ノ其一通トヲ申請者ニ還付スルコトヲ要ス此明細書ハ其下端ニ就キ証記ヲ為シタル券記抵当管理員ノ其証記ヲ為セシコトヲ填記シ及ヒ其証券ノ記日、番号ヲ填記シテ以テ之ヲ還付ス可キ者トス 第千九百八十九条 券記抵当権カ私式ノ行為ヨリ生出スル者タルヤ若シ之ヲ承諾シタル人ノ署名カ公証人ニ因テ公認セラレ若クハ裁判所ニ因テ検証セラレタル所ノ者ニ非サレハ則チ証記ヲ請求スルコトヲ得可カラス 申請者ハ私式証券ノ原本若シ必要スルコト有レハ則チ証券ニ附属スル書類ヲ併セテ之ヲ出示セサル可カラス又若シ其原本ヲ公同記録局若クハ公証人ノ管存ニ付シタル者タルニ於テハ則チ公同記録局員若クハ公証人ニ因テ検証セラレタル写本ニテ之ニ依リ其私式行為ノ公認セラレタル所ノ者ヲ出示スルヲ以テ足レリトス 若シ私式証券ノ原本ヲ出示セルニ於テハ則チ其附属書類ト共ニ之ヲ券記抵当管理局ニ託付ス可キ者トス 第千九百九十条 外国ニ於テ録製シタル文牒ニシテ其ノ証記ヲ得ル為メニ出示セル所ノ者ハ先ツ正当ナル検証ヲ受ケサル可カラス 第千九百九十一条 若シ券記抵当権カ王国内ニ於テ執行セル公式ノ行為若クハ王国内ノ法衙ノ裁判ニ因テ生出スル者タルニ於テハ則チ仮令ヒ其証券ニ関シテ納致ス可キ証印税ハ尚ホ未タ其納致ヲ完了セサルモ亦証記ヲ請求スルコトヲ得可シ 此時会ニ在テハ其証券ヲ出示スルヲ必要スルコト無シ然レトモ其出示スル明細書ハ公証人ニシテ其証券ヲ接受シタル所ノ者ニ因リ若クハ裁判ヲ宣告シタル法衙ノ書記員ニ因テ検証セラレ而シテ第千九百四十六条ノ末項ニ掲示セル規則ニ遵依セル者タラサル可カラス 第千九百九十二条 券記抵当権ノ証記ハ貸付ヲ明記セル証券中若クハ其以後ニ録製セル証券中ニ確定セル金額ニ関スルニ非サレハ則チ之ヲ請求スルコトヲ得可カラス 若シ其金額カ前項二種ノ証券中ニ確定セラルヽコト無キニ於テハ則チ其金額ハ証記ニ関シテ録製スル明細書中ニ於テ責主之ヲ確定ス可キ者トス 第千九百九十三条 破産シタル負責主ノ財産ニ向テ存在スル券記抵当権及ヒ其証記ノ効力ハ商事法典ニ於テ之ヲ規定ス 第千九百九十四条 受譲者、替代者若クハ証記セル貸付権ヲ典有スル責主ハ其事ニ関係スル証券ヲ券記抵当管理員ニ交付シテ以テ其原有権者ノ為シタル証記ノ余白若クハ下端ニ就キ譲与、替代若クハ典質ノ事旨ヲ填記スルコトヲ請求スルヲ得可シ 私式ノ行為ニ関シ若クハ外国ニ於テ為シタル行為ニ関シテハ第千九百八十九条及ヒ第千九百九十条ニ規定セル法則ニ遵依ス可キ者トス 此填記ヲ為シタル以後ニ在テハ証記ハ受譲者、替代者若クハ典質物件ヲ現有スル責主ノ承諾ヲ取ルニ非サレハ則チ之ヲ抹銷スルコトヲ得可カラス而シテ其証記ニ関シテ為ス可キ督促若クハ通報ハ此等ノ人ノ利益ニ関シ此等ノ人ノ指定セル住所ニ向テ之ヲ為ス可キ者トス 第千九百九十五条 責主、其代理者、其承産者若クハ其受権者カ証記ニ関シテ指定セル住所ヲ同一区内ノ他ノ場地ニ換易スル如キハ一ニ其便宜ニ委ス 此住所ノ換易ハ券記抵当管理員ニ因テ其既ニ証記セル公簿ノ余白若クハ其下端ニ填記セサル可カラス 住所ノ換易ニ関スル責主ノ公言ハ必ス公証人ニ因テ公認セラレ若クハ検証セラレタル行為ヨリ生出セル者タルコトヲ要シ而シテ此公言ハ券記抵当管理局ニ因テ録存セラレサル可カラス 第千九百九十六条 死亡者ノ遺産ニ関スル証記ノ如キハ其承産者ヲ録記スルコトヲ要セスシテ唯々単純ニ其死亡者ヲ指示シ及ヒ他ノ証記ニ必要スル方法ニ従テ其証記ヲ為ス可キ者トス 然レトモ若シ証記ヲ為スノ時際ニ当テ券記ノ抵当ニ供充セル不動産物件カ三月以来負責主ノ承産者若クハ受権者ニ転移セシコトヲ租税簿ニ記載セラレタルコト有ルニ於テハ則チ其証記ハ第千九百八十七条ノ第一項ニ掲記セル表示法ニ従ヒ唯々現ニ此租税簿ニ登載セラレタル所ノ表示事項ノミニ依拠シ此等ノ人ノ利益ニ反対シテ以テ之ヲ為サヽル可カラス 第千九百九十七条 証記ハ仮令ヒ其貸付証券ニ依拠シ明細書ニ記載セル債額ヨリモ尚ホ多額ナルコトヲ証明スル有ルモ唯々其明細書ニ記載セル金額ニ向テノミ効力ヲ有スル者トス 第千九百九十八条 券記抵当権ヲ設定スル証券中若クハ二通ノ明細書ノ其一通中ニ包載ス可キ各般ノ表示事項ノ其一ノ脱漏若クハ誤謬カ証記ノ無効ヲ生出スルハ唯々之ニ係リテ責主若クハ負責主其人ニ関シ(若シ必要スレハ券記抵当権ヲ負荷スル地所ノ占有者其人ニ関シ)若クハ券記抵当権ヲ負荷スル各不動産物件其物ニ関シ若クハ貸付権ノ数額ニ関シテ純然ニ不定ナルコト有ル時会ノミニ於テスル者トス 此他ノ脱漏若クハ誤謬ニ関シテハ関係者ノ請求ニ応シ及ヒ其支費ニ資リテ補正ヲ命令スル者トス 第千九百九十九条 証記ニ関シ責主ニ対シテ搆起スルコトヲ得可キ訟権ハ責主其人ヲ指署シ若クハ其指定セル住所ヲ指署スル訴牒ヲ以テ其本管轄裁判所ニ向ヒ之ヲ行用セサル可カラス 此証記ニ関スル他ノ各般ノ通報モ亦前項ト同一ノ方法ニ従テ之ヲ為サヽル可カラス 若シ責主カ其住所ヲ指定セサリシカ若クハ其人ノ死亡セルカ若クハ其指定シタル住所カ現存セサルコト有ルニ於テハ則チ搆訴及ヒ通報ハ其券記抵当権ヲ証記シタル券記抵当管理局ニ向テ之ヲ為サヽル可カラス 然レトモ負責主カ券記抵当権ノ減少或ハ券記抵当権ノ証記ノ全部若クハ一部ノ抹銷ノ為メニ責主ニ対シテ搆起スル訴訟ニ関シテハ責主ハ訴訟法典ニ規定セル程式ニ確遵シテ以テ其責主ヲ追理セサル可カラス 第二千条 証記及ヒ証記ノ換新ニ関スル費用ハ若シ反対約款ノ在ル有ルニ非サレハ則チ負責主ノ負担ニ帰ス可キ者トス 第二款 証記ノ換新 第二千一条 証記ハ其記日ヨリ以後三十年間ハ其券記抵当権ヲ保続セシム 証記ノ効力ハ若シ其証記カ此期限ヨリ以前ニ於テ換新ヲ得ルニ非レハ則チ消滅ニ帰ス 第二千二条 未丁年者及ヒ受治産禁者ノ為メニ設定シタル法律上ノ券記抵当権ヲ換新スルノ責務ハ其後見人副後見人及ヒ未丁年者受治産禁者ノ後見ニ関スル公簿カ其時際ニ現在スル勧解裁判所ノ書記員ニ帰属ス若シ此等ノ人カ其証記ヲ換新セサルニ於テハ則チ第千九百八十四条ニ掲記セル罰則ヲ擬施セラル可キ者トス 第二千三条 前次ノ証記ニ存スル効力ヲ保続スル為メニスル証記換新ノ責務ハ券記抵当権ノ滌除ヲ行用スル時会ニ於テハ第二千四十二条ノ条則ニ遵依シテ設定スル転付ノ名義ヨリ生出スル所ノ券記抵当権ノ証記ニ因テ消滅ニ帰ス又不動産ヲ抵償強売セシムル時会ニ於テハ第二千八十九条ノ明文ニ確准シ価直支弁ノ為メニ買主ニ向テ設定セル競売ヨリ生出スル所ノ法律上ノ券記抵当権ノ証記ニ因テ消滅ニ帰ス 第二千四条 妻タル者ニ属スル法律上ノ券記抵当権ノ証記ハ其婚姻ノ保続スル間ニ在テハ之ヲ換新スルコトヲ要セス而シテ其婚姻ノ解破セル以後ノ一年間ハ尚ホ其効力ヲ保有スル者トス 第二千五条 換新ヲ請得スル為メニハ前次ノ証記ニ関スル二通ノ同一ナル明細書ニシテ証記換新ヲ要スル公言ヲ包載スル所ノ者ヲ券記抵当管理員ニ供呈スルコトヲ要ス 証記換新ニ関スル明細書ハ証券ト同一般ナル効力ヲ有ス 第千九百八十八条ノ条則ハ券記抵当管理員ノ宜ク厳密ニ遵奉ス可キ所ノ者トス 第二千六条 若シ換新ヲ為スノ時際ニ券記抵当権ヲ負荷スル不動産物件カ三月以来負責主ノ承産者若クハ受権者ニ転移セシコトヲ租税簿ニ記載セラレタルコト有ルニ於テハ則チ其証記ノ換新ハ第千九百八十七条ノ第一項ニ掲記セル表示法ニ従ヒ唯々現ニ此租税簿ニ登載セラレタル表示事件ノミニ依拠シ此等ノ人ノ利益ニ反対シテ以テ之ヲ為スコトヲ要ス 第五節 券記抵当権ノ先後順序 第二千七条 券記抵当権ハ其証記ヲ請得スルヤ随テ即チ其効力ヲ生出シ且其先後ノ順序ヲ規定セラルヽ者トス仮令ヒ貸借契約ニシテ其貸借物件ノ交付ハ日後ニ践行スル所ノ者ニ関シテモ亦然レリ 第二千八条 証記ノ順序ニ関スル番号ハ以テ其券記抵当権ノ順序ヲ等定ス可キ者トス然レトモ若シ数個ノ人カ同一ノ人ニ対シ若クハ同一ノ不動産物件ニ向テ券記抵当権ノ証記ヲ請求スルコト有レハ則チ此数個ノ人ハ同一ノ番号ヲ以テ証記セラル可ク而シテ此申請者タル各人ニ向テ券記抵当管理員ノ付与スル領受証票中ニ其事旨ヲ副記セラル可キ者トス 第二千九条 同一ノ番号ヲ以テ同一ノ不動産物件ニ関シ証記ヲ為シタル所ノ各券記抵当権ハ復タ先後ノ順序ヲ等定スルコト無ク其間ニ於テ相競スル者トス 第二千十条 貸付権ノ証記ハ以テ貸付証券ノ録製ニ関スル費用証記及ヒ証記ノ換新ニ関スル費用ト責主ノ順序ヲ等定スル訴訟法ニ関シテ尋常必要スル所ノ費用トヲシテ其貸付権ト同一ナル等級ニ排列セシムルノ功用有ル者トス 利息ヲ生出スル母金額ニ関スル証記ハ若シ其利息ノ比例ヲ掲記セシ証券タルニ於テハ則チ第二千八十五条ニ遵依シテ為シタル所ノ督促ノ証記ヲ請得セシ本日ヨリ以前ニ遡ル二年間ト本年トノ利息額ヲシテ其母金額ト同一ナル等級ニ排列セシムルノ功用有ル者トス然リ而シテ其他ノ利息ニシテ尚ホ此ヨリモ超多ナル数額ニ関シ特別ナル証記ヲ為シタル所ノ者ノ其証記カ其記日ノ本日ヨリシテ効力ヲ有スルニハ阻害スルコト無シ 結約者ハ特別ノ契約ニ依テ貸付額ノ券記抵当権及ヒ其券記抵当権ノ効力ニシテ本条第一項ニ掲示セル所ノ費用ニ超多スル裁判費用ニ迄推及セシムルコトヲ得可シ但々此事ニ関スル証記ヲ為スコトヲ要ス 第二千十一条 一個若クハ数個ノ不動産物件ニ向テ券記抵当権ヲ有スル責主カ先級ニ在ル他ノ責主ノ為メニ其不動産物件ノ価直ノ全部ヲ領収セラレタルニ因リ自已唯々其価直ノ一部ノミヲ領収シテ以テ損失ヲ被リ而シテ此先級責主ノ券記抵当権カ尚ホ負責主ノ他ノ財産ニ迄推及シ得可キ者タルニ於テハ則チ此損失ヲ被リタル責主ハ弁償ヲ得タル責主ノ券記抵当権ニ替代スル者ト看做サレ而シテ此等ノ財産ニ向テ券記抵当権ニ関スル訟権ヲ行用スルコトヲ得可ク且其証記ヲ得タル以後ニ於ケル責主ヨリモ尚ホ先ツ特択セラル可キ為メニ第千九百九十四条ノ条則ニ規定セル如ク之カ填記ヲ為スコトヲ得可シ又此権理ト同一ナル権理カ替代ニ因テ他ノ責主ニ転属スルハ総テ前文ノ規則ニ准ス 此規則ハ第千九百六十二条ニ規定セル領先特権ノ効力ノ為メニ損失ヲ被ル所ノ責主ニ向テモ亦之ヲ擬施ス可シ 第二千十二条 滌除及ヒ抵償強売ノ時会ニ当リ券記抵当権ヲ有スル各責主ノ権理ハ第二千四十二条及ヒ第二千八十九条ニ准依シ総責主ノ為メニスル券記抵当権ノ証記ニ因テ各自同一ニ規定セラル可キ者トス 第六節 現有者タル第三位ノ人ニ対スル券記抵当権ノ効力 第二千十三条 券記抵当権ニ提供シタル不動産物件ヲ現有スル第三位ノ人ニシテ其所有権ヲ無責ノ者ト為ラシムル為メニ本章第十節ニ規定スル程式ヲ履行セサル所ノ者ハ若シ第二千十条ノ条則ニ遵依シ証記ヲ為シタル貸付額及ヒ其随属額ヲ支弁スルコトヲ揀択スルニ非サレハ則チ何等ノ権理ヲモ貯存スルコトヲ得ス而シテ其不動産物件ニ存在スル自己ノ権理ヲ放棄セサル可カラス 第二千十四条 若シ現有者タル第三位ノ人カ其現有スル不動産物件ヲ放棄セス若クハ他ノ貸付額ヲモ支弁セサルニ於テハ則チ合規ノ権記抵当権ヲ有スル総責主ハ其不動産物件ヲ公売ニ付セシムルコトヲ得可シ 然レトモ此公売ハ負責主ニ向テ弁償ノ督促ヲ為シ及ヒ現有者タル第三位ノ人ニ向テ此督促ヲ為セシコトヲ通報シテ以テ其不動産物件ヲ放棄スルカ若クハ貸付額ヲ支弁スルカヲ要迫シタル以後三十日ノ期間ヲ満過スルニ非サレハ則チ之ヲ執行スルコトヲ得可カラス 第二千十五条 現有者タル第三位ノ人ニシテ得有ニ係ル権理ノ証記ヲ請得シ而シテ負責主カ曲敗宣告ヲ受ケタル訴訟ニ関与セサリシ所ノ者ハ若シ其曲敗宣告カ証記請得ノ以後ニ係レルニ於テハ則チ負責主カ得テ対抗ス可カリシ所ノ排拒法ヲ行用シテ以テ対抗スルコトヲ認許セラルヽ者トス但々其排拒法カ此負責主ノ其人件上ニ密属スル所ノ者ニ非サルコトヲ要ス 現有者タル第三位ノ人ハ曲敗宣告ノ以後尚ホ負責主ニ属スル所ノ排拒法ヲ行用シテ以テ対抗スルコトヲ得可シ 然レトモ本条ニ掲示セル排拒法ハ以テ他ノ券記抵当権ノ滌除ニ関シテ限定セル期間ノ流過スルヲ沮停スル者ニ非ス 第二千十六条 券記抵当権ニ提供シタル不動産物件ノ放棄ハ総テ現有者タル第三位ノ人ニシテ躬親カラ負債額ヲ弁償ス可キ責務ヲ有セサルカ若クハ転付ヲ為スニ合格ナルカ若クハ正当ニ転付ヲ為スノ認許ヲ受ケタル所ノ者ニ因テ之ヲ執行セラル可キ者トス 此放棄ハ以テ現有者タル第三位ノ人ノ設定シ及ヒ証記シタル券記抵当権ヲ消滅セシムル者ニ非ス 第二千十七条 現有者タル第三位ノ人カ一個ノ不動産物件ニ関シテ有シタリシ通務、券記抵当権及ヒ其他ノ物件上ノ権理ハ此現有者カ放棄ヲ為シ若クハ公売ヲ要強セラレタル以後ニ在テハ此各権理ノ得有ヨリ以前ニ於ケルト一般ニ再ヒ生出シ来ル者トス 第二千十八条 公売ノ未タ結落セサル以前ニ在テハ現有者タル第三位ノ人ハ第二千十三条ニ掲記セル貸付額並ニ費用額ヲ支弁シテ以テ自己ノ放棄セシ不動産物件ヲ収回スルコトヲ得可シ 第二千十九条 不動産物件ノ放棄ハ公売ニ関スル本管轄裁判所ノ書記局ニ於テ為ス所ノ公言ニ因テ成完シ而シテ此裁判所之ヲ公認スル者トス 裁判所ハ関係者ノ一人ノ請求ニ応シ放棄ニ付シタル不動産物件ニ向テ一個ノ管理人ヲ指命シ而シテ抵償強売法ニ関スル程式ニ遵依シ其不動産物件ヲ公売ニ付スル諸般ノ行為ハ此管理人ニ対シテ其執行ヲ追求ス可キ者トス 現有者タル第三位ノ人ハ現有スル不動産物件ヲ此管理人ニ交付スルニ至ル迄ハ即チ其不動産物件ノ看守者ト看做ス 第二千二十条 現有者タル第三位ノ人ハ自已ノ甚大ナル過失ニ因テ証記ヲ為シタル責主ノ損失ト為ル可キ毀害ヲ現有スル不動産物件ニ被ラシメタルニ於テハ則チ其賠償ヲ支付セサル可カラス而シテ其不動産物件ニ改良ヲ加ヘタルノ理由ヲ以テ責主ニ対シ何等ノ権理ヲモ自己ニ貯存スルノ口実ト為スコトヲ得可カラス 然レトモ現有者タル第三位ノ人ハ自己ノ権理ヲ証記シタル以後ニ其現有スル不動産物件ニ向テ改良ヲ加ヘタル部分ハ其改良ニ関シテ支消シタル費用ト放棄若クハ公売ノ時際ニ於ケル増加ノ価格トヲ比較シ其低少ナル一方ノ金額ニ達スル迄価直ノ額内ニ就キテ之ヲ扣断スルコトヲ得可シ 第二千二十一条 券記抵当権ニ提供シタル不動産物件ノ収額ハ現有者タル第三位ノ人カ貸付額ヲ支弁スルカ若クハ其不動産物件ヲ放棄スルカニ関シテハ証記セル督促書ノ通報ヲ受ケタル本日ヨリシテ始メテ此第三位ノ人ノ担任ス可キ者ト為ル若シ其搆起セル追理カ一年以内ニ放棄ニ付セラルヽコト有レハ則チ此収額ハ其督促書カ換新証記ヲ得タル本日ヨリシテ始メテ支弁ス可キ者ト為ル 現有者タル第三位ノ人カ滌除ヲ行用セルニ於テハ則チ其収額ハ督促書カ証記ヲ得タル本日ヨリシテ始メテ支弁ス可キ者ト為ル若シ其証記ヲ為サヽリシ者ニ関シテハ第二千四十三条及ヒ第二千四十四条ニ規定スル通報ヲ為シタル本日ヨリ之ヲ起算ス 第二千二十二条 現有者タル第三位ノ人ニシテ証記セル貸付額ヲ支弁シ若クハ現有スル不動産物件ヲ放棄シ若クハ其不動産物件ノ抵償強売ヲ受ケタル所ノ者ハ自己カ権理ヲ譲与セラレタル其人ニ対シ賠償ヲ要求スルノ権理ヲ有ス 現有者タル第三位ノ人ハ同一ノ貸付額ニ向テ券記抵当ニ提供シタル不動産物件ノ他ノ現有者タル第三位ノ各人ニ替代スル為メ此等ノ各人ニ対シテ其訟権ヲ有ス然レトモ是唯々其権理ノ得有ニ係ル行為ノ証記カ自巳ヨリモ後次ニ於テセル者ノミニ限止ス而シテ此第三位ノ人ハ第千九百九十四条ノ規則ニ遵依シ此替代ニ関スル填記ヲ為サヽル可カラス 第二千二十三条 若シ現有者タル第三位ノ人カ其権理ノ得有ニ依拠シ現ニ要求ス可キ金額ニシテ前所有主ニ対シ証記ヲ為シタル各責主ニ弁償スルニ足ル所ノ者ニ関シ其負責主ト為レルニ於テハ則チ各責主ハ此現有者ヲ要強シテ弁償ニ任セシムルコトヲ得可シ但々其権理得有ノ証券カ証記ヲ為シタル者タルコトヲ要ス 仮令ヒ現有者タル第三位ノ人ノ逋債カ現ニ要催シ得可キ者ニ非サルカ或ハ其逋債カ前項ノ各責主ニ逋負スル数額ヨリモ僅少ナルカ若クハ其性質ヲ殊異ニスル者タルモ此各責主ノ意思カ協合スルニ於テハ則チ現有者ヲシテ其逋負スル数額ヲ各自ノ部分ニ比例シ以テ其責務ノ規約及ヒ期限ニ照シ弁償ヲ為サシムルコトヲ要求スルヲ得可シ 前二項ノ其何レノ時会タルヲ問ハス現有スル不動産物件ヲ放棄シ以テ弁償ヲ為スノ責務ヲ避免スルコトヲ得ス然レトモ其弁償ヲ完了セルヤ即チ其不動産物件ハ一切ノ券記抵当権、仮令ヒ売主ニ対スル券記抵当権タルモ総テ其責務ヲ解卸スル者トス而シテ此現有者タル第三位ノ人ハ其不動産物件ニ関スル証記ノ抺銷ヲ請求シ得ルノ権理ヲ有ス 第七節 券記抵当権ノ減殺 第二千二十四条 券記抵当権ノ減殺ハ証記文中ニ包載セル財産ヲ其一部分ニ減限シ若クハ証記ヲ為シタル金額ヲ少許ノ金額ニ減限スルニ因テ以テ成立ス 第二千二十五条 券記抵当権ヲ減殺スルノ請求ハ其提供シタル財産ノ数額若クハ負債ノ金額カ契約ニ因リ若クハ裁判ニ因テ限定セラレタルニ於テハ則チ之ヲ認許セラレサル者トス 第二千二十六条 第千九百六十九条ノ第一項及ヒ第二項ニ掲記セル券記抵当権ヲ除クノ外他ノ法律上ノ券記抵当権並ニ裁判上ノ券記抵当権ハ若シ其証記文中ニ包載セル財産カ供出ス可キ保証ニ超過スル価格ヲ有スルカ若クハ其証記文中ニ於テ責主ノ確定セル金額カ裁判官ノ公言セル数額ニ五分ノ一ヲ超過スルニ於テハ則チ関係者ノ請求ニ因テ減殺セラル可キ者トス 第二千二十七条 提供シタル財産ノ価格カ証記ヲ為シタル貸付額ニ超過スルコト第二千十条ニ掲示セル附属額三分ノ一ニ達スルニ於テハ則チ其財産ノ価格ハ過度ノ者ト看做ス 第二千二十八条 券記抵当権ノ減殺ニ必要ナル費用ハ請求者之ヲ負担セサル可カラス 然レトモ若シ其減殺カ責主ノ確定セル貸付額ノ過度ニ起因スル者タルニ於テハ則チ責主之ヲ負担セサル可カラス 争訟ニ起発スル所ノ訴訟費用ハ曲敗ヲ取リタル一方ノ訟主之ヲ負担ス可ク若クハ或ハ其景況ニ応シ裁判官カ訟事ノ曲直ニ比例シテ之ヲ双方ニ分担セシム 第八節 券記抵当権ノ消滅 第二千二十九条 券記抵当権ハ左項ノ事為ニ因テ消滅スル者トス 第一項 責務ノ消滅 第二項 券記抵当権ヲ負荷スル不動産物件ノ毀滅但々第千九百五十一条ノ条則ニ因テ起生スル所ノ権理ハ之ヲ除ク 第三項 責主ノ権理ノ棄捐 第四項 法律上ニ規定セル程式ヲ践行シ責主ノ先後順序ヲ等定セル訴訟法式ニ遵依シテ交支スル債額全部ノ弁償 第五項 券記抵当権ニ関シテ限定シタル期限ノ満過 第六項 券記抵当権ニ附帯セシメタル解破ニ関スル規約ノ完成 第二千三十条 券記抵当権ハ期満法ニ因テモ亦均シク消滅ニ帰スルトス而シテ此期満ハ期満法ニ准依シ負責主ノ占有セル財産ニ関シテハ貸付額ノ期間ノ満過スルニ因テ期満シ第三位ノ人ノ占有セル財産ニ関シテハ三十年ノ期間ノ満過スルニ因テ期満ス 第二千三十一条 券記抵当権ハ若シ其弁償カ無効ト公言セラルヽコト有レハ則チ貸付額ト共ニ復タ生出シ来ル者トス 第二千三十二条 券記抵当権カ復タ生出シ来レルノ時会ニ於テ若シ原証記ノ存在セサルコト有レハ則チ新証記ニ照依シテ以テ其先後順序ニ関スル等級ヲ指定ス 第九節 証記ノ抹銷 第二千三十三条 関係者ノ承諾ヲ得タル証記ノ抺銷ハ責主ノ承諾ヲ記載セル文書ヲ出示シ管理人ニ因テ之ヲ執行セラル可キ者トス 此承諾ニ関スル文書ハ第千九百七十八条第千九百八十九条及ヒ第千九百九十条ノ各条則ニ遵依セル者タルコトヲ要ス 第二千三十四条 負責主ノ責務ヲ解卸セシムルニ不合格ナル人ハ其責務ヲ解卸セシムルニ合格ナル人ノ臨同ヲ得ルニ非サレハ則チ証記ノ抺銷ヲ承諾スルコトヲ得可カラス 第二千三十五条 父、後見人及ヒ其他ノ管理人ハ責権ノ弁償ヲ要求シ負責主ノ責務ヲ解卸セシムルノ権理ヲ有スルモ若シ貸付額ノ弁償ヲ得ルニ非サレハ則チ其貸付額ニ関スル証記ノ抺銷ヲ承諾スルコトヲ得可カラス 第二千三十六条 証記ノ抹銷カ既結ノ効力ヲ有スル裁判ニ因テ宣告セラレタルニ於テハ則チ管理人ニ因テ之ヲ執行セラル可キ者トス 此証記ノ抹銷ハ其券記抵当権ノ既ニ己ニ存在セサルノ時会若クハ証記ノ其効力ヲ有セサルノ時会ニ於テ之ヲ命令セラルヽ者トス 第二千三十七条 若シ証記ノ抺銷カ他ノ不動産物件ヲ以テ更ニ其券記抵当権ニ提供シ若クハ其貸付額ヲ以テ更ニ他ノ不動産物件ニ換替スルノ規約若クハ其他ノ規約ヲ立定スルニ非サルヨリハ之ヲ執行セサル可キコトヲ約束セル有ルカ若クハ命令セラルヽコト有レハ則チ其証記ノ抺銷ハ管理人ニ向テ其規約ノ完成セルコトヲ証明スルニ非サルヨリハ得テ之ヲ執行ス可カラス 第二千三十八条 証記ノ全部若クハ其一部ノ抺銷ヲ執行スルノ時会ニ於テハ請求者ハ券記抵当管理局ニ向テ其抺銷ノ請求ヲ承諾セラレタル文書ヲ供呈セサル可カラス 証記ノ抺銷若クハ正誤ハ其証記ノ余白ニ就キテ其抺銷正誤ノ承諾ヲ得タル文書及ヒ之ヲ執行スル記日ノ指示ト共ニ填記セラレ且管理人ノ署名ヲ冒帯スルコトヲ要ス 第二千三十九条 管理人カ証記ノ抺銷ヲ執行スルコトヲ拒却スル時会ニ当テハ請求者ハ之ヲ民事裁判所ニ追訴スルコトヲ得可ク民事裁判所ハ検事ノ申告ヲ聴取シ且管理人ノ録記セル意見ヲ聴取シ而ル後ニ密審ヲ経テ以テ其裁判ヲ宣告ス 此民事裁判所ノ決定ニ対シテ構起スル控訴及ヒ上告ハ各其法律ニ准依シ且本条ノ訴訟法式ニ遵行シテ之ヲ構起スルコトヲ認許セラルヽ者トス 民事裁判所ハ関係者ト看做ス可キ一切ノ人ヲ訟廷ニ喚致スルコトヲ命令セサル可カラス此時会ニ当リ若クハ証記ノ抺銷カ直接ニ関係者ニ向ヒ対席ヲ以テ請求セラルヽ時会ニ当テハ検事ノ申告ヲ聴取シ而ル後ニ簡略訴訟法式ニ准依シテ以テ其裁判ヲ宣告ス 第十節 不動産物件ニ存在スル券記抵当権ヲ滌除スル方法 第二千四十条 一切ノ得有者ニシテ躬親カラ券記抵当権ヲ負荷スル債額ノ弁償ヲ為ス可キ責務ヲ有セサル所ノ人ハ自已ノ得有セル権理ノ証記ヲ為スヨリ以前ニ証記ヲ為シタル所ノ券記抵当権ヲ其現有スル不動産物件ヨリ滌除スルコトヲ得ルノ権理ヲ有ス 第二千四十一条 此滌除ノ権理ハ督促ノ通報及ヒ第二千十四条ニ掲記セル要催ノ通報ヲ為シタル以後ト雖モ亦此得有者ニ帰属ス但若シ其権理ヲ証記セサリシニ於テハ則チ必ス此等ノ通報ヲ為セル本日ヨリ以後ノ二十日内ニ其証記ヲ為シ且四十日内ニ第二千四十三条及ヒ第二千四十四条ノ条則ニ掲示スル事為ヲ執行スルコトヲ要ス 第二千四十二条 得有者ハ若シ売買ノ価直若クハ下条ノ第三項ニ掲記スル如ク公言セラレタル価格ノ弁償ヲ保証スルニ関シテ売主ニ対スル総責主ノ為メニ先ツ法律上ノ券記抵当権ヲ証記セサリシニ於テハ則チ滌除ヲ執行スルコトヲ認許セラレサル者トス 第二千四十三条 得有者ハ使吏ニ因テ以テ証記ヲ為シタル責主其責主ノ指定セル住所及ヒ原所有主ニ向テ左項ノ事件ヲ通報セサル可カラス 第一項 証券ノ記日及ヒ性質 第二項 財産ノ品種、在所、及ヒ田地公簿ニ登載セル其番号若クハ其証券ヨリ生出スル諸般ノ指示事件 第三項 結約セル価直但々或ハ若シ其財産カ有益ニ得有者ニ帰属セシカ若クハ其価直カ確定セラレサルニ於テハ則チ其公言スル所ノ価格ヲ通報スルコトヲ要ス 第四項 権理得有ノ証記ヲ為シタル記日 第五項 前条ニ掲示セル券記抵当権ノ証記ヲ為シタル記日及ヒ其番号 第六項 得有財産ニ関スル権理ヲ証記セルヨリ以前ニ原所有主ニ対シテ設定シタル券記抵当権ノ各現存証記ヲ三欄内ニ填記セル所ノ表 其表ノ第一欄内ニハ現存証記ノ記日第二欄内ニハ責主ノ姓名第三欄内ニハ証記貸付権ノ数額ヲ填記ス 第二千四十四条 此通報書中ニ於テ現有者タル第三位ノ人ハ公売ヲ管知スル栽判所ノ設在スル邑内ニ其住所ヲ指定シ財産ノ価直若クハ公言セル価格ノ金額ヲ支弁スルコトヲ陳述セサル可カラス 此通報書ノ要略ハ之ヲ栽判広告新聞誌ニ抄載ス 第二千四十五条 此通報及ヒ抄載ヲ為シタル本日ヨリ以後ノ四十日内ニ証記ヲ為シタル責主若クハ保証者タル各人ハ其財産ヲ公売ニ付セシムルコトヲ得可シ但々左項ノ規約ヲ充践スルコトヲ要ス 第一項 使吏ニ因テ公売ニ付セシムルノ請求ヲ新所有主、其新所有主ノ指定セル住所及ヒ原所有主ニ通報スルコト 第二項 此公売請求書ニ於テ約定セル価直若クハ公言セル価格ニ其十分ノ一ヲ増加セル所ノ価直ニ昂ホセ若クハ昂ホサシムルコトヲ其請求者カ約定セシ事旨ヲ包載スルコト 第三項 此公売請求書ノ原本及ヒ写本ニハ請求者若クハ特別ノ代理者カ署名ヲ為スコト 第四項 請求者カ第二項ニ掲記セル価直ノ其五分ノ一ニ相当スル金額ニ向テ保証ヲ供出スルコト 第五項 此通報書ニ於テ保証ノ認諾及ヒ公売ノ請求ニ関シテ裁判ノ宣告ヲ受クル為メニ新所有主及ヒ原所有主ヲシテ法衙ニ出廷セシムル喚召ノ事旨ヲ包載スルコト 此各規約ノ其一ヲ脱漏セルニ於テハ則チ其請求ノ無効ヲ来ス可キ者トス 第二千四十六条 若シ公売カ前条ニ規定セル期限ニ照シ及ヒ程式ニ遵ツテ請求セラルヽコト無キニ於テハ則チ其不動産物件ノ価直ハ遂ニ契約ニ因テ限定セラレタル価直若クハ新所有主ニ因テ公言セラレタル価直ニ確定スル者トス 此不動産物件ハ貸付額即チ此確定ノ価直ヲ以テ弁償ヲ為ス可キ所ノ貸付額ニ関係スル券記抵当権ノ負荷ヲ解脱スル者トス 此他ノ券記抵当権ニ関シテハ其不動産物件ハ正当ニ等級ヲ付与セラレタル責主ニ向テ弁償ヲ為シ若クハ訴訟法典ニ規定セル程式ニ遵行スル寄託ヲ為スニ因テ其負荷スル券記抵当権ヲ解脱スル者トス 第二千四十七条 前数条ニ規定セル期限ハ決シテ之ヲ延展スルコトヲ許サス 第二千四十八条 公売ノ請求ヲ為スニ当リ其准備ノ行為及ヒ売買ヲ為スニ関シテハ訴訟法典ニ規定セル程式ニ遵行ス可キ者トス 第二千四十九条 公売ニ関スル中票者ハ売付価直及ヒ公売費用ヲ支弁スルノ外ニ於テ原得有者ニ契約ノ締結、其契約ノ証記、第二千四十二条ニ掲示セル券記抵当権ノ証記、管理人ノ検証、通報及ヒ抄載ノ費用ヲ併セテ之ヲ支弁セサル可カラス 公売ニ付スルコトヲ請求スル為メニ支消シタル費用モ亦均シク中票者ノ負担ス可キ者トス 第二千五十条 若シ現有者タル第三位ノ人カ中票者ト為リタル時会ニ於テハ復タ特ニ中票ノ宣告ヲ証記スルコトヲ要セス 中票者ノ為メニスル券記抵当権解脱ノ規則ハ第二千四十六条ノ条則中ニ存在ス 第二千五十一条 公売ヲ請求セル責主ノ其請求ノ中止ハ以テ仮令ヒ此責主カ其提供シタル金額ヲ交付スルモ亦其公売ヲ妨阻スル者ニ非ス但々証記ヲ為シタル他ノ各責主カ其請求ノ中止ヲ承諾セル如キハ此限外ニ在リトス 第二千五十二条 得有者ニシテ中票者ト為リタル人ハ其契約上ニ於テ約定セル価直ニ超過スル金額ノ還償ニ関シ及ヒ此超過額ノ利息即チ支付ス可キ本日ヨリ起算スル所ノ者ニ関シテハ売主ニ対シテ還償ヲ要求スル訟権ヲ有ス 第二千五十三条 新所有主ノ証券カ動産物件或ハ不動産物件或ハ数個ノ不動産物件ニシテ其一ハ券記抵当権ヲ負荷シ其他ハ無責ニ係ル所ノ者若クハ諸般ノ証記ヲ負荷スル所ノ者或ハ裁判所ノ同一管内ニ現在シ若クハ彼此ノ管轄内ニ現在スル所ノ者或ハ単一ノ価直若クハ各別ノ価直ヲ以テ転付セラレタル所ノ者或ル同一ノ抽利ヲ為シ若クハ各別ノ抽利ヲ為ス所ノ者ヲ包含セル時会ニ在テハ各自各別ノ証記ニ付セラレタル各個ノ不動産物件ノ価直ハ此新所有主ノ通報書中ニ於テ其証券ニ記載セル価直ノ全額ニ比例スル計算ヲ明記セサル可カラス 射票者タル責主ハ何等ノ時会タルヲ問ハス其責権ニ対シテ券記抵当セル動産物件及ヒ不動産物件ニ非サル他ノ不動産物件ニ向テ射票競価スルコトヲ要強セラレサル者トス但々新所有主カ其得有権内ニ包括スル物件ノ分離及ヒ之ニ属スル抽利ノ分離ニ関シテ被ル所ノ損害ノ賠償ヲ要求スル為メニ原有権者ニ対シ還償ニ関スル訟権ヲ行用スル如キハ此限外ニ在リトス 第二十四篇 死亡者ノ資産ト承産者ノ資産トノ分離 第二千五十四条 死亡者ノ死産ト承産者ノ資産トノ分離ニ関スル権理ニシテ第千三十二条ニ掲記セル所ノ者ハ責主若クハ受遺者ニシテ既已ニ死亡者ノ資産ニ権理ヲ有スル所ノ人ニ属ス 第二千五十五条 資産分離ハ死亡者ノ資産ニ就キ其死亡者ニ対スル責主及ヒ受権者ニシテ分離ヲ請求シタル所ノ人カ其承産者ニ対スル責主ヨリモ尚ホ先ツ特択セラレテ以テ弁償ヲ領受スルヲ其標率ト為ス者トス 第二千五十六条 責主及ヒ受遺者ニシテ承産者ヲ負責主ト為スコトヲ領諾シ以テ責務ノ転換ヲ為シタル所ノ人ハ資産分離ニ向テ権理ヲ有スルコト無シ 第二千五十七条 資産分離ヲ請求スル権理ハ遺産ノ承産ヲ開始セル以後ノ三月内ニ於テスルニ非サレハ則チ之ヲ行用スルコトヲ得可カラス 第二千五十八条 遺産目録ノ利益ヲ以テスル遺産ノ諾受ハ以テ死亡者ニ対スル責主及ヒ受遺者ニシテ資産分離ヲ請求スル権理ヲ行用セント欲スル所ノ人ニ向テ本篇ニ規定スル事項ニ関シ其認許ヲ付与スル者ニ非ス 第二千五十九条 動産物件ニ関スル資産分離ノ権理ハ裁判上ノ請求ヲ為シテ以テ之ヲ行用ス可キ者トス 第二千六十条 不動産物件ニ関スル資産分離ノ権理ハ其不動産物件ノ各個ニ向テ其物件ノ現在スル場地ノ券記抵当管理局ニ就キ貸付若クハ贈与ノ行為ヲ証記シテ以テ之ヲ行用ス可キ者トス 此証記ハ第千九百八十七条ニ規定セル定式ニ遵依シテ以テ之ヲ為ス可キ者トス但々死亡者ノ姓名(若シ知ル可クハ其承産者ノ姓名)及ヒ此証記ハ資産分離ノ名義ヲ以テ之ヲ為シタルノ公言ヲ併記スルコトヲ要ス 此証記ヲ請得スル為メニハ復タ特ニ証券ヲ出示スルコトヲ要セス 第二千六十一条 既ニ己ニ承産者ニ因テ転付セラレタル動産物件ニ存在スル資産分離ニ関スル権理ハ其尚ホ未タ交付セラレサル所ノ価直ニ向テ存在スル者トス 第二千六十二条 承産者ニ対スル責主ノ為メニ遺産ニ係レル不動産物件ニ向テ設定スル券記抵当権及ヒ其不動産物件ニ関シテ証記ヲ為シタル転付ハ以テ死亡者ニ対スル責主及ヒ受遺者ニシテ上条ニ掲示セル三月ノ期間内ニ資財分離ヲ請求シ得タル所ノ人ニ向テ毫モ妨阻ヲ為ス者ニ非ス 第二千六十三条 資産分離ハ以テ唯々其請求者タル各人ノミニ利益スル者ニシテ而カモ死亡者ノ資産ニ関シ各自ニ有スル証券ノ法律上ニ於ケル原初ノ規約及ヒ先後順序ニ関スル権理ハ其各自ノ間ニ変換ヲ起生スルコト無シ 第二千六十四条 承産者ハ死亡者ニ対スル責主及ヒ受遺者ニ向テ弁償ヲ為スコトヲ要ス若シ夫レ此等ノ人ノ権理ニシテ規約若クハ期限ニ因テ仮停ヲ受ケ若クハ争訟ヲ帯フル所ノ者ニ向テハ其弁償ニ関スル保人ヲ立定シテ以テ資産分離ノ執行ヲ妨阻シ若クハ之ヲ罷止セシムルコトヲ得可シ 第二千六十五条 券記抵当権ニ関スル諸般ノ条則ハ資産分離ヨリ生出スル権理ニシテ遺産ニ係レル不動産物件ニ関シ合規ノ証記ヲ為シタル所ノ者ニ向テモ亦之ヲ擬施ス可シ 第二十五篇 券記抵当証記簿ノ公示及ヒ券記抵当管理員ノ責任 第二千六十六条 券記抵当管理員ハ何人タルヲ問ハス凡ソ請求ヲ為ス所ノ者有レハ則チ行為ノ証記、券記抵当権ノ証記及ヒ填記ノ写本ヲ付与シ若クハ何等ノ証記ヲモ公簿上ニ記存セサルコトヲ証明スル証書ヲ付与ス可キノ任務ヲ有ス 規則ヲ以テ限定セル時間内ニ於テハ公簿ノ査閲ヲ許諾セサル可カラス然レトモ何人タルヲ問ハス行為ノ証記、券記抵当権ノ証記及ヒ填記ノ写本ヲ写取セシムルコトヲ許サス 券記抵当管理員ハ原本ヲ券記抵当管理局ニ寄託セル証券ノ写本若クハ原本ヲ本管轄裁判所ノ管轄外ニ在ル公証人ノ管存ニ付シ若クハ公同記録局ニ寄託セル証券ノ写本ヲ付与セサル可カラス 第二千六十七条 券記抵当管理員ハ左項ニ列記セル各般ノ事件ニ関シテ其責ニ応セサル可カラス 第一項 行為ノ証記、券記抵当権ノ証記及ヒ填記ニ設備セル公簿上ニ於ケル脱漏並ニ此等ノ証記ニ関シテ為シタル誤錯 第二項 検証書中ニ於テ一個若クハ数個ノ行為ノ証記、券記抵当権ノ証記及ヒ填記ニ関シテ為シタル脱漏並ニ此等ノ証記ニ関シテ為シタル誤錯但々其脱漏若クハ誤錯カ券記抵当管理員ニ諉帰セシム可カラサル如キ請求者ノ不備ナル指示ニ起因スル者ハ此限外ニ在リトス 第三項 不当ニ為シタル抺銷 第二千六十八条 公簿上ヨリ生出スル諸般ノ事為ト券記抵当管理員ノ付与セル写本若クハ検証書上ヨリ生出スル諸般ノ事為トノ間ニ於テ何等ノ差異ノ在ル有ルコトヲ明認スルモ総テ公簿上ヨリ生出スル所ノ者ニ取決ス然レトモ其写本若クハ其検証書ノ差錯ヨリ生出スル諸般ノ損害ニ関シテハ券記抵当管理員ノ責任ハ常ニ存在スル者トス 第二千六十九条 券記抵当管理員ハ何等ノ時会ニ於テスルモ明細書ノ合規ナラサルヲ口実ト為シテ以テ呈示セル証券ノ接受或ハ其請求スル行為ノ証記、券記抵当権ノ証記若クハ填記或ハ其証券ノ写本若クハ検証書ノ付与ヲ拒却シ若クハ遅延スルコトヲ得可カラス若シ之ニ違背スレハ則チ関係者ニ対シ此事ニ起生セシメタル損害ヲ賠償セサル可カラス又関係者ハ是カ為メニ直チニ二個ノ証人ノ幇同ヲ得タル公証人若クハ訟吏ヲシテ適宜ノ供状書ヲ録製セシムルコトヲ得可シ 然レトモ明細書及ヒ証券ニシテ瞭解ス可キ文字ヲ以テ記載セル所ノ者ニ非サレハ則チ其接受ヲ拒却スルコトヲ得可ク又若シ第千九百三十五条、第千九百七十八条、第千九百八十九条及ヒ第千九百九十条ニ掲示セル規約ニ確遵スル所ノ者ニ非サレハ則チ之ヲ接受スルコトヲ得可カラス 第二千七十条 券記抵当管理員ハ券記抵当管理局ノ公衆ノ為メニ公開スル時間ニ於テスルニ非サレハ則チ行為ノ証記、券記抵当権ノ証記及ヒ其他何等ノ証記ノ請求ヲモ領諾スルコトヲ得可カラス 第二千七十一条 券記抵当管理員ハ総録公簿即チ順次ノ公簿ニシテ凡テ行為ノ証記、券記抵当権ノ証記若クハ填記ノ為メニ自巳ニ交付セラレタル各般ノ証券ノ其接受ヲ為スニ随テ日次ニ記載スル所ノ者ヲ掌管ス 此総録公簿ハ其紙面ニ各欄界ヲ予設シテ以テ請求ヲ為シタル人、明細書ト一併ニ呈示セル各種ノ証券、証記ノ標率即チ行為ノ証記、券記抵当権ノ証記若クハ填記ノ標率及ヒ自己ノ財産ニ対シテ証記ヲ受ケタル其人ヲ記載スル所ノ者トス 券記抵当管理員ハ証券若クハ明細書ヲ接受スルヤ即チ費用ヲ収取スルコト無クシテ尋常ノ白紙ニ記載スル領受証票ヲ付与セサル可カラス此領受証票ニハ必ス証記ノ番号ヲ点記スルコトヲ要ス 第二千七十二条 券記抵当管理員ハ総録公簿ノ外尚ホ左項ニ列掲スル各種ノ公簿ヲ掌管ス 第一項 行為ノ証記ニ設備スル公簿 第二項 券記抵当権ノ証記ニシテ其換新ヲ為ス可キ所ノ者ニ設備スル公簿 第三項 券記抵当権ノ証記ニシテ其換新ヲ為ス可カラサル所ノ者ニ設備スル公簿 第四項 填記ニ設備スル公簿 第二千七十三条 総録公簿、行為証記簿、券記抵当権証記簿及ヒ填記簿ハ券記抵当管理局ヲ設在セル地方ノ本管轄民事裁判所ノ所長若クハ裁判官ノ一員ニ因テ其毎紙葉ニ華押ヲ点記セラル可ク而シテ其供状書中ニ公簿ノ葉数ト華押点記ノ日時トヲ明記セサル可カラス此各種ノ公簿ハ余白ヲ存シ及ヒ空界ヲ留ムルコトヲ許サス又挿記ヲ為スコトヲ許サス若シ又文字ヲ塗抹スレハ則チ其毎紙葉ノ末尾ニ於テ券記抵当管理員カ署名ヲ為シ且塗抺セシ文字ノ箇数ヲ指示シテ以テ之ヲ証明セサル可カラス 又此各種ノ公簿ハ毎日券記抵当管理員カ其収結ヲ記註シ且之ニ署名スル者トス 又此各種ノ公簿ニ関シテハ厳密ニ其記日、紙葉及ヒ番号ノ順次ヲ整頓セサル可カラス 第二千七十四条 上文ニ列掲セル各種ノ公簿ハ若シ控訴裁判所ノ命令ニ因テ必要タルコトヲ認識セラレ而シテ加之此控訴裁判所ノ予虞ノ指示ヲ得ルニ非サレハ則チ決シテ之ヲ券記抵当管理局外ニ搬出スルコトヲ許サス 第二千七十五条 券記抵当管理員ハ其職務ヲ執行スルニ関シテハ本篇中ノ一切ノ条則及ヒ之ニ関スル法律ノ各般ノ規則ニ確遵セサル可カラス然ラサレハ則チ二千「フラン」ノ罰金ヲ責徴セラル可キ者トス 第二十六篇 不動産物件ノ抵償強売及ヒ責主ノ間ニ於ケル先後順序並ニ価直分配 第一章 抵償強売 第二千七十六条 責主ハ不動産物件カ責権ノ保証トシテ券記抵当ニ提供セラレタルニ於テハ則チ其債額ノ弁償ヲ得ル為メニ負責主ノ所有権内ニ在ル所ノ此不動産物件ヲ公売ニ付セシムルコトヲ得可ク仮令ヒ此不動産物件カ他人ノ所有権内ニ転属セル以後ニ係ルモ亦之ヲ公売ニ付セシムルコトヲ得可シ 第二千七十七条 此公売ハ一個ノ不動産物件ノ分割ス可カラサル部分ニ向テ其分配ヲ為スヨリ以前ニ在テハ一切ノ共同所有主ニ対スル責主ニ非サル他ノ人ノ追理ニ因テ其執行ニ開手スルコトヲ得可カラス 第二千七十八条 責主ハ不動産物件ノ公売ニ関シテハ其執行ニ開手スル為メニ先ツ負責主ノ所有スル動産物件ヲ罄竭セシムルコトヲ要セス 第二千七十九条 嫁資財産ニ関スル公売ノ執行ハ妻及ヒ夫ノ眼同ヲ得テ以テ之ニ開手ス可キ者トス 第二千八十条 責主ハ若シ責権ニ向テ券記抵当ニ提供セラレタル不動産物件カ弁償ヲ得ルニ足ラサル時会ヲ除クノ外ハ若シ負責主ノ承諾ヲ取ルニ非サレハ則チ其不動産物件ヲ公売ニ付スルコトヲ得可カラス 第二千八十一条 不動産物件ニ関スル公売ハ若シ確定ニシテ且明正ナル債額ニ関シ執行命令ノ効功ニ依拠スルニ非サレハ則チ其執行ニ開手スルコトヲ得可カラス 債額ハ其性質ノ如何ヲ問ハス先ツ貨幣ヲ以テ其数額ヲ算定スルニ非サレハ則チ其公売ノ執行ニ開手スルコトヲ得可カラス 第二千八十二条 一個ノ貸付権ノ受譲者ハ負責主ニ向テ其譲与ノ事旨ヲ通報シタル以後ニ於テスルニ非サレハ則チ公売ノ執行ニ開手スルコトヲ得可カラス 第二千八十三条 抵当強売ハ仮令ヒ証券面ニ記載セル債額ヨリ超多セル価額ニ向テ之ヲ執行セラルヽ者タルモ亦其効力ヲ有ス但々其超多額ハ之ヲ負責主ニ還付スルコトヲ要ス 第二千八十四条 不動産物件ノ抵償強売ニ関スル請求ヲ為ス為メニハ責主ハ先ツ訴訟法典ニ規定セル程式ニ照准シテ弁償ノ督促ヲ為サヽル可カラス 此弁償督促書中ニハ抵償強売ニ付セシムルコトヲ欲スル財産ノ指示ト第千九百七十九条ニ掲記セル事項トヲ包載セサル可カラス 第二千八十五条 此弁償督促書ハ公売ヲ追求スル財産ノ現在スル場地ノ各券記抵当管理局ニ向テ其証記ヲ為サヽル可カラス 此証記ノ記日ヨリシテ弁償督促書中ニ指示スル財産ニ生出スル所ノ収額ハ其財産ノ価直ト一併ニ分配ス可キ者ト為ル故ニ負責主ハ此財産及ヒ其収額ヲ転付スルコトヲ得可カラスシテ猶裁判上ノ看守者ト一般ニ唯々之ヲ占有スルニ止マル者トス但々一人若クハ数人ノ責主ノ請求ニ因テ裁判所カ他ノ看守者ヲ指命スルヲ適当ナリト判定スル如キハ此限ニ在ラス 裁判所ハ若シ他ノ看守者ヲ指命スルコト有レハ則チ申請者タル責主ノ意見時ニ或ハ負責主ノ意見ヲモ聴取シタル以後ニ於テ裁判所ノ指定スル日期及ヒ規約ニ遵依シ其財産ヲ賃貸ニ付スルコトヲ看守者ニ認許ス 若シ抵償強売ノ追理カ一年ノ期間内ニ放棄セラルヽコト有レハ則チ本条ノ第一項ニ掲記セル効力ハ消滅ニ帰スル者トス 第二千八十六条 第二千二十一条ニ准依シ現有者タル第三位ノ人カ逋負スル所ノ収額及ヒ利息ハ公売ニ付シタル不動産物件ノ価直ト一併ニ分配セラル可キ者トス 第二千八十七条 数個ノ不動産物件ニ向テ券記抵当権ヲ有スル責主ハ若シ券記抵当権ノ滌除ヲ執行スルニ関シテハ第二千四十三条ニ掲示セル通報ヲ受ケタル以後又抵償強売ヲ執行スルニ関シテハ其公売命令ノ通報ヲ為シタル以後ニ在テハ不動産物件ノ其一個ニ負荷スル所ノ券記抵当権ヲ拒却スルコトヲ得可カラス又前次ニ証記ヲ為シタル各責主ノ損害有ルニ関セス一人ノ責主ノ利益ノ為メニ自カラ好ミテ其先後順序ニ於テスル自己ノ請求ヲ罷止スルコトヲ得可カラス若シ其拒却ヲ為シ若クハ請求ヲ罷止シタルニ於テハ則チ其事ニ起生スル損害ヲ賠償セサル可カラス 第二千八十八条 若シ券記抵当権ヲ有セサル一人ノ責主カ一個ノ抽利中ニ包含セサル財産ニシテ其価直カ明白ニ其貸付額及ヒ同一ノ財産ニ向テ券記抵当権ヲ有スル貸付額ノ弁償ニ関シ必要スル価直ヨリモ超多ナル所ノ者ノ公売ヲ請求スルコト有レハ則チ裁判所ハ負責主ノ請求ニ応シ弁償ヲ為スニ足ル可シト看認スル所ノ財産ヲ公売セシムルニ限止スルコトヲ得可シ 第二千八十九条 競売ニ付シタル以後ニ在テハ裁判所ノ書記員ハ十日ノ期間内ニ中票者ノ費用ニ資リテ総責主及ヒ負責主ノ為メニ競売ニ関スル行為ヨリ生出スル所ノ券記抵当権ノ証記ヲ為サヽル可カラス若シ此証記ヲ為サヽルニ於テハ則チ千「フラン」以内ノ罰金ヲ責徴セラレ且其事ニ起生スル損害ヲ賠償セサル可カラス 第二章 責主ノ間ニ於ケル先後順序及ヒ価直分配 第二千九十条 責主ニ関スル先後順序ノ開始ハ以テ無期年金契約ノ買回権ヲ生出シ而シテ有期ノ責権ハ其弁償ヲ要求シ得可キ所ノ者ト為ル然レトモ此責権カ利息ヲ生出セサル者タルニ於テハ則チ其母金ハ裁判上ノ寄託局ニ向テ之ヲ寄託シ而シテ其利息ハ領受ス可キ権理有ル所ノ人ニ向テ之ヲ交付ス 終身年金及ヒ終身年納額ニ関シテハ若干ノ金額ニシテ其利息ノ此年金若クハ年納額ニ比例スル所ノ者カ其先後順序ニ排当セラル可キ者トス但々後級ニ在ル所ノ責主カ他ノ方法ヲ以テ確実ニ保証スルコトヲ揀択スル如キハ此限ニ在ラス此金額ハ終身年金契約ノ終期ニ至テ其責主ニ復帰スル者トス 第二千九十一条 不定ニ係リ若クハ規約ヲ帯ヒタル責権ノ先後順序ニ部入スルハ以テ後級ニ在ル所ノ責主ニ向テ弁償ヲ為スコトヲ妨阻スル者ニ非ス但々此責主カ其時会ニ当テハ之ヲ還付スルコトヲ保証スル為メニ其保人ヲ立定スルコトヲ要ス 第二千九十二条 領先特権若クハ券記抵当権ヲ貸付権ノ先後順序ニ部入シタル以後ニ価直ノ一部分カ残余スルコト有レハ則チ其部分ハ第千九百六十三条ニ規定セル特択権ヲ除クノ外ハ要求ヲ為シタル他ノ各責主ノ責額ニ比例シテ以テ之ヲ分配ス若シ此等ノ責主ノ要求ヲ為ス所ノ者無キニ於テハ則チ之ヲ負責主ニ交付ス 然レトモ若シ現有者タル第三位ノ人カ抵償強売ヲ受ケタルノ時会ニ於テハ価直ノ残余部分ハ此現有者ニ交付ス而シテ此現有者カ原有権者ニ向テ還償ヲ為シ得可キ責額ニ就キテ之ヲ扣断セラル可キ者トス 第二十七篇 拘禁 第二千九十三条 拘禁ハ法律上ニ規定セル時会ニ於テ法律上ノ程式ニ遵依シ関係者ノ請求スル有ルニ非サレハ則チ之ヲ命令スルコト無シ 之ニ反対セル諸般ノ契約ハ総テ効力ヲ有セサル者トス 第二千九十四条 拘禁ハ左項ニ列記スル所ノ人ニ向テ之ヲ命令ス 第一項 脅迫、詐偽若クハ騙奪ニ起生スル責務ノ履行ニ関シテハ仮令ヒ其事故ハ犯罪ヲ結成スルコト無キモ負責主ニ対シテ之ヲ命令ス 第二項 違犯ノ事為ニ起生スル責務ノ履行ニ関シ任意ニ裁判上ノ制禁ニ違犯シタル人ニ対シテ之ヲ命令ス 第三項 官務若クハ裁判上ノ任務ノ執行ニ関シ証券、文書、金額若クハ其他ノ物件ヲ自己ノ処分権内ニ存有スル人ニシテ此等ノ物件ニ向テ命令セラルヽ供出、予約若クハ還付ヲ拒却スル所ノ者ニ対シテ之ヲ命令ス 第二千九十五条 拘禁ハ政府、州、邑、貧病院及ヒ其他ノ公同院舎ノ会計吏ニ対シテハ其事情ニ応シ法衙ニ於テ之ヲ命令ス又金額及ヒ物件ニ向テ責任ヲ有スト公言セラルヽ管掌者若クハ理務者ハ仮令ヒ詐偽ノ行為無キモ其責任ニ関シテハ此等ノ人ニ対シテ之ヲ命令ス 第二千九十六条 拘禁ハ債額五百「フラン」以内ノ母金ニ関シテ之ヲ命令スル如キハ制禁ニ属ス 第二千九十七条 拘禁ハ左項ニ列記スル所ノ人ニ向テ之ヲ命令スルル如キハ均シク制禁ニ属ス 第一項 未丁年者及ヒ婦女但々商事法典ニ掲記スル条則ノ如キハ此限外ニ在リ 第二項 年齢六十五歳ニ達スル人 第三項 負責主ノ承産者 第二千九十八条 拘禁ハ左項ニ列記スル所ノ人ノ為メニハ負責主ニ対シテ之ヲ命令スルコトヲ得ス 第一項 配偶者 第二項 先親及ヒ後親、兄弟及ヒ姉妹、姻族、同級者叔及ヒ姪 第二千九十九条 拘禁ハ同一ノ負債ニ関シテハ決シテ夫及ヒ妻ニ対シ同時ニ之ヲ執行スルコトヲ得可カラス 夫カ其妻ト共ニ互相特担ノ責務ヲ有スル時会ト雖モ亦其妻ハ拘禁認免セラルヽ者トス 第二千百条 拘禁ハ中裁人ノ公言スル決定ノ執行ニ関シテハ決シテ之ヲ命令スルコトヲ得可カラス但々商事法典ニ掲記セル条則ノ在ル有ル者ハ之ヲ除ク 第二千百一条 拘禁ハ曲敗ニ関スル裁判ノ宣告ト一併ニ之ヲ命令ス可キ者トス 第二千百二条 拘禁ノ期間ハ三月以外二年以内ニ限止ス 裁判権カ拘禁ノ期間ヲ限定スルニハ事為ノ情況ト責務ノ軽重トヲ商量セサル可カラス 第二千百三条 拘禁ヲ受ケタル負責主ニ対シテハ其捕拿ニ就クヨリ以前ニ称借セシ負債ニシテ拘禁解免ノ日ニ於テ其弁償ヲ要求セラル可キ所ノ者ニ関シテ復タ之ヲ捕拿シ若クハ尚ホ之ヲ拘留スルコトヲ得可カラス但々此負債ノ為メニ其既ニ受ケタル拘禁ヨリモ尚ホ長期ナル拘禁ヲ受ク可キ者ノ如キハ此限ニ在ラス然レトモ其既ニ受ケタル拘禁ノ日数ハ新タニ受ク可キ拘禁ノ期間中ニ算取セラルヽ者トス 第二千百四条 負責主ハ負債額四分ノ一ト其随属額トヲ支付シ而シテ其残額ニ向テハ弁償ヲ為スニ足ル可キ保証ヲ供出シテ以テ拘禁ヲ解脱スルコトヲ得可シ若シ捕拿ニ就クヨリ以前ニ於テハ其裁判ヲ宣告セル法衙ニ因テ認免セラレ又若シ捕拿ニ就キタル以後ニ於テハ其拘禁セラルヽ場地ノ本管轄民事裁判所ニ因テ認免セラル可キ者トス 法衙ハ其負債ノ残額ヲ弁償スルニ必要スル期限ノ為メニ負責主ニ対シテ拘禁ノ仮定ヲ認免スルコトヲ得可シ此期限ヲ満過セルニ於テハ則チ責額ノ弁償ヲ得サル責主ハ曲敗宣告ノ完全ナル執行ヲ得ル為メニ負責主ノ拘禁ニ着手セシムルノ権理ヲ有ス而シテ拘禁ノ仮停ニ関シテ自己ニ提供セラレタル保証ハ之ヲ自己ニ貯存ス 第二十八篇 期満法 第一章 総則 第二千百五条 期満法ハ某ノ時間ニ向テ立定セル規約ニ依拠シテ一個ノ権理ヲ得有シ若クハ一個ノ責務ヲ解卸スル所ノ方法即チ是ナリ 第二千百六条 期満法ニ依拠シテ権理ヲ得有スル為メニハ必ス正当ニ其権理ヲ占有スルコトヲ要ス 第二千百七条 期満既ニ成立セルノ日ニ於テスルニ非サレハ則チ其期満ヲ拒却スルコトヲ得可カラス 第二千百八条 転付ヲ為スニ合格ナラサル人ハ期満ヲ拒却スルコトヲ得可カラス 第二千百九条 裁判官ハ其職務上ニ於テ訟主ノ対抗セサル期満法ヲ補足スルコトヲ得可カラス 第二千百十条 期満法ハ若シ之ニ依テ対抗スル権理ヲ有スル所ノ人カ其権理ヲ放棄スルコト無キニ於テハ則チ控訴ニ関シテモ亦之ニ依テ対抗スルコトヲ得可シ 第二千百十一条 期満法ノ放棄ニハ明示ニ係ル者アリ又黙示ニ係ル者有リトス黙示ノ放棄ハ期満法ヲ行用スルノ意望ト協和ス可カラサル各般ノ事為ヨリ起生スル者トス 第二千百十二条 責主若クハ其他期満法ノ効功ニ利益ヲ有スル一切ノ人ハ仮令ヒ負責主若クハ所有主カ之ヲ放棄スルコト有ルモ自己之ニ代リテ以テ対抗スルコトヲ得可シ 第二千百十三条 期満法ハ売買ス可カラサル物件ニ向テハ存在セササル者トス 第二千百十四条 政府(其私属財産ニ関シ)及ヒ各種ノ無形人ハ常人ト一般ニ均シク此期満法ヲ遵奉ス可キ者トス 第二章 期満ヲ妨阻シ若クハ之ヲ仮停スル事由 第二千百十五条 他人ノ名義ヲ以テ占有ヲ為ス人及ヒ遺産総括ノ名義ヲ以テスル承産者ハ自己ノ利益ノ為メニ期満特権スルコトヲ得可カラス 賃借者、賃耕者、受託者、収額得有者及ヒ其他各般ノ人ニシテ一個ノ物件ヲ仮占スル所ノ者ハ他人ノ名義ヲ以テ之ヲ占有スル者トス 第二千百十六条 然レトモ前条ニ指示スル所ノ人ハ若シ其占有ノ名義カ第三位ノ人ヨリ起発スル原由ニ因ルト其人カ対抗スル所ノ方法ニ因ルトヲ問ハス所有主タル権理ヲ変換シタルニ於テハ則チ期満得権スルコトヲ得可シ 第二千百十七条 賃借者、賃耕者、受託者若クハ仮占ノ名義ヲ以テスル他ノ占有者ヨリ所有主ノ名義ヲ以テ物件ヲ収受シタル其人ハ其物件ニ向テ期満得権スルコトヲ得可シ 第二千百十八条 各人ハ其有スル所ノ名義ニ反シテ期満得権スルコトヲ得可カラス即チ自カラ其占有ノ原由若クハ主義ヲ変換スルコトヲ得可カラサル者是ナリ 又各人ハ其有スル所ノ名義ニ反シテ期満得権スルコトヲ得可シ即チ期満法ニ依拠シ一個ノ責務ヲ解卸スルコトヲ得可キ者是ナリ 第二千百十九条 左項ニ列記スル所ノ人ノ間ニハ何等ノ期満モ流過セサル者トス 配偶者ノ間 父権ヲ有スル人ト其権下ニ在ル人トノ間 未丁年者若クハ受治産禁者ト其後見人トノ間但々後見ノ任務未タ終ラスシテ其後見ニ関スル終極ノ決算ヲ為シ及ヒ其決算ヲ承認セラレサルノ間ニ於テスル者ニ限ル 丁年権ノ認許ヲ得タル未丁年者若クハ保管人ヲ有スル未丁年者ト其保管人トノ間 承産者ト遺産目録ノ利益ヲ以テ諾受セラレタル遺産トノ間 法律ニ因テ他人ノ管理権内ニ属セシメラレタル人 其管理ヲ委託セラレタル人トノ間 第二千百二十条 期満ハ左項ニ列記スル所ノ事件ニ関シ丁年権ノ認許ヲ得サル未丁年者、精神ノ耗弱ナル為メニスル受治産禁者及ヒ戦時ニ服役スル軍人(仮令ヒ王国ノ境外ニ在ラサル所ノ者ト雖モ)ニ向テハ流過セサル者トス 規約ヲ帯ヒタル権理ニ関シテハ其規約ノ成完スルノ日ニ至ル迄保証ニ向テ有スル訟権ニ関シテハ其褫奪ヲ受クルノ日ニ至ル迄妻タル者ノ属身嫁資タル不動産物件、嫁資ノ為メ若クハ婚姻上ノ財産契約ノ履行ノ為メニ特ニ券記抵当ニ付シタル不動産物件ニ関シテハ其婚姻ノ期間 他ノ各般ノ訟権ニシテ其行用カ一個ノ期限ニ向テ仮停セラルヽ所ノ者ニ関シテハ其期限ノ到来スルノ日ニ至ル迄 第二千百二十一条 三十年ノ期満ニ関シテハ前条ニ掲記セル妨阻ノ事由ハ一個ノ不動産物件若クハ不動産物件ニ関スル其物件上ノ権理ノ現有者タル第三位ノ人ニ対シテ流過セサル者トス 第二千百二十二条 互相特任ニ係ル一人ノ責主ノ為メニスル期満ノ仮停ハ他ノ各責主ノ為メニ利益スルコト無シ 第三章 期満ヲ中止スル理由 第二千百二十三条 期満ハ自然ニ若クハ民法上ニ於テ中止セラルヽ者トス 第二千百二十四条 占有者カ一年以上ノ期間其ノ占有物件ノ使用ヲ廃輟スルコト有レハ則チ期満ハ自然ニ中止セラルヽ者トス 第二千百二十五条 期満ハ裁判上ノ請求ニ因テ(非管轄裁判官ニ向テ為シタル者ト雖モ)其流過ヲ妨阻セシメント欲スル其人ニ通報シタル督促若クハ勒抵ノ行為或ハ其人ノ責務ノ履行ヲ要催スル諸般ノ行為ノ効功ニ因リ民法上ニ於テ中止セラルヽ者トス 勧解裁判所ニ喚召セラレ若クハ躬親カラ出廷スレハ則チ期満ヲ中止セシムル者トス但々其裁判上ノ請求カ勧解裁判所長ノ喚召ヲ受ケサリシカ若クハ勧解ノ協成セサリシヨリ以後ノ二月内ニ之ヲ為セシ者タルコトヲ要ス 第二千百二十六条 期満ヲ中止スル為メニスル裁判上ノ請求ハ其権理ノ存在スルコトヲ公言セシムル為メニ占有者ニ向テ之ヲ為サヽル可カラス仮令ヒ其権理カ期限若クハ規約ニ因テ仮停セラレタル者タルモ亦然リトス 第二千百二十七条 券記抵当権ノ証記及ヒ其証記ノ換新ハ以テ其券記抵当権ノ期満ヲ中止スル者ニ非ス 第二千百二十八条 左項ニ列記スル所ノ時会ニ於テハ期満ヲ中止セサル者トス 若シ署名ヲ為シタル訟吏カ其権理ヲ有セサルカ若クハ程式ニ遵依セサル為メニ其搆訴牒若クハ督促書カ其効力ヲ有セサルノ時会 請求者カ自カラ其請求ヲ放棄スルノ時会 裁判上ノ請求カ中廃セラレタルノ時会 裁判上ノ請求カ却下セラレタルノ時会 第二千百二十九条 負責主若クハ占有者カ某人即チ之ニ向テ期満ヲ算起スル其人ノ権理ヲ認識セルニ於テハ則チ期満ハ民法上ニ於テ中止セラレタル者ト看做ス 第二千百三十条 互相特担ニ係ル各負責主中ノ一人ニ向テ通報スル所ノ第二千百二十五条ニ掲記セル行為若クハ其人ニ因テ為サレタル権理ノ認識ハ他ノ共同負責主及ヒ其承産者ニ向テモ亦期満ヲ中止セシム 共同負責主ノ承産者中ノ一人ニ向テ通報スル前項同一ノ行為若クハ此承産者ニ因テ為サレタル権理ノ認識ハ仮令ヒ其責額カ券記抵当権ヲ有スル者タルモ若シ其責務カ分割スルコトヲ得可カラサル者ニ非サレハ則チ他ノ共同承産者ニ向テハ期満ヲ中止セシムルコト無シ 此行為若クハ此認識カ互相特担ニ係ル他ノ共同負責主ニ向テ期満ヲ中止セシムルノ時会ハ唯々此承産者ノ負担スル債額ノ派当部分ニ於テスルノミ 互相特担ニ係ル共同負責主ニ向テ全然ニ期満ヲ中止セシムル為メニハ上文ニ掲示セル行為ノ通報カ死亡セル負責主ノ一切ノ承産者ニ向テ為サシメタルカ若クハ権理ノ認識カ此一切ノ承産者ニ因テ為サレタルコトヲ要ス 第二千百三十一条 互相特任ニ係ル共同責主中ノ一人ノ為メニ期満ヲ中止セシムル諸般ノ行為ハ均シク他ノ共同責主ノ為メニ利益スル者トス 第二千百三十二条 主本タル負責主ニ向テ為シタル期満中止ノ行為ノ通報若クハ負責主ニ因テ為サレタル権理ノ認識ハ保人ニ対シテモ亦期満ヲ中止セシム 第四章 期満ノ為メニ必要ナル期間 第一節 総則 第二千百三十三条 期満ハ日ヲ以テ之ヲ計算シ時ヲ以テ之ヲ計算セス 月ヲ以テ全満スル期満ニ関シテハ常ニ三十日ヲ以テ一月ト計算ス 第二千百三十四条 期満ハ期間ノ最終日ニ至テ全満スル者トス 第二節 三十年及ヒ十年ノ期満 第二千百三十五条 一切ノ訟権ハ其人件上ニ存在スル者ト物件上ニ存在スル者トヲ問ハス証拠ヲ闕クカ若クハ良意ヲ闕クト言フヲ以テ対抗スルコトヲ得ス而シテ三十年ニ全満スレハ則チ期満スル者トス 第二千百三十六条 年金若クハ他ノ年納額ニシテ三十年以上ニ渉レル期間ヲ保続ス可キ所ノ者ニ関スル負責主ハ其前次ノ証券ノ記日ヨリ以後ノ二十八年ヲ経過スレハ則チ責主ノ請求ニ応シ自己ノ費用ヲ以テ新証券ヲ責主ニ供付セサル可カラス 第二千百三十七条 正当ニ証記セラレタル証券ニシテ程式ノ履行ヲ闕ク為メニ無効ニ帰セサル所ノ者ノ効功ニ依拠シ一個ノ不動産物件若クハ一個ノ不動産物件ノ物件上ノ権理ヲ良意ニ因テ得有シタル所ノ人ハ其証記ノ記日ヨリ以後ノ十年ニ全満スレハ則チ其所有権ヲ期満得権スル者トス 第三節 短期ノ期満 第二千百三十八条 旅館主人若クハ旅舎主人カ供弁スル所ノ房舎及ヒ飲食物料ニ向テ存在スル訟権ハ六月ニシテ期満スル者トス 第二千百三十九条 左項ニ列記スル所ノ人ノ訟権ハ一年ニシテ期満スル者トス 術学、文学及ヒ技術ノ教員、教師並ニ温習師カ日ヲ以テシ若クハ月ヲ以テスル伝習ニ向テ有スル所ノ訟権 裁判所ノ使吏カ其通報シタル行為及ヒ其執行シタル訟務ニ関スル給金ニ向テ有スル所ノ訟権 商賈カ商賈ニ非サル常人ニ対シ販売シタル物品ノ価直ニ向テ有スル所ノ訟権 諸種ノ教育ヲ為セル校塾ノ主人カ其入舎生徒、通学生徒及ヒ徒弟ニ対シ其修学費若クハ飲食費ニ向テ有スル所ノ訟権 婢僕、職工及ヒ日傭夫カ其給金、其作業資及ヒ其労役資ノ支弁ニ向テ有スル所ノ訟権 第二千百四十条 左項ニ列記スル所ノ訟権ハ三年ニシテ期満スル者トス 術学、文学及ヒ技術ノ教員、教師並ニ温習師カ一月以上ノ期間ニ於テ約束セル謝金ニ向テ有スル所ノ訟権 医師、外科医師、及ヒ薬舗主人カ其診療ノ謝金並ニ薬品ノ価直ニ向テ有スル所ノ訟権 代言人、代書人及ヒ其他ノ弁護者カ其費用並ニ謝金ニ向テ有スル所ノ訟権、此訟権ニ関スル三年ノ期間ハ其訴訟ノ判決若クハ訟主ノ勧解若クハ委託ノ収回ノ本日ヨリ之ヲ起算スル者トス又其未タ結落セサル所ノ訴訟ニ関シテハ此等ノ人カ其費用若クハ其謝金ニ向テ五年以上其責主タル者ハ則チ之ヲ請求スルコトヲ得可カラス 公証人カ其費用及ヒ謝金ニ向テ有スル所ノ訟権、此訟権ニ関スル三年ノ期間ハ其行為ノ執行ノ本日ヨリ之ヲ起算スル者トス 建築工師、建築都匠、測量師及ヒ簿記師カ其謝金ノ支弁ニ向テ有スル所ノ訟権、此訟権ニ関スル三年ノ期間ハ其事業ノ成功ノ本日ヨリ之ヲ起算スル者トス 第二千百四十一条 期満ハ上文ニ掲示セル各般ノ時会ニ在テハ仮令ヒ其ノ供弁、其執務若クハ其事業ヲ続行スル有ルモ亦流過スル者トス 期満ハ負債ノ録記ニ係ル認識若クハ裁判上ノ請求ノ中廃セサル者ノ在ル有ルニ非サレハ則チ中止セサル者トス 第二千百四十二条 然レトモ期満ノ対抗ヲ受クル所ノ人ハ実ニ責務ノ消滅セシコトヲ確証スル為メニ期満ヲ以テ対抗スル所ノ人ヲシテ誓言ヲ為サシムルコトヲ得可シ又此対抗スル其人ノ寡婦(若シ其寡婦カ利益ヲ有スルナレハ)若クハ其人ノ承産者若クハ其人カ未丁年者ニ係レハ則チ其後見人カ実ニ責務ノ消滅セサルコトヲ知悉セサルヤ否ヤヲ公言セシムル為メニ此等ノ人ニ対シテ誓言ヲ為スコトヲ要求スルヲ得可シ 第二千百四十三条 裁判所ノ書記員、代言人、代書人及ヒ其他ノ弁護者ハ訴訟カ判決セラレタルカ若クハ他ノ方法ニ因テ結落シタル以後ノ五年ヲ満過セルニ於テハ則チ其訴訟ノ関係文書ニ関シテ答弁ヲ為ス可キノ責務ヲ解卸スル者トス 裁判所ノ使吏ハ其管掌スル文書ヲ交付シタル以後ノ二年ヲ満過セルニ於テハ則チ均シク其答弁ニ関スル責務ヲ解卸スル者トス 然レトモ本条ニ指示セル所ノ各般ノ人カ其文牒及ヒ其文書ヲ保存セルカ若クハ其何レノ所ニ保蔵スルヲ知悉セルコトヲ公言セシムル為メニ此等ノ人ニ対シテ誓言ヲ為スコトヲ要求スルヲ得可シ 第二千百四十四条 左項ニ列記スル所ノ金額ハ五年ニシテ期満スル者トス 無期若クハ終身ニ向テ締結スル年金契約ノ年金 供養ノ費用ニ関スル定期金 家屋ノ賃金及ヒ田地ノ租金 負債額ノ利息金及ヒ毎年若クハ此ヨリ短促ナル期限ニ向テ交付ス可キ各種ノ金額 第二千百四十五条 本節中ニ掲記スル期満ハ戦時服役ノ軍人、丁年権ノ認許ヲ得サル未丁年者及ヒ受治産禁者ニ対シテモ亦流過スル者トス但々此等ノ人カ其後見人ニ対シテ還償ニ関スル訟権ヲ行用スル如キハ此例外ニ在リ 第二千百四十六条 動産物件ノ所有主若クハ占有者カ第千七百八条及ヒ第千七百九条ニ掲記セル彼ノ盗奪セラレ若クハ失亡シタル物件ヲ収回スルノ訟権ハ二年ニシテ期満スル者トス 第二千百四十七条 三十年ヨリ以内ニ於ケル諸般ノ期満ニシテ本節中及ヒ前節中ニ掲記セサル所ノ者ニ向テハ特ニ其事ニ関スル規則ニ遵依ス可キ者トス