民法（～2019年）

本條ハ直系卑屬ノ相續權ニ付テ規定セリ從來ノ慣習ニ於テモヤムヲ得サル場合ニ於テハ、隱居ノ再相續ヲ許セリ而シテ、新民法ニ於テハ法定、指定及ヒ第一種ノ選定相續人非サル場合ニ於テ始メテ此種ノ相續人ヲ認メタリ蓋シ、隱居ノ再相續ハ常理ニ反スルモノナルカ故ニ、ヨロスヤムヲ得サル場合ニノミ之ヲ認ムルハ、蓋シ日本ノ慣習ノ精神ニ適スルモノト謂フヘシ

本條ノ適用アルヘキハ全ク第九百八十二條ニ揭ケタル者ナキカ又ハ是レアルモ其相續權ヲ失ヒタルカ又ハ相續ヲ抛棄シタルカ又ハ前條ノ規定ニ因リ是レカ選定ヲ爲ササル場合是ナリ

以上余ハ隱居再相續ノ場合ノミニ付テ論シタリト雖モ、本條ノ適用ハ必スシモ此場合ノミニ限ラス或ハ、直系卑屬カ其父ニ對シ相續權ヲ失ヒタル時モ亦本條中ニ包含セルモノトス蓋シ、此場合ニ於テハ其者カ相續權ヲ失ヒタルハ單ニ其父ニ對シテノミナルカ故ニ、其子ニ對シテハ本條ノ順位ニ於テ相續權ヲ有スルコト固ヨリ疑ヲ容レス尙、稀有ノ場合ヲ論スレハ戶主カ他家ニ在リシ自己ノ直系卑屬ヲ家族ト爲シタル場合モ亦、本條ノ中ニ包含セラルヘシ而シテ、此場合ニ於テハ往往從來家ニ在リシ直系卑屬モ尙ホ生存スルコトナシトセス然ルトキハ、其孰レカ相續ヲ爲スヘキカ是レ本條ニ明定スセト雖モ、從來ノ慣習ニ從ヒ初ヨリ其家ニ在リシ者相續ヲ爲スヘキコト、蓋シ疑ヲ容レス而シテ、法律カ是等ノ場合ヲ規定セサルハ敢テ之ヲ遺忘シタルニ非ス是等ノ稀有ノ場合ヲ想像スルトキハ殆ト際限ナク、且規定スルニ忍ヒサルカ如キ場合ヲモ想像セサルヘカラサルヲ以テ、コク之ヲ默默ニ付シタルノミ

家ニ直系尊屬數名在ルトキハ其中ニ付キ親等ノ最モ近キ者、即チ父ハ祖父ニ先シ、祖父ハ曽祖父ニ先シテ相續ヲ爲スヘシ又、親等ノ同シキ者ノ間ニ在リテハ男ヲ先ニスヘキモノトセリ是レ、蓋シ慣習ニモ適シ且、逆行相續ヲシテ力メテ其程度ヲ小ナラシムルヲ穩當トスルヲ以テナリ