四 妻(femme mariée、Ehefrau)
第十四條 妻カ左ニ揭ケタル行爲ヲ爲スニハ夫ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
一 第十二條第一項第一號乃至第六號ニ揭ケタル行爲ヲ爲スコト
二 贈與若クハ遺贈ヲ受諾シ又ハ之ヲ拒絕スルコト
三 身體ニ覊絆ヲ受クヘキ契約ヲ爲スコト
前項ノ規定ニ反スル行爲ハ之ヲ取消スコトヲ得(人六八、七二、財五五一)
婦人ハ婦人トシテ無能力ナルニ非ス故ニ處女及ヒ寡婦ハ其能力ニ於テ男子ト異ナルコトナキヲ原則トス唯妻ハ妻トシテ無能力ナリ其理由ハ天ニ二日ナク國ニ二王ナキト一般家ニ二主在リテハ一家ノ整理ヲ爲スコト能ハス故ニ今日ハ家ニ必ス戶主アリ然レトモ世ノ進運ト共ニ家族制ハ漸次親族制ニ進化シ來ルコト古今ノ沿革ニ徵シテ爭ウヘカラサル所ナルカ故ニ戶主ノ權ハ又昔日ノ如ク强大ナルコト能ハスヨウヤク親權、夫權ノ發達ヲ視ルニ至レリ親權ハ主トシテ未成年者ニ對シテ行ハレ夫權ハ妻ニ對シテ行ハル而シテ新民法ニ於テハ舊民法及ヒ今日多數ノ立法例ニ於ケルカ如ク夫權ハ主トシテ妻カ重大ナル法律行爲ヲ爲サント欲スルニ方リ之ヲシテ夫ノ許可ヲ受ケシメ以テ其行爲能力ヲ制限スルニ因リテハ行ハル而シテ其能力ノ程度ハ稍〻準禁治產者ニ類スルモノアリト雖モ準禁治產者ハ單ニ其財產ヲ保護スルカ爲メ之ヲ無能力トシ妻ハ之ヲシテ夫ノ權力ニ從ハシメント欲スルカ爲メニ之ヲ無能力トセルカ故ニ其間ニ左ノ差異ヲ生ス
一 準禁治產者ハ負担附ノ贈与又ハ遺贈ヲ受諾スルニ付テノミ保佐人ノ同意ヲ要スレトモ妻ハ一切ノ贈与、遺贈ヲ受諾スルニ付テ夫ノ許可ヲ要スルモノトス蓋シ他人ヨリ贈与、遺贈ヲ受クルカ如キハ假令財產上ニ於テハ利ノミアリテ害爲シトスルモ品位上又ハ感情上之ヲ受クルヲ不可トスルコトアリ是等ノ判斷ハ總テ夫ノ意見ニ任スルニ非サレハ其權力遂ニ行ハレサルニ至ルノ虞アレハナリ
二 身體ニ覊絆ヲ受クヘキ契約モ亦類似ノ理由ニ因リテ之ヲ準禁治產者ニ許シテ妻ニ許サス蓋シ夫ハ妻ヲシテ自己ト同居セシムル權利ヲサエ有スル者ナルニ妻ハイスクンソ夫ノ許可ナクシテ自己ノ身體ニ覊絆ヲ受ケ夫ノ命ニ從ヒテ同居其他ノ義務ヲ盡スコト能ハサルニ至ルヘキ契約ヲ爲スコトヲ得ヘケンヤ
三 之ニ反シテ第十二條第八號及ヒ第九號ニ揭クル行爲ノ如キハ財產上ノ利害ヨリ之ヲ言ヘハ稍〻重大ナルモノニ相違爲シト雖モ妻カ獨斷ニテ之ヲ爲シタレハトテ敢テ夫ノ權力ヲ蔑如スルノ嫌アリト謂フコトヲ得ス是レ之ヲ本條ニ揭ケサル所以ナリ但新築、改築增築ノ爲メ借財ヲ爲シ又ハ不動產若クハ重要動產ノ處分ヲ爲スノ必要アルトキハ特ニ夫ノ許可ヲ受クヘキコト固ヨリ言フヲ竢タス
四 同一ノ理由ニ因リ妻ハ準禁治產者ノ如ク法律ニ定メタル行爲以外ノモノニ付テモ夫ノ許可ヲ受クヘキモノトスルコトヲ得サルハ固ヨリ論ヲ竢タサル所ナリ
右ノ理由ニ因リ妻ト雖モ若シ準禁治產者ノ原因アルトキハ是レカ準禁治產ヲ宣吿スル必要アルコト明カナリ殊ニ第十七條ノ場合ニ於テハ妻ハ夫ノ許可ヲ得クルコトヲ要セスト雖モ若シ準禁治產者ナルトキハ第十二條ノ行爲ニ付テハ必ス保佐人ノ同意ヲ得サルヘカラス(九〇二、二項、九〇九、一項ニ依レハ原則トシテ夫妻ノ保佐人タリ)故ニ西洋ニ於テハ妻ノ準禁治產ハ頗ル頻繁ナリト謂フ若シ孰レ妻ヲ禁治產者トスル必要カアルヘキコトハ尤モ明瞭ナルヲ以テ別ニ之ヲ說明セス