4 報酬に関する規律
(1) 無償性の原則の見直し(民法第648条第1項関係) 民法第648条第1項を削除するものとする。
(概要)
民法第648条第1項は,委任の無償性の原則を定めたものであるとされているが,委任において無償を原則とすることは必ずしも今日の取引に適合しないと考えられる。そこで,同項を削除することとしている。
(2) 報酬の支払時期(民法第648条第2項関係)
民法第648条第2項の規律に付け加えて,委任事務を処理したことによる成果に対して報酬を支払うことを定めた場合には,目的物の引渡しを要するときは引渡しと同時に,引渡しを要しないときは成果が完成した後に,これを請求することができるものとする。
(概要)
民法第648条第2項を基本的に維持した上で,成果が完成した場合にその成果に対して報酬を支払うという報酬支払方式が採られている場合の規律を付加するものである。完成した成果に対して報酬が支払われる方式は請負における報酬と類似することから,請負に関する同法第633条と同様に,目的物の引渡しを要するときは引渡しと同時に,引渡しを要しないときは成果が完成した後に,報酬を請求することができるものとしている。
(3) 委任事務の全部又は一部を処理することができなくなった場合の報酬請求権(民法第648条第3項関係)
ア民法第648条第3項の規律を改め,委任事務の一部を処理することができなくなったときは,受任者は,既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができるものとする。ただし,委任事務を処理したことによる成果に対して報酬を支払うことを定めた場合は,次のいずれかに該当するときに限り,既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができるものとする。
(ア) 既にした委任事務の処理の成果が可分であり,かつ,その給付を受けることについて委任者が利益を有するとき
(イ) 受任者が委任事務の一部を処理することができなくなったことが,受任者が成果を完成するために必要な行為を委任者がしなかったことによるものであるときイ受任者が委任事務の全部又は一部を処理することができなくなった場合であっても,それが契約の趣旨に照らして委任者の責めに帰すべき事由によるものであるときは,受任者は,反対給付の請求をすることができるものとする。この場合において,受任者は,自己の債務を免れたことにより利益を得たときは,それを委任者に償還しなければならない。
(注)上記ア(イ)については,規定を設けないという考え方がある。
(概要)
民法第648条第3項は,委任が受任者の帰責事由によらずに中途で終了した場合には, 既履行部分の割合に応じて報酬を請求することができるとしている。しかし,予定された委任事務の一部とは言え,委任が終了するまでは受任者は現に委任事務を処理したのであるから,委任が終了した原因が受任者の帰責事由によるものであるかどうかにかかわらず, 原則的な規律としては,受任者は既履行部分の割合に応じた報酬を請求することができるとすることが合理的である。そこで,本文ア柱書の第1文は,同項のうち「責めに帰すべき事由によらずに」の部分を削除し,委任事務の一部を処理することができなくなった場合には,既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができるものとしている。
本文ア柱書の第2文は,成果が完成したときにその成果に対して委任の報酬が支払われることが合意されていた場合において,委任事務の一部の処理が不可能になった場合の報酬請求権に関するものである。この場合には,その成果が完成しなかった以上,報酬を請求することができないのが原則であるが,この原則に対する例外として,既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる場合を定めている。第1に,既に履行された委任事務の処理の成果が可分で,その給付を受けることについて委任者に利益がある場合である。第2に,委任者が必要な行為をしなかったことによって委任者が委任事務の一部を処理することができなくなった場合(その行為をしなかったことについて委任者に帰責事由があるかどうかを問わない。)である。いずれも,請負に関する前記第40,1(1)アイと同様の規定を設けるものである。これに対し,本文ア(イ)については,前記第40,1(1) イと同様に規定を設けないという考え方があり,これを(注)で取り上げている。
本文イは,委任に関して民法第536条第2項の規律を維持するものである。従来から, 委任者の帰責事由により受任者が仕事を完成することができなくなった場合には,受任者は,同項に基づいて報酬を請求することができるとされてきた。本文イは,請負に関する前記第40,1(3)と同様に,従来からの理解を確認して前記第12,2と同趣旨を定める ものである。