民法（～2019年）

四　權利ノ取得

本條ハ所謂瞬間時效又ハ即時時效（prescription instantanée）ニ關スル規定ナリ蓋シ動產ハ所在極メテ不確定ニシテ且其取引最モ頻繁ナル物ナルカ故ニ甲ヨリ乙ニ乙ヨリ丙ニ輾轉シタル後意外ノ人ヨリ其上ニ權利アルコトヲ主張セラレ竟ニ之ヲ返還セサルコトヲ得サルカ如キコトアラハ商業其他一切ノ取引ハ甚タ不安全ナルモノニシテ爲メニ取引ノ圓滑ヲ缺キ商業ノ發達ヲ妨クルノ虞アリ是レ何レノ國ニ於テモ動產ニ付テハ多少ノ特別規定ヲ設ケ速ニ占有者ヲ以テ權利者ト看做スコトヲ得セシムル所以ナリ

舊民法ニ於テハ本條ノ規定ト同樣ナルモノヲ以テ時效ノ規定トシ之ヲ時效ノ部ニ揭ケタリ然レトモ時ヲ要セサル時效アルヘキ謂レナキカ故ニ其不當ナルコトハ既ニ之ヲ述ヘタリ（三十八年版一卷四〇三頁）故ニ新民法ニ於テハ之ヲ占有ノ效力トシ占有ノ章ニ之ヲ規定セリ

本條ノ規定ハ多クノ國ニ於テ所有權ニ付テノミ之ヲ設クルト雖モ所有權以外ノ權利ニ付テモ亦同樣ノ規定ヲ要スルコト蓋シ疑ヲ容レサル所ナリ故ニ法律ノ明文ニハ所有權ニ付テノミ規定スル國ニ於テモ解釋上之ヲ他ノ權利ニ擴充スルヲ常トス本條ニ於テハ此點ヲ明カニスル爲メ單ニ權利ト云ヒテ所有權ト云ハス唯實際ノ適用ニ至リテハ我新民法ニ據レハ本條ノ規定ハ殆ト所有權ノ外質權ニノミ之ヲ適用スヘキカ（留置權及ヒ先取特權ニ付テハ之ヲ以テ擔保スル債權ヲ取得スル者カ同時ニ物ノ占有ヲ得ルトキハ本條ノ適用アルヘシ又旅店宿泊ノ先取特權、運輸ノ先取特權等ニ付テハ其他ノ場合ニ於テモ亦全ク適用ナキニ非サルモ通常ハ占有ヲ始ムル當時既ニ先取特權ヲ行使スルモノニ非サルカ故ニ之ニ付テハ特ニ三一九ノ明文アリ又賃借權ニ付テハ之ヲ第三者ニ對抗スルコトヲ得サルカ故ニ本條ノ適用ナシ）即チ債務者カ他人ノ動產ヲ以テ質物ト爲シ債權者カ善意ニテ之ヲ受取リタル場合ニ於テハ其債權者ハ直チニ質權ヲ取得スルモノトス然ラスンハ質權者ハ往往ニシテ不慮ノ損失ヲ被ムルヘク而シテ是ト所有權ヲ取得スル者トノ間ニ逕庭ヲ設クルノ理由アラサレハナリ

本條ノ條件ハ不動產ノ取得時效ニ關スル第百六十二條第二項ノ規定ニ同シ（三十八年版一卷四〇九頁）蓋シ特別ノ保護ヲ受クヘキ占有者ハ動產ニ付テモ不動產ニ付テモ同一ナルヲ當然トスレハナリ外國ニ於テハ條件ヲ同シウセサル例多シト雖モ正當ノ理由ナシトシテ新民法ニハ之ヲ採ラサリキ

第１９２条　平穏，公然かつ善意無過失で動産の占有を始めた者が，その動産について行使する権利の取得（即時取得）をするのは，取引行為によって占有を始めた場合に限られる旨を明らかにしている。