8 時効の効果
消滅時効に関して,民法第144条及び第145条の規律を次のように改めるものとする。
(1) 時効期間が満了したときは,当事者又は権利の消滅について正当な利益を有する第三者は,消滅時効を援用することができるものとする。
(2) 消滅時効の援用がされた権利は,時効期間の起算日に遡って消滅するものとする。
(注)上記(2)については,権利の消滅について定めるのではなく,消滅時効の援用がされた権利の履行を請求することができない旨を定めるという考え方がある。
(概要)
消滅時効の効果について定めるものである。ここでの規律を取得時効にも及ぼすかどうかは,今後改めて検討される。
本文(1)は,消滅時効の援用権者について定めるものである。民法第145条は「当事者」が援用するとしているが,判例上,保証人(大判昭和8年10月13日民集12巻2520頁)や物上保証人(最判昭和43年9月26日民集22巻9号2002頁)などによる援用が認められている。本文(1)は,こうした判例法理を踏まえて援用権者の範囲を明文化 するものである。判例(最判昭和48年12月14日民集27巻11号1586頁)が提示した「権利の消滅により直接利益を受ける者」という表現に対しては,「直接」という基準が必ずしも適切でないという指摘があるので,それに替わるものとして「正当な利益を有する第三者」という文言を提示しているが,従前の判例法理を変更する趣旨ではない。
本文(2)は,消滅時効の効果について,援用があって初めて権利の消滅という効果が確定的に生ずるという一般的な理解を明文化するものである。判例(最判昭和61年3月17日民集40巻2号420頁)もこのような理解を前提としていると言われている。もっとも,このような理解に対しては,消滅時効の援用があってもなお債権の給付保持力は失われないと解する立場からの異論があり,消滅時効の援用が実務で果たしている機能を必要な限度で表現するという趣旨から,消滅時効の援用がされた権利の履行を請求することができない旨を定めるという考え方が示されており,これを(注)で取り上げた。