仏蘭西法律書 商法

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○第壱編 一般ニ商業 ○第壱巻 商人 第壱条 商業ノ所為ヲ行ヒ且ツ之ヲ以テ其平常ノ職業ト為ス所ノ者ハ商人タリ 第弐条 凡ソ男女ヲ問ハス満十八歳ノ年齢ニ及ヒタル後見免脱ノ幼者ニシテ民法第四百八十七条ニ依リ附与セラレタル商業ヲ為スノ権能ヲ利用セント欲スルモノハ左ノ諸件ノアルニ非サレハ商業ノ行為ヲ始ムルコトヲ得ス又商業ノ所為ノ為メニ其ノ契約シタル約務ニ関シテ成年者ト看做スコトヲ得ス 第一 其幼者ノ予メ其父ヨリ許可セラレ若シ其父ノ死去、治産禁又ハ失踪ノ場合ニ於テハ其母ヨリ許可セラレ若シ又父母ノアラサル時ハ民事裁判所ノ認可ヲ得タル親族会議ノ決議ニ依リ許可セラレタル事 第二 右ノ外其許可ノ証書ヲ幼者ノ其住所ヲ設定セント欲スル地ノ商事裁判所ノ簿冊ニ記録シ及ヒ其裁判所ニ於テ貼附シタル事 第三条 前条ノ成規ハ第六百三十二条及ヒ第六百三十三条ノ成規ニ依テ商業ノ所為ナリト定メラレタル各箇ノ所為ニ関シテハ商人タラサルモノト雖モ幼者ニ適用ス可キモノトス 第四条 婦ハ其夫ノ承諾ナクシテ公ケノ商賈タルコトヲ得ス 第五条 婦ノ公ケノ商賈タル時ハ其夫ノ許可ナクシテ其商業ニ関スル事ニ付キ己レニ義務ヲ負フコトヲ得可シ但シ此場合ニ於テ夫婦ノ間ニ財産共通アル時ハ婦ハ其夫ニモ亦義務ヲ負ハシムルモノトス 婦ハ其夫ノ商品ヲ零売スルノミニテハ公ケノ商賈ト看做ス可カラス婦ノ別ニ商業ヲ為ス時ノミ之ヲ公ケノ商賈ト看做ス可シ 第六条 商賈タル幼者ニシテ前ニ記シタル如クニ許可セラレタル者ハ其不動産ヲ質入シ及ヒ之ヲ書入質ニ為スコトヲ得可シ 其幼者ハ然ノミナラス其不動産ノ所有権ヲ移転スルコトヲ得可シ然レトモ民法第四百五十七条以下ニ定メタル法式ニ従フコトヲ必要トス 第七条 公ケノ商賈タル婦ハ亦其不動産ヲ質入シ、書入質ニ為シ及ヒ其所有権ヲ移転スルコトヲ得可シ 然レトモ婦ノ嫁資ノ制ヲ以テ婚姻シタル時ハ嫁資ナリト約権セラレタル婦ノ財産ハ民法ニ依リ定メラレタル場合ニ於テ且ツ民法ニ依リ規定セラレタル方法ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ書入質ニ為シ又其所有権ヲ移転スルコトヲ得ス ○第弐巻 商業ノ帳簿 第八条 各商人ハ毎日其能働及ヒ所働ノ負債、其商業ノ行為、其手形ノ取引、受諾又ハ裏書及ヒ如何ナル名義タルヲ問ハス一般ニ其収受シ及ヒ弁済スル所ノ諸件ヲ明記シ並ニ毎月其家内ノ費ニ用ヒタル金額ヲ表示スル日用帳簿ヲ備フ可シ但シ右ハ商業上ニ於テ用フルモノト雖モ缺ク可カラサルモノニ非サル其他ノ帳簿ト相関セサルモノトス 商人ハ其収受スル所ノ書状ヲ一束ニ為シ置キ又其差送ル所ノ書状ヲ一箇ノ簿冊ニ写ス可キモノトス 第九条 商人ハ毎年私シノ署名ニテ其動産及ヒ不動産並ニ其能働及ヒ所働ノ負債ノ目録ヲ作リ且ツ毎年特設ノ簿冊ニ其目録ヲ写ス可キモノトス 第拾条 日用帳簿及ヒ目録ノ帳簿ハ毎年一回花押ヲ附セラレ及ヒ検署セラル可キモノトス 書状写取ノ帳簿ハ右ノ法式ニ服従セサルモノトス 総テノ帳簿ハ空白、漏写及ヒ欄外ノ附記ナク日附ノ順序ヲ以テ之ヲ設備ス可シ 第拾壱条 前第八条及ヒ第九条ニ依リ其設備ヲ命令セラレタル帳簿ハ商事裁判所ノ裁判官一名若クハ邑長又ハ其副職通常ノ方法ヲ以テ無費ニテ之ニ番号ヲ附シ、花押ヲ為シ及ヒ検署ス可シ○商人ハ十年間右ノ帳簿ヲ保存ス可キモノトス 第拾弐条 適法ニ設備シタル商業ノ帳簿ハ裁判官商業ノ所為ニ付テハ商人ノ間ニ於テ証拠ト為ス為メ之ヲ許容スルコトヲ得可シ 第拾三条 商業ヲ為ス各人ノ設備ス可キノ義務アル帳簿ニシテ其各人ノ前ニ定メタル法式ヲ遵守セサリシモノハ之ヲ設備シタル者ノ■■ニ於テ裁判上ニ之ヲ差出スコトヲ得ス又裁判上ニテ証憑ト為スコトヲ得■■シ家資分散及ヒ倒産ノ篇ニ規定スル所ノモノト相触ルヽコトナカル可シ 第拾四条 帳簿及ヒ目録ノ通知伝観ハ財産相続、財産共通、会社ノ分派ノ事項ニ付キ及ヒ家資分散ノ場合ニ非サレハ裁判上ニテ之ヲ命令スルコトヲ得ス 第拾五条 争訟中ニ於テハ帳簿ノ中ヨリ其争訟ニ関スル所ノモノヲ抜キ書キスル為メ裁判官職権上ニテモ其帳簿ノ呈示ヲ命令スルコトヲ得可シ 第拾六条 其呈示ヲ供陳シ又ハ請求シ又ハ命令シタル帳簿ノ其訴訟ヲ掌轄スル裁判所ヨリ遠隔ノ地ニアル場合ニ於テハ裁判官之ヲ調査シテ其記載諸件ノ調書ヲ作リタル上右訴訟掌轄ノ裁判所ニ之ヲ送ラシムル為メ其地ノ商事裁判所ニ委託ノ証書ヲ差向ケ又ハ治安裁判官ニ委任スルコトヲ得可シ 第拾七条 若シ訴訟ヲ為ス一方ノ者ノ帳簿ヲ以テ相手方ヨリ証憑ト為スコトヲ供陳シタル時其一方ノ者ノ之ヲ呈示スルコトヲ否拒スルニ於テハ裁判官他ノ一方ノ者ニ誓ヲ求ムルコトヲ得可シ ○第三巻 会社 ○第壱節 種々ノ会社及ヒ其規則 第拾八条 会社ノ契約ハ民法ニ依リ及ヒ商業ニ特別ノモノタル法律ニ依リ並ニ関係各人ノ合意ニ依テ之ヲ規定ス 第拾九条 法律ハ左ニ記スル三種ノ商業会社ヲ認定ス 合名会社 差金会社 無名会社 第弐拾条 合名会社トハ二人又ハ更ニ多数ノ契約スルモノニシテ会社ノ名号ニテ商業ヲ為スヲ目的トスル会社ヲ云フ 第弐拾壱条 社員ノ姓名ノミヲ以テ会社ノ名号ノ一部分ト為スコトヲ得可シ 第弐拾弐条 会社ノ証書ニ指示セラレタル合名ニ於ケル各社員ハ仮令社員中唯一名ノ署名シタル時ト雖モ会社ノ名号ヲ以テ為シタルニ於テハ其会社ノ総テノ約務ニ付キ連帯ノモノトス 第弐拾三条 差金会社ハ責任アリテ且ツ連帯ノモノタル一名又ハ数名ノ社員ト単純ナル元金差入人タル一名又ハ数名ノ社員トノ間ニ契約スルモノニシテ其元金差入人タル社員ハ之ヲ名ケテ差金者又ハ差金社員ト云フ 差金会社ハ会社ノ名号ヲ以テ之ヲ管理ス可シ但シ其会社ノ名号ハ必ス責任アリテ且ツ連帯ノモノタル社員一名又ハ数名ノ姓名タル可キモノトス 第弐拾四条 連帯ノモノニシテ姓名ヲ明示シタル社員数名アル時ハ其全員ノ相共ニ管理スルト一名又ハ数名ノ全員ノ為メニ管理スルトヲ問ハス其会社ハ右ノ社員ニ関シテハ合名会社トシ兼子テ又単純ナル元金差入人ニ関シテハ差金会社トス 第弐拾五条 差金者タル社員ノ姓名ハ会社ノ名号ノ一部分タルコトヲ得ス 第弐拾六条 差金者タル社員ハ其会社ニ差入レ又ハ差入ル可キ元金ノ額ニ充ツル迄ノ外損失ヲ担任セサルモノトス 第弐拾七条 差金者タル社員ハ代理委任ニ拠ルト雖モ管理ノ所為ヲ行フコトヲ得ス 第弐拾八条 前条ニ記載シタル禁止ニ違背シタル場合ニ於テハ差金者タル社員ハ其行ヒタル管理ノ所為ヨリ生スル所ノ会社ノ負債及ヒ約務ノ為メ合名ニ於ケル社員ト連帯シテ義務ヲ負フ可ク而シテ又其所為ノ多寡或ハ軽重ニ従ヒ会社ノ総テノ約務ノ為メ又ハ其中或者ノミノ為メニ連帯シテ義務ヲ負ヒタリト宣告セラルヽコトアル可シ 意見及ヒ助言並ニ監督及ヒ監視ノ所為ハ差金者タル社員ヲ結束セス 第弐拾九条 無名会社ハ会社ノ名ニテ存立セス又其会社ハ社員ノ姓名ヲ以テ指定セラレス 第三拾条 無名会社ハ其業務ノ目的ノ指定ニ依テ名称セラルヽモノトス 第三拾壱条 無名会社ハ社員タルト社員タラサルト給料ヲ受クルト無償ナルトヲ問ハス廃止スルコトヲ得可キ有期ノ代理者之ヲ管理ス可シ 第三拾弐条 管理人ハ其受ケタル代理ノ執行ノミニ付キ責ニ任ス可キモノトス 管理人ハ其管理ノ為メ会社ノ約務ニ関シテ如何ナル一身上ノ義務ヲモ又連帯ノ義務ヲモ負ハサルモノトス 第三拾三条 社員ハ会社ニ於ケル其部分ノ額ノ損失ノミヲ担任ス可キモノトス 第三拾四条 無名会社ノ資本ハ平等ノ価額ノ株敷又然ノミナラス株敷ノ部分ニ分ツモノトス 第三拾五条 株敷ハ所持人払ヒ証券ノ体裁ニテ之ヲ設定スルコトヲ得可シ 此場合ニ於テ其譲渡ハ証券ノ引渡ニ依テ之ヲ為スモノトス 第三拾六条 株敷ノ所有権ハ会社ノ簿冊ニ於ケル記入ニ依テ之ヲ設定スルコトヲ得可シ 此場合ニ於テ其譲渡ハ簿冊ニ記入シタル転移ノ申述書ニ依テ之ヲ為スモノトス但シ其申述書ハ転移ヲ為ス者又ハ其代理人之ニ署名ス可シ 第三拾七条 無名会社ハ国王ノ允許ヲ受ケ且ツ其会社ヲ設立スル所ノ証書ニ付キ国王ノ認可ヲ受ケタル上ニ非サレハ存立スルコトヲ得ス但シ其認可ハ公ケノ行政規則ノ為メニ定メタル方法ヲ以テ之ヲ附与ス可キモノトス 第三拾八条 差金会社ノ資本ハ亦之ヲ数箇ノ株敷ニ分ツコトヲ得可シ但シ此類ノ会社ノ為メニ設ケタル規則ニ付キ総テ其他ノ違背ナカル可キモノトス 第三拾九条 合名会社又ハ差金会社ハ公ケノ証書又ハ私シノ署名証書ニ依テ之ヲ証明セサル可カラス但シ私シノ署名証書ヲ以テ之ヲ証明シタル場合ニ於テハ民法第千三百二十五条ニ従フ可キモノトス 第四拾条 無名会社ハ公ケノ証書ニ依ルニ非サレハ之ヲ組成スルコトヲ得ス 第四拾壱条 仮令百五十「フランク」以下ノ金額ニ関スル時ト雖モ会社ノ証書ニ記載シタル所ニ反スル事及ヒ其証書ニ記載シタル所ヨリ以外ノ事ニ付キ証人ニ依レル証ヲ許容スルコトヲ得ス又其証書ノ前或ハ其証書ノ時或ハ其証書ノ後ニ言説シタリト述フル所ノ事ニ付テモ亦証人ニ依レル証ヲ許容スルコトヲ得ス 第四拾弐条 合名会社及ヒ差金会社ノ証書ノ抜書ハ簿冊ニ登記シテ三月内審問席ノ庁堂ニ貼附スル為メ其日附ヨリ十五日内ニ会社ノ商店設置ノ郡ノ商事裁判所ノ書記局ニ之ヲ差出サヽル可カラス 若シ其会社ニ於テ数郡ニアル数箇ノ商店ヲ有スル時ハ右抜書ノ差出、登記及ヒ貼附ヲ各郡ノ商事裁判所ニ為ス可シ 毎年一月ノ初メノ十五日内ニ商事裁判所ハ其管轄内ノ首地ニ於テ若シ又其首地ノアラサル時ハ最近ノ都府ニ於テ合名会社又ハ差金会社ノ証書ノ抜書ヲ其日附ヨリ十五日内ニ記入ス可キ一箇又ハ数箇ノ新聞紙ヲ指定メ且ツ其抜書印刷ノ費額ヲ規定ス可シ 其記入ハ印刷人ノ保証シテ邑長ノ確的ナリト認メ且ツ其日附ヨリ三月内ニ簿冊ニ記録シタル新聞紙ノ印本ヲ以テ之ヲ証明ス可シ○右ノ法式ハ必ス之ヲ遵守ス可ク若シ之ニ違背スル時ハ関係各人ニ関シテ無効ノモノトス然レトモ其法式中一箇ノ欠缺ハ社員ヨリ第三ノ人ニ向ヒ之ヲ以テ対抗スルコトヲ得ス 第四拾三条 其抜書ニハ左ノ諸件ヲ記ス可シ 株主又ハ差金者ヲ除クノ外ノ各社員ノ姓名、分限、居所 会社ノ商業上ノ名号 社員中ニテ会社ノ為メニ掌理シ、管理シ及ヒ署名スルコトヲ許サレタル者ノ指定 株敷毎ニ又ハ差金ニ於テ供給シ又ハ供給ス可キ価額 会社ノ始マル可キ時期及ヒ会社ノ終ル可キ時期 第四拾四条 会社ノ証書ノ抜書ハ公ケノ証書ニ付テハ公証人之ニ署名ス可ク又私シノ署名証書ニ付テハ若シ其会社カ合名会社タル時ハ各社員皆之ニ署名ス可ク若シ又其会社カ差金会社タル時ハ之ヲ数箇ノ株敷ニ分チタルト分タサルトヲ問ハス連帯ノ社員又ハ管理者タル社員之ニ署名ス可シ 第四拾五条 無名会社ヲ允許スル国王ノ命令書ハ其結社ノ証書ト同時間之ト共ニ貼附ス可キモノトス 第四拾六条 凡ソ会社ノ期限ノ終リシ後其会社ノ継続スル事ハ共同社員ノ申述ヲ以テ之ヲ証明ス可シ○右ノ申述書及ヒ会社ヲ設定スル証書ヲ以テ其継続時間トシテ定メタル期限ヨリ前ニ其会社ヲ解分スル総テノ証書、総テ社員ノ変更又ハ退社、総テ新タナル約権又ハ約款、総テ会社ノ名号ニ於ケル変更ハ第四十二条、第四十三条、第四十四条ニ定メタル法式ニ従フ可キモノトス 若シ右ノ法式ヲ遺脱シタル場合ニ於テハ第四十二条末項ノ罰例ヲ適用ス可キモノトス 第四拾七条 前ニ記シタル三種ノ会社ニ関セス法律ハ共分ニ於ケル商業上ノ結社ヲ認定ス 第四拾八条 右ノ結社ハ一箇又ハ数箇ノ商業上ノ行為ニ関シ而シテ其共分者ノ間ニ合意シタル目的ニ付キ其合意シタル方法ト利益ノ割合及ヒ条件トニ於テ之ヲ為ス可キモノトス 第四拾九条 共分ニ於ケル結社ハ帳簿及ヒ往復書翰ノ呈示ニ依テ之ヲ証明スルコトヲ得可ク若シ又裁判所ニ於テ証人ノ証ヲ許スコトヲ得可シト思考スル時ハ証人ノ証ニ依テ之ヲ証明スルコトヲ得可シ 第五拾条 共分ニ於ケル商業上ノ結社ハ其他ノ会社ノ為メニ定メタル法式ニ従服セサルモノトス ○第弐節 社員ノ間ノ争訟及ヒ之ヲ裁決スル方法 第五拾壱条 凡ソ社員ノ間ニ於テ会社ノ事ノ為メニ生シタル争訟ハ裁断人之ヲ裁断ス可シ 第五拾弐条 裁断人ノ裁断ハ之ヲ控訴シ又ハ破毀ヲ得ント上告スルコトヲ得可シ但シ其放棄ヲ約シタル時ハ格別ナリトス○其控訴ハ控訴裁判所ニ之ヲ申告ス可シ 第五拾三条 裁断人ノ撰任ハ左ノ諸件ヲ以テ之ヲ為スモノトス 私シノ署名証書 公証人ノ記シタルノ証書 裁判外ノ証書 裁判上ニテ附与シタル承諾 第五拾四条 裁断ノ為メノ期限ハ裁断人撰定ノ時ニ当リ関係各人之ヲ定ム可ク若シ又其期限ニ付キ合同セサル時ハ裁判官之ヲ規定ス可シ 第五拾五条 社員中一名又ハ数名ノ裁断人ヲ撰任スルコトヲ否拒シタル場合ニ於テハ商事裁判所ヨリ職権上ニテ裁断人ヲ撰任ス可シ 第五拾六条 関係各人ハ別ニ裁判上ノ法式ナクシテ其証拠物及ヒ覚書ヲ裁断人ニ交付ス可シ 第五拾七条 証拠物及ヒ覚書ヲ裁断人ニ交付スルコトヲ遅延シタル社員ハ十日内ニ其交付ヲ為ス可キノ催促ヲ受ク可シ 第五拾八条 裁断人ハ場合ノ需要ニ従ヒ証拠物差出ノ為メノ期限ヲ延ハスコトヲ得可シ 第五拾九条 若シ期限ノ更新アラサル時又ハ新ナル期限ノ終リタル時ハ裁断人其交付セラレタル証拠物及ヒ覚書ノミニ拠テ裁断ス可シ 第六拾条 可トスル者ノ数ト否トスル者ノ数ト相同シキ場合ニ於テ若シ其裁断人ノ裁断ニ任カスノ契約ニ依リ補充裁断人ヲ撰任シ置カサル時ハ裁断人ニ於テ其補充裁断人一名ヲ選任ス可シ若シ又裁断人ノ其選択ニ付キ互ニ異議アル時ハ商事裁判所ヨリ其補充裁断人ヲ選任ス可シ 第六拾壱条 裁断人ノ裁断書ニハ其理由ヲ附ス可シ 其裁断書ハ商事裁判所ノ書記局ニ納ム可シ 其裁断書ハ商事裁判所長ノ命令ニ拠リ如何ナル更改モナクシテ執行ス可キモノト為シ而シテ簿冊上ニ之ヲ登記ス可シ但シ其裁判所長ハ書記局ニ納メタル時ヨリ三日ノ期限内ニ単純ニ其命令ヲ発ス可キモノトス 第六拾弐条 前ニ記シタル成規ハ社員ノ寡婦、相続人又ハ受権人ニ共通ノモノトス 第六拾三条 若シ幼者カ商事会社ニ付テノ争訟ニ関係シタル時ハ後見人ハ裁断人ノ裁断ヲ控訴スルノ権能ヲ放棄スルコトヲ得ス 第六拾四条 算定者タラサル社員及ヒ其寡婦、相続人又ハ受権人ニ対スル総テノ訴権ハ若シ会社ノ継続時間ヲ表示スル会社ノ証書又ハ解分ノ証書ヲ第四十二条、第四十三条、第四十四条、第四十六条ニ従テ貼附シ及ヒ簿冊ニ記録シ且ツ其法式ヲ履行シタル後ニ裁判上ノ起訴ニ依リ右ノ各人ニ関シテ期満効ヲ中断セサル時ハ会社ノ終リ又ハ解分シタルヨリ五年ノ後ニ至リ期満効ニ依テ消滅スルモノトス ○第四巻 財産ノ離分 第六拾五条 凡ソ財産離分ノ訟求ハ民法第三編第五巻第二章第三節ト訴訟法第二部第一編第八巻トニ定メタル所ニ従ヒ之ヲ訴ヘ、審理シ及ヒ裁判ス可シ 第六拾六条 夫婦中一方ノ者ノ商人タル時其夫婦ノ間ニ於ケル分居又ハ離婚ヲ宣告スル総テノ裁判ハ訴訟法第八百七十二条ニ定メタル法式ニ従フ可キモノトス若シ其法式ニ従ハサル時ハ各債主ニ於テ何時ニ限ラス自己ノ利益ニ関スル所ノモノニ付キ其裁判ニ故障ヲ申立テ且ツ之レカ効果タル総テノ算定ニ抗弁スルコトヲ許サル可シ 第六拾七条 夫婦中一方ノ者ノ商人タル時其夫婦ノ間ニ於ケル総テノ婚姻契約書ハ訴訟法第八百七十二条ニ従ヒ帖上ニ展示スル為メ其日附ヨリ一月内ニ同条ニ指定メタル書記局及ヒ各局ニ抜書ヲ以テ移送ス可シ 其抜書ハ夫婦ノ財産共通ニテ婚姻シタルヤ又ハ夫婦ノ財産ヲ離分シタルヤ又ハ夫婦ノ嫁資ノ制ヲ以テ契約シタルヤヲ広告ス可シ 第六拾八条 婚姻ノ契約書ヲ記シタル公証人ハ前条ニ依リ命令セラレタル交付ヲ為ス可ク若シ之ニ違フ時ハ百「フランク」ノ罰金ヲ言渡サレ又然ノミナラス通謀ノ為メニ其交付ヲ為サヽリシノ証アル時ハ罷免及ヒ各債主ニ対スル責任ヲ言渡サル可シ 第六拾九条 財産ヲ離分シ又ハ嫁資ノ制ヲ以テ婚姻シタル夫婦中一方ノ者ニシテ其婚姻ノ後ニ商人ノ職業ニ就キタル者ハ其商業ヲ開キタル日ヨリ一月内ニ右ニ同シキ交付ヲ為ス可キモノトス若シ其交付ヲ為サヽル時ハ其者ノ家資分産ノ場合ニ於テ単純ナル倒産者トシテ刑ヲ言渡スコトヲ得可シ 第七拾条 此法律公布ノ時ニ当リテ凡ソ商人ノ職業ヲ執行スル所ノ財産ヲ離分シ又ハ嫁資ノ制ヲ以テ婚姻シタル夫婦中一方ノ者ハ其公布ノ時ヨリ一年内ニ右ト同一ノ交付ヲ為ス可ク若シ之ニ違フ時ハ亦右ト同一ノ刑ニ処セラル可シ ○第五巻 商人集会、手形売買世話人及ヒ商業世話人 ○第壱節 商人集会 第七拾壱条 商人集会トハ国王(政府)ノ統制ヲ受ケテ商人、船長、手形売買世話人及ヒ商業世話人ノ為ス集会ヲ云フ 第七拾弐条 商人集会ニ於テ為ス所ノ取引及ヒ行為ノ成果ハ為替、商品、保険、船舶貸賃、水陸運送賃、公ケノ手形ノ相場及ヒ其他其相場ヲ指定スルヲ得可キ手形ノ相場ヲ定ムルモノトス 第七拾三条 右ニ記シタル種々ノ相場ハ一般又ハ特別ナル警察規則ニ依リ定メタル方法ヲ以テ手形売買世話人及ヒ商業世話人之ヲ証明スルモノトス ○第弐節 手形売買世話人及ヒ商業世話人 第七拾四条 法律ハ商業ノ所為ノ為メ居間ノ世話人ヲ認定ス手形売買世話人及ヒ商業世話人是レナリ 商人集会ノ設ケアル各都府ニ於テハ手形売買世話人及ヒ商業世話人ヲ置クモノトス 手形売買世話人及ヒ商業世話人ハ皇帝(共和国大統領)ヨリ之ヲ選任ス 第七拾五条 囲闌ヲ設備シアル商人集会ニ於ケル手形売買世話人ハ其役場ノ収益及ヒ其価額ノ算定ヨリ生スル利益及ヒ損失ヲ共分スル所ノ利害ノ関係アル元金差入人ヲ己レノ仲ケ間ト為スコトヲ得可シ○其元金差入人ハ其約務シタル元金ノ額ニ充ツル迄ノ外損失ヲ担任セサルモノトス 其役場ノ名前人ハ常ニ必ス其役場ノ代価ト保証ノ高トニ当レル金額ノ少クトモ四分一ヲ自己ノ名前ニ於テ所有セサルヲ得ス 其証書ノ抜書及ヒ之ニ付キ為スコトアル可キ更改ハ之ヲ公布ス可ク若シ之ニ背ク時ハ関係人ニ関シテ無効タル可シ但シ関係人ハ其公布ノ欠缺ヲ以テ第三ノ人ニ対抗スルコトヲ得サルモノトス 第七拾六条 法律ニ依リ定メラレタル方法ニテ設置セラレタル手形売買世話人ニ限リ公ケノ手形及ヒ其他其相場ヲ指定スルヲ得可キ手形ノ取引ヲ為シ又他人ノ計算ノ為メニ為替手形又ハ切手及ヒ売買スルヲ得可キ総テノ書類ノ取引ヲ為シ及ヒ其相場ヲ証明スルノ権利ヲ有ス 手形売買世話人ハ商品ノ商業世話人ト抗競シテ金属物料ノ売買ノ取引及ヒ世話ヲ為スコトヲ得可シ○手形売買世話人ニ限リ金属物料ノ相場ヲ証明スルノ権利ヲ有ス 第七拾七条 商品ノ商業世話人アリ 保険ノ商業世話人アリ 通弁兼船舶借入商業世話人アリ 水陸運送ノ商業世話人アリ 第七拾八条 法律ニ依リ定メラレタル方法ニテ設置セラレタル商品ノ商業世話人ニ限リ商品売買ノ世話ヲ為シテ之レカ相場ヲ証明スルノ権利ヲ有シ又商品ノ商業世話人ハ手形売買世話人ト抗競シテ金属物料売買ノ世話ヲ執行ス 第七拾九条 保険ノ商業世話人ハ公証人ト抗競シテ保険ノ契約書ヲ作リ又自己ノ署名ニ依テ之レカ真正ナルコトヲ証シ且ツ海上又ハ河川ノ総テノ航行ニ付キ保険料ノ高ヲ保証ス 第八拾条 通弁兼船舶借入商業世話人ハ船舶借入ノ世話ヲ為シ且ツ右ノ外其商業世話人ニ限リ裁判所ニ申告シタル争訟ノ場合ニ於テハ其反訳ノ必要ナル申述書、船舶借入契約書、積荷目録、商業上ノ契約書及ヒ総テ商業上ノ証書ヲ反訳スルノ権利ヲ有シ又船舶貸賃ノ相場ヲ証明スルノ権利ヲ有ス 商業上ノ争訟事件ニ付キ及ヒ海関税局ノ事務ニ付テハ右ノ商業世話人ニ限リ総テノ外国人、船主、商賈、船ノ乗組人及ヒ其他ノ海員ノ為メニ通事ノ用ヲ為ス可キモノトス 第八拾壱条 若シ政府ヨリ設置スル証書ニ許可アル時ハ同一ノ人ニシテ手形売買世話人、商品又ハ保険ノ商業世話人及ヒ通弁兼船舶借入商業世話人ノ職務ヲ兼子行フコトヲ得可シ 第八拾弐条 法律ニ従ヒ設置セラレタル水陸運送商業世話人ニ限リ其設置セラレタル各地ニ於テ水陸運送ノ世話ヲ為スノ権利ヲ有スルモノトス但シ其商業世話人ハ如何ナル場合ニ於テモ又如何ナル口実アリト雖モ第七十八条、第七十九条、第八十条ニ指定シタル商品ノ商業世話人、保険ノ商業世話人又ハ船舶借入商業世話人ノ職務ヲ兼子行フコトヲ得ス 第八拾三条 家資分散ヲ為シタル者ハ復権セラレタルニ非サレハ手形売買世話人タルコトヲ得ス又商業世話人タルコトヲ得ス 第八拾四条 手形売買世話人及ヒ商業世話人ハ第十一条ニ定メタル法式ヲ具備スル所ノ帳簿ヲ設ク可キモノトス 手形売買世話人及ヒ商業世話人ハ自己ノ紹介ニ依リ為シタル売買、保険、取引及ヒ一般ニ総テノ行為ノ各条件ヲ毎日、日附ノ順序ヲ以テ塗抹、行間ノ書入、辞語ノ入レ替ナク又略語ナク且ツ数字ヲ用ヒスシテ右ノ帳簿ニ記載ス可シ 第八拾五条 手形売買世話人又ハ商業世話人ハ如何ナル場合ニ於テモ又如何ナル口実アリト雖モ自己ノ計算ノ為メニ商業又ハ銀行ノ行為ヲ為スコトヲ得ス 手形売買世話人又ハ商業世話人ハ直接ト間接トヲ問ハス又自己ノ名前ヲ以テスルト介入者ノ名前ヲ以テスルトヲ問ハス如何ナル商業上ノ業務ニ於テモ関係スルコトヲ得ス 手形売買世話人又ハ商業世話人ハ其任用者ノ計算ノ為メニ収受スルコトヲ得ス又弁済スルコトヲ得ス 第八拾六条 手形売買世話人又ハ商業世話人ハ其紹介シタル契約ノ執行ニ付キ担保者タルコトヲ得ス 第八拾七条 凡ソ前条二条ニ表示シタル成規ニ違背シタル時ハ罷免ノ罰ト三千「フランク」以上タルコトヲ得サル罰金ノ言渡トヲ惹起シ其罰金ハ懲治警察裁判所ヨリ之ヲ宣告ス可キモノトス但シ損害賠償ニ於ケル関係各人ノ訴権ト相触ルヽコトナカル可シ 第八拾八条 凡ソ前条ニ拠リ罷免セラレタル手形売買世話人又ハ商業世話人ハ其職務ニ復スルコトヲ得ス 第八拾九条 家資分散ノ場合ニ於テハ凡ソ手形売買世話人又ハ商業世話人ハ倒産者ナリトシテ訴ヲ受ク可シ 第九拾条 左ノ諸件ニ関スル所ノモノニ付テハ公ケノ行政規則ヲ以テ之ヲ設備ス可シ 第一 保証金ノ高但シ其最上限ハ二十五万「フランク」ニ過クルコトヲ得サルモノトス 第二 公ケノ手形ノ取引及ヒ其所有権ノ移転並ニ一般ニ本巻中ニ記シタル成規ノ執行 ○第六巻 動産質及ヒ仲買人 ○第壱節 動産質 第九拾壱条 商人若クハ商人ニ非サル者ノ商業ノ所為ノ為メニ設定シタル動産質ハ其契約ヲ為ス各人ニ関シテモ又第三ノ人ニ関シテモ商法第百九条ノ成規ニ従ヒ之ヲ証明スルモノトス 動産質ハ取引ヲ為スコトヲ得可キ証票類ニ関シテハ其証票類ヲ担保トシテ交付シタル旨ヲ指示スル適法ノ裏書ヲ以テ亦之ヲ設定スルコトヲ得可シ 会社ノ簿冊上ニ於ケル転移ニ依リ其移転ヲ為ス所ノ理財、工作、商事又ハ民事会社ノ記名ノ株券、股分ノ分ケ前及ヒ証券ニ関シテハ亦右ニ同シク其簿冊上ニ記入シタル担保ノ名義ニ於ケル転移ニ依リ其動産質ヲ設定スルコトヲ得可シ 譲受人カ負債者ニ為シタル転移ノ通報ニ依ルニ非サレハ第三ノ人ニ関シテ収握スルコトヲ得サル動産ノ債権ニ関シテハ民法第二千七十五条ノ成規ニ違背ス可カラス 動産質トシテ附与シタル商業上ノ手形ハ其質取人タル債主ニ於テ其金額ヲ取戻スコトヲ得可キモノトス 第九拾弐条 如何ナル場合ニ於テモ質物カ債主ノ占有又ハ双方ノ間ニ合意シタル第三ノ人ノ占有ニ附セラレ且ツ其占有ニ存続シタル時ニ非サレハ先取特権ハ其質物ニ付キ存在セサルモノトス 商品カ債主ノ倉庫又ハ船舶内又ハ海関税局或ハ公ケノ貯蔵場ニ於テ債主ノ処分内ニアリ又ハ其商品ノ到着セサル前ニ積荷目録又ハ送リ状ニ依リ債主ノ其商品ヲ収握シタル時ハ債主其商品ヲ自己ノ占有ニ於テ有スルモノト看做ス可シ 第九拾三条 満期ニ至リ弁済ヲ為サヽルニ於テハ債主ハ負債者ト質物ノ第三ノ供給者アル時ハ其第三ノ供給者トニ為シタル単純ナル通報ヨリ八日ノ後ニ至リ其質トシテ附与シタル物件ノ公ケノ売払ニ取掛ラシムルコトヲ得可シ 手形売買世話人ノミニ限リテ委任セラルヽコトヲ得可キ売払ノ外其他ノ売払ハ商業世話人ノ紹介ヲ以テ之ヲ為ス可シ○然レトモ関係各人ノ請願ニ依リ商事裁判所長ハ其売払ニ取掛ラシムル為メ更ニ他ノ種類ノ公ケノ役員ヲ指定ムルコトヲ得可シ○此場合ニ於テハ其売払ヲ委任セラレタル公ケノ役員ハ如何ナル者タルヲ問ハス其方法、費用ノ額及ヒ責任ニ関シテハ商業世話人ヲ管理スル所ノ成規ニ従フ可キモノトス 公ケノ売払ニ関スル千八百五十八年五月二十八日ノ法律第二条ヨリ第七条ニ至ル迄ノ各条ノ成規ハ前項ニ記シタル売払ニ適用ス可キモノトス 凡ソ前ニ定メタル法式ナクシテ債主ニ其質物ヲ自己ノ所有ト為シ又ハ之ヲ処分スルコトヲ許ルス所ノ約款ハ無効ノモノトス ○第弐節 一般ニ仲買人 第九拾四条 仲買人トハ任用者ノ計算ノ為メ自己ノ名前又ハ会社ノ名前ニテ事ヲ行フ所ノ者ヲ云フ 任用者ノ名前ニテ事ヲ行フ仲買人ノ本分及ヒ権利ハ民法第三編第十三巻ニ之ヲ定ム 第九拾五条 各仲買人ハ商品ノ収受ノ前ト商品ヲ占有スル時間トヲ問ハス自己ヨリ為シタル総テノ貸金、立替金又ハ弁済ノ為メ其商品ノ送遣、附託又ハ寄蔵ノ所為ノミニ依リ其己レニ送遣セラレ、附託セラレ又ハ寄蔵セラレタル商品ノ価額ニ付キ先取特権ヲ有スルモノトス 其先取特権ハ前第九十二条ニ定メタル条件ニ従フニ非サレハ存在セサルモノトス 仲買人ノ先取特権アル債権中ニ其主額ト共ニ利息、仲買口銭及ヒ費用ヲ包含スルモノトス 若シ任用者ノ計算ノ為メニ商品ヲ売払ヒ及ヒ引渡シタル時ハ仲買人ハ任用者ノ各債主ヨリ先キニ其売払代金ニ付キ自己ノ債権ノ額ノ償還ヲ受クルモノトス ○第三節 水陸運送ノ為メノ仲買人 第九拾六条 水陸ノ運送ヲ引受クル所ノ仲買人ハ其日用帳簿ニ商品ノ性質及ヒ分量ノ申述ヲ記入シ又其請求ヲ受クル時ハ商品ノ価額ノ申述ヲ記入ス可キモノトス 第九拾七条 其仲買人ハ法ニ従ヒ証明シタル抗拒ス可カラサル力ノ場合ノ外ハ送リ状ニ定メタル期限内ニ商品及ヒ物品ノ到着スルコトヲ担保スルモノトス 第九拾八条 其仲買人ハ商品又ハ物品ノ運輸損害又ハ滅尽ヲ担保スルモノトス但シ送リ状ニ於テ之ニ反スル約権アル時又ハ抗拒ス可カラサル力アル時ハ格別ナリトス 第九拾九条 其仲買人ハ商品ヲ宛テ差送リタル居間ノ仲買人ノ所為ヲ担保スルモノトス 第壱百条 売主又ハ送遣人ノ倉庫ヨリ出テタル商品ハ反対ノ合意アラサル時ハ其属スル所ノ者ノ危険ニテ運送スルモノトス但シ其者ヨリ運送ヲ任セラレタル仲買人及ヒ運送人ニ対シテ償還ノ訟求ヲ為スコトヲ得可シ 第百壱条 送リ状ハ送遣人ト運送人トノ間又ハ送遣人、仲買人及ヒ運送人ノ間ニ於テ一箇ノ契約ヲ為スモノトス 第百弐条 送リ状ニハ其日附ヲ記セサルヲ得ス 又送リ状ニハ左ノ諸件ヲ明記セサルヲ得ス 運送ス可キ物件ノ性質及ヒ重量又ハ容積 其運送ヲ為サヽル可カラサル期限 又送リ状ニハ左ノ諸件ヲ指示スルモノトス 其運送ノ業務ヲ為ス仲買人アル時ハ其仲買人ノ姓名及ヒ住所 商品ヲ宛テ送ラレタル者ノ姓名 運送人ノ姓名及ヒ住所 又送リ状ニハ左ノ諸件ヲ表示スルモノトス 運送賃 遅延ノ為メニ負担スル所ノ賠償 送リ状ハ送遣人又ハ仲買人ニ於テ署名ス可シ 送リ状ハ其端ニ運送ス可キ物件ノ記号及ヒ番号ヲ示スモノトス 送リ状ハ番号ヲ附シ且ツ花押ヲ為シタル簿冊上ニ仲買人間隙ナク相連接シテ之ヲ写ス可シ ○第四節 運送人 第百三条 運送人ハ抗拒ス可カラサル力ノ場合ヲ除クノ外其運送ス可キ物件ノ滅尽ヲ担保スルモノトス 運送人ハ其物ノ固有ノ瑕瑾又ハ抗拒ス可カラサル力ヨリ生スル所ノモノヲ除クノ外其他ノ運輸損害ヲ担保スルモノトス 第百四条 若シ抗拒ス可カラサル力ノ効ニ依リ合意セラレタル期限内ニ運送ヲ成就セサル時ハ遅延ノ為メ運送人ニ対シテ賠償ヲ言渡ス可カラス 第百五条 運送シタル物件ノ収受及ヒ運送賃ノ弁済ハ総テ運送人ニ対スル訴権ヲ消滅セシムルモノトス 第百六条 運送シタル物件ヲ収受スルコトヲ否拒シ又ハ其収受ニ付キ争訟ヲ生シタル場合ニ於テハ商事裁判所長若シ又其アラサルニ於テハ治安裁判官ヨリ請願書ノ末ニ記シタル命令書ヲ以テ撰任シタル鑑定人ニ於テ其景状ヲ調査シ及ヒ証明ス可シ 其附託又ハ争訟アル物ノ附託ヲ命令シ然ル後公ケノ受託所ヘノ運送ヲ命令スルコトヲ得可シ 其売払ハ運送賃ノ額ニ充ツル迄運送人ノ利益ニ於テ之ヲ命令スルコトヲ得可シ 第百七条 本巻ニ記シタル成規ハ船主又ハ乗合馬車及ヒ公同車輌ノ起作人ニ共通ノモノトス 第百八条 商品ノ滅尽又ハ運輸損害ノ為メ仲買人及ヒ運送人ニ対スル総テノ訴権ハ仏蘭西ノ内部ニ於テ為シタル送遣ニ付テハ六月ノ後ニ期満効ニ依テ消滅シ又外国ニ於テ為シタル送遣ニ付テハ一年ノ後ニ期満効ニ依テ消滅ス而シテ滅尽ノ場合ニ於テハ商品ノ運送ヲ成就ス可キ日ヨリ起算シ又運輸損害ノ場合ニ於テハ商品ノ交付ヲ為シタル日ヨリ起算ス可キモノトス但シ詐欺又ハ不誠実ノ場合ト相触ルヽコトナカル可シ ○第七巻 売買 第百九条 売買ハ左ノ諸件ヲ以テ証明スルモノトス 公ケノ証書 私シノ署名証書 関係各人ノ適法ニ署名シタル手形売買世話人又ハ商業世話人ノ明細書又ハ算計表 受諾シタル勘定書 往復書翰 関係各人ノ帳簿 裁判所ニ於テ証人ノ証ヲ許サヽルヲ得スト思考スル場合ニ於テハ証人ノ証 ○第八巻 為替手形、指図手形及ヒ期満効 ○第壱節 為替手形 ○第壱款 為替手形ノ法式 第百拾条 為替手形ハ一ノ地ヨリ他ノ地ニ向ケテ差立ツルモノトス 為替手形ニハ其日附ヲ記スヘシ 又為替手形ニハ左ノ諸件ヲ表示スルモノトス 弁済ス可キ金額 弁済ス可キ者ノ姓名 弁済ヲ成就ス可キ時期及ヒ場所 貨幣ニ於テ、商品ニ於テ、計算ニ於テ又ハ総テ其他ノ方法ヲ以テ供給シタル価額 為替手形ハ第三ノ人ノ差図ニ於ケルモノアリ又ハ差立人自身ノ差図ニ於ケルモノアリ 若シ為替手形カ第一番、第二番、第三番、第四番等ノモノタル時ハ為替手形ニ之ヲ明記スルモノトス 第百拾壱条 為替手形ハ或ル一人ニ宛テ之ヲ差立テ而シテ第三ノ人ノ住所ニ於テ之ヲ弁済スルコトヲ得可シ 為替手形ハ第三ノ人ノ差図ニテ其計算ノ為メニ差立ツルコトヲ得可シ 第百拾弐条 姓名若クハ分限若クハ住所若クハ為替手形ヲ差立テタル地又ハ為替手形ヲ弁済ス可キ地ノ仮設ヲ記シタル総テノ為替手形ハ単純ナル約務書ナリト看做ス可シ 第百拾三条 為替手形上ニ於ケル公ケノ商人又ハ商賈タラサル婦女ノ署名ハ其婦女ニ関シテハ単純ナル約務書ノミノ効力アルモノトス 第百拾四条 商人タラサル幼者ノ署名シタル為替手形ハ其幼者ニ関シテハ無効ノモノトス但シ民法第千三百十二条ニ従ヒ関係人各自ノ権利ト相触ルヽコトナカル可シ ○第弐款 為替資金ノ準備 第百拾五条 為替資金ノ準備ハ差立人又ハ其計算ノ為メニ為替手形ヲ差立テタル其人ヨリ之ヲ為サヽルヲ得ス但シ他人ノ計算ノ為メノ差立人ハ裏書人及ヒ所持人ノミニ対シテ一身上ニ義務ヲ負フコトヲ止息セサルモノトス 第百拾六条 若シ為替手形ノ弁済期限ニ至リ其手形ヲ差立テラレタル者カ差立人ニ対シ又ハ其計算ノ為メニ為替手形ヲ差立テタル其人ニ対シテ少クトモ為替手形ノ額ニ等シキ金額ノ債ヲ負ヒタル時ハ為替資金ノ準備アリトス 第百拾七条 受諾ハ為替資金ノ準備ヲ推測セシムルモノトス 受諾ハ各裏書人ニ関シテ為替資金準備ノ証ヲ設定スルモノトス 受諾ノアリタルト否トヲ問ハス差立人ノミニ限リ其非斥ノ場合ニ於テハ其為替手形ヲ差立テラレ者ノ弁済期限ニ当リテ為替資金ノ準備ヲ有シタル旨ヲ証ス可ク若シ然ラサレハ仮令定メラレタル期限ノ後ニ拒絶証書ヲ作リタル時ト雖モ其為替手形ヲ担保ス可キモノトス ○第三款 受諾 第百拾八条 為替手形ノ差立人及ヒ裏書人ハ其受諾及ヒ弁済期限ニ於ケル弁済ノ連帯ノ担保者タルモノトス 第百拾九条 受諾ノ否拒ハ受諾セサル為メノ拒絶証書ト名クル証書ヲ以テ之ヲ証明ス可シ 第百弐拾条 受諾セサル為メノ拒絶証書ノ送達ヲ受ケタル上ニテ各裏書人及ヒ差立人ハ各自為替手形ノ弁済期限ニ至リテ其弁済ヲ保スル為メノ保証人ヲ立ツ可ク又ハ拒絶証書及ヒ返シ為替ノ費用ト共ニ為替手形ノ償還ヲ為ス可キモノトス 差立人若クハ裏書人ノ保証人ハ其保証シタル本人トノミ相連帯スルモノトス 第百弐拾壱条 為替手形ヲ受諾スル者ハ其金額ヲ弁済ス可キノ義務ヲ負フモノトス 其受諾者ハ仮令其受諾セサル前ニ自己ノ知ラスシテ差立人ノ家資分散ヲ為シタル時ト雖モ其受諾ニ対シテ回復ス可カラサルモノトス 第百弐拾弐条 為替手形ノ受諾ハ署名セサルヲ得ス 其受諾ハ受諾スト云ヘル語ヲ以テ之ヲ明示ス可シ 若シ為替手形カ閲覧ヨリ一日又ハ数日ニテ弁済ス可キモノタル時ハ其受諾ノ日附ヲ記ス可シ 右最後ニ記シタル場合ニ於テ受諾ノ日附アラサル時ハ為替手形ノ日附ヨリ起算シテ其手形ニ明記シタル期限ニ至リ右手形ノ償還ヲ要求スルコトヲ得可キモノトス 第百弐拾三条 受諾者居住ノ地ヨリ更ニ他ノ地ニ於テ弁済ス可キ為替手形ノ受諾ニハ其弁済ヲ為サヽル可カラス又ハ要求ヲ為サヽル可カラサル所ノ住所ヲ指示ス可シ 第百弐拾四条 受諾ハ未必条件ニ関スルモノタルコトヲ得ス然レトモ其受諾スル金額ニ関シテハ受諾ヲ制限スルコトヲ得可シ 右ノ場合ニ於テハ所持人ハ其余ノ額ノ為メ為替手形ニ付キ拒絶証書ヲ作ラシム可キモノトス 第百弐拾五条 為替手形ハ其呈示ノ時ニ於テ之ヲ受諾シ又ハ遅クトモ其呈示ノ時ヨリ二十四時内ニ之ヲ受諾セサル可カラス 二十四時ノ後ニ至リ受諾スルト受諾セサルトヲ問ハス為替手形ヲ返サヽル時ハ之ヲ引留メタル者ハ所持人ニ対シテ損害賠償ヲ担任ス可キモノトス ○第四款 参渉ニ依レル受諾 第百弐拾六条 受諾セサル為メノ拒絶証書ノ場合ニ於テハ差立人ノ為メ又ハ裏書人中一名ノ為メニ参渉スル第三ノ人ニ於テ為替手形ヲ受諾スルコトヲ得可シ 其参渉ハ拒絶証書ニ之ヲ記載ス可ク而シテ其参渉ハ参渉者之ニ署名ス可シ 第百弐拾七条 参渉者ハ其為メニ参渉シタル所ノ本人ニ遅延ナク自己ノ参渉ヲ通知ス可キモノトス 第百弐拾八条 為替手形ノ所持人ハ総テ参渉ニ依レル受諾ニ拘ハラス其手形ヲ差立テラレタル者ノ受諾ヲ為サヽルカ為メ其差立人及ヒ各裏書人ニ対シテ総テ自己ノ権利ヲ保存スルモノトス ○第五款 弁済期限 第百弐拾九条 為替手形ハ左ノ方法ニテ差立ツルコトヲ得可シ 閲覧ノ上弁済ス可キモノ 閲覧ノ上一日又ハ数日ニテ弁済ス可キモノ 閲覧ノ上一月又ハ数月ニテ弁済ス可キモノ 閲覧ノ上一回ノ慣例期又ハ数回ノ慣例期ニテ弁済ス可キモノ 日附ヨリ一日又ハ数日ニテ弁済ス可キモノ 日附ヨリ一月又ハ数月ニテ弁済ス可キモノ 日附ヨリ一回ノ慣例期又ハ数回ノ慣例期ニテ弁済ス可キモノ 定メタル日又ハ別段ニ定メアル日ニ於テ弁済ス可キモノ 市会ニ於テ弁済ス可キモノ 第百三拾条 閲覧ノ上弁済ス可キ為替手形ハ其呈示ノ時ニ於テ之ヲ弁済ス可キモノトス 第百三拾壱条 閲覧ノ上一日又ハ数日ニテ弁済ス可キ為替手形 閲覧ノ上一月又ハ数月ニテ弁済ス可キ為替手形 閲覧ノ上一回又ハ数回ノ慣例期ニテ弁済ス可キ為替手形 右為替手形ノ弁済期限ハ受諾ノ日附ニ依リ又ハ受諾セサル為メノ拒絶証書ノ日附ニ依テ之ヲ定ムルモノトス 第百三拾弐条 慣例期トハ為替手形ノ日附ノ翌日ヨリ起算スル所ノ三十日ノ期限ヲ云フ 月ハ「グレゴリアン」暦ニ依テ定ムル所ノモノトス 第百三拾三条 市会ニ於テ弁済ス可キ為替手形ハ其市会ノ終ル為メニ定メタル日ノ前日ニ弁済期限ニ至リ若シ又市会ノ唯一日間継続スル時ハ其市会ノ日ニ弁済期限ニ至ルモノトス 第百三拾四条 若シ為替手形ノ弁済期限カ法律上ノ祭日タル時ハ其前日ニ之ヲ弁済ス可キモノトス 第百三拾五条 為替手形弁済ノ為メ宥恕、恩恵又ハ地方ノ慣習或ハ常慣ノ猶予期限ハ総テ之ヲ廃止ス ○第六款 裏書 第百三拾六条 為替手形ノ所有権ハ裏書ノ方法ヲ以テ移転スルモノトス 第百三拾七条 裏書ニハ其日附ヲ記ス可シ 又裏書ニハ其供給セラレタル価額ヲ明記ス可シ 又裏書ニハ為替手形ノ所有権ヲ受ケタル者ノ姓名ヲ表示ス可シ 第百三拾八条 若シ裏書カ前条ノ成規ニ適合セサル時ハ其裏書ハ所有権ノ転移ヲ為サスシテ唯一箇ノ代理委任状ノミトス 第百三拾九条 裏書ノ日附ヲ実ヨリ前ニ記スルコトヲ禁ス若シ之ニ背ク時ハ偽造ノ刑ニ処セラル可シ ○第七款 連帯 第百四拾条 為替手形ニ署名シ、之ヲ受諾シ又ハ之ニ裏書シタル各人ハ所持人ニ対シテ連帯ノ担保ヲ為ス可キモノトス ○第八款 保証 第百四拾壱条 為替手形ノ弁済ハ受諾及ヒ裏書ニ拘ハラス保証ヲ以テ之ヲ担保スルコトヲ得可シ 第百四拾弐条 其担保ハ第三ノ人ニ於テ為替手形ニ記入シテ之ヲ給与シ又ハ別ノ証書ヲ以テ之ヲ給与ス可シ 保証ヲ為ス者ハ差立人及ヒ裏書人ト同一ノ方法ヲ以テ相連帯シテ負担ス可シ但シ関係各人ノ之ト異ナリタル合意ヲ為シタル時ハ格別ナリトス ○第九款 弁済 第百四拾三条 為替手形ハ其指示スル所ノ貨幣ヲ以テ弁済セサル可カラス 第百四拾四条 為替手形ノ弁済期限ニ至ラサル前ニ之ヲ弁済スル者ハ其弁済ノ有効ナルコトノ責ニ任ス可シ 第百四拾五条 為替手形ノ弁済期限ニ至リテ故障ノ申立ヲ受クルコトナク之ヲ弁済シタル者ハ有効ニ釈免セラレタルモノト看做ス可シ 第百四拾六条 為替手形ノ所持人ハ其弁済期限ノ前ニ強テ之レカ弁済ヲ受ケシムルコトヲ得ス 第百四拾七条 第二番、第三番、第四番等ニ拠リ為シタル為替手形ノ弁済ハ若シ其第二番、第三番、第四番等ニ其弁済ハ他ノ手形ノ効ヲ取消ス旨ヲ記載シタル時ハ有効ノモノトス 第百四拾八条 若シ受諾ノ旨ヲ記シタル手形ヲ取戻サスシテ第二番、第三番、第四番等ニ拠リ為替手形ヲ弁済シタル者ハ其受諾ヲ記シタル手形ノ所持人タル第三ノ人ニ関シテ自己ノ釈免ヲ為サヽルモノトス 第百四拾九条 為替手形ヲ失ヒタル場合又ハ所持人ノ家資分散ノ場合ニ非サレハ弁済ニ付キ故障ノ申立ヲ為スコトヲ許サス 第百五拾条 受諾セラレサル為替手形ヲ失ヒタル場合ニ於テハ其手形ノ属セシ所ノ者ハ第二番、第三番、第四番等ニ拠リ其弁済ヲ要求スルコトヲ得可シ 第百五拾壱条 若シ失ヒタル為替手形カ受諾ヲ附シタルモノナル時ハ裁判官ノ命令書ニ依リ且ツ保証人ヲ立ツルニ非サレハ第二番、第三番、第四番等ニ拠リ其弁済ヲ得ント要求スルコトヲ得ス 第百五拾弐条 為替手形ノ受諾セラレタルモノナルト否トヲ問ハス之ヲ失ヒタル者カ第二番、第三番、第四番等ヲ差出スコト能ハサル時ハ其失ヒタル為替手形ノ弁済ヲ訟求シ而シテ自己ノ帳簿ニ依テ其所有権ヲ証明シ且ツ保証人ヲ立テタル上裁判官ノ命令ニ依テ其弁済ヲ受クルコトヲ得可シ 第百五拾三条 前二条ニ拠リ為シタル訟求ノ上ニテ弁済ヲ否拒セラレタル場合ニ於テハ其失ヒタル為替手形ノ所有者ハ拒ミ証書ヲ以テ総テ自己ノ権利ヲ保存スルモノトス 其証書ハ失ヒタル為替手形ノ弁済期限ノ翌日ニ之ヲ作ラサル可カラス 其証書ハ拒絶証書ノ送達ノ為メ後ニ定ムル所ノ方法及ヒ期限ニ於テ差立人及ヒ各裏書人ニ之ヲ送達セサル可カラス 第百五拾四条 紛失シタル為替手形ノ所有者ハ第二番ノモノヲ得ル為メ自己ノ直接ノ裏書人ニ求メサル可カラス而シテ其裏書人ハ更ニ己レノ裏書人ニ対シテ要求ヲ為サシムル為メ自己ノ名前ト自己ノ管照トヲ其紛失シタル手形ノ所有者ニ貸ス可ク而シテ又斯クノ如ク裏書人ヨリ裏書人ニ遡リテ終ニ手形ノ差立人ニ至ル可シ○紛失シタル為替手形ノ所有者ハ其費用ヲ負担ス可シ 第百五拾五条 第百五十一条及ヒ第百五十二条ニ記載シタル保証人ノ約務ハ若シ三年ノ間ニ訟求モ又裁判上ノ起訴モアラサル時ハ三年ノ後ニ至リテ消滅スルモノトス 第百五拾六条 為替手形ノ金額ニ付キ内金ニテ為シタル弁済ハ差立人及ヒ各裏書人ノ義務免除トナルモノトス 所持人ハ其余ノ額ニ付テハ為替手形ニ付キ拒絶証書ヲ作ラシム可キモノトス 第百五拾七条 裁判官ハ為替手形ノ弁済ノ為メ如何ナル猶予期限ヲモ附与スルコトヲ得ス ○第拾款 参渉ニ依レル弁済 第百五拾八条 拒絶証書ヲ作ラレタル為替手形ハ差立人ノ為メ又ハ裏書人中一名ノ為メ総テノ参渉者ヨリ之ヲ弁済スルコトヲ得可シ 其参渉及ヒ弁済ハ拒絶証書ノ中又ハ其証書ノ末ニ之ヲ証明ス可シ 第百五拾九条 参渉ニ依リ為替手形ヲ弁済スル者ハ所持人ノ権利ニ代替シ而シテ其履行ス可キ法式ニ付テハ之ト同一ノ本分ヲ負担スルモノトス 若シ参渉ニ依レル弁済カ差立人ノ計算ノ為メニ為サレタル時ハ各裏書人ハ皆釈免セラルヽモノトス 若シ其弁済カ裏書人中一名ノ為メニ為サレタル時ハ其後ノ各裏書人ハ釈免セラルヽモノトス 若シ参渉ニ依リ為替手形ヲ弁済スルニ付キ抗競アル時ハ最モ多数ノ釈免ヲ為ス所ノ者ヲ撰取ス可シ 若シ原来手形ヲ差立テラレタル者ノ之ヲ受諾セサルカ為メニ拒絶証書ヲ作ラレ而シテ其者ノ右ノ手形ヲ弁済スル為メニ出テ来ル時ハ其者ハ総テ其他ノ各人ヨリモ撰取セラル可シ ○第拾壱款 所持人ノ権利及ヒ本分 第百六拾条 欧羅巴ノ大陸及ヒ島嶼又ハ「アルゼリー」ヨリ差立テ而シテ閲覧ノ上若クハ閲覧ノ時ヨリ一日又ハ数日、一月又ハ数月、一回ノ慣例期又ハ数回ノ慣例期ニ於テ欧羅巴ニアル仏蘭西ノ領地又ハ「アルゼリー」ニ於テ弁済ス可キ為替手形ノ所持人ハ其日附ヨリ三月内ニ之レカ弁済又ハ受諾ヲ要求セサルヲ得ス若シ然ラサル時ハ各裏書人ニ対シ又差立人ノ為替資金準備ヲ為シタル時ハ其差立人ニ対シテモ償還ヲ訟求スルノ権利ヲ失フ可キモノトス 其期限ハ地中海ノ沿岸及ヒ黒海ノ沿岸ニアル各国ヨリ欧羅巴ニアル仏蘭西ノ領地ニ向ケ差立テタル為替手形又其裏面ニ於テ欧羅巴ノ大陸及ヒ島嶼ヨリ地中海及ヒ黒海ノ仏蘭西人居留地ニ向ケ差立テタル為替手形ニ付テハ四月トス 其期限ハ喜望峰ヨリ近キ亜非利加ノ各国及ヒ「ホルン」岬ヨリ近キ亜米利加ノ各国ヨリ欧羅巴ニアル仏蘭西ノ領地ニ向ケ差立テタル為替手形又其裏面ニ於テ欧羅巴ノ大陸及ヒ島嶼ヨリ喜望峰ヨリ近キ亜非利加ノ各国及ヒ「ホルン」岬ヨリ近キ亜米利加ノ各国ニアル仏蘭西ノ領地又ハ仏蘭西人居留地ニ向ケ差立テタル為替手形ニ付テハ六月トス 其期限ハ総テ其他ノ世界ノ各部ヨリ欧羅巴ニアル仏蘭西ノ領地ニ向ケ差立テタル為替手形又其裏面ニ於テ欧羅巴ノ大陸及ヒ島嶼ヨリ総テ其他ノ世界ノ各部ニアル仏蘭西ノ領地及ヒ仏蘭西人居留地ニ向ケ差立テタル為替手形ニ付テハ一年トス 仏蘭西又ハ仏蘭西ノ領地或ハ仏蘭西人居留地ヨリ差立テ而シテ外国ニ於テ弁済ス可キ為替手形ニシテ閲覧ノ上又ハ閲覧ノ時ヨリ一日又ハ数日、一月又ハ数月、一回ノ慣例期又ハ数回ノ慣例期ニ於テ弁済ス可キモノヽ所持人ハ各箇ノ距離ノ為メ前ニ定メタル期限内ニ弁済又ハ受諾ヲ要求ス可ク若シ然ラサル時ハ其所持人ハ右ニ同シキ失権ヲ受ク可シ○前ニ定メタル期限ハ海上戦闘ノ時ニ於テハ海外各国ノ為メ之ヲ倍ス可シ 然レトモ前ノ成規ハ手形ノ収受人、差立人又然ノミナラス各裏書人ノ間ニ為スコトアル可キ右ニ反スル約権ヲ害スルコトナカル可シ 第百六拾壱条 為替手形ノ所持人ハ其弁済期限ノ日ニ之レカ弁済ヲ要求セサル可カラス 第百六拾弐条 弁済ノ否拒ハ其弁済期限ノ日ノ翌日ニ弁済セサル為メノ拒絶証書ト名クル一箇ノ証書ヲ以テ之ヲ証明セサル可カラス 若シ其日カ法律上ノ祭日タル時ハ次キノ日ニ拒絶証書ヲ作ル可シ 第百六拾三条 所持人ハ受諾セサル為メノ拒絶証書ニ依テモ又為替手形ヲ差立テラレタル者ノ死去又ハ家資分散ニ依テモ弁済セサル為メノ拒絶証書ヲ免除セラレサルモノトス○若シ弁済期限前ニ受諾者ノ家資分散ヲ為シタル場合ニ於テハ所持人ハ拒絶証書ヲ作ラシメ而シテ其償還ノ訟求ヲ執行スルコトヲ得可シ 第百六拾四条 弁済ヲ為サヽル為メニ拒絶証書ヲ作ラレタル為替手形ノ所持人ハ左ノ如クニ其担保ニ於ケル訴権ヲ執行スルコトヲ得可シ 差立人及ヒ各裏書人ニ対シ各自ニ其訴権ヲ執行スルコトヲ得可シ 又ハ各裏書人及ヒ差立人ニ対シ相連合シテ其訴権ヲ執行スルコトヲ得可シ 各裏書人ハ差立人及ヒ自己ヨリ前ノ裏書人ニ関シテ右ニ同シキ権能ヲ有スルモノトス 第百六拾五条 若シ所持人カ其譲渡人ニ対シテ各自ニ償還ノ訟求ヲ執行スル時ハ其譲渡人ニ拒絶証書ヲ送達セシム可ク而シテ其償還ヲ得サル場合ニ於テ若シ譲渡人カ五「ミリアメートル」ノ距離内ニ居住スル時ハ其拒絶証書ノ日附ヨリ十五日内ニ裁判ノ為メ之ヲ呼出サシム可シ 其期限ハ為替手形ヲ弁済ス可キ場所ヨリ五「ミリアメートル」以上ノ地ニ住スル譲渡人ニ関シテハ五「ミリアメートル」ニ過キタル二「ミリアメートル」半毎ニ一日ヲ増ス可キモノトス 第百六拾六条 仏蘭西ヨリ差立テ而シテ欧羅巴ニ於ケル仏蘭西大陸ノ領地外ニ於テ弁済ス可キ為替手形ノ拒絶証書ヲ作ラレタル時ハ仏蘭西ニ居住スル差立人及ヒ各裏書人ハ左ノ期限内ニ訟求セラル可シ 「コルス」島、「アルゼリー」、不列顛諸島、意太利、荷蘭王国及ヒ仏蘭西ト境ヲ接スル各国又ハ各聯邦ニ於テ弁済ス可キモノニ付テハ一月 欧羅巴若シクハ地中海ノ沿岸及ヒ黒海ノ沿岸ノ其他ノ各国ニ於テ弁済ス可キモノニ付テハ二月 「マラッカ」及ヒ「ソンド」ノ海峡ヨリ近ク及ヒ「ホルン」岬ヨリ近キ欧羅巴外ノ地ニ於テ弁済ス可キモノニ付テハ五月 「マラッカ」及ヒ「ソンド」ノ海峡ヨリ遠ク及ヒ「ホルン」岬ヨリ遠キ地ニ於テ弁済ス可キモノニ付テハ八月○右ノ期限ハ仏蘭西大陸外ノ仏蘭西ノ領地ニ居住スル差立人及ヒ各裏書人ニ対シテ執行ス可キ償還ノ訟求ニ付テハ右ト同一ノ割合ヲ以テ之ヲ遵守ス可キモノトス 前ニ定メタル期限ハ海上戦闘ノ場合ニ於テハ海外各国ニ付キ之ヲ倍ス可シ 第百六拾七条 若シ所持人カ各裏書人及ヒ差立人ニ対シ相連合シテ其償還ノ訟求ヲ執行スル時ハ其各人ニ関シテ前数条ニ定メタル猶予期限ヲ享有スルモノトス 各裏書人ハ或ハ各自ニ或ハ相連合シテ右ト同一ノ期限内ニ右ト同一ノ償還ノ訟求ヲ執行スルノ権利ヲ有ス 各裏書人ニ関シテハ裁判所ニ呼出ノ日ノ翌日ヨリ其期限ヲ起算ス可シ 第百六拾八条 閲覧ノ上又ハ閲覧ノ時ヨリ一日又ハ数日、一月又ハ数月、一回ノ慣例期又ハ数回ノ慣例期ニ於テ弁済ス可キ為替手形ノ差出ノ為メ 弁済セサル為メノ拒絶証書ノ為メ 担保ノ訴権ノ執行ノ為メ 此等諸件ノ為メ前ニ定メタル期限ノ終リシ後ニ於テハ為替手形ノ所持人ハ各裏書人ニ対シテ総テノ権利ヲ失フモノトス 第百六拾九条 各裏書人ハ各々自己ニ関スル所ノモノニ付キ前ニ定メタル期限ノ後ニ於テハ其譲渡人ニ対シテ亦同シク総テ担保ノ訴権ヲ失フモノトス 第百七拾条 若シ差立人カ為替手形ノ弁済期限ニ於テ為替資金ヲ準備シタル旨ヲ証明スル時ハ所持人及ヒ各裏書人ハ其差立人自身ニ関シテ右ニ同シキ失権ヲ受クルモノトス 此場合ニ於テ其所持人ハ為替手形ヲ差立テラレタル者ノミニ対シテ訴権ヲ保存スルモノトス 第百七拾壱条 前三条ニ定メタル失権ノ効ハ拒絶証書、拒絶証書ノ送達又ハ裁判ニ於ケル呼出ノ為メニ定メタル期限ノ終リシ後計算又ハ相殺ニ依リ又ハ其他ノ方法ニテ為替手形ノ弁済ノ用ニ供セシ元資ヲ収受シタル差立人ニ対シ又ハ裏書人中ニテ其元資ヲ収受シタル者ニ対シ所持人ノ利益ニ於テ止息スルモノトス 第百七拾弐条 担保ノ訴権ノ執行ノ為メニ定メタル法式ニ拘ハラス弁済ヲ為サヽル為メニ拒絶証書ヲ作ラレタル為替手形ノ所持人ハ裁判官ノ許ヲ得タル上ニテ権利保存ノ為メ差立人、受諾人及ヒ裏書人ノ動産ヲ差押ユルコトヲ得可シ ○第拾弐款 拒絶証書 第百七拾三条 受諾セサル為メ又ハ弁済セサル為メノ拒絶証書ハ公証人二名ニテ之ヲ作リ又ハ公証人一名ト証人二名トニテ之ヲ作リ又ハ使吏一名ト証人二名トニテ之ヲ作ル可シ 拒絶証書ハ左ノ場所ニ之ヲ送付セサル可カラス 為替手形ヲ弁済ス可キ者ノ住所又ハ人ノ知リタル其者ノ最後ノ住所 已ムヲ得サルニ於テハ弁済スル為メ為替手形ニ指示シタル各人ノ住所 参渉ヲ以テ受諾シタル第三ノ人ノ住所 右ハ一箇同一ノ証書ヲ以テ之ヲ為ス可キモノトス 若シ住所ノ指示ニ誤リアル場合ニ於テハ拒絶証書ヲ作ル前ニ捜索ノ証書ヲ作ル可シ 第百七拾四条 拒絶証書ニハ左ノ諸件ヲ記スルモノトス 為替手形、受諾、裏書ノ全文ノ登記及ヒ已ムヲ得サル時ニ於テ弁済ス可キ者アル旨ヲ其手形ニ指示シタル時ハ其指示ノ全文ノ登記 為替手形ノ金額ヲ弁済ス可キノ催促 又拒ミ証書ニハ左ノ諸件ヲ表示スルモノトス 弁済ス可キ者ノ居在又ハ不在 弁済スルコトヲ否拒シタル理由及ヒ署名スルコト能ハス又ハ署名スルヲ否拒シタル事 第百七拾五条 為替手形ノ所持人ノ方ニ於ケル如何ナル証書ト雖モ為替手形ノ紛失ニ関シテ第百五十条以下ニ定メタル場合ノ外ハ拒絶証書ノ缺ヲ補足スルコトヲ得ス 第百七拾六条 公証人及ヒ使吏ハ拒絶証書ノ正確ナル写ヲ遺シ置キ且ツ見出シ帳ノ為メニ定メタル方法ヲ以テ設ケタル番号ヲ附シ花押ヲ為シタル特別ノ簿冊ニ毎日其日附ノ順序ヲ以テ拒絶証書ノ全文ヲ記入ス可ク若シ之ニ背ク時ハ其職ヲ罷免セラレ且ツ関係各人ニ対シテ費額ヲ償ヒ及ヒ損害賠償ヲ為ス可キノ言渡ヲ受ク可シ ○第拾三款 返シ為替 第百七拾七条 返シ為替ハ返シ為替手形ニ依テ之ヲ為スモノトス 第百七拾八条 返シ為替手形トハ所持人カ其拒絶証書ヲ作リタル為替手形ノ主額ト其費用及ヒ自己ヨリ弁済スル所ノ再度ノ為替賃トヲ差立人又ハ各裏書人中ノ一名ヨリ己レニ償還セシムル所ノ再度ノ為替手形ヲ云フ 第百七拾九条 返シ為替賃ハ差立人ニ関シテハ為替手形ヲ弁済ス可キ地ヨリ之ヲ差立テタル地ニ至ル為替ノ相場ニ依テ規定スルモノトス 又返シ為替賃ハ各裏書人ニ関シテハ其裏書人ノ為替手形ヲ交付シ又ハ取引シタル地ヨリ償還ヲ為ス地ニ至ル為替ノ相場ニ依テ規定スルモノトス 第百八拾条 返シ為替手形ニハ返シ為替計算書ヲ添ユ可シ 第百八拾壱条 返シ為替計算書ニハ左ノ諸件ヲ包含スルモノトス 拒絶証書ヲ作ラレタル為替手形ノ主額 拒絶証書ノ費用及ヒ銀行ノ口銭、商業、世話人ノ世話料、印税及ヒ手形ノ運賃ノ如キ其他ノ正当ナル費用 又返シ為替計算書ニハ返シ為替手形ヲ差向ケラルヽ者ノ姓名ト其返シ為替手形ヲ取引スル為替賃トヲ表示スルモノトス 返シ為替計算書ハ手形売買世話人之ヲ保証ス可シ 手形売買世話人ノアラサル各地ニ於テハ商人二名其返シ為替計算書ヲ保証ス可シ 返シ為替計算書ニハ拒絶証書ヲ作ラレタル為替手形、其拒絶証書又ハ其証書ノ副本ヲ添ユ可シ 裏書人中ノ一名ニ向ケ返シ為替手形ヲ作リタル場合ニ於テハ其返シ為替手形ニ右ノ外、為替手形ヲ弁済ス可キ地ヨリ之ヲ差立テタル地ニ至ル為替ノ相場ヲ証明スル所ノ保証書ヲ添ユ可シ 第百八拾弐条 同一ノ為替手形ニ付テハ数箇ノ返シ為替計算書ヲ作ルコトヲ得ス 其返シ為替計算書ハ逐次裏書人ヨリ裏書人ニ之ヲ償還シ而シテ結局差立人ニ於テ之ヲ償還ス可シ 第百八拾三条 数箇ノ返シ為替賃ヲ併合スルコトヲ得ス○各裏書人並ニ差立人ハ唯一箇ノ返シ為替賃ノミヲ負担スルモノトス 第百八拾四条 弁済セサル為メノ拒絶証書ヲ作ラレタル為替手形ノ主額ノ利息ハ其拒絶証書ノ日ヨリ起算シテ之ヲ負担ス可キモノトス 第百八拾五条 拒絶証書ノ費用、返シ為替賃及ヒ其他ノ正当ナル費用ノ利息ハ裁判所ニ於ケル訟求ノ日ヨリ起算スルニ非サレハ之ヲ負担セサルモノトス 第百八拾六条 若シ返シ為替計算書ニ第百八十一条ニ定メタル手形売買世話人又ハ商人ノ保証書ヲ添ヘサル時ハ返シ為替賃ヲ負担スルコトナシ ○第弐節 指図手形 第百八拾七条 為替手形ニ関スル総テノ成規及ヒ左ノ諸件ニ関スル総テノ成規ハ指図手形ニ適用ス可キモノトス但シ第六百三十六条、第六百三十七条、第六百三十八条ニ定メタル場合ニ関スル成規ト相触ルヽコトナカル可シ 弁済期限 裏書 連帯 保証 弁済 参渉ニ依レル弁済 拒絶証書 所持人ノ本分及ヒ権利 返シ為替又ハ利息 第百八拾八条 指図手形ニハ其日附ヲ記ス可シ 又指図手形ニハ左ノ諸件ヲ表示スルモノトス 弁済ス可キ金額 其指図手形ノ金額ヲ受取ル可キ者ノ姓名 弁済ヲ成就ス可キ時期 貨幣ニ於テ、商品ニ於テ、計算ニ於テ又ハ総テ其他ノ方法ヲ以テ供給シタル価額 ○第三節 期満効 第百八拾九条 為替手形及ヒ商人、商賈又ハ銀行者ノ署名シ又ハ商業ノ所為ノ為メニ署名シタル指図手形ニ関スル総テノ訴権ハ金額ヲ弁済ス可キノ裁判言渡アラサル時又ハ別ノ証書ヲ以テ負債ヲ認定セサル時ハ拒絶証書ノ日又ハ最後ノ裁判上ノ訟求手続ノ日ヨリ起算シ五年ヲ以テ期満効ニ依リ消滅スルモノトス 然レトモ負債者ナリト称言セラレタル者ハ若シ請求ヲ受クルニ於テハ其最早債ヲ負ハサル旨ヲ誓ヲ為シテ確言ス可ク又其者ノ寡婦、相続人又ハ受権人ハ最早少シモ負担ナシト善意ニテ思考スル旨ヲ誓ヲ為シテ確言ス可キモノトス ○第弐編 海上商業 ○第壱巻 海舶及ヒ其他ノ海船 第百九拾条 海舶及ヒ其他ノ海船ハ動産タリ 然レトモ海舶及ヒ其他ノ海船ハ売主ノ負債及ヒ殊ニ法律上ニテ先取特権アリト定ムル負債ノ抵当タルモノトス 第百九拾壱条 左ニ指定スル所ノ負債ハ其列記シタル順序ニ従ヒ先取特権アルモノトス 第一 売払及ヒ代金ノ分配ヲ得ル為メニ為シタル裁判費用及ヒ其他ノ費用 第二 引水税、噸税、造船場税、碇泊税、入船所税 第三 船ノ港内ニ入リタル時ヨリ売払ニ至ル迄ノ監守人ノ雇賃及ヒ船ノ監守ノ費用 第四 船具及ヒ器具ヲ蔵メ置キタル倉庫ノ貸賃 第五 船ノ最後ノ航行及ヒ其人港以来其船及ヒ船具、器具ヲ修理スルノ費用 第六 最後ノ航行ニ於テ使用セラレタル船長及ヒ其他ノ乗組人ノ雇賃及ヒ給料 第七 最後ノ航行中船ノ需用ノ為メ船長ニ貸シタル金額及ヒ之ト同一ノ目的ノ為メニ船長ノ売リタル商品ノ代金ノ償還 第八 船ノ未タ航行ヲ為サヽル時ニ於テ売主、品物供給者及ヒ造船ニ使用セラレタル職工ニ対シテ負担シタル金額並ニ船ノ既ニ航海シタル時ニ於テハ其出帆前ニ品物供給、工作、工価ノ為メ及ヒ修理、飲食料、船具ノ装置、艤装ノ為メ各債主ニ対シテ負担シタル金額 第九 船ノ出帆前ニ修理、飲食料、船具ノ装置、艤装ノ為メ其船体、船身、船具、器具ヲ引当トシ航海ノ危険ヲ冒シテ貸シタル金額 第十 船体、船身、船具、器具及ヒ船ノ艤装物ニ付キ為シタル保険料ノ金額ニシテ最後ノ航行ノ為メニ負担シタルモノ 第十一 船ノ賃借人ノ積入レタル商品ヲ引渡サヽルコトノ為メ又ハ船長或ハ乗組人ノ過失ニ依リ右商品ノ受ケタル運輸損害ノ償還ノ為メ其賃借人ニ対シテ負担シタル損害賠償 本条ノ各項ニ記シタル各債主ハ代金ノ不足ナル場合ニ於テハ其債権ノ割合ヲ以テ相抗競シテ償還ヲ受ク可キモノトス 船ニ付テノ書入質権アル各債主ハ其記入ノ順序ヲ以テ先取特権アル債権ノ後ニ来ル可キモノトス 第百九拾弐条 前条ニ表示シタル負債ニ附与セラレタル先取特権ハ左ノ方法ヲ以テ証明セラレタルニ非サレハ之ヲ執行スルコトヲ得ス 第一 裁判費用ハ該管裁判所ノ決定シタル費用目録ヲ以テ之ヲ証明ス可シ 第二 噸税及ヒ其他ノ税ハ収受役ノ適法ナル受取証書ヲ以テ之ヲ証明ス可シ 第三 第百九十一条ノ第一、第三、第四、第五ニ指定シタル負債ハ商事裁判所長ノ決定シタル目録ヲ以テ之ヲ証明スヘシ 第四 乗組人ノ雇賃及ヒ給料ハ海軍兵士徴募役署ニ於テ決定シタル船具装置ノ帳簿及ヒ船具取収ノ帳簿ヲ以テ之ヲ証明ス可シ 第五 最後ノ航行中船ノ需用ノ為メニ貸シタル金額及ヒ其需用ノ為メニ売リタル商品ノ価格ハ船長及ヒ乗組人中重立チタル者ノ署名シタル調書ヲ以テ憑拠ト為ス船長ノ決定シタル目録ヲ以テ之ヲ証ス可シ但シ其調書ニハ借入ノ必要ナルコトヲ証明ス可キモノトス 第六 船ノ売払ハ正確ナル日附ヲ有スル証書ヲ以テ之ヲ証明ス可ク又船ノ船具装置、艤装及ヒ飲食料ノ為メノ品物供給ハ船長ノ検署シ且ツ艤船者ノ決定シタル覚書、勘定書又ハ目録ヲ以テ之ヲ証明ス可シ但シ其副本一通ヲ船ノ出帆前又ハ遅クトモ其出帆ノ後十日内ニ商事裁判所ノ書記局ニ納ム可キモノトス 第七 船ノ出帆前ニ船体、船身、船具、器具及ヒ船ノ艤装物ヲ引当トシ航海ノ危険ヲ冒シテ貸シタル金額ハ公証人ノ面前ニ於テ作リタル契約書又ハ私シノ署名契約書ヲ以テ之ヲ証明ス可シ但シ其副本ヲ其日附ヨリ十日内ニ商事裁判所ノ書記局ニ納ム可キモノトス 第八 保険料ハ保険ノ契約書又ハ保険ノ商業世話人ノ帳簿ノ抜書ヲ以テ之ヲ証明ス可シ 第九 船ノ賃借人ニ対シテ負担シタル損害賠償ハ裁判書又ハ此事ニ付キ為シタル裁断人ノ裁決書ヲ以テ之ヲ証明ス可シ 第百九拾三条 各債主ノ先取特権ハ義務消滅ノ一般ノ方法ニ拘ハラス更ニ左ノ諸件ニ依テ消滅スルモノトス 後巻ニ定ムル所ノ方法ヲ以テ為シタル裁判上ノ売払ニ依リ 又ハ任意ノ売払ノ後其船ノ獲得者ノ名前ヲ以テ其危険ニテ航海ヲ為シ而シテ売主ノ債主ノ方ヨリ故障ヲ申立テサル時 第百九拾四条 船ハ左ノ場合ニ於テハ航海ヲ為シタルモノト看做ス可シ 若シ此港ヲ出帆セシノ証アリテヨリ三十日ノ後ニ至リ彼港ニ到着シタルノ証アル時 若シ他ノ港ニ到着セスト雖モ同一ノ港ニ於ケル出帆ト帰着トノ間ニ六十日以上経過シタル時又ハ遠路ノ航行ノ為メニ出帆シタル船ノ六十日以上航行ヲ為シテ売主ノ債主ノ方ヨリ要求ヲ為サヽル時 第百九拾五条 船ノ任意ノ売払ハ書面ヲ以テ之ヲ為サヽルヲ得ス而シテ其書面ハ公ケノ証書又ハ私シノ署名証書タルコトヲ得可キモノトス 其費払ハ船ノ港内ニアルト航行中タルトヲ問ハス船ノ全部ニ付キ又ハ船ノ一部分ニ付キ之ヲ為スコトヲ得可シ 第百九拾六条 航行中ノモノタル船ノ任意ノ売払ハ売主ノ債主ニ害ヲ被ムラシメサルモノトス 故ニ其売払ニ拘ハラス船又ハ其代金ハ矢張右債主ノ抵当物ニシテ其債主ハ若シ相当ナリト思考スルニ於テハ詐害ノ原由ノ為メニ其売払ヲ取消サント求ムルコトヲモ為シ得可シ ○第弐巻 船ノ差押及ヒ売払 第百九拾七条 凡ソ海船ハ裁判上ノ威力ヲ以テ之ヲ差押ヘ及ヒ売払フコトヲ得可ク而シテ各債主ノ先取特権ハ以下ノ法式ニ依リ之ヲ滌除ス可キモノトス 第百九拾八条 弁済ノ督促ヲ為シタルヨリ二十四時ノ後ニ非サレハ差押ニ取掛ルコトヲ得ス 第百九拾九条 弁済ノ督促ハ所有者ニ対シテ執行ス可キ一般ノ訴権ニ関スル時ハ其所有者自身又ハ其住所ニ之ヲ為サヽルヲ得ス 若シ債権カ第百九十一条ノ文面ニ従ヒ船ニ付テノ先取特権ヲ得可キモノノ員数中ニアル時ハ弁済ノ督促ヲ其船ノ船長ニ為スコトヲ得可シ 第弐百条 使吏ハ調書ニ左ノ諸件ヲ表示スルモノトス 其使吏ノ代理スル債主ノ姓名、職業、居所 使吏ノ処分ヲ為スノ憑拠タル証券 使吏ノ其弁済ヲ訟求スル所ノ金額 売払ヲ訟求ス可キ裁判所々在ノ地及ヒ差押ヘタル船ノ碇泊シタル地ニ於テ債主ノ為シタル住所ノ撰定 所有者及ヒ船長ノ姓名 船ノ名、種類及ヒ噸数 又使吏ハ其船ニ属スル艀船、救艇、船具、器具、兵器、弾薬、食料ノ表示及ヒ明記ヲ為スモノトス 又使吏ハ監守人ヲ設置ス 第弐百壱条 若シ差押ヘラレタル船ノ所有者カ裁判所ノ管轄地内ニ居住スル時ハ差押人ヨリ三日ノ期限内ニ差押ノ調書ノ写ヲ其所有者ニ送達セシメ而シテ其差押ヘタル物件ノ売払ニ取掛ルヲ見セシムル為メ其所有者ヲ裁判所ニ呼出サシメサル可カラス 若シ所有者カ其裁判所ノ管轄地内ニ住セサル時ハ其所有者ヘノ送達状及ヒ呼出状ヲ右差押ヘラレタル船ノ船長ニ送付ス可ク若シ又船長ノ不在ニ於テハ所有者又ハ船長ノ代理タル者ニ送付ス可シ而シテ三日ノ期限ハ所有者ノ住所ノ距離二「ミリアメートル」半毎ニ一日ヲ増ス可キモノトス 若シ其所有者カ外国人ニシテ仏蘭西外ノ地ニ在ル時ハ訴訟法第六十九条ニ定メタル如クニ其呼出状及ヒ送達状ヲ送付ス可シ 第弐百弐条 若シ差押カ噸数十噸以上ノ船ヲ以テ目的トスル時ハ其売払フ可キ物件ノ三次ノ糶売宣揚及ヒ公告ヲ為ス可シ 其糶売宣揚及ヒ公告ハ商人集会場ト船ノ碇泊シタル地ノ重立チタル公場トニ於テ引続キ八日ヲ隔テ之ヲ為ス可シ 其差押ヲ訟求シタル裁判所々在ノ地ニ於テ印行スル新聞紙中ノ一ニ其糶売宣揚及ヒ公告ノ告示ヲ記入ス可ク若シ其地ニ於テ印行スル新聞紙ノアラサル時ハ本州内ニ於テ印行スル新聞紙中ノ一ニ之ヲ記入ス可シ 第弐百三条 毎次ノ糶売宣揚及ヒ公告ヲ為シタルヨリ二日内ニ左ノ場所ニ貼附書ヲ貼附ス可シ 差押ヘタル船ノ大檣 訴ヲ為シタル裁判所ノ表門 其船ノ碇泊シタル港ノ公場及ヒ波戸場並ニ商人集会場 第弐百四条 糶売宣揚公告及ヒ貼附書ニハ左ノ諸件ヲ指定セサル可カラス 訟求ノ手続ヲ為ス者ノ姓名、職業、居所 其者ノ憑拠タル証券 其者ノ償還ヲ受ク可キ金額 其者ノ裁判所々在ノ地及ヒ其船ノ碇泊シタル地ニ於テ為シタル住所ノ撰定 其差押ヘタル船ノ所有者ノ姓名及ヒ住所 其船ノ名及ヒ其船ノ既ニ艤装シ又ハ艤装中ノモノタル時ハ船長ノ名 船ノ噸数 其船ノ繋リ場又ハ碇泊場 訟求ノ手続ヲ為ス者ノ代書人ノ姓名 最初ノ見積リ代価 糶買ヲ受ク可キ審問席ノ日 第弐百五条 第一次ノ糶売宣揚ノ後貼附書ニ指示シタル日ニ糶買ヲ受ク可シ 売払ノ為メ職権上ニテ委任セラレタル裁判官ハ各次ノ糶売宣揚ノ後八日ヲ隔テ其命令書ニ定メタル特定ノ日ニ引続テ糶買ヲ受ク可キモノトス 第弐百六条 第三次ノ糶売宣揚ノ後蝋燭ノ燃ヘ尽クル時ニ至リ別ニ他ノ法式ナク最モ高価ヲ供陳スル最後ノ糶買人ニ落札ヲ為ス可シ 職権上ニテ委任セラレタル裁判官ハ各々八日間ノ一回又ハ二回ノ猶予ヲ附与スルコトヲ得可シ 其猶予ハ之ヲ公告シ及ヒ貼附書ニ記ス可シ 第弐百七条 若シ十一噸以下ノ容積ノモノタル小船、艀船及ヒ其他ノ船ニ付キ差押ヲ為ス時ハ三日間引続キ波戸場ニ於テ公告ヲ為シ且ツ檣ニ貼附ヲ為シ又檣ノアラサルニ於テハ船中ノ見易キ其他ノ場所ニ貼附ヲ為シ並ニ裁判所ノ門ニ貼附ヲ為シタル後審問席ニ於テ糶売入札ヲ為ス可シ 其差押ノ通報ト売払トノ間ニ於テ満八日ノ猶予期限ヲ遵守ス可シ 第弐百八条 船ノ糶売落札ハ船長ノ職務ヲ止息セシムルモノトス但シ船長ハ当然ノ義務アル者ニ対シテ損害ノ償ヲ訟求スルコトヲ得可シ 第弐百九条 噸数ノ如何ヲ問ハス船ノ糶売落札人ハ二十四時ノ期限内ニ其落札ノ代金ヲ弁済シ又ハ費用ナク之ヲ商事裁判所ノ書記局ニ附託ス可シ若シ之ニ背ク時ハ拘留ヲ受ク可キモノトス 若シ其弁済又ハ附託ヲ為サヽル時ハ其糶売落札人ノ過当ノ糶買ニテ右ノ船ヲ更ニ再ヒ売払ニ附シ而シテ更ニ新タナル一回ノ公告ト唯一箇ノ貼附トヲ為シタルヨリ三日ノ後ニ至リ糶売入札ヲ為ス可シ但シ右ノ糶売落札人ハ不足高、損害賠償、利息及ヒ費用ノ弁済ノ為メ亦拘留ヲ受ク可キモノトス 第弐百拾条 離分ニ於ケル訟求ハ糶売落札ノ前ニ裁判所ノ書記局ニ之ヲ為シ且ツ之ヲ通知ス可シ 若シ離分ニ於ケル訟求ヲ糶売落札ノ後ニ至リテ為シタル時ハ其訟求ヲ売払ヨリ得タル金額ノ交付ニ付テノ故障申立ニ当然変易ス可シ 第弐百拾壱条 其原告人又ハ故障申立人ハ三日内ニ其憑拠ヲ差出ス可シ 被告人ハ三日内ニ之ニ抗弁ス可シ 其訴訟ハ単純ナル呼出ノ上審問席ニ之ヲ申告ス可シ 第弐百拾弐条 糶売落札ノ後三日間ハ代金ノ交付ニ付テノ故障申立ヲ受理ス可ク其時期ヲ過クル時ハ最早之ヲ許容ス可カラス 第弐百拾三条 故障ヲ申立ツル各債主ハ訟求ノ手続ヲ為ス債主又ハ差押ヘラレタル第三ノ人ヨリ受ケタル催促ノ後三日内ニ自己ノ債権ノ証券ヲ書記局ニ差出ス可ク若シ之ヲ差出サヽル時ハ其各債主ヲ売払代金ノ分配中ニ加フルコトナクシテ其分配ニ取掛ル可シ 第弐百拾四条 各債主ノ班位整定及ヒ金額ノ分配ハ第百九十一条ニ定メタル順序ヲ以テ先取特権アル各債主ノ間ニ之ヲ為ス可ク又其他ノ債主ノ間ニ於テハ其債権ノ割合ヲ以テ之ヲ為ス可シ 班位ヲ整定セラレタル各債主ハ其主額ト利息及ヒ費用トニ付キ其班位ヲ整定セラルヽモノトス 第弐百拾五条 出帆スルノ用意ヲ為ス船ハ其将サニ為サントスル航行ノ為メニ契約シタル負債ノ為メニ非サレハ差押ユ可カラサルモノトス而シテ又其将サニ為サントスル航行ノ為メニ負債ヲ契約シタル場合ニ於テモ其負債ニ付保証人ヲ立ツル時ハ差押ヲ防止スルモノトス 船長ノ其航行ノ為メニ必要ナル書類ヲ具備シタル時ハ船ノ出帆スルノ用意ヲ為シタルモノト看做ス可シ ○第三巻 船ノ所有者 第弐百拾六条 船ノ各所有者ハ船長ノ所為ニ付キ民事上ニテ其責ニ任ス可ク且ツ其船ト艤送トニ関スル所ノモノヽ為メ船長ノ契約シタル約務ヲ担任ス可キモノトス 船ノ各所有者ハ如何ナル場合ニ於テモ船ト船ノ貸賃トヲ委棄スルニ依リ前ニ記シタル義務ヲ免カルヽコトヲ得可シ 然レトモ其委棄ヲ為スノ権能ハ同時ニ船長タリ且ツ船ノ所有者又ハ共同所有者タル者ニ附与セラレサルモノトス○若シ船長カ船ノ共同所有者タル時ハ船ト其艤送トニ関スル所ノモノニ付キ自己ノ股分ノ割合ニ非サレハ其契約シタル約務ノ責ニ任セサルモノトス 第弐百拾七条 然レトモ戦闘ノ為メニ艤送シタル船ノ所有者ハ其船中ニ在ル軍人又ハ乗組人ノ海上ニテ行ヒタル犯罪及ヒ損傷ニ付テハ其保証人ヲ立テタル金額ニ充ツル迄ノ外責ニ任セサルモノトス但シ其所有者カ其犯罪及ヒ損傷ノ共犯者又ハ従犯タル時ハ格別ナリトス 第弐百拾八条 所有者ハ船長ニ暇ヲ遣スコトヲ得可シ 若シ書面ニ依レル合意ノアラサル時ハ賠償ヲ為スニ及ハス 第弐百拾九条 若シ暇トナリタル船長カ船ノ共同所有者タル時ハ其船長ハ共同ノ所有権ヲ放棄シ而シテ其共同所有権ヲ代表スル元金ノ償還ヲ要求スルコトヲ得可シ 其元金ノ額ハ合意シタル鑑定人又ハ職権上ニテ選任シタル鑑定人ニ於テ之ヲ定ム可シ 第弐百弐拾条 船ノ各所有者ノ共通ノ利益ニ関スル諸件ニ付テハ多数ノ意見ニ従フ可シ 其多数ハ船ノ価額ノ一半ニ過キタル其船ニ於ケル股分ノ一部ヲ以テ之ヲ定ムルモノトス 船ノ糶売ハ相合シテ其船ニ於ケル股分全部ノ一半ヲ組成スル所有者数名ノ訟求ニ拠ルニ非サレハ之ヲ許与スルコトヲ得ス但シ之ニ反シタル書面ニ依レル合意アル時ハ格別ナリトス ○第四巻 船長 第弐百弐拾壱条 海舶又ハ其他ノ船ノ指揮ヲ任セラレタル各船長、船頭又ハ指令者ハ其職務ノ執行ニ付キ仮令軽少ノ過失ト雖モ之ヲ担保スルモノトス 第弐百弐拾弐条 船長、船頭又ハ指令者ハ其引受クル所ノ商品ノ責ニ任ス可キモノトス 船長、船頭又ハ指令者ハ其商品ノ承認証書ヲ差出ス可シ 其承認証書ハ之ヲ名ケテ積荷目録ト云フ 第弐百弐拾三条 船ノ乗組人ヲ組成シ且ツ水夫及ヒ其他ノ乗組人ヲ択ミテ之ヲ雇入ルヽハ船長ノ職務ナリトス然レトモ船長ノ其船ノ各所有者居住ノ地ニ在ルニ於テハ船長其各所有者ト相協議シテ右ノ諸件ヲ為ス可キモノトス 第弐百弐拾四条 船長ハ商事裁列所ノ裁判官一名又商事裁判所ノアラサル地ニ於テハ邑長又ハ其副職ノ番号ヲ附シ及ヒ花押ヲ為シタル一箇ノ簿冊ヲ設ク可シ 其簿冊ニハ左ノ諸件ヲ記スルモノトス 航行中ニ為シタル決定 船ニ関スル収受及ヒ費額並ニ総テ船長ノ負任ノ所為ニ関スル諸件及ヒ計算ヲ為シ又ハ訟求ヲ為スノ原由タルコトアル可キ諸件 第弐百弐拾五条 船長ハ荷物ヲ積入ルヽ前ニ規則ニ依リ定メタル文面ト方法トヲ以テ其船ヲ検査セシム可シ 其検査ノ調書ハ商事裁判所ノ書記局ニ納ム可ク而シテ其抜書ヲ船長ニ交付ス可キモノトス 第弐百弐拾六条 船長ハ左ノ書類ヲ船中ニ備ヘ置ク可シ 船ノ所有権ノ証書 仏蘭西ニ属スル旨ヲ証明スル証書 乗組人姓名簿 積荷目録及ヒ船舶借入契約書 検査ノ調書 海関税受取証書及ヒ海関税上納ノ保証人ヲ立テタルノ証書 第弐百弐拾七条 船長ハ港口河口ノ出入ニ於テハ自カラ其船中ニ在ル可キモノトス 第弐百弐拾八条 前四条ニ依リ負ハシメラレタル義務ニ違背シタル場合ニ於テハ船長其船及ヒ積荷ニ関係アル各人ニ対シ総テ事故ノ責ニ任ス可キモノトス 第弐百弐拾九条 船長ハ亦荷主ノ書面ニ依レル承諾ナクシテ其船ノ甲板上ニ積入レタル商品ニ生スルコトアル可キ総テノ損害ノ責ニ任スルモノトス 右ノ成規ハ沿岸航行ノ小船ニ適用ス可カラサルモノトス 第弐百三拾条 船長ノ責任ハ抗拒ス可カラサル力アル障碍ノ証アルニ非サレハ此息セサルモノトス 第弐百三拾壱条 船中ニ在ル所ノ船長及ヒ乗組人又ハ艀船ニ乗リテ出帆スル為メ船中ニ赴ク所ノ船長及ヒ乗組人ハ其航行ノ為メニ契約シタル負債ノ為メニ非サレハ民事ノ負債ノ為メニ之ヲ拘留スルコトヲ得ス又其航行ノ為メニ契約シタル負債ノ場合ト雖モ若シ右各人ノ保証人ヲ立ツル時ハ亦之ヲ拘留スルコトヲ得ス 第弐百三拾弐条 船長ハ各所有者又ハ其代理人居住ノ地ニ於テハ其特別ナル許可ナクシテ船ノ修理ヲ営ミ、帆布、綱具及ヒ船用ノ為メノ其他ノ物件ヲ買入レ又ハ之レカ為メ船体ヲ引当トシテ金額ヲ借入レ又ハ船ヲ賃貸スルコトヲ得ス 第弐百三拾三条 若シ各所有者ノ承諾ヲ以テ船ヲ賃貸シ其中或者ノ艤送ノ為メニ必要ナル費用ヲ分担スルコトヲ否拒スル時ハ船長ハ此場合ニ於テハ否拒者ニ其分担ノ額ヲ供給ス可キノ催促ヲ為シタルヨリ二十四時ノ後ニ至リ裁判官ノ許可ヲ得テ船ニ於ケル其否拒者ノ分ケ前ヲ引当ト為シ其者ノ計算ヲ以テ書入質上ニテ金額ヲ借入ルヽコトヲ得可シ 第弐百三拾四条 若シ航行中ニ修理ヲ為シ又ハ飲食料ヲ買入ルヽノ必要アル時ハ船長ハ乗組人中重立チルタ者ノ署名シタル調書ヲ以テ其必要ナルコトヲ証明セシメタル後仏蘭西ニ於テハ商事裁判所ノ許可ヲ受ケ若シ其アラサル時ハ治安裁判官ノ許可ヲ受ケ又外国ニ於テハ仏蘭西領事ノ許可ヲ受ケ若シ其アラサル時ハ其地ノ官吏ノ許可ヲ受ケタル上ニテ船体及ヒ船身ヲ引当トシテ金額ヲ借入レ又ハ其証明セラレタル需用ノ必要トスル金額ニ充ツル迄商品ヲ質入シ或ハ之ヲ売払フコトヲ得可シ 各所有者又ハ之ニ代理スル船長ハ船ノ到着ノ時期ニ当リ其船ノ荷卸ノ地ニ於ケル同性質及ヒ同品種ノ商品ノ相場ニ従ヒ其売払ヒタル商品ノ計算ヲ為ス可シ 唯一名ノ賃借人又ハ相合同シタル荷主数名ハ其商品ヲ荷缷シ且ツ航行ノ進ミタル割合ヲ以テ船ノ借賃ヲ弁済スルニ依リ其商品ノ売払又ハ質入ニ付キ故障ヲ申立ツルコトヲ得可シ○荷主中一部分ノ承諾アラサル時ハ其荷缷ノ権能ヲ行ハント欲スル者ハ自己ノ商品ニ付キ其船ノ借賃全部ヲ負担ス可キモノトス 第弐百三拾五条 船長ハ仏蘭西ニ帰ル為メ外国ノ港又ハ仏蘭西ノ藩属地ヲ出帆スル前ニ其積荷ノ景状、其積入レタル商品ノ代価、其借入レタル金額、其貸主ノ姓名及ヒ居所ヲ記シタル計算書ニ署名シテ之ヲ各所有者又ハ其代理人ニ差送ル可シ 第弐百三拾六条 船長ノ若シ必要ナクシテ船体又ハ船ノ食料或ハ艤装物ヲ引当トシテ金額ヲ借入レ又ハ商品或ハ飲食料ヲ質入レ又ハ売払ヒ若クハ其計算書中ニ虚妄ナル運輸損害及ヒ費額ヲ加ヘタル時ハ艤送者ニ対シテ其責ニ任ス可ク而シテ一身上ニテ金額ノ償還又ハ物件ノ弁済ヲ負担ス可キモノトス但シ別段ノ理由アル時ハ犯罪ノ起訴ト相触ルヽコトナカル可シ 第弐百三拾七条 法ニ従ヒ船ノ航海ニ堪ヘサル旨ヲ証明シタル場合ノ外ハ船長ハ各所有者ヨリ特別ノ権力ヲ附与セラレタルニ非サレハ船ヲ売払フコトヲ得ス若シ之ニ背ク時ハ其売払ノ効ナカル可シ 第弐百三拾八条 凡ソ航行ノ為メニ雇入レラレタル船ノ船長ハ其航行ヲ成就ス可ク若シ之ニ背ク時ハ各所有者及ヒ船ノ賃借人ニ対シテ総テノ費額及ヒ損害賠償ヲ負担ス可キモノトス 第弐百三拾九条 積荷ニ付テノ共通ノ利益ヲ以テ航海スル所ノ船長ハ己レ一個ノ計算ノ為メニ貿易ヲモ又商業ヲモ為スコトヲ得ス但シ之ニ反シタル合意アル時ハ格別ナリトス 第弐百四拾条 前条ニ記載シタル成規ニ違背シタル場合ニ於テハ船長ノ己レ一個ノ計算ノ為メニ船ニ積入レタル商品ヲ其他ノ関係各人ノ利益ニ於テ没収ス可シ 第弐百四拾壱条 船長ハ如何ナル危難ノ為メト雖モ役員及ヒ乗組人中重立チタル者ノ意見ヲ聴キタル上ニ非サレハ航行中ニ其船ヲ委棄スルコトヲ得ス而シテ此場合ニ於テ船長ハ金円及ヒ其積荷中ノ最貴重ナル商品ヲ成ル可キ丈救ヒ出ス可ク若シ之ニ背ク時ハ自己ノ名前ヲ以テ其責ニ任ス可キモノトス 若シ斯クノ如クニ船ヨリ引出シタル物品カ或ル意外ノ事故ニ依テ滅尽シタル時ハ船長其義務ヲ免除セラル可シ 第弐百四拾弐条 船長ハ其到着ノ時ヨリ二十四時内ニ自己ノ簿冊ヲ検署セシメ且ツ其報告ヲ為ス可キモノトス 其報告書ニハ左ノ諸件ヲ表示セサル可カラス 其出帆ノ地及ヒ時 其航行シタル路筋 其冒シタル危険 船中ニテ生シタル紛乱及ヒ其航行中ノ総テ著ルシキ景況 第弐百四拾三条 其報告ハ商事裁判所長ノ面前ニ於テ書記局ニ之ヲ為ス可シ 商事裁判所ノアラサル地ニ於テハ其郡ノ治安裁判官ニ報告ヲ為ス可シ 其報告書ヲ収受シタル治安裁判官ハ最近ノ商事裁判所長ニ遅延ナク之ヲ送ル可キモノトス 右ノ中何レノ場合ニ於テモ商事裁判所ノ書記局ニ其報告書ヲ納ム可シ 第弐百四拾四条 若シ船長カ外国ノ港ニ着シタル時ハ仏蘭西領事ノ面前ニ出席シテ領事ニ報告ヲ為シ而シテ其到着及ヒ出帆ノ時期ト其積荷ノ景状及ヒ性質トヲ証明スル保証書ヲ受取ル可キモノトス 第弐百四拾五条 若シ航行中ニ船長已ムコトヲ得スシテ仏蘭西ノ港ニ停泊シタル時ハ其地ノ商事裁判所長ニ其停泊ノ原由ヲ申述ス可キモノトス 商事裁判所ノアラサル地ニ於テハ本県ノ治安裁判官ニ其申述ヲ為ス可シ 若シ止ムコトヲ得スシテ外国ノ港ニ停泊シタル時ハ仏蘭西領事ニ其申述ヲ為ス可ク若シ領事ノアラサルニ於テハ其地ノ官吏ニ其申述ヲ為ス可シ 第弐百四拾六条 破船シテ唯一人存命ナルヲ得又ハ其乗組人中ノ一部分ト共ニ存命ナルヲ得タル船長ハ其地ノ裁判官ノ面前ニ出席シ又裁判官ノアラサルニ於テハ総テ其他ノ文官ノ面前ニ出席シテ其報告ヲ為シ而シテ其乗組人中ニテ存命ナルコトヲ得テ共ニ其場ニ居ル所ノ者ヲシテ其報告書ヲ調査セシメ且ツ其副本ヲ写取ル可キモノトス 第弐百四拾七条 裁判官ハ船長ノ報告書ヲ調査スル為メ乗組人ノ審訊ヲ為シ又成ル可キニ於テハ旅客ノ審訊ヲ為ス可シ但シ其他ノ証ト相触ルヽコトナカル可キモノトス 調査セラレサル報告書ハ船長ノ義務免除ノ証トシテ之ヲ許容ス可カラス又裁判上ニテ証憑ヲ為サヽルモノトス但シ破船シタル船長ノ其報告ヲ為ス地ニ於テ唯一人存命ナルコトヲ得タル場合ハ格別ナリトス 右ニ反シタル事実ノ証ハ関係各人ニ於テ之ヲ立ツルコトヲ得可シ 第弐百四拾八条 差迫リタル危険ノ場合ヲ除クノ外船長ハ其報告ヲ為サヽル前ニ如何ナル商品タリトモ之ヲ荷缷スルコトヲ得ス若シ之ニ背ク時ハ自己ニ対シテ異常ノ訴ヲ受ク可シ 第弐百四拾九条 若シ船ノ飲食料カ航行中ニ缺乏スル時ハ船長乗組人中重立チタル者ノ意見ヲ聴キタル上ニテ私用ノ食物ヲ有スル者ニ之レカ価額ヲ弁済シ強テ其食物ヲ共通ニ附セシムルコトヲ得可シ ○第五巻 水夫及ヒ乗組人ノ雇入及ヒ雇賃 第弐百五拾条 船ノ船長及ヒ乗組人ノ雇入ノ条件ハ乗組人姓名簿ヲ以テ之ヲ証明シ又ハ関係人ノ合意ヲ以テ之ヲ証明スルモノトス 第弐百五拾壱条 船長及ヒ乗組人ハ如何ナル口実アリト雖モ所有者ノ許ヲ受ケ且ツ船ノ借賃ヲ弁済スルコトナクシテ自己ノ計算ノ為メ如何ナル商品タリトモ其船中ニ積入ルヽコトヲ得ス但シ雇入ノ契約ニ依リ右ノ事ヲ許可セラレタル時ハ格別ナリトス 第弐百五拾弐条 若シ船ノ出帆前ニ所有者、船長又ハ船ノ賃借人ノ所為ニ依リ航行ヲ止メタル時ハ航行中ノ約定ニテ雇入レラレ又ハ月雇ノ約定ニテ雇入ラレタル水夫ハ其船ヲ艤装スル為メニ使用セラレタル日数ニ准シテ雇賃ノ弁済ヲ受ク可シ○其水夫ハ既ニ収受シタル前払金ヲ賠償トシテ保チ置クモノトス 若シ未タ其前払金ノ弁済ヲ得サル時ハ右ノ水夫ハ其合意シタル雇賃一月分ヲ賠償トシテ収受スルモノトス 若シ航行ノ始マリシ後ニ之ヲ止メタル時ハ航行中ノ約定ニテ雇入レラレタル水夫ハ其合意ノ文面ニ従ヒ雇賃全部ノ弁済ヲ受ク可シ 月雇ノ約定ニテ雇入レラレタル水夫ハ其使用セラレタル時間ニ付テハ約権シタル雇賃ヲ収取シ且ツ右ノ外其雇入レラレタル航行ノ思量シタル時間ノ残期ニ付キ其雇賃ノ半額ヲ賠償トシテ収受スルモノトス 航行中ノ約定又ハ月雇ノ約定ニテ雇入レラレタル水夫ハ右ノ外船ノ出帆ノ地ニ至ル迄其帰路ノ旅費ヲ収受スルモノトス但シ船長、所有者又ハ船ノ賃借人或ハ管理ノ役員ニ於テ其水夫ヲ其出帆ノ地ニ帰ル処ノ他ノ船ニ乗込マシメタル時ハ格別ナリトス 第弐百五拾三条 若シ航行ヲ始メサル前ニ其船ヲ差向ケントスル地ト商業禁止ノ命令アリタル時又ハ政府ノ命令ヲ以テ其船ヲ差留メタル時ハ其船ヲ艤装スル為メニ使用シタル日数ノ雇賃ノミヲ水夫ニ弁済ス可キモノトス 第弐百五拾四条 若シ航行中ニ商業ノ禁止又ハ船ノ差留アリタル時ハ左ノ如ク為ス可シ 禁止ノ場合ニ於テハ水夫ヲ使用シタル時間ニ准シテ之ニ弁済ス可シ 差留ノ場合ニ於テハ月雇ノ約定ニテ雇入レタル水夫ノ雇賃ハ其差留ノ時間之レカ半額ヲ弁済ス可シ 航行中ノ約定ニテ雇入レラレタル水夫ノ雇賃ハ其雇入契約ノ文面ニ従ヒ之ヲ弁済ス可シ 第弐百五拾五条 若シ航行ノ長引キタル時ハ其航行中ノ約定ニテ雇入レラレタル水夫ノ雇賃ハ其航行ノ長引キタル割合ヲ以テ之ヲ増加ス可シ 第弐百五拾六条 船ノ賃貸証書ニ指定メタル所ノ地ヨリ更ニ近キ地ニ於テ任意ヲ以テ其船ノ荷缷ヲ為ス時ト雖モ水夫ノ雇賃ヲ少シモ減少ス可カラサルモノトス 第弐百五拾七条 若シ利益ヲ分ツノ約定又ハ船ノ貸賃ヲ分ツノ約定ニテ水夫ヲ雇入レタル時ハ抗拒ス可カラサル力ニ依リ生シタル航行ノ阻止、遅延又ハ長引ノ為メ其水夫ニ少シモ損害ノ償ヲ為スニ及ハス又日数ニ准シタル雇賃ノ弁済ヲ為スニ及ハス 若シ荷主ノ所為ニ依リ航行ノ阻止、遅延又ハ長引ノ生シタル時ハ乗組人其船ニ附与セラレタル賠償ノ一部分ヲ受ク可シ 其賠償ハ船ノ貸賃ト同一ノ割合ヲ以テ其船ノ所有者ト乗組人トノ間ニ分派ス可シ 若シ船長又ハ所有者ノ所為ニ依リ防止ノ生シタル時ハ船長又ハ所有者ハ乗組人ニ対スル賠償ヲ負担スルモノトス 第弐百五拾八条 掠奪又ハ破壊、難船ノ場合ニ於テ其船及ヒ商品ヲ全ク失ヒタル時ハ水夫ハ少シモ雇賃ヲ得ント求ムルコトヲ得ス 水夫ハ其雇賃中ニテ前払ニ為サレタルモノヲ返スニ及ハス 第弐百五拾九条 若シ船ノ一部分ノ救ハレタル時ハ航行中ノ約定又ハ月雇ノ約定ニテ雇入レラレタル水夫ハ其救ヒタル船ノ残余物ニ付キ既ニ期限ニ至リタル自己ノ雇賃ノ弁済ヲ受ク可シ 若シ其残余物ノ充分ナラス又ハ商品ノミヲ救ヒタル時ハ右ノ水夫ハ補助ノ方法ヲ以テ其船ノ貸賃ニ付キ自己ノ雇賃ノ弁済ヲ受ク可シ 第弐百六拾条 船ノ貸賃ヲ分ツノ約定ニテ雇入レラレタル水夫ハ船長ノ収受スル貸賃ノ割合ヲ以テ其貸賃ノミニ付キ自己ノ雇賃ノ弁済ヲ受ク可シ 第弐百六拾壱条 水夫ハ其雇入レラレタル方法ノ如何ヲ問ハス難破船ノ残余物及ヒ品物ヲ救フ為メニ使用セラレタル日数ニ准シテ其雇賃ノ弁済ヲ受ク可シ 第弐百六拾弐条 若シ水夫ノ航行中病ニ罹リ又ハ船ノ用向ニテ創傷ヲ被ムリタル時ハ其雇賃ヲ弁済セラレ而シテ船ノ費用ニテ治療ヲ受ク可シ 第弐百六拾三条 若シ水夫ノ敵又ハ海賊ト戦ヒテ創傷ヲ被ムリタル時ハ其船及ヒ積荷ノ費用ニテ治療ヲ受ク可シ 第弐百六拾四条 若シ許可ヲ得スシテ船ヨリ出テタル水夫カ陸上ニテ創傷ヲ被ムリタル時ハ其治療ハ自費タル可ク又然ノミナラス船長ヨリ暇ヲ与フルコトヲ得可シ 此場合ニ於テ其雇賃ハ右水夫ノ使用ヲ受ケタル時間ノ割合ノミヲ以テ之ヲ弁済ス可キモノトス 第弐百六拾五条 航行中ニ水夫ノ死去シタル場合ニ於テハ若シ其水夫カ月雇ノ約定ニテ雇入レラレタル時ハ死去ノ日ニ至ル迄ノ雇賃ヲ其遺留財産ニ弁済ス可シ 若シ其水夫カ航行中ノ約定ニテ雇入レラレタル時ハ其往路ニテ死去シ又ハ到着ノ港ニテ死去シタル場合ニ於テ其雇賃ノ半額ヲ弁済ス可シ 若シ帰路ニテ死去シタル時ハ其雇賃ノ全額ヲ弁済ス可シ 若シ其水夫カ利益ヲ分ツノ約定又ハ船ノ貸賃ヲ分ツノ約定ニテ雇入レラレタル時ハ既ニ航行ヲ始メタル後ニ死去シタル場合ニ於テハ其分ケ前ノ全部ヲ弁済ス可シ 船ヲ防守シテ戦死シタル水夫ノ雇賃ハ其船ノ安全ニ着港シタル時ニ於テハ其航行ノ全部ニ付キ全ク之ヲ弁済ス可シ 第弐百六拾六条 船中ニテ虜獲セラレテ奴隷ト為サレタル水夫ハ其贖金ノ弁済ノ為メ船長、所有者又ハ船ノ賃借人ニ対シテ何等ノモノヲモ得ント求ムルコトヲ得ス 右ノ水夫ハ其虜獲セラレテ奴隷ト為サレタル日ニ至ル迄其雇賃ノ弁済ヲ受ク可キモノトス 第弐百六拾七条 船ノ用向ノ為メニ海上又ハ陸上ニ送遣セラレタル時虜獲セラレテ奴隷ト為サレタル水夫ハ其雇賃全部ノ弁済ヲ受ク可キノ権利アリトス 右ノ水夫ハ其船ノ安全ニ着港シタル時ハ其贖金ノ為メ賠償ノ弁済ヲ受ク可キノ権利アリトス 第弐百六拾八条 若シ船ノ用向ノ為メニ水夫ヲ海上又ハ陸上ニ送遣シタル時ハ船ノ所有者ヨリ其賠償ヲ弁済ス可シ 若シ船ト積荷トノ用向ノ為メニ水夫ヲ海上又ハ陸上ニ送遣シタル時ハ船ノ所有者ト積荷ノ所有者トニ於テ其賠償ヲ弁済ス可シ 第弐百六拾九条 賠償ノ額ハ六百「フランク」ト定ム 其収受及ヒ使用ハ俘虜ノ贖身ニ関スル規則ヲ以テ政府ヨリ定メタル方法ニ従ヒ之ヲ為スヘシ 第弐百七拾条 有効ノ原由ナクシテ暇トナリタル旨ヲ証明スル各水夫ハ船長ニ対シテ賠償ヲ求ムルノ権利アリトス 若シ航行ヲ始ムル前ニ暇トナリタル時ハ其賠償ハ雇賃ノ三分一ト定ム 若シ航行中ニ暇トナリタル時ハ其賠償ハ雇賃ノ全額及ヒ帰路ノ旅費ト定ム 船長ハ前ニ記シタル如何ナル場合ニ於テモ船ノ所有者ニ対シテ賠償ノ額ヲ取戻スコトヲ得サルモノトス 乗組人姓名簿ヲ終成スル前ニ水夫ノ暇トナリタル時ハ賠償ヲ為スニ及ハス 如何ナル場合ニ於テモ船長ハ外国ニ於テ水夫ニ暇ヲ与フルコトヲ得ス 第弐百七拾壱条 船及ヒ船ノ貸賃ハ水夫ノ雇賃ノ為メ特ニ引当タルモノトス 第弐百七拾弐条 水夫ノ雇賃、治療及ヒ贖金ニ関スル総テノ成規ハ役員及ヒ総テ其他ノ乗組人ニ共通ノモノトス ○第六巻 船舶借入契約、船ノ賃貸又ハ船ノ借入 第弐百七拾三条 凡ソ船舶借入契約船ノ賃貸又ハ船ノ借入ト名クル船舶賃貸ノ為メノ合意ハ書面ニ記セサルヲ得ス 其合意ノ書面ニハ左ノ諸件ヲ表示スルモノトス 船ノ名及ヒ噸数 船長ノ姓名 船ノ賃貸人及ヒ賃借人ノ姓名 荷物積入ノ為メ及ヒ荷缷ノ為メニ合意シタル場所及ヒ時期 船ノ貸賃 其賃貸ノ全部タルヤ又ハ一部タルヤノ事 遅延ノ場合ノ為メニ合意シタル賠償 第弐百七拾四条 若シ関係各人ノ合意ニ依リ船ニ荷物ヲ積入及ヒ荷缷ヲ為スノ時期ヲ定メサル時ハ土地ノ慣習ニ従テ之ヲ規定ス可シ 第弐百七拾五条 若シ船ヲ月借リニ為シ而シテ別段ノ合意アラサル時ハ其借賃ヲ船ノ出帆シタル日ヨリ起算ス可キモノトス 第弐百七拾六条 若シ船ノ出帆前ニ之ヲ差向ケントスル国ト商業禁止ノ命令アリタル時ハ何レノ方ニ於テモ損害賠償ナクシテ合意ヲ解除ス可シ 荷主ハ其商品ノ積入及ヒ荷缷ノ費用ヲ負担スルモノトス 第弐百七拾七条 船ノ出帆ヲ唯一時防止スル所ノ抗拒ス可カラサル力ノ存在スル時ハ其合意ハ存続シ而シテ遅延ノ為メニ損害賠償ヲ為スニ及ハサルモノトス 又航行中ニ抗拒ス可カラサル力ノ生シタル時ハ其合意ハ亦同シク存続シ而シテ之レカ為メニ少シモ船ノ借賃ヲ増加スルニ及ハサルモノトス 第弐百七拾八条 荷主ハ船ノ差留メラルヽ間自己ノ費用ニテ其商品ヲ荷缷セシムルコトヲ得可シ但シ荷主ハ更ニ再ヒ其商品ヲ積入レ又ハ船長ニ賠償ヲ為ス可キモノトス 第弐百七拾九条 船ヲ差向ケントスル港ノ封港ノ場合ニ於テハ船長其同国ノ最近ノ港口中ニテ其近寄ルコトヲ許サレタル一ヶ所ニ赴ク可キモノトス但シ之ニ反スル差図ヲ受ケタル時ハ格別ナリトス 第弐百八拾条 船、船具、器具並ニ賃貸及ヒ積入レタル商品ハ各自相互ニ関係各人ノ合意執行ノ引当タルモノトス ○第七巻 積荷目録 第弐百八拾壱条 積荷目録ニハ運送ス可キ物件ノ性質、分量並ニ種類又ハ品質ヲ明記セサル可カラス 積荷目録ニハ左ノ諸件ヲ指示ス 荷主ノ姓名 物件ヲ送遣セラルヽ者ノ姓名及ヒ居処 船長ノ姓名及ヒ住所 船ノ名及ヒ噸数 出帆ノ地及ヒ差向クル地 又積荷目録ニハ船ノ借賃ヲ表示スルモノトス 又積荷目録ニハ其端ニ運送ス可キ物件ノ記号及ヒ番号ヲ示スモノトス 積荷目録ハ指図ニ於ケルモノ又ハ所持人ニ渡ス可キモノ又ハ指名シタル人ニ渡ス可キモノタルコトヲ得可シ 第弐百八拾弐条 各個ノ積荷目録ハ少クモ正本四通ヲ作ル可シ 其一通ハ荷主ノ為メニ之ヲ作ル可シ 又一通ハ商品ヲ宛送ラルヽ者ノ為メニ之ヲ作ル可シ 又一通ハ船長ノ為メニ之ヲ作ル可シ 又一通ハ船ノ艤送者ノ為メニ之ヲ作ル可シ 其正本四通ハ荷物積入ノ後二十四時内ニ荷主及ヒ船長之ニ署名ス可キモノトス 荷主ハ右ト同一ノ期限内ニ其積入レタル商品ノ海関税受取証書又ハ海関税上納ノ保証人ヲ立テタルノ証書ヲ船長ニ交付ス可キモノトス 第弐百八拾三条 前ニ定メタル方法ヲ以テ作リタル積荷目録ハ積荷ニ付キ関係アル各人ノ間及ヒ其各人ト保険人トノ間ニ於テ証憑ヲ為スモノトス 第弐百八拾四条 同一ノ積荷ノ積荷目録ノ間ニ差異アル場合ニ於テハ船長ノ手裏ニアル積荷目録カ荷主ノ手書又ハ其仲買人ノ手書ニテ補填セラレシモノタル時ハ之ヲ証憑ト為ス可ク又荷主又ハ荷物ヲ宛送ラレタル者ヨリ差出シタル積荷目録カ船長ノ手書ニテ補填セラレシモノタル時ハ之ニ従フ可シ 第弐百八拾五条 凡ソ積荷目録又ハ船舶借入契約書ニ記載シタル商品ヲ収受セシ仲買人又ハ荷物ヲ宛送ラレタル者ハ船長ノ求メニ従ヒ之レカ受取書ヲ附与ス可ク若シ之ニ背ク時ハ総テ費額及ヒ損害賠償ヲ負担シ又然ノミナラス遅延ノ損害賠償ヲモ負担ス可キモノトス ○第八巻 船ノ借賃即チ船舶借賃 第弐百八拾六条 海舶又ハ其他ノ海船ノ借賃ハ之ヲ名ケテ船ノ借賃又ハ船舶借賃ト云フ 其借賃ハ関係各人ノ合意ヲ以テ之ヲ規定ス可シ 其借賃ハ船舶借入契約書ニ依リ又ハ積荷目録ニ依テ之ヲ証明ス 其借賃ハ船ノ全部或ハ一部ニ付キ之ヲ定メ又ハ航行時間ノ全部或ハ特定ノ時間ニ付キ之ヲ定メ又ハ噸数或ハ「カンタル」百「リーブル」ニ当ル量目ノ名ノ数ヲ以テ之ヲ定メ又ハ請負ニテ之ヲ定メ或ハ積荷ノ分量ノ充分ナル時ニ至リテ出帆ス可キノ約定ヲ以テ之ヲ定ム但シ如何ナル場合ニ於テモ船ノ噸数ヲ指定ス可キモノトス 第弐百八拾七条 若シ船ノ全部ヲ賃借シ而シテ其賃借人カ其船ニ充分ナル積荷ヲ為サヽル時ト雖モ船長其賃借人ノ承諾ナクシテ他ノ商品ヲ積入ルヽコトヲ得ス 賃借人ノ全部賃借シタル船ノ積荷ヲ補完スル商品ニ付テノ船ノ借賃ハ其船ノ賃借人ノ利益ナリトス 第弐百八拾八条 船舶借入契約書ニ載セタル商品ノ分量ヲ積入レサル船舶賃借人ハ其約束シタル充分ナル積荷ノ為メ船ノ借賃ノ全部ヲ弁済ス可シ 若シ更ニ余分ヲ積入レタル時ハ船舶借入契約書ニ規定シタル賃銀ノ割合ヲ以テ其余分ノ船舶借賃ヲ弁済スルモノトス 若シ然レトモ船舶賃借人カ何物ヲモ積入レスシテ出帆前ニ其航行ヲ止メタル時ハ其為ス可キ積荷ノ全部ノ為メ船舶借入契約書ヲ以テ合意シタル船舶借賃ノ半額ヲ賠償トシテ船長ニ弁済ス可シ 若シ船ノ其積荷ノ一部分ヲ収受シ而シテ他ノ荷物ヲ積入レスシテ出帆シタル時ハ船舶借賃ノ全額ヲ船長ニ弁済ス可キモノトス 第弐百八拾九条 船ノ容積ヲ其実ヨリ更ニ大ナリト申述シタル船長ハ船ノ賃借人ニ対シテ損害賠償ヲ負担スルモノトス 第弐百九拾条 船ノ噸数ニ付テノ錯誤カ四十分一ニ過キサル時又ハ噸数ノ申述カ測量ノ保証書ニ適合シタル時ハ其噸数ノ申述ニ於テ錯誤アルモノト看做ス可カラス 第弐百九拾壱条 若シ積荷ノ分量ノ充分ナル時ニ至リテ出帆ス可キノ約定ヲ以テ船ニ荷物ヲ積入レ又ハ「カンタル」ノ数或ハ噸数ヲ以テ之ヲ積入レ又ハ請負ニテ之ヲ積入レタル時ハ荷主其船ノ出帆前ニ船舶借賃ノ半額ヲ弁済シテ其商品ヲ引取ルコトヲ得可シ 其荷主ハ荷物積入ノ費用、荷缷ノ費用、他ノ商品ヲ移動シテ之ヲ積直スノ費用及ヒ遅延ノ費用ヲ負担ス可シ 第弐百九拾弐条 若シ船長己レニ申述セラレサル商品ヲ其船中ニ於テ見出シタル時ハ其荷物積入ノ場所ニ於テ之ヲ陸揚セシムルコトヲ得又ハ之ト同性質ノ商品ニ付キ其同一ノ地ニ於テ弁済ス可キ最モ貴キ船舶借賃ヲ右ノ商品ニ付キ収取スルコトヲ得可シ 第弐百九拾三条 航行中ニ自己ノ商品ヲ引取ル所ノ荷主ハ其船舶借賃ノ全額ト荷缷ノ為メニ生セシメタル総テ移動ノ費用トヲ弁済ス可シ若シ又船長ノ所為又ハ過失ノ為メニ商品ヲ引取ル時ハ船長其総テノ費用ノ責ニ任ス可キモノトス 第弐百九拾四条 若シ船舶賃借人ノ所為ニ依リ船ノ出帆ノ時又ハ途中又ハ其荷缷ノ地ニ於テ其船ヲ滞留セシメタル時ハ船舶賃借人ニ於テ其遅延ノ費用ヲ負担ス可シ 若シ往返ノ為メニ船ヲ賃借シ而シテ積荷ナク又ハ不充分ナル積荷ヲ以テ其船ノ帰来リタル時ト雖モ其船舶借賃ノ全額ト遅延ノ利息トヲ船長ニ弁済ス可キモノトス 第弐百九拾五条 若シ船長ノ所為ニ依リ出帆ノ時又ハ途中又ハ荷缷ノ地ニ於テ其船ヲ滞留セシメ又ハ遅延セシメタル時ハ船長其船舶賃借人ニ対シテ損害賠償ヲ負担ス可シ 其損害賠償ハ鑑定人之ヲ規定ス 第弐百九拾六条 若シ船長ノ已ムヲ得スシテ航行中ニ船ヲ修理セシムル時ハ船舶賃借人其修理ノ終了スルヲ待チ又ハ船舶借賃ノ全額ヲ弁済ス可キモノトス 其船ヲ修理スルコトヲ得サル場合ニ於テハ船長更ニ他ノ船ヲ賃借ス可キモノトス 若シ船長ノ更ニ他ノ船ヲ賃借スルコトヲ得サル時ハ航行ノ進ミタル割合ノミヲ以テ其船舶借賃ヲ弁済ス可シ 第弐百九拾七条 若シ船舶賃借人カ船ノ出帆スル時ニ於テ其船ノ航海ヲ為スニ堪ヘサリシ旨ヲ証スル時ハ船長其船ノ貸賃ヲ損失シ且ツ其船ノ賃借人ニ対シテ損害賠償ヲ担任スルモノトス 出帆ノ時ニ於ケル検査ノ保証書ニ拘ハラス及ヒ其保証書ニ反対シテ右ノ証ヲ許容ス可キモノトス 第弐百九拾八条 飲食料、修理及ヒ其他船ノ差迫リタル必要ニ供備スル為メ船長ノ已ムコトヲ得スシテ売払ヒタル商品ニ付テハ船ノ安全ニ着港シタル時其残品又ハ之ト同質ノ他ノ商品ヲ其荷缷ノ地ニ於テ売払フ可キ代価ヲ以テ船長ヨリ其売払ヒタル商品ノ価額ヲ計算ス可ク而シテ荷主ハ右ノ商品ニ付キ船舶ノ借賃ヲ弁済ス可キモノトス 若シ船ヲ失ヒタル時ハ船長積荷目録ニ載セタル船舶ノ貸賃ヲ右ニ同シク扣除シテ其商品ヲ売払ヒタル代価ノ割合ヲ以テ右商品ノ計算ヲ為ス可シ 右ニ記シタル二個ノ場合ニ於テハ第二百十六条ノ第二項ニ依リ船ノ所有者ニ貯存セラレタル権利ヲ行フコトヲ得可キモノトス 若シ其権利ノ執行ヨリシテ其商品ヲ売払ハレ又ハ質入トナサレタル者ノ為メニ損失ヲ生スル時ハ右ノ商品ノ価額ト総テ其差向ケントスル地ニ着シタル商品又ハ其売払或ハ質入ヲ已ムヲ得サルニ至ラシメタル海上ノ事故以後ニ其難破ヨリ救出シタル商品ノ価額トニ割合ハセテ其損失高ヲ配当ス可シ 第弐百九拾九条 船ノ到ラントスル国ト商業禁止ノ命令アリテ船ノ已ムコトヲ得ス其積荷ト共ニ帰来リタル時ハ仮令往返ノ為メニ其船ヲ賃借シタル時ト雖モ往路ノ借賃ノミヲ船長ニ弁済ス可キモノトス 第三百条 若シ航行中或国ノ命令ニ依リ船ヲ差留メラレタル時ハ其船ヲ毎月ノ約定ニテ賃借シタル場合ニ於テハ其差留時間ノ借賃ヲ弁済スルニ及ハス又航行中ノ約定ニテ賃借シタル場合ニ於テハ其借賃ヲ増加スルニ及ハス 船ノ差留時間ニ於ケル乗組人ノ食料及雇賃ハ運輸損害ト看做ス可シ 第三百壱条 船長ハ共通ノ安全ノ為メニ海ニ投入レタル商品ノ船舶借賃ニ付テハ分担ノ負任ヲ以テ弁済ヲ受クルモノトス 第三百弐条 破船又ハ岩礁浅瀬ニ乗掛ケタル事ノ為メニ失ヒタル商品又ハ海賊ノ為メニ剽掠セラレ又ハ敵ノ為メニ奪取セラレタル商品ニ付テハ少シモ船舶借賃ヲ弁済スルニ及ハス 船長ハ其前払ニ為サレタル船舶借賃ヲ返ス可キモノトス但シ之ニ反シタル合意アル時ハ格別ナリトス 第三百三条 若シ船及ヒ商品ヲ贖戻シタル時又ハ商品ヲ破船ヨリ救ヒタル時ハ船長其掠奪又ハ破船ノ地ニ至ル迄ノ船舶借賃ノ弁済ヲ受ク可シ 船長商品ヲ其差向ケントスル地ニ送リタル時ハ贖戻ヲ分担シテ其船舶借賃全額ノ弁済ヲ受ク可シ 第三百四条 贖戻ノ為メノ分担ハ商品荷缷ノ地ニ於ケル商品ノ通価中ヨリ費用ヲ引去リタル価額ト船及ヒ船ノ貸賃ノ半額トニ拠テ之ヲ為スモノトス 水夫ノ雇賃ハ分担中ニ加ヘサルモノトス 第三百五条 若シ商品ヲ宛テ送ラレタル者カ其商品ヲ収受スルコトヲ否拒スル時ハ船長裁判所ノ許ヲ得テ其船舶借賃ノ弁済ヲ受クル為メ其商品ヲ売払ハシメ而シテ其残余物ノ附託ヲ命令セシムルコトヲ得可シ 若シ不足アル時ハ船長ヨリ荷主ニ対シテ償還ノ訟求ヲ為スノ権利ヲ保存ス 第三百六条 船長ハ船舶借賃ノ弁済ヲ得サルカ為メ商品ヲ其船中ニ引留ムルコトヲ得ス 船長ハ荷缷ノ時ニ於テ其船舶借賃ノ弁済ニ至ル迄第三ノ人ノ手裏ニ其商品ヲ附託セント訟求スルコトヲ得可シ 第三百七条 船長ハ其積荷ノ商品ヲ引渡シタル後十五日間ハ船舶借賃ヲ得ル為メ其商品ニ付キ他人ニ優レル権利ヲ有ス可シ但シ其商品ノ第三ノ人ノ手裏ニ移リタル時ハ格別ナリトス 第三百八条 右十五日ノ経過セサル前ニ荷主又ハ荷物収受人ノ家資分散ノ場合ニ於テハ船長其己レニ受ク可キ船舶借賃及ヒ運輸損害高ノ弁済ヲ得ル為メ各債主ニ優レル先取特権ヲ有スルモノトス 第三百九条 如何ナル場合ニ於テモ荷主ハ其船舶借賃ノ減少ヲ得ント訟求スルコトヲ得ス 第三百拾条 荷主ハ代価ノ減少シタル商品又ハ其固有ノ瑕瑾或ハ意外ノ事故ニ依テ損敗シタル商品ヲ船舶借賃ノ為メニ委棄スルコトヲ得ス 若シ然レトモ酒、油、蜜及ヒ其他ノ流動物ヲ入レタル樽桶ヨリ其流動物ノ流出シテ空虚トナリ又ハ幾ント空虚トナリタル時ハ其樽桶ヲ船舶借賃ノ為メニ委棄スルコトヲ得可シ ○第九巻 航海ノ危険ヲ冒ス貸借契約 第三百拾壱条 航海ノ危険ヲ冒ス貸借契約証書ハ公証人ノ面前ニテ之ヲ作リ又ハ私シノ署名ニテ之ヲ作ル可シ 其貸借契約証書ニハ左ノ諸件ヲ表示スルモノトス 貸シタル元金及ヒ海上ノ利益ノ為メニ合意シタル金額 其貸金ノ引当ト為ス物件 船ノ名及ヒ船長ノ姓名 貸主及ヒ借主ノ姓名 一個ノ航行ノ為メニ貸借ヲ為シタル事 如何ナル航行ノ為メ及ヒ如何ナル時間ノ為メニ貸借ヲ為シタルヤノ事 償還ノ時期 第三百拾弐条 凡ソ仏蘭西ニ於テ航海ノ危険ヲ冒シテ金額ヲ貸ス者ハ其日附ヨリ十日内ニ商事裁判所ノ書記局ノ簿冊ニ其契約証書ヲ記録セシム可ク若シ之ニ背ク時ハ其先取特権ヲ失フ可キモノトス 若シ外国ニ於テ其契約ヲ為シタル時ハ第二百三十四条ニ定メタル法式ニ従フ可シ 第三百拾三条 凡ソ航海ノ危険ヲ冒ス貸借契約証書ハ指図ニ於ケルモノタル時ハ裏書ノ方法ヲ以テ之ヲ取引スルコトヲ得可シ 此場合ニ於テハ其証書ノ取引ハ其他ノ商業上ノ手形ノ取引ト同一ノ効力ヲ有シ且ツ之ト同一ナル担保ニ於ケル訴権ヲ生スルモノトス 第三百拾四条 弁済ノ担保ハ海上ノ利益ニ及ハサルモノトス但シ明白ニ其反対ヲ約権シタル時ハ格別ナリトス 第三百拾五条 航海ノ危険ヲ冒ス借入ハ左ノ諸件ヲ引当ト為スコトヲ得可シ 船体及ヒ船身 船具及ヒ器具 艤装物及ヒ飲食料 積荷 相合シテ右諸物件ノ全部又ハ其中各箇ノ定マリタル一部分 第三百拾六条 凡ソ航海ノ危険ヲ冒ス借入ノ引当タル物件ノ価額ニ過クル金額ノ為メニ為シタル其借入ハ若シ借主ノ方ニ詐欺アリシノ証アルニ於テハ貸主ノ訟求ニ依リ無効ナリト宣告スルコトヲ得可シ 第三百拾七条 詐欺ノアラサル時ハ其為シタル評価又ハ合意シタル評価ニ従ヒ其借入ノ引当ト為シタル物品ノ価額ニ充ツル迄航海ノ危険ヲ冒ス貸借契約ヲ有効ノモノトス 其借入レタル金額ノ余分ハ其地ノ相場ニ於ケル利息ヲ附シテ之ヲ償還ス可シ 第三百拾八条 凡ソ船ヨリ得ントスル貸賃及ヒ後日得ント希望スル商品ノ利益ヲ引当ト為ス金額ノ借入ハ之ヲ禁止ス 此場合ニ於テハ貸主ハ少シモ利息ヲ得スシテ元金ノ償還ノミヲ受クルノ権利アリトス 第三百拾九条 凡ソ航海ノ危険ヲ冒ス金額ノ貸渡ハ水夫又ハ海員ノ雇賃又ハ航行ノ給料ヲ引当トシテ之ヲ其水夫又ハ海員ニ為スコトヲ得ス 第三百弐拾条 船、船具、器具、艤装物及ヒ飲食料又然ノミナラス既ニ獲得シタル船舶貸賃ハ船体及ヒ船身ヲ引当ト為シ航海ノ危険ヲ冒シテ貸与ヘタル金額ノ元金及ヒ利息ニ付キ先取特権ヲ以テ引当ト為スモノトス 積荷ヲ引当ト為シ航海ノ危険ヲ冒シテ貸与ヘタル金額ノ元金及ヒ利息ニ付テハ右ニ同シク其積荷ヲ以テ引当ト為スモノトス 若シ船又ハ積荷中特別ノ物件ヲ引当トシテ金額借入ヲ為シタル時ハ先取特権ハ其借入ノ引当ト為シタル量額ノ割合ヲ以テ右ノ物件ノミニ付キ存在スルモノトス 第三百弐拾壱条 所有者居住ノ地ニ於テ其公正ナル許可ナク又ハ証書ニ於ケル其所有者ノ参渉ナクシテ船長ノ航海ノ危険ヲ冒ス借入ヲ為シタル時ハ船長ノ其船及ヒ船ノ貸賃ニ付キ有スルコトアル可キ部分ノミニ関スルノ外訴権及ヒ先取特権ヲ付与セサルモノトス 第三百弐拾弐条 船ヲ出帆シ得可キ景状ニ為ス為メニ其分担ノ額ヲ供備ス可キノ催促ヲ受ケタルヨリ二十四時内ニ之ヲ供備セサリシ所有者ノ分ケ前及ヒ部分ハ関係各人居住ノ地ニ於テモ修理及ヒ飲食料ノ為メニ借入レタル金額ノ引当ナリトス 第三百弐拾三条 船ノ最後ノ航行ノ為メニ為シタル借入ハ以前ノ航行ノ為メニ貸シタル金額ヨリ先キニ償還セラル可シ但シ以前ノ航行ノ為メニ貸シタル金額ヲ継続又ハ更新ヲ以テ其侭差置キタル旨ヲ申述シタル時ト雖モ亦之ニ同シ 航行中ニ借入レタル金額ハ船ノ出帆前ニ借入レタル金額ヨリ先キニ償還ス可ク若シ又同一ノ航行中ニ為シタル数個ノ借入アル時ハ後ノ借入ヲ常ニ必ス其前ノ借入ヨリ先キニ償還ス可シ 第三百弐拾四条 契約書ニ指定メタル船ニ積入ル可キ商品ヲ引当ト為ス航海ノ危険ヲ冒ス貸主ハ其商品ノ更ニ他ノ船ニ積入レラレタル時ハ仮令海上ノ災禍ノ為メニ其商品ヲ失ヒタルト雖モ其損失ヲ負担セス但シ抗拒ス可カラサル力ノ為メニ之ヲ他ノ船ニ積入レシ旨ヲ適法ニ証明シタル時ハ格別ナリトス 第三百弐拾五条 若シ航海ノ危険ヲ冒ス貸金ノ引当タル品物カ其危険ヲ約定シタル時間ト場所トニ於テ全ク滅尽シ而シテ其滅尽ノ意外ノ事故ニ依リ生シタル時ハ其貸渡シタル金額ヲ取返サント求ムルコトヲ得ス 第三百弐拾六条 物ノ固有ノ瑕瑾ニ依テ生シタル損敗、減少、滅尽及ヒ金額借主ノ所為ニ依テ生シタル損害ハ貸主ノ負任タラサルモノトス 第三百弐拾七条 破船ノ場合ニ於テハ航海ノ危険ヲ冒シテ借入レタル金額ノ弁済ハ其救ハレタル品物ニシテ契約ノ引当ト為シタルモノヽ価額ニ減スルモノトス但シ其中ヨリ救出ノ費用ヲ引去ル可シ 第三百弐拾八条 若シ危険ノ時間ヲ契約書ニ定メサル時ハ其時間ハ船、船具、器具、艤装物及ヒ飲食料ニ関シテハ其船ノ出帆シタル日ヨリ其之ヲ差向クル港又ハ地ニ缷碇シ又ハ繋キ止ムル日ニ至ル迄経過スルモノトス 商品ニ関シテハ其危険ノ時間ハ之ヲ船中ニ積入レタル日又ハ之ヲ船中ニ運送スル為メ小艇ニ積入レタル日ヨリ之ヲ陸揚スル日ニ至ル迄経過スルモノトス 第三百弐拾九条 商品ヲ引当ト為シ航海ノ危険ヲ冒シテ金額ヲ借入レタル者ハ自己ノ計算ノ為メニ其借入レタル金額ニ充ツル迄ノ品物ヲ有セシ旨ヲ証明セサル時ハ船及ヒ積荷ノ滅尽ニ依テ釈免セラレサルモノトス 第三百三拾条 航海ノ危険ヲ冒ス貸主ハ借主ノ義務免除ノ為メ其通ノ運輸損害ヲ分担スルモノトス 単一ノ運輸損害モ亦貸主ノ負任タリ但シ之ニ反シタル合意アル時ハ格別ナリトス 第三百三拾壱条 若シ同一ノ船又ハ同一ノ積荷ニ付キ航海ノ危険ヲ冒ス貸借契約ト保険ノ契約トノアル時ハ其破船ヨリ救ハレタル品物ノ売払代金ハ航海ノ危険ヲ冒ス貸主ト保険人トノ間ニ其各自ノ関係高ノ割合ヲ以テ貸主ニハ其元金ノミノ為メ又保険人ニハ其保険シタル金額ノ為メニ之ヲ分派ス可シ但シ第百九十一条ニ設定シタル先取特権ト相触ルヽコトナカル可キモノトス ○第拾巻 保険 ○第壱節 保険ノ契約、其法式及ヒ其目的 第三百三拾弐条 保険契約ハ之ヲ書面ニ記ス可シ 其契約書ニハ之ヲ署名シタル日附ヲ記ス可シ 其契約書ニハ午前又ハ午後ニ之ヲ作リタル事ヲ表示ス可シ 其契約書ハ私シノ署名ニテ之ヲ作ルコトヲ得可シ 其契約書ニハ少シノ空白ヲモ存スルコトヲ得ス 其契約書ニハ左ノ諸件ヲ明記スルモノトス 保険ヲ為サシムル者ノ姓名及ヒ住所並ニ其者ノ所有者タリ又ハ仲買人タルノ分限 船ノ名及ヒ指定 船長ノ姓名 商品ヲ積入レタル地又ハ積入ル可キ地 其船ノ出帆シ又ハ出帆ス可キ港 其船ノ荷物ヲ積入レ又ハ荷缷ヲ為ス可キ港又ハ碇泊場 其船ノ入ル可キ港又ハ碇泊場 其保険セシムル商品又ハ物件ノ性質及ヒ価額又ハ評価格 危険ノ始リ及ヒ終ル可キ時期 保険セラレタル金額 保険料即チ保険ノ費額 若シ双方ノ間ニ争訟アル場合ニ於テハ其争訟ヲ裁断人ノ裁断ニ任カス可キ旨ヲ合意シタル時ハ其旨 及ヒ其他総テ一般ニ双方ノ合意シタル条件 第三百三拾三条 同一ノ保険契約書ニ商品ノ為メ若クハ保険料ノ高ノ為メ若クハ相異ナレル保険人ノ為メニ数箇ノ保険ヲ記載スルコトヲ得可シ 第三百三拾四条 保険ハ左ノ諸件ヲ目的ト為スコトヲ得可シ 船ノ空虚ナルト荷物ヲ積ミタルト又船具ヲ装置シタルト船具ヲ装置セサルト又唯一艘ナルト他ノ船ヲ同伴スルトヲ問ハス其船ノ船体及ヒ船身 船具及ヒ器具 艤装物 飲食料 航海ノ危険ヲ冒シテ貸シタル金額 航海ノ危険ヲ受クル積荷ノ商品及ヒ其他総テ代金ヲ評価スルコトヲ得可キ物件又ハ有価物 第三百三拾五条 保険ハ右ノ物件ヲ相合同シ又ハ別々ニ其物件ノ全部又ハ一部ニ付キ之ヲ為スコトヲ得可シ 保険ハ平和ノ時或ハ戦闘ノ時又ハ船ノ航行前或ハ航行中ニ之ヲ為スコトヲ得可シ 保険ハ往返ノ為メ或ハ往返中一方ノ為メ又ハ航行時間ノ全部ノ為メ或ハ特定ノ時間ノ為メニ之ヲ為スコトヲ得可シ 又ハ海、河川及ヒ舟ヲ通ス可キ溝渠ニ依レル総テノ航行及ヒ運送ノ為メニ之ヲ為スコトヲ得可シ 第三百三拾六条 保険セラレタル品物ノ評価ニ於ケル詐欺ノ場合又ハ仮設或ハ偽造ノ場合ニ於テハ保険人其物件ノ調査及ヒ評価ニ取掛ラシムルコトヲ得可シ但シ民事上ト刑事上ヲ問ハス総テ其他ノ訴ノ手続ト相触ルヽコトナカル可キモノトス 第三百三拾七条 「ルパン」地中海ニ接シタル亜細亜ノ西岸ノ地ヲ云フノ互市場、亜非利加ノ海岸及ヒ世界ノ其他ノ部分ヨリ欧羅巴ニ差向ケテ為シタル積荷ハ其如何ナル船ニ為シタルヲ問ハス船ヲモ又船長ヲモ指定セスシテ之ヲ保険スルコトヲ得可シ 此場合ニ於テハ商品ト雖モ其性質及ヒ種類ヲ指定セスシテ之ヲ保険スルコトヲ得可シ 然レトモ保険ノ契約書ニハ其送遣ヲ為サヽル所ノ者又ハ其送遣スル荷物ヲ宛送ラル可キ者ヲ指示セサル可カラス但シ保険ノ契約書ニ於テ之ニ反スル合意アル時ハ格別ナリトス 第三百三拾八条 凡ソ保険ノ契約書ニ外国ノ貨幣ヲ以テ其代価ヲ約定シタル品物ハ保険ノ契約書ニ署名シタル時期ニ於ケル相場ニ従ヒ其約定シタル貨幣ノ仏蘭西ノ貨幣ニ対スル代価ヲ以テ之ヲ見積ル可キモノトス 第三百三拾九条 若シ其契約書ニ商品ノ価額ヲ定メサル時ハ勘定書又ハ帳簿ヲ以テ其価額ヲ証明スルコトヲ得可ク若シ其勘定書又ハ帳簿ノアラサル時ハ荷物積入ノ時ト其場所トニ於ケル通価ニ従ヒ其評価ヲ為ス可シ但シ其船中ニ積入ルヽ迄ニ弁済シタル税金及ヒ為シタル費用ハ総テ其評価中ニ算入ス可キモノトス 第三百四拾条 若シ物ト物トノ交換ノミニ依テ商業ヲ為ス国ヨリノ帰路ニ於テ保険ヲ為シ而シテ保険ノ契約書ニ其商品ノ評価ヲ為サヽル時ハ交換ニ於テ附与シタル商品ノ価額ニ拠テ其保険ヲ規定ス可シ但シ運送ノ費用ヲ其価額ニ併合ス可キモノトス 第三百四拾壱条 若シ保険ノ契約書ニ危険ノ時間ヲ規定セサル時ハ其危険ハ航海ノ危険ヲ冒ス貸借契約ノ為メ第三百二十八条ニ規定シタル時期ニ於テ始マリ及ヒ終ルモノトス 第三百四拾弐条 保険人ハ其保険シタル品物ヲ更ニ他人ヲシテ再ヒ保険セシムルコトヲ得可シ 被保険人ハ其保険ノ費額ヲ保険セシムルコトヲ得可シ 再保険ノ保険料ハ初メノ保険ノ保険料ヨリ更ニ少ナク又ハ更ニ多キコトヲ得可シ 第三百四拾三条 平和ノ時保険料ヲ定メ而シテ其後若シ戦闘ノ起ルコトアル時ハ之ヲ増加ス可キ旨ヲ約定シタルノミニシテ保険ノ契約書ニ其増加ノ量額ヲ定メサル時ハ裁判所ニ於テ其危険ト景況ト各箇ノ保険契約書ノ約定トニ注意シテ其増加ノ額ヲ規定ス可シ 第三百四拾四条 船長ノ指令スル船ニ其船長ノ計算ノ為メニ積入レタル商品ヲ保険セシメ而シテ其商品ヲ失ヒタル場合ニ於テハ船長保険人ニ其商品ノ買入ヲ証明シ且ツ乗組人中重立チタル者二名ノ署名シタル積荷目録ヲ差出ス可キモノトス 第三百四拾五条 凡ソ仏蘭西ニ於テ保険セラレタル商品ヲ外国ヨリ持来ル所ノ乗組人及ヒ旅客ハ其積入ヲ為シタル地ニ於テ仏蘭西領事ノ手裏ニ其積荷目録ヲ渡シ置ク可ク若シ又領事ノアラサルニ於テハ重立チタル仏蘭西商人ノ手裏又ハ其地ノ官吏ノ手裏ニ其積荷目録ヲ渡シ置ク可シ 第三百四拾六条 若シ保険人カ危険ノ未タ終ラサル時ニ於テ家資分散ヲ為シタル時ハ被保険人ヨリ其保証人ヲ立ツルコト又ハ契約ヲ取消スコトヲ訟求スルヲ得可シ 保険人ハ被保険人ノ家資分散ノ場合ニ於テハ右ニ同シキ権利ヲ有スルモノトス 第三百四拾七条 保険ノ契約ハ左ノ諸件ヲ目的トスル時ハ無効ノモノトス 船中ニ存在スル商品ニ付テノ船ノ貸賃 商品ニ付キ得ント希望スル所ノ利益 海員ノ雇賃 航海ノ危険ヲ冒シテ借入レタル金額 航海ノ危険ヲ冒シテ貸シタル金額ノ海上ノ利益 第三百四拾八条 凡ソ被保険人ノ方ニ於テ其申述ス可キ所ノ事ヲ押隠シ又ハ虚偽ノ申述ヲ為シ及ヒ総テ保険ノ契約書ト積荷目録トノ間ニ差異アリテ危険ヲ其実ヨリ更ニ少ナキモノト思ハシメ又ハ危険ヲ受クル其物ヲ変更セシメタル時ハ保険ノ契約ヲ取消スモノトス 其申述ス可キ事ノ押隠、虚偽ノ申述又ハ差異カ其保険セラレタル物件ノ損害又ハ滅尽ニ影響ヲ及ホサヾリシ場合ニ於テモ其保険ハ無効ナリトス ○第弐節 保険人及ヒ被保険人ノ義務 第三百四拾九条 若シ船ノ出帆前ニ航行ヲ止メタル時ハ仮令被保険人ノ所為ニ依ルト雖モ其保険ノ契約ヲ取消スモノトス而シテ保険人ハ賠償ノ名義ヲ以テ其保険シタル金額ノ百ニ付キ半ヲ収受ス 第三百五拾条 風波、難破ニ遭フ事、暗礁、暗沙ニ乗上ル事、意外ニ衝突スル事、已ムヲ得スシテ船ノ路筋、航行或ハ船ヲ変易スル事ニ依リ又ハ投入、火災、捕拿、剽掠、或国ノ命令ニ依レル差留、交戦ノ公告、敵ノ報復ニ依リ及ヒ総テ一般ニ其他ノ海上ノ事故ニ依リ其保険セラレタル物件ニ付キ生シタル総テノ滅尽及ヒ損害ハ保険人ノ引受クル危険中ニアルモノトス 第三百五拾壱条 凡ソ被保険人ノ所為ヨリ生スル路筋、航行又ハ船ノ変易及ヒ総テノ滅尽及ヒ損害ハ保険人ノ負任タラサルモノトス又然ノミナラス保険人ノ危険ヲ冒スコトヲ始メタル時ハ保険人ニ於テ保険料ヲ獲得ス可シ 第三百五拾弐条 物ノ固有ノ瑕瑾ニ依テ生シタル損敗、減少及ヒ滅尽並ニ所有者、船ノ賃借人又ハ荷主ノ所為及ヒ過失ニ依テ生シタル損害ハ保険人ノ負任タラサルモノトス 第三百五拾三条 保険人ハ船ノ指令者ノ詐欺ト云ヘル名称ヲ以テ世ニ知ラレタル船長及ヒ乗組人ノ涜職及ヒ過失ヲ負担セス但シ之ニ反シタル合意アル時ハ格別ナリトス 第三百五拾四条 保険人ハ引水税、拽船税及ヒ水先案内税ヲ負担セス又船及ヒ商品ニ課セラレタル如何ナル種類ノ税ヲモ負担セサルモノトス 第三百五拾五条 保険ノ契約書ニハ麦又ハ塩ノ如ク其性質ニ依リ別段ノ損敗又ハ減少ヲ受クヘキ商品又ハ流出シ易キ商品ヲ指定ス可ク若シ然ラサル時ハ保険人ハ右ノ商品ニ付キ生スルコトアル可キ損害又ハ滅尽ヲ担任セス但シ被保険人ニ於テ保険ノ契約書ニ署名スル時ニ当リ其積荷ノ性質ヲ知ラサリシ時ハ格別ナリトス 第三百五拾六条 若シ往返共ニ商品ヲ目的トシテ保険ヲ為シ而シテ船ノ其初メニ差向ケラレタル地ニ達シタル上ニテ帰路ノ積荷ヲ為サヽル時又ハ帰路ノ積荷ノ不充分ナル時ハ保険人其合意シタル保険料ノ割合ヲ以テ其三分二ノミヲ収受ス可シ但シ之ニ反シタル約権アル時ハ格別ナリトス 第三百五拾七条 積入レタル品物ノ価額ニ過キタル金額ノ為メニ承諾シタル保険又ハ再保険ノ契約ハ被保険人ノ方ニ於テ詐欺又ハ詐害アリシノ証アル時ハ其被保険人ノミニ関シテ無効ナリトス 第三百五拾八条 若シ詐欺モ又詐害モアラサル時ハ其積入レタル荷物ニ付キ為シ又ハ合意シタル評価ニ従ヒ其荷物ノ価額ニ充ツル迄保険ノ契約ヲ有効ナリトス 滅尽ノ場合ニ於テハ保険人数名ハ各々其保険シタル金額ノ割合ヲ以テ之ヲ分担ス可キモノトス 保険人ハ其価額ノ剰余ノ額ノ保険料ヲ収受セス然レトモ唯百ニ付キ半ノ賠償ヲ収受スルモノトス 第三百五拾九条 若シ同一ノ積荷ニ付キ詐害ナクシテ為シタル数個ノ保険契約ノ存在シ而シテ其第一ノ契約ヲ以テ積入レタル品物ノ価額ノ全部ヲ保険シタル時ハ其第一ノ契約ノミ存続スルモノトス 其後ノ契約書ニ署名シタル保険人ハ其義務ヲ釈免セラレ而シテ其保険シタル金額ノ百ニ付キ半ノミヲ収受スルモノトス 若シ又第一ノ契約ヲ以テ其積入レタル品物ノ価額ノ全部ヲ保険スルニ足ラサル時ハ其後ノ契約書ニ署名シタル各保険人ハ其契約書ノ日附ノ順序ニ従ヒ其剰余ノ額ヲ担任スルモノトス 第三百六拾条 保険シタル金額ニ当レル積入レタル品物アリテ若シ其一部分ヲ失ヒタル時ハ其品物ノ各保険人ノ関係高ノ割合ヲ以テ其各保険人ヨリ損失ノ額ヲ弁済ス可シ 第三百六拾壱条 若シ指定シタル数艘ノ船ニ積入ル可キ商品ニ付キ別々ニ保険ヲ為シテ其各箇ノ船ニ付キ保険シタル金額ヲ表示シ而シテ其積荷ノ全部ヲ唯一艘ノ船又ハ契約書ニ指定シタルヨリ更ニ少数ノ船ニ積入レタル時ハ保険人ハ指定シタル総テノ船ヲ失フコトアルニ拘ハラス荷物ヲ積入レタル一艘又ハ数艘ノ船ニ付キ保険シタル金額ノミヲ負担ス可キモノトス然レトモ保険人ハ其保険ノ取消サレタル金額ノ百ニ付キ半ヲ収受ス可シ 第三百六拾弐条 若シ船長カ其積荷ヲ補完シ又ハ交換スル為メ数箇ノ港ニ入ル可キノ自由ヲ有スル時ハ保険人ハ其保険シタル品物ノ船中ニアル時ノミ其品物ノ保険ヲ為スモノトス但シ之ニ反シタル合意アル時ハ格別ナリトス 第三百六拾三条 若シ特定ノ時間保険ヲ為シタル時ハ保険人ハ其時間ノ終リシ後義務ヲ免カレ而シテ被保険人ハ更ニ再ヒ保険セシムルコトヲ得可シ 第三百六拾四条 若シ被保険人カ契約書ニ指定シタル地ヨリ更ニ遠キ地ニ船ヲ送リタル時ハ仮令其地カ契約書ニ指定シタル地ト同一ノ路筋ニアル時ト雖モ保険人ハ其保険ノ義務ヲ免除セラレテ保険料ヲ獲得ス可シ 若シ航行ノ路筋ヲ短クシタル時ハ保険ノ完全ノ効力アルモノトス 第三百六拾五条 凡ソ保険シタル物件ノ滅尽又ハ其到着ノ後ニ為シタル保険ハ若シ其契約書ニ署名スル前ニ被保険人ノ其物件ノ滅尽ヲ知リ又ハ保険人ノ其物件ノ到着ヲ知リ得タル可キノ思量アル時ハ無効ナリトス 第三百六拾六条 若シ一時毎ニ一「ミリアメートル」ノ四分三ヲ計算シテ其船ノ到着又ハ滅尽ノ場所又ハ其到着或ハ滅尽ノ最初ノ消息ノ届キタル地ヨリ保険契約書署名ノ前ニ其契約ヲ為シタル地ニ其消息ノ達シ得タルノ証アル時ハ右ノ思量ノ存在スルモノトス但シ其他ノ証ト相触ルヽコトナカル可シ 第三百六拾七条 若シ然レトモ善キ消息又ハ悪シキ消息ノ上ニテ保険ヲ為シタル時ハ前数条ニ記載シタル思量ヲ許容セサルモノトス 此場合ニ於テハ契約書署名ノ前ニ被保険人ノ船ノ滅尽ヲ知リ又ハ保険人ノ船ノ到着ヲ知リタルノ証アルニ非サレハ契約ヲ取消ス可カラス 第三百六拾八条 被保険人ニ対スルノ証アル場合ニ於テハ被保険人ヨリ保険人ニ二倍ノ保険料ヲ弁済スルモノトス 保険人ニ対スルノ証アル場合ニ於テハ保険人ヨリ被保険人ニ其合意シタル保険料ノ二倍ニ当レル金額ヲ弁済スルモノトス 被保険人又ハ保険人ノ中ニテ其証ヲ立テラレタル者ハ懲治上ノ起訴ヲ受ク可シ ○第三節 委棄 第三百六拾九条 保険セラレタル物件ノ委棄ハ左ノ場合ニ於テ之ヲ為スコトヲ得可シ 掠奪 破船 暗礁暗沙ニ乗上ケテ船ノ破損シタル時 海上ノ事故ノ為メ船ノ航海ニ堪ヘサルモノトナリタル時 外国ノ命令ニ依リ差留メラレタル時 保険セラレタル品物ノ滅尽又ハ損壊シタル時但シ其損壊又ハ滅尽ノ少クトモ四分三タル時ニ限ル 航行ヲ始メタル後政府ノ方ヨリ差留メラレタル場合ニ於テハ委棄ヲ為スコトヲ得可シ 第三百七拾条 委棄ハ航行ヲ始メサル前ニ之ヲ為スコトヲ得ス 第三百七拾壱条 総テ其他ノ損害ハ運輸損害ト看做シ而シテ保険人ト被保険人トノ間ニ於テ其関係高ノ割合ヲ以テ之ヲ規定スルモノトス 第三百七拾弐条 保険セラレタル物件ノ委棄ハ一部分タルコトヲ得ス又未必条件ニ関スルコトヲ得ス○其委棄ハ保険及ヒ危険ノ目的タル品物ノミニ及ホス可キモノトス 第三百七拾三条 委棄ハ欧羅巴ノ港或ハ海岸又ハ地中海ニ於ケル亜細亜及ヒ亜非利加ノ港或ハ海岸ニ於テ滅尽シタル旨ノ消息ヲ受ケシ日ヨリ六月ノ期限内ニ保険人ニ之ヲ為サヽル可カラス又掠奪ノ場合ニ於テハ右ニ記シタル海岸ニアル一箇ノ港又ハ一箇ノ地ニ船ヲ送致シタル旨ノ消息ヲ受ケシ日ヨリ六月ノ期限内ニ保険人ニ之ヲ為サヽル可カラス 喜望峰ヨリ近キ亜非利加ノ各地又ハ「ホルン」岬ヨリ近キ亜米利加ノ各地ニ於テ滅尽シ又ハ掠奪送致セラレタル旨ノ消息ヲ受ケシ後一年ノ期限内ニ委棄ヲ為サヽル可カラス 総テ其他ノ世界ノ部分ニ於テ滅尽シ又ハ掠奪送致セラレタル旨ノ消息ヲ受ケシ後十八月ノ期限内ニ委棄ヲ為サヽル可カラス 其期限ノ過キタル後ハ被保険人ハ最早委棄ヲ為スコトヲ許サレサルモノトス 第三百七拾四条 委棄ヲ為スコトヲ得可キ場合及ヒ其他総テ保険人ノ危険ニ於ケル偶然ノ事故ノ場合ニ於テハ被保険人ハ其受ケタル報告ヲ保険人ニ通報ス可キモノトス 其通報ハ右報告ヲ受ケタル時ヨリ三日内ニ之ヲ為サヽルヲ得ス 第三百七拾五条 通常ノ航行ニ付テハ船ノ出帆ノ日又ハ最後ノ消息アリシ日ヨリ起算シテ六月ノ期限ノ経過セシ後又遠路ノ航行ニ付テハ一年ノ期限ノ経過セシ後被保険人ノ其船ニ付キ毫モ消息ヲ受ケサル旨ヲ申述スル時ハ其被保険人ハ滅尽ノ旨ヲ証スルニ及ハスシテ保険人ニ委棄ヲ為シ而シテ保険ノ金額ノ弁済ヲ得ント訟求スルコトヲ得可シ 六月又ハ一年ノ経過セシ後ハ被保険人其右ノ事ヲ行フ為メ第三百七十三条ニ定メタル猶予期限ヲ有スルモノトス 第三百七拾六条 特定ノ時間ニ付キ保険ノ場合ニ於テハ通常ノ航行及ヒ遠路ノ航行ニ付キ前ニ定メタル期限ノ経過セシ後ニ至リ其保険ノ時間ニ於テ船ヲ失ヒシモノト思量ス可シ 第三百七拾七条 以下ニ定ムル所ノ限界外ニ為シタル航行ハ遠路ノ航行ト看做ス可シ 南ハ北緯三十度 北ハ北緯七十二度 西ハ巴里ノ子午線ノ経度十五度 東ハ巴里ノ子午線ノ経度四十四度 第三百七拾八条 被保険人ハ第三百七十四条ニ記載シタル通報ニ依リ契約書ニ定メタル期限内ニ其保険セラレタル金額ヲ弁済ス可キ旨ヲ保険人ニ催促シテ委棄ヲ為シ又ハ法律ニ定メタル期限内ニ委棄ヲ為スノ権利ヲ貯存スルコトヲ得可シ 第三百七拾九条 被保険人ハ委棄ヲ為スニ付キ其為シ又ハ為サシメタル総テノ保険ヲ申述シ又然ノミナラス其差図シタル保険ヲモ申述ス可ク並ニ船ニ付キ若クハ商品ニ付キ航海ノ危険ヲ冒シテ借入レタル金額ヲ申述ス可シ若シ之ヲ申述セサル時ハ委棄ノ日ヨリ経過スルコトヲ始ム可キ弁済ノ期限ヲ其被保険人ノ右ノ申述ヲ通知セシムル日ニ至ル迄停止ス可シ但シ之レカ為メ委棄ニ於ケル訴ヲ為ス為メニ定メタル期限ヲ少シモ猶予ス可カラサルモノトス 第三百八拾条 詐欺ノ申述ヲ為シタル場合ニ於テハ被保険人ハ保険ノ効ヲ失ヒ而シテ船ノ滅尽又ハ掠奪ニ拘ハラス其借入レタル金額ヲ弁済ス可キモノトス 第三百八拾壱条 破船又ハ暗礁暗沙ニ乗上ケテ船ノ破損シタル場合ニ於テハ其被保険人ハ難破シタル品物ノ救出ニ勉労ス可シ但シ当然ノ時期ト場所トニ於テ為ス可キ委棄ト相触ルヽコトナカル可シ 被保険人ノ確言ニ依リ其救出シタル品物ノ価額ニ充ツル迄其救出ノ費用ヲ被保険人ニ給与ス可シ 第三百八拾弐条 若シ契約書ニ弁済ノ時期ヲ定メサル時ハ保険人委棄ノ通報ヨリ三月ノ後ニ至リ保険ノ金額ヲ弁済ス可キモノトス 第三百八拾三条 荷物積入及ヒ滅尽ヲ証明スル証書ハ保険セラレタル金額弁済ノ為メ保険人ニ対シテ訴ヲ起ス前ニ之ヲ保険人ニ送達ス可シ 第三百八拾四条 保険人ハ其証拠書類ニ記シタル所ノ実事ニ反スル実事ノ証ヲ立ツルコトヲ許サルヽモノトス 其証ヲ立ツルコトヲ許サレタルト雖モ被保険人ヨリ保証人ヲ立ツルニ於テハ保険人其保険シタル金額ノ仮リノ弁済ヲ為スノ言渡ヲ受クルコトヲ停止セス 保証人ノ約務ハ若シ起訴ノアラサル時ハ満四年ノ後ニ消滅スルモノトス 第三百八拾五条 委棄ノ通報セラレ而シテ之ヲ受諾シ又ハ有効ナリト裁判セラレタル上ハ其保険セラレタル品物ハ委棄ノ時期ヨリシテ保険人ニ属スルモノトス 保険人ハ船ノ帰着ヲ口実トシテ其保険シタル金額ヲ弁済スルコトヲ免カルルヲ得ス 第三百八拾六条 救出サレタル商品ニ付テノ船ノ貸賃ハ之ヲ前払ニ為シタル時ト雖モ船ノ委棄ノ一部分ヲ為シテ亦同シク保険人ニ属スルモノトス但シ航海ノ危険ヲ冒シテ金額ヲ貸シタル者ノ権利、雇賃ニ付テノ水夫ノ権利及ヒ航行中ニ於ケル費用及ヒ費額ト相触ルヽコトナカル可シ 第三百八拾七条 或国ノ方ヨリ差留メラレタル場合ニ於テハ被保険人其消息ヲ受ケタル時ヨリ三日内ニ保険人ニ其通報ヲ為ス可キモノトス 其差留メラレタル物件ノ委棄ハ欧羅巴ノ海、地中海又ハ「バルチック」海ニ於テ差留ヲ為サレタル時ハ其通報ヨリ六月ノ期限ノ後ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス 若シ又更ニ遠隔ノ地ニ於テ差留ヲ為サレタル時ハ一年ノ期限ノ後ニ非サレハ委棄ヲ為スコトヲ得ス 其期限ハ差留通報ノ日ノミヨリ起算ス可キモノトス 其差留メラレタル商品カ腐敗滅尽シ易キモノタル場合ニ於テハ右ニ記載シタル期限ヲ其第一ノ場合ニ於テハ一月半ニ減シ又其第二ノ場合ニ於テハ三月ニ減ス可シ 第三百八拾八条 前条ニ記載シタル期限間ハ被保険人其差留メラレタル品物ノ差留解除ヲ得ル為メ其及フ丈ケノ尽力ヲ為ス可キモノトス 保険人ハ自己ノ方ニ於テ被保険人ニ協力シ又ハ別ニ右ト同一ノ尽力ヲ為スコトヲ得可シ 第三百八拾九条 航海ニ堪ヘサルノ名義ヲ以テスル委棄ハ其暗礁暗沙ニ乗上ケタル船ヲ引出シテ之ヲ修理シ而シテ其差向ケラレタル地ニ向ヒ航行ヲ継続スルコトヲ得ル景状ト為スヲ得可キニ於テハ之ヲ為スコトヲ得ス 此場合ニ於テハ被保険人ハ其暗礁暗沙ニ乗上ケタルコトノ為メニ生シタル費用及ヒ運輸損害ノ為メ保険人ニ対シテ其償還ヲ訟求スルノ権利ヲ保存スルモノトス 第三百九拾条 若シ船ノ航海ニ堪ヘサルモノナリト宣告セラレタル時ハ積荷ニ付テノ被保険人ハ消息ヲ受ケタル時ヨリ三日ノ期限内ニ其通知ヲ為ス可キモノトス 第三百九拾壱条 船長ハ右ノ場合ニ於テハ商品ヲ其差向ケントスル地ニ運送スル為メ更ニ他ノ船ヲ得ルニ付キ尽力ヲ為ス可キモノトス 第三百九拾弐条 保険人ハ前条ニ定メタル場合ニ於テ更ニ他ノ船ニ積入レタル商品ノ到着シテ之ヲ荷缷スルニ至ル迄其商品ノ危険ヲ担任スルモノトス 第三百九拾三条 保険人ハ右ノ外其保険シタル金額ニ充ツル迄運輸損害、荷缷ノ費用、倉庫ニ貯蔵スルノ費用、再ヒ船ニ積入ルヽノ費用、船ノ借賃ノ剰余額及ヒ其他総テ商品ヲ救フ為メニ為シタル費用ヲ負担スルモノトス 第三百九拾四条 若シ第三百八十七条ニ定メタル期限内ニ船長ノ其商品ヲ更ニ再ヒ積入レテ之ヲ其差向ケントスル地ニ送ル為メノ船ヲ見出スコト能ハサル時ハ被保険人其委棄ヲ為スコトヲ得可シ 第三百九拾五条 掠奪ノ場合ニ於テ若シ被保険人ヨリ保険人ニ其報告ヲ為スコト能ハサル時ハ被保険人其保険人ノ差図ヲ待タスシテ品物ヲ贖戻スコトヲ得可シ 被保険人ハ其為シタル贖戻ノ約定ヲ保険人ニ通報ス可キノ方便ヲ得ルヤ否直チニ之ヲ通報ス可キモノトス 第三百九拾六条 保険人ハ其贖戻ノ約定ヲ自己ノ計算ニ引受ケ又ハ之ヲ放棄スルコト自由ナリトス但シ保険人ハ其贖戻ノ約定ノ通報ヲ受ケシ時ヨリ二十四時内ニ自己ノ撰択ヲ被保険人ニ通知ス可シ 若シ保険人其贖戻ノ約定ヲ自己ノ利益ニ於テ引受クル旨ヲ申述シタル時ハ猶予ナク其関係ノ割合ヲ以テ合意ノ文面ニ従ヒ其贖戻金ノ弁済ヲ分担ス可ク而シテ保険人ハ保険ノ契約ニ従ヒ継続シテ航行ノ危険ヲ担任スルモノトス 若シ又保険人其贖戻ノ約定ノ利益ヲ放棄スル旨ヲ申述シタル時ハ保険人其贖戻サレタル品物ニ付キ何等ノモノヲモ得ント求ムルコトヲ得スシテ其保険シタル金額ノ弁済ヲ負担ス可キモノトス 若シ保険人右ニ記シタル期限内ニ自己ノ撰択ヲ通知セサル時ハ其贖戻ノ利益ヲ放棄シタルモノト看做ス可シ ○第拾壱巻 運輸損害 第三百九拾七条 相合シ又ハ別々ニ船及ヒ商品ノ為メニ為シタル総テ異常ノ費額 船及ヒ商品ノ積入及ヒ出帆ヨリ其帰着及ヒ荷缷ニ至ル迄其船及ヒ商品ニ生シタル総テノ損害 右ノ諸件ハ運輸損害ト看做ス可シ 第三百九拾八条 関係各人ノ間ニ特別ナル合意ノアラサルニ於テハ運輸損害ヲ以下ノ成規ニ従テ規定ス可シ 第三百九拾九条 運輸損害ハ之ヲ分テ二種トス大ナル即チ共通ノ運輸損害及ヒ単一ナル即チ特別ナル運輸損害是レナリ 第四百条 左ノ諸件ハ共通ノ運輸損害ナリトス 第一 船及ヒ商品ノ贖戻ノ名義ヲ以テ約定ニ依リ附与シタル物件 第二 海ニ投入レタル物件 第三 破損シ又ハ切レタル錨綱又ハ檣 第四 共通ノ安全ノ為メニ棄テタル錨及ヒ其他ノ品物 第五 投入ニ依リ船中ニ残リタル商品ニ生セシメタル損害 第六 船ヲ防守シテ創傷ヲ被ムリタル水夫ノ治療及ヒ飲食ノ費用、船ヲ月借ニ為シタル時ハ或国ノ命令ニ依リ其船ヲ航行中ニ差留メラレタル時間ニ於ケル水夫ノ雇賃及ヒ飲食ノ費用並ニ共通ノ安全ノ為メ任意ニテ受ケタル損害ノ修理ヲ為ス時間ニ於ケル水夫ノ雇賃及ヒ飲食ノ費用 第七 風波ノ為メ又ハ敵船ニ追ハレタルニ依リ已ムヲ得ス船ヲ軽クシテ港口又ハ河口ニ入ラシメタル時ハ其船ヲ軽クシテ港口又ハ河口ニ入ラシムル為メ荷缷ヲ為シタル費用 第八 全キ滅尽又ハ掠奪ヲ避クルノ意ヲ以テ礁沙ニ乗上ケタル船ヲ更ニ再ヒ浮揚セシムル為メニ為シタル費用 及ヒ一般ニ船及ヒ商品ノ積入及ヒ出帆ヨリ其帰着及ヒ荷卸ニ至ル迄其船及ヒ商品ノ共通ノ利益及ヒ安全ノ為メニ理由ヲ附シタル決議ニ従ヒ任意ニ受ケタル損害及ヒ為シタル費額 第四百壱条 共通ノ運輸損害ハ価額ノ割合ヲ以テ商品ト船及ヒ船ノ貸賃ノ半額トニ於テ之ヲ負担ス可シ 第四百弐条 商品ノ代金ハ荷缷ノ地ニ於ケル其商品ノ価額ニ依テ之ヲ定ム可シ 第四百三条 左ノ諸件ハ特別ナル運輸損害ナリトス 第一 固有ノ瑕瑾ニ依リ又ハ風波、掠奪、破船或ハ礁沙ニ乗上クル事ニ依リ商品ニ生シタル損害 第二 商品ヲ救フ為メニ為シタル費用 第三 風波又ハ其他海上ノ偶然ノ事故ニ依リ生シタル錨綱、錨、帆、檣、綱具ノ滅尽 右ノ物件ノ意外ノ滅尽ニ依リ若クハ飲食料ノ需要ニ依リ若クハ水ノ侵入スル孔隙ヲ塞ク修理ヲ為スニ依リ起リタル総テノ停泊ヨリ生スル所ノ費額 第四 船ヲ航行中賃借シタル時ハ或国ノ命令ニ依リ其船ヲ航中ニ差留メラレタル時間及ヒ其船ニ付キ為サヽルヲ得サル修理ノ時間ニ於ケル水夫ノ飲食ノ費用及ヒ雇賃 第五 船ヲ航中賃借シタルト月借ニ為シタルトヲ問ハス検病ノ時間ニ於ケル夫ノ飲食料及ヒ雇賃 及ヒ一般ニ船及ヒ商品ノ積入及ヒ出帆ヨリ其帰着及ヒ荷缷ニ至ル迄船ノミノ為メ又ハ商品ノミノ為メニ為シタル費額及ヒ受ケタル損害 第四百四条 特別ナル運輸損害ハ其損害ヲ受ケタル物又ハ費額ヲ生セシメタル物ノ所有者ニ於テ之ヲ負担シ及ヒ弁済ス可シ 第四百五条 船長甲板ヨリ降ル入口ヲ丁寧ニ鎖閉セス又ハ船ヲ繋カス又ハ荷物昇降ノ為メノ善キ綱具ヲ供備セサルニ依リ及ヒ其他総テ船長又ハ乗組人ノ懈怠ヨリ生シタル偶然ノ事故ニ依リ商品ニ生セシメタル損害ハ亦同シク商品ノ所有者ニ於テ負担スル所ノ特別ナル運輸損害ナリトス然レトモ商品ノ所有者ハ其運輸損害ニ付テハ船長、船及ヒ船ノ貸賃ニ対シテ償還ノ訟求権ヲ有スルモノトス 第四百六条 港口又ハ河口ニ出入スル為メノ水先案内税、洩船税、引水税並ニ出帆免許、検査、報告、浮標、瀬印ノ税、碇泊税及ヒ其他ノ航行ノ税ハ運輸損害ニアラスシテ船ノ負任タル単一ナル費用ナリトス 第四百七条 船ノ衝突ノ場合ニ於テ若シ其衝突カ純然意外ノモノタル時ハ其損害ヲ受ケタル船ニ於テ之ヲ負担ス可クシテ他ノ船ヨリ之ヲ取戻スコトヲ得ス 若シ一方ノ船長ノ過失ニ依リ衝突ヲ為サシメタル時ハ其損害ヲ生セシメタル者ヨリ之ヲ弁済ス可シ 若シ衝突ノ原由ニ於テ疑アル時ハ損害ヲ生セシメ及ヒ之ヲ受ケタル双方ノ船ニ於テ共通ノ費用ヲ以テ平等ノ部分ニ於テ其損害ヲ補償ス可シ 右最後ニ記シタル二個ノ場合ニ於テ損害ノ見積ハ鑑定人之ヲ為ス可シ 第四百八条 若シ共通ノ運輸損害カ船ト商品トノ相合シタル価額ノ百分ノ一ニ過キサル時又特別ナル運輸損害カ亦其損害ヲ受ケタル物ノ価額ノ百分ノ一ニ過キサル時ハ運輸損害ノ為メノ訟求ヲ受理ス可カラス 第四百九条 運輸損害ヲ免カルヽノ約款アル時ハ保険人共通ノモノタルト特別ノモノタルトヲ問ハス総テ運輸損害ヲ免カルヽモノトス但シ委棄ヲ為スコトヲ得可キ場合ハ格別ニシテ此場合ニ於テハ被保険人其委棄ヲ為シ又ハ運輸損害ニ於ケル訴権ノ執行ヲ為スコト自由ナリトス ○第拾弐巻 投荷及ヒ分担 第四百拾条 若シ風波ノ為メ又ハ敵ニ追ハルヽカ為メ船長船ノ安全ノ為メ其積荷ノ一部分ヲ海ニ投入レ又ハ其檣ヲ切リ又ハ其錨ヲ棄テサルヲ得スト思考スル時ハ其船中ニ在ル所ノ積荷関係人及ヒ乗組人中重立チタル者ノ意見ヲ問フ可シ 若シ其意見ノ相異ナル時ハ船長及ヒ乗組人中重立チタル者ノ意見ニ従フ可シ 第四百拾壱条 最モ必要ナラスシテ最モ重ク且ツ最モ廉価ナル物件ヲ第一ニ投入ル可ク次キニ船長ノ撰択ニ任カセ且ツ乗組人中重立チタル者ノ意見ヲ聴キタル上ニテ第一層ノ甲板上ニアル商品ヲ投入ル可シ 第四百拾弐条 船長ハ其商議ノ旨ヲ書面ニ記スルノ方便ヲ得ルヤ否直チニ之ヲ書面ニ記ス可キモノトス 其商議ノ書面ニハ左ノ諸件ヲ明記スルモノトス 投入ヲ決セシメタル理由 其投入レ又ハ損害ヲ被ムリタル物件 其商議ノ書面ニハ商議者之ニ署名ス可ク又ハ署名スルコトヲ否拒シタル理由ヲ記ス可シ 其商議ノ書面ハ簿冊ニ登記ス可シ 第四百拾三条 船ノ到着スル第一次ノ港ニ於テ船長ハ其到着ヨリ二十四時内ニ簿冊ニ登記シタル商議書中ニ載スル所ノ実事ヲ確言ス可キモノトス 第四百拾四条 損失及ヒ損害ノ目録ハ船ノ荷缷ノ地ニ於テ船長ノ求メニ依リ鑑定人之ヲ作ル可シ 若シ仏蘭西ノ港ニ於テ荷缷ヲ為ス時ハ商事裁判所ヨリ鑑定人ヲ撰任ス可シ 商事裁判所ノアラサル地ニ於テハ治安裁判官ヨリ鑑定人ヲ撰任ス可シ 若シ外国ノ港ニ於テ荷缷ヲ為ス時ハ仏蘭西ノ領事ヨリ鑑定人ヲ撰任ス可ク若シ其アラサルニ於テハ其地ノ官吏之ヲ撰任ス可シ 鑑定人ハ其所為ニ取掛ル前ニ誓ヲ為ス可シ 第四百拾五条 投入レタル商品ハ荷缷ノ地ノ通価ニ従ヒ之ヲ評価ス可シ但シ其品質ハ積荷目録ヲ差出スコトニ依リ又勘定書ノアルニ於テハ其勘定書ヲ差出スコトニ依リ之ヲ証明ス可キモノトス 第四百拾六条 前条ニ拠リ撰任セラレタル鑑定人ハ損失及ヒ損害ノ配当ヲ為ス可シ 其配当ハ裁判所ノ認可ニ依リ執行ス可キモノト為ス可シ 外国ノ港ニ於テハ仏蘭西ノ領事ヨリ其配当ヲ執行ス可キモノト為シ若シ其アラサル時ハ其地ニ於ケル該管裁判所ヨリ之ヲ執行ス可キモノト為ス可シ 第四百拾七条 損失及ヒ損害ノ弁済ノ為メノ配当ハ荷缷ノ地ニ於ケル其価額ノ割合ヲ以テ投入レテ救ハレタル品物ト船及ヒ船ノ貸賃ノ半額トニ付キ之ヲ為ス可シ 第四百拾八条 若シ商品ノ品質ヲ積荷目録ニ偽リ記シ而シテ其商品ノ更ニ大ナル価額ノモノタルヲ見出シタル時ハ其商品ノ救ハレタルニ於テハ其評価ノ割合ヲ以テ分担セシム可シ 若シ其商品ヲ失ヒタル時ハ積荷目録ニ指定メタル品質ニ従ヒ之ヲ弁済ス可シ 若シ申述セラレタル商品カ積荷目録ニ指示セラレタル品質ニ劣リシモノタル時ハ其商品ノ救ハレタルニ於テハ積荷目録ニ指示シタル品質ニ従ヒ分担セシム可シ 若シ其商品ノ投入レラレ又ハ損害ヲ被ムリタル時ハ其価額ノ割合ヲ以テ之ヲ弁済ス可シ 第四百拾九条 軍需品及ヒ飲食品並ニ乗組人ノ衣服ハ投入ヲ分担セサルモノトス而シテ此等ノ物ヲ投入レタル時ハ其投入レタルモノヽ価額ハ総テ其他ノ品物ニ分担セシメテ之ヲ弁済ス可シ 第四百弐拾条 積荷目録ノアラス又ハ船長ニ申述セサル品物ハ仮令投入レタル時ト雖モ之ヲ弁済セサルモノトス而シテ若シ其品物ノ救ハレタル時ハ之ヲシテ分担セシム可シ 第四百弐拾壱条 船ノ甲板上ニ積入レタル品物ハ若シ其救ハレタルニ於テハ分担セシム可シ 若シ其投入レラレ又ハ投入ノ為メニ損害ヲ被ムリタル時ハ所有者ヨリ分担ニ於ケル訟求ヲ為スコトヲ許サス其所有者ハ唯船長ニ対シテ其償還ノ訟求ヲ行フコトヲ得可キノミトス 第四百弐拾弐条 投入ヲ容易ナラシムル為メニ損害ヲ為シタル場合ニ非サレハ船ニ生シタル損害ノ為メニ分担ヲ為サシム可カラス 第四百弐拾三条 若シ投入ノ為メニ船ヲ救フコト能ハサリシ時ハ分担ヲ為サシム可カラス 救ハレタル商品ハ投入レラレ又ハ損害ヲ被ムリタル商品ノ弁済ヲモ又其損害賠償ヲモ負担セサルモノトス 第四百弐拾四条 投入ノ為メニ船ヲ救フコトヲ得テ而シテ船ノ其航行ヲ継続スルニ於テ之ヲ失ヒタル時ハ其救ハレタル品物ハ現在ノ景状ニ於ケル其価額ノ割合ヲ以テ投入ヲ分担ス可シ但シ其価額中ヨリ救出ノ費用ヲ引去ル可キモノトス 第四百弐拾五条 投入レラレタル品物ハ如何ナル場合ニ於テモ投入ノ後ニ其救ハレタル商品ニ生シタル損害ノ弁済ヲ分担セサルモノトス 商品ハ破滅シタル船又ハ航海ヲ為スニ堪ヘサル景状ニ至リシ船ノ弁済ヲ分担セサルモノトス 第四百弐拾六条 若シ商議ニ拠リ商品ヲ引出ス為メ船ニ孔竅ヲ穿開シタル時ハ其商品ハ船ニ生セシメタル損害ノ補償ヲ分担スルモノトス 第四百弐拾七条 港又ハ河口ニ入ル船ヲ軽クスル為メ小船ニ積入レタル商品ヲ失ヒシ場合ニ於テハ船ト其積荷ノ全部トニ其損失ノ配当ヲ為ス可シ 若シ船ヲ其余ノ積荷ト共ニ失ヒタル時ハ小船ニ積入レタル商品ノ安着シタル時ト雖モ其商品ニ少シモ配当ヲ為ス可カラス 第四百弐拾八条 前ニ明示シタル総テノ場合ニ於テハ船長及ヒ乗組人ハ分担ノ金額ノ為メ商品又ハ其商品ヨリ得ル所ノ代金ニ付キ先取特権ヲ有スルモノトス 第四百弐拾九条 若シ配当ノ後ニ至リ嘗テ投入レタル品物ヲ其所有者ノ取戻シタル時ハ其所有者ハ投入ニ依リ生シタル損害ト取戻ノ費用トヲ引去リテ其嘗テ分担ニ於テ収受シタル所ノモノヲ船長及ヒ関係各人ニ返還ス可シ ○第拾三巻 期満効 第四百三拾条 船長ハ期満効ノ方法ニ依テ船ノ所有権ヲ獲得スルコトヲ得ス 第四百三拾壱条 委棄ニ於ケル訴権ハ第三百七十三条ニ明記シタル期限ヲ以テ期満効ニ依リ消滅スルモノトス 第四百三拾弐条 凡ソ航海ノ危険ヲ冒ス貸借契約又ハ保険ノ契約ヨリ生スル所ノ訴権ハ契約ノ日附ヨリ起算シテ五年ノ後ニ期満効ニ依リ消滅スルモノトス 第四百三拾三条 凡ソ船ノ貸賃並ニ役員、水夫及ヒ其他ノ乗組人ノ雇賃及ヒ給料ノ為メニ弁済ヲ求ムルノ訴権ハ其航行ノ終リシ時ヨリ一年ノ後ニ期満効ニ依リ消滅スルモノトス 船長ノ差図ニ依リ水夫ニ供給シタル飲食料ノ為メニ弁済ヲ求ムルノ訴権ハ其引渡ノ時ヨリ一年ノ後ニ期満効ニ依リ消滅スルモノトス 造船並ニ船ノ艤装及ヒ飲食料供備ノ為メニ必要ナル木材及ヒ其他ノ物ノ供給ノ為メニ弁済ヲ求ムルノ訴権ハ其供給ヲ為シタル時ヨリ一年ノ後ニ期満効ニ依リ消滅スルモノトス 職工ノ給料及ヒ為シタル工作ノ為メニ弁済ヲ求ムルノ訴権ハ其工作物ヲ収受シタル時ヨリ一年ノ後ニ期満効ニ依リ消滅スルモノトス 凡ソ商品ノ引渡ニ於ケル訟求ハ船ノ到着ヨリ一年ノ後ニ期満効ニ依リ消滅スルモノトス 第四百三拾四条 若シ私シノ義務認定証書、公正ノ義務認定証書、計算決定書又ハ裁判上ノ権利認定ノ要求アル時ハ期満効ヲ得ルコトヲ得ス ○第拾四巻 拒訴ノ憑拠 第四百三拾五条 凡ソ商品ニ生シタル損害ノ為メ船長及ヒ保険人ニ対スル訴ハ若シ異論ナク其商品ヲ収受シタル時ハ之ヲ受理ス可カラス 凡ソ運輸損害ノ為メ船ノ賃借人ニ対スル訴ハ若シ船長ノ異論ヲ述ヘスシテ商品ヲ引渡シ而シテ其船ノ賃貸ヲ収受シタル時ハ之ヲ受理ス可カラス 凡ソ船長ノ要求ヲ為スコトヲ得可キ地ニ於テ衝突ニ依リ生シタル損害ノ為メニ賠償ヲ求ムルノ訴ハ若シ其船長ヨリ要求ヲ為サヽル時ハ之ヲ受理ス可カラス 第四百三拾六条 其異論申述書及ヒ要求書ハ二十四時内ニ之ヲ作リ及ヒ送達セス且ツ其日附ヨリ一月内ニ裁判所ニ訟求ヲ為サヽル時ハ無効ナリトス ○第三編 家資分散及ヒ倒産 ○第壱巻 家資分散 ○総則 第四百三拾七条 凡ソ其弁済ヲ止息スル処ノ各商人ハ家資分散ノ景状ニ於テアルモノトス 商人ノ家資分散ハ若シ其商人ノ弁済ヲ止息スル景状ニ於テ死去セシ時ハ其死去ノ後ニ之ヲ公告スルコトヲ得可シ 家資分散ノ公告ハ死去ノ後一年内ニ非サレハ職権上ヨリ之ヲ宣告スルコトヲ得ス又債主ヨリ之ヲ訟求スルコトヲ得ス ○第壱章 家資分散ノ公告及ヒ其効 第四百三拾八条 凡ソ家資分散人ハ其弁済ヲ止息セシ時ヨリ三日内ニ其住所ノ商事裁判所ノ書記局ニ其申述ヲ為ス可シ○其弁済ヲ止息シタル日ハ右ノ三日内ニ包含ス可キモノトス 合名会社ノ家資分散ノ場合ニ於テハ其申述書ニ各連帯社員ノ姓名及ヒ住所ノ指示ヲ記ス可シ○其申述ハ会社ノ主タル設立場所在ノ地ヲ管轄スル裁判所ノ書記局ニ之ヲ為ス可シ 第四百三拾九条 家資分散人ノ申述書ニハ権利義務ノ目録ヲ添ヘテ差出ス可ク又ハ家資分散人ノ其目録ヲ差出スコト能ハサル理由ノ指示ヲ記ス可シ○其権利義務ノ目録ニハ負債者ノ総テノ動産及ヒ不動産ノ列記及ヒ代価ノ見積、能働及ヒ所働ノ負債ノ目録、利益及ヒ損失ノ表、費額ノ表ヲ記ス可シ但シ其権利義務ノ目録ハ負債者ニ於テ其真正ナル旨ヲ保証シテ之レカ日附ヲ記シ且ツ之ニ署名セサル可カラス 第四百四拾条 家資分散ハ家資分散人ノ申述ニ依リ若クハ債主一名又ハ数名ノ請願ニ依リ若クハ職権上ニテ為シタル商事裁判所ノ裁判ヲ以テ之ヲ公告ス可シ○其裁判ハ仮リニ執行ス可キモノトス 第四百四拾壱条 裁判所ハ家資分散ヲ公告スル裁判ニ依リ又ハ委員裁判官ノ報告ノ上ニテ為シタル其後ノ裁判ニ依リ職権上ニテ若クハ関係各人ノ訟求ニ従ヒ弁済ノ止息ノアリタル時期ヲ定ム可シ○其特別ナル定メノアラサルニ於テハ家資分散ヲ公告スル裁判ノ時ヨリシテ弁済ノ止息ノアリタルモノト看做ス可シ 第四百四拾弐条 前二条ニ拠リ為シタル裁判書ハ此法典第四十二条ニ定メタル仕方ニ従ヒ之ヲ貼附シ且ツ家資分散ヲ公告シタル地及ヒ家資分散人ノ其商業上ノ設立場ヲ有スル各地ノ新聞紙ニ抜書ヲ以テ記入ス可シ 第四百四拾三条 家資分散ヲ公告スル裁判ハ其日附ノ時ヨリシテ当然其家資分散人ノ為メニ総テ其財産ノ管理又然ノミナラス家資分散ノ景状ニアル間ニ其受クルコトアル可キ財産ノ管理ノ放棄ヲ惹起スルモノトス 右ノ裁判ノ時ヨリシテ凡ソ動産又ハ不動産ノ訴ハ債主総代人ニ対スルニ非サレハ之ヲ継続シ又ハ之ヲ起スコトヲ得ス 動産並ニ不動産ニ対スル総テノ執行ノ方法ニ付テモ亦右ト同一ナリトス 裁判所ニ於テ相当ナリト思考スル時ハ家資分散人ヲ参渉者トシテ容受スルコトヲ得可シ 第四百四拾四条 家資分散ヲ公告スル裁判ハ家資分散人ニ関シテハ期限ニ至ラサル所働ノ負債ト雖モ其償還ヲ要求スルヲ得可キモノタラシム 指図手形ノ署名者、為替手形ノ受諾者又ハ受諾セサル時ニ於ケル差立人ノ家資分散ノ場合ニ於テハ其他ノ義務者ハ期限ニ至リ其弁済ヲ為ス為メノ保証人ヲ立ツ可シ但シ他ノ義務者カ即時直チニ弁済スルコトヲ欲スル時ハ格別ナリトス 第四百四拾五条 家資分散ヲ公告スル裁判ハ債主ノ合部ノミニ関シテ凡ソ先取特権ニ依リ、質入ニ依リ又ハ書入質ニ依テ担保セラレサル各債権ノ利息ノ進行ヲ止ムルモノトス 其担保セラレタル債権ノ利息ハ先取特権、書入質又ハ質入ニ供シタル財産ヨリ得ル所ノ金額ノミニ付キ之ヲ得ント要求スルコトヲ得可シ 第四百四拾六条 負債者ノ其弁済ヲ止息シタル時期ナリトシテ裁判所ヨリ定メタル時期ノ後又ハ其時期ヨリ前十日内ニ負債者ノ左ノ諸件ヲ為シタル時ハ其諸件ハ債主ノ合部ニ関シテハ無効ニシテ其効ヲ生セサルモノトス 凡ソ無償ノ名義ニテ動産又ハ不動産ノ所有権ヲ移転スル所為 凡ソ期限ニ至ラサル負債ニ付テハ貨幣ニ於テ若クハ転移、売渡、相殺又ハ其他ノ方法ニ於テ為シタル弁済又期限ニ至リタル負債ニ付テハ貨幣又ハ商業手形ヨリモ更ニ他ノ方法ニ於テ為シタル弁済 以前負ヒタル負債ノ為メニ負債者ノ財産ニ付キ設定シタル総テ合意上又ハ裁判上ノ書入質及ヒ不動産質又ハ動産質ノ権利 第四百四拾七条 期限ニ至リタル負債ノ為メ負債者ノ為シタル総テ其他ノ弁済並ニ其弁済ノ止息ノ後及ヒ家資分散ヲ公告スル裁判ノ前ニ負債者ノ為シタル有償ノ名義ニ於ケル総テ其他ノ所為ハ若シ其負債者ヨリ収受シタル者又ハ負債者ト合意シタル者ノ方ニ於テ其弁済ノ止息ヲ知リテ之ヲ為シタル時ハ其弁済及ヒ所為ヲ取消スコトヲ得可シ 第四百四拾八条 有効ニ獲得シタル書入質及ヒ先取特権ノ権利ハ家資分散ヲ公告スル裁判ノ日ニ至ル迄之ヲ記入スルコトヲ得可シ 然レトモ弁済止息ノ時期ヨリ後又ハ其以前十日内ニ為シタル記入ハ書入質又ハ先取特権ヲ設定スル証書ノ日附ト記入ノ日附トノ間ニ十五日以上ノ経過シタル時ハ無効ナリト宣告スルコトヲ得可シ 右ノ期限ハ書入質ノ権利ヲ獲得シタル地ト記入ヲ為ス地トノ間ニ五「ミリアメートル」ノ距離毎ニ一日ヲ増加ス可シ 第四百四拾九条 弁済止息ノ時期ナリトシテ定メタル時期ノ後及ヒ家資分散ヲ公告スル裁判ノ前ニ為替手形ヲ弁済シタル場合ニ於テハ其計算ノ為メニ為替手形ヲ差立テタル其人ニ対スルニ非サレハ返還ニ於ケル訴ヲ起スコトヲ得ス 若シ差図手形ニ関スル時ハ第一ノ裏書人ニ対スルニ非サレハ右ノ訴権ヲ執行スルコトヲ得ス 右ノ中何レノ場合ニ於テモ返還ヲ訟求セラレタル者ノ其証券発出ノ時期ニ於テ弁済ノ止息ヲ知リタルノ証ヲ立テサル可カラス 第四百五拾条 債主総代人ハ家資分散人ノ工業又ハ商業ノ用ニ供シタル不動産並ニ其不動産ニ附属シタルモノニシテ家資分散人及ヒ其家族ノ住居ニ用立ツ場所ノ賃借ニ付テハ商法第四百九十二条ニ依リ其債権調査ノ為メ仏蘭西ニ住スル各債主ニ附与セラレタル猶予期限ノ終ル時ヨリ八日ノ猶予ヲ有シ其八日ノ猶予間ニ賃借人ノ総テノ義務ヲ履行スルノ負任ヲ以テ其賃借ヲ継続セントスルノ意思ヲ所有者ニ通知スルコトヲ得可シ 其通知ハ委員裁判官ノ許可ヲ得且ツ家資分散人ノ申立ヲ聴キタル上ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス 右八日ノ終リニ至ル迄ハ家資分散人ノ商業又ハ工業ノ収益ニ用立ツ動産ニ付テノ総テ執行ノ方法及ヒ賃借ノ取消ニ於ケル総テノ訴ヲ停止ス可シ但シ総テ保存ノ処分及ヒ所有者ノ其賃貸シタル場所ノ占有ヲ取戻ス為メ其所有者ノ獲得シタル権利ト相触ルヽコトナカル可シ 此場合ニ於テハ本条ニ定メタル執行ノ方法ノ停止ハ当然止息ス可キモノトス 賃貸人ハ債主総代人ヨリ己レニ受ケタル通知ノ後十五日内ニ其取消ニ於ケル訟求ヲ為サヽル可カラス 若シ賃貸人ノ右ノ期限内ニ其訟求ヲ為サヽル時ハ既ニ自己ノ利益ニ於テ存在スル取消ノ原由ヲ益用スルコトヲ放棄シタルモノト看做サル可シ ○第弐章 委員裁判官ノ選任 第四百五拾壱条 家資分散ヲ公告スル裁判ニ依リ商事裁判所ヨリ其職員中ノ一名ヲ委員裁判官トシテ指定ス可シ 第四百五拾弐条 委員裁判官ハ家資分散管理ノ行為ヲ速カナラシメ及ヒ之ヲ監視スルコトヲ特別ニ委任セラルヽモノトス 委員裁判官ハ家資分散ノ為メニ生スルコトアリテ而シテ商事裁判所ノ管轄タル総テノ争訟ノ報告ヲ商事裁判所ニ為ス可シ 第四百五拾三条 委員裁判官ノ命令ハ法律ニ依リ定メタル場合ニ非サレハ之ヲ取消サント訟求スルコトヲ得ス○其取消ノ訟求ハ商事裁判所ニ之ヲ申告ス可シ 第四百五拾四条 商事裁判所ハ如何ナル時期ニ於テモ家資分散ノ委員裁判官ヲ其職員中更ニ其他ノ者ヲ以テ引易ユルコトヲ得可シ ○第三章 封印ヲ附スル事及ヒ家資分散人ノ身体ニ関スル最初ノ処分 第四百五拾五条 家資分散ヲ公告スル裁判ニ依リ裁判所ハ封印ヲ附スル事及ヒ負債ノ為メノ収監場ニ家資分散人ノ身体ヲ預クル事又ハ警察或ハ司法ノ官吏若クハ憲兵ヲシテ負債者ノ身体ヲ監守セシムル事ヲ命令ス可シ 然レトモ若シ委員裁判官カ唯一日ニテ家資分散人ノ能働件ノ目録ヲ作リ得可シト思考スル時ハ封印ヲ附スルコトナクシテ直チニ目録ニ取掛ル可シ 右ノ景状ニ於テハ其家資分散人ニ対シテ如何ナル種類ノ負債ノ為メト雖モ入獄状又ハ釈放ニ付テノ故障申立ヲ受理スルコトヲ得ス 第四百五拾六条 家資分散人ノ第四百三十八条及ヒ第四百三十九条ヲ遵守シ而シテ其家資分散公告ノ時ニ於テ負債ノ為メ又ハ其他ノ原由ノ為メニ拘留セラルヽコトナキ時ハ裁判所ヨリ其身体ノ留置又ハ監守ヲ免カレシムルコトヲ得可シ 家資分散人ヲシテ其身体ノ留置又ハ監守ヲ免カレシムル裁判ノ所定ハ何時ニ限ラス景況ニ従ヒ後ニ商事裁判所ヨリ其職権上ニテモ之ヲ取消スコトヲ得可シ 第四百五拾七条 商事裁判所ノ書記ハ封印ヲ附スル事ヲ命令シタル裁判ノ所定ノ報告ヲ即時ニ治安裁判官ニ差送ル可シ 治安裁判官ハ其裁判ノ前ト雖モ職権上ヨリ若クハ債主一名又ハ数名ノ請求ニ依リ封印ヲ附スルコトヲ得可シ然レトモ唯負債者ノ家出ノ場合又ハ其能働件ノ全部或ハ一部ヲ詐取シタル場合ノミニ於テ之ヲ為スコトヲ得可キモノトス 第四百五拾八条 封印ハ家資分散人ノ倉庫、舗店、箱筐、書類挟、帳簿、書類、動産及ヒ品物ニ之ヲ附ス可シ 合名会社ノ家資分散ノ場合ニ於テハ其会社ノ主タル設立場ノミナラス各連帯社員ノ別々ノ住所ニ於テモ封印ヲ附ス可シ 如何ナル場合ニ於テモ治安裁判官ハ遅延ナク商事裁判所長ニ封印ヲ附シタル旨ノ報告ヲ為ス可シ 第四百五拾九条 商事裁判所ノ書記ハ家資分散ヲ公告スル裁判書ノ抜書ヲ二十四時内ニ其管轄地ノ検事ニ差送ル可シ但シ其抜書ニハ右裁判書ニ記シタル重立チタル指示及ヒ所定ヲ記載ス可キモノトス 第四百六拾条 家資分散人ノ身体ヲ負債ノ為メノ収監場ニ預クル事又ハ其身体ヲ監守スル事ヲ命令スル所定ハ検察官若クハ家資分散ノ債主総代人ノ求メニ依リ之ヲ執行ス可シ 第四百六拾壱条 若シ家資分散ニ属スル金額カ家資分散ヲ公告スル裁判ノ費用、其裁判書ヲ貼附シ及ヒ新聞紙ニ記入スルノ費用、封印ヲ附スルノ費用、家資分散人ヲ拘引シテ之ヲ拘留スルノ費用ニ直チニ充分スルコトヲ得サル時ハ委員裁判官ノ命令ニ依リ国庫ヨリ右費用ノ立替ヲ為シ置キ而シテ第一ニ収受シタル金額ニ付テノ先取特権ヲ以テ国庫ニ其立替金ヲ償還ス可キモノトス但シ所有者ノ先取特権ト相触ルヽコトナカル可シ ○第四章 仮リノ債主総代人ノ選任及ヒ引易 第四百六拾弐条 家資分散ヲ公告スル処ノ裁判ニ依リ商事裁判所ヨリ仮リノ債主総代人一名又ハ数名ヲ選任ス可シ 委員裁判官ハ十五日ニ過ク可カラサル期限内ニ集合ヲ為サシムル為メ思量セラレタル各債主ヲ直チニ招集ス可シ○委員裁判官ハ思量セラレタル各債主ノ姓名表ノ組成ト更ニ新タナル債主総代人ノ選任トニ付キ右ノ集合ニ出席シタル各債主ニ相談ス可シ○其各債主ノ申立及ヒ意見ノ調書ヲ作リテ之ヲ裁判所ニ呈示ス可キモノトス 裁判所ニ於テハ其調書及ヒ思量セラレタル各債主ノ姓名表ヲ検視シ且ツ委員裁判官ノ報告ヲ受ケタル上ニテ更ニ新タナル債主総代人ヲ選任シ又ハ初メノ債主総代人ヲシテ其職務ヲ継続セシム可シ 斯クノ如クニ設置セラレタル債主総代人ハ確定ノモノトス然レトモ其債主総代人ハ後ニ定ムル処ノ場合ニ於テ其法式ニ従ヒ商事裁判所ヨリ之ヲ引易ユルコトヲ得可シ 債主総代人ノ員数ハ如何ナル時期ニ於テモ三名迄ニ為スコトヲ得可シ又其債主総代人ハ債主ノ合部以外ノ各人中ヨリ之ヲ撰ムコトヲ得可ク而シテ其分限ノ如何ヲ問ハス其管理ノ計算ヲ為シタル後、委員裁判官ノ報告ノ上裁判所ヨリ裁定スル処ノ賠償ヲ受クルコトヲ得可シ 第四百六拾三条 凡ソ第四級ニ至ル迄ノ家資分散人ノ血属親又ハ姻属親ハ債主総代人ニ選任セラルヽコトヲ得ス 第四百六拾四条 債主総代人一名又ハ数名ヲ増添シ又ハ之ヲ引易ユルコトヲ為ス可キ時ハ委員裁判官ヨリ商事裁判所ニ其旨ヲ報告シ而シテ裁判所ニ於テハ第四百六十二条ニ定メタル法式ニ従ヒ其選任ニ取掛ル可キモノトス 第四百六拾五条 若シ債主総代人数名ヲ選任シタル時ハ其数名ハ相連合スルニ非サレハ事ヲ行フヲ得ス然レトモ委員裁判官ハ其中ノ一名又ハ数名ニ別々ニ特定ノ管理ノ所為ヲ行フ為メノ特別ナル許可ヲ附与スルコトヲ得可シ○右最後ニ記シタル場合ニ於テハ其許可セラレタル債主総代人ノミ責ニ任ス可キモノトス 第四百六拾六条 若シ債主総代人ノ行為中ノ或者ニ対シテ要求ノ起リタル時ハ委員裁判官三日ノ期限内ニ裁定ス可シ但シ商事裁判所ニ其裁定ノ取消ヲ訟求スルコトヲ得可キモノトス 委員裁判官ノ裁決ハ仮リニ執行ス可キモノトス 第四百六拾七条 委員裁判官ハ家資分散人又ハ各債主ヨリ己レニ受ケタル要求ニ拠リ若クハ然ノミナラス其職権上ニテ債主総代人一名又ハ数名ノ廃止ヲ申立ツルコトヲ得可シ 若シ八日内ニ委員裁判官ノ其己レニ受ケタル要求ヲ裁定セサル時ハ其要求ヲ裁判所ニ申告スルコトヲ得可シ 裁判所ハ裁判官会議室ニ於テ委員裁判官ノ報告及ヒ債主総代人ノ弁明ヲ聴キ而シテ審問席ニ於テ其廃止ニ付キ宣告ヲ為ス可シ ○第五章 債主総代人ノ職務 ○第壱節 総則 第四百六拾八条 債主総代人ヲ選任スル前ニ封印ヲ附セサリシ時ハ其債主総代人ヨリ治安裁判官ニ封印ヲ附スルコトヲ請求ス可シ 第四百六拾九条 委員裁判官ハ亦債主総代人ノ訟求ニ依リ左ノ諸件ニ封印ヲ附スルコトヲ其債主総代人ニ免シ又ハ左ノ諸件ヲ封印中ヨリ抜出サシムルコトヲ其債主総代人ニ許可スルヲ得可シ 第一 家資分散人及ヒ其家族ノ為メニ必要ナル衣服、動産及ヒ品物但シ債主総代人ヨリ委員裁判官ニ呈示スル処ノ目録ニ拠リ委員裁判官ヨリ其引渡ヲ許可ス可キモノトス 第二 日ヲ経スシテ損敗ス可キ物件又ハ差迫リタル減価ヲ受ク可キ物件 第三 各債主ノ為メニ損害ナクシテ商業ノ元資ノ収益ヲ中断スルコトヲ得サル時ハ其収益ニ用立ツ処ノ物件 前二項ニ記シタル物件ハ治安裁判官ノ面前ニ於テ債主総代人其評価ヲ為シテ直チニ之ヲ財産目録ニ記ス可シ但シ治安裁判官ハ其調書ニ署名ス可キモノトス 第四百七拾条 損敗ス可ク又ハ差迫リタル減価ヲ受ク可キ物件又ハ保存スルニ多クノ費用ヲ要スル物件ノ売払及ヒ商業ノ元資ノ収益ハ委員裁判官ヨリ許可ノ上債主総代人ノ求メニ依テ之ヲ為ス可シ 第四百七拾壱条 帳簿ハ治安裁判官ノ之ニ終結ノ旨ヲ記シタル後封印中ヨリ抜出シテ治安裁判官ヨリ之ヲ債主総代人ニ交付ス可シ但シ治安裁判官ハ其調書ヲ以テ右帳簿ノ現在ノ景状ヲ簡略ニ証明ス可キモノトス 短キ期限ニ於ケル商業上ノ手形又ハ受諾ヲ受ク可キモノタル商業上ノ手形又ハ権利保存ノ所為ヲ行フコトヲ要スル商業上ノ手形ハ亦治安裁判官封印中ヨリ抜出シテ之ヲ明記シ而シテ其金額ノ収受ヲ為ス為メ之ヲ債主総代人ニ交付ス可シ○其明細書ハ之ヲ委員裁判官ニ交付ス可キモノトス 其他ノ債権ハ債主総代人ノ受取証書ヲ以テ総代人其金額ヲ収受ス可シ○家資分散人ニ宛テ送リタル書状ハ之ヲ債主総代人ニ交付シ総代人之ヲ開封ス可シ但シ家資分散人ハ其席ニ在ルニ於テハ開封ニ立会フコトヲ得可キモノトス 第四百七拾弐条 委員裁判官ハ家資分散人ノ事業ノ外見ノ景状ニ従ヒ其身体ノ仮リノ護身ノ証票ヲ与ヘテ之ヲ釈放セント申立ツルコトヲ得可シ○裁判所ヨリ其護身ノ証票ヲ附与スル時ハ家資分散人ヲシテ其出席スル為メノ保証人ヲ立テシムルコトヲ得可ク若シ家資分散人ノ其保証人ヲ立テサル時ハ裁判所ヨリ裁定シタル金額ヲ弁済セシメ而シテ其金額ヲ債主ノ合部ニ帰ス可キモノトス 第四百七拾三条 委員裁判官ヨリ家資分散人ノ為メニ護身ノ証票ヲ申立サル時ハ家資分散人ヨリ商事裁判所ニ其訟求書ヲ呈出スルコトヲ得可ク而シテ商事裁判所ハ委員裁判官ノ意見ヲ聴キタル後公ケノ審問席ニ於テ裁定ス可キモノトス 第四百七拾四条 家資分散人ハ其家資分散ノ能働件中ニ就キ自己ト其家族トノ為メニ養料ノ扶助ヲ受クルコトヲ得可ク而シテ其扶助ハ債主総代人ノ申立ニ拠リ委員裁判官之ヲ定ム可シ但シ争訟ノ場合ニ於テハ裁判所ニ控訴スルコトヲ得可キモノトス 第四百七拾五条 債主総代人ハ家資分散人ノ面前ニ於テ帳簿ヲ終了シ及ヒ其終結ノ旨ヲ記スル為メ其家資分散人ヲ招喚ス可シ 若シ家資分散人ノ其招喚ニ応セサル時ハ遅クトモ四十八時内ニ出席スル為メノ催促ヲ受ク可シ 家資分散人ノ護身ノ証票ヲ得タルト否トヲ問ハス委員裁判官ノ有効ナリト認メタル差支ノ原由ヲ証明スル時ハ代理人ヲシテ出席セシムルコトヲ得可シ 第四百七拾六条 家資分散人ノ権利義務ノ目録ヲ差出サヽル場合ニ於テハ債主総代人其家資分散人ノ帳簿及ヒ書類ト其己レニ得タル参照件トニ依テ直チニ其権利義務ノ目録ヲ作リ而シテ之ヲ商事裁判所ノ書記局ニ差出ス可シ 第四百七拾七条 委員裁判官ハ権利義務ノ目録ノ作リ方ニ関シ並ニ家資分散ノ原由及ヒ景況ニ関シテ其家資分散人、其管店者、其使用ヲ受クル者及ヒ総テ其他ノ各人ノ申立ヲ聴クコトヲ許サルヽモノトス 第四百七拾八条 若シ商人カ其死去ノ後ニ家資分散ヲ公告セラレ又ハ家資分散人カ其家資分散公告ノ後ニ死去シタル時ハ其寡婦、其子及ヒ其相続人ハ権利義務ノ目録ヲ作ルコト並ニ総テ其他ノ家資分散ノ行為ニ於テ其家資分散人ニ代ハル為メ自カラ出席シ又ハ代理人ヲ差出スコトヲ得可シ ○第弐節 封印ノ除去及ヒ財産目録 第四百七拾九条 債主総代人ハ三日内ニ封印ノ除去ヲ請求シテ家資分散人ノ財産ノ目録ニ取掛ル可シ但シ家資分散人ハ出席シ又ハ適法ニ之ヲ招喚ス可キモノトス 第四百八拾条 債主総代人ハ封印ヲ除去スルニ従ヒ治安裁判官ノ面前ニ於テ財産目録ヲ細字ノ正本二通ニ作ル可シ但シ治安裁判官ハ各個ノ取調席毎ニ其目録ニ署名ス可キモノトス○右細字正本ノ中一通ハ二十四時内ニ商事裁判所ノ書記局ニ納メ他ノ一通ハ債主総代人ノ手裏ニ存シ置ク可シ債主総代人ハ財産目録ヲ作ルニ付テモ又物件ノ評価ヲ為スニ付テモ其相当ナリト思考スル処ノ者ノ資助ヲ受クルコト自由ナリトス 第四百六十九条ニ従ヒ封印ヲ附セスシテ既ニ目録ニ記シ且ツ評価シタル物件ハ之レカ照査ヲ為ス可シ 第四百八拾壱条 死去ノ後家資分散ヲ公告シタル場合ニ於テ若シ其公告ノ前ニ財産目録ヲ作ラサル時又ハ財産目録開始ノ前ニ家資分散人ノ死去シタル場合ニ於テハ前条ノ方法ニ従ヒ相続人ノ面前ニ於テ又ハ相続人ヲ適法ニ招喚シタル上ニテ直チニ財産目録ニ取掛ル可シ 第四百八拾弐条 凡ソ如何ナル家資分散ニ於テモ債主総代人ハ其職務ヲ任セラレ又ハ其職務ヲ保存セシメラレタル時ヨリ十五日内ニ家資分散ノ外見ノ景状、其重立チタル原由及ヒ景況並ニ其有シタリト思ハルヽ性質ノ覚書又ハ簡略ナル計算書ヲ委員裁判官ニ交付ス可シ 委員裁判官ハ其覚書ニ自己ノ意見書ヲ添ヘテ直チニ之ヲ検事ニ送付ス可シ○若シ委員裁判官ノ其定メアル期限内ニ右ノ覚書ヲ受取ラサル時ハ其旨ヲ検事ニ通知シ且ツ其遅延ノ原由ヲ検事ニ指示セサル可カラス 第四百八拾三条 検察官員ハ家資分散人ノ住所ニ赴キテ財産目録ニ立会フコトヲ得可シ 検察官員ハ如何ナル時期ニ於テモ家資分散ニ関スル各個ノ証書、帳簿又ハ書類ノ通知伝観ヲ請求スルノ権利アリトス ○第三節 商品及ヒ動産ノ売払並ニ金額ノ収受 第四百八拾四条 財産目録ヲ終リタル上ニテ負債者ノ商品、金円、能働ノ証券、帳簿、書類、動産、品物ヲ債主総代人ニ交付ス可シ但シ債主総代人ハ右財産目録ノ末ニ其諸件ヲ預カリタル旨ヲ記ス可キモノトス 第四百八拾五条 債主総代人ハ委員裁判官ノ監視ヲ受ケ能働ノ負債ノ収受ヲ引続テ為ス可キモノトス 第四百八拾六条 委員裁判官ハ家資分散人ノ申立ヲ聴キ又ハ適法ニ之ヲ招喚シタル上ニテ債主総代人ニ動産又ハ商品ノ売払ニ取掛ルコトヲ許可スルヲ得可シ 委員裁判官ハ協議上ニテ其費払ヲ為ス可キヤ若クハ商業世話人又ハ之レカ為メ特ニ設置セラレタル総テ其他ノ公ケノ役員ノ紹介ヲ以テ公ケノ糶売ニテ其売払ヲ為ス可キヤヲ決ス可シ 債主総代人ハ委員裁判官ノ定メタル公ケノ役員ノ種類中ニテ其紹介ヲ用ヒント欲スル処ノ者ヲ撰択ス可シ 第四百八拾七条 債主総代人ハ委員裁判官ノ許可ヲ受ケ且ツ適法ニ家資分散人ヲ招喚シタル上ニテ債主ノ合部ニ関スル総テノ争訟又然ノミナラス不動産ノ権利及ヒ訴権ニ関スル争訟ニ付テモ和解ヲ為スコトヲ得可シ 若シ和解ノ目的カ不定ノ価額又ハ三百「フランク」ニ過クル価額ノモノタル時ハ其和解ハ動産ノ権利ニ関スル和解ニ付テハ商事裁判所ノ認可ヲ受ケ又不動産ノ権利ニ関スル和解ニ付テハ民事裁判所ノ認可ヲ受ケタル後ニ非サレハ羈勒ノ力アルモノトセス 家資分散人ハ其認可ノ時ニ招喚セラル可シ而シテ家資分散人ハ如何ナル場合ニ於テモ其認可ニ付キ故障ヲ申立ツルノ権能ヲ有スルモノトス○若シ和解カ不動産ヲ以テ目的トスル時ハ家資分散人ノ故障申立ヲ以テ其和解ヲ防止スルニ足ルモノトス 第四百八拾八条 若シ家資分散人ノ拘留ヲ免カレタル時又ハ護身ノ証票ヲ得タル時ハ債主総代人其管理ヲ易カラシメ及ヒ之ヲ明カナラシムル為メ其家資分散人ヲ用フルコトヲ得可シ但シ委員裁判官ハ其家資分散人ノ労働ノ条件ヲ定ム可キモノトス 第四百八拾九条 売払及ヒ収受ヨリ得タル金額ハ費額及ヒ費用ノ額ノ為メニ委員裁判官ヨリ裁定シタル金額ヲ引去リテ直チニ之ヲ金額受託所ニ払入ル可シ○其金額受取ノ時ヨリ三日内ニ右ノ払入ヲ為シタル旨ヲ委員裁判官ニ証明ス可ク若シ遅延ノ場合ニ於テハ債主総代人其払入レサリシ金額ノ利息ヲ負担ス可キモノトス 債主総代人ノ払入レタル金額及ヒ其他総テ家資分散ノ計算ノ為メニ第三ノ人ヨリ附託シタル金額ハ委員裁判官ノ命令ニ拠ルニ非サレハ之ヲ取戻スコトヲ得ス○若シ其金額ノ取戻ニ付キ故障ノ申立アル時ハ債主総代人予メ其故障ノ解除ヲ得サル可カラス 委員裁判官ハ債主総代人ノ作リテ自己ノ其払渡ヲ差図シタル配当ノ目録ニ拠リ金額受託所ヨリ直接ニ家資分散ノ各債主ノ手裏ニ払渡ヲ為ス可キ旨ヲ命令スルコトヲ得可シ ○第四節 権利保存ノ所為 第四百九拾条 債主総代人ハ其職務ニ任シタル時ヨリシテ家資分散人ノ負債者ニ対シ其家資分散人ノ権利ヲ保存スル為メ総テノ所為ヲ行フ可キモノトス 債主総代人ハ若シ家資分散人ノ負債者ノ不動産ニ付テノ書入質ノ記入ヲ其家資分散人ヨリ請求セサリシ時ハ亦其記入ヲ請求ス可ク而シテ債主総代人ハ其選任ノ旨ヲ証明スル保証書ヲ其明細書ニ添ヘテ差出シ債主ノ合部ノ名前ヲ以テ其記入ヲ為ス可キモノトス 債主総代人ハ其存在ヲ知ル処ノ家資分散人ノ不動産ニ付キ亦債主ノ合部ノ名前ヲ以テ記入ヲ為ス可シ○其記入ハ家資分散ノアリタル旨ヲ表示シ且ツ債主総代人ヲ選任セシ裁判書ノ日附ヲ記シタル単一ナル明細書ニ拠テ之ヲ容受ス可キモノトス ○第五節 債権ノ調査 第四百九拾壱条 各債主ハ家資分散ヲ公告スル裁判ノ時ヨリシテ自己ノ証券ニ其得ント要求スル所ノ金額ヲ指示スル明細書ヲ添ヘテ之ヲ書記ニ交付スルコトヲ得可シ○書記ハ之レカ目録ヲ設ケ且ツ其受取証書ヲ附与セサルヲ得ス 書記ハ調査ノ調書開始ノ日ヨリ五年間ニ非サレハ其証券ノ責ニ任セサルモノトス 第四百九拾弐条 第四百六十二条第三項ニ従ヒ債主総代人ノ存続又ハ其引易ノ時期ニ於テ自己ノ証券ヲ交付セサリシ各債主ハ直チニ新聞紙ニ於ケル記入ニ依リ及ヒ書記ノ書状ニ依リ其各債主ノ右記入ノ時ヨリ二十日ノ期限内ニ家資分散ノ債主総代人ノ面前ニ自カラ出席シ又ハ代理人ヲ差出シ且ツ其証券ニ其得ント要求スル処ノ金額ヲ指示スル明細書ヲ添ヘテ之ヲ其債主総代人ニ交付ス可キ旨ヲ告知セラル可シ但シ各債主ノ其証券及ヒ明細書ヲ商事裁判所ノ書記局ニ差出スコトヲ欲シタル時ハ格別ニシテ其各債主ニハ之レカ受取証書ヲ附与ス可キモノトス 仏蘭西ニ於テ其家資分散ノ審理ヲ掌轄スル裁判所々在ノ地外ニ住所ヲ有スル各債主ニ関シテハ裁判所々在ノ地ト其債主ノ住所トノ間ニ於ケル五「ミリアメートル」ノ距離毎ニ右ノ期限ニ一日ヲ増加ス可キモノトス 仏蘭西ノ大陸ノ領地外ニ住所ヲ有スル各債主ニ関シテハ訴訟法第七十三条ノ規則ニ従ヒ右ノ期限ヲ増加ス可キモノトス 第四百九拾三条 債権ノ調査ハ第四百九十二条ノ第一項及ヒ第二項ニ定メタル期限ノ終リシ時ヨリ三日内ニ之ヲ始ム可シ○其調査ハ間断ナク之ヲ継続ス可キモノトス○其調査ハ委員裁判官ノ指示シタル場所及ヒ日時ニ於テ之ヲ為ス可シ○前条ニ依リ命令セラレタル各債主ヘノ告知ニハ右ノ指示ヲ記載ス可シ○然レトモ各債主ハ書記ノ書状ト新聞紙ニ於ケル記入トニ依リ更ニ再ヒ特ニ招集セラル可キモノトス 債主総代人ノ債権ハ委員裁判官之ヲ調査ス可ク又其他ノ債権ハ委員裁判官ノ面前ニ於テ債主又ハ其代理人ト債主総代人トノ間ニ相対シテ之ヲ調査ス可シ但シ委員裁判官ハ之レカ調書ヲ作ル可キモノトス 第四百九拾四条 調査セラレ又ハ権利義務ノ目録ニ記載セラレタル各債主ハ債権ノ調査ニ立会フコトヲ得可ク而シテ又既ニ為シ及ヒ将サニ為サントスル調査ニ付キ異論ヲ申立ツルコトヲ得可シ○家資分散人ハ亦之ト同一ノ権利ヲ有スルモノトス 第四百九拾五条 調査ノ調書ニハ各債主ノ住所及ヒ其代理人ノ住所ヲ指示ス可シ 其調書ニハ証券ノ簡略ナル明記ヲ為シテ増載、塗抹及ヒ行間ノ書入ヲ記載シ且ツ其債権ノ許容セラレタルヤ又ハ争ハレタルヤヲ明示ス可シ 第四百九拾六条 如何ナル場合ニ於テモ委員裁判官ハ其職権上ヨリスルト雖モ債主ノ帳簿ノ呈示ヲ命令シ又ハ証書ノ副本又ハ抜書ヲ得ル為メノ要求ニ拠リ其地ノ裁判官ヨリ右帳簿ノ抜書ヲ送付ス可キ旨ヲ求ムルコトヲ得可シ 第四百九拾七条 若シ其債権ノ許容セラレタル時ハ債主総代人其各個ノ証券上ニ於テ左ノ申述ニ署名ス可シ 何月何日ニ云々ノ金額ニ付キ某ノ家資分散ノ所働件中ニ許容セラレタリ 委員裁判官ハ其申述ニ検署ス可シ 各債主ハ自己ノ債権ヲ調査セラレタル後遅クトモ八日内ニ其債権ノ真実ニシテ真正ナル旨ヲ委員裁判官ニ対シテ確言ス可キモノトス 第四百九拾八条 若シ債権ノ争ハレタルトキハ委員裁判官呼出ヲ要スルコトナク短キ期限ニ於テ商事裁判所ニ移送スルコトヲ得可シ而シテ商事裁判所ニ於テハ委員裁判官ヨリ報告ノ上ニテ裁判ス可キモノトス 商事裁判所ハ委員裁判官ノ面前ニ於テ実事ニ付テノ証人訊問ヲ為ス可ク而シテ之レカ為メ其参照件ヲ供スルコトヲ得可キ各人ヲ委員裁判官ノ面前ニ呼出ス可キ旨ヲ命令スルコトヲ得可シ 第四百九拾九条 債権ノ許容ニ付テノ争訟ヲ商事裁判所ニ申告シタル時若シ其訴訟カ仏蘭西ニ住所ヲ有スル各人ニ関シテ第四百九十二条及ヒ第四百九十七条ニ依リ定メタル期限ノ終ル前ニ確定ノ裁判ヲ受ク可キ景状ノモノタラサルニ於テハ其裁判所ヨリ景況ニ従ヒ分散和約書ヲ作ル為メニ会議ヲ招集スルコトヲ猶予ス可キヤ又ハ之ニ取掛ル可キヤヲ命令ス可シ 若シ裁判所ヨリ之ニ取掛ル可キ旨ヲ命令シタル時ハ其争ハレタル債主ヲ其同一ノ裁判ヲ以テ定ムル所ノ金額ニ付キ評議中ニ許容ス可キ旨ヲ仮リニ決定スルコトヲ得可シ 第五百条 若シ争訟ヲ民事裁判所ニ申告シタル時ハ商事裁判所ニ於テ猶予ス可キヤ又ハ取掛ル可キヤヲ決定ス可シ而シテ其取掛ル可キ旨ヲ決定シタル場合ニ於テハ其争訟ヲ掌轄スル民事裁判所ハ其争ハレタル債主ニ送達シタル債主総代人ノ請願書ニ依リ更ニ其他ノ訴訟手続ナク短キ期限ニ於テ仮リニ其債権ヲ許容ス可キヤ又如何ナル金額ニ付キ之ヲ許容ス可キヤヲ裁判ス可シ 若シ其債権カ重罪又ハ懲治罪ノ審理ノ目的タル場合ニ於テハ商事裁判所ヨリ亦同シク猶予ヲ宣告スルコトヲ得可シ若シ商事裁判所ヨリ取掛ル可キ旨ヲ命令シタル時ハ仮リノ許容ヲ附与スルコトヲ得スシテ其争ハレタル債主ハ該管裁判所ニ於テ裁定セサル間ハ家資分散ノ行為ニ参加スルコトヲ得サルモノトス 第五百壱条 先取特権又ハ書入質ノミヲ争ハレタル債主ハ通常ノ債主トシテ家資分散ノ評議中ニ許容セサル可シ 第五百弐条 仏蘭西ニ住所ヲ有スル各人ニ関シテ第四百九十二条及ヒ第四百九十七条ニ依リ定メタル期限ノ終ニ至リ仏蘭西ノ大陸ノ領地外ニ住所ヲ有スル各債主ノ為メ第五百六十七条及ヒ第五百六十八条ニ記載シタル例外ヲ除クノ外分散和約書ノ作為及ヒ総テ家資分散ノ行為ニ取掛ル可シ 第五百三条 知レタル缺席者ト知レサル缺席者トヲ問ハス其缺席者ニ適用ス可キ期限内ニ出席シテ確言セサル時ハ其缺席者ハ為ス可キ配当中ニ加フ可カラス然レトモ金額ノ分配ニ至ル迄ハ其缺席者ニ於テ故障申立ノ方法ヲ用フルコトヲ得可シ但シ其故障申立ノ費用ハ常ニ必ス其缺席者ノ負任タル可キモノトス 其缺席者ノ故障申立ハ委員裁判官ヨリ払渡ヲ差図シタル配当ノ執行ヲ停止スルコトヲ得ス然レトモ若シ其故障申立ニ付キ裁定セサル前ニ更ニ新タナル配当ヲ為ス時ハ裁判所ヨリ仮リニ定ムル処ノ金額ニ付キ右ノ缺席者ヲ加フ可キモノトス但シ其金額ハ故障申立ノ裁判アルニ至ル迄之ヲ貯存シ置ク可シ 若シ後ニ至リ右缺席者ノ債主ナリト認メラレタル時ハ其缺席者ハ委員裁判官ヨリ払渡ヲ差図シタル配当中ニ就キ如何ナルモノヲモ得ント要求スルコトヲ得ス然レトモ其缺席者ハ未タ配当セラレサル能働件中ニ就キ初メノ配当ニ於テ自己ノ債権ニ割当テタル分ケ前ヲ先収スルノ権利アリトス ○第六章 分散和約及ヒ債主ノ連結 ○第壱節 債主ノ招集及ヒ会議 第五百四条 確言ノ為メニ定メラレタル期限ノ後三日内ニ委員裁判官ハ分散和約書ノ作為ニ付キ評議セシムル為メ其債権ノ調査セラレ且ツ確言セラレタル各債主又ハ其債権ノ仮リニ許容セラレタル各債主ヲ書記ヨリ招集セシム可シ○新聞紙ニ於ケル記入及ヒ招集ノ書状ニハ其会議ノ目的ヲ指示ス可キモノトス 第五百五条 委員裁判官ノ定メタル場所ト日時トニ於テ委員裁判官ノ上席ニテ会議ヲ為ス可シ而シテ調査ノ上確言シタル各債主又ハ仮リニ許容セラレタル各債主ハ自カラ出席シ又ハ代理人ヲ差出ス可シ 其会議ニハ家資分散人ヲ招喚ス可シ而シ家資分散人ノ拘留ヲ免セラレ又ハ護身ノ証票ヲ得タル時ハ自カラ出席ス可クシテ有効ニシテ且ツ委員裁判官ノ認可シタル理由アルニ非サレハ代理人ヲ差出スコトヲ得ス 第五百六条 債主総代人ハ家資分散ノ景状ト履行シタル法式ト為シタル行為トニ付キ会議ニ報告ヲ為ス可シ但シ家資分散人ノ申立ヲ聴ク可キモノトス 債主総代人ノ報告書ハ之ニ署名シテ委員裁判官ニ差出ス可シ但シ委員裁判官ハ会議ニ於テ申立テ及ヒ決定シタル処ノモノヽ調書ヲ作ル可キモノトス ○第弐節 分散和約 ○第壱款 分散和約書ノ作為 第五百七条 前ニ定メタル法式ヲ履行シタル後ニ非サレハ評議ヲ為ス各債主ト家資分散人トノ間ニ合意ヲ承諾スルコトヲ得ス 其合意ハ債主中ノ多数ニシテ且ツ其外ニ第五章第五節ニ従ヒ調査ノ上確言シタル債権又ハ仮リニ許容セラレタル債権ノ全額ノ四分三ヲ代表スル債主ノ人員ノ協合ニ依ルニ非サレハ之ヲ設定ス可カラス若シ右ノ諸件ニ背キタル時ハ無効ナリトス 第五百八条 記入セラレ又ハ記入ヲ免除セラレタル書入質ノ権利アル債主及ヒ先取特権ヲ有シ又ハ動産ノ質物ヲ保有スル債主ハ右ノ債権ノ為メノ分散和約書ニ関シタル行為ニ於テハ発言ノ権利ヲ有セス而シテ右ノ債主ノ自己ノ書入質、動産質又ハ先取特権ヲ放棄スルニ非サレハ其債権ヲ右ノ行為ニ於テ算計ス可カラス 分散和約書ニ付テノ発言ハ当然右ノ放棄ヲ惹起スルモノトス 第五百九条 分散和約書ハ会議ノ席ニ於テ之ニ署名ス可ク若シ然ラサル時ハ無効ナリトス○若シ其和約書カ人員ノ多数ノミニ依リ又ハ金額ニ於ケル四分三ノ多数ノミニ依テ承諾セラレタル時ハ其評議ヲ八日間丈ケ延ハス可シ但シ此場合ニ於テハ初メノ会議ノ時ニ為シタル決定及ヒ附与シタル承諾ハ無効ノモノトス 第五百拾条 若シ家資分散人カ詐欺ノ倒産者トシテ刑ヲ言渡サレタル時ハ分散和約書ヲ作ルコトヲ得ス 詐欺ノ倒産ニ付テノ審理ノ始マリタル時ハ其放免トナル場合ニ於テ各債主ノ分散和約書ニ付キ評議スルコトヲ貯存シ且ツ之レカ為メ其犯罪起訴ノ落着ノ後ニ至ル迄各債主ニ於テ決定スルヲ猶予ス可キヤ否ヲ決セシムル為メ各債主ヲ招集ス可シ 其猶予ハ第五百七条ニ依リ定メタル人員ト金額トニ於ケル多数ニ拠ルニ非サレハ之ヲ宣告スルコトヲ得ス○若シ其猶予ノ終ニ至リ分散和約書ニ付キ評議ス可キ時ハ前条ニ定メタル規則ヲ其新タナル評議ニ適用ス可キモノトス 第五百拾壱条 若シ家資分散人カ単一ナル倒産者トシテ刑ヲ言渡サレタル時ハ分散和約書ヲ作ルコトヲ得可シ○然レトモ其犯罪起訴ノ始マリタル場合ニ於テハ各債主前条ノ成規ニ従ヒ其起訴ノ落着ノ後ニ至ル迄評議スルコトヲ猶予スルヲ得可シ 第五百拾弐条 凡ソ分散和約書ニ参加スルノ権利ヲ有シ又ハ其後ニ権利ヲ認メラレタル各債主ハ其分散和約書ニ付キ故障ヲ申立ツルコトヲ得可シ 其故障申立書ニハ之レカ理由ヲ附シ而シテ其分算和約書ヲ作リシ後八日内ニ之ヲ債主総代人ト家資分散人トニ送達セサル可カラス若シ之ニ背ク時ハ無効タル可シ但シ其故障申立書ニハ商事裁判所ノ第一次ノ審問席ニ呼出ス旨ヲ記ス可キモノトス 若シ債主総代人唯一名ノミヲ選任シ而シテ其債主総代人ノ分散和約書ニ付キ故障ヲ申立ツル者タル時ハ其債主総代人ハ更ニ新タナル債主総代人ヲ選任スルノ手続ヲ為シ而シテ其債主総代人ハ其新タナル債主総代人ニ対シテ本条ニ定メタル法式ヲ履行ス可キモノトス 若シ其故障申立ノ裁判カ其事柄ノ為メニ商事裁判所ノ管轄外ノモノタル問題ノ裁決ニ関スル時ハ商事裁判所ハ右問題決定ノ後ニ至ル迄宣告スルコトヲ猶予ス可シ 又商事裁判所ハ故障ヲ申立ツル債主ノ該管裁判官ニ訴出テ而シテ其訟求ノ手続ヲ為シタル旨ヲ証明ス可キ短キ期限ヲ定ム可シ 第五百拾三条 分散和約書ノ認可ハ最モ先キニ手続ヲ為ス者ノ請願ニ依リ商事裁判所ニ之ヲ訟求ス可シ但シ其裁判所ハ前条ニ定メタル八日ノ期限ノ終ル前ニ裁定スルコトヲ得ス 若シ右ノ期限間ニ故障ノ申立ヲ為ス者アル時ハ其裁判所ハ一箇同一ノ裁判ヲ以テ其故障ノ申立ト認可トニ付キ裁定ス可シ 若シ其故障申立ノ許容セラレタル時ハ関係各人ニ関シテ分散和約書ノ取消ヲ宣告ス可シ 第五百拾四条 如何ナル場合ニ於テモ認可ニ付キ裁定ヲ為ス前ニ委員裁判官ハ家資分散ノ性質ト分散和約書ヲ許容ス可キヤ否ノ事トニ付キ商事裁判所ニ報告ヲ為ス可シ 第五百拾五条 前ニ定メタル規則ヲ遵守セサル場合ニ於テ又ハ公ケノ利益若クハ各債主ノ利益ヨリ引援シタル理由カ分散和約ヲ為スコトヲ阻止スル性質ノモノナリト思ハル場合ニ於テハ裁判所ニ於テ其分散和約書ノ認可ヲ否拒ス可シ ○第弐款 分散和約書ノ効 第五百拾六条 分散和約書ノ認可アリタル時ハ其和約書ハ権利義務ノ目録ニ記載セラレタルト否トヲ問ハス又調査セラレタルト否トヲ問ハス各債主ノ為メ又然ノミナラス仏蘭西ノ大陸ノ領地外ニ住所ヲ有スル各債主ノ為メ並ニ確定ノ裁判ヲ以テ後ニ附与セラルヽ金額ノ如何ヲ問ハス第四百九十九条及ヒ第五百条ニ拠リ仮リニ評議スルコトヲ許容セラレタル各債主ノ為メニモ羈勒ノ力アルモノトス 第五百拾七条 認可アリタル時ハ家資分散人ノ不動産ニ付キ第四百九十条ノ第三項ニ拠リ記入シタル書入質ヲ各債主ニ保存ス可キモノトス○之レカ為メ債主総代人ハ其書入質ニ認可ノ裁判ヲ記入セシム可シ但シ分散和約書ニ之ト異ナリタル決定ヲ為シタル時ハ格別ナリトス 第五百拾八条 凡ソ分散和約書ヲ無効ト為スノ訴ハ認可ノ後ニ於テハ其認可以後ニ発見シテ而シテ能働件ノ隠蔽若クハ所働件ノ過実ヨリ生スル所ノ詐欺ノ原由ノ為メニ非サレハ之ヲ受理ス可カラス 第五百拾九条 認可ノ裁判カ裁定事件ノ力ヲ得タル後直チニ債主総代人ノ職務止息ス可シ 債主総代人ハ委員裁判官ノ面前ニ於テ其確定ノ計算書ヲ家資分散人ニ差出ス可シ但シ其計算書ハ之ヲ論弁シテ決定ス可キモノトス○債主総代人ハ家資分散人ノ財産、帳簿、書類、品物ノ全部ヲ其家資分散人ニ交付ス可シ○家資分散人ハ之レカ義務免除ノ証書ヲ与フヘシ 委員裁判官ハ右ノ諸件ヲ記スル調書ヲ作ル可ク而シテ其裁判官ノ職務ハ止息スルモノトス 争訟ノ場合ニ於テハ商事裁判所ヨリ宣告ヲ為ス可シ ○第三款 分散和約書ノ取消又ハ解除 第五百弐拾条 詐欺ノ為メタルト分散和約書ノ認可ノ後ニ詐欺ノ倒産ノ為メニ刑ヲ言渡シタルニ依ルトヲ問ハス其分散和約書ヲ取消シタル時ハ当然保証人ヲ釈免スルモノトス 若シ家資分散人ノ其分散和約書ノ条件ヲ執行セサル場合ニ於テハ保証人ノアル時ハ其保証人ノ面前ニ於テ又ハ適法ニ之ヲ招喚シタル上ニテ其家資分散人ニ対シ商事裁判所ニ右約定書ノ解除ヲ訟求スルコトヲ得可シ 分散和約書ノ解除ハ其全部又ハ一部ノ執行ヲ担保スル為メニ参渉シタル保証人ヲ釈免セサルモノトス 第五百弐拾壱条 若シ分散和約書ノ認可ノ後ニ家資分散人ノ詐欺ノ倒産ノ為メニ其罪ヲ訴ヘラレ而シテ勾留状又ハ収監状ヲ附セラレタル時ハ商事裁判所ヨリ相当ナル保存ノ処分ヲ命スルコトヲ得可シ○其処分ハ犯罪ノ審理ヲ継続スルニ及ハサルノ宣告又ハ放免ノ命令或ハ不問ノ裁判ノ日ヨリ当然止息スルモノトス 第五百弐拾弐条 商事裁判所ハ詐欺ノ倒産ノ為メ刑ノ言渡ノ裁判書ヲ見タル上又ハ分散和約書ノ取消若クハ解除ヲ宣告スル裁判ニ依リ委員裁判官一名ト債主総代人一名又ハ数名トヲ選任ス可シ 其債主総代人ハ封印ヲ附セシムルコトヲ得可シ 其債主総代人ハ遅延ナク治安裁判所ノ補助ヲ以テ以前ノ財産目録ニ拠リ有価物、株券及ヒ書類ノ照査ヲ為シ且ツ別段ノ理由アル時ハ財産目録ノ追加ヲ作ル可シ 債主総代人ハ追加ノ権利義務ノ目録ヲ作ル可シ 債主総代人ハ其己レヲ選任スル裁判書ノ抜書ト新タナル債主ノアルニ於テハ調査ノ為メ二十日ノ期限内ニ其債権ノ証券ヲ差出ス可キノ通知書トヲ直チニ貼附シ且ツ特ニ定メタル新聞紙ニ記入セシム可シ○其通知ハ亦第四百九十二条及ヒ第四百九十三条ニ従ヒ書記ノ書状ヲ以テ之ヲ為ス可シ 第五百弐拾三条 前条ニ拠リ差出シタル債権ノ証券ハ遅延ナク其調査ニ取掛ル可シ 以前許容セラレ且ツ確言セラレタル債権ハ更ニ再ヒ之ヲ調査セサルモノトス但シ其後ニ全部又ハ一部ヲ弁済セラレタルモノヲ棄却シ又ハ之ヲ減少スル事ト相触ルヽコトナカル可シ 第五百弐拾四条 右ノ行為ノ終リタル上ニテ更ニ新タナル分散和約書ヲ作ラサル時ハ債主総代人ノ存続又ハ引易ニ付キ意見ヲ発セシムル為メ各債主ヲ招集ス可シ 新タナル債主ニ関シテハ第四百九十二条及第四百九十七条ニ依リ仏蘭西ニ住所ヲ有スル各人ニ附与シタル期限ノ終リシ後ニ非サレハ配当ニ取掛ル可カラス 第五百弐拾五条 認可ノ裁判ノ後ニシテ分散和約書ノ取消又ハ解除ノ前ニ家資分散人ノ為シタル所為ハ債主ノ権利ニ詐害アル場合ニ非サレハ之ヲ取消ス可カラス 第五百弐拾六条 分散和約書以前ノ債主ハ家資分散人ノミニ関シテ其権利ノ全部ヲ回復ス可シ然レトモ其債主ハ左ノ割合ニ非サレハ債主ノ合部中ニ加ハルコトヲ得ス 若シ其債主カ分ケ前ノ如何ナル部分ヲモ収受セサル時ハ其債権ノ全部ニ付キ加ハルコトヲ得可ク若シ又分ケ前ノ一部分ヲ収受シタル時ハ約束セラレタル分ケ前ノ中ニテ其債主ノ未タ収受セサル一部分ニ当レル其原始ノ債権ノ一部分ニ付キ加ハルコトヲ得可シ 本条ノ成規ハ予メ分散和約書ノ取消又ハ解除ノアラスシテ第二次ノ家資分散ノ開始シタル場合ニ適用ス可キモノトス ○第三節 能働件ノ不足ナル場合ニ於ケル終結 第五百弐拾七条 若シ分散和約書ノ認可ノ前又ハ債主ノ連結ノ組成ノ前ニ如何ナル時期ヲ問ハス能働件ノ不足ナルニ依リ家資分散ノ行為ノ其進行ヲ停メラレタル時ハ商事裁判所ニ於テ委員裁判官ヨリ報告ノ上仮令其職権上ニテモ家資分散ノ行為ノ終結ヲ宣告スルコトヲ得可シ 其裁判ハ各債主ヲシテ家資分散人ノ財産ニ対シ並ニ其身体ニ対シテ其各自ノ訴権ノ執行ヲ回復セシムルモノトス 其裁判ノ日附ヨリ一月間ハ其裁判ノ執行ヲ停止ス可シ 第五百弐拾八条 家資分散人又ハ総テ其他ノ関係人ハ家資分散ノ行為ノ費用ヲ補償スル為メノ元資ノ存在スル旨ヲ証明シ又ハ其費用ニ供スルニ足レル金額ヲ債主総代人ノ手裏ニ附託セシムルニ依リ如何ナル時期ニ於テモ裁判所ヨリ右ノ裁判ヲ取消サシムルコトヲ得可シ 如何ナル場合ニ於テモ前条ニ拠リ執行シタル訟求手続ノ費用ヲ予メ弁償セサルヲ得ス ○第四節 債主ノ連結 第五百弐拾九条 若シ分散和約書ヲ作ラサル時ハ債主数名ハ当然連結ノ景状ニアルモノトス 委員裁判官ハ管理ノ所為ト債主総代人ノ存続又ハ引易ノ有益ナル事トニ付キ直チニ其債主数名ニ相談ス可シ○先取特権アル債主、書入質ノ権利アル債主又ハ動産質ヲ保有スル債主ハ其評議ニ加ハルコトヲ許容セラルヽモノトス 其債主数名ノ申立及ヒ意見ノ調書ヲ作ル可ク而シテ商事裁判所ハ其証拠物ヲ見タル上ニテ第四百六十二条ニ記シタル如ク裁定ス可シ 存続セラレサル債主総代人ハ適法ニ家資分散人ヲ招喚シタル上、委員裁判官ノ面前ニ於テ新タナル債主総代人ニ其計算ヲ為サヽル可カラス 第五百三拾条 各債主ハ家資分散ノ能働件中ヨリ家資分散人ニ扶助ヲ給与スルコトヲ得可キヤ否ヲ定ムル問題ニ付相談ヲ受ク可シ 若シ出席シタル債主中多数ノ之ヲ承諾シタル時ハ家資分散ノ能働件中ヨリ扶助ノ名義ヲ以テ若干ノ金額ヲ家資分散人ニ給与スルコトヲ得可シ○債主総代人ハ其量額ヲ申立テ而シテ委員裁判官之ヲ定ム可シ但シ債主総代人ノ方ノミヨリ商事裁判所ニ不服ヲ訴フルコトヲ得可キモノトス 第五百三拾壱条 若シ商事会社ノ家資分散ヲ為シタル時ハ債主ハ社員中一名又ハ数名ノミノ利益ニ於テ分散和約ヲ承諾スルコトヲ得可シ 此場合ニ於テハ総テ会社ノ能働件ハ連結ノ制ヲ受ク可キモノトス○其分散和約ヲ承諾セラレタル者ノ一身上ノ財産ハ連結ノ制ヨリ斥除セラレ而シテ其者ト為シタル特別ノ約定ハ会社ノ能働件以外ノ有価物ノミニ関スルニ非サレハ分ケ前ヲ弁済スルノ約務ヲ包含スルコトヲ得ス 特別ノ分散和約ヲ得タル社員ハ総テ連帯ヲ免除セラル可キモノトス 第五百三拾弐条 債主総代人ハ債主ノ合部ニ代理シ而シテ算定ニ取掛ルコトヲ任セラルヽモノトス 然レトモ債主ハ能働件ノ収益ヲ継続スル為メノ代理委任ヲ債主総代人ニ附与スルコトヲ得可シ 債主総代人ニ其代理委任ヲ附与スル所ノ決議ニハ其代理委任ノ継続スル時間ト其広狭トヲ定メ且ツ費用及ヒ費額ニ供備スル為メ債主総代人ノ其手裏ニ保ツコトヲ得可キ金額ヲ定ム可シ○其決議ハ委員裁判官ノ面前ニ於テ且ツ人員ト金額トニ於ケル債主ノ四分三ノ多数ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス 家資分散人及ヒ異論者タル債主ハ其決議ニ対シテ故障申立ヲ為スコトヲ得可シ 其故障申立ハ執行ヲ停止ス可カラサルモノトス 第五百三拾三条 若シ債主総代人ノ行為カ連合ノ能働件ニ過クル所ノ約務ヲ惹起スル時ハ其行為ヲ許可シタル債主ノミニ於テ其能働件中ニ於ケル自己ノ分ケ前以外ヲ己レ一身上ニ負担ス可シ然レトモ其債主ノ附与シタル代理委任ノ制限内ノミニ於テ之ヲ負担ス可キモノトス但シ其各債主ハ自己ノ債権ノ割合ヲ以テ分担ス可シ 第五百三拾四条 債主総代人ハ家資分散人ノ不動産、商品及ヒ動産ノ売払ト其能働及ヒ所働ノ負債ノ算定トヲ為スコトヲ任セラルヽモノトス但シ此等ノ諸件ハ委員裁判官ノ監視ヲ受ケテ之ヲ為ス可ク而シテ家資分散人ヲ招喚スルヲ要セサルモノトス 第五百三拾五条 債主総代人ハ第四百八十七条ニ定メタル規則ニ従フニ於テハ家資分散人ノ方ヨリ如何ナル故障ノ申立アルニ拘ハラス其家資分散人ニ属スル各種ノ権利ニ付キ和解スルコトヲ得可シ 第五百三拾六条 連結ノ景状ニアル債主ハ初年ニ於テハ少クトモ一回又別段ノ理由アル時ハ其後ノ年々ニ於テ委員裁判官ヨリ之ヲ招集ス可シ 右ノ会議ニ於テハ債主総代人其管理ノ計算ヲ為サヽル可カラス 債主総代人ハ第四百六十二条及ヒ第五百二十九条ニ定メタル方法ニ従ヒ其職務ノ執行ニ於テ継続セラレ又ハ引易ヘラル可シ 第五百三拾七条 家資分散ノ算定ノ終リタル時ハ委員裁判官ヨリ各債主ヲ招集ス可シ 其最後ノ会議ニ於テハ債主総代人ヨリ其計算ヲ為ス可シ○家資分散人ハ出席シ又ハ適法ニ招喚セラル可キモノトス 各債主ハ家資分散人ノ宥恕ス可キヤ否ノ事ニ付キ其意見ヲ申立ツ可シ○之レカ為メ一個ノ調書ヲ作リテ各債主ハ其申立及ヒ意見ヲ右ノ調書ニ記スルコトヲ得可シ 其会議ノ終結ノ後ハ当然連結ノ解クルモノトス 第五百三拾八条 委員裁判官ハ家資分散人ノ宥恕ス可キヤ否ノ事ニ関スル各債主ノ決議書ト家資分散ノ性質及ヒ景況ニ付テノ報告書トヲ裁判所ニ呈出ス可シ○裁判所ハ其家資分散人ヲ宥恕ス可キヤ否ニ付キ宣告ヲ為ス可シ 第五百三拾九条 若シ家資分散人ノ宥恕ス可キ旨ヲ宣告セラレサル時ハ債主ハ家資分散人ノ身体ト財産トニ対シテ各自ノ訴権ノ執行ヲ回復スルモノトス 若シ又家資分散人ノ宥恕ス可キ旨ヲ宣告セラレタル時ハ其家資分散人ハ家資分散ノ債主ニ関シテハ拘留ヲ免カレ而シテ其財産ノミニ関スルノ外最早其債主ヨリ訴ヲ受クルコトナカル可シ但シ特別ノ法律ニ定メタル例外ハ格別ナリトス 第五百四拾条 左ニ記スル各人ハ宥恕ス可キ旨ヲ宣告セラルヽコトヲ得ス 詐欺ノ倒産者、仮冒售売者、盗罪、詐欺取財ノ罪又ハ背信ノ罪ノ為メニ刑ヲ言渡サレタル各人及ヒ公金ノ計算者 第五百四拾壱条 如何ナル商人ニシテ負債者タルモノト雖トモ財産譲給ノ利益ヲ許容セラレント訟求スルコトヲ許サス 然レトモ本章第二節ニ定メタル規則ニ従ヒ家資分散人ノ能働件ノ全部又ハ一部ノ委棄ニ依レル分散和約ヲ為スコトヲ得可シ 其分散和約ハ其他ノ分散和約ト同一ノ効ヲ生シ又之ト同一ノ方法ニテ其和約ヲ取消シ又ハ解除ス可シ 其委棄セラレタル能働件ノ算定ハ第五百二十九条ノ第二項、第三項、第四項、第五百三十二条、第五百三十三条、第五百三十四条、第五百三十五条、第五百三十六条及ヒ第五百三十七条ノ第一項及ヒ第二項ニ従ヒ之ヲ為ス可シ 委棄ニ依レル分散和約書ハ簿冊登記税ノ収受ニ付テハ債主ノ連合ト同視ス可シ ○第七章 債主ノ種類及ヒ家資分散ノ場合ニ於ケル其債主ノ権利 ○第壱節 共同義務者及ヒ保証人 第五百四拾弐条 家資分散人ト家資分散ヲ為シタル他ノ共同義務者トニ於テ署名シ、裏書シ又ハ連帯シテ担保シタル約務証書ヲ所持スル債主ハ総テノ債主ノ合部ニ於ケル分配ニ参加シ而シテ完全ナル弁済ニ至ル迄其証券ノ名義上ノ価額ニ付キ其分配ニ加ハル可キモノトス 第五百四拾三条 各共同義務者ノ家資分散ニハ其弁済シタル分ケ前ノ為メ其一方ヨリ他ノ一方ニ対シテ如何ナル償還ノ訟求ヲモ為スコトヲ許サス但シ其数箇ノ家資分散ヨリ附与スル所ノ数箇ノ分ケ前ヲ併合シタル金額カ債権ノ主額ト従額トヲ合シタル其全額ニ過クル場合ハ格別ニシテ此場合ニ於テハ各共同義務者中ニテ他人ノ為メニ担保セラルヽ者ニ約務ノ順序ニ従ヒ其剰余ノ額ヲ帰ス可キモノトス 第五百四拾四条 若シ家資分散人ト其他ノ共同義務者トノ間ニ於ケル連帯ノ約務証書ヲ所持スル債主カ其家資分散ノ前ニ自己ノ債権ニ就キ内金ヲ収受シタル時ハ其債主ハ右ノ内金ヲ引去ルニ非サレハ債主ノ合部中ニ包含セラレサルモノトス而シテ其債主ハ己レニ弁済ヲ受ク可キ残額ニ付テハ共同義務者又ハ保証人ニ対シテ自己ノ権利ヲ保存ス可シ 一部分ノ弁済ヲ為シタル共同義務者又ハ保証人ハ家資分散人ノ義務免除ノ為メニ弁済シタル諸件ニ付キ右ト同一ナル債主ノ合部中ニ包含セラルルモノトス 第五百四拾五条 分散和約ニ拘ハラス債主ハ家資分散人ノ共同義務者ニ対シテ其債権ノ全部ニ付キ自己ノ訴権ヲ保存スルモノトス ○第弐節 動産質ヲ保有スル債主及ヒ動産ニ付キ先取特権ヲ有スル債主 第五百四拾六条 家資分散人ノ債主ニシテ適法ニ動産質ヲ保有スル者ハ記念ノ為メノミニ非サレハ債主ノ合部中ニ記入セラレサルモノトス 第五百四拾七条 債主総代人ハ如何ナル時期ニ於テモ委員裁判官ノ許可ヲ得タル上、負債ヲ償還シテ家資分散ノ利益ノ為メ其動産ノ質物ヲ取戻スコトヲ得可シ 第五百四拾八条 債主総代人ノ其動産ノ質物ヲ取戻サヽル場合ニ於テ若シ債主ノ其債権ニ過クル処ノ代価ヲ以テ其質物ヲ売リタル時ハ債主総代人之レカ余分ヲ取戻ス可シ若シ又其代価カ債権ヨリ少ナキ時ハ動産ノ質物ヲ保有スル債主ハ通常ノ債主ノ如ク其余分ニ付キ債主ノ合部中ニ割合ヲ以テ参加ス可キモノトス 第五百四拾九条 家資分散ノ公告前一月間直接ニ家資分散人ニ使用セラレシ職工ノ獲得シタル給料ハ雇人ノ給料ノ為メ民法第二千百一条ニ定メタル先取特権ト同一ノ班位ヲ以テ先取特権アル債権ノ員数中ニ許容セラルルモノトス 家資分散ノ公告前六月間ニ管店者ノ受ク可キモノトナリタル給料ハ右ト同一ノ班位ニ於テ許容セラルヽモノトス 第五百五拾条 民法第二千百二条ハ家資分散ニ関シテハ左ノ如ク更改スルモノトス 若シ賃貸ヲ取消シタル時ハ家資分散人ノ工業又ハ商業ニ供シタル不動産ノ所有者ハ家資分散公告ノ裁判ヨリ前ニ収受期限ニ至リタル最後ノ二年分ノ貸賃ト本年分ト賃貸ノ執行ニ関スル諸件ト裁判所ヨリ其不動産ノ所有者ニ附与スルコトアル可キ損害賠償トニ付キ先取特権ヲ有ス可シ 取消サヽル場合ニ於テハ賃貸人ノ一旦其収受期限ニ至リタル総テノ貸賃ヲ弁済セラレシ上ハ嘗テ其契約ノ時ニ当リテ己レニ附与セラレタル抵保ノ保存セラレ又ハ家資分散以後ニ己レニ供給セラレタル抵保ノ充分ナリト裁定セラレタルニ於テハ経過中ノモノタル貸賃又ハ将サニ収受スルニ至ル可キ貸賃ノ弁済ヲ得ント要求スルコトヲ得ス 若シ其賃貸シタル場所ニ具備シタル動産ヲ売払ヒ及ヒ移搬シタル時ハ賃貸人其賃貸証書ノ正確ナル日附ヲ有スルト否トヲ問ハス前ニ記シタル取消ノ場合ニ於ケルカ如ク其先取特権ヲ執行シ且ツ其外ニ本年ノ終リシ時ヨリ収受スルニ至ル可キ一年分ニ付キ先取特権ヲ執行スルコトヲ得可シ 債主総代人ハ其経過セントスル総テノ残期間賃借ヲ継続シ又ハ之ヲ譲渡スコトヲ得可シ但シ其債主総代人又ハ其譲受人ハ其不動産内ニ充分ナル抵当物ヲ保存シ置キ且ツ期限ニ至ルニ従ヒ法律又ハ合意ヨリ生スル処ノ総テノ義務ヲ執行ス可キノ負任アルモノトス然レトモ其賃借シタル場所ノ用方ハ之ヲ変易スルコトヲ得ス○若シ其賃貸証書ニ其賃借ヲ譲渡シ又ハ転貸スルノ禁止ヲ記シタル場合ニ於テハ債主ハ賃貸人ノ時期ニ先ンシテ其貸賃ヲ収受シタル時間ノミノ外其賃借ヲ以テ自己ノ利益ト為スコトヲ得ス但シ其場所ノ用方ハ決シテ之ヲ変易スルコトヲ得サルモノトス 動産ノ売主ノ利益ニ於テ民法第二千百二条ノ第四ニ設定シタル先取特権及ヒ取戻ノ権利ハ家資分散ニ対シテ之ヲ執行スルコトヲ得ス 第五百五拾壱条 債主総代人ハ動産ニ付キ先取特権アリト称言スル各債主ノ目録ヲ委員裁判官ニ呈出シ而シテ委員裁判官ハ別段ノ理由アルニ於テハ金額ヲ受取リ次第其金額ヲ以テ右債主ニ弁済スルコトヲ許可ス可シ 若シ其先取特権ノ争ハルヽ時ハ裁判所ニ於テ宣告ス可シ ○第三節 書入質ノ権利アル各債主及ヒ不動産ニ付キ先取特権アル各債主ノ権利 第五百五拾弐条 若シ不動産ノ代金分配ヲ動産ノ代金分配以前ニ為シ又ハ之ト同時ニ為ス時ハ先取特権アル債主又ハ書入質ノ権利アル債主ニシテ不動産ノ代金ニ依リ全ク其償還ヲ受クルコトヲ得サリシ者ハ其償還ヲ受ク可キ残額ノ割合ヲ以テ無特権ノ債主ノ合部ニ属スル金額ニ付キ其無特権ノ債主ト相抗競ス可シ但シ之レカ為メニハ右債主ノ債権ヲ前ニ定メタル方法ヲ以テ調査シ及ヒ確言シタルコトヲ必要トス 第五百五拾三条 若シ不動産ノ代金ヲ分配スル前ニ動産ノ代金ノ一回又ハ数回ノ分配ヲ為ス時ハ調査ノ上確言シタル先取特権アル債主及ヒ書入質ノ権利アル債主ハ其債権ノ全額ノ割合ヲ以テ配当中ニ抗競ス可シ但シ場合ニ依リテハ後ニ記スル所ノ離分ヲ為ス可キモノトス 第五百五拾四条 不動産ノ売払及ヒ書入質ノ権利アル債主及ヒ先取特権アル債主ノ間ニ於ケル順序ノ確定ノ後其債主中ニテ其債権ノ全額ノ為メ不動産ノ代金ニ付キ有益ナル順序ニ列スル所ノ者ハ無特権ノ債主ノ合部中ニテ其収取シタル金額ヲ引去ルニ非サレハ其書入質ノ班位整定ノ金額ヲ収受ス可カラサルモノトス 右ノ如クニ引去リタル金額ハ書入質ノ権利アル債主ノ合部中ニ存シ置ク可カラスシテ其利益ノ為メニ離分ヲ為シタル無特権ノ債主ノ合部中ニ戻ラシム可シ 第五百五拾五条 不動産ノ代金ノ分配ニ於テ一部分ノミ班位ヲ整定セラレタル書入質ノ権利アル債主ニ関シテハ左ノ如ク処分ス可シ 無特権ノ債主ノ合部ニ於ケル右債主ノ権利ハ其不動産ノ班位整定ノ後ニ猶債主タル所ノ金額ニ従ヒ之ヲ確定ス可ク而シテ以前ノ分配ニ於テ右債主ノ其割合以外ニ収受シタル金円ハ其債主ノ書入質ノ班位整定ノ金額中ヨリ之ヲ扣除シ而シテ無特権ノ債主ノ合部中ニ之ヲ移シ入ル可シ 第五百五拾六条 有益ナル順序ニ列セサル債主ハ無特権ノモノト看做シ而シテ斯クノ如キモノトシテ分散和約及ヒ無特権ノ債主合部ノ総テノ行為ノ効ヲ受ケシム可シ ○第四節 婦ノ権利 第五百五拾七条 夫ノ家資分散ノ場合ニ於テハ不動産ニ於ケル持参物ヲ共通ニ附セサリシ婦ハ右ノ不動産ト財産相続ニ依リ又ハ生存中ノ贈与或ハ遺嘱ノ贈与ニヨリ其婦ノ得タル不動産トヲ原物ノ侭ニテ取戻ス可シ 第五百五拾八条 婦ハ亦右ノ財産相続及ヒ贈与ヨリ得タル金円ヲ以テ自己ノ名義ニテ自カラ獲得シタル不動産ヲ取戻ス可シ但シ其使用ノ申述ヲ明カニ獲得ノ契約書ニ約権シ且ツ財産目録ニ依リ又ハ其他総テ公正ノ証書ニ依リ右金円ノ因由ヲ証明シタルコトヲ必要トス 第五百五拾九条 前条ニ定メタル場合ノ外、如何ナル制ヲ以テ婚姻ノ契約ヲ為シタルヲ問ハス家資分散人ノ婦ノ獲得シタル財産ハ其夫ニ属スルモノニシテ夫ノ金円ヲ以テ其代価ヲ弁済シ而シテ夫ノ能働件ノ合部中ニ之ヲ併合ス可キモノトスルヲ以テ法律上ノ思量ナリトス但シ婦ハ之ニ反シタル証ヲ立ツルコトヲ得可シ 第五百六拾条 婦ハ婚姻ノ契約ヲ以テ己レニ設定シ又ハ財産相続、生存中ノ贈与或ハ遺嘱ノ贈与ニ依リ己レニ得タルモノニシテ而シテ共通財産中ニ入ラサリシ動産ヲ原物ノ侭ニテ取戻スコトヲ得可シ但シ之レカ為メニハ財産目録又ハ其他総テ公正ノ証書ヲ以テ其品違ニ非サル旨ヲ証スルコトヲ必要トス 若シ婦ノ右ノ証ヲ立テサル時ハ如何ナル制ヲ以テ婚姻ヲ契約シタルヲ問ハス夫並ニ婦ノ使用スル総テノ動産ハ債主ニ於テ之ヲ獲得ス可シ但シ債主総代人ハ委員裁判官ノ許可ヲ得テ婦ノ使用ノ為メニ必要ナル衣服及ヒ布類ヲ婦ニ返スコトヲ得可キモノトス 第五百六拾壱条 第五百五十七条及ヒ第五百五十八条ノ成規ヨリ生スル取戻ノ訴権ハ婦ノ任意ヲ以テ負債及ヒ書入質ノ義務ヲ負ヒタルト裁判ニ依リ其負債及ヒ書入質ヲ言渡サレタルトヲ問ハス其財産ノ法律上ニテ負ヒタル負債及ヒ書入質ノ負任アルニ非サレハ婦ニ於テ之ヲ執行ス可カラス 第五百六拾弐条 若シ婦ノ其夫ノ為メニ負債ヲ弁済シタル時ハ夫ノ金円ヲ以テ其弁済ヲ為シタリトスルヲ以テ法律上ノ思量ナリトス故ニ婦ハ家資分散ニ於テ如何ナル訴権ヲモ執行スルコトヲ得ス但シ第五百五十九条ニ記シタル如ク反対ノ証ヲ立ツルコトヲ得可シ 第五百六拾三条 若シ夫ノ其婚姻ヲ行フ時ニ当リテ商人タル時又ハ当時其他ノ定マリタル職業ナクシテ一年内ニ商人トナリタル時ハ婚姻ヲ行ヒタル時期ニ於テ其夫ニ属シタル不動産又ハ其後ニ財産相続ニ依リ若クハ生存中ノ贈与又ハ遺嘱ノ贈与ニ依リ其夫ノ得タル不動産ノミハ左ノ諸件ノ為メニ婦ノ書入質ヲ受ク可キモノトス 第一 婦ノ嫁資トシテ持参シタル金円及ヒ動産又ハ婚姻ノ後ニ財産相続又ハ生存中ノ贈与或ハ遺嘱ノ贈与ニ依リ婦ノ得タル金円及ヒ動産ニシテ正確ナル日附ヲ有スル証書ニ依リ婦ノ其引渡又ハ弁済ヲ証シタルモノ 第二 結婚中ニ所有権ヲ移転シタル婦ノ財産ノ再用 第三 婦ノ其夫ト共ニ契約シタル負債ノ賠償 第五百六拾四条 婦ニシテ婚姻ヲ行フ時期ニ於テ其夫ノ商人タル者又ハ当時其夫ノ他ノ定マリタル職業ナクシテ婚姻ヲ行ヒタル時ヨリ一年内ニ商人トナリタル者ハ婚姻ノ契約書ニ載セタル利益ノ為メニ其家資分散ニ於テ如何ナル訴権ヲモ執行スルコトヲ得ス而シテ又此場合ニ於テハ債主ハ自己ノ方ニ付テモ右同一ノ契約書ニ於テ婦ヨリ夫ニ為シタル利益ヲ益用スルコトヲ得サルモノトス ○第八章 債主ノ間ニ於ケル配当及ヒ動産ノ算定 第五百六拾五条 動産ノ能働件ノ額中ヨリ家資分散ノ管理ノ費用及ヒ費額ト家資分散人又ハ其家族ニ給与シタル扶助ト先取特権アル債主ニ弁済シタル金額トヲ離分シタル上其動産能働件ノ額ヲ各債主ノ調査シ且ツ確言シタル債権ノ割合ヲ以テ其各債主ノ間ニ配当ス可シ 第五百六拾六条 債主総代人ハ之レカ為メ家資分散ノ景状及ヒ金額受託所ニ附託シタル金円ノ目録ヲ毎月委員裁判官ニ差出ス可シ而シテ委員裁判官ハ別段ノ理由アル時ハ各債主ノ間ニ於ケル配当ヲ命令シテ之レカ量額ヲ定メ且ツ各債主ニ告知ス可キコトヲ監視ス可シ 第五百六拾七条 仏蘭西ノ大陸ノ領地外ニ住所ヲ有スル各債主カ権利義務ノ目録ニ記載セラルヽ所ノ債権ニ当レル分ケ前ヲ貯存ニ附シタル後ニ非サレハ仏蘭西ニ住所ヲ有スル各債主ノ間ニ如何ナル配当ヲモ為ス可カラス 若シ右ノ債権カ正確ナル方法ニテ権利義務ノ目録ニ記載セラレタリト思ハレサル時ハ委員裁判官ハ右ノ貯存ヲ増加ス可キ旨ヲ裁決スルコトヲ得可シ但シ債主総代人ハ其裁決ニ対シテ商事裁判所ニ上訴スルコトヲ得可キモノトス 第五百六拾八条 右ノ分ケ前ハ第四百九十二条ノ末項ニ定メタル期限ノ終ル迄之ヲ貯存ニ附シテ金額受託所ニ附託シ置ク可シ而シテ若シ外国ニ住所ヲ有スル各債主カ此回ノ法律ノ成規ニ従ヒ其債権ヲ調査セシメサル時ハ右ノ分ケ前ヲ認定セラレタル各債主ノ間ニ配当ス可キモノトス 債権ノ許容ニ付キ確然タル裁定ヲ為サヽルモノアル時ハ其債権ノ為メニ右ニ同シキ貯存ヲ為ス可シ 第五百六拾九条 如何ナル弁済ト雖モ債権ヲ設定スル証券ヲ呈示シタル上ニ非サレハ債主総代人ヨリ之ヲ為ス可カラス 債主総代人ハ自己ノ弁済シタル金額又ハ第四百八十九条ニ従ヒ払渡ヲ差図セラレタル金額ヲ証券上ニ記載ス可シ 然レトモ証券ヲ呈示スルコト能ハサル場合ニ於テハ委員裁判官其調査ノ調書ヲ見タル上ニテ弁済ヲ為スコトヲ許可スルヲ得可シ 如何ナル場合ニ於テモ債主ハ配当目録ノ端ニ受取ノ証ヲ附記ス可シ 第五百七拾条 債主ノ連結ハ適法ニ家資分散人ヲ招喚シタル上商事裁判所ノ許可ヲ得テ未タ其金額ノ収受ヲ為サヽル権利及ヒ訴権ノ全部又ハ一部ニ付キ請負ノ約定ヲ為シ而シテ之レカ所有権ヲ移転スルコトヲ得可シ但シ此場合ニ於テハ債主総代人総テ必要ナル所為ヲ行フ可キモノトス 各債主ハ右ノ事ニ関シテ債主ノ連結ノ評議ヲ為サシムル為メ委員裁判官ニ請求スルコトヲ得可シ ○第九章 家資分散人ノ不動産ノ売払 第五百七拾壱条 家資分散ヲ公告スル裁判ヨリ後ハ債主ニ於テ其書入質ノ権利ヲ有セサル不動産ノ所有権収奪ヲ訟求スルコトヲ得ス 第五百七拾弐条 若シ債主ノ連結ノ時期ヨリ前ニ不動産ノ所有権収奪ニ於ケル訟求ヲ始メサル時ハ債主総代人ノミ其売払ヲ訟求スルコトヲ許サルヽモノトス而シテ債主総代人ハ幼者ノ財産売払ノ為メニ定メタル法式ニ従ヒ委員裁判官ノ許可ヲ得テ八日内ニ其売払ヲ為ス可シ 第五百七拾三条 債主総代人ノ訟求ニ依リ不動産ノ糶売落札後ノ増糶買ハ左ノ条件及ヒ法式ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ為ス可カラス 其増糶買ハ十五日内ニ之ヲ為サヽル可カラス 其増糶買ハ糶売落札ノ主タル代金ノ十分一以下タルコトヲ得ス○其増糶買ハ訴訟法第七百十条及ヒ第七百十一条ニ定メタル法式ニ従ヒ民事裁判所ノ書記局ニ之ヲ為ス可ク而シテ何人ニ限ラス増糶買ヲ為スコトヲ許サルヽモノトス 何人ニ限ラス亦其増糶買ニ依レル糶売落札ニ抗競スルコトヲ許サルヽモノトス○其糶売落札ハ確定ノモノニシテ其後更ニ其他ノ増糶買ヲ為スコトヲ得ス ○第拾章 所有権取戻 第五百七拾四条 所有者ヨリ商業手形又ハ未タ弁済セラレサル其他ノ証券ノ金額ヲ収受シ而シテ自己ノ処分ニ於テ其価額ヲ保存ス可キ単一ナル代理委任ヲ以テ其商業手形又ハ其他ノ証券ヲ交付シタル時又ハ其交付シタル商業手形又ハ其他ノ証券ヲ所有者ノ方ニ於テ特ニ定マリタル弁済ニ供シタル時ハ其交付シタル商業手形又ハ其他ノ証券ニシテ家資分散ノ時期ニ当リ原物ノ侭ニテ家資分散人ノ書類挟ノ内ニ現存スルモノハ家資分散ノ場合ニ於テ之レカ所有権ヲ取戻スコトヲ得可シ 第五百七拾五条 附託ノ名義ヲ以テ家資分散人ニ預ケ又ハ所有者ノ計算ニ於テ売払フ為メ家資分散人ニ預ケタル商品ハ其原物ノ侭ニテ存在スル間ハ亦其全部又ハ一部ノ所有権ヲ取戻スコトヲ得可シ 弁済セラレス又ハ価額ヲ規定セラレス又ハ家資分散人ト買主トノ間ニ取引勘定ニ於テ相殺セラレサル右商品ノ代金又ハ其代金ノ一部分ト雖モ亦之レカ所有権ヲ取戻スコトヲ得可シ 第五百七拾六条 家資分散人ニ送遣シタル商品ハ其家資分散人ノ倉庫内ニ於テ之レカ引渡ヲ為サス又ハ家資分散人ノ計算ノ為メニ其商品ヲ売払フコトヲ任セラレタル仲買人ノ倉庫内ニ於テ之レカ引渡ヲ為サヽル間ハ其商品ノ所有権ヲ取戻スコトヲ得可シ 然レトモ若シ其商品ノ到着前ニ其送遣人ノ署名シタル勘定書、積荷目録又ハ送リ状ニ拠リ詐欺ナク其商品ヲ売払ヒタル時ハ所有権取戻ノ訴ヲ受理ス可カラス 所有権ヲ取戻ス者ハ其己レニ収受シタル内金ト船ノ借賃又ハ運送、仲買口銭、保険又ハ其他ノ費用ノ為メニ為シタル総テノ立替金トヲ債主ノ合部ニ償還シ且ツ之ト同一ノ原由ノ為メニ負担シタル金額ヲ弁済ス可キモノトス 第五百七拾七条 商品ノ売主ハ其商品ヲ家資分散人ニ引渡サス又ハ未タ之ヲ其家資分散人若クハ其家資分散人ノ計算ノ為メ第三ノ人ニ送遣セサル時ハ其商品ヲ引留ムルコトヲ得可シ 第五百七拾八条 前二条ニ定メタル場合ニ於テ債主総代人ハ委員裁判官ノ許可ヲ得タル上売主ト家資分散人トノ間ニ合意シタル代金ヲ其売主ニ弁済スルニ依リ商品ノ引渡ヲ得ント要求スルノ権能アリトス 第五百七拾九条 債主総代人ハ委員裁判官ノ認可ヲ得テ所有権取戻ニ於ケル訟求ヲ許容スルコトヲ得可ク若シ争訟アル時ハ裁判所ニ於テ委員裁判官ノ申立ヲ聴キタル後宣告ヲ為ス可シ ○第拾壱章 家資分散ノ事項ニ於テ為シタル裁判ニ対シ取消ヲ訟求スル方法 第五百八拾条 家資分散ヲ公告スル裁判及ヒ其以前ノ日附ニ於テ弁済止息ノ時期ヲ定ムル裁判ハ家資分散人ノ方ニ於テハ八日内ニ故障ヲ申立ツルコトヲ得可ク又総テ其他ノ関係各人ノ方ニ於テハ一月間ニ故障ヲ申立ツルコトヲ得可シ○右ノ期限ハ第四百四十二条ニ表示シタル貼附及ヒ記入ノ法式ヲ履行シタル日ヨリ之ヲ起算ス可キモノトス 第五百八拾壱条 家資分散ヲ公告スル裁判又ハ其後ノ裁判ヨリ生スル処ノ時期ヨリ更ニ他ノ時期ニ於テ弁済止息ノ日附ヲ定メシメントスル債主ノ訟求ハ債権ノ調査及ヒ確言ノ為メノ期限ノ終リシ後ニ於テハ之ヲ受理ス可カラス○右ノ期限ノ終リシ後ハ各債主ニ関シテ弁済止息ノ時期ヲ確然定マリタルモノトス 第五百八拾弐条 家資分散ノ事項ニ於テ為シタル総テノ裁判ニ付キ控訴ノ期限ハ送達ノ時ヨリ起算シテ十五日ノミトス 其期限ハ裁判所々在ノ地ヨリ五「ミリアメートル」ニ過クル距離ニ於テ住所ヲ有スル各人ノ為メニハ五「ミリアメートル」毎ニ一日ノ割合ヲ以テ之ヲ増加ス可シ 第五百八拾三条 左ニ記スル裁判ハ故障ヲ申立ツルコトヲ得ス又控訴ヲ為スコトヲ得ス又破毀ヲ得ント上告スルコトヲ得ス 第一 委員裁判官ノ選任又ハ引易及ヒ債主総代人ノ選任又ハ廃止ニ関スル裁判 第二 護身ノ証票ノ訟求並ニ家資分散人及ヒ其家族ノ為メノ扶助ノ訟求ニ付キ裁定スル裁判 第三 家資分散ニ属スル品物又ハ商品ヲ売払フコトヲ許可スル裁判 第四 分散和約ニ付キ猶予ヲ宣告シ又ハ争ハレタル債主ノ仮リノ許容ヲ宣告スル裁判 第五 委員裁判官ノ職権内ニ於テ其裁判官ノ為シタル命令ニ対スル取消ノ訟求ニ付キ商事裁判所ニ於テ裁定スル所ノ裁判 ○第弐巻 倒産 ○第壱章 単一ナル倒産 第五百八拾四条 単一ナル倒産ノ場合ハ刑法ニ記載シタル刑ヲ以テ罰セラル可ク而シテ債主総代人、各債主又ハ検察官ノ起訴ニ依リ懲治警察裁判所ニ於テ裁判セラル可シ 第五百八拾五条 左ノ場合中ノ一箇ニ在ル家資分散ヲ為シタル各商人ハ単一ナル倒産者ナリト宣告セラル可シ 第一 其一身上ノ費額又ハ其家内ノ費額カ過当ナリト裁判セラルヽ時 第二 純粋ナル偶然ノ事ニ関スル行為若クハ商人集会又ハ商品ニ付テノ虚空ノ行為ニ於テ巨額ヲ消費シタル時 第三 家資分散ヲ遅クセントスルノ意ヲ以テ相場以下ニテ再売スル為メ買入ヲ為シタル時又ハ之ト同一ノ意ヲ以テ金額ノ借入、手形ノ発行又ハ元資ヲ得ル為メ産業ヲ衰敗スルニ至ラシムル其他ノ計策ヲ行ヒタル時 第四 其弁済止息ノ後ニ債主合部ノ損害ニ於テ一債主ニ弁済シタル時 第五百八拾六条 左ノ場合中ノ一箇ニ在ル家資分散ヲ為シタル各商人ハ単一ナル倒産者ナリト宣告スルコトヲ得可シ 第一 交換ニ於テ有価物ヲ収受スルコトナク他人ノ計算ノ為メ当時自己ノ家産ノ景状ニ比スレハ過重ナリト裁判セラレタル約務ヲ負ヒタル時 第二 以前ノ分散和約ノ義務ヲ履行セスシテ更ニ再ヒ家資分散ヲ公告セラレタル時 第三 嫁資ノ制ニテ結婚シ又ハ財産ヲ離分シテ結婚シタル場合ニ於テ第六十九条及ヒ第七十条ニ従ハサル時 第四 其弁済ノ止息ヨリ三日内ニ第四百三十八条及ヒ第四百三十九条ニ必要ナリト定メタル申述ヲ書記局ニ為サヽル時又ハ其申述書ニ各連帯社員ノ姓名ヲ記セサル時 第五 正当ノ差支ナクシテ定マリタル場合及ヒ期限ニ於テ自カラ債主総代人ノ面前ニ出席セサル時又ハ護身ノ証票ヲ得タル後裁判所ニ出テサル時 第六 帳簿ヲ設ケス及ヒ正確ニ財産目録ヲ作ラサル時又ハ其帳簿或ハ目録ノ不完全ノモノタリ又ハ不規則ニ之ヲ設ケタル時又ハ其帳簿或ハ目録ニ其真正ナル能働又ハ所働ノ景状ヲ示サヽル時但シ詐欺ナキ場合ニ限ルモノトス 第五百八拾七条 検察官ヨリ起シタル単一ナル倒産ニ於ケル起訴ノ費用ハ如何ナル場合ニ於テモ債主合部ノ負任ト為スコトヲ得ス 分散和約ノ場合ニ於テハ右ノ費用ノ為メ公ケノ金庫ヨリ家資分散人ニ対スル償還ノ訟求ハ其約定ニ依リ附与セラレタル期限ノ終リシ後ニ非サレハ之ヲ執行スルコトヲ得ス 第五百八拾八条 債主ノ名前ニテ債主総代人ヨリ起シタル起訴ノ費用ハ放免ノ場合ニ於テハ債主ノ合部ニ於テ之ヲ負担シ又刑ヲ言渡シタル場合ニ於テハ公ケノ金庫ニ於テ之ヲ負担ス可シ但シ公ケノ金庫ハ前条ニ従ヒ家資分散人ニ対シテ償還ヲ訟求スルコトヲ得可キモノトス 第五百八拾九条 債主総代人ハ出席シタル債主ノ各自ノ多数ニ於テ為シタル決議ニ依リ許可セラレタル後ニ非サレハ単一ナル倒産ニ於ケル訴ヲ起スコトヲ得ス又債主ノ合部ノ名前ニテ民事原告人トナルコトヲ得ス 第五百九拾条 債主ヨリ起シタル訴ノ費用ハ刑ヲ言渡シタル場合ニ於テハ公ケノ金庫ニ於テ之ヲ負担ス可ク又放免ノ場合ニ於テハ其訴ヲ為ス債主ニ於テ之ヲ負担ス可シ ○第弐章 詐欺ノ倒産 第五百九拾壱条 自己ノ帳簿ヲ隠匿シ又ハ自己ノ能働件ノ一部分ヲ詐取シ或ハ隠蔽シ又ハ其書類ニ於テ若クハ公ケノ証書又ハ私ノ署名ノ約務証書ニ依リ若クハ其権利義務ノ目録ニ依リ詐欺ヲ以テ其己レニ負ハサル金額ノ負債者ナリト認メシメタル家資分散ヲ為シタル各商人ハ詐欺ノ倒産者ナリト宣告セラレ而シテ刑法ニ記載シタル刑ヲ以テ罰セラル可シ 第五百九拾弐条 詐欺ノ倒産ニ於ケル起訴ノ費用ハ如何ナル場合ニ於テモ債主ノ合部ノ負任ト為スコトヲ得ス 若シ債主中一名又ハ数名ノ自己ノ一身上ノ名前ニテ民事原告人トナリタル時ハ其費用ハ放免ノ場合ニ於テハ其債主一名又ハ数名ノ負任タル可シ ○第三章 家資分散人ヨリ更ニ他ノ者ノ家資分散ニ於テ行ヒタル重罪及ヒ軽罪 第五百九拾三条 左ノ各人ハ詐欺ノ倒産ノ刑ヲ言渡サル可シ 第一 家資分散人ノ利益ニ於テ動産ト不動産トヲ問ハス其財産ノ全部又ハ一部ヲ隠匿シ、隠クシ又ハ隠蔽シタルノ証アル各人但シ刑法第六十条ニ定メタル其他ノ場合ト相触ルヽコトナカル可シ 第二 詐欺ヲ以テ自己ノ名前ニ依リ若クハ他人ノ介入ニ依リ虚妄ノ債権ヲ家資分散ニ於テ呈出シ而シテ之ヲ確言シタルノ証アル各人 第三 他人ノ名前又ハ虚妄ノ名前ヲ以テ商業ヲ為シ而シテ第五百九十一条ニ定メタル罪ヲ犯セシ各人 第五百九拾四条 家資分散人ノ配偶者、卑属親或ハ尊属親又ハ之ト同級ノ姻属親ニシテ家資分散人ノ従犯タルコトナク其家資分散ニ属スル品物ヲ詐取シ又ハ窃取シ又ハ隠シタル者ハ盗罪ノ刑ヲ以テ罰セラル可シ 第五百九拾五条 前数条ニ定メタル場合ニ於テハ其訴ヲ掌轄スル上等又ハ下等ノ裁判所ハ仮令放免ヲ為ス時ト雖モ左ノ諸件ニ付キ裁定ス可シ 第一 詐欺ヲ以テ隠匿シタル総テノ財産、権利又ハ訴権ヲ債主ノ合部ニ復帰セシムル事ニ付キ職権上ニテ裁定ス可シ 第二 訟求セラレ而シテ上等又ハ下等裁判所ノ裁判ヲ以テ裁断スル所ノ損害賠償ニ付キ裁定ス可シ 第五百九拾六条 凡ソ管理ニ於テ私曲ノ罪ヲ犯シタル債主総代人ハ刑法第四百六条ニ記載シタル刑ヲ以テ懲治上ニテ罰セラル可シ 第五百九拾七条 凡ソ家資分散ノ評議ニ於ケル発言ノ為メニ私シノ利益ヲ家資分散人若クハ総テ其他ノ各人ト約権シタル債主又ハ家資分散人ノ能働件ノ負任ニ於ケル一個ノ利益ヲ自己ノ為メニ生セシム可キ特別ノ約定ヲ為シタル債主ハ一年ニ過クルコトヲ得サル禁錮ト二千「フランク」以上タルコトヲ得サル罰金トヲ以テ懲治上ニテ罰セラル可シ 若シ其債主カ家資分散ノ債主総代人タル時ハ禁錮ヲ二年ト為スコトヲ得可シ 第五百九拾八条 其合意ハ右ノ外総テノ人ニ関シ又然ノミナラス家資分散人ニ関シテ無効ナリト宣告セラル可シ 其債主ハ取消サレタル合意ニ拠テ収受シタル金額又ハ有価物ヲ当然ノ権利アル者ニ返還ス可キモノトス 第五百九拾九条 民事ノ方法ヲ以テ其合意ノ取消ヲ訟求スル場合ニ於テハ商事裁判所ニ其訴ヲ申告ス可シ 第六百条 凡ソ本章並ニ前二章ニ拠リ為シタル上等又ハ下等裁判所ノ処刑言渡ノ裁判ハ其刑ヲ言渡サレタル者ノ費用ヲ以テ商法第四十二条ニ定メタル法式ニ従ヒ之ヲ貼附シ及ヒ公告ス可シ ○第四章 倒産ノ場合ニ於ケル財産ノ管理 第六百壱条 単一ナル倒産又ハ詐欺ノ倒産ノ為メニ起訴ヲ為シ及ヒ刑ヲ言渡シタル総テノ場合ニ於テハ第五百九十五条ニ記シタル所ノモノヨリ更ニ他ノ民事ノ訴ハ之ヲ離分シ置キ而シテ家資分散ノ為メニ定メタル財産ニ関スル総テノ処分ハ懲治警察裁判所ニモ又重罪裁判所ニモ其審判権ヲ帰スルコトヲ得ス又之ヲ移付スルコトヲ得スシテ其処分ヲ執行ス可シ 第六百弐条 然レトモ家資分散ノ債主総代人ハ其求メラレタル証拠物、証券、書類及ヒ参照ノ諸件ヲ検察官ニ交付ス可キモノトス 第六百三条 債主総代人ヨリ交付シタル証拠物、証券及ヒ書類ハ審理ノ進行中書記局ヲ経由シテ之ヲ査視スルコトヲ得可キモノトス但シ其査視ハ債主総代人ノ請求ニ依テ之ヲ為ス可ク而シテ債主総代人ハ其私シノ抜書ヲ写取リ又ハ其公正ノ抜書ヲ得ント請求スルコトヲ得可クシテ書記ハ其公正ノ抜書ヲ債主総代人ニ送遣ス可シ 其証拠物、証券及ヒ書類中ニテ裁判上ノ附託ヲ命令セラレサルモノハ上等又ハ下等裁判所ノ裁判ノ後之ヲ債主総代人ニ還付ス可ク而シテ債主総代人ハ其義務免除ノ証書ヲ附与ス可シ ○第三巻 復権 第六百四条 家資分散人其負担シタル総テノ金額ヲ主額、利息及ヒ費用ニ於テ全ク弁償シタル時ハ其復権ヲ得ルコトヲ得可シ 家資分散人ハ家資分散ヲ為シタル商社ノ社員タル時ハ仮令特別ノ分散和約ヲ自己ノ為メニ承諾セラレタル時ト雖モ会社ノ総テノ負債ヲ主額、利息及ヒ費用ニ於テ全ク弁償シタル旨ヲ証明セシ後ニ非サレハ其復権ヲ得ルコトヲ得ス 第六百五条 凡ソ復権ニ於ケル訟求ハ家資分散人ノ住所ノ地ヲ管轄スル控訴裁判所ニ之ヲ為ス可シ○原告人ハ其請願書ニ受取証書及ヒ其他ノ証明ノ為メノ証拠物ヲ添ヘサル可カラス 第六百六条 控訴裁判所ニ於ケル検事長ハ其請願書ノ通知伝観ヲ為シタル上其請願書ノ副本ヲ自カラ保証シテ之ヲ原告人住所ノ商事裁判所ノ検事ト其裁判所長トニ差送リ若シ又原告人ノ家資分散以後ニ住所ヲ変シタル時ハ其家資分散ヲ為シタル郡ノ商事裁判所ノ検事ト其裁判所長トニ差送リ右ノ検事及ヒ裁判所長ニ其説明セラレタル事柄ノ真正ナルヤ否ニ付キ其得ルコトヲ得可キ総テノ参照件ヲ収取スルコトヲ任ス可シ 第六百七条 之レカ為メ商事裁判所ノ検事ト其裁判所長トノ求メニ依リ右請願書ノ写ヲ各裁判所ノ審問ノ庁堂ト商人集会場及ヒ邑庁トニ二月ノ期限間貼附シ置キ且ツ新聞紙ニ抜書ヲ以テ記入ス可シ 第六百八条 凡ソ自己ノ債権ノ主額、利息及ヒ費用ヲ全ク弁済セラレサル各債主及ヒ総テ其他ノ関係人ハ貼附ノ継続スル時間証明ノ為メノ証拠物ヲ以テ憑拠ト為シタル単一ナル証書ヲ書記局ニ差出シテ復権ニ付キ故障ノ申立ヲ為スコトヲ得可シ○故障ヲ申立ツル債主ハ決シテ復権ノ手続ニ参加スルコトヲ得ス 第六百九条 二月ノ終リシ後商事裁判所ノ検事及ヒ裁判所長ハ各自別々ニ其収取シタル参照件ト其受ケタル故障申立書トヲ控訴裁判所ニ於ケル検事長ニ送付ス可シ○其検事及ヒ裁判所長ハ訟求ニ付テノ意見書ヲ右ノ書類ニ添ユ可シ 第六百拾条 控訴裁判所ニ於ケル検事長ハ復権ノ訟求ヲ許容シ又ハ之ヲ棄却スル裁判ヲ為サシム可シ○若シ其訟求ノ棄却セラレタル時ハ一年ノ時間ノ後ニ非サレハ更ニ再ヒ其訟求ヲ為スコトヲ得ス 第六百拾壱条 復権ヲ許ルス裁判書ハ其訟求書ヲ差送ラレタル各裁判所ノ検事及ヒ裁判所長ニ之ヲ送付ス可シ○右ノ裁判所ニ於テハ其裁判書ノ公ケノ読上ト其簿冊上ノ登記トヲ為サシム可シ 第六百拾弐条 詐欺ノ倒産者、盗罪、詐欺取財ノ罪又ハ背信ノ罪ノ為メニ刑ヲ言渡サレタル各人、仮冒售売者並ニ其計算ヲ為シテ之ヲ弁済セサル後見人、管理人又ハ其他ノ計算者ハ復権ヲ許容セラル可カラス 単一ナル倒産者ノ其言渡サレタル刑ヲ受ケ終リシ時ハ復権ヲ許容セラルルコトヲ得可シ 第六百拾三条 凡ソ家資分散ヲ為シタル商人ハ其復権ヲ得タルニ非サレハ商人集会ニ出席スルコトヲ得ス 第六百拾四条 家資分散人ハ其死去ノ後ニ復権セラルヽコトヲ得可シ ○第四編 商事裁判権 ○第壱巻 商事裁判所ノ編制 第六百拾五条 商事裁判所ノ数及ヒ商業工業ノ盛大ナルニ依リ商事裁判所ヲ設置ス可キ都府ハ公ケノ行政規則ヲ以テ之ヲ定ム可シ 第六百拾六条 各商事裁判所ノ管轄地ハ其所在ノ地ヲ管轄スル民事裁判所ノ管轄地ト同一タル可シ若シ又一箇ノ民事裁判所ノ管轄内ニ数箇ノ商事裁判所アル時ハ其商事裁判所ノ為メニ各自ノ管轄地ヲ定ム可シ 第六百拾七条 各商事裁判所ハ其裁判所長一名並ニ裁判官及ヒ補役数名ヨリ組成ス可シ○裁判官ノ員数ハ裁判所長ヲ包含セスシテ二名以下タルコトヲ得ス又十四名以上タルコトヲ得ス○補役ノ員数ハ事務ノ需要ニ准ス可キモノトス○裁判官及ヒ補役ノ員数ハ各箇ノ裁判所毎ニ公ケノ行政規則ヲ以テ之ヲ定ム可シ 第六百拾八条 商事裁判所ノ職員ハ其正直及ヒ秩序節約ノ心ノ為メニ称賛ス可キ商人中ヨリ撰ミタル選挙人会議ニ於テ之ヲ選任ス可シ○商業、理財、工作ノ無名会社ノ掌理者、手形売買世話人、五年間船舶ヲ指令シ而シテ二年以来其裁判所ノ管轄内ニ住所ヲ有シタル遠路航行ノ船長及ヒ沿岸航行ノ船頭ハ亦其集会ニ招喚セラルヽコトヲ得可シ○選挙人ノ員数ハ営業税ニ付キ記入セラレタル商人ノ十分一ニ等シカル可ク而シテ一千ニ過ルコトヲ得ス又五十ヨリ少ナキコトヲ得サルモノトス但シ「セイヌ」州ニ於テハ其員数ハ三千タル可シ 第六百拾九条 選挙人ノ姓名表ハ左ノ各人ヨリ組成シタル委員局ニ於テ之ヲ作ル可シ 第一 上席ヲ為ス商事裁判所長及ヒ商事裁判所ノ裁判官一名○商事裁判所造設ノ後最初ノ選挙ニ於テハ民事裁判所長ト其裁判所ノ裁判官一名トヲ委員局ニ招喚ス可シ 第二 商業会議局長及ヒ其会議局ノ会員一名但シ商業会議局長カ商事裁判所長ヲ兼ヌル時ハ其会議局ノ他ノ会員一名ヲ招喚ス可ク又商業会議局ノアラサル都府ニ於テハ工技諮問会長ト其会員一名トヲ招喚ス可ク若シ其アラサル時ハ邑会議員一名ヲ招喚ス可シ 第三 成ル可キ丈ケハ其裁判所管轄内ノ各県ニ於テ選挙セラレタル議員中ヨリ択ミタル州会議員三名 第四 工事裁判会長若シ又其会長ノ数名アル時ハ会長中ノ最年長者但シ工事裁判会ノアラサル時ハ其裁判所々在ノ都府ノ治安裁判官又ハ数名ノ治安裁判官中ノ最年長者ヲ委員局ニ招喚ス可シ 第五 商事裁判所々在ノ都府ノ邑長又巴里府ニ於テハ邑会議長 前数項ニ定メタル場合ニ於テハ商事裁判所ノ裁判官、商業会議局ノ会員、民事裁判所ノ裁判官、州会議員及ヒ邑会議員ハ其属スル所ノ各局ヨリ選挙セラル可シ○毎年委員局ハ最後ノ改正以後ニ生シタル死去及ヒ法律上ノ無能力ニ依レル缺員ヲ補填ス可シ○委員局ハ第六百十九条ニ定メタル選挙人ノ員数ノ外ニ商業会議局ノ以前ノ会員及ヒ商事裁判所ノ以前ノ職員ト工事裁判会ノ以前ノ会長トヲ其姓名表ニ加フ可シ○左ノ各人ハ姓名表ニ記載セラルヽコトヲ得ス仮令又姓名表ニ記載セラレタリト雖トモ選挙ニ参加スルコトヲ得ス 第一 施体又ハ加辱ノ刑ヲ言渡サレ若クハ法律上ニ重罪ノ名称ヲ附セラレタル所為ノ為メ又ハ盗罪詐欺取財ノ罪、背信ノ罪、高利ヲ貪ルノ罪、風俗乱害ノ罪ノ為メ又ハ密売ノ罪ノ為メニ懲治ノ刑ヲ言渡サレタル各人但シ密売ノ罪ノ為メノ刑ノ言渡ハ少クトモ一月間ノ禁錮タル時ニ限ル 第二 賭場、富講及ヒ質取貸附所ニ付テノ法律ヲ犯シタルカ為メ刑ヲ言渡サレタル各人 第三 刑法第四百十三条、第四百十四条、第四百十九条、第四百二十条、第四百二十一条、第四百二十三条、第四百三十条ノ第二項及ヒ商法第五百九十六条、第五百九十七条ニ定メタル罪ノ為メニ刑ヲ言渡サレタル各人 第四 罷免セラレタル裁判所附役員 第五 家資分散人ニシテ復権セラレサル者及ヒ一般ニ選挙ノ法律ニ依リ立法上ノ選挙ニ於テ投票ヲ為スノ権利ヲ剥奪セラレタル各人 其姓名表ハ之ヲ州長ニ送リテ州長之ヲ公ケニシ及ヒ貼附セシム可シ○商事裁判所長ハ其一通ニ署名シテ之ヲ商事裁判所ノ書記局ニ納ム可シ○其管轄地内ニ於テ営業税ヲ納ムル各人ハ之ヲ一覧シテ如何ナル時期ヲ問ハス前ニ記シタル無能力ノ場合中ノ一箇ニアル選挙人ノ塗抹ヲ訟求スルノ権利アリトス○其訴ハ無費ニテ民事裁判所ニ申告シ而シテ民事裁判所ハ裁判官会議室ニ於テ宣告ス可シ○控訴ニ於テハ控訴裁判所ニ於テ右ト同一ノ法式ヲ以テ裁定ス可シ 第六百弐拾条 凡ソ三十歳ノ齢ニシテ五年以来営業税ニ付キ記入セラレ而シテ選挙ノ時ニ当リテ其裁判所ノ管轄内ニ住所ヲ有スル各商人及ヒ手形売買世話人、五年間無名会社ノ掌理者ノ職務ヲ履行シタル各人、五年間指令ヲ為シ且ツ右ト同一ノ年齢及ヒ住所ノ要件ヲ証明スル遠路航行ノ船長及ヒ沿岸航行ノ船頭ハ選挙人ノ姓名表ニ記載セラレ又ハ之ニ記入セラルヽニ必要ナル条件ヲ具備シタルニ於テハ裁判官又ハ補役ニ選任セラルヽコトヲ得可シ 以前ノ商人及ヒ手形売買世話人ハ右ト同一ノ時間其商業ヲ行ヒタル時ハ選挙セラルヽコトヲ得可キモノトス 何人ニ限ラス補役タル者ニ非サレハ裁判官ニ選任セラルヽコトヲ得ス 其裁判所長ハ以前ノ裁判官中ニ非サレハ之ヲ撰ムコトヲ得ス 第六百弐拾壱条 選挙ハ裁判官及ヒ補役ニ付テハ連名投票ヲ以テ之ヲ為シ又裁判所長ニ付テハ各自ノ投票ヲ以テ之ヲ為ス可シ○裁判所長ヲ選挙ス可キ時ハ其投票ニ取掛ル前ニ選挙ノ特別ノ目的ヲ広告ス可シ 選挙ハ商事裁判所々在ノ首地ノ区長之レカ上席ヲ為シ補佐員四名ノ補助ヲ受ケ其裁判所ノ搆内ニ於テ之ヲ為ス可シ但シ其補佐員中ノ二名ハ出席シタル選挙人中ノ最年少者タル可ク他ノ二名ハ其最年長者タル可シ 選挙人ノ招集ハ十二月ノ初メノ十五日内ニ本州ノ州長ヨリ之ヲ為ス可シ 何人ニ限ラス第一回ノ投票ニ於テハ発出シタル投言ノ一半以上ト記入セラレタル選挙人ノ員数ノ四分一ニ当レル数トヲ併合シタルニ非サレハ選挙セラレサルモノトス○其時ヨリ八日ノ後ニ為ス所ノ第二回ノ投票ニ於テハ対比ノ多数ヲ以テ足レリトス○各箇ノ投票ノ継続スル時間ハ少クトモ二時トス 其調書ハ正本三通ヲ作リテ上席人ヨリ其一通ヲ州長ニ送付シ他ノ一通ヲ検事長ニ送付シ更ニ他ノ一通ヲ裁判所ノ書記局ニ納ム可シ○各選挙人ハ選挙ノ後五日内ニ其選挙ノ行為ヲ取消サント控訴裁判所ニ訴フルコトヲ得可ク而シテ控訴裁判所ハ簡略ノ方法ヲ以テ費用ナク裁定ス可シ○検事長ハ無効ヲ訟求スル為メ十日ノ猶予ヲ有ス可キモノトス 第六百弐拾弐条 最初ノ選挙ニ於テハ其裁判所ヲ組成スル裁判所長、裁判官及ヒ補役ノ一半ヲ二年間選任シ裁判官及ヒ補役ノ他ノ一半ヲ一年間選任ス可シ又其後ノ選挙ニ於テハ総テノ選任ヲ二年間為ス可キモノトス 同一ノ選挙中ニ包含セラレタル各員中一名又ハ数名ノ就任ヲ延ハシタル時ト雖モ其各員ハ同時ニ定期ノ更換ヲ受ク可シ 第六百弐拾三条 二年間在職ノ後其職ヲ退キタル裁判所長及ヒ裁判官ハ更ニ二年間直チニ再選セラルヽコトヲ得可シ○其再度ノ期限ノ終リタル上ハ更ニ一年ノ時間ヲ経タル後ニ非ラサレハ選挙セラルヽコトヲ得ス 死去又ハ総テ其他ノ原由ニ依リ他人ニ代ハリテ選挙セラレタル各員ハ其先任者ニ委託セラレタル職任ノ継続スル時間ノミ其職ニ在ル可キモノトス 第六百弐拾四条 各箇ノ裁判所ニハ国王(共和国大統領)ヨリ任セラレタル書記一名ト使吏数名トヲ置ク可シ但シ其書記及ヒ使吏ノ給料、手数料及ヒ本分ハ公ケノ行政規則ヲ以テ之ヲ定ム可キモノトス 第六百弐拾五条 巴里府ノミニ於テハ拘留ヲ惹起スル裁判ノ執行ノ為メ商事監守人ヲ設置ス可シ但シ其編制ノ方法及ヒ其職権ハ別段ノ規則ヲ以テ之ヲ定ム可キモノトス 第六百弐拾六条 商事裁判所ニ於ケル裁判ハ少クトモ裁判官三名ニテ之ヲ為ス可シ但シ補役ハ其三名ノ数ヲ補完スル為メニ非サレハ招喚ス可カラサルモノトス 若シ忌避又ハ差支ニ依リ裁判官又ハ裁判官補役ノ充分ナル員数ノ存セサル時ハ毎年各箇ノ商事裁判所ニ於テ其管轄内ノ被選挙人中ヨリ作リタル姓名表ニ依リ又其被選挙人ノ不足ナル時ハ選挙人中ヨリ作リタル姓名表ニ依リ其缺ヲ補フ可シ但シ右ノ被選挙人及ヒ選挙人ハ共ニ其裁判所々在ノ都府ニ於テ居住ヲ有スル者ニ限ル 右ノ姓名表ハ巴里府ニ於テハ五十名ヲ記シ職員九名ノ裁判所ニ付テハ二十五名ヲ記シ其他ノ裁判所ニ付テハ十五名ヲ記ス可シ 補缺裁判官ハ裁判所長ノ公ケノ会席ニ於テ其姓名表ノ総テノ姓名中ニ就キ抽籤ヲ以テ定メタル順序ニ於テ之ヲ招喚ス可シ 第六弐拾七条 代書人ノ参渉ハ訴訟法第四百十四条ニ従ヒ商事裁判所ニ於テハ禁止セラルヽモノトス又何人ニ限ラス一方本人カ商事裁判所ノ審問席ニ出席シテ其代弁ヲ許可シタル時又ハ特別ナル代理委任状ヲ具有シタルニ非サレハ右裁判所ニ於テ一方本人ノ為メニ代弁スルコトヲ得ス○其代理委任状ハ呼出状ノ正本又ハ写ノ末ニ之ヲ附記スルコトヲ得可ク而シテ其委任状ハ訴訟ノ呼上ノ前ニ之ヲ書記ニ示シテ書記ハ費用ナク之ニ検署ス可キモノトス 商事裁判所ニ申告シタル訴訟ニ於テハ如何ナル使吏ト雖トモ代弁人トナリテ立会フコトヲ得ス又代理人タルノ分限ニ於テ訴訟人ニ代理スルコトヲ得ス若シ之ニ背ク時ハ其裁判所ヨリ控訴ナク二十五「フランク」乃至五十「フランク」ノ罰金ヲ宣告ス可シ但シ其違背シタル使吏ニ対スル取締ノ罰ト相触ルヽコトナカル可シ 右ノ成規ハ訴訟法第八十六条ニ定メタル場合中ノ一箇ニアル所ノ使吏ニ適用ス可カラサルモノトス 第六百弐拾八条 商事裁判所ノ裁判官ノ職務ハ唯栄誉上ノミノモノトス 第六百弐拾九条 商事裁判所ノ裁判官ハ其裁判所ヲ設置シタル管轄地内ニ於テ控訴裁判所ノ設ケアル時ハ職務ヲ行ヒ始ムル前ニ其控訴裁判所ノ審問席ニ於テ誓ヲ為ス可ク又之ニ反シタル場合ニ於テハ控訴裁判所ヨリ其商事裁判所ノ裁判官ノ求メニ依リ其誓ヲ受クル為メ右管轄地ノ民事裁判所ニ委任ス可シ而シテ此場合ニ於テハ民事裁判所ハ其調書ヲ作リテ之ヲ控訴裁判所ニ送リ控訴裁判所ニ於テハ其簿冊ニ之ヲ記入スルコトヲ命令ス可キモノトス○右ノ法式ハ検察官ノ求メニ依リ費用ナクシテ之ヲ履行ス可シ 第六百三拾条 商事裁判所ハ司法卿ノ職権内及ヒ監視下ニアルモノトス ○第弐巻 商事裁判所ノ管轄 第六百三拾壱条 商事裁判所ハ左ノ諸件ヲ裁定ス可シ 第一 商人、商賈及ヒ銀行者ノ間ノ約務及ヒ行為ニ関スル争訟 第二 商業会社ノ事ノ為メ其社員ノ間ニ於ケル争訟 第三 各人ノ間ニ於ケル商業ノ所為ニ関スル争訟 第六百三拾弐条 法律ハ左ノ諸件ヲ商業ノ所為ト看做スモノトス 凡ソ飲食品及ヒ商品ヲ原物ノ侭若クハ之ヲ製作シタル後ニ再売スル為メ又ハ然ノミナラス単一ニ其使用ヲ賃貸スル為メ其飲食品及ヒ商品ノ買入 凡ソ製造、仲買、水陸ノ運送ノ業務 凡ソ物品ノ供給、替弁所、取次所、糶売ノ設立場、公ケノ見セ物ノ業務 凡ソ為替、銀行、商業ノ世話ノ行為 凡ソ公ケノ銀行ノ行為 凡ソ商人、商賈及ヒ銀行者ノ間ノ義務 凡ソ如何ナル人ノ間ニ為スヲ問ハス為替手形又ハ此ノ地ヨリ彼ノ地ニ為ス所ノ金円ノ送付 第六百三拾三条 法律ハ亦左ノ諸件ヲ商業ノ所為ト看做スモノトス 凡ソ内部及ヒ外部ノ航行ノ為メノ船舶造営ノ業務並ニ其買入、売払及ヒ再売 凡ソ海上ノ艤送 凡ソ船具、器具及ヒ飲食料ノ買入又ハ売払 凡ソ船ノ賃貸又ハ船ノ借入、航海ノ危険ヲ冒ス貸借並ニ海上ノ商業ニ関スル総テノ保険及ヒ其他ノ契約 凡ソ乗組人ノ給料及ヒ雇賃ノ為メノ合同及ヒ合意 凡ソ商船ノ用務ノ為メ海員雇入ノ契約 第六百三拾四条 商事裁判所ハ亦左ノ諸件ヲ裁定ス可シ 第一 商賈ノ手代、管店者又ハ商賈ノ従者ノ其附従スル商賈ノ商売上ノ所為ノミニ付キ其手代、管店者又ハ従者ニ対スル訴 第二 公金ノ収受役、払渡役、取立役、又ハ其他ノ公金ノ計算者ノ作リタル切手 第六百三拾五条 商事裁判所ハ此法典第三編ニ定メタル所ニ従ヒ家資分散ニ関スル諸件ヲ裁定ス可シ 第六百三拾六条 若シ第百十二条ノ文面ニ従ヒ為替手形ヲ単純ナル約務書ノミト看做ス可キ時又ハ差図手形ニ商人タラサル各人ノ署名ノミヲ載セ而シテ商業、商売、為替、銀行又ハ商業ノ世話ノ行為ヲ以テ其原因ト為サヽル時ハ商事裁判所ハ被告人ノ請求ニ依リ民事裁判所ニ其訴ヲ移送ス可キモノトス 第六百三拾七条 若シ為替手形及ヒ差図手形ニ商人タル各人ト商人タラサル各人トノ署名ヲ載セタル時ハ商事裁判所ニ於テ之ヲ裁定ス可シ然レトモ商事裁判所ハ商人タラサル各人ニ対シテ拘留ヲ宣告スルコトヲ得ス但シ其各人カ商業、商売、為替、銀行又ハ商業ノ世話ノ行為ノ為メニ約務ヲ負ヒタル時ハ格別ナリトス 第六百三拾八条 所有者、耕作者又ハ葡萄ノ栽丁ノ産出シタル飲食品ノ売払ノ為メ右ノ各人ニ対シテ起シタル訴及ヒ商人ノ己レ一個ノ使用ノ為メニ買入レタル飲食品及ヒ商品ノ弁済ノ為メ其商人ニ対シテ起シタル訴ハ商事裁判所ノ管轄タラサルモノトス 然レトモ商人ノ署名シタル切手ハ其商業ノ為メニ作リタルモノト看做シ又公金ノ収受役、払渡役、取立役又ハ其他ノ公金ノ計算者ノ切手ハ其管理ノ為メニ作リタルモノト看做ス可シ但シ他ノ原由ヲ其切手ニ表示シタル時ハ格別ナリトス 第六百三拾九条 商事裁判所ハ左ノ諸件ヲ終審ニテ裁判ス可シ 第一 商事裁判所ノ裁判ヲ受ク可キ者ニシテ自己ノ権利ヲ使用スル各人カ控訴ナク確定ノ裁判ヲ受ケント欲スル旨ヲ申述シタル総テノ訟求 第二 主額ノ千五百「フランク」ノ価額ニ過キサル総テノ訟求 第三 反対訟求又ハ相殺ニ於ケル訟求ヲ主タル訟求ニ併合シテ千五百「フランク」ニ過クル時ト雖モ其反対訟求又ハ相殺ニ於ケル訟求 若シ主タル訟求又ハ反対訟求中ノ一個カ前ニ指示シタル制限以上ニ登ル時ハ裁判所ハ其諸件ニ付キ始審ノミニテ宣告ス可シ 然レトモ若シ損害賠償ニ於ケル訟求カ主タル訟求ノミニ基キタル時ハ其損害賠償ニ於ケル訟求ニ付キ終審ニテ裁定ヲ為ス可シ 第六百四拾条 商事裁判所ノアラサル各郡ニ於テハ民事裁判所ノ裁判官此法律ニ依リ商事裁判官ニ附与セラレタル職務ヲ行ヒ且ツ其事項ヲ裁定ス可シ 第六百四拾壱条 右ノ場合ニ於テ其審理ハ商事裁判所ニ於ケルト同一ノ方法ヲ以テ之ヲ為シ且ツ其裁判ハ之ト同一ノ効ヲ生ス可シ ○第三巻 商事裁判所ニ於テ訴訟ノ手続ヲ為ス方法 第六百四拾弐条 商事裁判所ニ於テ訴訟ノ手続ヲ為ス方法ハ訴訟法第一部第二編第二十五巻ニ規定シタル所ニ従フ可シ 第六百四拾三条 然レトモ下等裁判所ニ於テ為シタル缺席裁判ニ関スル同法典第百五十六条、第百五十八条、第百五十九条ハ商事裁判所ニ於テ為シタル缺席裁判ニ適用ス可キモノトス 第六百四拾四条 商事裁判所ノ裁判ノ控訴ハ其商事裁判所々在ノ地ヲ管轄スル控訴裁判所ニ之ヲ申告ス可シ ○第四巻 控訴裁判所ニ於テ訴訟ノ手続ヲ為ス方法 第六百四拾五条 商事裁判所ノ裁判ヲ控訴スル為メノ期限ハ対審ニテ為シタル裁判ニ付テハ其裁判書ノ送達ノ日ヨリ起算シテ二月トシ又缺席ニテ為シタル裁判ニ付テハ其故障申立ノ期限ノ終リシ日ヨリ起算シテ二月トス但シ其控訴ハ裁判ノ当日ニ於テモ之ヲ為スコトヲ得可シ 第六百四拾六条 第六百三十九条ニ依リ終審ノ為メニ定メタル管轄ノ制限内ニ於テハ仮令其裁判書ニ終審ニテ為シタル旨ヲ表示セス又然ノミナラス其裁判ヲ控訴ノ負任ニテ為シタル旨ヲ表示シタル時ト雖モ控訴ヲ受理ス可カラサルモノトス 第六百四拾七条 控訴裁判所ハ如何ナル場合ヲ問ハス仮令管轄違ノ為メニ商事裁判所ノ裁判ヲ取消サント訟求シタル時ト雖モ其裁判ノ執行ニ付キ制止ヲ附与スルコトヲ得ス又其執行ヲ猶予スルコトヲ得ス若シ之ニ背ク時ハ無効タル可ク又然ノミナラス別段ノ理由アル時ハ関係各人ニ損害ノ賠償ヲ為ス可シ然レトモ控訴裁判所ハ場合ノ需要ニ従ヒ其控訴ニ付キ弁論スル為メ特定ノ日時ニ於テ臨時ニ呼出スノ許可ヲ附与スルコトヲ得可シ 第六百四拾八条 商事裁判所ノ裁判ノ控訴ハ控訴裁判所ニ於テ簡略事件ニ於テ為シタル裁判ノ控訴ノ如クニ之ヲ審理シ及ヒ裁判ス可シ○確定ノ裁判ニ至ル迄ノ訴訟手続ハ民事ニ於ケル控訴ノ為メ訴訟法第一部第三編ニ定メタル所ニ従フ可キモノトス