民法（～2019年）

本條ハ相續人ノ廢除（exhérédation,Enterbung）ヲ爲スコトヲ得ル場合及ヒ其手續ヲ定メタルモノナリ先ツ、新民法ニ於テハ推定家督相續人ノ權利ハ未タ之ヲ既得權ト看做サスト雖モ、ミタリニ之ヲ左右スルコト能ハサルモノトシ、一ハ以テ相續人ノ權利ヲ保護シ一ヲ以テ家系ノ紊亂ヲ防カント欲シタルモノナリ故ニ、其手續ハ最モ之ヲ鄭重ニシテ必ス被相續人ヨリ裁判所ニ請求スヘキモノトセリ尙、裁判所ニ於テモ正當ノ事由ニアルニ非サレハ其廢除ヲ許スヘカラサルモノトシ、玆ニ五ニ場合ヲ定メタリ

第一　推定家督相續人カ被相續人ニ對シテ虐待ヲ爲シ又ハ之ニ重大ナル侮辱ヲ加ヘタルトキ

本號ハ、所謂不孝ノ罪ヲ糺シタルモノニシテ自己ノ父祖ニ對シ大不敬ヲ加ヘ、シカシモ其死亡等ニ場合ニ於テハ其財產ヲ取得スルコトヲ許スハハナハタ倫理ニモトリ風敎ニ害アルカ故ニ、此如キ相續人ハ之ヲ廢除スルコトヲ得ルモノトセリ

第二　推定家督相續人カ疾病其他身體又ハ精神ノ狀況ニ因リ家政ヲ執ルニ堪エサルヘキトキ

從來ノ慣習ニ於テモ廢篤疾ノ者ハ之ヲ廢除スルコトヲ得タリ然レトモ、廢篤疾ノ文字ハ聊カ不完全タルモ免レス(第一)如何ナル程度ノ疾病カ、即チ廢篤疾ト稍〻スヘキモノナルカ頗ル明瞭ヲ欠ク嫌アリ(第二)疾病ニ非スシテ廢篤疾ニ均シキモノアリ即チ傷痍ニ因リ又ハ天性ノ不具ニ因リ身體ノ自由ヲ有セサル者又ハ性來白癡ナル者等ハ廢篤疾者ニ同シク自ラ家政ヲ執ルコト能ハサル者ナリ故ニ、是等ノ者モ亦廢篤疾者ト同一視セサルコトヲ得ス是レ、本號ニ於テ疾病等ノ程度ハ家政ヲ執ルニ堪エサルヲ必要トシ、尙疾病以外ニ於テ身體又ハ精神ノ狀況ニ因リ家政ヲ執ルニ堪エサル場合ヲモ包含セシメタリ

第三　推定家督相續人カ家名ニ汚辱ヲ及ホスヘキ罪ニ因リテ刑ニ處セラレタルトキ

家督相續ノ目的タル素ト家名ヲ維持シ家產ヲ保有スルニ在リ然ルニ相續人カ家名ヲ汚スヘキ所爲ヲ行フニ因リテ刑ニ處セラレタルトキハ此如キ者ハ到底家名ヲ維持スルニ足ラサル者ト認メサルコトヲ得ス是レ、本號ノ必要アル所以ナリ但、「家名ニ汚辱ヲ及ホスヘキ罪」トハ如何ナルモノヲ謂フカ、是レ事實問題ニシテ時勢ノ變遷ニ因リ漸次變更スヘキ事項ナリト雖モ、要スルニ所謂破廉恥罪ノ如キハ大抵此中ニ包含スヘキモノトス(八一三、四號參觀)尙、大赦ノ後ハ之ニ因リテ廢除ヲ爲スコトヲ得サルハ固ヨリナリ

第四　推定家督相續人カ浪費者トシテ準禁治產者ノ宣吿ヲ受ケ改悛ノ望ナキトキ

前項ニ述フルカ如ク家督相續ノ目的ハ家名ノ維持ト家產ノ保有トニ在ルカ故ニ、若シ相續人ニシテ到底家產ヲ保有スルノ見込ミナキトキハ之ヲ廢除セサルコトヲ得ス而シテ、浪費者ハ竟ニ家產ヲ蕩盡スルニ至ル者多キカ故ニ、之ヲ廢除スヘキ場合又多カルヘシ然リト雖モ、年少者ハ一時浪費ヲ爲スコト稀ナリトセサルモ、或ハ相當ノ年齡ニ達シタル後、或ハ父兄ノ訓戒ニ因リ自ラ改悛スルコト鮮シトセス故ニ、浪費者ハ皆コト如ク之ヲ排除スルコトヲ得ルモノト爲スコトヲ得ス本號ニ於テハ、浪費者ニシテ既ニ準禁治產者ノ宣吿ヲ受ケ、且改悛ノ望ナキコトヲ要スルモノトセリ而シテ、改悛ノ望アルト否トハ固ヨリ事實問題ニシテ、畢竟裁判所ノ認定ニ一任スルノ外爲シト雖モ、法律ノ趣意ヨリ之ヲ言ヘハ、或ハ其者ノ性質ニ因リ、或ハ浪費者ノ慣習久シキニ稍〻リ既ニ痼疾ト爲リタル者ハ以テ改悛ノ望ナキモノト爲スヘキカ、尙準禁治產者ノ宣吿ヲ必要トシタルハ他ナシ浪費ノ程度、ヨウヤクハナハタシクシテ保佐人ヲ付スル必要アリト認ムルニ非サレハ、敢テ準禁治產者ノ宣吿ヲ爲スヘカラサルカ故ニ之ニ因リテ浪費ノ程度ヲ推知スルコトヲ得ヘケレハナリ

第五　親族會ニ於テ廢除ノ正當ノ事由アリト認メタルトキ

是レ最モ槪括的ニシテ如何ナル場合ヲモ包含スルコトヲ得ヘシト雖モ、其一例ヲ示セハ家貧困ニシテ戶主カ其子ニ必要ナル敎育ヲ与ウルコト能ハサルニ當リ、他家ヨリ其子ヲ養子ト爲サント欲スル場合ニ於テ、其子カ推定家督相續人ナルトキハ之ヲ廢除シタル後ニ非サレハ他家ノ養子ト爲スコトヲ得サルニ因リ特ニ親族會ノ同意ヲ得テ其廢除ヲ請求スル場合ノ如キ、即チ是ナリ而シテ、本號ノ場合ニ於テハ事由最モ槪括的ナルカ故ニ被相續人ノ獨斷ヲ以テ裁判所ニ請求スルコトヲ許サス必ス先ツ親族會ノ同意ヲ得ヘキモノトセリ尙、事由ノ正當ナルヤ否ヤハ裁判所ノ認定ニヨルヘキコト勿論ナリ