5 寄託者の損害賠償責任(民法第661条関係)
民法第661条の規律を次のように改めるものとする。
(1) 寄託者は,寄託物の性質又は状態に起因して生じた損害を受寄者に賠償しなければならないものとする。
(2) 上記(1)にかかわらず,次のいずれかに該当する場合には,寄託者は,上記(1)の損害を賠償する責任を負わないものとする。
ア 受寄者が有償で寄託を受けた場合において,寄託者が過失なく上記(1)の性質又は状態を知らなかったとき。
イ 受寄者が上記(1)の性質又は状態を知っていたとき。
(注)上記(2)アに代えて,寄託物の保管が専門的な知識又は技能を要するものである場合において,その専門的な知識又は技能を有する受寄者であればその寄託物の保管に伴ってその損害が生ずるおそれがあることを知り得たときとするという考え方がある。
(概要)
民法第661条の規律のうち,寄託者が原則として無過失責任を負う旨の同条本文を維持した上で(本文(1)),過失がなければ責任を免れるのは有償寄託の場合に限られることとして,同条ただし書を改めるものである(本文(2))。寄託者が原則として無過失責任を負うのは,寄託物の性質等を知り得る立場にあるのは寄託者であり,かつ,寄託はその利益が寄託者にあることから,寄託物の性質等から損害が発生するリスクは寄託者が負担すべきであるためとされている。これに対し,有償寄託においては,受寄者は寄託物を保管するための設備を有することが多く,とりわけ寄託物の種類が限定されている場合には, 寄託物の性質等について寄託者より詳しい知識を有する場合も少なくないことや,保険により危険を分散することも可能な立場にあることが多いと考えられるからである。もっとも,寄託者が損害賠償責任を負わない場合の規律の在り方については,同法第650条第3項の見直し(前記第41,3)と同様に,寄託の内容や受寄者の専門性に着目するのが適当であるという考え方があり,これを(注)で取り上げている。