1 条件
条件に関する民法第127条から第134条までの規律は,基本的に維持した上で,次のように改めるものとする。
(1) 民法第127条に条件という用語の定義を付け加え,条件とは,法律行為の効力の発生・消滅又は債務の履行を将来発生することが不確実な事実の発生に係らしめる特約をいうものとする。
(2) 民法第130条の規律を次のように改めるものとする。
ア条件が成就することによって不利益を受ける当事者が,条件を付した趣旨に反して故意にその条件の成就を妨げたときは,相手方は,その条件が成就したものとみなすことができるものとする。
イ条件が成就することによって利益を受ける当事者が,条件を付した趣旨に反して故意にその条件を成就させたときは,相手方は,その条件が成就しなかったものとみなすことができるものとする。
(概要)
本文(1)は,条件という用語の意義を,その一般的な理解に従って明文化するものである。条件という文言は,日常用語として多義的に用いられているため,その法律用語としての意義を明らかにする必要があるという問題意識による。民法第127条に関しては,このような定義規定を設けることのほか,例えば,「停止条件」のうち法律行為の効力発生に関するものを「効力発生条件」,債務の履行に関するものを「履行条件」に,「解除条件」を
「効力消滅条件」に,それぞれ用語を改めることも検討課題となり得る。
本文(2)アは,民法第130条の要件に,「条件を付した趣旨に反して」という文言を付加するものである。例えば,相手方が窃盗の被害に遭った場合には見舞金を贈与すると約束していた者が,相手方の住居に侵入しようとしている窃盗犯を発見して取り押さえたとしても,それをもって条件の成就を妨害したと評価するのは適当ではないところ,「故意に」というだけでは,こうした事例であっても要件を満たしてしまうことになってしまうという指摘があることを踏まえたものである。
本文(2)イは,条件の成就によって利益を受ける当事者が故意にその条件を成就させたときは,民法第130条の類推適用により,相手方は,その条件が成就していないものとみなすことができるという判例法理(最判平成6年5月31日民集48巻4号10頁)を明文化するものである。もっとも,入試に合格するという条件を故意に成就させた場合のように,それだけでは何ら非難すべきでない場合があることから,本文(1)と同様に,「条件を付した趣旨に反して」という要件を付加している。