10 賃借物の一部滅失等による賃料の減額等(民法第611条関係) 民法第611条の規律を次のように改めるものとする。
(1) 賃借物の一部が滅失した場合その他の賃借人が賃借物の一部の使用及び収益をすることができなくなった場合には,賃料は,その部分の割合に応じて減額されるものとする。この場合において,賃借物の一部の使用及び収益をすることができなくなったことが契約の趣旨に照らして賃借人の責めに帰すべき事由によるものであるときは,賃料は,減額されないものとする。
(2) 上記(1)第2文の場合において,賃貸人は,自己の債務を免れたことによって利益を得たときは,これを賃借人に償還しなければならないものとする。
(3) 賃借物の一部が滅失した場合その他の賃借人が賃借物の一部の使用及び収益をすることができなくなった場合において,残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは,賃借人は,契約の解除をすることができるものとする。
(注)上記(1)及び(2)については,民法第611条第1項の規律を維持するという考え方がある。
(概要)
本文(1)第1文は,民法第611条第1項の規定を改め,賃借物の一部滅失の場合に限らず賃借物の一部の使用収益をすることができなくなった場合一般を対象として賃料の減額を認めるとともに,賃借人からの請求を待たずに当然に賃料が減額されることとするものである。賃料は,賃借物が賃借人の使用収益可能な状態に置かれたことの対価として日々発生するものであるから,賃借人が賃借物の一部の使用収益をすることができなくなった場合には,その対価としての賃料も当然にその部分の割合に応じて発生しないとの理解に基づくものである。
本文(1)第2文は,賃借物の一部の使用収益をすることができなくなったことが賃借人の責めに帰すべき事由によるものであるときは,本文(1)第1文の例外として賃料の減額はされない旨を定めるものである。これは,賃料債務の発生根拠に関する上記理解を踏まえたとしても,賃借人に帰責事由がある場合にまで賃料の減額を認めるのは相当でないとの指摘を踏まえたものであり,この限りにおいて民法第611条第1項の規定を維持するものである(請負,委任,雇用,寄託の報酬請求権に関する後記第40,1(3),第41,4(3) イ,第42,1(2),第43,6参照)。
本文(2)は,賃借物の一部の使用収益をすることができなくなったことによって,賃貸人が賃貸借契約に基づく債務(例えば当該部分のメンテナンスに関する債務)を免れ,これによって利益を得たときは,それを賃借人に償還しなければならない旨を定めるものである。民法第536条第2項後段の規律を取り入れるものであり,同法第611条第1項の下では従前必ずしも明らかではなかった規律を補うものである。
もっとも,以上の本文(1)(2)に対しては,現行の民法第611条第1項の規律のほうが合理的であるとして,同項の規律を維持すべきであるという考え方があり,これを(注) で取り上げている。
本文(3)は,民法第611条第2項の規定を改め,賃借物の一部滅失の場合に限らず賃借物の一部の使用収益をすることができなくなった場合一般を対象として賃借人の解除権を認めるとともに,賃借人の過失によるものである場合でも賃借人の解除権を認めることとするものである。賃借物の一部の使用収益をすることができなくなったことによって賃借人が賃借をした目的を達することができない以上,それが一部滅失によるものかどうか, 賃借人の過失によるものかどうかを問わず,賃借人による解除を認めるのが相当であると考えられるからである。賃貸人としては,賃借人に対する損害賠償請求等によって対処することになる。