5 申込者及び承諾者の死亡等(民法第525条関係)
民法第525条の規律を次のように改めるものとする。
(1) 申込者が申込みの通知を発した後に死亡し,意思能力を喪失した常況にある者となり,又は行為能力の制限を受けた場合において,相手方が承諾の通知を発するまでにその事実を知ったときは,その申込みは,効力を有しないものとする。ただし,申込者が反対の意思を表示したときには,この限りでないものとする。
(2) 承諾者が承諾の通知を発した後に死亡し,意思能力を喪失した常況にある者となり,又は行為能力の制限を受けた場合において,その承諾の通知が到達するまでに相手方がその事実を知ったときは,その承諾は,効力を有しないものとする。ただし,承諾者が反対の意思を表示したときには,この限りでないものとする。
(概要)
本文(1)は,以下の点で民法第525条の規律を改めるものである。
まず,民法第525条の「申込者が反対の意思を表示した場合」という文言を削除するものとする。同法第97条第2項は,申込みの場合以外であっても当事者の反対の意思表示によって適用を排除できると考えられるため,これを申込みの場面において特に明示する必要がないからである。
申込者が意思能力を喪失した場合の規律を付け加えるものとする。判断能力を欠く状態であるという点では意思能力を喪失した場合も行為能力の制限を受けた場合と異ならないと考えられるからである。ただし,酩酊状態になった場合など一時的な意思能力の喪失状態を排除するため,意思能力が喪失した常況にあることを要するとしている。また,「行為能力の喪失」という文言を「行為能力の制限」に改めるものとする。民法第97条第2項の「行為能力の喪失」には保佐及び補助が含まれることが認められているとして,その文言を「行為能力の制限」に修正することが検討されており(第3,4(4)),これと同様の修正をするものである。なお,申込者の行為能力の一部が制限されているにとどまり,当該契約を締結するための行為能力は有している場合には,本文(1)の規律は適用されないと考えられる。
民法第525条の要件に該当した場合の効果として,申込みの効力を有しない旨を明示するものとする。申込みの発信時に完全な能力を有していた申込者が契約成立前に死亡等した場合には,そのまま契約を成立させることが申込者の通常の意思に反することから, この意思を尊重して申込みの効力を否定するものである。また,このような理解によれば, 承諾者が申込者の死亡等の事実を知った時期についても,これを申込みの到達時までに限定する理由はないことから,承諾の発信までの間に承諾者が申込者の死亡等を知った場合に,同条を適用するものとしている。
さらに,民法第525条の規律を申込者の意思表示で排除することができることを明示するものとする。同条の趣旨を以上のように捉えると,申込者が望む場合には同法第97条第2項が適用されるべきであると考えられるからである。
本文(2)は,契約の成立について到達主義を採る(後記6(1))と,承諾の発信後到達前に承諾者に死亡等の事情が生じた場合も,承諾の効力について申込みと同様の問題が生じることから,同様の規律を新たに設けるものである。