9 金銭債務の特則(民法第419条関係)
(1) 民法第419条の規律に付け加えて,債権者は,契約による金銭債務の不履行による損害につき,同条第1項及び第2項によらないで,損害賠償の範囲に関する一般原則(前記6)に基づき,その賠償を請求することができるものとする。
(2) 民法第419条第3項を削除するものとする。
(注1)上記(1)については,規定を設けないという考え方がある。
(注2)上記(2)については,民法第419条第3項を維持するという考え方がある。
(概要)
本文(1)は,民法第419条第1項及び第2項の規律を維持しつつ(同条第1項に,変動制による法定利率の適用の基準時を付加することにつき,前記第8,4参照),契約による金銭債務の不履行については,同条第1項及び第2項によらずに,前記6(損害賠償の範囲についての一般原則)に基づき,不履行による損害の賠償を請求することができるとするものである。金銭債務の不履行による損害賠償につき,同条第1項及び第2項は利息に関しては証明を要せずに請求できるものとしている。他方,判例は,同条第1項所定の額を超える損害の賠償(利息超過損害の賠償)を否定している(最判昭和48年10月11日判時723号44頁)。しかし,諾成的消費貸借に基づく貸付義務の不履行の場面などを念頭に,利息超過損害の賠償を認めるべき実際上の必要性が存在するとの指摘があり,また,流動性の高い目的物の引渡債務を念頭に,非金銭債務と金銭債務とで,損害賠償の範囲につきカテゴリカルに差異を設ける合理性は乏しいとの指摘がある。そこで,この判例法理を改めるものである。
他方,契約以外を原因とする金銭債務については,損害賠償の範囲に関する独自のルールを設けずに解釈に委ねることとの関係で(前記6の(概要)欄参照),金銭債務の不履行による利息超過損害を請求することの可否も,引き続き解釈に委ねるものとしている。
本文(1)については,不履行による損害の特定が困難であるという金銭債務の特殊性を踏まえると上記判例には合理性があるとして,このような規定を設けないとの考え方があり, これを(注1)で取り上げている。
本文(2)は,金銭債務の履行遅滞についても債務不履行の一般原則(前記1(2)(3))により免責され得ることを前提に,民法第419条第3項を単純に削除するとするものである。同項は,金銭債務の不履行につき,「不可抗力をもって抗弁とすることができない。」とし, この解釈として,金銭債務の不履行については一切の免責が認められないものとされている。この点については,比較法的にも異例なほど債務者に厳格であると批判されているほか,大規模な自然災害等により債務者の生活基盤が破壊され地域の経済活動全体に甚大な被害が発生して,送金等が極めて困難となった場合でも履行遅滞につき一切免責が認められないというのは,債務者に過酷であり,具体的妥当性を欠く場合があるとの指摘があることを踏まえたものである。
本文(2)については,実務において反復的かつ大量に発生する金銭債務につき逐一免責の可否を問題にすることは紛争解決のコストを不必要に高めるおそれがあることなどを理由に,民法第419条第3項を維持するとの考え方があり,これを(注2)で取り上げている。