吉田(宣)委員
おはようございます。公明党の吉田宣弘でございます。
本日も、民法大改正、質問の機会をいただきましたこと、皆様に心から感謝を申し上げて、質問に入らせていただきたいと思っております。
残念ながら一部の方が出席をいただけないということについては少し心を痛めておりますけれども、しっかり、この民法、国民の皆様のために資する法律であるということを御理解いただくためにもまた一歩でも二歩でも進めて審議というものを、議論を深めるという意味でも質問に臨ませていただきたいと思いますので、どうかよろしくお願いいたします。
これまで多くの委員の皆様に、この民法、さまざま論点を拾い上げていただいて、議論が深まったというふうに理解しておりますが、私は、これまで触れられていない条文について少しお話をさせていただければと思います。
まず初めに、意思表示の中で、心裡留保という規定がございます。この規定、現行法でも心裡留保という言葉が使われておりまして、新しい改正法でも心裡留保という言葉が使われております。
心裡留保と聞くと、私は少し大学のころに学びましたので内容がわかりますけれども、なかなか国民の皆様にはなじみが薄いような気が少しいたしますが、何かいいネーミングというか、そういったものはなかったのかなとちょっと私は思っているところですけれども、例えば真意留保表示とか、これがいいかどうかはまた別にして、そういうふうな気持ちもしているんですけれども、もっとわかりやすい表現、何か御意見とかなかったのかなと思って、審議過程であったりとかそういった経緯についてちょっとお聞かせいただければと思います。
小川政府参考人
お答えいたします。
現行法九十三条の条見出し、これが心裡留保とされておりまして、改正法案においてもこの見出しはそのまま維持されております。
今お話ございました改正法案の立案の過程の状況でございますが、この用語が難解であることなどを理由に、その変更をすることが検討されたことがございました。しかし、最終的には、他に置きかえるべき端的でかつ適切な用語を見出すことができなかったということから、改正法案においてもこの用語を維持することとしております。
もっとも、改正法案においては、従前の解釈に沿って九十三条の条文の文言を改めておりますので、心裡留保という見出しの文言は難解であるものの、これによって一定の、その実質的な意味内容の理解が容易になるというふうに考えております。
吉田(宣)委員
ありがとうございます。
私もいろいろ考えたんですけれども、なかなかいいネーミングというのは浮かばなかったんですね。そういう意味では、従来からの心裡留保という表示の名前でこれからもいくということですけれども、この点も広く国民の皆様にやはり知っていただきたいなと思いまして、御質問させていただきました。
この心裡留保ですけれども、どういう規定かといえば、いわゆる意思表示において表意者が、自分がそういうふうに思っていないんだけれども言ってしまう、言ってしまったというか、言うということについては、その言ったとおりに効果が生じますよというふうな規定でございます。これは恐らく、表示主義に基づく、いわゆる取引の安全を図るための規定だというふうに私は理解しておりますけれども。
一問、二の問いをちょっと飛ばせていただきますけれども、条文を見ると、九十三条は、以前は多分一項しかなかった、二項はなかったわけです。二項が新設をされています。少し読ませていただくと、「前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。」というふうな規定が置かれているようでございます。同様の規定は、以前の法律でも、九十六条、詐欺または強迫の規定においてはこのような規定が見られたところでございますが、今般、この心裡留保の規定において第三者保護規定というものを設置した趣旨について教えていただければと思います。
小川政府参考人
お答えいたします。
現行法には、心裡留保による意思表示を信頼した第三者を保護する規定はございません。しかし、例えば心裡留保による意思表示によって売買契約を結んだ場合、その契約の後、例えば売り主が売ったその物について、買い主から第三者がさらにその物を購入するという事例のように、心裡留保による意思表示を前提として、第三者がさらに契約などをすることはあり得るわけでございます。
心裡留保による意思表示が無効とされる場合であっても、真意ではないことを知りながら真意と異なる意思表示を行った表意者には、そのような無効な意思表示を行ったことについて責められるべき事情があることから、その意思表示を信頼した第三者があらわれたときは、表意者よりもその第三者の方を保護すべきであると考えられるわけでございます。
このため、現行法に明文の規定はございませんが、判例の趣旨も、善意の第三者に対しては、心裡留保による意思表示の無効を主張することができないとするものと考えられております。
そこで、改正法案におきましては、この判例の趣旨に沿って、心裡留保による意思表示の無効は善意の第三者に対抗することができない旨を明文化することとしております。
吉田(宣)委員
非常に丁寧な説明、本当にありがとうございます。この新設の意味合いというのがよく国民に御理解いただけるようなお話であっただろうと思います。
少し細かい話に移りますけれども、今般新設されている改正法の九十五条の四項というもの及び改正法案の九十六条三項という規定にはこの「善意」というふうな、いずれも善意の第三者の保護規定ですけれども、わざわざ「過失がない」というふうな言葉がつけ加えられております。すなわち、無過失要件というものがはっきり書いてあるわけですね。
しかるに、この九十三条二項のただし書きは、「善意の」というふうな言葉だけでとどまっております。としますれば、ほかの条文からの対比で考えれば、この九十三条二項というのは、無過失というふうな要件は不要という理解でいいのかどうか。もしお許しいただければ、先ほどの九十五条四項もしくは九十六条三項との違いもあわせて御説明を賜れればと思います。
小川政府参考人
御指摘いただきましたとおり、九十三条二項では「善意の第三者」。それから、九十五条四項、九十六条三項では、過失がある善意の第三者は保護しないということとしております。このように、両者では、同じ第三者保護の規定でも要件が異なるわけでございますが、その理由は以下のとおりでございます。
まず、真意と異なることを認識しながらみずから真意と異なる意思表示をした心裡留保の表意者については、真意と異なる意思表示をしたことを表意者本人が認識していない錯誤の場合の表意者ですとか、あるいは欺罔行為によって誤解をして意思表示をした詐欺の場合の表意者、これらの者に比べますと、心裡留保の表意者については責められるべき事情が大きいというふうに考えられます。
そこで、錯誤または詐欺による意思表示を信頼した第三者を保護するに当たっては、その第三者が、心裡留保による意思表示を信頼した第三者よりも保護に値するものでなければ、バランスを欠くということになると考えられます。そこで、両者の要件に差異を設けまして、錯誤それから詐欺の場合につきましては、信頼したことにつき過失のある第三者は保護しないこととしたものでございます。
吉田(宣)委員
ありがとうございます。
しっかり、条文上でもはっきりわかるようにバランスをとるということであったかと思います。
続けて、実は、別の条文のことをちょっとお聞きしたいんですけれども、私は、大学に入って一番最初に民法総則というのを勉強して、一番最初に教えられたのが九十四条だったんですね。九十四条というのは虚偽表示規定ですけれども、今般、改正法の中に、新旧対照表の中に入っておりません。ということは、昔の、現行法そのままというふうなことなんだろうと思うんです。すなわち改正がないということのように理解しておりますが、それはなぜなのでしょうか。