4 寄託物についての第三者の権利主張(民法第660条関係)民法第660条の規律を次のように改めるものとする。
(1) 寄託物について権利を主張する第三者が受寄者に対して訴えを提起し,又は差押え,仮差押え若しくは仮処分をしたときは,受寄者は,遅滞なくその事実を寄託者に通知しなければならないものとする。ただし,寄託者が既にこれを知っているときは,この限りでないものとする。
(2) 受寄者は,寄託物について権利を主張する第三者に対して,寄託者が主張することのできる権利を援用することができるものとする。
(3) 第三者が寄託物について権利を主張する場合であっても,受寄者は,寄託者の指図がない限り,寄託者に対し寄託物を返還しなければならないものとする。ただし,受寄者が上記(1)の通知をし,又はその通知を要しない場合において,その第三者が受寄者に対して寄託物の引渡しを強制することができるときは,その第三者に寄託物を引き渡すことによって,寄託物を寄託者に返還することができないことについての責任を負わないものとする。
(4) 受寄者は,上記(3)により寄託者に対して寄託物を返還しなければならない場合には,寄託物について権利を主張する第三者に対し,寄託物の引渡しを拒絶したことによる責任を負わないものとする。
(注)上記(3)及び(4)については,規定を設けない(解釈に委ねる)という考え方がある。
(概要)
本文(1)は,民法第660条の規定を維持した上で,第2文を付け加え,第三者による訴えの提起等の事実を寄託者が知っている場合には受寄者が通知義務を負わないという一般的な理解を明文化するものである。賃貸借に関する同法第615条と平仄を合わせるものである。
本文(2)は,第三者が受寄者に対して寄託物の引渡請求等の権利の主張をする場合において,その引渡しを拒絶し得る抗弁権(同時履行の抗弁権,留置権等)を寄託者が有するときは,受寄者において当該抗弁権を主張することを認めるものである。これを認めなければ,寄託者が直接占有する場合と寄託によって間接占有する場合とで結論が異なることになり,寄託者が不利益を被ることを理由とするものである。
本文(3)は,寄託物について第三者が権利主張する場合であっても,受寄者はその第三者に寄託物を引き渡してはならず,寄託物を寄託者に対して返還しなければならないという原則とともに,寄託物について権利を主張する第三者の存在を民法第660条に従い通知した場合において,その第三者が確定判決を得たときや,それに基づく強制執行をするときのように,受寄者に対して寄託物の引渡しを強制することができるときに,その例外として,寄託者以外の第三者に寄託物を引き渡すことができ,これによって寄託者に対して返還義務の不履行の責任を負わない場合があることを定めるものである。従来,規律が不明確であるとされてきた点について,規律の明確化を図るものである。
本文(4)は,本文(3)により寄託者に対して寄託物を返還しなければならない場合には, 受寄者はその第三者に対して引渡しを拒絶することができ,その拒絶によって第三者に対する責任を負わないとすることを提案している。本文(3)の場合に,権利を主張してきた第三者が真の権利者であったときは,受寄者は第三者に対して損害賠償責任を負い,これを寄託者に対して求償することによって処理することになり得るが,寄託者と第三者との間の寄託物をめぐる紛争に受寄者が巻き込まれないようにするのが妥当であるから,受寄者が返還を拒んだことにより第三者に生じた損害については,第三者が寄託者に対して直接請求することによって解決することを意図するものである。
以上に対して,民法第660条の通知義務違反によって寄託者に対する寄託物の返還義務が常に免責されないことになるという結論の合理性を疑問視する立場から,本文(3)及び
(4)の規定を設けない考え方があり,これを(注)で取り上げている。