1 特定物の引渡しの場合の注意義務(民法第400条関係)民法第400条の規律を次のように改めるものとする。
(1) 契約によって生じた債権につき,その内容が特定物の引渡しであるときは,債務者は,引渡しまで,[契約の性質,契約をした目的,契約締結に至る経緯その他の事情に基づき,取引通念を考慮して定まる]当該契約の趣旨に適合する方法により,その物を保存しなければならないものとする。
(2) 契約以外の原因によって生じた債権につき,その内容が特定物の引渡しであるときは,債務者は,引渡しまで,善良な管理者の注意をもって,その物を保存しなければならないものとする。
(注)民法第400条の規律を維持するという考え方がある。
(概要)
本文(1)は,特定物の引渡しの場合の注意義務(保存義務)の具体的内容が契約の趣旨を踏まえて画定される旨を条文上明記するものである。契約によって生じた債権に関して, 保存義務の内容が契約の趣旨を踏まえて画定されることには異論がない。それを条文上も明らかにするものである。
本文(1)の「契約の趣旨」とは,合意の内容や契約書の記載内容だけでなく,契約の性質
(有償か無償かを含む。),当事者が当該契約をした目的,契約締結に至る経緯を始めとする契約をめぐる一切の事情に基づき,取引通念を考慮して評価判断されるべきものである。裁判実務において「契約の趣旨」という言葉が使われる場合にも,おおむねこのような意味で用いられていると考えられる。このことを明らかにするために,契約の性質,契約をした目的,契約締結に至る経緯や取引通念といった「契約の趣旨」を導く考慮要素を条文上例示することも考えられることから,本文ではブラケットを用いてそれを記載している。本文(2)は,契約以外の原因によって生じた債権については,特定物の引渡しの場合の保
存義務につき現行の規定内容を維持するものである。
以上に対して,契約の趣旨に依拠するのみで保存義務の内容を常に確定できるかには疑問があるとして,本文(1)の場合及び本文(2)の場合を通じて,一般的に保存義務の内容を定めている現状を維持すべきであるという考え方があり,これを(注)で取り上げている。