ドイツ民法第一草案

参考原資料

  • 翻訳 独逸民法草案(独乙民法草案) , 仁保亀松 , 法学協会雑誌11巻9号~14巻3号 , 明治二十六年九月~明治二十九年三月
  • 翻訳 独逸民法草案(独乙民法草案) , 仁保亀松 , 法曹記事38号~57号 , 明治二十六年九月~明治二十九年三月 第2編(205~586条)

備考

  • 上記資料を結合の上、条文番号順に並べ替えをおこなっています。

他言語・別版など

第一草案 民法 第一編 総則 第一章 法例 第一条 法律関係ニシテ之ガ為ニ法律ノ規定ナキモノニ関シテハ之ニ類似ノ法律関係ノ為ニ設ケタル規定ヲ准用ス、斯ル規定ナキトキハ法律ノ精神ヨリ生ズル原則ヲ標準トス 第二条 慣習法上ノ規則ハ法律ガ慣習法ニ譲リタル場合ニ於テノミ之ヲ適用ス 第二章 人 第一節 権利能力ノ始終 第三条 人ノ権利能力ハ出生ヲ以テ始マリ死亡ヲ以テ終ル 第四条 人ノ生存シ若クハ死亡セルコト、又ハ或定マリタル時ニ生存シ若クハ死亡シタルコトハ此事実ニ由リテ権利ヲ得ントスル者之ヲ証明スベシ 生死ノ確ナラザル人ガ死亡ニ因ル移属ノ場合ニ於テ現ニ生存セシヤ否ヤ確ナラザルトキハ満七十歳迄ハ生存シ其後ハ生存セサリシトノ推定ヲ受ク 配偶者ノ一方カ他ノ一方ヨリモ長ク生存シタルヤ否ヤ確ナラザル場合ニ於テ他ノ一方ガ死亡シタル為メ法律又ハ婚姻契約ニ依リ長ク生存セル一方ニ属スル利益ニ関シテハ第二項ト同一ノ推定ヲ受ク 第三節 死亡ノ宣告 第五条 失踪シタル独乙人ハ判決ニ依リテ死亡者ト宣告セラルヽコトヲ得 第六条 不在者ニシテ十年以来其生存ニ付キ音信ナキトキハ失踪シタリト見做ス、不在ノ出生後七十年ヲ経過シタルトキハ五年ノ期間ヲ以テ足ル 十年又ハ五年ノ期間ハ不在者カ最後ノ音信ニ依レハ尚ホ生存シタリシ日ノ経過セシヨリ始マル、此日カ満二十一才前ニ当ルトキハ十年ノ期間ハ満二十一才ニ達シタル翌日ヲ以テ始マル 第七条 独乙ノ軍隊ニ編入セラレテ出軍シ戦争中亡失シタリト見做サレタルモノニシテ媾和後三年ヲ経過シ且ツ其者ニ付キ媾和後生存シタル旨ノ音信ナキトキハ失踪シタリト見做ス 第一項ノ規定ハ軍隊ニ属スル者ニモ職務ニ因リ又ハ雇役ニ因リ又ハ任意補助ノ目的ヲ以テ軍隊ニ在リタル者ニモ適用セラル 第八条 航海中沈没シタル船舶ニ在リタル者ハ沈没後一年ヲ経過シ且ツ其者ニ付キ沈没後生存シタル旨ノ音信ナキトキハ失踪シタリト見做ス 船舶カ其目的地ニ於テ見当ラズ又ハ確定シタル目的ナクシテ航海シ帰着セザル場合ニ於テ左ニ掲グル期間ヲ経過スルトキハ沈没シタリトノ推定ヲ受ク 一 東海内ニ於ケル航海ニ付キテハ一年 一 東海外ノ欧羅巴ノ海面内ニ於ケル航海ニ付キテハ二年、但地中海、黒海及ヒ「アツヲヴ」海ノ欧羅巴ニ属セサル部分ヲモ包含ス 一 欧羅巴外ノ海面ニ於ケル航海ニ付キテハ三年 右ノ期間ハ船舶カ航海ヲ始メタル日ノ経過セシヨリ始マル 此日以後ニ於テ船舶ニ付キテ音信到来シタルトキハ期間ハ最後ノ音信ヲ発シタル日ノ経過セシヨリ始マル、斯ノ如キ場合ニ於テハ其船舶カ最後ノ音信ニ依レハ存在シタリシ場所ヨリ発航シタランニハ経過スヘカリシ期間ニ依ル 第九条 死亡ノ宣告ハ失踪者カ内国ニ於テ最後ノ住所ヲ有セシ地ノ裁判所之ヲ管轄ス其裁判所ナキトキハ管轄裁判所ハ本貫聯邦最高司法官庁ノ指定スル所ニ依ル 第十条 第六条ノ場合ニ於テ死亡ノ宣告ハ公示催告ノ手続ニ依ル 此手続ハ民事訴訟法第八百二十四条乃至第八百三十六条及ビ本法第十一条乃至第十九条第二十三条及ビ第二十四条ニ掲ゲタル規定ニ従フ 第十一条 失踪者ノ不在間管理人、後見人、配偶者及ビ何人タリトモ死亡ノ宣告ニ付キ法律上ノ利益ヲ有スル者ハ此宣告ヲ求ムル権アリ、此利益ハ手続開始前ニ之ヲ疏明シ不在間管理人及ビ後見人右ノ申立ヲ為スニハ後見裁判所ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス 第十二条 其他右ノ申立ヲ弁明スルニ必要ナル事実モ亦タ手続開始前ニ之ヲ疏明スベシ 第十三条 裁判所ハ第十二条ニ掲ゲタル事実ノ正確ナルコトヲ認メタルニ非サレハ死亡ノ宣告ヲ為スベカラス、又タ裁判所ハ手続中何時タリトモ職権ヲ以テ申立人ノ提出シタル証拠物ヲ利用シテ右ノ事実ヲ証明スルニ必要ナル捜査ヲ行ヒ且適当ト認ムル証拠方法ヲ採用スベシ 第十四条 公示催告ニハ申立人ノ表示及ビ催告期限ノ指定(民事訴訟法第八百二十四条)ノ外左ノ二件ヲ掲グベシ 一 不在者若シ死亡ノ宣告ニ対シテ異議ヲ申立テントスルトキハ遅クトモ催告期限内ニ申出ヅベシ、之ニ違フトキハ死亡ノ宣告ヲ受クベキ旨ノ催告 一 何人タリトモ不在者ノ生死ニ付キ報知ヲ為シ得ル者ハ遅クトモ催告期限内ニ裁判所ヲ申告ヲ為スベキ旨ノ催告 第十五条 公示催告ハ始メテ独乙官報ニ掲示セラレタル日ト催告期限トノ間ニ少クトモ六ケ月ノ期間ヲ存スルコトヲ要ス 第十六条 何人タリトモ死亡ノ宣告ヲ求ムル権アル者ハ申立人ト共ニ又ハ之ニ代リテ右ノ手続ニ加ハルコトヲ得 第十七条 自ラ失踪者ト申立テラレタル者ナリト申出ヅル者ヲ申立人ニ於テ其者ナリト承認セザルトキハ手続ヲ停止スベシ(民事訴訟法第八百三十条) 第十八条 申立人ノ支出シタル費用ニシテ手続ヲ適当ニ執行スル為メ必要ナリシモノハ死亡ノ宣告アリタル場合ニ於テ財団ノ債務トシテ失踪者ノ遺産ヨリ之ヲ弁償スベシ 第十九条 公示催告申立ノ処分ハ聯邦ノ司法官庁ニ於テ同一ノ地方裁判所管轄区域内ニ在ル数個ノ区裁判所ノ管轄ニ付キ其中ノ一区裁判所ニ之ヲ委任スルコトヲ得、但申立人ノ請求アルトキハ第九条ニ定メタル管轄裁判所之ヲ処分ス 公示催告カ第九条ノ管轄裁判所以外ノ裁判所ニ依リテ発セラルヽトキハ右管轄裁判所ノ掲示板ニモ公告ヲ貼附スベシ 第二十条 第七条及ビ第八条ノ場合ニ於テハ公示催告ヲ用ヒス、死亡ノ宣告ハ口頭弁論ノ後公開シタル法廷ニ於テ之ヲ為スベシ、弁論又ハ判決言渡ノ為メ定メタル期日ハ裁判所ノ掲示板ニ貼附シテ之ヲ公告スベシ 其他ハ第十一条乃至第十三条、第十六条乃至第十九条ノ規定及ビ民事訴訟法第八百二十六条、第八百二十八条、第八百二十九条、第八百三十一条及ビ第八百三十四条乃至第八百三十六条ニ掲ゲタル規定ヲ准用ス 第二十一条 死亡ノ宣告ニ因リテ失踪者ハ其宣告ヲ受ケタル時以後生存セザリシトノ推定ヲ生ズ 失踪者ノ相続ニ関シテハ死亡ノ宣告ノ時ニ失踪者カ死亡シタリト推定ス 第二十二条 除権判決カ上訴ニ由リテ廃棄セラレタルトキハ死亡ノ宣告ハ其効力ヲ失フ 第二十三条 失踪者ノ配偶者及ビ何人タリトモ死亡ノ宣告ヲ廃棄スルニ付キテ法律上ノ利益ヲ有スル者ハ上訴ヲ提起スル権アリ 第二十四条 上訴ハ死亡ノ宣告ヲ求ムル者ニ対シテ之ヲ提起スベシ、若シ此者カ死亡シ又ハ其所在ノ知レザルトキ若クハ外国ニ在ルトキハ検事ニ対シテ之ヲ提起スベシ 此手続ニ関シテハ民事訴訟法第六百〇八条、第六百十条、第六百十一条ヲ准用ス 第三節 年齢 禁治産 第廿五条 満七歳迄ヲ幼年トシ満廿一歳迄ヲ未成年トス 第廿六条 未成年者ハ成年ノ宣告ニ依リテ法律上成年者ノ地位ヲ得ベシ 第廿七条 成年ノ宣告ハ未成年者カ満十八歳ニ達シ且其承諾ヲ与ヘタルトキニノミ之ヲ為スコトヲ得其他親権ノ下ニ立ツ未成年者ニ在リテハ親権ヲ有スル者ノ同意ヲ要ス然レトモ父又ハ母ノ同意ハ若シ其親権ガ父母ノ収益権ノミニ限ラレタルトキハ之ヲ要セズ 成年ノ宣告ハ後見裁判所ノ決定ニ依ル此宣告ハ未成年者ノ幸福ヲ増進スルトキニノミ之ヲ為スベシ 未成年者及ビ其身体ヲ保護スル法律上ノ代理人ハ成年ノ宣告ヲ求ムル申立ヲ為ス権アリ此申立ニ付キテ裁決スル前ニ第千六百七十八条ニ従ヒ未成年者ノ親族又ハ姻族並ニ其後見人及ビ保護人ノ意見ヲ諮フベシ 第廿八条 必神ヲ喪失シタル者ハ精神病ノ為メ其治産ヲ禁スルコトヲ得 第一項ニ掲ゲタル状況ノ止ミタルトキハ治産ノ禁ヲ解クベシ 第廿九条 浪費者ノ品行又ハ浪費者ノ管理所為アルニ因リテ自己又ハ其家族ヲ困迫ナル状況ニ陥ルルノ恐ヲ起サシムルニ足ル正当ノ理由アル者ハ浪費ノ為メ其治産ヲ禁スルコトヲ得 浪費者ノ改心ニ因リテ第一項ニ掲ゲタル恐ヲ起サシムルニ足ル正当ノ理由ナキニ至リタルトキハ治産ノ禁ヲ解クベシ 第四節 親属 姻属 第三十条 一人カ他ノ一人ヨリ出ツルトキハ互ニ直系ノ親族タリ又直系ノ親族ニ非ズシテ共ニ同一ノ第三者ヨリ出ツル者ハ傍系ノ親族タリ傍系ノ親族カ同一ノ父母ヨリ出ツルトキハ完全ノ親族タリ又父若クハ母ノミ同一ナルトキハ半親族タリ 婚姻外ノ系統ニ係ル親属ノ関係ハ法律ニ特別ノ規定ナキ限リハ婚姻外ノ子及ビ其子孫ト其子ノ母及ビ其親族トノ間ニ於テノミ生ズルモノトス 第卅一条 親等ハ親属ノ関係ヲ生セシメタル出産ノ数ニ従ヒ之ヲ定ム 第卅二条 配偶者ノ一方ハ他ノ配偶者ノ親族ト姻族タリ姻属ノ親系及ビ親等ハ其関係ヲ生ゼシメタル親属ノ親系及ビ親等ニ従ヒ之ヲ定ム 第卅三条 姻属ノ関係ニ附着シタル法律上ノ効果ハ此関係ヲ生ゼシメタル婚姻ノ解消ノ後モ尚ホ存続ス 第五節 住所 第卅四条 定住スル目的ニテ一地ニ滞在スル者ハ此地ニ住所ヲ設定ス 一人ニシテ同時ニ数个所ニ住所ヲ有スルコトヲ得 住所ハ以後定住セザル目的ニテ之ヲ去ルトキハ廃止セラル 第卅五条 刑場内ノ滞在ノミニテハ囚徒カ既ニ従来ノ住地ニ住居又ハ家宅ヲ有セズトモ刑ノ執行前ニ有セシ住所ヲ廃止セシムル効果ヲ生セズ 第一項ノ規定ハ未決囚及ビ教育場、懲治場又ハ労役場ニ強制入場セシメラレタル者ニモ准用ス 第卅六条 行為ノ能力ナキ者又ハ之ヲ制限セラレタル者ハ法律上代理人ノ意思ナクシテ住所ヲ変更シ又ハ之ヲ設定スルコトヲ得ズ 第卅七条 軍人ハ屯営地ニ其住所ヲ有ス内地ニ屯営ヲ有セザル軍隊ニ属スル軍人ノ住所ハ其軍隊ノ内地ニ於ケル最後ノ屯営地トス 第一項ノ規定ハ兵役義務履行ノ為メニノミ服役シ又ハ独立シテ住所ヲ設定スルコト能ハザル軍人ニハ之ヲ適用セズ 第卅八条 治外法権ヲ有スル独逸人並ニ帝国又ハ各聯邦ノ官吏ニシテ外国ニ駐在スル者ハ本国ニ於テ有セシ住所ヲ存続ス斯クノ如キ住所ナキトキハ本国ノ首府ヲ其住所ト見做ス 第一項ノ規定ハ選挙領事ニハ之ヲ適用セズ 第卅九条 婦ハ其夫ト住所ヲ共ニス 第一項ノ規定ハ夫カ外国ニ於テ其婦ノ之ニ随従スベキ義務ナキ地ニ住所ヲ設定スルトキハ之ヲ適用セズ 婦ハ其夫カ住所ヲ有セズ又ハ婦ト共ニスル住所ヲ有セザル限リハ独立ノ住所ヲ設定シ且之ヲ有スルコトヲ得 第四十条 嫡出子ハ父ト住所ヲ共ニシ養子ハ養父ト住所ヲ共ニシ婚姻外ノ子ハ母ト住所ヲ共ニス此等ノ子ハ法律上有効ノ方法ヲ以テ右ノ住所ヲ廃止スルニ至ル迄之ヲ存続ス 第一項前段ノ規定ハ公認セラレタル子及ビ養子カ成年ニ達シタル後ニ公認セラレ又ハ養子ト為リタルトキハ之ヲ適用セズ 第三章 法人 第四十一条 社団及ビ寄附財団ハ独立シテ財産上ノ権利義務ヲ有スル能力ヲ有スルコトヲ得(法人格) 第四十二条 社団ノ法人格及ビ其喪失ハ帝国ノ法律ニ特別ノ規定ナキトキハ社団所在地ノ聯邦ノ法律ニ従ヒ之ヲ定ム 第四十三条 法人格ヲ有スル社団(団体)ノ定款ハ帝国又ハ聯邦ノ法律ニ拠レルモノヽ外ハ創立契約ヲ以テ之ヲ定ム其後ニ於ケル定款ノ変更ハ社員ノ意思ニ依リテ之ヲ定ム 第四十四条 団体ニハ一人若クハ数人ヨリ成立スル頭取ヲ置クコトヲ要ス頭取ハ第三者ニ対シテモ亦社員ニ対シテモ団体ノ法律上ノ代理人タリ 団体ニ対スル頭取ノ権利及ビ義務ニ付テハ第五百八十五条及ビ第五百八十八条乃至第五百九十六条ノ規定ヲ准用ス 頭取ノ選任ハ社員ノ決議ニ依ル 頭取ノ代理権ハ団体ノ定款ニ依リテ第三者ニ対シ有効ニ之ヲ制限スルコトヲ得 数人ノ頭取アル場合ニ於テ其意思表示ノ有効ナルニハ総社員ノ同意ヲ要ス 団体カ第三者ノ意思表示ヲ受諾スベキ義務アル場合ニ於テハ第三者ハ頭取ノ一人ニ其意思ヲ通知スルニテ足ル団体カ受諾スベキ義務アル意思表示ヲ為シタルモ現ニ之ヲ受諾スベキ者ナク且其場合ノ危急ナルトキハ意思ヲ表示シタル第三者ノ申立ニ因リテ団体所在地ノ区裁判所ハ之ヲ受諾スベキ特別ノ代理人ヲ任定スベシ 第二項第三項及ビ第五項ノ規定ハ定款ニ特別ノ定ナキトキニノミ之ヲ適用ス 第四十五条 団体ト頭取中ノ一人トノ間ニ為サルヽ権利行為ニシテ単ニ義務ノ履行ノミニ止マラザルトキ又ハ其間ニ権利ノ争アルトキハ之ニ関係スル頭取ハ団体ノ法律上ノ代理人タル資格ヲ失フ若シ団体ニ特別ノ代理人ヲ要スルトキハ其選任ハ第四十四条第三項及ビ第七項ニ淮ジテ之ヲ行フ 第四十六条 団体ハ頭取又ハ其中ノ一人カ代理権ヲ行フニ当リテ第三者ニ加ヘタル損害ヲ賠償スル責ニ任ズ 第四十七条 団体ノ負債超過ノ場合ニ於テハ頭取ハ遅延ナク破産ノ申立ヲ為ス義務ヲ負フ此義務ヲ怠リタル頭取ハ債権者ニ対シ連帯債務者トシテ遅延ノ為メニ生ジタル損害ヲ賠償スル責ニ任ズ 第四十八条 団体ノ内部ノ業務ハ社員ノ意思ニ依リテ之ヲ行フ頭取ハ社員ノ意思ニ従フテ業務ヲ施行スベシ 社員ノ意思ハ総会ノ決議ニ依リテ之ヲ定ム決議ハ出席社員ノ多数決ニ依ル又其有効ナルニハ決議スベキ事項ハ総会招集ノ時ニ示サレタルコトヲ要ス 総社員ノ同意ニ本ヅク決議ハ総会ノ決議ヲ経ズシテ有効ナリ 決議スベキ事項ハ団体ト社員トノ間ニ於ケル法律行為ニ関スルカ又ハ権利ノ争ヲ開始シ若クハ之ヲ終結スルコトニ関スルトキハ此社員ハ議決権ヲ有セズ 定款ヲ変更スル決議ノ有効ナルニハ総社員ノ同意ヲ要ス此決議ニ付キ招集セラレタル総会ニ出席セザル社員ニ付テモ亦同ジ 第一項乃至第五項ノ規定ハ定款ニ特別ノ定ナキトキニノミ之ヲ適用ス 第四十九条 消滅シタル団体ノ財産ハ定款ニ於テ又ハ定款若クハ帝国ノ法律ニ規定ナキトキハ団体所在地ノ各聯邦ノ法律ニ於テ移属権利者ト定メラレタル者ニ帰ス 団体ノ財産ハ先ツ団体ノ債権者ノ弁償ニ充ツベシ相続人曠缺ノ場合ニ於テ国庫ニ移属スベキ遺産ニ関スル規定ヲ此ニ准用ス移属権利者ハ国庫ニ非サルトキモ亦同ジ又団体ノ財産ハ社員間ニ分タルベキ場合ニ於テハ第五十条乃至第五十六条ノ規定ニ従ヒ清算ノ手続ニ依ルベシ 第五十条 清算ハ頭取之ヲ行フ 頭取外ノ者モ亦清算人ニ任定セラルヽコトヲ得此任定ハ頭取ノ選任ニ適用スル規定ニ従フ 清算人ナキトキ又ハ定数ニ足ラザルトキハ団体所在地ノ区裁判所ハ当事者ノ申立ニ因リ必要ナル場合ニ欠員ノ補足セラルヽ迄一時清算人ヲ任定スベシ 清算人ハ清算ノ目的上特別ノ事情ヲ生ゼザル限リハ頭取ノ権利及ビ義務ヲ有ス又第四十四条第六項第一段第四十五条第二段及ビ第四十六条ノ規定ヲ此ニ準用ス 第五十一条 清算人ハ消滅シタル団体ノ現務ヲ結了シ債務ヲ弁済シ債権ヲ行用シ其他ノ財産ヲ換価シ残額ヲ社員ニ分配スベシ又未決ノ取引ヲ結了スル為メ清算人ハ新ニ取引ヲ為スコトヲ得 団体ハ清算ノ終結ニ至ル迄存続スルモノト見做ス但清算ノ目的カ之ヲ許シ且之ヲ要スル時ニ限ル 第五十二条 団体ノ消滅ハ清算人之ヲ公告スベシ其公告ニハ債権者ニ対シ請求ノ申出ヲ為スベキ旨ヲ催告スルヲ要ス又公告ハ団体所在地ノ区裁判所ノ官報ヲ公示スル新聞紙ニ掲載スベシ此公告ハ掲載ノ後第二日ヲ経過シタルトキハ其効力ヲ有ス 債権者ノ明カナルトキハ特別ノ通知ニ依リテ請求ノ申出ヲ催告スベシ 第五十三条 社員ニ財産ヲ分配スルニハ第五十二条ノ規定ニ従ヒ公告ヲ為シタル後一ケ年ヲ経過スルコトヲ要ス 第五十四条 債権者カ明カナルニ拘ラズ債権ノ申出ヲ為サヾル場合ニ於テ公ノ供托ヲ為ス権利ノ存スルトキハ供托スルコトヲ要ス 弁済期限ニ達セザル債務アル場合ニ於テハ団体ノ財産ハ此債権者ニ担保ヲ供シタル後始メテ社員ニ分配スルコトヲ得団体ノ未定又ハ係争ノ債務ニ関シテハ特ニ然リトス 第五十五条 団体ノ負債超過ノ場合ニハ清算人ハ遅延ナク破産ヲ申立ツル義務ヲ負フ 第五十六条 第五十二条乃至第五十五条ノ規定ニ依リテ負担スル義務ニ背キ又ハ故意若クハ懈怠ニ因リテ団体ノ総債権者ニ完済スル前ニ社員間ニ財産ヲ分配シタル清算人ハ債権者ニ対シ連帯債務者トシテ之ニ因リテ生ジタル損害ヲ賠償スル責ニ任ズ 第五十七条 団体ノ財産ノ破産ニ関シテハ破産法第百九十三条及ビ第百九十四条ノ規定ヲ准用ス 第五十八条 生存者間ノ法律行為ニ因リテ法人格ヲ有スル寄附財団ヲ設定セントスルニハ創立者ハ其意思ヲ裁判上又ハ公証上ノ方式ニ従ヒテ表示スルコトヲ要ス此表示ハ単ニ一方ノ表示ニ止マリ受諾セラレザル時ト雖モ創立者ハ財団ノ設定ヲ目的トスル法律行為ニ拘束セラレ之ニ因リテ約束シタル財産ヲ財団ニ譲渡スベキ義務ヲ負フ又譲渡ノ契約ノミニ因リテ移転スベキ財産権ハ此法律行為ヨリ譲渡ノ意思カ明カナルトキハ財団ノ設定セラルヽト同時ニ移転ス創立者ノ担保義務ニ関シテハ贈与者ノ担保義務ニ関スル規定ヲ准用ス 第五十九条 寄附財団ハ遺産者カ之ヲ設定セントスル意思ヲ表示スル所ノ遺言ニ因リテ設定セラルヽコトヲ得 第六十条 寄附財団ノ組織ハ帝国又ハ聯邦ノ法律ニ本ヅカザル限リハ創立者ノ意思ニ因リテ之ヲ定ム 第六十一条 第四十四条第一項第二項第四項乃至第七項第四十五条第一段第四十六条第四十七条第四十九条第一項第二項第一段第二段及ビ第五十七条ノ規定ハ寄附財団ニ准用ス 第六十二条 寄附財団ノ設定ニ関シ第五十八条第一項及ビ第五十九条ニ掲ゲタルモノヽ外尚ホ他ノ条件ヲ要スルコト政府ノ行為ニ因リテ寄附財団ヲ設定スルコト又ハ寄附財団ノ消滅ニ関スル各聯邦ノ法律規定ハ本法ノ影響ヲ受ケズ 生存者間ノ法律行為ニ因リテ寄附財団ヲ設定スルニ当リ政府ノ許可ヲ要スル場合ニ於テハ創立者ハ其許可ヲ求メタル時ヨリ寄附財団ノ設定ヲ目的トスル法律行為ニ拘束セラル政府ハ許可ヲ拒ミタルトキハ此拘束ハ消滅ス 遺言ニ因リテ寄附財団ヲ設定スルニ当リ政府ノ許可ヲ要スル場合ニ於テ政府カ許可ヲ拒ミタルトキハ此遺言ハ効力ヲ失フ又政府カ許可シタル場合ニ於テハ財産移属ニ関シ此許可ハ相続ノ前既ニ与ヘラレタルモノト見做ス 第六十三条 国庫ニ法人格ヲ授与スル各聯邦ノ法律規定ハ本法ノ影響ヲ受ケズ 第四章 法律行為 第一節 行為ノ能力 第六十四条 幼年者ハ行為ノ能力ヲ有セズ 弁識力ヲ失ヒタル者ハ此状況ノ継続スル間又精神病ノ為メニ成年ヲ剥奪セラレタル者ハ成年剥奪ノ継続スル間ハ行為ノ能力ヲ有セズ 行為ノ能力ヲ有セザル者ノ意思ノ表示ハ無効トス 第六十五条 満七才以上ノ未成年者ハ行為ノ能力ヲ制限セラレタルモノトス 未成年者ハ単ニ権利ヲ得又ハ債務ヲ免ルベキ法律行為ヲ為ス能力ヲ有ス 其他ノ法律行為ヲ為スニハ法律上ノ代理人ノ同意ヲ要ス右ノ要件ヲ欠クトキハ未成年者ノ為シタル単意行為ハ無効トス又其契約ハ有効ナルモ法律上ノ代理人ノ追認ニ因リテ効力ヲ発生ス追認及ビ拒絶ハ相手方ニ対シテノミ之ヲ表示スルコトヲ得 法律上ノ代理人カ追認ヲ拒絶セザル間ハ相手方ハ未成年者ノ同意ヲ行テ契約ヨリ脱退スルコトヲ得 法律上ノ代理人ニ追認ヲ催告シタルニ拘ラズ催告ヲ受ケタル日ヨリ二週日内ニ一定セル明示ノ表示カ相手方ニ到達セザルトキハ追認ヲ拒絶シタリト見做ス 未成年者カ行為ノ能力ヲ得タルトキハ其追認ハ法律上ノ代理人ノ追認ニ同ジ 第六十六条 法律行為ノ効力ヲ生ズルニハ相手方ニ対シテ為サルヽコトヲ要スル場合ニ於テ行為ノ能力ナキ者ニ対シテ為サレタルトキハ法律行為ハ効力ヲ生セズ 前項ノ法律行為カ行為ノ能力ヲ制限セラレタル未成年者ニ対シテ為サレタル場合ニ於テ未成年者カ之ニ因リテ単ニ権利ヲ得又ハ債務ヲ免ルヽトキハ法律行為ハ効力ヲ生ズ之ニ反スル場合ニ於テハ効力ヲ生セズ 行為ノ能力ヲ制限セラレタル未成年者ニ為サレタル契約ノ申込ハ拘束力ヲ有ス 第六十七条 法律上ノ代理人カ後見裁判所ノ許可ヲ得テ未成年者ニ独立シテ或職業ヲ営ムコトヲ許シタルトキハ此職業ニ関スル法律行為ニ付キ未成年者ハ行為ノ能力ノ制限ヲ受ケズ 未成年者カ前項ノ許諾ヲ得タルニ拘ラズ第千五百十一条第千五百十三条第千六百七十四条乃至第千六百七十六条ノ規定ヲ准用ス此場合ニ於テ後見裁判所ノ許可ノ外法律上ノ代理人ノ許諾若クハ追認ヲ要シ又第千五百十三条及ビ第千六百七十五条ノ規定ニ依リテ与ヘラルベキ一般ノ許諾ハ未成年者ニノミ之ヲ与フルコトヲ得 法律上ノ代理人カ未成年者ニ独立シテ職業ヲ営ムベキ為メニ与ヘタル許諾ヲ取消スニハ後見裁判所ノ許可ヲ要ス 第六十八条 法律上ノ代理人カ未成年者ニ或役務ニ従フベキコトヲ許シタルトキハ未成年者カ此役務ノ関係ヲ取結ビ又ハ之ヲ廃止シ若クハ之ニ因リテ負担シタル債務ノ履行ニ関スル法律行為ニ付キ法律上ノ代理人ノ許諾ヲ要セズ 法律上ノ代理人ハ未成年者ニ与ヘタル許諾ヲ取消シ又ハ之ヲ制限スルコトヲ得 特別ノ場合ニ与ヘタル許諾ハ之ト同種類ノ関係ヲ取結ブコトヲ得ベキ一般ノ許諾ト見做ス 第六十九条 未成年者カ契約ニ因リテ負担シタル債務ヲ履行シタル場合ニ於テ履行ノ為メニ費シタル財産ハ法律上ノ代理人ヨリ許サレタル目的ニ用井タルトキ又ハ随意ニ処分スルコトヲ許サレタルモノナルトキハ此契約ハ有効トス 第七十条 浪費ノ為メニ成年ヲ剥奪セラレタル者ノ行為ノ能力ハ成年剥奪ノ継続スル間満七歳以上ノ未成年者ニ同ジ 第七十一条 第千七百二十七条ノ規定ニ依リテ後見ヲ必要ナリト宣言セラレ又ハ第千七百三十七条ノ規定ニ依リテ仮後見ヲ付スルコトヲ命ゼラレタル成年者ノ行為ノ能力ハ後見ノ継続スル間満七歳以上ノ未成年者ニ同ジ 第千七百三十七条ノ場合ニ於テ成年剥奪ノ申請カ却下セラレ又ハ成年剥奪カ取消ノ訴ニ因リテ廃棄セラレ共ニ確定シタルトキハ民事訴訟法第六百十三条第二項ノ規定ヲ准用ス 第二節 意思ノ表示 第七十二条 意思ハ明示又ハ黙示ニテ之ヲ表示スルコトヲ得 第七十三条 意思ノ表示ヲ解釈スルニハ真誠ノ意思ヲ探求シテ用語ノ辞義ニ抱泥スベカラズ 第二節 意思ノ表示 第七十四条 意思表示ノ効力ヲ生ズルニハ相手方ニ対シテ之ヲ表示スルコトヲ要スル場合ニ於テ離隔シタル地ニ在ル人ニ対スル意思ノ表示カ明示ナルトキハ相手方ニ到達セシ時又黙示ナルトキハ相手方カ之ヲ認知シタル時ニ其効力ヲ生ズ 意思ノ表示カ相手方ニ到達スル前又ハ之ト同時ニ其取消カ第一項ノ規定ニ従ヒ相手方ニ到達スルトキハ意思ノ表示ナキモノト見做ス 意思ノ表示者カ明示ノ表示ヲ発シタル後又ハ黙示ノ表示カ相手方ニ認知セラルヽ前ニ死亡シ若クハ行為ノ能力ヲ失フモ意思表示ノ効力ニ影響ヲ及ホサズ 意思表示ノ効力カ官庁ニ対シテ表示セラルヽコトヲ要スル場合ニ於テハ第二項及ビ第三項ノ規定ヲ准用ス 第七十五条 意思ノ表示ヲ受諾スベキ義務アル者ニ対シテハ執達吏ニ依リテ之ヲ通知スルコトヲ得此通知ハ民事訴訟ノ送達ニ関スル規定ニ従フテ之ヲ定ム 第七十六条 意思ノ表示ヲ通知セントスル者ハ之ヲ受諾スベキ義務アル者ヲ知ラザルコトニ付キテ自己ノ懈怠ナキトキ又ハ此者ノ居所カ不分明ナルトキハ民事訴訟ニ於テ召喚ノ公示送達ニ関スル規定ニ従ヒ通知スルコトヲ得第一ノ場合ニ於テハ表示者カ住所又ハ之ナキトキハ居所ヲ有スル地ノ区裁判所ノ管轄ニ属シ第二ノ場合ニ於テハ送達ヲ受クベキ者カ最後ノ住所又ハ之ナキトキハ最後ノ居所ヲ有スル地ノ区裁判所ノ管轄ニ属ス 第三節 契約ノ取結 第七十七条 契約ヲ取結ブニハ当事者カ互ニ合致スル意思ヲ表示スルコトヲ要ス 第七十八条 法律カ当事者ノ取結ブ契約ノ主要トスル部分ニ付キ当事者ノ合致セザル間ハ契約カ取結バレザルモノトス 其他単ニ当事者ノ一方ガ合致ヲ要スト表示シタル事項ニ付キ合致セザル間ハ既ニ合致シタル事項ノ記載ヲ為シタルト否トニ拘ラズ疑ハシキ場合ニ於テハ前項ノ規定ニ依ル 第七十九条 当事者ノ一方カ其欲スルトキニノミ拘束セラルベキ取極メニテ取結ビタル双務契約ハ他ノ一方ヲ拘束ス 右一方カ其欲セザル旨ヲ表示スルトキハ他ノ一方モ拘束ヲ免カル 第八十条 契約ノ申込ハ契約ノ主要ニ属スル部分ヲ有シ其他ノ事項ノ合致ヲ留保セザルトキハ申込者ヲ拘束ス 第八十一条 申込者ハ明示又ハ黙示ニテ予メ申込ノ拘束ヲ除去シタルトキハ拘束ヲ免カル 第八十二条 申込者ハ受諾ノ期間ヲ定メタルトキハ此期間内ハ申込ニ拘束セラル受諾ノ表示カ期間ノ経過前ニ到達セザルトキハ申込ハ消滅ス 第八十三条 受諾ノ期間ヲ定メズシテ現在者ニ為ス契約ノ申込カ直チニ受諾セラレザルトキハ消滅ス 第八十四条 受諾ノ期間ヲ定メズシテ不在者ニ為シタル契約ノ申込ハ適当ノ時ニ相手方ニ到達シ相手方ハ取引上ノ慣習ニ従ヒ適当ト認ムベキ時ニ受諾ヲ発送シ此受諾カ申込者ニ到達スルニ要スベキ適当ノ時間内ハ申込者ヲ拘束ス受諾ノ表示ハ此時間内ニ申込者ニ到■セザルトキハ申込ハ消滅ス 第八十五条 受諾ノ期間後ニ到達シタル不在者ノ受諾ノ表示ハ通常ノ輸送アリシトキハ期間ノ経過前ニ到達スベキ時ニ発送セラレタル場合ニハ申込者ハ受諾ノ表示カ到達シタル後遅滞ナク其延着ヲ相手方ニ通知スルコトヲ要ス但到達前ニ既ニ通知アリタルトキハ此限ニ在ラズ 申込者カ右通知ヲ適当ノ時ニ発送セザルトキハ受諾ノ表示ハ延着セザリシモノト見做ス 第八十六条 不在者ニ為シタル契約ノ申込ヲ黙示ニ受諾スルコトハ申込者カ之ヲ許シタルトキニ限ル此場合ニ於テ受諾ノ効力ヲ生スルニハ申込者ハ受諾ヲ認知スルコトヲ要セズ 申込ニ於テ直ニ履行スルコトヲ望ミ又ハ申込者カ受諾ノミヲ要シ其返信ヲ望マザルコトカ申込ニ依リテ明ナル場合ニハ黙示ノ受諾ハ申込者ヨリ特ニ許サレタルモノト見做ス 申込者カ拘束セラルヽ時間ハ申込ニ於テ明示シ又ハ状況ニ依リテ推定スベキ申込者ノ意思ニ従フテ之ヲ定ム 申込者カ直ニ履行スルコトヲ望ミタルトキハ疑ハシキ場合ニ於テ履行ヲ為スニ必要ナル時間内ハ申込ニ拘束セラル履行カ遅延スルトキハ申込ハ消滅ス此場合ニ於テ履行ノ遅延ハ状況及ビ取引上ノ慣習ニ依リテ之ヲ定ム 事変ニ因リテ申込カ延着シ又ハ直チニ履行スルコトカ妨ゲラルヽトキハ疑ハシキ場合ニ於テ申込カ消滅シタリト見做ス 第八十七条 契約ハ申込カ受諾セラレタル時ニ取結バレタルモノトス 第八十八条 遅延シタル受諾ハ新ナル申込ト見做ス 申込ハ申込ノ拒絶ニ因リテ消滅ス 申込ヲ拡張シ又ハ之ヲ制限シタル受諾ハ申込ヲ拒絶スルト同時ニ新ニ申込ヲ為スモノト見做ス 第八十九条 申込者又ハ申込ヲ受ケタル者カ申込ノ発送後ニ死亡シ又ハ行為ノ能力ヲ失フモ申込ノ効力ニ影響ヲ及ホサズ但申込者ノ意思カ申込又ハ其他ノ状況ニ依リテ之ニ異ナルコト明カナルトキハ此限ニ在ラズ 第九十条 最高競買者又ハ最低要求者ニ為ス競売ニ於テ疑ハシキ場合ニハ申出ニ対スル競落ニ因リテ契約カ取結バレタルモノトス申出人ハ一層高キ申出ノアル迄ハ其申出ニ拘束セラル 申出ハ一層高キ申出ニ因リ又ハ之ナキモ競落ナクシテ競売期日カ経過シタルトキハ疑ハシキ場合ニハ消滅シタルモノトス 第四節 法律行為ノ方式 第九十一条 法律行為ニ特別ナル方式ハ法律又ハ法律行為ニ依リテ之ヲ定メタル時ニノミ必要トス 法律ニ依リテ定メタル方式ヲ缺ク法律行為ハ無効トス但特別ノ規定アルトキハ此限ニ在ラズ法律行為ニ依リテ定メタル方式ヲ缺クトキ亦同ジ 第九十二条 法律ニ依リテ書式ヲ定メタルトキハ意思ノ表示者ハ自ラ証書ニ署名シ又ハ裁判所若クハ公証人カ認証シタル拇印ヲ捺スコトヲ要ス 電信ニ依ル意思ノ表示ニ付キテハ第一項ノ規定ニ従ヒ電信用紙ニ署名シ又ハ拇印ヲ捺スニテ足ル 裁判上又ハ公証上ノ方式ハ書式ニ代ハルモノトス 第九十三条 法律行為ニ依リテ書式ヲ定メタルトキハ第九十二条第三項ノ規定ヲ適用ス又疑ハシキ場合ニ於テハ第九十二条第一項及ビ第二項ノ規定ヲモ適用ス 第九十四条 契約ニ於テ法律ニ依リテ定メタル方式ヲ履ムニハ当事者双方カ同一ノ証書ニ署名スルコトヲ要ス同一ノ証書カ数通アルトキハ相手方ノ署名シタル証書ヲ受取ルニテ足ル 第一項ノ規定ハ疑ハシキ場合ニ於テ当事者ノ合意ニ因リテ書式ヲ必要トスルトキニモ適用ス 第九十二条第二項ノ規定ハ此ニ准用ス 第五節 意思ノ虧欠 第九十五条 真誠ノ意思ト表示シタル意思ト一致セザル場合ニ於テ表示者カ意思ノ欠欠ヲ知リテ之ヲ隠蔽シタルトキハ其表示ハ有効トス但相手方カ其欠欠ヲ知レルトキハ此限ニ在ラズ 第九十六条 虚偽ノ法律行為ハ無効トス 当事者カ他ノ法律行為ヲ為ス目的ヲ以テ虚偽行為ヲ為ス場合ニ於テ他ノ法律行為ハ之ニ適用セラルヽ規定ニ依リテ其効力ヲ定ム 第九十七条 真誠ノ意思ト表示シタル意思ト一致セザルコトヲ知リテ之ヲ表示シタル者カ詐欺ノ目的ヲ有セザルトキハ其意思ノ表示ハ無効トス 前項ノ場合ニ於テ表示者カ過失アルトキハ其意思ノ表示ハ有効トス 表示者カ懈怠アルトキハ相手方ニ対シ損害賠償ノ責ニ任ズ但意思ノ表示カ有効ナル場合ニ於テ之ニ因リテ生ジタル債務ヲ履行セザルカ為メニ要スル損害賠償ノ額ヲ超ヘズ 第二項及ビ第三項ノ規定ハ相手方ニ於テ真誠ノ意思ト表示シタル意思ト一致セザルコトヲ知リ又ハ知ラザルベカラザリシ場合ニ適用セズ 第九十八条 表示者ノ錯誤ニ因リテ真誠ノ意思ト表示シタル意思ト一致セザル場合ニ於テ表示者カ能ク事情ヲ知リタランニハ意思ヲ表示セザリシト認メラルヽトキハ意思ノ表示ハ無効トス反対ノ場合ニ於テハ之ヲ有効トス 他ノ種類ノ法律行為又ハ他ノ目的物ニ法律行為ヲ関セシムルコト若クハ他ノ人トノ間ニ法律行為ノ効力ヲ生ゼシムルコトヲ目的トシタル場合ニ於テハ意思ヲ表示ゼザリシナラント見做ス 第九十九条 第九十八条ノ規定ニ依リテ無効トスベキ意思ノ表示ハ表示者ガ過失アルトキハ有効トス 意思ノ表示者カ懈怠アルトキハ相手方ニ対シ第九十七条第三項ノ規定ニ従ヒ損害賠償ノ責ニ任ズ 第一項及ビ第二項ノ規定ハ相手方カ錯誤ヲ知リ又ハ之ヲ知ラザルベカラザリシ場合ニ適用セズ 第百条 契約ヲ取結ブニ当リ其一部ニ付キ当事者ノ意思カ合致セザルトキハ契約ノ全部ヲ無効トス但右一部ニ付キ取極メナキモ契約カ取結バレタルコト明カナルトキハ此限ニ在ラズ 第百一条 意思ノ表示ハ之ヲ伝フル為メニ用井タル人ニ依リテ真誠ニ伝ヘラレザリシトキハ第九十八条乃至第百条ノ規定ヲ准用ス 第百二条 縁由ノ錯誤ハ法律行為ノ効力ニ影響ヲ及ホサス但特別ノ規定アルトキハ此限ニ在ラズ 第百三条 詐欺又ハ強暴ニ因リテ不法ニ意思ヲ決定セシメラレタル者ハ其意思ノ表示ヲ取消スコトヲ得 意思表示ノ効力ヲ生ズルニハ相手方ニ対シテ之ヲ表示スルコトヲ要スル場合ニ於テ第三者カ詐欺シタルトキハ相手方ハ之ヲ知リ又ハ知ラザルベカラザリシトキニノミ意思ノ表示ヲ取消スコトヲ得 第百四条 意思ノ表示ハ一ケ年内ニ之ヲ取消スコトヲ要ス此期間ハ脅迫カ止ミ又ハ詐欺カ発見セラレタル時ニ始マル 第一項ノ規定ニ依リテ取消カ除斥セラレザルトキハ取消ノ期間ハ意思ヲ表示シタル時ヨリ三十年トス 第百六十六条ノ規定ハ此ニ准用ス 第六節 不法ノ法律行為 第百五条 法律ニ依リテ禁ゼラレタル法律行為ハ無効トス但特別ノ規定アルトキハ此限ニ在ラズ 第百六条 法律行為ノ内容カ善良ナル風俗又ハ公ノ秩序ニ反スルトキハ其法律行為ハ無効トス 第百七条 法律行為、判決、強制執行又ハ差押ニ因ル権利ノ譲渡放棄若クハ物又ハ権利ニ附スル負担カ特定セル人ノ利益ヲ保護スル為メニ規定シタル法律上又ハ裁判上ノ譲渡ノ禁止ニ反スルトキハ此者ニ対シテ効力ヲ生セズ 権利者ニ非ザル者ヨリ権利ヲ得タル者ノ為メニ設ケタル規定ハ此ニ淮用ス 法律行為ニ因ル処分ノ制限カ法律ノ規定ニ従ヒ第三者ニ対シ効力ヲ有スルトキハ法律上ノ譲渡ノ禁止ト見做ス 特定セル人ノ利益ヲ保譲スル為メニ規定シタル譲渡ノ禁止ハ此者ノ財産上ニ破産カ開始セラルヽトキハ破産債権者ニ対シ其効力ヲ失フ 譲渡ノ禁止カ継続スル間ハ債権ノ為メニスル強制執行又ハ譲渡ノ禁止ノ為メニ無効トナルベキ権利ニ因リテ目的物ヲ譲渡シ又ハ之ヲ転付スルコトヲ得ズ 第七節 法律行為ノ無効 第百八条 無効ノ法律行為ハ当事者ノ欲セシ法律上ノ効力ニ関シテハ法律行為ヲ為サヾリシモノト見做ス 第百九条 無効ノ法律行為ハ其後ニ至リ無効ノ原因カ除去セラルヽモ効力ヲ生セズ 第百十条 無効ノ法律行為ヲ為セシ者カ之ヲ確認スルトキハ此確認ハ新ニ法律行為ヲ為セシモノト判定ス 無効ノ契約カ確認セラルヽトキハ当事者ハ疑ハシキ場合ニ於テ契約カ初メヨリ有効ナリトスル権利ヲ有シ又義務ヲ負フ 第百十一条 目的トシタル法律行為ハ無効ナルモ他ノ法律行為ノ要件ヲ有シ且之ヲ他ノ法律行為トシテ維持スルコトカ無効ノ法律行為ヲ為ストキノ意意ニ適スルトキハ他ノ法律行為トシテ効力ヲ有セシム 第百十二条 取消シ得ベキ法律行為カ取消サルヽトキハ当事者ノ目的トシタル法律上ノ効力ニ関シテハ法律行為カ為サレザリシモノト見做ス但法律ニ於テ之ニ異ナリタル取消ノ効力ノ定アルトキハ此限ニ在ラズ 第百十三条 法律行為ノ取消ヲ為スニハ取消ノ権アル者カ之ヲ受クベキ者ニ対シ取消ノ意思ヲ表示スベシ 左ニ掲グル者ハ取消ヲ受クベキ者トス 一、 契約ニ於テハ其相手方 一、 単意行為ノ効力カ或人ニ対シテ為サレタルコトヲ要スル場合ニ於テハ此者 一、 其他ノ単意行為ニ於テハ取消ニ因リテ消滅スベキ権利ヲ此法律行為ヨリ得ントスル者 取消ノ権アル者ノ追認ニ因リテ法律行為ハ取消シ得ベカラザルモノトナルベシ 第百十四条 無効ノ原因カ法律行為ノ一部ニ関スルトキモ法律行為ノ全部ヲ無効トス但無効ノ部分ナキモ法律行為ヲ為ス意ナリシコトカ明カナルトキハ此限ニ在ラズ 第八節 代理及ビ代理権 第百十五条 法律行為ハ法律又ハ法律行為ノ性質ニ反セザル限リハ代理人ヲ以テ又ハ代理人ト之ヲ為スコトヲ得 第百十六条 代理人カ代理人ノ権限内ニ於テ為シタル法律行為ニ因リテ本人ハ直接ニ権利ヲ得又ハ義務ヲ負フ此場合ニ於テハ代理人カ明カニ本人ノ名ヲ以テ法律行為ヲ為シタルト又ハ代理人カ本人ノ名ヲ以テ為スベカリシ意思カ事情ニ依リテ顕ハルヽトキトヲ区別セズ 他人ノ名ヲ以テ行為ヲ為スベキ意思カ顕ハレザルトキハ自己ノ名ヲ以テ行為ヲ為ス意思アルモノト見做ス 第三者カ代理人ニ対シテ為シタル意思ノ表示ニ付テハ第一頃ノ規定ヲ准用ス 第百十七条 真誠ノ意思ト表示シタル意思ノ一致及ビ強暴詐偽錯誤ノ有無又ハ或事情ヲ知リ若クハ知ラザルベカラザルモノナルヤ否ヤハ代理人其人ニ依リテ之ヲ定ム 第百十八条 本人ヨリ法律行為ニ因リテ与ヘラレタル代理ノ委任(代理権)カ一定ノ法律行為ニ関スル場合ニ於テハ本人カ知リ又ハ知ラザルベカラザルトキハ代理人ノ不知ハ之ヲ問ハズ 第百十九条 代理権ハ之ヲ取消スコトヲ得 代理権ヲ取消シ得ベキコトハ之ヲ放棄スルコトヲ得ズ 其他代理権ノ消滅ニ付テハ委任ノ消滅ニ関スル規定ヲ適用ス但本人ト代理人ノ関係ヨリ反対ノ生ズルトキハ此限ニ在ラズ 第百二十条 本人カ代理権ヲ与ヘタルコトヲ特別ノ通知又ハ公告ニ依リテ第三者ニ通知シタルトキハ此通知ハ第一ノ場合ニ於テハ特別ノ通知ヲ受ケタル第三者ニ対シテ代理権附与ノ表示トナリ第二ノ場合ニ於テハ代理人ト法律行為ヲ取結ビ若クハ之ニ対シテ法律行為ヲ為シタル第三者ニ対シ又ハ第三者ニシテ之ニ向テ代理人カ法律行為ヲ為シタル者ニ対シテ各代理権附与ノ表示トナル 取消又ハ告知ニ因ル代理権ノ消滅ハ同一ノ方法ヲ以テ第三者ニ通知セラルヽカ又ハ第三者カ其消滅ヲ知リ又ハ知ラザルベカラザルトキニノミ第三者ニ対シテ効力ヲ生ズ 第百二十一条 代理権カ本人ヨリ代理権ヲ附与セラレタルコトヲ証明スル為メ受取リタル委任状ヲ第三者ニ提示シタル場合ニ於テハ第百二十条ノ規定ヲ准用ス 代理人ハ代理権消滅スルトキハ委任状ヲ本人ニ返還セザルベカラズ 本人カ普通裁判籍ヲ有スル地ノ裁判所又ハ本人ノ選択ニ依リ委任状返還ノ訴訟ニ付キ管轄権ヲ有スル裁判所ハ本人ノ申立ニ依リ決定ヲ以テ委任状ノ無効ヲ宣言スベシ此決定ハ民事訴訟ニ於ケル呼出状ノ公示送達ニ関スル規定ニ従ヒ之ヲ公示スベシ又無効ノ宣言ハ其決定ヲ公報ニ掲載シタル最終ノ日ヨリ一个月ヲ経過スル時ハ効力ヲ生ズ 委任状カ返還セラレズ又ハ無効ノ宣告ヲ受ケザル間ハ取消又ハ告知ニ因ル代理権ノ消滅ハ第三者カ其消滅ヲ知リ又ハ知ラザルベカラザトキニノミ効力ヲ生ズ 第百二十二条 相手方ニ対シテ為スニ非ザレハ効力ヲ生ゼザル単意ノ法律行為ヲ代理人カ委任状ヲ提示セズシテ為シタル場合ニ於テハ相手方ハ法律行為ヲ為ス時又ハ之ヲ為シタル後遅滞ナク委任状ノ提示ナキノ故ヲ以テ拒絶スルトキハ法律行為ハ効力ヲ生セズ 第百二十三条 代理権ヲ有セズシテ他人ノ名ヲ以テ取結ビタル契約カ本人ニ対シテ効力ヲ生ズルニハ此者ノ追認ヲ要ス 追認カ拒絶セラレザル間ハ相手方ハ代理人ノ同意ヲ得ルモ契約ヨリ脱退スルコトヲ得ズ 相手方カ本人ニ催告ヲ為シタルニ拘ラズ催告ヲ受取リタル時ヨリ起算シテ二週日ノ期間内ニ一定セル明示ノ表示カ到達セザルトキハ追認ノ拒絶ト見做ス追認並ニ其拒絶ハ期間開始ノ後ハ相手方ニ対シテノミ之ヲ表示スルコトヲ得 本人カ追認セズシテ死亡スルモ法律関係ニ変更ヲ生ズルコトナシ 第百二十四条 代理人カ契約取結ノ時ニ代理権ヲ有セザルコトヲ通知セザリシ場合ニ於テ本人カ追認セザル間ハ相手方ハ契約ヨリ脱退スルコトヲ得但相手方カ代理権ノ欠欠ヲ知レルトキハ此限ニ在ラズ 第百二十五条 契約取結ノ時ニ代理権ヲ有セザルコトヲ知ラシメザリシ代理人ハ契約ノ追認カ拒絶セラルル時ハ相手方ニ対シ自ラ其責ニ任ズ相手方ハ其選択ニ依リ契約ノ履行又ハ不履行ニ因リテ生ズル損害ノ賠償ヲ要求スルコトヲ得 相手方カ代理権ノ欠缺ヲ知レルトキハ代理人ノ責任ヲ生セズ 第百二十六条 単意ノ法律行為ハ代理権ヲ有セザル者ニ依リテ有効ニ之ヲ為スコトヲ得ズ然レトモ単意ノ法律行為ハ相手方ニ対シテ為サルルコトニ因リテ効力ヲ生ズル場合ニ於テハ相手方カ此行為ヲ為スコトニ同意シタルトキハ契約ニ関スル規定ヲ准用ス 第九節 承諾及ビ追認 第百二十七条 法律行為ノ効力ハ他人カ先ニ之ヲ為スコトヲ承諾シ又ハ既ニ為シタル法律行為ヲ追認スルコトニ因リテ生ズル場合ニ於ケル承諾追認又ハ追認ノ拒絶ハ契約ノ場合ニ於テハ当事者ノ一方又ハ他ノ一方ニ対シテ之ヲ表示スルコトヲ得単意ノ法律行為ニシテ其効力ハ相手方ニ対シテ之ヲ為スコトニ因リテ生ズル場合ニ於テハ法律行為ヲ始メタル者又ハ他ノ一方ニ対シテ之ヲ表示スルコトヲ得 表示ハ明示又ハ黙示ニテ之ヲ為スコトヲ得此表示ハ承諾又ハ追認ニ因リテ効力ヲ生ズル法律行為ニ要スル方式ヲ要セズ 先ニ与ヘタル承諾ノ効力ノ消滅ニ付テハ代理権消滅ニ関スル規定ヲ准用ス 追認ノ効力ハ反対ノ定ナキトキハ追認セラレタル法律行為ヲ為シタル時ニ遡ルモノトス然レトモ之ニ因リテ第三者カ追認前ニ追認者ノ処分ニ依リ又ハ此者ニ対スル強制執行若クハ差押ニ依リテ法律行為ノ目的物上ニ得タル権利ニ影響ヲ及ボサズ 第六節 条件及ビ期間 第百二十八条 法律行為カ停止条件ニ係ルトキハ其法律上ノ効力ハ条件成就ノ時ニ発生ス 第百二十九条 法律行為カ解除条件ニ係ルトキハ既ニ生ジタル法律上ノ効力ハ条件成就ノ時ニ終絶シ以前ノ状体ハ法律上当然回復ス 第百三十条 法律行為ノ内容ヨリ其法律上ノ効力ノ発生又ハ終絶ヲ既往ニ遡ラシムベキコト明カナルトキハ条件成就ノ場合ニ於テ当事者ハ相互ニ法律上ノ効力ハ既往ニ発生又ハ終絶シタリトスル権利ヲ有シ又義務ヲ負フ 第百三十一条 停止条件成就セザルトキハ此条件ニ係レル法律上ノ効力ハ発生セズ 解除条件成就セザルトキハ法律行為ハ無条件ニテ為サレタルモノト見做ス 第百三十二条 条件附権利及ビ債務ハ無条件ノ権利及ビ債務ニ適用セラルヽ規定ニ従ヒ相続スルコトヲ得 第百三十三条 条件附権利者ハ民事訴訟法第七百九十六条及ビ第七百九十七条ノ規定ニ従ヒ差押ヲ為シ得ベキ要件ノ存スルトキハ担保ヲ要求スルコトヲ得 停止条件附債務者ノ財産上ニ破産カ開始セラルヽトキハ条件附権利者ハ破産法ニ依リテ共同債務者カ担保ヲ供セザルベカラザル場合ニ於テ生ズル権利ヲ有ス 条件附権利カ条件成就ノ容易ナラザル為メ現財産ノ一部ト認ムルコトヲ得ザル場合ニハ第一項及ビ第二項ノ規定ヲ適用セズ 条件附権利ノ一時処分ヲ許スコトハ民事訴訟法第八百十四条乃至第八百二十二条ノ規定ニ依ル 第百三十四条 条件附債務者カ条件未定ノ間ニ於テ故意又ハ懈怠ニ因リテ条件ニ係レル権利ヲ毀損シ又ハ制限シタルトキハ条件成就ノ場合ニ於テ債権者ニ対シ之カ為メニ生ジタル損害ヲ賠償スルコトヲ要ス債務者ノ懈怠ハ法律行為ヨリ生ズル関係ニ依リテ之ヲ定ム 第百三十五条 条件附帯ニテ権利ヲ譲渡シ又ハ之ヲ消滅セシメ若クハ権利又ハ物件ニ負担ヲ課シタル場合ニ於テ条件未定ノ間ニ条件附債務者ニ依リ又ハ此者ニ対スル強制執行若クハ差押ニ依リテ其権利又ハ物件カ処分セラルヽトキハ此処分ハ条件成就ノ時ニ生ズル法律上ノ効力ヲ毀損シ又ハ制限スル限度ニ於テ効力ヲ有セズ此場合ニ於テ権利者ニ非ザル者ヨリ権利ヲ得タル者ノ為メニ設ケタル規定ヲ准用ス 第百三十六条 条件附債務者カ法律行為ノ内容ニ反スル方法ヲ以テ条件ノ成就ヲ妨グルトキハ条件ハ成就シタリト見做ス 第百三十七条 条件カ法律行為ヲ為ス時既ニ成就シタル場合ニ於テ其条件カ停止条件ナルトキハ法律行為ハ無条件ニテ為サレタルモノト見做シ又解除条件ナルトキハ無効ト見做ス 条件ノ成就セザルコトカ法律行為ヲ為ス時既ニ明カナルトキハ前項ニ反対ノ結果ヲ生ズ条件ノ成就又ハ成就セザルコトカ知レザル間ハ第百三十三条ノ規定ヲ准用ス 法律行為ニ条件ヲ附スルコトヲ許サレザルトキハ第一項ニ示シタル種類ノ条件モ附スルコトヲ得ズ但法律ニ之ト異ナル規定アルトキハ此限ニ在ラズ 第百三十八条 条件ハ債務者ノ随意ニ任カシタル所為ニ存スルコトヲ得停止条件カ債務者ノ単純ナル意思ニ存スルトキハ其債務ハ効力ヲ有セズ 第百三十九条 法律行為ニ理解シ得ザル条件又ハ意義ヲ為サヾル条件ヲ附シタルトキハ法律行為ハ無効トス 第百四十条 法律上ノ効力カ意思表示者ノ意思ナキモ或条件ニ係ルコトヲ要スル場合ニ於テハ此条件ヲ附スルモ法律関係ノ事項ニ変更ヲ生ズルコトナシ 第百四十一条 法律行為ニ確定シタル将来ノ時期又ハ必ズ発生スベキ将来ノ事件ヲ起発期日トシテ附シタルトキハ法律上ノ効力ハ即時ニ発生シ其実行ノミ起発期日ニ係ルモノトス但法律行為ノ内容ヨリ法律上ノ効力モ起発期日ニ係ラシメタルコト明カナルトキハ此限ニ在ラズ 法律上ノ効力カ起発期日ニ係ル場合ニハ第百三十二条第百三十三条第一項第四項第百三十四条及ビ第百三十五条ノ規定ヲ准用ス 第百四十二条 法律行為ニ確定シタル将来ノ時期又ハ必ズ発生スベキ将来ノ事件ヲ終止期日トシテ附スルトキハ法律上ノ効力ハ終止期日ヲ以テ終絶ス 第百二十九条第百三十三条第一項第四項及ビ第百三十五条ノ規定ヲ此ニ准用ス 第百四十三条 法律行為ニ附セラレタル期日ノ発生カ確定セザルトキハ此期日ハ条件ト見做ス 第五章 懈怠、錯誤 第百四十四条 尋常ノ家父ノ為スベキ注意ヲ用井ザルトキハ懈怠アリトス 前項ノ注意ヲ特ニ重大ニ怠リタルトキハ重懈怠アリトス 第百四十五条 自己ノ事務ニ用ユベキ注意ヲ為スコトヲ要スル者ハ重懈怠ニ因リテ生ズル責任ヲ免レズ 第百四十六条 本法ニ於テハ左ノ如ク解スベシ 誤錯トハ事実上ノ錯誤及ビ法律上ノ錯誤ヲ云フ 宥恕スベキ錯誤トハ懈怠ニ本ヅカザル錯誤ヲ云フ 識リ又ハ知ラザルベカラザルコトトハ懈怠ニ本ヅカザル不識又ハ不知ヲ云フ 第六節 時日ノ指定 第百四十七条 法律、裁判所ノ処分又ハ法律行為ニ依リテ定メタル時日ノ指定ニ関シテハ第百四十八条乃至第百五十三条ノ解釈法ヲ適用ス 第百四十八条 日ヲ以テ定メタル期間ガ或事件又ハ或時刻ヨリ起算セラルルトキハ其事件ノ起リタル日又ハ其時刻ヲ含ム日ハ期間ニ算入セズ 日ヲ以テ定メタル期間ハ其末日ノ経過ニ依リテ満了ス 第百四十九条 週、月又ハ数月(一年、半年、四分一年)ヲ以テ定メタル期間カ或事件又ハ或時刻ヨリ起算セラルルトキハ名称又ハ指数ニ依リ期間ノ初日ニ相当スル末週又ハ末月ノ日ノ経過ニ依リテ満了ス月ヲ以テ定メタル期間ニ於テ期間ノ初日カ末月ニ欠クルトキハ此月ノ末日ノ経過ニ依リテ満了ス 日ノ始時ヲ以テ期間ノ起算点トスルトキハ其期間ハ名称又ハ指数ニ依リテ起算日ニ相当スル末週又ハ末月ノ日ヨリ一日前ノ日ノ経過ニ依リテ満了ス又月ヲ以テ定メタル期間ニ於テ起算日ハ末月ニ欠クルトキハ此月ノ末日ノ経過ニ依リテ満了ス 第百五十条 半年ハ六个月、四分一年ハ三个月、半月ハ十五日ノ期間トス 期間ガ全一月ト半月又ハ全数月ト半月トヲ以テ定メラレタルトキハ十五日ハ最終ニ之ヲ計算ス 第百五十一条 年又ハ月ヲ以テ定メタル期間ノ計算ニ付キ第百四十九条ノ規定ノ適用セラレザル場合ニ於テハ一年ハ三百六十五日、一月ハ三十日トス 第百五十二条 期間伸長ノ場合ニ於テハ新期間ハ前期間ノ満了ヨリ起算ス 第百五十三条 月ノ初ハ第一日、月ノ央ハ第十五日、月ノ終ハ其末日トス 第七節 請求ノ時効 第百五十四条 給付請求ノ権(請求)ハ法律ニ反対ノ定ナキトキハ時効(請求ノ時効)ニ係ルモノトス此場合ニ於テ請求ハ債務関係ニ本ヅクト他ノ法律上ノ原因ニ本ヅクトヲ区別セズ 家族上ノ関係ニ本ヅク請求ハ将来此関係ニ相当スル状体ノ回復ヲ目的トスルトキハ時効ニ係ルコトナシ 第百五十五条 時効ノ期間ハ三十年トス(通常ノ時効期間)但他ノ期間ノ定アルトキハ此限ニ在ラズ 第百五十六条 左ニ掲ゲル請求ハ二年ノ期間ノ満了ヲ以テ時効ニ係ルモノトス 一、 商人製造人職工及ビ技術営業人カ物品又ハ労力ノ供給並ニ其立替金ニ付テ有スル請求 二、 農業ヲ営ム者カ農産物殊ニ食料又ハ燃料ヲ家事用ニ供給シタル場合ニ於テ有スル請求 三、 旅店又ハ或種類ノ飲食物営業人カ住居又ハ飲食物ノ供給其他客ノ需要ニ供シタル給付並ニ其立替金ニ付テ有スル請求 四、 公私ノ教育所、養育所又ハ施療所カ教育養育施療並ニ之ニ附帯セル諸般ノ費用ニ付テ有スル請求其他施療又ハ養育ノ為メ或人ヲ引受ケタル者カ本号ニ掲グル種類ノ給付又ハ費用ニ付テ有スル請求 五、 公私ノ教師カ報酬ニ付テ有スル請求但公立学校ニ関シ現行ノ特別制規ニ依リ払渡猶予ノ定アルトキハ此限ニ在ラズ 六、 授業者カ授業料其他授業契約ヲ以テ定メタル給付又ハ徒弟ノ為ニ支払ヒタル立替金ニ付テ有スル請求 七、 弁護士、公証人、執達吏其他或職務執行ノ為メ公ニ任命セラレ若クハ認許セラレタル者又ハ証人鑑定人カ手数料並ニ其立替金ニ付テ有スル請求但千八百七十八年六月三十日発布手数料規則第十六条第二項ノ規定ハ之カ為ニ変更ヲ生セズ 八、 医師殊ニ外科医、産科医、歯科医、獣医、産科助手又ハ免許ヲ受ケズシテ医師又ハ産料医ノ業務ヲ為シタル者カ其業務執行並ニ其立替金ニ付テ有スル請求 九、 労力ノ供給又ハ委任ノ執行ヲ営業トスル者カ其営業上有スル請求 十、 鉄道庁、運送人、船長、傭馭者又ハ使丁カ運賃、使賃並ニ其立替金ニ付テ有スル請求 十一、 動産ノ賃貸営業人カ貸賃ニ付テ有スル請求 十二、 私役ニ従事セシ者カ俸給報酬又ハ役務上ノ収入並ニ其立替金ニ付テ有スル請求 十三、 営業使用人(職人、助手、徒弟、製造所職工)日傭人又ハ手細工人カ賃銭其他資銭ニ代ヘ又ハ賃銭ノ一分トシテ約束シタル給付並ニ其立替金ニ付テ有スル請求 十四、 主人カ営業使用人ニ賃銭又ハ立替金トシテ与ヘタル前貸金ニ付テ有スル請求 十五、 当事者カ弁護士ニ渡シタル前貸金ニ付テ有スル請求 第百五十七条 法律行為ニ依リテ定メタル利子ノ延滞セルモノ第百五十六条第十一号ノ規定ニ入ラザル小作料若クハ賃貸料ノ延滞セルモノ又ハ年金、留保金、給料、待命料、退隠料、養育料其他定時復帰スル期間ニ支払フベキ給付ノ延滞セルモノノ時効ハ其期間ヲ四年トス 第百五十八条 時効ハ請求ノ履行ヲ法律上要求シ得ル時(満期)ニ始マル 条件附又ハ期日附ノ請求ノ時効ハ条件ノ発生又ハ期日ノ到来セシ時ニ始マル 請求ノ成立カ単ニ権利者ノ意思ニ係ル場合ニ於テハ時効ハ請求カ成立セシメラレタル時ニ始マル 請求ノ履行カ権利者ノ要求又ハ告知ニ係ル場合ニ於テハ時効ハ要求又ハ告知ヲ為シ得ル時ニ始マル履行ノ為メ告知ノ時ヨリ更ニ期間ヲ定メタル場合ニ於テハ時効ハ告知ヲ為シ得ル時ヨリ此期間ニ等シキ時日ノ経過シタル時ニ始マル 第百五十九条 第百五十六条及ビ第百五十七条ニ掲ゲタル請求ノ時効ハ法律上履行ヲ要求シ得ル年ノ満了ヲ以テ始マル 第百六十一条 時効カ停止セラルルトキハ停止ノ継続中時効ハ始マラズ又既ニ始マリタル時効ハ其進行ヲ止ム 時効カ中断シタルトキハ既ニ経過シタル時日ハ時効ノ期間ニ算入セズ 第百六十二条 請求ノ性質又ハ特別ノ規定ニ因リ訴追ヲ許サヾル法律上ノ支障アルトキハ時効ハ停止ス 請求ニ対シテ契約不履行、留置権又ハ予訴ノ抗弁若クハ既定相続人ノ控除抗弁カ提出セラルヽモ時効ハ停止セズ 請求ニ対シテ相殺スルコトヲ得ベキ債権アルカ又ハ請求カ取消シ得ベキモノナルニ因リテ時効ハ停止セズ 第百六十三条 質物所有者カ質取債権者ニ対シテ有スル質物返還ノ請求ノ時効ハ質権存続スル間停止ス 第百六十四条 裁判休止ノ場合ニ於テハ其休止中時効ハ停止ス 第百六十五条 権利者カ不可抗力ニ因リテ訴追ヲ妨ゲラレタル場合ニ於テ此妨害カ時効期間ノ最終ノ六个月内ニ生ジタルトキ又ハ時効期間ハ六个月以内ナルトキハ時効ハ停止ス 第百六十六条 行為ノ能力ナキ者、行為ノ能力ヲ制限セラレタル者又ハ法人カ法律上ノ代理人ヲ有セザル場合ニ於テモ時効ハ開始進行ス法律上ノ代理人ナキ場合ニ於テハ法律上ノ代理ノ原因カ消滅シ又ハ代理ノ補缺ヲ為シタル時ヨリ六个月ヲ経過スル迄ハ時効ハ満了スルコトナシ時効期間カ六个月ヨリ短キトキハ時効期間ヲ以テ六个月ノ期間ニ代フ 第一項ニ掲ゲタル者カ訴訟能力ヲ有スル場合ニ於テハ第二項ノ規定ヲ適用セズ 第百六十七条 遺産ニ対スル請求又ハ遺産ニ属スル請求ノ時効ハ相続ニ因リテ停止セズ相続後ニ生ジタル請求ニ付キ亦同ジ 前項ノ請求ノ時効ハ遺産ニ付テ破産手続カ開始セラレ又ハ請求ヲ受ケ若クハ之ヲ行フ代理人カ選定セラレ又ハ遺産カ相続人ニ受取ラレタル時ヨリ六ケ月ヲ経過スル迄満了スルコトナシ時効期間ハ六个月ヨリ短キトキハ時効期間ヲ以ラ六个月ノ期間ニ代フ 第百六十八条 後見人ト被後見人トノ間ニ於ケル請求ニ付テハ後見ノ関係カ存続スル間時効ハ停止ス親子ノ間ニ於ケル請求ニ付テハ子ノ未成年ナル間、又夫婦ノ間ニ於ケル請求ニ付テハ夫婦ノ関係存続スル間亦同ジ 第百六十九条 時効ハ義務者カ権利者ニ対シテ請求ヲ確認スルコトニ因リ特ニ一部支払、利子支払、質物提供又ハ保証設定ヲ為スコトニ因リテ中断ス 第百七十条 時効ハ権利者カ請求ノ履行其確定、執行文ノ附与又ハ執行判決ノ下附ヲ求ムル為メ起訴スルコトニ因リテ中断ス 左ニ掲グル事項ハ起訴ト同一トス 一、 催告手続ニ於テ支払命令ノ送達 二、 破産手続ニ於テ債権ノ申出 三、 請求カ訴訟ノ結果ニ因リテ定マルベキ場合ニ於テ訴訟中ニ為ス訴訟告知 四、 執行行為ノ着手又ハ強制執行カ裁判所若クハ他ノ官庁ニ命ゼラルル場合ニ於テ強制執行ノ申立 民事訴訟法第百九十条ノ規定ハ本条ノ規定ニ因リテ妨ゲラルヽコトナシ 第百七十一条 訴訟カ権利者ニ依リテ取下ゲラレ又ハ訴訟要件ノ欠缺ニ因リテ却下セラルルトキハ起訴ニ因ル中断ハ生セザリシモノト見做ス 訴訟カ裁判所ノ管轄違ノ為メニ却下セラレタル場合ニ於テ権利者カ判決確定後六个月内ニ管轄裁判所ニ新ニ起訴スルトキハ時効ハ最初ノ起訴ニ因リテ中断シタリト見做ス 民事訴訟法第三十六条第六号ノ場合ニ於テ最初ノ訴訟ハ時効期間内ニ提起セラレ其後相続テ提起セル訴訟ハ之ニ先ツ判決ノ確定後六个月内ニ提起セラレ且最終ノ判決確定後三个月内ニ管轄裁判所ノ指定ヲ申請シ其指定セラレタル裁判所ニ対シ指定後三个月内ニ起訴スルトキハ時効ハ最初ノ起訴ニ因リテ中断シタリト見做ス 訴訟カ撰択シタル訴訟方法ノ許サレザルコトニ因リテ却下セラレタル場合ニ於テ権利者カ判決確定後六个月内ニ許サレタル訴訟方法ヲ以テ新ニ起訴スルトキハ時効ハ最初ノ起訴ニ因リテ中断シタリト見做ス 第二項乃至第四項ニ掲グル期間ニ付テハ第百六十四条及ヒ第百六十六条ノ規定ヲ准用ス 第百七十二条 民事訴訟法第六百三十七条、第六百四十条及ビ第六百四十一条ノ規定ニ依リ権利拘束ノ効力ガ消滅スルトキハ催告手続ニ於テ支払ノ命令ニ因ル中断ハ生ゼザリシモノト見做ス 第百七十三条 権利者ノ申立又ハ法律上ノ要件ノ欠缺ニ因リテ既ニ実施セラレタル執行処分カ廃棄セラルルトキハ執行行為ノ着手又ハ申立ニ因ル中断ハ生セザリシモノト見做ス 執行行為ノ申立カ官庁ニ於テ許サレズ又ハ執行行為ノ着手前ニ取下ゲラルルトキハ此申立ニ因ル中断ハ生ゼザリシモノト見做ス 第百七十四条 起訴ニ因ル中断ハ確定判決又ハ其他ノ方法ニ依リテ訴訟カ終結セラルヽ迄継続ス 訴訟カ当事者ノ合意又ハ訴訟行為ヲ為サヾルコトニ因リテ休止スルトキハ時効ノ中断ハ訴訟休止ノ時ニ終ル 中断ノ終リタル後新ニ開始スル時効ハ当事者ノ一方又ハ他ノ一方カ訴訟ヲ続行スルコトニ因リテ起訴ト同一ノ効力ヲ以テ中断ス 第百七十五条 訴訟告知ニ因ル中断ニ付テハ第百七十四条ノ規定ヲ准用ス 第百七十六条 破産手続ニ於テ債権ノ申出ニ因ル中断ハ破産手続ノ終結スル迄継続ス 前項ノ申出カ取戻サルヽトキハ中断カ生ゼザリシモノト見做ス 債権調査ノ時申立ラレタル異議ニ因リテ訴訟ニ係ル債権ニ付テ破産手続終結ノ時或金額カ残サレタルトキハ中断ハ破産手続終結ノ後尚ホ存続ス此場合ニ於テハ中断ハ第百七十四条ノ規定ニ従フテ終ル 第百七十七条 裁判上確定シタル請求ニ付キ特ニ短期ノ時効ヲ定メタルトキト雖モ総テ三十年ヲ以テ時効ニ係ルモノトス執行シ得ヘキ和解又ハ証書ヨリ生ズル請求並ニ破産手続ニ於テ確定シタルコトニ因リテ執行シ得ベキ請求ニ付テモ亦同ジ 請求ノ確定カ定期ニ復帰シ且将来ニ於テ満期トナルベキ給付ニ及フ限ハ第一項ノ規定ヲ適用セズ 第百七十八条 条件附確定判決ハ第百七十四条第一項及ビ第百七十七条第一項ノ意義ニ於ケル確定判決ト見做ス 第百七十九条 請求カ仲裁裁判所、特別裁判所、行政裁判所又ハ行政官庁ニ於テ主張スベキ場合ニ於テハ第百七十条乃至第百七十五条、第百七十一条及ビ第百七十八条ノ規定ヲ准用ス 仲裁契約ニ於テ仲裁裁裁判官ノ指定ナク又ハ既ニ成立セル仲裁裁判所ノ開廷ヲ請求スルコトハ特別ノ条件ノ履行ニ係ル場合ニ於テハ時効ハ権利者カ事件ヲ完結スルコトニ付テ自己ノ為スベキ要件ヲ為スコトニ因リテ中断ス 第百八十条 起訴ヲ許スト否トハ他ノ官庁ノ予決ニ係ル場合ニ於テハ時効ハ予決ヲ請求スルコトニ因リテ中断ス 前項ノ中断ハ予決ノ請求ガ決定セラルヽ迄継続ス 第百八十一条 物権ニ本ヅク請求ヲ生ゼシメタル物件カ権利承継ニ因リテ第三者ノ占有ニ帰シタルトキハ被承継人ノ占有ノ間ニ経過シタル時日ハ時効期間ニ算入ス 第百八十二条 時効満了後ハ請求ニ対シテ其主張ヲ永久ニ除却スル抗弁ヲ生ズ 時効ニ係リタル請求ヲ履行スル為メニ為シタル給付ハ時効ノ不知ニ因ルトキト雖モ其返還ヲ請求スルヲ得ズ 第百八十三条 質権ニ依リテ担保セラレタル請求ノ時効ハ権利者カ質物ニ付テ履行ヲ求ムルコトヲ妨ゲス 淹滞セル利子其他定期復帰スル給付ニ対スル請求ノ時効ニ付テハ第一項ノ規定ヲ適用セズ 請求ノ担保ノ目的ニテ権利カ譲渡サレタルトキハ請求カ時効ニ係リタルコトニ因リテ其返還ヲ請求スルコトヲ得ズ 第百八十四条 主タル請求カ時効ニ係ルトキハ之ニ属スル従タル給付ニ対スル請求ハ之ニ適用スベキ特別ノ時効カ満了セザルニ拘ラズ共ニ時効ニ係ルモノトス 独立シテ定期復帰スル給付ニ付テハ請求全体カ時効ニ係ルトキハ既ニ満期トナリタル給付モ共ニ時効ニ係ルモノトス 第百八十五条 法律行為ニ依リテ時効ヲ除却シ又ハ之ヲ加重スルコトヲ得ス殊ニ時効期間ノ伸長ニ因リテ之ヲ加重スルコトヲ得ズ 時効ノ減軽殊ニ時効期間ノ短縮ニ因リテ減軽スルコトハ法律行為ニ依リテ之ヲ定ムルコトヲ得 第八節 自衛及ビ自助 第百八十六条 正当防衛ニ本ヅク行為ハ不正ノ行為ヲ生セス 自己又ハ他人ヲシテ現ニ不法ノ攻撃ヲ免レシムル為メ必要ナル防衛ハ正当防衛トス 第百八十七条 自己又ハ他人カ将ニ受ケントスル危険ハ或他ノ人ノ物件ニ本ヅク場合ニ於テ此危険ヲ免レシムル為メ其物ヲ毀損スルモ不正ノ行為ヲ生セス但行為カ危険ヲ免ル為メ必要ニシテ且其危険ハ故意又ハ懈怠ニ因ルモノニ非ザル時ニ限ル 第百八十八条 禁止セラレタル行為ニ依ル自助ハ法律ニ別段ノ定ナキ限ハ不正ノ行為トス 第百八十九条 正当ノ時期ニ官庁ノ救助ヲ求ムルコトヲ得ス且権利者カ即時ノ侵犯ヲ為スニ非ザレバ請求権ノ実行ヲ無効ニ帰セシメ又ハ甚シク困難ナラシムル危険ヲ生スベキ場合ニ於テ物件ヲ押収シ又ハ之ヲ毀損シ若クハ義務者ニ対シ義務履行ヲ強制スルコトニ依ル自助ハ不正ノ行為ト為サス 権利者ガ自助ノ行為ヲ実行スルニ当リ危険ヲ免ル為メ必要ナル程度ヲ越ユルコトヲ得ス 義務者ヲ検束シタル場合ニ於テ再ビ之ヲ釈放セザル限ハ権利者ハ遅滞ナク義務者ヲ検束シタル地ノ管轄区裁判所ニ之ヲ引致シ同時ニ身体ノ保全仮差押ノ命令ヲ申請スベシ 請求権担保ノ為メ動産ヲ押収シタル場合ニ於テ強制執行カ行ハレザル限ハ遅滞ナク財産仮差押ノ命令ヲ申請スベシ此申請ヲ為スコトヲ遅延シ又ハ申請カ却下セラルルトキハ物件ヲ返還スルコトヲ要ス 第一草案本章第九節判決及ビ第十節証拠ニ関スル規定ハ第二読会ニ於テ全部刪除セラレタルヲ以テ左ニ第一草案ノ条文ノミヲ掲グ 第九節 判決 第百九十条 給付履行ノ判決ハ満期日ノ到来シタルトキニノミ之ヲ下スコトヲ得 法律行為ニ本ヅカスシテ定期復帰スル給付ニ付テハ後日満期トナルベキ給付ニ対シテモ判決ヲ下スコトヲ得 相対給付ニ関セザル金銭上ノ債権カ告知後或期間ヲ経過シテ満期トナリ又ハ賃貸借ノ関係カ告知後或期間ヲ経過シテ終了スベキ場合ニ於テハ訴訟ニ附帯シ又ハ之ニ先チタル告知ニ本ヅキ将来ノ支払又ハ明渡ニ関スル判決ヲ下スコトヲ得 第百九十一条 確定判決ヲ以テ当事者間ノ法律関係ノ標準トス確定判決ニ依リテ認メラレタルモノハ再ビ之ヲ争フコトヲ得ス又確定判決ニ依リテ認メラレザルモノハ再ビ之ヲ主張スルコトヲ得ス 確定判決ニ付キ前項ノ効力ハ之ヲ放棄スルコトヲ得裁判所ハ此効力カ主張セラレタルトキニノミ之ヲ認ムルコトヲ得 第百九十二条 確定判決ハ当事者相互ニ対シ又ハ権利拘束後ニ当事者ノ承継人トナリタル者並ニ当事者一方ノ為ニ係争物ヲ所持スル者ニ対シ其効力ヲ生ス 権利者ニ非ザル者ヨリ権利ヲ得タル者ノ為ニ設ケタル規定ハ此ニ准用ス 第十節 証拠 第百九十三条 請求権ヲ主張スル者ハ之ヲ生ゼシムルニ必要ナル事実ヲ証明スルコトヲ要ス請求権ノ消滅又ハ其効力ノ停止ヲ主張スル者ハ其消滅又ハ停止ヲ生ゼシムルニ必要ナル事実ヲ証明スルコトヲ要ス 第百九十四条 通常生スベキ効果ヲ除却スル特別ノ事実ニ由リテ或事件ノ法律上ノ効力ヲ拒否スル者ハ此特別ノ事実ヲ証明スルコトヲ要ス 法律行為ニ付キ行為能力ノ欠缺、真誠ノ意思ト表示シタル意思ノ不合致又ハ強暴若クハ錯誤ニ因ル意思自由ノ欠缺カ主張セラレ又ハ法律行為ニ依リテ特別ノ方式ノ定アルコトカ主張セラルルトキハ特ニ前項ノ規定ヲ適用ス 第百九十五条 法律行為ヲ有効ナラシムルニ付キ特別ノ方式ヲ要スル場合ニ於テ此法律行為ニ本ヅキ権利ヲ主張スル者ハ方式ノ遵守ヲ証明スルコトヲ要ス 第百九十六条 法律行為ニ本ヅキ権利ヲ主張スル者ハ此法律行為カ自己ノ主張スル方法ニ依リテ成立セシコトヲ証明スルコトヲ要ス相手方カ法律行為ノ成立ヲ許諾スルモ他ノ方法殊ニ停止条件又ハ解除条件ノ附帯若クハ起発期日又ハ終止期日ノ附帯ニテ為サレタルコトヲ主張スルトキ亦同ジ 第百九十七条 条件ノ成就又ハ不成就ハ其事実ニ因リテ権利ヲ得ル者ニ於テ之ヲ証明スルコトヲ要ス 第百九十八条 法律ノ規定ニ依リテ或事実カ推定セラルルトキハ此事実ハ証明セラレタリト見做ス但別段ノ規定ナキ限ハ反証ヲ許サレタルモノトス 第十一節 担保ノ提供 第百九十九条 担保ヲ供スベキ義務アル者ハ担保スベキ権利ノ価格ニ相当スル額ヲ自己ノ撰択ニ従ヒ左ニ掲グル方法ニ依リテ之ヲ提供スベシ 一 金銭又ハ有価証券ノ供托 一 動産ノ質入 一 内国ノ地所ニ付キ抵当ノ設定 一 内国ノ地所ニ付テノ抵当又ハ土地債務ノ質入但保全抵当ハ之ヲ除ク 右ノ方法ニ依リテ担保ヲ供スルコト能ハザルトキハ適当ナル保証人ヲ立ツルコトヲ得 第一項及ビ第二項ノ規定ハ法律又ハ法律行為ニ依ル別段ノ定ナキトキニ限リ之ヲ適用ス 第二百条 権利者ハ供托ト同時ニ供托セラレタル金銭又ハ有価証劵ニ付キ質権ヲ取得ス金銭又ハ有価証券カ聯邦ノ法律ニ依リテ国庫又ハ公設所ノ所有ニ帰スルトキハ償還請求権ニ付キ質権ヲ取得ス 第二百一条 有価証券ハ持参人払トシテ相場価格ヲ有シ且之ニ後見保障料ヲ附シ得ル種類ニ属スル時ニ限リ担保ニ供スルコトヲ得 有価証券ハ其相場価格ノ四分三ノ価額ヲ越ヘテ担保ニ供スルコトヲ得ス 第二百二条 動産ハ其評定価格ノ三分二ノ価格ヲ越ヘテ担保ニ供スルコトヲ得ス 第二百三条 抵当又ハ土地債務ハ之ニ後見保障料ヲ附シ得ベキ要件ニ適スル時ニ限リ担保ニ供スルコトヲ得 第二百四条 保証人ハ提供スベキ担保ニ相当スル財産ヲ有シ且内国ニ於テ普通裁判籍アルトキハ保証適当ナリトス 第二百五条 提供シタル担保カ権利者ノ過失ニ因ラスシテ不足ヲ生スルニ至リタルトキハ義務者ハ更ニ担保ヲ供スルコトヲ要ス 第二編 債務関係法 第一章 総則 第一節 債務関係ノ目的 第二百〇六条 債務関係ノ目的ハ債務者ノ作為又ハ不作為タルコトヲ得(給付) 第二百〇七条 債務関係カ数個ノ給付中ノ一ヲ履行スヘキコトヲ目的トシタル場合ニ於テ法律ノ規定又ハ法律行為ニ依リテ別段ノ定ナキトキハ債務者カ撰択権ヲ有ス 第二百〇八条 撰択権者カ相手方ニ対シ撰択ノ表示ヲ為シタルトキハ撰択ノ実行アリタルモノトス 撰択権ヲ有スル債務者カ数個ノ給付中ノ一ヲ履行シ又ハ撰択権ヲ有スル債権者カ数個ノ給付中ノ一ヲ受取リタルトキハ撰択カ実行セラレタルモノト見做ス右何レノ場合ニ於テモ給付ノ一部分カ履行セラレ又ハ受取ラレタルトキ亦同シ 第二百〇九条 実行シタル撰択ハ之ヲ取消スコトヲ得ス撰択ノ実行後ハ債務関係カ初ヨリ撰ハレタル給付ニノミ存セシモノト見做ス 第二百十条 撰択権ヲ有スル債務者カ強制執行ノ著手前ニ撰択ヲ実行セサルトキハ債権者ハ自己ノ撰択ニ従ヒ数個ノ給付中ノ一ニ付テ強制執行ヲ為スコトヲ得但債権者カ其撰ヒタル給付ノ全部若クハ一部ヲ受取ラサル間ハ債務者ハ他ノ給付ノ一ヲ履行シテ其義務ヲ免ルコトヲ得 撰択権ヲ有スル債権者カ遅滞ニ在ルトキハ債務者ハ債権者ニ対シ自己ノ定メタル相当ノ期間内ニ撰択ヲ実行スヘキ請求ヲ為スコトヲ得撰択カ此期間内ニ実行セラレサルトキハ撰択権ハ債務者ニ移転ス 第二百十一条 数個ノ給付中ノ一カ履行不能ナルトキ又ハ後ニ至リテ債務者ノ責ニ帰セサル事情ニ因リテ履行不能トナリタルトキハ債務関係ハ其他ノ給付ニ限定セラル 給付ノ履行不能ヲ生シタル債権者又ハ債務者ノ過失ノ結果ハ過失ニ関スル通則ニ依リテ之ヲ定ム 第二百十二条 撰択ノ方法ヲ以テ債務ヲ負フタル数個ノ給付ニ付キ其撰択カ第三者ニ委子ラレタルトキハ疑ハシキ場合ニ於テ債務関係ハ第三者ノ撰択ニ依ル条件附帯ノモノト見做ス 前項ノ場合ニ於テ撰択カ債権者又ハ債務者ニ対シテ表示セラレタルトキハ其実行アリタルモノト見做ス 第二百十三条 給付ノ目的物カ種類ニ依リテ定メラレタルトキハ債務者ハ中等ノ種類及ヒ品質ノ物ヲ撰フコトヲ要ス 第二百十四条 目的物ノ撰択ハ撰ハレタル物ノ引渡ニ依リテ給付カ履行セラレタルトキ又ハ危険カ其以前ニ債権者ニ移転スヘキ場合ニ於テ此時期カ到来シタルトキニ実行セラレタリト見做ス 実行セラレタル撰択ハ之ヲ取消スコトヲ得ス 撰択ノ実行後ハ債務関係ハ撰ハレタル物ニ付テノミ存ス 第二百十五条 内国ニ於テ支払フヘキ金銭ノ債務カ外国ノ通貨ニ依リテ明示セラレタルトキト雖モ内国ノ通貨ニ依リテ之ヲ支払フコトヲ得 金銭ノ債務ヲ内国ノ通貨ニ換価スルコトヲ要スル場合ニ於テハ支払ノ時及ヒ場所ニ於ケル市場価格ニ従フ 内国ノ通貨ニ依リテ明示セラレタル金銭ノ債務カ外国ノ通貨ニ依リテ支払ハルヘキ場合ニ於テハ第二項ノ規定ヲ准用ス 第二百十六条 金銭ノ債務カ特種ノ貨幣ヲ以テ支払ハルヘキ場合ニ於テ支払ノ当時ニ此貨幣カ既ニ通用セサルトキハ別段ノ定ナキ如ク之ヲ支払フコトヲ要ス 第二百十七条 債務カ法律ノ規定又ハ法律行為ニ因リテ利息ヲ附セラルヘキ場合ニ於テ利率ノ定ナキトキハ年五分ノ割合ニ従フ 第二百十八条 賠償スヘキ損害ハ債権者ノ受ケタル財産ノ損害及ヒ其失ヒタル利得ヲ包含ス 事物ノ通常ノ成行ニ従ヒ又ハ特別ノ事情殊ニ既ニ為シタル設計及ヒ准備ニ依リテ予期スルコトヲ得ヘカリシ利得ハ之ヲ失ヒタル利得ト見做ス 第二百十九条 損害賠償ハ債務者カ賠償ノ義務ヲ負フヘキ事情カ生セサリシ場合ニ存在スヘキ状況ヲ回復セシムルコトニ依リ又ハ此回復カ不能ナルトキ若クハ賠償ニ不充分ナルトキハ金銭ヲ以テ賠償スルコトニ依リテ之ヲ行フコトヲ要ス 第二百二十条 損害賠償トシテ物ノ価格ヲ賠償スヘキ場合ニ於テハ普通ノ市場価格ノ外其物カ債権者ト特別ノ関係ニ於テ有スル価格(非常価格)ヲ以テ賠償ノ標準トス 第二百二十一条 財産ノ損害以外ノ損害ニ対スル賠償ハ法律カ指定スル場合ニ於テノミ之ヲ請求スルコトヲ得 第二百二十二条 他人カ責ニ任スヘキ損害ノ成立ニ付キ被害者ノ過失カ之ニ加ハリタル場合ニ於テハ裁判所ハ事情ヲ斟酌シテ他人カ損害賠償ノ義務ヲ負フヘキヤ否ヤ又ハ其義務ノ範囲ヲ定ム被害者カ損害ヲ避クルコトニ付キ過失アリタルトキ亦同シ裁判所ハ此決定ヲ為スニ当リ殊ニ他人ノ過失及ヒ被害者ノ過失ニ付キ其軽重ヲ適当ニ酌量スルコトヲ要ス 第二百二十三条 物又ハ権利カ奪取若クハ抑留セラレタル場合ニ於テ賠償者カ其物若クハ其権利ノ喪失ニ対スル損害ヲ賠償シタルトキハ所有権又ハ其他ノ権利ニ本ツキ被害者カ第三者ニ対シテ有スル請求権ハ賠償ト同時ニ賠償者ニ移転ス 第二節 債務関係ノ内容 第一款 給付ノ義務 第二百二十四条 債務者ハ債務関係ニ従ヒ負担シタル給付ヲ完全ニ履行スルコトヲ要ス債務者ハ義務ノ不履行カ故意ニ本ツクトキノミナラス過失ニ本ツクトキト雖モ其責ニ任ス第七百〇八条及ヒ第七百〇九条ノ規定ハ之ヲ准用ス 債務者ハ義務履行ニ関シ其法律上ノ代理人及ヒ履行ノ為メニ使用シタル者ノ過失ニ付キ其責ニ任ス 第二百二十五条 故意ニ本ツク義務不履行ノ責任ハ予メ債務者ニ之ヲ免レシムルコトヲ得ス 第二百二十六条 給付カ債務者其人ニ係ルトキニ限リ債務者ハ自ラ之ヲ履行スルコトヲ要ス 第二百二十七条 給付カ債務者自ラ之ヲ履行スルコトヲ要セサルトキハ債務者ノ許諾ナキモ第三者之ヲ履行スルコトヲ得 前項ノ場合ニ於テ債務者カ給付ヲ受取ルコトニ反対スルトキハ債権者ハ此給付ヲ拒絶スルコトヲ得債権者カ之ヲ受取リタルトキハ債務者カ之ニ反対セシニ拘ラス其義務ヲ免カル 第二百二十八条 債務者ハ一部履行ノ権ヲ有セス 第二百二十九条 給付ヲ履行スヘキ場所カ法律ノ規定又ハ法律行為若クハ給付ノ性質ニ因リテ定マラサルトキハ債務者ハ債務関係ノ性質及ヒ当事者ノ推測上ノ意思ニ適スル場所ニ於テ履行スルコトヲ要ス 第二百三十条 第二百二十九条ノ規定ニ依リテ履行スヘキ場所ヲ定ムルコトヲ得サルトキハ債務者ハ債務関係カ発生セシ時ノ居住地ニ於テ之ヲ履行スルコトヲ要ス 給付カ金銭ノ支払ニ存スルトキハ債務者ハ債務関係カ発生セシ時ノ債権者ノ居住地ニ於テ之ヲ支払コトヲ要ス債務者カ住所ヲ変更セシ場合ニ於テハ債務者ハ債権者ノ危険及ヒ費用ヲ以テ現住所ニ金銭ヲ送達スルコトヲ要ス 第二百三十一条 給付ノ履行ニ付キ時期ノ定ナキトキハ直ニ給付ヲ請求シ又ハ之ヲ履行スルコトヲ得 履行スヘキ時期ノ定アルトキハ疑ハシキ場合ニ於テハ債権者ハ其時期マテ給付ヲ請求スルコトヲ得サルニ反シ債務者ハ其時期以前ニ之ヲ履行スルコトヲ得ルモノト見做ス 第二百三十二条 無利息ノ債務カ満期前ニ支払ハルルトキハ債務者ハ中間利息ニ本ツク控除ノ権ヲ有セス 第二款 留置権 第二百三十三条 第三百六十四条ノ場合ノ外債務者カ其義務ノ原因タル同一ノ法律上ノ関係ニ本ツキ債権者ニ対シテ既ニ満期トナリタル請求権ヲ有スルカ又ハ其義務カ物ノ引渡ニ存スル場合ニ於テ此物ニ加ヘタル費用若クハ此物ニ因リテ加ヘラレタル損害ニ本ツキ債権者ニ対シテ請求権ヲ有スルトキハ債務者ハ其負担スル給付ヲ留置スル権ヲ有ス 第二百三十四条 第二百三十三条ノ規定ニ依リテ債務者ニ属スル留置権ニ関シテハ第三百六十四条及ヒ第三百六十五条ノ規定ヲ准用ス債権者ハ担保ヲ提供シテ留置権ヲ除斥スルコトヲ得但保証人ニ依ル担保ハ之ヲ許サス 第二百三十五条 物ヲ引渡スヘキ債務者カ故意ニ本ツク不法行為ニ因リテ其物ヲ得タルトキハ第二百三十三条ノ規定ニ依リテ留置権ヲ有セス 第二百三十六条 第二百三十四条及ヒ第二百三十五条ノ規定ハ法律カ債務者ニ留置権ヲ附与シタル総テノ場合ニ之ヲ適用ス 第三款 履行ノ不能及ヒ不履行ノ結果 第二百三十七条 債務者ハ債務関係ノ発生後ニ生シ且自己ノ責ニ帰セサル事情ニ因リテ給付ノ履行カ不能トナリタル間ハ之ヲ履行スル義務ヲ負ハス履行カ継続シテ不能トナリタルトキハ債務者ハ其義務ヲ免カル 定マリタル物ヲ給付スヘキ債務者カ其責ニ帰セサル事情ニ因リ之ヲ給付スルコトヲ得サルニ至リタルトキ亦同シ(第一項乃至第二百三十二条参照) 第二百三十八条 第二百三十七条ノ規定ニ依リテ債務者ニ給付ノ義務ヲ免レシムル事情ニ本ツキ債務者カ給付ノ目的物ニ対シ賠償又ハ賠償ノ請求権ヲ得タルトキハ債権者ノ請求ニ因リ賠償トシテ受取リタル物又ハ賠償ノ請求権ヲ譲渡スヘキ義務ヲ負フ 第一項ノ規定ハ債務関係カ停止条件又ハ債権ノ発生ヲ停止スル開始期限ニ係ル場合ニ於テ給付カ条件又ハ期限ノ到来前ニ不能トナリタルトキハ之ヲ適用ス 第二百三十九条 債務者カ履行不能ヲ主張スルニハ給付カ自己ノ責ニ帰セサル事情ニ因リテ不能トナリタルコトヲ証明スルコトヲ要ス 第二百四十条 債務者カ自己ノ責ニ帰スヘキ事情ニ因リテ其負担スル給付ノ全部又ハ一部ノ履行不能ヲ生セシメ其義務ヲ尽スコトヲ得サルトキハ債権者ニ対シ義務不履行ニ本ツク損害ヲ賠償スルコトヲ要ス 給付ノ一部又ハ全部カ不能トナリタル目的物ノ価格ヲ定ムルニハ履行地並ニ履行スヘカリシ時ヲ以テ其標準トス其後ノ価格ハ債権者ノ損害カ事情ニ依リテ右価格ヨリ一層高キ価格ヲ奪取シタルニ存スルコトヲ認ムヘキトキニ限リ債権者之ヲ主張スルコトヲ得 第二百四十一条 履行不能ハ債務者関係ニ付キ債務者ノ宥恕スヘキ錯誤ニ因リテ生シタルトキハ債務者ノ責ニ帰セサル事情ニ因リテ生シタルモノト見做ス 第二百四十二条 給付ノ一部カ債務者ノ責ニ帰スヘキ事情ニ因リテ履行不能トナリタル場合ニ於テ其可能ノ部分カ債権者ニ利益ナキトキハ債権者ハ此部分ヲ拒絶又ハ返還シテ義務全体ノ不履行ニ本ツク損害賠償ヲ請求スルコトヲ得 第四百二十七条第二項、第三項、第四百二十八条第四百三十一条及ヒ第四百三十三条ノ規定ハ之ヲ准用ス 第二百四十三条 第二百四十条乃至第二百四十二条ノ規定ハ債務者カ確定判決ヲ受ケタル後債権者ノ定ムル相当ノ期間内ニ給付ヲ履行セサルトキニ之ヲ准用ス此場合ニ於テ期間ノ指定ニ依リテ債権者カ此期間ノ経過後ハ給付ヲ欲セサル旨ヲ生セシムルコトヲ要ス 第二百四十四条 債務者カ債権者ニ定マリタル物ヲ引渡スヘキ場合ニ於テ権利拘束ノ発生後ハ利得ノ引渡又ハ其賠償、費用ノ賠償其他保存及ヒ保管ノ責任ニ付キ債務関係又ハ債務者ノ遅滞ニ本ツキテ債権者ノ為メニ別段ノ定ナキ限ハ所有権ニ本ツク請求権ノ権利拘束ノ発生後ニ於ケル所有者及ヒ占有者間ノ法律関係ニ関スル規定ヲ准用ス 第四款 債務者ノ遅滞 第二百四十五条 債務者カ満期日ノ到来後自己ニ対シテ債権者ノ為シタル給付履行ノ催告(督促)ニ拘ラス之ヲ履行セサルトキハ此督促ト同時ニ遅滞ニ在ルモノトス給付履行ノ判決ヲ求ムル訴ノ提起及ヒ督促手続ニ於ケル支払命令ノ送達ハ之ヲ督促ト見做ス 履行スヘキ時期カ旧ニ依リテ定メラレ又ハ此時期カ告知後旧ニ依リテ生スヘキ方法ヲ以テ定メラレタル場合ニ於テ債務者カ此定マリタル時期ニ履行セサルトキハ督促ヲ要セスシテ遅滞ニ在リトス 第二百四十六条 債務者カ其責ニ帰セサル事情ニ因リテ第二百三十七条及ヒ第二百四十一条ノ規定ニ従ヒ履行スヘキ義務ヲ負ハサル間ハ遅滞ニ附セラルルコトナシ 第二百四十七条 債務者ハ債権者ニ対シ遅滞ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スルコトヲ要ス 給付カ債務者ノ遅滞ニ因リテ債権者ニ対シ利益ナキトキハ債権者ハ給付ヲ拒絶シ又ハ既ニ受取リタル部分ヲ返還シテ義務全体ノ不履行ニ本ツク損害賠償ヲ請求スルコトヲ得此場合ニ於テ第四百二十七条第二項第三項第四百二十八条第四百三十一条及ヒ第四百三十三条ノ規定ハ之ヲ准用ス 第二百四十八条 金銭ノ債務ニ付テハ債務者ハ遅滞後ハ債権者ニ対シ年五分ノ利息ヲ支払フコトヲ要ス他ノ法律上ノ原因ニ本ツキテ支払フヘキ利息額カ之ヨリ少ナキトキト雖モ亦同シ又此利息額カ前ノ利息額ヲ超ユルトキハ債務者ハ引続キ此超過額ヲ支払フコトヲ要ス 債務者ノ遅滞ニ因リテ債権者ノ受ケタル損害カ遅滞利息ノ賠償額ヲ越ユルトキハ債務者ハ其超過セル損害ヲ賠償スルコトヲ要ス 第一項及ヒ第二項ノ規定ハ特種ノ金銭ヲ給付スヘキ場合ニ於テモ之ヲ適用ス 第二百四十九条 法定利息ニ付テハ遅滞利息ヲ支払フコトヲ要セス法律行為ニ本ツク利息ニ付テハ権利拘束ノ発生後ハ遅滞利息ヲ支払フコトヲ要ス此場合ニ於テ遅滞ニ因リテ明ニ債権者カ受ケタル損害ノ賠償ヲ請求スル権ハ影響ヲ受クルコトナシ 第二百五十条 債務者ハ遅滞後ハ総テノ過失ニ付キ其責ニ任ス遅滞前ニ於ケル責任ノ範囲カ限定セラレタルトキ亦同シ 第二百五十一条 債務者ハ遅滞ニ在ル間ハ事変ニ本ツク全部又ハ一部ノ履行不能ニ付キ其責ニ任ス但事変ニ本ツク損害カ正当ノ時期ニ給付ヲ履行シタル場合ニ於テモ発生セシコトカ明ナルトキハ此限ニ在ラス 第二百五十二条 債務者ノ遅滞ニ在ル間ニ滅失又ハ毀損シタル物ノ価格又ハ価格ノ差額ヲ賠償スヘキ義務ヲ負フ場合ニ於テハ其賠償額ニ対シ目的物ノ履行ニ付キ遅滞ニ附セラレタル時ヨリ利息ヲ支払フコトヲ要ス債権者カ此利息ヲ請求スルトキハ之ニ対スル期間内ニ於テ収取セラレタル利得ニ付キ賠償ヲ請求スルコトヲ得ス 第二百五十三条 債務者ノ遅滞ハ将来ニ対シ債務者カ其怠リタルモノヲ補完シタル時ニ消滅ス 第五款 債権者ノ遅滞 第二百五十四条 債権者ハ債務者カ提供シタル給付ヲ受取ラサルトキハ遅滞ニ在リトス 第二百五十五条 提供ノ有効ナルニハ債務者カ債権者ニ対シ其負担シタル給付ヲ債務関係ノ指定ニ従ヒ殊ニ相当ノ時及ヒ場所ニ於テ言辞上並ニ事実上給付ヲ提供スルコトヲ要ス 債務者カ履行ノ能力ヲ有スルトキハ左ノ場合ニ於テ言辞上ノ提供ノミニテ足ル 一、 債権者カ債務者ニ対シ給付ヲ受取ラサルコトヲ表示シタルトキ 二、 債務者カ給付ヲ履行スルニ先チ債権者カ或行為ヲ為スコトヲ要スルトキ 三、 給付ノ実行ニ付キ債権者ノ行為ヲ要スルトキ 第二号及ヒ第三号ノ場合ニ於テハ債権者ニ対シ其為スヘキ行為ヲ催告スルトキハ言辞上ノ提供ヲ為シタリト見倣ス此場合ニ於テ債権者ノ行為ニ付キ旧ニ依リテ其時期ヲ定メ又ハ此時期カ告知後旧ニ依リテ生スヘキ方法ヲ以テ定メラレタルトキハ債権者ハ此時期ニ行為ヲ為サヽルコトニ因リ債務者ノ言辞上ノ提供ヲ要セスシテ単ニ其履行ノ能力アルノミヲ以テ遅滞ニ在リトス 第二百五十六条 自己ニ属スル給付ニ対シ相対給付ヲ負担スル債権者ハ相対給付ノ請求ト共ニ提供セラレタル給付ヲ受取ルヘキ準備ヲ為スモ相対給付ヲ提供セサルトキハ受取ニ付キ遅滞ニ在ルモノトス 第二百五十七条 債務者ハ債権者ノ遅滞後ハ之ニ与フヘキ物ニ関シ故意又ハ重過失ニ付テノミ其責ニ任ス遅滞前ニ於ケル責任ノ範囲カ之ヨリ大ナルトキト雖モ亦同シ 給付ノ目的物カ種類ニ依リテ定メラレタル場合ニ於テハ危険ハ債権者カ撰択ノ上提供セラレタル物ヲ受取ラサルコトニ因リテ遅滞ニ附セラレタル時ヨリ此者ニ移転ス 第二百五十八条 物ノ利得ヲ引渡シ又ハ之ヲ賠償スルコトヲ要スル債務者ハ債権者ノ遅滞後ハ自己ノ収取セサル利得ヲ賠償スルコトヲ要セス 第二百五十九条 金銭ノ債務ニ付テハ債権者ノ遅滞後ハ債務者ハ利息支払ノ義務ヲ負ハス 第二百六十条 債権者カ遅滞ニ在ルトキハ債務者ニ対シ不履行ノ場合ニ於テ規定シタル法律上特別ノ不利益ヲ生セス 第二百六十一条 債務者ハ遅滞ニ附セラレタル債権者ニ対シ無効ニ帰シタル提供並ニ給付ノ目的物ノ保存及ヒ保管ニ因リテ生シタル費用ノ賠債ヲ請求スル権ヲ有ス 第二百六十二条 債務者ノ遅滞ハ将来ニ対シ債権者カ其怠リタルモノヲ補完シ且同時ニ第二百六十一条ニ掲クル費用ヲ賠償スヘキ旨ヲ表示シタル時ニ消滅ス 第三節 債務関係ノ消滅 第一款 弁済 第二百六十三条 債務関係ハ債務者カ負担スル給付ヲ履行スルトキハ消滅ス 第二百六十四条 債権者カ債務者ノ負担スル給付ニ代ヘテ他ノ給付ヲ弁済トシテ受取リタルトキハ債務関係ハ消滅ス債務者カ債権者トノ契約ニ因リテ此者ニ対シ弁済ニ代ヘテ新ニ義務ヲ負ヒタルトキ亦同シ但疑ハシキ場合ニ於テハ新義務ハ弁済ニ代ヘテ之ヲ負担シタルモノト見做サス 第二百六十五条 物又ハ第三者ニ対スル債権若クハ其他ノ権利カ弁済ニ代ヘテ受取ラレタル場合ニ於テハ譲渡サレタル権利ノ担保ニ関スル規定ヲ適用ス又債権ヲ受取リタル場合ニ於テハ譲渡サレタル債権ニ付テノ責任ニ関スル規定ヲ適用シ物ヲ受取リタル場合ニ於テハ譲渡サレタル物ノ瑕疵担保ニ関スル規定ヲ適用ス 第二百六十六条 弁済ノ目的ヲ以テ債務者以外ノ者ニ為シタル履行カ債権者ノ承諾ニ本ツクトキハ弁済ノ効力ヲ有ス債権者カ右ノ履行ヲ認諾シタルトキ亦同シ 第二百六十七条 債権者ニ対シ数箇ノ債務関係ニ本ツキ一様ノ性質ヲ有スル数個ノ給付ヲ為スヘキ債務者カ債務ヲ消滅セシムル目的ヲ以テ総債務ヲ消滅セシムルニ足ラサル給付ヲ為シタル場合ニ於テハ債務者カ弁済ノ時ニ消滅セシメント欲スル旨ヲ表示シタル債務ハ消滅スルモノトス 前項ノ指定ナキトキハ給付ハ先ツ満期ト為リタル債務ヲ弁済ス満期トナリタル数個ノ債務アルトキハ債務者ニ負担ノ重キモノヲ先ニシ負担ノ一様ナル数個ノ債務アルトキハ其旧キモノヲ先ニシ同一ノ日附ヲ有スル数個ノ債務アルトキハ各債務ニ対シ其額ニ応シテ之ヲ弁済ス 第二百六十八条 債務者カ元本ノ外費用及ヒ利息ヲ支払フヘキ場合ニ於テ全債務ヲ消滅セシムルニ足ラサル給付ヲ為シタルトキハ順次ニ費用利息及ヒ元本ニ充当ス但給付ヲ為シタル債務者カ履行ノ時ニ之ト異ナリタル充当ヲ定メタルトキハ之ヲ以テ弁済ノ標準トス 第二百六十九条 債権者カ給付ヲ受取ルニ当リ給付ヲ為シタル者ノ請求ニ因リテ受取証書ヲ交附スルコトヲ要ス 単一ナル書式ヨリ異ナル書式ノ受取証ヲ交附セシムルコトニ付キ債務者カ法律上ノ利益ヲ有スルトキハ債権者ハ債務者ノ利益ニ相当スル書式ノ証書ヲ交附スルコトヲ要ス 第二百七十条 受取証書ノ費用ハ債務者之ヲ負担ス但債権者ト債務者トノ法律関係ニ因リテ別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス 第二百七十一条 負債証書カ債権者ニ交附セラレタル場合ニ於テハ債務者ハ弁済ノ時ニ受取証書ト共ニ負債証書ノ返還ヲ請求スルコトヲ得債権者カ負債証書ヲ返還スルコト能ハサルトキハ債務カ消滅シタル旨ヲ表示スル公認証書ヲ請求スルコトヲ得此証書ノ費用ハ債権者之ヲ負担ス 第二款 供託 第二百七十二条 金銭又ハ有価証券ノ給付ヲ目的トスル債務関係ニ付テハ債務者ハ左ノ場合ニ於テ給付ノ目的物ヲ公ノ供託所ニ供託スルコトヲ得(公ノ供託) 一、 債権者カ受取ニ付キ遅滞ニ在ルトキ 二、 債務者カ債権者其人ニ存スル其他ノ原因ニ因リ又ハ宥恕スヘキ事情ニテ債権者ヲ確知セサルカ為ニ債務ヲ履行スルコトヲ得ス又ハ安全ニ履行スルコトヲ得サルトキ 供託ニ因リテ債務者ハ債権者ニ対シ給付ヲ履行シタルト同シク其義務ヲ免カル 第二百七十三条 債務者ハ履行地ノ供託所ニ供託スルコトヲ要ス之ニ違フトキハ債権者ニ対シ損害賠償ノ責ニ任ス又右ト同一ノ責任ヲ以テ債務者ハ其及フ限ハ遅滞ナク債権者ニ供託ノ通知ヲ為スコトヲ要ス 供託ヲ為スニハ之ニ付キ予メ裁判所ノ命令ヲ受クルコトヲ要セス 第二百七十四条 債務者ハ供託物ヲ取戻スヘキ権ヲ有ス但供託ノ時ニ供託所ニ対シ此権利ヲ放棄スル旨ヲ表示シタルトキニハ此限ニ在ラス 左ノ場合ニ於テ前項ノ取戻権ハ消滅ス 一、 債務者カ後ニ至リ供託所ニ対シ取戻権ヲ放棄スル旨ヲ示シタルトキ 二、 債権者カ供託所ニ対シ受取ノ意思ヲ表示シタルトキ 三、 供託所ニ対シ債権者ト債務者トノ間ニ生シタル訴訟ニ於テ供託ヲ以テ適法ト宣言セラレタルコトヲ明ナラシムル確定判決カ提示セラレタルトキ 第二百七十五条 供託物ヲ取戻シタルトキハ供託ニ因リテ消滅シタル債務ハ他ノ附従ノ債務殊ニ保証ノ義務ト共ニ再生シ且其効力ヲ既往ニ遡ラシム質権ニ付キ其有効ナルコトニ必要ナル条件ノ存続スル限ハ亦同シ 第二百七十六条 供託物ノ取戻権カ存立スル限ハ供託ニ因リテ債務ノ消滅セシニ拘ハラス債務ノ弁済ニ因リテ定マルヘキ権利ハ之ヲ対抗スルコトヲ得ス 第二百七十七条 債務者ノ財産ニ付キ破産カ開始セラレタル場合ニ於テ供託物ノ取戻権ハ開始ノ時ニ当リ尚ホ債務者ニ属スルモ供託物ハ之ヲ破産財団ニ加入スルコトヲ得ス又破産手続中ハ債務者及ヒ破産管財人ハ右ノ取戻権ヲ行使スルコトヲ得ス 第二百七十八条 供託ニ適セサル動産ヲ目的トスル債務関係ニ於テ債権者カ受取ニ付キ遅滞ニ在ルトキ又ハ第二百七十二条第二号ニ掲ケタル要件ヲ備ヘテ物カ腐敗スル虞アルトキ若クハ物ノ保存ニ付キ過分ノ費用ヲ要スルトキハ債務者ハ履行地執達吏又ハ競売ノ権限ヲ有スル其他ノ官吏若クハ公任競売者(営業条例第三十二条)ヲシテ物ヲ競売セシメ其代価ヲ供託スルコトヲ得此場合ニ於テ売却ノ予告ヲ為シ得ル限ハ之ヲ為スニアラサレハ売却スルコトヲ得ス但物カ腐敗又ハ危険ニ瀕スルトキハ此限ニ在ラス 債務者ハ其及フ限ハ遅滞ナク債権者ニ売却ノ実行ヲ通知スルコトヲ要ス之ヲ怠リタルトキハ損害賠償ノ責ニ任ス 第二百七十九条 供託ノ費用ハ債務者カ取戻権ヲ行使セサル限ハ債権者ノ負担ニ帰ス第二百七十八条ノ場合ニ於ケル売却ノ費用ニ付キ亦同シ 第二百八十条 (掲載なし) 第三款 相殺 第二百八十一条 二人互ニ同種類ノ目的ヲ有スル給付ヲ負担スル場合ニ於テハ各当事者ハ其受クヘキ給付ヲ請求スルコトヲ得又其負担スル給付ヲ履行スルコトヲ得ルトキハ自己ノ債権ト相手方ノ債権ヲ相殺スルコトヲ得 債権ニ対シテ抗弁カ存スルトキハ此債権ヲ以テ相殺ニ供スルコトヲ得ス 第二百八十二条 相殺ハ一方ノ債権者カ他ノ一方ノ債権者ニ対スル意思表示ニ依リテ之ヲ行フ 条件又ハ期限付ニテ為シタル相殺ノ意思表示ハ無効トス 第二百八十三条 相殺ニ因リテ双方ノ債権カ相殺ニ適シテ対立シタル時ニ相互均一ノ額ニ付テ消滅ス 第二百八十四条 債権者ノ一方カ相殺ニ適スル数個ノ債権ヲ有スルトキハ相殺ニ因リテ消滅スヘキ債権ノ撰択権ハ相殺ヲ為ス債権者ニ属ス此場合ニ於テ選択ヲ為サスシテ相殺ノ意思ヲ表示シタルトキハ第二百六十七条第二項ノ規定ヲ准用ス 第二百八十五条 双方ノ債権ニ付キ履行ノ場所カ相異ナルモ之ニ因リテ相殺ヲ除却セス然レトモ相殺ヲ為ス債権者ハ他ノ債権者カ相殺ノ為メニ定マリタル場所ニ於テ履行スルコトヲ得ス又ハ給付ヲ受取ルコトヲ得サルカ為メニ受ケタル損害ヲ賠償スルコトヲ要ス 第二百八十六条 債権カ差押ヘラレタルトキハ其債務者ハ差押後ニ取得シタル相対債権ヲ以テ相殺ヲ為シ差押ヲ為シタル者ニ損害ヲ加フルコトヲ得ス 第二百八十七条 故意ニ本ツク不法行為ニ因リテ生シタル債権ニ対シテ相殺ヲ為スコトヲ得ス 第二百八十八条 民事訴訟法第七百四十九条ニ掲クル債権カ質権ノ目的トナリ得サル限ハ之ニ対シテ相殺ヲ為スコトヲ得ス 第二百八十九条 相殺者カ其債権ヲ対抗スヘキ帝国、聯邦又ハ市町村ノ金庫ニ対シテ給付ヲ為スコトヲ要スル場合ニ於テノミ帝国、聯邦又ハ市町村ノ債権ト相殺ヲ為スコトヲ得 第四款 免除 第二百九十条 債権者カ債務者ト取結ヒタル契約ニ依リテ債務ノ全部又ハ一部ヲ免除シタル限度ニ於テ債務関係ハ消滅ス 契約ノ有効ナルニハ法律上ノ原因ヲ指定スルコトヲ要セス又当事者カ種々ノ法律上ノ原因ヲ要件トシ又ハ要件ト為シタル法律上ノ原因カ存在セス若クハ無効ナルコトニ因リテ契約ノ効力ヲ除却セス但不当ノ利得ニ本ツク給付ノ返還ニ関スル規定ハ之ニ因リテ影響ヲ受クルコトナシ 第一項及ヒ第二項ノ規定ハ契約ニ依リテ債務関係ノ全部又ハ一部カ存立セサルコトヲ認諾スル場合ニ之ヲ適用ス 免除又ハ債務関係カ存立セサルコトノ認諾ハ免除セラレタル債務又ハ存立セスト認諾セラレタル債務カ存立セサル旨ヲ明示又ハ黙示ニテ表示スル条件中ニ存スルトキハ第七百三十七条乃至第七百四十一条ノ規定ヲ准用ス 債務者カ受諾セサル債権者ノ権利放棄ハ無効トス 第五款 混同 第二百九十一条 債務関係ハ債権及ヒ債務カ同一人ニ混同スルトキハ消滅ス 第六款 債権者又ハ債務者ノ死亡 第二百九十二条 債務関係ハ債権者又ハ債務者ノ死亡ニ因リテ消滅セス但法律又ハ法律行為若クハ給付ノ性質ニ因リテ之ニ反対ヲ生スルトキハ此限ニ在ラス 第四節 債権及ヒ債務ノ特別承継 第一款 債権ノ転附 第二百九十三条 債務関係ニ本ツク債権ハ債務者ノ同意ヲ要セスシテ之ヲ新債権者ニ転附スルコトヲ得(転附)転附ト同時ニ旧債権者ハ債権者タルコトヲ止メ新債権者之ニ代ハルモノトス 第二百九十四条 転附ハ新旧債権者ノ契約(譲渡)又ハ裁判上ノ命令若クハ直接ニ法律ノ規定ニ本ツクコトヲ得 譲渡ハ債権カ新債権者ニ移転スヘキ旨ノ当事者ノ意思表示ヲ含ミタル契約ヲ取結フコトニ依リテ之ヲ為ス此契約ニ付テハ第二百九十条第二項ノ規定ヲ准用ス 強制執行ノ手続ニ於テ授附ニ因ル債権ノ転附ハ第三債務者ニ授附決定ヲ送達スルコトニ依リテ之ヲ為ス 第二百九十五条 債権ハ他ニ転附スヘカラサル債権者ノ性質ニ係ルトキ又ハ元債権者ノ以外ノ者ニ給付ヲ為スコト能ハサルトキ若クハ債権ノ内容ハ他ノ債権者ニ給付ヲ為スコトニ因リテ変更セラルヽトキハ此債権ハ転附スルコトヲ得ス 債権ノ転附シ得ヘキコトハ法律行為ニ因リ第三者ニ対シテ有効ニ之ヲ除却スルコトヲ得ス 第二百九十六条 債権ハ民事訴訟法第七百四十九条ノ規定ニ従ヒ質権ノ目的ト為シ得サル限ハ之ヲ転附スルコトヲ得ス 転附スルコトヲ得サル債権ハ法律ニ別段ノ定ナキ限ハ之ヲ質権ノ目的ト為スコトヲ得ス 第二百九十七条 債務者ノ財産ニ付キ破産カ開始セラレサルトキト雖モ債権ノ転附ニ因リテ転附ノ当時債権ニ附着セル優先権ハ新債権者ニ移転ス債権ニ附着シテ之ヲ担保スル従タル権利ニ付キ亦同シ 第二百九十八条 契約ニ因リテ債権ヲ譲渡スヘキ義務ヲ負担シタル者ハ新債権者ニ対シ債権ノ法律上ノ成立ニ付テノミ其責ニ任ス此責任ニ関シテハ第三百七十条、第三百七十一条、第第三百七十三条乃至第三百七十七条、第三百七十九条、第三百八十条ノ規定ヲ准用ス此場合ニ於テハ債務者ヲ以テ第三百七十四条乃至第三百七十七条ノ規定ニ於ケル第三節ト見做ス (93頁[45号]掲載)第二百九十八条 契約ニ因リテ債権ヲ譲渡ス義務ヲ負担スル者ハ新債権者ニ対シ債権ノ法律上ノ成立ニ付テノミ其責ニ任ス此責任ニ付テハ第三百七十条、第三百七十一条、第三百七十三条乃至第三百七十七条、第三百七十九条及ヒ第三百八十条ノ規定ヲ準用ス又此場合ニ於テハ債務者ヲ以テ第三百七十四条乃至第三百七十七条ニ於ケル第三者ト見做ス 第二百九十九条 旧債権者カ約束又ハ其他特別ノ法律上ノ原因ニ本ツキ債務者ノ支払能力ニ付キ其責ニ任スヘキトキハ此責任ハ疑ハシキ場合ニ於テハ転附ノ当時ニ於ケル支払能力ノミニ関スルモノトス (93頁[45号]掲載)第二百九十九条 旧債権者カ約束ニ因リ又ハ其他法律上ノ原因ニ本ツキ債務者ノ支払能力ニ付キ其責ニ任スヘキトキハ此責任ハ疑ハシキ場合ニ於テハ債権譲渡ノ当時ニ於ケル支払能力ノミニ関スルモノトス 第三百条 転附カ法定ノ義務若クハ直接ニ法律ノ規定ニ本ツクトキハ旧債権者ハ債権ノ法律上ノ成立又ハ償務者ノ支払能力ニ付キ其責ニ任セス但新旧債権者ノ間ニ存スル法律関係ニ因リ之ニ反対ヲ生スルトキハ此限ニ在ラス 第三百〇一条 転附ニ因リテ旧債権者ハ新債権者ニ対シ債権ノ訴追ニ付キ必要ナル説明ヲ与ヘ、債権ニ関スル証拠方法ヲ示シ、証明ノ用ニ供スヘキ証書殊ニ債務証書ニシテ自己ノ手ニ存スルモノヲ引渡スヘキ義務ヲ負担ス又譲渡ノ場合若クハ法律ノ規定ニ因ル直接ノ転附ノ場合ニ於テ新債権者カ譲渡ニ付キ又ハ法律ノ規定ニ因ル転附ノ認諾ニ付キ公認証書調製ノ費用ヲ先払シタルトキハ旧債権者ハ此証書ヲ交附スル義務ヲ負担ス 第三百〇二条 債務者ハ新債権者ニ対シ単ニ旧債権者ノ身上ニノミ関係ヲ有スル抗弁ヲ対抗スルコトヲ得ス 第三百〇三条 債務者ハ旧債権者ニ対シテ有スル相対債権ヲ以テ新債権者ニ対シ相殺ニ供スルコトヲ得但相対債権ハ債務者カ債権ノ転附ヲ知リタル時既ニ占者ニ属セシトキニ限ル 第三百〇四条 新債権者ハ転附後ニ債務者カ義務履行ノ為メ旧債権者ニ為シタル給付及ヒ転附後債権ニ関シ旧債権者ト債務者カ取結ヒタル法律行為又ハ其一方カ相手方ニ対シテ為シタル法律行為ヲ自己ニ対抗セシムルコトヲ要ス但債務者カ給付ヲ履行シ又ハ法律行為ヲ取結ヒ若クハ之ヲ為ス時債権ノ転附ヲ知リタルトキハ此限ニ在ラス 転附後債権ニ関シ旧債権者ト債務者ノ間ニ繋属シタル訴訟ニ於テ下サレタル確定判決ニ付キ亦同シ但債権ノ転附ヲ主張シ得ヘカリシ時ニ債務者カ此転附ヲ知リタルトキハ此限ニ在ラス 第三百〇五条 転附セラレタル債権カ旧債権者ニ依リテ第三者ニ譲渡サレタルトキハ前ノ転附ニ付キ通知セラレスシテ後ノ譲渡ニ付テノミ通知セラレタル債務者ノ為メ第三百〇四条ノ規定ヲ准用ス裁判上ノ命令ニシテ其効力カ之レヨリ先ニ生シタル転附ニ因リテ除却セラルヘキモノニ本ツク債権ノ転附ハ後ニ為シタル譲渡ニ同シ転附カ法律ノ規定ニ本ツクモ之レヨリ先ニ生シタル転附ニ因リテ其効力ヲ生スルコト能ハサル転附ヲ承認スル証書ノ交附モ亦同シ 第三百〇六条 債権者カ債務者ニ対シ債権ヲ転附シタル旨ヲ通知シタルトキハ転附カ行ハレス又ハ無効ナル場合ニ於テモ債権者ト債務者トノ関係ニ於テハ債権者カ債務者ニ対シ通知ノ取消ヲ表示スルマテハ転附カ行ハレ且有効ナリト見做ス 債権者カ交附シタル証書ニシテ債権ノ譲渡ヲ記入シ又ハ第三者ニ為シタル債権転附ノ承認ヲ記入シ又ハ第三者ニ為シタル債権転附ノ承認ヲ記入セル証書ノ提示ハ転附ノ通知ニ同シ然レトモ債務者カ第三百〇四条ノ規定ニ依リテ決スヘキ時ニ通知セラレタル転附ノ無効ヲ知リタルトキハ本項ノ規定ヲ適用セス 第三百〇七条 裁判上ノ命令ニ依リテ言渡サレタル転附ノ無効ハ其命令カ取消サレ且債務者カ第三百〇四条ノ規定ニ依リテ決スヘキ時ニ右ノ取消ヲ知リタルトキニノミ債務者ニ対シ之ヲ主張スルコトヲ得 第三百〇八条 債務者カ旧債権者ヨリ債権転附ノ通知ヲ受ケス又新債権者ヨリ債権ノ転附又ハ旧債権者ニ依ル其承認ヲ記入セル公認証書ヲ提示セラレサル場合ニ於テ新債権者カ為シタル告知又ハ催告ハ之ヲ為シタル時又ハ其後遅滞ナク右ノ通知ナキコト又ハ証書ノ提示ナキコトニ本ツキ債務者ニ依リテ退ケラルルトキハ無効トス新債権者カ右欠缺ヲ補足スル前ニ債務者ニ対シ起訴スルトキハ債務者ハ転附ニ関スル争ニ因リテ生スル費用ニ付其責ニ任セス且此場合ニ於テハ債務者ハ新債権者ニ対シ争訟ニ於テ旧債権者ニ争ヲ告知スルコトニ因リテ生シタル費用ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得 第三百〇九条 譲渡人ニ属セサル債権ノ譲渡ハ此債権ヲ有スル者ノ同意ヲ得テ為サレタルトキハ有効トス 第三百十条 譲渡人ニ属セサリシ債権ノ譲渡ハ此債権ヲ有スル者ニ依リテ認諾セラレ又ハ譲渡人カ債権ヲ取得シ若クハ債権ヲ有スル者ニ依リテ相続セラレ且限定受諾権カ消滅スルトキハ其効力ヲ生ス此終リノ両場合ニ於テ債権カ異ナリタル数人ニ譲渡サレタルトキハ最初ノ譲渡ノミ其効力ヲ生ス 第三百十一条 軍人、官吏、僧侶及ヒ公立学校ノ教師カ其俸給又ハ恩給ノ転附スルコトヲ得ヘキ一部ヲ譲渡シタルトキハ其支払ヲ為スヘキ金庫ハ旧債権者ヨリ自己ニ交附スヘキ公認証書ヲ以テ債権譲渡ノ通知ヲ受クルコトヲ要ス 第三百十二条 債権ノ転附及ヒ債権質入ノ認許ニ関スル規定ハ特別ノ規定ナキ場合ニ於テ他ノ権利ノ転附及ヒ質入ニ付キ之ヲ准用ス転附スルコトヲ得サル権利ハ其行使ヲ第三者ニ委付スルコトヲ得ル限度ニ於テ之ヲ質入スルコトヲ得但法律ニ別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス 第三百十三条 現在ノ総財産又ハ自己ニ帰属シタル遺産若クハ自己ニ転附セラレタル遺産ヲ他人ニ転附スヘキトキハ其財産又ハ遺産ニ属スル総テノ権利ニシテ之ヲ転附スルニ付キ譲渡契約ノミニテ足ルモノハ其存在ノ知レサルトキト雖モ合意ト同時ニ権利ノ譲渡又ハ財産若クハ遺産ノ転附ヲ生セシムヘキ当事者ノ意思ヲ有スル合意ニ因リテ他人ニ移転ス 第一項ノ規定ハ財産又ハ遺産ノ一部カ転附セラルル場合ニ之ヲ准用ス 第二款 債務ノ引受 第三百十四条 債務関係ニ本ツク義務ハ債権者ト第三者トノ契約ニ因リ旧債務者ハ債務者タルコトヲ止メ第三者之ニ代ハル方法ニ於テ此者カ之ヲ引受クルコトヲ得(債務ノ引受) 第三百十五条 債務ノ引受ハ旧債務者ト引受人トノ契約ニ因リテ之ヲ為スコトヲ得此契約ハ債権者ノ認諾ニ因リ此者ニ対シテ其効力ヲ生ス又債権者ノ認諾アルマテハ当事者ハ契約ヲ取消シ又ハ之ヲ変更スルコトヲ得引受人ハ旧債務者ニ対シ債権者ノ認諾ヲ求ムヘキ義務ヲ負担ス 債権者カ認諾ヲ与フル権利ハ此者ニ対シ前項ノ契約ニ付キ当事者ノ一方カ通知ヲ為シタルコトニ係ルモノトス認諾ヲ拒絶シタル債権者ハ後ニ至リテ之ヲ求メラレタルトキニノミ認諾ヲ与フル権利ヲ有ス認諾ノ通知ヲ受クヘキ者カ指定シタル期間内ニ確定セル明示ノ意思表示カ此者ニ到達セサルトキハ之ヲ以テ認諾ノ拒絶ト見做ス又認諾及ヒ其拒絶ハ右期間ノ開始後ハ認諾ノ通知ヲ受クヘキ者ニ対シテノミ之ヲ表示スルコトヲ得 第三百十六条 引受人ハ債権者ニ対シ旧債務者ノ身上ニノミ関係ヲ有スル抗弁ヲ対抗スルコトヲ得ス又旧債務者ニ属スル債権ヲ以テ相殺ニ供スルコトヲ得ス其他自己カ旧債務者ト約束シタル債務引受ノ法律上ノ原因ヨリ抗弁ヲ援引スルコトヲ得ス 第三百十七条 債務引受ノ時ニ債権ニ附着シテ其担保ニ供セラレタル従タル権利ハ存続スルモノトス然レトモ債権ノ為メニ第三者カ為シタル保証又ハ質入ニ本ツク権利ハ存続セス但旧債務者ノ身上ニ関セスシテ保証ヲ為シ又ハ質権ヲ設定シ若クハ質権ノ目的物カ債務引受ノ時法律上債務者ニ属スルトキハ此限ニ在ラス 債務引受ノ時ニ債権ニ附着シタル優先権ハ消滅ス 第三百十八条 第三者カ債務者ニ対シ其債権者ニ給付ヲ為スヘキ義務ヲ負担シタルトキハ(弁済引受)債権者ヲシテ弁済ノ請求ヲ為サシメサルコトニ付テノミ其責ニ任シ即時債務ヲ免除セシムヘキ義務ヲ負ハス疑ハシキ場合ニ於テハ債務引受ヲ目的トセスシテ弁済引受ヲ目的トシタルモノト見做ス 売買契約ニ於テ買主カ代価ノ計算上売主ノ負担スル対人ノ義務ヲ引受クベキコトヲ合意シタル場合ニ於テ当事者ノ反対ノ意思カ明ナラサル限ハ第三百十五条ノ規定ニ従フヘキ債務引受ヲ合意シタルモノト見做ス此場合ニ於テ買主ニ債権者ノ認諾ヲ求ムルコトヲ要セズ又売主ニ対シ債権者ヲシテ此者ニ請求ヲ為サシメサルコトニ付テノミ其責ニ任ス (78頁[42号]掲載)第三百十八条第二項 売買契約ニ付キ買主ハ売主カ其身上ノ責任トシテ負担スル義務ヲ代価中ニ算入シテ之ヲ引受クヘキコトヲ約束シタル場合ニ於テ之ニ異ナル当事者ノ意思カ明ナラサル限ハ第三百十五条ノ規定ニ従フヘキ債務ノ引受ヲ約束シタルモノト見做ス然レトモ買主ハ債権者ノ認諾ヲ求ムヘキ義務ヲ負担セス単ニ売主ニ対シ此者ヲシテ債権者ヨリ請求ヲ受ケサラシムル責ニ任ス 第三百十九条 契約ニ因リ他人ノ現在ノ総財産ヲ引受ケタル者ハ此他人ノ債権者ニ対シ契約取結ノ時ヨリ当時既ニ存立セル債務ニ付キ其責ニ任ス然レトモ働方財産ノ価格ヲ越ヘテ其責ニ任セス且旧債務者ノ責任ノ継続期間ニ影響ヲ及ホスコトナシ又働方財産カ引受人ニ引取ラルル前ニ此者ノ過失ニ因ラスシテ減少シタルトキハ引受人ハ残存セル財産ノ価格ヲ越ヘテ其責ニ任セス 第一項ニ掲ケタル責任ヲ除却シ又ハ之ヲ制限スル合意ハ無効トス 財産ノ一部引受ノ場合ニ於テハ第一項及ヒ第二項ノ規定ヲ准用ス 第五節 多数債権者又ハ多数債務者トノ債務関係 第三百二十条 債務関係ニ於テ多数債権者カ一人ノ債務者ニ対シ又ハ一人ノ債権者カ多数債務者ニ対シ若クハ多数債権者カ多数債務者ニ対シ且給付カ分割シ得ヘキモノナルトキハ各債権者ハ給付ノ平等部分ノミヲ請求スル権利ヲ有シ各債務者ハ給付ノ平等部分ノミヲ履行スル義務ヲ負担ス但法律又ハ法律行為ニ別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス 第三百二十一条 給付カ一度ニ之ヲ為サヽルヘカラサル場合ニ於テ多数債権者ノ各債権者カ其全部ヲ請求スル権利ヲ有シ又ハ多数債務者ノ各債務者カ其全部ヲ履行スル義務ヲ負担スルトキハ(共同債務関係)此債務関係ニ付キ第三百二十条乃至第三百三十八条ノ規定ヲ適用ス 法律行為ニ於テ「総員カ一人ノ為メ又一人カ総員ノ為メ」又ハ「不分ノ一手ニテ」又ハ「共同且各別ニ」又ハ「連帯ニテ」若クハ「合同ニテ」ノ語ヲ用井タルトキハ此法律行為ニ因リテ特ニ共同債務関係ヲ生セシメタルモノト見做ス 第三百二十二条 共同債権者ノ一人又ハ共同債務者ノ一人カ単純ニ権利ヲ有シ又ハ義務ヲ負担シ其他ノ債権者又ハ債務者ハ条件若クハ期限附ニテ権利ヲ有シ又ハ義務ヲ負担シ或ハ各債権者又ハ各債務者カ各別ノ条件又ハ期限附ニテ権利ヲ有シ又ハ義務ヲ負担スルコトヲ得 共同債権者ノ一人ノ権利又ハ共同債務者ノ一人ノ義務ハ他ノ債権者ノ権利又ハ他ノ債務者ノ義務カ成立セサルカ為メ除却セラルルコトナシ 第三百二十三条 数人ノ共同債権者アル場合ニ従テ其一人カ給付ヲ請求シタルトキト雖モ債務者ハ他ノ債権者ニ給付ヲ為スコトヲ得債権カ既ニ債権者ノ一人ニ依リテ裁判上訴追セラレタルトキト雖モ亦同シ其他債務者カ債権者ノ一人ニ対シテ為シタル履行ノ約束ハ其他ノ債権者ヲ除却セス 第三百二十四条 共同債務者数人アルトキハ債権者ハ自己ノ撰択ニ従ヒ総債務者又ハ其二三人若クハ一人ヨリ給付ノ全部又ハ其一部ヲ請求スルコトヲ得又弁済アルマテハ右ノ撰択ヲ変更スルコトヲ得 第三百二十五条 過失ノ責任カ共同債権者ノ一人又ハ数人若クハ共同債務者ノ一人若クハ数人ニ帰スルトキハ其他ノ債権者又ハ債務者ハ右ノ過失ニ付キ其責ニ任セス 第三百二十六条 共同債権者ノ一人カ為シタル告知又ハ催告ハ其他ノ共同債権者ノ為メニ効力ヲ有セス又債務者カ共同債権者ノ一人ニ対シテ為シタル給付ノ提供並ニ共同債権者ノ一人ノ遅滞ハ其他ノ共同債権者ニ対シテ効力ヲ有セス 債権者カ共同債務者ノ一人ニ対シテ為シタル告知又ハ催告並ニ共同債務者ノ一人ノ遅滞ハ其他ノ共同債務者ニ対シテ効力ヲ有セス又共同債務者ノ一人カ為シタル給付ノ提供ハ其他ノ共同債務者ノ為メニ効力ヲ有セス 第三百二十七条 共同債権者ノ一人ト債務者トノ間ニ又ハ債権者ト共同債務者ノ一人トノ間ニ下サレタル確定判決ハ其他ノ共同債権者又ハ共同債務者ノ為メニ又之ニ対シテ効力ヲ有セス 第三百二十八条 共同債権者ノ一人カ其権利ヲ他ニ転附スルコトニ因リテ其他ノ共同債権者ノ権利ハ影響ヲ受クルコトナシ 第三百二十九条 共同債権者ノ一人ニ為シタル弁済ハ其他ノ債権者ニ対シテモ有効トス又共同債務者ノ一人カ為シタル弁済ハ其他ノ債務者ノ為メニモ有効トス 公ノ供託ニ係ル弁済及ヒ代物弁済ニ付キ亦同シ 第三百三十条 共同債権者ノ一人ニ対シテ有スル債務者ノ相対債権ハ其他ノ債権者ニ対シテ相殺ニ供スルコトヲ得ス又共同債務者ノ一人カ債権者ニ対シテ有スル相対債権ハ其他ノ債務者ヨリ相殺ニ供スルコトヲ得ス 第三百三十一条 債務者ト共同債権者ノ一人トノ間ニ行ハレタル相殺ハ其他ノ債権者ニ対シテモ有効トス又共同債務者ノ一人ト債権者トノ間ニ行ハレタル相殺ハ其他ノ債務者ノ為メニモ有効トス 第三百三十二条 共同債権者ノ一人カ債務者ニ為シタル免除又ハ債権者カ共同債務者ノ一人ニ為シタル免除ハ債権関係ノ全部ノ消滅ヲ欲シタルトキハ其他ノ共同債権者ニ対シ又ハ其他ノ共同債務者ノ為メニモ有効トス 第三百三十三条 共同債権者ノ一人又ハ共同債務者ノ一人ニ生シタル債権及ヒ債務ノ混同ハ其他ノ共同債権者ニ対シ又ハ其他ノ共同債務者ノ為メニ効力ヲ有セス 第三百三十四条 共同債権者ノ一人又ハ共同債務者ノ一人ニノミ生シタル履行不能ハ其他ノ共同債権者ニ対シ又ハ其他ノ共同債務者ノ為メニ効力ヲ有セス 共同債務者ノ一人ノ過失ニ本ツク全部又ハ一部ノ履行不能ハ其他ノ共同債務者ノ為メニ偶然ノ履行不能トシテ有効トス 第三百三十五条 共同債権者ノ一人ニ依リテ行ハレ又ハ共同債務者ノ一人ニ対シテ生シタル時効ノ中断並ニ共同債権者ノ一人又ハ共同債務者ノ一人ニ関シテ生シタル時効ノ停止ハ其他ノ共同債権者ノ為メニ又ハ其他ノ共同債務者ニ対シテ効力ヲ有セス 第三百三十六条 当事者ノ一人カ弁済トシテ自己ニ提供セラレタル給付ヲ弁済トシテ受取リタルトキハ給付ノ瑕疵ニ本ツキ契約ノ不履行ヲ名トシテ相対給付ヲ拒絶スルコトヲ得ス但自己ニ属スル其他ノ請求権ハ之ヲ対抗スルコトヲ得然レトモ瑕疵証明ノ責ニ任スルコトヲ要ス 第三百三十六条 共同債権者ノ一人ニ対シ又ハ共同債務者ノ一人ノ為メニ生シタル時効ハ其他ノ共同債権者ニ対シ又ハ其他ノ共同債務者ノ為メニ効力ヲ有セス 第三百三十七条 法律ノ規定又ハ法律行為ニ因リテ反対ヲ生セサル限ハ共同債権者ハ其相互ノ関係ニ於テ平等ノ割合ヲ以テ権利ヲ有シ共同債務者ハ其相互ノ関係ニ於テ平等ノ割合ヲ以テ義務ヲ負担ス 自己ノ割合ヲ越ヘテ給付ヲ為シタル共同債務者ノ一人カ其他ノ共同債務者ヨリ賠償ヲ請求スル権利ヲ有スル限ハ債権者ノ権利ヲ主張スルコトヲ得然レトモ債権者ニ損害ヲ加ヘテ権利ノ転附ヲ主張スルコトヲ得ス 共同債務者ノ一人ヨリ此者カ負担スヘキ部分ヲ取立ツルコト能ハサルトキハ其不足額ハ補償義務ヲ負担スル其他ノ共同債務者ニ於テ其義務ノ割合ニ従ヒ之ヲ分担スルコトヲ要ス 第三百三十八条 数人カ共同債務者トシテ不法行為ニ本ツク損害賠償ノ責ニ任スルトキハ故意ニ右ノ行為ヲ為シタル者ハ其他ノ共同債務者ニ対シテ賠償請求権ヲ有セス 第三百三十九条 債務関係ニ於テ数人ノ債権者カ分割スルコトヲ得サル給付ヲ請求スルトキハ債務者ハ単ニ総債権者ニ対シ共同ニテ給付ヲ履行スルコトヲ得又各債権者ハ総債権者ニ対スル給付ヲ請求スル権利ヲ有ス其他債務関係ハ一人ノ債権者ニ給付ヲ履行スルコトニ因リテ其他ノ債権者ニモ弁済ヲ為シ得ルモノナルトキハ各債権者ハ給付ノ全部ヲ請求スル権利ヲ有ス 債権者ノ一人ニ付テノミ生シタル事実殊ニ其作為又ハ不作為ハ其他ノ債権者ノ為メ又ハ之ニ対シテ効力ヲ有セス 第三百四十条 債務関係ニ於テ数人ノ債務者カ分割スルコトヲ得サル給付ノ義務ヲ負担スルトキハ各債務者ハ給付ノ全部ヲ履行スルコトヲ要ス右ノ債務関係ニ付テハ共同債務関係ニ関スル規定ヲ適用ス 第三百四十一条 分割スルコトヲ得ヘキ給付殊ニ価格賠償又ハ損害賠償カ分割スルコトヲ得サル給付ニ代ハルトキハ各債権者ハ自己ノ部分ノミヲ請求スル権利ヲ有シ各債務者ハ自己ノ部分ノミヲ履行スル義務ヲ負担ス 第二章 生存者間ノ法律行為ニ本ツク債務関係 第一節 総則 第一款 片務約束 第三百四十二条 受諾セラレサル片務約束ハ法律ニ別段ノ定ナキトキハ拘束力ヲ有セス 第三百四十三条 片務約束カ法律ノ規定ニ依リテ拘束力ヲ有スト認メラルルトキハ之ニ因リテ生シタル債務関係ニ付テハ契約ニ本ツク債務関係ニ関スル原則ヲ準用ス但法律ニ別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス 第二款 契約ノ目的 第三百四十四条 不能ノ給付又ハ法律ノ規定ニ依リテ禁セラレ若クハ善良ナル風俗ニ反スル給付ヲ目的トスル契約ハ無効トス 第三百四十五条 不能ノ給付ヲ目的トスル契約ヲ取結フニ当リ当事者ノ一方カ其不能ヲ知リタルトキ又ハ其不知カ過失ニ本ツクトキハ相手方ニ対シ損害賠償ノ責ニ任ス但賠償額ハ孰レノ場合ニ於テモ契約カ有効ナルトキニ其不履行ニ因リテ賠償スヘキ金額ヲ越ユルコトヲ得ス又相手方カ給付ノ不能ヲ知リ又ハ知ラサルヘカラサリシ場合ニ於テハ賠償ノ責任ヲ生セス 給付ノ一部又ハ撰択ニ依リテ定マルヘキ数個ノ給付ノ一カ不能ナルニ拘ハラス契約ハ其他ノ部分ニ付キ第百十四条又ハ第二百十一条第一項ノ規定ニ従ヒ有効ナル場合ニ於テハ第一項ノ規定ヲ准用ス 第三百四十六条 給付ノ不能カ除去スルコトヲ得ヘキモノナルトキハ後ニ至リテ其可能トナリタル場合ニ対シ此給付ニ付キ有効ニ契約ヲ取結フコトヲ得 前項ノ給付ニ付キ停止条件付ニテ取結ハレタル契約ハ有効トス然レトモ其効力ノ発生ニ付テハ条件成就ノ時マテニ給付ノ不能カ除去セラレタルコトヲ要ス 第三百四十七条 法律ノ規定ニ依リテ取結フコトヲ禁セラレタル契約ニ付キ又ハ法律ノ規定ニ依リテ禁セラレタル給付ヲ目的トスル契約ニ付テハ第三百四十五条及ヒ第三百四十六条ノ規定ヲ准用ス 第三百四十八条 契約ハ第三者ノ物又ハ権利ノ給付ニ関スルトキト雖モ無効ナラス 第三者ノ行為ニ関スル契約ハ疑ハシキ場合ニ於テハ約束ノ結果ニ付キ諾約者ニ其責ニ任セシム 第三百四十九条 第三者ノ遺産又ハ其一部ニ付キ遺産者ノ死亡前ニ取結ヒタル契約ハ無効トス不定ノ第三者ノ遺産ニ付キ亦同シ 第一項ノ規定ハ遺産ノ義務部分ノ請求権又ハ遺贈ニ関スル契約ニ付キ之ヲ准用ス 第三百五十条 将来ノ全財産若クハ其一部ヲ他人ニ譲渡シ又ハ之ニ付テ用益権ヲ設定スヘキ契約ハ無効トス 現在ノ全財産若クハ其一部ヲ他人ニ譲渡シ又ハ之ニ付テ用益権ヲ設定スヘキ契約ハ裁判上若クハ公証上ノ方式ヲ要ス 第三百五十一条 土地ノ所有権ヲ譲渡スヘキ契約ハ裁判上若クハ公証上ノ方式ヲ要ス 裁判上若クハ公証上ノ方式ヲ履マサル契約ハ土地ノ明渡及ヒ土地台帳ニ取得者ノ登記ニ因リテ其全部ニ付キ効力ヲ生ス 第三百五十二条 契約ノ目的タル給付ノ定ナク又ハ契約ニ含マレタル条項ニ依リテ之ヲ定ムルコト能ハサルトキハ其契約ヲ無効トス 第三百五十三条 給付カ当事者ノ一人ニ依リテ定メラルヘキトキハ疑ハシキ場合ニ於テハ此者カ公平ノ見込ニ従フテ之ヲ定ムヘキモノト見做ス 前項ノ指定ハ相手方ニ対シ其意思ヲ表示スルコトニ依リテ之ヲ行フ又此指定ハ取消スコトヲ得ス 指定カ遅延セラルルトキハ判決ニ依リテ之ヲ行フ 当事者ノ一方カ為シタル指定カ相手方ニ依リテ公平ト認メラレサル場合ニ於テ其決定ハ亦判決ニ依ル 第三百五十四条 給付ニ対スル相対給付カ其大サヲ定メスシテ明示又ハ黙示ニテ諾約セラレタルトキハ疑ハシキ場合ニ於テハ相対給付ノ大サノ指定ハ之ヲ受クヘキ者ノ公平ノ見込ニ委子タルモノト見做ス 第三百五十五条 給付ノ指定ヲ第三者ニ委子タル場合ニ於テ第三者カ指定スルコト能ハス又ハ之ヲ欲セサルカ若クハ遅延スルトキハ契約ハ其効力ヲ生セス数人ノ第三者カ指定スヘキ場合ニ於テ相互一致セサルトキ亦同シ然レトモ数人ノ第三者カ数額ヲ指定スヘキ場合ニ於テハ種々ノ指定ニ付キ其平均ノ数額ニ依ル 第三百五十六条 給付ノ指定ヲ委子ラレタル第三者カ当事者ノ一方ニ対シ其意思ヲ表示シタルトキハ指定ヲ為シタルモノトス此指定ハ取消スコトヲ得ス 第三百五十七条 給付ノ指定ヲ第三者ニ委子タルトキハ疑ハシキ場合ニ於テ第三者ハ公平ノ見込ニ従フテ指定スヘキモノト見做ス当事者ノ一方カ第三者ノ指定ヲ公平ト認メサルトキハ判決ニ依リテ之ヲ決定ス此場合ニ於テ指定ヲ承認セサル当事者ハ其不公平ヲ証明スルコトヲ要ス 第三百五十八条 利率ハ高利貸ニ関スル帝国法律ノ規定ニ反セサル限ハ契約ニ依リ随意ニ之ヲ定ムルコトヲ得淹滞セル利息ノ利息ニ関スル合意ニ付キ亦同シ 満期トナリタル利息ヲ支払ハサル場合ニ於テ之ニ重利ヲ附スヘキ予約ハ無効トス 第三款 契約ニ本ツク債務関係ノ内容 第三百五十九条 契約ニ因リテ当事者ハ法律ノ規定及ヒ取引上ノ慣習ニ従ヒ且誠実ニ契約ノ取極メ又ハ其性質ヨリ義務ノ内容トシテ生スル事項ニ付キ義務ヲ負フ 第三百六十条 当事者ノ一方カ其債務ヲ履行セサルコトニ因リテ相手方カ自ラ契約ヨリ脱退スルコトヲ得ス但法律ノ規定又ハ合意ニ依リテ別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス 第三百六十一条 当事者ノ一方ニ依リテ確定セラレタル時期又ハ期間内ニ給付ヲ履行スヘキコトカ契約ニ本ツキテ生スル場合ニ於テ此時期又ハ期間内ニ其履行ナキトキハ相手方ハ契約ヨリ脱退シ又ハ契約ニ本ツク権利ヲ主張スルコトヲ得 脱退権ニ関シテハ第四百二十六条乃至第四百三十一条及ヒ第四百三十三条ノ規定ヲ適用ス 第三百六十二条 双務契約ハ当事者カ交互同時ニ(引換ニテ)之ヲ履行スルコトヲ要ス但法律ノ規定又ハ契約ニ依リテ別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス 第三百六十三条 双務契約ニ於テ当事者ノ一方カ数人ナルトキ又ハ数人ニ依リテ相続セラレタルトキハ其一人ハ相手方カ先以テ履行スヘキ義務ナキ限ハ契約ニ本ツキ相手方ノ受クヘキ給付ヲ完全ニ履行スルコトニ依リテノミ相手方ノ負担スル給付ニ付キ自己ノ受クヘキ部分ヲ請求スルコトヲ得 第三百六十四条 双務契約ニ本ツキ相対給付ヲ受取ル前ニ自己ノ負担スル給付ヲ請求セラレタル者ハ相手方ニ先チテ履行スヘキ義務ナキ限ハ自己ノ受クヘキ給付ノ履行アルマテ請求セラレタル給付ヲ拒絶スルコトヲ得 第三百六十五条 交互引換ニテ履行スヘキ双務契約ノ各当事者ハ相手方カ引換ニテ履行スヘキ旨ノ判決ヲ求ムル訴ヲ提起スルコトヲ得相手方ニ先チテ履行スヘキ者ハ相手方カ給付ノ張受取ニ付キ遅滞ニ在ルトキハ之ヲ受取リタル後其負担スル給付ヲ履行スヘキ旨ノ判決ヲ求ムル訴ヲ提起スルコトヲ得 前項ノ判決アリタルトキハ被告カ給付ノ受取ニ付キ遅滞ニ在ル限ハ原告ハ其負担スル給付ヲ同時又ハ其以前ニ履行スルコトナクシテ自己ノ受クヘキ給付ヲ強制執行ノ方法ニ依リテ請求スルコトヲ得 第三百六十六条 双務契約ニ本ツキ自己ノ受クヘキ給付ヲ請求スル者ハ被告カ原告ハ其負担スル給付ヲ未タ履行セサル旨ヲ抗弁スルニ及ヒテ自己ノ負担スル給付ヲ履行シタルコトヲ主張シ又之ニ対シテ争アルトキハ其証明ヲ為スコトヲ要ス 第三百六十七条 (掲載なし) 第三百六十八条 双務契約ニ於テ給付ノ履行カ不能トナリタルカ為メニ其義務ヲ免シタル債務者ハ全部ノ履行不能ノ場合ニ於テハ相対給付ニ付テノ権利ヲ有セス又一部ノ履行不能ノ場合ニ於テハ債権者ハ第三百九十二条ノ規定ニ従ヒ割合ヲ以テ相対給付ヲ減少スル権ヲ有ス此場合ニ於テ債務者カ其受クヘカラサル相対給付ヲ既ニ受取リタルトキハ債権者ハ不当利得ノ賠償ニ関スル規定ニ従ヒ其給付シタルモノヲ取戻スコトヲ得 給付カ債権者ノ責ニ帰スヘキ事情ニ因リ又ハ債権者カ遅滞ニ付セラレタル後ニ履行不能トナリタルトキハ債務者ハ相対給付ノ請求権ヲ有ス然レトモ債務者カ給付ヲ履行セサルニ因リテ費スコトヲ要セサリシ費用額及ヒ此者カ自己ノ労力ヲ他ニ使用シタル場合ニ於テ其報酬トシテ得タル取得又ハ故意ニ之ヲ得ルコトヲ怠リタル取得ノ金額ハ債権者之ヲ控除スルコトヲ得 債権者カ第二百三十八条ノ規定ニ従ヒ債務者ニ対シ給付ノ目的物ノ代ハリニ賠償又ハ賠償請求権ノ引渡又ハ譲渡ヲ請求スルトキハ債務者ハ相対給付ニ付テノ権ヲ有ス然レトモ債権者ハ其受クヘキ給付ノ価格ヨリ少キ給付ヲ得タルトキハ第三百九十二条ノ規定ニ従ヒ割合ヲ以テ相対給付ヲ減少スルコトヲ得 第三百六十九条 双務契約ニ本ツク給付カ債務者ノ責ニ帰スヘキ事情ニ因リテ履行不能トナリタルトキハ債権者ハ其選択ニ従ヒ不履行ニ本ツク損害賠償ヲ請求シ又ハ契約ヨリ脱退スルコトヲ得給付ノ一部カ履行不能トナリタル場合ニ於テハ債権者ハ其残存部分カ自己ニ利益ヲ有セサルトキニ限リ脱退権ヲ有ス 第二百四十三条ノ場合ニ於テ並ニ債務者ノ遅滞ニ因リテ給付カ債権者ニ利益ヲ有セサル場合ニ於テモ亦同シ 脱退権ニ関シテハ第四百二十六条乃至第四百三十一条及ヒ第四百三十三条ヲ准用ス 第四款 <note>(掲載なし)</note> 第三百七十条 契約ニ因リテ物ヲ譲渡ス義務ヲ負担スル者ハ(譲渡人)他ノ結約者(取得者)ニ対シ物ノ所有権ヲ供与スルコトヲ要ス 契約カ権利ノ譲渡ニ関スルトキハ譲渡人ハ此権利ヲ供与スルコトヲ要ス 第三百七十一条 物ノ譲渡人ハ其物ニ付キ第三者カ取得者ニ対シテ主張スルコトヲ得ル権利及ヒ其他物ニ関スル権利ノ存セサルコトニ付キ其責ニ任ス 契約カ権利ノ譲渡ニ関スルトキハ第一項ノ規定ヲ准用ス 第三百七十二条 土地ノ譲渡人ハ土地ヲシテ公ノ諸税及ヒ其他土地台帳ノ登記ニ適セサル公ノ負担ヲ免カレシムル責ニ任セス 第三百七十三条 第三百七十条及ヒ第三百七十一条ニ定メタル売主ノ責任ハ取得者カ契約取結ノ当時ニ譲渡人ノ権利ニ瑕疵アルコトヲ知リタルトキハ発生セス 第一項ノ規定ハ質権又ハ土地債務ノ存スルコトヲ知リタル場合ニ之ヲ適用セス 第三百七十四条 譲渡人ハ自己ノ権利ノ瑕疵ニ本ツキ第三百七十条及ヒ第三百七十一条ノ規定ニ依リテ負担スル義務ヲ履行セサル間ハ取得者ハ其負担スル相対給付ヲ拒絶スル権利ヲ有ス此場合ニ於テハ取得者ニ供与スヘキ権利ノ取得ニ関スル其他ノ要件カ具備シタルト否トヲ問ハス然レトモ右ノ要件カ具備セルトキハ取得者ハ第三者ノ権利カ有効ニ主張セラレタルトキニ至リ譲渡人ニ対シ此者カ第三百七十条及ヒ第三百七十一条ノ規定ニ依リ負担スル義務ノ不履行ニ本ツク請求権ヲ提起スルコトヲ得 第三百七十五条 左ノ場合ニ於テハ第三者ノ権利ハ有効ニ主張セラレタルモノト見做ス 一、 第三者カ取得者ニ対シ訴訟手続ニ依リテ権利ヲ追求シ且確定判決カ第三者ノ利益ニ於テ申渡サレタルトキ 二、 取得者カ第三者ニ対シ其権利カ成立セルモノト承認シ又ハ第三者ト仲裁契約ヲ結ヒ且仲裁判決カ此者ノ利益ニ於テ申渡サレタルトキ 物ノ譲渡ニ関スル契約ニ付キ第三者ノ権利ノ実行カ物ノ引渡ニ関スル場合ニ於テハ第三者ノ権利ハ物カ第三者ニ引渡サレタルトキヨリ有効ニ主張セラレタルモノト見做ス 第三百七十六条 第三者ノ権利ハ第三者カ取得者ノ相続人ト為リ又ハ取得者カ第三者ノ相続人ト為リタルトキ若クハ取得者カ第三者ノ権利ヲ他ノ方法ヲ以テ取得シ又ハ第三者ニ之ヲ贖ヒ得タルトキハ有効ニ主張セラレタルモノト見做ス 第三百七十七条 第三者ノ権利カ有効ニ主張セラレタルトキハ取得者ハ譲渡人ニ対シ不履行ニ本ツク損害賠償ノ請求権ヲ有ス 損害ヲ確定スルニ付テハ第三者ノ権利カ有効ニ主張セラレタル時ヲ以テ其標準トス此場合ニ於テハ第二百四十二条ノ規定ヲ準用ス又双務契約ニ付テハ取得者ハ第三百六十九条ノ規定ニ依リ契約ヲ解除スル権利ヲ有ス 第三百七十八条 契約カ土地又ハ之ニ関スル権利ノ譲渡ニ関スルトキハ譲渡人ハ土地台帳ニ登記セラレタル権利ニシテ契約ニ本ツク所得者ノ権利ニ反対スルモノヲ自己ノ費用ヲ以テ取消スコトヲ要ス登記セラレタル権利カ主張セラレサルカ又ハ成立スルニ至ラサルカ若クハ既ニ存立セサルトキト雖モ亦同シ 第一項ノ規定ハ船舶登記簿ニ登記セラレタル権利ニ関シ之ヲ準用ス 第三百七十九条 譲渡人ノ権利ノ瑕疵ニ本ツキ此者ニ対シテ取得者カ請求権ヲ提起シ又ハ其負担スル給付ヲ拒絶シ若クハ解除権ヲ主張スルトキハ取得者ハ証明ノ責ニ任ス 第三百八十条 第三百七十条乃至第三百七十九条ニ定ムル譲渡人ノ義務ハ契約ニ依リテ之ヲ拡張シ制限シ又ハ免除スルコトヲ得 免除又ハ制限ハ譲渡人カ第三者ノ権利ヲ知リ且之ヲ取得者ニ告ケサリシトキハ無効トス 第五款 譲渡物ノ瑕疵担保 第三百八十一条 契約ニ因リテ物ノ譲渡ノ義務ヲ負担シタル者ハ取得者ニ対シ危険カ此者ニ移転スル時ニ於テ目的物カ確保セラレタル性質ヲ有スルコトニ付キ其責ニ任ス 譲渡人ハ第一項ト同一ノ時ニ於テ目的物カ其価格又ハ通常ノ使用若クハ契約ニ予定シタル使用ニ適スルコトヲ減失又ハ減少セシムル瑕疵ヲ有セサルコトニ付キ其責ニ任ス 価格又ハ使用ニ適スルコトノ着シカラサル減少ハ之ヲ問ハス 第三百八十二条 売主ハ取得者カ契約取結ノ時ニ知リタリシ瑕疵ニ付キ其責ニ任セス 取得者カ重過失ニ因リテ知ラサリシ瑕疵ニ付テハ譲渡人ハ瑕疵ノ存セサルコトヲ確保シタルトキ又ハ之ヲ知リテ取得者ニ告ケサリシトキニノミ其責ニ任ス 第三百八十三条 売主ノ責任カ第三百八十一条及ヒ第三百八十二条ノ規定ニ因リテ生シタルトキハ取得者ハ其撰択ニ従ヒ契約ヲ廃却シ(変更)又ハ相対給付ヲ引下クルコト(減少)ヲ請求スルコトヲ得 第三百八十四条 売買廃却ノ権利ト代価減少ノ権利トノ撰択ニ付テハ第二百〇八条及ヒ第二百〇九条第一段ノ規定ヲ准用ス 第三百八十五条 契約取結ノ時ニ確保セラレタル性質カ存セス又ハ譲渡人カ第三百八十一条第二項ニ掲クル種類ノ瑕疵ニシテ契約取結ノ時ニ存セシモノヲ知リテ之ヲ取得者ニ告ケサリシトキハ取得者ハ売買ノ廃却又ハ代価減少ノ権利ト共ニ譲渡人ニ対シ不履行ニ本ツク損害賠償ノ請求権ヲ有ス 第三百八十六条 取得者カ物ニ瑕疵アルコトヲ知リテ之ヲ受取リタル場合ニ於テハ第三百八十三条及ヒ第三百八十五条ニ掲クル権利ハ取得者カ物ヲ受取ル時ニ其瑕疵ニ本ツキ右ノ権利ヲ留保シタルトキニノミ之ヲ有ス 第三百八十七条 売買廃却ノ権利ニ付テハ左ノ例外ヲ以テ第四百二十七条乃至第四百三十条及ヒ第四百三十三条ノ規定ヲ淮用ス 一、 譲渡人ハ契約カ廃却セラルルトキハ取得者ニ対シ契約ノ費用ヲ賠償スルコトヲ要ス 二、 第四百三十条第三号ノ規定ハ物ヲ受取スルトキニ至リテ瑕疵カ顕ハレタルトキハ之ヲ適用セス 第三百八十八条 土地ノ譲渡人カ取得者ニ対シ一定ノ面積ヲ確保シタルトキハ之ヲ以テ土地ノ性質ノ確保ト見做ス然レトモ確保セラレタル面積ノ瑕疵ノ著シキニ因リ契約ノ履行ハ取得者ニ取リテ利益ヲ有セスト認ムヘキトキニノミ取得者ハ右ノ瑕疵ニ本ツキ売買廃却ノ権利ヲ有ス 第三百八十九条 契約カ多クノ物ノ譲渡ニ関シ且其一二ノ物カ瑕疵アル場合ニ於テハ総テノ物ニ対シテ合同ノ給付ヲ定メタルトキト雖モ売買ノ廃却ハ瑕疵アル物ニ付テノミ之ヲ行フコトヲ得 多クノ物ヲ相互繋属セル物トシテ之ニ付テ契約ヲ取結ヒ且取得者ニ損害ヲ加フルニアラサレハ瑕疵アル物ヲ瑕疵ナキ物ヨリ分離スルコト能ハサルトキハ取得者ハ其撰択ニ従ヒ瑕疵アル各物ニ付キ又ハ総テノ物ニ付テ売買ノ廃却ヲ請求スルコトヲ得又右ノ分離ハ譲渡人ニ損害ヲ加フルニアラサレハ之レヲ為スコト能ハサルトキハ売買ノ廃却ハ総テ物ニ付テノミ之ヲ行フコトヲ得 第三百九十条 主物ノ瑕疵ニ本ツキ売買廃却ノ権利カ主張セラルルトキハ其効力ハ従物ニ及フ然レトモ従物ニ瑕疵アル場合ニ於テハ此物ニ付テノミ売買ノ廃却ヲ為スコトヲ得 第三百九十一条 数個ノ物ヲ取得者ノ総給付ニ対シテ譲渡シタル場合ニ於テ個々ノ物ニ付テノミ売買廃却ノ権利カ主張セラルルトキハ契約取結ノ時ニ総テノ物カ瑕疵ナキモノトシテ有シタル総価格ト売買ノ廃却ヲ受ケサル物ノ価格トヲ比較シ割合ニ依リテ総給付ヲ減少スルコトヲ要ス 第三百九十二条 代価減少ノ権利カ主張セラルルトキハ瑕疵アル物ノ価格ト瑕疵ナキ物ノ価格カ契約取結ノ時ニ有セシ割合ニ依リ取得者ノ負担スル相対給付ヲ減少スルコトヲ要ス 数個ノ物カ取得者ノ総給付ニ対シテ譲渡サレタル場合ニ於テ一二ノ物ニ付テノミ代価減少ノ権利カ主張セラルルトキハ譲渡ノ目的物ヲ組成スル総テノ物ノ総価格ヲ勘酌シテ相対給付ヲ減少ス 第三百九十三条 代価減少ノ権利ヲ主張スルモ之ニ因リテ其後発見シタル瑕疵ニ本ツキ売買ヲ廃却シ又ハ更ニ代価減少ヲ請求スルコトヲ妨ケス 第三百九十四条 譲渡人又ハ取得者カ数人ナルトキ若クハ数人ノ相続人ニ依リテ相続セラレタルトキハ代価ノ減少ハ各人ヨリ又ハ各人ニ対シテ之ヲ請求スルコトヲ得此場合ニ於テ一人カ代価減少ノ権利ヲ主張シタルトキハ売買ノ廃却ハ除却セラル 第三百九十五条 債権者ヨリ求メラレタル強制執行ノ方法ニ於テ物ヲ譲渡シタルトキハ其取得者ハ瑕疵担保ノ権利ヲ有セス 第三百九十六条 瑕疵ニ本ツク譲渡人ノ責任ハ契約ニ因リテ之ヲ拡張シ又ハ制限シ若クハ免除スルコトヲ得 前項ノ免除又ハ制限ハ譲渡人カ物ノ瑕疵ヲ知リテ之ヲ取得者ニ告ケサリシトキハ無効トス 第三百九十七条 売買廃却又ハ代価減少ノ請求権ハ動産ニ付テハ六ケ月、不動産ニ付テハ一年ノ期間ニテ時効ニ係ル此場合ニ於テ時効ノ完成後ハ取得者ハ抗弁ノ方法ニ依ルモ其権利ヲ主張スルコトヲ得ス 前項ト同一ノ期間ノ経過ニ因リテ損害賠償ノ請求権モ時効ニ係ル但此請求権ハ物ノ瑕疵ヲ知リテ之ヲ告ケサリシコトニ本ツクトキハ此限ニ在ラス 本条ノ時効期間ハ契約ニ因リテ之ヲ普通ノ時効期間マテ延長スルコトヲ得 時効期間ハ物ヲ取得者ニ引渡シタル時ヨリ其進行ヲ始ム 第三百九十八条 種類ニ依リ定マリタル物ノ譲渡ニ付テハ取得者ハ売買廃却又ハ代価減少ノ権利ノ外瑕疵アル物ニ代ヘテ瑕疵ナキ物ヲ引渡スコトヲ請求スル権利ヲ有ス 第一項ノ権利ニ関シテハ売買廃却ノ権利ニ付キ適用スヘキ第三百八十四条、第三百八十六条、第三百八十七条、第三百八十九条乃至第三百九十一条、第三百九十三条、第三百九十四条、第三百九十六条及ヒ第三百九十七条ノ規定ヲ準用ス 譲渡人ノ確保シタル物ノ性質ハ危険カ取得者ニ移転セシ時ニ存セス又ハ譲渡人カ其他ノ瑕疵ヲ知リテ之ヲ告ケサリシトキハ第三百八十五条ノ規定ニ従ヒ譲渡ハ損害賠償ノ義務ヲ負担ス 第三百九十九条 第三百八十一条乃至第三百八十七条、第三百八十九条乃至第三百九十八条ノ規定ハ馬、驢、騾、雑種馬、牛、羊及ヒ豚ノ譲渡ヲ目的トスル契約ニ付キ第四百条乃至第四百十一条ノ規定ニ依リテ別段ノ定ナキトキニ限リ之ヲ適用ス 第四百条 第三百九十九条ノ場合ニ於テハ譲渡人ハ定マリタル瑕疵(主タル瑕疵)ノミニ付キ且此瑕疵カ定マリタル期間(担保期間)ノ経過前ニ現ハレタルトキニノミ其責ニ任ス 前項ノ主タル瑕疵及ヒ担保期間ハ聯邦議会ノ同意ヲ経テ発布スヘキ勅令ニ依リ各種ノ動物ニ付キ之ヲ定ム此勅令ハ右ノ手続ニ依リテ之ヲ補足シ又ハ変更スルコトヲ得 第四百〇一条 担保期間ハ動物ニ関シテハ危険カ其取得者ニ移転シタル日ノ満了ヲ以テ其進行ヲ進ム 第四百〇二条 主タル瑕疵カ担保期間ノ満了前ニ現ハルルトキハ動物ハ危険カ取得者ニ移転セシ時既ニ瑕疵ヲ有セシモノト推定ス然レトモ此推定ハ取得者カ担保期間ノ満了後遅クトモ二十四時間内ニ譲渡人ニ瑕疵アルコトヲ通知シ又ハ此瑕疵ニ本ツキ譲渡人ニ対シテ起訴シ若クハ証拠保全ノ為メ鑑定人ノ尋問ニ依ル証拠調ヲ申請(民事訴訟法第四百四十七条)シタルトキニノミ之ヲ生ス右ノ申請ハ民事訴訟法第四百四十九条第四号ニ掲クル要件カ存セサルトキト雖モ之ヲ許スコトヲ要ス又此申請ト共ニ検証又ハ証人尋問ノ申請ヲ為スコトヲ得 第四百〇三条 取得者カ譲渡人ニ瑕疵アルコトヲ通知シタルトキハ譲渡人ハ第四百〇二条ノ規定ニ従ヒ証拠保全ノ為メ証拠調ヲ為スコトヲ直ニ申請スルコトヲ得 第四百〇四条 取得者ハ売買ノ廃却ノミヲ請求スルコトヲ得代価ノ減少ヲ請求スルコトヲ得ス 取得者ハ第四百三十条ノ場合ニ於テモ売買ノ廃却ヲ請求スルコトヲ得此場合ニ於テ取得者ハ其受領シタル動物ノ価格ヲ譲渡人ニ賠償スルコトヲ要ス右価格ハ取得者カ第四百三十条ノ規定ニ因リ売買ノ廃却ヲ除却スル行為ヲ為シタル時ニ依リテ之ヲ定ム 第四百〇五条 契約カ売買ノ廃却ニ因リテ解除セラルヽトキハ譲渡人ハ取得者ニ対シ特ニ獣医ノ診断及ヒ治療ノ費用其他譲渡サレタル動物ノ飼養料及ヒ世話料ヲ賠償スルコトヲ要ス但動物ヨリ収取シタル用益ハ右ノ賠償額ヨリ之ヲ扣除ス 第四百〇六条 売買廃却ノ権利ニ付キ争ヲ生スルトキハ各当事者ハ動物ノ監査カ既ニ不必要トナリタルトキハ直ニ動物ヲ競売シ且其代価ヲ公ニ供託スル請求ヲ為スコトヲ得 第四百〇七条 売買廃却ノ請求権ハ第三百九十七条ニ揚クル効力ヲ有シテ二週日ノ満了ニ因リ時効ニ係ル 前項ト同一ノ期間ノ満了ニ因リ損害賠償ノ請求権モ亦時効ニ係ル但右ノ請求権ハ瑕疵アルコトヲ知リテ之ヲ告ケサリシコトニ本ツクトキハ此限ニアラス 本条ノ時効ハ担保期間ノ満了セシ時ヨリ其進歩ヲ始ム 第四百〇八条 種類ニ依リテ定マリタル動物ノ譲渡ニ付テハ取得者ハ売買廃却ノ権利ノ外瑕疵アル動物ニ代ヘテ瑕疵ナキ動物ノ引渡ヲ請求スル権利ヲ有ス 前項ノ権利ニ付テハ第四百〇五条乃至第四百十七条ノ規定ヲ準用ス 第四〇百九条 譲渡人カ総テノ瑕疵ニ付キ其責ニ任スヘキ漠然タル約束ハ主タル瑕疵ノミニ関スルモノトス 第四百十条 担保期間ノ縮少又ハ延長ヲ合意シタルトキハ第四百〇一条乃至第四百〇八条ノ規定ヲ適用ス此場合ニ於テハ合意上ノ担保期間ハ法定ノ担保期間ニ代ハルモノトス 第四百十一条 譲渡人カ主タル瑕疵ニ属セサル瑕疵ニ付キ特ニ其責ニ任スルコトヲ引キ受ケタルトキハ第四百〇四条乃至第四百〇六条及ヒ第四百〇八条ノ規定ヲ準用シ且同時ニ担保期間ヲ約シタルトキハ第四百〇一条乃至第四百〇三条及ヒ第四百〇七条ノ規定ヲモ準用ス担保期間ヲ約セサリシトキハ売買廃却及ヒ損害賠償ノ請求権ハ六週日ノ期間ニテ時効ニ係ル此時効期間ハ取得者ニ動物ヲ引渡シタル時ヨリ其進行ヲ始ム 第六款 第三者ニ給付ヲ為スヘキ約束 第四百十二条 契約ニ於テ当事者ノ一方カ第三者ニ給付ヲ為スコトヲ諾約シタル場合ニ於テ第三者カ直接ニ諾約者ヨリ給付ヲ請求シ得ヘキコトカ契約ノ内容ニ因リテ生スル限ハ此権利ヲ取得ス 受約者ハ第三者ニ為スヘキ給付ノ履行ヲ請求スルコトヲ得但之ニ異ナル約束アルトキハ此限ニ在ラス 第四百十三条 第三者ノ債権ハ契約ノ内容ニ因リテ生スル当事者ノ意思ニ従フテ発生スヘキ時期ニ成立ス 第四百十四条 第三者ノ債権カ条件付又ハ期限付ノモノトシテ成立セサル間ハ第三者ニ給付ヲ為ス諾約ハ当事者之ヲ変更シ又ハ消滅セシムルコトヲ得然レトモ債権成立ノ後ハ此権限ヲ留保セントスル当事者ノ意思カ契約ノ内容ニ因リテ生スルトキニ限リ之ヲ行フコトヲ得 第四百十五条 第三者カ諾約者ニ対シ債権ヲ除却スルコトヲ表示スルトキハ債権カ成立セサリシモノト見做ス 第四百十六条 契約ヨリ生スル抗弁ハ諾約者モ亦第三者ニ対シテ之ヲ有ス但契約ノ内容ニ因リ別段ノ意アルトキハ此限ニ在ラス 第七款 手附 第四百十七条 契約ヲ結ブニ当リ手附(約束金、拘束金、差置金、手金、手打金)トシテ或物ヲ与フルトキハ之ヲ以テ契約取結ノ徴ト見做ス 手附ハ別段ノ定アルトキニ限リ之ヲ解約金ト見做ス 第四百十八条 契約カ履行セラレタル場合ニ於テ別段ノ定ナキトキハ手附ハ之ヲ与ヘタル者ノ給付ニ算入スルコトヲ要ス又此算入ヲ為スコト能ハサルトキハ受領者ハ之ヲ返還スルコトヲ要ス契約カ無効ナルトキ若クハ取消サレタルトキ亦同シ 第四百十九条 手附ヲ与ヘタル者カ契約ノ取消又ハ履行不能ニ付テ其責ニ任スヘキトキハ手附ノ受領者ハ之ヲ保持スルコトヲ得然レトモ其価格ハ受領者ニ属スル損害賠償ノ請求権ニ対シテ之ヲ計算スルコトヲ要ス 第八款 違約罰 第四百二十条 債務者カ負担スル給付ヲ履行セサルトキハ債権者ニ対シ其罰トシテ他ノ給付ヲ為スヘキコトヲ約束(違約罰)シタル場合ニ於テ給付ノ履行ナキトキハ債権者ハ其撰択ニ従ヒ主タル給付又ハ違約罰ノ請求ヲ為スコトヲ得又主タル給付ノ履行ナキ為メ損害賠償ヲ請求スルコトヲ得ルトキハ損害賠償ト違約罰ニ付テ請求ノ撰択ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テ債権者カ損害賠償ノ請求ヲ撰フトキハ其最下額トシテ何時ニテモ違約罰ヲ請求スルコトヲ得 第四百二十一条 違約罰ハ主タル給付カ定マリタル方法殊ニ定リタル時ニ履行セラレサル場合ニ対シテノミ約束セラレタル場合ニ於テ此約束ニ従ヒ給付ノ履行ナキトキハ主タル給付及ヒ違約罰ノ請求ヲ為スコトヲ得又第四百二十条ノ規定ニ従ヒ違約罰ノ代リニ損害賠償ヲ請求スルコトヲ得右ノ場合ニ於テ債権者カ主タル給付ヲ受取リタルトキハ其受取ノ時ニ違約罰ノ請求ヲ留保シタルニアラサレハ之ヲ請求スルコトヲ得ス但債権者カ主タル給付ヲ受取ルトキニ違約罰ニ対スル自己ノ権利又ハ其要件ノ発生ニ付キ指示セラレサリシトキハ此限ニ在ラス 第四百二十二条 違約罰ハ債務者カ遅滞ニ在ルトキハ其効力ヲ生ス不作為ノ義務ニ付テハ違約罰ハ反対行為ヲ為シタルトキニ其効力ヲ生ス 第四百二十三条 違約罰ニ対スル権利ノ原因タル債務不履行ニ付キ其債務カ違約罰ノ効力発生前ニ消滅シ又ハ債務ノ不履行カ債権者ノ責ニ帰スヘキトキハ違約罰ハ之ヲ請求スルコトヲ得ス 第四百二十四条 債務カ法律ノ規定ニ因リテ無効又ハ取消シ得ヘキモノト認メラルルトキハ其不履行ニ対スル違約罰ノ約束モ亦無効又ハ取消シ得ヘキモノトス当事者カ無効又ハ取消シ得ヘキコトヲ知リタルトキト雖モ亦同シ 第四百二十五条 行為ヲ目的トスル主タル給付ヲ履行セス又ハ定マリタル方法殊ニ定マリタル時ニ履行セサルカ為メニ違約罰カ請求セラルルトキハ債務者ハ給付ノ履行カ契約ニ適セルコトヲ証明スル責ニ任ス 第四百二十六条 当事者ノ一方ト解除権ヲ留保シタル場合ニ於テ相手方ニ対シ解除ノ意思ヲ表示シタルトキハ之ニ依リテ解除ハ行ハレタルモノトス 前項ノ意思表示ハ之ヲ取消スコトヲ得ス 第九款 契約ノ解除 第四百二十七条 契約ノ解除ニ因リテ当事者双方ハ契約ヲ取結ハサリシ如ク為スヘキ権利ヲ有シ又其義務ヲ負フ殊ニ各当事者ハ契約ニ従フテ得ヘカリシ給付ヲ請求スルコトヲ得ス又其受取リタル給付ハ之ヲ相手方ニ返還スルコトヲ要ス 金銭ハ其受領以後ノ利息ト共ニ又其他ノ物ハ増加物及ヒ総テノ利得ト共ニ之ヲ返還スルコトヲ要ス収取セサリシ利得及ヒ物ノ毀損ニ付テハ整正タル家父ノ注意ヲ用井ルコトニ因リテ得ヘカリシ利得及ヒ避クルコトヲ得ヘカリシ毀損ノ限度ニ於テ之ヲ賠償スルコトヲ要ス返還義務者ハ其加ヘタル費用ニ付キ占有者カ所有者ニ対シテ有スル権利ト同一ノ権利ヲ有ス 受領者カ物ヲ返還スルコト能ハサル場合ニ於テ賠償ノ責任ハ受領者カ故意又ハ懈怠ノ責ニ任セサルトキニノミ之ヲ免カル 第四百二十八条 第四百二十七条ノ規定ニ因リテ当事者カ負担スル義務ハ相互引換ニテ之ヲ履行スルコトヲ要ス 第三百六十四条及ヒ第三百六十五条ノ規定ハ之ヲ准用ス 第四百二十九条 解除権ハ権利者ノ受取リタル物カ偶事ニ因リテ滅失シタルトキト雖モ存立ス 第四百三十条 左ノ場合ニ於テハ解除権ヲ行フコトヲ得ス 一、 権利者カ受取リタル物ヲ故意又ハ過失ニ因リテ滅失セシメ又ハ之ヲ処分シタルカ為メニ返還スルコト能ハサルトキ 二、 権利者カ受取リタル物ニ自ラ除去スルコト能ハサル第三者ノ権利ヲ以テ負担ヲ加ヘタルトキ 三、 権利者カ受取リタル物ヲ加ヘ又ハ改造ニ因リテ他ノ種類ノ物ニ変シタルトキ 第四百三十一条 解除権ハ権利者カ契約ノ一部履行ヲ為シ又ハ之ヲ請求シ若クハ之ヲ受取ルトキハ消滅ス 第一項ノ規定ハ権利者カ其権利ニ付キ又ハ権利ノ要件ノ発生ニ付キ指示セラレサリシトキハ之ヲ適用セス 第四百三十二条 解除権ハ当事者カ合意シタル期間内ニ於テ又此期間ナキトキハ四週日内ニ之ヲ行ハサルトキハ消滅ス此期間ハ解除権カ条件ニ係ラサルトキハ契約ヲ取結ヒタル時ヨリ進行シ又条件ニ係ルトキハ条件成就ノ後権利者カ相手方ヨリ解除ノ意思ヲ表示スヘキ催告ヲ受ケタル時ヨリ進行ス 第四百三十三条 当事者ノ一方カ数人ナルトキ又ハ数人ニ依リテ相続セラレタルトキハ解除権ハ総テノ者ヨリ又総テノ者ニ対シテノミ之ヲ主張スルコトヲ得又解除権カ数人ノ権利者ノ一人ニ付テ消滅スルトキハ他ノ権利者ニ付テモ除却セラル 第四百三十四条 解除権ノ留保ニ本ツキテ契約ヨリ脱退スル当事者ハ此留保ヲ証明スル責ニ任ス 解除権カ相手方ノ行為ヲ目的トスル債務ノ不履行ニ本ツキテ主張セラルルトキハ相手方ハ給付ノ履行カ契約ニ適セルコトヲ証明スル責ニ任ス 第四百三十五条 解除権カ解約金ニ対シテ留保セラレタル場合ニ於テハ解除ノ意思表示ハ之ヲ為ス時ニ解約金ヲ支払ヒ又ハ既ニ之ヲ支払ヒタルトキノミ相手方ニ対シテ其効力ヲ生ス権利者カ解約金ヲ給附セスシテ解除ノ意思ヲ表示シタルトキト雖モ之ニ拘束セラル 第四百三十六条 契約ニ付キ債務者カ債務ヲ履行セサルトキハ契約ニ本ツク自己ノ権利ヲ失フベキ旨ノ留保ヲ附加セラレタル場合ニ於テ(権利喪失ノ留保)債務者カ債務ヲ履行セサルトキハ債権者ハ契約ヲ解除スルコトヲ得 第二節 贈与 第四百三十七条 他人ニ為シタル寄贈ニ因リテ寄贈者ノ財産カ減シ他人カ利得ヲ得ル場合ニ於テ寄贈ハ他人ニ利得ヲ与フル目的ニ本ツキ且他人カ之ヲ贈物トシテ受諾スルトキハ之ヲ贈与ト見倣ス 第四百三十八条 贈与ノ目的ヲ以テ自己ノ財産ヲ減スル寄贈ニ因リ他人ニ利得ヲ与フル場合ニ於テ他人ノ意思カ之ニ加ハラサルトキハ寄贈者ハ他人カ贈与ヲ拒絶スルマテ拘束セラル他人カ利得ヲ得タルコト及ヒ贈与ノ目的ヲ知リタル後遅滞ナク拒絶ノ意思ヲ表示セルトキハ贈与ノ受諾アリタルモノト推定ス又贈与カ拒絶セラレタルトキハ寄贈者ハ第七百四十二条乃至第七百四十四条ノ規定ニ従ヒ利得ノ引渡ヲ請求スルコトヲ得 第四百三十九条 権利ニ対シテ担保カ供セラルルモ之ニ因リテ利得ヲ得タリトセス義務者以外ノ者カ担保ヲ供シタルトキ亦同シ 自己ニ帰属スルモ未タ取得セサル財産権ヲ放棄シ又ハ財産ノ取得ヲ怠リ若クハ権利ノ為メニ存立スル質権其他ノ担保ヲ放棄スルモ財産カ減シタリトセス 遺産又ハ遺贈ノ辞退ハ自己ニ帰属スルモ未タ取得セサル権利ノ放棄ト見做ス 第四百四十条 贈与ノ方法ニ依リテ他人ニ或物ヲ給付スヘキ義務ヲ負担スル契約ハ裁判上又ハ公証上ノ方式ニ従ヒ其約束ヲ表示シタルトキノミニ有効トス 義務ノ原因ノ指定ヲ保タサル債務ノ約束又ハ認諾ヲ為ストキ亦同シ 第四百四十一条 譲渡ニ依リテ実行セラルヽ贈与ハ別段ノ方式ヲ履マサルモ有効トス 第四百四十二条 贈与者ハ受贈者ニ対シ故意又ハ重懈怠ノ責ニ任スヘキトキニノミ義務ノ不履行ニ付キ其責ニ任ス 第四百四十三条 贈与者ハ受贈者ニ対シ種類ニ依リテ定ムヘキ物ノ贈与ヲ約束シタルトキニノミ自己ノ権利ノ瑕疵ニ付キ第二百九十八条第三百七十条乃至第三百八十条ノ規定ニ従ヒ其責ニ任ス其他ノ贈与ニ付キ贈与者カ第三者ノ権利ノ存スルコトヲ知リ且之ヲ取得者ニ告ケサリシトキハ之ニ因リテ生シタル損害ヲ取得者ニ賠償スルコトヲ要ス 第四百四十四条 贈与者ハ受贈者ニ対シ贈与物ノ瑕疵ニ付キ其責ニ任セス然レトモ贈与者カ此瑕疵ヲ知リ且之ヲ取得者ニ告ケサリシトキハ之ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スルコトヲ要ス 第一項ノ規定ハ贈与者カ種類ニ依リテ定ムヘキ物ノ贈与ヲ約束シタル場合ニ於テモ亦之ヲ適用ス右ノ場合ニ於テ物カ其確保セラレタル性質ヲ欠クトキハ取得者ハ此物ノ代ハリニ他ノ瑕疵ナキ物ヲ請求スルコトヲ得此請求権ノ時効ニ付テハ第三百九十七条ノ規定ニ従フ 第四百四十五条 遅滞ニ在ル贈与者ハ遅滞利息ヲ支払フコトヲ要セス然レトモ損害賠償ノ責任ハ之ニ因リテ影響ヲ受クルコトナシ 第四百四十六条 贈与ノ約束ハ疑ハシキ場合ニ於テハ贈与者カ其履行ノ時ニ住所ヲ有スル地ニ於テ履行スヘキモノトス 第四百四十七条 贈与者カ受贈者ニ対シ定期復帰スル期間ニ於テ扶助ヲ与フルコトヲ約束シタル場合ニ於テ契約ニ別段ノ定ナキ限ハ贈与者ノ相続ハ引続キ扶助ヲ与フル義務ヲ負担セス 第四百四十八条 負担付ニテ贈与ヲ約束シタルトキハ贈与者ハ先ツ給付ヲ為シタル後ニ於テ負担ノ履行ヲ請求スルコトヲ得此負担カ第三者ノ為メニ存スルトキハ第四百十二条乃至第四百十六条ノ規定ヲ適用ス 第二項負担ヲ履行シタル受贈者カ贈与ノ目的物ヲ追奪セラルヽトキハ贈与者ニ対シ此者カ追奪権ノ存在ヲ知ラサリシトキト雖モ負担ノ履行ニ因リテ生シタル費用カ贈与ニ本ツク利得ヲ越ユル限度ニ於テ其賠償ヲ請求スルコトヲ得 第四百四十九条 受贈者ハ贈与者ニ対シ其生命ヲ害セントシ或ハ自由ヲ奪ハントシ或ハ故意ニ本ツク身体上ノ虐待又ハ重大ナル加辱ニ付キ其責ニ任シ若クハ故意ニ着シキ財産上ノ損害ヲ加ヘタルトキハ贈与ハ背恩ニ本ツキ受贈者ニ対スル意思表示ニ依リテ之ヲ取消スコトヲ得 第四百五十条 贈与者ノ相続人ハ受贈者カ故意ニ贈与者ヲ殺害シタルトキニノミ背恩ニ本ツク贈与ノ取消権ヲ有ス 第四百五十一条 贈与ノ取消権ハ左ノ場合ニ消滅ス 一、 受贈者カ死亡シタルトキ 二、 贈与者カ受贈者ノ背恩ヲ知リ又ハ第四百五十条ノ場合ニ於テ贈与者ノ相続人カ之ヲ知リタル時ヨリ一年ヲ経過シタルトキ 三、 贈与者カ宥恕シタルトキ 右取消権ハ贈与者又ハ其相続人カ受贈者ノ背恩ヲ知リタル後ニアラサレハ之ヲ放棄スルコトヲ得ス 第四百五十二条 贈与ヲ取消ス場合ニ於テハ贈与者又ハ其相続人ハ第七百四十五条ノ規定ニ従ヒ給付シタル物ノ返還ヲ請求スルコトヲ得 第三節 <note>(掲載なし)</note> 第四百五十三条 (掲載なし) 第四百五十四条 他人ニ対シ此者ト自己ノ間ニ存スル債務関係ニ本ツキ金銭ヲ支払ヒ又ハ其他ノ代替物ヲ給付スル義務ヲ負担スル者ハ右ノ金銭其他ノ代替物ヲ消費貸借トシテ負債スヘキ旨ヲ約束スルコトヲ得 第四百五十五条 借主ハ利息ヲ約定シタルトキニノミ之ヲ支払フ義務ヲ負担ス但遅滞利息支払ノ義務ハ之ニ因リテ影響ニ受クルコトナシ 第四百五十六条 約定シタル利息支払ノ時期ヲ定メサリシトキハ一年ノ経過後之ヲ支払フベク又元本ノ返済ニ付キ一年ヨリ短キ期間ヲ定メタルトキハ元本返済ノ時ニ利息ヲ支払フコトヲ要ス 第四百五十七条 消費貸借ニ付キ返済ノ時期ヲ定メサリシトキハ予メ告知ヲ為シタル後之ヲ返還スルコトヲ要ス告知権ハ債権者及ヒ債務者共ニ之ヲ有ス 前項ノ告知期間ハ六ケ月トス 第四百五十八条 消費貸借ノ供与ヲ約束スル契約ハ疑ハシキ場合ニ於テハ供与ヲ諾約シタル者カ貸付前ニ相手方ノ財産関係ニ付キ返還請求権ヲ危険ナラシムベキ著シキ毀損ヲ生シタルトキハ契約ヲ解除スル権利ヲ有スヘキ担保ヲ以テ取扱ヒタルモノト見做ス 第四節 売買及交換 第一款 売買 第四百五十九条 売買契約ニ因リテ売主ハ買主ニ対シ物カ売買ノ目的ナルトキハ此物ヲ引渡シ且其所有権ヲ供与スル義務ヲ負担シ権利カ売買ノ目的ナルトキハ此権利ヲ供与シ且物ニ関スル権利ニシテ其行使カ物ヲ所持スルコトヲ要スルトキハ此物ヲ引渡ス義務ヲ負担ス 売買契約ニ因リテ買主ハ売主ニ対シ約定ノ代価ヲ支払ヒ且売渡物ヲ引取ル義務ヲ負担ス 第四百六十条 代価ハ金銭ヲ以テスルコトヲ要ス金銭ヲ以テ定メタル代価ト共ニ他ノ種類ノ給付ヲ約束スルコトヲ得又此給付ハ定マリタル算当額ニテ代価ニ代ハルベキコトヲモ合意スルコトヲ得 第四百六十一条 市場価格カ代価トシテ定メラレタルトキハ疑ハシキ場合ニ於テハ売主カ契約ニ従テ義務ヲ履行スヘキ地及ヒ其時ノ市場価格ヲ約束シタルモノト見做ス 第四百六十二条 売主ハ買主ニ対シ売買ノ目的物ニ関スル法律上ノ関係ニ付キ殊ニ土地ノ売買ニ付テハ其経界、特有権及ヒ負担ニ関シ必要ナル説明表ヲ交付シ且目的物ニ関スル権利ヲ証明スル用ニ供スヘキ証書ニシテ自己ノ手ニ存スル限ハ之ヲ買主ニ引渡スコトヲ要ス 第四百六十三条 売主ハ売却物ヲ買主ニ引渡スマテハ其物ノ偶然ノ滅失及ヒ毀損ノ危険並ニ其物ニ加ヘラレタル負担ヲ担当ス又物ノ用益ハ物ヲ引渡スマテ売主ニ属ス 土地ノ売買ニ付キ所有権ノ移転カ土地ノ引渡前ニ土地台帳ニ登記セラレタルトキハ第一項ニ掲クル効力ハ既ニ登記ヲ為シタル時ニ発生ス 第一項及ヒ第二項ノ規定ハ物ニ関スル権利ニシテ其行使カ物ヲ所持スルコトヲ要スルモノヲ売却シタル場合ニ之ヲ准用ス 第四百六十四条 売主ハ買主ニ対シ契約取結後ニ於テ然モ売却物ノ引渡前ニ此物ニ加ヘタル必要費ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得但費用ヲ加フル時ニ危険カ尚ホ買主ニ移転セサルトキハ此限ニ在ラス其他売主カ物ノ引渡前ニシテ危険ノ移転前又ハ其後ニ於テ物ニ加ヘタル費用ノ賠償請求権ハ事務管理ニ関スル原則ニ依リテ之ヲ定ム 第四百六十五条 売主カ買主ノ請求ニ因リ契約ニ従フテ売却物ヲ引渡スヘキ場所以外ノ地ニ之ヲ送附スルトキハ買主ハ売主カ運送取扱人、運送人若クハ其他運送ヲ行フ為メニ定メラレタル人ニ右ノ売却物ヲ渡シタル時ヨリ危険ヲ負担ス 買主カ送附ノ方法ニ付キ特別ノ指図ヲ為シ且売主カ切迫ナル原因ナクシテ此指図ニ違ヒタルトキハ売主ハ買主ニ対シ之ニ因リテ生スル損害ニ付キ其責ニ任ス 第四百六十六条 物ノ引渡ノ費用殊ニ度量衡ノ費用及ヒ権利ノ売買ニ付テハ其権利ノ成立又ハ転附ノ費用ハ売主ノ負担ニ帰シ物ノ引取ノ費用及ヒ履行地以外ノ場所ニ物ヲ運送スル費用ハ買主ノ負担ニ帰ス 土地又ハ之ニ関スル権利カ売却セラレタルトキハ買主ハ第一ノ場合ニ於テハ土地ノ引渡及ヒ所有権移転ノ登記ノ費用ヲ負担シ第二ノ場合ニ於テハ権利ノ分立又ハ転附ニ付キ必要ナル土地台帳ヘノ登記ノ費用ト共ニ此登記ニ要スル意思表示ノ費用ヲモ負担スルコトヲ要ス 第四百六十七条 買主ハ売買ノ目的物ノ用益カ自己ニ属スル時ヨリ代価ノ利息ヲ支払フコトヲ要ス但代価カ猶予セラレタルトキハ此義務ヲ生ス 第四百六十八条 強制執行ノ手続ニ於テ売却又ハ其指図ヲ委任セラレタル人及ヒ委任ノ完行ニ付キ此者カ引入レタル輔助其他口述筆記者モ売却ニ定メラレタル物ヲ自ラ又ハ他人ニ依リテ買入ルルコトヲ得ス 第一項ノ規定ニ反シテ為シタル売買及ヒ之ニ本ツキテ為シタル物ノ引渡ノ効力ハ売却ノ時ニ債務者、所有者又ハ債権者トシテ関与シタル者ノ認諾ニ係ルモノトス 前項ノ場合ニ於テハ第百二十三条ノ規定ヲ準用ス又認諾ナキ場合ニ於テ新ニ売却セラレタルトキハ前買主ハ新ニ為サレタル売却ノ費用ヲ負担シ且減少額ヲ補償スルコトヲ要ス 第四百六十九条 強制執行ノ要件ナクシテ他人ノ計算ニ於テ物ヲ売却スヘキ権利ヲ与フル法律ノ規定ニ本ツキ売却カ委任セラレタルトキ殊ニ質権又ハ留置権ノ場合ニ於テハ第四百六十八条ノ規定ヲ准用ス 第四百七十条 試品又ハ見本売買ニ於テハ試品又ハ見本ノ性質カ確保セラレタルモノト見做ス 第四百七十一条 検視又試験売買ヲ取結ヒタルトキハ買主ハ随意ニ売買ノ目的物ヲ認諾シ又之ヲ排斥スルコトヲ得 前項ノ売買ハ疑ハシキ場合ニ於テハ買主カ希望シタルトキニノミ此契約ニ拘束セラルヘキ約定ニテ取結ハレタルモノト見做ス 第四百七十二条 検視又ハ試験売買ニ於テハ売主カ買主ニ対シ売買ノ目的物ノ検査ニ必要ナル行為ヲ為スコトヲ許ス義務ヲ負担ス 第四百七十三条 買主カ売主ヨリ受ケタル督促ニ対シ約定ノ期間内ニ又ハ此期間ナキトキハ事情ニ相当スル期間ノ経過後遅滞ナク自己ノ意思ヲ表示セサルトキハ売買ヲ拒斥シタルモノト見做ス 検視又ハ試験ノ為メニ売却物ヲ買主ニ引渡シタル場合ニ於テ前項ノ意思表示ヲ怠ルトキハ目的物ヲ認諾シタルモノト見做ス 第四百七十四条 売主カ売買ノ目的物ニ付キ第三者ノ高価買入ノ申込ヲ受諾スルコトヲ留保シタルトキハ第三者カ高価買入ノ申込ヲ為シ且売主カ此申込ヲ受諾スル場合ニ対シ契約解除ノ留保ヲ為シタルモノト見做ス 第四百七十五条 売主カ約定ノ期間内ニ又ハ此期間ナキトキハ契約ノ取結後土地ニ付テハ三ケ月ノ期間内ニ其他ノ目的物ニ付テハ四週日ノ期間内ニ解約ノ意思ヲ表示セサルトキハ解除権ハ消滅ス 第二款 買戻 第四百七十六条 売買契約ニ於テ売主カ買戻権ヲ留保シタルトキハ売却代価ヲ買戻代価トシテ約定シタルモノト見做ス 第四百七十七条 売主カ買主ニ対シテ買戻権ヲ行使スル意思ヲ表示スルト同時ニ買戻ハ完結ス 第四百七十八条 買戻契約ノ取結ニ因リテ売戻人ハ買戻人ニ対シ売買ノ目的物カ買戻権ヲ留保シタル時ニ有シタル状体ニ於テ之ヲ返還シ之ト共ニ前契約取結後ニ生シタル増加物及ヒ買戻契約取結ノ時ニ存スル附属物ヲ返還スル義務ヲ負担ス但両契約ノ間ニ収取シタル用益ハ此限ニ在ラス又売戻人カ其責ニ帰スヘキ事情ニ因リテ目的物ヲ返還スルコトヲ得ス又ハ右ニ掲クル状体ニ於テ返還スルコト能ハサルトキハ不履行ニ本ツク損害賠償ノ義務ヲ負担ス 右ノ状体ニ於テ目的物ヲ返還スルコトノ不能カ売戻人ノ責ニ帰セサル事情ニシテ買戻契約ノ取結前ニ生シタルモノニ本ツクトキハ売戻人ハ買戻代価ノ全額ノ支払ヲ請求スルコトヲ得 第四百七十九条 買戻契約ノ取結ニ因リテ買戻人ハ売戻人ニ対シ前契約トノ間ノ利息ヲ計算スルコトナクシテ買戻代価ヲ支払フ義務ヲ負担ス 買戻人カ種類ニ依リテ定メラレサル目的物ヲ従タル給付トシテ受領シ且之ヲ返還スルコト能ハス又ハ之ヲ受領シタル時ノ状体ニ於テ返還スルコト能ハサルトキハ買戻権ノ行使ハ除却セラル 売買ノ目的物ニ費用ヲ加ヘタルコト及ヒ附属物ヲ作リタルコトニ付テハ第九百三十六条第一項、第三項第九百三十七条及ヒ第九百三十八条ノ規定ヲ準用ス然レトモ買戻人ハ必要費ニ付キ賠償ノ義務ヲ負担セス 第四百八十条 買戻代価ハ買戻権ヲ行使スル時ニ於ケル売買ノ目的物ノ評価ニ依ルコトヲ約定シタルトキハ売戻人ハ買戻権ノ行使ニ付キ現時ノ状体ニ於テ目的物ヲ引渡ス義務ノミヲ負担シ買戻人ハ評価支払ノ義務ノミヲ負担ス又売戻人ハ目的物ノ減失及ヒ毀損ニ付キ其責ニ任セス買戻人ハ費用ヲ賠償スルコトヲ要セス 第三款 先買 第四百八十一条 或目的物ヲ売却スヘキ場合ニ於テ他人ニ買主タル優先権ヲ与フル義務ヲ負担シタル者カ第三者ト此目的物ニ付キ売買契約ヲ取結フトキハ右ノ他人ハ自己ノ為メニ生シタル権利(先買権)ヲ直ニ行使スルルコトヲ得 先買権ハ義務者カ第三者トノ契約ニ因リ先買権行使ノ場合ニ対シテ解除権ヲ留保シ又ハ先買権ヲ行使セサル条件附ニテ結約シタルトキト雖モ之ヲ行使スルコトヲ得 第四百八十二条 先買権者カ義務者ニ対シ先買権ヲ行使スル意思ヲ表示スルト同時ニ売買契約ハ双方ノ間ニ於テ義務者ト第三者トノ売買契約ニ定ムル事項ニ従フテ完結ス 先買権者ハ殊ニ第三者カ義務者ト取結ヒタル契約ニ因リテ引受ケタル総テノ義務ヲ履行スルコトヲ要ス 第四百八十三条 義務者ハ第三者ト取結ヒタル売買契約及ヒ其内容ニ付キ遅滞ナク先買権者ニ通知ヲ為スコト要ス 第四百八十四条 第三者カ其取結ヒタル売買契約ニ因リテ金銭ニ見積リ得ヘキ従タル給付ノ義務ヲ負担スルモ先買権者ハ之ヲ履行スルコト能ハサルトキハ先買権ヲ行使スル場合ニ於テ右ノ給付ニ対シ其履行ノ時ニ有スル価格ヲ支払フコトヲ要ス先買権者カ履行スルコト能ハサル従タル給付カ金銭ニ見積ルコト能ハサルトキハ先買権ノ行使ハ除却セラル 第三者カ先買権ノ目的物ヲ他ノ一個各数個ノ目的物ト共ニ総代価ニテ買受ケタル場合ニ於テ先買権者カ其権利ヲ行使スルトキハ総代価ノ割合部分ヲ支払フコトヲ要ス 第四百八十五条 先買権ハ其目的物カ強制執行ノ方法ニ依リテ売却セラレタルトキハ之ヲ行使スルコトヲ得ス 第四百八十六条 先買権ハ他人ニ之ヲ譲渡スコトヲ得ス 第四百八十七条 先買権ハ左ニ掲クル場合ニ消滅ス 一、 先買権者カ死亡シタルトキ 二、 先買権者カ義務者ト第三者ト取結ヒタル売買契約ノ通知ヲ受ケ且先買権ノ行使ニ付キ定メラレタル期間内ニ又ハ特定ノ期間ナキトキハ土地ニ付テハ二ケ月ノ期間内ニ其他ノ目的物ニ付テハ一週日ノ期間内ニ義務者ニ対シテ先買権ヲ行使スル意思ヲ表示セサルトキ 第四款 遺産売買 第四百八十八条 売主ニ帰属スル遺産カ売買ノ目的物タルトキハ当事者相互ニ売主ハ相続人タラスシテ買主ハ相続人タリシ如クスル権利ヲ有シ又其義務ヲ負担ス 売買契約ノ取結後ニ事後相続ニ因リ又ハ他ノ相続人ノ曠缺ニ因リテ売主ニ帰属セシ遺産部分並ニ売主ニ附与セラレタル予定遺贈ハ共ニ売却セラレタルモノト見做サス 遺贈又ハ負担ノ消滅ニ因リテ生スル利益ハ買主ニ属ス 第四百八十九条 売主ハ遺産ニ属スル個々ノ物及ヒ権利ヲ買主ニ転附スル義務ヲ負担ス 第四百九十条 売主ハ遺言執行者又ハ遺産保管人ニ対スル請求権及ヒ共同相続人ノ関係又ハ共同相続人中ノ一人ノ等分義務ニ本ツク請求権並ニ遺産ノ引渡ニ付キ第三者ニ対シテ有スル請求権ヲ買主ニ譲渡ス義務ヲ負担ス 第四百九十一条 売主ハ売買ノ取結前ニ遺産ヨリ取得シタル総テノモノヲ其果実ト共ニ買主ニ引渡ス義務ヲ負担ス殊ニ売主ハ遺産ニ属スル債権ヲ取立ツルコトヲ包含シテ遺産ニ属スル目的物ヲ譲渡スコトニ因リテ受領シタルモノヲ買主ニ引渡シ且自己ノ消費シタル目的物又ハ無償ニテ譲渡シタル目的物ニ対シ消費又ハ譲渡ノ時ニ依リテ定ムヘキ此物ノ価格ヲ賠償スルコトヲ要ス又売主カ目的物ニ負担ヲ加ヘタルトキハ譲渡ノ場合ニ於ケルト同一ノ方法ニ依リテ相当ノ賠償ヲ為スコトヲ要ス 売買契約ノ取結マテニ生シタル遺産ノ目的物ノ減少又ハ毀損ニ付キ売主ハ賠償ノ義務ヲ負担セス 第四百九十二条 売主ノ担保義務ハ売買契約ヲ取結フ時ニ遺産ニ付テ指定シタル権利カ自己ニ属スルコト此権利ハ事後相続人ノ権利ニ因リテ制限セラレス又ハ義務部分ノ請求権、遺贈若クハ負担ニ因リテ義務ヲ加ヘラレサルコト及ヒ限定承認権カ消滅セス又ハ遺産債権者ニ対シテ除却セラレサルコトニ及フ 第四百九十三条 売主ハ遺産ノ目的物ノ瑕疵又ハ追奪ニ基ツキ右ノ追奪ハ第四百九十二条ノ規定ニ因リテ担保ノ義務ヲ生セシムル原因ニ本ツカサル限ハ買主ニ対シ担保ノ義務ヲ負担セス 第四百九十四条 買主ハ結約ノ時ヨリ遺産目的物ニ生スル偶然ノ滅失又ハ毀損ノ危険ヲ負担シ又此時ヨリ其収益ヲ取得ス 第四百九十五条 買主ハ売主ニ対シ遺産及ヒ其附属物ニ加ヘラレタル負担ノ責ニ任シ殊ニ遺産義務及ヒ遺産ヨリ支払フヘキ租税ヲ負担ス然レトモ義務部分ノ請求権、遺贈及ヒ之ニ伴フ負担ハ買主カ結約ノ時ニ之ヲ知リタル限度ニ於テ負担ノ責ニ任ス又買主ハ売主ヲシテ直チニ義務ヲ免レシムルコトヲ要セス只売主ニ対シテ請求権ヲ主張セシメサル責ニ任ス其他買主ハ自己ノ負担ニ帰スル義務ヲ履行シタル売主ニ対シ賠償ヲ為スコトヲ要ス 第四百九十六条 買主ハ売主ニ対シ結約前ニ遺産又ハ其附属物ニ加ヘラレタル必要及ヒ有益ノ費用ヲ賠償スルコトヲ要ス 第四百九十七条 遺産債権者及ヒ其他ノ第三権利者ハ第四百九十五条ニ掲クル請求権ニ本ツキ売買契約取結ノ時ヨリ売主カ負担スル責任ノ存続ヲ妨クルコトナクシテ買主ニ対シ直接ニ自己ノ権利ヲ主張スルコトヲ得買主カ結約ノ時ニ右ノ権利ヲ知ラサリシトキ亦同シ売主ト買主トノ合意ニシテ買主カ第三者ニ対シテ負担スル右ノ責任ヲ除却シ又ハ制限スルモノハ無効トス 第四百九十八条 買主ハ結約ノ時ニ限定承認権カ売主ニ属セシ限度ニ於テ之ヲ主張スルコトヲ得買主カ此権利ヲ失フコトニ付テハ限定承認権ノ喪失ニ関スル規定ヲ準用ス 売主又ハ買主カ為シタル限定承認ハ双方ノ利益ト成ル 売買契約取結後ハ買主ノミ売主ニ代ハリテ遺産ノ破産ヲ申請スルコトヲ得遺産債権者ハ買主ニ対シテノミ之ヲ申請スルコトヲ得遺産及ヒ其譲渡ニ付キ買主カ売主ニ対シテ有スル請求権ハ破産財団ニ属ス 遺産債権者ニ対スル公示催告ハ売主及ヒ買主ヨリ之ヲ申請スルコトヲ得申請又ハ除却ハ双方ヨリ申請ヲ為シタルト同一ノ効力ヲ生ス 第四百九十九条 買主ト売主トノ関係ニ於テハ相続ニ本ツク混同ニ因リテ消滅シタル債務又ハ権利ハ之ヲ消滅セサリシモノト見做ス又必要ノ場合ニ於テハ権利ヲ原状ニ回復セシムルコトヲ要ス 第五百条 第四百八十八条乃至第四十九条ノ規定ハ遺産ノ譲渡カ売買契約以外ノ契約ノ目的タルトキ又ハ譲渡サレタル遺産カ引続キ他ニ譲渡サレタル場合ニ之ヲ準用ス 然レトモ贈与ノ場合ニ於テハ譲渡人ノ担保ノ義務ハ第四百四十三条及ヒ第四百四十四条ノ規定ニ依リテ之ヲ定ム又贈与者ハ結約前ニ消費シ又ハ無償ニテ譲渡シタル物ニ対シ賠償ヲ為スコトヲ要セス 第五百〇一条 遺産ノ一部カ売買又ハ其他ノ譲渡契約ノ目的タル場合ニ於テハ第四百八十八条乃至第五百条ノ規定ヲ準用ス 第五款 交換 第五百〇二条 交換契約ニ付テハ売買契約ニ関スル規定ヲ準用ス各当事者ハ其約束シタル給付ニ付テハ売主ノ如ク又其確保セラレタル給付ニ付テハ買主ノ如ク判定セラル 第五節 賃貸借及ヒ用益賃貸借 第一款 賃貸借 第五百〇三条 賃貸借契約ニ因リテ賃貸人ハ貸借期間賃借人ニ賃借物ヲ使用セシメ賃借人ハ賃貸人ニ合意上ノ相対給付(借賃)ヲ支払フヘキ義務ヲ負担ス 第五百〇四条 賃貸人ハ賃借人ニ対シ契約面ノ使用ニ適スル状体ニ於テ物ヲ委付シ且賃貸借ノ全期間右ノ状体ニ於テ之ヲ保存スルコトヲ要ス 第五百〇五条 物ヲ賃借人ニ委付スル時此物ニ確保シタル性質カ欠クルトキ又ハ契約面ノ使用ニ適スルコトヲ減却又ハ減少セシムル瑕疵アルトキ若クハ此等ノ瑕疵カ後ニ至リテ発生スルトキハ賃借人ハ右使用ニ適スルコトヲ減却又ハ減少セシムル期間ヲ限リ減却ノ場合ニ於テハ借賃ノ支払ヲ免カレ減少ノ場合ニ於テハ借賃ノ割合部分ノミヲ支払フヘキ義務ヲ負担ス但第五百二十九条ノ規定ニ因リテ賃借人ニ属スル解除権ハ尚ホ留保セラル 土地ノ賃貸人カ一定ノ面積ヲ確保シタルトキハ之レヲ以テ性質ノ確保ト見做ス 第五百〇六条 賃借人ハ賃貸人ニ対シ第五百〇五条ニ掲クル権利ノ外同条ニ掲クル瑕疵カ契約取結ノ時ニ存在シ又ハ其後賃貸人ノ責ニ帰スヘキ事情ニ因リテ発生シ若クハ賃貸人カ後ニ至リテ発生シタル瑕疵ノ除去ヲ遅延スルトキハ不履行ニ本ツク損害賠償ノ請求権ヲ有ス 第五百〇七条 第五百〇五条及ヒ第五百〇六条ノ規定ニ因リテ賃借人ニ属スル権利ニ付テハ第三百八十二条、第三百八十六条、第三百九十二条及ヒ第三百九十六条ノ規定ヲ準用ス 第五百〇八条 賃借人カ第三者ノ権利ニ因リテ契約面ノ使用ノ全部又ハ一部ヲ取去ラレタルトキハ第五百〇五条乃至第五百〇七条ノ規定ヲ準用ス又不履行ニ本ツク損害賠償ノ請求権ハ賃借人カ重懈怠ニ因リ契約取結ノ時ニ第三者ノ権利ヲ知ラサリシカ為メ除却セラルルコトナシ 第五百〇九条 土地賃貸借ノ場合ニ於テ賃貸人カ賃借人ニ土地ヲ委付シタル後ニ其所有権ヲ第三者ニ譲渡シタルトキハ第三者ハ賃借人ニ対シ土地明渡ノ要求ヲ為シタル後第五百二十二条ニ掲クル仮定ノ告知期間カ経過スルマテ又ハ契約上ノ告知期間カ之レヨリ短キトキハ此短期間カ経過スルマテ土地ノ使用ヲ許シ且ツ賃借人ニ対シテ賃貸人カ負担スル行為殊ニ賃貸人カ為スヘキ修繕ヲ行フヘキ義務ヲ負担ス 土地明渡ノ要求アルトキハ賃借人ハ直チニ将来ニ対シ契約ヲ解除スルコトヲ得 第五百十条 賃借地ヲ賃借人ニ委付シタル後ニ第三者カ賃貸人ノ法律行為ニ因リ土地ノ所有権ヲ取得セサルモ賃借人ノ契約上ノ土地使用ヲ廃止シ又ハ制限スル権利ヲ取得シタルトキハ第五百〇九条ノ規定ヲ準用ス 第三者カ取得シタル権利ヲ行使スルニ付キ賃借人カ土地ヲ明渡スコトヲ要セサルトキハ明渡ノ要求ニ代ヘ第三者ノ取得シタル権利ヲ行使スルコトヲ許スヘキ要求ヲ為スモノトス此場合ニ於テハ第五百〇九条第二項ノ規定ヲ適用セス 第五百十一条 第五百〇九条及ヒ第五百十条ノ場合ニ於テ土地ヲ明渡スヘキ要求又ハ第三者ノ権利ノ行使ヲ許スヘキ要求ヲ為ス時又ハ其前ニ第三者カ自己ノ権利ヲ生セシムル公正証書ヲ提示セス且賃借人カ此理由ニ本ツキ右ノ要求ヲ退クルトキハ此要求ハ無効トス 第五百十二条 賃貸人ノ法律行為ニ因リ賃借物ニ付キ賃借人ノ契約上ノ使用ヲ廃止シ又ハ制限スル権利ヲ取得シタル第三者カ爾後ノ賃貸借期間ニ付キ賃借人ニ対シテ賃貸人ノ負担スル義務ノ全部又ハ一部ヲ履行スヘキ義務ヲ契約ニ因リ負担シタルトキ殊ニ自己ノ取得シタル権利ヲ賃借人ニ対シテ行使セサルコトヲ約シタルトキハ第四百十二条乃至第四百十六条ノ規定ヲ適用ス但右ノ場合ニ於テハ第三者ニ対シテ直接ノ賃借人ノ権利ヲ生セシムルコト及ヒ此権利ハ第三者カ自己ノ権利ヲ取得シタル時ニ発生スルコトヲ欲シタルモノト見做ス第三者カ賃借物又ハ此物ヲ使用スル権利ヲ取得シタルトキハ賃貸人カ賃貸借契約ニ本ツキ尚ホ残余ノ期間ニ付キ賃借人ニ対シテ有スル債権ハ右取得ノ時ヨリ第三者ニ譲渡サレタルモノト見做ス 第五百十三条 動産ノ賃貸借ニ付キ物ノ使用ニ因リテ生スル費用及ヒ動物ノ賃貸借ニ付キ其飼養料ハ賃借人之ヲ負担スルコトヲ要ス 第五百十四条 賃貸人ハ賃借人ニ対シ此者カ賃借物ニ加ヘタル必要費ヲ賠償スルコトヲ要ス其他費用賠償ニ関スル賃借人ノ請求権ハ事務管理ニ関スル原則ニ依リテ之ヲ定ム賃借人ハ又其出費ニ因リテ為シタル造作ヲ取去ル権利ヲ有ス但第五百二十条ノ規定ハ之ニ因リテ妨ケラルルコトナシ (第二項掲載なし) 賃貸人カ其負担スル修繕又ハ造作ヲ為スコトニ付キ遅滞ニ在ルトキハ賃借人ハ自ラ之ヲ行ヒ且之レカ為メニ要シタル費用ヲ賃貸人ニ請求スルコトヲ得 第五百十五条 賃貸人ハ賃借物ニ加ヘラレタル負担及ヒ租税ヲ支払フコトヲ要ス 第五百十六条 賃借人ハ特約ナキ限ハ賃借物ノ契約上ノ使用ヲ他人ニ委付スル権利ヲ有ス殊ニ賃借物ヲ転貸(下賃貸)スルコトヲ得 賃借人カ賃借物ノ使用ヲ他人ニ委付スルトキハ賃貸人ニ対シ他人ノ過失ニ本ツク自己ノ義務ノ履行ニ付キ其責ニ任ス 第五百十七条 借賃ハ賃貸借期間ノ終ニ之ヲ支払フモノトス然レトモ借貸カ一定ノ期間ニ依リテ定メラレタル場合ニ於テハ各期間カ経過シタルトキニ之ヲ支払フコトヲ要ス土地ノ賃貸借ニ付キ借賃カ四分ノ一暦年ヨリ短キ期間ニ依リテ定メラレサル限ハ四分ノ一暦年ノ経過毎ニ一月、四月、七月及ヒ十月ノ第一日ニ之ヲ支払フコトヲ要ス 第五百十八条 賃借物ノ使用権ヲ行使セサリシ賃借人ハ自己ノ身上ニ存スル原因ニテ其権利ヲ行使スルコト能ハサリシトキト雖モ借賃ヲ支払フヘキ義務ヲ負担ス然レトモ賃借物ノ不使用ニ因リテ賃貸人カ出捐スルコトヲ要セサリシ費用ノ金額及ヒ他ノ方法ニテ賃借物ノ使用ヲ換価スルコトニ因リ賃貸人ノ取得シタル利得ノ金額ヲ借賃ヨリ扣除スルコトヲ得又賃貸人カ賃借物ノ使用ヲ他人ニ委付セシニ因リ賃借人ニ之ヲ使用スルコトヲ得セシメサリシ時日ニ対シ賃借人ハ借賃ヲ支払フコトヲ要セス 第五百十九条 賃貸人カ負担スヘキ修繕ノ必要ヲ生シ又ハ第三者カ賃借物ニ付キ権利ヲ主張スルトキハ賃借人ハ賃貸人ニ対シ遅滞ナク之ヲ通知スル義務ヲ負担ス又此通知ヲ怠リタルカ為メニ生シタル損害ニ付キ賃貸人ニ対シ賠償ノ責ニ任ス 第五百二十条 賃貸借期間カ経過スルトキハ賃借人ハ賃借物ヲ受取リタルトキト同一ノ現状ニテ之ヲ返還スルコトヲ要ス然レトモ契約上ノ使用又ハ時日ノ経過ニ因リ若クハ自己ノ責ニ帰セサル事情ニ因リテ生シタル賃借物ノ変更又ハ毀損ニ付キ其責ニ任セス 第五百二十一条 土地ノ賃貸人ハ賃貸借契約ニ本ツク自己ノ債権ニ対シ土地ニ持込マレタル賃借人ノ物ニ付キ法定ノ質権ヲ分ス然レトモ質権ノ目的ト為シ得サル物ニ関シテハ質権ハ成立セス質権ハ賃貸借関係ノ目的タル土地ヨリ物ヲ持チ去ルトキハ消滅ス但物カ隠密ニ又ハ賃貸人ノ異議ニ反シテ持チ去ラレタルトキハ此限ニ在ラス 物ヲ持チ去ルコトカ賃借人ノ営業ヲ適当ニ行フニ当リ又ハ通常ノ生活関係ニ伴フコトニ因リテ行ハルルトキハ賃貸人ハ之ニ反対スルコトヲ得ス賃貸人ハ裁判所ニ訴フルコトナクシテ自己ノ質権ニ服スル其他ノ物ヲ持チ去ルコトヲ妨クル権利ヲ有ス又賃借人カ土地ヲ明渡ストキハ此物ヲ自己ノ所持ニ収ムルコトヲ得 賃貸人ハ賃借人ニ対シ穏密ニ又ハ自己ノ異議ニ反シテ持チ去リタル物ニシテ之ヲ持チ去ルコトニ反対スル権利ヲ有スルモノノ返還ヲ請求シ又土地明渡ノ後ハ此物ノ所持ヲ委付スルコトヲ請求スル権利ヲ有ス 賃貸人ノ法定ノ質権ハ賃貸人ノ債権ニ対シテ担保ヲ供スルコトニ因リ又ハ質権ニ服スル各物ノ価格マテ担保ヲ供スルコトニ因リテ其行使ヲ免ルルコトヲ得此場合ニ於テ証人ニ依ル担保ハ之ヲ許サス 賃貸人ノ質権ニ服スル物カ他ノ債権者ニ質入セラレタルトキハ此者ニ対シ質入前ニ於ケル最終年ヨリ以前ノ時日ニ対スル借賃ニ本ツキ質権ヲ主張スルコトヲ得ス 第五百二十二条 賃貸借関係ハ其取結ニ付キ定メタル期間ノ経過ニ因リテ終了ス 賃貸借ノ期間ヲ定メサリシトキハ各当事者ハ告知ニ因リテ賃貸借関係ヲ終了セシムルコトヲ得 前項ノ告知ハ不動産ニ付テハ一月一日、四月一日、七月一日、十月一日ニ始マル四分ノ一歴年ノ満了マテヲ限リトシテ之ヲ為スコトノミヲ許ス此告知ハ賃貸借関係カ終了スヘキ四分ノ一歴年ノ始マル前ニ之ヲ為スコトヲ要ス 不動産ニ付キ其借賃カ月ニ依リテ定メラレタルトキハ解約ノ告知ハ一暦月ノ満了シタルトキノミ之ヲ為スコトヲ得此告知ハ遅クトモ賃貸借関係カ終了スヘキ月ノ第十五日ニ之ヲ為スコトヲ要ス 不動産ニ付キ其借賃カ週ニ依リテ定メラレタルトキハ解約ノ告知ハ一暦週ノ満了シタルトキニノミ之ヲ為スコトヲ得此告知ハ遅クトモ賃貸借関係カ終了スヘキ週ノ月曜日ニ之ヲ為スコトヲ要ス 動産ニ付テハ解約ノ告知ハ遅クトモ賃貸借関係カ終了スヘキ日ノ前第三日ニテ為スコトヲ要ス 不動産又ハ動産ニ付キ借賃カ日ニ依リテ定メラレタルトキハ解約ノ告知ハ次日ニ対シ毎日之ヲ為スコトヲ得 第五百二十三条 賃貸借契約カ三十年以上ノ期限ニテ取結ハレタルトキハ各当事者ハ三十年ノ経過後ニ第五百二十二条第三項及ヒ第六項ノ規定ニ従ヒ解約ノ告知ニ因リシテ賃貸借関係ヲ終了セシムルコトヲ得但契約カ賃貸人又ハ賃借人ノ終身ヲ期シテ取結ハレタルトキハ本条ノ規定ヲ適用セス 第五百二十四条 賃借人カ賃貸借期間ノ経過後貸借物ノ使用ヲ続行スルトキハ期間ヲ定メスシテ賃貸借関係ヲ延期シタルモノト見做ス但賃貸人又ハ貸借人カ二週日内ニ相手方ニ対シ反対ノ意思ヲ表示スルトキハ此限ニ在ラス右期間ハ貸借人ニ対シテハ使用ヲ続行スル時ヨリ又賃貸人ニ対シテハ使用ノ続行ヲ知リタル時ヨリ其進行ヲ始ム 第五百二十五条 賃借人カ賃貸借期間ノ経過後賃貸借関係ヲ延期セスシテ賃借物ノ使用ヲ続行スルトキハ賃貸人ハ此続行期間ニ対シ契約上ノ借賃ニ等シキ賠償ヲ請求スルコトヲ得但其他ノ損害ニ対スル賠償請求権ハ之ニ因リテ妨ケラルルコトナシ 第五百二十六条 賃借人カ死亡スルトキハ其相続人並ニ賃貸人ハ賃貸借関係カ尚ホ長キ期間ニテ取結ハレ又ハ尚ホ長キ告知期間ヲ約束シタルトキト雖モ第五百二十二条第三項及ヒ第六項ノ規定ニ従ヒ解約ノ告知ニ因リテ賃貸借関係ヲ終了セシムルコトヲ得 第五百二十七条 官吏又ハ軍人カ他ノ地方ヘ転任スル場合ニ於テハ従来ノ住所地又ハ屯営地ニ於テ自己又ハ家族ノ使用ノ為メニ賃借シタル住家ニ関シ尚ホ長キ賃貸借期間又ハ解約ノ告知期間ヲ約束シタルニ拘ハラス第五百二十二条第三項ノ規定ニ従ヒ賃貸借関係ノ解除ヲ告知スルコトヲ得 第五百二十八条 左ノ場合ニ於テハ賃貸人ハ告知期間ヲ保タスシテ将来ニ対シ契約ヲ解除スルコトヲ得 一、 賃借人又ハ此者カ賃借物ノ使用ヲ委付シタル者カ賃貸人ノ制止ニ拘ハラス契約ニ反シタル使用ヲ為シ殊ニ権限ヲ有セスシテ第三者ニ使用ヲ委付シ又ハ賃借人ノ負担スル注意ヲ怠ルコトニ因リテ賃借物ヲ著シク危険ナラシムルトキ 二、 賃借人カ継続セル二期間ニ対スル借賃ノ全部又ハ一部ノ支払ニ付キ遅滞ニ在リ且賃貸人カ解約ノ意思ヲ表示スル前ニ賃借人ハ延滞セル借賃ヲ完済セサルトキ 第五百二十九条 賃借人ハ其責ニ帰スヘキ事情ニ因ラスシテ契約面ノ使用ノ全部又ハ一部カ自己ニ供セラレス又ハ正当ノ時期ニ供セラレス若クハ後ニ至リテ取去ラレ又ハ確保セラレタル性質ノ欠缺カ発生シタルトキハ告知期間ヲ保タスシテ将来ニ対シ契約ヲ解除スルコトヲ得然レトモ右ノ事情ニ対スル救済カ遅延ナク実行セラルヽトキハ解除権ハ除却セラル但シ救済カ直チニ行ハレス且賃借人ノ特別ノ利益カ直チニ解約スルコトヲ正当ナラシムルトキハ此限ニ在ラス 使用ヲ供与セス又ハ之ヲ取去ルコトカ其著シカラサル部分又ハ僅ノ時間ニ止マル場合ニ於テハ賃借人ノ特別ノ利益カ解約ヲ正当ナラシムルトキニノミ解除権ヲ生セシム 第五百三十条 第五百〇九条第二項、第五百十条、第五百二十八条及ヒ第五百二十九条ノ規定ニ本ツク解除権ニ付テハ第四百二十六条、第四百三十一条及ヒ第四百三十三条ノ規定ヲ適用シ解約後ニ対スル契約ノ効力及ヒ此時期ニ対スル予先給付ノ効力ニ付テハ第四百二十七条ノ規定ヲ適用ス又賃借人ノ解除権及ヒ借賃減少権ニ付テハ右ノ外第三百八十二条、第三百八十六条、第三百八十九条乃至第三百九十一条、第三百九十三条及ヒ第三百九十四条ノ規定ヲ準用ス其他賃借人カ過去ノ借賃ノ減少ヲ請求スル権ハ解約ニ因リテ妨ケラル、コトナシ 第二款 用益賃貸借 第五百三十一条 用益賃貸借契約ニ因リテ賃貸人ハ賃借人ニ対シ賃貸借ニ付セラレタルモノノ使用及ヒ収益ヲ為サシメ賃借人ハ賃貸人ニ対シ約定ノ相対給付(用益賃借料)ヲ支払フ義務ヲ負担ス 第五百三十二条 賃貸借ニ関スル規定ハ第五百三十三条乃至第五百四十八条ニ別段ノ定ナキ限ハ用益賃貸借契約ニ準用ス 第五百三十三条 貸賃カ賃貸借ノ目的物ヨリ生スル果実ノ一部ヲ得ルコトニ存スル旨ヲ約束シタルトキハ(部割賃貸借)賃借人ハ賃貸人ノ許諾ナクシテ他人ニ果実ノ収取ヲ委付スルコトヲ得ス殊ニ複賃貸借ニ依リテ之ヲ行フコトヲ得ス(下賃貸借) 第五百三十四条 賃借人ハ果実又ハ其発生ニ関スル危険ニ因リ貸賃ノ全部ヲ支払フヘキ義務ヲ免レス 第五百三十五条 土地カ其利用ノ為メニ備ヘタル附属物ト共ニ用益賃賃借ニ付セラレタルトキハ賃借人ハ各附属物ノ保存及ヒ修繕ヲ負担ス果実ヲ生スル附属物ニ付テハ賃借人ハ其果実ヲ収取ス殊ニ畜類ノ子ハ賃借人ニ属ス又賃借人ノ責ニ帰セル事情ニ因リテ減失シタル附属物ハ賃貸人之ヲ補充スル義務ヲ負担ス 第五百三十六条 土地ノ用益賃借人ハ附属物ニ関スル自己ノ債権ニ本ツキ其所持ニ存スル附属物ニシテ共ニ用益賃貸借ニ付セラレタルモノニ付キ法定ノ質権ヲ有ス此質権ニ付テハ第五百二十一条第四項ノ規定ヲ適用ス 第五百三十七条 土地又ハ権利ノ賃貸借ニ付キ期間ノ定ナキトキハ第五百二十二条第三項乃至第七項ノ規定ヲ適用セス左ノ規定ヲ以テ之ニ代フ 解約ノ告知ハ賃貸借期年ノ終期ニノミ之ヲ為スコトヲ得最初ノ賃貸借期年ハ賃貸借ノ終期ヲ以テ始マリ第百四十九条ノ規定ニ依リテ之ヲ計算ス此告知期間ハ六ケ月トス 第五百〇九条、第五百十条及ヒ第五百二十三条ノ適用ニ付キ第五百〇九条ニ掲クル法定ノ告知期間ノ始期及ヒ期間ハ第二項ノ規定ニ依リテ之ヲ定ム 第五百三十八条 第五百二十六条及ヒ第五百二十七条ノ規定ハ賃貸借ニ関シテ之ヲ適用セス 第五百三十九条 第五百十七条第二段ノ規定ハ農業地ノ用益賃貸借ニ付キ之ヲ適用セス 第五百四十条 農業地ノ用益賃借人ハ通常ノ修繕殊ニ居住用又ハ農業用ノ建物、道路、小径溝渠及ヒ囲障ノ修繕ヲ自費ニテ造作スルコトヲ要ス 第五百四十一条 農業地ノ用益賃借人ハ土地ノ従来ノ耕作法ヲ変更スルコトカ賃貸借ノ期限ヲ越ヘテ土地ノ耕作法ニ影響ヲ及ホス限ハ賃貸人ノ許諾ヲ受ケスシテ之ヲ行フコトヲ得ス 第五百四十二条 第五百二十五条ノ規定ハ耕作地ノ賃貸借ニ付キ之ヲ準用ス但賃貸人ハ賃借人カ一年又ハ数年ノ賃貸借ノ全期間果実ヲ収取シタル限度ニ於テノミ契約上ノ貸賃ニ等シキ補償ヲ請求スルコトヲ得 第五百四十三条 農業地ノ用益賃貸人ハ用益賃貸借契約ニ本ツク自己ノ債権ニ対シ賃借人ノ持込ミタル物及ヒ土地ノ果実ニ付キ法定ノ質権ヲ有ス此質権ニ関シテハ第五百二十一条第一項乃至第四項ノ規定ヲ準用ス 第五百四十四条 農業地カ其利用ノ為メニ備ヘラレタル附属物ト共ニ用益賃貸借ノ目的タル場合ニ於テ賃借人カ評価ニ依リテ附属物ヲ受取リ又評価ニ依リテ返還スヘキコトヲ約シタルトキハ左ノ規定ヲ適用ス 用益賃借人ハ賃貸借ノ期限内ハ附属物ノ減失又ハ毀損ノ危険ヲ負担ス 用益賃借人ハ土地ノ経済上ノ利用ノ範囲内ニ於テハ各附属物ニ付キ処分ヲ為スコトヲ得 用益賃借人ハ附属物ヲ引渡サレタル現状ニ於テ経済ニ適シテ之ヲ保存スルコトヲ要ス 用益賃借人カ新ニ仕入レタル物ハ之ヲ附属物ニ混入セシムルニ因リテ用益賃貸人ノ所有ニ帰ス 用益賃借人ハ用益賃貸借カ終了スルトキハ現存セル附属物ヲ用益賃貸人ニ引渡スコトヲ要ス 用益賃貸人ハ整正タル経済法ニ従ヒ土地ノ関係ヲ斟酌スルトキハ余分ニ失シ又ハ高価ニ過クルモノト認ムヘキ附属物ノ受取ヲ拒絶スルコトヲ得此拒絶ニ因リテ拒絶セラレタル物ノ所有権ハ用益賃借人ニ移転ス又拒絶セラレタル物ハ返還ノ評価ヲ為ストキ此中ニ加フルコトヲ得ス 附属物ノ受取評価ノ総額カ返還評価ノ総額ヲ越ユルトキハ用益賃借人ハ賃貸人ニ対シテ超過額ヲ支払フコトヲ要シ之ニ反対ノ場合ニ於テハ用益賃貸人ハ賃借人ニ対シテ超過額ヲ支払フコトヲ要ス 第五百四十五条 耕作地ノ賃借人ハ賃貸借期間カ経過シタルトキハ土地返還ニ至ルマテノ全期間土地カ耕作法ニ適シテ整正使用セラレタル条件ノ下ニ有スヘキ耕作上ノ状況ニ於テ之ヲ返還スル義務ヲ負担ス此設立ハ特ニ土地ノ植付ニ付キ之ヲ適用ス 第五百四十六条 耕作地ノ賃借人カ賃貸借ヲ始ムル時ニ耕作ヲ行フ為メニ定メラレタル消費物殊ニ藁、肥料、飼養穀類及ヒ種子ヲ委付セラレタルトキハ賃貸借終了ノ時ニ同様ノ種類性質及ヒ分量ノ儲蔵物ヲ返還スルコトヲ要ス 第五百四十七条 荘園ノ賃借人又ハ農業ヲ営ム為メ併合セラレタル数多ノ土地ノ賃借人ハ賃貸借カ終了スルトキハ土地ニ存スル農産物中ヨリ其後同一又ハ類似ノ産出物カ見積上ニ収取セラルル時期ニ至ルマテ農業ヲ継続スルニ必要ナル分量及ヒ賃貸借終了ノ際ニ存在セシ必要ノ肥料ヲ残留スルコトヲ要ス賃貸借ヲ始ムル時ニ右ノ物件カ存在セス又ハ同一ノ分量若クハ性質ノ物ヲ受取ラサリシトキト雖モ亦同シ然レトモ賃借人カ残留スルコトヲ要スル物カ賃貸借ヲ始ムル時ニ委付セラレタル物ヨリ多量ナルカ又ハ良質ノ物ナルトキハ賃貸人ハ賃借人ニ対シ価格賠償ノ義務ヲ負担ス 第五百四十八条 耕作地ノ賃貸借ニ付キ土地ノ耕作上ノ状況及ヒ賃借人ニ委付スヘキ儲蔵物ハ評価ニ依リテ之ヲ受取リ又評価ニ依リテ之ヲ返還スヘキコトヲ約束シタルトキハ返還ノ義務及ヒ双方ノ評価ヲ比較スルニ因リテ生スル超過額支払ノ義務ニ関シ第五百四十四条ノ規定ヲ準用ス但返還ノ場合ニ於ケル評価ヲ為スニハ賃借人カ残留スルコトヲ要スル儲蔵物ノミヲ評価中ニ加フルコトヲ得 第六節 使用貸借 第五百四十九条 無償使用ノ為メ他人ヨリ物ヲ受取リタル者(借受人)ハ約定ノ方法ノミニ依リテ此物ヲ使用シ且約定ノ時ニ之ヲ他人(貸付人)ニ返還スル義務ヲ負担ス貸付人ハ此時マテ借受人ニ約定ノ使用ヲ為サシムル義務ヲ負担ス 第五百五十条 貸付人又ハ物ノ貸付ヲ約束シタル者ハ借受人ニ対シ故意又ハ重過失ノ責ニ任スヘキトキニノミ義務ノ不履行ニ付キ其責ニ任ス 第五百五十一条 貸付人又ハ物ノ貸付ヲ約束シタル者ハ借受人ニ対シ結約ノ当時既ニ存シタル権利ノ瑕疵及ヒ物ノ瑕疵ニ付キ特ニ其確保シタル性質ノ瑕疵ニ付テモ其責ニ任セス 然レトモ貸付人カ結約ノ当時権利又ハ物ノ瑕疵ヲ知リテ之ヲ借受人ニ告ケサリシトキハ之レニ因リテ借受人ニ生シタル損害ヲ賠償スルノ責ニ任ス 第五百五十二条 借受人ハ他人ニ物ノ使用ヲ委付スル権利ヲ有セス 第五百五十三条 借受人ハ物ノ使用ニ因リテ生スル費用ヲ負担シ又動物ノ使用貸借ニ付テハ飼養料ヲ負担スルコトヲ要ス 貸付人ハ借受人カ目的物ニ加ヘタル必要費ヲ賠償スル義務ヲ負担ス其他借受人ノ費用賠償ノ請求権ハ事務管理ノ原則ニ依リテ之ヲ定ム右ノ外借受人ハ自己ノ費用ヲ以テ為シタル造作ヲ取去ル権利ヲ有ス但第五百五十四条ノ規定ハ之ニ因リテ妨ケラルルコトナシ 第五百五十四条 借受人ハ目的物ヲ受取リタルト同一ノ状況ニ於テ之ヲ返還スル義務ヲ負担ス然レトモ契約上ノ使用、時日ノ経過其他自己ノ責ニ帰セサル事情ニ因リテ生シタル変更又ハ毀損ニ付キ其責ニ任セス 第五百五十五条 定マリタル目的ノ為メ物ヲ貸付ケタル場合ニ於テ目的上ノ使用カ終リタルトキハ借受人ハ其物ヲ返還スルコトヲ要ス然レトモ借受人カ目的上ノ使用ヲ為スコトヲ得ベカリシ時日ヲ経過セシメタルトキハ右ノ使用カ終ラサル前ト雖モ貸付人ハ物ノ送還ヲ請求スルコトヲ得 第五百五十六条 使用ノ期間及ヒ其目的カ定マラサルトキハ貸付人ハ何時ニテモ物ノ返還ヲ請求スルコトヲ得 第五百五十七条 左ノ場合ニ於テハ貸付人ハ将来ニ対シ契約ヲ解除スルコトヲ得 二、 貸付人カ予見スルコト能ハサリシ事情ニ因リ自己ニ物ノ必要ヲ生シタルトキ 一、 借受人カ契約ニ反シテ物ノ使用ヲ為シタルトキ殊ニ第三者ニ使用ヲ委付シ又ハ自己ノ負担スル注意ヲ怠ルコトニ因リテ著シク物ヲ害シタルトキ 三、 借受人カ死亡シタルトキ 第五百五十八条 使用貸借ニ関スル規定ハ任意ノ取消権ヲ留保シテ物ノ無償使用ヲ他人ニ委付シタル場合ニ於テモ之ヲ適用ス 第七節 雇傭契約及ヒ請負契約 第一款 雇傭契約 第五百五十九条 雇傭契約ニ因リテ労務ヲ約束シタル者雇傭(義務者)ハ相手方ニ対シ其労務ヲ履行シ雇傭権利者ハ雇傭義務者ニ対シ約束シタル報酬ヲ支払フベキ義務ヲ負担ス 雇傭契約ハ各種ノ労務ヲ以テ其目的ヲ為スコトヲ得 労務ノ給付カ報酬ニ対シテノミ望マルベキコトカ事情ニ依リテ明ナルトキハ報酬ハ黙示ニテ約束セラレタルモノト見做ス 第五百六十条 雇傭権利者ハ労務ノ履行アリタル後其報酬ヲ支払フコトヲ要ス然レトモ報酬カ一定ノ時期ニ依リテ定メラレタルトキハ各時期ノ経過後ニ支払フコトヲ要ス 第五百六十一条 雇傭権利者カ労務ノ受取ニ付キ遅滞ニ在ルトキハ雇傭義務者ハ後ニ労務ヲ給付スルコトヲ要セスシテ遅滞ノ期間ニ付キ契約上ノ報酬ニ対スル請求権ヲ有ス此場合ニ於テハ第三百六十八条第二項第二段ノ規定ヲ準用ス 第五百六十二条 雇傭義務者ノ生業力ノ全部又ハ其重要ナル部分ヲ引続キ要求スル雇傭関係ニ於テハ義務者ハ自己ノ過失ニ因ラスシテ自己ニ存スル原因ニ由リ僅少ノ時日間労務ノ給付ヲ妨ケラルルモ之ニ因リテ契約上ノ報酬ニ対スル請求権ヲ失フコトナシ 第五百六十三条 雇傭期間ノ定ナキトキハ雇傭権利者又ハ雇傭義務者ハ告知ニ依リテ雇傭関係ヲ終了セシムルコトヲ得此場合ニ於テ告知期間ハ二週日トス 第五百六十四条 雇傭契約カ十年以上ノ時期又ハ或人ノ修身ヲ期シテ取結ハレタルトキハ雇傭関係ハ十年ノ経過後雇傭義務者ノ告知ニ因リテ之ヲ終了セシムルコトヲ得此場合ニ於テ告知期間ハ六ケ月トス 第一項ノ規定ハ雇傭義務者カ他人ヲシテ其労務ヲ為サシムルコトヲ得ルトキハ之ヲ適用セス 第五百六十五条 雇傭権利者ヲ雇傭期間ノ経過後ニ於ケル労務給付ノ続行ヲ知リ且之ニ反対セサルトキハ雇傭関係ハ期間ヲ定メスシテ延長セラレタルモノト見做ス 第五百六十六条 各当事者ハ合意上ノ雇傭期間ノ経過前ト雖モ事情ニ依リテ契約ノ解除ヲ正当ナラシムル重要ナル原因カ存スルトキハ告知期間ヲ保タスシテ将来ニ対シ契約ヲ解除スルコトヲ得原因カ相手方ノ契約ニ反スル処置ニ存スルトキハ相手方ハ解除者ニ対シ損害賠償ノ義務ヲ負担ス 解除権ニ関シテハ第四百二十六条ノ規定ヲ適用シ解除後ノ契約ノ効力遂ニ此時期ニ為シタル予先給付ニ関シテハ第四百二十七条ノ規定ヲ適用ス 第二款 請負契約 第五百六十七条 請負契約ニ因リテ請負人ハ其引受ケタル仕事ヲ完成シ注文者ハ之ニ対シテ約束シタル報酬ヲ支払フ義務ヲ負担ス 仕事カ事情ニ因リ報酬ニ対シテノミ之ヲ求メ得ヘキコトカ明ナルトキハ報酬ハ黙示ニテ約束セラレタルモノト見做ス 第五百六十八条 請負人カ自ラ供与スヘキ材料ヲ以テ仕事ヲ完成シ且之ヲ注文者ニ引渡スヘキ義務ヲ負担スル場合ニ於テ此契約ニ付キ別段ノ定ナキ限ハ売買契約ニ関スル規定ヲ適用ス 請負人カ附随ノ材料又ハ従タル物ヲ供与スヘキ義務ノミヲ負担スル場合ニ於テハ請負契約ニ関スル規定ヲ適用ス 請負人カ供与スヘキ材料ヲ以テ注文者カ供与スヘキ土地ニ於テ建築物ヲ完成スルトキ亦同シ 第五百六十九条 請負人ハ其請負フタル性質ヲ備ヒ且価格ヲ滅失又ハ減少セシメ若クハ通常ノ使用又ハ契約ニ依リテ予定シタル使用ニ適当スルコトヲ滅失又ハ減少セシムベキ瑕疵ヲ有スルコトナクシテ仕事ヲ完成スルコトヲ要ス 仕事カ前項ノ性質ヲ備ヘサルトキハ注文者ハ請負人ニ対シ自己ノ指定スル相当ノ期間内ニ瑕疵ノ除去ヲ請求スルコトヲ得 瑕疵ノ除去カ過分ノ費用ヲ要スルトキハ請負人ハ之ヲ除去スル義務ヲ負担セス 瑕疵ノ除去カ不能ナルカ又ハ請負人カ過分ノ費用ヲ要スルコトニ本ツキ之ヲ拒絶スルカ若クハ注文者カ指定シタル相当ノ期間内ニ実行セラレサルトキハ注文者ハ其撰択ニ従ヒ契約ヲ解除シ又ハ相対給付ノ減少ヲ請求スルコトヲ得解除権及ヒ減少権ニ関シテハ第三百八十九条乃至第三百九十四条第四百二十六条乃至第四百三十一条及ヒ第四百三十三条ノ規定ヲ準用ス又瑕疵ニ因リテ仕事ノ価格又ハ使用ニ適スルコトカ著シカラサル度ニ於テノミ減殺セラレタルトキハ解除権ヲ除却セラル 瑕疵カ請負人ノ責ニ帰スヘキ事由ニ因リテ生シタルトキハ注文者ハ不履行ニ本ツク損害賠償ノ請求権ヲ有ス 第一項乃至第三項ノ規定ハ仕事ノ全部又ハ其一部カ正当ノ時ニ完成セラレサル場合ニ之ヲ準用ス然レトモ第二百四十七条第二項第三百六十一条及ヒ第三百六十九条ノ規定ハ之ニ因リテ影響ヲ受クルコトナシ 第五百七十条 仕事ノ瑕疵ニ本ツク請負人ノ責任ハ契約ニ依リテ之ヲ拡張シ制限シ又ハ免除スルコトヲ得 前項ノ免除又ハ制限ハ請負人カ瑕疵ヲ知リテ之ヲ注文者ニ告ケサリシトキハ無効トス 第五百七十一条 現存セル瑕疵ノ除去ニ対スル注文者ノ請求権及ヒ瑕疵ニ本ツキ相対給付ノ減少ニ付テ注文者ニ属スル請求権ノ時効期間ハ動産ニ関シテハ六ケ月トシ不動産ニ関シテハ一年トシ建築物ニ関シテハ五年トス此場合ニ於テ時効ノ成就後ハ注文者ハ抗弁ノ方法ニ依ルモ自己ノ権利ヲ主張スルコトヲ得ス 損害賠償ノ請求権ハ請負人カ瑕疵ヲ知リテ之ヲ告ケサリシコトニ本ツカサル限ハ前項ト同一ノ期間ノ経過ニ依リテ時効ニ係ルモノトス時効ノ期間ハ契約ニ依リテ通常ノ時効期間マテ之ヲ延長スルコトヲ得 時効ハ注文者カ仕事ノ引取リタル時ヨリ其進行ヲ始ム 注文者ハ瑕疵ノ除去又ハ相対給付ノ減少ニ対スル請求権カ時効ニ係ラサル間ニ於テノミ仕事ノ瑕疵ニ本ツキ契約ヲ解除スルコトヲ得 第五百七十二条 注文者ハ契約ニ適シテ完成セラレタル仕事ハ之ヲ引取ルコトヲ要ス又価格若クハ使用ニ適スルコトヲ僅ニ減殺スル瑕疵ニ本ツキ仕事ノ引取ヲ拒絶スルコトヲ得ス注文者カ仕事ニ瑕疵スルコトヲ知リテ之ヲ引取リタル場合ニ於テハ第五百六十九条第一項乃至第三項ニ掲クル権利ハ注文者カ仕事ヲ引取ル時ニ瑕疵ニ本ツキ自己ノ権利ヲ留保シタルトキニノミ之ヲ有ス 第五百七十三条 注文者ハ仕事ノ完成後之ヲ引取ルトキニ自己ノ負担スル相対給付ヲ履行スルコトヲ要ス 仕事ハ部分ニ従フテ之ヲ引取ルヘク且相対給付ハ仕事ノ各部ニ対シテ定メラレタルトキハ相対給付ハ仕事ノ各部ニ対シ其仕上後之ヲ引取ルトキニ履行スルコトヲ要ス 注文者カ相対給付トシテ金銭ヲ支払フヘキトキハ仕事ヲ引取ルヘキ時ヨリ之ニ利息ヲ附スルコトヲ要ス但相対給付ノ履行カ猶予セラレタルトキハ此限ニ在ラス 第五百七十四条 請負人ハ労力及ヒ出費ニ対スル債権ニ基ツキ其製作又ハ修繕シタル注文者ノ動産ニシテ尚ホ自己ノ所持ニ存スル物ニ付キ法律上ノ質権ヲ有ス 第五百七十五条 注文者カ仕事ヲ始ムル時又ハ之ヲ為ス間ニ於テ受諾ニ付キ遅滞ニ在ルトキハ請負人ハ相当ノ補償ヲ請求スルコトヲ得此場合ニ於テ補償ハ一方ニ於テハ遅滞ノ継続スル時日及ヒ約束シタル相対給付ノ高ニ依リ他ノ一方ニ於テハ請負人カ遅滞ニ因リテ費用ヲ節シ且其労力ヲ他ニ使用スルコトニ因リテ取得シタルモノニ依リ斟酌シテ之ヲ定ム 第五百七十六条 請負人ハ仕事カ引取ラルルマテハ危険殊ニ偶然ノ減失又ハ毀損ヲ負担シ注文者ハ仕事ヲ完成スル為メ自己ノ供与シタル材料ノ偶然ノ減失又ハ毀損ヲ負担ス注文者カ仕事ノ引取ニ付キ遅滞ニ在ルトキハ仕事ノ偶然ノ減失又ハ毀損ハ注文者ニ移転ス 第五百七十七条 仕事カ引取ラルル前ニ注文者カ供与シタル材料ノ瑕疵ニ因リ又ハ仕事ノ実行ニ付テ注文者カ与ヘタル指図ニ因リ且注文者又ハ請負人ノ責ニ帰スヘキ理由カ加ハルコトナクシテ仕事カ減失又ハ毀損シ若クハ実行スルコトヲ得サルニ至リタルトキハ請負人ハ既ニ給付シタル労力ニ相当スル相対給付ノ部分ニ付キ請求権ヲ有ス其他請負人カ支出シタル費用ハ注文者ノ相対給付ノ外ニ計算セラルヘキ限ハ請負人ハ此費用ニ付キ賠償ノ請求権ヲ有ス 第五百七十八条 注文者ハ仕事カ完成スルマテハ何時ニテモ契約ヲ解除スルコトヲ得但第三百六十八条第二項ノ規定ニ従ヒ相対給付ニ対スル請負人ノ請求権ハ之ニ依リテ妨ケラルルコトナシ 第五百七十九条 物ノ製作又ハ変更ヲ目的ト為サスシテ労力又ハ役務ノ給付ニ因リテ為シ得ヘキ他ノ結果ヲ目的トスル契約ニ付テハ左ノ標準ニ従ヒ第五百六十七条乃至第五百七十八条ノ規定ヲ準用ス 一、 第五百七十一条、第五百七十三条第一項第二項第五百七十六条及ヒ第五百七十七条ノ規定ノ適用ニ付キ注文者カ仕事ヲ引取ルコトカ事情ニ因リテ除却セラルル限ハ請負人カ負担スル給付ノ完成ヲ以テ仕事ノ引取ニ代フ 二、 第五百七十一条第一項及ヒ為二項ノ規定ノ適用ニ付テハ時効期間ハ総テノ場合ニ於テ六ケ月トス 第三編 物権 第一章 総則 第七百七十八条 本法ニ於テ物トハ有体物ノミヲ謂フ 第七百七十九条 本法ニ於テ代替物トハ取引上通常数量尺度ヲ以テ定メラルル動産ヲ謂フ 第七百八十条 本法ニ於テ消費物トハ通常消費又ハ譲渡ニ依リテ使用セラルル動産ヲ謂フ 包括物ノ通常ノ使用カ各個ノ物ノ譲渡ニ依ル場合ニ於テハ此包括物ニ属スル動産ハ之ヲ消費物ト見做ス 第七百八十一条 土地ハ不動産トス 土地台帳ニ於テ其一欄ヲ占ムベキ権利ニ付テハ土地ニ関スル規定ヲ準用ス 第七百八十二条 物ノ一部ノ分割カ他ノ部分ノ毀損又ハ其本体ノ変更ヲ生スル場合ニ於テハ(重要ナル成分)特ニ此一部ニ付キ其物全体ニ関スル権利ト異ナル権利ヲ生セス 第七百八十三条 土地ニ定着セル物殊ニ建物ハ土地ノ重要ナル成分ト見做ス 建物ノ保存ニ備附ケタル物ハ其重要ナル成分ト見做ス但一時ノ備附ニ係ルトキハ此限ニ在ラス 第七百八十四条 土地ノ産物ハ之ト分離セサル間ハ土地ノ重要ナル成分ニ属ス 種子ハ之ヲ蒔キタル時ヨリ植物ハ其根ヲ生シタル時ヨリ土地ノ重要ナル成分トス 第七百八十五条 土地ノ所有者以外ノ者カ一時土地ニ附着セシメ又ハ所有権以外ノ権利ヲ有スル者カ権利ノ実行上自己ノ利益ノ為メニ土地ニ附着セシメタル物殊ニ建物ハ之ヲ土地ノ成分ト見做サス 第七百八十六条 自然力ニ因リテ分離シタル土地ノ一部カ他ノ土地ニ附着シ再ヒ之ヲ分離シ得サルトキ又ハ附着シタル土地ノ所有者若クハ其他ノ権利者カ附着後一年間訴訟方法ニ依リテ其権利ヲ主張セサルトキハ附着シタル土地ヲ以テ他ノ土地ノ重要ナル成分トス 第七百八十七条 土地番号帳ニ於テ特別ノ番号ヲ有スル土地ハ一筆ノ地所ト見做ス 土地番号帳ニ於テ各別ノ番号ヲ有スル数多ノ土地ニ付テモ土地台帳ニ於テ一筆ノ地所トシテ記入セラレタルトキハ前項ノ規定ヲ適用ス 第七百八十八条 土地所有権ト結合スル権利ハ之ヲ土地ノ成分ト見做ス 第七百八十九条 主物ノ成分ヲ為サスシテ其常用ニ供セラレ且此目的ニ相当スル表見上ノ関係ニ於テ主物ニ附属セシメラレタル動産ハ之ヲ従物トス但慣習ニ依リ之ヲ従物ト見做サヽルトキハ此限ニ在ラス 従物ハ一時主物ヨリ分離セラルヽモ其性質ヲ失ハス 第七百九十条 生存者間ニ於テ或物ニ関シテ為シタル法律行為ハ疑ハシキ場合ニ於テハ法律行為ヲ為シタル時此物ノ従物タリシ物ニモ其効力ヲ及ホス 第七百九十一条 第七百八十九条ニ掲クル要件ニ従ヒ特ニ従物ヲ定ムルコト左ノ如シ 一、 営業ノ為メニ永ク保存スル目的ヲ以テ建築シタル建物殊ニ粉挽場醸造場鋳造場製造場ニ於テ営業上ニ使用セラルル機械其他ノ器具ハ此建物ノ従物トス 二、 農業上ノ使用ニ定メタル器具家畜其他農産物ニシテ同種又ハ類似ノ産物ノ収獲ヲ予見シ得ル時迄農業ノ継続ニ付キ必要ナル物及ヒ要用ノ肥料ハ土地ノ従物トス 第七百九十二条 本法ニ於テ菓実トハ左ニ掲クル物ヲ謂フ 一、 物ノ産出物其他物ノ用方ニ従ヒ採取セラルル分割物 二、 権利ハ期限ニ依リテ制限セラルルト否トヲ問ハス其用方ニ従ヒ収入セラレタル物殊ニ権利ノ目的ハ土地成分ノ取得ニ在ルトキハ其取得シタル部分 三、 物又ハ権利カ法律関係ニ因リテ生スル収入物 第七百九十三条 本法ニ於テ物又ハ権利ノ収益トハ菓実其他物又ハ権利ノ使用ニ因リテ生スル利益ヲ謂フ 第七百九十四条 物又ハ権利ノ菓実ヲ一定ノ時期マデ又ハ一定ノ時期ヨリ取得スル権利ヲ有スル者ハ左ノ区別ニ従ヒ之ヲ取得ス但法律ノ規定又ハ法律行為ニ依リテ別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラズ 一、 第七百九十二条第一号ニ掲グル菓実ニ付テハ権利ノ存続中主物ヨリ分離シタル物 二、 第七百九十二条第三号ニ掲グル菓実ハ物ヲ第三者ノ使用又ハ収益ニ委シタル評価、利子若クハ利益配当ニ存スルトキハ権利ノ存続時間ニ相当スル割分 三、 其他ノ菓実ニ付テハ権利ノ存続中ニ満期トナリタル物 物ノ占有者又ハ所持者ニシテ取得シタル収益ヲ所有者ニ返還スル義務ナキ限ハ菓実取得ノ権アリト見做ス 第七百九十五条 物又ハ権利ニ関スル負担及ビ税金ヲ一定ノ時期マテ又ハ一定ノ時期ヨリ自弁スベキ義務アル者ハ其義務存続中ニ満期トナリタル負担及ビ税金ヲ自弁スルコトヲ要ス但法律ノ規定又ハ法律行為ニ依リテ別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラズ 第七百九十六条 所有権其他ノ物権ヲ有スル者カ其権利ヲ処分スルコトニ付キ法律ニ別段ノ定ナキトキハ法律行為ニ因リテ第三者ニ対シ有効ニ之ヲ除却シ又ハ制限スルコトヲ得ズ 第二章 占有及ビ所持 第七百九十七条 物ノ占有ハ所持者カ自己ノ物トスル意思(占有意思)ヲ有シ且実力ヲ其物ニ加ヘ得ルコト(所持)ニ因リテ之ヲ取得ス 第七百九十八条 物ハ其所有権ヲ取得シ得ル限度ニ於テノミ之ヲ占有スルコトヲ得 物ノ重要ナル成分ニ付テハ其物ヲ占有スルニ非ザレハ特ニ之ヲ占有スルコトヲ得ス 第七百九十九条 物ハ数人共同ニ之ヲ占有スルコトヲ得 第八百条 行為能力ナキ者ハ自己ノ所為ニ因リテ占有ヲ取得スルコトヲ得ス 行為能力ヲ制限セラレタル者ハ自己ノ所為ニ因リテ占有ヲ取得スルコトヲ得 第八百〇一条 代理人ニ依ル占有ノ取得ニ付テハ代理人ノ為シタル法律行為ニ本ヅク権利販得ニ関スル規定ヲ准用ス 第八百〇二条 物ノ占有ハ占有者ノ意思ノ加ハラサル場合ニ於テハ此者ノ占有ヲ奪取スル行為ニ因リテノミ他人カ之ヲ取得スルコトヲ得 第八百〇三条 物ノ占有ハ占有者ノ明渡及ヒ取得者ノ握取アルトキハ引渡ニ因リテ之ヲ取得ス 占有者カ占有明渡ノ意思ヲ表示シ取得者カ之ヲ握取スル意思ヲ表示シタル場合ニ於テ取得者カ随意ニ実力ヲ其物ニ加ヘ得ル状況ニ在ルトキハ之ニ因リテ占有ヲ取得ス 第八百〇四条 他人ノ所持ニ係ル物ハ占有者カ所持者ニ対シテ爾後第三者ノ為メニ実力ヲ其物ニ加フヘキ旨ヲ指図シ且第三者カ占有者又ハ所持者ニ対シテ占有ノ意思ヲ表示スルコトニ因リテ之ヲ引渡スコトヲ得此場合ニ於テ所持者カ占有者ノ指図ヲ受ケタル後遅滞ナク占有者又ハ第三者ニ対シテ此指図ニ抵抗スルトキハ第三者ハ占有ヲ取得スルコトヲ得ズ 第八百〇五条 占有者ノ所持ニ係ル物ハ占有者カ自己ト他人トノ間ニ成立セル特別ノ法律関係ニ因リテ所持者トシテ其物ヲ保持スル権利ヲ有シ又ハ義務ヲ負フ場合ニ於テハ占有者カ他人ト共諾ノ上爾後此者ノ為メニ実力ヲ其物ニ加フヘキ意思ヲ表示スルコトニ因リテ之ヲ引渡スコトヲ得 占有ノ取得ニ付キ占有者カ他人ヲ代理スヘキ権アル場合ニ於テハ占有者カ爾後本人ノ為メニ目的物ニ実力ヲ加フヘキ意思ヲ表示スル所為ヲ為スコトニ因リテ本人カ其占有ヲ取得ス 第八百〇六条 占有ハ第八百〇九条乃至第八百十三条ノ規定ニ従ヒ其消滅ノ原因トナルヘキ事実ノ発生ニ至ル迄存続ス 第八百〇七条 占有ハ第七百九十八条ノ規定ニ反スルニ至リタルトキハ消滅ス 第八百〇八条 占有ハ占有者カ目的物ヲ爾後自己ノ物トセサル意思ヲ表示スルコトニ因リテ消滅ス(占有ノ放棄) 第八百〇九条 行為能力ナキ者又ハ之ヲ制限セラレタル者ニ依ル占有ノ放棄ニ付テハ此者カ為シタル法律行為ニ因ル権利ノ放棄ニ関スル規定ヲ准用ス又代理人ニ依ル占有ノ放棄ニ付テハ代理人カ為シタル法律行為ニ因ル権利ノ放棄ニ関スル規定ヲ准用ス 第八百十条 占有ハ占有者カ目的物ニ加フヘキ実力ヲ失フコトニ因リテ消滅ス 占有者ノ実力ニ対スル妨害カ性質上一時ノモノナルトキハ之ニ因リテ占有ハ消滅セス 第八百十一条 占有ハ他人カ目的物ニ実力ヲ加フルモ占有者ニ代リテ之ヲ加フル意思ナルトキハ之ニ因リテ消滅セス 第八百十二条 土地ノ占有ハ他人カ其土地ニ実力ヲ加フルモ占有者又ハ此者カ自ラ之ヲ所持セサル場合ニ於テハ其所持者カ他人ノ占有ノ行為ヲ知リタル後直ニ実力ヲ回復スルトキハ之ニ因リテ消滅セス 第八百十三条 他人カ占有者ノ為メニ実力ヲ加フル場合ニ於テハ所持者カ死亡シ又ハ行為能力ヲ失フモ之ニ因リテ占有ハ消滅セス 所持者カ実力ヲ加フル間ハ此者カ占有者ニ対シテ爾後自己又ハ第三者ノ為メニ実力ヲ加ヘ占有者ノ為メニ之ヲ加ヘサル意思ヲ表示シタルトキニノミ所持者ノ行為ニ因リテ占有ハ消滅ス 第八百十四条 法律ニ別段ノ定ナキトキハ所持者ノ意思ニ因ラスシテ其所持ヲ奪ヒ又ハ之ヲ妨クルコトヲ得ス(私力ノ禁止) 第八百十五条 所持者ハ禁止セラレタル私力ニ対シ自力ヲ以テ之ヲ防禦スルコトヲ得 禁止セラレタル私力ニ因リテ奪取セラレタル動産ハ所持者カ即時ニ之ヲ取戻シ又ハ直ニ行為者ヲ追跡シテ之ヲ取戻ス権ヲ有ス又所持者カ取戻シタル場合ニ於テハ占有ハ中断セスト見做ス 禁止セラレタル私力ニ因リテ土地ノ上ニ有スル実力ヲ奪ハレタル所持者ハ之ヲ知リタル後直ニ所持ヲ回復スル権ヲ有ス此場合ニ於テ所持ノ回復ハ奪取後直ニ行ハレ又ハ第百八十九条ノ規定ニ従ヒ自助ノ行為カ許サルヘキ要件ノ存スルトキニノミ自力ヲ用ユルコトヲ得 第一項乃至第三項ニ掲グル所持者ノ権利ハ所持者ヲシテ自己ニ代リテ所持セシメタル者ニ対スルトキ亦同シ 第八百十六条 第八百十四条及ヒ第八百十五条ノ規定ハ物ノ一部殊ニ家屋ニ於ケル各別ノ居室又ハ客室ヲ所持スル者ノ為メニ之ヲ準用ス 第八百十七条 数人カ一物又ハ其一部ヲ共同ニ所持スル場合ニ於テ共同所持者ノ一人ノ行為カ第七百六十五条ニ掲グル使用権ノ範囲ヲ越ヘ又ハ他ノ共同所持者ノ使用権ヲ害スルトキハ之ヲ以テ禁止セラレタル私力ト見做ス 第八百十八条 禁止セラレタル私力ニ因リテ得タル所持ハ瑕疵アルモノトス瑕疵アル所持ヲ相続シタル者ノ所持亦同ジ其他ノ承継人ノ所持ハ此者カ所持ヲ得ル時前主ノ所持ニ瑕疵アルコトヲ知リタルトキニノミ瑕疵アルモノトス 第八百十九条 禁止セラレタル私力ニ因リテ所持ヲ奪ハレタル者ハ瑕疵アル所持ヲ有スル者ニ対シテ所持回復ノ訴権ヲ有ス 前ノ所持者カ現在ノ所持者ニ対シテ瑕疵アル所持ヲ有シタル場合ニ於テハ前項ノ訴権ヲ生セズ 第八百二十条 所持者カ禁止セラレタル私力ニ因リテ其所持ヲ妨ゲラルルトキハ加害者ニ対シテ妨害停止ノ訴権ヲ有ス又事情ニ依リ妨害継続ノ虞アルトキハ爾後妨害ヲ加ヘザル旨ノ判決ヲ請求スルコトヲ得 前項ノ規定ハ被害者カ加害者ニ対シ瑕疵アル所持ヲ有スルトキハ之ヲ適用セズ 第八百二十一条 所持者カ同時ニ占有者ニ非サルトキハ第八百十九条及ビ第八百二十条ノ規定ニ依リテ所持者ノ有スル権利ハ占有者ニ属ス所持者カ奪取セラレタル所持ノ還附ヲ受取ラザルトキハ占有者ハ自己ニ之ヲ引渡スベキ請求ヲ為スコトヲ得 所持者カ占有者ノ為メニ目的物ニ実力ヲ加フベキ者ニ代リテ所持スル場合ニ於テハ前項ノ占有者ニ属スル権利ハ此実力ヲ加フベキ者ニ属ス 第八百二十二条 第八百十九条乃至第八百二十一条ノ規定ニ依リテ起訴アリタルトキハ(占有訴訟)被告ハ禁止セラレタル私力ヲ加ヘザリシトノ抗弁ノ理由ニ必要ナル限度ニ於テノミ所持ノ権又ハ原告ヨリ妨害トシテ陳述セラレタル行為ヲ為ス権ヲ主張スルコトヲ得 第八百二十三条 占有訴訟ノ提起ニ因リテ本権訴訟ノ提起カ妨ゲラルヽコトナク又本権訴訟ノ提起ニ因リテ占有訴訟ノ提起カ妨ケラルヽコトナシ 本権訴訟ノ判決カ占有訴訟ノ判決ニ先チ確定シタル場合ニ於テハ占有訴訟ニ於テ禁止セラレタル私力トシテ陳述セラレタル行為カ本権訴訟ノ判決ニ依リテ確定シタル権利ニ相当スル限ハ占有訴訟ノ主要部分ハ終結シタリト見做ス但訴訟入費ニ関スル判決ハ此限ニ在ラス 第八百二十四条 禁止セラレタル私力トシテ陳述セラレタル行為ハ之ヲ為シタル時ヨリ一年以上ヲ経過スルトキハ占有訴訟ニ於テ新ニ之ヲ主張スルコトヲ得ス但其主張カ禁止セラレタル私力ヲ行ハサリシトノ抗弁ノ理由ニ必要ナルトキハ此限ニ在ラス 第八百二十五条 物ノ占有ヲ失ヒ又ハ占有ノ間ニ目的物ヲ害セラレタル者ハ第一ノ場合ニ於テハ物ノ価格ニ付テ第二ノ場合ニ於テハ価格ノ減少ニ付テ占有者ノ財産カ減少シタリト見做ス 第八百二十六条 自己ノ為メニ土地ニ関スル権利又ハ此権利ニ関スル他ノ権利ヲ土地台帳ニ登記セラレタル者ハ此権利ヲ取得シタリト見做ス又土地台帳ニ於テ取消ノ登記アル権利(登記取消)ハ消滅シタリト見做ス 第三章 土地ニ関スル権利ノ総則 第八百二十七条 権利カ土地台帳ニ共同且不可分ニテ数人ニ属スト登記セラレタルトキハ共同権利者ノ為メニ分割部分ニ従フテ登記セラレ且其分割部分ハ平等ナリト見做ス但登記ノ記入ヨリ之ニ反対ノ生スルトキハ此限ニ在ラス 第八百二十八条 法律行為ニ関スル土地所有権ノ移転並ニ土地ニ関スル其他ノ権利ノ創設移転又ハ之ニ負担ヲ加フルコトニ付テハ登記済ノ権利者ト取得者トノ間ニ契約ヲ取結ヒ之ヲ土地台帳ニ登記スルコトヲ要ス但法律ニ別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス 前項ノ契約ニハ権利者カ権利変更ノ登記ヲ許諾スル旨ヲ表示シ相手方カ之ヲ受諾スルコトヲ要ス 当事者ニ対スル契約ノ拘束力ハ契約カ登記官吏ノ面前ニ於テ取結ハレタル時又ハ当事者カ登記ノ為メ之ヲ差出シタル時若クハ当事者ノ共諾シタル登記カ其一方ノ申請ニ因リテ行ハレタル時ニ発生ス 契約カ拘束力ヲ生スル前ニ当事者ノ一方カ死亡シ又ハ行為能力ヲ失フモ契約ノ効力ニ影響ヲ及ホサス 第八百二十九条 第八百二十八条ニ掲クル契約ノ有効ナルニハ其法律上ノ原因ヲ指定スルコトヲ要セス当事者カ各別ノ法律上ノ原因ヲ予想シ又ハ双方ノ予想シタル法律上ノ原因カ存在セス若クハ無効ナルモ之ニ因リテ契約ノ効力ヲ除却セス 不当ノ利得ニ本ツク給付ノ返還ニ関スル第七百三十七条乃至第七百四十八条ノ規定ハ本条ノ規定ニ因リテ其適用ヲ妨ケラルルコトナシ 第八百三十条 登記ノ許諾ヲ有効ニ表示スル権ナキ者カ為シタル許諾ハ権利者ノ同意ヲ得テ為シタルトキハ有効トス此許諾カ権利者ニ依リテ追認セラレ又ハ権利者ニ非サル者カ許諾ヲ有効ナラシムルニ必要ナル権利ヲ得若クハ権利者ニ依リテ相続セラレ且限定承認権ノ取消アリタルトキ亦同シ 第八百三十一条 登記ノ申請ヲ登記役場ニ差出シタル後登記ヲ許諾シタル者カ自己ノ為メニ登記済トナリタル権利ヲ処分スルコトニ付テ制限セラルルモ許諾ノ効力ニ影響ヲ及ホサス 第八百三十二条 虚偽ノ法律行為ニ本ツキテ為シタル登記ハ有効トス但当事者双互ノ関係ニ於テ虚偽行為ノ無効ヲ主張スル権ヲ妨ケス 第八百三十三条 登記ノ許諾並ニ其受諾ハ民事訴訟法第七百七十九条第一項ノ規定ニ従ヒ判決ヲ以テ之ヲ補足スルコトヲ得 登記ヲ許諾スヘシトノ判決ヲ仮ニ執行シ得ヘキ場合ニ於テハ権利ノ変更ハ単ニ判決確定ノ条件ニ係ルモノトシテ登記スルコトヲ得又権利ノ変更ヲ条件ニ係ラシムルコトヲ得サルトキハ譲渡禁止ノ登記ヲ為スモノトス 第二項ニ掲クル登記ハ強制執行ノ手続ニ依リ之ヲ為ス 第八百三十四条 第八百二十九条乃至第八百三十三条ノ規定ハ土地所有権ヲ消滅セシメ又ハ其他ノ権利若クハ此権利ニ関スル他ノ権利ヲ放棄スルコトニ付キ登記官吏ノ面前ニ於テ又ハ之ニ対シテ為スヘキ単独ノ意思表示ニ之ヲ準用ス 第八百三十五条 土地所有権ト其他土地ニ関スル権利カ一人ニ集合スルモ之ニ因リテ此権利ハ消滅セス 第八百三十六条 権利者ノ終身ヲ期限トシテ登記シタル権利ノ取得ニ付テハ権利者カ死亡シタルトキハ承継人ノ許諾ヲ要セス 淹滞セル給付ノ請求権カ登記ノ記入ニ因リテ除去セテレサル場合ニ於テハ第一項ノ規定ハ権利者ノ死後一年ヲ経過シ且其間ニ於テ淹滞セル給付ノ請求権ヲ有スル者カ此給付ノ為メ登記ノ取消ニ対スル抗拒ノ登記ヲ登記役場ニ申請セサルトキニ限リ之ヲ適用ス取消抗拒ノ登記ハ此権利ヲ有スル者ノ一方ノ申請ニ因リテ之ヲ為ス 第八百三十七条 法律行為、強制執行又ハ差押ノ方法ニ因リテ土地ニ関スル権利又ハ登記済ノ権利ニ関スル他ノ権利ヲ取得スル場合ニ於テハ取得者ノ為メニ権利取得ノ時ニ於ケル土地台帳ノ記入ヲ以テ正当ト見做ス又特定セル者ノ権利保護ノ為メニ設ケタル法律ノ規定、裁判所ノ処分又ハ法律行為ニ本ツク譲渡禁止ニシテ権利取得ノ時ニ土地台帳ニ依リテ知ルコトヲ得サリシモノハ記入ナキモノト見做ス 前項ノ規定ハ取得者カ権利取得ノ時ニ土地台帳ト法律上ノ実況トノ不合致又ハ譲渡禁止ヲ生セシムル事実ヲ知リタル場合ニ之ヲ適用セス法律行為ノ取消シ得ヘキコトヲ知リタル場合ニ於テ取消ノ行ハレタルトキハ之ニ因リテ生スル法律上ノ効果ヲ知リタルニ同シ 第八百三十八条 権利者ニ対シテ為スヘキ法律行為ヲ土地台帳ニ権利者トシテ登記セラレタル者ニ対シテ之ヲ為シ又ハ此者カ第三者ニ対シテ登記済権利ノ変更ヲ直接ノ目的トスル法律行為ヲ為シ特ニ登記済権利ニ本ツキ権利者ノ請求シ得ヘキ給付カ此者ニ対シテ為サレタルトキハ第八百三十七条ノ規定ヲ準用ス 第八百三十九条 第八百三十七条及ヒ第八百三十八条ノ規定ニ因リ権利ヲ毀損セラレタル者ハ不当ノ処分ヲ加ヘタル者又ハ自己ニ属セサル給付ヲ得タル者ニ対シ其取得シタル利得ノ引渡ヲ請求スルコトヲ得此場合ニ於テ第七百四十八条第三項ノ規定ハ之ヲ適用ス又第九百三十条ノ規定ニ因リ引渡ノ義務ヲ生セシメサル利得ニ関スル請求権ハ之ヲ除外ス 第八百四十条 土地ニ関スル権利ニシテ土地台帳ニ登記スルコトニ因リテ始メテ成立スヘキ数多ノ権利アル場合ニ於テハ日附ニ従ヒ前ニ登記シタル権利ハ条件附帯ノトキト雖モ後ニ登記シタル権利ニ優先ノモノトス同一ノ日附ヲ以テ登記シタル権利ハ同一ノ順位ヲ有ス然レトモ数多ノ権利カ土地台帳ノ同一区劃ニ登記セラレタル場合ニ於テ其間ニ於ケル順位ハ登記ノ列ニ従フ 第一項ノ規定ニ因リテ生スル権利ノ順位ト異ナル順位カ土地台帳ニ登記セラレタルトキハ之ニ依リテ其順位ヲ定ム 第八百四十一条 第八百四十条ノ規定ニ従ヒ土地台帳ヨリ生スル順位ハ其後ニ至リ之ヲ変更スルコトヲ得此場合ニ於テハ土地所有者及ヒ順位ノ変更ヲ受クヘキ権利者並ニ其間ニ於ケル他ノ権利者カ契約ヲ取結ヒ且之ヲ土地台帳ニ登記スルコトヲ要ス第八百二十八条乃至第八百三十三条及ヒ第八百三十七条乃至第八百三十九条ノ規定ハ之ヲ準用ス 第八百四十二条 土地所有者カ権利ノ設定ニ因リテ土地ニ負担ヲ加フルニ当リ前所有者ノ為メニ一定ノ金額ニ対スル抵当権其他ノ権利ヲ以テ土地ニ負担ヲ加ヘ且其権利ヲシテ新ニ設定セントスル権利ニ優先ノモノタラシムル権利ヲ留保スルコトヲ得此留保ハ新ニ設定セントスル権利ヲ登記スル時又ハ留保セラレタル抵当権其他ノ権利ノ優先ナルコトハ此等ノ権利ヲ登記スル時共ニ之ヲ土地台帳ニ登記スルコトヲ要ス但優先ノ登記ハ其以前ニ自己ノ為メニ留保ヲ有セサル権利ヲ登記セラレタル者カ契約ニ依リテ同意ヲ表シタルトキニノミ之ヲ為スコトヲ得 留保ハ強制公売ノ方法ニ依ル土地譲渡ニ因リテ消滅ス 第八百四十三条 土地台帳ノ記入カ法律上ノ実況ニ反スル場合ニ於テハ自己ニ属セサル権利ヲ登記セラレタル者又ハ尚ホ存続セル権利ヲ自已ノ利益ノ為メニ取消サレタル者ハ登記又ハ取消ニ因リテ権利ヲ制限セラレタル者ニ対シ其請求ニ因リテ登記法ノ要スル法式ニ従ヒ法律上ノ実況ニ相当スル登記ヲ許諾スルコトヲ要ス取消ニ付キ所有者ノ申請ヲ要スルトキハ権利者ノ請求ニ因リ所有者ハ取消ヲ申請スル義務ヲ負フ 登記ノ許諾並ニ新登記ニ関スル費用ハ権利者之ヲ負担スヘシ但権利者ト義務者ノ間ニ於ケル法律関係ヨリ之ニ反対ヲ生スルトキハ此限ニ在ラス 第八百四十四条 土地ニ関シテ既ニ成立セル権利ヲ登記シ又ハ既ニ消滅セル権利ノ取消ヲ為シ得ル権利ヲ保持スル為メ土地台帳ニ抗拒ノ登記ヲ為スコトヲ得(予告) 第一項ノ予告ニ因リテ土地台帳ノ正当ナルコトニ対シ抗拒セラルル限ハ第八百三十七条第一項及ヒ第八百三十八条ノ規定ハ之ヲ適用セス 第八百四十五条 予告ノ登記ハ裁判所ノ命令ニ本ツキ之ヲ為ス 抗拒ヲ正当ナラシムル事実ノ疏明アリタルトキハ裁判所ハ予告ノ登記ヲ命スルコトヲ要ス此場合ニ於ケル手続ハ仮処分ノ許可ニ関スル民事訟訴法ノ規定ニ従フ然レトモ抗拒ノ原因タル権利ノ危害ヲ疎明セサルトキト雖モ予告ノ登記ハ之ヲ命ス又裁判所ハ登記官吏ニ対シ予告ノ登記ヲ為スコトヲ求ムヘシ 予告ノ登記ハ又之ヲ対抗セラルヘキ登記済権利ヲ有スル者ノ許諾ニ本ツキ之ヲ為スコトヲ得 第八百四十六条 強制執行、差押又ハ仮処分ノ方法ニ依ル登記ハ法律ニ別段ノ定ナキトキハ登記役場ニ対シ権利ノ直接ノ申請ニ因リテ之ヲ要ス 強制執行差押又ハ仮処分ノ差止カ既ニ執行セル強制手続ヲ廃棄シ又ハ執行判決ニ因リテ差押又ハ仮処分ヲ廃棄スル効力ヲ有スルトキハ登記ノ取消ニ関シ前項ノ規定ヲ適用ス 第八百四十七条 土地ニ関スル権利又ハ此権利ニ関スル他ノ権利ニシテ現ニ登記セラレ又ハ予告ヲ附セラレタルモノニ本ツク権利者又ハ其相続人ノ請求権ハ時効ニ係ルコトナシ此規定ハ損害賠償又ハ定期復帰スヘキ給付ノ淹滞ニ対スル請求権ニ付キ之ヲ適用セス 第四章 所有権 第一節 所有権ノ内容及ヒ限界 第八百四十八条 物ノ所有者ハ他人ヲ除斥シテ随意ニ其物ヲ取扱ヒ又ハ之ヲ処分スル権ヲ有ス但法律ノ規定又ハ第三者ノ権利ニ因リ制限ヲ受クルトキハ此限ニ在ラス 第八百四十九条 土地所有者ノ権利ハ其土地ノ上下ニ及ブ 第八百五十条 土地所有者ハ直接ニ導カレザル瓦斯、蒸気、煙煤、臭気、熱気、振動其他之ニ類似ノモノヽ通過又ハ伝達ニシテ着シク土地ノ通常ノ使用ヲ妨ケス又ハ地方ノ慣習ニ反セサル限ハ其侵入ヲ妨クルコトヲ得ス 第八百五十一条 土地所有者ハ隣地ノ所有者ニ対シ協力ヲ以テ確固タル界標ヲ設ケ又ハ界標カ其位置ヲ変シ若クハ不明トナリタルトキハ其修覆ヲ請求スルコトヲ得 界標設置ノ費用ハ相隣者平分シテ之ヲ負担ス但隣人カ過失ニ因リテ独リ負担ノ責ニ任スヘキトキハ此限ニ在ラス 界標設置ノ手続及ヒ方法ハ聯邦ノ法律若クハ其法律ナキトキハ地方ノ慣習ニ従ツテ之ヲ定ム 第八百五十二条 境界争ノ場合ニ於テ正当ノ界線ヲ証明シ得サルトキハ当事者双方ノ占有ノ状体ニ適スル線ヲ以テ正当ノ境界ト見做ス又此状体ヲ証明シ得サルトキハ双方ノ土地ニ係争地面ノ等分ノ部分ヲ割附スル線ヲ以テ正当ノ境界ト見做ス 第八百五十三条 第八百五十一条及ヒ第八百五十二条ノ規定ニ本ツク請求権ハ時効ニ係ルコトナシ 第八百五十四条 相隣地ノ境界ニ両地ノ利益ニ供スヘキ畔、森林ノ分界設置物、地角、空地、土璧、溝渠、生籬、板壁、籬其他之ニ類以ノ物アルトキハ其使用ニ関シ此等ノ物ハ双方ノ土地ニ属スト見做ス但外見上相隣者一方ノ所有ニ帰スヘキ形跡アルトキハ此限ニ在ラス 相隣者ハ他ノ一方ノ共同使用ヲ妨ケサル限度ニ於テ双方ノ土地ニ属スル設置物ヲ其状況位置及ヒ性質ヨリ生スル目的ニ使用スル権ヲ有ス設置物保存ノ費用ハ相隣者平分シテ之ヲ負担ス又其一方カ設置物ノ存在ニ付キ利益ヲ有スル限ハ此者ノ同意ナクシテ設置物ヲ除去シ又ハ之ヲ変更スルコトヲ得ス其他設置物ニ関スル相隣者間ノ法律関係ニ付テハ共有ノ規定ヲ適用ス 第八百五十五条 境界線上ノ樹木ノ果実ハ相隣者等分ノ共有ニ属ス土地ヲ離レタル樹木ハ又是等分ノ共有物トス 相隣者ノ一方カ他ノ一方ニ対シ樹木除去ノ請求ヲ為スコトヲ得除去ノ費用ハ双方平分シテ之ヲ負担ス然レトモ他ノ一方カ樹木ノ共有権ヲ放棄スルトキハ除去ノ費用ハ之ヲ請求シタル一方ノ負担ニ帰ス此場合ニ於テ樹木ノ所有権ハ樹木カ土地ヲ離レタル時ヨリ除去ノ請求ヲ為シタル者ニ属ス 第八百五十六条 土地所有者ハ土地ノ自然ノ関係ニ本ツキ他ノ土地ヨリ水ノ流レ来ルヲ妨クルコトヲ得ス 前項ノ規定ニ反スル聯邦ノ法律ハ本条ニ因リテ影響ヲ受クルコトナシ 第八百五十七条 土地所有者カ建物ノ築造ニ付キ故意又ハ懈怠ニ因ラスシテ土地ノ境界ヲ越ヘ且隣地ノ所有者カ之ニ対シテ踰越前若クハ踰越後直ニ故障ヲ申述ヘサルトキハ建物ノ存在スル間隣地ノ所有者ニ築造ノ此体ニ於テ建物ヲ存立セシムルコトヲ要ス 建物ノ所有者ハ隣地ノ所有者ニ対シ毎年先払ノ賃借料ヲ以テ補償ヲ為ス義務ヲ負フ 賃借料契約ノ取結ニ付テハ境界踰越ノ時ヲ以テ其標準トス 第八百五十八条 第八百五十七条ニ掲クル賃借料ニ関スル権利ハ隣地ノ各所有者ニ移転シ其支払ノ義務ハ本地ノ各所有者ニ移転ス賃借料ノ権利ハ之ニ先チテ本地カ負担スル総テノ権利ニ優先ノモノトス但賃借料ハ土地台帳ニ登記スルコトヲ要ス又放棄ニ因リテ之ヲ消滅セシムルコトヲ得ス其他定期土地負担ニ関スル規定ハ之ヲ准用ス 賃借料ノ負担ハ建物ノ除去ニ因リテ消滅ス 第八百五十九条 賃借料ノ権利ヲ有スル土地ノ所有者ハ本地ノ所有者ニ対シ賃借料ノ代リニ何時ニテモ建物ノ侵入セル土地ノ部分ヲ譲渡シ且此部分カ界線踰越ノ時ニ有セシ価格ノ補償ヲ請求スルコトヲ得所有権譲渡ノ時ニ至ル迄ノ賃借料ハ引続キ之ヲ支払フコトヲ要ス 第八百六十条 建物ノ製造ニ因リテ隣地ノ上ニ有スル税権又ハ地上権カ制限セラルルトキハ権利者ノ為メニ第八百五十七条及ヒ第八百五十八条ノ規定ヲ准用ス 第八百六十一条 或土地ノ樹木又ハ潅木ノ枝根カ隣地ニ侵入スルトキハ隣地ノ所有者ハ他ノ土地ノ所有者ニ対シ枝根ノ伐除ヲ請求スルコトヲ得樹木又ハ潅木ノ在ル土地ノ所持者カ此請求ヲ受ケタル後三日内ニ伐除セサルトキハ隣地ノ所有者ハ侵入セル枝根ヲ伐採シ且補償ヲ要セスシテ之ヲ所有スルコトヲ得 第八百六十二条 樹木ヲ離レテ隣地ニ落チタル果実ハ隣地ノ樹木ヲ離レタル果実ト見做ス 第八百六十三条 或土地ト公路トノ間ニ従来此土地ノ通常ノ使用ニ必要ナル通路ノ欠クル場合ニ於テ此状体カ土地所有者又ハ其先主ノ故意若クハ懈怠ニ因リテ生ジタルニ非サルトキハ隣地ノ所有者ハ此状体ノ継続スル間必要ナル通路ヲ設クルコトニ付テ自己ノ土地ノ使用ヲ許スコトヲ要ス通路ノ方向及ヒ其使用ノ範囲ハ裁判所ノ随意ノ認定ニ依リテ之ヲ定ム又通路ヲ要スル土地ノ所有者ハ之ヲ供スル義務ヲ負フ隣地ノ所有者ニ対シ毎年先払ヲ以テ賃借料ヲ支払フコトヲ要ス其他第八百五十八条及ヒ第八百六十条ノ規定ハ之ヲ准用ス 第八百六十四条 建設物ノ使用カ黙許スベカラサル侵害ヲ隣地ニ及ホストキハ之ヲ設置シ又ハ保持スルコトヲ得ス 第八百六十五条 隣地ノ近傍ニ於テ其土地ニ必要ナル支持ヲ奪フコトヲ予見シ得ヘキ発堀ヲ自己ノ土地ニ加フルコトヲ得ス但隣地ノ支持ニ付キ他ニ十分ノ注意ヲ加フルトキハ此限ニ在ラス 第八百六十六条 土地所有権ヲ隣地ノ所有者ノ為ニ本法ノ規定以外ノ制限ニ服セシムル聯邦ノ法律ハ本法ニ因リテ影響ヲ受クルコトナシ 第八百六十七条 他人ノ動産カ自己ノ土地ノ上ニ在ル場合ニ於テハ土地所有者ハ此物ノ所有者又ハ前所持者ニ対シ物ノ捜索及ビ引取ニ必要ナル行為ヲ認許スルコトヲ要ス 前項ノ場合ニ於テ動産ノ所有者又ハ前所持者ハ土地所有者ニ対シ物ノ捜索及ビ引取ニ因リテ生ズル損害ヲ賠償シ又ハ損害ヲ生ズル虞アルトキハ其補償ノ予メ担保ヲ供スルコトヲ要ス 第二節 土地所有権ノ取得 第一款 法律行為ニ本ツク譲渡 第八百六十八条 第八百十八条ノ規定ニ従ヒ土地所有権ノ譲渡ニ必要ナル契約(明渡)ハ土地台帳取扱吏ノ前ニ於テ之ヲ取結フコトヲ要ス 第八百六十九条 登記済所有者カ死亡シタルトキハ明渡ニ付キ其相続人ヲ所有者トシテ予メ登記スルコトヲ要セス 第八百七十条 停止条件又ハ起発期限附帯ノ明渡ハ無効トス 第八百七十一条 解除条件又ハ終止期限附帯ニテ明渡サレタル場合ニ於テ取得者ヲ所有者トシテ登記スルトキ職権ヲ以テ同時ニ譲渡人ノ復帰権ヲ土地台帳ニ登記スルコトヲ要ス 前項ノ条件又ハ期限成就前ニ於テ所有者ハ土地ヲ譲渡シ又ハ之ニ負担ヲ加フルコトヲ得但復帰権利者ノ権利ヲ妨クルコトヲ得ス又対人請求権若クハ解除条件又ハ終止期限ノ成就ニ因リテ無効トナルヘキ権利ニ本ツキ土地ノ強制公売ヲ為スコトヲ得ス 第一項ニ掲クル復帰権ヲ譲渡シ又ハ之ニ負担ヲ加フルコトヲ得ス 解除条件又ハ終止期限カ成就スルトキハ土地所有権ハ復帰権利者ニ移転ス現在ノ所有者トシテ復帰権利者ヲ登記シ又ハ無効ト為リタル第三者ノ権利取消ノ登記ニ関シテハ第八百四十三条ノ規定ヲ適用ス 第八百七十二条 登記済所有者カ土地台帳取扱吏ノ前ニ於テ土地所有権ヲ放棄スル旨ヲ表示スルトキハ土地台帳ニ此表示ヲ登記スルコトニ因リテ所有権消滅ス 前項ノ所有権ハ聯邦ノ法律ニ従ヒ先占ノ権アル者カ其申請ニ依リ所有者トシテ土地台帳ニ登記ヲ受クルコトニ因リテ之ヲ取得ス 所有者ノ権利カ第一項ノ規定ニ因リテ消滅スルモ先占所有者カ之ヲ取得セサル間ハ土地ニ関スル権利ヲ裁判所ニ於テ主張セントスル者ノ申立ニ依リ裁判長ハ所有者ノ登記アル迄此所有権ニ本ツク権利義務ヲ保管スヘキ代理人ヲ仮定スルコトヲ要ス強制執行ノ手続ニ付テハ此代理人ハ執行裁判所之ヲ仮定ス代理ノ費用ハ申立人ノ負担ニ帰ス但損害賠償ノ請求権ヲ妨ケス 第二款 先占及ヒ公示催告 第八百七十三条 登記済土地所有者カ死亡シタル後三十年ヲ経テ其土地ノ占有ヲ取得シタル者ハ土地所在地ノ管轄裁判所ニ於テ所有者ヲ除斥スル目的ヲ以テ公示催告手続ヲ申請スルコトヲ得 三十年間占有ノ計算ニ付テハ動産ノ取得時効ニ必要ナル占有期間ノ計算ニ関スル規定ヲ準用ス 第一項ノ申請ヲ成立セシムルニハ申立人ハ登記済所有者ノ死亡証明書又ハ此者ノ死亡ヲ宣告シタル判決ノ謄本ヲ差出シ其他第一項ノ規定ニ依リテ必要ナル事実ヲ疏明スルコトヲ要ス公示催告ニハ所有者カ除斥ヲ免ル為メ自己ノ権利ヲ通知スヘキ旨ヲ記載ス 申立人ハ所有者除斥ノ判決アリタル後土地台帳ニ於テ所有者トシテ登記スルコトニ因リテ所有権ヲ取得ス 除斥ノ判決ハ其言渡前ニ所有者トシテ登記又ハ予告セラレタル第三者ニ対シテ効力ヲ生セス 第三節 動産所有権ノ取得 第一款 法律行為ニ因ル譲渡 第八百七十四条 法律行為ニ因ル動産所有権ノ譲渡ニ付テハ所有者ト取得者トノ間ニ於テ其物ヲ引渡シ且所有権カ取得者ニ移転スヘキ当事者双方ノ意思表示ヲ包含スル契約ヲ取結ブコトヲ要ス又第八百二十九条ノ規定ハ之ヲ准用ス 譲渡所有者カ物ノ占有者ニ非スシテ所持者ナルトキハ取得者ニ所持ヲ明渡シ且此者カ占有ヲ取得スルコトニ依リテ引渡ニ代フ 取得者カ契約取結ノ時既ニ物ヲ占有セルトキハ引渡ヲ要セス 第八百七十五条 第八百七十四条ノ規定ニ従ヒ所有権譲渡ニ必要ナル所有者ノ意思表示カ判決ニ依リテ補足セラルルトキハ物ノ引渡ハ執達吏カ取得者ニ其物ヲ引渡ス為メ強制執行ノ方法ニ依リテ之ヲ取上ケタル時ニ為サレタルモノトス 第八百七十六条 所有権ヲ有セサル者カ物ヲ譲渡シタル場合ニ於テ此譲渡カ所有者ノ同意ニ本ツクトキハ有効トス 前項ノ場合ニ於テ所有者カ譲渡ヲ追認シ又ハ譲渡人カ所有権ヲ取得シ若クハ譲渡人カ所有者ニ依リテ相続セラレ且限定承認権ノ消滅シタルトキ亦同シ此終リノ両場合ニ於テ物カ順次数人ニ譲渡サレタルトキハ最初ノ譲渡ヲ以テ有効トス 第八百七十七条 取得者カ物ヲ取得スル時譲渡人カ其物ノ所有者ニ非サル状況ヲ知ラス且其不知カ重懈怠ニ本ツカサルトキハ取得者ハ第八百七十四条ニ掲クル契約ニ因リテ所有権ヲ取得ス法律行為ノ取消シ得ヘキコトヲ知リ又ハ其不知カ重懈怠ニ本ツク場合ニ於テ法律行為ノ取消アルトキハ取消ニ因リテ生スル法律上ノ効果ヲ知リ又ハ重懈怠ニ因リテ之ヲ知ラサルニ同シ 第八百七十八条 取得者カ所有権ヲ取得スルトキハ其物ニ関シテ既ニ成立セル他ノ権利ハ総テ消滅ス但取得者カ取得ノ時此等ノ権利ヲ知リ又ハ重懈怠ニ因リテ之ヲ知ラサリシトキハ此限ニ非ラズ又第八百七十七条第二段ノ規定ハ之ヲ准用ス 第八百七十九条 第八百七十四条第三項ノ規定ニ依リテ物ノ引渡ナクシテ之ヲ取得シ又第八百〇五条ノ規定ニ従ヒ其引渡アリタル場合ニハ第八百七十七条及ヒ第八百七十八条ノ規定ヲ適用セス譲渡サレタル物カ窃取、遺失其他ノ方法ヲ以テ所有者又ハ之ニ代リテ所持スル者ノ意思ニ因ラスシテ其所持ヲ離レタルトキ亦同シ但金銭若クハ無記名証券カ譲渡サレ又ハ其他ノ物カ管轄権ヲ有スル執達吏、競売権ヲ有スル其他ノ官吏(職業条例第三十六条)若クハ公任競売者ニ依リテ競売ノ方法ヲ以テ譲渡サレタルトキハ此限ニ在ラス 第八百八十条 第八百七十七条乃至第八百七十九条ノ規定ニ従ヒ権利ヲ喪失シタル者ハ不当ニ物ヲ処分シタル者ニ対シ之ニ因リテ取得シタル利得ノ引渡ヲ要求スルコトヲ得又第七百四十八条第三項ノ規定ハ之ヲ適用ス 第二款 取得時効 第八百八十一条 十年間動産ヲ占有シタル者ハ之ニ因リテ其所有権ヲ取得ス(取得時効) 占有者カ占有取得ノ時ニ所有権ヲ取得セサルコトヲ知リ又ハ重懈怠ニ因リテ之ヲ知ラサリシトキハ取得時効ヲ生セス又第八百七十七条第二項ノ規定ハ之ヲ准用ス 第八百八十二条 第三者カ権利承継ニ因リテ物ノ占有ヲ取得シタルトキハ被承継人ノ占有ノ間ニ経過シタル時間ハ之ヲ取得時効ノ期間ニ算入ス 被相続人ノ時ニ始マリタル取得時効ニ付テハ此者ノ死亡ヨリ相続人カ物ノ占有ヲ取得スルニ至ル迄ノ時間ハ之ヲ時効ノ期間ニ算入ス 第八百八十三条 或期間ノ始終ニ於テ物ヲ占有セシコトカ証明セラルルトキハ其中間ニ於ケル占有ノ継続ハ之ヲ推定ス 第八百八十四条 所有権請求ノ時効カ停止セラルルトキハ取得時効ハ進行スルコトヲ得ス又既ニ進行ヲ始メタル時効ハ停止ス 第八百八十五条 取得時効ハ占有ノ喪失ニ因リテ中断ス又占有者死亡ノ場合ニ於テ他人カ其相続人トシテ占有ヲ取得スルコトニ因リテ中断ス 第一項ノ規定ニ依リ取得時効ノ中断後占有者カ占有ヲ回復シタル場合ニ於テ新ニ進行ヲ始ムル取得時効ニ付テハ中断ニ至ル迄経過シタル時間ハ之ヲ時効期間ニ算入セス 占有者カ自己ノ意思ニ因ラスシテ占有ヲ失ヒタル場合ニ於テ一年ノ期間内ニ之ヲ回復シ又ハ物ノ引渡ニ付テ同一ノ期間内ニ起訴シ且之ニ因リテ占有ヲ回復シタルトキハ取得時効ハ中断セスト見做ス右ノ場合ニ於テ占有喪失ヨリ其回復ニ至ル迄ノ時間ハ之ヲ取得時効ノ期間ニ算入セス 第八百八十六条 占有者又ハ第八百八十二条第二項ノ場合ニ於テ相続人カ取得時効ノ経過前ニ物ノ所有権カ自己ニ属セサルコトヲ知リタルトキハ取得時効ノ中断ヲ生シ且此者ノ為ニ取得時効ハ新ニ進行セス 第八百八十七条 或者カ占有者ニ対シ所有権請求ヲ裁判上ニ主張スルトキハ取得時効ハ中断ス此場合ニ於テ中断ノ効力ハ中断ヲ生セシメタル者ノ為メニノミ発生ス又第百七十条第百七十一条第百七十三条第百七十四条及ヒ第百七十八条乃至第百八十条ノ規定ハ之ヲ准用ス 第八百八十八条 相続人ト誤信シテ遺産ノ占有ヲ取得シタル者ハ真ノ相続人ニ対シ取得時効ニ因リテ其物ヲ取得スルコトヲ得ス 第八百八十九条 取得時効ニ本ツク所有権ノ取得ト共ニ占有取得前ニ其物ニ関シテ成立セル第三者ノ権利ハ総テ消滅ス但占有者カ占有取得ノ時ニ此権利ヲ知リ又ハ重懈怠ニ因リテ之ヲ知ラサリシトキハ此限ニ在ラス又第八百八十四条乃至第八百八十七条ノ規定ハ之ヲ准用ス 第三款 添附、混同、製作 第八百九十条 動産カ土地ニ附合スルコトニ因リテ土地ノ主要部分ト為ルトキハ其所有権ハ土地所有者ニ移転ス 第八百九十一条 動産カ相互附合シテ之ニ因リテ生シタル物ノ主要部分ト為リタルトキハ各動産ノ所有者ハ附合ノ時ニ自己ノ動産カ有シタル価格ノ割合ニ従ヒ新ニ生シタル物ノ共有者ト為ル 一方ノ動産カ他ノ動産トノ関係ニ於テ主物ト認ムヘキトキハ主物ノ所有者ハ附合ニ因リテ生シタル物ノ所有権ヲ取得ス 第八百九十二条 動産カ相互混同シテ分ツコトヲ得サルトキハ第八百九十一条ノ規定ヲ准用ス 混同シタル物ヲ分ツコトカ過分ノ費用ヲ要スル場合ニハ此物カ分ツコトヲ得サルモノト見做ス 第八百九十三条 一個又ハ数個ノ物ノ製作又ハ変形ニ因リテ新ニ動産ヲ作リタル者ハ此物ノ所有権ヲ取得ス 第八百九十四条 物ノ表面ノミニ加ヘタル製作カ其物ヲ改良又ハ荘飾スルノミナラス印刷、絵画、彩色、渡金其他之ニ類似ノ製作ニ因リテ原料ノ価格ヲ超過スル価格ヲ其物ニ加フルトキハ第八百九十三条ノ意義ニ依リテ新ナル物ヲ作リタルモノト見做ス 第八百九十五条 第八百九十条乃至第八百九十四条ノ規定ニ従ヒ一方ノ動産ノ所有権カ消滅スルトキハ此物ニ関シテ既ニ成立セル総テノ権利モ共ニ消滅ス 第八百九十条乃至八百九十二条ノ規定ニ従ヒ一方ノ動産ノ所有権カ他ノ動産ノ所有者ニ移転スルトキハ第二ノ動産ニ関シテ既ニ成立セル総テノ権利ハ第一ノ動産ニ及フ 第八百九十一条乃至第八百九十二条ノ規定ニ従ヒ共有権ヲ生スルトキハ各動産ニ関シ既ニ成立セシ権利ハ此物ニ代リテ生シタル共有部分ニ関シテ存立ス 第八百九十六条 第八百九十条乃至第八百九十四条ノ規定ニ従ヒ物ノ所有権ヲ取得スヘキ者カ既ニ此物又ハ其原科ノ所有者ナルトキハ第八百五十五条ノ規定ヲ準用ス 第八百九十七条 第八百九十条乃至第八百九十六条ノ規定ニ従ヒ損害ヲ被リタル者ハ之ニ因リテ利得ヲ得タル者ニ対シ利得ノ引渡ヲ請求スルコトヲ得又第七百四十八条第三項ノ規定ハ之ヲ適用ス 第四款 物ノ産出物及ビ之ニ類似セル成分ノ所有権取得 第八百九十八条 物ノ成分殊ニ其産出物ハ分離ノ後ト雖モ其物ノ所有者ニ属ス但第八百九十九条乃至第九百〇二条ノ規定ニ従ヒ分離ニ因リテ他人カ所有権ヲ取得スルトキハ此限ニ在ラス 第八百九十九条 他人ノ物ノ上ニ有スル権利ニ本ヅキ其物ノ産出物ノ全部若クハ一部又ハ他ノ成分ヲ所有スベキ権アル者ハ自己ノ権利ニ属スル物カ主物ト分離シタル時ニ其所有権ヲ取得ス 第九百条 他人ノ物ノ占有者ハ第七百九十二条第一号ニ掲ケタル果実カ主物ト分離シタル時ニ其所有権ヲ取得ス但左ノ場合ニ於テハ本条ノ規定ヲ適用セス 一、 占有者カ分離ノ時ニ其物ヲ占有スル権ナキコトヲ知リ又ハ他人カ其物ノ上ニ有スル権利ニ本ツキ果実ヲ取得スル権ヲ有スルコトヲ知リタルトキ 二、 占有者カ懈怠其他所罰ヲ受クヘキ行為ニ依リテ占有ヲ取得シタルトキ 三、 所有者以外ノ者カ物ノ果実ヲ取得スヘキ権利ニ本ツキ禁止セラレタル私力ヲ用ユルコトナクシテ果実ヲ分離セシメタルトキ 第九百〇一条 所有者カ分離ノ後自己ニ属スヘキ産出物其他ノ成分ヲ取得スヘキコトヲ他人ニ許シタル場合ニ於テハ此者カ産出物又ハ其他ノ成分ヲ握取スルコトニ依リテ其所有権ヲ取得ス 所有者カ物ノ果実又ハ其他ノ成分ヲ取得セシムル為メ其物ヲ他人ニ所持セシメタル場合ニ於テ此者カ所持ヲ継続スル間ハ果実又ハ其他ノ成分ヲ主物ヨリ分離シタル時ニ其所有権ヲ取得ス又他人カ所持ヲ継続スル間ニ於テ所有者カ表示シタル取得許可ノ取消ハ取得ヲ許スヘキ義務ノ存スル間ハ無効トス 第九百〇二条 第八百九十九条又ハ第九百〇一条第二項ノ規定ニ依リテ或物カ主物ヨリ分離シタル時ニ其所有権ヲ取得スヘキ者カ他人ニ対シ此物ヲ取得スヘキコトヲ許シタル場合ニ於テハ第九百〇一条ノ規定ヲ准用ス 第五款 先占 第九百〇三条 無主ノ動産ヲ占有シタル者ハ其物ノ所有権ヲ取得ス(先占) 先占カ法律上禁止セラレ又ハ他人ノ先占権カ害セラレタルトキハ所有権ヲ取得スルコトヲ得ス 第九百〇四条 動産ノ所有者カ其所持ヲ放棄スルニ当リ之ヲ他人ニ引渡スコトナク且所有権ヲ放棄スルコトヲ表示シタルトキハ此物ヲ無主物トス 第九百〇五条 野獣カ自然ノ自由ニ在ル間ハ無主物トス然レトモ飼畜場ニ於ケル野獣及ヒ池其他取囲マレタル私有ノ水中ニ於ケル魚類ハ無主物ニアラス 捕獲セラレタル野獣カ再ヒ自然ノ自由ヲ得タルトキハ無主物トス 飼馴サレタル動物カ自己ノ為メニ定メラレタル場所ニ帰リ来ルヘキ慣習ヲ失ヒタルトキハ無主物トス 第九百〇六条 群ヲ為シテ他ニ移転シタル蜜蜂ノ所有者カ直ニ之レヲ追求セス又ハ其追求ヲ止メ若クハ其所在ヲ失ヒタルトキハ無主物トス 第九百〇七条 他ニ移転シタル蜂群ノ所有者ハ之ヲ追求スル為メ他人ノ土地ニ立入リ且其群カ止マリタル処ニ於テ之ヲ捕フルコトヲ得 蜂群カ未タ他ノ蜜蜂ニ依リテ占有セラレサル他人ノ蜂室ニ入リタルトキハ之ヲ追求セル所有者ハ捕獲ノ為メ蜂室ヲ開カシメ又ハ窩房ヲ引出シ若クハ之ヲ毀出スコトヲ得 本条ノ場合ニ於テハ第八百六十七条ノ規定ヲ適用ス 第九百〇八条 所有者ヲ異ニスル数多ノ蜂群カ他ニ移転シテ一処ニ混合スルトキハ蜂群ヲ追求シタル所有者ハ捕獲シタル総テノ蜂群ニ付テ割合ニ従ヒ共有権ヲ取得ス共有部分ハ追求セラレタル蜂群ノ数ニ依リテ之ヲ定ム 第九百〇九条 蜂群カ既ニ他ノ蜜蜂ニ依リテ占有セラレタル他人ノ蜂室ニ入リタルトキハ蜂室ヲ占有セシ蜜蜂ニ関スル所有権其他ノ権利ハ入リ来リタル蜜蜂ノ上ニ及フ又此蜜蜂ニ関シテ既ニ成立セル所有権其他ノ権利ハ消滅ス但前権利者ハ新所有者ニ対シ不当利得ニ本ツク請求権ヲ有ス 第六款 発見物 第九百十条 遺失物又ハ其他所有者ノ手ヲ離レタル物ヲ発見シ之ヲ所持スル者ハ遅滞ナク遺失者又ハ所有者ニ此旨ヲ通知スルコトヲ要ス 発見者ハ遺失者、所有者又ハ此等ノ者ノ居所ヲ知ラサルトキハ遅滞ナク発見セシコト並ニ遺失者又ハ所有者ヲ求ムルコトニ付キ自己ノ知得セル総テノ事情ヲ警察署ニ届出ツルコトヲ要ス 発見地ノ警察署ハ其時ノ事情及ヒ発見物ノ価格ニ相当スル方法ニ依リテ発見ヲ公告スヘシ 第九百十一条 発見者ハ発見物ノ保管ニ注意スルコトヲ要ス 物カ腐敗スル虞アルトキ又ハ其保管カ過分ノ費用ヲ要スルトキハ発見者ハ発見ヲ警察署ニ届出タル後管轄裁判所ノ執達吏又ハ公売権ヲ有スル其他ノ官吏若クハ公任競売者(営業条例第三十六条)ニ依リテ発見物ヲ公売セシムルコトヲ要ス 第九百十二条 発見者ハ警察署ノ命令ニ依リ発見物ヲ差出シ又ハ之ヲ売却シタル場合ニ於テハ其代価ヲ差出スコトヲ要ス又警察署ノ命令ナキモ発見者ハ差出ノ権利ヲ有ス 発見者カ発見物又ハ其代価ヲ警察署ニ差出シタルトキハ爾後自己ノ義務ヲ免ル 第九百十三条 発見物カ第九百十一条第二項ノ場合ニ於テ又ハ警察署ノ命令ニ依リテ公売セラルルトキハ此物ニ関スル法律関係ハ其代価ニ移ルモノトス 第九百十四条 発見者カ発見物ノ引渡ニ付キ之受取ルヘキ権利者ニ対シ左ノ請求ヲ為スコトヲ得 一、 物ノ保管ノ為メ又ハ遺失者若クハ所有者ヲ求ムル為メニ要シタル費用ノ賠償但整正タル家父ノ注意ニ依リテ必要ト認ムヘキ費用ヲ以テ其限度トス 二、 発見ノ報酬 発見ノ報酬ハ発見物ノ価格カ三百マルク以下ノトキハ其百分ノ五トシ三百マルク以上ノトキハ其百分ノ一トス報酬計算ノ場合ニ於テ発見物ヲ受取ルヘキ権利者カ賠償スヘキ費用ハ発見物ノ価格ヨリ扣除ス又其物カ遺失者又ハ所有者ニ対シテノミ価格ヲ有スルトキハ裁判所ハ随意ノ計算ニ依リテ発見ノ報酬ヲ定ム 発見者カ第九百十条ニ掲ケタル届出ノ義務ヲ怠リタルトキハ報酬請求ノ権ヲ失フ 第九百十五条 発見者ハ第九百十五条ニ掲ケタル請求権ニ本ツキ其弁済ニ至ル迄発見物ヲ留置スル権ヲ有ス発見者カ発見物ノ引渡ニ当リ受取者ニ対シ右請求権ヲ留保スル旨ヲ表示スルトキハ之ニ因リテ受取人ハ対人ノ義務ヲ負フ此場合ニ於テ請求権ノ留保ニ付キ其範囲ヲ指定スルコトヲ要セス 第九百十六条 第九百十四条ニ掲ケタル発見者ノ権利ハ発見物ヲ警察署ニ差出スコトニ因リテ影響ヲ受クルコトナシ警察署ハ発見者ノ同意アリタルトキニノミ発見物ヲ受取ルヘキ権利者ニ之ヲ引渡スコトヲ得 第九百十七条 発見物ノ保管ノ為メ又ハ遺失者若クハ所有者捜索ノ為メニ要シタル費用ノ賠償ニ付テハ第九百十四条及ヒ第九百十五条ノ規定ヲ准用ス 第九百十八条 発見物引渡ノ請求ヲ警察署ニ願出ザル場合ニ於テハ之ニ付テ警察署ハ発見届出後一年ヲ経過シタルトキハ発見者ノ申請ニ依リ証明書ヲ下附スルコトヲ要ス 警察署ハ特別ノ原因アルトキハ発見届出ノ後三年ヲ経過スル迄証明書ノ下附ヲ延ハスコトヲ得 警察署ノ証明書ノ下附ニ依リテ発見者ハ発見物ノ所有権ヲ取得シ又此物ニ関シテ既ニ成立セル総テノ権利ハ消滅ス 第九百十九条 発見物引渡ノ願出アルトキハ警察署ハ第九百十八条第一項及ヒ第二項ニ掲ケタル期間ノ経過後ニ於テ発見者ノ申請ニ依リ右願出ノ請求外ニ他ノ請求ノ願出ナキ旨ノ証明書ヲ下附スルコトヲ要ス此場合ニ於テハ願出タル請求権ヲ留保シテ第九百十五条第二項ニ掲ケタル証明書下附ノ効力ヲ生ス 発見物ヲ受取ルヘキ権利者カ発見者ニ警察署ノ証明書カ下附セラレタル後ニ於テ此者ノ有スル請求ヲ弁済スル代ハリニ発見物ノ引取ヲ拒ムトキハ自己ニ属スル権利ハ消滅ス 第九百二十条 発見者カ第九百十条ニ掲ケタル届出ノ義務ヲ怠リタルトキハ警察署ノ証明書下附ハ第九百十八条第三項及ヒ第九百十九条第一項ニ掲ケタル効力ヲ生セス又発見者カ既ニ知リタル権利ハ証明書ノ下附ニ依リテ影響ヲ受クルコトナシ 第九百二十一条 発見物ノ価格カ三マルクヲ越ヘサルトキハ発見者ハ警察署ニ届出ツルコトナク且公告ヲ要セスシテ発見ノ時ヨリ一年ノ経過ニ因リテ其物ノ所有権ヲ取得ス 発見者ハ一年ノ期間内ニ於テ発見物ノ捜索ニ対シ之ヲ隠秘シタルトキハ其物ノ所有権ヲ取得スルコトヲ得ス又報酬請求ノ権ヲ有セス 第九百二十二条 第九百十八条乃至第九百二十一条ノ規定ニ依リテ発見物ノ所有権ヲ取得シタル発見者ハ之ニ因リテ得タル利得ヲ第七百四十八条ノ規定ニ従ヒ引渡スヘキ義務ヲ負フ利得引渡ノ請求権ハ第九百十九条第二項ノ規定ニ依リテ自己ノ権利カ消滅シタル者ニ属ス 利得引渡ノ請求権ハ発見物ノ所有権ヲ取得シタル後三年内ニ権利拘束ノ生セサルトキハ消滅ス 第九百二十三条 発見者カ発見物ノ所有権ヲ取得スル権ヲ放棄スル旨ヲ警察署ニ表示シ又ハ警察署カ指定セル期間内ニ第九百十八条第一項及ヒ第九百十九条第一項ニ掲ケタル証明書ノ下附ヲ申請セサルトキハ所有権取得ノ権利ハ発見地ノ団体ニ移転ス 第九百二十二条ノ規定ハ本条ノ場合ニ之ヲ適用ス 第九百二十四条 営業場ニ於テ又ハ官庁若クハ公設交通局ノ運送具ニ於テ発見シタル物ニ関シテハ第九百十条乃至第九百十三条ノ規定ヲ適用セス 前項ノ発見物ハ拾得者ヨリ遅滞ナク官庁又ハ公設交通局若クハ其役員ニ之ヲ差出スコトヲ要ス 第九百二十五条 官庁又ハ交通局ハ発見ヲ公告シ旦其公告ニ於テ発見物ヲ受取ルヘキ権利者ニ対シ自己ノ権利ヲ届出ツル為メニ指定シタル期間カ経過シタルトキハ第九百二十四条ノ規定ニ依リテ差出サレタル物ヲ公売セシムルコトヲ得発見物カ腐敗スル虞アルトキ又ハ其保存カ過分ノ費用ヲ要スルトキハ公告前ト雖モ公売セシムルコトヲ得 公告ノ方法ハ官庁若クハ交通局カ帝国ニ属スルトキハ聯邦議会ヨリ発布スル規定ニ従ヒ其他ノ場合ニ於テハ官庁若クハ交通局所属ノ聯邦政府ヨリ発布スル規定ニ従フ 第九百二十六条 第九百二十四条ノ規定ニ従ヒ差出サレタル物ノ公売代価ハ官庁若クハ公通局カ独逸帝国ノ官庁若クハ交通局ナルトキハ国庫ニ帰属シ聯邦ノ官庁若クハ交通局ナルトキハ聯邦ノ国庫ニ帰属シ団体ノ官庁若クハ交通局ナルトキハ団体ニ帰属シ又交通所カ私人ノ営業ニ係ルトキハ此者ニ帰属ス 発見物公売ノ代価ハ之ヲ受取ルヘキ権利者カ公告ニ於テ指定シタル届出期間ノ経過後三年内ニ届出タルトキハ費用ヲ控除シテ之ヲ支払フコトヲ要ス 第九百二十七条 第九百二十五条及ビ第九百二十六条ノ規定ハ官庁ノ所持ニ帰シタル物ニ関シ又ハ之ヲ受取ルヘキ権利者若クハ其居所カ知レサル物ニ関シ契約上ノ義務カ存立セサル限リハ之ヲ准用ス 第九百二十八条 埋没伏蔵又ハ墻壁中ニ包蔵セラレタル物カ発見セラレ且埋蔵時日ノ永久ナルニ因リテ其所有者ヲ求ムルコトヲ得サルトキハ(埋蔵物)発見者ノ握取ニ因リテ其物ノ所有権ノ一半ハ発見者ニ他ノ一半ハ埋蔵物ノ存在セシ物ノ所有者ニ移転ス 第四節 所有権ニ本ツク請求権 第九百二十九条 所有者ハ占有者ニ対シ物ノ引渡ヲ請求スル権ヲ有ス物ノ所持者ニ対シテモ亦同シ 第九百三十条 他人ノ物ノ占有者又ハ之ニ代ハリテ其物ヲ所持スル者ハ所有者ニ対シ物ノ利得ヲ引渡シ又ハ滅失毀損其他ノ原因ニ由リテ所有者カ被リタル損害ヲ賠償スル義務ヲ負フコトナシ但第九百三十一条乃至第九百三十五条ノ規定ニ依リテ之ニ反対ヲ生スルトキハ此限ニ在ラス 第九百三十一条 占有者カ占有スル権ナキコトヲ知リタルトキハ所有者ニ対シ爾後其収入シタル利得ヲ引渡シ旦自己ノ過失又ハ懈怠ニ本ツキテ物又ハ其指定セラレタル使用滅ノ失毀損ニ因リ若クハ収入シ得ヘカリシ利得ヲ収入セサリシコトニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スルコトヲ要ス 占有者カ懈怠ニ本ツクトキト雖モ所罰ヲ受クヘキ行為ニ因リテ占有ヲ取得シタル場合ニ於テハ第一項ノ規定ハ占有取得ノ時ヨリ之ヲ適用ス 第九百三十二条 他人カ占有者ニ代ハリテ物ヲ所持スル場合ニ於テ所持者並ニ占有者カ占有者ニ占有スル権ナキコトヲ知ルトキハ所持者モ亦第九百三十一条第一項ニ掲ケタル義務ヲ負フ所持者カ占有者ハ懈怠ニ本ツクトキト雖モ所罰ヲ受クヘキ行為ニ因リテ占有ヲ取得シタルコトヲ知ルトキ亦同シ 第九百三十二条 所持者カ占有者ニ占有スル権ナキコトヲ知リ占有者カ之ヲ知ラサル場合ニ於テハ所持者ハ第九百三十一条第一項ノ規定ニ従ヒ自巳ノ過失又ハ懈怠ニ本ツク物ノ滅失毀損ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スル義務ヲ負フ 第九百三十三条 第九百三十一条第一項ノ規定ハ占有スヘキ権利ノ欠缺ヲ知ラサリシ占有者ニ対シ又第九百三十二条ノ規定ハ之ト同様ノ所持者ニ対シ所有権ニ本ツク請求カ権利拘束ヲ生シタル時ヨリ後ニ収入シタル利得又ハ此時ヨリ後ニ生シタル損害ニ関シ之ヲ適用ス 第九百三十四条 占有者又ハ所持者カ第二百四十五条及ヒ第二百四十六条ノ規定ニ従ヒ遅滞ニ附セラレタル時ヨリ負担スヘキ義務ハ第二百四十七条乃至第二百五十三条ノ規定ニ依リテ之ヲ定ム 第九百三十五条 占有者又ハ所持者カ所罰ヲ受クヘキ行為ニ依リ又ハ故意ニ本ツク不法行為ニ依リテ占有又ハ所持ヲ取得シタル場合ニ於テ損害賠償ノ責任ハ不法行為ニ本ツク責任ニ関スル規定ニ従フテ之ヲ定ム 第九百三十六条 占有者又ハ所持者ハ所有者ニ対シ目的物ニ加ヘタル費用ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得但所有者カ物ヲ回復スルトキハ占有者又ハ所持者ノ財産ヲ以テ其物ニ加ヘタル費用ニ因リテ取得スヘキ利益ヲ越ユルコトヲ得ス 前項ノ場合ニ於テ占有者又ハ所持者カ収取シタル純利得ハ賠償額ヨリ之ヲ控除ス但第九百三十条ノ規定ニ依リテ利得ヲ引渡スヘキ義務ノ存スルトキハ此限ニ在ラス 目的物ニ加ヘタル費用ハ引渡スヘキ物ト其重要ナル成分トシテ他ノ物トヲ附合セシメタルコトニ存シ且所有者ヨリ少クモ此物カ分離後ニ有スヘキ価格ノ賠償ヲ得サルトキハ占有者又ハ所持者ハ之ヲ取去ルヘキ権ヲ有ス此場合ニ於テハ引渡スヘキ物ヲ自費ヲ以テ元状ニ回復セシムルコトヲ要ス 第九百三十七条 占有者ノ権利承継人ト為リタル占有者ハ所有者ニ対シ前主カ目的物ヲ引渡サヾルヘカラサルトキ其加ヘタル費用ノ賠償ヲ請求シ得ルト同一ノ範囲ニ於テ賠償ヲ請求スルコトヲ得 第九百三十八条 第九百三十六条及ヒ第九百三十七条ノ規定ニ依リテ占有者又ハ所持者ニ属スル請求権ハ所有者カ目的物ヲ回復シタルコトヲ以テ其条件トス 占有者又ハ所持者ハ前項ノ請求権ニ本ツキ目的物ニ付テ留置権ヲ有ス 物ノ引渡ト同時又ハ其前ニ費用賠償ノ請求権ヲ表示スルコトナクシテ之ヲ引渡シタル場合ニ於テ所有者ノ利得ノ有無若クハ其多少ヲ定ムルニハ所有者カ賠償請求権ヲ知リタルトキ又ハ此請求権カ権利拘束ト為リタル時ヲ以テ標準トス請求権表示ノ効力ニ付テハ請求権ノ範囲ヲ示スコトヲ要セス 第九百三十九条 所有者ニアラサル者ヨリ譲渡サレタル動産ノ占有者カ第八百七十九条第二段ニ掲クル規定ニ依リテ所有権ヲ取得シ得サルトキハ所有者ニ対シ目的物ヲ取得スル為メニ譲渡人ニ給付シ又ハ給付スルコトヲ要スルモノノ賠償ヲ請求スルコトヲ得但物カ引渡ノ時ニ所有者ヨリ賠償スヘキ費用ヲ控除シタル後ニ有スル価格ヲ越ユルコトヲ得ス 占有者ノ請求権ハ目的物ノ回復ヲ請求スル所有者ニ此物ヲ引渡スコトヲ以テ其条件トス占有者ハ此請求権ニ本ツキ留置権ヲ有ス然レトモ占有者カ物ノ引渡ノ時又ハ其前ニ請求権及ヒ其範囲ヲ所有者ニ示ササルトキハ請求権ハ消滅ス 賠償ノ義務ヲ負フ所有者カ物ノ譲渡人ニ対シテ有スル請求権ニ関シテハ第八百八十条ノ規定ヲ准用ス 第九百四十条 所有者ニアラサル者ヨリ質入シタル動産ノ所持者カ第八百七十九条第二段及ヒ第千百四十七条ニ掲クル規定ニ依リテ此物ニ付キ質権ヲ取得シ得サル場合ニ於テハ第九百三十九条ノ規定ヲ准用ス但所持者カ質物ノ受取ニ対シテ給付シタルモノノ賠償ヲ請求シ得ルコトヲ以テ其標準トス 第九百四十一条 所有者ハ何時ニテモ目的物ヲ受取ラントスルモ第九百三十六条第九百三十七条第九百三十九条及ビ第九百四十条ノ規定ニ依リテ提出シタル請求権ヲ弁済セス又ハ其担保ヲ供セサルトキハ物ノ受取ニ付テ遅滞ニ在ルモノトス 第九百四十二条 占有者又ハ所持者カ目的物ニ関スル或権利ニ本ツキ又ハ所有者ニ対シテ有スル債権ニ本ツキ其物ヲ保持スル権アルトキハ引渡請求ノ権ハ除却セラル 第九百四十三条 所有者ハ占有又ハ所持ノ奪取若クハ留保以外ノ方法ニ依リテ所有権ニ制限ヲ加フル者ニ対シ制限ノ存続スル限ハ其廃止ヲ請求スル権ヲ有ス又此制限カ存続セサルモ事情ニ依リテ其他ノ制限ヲ受クヘキ虞アルトキハ制限ヲ加ヘタル者ニ対シ以後之ヲ為ササル判決ヲ下スコトヲ請求スルコトヲ得 第九百四十四条 第九百四十三条ニ掲クル請求権ニ関シテハ第九百四十二条ノ規定ヲ準用ス又被告カ第三者ノ名義ヲ以テ行為ヲ為シタルコトヲ主張スルトキハ民事訴訟法第七十三条ノ規定ヲ準用ス 第九百四十五条 所有者ニ属スル請求権ニ関スル第九百二十九条乃至第九百四十四条ノ規定ハ動産ノ占有ヲ取得シタル者カ所有権ノ取得ヲ妨クル事情アルコトヲ知ラス且此不知カ重懈怠ニ本ツカサル場合ニ於テ此者ノ為メニ之ヲ准用ス又第八百七十七条第二段ノ規定モ此ニ准用ス 第一項第一段ノ規定ニ依リテ生スル請求権ハ所有者ニ対シ又ハ此規定ノ条件ヲ具フル者ニ対シ之ヲ主張スルコトヲ得ス但此終リノ者カ権利ヲ取得スルニ当リ前主ヨリ後日ノ譲渡ニ依リテ之ヲ得ヘキトキハ此限ニ在ラス 第五節 共有 第九百四十六条 所有権ハ共同ニテ数人ニ属スルコトヲ得(共有) 物カ持分ニ従フヲ共有者ニ属スル場合ニ於テハ共有ニ関シ第七百六十三条乃至第七百三十三条ノ規定ノ外第九百四十七条乃至第九百五十一条ノ規定ヲ適用ス 第九百四十七条 共有物ニ負担ヲ加フル権利ハ共有者ノ一人ノ為メニモ之ヲ設定スルコトヲ得 第九百四十八条 共有部分ノ譲渡又ハ之ニ負担ヲ加フルコトニ付テハ共有物ノ所有権ノ譲渡又ハ之ニ負担ヲ加フルコトニ関スル規定ニ従ヒ之ヲ定ム 第九百四十九条 共有地ニ付テハ各共有者ノ持分ハ他ノ部分ノ時々ノ所有者ノ為メニ共有関係ノ廃止ヲ請求スル権利ヲ除却シテ之ニ負担ヲ加フルコトヲ得然レトモ之ニ依リテ第七百六十七条第二項及ヒ第三項ノ規定ヲ妨クルコトナシ 第九百五十条 第八百七十二条第八百七十三条第九百〇三条及ビ第九百〇四条ノ規定ハ共有者ノ持分ニ関シテ之ヲ適用ス 第九百五十一条 共有者ノ所有権ニ本ツク請求権ニ関シテハ第九百二十九条乃至第九百四十五条ノ規定ヲ准用ス此場合ニ於テ共有者ハ各共同占有者ニ対シ並ニ占有者及ビ所持者ニ対シ共同占有ノ明渡ヲ請求スル権ヲ有スルコトヲ以テ其標準トス 第三百三十九条ノ規定ニ依リテ各共有者カ共有物ヲ総共有者ヘ引渡スコトヲ請求スル権利ハ本条ノ規定ニ依リテ影響ヲ受クルコトナシ 第五章 土地ノ先買権 第九百五十二条 土地ヲ売却スルニ当リ或人ニ其先買権ヲ附与スルコトニ依リテ土地ニ負担ヲ加フルコトヲ得 先買権ハ左ノ如ク之ヲ拡張スルコトヲ得 一、 土地売却ノ最初ノ場合ノミナラス其後ニ於テスル売却ノ場合ニモ之ヲ行ヒ得ヘキコト 二、 或土地ノ時々ノ所有者ニ之ヲ附与スルコト 第九百五十三条 先買権ハ共有ニ属セサル土地ノ一部又ハ共有者ノ持分ノ一部ニ付キ之ヲ設定スルコトヲ得ス 第九百五十四条 土地カ先買権ヲ以テ負担ヲ加ヘラレタル場合ニ於テ先買権者ト土地売却者(義務者)ノ法律関係ハ第四百八十一条乃至第四百八十七条ノ規定ニ依リテ之ヲ定メ先買権者ト土地ヲ譲受ケタル第三者ノ法律関係ハ第九百五十五条乃至第九百五十九条ノ規定ニ依リテ之ヲ定ム 第九百五十五条 先買権者ヨリ請求ヲ受ケタル第三者ハ請求ヲ受ケタル先買義務者ニ属スル総テノ抗弁ヲ対抗スルコトヲ得 第九百五十六条 先買権者カ第三者ヨリ此者ト先買義務者ノ間ニ取結ヒタル売買契約ノ内容並ニ之ニ本ツク所有権移転ノ通知ヲ受ケタル後二ケ月ノ期間内ニ先買権ヲ行フ旨ヲ表示セサルトキハ第三者ニ対スル先買権ノ行使ハ除却セラル 第九百五十七条 第三者カ第九百五十五条又ハ第九百五十六条ノ規定ニ依リテ権利ノ行使ヲ妨クヘキ権ヲ有セサル限ハ先買権者ニ土地ヲ引渡シ其所有権ヲ転附スルコトヲ要ス 先買権者ハ第三者ニ対シ此者カ先買義務者ト取結ヒタル売買契約ヲ履行スル為メ先買義務者ニ給付シタルモノヲ補償スルコトヲ要ス又此契約ニ因リテ買主カ尚ボ給付ヲ負担スルトキハ其義務ヲ免除セシムルコトヲ要ス 費用ノ補償ニ本ツク第三者ノ請求権及ヒ土地ノ保存ニ関スル此者ノ責任ハ所有者ト占有者ノ法律関係ニ付キ適用セラルル規定ニ依リテ之ヲ定ム但時期ニ付テハ所有権ニ本ツク請求権カ権利拘束ト為リタル時ニアラスシテ先買権ノ行使カ第三者ニ表示セラレタル時ニ依ル 第三者ハ其承諾ニ本ツキ又ハ自已ニ対シテ行ハレタル強制執行ニ本ツキテ登記セラレタル土地負担ヲ除去スルコトヲ要ス 第一項乃至第四項ノ規定ニ因リテ負担スル義務ハ先買権者及ヒ其義務者カ引替ニテ之ヲ履行スルコトヲ要ス又第三百六十四条及ヒ第三百六十五条ノ規定ハ之ヲ準用ス 第九百五十八条 先買権者カ第三者ニ対シテ其権利ヲ行使スル旨ヲ表示スルコトニ因リテ先買権者及ヒ第三者ハ第九百五十七条ノ規定ニ因リテ相互ニ負担スル義務ヲ履行スルコトヲ要ス 第九百五十九条 第九百五十二条乃至第九百五十八条ノ規定ニ因リテ生スル範囲ヲ越ヘテ先買権ヲ拡張スルモ其効力ヲ生セス 第九百六十条 先買権カ第三者ノ権利ヲ以テ負担ヲ加ヘラレタル土地ノ所有者ニ属スル場合ニ於テ此先買権ヲ取消スニハ第三者ノ承諾ヲ要ス但取消カ第三者ノ権利ニ影響ヲ及ホサザルトキハ此限ニ在ラズ又第三者ノ承諾ハ登記官吏若クハ先買権利者ニ対シテ之ヲ表示スルコトヲ得且此表示ハ取消スコトヲ得ス 第六章 地上権 第九百六十一条 土地ハ或人ニ地上又ハ地下ニ工作物ヲ所有シテ之ヲ譲渡シ又ハ相続シ得ル権利ヲ与フルコトニ依リテ之ニ負担ヲ加フルコトヲ得(地上権) 地上権ハ土地又ハ建物ノ一部殊ニ家屋ノ一階若クハ一室ニ限リテ之ヲ設定スルコトヲ得ス 地上権ヲ譲渡シ又ハ相続シ得ヘキコトハ之ヲ除却スルコトヲ得ス 第九百六十二条 地上権設定ニ付キ第八百二十八条ノ規定ニ依リテ必要ナル契約ハ土地台帳取扱吏ノ前ニ於テ之ヲ取結フコトヲ要ス 第八百二十八条ノ規定ニ従ヒ必要ナル登記ハ負担ヲ受クヘキ土地ニ付テ之ヲ登記シ並ニ地上権ノ為メニ設ケタル土地台帳ノ欄内ニ登記スルコトヲ要ス此場合ニ於テ権利ノ内容ヲ査定スルニハ登記ノ許諾ニ拠ルコトヲ得 第九百六十三条 工作物カ滅失スルトキハ地上権者ハ之ヲ再築スル権ヲ有ス 第九百六十四条 地上権制限ノ場合ニ於テ地上権者ノ請求権ニ付テハ所有権ニ本ツク請求権ニ関スル第九百二十九条乃至第九百三十八条第九百四十一条乃至第九百四十四条及ヒ第九百五十一条ノ規定ヲ准用ス 第九百六十五条 法律行為ニ因ル地上権ノ消滅ニ付テハ権利者カ登記官吏ニ対シ権利ヲ放棄スル旨ヲ表示シ且土地台帳ニ於テ権利ノ取消ヲ為スコトヲ要ス 第三者ノ権利ヲ以テ負担ヲ加ヘラレタル地上権ヲ取消スニハ第三者ノ承諾ヲ要ス此承諾ハ登記官吏若クハ地上権利者ニ対シ之ヲ表示スルコトヲ得且此表示ハ取消スコトヲ得ス 第七章 役権 第一節 地役権 第九百六十六条 士地ハ他ノ土地(要役地)ノ時々ノ所有者カ此土地(承役地)ヲ特定セル関係ニ於テ使用シ又ハ承役地ノ上ニ或作事ヲ為スコトカ禁セラレ若クハ承役地ノ所有権ヨリ生シテ要役地ニ関係スル法律上ノ権利カ取消サレ又ハ制限セラルルコトニ依リテ之ニ負担ヲ加フルコトヲ得(地役権) 第九百六十七条 要役地ノ使用ニ付テ利益又ハ便利ヲ与フルニ適当ナル権利ノミ地役権トシテ設定スルコトヲ得 第九百六十九条 地役権ヲ土地台帳ニ登記スル場合ニ於テ権利ノ内容ヲ査定スルニハ登記ノ許諾ニ拠ルコトヲ得 第九百七十条 地役権ヲ行使スルニハ承役地ノ所有者ノ利益ヲ庇保スルコトヲ要ス又地役権者カ権利行使ノ為メ承役地ノ上ニ有スル設置物ハ土地所有者ノ利益ニ必要ナル限ハ整正タル状体ニ於テ之ヲ保存スルコトヲ要ス 第九百七十一条 権利ノ行使ニ付テ承役地ノ上ニ在ル設置物ヲ保存スルコトヲ要スル地役権ハ承役地ノ所有者カ地役権者ノ利益ニ必要ナル限ハ其設置物ヲ保存スル義務ヲ負担シテ之ヲ設定スルコトヲ得 地役権カ承役地ノ工作物ノ上ニ或工作物ヲ保持スル権利ニ存スル場合ニ於テハ承役地ノ所有者ハ地役権者ノ利益ニ必要ナル限ハ第一ノ工作物ヲ保存スル義務ヲ負フ但別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス 設定物ノ保存ニ付テ承役地ノ所有者カ負担スル義務ニ付テハ土地ノ定期負担ニ関スル規定ヲ准用ス 第九百七十二条 地役権ヲ行使スヘキ場所カ定メラレ且事情ノ変更ニ因リテ此場所ニ於テ権利ヲ行使スルコトハ特ニ承役地ノ所有者ニ困難ヲ与フルトキハ所有者ハ他ノ適当ナル承役地ノ一定ノ場所ニ地役権ノ行使ヲ移転スルコトヲ請求スル権ヲ有ス此場合ニ於テ移転ニ因リテ生スル費用ハ所有者之ヲ負担スルコトヲ要ス又移転請求ノ権利ハ法律行為ニ依リテ之ヲ除却スルコトヲ得ス 第九百七十三条 地役権カ同一ノ土地ニ於ケル他ノ地役権又ハ其他ノ収益権若クハ使用権ト競合スルコトニ因リテ互ニ行使スルコトヲ得ス又ハ完全ニ行使スルコトヲ得サル場合ニ於テ総テノ権利カ同等ノ順位ヲ有スルトキハ各権利者ハ他ノ権利者ニ対シ相当ノ見積ニ従ヒ総権利者ノ利益ニ適スル権利行使ノ制限ヲ承諾スヘキ旨ヲ請求スルコトヲ得 第九百七十四条 地役権ハ要役地ト分離スルコトヲ得ス又所有権取得ト共ニ新所有者ニ移転ス 地役権ノ行使ハ要役地ノ使用ト共ニ之ヲ他人ニ転附シ得ルノミ 第九百七十五条 承役地カ自然ニ分割セラルルトキハ地役権ハ其各部ニ付テ存続ス然レトモ地役権ノ行使カ承役地ノ一定ノ部分ニ限ラレ且分割ニ因リテ此部分ニ属セサル一個ノ土地ヲ生シタル場合ニ於テハ此土地ニ関シテ地役権ハ承役地ノ分割ト同時ニ消滅ス 第九百七十六条 要役地カ自然ニ分割セラルルトキハ地役権ハ其各部ノ為メニ存続ス然レトモ地役権カ要役地ノ一定ノ部分ニノミ利益ヲ与フルニ足リ且分割ニ因リテ此部分ニ属セサル一個ノ土地ヲ生シタル場合ニ於テハ此土地ニ関シテ地役権ハ要役地ノ分割ト同時ニ消滅ス 第九百七十七条 法律行為ニ因ル地役権ノ消滅ニ付テハ権利者カ登記官吏ニ対シテ権利ヲ放棄スル旨ヲ表示シ土地台帳ニ於テ権利ノ取消ヲ為スコトヲ要ス 要役地カ第三者ノ権利ヲ以テ負担ヲ加ヘラレタル場合ニ於テハ第九百六十条第二項ノ規定ヲ準用ス 第九百七十八条 地役権ヲ有スル者ノ権利カ制限セラルヽトキハ制限ヲ加ヘタル者ニ対スル地役権者ノ請求権ニ付テハ第九百四十三条及ヒ第九百四十四条ノ規定ヲ准用ス 第九百七十九条 土地ノ所持者カ其所有者ノ為メニ土地台帳ニ登記済トナリタル地役権ノ行使ヲ制限セラレ又ハ之ヲ妨ケラルル場合ニ於テ制限又ハ妨害ヲ加フル前ノ一年内ニ一度タリトモ地役権ヲ行使シタルトキハ第八百十四条第八百十五条及ヒ第八百十八条乃至第八百二十四条ノ規定ヲ准用ス 第二節 用益権 第九百八十条 物ハ特定セル人カ此物ノ総テノ用益ヲ収取スル権ヲ有スヘキ方法ニ依リテ之ニ負担ヲ加フルコトヲ得(用益権) 用益権ハ特別ノ収益ヲ除却スルコトニ依リテ之ヲ制限スルコトヲ得ス 第九百八十一条 用益権ハ物ノ一部ニ付テ之ヲ設定スルコトヲ得 第九百八十二条 土地ノ用益権ヲ土地台帳ニ登記スル場合ニ於テ権利ノ内容ヲ査定スルニハ登記ノ許諾ニ拠ルコトヲ得 第九百八十三条 法律行為ニ依リテ動産上ニ用益権ヲ設定スルニ付テハ所有者ト取得者ハ物ノ所持ノ明渡及ヒ之ニ対スル握取ヲ為シテ用益権カ設定セラルヘキ当事者ノ意思表示ヲ含ム契約ヲ取結フコトヲ要ス 第八百〇三条乃至第八百〇五条第八百二十九条第八百七十四条第三項第八百七十五条第八百七十六条ノ規定ハ之ヲ准用ス 第九百八十四条 用益権者ハ目的物ヲ所持シ且収益ヲ得ル為メニ必要ナル総テノ行為ヲ為ス権ヲ有ス 第九百八十五条 共有者ノ持分カ用益権ヲ以テ負担ヲ加ヘラレタル場合ニ於テ物ノ管理又ハ使用ニ関シ共有関係ニ本ツキテ共有者ニ属スル権利ハ用益権者之ヲ行使ス共有ノ関係ヲ解除スル請求権ハ共有者及ヒ用益権者カ共同ニ之ヲ主張スルコトヲ要ス又此関係カ消滅スルトキハ用益権者ハ用益権ヲ以テ負担ヲ加ヘラレタル所有者ノ持分ニ代ハリタル物ノ用益権ヲ有ス 物ノ一部ノ用益権ニ関スル其他ノ場合ニ於テ共同使用ニ関シテ用益権者ト所有者トノ間ニ存スル法律関係ハ物ノ全体ノ用益権カ此両人ニ共同ニ属スルトキノ如ク之ヲ定ム 第九百八十六条 用益権カ他ノ用益権役権其他ノ収益権若クハ使用権ト競合スルトキハ第九百七十三条ノ規定ヲ准用ス 第九百八十七条 土地ノ用益権ハ土地所有権ノ従タル財産権ニモ及ブモノトス 第九百八十八条 負担ヲ加ヘラレタル物ヨリ其果実ニ属セザル成分カ分離セラルルトキハ用益権ハ此成分ニ付キ存続ス 整正タル家父カ適当ノ経済法ニ依レハ分離スルコトナキ果実又ハ特別ノ事情ニ因リテ已ムヲ得ズ分離スルモ其収取ハ物ノ経済上ノ使用ノ度ヲ越ユル果実カ分離セラレタルトキハ用益権者ハ又其所有権ヲ取得ス此場合ニ於テ用益権者ハ負担ヲ加ヘラレタル物ノ所有者ニ対シ用益権消滅ノ時ニ果実カ分離ノ時ニ有シタル価格ヲ支払フベキ義務及ビ其履行ニ付キ担保ヲ供スベキ義務ヲ負フ但此義務ヲ生ゼシメタルト同一ノ事情ニ因リテ以後用益権者ニ属スヘキ収益カ制限セラルル限度ニ於テ用益権者ハ支払ノ義務ヲ免ル 過失ノ場合ニ於テ用益権者ノ負フヘキ損害賠償ノ義務ハ本条ノ規定ニ依リテ影響ヲ受クルコトナシ 第九百八十九条 土地用益権者ハ石、砂、粘土、肥土、泥炭、其他ノ土地ノ成分ヲ収取スルニ当リ甚シク土地ヲ変更セサル限ハ新ニ設置物ヲ作リ且之ヲ用ヒ尽ス権ヲ有ス又其収取シタル物ハ土地ノ果実ト見做ス 坑法上ノ規定ハ本条ノ規定ニ依リテ影響ヲ受クルコトナシ 第九百九十条 負担ヲ加ヘラレタル物ノ中ニ埋蔵物カ発見セラレタル場合ニ於テ第九百二十八条ノ規定ニ従ヒ所有者ニ帰スヘキ部分ハ用益権者ニ属セス又此部分ニ付キ用益権者ハ用益権ヲ有セス 第九百九十一条 用益権者ハ負担ヲ加ヘラレタル物ノ所有者ニ対シ収益スルニ当リ経済ニ適シテ処置ヲ行ヒ物及ヒ其経済上ノ成分ヲ適当ニ保存スルコトニ注意シ且用益権カ消滅スルトキハ其物ヲ還附スル義務ヲ負フ 第九百九十二条 所有者又ハ用益権者ハ自費ヲ以テ鑑定人ヲシテ負担ヲ加ヘラレタル物ノ状体ヲ確定セシムルコトヲ得鑑定人ハ物ノ存在スル管轄区裁判所之ヲ任定ス又其任定宣誓及ヒ訊問ニ関シテハ民事訴訟法第三百六十七条乃至第三百七十九条ヲ適用ス 前項ノ手続ヲ行フ場合ニ於テ事情ノ許ス限ハ対手ヲ召喚スルコトヲ要ス 第九百九十三条 包括財産又ハ其一部ノ用益権ニ付テハ用益権者ハ署名及ヒ日附ヲ具ヘテ自己カ調製シタル財産目録ヲ所有者ニ渡スコトヲ要ス又所有者ノ請求アルトキハ此者ノ費用ヲ以テ財産目録ヲ公ニ証明スルコトヲ要ス 第九百九十四条 用益権者ハ負担ヲ加ヘラレタル物ノ従来ノ経済上ノ用方ヲ保持スルコトヲ要ス又物ヲ変形シ若クハ甚シク之ヲ変更スルコトヲ得ス 第九百九十五条 用益権者カ権限以外ノ変更ヲ物ニ加ヘタルトキハ其物ヲ元状ニ回復スル義務ヲ負フ 第九百九十六条 第三者カ用益権ノ目的物ニ付テ権利ヲ主張シ又ハ此物カ滅失毀損セラルルトキハ用益権者ハ遅滞ナク之ヲ所有者ニ通知スルコトヲ要ス 第九百九十七条 用益権者ハ負担ヲ加ヘラレタル物及ヒ其経済上ノ成分ノ適当ナル存保費用ヲ負担スルコトヲ要ス 第九百九十八条 用益権者ノ適当ナル保存費用ノ義務ハ物ノ通常ノ修繕及ヒ回復ニ付テノミ存ス 物ノ非常ノ修繕又ハ元状回復ヲ要スル場合ニ於テ用益権カ自ラ之ヲ為スコトヲ欲セサルトキハ正当ノ時ニ所有者ニ通知シ且所有者ニ修繕又ハ元状回復ヲ為スコトヲ許スヘキ義務ヲ負フ 第九百九十九条 土地ノ用益権ニ付テ非常ノ修繕又ハ元状回復ヲ要スル場合ニ於テハ用益権者ハ之レカ為メニ経済上ノ処置ノ範囲内ニ於テ自已ニ属スベキ果実以外ノ土地ノ成分ヲ使用スルコトヲ得 所有者カ修繕又ハ元状回復ヲ為ストキハ前項ノ権利ハ所有者ニ属ス 第千条 土地ト共ニ其利用ノ為メニ供セラレ器具ノ目録カ用益権ノ目的物タルトキハ用益権者ハ土地ノ経済上ノ利用ノ範囲内ニ於テ各器具ニ付テ処分スル権ヲ有ス又損廃シタル器具若クハ整正タル経済法ニ従フテ取除クヘキ器具ニ対シテ補充ヲ為スヘキ義務ヲ負フ此場合ニ於テ用益権者カ備ヘタル器具ハ器具目録ニ合セラルルニ因リテ目録所有者ノ所有ニ帰ス 第千〇〇一条 建物ノ用益権者ハ所有者ノ為メニ火災ニ対シ建物ヲ保険ニ附スベキ義務ヲ負フ其他ノ危険ニ対シ建物ヲ保険ニ附シ又ハ建物以外ノ物ノ用益権ニ付キ所有者ノ為メニ此物ヲ火災其他ノ危険ニ対シ保険ニ附スベキ義務ハ整正タル家父カ為スベキ限度ニ於テ用益権者之ヲ負フ又用益権者ハ保険ニ本ツク請求権カ所有者ニ属スペキ方法ニ依リテ保険ニ附スルコトヲ要ス 第千〇〇二条 負担ヲ加ヘラレタル物カ所有者並ニ用益権者ノ利益ヲ保険ノ目的トシテ用益権者又ハ所有者ヨリ保険ニ附セラレタル場合ニ於テ保険者支払ノ義務ヲ生セシム危険カ発生スルトキハ用益権者ハ被保険額請求権ニ付キ利息ニ本ツク債権ノ用益権ニ関スル規定ニ準シ用益権ヲ取得ス 所有者並ニ用益権者ハ被保険額ヲ経済ニ適シタル方法ニ依リテ物ノ元状回復又ハ其補充ヲ為スコトニ使用スヘキ請求ヲ為スコトヲ得所有者ハ自己ノ撰択ニ従ヒ元状回復又ハ補充ヲ為スコトヲ自ラ注意シ若クハ之ヲ行フ為メニ被保険額ヲ用益権者ニ委スルコトヲ得 第千〇〇三条 用益権者ハ所有者ニ対シ用益権ノ存続スル間左ノ負拠ニ任ス 一、 負担ヲ加ヘラレタル物ヨリ支払フヘキ公ノ負担及ビ租税但物ノ元価ニ附加セラレタリト認ムベキ非常ノ負担及ヒ租税ハ此限ニ在ラス 二、 用益権設定ノ時既ニ土地ニ加ヘラレタル私法上ノ負担及ビ諸税 三、 用益権ノ存続期間ニ応シ抵当債権及ビ土地債務ノ利息但用益権設定ノ時既ニ利息支払ノ義務カ土地ニ附加セラレタル場合ハ此限ニ在ラス 四、 用益権者ハ所有者ニ対シ用益権ノ存続期間ニ応シ負担ヲ加ヘラレタル物ノ保険ニ対シテ支払フベキ金額又ハ手数料ヲ負担スルコトヲ要ス但用益権者ハ物ヲ保険ニ附スベキ義務ヲ負ヒ若クハ所有者カ既ニ保険ニ附セザリシ場合ニ於テ自ラ之ヲ保険ニ附スルコトヲ要セシトキニ限ル 第千〇〇四条 物又ハ其経済上ノ成分ノ適当ナル保存並ニ用益権ノ存続スル間用益権者カ負担スル其他ノ義務ニ関シ所有者カ用益権者ニ対シテ有スル請求権ハ用益権ノ存続スル間ニ於テ既ニ之ヲ主張スルコトヲ得 第千〇〇五条 用益権者ノ処置カ所有者ノ権利ヲ害スル虞アルトキハ所有者ハ用益権者ニ対シ担保ノ提供ヲ請求スルコトヲ得 第千〇〇六条 第千〇〇五条ノ場合ニ於テ裁判所ノ指定シタル期間内ニ担保ノ提供ナク又ハ用益権者カ著シク其負担スル義務ヲ怠ルトキハ所有者ハ用益権者ニ用益権ノ行使ヲ奪ヒ且其計算ヲ以テ裁判所カ撰定スヘキ管理人ニ引渡スヘキ請求ヲ為スコトヲ得管理人ハ土地ノ強制管理ニ関スル規定ニ従ヒ裁判所ノ監督ニ属ス又所有者ハ自ラ管理人ニ撰定セラルルコトヲ得 担保提供ノ懈怠ニ付テ定メラレタル管理ハ後ニ至リ担保カ提供セラルルトキハ用益権者ノ請求ニ因リ之ヲ止ムルコトヲ要ス 第千〇〇七条 用益権カ消滅スルトキハ用益権者ハ所有者ニ対シ負担ヲ加ヘラレタル物ヲ用益権設定ノ時ノ状体ニ於テ返還スル義務ヲ負フ然レトモ用益権ノ適当ナル行使ニ因リ又ハ時日ノ経過其他用益権者ノ責ニ帰セサル事情ニ因リテ生シタル変更又ハ毀損ニ付キ其責ニ任セス 第千〇〇八条 土地ノ用益権者カ土地ヲ賃貸又ハ小作ニ附シタル場合ニ於テ用益権カ消滅スルトキハ第五百〇九条乃至第五百十二条、第五百三十二条及ヒ第五百三十七条ノ規定ヲ准用ス 第千〇十条 用益権者カ負担ヲ加ヘラレタル物ニ費用ヲ加ヘタル場合ニ於テ所有者ニ対シ此義務ヲ負ハサルトキハ費用ニ本ツク所有者ノ賠償ノ義務ハ第九百三十六条第一項第三項第九百三十七条第九百三十八条及ヒ第九百四十一条ノ規定ニ従フテ之ヲ定ム 用益権者カ委任執行及ヒ事務管理ニ関スル規定ニ準シテ費用ノ賠償ヲ請求スル権ハ本条ノ規定ニ依リテ影響ヲ受クルコトナシ 第千〇十一条 用益権ハ譲渡シ又ハ之ニ負担ヲ加フルコトヲ得 用益権ノ譲渡ニ依リテ権利ノ内容殊ニ其存続期間ハ変更ヲ受クルコトナシ 動産ノ用益権ノ譲渡ニ付テハ第九百八十三条ノ規定ヲ准用ス 第千〇十二条 用益権カ数人ノ共有ニ属スル場合ニ於テ共有者ノ持分ノ譲渡ハ用益権全体ノ譲渡ニ関スル規定ニ従フテ之ヲ定ム 共有者ハ共有ノ関係ヲ解除スル目的ヲ以テ用益権ノ売却ヲ請求スルコトヲ得ス 第千〇十三条 用益権譲渡ノ場合ニ於テハ取得者ハ所有者ニ対シ譲渡以後ハ用益権者トシテ義務ヲ負フ又譲渡人ハ所有者ニ対シ取得者カ用益権者トシテ負担スル義務ノ履行ニ付キ保証人ノ義務ヲ負フ此場合ニ於テ用益権者ハ先訴抗弁ヲ対抗スルコトヲ得ス 用益権譲渡ノ時ニ譲渡人カ所有者ニ対シ担保ヲ提供スル義務ヲ負フトキハ提供ノ懈怠ノ為メニ第千〇〇六条ノ規定ニ従ヒ裁判所ノ管理ノ命令ヲ許スヘキ義務ハ取得者ニ移転ス 第千〇十四条 用益権ハ最初ノ権利者ノ死亡ニ因リテ消滅ス又此者カ法人ナルトキハ其消滅ニ伴フ 第千〇十五条 法律行為ニ因ル土地用益権ノ消滅ニ付テハ第九百七十七条第一項ノ規定ヲ準用ス又用益権カ第三者ノ権利ヲ以テ負担ヲ加ヘラレタル場合ニ於テハ第九百六十五条第二項ノ規定ヲ準用ス 第千〇十六条 動産ノ用益権ハ所有権ト用益権カ同一ノ人ニ帰スルコトニ因リテ消滅ス然レトモ用益権カ第三者ノ権利ニ因リテ負担ヲ加ヘラレタルトキハ消滅セス 法律行為ニ本ツク動産ノ用益権ハ用益権者カ所有者ニ対シ用益権ヲ放棄スル旨ヲ表示スルノミニテ消滅ス此場合ニ於テ用益権カ第三者ノ権利ヲ以テ負担ヲ加ヘラレタルトキハ用益権者ニ対シ第三者カ用益権ノ消滅ニ同意ヲ表示シタルコトヲ要ス 第千〇十七条 用益権者ノ権利カ制限セラルルトキハ制限ヲ加フル者ニ対スル用益権者ノ請求権ニ付テハ第九百二十九条乃至第九百四十四条及ヒ第九百九十一条ノ規定ヲ准用ス 第千〇十八条 消費物カ用益権ノ目的物タルトキハ用益権者ハ用益権ノ設定ニ因リテ物ノ所有権ヲ取得シ又用益権カ消滅スルトキハ設定者ニ対シ物カ用益権設定ノ時ニ有シタル価格ヲ賠償スル義務ヲ負フ 用益権ノ設定者カ物ノ所有者ニアラサルトキハ第八百七十七条乃至第八百八十条ノ規定ヲ准用ス 第千〇十九条 消費物ノ用益権ニ付テハ設定者並ニ用益権者ハ第九百九十二条ノ規定ニ従ヒ鑑定人ヲシテ物ノ価格ヲ評定セシムルコトヲ得 第千〇二十条 第千〇十八条第一項ノ規定ニ因リテ消費物ノ用益権者カ負担スル価格賠償ノ義務カ害セラルヘキ事情ヲ生スルトキハ用益権ノ設定者ハ用益権者ニ対シ担保ノ提供ヲ請求スルコトヲ得又用益権ヲ設定スヘキ義務ヲ負フ者ハ右ノ危険アル場合ニ於テハ担保カ提供セラルルマテ設定ヲ拒ムコトヲ得 第二款 権利ノ用益権 第千〇二十一条 用益権ハ又権利ニ付キ之ヲ設定スルコトヲ得 権利ノ用益権ニ付テハ第千〇二十二条乃至第千〇三十七条ノ規定ニ於テ反対ノ定ナキ限ハ物ノ用益権ニ関スル規定ヲ准用ス 第千〇二十二条 権利カ譲渡スコトヲ得サル限ハ之ニ付テ法律行為ニ因リ用益権ヲ設定スルコトヲ得ス 第千〇二十三条 権利ノ用益権ノ設定及ビ譲渡ニ関シ又之ニ因リテ用益権者ト用益権ノ目的タル権利ニ本ツキ給付ノ義務ヲ負フ第三者トノ間ニ生スル法律関係ニ付テハ権利ノ譲渡ニ関スル規定ヲ准用ス但法律ニ反対ノ定アルトキハ此限ニ在ラス又第千〇十八条第二項ノ規定ハ之ヲ適用セス 第千〇二十四条 用益権ヲ設定セラレタル権利ニ加フル権利者ノ処分ハ之ニ因リテ用益権者ノ権利カ制限セラルルトキハ用益権者ノ許諾ニ因リテ其効ヲ生ス此場合ニ於テ許諾ハ負担ヲ加ヘラレタル権利ノ属スル者ニ対シテ之ヲ表示スルコトヲ要ス又此許諾ハ取消スコトヲ得ス 第千〇二十五条 権利ノ用益権ノ消滅ニ付テハ用益権ヲ設定セラレタル権利カ動産上ノ権利ニアラサルトキト雖モ第千〇十六条ノ規定ヲ准用ス 第千〇二十六条 第三者ニ対スル請求権カ用益権ヲ設定セラレタル権利ノ行使ニ属スルトキハ引渡ニ依ラスシテ用益権者之ヲ取得ス 第千〇二十七条 年金、扶養料、養老料又ハ割賦ノ権利カ用益権ノ目的タルトキハ用益権ノ存続期間内ニ満期トナリタル各別ノ給付ハ権利ノ収益ト見做ス 第千〇二十八条 債権カ用益権ノ目的タルトキハ用益権者ハ債権ヲ取立ツル権ヲ有シ又適当ナル取立ヲ為スコトニ注意スル義務ヲ負フ又債権ニ関シ其他ノ方法ニ依リテ処分ヲ為ス権ヲ有セス 第千二十九条 債権ノ用益権者ハ自己ニ為サレタル給付ニ因リテ給付ノ目的物ニ付キ用益権ヲ取得ス 目的物ノ性質ニ因リテ用益権設定ノ時ニ土地台張ニ登記スルコトヲ要スルトキハ債権者ハ登記ニ付キ必要ナル表示ヲ為スヘキ義務ヲ負フ 消費物カ給付ノ目的物タルトキハ用益権者ハ第千〇十八条ノ規定ニ従ヒ債権ノ取立ニ因リテ物ノ所有権ヲ取得ス 第千〇三十条 消費物ノ給付ヲ目的トスル債権ノ用益権ニ付テハ用益権者ハ債権者ニ対シ債権ノ満期後ハ其引渡ヲ請求スルコトヲ得又引渡ニ因リテ債権ハ債権者ト用益権者トノ関係ニ於テ用益権者之ヲ取立ツルモノト見做ス 第千〇三十一条 用益権者ハ用益権ヲ設定セラレタル債権ノ債務者タル場合ニ於テハ債権者ハ用益権者ノ為メニ給付ノ目的物ニ付キ直ニ用益権ヲ設定スルコトニ依リテ給付ノ請求ヲ為スコトヲ得 第千〇三十二条 用益権ヲ設定セラレタル債権ト其債務カ同一ノ人ニ帰スルトキハ用益権者ニ対シ混同ノ効ヲ生セス 第千〇三十三条 利息ニ本ツク債権カ用益権ノ目的タルトキハ債権者及ビ用益権者カ共同ニアラザレハ債権ノ告知ヲ為スコトヲ得ス 債務者ハ債権者及ヒ用益権者ニ対シ共同ニアラサレハ給付ヲ為スコトヲ得ス 債権カ満期トナリタルトキハ債権者並ニ用益権者ハ双方ヨリ共同シテ債権ノ取立ヲ為スベキ旨ヲ請求シ又債権カ未タ満期トナラサルモ告知スルコトヲ得ベク且其取立カ整正タル家父ノ注意ニ適スル度ニ於テ債権ノ担保カ害セラレタルトキハ共同シテ告知ヲ為スヘキ旨ヲ請求スルコトヲ得 債務者ノ告知ハ債権者並ニ用益権者ニ対シテ之ヲ表示シタルトキニノミ其効ヲ生ス !債権者並ニ用益権者ハ其撰択ニ従ヒ給付カ双方ヘ共同ニ為サレ又ハ双方ノ為メニ給付ノ目的物ヲ公ニ供托スルコトヲ債務者ニ請求スルコトヲ得 第千〇三十四条 用益権ヲ設定セラレタル利息ニ本ツク債権カ取立ラレタルトキハ債権者並ニ用益権者ハ双方ヨリ共同シテ元金ヲ後見保証金ノ預方ニ関スル規定ニ従ヒ債権者ノ為メニ利息付ニテ預ケ置キ同時ニ之ニ因リテ取得シタル目的物ニ付キ用益権者ノ為メニ用益権ヲ設定スヘキ旨ヲ請求スルコトヲ得 前項ノ預方ノ方法ハ用益権者之ヲ定ム 第千〇三十五条 土地債務又ハ所有者抵当カ用益権ノ目的タルトキハ債権ノ用益権ニ関スル規定ヲ准用ス 第千〇三十六条 無記名証券又ハ無記名株式カ用益権ノ目的タル場合ニ於テ消費物ノ用益権ニアラサルトキハ証券ヲ所持スル権ハ所有者及ヒ用益権者ニ共同ニ属スルコトヲ要ス 共同所持ヲ行フ方法ニ付キ用益権者ト所有者カ一致セザルトキハ証券ハ之ニ属スル利息、定期貸賃、利益配当及ヒ更新ノ証書ト共ニ公ノ供托所ノ保管ニ附スルコトヲ要ス此場合ニ於テ用益権者ニ属スル利息、定期貸賃及ヒ利益配当部分ハ用益権者之ヲ取立テ又証券並ニ更新証書ノ引出ハ所有者及ヒ用益権者共同シテ之ヲ行フ 第千〇三十七条 無記名証券又ハ無記名株式ノ用益権ハ用益権者ニ証券ヲ譲渡ス代ハリニ共同所持ノ引渡及ヒ握取ヲ為シ又ハ所有者及ヒ用益権者ノ為メニ証券ヲ公ニ供托スルコトヲ設定スルコトヲ得 満期トナリタル債権ヲ取立テ又ハ利息、定期貸賃、利益配当及ヒ更新ノ証書其他元証書ヲ新ニ調製スルコトニ付テハ双方共同シラ之ヲ為ス義務ヲ負フ 其他利息ニ本ツク債権ノ用益権ニ関スル規定ヲ准用ス 第三款 財産ノ用益権 第千〇三十八条 財産全体ノ用益権ハ第千〇三十九条乃至第千〇四十二条ノ規定ニ因リテ反対ヲ生セサル限ハ目的物各個ノ用益権ト見做ス 第千〇三十九条 財産全体ノ用益権ノ設定ニ付テハ第三百十三条ノ規定ヲ準用ス 第千〇四十条 財産全体ノ用益権ヲ設定セントスル者ハ満期トナリタル自己ノ債務ヲ弁済スルニ必要ナル限ハ財産ノ一部ヲ留置スルコトヲ得若シ之ヲ留置セサリシトキハ用益権者又ハ第千〇十三条ノ規定ニ従ヒ譲渡ニ因リテ用益権ヲ取得シタル者ハ用益権設定者ニ対シ其債務ノ弁済ニ必要ナル物ヲ返還スルコトヲ要ス右何レノ場合ニ於テモ物ノ撰択権ハ用益権設定者ニ属ス但設定者ハ債務ノ弁済ニ最モ適当ナル物ヲ撰フコトヲ要ス 満期前ノ債務ニ付テハ第一項ニ掲グル返還ノ義務ハ債務カ満期トナリタル時ニ生ス 用益権設定者ハ用益権者ニ対シ整正タル家父ノ注意ヲ以テ留置シタル物又ハ返還セラレタル物ヲ債務ノ弁済ニ使用スルコトヲ要ス 第千〇四十一条 財産全体ノ用益権者ハ用益権ノ存続期間ニ応シ用益権設定ノ時既ニ利息附ナリシ債務ノ利息ヲ負担スルコトヲ要ス但此債務ノ弁済ノ為メ物カ留置又ハ返還セラレタルトキハ此限ニ在ラス 第一項ノ規定ハ整正タル家父カ通常其財産ノ収入ヨリ支払フヘキ他ノ定期復帰スル給付ニ付キ之ヲ適用ス 第千〇四十二条 財産全体ノ用益権ヲ設定シタル所有者ハ自費ヲ以テ管轄官庁又ハ当該官吏ニ依リテ自己ヲ呼出ノ上第九百九十三条ノ規定ニ従ヒ財産目録ヲ調製スルコトヲ請求スルコトヲ得 第千〇四十三条 第千〇三十八条乃至第千〇四十二条ノ規定ハ財産ノ一部、遺産又ハ其一部ノ用益権ニ付キ之ヲ適用ス 第三節 限定役権 第千〇四十四条 土地ハ定マリタル人ノ為メニ此者カ一定ノ関係ニ於テ之ヲ使用シ又ハ其他地役権ノ内容トシテ許サレタル権利ヲ行使スヘキ方法ニ依リテ之ニ負担ヲ加フルコトヲ得(限定対人役権) 第千〇四十五条 限定役権ハ負担ヲ加ヘラレタル土地ノ一部ニ付キ之ヲ設定シ又ハ消滅セシムルコトヲ得ス 第千〇四十六条 限定役権ノ範囲ハ法律ノ規定又ハ法律行為ニ依リテ別段ノ定ナキトキハ権利者一身ノ需要ヲ以テ其標準トス 第千〇四十七条 限定役権ハ法律ノ規定又ハ法律行為ニ依リ別段ノ定ナキトキハ之ヲ譲渡シ又ハ其行使ヲ他人ニ委スルコトヲ得ス 第千〇四十八条 定マリタル人ニ対シテ設定セラレタル限定地役権ニ関シテハ第九百六十九条乃至第九百七十三条第九百七十五条第九百七十七条第一項第九百七十八条及ヒ第九百七十九条ノ規定ヲ準用ス其譲渡ノ場合ニ於テハ第九百六十五条第二項第千〇十一条第二項第千〇十二条及ヒ第千〇十三第一項ノ規定ヲ準用ス 第千〇四十九条 限定役権ノ消滅ニ付テハ第千〇十四条第一項及ビ第二項ノ規定ヲ准用ス但第二項ノ規定ハ役権カ地役権ノ内容トシテ許サレタル範囲ヲ越ユルトキニノミ之ヲ准用ス 第千〇五十条 所有者ヲ除却シテ其建物又ハ建物ノ一部ヲ住所ニ使用スヘキ権利ハ限定役権トシテ之ヲ設定スルコトヲ得 前項ノ権利ニ付テハ限定役権ニ関スル規定ノ外第九百九十二条乃至第九百九十八条、第千〇〇四条、第千〇〇七条第一項及ビ第千〇十条ノ規定ヲ准用ス 権利者ハ其家族、身分相応ノ僕婢及ビ看護ニ必要ナル者ヲ同居セシムルコトヲ得又其権利カ建物ノ一部ニ限定セラレタル場合ニ於テハ此建物ニ属シテ居住者ノ共同使用ニ定メラレタル設置物ヲ共用スルコトヲ得 第八章 定期負担 第千〇五十一条 土地ハ其所有者カ定マリタル人又ハ他ノ土地ノ時々ノ所有者ノ為メニ此者ニ対シ定期復帰スル給付ノ義務ヲ負ヒ且此土地カ給付ノ淹滞ニ付キ権利者ニ対シ抵当利息ノ淹滞ニ関シテ適用セラルル規定ニ従ヒ其責ニ任スルコトニ依リテ土地ニ負担ヲ加フルコトヲ得(定期負担) 第千〇五十二条 定期負担ノ給付ハ不作為ニ存スルコトヲ得ス 第千〇五十三条 定期負担ハ之ヲ土地ノ一部ニ加フルコトヲ得ス 第千〇五十四条 定期ノ土地負担ヲ土地台帳ニ登記スル場合ニ於テ権利ノ内容ヲ査定スルニハ登記ノ許諾ニ拠ルコトヲ得 第千〇五十五条 定期負担ノ権利者カ其権利ヲ制限セラレタル場合ニ於テ制限ヲ加ヘタル者ニ対シテ有スル請求権ニ関シテハ第九百四十三条及ヒ第九百四十四条ノ規定ヲ准用ス 第千〇五十六条 負担ヲ加ヘラレタル土地ノ所有者ハ別段ノ定ナキトキハ自己ノ所有権ノ存続スル間ニ満期トナリタル給付ニ付キ対人ノ義務ヲ負フ此義務ハ所有権ヲ失フコトニ因リテ之ヲ免ルルコトヲ得ス 負担ヲ加ヘラレタル土地カ自然ニ分タレタルトキハ各部ノ所有者ハ共同債務者トシテ其義務ヲ負フ 第千〇五十七条 或士地ノ時々ノ所有者ノ為メニ存スル定期負担ハ此土地ノ所有権ト分離スルコトヲ得ス又他ノ土地ト共ニセサレハ之ニ負担ヲ加フルコトヲ得ス定期負担ハ所有権ノ取得ニ因リテ新所有者ニ移転ス 第千〇五十八条 定期負担カ土地ノ時々ノ所有者ノ為メニ存スル場合ニ於テ此土地カ自然ニ分タレタルトキハ定期負担ハ土地ヲ分割スル所有者カ定メタル各部ニ対シテ存在シ此定ナキトキハ分割者ノ所有権ニ存スル部分ニ対シテ存在ス又此部分ナキトキハ定期負担ハ土地ノ各部ニ対シ其大サニ准シテ共有権ヲ分割スル方法ニ依リテ存在ス 然レトモ定期負担カ土地ノ使用ニ付キ之ニ利得又ハ便宜ヲ与フル為メニ設定セラレタルトキハ此利得又ハ便宜ヲ受クベキ土地ノ部分ニ対シテノミ存ス 第千〇五十九条 定マリタル人ノ為メニ存スル定期負担ハ譲渡シ又ハ之ニ負担ヲ加フルコトヲ得然レトモ土地ノ所有権ト之ヲ結合セシムルコトヲ得ス 各給付ニ対スル請求権カ譲渡スコトヲ得サル限ハ定期負担ニ対スル権利ハ之ヲ譲渡シ又ハ之ニ負担ヲ加フルコトヲ得ス 第千〇六十条 淹滞セル給付ニ対スル請求権ヲ譲渡シ、之ニ負担ヲ加ヘ又ハ之ヲ消滅セシムルコトニ関シテハ淹滞セル抵当利息ニ付キ右ト同一ノ場合ニ於テ適用スベキ規定ヲ准用ス 第千〇六十一条 法律行為ニ因ル定期ノ土地負担ノ消滅ニ付テハ権利者カ登記官吏ニ対シテ権利ヲ放棄スル旨ヲ表示シ且土地台帳ニ於テ負担ノ取消ヲ為スコトヲ要ス 第三者ノ権利ヲ以テ負担ヲ加ヘラレタル定期ノ土地負担カ或土地ノ所有者ノ為メニ設定セラレタル場合ニ於テハ第九百六十条第二項ノ規定ヲ準用ス又定マリタル人ノ為メニ設定セラレタル場合ニ於テハ第九百六十五条第二項ノ規定ヲ準用ス 第九章 債権及ヒ土地債務 第一節 土地ノ債権(抵当) 第一款 無証書抵当 第千〇六十二条 土地ハ定マリタル人カ金銭ヲ目的トスル一定ノ債権ニ本ツキ此土地ニ付キ弁済ヲ請求スルコトヲ得ル方法ニ依リテ之ニ負担ヲ加フルコトヲ得(抵当) 前項ノ場合ニ於テ債権ハ将来又ハ条件附帯ノモノタルコトヲ得 第千〇六十三条 抵当ハ共有ニ属セサル土地ノ一部又ハ共有者ノ持分ノ一部ニ付キ之ヲ設定スルコトヲ得ス 第千〇六十四条 抵当ヲ登記スルトキハ債権者及ヒ債権ノ金額並ニ利息付債権ニ付テハ其利息付ナルコト及ヒ利率ヲ土地台帳ニ記入スルコトヲ要ス其他債権ノ詳記ハ登記ノ許諾ニ依リテ之ヲ為スコトヲ得 第千〇六十五条 無利息トシテ登記シタル債権ニ対シ其後ニ至リテ利息付ノ登記ヲ承諾シタルトキハ此債権ノ為メニ存スル抵当ハ其順位ヲ以テ百分ノ五以下ノ利息ニ及フコトヲ得此場合ニ於テハ同順位又ハ其以下ノ権利者ノ許諾ヲ要セス 前頃ノ規定ハ債権ノ利率ヲ百分ノ五迄増加スルコトニ付キ之ヲ准用ス 第千〇六十六条 抵当ハ特別ノ承諾又ハ土地台張ニ登記ナキモ元本ノ法定利息、告知費用及ヒ土地ニ付テ弁済ヲ求ムル為メノ訴追ノ費用ニ及ブ 第千〇六十七条 左ニ掲クルモノハ抵当ノ設定ニ因リテ債権者ニ対シ担保ノ義務ヲ負フ 一、 抵当設定ノ当時ノ成分ニ於ケル土地但小作関係ノ継続中土地ヲ所持スル小作人ニ属スル果実ヲ除外ス 二、 土地ヨリ分離シタル其成分殊ニ分離シタル産出物但物ノ所有権カ第八百九十九条乃至第九百〇二条ノ規定ニ依リテ分離シタル時ニ土地ノ所有者又ハ占有者以外ノ者ニ移転シタルトキハ此限ニ在ラス 三、 土地ノ従物但土地所有者ノ所有ニ帰セザリシモノハ此限ニ在ラス 四、 土地ノ賃貸又ハ小作ニ本ヅク貸賃又ハ小作料ノ債権並ニ土地所有権ト結合セル権利ニ本ヅキ定期復帰スル給付ノ債権 五、 抵当ノ設定ニ因リテ債権者ニ対シ担保ノ義務ヲ負ヒタル物ノ保険ニ本ツキテ士地ノ所有者又ハ占有者カ有スル債権 第千〇六十八条 土地ヨリ分離シタル産出物又ハ分離ニ因リテ動産トナリタル其他ノ成分若クハ土地ノ従物カ抵当債権者ノ為メニ差押ヘラルル前ニ土地ヨリ持去ラルルトキハ之ト同時ニ其負担スル担保ノ義務ハ消滅ス 前項ノ物カ土地ヨリ持去ラルル前ニ譲渡サレ又ハ質入セラルルトキハ抵当債権者ニ対シ第八百七十八条及ヒ第千百五十二条ノ規定ハ之ヲ適用セス 第千〇六十九条 第千〇六十七条第四号ニ掲クル債権ハ抵当債権者ノ為メニ差押ヘラレサル間ハ其許諾ヲ要セスシテ有効ニ之ヲ処分スルコトヲ得殊ニ其取立ニ依リテ之ヲ処分スルコトヲ得又債権カ差押前ニ他人ニ議渡サレタルトキハ之ニ附着スル担保ノ義務ハ消滅シ差押前ニ第三者ノ権利ヲ設定シテ債権ニ負担ヲ加ヘタルトキハ第三者ノ権利ハ抵当債権者ノ請求権ニ先タツモノトス又土地カ債権者ヨリ譲渡サルルモ之ト共ニ債権カ譲渡サレサルトキハ債権ノ譲渡ニ同シ 第一項ニ掲クル処分ハ抵当債権者ノ為メニスル差押ヨリ三ケ月以後ノ貸賃又ハ小作料ノ債権ニ関スルトキ又ハ差押後三ケ月ニテ満期トナルヘキ債権ニシテ土地所有権ト結合セル権利ニ本ツクモノニ関スルトキハ抵当債権者ニ対シテ無効トス 第一項ニ掲クル債権ニ附着スル担保ノ義務ハ満期後一年ヲ経過シ且其時迄差押ナキトキハ消滅ス但第二項ニ掲クル規定ヲ妨ケス 第千〇七十条 第千〇六十七条第五号ニ掲クル債権ニ附着スル担保ノ義務ハ保険ニ付セラレタル物ノ回復又ハ改造ニ因リテ消滅ス保険者カ保険ニ付セラレタル物ヲ回復スル為メニ給付ヲ為スヘキ場合ニ於テ此目的ノ為メニ保険契約ニ従フテ為シタル給付ハ又抵当債権者ニ対シテ有効トス 其他建物ノ保険ニ本ツカサル債権ニ付テハ第千〇六十九条第一項ノ規定ヲ准用シ建物ノ保険ノ債権ニ付テハ第三百〇三条乃至第三百〇六条ノ規定ヲ准用ス 建物ノ保険以外ノ保険ニ本ツク債権ニ附着スル担保ノ義務ハ又土地カ債権ノ留保付ニテ債権差押前ニ譲渡サレタルトキハ消滅ス但譲渡カ強制競売ノ方法ニ依リタルトキハ此限ニ在ラス 第千〇七十一条 抵当ハ負担ヲ加ヘラレタル土地及ヒ之ト共ニ担保ノ義務ヲ負フ物ノ各部ニ付テ存ス又数個ノ土地ニ付テ設定セラレタル抵当ハ債権ノ全部ニ対シ各土地ニ付テ存ス 第千〇七十二条 抵当ノ確固ヲ害スル負担附土地ノ毀損ノ虞アルトキハ債権者ハ危害ノ除去ニ付キ必要ナル処置ヲ為スヘキ裁判所ノ命令ヲ請求スルコトヲ得 第千〇七十三条 抵当ノ確固ヲ害スル土地ノ毀損カ既ニ発生シタルモ債権カ尚ホ満期トナラサルトキハ債権者ハ土地所有者ニ対シ土地ノ修繕又ハ他ノ抵当ノ設定ニ依リテ抵当ノ確固ニ対スル危害ヲ除去スル為メ相当ノ期間ヲ指定シ且此期間カ無益ニ経過シタルトキハ土地ニ付キ直ニ弁済ヲ請求スルコトヲ得然レトモ無利息債権ニ付テハ債権者ハ支払ノ時ヨリ満期ニ至ルマテノ法定利息ヲ算入シテ債権ノ全額ニ達スヘキ金額ノミヲ請求スルコトヲ得 第千〇七十四条 土地ニ属スル従物ヲ毀損シ又ハ之ヲ土地ヨリ取去ルコトハ第千〇七十二条及ビ第千〇七十三条ニ掲グル土地ノ毀損ト見做ス 第千〇七十五条 抵当ハ債権者ノ為メニ土地ノ強制監督又ハ強制執行ノ方法ニ依リ負担附土地及ヒ之ト共ニ義務ヲ負フ物ニ付キ満期トナリタル債権ヲ取立ツヘキ請求権ヲ生ス 第千〇七十六条 抵当ノ設定後ニ債権者ノ権利ト負担附土地ノ所有権カ同一人ニ混同スルトキハ所有者ハ土地ノ強制競売又ハ強制管理ノ場合ニ於テ自已ノ為メニ債権ヲ主張スルコトヲ得所有者ハ自ラ強制競売又ハ強制管理ヲ行フ権利ヲ有セス 第千〇七十七条 負担附土地ノ所有者ト債権者カ債権ノ満期前ニ取結ヒタル契約ニ因リテ債権者カ弁済ヲ得サルトキハ弁済ノ目的ヲ以テ土地所有権ノ移転ヲ請求シ又ハ強制執行以外ノ方法ニ依リテ其譲渡ヲ得ベキ権利ヲ有スルコトヲ定ムルトキハ此契約ハ無効トス土地所有者カ債権者ニ対シ他ニ土地ヲ譲渡サス又ハ他ノ負担ヲ之ニ加ヘサル義務ヲ負フ契約ニ付キ亦同シ 第千〇七十八条 抵当カ同一ノ債権ニ対シ数個ノ土地ニ存スルトキハ債権者ハ其撰択ニ依リ負担ヲ加ヘラレタル総テノ土地又ハ其数個若クハ其一個ニ付テ弁済ヲ請求スルコトヲ得 債権者カ強制管理又ハ強制競売ノ手続ニ依リテ負担付土地ノ一ヨリ弁済セラレタル限ハ抵当ハ総テ負担付土地ニ関シテ消滅ス 第千〇七十九条 抵当ニ依リテ担保セラルル債権ノ満期カ通知ヲ為スコトニ係ル場合ニ於テハ抵当ニ本ツク請求権ニ関シ債権者ニ属スル通知ノ有効ナルニハ所有者ニ通知ヲ為スコトノミヲ要シ債務者ニ属スル通知ニ付テハ所有者カ通知ヲ為スコトヲ以テ足リ又所有ニアラサル対人債務者ノ通知ハ債権者又ハ債務者カ之ヲ所有者ニ示シタル時ヨリ其効力ヲ生ス 第千〇八十条 負担附土地ノ所有者ハ債権カ満期トナリタルトキハ直ニ債権者ニ弁済ヲ為スコトヲ得 第千〇八十一条 債権者カ抵当ニ本ツキ土地ニ付テ弁済ヲ求ムルトキハ債権者ノ請求ヲ受ケタル者及ヒ土地カ強制競売ニ附セラルヽ場合ニ於テ之ニ因リテ土地ニ付テ有スル権利ヲ失フ危険アル者ハ債権者ニ弁済シテ強制執行ヲ止ムルコトヲ得 債権者カ弁済ヲ受クルトキハ前項ノ権利者ニ債権ヲ譲渡スコトヲ要ス第千〇九十四条第二項乃至第四項ノ規定ハ之ニ因リテ影響ニ受クルコトナシ 債権ノ一部ニ付キ強制執行アルトキハ此部分ニ関シ第一項及ヒ第二項ノ規定ヲ適用ス但債椎者ハ右部分ヲ譲渡スモ残部ノ債権ニ付キ優先ノ順位ヲ留保スルコトヲ得又此留保アルトキハ一部ノ譲渡ハ債権者ニ損害ヲ加ヘテ一般ニ之ヲ主張スルコトヲ得ス 第千〇八十二条 第千〇八十条及ヒ第千〇八十一条ノ場合ニ於テハ供託又ハ相殺ニ因リテ債権者ニ弁済ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テハ第二百七十二条乃至第二百八十九条ノ規定ヲ准用ス 第千〇八十三条 抵当ニ本ツク権利ニ関シテハ抵当ノ設定ニ依リテ担保セラレタル債権ノ成立ニ付キ並ニ之ニ対シテ提起スヘキ抗弁ニ付キ第八百二十六条、第八百二十七条、第八百三十七条乃至第八百三十九条ノ規定ヲ准用ス 第千〇八十四条 負担附土地ノ所有者ハ抵当ニ本ツク請求権ニ対シ自己ト債権者トノ間ニ存スル対人ノ法律関係ニ本ツク抗弁ヲ主張スルコトヲ得 土地台帳ニ因リテ生スル抗弁及ビ抵当ノ成立ヲ否認シ又ハ土地台帳ノ不正殊ニ債権ノ不成立ヲ主張スル抗弁ヲ提起スル所有者ノ権利ハ第千〇八十三条ノ規定ニ因リテ抗弁ノ提起カ除却セラレサル限ハ影響ヲ受クルコトナシ 所有者ハ第千〇八十三条ノ規定ニ反セサル限ハ対人債務者カ債権ニ対シテ有スル抗弁ヲ主張スルコトヲ得対人債務者カ債権者ニ対シ抵当ノ成立後ニ表示シタル抗弁ノ放棄ハ抵当ニ本ツク請求権ニ関シテハ無効トス又対人債務者ノ相続人カ負担スル責任ニ対シ限定承認権ニ本ツキテ加フル制限ハ所有者之ヲ主張スルコトヲ得ス 第千〇八十五条 債権ニ対スル抗弁ヲ保存スル為メ土地台帳ニ予告ヲ登記スルコトヲ得此予告ニ対シテハ第八百四十四条及ビ第八百四十五条ノ規定ヲ準用ス 消費貸借ニ付キ抵当ヲ設定シタル場合ニ於テ貸借カ生セサリシコトノ予告ノ登記ヲ為スニハ負担附土地ノ所有者カ抵当ノ登記後三十日ヲ経過スル前ニ直接ニ登記役場ニ其申請ヲ為スコトヲ以テ足ル又右三十日以内ニ登記シタル予告ハ抵当ト同時ニ之ヲ登記シタルト同一ノ効力ヲ有ス 第千〇八十六条 抵当ハ債権ノ譲渡ト共ニ新債権者ニ移転ス 債権ト抵当トハ互ニ相伴フニアラサレハ之ヲ譲渡スコトヲ得ス 第千〇八十七条 抵当カ設定セラレタル債権ノ譲渡ニ付テハ第八百二十八条乃至第八百三十三条ノ規定ヲ准用ス 登記済債権者カ死亡シタルトキハ債権ノ譲渡ニ付キ先ツ其相続人ヲ債権者トシテ登記スルコトヲ要セス 第千〇八十八条 強制執行ノ手続ニ於テ授附ニ依ル債権ノ譲渡ニ付テハ土地台帳ニ譲渡ヲ登記スルコトヲ要ス登記ハ授附ノ決定ニ本ツキ且此決定ヲ第三債務者ニ送達スルコトニ依リテ之ヲ為ス 第千〇八十九条 第三百〇三条乃至第三百〇五条ノ規定ハ抵当ニ本ツク請求権ニ対シ之ヲ適用セス 第千〇九十条 淹滞利息ニ本ツク債権及ヒ一定ノ金額ニ依リテ土地台帳ニ登記ナキ費用ニ本ツク債権ノ譲渡ハ抵当ニ依リテ担保セラレサル債権ノ譲渡ニ関スル規定ニ従フテ之ヲ定ム此掦合ニ於テ殊ニ第三百〇三条乃至第三百〇五条ノ規定ヲ適用ス淹滞利息ニ本ツク債権ニ付テハ其満期カ主タル債権ノ譲渡後ニ生スルトキト雖モ亦同シ 第八百三十七条ノ規定ハ第一項ニ掲クル債権ニ付キ之ヲ適用セス 第千〇九十一条 法律行為ニ因リテ抵当ヲ消滅セシムルニハ負担付土地ノ所有者ト債権者トノ契約、所有者ノ抵当取消ノ申請及ヒ土地台帳ニ於テ抵当ヲ取消スコトヲ要ス 抵当カ所有者ニ属スルトキハ之ヲ消滅セシムルニハ所有者ノ抵当取消ノ申請及ヒ土地台帳ニ於テ抵当ヲ取消スコトヲ以テ足ル 本条ノ場合ニ於テハ第八百二十八条乃至第八百三十三条ノ規定ヲ准用ス 第千〇九十条ニ掲クル利息及ヒ費用ニ本ツク抵当ヲ取消スニハ第一項ノ規定ニ依リテ必要ナル契約ノミニテ足ル 第千〇九十二条 債権カ消滅スルトキハ之ニ対シテ設定セラレタル抵当モ共ニ消滅ス但法律ニ別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス殊ニ第千〇八十三条ノ規定ハ之ニ依リテ影響ヲ受クルコトナシ 第千〇九十三条 対人債務者カ債権ニ対シ給付ヲ請求スル権利ノ主張ヲ引続キ除却スベキ抗弁ヲ有スルトキハ抵当ハ所有者カ債権者ニ対シ右ノ抗弁ヲ主張スル意思ヲ表示スルコトニ因リテ消滅ス 第千〇九十四条 抵当ハ債権者カ負担附土地所有者ヨリ弁済ヲ受クルコトニ因リテ消滅ス 債権者ニ弁済シタル所有者カ対人債務者ニアラサルトキハ債権ハ抵当ト共ニ所有者ニ移転ス 債権者ニ弁済シタル所有者カ同時ニ対人債務者ナルトキハ抵当ハ此者ニ移転ス(所有者ノ抵当)所有者ノ抵当ハ共ニ負担ヲ加ヘラレタル第三者ノ土地ニモ及ブモノトス 右何レノ場合ニ於テモ移転ハ弁済ニ因リテ法律上当然発生ス 第千〇九十五条 所有者カ債権ノ一部ニ付キ債権者ニ弁済ヲ為シタルトキハ此部分ニ関シ第千〇九十四条ノ規定ヲ准用ス但所有者ハ債権者ニ損害ヲ加ヘテ移転ヲ主張スルコトヲ得ス殊ニ弁済セサル部分ニ付テハ優先ノ順位ハ債権者ニ属ス 第千〇九十六条 債権者カ弁済ヲ受クルトキハ弁済ヲ為シタル所有者ニ対シ此弁済ニ因リテ生シタル法律上ノ状況ニ従ヒ土地台帳ヲ訂正スル為メ登記法ノ現定ニ依リテ必要ナル証書ヲ交附スルコトヲ要ス 第一項ノ規定ハ対人債務者カ同時ニ負担ヲ加ヘラレタル土地ノ所有者ナルカ又ハ土地台帳ノ訂正ニ付キ法律上ノ利益ヲ有スル限ハ此者ノ為メニ之ヲ准用ス債権者ハ所有者ノ登記取消ノ申請ヲ為スコトヲ要セス 第千〇九十七条 債権及ヒ債務カ負担ヲ加ヘラレタル土地ノ所有者ノ一身ニ混同スルコトニ因リテ債権カ消滅スルトキハ抵当ハ所有者抵当トシテ存立ス 債権ノ一部ニ付テノミ混同ヲ生シタルトキハ此部分ニ関シ第一項ノ規定ヲ適用ス 第千〇九十八条 所有者ノ抵当ニ本ツキ権利者ハ自已ノ為メ登記済債権ノ額ニ等シキ金額ヲ負担付土地及ヒ共ニ義務ヲ負担スル物ニ付キ強制管理又ハ強制競売ノ方法ニ依リ取立ツルコトヲ請求スルコトヲ得 所有者ノ抵当ニ付テハ利息、利率、支払ノ時日、支払ノ場所及ヒ告知ニ関スル事項ハ登記済債権ニ付テ適用セラル規定ニ依リテ之ヲ定ム 第千〇九十九条 所有者カ自ラ所有者抵当ヲ主張スルニハ第千〇七十六条第二段ノ規定ニ従フコトヲ要ス 所有者ハ所有権ノ存続スル間ハ土地カ強制管理ノ為メニ差押ヘラレタル時ヨリ主タル金額利息ヲ請求スルコトヲ得 第千百条 所有者ノ抵当ノ譲渡ハ登記済債権ノ譲渡ヲ定ムル規定ニ依リテ之ヲ定ム 所有者ノ抵当ノ譲渡ニ因リ之ト共ニ新債権カ附着スルコトナシ 第千百〇一条 第千〇九十四条乃至第千百条ノ規定ハ淹滞セル利息ニ本ツク債権及ヒ一定ノ金額ニ依リテ土地台帳ニ登記セラレサル費用ニ本ツク債権ニ関シ之ヲ適用セス 第千百〇二条 消滅シタル抵当ニ代ヘテ他ノ抵当ヲ登記スルコトヲ得ス 第千百〇三条 負担付土地ノ所有者カ消滅シタリト主張スル債権ニ対スル抵当ニ関シテハ所有者ハ抵当ニ関スル最終ノ登記ヨリ三十年ヲ経過スルトキハ未タ知レサル債権者ヲ除却スル為メ公示催告ノ手続ヲ申請スコトヲ得此場合ニ於テ債権ニ対シ暦ニ従フテ定メタル支払期日アルトキハ三十年ノ期間ハ支払日ヲ経過スルマデ其進行ヲ始ムルコトナシ 前項ノ申請者ハ左ノ事項ヲ疏明スルコトヲ要ス 一、 債権者カ知レサルコト 二、 三十年ノ期間内ニ債権カ所有者ニ依リ第百六十九条ノ規定ニ従ヒ時効ノ中断ニ適スル方法ニ於テ承認セラレサルコト 此場合ニ於テ右ノ疏明ヲ為スニハ申請者ノ宣誓ニ依ル確保ヲ以テ足ル但之ニ異ナリタル方法ヲ命スル裁判所ノ権限ヲ妨クルコトナシ 抵当ハ除却ノ判決ニ本ツキ所有者ノ申請ニ因リテ取消サルルモノトス 第千百〇四条 債権カ満期ト為リ又ハ債務者カ之ヲ告知スルコトヲ得ルトキハ負担付土地ノ所有者ハ未タ知レサル抵当債権者ニ属スル権利ヲ消滅セシムル為メ公示催告ノ手続ヲ申請スルコトヲ得 前項ノ申請者ハ申請ノ原因トシテ左ノ事項ヲ為スコトヲ要ス 一、 債権者カ知レサルコトヲ疏明スルコト 二、 債権額ヲ公ニ供託スルコトヲ申出ツルコト 公示催告ニハ債権者ニ対シ此者カ債権額ノ供託アルトキハ土地ニ付テ債権ノ弁済ヲ求ムルコトヲ得スシテ単ニ供託金ニ付テノミ之ヲ求ムルコトヲ得ベキ法律上ノ不利益ヲ受クル旨ヲ明示スルコトヲ要ス 債権カ未タ満期ニ至ラサルトキハ公示催告ノ期間ハ告知期間ノ時日間之ヲ伸長スルコトヲ要ス 除却ノ判決ハ債権額ノ供託アリタル後始メテ之ヲ下スコトヲ得登記セラレサル利息及ヒ除却ノ判決ヨリ三ケ月以前ノ時日ニ対スル利息ハ之ヲ供託スルコトヲ要セス 除却ノ判決アルトキハ第千〇九十四条第二項乃至第四項ノ規定ニ従ヒ抵当ト共ニ債権ハ所有者ニ移転シ又ハ抵当ノミ法律ノ規定ニ本ツキ所有者ニ移転ス 第千百〇五条 第千百〇三条及ヒ第千百〇四条ノ規定ニ依リテ許サレタル公示催告ノ手続ニ付テハ負担付土地ノ存在スル地ノ裁判所之ヲ管轄ス 第二款 証書付抵当(証書抵当) 第千百〇六条 抵当ノ登記前又ハ其後ニ於テ土地所有者ト債権者ノ契約ニ因リテ登記所カ抵当ニ付キ抵当証書ヲ調製スヘキコトヲ定ムルコトヲ得(証書抵当) 第八百二十八条乃至第八百三十三条ノ規定ハ土地台帳ニ登記ノ要件ニ関シ之ヲ准用ス 第千百〇七条 証書抵当ハ土地所有者ト債権者ノ契約ニ因リテ無証書抵当ニ変更スルコトヲ得 第八百二十八条乃至第八百三十三条ノ規定ハ登記ノ要件ニ関シ之ヲ准用ス又前項ノ変更ノ登記ハ抵当証書ヲ登記所吏ニ返還シタル後ニアラサレハ之ヲ為スコトヲ得ス 第千百〇八条 無証書抵当ニ関スル規定ハ第千百〇九条乃至第千百二十四条ノ規定ニ依リテ別段ノ定ナキ限ハ証書抵当ニ之ヲ適用ス 第千百〇九条 抵当証書ノ所有権ハ其時ノ債権者ニ属ス此所有権ハ抵当権ト分離スルコトヲ得ス 抵当カ消滅スルトキハ士地所有者ハ抵当証書ノ所持者ニ対シ抵当ノ取消ノ為メ登記役場ニ抵当証書ヲ提示スルコトヲ請求スルコトヲ得 第千百十条 抵当証書ヲ調製スルトキ登記法ノ規定ニ従ヒ之ヲ負担付土地ノ所有者ニ渡スヘキ場合ニ於テ債権者カ此証書ノ所持者ニアラサル間ハ債権成立ノ証明ハ土地台帳ニ於ケル抵当ノ登記又ハ抵当証書ニ依リテ之ヲ為スコトヲ得ス 第千百十一条 第千〇八十五条第二項ノ規定ハ証書抵当ニ之ヲ准用セズ 第千百十二条 証書抵当ニ依リテ担保セラルル債権ノ譲渡ニ付テハ譲渡ノ契約ヲ為シ且新債権者ニ抵当証書ヲ交附スルコトヲ要ス又前債権者ノ譲渡ノ意思表示ハ裁判上又ハ公証上ノ公認ヲ受クルコトヲ要ス然レトモ土地台帳ニ登記スルコトハ之ヲ要セス 強制執行ノ場合ニ於テハ執達吏カ新債権者ニ抵当証書ヲ引渡ス為メ之ヲ取上ケタル時ニ其交附アリタルモノト見做ス 第千百十二条 第千〇九十条第一項ノ規定ハ本条ニ因リテ影響ヲ受クルコトナシ 第千百十三条 第千百十二条ノ規定ハ強制執行ノ手続ニ於テ授附ニ依ル債権ノ譲渡ニ付キ之ヲ准用ス此場合ニ於テ譲渡契約ハ第三債務者ニ送達シタル授附ノ決定ニ依リテ之ヲ補フ 第千百十四条 譲渡ノ意思表示又ハ譲渡ノ授附決定カ相関連シテ登記済債権者ニ帰着スヘキ連絡ニ因リ債権者トシテ自己ノ権利ヲ生セシムル者カ抵当証書ノ所持者ナルトキハ此者カ為シタル譲渡ノ意思表示及ヒ此者ニ対シテ行ハレタル強制執行ノ方法ニ依ル債権ノ譲渡ハ抵当ニ本ツク請求権ニ関シ右所持者カ債権者トシテ土地台帳ニ於テ登記セラレタルト同一ノ効力ヲ有ス此場合ニ於テ第八百三十七条乃至第八百三十九条ノ規定ハ之ヲ准用ス 第千百十五条 第千百十二条乃至第千百十四条ノ規定ニ依リテ為シタル譲渡ハ新債権者ノ申請ニ因リ土地台帳ニ之ヲ登記ス此場合ニ於テ申請ノ理由トシテ抵当証書及ヒ譲渡ノ意思表示又ハ送達状ト共ニ授附決定ヲ提示スルコトヲ以テ足ル又数多ノ譲渡アリタルトキハ各譲渡ノ登記ニ付キ必要ナル証書ヲ提示スルコトヲ以テ足ル 第千百十六条 或事実カ抵当証書ニ本ツキ又ハ其中ニ存スル記入ニ因リテ明ナル限ハ第八百三十七条及ヒ第八百三十八条ノ規定ノ適用ニ付キ抵当又ハ之ニ関スル権利ノ所有者ハ其取得ノ時ニ右事実ヲ知ルモノト見做ス 第千百十七条 証書抵当ニ本ツク権利ハ抵当証書ヲ提示スル者ノミ之ヲ主張スルコトヲ得又此者カ債権者トシテ土地台帳ニ登記ナキトキハ第千百十二条乃至第千百十四条ノ規定ニ従ヒ債権者タルコトヲ証明シタルトキノミ右ノ権利ヲ主張スルコトヲ得 第千百十八条 債権者カ負担附土地ノ所有者ニ対シ第千百十七条ノ場合ニ於テ提示スヘキ証書ヲ提示セスシテ為シタル催告又ハ通知ハ所有者カ之ト同時ニ又ハ其後遅滞ナク証書ノ提示ナキコトニ本ツキ之ヲ退クルトキハ無効トス 第千百十九条 証書ノ交附ニ付キ第千〇九十六条ニ掲ケタル債権者ノ義務ハ抵当証書ニモ及フモノトス 一部弁償ノ場合ニ於テハ抵当証書ヲ交附スル代リニ証書面ニ一部弁済ノ記入ヲ為ス又此場合ニ於テハ債権者ハ請求ニ応シテ登記取消ノ為メ又ハ所有者ノ名義ニ一部書替ノ為メ抵当証書ヲ登記役場ニ提示シ又ハ一部抵当証書ヲ調製スル為メ抵当証書ヲ登記役場、管轄裁判所又ハ公証人ニ提示スルヲ要ス 第千百二十条 第千百十七条乃至第千百十九条ノ規定ハ所有者カ同時ニ対人債務者ニシテ債権者カ単ニ対人請求権ノミヲ主張スルトキニモ之ヲ適用ス 第千百二十一条 淹滞利息ニ本ツキ又ハ一定ノ金額ニ依リテ登記セラレサル費用ニ本ツク債権ニ関シテハ第千百十七条乃至千百二十条ノ規定ヲ適用セス 第千百二十二条 債権カ分タレタルモノナルカ又ハ分タルトキハ登記役場、管轄裁判所又ハ公証人ニ依リテ登記法ノ規定ニ従ヒ一通又ハ数通ノ一部抵当証書ノ調製ヲ求ムルコトヲ得此場合ニ於テ負担附土地ノ所有者ノ同意ハ之ヲ要セス 一部抵当証書ノ調製ヲ受ケタル債権ノ部分ニ関シテハ一部抵当証書ハ抵当本証書ニ代ルモノトス 第千百二十三条 抵当証書ヲ紛失又ハ破毀シタルトキハ公示催告手続ニ依リ其無効ヲ宣言スルコトヲ要ス 除却ノ判決了リタルトキハ債権者ノ申請ニ因リ新ニ抵当証書ヲ調製スルコト要ス抵当証書カ新ニ調製セラルヽ迄ハ債権者ハ抵当ニ本ツク権利ヲ主張スルコトヲ得ス 第千百二十四条 第千百〇三条及ヒ第千百〇四条ノ場合ニ於テハ除却ノ判決ト同時ニ抵当証書ハ其効力ヲ失フ又第千百〇四条ノ場合ニ於テハ第千百二十三条第二項ノ規定ヲ准用ス 第三款 保全抵当 第千百二十五条 抵当ハ第千〇八十三条及ヒ第千〇八十九条ノ規定ノ適用ヲ除却スル方法ニ於テモ之ヲ設定スルコトヲ得(保全抵当) 其他保全抵当ニ付テハ第千百二十六条乃至第千百三十四条ニ於テ別段ノ定ナキ限ハ抵当ニ関スル規定ヲ適用ス 第千百二十六条 保全抵当ハ土地台帳ニ登記スルトキ保全抵当トシテ之ヲ表示スルコトヲ要ス 第千百二十七条 抵当証書ノ調製ハ保全抵当ニ付キ除却セラル 第千百二十八条 第千〇七十九条、第千〇八十五条及ヒ第千〇九十七条ノ規定ハ之ヲ保全抵当ニ適用セス又第千〇九十四条及ヒ第千〇九十五条ノ規定ハ所有者カ同時ニ対人債務者タル場合ニ関スルトキ亦同シ 第千百二十九条 抵当ノ設定ニ付キ債権額ヲ確定スルコトカ留保セラレタルトキハ保全抵当ノミ存スルモノトス 第一項ニ掲クル債権ニ対シ抵当カ設定セラルヽトキハ保全抵当ノ設定ヲ欲シタルモノト見做ス 抵当ノ設定ニ付キ土地ノ負担スヘキ最高額ヲ定メ之ヲ土地台帳ニ登記スルコトヲ要ス右負担ノ最高額ニ限定ハ土地カ抵当ノ設定ニ従フテ負担スヘキ利息ニモ及フモノトス又利息附ナルコト及ヒ其利率ハ共ニ之ヲ土地台帳ニ登記セス 債権ハ抵当ニ依リテ担保セラレサル債権ノ譲渡ニ関スル規定ニ従ヒ之ヲ譲渡スコトヲ得又債権カ右ノ規定ノミニ従ヒ譲渡シタルトキハ抵当ハ新債権者ニ移転セス 第千百三十条 執行スルコトヲ得ヘキ金銭債務ノ債権者ハ強制執行ノ方法ニ依リテ右ノ債権ニ対シ債務者ノ土地ニ付キ保全抵当ヲ土地台帳ニ登記スルコトヲ請求スルコトヲ得(強制抵当) 強制抵当ハ土地台帳ニ登記スルコトニ依リテ之ヲ設定ス 第千百三十一条 債務者ノ数個ノ土地カ債権者ニ対シ強制抵当ノミニ本ツキ又ハ其登記前ニ設定セラレタル抵当ト連合シテ担保ノ義務ヲ負担シ且債権者ハ之ニ因リテ法律カ後見保証金ヲ差入レシムルコトニ付テ要スルヨリハ一層大ナル担保ヲ得タルトキハ債務者ハ債権者カ一個又ハ数個ノ土地ニ付キ強制抵当ノ取消ヲ承諾スヘキ請求ヲ為スコトヲ得但残余ノ担保ハ後見保証金ヲ差入レシムル規定ニ適スルトキニ限ル 第千百三十二条 債権者カ債務者ノ土地ニ付キ執行スルコトヲ得ヘキ差押命令ヲ得タルトキハ差押執行ノ方法ニ依リ民事訴訟法第八百〇三条ノ規定ニ従ヒ差押命令中確定シタル金額ノ債権ニ対シ債務者ノ土地ニ付キ保全抵当ヲ土地台帳ニ登記スルコトヲ請求スルコトヲ得(差押抵当) 差押抵当ニ付テハ第千百二十九条第三項第四項第千百三十条第二項及ヒ第千百三十一条ノ規定ヲ準用ス 第千百三十三条 既ニ為サレタル執行ヲモ廃止スル効力ヲ以テ強制執行又ハ差押カ停止セラレ若クハ差押ノ廃止カ抵当ニ関シテ執行スルコトヲ得ヘキ判決ニ依リテ命セラレタルトキハ強制抵当又ハ差押抵当ノ取消ニ付キ債権者ノ承諾ヲ要セス 第千百三十四条 保全抵当ハ之ニ関スル規定ニ従ハサル他ノ抵当ニ変更スルコトヲ得右ノ変更ヲ為スニハ負担附土地ノ所有者ト債権者及ヒ之ト同等又ハ劣等ノ順位ヲ有スル権利者トノ間ニ契約ヲ取結ヒ且之ヲ土地台帳ニ登記スルコトヲ要ス 第二節 土地債務 第千百三十五条 土地ハ定マリタル人カ(土地債務ノ権利者)自巳ノ為メニ一定ノ金額ヲ強制管理又ハ強制競売ノ方法ニ依リテ土地ヨリ取立ツルコトヲ請求スル権利ヲ有スル方法ニ於テ之ニ負担ヲ加フルコトヲ得(土地債務) 前項ノ金額ハ利息附ノモノトシテ之ヲ定ムルコトヲ得 第千百三十六条 土地債務ニ付テハ証書抵当ニ関スル規定ヲ準用ス但土地債務カ債権ニ関係セサルコトノ事情ニ本ツキ又ハ第千百三十七条乃至第千百四十四条ノ規定ニ本ツキ之ニ反対ヲ生スルトキハ此限ニ在ラス 第千百三十七条 条件附又ハ期限附ニテ為シタル土地債務ノ設定ハ無効トス 第千百三十八条 土地債務ニ付テハ土地債務証書ヲ調製ス此調製ハ之ヲ除却スルコトヲ得ス 第千百三十九条 土地債務ニ本ツク請求権ハ其主タル金額ニ付テハ告知ヲ為シタル後ニアラサレハ満期トナラス告知ノ権利ハ所有者並ニ土地債務ノ債権者ニ属ス又此告知期間ハ六ケ月トス 主タル金額及ヒ利息ハ登記役場ノ所在地ニ於テ之ヲ支払フコトヲ要ス 第一項及ヒ第二項ノ規定ハ別段ノ定ナキトキニ限リ之ヲ適用ス 第千百四十条 土地債務ノ債権者ハ負担附土地ノ所有者ニ対シ債務者カ遅滞ニ附セラルヽト同一ノ要件カ存スルトキハ第千百三十五条ノ規定ニ従ヒ土地債務額ニ付キ遅滞利息ヲ請求スルコトヲ得 第千百四十一条 土地債務ノ淹滞利息ニ本ツク請求権ハ抵当ノ淹滞利息ニ本ツク請求権ニ関スル規定ニ従フテ之ヲ決定スルコトヲ要ス 第千百四十二条 土地債務ハ土地ノ所有者ノ為メニモ之ヲ設定スルコトヲ得此場合ニ於テハ所有者カ登記役場ニ対シ土地債務カ自已ノ名ニ於テ土地台帳ニ登記セラルヘキ旨ヲ表示シ且之ヲ土地台帳ニ登記スルコトヲ要ス 第八百三十条及ヒ第八百三十一条ノ規定ハ本条ノ場合ニ之ヲ準用ス 第千百四十三条 土地ノ所有者カ土地債務ノ権利者タルトキハ土地債務及ヒ利息ノ取立ニ関シ第千〇七十六条及ヒ第千〇九十九条第二項ノ規定ヲ準用ス 第千百四十四条 土地債務ハ之ヲ抵当ニ変更シ抵当ハ之ヲ土地債務ニ変更スルコトヲ得此場合ニ於テハ負担ヲ有スル土地ノ所有者、土地債務ノ権利者又ハ抵当権利者トノ間ニ契約ヲ取結ヒ且之ヲ土地台帳ニ登記スルコトヲ要ス抵当ヲ土地債務ニ変更スル場合ニ於テハ此債権者ト同一順位又ハ其後ニ位スル権利者ノ同意ヲ要ス又第八百二十八条乃至第八百三十三条及ヒ第八百三十七条乃至第八百三十九条ノ規定ハ之ヲ準用ス 第三節 動産質 第千百四十五条 動産ハ定マリタル人カ或債権ニ本ツキ此物(質物)ヨリ弁済ヲ請求スル権利ヲ有スヘキ方法ニ於テ之ニ負担ヲ加フルコトヲ得(動産質) 前項ノ債権ハ未来又ハ条件附若クハ未定ノ債権タルコトヲ得 第千百四十六条 質権ハ物ノ一部ニ付キ之ヲ設定スルコトヲ得 第千百四十七条 法律行為ニ因リテ動産質ヲ設定スルニハ質物ノ所有者ト債権者トノ間ニ質物ノ所持ヲ授受シテ質権カ設定セラルヘキ当事者ノ意思表示ヲ包含スル契約ヲ取結フコトヲ要ス(質契約) 第八百〇三条、第八百〇四条、第八百二十九条第八百七十四条第三項、第八百七十五条乃至第八百七十七条、第八百七十九条及ヒ第八百八十条ノ規定ハ本条ノ場合ニ之ヲ準用ス 質権ノ設定ニ必要ナル所持ノ授受ハ質物カ質入主ノ共同所持ニ存スルコト又ハ第三者カ質取債権者又ハ所有者ノ為メニ質物ヲ所持スルコトニ因リテ除却セラルルコトナシ然レトモ質入主ハ質物ヲ所持スヘキコトヲ約束シタルトキハ質権ノ設定ハ無効トス 第千百四十八条 質物ハ別段ノ定ナキ限ハ法律ノ規定又ハ法律行為ニ本ツク利息及ヒ違約金ヲ包含シテ現時ノ成立及ヒ範囲ニ於ケル債権ニ対シ、質物売却ノ費用ヲ包含シテ告知及ヒ訴追ノ費用ニ対シ、主タル義務カ質権設定後ニ債務者ノ取得シタル法律行為ニ因リ又ハ債務者ノ過失若クハ遅滞ニ因リテ受ケタル拡張及ヒ変更ニ対シ並ニ質物ニ加ヘタル費用ニ本ツク質物債権者ノ請求ニ対シ担保ノ義務ヲ負担ス 第千百四十九条 質権カ他人ノ債務ノ為メニ設定セラレタル場合ニ於テ別段ノ定ナキ限ハ質物カ債権ニ対シテ義務ヲ負担スル範囲ニ関シ第六百七十一条及ヒ第六百七十一条ノ規定ヲ准用ス此場合ニ於テ質物ノ負担スル義務ハ告知ノ費用、質物売却ノ費用及ヒ質物ニ加ヘタル費用ニ本ツク債権者ノ請求権ニ及フモノトス 第千百五十条 質権ハ質物ノ各部分ニ付キ存在ス又数個ノ物カ質権ノ目的タルトキハ質権ハ債権ノ全部ニ対シ各物ニ付キ存在ス 質権ハ質物ヨリ分離セラレタル成分殊ニ産出物ニ付キ存在ス 第千百五十一条 同一物ニ付キ数個ノ質権カ存立スルトキハ前ノ設定ニ係ル質権ハ後ノ設定ニ係ル質権ニ優先ノ効力ヲ有ス前ノ設定ニ係ル質権ハ未来各条件附ノ債権トシテ設定セラレタルトキ亦同シ 第千百五十二条 法律行為ニ因リテ設定セラレタル動産質権ハ其取得者カ之ヲ取得スル時ニ質物ニ付テ既ニ設定セラレタル権利ヲ知ラス且此不知カ重過失ニ本ツカサルトキハ右総テノ権利ニ優先ノ効力ヲ有ス此場合ニ於テハ第八百七十七条第二段、第八百七十九条及ヒ第八百八十条ノ規定ヲ准用ス 第千百五十三条 質取債権者ハ質物ヲ所持スル権利ヲ有ス此権利ハ第千百四十七条第三項ノ規定ニ従ヒ之ヲ制限スルコトヲ得 第千百五十四条 動産質ハ質取債権者カ質物ノ用益ヲ収取スルコトヲ得ル方法ニ於テ之ヲ設定スルコトヲ得 前項ノ場合ニ於テハ質取債権者ハ用益ノ収取ニ付キ注意ヲ加ヘ且其計算ヲ為ス義務ヲ負担ス又用益ノ純収入ハ之ヲ債権ト差引シ殊ニ従タル債権了ルトキハ先ツ之ト差引ス 第二項ノ規定ハ別段ノ合意アルトキハ之ヲ適用セス 天然果実ヲ生スル物ヲ質入シタルトキハ疑ハシキ場合ニ於テハ質取債権者ハ果実収取ノ権アルモノト見做ス 第千百五十五条 質取債権者ノ権利ヲ制限セラルルトキハ此制限ヲ加フル者ニ対スル質取債権者ノ請求権ニ付テハ第九百二十九条乃至第九百四十五条及ヒ第九百五十一条ノ規定ヲ準用ス 第千百五十六条 質取債権者ハ所有者ニ対シテ質物ヲ保管シ且債権カ消滅スルトキハ之ヲ返還スル義務ヲ負担ス 質取債権者カ第一項ノ義務ヲ着シク毀損セルトキハ所有者ハ質物ノ所持ヲ質取債権者ヨリ奪取シ且此者ノ費用ヲ以テ質物ヲ公ニ供託シ又ハ公ノ供託ニ適セサルトキハ裁判上任定セラルル保管人ニ之ヲ引渡スコトヲ請求スルコトヲ得其他所有者ハ右ノ場合ニ於テハ債権カ未タ満期トナラサルトキト雖モ質取債権者ニ弁済シテ質物ノ返還ヲ請求スルコトヲ得又無利息債権ニ付テハ第千〇七十三条第二段ノ規定ヲ準用ス 第千百五十七条 質物カ腐敗ノ虞アルトキ又ハ其価格ノ減少カ質取債権者ノ担保ヲ害スル虞アルトキハ質取債権者ハ所有者ニ此旨ヲ通知スルコトヲ要ス質取債権者ハ右ノ通知ヲ為シタル後管轄権ヲ有スル執達吏又ハ競売権ヲ有スル其他ノ官吏若クハ公任競売者(営業条例第三十六条)ヲシテ質物ヲ競売セシムルコトヲ得此場合ニ於テ売却ハ所有者ニ予告ヲ為シタル後ニアラサレハ之ヲ許サス又所有者ハ担保ヲ供シテ質物ノ売却ヲ止メシムルコトヲ得然レトモ証人ニ依ル担保ハ除却セラル其他質取債権者ハ遅滞ナク所有者ニ売却ノ執行ヲ通知スルコトヲ要シ之ヲ怠ルトキハ損害賠償ノ責ノ任ス 第一項ニ掲クル通知ハ之ヲ為シ得ヘキトキニ限リ必要トス又質物カ現ニ腐敗ニ委セラレ又ハ危険ノ虞アルトキハ腐敗ニ付キ予メ通知セス又ハ売却ノ予告ヲ為サスシテ質物ヲ売却スルコトヲ得 質取債権者ハ質物ノ代価ニ付キ債権ヲ有ス代価ハ所有者ノ請求ニ因リ之ヲ供託スルコトヲ要ス 第千百五十八条 質取債権者ハ所有者カ為シタル弁済ニ対シ之ニ質物ヲ返還スルコトヲ要ス 債権者ニ弁済シタル対人債務者ハ質物カ所有者ニ返還セラルルコトニ付キ法律上ノ利益ヲ有スルトキハ其弁済ニ対シ質物ヲ所有者ニ返還スルコトヲ債権者ニ請求スルコトヲ得 第千百五十九条 所有者ハ質取債権者カ質物ニ加ヘタル必要費ヲ賠償スルコトヲ要ス 委任ノ執行及ヒ事務管理ニ関スル規定ニ従ヒ質取債権者カ有スル費用賠償ノ請求権ハ本条ノ規定ニ因リテ影響ヲ受クルコトナシ 第千百六十条 質物ノ所有者ハ質物ニ付テ弁済ヲ求ムル質取債権者ニ対シ此者ト自己ノ間ニ存スル対人法律関係ニ本ヅク抗弁ヲ援用スルコトヲ得又債権ニ対シテ債務者ニ属スル抗弁ヲモ主張スルコトヲ得然レトモ所有者ハ対人債務者ノ相続人カ負担スル責任ノ制限ニシテ限定承認権ニ本ツクモノヲ援用スルコトヲ得ス 第千百六十一条 質物ノ所有者ハ債権カ満期トナリタルトキハ直ニ質取債権者ニ弁済スル権利ヲ有ス 第千百六十二条 質取債権者カ弁済ヲ受クル為メ質物ヲ売却セントスル場合ニ於テ質物ニ付キ右売却ニ因リテ権利ヲ失ハントスル者ハ質取債権者ニ弁済シテ質物ノ売却ヲ止ムルコトヲ得 第千百六十三条 第千百五十六条第二項第千百六十一条及ヒ第千百六十二条ノ場合ニ於テハ供託又ハ相殺ニ依リテ質取債権者ニ弁済ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テハ第二百七十二条乃至第二百八十九条ノ規定ヲ準用ス 第千百六十四条 質取債権ニ付キ対人義務ヲ負担セサル所有者又ハ第千百六十二条ノ規定ニ従ヒ第三者ヨリ弁済ヲ受ケタルトキハ第六百七十六条ノ規定ヲ準用ス 第千百六十五条 質物ニ依リテ質取債権者ニ弁済スルニハ質物ヲ売却シテ之ヲ為ス 質取債権者ハ債権ノ全部又ハ一部カ満期トナリ且此債権カ最初金銭ノ給付ヲ目的トセサリシモ後ニ金銭ノ債権ニ変ジタルトキハ直ニ質物ヲ売却スル権利ヲ有ス 第千百六十六条 質物ヲ所持スル質取債権者ハ自己ニ劣リタル順位ノ質取債権者ニ対シ質物売却ノ為メニ之ヲ引渡スコトヲ要セス其他ノ場合ニ於テ優先権ヲ有スル質取債権債ハ自ラ質物ヲ売却スルコトヲ欲セサル限ハ他ノ質取債権者ニ依ル売却ニ反対スルコトヲ得ス 第千百六十七条 第千百六十五条第二項ニ掲クル要件ノ発生前ニ質物ノ所有者ト質取債権者トノ間ニ取結ヒタル契約ニシテ質取債権者カ弁済セラレサルトキハ質物ノ所有権ハ弁済ノ為メニ此ノ者ニ移スヘキコトヲ約シ又ハ質取債権者カ所有権ノ譲渡ヲ請求スル権利ヲ有スヘキコトヲ約スルモノハ無効トス 第千百六十八条 質権ノ目的物ハ金銭ニシテ且質取債権者カ之ヲ所持スル場合ニ於テ第千百六十五条第二項ニ掲クル要件カ発生スルトキハ質取債権者ハ此金銭ヨリ既ニ満期トナリタル債権ノ弁済ヲ受クヘキ権利ヲ取得ス又質取債権者カ質権ノ目的タル金銭ヲ自ラ支払フベキ義務ヲ負担スル場合ニ於テ右ノ要件カ発生スルトキハ所有者ハ質取債権者ニ対シ此金銭ヨリ弁済ヲ受クヘキコトヲ請求スル権利ヲ取得ス 前項ノ場合ニ於テ質取債権者カ所有者ニ対シ金銭ヨリ弁済ヲ受ケントスル意思ヲ表示シタル時又ハ所有者カ金銭ヲ自ラ支払フヘキ義務ヲ負担シタル質取債権者ニ対シ此者カ右ノ金銭ヨリ弁済ヲ受クヘキコトヲ請求スル意思ヲ表示シタル時ニ債務カ弁済セラレタルモノト見做ス 第千百六十九条 質物ノ売却ハ第千百七十条乃至第千百七十六条ノ規定ニ従フテ之ヲ為スコトヲ要ス 質取債権者ハ所有者カ質物ノ売却ヲ許諾スヘキ義務ニ付キ執行名義ヲ得タルトキハ強制執行ノ手続ニ於テ質入セラレタル動産ノ売却ニ関スル規定ニ従ヒ質物ヲ売却セシムルコトヲ得 第千百七十条 質取債権者ハ其為シ得ル限ハ所有者ニ質物ノ売却ヲ予告シ且売却ノ必要ヲ生セシメタル金額ヲ指定スルコトヲ要ス右ノ予告ハ第千百六十五条第二項ニ掲クル要件カ発生シタル後ニアラサレハ之ヲ許サス 質物ノ売却ハ予告後四週間ヲ経過シタル時又ハ予告カ為シ得ベカラサルモノトシテ止メラレタル場合ニ於テハ予告ヲ為スコトニ付キ定メラレタル時期ヨリ四週間ヲ経過シタル時ニ至リ之ヲ為スコトヲ得 第千百七十一条 質物ノ売却ハ競売ニ付キ任定セラレタル執達吏又ハ其他競売権ヲ有スル官吏若クハ公在ノ競売者(営業条例第三十六条)ニ依リ競売ノ方法ニ於テ之ヲ為スコトヲ要ス 競売ノ時日及ヒ場所ハ競売スヘキ質物ノ一般ノ表示中ニ之ヲ公示スルコトヲ要ス 第千百七十二条 競売ハ質取債権者ニ弁済シタル場合ニ於テハ質物ヲ返還スベカリシ土地ニ於テ之ヲ為スコトヲ要ス 競売ノ時日及ヒ場所ニ付キ為シ得ル限ハ質物ノ所有者ニ対シ特ニ通知ヲ為スコトヲ要ス質物カ第三者ノ権利ニ依リテ負担ヲ加ヘラレタルトキハ此第三者ニ対シ亦同シ 第千百七十三条 質取債権者ハ競売ニ加ハリテ申込ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テ質物カ質取債権者ニ競落シタルトキハ代価ハ既ニ此者ヨリ受取リタルモノト見做ス 所有者モ競売ニ加ハリテ申込ヲ為シ又之ニ競落スルコトヲ得 所有者又ハ他人債務者ノ申込ハ其金額カ現金ニテ競売者ニ支払ハレサルトキハ之ヲ拒絶スルコトヲ得 第千百七十四条 金銀物ハ其金又ハ銀ノ価格以下ニ競落スルコトヲ得ス競落ヲ許スヘキ競買ノ申込ナキトキハ第千百七十一条第一項ニ掲クル者ノ一人ニ依リ金又ハ銀ノ価格ニ達スル代価ヲ以テ自由ニ売却スルコトヲ得 第千百七十五条 質物ハ買主カ現金ニテ直ニ代価ヲ支払フベク且代価カ直ニ支払ハレサルトキハ其権利ヲ失フヘキ定ニ依リテノミ之ヲ売却スルコトヲ得此定ニ依ラスシテ売却セラレタルトキ又ハ競売期日ノ終了前ニ権利実行ノ留保ニ付キ行使スル所ナキトキハ質取債権者ニ競落シタルモノト見做ス但質取債権者カ競買者ニ対シテ有スル権利ハ之ニ因リテ妨ケラルルコトナシ 第千百七十六条 数個ノ物カ質権ノ目的物タルトキハ質取債権者ハ売却セントスル物ニ付キ撰択権ヲ有ス 数個ノ質物アルトキハ質取債権者ハ既ニ満期トナリタル債権ノ弁済ニ必要ナル限度ニ於テノミ之ヲ売却スルコトヲ得 第千百七十七条 所有者ト質取債権者トノ合意ニ因リテ第千百六十九条乃至第千百七十六条ノ規定ニ異ナル質物売却ノ方法ヲ定ムルコトヲ得此場合ニ於テ第三者カ質物ニ付キ譲渡ニ因リテ消滅スル権利ヲ有スルトキハ右異ナリタル売却ノ方法ニ付キ第三者カ許諾スルコトヲ要ス 第千百六十五条第二項ニ掲クル要件ノ発生前ニ取結ヒタル契約ニシテ第千百七十一条及ヒ第千百七十四条ノ規定ニ従フコトヲ除却スルモノハ無効トス 第千百七十八条 第千百七十一条乃至第千百七十五条ノ規定ニ異ナル質物売却ノ方法カ公平ナル斟酌ニ依レハ所有者並ニ質取債権者ノ利益ニ適セルトキハ質物ヲ譲渡サントスル質取債権者ハ所有者ニ対シ右売却ノ方法ヲ許諾スヘキ旨ヲ請求スルコトヲ得所有者ハ質取債権者ニ対シ右ノ方法ニ依リテ売却スヘキ旨ヲ請求スルコトヲ得 第一項ノ規定ハ質物ニ付キ譲渡ニ因リテ消滅スル権利ヲ有スル第三者ニ対シ之ヲ準用ス 第千百七十九条 質取債権者ハ所有者ニ対シ為シ得ヘキ限ハ質物ノ質却及ヒ其結果ニ付キ遅滞ナク通知ヲ為スコトヲ要ス 第千百八十条 質物ノ適法ノ譲渡ニ因リテ取得者ハ所有者カ譲渡人タリシトキニ取得スヘカリシト同一ノ権利ヲ取得ス競落カ質取債権者ニ帰シタルトキハ競落ニ因リテ此者ハ所有権ヲ取得ス 質物ノ適法ノ譲渡ニ因リ此物ニ付テ存スル質権ハ取得者カ之ヲ知リタルモノト雖モ消滅ス質物ノ用益権ニ付テモ亦同シ但用益権カ総テノ質権ニ優先ノ順位ヲ有スルトキハ此限ニ在ラス 第二項ノ規定ハ競落カ質物ノ所有者ニ帰シタル場合ニ於テモ之ヲ適用ス 第千百八十一条 質物ノ譲渡ニ付キ第千百六十五条第二項、第千百七十一条、第千百七十四条又ハ第千百七十六条第二項ノ規定ニ従ハサルトキハ不適法トス 質取債権者カ質物ノ譲渡ニ付キ第千百七十条第千百七十二条又ハ第千百七十九条ノ規定ニ反スルトキハ損害賠償ノ義務ノミヲ負担ス 第千百六十七条及ヒ第千百七十八条ノ規定ハ本条ノ規定ニ因リテ影響ヲ受クルコトナシ 第千百八十二条 動産カ質物トシテ強制執行ノ方法ニ依リ又ハ其以外ニ於テ第千百七十一条ノ規定ニ従ヒ競売ノ方法ニ依リ若クハ第千百七十四条ノ規定ニ従ヒ自由ニ譲渡サレタル場合ニ於テ譲渡人カ質権ヲ有セス又ハ譲渡ノ権限ヲ有セサリシトキト雖モ第八百七十七条、第八百七十八条及ヒ第八百八十条ノ規定ヲ準用ス此場合ニ於テ第八百七十九条第二段ノ規定ニ因リテ第八百七十七条及ヒ第八百七十八条ノ適用ヲ除却スル要件カ存スルトモ之ヲ問ハス 第千百八十三条 質物売却ノ代価カ質取債権者ノ満期ト為リタル債権ヲ弁済スル為メ此者ニ属スル限ハ質取債権者ハ右債権ニ本ツキ所有者ヨリ弁済セラレタルモノト見做ス 其他質物売却ノ代価ハ質物ノ所有権及ヒ質物ニ付キ譲渡ニ因リテ消滅スル其他ノ権利ニ関シ質物ニ代ハルモノトス 第千百八十四条 共有者ノ持分カ動産質ノ目的タルトキハ物ノ管理及ヒ使用ニ付キ共有ノ関係ニ本ツク共有者ノ権利ハ質取債権者之ヲ行フ 共有ノ関係ヲ廃止スル請求権ハ第千百六十五条第二項ニ於テ質物ノ売却ヲ許スコトニ付キ規定シタル要件ノ存セサル限ハ共有者及ヒ質取債権者共同ニ非サレハ之ヲ主張スルコトヲ得ス 前項ニ掲クル要件カ存スルトキハ質取債権者ハ其撰択ニ従ヒ質権ノ目的タル持分ヲ売却シ又ハ共有ノ関係ヲ廃止スル請求権ヲ主張スルコトヲ得此場合ニ於テ質権ノ目的タル共有部分ノ所有者ノ同意ヲ要セス又此者ト他ノ共有者トノ間ニ存立スル法律関係ニ本ヅク制限ニ因リテ質取債権者ハ拘束セラルヽコトナシ 共有ノ関係カ廃止セラルヽトキハ質取債権者ハ質物ニ代ハリタル目的物ニ付キ質権ヲ有ス 第千百八十五条 千八百八十四条ニ掲クル場合ノ外物ノ一部分ニ付キ動産質カ成立スル場合ニ於テ質取債権者ハ第千百六十五条第二項ノ規定ニ従ヒ質権ノ目的タル部分ヲ売却スル権利ヲ有スルトキハ自己ノ撰択ニ従ヒ右ノ部分ヲ売却シ又ハ物ノ所有者ニ対シ共有ノ関係カ存スル如ク共有ノ関係ヲ廃止スル請求権ヲ主張スルコトヲ得 本条ノ場合ニ於テハ第千百八十四条第四項ノ規定ヲ準用シ又質権カ物ノ一部分ニ付キ存立スル間ハ第千百八十四条第一項ノ規定ヲ準用ス 第千百八十六条 債権ノ譲渡ニ因リテ質権ハ新債権者ニ移転ス又質権ハ債権ト分離シテ之ヲ譲渡スコトヲ得ス 第千百八十七条 債権ノ譲渡ト共ニ新債権者ハ質物ヲ所持スル権利ヲ取得ス又質物ノ所持ヲ得ルコトニ因リテ新債権者ハ所有者ニ対シ爾後質取債権者トシテ其義務ヲ負担ス 前ノ質取債権者ハ新質取債権者カ負担スル義務ノ履行ニ付キ所有者ニ対シ保証人ト同一ノ責ニ任ス但先訴抗弁ハ此場合ニ於テ除却セラル又債権ノ譲渡カ直接ニ法律ノ規定ニ基ツクトキハ右ノ責任ヲ生セス 債権譲渡ノ時ニ所有者ノ為メ前ノ質取債権者ニ対シ質物ノ所持ヲ奪取スル権利カ生シタルトキハ第千百五十六条第二項ノ規定ニ依リテ認メラレタル処置ヲ許スヘキ義務ハ新質取債権者ニ移転ス 第千百八十八条 強制執行ノ手続ニ於テ授附ニ因ル債権譲渡ノ場合ニ於テハ前ノ債権者ハ所有者ヨリ第千百八十七条第二項ニ掲クル責任ヲ免除セラルヽマテ自費ニテ質物ヲ供托スルコトヲ請求シ又ハ質物カ供托ニ適セサルトキハ執行裁判所ノ任定スル保管人ニ之ヲ保管セシムルコトヲ請求スル権利ヲ有ス 第千百八十九条 法律行為ニ因リテ質権ヲ消滅セシムルニハ質取債権者カ質物ノ所有者ニ対シ単独ニ質物ヲ放棄スル意思ヲ表示スルニテ足ル然レトモ第三者ノ権利ヲ以テ負担ヲ加ヘラレタル質権ヲ消滅セシムルニハ質取債権者ニ対シテ表示スル第三者ノ許諾ヲ要ス右放棄及ヒ許諾ハ之ヲ取消スコトヲ得ス 第千百九十条 債権ヲ譲渡ストキニ質権ノ移転ヲ除却スルトキハ質権ヲ消滅ス 第千百九十一条 質権ハ質取債権者カ質物ヲ所有者ニ返還スルコトニ因リテ消滅ス此場合ニ於テ質取債権者カ質権ヲ留保シタルトキ亦同シ 質取債権者カ所持シタル質物カ所有者ノ所持ニ存シ又ハ質権ノ設定後ニ所有者ヨリ質物ノ所持ヲ取得シタル第三者ノ所持ニ存スルトキハ質取債権者カ所有者ニ質物ヲ返還シタルモノト推定ス 第千百九十二条 質権ハ其担保スル債権ト共ニ消滅ス 債務者カ債権ニ対シ給付ノ請求権ノ主張ヲ引続キ除却スル抗弁ヲ有スルトキハ質権ハ所有者カ質取債権者ニ対シ右ノ抗弁ヲ主張スル意思ヲ表示スルコトニ因リテ消滅ス 第百八十三条第一項ノ規定ハ本条ニ因リテ影響ヲ受クルコトナシ 第千百九十三条 質権ハ質物ノ所有権ト質権ニニ依リテ担保セラレタル債権カ同一人ニ帰スルニ因リテ消滅ス然レトモ右ノ債権カ第三者ノ権利ヲ以テ負檐ヲ加ヘラレタル間ハ質権ハ消滅セス又質権ノ存続スルコトカ所有者ニ法律上ノ利益ヲ与フル限ハ質権ハ消滅セサルモノト見做ス 第千百九十四条 質取債権者ハ質権ヲ以テ担保セラレタル債権以外ノ債権ニ本ツキ質物ヲ留保スルコトヲ得ス 第千百九十五条 質取債権者ト質入人トノ関係ニ於テハ質入人ノ利益ノ為メ此者カ質物ノ所有者ナリト推定ス 質取債権者ト質物ノ所有者トノ関係ニ於テハ質取債権者ノ利益ノ為メ此者ハ所有権カ質入人ニ属スルコトヲ知ラサリシ間ハ質入人ヲ質物ノ所有者ト見做ス但右ノ不知カ質取債権者ノ重過失ニ本ツクトキハ此限ニ在ラス 第千百九十六条 船舶登記簿ニ登記セラレタル船舶ニ付キ法律行為ニ因リテ質権ヲ設定スルニハ舶船所有者ト債権者トノ間ニ契約ヲ取結ヒ且ツ船舶登記簿ニ質権ヲ登記スルコトヲ要ス此場合ニ於テハ第八百二十八条第二項乃至第四項、第八百二十九条乃至第八百三十一条及ヒ第八百三十三条ノ規定ヲ準用ス 第千百九十七条 船舶登記簿ニ登記セラレタル質権ニ付テハ右質権ハ船舶ヲ所持スルコトヲ要セサル事情及ヒ第千百九十八条乃至第千二百〇四条ノ規定ニ因リテ別段ノ定ナキ限ハ動産質ニ関スル規定ヲ適用ス 第千百九十八条 質入人カ船舶ノ所有者トシテ船舶登記簿ニ登記セラレタルトキニノミ質権ノ登記ヲ為スコトヲ得 質権ノ登記ニ付テハ船舶ノ所有者トシテ船舶登記簿ニ登記セラレタル者ノ承諾ヲ提示スルコトヲ以テ足ル 登記ハ債権者及ヒ債権ヲ明示スルコトヲ要ス 第千百九十九条 船舶登記簿ニ登記スルコトニ本ツク質権ニ因リテ質取債権者ハ船舶ヲ所持スル権利ヲ取得セス 第千二百条 船舶登記簿ニ登記セラレタル質権ノ取消ハ船舶ノ所有者トシテ登記セラレタル者ノ申請ニ本ツキ且登記済質取債権者又ハ其権利承継人ノ質権取消ニ対スル承諾ノ提示アリタル後之ヲ行フ 第千二百〇一条 質権ハ船舶登記簿ニ登記セラレタル間ハ此質権ニ関シ第八百七十八条及ヒ第千百五十二条ノ規定ヲ適用セス 質権カ取消サレタルモ取消ヲ許サヾルコトニ因リテ尚ホ存立スルトキハ船舶ヲ譲渡シタル場合ニ於テ取得者カ船舶ノ引渡ナクシテ其所有権ヲ取得シタルトキト雖モ第八百七十八条ノ規定ヲ適用ス又右ノ如キ質権取消ノ後ニ此質権ニ劣リタル順位ニ於テ船舶登記簿ニ登記セラレタル質権ヲ第三者ニ譲渡シタルトキハ第千百五十二条ノ規定ヲ準用ス 第千二百〇二条 船舶登記簿ニ質権ヲ登記シ又ハ登記セラレタル質権ヲ取消スニ付キ必要ナル意思表示ハ裁判上又ハ公証上ノ公認証書ニ依リテ之ヲ提示スルコトヲ要ス 其他登記又ハ取消ニ必要ナル事実ノ証明ハ公正証書ニ依ルコトヲ要ス 第千二百〇三条 船舶ノ質権ニ関シ登記簿ノ記入ト実際ノ法律上ノ状況ト抵触スルトキハ第八百四十三条ノ規定ヲ準用ス 第千二百〇四条 船舶登記簿ニ登記セラレタル船舶ニ付キ質権ヲ有スル者ハ執行名義ニ依リテノミ強制執行ニ関スル規定ニ従ヒ船舶ヲ売却シテ弁済ヲ求ムルコトヲ得 第千二百〇五条 第千百九十六条乃至第千二百〇四条ノ規定ハ船舶ノ持分ニ付テ存スル質権ニ之ヲ準用ス 第四節 権利質 第千二百〇六条 質権ハ権利ニ付キ又之ヲ設定スルコトヲ得 権利質ニ付キテハ第千二百〇七条乃至第千二百二十六条ノ規定ニ依リテ別段ノ定ナキ限ハ動産質ニ関スル規定ヲ準用ス 第千二百〇七条 権利カ譲渡スコトヲ得サルモノナルトキハ此権利ニ付キ法律行為ニ依リテ質権ヲ設定スルコトヲ得ス 第千二百〇八条 権利質ノ設定及ヒ之ニ依リテ質取債権者ト右権利ノ為メニ給付ノ義務ヲ負担シタル第三者トノ間ニ生スル法律関係ニ付テハ右権利ヲ譲渡ス場合ニ適用セラルル規定ヲ準用ス但法律ニ別段ノ定マルトキハ此限ニ在ラス又第千〇八十七条第二項ノ規定ハ之ヲ適用セス 第千二百〇九条 権利質ノ設定ニ付テハ質物ノ所有者ニ非サル者カ為シタル質入ノ効力ニ関シ第八百七十七条ト関連シテ第千百四十七条ニ掲クル規定及ヒ既ニ存立セル権利ヲ知ラスシテ取得シタル質権ノ優先ニ関スル第千百五十二条ノ規定ヲ適用セス 第千二百十条 権利ノ譲渡ニ付キ物ヲ引渡シ又ハ其所持ヲ委付スルコトヲ要スルトキハ此要件ハ権利ヲ質入スル場合ニ於テハ第千百四十七条ノ規定ニ従ヒ物ヲ質入スル場合ニ適用セラルル規定ニ依リテ之ヲ定ム 第千二百十一条 譲渡契約ノミニ依リテ譲渡スコトヲ得ヘキ債権ヲ質入スルニ付テハ質入契約ノ外質入人ヨリ債務者ニ対シ質入ヲ通知スルコトヲ要ス 第千二百十二条 第三百十二条ノ規定ニ従ヒ譲渡契約ノミニ依リテ譲渡スコトヲ得ヘキ権利ヲ質入スルニ付テハ質入契約カ裁判上又ハ公証上ノ方式ニ依リテ取結ハルヽコトヲ要ス 第千二百十三条 質権ノ目的タル権利ニ付キ其権利者ノ為シタル処分ニ因リテ質取債権者ノ権利カ制限セラルルトキハ右処分ノ有効ナルニ付キ質取債権者ノ許諾ヲ要ス此許諾ハ質権ノ目的タル権利ヲ有スル者ニ対シテ之ヲ表示スルコトヲ要ス又此許諾ハ之ヲ取消スコトヲ得ス 第千二百十四条 権利質ノ効力ハ別段ノ合意アリタルトキニノミ此権利ノ利得ニ及フコトヲ得 質権ハ質取債権者カ権利ノ利得ヲ収取スルコトヲ得ル方法ヲ以テ設定セラレタルトキハ第千百五十四条第二項、第三項第千〇二十六条及ヒ第千〇二十七条ノ規定ヲ準用ス 物ノ用益権ヲ質入シ且用益権ノ目的物ノ所持ヲ質取債権者ニ委付シタルトキハ此者ハ用益権者ニ属スヘキ利得ヲ収取スル権利ヲ有スル旨ノ合意ヲ為シタリト推定ス 第千二百十五条 質取債権者ハ執行名義ニ依リテノミ強制執行ニ関スル規定ノ標準ニ従ヒ質権ノ目的タル権利ニ付キ自己ノ弁済ヲ求ムルコトヲ得但別段ノ合意アルトキハ此限ニ在ラス又此合意ニ付テハ第千百六十七条及ヒ第千百七十七条ノ規定ヲ準用ス 第千二百十六条 権利質ノ設定ニ付キ物ヲ引渡シ又ハ其所持ヲ委付スルコトヲ要スルトキハ質権ノ消滅ニ関シ第千百九十一条ノ規定ヲ準用ス 第千二百十七条 債権カ質権ノ目的タル場合ニ於テ第千百六十五条第二項ニ掲クル要件カ発生セザル間ハ其債権者及ヒ質取債権者ハ共同ニ非サレハ告知ヲ為スコトヲ得ス 債権者ハ質取債権者ニ対シ告知ヲ為スコトニ加ハルヘキ旨ヲ請求スルコトヲ得又債権ヲ取立ツルコトカ整正タル家父ノ注意ニ適スル度ニ於テ債権ノ確固ヲ害セラレタルトキハ質取債権者モ亦債権者ニ対シ右ト同一ノ権利ヲ有ス 債務者カ為シタル告知ハ其債権者及ヒ質取債権者ニ対シ共同ニ之ヲ表示シタルニ非サレハ其効力ヲ生セズ 債務者ハ其債権者及ヒ質取債権者ニ共同ニ非サレハ給付ヲ為スコトヲ得ス 質権ノ目的タル債権カ満期トナリタル後ハ其債権者及ヒ質取債権者ハ相互ニ債権ノ取立ニ加ハルコトヲ請求スルコトヲ得債権者又ハ質取債権者ハ債務者ニ対シ自己ノ撰択ニ従ヒ此者カ双方ニ対シ共同ニ其給付ヲ履行シ又ハ給付ノ目的物ヲ双方ノ為メニ供託シ若クハ目的物カ供託ニ適セサルトキハ之ヲ裁判上任定セラレタル保管人ニ引渡スコトヲ請求スルコトヲ得 第千二百十八条 第千百六十五条第二項ニ掲クル要件カ発生シタルトキハ質取債権者ハ債権者ノ同意ヲ要セスシテ質権ノ目的タル債権ヲ告知シ且ツ之ヲ取立ツルコトヲ得然レトモ異ナリタル方法ニ依リテ債権ヲ処分シ殊ニ之ヲ売却スルコトヲ得ス又質取債権者ハ右ノ債権ニ付キ執行名義ニ依リテ強制執行ニ関スル規定ニ従ヒ自己ノ弁済ヲ求ムルコトヲ得 質権ノ目的カ金銭ニ対スル債権ナルトキハ質取債権者ハ既ニ満期トナリタル自己ノ債権ヲ弁済スルニ必要ナル限度ニ於テ右ノ債権ヲ取立ツルコトヲ得 多数ノ質権カ同一ノ債権ニ付キ存立スルトキハ右質権中優先ノ質権ヲ有スル質取債権者ノミ第一項ニ掲クル債権存立ノ権利ヲ有ス 質取債権者カ債権ノ全部又ハ一部ヲ取立タル場合ニ於テ通知ヲ為シ得ル限ハ債権者ニ対シ遅滞ナク右取立ヲ通知スルコトヲ要ス 質取債権者カ独立ニテ告知ヲ為シ又ハ質権ノ目的タル債権ヲ取立ツル権利ヲ行使セサル限ハ第千二百十七条ノ規定ヲ適用ス 第千二百十九条 債権ノ目的タル債権カ第千二百十七条及ヒ第千二百十八条ノ規定ニ依リテ取立ラレタルトキハ質取債権者ハ給付セラレタル目的物ニ付キ給付アリタル時ヨリ質権ヲ取得ス 目的物ノ性質ニ因リ質権ノ設定ニ付キ土地台帳ニ登記スルコトヲ要スルトキハ債権者ハ登記ニ必要ナル意思表示ヲ与フルコトヲ要ス又給付ノ目的物カ土地ナルトキハ質取債権者ハ保全抵当ノ登記ノミヲ請求スルコトヲ得 質取債権者カ第千二百十八条ノ規定ニ依リテ金銭ニ対スル債権ヲ取立タル場合ニ於テ右金銭カ質取債権者ノ満期トナリタル債権ノ弁済トシテ此者ニ属スル限ハ質取債権者ハ債権者ニ依リテ弁済セラレタルモノト見做ス 第千二百二十条 債権ノ取立ニ付キ動産カ付給セラレタル場合ニ於テ第千百六十五条第二項ニ掲クル要件カ発生セサル間ハ質取債権者ハ右ノ動産ノ全所持ヲ請求スルコトヲ得ス債権者及ヒ質取債権者カ物ヲ双方共同ニテ所持シ又ハ双方ノ為メニ物ノ所持ヲ第三者ニ委任スルニ付キ一致セサルトキハ各自其相手方ニ対シ右ノ要件カ発生スルマテ双方ノ為メニ物ヲ供託シ若クハ物カ供託ニ適セサルトキハ裁判上任定セラルヘキ保管人ニ之ヲ引渡スヘキ請求ヲ為スコトヲ得 第千二百二十一条 第千二百十七条ノ規定ニ依リテ金銭ニ対スル債権ヲ取立タル場合ニ於テ第千百六十五条第二項ニ掲クル要件カ発生セサル間ハ債権者ハ質取債権者ニ対シ此者ノ利害ヲ制限スルコトナクシテ為シ得ヘキ限ハ後見保証金ノ備付ニ関スル規定ニ従ヒ自己ノ為メニ右取立タル金銭ヲ利息付ニテ備置キ且同時ニ之ニ因リテ取得シタル目的物ニ付キ質取債権者ノ為メニ債権ヲ設定スルコトニ加ハルヘキ旨ヲ請求スルコトヲ得此場合ニ於テ取立タル金銭ヲ再ヒ備付クル方法ヲ定ムル権利ハ債権者之ヲ有ス 第千二百二十二条 債権ヲ目的トスル質権ノ効力ハ質取債権者カ第千二百十八条ノ規定ニ依リテ自己ニ属スル債権取立ノ権利ニ本ツキ質権ノ目的タル債権ノ債務者ニ対シテ有スル主タル義務履行ノ請求権カ権利拘束ト為リタル時ニ尚ホ過去ノ時日ニ対シテ右債務者カ支払フコトヲ要スル利息及ヒ此時以後ニ生ヘキ利息ニ及フモノトス 淹滞セル利息ノ請求権又ハ此利息ナクシテ主タル債権カ前項ニ掲クル時期以前ニ第三者ニ譲渡サレタルトキハ此利息ニ付キ債権ノ効力ハ除却セラル又淹滞セル利息ノ請求権カ右ノ時期以前ニ第三者ノ権利ヲ以テ負担ヲ加ヘラレタルトキハ第三者ノ権利ハ質取債権者ノ権利ニ先タツモノトス 第千二百二十三条 質権ノ目的タル債権及ヒ債務カ同一人ニ混同スルモ此混同ハ質取債権者ニ対シテ其効力ヲ有セス 第千二百二十四条 第千二百十七条乃至第千二百二十二条ノ規定ハ所有者抵当又ハ土地債務ヲ目的トスル質権ニ付キ之ヲ準用ス 第千二百二十五条 為替証券其他裏書ニ依リテ譲渡スコトヲ得ル証券ヲ目的トスル質権ヲ設定スルニハ質入契約ノ外裏書シタル証券ヲ質取債権者ニ引渡スコトヲ要ス 第千二百二十六条 持参人払証券ヲ目的トスル質権ノ設定及ヒ消滅ニ関シ又ハ此質物ヨリ弁済ヲ求ムルコトニ付テハ動産質ニ関スル規定ヲ適用ス 質取債権者ハ第千百六十五条第二項ニ掲クル要件カ存スル場合ニ於テ証券カ取引場又ハ市場ノ価格ヲ有スル限ハ公商人ニ依リ時価ヲ以テ之ヲ売却スルコトヲ得 証券ニ因リテ給付カ満期ト為ルトキハ質取債権者ハ給付ノ取立ツル権利ヲ有シ又其義務ヲ負担ス此場合ニ於テハ第千二百十九条ノ規定ヲ適用ス