11 無権代理人の責任(民法第117条関係)
民法第117条の規律を次のように改めるものとする。
(1) 他人の代理人として契約をした者は,その代理権を有していた場合又は本人の追認を得た場合を除き,相手方の選択に従い,相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負うものとする。
(2) 上記(1)は,次のいずれかに該当する場合には,適用しないものとする。
ア 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていた場合
イ 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかった場合。ただし,他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを自ら知っていたときを除くものとする。
ウ 他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知らなかった場合。ただし,重大な過失によって知らなかったときを除くものとする。
エ 他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかった場合
(概要)
本文(1)は,民法第117条第1項の規律の内容を維持しつつ,同項の「自己の代理権を証明することができず」という規定ぶり等をより明確に表現することを意図するものである。
本文(2)アは,民法第117条第2項の規定のうち相手方が悪意である場合に関する部分を維持するものである。
本文(2)イは,民法第117条第2項の規定のうち相手方に過失がある場合に関する部分を維持しつつ,これにただし書を付加して,相手方に過失がある場合でも,無権代理人自身が悪意であるときは,無権代理人の免責を否定する旨を新たに定めるものである。有力な学説を踏まえ,相手方と無権代理人との間の利益衡量をより柔軟にすることを意図するものである。
本文(2)ウは,無権代理人が自己に代理権がないことを知らなかった場合の免責に関する規律を定めるものである。民法第117条第1項の無権代理人の責任は無過失責任とされているが,これに対しては,無権代理人が自己に代理権がないことを知らなくても常に責任を負うのでは無権代理人に酷な結果を生じかねないとの指摘がされている(例えば,代理行為の直前に本人が死亡したため無権代理となった場合等)。そこで,学説上のこのような指摘を踏まえ,錯誤に関する民法第95条の規定を参考にして新たな規律を定めることとするものである。
本文(2)エは,民法第117条第2項の規定のうち代理人の行為能力に関する部分を維持するものである。
12 授権(処分権授与)
(1) 他人に対し,その他人を当事者とする法律行為によって自己の所有権その他の権利を処分する権限を与えた場合において,その他人が相手方との間で当該法律行為をしたときは,当該権利は,相手方に直接移転するものとする。この場合において,当該権利を有していた者は,相手方に対し,その他人と相手方との間の法律行為においてその他人が相手方に対して主張することのできる事由を,主張することができるものとする。
(2) 上記(1)の場合については,その性質に反しない限り,代理に関する規定を準用するものとする。
(注)授権に関する規定は設けない(解釈に委ねる)という考え方がある。
(概要)
本文(1)は,いわゆる授権(処分授権)に関する規律を定めることによって,ルールの明確化を図るものである。処分授権とは,①授権者Aが被授権者Bに対して,被授権者Bを当事者とする法律行為によって授権者Aの権利を処分する権限を与え,②被授権者Bが第三者Cとの間で,授権者Aの権利を処分する内容の法律行為をすることによって,③授権者Aと第三者Cとの間において,当該権利の処分という効果(授権者Aから第三者Cに当該権利が移転し,又は授権者Aの当該権利の上に第三者Cの権利が設定されるという効果) が生ずるとともに,④被授権者Bと第三者Cとの間において,当該法律行為の効果のうち上記権利処分の効果を除くもの(売買契約であれば被授権者Bの第三者Cに対する代金支払請求権の発生や,第三者Cの被授権者Bに対する目的物引渡請求権等の発生という効果) が生ずるものをいう。授権者Aの第三者Cに対する債権は一切発生しない。また,第三者
Cの授権者Aに対する債権も一切発生しないが,第三者Cは授権者Aに対して上記権利処分の効果によって取得した権利(売買契約であれば所有権)に基づく物権的請求権を行使することができる。この制度によれば,授権者Aは,自らを契約の当事者としないでその権利を直接第三者Cに処分することが可能となるため,例えば委託販売の実務において, 委託者Aの受託者Bに対する所有権の移転(売却等)を経ない方法を採ることが可能となり,それぞれの局面に応じた柔軟な取引形態を選択することが可能となるとの指摘がされている。この制度の名称については,「授権」という用語が様々な場面で用いられていることから(民事訴訟法第28条,破産法第247条第3項,特許法第9条等),「授権」や「処分授権」とするのは相当でないとの指摘がある。そこで,例えば「処分権授与」とすることが考えられる。
本文(2)は,授権に関して,その性質に反しない限り代理と同様の規律が及ぶことを示すものである。代理の規定を包括的に準用しつつ,性質に反するかどうかを解釈に委ねることとしている。例えば,前記4(3)(権限の範囲が定まらない代理人は保存行為及び利用・ 改良行為の権限のみを有する旨の規定)については,被授権者に処分の権限を授与する制度である処分授権にはなじまないと考えられることから,解釈上準用されないと考えられる。
もっとも,以上に対しては,授権の概念の明確性や有用性にはなお疑問があるとして, 授権に関する規定は設けずに引き続き解釈に委ねるべきであるという考え方があり,これを(注)で取り上げている。