3 承諾の期間の定めのない申込み(民法第524条関係)民法第524条の規律を次のように改めるものとする。
(1) 承諾の期間を定めないでした申込みは,申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは,撤回することができないものとする。ただし, 申込者が反対の意思を表示したときは,その期間内であっても撤回することができるものとする。
(2) 上記(1)の申込みは,申込みの相手方が承諾することはないと合理的に考えられる期間が経過したときは,効力を失うものとする。
(注)民法第524条の規律を維持するという考え方がある。
(概要)
本文(1)は,民法第524条の規律を維持しつつ,その適用対象を隔地者以外に拡大するとともに,前記2(1)と同様の趣旨から,申込者の意思表示によって撤回をする権利を留保することができる旨の規律を付け加えるものである。同条の趣旨は,申込みを承諾するか否かを決めるために費用を投じた相手方が,申込みの撤回によって損失を被ることを防止するところにある。隔地者とは,通説的な見解によれば,意思表示の発信から到達までに時間的な隔たりがある者をいうが,同条の趣旨は,このような時間的な隔たりの有無に関わらず当てはまると考えられる。そこで,本文(1)では,隔地者に限定せずに同条を適用することとしている。他方,このように同条の規律を改めると,労働者の側から労働契約を合意解約する旨の申込みをした場合について,撤回を認めてきた裁判例の考え方に影響を与えるおそれがあることを指摘して,同条の規律を維持すべきであるとする考え方があり, これを(注)で取り上げている。
本文(2)は,承諾期間の定めのない申込みについて,承諾適格(承諾があれば契約が成立するという申込みの効力)の存続期間を新たに定めるものである。申込み後に,もはや相手方が承諾することはないと申込者が考えるのももっともであると言える程度に時間が経過すれば,その信頼は保護すべきと考えられるからである。なお,承諾適格の存続期間は, 基本的に,申込みの撤回が許されない期間を定める民法第524条の「承諾の通知を受けるのに相当な期間」よりも長くなると考えられる。申込者は承諾期間の定めをしなかったのであるから,その撤回が許されない期間を過ぎた後であっても承諾者の側から承諾の意思表示をすることは妨げられないと考えられるからである。