2 時効消滅した債権を自働債権とする相殺(民法第508条関係)民法第508条の規律を次のように改めるものとする。
債権者は,時効期間が満了した債権について,債務者が時効を援用するまでの間は,当該債権を自働債権として相殺をすることができるものとする。ただし,時効期間が満了した債権を他人から取得した場合には,この限りでないものとする。
(注)民法第508条の規律を維持するという考え方がある。
(概要)
時効期間が満了した債権を自働債権とする相殺は,債務者が時効を援用するまでの間はすることができるとするものである。時効の援用がされた後であっても相殺することができるとする同条の規律に対しては,時効の援用をした債務者を不当に不安定な地位に置くものであるとの指摘がある。また,同条が時効期間の満了前に相殺適状にあった場合に限って相殺することができるとする点についても,時効の援用を停止条件として時効の効果が確定的に生ずるとする判例(最判昭和61年3月17日民集40巻2号420頁)と整合的でなく,合理的ではないと指摘されている。以上の問題意識を踏まえ,規律の合理化を図るものである。また,時効期間が満了した債権を他人から取得した場合には,これを自働債権として相殺することができないとする判例法理(最判昭和36年4月14日民集15巻4号765頁)を併せて明文化している。もっとも,同条については現状を維持すべきであるとの意見もあり,これを(注)で取り上げている。