独逸民法草案

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第一編 総則 第一章 法例 第一条 権利関係ニシテ此カ為メ法律カ一モ成規ヲ掲ケサルモノニ関シテハ類似ノ権利関係ノ為メ設ケタル成規ヲ準用スス此ノ如キ成規ノ欠缺スルニ於テハ法律ノ精神ヨリ生スル原則カ標準ト為ル 第二条 慣習法ノ規例ハ法律カ慣習法ニ指定シタル限度ニ於テノミ之ヲ適用ス 第二章 人 第一節 権利能力ノ始、終 第三条 人ノ権利能力ハ出生ヲ以テ始マリ死亡ヲ以テ終ル 第四条 人カ尚ホ生存スルヤ若クハ死亡シタルヤ又ハ定マリタル時マテ生存シタルヤ若クハ既ニ生存スルニ非サルヤハ此事実ニ因リ権利ヲ得ル者カ之ヲ証明ス可シ 若シ生死ノ確カナラサル人カ因死帰属(遺産帰属)ノ時現ニ生存シタルヤ否ノ確カナラサルトキハ其人ハ七十歳ノ満了ニ至ルマテ生存シ其後ハ生存シタルニ非スト推定セラル 配偶者ノ一方カ他ノ一方ヨリモ長ク生存シタルヤ否ノ確カナラサル場合ニ於テ他ノ一方ノ死亡シタル為メ法律又ハ婚姻契約ニ依リ長ク生存スル一方ニ帰スル利益ニ関シテハ前項ト同一ノ推定カ効力ヲ有ス 第二節 死亡ノ宣告 第五条 失踪シタル独逸人ハ判決ヲ以テ之ヲ死亡シタリト宣告スルコトヲ得 第六条 不在者ハ若シ十年以来其生存ノ音信ナキトキハ之ヲ失踪シタリト看做ス若シ不在者ノ出生以来七十年ヲ経過シタルトキハ五年ノ期間ヲ以テ足レリトス 十年又ハ五年ノ期間ハ最後ノ音信ニ因リ不在者カ尚ホ生存シタル日ノ満了ヲ以テ始マル若シ此日カ満二十一歳前ノ時ニ当ルトキハ十年ノ期間ハ満二十一歳ニ達シタル後最初ノ日ヲ以テ始マル 第七条 何人タリトモ独逸国ノ軍隊ニ編入セラレテ従軍シ戦争中ニ其軍隊ニ於テ缺員ト為リタル者ハ若シ平和結約以来三年ヲ経過シ且其者カ平和結約ノ後生存シタルコトノ音信ナキトキハ之ヲ失踪シタリト看做ス 前項ノ成規ハ軍隊ニ属スル人ニモ又職務上ノ関係ヲ以テ又ハ任意ニ助力スルノ目的ヲ以テ軍隊ニ在リタル者ニモ之ヲ適用ス 第八条 何人タリトモ航海中ニ沈没シタル船舶内ニ在リシ者ハ若シ沈没以来一年ヲ経過シ且其者カ其沈没ノ後生存シタルコトノ音信ナキトキハ之ヲ失踪シタリト看做ス 船舶カ沈没シタリト推定セラルヽハ若シ其船舶カ到達地ニ到達セス又ハ確定シタル航海ノ目的ナキ場合ニ在テハ船舶カ還帰セス且左ニ掲クル期間ノ経過シタルトキニ於テス 一 東海内ニ於ケル航海ニ付テハ一年 一 地中海、黒海及ヒアツヲー海ノ欧洲ニ属セサル部分ヲ併セ東海外ノ欧洲海内ニ於ケル航海ニ付テハ二年 一 欧洲外ノ海洋ヲ超ヱテ為ス航海ニ付テハ三年 右期間ハ船舶カ航海ヲ始メタル日ノ満了ヲ以テ始マル若シ此日以後ニ音信ノ其船舶ヨリ到来シタルトキハ最後ノ音信ノ到達シタル日ノ満了ヲ以テ始マル此ノ如キ場合ニ在テハ若シ其船舶カ果シテ最後ノ音信ニ因リ存在シタル場所ヲ出発シタルナランニハ満了セサル可カラサリシ期間カ標準ト為ル 第九条 死亡ノ宣告ニ付テハ失踪者カ内国ニ於テ最後ノ住所ヲ有セシ地ヲ管轄スル裁判所カ其権限ヲ有ス若シ此裁判所ナキトキハ権限裁判所ハ本国司法省之ヲ定ム 第十条 第六条ノ場合ニ於テハ死亡ノ宣告ハ催告手続ヲ以テ之ヲ為ス 其手続ハ訴訟法第八百二十四条乃至第八百三十六条及ヒ此法第十一条乃至第十九条、第二十三条、第二十四条ニ載セタル成規ニ依テ定マル 第十一条 死亡ノ宣告ヲ求ムル申立ヲ為スノ権利者ハ失踪者ノ不在管財人、後見人並ニ失踪者ノ配偶者及ヒ死亡ノ宣告ニ付キ法律上ノ利益ヲ有スル各人ナリ此利益ハ右手続ノ開始前之ヲ疏明ス可シ不在管財人及ヒ後見人カ右申立ヲ為スニハ後見裁判所ヨリ其権利ヲ授付セラル丶コトヲ要ス 第十二条 其他右申立ヲ弁明スル為メ必要ナル事実モ亦右手続ノ開始前之ヲ疏明ス可シ 第十三条 裁判所ハ第十二条ニ掲ケタル事実ノ正当ナルコトノ心証ヲ得タル時ニノミ死亡ノ宣告ヲ為ス可シ又裁判所ハ手続中何時タリトモ其職権ヲ以テ申立人ノ明示シタル証拠物ヲ利用シテ右事実ヲ確カムル為メ必要ナル捜索ヲ遂ケ且的切ト認ムル証拠ヲ採用ス可シ 第十四条 催告ニハ申立人ノ表示及ヒ催告期日ノ定メ(訴訟法第八百二十四条)ノ外尚ホ左ノ催告ヲ掲ク可シ 第一 不在者若シ死亡ノ宣告ニ対シテ異議ヲ申立ントスルトキハ遅クトモ催告期日ニ申出ツ可シ之ニ違フトキハ死亡ノ宣告ヲ待ツ可キ旨ノ催告 第二 不在者ノ生死ニ付キ報告ヲ為スコトヲ得ル総テノ人ニ対シ遅クトモ催告期日ニ裁判所ニ申告ヲ為ス可キ旨ノ催告 第十五条 独逸官報ニ催告ノ第一掲載ヲ為シタル日ト催告期日トノ間ニ少クトモ六月ノ期間ノ存スルコトヲ要ス 第十六条 各申立権利者ハ申立人ト共ニ又ハ申立人ニ代リ催告手続ニ加ハルコトヲ得 第十七条 若シ称シテ失踪者ナリト届出ル者カ申立人ヨリ失踪者ナリト承認セラレサルトキハ催告手続ハ延期ス可シ(訴訟法第八百三十条) 第十八条 申立人ニ生シタル費用ニシテ催告手続ヲ適当ニ徹行スル為メ必要ナリシモノハ死亡ノ宣告ヲ為シタル場合ニ在テハ之ヲ財団ノ債務ト為シ失踪者ノ遺産ヲ以テ弁償ス可シ 第十九条 催告手続ヲ求ムル申立ノ処理ハ各邦司法省ヨリ同一ノ地方裁判所管轄区内ニ在ル数個ノ区裁判所ノ管轄区ノ為メ其一区裁判所ニ之ヲ委任スルコトヲ得其処理ハ申立人ノ求メ有ルトキハ第九条ニ依リ権限ヲ有スル裁判所之ヲ為ス 若シ第九条ニ依リ権限ヲ有スル裁判所ノ外ナル裁判所カ催告ヲ発スルトキハ公告ハ右権限裁判所ノ掲示板ニモ貼附シテ之ヲ為ス可シ 第二十条 第七条及ヒ第八条ノ場合ニ在テハ催告ハ之ヲ為サス死亡ノ宣告ハ口頭弁論ノ後公廷ニ於テ之ヲ為ス弁論又ハ判決言渡ノ為メ定メラレタル各期日ハ裁判所ノ掲示板ニ貼附シテ之ヲ告知ス可シ 其他ハ第十一条乃至第十三条、第十六条乃至第十九条ノ成規及ヒ訴訟法第八百二十四条第一項、第八百二十六条、第八百二十八条、第八百二十九条、第八百三十一条、第八百三十四条乃至第八百三十六条ニ掲ケタル成規ヲ準用ス 第二十一条 死亡ノ宣告ハ失踪者カ其宣告ノ発シタル時刻ヲ超エテ生存シタルニ非サル可シトノ推定ヲ生ス 失踪者ノ相続ニ関シテハ失踪者カ死亡ノ宣告ノ発シタル時刻ニ於テ死亡シタル可シトノ推定カ有効ナリトス 第二十二条 若シ失権ノ判決カ抗争ノ訴ニ因リ廃棄セラル丶トキハ死亡ノ宣告ハ其効力ヲ失フ 第二十三条 抗争ノ訴ヲ起スノ権利者ハ失踪者ノ配偶者及ヒ死亡ノ宣告ノ廃棄ニ付キ法律上利益ヲ有スル各人ナリ 第二十四条 抗争ノ訴ハ死亡ノ宣告ヲ求ムル申立ヲ為シタル者ニ対シ之ヲ為ス可シ若シ其申立者カ死亡シ又ハ其所在ノ知レス若クハ外国ニ滞在スルトキハ検事ニ対シ之ヲ為ス可シ 其手続ニ関シテハ訴訟法第六百八条、第六百十条及ヒ第六百十一条ノ成規ヲ準用ス 第三節 年齢階級 成年剥奪 第二十五条 幼年ハ満七歳ニ至ルマテ継続シ少年ハ満二十一歳ニ至ルマテ継続ス 第二十六条 少年者ハ成年ノ宣告ニ因リ法律上成年者ノ地位ヲ得取ス 第二十七条 成年ノ宣告ハ少年者カ満十八歳ニ達シ且自己ノ同意ヲ与ヘタルトキニノミ之ヲ為スコトヲ許ス父母ノ権力ノ下ニ立テル少年者ニ在テハ此他尚ホ其権力現有者ノ承諾ヲ要ス然レトモ父又ハ母ノ一方ノ承諾ハ若シ其権力カ父母ノ収益権ニノミ限ラレタルトキハ之ヲ要セス 成年ノ宣告ハ後見裁判所ノ決議ヲ以テ之ヲ為ス又成年ノ宣告ハ少年者ノ最上ノ福利ヲ進ムルトキニノミ之ヲ為ス可シ 成年ノ宣告ヲ求ムル申立ヲ為スノ権利ハ少年者及ヒ其法律上代人ニシテ少年者ノ一身ノ看護ヲ為ス者之ヲ有ス其申立ニ付テノ裁決前ニ於テ少年者ノ後見人及ヒ管財人ノ意見ヲ諮ヒ又少年者ノ血属者又ハ姻属者ニ在テハ第千六百七十八条ニ準シテ其意見ヲ諮フ可シ 第二十八条 弁識力ヲ失ヒタル人ハ精神病ノ為メ成年ヲ剥奪セラル丶コト有リ 若シ前項ニ掲ケタル状況ノ止ミタルトキハ成年ノ剥奪ハ之ヲ廃止ス可シ 第二十九条 浪費者タルノ品行アリ又ハ浪費者タルノ業務執行アルニ因リ本人又ハ其家族カ急迫ノ情況ニ陥ラントスルノ虞惧ヲ生スル正当ノ理由アル人ハ浪費ノ為メ成年ヲ剥奪セラル丶コト有リ 若シ前項ニ掲ケタル虞惧カ本人ノ改心シタルニ因リテ既ニ正当ノ理由ナキニ至リタルトキハ成年ノ剥奪ハ之ヲ廃止ス可シ 第四節 血属 姻属 第三十条 交互相伝ヘテ分派シタル人々ハ直系ノ血属タリ又直系ノ血属ニ非サルモ同一ノ第三者ヨリ分派シタル人々ハ傍系ノ血属タリ 傍系ノ血属者カ同一ノ父母ヨリ分派シタルトキハ全血属タリ又同父異母又ハ同母異父ヲ有スルトキハ半血属タリ 婚姻外ノ分派ニ因ル血属ノ関係ハ婚姻外ノ子及ヒ其子孫ト其子ノ母及ヒ其血属者トノ間ニ於テノミ生スルモノトス但法律カ別段ノ規定ヲ掲クル場合ハ此限ニ在ラス 第三十一条 血属ノ分度ハ血属ノ関係ヲ創起スル産生ノ数ニ従ヒテ之ヲ定ム 第三十二条 配偶者ノ一方ハ他ノ一方ノ血属者ト姻属タリ 姻属ノ系派及ヒ分度ハ姻属ヲ創起スル血属ノ系派及ヒ分度ニ従ヒテ之ヲ定ム 第三十三条 姻属ノ関係ニ結著セル法律上ノ効果ハ其関係ノ創起シタル婚姻ヲ解止シタル後ト雖モ尚ホ存続ス 第五節 住所 第三十四条 何人タリトモ一地ニ常住スルノ目的ヲ以テ滞在ヲ為ス者ハ其地ニ住所ヲ設定スルモノトス 一人ニシテ同時ニ二個以上ノ住所ヲ有スルコトヲ得 人ノ住所ハ若シ其人カ既ニ常住セサルノ目的ヲ以テ住地ヲ去ルトキハ廃止セラル 第三十五条 刑場内ノ滞在ハ其滞在ノミニテハ処刑囚カ既ニ従来ノ住地ニ住居又ハ一家搆ヲ有セサルトキト雖モ刑ノ執行ノ始マル前ニ有セシ住所ヲ未タ廃止スルノ結果ヲ生セス 前項ノ成規ハ審問被拘留者及ヒ教育場、懲治場又ハ労役場ニ強制入場セシメラレタル人ニモ亦之ヲ準用ス 第三十六条 行為ノ能力ナキ人又ハ行為ノ能力ヲ制限セラレタル人ハ法律上代人ノ意思アルニ非サレハ其住所ヲ変更シ又ハ或ル住所ヲ設置スルコトヲ得ス 第三十七条 軍人ハ其住所ヲ屯営地ニ有ス内国ニ屯営地ヲ有セサル軍隊ニ属スル軍人ノ住所ト看做ス可キハ其軍隊ノ最終ノ内国屯営地ナリ 前項ノ成規ハ兵役義務履行ノ為メニノミ服役シ又ハ独立シテ住所ヲ設置スル能ハサル軍人ニハ之ヲ適用セス 第三十八条 治外法権ノ権利ヲ有スル独逸人並ニ外国ニ任用セラレタル独逸国又ハ各邦ノ官吏ハ其本国ニ於テ有セシ住所ヲ存持ス此ノ如キ住所ノ欠缺スルトキハ其本国ノ首府ヲ以テ其住所ト看做ス 選任領事ニハ第一項ノ成規ヲ適用セス 第三十九条 婦ハ其夫ノ住所ヲ共有ス 前項ノ成規ハ若シ夫カ外国ニ於テ其婦ノ之ニ随従ス可キ義務ナキ地ニ住所ヲ設置スルトキハ之ヲ適用セス 婦ハ其夫カ住所又ハ婦ノ共有スル住所ヲ有セサル時及ヒ其間ニ在テハ独立ノ住所ヲ設ケ及ヒ有スルコトヲ得 第四十条 婚姻間ノ子ハ其父ノ住所、養子ハ其養父ノ住所ヲ共有ス又婚姻外ノ子ハ其母ノ住所ヲ共有ス又此等ノ子ハ右ノ住所ヲ法律上有効ノ方法ヲ以テ廃止スレニ至ルマテハ仍ホ存持ス 前項前段ノ成規ハ公認セラレタル子及ヒ子養セラレタル子ニハ若シ其公認又ハ子養カ成年ニ達シタル後初メテ為サレタルトキハ之ヲ適用セス 第三章 法人 第四十一条 社団及ヒ義設所ハ其資格ニ於テ独立シテ財産権利ヲ有シ及ヒ財産義務ヲ負フノ能力ヲ有スルコトヲ得(法人タル資格) 第四十二条 社団ノ法人タル資格及ヒ其資格ノ喪失ハ帝国法律上特別ノ成規ノ欠缺スルトキハ社団カ其居所ヲ有スル地ノ各邦ノ法律ニ依リテ之ヲ定ム 第四十三条 法人タル資格ヲ具ヘタル社団(団体)ノ憲則ハ帝国法律又ハ各邦法律ニ根基スルモノ丶外ハ其創設契約ニ依リテ之ヲ定ム又爾後ノ変改ニ関シテハ団体ノ団員ノ意思ニ依リテ之ヲ定ム 第四十四条 各団体ニハ首長ヲ置クコトヲ要ス其首長ハ第三者ニ対シテモ又団体ノ団員ニ対シテモ団体ノ法律上代人タルモノトス又其首長ハ一人又ハ二人以上ヨリ成立スルコトヲ得 団体ニ対スル首長ノ権利及ヒ義務ニ関シテハ第五百八十五条、第五百八十八条乃至第五百九十六条ノ成規ヲ準用ス 首長ノ任定ハ団員ノ決議ヲ以テ之ヲ為ス 首長ノ代理権ハ団体ノ憲則ヲ以テ第三者ニ対シ有効ニ之ヲ制限スルコトヲ得 若シ首長カ二人以上ヨリ成立スルトキ其意思陳述ノ効力ヲ有スル為メニハ総団員ノ承諾ヲ要ス 第三者ノ意思ノ陳述ニシテ団体カ之ヲ応受スル義務アルモノ丶告知ニ関シテハ首長ノ一員ニ対シ其告知ヲ為スヲ以テ足レリトス此ノ如キ意思陳述ノ告知ヲ為ス可キ時ニ当リ若シ其応受ヲ為スノ任アル者カ現在セサル場合ニ於テ遅延ノ恐レ有ルトキハ団体カ其居所ヲ有スル地ノ管轄区裁判所ハ其告知ヲ為サント欲スル第三者ノ申立ニ因リ右意思ノ陳述ヲ応受スル為メ特別代人ヲ任定ス可シ 第二項第三項及ヒ第五項ノ成規ハ団体ノ憲則カ別段ノ規定ヲ設ケサル限度ニ於テノミ之ヲ適用ス 第四十五条 団体ト首長ノ一員トノ間ニ於ケル権利行為ニシテ単ニ義務ノ履行ノミニ止マラサルモノ並ニ同一ノ間ニ於ケル権利争ヒニ関シテハ当事者ハ団体ノ法律上代人ノ資格ヲ除斥セラレタルモノトス若シ団体ノ為メ特別ノ代人ヲ要スルトキハ其任定ハ第四十四条第三項、第七項ニ準シテ之ヲ為ス 第四十六条 団体ハ其首長又ハ其一員カ己レノ代理権ヲ施行スル間ニ於テ損害賠償ノ義務ヲ負フ可キ違法ノ行為ヲ為シ此ニ因リテ第三者ニ損害ヲ加ヘタルトキハ其賠償ノ責ニ任ス 第四十七条 団体カ過分ノ債務ヲ負ヒタル場合ニ於テハ首長ハ遅延ナク破産手続ノ開始ヲ求ムル申立ヲ為スノ義務ヲ有ス此義務ニ背反シタル首長ノ長員ハ団体ノ債権者ニ対シ其背反ニ因リテ生シタル損害ノ賠償ニ付キ連帯債務者トシテ其責ニ任ス 第四十八条 団体ノ内務ニ関シテハ団員ノ意思カ其標準ト為ルモノトス首長ハ業務ノ執行ニ関シテモ亦団員ノ意思ニ従フ可シ 団員ノ意思ハ団員会議ニ於ケル決議ヲ以テ之ヲ確定ス其決議ヲ為スニハ会議ニ出席シタル団員ノ多数カ標準ト為ルモノトス又此決議ノ効力ヲ有スル為メニハ其事項カ団員ヲ会議ニ招集スル時ニ於テ記載セラレタルコトヲ要ス 総団員ノ承諾ニ因レル決議ハ団員会議ニ於テ之ヲ為サ丶リシトキト雖モ有効ナリ 団体ト団員トノ間ニ於テ取結ハル可キ権利行為ニ関シ又ハ団体ト団員トノ間ニ於ケル権利争ヒノ開始若クハ処理ニ関シ決議ヲ為スニ当テハ当事者ハ議権ヲ有セス 団体ノ憲則ヲ変改スル決議ノ効力ヲ有スル為メニハ総団員ノ承諾特ニ決議ノ為メ招集セラレタル会議ニ出席セサリシ団員ノ承諾モ亦要スルモノトス 第一項乃至第五項ノ成規ハ団体ノ憲則カ別段ノ規定ヲ設ケサル限度ニ於テノミ之ヲ適用ス 第四十九条 消滅シタル団体ノ財産ハ其団体ノ憲則ニ於テ帰属権利者ト規定セラレタル者ニ帰属シ又此憲則ニモ帝国法律ニモ規定無キ場合ニ限リ団体カ其居所ヲ有セシ地ノ各邦法律ニ於テ帰属権利者ト規定セラレタル者ニ帰属ス 右財産ハ先ツ団体ノ債権者ノ弁償ニ支用ス可シ又別段ニ相続人ノ存セサル場合ニ於テ国庫ニ帰属スル遺産ニ付テノ成規ハ之ヲ準用ス其帰属権利者カ国庫ニ非サルトキニ於ケルモ亦同シ然レトモ右財産ハ団体ノ団員ノ間ニ分配セラル可キモノニ限リ其清算ハ第五十条乃至第五十六条ニ準シテ之ヲ為スコトヲ要ス 第五十条 清算ハ首長之ヲ為ス 清算人ニハ他ノ人ヲモ亦之ニ任定スルコトヲ得 他ノ人ヲ清算人ニ任定スルニハ頭取ノ任定ニ適用スル成規ニ準シテ之ヲ為ス 若シ清算人ノ存セス又ハ必要ナル員数ノ缺クルトキハ団体カ其居所ヲ有セシ地ノ管轄区裁判所ハ当事者ノ申立ニ依リ其欠缺ヲ補足スルマテノ時間其缺員ニ代フル他ノ人ヲ清算人ニ任定ス可シ但必要ナル場合ニ限ル 清算人ハ清算ノ旨趣ニ因リ反対ノ生セサル限リハ首長ノ権利及ヒ義務ヲ有ス第四十四条第六項第一段、第四十五条第二段及ヒ第四十六条ノ成現モ亦之ヲ準用ス 第五十一条 清算人ハ消滅シタル団体ノ日常取引ヲ結了シ、其団体ノ債権者ニ債ヲ弁償シ、団体ノ債権ヲ取立テ及ヒ其他ノ財産ヲ金円ニ換ヘ且残在スル過剰額ヲ団員ノ間ニ分配ス可シ又清算人ハ未タ確定セサル取引ヲ結了スル為メニハ新取引ヲモ亦之ヲ為スコトヲ得 清算ノ結了スルニ至ルマテハ団体ハ清算ノ目的カ許シ且ツ要スル限リハ尚ホ之ヲ存続スルモノト看做ス可シ 第五十二条 団体ノ消滅ハ清算人之ヲ公告ス可シ又此公告ニ於テ債権者ニハ其請求ノ申出ヲ為ス可キ旨ヲ催告ス可シ此公告ハ団体カ其居所ヲ有セシ地ノ管轄区裁判所ノ官報ヲ公告スル為メニ供セラレタル新聞紙ニ掲載シテ之ヲ為ス又此公告ハ其掲載ノ後又ハ第一掲載ノ後第二日ノ満了ヲ以テ効力アリタリト看做ス 知レタル債権者ニハ其申出ヲ為ス可キ旨ヲ別段ノ通知ヲ以テ催告ス可シ 第五十三条 団員ノ間ニ於ケル財産ノ分配ハ第五十二条ニ規定シタル公告以来一年ノ満了シタル後始メテ之ヲ為スコトヲ許ス 第五十四条 若シ知レタル債権者カ申出ヲ為サ丶ル場合ニ於テ公ノ供託ヲ為スノ権利ノ存スルトキハ其供託ヲ為スコトヲ要ス 若シ債権者ニ対スル弁償カ一年ノ満了マテニ済完セサルコト有ルトキハ団員ノ間ニ於ケル財産ノ分配ハ其債権者ニ担保ヲ供シタル後始メテ之ヲ為スコトヲ許ス此規定ハ特ニ団体ノ義務ニシテ其未タ確定セス又ハ争ヒ有ルモノニ関シ之ヲ適用ス 第五十五条 若シ財産カ過分ノ債務ヲ負ヒタルコトノ判然ナルトキハ清算人ハ遅延ナク破産手続ノ開始ヲ求ムル申立ヲ為スノ義務ヲ有ス 第五十六条 第五十二条乃至第五十五条ニ依リ己レノ任スル義務ニ背反スル清算人又ハ債権者ニ弁償スルノ以前ニ故意ニ因リ若クハ過誤ニ出テ団員ノ間ニ財産ヲ分配スル清算人ハ債権者ニ対シ此ニ因リテ生シタル損害ノ賠償ニ付キ連帯債務者トシテ其責ニ任ス 第五十七条 団体ノ財産ニ係ル破産ニ関シテハ破産法第百九十三条、第百九十四条ノ成規ヲ準用ス 第五十八条 生存中ノ権利行為ニ因リ法人タル資格ヲ具フル義設所ヲ建造スルニハ義設者ハ其建造ヲ為サントスル意思ヲ裁判手続又ハ公証手続ノ式ヲ履ミテ陳述スルコトヲ要ス又其義設者ハ自己限リニテ他人ノ諾受ナキ意思ノ陳述ノミノ存スルトキト雖モ其建造ヲ目的トスル権利行為ニ羈束セラル丶モノトス又義設者ハ権利行為ヲ以テ担保セラレタル財産ヲ義設所ニ転付スルノ義務ヲ有ス其財産権利ヲ転付スルニハ譲渡契約ヲ以テ足レルモノニシテ其権利ハ義設所ノ建造ヲ目的トスル権利行為ニ因リ其意思ノ判然ナルトキハ義設所ノ建造ト共ニ其義設所ニ移ル又義設者ノ保証義務ニ関シテハ贈与者ノ保証義務ニ関スル成規ヲ準用ス 第五十九条 義設所ハ遺産者カ義設所ノ建造ヲ為サントスル意思ヲ陳述スル因死処分(遺言)ヲ以テモ亦之ヲ建造スルコトヲ得 第六十条 義設所ノ憲則ハ帝国法律又ハ各邦法律ニ根基スルノ外ハ義設者ノ意思ニ依リテ定マル 第六十一条 第四十四条第一項、第二項及ヒ第四項乃至第七項、第四十五条第一段、第四十六条、第四十七条第四十九条第一項、第二項第一段第二段及ヒ第五十七条ノ成規ハ之ヲ義設所ニ準用ス 第六十二条 義設所ノ建造ヲ第五十八条第一項及ヒ第五十九条ニ掲ケタル要件ヨリ尚ホ他ノ要件ニ繋ラシムル各邦法律ノ成規並ニ政府ノ行為ヲ経由シテ為ス義設所ノ建造及ヒ義設所ノ消滅ニ関スル各邦法律ノ成規ハ仍ホ存立スルモノトス 若シ生存中ノ権利行為ニ因リテ義設所ヲ建造スルニ政府ノ許可カ必要ナルトキハ義設者ハ其許可ヲ出願セル時ヨリ始メテ其義設ヲ目的トスル権利行為ニ羈束セラル其羈束ハ右許可ノ拒絶ヲ以テ絶止ス 若シ因死処分ニ因リテ義設所ヲ建造スルニ政府ノ許可カ必要ナルトキハ其因死処分ハ右許可ノ拒絶ヲ以テ無効ト為ル又若シ許可カ与ヘラレタルトキハ其許可ハ遺産ノ帰属ニ関シテハ既ニ相続前ニ与ヘラレタリト看做ス 第六十三条 国庫ニ法人タル資格ヲ許与セル各邦法律ハ仍ホ存立スルモノトス 第四章 権利行為 第一節 行為能力 第六十四条 幼年ノ中ニ在ル人ハ行為無能力者タリ 只一時タリトモ弁識力ヲ失ヒタル人ハ此状況ノ継続間又精神病ノ為メ成年ヲ剥奪セラレタル人ハ其成年剥奪ノ存続中前項ト同一ナリトス 行為無能力ナル人ノ意思ノ陳述ハ無効タリ 第六十五条 満七歳ヲ超エタル少年者ハ行為能力ヲ制限セラレタルモノトス 右少年者ハ権利行為ニシテ此ニ因リ其者カ権利ノミヲ得取シ又ハ義務ノミヲ免脱スルモノヲ挙行スルノ能力ヲ有ス 又右少年者ハ此他ノ種類ノ権利行為ヲ挙行スルニハ法律上代人ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス若シ此要件カ缺クルトキハ一方ノミノ権利行為ハ無成ノモノタリ又縦令契約ハ的ニ有効ノモノナルモ其契約ノ作用ハ法律上代人ノ認諾アルニ非サレハ之ヲ生スルコト無シ其認諾並ニ其拒絶ハ他ノ一方ナル結約者ニ対シテノミ之ヲ陳述スルコトヲ得 認諾カ拒絶セラレサル間ハ他ノ一方ナル結約者ハ少年者ノ承諾ヲ以テスルモ其契約ヨリ脱退スルコトヲ得ス 右認諾ノ拒絶ト看做スハ若シ他ノ一方ナル契約者ヨリ法律上代人ニ発シタル催告ニ拘ハラス其催告領受ノ時ヨリ起算ス可キ二週日ノ期間内ニ其代人ヨリ明示セル確実ノ陳述カ右他ノ一方ニ到達セサルトキニ於テス 若シ少年者カ制限セラレサル行為能力ヲ得取シタルトキハ其認諾ハ法律上代人ノ認諾ニ代ハルモノトス 第六十六条 権利行為ニシテ或ル関係者ニ対シ之ヲ挙行スルニ因リテ其作用ノ定マルモノハ若シ其挙行ヲ行為無能力ノ人ニ対シテ為シタルトキハ作用ヲ有セス 右権利行為ヲ行為能力ヲ制限セラレタル少年者ニ対シテ挙行シタルトキハ其権利行為ハ若シ少年者カ其行為ニ因リテ権利ノミヲ得取シ又ハ義務ノミヲ免脱スルトキハ作用ヲ有ス其他ノ場合ニ於テハ作用ヲ有セス行為能力ヲ制限セラレタル少年者ニ対シテ為ス要約ハ羈束スルノ効力ヲ有ス 第六十七条 法律上代人カ後見裁判所ノ認可ヲ受ケテ得取行為ヲ独立営行スルノ権限ヲ与ヘタル少年者ハ其許サレタル行為ノ営行ニ伴ヒテ生スル権利行為ニ関シテハ無限ノ行為能力ヲ有ス然レトモ右権限ヲ与ヘタルニ拘ハラス第千五百十一条、第千五百十三条及ヒ第千六百七十四条乃至第千六百七十六条ノ成規ハ後見裁判所ノ認可ヲ受クルノ外尚ホ法律上代人ノ同意又ハ認諾ヲ得ルコトヲ要スル制限又第千五百十三条、第千六百七十五条ニ因リテ許シタル総般ノ権限ヲ少年者ノミニモ亦与フルコトヲ得ル制限ヲ以テ之ヲ準用ス 法律上代人ハ後見裁判所ノ認可ヲ以テスルニ非サレハ独立シテ得取行為ヲ営行スルノ権限ヲ少年者ヨリ取戻スコトヲ得ス 第六十八条 法律上代人カ労役ニ就クコトヲ許シタル少年者ハ其許シタル種類ノ労役関係ヲ取結ヒ並ニ他ノ一方ノ引受ケタル義務ノ履行又ハ労役関係ノ解止ニ関スル権利行為ヲ為ス為メニハ法律上代人ノ同意ヲ得ルコトヲ要セス 法律上代人ハ右権限ヲ取戻シ又ハ之ヲ制限スルコトヲ得 各個ノ場合ノ為メ与ヘラレタル権限ハ若シ疑ノ存スルトキハ同種類ノ関係ヲ取結フ為メ与ヘラレタル総般ノ権限ナリト看做ス 第六十九条 少年者ノ取結ヒタル契約ハ若シ其者カ義務履行ノ為メ又ハ任意処分ノ為メ法律上代人ヨリ法律上有効ニ之ニ委付シタル財産物件ヲ以テ其契約上引受ケタル義務ヲ履行スルトキハ初ヨリ作用ヲ有セリト看做ス 第七十条 浪費ノ為メ成年ヲ剥奪セラレタル成年者ハ其行為能力ニ関シテハ其成年剥奪ノ時間中満七歳ヲ超ヱタル少年者ト同一ナリ 第七十一条 第千七百二十七条ニ照シテ後見保護ヲ必要ナリト宣告セラレ又ハ第千七百三十七条ニ照シテ仮後見ヲ付スルコトヲ命セラレタル成年者ハ其行為能力ニ関シテハ其後見ノ終止スルマテ亦満七歳ヲ超ヱタル少年者ト同一ナリ 若シ第千七百三十七条ノ場合ニ於テ成年剥奪ノ宣告ヲ求ムル申立カ却下セラレテ其却下ノ確定シ又ハ成年剥奪カ抗争ノ訴ニ因リ解止セラレテ其解止ノ確定シタルトキハ訴訟法第六百十三条第二項ノ成規ヲ準用ス 第二節 意思陳述 第七十二条 意思ノ陳述ハ明示シ又ハ黙示シテ之ヲ為スコトヲ得 第七十三条 意思陳述ノ繹解ヲ為スニハ真実ノ意思ヲ探求ス可シ発言ノ辞義ニ拘局ス可カラス 第七十四条 若シ意思陳述ノ作用ヲ其陳述カ関係者(意思陳述ノ応受人)ニ対シテ発セラル丶コトニ繋ラシムル場合ニ於テ意思ノ陳述ヲ関係者ノ不在ノ時ニ為ストキハ其作用ヲ有スル為メニハ明示ノ意思陳述ニ在テハ関係者ニ到達スルコトヲ要シ黙示ノ意思陳述ニ在テハ関係者ノ識知スルコトヲ要ス 意思ノ陳述ハ若シ取消ヲ包含スル意思陳述カ前項ノ成規ニ依リ到達若クハ識知ノ前又ハ此ト同時ニ作用ヲ有スルトキハ之ヲ為サ丶ルモノト看做ス 若シ発意者カ明示ノ意思陳述ヲ送遣スル為メニ発シタル後又ハ関係者カ黙示ノ意思陳述ヲ識知シタル前ニ死亡シ又ハ行為無能力ト為リタルトキハ此事ハ其意思陳述ノ作用ニ影響ヲ及ホサス 若シ意思陳述ノ作用ヲ其陳述カ官庁ニ対シテ発セラル丶コトニ繋ラシムルトキハ第二項及ヒ第三項ノ成規ヲ準用ス 第七十五条 若シ某人カ意思陳述ヲ応受スルノ義務ヲ負フトキハ其意思陳述ノ告知ハ裁判所執達吏ノ手ヲ経テ之ヲ為スコトヲ得其告知ハ民事争訟ニ関スル送達ニ適用スル成規ニ依リテ之ヲ為ス 第七十六条 意思ノ陳述ヲ告知セント欲スル者カ其意思陳述ヲ応受スル義務ヲ負フ者タル本人ヲ知ラサルコトノ過誤ニ起因セサルトキ又ハ此義務ヲ負フ者ノ滞在所ヲ知ラサルトキハ其告知ハ民事争訟ニ関スル呼出状ノ公送達ニ適用スル成規ニ従ヒテ之ヲ為スコトヲ得右第一ノ場合ニ於テハ陳述者カ内国ニ其住所ヲ有シ又住所ナキトキハ其滞在所ヲ有スル地ノ管轄区裁判所権限ヲ有シ第二ノ場合ニ於テハ送達セラル可キ人カ内国ニ最後ノ住所ヲ有シ又最後ノ住所ナキトキハ其最後ノ滞在所ヲ有セシ地ノ管轄区裁判所権限ヲ有ス 第三節 契約取結 第七十七条 契約ヲ取結フニハ結約者カ各自ノ一致ノ意思ヲ互ニ陳述スル切コトヲ要ス 第七十八条 法律ニ依リ取結ハル可キ契約ノ主要ニ係ル部分ニ付キ結約者カ未タ一致セサルノ間ハ其契約ハ取結ハレタルニ非ス 結約者中只一人ノ陳述ニ係ルモ其陳述ニ因リ右主要ナル部分ノ外尚ホ合意ヲ要ス可キ条款カ未タ一致セラレクタルニ非ルトキニモ亦疑ノ存スルニ於テハ前項ト同一ナリ此場合ニ在テハ既ニ合意セラレタル条款ノ記載ヲ為シタルト否トヲ問ハス 第七十九条 双務契約ニシテ一方ナル結約者カ其欲スルトキニノミ之ニ羈束セラル可キ条款ヲ設ケテ取結ハレタルモノハ他ノ一方ナル結約者ヲ羈束ス 若シ右一方カ其欲セサル旨ヲ陳述スルトキハ他ノ一方ハ羈束セラル丶コトヲ免カル 第八十条 若シ某人カ他人ト契約ヲ取結フ為メ要約シタル場合ニ於テ其要約カ契約ノ主要ニ係ル部分ヲ包含スルトキハ其要約ニ羈束セラル但其要約カ他ノ条款ノ合意ヲ留存スルトキハ此限ニ在ラス 第八十一条 要約者ハ若シ他人ヨリ明示シ又ハ黙止シテ羈束ヲ除却セラレタルトキハ羈束セラレス 第八十二条 若シ要約ニ対スル諾約ニ付キ期間ヲ定メタルトキハ要約者ハ其期間ノ満了ニ至ルマテ羈束セラル若シ諾約ノ陳述カ期間ノ満了前ニ要約者ニ到達セサルトキハ其要約ハ消滅ス 第八十三条 若シ諾約ノ期間ヲ定ムル無クシテ要約ヲ現在者ニ為シタル場合ニ於テ其現在者カ即時ニ其要約ニ対スル諾約ヲ為サ丶ルトキハ其要約ハ消滅ス 第八十四条 若シ諾約ノ期間ヲ定ムル無クシテ要約ヲ不在者ニ為シタルトキハ要約者ハ要約カ正当ノ時ニ到達シ且其返答ヲ交通上ノ慣例ニ依リ正当ノ時期ト看做サル可キ時ニ発送シタルコトヲ条件トシテ其返答ノ来著ヲ待ツヲ得ル時限ニ至ルマテ羈束セラル若シ諾約ノ陳述カ此時限マテニ要約者ニ到達セサルトキハ其要約ハ消滅ス 第八十五条 若シ諾約ノ期間ノ満了後ニ要約者ニ到達シタル不在者ノ諾約ノ陳述カ通例ノ運送ヲ以テスレハ諾約ノ期間ノ満了前ニ要約者ニ到達シタル可カリシ方法ニテ不在者ヨリ発送セラレタルトキハ要約者ハ其陳述ノ来著後遅延ナク諾約者ニ遷延ノ通知ヲ為ス可シ但若シ既ニ中間時ニ於テ之ヲ為シタルトキハ此限ニ在ラス此通知ヲ正当ノ時期ニ発送スルコトヲ怠リタル場合ニ於テハ諾約ノ陳述ハ之ヲ遷延セサリシト看做サル 第八十六条 不在者ニ為サレタル要約ニ対スル黙示ノ諾約ハ要約者カ之ヲ許シタルトキニ於テ之ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テ諾約ノ作用ヲ有スル為メニハ要約者カ其諾約ヲ識知シタルコトヲ要セス 黙示ノ諾約ハ殊ニ若シ要約者カ要約ヲ以テ即時ノ債行為ヲ求ムルトキ又ハ若シ要約者カ返答ヲ待タスシテ只諾約ヲ待ツコトノ其要約ニ因リテ判然ナルトキハ要約者ヨリ之ヲ許シタリト看做ス可シ 要約者カ羈束セラル丶時間ノ長短ハ要約ニ於テ明示シテ陳述シタル其者ノ意思又ハ場合ノ情況ニ従ヒテ認知セラル可キ其者ノ意思ニ因リテ定マル 若シ要約者カ即時ノ債行為ヲ求メタルトキハ要約者ハ疑ノ存スルニ於テハ其債行為ヲ果成スル為メニ必要ナル時間羈束セラル若シ債行為ノ遅延セルトキハ其要約ハ消滅ス其遅延ノ存スルヤ否ハ情況ニ従ヒ又ハ交通上ノ慣例ニ因リテ判定セラル可シ若シ事変ニ因リテ要約ノ到達カ遅延シ又ハ即時ノ債行為カ妨阻セラレタルトキ疑ノ存スルニ於テハ其要約ハ消滅シタルモノト看做サル可シ 第八十七条 契約ハ要約ニ対スル諾約ヲ為ス時ヲ以テ取結ハレタリトス 第八十八条 要約ニ対スル諾約ノ遅延シタルトキ其諾約ハ之ヲ新ナル要約ト看做ス 此新ナル要約ハ拒絶ニ因リテ消滅ス 拡弘ヲ加ヘ又ハ制限ヲ付シテ為ス諾約ハ之ヲ新ナル要約ト拒絶トヲ併合シタリト看做ス 第八十九条 若シ要約ヲ為ス一方又ハ要約ヲ為サレタル一方カ要約ノ発送後ニ死亡シ又ハ行為無能力ト為レルトキト雖トモ要約ニ因リ又ハ場合ノ情況ニ因リテ要約者ノ別段ノ意思カ判然セサル限リハ其要約ノ作用ニ影響ヲ及ホサス 第九十条 最高競買人又ハ最低要求人ニ為ス競売ニ関シ疑ノ存スルトキハ契約ハ若シ或ル競買ニ競落カ帰シタル場合ニ於テ其競買人カ他ノ競買者ヨリ超過競買ヲ為サレタルニ非サルノ間自己ノ競買ニ羈束セラレタルトキ始メテ取結ハレタリトス又此競買ハ疑ノ存スルトキハ超過競買ト同時ニ若シ此ノ如キ競買カ為サレスシテ競売期日前ニ其競落カ為サレサルトキハ競売期日ノ満了ト同時ニ消滅ス 第四節 権利行為ノ方式 第九十一条 権利行為ニ付キ特別ノ方式ハ其方式ヲ法律又ハ権利行為ヲ以テ規定シタルトキニ限リ之ヲ要スルモノトス 若シ法律ヲ以テ特別ノ方式ヲ規定シタルトキハ権利行為ハ其方式ノ欠缺スル場合ニ於テハ無成トス但若シ別段ノ成規アルトキハ此限ニ在ラス又権利行為ヲ以テ定メタル方式ノ欠缺スル場合ニ於テ疑ノ存スルトキハ前段ト同一ナリ 第九十二条 若シ法律ヲ以テ書面上ノ方式ヲ規定シタルトキハ其証書ハ意思陳述ノ発意者ニ於テ親ラ署名シ又ハ裁判所若クハ公証人ノ認証ヲ得タル手符ヲ以テ親ラ記符スルコトヲ要ス 意思ノ陳述ヲ電信ヲ以テ送達スル場合ニ於テハ若シ其電信原書ニ前項ニ準シテ署名シ又ハ記符シタルトキハ足レリトス 裁判所手続又ハ公証手続ノ方式ハ書面上ノ方式ニ代ハルモノトス 第九十三条 若シ権利行為ヲ以テ書面上ノ方式ヲ定メタルトキハ第九十二条第三項ノ成規ヲ適用シ又若シ疑ノ存スルニ於テハ第九十二条第一項、第二項ノ成規ヲモ適用ス 第九十四条 契約ニ関シ法律ヲ以テ規定シタル書面上ノ方式ヲ完成スルニハ一通ノ契約証書ニ結約者総員ノ署名ヲ具フルコトヲ要ス若シ其契約証書ヲ同文言ノ数通ニ作成シタルトキハ結約者ノ各員ハ其余ノ結約者ノ署名ヲ具ヘタル一通ヲ受取レハ足レリトス又第九十二条第二項ハ之ヲ準用ス 前項ノ成規ハ若シ結約者ノ合意ニ因リ書面上ノ方式ノ必要ナルトキニモ亦凝ノ存スルニ於テハ之ヲ適用ス 第五節 意思ノ欠缺 第九十五条 若シ真実ノ意思ト陳述シタル意思ト一致セサル意思ヲ陳述シタル発意者カ其一致ノ欠缺ヲ識知シタルトキハ其意思陳述ハ発意者ノ其欠缺ヲ隠蔽シタル限度ニ於テ有効タリ然レトモ其意思陳述ハ若シ其陳述ノ応受者カ其欠缺ヲ識知シタルトキハ無成タリ 第九十六条 虚偽ニテ挙行シタル権利行為ハ無成タリ 若シ虚偽ノ権利行為ヲ挙行スルニ方リ当事者カ他ノ権利行為ヲ創起スルノ目的ヲ有セルトキハ他ノ権利行為ノ効力ハ其行為ニ適用スル成規ニ因リテ定マル 第九十七条 若シ真実ノ意思ト陳述シタル意思トノ一致ノ欠缺ヲ識知シタル発意者カ其意思陳述ヲ為スニ方リ騙欺ノ目的ヲ有セシニ非サルトキハ其意思陳述ハ無成タリ 然レトモ其意思陳述ハ若シ太甚ナル過誤カ発意者ノ責ニ帰スルトキハ有効タリ 若シ太甚ナラサル過誤カ発意者ノ責ニ帰スルトキハ発意者ハ応受者ニ対シ損害賠償ノ責ニ任ス然レトモ孰レノ場合ヲ問ハス発意者カ意思陳述ノ有効ヲ条件トシテ其意思陳述ニ因リ生スル義務不履行ノ為メ賠償スルコトヲ要ス可カリシ数額ヲ超ヱテ其責ニ任スルコト無シ 第二項及ヒ第三項ノ成規ハ若シ意思陳述ノ応受者カ真実ノ意思ト陳述シタル意思トノ一致ノ欠缺ヲ識知シタルトキ又ハ識知スルコトヲ要シタルトキハ之ヲ適用セス 第九十八条 若シ真実ノ意思ト陳述シタル意思トノ一致ノ欠缺カ発意者ノ錯誤ニ根基スルトキハ其意思陳述ハ若シ発意者カ事情ヲ知リタルナランニハ之ヲ為サヾリシナラント認知スルコトヲ得ヘキトキハ無成タリ之ニ反スル場合ニ於テハ其意思陳述ハ有効タリ又疑ノ存スルトキハ若シ他ノ種類ノ権利行為若クハ他ノ目的物ニ権利行為ヲ関係セシムルコト又ハ他人ノ間ニ於ケル権利行為ノ作用カ目的トセラレタルニ於テハ其意思陳述ハ之ヲ為シタルニ非ルナラント看做サル可シ 第九十九条 第九十八条ノ成規ニ従ヒ無成ト看做サル可キ意思陳述ハ若シ太甚ナル過誤カ其発意者ノ責ニ帰スルトキハ有効タリ 若シ太甚ナラサル過誤カ発意者ノ責ニ帰スルトキハ発意者ハ応受者ニ対シ第九十七条第三項ニ照準シテ損害賠償ノ責ニ任ス 第一項及ヒ第二項ノ成規ハ応受者カ其錯誤ヲ識知シタルトキ又ハ識知スルコトヲ要シタルトキハ之ヲ適用セス 第百条 契約ヲ取結フノ際其契約ノ一分ニ付キ結約者ノ意思ノ一致ヲ缺キタルトキハ其契約ノ全部ハ無成タリ但其契約ハ右一分ニ付テノ条款ヲ具フル無シト雖モ尚ホ取結ハレタル可カリコトノ判然ナルトキハ此限ニ在ラス 第百一条 第九十八条乃至第百条ノ成規ハ意思陳述ノ発意者カ其陳述ヲ応受者ニ転送スル為メ転送人ヲ使用シタル場合ニ於テ其転送人カ発意者ノ意思ヲ不当ニ告知シタルトキハ之ヲ準用ス 第百二条 意思ノ発因ニ帰スル錯誤ハ権利行為ノ効力ニ影響ヲ及ホサス但法律カ別段ノ規定ヲ設クル場合ハ此限ニ在ラス 第百三条 某人カ脅迫又ハ詐偽ヲ以テ不法ニ意思陳述ヲ為サシメラレタルトキハ某人ハ其意思陳述ニ付キ抗争ヲ為スコトヲ得 若シ意思陳述ヲ関係者(意思陳述ノ応受者)ニ対シ発スルニ非サレハ作用ノ定マラサル意思陳述ニ関シ第三者カ詐偽ヲ行ヒタルトキハ其意思陳述ハ応受者カ其詐偽ヲ識知シタルトキ又ハ識知スルコトヲ要シタルトキニ限リ抗争ヲ為サル丶コトヲ得 第百四条 右ノ抗争ハ一年ノ期間内ニ之ヲ為スコトヲ要ス其期間ハ脅迫ノ現状カ止ミタル時又ハ詐偽ノ発覚シタル時ヲ以テ始マル 抗争ノ期間ハ意思ノ陳述ヲ為シタル時ヨリ起算シテ三十年トス但其抗争カ前項ニ適準シテ既ニ此意思陳述ノ時前ニ除却セラレタルトキハ此限ニ在ラス 第百六十六条ノ成規ハ之ヲ準用ス 第六節 制禁セラレタル権利行為 第百五条 権利行為ニシテ其挙行カ法律ヲ以テ制禁セラレタルモノハ無成タリ但法律ニ依リ別段ノ定メ有ルコトノ判然ナルトキハ此限ニ在ラス 第百六条 権利行為ニシテ其包有事項カ良風俗又ハ公秩序ニ乖戻スルモノハ無成タリ 第百七条 権利行為若クハ判決ニ因リ又ハ強制執行若クハ差押執行ニ因リテ遂成スル権利ノ転付若クハ廃止及ヒ物若クハ権利ノ負担ニシテ定マリタル人ノ利益ヲ保護スル為メニノミ効用アル法律上又ハ裁判上ノ譲渡制禁ニ乖戻スルモノハ其人ニ対シテハ無作用タリ又無権利者ヨリ権利ヲ得取スル人ノ利益ト為ル成規ハ之ヲ準用ス 権利行為ニ因リテ生シ且法律ノ成規ニ因リテ第三者ニ対シ作用アル処分制限ハ亦之ヲ法律上ノ譲渡制禁ト看做ス 定マリタル人ノ利益ヲ保護スル為メニノミ効用アル譲渡制禁ハ其制禁ヲ受ケタル人ノ財産ニ付キ破産ノ開始ニ因リテ破産債権者ニ対シ其作用ヲ失フ 制禁ノ存続スル間ハ其制禁ニ服セル目的物ハ対人請求権ノ為メニスル強制執行ニ因リ又ハ制禁ノ為メニ作用ヲ失ヒタル可カリシ権利ニ因リテ之ヲ譲渡シ又ハ転付スルコトヲ許サス 第七節 権利行為ノ無効 第百八条 無成ノ権利行為ハ意望ヲ繋ケタル法律上ノ作用ニ関シテハ其行為カ挙行セラレタルニ非サル可カリシ場合ニ於ケルト同一ニ看做サル 第百九条 無成ノ権利行為ハ其無成ノ原因カ爾後ニ於テ消滅セルトキト雖モ之カ為メ有効ト為ラス 第百十条 若シ無成ノ権利行為カ発意者ヨリ証認セラレタルトキハ其証認ハ之ヲ権利行為ノ新ナル挙行ト判定ス可シ 若シ無成ノ契約カ証認セラレタルトキ結約者ハ疑ノ存スル場合ニ於テハ契約カ初ヨリ有効ノモノタル可カリシ時ニ於ケルト均シク互ニ権利ヲ有シ及ヒ義務ヲ負フ 第百十一条 若シ目的トセラレタル権利行為ナルモ此権利行為其モノトシテハ無成タル権利行為カ他ノ権利行為ノ総テノ要件ニ適スルトキハ其無成ノ権利行為ハ他ノ権利行為トシテ的ニ之ヲ保持ス可シ但此事カ無成ノ権利行為ノ挙行ニ因リテ表顕スル意思ニ適スルトキニ限ル 第百十二条 抗争スルコトヲ得ル権利行為ハ抗争ノ場合ニ於テ意望ノ繋レル法律上ノ作用ニ関シテハ其行為カ挙行セラレタルニ非ラサル可カリシ場合ニ於ケルト同一ニ看做サル但抗争ノ此ヨリモ些少ナル作用カ法律ヲ以テ規定セラレタルトキハ此限ニ在ラス 第百十三条 権利行為ニ係ル抗争ハ抗争権利者ヨリ抗争対手ニ向テ発セラル可キ意思ノ陳述ニ因リテ遂成ス 抗争対手トハ契約ニ在テハ他ノ一方ノ結約者ヲ謂フ又一方ノミノ権利行為ニシテ関係者ニ対シ其行為ヲ挙行スルニ因リテ作用ノ定マルモノニ在テハ其関係者ヲ謂ヒ其他ノ一方ノミノ権利行為ニ在テハ抗争ニ因リテ廃棄スルコトヲ目的ト為サレタル権利ヲ其権利行為ニ因リテ請求スル各人ヲ謂フ 抗争権利者ノ認諾ニ因リ権利行為ハ抗争スルコトヲ得サルモノト為ル 第百十四条 若シ無効ノ原由カ権利行為ノ一分ノミニ係ルトキハ其権利行為ノ全部ハ無効タリ但其権利行為ハ無効ノ条款ナシト雖モ尚ホ意望ヲ繋ケラレタル可カリシコトノ判然ナルトキハ此限ニ在ラス 第八節 代理及ヒ全権 第百十五条 権利行為ハ代理人ヲ以テモ又代理人ニ対シテモ之ヲ挙行スルコトヲ得但法律ノ成規又ハ権利行為ノ本性カ之ニ反スルトキハ此限ニ在ラス 第百十六条 代理人カ其代理ノ権限内ニ於テ挙行スル権利行為ニ因リテ被代理人ハ直接ニ権利ヲ得及ヒ義務ヲ負フ此場合ニ於テハ代理人カ明示シテ被代理人ノ名ヲ以テ権利行為ヲ挙行シタルト否ト又ハ情況ニ従ヒ権利行為カ其行為ヲ為ス人ノ意思ニ因リ被代理人ノ名ヲ以テ挙行セラル可キコトノ判然ナルト否トニ因リテ区別ヲ立ツルコト無シ 若シ他人ノ名ヲ以テ行為ヲ為スノ意思カ告知セラレタルニ非サルトキハ自己ノ名ヲ以テ行為ヲ為スノ意思ノ欠缺ハ之ヲ問ハス 第三者ヨリ代理人ニ対シ発セラル丶意思ノ陳述ニ関シテハ第一項ノ成規ヲ準用ス 第百十七条 真実ノ意思ト陳述ノ意思トノ一致ノ要件及ヒ脅迫、詐偽、錯誤、既識知並ニ要識知ノ著効ハ代理人其人ニ因リテ定マル 第百十八条 若シ代理権限カ被代理人ヨリ権利行為ヲ以テ授与(全権)セラレ且其権限カ定マリタル権利行為ニ関スル場合ニ於テ被代理人カ識知シタルトキ又ハ要識知カ既識知ト同等ナル限度ニ於テ識知スルコトヲ要シタルトキハ代理人ノ不識知ハ著効ナシ 第百十九条 全権ハ之ヲ取消スコトヲ得 取消権ハ之ヲ放棄スルコトヲ得ス 其他全権ノ消滅ニ付テモ亦委任ノ消滅ニ付テノ成規ヲ適用ス但全権授与者ト全権受得者トノ関係ニ因リテ別段ノ事項カ判然ナルトキハ此限ニ在ラス 第百二十条 若シ全権授与者カ全権授与ヲ別段ノ通知ヲ以テ又ハ公告ヲ以テ第三者ニ告知シタルトキハ其告知ハ第一ノ場合ニ在テハ別段ノ通知ヲ受ケタル第三者ニ対シテ独立全権授与ト看做シ第二ノ場合ニ在テハ全権受得者ト権利行為ヲ取結ヒ若クハ全権受得者ニ向テ権利行為ヲ挙行シタル各第三者ニ対シ又ハ各第三者ニシテ之ニ対シ全権受得者カ権利行為ヲ挙行シタル者ニ対シテ独立全権授与ト看做ス 取消又ハ予告ニ因レル全権ノ消滅ハ第三者ニ対シテハ其消滅カ取消又ハ予告ニ於ケルト同一ノ方法ヲ以テ告知セラレタルトキ又ハ第三者カ其消滅ヲ識知シ若クハ識知スルコトヲ要シタルトキニ限リ作用ヲ有ス 第百二十一条 第百二十条第一項ノ成規ハ若シ全権受得者カ全権授与ヲ証明スル為メ全権授与者ヨリ全権証書ヲ受取リ且其証書ヲ第三者ニ提示シタルトキハ之ヲ準用ス 全構受得者ハ全権ノ消滅ノ後全権証書ヲ全権授与者ニ返還スルコトヲ要ス 全権授与者ノ普通裁判籍ヲ有スル裁判所又ハ其者ノ択ミニ従ヒ全権証書ノ返還ヲ求ムル訴ニ付キ権限ヲ有スル裁判所ハ其全権授与者ノ申立ニ因リ決議ヲ以テ其証書ヲ無効ノモノナリト宣告ス可シ此決議ハ民事争訟ニ於ケル呼出状ノ公送達ニ適用スル成規ニ因リテ之ヲ告知ス可シ此無効ノ宣告ハ公告誌ニ決議ノ最後ノ掲載ヲ為シタル以来一月ノ満了ヲ以テ作用ヲ有スルモノト為ル 全権証書カ返還セラレタルニ非ス又無効ノ宣告ヲ為サレタルニモ非サル間ハ取消又ハ予告ニ因レル全権ノ消滅ハ第三者ニ対シテハ第三者カ其消滅ヲ識知シ又ハ識知スルコトヲ要シタルトキニ非サレハ作用ヲ有セス 第百二十二条 若シ全権受得者カ一方ノミノ権利行為ニシテ其作用カ此行為ヲ関係者(意思陳述ノ応受人)ニ対シ挙行スルニ因リテ定マルモノヲ全権証書ヲ提示スル無クシテ挙行シタルトキハ其権利行為ハ関係者カ挙行ノ時又ハ挙行ノ後遅延ナク全権証書提示ノ欠缺ノ為メ右ノ行為ヲ却斥スルトキハ無作用タリ 第百二十三条 某人カ代理権限ヲ有スル無クシテ他人ノ名ヲ以テ契約ヲ取結ヒタルトキハ被代理人ニ於ケル其契約ノ作用ハ被代理人ノ認諾ニ因リテ定マル 右認諾カ拒絶セラレタルニ非サル間ハ他ノ一方ノ結約者ハ代理人ノ承諾ヲ得ルモ尚ホ其契約ヨリ脱退スルコトヲ得ス 右認諾ノ拒絶ト看做スハ若シ他ノ一方ノ結約者ヨリ被代理人ニ催告ヲ発シタルモ此ニ拘ハラス其催告ノ領受ヨリ起算ス可キ二週日ノ期間内ニ明示シタル確実ノ陳述カ其結約者ニ到達セサルトキニ於テス此認諾並ニ其拒絶ハ既ニ期間ノ始マリタル後ハ他ノ一方ノ結約者ニ対シテノミ之ヲ陳述スルコトヲ得 若シ被代理人カ認諾ヲ為セル無クシテ死亡シタルトキハ此カ為メ権利関係ニ一モ変更ヲ生スルコト無シ 第百二十四条 若シ代理人カ契約ヲ取結フノ際ニ代理権限ヲ有セサル旨ヲ告知セサリシトキハ他ノ一方ノ結約者ハ被代理人カ未タ認諾ヲ与ヘサル間ハ其契約ヨリ脱退スルコトヲ得但其結約者カ代理権限ノ欠缺ヲ識知シタルトキハ此限ニ在ラス 第百二十五条 契約ヲ取結フノ際ニ代理権限ヲ有セサル旨ヲ告知セサリシ代理人ハ若シ其契約ノ認諾カ拒絶セラル丶トキハ他ノ一方ノ結約者ニ対シテ一身上ノ責任ヲ負フ其結約者ハ己レノ択ミニ従ヒテ或ハ履行ヲ求メ或ハ不履行ノ為メノ損害賠償ヲ求ムルコトヲ得 代理人ノ責任ハ若シ他ノ一方ノ結約者カ代理権限ノ欠缺ヲ識知シタルトキハ生スルコト無シ 第百二十六条 一方ノミノ権利行為ハ代理権限ヲ有セスシテハ他人ヨリ作用ヲ有シテ之ヲ挙行スルコトヲ得ス然レトモ若シ一方ノミノ権利行為ノ作用カ其行為ヲ関係者ニ対シ挙行スルニ因リテ定マル場合ニ於テ関係者カ其挙行ニ同意シタル旨ヲ陳述スルトキハ契約ニ関シ適用スル成規ヲ之ニ準用ス 第九節 同意及ヒ認諾 第百二十七条 権利行為ノ作用ヲシテ他人カ予メ其行為ニ同意スルコト又ハ挙行セラレタル権利行為ヲ認諾スルコトニ繋ラシムル場合ニ於テハ其同意、認諾及ヒ拒絶ハ若シ其権利行為カ契約ナルトキハ此ノ一方又ハ他ノ一方ノ結約者ニ対シテ之ヲ陳述シ又若シ其権利行為カ一方ノミノ権利行為ニシテ其作用ヲ有スル為メ関係者ニ対シテ之テ挙行スルコトヲ要スルモノナルトキハ其権利行為ノ発意者又ハ他ノ関係者ニ対シテ之ヲ陳述スルコトヲ得 右ノ陳述ハ明示又ハ黙示ヲ以テ之ヲ遂成スルコトヲ得 若シ同意又ハ認諾ノ関係スル権利行為ニ付キ方式ノ必要ナルトキト雖モ右ノ陳述ハ此方式ニ羈束セラレス 予メ与ヘタル同意ニ付テノ作用ノ消滅ニ関シテハ全権ノ消滅ニ関スル成規ヲ準用ス 認諾ハ若シ別段ノ定メ無キ場合ニ於テハ其認諾ヲ与ヘシ権利行為ヲ挙行シタル当時ニ遡リテ作用ヲ有ス又第三者カ此認諾ノ与ヘラルヽ以前ニ其権利行為ノ目的物ニ付キ認諾者ノ処分ニ因リ又ハ認諾者ニ対シ行ハレタル強制執行若クハ差押執行ニ因リテ得取シタル権利ハ右遡往作用ノ為メニ妨害ヲ受クルコト無シ 第十節 設若条件及ヒ期間設定 第百二十八条 若シ権利行為ニ停止ノ設若条件カ付セラレタルトキハ其条件ニ繋ラシメタル法律上ノ作用ハ其条件ノ成就シタル時刻ヲ以テ開始ス 第百二十九条 若シ権利行為ニ解除ノ設若条件カ付セラレタルトキハ其行為ニ因リテ生シタル法律上ノ作用ハ其条件ノ成就シタル時刻ヲ以テ法律ニ依リテ従前ノ状態カ恢復セラレタル如クニ終了ス 第百三十条 権利行為ノ旨趣ニ因リテ法律上ノ作用ノ開始又ハ終了カ此ヨリ以前ノ時ニ遡リテ関係セシメラル可キコトノ判然ナレトキハ設若条件ノ成就シタル場合ニ於テ関係者ハ権利行為ノ法律上ノ作用カ其ヨリ以前ノ時ニ於テ既ニ開始シ又ハ終了シタル可カリシトキニ於ケルト均ク互ニ権利ヲ得及ヒ義務ヲ負フ 第百三十一条 若シ停止ノ設若条件カ絶滅シタルトキハ其条件ニ繋ラシメタル法律上ノ作用ノ開始ハ除斥セラル 若シ解除ノ設若条件カ絶滅シタルトキハ権利行為ハ設若条件ナクシテ創起セラレタルト看做サル可シ 第百三十二条 設若条件アル権利及ヒ義務ハ設若条件ナキ権利及ヒ義務ニ適用スル成規ニ依リテ相続ヲ為サシムルコトヲ得 第百三十三条 設若条件アル権利者ハ若シ訴訟法第七百九十六条及ヒ第七百九十七条ニ依リテ差押ヲ為スコトヲ得ル要件ノ存スルトキハ担保債行為ヲ求ムルコトヲ得 若シ停止ノ設若条件アル義務ヲ負ヒタル者ノ財産ニ付キ破産カ開始セラル丶トキハ設若条件アル権利者ハ破産法カ破産債務者ノ担保債行為ノ義務ヲ負担シタル場合ノ為メ此権利者ニ与フル所ノ権利ヲ有ス(訴訟法第百四十二条、第百五十八条) 第一項及ヒ第二項ノ成規ハ若シ設若条件アル権利カ其条件ノ成就ノ不可成ノ為メ権利其物ヲシテ現財産ノ成立部分ト看倣サシメサルトキハ之ヲ適用セス 仮処分ノ許否ハ設若条件アル権利ニ在テモ亦訴訟法第八百十四条乃至第八百二十二条ノ成規ニ依リテ定マル 第百三十四条 若シ設若条件アル義務者カ其条件ノ未定中ニ故意又ハ過誤ノ行為ニ因リテ其条件ニ繋ラシメタル権利ヲ無効ト為シ又ハ之ヲ毀損シタルトキハ此義務者ハ其条件ノ成就シタル場合ニ於テハ其行為ニ因リテ権利者ニ生セシメタル損害ニ付キ責任ヲ負フ右義務者ノ責ニ帰ス可キ過失ハ権利行為ニ因リテ生スル権利関係ニ依リテ定マル 第百三十五条 若シ設若条件ヲ付シテ権利カ転付セラレ若クハ廃棄セラレ又ハ権利若クハ物カ負担ヲ帰セラレタル場合ニ於テ其条件ノ未定中ニ其権利若クハ物ニ付キ其条件アル義務者ヨリ処分ヲ為シ又ハ此義務者ニ対シ行ハレタル強制執行若クハ差押執行ニ因リテ処分ヲ為シタルトキハ其処分ハ其条件ノ成就ト共ニ生スル法律上ノ作用ヲ無効ト為シ又ハ之ヲ毀損シタル限度ニ於テ無作用ト為ル又其条件ノ成就シタル場合ニ於テハ全ク無作用ト為ル又無権利者ヨリ権利ヲ得取スル者ノ利益ト為ル成規ハ之ヲ準用ス 第百三十六条 若シ設若条件アル義務者カ権利行為ノ旨趣ニ背反スル方法ヲ以テ其条件ノ成就ヲ妨クルトキハ其条件ハ成就シタルモノト看做ス 第百三十七条 若シ設若条件カ権利行為ノ挙行ノ当時ニ於テ既ニ成就シタルトキハ此権利行為ハ若シ其条件カ停止ノ設若条件ナルトキハ之ヲ設若条件無クシテ創起シタルモノト看做シ其条件カ解除ノ設若条件ナルトキハ之ヲ無作用ノモノト看做ス可シ又若シ其条件カ権利行為ノ挙行ノ当時ニ於テ既ニ絶滅シタルトキハ前段ト反対ノ結果ヲ生ス 設若条件ノ成就又ハ絶滅カ知ラレサルノ間ハ第百三十三条ノ成規ヲ準用ス 若シ権利行為ニ設若条件ヲ付スルコトノ許サレタルニ非サルトキハ第一項ニ掲ケタル種類ノ設若条件ヲ付スルコトモ亦許サレタルニ非ス但法律カ別段ノ規定ヲ設クルトキハ此限ニ在ラス 第百三十八条 設若条件ハ挙行ヲ義務者ノ随意ニ繋ラシムル所ノ行為ヨリ成立スルコトヲ得若シ停止ノ設若条件カ単ニ義務者ノ意思ノミヨリ成立スルトキハ其義務ハ無作用タリ 第百三十九条 若シ了解スル能ハサル設若条件又ハ反意ノ設若条件ヲ権利行為ニ付シタルトキハ其行為ハ無成タリ 第百四十条 陳述者ノ意思ナキモ既ニ法律上ノ作用カ因リテ定マル状況ニ法律上ノ作用ヲ繋ラシムル所ノ設若条件ヲ権利行為ニ付スルモ権利関係ノ法律上確定シタル事項ニ関シテハ此カ為メニ一モ変更ヲ生スルコト無シ 第百四十一条 若シ確定シタル将来ノ時期又ハ起発スルコトノ確実ナル将来ノ事故カ起始ノ期日トシテ権利行為ニ付セラレタルトキハ其権利行為ノ法律上ノ作用ハ即時ニ開始ス故ニ其作用ヲ主張スルコトノミカ起始ノ期日ニ至ルマテ遷延セラル但権利行為ノ旨趣ニ因リテ法律上ノ作用カ起始ノ期日ヲ以テ始メテ開始ス可キコトノ判然ナルモノハ此限ニ在ラス此終ノ場合ニ於テハ第百三十二条、第百三十三条第一項、第四項、第百三十四条及ヒ第百三十五条ノ成規ヲ準用ス 第百四十二条 若シ確定シタル将来ノ時期又ハ発起スルコトノ確実ナル将来ノ事故カ終止ノ期日トシテ権利行為ニ付セラレタルトキハ其権利行為ノ法律上ノ作用ハ終止期日ヲ以テ終了ス 第百二十九条、第百三十二条、第百三十三条第一項、第四項、第百三十四条及ヒ第百三十五条ノ成規ハ之ヲ準用ス 第百四十三条 権利行為ニ付セラレタル期日ニシテ此ニ因リ其発生ス可キヤ否ノ確カナラサルモノハ之ヲ設若条件ト看做ス可シ 第五章 過誤 錯誤 第百四十四条 過誤ハ尋常家父ノ為ス可キ注意ヲ用ヰサルトキニ於テ存ス 太甚ナル過誤ハ尋常家父ノ為ス可キ注意ヲ特ニ重大ニ怠リタルトキニ於テ存ス 第百四十五条 若シ某人カ自己ノ事務ニ付キ用ユルコトヲ常習トスル所ノ注意ノミヲ用ユルコトヲ要スルトキハ其人ハ太甚ナル過誤ニ付テノ責任ヲ免カレス 第百四十六条 本法ニ於テハ左ノ如ク解スルコトヲ要ス 錯誤トハ事実上ノ錯誤及ヒ法律上ノ錯誤ト解ス 宥恕セラル可キ錯誤トハ過誤ニ起因セサル錯誤ト解ス 要識又ハ要知トハ過誤ニ起因セル不識又ハ不知ト解ス 第六章 時限指定 第百四十七条 法律ニ掲ケ又ハ裁判上ノ処分及ヒ権利行為ニ包含セル時限指定ニ関シテハ第百四十八条乃至第百五十三条ノ繹解法ヲ適用ス 第百四十八条 若シ日ヲ以テ定メタル期間ノ起初ニ関シ事故又ハ一日ノ経過中ニ帰スル時刻カ標準ト為ルトキハ其期間ヲ計算スルニハ其事故ノ属スル当日又ハ其時刻ノ帰スル当日ハ之ヲ算入セス 日ヲ以テ定メタル期間ハ其期間ノ末日ノ満了ヲ以テ終了ス 第百四十九条 週若クハ月ヲ以テ又ハ幾月ヲ包含セル時日間(一年、半年、四分一年)ヲ以テ定メタル期間ハ若シ其起初ニ関シ事故又ハ一日ノ経過中ニ帰スル時刻カ標準ト為ルトキハ其名称又ハ指数ニ於テ期間ノ開始シタル当日ニ対応スル末週又ハ末月ノ当日ノ満了ヲ以テ終了ス若シ月ヲ以テ定メタル期間ニ関シ其当日カ末月中ニ存セサルトキハ期間ハ此月ノ末日ノ満了ヲ以テ終了ス 若シ或ル日ノ開始カ期間ノ起初ノ標準ト為ルトキハ其期間ハ名称又ハ指数ニ於テ起初ノ当日ニ対応スル当日ノ直前ナル末週又ハ末月ノ日ノ満了ヲ以テ終了ス若シ月ヲ以テ定メタル期間ニ関シ其当日カ末月中ニ存セサルトキハ其期間ハ此月ノ末日ノ満了ヲ以テ終了ス 第百五十条 半年トハ六月ノ期間、四分一年トハ三月ノ期間、半月トハ十五日ノ期間ト解ス可シ 若シ期間カ全一月ト半月又ハ全幾月ト半月トヲ以テ定メラレタルトキハ其十五日ハ之ヲ最終ニ算フ可シ 第百五十一条 若シ年ヲ以テスル期間又ハ月ヲ以テスル期間ノ計算ニ付キ第百四十九条ノ成規ヲ適用スルコトヲ除斥セラレタルトキハ一年ハ三百六十五日一月ハ三十日ト計算ス 第百五十二条 期間ヲ伸長スル場合ニ在テハ新期間ハ前期間ノ満了ヨリ起算ス 第百五十三条 月ノ初トハ月ノ第一日、月ノ央トハ月ノ第十五日、月ノ終トハ月ノ末日ト解ス可シ 第七章 請求権ノ時効 第百五十四条 他人ニ対シテ債行為ヲ求ムル人ノ権利(請求権)ハ法律カ別段ノ規定ヲ設ケサル限度ニ於テ時効(請求権時効)ニ服ス其請求権カ債務関係ニ起因スルト其他ノ権利原由ニ起因スルトニ区別ヲ存スルコト無シ 家族ノ権利関係ニ起因スル請求権ハ将来ニ於テ其関係ニ相応スル状況ヲ処理スルコトヲ目的トスルモノニ限リ時効ニ服セス 第百五十五条 時効ノ期間ハ三十年(通常ノ時効期間)トス但他ノ期間カ定メラレタルモノハ此限ニ在ラス 第百五十六条 左ニ掲クル請求権ハ二年ノ満了ヲ以テ時効ニ罹ル 第一 立替金ヲモ併セタル商品ノ供給及ヒ労力ノ供給ニ関スル商人、製造人、手職工並ニ美術営業者ノ請求権 第二 農業ノ産出物殊ニ食用品及ヒ薪油料ノ供給ニ関スル農業者ノ請求権但此産出物ハ家政ニ関シ支消スル為メ供給シタルモノニ限ル 第三 立替金ヲモ併セタル住居及ヒ飲食物ノ供給其他需用充備ノ為メニ客人ニ為シタル供給ニ付キ旅店及ヒ或ル種類ノ飲食物ヲ粥クヲ営業トスル調進者ノ請求権 第四 教育、養育及ヒ施療並ニ此ニ附帯セル各般ノ費用ニ付キ公立及ヒ私立ノ教育所、養育所又ハ施療所ノ請求権其他本号ニ掲ケタル種類ノ供給及ヒ費用ニ付キ養育又ハ教育 ノ為メニ或ル人ヲ引受ケタル者ノ請求権 第五 自己ノ報酬ニ関スル公私教師ノ請求権但此報酬ハ公立学校ニ在リテハ現行ノ特別制度ニ従ヒ払渡猶予期間ノ定メ無キモノニ限ル 第六 授業料及ヒ其他授業契約ヲ以テ約束シタル供給並ニ徒弟ノ為メニ支払ヒタル立替金ニ関スル授業者ノ請求権 第七 手数料及ヒ立替金ニ関シ代言人、公証人、裁判所執達吏及ヒ或ル業務ヲ担当スル為メ公ニ任定セラレ若クハ認許セラレタル総テノ人ノ請求権但千八百七十八年六月三十日ノ手数料規則第十六条第二項ノ成規(独逸帝国法律誌第百七十三頁ニ載見ス)ハ此カ為メニ変更ヲ生スルコト無シ 第八 立替金ヲモ併セタル職務施行ニ関スル医師殊ニ外科医、歯科医、獣医、産婆、産科助手並ニ免許ヲ受クル無クシテ医師又ハ産婆ノ職業ニ従事セル者ノ請求権 第九 労役ノ供給又ハ委任ノ引受ヲ以テ営業ト為ス者ノ請求権但此種ノ請求権ハ其者ノ職業ヲ営為スルニ因リテ生スルモノニ限ル 第十 立替金ヲモ併セタル運賃、及ヒ使賃ニ関スル鉄道局、運送人、船長、傭車夫及ヒ使丁ノ請求権 第十一 動産ノ使用賃貸ヲ営業ト為ス者ノ賃貸料ニ関スル請求権 第十二 立替金ヲモ併セタル俸給、賞与又ハ其他職務上ノ収入ニ関シ私務ニ従事スル者ノ請求権 第十三 立替金ヲモ併セタル賃銭及ヒ賃銭ニ代ヘ又ハ賃銭ノ一分トシテ約束シタル給付ニ付キ営業上ノ職工(得技徒弟、工技助手、修技徒弟、製造所職工)日傭者及ヒ手細工人ノ有スル請求権 第十四 営業上ノ職工ニ賃銭又ハ立替金トシテ与ヘタル前貸金ニ付キ工業主人ノ有スル請求権 第十五 自己ノ代言人ニ給付シタル前貸金ニ付キ原告被告ノ有スル請求権 第百五十七条 権利行為ヲ以テ定メタル利息ノ延滞金、第百五十六条第十一号ノ成規ニ属セサルモノニ限リ用収賃貸料及ヒ使用賃貸料ノ延滞金並ニ年金、扣除金、俸給、待命給、退隠料、給養資金其他通例定期復帰スル期間ニ於テ支払フ可キ諸給付ノ延滞金ニ係ル請求権ハ四年ノ満了ヲ以テ時効ニ罹ル 第百五十八条 時効ハ請求権ノ弁償ヲ法律上求ムルコトヲ得ル時(満期)ヲ以テ起始ス 殊ニ設若条件又ハ期間設定ヲ付セラレタル請求権ノ時効ハ其条件ノ発生シ又ハ其期日ノ到来セル後始メテ起始ス 若シ請求権ノ成立ヲ単ニ権利者ノ意思ノミニ繋ラシメタルトキハ時効ハ請求権ノ成立スルコトヲ得ヘキ時ヲ以テ起始ス 若シ請求権ノ弁償ヲ権利者ノ求メ又ハ予告ニ繋ラシメタルトキハ時効ハ其求メ又ハ予告ノ遂成スルコトヲ得ヘキ時ヲ以テ起始ス若シ予告ノ時ヨリシテ更ニ弁償ノ為メノ期間ヲ定メタルトキハ時効ハ其予告ノ遂成スルコトヲ得ヘキ時ヨリ以来此期間ニ相当スル時間ノ満了シタル時ヲ以テ起始ス 第百五十九条 第百五十六条及ヒ第百五十七条ニ掲ケタル請求権ニ付テノ時効ハ法律上ニ於テ弁償ヲ求ムルコトヲ得ル年ノ終尽ヲ以テ起始ス 第百六十条 若シ定期復帰スル債行為カ主タル権利ニ繋属セサルトキハ其請求権ノ全部ノ時効ハ一債行為ニ係ル請求権ノ時効ノ起始スル時ヲ以テ起始ス 第百六十一条 若シ時効カ停止セラレタルトキハ其停止継続中時効ハ起始スルコトヲ得ス又既ニ起始セル時効ハ経過スルコトヲ得ス 若シ時効カ遮断セラレタルトキハ其遮断ニ至ルマテ経過シタル時日ハ時効期間ニ之ヲ算入ス可カラス 第百六十二条 時効ハ請求権ノ性質又ハ特別ノ成規ニ於テ権利ノ伸張ヲ許サ丶ル法律上ノ各妨碍ニ因リテ停止セラル 時効ハ履行セラレサル契約ノ抗弁、留置権ノ抗弁、予訴ノ抗弁又ハ財産目録ニ依レル相続人ノ扣除ノ抗弁カ請求権ニ対シテ存在スルモ此カ為メニ停止セラレス 又時効ハ相殺ヲ為スニ適当ナル債権カ請求権ニ対シテ存在スルモ請求権カ抗争ヲ受クルモ此カ為メニ停止セラレス 第百六十三条 質物所有者カ質物債権者ニ対シテ有スル質物還付ノ請求権ノ時効ハ其質権ノ存続スル問ハ停止セラル 第百六十四条 裁判休止ノ場合ニ於テハ其休止中時効ハ停止セラル 第百六十五条 若シ権利者カ抗拒スルコトヲ得ヘカラサル威力ノ為メニ権利ノ伸張ヲ妨碍セラル丶場合ニ於テハ時効ハ其妨碍カ時効期間ノ終末ノ六月中ニ生シ又ハ六月ノ時間若クハ此ヨリ短キ時間ノ時効ニ付キ生シタル時期及ヒ其限度ニ於テ停止セラル 第百六十六条 行為能力ヲ有セサル人若クハ行為能力ヲ制限セラレタル人ニ対シ及ヒ法人ニ対シテハ時効ハ其人カ法律上ノ代人ヲ全ク有セサルトキト雖モ起始シ且経過ス 然レトモ時効ハ法律上代人ヲ缺キタル場合ニ於テハ法律上代理ノ理由カ消滅シタル時又ハ法律上代理ノ欠缺カ止ミタル時ヨリ以後六月ノ満了前ニハ成就セス又若シ時効期間カ六月ヨリ短キトキハ其時効期間カ此六月ノ期間ニ代ハル 第一項ニ掲ケタル人カ訴訟能力ヲ有スル場合ニ限リ第二項ノ成規ハ全ク之ヲ適用セス 第百六十七条 遺産ニ対シテ起サレタル請求権又ハ遺産ニ属スル請求権ノ時効ハ相続ノ後ニ成立シタル請求権ヲ併セ相続ニ因リテ停止セラル丶コト無シ 然レトモ右請求権ノ時効ハ遺産ニ付キ破産手続カ開始セラレタル時又ハ代人ニシテ之ニ対シ請求権カ主張セラル丶コトヲ得若クハ自ラ請求権ヲ主張スルコトヲ得ル者カ遣産ニ付キ任定セラレタル時又ハ相続人ニ於テ相続財産ヲ引受ケタル時ヨリ以後六月ノ満了前ニハ成就セス若シ其時効期間カ六月ヨリ短キトキハ其時効期間カ此六月ノ期間ニ代ハル 第百六十八条 後見人ト被後見人トノ間ニ於ケル請求権ニ付テハ時効ハ後見関係ノ存続中停止セラル又父母ト子トノ間ニ於ケル請求権ニ付テハ其子ノ少年中又配偶者ノ間ニ於ケル請求権ニ付テハ婚姻ノ存続中前段ト同一ナリトス 第百六十九条 時効ハ若シ義務者カ権利者ニ対シテ請求権ヲ承認スルトキ殊ニ内金払入、利子払入、質物提供若クハ保証設定ヲ為シテ承認スルトキ遮断セラル 第百七十条 時効ハ若シ権利者カ請求権ニ対スル弁償、請求権ノ確定、執行証書ノ交付若クハ執行判決ノ発下ヲ求ムル訴ヲ起セルトキハ遮断セラル 左ニ掲クル諸件ハ起訴ト同一ナリトス 第一 弁償督促ノ裁判手続ニ於ケル支払命令書ノ送達 第二 破産手続ニ於テ破産債権ノ申出 第三 訴訟ニシテ其結果ニ因リ請求権ノ定マルモノニ於テ争訟ノ通知 第四 執行行為ノ挙行及ヒ強制執行ヲ裁判所又ハ其他ノ官庁ニ指定シタル場合ニ限リ其強制執行ヲ求ムル申立ノ提出 右ノ規定ハ訴訟法第百九十条ノ成規ヲ妨ケス 第百七十一条 起訴ヲ以テスル時効ノ遮断ハ若シ権利者カ其訴ヲ取下ケ又ハ其訴カ訴訟上ノ要件ヲ缺ケル為メニ却下セラレタルトキハ無結果ナリト看做ス 若シ其訴カ裁判所ノ非権限ノ為メニ却下セラレタル場合ニ於テ権利者カ其判決確定ノ以後六月内ニ権限裁判所ニ新訴ヲ起セルトキハ時効ハ初訴ニ因リテ遮断セラレタリト看做ス 若シ訴訟法第三十六条第六号ノ場合ニ於テ初訴カ時効期間内ニ起サレ其後相続キテ起セル各個ノ訴カ各自前判決確定ノ以後六月内ニ起サレ且又其最後ノ判決確定ノ以後三月内ニ権限裁判所ノ指定カ出願セラレテ其指定アリタル以後三月内ニ指定ノ裁判所ニ於テ起訴カ結果ヲ得タルトキハ時効ハ最初ノ起訴ニ因リテ遮断セラレタリト看做ス 若シ訴カ其択ミタル訴訟種類ノ許サレサルモノナル為メニ却下セラレタル場合ニ於テ権利者カ判決確定ノ以後六月内ニ許サレタル訴訟種類ニ於テ新訴ヲ起シタルトキハ時効ハ最初ノ起訴ニ因リテ遮断セラレタリト看做ス 第二項乃至第四項ニ掲ケタル期間ニハ第百六十四条及ヒ第百六十六条ノ成規ヲ準用ス 第百七十二条 弁償督促ノ裁判手続ニ於ケル支払命令書ノ送達ヲ以テスル時効ノ遮断ハ若シ権利拘束ノ作用カ訴訟法第六百三十七条、第六百四十条及ヒ第六百四十一条ノ成規ニ因リテ消滅シタルトキハ之ヲ無結果ナリト看做ス 第百七十三条 執行行為ノ挙行又ハ其申立ヲ以テスル時効ノ遮断ハ若シ其実施セラレタル執行処分カ権利者ノ申立ニ因リ又ハ法律上ノ要件ヲ缺ケル為メニ廃棄セラレタルトキハ之ヲ無結果ナリト看做ス 又執行行為ノ申立ヲ以テスル時効ノ遮断ハ若シ官庁ニ於テ其申立ヲ許サ丶リシトキ又ハ其申立カ執行行為ノ挙行前ニ取下ケラレタルトキハ亦之ヲ無結果ト看做ス 第百七十四条 起訴ニ因リテ生シタル時効ノ遮断ハ裁判ノ確定スルニ至ルマテ又ハ其他ノ方法ニ依リテ訴訟ノ終結スルニ至ルマテ継続ス 若シ訴訟カ原告被告ノ協議ニ因リ又ハ訴訟行為ヲ為サ丶ルニ因リテ休止セルトキハ時効ノ遮断ハ其中止ノ起始スル時ヲ以テ終了ス此遮断ノ終了スルト共ニ起始スル新時効ハ原告被告ノ孰レニテモ更ラニ訴訟行為ヲ為スニ因リ起訴ノ作用ヲ以テ遮断セラル 第百七十五条 訴訟ノ通知ニ因リテ生シタル時効ノ遮断ニハ第百七十四条ノ成規ヲ準用ス 第百七十六条 破産手続ニ於テノ申出ニ因リテ生シタル時効ノ遮断ハ破産手続ノ終了ニ至ルマテ継続ス 右時効ノ遮断ハ若シ其申出カ取下ケラレタルトキハ無結果ナリト看做ス 若シ破産ニ係ル審査ノ際ニ起シタル異議ニ因リテ訴訟中ニ在ル債権ニ付キ或ル金額カ破産手続ノ終了ノ時ニ留置セラレタルトキハ時効ノ遮断ハ破産手続ノ終了ノ後ト雖モ尚ホ継続ス此場合ニ於テハ其遮断ノ終了ハ第百七十四条ノ成規ニ依リテ定マル 第百七十七条 請求権ノ確定ヲ求メ其言渡ノ確定シタル請求権ハ此請求権其モノニ在テハ三十年ヨリ短キ時効ニ服スルトキト雖モ三十年ノ満了ヲ以テ時効ニ罹ル又執行スルコトヲ得ヘキ和解及ヒ執行スルコトヲ得ヘキ証書ヨリ生シタル請求権並ニ破産手続ニ於テ成レル確定ニ因リテ執行スルコトヲ得ヘキモノト為リタル請求権ニ付テモ亦前段ト同一ナリトス 請求権ノ確定カ通例定期復帰シ且将来ニ於テ始メテ満期ト為ル債行為ニマテ及フトキハ第一項ノ成規ハ之ヲ適用セス 第百七十八条 留存ヲ以テ発下シタル確定判決モ亦第百七十四条第一項及ヒ第百七十七条第一項ニ言ヘル所ノ確定裁判ト看做ス 第百七十九条 若シ請求権ヲ仲裁裁判所若クハ特別裁判所又ハ行政裁判所若クハ行政官庁ニ於テ主張ス可キトキハ第百七十条乃至第百七十五条及ヒ第百七十七条、第百七十八条ノ成規ヲ準用ス 若シ仲裁契約ニ於テ仲裁判事ヲ指名セサリシトキ又ハ既存仲裁裁判所ノ裁判ヲ請フコトヲ特別ナル予行設若条件ノ成就ニ繋ラシメタルトキハ時効ハ権利者カ自己ニ於テ其故障ヲ終結スル為メ必要ナル事項ヲ挙行スルニ因リテ既ニ遮断セラル 第百八十条 若シ司法裁判ノ許否カ或ル官庁ノ予行裁決ニ依リテ定マルトキハ時効ハ其予行裁決ノ発下ヲ請願スルニ因リテ遮断セラル 右時効ノ遮断ハ其請願ノ終結スルマテ継続ス 第百八十一条 或ル物ニシテ此ニ付キ其物権ニ起因スル請求権ノ創起シタルモノカ権利承継ニ因リテ第三者ノ占有ニ帰シタルトキハ権利譲渡人ノ占有中ニ消過シタル時効時間ハ之ヲ時効期間ニ算入ス 第百八十二条 時効ノ成就シタル後ハ請求権ノ主張ヲ永久ニ排却スル抗弁カ其請求権ニ対シ存立ス 時効ニ罹レル請求権ヲ弁済スル為メニ為シタル給付ハ其請求権ノ時効ニ罹リタルコトヲ識知スル無クシテ給付シタルトキト雖モ償還要求ヲ為スコトヲ得ス 第百八十三条 質権ヲ以テ担保セラレタル請求権ノ時効ハ権利者カ質物ヨリ自己ノ弁償ヲ求ムルヲ妨クルコト無シ 延滞利息ニ係ル請求権又ハ其他ノ定期復帰スル債行為ニ付テノ時効ニハ第一項ノ成規ヲ適用セス 若シ請求権ヲ担保スル為メ権利ヲ転付シタルトキハ其請求権ノ時効ニ基キテ償還要求ヲ為スコトヲ得ス 第百八十四条 若シ主タル請求権カ時効ニ罹リタルトキハ其請求権ニ繋属スル附帯債行為ノ請求権モ同シク時効ニ罹ル若シ此請求権ニ付キ現行スル別段ノ時効カ未タ成就セサルトキト雖モ亦同シ 定期復帰スル独立ノ債行為ニ在テハ其請求権ノ時効ニ罹ルト共ニ其時効ノ成就ニ至ルマテニ既ニ満期ト為リタル債行為ニ関スル請求権モ亦全ク時効ニ罹ル 第百八十五条 時効ハ権利行為ヲ以テ除斥スルコトヲ得ス又加重スルコトヲ得ス殊ニ時効期間ヲ伸長シテ加重スルコトヲ得ス 時効ノ減軽殊ニ時効期間ノ短縮ハ権利行為ヲ以テ之ヲ定ムルコトヲ得 第八章 自己防禦及ヒ自己援助 第百八十六条 制禁ニ係ル行為ハ若シ其行為ヲ危急防禦ノ為メニ為サ丶ル可ラサル場合ニ在テハ存立セス 危急防禦トハ自己又ハ他人カ現ニ受クル不法ノ侵害ヲ除ク為メニ缺ク可カラサル所ノ防禦ヲ謂フ 第百八十七条 制禁ニ係ル行為ハ若シ某人カ自己又ハ他人ニ於テ或ル他人ノ物ニ因リテ将ニ受ケントスル危険ヲ除ク為メニ其物ヲ毀損シ又ハ潰滅セル場合ニ在テハ存立セス但其行為カ危険ヲ除ク為メニ缺ク可カラサリシモノニシテ且其危険カ故意又ハ過誤ニ因リテ惹起セラレタルニ非サルモノニ限ル 第百八十八条 行為其モノニ於テ当然制禁ニ係ル行為ヲ以テスル自己援助ハ之ヲ制禁セラレタリトス但法律カ別段ノ規定ヲ掲クルモノハ此限ニ在ラス 第百八十九条 物ヲ押収シ潰滅シ又ハ毀損シテ為ス所ノ自己援助又ハ義務者ヲシテ其義務ヲ強制履行セシメテ為ス所ノ自己援助ハ若シ官府ノ援助ヲ正当時期ニ求ムルコトヲ得可カラス且権利者カ即時ノ侵害ヲ為スニ非サレハ請求権ノ実行ヲ無効ニ帰セシメ又ハ甚シク困難ナラシムルノ危険ニ遇フトキハ之ヲ許サレタリトス 権利者カ自己援助ヲ実施スルニ際シテハ其危険ヲ除ク為メニ缺ク可カラサルモノ丶外ニ渉ルコトヲ許サス 義務者ヲ逮捕シタル場合ニ於テハ再ヒ之ヲ釈放セサルトキニ限リ其逮捕地ノ管轄区裁判所ニ遅延ナク引致シ且同時ニ此区裁判所ニ身体保全差押ノ命令ノ発下ヲ申請スルコトヲ要ス 若シ動産ヲ請求権ノ担保ノ為メニ押収シタルトキハ強制執行ヲ実施セサル場合ニ限リ遅延ナク物件差押ノ命令ノ発下ヲ申請スルコトヲ要ス若シ其申請ヲ為スコトヲ遅延シ又ハ其申請カ拒却セラレタルトキハ其物件ハ之ヲ還付ス可シ 第九章 判決 第百九十条 債行為ニ係ル有責判決ハ既ニ満期ノ到来シタルトキニノミ之ヲ為スコトヲ許ス権利行為ニ根基セサル定期復帰ノ債行為ニ在テハ有責判決ハ事後始メテ満期ト為ル債行為ニ付テモ亦之ヲ為スコトヲ得 若シ反対債行為ニ無繋属ナル金銭債権カ予告後ノ期間ノ満了ヲ以テ始メテ満期ト為リ又ハ使用賃貸関係カ予告後ノ期間ノ満了ヲ以テ終了スルトキハ訴ニ附帯シタル予告又ハ訴ニ先タチテ為シタル予告ニ起因セル将来ノ支払又ハ明渡ニ係ル有責判決ハ之ヲ為スコトヲ得 第百九十一条 確定判決ハ原告被告ノ間ニ於ケル権利関係ノ標準タリ確定判決ヲ以テ至当ト認メラレタルモノハ復タ之ヲ争フコトヲ得ス確定判決ヲ以テ失当ト認メラレタルモノハ復タ之ヲ主張スルコトヲ得ス 確定判決ノ此作用ニ付テハ棄権ヲ為スコトヲ得ス裁判所ハ其作用カ主張セラル丶トキニ限リ其作用ヲ斟酌スルコトヲ許ス 第百九十二条 確定判決ハ原告、被告ノ為メ及ヒ之ニ対シテ作用ヲ有シ又権利拘束ノ開始後ニ原告、被告ノ権利承継人ト為リタル人又ハ原告若クハ被告ノ為メニ争訟中ニ在ル物件ノ所持人ト為リタル人ノ為メ及ヒ之ニ対シテ作用ヲ有ス 無権利者ヨリ或ル権利ヲ得取セシ者ノ利益ト為ルノ成規ハ之ヲ準用ス 第十章 証拠 第百九十三条 何人タリトモ請求権ヲ主張スル者ハ其請求権ヲ弁疏スル為メニ必要ナル事実ヲ証明スルコトヲ要ス又何人タリトモ請求権ノ廃棄又ハ其作用停止ヲ主張スル者ハ其廃棄又ハ作用停止ヲ弁疏スル為メニ必要ナル事実ヲ証明スルコトヲ要ス 第百九十四条 何人タリトモ通例ノ作用ヲ除斥スル特別ノ事実ノ為メ或ル事体ノ法律上ノ作用ヲ否拒スル者ハ其特別ノ事実ヲ証明スルコトヲ要ス 右ノ規定ハ殊ニ行為能力ノ欠缺、真実ノ意思ト陳述ノ意思トノ一致ノ欠缺、脅迫又ハ詐欺ノ為メ意思ノ自由ノ欠缺ヲ主張スルトキ又ハ別段ノ方式カ権利行為ヲ以テ定メラレタルコトヲ主張スルトキハ権利行為ニ付キ之ヲ適用ス 第百九十五条 何人タリトモ権利行為ニ因リテ権利ヲ主張スル者ハ其行為ノ効力ヲ有スル為メニ特別ノ方式ヲ必要トスルトキハ此方式ヲ遵守シタルコトヲモ亦証明スルコトヲ要ス 第百九十六条 何人タリトモ権利行為ニ因リテ権利ヲ主張スル者ハ自身ノ主張スル方法ヲ以テ其行為ヲ完成シタルコトヲ証明スルヲ要ス又対手カ其行為ノ作成ヲ許諾スルモ他ノ方法ヲ以テ殊ニ停止ノ設若条件若クハ解除ノ設若条件ヲ付シ又ハ起始期日若クハ終了期日ヲ付シテ権利行為ヲ作成シタル可キコトヲ主張スルトキニモ亦同シ 第百九十七条 或ル条件ノ成就又ハ絶滅ハ其事実ニ因リテ権利ヲ得取スル者カ之ヲ証明スルコトヲ要ス 第百九十八条 若シ本法ニ於テ或ル事実ノ推定セラル可キコトヲ規定シタルトキハ其事実ハ証明セラレタリト看做ス然レトモ反対証拠ハ之ヲ挙クルコトヲ許ス但別段ノ成規ヲ設ケタルトキハ此限ニ在ラス 第十一章 担保債行為 第百九十九条 何人タリトモ担保債行為ノ義務ヲ負フ者ハ担保セラルヘキ権利ニ相当スル額ニ於テ自己ノ択ミニ従ヒ左ニ掲クル方法ニ依リ其担保債行為ヲ為ス可シ 金銭又ハ有価証券ノ供託ヲ為スコト 動産ヲ質入スルコト 内国ノ地所ニ付キ抵当ヲ設定スルコト 内国ノ地所ニ付テノ抵当又ハ土地債務ヲ質入スルコト但担保抵当ハ之ヲ除斥ス 若シ担保義務者カ此方法ニ依リテ担保債行為ヲ為スコト能ハサルトキハ確実ナル保証人ヲ立ツルコトヲ許ス 第一項及ヒ第二項ノ成規ハ法律又ハ権利行為ヲ以テ別段ノ規定ヲ設ケサル限度ニ於テノミ之ヲ適用ス 第二百条 権利者ハ供託ト同時ニ供託セラレタル金銭又ハ供託セラレタル有価証券ニ付キ質権ヲ得取ス又若シ金銭若クハ有価証券カ各邦法律ニ依リテ国庫若クハ公設場ノ所有ニ移ルトキハ償還要求権ニ付キテ質権ヲ得取ス 第二百一条 有価証券ハ若シ其証券カ無記名ナルトキ、相場価額ヲ有シ若クハ被後見人ノ金銭ヲ放用スルコトヲ許サレタル種類ニ属スルトキニ限リ之ヲ担保債行為ニ供スルニ適切ナリトス 有価証券ヲ以テシテハ相場価額ノ四分三ノ価直ニ於テノミ担保債行為ニ供スルコトヲ得 第二百二条 動産ヲ以テシテハ評定価額ノ三分二ノ価直ニ於テノミ担保債行為ニ供スルコトヲ得 第二百三条 抵当又ハ土地債務ハ若シ被後見人ノ金銭ヲ抵当又ハ土地債務ニ関シテ放用スルコトヲ許サレタル要件ニ適スルトキニ限リ之ヲ担保債行為ニ供スルニ適切ナリトス 第二百四条 保証人ハ若シ其人カ供スヘキ担保ニ相当スル財産ヲ占有シ且内国ニ普通ノ裁判籍ヲ有スルトキハ確実ナリトス 第二百五条 若シ既ニ供シタル担保カ権利者ノ過失ニ因ルニ非ラスシテ不足ヲ生スルニ至リタルトキハ義務者ハ更ニ担保債行為ヲ為スコトヲ要ス 第二編 債務関係法 第一章 債務関係ノ通則 第一節 債務関係ノ目的物 第二百六条 債務関係ノ目的物ハ債務者ノ作為又ハ不作為(債行為)ナルコト有リ 第二百七条 若シ債務関係カ数個ノ債行為ヲ目的トシ其中ノ孰レニテモ唯一個ノミヲ果成ス可シト為シタルトキハ其選択権ハ債務者ニ属ス但法律又ハ権利行為ヲ以テ別段ノ事項ヲ定メタルトキハ此限ニ在ラス 第二百八条 選択ハ若シ選択権ヲ有スル一方ヨリ他ノ一方ニ対シテ其選択ヲ陳述シタルトキハ執行セラレタリトス 選択ハ若シ選択権ヲ有スル債務者カ縦令一分ノミニテモ債行為ノ一個ヲ果成シタルトキ又若シ選択権ヲ有スル債権者カ縦令一分ノミニテモ債行為ノ一個ヲ諾受シタルトキモ亦執行セラレタリト看做ス 第二百九条 執行シタル選択ハ之ヲ取消スコトヲ得ス又債務関係ハ其選択ノ執行後ハ最初ヨリ其選択シタル債行為ノミヲ目的ト為シタル可キ場合ニ於ケルカ如クニ判定セラル可シ 第二百十条 若シ選択権ヲ有スル債務者カ強制執行ノ開始前ニ其選択ヲ執行シタルニ非サルトキハ債権者ハ自己ノ選択ヲ以テ数個ノ債行為中ノ一個ニ付キ強制執行ヲ為スコトヲ得然レトモ債務者ハ債権者カ其選択シタル債行為ノ全部ニテモ一分ニテモ領受シタルニ非サルノ間ハ他ノ一個ノ債行為ヲ果成シテ自己ノ義務ヲ免カル丶コトヲ得 若シ選択権ヲ有スル債権者カ選択ヲ遅延スルトキハ債務者ハ債権者ニ対シテ相当ノ期間内ニ其選択ノ執行ヲ求ムルコトヲ得其期間ハ債務者ヨリ債権者ニ之ヲ指定ス可シ若シ此期間内ニ選択カ執行セラレサルトキハ其選択権ハ債務者ニ移ル 第二百十一条 若シ数個ノ債行為中ノ一個カ不可能ト為リ又ハ後日債務者ノ責ニ帰セサル情況ニ因リ不可能トナリタルトキハ債務関係ハ之ヲ其余ノ債行為ノミニ限ル 債権者又ハ債務者ノ過失ニシテ債行為ノ不可能ヲ惹起シタルモノヽ結果ハ其過失ニ付テノ普通ノ成規ニ依リテ定マル 第二百十二条 択一ノ方法ヲ以テ債務ヲ負ヒタル数個ノ債行為中ニ於テ其選択カ第三者ニ許サレタルトキハ債務関係ハ疑ノ存スルニ於テハ第三者ノ選択ヲ以テ設若条件ト為サレタルモノト看做ス 其選択ハ若シ債権者又ハ債務者ニ対シテ陳述セラレタルトキハ執行セラレタリト看做ス 第二百十三条 若シ債行為ノ目的ト為ル物カ種類ノミヲ以テ定メラレタルトキハ債務者ハ中等ノ種類及ヒ良好ノ物ヲ選抜ス可シ 第二百十四条 右ノ選抜ハ債行為カ選抜セラレタル物ノ交付ヲ以テ果成セラレタルトキ始メテ又ハ其交付前ノ時点ニ於テ既ニ危険カ債権者ニ移ルモノニ限リ其時点ノ開始シタルトキ始メテ執行セラレタリト看做ス 執行セラレタル選抜ハ之ヲ取消スコトヲ得ス 債務関係ハ選抜ノ執行後ハ之ヲ其選抜セラレタル物ノミニ限ル 第二百十五条 内国ニ於テ支払ハル可キ金銭債務ノ支払ハ其債務カ外国ノ貨幣本位ニ於テ明示セラレタルトキト雖モ帝国ノ貨幣本位ニテ之ヲ果成ス可シ 金銭債務ヲ帝国ノ貨幣本位ニ換算スルコトノ必要ナル場合ニ在テハ其支払ノ時及ヒ地ニ於ケル相場価額カ標準ト為ル 第二項ノ成規ハ帝国ノ貨幣本位ヲ以テ明示セラレタル金銭債務ヲ外国ノ貨幣本位ニテ支払フ可キトキハ之ヲ準用ス 第二百十六条 若シ金銭債務カ其支払ノ当時既ニ流通ノ中ニ在ラサル一定ノ貨幣ノ種類ヲ以テ支払ハル可キトキハ其支払ノ債行為ハ其貨幣ノ種類ノ定メヲ為シタルニ非サル場合ニ於ケルカ如クニ之ヲ果成ス可シ 第二百十七条 若シ債務カ法律又ハ権利行為ニ依リ利息ヲ付セラル可キモノナルモ其利息ノ数額カ定メラレタルニ非サルトキハ其利息ハ年百分五ノ割合ヲ以テ之ヲ支払フ可シ 第二百十八条 若シ損害賠償ノ債行為ヲ果成ス可キトキハ其賠償ス可キ損害ニハ現ニ被ムレル財産ノ損失ト現ニ失ヒタル利益トヲ包含ス 事物ノ通常ノ成行ニ従ヒ又ハ特別ノ情況殊ニ為シタル設計及ヒ準備ニ従ヒ推認ヲ以テ予期スルコトヲ得シ利益ノミカ現ニ失ヒタル利益ト看做サル 第二百十九条 債務者ハ若シ損害賠償ノ義務ヲ負ハシムル情況ノ起発シタルニ非サル可カリシナラハ存在シタル可カリシ現状ヲ造成シテ損害賠償ノ債行為ヲ果成ス可シ又此現状ノ造成カ為シ得ラレサル分度又ハ其造成カ債権者ノ損害賠償ニ充ルニ足ラサル分度ニ限リ金銭ヲ以テ債権者ノ損害ヲ賠償シテ其債行為ヲ果成ス可シ 第二百二十条 若シ目的物ノ価額カ損害賠償額トシテ賠償セラル可キトキハ普通ノ交通価額カ標準ト為ルノミナラス其物カ特別ノ事情ニ従ヒ債権者ノ為メニ有シタル価額(非常ノ価額)モ亦其標準ト為ル 第二百二十一条 財産ノ損害ニ非サル他ノ損害ニ関シテハ損害賠償ハ法律ニ定メタル場合ニ於テノミ之ヲ求ムルコトヲ得 第二百二十二条 若シ他人ノ過失ニ出タル損害ノ起生スルニ当リ被害者ノ過誤カ縦令単ニ其損害ヲ避クルコトノミニ関スルモノナルモ共ニ加ハリタルトキハ裁判所ハ場合ノ情況ニ随ヒ其意見ヲ以テ他人カ損害賠償ノ義務ヲ負フ可キヤ否ヤ及ヒ其義務ヲ負フ可キ範囲ノ如何ヲ定ム可シ又裁判所ハ裁判ヲ為スニ際シテハ他人ノ過失カ重大ナルヤ又ハ被害者ノ過誤カ重大ナルヤ否ヤ及ヒ其重大ナル限度ノ如何ヲ殊ニ酌定ス可シ 第二百二十三条 若シ物又ハ権利ノ奪取若クハ抑留ノ結果ニ因リテ物又ハ権利其モノヽ喪失ニ付テノ損害賠償ノ債行為ヲ賠償義務者カ果成シタルトキハ其損害賠償ヲ受ケタル者カ所有権又ハ其他ノ権利ニ起因シテ第三者ニ対シ有スル請求権ハ賠償債行為ト共ニ賠償義務者ニ移ル 第二節 債務関係ノ含旨 第一款 債行為果成義務 第二百二十四条 債務者ハ債務関係ニ依リテ自己ニ負担スル債行為ヲ完全ニ果成スルノ義務ヲ負フ又債務者ハ其義務ノ故意ニ出ツル不履行ノミナラス過誤ニ出ツル不履行ニ付テモ亦責任ヲ負フ第七百八条及ヒ第七百九条ノ成規ハ之ヲ準用ス 債務者ハ其義務ノ履行ニ関シテハ自己ノ法律上代人ノ過失並ニ債行為果成ノ為メ使用スル人ノ過失ニ付キ責任ヲ負フ 第二百二十五条 義務ノ故意ニ出ツル不履行ニ付テノ責任ハ予メ債務者ニ之ヲ釈放スルコトヲ得ス 第二百二十六条 債務者ハ債行為カ自己ノ人格ニ繋カルトキニ限リ其債行為ヲ自身ニ果成スルコトヲ要ス 第二百二十七条 若シ債務者カ自身ニ債行為ヲ果成スルコトヲ要セサルトキハ其債行為ハ債務者ノ同意ヲ要スル無クシテ第三者モ亦之ヲ果成スルコトヲ得 若シ債務者カ右債行為ノ諾受ニ異議ヲ述フルトキハ債権者ハ其債行為ヲ拒絶スルコトヲ得若シ債権者カ其債行為ヲ諾受シタルトキハ債務者ハ自己ノ異議ニ拘ハラスシテ其債務ヲ免カル 第二百二十八条 債務者ハ唯一分ノミノ債行為ヲ果成スルノ権利ヲ有セス 第二百二十九条 若シ債行為ヲ果成スルコトヲ要スル地カ法律ニ依ルモ権利行為ニ依ルモ又債行為ノ性質ニ依ルモ定マリタルニ非サルトキハ債務者ハ債務関係ノ本性ニ適シ且関係者ノ推測上ノ意思ニ適スル地ニ於テ其債行為ヲ果成スルコトヲ要ス 第二百三十条 若シ債行為ヲ果成スル地ヲ第二百二十九条ニ依リテ定ムルコトヲ得サルトキハ債務者ハ債務関係ノ成立シタル当時自己カ住所ヲ有セシ地ニ於テ其債行為ヲ果成スルコトヲ要ス 若シ債行為カ金銭ノ支払ヲ為スニ在ルトキハ債務者ハ債務関係ノ成立シタル当時債権者カ住所ヲ有セシ地ニ於テ其支払ヲ為スコトヲ要ス債権者ノ住所ノ変転シタル場合ニ於テハ債務者ハ支払ノ金銭ヲ債権者ノ危険及ヒ費用ニテ其現住所ニ向テ送付ス可シ 第二百三十一条 若シ債行為ニ付キ時ノ定メ無キトキハ其債行為ハ即時ニ之ヲ求ムルコトヲ得又之ヲ果成スルコトヲ得 若シ時ノ定メ有ルトキ疑ノ存スルニ於テハ債権者ハ其時前ニハ債行為ヲ求ムルコトヲ得サルモ債務者ハ其時前何時ニテモ債行為ヲ果成スルコトヲ許サレタリト推認セラル可シ 第二百三十二条 若シ無利息ノ債務ヲ満期前ニ支払フトキハ債務者ハ其支払ヒノ時ヨリ満期ノ時マテノ中間利息ヲ扣除スルノ権利無シ 第二款 留置権 第二百三十三条 若シ債務者カ第三百六十四条ノ成規ノ外ニ於テ自己ノ義務ノ根基セル同一権利関係ニ因リ債権者ニ対シテ満期ノ請求権ヲ有スルトキ又ハ債務者ノ義務カ或ル目的物ノ呈出ヲ目的トスル場合ニ於テ其物ノ為メニ支出シタル費用ニ付キ又ハ其物ニ因リテ自己ノ被レル損害ニ付キ満期ノ請求権ヲ有スルトキハ債務者ハ債務ヲ負ヒタル債行為ノ留置ヲ為スノ権利ヲ有ス 第二百三十四条 第三百三十三条ニ依リテ債務者ニ属スル留置権ニハ第三百六十四条及ヒ第三百六十五条ノ成規ヲ準用ス債権者ハ担保債行為ヲ以テ留置権ヲ退クルコトヲ得保証人ヲ以テスル担保債行為ハ除斥セラル 第二百三十五条 或ル目的物ノ呈出ヲ為スノ義務ヲ負ヘル債務者ハ若シ故意ニテ犯シタル制禁ノ行為ニ因リテ其物ヲ得取シタルトキハ第二百三十三条ニ依リテ其物ノ留置ヲ為スノ権利ヲ有セス 第二百三十六条 第二百三十四条及ヒ第二百三十五条ノ成規ハ法律カ債務者ニ留置権ヲ付与セル総テノ場合ニ之ヲ適用ス 第三款 債行為ノ不可能及ヒ不果成債行為ノ結果 第二百三十七条 債務者ハ債務関係ノ成立ノ後ニ開始シ且自己ノ責ニ帰セラル可ラサル情況ノ結果ニ於テ債行為カ不可能ト為リタル間ハ其債行為ヲ果成スルノ義務無シ又債務者ハ債行為カ永久ニ不可能ト為リタル限度ニ於テノミ自己ノ義務ヲ免カル 若シ当然ニ定マリタル目的物ヲ以テ債行為ヲ果成スルコトヲ要スル義務者カ自己ノ責ニ帰セラル可ラサル情況ノ結果ニ於テ其債行為ヲ果成スル能ハサルニ至リタルトキハ亦前項ト同一ナリ 第二百三十八条 若シ第二百三十七条ニ適準シ債務者ニ債行為ヲ果成スル義務ヲ免カレシメタル情況ノ結果ニ於テ債務者カ其債行為ノ目的物ニ付キ賠償又ハ賠償請求権ヲ得取シタル場合ニ在テハ其債務者ハ債権者ノ求メ有ルトキハ賠償トシテ領受シタルモノヲ之ニ呈出シ又ハ賠償請求権ヲ之ニ譲渡スノ義務ヲ負フ 前項ノ成規ハ若シ債務関係ヲ停止ノ設若条件ニ繋ラシメ又ハ債権ノ成立ヲ停止スル起始期日ニ繋ラシメタル場合ニ於テ債行為カ其条件ノ起発前又ハ期日ノ開始前ニ不可能ト為リタルトキニモ亦之ヲ適用ス 第二百三十九条 債行為ノ不可能ヲ主張スル債務者ハ其債行為カ自己ノ責ニ帰セラル可キ情況ノ結果ニ於テ不可能ト為リタルニ非サルコトヲ証明ス可シ 第二百四十条 若シ債務者ノ負担スル債行為ノ全部若クハ一分カ自己ノ責ニ帰セラル可キ情況ノ結果ニ於テ不可能ト為リタルノ故ヲ以テ債務者カ自己ノ義務ヲ履行スル能ハサルトキハ債権者ニ対シ義務ノ不履行ニ因リテ之ニ惹起シタル損害ヲ賠償スルノ義務ヲ負フ 目的物ニシテ其債行為ノ全部又ハ一分ノ不可能ト為リタルモノヽ価額ヲ算定スル為メニハ債行為ヲ果成ス可キ地並ニ債務者ニ於テ債行為ヲ果成スルノ義務有リシ時カ標準ト為ル又債権者ハ若シ其受ケタル損害カ右算定価額ヨリモ尚ホ一層ノ高価額ヲ奪取シタルニ在ルコトノ其情況ニ因リテ推認セラル可キトキニ限リ右ノ時ヨリ以後ノ価額ヲ主張スルコトヲ得 第二百四十一条 不可能ハ若シ債務者カ債務関係ニ付テ宥恕セラル可キ錯誤ノ中ニ在リタルニ因リ其不可能ヲ惹起シタルトキハ債務者ノ責ニ帰セラル可カラサル情況ニ因リテ之ヲ惹起シタリト看做ス 第二百四十二条 若シ債行為カ債務者ノ責ニ帰セラル可キ情況ノ結果ニ於テ其一分ノミ不可能ト為リタル場合ニ於テ債権者ハ其債行為ノ不可能ト為ラサル一分カ自己ノ為メ一モ利害ヲ有セサルトキハ其一分ヲ拒絶シ又ハ之ヲ還与シテ義務ノ全部ノ不履行ニ付キテノ損害賠償ヲ求ムルコトヲ得 第四百二十七条第二項、第三項及ヒ第四百二十八条、第四百三十一条、第四百三十三条ノ成規ハ之ヲ準用ス 第二百四十三条 第二百四十条乃至第二百四十二条ノ成規ハ若シ債務者カ帰責判決ノ言渡ヲ受ケ其判決ノ確定シタル後債権者ノ定ム可キ相当ノ期間内ニ債行為ヲ果成セサルトキハ之ヲ準用ス此期間ノ定メハ債権者ニ於テ此期間ノ満了後ハ復タ債行為ニ意望ヲ有セサル可シトノ結果ヲ生ス可キモノトス 第二百四十四条 若シ債務者カ当然定マリタル目的物ヲ債権者ニ呈出スルコトヲ要スルトキハ権利拘束ノ開始セシ以来果益ノ呈出及ヒ賠償ニ付キ、費用ノ賠償ニ付キ、維持及ヒ保管ノ責任ニ付キテハ所有者ト占有者トノ間ニ於ケル権利関係ニ付キテ所有権請求ノ権利拘束ノ開始セシ以来ニ適用スル成規ヲ準用ス但債務関係ニ因リ又ハ債務者ノ延滞ニ因リテ債権者ノ利益ト為ル別段ノ定メカ表顕セサル分度ニ限ル 第四款 債務者ノ延滞 第二百四十五条 若シ債務者カ満期開始後ニ於テ債権者ヨリ債行為ヲ果成ス可シトノ催告(督促)ノ己レニ到達シ其催告ニ従ヒテ債行為ヲ果成セサルトキハ其債務者ハ督促ヲ受ケテ延滞シタルモノトス又債行為ノ帰責判決ヲ求ムル訴ノ提起並ニ督促裁判手続ニ於ケル支払命令ノ送達モ亦之ヲ督促ト看做ス 若シ債行為ニ関シテ時カ暦ニ従ヒテ定メラレ又ハ予告ノ果成後暦ニ因リテ判然ス可キ方法ヲ以テ定メラレタルトキハ債務者ハ其定マリタル時ニ於テ債行為ヲ果成セサルニ於テハ督促ヲ受クル無クシテ延滞シタルモノトス 第二百四十六条 債務者カ第二百三十七条及ヒ第二百四十一条ノ成規ニ依リ自已ノ責ニ帰セラル可カラサル情況ノ結果ニ於テ債行為ヲ果成スルノ義務無キ間ハ延滞セサルモノトス 第二百四十七条 債務者ハ延滞ニ因リテ惹起シタル損害ヲ債権者ニ賠償スルコトヲ要ス 若シ債行為カ債務者ノ延滞ノ結果ニ於テ債権者ノ為メ一モ利害ヲ有セサルトキハ債権者ハ其債行為ヲ拒絶シ及ヒ既ニ諾受シタル債行為ノ一分有ルトキハ之ヲ還与シテ義務全部ノ不履行ニ付テノ損害賠償ヲ求ムルコトヲ得又第四百二十七条第二項、第三項及ヒ第四百二十八条、第四百三十一条、第四百三十三条ノ成規ハ之ヲ準用ス 第二百四十八条 金銭債務ニ付テハ債務者ハ其延滞ノ起初ヨリ年百分五ノ利息ヲ債権者ニ支払フ可シ此場合ニ在テハ他ノ権利原由ニ因リテ支払フ可キ利息額カ右ノ利息額ヨリ寡少ナルトキト雖モ亦同シ若シ他ノ権利原由ニ因リテ支払フ可キ利息額カ右ノ利息額ヨリモ高額ナルトキハ債務者ハ延滞ノ時間此高額ヲ断エス支払フ可シ 若シ延滞ニ因リテ債権者ニ惹起シタル損害額カ延滞利息ヲ以テ債権者ノ受クル賠償額ヲ超過スルトキハ債務者ハ其高額ナル損害ヲ賠償ス可シ 第一項及ヒ第二項ノ成規ハ若シ定マリタル金銭種類ノ債行為ヲ果成ス可キトキト雖モ亦之ヲ適用ス 第二百四十九条 法律ニ根基スル利息ニ付テハ其延滞利息ヲ支払フコトヲ要セス権利行為ニ起因スル利息ニ付テハ権利拘束ノ開始ノ時ヨリ始メテ其延滞利息ヲ支払フコトヲ要ス又延滞ニ因リテ被ムレル損害ニシテ証明スルコトヲ得可キモノヽ賠償ヲ求ムル債権者ノ権利ハ此カ為メニ異動ヲ受クルコト無シ 第二百五十条 債務者ハ延滞ノ起初ヨリ各個ノ過誤ニ付キ責任ヲ負フ若シ債務者カ其起初前制限セラレタル範囲ニ於テ責任ヲ負ヒタリシトキト雖モ亦同シ 第二百五十一条 債務者ハ延滞ノ時間中事変ニ因リテ生シタル債行為ノ全部又ハ一分ノ不可能ニ付テモ亦責任ヲ負フ但此事変ニ因リテ生シタル損害カ正当時期ニ於ケル債行為果成ノ場合ニ於テモ亦生シタル可カリシコトノ表顕セサル分度ニ限ル 第二百五十二条 若シ債務者カ延滞ノ時間中ニ毀滅シ又ハ変悪シタル目的物ニ係ル価額ノ賠償又ハ価額差違ノ賠償ヲ為ス可キ義務ヲ負ヘルトキハ其目的物ノ債行為ヲ延滞シタル時点ヨル其賠償ス可キ額ニ対スル利息ヲ支払フコトヲ要ス其利息ヲ求ムル債権者ハ同一ノ時間ニ於テ右ノ外尚ホ失ヒタル果益ニ付テノ損害賠償ヲ求ムルコトヲ得ス 第二百五十三条 債務者ノ延滞ハ将来ニ在テハ其債務者カ懈怠シタルモノヲ補完シタル時点ヲ以テ絶止ス 第五款 債権者ノ延滞 第二百五十四条 債権者ハ若シ債務者ヨリ自己ニ言込マレタル債行為ヲ諾受セサルトキハ延滞シタルモノトス 第二百五十五条 右言込ノ作用ヲ生スル為メニハ債務者ノ債務関係ニ依リテ債行為ノ義務ヲ負ヒタルカ如クニ殊ニ亦相当ノ時期及ヒ場所ニ於テ言辞ヲ以テスルノミナラス尚ホ事実上其債行為ヲ債権者ニ言込ムコトヲ要ス 然レトモ左ニ掲クル場合ニ在テハ債務者ノ債行為能力ヲ兼ヌレハ単ニ言辞ノミヲ以テスル言込ニテ足レリトス 第一 債権者カ債行為ヲ諾受セサル可キ旨ヲ債務者ニ陳述シタルトキ 第二 債行為ノ開始スル有ラシ為メニハ先ツ債権者カ或ル行為ヲ挙行スルコトヲ要スルトキ 第三 債行為ヲ実行スル為メ同時ニ債権者ノ或ル行為ヲ要スルトキ且其要スル限度ニ於テ第二号及ヒ第三号ノ場合ニ於テハ債権者ノ果成ス可キ行為ノ挙行ヲ之ニ対シテ求ムル催告モ亦之ヲ言辞ヲ以テスル言込ト看做ス若シ此場合ニ於テ債権者ノ行為ニ関シ其時ヲ暦ニ依リテ定メ又ハ予告ノ果成後暦ニ依リテ判然スル方法ヲ以テ定メタルトキハ債権者カ自己ノ行為ヲ其定マリタル時ニ挙行セサルニ於テハ債権者ノ延滞ト為ルニハ単ニ債務者ノ債行為能力ヲ要スルノミ其他ニハ只言辞ノミヲ以テスル債行為ノ言込ト雖モ尚ホ之ヲ要スルコト無シ 第二百五十六条 債権者ニシテ自己ノ受ク可キ債行為ニ対シ反対債行為ヲ果成スルノ義務ヲ負ヒタル者ハ若シ反対債行為ノ要求ト共ニ言込マレタル債行為ヲ諾受スル準備ヲ為シタルモ其反対債行為ヲ言込マサルトキハ諾受ヲ延滞シタルモノトス 第二百五十七条 債務者ハ債権者ノ延滞ノ起初ヨリ以後ハ債権者ニ授付ス可キ目的物ニ関シテハ単ニ故意ニ付キ又ハ太甚ノ懈怠ニ付キテノミ責任ヲ負フ若シ其以前此ヨリ広キ範囲ニ於テ責任ヲ負ヒタルトキト雖モ亦同シ 若シ種類ノミヲ以テ定メラレタル物カ債行為ノ目的物ナルトキハ債権者カ債務者ノ選抜シテ言込ミタル物ヲ諾受セサルニ因リテ延滞シタル時点ヲ以テ其危険ハ債権者ニ移ル 第二百五十八条 目的物ノ果益ヲ呈出シ又ハ賠償スルノ義務ヲ負ヒタル債務者ハ債権者ノ延滞ノ起初ヨリ起算シ其収入セサリシ果益ニ付キテ賠償債行為ヲ果成スルコトヲ要セス 第二百五十九条 金銭債務ニ在テハ利息ヲ支払フ可キ債務者ノ義務ハ債権者ノ延滞ノ起初ヨリ絶止ス 第二百六十条 若シ債権者カ延滞シタルトキハ債務者ニ対シテ不果成債行為ノ場合ノ為メニ定メラレタル法律上ノ特別ノ害ハ生スルコト無シ 第二百六十一条 債務者ハ延滞シタル債権者ニ対シテ債行為ノ言込ノ無結果ニ因リ及ヒ債行為ノ目的物ノ保管又ハ保持ニ因リ自己ニ生シタル過分ノ費用ノ賠償ニ関スル請求権ヲ有ス 第二百六十二条 債権者ノ延滞ハ将来ニ在テハ債権者カ其懈怠シタルモノヲ補完シ且同時ニ第二百六十一条ニ掲ケタル過分ノ費用ノ賠償ヲ準備シタルコトヲ陳述セシ時点ヲ以テ絶止ス 第三節 債務関係ノ消滅 第一款 履行 第二百六十三条 債務関係ハ若シ債務者ノ負担セル債行為カ果成セラルヽトキハ消滅ス 第二百六十四条 債務関係ハ若シ債権者カ債務者ノ負担セル債行為ニ代ヘ他ノ債行為ヲ履行ノ代リニ諾受スルトキハ消滅ス殊ニ債務者カ債権者ト契約ヲ取結ヒ之ニ対シ新義務ヲ履行ノ代リニ引受クルトキニモ亦同シ然レトモ若シ疑ヒノ存スル場合ニ在テハ新義務ヲ履行ノ代リニ引受ケタリト推認スルコトヲ得ス 第二百六十五条 若シ物又ハ第三者ニ対スル債権若クハ其他ノ権利ヲ履行ノ代リニ諾受スルトキハ転譲シタル権利ノ保任債行為ニ関スル成規又債権ノ諾受ノ場合ニ在テハ譲渡シタル債権ニ付テノ責任ニ関スル成規又物ノ諾受ノ場合ニ在テハ其他尚ホ転譲シタル物ノ欠缺ニ付テノ保任債行為ニ関スル成規ヲ適用ス 第二百六十六条 若シ債務者ナ履行ノ為メ債稽着ニ非壷レ他ノ人ニ対シヲ債行為ヲ果戌シタ汐場合ニ在テハ其債行為ハ債権者ノ同富リ得テ之ヲ果成シタ汐芹ハ履行タルノ作用ヲ有ス又債権者カ其憤行鴛ヲ認諾シタ汐芹ハ履行タレノ作用ヲ有スルモノト為ル 第二百六十七条 若シ債権者ニ対シ数個ノ債務関係ニ因リテ同種類ノ債行為ヲ果成スルノ義務ヲ負ヒタル債務者カ其債務銷却ノ為メ総債務ノ銷却ニ充ルニ足ラサル債行為ヲ果成シタルトキハ其債行為果成ノ際ニ債務者カ銷却セント欲スル旨ヲ述ヘタル債務カ銷却セラレタリトス 債務者ノ右ノ指定ヲ缺キタル場合ニ在テハ其債行為ヲ以テハ先ツ満期ト為リタル債務カ銷却セラレ次ニ満期ト為リタル数個ノ債務ニ在テハ債務者ノ一層重キ責ニ任スル債務又同一ノ責ニ任スル数個ノ債務ニ在テハ一層旧キ債務カ銷却セラレ又同一ノ年月ニ於ケル債務ニ在テハ数個ノ債務ノ各個カ割合ニ応シテ銷却セラレタルモノトス 第二百六十八条 若シ債務者カ元債権ノ外ニ尚ホ費用及ヒ利息ヲ支払フ可キトキハ其債務ノ全部ヲ銷却スルニ足ラサル債行為ハ先ツ之ヲ費用ノ計算ニ充テ次ニ利息ノ計算ニ充テ最後ニ元債権ノ計算ニ充ツ又若シ債行為ヲ果成スル債務者カ其債行為果成ノ際ニ他ノ計算ニ充ツルコトヲ指定シタルトキハ此指定カ計算ニ付テノ標準ト為ル 第二百六十九条 債権者ハ債行為ノ領受ニ対シ其債行為ヲ果成シタル者ノ求メニ因リ之ニ書面ヲ以テスル領受証(領受証書)ヲ交付ス可シ 若シ債務者カ単一ノ書式ニ非サル他ノ式ヲ以テスル領受証書ヲ交付セラルヽコトニ法律上ノ利益ヲ有スルトキハ債権者ハ債務者ノ利益ニ相当スル式ヲ以テスル領受証書ヲ交付ス可シ 第二百七十条 領受証書ノ費用ハ債務者之ヲ負担ス可シ但債権者ト債務者トノ間ニ存スル権利関係ニ因リテ別段ノ事項カ表顕セサル分度ニ限ル 第二百七十一条 若シ債権ニ関スル債務証書カ債権者ニ交付セラレタルトキハ債務者ハ債務銷却ノ際領受証書ヲ求ムルト共ニ債務証書ノ返還ヲ求ムルコトヲ得又若シ債権者カ債務証書ヲ返還スルコトヲ得サルトキハ債務ハ全ク消滅セラレタル旨ノ債権者ノ陳述ニシテ書面ニ作成シ且公認ヲ受ケタルモノヲ求ムルコトヲ得此証書ノ費用ハ債権者之ヲ負担ス可シ 第二款 供託 第二百七十二条 若シ金銭又ハ有価証券ノ債行為ヲ目的物トスル債務関係ニ付テハ左ニ掲クル場合ニ際シ債務者ハ其目的物ヲ公ノ寄托所ニ引渡(供託)スコトヲ得 第一 債権者カ諾受ヲ延滞スルトキ 第二 債務者カ債権者其人ニ存スル前号外ノ原由ニ因リ又ハ債務者カ債権者其人ニ関シ宥恕セラル可キ方法ニ於テ危惧ヲ抱クノ故ニ自己ノ義務ヲ履行スルコトヲ得ス又ハ安固ニ履行スルコトヲ得サルトキ 供託ヲ為スニ因リテ債務者ハ債権者ニ対シ債行為ヲ果成スルニ因リテ義務ヲ免カルヽト同一ノ性質ニ於テ其義務ヲ免カル 第二百七十三条 債務者ハ債行為ヲ果成ス可キ地ノ供託所ニ供託ヲ為ス可シ若シ之ニ違フトキハ債権者ニ対シ損害賠償ノ責任ヲ負フ又債務者ハ成ル可ク遅延スル無ク其供託ヲ債権者ニ通知ス可シ若シ之ニ違フトキハ債権者ニ対シテ前段ト同一ノ責任ヲ負フ 供託ヲ為スニハ予メ裁判所ノ発スル供託命令ヲ要セス 第二百七十四条 債務者ハ供託シタル目的物ヲ取戻スノ権利ヲ有ス但其供託ヲ為スニ際シ此権利ヲ放棄スル旨ヲ供託所ニ陳述シタルトキハ此限ニ在ラス 取戻ノ権利ハ左ノ場合ニ於テハ消滅ス 第一 債務者カ取戻ノ権利ヲ放棄スル旨ヲ後日供託所ニ申告スルトキ 第二 債権者カ諾受シタル旨ヲ供託所ニ申告スルトキ 第三 債権者ト債務者トノ間ニ為シタル争訟ニ於テ供託カ適法ナリト宣告セラレタルコトノ判然ナル確定判決ヲ供託所ニ呈示スルトキ 第二百七十五条 取戻ノ場合ニ於テハ供託ニ因リテ絶止シタル負債義務ト共ニ総テノ附帯義務殊ニ保証ヨリ生スル義務モ亦遡往作用ヲ以テ再生シ質権モ亦其効力ヲ有スル為メニ必要ナル他ノ予定条件ノ継続シタル限度ニ於テ遡往作用ヲ以テ効力ヲ再生ス 第二百七十六条 取戻ノ権利カ存立スル時及ヒ其間ハ供託ヲ為スニ因リテ負債義務ノ絶止ノ果成シタルニ拘ハラス債権者ヘノ弁済ニ因リテ定マル権利ハ之ヲ行用スルコトヲ得ス 第二百七十七条 債務者ノ財産ニ付キ破産カ開始セラレタルトキハ供託シタル目的物ハ其開始ノ時ニ取戻ノ権利カ債務者ニ属シタルトキト雖モ之ヲ破産財団ニ加フルコトヲ得ス此取戻ノ権利ハ破産ノ時間債務者ニテモ又破産財団管理人ニテモ之ヲ執行スルコトヲ得ス 第二百七十八条 若シ供託ニ適切ナラサル動産物ヲ目的物トスル債務関係ニ在テ債権者カ諾受ヲ延滞スルトキ又ハ第二百七十二条第二号ニ掲ケタル予定条件ノ存スル場合ニ於テ物ノ変敗ヲ致スノ恐レ有リ若クハ其物ノ保管ニ不相当ナル費用ヲ要スルトキハ債務者ハ債行為ヲ果成ス可キ地ニ在リテ任命セラレタル裁判所執達吏又ハ競売ヲ為スノ権利ヲ与ヘラレタル其他ノ官吏又ハ競売ノ為メ公任セラレタル競売人(営業規則第三十六条)ヲシテ其物ヲ公ニ競売セシメ且売得金ヲ供託スルコトヲ得此競売ハ予メ戒告ヲ為シ得ル限リハ其戒告ヲ為シタル後始メテ之ヲ為スコトヲ許ス此戒告ハ若シ其物カ変敗ニ罹ラントシ且遅延ヲ致スノ恐レ有ルトキハ之ヲ為サヽルコトヲ得 債務者ハ債権者ニ対シ成ル可ク遅延スル無ク競売ノ執行ヲ通知ス可シ若シ之ヲ為サヽルトキハ損害賠償ノ義務ヲ負フ 第二百七十九条 供託ノ費用ハ債務者カ取戻ノ権利ヲ執行セサル分度ニ限リ債権者ノ負担ニ帰ス第二百七十八条ノ場合ニ於ケル競売ノ費用ニ付テモ亦同シ 第二百八十条 供託ノ果成スル供託所ノ指定及ヒ供託ニ関スル管轄区域ノ限界ハ之ヲ各邦法律ニ留存ス 各邦法律ニ在テハ供託所カ金銭又ハ有価証券ニ非サル他ノ物ヲモ諾受ス可シトスル規定ヲ設ケ及ヒ此ノ如キ他ノ物ヲ債行為ノ目的物トスル債務関係ニ関シ第二百七十二条ノ成規ヲ適用スル規定ヲ設クルコトヲ得 又各邦法律ニ在テハ供託ニ付キ細則ヲ設クルコトヲ得殊ニ領受権限ノ証明ニ関スル成規ヲ設クルコトヲ得ルノミナラス尚ホ国庫又ハ供託所トシテ指定セラレタル設営ハ供託数額ニ相当スル数額ヲ支払フノ義務ヲ負ヒテ供託ノ金銭又ハ銀行紙幣ノ所有者ト為ル成規又供託物ノ売却ハ職権ヲ以テ之ヲ命スルコトヲ得ル成規又払戻又ハ還付ニ係ル請求権ハ国庫若クハ供託所ノ利益ノ為メ或ル時間ノ満了後ニ消滅シ又ハ其他ノ予定条件ニ因リテ消滅スル成規又供託ノ作用ハ既ニ其物ヲ供託所ニ向ケ発送シタル時点ヲ以テ生スル成規ヲ設クルコトヲ得 第三款 相殺 第二百八十一条 若シ二人カ互ニ目的物ニ関シテ同種類ナル債行為ノ義務ヲ負ヒタル場合ニ於テハ其各方ハ自己ノ領受ス可キ債行為ヲ要求シ且自己ノ負担セル債行為ヲ果成スルコトヲ得ル時ハ直チニ自己ノ債権ヲ他ノ一方ノ債権ニ対シテ相殺スルコトヲ得 債権ニシテ之ニ対シテ抗弁ノ存スルモノハ相殺ニ供スルコトヲ得ス 第二百八十二条 相殺ハ一方ノ債権者ヨリ他ノ一方ノ債権者ニ対シテ発ス可キ意思ノ陳述ニ因リテ果成ス 設若条件又ハ期間設定ヲ附シテ発シタル相殺ノ陳述ハ無作用タリ 第二百八十三条 相殺ハ双方ノ債権カ相殺ヲ為スニ適切ナルモノトシテ互ニ対シ表顕シタル時点ヲ以テ交互均一ニ帰スル額ニ於テ消滅シタリト看做サルヽノ結果ヲ生ス 第二百八十四条 若シ債権者双方ノ孰レニテモ相殺ヲ為スニ適切ナル二個以上ノ債権ヲ有スルトキハ其債権ノ中ニテ相殺ニ因リテ消滅ス可キ債権ヲ選択スルノ権利ハ相殺ヲ為ス一方ノ債権者ニ属ス若シ相殺カ選択スル無クシテ陳述セラレタルトキハ第二百六十七条第二項ノ成規ヲ准用ス 第二百八十五条 相殺ハ双方ノ債権ニ付キ各其債行為ノ地ヲ異ニスルモ此カ為メニ除斥セラルヽコト無シ然レトモ相殺ヲ為ス債権者ハ其相殺ニ因リ他ノ一方ノ債権者カ定マリタル地ニ於テ債行為ヲ果成スルコトヲ得サル為メ又ハ其債行為ヲ領受セサル為メニ被ムル損害ヲ之ニ対シテ賠償スルコトヲ要ス 第二百八十六条 若シ債権カ差押ヲ受ケタルトキハ其債権ニ対スル債務者ハ差押後始メテ取得シタル反対債権ヲ以テ相殺ヲ為シ差押ノ果成ニ因リテ利益ヲ受クル人ニ損害ヲ加フルコトヲ得ス 第二百八十七条 相殺ハ故意ヲ以テ犯シタル制禁ノ行為ニ因リ生シタル債権ニ対シテ之ヲ為スコトヲ許サス 第二百八十八条 相殺ハ訴訟法第七百四十九条ニ掲ケタル債権ニ対シテハ其債権カ質権ニ服従セサル分度ニ限リ之ヲ為スコトヲ得ス 第二百八十九条 帝国若クハ連邦各国ノ債権又ハ市町村ノ債権ニ対シテ相殺ヲ為シ得ルハ金庫即チ之ニ対シテ相殺者カ自己ノ債権ヲ行使ス可キ金庫ト同一ノ金庫ニ対シテ債行為ヲ果成ス可キトキニ限ル 第四款 免除 第二百九十条 若シ債権者カ債務者ニ対シ之ト取結ヒタル契約ヲ以テ債務ノ全部又ハ一分ヲ免除スルトキハ其債務関係ハ免除ノ及フ限度ニ於テ消滅ス 右契約カ作用ヲ有スル為メニハ権利原由ノ明示ヲ要セス其作用ハ結約者双方カ各其別異ナル権利原由ヲ予定条件ト為シタルモ結約者双方ノ予定条件ト為シタル権利原由カ存立セス若クハ無効タリシモ此カ為メニ除斥セラルヽコト無シ又不当ノ利得ノ為メ債行為ノ償還要求ヲ為スコトニ関スル成規ハ仍ホ異動ヲ受クルコト無シ 前二項ノ成規ハ債務関係ノ全部又ハ一分ノ存立セサルコトヲ契約ヲ以テ承認スル場合ニモ亦之ヲ適用ス 第七百三十七条乃至第七百四十一条ノ成規ハ若シ免除カ又ハ債務関係ノ存立セサルコトノ承認カ明示又ハ黙止ニテ陳述シタル予定条件即チ免除シタル債務又ハ存立セスト承認シタル債務ノ存立セスト為セル予定条件附ニテ果成シタルトキハ之ヲ准用ス 債権者ノ為セル債権ノ放棄ニシテ債務者ノ諾受セサルモノハ羈束ノ効力無シ 第五款 併合 第二百九十一条 債務関係ハ若シ債権ト義務トカ同一ノ人ニ併合セラレタルトキハ消滅ス 第六款 債権者又ハ債務者ノ死亡 第二百九十二条 債務関係ハ債権者又ハ債務者ノ死亡ニ因リテ消滅セス但法律若クハ権利行為ニ因リ又ハ債行為ノ本性ニ因リ別段ノ事ノ表顕スルトキハ此限ニ在ラス 第四節 債権及ヒ債務ノ特別承継 第一款 債権ノ転付 第二百九十三条 債務関係ヨリ生スル債権ハ債務者ノ同意ヲ要セスシテ之テ新債権者ニ転付スルコトヲ得(転付)此転付ト共ニ旧債権者カ債権者タルコトヲ廃罷シテ新債権者カ其地位ヲ承継ス 第二百九十四条 転付ハ旧債権者ト新債権者トノ間ニ於ケル契約ニ基クコトヲ得(譲渡)又ハ裁判所ノ命令ニ基キ若クハ直接ニ法律ニ基クコトヲ得 譲渡ハ契約ニ因リテ債権カ新債権者ニ移転ス可シトスル結約者ノ意思ノ陳述ヲ包含スル契約ノ取結ヲ以テ果成ス此契約ニハ第二百九十条第二項ノ成規ヲ準用ス 強制執行ノ手続ニ於ケル移付ヲ以テスル転付ハ第三債務者ニ移付決議ノ送達ヲ以テ果成ス 第二百九十五条 債権ニシテ債権者ノ転付スルコトヲ得可カラサル性質ニ係ルモノ又ハ原債権者ヨリ他ノ債権者ニ債行為ヲ果成スルコトヲ得可カラサルモノ又ハ其含旨カ他ノ債権者ニ債行為ヲ果成スルニ因リテ変更スルモノハ転付スルコトヲ得サルモノナリ 債権ノ転付スルコトヲ得可キ性質ハ権利行為ヲ以テ第三者ニ対シ有効ニ之ヲ除斥スルコトヲ得ス 第二百九十六条 債権カ訴訟法第七百四十九条ニ照準シテ質ニ服従セサル場合及ヒ其限度ニ於テハ亦之ヲ転付スルコトヲ得ス 転付スルコトヲ得サル債権ハ法律カ別段ノ規定ヲ設ケサル限度ニ於テ質ニ服従セス 第二百九十七条 転付ノ当時債権ニ附帯シタル優先権ハ債務者ノ財産ニ付キ未タ破産ノ開始セラレサルトキト雖モ債権ノ転付ト共ニ新債権者ニ移ルモノトス債権ニ附帯シ之ヲ確ムル為メニ功用有ル副権利ニ付テモ亦前段ト同一ナリ 第二百九十八条 何人タリトモ契約ニ因リテ債権ノ譲渡ヲ為スノ義務ヲ負ヒタル者ハ新債権者ニ対シ単ニ其債権ノ法律上ノ成立ニ付テノミ責任ヲ負フ此責任ニ関シテハ左ノ制限即チ債務者モ亦第三百七十四条乃至第三百七十七条ニ言ヘル第三者ト看做サル可キノ制限ヲ以テ第三百七十条、第三百七十一条、第三百七十三条乃至第三百七十七条、第三百七十九条、第三百八十条ノ成規ヲ準用ス 第二百九十九条 若シ旧債権者カ約束又ハ其他ノ権利原由ニ由リ債務者ノ支払能力ニ付キ責任ヲ負フ可キ場合ニ於テ其責任ハ疑ノ存スルトキハ単ニ転付ノ当時ニ於ケル支払能力ノミニ関係ス 第三百条 若シ転付カ法律上ノ義務ニ根基シ又ハ直接ニ法律ニ依リテ果成シタルトキハ旧債権者ハ債権ノ法律上ノ成立ニ付テモ債務者ノ支払能力ニ付テモ責任ヲ負フコト無シ但旧債権者ト新債権者トノ間ニ存立スル権利関係ニ因リ別段ノ事項カ表顕セサル分度ニ限ル 第三百一条 転付ニ因リテ旧債権者ハ新債権者ニ債権ノ法律上追求ノ為メ必要ナル解明書ヲ供与シ、債権ニ係ル証拠物ヲ通知シ、証拠ノ為メ功用有ル証書ニシテ手中ニ存スルモノヽ引渡殊ニ債務証書ヲ引渡スノ義務ヲ負ヒ並ニ譲渡ノ場合又ハ法律ニ依レル直接転付ノ場合ニ於テモ亦譲渡ニ付キ又ハ法律ニ依リ果成シタル転付ノ承認ニ付テノ公認証書ヲ交付スルノ義務ヲ負フ此末段ノ場合ニ在テハ交付ノ為メニ必要ナル費用ヲ新債権者ヨリ旧債権者ニ前払シタル後ニ於テ其交付ヲ為ス可キモノトス 第三百二条 債務者ハ新債権者ニ対シ旧債権者ノ一身上ニ特殊ナル関係ヲ有スル抗弁ヲ以テ反抗スルコトヲ得ス 第三百三条 債務者ハ旧債権者ニ対シ己レニ属スル反対債権ヲ新債権者ニ対シテ相殺ニ供スルコトヲ得但其反対債権ハ債務者カ転付ヲ識知シタル当時既ニ債務者ニ属シタルトキニ限ル 第三百四条 新債権者ハ転付ノ後債務者ガ義務履行ノ為メニ旧債権者ニ対シテ果成シタル債行為及ヒ転付ノ後旧債権者ト債務者トノ間ニ債権ニ付テ取結ヒタル各箇ノ権利行為又ハ債権ニ関シ一方ヨリ他ノ一方ニ対シテ挙行シタル各箇ノ権利行為ヲ自己ニ対シテ有効ナラシムルコトヲ要ス但債務者カ債行為ヲ果成シ又ハ権利行為ヲ取結ヒ若クハ挙行シタル当時ニ於テ転付ヲ識知シタルトキハ此限ニ在ラス 転付ノ後債権ニ関シ旧債権者ト債務者トノ間ニ権利拘束ト為リタル訴訟ニ於テ発下セラレタル確定判決ニ付テモ前項ト同一ナリ但債務者カ債権ノ行用セラルヽコトヲ得可カリシ当時ニ於テ転付ヲ識知シタルトキハ此限ニ在ラス 第三百五条 若シ既ニ転付セラレタル債権ヲ旧債権者ヨリ第三者ニ譲渡シタル場合ニ於テ債務者カ後ノ譲渡ニ付テノミ報知ヲ受ケタルモ前ノ転付ニ付テ報知ヲ受ケサリシトキハ其債務者ヲ利スル為メ第三百四条ノ成規ヲ準用ス裁判所ノ命令ニ依レル債権ノ転付ニシテ其効力カ既ニ前ニ果成シタル転付ニ因リテ除斥セラルヽモノハ後ノ譲渡ト同一ナリ並ニ法律ニ依リテ果成シタル可キモ其既ニ果成シタル転付ノ為メ作用ヲ有シテ果成スルコトヲ得サリシ転付ノ承認ニ関スル証書ノ交付モ亦後ノ譲渡ト同一ナリ 第三百六条 若シ債権者カ債権ヲ転付シタル旨ヲ債務者ニ通知シタルトキハ其通知シタル転付ハ不果成ナルト無効ナルトニ拘ハラス債権者ト債務者トノ間ニ於ケル関係ニ在リテハ債権者カ債務者ニ対シテ其通知ノ取消ヲ陳述スルニ至ルマテハ之ヲ果成シ且作用ヲ有セルモノト看做ス 債権者ノ交付シタル証書即チ第三者ニ為シタル債権ノ譲渡ヲ包含シ若クハ第三者ニ為シタル債権ノ転付ノ承認ヲ包含セル証書ノ提示ハ亦転付ノ通知ト同一ナリ然レトモ此成規ハ若シ債務者カ第三百四条ニ依リ標準トナル時期ニ当リ其証書ニ作成セラレタル転付ノ無成ヲ識知セシトキハ一モ之ヲ適用セス 第三百七条 裁判所ノ命令ヲ以テ言渡シタル転付ノ無作用ハ若シ其命令ノ廃罷セラレ且ツ債務者カ第三百四条ニ依リ標準ト為ル時期ニ当リ其廃罷ヲ識知セシトキニ限リ債務者ニ対シテ之ヲ主張スルコトヲ得 第三百八条 若シ債務者ニ対シテ債権ノ転付ヲ旧債権者ヨリモ通知セス又転付ヲ包含シ若クハ旧債権者ノ其転付ノ承認ヲ包含セル公認証書ヲ新債権者ヨリモ提示セサル場合ニ於テ新債権者ノ為シタル予告又ハ督促ハ債務者カ其予告又ハ督促ノ挙行ノ際又ハ其挙行ノ後ニ遅延無ク右通知ノ欠缺又ハ右証書ノ提示ノ欠缺ノ為メニ之ヲ斥退スルトキハ無作用タリ其他債務者ハ若シ新債権者カ債務者ニ対シ右欠缺ノ補全前ニ訴ヲ起シタルトキハ転付ノ争ニ因リテ生スル費用ニ付キ此新債権者ニ対シテ責任ヲ負担セス又債務者ハ此ノ如キ場合ニ在リテハ争訟ニ於テ旧債権者ニ其争ヲ通知スル為メニ生シタル費用ノ賠償ヲ新債権者ニ対シテ要求スルコトヲ得 第三百九条 譲渡人ニ属セサル債権ノ譲渡ハ若シ其債権ノ属スル者ノ同意ヲ以テ之ヲ果成シタルトキハ作用ヲ有ス 第三百十条 譲渡人ニ属セサリシ債権ノ譲渡ハ若シ其債権ノ属スル者カ之ヲ認諾スルトキ又ハ譲渡人カ其債権ヲ取得スルトキ又ハ譲渡人カ其債権ノ属スル者ヨリ相続セシメラレ且遺産目録権ノ消滅ノ開始スルトキハ作用ヲ有スルモノト為ル若シ此終ノ両場合ニ於テ債権カ二三ノ人ニ譲渡サレタルトキハ単ニ前ノ譲渡ノミ作用ヲ有スモノト為ル 第三百十一条 若シ軍人、官吏、僧侶及ヒ公立学校教師カ其職務上ノ収入又ハ恩給ノ転付スルコトヲ得ル一分ヲ譲渡シタルトキハ其支払ヲ為ス金庫ハ旧債権者ヨリ其金庫ニ交付ス可キ公認証書ヲ以テ其譲渡ノ通知ヲ受クルコトヲ要ス 第三百十二条 債権ノ転付ニ関シ及ヒ債権ノ質入ノ許可ニ関スル成規ハ他ノ権利ノ転付及ヒ質入ニ関シテモ亦特別ノ成規ノ欠缺スルニ於テハ之ヲ準用ス転付スルコトヲ得可カラサル権利ハ其執行ヲ他人ニ委付スルコトヲ得ル限度ニ於テ質ニ服ス但法律カ別段ノ事ヲ規定セサル分度ニ限ル 第三百十三条 若シ某人カ自己ノ現財産ノ全部又ハ自己ニ帰属シ若クハ自已ニ転付セラレタル遺産ヲ他人ニ転付ス可キトキハ其財産又ハ遺産ニ属スル総テノ権利ニシテ其転付ヲ為スニ譲渡契約ヲ以テ足レリトスルモノハ仮令不分明ノモノト雖トモ合意ヲ以テ其権利ノ譲渡又ハ財産若クハ遺産ノ転付カ果成シタル可シトノ結約者ノ意思ヲ表顕スル合意ニ因リテ他人ニ転付セラル 前項ノ成規ハ若シ単ニ財産又ハ遺産ノ分割部分ノミカ転付セラル可キトキハ之ヲ準用ス 第二款 債務引受 第三百十四条 債務関係ヨリ生スル義務ハ債権者ト第三者トノ間ニ於ケル契約ニ因リテ旧債務者ハ債務者タルコトヲ廃罷シテ第三者カ其債務者ノ地位ヲ承継スルノ方法ヲ以テ此第三者之ヲ引受クルコトヲ得(債務引受) 第三百十五条 債務引受ハ旧債務者ト債務引受人トノ間ニ取結フ契約ニ因テモ亦之ヲ果成スルコトヲ得此ノ如キ契約ハ債権者ノ認諾ヲ以テ始メテ其利ト為リ又不利ト為ルノ作用ヲ有スルモノト為ル此認諾ヲ与フルマテハ結約者ハ契約ヲ廃罷シ又ハ之ヲ変更スルコトヲ得債務引受人ハ旧債務者ヲシテ此認諾ヲ受得セシムルノ義務ヲ負フ 右認諾ヲ与フル債権者ノ権利ハ結約者等ノ孰レニテモ債権者ニ其契約ノ通知ヲ為シタルニ因リテ定マル若シ債権者カ認諾ヲ拒ミタルトキハ爾後其認諾ヲ与フルノ権利ハ認諾ヲ催告セラレタルトキニ限リ之ヲ有ス若シ通知者ノ指定セル期間内ニ確定シタル明示ノ陳述カ其通知者ニ到達セサルトキハ認諾ノ拒絶ト看做ス認諾並ニ其拒絶ハ此期間ノ開始シタル後ハ通知者ニ対シテノミ之ヲ陳述スルコトヲ得 第三百十六条 債務引受人ハ債権者ニ対シテ旧債務者ノ一身上ニ特殊ノ関係ヲ有スル抗弁ヲ以テ反抗スルコトヲ得ス債務引受人ハ旧債務者ニ属スル債権ヲ相殺ニ供スルコトヲ得ス又自己ト旧債務者トノ間ニ合意シタル債務引受ノ権利原由ニ基キテ異議ヲ起スコトヲ得ス 第三百十七条 債務引受ノ当時ニ於テ債権ニ附帯シ其債権ヲ確ムル為メニ功用有ル副権利ハ仍ホ存立ス然レトモ其債権ノ為メニ第三者ノ果成シタル保証又ハ果成シタル入質ヨリ生スル権利ハ存立セス但旧債務者其人ヲ顧ミスシテ保証ノ債行為ヲ果成シ及ヒ質権ヲ設定シタルトキ又ハ質権ノ目的物カ債務引受ノ当時ニ於テ法律上旧債務者ニ属シタルトキハ此限ニ在ラス 債務引受ノ当時ニ於テ債権ニ附帯シタル純粋ノ優先権ハ消滅ス 第三百十八条 若シ第三者カ債務者ニ対シ其債権者ニ債行為ヲ果成スルノ義務ヲ負担スル(履行引受)トキハ此第三者ハ債権者カ債務者ニ対シテ請求ヲ為サヽルコトニ付テノミ責任ヲ負フ又此第三者ハ債務者ノ即時免責ヲ果成スルノ義務ヲ負担セス若シ疑ノ存スルトキハ債務引受ニ非スシテ履行引受ヲ目的ト為シタリト看做サル可シ 売買契約ニ於テ買主カ売主ノ一身上ノ責任ヲ負担スル義務ヲ代価ノ中ニ算入シテ引受ク可キコトヲ合意シタルトキハ結約者等ノ他ノ意思カ表顕セサル限度ニ於テ第三百十五条ノ成規ニ服スル債務引受ヲ合意シタルモノト看做サル可シ然レトモ買主売主ニ債権者ノ認諾ヲ受得セシムルノ義務無シ此場合ニ在テハ買主ハ売主カ債権者ヨリ請求ヲ受ケサルコトニ付テノミ責任ヲ負担ス 第三百十九条 若シ某人カ契約ニ因リテ他人ノ現財産ノ全部ヲ引受クルトキハ此他人ノ債権者ニ対シ契約取結ノ時ヨリ起算シ其結約ノ当時現存セル債務ニ付キ責任ヲ負担ス然レトモ働方財産ノ価額ヨリ超過シテ責任ヲ負担セス又旧債務者ノ責任ノ存続ハ其責任負担ノ為メニ変更ヲ受クルコト無シ若シ働方財産カ引受人ニ帰シタル時ヨリ以前ニ自己ノ過失無クシテ減殺セシトキハ引受人ハ残在セル財産ノ価額ヨリ超過シテ責任ヲ負担セス 第一項ニ規定シタル責任ヲ除斥シ又ハ制限スル合意ハ無成ノモノタリ 単ニ財産ノ分割部分ノミヲ引受クル場合ニ在テハ第一項及ヒ第二項ノ成規ヲ準用ス 第五節 債権者又ハ債務者ノ複数ヲ有スル債務関係 第三百二十条 若シ一箇ノ債務関係ニ付キ数多ノ債権者カ一人ノ債務者ニ又ハ一人ノ債権者カ数多ノ債務者ニ又ハ敷多ノ債権者カ数多ノ債務者ニ対立シ且ツ其債行為カ可分ノモノナルトキハ各債権者ハ債行為ノ平等部分ノミヲ要求スルノ権利ヲ有シ又各債務者ハ債行為ノ平等部分ノミヲ果成スルノ義務ヲ負フ但法律又ハ権利行為ヲ以テ別段ノ事ヲ規定シタルトキハ此限ニ在ラス 第三百二十一条 若シ数多ノ債権者ノ存在スル場合ニ於テ其各債権者カ債行為ノ全部ヲ要求スルノ権利ヲ有シ又ハ数多ノ債務者ノ存在スル場合ニ於テ其各債務者カ債行為ノ全部ヲ果成スルノ義務ヲ負ヒ其債行為ハ之ニ反シ単ニ一回ノミ果成シ又単ニ一回ノミ要求セラル可キモノナルトキ(合同債務関係)ハ此ノ如キ債務関係ニ付テハ第三百二十二条乃至第三百三十八条ノ成規ヲ適用ス 合同債務関係ハ殊ニ若シ権利行為ノ中ニ「総員カ一員ノ為メ及ヒ一員カ総員ノ為メ」又ハ「不分手ニテ」又ハ「合同及ヒ各別ニ」又ハ「連帯ニテ」又ハ「共同ニテ」ノ語ヲ用ヰタルトキハ権利行為ニ因リテ創起シタリト看做サル可シ 第三百二十二条 合同債権者中又ハ合同債務者中ノ甲員ハ単独ニ権利ヲ有シ又ハ義務ヲ負ヒ乙員ハ或ル設若条件若クハ時限設定ヲ附シテ権利ヲ有シ又ハ義務ヲ負ヒ又各員カ各別段ノ設若条件若クハ時限設定ヲ附シテ権利ヲ有シ又ハ義務ヲ負フコトヲ得 合同債権者中ノ甲員ノ権利及ヒ合同債務者中ノ甲員ノ義務ハ其余ノ合同債権者ノ権利又ハ其余ノ合同債務者ノ義務ノ起生スルニ至ラサルモ此カ為メニ除斥セラルヽコト無シ 第三百二十三条 若シ数多ノ合同債権者カ存在スルトキハ債務者ハ縦令一人ノ債権者カ債行為ヲ要求シタルトキト雖トモ尚ホ他ノ債権者ニ債行為ヲ果成スルコトヲ得若シ債権カ一人ノ債権者ヨリ既ニ裁判上追求セラレタルトキト雖トモ亦前段ト同一ナリ又債務者ヨリ一人ノ債権者ニ対シテ為シタル履行約束ハ其余ノ債権者ヲ除斥セス 第三百二十四条 若シ数多ノ合同債務者カ存在スルトキハ債権者ハ自己ノ撰択ヲ以テ総債務者又ハ其二三人若クハ一人ニ対シテ債行為ノ全部又ハ一分ヲ要求スルノ権利ヲ有ス又其弁償ヲ受クルニ至ルマテハ自己ノ選択ヲ変更スルノ権利ヲモ有ス 第三百二十五条 合同債権者ノ単ニ一人ノミニ若クハ二三人ニ又ハ合同債務者ノ単ニ一人ノミニ若クハ二三人ニ過失ノ責ノ帰スルトキハ其余ノ合同債権者及ヒ其余ノ合同債務者ハ此過失ニ付テハ其責ニ任セス 第三百二十六条 合同債権者ノ一人ヨリ果成シタル予告又ハ督促ハ其余ノ債権者ノ為メニ作用ヲ生セス又債務者ヨリ合同債権者ノ一人ニ為シタル債行為ノ言込並ニ合同債権者ノ一人ノ遅延ハ其余ノ合同債権者ニ対シテハ作用ヲ生セス 債権者ヨリ合同債務者ノ一人ニ対シテ果成シタル予告又ハ督促並ニ合同債務者ノ一人ノ遅延ハ其余ノ合同債務者ニ対シテハ作用ヲ生セス又合同債務者ノ一人ノ為シタル債行為ノ言込ハ其余ノ合同債務者ノ為メ作用ヲ生セス 第三百二十七条 合同債権者ノ一人ト債務者トノ間ニ又ハ債権者ト合同債務者ノ一人トノ間ニ発下セラレタル確定判決ハ其余ノ合同債権者及ヒ其余ノ合同債務者ノ利ト為リ及ヒ害ト為ルノ作用ヲ生セス 第三百二十八条 合同債権者ノ一人ノ債権ノ転付ニ因リテ其余ノ合同債権者ノ権利ハ異動ヲ受クルコト無シ 第三百二十九条 合同債権者ノ一人ニ果成シタル履行ハ其余ノ合同債権者ニ対シテモ亦作用ヲ生ス又合同債務者ノ一人ヨリ果成シタル履行ハ其余ノ合同債務者ノ為メニモ亦作用ヲ生ス 供託ヲ以テスル履行及ヒ履行ニ代ハル債行為ニ付テモ亦前項ト同一ナリ 第三百三十条 合同債権者ノ一人ニ対シテ債務者ニ属スル反対債権ハ其余ノ合同債権者ニ対シテ相殺スルコトヲ得ス又債権者ニ対シテ合同債務者ノ一人ニ属スル反対債権ハ其余ノ合同債務者ニ於テ相殺スルコトヲ得ス 第三百三十一条 債務者ト合同債権者ノ一人トノ間ニ果成シタル相殺ハ其余ノ合同債権者ニ対シテモ亦作用ヲ生ス又合同債務者ノ一人ト債権者トノ間ニ果成シタル相殺ハ其余ノ合同債務者ノ為メニモ亦作用ヲ生ス 第三百三十二条 合同債権者ノ一人ヨリ債務者ニ対シ又債権者ヨリ合同債務者ノ一人ニ対シテ承諾シタル免除ハ若シ債務関係ノ全部ノ廃罷ヲ意望シタルトキハ其余ノ合同債権者ニ対シテモ其余ノ合同債務者ノ為メニモ亦作用ヲ生ス 第三百三十三条 合同債権者ノ一人又ハ合同債務者ノ一人ノ一身ニ為シタル債権及ヒ義務ノ併合ハ其余ノ合同債権者ニ対シテモ其余ノ合同債務者ノ為メニモ亦作用ヲ生セス 第三百三十四条 合同債権者ノ一人ノ一身上ニノミ又ハ合同債務者ノ一人ノ一身上ニノミ生シタル債行為ノ不可能ハ其余ノ合同債権者ニ対シテモ其余ノ合同債務者ノ為メニモ作用ヲ生セス 合同債務者ノ一人ノ過失ニ出テタル債行為ノ全部又ハ一分ノ不可能ハ其余ノ合同債務者ノ為メニハ不意ノ不可能タルノ作用ヲ生ス 第三百三十五条 合同債権者ノ一人ノ果成シタル時効ノ遮断若クハ合同債務者ノ一人ニ対シテ発生シタル時効ノ遮断並ニ合同債権者ノ一人若クハ合同債務者ノ一人ニ関シテ発生シタル時効ノ停止ハ其余ノ債権者ノ為メニモ其余ノ債務者ニ対シテモ作用ヲ生セス 第三百三十六条 合同債権者ノ一人ニ対シ若クハ合同債務者ノ一人ノ為メニ発生シタル時効ハ其余ノ債権者ニ対シテモ其余ノ債務者ノ為メニモ作用ヲ生セス 第三百三十七条 法律又ハ権利行為ニ因リテ別段ノ事項ノ表顕セサル限リハ相互ノ関係ニ於テハ合同債権者ハ平等持分ニ付キ権利ヲ有スト看做シ合同債務者ハ平等持分ニ付キ義務ヲ負フト看做ス 自己ノ持分ヨリモ多分ナル債行為ヲ果成シタル合同債務者ハ其余ノ合同債務者ニ対シ賠償ヲ求ムルノ権利ヲ有スル限度ニ於テ債権者ノ権利ヲモ亦之ヲ行用スルコトヲ得然レトモ転付ハ債権者ニ害ヲ加ヘテ之ヲ行用スルコトヲ得ス 若シ合同債務者ノ一人ニ対シテ其責ニ帰スル分担額ヲ要求スルコトヲ得サルトキハ其虧缺額ハ補償義務ヲ負ヒタル其余ノ合同債務者ニ於テ其義務ノ割合ニ応シ之ヲ担当スルコトヲ要ス 第三百三十八条 若シ二人以上カ合同債務者トシテ違法ノ行為ニ因リ生スル損害賠償ノ責任ヲ負担スルトキハ故意ニテ行為ヲ為シタル者ハ其余ノ合同債務者ニ対シテ賠償請求権ヲ有セス 第三百三十九条 若シ一箇ノ債務関係ニ在テ数多ノ債権者カ不可分ナル債行為ヲ要求ス可キトキハ債務者ハ単ニ債権者ノ総体ニ共通ニテノミ債行為ヲ果成スルコトヲ許サル又債権者ノ各人ハ単ニ債権者ノ総体ニノミ債行為ヲ果成ス可キコトヲ要求スルノ権利ヲ有ス若シ債務関係カ債権者ノ一員ニ債行為ヲ果成スルニ因リテ其余ノ債権者モ亦弁償ヲ受クル性質ノモノナルトキハ債権者ノ各人ハ債行為全部ノ要求ヲ為スノ権利ヲ有ス 単ニ債権者一人ノ身上ニノミ発生スル事実殊ニ其作為又ハ不作為ハ其余ノ債権者ノ為メ及ヒ之ニ対シテ作用ヲ生セス 第三百四十条 若シ一箇ノ債務関係ニ在テ数多ノ債務者カ不可分ナル債行為ノ義務ヲ負担スルトキハ其各人ハ債行為ノ全部ヲ果成スルコトヲ要ス此債務関係ニハ合同債務関係ニ付テノ成規ヲ適用ス 第三百四十一条 若シ可分ナル債行為殊ニ価額賠償又ハ損害賠償カ不可分ナル債行為ニ代ハルトキハ債権者ノ各人ハ単ニ自己ノ持分ノミヲ要求スルノ権利ヲ有シ債務者ノ各人ハ単ニ自己ノ持分ノミノ債行為ヲ果成スルノ義務ヲ負フ 第二章 生存者間ノ権利行為ヨリ生スル債務関係 第一節 通則 第一款 一方限リノ約束 第三百四十二条 諾受セル無キ一方限リノ約束ハ羈束スルノ効力ヲ生スルコト無シ但法律ニ別段ノ規定ヲ設クルモノハ此限ニ在ラス 第三百四十三条 若シ法律カ一方限リノ約束ヲ羈束スルノ効力アリト認ムルトキハ其約束ヨリ生スル債務関係ニハ契約ヨリ生スル債務関係ニ付キ現行スル原則ヲ準用ス但法律カ別段ノ規定ヲ設クルモノハ此限ニ在ラス 第二款 契約ノ目的物 第三百四十四条 若シ契約カ不可能ノ債行為若クハ法律ヲ以テ禁止セラレタル債行為又ハ良風俗ニ背戻スル債行為ヲ目的トスルトキハ其契約ハ無成ノモノナリ 第三百四十五条 若シ不可能ノ債行為ヲ約束セシ契約ヲ取結ヒタルノ際一方ノ結約者カ其不可能ヲ識知シタルトキ又ハ一方ノ結約者ノ其不可能ヲ識知セサルコトカ過誤ニ基因シタルトキハ其結約者ハ他ノ一方ノ結約者ニ対シテ損害賠償ノ責任ヲ負フ然レトモ孰レノ場合ニ於テモ契約ノ有効タル予定条件附ニテ不履行ニ付テノ損害賠償ヲ為スヲ要シタル可カリシ数額ヲ超ヱテ責任ヲ負フコト無シ此責任ハ若シ他ノ一方ノ結約者カ其不可能ヲ識知シ又ハ識知スルコトヲ要セシトキハ生スルコト無シ 第一項ノ成規ハ若シ約束シタル債行為カ単ニ其一分ノミ不可能ノモノナルモ又ハ選択ノ方法ヲ以テ約束セシ数個ノ債行為ノ一カ不可能ノモノナルモ其契約カ仍ホ第百十四条又ハ第二百十一条第一項ニ照準シテ有効ナルトキハ之ヲ準用ス 第三百四十六条 若シ債行為ノ不可能カ除去スルコトヲ得ル性質ノモノナルトキハ其債行為カ後ニ至リテ可能ノモノト為ル場合ノ為メ其債行為ニ付キ契約ヲ有効ニ取結フコトヲ得 若シ此ノ如キ債行為ニ付テノ契約カ他ノ停止ノ設若条件附ニテ取結ハレタルトキハ其契約ハ有効ナルモ其契約ノ作用ハ之ヲ其設若条件ノ成就スル時ニ至ルマテニ不可能ノ消滅シタルコトニ繋ラシム 第三百四十七条 契約ニシテ其取結カ法律ヲ以テ禁止セラレタルモノ又ハ法律ヲ以テ禁止セラレタル債行為ヲ目的トスルモノニハ第三百四十五条、第三百四十六条ノ成規ヲ準用ス 第三百四十八条 契約ハ債行為カ第三者ニ属スル物又ハ権利ニ関係スルノ故ヲ以テ無効ナルモノニ非ラス 第三者ノ行為ニ付テ取結ヒタル契約ハ疑ハシキトキハ其約束者ヲシテ自己ノ約束ノ結果ニ付キ責ニ任スルノ義務ヲ負ハシム 第三百四十九条 第三者ノ遺産ニ付キ又ハ此ノ如キ遺産ノ分割部分ニ付キ遺産者ノ死亡前ニ取結ヒタル契約ハ無成ノモノタリ不定ナル第三者ノ遺産ニ関シテモ亦前段ト同一ナリ 前項ノ成規ハ贈遺ニ付キ又ハ遺産義務部分ノ請求権ニ付テ取結ヒタル契約ニ之ヲ準用ス 第三百五十条 契約ニシテ某人カ之ニ因リテ自己ノ将来ノ財産ノ全部若クハ其財産ノ分割部分ヲ他人ニ転付スルノ義務ヲ負担シ又ハ其全部若クハ其分割部分ニ用益権ヲ設定スルノ義務ヲ負担スルモノハ無成ノモノナリ 契約ニシテ某人カ之ニ因リテ自己ノ現在ノ財産ノ全部若クハ其財産ノ分割部分ヲ他人ニ転付スルノ義務ヲ負担シ又ハ其全部若クハ其分割部分ニ用益権ヲ設定スルノ義務ヲ負担スルモノハ裁判所又ハ公証人ノ方式ヲ要スルモノナリ 第三百五十一条 契約ニシテ某人カ之ニ因リテ地所ニ付テノ所有権ヲ転付スルノ義務ヲ負担スルモノハ裁判所又ハ公証人ノ方式ヲ要スルモノナリ 裁判所又ハ公証人ノ方式ヲ遵守スル無クシテ取結ヒタル契約ハ譲地契約及ヒ地所台帳ニ為サルヽ得取者ノ登記ニ因リ其契約ノ含旨ノ全部ニ関シテ効力ヲ得有ス 第三百五十二条 若シ契約ノ目的物ト為ル可キ債行為カ的確ニ記載セラレス又契約ニ包含セル条款ニ依リ検出セラル可カラサルトキハ其契約ハ無成ノモノナリ 第三百五十三条 若シ結約者ノ一方カ債行為ヲ定ム可キ場合ニ於テ疑ノ存スルトキハ其一方カ公平ナル見込ヲ以テ其定メヲ為ス可キモノト推認セラル可シ 其定メハ之ヲ他ノ一方ノ結約者ニ陳述シタルトキハ為サレタリトス其為サレタル定メハ之ヲ取消スコトヲ得ス 若シ其定メヲ為スコトヲ延滞スルトキハ其定メハ判決ニ因リテ果成ス 並ニ若シ一方ノ結約者ノ為シタル定メヲ他ノ一方ノ結約者ニ於テ公平ナリト承認セサルトキハ其裁定ハ亦判決ニ因リテ果成ス 第三百五十四条 若シ債行為ニ付キ反対債行為カ其多寡ヲ精細ニ確定スル無ク明示又ハ黙示ニテ約束セラレタル場合ニ於テ疑ノ存スルトキハ反対債行為ノ多寡ノ定メハ其反対債行為ヲ受クルノ権利ヲ有スル者ノ公平ナル見込ニ委付シタル可キモノト推認セラル可シ 第三百五十五条 若シ債行為ノ定メヲ第三者ニ委付シタル場合ニ於テ第三者カ其定メヲ為スコトヲ得ス若クハ為スコトヲ欲セサルトキ又ハ第三者カ其定メヲ延滞スルトキハ契約ハ無作用ノモノナリ又若シ其定メカ二人以上ノ第三者ニ因リテ果成ス可キ場合ニ於テ其第三者等カ協議ヲ遂ルニ至ラサルトキハ亦前段ト同一ナリ然レトモ若シ二人以上ノ第三者カ数額ヲ定ム可キ場合ニ於テ各其別異ナル数額ヲ定メタルトキハ平均数額カ其標準ト為ル 第三百五十六条 第三者ニ委付セラレタル債行為ノ定メハ之ヲ一方ノ結約者ニ陳述シタトキハ為サレタリトス其為サレタル定メハ之ヲ取消スコトヲ得ス 第三百五十七条 若シ債行為ノ定メカ第三者ニ因リテ果成ス可キ場合ニ於テ疑ノ存スルトキハ第三者カ公平ナル見込ヲ以テ其定メヲ為ス可キモノト推認セラル可シ若シ第三者ノ為シタル定メヲ一方ノ結約者ニ於テ公平ナリト承認セサルトキハ其裁定ハ判決ニ因リテ果成ス此定メヲ承認セサル一方ノ結約者ハ其不公平ヲ証明ス可シ 第三百五十八条 利息ハ高利貸ニ関スル帝国法律ノ成規ニ背反セサル限度ニ於テハ何等ノ額ニテモ契約ヲ以テ之ヲ約束スルコトヲ得未済利息ヨリ生スル利息ノ合意ニ付テモ亦前段ト同一ナリ 満期ト為レル利息ハ其不払ノ場合ニ於テハ更ニ利息ヲ負担ス可シトスルコトニ付キ予メ為シタル約定ハ無成ノモノナリ 第三款 契約ヨリ生スル債務関係ノ含旨 第三百五十九条 契約ハ其条款及ヒ其本性ニ因リ法律及ヒ交通上風習ニ従ヒ並ニ又誠実及ヒ信認ヲ斟酌シ結約者ノ義務ノ含旨トシテ自ラ表顕スル所ノモノニ付キ結約者ニ義務ヲ負担セシム 第三百六十条 若シ一方ノ結約者カ己レノ義務ヲ履行セサルモ他ノ一方ノ結約者ハ此カ為メニ其一方限リニテ契約ヨリ脱退スルノ権利ヲ有セス但法律又ハ合意ヲ以テ別段ノ事項ヲ規定シタルトキハ此限ニ在ラス 第三百六十一条 契約ニ因リテ一方ノ結約者カ契約ノ債行為ヲ確定時期又ハ確定期間ニ正確ニ果成ス可キコトノ判然スル場合ニ於テ若シ其債行為ヲ確定時期又ハ確定期間ニ果成セサルトキハ他ノ一方ノ結約者ハ契約ヨリ脱退スルノ権利ヲ有シ又ハ契約ヨリ生スル自己ノ権利ヲ行使スルノ権利ヲ有ス 此脱退ノ権利ニハ第四百二十六条乃至第四百三十一条、第四百三十三条ノ成規ヲ準用ス 第三百六十二条 双務ノ契約ハ結約者等ニ於テ交互同時ニ(引換ニテ)履行スルコトヲ要ス但法律又ハ契約ニ因リテ別段ノ事項カ表顕セサル分度ニ限ル 第三百六十三条 若シ双務ノ契約ニ在テ二人以上ノ人カ結約者ト為リテ此ノ一方若クハ他ノ一方ニ関係スルトキ又ハ二人以上ノ人カ此ノ一方若クハ他ノ一方ノ相続ヲ為シタルトキハ二人以上ノ結約者又ハ相続人ノ各個人ハ他ノ一方ノ結約者カ先ツ債行為ヲ果成スルノ義務ヲ負担セルニ非サル限リハ契約ニ因リテ此結約者ノ受ク可キ債行為ヲ完全ニ果成シ之ト引換ニ於テスルニ非サレハ此結約者ノ負担セル債行為ニ付テノ自己ノ持分ヲ要求スルコトヲ得ス 第三百六十四条 何人タリトモ双務ノ契約ニ因リテ自己ノ負担スル債行為ヲ請求セラルヽ者ハ自己カ先ツ債行為ヲ果成スルノ義務ヲ負担シタルニ非サル限リハ反対債権ヲ領受スル以前ニ在テハ自己ノ受ク可キ債行為ノ果成セラルヽニ至ルマテ其要求セラレタル債行為ノ果成ヲ拒却スルコトヲ得 第三百六十五条 結約者ノ各方ハ双務ニシテ引換ニテ履行ス可キ契約ニ在テハ他ノ一方カ引換ニテ履行ス可キ為メノ帰責判決ヲ求ムルノ訴ヲ起スコトヲ得若シ此ノ一方カ先ツ債行為ヲ果成ス可キ場合ニ於テ其一方ハ若シ他ノ一方カ其債行為ノ諾受ヲ遅延スルトキハ他ノ一方カ其受ク可キ債行為ヲ領受シタル後其負担セル債行為ヲ果成ス可キ為メノ帰責判決ヲ求ムルノ訴ヲ起スコトヲ得 若シ此ノ如キ帰責判決ノ果成シタルトキハ原告ハ被告カ諾受ヲ遅延シタル時及ヒ其間ニ在テハ其被告ニ対シ自己ノ負担セル債行為ヲ予メ又ハ同時ニ果成スル無クシテ自己ノ受ク可キ債行為ヲ強制執行ノ手続ニ於テ要求スルコトヲ得 第三百六十六条 何人タリトモ双務ノ契約ニ因リテ自己ノ受ク可キ債行為ヲ求ムルノ訴ヲ起ス者ハ若シ被告カ原告ニ在テハ其負担スル債行為ヲ未タ果成シタルニ非サルコトヲ援唱スルトキ始メテ原告ニ於テハ自己ノ負担スル債行為ヲ果成シタルコトヲ主張シ又被争ノ場合ニ於テハ其債行為ヲ果成シタルコトヲ証明スルコトヲ要ス 第三百六十七条 若シ結約者カ履行トシテ自己ニ言込レタル債行為ヲ履行トシテ諾受シタルトキハ其債行為ノ欠缺ニ基キ契約不履行ノ為メ反対債権ヲ拒却スルコトヲ得ス只単ニ此他自己ニ属スル請求権ノミ尚ホ行用スルコトヲ得又此結約者ハ其主張シタル欠缺ニ関シテハ立証ノ義務ヲ負フ 第三百六十八条 若シ双務契約ノ債務者カ債行為ノ不可能ノ発生シタル結果ニ於テ其債行為ノ義務ヲ免カルヽトキ全部ノ不可能ノ場合ニ在テハ債務者ハ反対債行為ヲ要求スルノ権利ヲ有セス一分ノミノ不可能ノ場合ニ在テハ債権者ハ第三百九十二条ニ照準シ割合ニ応シテ反対債行為ヲ減殺スルノ権利ヲ有ス若シ債務者カ右ニ照準シ其受ク可キ権利無キ反対債行為ヲ既ニ領受シタルトキハ其領受シタル分度ニ限リ債権者ハ果成債行為ノ目的物ノ償還要求ヲ不当利得ノ賠償ニ関スル成規ニ従テ為スコトヲ得 若シ債行為カ債権者ノ責ニ帰スル情況ノ結果ニ於テ又ハ債権者ノ延滞シタル後ニ於テ不可能ノモノト為リタルトキハ債務者ハ反対債権ヲ要求スルノ権利ヲ存有ス然レトモ債権者ハ債務者カ不果成債行為ノ結果ニ於テ節約シタル費用ノ金額ヲ扣除シ又不果成債行為ニ因リテ債務者カ自己ノ労働能力ヲ他方ニ使用スルコトヲ得タル場合ニ於テ債務者カ自已ノ労働能力ヲ他方ニ換価シテ為シタル取得ノ金額又ハ他方ニ換価シテ為スコトヲ悪意ニテ為サヽリシ取得ノ金額モ亦之ヲ扣除スルノ権利ヲ有ス 債務者ハ若シ債権者カ第二百三十八条ニ照準シ債務者ニ対シ債行為ノ目的物ニ付キテ得タル賠償又ハ賠償請求権ノ呈出又ハ譲渡ヲ要求スルトキニモ亦反対債行為ヲ要求スルノ権利ヲ存有ス然レトモ債権者ハ自己ニ対シテ約束セラレタル債行為ノ価額ヨリモ寡少ナル価額ヲ得タルトキハ其得タル分度ニ限リ第三百九十二条ニ照準シ割合ニ応シテ反対債権ヲ減殺スルノ権利ヲ有ス 第三百六十九条 若シ双務契約ノ債行為カ債務者ノ責ニ帰スル情況ノ結果ニ於テ不可能ノモノト為リタルトキハ債権者ハ不履行ノ為メノ損害賠償ヲ要求シ又ハ契約ヨリ脱退スルコトヲ選択スルノ権利ヲ有ス若シ債行為カ一分ノミ不可能ノモノト為リタルトキハ債権者ハ不可能ト為ラサル債行為ノ一分カ自己ノ為メ一モ利害ヲ有セサルトキニ限リ契約ヨリ脱退スルノ権利ヲ有ス 第二百四十三条ニ掲ケタル場合並ニ債行為カ債務者ノ延滞ノ結果ニ於テ債権者ノ為メ一モ利害ヲ有セサル場合ニハ亦前項ト同一ナリ 脱退ノ権利ニハ第四百二十六条乃至第四百三十一条、第四百三十三条ノ成規ヲ準用ス 第四款 転譲シタル権利ノ保任債行為 第三百七十条 何人タリトモ契約ニ因リテ物ノ転譲ヲ為スノ義務ヲ負フ者(転譲者)ハ他ノ一方ノ結約者(取得者)ニ物ニ付テノ所有権ヲ供与スルノ義務ヲ負フ 若シ契約カ権利ノ転譲ニ係ルトキハ転譲者ハ此権利ヲ供与スルコトヲ要ス 第三百七十一条 物ノ転譲者ハ第三者カ取得者ニ対シテ行用スルコトヲ得ル物権ノ存セサルコト及ヒ其物ニ関スル其他ノ権利モ亦存セサルコトニ付テノ責任ヲ負フ 前項ノ成規ハ若シ契約カ権利ノ転譲ニ係ルトキハ之ヲ準用ス 第三百七十二条 地所ノ転譲者ハ公ノ諸税其他地所台帳ニ登記スルニ適切ナラサル公ノ負担ヲ其地所ノ免カルヽコトニ付テノ責任ヲ負担セス 第三百七十三条 第三百七十条、第三百七十一条ニ規定シタル転譲者ノ責任ハ若シ取得者カ契約ヲ取結フノ際転譲者ノ権利ニ於ケル欠缺ヲ識知シタルトキハ生スルコト無シ 此成規ハ質権及ヒ土地債務ノ識知ノ場合ニハ一モ之ヲ適用セス 第三百七十四条 転譲者カ自己ノ権利ニ於ケル欠缺ノ為メ第三百七十条、第三百七十一条ニ依リテ自己ノ負担スル義務ヲ履行シタルニ非サル間ハ取得者ハ自己ノ負担スル反対債行為ヲ拒却スルノ権利ヲ有ス此場合ニ在テハ取得者ニ供与ス可キ権利ノ取得ノ定マル他ノ要件カ既ニ充足シタルト否トニ区別ヲ立ツルコト無シ然レトモ若シ此要件カ充足シタル場合ニ於テ法律カ別段ノ規定ヲ設ケタルニ非サル限リハ取得者ハ第三者ノ権利カ結果ヲ以テ行用セラレタルトキ始メテ転譲者ニ対シ第三百七十条、第三百七十一条ニ依リテ転譲者ノ負担スル義務不履行ニ係ル請求ヲ起スコトヲ得 第三百七十五条 第三者ノ権利ハ左ノ場合ニ於テハ結果ヲ以テ行用セラレタリト看做サル可シ 第一 若シ第三者カ取得者ニ対シ自己ノ権利ヲ訴訟ヲ以テ追求シ且第三者ノ利ノ為メ確定裁判ノ発下セラレタルトキ 第二 若シ取得者カ第三者ニ対シ其権利ヲ理由アリト承認シタルトキ又ハ若シ取得者カ第三者ト仲裁契約ヲ取結ヒ且其仲裁裁決カ第三者ノ利ノ為メ発下セラレタルトキ 然レトモ若シ物ノ転譲ニ関スル契約ニ在テ第三者ノ権利ノ実行ヲ物ノ呈出ニ繋ラシメタル場合ニ在テハ第三者ノ権利ハ其物カ第三者ニ呈出セラレタルトキ始メテ結果ヲ以テ行用セラレタリト看做サル可シ 第三百七十六条 第三者ノ権利ハ第三者カ取得者ノ相続人ト為リタルトキ又ハ取得者カ第三者ノ相続人ト為リタルトキ又ハ取得者カ第三者ノ権利ヲ他ノ方法ヲ以テ取得シ若クハ第三者ニ打切金ヲ与ヘタルトキニモ亦結果ヲ以テ行用セラレタリト看做サル可シ 第三百七十七条 若シ第三者ノ権利カ結果ヲ以テ行用セラレタルトキハ転譲者ニ対シテ不履行ノ為メノ損害賠償ニ係ル請求権カ取得者ニ属ス 第三者ノ権利カ結果ヲ以テ行用セラレタル時点ハ損害ヲ確定スルコトニ付キテノ標準ト為ル此場合ニハ第二百四十二条ノ成規ヲ準用ス双務ノ契約ニ在テハ取得者ハ第三百六十九条ニ照準シテ契約ヨリ脱退スルノ権利ヲ有ス 第三百七十八条 若シ契約カ地所ノ転譲又ハ地所ニ付テノ権利ノ転譲ニ関スルトキハ転譲者ハ取得者ノ契約上ノ権利ニ対抗スル権利ニシテ地所台帳ニ登記セラレタル権利ヲ自己ノ費用ヲ以テ消除スルノ義務ヲ負フ若シ其登記セラレタル権利カ行用セラレサルトキ又ハ其権利カ起生スルニ至ラス若クハ既ニ存立セサルトキニモ亦前段ト同一ナリ 前項ノ成規ハ船舶登記簿ニ登記セラレタル権利ニ関シ之ヲ準用ス 第三百七十九条 若シ転譲者ノ権利ニ係ル欠缺ノ為メ其転譲者ニ対シテ取得者カ請求ヲ起シ又ハ取得者カ自己ニ負担スル債行為ヲ拒却シ又ハ契約ヨリ脱退スルノ権利ヲ行用スルトキハ其取得者ハ立証ノ義務ヲ負フ 第三百八十条 第三百七十条乃至第三百七十九条ニ規定シタル転譲者ノ義務ハ契約ヲ以テ之ヲ拡弘シ制限シ又ハ免除スルコトヲ得 其免除又ハ其制限ハ若シ転譲者カ第三者ノ権利ヲ識知シ且取得者ニ黙秘シタルトキハ無作用タリ 第五款 転譲シタル物ノ欠缺ニ付テノ保任債行為 第三百八十一条 何人タリトモ契約ニ因リ物ヲ転譲スルノ義務ヲ負ヒタル者ハ危険カ取得者ニ移転スル時点ニ於テ物カ確保セラレタル性質ヲ有スルコトニ付キテノ責任ヲ負フ 転譲者ハ物カ右同一ノ時点ニ於テ此ノ如キ欠缺即チ通常ノ使用ノ為メ又ハ契約ニ依リテ予定セラレタル使用ノ為メニ適切ナル其価値又ハ其耐能ヲ滅失シ若クハ減却スル欠缺ヲ有セサルコトニ付テモ亦責任ヲ負フ其価値又ハ其耐能ノ顕著ナラサル減却ハ之ヲ問フコト無シ 第三百八十二条 転譲者ハ取得者カ契約ヲ取結フノ当時ニ識知シタル欠缺ニ付テハ責任ヲ負担セス 取得者カ太甚ナル過誤ニ因リテ識知セサリシ欠缺ニ付テハ転譲者ハ若シ自己カ欠缺ノ存セサルコトヲ確保シタルトキ又ハ自己カ欠缺ヲ識知シ且取得者ニ之ヲ黙秘シタルトキニ限リ責任ヲ負フ 第三百八十三条 若シ転譲者ノ責任カ第三百八十一条、第三百八十二条ニ依リテ起生シタルトキハ取得者ハ自己ノ選択ヲ以テ契約ノ復原セラル可キコト(変換)ヲ求メ又ハ反対債権ノ低下セラル可キコト(減殺)ヲ求ムルヲ得 第三百八十四条 変換ノ権利ト減殺ノ権利トノ間ニ於ケル選択ニハ第二百八条及ヒ第二百九条第一段ノ成規ヲ準用ス 第三百八十五条 若シ確保セラレタル性質カ契約ヲ取結ヒタル当時ニ於テ存シタルニ非サルトキ又ハ其当時ニ於テ存シタル欠缺即チ第三百八十一条第二項ニ記載セル種類ノ欠缺ヲ転譲者カ識了シ且取得者ニ黙秘シタルトキハ取得者ハ変換又ハ減殺ノ権利ヲ有スルノ外尚ホ転譲者ニ対シ不履行ニ付テノ損害賠償ニ係ル請求権ヲ有ス 第三百八十六条 若シ取得者カ欠缺ノ存スル物ヲ其欠缺ヲ識知セシニモ拘ハラス尚ホ諾受シタルトキハ其諾受ノ際欠缺ニ付キ自己ノ権利ヲ留保シタルトキニ限リ第三百八十三条、第三百八十五条ニ掲ケタル権利ヲ有ス 第三百八十七条 変換ノ権利ニハ左ノ変例ト共ニ第四百二十七条乃至第四百三十条、第四百三十三条ノ成規ヲ準用ス 第一 転譲者ハ若シ契約カ変換ノ結果ニ於テ復原セラルヽトキハ契約ノ費用ヲモ亦取得者ニ賠償スルコトヲ要ス 第二 第四百三十条第三号ノ成規ハ若シ欠缺カ物ノ変形スル際始メテ表顕シタルトキハ一モ之ヲ適用セス 第三百八十八条 若シ地所ノ転譲者カ其地所ノ定マリタル広袤ヲ取得者ニ確保シタルトキハ此確保ハ其地所ノ性質ノ確保ト看做ス然レトモ確保セラレタル広袤ノ欠缺ニ因リテ生スル変換ノ権利ハ若シ其欠缺ノ顕著ナルカ為メ契約ノ履行カ取得者ニ一モ利益ヲ有セスト推認セラル可キトキニ限リ取得者ニ属ス 第三百八十九条 若シ契約カ二個以上ノ物ノ転譲ヲ目的トスル場合ニ於テ其物ノ中ニテ只一個ノミ若クハ二三個ノミカ欠缺ヲ有スルトキハ総体ノ物ニ付キ合同債行為ヲ確定シタルトキト雖トモ変換ハ単ニ其欠缺ヲ有スル物ニ付テノミ之ヲ為スコトヲ許ス 然レトモ二個以上ノ物ニ付キ之ヲ総括繋属物ナリトシテ契約ヲ取結ヒタル場合ニ於テ取得者ニ損害ヲ加フルニ非サレハ其欠缺ヲ有スル物ヲ其欠缺ヲ有セサル物ヨリ分別スル能ハサルトキハ取得者ハ自己ノ選択ヲ以テ其欠缺ヲ有スル各個物ニ付テノ変換ヲ求メ又ハ総括物ニ付テノ変換ヲ求ムルコトヲ得又若シ転譲者ニ損害ヲ加フルニ非サレハ右分別ヲ為ス能ハサルトキハ其変換ハ総括物ニ付テノミ之ヲ爵スコトヲ許ス 第三百九十条 若シ主タル物ノ欠缺ノ為メニ変換ノ権利ヲ行用スルトキハ従タル物モ亦共ニ其変換ニ繋カルモノトス若シ従タル物カ欠缺ヲ有スルトキハ変換ハ従タル物ニ付テノミ之ヲ為スコトヲ許ス 第三百九十一条 若シ取得者ノ合同債行為ニ対シテ為ス二個以上ノ物ノ転譲ノ場合ニ於テ変換ノ権利ヲ単ニ各個ノ物ニ付テノミ行用スルトキハ其合同債行為ハ総括物ノ欠缺絶無ノ予定条件附ニテ契約ヲ取結フノ当時ニ於テ其物ノ合同価額ト変換ヲ受ケサル物ノ価額トカ比例セシ割合ヲ以テ之ヲ低下ス可シ 第三百九十二条 若シ減殺ノ権利ヲ行用スルトキハ取得者ノ負担スル反対債権ハ欠缺ヲ有スル物ノ価額ト欠缺ヲ有セサル物ノ価額トカ契約ヲ取結フノ当時ニ於テ比例セシ割合ヲ以テ之ヲ低下ス可シ 若シ取得者ノ合同債行為ニ対シテ為ス二個以上ノ物ノ転譲ノ場合ニ於テ減殺ノ権利ヲ単ニ一個ノ物ニ付キ又ハ二三個ノ物ニ付テノミ行用スルトキハ反対債行為ノ低下ハ転譲ノ目的物ヲ組成スル総テノ物ノ合同価額ヲ酌量シテ之ヲ果成ス 第三百九十三条 若シ減殺ノ権利ヲ行用シタルトキト雖モ尚ホ後ニ至リ始メテ発見シタル欠缺ニ因リテ変換ヲ求メ又ハ更ニ減殺ヲ求ムルコトハ此カ為メニ除斥セラルヽコト無シ 第三百九十四条 若シ二人以上ノ転譲者若クハ二人以上ノ取得者カ存在シタルトキ又ハ二人以上ノ人カ転譲者若クハ取得者ノ相続人ト為リタルトキハ減殺ハ其各個人カ之ヲ求ムルコトヲ得又其各個人ニ対シテ之ヲ求ムルコトヲ得若シ各個人カ減殺ノ権利ヲ行用シタルトキハ変換ハ除斥セラル 第三百九十五条 若シ債権者ノ営為ニ因リテ物カ強制執行ノ手続ヲ以テ転譲セラルヽトキハ取得者ハ欠缺ニ付テノ保任債行為ヲ求ムルノ権利ヲ有セス 第三百九十六条 欠缺ニ付テ転譲者ノ負ヘル責任ハ契約ヲ以テ之ヲ拡弘シ制限シ又ハ免除スルコトヲ得 其免除又ハ其制限ハ若シ転譲者カ欠缺ヲ識知シ且取得者ニ其欠缺ヲ黙秘シタルトキハ無作用タリ 第三百九十七条 変換及ヒ減殺ニ係ル請求権ハ時効ノ成就シタル後取得者ハ抗弁ノ手続ヲ以テスルモ亦復タ之ヲ行用スルコトヲ得サルノ効果ヲ以テ動産ニ関シテハ六月ノ時効ニ服シ不動産ニ関シテハ一年ノ時効ニ服ス 損害賠償ニ係ル請求権ハ前項ト同一ナル期間ノ満了ヲ以テ時効ニ罹ル但其請求権ハ欠缺ヲ識知シ且之ヲ黙秘シタルニ因リテ生シタルニ非サルモノニ限ル 右ノ期間ハ契約ヲ以テ通常ノ時効期間ニ達スルマテ之ヲ伸長スルコトヲ得 右ノ時効ハ物ヲ取得者ニ交付シタル時点ヲ以テ始マル 第三百九十八条 若シ転譲カ単ニ種類ノミヲ以テ定メラレタル物ニ係ルトキハ取得者ニハ変換及ヒ減殺ヲ求ムルノ権利カ属スルノ外尚ホ欠缺ヲ有スル物ニ換ヘテ欠缺ヲ有セサル物ノ引渡ヲ求ムルノ権利モ亦属ス 此ノ引渡ヲ求ムルノ権利ニハ変換及ヒ減殺ヲ求ムルノ権利ニ関シテ適用スル第三百八十四条、第三百八十六条、第三百八十七条、第三百八十九条乃至第三百九十一条、第三百九十三条、第三百九十四条、第三百九十六条、第三百九十七条ノ成規ヲ準用ス 転譲者ハ此ノ如キ場合ニ在テハ若シ確保セラレタル性質カ危険ノ取得者ニ移レル時点ニ於テ欠缺シタルトキ又ハ其他ノ欠缺ヲ危険ノ取得者ニ移レル時点ニ於テ識知シ且之ヲ黙秘シタルトキハ第三百八十五条ニ適準シテ損害賠償ノ義務ヲ負フ 第三百九十九条 第三百八十一条乃至第三百八十七条、第三百八十九条乃至第三百九十八条ノ成規ハ馬、騾、雑種馬、牛、羊及ヒ豚ノ転譲ヲ目的物トスル契約ニ関シテハ第四百条乃至第四百十一条ニ於テ別段ノ事項ヲ規定シタルニ非サル分度ニ限リ之ヲ適用ス 第四百条 転譲者ハ第三百九十九条ノ場合ニ於テハ単ニ定マリタル欠缺(主タル欠缺)ニ付テノミ責任ヲ負ヒ且又此ノ如キ欠缺ニ付テハ若シ其欠缺カ定マリタル期間(保任期間)ノ満了ニ至ルマテニ表顕スレトキニノミ責任ヲ負フ 獣畜ノ各個ノ種類ニ関スル主タル欠缺及ヒ其保任期間ニ付テノ規定ハ連邦参議院ノ承諾ヲ得テ発布セラル可キ皇帝ノ命令ニ因リテ果成ス又此命令ハ同一ノ手続ヲ以テ之ヲ補足シ及ヒ変更スルコトヲ得 第四百一条 保任期間ハ獣畜ニ関シテハ危険カ取得者ニ移レル日ノ満了ヲ以テ始マル 第四百二条 若シ主タル欠缺カ法律上ノ保任期間ノ満了ニ至ルマテニ表顕スルトキハ其獣畜ハ危険カ取得者ニ移レル当時既ニ其欠缺ヲ有シタル可シト推定セラル然レトモ此推定ハ取得者カ保任期間ノ満了後遅クトモ二十四時内ニ転譲者ニ其欠缺ヲ通知シ又ハ転譲者ニ対シ其欠缺ニ付テノ訴ヲ起シ又ハ証拠ノ保全ノ為メ鑑定人ノ尋問ヲ以テスル採証ヲ求ムルノ申立ヲ為シタルトキ(訴訟法第四百四十七条以下)ニノミ生ス此ノ如キ申立ハ訴訟法第四百四十九条第四号ノ要件カ存セサルトキト雖トモ之ヲ為スコトヲ得又検証ノ探収及ヒ証人ノニ尋問ヲ求ムルノ申立ハ右ノ申立ニ附帯シテ之ヲ為スコトヲ得 第四百三条 若シ取得者カ転譲者ニ欠缺ヲ通知シタルトキハ転譲者ハ取得者ト同シク第四百二条ニ照準シテ証拠保全ノ為メノ探証ヲ求ムルノ申立ヲ為スノ権利ヲ有ス 第四百四条 取得者ハ単ニ変換ノミヲ求ムルコトヲ得減殺ハ之ヲ求ムルコトヲ得ス 取得者ハ第四百三十条ノ場合ニ於テモ亦変換ヲ求ムルコトヲ得此場合ニ於テハ取得者ハ受取リタル獣畜ニ付キ其価額ヲ転譲者ニ償フ可シ此価額ハ取得者カ第四百三十条ノ成規ニ依リテ変換ヲ除斥スルノ行為ヲ挙行シタル時点ニ依リテ定マル 第四百五条 若シ契約カ変換ノ結果ニ於テ復原セラルヽトキハ転譲者ハ取得者ニ対シテ特ニ転譲シタル獣畜ニ係ル獣医ノ診察及ヒ治療ノ費用並ニ飼養及ヒ看護ノ費用ヲモ亦償フ司シ但若シ此獣畜ヨリ収得シタル果益ノ存ス勘ルトキハ其額内ヨリ之ヲ扣除ス可シ 第四百六条 若シ変換ヲ求ムルノ権利ニ付キ争訟ノ起リタルトキハ原告被告ノ各方ハ其獣畜ノ監査カ既ニ必要ナラサルトキハ直チニ其獣畜ノ公競売及ヒ其売得金ノ公寄託(供託)ヲ求ムルコトヲ得 第四百七条 変換ニ係ル請求権ハ第三百九十七条ニ掲ケタル作用ヲ有シ二週ノ満了ヲ以テ時効ニ罹ル 損害賠償ニ係ル請求権ハ右同一ノ期間ノ満了ヲ以テ時効ニ罹ル但其請求権カ欠缺ヲ識知シ且之ヲ黙秘シタルニ因リテ生シタルモノナルトキハ此限ニ在ラス 右ノ時効ハ保任期間ノ満了ヲ以テ始マル 第四百八条 若シ転譲カ単ニ種類ノミヲ以テ定メラレタル獣畜ニ係ルトキハ取得者ニハ変換ヲ求ムルノ権利カ属スルノ外尚ホ欠缺ヲ有スル獣畜ニ換ヘテ欠缺ヲ有セサル獣畜ノ引渡ヲ求ムルノ権利モ亦属ス 此ノ引渡ヲ求ムルノ権利ニハ第四百五条乃至第四百七条ノ成規ヲ準用ス 第四百九条 転譲者カ総テノ欠缺ニ付キ責任ヲ負担セント欲ストノ一般ノ約束ハ単ニ主タル欠缺ニノミ之ヲ援用ス可キモノトス 第四百十条 保任期間ノ短縮又ハ伸長ヲ合意シタル場合ニ在テハ其合意シタル保任期間カ法律上ノ保任期間ニ代ハルノ制限ヲ以テ第四百一条乃至第四百八条ノ成規ヲ適用ス 第四百十一条 若シ転譲者カ主タル欠缺ニ属セサル欠缺ニ付キ特ニ責任ヲ引受ケタルトキハ第四百四条乃至第四百六条、第四百八条ノ成規ヲ準用ス又若シ同時ニ保任期間ヲモ合意シタルトキハ其他尚ホ第四百一条乃至第四百三条、第四百七条ノ成規ヲ準用ス若シ保任期間ヲ合意シタルニ非サルトキハ変換及ヒ損害賠償ニ係ル請求権ハ六週ノ満了ヲ以テ時効ニ罹ル此時効ハ獣畜カ取得者ニ交付セラレタル時点ヲ以テ始マル 第六款 第三者ニ債行為ヲ果成スルノ約束 第四百十二条 若シ契約ニ於テ結約者ノ一方カ債行為ヲ第三者ニ果成スルノ約束ヲ為シタルトキハ其第三者ハ此ニ因リテ直チニ其約束ヲ為シタル者ニ対シテ其債行為ヲ果成ス可キコトヲ要求スルノ権利ヲ有ス但契約ノ含旨ニ因リテ策三者ノ此権利カ意望セラレタルコトノ表顕スル分度ニ限ル 右ノ約束ヲ受タル結約者モ亦右ノ約束ヲ為シタル者ニ対シテ其債行為ヲ第三者ニ果成ス可キコトヲ要求スルノ権利ヲ有ス但別段ノ事項ヲ約束シタルトキハ此限ニ在ラス 第四百十三条 第三者ノ債権ハ契約ノ含旨ニ因リテ表顕スル結約者ノ意思ニ依リ其債権カ成立スルニ至ル可キ時点ヲ以テ成立ス 第四百十四条 第三者ノ債権カ縦令設若条件附キノモノトスルモ又ハ期間設定附キノモノトスルモ亦未タ全ク成立セルニ非サル間ニ限リ結約者等は債行為ヲ第三者ニ果成スル約束ヲ変更シ又ハ更ニ之ヲ廃罷スルコトヲ得其債権カ既ニ成立シタル後ハ此ノ如キ変更又ハ廃罷ハ若シ結約者等カ其変更又ハ廃罷ノ権利ヲ有スルコトノ留保ヲ為サント欲スルノ意思カ契約ノ含旨ニ因リテ表顕スルトキニ限リ之ヲ為スコトヲ許サル 第四百十五条 若シ第三者カ約束ヲ為シタル者ニ対シテ債権ヲ退斥スル旨ヲ陳述スルトキハ其債権ハ成立シタルニ非サル可カリシトキニ於ケルカ如クニ看做サル可シ 第四百十六条 契約ヨリ生スル異議ハ若シ契約ノ含旨ニ因リ別段ノ事項カ表顕スルニ非サレハ約束ヲ為シタル者ハ第三者ニ対シテモ亦之ヲ申立ツルコトヲ得 第七款 手附 第四百十七条 若シ契約ニ関シテ或ル物ヲ手附(確約金、拘束金、置金、手金、留止金)トシテ附与スルトキハ之ヲ果成シタル結約ノ徴証ト看做ス 手附カ退約償金ト看做サルヽハ其事ヲ合意シタルトキニ限ル 第四百十八条 若シ契約カ履行セラルヽトキハ別段ノ合意アルニ非サレハ手附ハ之ヲ附与者ノ債行為ノ中ニ算入ス可シ又若シ其算入ヲ為スコトヲ得サルトキハ領受者ハ之ヲ還付ス可シ此還付ハ若シ契約カ無成ノモノナルトキ又ハ更ニ廃止セラルヽトキニモ亦之ヲ果成ス可シ 第四百十九条 若シ手附附与者カ自己ノ過失ニ出テ契約ヲ更ニ廃罷スルニ至ラシメタルトキ又ハ契約ノ履行ヲ自己ノ過失ニ因リテ不可能ノモノト為シタルトキハ手附領受者ハ其手附ヲ留有ス然レトモ其価額ハ領受者ニ属スル損害賠償ノ債権ノ中ニ之ヲ算入ス可シ 第八款 違約罰 第四百二十条 若シ債務者カ自己ノ負担スル債行為ヲ果成セサルコト有ル可キ場合ノ為メ債権者ニ対シ他ノ債行為ヲ其罰トシテ約束シタル(違約罰)トキハ債権者ハ其不果成ノ場合ノ発生スルニ於テハ元債行為ト罰債行為トノ其孰レヲ求メント欲スルヤヲ選択スルノ権利ヲ有シ又若シ元債行為ヲ果成セサル為メ之ニ換ヘテ損害賠償ヲ求ムルコトヲ得ルトキハ債権者ハ損害賠償ト罰債行為トノ其孰レヲ求メント欲スルヤヲ選択スルノ権利ヲ有ス若シ債権者カ損害賠償ヲ選択シタルトキハ常ニ罰債行為ヲ損害ノ最低価額トシテ求ムルコトヲ得 第四百二十一条 若シ違約罰カ元債行為ヲ定マリタル方法ヲ以テ果成セサルコト有ル可キ場合特ニ定マリタル時ニ於テ果成セサルコト有ル可キ場合ノ為メ且単ニ此場合ノ為メニノミ約束セラレタルトキ其不果成ノ場合ノ発生スルニ於テハ元債行為ニテモ罰債行為ニテモ又ハ此ニ換フル損害賠償ニテモ第四百二十条ニ照準シテ之ヲ求ムルコトヲ得若シ此ノ如キ場合ニ在テ債権者カ元債行為ヲ諾受シタルトキハ罰債行為ヲ留保シテ其諾受ヲ為シタルニ非サレハ罰債行為ハ之ヲ求ムルコトヲ得ス此第二段ノ成規ハ若シ債権者カ元債行為ヲ諾受スルノ際罰債行為ニ係ル自己ノ権利ノ教示ヲ受ケタルニ非ス又ハ其権利ニ係ル予定条件ノ起発ノ教示ヲ受ケタルニ非サルトキハ之ヲ適用セス 第四百二十二条 違約罰ハ若シ債務者カ履行ヲ遅延シタルトキハ之ヲ科セラルヽモノトス又若シ義務カ不作為ヲ目的物ト為セルトキハ違約罰ハ背反行為ヲ為シタルトキ之ヲ科セラルヽモノトス 第四百二十三条 若シ義務ニシテ其不履行ニ因リテ違約罰ヲ求ムルノ権利ノ生ス可カリシモノカ其義務ノ消滅前ニ違約罰ヲ科セラル可キ行為ヲ為シタルニ非スシテ消滅シタルトキ又ハ其義務ノ不履行カ債権者ノ過失ニ出テタルトキハ違約罰ハ之ヲ求ムルコトヲ得ス 第四百二十四条 若シ法律カ義務ヲ無作用ノモノ又ハ被抗争ノモノト明言セル場合ニ於テハ此ノ如キ義務ノ不履行ノ場合ノ為メニ為シタル罰債行為ノ約束ハ均シク無作用ノモノ又ハ被抗争ノモノタリ結約者等カ其無作用又ハ被抗争ノモノタルコトヲ識知シタルトキト雖モ亦同シ 第四百二十五条 若シ違約罰カ或ル作為ヲ目的物ト為セル元債行為ヲ果成セサルノ故ヲ以テ又ハ定マリタル方法ヲ以テ果成セス殊ニ定マリタル時ニ於テ果成セサルノ故ヲ以テ要求セラルヽトキハ債務者ハ其元債行為ヲ契約ニ従ヒテ果成シタル証拠ヲ挙クルノ義務ヲ負フ 第九款 契約ヨリノ脱退 第四百二十六条 若シ結約者カ契約ヨリノ脱退権利ヲ自己ノ為メニ留保シタルトキハ其脱退ハ権利者カ他ノ一方ニ対シテ脱退ヲ陳述シタルトキニ執行セラレタリ 右ノ陳述ハ之ヲ取消スコトヲ得ス 第四百二十七条 脱退ハ結約者カ其相互ノ間ニ於テ契約ヲ取結ヒタルニ非サル可カリシトキニ於ケルカ如クニ権利ヲ得及ヒ義務ヲ負フノ結果殊ニ孰レノ一方ニヲモ契約ニ依リテ自己ノ受ク可キ債行為ヲ請求スルコトヲ得サルノ結果ヲ生シ及ヒ各方カ其領受シタル債行為ヲ他ノ一方ニ還付スルノ義務ヲ負フノ結果ヲ生ス 領受シタル金額ニハ其領受ノ時ヨリ利息ヲ附シテ之ヲ還付ス可シ其他ノ目的物ニハ其増殖及ヒ其総テノ果益ヲ附シテ之ヲ還付ス可シ亦収入セサル果益ニ付テモ及ヒ変悪ニ付テモ尋常家父ノ為ス可キ注意ヲ用ユルニ於テハ其果益ヲ収メ及ヒ其変悪ヲ防キタル可カリシ分度ニ限リ賠償債行為ヲ果成ス可シ 還付ノ義務ヲ負ヒタル者ハ其支出シタル費用ニ関シテハ占有者カ所有者ニ対シテ有スル権利ヲ有ス 若シ領受者カ目的物ヲ還付スルコトヲ得サルトキハ自己ニ故意ノ責モ過誤ノ責モ帰スルニ非サルトキニ限リ賠償債行為ヲ果成スルノ義務ヲ負ハス 第四百二十八条 第四百二十七条ニ依リテ結約者等ノ負担スル義務ハ引換ニテ之ヲ履行ス可シ 第三百六十四条及ヒ第三百六十五条ノ成規ハ之ヲ準用ス 第四百二十九条 脱退ノ権利ハ脱退有権利者ノ領受シタル目的物カ事変ニ因リテ滅失シタルトキト雖トモ尚ホ存立ス 第四百三十条 脱退ノ権利ハ左ノ場合ニ於テハ存立セス 第一 若シ脱退有権利者カ其領受シタル目的物ノ滅失ヲ故意ヲ以テ又ハ過誤ニ出テ惹起シタルノ故ヲ以テ又ハ目的物ニ付キ処分ヲ為シタルノ故ヲ以テ其目的物ヲ還付スルコト能ハサルトキ 第二 若シ脱退有権利者カ其領受シタル目的物ニ自己ノ廃除スルコトヲ得ヘカラサル第三者ノ権利ヲ以テ負担ヲ帰セシメタルトキ 第三 若シ脱退有権利者カ其領受シタル目的物ヲ精製シ又ハ変造シテ他種ノ物ニ変形シタルトキ 第四百三十一条 脱退ノ権利ハ若シ其有権利者カ契約ヲ単ニ一分ノミニテモ履行シ又ハ契約ノ履行ヲ単ニ一分ノミニテモ要求シ若クハ諾受セルトキハ消滅ス 前項ノ成規ハ若シ脱退有権利者カ自己ノ権利ノ教示ヲ受ケタルニ非ス又ハ其権利ニ係ル予定条件ノ起発ノ教示ヲ受ケタルニ非サルトキハ一モ之ヲ適用セス 第四百三十二条 脱退ノ権利ハ若シ合意シタル期間内ニ之ヲ執行セサルトキ又ハ合意シタル期間ノ欠缺スルニ於テハ四週ノ期間内ニ之ヲ執行セサルトキハ消滅ス其期間ハ若シ脱退ノ権利ヲ設若条件ニ繋ラシメタルニ非サルトキハ契約ノ取結ノ時ヲ以テ始マリ又若シ脱退ノ権利ヲ設若条件ニ繋ラシメタルトキハ其設若条件ノ成就シタル後脱退有権利者カ他ノ一方ヨリ脱退権利執行ノ有無ヲ陳述ス可キトノ督促ヲ受ケタル時点ヲ以テ始マル 第四百三十三条 若シ二人以上ノ人カ此ノ一方又ハ他ノ一方ニ結約者トシテ関係シタルトキ又ハ二人以上ノ人カ此ノ一方又ハ他ノ一方ノ相続人ト為リタルトキハ脱退ノ権利ハ単ニ総員ニ於テノミ之ヲ行用シ及ヒ総員ニ対シテノミ之ヲ行用スルコトヲ得若シ二人以上ノ脱退有権利者ノ一員ニ在テ脱退ノ権利カ消滅シタルトキハ其余ノ脱退有権利者ニ在テモ亦脱退ノ権利ヲ除斥セラレタリトス 第四百三十四条 脱退ノ権利ノ留保ニ基キテ契約ヨリ脱退スル結約者ハ其留保ヲ証明ス可シ 若シ脱退ノ権利カ他ノ一方ノ作為ヲ目的物ト為セル義務ノ不履行ノ為メニ行用セラルヽトキハ他ノ一方ハ契約ニ適準シテ債行為ヲ果成シタルコトヲ証明ス可シ 第四百三十五条 若シ脱退ノ権利カ退約償金ニ対シテ留保セラレタルトキハ他ノ一方ニ対シテ為ス脱退ノ陳述ハ其退約償金ヲ陳述ノ際ニ支払ヒ又ハ其前既ニ支払ヒタルトキニ限リ作用ヲ生ス然レトモ脱退有権利者ハ退約償金ノ債行為ヲ果成スルコト無クシテ脱退ノ陳述ヲ為ストキト雖トモ尚ホ自己ノ方ニ於テハ其陳述ニ羈束セラル 第四百三十六条 若シ債務者カ自己ノ義務ヲ履行セサルコト有ル可キ傷合ニ在テハ契約ヨリ生スル自己ノ権利ヲ喪失ス可シトスルノ留保(権利喪失ノ留保)ヲ契約ニ附加シタルトキハ債権者ハ此場合ノ発生スルニ於テハ契約ヨリ脱退スルノ権利ヲ有ス 第二節 贈与 第四百三十七条 他人ニ対シテ果成スル寄贈ニシテ此ニ因リテ寄贈者ノ財産カ減少セラレ他人カ利殖セラルヽモノハ之ヲ贈与ト看做ス但其寄贈カ此利殖ノ目的ヲ以テ為サレ他人カ其寄贈ヲ恵贈物トシテ諾受セル分度ニ限ル 第四百三十八条 若シ某人カ贈与ヲ為スノ目的ヲ以テ自已ノ財産ヲ減少スル寄贈ニ因リテ他人ヲ其意思無クシテ利殖スルトキハ寄贈者ハ他人カ其贈与ヲ拒却スルマテハ羈束セラルヽモノトス贈与ノ諾受ハ若シ他人カ利殖及ヒ贈与ノ目的ヲ識知シタル後遅延無ク拒却ノ陳述ヲ為サヽルトキハ之ヲ為シタリト推定セラル拒却ノ場合ニ在テハ寄贈者ハ第七百四十二条乃至第七百四十四条ニ照準シテ利殖ノ呈出ヲ求ムルノ権利ヲ有ス 第四百三十九条 利殖ハ若シ或ル権利ノ為メニ担保債行為カ果成セラレタルトキハ存スルコト無シ縦令義務者ニ非サル他ノ人カ担保債行為ヲ果成シタルトキト雖トモ亦同シ 財産ノ減少ハ若シ既ニ帰属シタルモ未タ取得セサル財産上ノ権利ヲ放棄シ又ハ財産ノ取得ヲ為サス又ハ権利ノ為メニ存スル質権上ノ担保又ハ其他ノ担保ヲ廃罷セルトキハ存スルコト無シ 遺産又ハ贈遺ノ辞却ハ之ヲ既ニ帰属シタルモ未タ取得セサル権利ニ係ル放棄ト看做ス 第四百四十条 契約ニシテ此ニ依リ某人カ贈与ノ方法ヲ以テ或ル物ノ債行為ヲ他人ニ果成スルノ義務ヲ負担スルモノハ其約束ヲ裁判所又ハ公証人ノ方式ヲ以テ陳述シタルトキニ限リ有効ナリ 義務原由ノ明示ヲ包含セサル債務約束又ハ債務承認ヲ与フル場合ニ於テモ亦前項ト同一ナリ 第四百四十一条 転譲ニ因リテ執行シタル贈与ハ別段ノ方式ヲ遵守スル無シト雖トモ尚ホ有効ナリ 第四百四十二条 贈与者ハ其負担セル義務ノ不履行ニ付テハ故意又ハ太甚ナル過誤ノ責カ自己ニ帰スルトキニ限リ被贈与者ニ対シテ責任ヲ負フ 第四百四十三条 贈与者ハ単ニ種類ヲ以テノミ定メタル目的物ヲ贈与スルコトヲ約束シタルトキニ限リ第二百九十八条、第三百七十条乃至第三百八十条ニ照準シテ自己ノ権利ニ於ケル欠缺ニ付キ被贈与者ニ対シテ責任ヲ負フ若シ贈与者カ其他ノ贈与ヲ為スノ際ニ第三者ノ権利ノ存スルコトヲ識知シ且取得者ニ之ヲ黙秘シタルトキハ其取得者ニ対シ此ニ因リテ惹起シタル損害ヲ賠償スルノ義務ヲ負フ 第四百四十四条 贈与者ハ其贈与シタル物ノ欠缺ニ付テハ被贈与者ニ対シテ責任ヲ負ハス然レトモ若シ贈与者カ其欠缺ヲ識知シ且取得者ニ之ヲ黙秘シタルトキハ其取得者ニ対シ此ニ因リテ惹起シタル損害ヲ賠償スルノ義務ヲ負フ 前項ノ成規ハ若シ贈与者カ単ニ種類ヲ以テノミ定メタル物ヲ贈与スルコトヲ約束シタル場合ニ於テモ亦之ヲ適用ス若シ此ノ如キ場合ニ於テ其物ニ確保セラレタル性質ノ欠缺スルトキハ取得者ハ其欠缺ヲ有スル物ニ換ヘテ欠缺ヲ有セサル物ヲ要求スルノ権利ヲ有ス此請求権ハ第三百九十七条ニ照準シテ時効ニ服ス 第四百四十五条 債行為ヲ延滞シタル贈与者ハ延滞利息ヲ支払フコトヲ要セス但贈与者ノ負担セル損害賠償ノ義務ハ此カ為メニ変更ヲ受クルコト無シ 第四百四十六条 贈与ノ約束ハ疑ノ存スル場合ニ在テハ贈与者カ履行ノ当時己レノ住所ヲ有スル地ニ於テ之ヲ履行ス可シ 第四百四十七条 若シ贈与者カ被贈者ニ対シ定期復帰スル期間ニ於テ供与ス可キ扶助ヲ約束シタルトキハ贈与者ノ相続人ハ継続シテ其扶助ヲ供与スルノ義務無シ但契約ニ因リテ別段ノ事項カ表顕スルトキハ此限ニ在ラス 第四百四十八条 若シ贈与カ命示義務附ニテ果成セラレタルトキハ贈与者ハ自己カ先ツ債行為ヲ果成シタル後其命示義務ノ履行ヲ要求スルコトヲ得此命示義務カ第三者ノ利益ト為ルトキハ第四百十二条乃至第四百十六条ノ成規ヲ適用ス 若シ命示義務ヲ履行シタル被贈与者カ贈与ノ目的物ヲ追奪セラレタルトキハ其被贈与者ハ贈与者カ追奪者ノ権利ノ存スルコトヲ識知シタルニ非サルトキト雖モ命示義務ノ履行ニ因リテ惹起シタル費用ノ賠償ヲ贈与者ニ要求スルコトヲ得但其要償額ハ右費用カ贈与ニ因リテ生シタル利殖ヨリ超過スル分度ニ限ル 第四百四十九条 若シ被贈与者カ贈与者ノ生命ヲ搆陥セントシ若クハ贈与者ノ自由ヲ奪ハントシ若クハ贈与者ニ対シ故意ヲ以テ其身体ニ暴行ヲ加フルノ罪ヲ作為シ若クハ至重ナル栄誉毀損ノ罪ヲ作為シタルトキ又ハ被贈与者カ贈与者ニ対シ故意ヲ以テ財産ニ顕著ナル損失ヲ加ヘタルトキハ其背恩ノ為メ被贈与者ニ対シテ為ス可キ陳述ヲ以テ其贈与ヲ取消スコトヲ得 第四百五十条 贈与者ノ相続人ハ被贈与者カ故意ヲ以テ贈与者ヲ殺害シタルトキニ限リ其背恩ノ為メ贈与ヲ取消スノ権利ヲ有ス 第四百五十一条 贈与取消ノ権利ハ 第一 被贈与者ノ死亡ヲ以テ 第二 贈与者カ背恩ヲ覚知シタル時点又ハ第四百五十条ノ場合ニ在テハ贈与者ノ相続人カ背恩ヲ覚知シタル時点ヨリ起算シ一年ノ満了ヲ以テ 第三 贈与者ノ宥恕ニ因リテ 消滅ス 贈与取消ノ権利ノ放棄ハ贈与者又ハ其相続人カ背恩ヲ識知シタルノ後始メテ之ヲ為スコトヲ得 第四百五十二条 贈与取消ノ場合ニ在テハ贈与者又ハ其相続人ハ第七百四十五条ニ照準シテ果成債行為ノ目的物ノ償還要求ヲ為スノ権利ヲ有ス 第三節 消費貸借 第四百五十三条 何人タルヲ問ハス金銭其他ノ代替物ヲ消費貸借トシテ領受スル者ハ消費貸人ニ対シ其領受物ヲ同一ノ種類、良好及ヒ数量ノ物ヲ以テ返還スルノ義務ヲ負フ 若シ領受者カ消費貸借ニ依リテ其領受物ノ所有者ト為リタルニ非サルトキハ其領受者ニ対シ消費貸借上ノ請求権ハ生スルコト無シ 第四百五十四条 若シ某人カ他人ニ対シ此者等ノ間ニ成立シタル債務関係ニ依リテ金額ヲ支払ヒ又ハ其他ノ代替物ヲ供与ス可キトキハ此者等ノ間ニ於テハ義務者ハ其金額又ハ其他ノ代替物ヲ消費貸借トシテ債務ヲ負フ可キノ合意ヲ為スコトヲ得 第四百五十五条 消費貸借物領受人ハ利息ヲ約束シタルニ非サレハ利息ヲ支払フノ義務ヲ負ハス但其延滞利息ヲ支払フノ義務ハ此カ為メニ異動ヲ受タルコト無シ 第四百五十六条 若シ約束シタル利息ノ支払ニ関シ時ヲ定メサルトキハ利息ハ一年ノ満了毎ニ之ヲ支払フ可ク又若シ元本ノ返還ニ関シ一年未満ノ期間ヲ定メタルトキハ元本ヲ返還スル際ニ之ヲ支払フ可シ 第四百五十七条 若シ消費貸借物ノ返還ニ関シ時ヲ定メサルトキハ其貸借物ハ予告ノ果成シタル後始メテ之ヲ返還ス可シ此予告ヲ為スノ権利ハ債権者並ニ債務者ニ属ス其予告ノ期間ハ之ヲ六週トス 第四百五十八条 消費貸借物ノ供与ヲ約束スル契約ハ疑ノ存スル場合ニ在テハ左ノ留保即チ若シ他ノ一方ノ財産上ノ関係カ消費貸借ヲ為スヨリ以前ニ返還請求権ヲ危険ナラシムル重大ノ変悪ニ罹ルトキハ約束者カ契約ヨリ脱退スルノ権能ヲ有ス可シトスル留保附ニテ之ヲ取結ヒタリト看做サル可シ 第四節 売買及ヒ交換 第一款 売買 第四百五十九条 売買契約ニ依リ売主ハ若シ物カ売買ノ目的物タルトキハ其売却シタル物ヲ買主ニ交付シ且其物ノ所有権ヲ供与スルノ義務ヲ負ヒ若シ権利カ売買ノ目的物タルトキハ其権利ヲ買主ニ供与スルノ義務ヲ負ヒ又物ニ関係スル権利即チ其物ヲ所持スルニ非サレハ執行スルコトヲ得サル権利ヲ売却シタルトキハ其物ヲ買主ニ交付スルノ義務ヲ負フ 売買契約ニ依リ買主ハ合意シタル代価ヲ売主ニ支払ヒ且売却ヲ受ケタル物ヲ引取ルノ義務ヲ負フ 第四百六十条 売買代価ハ金銭ヨリ成立スルコトヲ要ス又金銭ヲ以テ確定シタル代価ト共ニ尚ホ他ノ種類ノ債行為ヲ約束スルコトヲ得又此ノ如キ債行為ハ一定ノ算定金額ニテ金銭代価ニ換替ス可キコトヲモ合意スルコトヲ得 第四百六十一条 若シ市場代価ヲ売買代価ト定メタル場合ニ在テ疑ノ存スルトキハ売主カ契約ニ依リ義務ヲ履行ス可キ地及ヒ時ノ市場代価ヲ合意シタルモノト看做サル可シ 第四百六十二条 売主ハ売買ノ目的物ニ係ル権利上ノ関係ニ付キ殊ニ地所ノ売却ニ在テハ其地所ノ境界受権利及ヒ負担ニ付キ必要ナル説明書ヲ買主ニ交付スルノ義務ヲ負ヒ又売買ノ目的物ノ権利ヲ証明スル為メ功用有ル証書ニシテ自已ノ手中ニ存スルモノヲモ買主ニ引渡スノ義務ヲ負フ 第四百六十三条 売主ハ其売却シタル物ヲ買主ニ交付スルマテハ其物ノ意外ノ滅失及ヒ意外ノ変悪ノ危険並ニ其物ノ負担ヲ担当ス又其物ヲ交付スルマテハ此物ノ果益ハ売主ニ属ス 若シ地所ヲ売却シタル場合ニ在テ其交付ノ前地所台帳ニ所有権移転ノ登記カ果成シタルトキハ前項ニ掲ケタル作用ハ既ニ其登記ノ時点ヲ以テ生ス 第一項及ヒ第二項ノ成規ハ物ニ関係スル権利即チ其物ヲ所持スルニ非サレハ執行スルコトヲ得サル権利ヲ売却シタル場合ニ之ヲ準用ス 第四百六十四条 売主ハ売却シタル物ニ関シ其契約取結ノ後ニシテ其交付ノ前ニ支出シタル必要ナル費用ノ賠償ヲ買主ニ要求スルコトヲ得但其費用ヲ支出シタル当時既ニ危険ノ買主ニ移リタルトキニ限ル其他売主カ物ノ交付前ニシテ危険ノ移ル前後ニ於テ物ニ関シテ支出シタル費用ノ賠償ニ係ル売主ノ請求権ハ無委任業務執行ニ関スル原則ニ依リテ定マル 第四百六十五条 若シ売主カ買主ノ求ニ因リ其売却シタル物ヲ契約ニ依リテ交付ス可キ地ノ外ナル地ニ運送スルトキハ買主ハ売主カ運送取扱人、運送人又ハ其他運送ヲ執行スル為メニ供セラレタル人ニ其物ヲ引渡シタル時点ヨリ危険ヲ担当ス 若シ買主カ運送ノ種類ニ付キ特別ノ指示ヲ為シタル場合ニ於テ売主カ切迫ナル誘因無クシテ其指示ニ違ヒタルトキハ売主ハ此ニ因リテ生シタル損害ニ付キ買主ニ対シテ責任ヲ負フ 第四百六十六条 物ノ交付ニ係ル費用殊ニ度量衡ノ費用及ヒ権利ヲ売却シタル場合ニ在テハ其権利ノ設定若クハ転付ノ費用ハ売主ノ責ニ帰シ又物ノ引取ノ費用及ヒ義務履行ノ地ニ非サル他ノ地ニ向ケテ為ス物ノ運送ノ費用ハ買主ノ責ニ帰ス 若シ地所又ハ地所ニ付テノ権利ヲ売却シタルトキハ買主ハ地所ノ場合ニ在テハ譲地契約ノ費用及ヒ所有権移転ノ登記ノ費用ヲ担当ス可ク権利ノ場合ニ在テハ権利ノ設定又ハ転付ノ為メニ必要ナル地所台帳ヘノ登記ノ費用ニシテ此登記ノ為メニ要スル陳述ノ費用ヲモ包含スルモノヲ担当ス可シ 第四百六十七条 買主ハ売買目的物ノ果益カ自己ニ属スル時点ヨリ代価ニ利息ヲ付スルノ義務ヲ負フ此義務ハ若シ代価カ猶予セラレタルトキハ生スルコト無シ 第四百六十八条 強制執行ノ手続ニ於テ売却ノ挙行又ハ指揮ヲ委住セラレタル人並ニ受委任者ヨリ委任ノ処理ニ関与セシメラレ口供筆記者ヲモ包含セル手伝人ハ自分ニテモ他人ニ依頼シテモ売却ニ供シタル目的物ヲ買入ルヽコトヲ許サレス 右ノ成規ニ背キテ果成シタル買入ノ作用並ニ此買入ニ基キテ為シタル売買目的物ノ移転ノ作用ハ之ヲ債務者、所有者又ハ債権者トシテ其売却ニ関係シタル者ノ認諾ニ繋ラシム 第百二十三条ノ成規ハ之ヲ前項ノ場合ニ準用ス又無認諾ノ場合ニ在テ再度ノ売却ヲ為シタルトキハ初度ノ買入人ハ再度ノ売却費用ヲ担当シ且買得金ノ欠少額ヲ賠償スルコトヲ要ス 第四百六十九条 第四百六十八条ノ成規ハ若シ強制執行ノ予定条件有ルニ非スシテ法律上ノ成規即チ其人カ之ニ依リテ他人ノ計算ノ為メ或ル目的物ノ売却ヲ為スノ権限ヲ授ケラレタル法律上ノ成規ニ憑拠シテ売却ノ委任ヲ与フル場合殊ニ質権又ハ留置権ノ場合ニ之ヲ適用ス 第四百七十条 試品即チ見本売買ニ在テハ其試品即チ見本ノ性質カ確保セラレタリト看做サル可シ 第四百七十一条 若シ検視即チ試験売買ノ契約ヲ取結ヒタルトキハ売買目的物ヲ認諾スルモ之ヲ拒斥スルモ買主ノ任意ニ在リ 此ノ如キ売買ハ疑ノ存スルトキハ買主カ意望スルトキニノミ契約ニ羈束セラル可シトスルノ定メヲ以テ結約セラレタリト看做サル可シ 第四百七十二条 売主ハ検視即チ試験売買ニ在テハ売買目的物ノ調査ヲ為スニ必要ナル行為ヲ買主ニ許スノ義務ヲ負フ 第四百七十三条 若シ買主カ合意シタル期間内ニ売主ヨリ己レニ宛テタル督促ヲ受ケテ陳述ヲ為サヽルトキ又若シ合意シタル期間ノ欠缺スルニ於テハ情況ニ相当ナル期間ノ満了後ニ売主ヨリ己レニ宛テタル督促ヲ受ケテ遅延無ク陳述ヲ為サヽルトキハ之ヲ買主ノ拒斥ト看做ス然レトモ陳述ノ不作為ハ若シ売却セラレタル物カ検視即チ試験ノ為メ買主ニ交付セラレタルトキハ之ヲ認諾ト看做ス 第四百七十四条 若シ売主カ売買目的物ニ付キ第三者ノ高額買入ノ言込ノ諾受ヲ留保シタルトキハ此留保ニ依リテ契約脱退ノ権利カ第三者ノ高額買入ノ言込ノ果成シ売主ニ於テ此言込ヲ諾受スル場合ノ為メニ留保セラレタリト看做サル可シ 第四百七十五条 右脱退ノ権利ハ若シ売主カ合意シタル期間内ニ其脱退ノ陳述ヲ為サヽルトキ又合意シタル期間ノ欠缺スルニ於テハ地所ニ付テハ契約取結以後三月ノ期間内此他ノ目的物ニ付テハ契約取結以後四週ノ期間内ニ其脱退ノ陳述ヲ為サヽルトキハ消滅ス 第二款 買戻 第四百七十六条 若シ売買契約ニ在テ売主ノ為メニ買戻ノ権利カ留保セラレタルトキハ代価即チ之ヲ以テ売却シタル代価カ買戻ノ代価トシテ合意セラレタリト看做サル可シ 第四百七十七条 売主ヨリ買主ニ対シ自己カ買戻権ヲ執行ス可シトノ陳述ヲ与ヘタルトキハ此陳述ヲ以テ買戻契約ハ完結ス 第四百七十八条 買戻契約ノ取結ニ依リ売戻人ハ買戻人ニ対シ売買目的物カ買戻権ノ留保セラレタル当時ニ存立シタル現状ニ於テ其物ヲ旧売買ノ結約以来添加シタル増殖物及ヒ買戻ノ結約ノ当時ニ現存シタル附属物ト共ニ呈出スルノ義務ヲ負フ然レトモ其中間時ニ於テ収入シタル果益ハ引渡スノ限ニ在ラス若シ売戻人カ自己ノ責ニ帰ス可キ情況ニ因リテ目的物ヲ返還スルコト能ハス若クハ前段ニ掲ケタル現状ニ於テ返還スルコト能ハサルトキハ其不履行ニ付テノ損害ヲ賠償スルノ義務ヲ負フ然レトモ若シ売買目的物ヲ右ノ現状ニ於テ返還スルコトノ不能カ売戻人ノ責ニ帰ス可ラサル情況即チ買戻結約以前ニ発生シタル情況ニ因リテ惹起セラレタルトキハ売戻人ハ其不能ニ拘ハラス買戻代価ノ満額ノ支払ヲ要求スルコトヲ得 第四百七十九条 買戻契約ノ取結ニ依リ買戻人ハ売戻人ニ中間時ニ於ケル利息ヲ償フコト無クシテ買戻代価ヲ支払フノ義務ヲ負フ 若シ買戻人カ種類ヲ以テ約束セサル目的物ヲ副債行為トシテ領受シタル場合ニ於テ其目的物ヲ返還スルコト能ハス若クハ其目的物ヲ領受シタル時ノ現状ニ於テ返還スルコト能ハサルトキハ買戻権ノ執行ハ除斥セラル 売買目的物ニ関シテ支出シタル費用ニ付キ及ヒ増殖物ノ供与ニ付テハ第九百三十六条第一項、第三項及ヒ第九百三十七条、第九百三十八条ノ成規ヲ準用ス然レトモ買戻人ハ必須ノ費用ニ付テハ賠償債行為ノ義務ヲ負フコト無シ 第四百八十条 若シ買戻代価ハ買戻権ヲ執行ス可キ時ニ於ケル売買目的物ノ評定価額ヲ以テス可シトノ合意ヲ為シタルトキハ其買戻権ノ執行ニ当リテハ売戻人ハ単ニ目的物カ買戻権執行ノ時存立スル現状ニ於テ之ヲ呈出スルノ義務ノミヲ負ヒ買戻人ハ単ニ評定価額ヲ支払フノ義務ノミヲ負フ又売戻人ハ目的物ノ滅失若クハ変悪ニ付キ責任ヲ負フコトナク買戻人ハ費用ヲ償フノ義務ヲ負フコト無シ 第三款 先買 第四百八十一条 若シ某人カ或ル目的物ヲ売却スレコトノ有ル可キ場合ニ於テハ他人ニ買主トシテ優先権ヲ与フル義務ヲ負ヒタルトキハ他人ハ此ニ因リ自己ノ為メニ生成スル権利(先買権)ヲ其売却義務者カ第三者ト右ノ目的物ニ付キ売買契約ヲ取結ヒタルトキ直チニ執行スルコトヲ得 先買権ハ義務者カ第三者トノ契約ニ於テ先買権執行ノ場合ノ為メニ脱退ノ権利ヲ留保シ若クハ先買権不執行ノ設若条件附ニテ契約ヲ取結ヒタルトキト雖モ亦之ヲ執行スルコトヲ得 第四百八十二条 権利者カ義務者ニ対シテ先買権ヲ執行スル旨ノ陳述ヲ為シタルトキハ此陳述ニ依リテ権利者ト義務者トノ間ニ於ケル売買契約ハ義務者ト第三者トノ間ニ於ケル売買契約ニ包含セル定款ヲ以テ完結ス得ニ第三者カ義務者ト取結ヒタル契約ニ於テ引受ケタル総テノ義務ハ権利者之ヲ履行スルコトヲ要ス 第四百八十三条 義務者ハ第三者ト取結ヒタル売買契約及ヒ其含旨ヲ権利者ニ遅延無ク通知ス可シ 第四百八十四条 若シ第三者カ義務者ト取結ヒタル売買契約ニ於テ金銭ニ算定セラル可キ副債行為ニシテ権利者ノ果成スル能ハサルモノヽ義務ヲ負ヒタルトキハ権利者ハ先買権執行ノ場合ニ在テハ此ノ如キ債行為ニ関シ履行ノ時ニ其債行為ノ有スル金額ヲ支払フ可シ若シ権利者ノ果成スル能ハサル副債行為カ金銭ニ算定セラル可カラサルモノナルトキハ先買権ノ執行ハ除斥セラル 若シ第三者カ先買権ノ目的物ヲ一箇若ク二箇以上ノ他ノ目的物ト共ニ合同代価ニテ買取リタルトキハ権利者ハ先買権ノ執行ニ当リ合同代価ノ割合部分ヲ支払フ可シ 第四百八十五条 先買権ハ若シ其権利ノ目的物カ強制執行ノ手続ニ於テ売却セラルヽトキハ之ヲ執行スルコトヲ得ス 第四百八十六条 先買権ハ之ヲ他人ニ転付スルコトヲ得ス 第四百八十七条 先買権ハ 第一 権利者ノ死亡ト共ニ 第二 若シ権利者カ義務者ヨリ第三者ト取結ヒタル売買契約ノ通知ヲ受ケ義務者ニ対シテ権利執行ノ為メ定メタル期間内ニ己レ先買権ヲ執行スル旨ノ陳述ヲ為サヽルトキ又特ニ定メタル期間ノ欠缺スルニ於テハ地所ニ付テハ二月ノ期間内此他ノ目的物ニ付テハ一週ノ期間内ニ同上ノ陳述ヲ為サヽルトキハ 消滅ス 第四款 遺産売買 第四百八十八条 若シ売主ニ帰属シタル遺産カ売買ノ目的物タルトキハ結約者等ハ其相互ノ間ニ於テハ売主カ相続人ト為リタルニ非スシテ買主カ相続人ト為リタル可カリシトキノ如クニ権利ヲ有シ義務ヲ負フ 売買契約ノ取結後ニ後襲相続ニ因リ又ハ他ノ相続人ノ虧缺ニ因リテ売主ニ帰属スル相続部分並ニ売主カ分遺セラレタル特先贈遺ハ共売セラレタリト看做ス可カラス 贈遺ノ虧缺ニ因リ又ハ命示義務ノ虧缺ニ因リテ生スル利益ハ買主ニ帰属ス 第四百八十九条 売主ハ遺産ニ属スル各個ノ物及ヒ権利ヲ買主ニ転付スルノ義務ヲ負フ 第四百九十条 売主ハ遺嘱執行者若クハ遺産管理人ニ対スル請求権及ヒ共同相続人ノ共同ヨリ成立シ若クハ共同相続人ノ補充義務ヨリ成立シタル請求権並ニ遺産ノ呈出ニ関シ第三者ニ対シテ己レニ属スル請求権ヲ買主ニ譲渡スノ義務ヲ負フ 第四百九十一条 売主ハ売買契約ノ取結前ニ果実ヲモ併セ遺産ヨリ得取シタル総テノモノヲ買主ニ引渡スノ義務ヲ負フ又売主ハ殊ニ自己カ遺産ニ係ル債権ノ徴収ヲモ併セ遺産ニ係ル目的物ノ転譲ニ因リテ領受シタルモノヲ買主ニ給付スルノ義務ヲ負ヒ又自己カ耗尽シタル目的物若クハ自己カ無償ニテ転譲シタル目的物ニ付テハ其耗尽若クハ其転譲ノ時ヨリ以後ニ其目的物ノ自ラ定マル価額ヲ賠償スルノ義務ヲ負フ又若シ売主カ目的物ニ負担ヲ帰セシメタルトキハ転譲ノ場合ニ於ケルト同一ノ方法ニテ相当ノ賠償債行為ヲ果成ス可シ 遺産ニ係ル目的物ニ付キ売買契約ノ取結マテニ生シタル前項外ノ減少又ハ変悪ニ関シテハ売主ハ賠償債行為ノ義務ヲ負ハス 第四百九十二条 売主ノ保任債行為ノ義務ハ売買契約取結ノ際ニ明示シタル遺産ニ係ル権利カ自己ニ属スルコト、此権利ハ後襲相続人ノ権利ニ依リテ制限セラレタルニ非ス亦遺産義務部分請求権、贈遺及ヒ命示義務ヲ以テ負担ヲ帰セラレタルニ非サルコト及ヒ財産目録権ハ消滅シタルニ非ス又遺産債権者ニ対シテ除斥セラレタルニ非サルコトニマテ及フモノトス 第四百九十三条 遺産ニ係ル目的物ノ欠缺及ヒ追奪ニ付テハ売主ハ買主ニ対シ保任債行為ヲ果成スルノ義務ヲ負ハス但其追奪ハ第四百九十二条ニ依リ保任債行為ノ義務ヲ負ハシム可キ原由ニ因リテ果成セサルモノニ限ル 第四百九十四条 買主売買契約取結ノ時ヨリ遺産ニ係ル目的物ノ意外ノ滅失及ヒ変悪ノ危険ヲ担当ス此時点ヨリ其目的物ノ果益ハ買主ニ帰属ス 第四百九十五条 買主ハ売主ニ対シ遺産及ヒ之ニ属スル目的物ノ負担ヲ担当シ殊ニ遺産義務及ヒ遺産ヨリ支払ハル可キ諸税ヲ担当ス然レトモ遺産義務部分請求権、贈遺及ヒ命示義務ハ売買契約取結ノ際ニ買主カ識知シタル限戻ニ於テノミ買主ノ責ニ帰ス買主ハ売主ノ即時ノ免責ヲ果成スルノ義務ヲ負ハス単ニ売主カ請求ヲ受クル無キコトニ付テノミ責任ヲ負フ若シ売主カ買主ノ責ニ帰スル義務ヲ履行シタルトキハ其履行シタル分度ニ限リ買主ハ売主ニ対シ賠償債行為ノ義務ヲ負フ 第四百九十六条 買主ハ売主ニ対シテ売買契約ノ取結前ニ遺産又ハ遺産ニ係ル目的物ノ為メニ支出シタル必要且有益ナル費用ニ付キ賠償債行為ヲ果成ス可シ 第四百九十七条 第四百九十五条ニ掲ケタル請求ニ付テハ遺産債権者其他ノ第三権利者ハ売主ノ責任ノ継続ヲ害スル無クシテ売買契約取結ノ時ヨリ自己ノ権利ヲ買主ニ対シテ直接ニ行用スルコトヲ得且其権利カ売買契約取結ノ際買主ニ知レタルニ非サルトキト雖モ亦同シ売主ト買主トノ間ニ於テ為シタル合意ニシテ第三者ニ対スル買主ノ此責任ヲ除斥シ又ハ制限スルモノハ無成タリ 第四百九十八条 買主ハ財産目録権ヲ此権利カ売買契約取結ノ時ニ仍ホ売主ニ属シタル限度ニ於テ行用スルコトヲ得買主ノ此権利ノ喪失ニハ財産目録権ノ喪失ニ関スル成規ヲ準用ス 売主又ハ買主ノ為シタル財産目録ノ作成ハ其双方ノ利益ト為ル 遺産ノ破産ハ売買契約取結ノ後ハ単ニ買主ノミ売主ニ換リテ之ヲ申立ツルコトヲ得遺産債権者ヨリハ単ニ買主ニ対シテノミ之ヲ申立ツルコトヲ得遺産及ヒ買主ノ売主ニ対シテ有スル遺産転付ノ請求権ハ破産財団ニ属ス 遺産債権者ニ対スル公催告ハ売主ヨリモ買主ヨリモ之テ申立ツルコトヲ得申立及ヒ除権ハ其申立カ両人ヨリ為サレタル可カリシトキニ於ケルト同一ノ性質ニ於テ作用ヲ生ス 第四百九十九条 買主ト売主トノ間ニ於ケル関係ニ在テハ相続ノ結果ニ於テ併合ニ依リ消滅シタル債務ハ之ヲ消滅セサルモノト看做シ又相続ノ結果ニ於テ併合ニ依リ廃罷セラレタル物権又ハ権上権ハ之ヲ廃罷セラレサルモノト看做ス必要ナル場合ニ於テハ此ノ如キ権利ハ之ヲ回復ス可キモノトス 第五百条 第四百八十八条乃至第四百九十九条ノ成規ハ若シ遺産ノ転譲カ売買契約ニ非サル他ノ契約ノ目的物ナルトキ又ハ転譲セラレタル遺産カ更ニ転譲セラルヽトキハ之ヲ準用ス 然レトモ贈与契約ノ場合ニ在テハ転譲者ノ負フ可キ保任債行為ノ義務ハ第四百四十三条第四百四十四条ニ依リテ定マル又贈与者ハ契約取結前ニ費尽シ又ハ無償ニテ転譲シタル目的物ニ付テハ賠償債行為ヲ果成スルコトヲ要セス 第五百一条 若シ遺産ノ分割部分カ売買契約又ハ其他ノ転譲契約ノ目的物タルトキハ第四百八十八条乃至第五百条ノ成規ヲ準用ス 第五款 交換 第五百二条 交換契約ニハ売買契約ニ関スル成規ヲ準用ス結約者等ノ各自ハ自己ヨリ約束シタル債行為ニ付テハ売主ト同一ニ判定セラル可ク又自己ニ対シテ確保セラレタル債行為ニ付テハ買主ト同一ニ判定セラル可シ 第五節 使用賃貸借及ヒ用益賃貸借 第一款 使用賃貸借 第五百三条 使用賃貸借契約ニ依リ賃貸人ハ賃貸シタル物ノ使用ヲ使用賃貸借ノ時間賃借人ニ付与スルノ義務ヲ負ヒ又賃借人ハ合意シタル反対債行為(賃借料)ヲ賃貸人ニ弁済スルノ義務ヲ負フ 第五百四条 賃貸人ハ賃借人ニ対シ契約面ノ使用ノ為メニ適切ナル現状ニ於テ賃貸物ヲ委付シ且此現状ニ於テ使用賃貸借ノ全時間其物ヲ保持スルノ義務ヲ負フ 第五百五条 若シ賃貸物ヲ賃借人ニ委付スル時ニ当リ其物カ確保セラレタル性質ノ欠缺ニ罹リ又ハ契約面ノ使用ノ為メノ堪能ヲ廃絶シ若クハ減少スル欠缺ニ罹ルトキ又若シ其委付ノ時ヨリ以後ニ至リ此類ノ孰レニテモ其一ノ欠缺カ生スルトキハ賃借人ハ其堪能ノ廃絶セラレ若クハ減少セラレタル其継続時間ニ限リ廃絶ノ場合ニ在テハ賃借料ノ弁済義務ヲ免カレ減少ノ場合ニ在テハ単ニ貸借料ノ割合部分ノミヲ弁済スルノ義務ヲ負フ但第五百二十九条ニ依リ貸借人ニ属スル契約脱退ノ権利ハ尚ホ之ヲ留保ス 若シ地所ノ賃貸人カ其地所ノ一定ノ広袤ヲ確保シタルトキハ此確保ハ之ヲ性質ノ確保ト看做ス 第五百六条 貸借人ハ若シ契約取結ノ当時ニ於テ既ニ第五百五条ニ掲ケタル欠缺ノ一カ存在シ若クハ契約取結ノ時ヨリ以後ニ至リ賃貸人ノ責ニ帰ス可キ情況ニ因リテ右欠缺ノ一カ発生シタルトキ又ハ若シ賃貸人カ以後ニ至リ発生シタル欠缺ノ除去ヲ延滞シタルトキハ賃貸人ニ対シテ第五百五条ニ規定シタル権利ヲ有スルノ外尚ホ不履行ニ付テノ損害賠償ニ係ル請求権ヲ有ス 第五百七条 第五百五条第五百六条ニ依リテ賃借人ニ属スル権利ニハ第三百八十二条、第三百八十六条、第三百九十二条、第三百九十六条ノ成規ヲ準用ス 第五百八条 若シ賃借人カ第三者ノ権利ニ依リテ契約面ノ使用ノ全部又ハ一分ヲ奪取セラレタルトキハ第五百五条乃至第五百七条ノ成規ヲ準用ス然レトモ不履行ニ付テノ損害賠償ノ請求権ハ賃借人カ太甚ナル過誤ニ因リテ第三者ノ権利ヲ契約取結ノ際ニ識知シタルニ非サルモ此カ為メニ除斥セラルヽコト無シ 第五百九条 若シ地所ノ使用賃貸借ノ場合ニ於テ賃貸人カ地所ヲ賃借人ニ委付セシ後其地所ノ所有権ヲ第三者ニ転付シタルトキハ第三者ハ自己ヨリ賃借人ニ対シテ地所ヲ明渡ス可キ旨ノ催告ヲ為シタル後第五百二十二条ニ規定シタル法律上ノ予告期間ノ経過スルマテ又若シ契約面ノ予告期間カ此ヨリ短キトキハ其短期間ノ経過スルマテノ時間仍ホ賃借人ノ為ス地所ノ契約面ノ使用並ニ賃貸人ノ賃借人ニ対シテ負担スル行為ノ挙行殊ニ賃貸人ノ果成ス可キ改修ヲ許スノ義務ヲ負フ 若シ地所明渡ノ為メノ催告カ果成シタルトキハ賃借人ハ将来ノ為メ即時契約ヨリ脱退スルノ権利ヲ有ス 第五百十条 第五百九条ノ成規ハ若シ第三者カ賃借人ニ地所ノ委付セラレタル後賃貸人ノ権利行為ニ因リテ地所ニ付キ所有権ヲ取得シタルニ非サルモ其他ノ権利即チ賃借人ノ為ス地所ノ契約面ノ使用ヲ廃罷シ又ハ制限スル権利ヲ取得シタルトキハ之ヲ準用ス 若シ第三者ノ取得シタル権利ノ執行ノ為メ賃借人カ地所ヲ明渡ス可キコトヲ要セサルトキハ第三者カ其取得シタル権利ヲ執行スルコトヲ貸借人ニ於テ肯諾ス可キ旨ノ催告ハ地所ヲ明渡ス可キ旨ノ催告ニ換ハルモノトス此場合ニ在テハ第五百九条第二項ノ成規ハ一モ之ヲ適用セス 第五百十一条 第五百九条第五百十条ノ場合ニ在テハ地所ヲ明渡ス可キノ催告若クハ権利ノ執行ヲ肯諾ス可キノ催告ハ若シ第三者カ其催告ノ前又ハ其催告ノ際ニ自己ノ権利ヲ表示スル公証書ヲ呈示セサル場合ニ於テ賃借人カ此欠缺ノ為メ其催告ヲ遅延無ク斥退スルトキハ無作用タリ 第五百十二条 若シ賃借人ノ契約面ノ使用ヲ廃罷シ若クハ制限スル物権ヲ賃貸人ノ権利行為ニ因リテ取得シタル第三者カ其以後ノ使用賃貸借時間中ハ賃貸人ノ賃借人ニ対シテ負担スル義務ノ全部又ハ一分ヲ履行スルノ義務殊ニ其取得シタル権利ヲ賃借人ニ対シテ執行セサルノ義務ヲ契約ニ依リテ借貸人ニ対シ自己ニ負担シタルトキハ第四百十二条乃至第四百十六条ノ成規ハ左ノ制限即チ第三者ニ対シ賃借人ノ有スル直接ノ権利及ヒ此権利ノ成立ハ第三者カ権利ヲ取得シタル時点ヲ以テ意望セラレタリト看做ス可シトスルノ制限ヲ以テ之ヲ適用ス又若シ第三者カ物其モノヲ取得シ若クハ物ヲ使用スルノ権利ヲ取得シタルトキハ使用賃貸借契約ニ因リ賃借人ニ対シテ尚ホ残余セル使用賃貸借時間賃貸人ノ有スル債権ハ其取得ノ時点ヨリ第三者ニ譲渡サレタリト看做サル可シ 第五百十三条 賃借人ハ動産ノ使用賃貸借ニ在テハ物ノ使用ニ因リテ惹起スル立替金ヲ担当シ獣畜ノ使用賃貸借ニ在テハ飼養ノ費用ヲモ亦担当ス可シ 第五百十四条 賃貸人ハ賃借人ニ対シ物ニ関シテ支出セラレタル必要ノ費用ヲ賠償スルノ義務ヲ負フ 此他費用ノ賠償ニ係ル賃借人ノ請求権ハ無委任業務執行ニ関スル原則ニ依リテ定マルモノトス賃借人ハ其他尚ホ費用ノ支出ニ因リ成立シタル搆造ヲ取去ルノ権利ヲ有ス第五百二十条ノ成規ハ之カ為メ害セラルヽコト無シ 若シ賃貸人カ自己ノ負担スル改修又ハ搆造ノ挙行ヲ延滞シタルトキハ賃借人ハ其改修又ハ搆造ヲ果成シ賃貸人ニ対シテ此カ為メニ必要ナリシ費用ノ賠償ヲ要求スルコトヲ得 第五百十五条 賃貸人ハ賃貸物ニ帰スル負担及ヒ諸税ヲ担当スルノ義務ヲ負フ 第五百十六条 別段ノ事項カ合意セラレタルニ非サル限リハ賃借人ハ使用賃借物ノ契約面ノ使用ヲ他人ニ委付シ殊ニ使用転賃貸(使用下賃貸)ヲ以テモ亦其使用ヲ他人ニ委付スルノ権利ヲ有ス 若シ賃借人カ使用ヲ他人ニ委付スルトキハ其賃借人ハ賃貸人ニ対シ他人ノ過失ニ付テハ自己ノ負担セル義務ノ履行ニ付テノ責任ヲ負フ 第五百十七条 賃借料ハ使用賃貸借時間ノ終末ニ之ヲ弁済ス可シ然レトモ若シ賃借料カ一定ノ数時期ヲ以テ限定セラレタルトキハ各個ノ時期ノ満了ノ後之ヲ弁済ス可シ地所ノ使用賃貸借ニ在テハ賃借料ハ四分一暦年ヨリ短キ時期ヲ以テ限定セラレタルニ非サル限リハ四分一暦年ノ満了ノ後毎ニ一月、四月、七月、十月ノ第一日ニ之ヲ弁済スルコトヲ要ス 第五百十八条 自己ニ属スル使用権ヲ執行シタルニ非サル賃借人ハ縦令ヒ自己ノ身上ニ存スル原因ニ出テ其権利ヲ執行スル能ハサリシトキト雖モ賃借料ヲ弁済スルノ義務ヲ負フ然トモ賃借人ハ賃貸人ノ節約シタル費用ノ金銭額及ヒ他ノ方法ニテ使用権ヲ換価シテ賃貸人ノ得タル利益ノ金銭額ヲ賃借料ノ計内ヨリ扣除スルノ権利ヲ有ス又賃借人ハ賃貸人カ他人ニ使用ヲ委付シタルニ因リテ賃借人ニ使用ヲ付与ス能ハサル時間中ハ賃借料ヲ弁済スルコトヲ要セス 第五百十九条 若シ賃貸人ノ負担ニ帰スル物ノ改修ノ必要ナルニ至ルトキ又ハ第三者カ物権ヲ冒取スルトキハ賃借人ハ其事ヲ遅延無ク賃貸人ニ通知スルノ義務ヲ負フ又賃借人ハ賃貸人ニ対シ此通知ヲ為サヽルニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スルノ責任ヲ負フ 第五百二十条 賃借人ハ賃借物ヲ使用賃貸借時間ノ満了後当初之ヲ領受シタルトノ同一ノ現状ニ於テ還与スルノ義務ヲ負フ然レトモ契約面ノ使用ニ因リ、年数ニ因リ又ハ其他自己ノ責ニ帰ス可ラサル情況ニ因リテ生シタル変更及ヒ変悪ニ付テハ其責ニ任セス 第五百二十一条 地所ノ賃貸人ハ使用賃貸借契約ヨリ生スル自已ノ債権ノ為メ賃借人ノ持込ミタル物ニ付キ法律上ノ質権ヲ有ス此質権ハ質ニ服セサル物ニ関シテハ成立セス又此質権ハ使用賃貸借関係ノ目的物タル地所ヨリ其物ヲ除去スルヲ以テ消滅ス但其除去カ窃カニ果成セラレ又ハ賃貸人ノ異議ニ反シテ果成セラレタルトキハ此限ニ在ラス 賃貸人ハ賃借人カ自已ノ業務ノ通例ノ営為ノ為メ為スニ至ラシメラレ又ハ通常ノ活動上関係ニ於テ除去スルコトヲ要スルカ為メ為スニ至ラシメラレタル物ノ除去ニ対シテハ異議ヲ述フコトヲ得ス又賃貸人ハ裁判所ヲ援唱スル無シト雖モ其他自已ノ質権ニ服スル総テノ物ノ除去ヲ妨止スルノ権利ヲ有シ又若シ賃借人カ地所ヲ明渡ストキハ此物ヲ自己ノ所持ニ収ムルノ権利ヲ有ス 賃貸人ハ賃借人ニ対シ其窃カニ除去シ又ハ自己ノ異議ニ反シ除去シタル物ニシテ自己カ其除去ヲ異議スルノ権利ヲ有スルモノヽ再持込ヲ要求シ又既ニ地所ノ明渡ヲ果成シタル後ニ在テハ其物ノ所持ノ委付ヲ要求スルノ権利ヲ有ス 賃貸人ノ法律上質権ノ執行ハ債権ノ為メニスル担保債行為ヲ以テ及ヒ此質権ニ服スル各個ノ物ニ付テハ其物ノ価額ニ達スル担保債行為ヲ以テ之テ防止スルコトヲ得保証人ヲ以テスル担保債行為ハ除斥セラル 若シ賃貸人ノ質権ニ服スル物カ他ノ債権者ノ為メニ質入セラルヽトキハ其質権ハ他ノ債権者ニ対シテハ此質入前ノ末年ヨリ以前ノ時間ニ帰スル賃借料ニ付キ之ヲ行用スルコトヲ得ス 第五百二十二条 使用賃貸借関係ハ之ヲ結約シタル時間ノ満了ヲ以テ終止ス 若シ使用賃貸借時間カ定メラレサリシトキハ賃借人ニテモ賃貸人ニテモ予告ヲ以テ使用賃貸借関係ヲ解止スルコトヲ得 予告ハ不動産ニ付テハ一月一日四月一日七月一日十月一日ニ始マル四分一暦年ノ満了マテニ限リ之ヲ為スコトヲ許ス其予告ハ四分一暦年即チ其満了ヲ以テ使用賃貸借関係カ終止ス可キ四分一暦年ノ起始前ニ果成スルコトヲ要ス 若シ不動産ニ付キ賃借料カ月ヲ以テ限定セラレタルトキハ予告ハ暦月ノ満了マテニ限リ之ヲ為スコトヲ許ス其予告ハ遅クトモ月即チ其満了ヲ以テ使用賃貸借関係カ終止ス可キ月ノ第十五日ニ果成スルコトヲ要ス 若シ不動産ニ付キ賃借料カ週ヲ以テ限定セラレタルトキハ予告ハ暦週ノ満了マテニ限リ之ヲ為スコトヲ許ス其像告ハ遅クトモ週即チ其満了ヲ以テ賃貸借関係カ終止ス可キ週ノ月曜日ニ果成スルコトヲ要ス 動産ニ付テハ予告ハ遅クトモ使用賃貸借関係カ終止ス可キ当日ノ前第三日ニ果成スルコトヲ要ス 若シ不動産又ハ動産ニ付キ貸借料カ日ヲ以テ限定セラレタルトキハ予告ハ何レノ日ニテモ其翌日ニ至ルマテ之ヲ為スコトヲ許ス 第五百二十三条 若シ使用賃貸借契約カ三十年ヨリ長キ年数ニ及フ時間ヲ期シテ取結ハレタルトキハ使用賃貸借関係ハ三十年ノ満了後賃貸人ニテモ賃借人ニテモ第五百二十二条第三項第六項ニ照準シ予告ヲ以テ之ヲ終止スルコトヲ得此成規ハ若シ契約カ賃貸人又ハ賃借人ノ終身間ヲ期シテ取結ハレタルトキハ一モ之ヲ適用セス 第五百二十四条 若シ使用賃貸借時間ノ満了ノ後賃借人ニ於テ物ノ使用ヲ継続スルトキハ使用賃貸借関係ハ使用賃貸借時間ヲ定ムル無クシテ延長セラレタリト看做サル可シ但賃貸人又ハ賃借人カ二週ノ期間内ニ他ノ一方ニ対シ自己ノ反対ノ意思ヲ陳述スルトキハ此限ニ在ラス此期間ハ賃借人ニ対シテハ使用ノ継続ヲ以テ始マリ賃貸人ニ対シテハ賃貸人カ此継続ヲ識知シタル時点ヲ以テ始マル 第五百二十五条 若シ賃借人カ使用賃貸借時間ノ満了ノ後使用賃貸借関係ヲ延長スル無クシテ物ノ使用ヲ継続スルトキハ賃貸人ハ使用ノ継続スル時間中契約面ノ賃借料ト同額ナル損害賠償ヲ要求スルコトヲ得但其他ノ損害賠償ニ係ル請求権ハ此カ為メニ害セラルヽコト無シ 第五百二十六条 若シ賃借人カ死亡スルトキハ其相続人ニテモ賃貸人ニテモ縦令使用賃貸借関係カ長キ時間ヲ以テ結約セラレ又ハ長キ予告期間ヲ以テ合意セラレタルトキト雖モ尚ホ第五百二十二条第三項第六項ニ照準シ予告ヲ以テ其関係ヲ終止スルノ権利ヲ有ス 第五百二十七条 官吏又ハ軍人ハ他ノ地ニ移転スル場合ニ於テモ亦従来ノ住地又ハ屯営地ニテ自己又ハ其家族ノ使用ノ為メ賃借シタル住居ニ関シテハ長キ使用賃貸借時間又ハ長キ予告期間ヲ合意シタルニ拘ハラス第五百二十二条第三項ニ照準シ予告ヲ以テ使用賃貸借関係ヲ終止スルノ権利ヲ有ス 第五百二十八条 賃貸人ハ左ノ場合ニ於テハ予告期間ヲ守ル無クシテ将来ノ為メ契約ヨリ脱退スルコトヲ得 第一 賃借人又ハ賃借人ヨリ使用ヲ委付セラレタル者カ賃貸人ノ戒告ヲ顧ミスシテ物ニ付キ契約ニ背戻セル使用ヲ為シ殊ニ第三者ニ使用ヲ不当ニ委付シテ使用ヲ為シ又ハ賃借人ノ担任セル注意ヲ怠リテ物ヲ著シク危険ナラシムルトキ 第二 若シ賃借人カ交互継続セル二個ノ期間ニ於ケル賃借料ノ全部又ハ一分ノ弁済ヲ延滞シ且賃貸人カ契約脱退ノ陳述ヲ為シタル以前ニ賃貸人ニ未済ノ賃借料ヲ完全ニ弁済セサルトキ 第五百二十九条 賃借人ハ若シ契約面ノ使用ノ全部若クハ一分カ自已ノ責ニ帰セラル可キ情況無クシテ自己ニ供与セラレス若クハ正当ノ時期ニ供与セラレス若クハ後ニ至リ更ニ奪取セラレタルトキ又ハ若シ確保セラレタル性質ノ欠缺カ発生シタルトキハ予告期間ヲ守ル無クシテ将来ノ為メ契約ヨリ脱退スルコトヲ得此脱退ノ権利ハ若シ其受害ノ除治カ遅延無ク果成セラルヽトキハ除斥セラル然レトモ若シ其受害ノ除治カ即時果成セラレス且賃借人ノ特別ノ利益ニ於テ即時ノ脱退ヲ為スニ正当ナル理由有ルトキハ其脱退ハ之ヲ為スコトヲ許サル 使用ノ当然顕著ナラサル一分ノ抑留若クハ奪取又ハ当然顕著ナラサル時間中ノ抑留若クハ奪取ハ若シ賃借人ノ特別ノ利益ニ於テ脱退ヲ為スニ正当ナル理由有ルトキニ限リ脱退ノ権利ヲ生ス 第五百三十条 第五百九条第二項ニ依リ及ヒ第五百十条第五百二十八条第五百二十九条ニ依リテ生シタル脱退ノ権利ニハ第四百二十六条第四百三十一条第四百三十三条ノ成規ヲ適用シ又其脱退後ノ時間ニ係ル契約ノ作用ニ関シ並ニ此時間ノ為メニ果成セラレタル予先債行為ニ関シテハ第四百二十七条ノ成規ヲ適用ス賃借人ノ脱退ノ権利並ニ其賃借料減殺ノ権利ニ関シテハ右ノ外第三百八十二条第三百八十六条第三百八十九条乃至第三百九十一条第三百九十三条第三百九十四条ノ成規ヲ準用ス賃借人ノ過去ニ於ケル賃借料ヲ減殺スル権利ハ其契約ノ脱退ニ因リテ妨ケラルヽコト無シ 第二款 用益賃貸借 第五百三十一条 用益賃貸借契約ニ依リ賃貸人ハ用益賃貸借ニ付セラレタル目的物ノ使用及ヒ収益(果実収獲)ヲ用益賃貸借時間中賃借人ニ付与スルノ義務ヲ負ヒ賃借人ハ合意シタル反対債行為(用益賃借料)ヲ賃貸人ニ弁済スルノ義務ヲ負フ 第五百三十二条 使用賃貸借契約ニ関スル現行ノ成規ハ用益賃貸借契約ニ之ヲ準用ス但第五百三十三条乃至第五百四十八条ニ於テ別段ノ事項ヲ規定セサル分度ニ限ル 第五百三十三条 若シ用益賃借料カ用益賃貸借目的物ノ果実ノ分割部分ヨリ成立ス可キコト(一分用益賃貸借)ヲ合意シタルトキハ賃借人ハ賃貸人ノ同意ヲ得ル無クシテ他人ニ収益ヲ委付シ殊ニ用益転賃貸借(用益下賃貸借)ニ依リテモ亦他人ニ収益ヲ委付スルノ権利ヲ有セス 第五百三十四条 賃借人ハ果実又ハ其萌生ノ被ムレル事変ニ因リテ賃借料ノ満額ヲ弁済スルノ義務ヲ免カルヽコト無シ 第五百三十五条 若シ地所カ之ヲ利用スル為メニ効用有ル儲蔵品ト共ニ用益賃貸借ニ付セラレタルトキハ其各個ノ儲蔵品ノ保存及ヒ修理ハ賃借人ノ負担トス賃借人ハ果実ヲ結フ各個品ニ関シテハ其収益権ヲ有ス殊ニ獣畜ノ子ハ賃借人ニ属フ賃貸人ハ賃借人ノ責ニ帰ス可キ情況無クシテ滅失シタル各個品ヲ補充スルノ義務ヲ負フ 第五百三十六条 地所ノ賃借人ハ儲蔵品ニ係ル債権ニ関シテハ共ニ用益賃貸借ニ付セラレ自己ノ所持内ニ在ル儲蔵品ニ付キ法律上ノ質権ヲ有ス此質権ニハ第五百二十一条第四項ノ成規ヲ適用ス 第五百三十七条 若シ地所又ハ権利ノ用益賃貸借ニ在テ用益賃貸借時間カ定メラレタルニ非サルトキハ第五百二十二条第三項乃至第七項ノ成規ハ一モ之ヲ適用セス此成規ニハ左ノ成規カ換ハルモノトス即チ 予告ハ単ニ用益賃貸借年ノ終末ニノミ之ヲ為スコトヲ許ス用益賃貸借ノ第一年ハ用益賃貸借ノ起初ヲ以テ始マルモノトス其年ハ第百四十九条ニ照準シテ計算ス可シ此予告期間ハ六月トス 第五百九条ニ掲ケタル法律上ノ予告期間ノ起初及ヒ程度ハ第五百九条第五百十条第五百二十三条ノ適用ニ関シテモ亦前項ノ成規ニ依リテ定マル 第五百三十八条 第五百二十六条第五百二十七条ノ成規ハ用益賃貸借ニハ一モ之ヲ適用セス 第五百三十九条 農業上ノ地所ノ用益賃貸借ニハ第五百十七条第二項ノ成規ハ一モ之ヲ適用セス 第五百四十条 農業上ノ地所ノ用益賃借人ハ通常ノ修繕殊ニ住居建造物及ヒ農業建造物、道路及ヒ小径、溝渠及ヒ囲障ノ修繕ヲ自費ニテ果成ス可シ 第五百四十一条 農業上ノ地所ノ用益賃借人ハ其地所ノ従来ノ農治ニ係ル変更ニシテ用益賃貸借時間ヲ超ヱテ農治ノ種類ニ影響ヲ及ホスモノニ限リ用益賃貸人ノ同意ヲ得ルニ非サレハ其変更ヲ挙行スルコトヲ許サレス 第五百四十二条 第五百二十五条ノ成規ハ農業上ノ地所ノ用益賃貸借ニ関シテハ左ノ制限即チ用益賃貸人ハ用益貸借人カ一年又ハ二年以上ノ用益賃貸借年ノ全時間中収益ヲ得有シタル分度ニ限リ契約面ノ用益賃借料ト同額ナル損害賠償ヲ其賃借人ニ対シテ要求スルコトヲ得ルノ制限ヲ以テ之ヲ準用ス 第五百四十三条 農業上ノ地所ノ用益賃貸人ハ用益賃貸借契約ヨリ生スル自己ノ請求権ノ為メ用益賃借人ノ持込ミタル物ニ付テモ地所ニ生スル果実ニ付テモ法律上ノ質権ヲ有ス此質権ニハ第五百二十一条第一項乃至第四項ノ成規ヲ準用ス 第五百四十四条 若シ農業上ノ地所ヲ其利用ノ為メニ有用ナル儲蔵品ト共ニ目的物トスル用益賃貸借ニ付キ用益賃借人カ其儲蔵品ヲ評価表ニ依リテ引受ケ且評価表ニ依リテ返還ス可キコトヲ合意シタルトキハ左ノ成規ヲ適用ス即チ 用益賃借人ハ用益賃貸借時間中儲蔵品ノ滅失及ヒ変悪ノ危険ヲ担当ス 用益賃借人ハ地所ノ農業上利用ノ限域内ニ於テハ儲蔵品ノ各個ニ付キ処分スルコトヲ得 用益賃借人ハ儲蔵品ヲ自己ニ交付セラレタル現状ニ於テ農業ニ適準シテ維持スルコトヲ要ス 用益賃借人ノ新タニ仕入レタル各個品ハ之ヲ儲蔵品二編入スルニ依リテ用益賃貸人ノ所有ト為ル 用益賃借人ハ用益賃貸借ノ終止後其終止ノ時ニ存在シタル儲蔵品ヲ用益賃貸人ニ引渡スコトヲ要ス 用益賃貸人ハ秩序有ル農治ノ通例ニ依リ地所ノ情況ヲ斟酌シテ余計ノモノタルコト又ハ甚タ高価ノモノタルコトノ判然スル各個ノ儲蔵品ノ引受ヲ拒絶スルノ権利ヲ有ス此拒絶ト共ニ其拒絶セラレタル各個品ノ所有権ハ用益賃借人ニ移ル又其拒絶セラレタル各個品ハ返還評価表ノ作成ノ際之ニ加フルコトヲ得ス 若シ引受評価表ノ総計額カ返還評価表ノ総計額ヲ超過スルトキ又ハ之ニ反シテ返還評価表ノ総計額カ引受評価表ノ総計額ヲ超過スルトキハ第一ノ場合ニ在テハ用益賃借人カ用益賃貸人ニ超過額ヲ支払ヒ第二ノ場合ニ在テハ用益賃貸人カ用益賃借人ニ超過額ヲ支払フコトヲ要ス 第五百四十五条 農業上ノ地所ノ用益賃借人ハ用益賃貸借時間ノ満了ノ後ハ左ノ予定条件即チ地所カ用益賃貸借全時間中返還ノ時ニ至ルマテ農業上ノ通例ニ依リ秩序ヲ以テ農治セラレタルコトノ予定条件附ニテ自ラ表顕スル所ノ農業上現状ニ於テ其地所ヲ返還スルノ義務ヲ負フ此規定ハ殊ニ耕作儲蔵品ニ之ヲ適用ス 第五百四十六条 若シ農業上ノ地所ノ用益賃借人カ用益賃貸借ノ開始ノ際農業ヲ営為スル為メニ供セラレタル耗尽物殊ニ藁、肥料、飼養穀類及ヒ種子ヲ委付セラレタルトキハ其貸借人ハ用益賃貸借ノ終止ノ際同一ノ種類、好良及ヒ数量ノ儲蔵品ヲ返還スルコトヲ要ス 第五百四十七条 包括地ノ用益賃借人即チ農業ヲ営ム為メニ併合セラレタル二個以上ノ地所ノ用益賃借人ハ用益賃貸借ノ終止ノ際其地所ニ存在セル農業上ノ産生物ノ中ヨリ左ノ数量即チ其後同一又ハ類似ノ産生物ヲ見積上ニ於テ収得スル時期ニ至ルマテ農業ヲ継続スル為メ必要ナル分度ノ数量ヲ残留シ並ニ其終止ノ際存在セル必要ノ肥料ヲ残留スルコトヲ要ス又其用益賃借人ハ縦令用益賃貸借ノ開始ノ際此ノ如キ目的物ヲ領受セス又ハ同一ノ数量若クハ良好ニ於テ領受セサリシトキト雖トモ亦此残留ノ義務ヲ負フ然レトモ用益賃貸人ハ用益賃借人ノ残留ス可キモノカ用益賃貸借ノ開始ノ際之ニ委付シタルモノヨリ多額ナル分度又ハ其モノヨリ良性質ナル分度ニ限リ用益賃借人ニ対シ価額賠償ヲ為スノ義務ヲ負フ 第五百四十八条 若シ農業上ノ地所ノ用益賃貸借ノ際其地所ノ農業上ノ現状及ヒ賃借人ニ委付セラル可キ儲蔵品ヲ評償表ニ依リテ引受ケ及ヒ評価表ニ依リテ返還ス可キコトヲ合意シタルトキハ返還ノ義務及ヒ両評価表ノ比較ニ因リテ生スル超過額支払ノ義務ニ関シテハ左ノ制限即チ返還評価表ノ作成ニ当リテハ単ニ用益賃借人ノ残留ス可キ義務ヲ負ヘル儲蔵品ノミヲ評価表ニ加フ可シトスルノ制限ヲ以テ第五百四十四条ノ成規ヲ準用ス 第六節 使用貸借 第五百四十九条 何人タリトモ無償使用ノ為メ他人ヨリ物ヲ領受シタル者(借受人)ハ物ヲ単ニ契約ニ適準シテ使用シ及ヒ他人(貸与人)ニ同一ノ物ヲ契約面ノ時期ニ於テ返還スルノ義務ヲ負フ又貸与人ハ右ノ時期ニ至ルマテハ契約ニ適準セル物ノ使用ヲ仍ホ借受人ニ任置スルノ義務ヲ負フ 第五百五十条 貸与人並ニ物ノ貸与ヲ約束シタル者ハ自已ノ義務ノ不履行ニ付テハ故意又ハ太甚ナル過誤ノ責カ自已ニ帰スルトキニ限リ借受人ニ対シテ費任ヲ負フ 第五百五十一条 貸与人並ニ物ノ貸与ヲ約束シタル者ハ契約取結ノ当時自已ノ権利ニ関シテ既ニ存シタル欠缺ニ付テモ物ノ欠缺ニ付テモ殊ニ確保シタル性質ノ欠缺ニ付テモ借受人ニ対シテ責任ヲ負フコト無シ 然レトモ若シ貸与人カ自己ノ権利ニ関スル欠缺又ハ物ノ欠缺ヲ契約取結ノ際ニ識知シ且之ヲ借受人ニ黙秘シタルトキハ貸与人ハ借受人ニ対シ此ニ因リテ惹起シタル損害ヲ賠償スルノ義務ヲ負フ 第五百五十二条 借受人ハ物ノ使用ヲ他人ニ委付スルノ権利ヲ有セス 第五百五十三条 借受人ハ物ノ使用ニ因リテ惹起シタル立替金ヲ担当シ又獣畜ノ貸借ニ在テハ飼養ノ費用ヲモ亦担当ス可シ 貸与人ハ借受人ニ対シ物ニ付テ支弁セラレタル必要ノ費用ヲ賠償スルノ義務ヲ負フ其他費用ノ賠償ニ係ル借受人ノ請求権ハ無委任業務執行ニ関スル原則ニ依リテ定マル借受人ハ右ノ外尚ホ費用ヲ支弁シタルニ因リ成立セル搆造ヲ取去ルノ権利ヲ有ス但第五百五十四条ノ成規ハ此カ為ニ害セラルヽコト無シ 第五百五十四条 借受人ハ物ヲ領受シタルト同一ノ現状ニ於テ其物ヲ返還スルノ義務ヲ負フ然レトモ契約ニ適準セル使用ニ因リ、年数ニ因リ又ハ其他自己ノ責ニ帰ス可カラサル情況ニ因リテ起生シタル変更及ヒ変悪ニ付テハ責任ヲ負ハス 第五百五十五条 若シ物カ一定ノ目的ノ為メニ貸与セラレタルトキハ借受人ハ其目的トセラレタル使用ヲ為シタルトキハ其物ヲ返還スルコトヲ要ス然レトモ貸与人ハ目的トセラレタル使用ヲ借受人カ為スコトヲ得タル可カリシ時間ノ経過シタルトキハ未タ使用ヲ為サヽル前ト雖モ既ニ其物ノ取戻要求ヲ為スコトヲ得 第五百五十六条 若シ使用ノ時間ヲモ目的ヲモ定メサリシトキハ貸与人ハ何時タリトモ物ノ取戻要求ヲ為スノ権利ヲ有ス 第五百五十七条 貸与人ハ左ノ場合ニ於テハ将来ノ為メ契約ヨリ脱退スルコトヲ得 第一 若シ借受人カ物ニ付キ契約ニ背戻セル使用ヲ為シ殊ニ第三者ニ使用ヲ委付シテ使用ヲ為ストキ又ハ若シ借受人カ自己ノ担任スル注意ヲ怠リテ物ヲ著シク危険ナラシムルトキ 第二 若シ貸与人カ予知ス可ラサル情況ノ結果ニ於テ自己ニ物ヲ要スルトキ 第三 若シ借受人カ死亡スルトキ 第五百五十八条 使用貸借ニ関スル成規ハ物ノ無償使用カ随意取消ノ留保附ニテ他人ニ委付セラレタルトキニモ亦之ヲ適用ス 第七節 労役契約及ヒ作功契約 第一款 労役契約 第五百五十九条 労役契約ニ依リ労役ヲ約束スル者(労役義務者)ハ他ノ一方ノ結約者(労役権利者)ニ対シ其合意シタル労役債行為ヲ果成スルノ義務ヲ負ヒ労役権利者ハ労役義務者ニ対シ其合意シタル報償ヲ弁済スルノ義務ヲ負フ此契約ノ目的物ハ各種ノ労役タルコトヲ得 報償ハ若シ労役債行為カ情況ニ随ヒ単ニ報償ニ対シテノミ期望セラル可キモノナルトキハ黙示ニテ合意セラレタリト看做サル可シ 第五百六十条 労役ノ為メノ報償ハ労役債行為ノ終了後始メテ労役権利者ヨリ之ヲ弁済ス可シ然レトモ若シ報償カ一定ノ時期ヲ以テ限定セラレタルトキハ各個ノ時期ノ満了後之ヲ弁済ス可シ 第五百六十一条 若シ労役権利者カ労役ノ諾受ヲ延滞スルトキハ労役義務者ハ労役ノ向後債行為ヲ果成スルノ義務ヲ負フコト無クシテ其延滞ノ時間ノ為メ契約面ノ報償ヲ請求スルノ権利ヲ有ス第三百六十八条第二項第二段ノ成規ハ之ヲ準用ス 第五百六十二条 経久労役義務者ノ取得行為ヲ完全ニ又ハ主トシテ要スル労役関係ニ在テハ労役義務者ハ自己ノ過失無クシテ其一身ニ存セル原由ノ為メ顕著ナラサル時間労役債行為ヲ妨碍セラルヽモ此カ為メニ其契約面ノ報償ヲ請求スルノ権利ヲ喪フコト無シ 第五百六十三条 若シ労役時間カ指定セラレサリシトキハ労役権利者ニテモ労役義務者ニテモ予告ヲ以テ労役関係ヲ解止スルコトヲ得此予告期間ハ二週トス 第五百六十四条 若シ労役契約カ十年ヨリ長キ年期ニ及フ時間ヲ期シテ取結ハレ又ハ人ノ終身間ヲ期シテ取結ハレタルトキハ其労役関係ハ十年ノ満了後労役義務者ヨリ予告ヲ以テ之ヲ解止スルコトヲ得此場合ニ在テハ予告期間ハ六月トス 前項ノ成規ハ若シ労役義務者カ他人ヲシテ労役債行為ヲ果成セシムコトヲ許サレタルトキハ一モ之ヲ適用セス 第五百六十五条 若シ労役時間ノ満了後労役債行為カ労役権利者ノ識知ヲ以テ且異議無クシテ継続セラルヽトキハ其労役関係ハ労役時間ヲ指定セスシテ延長セラレタリト看做サル可シ 第五百六十六条 結約者ノ各人ハ若シ場合ノ情況ニ随ヒテ脱退ヲ為スニ正当ナル重要ノ原由ノ存スルトキハ合意シタル労役時間ノ満了前ト雖トモ尚ホ予告期間ヲ守ル無クシテ将来ノ為メ契約ヨリ脱退スルコトヲ得若シ其原由カ他ノ一方ノ契約背戻ノ所為ニ存スルトキハ其一方ハ脱退者ニ損害賠償ヲ為スノ義務ヲ負フ 脱退ノ権利ニハ第四百二十六条ノ成規ヲ適用シ又脱退後ノ時間ニ於ケル契約ノ作用並ニ此時間ノ為メ果成シタル予先債行為ニ関シテハ第四百二十七条ノ成規ヲ適用ス 第二款 作功契約 第五百六十七条 作功契約ニ依リ引受人ハ其引受ケタル作功物ヲ製作スルノ義務ヲ負ヒ嘱託者ハ此カ為メ合意シタル報償ヲ弁済スルノ義務ヲ負フ 報償ハ若シ作功物ノ製作カ情況ニ随ヒ単ニ報償ニ対シテノミ期望セラル可キモノナルトキハ黙示ニテ合意セラレタリト看做サル可シ 第五百六十八条 若シ引受人カ自己ノ供出ス可キ原料ヲ以テ作功物ヲ製作シ嘱託者ニ供給スルノ義務ヲ負ヒタルトキハ別段ノ合意ヲ為シタルニ非サル限リハ此契約ニハ売買契約ニ適用スル成規ヲ適用ス 若シ引受人カ単ニ附帯原料又ハ従タル物ノ供出ヲ為スノミノ義務ヲ負ヒタルトキハ作功契約ニ関スル成規ヲ適用ス又若シ引受人ニ於テ供出ス可キ原料ヲ以テ建造物ヲ嘱託者ノ供出ス可キ土地ノ上ニ製作ス可キトキニモ亦前段ト同一ナリトス 第五百六十九条 引受人ハ作功物カ確保セラレタル性質ヲ有スル様及ヒ作功物カ其価直若クハ通常ノ使用又ハ契約ヲ以テ予定シタル使用ノ為メノ堪能ヲ廃滅シ若クハ減少スル欠缺ヲ有セサル様之ヲ製作スルノ義務ヲ負フ若シ作功物カ此等ノ性質ヲ有スルモノニ非サルトキハ嘱託者ハ引受人ニ対シ自己ノ指定ス可キ相当ノ期間内ニ其欠缺ノ除去ヲ求ムルコトヲ得引受人ハ若シ其欠缺ノ除去カ不相当ナル費用ヲ惹起ス可カリシトキハ其除去ヲ為スノ義務ヲ負フコト無シ 若シ欠缺ノ除去カ不可能ノモノタリ又ハ不相当ナル費用ヲ要スル為メニ引受人ヨリ拒絶セラレ又ハ嘱託者ノ指定シタル相当ノ期間内ニ果成セラレサルトキハ嘱託者ハ自己ノ選択ヲ以テ契約ヨリ脱退シ又ハ反対債行為ノ減殺ヲ求ムルコトヲ得其脱退ノ権利及ヒ減殺ノ権利ニハ第三百八十九条乃至第三百九十四条第四百二十六条乃至第四百三十一条第四百三十三条ノ成規ヲ準用ス脱退ノ権利ハ若シ欠缺ニ因リテ作功物ノ価直又ハ堪能カ単ニ顕著ナラサル分量ニ於テノミ減少セラルヽトキハ除斥セラル 若シ欠缺カ引受人ノ責ニ帰スル情況ニ因リテ生スルトキハ嘱託者ハ右ノ外ニ不履行ニ付テノ損害賠償ヲ請求スルノ権利ヲ有ス 第一項乃至第三項ノ成規ハ若シ作功物ノ全部又ハ一分カ正当ノ時期ニ製作セラレサルトキハ之ヲ準用ス然レトモ第二百四十七条第二項及ヒ第三百六十一条第三百六十九条ノ成規ハ此カ為メニ害セラルヽコト無シ 第五百七十条 作功物ノ欠缺ニ付テノ引受人ノ責任ハ契約ヲ以テ之ヲ拡弘シ之ヲ制限シ又ハ之ヲ免除スルコトヲ得 其免除又ハ制限ハ若シ引受人カ欠缺ヲ識知シ且之ヲ嘱託者ニ黙秘シタルトキハ無作用タリ 第五百七十一条 其存在スル欠缺ノ除去ニ係ル嘱託者ノ請求権並ニ其欠缺ノ為メ嘱託者ニ属スル反対債行為ノ減殺ニ係ル請求権ハ時効ノ成就シタル後ハ嘱託者ハ抗弁ノ方法ヲ以テスルモ亦復其権利ヲ行用スルコトヲ得サルノ効果ヲ以テ動産ニ関シテハ六月ノ時効ニ服シ不動産ニ関シテハ一年ノ時効ニ服シ建造物ニ関シテハ五年ノ時効ニ服ス 損害賠償ニ係ル請求権ハ引受人カ欠缺ヲ識知シ且之ヲ黙秘シタルニ因リ生セサルモノニ限リ前項ト同一ナル期間ノ満了ヲ以テ時効ニ罹ル 右ノ期間ハ契約ヲ以テ通常ノ時効期間ニ至ルマテ之ヲ延長スルコトヲ得 時効ハ嘱託者カ作功物ヲ引取リタル時点ヲ以テ始マル 作功物ノ欠缺ノ為メ嘱託者ノ為ス契約ノ脱退ハ欠缺ノ除去ニ係ル請求権又ハ反対債行為ノ減殺ニ係ル請求権ノ時効ニ罹ラサル時間ニ限リ之ヲ許ス 第五百七十二条 嘱託者ハ契約ニ適準シテ製作セラレタル作功物ヲ引取ルノ義務ヲ負フ又嘱託者ハ価直又ハ堪能ヲ単ニ顕著ナラサル分量ニ於テノミ減少スル欠缺ノ為メ其引取ヲ拒絶スルコトヲ得ス若シ嘱託者カ欠缺ヲ識知セルニ拘ハラス欠缺ノ存スル作功物ヲ引取リタルトキハ嘱託者ハ其引取ノ際ニ欠缺ノ為メ自己ノ権利ヲ留保シタルトキニ限リ第五百六十九条第一項乃至第三項ニ掲ケタル権利ヲ有ス 第五百七十三条 嘱託者ハ自己ノ負担スル反対債行為ヲ作功物ノ製作ノ後之ヲ引取ルノ際果成スルコトヲ要ス 若シ作功物ヲ一分ツヽ引取ル可キ場合ニ於テ各個ノ部分ニ付キ反対債行為ヲ確定シタルトキハ各個ノ部分ニ付テノ反対債行為ハ各個部分ノ製作ノ後引取ルノ際之ヲ果成スルコトヲ要ス 若シ嘱託者カ反対債行為トシテ金銭計額ヲ支払フ可キトキハ作功物ノ引取ノ時点ヨリ其計額ニ利息ヲ附スルノ義務ヲ負フ但反対債行為ノ猶予セラレタルトキハ此限ニ在ラス 第五百七十四条 引受人ハ労役及ヒ立替金ニ係ル自己ノ債権ニ関シテハ自己ノ製造シ又ハ仕直シタル嘱託者ノ動産ニシテ仍ホ自己ノ所持内ニ在ルモノニ付キ法律上ノ質権ヲ有ス 第五百七十五条 若シ嘱託者カ作功物ノ製作ノ起初ノ際又ハ其製作ノ時間中ニ諾受ヲ延滞スルトキハ引受人ハ相当ノ報償ヲ請求スルノ権利ヲ有ス其報償ハ一方ニ在テハ延滞ノ存続時間及ヒ合意シタル反対債権ノ多寡ニ依リ又他ノ一方ニ在テハ引受人カ延滞ノ結果ニ於テ費用ヲ節減シタルモノ及ヒ自己ノ労役能力ヲ他ノ方法ニテ換価セルニ因リテ取得シタルモノニ依リテ定マル 第五百七十六条 引受人ハ作功物ノ引取ニ至ルマテハ危険殊ニ作功物ノ意外ノ滅失及ヒ意外ノ変悪ノ危険ヲ担当シ嘱託者ハ作功物ノ製作ノ為メ自己ノ供出シタル原料ノ意外ノ滅失及ヒ意外ノ変悪ノ危険ヲ担当ス若シ嘱託者カ諾受ヲ延滞スルトキハ作功物ノ意外ノ滅失及ヒ意外ノ変悪ノ危険ハ嘱託者ニ移ル 第五百七十七条 若シ作功物カ嘱託者又ハ引受人ノ責ニ帰ス可キ情況ノ交加スルニ非スシテ嘱託者ノ供給シタル原料ノ欠缺ノ結果ニ於テ又ハ嘱託者ヨリ実施ノ為メニ与ヘタル指図ノ結果ニ於テ引取ノ前ニ滅失シ又ハ実施スルコトヲ得サルモノト為リタルトキハ引受人ハ自己ノ既ニ果成シタル労役ニ相当セル反対債行為ノ一分ヲ請求スルノ権利ヲ有ス又引受人ハ右ノ外立替金カ反対債行為ト共ニ尚ホ賠償セラル可キ分度ニ限リ其立替金ノ賠償ヲ請求スルノ権利ヲ有ス 第五百七十八条 嘱託者ハ作功物ノ完成ニ至ルマテハ何時ニテモ契約ヨリ脱退スルノ権利ヲ有ス但第三百六十八条第二項ニ照準シテ引受人ノ反対債行為ヲ請求スルノ権利ハ此カ為メニ害セラルヽコト無シ 第五百七十九条 物ノ製作又ハ変造ヲ目的物ト為セルニ非スシテ作業債行為又ハ労役債行為ニ因リテ果成セラル可キ他種類ノ果功ヲ目的物ト為セル契約ニハ左ノ制限ヲ以テ第五百六十七条乃至第五百七十八条ノ成規ヲ準用ス即チ 第一 第五百七十一条第五百七十三条第一項第二項及ヒ第五百七十六条第五百七十七条ノ成規ヲ適用スルニ当リテハ引取カ情況ニ因リテ除斥セラレタル場合ニ限リ引受人ノ負担セル債行為ノ完成カ其引取ニ換ハルモノトス 第二 第五百七十一条第一項第二項ノ成規ヲ適用スルニ当リテハ時効期間ハ総テノ場合ニ於テ六月ノ期間トス 第三款 仲立契約 第五百八十条 若シ某人カ他人ニ対シ一定ノ契約ヲ取結フ為メニ適切ナル人ノ告知若クハ一定ノ契約目的物ノ告知ニ関シ又ハ一定ノ契約ノ媒介ニ関シ報酬(仲立人手数料)ヲ約束シタルトキハ他人(仲立人)ハ若シ其報酬ヲ約束シタル者カ告知セラレタル人ト契約ヲ取結ヒ又ハ告知セラレタル目的物ニ付キ又ハ仲立人ノ媒介ノ結果ニ於テ契約ヲ取結ヒタルトキニ限リ其手数料ヲ求ムルコトヲ得 若シ契約カ第三者ト停止ノ設若条件附ニテ剰取結ハレタルトキハ仲立人ハ其条件ノ成就シタルトキ始メテ仲立人手数料ニ係ル請求権ヲ有ス 第八節 懸賞募功 第五百八十一条 若シ某人カ公告ヲ以テ其公告ニ記載シタル作功物ノ製作又ハ公告ニ記載シタル其他ノ行為ヲ完成シタル可キ者ニ賞与ヲ約束スル(懸賞募功)トキハ某人ハ其行為ヲ公告ニ照準シテ完成シタル者ニ対シ其約束ヲ履行スルノ義務ヲ負フ 行為ハ懸賞募功ヲ識知シ且之ヲ眷顧シテ完成セラレタルモノナルコトヲ要セス但懸賞募功ニ於テ別段ノ事項ヲ規定シタルモノハ此限ニ在ラス 第五百八十二条 懸賞募功ハ行為ノ未タ完成セラレサル間之ヲ取消スコトヲ得其取消ハ懸賞募功ヲ公告シタルト同一ノ方法ニ於テ公告シタルトキニ限リ作用ヲ生ス取消ノ権利ハ懸賞募功ニ於テ之ヲ放棄スルコトヲ得此ノ如キ放棄ハ疑ノ存スル場合ニ在テハ若シ懸賞募功ニ於テ行為ヲ完成スル為メノ時間カ指定セラレタルトキ之ヲ為シタリト推認セラル可シ 第五百八十三条 若シ二人以上ノ者カ行為ヲ完成シタルトキハ其行為ヲ最初ニ完成シタル者カ賞与ニ付テノ請求権ヲ有ス 同時ニ完成シタル場合ニ在テハ二人以上ノ者ハ賞与ニ関シテハ平等部分即平等持分ニ付キ権利ヲ有ス若シ此ノ如キ権利カ賞与ノ性質ニ依リテ除斥セラレタルトキ又ハ単ニ一人ノミカ賞与ヲ受ク可キコトノ懸賞募功ニ依リテ表顕スルトキハ二人以上ノ者ノ間ニ於テ抽籤ヲ以テ之ヲ裁定ス 第五百八十四条 若シ懸賞募功カ懸賞解題ニ係ルトキハ其懸賞募功ハ公告ニ解題ノ為メノ時間ヲ指定シタルトキニ限リ有効ナリ此ノ如キ懸賞募功ニハ第五百八十三条第一項ノ成規ハ一モ之ヲ適用セス 解題者ノ行為カ懸賞募功ニ適応スルヤ否又二人以上ノ解題者ノ行為ノ其孰レカ優等ヲ得ルヤ否ノ裁定ハ懸賞募功ニ明記セラレタル人カ之ヲ果成ス若シ此ノ如キ明記ノ缺クルトキハ懸賞募功者カ之ヲ果成ス其裁定ニ対シテハ抗争スルコトヲ得サルモノトス 若シ二人以上ノ解題者ノ行為カ同一ノ賞与価格ヲ有スルモノナルトキハ第五百八十三条第二項ノ成規ヲ準用ス 若シ懸賞募功ノ結果ニ於テ解題者カ作功ヲ供給シタルトキハ懸賞募功者ハ作功ニ付テハ一モ請求権ヲ得有セス但懸賞募功ニ依リテ別段ノ事項ノ表顕セサルモノニ限ル 第九節 委任 第五百八十五条 委任ノ諾受ニ依リ受委任者ハ与委任者ヨリ自己ニ委任セラレタル業務ヲ与委任者ノ為メニ摂理スルノ義務ヲ負フ 第五百八十六条 与委任者ハ委任ノ執行ノ為メ受委任者ニ報酬ヲ与フルノ義務ヲ負フコトヲ得報酬ハ若シ委任ノ執行カ情況ニ随ヒ単ニ報酬ニ対シテノミ期望セラル可キモノナルトキハ黙止ニテ合意セラレタリト看做サル可シ 第五百八十七条 或ル業務ノ摂理ノ為メ公示ニテ嘱任セラレ又ハ公示ニテ自ラ言込タル某人カ此ノ如キ業務ニ関スル委任ヲ諾受セサルトキハ其拒絶ヲ遅延無ク与委任者ニ通知スルノ義務ヲ負フ 第五百八十八条 疑ノ存スル場合ニ於テハ受委任者カ委任ヲ自身ニ執行スルノ義務ヲ負ヒタリト推認セラル可シ 第五百八十九条 若シ受委任者カ適正ノ方法ニテ業務ノ摂理ヲ第三者ニ転付シタルトキハ単ニ此転付ニ関シテ自己ノ責ニ帰スル過誤ニ付テノミ責任ヲ負フ若シ受委任者カ適正ノ方法ニテ委任ノ執行ニ関シ手伝人ヲ要シタルトキハ第二百二十四条第二項ノ成規ヲ適用ス 第五百九十条 受委任者ハ若シ与委任者カ事情ヲ識知シタル可カリシナラハ其指図ニ変違シタルコトヲ可認シタル可カリシトノ推認ヲ生スル情況ノ存スルトキハ委任ノ執行ニ際シ与委任者ノ指図ニ変違スルコトヲ得然レトモ受委任者ハ変違スル以前ニ成ル可ク与委任者ニ通知ヲ為シ且其裁定ヲ受クルコトヲ要ス 第五百九十一条 受委任者ハ与委任者ニ対シ委任ノ執行ニ付キ行為弁疏ノ責ヲ卸脱スルノ義務ヲ負フ又財産ノ管理ニ関シテハ与委任者ニ対シ収入支出ノ順整ナル輯集ヲ含ミ且証書ヲ具ヘタル計算書ヲ呈出スルコトヲ要ス 第五百九十二条 受委任者ハ委任ヲ執行スル為メ領受シタルモノ並ニ収入シタル果益ヲ併セ委任ノ執行ニ因リテ取得シタルモノヲ与委任者ニ呈出スルノ義務ヲ負フ 第五百九十三条 若シ受委任者カ与委任者ニ呈出ス可キ金銭又ハ与委任者ノ為メニ費用ス可キ金銭ヲ自己ノ利益ニ費用シタルトキハ其費用ノ時ヨリ其金銭ニ利息ヲ附スルノ義務ヲ負フ 第五百九十四条 若シ委任ヲ執行スル為メ費用ヲ要スルトキハ与委任者ハ受委任者ノ求ニ依リ之ニ費用支払ノ為メ必要ナル前貸債行為ヲ果成ス可シ 第五百九十五条 若シ受委任者カ費用ヲ支出シタルトキハ与委任者ハ其費用カ委任ヲ執行スル為メ必要ト為リタル限度ニ於テ之ヲ賠償スルノ義務ヲ負フ其必要ト為リタリト看做サル可キ費用ハ受委任者カ尋常家父ノ為ス可キ注意ヲ用ユルニ於テハ委任執行ノ為メ必要ナリト推認セラル可カリシ費用ナリトス 与委任者ハ金銭ノ費用ニハ其費用ノ時ヨリ利息ヲ附スルコトヲ要ス 与委任者ハ第一項ニ掲ケタル予定条件附ニテ亦左ノ義務即チ受委任者ヲシテ委任執行ノ為メ引受ケタル義務ヲ免カレシムルノ義務ヲ負フ然レトモ与委任者ハ此免義務ニ換ヘテ受委任者ニ対シ其引受ケタル義務ノ履行ニ因リテ受委任者ノ為メニ生ス可カリシ賠償請求権ニ付キ担保債行為ヲ果成スルコトヲ得若シ其引受ケタル義務カ満期ト為リタル金銭債務ヨリ成立スルトキハ受委任者ハ其義務履行ノ為メ必要ナル金銭計額ノ支払ヲ与委任者ニ対シ要求スルノ権利ヲ有ス 第五百九十六条 与委任者ハ委任執行ノ後ニ於テ受委任者ニ合意ノ報酬ヲ弁済スルノ義務ヲ負フ 若シ委任ノ執行ヲ開始シタル後其以後ノ執行カ不可能ト為リタルトキ又ハ委任カ其執行ヲ開始シタル後殊ニ与委任者ノ取消ニ因リテ消滅シタルトキハ受委任者ハ其時マテノ自己ノ債行為ニ相当スル報酬ノ部分ニ付キ請求権ヲ有ス但報酬ニ関スル合意ニ依リテ別段ノ事項カ表顕セサル分度ニ限ル 第五百九十七条 与委任者ハ受委任者ニ対シ発ス可キ陳述ヲ以テ何時タリトモ委任ヲ取消スコトヲ得 此取消ノ権利ハ之ヲ放棄スルコトヲ得ス 第五百九十八条 受委任者ハ与委任者ニ対シ発ス可キ陳述ヲ以テ何時タリトモ委任解止ノ予告ヲ為スコトヲ得 予告ハ与委任者カ委任シタル業務ノ為メ以後ノ処弁ヲ為スコトヲ得ルノ方法ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ為スコトヲ許サス 若シ不時ニ於テ予告ヲ為シタルトキハ受委任者ハ此ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スルノ責任ヲ負フ此責任ハ場合ノ情況ニ随ヒ予告ヲ為スニ正当ナル重要ノ原由ノ存セシトキハ生スルコト無シ此ノ如キ原由ハ若シ受委任者カ予告ノ権利ヲ放棄シタルトキト雖モ受委任者ニ予告ヲ為スノ権利ヲ与フルモノトス 第五百九十九条 委任ハ与委任者ノ死亡ヲ以テ消滅スルコト無シ但契約ニ依リテ結約者等ノ別段ノ意思カ表顕セサルモノニ限ル 若シ委任カ与委任者ノ死亡ニ因リテ消滅シタルトキハ受委任者ハ遅延ノ恐レ有ル時及ヒ其分度ニ限リ与委任者ノ相続人カ以後ノ処弁ヲ為スコトヲ得タルニ至ルマテノ間其受委任ノ業務ヲ摂理スルコトヲ要ス此業務摂理ニ関シテハ委任カ仍ホ存続スルモノト看做サル可シ 第六百条 第五百九十九条ノ成規ハ与委任者カ行為無能力ト為リ又ハ行為能力ヲ制限セラルヽ場合ニ之ヲ準用ス 第六百一条 委任ハ受委任者ノ死亡ニ因リテ消滅ス但契約ニ依リテ結約者等ノ別段ノ意思カ表顕セサルモノニ限ル 若シ委任カ受委任者ノ死亡ニ因リテ消滅シタルトキハ其相続人ハ与委任者ニ遅延無ク死亡ヲ通知スルコトヲ要ス又遅延ノ恐レ有ル時及ヒ其分度ニ限リ与委任者カ以後ノ処弁ヲ為スコトヲ得タルニ至ルマテノ間其受委任ノ業務ヲモ亦摂理スルコトヲ要ス此業務摂理ニ関シテハ委任カ仍ホ存続スルモノト看做サル可シ 第六百二条 委任ハ若シ受委任者ノ財産ニ付キ破産ノ開始セラレタルトキハ委任カ其財産ニ一モ関係ヲ有セサル場合ヲ除クノ外ハ消滅ス若シ委任カ消滅シタルトキハ第五百九十九条第二項ノ成規ヲ準用ス 第六百三条 若シ委任カ設若条件無キ取消ニ依リテ消滅スルニ非スシテ他ノ原由ニ依リテ消滅シタルトキハ其委任ハ受委任者ニ属スル権利ニ関シテハ受委任者カ消滅ヲ起発スル事実ヲ識知シ又ハ識知スルコトヲ要シタル可カリシニ至ルマテノ間仍ホ存続スルモノト看做サル可シ 第六百四条 何人タリトモ他人ニ助言又ハ紹介ヲ為シタル者ハ只タ詭偽ノ行為ヲ為シタルトキニノミ其助言又ハ其紹介ヲ遵行シタルニ因リテ他人ニ生シタル損害ヲ賠償スルノ責任ヲ負フ但契約ノ関係又ハ職務上ノ義務ニ依リテ尚ホ大ナル責任ノ表顕セサルモノニ限ル 第十節 伝示証券 第六百五条 若シ甲者カ丙者ニ対シテ「債行為ヲ乙者ニ果成ス可シ」ト催告スル証書〔伝示証券〕ヲ乙者ニ交付スルトキハ乙者〔伝示証券領受者〕ハ自己ノ名ニ於テ丙者〔被伝示者〕ニ就テ其債行為ヲ徴収スルノ権限ヲ受有シ又被伝示者ハ伝示者ヨリ之ニ別段ノ通知ヲ為スコトヲ要スル無クシテ催告者(伝示者)ノ計算ノ為メ伝示証券領受者ニ其債行為ヲ果成スルノ権限ヲ受有ス 第六百六条 若シ被伝示者カ伝示者ニ対シテ伝示証券ヲ諾受スルトキハ被伝示者ハ伝示者ニ対シテ受委任者ノ与委任者ニ対スル如クニ其伝示ヲ遵守スルノ義務ヲ負フ 第六百七条 若シ被伝示者カ伝示証券領受者ニ対シテ伝示証券ニ附記ヲ為シ書面ニテ伝示ノ諾受ヲ陳述シタルトキ又ハ伝示者ヨリ伝示証券領受者ニ交付シタル伝示証券カ既ニ被伝示者ノ書面ヲ以テシタル諾受陳述ヲ具ヘタルトキハ被伝示者ハ其諾受陳述ニ因リ伝示証券受領者ニ債行為ヲ果成スルノ義務ヲ負フ被伝示者ハ伝示証券領受者ニ対シテハ単ニ諾受陳述ノ効力ニ関スル異議又ハ伝示証券及ヒ諾受陳述ノ含旨ニ基因シ若クハ自己ト被伝示者トノ間ニ存立スル人上ノ権利関係ニ基因スル異議ノミ其効用ヲ致サシムルコトヲ得 第六百八条 若シ被伝示者カ伝示証券ニ照準シテ伝示証券領受者ニ債行為ヲ果成シタルトキハ被伝示者ハ自已ト伝示者トノ間ニ為シタル合意ニ因リ別段ノ事項ノ表顕セサル限度ニ於テ伝示者ノ受委任者ノ如クニ伝示者ニ対シテ其果成債行為ノ目的物ノ賠償ヲ要求スルノ権利ヲ有ス債務ニ基ケル伝示証券ニ在テハ被伝示者ハ債行為ニ因リ其債行為ノ額ニ於テ債務ヲ免カル 第六百九条 若シ伝示者カ躬カラ伝示証券領受者ニ債行為ヲ果成スルノ目的ヲ以テ伝示証券ヲ伝示証券領受者ニ交付シタルトキハ其債行為ハ縦令ヒ被伝示者カ伝示証券領受者ニ対シテ伝示証券ヲ諾受シタルトキト雖モ其債行為ノ領受ヲ以テ始メテ果成セラレタリト看做ス 第六百十条 伝示証券領受者ハ疑ノ存スル場合ニ在テハ伝示者ノ受委任者ノ如クニ被伝示者ニ対シ債行為ヲ果成セシムル為メニ催告スルノ義務ヲ負フ 第六百十一条 若シ被伝示者カ伝示証券ノ債行為若クハ諾受ノ全部若クハ一分ヲ拒却スルトキ又ハ伝示証券領受者カ伝示証券ヲ行使スル能ハス若クハ行使スルヲ欲セサルトキハ伝示証券領受者ハ其旨ヲ伝示者ニ遅延無ク通知スルノ義務ヲ負フ又伝示証券受領者ハ伝示者ニ対シ此通知ノ不作為ニ因リテ生シタル損害ノ賠償ニ付キ責任ヲ負フ 第六百十二条 被伝示者カ伝示証券領受者ニ債行為ヲ果成セサル間又ハ伝示証券領受者ニ対シ伝示証券ヲ第六百七条ニ照準シテ諾受セサル間ハ伝示者ハ其伝示証券ヲ廃罷スル正当ノ理由無シト雖モ伝示証券領受者ニ対シテ之ヲ廃罷スルノ権利ヲ有ス然レトモ此ノ如キ場合ニ於テ伝示証券領受者ニ属スル損害賠償ノ請求権ハ此カ為メ害セラルヽコト無シ 第六百十三条 伝示証券ハ伝示者、被伝示者又ハ伝示証券領受者ノ死亡ニ因リ又ハ行為無能力ノ発生ニ因リテ消滅セス 第十一節 寄託契約 第六百十四条 寄託契約ニ依リテ保管者ハ寄託者ヨリ自己ニ交付シタル動産ヲ貯蔵シ且ツ同一ノ物ヲ寄託者ニ還付スルノ義務ヲ負フ 第六百十五条 寄託者ハ保管者ニ対シテ貯蔵ノ為メノ報償ヲ供与スルノ義務ヲ負フコトヲ得此報償ハ若シ其貯蔵カ情況ニ随ヒ単ニ報償ニ対シテノ期望セラル可キモノナリシトキハ黙示ニテ合意セラレタリト看做サル可シ 第六百十六条 疑ヒ有ル場合ニ於テハ保管者ハ被寄託物ヲ他人ノ許ニ寄託スルノ権限ヲ受有シタルニ非スト推認セラル可シ若シ保管者カ正当ノ方法ヲ以テ被寄託物ヲ他人ノ許ニ寄託シタルトキハ単ニ此寄託ニ関シ自己ノ責ニ帰スル過誤ニ付テノミ責任ヲ負フ若シ保管者カ正当ノ方法ヲ以テ貯蔵ニ関シ手伝人ヲ使用シタルトキハ第二百二十四条第二項ノ成規ヲ適用ス 第六百十七条 保管者ハ若シ寄託者カ事状ヲ識知シタルナラハ変異スルコトヲ可認ス可カリシナラントノ推認ヲ生スル情況ノ存スルトキハ合意シタル貯蔵ノ種類ヲ変異スルコトヲ許サル然レトモ保管者ハ成ル可ク其変異前ニ寄託者ニ通知シテ其決定ヲ取ルコトヲ要ス 第六百十八条 若シ代替物ヲ寄託スルニ際シ同一ノ物ヲ還付セスシテ同一ノ種類、良好及ヒ数量ノ物ヲ還付ス可キノ合意ヲ為シタルトキハ其契約ハ消費貸借契約ト看做サル可シ又若シ寄託者カ保管者ニ対シテ其欲スルトキハ寄託シタル代替物ヲ費尽ス可キコトヲ許諾シタルトキハ其契約ハ保管者カ其許諾ヲ使用スル時点ヲ以テ消費貸借契約ニ転換ス 右二個ノ場合ニ在テ疑ノ存スルトキハ其消費貸借契約ニ関シテハ左ノ合意即チ還付ノ時及ヒ地ニ付テハ寄託契約ニ関シ現行スル成規カ適用セラル可キノ合意ヲ為シタリト看做サル可シ 第六百十九条 保管者ハ被寄託物ヲ還付スルニ当リ若シ其物ヨリ収入シタル果益有リシトキハ被寄託物ニ其果益ヲ添ヘテ還付ス可シ又若シ保管者カ被寄託金銭ヲ恣マニ自己ノ利益ニ費用シタルトキハ其金銭ニ費用ノ時ヨリ利息ヲ附スルノ義務ヲ負フ 第六百二十条 被寄託物ノ還付ハ其物ヲ貯蔵スルヲ要セシ地ニ於テ之ヲ果成スルコトヲ要ス保管者ハ其物ヲ寄託者ニ送届スルノ義務ヲ負ハス 第六百二十一条 若シ保管者カ費用ヲ支出シタルトキハ寄託者ハ其費用カ貯蔵ノ為メニ必要ト為リタル分度ニ限リ之ヲ賠償スルノ義務ヲ負フ其必要ト為リタル費用ト看做サル可キハ保管者カ尋常家父ノ為ス注意ヲ用ユルニ於テ貯蔵ノ為メニ必要ナリト看做スコトヲ要セシ費用ナリトス 第五百九十五条第二項、第三項ノ成規ハ之ヲ準用ス 第六百二十二条 寄託者ハ被寄託物ノ損害ニ罹ルノ恐レ有ル性質ヲ識知シ若クハ識知スルヲ要セシ場合ニ於テ此性質ヲ保管者ニ通知セサリシトキハ被寄託物ノ性質ニ因リテ保管者ニ起生シタル損害ヲ賠償ス可シ 第六百二十三条 寄託者ハ其合意シタル報償ヲ保管ノ終止スル際保管者ニ支払フノ義務ヲ負フ 若シ保管カ契約ヲ以テ定メタル時間ノ満了前ニ終止スルトキハ保管者ハ自己ノ此時マテ果成シタル債行為ニ適応スル報償ノ部分ニ付キ請求権ヲ有ス但報償ニ付テノ合意ニ因リテ別段ノ事項ノ表顕セサル分度ニ限ル 第六百二十四条 寄託者ハ貯蔵ノ為メ時間ヲ定メタルトキト雖モ何時ニテモ被寄託物ノ取戻要求ヲ為スコトヲ得 第六百二十五条 保管者ハ何時ニテモ被寄託物ノ引取ヲ要求スルコトヲ得然レトモ貯蔵時間ノ合意有ル場合ニ在テハ其場合ノ情況ニ随ヒテ引取ノ要求ヲ為スニ正当ナル重要ノ原由ノ存スルトキニノミ貯蔵時間ノ満了前被寄託物ノ引取ヲ要求スルコトヲ得 第十二節 旅舎ニ於ケル物ノ持込 第六百二十六条 他人ヲ宿泊ノ為メニ容受スルヲ以テ営業ト為ス旅舎主人ハ此営業ヲ為スニ於テ容受シタル客人ノ持込ミタル物ノ喪失及ヒ毀損ニ付キ責任ヲ負フ但此損害カ客人ヨリ惹起セラレ又ハ持込物ノ性質若クハ不可抗力ニ因リテ起生シタルトキハ此限ニ在ラス 損害ノ起生ニ客人ノ過誤ノ交加シタルトキハ第二百二十二条ノ成規ヲ準用ス 客人ノ同伴者ノ行為又ハ客人カ自己ノ許ニ容受シタル人ノ行為ハ之ヲ客人ノ行為ト同視ス可シ 容受セラレタル客人カ旅舎主人又ハ其使用人ニ交付シ又ハ此者等ノ指定シタル場所ニ持込ミ若クハ別段ノ指定ヲ缺キタルニ於テハ此レカ為メニ供セラレタル場所ニ持込ミタル総テノ物ハ之ヲ持込ミタルモノト看做ス 旅舎主人カ其責任ヲ拒却スル為メニスル掲告ハ法律上ノ作用無シ 第六百二十七条 客人ノ日常ノ需要ニ有用ナラサル金銭有価証券及ヒ高価物ニ付テハ旅舎主人ハ此等ノ物カ貯蔵ノ為メニ自己ニ交付セラレタルトキ又ハ旅舎主人カ此等ノ物ノ貯蔵ヲ引受クルコトヲ拒ミタルトキ又ハ此等ノ物ニ係ル損害カ旅舎主人若クハ其使用人ノ過失ニ出テタルトキニ限リ其責ニ任ス此責任ハ例外ノ場合ニ在テハ第六百二十六条ノ成規ニ依リテ定マル 第六百二十八条 旅舎主人ハ客人ノ居住及ヒ賄ニ係ル自已ノ債権ニ関シテハ客人ノ持込物ニ付キ法律上ノ質権ヲ有ス此質権ニハ第五百二十一条ノ成規ヲ準用ス 第十三節 会社 第六百二十九条 会社契約ニ依リテ社員ハ其合意シタル共同ノ目的ヲ達スル為メ其合意シタル債行為ヲ相互ニ対シテ分担スルノ義務ヲ負フ 若シ此目的カ不可能ノモノナルトキハ其契約ハ無成タリ 第六百三十条 各社員ハ分担債行為ヲ果成ス可シ其分担ハ一身上ノ債行為ヲ以テモ亦成立スルコトヲ得 分担ハ其種類及ヒ大小ニ於テ不同ノモノタルコトヲ得若シ疑ノ存スルトキハ同一ノ分担債行為ヲ果成ス可シ 各社員ハ契約上ノ分担額ヲ増加シ又ハ喪失ニ因リテ減少シタル差入資ヲ補足スルノ義務ハ一モ之ヲ負担セサルモノトス 第六百三十一条 分担セラル可キ目的物ハ其権利又ハ其使用又ハ其果益ニ付テノ共同物ト為ル可キ為メ之ヲ供充スルコトヲ得 若シ金銭其他ノ代替物ヲ分担ス可キトキ又ハ不代替物ヲ単ニ利益配当ノ為メニ果成シタルニ非サル評価額ニ従ヒテ分担ス可キトキハ此レ等ノ物ハ其権利ニ付テノ共同物ト為ル可シト推認セラル 目的物カ共同物ト為ル可キ為メニハ如何ナルモノカ必要ナルヤハ目的物ノ転付ニ関スル現行ノ成規ニ依リテ定マル 若シ疑ノ存スルトキハ社員ニハ共同物ト為リタル目的物ニ付キ平等ノ持分ノ属スルモノト推認セラル可シ 第六百三十二条 社員カ単ニ約束シタル分担債行為ヲ以テスルノミナラス其他己レノ動作ヲ以テモ亦会社ノ目的ヲ伸張スルコトヲ要ス可キ程度ノ如何ハ第三百五十九条ノ成規ニ依リテ定マル 第六百三十三条 社員ハ社員タルノ資格ニ於テ自己ノ負担セル義務ヲ履行スルニ当リテハ自己ノ事務ニ於テ用ユルコトヲ常習ト為セル注意ヲ用ユルノ義務ノミヲ負フ 第六百三十四条 会社ノ業務ノ執行ハ其各個ノ業務ニ付キ総社員ノ承諾ヲ要スルノ条件ヲ以テ共同ニテ社員ニ属ス 第六百三十五条 若シ会社ノ業務ヲ執行スルニ当リテハ会社ニ係ル総テノ事務又ハ或ル事務ニ関シ多数議ヲ以テ決定ス可キ可コトヲ会社契約ニ於テ規定シタルトキハ其多数ハ疑ノ存スルニ於テハ社員ノ数ニ応シテ之ヲ計算ス可シ 第六百三十六条 若シ会社契約ニ於テ業務ノ執行ヲ一人又ハ二人以上ノ社員ニ任シタルトキハ此社員ハ自余ノ社員ヲ業務ノ執行ヨリ除斥ス業務ノ執行ノ為メ任セラレタル二人以上ノ社員ニハ第六百三十四条、第六百三十五条ノ成規ヲ準用ス 第六百三十七条 会社契約ニ依リ各社員又ハ業務ノ執行ノ為メ特ニ任セラレタル二人以上ノ各社員カ単ニ自分一己ノミニテ業務ノ執行ヲ為スノ権利ヲ有スル場合ニ於テ其権利ヲ有スル社員中ノ一人カ或ル行為ノ挙行ニ対シテ異議ヲ起ストキハ其挙行ハ之ヲ放置スルコトヲ要ス 第六百三十八条 会社契約ニ於テ社員ニ認許シタル業務執行ノ権限ハ若シ場合ノ情況ニ随ヒテ之ヲ奪取スルニ正当ナル原由ノ存スルトキハ其社員ニ対シ自余ノ社員ノ一致決議ヲ以テ之ヲ奪取シ又会社契約ニ依リ多数議ヲ以テ決定ス可キ分度ニ限リ自余ノ社員ノ多数決議ヲ以テ之ヲ奪取スルコトヲ得此ノ如キ原由ノ存セリト特ニ推認セラル可キハ若シ其社員カ太甚ナル義務毀損ノ責ヲ作為シタルトキ又ハ其社員カ秩序有ル業務執行ヲ為スノ無能力ト為リタルトキナリトス 会社契約ニ於テ業務ノ執行ヲ引受ケタル社員ハ其執行ヲ自ラ奪取スルノ権利ヲ有セス 第六百三十九条 会社契約ニ於テ業務ノ執行ヲ任セラレタル社員ノ自余ノ社員ニ対スル権利及ヒ義務ニ付テハ第六百三十三条ノ成規ヲ留保シテ第五百八十五条、第五百八十八条乃至第五百九十六条ノ成規ヲ準用ス 第六百四十条 会社ノ業務執行ノ権限カ会社契約ニ依リテ或ル社員ニ属スルトキハ其属スル分度ニ限リ疑ノ存スルトキハ亦自余ノ社員ノ代理ノ為メ全権ヲ授与セラレタリト看做サル可シ 会社契約ニ於テ或ル社員ニ対シ自余ノ社員ヲ代理スル為メ授与セラレタル全権ハ単ニ業務執行ノ権限ヲ奪取スルニ正当ナル原由ノ存シタル可カリシトキニノミ之ヲ廃罷スルコトヲ得又其全権カ業務執行ノ権限ト併セテ授与セラレタル分度ニ限リ其全権ハ単ニ此権限ト併セテノミ之テ廃罷スルコトヲ得第六百三十八条ノ成規ハ之ヲ準用ス 第六百四十一条 代理ノ為メノ全権ヲ授与セラレタル社員カ会社ノ業務ノ執行ニ因リテ取得シタルモノハ第六百三十一条ニ照準シテ社員等ノ共同物ト為ル又代理ノ為メノ全権ヲ授与セラレタル社員カ会社ノ業務ノ執行ニ因リ自己ノ名ニ於テ取得シタルモノハ総社員ノ共同物ト為ルノ条件ヲ以テ自余ノ社員ニ転付ス可シ 第六百四十二条 若シ社員カ自身ニ為スト代理ヲ以テ為ストヲ問ハス第三者ト権利行為ヲ取結フ場合ニ於テ疑ノ存スルトキハ第三者ニ対シテハ平等持分ニ付テノ権利ヲ有シ及ヒ義務ヲ負フ 第六百四十三条 各社員ハ業務ノ執行ヨリ除斥セラレタルトキト雖モ会社ノ事務ヲ親カラ質問シ、業務ニ係ル帳簿及ヒ書類ヲ展閲シ此ニ依リテ共同財産ノ現状ニ関スル一覧表ヲ作成スルノ権利ヲ有ス 此権利ヲ除斥シ又ハ制限スルノ合意ハ若シ業務ノ執行ニ関シテ不正実ナルコトノ証明セラルヽトキハ其効力ヲ失フ 第六百四十四条 会社契約ニ依リ或ル社員カ自余ノ社員ニ対シテ有スル債権ハ転付スルコトヲ得可カラサルモノナリ然レトモ此成規ハ会社ノ業務ノ執行ニ因リテ或ル社員ニ属スル債権即チ財産分別ノ前ト雖モ尚ホ其支払ヲ要求スルコトヲ得ル債権並ニ利益持分ヲ目的物トシ若クハ財産分別ノ際ニ当リ或ル社員ニ属スルモノヲ目的物トスル債権ニハ一モ之ヲ適用セス 第六百四十五条 社員ハ自余ノ社員ニ対シ財産分別ニ至ルマテハ会社契約ニ因リテ共同物ト為リタル目的物ノ自己ニ属スル持分ニ付キ処分ヲ為サヽルノ義務ヲ負フ 社員ハ財産分別ノ前ニ在テハ此ノ如キ目的物ノ分配ヲ要求スルノ権利ヲ有セス 第六百四十六条 社員ハ会社ノ解散ノ後始メテ計算閉鎖ヲメ及ヒ利益並ニ損失ノ配当ヲ求ムルコトヲ得 若シ会社ノ関係カ長キ時間存続スルモノナルトキ疑ノ存スルニ於テハ毎年ノ計算閉鎖及ヒ毎年ノ利益配当カ合意セラレタリト看做サル可シ 第六百四十七条 若シ利益及ヒ損失ニ付テノ社員ノ持分カ契約ヲ以テ規定セラレサリシトキハ各社員ハ自己ノ分担ノ種類及ヒ大小ニ拘ハル無クシテ利益及ヒ損失ニ付キ平等ノ持分ヲ有ス 若シ単ニ利益ニ付テノ持分ノミ又ハ単ニ損失ニ付テノ持分ノミカ規定セラレタルトキ疑ノ存スルニ於テハ其規定ハ両持分ノ為メ効力ヲ有ス 第六百四十八条 会社ハ或ル社員ヨリ自余ノ社員ニ対シテ果成シタル予告ニ因リテ解散セラル 存続時間ヲ定メタル会社ハ場合ノ情況ニ随ヒテ解散ノ予告ヲ為スニ正当ナル重大ノ原由ノ存スルトキニ限リ契約上ノ時間ノ満了前予告ヲ以テ之ヲ解散スルコトヲ得殊ニ此ノ如キ原由ノ存スト推認セラル可キハ若シ他ノ社員カ会社契約ニ依リテ自己ノ負担スル重要ノ義務ヲ故意ヲ以テ若クハ太甚ナル過誤ニ出テヽ毀損シタルトキ又ハ此ノ如キ義務ノ履行カ不可能ト為リタルトキナリトス 会社解散ノ予告ハ不時ニ果成スルコトヲ許サス若シ不時ニ予告ヲ為シタルトキハ予告者ハ此ニ因リテ自余ノ社員ニ生シタル損害ノ賠償ニ付キ責任ヲ負フ此責任ハ場合ノ情況ニ随ヒテ即時解散ヲ為スニ正当ナル重大ノ原由ノ存スルトキハ生スルコト無シ 第六百四十九条 存続時間ヲ定メサル会社ニ在テ予告ヲ為スノ権利ハ社員ニ属セサル可シトスルノ合意ヲ為シタルトキハ其合意ハ無成ノモノタリ 第六百五十条 社員ノ終身間ヲ期シテ結約シタル会社ハ存続時間ノ定メ無キ会社ト看做サル可シ若シ会社ニシテ其存続ノ為メ定メタル時間ノ満了後黙止ニテ継続セラルヽモノニ在テハ其継続ノ時点ヨリシテ前段ト同一ナリ 第六百五十一条 会社ハ其合意シタル目的ヲ達シタル時点又ハ其目的ヲ達スルコトノ不可能ト為リタル時点ヲ以テ解散セラル 第六百五十二条 会社ハ会社契約ニ依リテ結約者ノ別段ノ意思ノ表顕セサル限リハ一社員ノ死亡スル時点ヲ以テ解散セラル 若シ会社カ社員ノ死亡ニ因リテ解散セラルヽトキハ死亡社員ノ相続人ハ其死亡ヲ遅延無ク自余ノ社員ニ通知ス可シ又若シ遅延ノ恐レ有ルトキハ其恐レ有ル分度ニ限リ相続人ハ遺産者カ其社員タル資格ニ於テ担任セシ業務ヲモ又自余ノ社員カ相続人ト共同ニテ以後ノ処弁ヲ為スコトヲ得ルニ至ルマテノ時間摂理ス可シ従来ノ社員等モ亦其社員タル資格ニ於テ担任セシ業務ニ関シテハ前段ノ義務ヲ負フ 第二項ニ掲ケタル業務ノ摂理ニ関シテハ会社契約ハ仍ホ存続セルモノト看做サル可シ 第六百五十三条 会社ハ社員ノ財産ニ付キ破産ノ開始スル時点ヲ以テ解散セラル 第六百五十二条第二項第二段第三項ノ成規ハ之ヲ準用ス 第六百五十四条 若シ会社カ予告ヲ以テスルニ非ラサル他ノ原由ニ依リテ解散セラルヽトキハ会社ハ業務執行ノ権限ニ関シ社員ニ属スル権利ニ付テハ社員カ会社ノ解散セラルヽノ結果ヲ生セシメタル事実ヲ識知シ又ハ識知スルコトヲ要シタル可カリシマテノ時間仍ホ存続スルモノト看做サルヘシ 第六百五十五条 未完結ナル業務ノ終局ノ為メ及ヒ此終局ニ必要ナル新業務ノ締結ノ為メ並ニ共同物ト為リタル目的物ノ保持及ヒ管理ノ為メ社員ハ会社ノ解散後ト雖モ財産分別ニ至ルマテハ其ノ分別ノ目的ニ於テ必要ナル分度ニ限リ仍ホ会社契約ニ照準シ相互ニ対シテ権利ヲ有シ及ヒ義務ヲ負フ然レトモ会社契約ニ於テ社員ニ授与シタル業務執行ノ権限ハ会社契約ニ因リテ結約者ノ別段ノ意思ノ表顕セサル限リハ解散ノ時点ヲ以テ消滅ス此時点以後ニ在テハ各個ノ業務ノ執行ニ付テハ総社員ノ承諾ヲ要ス 第六百五十六条 会社ノ解散後社員間ニ於テ挙行スヘキ財産分別ニ当リテハ単ニ使用ノ為メ又ハ果益ノ為メニノミ差入レタル目的物ハ之レヲ差入レタル社員ニ其侭還附ス可シ若シ此ノ如キ目的物カ事変ニ因リテ滅尽シ又ハ変悪シタルトキハ其目的物ヲ差入レタル社員ハ其損害ヲ担当ス可シ 財産分別ノ当時ニ存在セル共同ノ目的物ヲ以テハ先ツ債権者ニ対シテ社員間ニ分賦シタル債務ヲ包含セル共同ノ債務並ニ債権者タル社員ニ対シテ債務者タル自余ノ社員カ責任ヲ負ヘル債務ヲ包含セル共同ノ債務ヲ整理ス可シ若シ共同ノ目的物カ共同ノ債務ヲ整理スルニ不足ナルトキハ総社員ハ損失担当ニ関スル現行ノ規定ニ照準シテ其不足額ヲ補充ス可シ又若シ社員ニ対シテ其責ニ帰スル分担額ヲ徴収スル能ハサルトキハ其虧缺額ハ亦右ノ規定ニ照準シテ自余ノ社員之ヲ担当ス可シ 共同債務ノ整理ノ後ニ尚ホ残在スル共同ノ目的物ヲ以テハ各社員ニ其差入資ヲ弁償シ又其差入資カ金銭ヨリ成立シタルニ非サルモノニ限リ其価額ヲ弁償ス可シ若シ差入レタル目的物ノ価額ヲ契約ニ於テ定メサリシトキハ其価額ハ差入ノ当時ノ価額カ標準ト為ルモノトス一身上ニ係ル債行為又ハ目的物ノ使用若クハ果益ノ供与ヨリ成立シタル差入資ニ付テハ賠償債行為ヲ果成スルコトヲ要セス若シ共同ノ目的物カ差入資ヲ弁償スルニ不足ナルトキハ単ニ割合ニ相当スルノミノ弁償カ果成ス此弁償ニ因リテ各個ノ社員ニ生スル虧缺額ハ其各員之ヲ担当ス可シ又若シ差入資ノ弁償後ニ仍ホ過剰額ノ存スルトキハ其過剰額ハ利益ノ配当ニ関スル現行ノ規定ニ照準シナ総社員ニ属ス 共同ノ目的物ハ共同債務ノ整理及ヒ差入資ノ弁償ノ為メニ之レヲ金銭ニ換易スヘシ 第一項乃至第四項ノ成規ハ社員間ニ別段ノ事項カ合意セラレタリト看做ス可カラサル分度ニ限リ之ヲ適用ス 第六百五十七条 若シ社員等カ会社ノ解散前ニ於テ左ノ合意即チ社員ガ予告ヲ為シ若クハ死亡スルモ又ハ社員ノ財産ニ付キ破産カ開始セラルヽモ会社ハ自余ノ社員間ニ在テハ仍ホ存続ス可シトノ合意ヲ為シタルトキハ此ノ如キ事故ノ己レノ身上ニ発生シタル社員ハ其事故ニ因リ右ノ合意無カリシ場合ニ於テ会社ノ解散セラレタル可カリシ時点ヲ以テ退社シ自余ノ社員ハ会社契約ニ照準シ相互ニ対シテ権利ヲ有シ及ヒ義務ヲ負フ 第六百五十八条 若シ社員カ第六百五十七条ニ適準シテ退社シタルトキハ此退社員ト自余ノ社員トノ間ニ於ケル財産分別ハ退社ノ当時ニ於ケル財産ノ現状ニ拠リテ果成ス 退社員ハ其退社後ニ生シタル利益又ハ損失ト雖モ其退社前ニ既ニ開始シ其退社後ニ始メテ終局シタル業務ニ因リテ生シタル利益又ハ損失ニ付テハ尚ホ其持分ヲ有ス 退社員ハ継続ノ業務カ自余ノ社員ノ最モ利益ナリト認ムル方法ヲ以テ終結セラルヽニ満足スルコトヲ要ス又退社員ハ各業務年度ノ終ニ於テ其年度中ニ完結シタル業務ニ係ル決算並ニ此ニ依リテ自己ニ属スル金額ノ払渡及ヒ尚ホ未完結ナル業務ノ現状ニ関スル報告ヲ要求スルノ権利ヲ有ス 退社員ハ共同ノ目的物ニ係ル自已ノ持分ヲ自余ノ社員ニ転付スルノ義務ヲ負フ 此ニ反シテ自余ノ社員ハ退社員カ単ニ使用又ハ果益ノ為メニノミ差入レタル目的物ヲ第六百五十六条ノ成規ニ依リテ之ニ還附シ並ニ退社員カ会社関係ニ因リテ第三者ニ対シ負ヒタル義務ヲ之ニ免カレシメ及ヒ第六百五十六条ノ成規ニ依リテ財産分別ノ果成スル場合ニ在テ退社員カ金銭又ハ金銭価額ヲ以テ受得シタル可カリシモノニ相当スル金銭計額ヲ之ニ支払フノ義務ヲ負フ其必要ナル価額ノ検出ハ価額評定ノ手続ヲ以テ果成ス可シ 若シ共同ノ目的物ノ価額カ共同ノ債務ヲ整理スルニ必要ナル数額ヨリ寡少ナルコトノ表顕スルトキハ退社員ハ自己カ損失ヲ担当ス可キ割合ニ応シ自余ノ社員ニ対シテ其不足額ヲ補足スルノ義務ヲ負フ 第六百五十九条 若シ会社契約カ取得業務ヲ営為スル目的ニテ取結ハルヽトキハ社員ハ合名商事会社ニ関スル現行成規ノ適用セラル可キコトヲ合意スルヲ得此ノ如キ合意有ル場合ニ在テハ合名商事会社ニ関スル総テノ成規殊ニ左ノ緒成規即チ会社ノ設立、共同ノ商号ヲ以テスル業務営為、商業登記簿ニ於ケル会社ノ登記、社員ノ相互間及ヒ社員ノ第三者ニ於ケル権利関係、会社ノ解散、各個ノ社員ノ退社、会社ノ清算、請求権ノ時効及ヒ商人ニ関シ設ケラレタル成規ノ効力等ニ係ル緒成規カ適用セラル可キモノト為ル 第十四節 終身年金 提示 施行規則ニ於テ左ノ規定ヲ掲ク可シ 土地ノ委付ニ附帯スル所ノ終身支給契約、終身給養契約、養老給資契約又ハ扣除契約ニ関スル結約者ノ権利及ヒ義務ニ付キ反対ノ合意ノ欠缺セル場合ニ於テ標準ト為ル可キ成規ヲ発布スルハ之ヲ各邦法律ニ留保ス 第六百六十条 契約ヲ以テ終身年金ヲ約束(終身年金契約)スルトキハ其年金ハ別段ノ事項ヲ合意シタルニ非サル分度ニ限リ年金債権者ノ終身間之ヲ支払フ可キモノトス 第六百六十一条 年金ハ予先ニテ之ヲ支払フ可シ 予先債行為ヲ果成スルコトヲ要スル期間ハ若シ金銭ヲ支払フ可キトキハ三月トス此他ノ債行為ヲ果成ス可キトキハ其期間ハ債行為ヲ果成ス可キ目的物ノ性質ト債行為ノ目的トニ従ヒテ定マル 予先ニテ果成セラル可キ債行為ノ目的物ニ係ル請求権ハ予先ニテ債行為ヲ果成ス可キ期間ノ起初ヲ以テ取得セラレタリト看做ス 第六百六十二条 疑ヒノ存スル場合ニ在テハ終身年金額ノ定メハ一年ノ時期ニ関スルモノト推認セラル可シ 第六百六十三条 第六百六十条乃至第六百六十二条ノ成規ハ若シ年金支払ノ義務カ因死処分、判決又ハ法律ニ根基スルトキハ之ヲ準用ス 第十五節 遊奕、賭事 第六百六十四条 遊奕又ハ賭事ニ因リテハ結約者間ノ債務関係ハ生セサルモノトス然レトモ遊奕又ハ賭事ニ原由シテ果成セラレタル債行為ノ目的物ノ償還要求ハ債務関係カ成立セサルノ故ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得ス若シ遊奕債務又ハ賭事債務ニ付キ債務約束又ハ債務承認ヲ与ヘタルトキハ債務者ハ其約束又ハ其承認ニ因リテ生スル義務ノ履行ヲ拒ミ又ハ其義務ノ免除ヲ求ムルコトヲ得 第六百六十五条 富契約又ハ福引契約ニハ第六百六十四条ノ成規ヲ適用ス然レトモ此ノ如キ契約ハ若シ其富又ハ其福引ヲ政府ニ於テ免許シタルトキハ法律上ノ義務ヲ生ス 第十六節 和解契約 第六百六十六条 結約者間ニ於ケル有争議又ハ不明確ノ権利関係ヲシテ其争議又ハ其不明確ヨリ免カレシムル双務ノ契約ハ之ヲ和解契約ト看做ス 第六百六十七条 和解契約ノ有効ハ一方ノ結約者ガ争議又ハ不明確ノ目的物タリシ情況ニ関シテ錯誤シタルモ此カ為メニ毀損セラルヽコト無シ 然レトモ若シ契約取結ノ際ニ結約者等ガ争議又ハ不明確ヲ除斥シタル可カリシ情況ノ存立セサルコトヲ明示又ハ黙止ニテ予定条件ト為シタルトキハ此ノ如キ情況ヲ和解契約ノ取結後ニ始メテ識知シタル結約者ハ和解契約ノ復原セラル可キヲ求ムルコトヲ得此請求権ニハ第七百四十四条ノ成規ヲ準用ス 第十七節 保証 第六百六十八条 保証契約ニ因リ保証人ハ第三者ノ債権者ニ対シテ若シ第三者ノ負ヘル義務カ向後履行セラレサルトキハ其義務ヲ履行スルノ義務ヲ負フ 元義務ヲ履行シタリトスル証拠ヲ挙クルハ保証人ノ責ニ帰ス 第六百六十九条 保証ハ将来ノ義務、設若条件附ノ義務又ハ不定ノ義務ノ為メニモ亦之レヲ引受クルコトヲ得 第六百七十条 若シ保証人カ元債務者ノ債行為ヲ果成スルノ義務ヲ負ヒタルヨリ過大又ハ過重ナル債行為ヲ果成スルノ義務ヲ負ヒタルトキ又ハ保証人カ元債務者ノ単ニ設若条件附ニテ果成スルノ義務ヲ負ヒタル債行為ヲ設若条件無クシテ果成スルノ約束ヲ為シタルトキハ保証人ハ其保証人タル資格ニ於テハ元債務者ノ義務ヲ負ヒタル程度ヲ超エテ責任ヲ負ハス 第六百七十一条 保証人ハ其保証シタル債権ニ対シ元債務者ノ有スル抗弁権ニ依拠シテ元義務ノ履行ヲ拒却スルコトヲ得 保証人ハ元債務者ノ相続人ノ負担セル責任ノ財産目録権ニ基ケル制限ヲ援唱スルコトヲ得ス 第六百七十二条 保証人ハ元義務ノ履行ニ付テハ其義務ノ毎時ノ成体及範域ニ於テ履行スルノ責任ヲ負フ 保証人ノ責任ハ殊ニ元債務者ノ過失又ハ延滞ニ因リテ元義務ノ被フムレル拡弘及ヒ変更ニ及フモノトス然レトモ此責任ハ保証契約ノ取結後ニ元債務者ノ取結ヒタル権利行為殊ニ保証契約ノ取結後ニ元債務者ノ抗弁権ニ関シテ為シタル放棄ニ因リテ元義務ノ蒙ムレル拡弘及ヒ変更ニハ及ハサルモノトス 保証人ハ元債務者ニ対スル権利追求ニ因リテ生シ元債務者ノ負担スヘキ費用ニ付キ責任ヲ負フ 第六百七十三条 若シ二人以上ノ者カ元債務者ノ義務ノ為メ保証ヲ為シタルトキ(共同保証人)ハ合同債務者トシテ其責ニ任ス此場合ニ在テハ保証カ同一時ニ為サレタルト各別時ニ為サレタルト又ハ共同ニ於テ為サレタルト共同ニ非スシテ為サレタルトニ一モ区別ヲ立ツルコト無シ 第六百七十四条 保証人ハ元債務者カ債権者ヨリ訴ヲ受ケタルニ至ルマテノ間ハ自已ノ義務ノ履行ヲ拒却スルノ権利ヲ有ス(先訴(第一篇ニ予訴ト訳シタルモノ即チ是ナリ)ノ抗弁) 此元訴(先訴)ハ若シ請求権ノ為メ元債務者ニ対シ強制執行カ無結果ニテ実施セラレタルトキハ果成シタリト看做サル可シ又金銭ノ債権ニ関スル場合ニ在テハ元債務者ノ動産ニ係ル強制執行カ元債務者ノ住所ニ於テ其住所ノ欠缺セルトキハ其滞在所ニ於テ無結果ニテ実施セラレタルコトヲ要ス若シ債権者カ元債務者ノ動産ニ付キ質権ヲ有スルトキハ此動産ヨリ特先ニ自已ノ弁償ヲ求メタルコトヲ要ス 第六百七十五条 先訴ノ抗弁ハ左ノ場合ニ在テハ除斥セラル 第一 若シ保証人カ抗弁権ヲ放棄シタルトキ殊ニ保証人カ自分ニ債務者トシテ又ハ自分ニ支払人トシテ保証ヲ為シタルトキ 第二 若シ元債務者ニ対スル元訴カ保証契約ノ取結後ニ元債務者ノ住所若クハ滞在所ノ変更シタルニ因リテ著シク困難ナルニ至リタルトキ 第三 若シ元債務者ノ財産ニ付テ破産カ開始セラレタルトキ 第四 若シ債権者ノ弁償ヲ受クル為メ元債務者ノ財産ニ関シ強制執行カ為サレサル可シト推認セラル可キトキ 第六百七十六条 若シ保証人カ債権者ニ弁償ヲ為シタルトキハ其弁償シタル分度ニ限リ此債権者ノ元債務者ニ対スル債権ハ法律ニ依リテ保証人ニ転付セラルヽモノトス然レトモ此債権ニ附帯セル副権利即チ共同保証人ノ責任ヨリ成立スル副権利ハ単ニ第三百三十七条第二項第三項ニ照準シテノミ保証人ニ移ル 元債務者ト保証人トノ間ニ存スル特別ノ権利関係ヨリ生スル異議ハ元債務者ニ留存シ此ノ如キ特別ノ権利関係ヨリ生スル請求権ハ保証人ニ留存ス 転付ノ権利ハ債権者ニ害ヲ加ヘテ之ヲ行用スルコトヲ得ス 第六百七十七条 元債務者ノ委任ニテ保証ヲ為シタル保証人又ハ保証ニ関シ元債務者ノ業務執行者トシテ第七百五十三条、第七百五十五条、第七百五十八条ニ照準シ元債務者ニ対シテ受委任者ノ権利ヲ受得シタル保証人ハ左ニ掲クル場合ニ在テハ元債務者ニ対シテ保証ノ免除ヲ要求シ又ハ保証義務ノ履行ニ因リテ生スルコトノ有ル可キ賠償請求権ニ付テノ担保債行為ヲ要求スルコトヲ得 第一 若シ元債務者ノ財産関係カ重大ニ変悪シタルトキ 第二 若シ元債務者ニ対スル権利追求カ保証契約ノ取結後ニ元債務者ノ住所又ハ滞在所ノ変更シタルニ因リテ著シク困難ナルニ至リタルトキ 第三 若シ元債務者カ元義務ノ履行ヲ延滞シタルトキ 第四 若シ保証人カ債権者ニ対シテ元義務ヲ履行スヘキ帰責判決(第一篇ニ於テ有責判決ト訳シタルヲ改メテ本篇以下帰責判決ト為ス)ノ言渡ヲ受ケタルトキ 第六百七十八条 若シ保証人カ元債務者ノ相続ヲ為シ又ハ元債務者カ保証人ノ相続ヲ為シタル場合ニ在テハ保証ハ其存続カ債権者ノ為メニ利益ヲ有スル分度ニ限リ仍ホ存続ス 第六百七十九条 若シ債権者カ元債権ニ附帯シ其担保ノ為メニ効用有ル副権利殊ニ質権ヲ廃罷シタルトキハ保証人ハ左ノ限度ニ於テ即チ若シ此副権利カ債権者ノ弁償セラレタル場合ニ於テ第六百七十六条ニ適準シ自己ニ移転シタル可カリシナラハ自己カ此ニ因テ賠償ヲ受得シタル可カリシ限度ニ於テ自己ノ義務ヲ免カル 前項ノ成規ハ副権利カ保証契約取結後ニ始メテ取得セラレタルトキニモ亦之ヲ適用ス 第六百八十条 若シ某人カ自已ノ名ニ於テ自己ノ計算ヲ以テ第三者ニ信用ヲ与フ可キノ委任ヲ他人ヨリ授与セラレ其委任ヲ諾受シタルトキハ其契約ヨリ生スル権利関係ハ之ヲ委任ニ関スル成規ニ依リテ判定ス可カラス保証ニ関スル成規ニ依リテ判定ス可シ但結約者双方ノ別段ノ意思ノ表顕セサル分度ニ限ル 第十八節 質入契約 第六百八十一条 何人タリトモ自己ノ債権者又ハ第三者ノ債権者ニ対シ其債権ノ担保ノ為メ質権ヲ設定スルノ義務ヲ負ヒタル者ハ物権ノ転譲ヲ約束シタル場合ニ適用スル原則ニ照準シ又ハ質権カ債権ニ係ルモノナルトキニ限リ此ノ如キ債権ノ譲渡ヲ約束シタル場合ニ適用スル原則ニ照準シテ其質権ヲ供与スルノ責任ヲ負フ 第六百八十二条 若シ質権設定ノ義務ヲ負ヒタル者カ自己ノ義務ノ不履行ノ為メニ損害賠償ノ義務ヲ負ヒタルトキハ債権者ハ第百九十九条乃至第二百四条ニ照準シテ更ラニ担保ノ設定ヲ求ムルコトヲ得但其債権者カ尚ホ他ニ渉ル損害ノ賠償ヲ求ムルノ権利ハ此カ為メニ害セラルヽコト無シ 第十九節 債務約束 第六百八十三条 若シ債行為ノ約束ニシテ債権者ノ諾受シタルモノ又ハ債行為ノ義務ヲ負担セルコトノ承認ニシテ債権者ノ諾受シタルモノニ関シ特別ノ義務原由ヲ明示セス又ハ汎漠ニノミ表示シタルトキハ其約束又ハ其承認ハ債務者カ書面上ノ方式ヲ以テ之ヲ与ヘタルトキニ限リ有効ナリ 第六百八十四条 義務ノ原由ヲ明示セサル又ハ汎漠ニノミ表示スル債務約束又ハ債務承認ヲ与ヘタル債務者ハ若シ不当ノ利殖ノ為メ債行為ノ償還要求ヲ為スニ有効ナル予定条件ノ存スルトキハ其約束又ハ其承認ニ因リテ生スル義務ノ履行ヲ拒ミ又ハ其義務ノ免除ヲ求ムルコトヲ得第七百三十七条乃至第七百四十一条ノ成規ハ若シ明示又ハ黙示ニテ陳述シタル予定条件附即チ約束シタル債行為ノ義務又ハ承認シタル義務ノ存立ス可シトスル予定条件附ニテ証書ヲ与ヘタルトキハ之ヲ準用ス 義務履行ノ拒却権及ヒ義務免除ノ請求権ハ債務者カ約束又ハ承認ヲ与ヘタルニ因リテ良風俗又ハ公秩序ニ悖戻シタルモ此カ為メニ除斥セラレス 第二十節 無記名債券 第六百八十五条 債券ニシテ之ヲ以テ発行者カ此債券ノ所持人ニ債行為ヲ約束スルモノ〔無記名債券〕ニ依リ其発行者ハ債券ノ毎時ノ所持人ニ対シ其証券ニ包含セル約束ニ照準シテ債行為ヲ果成スルノ義務ヲ負フ 自筆ノ署名ニ代フルニハ機械複写ノ方法ニ依リテ造成シタル印行物ヲ以テシテ足レリトス 此印行物ノ効力ハ証券ニ記入ス可キ注文ヲ以テ之ヲ一定ノ記号又ハ附記ノ添加ニ繋ラシムルコトヲ得 第六百八十六条 無記名債券ノ発行者ハ若シ自己カ其債券ヲ窃取セラレ若クハ紛失シタルトキ又ハ其債券カ他ノ方法ニ因リ自己ノ意思ニ出ツル無クシテ流通スルニ至リタルトキト雖モ亦其債券ニ依リテ義務ヲ負フ此義務ハ其債券カ発行者ノ死亡シタル後又ハ行為無能力ト為リタル後ニ於テ始メテ流通スルニ至リタルモ此カ為メ除斥セラレス 第六百八十七条 無記名債券ノ発行者ハ所持人カ悪意ニ出ツル方法ニテ其債券ヲ取得シタルノ故ヲ以テ其所持人ニ対シ債行為ヲ拒ムコトヲ許サレス第六百八十九条ノ成規ハ此カ為メニ害セラルヽコト無シ 第六百八十八条 無記名債券ノ発行者ハ単ニ其債券ノ交付ヲ受ケ之ニ対シテノミ其債券ニ於テ約束シタル債行為ヲ果成スルノ義務ヲ負フ又発行者ハ其交付ヲ受ケタル債券ニ債行為ノ既ニ果成シテ債券ノ無効ト為リタルコトヲ附記スルノ権利ヲ有スルノミナラス其債券ヲ潰滅スルノ権利ヲ有ス 第六百八十九条 無記名債券ノ発行者ハ所持人ニ対シテハ単ニ発行ノ効力ニ関スル異議又ハ債券ノ含旨ニ因リテ生シ若クハ発行者ト所持人トノ間ニ存立スル人上ノ権利関係ニ因リテ生スル異議ノミ其効用ヲ致サシムルコトヲ得 第六百九十条 若シ無記名債券ニ付キ特別ノ無記名利息票ヲ発行シタルトキハ其利息票ハ発行者カ元債権ニ対シ復タ利息票ニ記載シタル数額ヲ以テ利息ヲ附セサルトキト雖モ尚ホ効力ヲ存ス 若シ此ノ如キ利息票カ還付セラレサルトキハ発行者ハ単ニ前項ニ適準シテノミ支払ヲ為スノ義務ヲ負ヘル利息額ヲ元債券ノ銷却ノ際ニ元債権ヨリ減殺スルノ権利ヲ有ス 第六百九十一条 若シ無記名債券カ法律上ニ於テ其請求権ノ弁済ノ求メラルヽコトヲ得ル時点以来三十年内ニ債行為果成ノ為メ発行者ニ提出セラレサルトキハ其債券ヨリ生セル請求権ハ消滅ス 利息票、年金票及ヒ利益持分票ニ在テハ其請求権ノ消滅期間ハ四年トス此期間ハ法律上ニ於テ請求権ノ弁済カ求メラルヽコトヲ得ル年ノ終ヲ以テ始マル 債券ニ在テハ第一項及ヒ第二項ニ規定シタル請求権ノ消滅ヲ除斥シ並ニ消滅期間ノ存続、起始及ヒ経過ヲ本法ノ成規ニ変違セル方法ヲ以テ規定スルコトヲ得 第六百九十二条 紛失シ又ハ潰滅シタル無記名債券ハ公催告ノ手続ニ依リテ為サル可キ無効宣告ニ服ス然レトモ利息票、年金票及ヒ利益持分票並ニ一覧払ノ総テノ無利息債券ハ除斥セラル 第六百九十三条 公催告裁判所ハ公催告手続ノ開始ノ際ニ申立人ノ求メニ因リ其公催告手続ノ開始ヲ債券ノ発行者並ニ債券ニ記載シ且申立人ノ表示セル支払所ニ通知ス可キモノトス又此通知ニハ債券ニ依リテ尚ホ債行為ヲ果成スルコトノ禁令殊ニ新ナル利息票、年金票又ハ利益持分票並ニ此等ノ票ノ領受ノ為メ権限ヲ与フル特別ノ証書〔更新票〕ヲ発付スルコトノ禁令ヲ附帯ス可シ 此禁令ニ背反シテ果成シタル債行為ハ申立人ニ対シテハ無作用タリ此禁令ノ以前ニ発付セラレテ満期トナレル利息票、年金票及ヒ利益持分票ノ支払ハ其禁令ヲ受クルコト無シ 若シ公催告手続ノ即時開始カ左ノ故ヲ以テ即チ公催告期日カ債券ノ無効宣告ノ為メニ標準ト為ル特別ナル成規ニ依リテ特別ナル期間ノ満了後ニ始メテ開始セラル可キノ故ヲ以テノミ許サレサルトキハ公催告手続ニ付キ権限ヲ有スル裁判所ハ其手続ノ開始ノ為メ他ノ要件ノ存スル限度ニ於テ其手続ノ開始前ト雖モ尚ホ求メ有ルトキハ之ニ因リテ第一項ニ掲ケタル禁令ヲ発下ス可シ此禁令ハ訴訟法第八百二十五条ニ照準シテ之ヲ公告ス可シ 提示 第六百九十三条乃至第六百九十九条ノ成規ハ他種類ノ無記名証券〔株券〕ニモ亦之ヲ推及ス可キヤ否ハ蓋シ商法ノ訂正若クハ施行規則ノ会議ニ於テ審査スルナル可シ 第六百九十四条 第六百九十三条ニ掲ケタル禁令ニ依リ消滅期間又ハ時効期間ノ開始及ヒ経過ハ申立人ヲ利スル為メニ停止セラル此停止ハ禁令ノ発下ヲ求ムルノ申立ヲ為シタル時点ヲ以テ開始ス又此停止ハ公催告手続ノ落着ヲ以テ終止ス若シ其禁令カ公催告手続ノ開始前ニ発下セラレタルトキハ其停止ハ公催告手続ノ開始ニ反抗セル障碍カ除去セラレタル時点ヨリ起算シテ六月内ニ其手続ノ開始ヲ求ムルノ申立ヲ為サヽルトキニモ亦終止ス 第六百九十五条 除権判決ノ効果ヲ生セシメタル者ハ発行者ニ対シ債券ヲ以テ約束シタル債行為ヲ要求スルノ権利ヲ有ス又発行者ハ除権判決ノ効果ヲ生セシメタル者ニ対シ其求メニ因リ無効宣告ヲ受ケタル債券ニ換ヘテ新債券ヲ交付スルノ義務ヲ負フ又申立人ハ新債券ノ費用ヲ担当シ及ヒ之ヲ前払ニス可シ 第六百九十六条 若シ除権判決カ抗争訴ノ結果ニ於テ廃棄セラルヽトキハ発行者カ其判決ニ依拠シテ果成シタル債行為ハ第三者ニ対シ殊ニ抗争原告ニ対シテモ亦其作用ヲ存ス但発行者カ債行為ノ果成ノ当時ニ在テ既ニ除権判決ノ廃棄ヲ識知シタルトキハ此限ニ在ラス 第六百九十七条 若シ利息票、年金票又ハ利益持分票ノ紛失シ又ハ潰滅シタル場合ニ在テハ此時マテノ所持人ハ此ノ如キ票ヨリ生スル請求権カ消滅期間ノ満了ノ結果ニ於テ消滅シタル時点又ハ其請求権カ時効ニ罹レル時点ノ開始前ニ此等ノ票ノ喪失ヲ発行者ニ通知シ且其票ノ喪失セシ事実ヲ証明シタルトキハ右時点ノ開始後発行者ニ対シ其票ヲ以テ約束シタル債行為ヲ要求スルコトヲ得此請求権ハ若シ発行者カ右時点ノ開始前ニ其票ヲ銷却シタルトキハ生セサルモノトス又此請求権ハ四年ノ満了ヲ以テ時効ニ罹ル 前項ニ掲ケタル請求権ハ利息票、年金票又ハ利益持分票ヲ以テ之ヲ除斥スルコトヲ得 提示 施行規則ニ於テハ左ノ規定ヲ掲ク可シ 各邦政府ニ於テ無記名債券ニ付キ発行シタル利息票又ハ年金票ニ関シテハ各邦法律ヲ以テモ亦第六百九十七条第一項ノ適用ヲ除斥スルコトヲ得 第六百九十八条 若シ無記名債券ニ付キ利息票、年金票又ハ利益持分票ノ領受ノ為メ権限ヲ与フル無記名更新票ヲ発行シタル場合ニ於テ債券所持人カ此ノ如キ更新票ノ喪失セシコトヲ発行者ニ通知シタルトキハ発行者ハ新ナル利息票、年金票又ハ利益持分票ヲ右ノ更新票ノ所持人ニ交付セスシテ之ヲ債券ノ所持人ニ交付スルノ義務ヲ負フ 第六百九十九条 若シ無記名債券カ復タ流通ニ適切ナラサル様ニ毀損シ又ハ壊潰シタルモ其重要ノ含旨及ヒ其区別ノ徴証ハ尚ホ的確ニ識知セラル可キトキハ発行者ハ所持人ノ求メニ因リ其毀損シ又ハ壊潰シタル債券ノ交付ヲ受ケタル上其債券ニ換ヘテ新債券ヲ所持人ニ交付ス可シ又所持人ハ新債券ノ費用ヲ担当シ且之ヲ前払ニス可シ 第七百条 無記名債券ヲ一定ノ権利者ノ名ニ書換ヲ為スハ発行者ノミ之ヲ果成スルコトヲ得然レトモ発行者ハ此ノ如キ書換ヲ為スノ義務ヲ負フコト無シ 第七百一条 発行者カ所持人ニ対シテ一定ノ金銭計額ノ支払ヲ約束スル債券ハ帝国又ハ各邦ヨリ発行セサルモノニ限リ単ニ政府ノ認可ヲ受ケテノミ之ヲ発行シ及ヒ流通セシムルコトヲ許ルサル 右ノ種類ノ債券ニシテ政府ノ認可ヲ受クル無クシテ流通セシメタルモノハ無成タリ此発行者ハ所持人ニ対シ其発付ニ因リテ惹起シタル損害ニ付キ責任ヲ負フ 政府ノ認可ハ各邦ノ中央官庁ヨリ之ヲ与フルモノトス其認可ハ之ヲ与ヘタル条件ナル細則ト共ニ独逸官報ヲ以テ公告ス可シ 第一項ニ記載シタル種類ノ債券ニシテ各邦政府ノ発行シタルモノヽ印行物ノ体式ニ関シ規定シタル各邦法律ハ仍ホ異動ヲ受クルコト無シ 第七百二条 切符、切手、小票及ヒ此等類似ノ証書ヲ発付シタル場合ニ在テ発行者カ其毎時ノ所持人ニ対シ債行為ヲ果成スルノ義務ヲ負ヒタルコトノ意思ノ判然スルトキハ第六百八十五条第一項及ヒ第六百八十七条乃至第六百八十九条ノ成規ヲ準用ス 第七百三条 若シ債権者ヲ記名シ又ハ債権者ニ対シテ一定ノ人ヲ債権者トシテ指示セル証券カ之ヲ以テ約束シタル債行為ヲ各所持人ニ対シ果成スルコトヲ得可シトスル定款ヲ以テ発付セラレタルトキハ所持人ハ其債行為ノ果成ヲ要求スルノ権利ヲ有セス此ニ反シテ債務者ハ所持人ニ対シ債行為ヲ果成シテ其義務ヲ免カルヽノ権利ヲ有ス 第三章 制禁ノ行為ニ因リテ生スル債務関係 第一節 通則 第七百四条 若シ某人カ故意ヲ以テ又ハ過誤ニ出テ犯シタル違法ノ行為(作為又ハ不作為)ニ因リテ他人ニ損害即チ自己カ其起生ヲ予知シタル又ハ予知スルコトヲ要セシ損害ヲ加ヘタルトキハ其行為ニ因リテ惹起シタル損害ヲ他人ニ対シ賠償スルノ義務ヲ負フ此場合ニ在テハ其損害ノ範囲カ予知セラル可キモノナリシト否トニ区別ヲ立ツルコト無シ 若シ某人カ故意ヲ以テ又ハ過誤ニ出テ犯シタル違法ノ行為ニ因リテ他人ノ権利ヲ毀損シタルトキハ損害ノ起生ヲ予知ス可カラサリシトキト雖モ其権利ノ毀損ニ因リテ他人ニ惹起シタル損害ヲ之ニ対シ賠償スルノ義務ヲ負フ生命、身体、健康、自由及ヒ名誉ノ毀損モ亦此成規ニ謂ヘル権利ノ毀損ト看做ス可シ 第七百五条 一般ノ自由ニ依リテ当然許サレタル行為ト雖モ若シ其行為カ他人ノ損害ト為リ又其挙行カ良風俗ニ悖戻スルトキハ之ヲ違法ノモノト看做ス 第七百六条 若シ被害者カ加害ノ行為ニ同意シタルトキハ損害賠償ノ請求権ヲ有セス 第七百七条 若シ加害ノ行為カ之ヲ犯シタル者ニ対シ宥恕ス可キ錯誤ニ因リテ許サレタリト認メラレタルトキハ其犯者ハ損害賠償ノ義務ヲ負ハス 第七百八条 若シ某人カ弁識力ノ奪去セラレタル間ニ於テ他人ニ損害ヲ加ヘタルトキハ其損害ニ付キ責任ヲ負ハス然レトモ自己ノ過失ニ出テタル昏酔ニ因リテ弁識力ノ除斥セラレタルトキハ其損害ニ付キ責任ヲ負フ 第七百九条 若シ某人カ幼年タリシ間ニ於テ他人ニ損害ヲ加ヘタルトキハ其損害ニ付キ責任ヲ負ハス又若シ某人カ幼年ヲ超エタル後ナルモ満十八歳以前ニ於テ制禁ノ行為ヲ犯シタル場合ニ在テハ其行為ヲ犯スノ際責任ヲ識知スルニ必要ナル考断力ヲ有セサリシトキハ其行為ニ因リテ生シタル損害ニ付キ責任ヲ負ハス 第七百十条 法律ニ依リテ他人ノ監視ヲ為スノ義務ヲ負ヒタル者ハ他人ノ第三者ニ対シテ違法ニ加ヘタル損害ノ賠償ニ付テハ若シ其義務者カ自己ノ監視義務ヲ毀損シ且其義務ヲ履行シタル可カリシナラハ損害ノ生シタルニ非サル可カリシトキ責任ヲ負フ 法律ニ依リテ義務ヲ負ヒタル者ノ為メニ監視ヲ為スコトヲ引受タル者モ亦前項ト同一ノ責任ヲ負フ 第七百十一条 何人タリトモ一箇又ハ二箇以上ノ行為ノ業務夢ヲ他人ニ担任セシムル者ハ尋常家父ノ注意ヲ要スル場合及ヒ其要スル限度ニ於テ他人ヲ監視スルノ義務ヲ負フ 若シ此義務カ毀損セラルヽトキハ監視義務者ハ担任者カ其業務ノ実施ニ関シ犯シタル制禁ノ行為ニ因リテ第三者ニ加ヘタル損害ノ賠償ニ付テハ第七百十条第一項ノ成規ニ照準シテ責任ヲ負フ 第七百十二条 何人タリトモ一箇又ハ二箇以上ノ行為ノ業務ヲ他人ニ担任セシムル者ハ其業務ノ為メ適任ノ人ヲ選択スルノ義務ヲ負フ若シ此義務カ毀損セラルヽトキハ第七百十一条第二項ノ成規ヲ準用ス 第七百十三条 若シ他人ノ第三者ニ加ヘタル損害ニ付テ第七百十条乃至第七百十二条ノ成規ニ依リ責任ヲ負ヘル者ト共ニ此他人モ亦其損害ニ付キ責任ヲ負ヘルトキハ其両人ハ合同債務者トシテ責任ヲ負フ然レトモ此両人ノ相互間ノ関係ニ於テハ損害ヲ加ヘタル他人カ単独債務者トシテ義務ヲ負担セリト看做ス但第三百三十八条ノ成規ハ此カ為メニ害セラルヽコト無シ 第七百十四条 若シ二人以上ノ者カ教唆者ナルト正犯者ナルト従犯者ナルトヲ問ハス共同ノ行為ニ因リテ損害ヲ生シタルノ責ヲ負ヒタルトキハ合同債務者トシテ責任ヲ負フ又若シ二人以上ノ者カ損害ヲ生シタルノ責ヲ負ヒタル場合ニ於テ二人以上ノ者カ共同シテ行為ヲ為シタルニ非サルモ其損害ニ付テノ各個人ノ持分ヲ検出スル能ハサルトキハ亦前段ト同一ナリ 第七百十五条 目的物ノ奪取又ハ変悪ノ場合ニ於テ債務者カ其還付又ハ回復ヲ為ス能ハサルトキハ其能ハサル限度ニ於テ債務者ハ奪取又ハ変悪ノ当時其目的物ノ有シタル価額ヲ賠償ス可シ債権者ハ情況ニ随ヒ其損害カ賠償価額ヨリモ尚ホ多キ価額ヲ奪取シタルニ在リト推認セラル可キトキニ限リ奪取又ハ変悪ノ時ヨリ以後ノ時ニ於ケル価額ヲ主張スルコトヲ得 第七百十六条 目的物ノ奪取ノ場合ニ在テハ債務者ハ其目的物カ制禁ノ行為ニ因ルニ非スシテ後ニ至リ事変ニ因リテ滅尽シ又ハ変悪シタルトキト雖モ亦第七百十五条ニ定メタル価額又ハ価額ノ差違ヲ賠償スルノ義務ヲ負フ但此事変ニ因リテ生シタル損害カ目的物ノ奪取セラレタルニ非サル可カリシトキト雖モ亦生シタル可カリシコトノ表顕セサル分度ニ限ル 第七百十七条 若シ金銭ヲ奪取シタルトキハ債務者ハ奪取ノ時ヨリ其金銭額ニ利息ヲ附ス可シ但其利息額ヲ超過スル損害ヲ賠償スルノ義務ハ此カ為メニ変更セラルヽコト無シ 若シ債務者カ奪取シ又ハ変悪シタル目的物ニ付キ賠償債行為ヲ果成ス可キトキハ第七百十五条ノ成規ニ依リ価額ヲ確定スル為メニ標準ト為ル時点ヨリ其賠償額ニ利息ヲ附ス可シ此利息ヲ要求スル債権者ハ同一時間内ニ於テハ利息ノ外ニ其奪取セラレタル果益ニ付テノ損害賠償ヲ要求スルコトヲ得ス 第七百十八条 債務者ハ違法ニ奪取シタル目的物ニ付キ支出シタル費用ニ関シ債権者ニ対シテハ占有者カ所有者ニ対シテ有スル権利ヲ有ス 第七百十九条 制禁ノ行為ニ因リテ生シタル損害ノ賠償ニ係ル請求権ハ三年ノ満了ヲ以テ時効ニ罹ル此時効期間ハ債権者カ被フレル損害及ヒ債務者其人ヲ識知シタル時点ヲ以テ始マル 時効期間ハ制禁ノ行為ヲ犯シタル時点ヨリ起算シテ三十年トス但右ノ請求権カ前項ニ適準シテ三十年前既ニ時効ニ罹リタルニ非サルトキニ限ル 第七百二十条 制禁ノ行為ヲ犯シタル者カ其行為ニ因リテ被害者ノ財産ノ計内ヨリ自己ヲ利殖シタルトキハ其利殖シタル分度ニ限リ損害賠償ニ係ル請求権ノ既ニ時効ニ罹レル後ト雖モ其犯者ハ廃棄セラル可キ領受ニ因レル不当ノ利殖ノ場合ニ適用スル成規ニ照準シテ利殖物ヲ呈出スルノ義務ヲ負フ 第七百二十一条 償金ニ関スル帝国法律ノ成規ハ異動ヲ受クルコト無シ 第二節 各個ノ制禁ノ行為 第七百二十二条 何人タリトモ故意ヲ以テ又ハ過誤ニ出テ違法ノ行為ニ因リテ他人ヲ死ニ致シタル者ハ試行シタル治療費ヲ賠償シ及ヒ埋葬費ヲ担当スルノ義務ヲ負ヘル者ニ此費用ヲ賠償ス可シ 若シ死亡ニ因リテ被殺者ノ身上ニ附着セル財産権ノ消滅シタルトキ又ハ被殺者カ己レノ推測上生存年数ノ短縮セラレタルニ非サル可カリシナラハ取得シタル可カリシ財産権ノ取得ヲ妨害セラレタルトキハ被殺者ハ其遺産カ早ク死亡セルニ因リテ減殺ヲ被フリタル限度ニ於テ自己ノ財産ヲ毀損セラレタリト看做サル可シ有責者ハ第七百四条第二項ニ照準シテ此損害ヲ賠償スルノ義務ヲ負フ 被殺者カ即時ニ死セサル場合ニ於テ第七百二十六条及ヒ第七百二十八条第一項ニ照準シテ取得シタル請求権ハ異動ヲ受クルコト無シ 第七百二十三条 第七百二十二条第一項ノ場合ニ於テ致死ノ傷害ヲ加ヘタル当時第三者カ被殺者ト左ノ権利関係即チ此ニ因リテ被殺者ニ対シ給養ヲ受クル法律上ノ請求権ノ既ニ起生シ又ハ其請求権ノ起生スルニ至ルヲ得タリシ権利関係ノ中ニ在リシトキハ有責者ハ殺死ノ結果ニ於テ給養ヲ受クル請求権ノ消滅シタル限度ニ於テ第三者ニ対シ損害賠償ノ債行為ヲ果成ス可シ此成規ハ之ニ記載シタル当時ニ於テハ未タ誕生セサルモ既ニ妊娠セラレタル者ノ為メニモ亦之ヲ適用ス 此賠償請求権ハ他人カ被殺者ニ代ハリテ給養費ヲ供与スルノ義務ヲ負ヘルモ又ハ制禁ノ行為ヲ犯セル際ニ於テハ給養ヲ受クル権利ニ関シ其行為ニ因リテ生スル結果カ予知ス可カラサリシモ此カ為メニ除斥セラルヽコト無シ 第七百二十四条 第七百二十三条ニ適準シテ果成ス可キ損害賠償ハ紛養費ノ供与セラル可カリシ時間義務者カ権利者ニ年金ヲ支払フコトヲ要スル方法ニ於テ之ヲ果成ス可シ 此年金ハ被殺者カ推測上ニ於テ尚ホ生存シタル可カリシ時間ヨリ長キ時間之ヲ支払フコトヲ要セス 年金ニ係ル請求権ハ之ヲ転付スルコトヲ得ス又其年金ニ対スル相殺ハ之ヲ為スコトヲ得ス 年金支払ノ義務ヲ言渡セル判決ノ仮執行力ニ関シテハ訴訟法第六百四十八条第六項ノ成規ヲ準用ス 裁判所ハ如何ナル種類ニ於テ及ヒ如何ナル数額ニ於テ義務者カ担保債行為ヲ果成ス可キヤヲ自由ノ見込ヲ以テ定ム可シ 若シ訴訟法第六百八十六条第二項ニ掲ケタル時点ノ以後ニ於テ左ノ関係(情状)即チ年金支払ノ義務ニ係ル帰責判決ノ為メ又ハ年金数額ノ規定若クハ年金支払時間ノ規定ノ為メ標準タリシ関係(情状)ノ重要ナル変更カ生スルトキハ各方ハ此変更ニ適応スル前判決ノ改更ヲ要求スルノ権利ヲ有ス此改更ハ之ヲ求ムル訴ノ提起以来ノ時間ノ為メニノミ之ヲ為スコトヲ許ス若シ年金支払ノ義務ヲ言渡セル判決ニ於テ担保債行為ノ言渡ヲ為シタルニ非サル場合ニ在テハ権利者ハ義務者ノ財産上関係カ著シク変悪シタルトキハ担保債行為ヲ要求スルノ権利ヲ有ス義務者ノ財産上関係カ著シク変悪シタリトスル此予定条件ノ存スルトキハ既ニ言渡サレタル担保ノ増額ヲモ亦之ヲ要求スルコトヲ得 其他年金ニハ第六百六十条乃至第六百六十二条ノ成規ヲ準用ス 特別ノ情況有ルトキハ裁判所ハ年金ノ権宜判決ニ換ヘテ元本打切金額ヲ定ムルコトヲ得 第七百二十五条 其他殺死ニ因リテ生シタル損害ニ付キ有責者ニ対シ賠償ヲ第七百四条第一項ニ照準シテ要求スル第三者ノ権利ハ第七百二十二条乃至第七百二十四条ノ成規ノ為メニ異動ヲ受クルコト無シ 第七百二十六条 何人タリトモ故意ヲ以テ又ハ過誤ニ出テ違法ノ行為ニ因リテ他人ノ身体又ハ健康ヲ傷害シタル者ハ被害者ニ対シテ治療費ヲ賠償ス可キノミナラス亦之ヲ前払ニス可シ此他加害者ハ若シ傷害ノ結果ニ於テ被害者ノ取得能力ヲ一時又ハ経久ニ廃棄シ若クハ減少シ又ハ被害者ノ需要ヲ増加シタトキハ此カ為メ被害者ニ対シテ損害賠償ノ債行為ヲ果成スルノ義務ヲ負フ此損害賠償ハ其取得能力ヲ廃棄シ若クハ減少シ又ハ其需要ヲ増加シタル時間義務者カ権利者ニ対シテ年金ヲ支払フノ方法ニテ之ヲ果成ス可シ又此損害賠償ノ請求権ハ他人カ被害者ニ給養費ヲ供与スルコトヲ要スルモ此カ為メニ除斥セラルヽコト無ク又減殺セラルヽコト無シ第七百二十四条第五項乃至第八項ノ成規ハ之ヲ準用ス 此他有責者ノ損害賠償ノ義務ハ第七百四条ノ成規ニ依リテ定マル 第七百二十七条 何人タリトモ故意ヲ以テ又ハ過誤ニ出テ違法ノ行為ニ因リ他人ニ対シテ其一身上ノ自由ヲ奪取セル者ハ第三者カ此他人ト其自由奪取ノ時間左ノ権利関係即チ此ニ因リテ其他人ニ対シ給養ヲ受クル法律上ノ請求権ノ起生シタル権利関係中ニ在ルトキハ其第三者ニ対シ自由奪取ノ結果ニ於テ給養ヲ受クル請求権ヲ内国ニ於テ有効ニ行用スル能ハサル分度ニ限リ損害賠償ノ債行為ヲ果成スルノ義務ヲ負フ此損害賠償ノ請求権ニハ第七百二十三条第二項及ヒ第七百二十四条ノ成規ヲ準用ス 此他有責者ノ損害賠償ノ義務ハ第七百四条ノ成規ニ依リテ定マル 第七百二十八条 第七百二十六条、第七百二十七条ノ場合ニ在テハ裁判所ハ傷害ヲ受ケタル者又ハ自由ヲ奪取セラレタル者ニ対シ財産ノ損害ニ非サル他ノ損害ニ付テモ自由ノ見込ヲ以テ金銭ニ於ケル権宜ノ損害賠償ヲ受クルノ権利ヲ有ス可シト言渡スコトヲ得此損害賠償ニ係ル請求権ハ権利者ノ相続人ニ移転セス又此請求権ハ之ヲ他人ニ転付スルコトヲ得ス但其請求権カ契約ヲ以テ承認セラレ又ハ権利拘束ト為リタルトキハ此限ニ在ラス 前項ノ成規ハ婦ニ対シテ交接ヲ行ヒ刑法第百七十六条、第百七十七条、第百七十九条及ヒ第百八十二条ニ掲ケタル罰セラル可キ行為ノ一カ犯サレタルトキ此ヲ受ケタル婦ノ為メニ之ヲ準用ス 第七百二十九条 若シ建造物内ヨリ公街路ノ方ニ又ハ人ノ交通スルヲ常習ト為ス場所ノ方ニ物ヲ注出シ又ハ投出シ此ニ因リテ他人ニ害ヲ被フラシメタルトキハ其他人ハ建造物ノ所持人ニ対シ又若シ二人以上ノ者カ建造物ヲ区分シテ所持スルトキハ害ヲ致シタル部分ノ所持人ニ対シテ損害賠償ニ係ル請求権ヲ有ス但其所持人カ加害ノ行為ヲ犯シタル人ヲ指告シタルトキハ此限ニ在ラス 所持人ハ若シ制禁ノ行為ニ因リテ生スル責任ニ関スル現行ノ通則ニ依リ自己ノ無責任ナル行為ニ因リテ損害ノ生シタルコトヲ証明スルトキニモ亦損害賠償ノ義務ヲ負ハス 第七百三十条 若シ建造物ノ所持人又ハ其一分ノ所持人カ第七百二十九条ノ成規ニ従ヒテ損害賠償ノ債行為ヲ果成シタルトキハ制禁ノ行為ニ因リテ生スル責任ニ関スル現行ノ通則ニ依リ加害ノ行為ニ付キ責任ヲ負ヘル者ニ対シテ其賠償ヲ要求スルコトヲ得 第七百三十一条 若シ第七百二十九条ノ場合ニ於テ二人以上ノ者カ不分ニテ建造物又ハ害ヲ致シタル部分ヲ所持スルトキハ合同債務者トシテ其責ニ任ス 第七百三十二条 第七百二十九条ニ依リテ被害者ニ属スル請求権ハ一月ノ満了ヲ以テ時効ニ罹ル此時効期間ハ加害ノ時点ヲ以テ始マル 第七百三十三条 第七百二十九条乃至第七百三十二条ノ成規ハ若シ物ヲ相当ナル固着ヲ為サスシテ建造物ニ載置シ又ハ懸釣シ其物ノ墜落スルニ因リテ他人ニ害ヲ被フラシメタルトキハ之ヲ準用ス 第七百三十四条 何人タリトモ獣畜ヲ飼牧スル者ハ尋常家父ノ注意ヲ用ヒ獣畜ヲシテ他人ニ損害ヲ加フル無カラシムル為メニ必要ナル予防処分ヲ為スノ義務ヲ負フ若シ此義務ヲ毀損シタルトキハ獣畜ノ飼牧者ハ此ニ因リテ第三者ニ生シタル損害ヲ第七百四条、第七百二十二条乃至第七百二十六条及ヒ第七百二十八条第一項ニ照準シテ賠償スルノ義務ヲ負フ 獣畜ノ飼牧者ノ為メニ監視ノ執行ヲ引受ケタル者モ亦前項ト同一ノ責任ヲ負フ 第七百三十五条 地所ノ占有者ハ地所ニ存スル建造物其他ノ作功物カ欠缺有ル搆造ノ結果又ハ欠缺有ル保持ノ結果ニ於テ頽壊スル無キコトノ為メニ尋常家父ノ注意ヲ用ヰテ注意スルノ義務ヲ負フ若シ此義務ヲ毀損シタルトキハ占有者ハ此カ為メ惹起シタル頽壊ニ因リテ第三者ニ生シタル損害ヲ第七百四条、第七百二十二条乃至第七百二十六条及ヒ第七百二十八条第一項ノ成規ニ照準シテ賠償スルノ義務ヲ負フ 若シ第三者カ権利ノ執行ニ関シテ他人ノ土地ノ上ニ建造物其他ノ作功物ヲ保持スルトキハ此第三者ハ地所ノ占有者ニ代ハリテ前項ニ掲ケタル責任ヲ負フ 第一項及ヒ第二項ノ成規ニ依リテ義務ヲ負担セル者ノ為メニ作功物ノ保持ヲ引受ケタル者モ亦同一ノ責任ヲ負フ 第七百三十六条 第三者ニ対シテ法律上自己ノ負担セル官職義務ヲ故意ヲ以テ又ハ過誤ニ出テ毀損シタル官吏ハ第七百四条、第七百二十二条乃至第七百二十六条及ヒ第七百二十八条第一項ノ成規ニ照準シ其義務ノ毀損ニ因リテ第三者ニ生シタル損害ニ付キ責任ヲ負フ 若シ第三者ニ係ル業務ノ執行ノ為メニ他人ヲ任定スルノ義務又ハ第三者ノ為メニ他人ノ担任セル業務ノ執行ヲ監督スルノ義務又ハ権利行為ノ為メニ認可ヲ与ヘ又ハ之ヲ拒ミテ右ノ如キ業務ノ執行ニ協力スルノ義務ヲ負ヘル官吏カ其義務ノ毀損ニ因リテ他人ト共ニ他人ノ加ヘタル損害ニ付キ責任ヲ負フトキハ第七百十三条ノ成規ヲ準用ス 権利事件ニ付キ自己ノ負担セル指揮又ハ裁決ニ関シテ自己ノ官職義務ヲ毀損シタル官吏ハ此ニ因リテ生シタル損害ニ付テハ其義務毀損カ刑事裁判手続ニ依リテ科スル公刑ヲ以テ処罰セラル可キモノナルトキニ限リ責任ヲ負フ 提示 施行規則ニ於テハ官吏ハ義務毀損ニ因リテ生シタル損害ニ付テハ被害者カ他ノ方法ヲ以テ損害ノ賠償ヲ受得スル能ハサルトキ始メテ請求セラルヽコト有リトスル各邦法律ノ仍ホ其効力ヲ存スル限度ヲ規定スルナル可シ 第四章 別段ノ原由ヨリ生スル各個ノ債務関係 第一節 利殖 第一款 非債務ノ債行為 第七百三十七条 何人タリトモ義務履行ノ為メニ債行為ヲ果成シタル者ハ若シ其義務ノ存立セシニ非サルトキハ其領受人ニ対シテ果成債行為ノ目的物ノ償還要求ヲ為スコトヲ得 右ノ場合ニ在テハ義務カ全般ニ存立セシニ非サルト又ハ更ラニ消滅シタルト又ハ債行為ニ係ル請求権ニ対シテ其請求権ノ行用ヲ永久ニ除斥シタル抗弁権カ反抗シタルトニ区別ヲ立ツルコト無シ 償還要求ハ若シ債行為カ単ニ占有又ハ所持ノ供付ヨリ成立シタルトキト雖モ亦之ヲ為スコトヲ得 若シ債行為果成者カ其債行為果成ノ当時ニ於テ義務ノ存立セシニ非サルコトヲ識知シタルトキハ償還要求ハ除斥セラル 第七百三十八条 若シ債行為カ延期セラレタル義務ノ履行ノ為メニ其満期前ニ果成セラレタルトキハ償還要求ハ之ヲ為スコトヲ得ス亦中間利息モ之ヲ要求スルコトヲ得ス 第七百三十九条 若シ呈出カ果成債行為ノ目的物ノ性質ニ因リテ除斥セラレタルトキ又ハ領受人カ償還要求ニ係ル請求権ノ権利拘束ノ開始ノ際ニ果成債行為ノ目的物ヲ呈出スル能ハサルトキハ領受人ハ其目的物ノ価額ヲ賠償ス可シ 呈出又ハ価額賠償ニ係ル義務ハ領受人カ請求権ノ権利拘束ノ開始ノ際ニ果成債行為ノ目的物ニ因リテ既ニ利殖シタルニ非サル分度ニ限リ消滅ス 第七百四十条 呈出又ハ価額賠償ニ係ル義務ハ領受人カ果成債行為ノ目的物ニ因リテ取得シタルモノニモ亦及フモノトス 若シ領受人カ所有ノ為メニ領受シタル物ヲ呈出ス可キトキ又ハ自己ニ転譲セラレタル用益権即チ其転譲ノ当時ニ於テ存立シタル用益権ヲ還付ス可キトキハ果益ノ呈出及ヒ賠償ニ係ル領受人ノ義務ハ占有者ノ所有者ニ対シテ負担セル義務ニ関スル成規ニ因リテ定マル 領受人ハ目的物ニ付キテ権利拘束ノ開始前ニ支出シタル総テノ費用ノ賠償ヲ受ケ此ト引換ニ於テノミ其目的物ノ呈出ヲ為スノ義務ヲ負フ然レトモ領受人ハ自己ニ留存スル果益ニ因リテ利殖セシニ非サル限度ニ於テノミ此費用ノ賠償ニ係ル権利ヲ有ス 第七百四十一条 若シ領受人カ義務即チ其履行ノ為メニ債行為ノ果成セラレタル義務ノ存立セシニ非サルコト且債行為果成者ノ此事ヲ教示セラレタルニ非サルコトヲ債行為領受ノ際ニ識知シタルトキハ領受人ハ制禁ノ行為ニ因リテ生スル損害賠償ニ関スル成規ニ照準シテ債行為果成者ニ対シ其損害ヲ賠償スルノ義務ヲ負フ 若シ領受人カ債行為ノ領受後ニ始メテ前項ニ掲ケタル識知ヲ得タルモ権利拘束ノ開始前ナルトキハ第七百三十九条ノ成規ハ左ノ制限即チ其識知ヲ得タル時点カ権利拘束ノ開始ノ時点ニ換ハルノ制限ヲ以テ之ヲ適用ス又此ノ如キ場合ニ在テハ其識知ヲ得タル時点ヨリ以後ハ果益ノ呈出及ヒ賠償ニ関シ、費用ノ賠償ニ関シ並ニ維持及ヒ保管ニ係ル責任ニ関シテハ第二百四十四条ニ依リ権利拘束ノ開始ノ場合ニ関スル現行ノ成規ヲ適用ス 第二款 債行為ニ付テノ予定条件ト為サレタル将来ノ事故又ハ法律上ノ結果ノ不発生 第七百四十二条 何人タリトモ明示又ハ黙止ニテ陳述シタル左ノ予定条件即チ将来ノ事故又ハ法律上ノ結果ノ発生若クハ不発生ノ予定条件附ニテ債行為ヲ果成シタル者ハ若シ其予定条件ノ成就セサルトキハ領受人ニ対シテ果成債行為ノ目的物ノ償還要求ヲ為スコトヲ得 第七百四十三条 此償還要求ハ左ノ場合ニ在テハ除斥セラル 第一 債行為ヲ果成シタル予定条件カ供与者ニ於テ債行為ニ因リ良風俗又ハ公秩序ニ悖戻シタル種類ノモノナルトキ 第二 供与者カ権利行為ノ含旨ニ違背セル方法ヲ以テ予定条件ノ成就ヲ妨碍シタルトキ 第三 初ヨリ予定条件ノ成就カ不可能ノモノニシテ供与者カ其不可能ヲ識知シタルトキ 第七百四十四条 果成債行為ノ目的物ヲ呈出ス可キ領受人ノ義務ニハ第七百三十七条第三項及ヒ第七百三十九条、第七百四十条ノ成規ヲ準用シ其他若シ領受人カ予定条件ノ成就スル能ハサルコト且供与者ノ此事ヲ教示セラレタルニ非サルコトヲ債行為ノ領受ノ際ニ識知シタルトキハ第七百四十一条第一項ノ成規ヲ準用シ又若シ領受人カ領受後ニ始メテ此識知ヲ得又ハ予定条件ノ成就セサルコトヲ教示セラレタルトキハ第七百四十一条第二項ノ成規ヲ準用ス 第三款 債行為ノ権利原由ノ虧缺 第七百四十五条 何人タリトモ後ニ至リ虧缺シタル権利原由ニ因リテ債行為ヲ果成シタル者ハ領受者ニ対シテ其果成債行為ノ目的物ノ償還要求ヲ為スコトヲ得 果成債行為ノ目的物ヲ呈出ス可キ領受人ノ義務ニハ第七百三十七条第三項及ヒ第七百三十九条、第七百四十条ノ成規ヲ準用シ並ニ領受人カ権利原由ノ虧缺シタルコトヲ験知セル時ヨリ以後ハ第七百四十一条第二項ノ成規ヲ準用ス制禁ノ行為ニ因リテ生スル損害賠償ノ義務ハ異動ヲ受クルコト無シ 第七百四十六条 若シ仮ニ執行セラル可キ判決ニ依リテ債行為ヲ果成シタル場合ニ於テ其判決ノ廃罷セラレタルトキハ償還要求ノ請求権ハ債行為果成ノ時点ヲ以テ既ニ権利拘束ト為リタルモノト看做サル可シ 若シ債行為ヲ果成シタル憑拠タリシ判決カ証書又ハ為替ノ訴訟ニ於テ権利ヲ留保シテ発下セラレ又ハ控訴ノ裁判ニ於テ弁護方ノ行用ヲ留保シテ発下セラレ又ハ訴ニ付テノ弁論ト相殺ニ供セル反対債権ニ付テノ弁論トノ分離後ニ反対債権ニ付テノ裁判ヲ留保シテ発下セラレタル場合ニ在テ其判決カ此留保ニ因リテ廃罷セラルヽトキハ前項ト同一ナリ 提示 施行規則ニ於テハ相殺ニ供セル反対債権ノ分離ノ弁論カ命セラレタルトキハ判決ハ相殺ニ付テノ裁判ヲ留保シテ之ヲ発下ス可ク又若シ相殺カ理由有リトシテ言渡サルヽトキハ判決ハ之ヲ廃罷ス可シトスル訴訟法ノ補足成規ヲ掲ク可シ 第四款 廃棄セラル可キ領受 第七百四十七条 若シ権利行為ノ含旨ニ拠レハ債行為ノ領受人カ其債行為ノ諾受ニ因リテ良風俗又ハ公秩序ニ悖戻シタルトキハ供与者ハ果成債行為ノ目的物ノ償還要求ヲ為スコトヲ得 領受人ハ其領受ノ時ヨリ以後ハ左ノ成規即チ若シ非債務ノ領受人カ義務即チ其履行ノ為メニ債行為ノ果成セラレタル義務ノ存立セシニ非サルコトヲ債行為ノ果成後ニ験知シタル場合ニ於テ此非債務ノ領受人ニ対シ適用スル成規ニ照準シテ果成債行為ノ目的物ヲ呈出スルノ義務ヲ負フ 此償還要求ハ若シ供与者モ亦債行為ノ果成ニ因リテ良風俗又ハ公秩序ニ悖戻シタルトキハ除斥セラル 提示 高利貸ニ関スル千八百八十年五月二十四日ノ帝国法律〔帝国法律誌第百九葉〕ハ施行規則ニ於テ確ニ之ヲ維持ス可シ 第五款 他ノ無原由ノ所持 第七百四十八条 自己ノ財産ノ計内ヨリ自己ノ意思ニ依ルコト無ク又ハ法律上有効ナル自己ノ意思ニ依ルコト無クシテ他人ヲ利殖シタル者ハ若シ此利殖ニ付キ法律上ノ原由ノ欠缺シタルトキハ其他人ニ対シテ利殖ノ呈出ヲ要求スルコトヲ得 疑ノ存スル場合ニ在テハ権利ノ喪失カ此ヲ規定スル成規ニ基因スルトキハ之ヲ法律上ノ原由ナリト看做ス可シ 利殖ヲ呈出ス可キ者ノ義務ニハ第七百三十七条第三項及ヒ第七百三十九条、第七百四十条並ニ第七百四十一条第二項ノ成規ヲ準用ス制禁ノ行為ニ因リテ生スル損害賠償ノ義務ハ異動ヲ受クルコト無シ 第二節 無委任ノ業務執行 第七百四十九条 何人タリトモ他人ノ為メニ其委任無ク及ヒ官職上ノ義務無クシテ業務ヲ摂理スル者ハ故意又ハ過誤ニ因リテ惹起シタル損害ノ賠償ニ付キ業務主人ニ対シテ責任ヲ負フ 業務執行者ハ殊ニ尋常家父ノ注意ヲ用ユルニ於テハ識知スルコトヲ得可キ業務主人ノ意思ニ反シ行為ヲ為シタルニ因リテ惹起シタル損害ノ賠償ニ付テモ亦責任ヲ負フ但第七百五十五条ニ掲ケタル予定条件ノ一カ存スルトキハ此限ニ在ラス 第七百五十条 若シ業務執行者カ業務主人ノ一身又ハ財産ヲシテ急迫ナル危険ヲ免カレシメンカ為メニ行為ヲ為シタルトキハ単ニ故意及ヒ太甚ナル過誤ニ付テノミ責任ヲ負フ 第七百五十一条 業務執行者ハ業務主人ニ対シテ業務摂理ニ付キ行為弁疏ノ責ヲ卸脱シ及ヒ自已カ業務摂理ニ因リテ受得シタルモノヲ業務主人ニ呈出スルノ義務ヲ負フ此義務ニハ受委任者ノ負担セル義務ニ関スル成規ヲ準用ス 第七百五十二条 若シ業務執行者カ行為無能力タリ又ハ行為能力ヲ制限セラレタルトキハ業務執行者ハ第七百四十八条第三項ニ照準シ単ニ業務摂理ニ因リテ受得シタル利殖ノミヲ呈出スルノ義務ヲ負フ但制禁ノ行為ニ因リテ生スル責任ハ此カ為メニ害セラルヽコト無シ 第七百五十三条 業務執行者カ其処置ハ業務主人ニ於テ実際ノ事情ヲ識知シタル可カリシナラハ可認シタル可カリシモノナリト推認セラル可キ方法ニ於テ行為ヲ為シタル場合及ヒ其限度ニ在テハ業務執行者ハ業務執行ニ因リテ其目的ト為サレタル結果ノ生セサリシトキト雖モ業務主人ノ受委任者カ其主人ニ対スル如クニ自己ノ為シタル費用ノ賠償ニ係リ及ヒ自己ノ負担シタル義務ノ免除ニ係ル請求権ヲ有ス 業務主人ハ尋常家父カ相当ナリト認ムルコトヲ要シタル可カリシモノハ之ヲ可認シタル可カリシト推定セラル 第七百五十四条 第七百五十三条ニ掲ケタル請求権ハ若シ業務執行者カ其請求権ヲ受得スルノ意思無クシテ行為ヲ為シタルトキハ業務執行者ニ属セス 若シ父母又ハ祖父母カ其子孫ニ給養資ヲ供与シ又ハ子孫カ其父母又ハ祖父母ニ給養資ヲ供与シタルトキハ其相互間ノ関係ニ於テハ疑ノ存スル場合ニ在テハ前項ノ意思ハ欠缺シタリト推認セラル可シ 第七百五十五条 若シ業務主人ノ負担セル義務ニシテ業務摂理無クシテハ順当ニ履行セラレタルニ非サル可カリシモノカ公ノ利益ニ於テ履行セラルヽコトヲ要スル場合ニ在テ業務執行者カ其義務ノ履行ヲ果成シタルトキハ業務主人ノ禁令ニ反シテ行為ヲ為シタルトキト雖モ第七百五十三条ニ掲ケタル請求権ヲ有ス又若シ業務執行者カ業務主人ノ負担セル法律上ノ給養義務ニシテ業務摂理無クシテハ順当ニ履行セラレタルニ非サル可カリシモノヽ履行ヲ果成シタルトキハ前段ト同一ナリ 第七百五十六条 業務主人ノ行為無能力又ハ行為能力制限ハ第七百五十三条ニ依リテ業務執行者ニ属スル請求権ニ影響ヲ及ホスコト無シ 第七百五十七条 若シ業務執行者カ業務主人其人ヲ錯誤シタルトキハ真実ノ業務主人ハ第七百四十九条乃至第七百五十六条ニ照準シテ権利ヲ有シ及ヒ義務ヲ負フ 第七百五十八条 若シ業務摂理カ第七百五十三条ノ予定条件ニ適合セサルトキハ業務執行者ハ業務主人ニ対シ第七百四十二条乃至第七百四十四条ニ照準シテ単ニ利殖ノ呈出ニ係ル請求権ノミヲ有ス然レトモ業務主人カ此ノ如キ業務執行ヲ認諾スルトキハ其認諾シタル限度ニ於テ業務執行者ハ啻ニ第七百五十三条ニ掲ケタル請求権ヲ受得スルノミナラス尚ホ欠缺有ル業務摂理ニ因レル損害賠償ニ係ル業務主人ノ請求権ノ免除ヲ受得ス 第七百五十九条 第七百四十九条乃至第七百五十八条ノ成規ノ適用ハ業務執行者カ自己ノ利益ニ因リ又ハ第三者ノ利益ニ因リテ業務摂理ヲ為スニ至ラシメラレタルモ此カ為メニ除斥セラレス 第七百六十条 若シ某人カ第三者ノ委任ヲ受ケテ他人ノ業務ヲ摂理スルトキハ業務主人ハ其某人ニ対シ又其某人ハ業務主人ニ対シ業務摂理ニ因リテ義務ヲ負ハス但其某人カ同時ニ業務主人ノ業務執行者トシテ業務ヲ摂理スルノ主旨ヲ以テ行為ヲ為シタルトキハ此限ニ在ラス 第七百六十一条 第七百四十九条乃至第七百五十八条ノ成規ハ左ノ場合ニ在テハ一モ之ヲ適用セス 第一 若シ某人カ自己ノ業務タル可シトノ存意ニテ他人ノ業務ヲ摂理シタルトキ 第二 若シ某人カ違法ノ主旨ヲ以テ自己ノ業務トシテ他人ノ業務ヲ取扱ヒタルトキ 第一号ノ場合ニ在テハ業務執行者及ヒ業務主人ハ第七百四十八条第三項ニ照準シ業務摂理ニ因リテ其孰レニテモ自已ニ帰シタル利殖ヲ呈出スルノ義務ヲ負フ但制禁ノ行為ニ因リテ生スル業務執行者ノ責任ハ此カ為メニ害セラルヽコト無シ 第二号ノ場合ニ在テハ業務執行者ハ制禁ノ行為ニ因リテ生スル責任ニ関スル現行ノ成規ニ依リテ責任ヲ負フ 第三節 共同 第七百六十二条 若シ一ノ権利カ不分ニテ二人以上ノ人ニ共同ニテ属スルトキハ法律ニ依リテ別段ノ事項ノ表顕セサル限リハ共同ハ分割部分ニ於ケルモノト推認セラル可シ 若シ共同カ分割部分ニ於テ成立スルトキハ第七百六十三条乃至第七百七十三条ノ成規ヲ適用ス 第七百六十三条 各個ノ部分持主ハ共同目的物ニ係ル自己ノ持分ニ付キ処分ヲ為スコトヲ得然レトモ共同目的物ノ全部ニ付テハ単ニ部分持主総員カ共同ニ於テノミ処分ヲ為スコトヲ得此第二段ノ規定ハ共同目的物ノ事実上ノ変更ニ付テモ亦之ヲ適用ス 第七百六十四条 疑ノ存スルトキハ共同目的物ニ係ル部分持主ニ平等ノ持分カ属ス可シト推認セラル可シ 第七百六十五条 共同目的物ノ管理ハ単ニ共同ニ於テノミ部分持主総員ニ属スルモノトス 各個ノ部分持主ハ其使用ニ因リテ自余ノ部分持主ノ共同使用ヲ害セサル分度ニ限リ共同目的物ノ使用ヲ為スノ権利ヲ有ス又各個ノ部分持主ハ共同目的物ノ果実ニ付テハ其共同目的物ニ係ル自己ノ持分ニ相当スル分割部分ヲ有ス 然レトモ尋常家父ノ用ユル注意ニ相当シ且部分持主ノ果益ニ付テ有スル持分ノ権利ヲ毀損セサル管理及ヒ利用ハ多数議ヲ以テ之ヲ議決スルコトヲ得多数議ノ存否ヲ裁定スルニ当リテハ議権ノ員数ハ持分ノ多寡ヲ以テ之ヲ計算ス 第七百六十六条 各個ノ部分持主ハ自余ノ部分持主ニ対シ共同目的物ノ任スル負担、共同目的物ノ維持ノ為メニ必要ナル費用並ニ共同目的物ノ管理及ヒ利用ニ関スル費用ヲ自己ノ持分ノ割合ニ応シテ負担スルノ義務ヲ負フ又各個ノ部分持主ハ若シ前段ノ規定ニ依リテ自己ノ負担ニ帰スル共同目的物ノ負担及ヒ費用ノ部分ヲ他ノ部分持主カ支払ヒタルトキハ之ニ対シテ其弁償債行為ヲ果成ス可シ又共同目的物ノ維持ノ為メニ必要ナル処分ニ付テハ予メ自己ノ同意ヲ与フルノ義務ヲ負フ 第七百六十七条 各個ノ部分持主ハ法律又ハ権利行為ヲ以テ別段ノ事項ヲ規定セサル限リハ何時タリトモ共同廃罷ヲ求ムルコトヲ得 共同ノ廃罷ヲ求ムルノ権利ヲ永久除斥シ又ハ三十年ヲ超ユル長キ時間除斥スルノ合意ハ三十年ノ満了後其効力ヲ失フ此ノ如キ合意並ニ右ノ権利ヲ或ル時間除斥スル各合意ハ別段ノ合意ヲ為シタルニ非サル限リハ部分持主ノ死亡ヲ以テ其効力ヲ失フ 若シ部分持主ノ財産ニ付キ破産カ開始セラレタルトキハ共同ノ廃罷ヲ永久除斥シ又ハ或ル時間除斥スルノ合意ハ破産管理者ヲ羈束セス 第七百六十八条 共同ノ廃罷ニ係ル請求権ハ時効ニ服セス 第七百六十九条 共同ノ廃罷ハ各個ノ部分持主カ多寡及ヒ価額ニ於テ各自ノ持分ニ相当スル部分ヲ受得スルコトヲ得ルニ足ル丈ケノ多クノ同種類ノ部分ニ於テ共同目的物ヲ其価額ヲ減殺スル無クシテ分割スルコトヲ得ル分度ニ限リ本性上ノ分配ニ因リテ果成ス前段ノ規定ハ二個以上ノ同種類ニシテ同価額ヲ有スル目的物カ共同ノ有タルトキハ之ヲ準用ス 若シ此ノ如キ本性上ノ分配ヲ為ス能ハサルトキハ共同ノ廃罷ハ共同目的物ノ売却ニ因リ及ヒ其売得金ノ分配ニ因リテ果成ス地所ノ売却ハ地所ノ強制競売ニ関スル成規ニ依リテ果成シ其他ノ目的物ノ売却ハ強制執行ノ手続ニ於テ質取セラレタル目的物ノ売却ニ関スル訴訟法ノ成規ニ依リテ果成ス 不分債権ノ売却ハ尚ホ末タ其債権ヲ行用スルコトヲ得サルトキニ限リ之ヲ為スコトヲ許サル若シ既ニ其債権ヲ行用スルコトヲ得ルトキハ各個ノ部分持主ハ其債権ノ共同徴収ヲ求ムルコトヲ得其徴収ノ後其債行為ノ目的物ニ関スル共同ノ廃罷ハ第一項及ヒ第二項ノ成規ニ依リテ果成ス 若シ第一項ノ成規ニ依リテ本性上ノ分配ヲ為スコトヲ得サル目的物ヲ第三者ニ転譲スル能ハサルトキハ部分持主等ノ間ニ於テ其目的物ヲ競売ニ付ス可シ 第七百七十条 若シ部分持主カ他ノ部分持主ニ対シテ其相互間ニ存立スル共同ニ因リテ生シタル債権ヲ有スルトキハ其債権ヲ共同ノ廃罷ノ際ニ債務者ノ共同目的物ニ付テ有スル持分ヲ以テ支払フ可キヲ求ムルコトヲ得 第七百七十一条 若シ共同ノ廃罷ノ際ニ共同目的物ノ全部又ハ一分カ一人又ハ二人以上ノ部分持主ニ帰スルトキハ自余ノ分部持主ノ各自ハ第二百九十八条、第三百七十条乃至第三百九十七条ノ成規ニ照準シテ自己ノ旧持分ニ付キ保任債行為ヲ果成ス可シ 第七百七十二条 部分持主カ共同ノ廃罷ヲ求ムルノ権利ヲ有セサル時間中又ハ部分持主カ本性上ノ分配ノ不可許ノ為メ若クハ売却ノ不可能ノ為メニ共同ノ廃罷ヲ為ス能ハサル時間中ハ部分持主ハ共同目的物ヲ義務ヲ負ヒテ管理シ及ヒ利用スルコトニ関スル規定ノ欠缺スルトキハ自余ノ部分持主ニ対シ権宜ノ見込ニ依リ部分持主総員ノ利益ニ適当スル種類ノ管理ニ同意ヲ表ス可キヲ求ムルコトヲ得又施行シタル売却ノ無結果ナリシトキモ前段ト同一ナリ此ノ如キ場合ニ在テハ各個ノ部分持主ハ売却施行ノ再施ヲ求ムルノ権利ヲ有ス然レトモ再施シタル無結果ノ売却施行ノ費用ヲ担当ス可シ 第七百七十三条 若シ共同カ部分持主等ノ間ニ存立スル会社関係ニ基因スルトキハ第六百二十九条乃至第六百五十九条ノ成規ニ依リテ別段ノ事項ノ表顕セサル分度ニ限リ第七百六十二条乃至第七百七十二条ノ成規ヲ適用ス 第四節 呈示及明告 第七百七十四条 何人タリトモ物ノ占有者又ハ所持人ニ対シテ其物ニ関シ自己ニ属スル請求権ノ為メ又ハ此ノ如キ請求権ノ自己ニ属スルヤ否ヲ確カムル為メ其物ヲ監査スルコトニ利害ヲ有スル者ハ其占有者又ハ所持人ニ対シテ其物ヲ自己ニ呈示シ又ハ表示シテ其監査ヲ為スヲ許ス可キヲ求ムルコトヲ得 第七百七十五条 何人タリトモ他人ノ占有又ハ所持ニ存スル証書ヲ展閲スルコトニ利害ヲ有スル者ハ其他人ニ対シテ証書ノ呈示及ヒ其展閲ノ許諾ヲ求ムルコトヲ得但第三者カ争訟ニ於テ訴訟法ノ規定ニ依リ証拠決議ヲ以テ重要ナリト宣告セラレタル証書呈示ノ義務ヲ負ヒタル予定条件ノ存スル分度ニ限ル 第七百七十六条 呈示及ヒ表示ノ危険及ヒ費用ハ第七百七十四条、第七百七十五条ノ場合ニ在テハ呈示又ハ表示ヲ求ムル者之ヲ担当ス可シ 第七百七十七条 何人タリトモ財産目的物ノ包括体ノ全部又ハ分割部分ヲ呈出スルノ義務ヲ負ヒ又ハ此ノ如キ包括体ノ成立ニ付テ報告ヲ為スノ義務ヲ負ヒタル者ハ権利者ニ対シ其求メニ因リテ成立目録ヲ呈示シ且左ノ明告宣誓ノ債行為ヲ果成ス可シ 義務者ハ財産ノ成立ヲ完全ニ明示シ且何事ヲモ知リツヽ黙秘セサル可シ 裁判所ハ右ニ掲クル宣誓式文ノ事状ニ相当スル変更ヲ決議スルコトヲ得宣誓ヲ果了セシムルコトニ関シテハ左ノ制限即チ宣誓ヲ果了セシムル為メニ定ム可キ期日ニ於ケル喚出ハ義務者モ亦之ヲ果成スルコトヲ得ルトスルノ制限ヲ以テ訴訟法第四百四十条乃至第四百四十六条、第七百八十条、第七百八十一条第一項及ヒ第七百八十三条ノ成規ヲ準用ス