1 寄託契約の成立等
(1) 寄託契約の成立(民法第657条関係)
民法第657条の規律を次のように改めるものとする。
ア 寄託は,当事者の一方が相手方のためにある物を保管することとともに,保管した物を相手方に返還することを約し,相手方がこれを承諾することによって,その効力を生ずるものとする。
イ有償の寄託の寄託者は,受寄者が寄託物を受け取るまでは,契約の解除をすることができるものとする。この場合において,受寄者に損害が生じたときは,寄託者は,その損害を賠償しなければならないものとする。
ウ無償の寄託の当事者は,受寄者が寄託物を受け取るまでは,契約の解除をすることができるものとする。ただし,書面による無償の寄託の受寄者は,受寄者が寄託物を受け取る前であっても,契約の解除をすることができないものとする。
エ有償の寄託又は書面による無償の寄託の受寄者は,寄託物を受け取るべき時を経過したにもかかわらず,寄託者が寄託物を引き渡さない場合において,受寄者が相当の期間を定めて寄託物の引渡しを催告し,その期間内に引渡しがないときは,受寄者は,契約の解除をすることができるものとする。
(注)上記エについては,規定を設けないという考え方がある。
(概要)
本文アは,寄託を諾成契約に改めるものである。寄託を要物契約とする民法の規定は, 現在の取引の実態とも合致していないと指摘されていることを踏まえ,規律の現代化を図るものである。
本文イは,寄託を諾成契約に改めることに伴い,有償寄託について,寄託物受取前の寄託者による解除についての規律を定めるものである。寄託物受取前には,寄託者が自由に寄託を解除することができるとともに,これによって受寄者に生じた損害を寄託者が賠償しなければならない旨の規律を設けている。寄託は寄託者のためにされる契約であることから,寄託者が契約締結後に寄託することを望まなくなった場合には契約関係を存続させる必要はなく(民法第662条参照),受寄者に生じた損害があればそれを賠償することで足りると考えられるからである。
本文ウは,無償寄託について,寄託物受取前の各当事者による解除についての規律を定めるものである。寄託物を受け取るまで各当事者は自由に契約の解除をすることができることを原則としつつ,例外的に書面による無償寄託の受寄者については寄託物の受取前であっても契約の解除をすることができない旨を定めている。使用貸借における目的物引渡し前の規律(前記第39,1(2))と同趣旨のものである。
本文エは,寄託者が寄託物を引き渡さない場合に受寄者が契約に拘束され続けることを防止するために,受寄者による契約の解除を認める必要があるので,その旨の規律を設けるものである。もっとも,このような規律を設ける必要性はないとの考え方があり,これを(注)で取り上げている。
(2) 寄託者の破産手続開始の決定による解除
有償の寄託の受寄者が寄託物を受け取る前に寄託者が破産手続開始の決定を受けたときは,受寄者又は破産管財人は,契約の解除をすることができるものとする。この場合において,契約の解除によって生じた損害の賠償は, 破産管財人が契約の解除をしたときにおける受寄者に限り,請求することができ,受寄者は,その損害賠償について,破産財団の配当に加入するものとする。
(概要)
受寄者が寄託物を受け取る前に寄託者について破産手続開始の決定があったときに,受寄者又は寄託者の破産管財人が契約を解除することができるとするものである。有償寄託の寄託者について破産手続開始の決定があった場合には,報酬全額を受け取ることができないおそれがあるため,受寄者が契約を解除することができるようにする必要があるという考慮に基づくものである。また,この場合における損害賠償請求権の帰すうについては, 民法第642条第2項及び前記第41,5(2)と同様の趣旨である。
なお,本文記載の案の検討に当たっては倒産法との関係にも留意する必要がある。