4 法定利率(民法第404条関係)
(1) 変動制による法定利率
民法第404条が定める法定利率を次のように改めるものとする。ア 法改正時の法定利率は年[3パーセント]とするものとする。
イ上記アの利率は,下記ウで細目を定めるところに従い,年1回に限り, 基準貸付利率(日本銀行法第33条第1項第2号の貸付に係る基準となるべき貸付利率をいう。以下同じ。)の変動に応じて[0.5パーセント]の刻みで,改定されるものとする。
ウ上記アの利率の改定方法の細目は,例えば,次のとおりとするものとする。
(ア) 改定の有無が定まる日(基準日)は,1年のうち一定の日に固定して定めるものとする。
(イ) 法定利率の改定は,基準日における基準貸付利率について,従前の法定利率が定まった日(旧基準日)の基準貸付利率と比べて[0.5パーセント]以上の差が生じている場合に,行われるものとする。
(ウ) 改定後の新たな法定利率は,基準日における基準貸付利率に所要の調整値を加えた後,これに[0.5パーセント]刻みの数値とするための所要の修正を行うことによって定めるものとする。
(注1)上記イの規律を設けない(固定制を維持する)という考え方がある。
(注2)民法の法定利率につき変動制を導入する場合における商事法定利率
(商法第514条)の在り方について,その廃止も含めた見直しの検討をする必要がある。
(概要)
本文アは,低金利の状況が長期間にわたって続いている現下の経済情勢を踏まえ,年5パーセントという法定利率が高すぎるとの指摘がされていることから,当面これを引き下げることとするものである。ここでは,具体的な数値の一つの案として,年3パーセントという数値をブラケットで囲んで提示している。
本文イは,法定利率につき,利率の変動制を採用するものである。法定利率については, 一般的な経済情勢の変動等に連動して適切な水準を確保するために,基準貸付利率(日本銀行法第15条第1項第2号,第33条第1項第2号)を指標とする変動制を採用するものとした上で,その具体的な改定の仕組みにつき,緩やかに変動を生じさせる観点から, 年1回に限り,かつ,例えば0.5パーセント刻みで改定されるものとしている。これに対して,法定利率の変更は法律改正によるのが相当であるとして,法定利率につき固定制を維持すべきであるとの考え方があり,これを(注1)で取り上げている。
本文ウは,法定利率の改定の仕組みに関する細目として定めるべき内容を例示するものである。具体的な検討事項として,①改定の有無が定まる基準日の在り方(本文ウ(ア)),② 法定利率の改定を直前に法定利率が定まった日の基準貸付利率と比べて乖離幅が一定の数値以上であったときに限ることの要否(同(イ)。その乖離幅として,差し当たり0.5パーセントをブラケットで囲んで提示している。),③基準貸付利率に所定の数値を加えた上,それが小数点以下の数値を0.5刻みとするための所要の修正の在り方(同(ウ))を挙げている。
(注2)では,商事法定利率(商法第514条)の見直しを取り上げている。現在年6パーセントの固定制とされている商事法定利率については,民法の法定利率を変動制へと改めるのに伴い,①廃止する,②変動制による同法の法定利率に年1パーセントを加えたものとするなどの見直しの要否を検討する必要があると考えられる。
(2) 法定利率の適用の基準時等
ア 利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは,その利率は,利息を支払う義務が生じた最初の時点の法定利率によるものとする。
イ 金銭の給付を内容とする債務の不履行については,その損害賠償の額は,当該債務につき債務者が遅滞の責任を負った最初の時点の法定利率によるものとする。
ウ 債権の存続中に法定利率の改定があった場合に,改定があった時以降の当該債権に適用される利率は,改定後の法定利率とするものとする。
(概要)
本文アは,民法第404条を改め,利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは,その利率は,利息を支払う義務(支分権たる具体的な利息債権)が生じた最初の時点の法定利率によるものとしている。
本文イは,民法第419条第1項本文を改め,金銭の給付を目的とする債務の不履行については,その損害賠償の額は,当該債務につき債務者が遅滞の責任を負った最初の時点の法定利率によることとしている。なお,同項ただし書は維持することを前提としている。 本文ウは,法定利率が適用される債権が存続している間に法定利率の改定があった場合
に,当該債権に適用される利率も改定するものとしている。
(3) 中間利息控除
損害賠償額の算定に当たって中間利息控除を行う場合には,それに用いる割合は,年[5パーセント]とするものとする。
(注)このような規定を設けないという考え方がある。また,中間利息控除の割合についても前記(1)の変動制の法定利率を適用する旨の規定を設けるという考え方がある。
(概要)
損害賠償の額を算定するに当たって中間利息控除をするか否かは解釈に委ねることを前提に,現行の法定利率に代えて中間利息控除をする場合に用いるべき割合(固定割合)を定めるものである。判例(最判平成17年6月14日民集59巻5号983頁)は,損害賠償額の算定に当たっての中間利息控除には,法定利率を用いなければならないとするが, 前記(1)のとおり法定利率を変動制に改める場合には,法定利率をそのまま中間利息控除に利用する根拠が希薄になるほか,実際上,どの時点の法定利率を参照すべきであるか等の疑義が生じ得る。そこで,本文では,現在参照されている固定制の法定利率をそのまま維持する規定を設けることとし,その具体的な数値として現行の年5パーセントをブラケットで囲んで示している。
これに対しては,規定を設けるべきでないという考え方がある。これは,変動制であっても引き続き法定利率を参照すればよいという理解を含め,解釈論に委ねるという立場である。また,前記(1)の変動制の法定利率(具体的には,不法行為の時などの基準時の法定 利率)を適用する旨の明文規定を設けるべきであるという考え方がある。これらの考え方を(注)で取り上げている。