仏蘭西法律書 民法 増訂本

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前加巻 一般ニ法律ノ公布、効力及ヒ適用(千八百三年三月五日決定同月十五日宣令) 第一条 法律ハ国王(共和国大統領)ヨリ為シタル宣令ニ拠リ仏蘭西領地ノ全部ニ於テ執行ス可キモノトス○法律ハ其宣令ヲ知ルコトヲ得タル時ヨリ王国(共和国)中ノ各部ニ於テ之ヲ執行ス可シ 国王(共和国大統領)ヨリ為シタル宣令ハ国王所在ノ州ニ於テハ其宣令ノ日ノ次日ニ之ヲ知リタルト看做ス可ク又其他ノ各州ニ於テハ宣令ヲ為シタル都府ト各州ノ首地トノ間ニ十「ミリアメートル亅(大抵古ノ二十「リーウ」)ノ路程毎ニ之ニ応スル日数ヲ増加シタル同上ノ期限ノ終リシ後ニ之ヲ知リタルト看做ス可シ 第二条 法律ハ将来ノ為メノミニ制定シ既往ニ及ホス効ヲ有セス 第三条 警察及ヒ安寧ノ法律ハ凡ソ領地内ニ住スユ各人ヲ羈勒ス 不動産ハ外国人ノ占有スルモノト雖トモ仏蘭西ノ法律ヲ以テ之ヲ管理ス 人ノ身分及ヒ能力ニ関スル法律ハ外国ニ居住スル者ト雖トモ仏蘭西人ヲ管理ス 第四条 法律ノ欠缺、不明又ハ不備ヲ以テ口実トシ裁判スルヲ否拒スル所ノ裁判官ハ裁判否拒ノ罪アリトシテ訴ヲ受ク可シ 第五条 裁刻官其申告ヲ受ケタル訴訟ニ付キ広博ニシテ且ツ規則トナル可キ制定ノ方法ヲ以テ宣告スルコトヲ禁ス 第六条 私シノ合意ヲ以テ公ケノ秩序及ヒ善良ノ風儀ニ関スル法律ニ違背スルコトヲ得ス 第一編 人 第一巻 民権ノ享有及ヒ剥奪(千八百三年三月八日決定同月十八日宣令) 第一章 民権ノ享有 第七条 民権ノ執行ハ国士タルノ分限ト相関スルコトナシ但シ国士タルノ分限ハ憲法ニ依テノミ之ヲ獲得シ及ヒ之ヲ保存スルモノトス 第八条 各仏蘭西人ハ民権ヲ享有ス可シ 第九条 凡ソ仏蘭西ニ於テ生レタル外国人ノ子ハ其成年ノ時期ニ至リシ時ヨリ一年内ニ仏蘭西人タルノ分限ヲ得ント求ムルコトヲ得可シ但シ之レカ為メニハ其者ノ仏蘭西ニ居住スル場合ニ於テハ仏蘭西ニ其住所ヲ定ム可キノ意思タルコトヲ申述シ又其者ノ外国ニ居住スル場合ニ於テハ仏蘭西ニ其住所ヲ定ム可キノ約務ヲ為シテ其約務ノ証書ヨリ起算シテ一年内ニ仏蘭西ニ其住所ヲ設定スルコトヲ必要トス 第十条 凡ソ外国ニ於テ生レタル仏蘭西人ノ子ハ仏蘭西人ナリ 凡ソ仏蘭西人タルノ分限ヲ失ヒシ仏蘭西人ノ外国ニ於テ生ミタル子ハ何時ニ限ラス第九条ニ定メタル法式ヲ履行スルニ於テハ右ノ分限ヲ復スルコトヲ得可シ 第十一条 外国人ハ其所属本国ノ条約ニ依リ仏蘭西人ニ附与シ又ハ附与ス可キモノニ同シキ民権ヲ仏蘭西ニ於テ享有ス可シ 第十二条 仏蘭西人ニ嫁シタル外国ノ女ハ其夫ノ景状ニ従フ可シ 第十三条 国王(共和国大統領)ノ許可ニ依リ仏蘭西ニ其住所ヲ設定スルコトヲ許サレタル外国人ハ其仏蘭西ニ居住スルコトヲ継続スル間ハ仏蘭西ニ於テ総テノ民権ヲ享有ス可シ 第十四条 外国人ハ仏蘭西ニ居住セサル者ト雖トモ仏蘭西ニ於テ仏蘭西人ト契約シタル義務ノ執行ノ為メ仏蘭西ノ裁判所ニ呼出スコトヲ得可ク又外国人ノ外国ニ於テ仏蘭西人ニ対シテ契約シタル義務ノ為メ之ヲ仏蘭西ノ裁判所ニ召喚スルコトヲ得可シ 第十五条 仏蘭西人ハ外国ニ於テ仮令外国人ト契約シタル義務ノ為メト雖トモ之ヲ仏蘭西ノ裁判所ニ召喚スルコトヲ得可シ 第十六条 商業ノ事項ノ外総テ如何ナル事項ニ於テモ原告人タル外国人ハ其訴訟ヨリ生スル費用及ヒ損害賠償ノ弁済ノ為メ保証人ヲ立ツ可シ但シ其外国人ノ仏蘭西ニ於テ其弁済ヲ確保スル為メニ充分ナル価額ノ不動産ヲ占有スル時ハ格別ナリトス 第二章 民権ノ剥奪 第一節 仏蘭西人タルノ分限ヲ失フニ依レル民権ノ剥奪 第十七条 仏蘭西人タルノ分限ハ左ノ諸件ニ依テ之ヲ失フモノトス 第一 外国ニ於テ獲得シタル帰化 第二 国王(共和国大統領)ノ許可ヲ得スシテ外国政府ヨリ授与セラレタル公ケノ職務ヲ受諾スル事 第三 総テ帰国ノ意ナク外国ニ於テ為シタル定業 商業上ノ定業ハ決シテ帰国ノ意ナクシテ為シタルモノト看做スコトヲ得ス 第十八条 仏蘭西人タルノ分限ヲ失ヒシ仏蘭西人ハ国王(共和国大統領)ノ許可ヲ得テ仏蘭西ニ帰リ且ツ仏蘭西ニ其居住ヲ定メント欲スルコトト仏蘭西ノ法律ニ背キタル総テノ栄顕ヲ放棄スルコトトヲ申述スルニ於テハ何時ニ限ラス仏蘭西人タルノ分限ヲ復スルコトヲ得可シ 第十九条 外国人ニ嫁シタル仏蘭西ノ女ハ其夫ノ景状ニ従フ可シ 若シ其女ノ寡婦トナリシ時仏蘭西ニ居住シ又ハ国王(共和国大統領)ノ許可ヲ受ケ仏蘭西ニ帰リテ仏蘭西ニ居住ヲ定メント欲スル旨ヲ申述スルニ於テハ仏蘭西人タルノ分限ヲ復ス可シ 第二十条 第十条第十八条、第十九条ニ定メタル場合ニ於テ仏蘭西人タルノ分限ヲ復スル者ハ其数条ニ依リ負ハシメラレタル条件ヲ履行シタル後ニ非レハ其分限ヲ益用スルコトヲ得ス且ツ其時期ヨリ後ニ自己ノ利益ノ為メニ開始シタル権利ノ執行ノ為メノミニ非レハ右ノ分限ヲ益用スルコトヲ得ス 第二十一条 国王(共和国大統領)ノ許可ヲ得スシテ外国ニ於テ兵役ニ服シ又ハ外国ノ兵社ニ加ハリタル仏蘭西人ハ其仏蘭西人タルノ分限ヲ失フ可シ 其仏蘭西人ハ国王(共和国大統領)ノ許ヲ得ルニ非レハ仏蘭西ニ帰ルコトヲ得ス且ツ仏蘭西国士トナル為メニ外国人ニ負ハシメタル条件ヲ履行スルニ非サレハ仏蘭西人タルノ分限ヲ復スルコトヲ得ス但シ国ニ叛キテ兵器ヲ携ヘ又ハ携ヘントスル仏蘭西人ニ対シ刑法ニ定メタル刑ト相触ルルコトナカル可シ 第二節 裁判上ノ刑ノ言渡ニ依レル民権ノ剥奪(本節第二十二条ヨリ第三十三条ニ至ル迄ノ各条ハ千八百五十四年五月三十一日ノ法律ヲ以テ削除ス) 第二十二条 刑ヲ言渡サレタル者ノ総テ以下ニ記スル民権ニ参加スルノ権利ヲ剥奪スルノ効アル刑ヲ言渡シタル時ハ准死ヲ惹起ス可シ 第二十三条 死刑ヲ言渡シタル時ハ准死ヲ惹起ス可シ 第二十四条 其他ノ無期ノ施体ノ刑ハ法律ニ於テ准死ヲ惹起スルノ効ヲ附シタル時ニ非レハ准死ヲ惹起セス 第二十五条 刑ヲ言渡サレタル者ハ准死ニ依リ其占有スル総テノ財産ノ所有権ヲ失ヒ且ツ其者ノ遺嘱ナクシテ死去シタル時ト同一ノ方法ニテ其相続人ノ利益ニ於テ財産相続ヲ開始シ其相続人ニ則産ヲ移転ス可シ 其者ハ最早如何ナル財産相続ヲモ収取スルコトヲ得ス又准死ノ後ニ獲得シタル財産ヲ財産相続ノ名義ヲ以テ人ニ転移スルコトヲ得ス 其者ハ自己ノ財産ノ全部又ハ一部ヲ生存中ノ贈与ニ依リ若クハ遺嘱ニ依リ処分スルコトヲ得ス又養料ノ為メニ非サレハ生存中ノ贈与又遺嘱ノ名義ニテ財産ヲ収受スルコトヲ得ス 其者ハ後見人ニ任セラルルコトヲ得ス又後見ニ関シタル所為ニ参加スルコトヲ得ス 其者ハ有式又ハ公正ノ証書ニ於テ証人トナルコトヲ得ス又裁判所ニ於テ証ヲ申告スルコトヲ許サス 其者ハ訴訟ヲ申告スル所ノ裁判所ヨリ其者ノ為メニ任シタル特別管財人ノ名前ニテ且ツ其紹介ヲ受クルニ非サレハ原告人又ハ被告人トナリテ裁判所ニ出ルコトヲ得ス 其者ハ民法上ノ効ヲ生スル婚姻ヲ契約スルコト能ハス 其者ノ以前契約シタル婚姻ハ総テ其民法上ノ効ニ付テハ解分セラルルモノトス 其者ノ配偶者及ヒ相続人ハ其者ノ死去ノ為メニ開始ス可キ権利及ヒ訴権ヲ各自執行スルコトヲ得可シ 第二十六条 刑ノ対審ノ言渡ハ其現実ノ執行若クハ肖像ニ依レル執行ノ日ヨリ起算スルニ非サレハ准死ヲ惹起セス 第二十七条 刑ノ缺席ノ言渡ハ肖像ニ依レル裁判執行ノ時ヨリ五年ノ後ニ非サレハ准死ヲ惹起セス但シ其五年ノ間ハ刑ノ言渡ヲ受ケタル者自カラ投首スルコトヲ得可シ 第二十八条 缺席シテ刑ノ言渡ヲ受ケタル者ハ五年間又ハ其期限間ニ自カラ投首シ或ハ逮捕セラルルニ至ル迄民権ノ執行ヲ剥奪セラル可シ 其者ノ財産ハ失踪者ノ財産ニ同シク之ヲ管理シ又其者ノ権利ハ失踪者ノ権利ニ同シク之ヲ執行ス可シ 第二十九条 缺席シテ刑ノ言渡ヲ受ケタル者カ其執行ノ日ヨリ起算シテ五年内ニ其任意ニテ投首シタル時又ハ其期限内ニ逮捕セラレテ拘留ヲ受ケタル時ハ其裁判ハ当然消滅シ其犯罪被告人ハ自己ノ財産ノ占有ヲ復シテ更ニ復タ裁判ヲ受ク可シ若シ其再度ノ裁判ニ依リ更ニ同一ノ刑ヲ言渡サレ又ハ以前ノ刑ニ異ナルト雖トモ均シク准死ヲ惹起スル刑ヲ言渡サレタル時ハ其再度ノ裁判執行ノ日ヨリ起算スルニ非サレハ准死トナラサルモノトス 第三十条 缺席シテ刑ノ言渡ヲ受ケタル者カ五年ノ後ニ至リテ自カラ投首シ又ハ狗留ヲ受ケタル上ニテ再度ノ裁判ニ因リ放免セラレ又ハ准死ヲ惹起セサル刑ノミヲ言渡サレタル時ハ其裁判所ニ現出シタル日ヨリ起算シテ将来ニ付キ其民権ノ全部ヲ復ス可シ然レトモ以前ノ裁判ハ其五年ノ期限ノ終リシ時期ヨリ其裁判所ニ出タル日ニ至ル迄ノ時間ニ准死ヨリ生シタル効ヲ既往ニ付キ保存ス可シ 第三十一条 缺席シテ刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ若シ其五年ノ特恩ノ期限内ニ自カラ投首セスシテ死去シ又ハ逮捕或ハ拘留セラレスシテ死去シタル時ハ其権利ノ全部ヲ有シタル侭ニテ死去セシ者ト看做ス可シ○其缺席裁判ハ当然消滅ス可シ然レトモ其缺席シテ刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ相続人ニ対シ民事ノ方法ノミヲ以テ訴ヲ起スコトヲ得可キ民事原告人ノ訴権ト相触ルルコトナカル可シ 第三十二条 如何ナル場合ニ於テモ刑ノ期満効ハ其刑ノ言渡ヲ受ケタル者ヲシテ将来ニ付キ其民権ヲ回復セシメサルモノトス 第三十三条 刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ准死ヲ受ケタル後ニ財産ヲ獲得シ其死去ノ日ニ之ヲ占有シタルニ於テハ其財産ハ相続人虧缺ノ権利ニ依リ国ニ属ス可シ 然レトモ国王ハ其刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ寡婦又ハ其子又ハ其血属親ノ為メニ仁恤ト思考スル如キ処分ヲ為スコトヲ得可シ 第二巻 身分証書(千八百三年三月十一日決定同月廿一日宣令) 第一章 総則 第三十四条 身分証書ニハ之ヲ記シタル年日時ト其証書ニ記載ス可キ各人ノ姓名、年齢、職業、住所トヲ表示ス可シ 第三十五条 身分取扱役ハ其記スル証書ニ出席人ノ申述セサル可カラサル所ノモノノ外何事タリトモ註解若クハ附従ノ記載トシテ記入スルコトヲ得ス 第三十六条 関係各人ノ自カラ出席スルニ及ハサル場合ニ於テハ特別ニシテ且ツ公正ナル委任状アル代理人ヲシテ代理セシムルコトヲ得可シ 第三十七条 身分証書ニ出ス所ノ証人ハ血属親タルト否トヲ問ハス少クトモ二十一歳ノ年齢ノ男ニ限ル可シ但シ其証人ハ関係各人ニ於シ之ヲ択ム可シ 第三十八条 身分取扱役ハ出席人又ハ其代理人ト証人トニ其証書ヲ読ミ聞カス可シ 其証書ニハ右ノ法式ヲ履行シタル旨ヲ記ス可シ 第三十九条 其証書ハ身分取扱役ト出席人及ヒ証人トニテ署名ス可シ若シ其出席人及ヒ証人ノ署名スルコト能ハサル時ハ其原由ヲ記ス可シ 第四十条 身分証書ハ各邑ニ於テ二通ツツ設ケタル一箇又ハ数箇ノ簿冊ニ之ヲ記入ス可シ 第四十一条 其簿冊ハ始審裁判所長又ハ之ニ代ハル可キ裁判官其初ト終トニ番号ヲ附シ且ツ各葉ニ花押ヲ附ス可シ 第四十二条 証書ハ其簿冊ニ毫モ空白ナク相連接シテ之ヲ記入ス可シ○塗抹及ヒ端書ハ証書ノ本文ニ同シク之ヲ承認シテ署名ス可シ○其証書中ニ略語ヲ記ス可カラス又其日附ハ数字ヲ以テ記ス可カラス 第四十三条 身分取扱役ハ毎年ノ末ニ其簿冊ヲ完了シ且ツ終結ノ旨ヲ記シテ一月内ニ其一通ヲ邑ノ旧記庫ニ蔵メ他ノ一通ヲ始審裁判所ノ書記局ニ蔵ム可シ 第四十四条 身分証書ニ添ヘ置カサル可カラサル委任状及ヒ其他ノ証拠物ハ之ヲ差出シタル人ト身分取扱役トニテ花押ヲ附シタル後身分証書ノ簿冊中ノ一通ト共ニ之ヲ始審裁判所ノ書記局ニ蔵ム可シ 第四十五条 何人ニ限ラス身分証書簿冊ノ受託者ヨリ其簿冊ノ抜書ヲ受取ルコトヲ得可シ○其抜書ハ簿冊ニ違フコトナク且ツ始審裁判所長又ハ之ニ代ル可キ裁判官ノ確的ナリト認メタル時ハ偽造ノ訴アルニ至ル迄証憑ト為ス可シ 第四十六条 簿冊ノ存在セス又ハ之ヲ失ヒシ時ハ証券並ニ証人ヲ以テ其旨ヲ証スルコトヲ得可ク且ツ此場合ニ於テハ死去セシ父母ヨリ出テタル簿冊及ヒ書面並ニ証人ヲ以テ婚姻、出産、死去ヲ証スルコトヲ得可シ 第四十七条 凡ソ外国ニ於テ記シタル仏蘭西人及ヒ外国人ノ身分証書ハ其国ニ於テ用フル所ノ法式ヲ以テ記シタル時ハ証憑ト為ス可シ 第四十八条 凡ソ外国ニ在ル仏蘭西人ノ身分証書ハ外交官又ハ領事ノ仏蘭西ノ法律ニ従ヒ之ヲ記シタル時ハ有効タル可シ 第四十九条 既ニ記入シタル身分証書ノ端ニ更ニ身分ニ関スル証書ヲ記載セサル可カラサル総テノ場合ニ於テハ関係各人ノ求ニ依リ身分取扱役ハ其現用ノ簿冊又ハ邑ノ旧記庫中ニ蔵メタル簿冊ニ之ヲ記載シ又始審裁判所ノ書記ハ其書記局ニ蔵メタル簿冊ニ之ヲ記載ス可シ但シ之レカ為メニハ身分取扱役ヨリ始審裁判所ノ検事ニ三日内ニ其旨ヲ報告シ該検事ハ二箇ノ簿冊ニ同一ノ方法ヲ以テ其記載ヲ為ス可キコトヲ監視ス可キモノトス 第五十条 前数条ニ記シタル官吏ノ其成規ニ違背シタル時ハ始審裁判所ヘノ訴ヲ受ケ百「フランク」ニ過クルコトヲ得サル罰金ニ処セラル可シ 第五十一条 凡ソ簿冊ノ受託者ハ其簿冊中ニ生シタル変更ニ付キ民事上ニテ其責ニ任ス可シ但シ別段ノ理由アル時ハ其受託者ヨリ右ノ変更ヲ為シタル者ニ対シテ償還ヲ訟求スルコトヲ得可キモノトス 第五十二条 総テ身分証書ヲ変更シ又ハ之ヲ偽造シ又ハ之ヲ零紙ニ記入シ及ヒ其特設ノ簿冊上ニ為スヨリ更ニ他ノ方法ヲ以テ之ヲ記入シタル時ハ関係各人ニ損害賠償ヲ為ス可シ但シ刑法ニ記シタル刑ト相触ルルコトナカル可シ 第五十三条 始審裁判所ノ検事ハ身分証書ノ簿冊ヲ書記局ニ蔵ムル時其簿冊ノ景状ヲ調査シテ其調査ノ簡略ナル調書ヲ作リ若シ身分取扱役ノ犯シタル違警罪又ハ軽罪アル時ハ之ヲ告発シ其身分取扱役ニ対シテ罰金ヲ言渡ス可キ事ヲ求ム可シ 第五十四条 始審裁判所ニ於テ身分ニ関スル証書ニ付キ審判シタル総テノ場合ニ於テ関係各人ハ其裁判ニ対シテ上訴スルコトヲ得可シ 第二章 出産証書 第五十五条 出産ノ申述ハ分娩ノ時ヨリ三日内ニ其地ノ身分取扱役ニ為シ之ニ其子ヲ示ス可シ 第五十六条 子ノ出産ハ父ヨリ之ヲ申述ス可シ若シ父ノアラサル時ハ分娩ニ立会ヒタル内科又ハ外科ノ医学士、産婆、医学得業生又ハ其他ノ人ヨリ之ヲ申述ス可シ若シ母ノ其住所外ニ於テ分娩シタル時ハ其分娩シタル家ノ者ヨリ之ヲ申述ス可シ 出産証書ハ直チニ証人二名ノ面前ニ於テ之ヲ記ス可シ 第五十七条 出産証書ニハ出産ノ日時、場所、其子ノ性、其子ニ命ス可キ名及ヒ其父母ト証人トノ姓名、職業、住所ヲ表示ス可シ 第五十八条 新産児ヲ見出シタル各人ハ其児並ニ其児ト共ニ見出シタル衣服及ヒ其他ノ品物ヲ身分取扱役ニ渡シ且ツ総テ其児ヲ見出シタル時ト場所トノ景状ヲ申述ス可シ 此等ノ事ニ付キ詳明ナル調書ヲ作ル可ク又其調書ニハ右ノ外其児ノ見積年齢、其性、其児ニ附与ス可キ姓、其児ヲ預カル可キ役署ヲ表示ス可シ○其調書ハ簿冊ニ記入ス可シ 第五十九条 航海中ニ子ノ生ルル時ハ父ノ在ルニ於テハ其父ト其船ノ役員中ヨリ撰ミタル証人二名若シ其役員ノアラサル時ハ乗組人中ヨリ撰ミタル証人二名トノ面前ニ於テ二十四時内ニ其出産証書ヲ作ル可シ○其証書ハ国王(共和国)ニ属スル船ニ於テハ海軍庶務ノ役員之ヲ記ス可ク又艤装者或ハ商人ニ属スル船ニ於テハ船長、舶頭又ハ船ノ指令者之ヲ記ス可シ○其出産証書ハ乗組人姓名簿ノ末ニ之ヲ記入ス可シ 第六十条 此事ヲ為スノ後其船ノ停泊ノ為メ若クハ船具ヲ取収ムルヨリ総テ他ノ原由ノ為メニ始メテ到着シタル港ニ於テ海軍庶務ノ役員又ハ船長、船頭、指令者ハ其記シタル出産証書ノ公正ナル副本二通ヲ仏蘭西ノ港ニ於テハ海軍兵士徴募役署ニ納メ外国ノ港ニ於テハ領事ノ手元ニ納ム可シ 此副本ノ一通ハ之ヲ海軍兵士徴募役署又ハ領事館ノ書記局ニ蔵メ置キ他ノ一通ハ之ヲ海軍卿ニ送呈シ海軍卿ハ其各箇ノ証書ノ写ヲ自カラ保証シテ其子ノ父ノ住所ノ身分取扱役ニ送達シ若シ其父ノ知レサル時ハ其母ノ住所ノ身分取扱役ニ送達ス可シ但シ其写ハ直チニ簿冊ニ記入ス可キモノトス 第六十一条 其船ノ船具ヲ取収ムル港ニ到着シタル時ハ乗組人姓名簿ヲ海軍兵士徴募役署ニ納メ其役署ノ官吏ハ出産証書ノ副本ニ署名シテ之ヲ其子ノ父ノ住所ノ身分取扱役ニ送リ若シ其父ノ知レサル時ハ其母ノ住所ノ身分取扱役ニ送ル可シ但シ其副本ハ直チニ簿冊ニ記入ス可キモノトス 第六十二条 子ノ認定証書ハ其認定ノ日附ヲ以テ簿冊ニ記入シ又出産証書ノ存在スル時ハ其証書ノ端ニ其旨ヲ記ス可シ 第三章 婚姻証書 第六十三条 身分取扱役ハ婚姻ヲ行ハシムル前ニ其邑庁ノ門前ニ八日ヲ隔テ二次ノ公告ヲ為ス可シ但シ其公告ノ一ハ日曜日ニ之ヲ為ス可キモノトス○其公告書及ヒ其公告ニ付キ作ル可キ証書ニハ夫婦トナラントスル者ノ姓名、職業、住所及ヒ其成年又ハ幼年タルノ分限ト其父母ノ姓名、職業、住所トヲ記ス可シ○又其証書ニハ右ノ外公告ヲ為シタル日、場所及ヒ時ヲ記シテ一通ノ簿冊ニ之ヲ記入ス可シ但シ其簿冊ハ第四十一条ニ記シタル如ク番号ヲ附シ及ヒ花押ヲ附シテ毎年ノ末ニ其郡ノ裁判所ノ書記局ニ之ヲ蔵ム可シ 第六十四条 第一次ノ公告ヨリ第二次ノ公告迄ノ八日間ハ其公告証書ノ抜書ヲ邑庁ノ門ニ貼附シ置ク可シ○婚姻ハ第二次ノ公告ノ日ヲ除キテ其日ヨリ第三日ニ至ラサル前ニ之ヲ行フコトヲ得ス 第六十五条 若シ公告期限ノ終リシ時ヨリ起算シテ一年内ニ婚姻ヲ行ハサル時ハ前ニ定メタル法式ヲ以テ更ニ公告ヲ為シタル後ニ非レハ最早婚姻ヲ行フコトヲ得ス 第六十六条 婚姻故障申述証書ノ正本及ヒ写ハ其故障申述者又ハ特別ニシテ且ツ公正ナル委任状アル代理人之ニ署名ス可シ但シ其証書ハ委任状ノ写ト共ニ双方ノ者自身又ハ其住所ト身分取扱役トニ送達シ身分取扱役ハ正本ニ其検署ヲ為ス可シ 第六十七条 身分取扱役ハ公告書ノ簿冊ニ故障ノ申述ヲ遅延ナク簡略ニ記載ス可ク又故障解除ノ裁判書ノ副本又ハ故障解除ノ証書ノ副本ヲ受取リタル時ハ之ヲ其故障申述ノ記入ノ端ニ記ス可シ 第六十八条 故障申述ノ場合ニ於テハ身分取扱役其故障解除ノ書面ヲ受取ラサル前ニ婚姻ヲ行ハシムルコトヲ得ス若シ之ニ背ク時ハ三百「フランク」ノ罰金ト総テノ損害賠償トヲ言渡サル可シ 第六十九条 故障ノ申述アラサル時ハ其由ヲ婚姻証書ニ記ス可シ若シ又数邑ニ於テ婚姻ノ公告ヲ為シタル時ハ各邑ノ身分取扱役ヨリ故障ノ申述ノ存在セサル旨ヲ証明スル為メニ渡シタル保証書ヲ婚姻ヲ行ハントスル者ヨリ差出ス可シ 第七十条 身分取扱役ハ夫婦トナラントスル双方各自ノ出産証書ヲ差出サシム可シ○其双方ノ中ニテ出産証書ヲ得ルコト能ハサル者ハ其出産ノ地ノ治安裁判官又ハ其住所ノ治安裁判官ヨリ渡シタル事実公認ノ証書ヲ出シテ其出産証書ノ缺ヲ補フコトヲ得可シ 第七十一条 事実公認ノ証書ニハ男又ハ女タルト血属親タルト血属親タラサルトヲ問ハス証人七名ノ其夫婦トナラントスル者ノ姓名、職業、住所及ヒ知ルヲ得可キニ於テハ其父母ノ姓名、職業、住所ニ付キ為シタル申述ヲ記シ且ツ其夫婦トナラントスル者ノ出産ノ地及ヒ成ル可キ丈ハ其出産ノ時期ト出産証書ヲ出スコト能ハサル原由トヲ記ス可シ○其証人ハ治安裁判官ト共ニ事実公認ノ証書ニ署名ス可ク若シ其証人中ニ署名スルコト能ハス又ハ署名スルコトヲ知ラサル者アル時ハ其旨ヲ記ス可シ 第七十二条 事実公認ノ証書ハ婚姻ヲ行フ可キ地ノ始審裁判所ニ之ヲ差出ス可シ○其裁判所ニ於テハ検事ノ意見ヲ聴キタル後其証人ノ申述ト出産証書ヲ出スコト能ハサル原由トヲ充分ナリト思フ時ハ其認可ヲ与ヘ又不充分ナリト思フ時ハ其認可ヲ否拒ス可シ 第七十三条 父母又ハ祖父母ノ許諾ヲ為ス公正ノ証書又父母及ヒ祖父母ノアラサル時ハ親族ノ許諾ヲ為ス公正ノ証書ニハ夫婦トナラントスル者ノ姓名、職業、住所及ヒ其証書ニ参加シタル各人ノ姓名、職業、住所ト其血縁ノ級トヲ記ス可シ 第七十四条 婚姻ハ夫婦トナラントスル双方ノ中一方ノ其住所ヲ有スル邑ニ於テ之ヲ行フ可シ○其住所ハ婚姻ニ関シテハ同邑内ニ六月間引続テ住居シタルニ依リ設定スルモノトス 第七十五条 公告期限ノ終リシ後婚姻ヲ為サシトスル双方ノ指定メタル日ニ至リ身分取扱役ハ其邑庁ニ於テ血属親タルト血属親タラサルトヲ問ハス証人四名ノ面前ニテ其婚姻ヲ為サントスル双方ノ身分及ヒ婚姻ノ法式ニ関スル前数条ニ記セシ証拠物ト夫婦相互ノ権利及ヒ本分ニ関スル婚姻ノ巻第六章トヲ其双方ノ者ニ読ミ聞カス可シ 身分取扱役ハ夫婦トナラントスル双方ノ者ニ婚姻ノ契約ヲ為シタルヤ否ヲ問ヒ糾シ又婚姻ヲ許諾セシ者ノ出席シタル時ハ其者ニモ亦之ヲ問ヒ糾シ此等ノ者ノ然リト答フル時ハ其契約書ノ日附並ニ其契約書ヲ記シタル公証人ノ姓及居所ヲ問ヒ糾ス可シ〔本項ハ千八百五十年七月十日ノ法律ヲ以テ追加ス〕 身分取扱役ハ夫婦トナラントスル双方ノ互ニ夫婦トナル可キコトヲ欲スル旨ノ申述ヲ相次テ双方ヨリ受ケ法律ノ名ヲ以テ其双方ノ者ノ結婚シタル旨ヲ宣告シテ直チニ婚姻証書ヲ作ル可シ 第七十六条 婚姻証書ニハ左件ヲ記ス可シ 第一 夫婦ノ姓名、職業、年齢、出産ノ地、住所 第二 夫婦ノ成年ナル事又ハ幼年ナル事 第三 父母ノ姓名、職業、住所 第四 父母祖父母ノ許諾及ヒ親族ノ許諾ノ必要ナル時ハ其許諾 第五 恭敬ノ証書ヲ作リタル時ハ其証書 第六 各箇ノ住所ニ於ケル公告 第七 故障ノ申述アリシ時ハ其申述及ヒ其故障ノ解除又ハ故障申述ノアラサル旨ノ記載 第八 結婚セントスル者ノ互ニ夫婦トナラント欲スル旨ノ申述及ヒ公ケノ役員ヨリ結婚シタル旨ヲ宣告シタル事 第九 証人ノ姓名、年齢、職業、住所及ヒ其証人ハ婚姻ヲ為ス者ノ血属親又ハ姻属親ニテ且ツ何レノ方及ヒ如何ナル級ノ者タルヤノ申述 第十 前条ニ記シタル問糾シニ付キ婚姻ノ契約ヲ為シタルヤ又ハ之ヲ為ササルヤノ申述及ヒ其契約書ノ存在スル時ハ成ル可キ丈ハ其日附並ニ其契約書ヲ記シタル公証人ノ姓及ヒ居所但シ之ニ違フタル身分取扱役ハ第五十条ニ定メタル罰金ヲ言渡サル可シ〔第十項ハ千八百五十年七月十日ノ法律ヲ以テ追加ス〕 若シ其申述ニ遺脱又ハ錯誤アル場合ニ於テハ検事ヨリ其遺脱又ハ錯誤ニ関シテ証書ノ改正ヲ求ムルコトヲ得可シ但シ第九十九条ニ従ヒ関係各人ノ其権利ヲ行フト相触ルルコトナカル可シ 第四章 死去証書 第七十七条 凡ソ埋葬ハ身分取扱役ノ自由ニシテ且ツ費用ナキ紙ニ記シタル許可状ナクシテ之ヲ為ス可カラス而シテ身分取扱役ハ死去ヲ験認スル為メ死者ノ所ニ至リ且ツ死去ノ後二十四時ヲ経タルニ非サレハ其許可状ヲ渡スコトヲ得ス但シ警察ノ規則ニ定メタル場合ハ格別ナリトス 第七十八条 死去証書ハ証人二名ノ申述ニ依リ身分取扱役之ヲ作ル可シ○其証人ハ成ル可キ丈ケハ最近親ノ血属親又ハ近隣ノ者二名タル可ク若シ又人ノ其住所外ニテ死去シタル時ハ其一名ハ死去シタル家ノ者又一名ハ血属親或ハ其他ノ人タル可シ 第七十九条 死去証書ニハ死者ノ姓名、年齢、職業、住所並ニ其死者ノ現ニ結婚セシ者又ハ鰥夫或ハ寡婦トナリシ者タル時ハ其配偶者ノ姓名ト申述人ノ姓名、年齢、職業、住所及ヒ其申述人カ血属親タル時ハ其血縁ノ級トヲ記ス可シ 又其証書ニハ知ルヲ得可キ丈ケハ死者ノ父母ノ姓名、職業、住所ト其死者ノ出産ノ地トヲ記ス可シ 第八十条 兵病院、尋常病院又ハ其他ノ公舎ニ於テ死去アル場合ニ於テハ其院舎ノ首長、掌理者、管理者及ヒ所有主ヨリ二十四時内ニ其由ヲ身分取扱役ニ報告シ身分取扱役ハ死去ヲ験認ス可キ為メ其所ニ至リテ己レノ受ケタル申述ト其取リタル参照件トニ依リ前条ニ従ヒ死去証書ヲ作ル可シ 右ノ外其病院及ヒ公舎ニ於テハ其申述ト参照件トヲ記入スル為メノ簿冊ヲ設ケ置ク可シ 其身分取扱役ハ死者ノ最終ノ住所ノ身分取扱役ニ其死去証書ヲ送リ其最終ノ住所ノ身分取扱役ハ之ヲ簿冊ニ記入ス可シ 第八十一条 強死ノ証跡又ハ徴憑アル時又ハ強死タルコトヲ疑ハシムル其他ノ景況アル時ハ警察官カ内科又ハ外科ノ医学士ノ補助ヲ受ケテ死骸ノ景状及ヒ之ニ関シタル景況ト死者ノ姓名、年齢、職業、出産ノ地、住所ニ付キ集取スルコトヲ得タル参照件トノ調書ヲ作リタル後ニ非サレハ埋葬ヲ為スコトヲ得ス 第八十二条 警察官ハ其人ノ死シタル地ノ身分取扱役ニ直チニ其調書ニ表示シタル総テノ参照件ヲ送達シ而シテ其参照件ニ従ヒ死去証書ヲ記ス可シ 其身分取扱役ハ死者ノ住所ノ知レタル時ハ其住所ノ身分取扱役ニ死去証書ノ副本一通ヲ送ル可シ但シ其副本ハ之ヲ簿冊ニ記入ス可キモノトス 第八十三条 重罪裁判所ノ書記ハ死刑ノ裁判執行ノ時ヨリ二十四時間内ニ其処刑ノ地ノ身分取扱役ニ第七十九条ニ表示シタル総テノ参照件ヲ送ル可シ但シ其参照件ニ従ヒ死去証書ヲ記ス可キモノトス 第八十四条 獄舎又ハ懲役場及ヒ禁獄場内ニ於テ死去アル場合ニ於テハ其門監又ハ獄監ヨリ直チニ身分取扱役ニ其由ヲ報告ス可シ但シ身分取扱役ハ第八十条ニ記シタル如ク其所ニ至リテ死去証書ヲ記ス可シ 第八十五条 凡ソ強死ヲ為シ又ハ獄舎及ヒ懲役場内ニ於テ死去シ又ハ死刑ニ処シタル場合ニ於テハ此等ノ景況ヲ毫モ簿冊ニ記セス単ニ第七十九条ニ定メタル法式ヲ以テ死去証書ヲ記ス可シ 第八十六条 航海中死去アル場合ニ於テハ其船ノ役員中ヨリ撰ミタル証人二名若シ其役員アラサル時ハ乗組人中ヨリ撰ミタル証人二名ノ面前ニ於テ二十四時内ニ其死去証書ヲ作ル可シ○其証書ハ国王(共和国)ニ属スル船ニ於テハ海軍庶務ノ役員之ヲ記ス可ク又商人或ハ艤装者ニ属スル船ニ於テハ船長、船頭又ハ船ノ指令者之ヲ記ス可シ○其死去証書ハ乗組人姓名簿ノ末ニ之ヲ記入ス可シ 第八十七条 此事ヲ為スノ後其船ノ停泊ノ為メ若クハ船具ヲ取収ムルヨリ総テ他ノ原由ノ為メニ始メテ到着シタル港ニ於テ其死去証書ヲ記セシ海軍庶務ノ役員又ハ船長、船頭、指令者ハ第六十条ニ従ヒ其死去証書ノ副本二通ヲ納ム可シ 其船ノ船具ヲ取収ムル港ニ到着シタル時ハ乗組人姓名簿ヲ海軍兵士徴募役署ニ納メ其役署ノ官吏ハ死去証書ノ副本一通ニ署名シテ之ヲ死者ノ住所ノ身分取扱役ニ送ル可シ但シ其副本ハ直チニ簿冊ニ記入ス可キモノトス 第五章 王国(共和国)領地外ニ在ル軍人ニ関スル身分証書 第八十八条 軍人又ハ其他軍中ニ於テ使用ヲ受クル者ニ関シ王国(共和国)領地外ニ於テ作ル所ノ身分証書ハ前数条ノ成規ニ定メタル法式ヲ以テ之ヲ記ス可シ但シ後ノ数条ニ記スル所ノ例外ハ格別ナリトス 第八十九条 一箇又ハ数箇ノ歩兵大隊又ハ騎兵大隊ノ各隊ニ於テハ営長又其他ノ隊ニ於テハ司令大尉、身分取扱役ノ職務ヲ履行ス可シ又隊外ノ士官及ヒ軍中ニ於テ使用ヲ受クル者ニ付テハ一軍又ハ一軍団ニ属スル閲兵検閲使右同一ノ職務ヲ履行ス可シ 第九十条 各軍隊ニ於テハ其隊中ノ各人ニ関スル身分証書ノ為メノ簿冊一箇ヲ設ケ置キ又一軍又ハ一軍団ノ参謀部ニ於テハ隊外ノ士官及ヒ軍中ニ於テ使用ヲ受クル者ニ関スル身分証書ノ為メノ簿冊一箇ヲ設ケ置ク可シ但シ此等ノ簿冊ハ軍隊及ヒ参謀部ノ其他ノ簿冊ト同一ノ方法ヲ以テ之ヲ保存シ其隊又ハ軍ノ王国(共和国)領地内ニ帰リタル時之ヲ陸軍旧記庫中ニ蔵ム可シ 第九十一条 其簿冊ハ各隊毎ニ其司令ヲ為ス士官之ニ番号及ヒ花押ヲ附シ又参謀部ニ於テハ総参謀部長之ニ番号及ヒ花押ヲ附ス可シ 第九十二条 軍中ニ於ケル出産ノ申述ハ其分娩ノ日ヨリ十日内ニ之ヲ為ス可シ 第九十三条 身分証書簿冊ノ設備ヲ任セラレタル官吏ハ其簿冊ニ出産証書ヲ記入シタル時ヨリ十日内ニ其抜書ヲ其子ノ父ノ最終ノ住所ノ身分取扱役ニ送ラサル可カラス若シ其父ノ知レサル時ハ母ノ最終ノ住所ノ身分取扱役ニ送ラサル可カラス 第九十四条 軍人及ヒ軍中ニ於テ使用ヲ受クル者ノ婚姻ノ公告ハ其最終ノ住所ノ地ニ於テ之ヲ為ス可ク且ツ其公告ハ婚姻ヲ行フ時ヨリ二十五日前ニ隊ニ属スル各人ニ付テハ其隊ノ日令書中ニ之ヲ記シ又隊外ノ士官及ヒ軍中ニ於テ使用ヲ受クル者ニ付テハ一軍又ハ一軍団ノ日令書中ニ之ヲ記ス可シ 第九十五条 簿冊ノ設備ヲ任セラレタル官吏ハ婚姻ヲ行ヒタルノ証書ヲ其簿冊ニ記入シタル後直チニ其副本一通ヲ夫婦ノ最終ノ住所ノ身分取扱役ニ送ル可シ 第九十六条 死去証書ハ各隊ニ於テハ営長、証人三名ノ立証ヲ以テ之ヲ作ル可ク又隊外ノ士官及ヒ軍中ニ於テ使用ヲ受クル者ニ付テハ其軍ノ閲兵検閲使、証人三名ノ立証ヲ以テ之ヲ作ル可シ而シテ其簿冊ノ抜書ハ十日内ニ死者ノ最終ノ住所ノ身分取扱役ニ之ヲ送ル可シ 第九十七条 移動又ハ定置ノ兵病院ニ於テ死去アル場合ニ於テハ其病院ノ掌理者死去証書ヲ記シテ之ヲ其死者所属ノ隊ノ営長又ハ一軍或ハ一軍団ノ閲兵検閲使ニ送リ此等ノ官吏ヨリ其副本一通ヲ死者ノ最終ノ住所ノ身分取扱役ニ送達ス可シ 第九十八条 軍隊ヨリ身分証書ノ副本ノ送達ヲ受ケタル各本人住所ノ身分取扱役ハ直チニ之ヲ簿冊ニ記入ス可シ 第六章 身分証書ノ改正 第九十九条 身分証書ノ改正ヲ訟求シタル時ハ該管裁判所ニ於テ検事ノ意見ヲ聴キタル上之ヲ裁定ス可シ但シ其裁定ハ之ヲ控訴スルコトヲ得可シ○別段道理アル時ハ関係各人ヲ召喚ス可シ 第一百条 改正ノ裁判ハ何レノ時ト雖モ其改正ヲ請求セス又ハ其改正ノ裁判ニ付キ召喚セラレサリシ関係各人ニ之ヲ以テ対抗スルコトヲ得ス 第百一条 改正ノ裁判書ハ身分取扱役ノ之ヲ受取リタル時直チニ簿冊ニ記入シ且ツ改正シタル証書ノ端ニ其裁判書ヲ記ス可シ 第三巻 住所(千八百三年三月十四日決定同月廿四日宣令) 第百二条 民権ノ執行ニ関シテ各仏蘭西人ノ住所ハ其主タル居止ノ地ニ在リトス 第百三条 従前ノ住所ヨリ更ニ他ノ地ニ現ニ居住ヲ為シ且ツ其地ニ主タル居止ヲ定ムルノ意思アル時ハ其住所ヲ移転シタルモノトス 第百四条 其意思ノ証ハ去ラントスル地ノ邑庁ト住所ヲ移シタル地ノ邑庁トニ為シタル明白ナル申述ヨリ生ス可シ 第百五条 其明白ナル申述アラサル時ハ其意思ノ証ハ景況ニ関ス可シ 第百六条 一時ノ公務又ハ廃止スルヲ得可キ公務ニ召喚セラレタル国士ハ其従前有セシ住所ヲ保存ス可シ但シ之ニ反スル意思ヲ明示シタル時ハ格別ナリトス 第百七条 終身授与セラレタル公務ヲ受諾シタル時ハ其職務ヲ執行セサルヲ得サル地ニ直チニ其官吏ノ住所ヲ移シタルモノト為ス可シ 第百八条 婚姻シタル婦ハ其夫ノ住所ノ外他ニ住所ヲ有セス○後見ヲ免脱セラレサル幼者ハ其父母又ハ後見人ノ住所ヲ以テ己レノ住所ト為ス可シ又治産禁ヲ受ケタル成年者ハ其後見人ノ住所ヲ以テ己レノ住所ト為ス可シ 第百九条 平常他人ノ家ニ於テ使用ヲ受ケ又ハ労働スル所ノ成年者ハ其使用ヲ為ス者又ハ労働ヲ為サシムル者ト同一ノ家屋ニ居住スル時ハ其使用ヲ為ス者又ハ労働ヲ為サシムル者ト同一ノ住所ヲ有ス可シ 第百十条 財産相続ノ開始ス可キ場所ハ住所ニ依テ之ヲ定ム可シ 第百十一条 一箇ノ証書ニ双方ノ者又ハ其中一方ノ者ノ方ニ於テ其証書ノ執行ノ為メ現実ノ住所ノ地ヨリ更ニ他ノ地ニ於テ住所ヲ撰定スル旨ヲ記シタル時ハ其証書ニ関スル書類送達、訟求、訴訟手続ハ其合意シタル住所ニ之ヲ為シ及ヒ其住所ノ裁判官ニ対シテ之ヲ為スコトヲ得可シ 第四巻 失踪(千八百三年三月十五日決定同月二十五日宣令) 第一章 失踪ノ思量 第百十二条 失踪ト思量セラレタル者ノ代理人アラサル時其遺留シタル財産ノ全部又ハ一部ノ管理ヲ設備スルノ必要ナルニ於テハ関係各人ノ訟求ニ依リ始審裁判所ニ於テ之ヲ裁定ス可シ 第百十三条 其裁判所ハ最モ先キニ手続ヲ為ス者ノ請求ニ依リ其失踪ト思量セラレタル者ノ関係アル目録、計算、分派、算定ニ於テ其者ニ代理スル為メノ公証人一名ヲ委任ス可シ 第百十四条 検察官ハ失踪ト思量セラレタル者ノ利益ヲ監視スルコトヲ特別ニ任セラレ且ツ其者ニ関スル所ノ総テノ訟求ニ付キ検察官ノ意見ヲ聴ク可シ 第二章 失踪ノ公告 第百十五条 人ノ其住所又ハ其居住ノ地ニ現出スルコトヲ止メ且ツ四年以来其消息ヲ得サル時ハ関係各人ヨリ失踪ノ公告ヲ得ンカ為メ始審裁判所ニ上訴スルコトヲ得可シ 第百十六条 其裁判所ハ失踪ヲ証明スル為メ其差出シタル証拠物及ヒ証書類ニ拠リ住所ノ郡ニ於テ検事ト対審ニテ証人訊問ヲ為ス可キコトヲ命令シ若シ其住所ト居住ノ地ト相異ナル時ハ其居住ノ地ノ郡ニ於テモ亦検事ト対審ニテ証人訊問ヲ為ス可キコトヲ命令ス可シ 第百十七条 裁判所ハ其訟求ヲ裁定スルニ付キ其他其失踪ノ理由及ヒ失踪ト思量セラレタル者ノ消息ヲ得ルノ妨ケトナルコトアル可キ原由ニ注意ス可シ 第百十八条 検事ハ予審ノ裁判並ニ確定ノ裁判アリタル時ハ直チニ其裁判書ヲ司法卿ニ送呈シ司法卿ハ其裁判書ヲ公ケニ為ス可シ 第百十九条 失踪公告ノ裁判ハ証人訊問ヲ命令スル裁判ヨリ一年ノ後ニ非サレハ之ヲ為ス可カラス 第三章 失踪ノ効 第一節 失踪者カ家出ノ時ニ占有シタル財産ニ関シテ失踪ノ効 第百二十条 失踪者カ其財産管理ノ為メノ代理人ヲ遺留セザル場合ニ於テハ其家出ノ日又ハ其最終ノ消息ヲ得タル日ニ於ケル其思量ノ相続人ハ失踪ヲ公告スル確定ノ裁判ニ拠リ失踪者ノ出立ノ日又ハ其最終ノ消息ヲ得タル日ニ失踪者ニ属シタル財産ノ仮リノ占有ヲ受クルコトヲ得可シ但シ其管理ノ抵保ノ為メ保証人ヲ立ツルノ負任アリトス 第百二十一条 若シ失踪者カ代理人ヲ遺留シタル時ハ其家出以来又ハ其最終ノ消息以来満十年ノ後ニ非サレハ其思量ノ相続人失踪ノ公告及ヒ仮リノ占有ヲ得ント訴フルコトヲ得ス 第百二十二条 代理委任ノ止ミタル時モ亦右ト同一タル可シ但シ此場合ニ於テハ本巻第一章ニ記シタル如ク失踪者ノ財産ノ管理ヲ設備ス可シ 第百二十三条 思量ノ相続人カ仮リノ占有ヲ得タル時ハ遺嘱書ノ存在スルニ於テハ関係各人又ハ裁判所検事ノ求メニ依リ之ヲ開封シ受遺嘱者、受贈者並ニ総テ失踪者ノ財産ニ付キ其死去ニ依レル権利ヲ有スル各人ハ仮リニ其権利ヲ執行スルコトヲ得可シ但シ保証人ヲ立ツルノ負任アリトス 第百二十四条 財産ヲ共通スル配偶者ハ若シ其財産共通ノ継続ヲ択ム時ハ仮リノ占有及ヒ失踪者ノ死去ニ依レル各種ノ権利ノ仮リノ執行ヲ防止シ而シテ他人ニ優レル撰取ニ依リ失踪者ノ財産ノ管理ヲ受ケ又ハ之ヲ保存スルコトヲ得可シ○若シ其配偶者カ財産共通ノ仮リノ解分ヲ求ムル時ハ其取戻ノ権利並ニ其法律上及ヒ合意上ノ諸権利ヲ執行ス可シ但シ返還ス可キ物件ニ付テハ保証人ヲ立ツルノ負任アリトス 婦ハ財産共通ノ継続ヲ択ミタル時ト雖トモ後ニ其共通財産ヲ放棄スルノ権利ヲ保存ス可シ 第百二十五条 仮リノ占有ハ附託ノミニ過キスシテ其仮リノ占有ヲ得タル者ニ失踪者ノ財産ノ管理ヲ得セシメ而シテ失踪者ノ更ニ現出シ又ハ其消息ヲ得ル場合ニ於テ失踪者ニ対シ計算ヲ為ス可キノ義務ヲ負ハシム 第百二十六条 仮リノ占有ヲ得タル者又ハ財産共通ノ継続ヲ択ミタル配偶者ハ始審裁判所検事ノ面前又ハ検事ヨリ求メラレタル治安裁判官ノ面前ニ於テ失踪者ノ動産及ヒ証券ノ目録ヲ作ラシメサル可カラス 其動産ノ全部又ハ一部ヲ売払フ可キ時ハ裁判所ヨリ其売払ヲ命令ス可シ○売払ノ場合ニ於テハ其代金並ニ収受ス可キモノトナリタル果実ノ益用ヲ為ス可シ 仮リノ占有ヲ得タル者ハ裁判所ヨリ任シタル鑑定人ヲシテ不動産ノ景状ヲ証明スル為メ之ヲ検視セシムルコトヲ自己ノ安堵ノ為メニ請求スルヲ得可シ○其鑑定人ノ報告書ハ検事ノ面前ニ於テ之ヲ認可ス可シ但シ其費用ハ失踪者ノ財産中ヨリ之ヲ取ル可キモノトス 第百二十七条 仮リノ占有又ハ法律上ノ管理ニ依リ失踪者ノ財産ヲ収益シタル者ハ失踪者ノ其家出ノ日ヨリ満十五年ニ至ラサル前ニ更ニ現出スルニ於テハ其入額ノ五分一ナラテハ失踪者ニ還スニ及ハス又十五年ノ後ニ更ニ現出スルニ於テハ其十分一ナラテハ還スニ及ハス 三十年間失踪ノ後ハ入額ノ全部ハ其者ニ属ス可シ 第百二十八条 仮リノ占有ノミニ拠リ収益シタル各人ハ失踪者ノ不動産ノ所有権ヲ移転シ又ハ書入質ト為スコトヲ得ス 第百二十九条 若シ仮リノ占有ヨリ三十年間失踪ノ継続シ又ハ財産ヲ共通シタル配偶者カ其失踪者ノ財産管理ヲ受ケタル時ヨリ三十年間失踪ノ継続シタル時又ハ失踪者ノ出産ヨリ満百年ヲ経過シタル時ハ保証人其義務ノ免除ヲ得テ各承権人ハ失踪者ノ財産ノ分派ヲ訟求シ始審裁判所ヨリ確定ノ占有ヲ得ル旨ヲ宣告セシムルコトヲ得可シ 第百三十条 失踪者ノ財産相続ハ其死去ノ証アル日ヨリ当時其最近親ノ相続人ノ利益ニ於テ之ヲ開始ス可シ又其失踪者ノ財産ヲ収益シタル者ハ第百二十七条ニ拠リ獲得シタル果実ヲ貯存シテ其財産ヲ返還ス可シ 第百三十一条 若シ仮リノ占有ノ間ニ失踪者ノ更ニ現出シ又ハ其生存ノ証ヲ得タル時ハ失踪ヲ公告シタル裁判ノ効ハ止息ス可シ但シ失踪者ノ財産管理ノ為メ本巻第一章ニ定メタル保存ノ処置ヲ為ス可キ時ハ其処置ト相触ルルコトナカル可シ 第百三十二条 確定ノ占有ノ後ト雖トモ若シ失踪者ノ更ニ現出シ又ハ其生存ノ証ヲ得タル時ハ其失踪者ハ自己ノ財産ヲ其現在ノ景状ニ於テ取戻シ又所有権ヲ移転セシ財産ノ代金又ハ売払ヒシ財産ノ代金ヲ益用シテ得タル財産ヲ取戻ス可シ 第百三十三条 失踪者ノ子及ヒ直系ノ卑属親ハ確定ノ占有ヨリ起算シテ二十年内ニ於テハ亦前条ニ記シタル如ク其財産ノ返還ヲ訟求スルコトヲ得可シ 第百三十四条 失踪公告ノ裁判ノ後ハ其失踪者ニ対シテ執行ス可キ権利ヲ有スル各人ハ財産ノ占有ヲ得タル者又ハ財産ノ法律上ノ管理ヲ得タル者ニ対スルニ非サレハ其権利ヲ訴フルコトヲ得ス 第二節 失踪者ニ属スル事アル可キ未定権利ニ関シテ失踪ノ効 第百三十五条 何人ニ限ラス其生存ノ認定セラレサル者ニ属スル権利ヲ得ント求ムル各人ハ其権利開始ノ時其者ノ生存シタルノ証ヲ立テサルヲ得ス但シ其証ヲ立テサル間ハ其訟求ヲ受理セサルノ言渡ヲ受ク可シ 第百三十六条 若シ其生存ノ認定セラレサル者ノ召喚セラレタル財産相続ノ開始スル時ハ其者カ相抗競スルノ権利ヲ有スル各人又ハ其者ノアラサル時ニ於テ財産相続ヲ収取ス可キ各人ニ専ラ其財産相続ヲ移伝ス可シ 第百三十七条 前二条ノ成規ハ失踪者又ハ其代人或ハ受権人ニ属ス可キ財産相続請求ノ訴権及ヒ其他ノ権利ト相触ルルコトナカル可シ但シ此等ノ権利ハ期満効ノ為メニ定メタル時間ノ経過ニ依ルニ非サレハ消滅セサルモノトス 第百三十八条 財産相続ヲ収取シタル者ハ失踪者ノ現出セサル間又ハ失踪者ノ権利ニ依リテ訴権ヲ執行セサル間ハ其善意ヲ以テ収取シタル果実ヲ利得ス可シ 第三節 婚姻ニ関シテ失踪ノ効 第百三十九条 失踪者ノ配偶者再婚ヲ契約シタル時ハ其失踪者ノミ自カラ其再婚ノ取消ヲ訴ヘ又ハ自己ノ生存ノ証拠ヲ具有シタル代理人ヲシテ其取消ヲ訴ヘシムルコトヲ得可シ 第百四十条 若シ失踪者ノ財産相続ヲ為シ能フ可キ血属親ヲ遺留セサル時ハ其配偶者財産ノ仮リノ占有ヲ得ント訟求スルコトヲ得可シ 第四章 家出セシ父ノ幼年ノ子ノ監視 第百四十一条 若シ父ノ其共通ノ婚姻ニ依リ挙ケタル幼年ノ子ヲ遺留シテ家出セシ時ハ其母其子ノ監視ヲ為シ其子ノ教育及ヒ其財産ノ管理ニ関シテ夫ノ総テノ権利ヲ執行ス可シ 第百四十二条 父ノ家出セシ時母ノ既ニ死去シ又ハ父ノ失踪ヲ公告スル前ニ母ノ死去セシ時ハ父ノ家出ノ時ヨリ六月ノ後ニ至リ親族会議ヨリ其子ノ監視ヲ最近親ノ尊属親ニ附与ス可ク若シ尊属親ノアラサル時ハ仮リノ後見人ニ附与ス可シ 第百四十三条 夫婦中ノ家出セシ一方ノ者カ前婚ニ依リ挙ケタル幼年ノ子ヲ遺留シタル場合ニ於テモ亦前ト同一タル可シ 第五巻 婚姻(千八百三年三月十七日決定同月廿七日宣令) 第一章 婚姻ヲ契約シ得ルニ必要ナル分限及ヒ条件 第百四十四条 男ハ満十八歳ニ至ラサル前、女ハ満十五歳ニ至ラサル前ニ婚姻ヲ契約スルコトヲ得ス 第百四十五条 然トモ重要ノ理由ノ為メ国王(共和国大統領)ヨリ年齢ノ免許ヲ附与スルコトヲ得可シ 第百四十六条 承諾ノアラサル時ハ婚姻ナシトス 第百四十七条 前婚ノ解分ノ前ニ再婚ヲ契約スルコトヲ得ス 第百四十八条 満二十五歳ニ達セサル男及ヒ満二十一歳ニ達セサル女ハ其父母ノ許諾ヲ得スシテ婚姻ヲ契約スルコトヲ得ス若シ異議アル時ハ父ノ許諾ヲ以テ足レリトス 第百四十九条 若シ父母ノ中一方ノ死去シ又ハ其意ヲ明示スルコト能ハサル時ハ他ノ一方ノ者ノ許諾ヲ以テ足レリトス 第百五十条 若シ父母共ニ死去シ又ハ其意ヲ明示スルコト能ハサル時ハ祖父母之ニ代ル可シ若シ同系ノ祖父ト祖母トノ間ニ異議アル時ハ祖父ノ許諾ヲ以テ足レリトス 若シ両系ノ間ニ異議アル時ハ其異議アル事ヲ以テ許諾シタルモノトス 第百五十一条 第百四十八条ニ定メタル成年ニ達セシ一家ノ子ハ婚姻ヲ契約スル前ニ恭敬ニシテ且ツ明確ナル証書ヲ以テ其父母ノ教諭ヲ請フ可ク若シ父母共ニ死去シ又ハ其意ヲ明示スルコト能ハサル時ハ其祖父母ノ教諭ヲ請フ可シ(第百五十二条、第百五十三条、第百五十四条、第百五十五条、第百五十六条、第百五十七条ハ千八百四年三月十二日決定同月二十二日宣令) 第百五十二条 第百四十八条ニ定メタル成年ニ至リシ後男ハ満三十歳ノ齢ニ至ル迄女ハ満二十五歳ノ齢ニ至ル迄ノ間ハ前条ニ定メタル恭敬ノ証書ヲ差出シ婚姻ノ許諾ヲ得サル時ハ其後、月ヲ逐テ更ニ二次其証書ヲ差出シ第三次ノ証書ヨリ一月ノ後ニ至リ婚姻ヲ行フコトヲ得可シ 第百五十三条 三十歳ノ齢ニ至リシ後ハ一次恭敬ノ証書ヲ差出シテ許諾ヲ得スト雖トモ一月ノ後ニ至リ婚姻ヲ行フコトヲ得可シ 第百五十四条 恭敬ノ証書ハ公証人二名ヨリ又ハ公証人一名ト証人二名トヨリ第百五十一条ニ指定シタル尊属親一人又ハ数人ニ送達ス可シ但シ此事ニ付キ作ラサル可カラサル調書ニハ其答ヲ記載ス可キモノトス 第百五十五条 若シ恭敬ノ証書ヲ差出ササル可カラサル尊属親ノ失踪ノ時ハ其失踪ヲ公告スル為メニ為シタル裁判書ヲ出シ又其裁判書ノアラサル時ハ証人訊問ヲ命令シタル裁判書ヲ出シ若シ又未タ其裁判書ノアラサル時ハ尊属親ノ其分明ナル最終ノ住所ヲ有セシ地ノ治安裁判官ヨリ渡シタル事実公認ノ証書ヲ出シテ婚姻ヲ行フ可シ○其事実公認ノ証書ニハ其治安裁判官ヨリ職権ヲ以テ召喚シタル証人四名ノ申述ヲ記ス可シ 第百五十六条 父母、祖父母ノ許諾又ハ親族ノ許諾ノ必要ナル場合ニ於テ其許諾ヲ婚姻証書ニ表示セスシテ満二十五歳ノ齢ニ達セサル男又ハ満二十一歳ノ齢ニ達セサル女ノ契約シタル婚姻ヲ行ハシメタル身分取扱役ハ関係各人及ヒ其婚姻ヲ行ヒタル地ノ始審裁判所検事ノ申立ニ因リ第百九十二条ニ記シタル罰金ヲ言渡サレ且ツ六月ヨリ少ナキコトヲ得サル時間ノ禁錮ヲ言渡サル可シ 第百五十七条 恭敬証書ノ必要ナル場合ニ於テ其証書ノアラサル時ハ婚姻ヲ行ハシメタル身分取扱役ハ同上ノ罰金ヲ言渡サレ且ツ一月ヨリ少ナキコトヲ得サル禁錮ヲ言渡サル可シ 第百五十八条 第百四十八条、第百四十九条ニ記シタル成規及ヒ第百五十一条、第百五十二条、第百五十三条、第百五十四条、第百五十五条ニ定メタル場合ニ於テ父母ニ差出ササル可カラサル恭敬ノ証書ニ関スル右各条ノ成規ハ法律ニ従ヒ認定セラレタル私生子ニ適用ス可キモノトス 第百五十九条 認定セラレサル私生子又ハ認定セラレタル後ニ其父母ヲ亡ヒシ私生子又ハ其父母ノ其意ヲ明示スルコト能ハサル私生子ハ満二十一歳ノ齢ニ至ラサル前ハ其私生子ノ為メニ任シタル特別後見人ノ許諾ヲ得タル後ニ非サレハ婚姻スルコトヲ得ス 第百六十条 二十一歳未満ノ男女ハ其父母及ヒ祖父母ノ共ニアラサル時又ハ共ニ其意ヲ明示スルコト能ハサル時ハ親族会議ノ許諾ナクシテ婚姻ヲ契約スルコトヲ得ス 第百六十一条 直系ニ於テハ適法又ハ不適法ノ各尊属親ト卑属親トノ間ニ婚姻ヲ禁止シ又右同系ニ於ケル姻属親ノ間ニ婚姻ヲ禁止ス 第百六十二条 傍系ニ於テハ適法又ハ不適法ノ兄弟姉妹ノ間ニ婚姻ヲ禁止シ又右同級ノ姻属親ノ間ニ婚姻ヲ禁止ス 第百六十三条 又伯叔父ト姪女トノ間及ヒ伯叔母ト姪男トノ間ニ婚姻ヲ禁止ス 第百六十四条 (千八百三十二年四月十六日ノ法律ヲ以テ左ノ如ク更改ス)然トモ国王(共和国大統領)ハ重要ノ原由ノ為メ第百六十二条ニ記シタル姻属ノ兄弟姉妹ノ間ノ婚姻ノ禁止及ヒ第百六十三条ニ記シタル伯叔父ト姪女トノ間又伯叔母ト姪男トノ間ノ婚姻ノ禁止ヲ解除スルコトヲ得可シ 第二章 婚姻ヲ行フニ関スル法式 第百六十五条 婚姻ハ夫婦トナラントスル者ノ中一方ノ住所ノ身分取扱役ノ面前ニ於テ公ケニ之ヲ行フ可シ 第百六十六条 身分証書ノ巻第六十三条ニ定メタル二次ノ公告ハ契約ヲ為ス双方各自ノ其住所ヲ有スル地ノ邑庁ニ於テ之ヲ為ス可シ 第百六十七条 然レトモ若シ六月間ノ居住ノミヲ以テ現在ノ住所ヲ設定シタル時ハ右ノ外最終ノ住所ノ邑庁ニ於テモ其公告ヲ為ス可シ 第百六十八条 若シ契約ヲ為ス双方ノ者又ハ其一方ノ者カ婚姻ニ関シテ他人ノ威権ノ下ニアル時ハ其威権アル者ノ住所ノ邑庁ニ於テモ亦其公告ヲ為ス可シ 第百六十九条 国王(共和国大統領)又ハ其特ニ委任シタル官吏ハ重要ノ原由ノ為メ第二次ノ公告ヲ免除スルコトヲ得可シ 第百七十条 外国ニ於テ仏蘭西人ト仏蘭西人トノ間及ヒ仏蘭西人ト外国人トノ間ニ契約シタル婚姻ハ其国ニ於テ用フル所ノ法式ヲ以テ之ヲ行ヒタル時ハ有効ノモノトス但シ之レカ為メニハ予メ身分証書ノ巻第六十三条ニ定メタル公告ヲ為シ且ツ其仏蘭西人カ前章ニ記シタル成規ニ違背セサルヲ必要トス 第百七十一条 仏蘭西人ノ王国(共和国)領地内ニ帰リ来リシ後三月内ニ其外国ニ於テ契約シタル婚姻ヲ行ヒタルノ証書ヲ其住所ノ地ノ婚姻ノ公簿ニ登記ス可シ 第三章 婚姻ノ故障 第百七十二条 婚姻ヲ行フニ付キ故障ヲ為スノ権利ハ契約ヲ為ス双方中ノ一方ト婚姻ニ依リ結束セラレタル者ニ属ス 第百七十三条 父又父ナキ時ハ母又父母共ニアラサル時ハ祖父母ヨリ仮令其子及ヒ卑属親ノ満二十五歳ニ至リシ時ト雖トモ其婚姻ニ付キ故障ヲ為スコトヲ得可シ 第百七十四条 尊属親ノアラサル時ハ成年ノ兄弟、姉妹、伯叔父母、従兄弟、従姉妹ハ左ノ二箇ノ場合ニ非サレハ毫モ故障ヲ為スコトヲ得ス 第一 第百六十条ニ於テ必要ナリト定メタル親族会議ノ許諾ヲ得サル時 第二 婚姻ヲ為サントスル者ノ狂癲ノ景状ニ拠リ其故障ヲ為ス時但シ其故障者ヨリ治産禁ヲ受ケシムルノ訴ヲ為シ且ツ裁判ニ依リ定ム可キ期限内ニ其裁定ヲ為サシムルノ負任アルニ非レハ決シテ其故障ヲ受理ス可カラス又裁判所ハ其故障ノ単純ナル解除ヲ宣告スルコトヲ得可シ 第百七十五条 前条ニ記シタル二箇ノ場合ニ於テ後見人又ハ管財人ハ其後見又ハ管財ノ継続スル間ハ親族会議ヨリ許可セラレタル上ニ非サレハ故障ヲ為スコトヲ得ス但シ後見人又ハ管財人ハ親族会議ヲ招集スルコトヲ得可シ 第百七十六条 総テ故障申述ノ証書ニハ其故障ヲ為スノ権利ヲ故障者ニ附与スル分限ト婚姻ヲ行ハサル可カラサル地ニ於ケル住所ノ撰定トヲ記ス可ク又尊属親ノ請求ニ依リ故障申述ノ証書ヲ作リタル時ノ外ハ亦其故障ノ理由ヲ記セサル可カラス若シ此成規ニ背ク時ハ其故障ノ効ナカル可ク且ツ其故障申述ノ証書ニ署名シタル裁判所附役員ハ停職セラル可シ 第百七十七条 始審裁判所ハ故障解除ノ訟求ニ付キ十日内ニ宣告ス可シ 第百七十八条 控訴アリタル時ハ呼出ヨリ十日内ニ之ヲ裁定ス可シ 第百七十九条 故障ノ棄却セラレタル時ハ尊属親ヲ除クノ外其他ノ故障者ニ損害賠償ヲ言渡スコトヲ得可シ 第四章 婚姻ノ無効ニ於ケル訟求 第百八十条 夫婦双方又ハ一方ノ自由ノ承諾ナクシテ契約シタル婚姻ハ其双方又ハ承諾ノ自由ナラサリシ一方ニ非サレハ其取消ヲ訴フルコトヲ得ス 若シ人ニ於ケル錯誤アル時ハ夫婦中ニテ其錯誤ニ引入ラレタル者ニ非サレハ其婚姻ノ取消ヲ訴フルコトヲ得ス 第百八十一条 前条ノ場合ニ於テ夫婦ノ其完全ノ自由ヲ得又ハ其錯誤ヲ認知シタル時ヨリ六月間継続シテ同居シタル時ハ最早婚姻ノ無効ニ於ケル訟求ヲ受理ス可カラス 第百八十二条 父母、尊属親又ハ親族会議ノ許諾ノ必要ナル場合ニ於テ其許諾ヲ得スシテ契約シタル婚姻ハ其許諾ヲ為ス可キ者又ハ夫婦中ニテ其許諾ヲ要スル者ニ非サレハ其取消ヲ訴フルコトヲ得ス 第百八十三条 婚姻ノ許諾ヲ為ス可キ者ノ其婚姻ヲ明認又ハ黙認ヲ以テ認可シタル時又ハ其者ノ婚姻ヲ知リタル後自己ノ方ヨリ訴ヲ為スコトナク一年ヲ経過セシメタル時ハ夫婦又ハ婚姻ノ許諾ヲ為ス可キ血属親ヨリ最早無効ニ於ケル訴ヲ起スコトヲ得ス○夫婦中一方ノ者ノ自カラ其婚姻ヲ承諾スル為メニ適当ナル齢ニ達セシ後自己ノ方ヨリ訴ヲ為スコトナク一年ヲ経過セシメタル時ハ亦其一方ノ者ヨリ最早無効ニ於ケル訴ヲ起スコトヲ得ス 第百八十四条 凡ソ第百四十四条第百四十七条第百六十一条第百六十二条第百六十三条ニ記シタル成規ニ違背シテ契約シタル婚姻ハ夫婦自身若クハ其婚姻取消ニ付キ利益ヲ有スル各人若クハ検察官ヨリ其取消ヲ訴フルコトヲ得可シ 第百八十五条 然トモ必要ノ年齢ニ未タ達セサリシ夫婦双方又ハ其一方ノ契約シタル婚姻ハ左ノ場合ニ於テハ最早之ヲ取消サント訴フルコトヲ得ス 第一 夫婦中其一方又ハ双方ノ其適当ノ年齢ニ達セシ時ヨリ六月ヲ経過セシメタル時 第二 其年齢ニ達セサル婦ノ六月ヲ経過セサル前ニ懐胎シタル時 第百八十六条 前条ノ場合ニ於テ契約セシ婚姻ヲ許諾シタル父母、尊属親及ヒ親族ハ其取消ヲ訟求スルコトヲ許サス 第百八十七条 第百八十四条ニ従ヒ婚姻取消ニ付キ利益ヲ有スル各人ヨリ其無効ニ於ケル訴ヲ起スコトヲ得可キ総テノ場合ニ於テ傍系親又ハ前婚ノ子ハ夫婦ノ生存中ニ其訴ヲ起スコトヲ得ス然レトモ其婚姻取消ニ付キ一箇ノ発生シタル現在ノ利益ヲ有スル時ノミニ於テハ其訴ヲ起スコトヲ得可シ 第百八十八条 夫婦中一方ノ者ノ再婚ヲ契約シタルカ為メニ損害ヲ被リシ他ノ一方ノ者ハ自己ト結婚シタル配偶者ノ生存中ト雖トモ其再婚ノ無効ヲ訟求スルコトヲ得可シ 第百八十九条 若シ再婚ノ夫婦カ前婚ノ無効ヲ述ヘテ対抗スル時ハ先ツ其前婚ノ有効ナルヤ又ハ無効ナルヤヲ裁判セサル可カラス 第百九十条 検事ハ第百八十四条ヲ適用ス可キ総テノ場合ニ於テハ第百八十五条ニ記シタル改様ニ従ヒ夫婦ノ生存中ニ其婚姻ノ無効ヲ訟求シテ其夫婦ヲ離別セシムルノ言渡ヲ為サシムルコトヲ得可ク又之ヲ為サシメサルヲ得ス 第百九十一条 凡ソ公ケニ契約セス及ヒ該管役員ノ面前ニ於テ行ハサル婚姻ハ夫婦自身又ハ父母、尊属親及ヒ其婚姻取消ニ付キ一箇ノ発生シタル現在ノ利益ヲ有スル各人並ニ検察官ヨリ其取消ヲ訴フルコトヲ得可シ 第百九十二条 若シ婚姻ヲ為スニ付キ預メ必要ナル二次ノ公告ヲ為ササル時又ハ法律ニ依リ許サレタル免除ヲ得サル時又ハ公告ヲ為シ及ヒ婚姻ヲ行フニ付キ定メタル時間ヲ遵守セサル時ハ検事ヨリ公ケノ役員ニ対シテ三百「フランク」ニ過クルコトヲ得サル罰金ヲ宣告セシメ又婚姻ヲ契約シタル者又ハ其者ヲ指令シタル者ニ其家産ニ准シタル罰金ヲ宣告セシム可シ 第百九十三条 総テ第百六十五条ニ定メタル規則ニ違背シタル時ハ仮令其違背ノ為メ婚姻ノ無効ヲ宣告セシムルニ足ル可シト裁定セラレサル時ト雖トモ前条ニ指定シタル各人ハ同条ニ定ムル所ノ罰ヲ受ク可シ 第百九十四条 何人ニ限ラス身分証書ノ簿冊ニ記入シタル婚姻ヲ行ヒタルノ証書ヲ差出ササル時ハ夫婦タルノ名義ト婚姻の民法上ノ効トヲ得ント求ムルコトヲ得ス但シ身分証書ノ巻第四十六条ニ記シタル場合ハ格別ナリトス 第百九十五条 身分ノ占有ハ各自其身分ヲ申立テ夫婦ナリト称言スル者ヲシテ身分取扱役ノ面前ニ於テ婚姻ヲ行ヒタルノ証書ヲ差出スコトヲ免カレシムルヲ得ス 第百九十六条 身分ノ占有アリテ且ツ身分取扱役ノ面前ニ於テ婚姻ヲ行ヒタルノ証書ヲ差出シタル時ハ夫婦ハ各自其証書ノ無効ヲ訟求スルコトヲ許サス 第百九十七条 若シ然トモ第百九十四条及ヒ第百九十五条ノ場合ニ於テ公ケニ夫婦ナリトシテ生活シタル二人ノ間ニ挙ケタル子ノ生存シテ其二人ノ共ニ死去セシ時身分ノ占有ニ依リ其子ノ適法ノモノタルノ証アリテ其出産証書ニ其身分ノ占有ニ反シタル証ヲ記セサルニ於テハ其婚姻ヲ行ヒタルノ証書ヲ差出ササルコトノミヲ以テ口実トナシ其子ノ適法ノモノタルコトヲ争フヲ得ス 第百九十八条 若シ刑事訴訟ノ成果ニ依リ法ニ適シテ婚姻ヲ行ヒタルノ証ヲ獲得シタル時ハ其裁判書ヲ身分証書ノ簿冊ニ記入スルコトヲ以テ其夫婦並ニ其婚姻ニ依リ生レシ子ニ関シ其婚姻ヲ行ヒシ日ヨリ起算シテ総テ民法上ノ効ヲ其婚姻ニ確保スルモノトス 第百九十九条 若シ夫婦双方又ハ一方ノ者カ詐欺ヲ発見セスシテ死去シタル時ハ其婚姻ヲ有効ノモノナリト言渡サシムルニ付キ利益ヲ有スル各人及ヒ検事ヨリ刑事ノ訴ヲ起スコトヲ得可シ 第二百条 若シ詐欺発見ノ時公ケノ役員ノ既ニ死去シタルニ於テハ関係各人ノ告発ニ依リ其面前ニ於テ検事ヨリ其役員ノ相続人ニ対シテ民事上ノ訴ヲ起ス可シ 第二百一条 無効ナリト言渡サレタル婚姻ト雖トモ善意ヲ以テ之ヲ契約シタル時ハ夫婦並ニ其子ニ関シテ民法上ノ効ヲ生スルモノトス 第二百二条 若シ夫婦中一方ノ者ノミニ善意ノ存在スル時ハ其婚姻ハ其一方ノ者及ヒ其婚姻ニ依リ生レシ子ノミノ利益ニ於テ民法上ノ効ヲ生スルモノトス 第五章 婚姻ヨリ生スル義務 第二百三条 夫婦ハ婚姻ノ所為ノミニ依リ相共ニ其子ヲ給養、保育、教訓スルノ義務ヲ負フモノトス 第二百四条 子ハ婚姻ニ依リ又ハ其他ノ方法ニ依レル定業ノ為メ其父母ニ対シテ訴権ヲ有セス 第二百五条 子ハ窮乏ナル父母及ヒ其他ノ尊属親ニ養料ヲ給ス可シ 第二百六条 婿及ヒ嫁ハ前条ト同一ノ景況ニ於テハ亦其舅姑ニ養料ヲ給ス可シ然トモ左ノ場合ニ於テハ其義務止息スルモノトス 第一 姑ノ再婚シタル時 第二 其姻縁ヲ生セシメタル夫婦中ノ一方及ヒ其配偶者トノ結婚ニ依リ挙ケタル子ノ死去セシ時 第二百七条 右ノ成規ヨリ生スル義務ハ相互ノモノトス 第二百八条 養料ハ之ヲ得ント求ムル者ノ窮乏ト之ヲ給ス可キ者ノ家産トノ割合ノミヲ以テ之ヲ附与ス可シ 第二百九条 若シ養料ヲ給スル者ノ最早其全部又ハ一部ヲ給与スルコト能ハサル景状ニ至リ又ハ養料ヲ受クル者ノ最早其全部又ハ一部ヲ受クルコトヲ要セサル景状ニ至リシ時ハ其養料ノ免除又ハ減少ヲ訟求スルコトヲ得可シ 第二百十条 養料ヲ給セサル可カラサル人ノ之ヲ弁済スルコト能ハサル旨ヲ証明スル時ハ裁判所ニ於テ其原由ヲ取調タル上養料ヲ受ク可キ者ヲ其住居ニ引取リテ之ヲ給養、保育ス可キコトヲ命令スルヲ得可シ 第二百十一条 裁判所ニ於テハ父又ハ母カ其養料ヲ給ス可キ子ヲ己レノ住居ニ引取リテ給養、保育ス可キコトヲ供陳スル時ハ此場合ニ於テ其養料ヲ弁済スルコトヲ免除セサル可カラサルヤ否ヲ前ニ同シク宣告ス可シ 第六章 夫婦相互ノ権利及ヒ本分 第二百十二条 夫婦ハ互ニ貞実ニシテ扶持佑助ス可シ 第二百十三条 夫ハ其婦ヲ保護シ婦ハ其夫ニ聴順ス可シ 第二百十四条 婦ハ其夫ト居ヲ同ウシ且ツ夫ノ居住スルヲ適当ナリト思考スル各地ニ随行スルノ義務アリ又夫ハ其婦ヲ容接シテ己レノ資産ト身分トニ応シ生計ノ需用ニ必要ナル諸件ヲ其婦ニ給スルノ義務アリ 第二百十五条 婦ハ公ケノ商人ナル時又ハ財産ヲ共通セス又ハ財産ヲ離分シタル時ト雖トモ其夫ノ許可ナクシテ裁判所ニ於テ訴訟ヲ為スコトヲ得ス 第二百十六条 婦ノ重罪又ハ警察ノ事項ニ付キ訴ヲ受ケタル時ハ夫ノ許可ヲ必要トセス 第二百十七条 婦ハ財産ヲ共通セス又ハ財産ヲ離分シタルモノト雖トモ其所為ニ於ケル夫ノ助成ナク又ハ書面ニ依レル夫ノ承諾ナクシテ贈与シ、所有権ヲ移転シ、書入質ト為シ又ハ無償ノ名義或ハ有償ノ名義ヲ以テ獲得スルコトヲ得ス 第二百十八条 若シ夫其婦ノ裁判所ニ於テ訴訟ヲ為スコトヲ許可スルヲ否ム時ハ裁判官ヨリ其許可ヲ与フルコトヲ得可シ 第二百十九条 若シ夫其婦ノ一箇ノ証書ヲ記スルコトヲ許可スルヲ否ム時ハ婦其夫ヲ直接ニ共通住所ノ郡ノ始審裁判所ニ呼出サシムルコトヲ得可シ但シ其裁判所ニテハ裁判官会議室ニ於テ其夫ノ申述ヲ聴キタル上又ハ法ニ適シテ之ヲ召喚シタル上ニテ其許可ヲ与ヘ又ハ之ヲ否ムコトヲ得可キモノトス 第二百二十条 婦ノ公ケノ商人ナル時ハ其夫ノ許可ナクシテ其商業ニ関スル事ニ付キ己レニ義務ヲ負フコトヲ得可シ但シ此場合ニ於テ夫婦ノ間ニ財産共通アル時ハ婦ハ其夫ニモ亦義務ヲ負ハシムルモノトス 婦ハ其夫ノ商品ヲ零売スルノミニテハ公ケノ商人ト看做ス可カラス然レトモ婦ノ別ニ商業ヲ為ス時ノミ之ヲ公ケノ商人ト看做ス可シ 第二百二十一条 若シ夫ノ施体又ハ加辱ノ刑ヲ惹起スル言渡ヲ受ケタル時ハ其言渡ハ缺席ノミヲ以テ為シタル時ト雖トモ其婦ハ仮令成年ノモノタリトモ夫ノ刑期間ハ裁判官ノ許可ヲ得タル後ニ非サレハ裁判所ニ於テ訴訟ヲ為シ又ハ契約スルコトヲ得ス但シ裁判官ハ此場合ニ於テハ其夫ノ申述ヲ聴キ又ハ之ヲ召喚スルコトナクシテ其許可ヲ与フルコトヲ得可シ 第二百二十二条 若シ夫ノ治産禁ヲ受ケタル時又ハ其失踪ノ時ハ裁判官其原由ヲ取調タル上ニテ其婦ニ裁判所ニ於テ訴訟ヲ為シ又ハ契約スルコトヲ許可スルヲ得可シ 第二百二十三条 総テ一般ノ許可ハ婚姻ノ契約ヲ以テ約権シタル時ト雖トモ婦ノ財産ノ管理ニ関スルノ外有効ノモノトセス 第二百二十四条 若シ夫ノ幼年ナル時ハ其婦ノ裁判所ニ於テ訴訟ヲ為シ又ハ契約スル為メニ裁判官ノ許可ヲ必要トス 第二百二十五条 許可ノ欠缺ニ拠レル無効ハ婦又ハ夫又ハ其相続人ニ非サレハ之ヲ以テ対抗スルコトヲ得ス 第二百二十六条 婦ハ其夫ノ許可ナクシテ遺嘱スルコトヲ得可シ 第七章 婚姻ノ解分 第二百二十七条 婚姻ハ左ノ諸件ニ依リ解分スルモノトス 第一 夫婦中一方ノ死去 第二 法律ニ従ヒ言渡シタル離婚(離婚ハ千八百十六年五月八日ノ法律ヲ以テ之ヲ廃ス) 第三 夫婦中ノ一方准死ヲ惹起スル刑ノ言渡ヲ受ケ其言渡ノ確定ノモノトナリタル事(准死ハ千八百五十四年五月三十一日ノ法律ヲ以テ之ヲ廃ス) 第八章 再婚 第二百二十八条 婦ハ前婚ノ解分セシヨリ満十月ノ後ニ非サレハ再婚ヲ契約スルコトヲ得ス 第六巻 離婚〔千八百三年三月二十一日決定同月三十一日宣令千八百十六年五月八日ノ法律ヲ以テ廃ス〕 第一章 離婚ノ原由 第二百二十九条 夫ハ其婦ノ奸通ノ原由ノ為メ離婚ヲ訟求スルコトヲ得可シ 第二百三十条 婦ハ夫ノ其共通ノ家ニ妾ヲ置キタル時其夫ノ奸通ノ原由ノ為メ離婚ヲ訟求スルコトヲ得可シ 第二百三十一条 夫婦ハ其一方ヨリ他ノ一方ニ対スル強暴、苛虐又ハ至重ノ凌辱ノ為メ相互ニ離婚ヲ訟求スルコトヲ得可シ 第二百三十二条 夫婦中一方ノ者ノ加辱ノ刑ヲ言渡サレタル時ハ他ノ一方ノ者ノ為メニ離婚ノ原由タル可シ 第二百三十三条 法律上ニ定ムル条件ニ従ヒ且ツ法律上ニ定ムル嘗試ノ後ニ法律ニ定メタル方法ヲ以テ明示シタル夫婦相互ノ固執シタル承諾ハ其共同ノ生活ニ耐ヘスシテ其双方ニ関シテ離婚ノ確的ナル原由ノ存在スル旨ヲ充分ニ証スルモノトス 第二章 定リタル原由ノ為メノ離婚 第一節 定リタル原由ノ為メノ離婚ノ法式 第二百三十四条 定リタル原由ノ為メ離婚ヲ訟求スルニ至ラシメシ実事又ハ犯罪ノ性質如何ヲ問ハス其訟求ハ夫婦ノ住所ヲ有スル郡ノ裁判所ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス 第二百三十五条 若シ離婚ヲ訟求スル夫又ハ婦ノ申述シタル実事中ノ或者ノ為メ検察官ノ方ヨリ重罪ノ起訴ヲ為スニ至リシ時ハ重罪裁判所ノ裁判ノ後ニ至ル迄離婚ノ訴ヲ停止シ其裁判アリシ後離婚ノ訴ヲ再起スルコトヲ得可シ但シ重罪裁判所ノ裁判ヨリシテ原告人タル夫又ハ婦ニ対シテ有害ナル拒訴ノ憑拠又ハ抗弁ノ憑拠ヲ引出スコトヲ許サス 第二百三十六条 総テ離婚ノ訟求書ニハ其実事ヲ詳記ス可シ但シ其訟求書ハ憑拠タル証拠物アル時ハ其証拠物ト共ニ原告人タル夫又ハ婦自身ニテ之ヲ裁判所長又ハ裁判所長ノ職務ヲ行フ裁判官ニ差出ス可シ若シ其夫又ハ婦ノ病ノ為メニ妨ケラルル時ハ格別ニシテ此場合ニ於テハ裁判官其者ノ請願ト内科又ハ外科ノ医学士二名又ハ医学得業生二名ノ保証書トニ依リ其離婚ノ訟求書ヲ受クル為メ原告人ノ住所ニ至ル可シ 第二百三十七条 裁判官ハ原告人ノ申述スル所ヲ聴キ其相当ナリト思考スル注意ヲ為シタル後其訟求書及ヒ証拠物ニ花押ヲ附シ此等ノ諸件ヲ落手シタル旨ノ調書ヲ作ル可シ○其調書ハ裁判官及ヒ原告人之ニ署名ス可シ但シ原告人ノ署名スルコトヲ知ラス又ハ手署スルコト能ハサル時ハ格別ニシテ此場合ニ於テハ其旨ヲ記ス可シ 第二百三十八条 裁判官ハ其指示スル日時ニ至リ双方ノ者ノ自身ニテ其面前ニ出席ス可キ旨ヲ命令シ且ツ之カ為メ其命令書ノ写ヲ離婚ノ訴ノ被告人タル夫又ハ婦ニ送達ス可キ旨ヲ命令シテ之ヲ調書ノ末ニ記ス可シ 第二百三十九条 裁判官ハ其指示シタル日ニ至リ夫婦共ニ出席スル時ハ其双方ノ者ニ対シ又原告人ノミ出席スル時ハ原告人ニ対シ和解ヲ為サシムルニ適当ナリト思考スル所ノ説諭ヲ為ス可ク若シ和解ヲ為サシムルコトヲ得サル時ハ其調書ヲ作リテ離婚ノ訟求書及ヒ証拠物ヲ検察官ニ送リ且ツ其諸件ヲ裁判所ニ申告ス可キ旨ヲ命令ス可シ 第二百四十条 此時ヨリ三日内ニ裁判所ハ其長又ハ之レカ職務ヲ行フ裁判官ノ報告ト検察官ノ意見トニ依リ呼出ス可キノ允許ヲ与ヘ又ハ之ヲ停止ス可シ○其停止ハ二十日ノ期限ニ過クルコトヲ得ス 第二百四十一条 原告人ハ裁判所ノ許ニ拠リ通常ノ法式ヲ以テ法律上ノ期限内ニ被告人ニ自カラ秘密審問席ニ出席ス可キノ呼出状ヲ送ル可シ但シ其呼出状ノ初メニ離婚ノ訟求書及ヒ其憑拠タル証拠物ノ写ヲ記ス可キモノトス 第二百四十二条 其期限ノ終リニ至リ被告人ノ出席スルト否トヲ問ハス原告人ハ其相当ト思考スルニ於テハ代弁人ノ補助ヲ受ケテ自カラ其訟求ノ理由ヲ弁明シ又ハ之ヲ弁明セシム可シ又原告人ハ其憑拠タル証拠物ヲ差出シ且ツ其訊問ヲ得ント申立ツル証人ヲ指名ス可シ 第二百四十三条 被告人ノ自カラ出席シ又ハ代理人ヲ出席セシメタル時ハ訟求ノ理由並ニ原告人ヨリ差出シタル証拠物及ヒ原告人ヨリ指名シタル証人ニ付キ自己ノ注意ヲ申立テ又ハ之ヲ申立シムルコトヲ得可シ○被告人ハ己レノ方ニ於テ其訊問ヲ得ント申立ツル証人ヲ指名ス可シ但シ原告人モ亦其証人ニ付キ自己ノ注意ヲ為ス可キモノトス 第二百四十四条 双方ノ出席、申立、注意並ニ其双方ノ為スコトアル自白ノ調書ヲ作ル可シ○其調書ハ双方ニ読聞カセシ後双方ニ之ニ署名スルコトヲ求ム可シ但シ其調書ニハ双方ノ署名シタル事又ハ署名スルコト能ハス或ハ署名スルコトヲ欲セサル旨ノ申述ヲ明白に記載ス可シ 第二百四十五条 裁判所ハ双方ニ公ケノ審問席ニ出席ス可キコトヲ言渡シテ其日時ヲ定メ且ツ訴訟手続書ヲ検察官ニ送ル可キコトヲ命令シテ報告員ヲ任ス可シ○若シ被告人ノ出席セサル時ハ裁判所ノ命令書ニ定メタル期限内ニ原告人ヨリ其命令書ヲ被告人ニ送達セシム可シ 第二百四十六条 裁判所ハ其指示シタル日時ニ至リ特任裁判官ヨリ報告ノ上検察官ノ申述ヲ聴キタル後拒訴ノ憑拠ノ申立アルニ於テハ先ツ之ヲ裁定ス可シ○其拒訴ノ憑拠ヲ確的ナリト思考シタル場合ニ於テハ離婚ノ訟求ヲ棄却ス可ク又之ニ反スル場合又ハ拒訴ノ憑拠ヲ申立テサル時ハ離婚ノ訟求ヲ許容ス可シ 第二百四十七条 裁判所ハ離婚ノ訟求ヲ許容セシ後直チニ特任裁判官ヨリ報告ノ上検察官ノ申述ヲ聴キタル後其本案ヲ裁定ス可シ○若シ裁判所ニ於テ其訟求ヲ裁判シ得可キ景状ナリト思フ時ハ之ヲ裁判シ然ラサル時ハ原告人ニ其申述シタル適切ナル実事ヲ証スルコトヲ許シ又被告人ニ其反対ヲ証スルコトヲ許ス可シ 第二百四十八条 訴訟中各箇ノ所為ニ於テ双方ノ者ハ特任裁判官ノ報告ノ後検察官ノ発言ノ前ニ始メハ拒訴ノ憑拠ニ付キ後ハ本案ニ付キ其相互ノ論拠ヲ申立テ又ハ之ヲ申立テシムルコトヲ得可シ然レトモ如何ナル場合ニ於テモ原告人ハ自カラ出席スルニ非サレハ其代弁人ヲ出スコトヲ許サス 第二百四十九条 証人訊問ヲ命令スル裁判宣告ノ後直チニ裁判所ノ書記ハ調書ノ中ニテ双方ノ其訊問ヲ得ント申立ツル証人ニ付キ既ニ為シタル指名ヲ記スル部分ヲ読上ク可シ○裁判所長ハ双方ノ者ニ猶他ノ証人ヲ指名スルコトヲ得可シト雖トモ此後ニ至リテハ最早之ヲ許ササル旨ヲ告ク可シ 第二百五十条 双方ノ者ハ其後直チニ其除斥セント欲スル証人ニ対シテ其各自ノ故障ヲ申立ツ可シ○裁判所ハ検察官ノ申述ヲ聴キタル後其故障ノ申立ヲ裁定ス可シ 第二百五十一条 双方ノ者ノ血属親ハ其子及ヒ卑属親ヲ除クノ外其血縁ノ故ヲ以テ故障ヲ受クルコトナカル可ク又双方ノ雇人モ其雇人タル分限ノ故ヲ以テ故障ヲ受クルコトナカル可シ然レトモ裁判所ニ於テハ其血属親及ヒ雇人ノ証拠ノ申述ニ付キ相当ニ斟酌ス可シ 第二百五十二条 証人ノ証ヲ許ルス総テノ裁判書ニハ訊問ス可キ証人ノ姓名ヲ記シ且ツ双方ヨリ其証人ヲ出席セシメサル可カラサル日時ヲ定ム可シ 第二百五十三条 証人ノ証拠ノ申述ハ検察官及ヒ双方本人並ニ其代弁人又ハ其朋友ノ面前ニ於テ秘密審問ヲ為ス裁判所ニ於テ之ヲ受ク可シ但シ其代弁人又ハ朋友ノ数ハ各箇ノ方ニ付キ三名ニ過ク可カラス 第二百五十四条 双方ノ者ハ其相当ト思考スル所ノ注意及ヒ問糾ヲ自カラ証人ニ為シ又ハ代弁人ヲシテ之ヲ為サシムルコトヲ得可シ然レトモ証人ノ其証拠ヲ申述スル間ハ之ヲ中断スルコトヲ得ス 第二百五十五条 各箇ノ証拠ノ申述並ニ其申述ニ付キ為シタル申立及ヒ注意ハ之ヲ書面ニ記ス可シ○証人訊問ノ調書ハ双方本人ト証人トニ読聞カセシ後何レモ皆之ニ署名スルノ求ヲ受ク可シ但シ此等ノ者ノ署名シタル事又ハ署名スルコト能ハス或ハ手署スルコトヲ欲セサル旨ノ申述ハ之ヲ記載ス可シ 第二百五十六条 双方ノ証人訊問終結ノ後又ハ被告人ノ証人ヲ出ササル時ハ原告人ノ証人訊問終結ノ後裁判所ヨリ其双方ノ者ニ公ケノ審問席ニ出席ス可キコトヲ言渡シテ其日時ヲ指示シ且ツ訴訟手続書ヲ検察官ニ送ル可キコトヲ命令シテ報告員ヲ任ス可シ○其命令書ハ原告人ノ請求ニ依リ其書中ニ定メタル期限内ニ之ヲ被告人ニ送達ス可シ 第二百五十七条 確定裁判ノ為メニ定メタル日ニ至リ特任裁判官ヨリ報告ヲ為シタル後双方ノ者ハ其己レノ為メニ有益ナリト思考スル所ノ注意ヲ自カラ為シ又ハ代弁人ヲシテ之ヲ為サシメ其後検察官ヨリ其意見ヲ申立ツ可シ 第二百五十八条 確定裁判ハ公ケニ宣告ス可シ但シ其裁判ニ依リ離婚ヲ許ルス時ハ原告人其離婚ヲ宣告セシムル為メ身分取扱役ノ面前ニ至ルコトヲ許サルルモノトス 第二百五十九条 強暴、苛虐又ハ至重ノ凌辱ノ原由ノ為メニ離婚ノ訟求ヲ為シタル時ハ其訟求ニ確証アリト雖トモ裁判官直チニ離婚ヲ許サザルコトヲ得可シ○此場合ニ於テハ裁判官其裁判ヲ為ス前ニ婦ニ其夫ト居ヲ分チテ其夫ヲ容接スルコトヲ欲セサル時ハ之ヲ容接スルニ及ハサルコトヲ許可シ且ツ婦ノ自己ノ需用ニ供給スルニ足ル可キ入額ヲ有セサル時ハ夫ノ資産ニ准スル養料ヲ其婦ニ弁済ス可キコトヲ其夫ニ言渡ス可シ 第二百六十条 一年間嘗試ノ後双方ノ猶協和セサル時ハ原告人タル夫又ハ婦ハ法律ノ期限内ニ他ノ一方ヲ裁判所ニ出席スル為メニ呼出サシメ離婚ヲ許ルス確定裁判ヲ宣告セシムルコトヲ得可シ 第二百六十一条 夫婦中一方ノ者カ加辱ノ刑ヲ言渡サレタルノ故ヲ以テ離婚ヲ訟求シタル時ハ其言渡ノ裁判書ノ法式ニ適ヒタル副本ト其裁判ハ如何ナル法律上ノ方法ニ依ルモ最早之ヲ更改スルコトヲ得サル旨ヲ記シタル重罪裁判所ノ保証書トヲ始審裁判所差出スノミノ法式ヲ遵守スルヲ以テ足レリトス 第二百六十二条 離婚ノ事ニ付キ始審裁判所ヨリ為シタル許容ノ裁判又ハ確定裁判ヲ控訴シタル場合ニ於テハ控訴裁判所ニ於テ至急事件トシテ其訴ヲ審理シ及ヒ之ヲ裁判ス可シ 第二百六十三条 控訴ハ対審裁判書又ハ缺席裁判書ヲ送達シタル日ヨリ起算シテ三月内ニ為シタルニ非サレハ之ヲ受理ス可カラス○終審裁判ニ対シ大審院ニ上告スル為メノ期限モ亦送達ノ日ヨリ起算シテ三月トス○其上告ハ執行ヲ停止スルモノトス 第二百六十四条 総テ離婚ヲ許ス終審裁判又ハ裁定事件ノ力ヲ得タル裁判ニ拠リ其裁判ヲ得タル夫又ハ婦ハ二月ノ期限内ニ他ノ一方ヲ法ニ適シテ招喚シタル上離婚ヲ宣告セシムル為メ身分取扱役ノ面前ニ出席ス可キノ義務アリ 第二百六十五条 此二月ハ始審裁判ニ付テハ控訴期限ノ終リシ時ヨリ之ヲ起算シ又控訴ノ缺席裁判ニ付テハ其故障申述期限ノ終リシ時ヨリ之ヲ起算シ又終審ノ対審裁判ニ付テハ上告期限ノ終リシ時ヨリ之ヲ起算ス可シ 第二百六十六条 若シ原告人タル夫又ハ婦カ他ノ一方ヲ身分取扱役ノ面前ニ招喚スルコトナク前ニ定メタル二月ノ期限ヲ経過セシメタル時ハ其得タル裁判ノ利益ヲ失ヒ更ニ新ナル原由ノ為メニ非サレハ離婚ノ訴ヲ再起スルコトヲ得ス然レトモ其新ナル原由ノ為メニ離婚ノ訴ヲ再起スル場合ニ於テハ以前ノ原由ヲ益用スルコトヲ得可シ 第二節 定リタル原由ノ為メノ離婚ノ訟求ニ付キ為スコトアル可キ仮リノ処分 第二百六十七条 子ノ仮リノ管理ハ離婚ノ原告人タルト被告人タルトヲ問ハス夫ニ於テ之ヲ保存ス可シ但シ其子ノ最大ノ利益ノ為メ母若クハ親族又ハ検察官ノ求メニ依リ裁判所ヨリ別段ノ命令ヲ為シタル時ハ格別ナリトス 第二百六十八条 婦ハ離婚ノ原告人タルト被告人タルトヲ問ハス其訴訟ノ時間夫ノ住所ヲ去リテ夫ノ資産ニ准シタル養料ヲ求ムルコトヲ得可シ○裁判所ハ婦ノ居住ス可キ家屋ヲ指示シ且ツ夫ヨリ其婦ニ弁済スルノ義務アル養料ヲ定ム可キ時ハ之ヲ定ム可シ 第二百六十九条 婦ハ其指示セラレタル家屋ニ居住スルヲ証明ス可キノ求メヲ受クル度毎ニ之ヲ証明ス可シ若シ其証明ヲ為サザル時ハ夫其養料ヲ否拒スルコトヲ得可ク且ツ婦ノ離婚ノ原告人タル時ハ其婦ヲシテ其訴訟ヲ継続スルヲ許ササルノ言渡ヲ受ケシムルコトヲ得可シ 第二百七十条 財産ヲ共通スル婦ハ離婚ノ原告人タルト被告人タルトヲ問ハス第二百三十八条ニ記シタル命令ノ日附ヨリ後其訴訟中何時タリトモ自己ノ権利ノ保存ノ為メ共通財産中ノ動産ニ封印ヲ附スルコトヲ請求スルヲ得可シ○其封印ハ評価ヲ附シタル目録ヲ作リ且ツ夫裁判上ノ監守人トシテ其目録ニ記シタル物ヲ差出シ又ハ其価額ヲ担当スルノ負任アルニ非サレハ之ヲ除去ス可カラス 第二百七十一条 第二百三十八条ニ記シタル命令ノ日附ヨリ後ニ共通財産ノ負任ニテ夫ノ契約シタル総テノ義務及ヒ共通財産ニ附属スル不動産ニ付キ夫ノ為シタル総テノ所有権移転ハ其婦ノ権利ノ詐害ニ於テ之ヲ為シ又ハ之ヲ契約シタルノ証アル時ハ無効ナリト言渡サル可シ 第三節 定リタル原由ノ為メノ離婚ノ訴ニ対スル拒訴ノ憑拠 第二百七十二条 離婚ノ訴権ハ其訴ヲ起スコトヲ得セシメタル実事ノ後若クハ離婚ノ訟求ノ後ニ生シタル夫婦ノ和諧ニ依リ消滅ス可シ 第二百七十三条 其何レノ場合ニ於テモ原告人ハ其訴ニ付キ不受理ノ言渡ヲ受ク可シ然トモ和諧ノ後ニ生シタル原由ノ為メ更ニ新ナル訴ヲ起スコトヲ得可ク然ル時ハ其新タナル訟求ノ憑拠トシテ以前ノ原由ヲ用フルコトヲ得可シ 第二百七十四条 若シ離婚ノ原告人ヨリ和諧シタルコトナキ旨ヲ申述スル時ハ被告人ハ本章第一節ニ定メタル法式ニ従ヒ書面若クハ証人ヲ以テ和諧シタルノ証ヲ立ツ可シ 第三章 相互ノ承諾ニ依レル離婚 第二百七十五条 夫婦相互ノ承諾ハ夫ノ二十五歳以下ナル時及ヒ婦ノ二十一歳以下ナル時ハ之ヲ許サス 第二百七十六条 相互ノ承諾ハ婚姻ヲ行ヒシヨリ二年ノ後ニ非ザレハ之ヲ許サス 第二百七十七条 相互ノ承諾ハ婚姻ヲ行ヒシヨリ二十年ノ後ニ至リ又ハ婦ノ四十五歳ノ齢ニ至リシ時ハ最早之ヲ許サス 第二百七十八条 如何ナル場合ニ於テモ婚姻ノ巻第百五十条ニ定メタル規則ニ従ヒ父母又ハ其他ノ生存スル尊属親ヨリ許可セラレタルニ非サレハ夫婦相互ノ承諾ヲ以テ足レリトセス 第二百七十九条 相互ノ承諾ニ依リ離婚ヲ為サント決定シタル夫婦ハ予メ其総テノ動産及ヒ不動産ノ目録ヲ作リ且ツ評価ヲ為シテ其相互ノ権利ヲ規定ス可シ然レトモ其権利ニ付テハ双方ニ於テ和解ヲ為スコト自由ナリトス 第二百八十条 夫婦ハ亦左ノ三件ニ付テハ其合意ヲ書面ヲ以テ証明ス可シ 第一 其婚姻ニ依リ生レシ子ハ嘗試ノ時間若クハ離婚ノ宣告ノ後之ヲ何人ニ委託ス可キヤノ事 第二 嘗試ノ時間婦ハ何レノ家屋ニ至リテ居住セサル可カラサルヤノ事 第三 若シ婦ノ其需用ニ供給スルニ足ル可キ入額ヲ有セサル時ハ右ト同一ノ時間夫ヨリ其婦ニ幾許ノ金額ヲ弁済セサル可カラサルヤノ事 第二百八十一条 夫婦ハ相共ニ自カラ其郡ノ民事裁判所長又ハ其職務ヲ行フ裁判官ノ面前ニ出席シ其伴行シタル公証人二名ノ面前ニ於テ其意ノ申述ヲ為ス可シ 第二百八十二条 裁判官ハ公証人二名ノ面前ニ於テ其相当ト思考スル所ノ説諭及ヒ理解ヲ夫婦一同ニ為シ其後特別ニ之ヲ其各自ニ為シ且ツ離婚ノ効ヲ規定スル本巻第四章ヲ読聞カセテ其求メノ総テノ結果ヲ双方ニ説明ス可シ 第二百八十三条 夫婦ノ其決定ニ於テ固執スル時ハ裁判官ヨリ双方離婚ヲ訟求シ且ツ相互ニ之ヲ承諾スル証書ヲ其双方ニ与フ可シ而シテ双方ノ者ハ第二百七十九条及ヒ第二百八十条ニ記シタル証書ノ外更ニ左ノ証書ヲ差出シテ直チニ之ヲ公証人ノ手元ニ附託ス可シ 第一 夫婦ノ出産証書及ヒ婚姻証書 第二 其婚姻ニ依リ生レシ総テノ子ノ出産証書及ヒ死去証書 第三 生存スル父母又ハ其他ノ尊属親其知ル所ノ原由ノ為メ某ト婚姻シタル己レノ男又ハ女或ハ己レノ孫男又ハ孫女ニ離婚ヲ訟求シ及ヒ之ヲ承諾スルコトヲ許可スル旨ヲ記シタル公正ノ申述書○夫婦ノ母父、祖父母ハ其死去ヲ証明スル証書ヲ差出ス迄ハ之ヲ生存スル者ト看做ス可シ 第二百八十四条 公証人二名ハ前数条ニ従テ言ヒ及ヒ執行シタル諸件ノ詳細ナル調書ヲ作リ其細字ノ正本ト其調書ニ添ヘ置ク可キ差出シタル証拠物トヲ公証人二名中ノ年長者ニ預リ置ク可シ但シ其調書ニハ婦ノ其夫ト合意シタル家屋ニ二十四時内ニ引移リテ離婚ノ宣告アルニ至ル迄其家屋ニ居住ス可キノ告知ヲ記載ス可キモノトス 第二百八十五条 斯クノ如クニ為シタル申述ハ之ト同一ノ法式ヲ遵守シテ其後ノ第四月、第七月、第十月毎ニ其初メノ十五日内ニ之ヲ更新ス可シ○双方ノ者ハ毎次其生存スル父母又ハ其他ノ尊属親ノ其初メノ決定ヲ固執スル旨ヲ公正ノ証書ヲ以テ証ス可キノ義務アリ然レトモ其他ノ証書ハ更ニ之ヲ差出スニ及ハス 第二百八十六条 最初ノ申述ヨリ起算シテ満一年ニ至リシ日ヨリ十五日内ニ夫婦ハ各其郡内ノ素望アル五十歳以上ノ朋友二名ノ補助ヲ受ケテ裁判所長又ハ其職務ヲ行フ裁判官ノ面前ニ相共ニ自カラ出席シ相互ノ承諾ヲ記シタル調書四通ノ法式ニ適ヒタル副本ト之ニ添ヘタル総テノ証書ノ法式ニ適ヒタル副本トヲ其裁判所長又ハ裁判官ニ差出シ且ツ各自別々ニ他ノ一方ノ者及ヒ其素望アル者四名ノ面前ニ於テ裁判官ニ離婚ノ許容ヲ請求ス可シ 第二百八十七条 裁判官及ヒ補助人ヨリ夫婦ニ其注意ヲ為シタル後双方猶固執スル時ハ其請求ヲ為ス事及ヒ憑拠タル証拠物ヲ差出シタル事ノ証書ヲ夫婦ニ与フ可シ又裁判所ノ書記ハ調書ヲ作リテ夫婦及ヒ補助人四名並ニ裁判官及ヒ書記之ニ署名ス可シ(但シ夫婦ノ署名スルコトヲ知ラス又ハ署名スル能ハサル旨ヲ申述スル時ハ格別ニシテ此場合ニ於テハ其旨ヲ記載ス可シ) 第二百八十八条 裁判官ハ三日内ニ検察官ノ書面ヲ以テ意見ヲ申立テタル上裁判所ノ裁判官会議室ニ諸件ヲ申告ス可キ旨ヲ記シタル命令書ヲ直チニ其調書ノ末ニ記載ス可シ但シ之レカ為メ書記ヨリ証拠物ヲ検察官ニ送附ス可キモノトス 第二百八十九条 検察官カ其証拠物ニ於テ双方其最初ノ申述ヲ為セシ時夫ハ二十五歳ノ齢、婦ハ二十一歳ノ齢ニ至リタル事又当時ニ於テ婚姻ヲ行ヒシヨリ二年以上ニ至リタル事、其婚姻ヲ行ヒシヨリ二十年以上ニ至ラサル事又婦ノ四十五歳以下ノ齢タル事又前ニ定メタル予式ノ後及ヒ本章ニ必要ナリト定メタル総テノ法式ヲ行ヒ就中父母ノ許可又父母ノ既ニ死去セシ時ハ其他ノ生存スル尊属親ノ許可ヲ以テ一年間ニ四次相互ノ承諾ヲ申述シタル事ノ証ヲ見出シタル時ハ検察官法律ニ於テ允許スト云ヘル語ヲ以テ其意見ヲ発シ之ニ反スル場合ニ於テハ法律ニ於テ防止スト云ヘル語ヲ以テ其意見ヲ発ス可シ 第二百九十条 裁判所ハ裁判官ヨリ申告ノ上前条ニ指示シタル所ノモノノ外更ニ其他ノ審査ヲ為スコトヲ得ス○裁判所ノ意見ニテ双方ノ者法律上ニ定メタル要件ヲ具備シ及ヒ法式ヲ履行シタリト思フ時ハ離婚ヲ許容シ其離婚ヲ宣告セシムル為メ双方ノ者ヲ身分取扱役ノ面前ニ至ラシム可ク又之ニ反スル場合ニ於テハ裁判所ヨリ離婚ヲ許容セサル旨ヲ言渡シテ其裁決ノ理由ヲ説明ス可シ 第二百九十一条 離婚ヲ許容セサル旨ヲ言渡シタル裁判ノ控訴ハ始審裁判ノ日附ヨリ早クトモ十日内遅クトモ二十日内ニ双方ヨリ各自別々ノ控訴状ヲ以テ之ヲ為スニ非サレハ受理ス可カラス 第二百九十二条 控訴状ハ相互ニ其配偶者ト始審裁判所ノ検察官トニ送達ス可シ 第二百九十三条 始審裁判所ノ検察官ハ第二次ノ控訴状ノ送達ヲ受ケタル時ヨリ起算シテ十日内ニ裁判書ノ副本及ヒ其裁判ヲ為スニ用ヒタル証拠物ヲ控訴裁判所ノ検事長ニ送達ス可シ○控訴裁判所ノ検事長ハ其証拠物ヲ受取リシ時ヨリ十日内ニ書面ヲ以テ其意見ヲ発シ控訴裁判所長又ハ之ニ代ハル可キ裁判官ヨリ控訴裁判所ノ裁判官会議室ニ報告ヲ為シ而シテ検事長ノ意見書ヲ受取リシ時ヨリ十日内ニ確定ノ裁判ヲ為ス可シ 第二百九十四条 双方ノ者ハ離婚ヲ許容スル控訴裁判所ノ裁判ニ拠リ其日附ヨリ二十日内ニ離婚ヲ宣告セシムル為メ相共ニ自カラ身分取扱役ノ面前ニ出ツ可シ○若シ此定期ヲ過コス時ハ其裁判ハ無効タル可シ 第四章 離婚ノ効 第二百九十五条 如何ナル原由ノ為メタルヲ問ハス離婚シタル夫婦ハ互ニ復タ結婚スルコトヲ得ス 第二百九十六条 定リタル原由ノ為メニ宣告セラレタル離婚ノ場合ニ於テハ離婚セラレタル婦ハ其宣告セラレタル離婚ノ時ヨリ十月ノ後ニ非サレハ再婚スルコトヲ得ス 第二百九十七条 相互ノ承諾ニ依レル離婚ノ場合ニ於テハ夫婦各々其離婚ノ宣告アリシ時ヨリ三年ノ後ニ非サレハ再婚ヲ契約スルコトヲ得ス 第二百九十八条 奸通ノ原由ノ為メ裁判上ニテ許容セラレタル離婚ノ場合ニ於テハ犯奸ノ夫又ハ婦ハ決シテ其従犯ト婚姻スルコトヲ得ス○奸通ヲ為シタル婦ハ検察官ノ請求ニ依リ右ト同一ノ裁判ヲ以テ三月ヨリ少ナキコトヲ得ス二年ニ過クルコトヲ得サル定期間懲治場内ニ於ケル懲役ヲ言渡サル可シ 第二百九十九条 相互ノ承諾ノ場合ヲ除クノ外離婚ノ原由ノ如何ヲ問ハス離婚ヲ言渡サレタル夫又ハ婦ハ婚姻ノ契約ニ依リ若クハ婚姻ヲ契約セシ後ニ其配偶者ヨリ受ケタル所ノ総テノ利益ヲ失フ可シ 第三百条 離婚ヲ得タル夫又ハ婦ハ其配偶者ヨリ受ケタル利益ヲ保存ス可シ但シ其利益ハ相互ノモノナリト約権シ而シテ之ヲ相互ノモノト為ササリシ時ト雖トモ亦同一ナリトス 第三百一条 夫婦互ニ利益ヲ与ヘタルコトナキ時又ハ其約権シタル利益カ離婚ヲ得タル夫又ハ婦ノ生計ヲ確保スルニ充分ナリト思ハレサル時ハ裁判所ヨリ其配偶者ノ財産ニ就キ其夫又ハ婦ニ養料ヲ附与スルコトヲ得可シ但シ其養料ハ其配偶者ノ入額ノ三分一ニ過クルコトヲ得ス○其養料ハ必要ナルコトノ止息セシ場合ニ於テ廃止ス可キモノトス 第三百二条 子ハ離婚ヲ得タル夫又ハ婦ニ之ヲ委託ス可シ但シ裁判所ニ於テ親族又ハ検察官ノ求ニ依リ其子ノ最大ノ利益ノ為メ其子全員又ハ其中ノ或者ヲ其配偶者若クハ第三ノ人ノ管照ニ委託ス可キ旨ヲ命令シタル時ハ格別ナリトス 第三百三条 其子ヲ委託シタル人ノ如何ヲ問ハス父母ハ相互ニ其子ノ保育教訓ヲ監視スルノ権利ヲ保存シ且ツ其資産ニ准シテ之ヲ分担ス可シ 第三百四条 裁判上ニテ許容セラレタル離婚ニ依リ婚姻ノ解分シタル時ト雖トモ其婚姻ニ依リ生レタル子ハ法律ニ依リ又ハ其父母ノ婚姻ノ合意ニ依リ己レニ確保セラレタル利益ヲ少シモ失フコトナカル可シ然レトモ其子ノ権利ハ離婚ノアラサル時ニ開始スルト同一ノ方法ニ従ヒ且ツ同一ノ景況アルニ非サレハ開始セサルモノトス 第三百五条 相互ノ承諾ニ依レル離婚ノ場合ニ於テハ夫婦各自ノ財産一半ノ所有権ハ其最初ノ申述ノ日ヨリ当然其婚姻ニ依リ生レタル子ニ獲得ス可シ然レトモ父母ハ其子ノ成年ニ至ル迄ハ其一半ノ収益ヲ保存シテ其家産及ヒ身分ニ准シテ其子ノ給養、保育、教訓ヲ設備ス可キノ負任アルモノトス但シ其諸件ハ父母ノ婚姻ノ合意ニ依リ其子ニ確保スルコトアリタル其他ノ利益ト相触ルルコトナカル可シ 第五章 分居 第三百六条 定リタル原由ノ為メニ離婚ノ訟求ヲ起ス可キ場合ニ於テハ夫又ハ婦ヨリ分居ノ訟求ヲ為スコト自由ナリトス 第三百七条 分居ノ訟求ハ総テ其他ノ民事上ノ訴ト同一ノ方法ヲ以テ之ヲ起シ之ヲ審理シ及ヒ之ヲ裁判ス可シ但シ分居ノ訟求ハ夫婦相互ノ承諾ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得ス 第三百八条 奸通ノ原由ノ為メニ分居ヲ宣告セラレタル婦ハ検察官ノ請求ニ依リ右ト同一ノ裁判ヲ以テ三月ヨリ少ナキコトヲ得ス二年ニ過クルコトヲ得サル定期間懲治場内ニ於ケル拘留ヲ言渡サル可シ 第三百九条 夫ハ其婦ヲ再ヒ引取ルコトヲ承諾シテ其言渡ノ効ヲ止ムルコト自由ナリトス 第三百十条 婦ノ奸通ヲ除クノ外総テ其他ノ原由ノ為メニ宣告シタル分居カ三年間継続シタル時ハ原来被告人タリシ夫又ハ婦ヨリ裁判所ニ離婚ヲ訟求スルコトヲ得可シ但シ裁判所ニ於テハ原来ノ原告人出席ノ上又ハ法ニ適シテ之ヲ招喚シタル上其原告人ノ直チニ分居ヲ止メシムルコトヲ承諾セサルニ於テハ離婚ヲ許容ス可シ(本条ハ離婚廃止ノ為メ之ヲ削除シタリ) 第三百十一条 分居ハ常ニ必ス財産ノ離分ヲ惹起ス可シ 第七巻 父タルノ分限及ヒ子タルノ分限(千八百三年三月二十三日決定四月二日宣令) 第一章 適法子即チ結婚中ニ生レタル子ノ子タルノ分限 第三百十二条 結婚中ニ懐胎シタル子ハ夫ヲ以テ父トス 然トモ其子ノ出産ノ前第三百日ヨリ第百八十日ニ至ル迄ノ時間ニ夫ノ離隔ノ原由ニ依リ若クハ或ル偶然ノ事故ノ効ニ依リ現実其婦ト同居スル能ハサリシコトヲ証スル時ハ夫其子ヲ非斥スルコトヲ得可シ 第三百十三条 夫ハ己レノ自然ノ無勢力ヲ申立テテ其子ヲ非斥スルコトヲ得ス又奸通ノ原由ノ為メト雖トモ其子ヲ非斥スルコトヲ得ス但シ其子ノ出産ヲ夫ニ掩蔽セシ時ハ格別ニシテ此場合ニ於テハ夫其子ノ父ニ非サルコトヲ証明スルニ適当ナル各箇ノ実事ヲ申立ツルコトヲ許サルルモノトス (千八百五十年十二月六日ノ法律ヲ以テ左ノ如ク追加ス)夫婦分居ノ宣告アリタル場合又ハ之ヲ訟求シタル場合ト雖トモ夫ハ訴訟法第八百七十八条ニ記スル所ニ従ヒ裁判所長ノ発シタル命令ヨリ三百日ノ後ニ生レタル子及ヒ訟求ノ確定ノ棄却又ハ和解ノ後百八十日ニ至ラスシテ生レタル子ヲ非斥スルコトヲ得可シ○若シ事実ニ於テ夫婦ノ間ニ協和ノアリタル時ハ非斥ノ訴ヲ許ス可カラス 第三百十四条 婚姻ヨリ百八十日ニ至ラサル前ニ生レタル子ハ左ノ場合ニ於テハ夫之ヲ非斥スルコトヲ得ス 第一 夫婚姻ノ前ニ懐胎ヲ知リタル時 第二 夫其子ノ出産証書ニ立会ヒテ其証書ニ署名シ又ハ其証書ニ署名スルコトヲ知ラサル旨ノ申述ヲ記載シアル時 第三 其子ノ生存ス可キモノト申述セラレサル時 第三百十五条 婚姻ノ解分ヨリ三百日ノ後ニ生レシ子ノ適法ノモノタル分限ハ之ヲ争フコトヲ得可シ 第三百十六条 夫ノ訴ヲ為スコトヲ許サレタル各箇ノ場合ニ於テ夫ノ其子ノ出産ノ地ニ在ル時ハ一月内ニ之ヲ為ササル可カラス 若シ同一ノ時期ニ於テ夫ノ不在ナル時ハ其帰来ノ後二月内ニ之ヲ為ササル可カラス 若シ其子ノ出産ヲ夫ニ掩蔽セシ時ハ夫其詐欺発見ノ後二月内ニ之ヲ為ササル可カラス 第三百十七条 若シ夫猶其訴ヲ為シ得可キ有益ノ期限内ニ在リテ其訴ヲ為ササル前ニ死去セシ時ハ其子ノ其夫ノ財産占有ヲ得タル時期又ハ相続人ノ其占有ニ於テ其子ノ為メニ妨害セラレタル時期ヨリ起算シテ二月内ニ相続人其子ノ適法ノモノタルノ分限ヲ争フコトヲ得可シ 第三百十八条 夫又ハ其相続人ノ方ニ於ケル非斥ノ旨ヲ記シタル総テ裁判外ノ証書ハ一月ノ期限内ニ其子ノ為メニ任シタル特別後見人ニ対シ其母ノ面前ニテ裁判上ノ訴ヲ起ササルニ於テハ無効タル可シ 第二章 適法子ノ子タル分限ノ証 第三百十九条 適法子ノ子タル分限ハ身分ノ簿冊ニ記入シタル出産証書ニ依テ之ヲ証ス 第三百二十条 其証券ノアラサルニ於テハ適法子タル身分ノ常久ノ占有ヲ以テ足レリトス 第三百二十一条 一個人ト其人ノ所属ナリト称言スル家族トノ間ニ子タル分限及ヒ血縁ノ関係ヲ指示スル実事ノ充分相合シテ備ハリタルニ依リ身分ノ占有ヲ設定ス 其実事中ノ重要ナルモノハ左ノ如シ 右ノ人其所出ナリト称言スル父ノ姓ヲ常ニ帯用シタル事 父ノ右ノ人ヲ我子トシテ取扱ヒ且ツ其分限ヲ以テ其教訓、保育及ヒ其定業ノ設備ヲ為シタル事 社会ニ於テ其人ヲ常ニ其子ナリト認定シタル事 親族ノ之ヲ其子ナリト認定シタル事 第三百二十二条 何人ニ限ラス其出産ノ証券ト其証券ニ適合シタル占有トニ依リ附与セラレタル身分ニ反対ノ身分ヲ訟求スルコトヲ得ス 又右ノ裏面ニ於テ何人ニ限ラス出産ノ証券ニ適合シタル占有アル者ノ身分ヲ争フコトヲ得ス 第三百二十三条 若シ証券及ヒ常久ノ占有ノアラサル時又ハ其子ノ姓ヲ誤テ記入シ若クハ分明ナラサル父母ノ生ミタルモノトシテ之ヲ記入シタル時ハ証人ヲ以テ子タル分限ノ証ヲ立ツルコトヲ得可シ 然トモ書面ニ依レル証拠ノ端緒アル時又ハ当時確実ナル実事ヨリ生スル所ノ思量又ハ証憑ノ頗ル重要ニシテ其証ヲ許ルスヲ決定セシムルニ足ル可キ時ニ非サレハ右ノ証ヲ許スコトヲ得ス 第三百二十四条 書面ニ依レル証拠ノ端緒ハ家券又ハ父母ノ家内ノ薄冊及ヒ書類又ハ争訟ニ関シタル者又ハ若シ生存スルニ於テハ其訴訟ニ関係アル可キ者ヨリ出テタル公ケノ証書又然ノミナラス私シノ証書ヨリ生スルモノトス 第三百二十五条 反対ノ証ハ訟求者ノ其母ナリト称言スル者ノ子ニ非サル事又母タルノ分限ニ付キ証アリト雖トモ其母ノ夫ノ子ニ非サル事ヲ証スルニ適当ナル各箇ノ方法ヲ以テ之ヲ立ツルコトヲ得可シ 第三百二十六条 民事裁判所ノミニ於テ身分ノ訟求ニ付キ裁定スルノ権力アリトス 第三百二十七条 身分湮滅ノ罪ニ対スル刑事ノ訴ハ身分ノ問題ニ付テノ確定裁判ノ後ニ非サレハ之ヲ始ムルコトヲ得ス 第三百二十八条 身分訟求ノ訴権ハ其子ニ関シテハ期満効ヲ得可カラサルモノトス 第三百二十九条 其訴ハ訟求ヲ為サザリシ子ノ幼年ニテ死去シ又ハ其成年ニ至リシ後五年内ニ死去シタル時ニ非レハ其子ノ相続人ヨリ之ヲ起スコトヲ得ス 第三百三十条 若シ子ノ其訴ヲ為シ始メタル時ハ相続人其訴ヲ継続スルコトヲ得可シ但シ其子ノ明確ニ其訴ヲ止メ又ハ其訴訟手続ノ最後ノ所為ヨリ起算シテ三年間更に其訴訟ヲ為ササリシ時ハ格別ナリトス 第三章 私生子 第一節 私生子ヲ適法ノモノト為ス事 第三百三十一条 結婚外ニ生レタル子ハ乱倫又ハ奸通ヨリ生レシ者ヲ除クノ外其父母ノ婚姻ヲ為ス前ニ適法ニ之ヲ認定シ又ハ婚姻ヲ行ヒタルノ証書ニ於テ之ヲ認定シタル時ハ其父母ノ後ノ婚姻ニ依リ適法ノモノト為スコトヲ得可シ 第三百三十二条 適法ノモノト為ス事ハ卑属親ヲ遺留シテ死去セシ子ノ為メト雖モ之ヲ為スコトヲ得可シ但シ此場合ニ於テハ其適法ノモノト為シタル事ハ右ノ卑属親ニ利益スルモノトス 第三百三十三条 後ノ婚姻ニ依リ適法ノモノト為サレタル子ハ其婚姻ヨリ生レタル時ト同一ノ権利ヲ有ス可シ 第二節 私生子ノ認定 第三百三十四条 私生子ノ認定ハ其出産証書ヲ以テ之ヲ為ササリシ時ハ公正ノ証書ヲ以テ之ヲ為ス可シ 第三百三十五条 其認定ハ乱倫又ハ奸通ヨリ生レタル子ノ利益ニ於テ之ヲ為スコトヲ得ス 第三百三十六条 母ノ指示及ヒ自白ナキ父ノ認定ハ父ノミニ関シテ効ヲ有スルモノトス 第三百三十七条 夫婦中一方ノ者ノ其婚姻ヲ為ス前ニ其配偶者ニ非サル者トノ間ニ挙ケタル私生子ノ利益ニ於テ其結婚中ニ為シタル認定ハ其配偶者並ニ其婚姻ヨリ生レタル子ニ害スルコトヲ得ス 然レトモ其認定ハ其婚姻ヨリ生レタル子ノ存在セサル時ハ婚姻解分ノ後ニ其効ヲ生ス可シ 第三百三十八条 認定セラレタル私生子ハ適法子ノ権利ヲ訟求スルコトヲ得ス○私生子ノ権利ハ財産相続ノ巻ニ之ヲ規定ス可シ 第三百三十九条 父又ハ母ノ方ニ於ケル総テノ認定並ニ子ノ方ニ於ケル総テノ訟求ハ之ニ関係アル各人ヨリ争フコトヲ得可シ 第三百四十条 父タル分限ノ捜索ハ之ヲ禁ス○誘拐ノ場合ニ於テ若シ其誘拐ノ時期カ孕妊ノ時期ニ適応シタル時ハ関係各人ノ訟求ニ依リ其誘拐者ヲ以テ其子ノ父ナリト言渡スコトヲ得可シ 第三百四十一条 母タル分限ノ捜索ハ之ヲ許ス 人ヲ指シテ我母ナリト訴フル子ハ其母ノ分娩シタル子ト同人タルニ相違ナキコトヲ証ス可シ 其子ハ書面ニ拠レル証拠ノ端緒ノ既ニ存在スル時ニ非レハ証人ヲ以テ其証ヲ立ルコトヲ許サレサルモノトス 第三百四十二条 第三百三十五条ニ従ヒ認定ヲ許ササル場合ニ於テハ子ハ決シテ父タルノ分限若クハ母タルノ分限ノ捜索ヲ許サレサルモノトス 第八巻 養子及ヒ好為後見(千八百三年三月二十三日決定四月二日宣令) 第一章 養子 第一節 養子及ヒ其効 第三百四十三条 男女ヲ問ハス其齢五十歳以上ニシテ養子ヲ為ス時ニ当リ適法ノ子及ヒ卑属親ナク且ツ其養子ト為サントスル者ヨリ少クトモ十五歳以上ノ年長ナル者ニ非サレハ養子ヲ為スコトヲ許サス 第三百四十四条 何人ニ限ラス夫婦ノ外数人ノ養子トナルコトヲ得ス 第三百六十六条ノ場合ノ外ハ夫又ハ婦ハ其配偶者ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ養子ヲ為スコトヲ得ス 第三百四十五条 養子ヲ為スノ権能ハ幼年ノ時少クトモ六年間絶ヘス扶助ヲ加ヘ及ヒ照管ヲ与ヘタル者又ハ戦闘若クハ水火ノ厄災ノ時養親トナル可キ者ノ生命ヲ救ヒシ者ニ対スルニ非サレハ之ヲ執行スルコトヲ得ス 此第二ノ場合ニ於テハ養親トナル可キ者ノ成年者タリ且ツ養子トナル者ヨリ年長ノ者ニシテ適法ノ子及ヒ卑属親ナク又結婚シタル時ハ其配偶者ニ於テ養子ヲ為スコトヲ承諾シタルヲ以テ足レリトス 第三百四十六条 如何ナル場合ニ於テモ養子トナル可キ者ノ成年ニ至ラサル前ニ養子ヲ為スコトヲ得ス○若シ養子トナル可キ者ノ父母又ハ父母ノ中一方ノ猶生存シテ己レノ齢満二十五歳ニ至ラサル時ハ其者其父母又ハ父母中ノ生存者ヨリ其養子トナルコトノ許諾ヲ受ク可ク又二十五歳以上ニ至リシ時ハ其教諭ヲ請求ス可シ 第三百四十七条 養子ヲ為シタル時ハ養子トナリタル者其固有ノ姓ニ養親ノ姓ヲ添ヘテ之ヲ帯用ス可シ 第三百四十八条 養子トナリタル者ハ猶其実家ヲ離レス其実家ニ於テ総テノ権利ヲ保存ス可シ然レトモ左ニ記スル各人ノ間ニ於テハ婚姻ヲ禁ス 養親ト養子及ヒ其卑属親トノ間 同一人ノ養子数名ノ間 養子ト養親ノ挙クルコトアル子トノ間 養子ト養親ノ配偶者トノ間及ヒ其裏面ニ於テ養親ト養子ノ配偶者トノ間 第三百四十九条 法律上ニ定メタル場合ニ於テ養子ト其父母トノ間ニ於テ存続スル養料ヲ給ス可キ自然ノ義務ハ養親ト養子トノ間ニ於テモ亦互ニ通シ用フ可キモノト看做ス可シ 第三百五十条 養子ハ養親ノ血属親ノ財産ニ付キ相続ヲ為ス可キノ何等ノ権利ヲモ獲得セス然レトモ養親ノ財産相続ニ付テハ婚姻ニ依テ生レタル子ト同一ノ権利ヲ有ス可シ但シ其養子トナリシ後ニ生レタル右ノ分限アル其他ノ子ノ存在スル時ト雖トモ亦同一ナリトス 第三百五十一条 若シ養子ノ適法ノ卑属親ナクシテ死去セシ時ハ養親ヨリ贈与シタル物又ハ養親ノ財産相続ニ依リ収取シタル物ニシテ養子ノ死去ノ時ニ当リ原品ノ侭存在スルモノハ負債ヲ分担スルノ負任ヲ以テ養親又ハ其卑属親ニ戻ル可シ但シ第三ノ人ノ権利ヲ害スルコトナカルヘシ 前ニ記シタル以外ノ養子ノ財産ハ其自己ノ血属親ニ属ス可シ又其血属親ハ本条ニ記シタル物品ニ付テモ常ニ養親ノ卑属親ヲ除クノ外総テ其他ノ養親ノ相続人ヲ除斥ス可キモノトス 第三百五十二条 若シ養親ノ生存中且ツ養子ノ死去ノ後其養子ノ遺留セシ子又ハ卑属親モ亦自カラ卑属親ナクシテ死去シタル時ハ養親ハ前条ニ記シタル如ク自己ヨリ贈与シタル物ヲ相続ス可シ然トモ其権利ハ養親ノ一身ニ附着スルモノニシテ仮令卑属系ノモノト雖モ其相続人ニ転移ス可カラス 第二節 養子ヲ為スノ法式 第三百五十三条 養子ヲ為サント欲スル者及ヒ養子トナラント欲スル者ハ相互ノ承諾ノ証書ヲ作ル為メ養子ヲ為ス者ノ住所ノ治安裁判官ノ面前ニ出席ス可シ 第三百五十四条 其証書ノ副本ハ其後十日内ニ最モ先ニ手続ヲ為ス者ヨリ養子ヲ為ス者ノ住所ヲ管轄スル始審裁判所ノ検事ニ差出シテ其裁判所ノ認可ヲ得ント求ム可シ 第三百五十五条 裁判所ニ於テハ会議室ニ集会シ相当ノ参照件ヲ得タル後左ノ諸件ヲ調査ス可シ 第一 法律上ノ各要件ノ具備シタル事 第二 養子ヲ為サント欲スル者ノ美名ヲ享クル事 第三百五十六条 裁判所ニ於テハ検事ノ申述ヲ聴キタル後別ニ其他ノ手続ノ法式ナク又其理由ヲ表示スルコトナク養子ヲ允許ス又ハ養子ヲ允許セスト宣告ス可シ 第三百五十七条 始審裁判所ノ裁判ヨリ一月内ニ最モ先ニ手続ヲ為ス者ノ求メニ依リ其裁判書ヲ控訴裁判所ニ差出ス可シ控訴裁判所ニ於テハ始審裁判所ト同一ノ法式ヲ以テ審理シタル上其理由ヲ表示スルコトナク裁判ヲ確認ス又ハ裁判ヲ更改ス故ニ養子ヲ允許ス又ハ養子ヲ允許セスト宣告ス可シ 第三百五十八条 養子ヲ允許スル控訴裁判所ノ総テノ裁判ハ審問席ニ於テ之ヲ宣告シ且ツ其裁判所ニ於テ相当ト思考スル場所ニ其裁判書ノ相当ノ数ヲ貼附ス可シ 第三百五十九条 其裁判ヨリ三月内ニ養子ヲ為ス者又ハ養子トナル者ノ請求ニ依リ養子ヲ為ス者ノ住所ノ地ノ身分ノ簿冊上ニ其養子ヲ為ス事ヲ記入ス可シ 其記入ハ控訴裁判所ノ裁判書ノ法式ニ適ヒタル副本ヲ検視シタル上ニ非サレハ之ヲ為ス可カラス但シ右ノ定期内ニ其記入ヲ為ササル時ハ養子ヲ為スコトハ無効タル可シ 第三百六十条 若シ養子ノ契約ヲ為ス可キノ意ヲ証明スル証書ヲ治安裁判官ノ作リテ之ヲ裁判所ニ差出セシ後其裁判所ニ於テ確定ノ宣告ヲ為ササル前ニ養子ヲ為サントスル者ノ死去シタル時ハ其審理ヲ継続シ養子ヲ為スコトヲ許ス可キ時ハ之ヲ許ス可シ 養子ヲ為サントスル者ノ相続人ハ其養子ヲ為スコトヲ許ス可カラスト思考スル時ハ検事ニ此事ニ付テノ総テノ覚書及ヒ意見書ヲ差出スコトヲ得可シ 第二章 好為後見 第三百六十一条 何人ニ限ラス五十歳以上ノ齢ニシテ適法ノ子及ヒ卑属親ナキ者カ一個人ノ幼年ノ間法律上ノ名義ヲ以テ之ヲ己レニ依附セシメント欲スル時ハ其子ノ父母又ハ父母中ノ生存者ノ承諾ヲ得又父母共ニアラサル時ハ親族会議ノ承諾ヲ得又其子ニ分明ナル血属親アラサル時ハ之ヲ容受シタル養育院ノ管理者又ハ其子ノ居住地ノ邑庁ノ承諾ヲ得テ其好為後見人トナルコトヲ得可シ 第三百六十二条 夫又ハ婦ハ其配偶者ノ承諾ヲ得スシテ好為後見人トナルコトヲ得ス 第三百六十三条 子ノ住所ノ治安裁判官ハ好為後見ニ関スル要求及ヒ承諾ノ調書ヲ作ル可シ 第三百六十四条 此後見ハ十五歳以下ノ子ノ利益ノ為メニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス 好為後見ハ受後見者ヲ給養教訓シ且ツ其生計ヲ立ツルノ途ヲ得セシム可キノ義務ヲ自カラ惹起ス但シ総テノ別段ナル約権ト相触ルルコトナカル可シ 第三百六十五条 若シ受後見者ノ財産ヲ有シ且ツ以前後見ヲ受ケタル時ハ其財産ノ管理ハ其身体ノ管理ニ同シク好為後見人ニ移ル可シ然レトモ好為後見人ハ教育ノ費用ヲ受後見者ノ入額中ヨリ引去ルコトヲ得ス 第三百六十六条 若シ好為後見人ノ其後見ヲ為シ始メタル時ヨリ満五年ノ後ニ至リ受後見者ノ未タ成年ニ至ラサル前ニ自己ノ死ス可キコトヲ先見シ遺嘱証書ヲ以テ其受後見者ヲ養子ト為ス時ハ其好為後見人ノ適法ノ子ヲ遺留セサルニ於テハ其処分ヲ有効ノモノトス 第三百六十七条 好為後見人ノ五年ノ前若クハ其時期ノ後ニ其受後見者ヲ養子ト為スコトナクシテ死去セシ時ハ受後見者ニ其幼年ノ時間生計ヲ為ス可キノ資産ヲ給与ス可シ但シ其資産ノ分量及ヒ種類ハ予メ明確ナル合意ヲ以テ設備シタルコトナキ時ハ其後見人ノ代人ト受後見者ノ代人トノ間ニ協議シテ之ヲ規定ス可ク又争ヒアル場合ニ於テハ裁判上ニテ之ヲ規定ス可シ 第三百六十八条 受後見者ノ成年ニ至リシ時好為後見人ノ之ヲ養子ト為サント欲シ其受後見者ノ之ヲ承諾シタル時ハ前章ニ定メタル法式ニ従ヒ養子ト為スノ手続ヲ為ス可シ但シ其効ハ悉皆之ト同一ナリトス 第三百六十九条 若シ受後見者ノ成年ニ至リシ時ヨリ三月内ニ養子トナル可キコトヲ好為後見人ニ求メタルト雖トモ其効ナク而シテ其受後見者ニ生計ヲ立ツ可キノ途ナキ時ハ好為後見人ニ其受後見者ノ生計ヲ設備スルコト能ハサルカ為メ之レカ賠償ヲ為ス可キ旨ヲ言渡スコトヲ得可シ 其賠償ハ受後見者ヲシテ一箇ノ工芸ヲ得セシムルニ適当ナル扶助ヲ給スルニアリトス但シ此諸件ト此場合ヲ先見シテ為シタルコトアル可キ約権ト相触ルルコトナカル可シ 第三百七十条 受後見者ノ或ル財産ノ管理ヲ為シタル好為後見人ハ如何ナル場合ニ於テモ其計算ヲ為ササルヲ得ス 第九巻 父ノ威権(千八百三年三月二十四日決定四月三日宣令) 第三百七十一条 子ハ年齢ノ如何ヲ問ハス其父母ヲ尊戴崇敬ス可シ 第三百七十二条 子ハ其成年ニ至ル迄又ハ其後見免脱ニ至ル迄父母ノ威力ノ下ニ在ルモノトス 第三百七十三条 結婚中ハ父ノミ其威力ヲ執行ス 第三百七十四条 子ハ満十八歳ノ齢ニ至ルノ後任意ヲ以テ兵ノ徴募ニ応スル為メノ外其父ノ許ナクシテ父ノ家ヲ去ルコトヲ得ス 第三百七十五条 子ノ行状ニ付キ極メテ重要ナル戻意ノ事アル父ハ以下ニ記スル懲治ノ方法ヲ有ス可シ 第三百七十六条 子ノ年齢ノ未タ十六歳ニ掛ラサル時ハ其父一月ニ過クルコトヲ得サル時間其子ヲ拘留セシムルコトヲ得可シ但シ之カ為メ郡裁判所長ハ父ノ求メニ依リ拘引ノ命令書ヲ渡ササルヲ得ス 第三百七十七条 十六歳ノ年齢ニ掛リシ時ヨリ成年又ハ後見免脱ニ至ル迄ハ父ヨリ多クトモ六月間其子ノ拘留ヲ請求シ得可キノミトス但シ父ヨリ右ノ裁判所長ニ申立テ裁判所長ハ検事ト商議シタル後拘引ノ命令書ヲ渡シ又ハ之ヲ否ム可ク而シテ其拘引ノ命令書ヲ渡ス場合ニ於テハ父ヨリ請求シタル拘留ノ時間ヲ短縮スルコトヲ得可シ 第三百七十八条 右ノ中何レノ場合ニ於テモ其拘引ノ命令書ノ外ハ何等ノモノタリトモ書面ヲモ又裁判上ノ法式ヲモ要スルコトナカル可シ但シ拘引ノ命令書ニハ其理由ヲ表示ス可カラス 父ハ其請費用ヲ弁済ス可キノ約務書ニ署名シ及ヒ相当ノ養料ヲ給ス可キノミトス 第三百七十九条 父ハ己レヨリ命シ又ハ請求シタル拘留ノ時間ヲ何時ニ限ラス短縮スルコト自由ナリトス○若シ其子ノ拘留ヲ免サレシ後再ヒ不良ノ所行ニ陥ル時ハ前数条ニ定メタル方法ヲ以テ再ヒ其拘留ヲ命令スルコトヲ得可シ 第三百八十条 若シ父ノ再婚シタル時ハ其前婚ノ子ノ十六歳ノ年齢ニ至ラサル時ト雖トモ之ヲ拘留セシムルニ付キ第三百七十七条ニ従フ可キモノトス 第三百八十一条 後ニ生残リテ再婚セサル母ハ父方ノ最近親ノ血属親二名ノ助成ヲ得且ツ第三百七十七条ニ従ヒ請求ノ方法ヲ用フルニ非サレハ子ヲ拘留セシムルコトヲ得ス 第三百八十二条 子ノ一身上ノ財産ヲ有シ又ハ一箇ノ職業ヲ執行スル時ハ仮令十六歳以下ノモノト雖トモ第三百七十七条ニ定メタル法式ヲ以テ請求ノ方法ヲ用フルニ非サレハ其拘留ヲ為スコトヲ得ス 拘留セラレタル子ハ控訴裁判所ノ検事長ニ一箇ノ覚書ヲ差出スコトヲ得可シ○其検事長ハ始審裁判所ノ検事ヲシテ其意見ヲ申立テシメタル上控訴裁判所長ニ其報告ヲ為ス可ク而シテ控訴裁判所長ハ之ヲ父ニ告知セシ後総テノ参照件ヲ収取シタル上ニテ始審裁判所長ヨリ渡シタル命令書ヲ廃止シ又ハ更改スルコトヲ得可シ 第三百八十三条 第三百七十六条、第三百七十七条、第三百七十八条、第三百七十九条ハ法律ニ循ヒ認定セラレタル私生子ノ父母ニモ通シ用フ可キモノトス 第三百八十四条 結婚中ハ父又婚姻解分ノ後ハ父母中ノ生残ル者ハ其子ノ満十八歳ノ齢ニ至ル迄又ハ十八歳ノ齢ニ至ラサル前ニ為スコトアル可キ後見免脱ニ至ル迄其子ノ財産ノ収益権ヲ有ス可シ 第三百八十五条 其収益権ノ負任ハ左ノ如シ 第一 使用収益者ノ担任ス可キ負任 第二 子ノ家産ニ准スル其子ノ給養、保育、教訓 第三 年金ノ賦額又ハ元金ノ利息ノ弁済 第四 埋葬ノ費用及ヒ最後ノ病ノ費用 第三百八十六条 其収益ハ父母中ニテ離婚ノ宣告ヲ受ケタル者ノ利益ニ於テ之ヲ為ス可カラス又其収益ハ再婚ノ場合ニ於テハ母ニ関シテ止息ス可シ 第三百八十七条 其収益ハ子ノ特立ノ労動及ヒ勉労ニ依テ獲得スルコトアル可キ財産並ニ父母ニ於テ収益ス可カラスト為ス条件ヲ明カニ定メテ其子ニ贈与シ又遺嘱シタル財産ニ及ホス可カラス 第十巻 幼年、後見及ヒ後見ノ免脱(千八百三年三月二十六日決定四月五日宣令) 第一章 幼年 第三百八十八条 幼者トハ未タ満二十一歳ノ齢ニ至ラサル男女ヲ云フ 第二章 後見 第一節 父母ノ後見 第三百八十九条 結婚中ハ父其幼年ノ子ノ一身上ノ財産ノ管理者タリ 父ハ其収益権ヲ有セサル財産ニ付テハ其所有権ト入額トニ関シテ計算ヲ為ス可ク又法律ニ依リ使用収益権ヲ附与セラレタル財産ニ付テハ其所有権ノミニ関シテ計算ヲ為ス可キモノトス 第三百九十条 夫婦中一方ノ者ノ死去又ハ准死ニ依リ婚姻ノ解分シタル後ハ後見ヲ免脱セラレサル幼年ノ子ノ後見ハ当然父母中ノ生残ル者ニ属ス可シ 第三百九十一条 然トモ父ハ後ニ生残ル後見ヲ為ス母ニ特別ノ輔佐人ヲ任スルコトヲ得可シ然ル時ハ其母ハ其輔佐人ノ意見ヲ聴カスシテ後見ニ関スル何等ノ所為ヲモ行フコトヲ得サルモノトス 若シ父ヨリ其輔佐人ノ関渉ス可キ所為ヲ特定シタル時ハ後見ヲ為ス母ハ其輔佐人ノ補助ナクシテ其他ノ所為ヲ行フコトヲ得可シ 第三百九十二条 其輔佐人ノ選任ハ左ノ方法中ノ一ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス 第一 最後ノ意思ノ証書ニ依リ 第二 書記ノ補助ヲ受ケタル治安裁判官ノ面前又ハ公証人数名ノ面前ニ於テ為シタル申述ニ依リ 第三百九十三条 若シ夫ノ死去セシ時其婦ノ懐胎シタルニ於テハ親族会議ヨリ胎児ノ管財人ヲ任ス可シ 其子ノ出産ニ於テ母ハ之レカ後見人トナリ管財人ハ当然之レカ代後見人タル可シ 第三百九十四条 母ハ必スシモ後見ヲ受諾スルニ及ハス然トモ之ヲ否拒シタル場合ニ於テハ後見人ヲ撰任セシムルニ至ル迄後見ノ本分ヲ履行セサルヲ得ス 第三百九十五条 後見ヲ為ス母ノ再婚セント欲スル時ハ婚姻証書ノ前ニ親族会議ヲ招集セサルヲ得ス但シ親族会議ニ於テハ其母ニ後見ヲ保存セサル可カラサルヤ否ヲ決定ス可シ 其招集ヲ為サザル時ハ母ハ当然後見ヲ失フ可シ而シテ其後夫ハ母ノ不当ニ保存シタル後見ノ総テノ効果ニ付キ連帯シテ責ニ任ス可キモノトス 第三百九十六条 法ニ適シテ招集セラレタル親族会議ニ於テ母ニ後見ヲ保存シタル時ハ必ス其後夫ヲ以テ共同後見人ト為ス可シ但シ其後夫ハ婚姻以後ノ管理ニ付テハ其婦ト連帯シテ責ニ任ス可キモノトス 第二節 父母ヨリ附与シタル後見 第三百九十七条 血属親タルト又然ノミナラス外人タルトヲ問ハス後見人ヲ撰ム一個人ノ権利ハ父母中ノ後ニ死去スル者ノミニ属ス 第三百九十八条 其権利ハ第三百九十二条ニ定メタル法式ニ従ヒ且ツ以下ノ例外及ヒ改様ニ従フニ非サレハ之ヲ執行スルコトヲ得ス 第三百九十九条 再婚ヲ為シテ其前婚ノ子ノ後見ヲ保存セラレサル母ハ其子ノ為メニ後見人ヲ撰ムコトヲ得ス 第四百条 再婚ヲ為シテ後見ヲ保存セラレタル母ノ其前婚ノ子ノ為メニ後見人ヲ撰ミタル時ハ其撰択ハ親族会議ニ於テ之ヲ確認シタル時ニ非レハ有効ナリトセス 第四百一条 父又ハ母ヨリ撰任セラレタル後見人ハ後見ヲ受諾スルニ及ハス但シ其後見人カ其特撰ヲ受ケスト雖トモ親族会議ヨリ亦後見ヲ任セラルルコトアル可キ人ノ種類中ニ在ル時ハ格別ナリトス 第三節 尊属親ノ後見 第四百二条 父母中ノ後ニ死去スル者ヨリ幼者ノ為メニ後見人ヲ撰ミタルコトナキ時ハ後見ハ其幼者ノ父方ノ祖父ニ当然属スルモノトシ又父方ノ祖父アラサル時ハ其母方ノ祖父ニ当然属スルモノトス而シテ斯クノ如ク次第ニ遠級ニ遡ル可シ但シ父方ノ尊属親ハ常ニ必ス同級ノ母方ノ尊属親ヨリモ撰取セラル可キモノトス 第四百三条 幼者ノ父方ノ祖父及ヒ母方ノ祖父アラスシテ二人共ニ幼者ノ父方系ニ属スル更ニ上級ノ尊属親二名ノ間ニ抗競ノ存在スル時ハ後見ハ其二人中ニテ幼者ノ父ノ父方ノ祖父タル者ニ当然移ル可シ 第四百四条 若シ母方系ノ曽祖父二名ノ間ニ右同一ノ抗競アル時ハ親族会議ヨリ其撰任ヲ為ス可シ然レトモ親族会議ハ右尊属親二名中ノ一人ニ非サレハ之ヲ撰ムコトヲ得ス 第四節 親族会議ヨリ附与シタル後見 第四百五条 後見ヲ免脱セラレサル幼年ノ子ノ父母ナク又父母ヨリ撰任シタル後見人ナク又男ノ尊属親ナキ時又前ニ記シタル分限中ノ一箇ヲ有スル後見人カ以下ニ記スル所ノ除斥ノ場合ニ在リ又ハ有効ニ辞シタル時ハ親族会議ヨリ後見人ノ撰任ヲ設備ス可シ 第四百六条 其会議ハ幼者ノ血属親又ハ其債主又ハ其他ノ関係各人ノ請求及ヒ手続ニ依リ若クハ然ノミナラス幼者住所ノ治安裁判官ノ職権上ニテ其要求ニ依リ之ヲ招集ス可シ○何人ニ限ラス後見人ヲ撰任ス可キノ原由タル実事ヲ治安裁判官ニ申告スルコトヲ得可シ 第四百七条 親族会議ハ治安裁判官ヲ除キテ後見ヲ開始ス可キ邑内及ヒ二「ミリアメートル」ノ距離内ニ在ル血属親又ハ姻属親六名ヨリ組成ス可シ但シ其半数ハ父方ノモノニシテ半数ハ母方ノモノタル可ク且ツ両系共ニ親近ノ順序ニ従フ可キモノトス 血属親ハ同級ノ姻属親ヨリモ撰取セラル可ク又同級ノ血属親中ニ於テハ年長者ハ年少者ヨリモ撰取セラル可シ 第四百八条 幼者ト同父母兄弟及ヒ同父母姉妹ノ夫ノミハ前条ニ定メタル員数制限ノ例外ナリトス 若シ此等ノ者ノ六名又ハ其以上ナル時ハ皆親族会議員ニシテ此等ノ者ノミニテ尊属親ノ寡婦及ヒ有効ニ辞シタル尊属親アル時ハ之ト共ニ親族会議ヲ組成ス可シ 若シ此等ノ者ノ六名以下ナル時ハ親族会議ヲ補完スル為メノミニ其他ノ血属親ヲ招喚ス可シ 第四百九条 若シ其地ニ在リ又ハ第四百七条ニ指定メタル距離内ニ在ル父方系又ハ母方系ノ血属親又ハ姻属親ノ数定員ニ充タサル時ハ治安裁判官更ニ遠隔ノ地ニ住所アル血属親又ハ姻属親ヲ招喚シ若クハ其邑内ニ在リテ幼者ノ父又ハ母ト平生親シク交ハリタリト知レタル国士ヲ招喚ス可シ 第四百十条 治安裁判官ハ其地ニ在ル血属親又ハ姻属親ノ数定員ニ充ツル時ト雖トモ其現在ノ血属親又ハ姻属親ヨリ更ニ近級又ハ之ト同級ノ血属親又ハ姻属親ヲ其如何ナル距離ニ住所アルヲ問ハス招喚スルヲ許ルスコトヲ得可シ然レトモ之レカ為メニハ其現在ノ血属親又ハ姻属親中ノ或者ヲ省減シテ前数条ニ規定シタル定員ニ過クルコトナカラシムルヲ必要トス 第四百十一条 出席ス可キ期限ハ治安裁判官特定ノ日ニ之ヲ規定ス可シ然レトモ其呼出サレタル各人ノ皆其邑内ニ居住シ又ハ二「ミリアメートル」ノ距離内ニ居住スル時ハ呼出状ノ送達ト会議集合ノ為メニ指示シタル日トノ間ニ常ニ必ス少クトモ三日ノ時間ヲ存ス可キ様之ヲ規定ス可シ 若シ呼出サレタル各人中ニ右ノ距離外ニ住所アル者アル時ハ其期限ニ三「ミリアメートル」毎ニ一日ヲ増ス可シ 第四百十二条 此ノ如クニ招集セラレタル血属親、姻属親又ハ朋友ハ自カラ出席シ又ハ特別ノ代理人ヲシテ代理セシム可シ 其代理人ハ一人以上ヲ代理スルコトヲ得ス 第四百十三条 凡ソ招集セラレタル血属親、姻属親又ハ朋友ノ適法ノ弁解ノ理由ナクシテ出席セサル時ハ治安裁判官ヨリ五十「フランク」ニ過クルコトヲ得サル罰金ノ宣告ヲ受ク可シ但シ其宣告ハ之ヲ控訴ス可カラス 第四百十四条 若シ充分ナル弁解ノ理由アリテ其欠席議員ヲ待チ若クハ之ニ代ヘテ其他ノ者ヲ任スルノ適当ナル場合ニ於テハ総テ幼者ノ利益ノ為メニ必要ナリト思ハルル其他ノ場合ニ於ケルカ如ク治安裁判官其集会ヲ日ヲ定メスシテ延期シ又ハ日ヲ定メテ延期スルコトヲ得可シ 第四百十五条 其集会ハ当然治安裁判官ノ家ニ於テ之ヲ開設ス可シ但シ治安裁判官ノ自カラ其他ノ場所ヲ指定メタル時ハ格別ナリトス○其集会ニ於テ決議ヲ為スニハ招集セラレタル議員少クトモ四分三ノ出席ヲ必要トス 第四百十六条 治安裁判役ハ親族会議ニ上席シ其会議ニ於テ可否ヲ述フルノ権利アリ且ツ可否同数ナル時ハ之ヲ決スルノ権利アリ 第四百十七条 若シ仏蘭西ニ住所アル幼者ノ其藩属地ニ於テ財産ヲ占有シ又ハ藩属地ニ住所アル幼者ノ仏蘭西ニ於テ財産ヲ占有スル時ハ其財産ノ特別ノ管理ヲ准後見人ニ附与ス可シ 此場合ニ於テハ後見人ト准後見人トハ互ニ相関スルコトナク且ツ其各自ノ管理ノ為メ相互ニ其責ニ任セサルモノトス 第四百十八条 後見人自己ノ面前ニ於テ撰任ヲ受ケタル時ハ其撰任ノ日ヨリ後見人タルノ分限ヲ以テ事ヲ行ヒ及ヒ管理ス可ク然ラサル時ハ其撰任ノ通知ヲ受ケタル日ヨリ右ノ分限ヲ以テ事ヲ行ヒ及ヒ管理ス可シ 第四百十九条 後見ハ一身ノ負任ニシテ後見人ノ相続人ニ移ラサルモノトス○其相続人ハ先人ノ管理ノミニ付キ其責ニ任ス可ク又其相続人ノ成年ナル時ハ新タナル後見人ノ撰任ニ至ル迄其管理ヲ継続ス可シ 第五節 代後見人 第四百二十条 総テノ後見ニ於テ親族会議ヨリ撰任シタル代後見人アル可キモノトス 其職務ハ幼者ノ利益カ後見人ノ利益ト反対スル時幼者ノ利益ノ為メニ事ヲ行フニアリトス 第四百二十一条 本章第一節第二節第三節ニ記シタル分限中ノ一箇ヲ具フル者カ後見人ノ職ヲ任セラレタル時ハ其後見人ハ職務ヲ行ヒ始ムル前ニ代後見人ノ撰任ノ為メ第四節ニ記シタル如クニ組成シタル親族会議ヲ招集セシメサルヲ得ス 若シ後見人其法式ヲ履行セサル前ニ管理ニ干渉シタル時ハ血属親、債主又ハ其他ノ関係各人ノ請求ニ依リ若クハ治安裁判官ヨリ其職権ヲ以テ招集シタル親族会議ニ於テ若シ其後見人ノ方ニ詐欺アル時ハ其後見ヲ取上クルコトヲ得可シ但シ幼者ニ対シテ為ス可キ賠償ト相触ルルコトナカル可シ 第四百二十二条 其他ノ後見ニ於テハ後見人ノ撰任ノ後直チニ代後見人ノ撰任ヲ為ス可シ 第四百二十三条 如何ナル場合ニ於テモ後見人ハ代後見人ノ撰任ノ為メ辞ヲ参ス可カラス但シ代後見人ハ同父母兄弟ノ場合ノ外ハ両系中ニテ後見人ノ属セサル系中ヨリ之ヲ撰ム可シ 第四百二十四条 代後見人ハ後見ノ缺位トナリ又ハ失踪ニ依テ後見ヲ放棄シタル時当然後見人ニ代ハル可カラス然レトモ代後見人ハ此場合ニ於テハ新ナル後見人撰任ノ手続ヲ為ササルヲ得ス但シ代後見人ノ此成規ニ背キテ幼者ノ為メニ損害ヲ生セシメタル時ハ其損害ノ賠償ヲ為ス可シ 第四百二十五条 代後見人ノ職務ハ後見ト同時ニ止息ス可シ 第四百二十六条 本章第六節及ヒ第七節ニ記シタル成規ハ代後見人ニ適用ス可シ 然レトモ後見人ハ代後見人罷免ノ手続ヲ為スコトヲ得ス又其目的ヲ以テ招集シタル親族会議ニ辞ヲ参スルコトヲ得ス 第六節 後見ヲ免カレシムル原由 第四百二十七条 左ノ各人ハ後見ヲ免カルルモノトス 千八百四年五月十八日ノ法令第三巻第五巻第六巻第八巻第九巻第十巻第十一巻ニ指定シタル各人 大審院長及ヒ同院裁判官並ニ同院ノ検事長及ヒ代言人長 州長 後見ヲ設置スル所ノ州ヨリ更ニ他ノ州ニ於テ公務ヲ執行スル各国士 第四百二十八条 左ノ各人ハ亦同シク後見ヲ免カルルモノトス 現役ノ軍人及ヒ王国(共和国)領地外ニ於テ国王(共和国大統領)ノ任務ヲ履行スル総テ其他ノ国士 第四百二十九条 若シ其任務ノ公正ナラスシテ争アル時ハ訟求者ヨリ其弁解ノ理由トシテ申立テタル任務ヲ管轄スル主務省卿ノ保証書ヲ差出シタル後ニ非サレハ免許ヲ宣告ス可カラス 第四百三十条 前数条ニ記シタル分限アル国士ノ後見ヲ免カレシムル職務、服役又ハ任務ヲ受ケタル後ニ後見ノ職ヲ受諾シタル時ハ最早其原由ノ為メニ後見ヲ免カルルコトヲ許サス 第四百三十一条 之ニ反シテ後見ノ受諾及ヒ管理ノ後ニ右ノ職務、服役又ハ任務ヲ附与セラレタル国士ノ其後見ヲ保存スルコトヲ欲セサル時ハ己レニ代ル可キ者ヲ選任スルノ手続ヲ為サシムル為メ一月内ニ親族会議ヲ招集セシムルコトヲ得可シ 若シ右ノ職務、服役又ハ任務ノ終リタル時新後見人ノ其後見ヲ免カルルコトヲ求メ又ハ旧後見人ノ再ヒ後見ヲ求ムル時ハ親族会議ヨリ旧後見人ニ其後見ヲ復スルコトヲ得可シ 第四百三十二条 血属親又ハ姻属親ニ非サル各国士ハ四「ミリアメートル」ノ距離内ニ後見ヲ管理スルコトヲ得可キ血属親又ハ姻属親ノ存在セサル場合ノ外之ニ後見ノ職ヲ受諾スルコトヲ強ユルヲ得ス 第四百三十三条 満六十五歳ノ齢ニ至リシ各人ハ後見人トナルヲ否拒スルコトヲ得可シ○其齢ニ至ラサル前ニ撰任セラレタル者ハ七十歳ノ齢ニ至リシ時其後見ヲ免カルルコトヲ得可シ 第四百三十四条 重劇ニシテ且ツ適法ノ証アル痼疾ニ罹リタル各人ハ後見ヲ免カルルモノトス 其撰任ノ後ニ右ノ痼疾ニ罹リタル時ハ亦後見ヲ免カルルコトヲ得可シ 第四百三十五条 二箇ノ後見ハ各人ノ為メ第三ノ後見ヲ受諾スルヲ免カルル正当ノ原由ナリトス 配偶者又ハ父ニシテ既ニ一箇ノ後見ニ任シタル者ハ自己ノ子ノ後見ヲ除クノ外第二ノ後見ヲ受諾スルニ及ハス 第四百三十六条 五人ノ適法ノ子アル者ハ其子ノ後見ノ外総テ其他ノ後見ヲ免カルルモノトス 国王(共和国)ノ軍隊ニ於テ現役中ニ死シタル子ハ右ノ免許ヲ為スタメ常ニ必ス之ヲ算入ス可シ 其他ノ死シタル子ハ己レ自カラ現ニ生存スル子ヲ遺留シタル時ニ非サレハ之ヲ算入ス可カラス 第四百三十七条 後見ノ間ニ子ヲ挙クルト雖トモ後見ノ職ヲ退クコトヲ許スヲ得ス 第四百三十八条 若シ撰任セラレタル後見人ノ其後見ヲ附与スル決議ノ席ニ在ル時ハ必ス直チニ其弁解ノ理由ヲ申立テ其会議ニ於テ之ヲ評定セシム可ク若シ然ラサル時ハ総テ其後ノ請求ニ於テ受理セサルノ言渡ヲ受ク可シ 第四百三十九条 若シ撰任セラレタル後見人ノ其後見ヲ附与スル決議ノ席ニ立会ハサル時ハ其弁解ノ理由ヲ評定セシムル為メ親族会議ヲ招集セシムルコトヲ得可シ 此事ニ付テノ手続ハ其撰任ノ通知ヲ受ケシ時ヨリ三日内ニ之ヲ為ササル可カラス但シ其後見人ノ住所ノ地ヨリ後見開始ノ地ニ至ル迄ノ距離三「ミリアメートル」毎ニ右ノ期限ニ一日ヲ増ス可ク其期限ヲ過クル時ハ請求ヲ為スコトヲ許サス 第四百四十条 其弁解ノ理由ノ棄却セラレタル時ハ後見人之ヲ許容セシムル為メ裁判所ニ上訴スルコトヲ得可シ然トモ其訴訟ノ間ハ仮リニ管理ス可キモノトス 第四百四十一条 若シ後見人ノ後見ヲ免カルルコトヲ得タル時ハ其弁解ノ理由ヲ棄却セシ者訴訟費用ヲ償フ可キノ言渡ヲ受クルコトアル可シ若シ後見人ノ敗訴トナル時ハ後見人自カラ訴訟費用ヲ償フ可キノ言渡ヲ受ク可シ 第七節 後見ノ無能力、後見ノ除斥、後見ノ罷免 第四百四十二条 左ノ各人ハ後見人タルコト能ハス又親族会議員タルコト能ハス 第一 父母ヲ除クノ外ノ幼者 第二 治産禁ヲ受ケタル者 第三 母及ヒ尊属親ニ非サル女 第四 幼者ノ身分、其家産又ハ其財産ノ重大ナル一部分ニ関シテ自カラ幼者ト訴訟ヲ為ス各人又ハ其父母ニ於テ幼者ト訴訟ヲ為ス各人 第四百四十三条 施体又ハ加辱ノ刑ノ言渡ハ当然後見ノ除斥ヲ惹起ス○其言渡ハ以前附与シタル後見ニ関スル場合ニ於テハ罷免ヲモ惹起ス 第四百四十四条 左ノ各人ハ亦後見ヲ除斥セラレ又然ノミナラス後見ノ執行中ナル時ハ罷免セラル可キモノトス 第一 著明ナル不品行ノ者 第二 其管理ノ無能又ハ不誠実ノ証アル者 第四百四十五条 後見ヲ除斥セラレ又ハ罷免セラレタル各人ハ親族会議員タルコトヲ得ス 第四百四十六条 後見人ヲ罷免ス可キコトアル度毎ニ代後見人ノ求メニ依リ又ハ治安裁判官ヨリ其職権ヲ以テ招集シタル親族会議ヨリ其罷免ヲ宣告ス可シ 治安裁判官ハ幼者ノ従兄弟ノ級又ハ更ニ近級ノ血属親又ハ姻属親一名或ハ数名ヨリ明確ニ請求セラレタル時ハ其招集ヲ為スコトヲ免カルルヲ得ス 第四百四十七条 後見人ノ除斥又ハ罷免ヲ宣告スル親族会議ノ各決議書ニハ其理由ヲ附ス可シ而シテ其決議ハ後見人ノ申述ヲ聴キタル後又ハ之ヲ招喚シタル後ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス 第四百四十八条 若シ後見人ノ其決議ヲ承認スル時ハ其旨ヲ記載シ新後見人直チニ其職務ヲ行ヒ始ム可シ 若シ異論アル時ハ代後見人其決議ノ認可ヲ得ント始審裁判所ニ訴フ可シ但シ其裁判所ノ宣告ハ控訴スルコトヲ得可キモノトス 此場合ニ於テハ除斥セラレ又ハ罷免セラレタル後見人ハ其後見ニ於テ保存セラルルノ言渡ヲ得ル為メ己レ自カラ代後見人ヲ呼出スコトヲ得可シ 第四百四十九条 招集ヲ請求シタル血属親又ハ姻属親ハ右ノ訴訟ニ参加スルコトヲ得可シ但シ其訴訟ハ至急事件トシテ之ヲ審理シ及ヒ裁判ス可キモノトス 第八節 後見人ノ管理 第四百五十条 後見人ハ幼者ノ身ヲ看護シ且ツ総テ民事上ノ所為ニ於テ之ニ代ハル可シ 後見人ハ良家父ニ於テ幼者ノ財産ヲ管理シ且ツ其不良ノ管理ヨリ生スルコトアル可キ損害ノ賠償ヲ担当ス可シ 後見人ハ幼者ノ財産ヲ買フコトヲ得ス又親族会議ヨリ代後見人ニ後見人ト幼者ノ財産賃貸ヲ約スルコトヲ許可シタル時ニ非サレハ幼者ノ財産ヲ賃借スルコトヲ得ス又其受後見者ニ対スル権利又ハ債権ノ譲渡ヲ受諾スルコトヲ得ス 第四百五十一条 後見人ハ法ニ適シテ知リ得タル其撰任ノ日ヨリ十日内ニ若シ封印ヲ附シアラハ其封印ノ除去ヲ請求シ直チニ代後見人ノ面前ニ於テ幼者ノ財産ノ目録ニ取掛ラシム可シ 若シ幼者ヨリ後見人ニ或ル物ヲ償フ可キ時ハ後見人ハ公ケノ役員ヨリ為ス可キ所ノ要求ニ依リ其幼者ヨリ得可キ物アル旨ヲ申述シテ之ヲ目録中ニ記セシメサル可カラス若シ然ラサレハ後見人其権利ヲ失フ可シ但シ其公ケノ役員ヨリ右ノ要求ヲ為シタルコトハ之ヲ調書ニ記載ス可キモノトス 第四百五十二条 後見人ハ其目録終成ノ時ヨリ一月内ニ公ケノ役員ノ為ス糶売ヲ以テ代後見人ノ面前ニ於テ総テノ動産ヲ売ラシム可ク且ツ其糶売ヲ為スニハ先ツ貼附又ハ公告ヲ為シテ其由ヲ売払ノ調書ニ記ス可シ但シ親族会議ニテ原品ノ侭保存スルコトヲ後見人ニ許可シタル動産ハ此限ニアラス 第四百五十三条 父母ノ幼者ノ財産ニ付キ固有ニシテ且ツ法律上ノモノタル収益権ヲ有スル時其動産ヲ原品ノ侭ニテ渡サンカ為メ之ヲ保存セント欲スルニ於テハ之ヲ売払フコトヲ免カルルモノトス 此場合ニ於テ父母ハ自己ノ費用ヲ以テ鑑定人ヲシテ其動産ノ正当ノ価額ニ於ケル評価ヲ為サシム可シ但シ其鑑定人ハ代後見人ヨリ撰任ヲ受ケ治安裁判官ニ対シテ誓ヲ為ス可キモノトス○右動産ノ中ニテ父母ノ原品ノ侭ニテ差出スコトヲ得サルモノハ父母ヨリ其評定ノ価額ヲ返還ス可シ 第四百五十四条 父母ノ後見ヲ除クノ外総テ其他ノ後見ヲ執行シ始ムル時ニ当リ親族会議ニ於テ其管理セラレタル財産ノ多寡ニ准シ見積書ヲ以テ幼者ノ毎年ノ費額並ニ其財産管理ノ費額ノ登リ得可キ金額ヲ規定ス可シ 同上ノ証書ヲ以テ後見人其管理ヲ為スニ付キ給料ヲ受ケ且ツ後見人ノ責任ノ下ニ在リテ管理スル特別ノ管理人一名又ハ数名ノ助ケヲ受クルコトヲ許サルルヤ否ヲ明示ス可シ 第四百五十五条 其会議ニ於テハ後見人ノ為メニ費額ニ過キタル入額ノ余分ヲ益用スル義務ノ始マル可キ金額ヲ確然ト定ム可シ但シ其益用ハ六月ノ期限内ニ之ヲ為ササルヲ得サルモノニシテ若シ此期限ヲ過クル時ハ後見人其益用ヲ為ササルニ付テノ利息ヲ負担ス可シ 第四百五十六条 若シ後見人其益用ヲ始メサルヲ得サル金額ヲ親族会議ヲシテ定メシメサリシ時ハ其後見人前条ニ記シタル期限ノ後ニ至リ其益用セサル金額ノ如何ニ些少ナルヲ問ハス総テ其金額ノ利息ヲ負担ス可シ 第四百五十七条 後見人ハ仮令父又ハ母タリトモ親族会議ノ許可ヲ得ルコトナクシテ幼者ノ為メニ金額ヲ借受ケ又ハ幼者ノ不動産ノ所有権ヲ移転シ又ハ之ヲ書入質ト為スコトヲ得ス 其許可ハ充分ナル必要又ハ明白ナル利益ノ原由ノ為メニ非サレハ之ヲ附与ス可カラス 其第一ノ場合ニ於テハ親族会議ハ後見人ヨリ差出シタル簡略ナル計算書ニ依リ幼者ノ金額、動産及ヒ入額ノ不足ナルコトヲ証明シタル後ニ非サレハ其許可ヲ附与ス可カラス 如何ナル場合ニ於テモ親族会議ハ先キニ売払ハサル可カラサル不動産ト其有益ナリト思考スル総テノ条件トヲ指示ス可シ 第四百五十八条 右ノ目的ニ関スル親族会議ノ決議ハ後見人ヨリ始審裁判所ニ其認可ヲ求メテ之ヲ得タル後ニ非サレハ執行ス可カラサルモノトス但シ始審裁判所ニ於テハ裁判官会議室ニ於テ検事ノ申述ヲ聞キタル後其裁定ヲ為ス可シ 第四百五十九条 其売払ハ其県内ノ常例ノ場所ニ於テ相次テ三次ノ日曜日ニ三次ノ貼附ヲ為シタル後始審裁判所ノ裁判官又ハ特ニ任セラレタル公証人代後見人ノ面前ニ於テ糶売ヲ以テ公ケニ之ヲ為ス可シ 其貼附書各通ハ之ヲ貼附スル各邑ノ邑長之ニ検署シ及ヒ之ヲ保証ス可シ 第四百六十条 幼者ノ財産所有権ノ移転ノ為メ第四百五十七条及ヒ第四百五十八条ニ必要ナリト定メタル法式ハ不分ノ共同所有者ノ要求ニ依リ裁判ヲ以テ不分物ノ糶売ヲ命令シタル場合ニ適用ス可カラス 此場合ニ於テハ唯前条ニ定メタル法式ヲ以テスルニ非サレハ其不分物ノ糶売ヲ為スコトヲ得サルモノトス但シ其糶売ニハ必ス外人ヲ容受ス可シ 第四百六十一条 後見人ハ予メ親族会議ノ許可ヲ得ルコトナクシテ幼者ノ受ク可キ財産相続ヲ受諾シ又ハ之ヲ棄却スルコトヲ得ス○其受諾ハ目録ノ利益ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ為ス可カラス 第四百六十二条 幼者ノ名前ヲ以テ棄却シタル財産相続ヲ他人ノ受諾セサル場合ニ於テハ後見人更ニ親族会議ノ決議ニ依リ特ニ許可ヲ得テ其財産相続ヲ取戻シ若クハ成年トナリタル幼者自カラ之ヲ取戻スコトヲ得可シ但シ其取戻ヲ為ス時ノ現在ノ景状ノ侭ニテ其財産相続ヲ取戻ス可ク又相続人虧缺ノ間ニ法ニ適シテ為シタル売払及ヒ其他ノ所為ヲ取消サント求ムルコトヲ得ス 第四百六十三条 後見人ハ親族会議ノ許可ヲ得ルニ非サレハ幼者ニ為シタル贈与ヲ受諾スルコトヲ得ス 其贈与ハ幼者ニ関シテ成年者ニ関スルト同一ノ効ヲ有スルモノトス 第四百六十四条 如何ナル後見人タリトモ親族会議ノ許可ナクシテ幼者ノ不動産ノ権利ニ関シタル訴ヲ裁判所ニ申告スルコトヲ得ス又同一ノ権利ニ関シタル訟求ヲ認諾スルコトヲ得ス 第四百六十五条 後見人ノ分派ヲ要求スルニ付テハ右同一ノ許可ヲ必要トス然トモ幼者ニ対シテ為シタル分派ノ訟求ニ付テハ後見人右ノ許可ナクシテ之ニ答フルコトヲ得可シ 第四百六十六条 分派ヲシテ幼者ニ関シ成年者ノ間ニ有スル総テノ効ヲ得セシメントスルニハ財産相続開始ノ地ノ始審裁判所ヨリ任シタル鑑定人ヲシテ其評価ヲ為サシメタル後裁判上ニテ其分派ヲ為ササルヲ得ス 鑑定人ハ右ノ裁判所長又ハ其代理タル他ノ裁判官ノ面前ニテ善良誠実ニ其任務ヲ履行ス可キノ誓ヲ為シタル後遺産ノ分割及ヒ区分財産ノ組成ニ取掛ル可シ但シ其区分財産ハ右裁判所ノ裁判官若クハ裁判官ヨリ委任シタル公証人ノ面前ニ於テ抽籤シ其裁判官又ハ公証人ヨリ区分財産ノ引渡ヲ為ス可シ 総テ其他ノ分派ハ仮ノモノノミト看做ス可シ 第四百六十七条 後見人ハ親族会議ノ許可ヲ得且ツ始審裁判所ノ検事ヨリ指定メタル法律家三名ノ意見ヲ得タル上ニ非サレハ幼者ノ名前ヲ以テ和解スルコトヲ得ス 其和解ハ始審裁判所ニ於テ検事ノ申述ヲ聴キタル後之ヲ認可シタルニ非サレハ有効ノモノトセス 第四百六十八条 幼者ノ行状ニ付キ重要ナル戻意ノ事アル後見人ハ之ヲ親族会議ニ告ケ其許可ヲ得タル時ハ此事項ニ付キ父ノ威権ノ巻ニ定メタル所ニ従ヒ幼者ノ拘留ヲ要求スルコトヲ得可シ 第九節 後見ノ計算 第四百六十九条 凡ソ後見人ハ管理ノ終リシ時其管理ノ計算ヲ為ス可キモノトス 第四百七十条 父母ヲ除クノ外総テ其他ノ後見人ハ後見ノ間ト雖トモ親族ノ会議ニ於テ定ムルコトヲ適当ナリト思考シタル時期ニ其管理ノ景状ノ目録ヲ代後見人ニ渡スコトヲ担任セシムルヲ得可シ然トモ後見人ヲシテ毎年其目録ヲ一箇以上差出サシムルコトヲ得ス 其景状ノ目録ハ無費ニテ印税ナキ紙ヲ以テ作リ且ツ何等ノ裁判上ノ法式ヲモ要スルコトナクシテ之ヲ渡ス可シ 第四百七十一条 後見ノ確定ノ計算ハ幼者ノ成年ニ達シ又ハ後見免脱ヲ得タル時幼者ノ費額ヲ以テ之ヲ為ス可シ○後見人ハ其費用ヲ立替ユ可シ 其計算中ニテ充分ノ証明アリテ且ツ其目的ノ有益ナル総テノ費額ハ之ヲ後見人ニ許認ス可シ 第四百七十二条 後見人ト成年トナリシ幼者トノ間ニ為スコトアル総テノ合意ハ予メ詳細ナル計算書ヲ差出シ及ヒ証拠物ヲ渡シタルニ非サレハ無効タル可シ但シ其合意ヨリ少クトモ十日前ニ計算書ヲ受クル者ノ受取証書ヲ以テ其諸件ヲ証明スルコトヲ必要トス 第四百七十三条 若シ計算ノ事ニ付キ争訟ノ生スル時ハ他ノ民事上ノ争訟ノ如クニ之ヲ訴ヘ及ヒ之ヲ裁判ス可シ 第四百七十四条 後見人ヨリ償フ可キ残余ノ金額ハ訟求ヲ為サスシテ其計算終成ノ時ヨリ起算シテ利息ヲ生ス可シ 幼者ヨリ後見人ニ償フ可キ金額ノ利息ハ計算終成ノ後其弁済ノ催促ノ日ヨリ後ニ非サレハ之ヲ生セス 第四百七十五条 後見ノ所為ニ関シテ幼者ヨリ後見人ニ対スル総テノ訴権ハ成年ニ至リシ時ヨリ起算シ十年ヲ以テ期満効ヲ得ルモノトス 第三章 後見ノ免脱 第四百七十六条 幼者ハ婚姻ニ依リ当然後見ヲ免脱セラルルモノトス 第四百七十七条 幼者ハ婚姻ヲ為サスト雖トモ満十五歳ノ齢ニ達シタル時ハ其父ヨリ後見ヲ免脱セシムルコトヲ得可ク又父ナキニ於テハ其母ヨリ後見ヲ免脱セシムルコトヲ得可シ 其後見ノ免脱ハ書記ノ補助ヲ得テ治安裁判官ノ受ケタル父又ハ母ノ申述ノミヲ以テ之ヲ為ス可シ 第四百七十八条 父母ナキ幼者ハ満十八歳ノ齢ニ至リ親族会議ニ於テ後見ノ免脱ヲ受ケシムルノ能力アリト思考スル時ハ亦後見ノ免脱ヲ受クルコトヲ得可シ 此場合ニ於テハ後見免脱ハ之ヲ許可シタル決議ト治安裁判官親族会議ノ長トシテ其決議書中ニ為シタル幼者ハ其後見ヲ免脱セラルト云ヘル言渡トニ依テ生スルモノトス 第四百七十九条 若シ後見人前条ニ記シタル幼者ノ後見免脱ノ為メノ手続ヲ為サス而シテ幼者ノ従兄弟ノ級又ハ更ニ近級ノ血属親又ハ姻属親一名又ハ数名ノ其幼者ニ後見ノ免脱ヲ受ケシムルノ能力アリト思考スル時ハ其血属親又ハ姻属親ヨリ此事ヲ評定セシムル為メ親族会議ヲ招集スルコトヲ治安裁判官ニ請求スルヲ得可シ 治安裁判官ハ其請求ヲ許ササルヲ得ス 第四百八十条 後見ノ計算ハ親族会議ヨリ任シタル管財人ノ補助ヲ受クル後見免脱ノ幼者ニ之ヲ為ス可シ 第四百八十一条 後見ヲ免脱セラレタル幼者ハ其継続ノ九年ニ過キサル賃貸ヲ為シ又ハ自己ノ入額ヲ受取リテ義務免除ノ証書ヲ与ヘ及ヒ純粋ナル管理ノミノモノタル各箇ノ所為ヲ行フ可シ但シ其幼者ハ成年者自身ノ此等ノ所為ニ対シテ回復スルコトヲ得サル総テノ場合ニ於テハ亦此等ノ所為ニ対シテ回復スルコトヲ得サルモノトス 第四百八十二条 後見ヲ免脱セラレタル幼者ハ其管財人ノ補助ナクシテ不動産ニ関スル訴ヲ起シ又ハ不動産ニ関スル訴ニ弁護スルコトヲ得ス又然ノミナラス動産ノ元金ヲ受取リテ義務免除ノ証書ヲ与フルコトヲ得ス但シ其最後ニ記シタル場合ニ於テハ管財人其受取リタル元金ノ益用ヲ監視ス可シ 第四百八十三条 後見ヲ免脱セラレタル幼者ハ始審裁判所ニ於テ検事ノ申述ヲ聴キタル上認可シタル親族会議ノ決議アルニ非サレハ如何ナル口実アリトモ金額ノ借入ヲ為スコトヲ得ス 第四百八十四条 後見ヲ免脱セラレタル幼者ハ後見ヲ免脱セラレサル幼者ノ為メニ定メタル法式ヲ遵守スルコトナクシテ自己ノ不動産ヲ売払ヒ又ハ其所有権ヲ移転スルコトヲ得ス又純粋ナル管理ノ所為ノ外総テ其他ノ所為ヲ行フコトヲ得ス 其幼者ノ買入又ハ其他ノ方法ニ依テ負ヒタル義務ニ関シテハ其義務ハ過当ナル場合ニ於テハ減少ス可キモノトス但シ此事ニ付テハ裁判所ニ於テ幼者ノ家産及ヒ幼者ト契約シタル者ノ善意又ハ悪意並ニ其費額ノ有益又ハ無益ヲ考察ス可シ 第四百八十五条 凡ソ前条ニ拠リ其約務ヲ減少セラレタル後見免脱ノ幼者ハ後見免脱ノ利益ヲ失ハシムルコトヲ得可シ但シ其後見免脱ハ之ヲ附与スル為メニ為シタルモノト同一ノ法式ニ従ヒ之ヲ取上ク可キモノトス 第四百八十六条 後見免脱ヲ廃止シタル日ヨリ其幼者ハ再ヒ後見ヲ受ケ其成年ニ満ツル迄引続テ後見ヲ受ク可シ 第四百八十七条 商業ヲ為ス後見免脱ノ幼者ハ其商業ニ関スル所為ニ付テハ成年者ト看做ス可シ 第十一巻 成年、治産禁、裁判上ノ輔佐人(千八百三年三月二十九日決定四月八日宣令) 第一章 成年 第四百八十八条 成年ハ満二十一歳ト定ム此齢ニ至リシ者ハ婚姻ノ巻ニ記シタル制限ヲ除クノ外総テ民事上生理ノ所為ヲ行フコト能フ可シ 第二章 治産禁 第四百八十九条 平常白痴、癲病、狂病ノ景状アル成年者ハ其精神ヲ復スル時間アリト雖トモ治産禁ヲ受ケシメサルヲ得ス 第四百九十条 総テ血属親ハ自己ノ血属親ノ治産禁ヲ要求スルコトヲ許サルルモノトス○夫婦中ノ一方ヨリ他ノ一方ニ対スルモ之ニ同シ 第四百九十一条 狂病ノ場合ニ於テ若シ配偶者ヨリモ又血属親ヨリモ治産禁ヲ要求セサル時ハ検事ヨリ之ヲ要求セサルヲ得ス又白痴或ハ癲病ノ場合ニ於テハ配偶者又ハ分明ナル血属親ナキ者ニ対シ亦検事ヨリ治産禁ヲ要求スルコトヲ得可シ 第四百九十二条 総テ治産禁ヲ受ケシムルノ訟求ハ始審裁判所ニ申告ス可シ 第四百九十三条 白痴、癲病、狂病ノ実事ハ書面ニ明記ス可シ○治産禁ヲ訟求スル者ハ証人及ヒ証拠物ヲ差出ス可シ 第四百九十四条 裁判所ニ於テハ幼年、後見及ヒ後見ノ免脱ノ巻第二章第四節トニ定メタル仕方ニ従ヒ組成シタル親族会議ヨリ治産禁ノ訟求ヲ受ケタル者ノ景状ニ付キ其意見ヲ申述ス可キ旨ヲ命ス可シ 第四百九十五条 治産禁ヲ要求シタル者ハ親族会議ノ員中ニ加ハルコトヲ得ス然トモ治産禁ノ要求ヲ受ケタル者ノ配偶者及ヒ其子ハ可否ヲ述フルノ権利ヲ有スルコトナクシテ親族会議ニ参スルコトヲ得可シ 第四百九十六条 裁判所ニ於テハ親族会議ノ意見ヲ聴キタル後裁判官会議室ニ於テ被告人ヲ訊問ス可シ若シ被告人出席スルコト能ハサル時ハ特ニ委任セラレタル裁判官一名書記ノ補助ヲ受ケ其住居ニ至リテ之ヲ訊問ス可シ○如何ナル場合ニ於テモ検事ハ訊問ニ立会フ可シ 第四百九十七条 第一次ノ訊問ノ後裁判所ニ於テ必要ナリト為ス時ハ被告人ノ身体及ヒ財産ヲ管照セシムル為メ仮リノ管理人ヲ委任ス可シ 第四百九十八条 治産禁ノ訟求ニ付テノ裁判ハ双方ノ申述ヲ聴キ又ハ之ヲ招喚シタル上公ケノ審問席ニアラサレハ之ヲ為スコトヲ得ス 第四百九十九条 裁判所ニ於テハ治産禁ノ訟求ヲ棄却シタル時ト雖トモ若シ其景況ノ必要ナル時ハ向後被告人ハ其同一ノ裁判ニ依リ任セラレタル輔佐人ノ補助ナクシテ訴訟ヲ為シ、和解ヲ為シ、金額ヲ借受ケ動産ノ元金ヲ受取リ又ハ其義務免除ノ証書ヲ与ヘ又ハ自己ノ財産ノ所有権ヲ移転シ又ハ之ヲ書入質ト為スコトヲ得サル旨ヲ命スルコトヲ得可シ 第五百条 始審ノ裁判ヲ控訴シタル場合ニ於テ控訴裁判所ニ於テ必要ナリト思考スル時ハ其治産禁ノ訟求ヲ受ケタル者ヲ再ヒ訊問シ又ハ委員ヲシテ之ヲ訊問セシムルコトヲ得可シ 第五百一条 治産禁ヲ受ケシメ又ハ輔佐人ヲ任スル控訴裁判所又ハ始審裁判所ノ裁判書ハ原告人ノ求メニ依リ之ヲ写取リテ相手方ニ送達シ且ツ聴訟席ノ庁堂ト本郡公証人ノ役場トニ於テ貼附セサル可カラサル帖上ニ十日内ニ之ヲ記入ス可シ 第五百二条 治産禁又ハ輔佐人ノ撰任ハ裁判ノ日ヨリ其効ヲ有ス可キモノトス○其後ニ至リ治産禁ヲ受ケタル者ノ行ヒシ総テノ所為又ハ輔佐人補助ナクシテ行ヒシ総テノ所為ハ当然無効タル可シ 第五百三条 治産禁以前ノ所為ハ之ヲ行ヒシ時期ニ於テ治産禁ヲ受ク可キ原由ノ存在セシコト著明ナルニ於テハ之ヲ取消スコトヲ得可シ 第五百四条 人ノ死去前ニ其治産禁ヲ宣告セラレ又ハ之ヲ要求セラレタル時ニ非サレハ其者ノ行ヒタル所為ヲ其死後ニ至リ癲病ノ原由ヲ以テ取消サント求ムルコトヲ得ス但シ取消ヲ求メラレタル所為上ニ癲病ノ証アル時ハ格別ナリトス 第五百五条 始審ニテ為シタル治産禁ノ裁判ヲ控訴セス又ハ控訴ノ上ニテ其裁判ノ確認セラレタル時ハ幼年、後見及ヒ後見ノ免脱ノ巻ニ記シタル規則ニ従ヒ治産禁ヲ受ケタル者ノ為メ其後見人及ヒ代後見人ヲ撰任スルノ設備ヲ為ス可シ○仮リノ管理人ハ其職務ヲ止ム可シ而シテ其管理人ノ自カラ後見人ニ任セラレサル時ハ後見人ニ計算ヲ為ス可キモノトス 第五百六条 夫ハ其婦ノ治産禁ヲ受ケタル時ハ当然其後見人タリ 第五百七条 婦ハ其夫ノ後見人ニ撰任セラルルコトヲ得可シ○此場合ニ於テハ親族会議ニ於テ管理ノ法式及ヒ条件ヲ規定ス可シ但シ其婦親族会議ノ決定ノ為メニ害ヲ被ムリタリト思考スル時ハ裁判所ニ訴フルコトヲ得可キモノトス 第五百八条 配偶者尊属親及ヒ卑属親ヲ除クノ外ハ何人ヲ論セス治産禁ヲ受ケタル者ノ後見ヲ十年以上保存スルニ及ハス○其期限ノ終ニ至リ後見人ハ後任者ノ撰定ヲ請求スルコトヲ得テ必ス其撰定ヲ得可キモノトス 第五百九条 治産禁ヲ受ケタル者ハ其身体及ヒ財産ニ付キ幼者ト同視シ幼者ノ後見ニ付テノ法律ハ治産禁ヲ受ケタル者ノ後見ニ適用ス可キモノトス 第五百十条 治産禁ヲ受ケタル者ノ入額ハ本質上ヨリシテ其命運ノ不幸ヲ慰安シ且ツ其療養ヲ速カナラシムルニ用ヒサルヲ得ス○其病症ト其家産ノ景状トニ従ヒ親属会議ニ於テ其者ヲ其住所ニテ療養セシメ又ハ養生所及ヒ然ノミナラス病院ニ入ラシム可キコトヲ決定スルヲ得可シ 第五百十一条 治産禁ヲ受ケタル者ノ子ノ婚姻ヲ為ス可キ時ハ其嫁資又ハ遺留財産ノ前取及ヒ其他ノ婚姻ノ合意ハ裁判所ニ於テ検事ノ意見申述ノ上認可シタル親族会議ノ意見書ヲ以テ之ヲ規定ス可シ 第五百十二条 治産禁ハ之ヲ決定セシメタル原由ト共ニ止息ス然レトモ其解除ハ治産禁ヲ受ケシムル為メニ定メタル法式ヲ遵守スルニ非サレハ之ヲ宣告ス可カラス又治産禁ヲ受ケタル者ハ其解除ノ裁判ノ後ニ非サレハ自己ノ権利ノ執行ヲ復スルコトヲ得ス 第三章 裁判上ノ輔佐人 第五百十三条 浪費者ハ裁判所ヨリ任シタル輔佐人ノ補助ナクシテ訴訟ヲ為シ、和解ヲ為シ、金額ヲ借受ケ、動産ノ元金ヲ受取リテ其義務免除ノ証書ヲ与ヘ又ハ自己ノ財産ノ所有権ヲ移転シ又ハ之ヲ書入質ト為スコトヲ禁スルヲ得可シ 第五百十四条 輔佐人ノ補助ナクシテ事ヲ行フ可カラサルノ禁ハ治産禁ヲ訟求スルノ権利アル者ヨリ之ヲ要求スルコトヲ得可シ但シ其訟求ハ治産禁ノ訟求ト同一ノ方法ニテ之ヲ審理シ及ヒ裁判セサル可カラス 其禁ハ治産禁ノ解除ト同一ノ法式ヲ遵守スルニ非サレハ之ヲ解除スルコトヲ得ス 第五百十五条 治産禁又ハ輔佐人撰任ノ事ニ於ケル総テノ裁判ハ始審ニ於テモ若クハ控訴ニ於テモ検察官ノ意見ヲ聴キタル上ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス 第二編 財産及所有権ノ種々ノ改様 第一巻 財産ノ区別(千八百四年一月二十五日決定二月四日宣令) 第五百十六条 総テノ財産ハ動産又ハ不動産タリ 第一章 不動産 第五百十七条 財産ハ其性質ニ依リ又ハ其用法ニ依リ又ハ其趣旨トスル所ノ目的ニ依リ不動産タリ 第五百十八条 土地及ヒ建造物ハ其性質ニ依リ不動産タリ 第五百十九条 杙ニ附着シ及ヒ建造物ノ一部分ヲ為ス風車又ハ水車ハ亦其性質ニ依リ不動産タリ 第五百二十条 根ニ依テ地上ニ附着スル収獲物及ヒ未タ摘取セサル樹果モ亦同シク不動産タリ 穀物ヲ刈取シ及ヒ樹果ヲ摘取シタル時ハ仮令移動セスト雖トモ動産タリ 若シ収獲物ノ一部ノミヲ刈取シタル時ハ其一部ノミヲ動産トス 第五百二十一条 採伐ノ順序ヲ定メタル小樹林又ハ大樹林ノ通常ノ採伐ス可キ樹木ハ其樹木ヲ伐リ倒シタルニ准シテノミ動産トナルモノトス 第五百二十二条 耕作ノ為メ其土地ノ所有者ヨリ土地賃借人又ハ分果借地人ニ渡シタル獣類ハ評価シタルト否トヲ問ハス合意ノ効ニ依リ之ヲ其土地ニ附着セシムル間ハ不動産ト看做ス可シ 土地ノ所有者ヨリ土地ノ賃借人又ハ分果借地人ニ非サル者ニ獣借契約ニテ附与シタル獣類ハ動産タリ 第五百二十三条 家屋又ハ其地ノ不動産ニ水ヲ引導スルニ用フル管ハ不動産ニシテ其附着スル不動産ノ一部分トス 第五百二十四条 不動産ノ所有者其不動産ノ用ニ供シ及ヒ其不動産ノ収益ノ為メ其不動産ニ備ヘ置キタル物品ハ用方ニ依リ不動産タリ 故ニ左ノ諸件ハ所有者其不動産ノ用ニ供シ及ヒ其不動産ノ収益ノ為メニ備ヘ置キタル時ハ用方ニ依リ不動産タリ 耕作ニ附着セシメタル獣類 農業ノ器具 土地賃借人又ハ分果耕作人ニ附与シタル種子 鳩舎中ノ鳩 兎舎中ノ兎 巣中ノ蜜蜂 池沼中ノ魚 搾器、釜、蒸溜器、桶、樽 鋳造所、紙製造所及ヒ其他ノ工作場ノ収益ニ必要ナル器具 藁及ヒ肥料 所有者ノ永久ノ附属トシテ不動産ニ附着セシメタル総テノ動産ハ亦用方ニ依リ不動産タリ 第五百二十五条 石膏、石灰又ハ「シマン」ヲ以テ動産ヲ不動産ニ附着シ又ハ其動産ヲ離分スル時ハ必ス其動産ヲ破毀損壊シ又ハ其附着スル不動産ノ一部分ヲ破毀損壊ス可キ時ハ所有者動産ヲ永久ノ附属トシテ不動産ニ附着セシメタルモノト看做ス可シ 房室ノ玻璃版ヲ附着シタル框カ壁板ト一体ヲ為ス時ハ永久ノ附属トシテ其玻璃版ヲ附シタルモノト看做ス可シ 画額及ヒ其他ノ装飾物ニ付テモ亦之ニ同シ 立像ハ仮令破毀損壊スルコトナク之ヲ移動スルヲ得可シト雖トモ特ニ之ヲ入置ク為メニ作リタル壁ノ凹所ニ置カレタル時ハ不動産タリ 第五百二十六条 左ノ諸件ハ其趣旨トスル所ノ目的ニ依リ不動産タリ 不動産物ノ使用収益権 地役即チ地務 不動産ノ所有権ヲ取戻サントスル訴権 第二章 動産 第五百二十七条 財産ハ其性質ニ依リ又ハ法律ノ定メニ依リ動産タリ 第五百二十八条 獣類ノ如ク自カラ運行スルト不生活物ノ如ク他力ノ効ニ依ラサレハ場所ヲ変スルコトヲ得サルトヲ問ハス此地ヨリ彼ノ地ニ移転スルコトヲ得可キ物体ハ其性質ニ依リ動産タリ 第五百二十九条 償還ヲ要求スルヲ得可キ金額又ハ動産ヲ目的トスル債権及ヒ訴権又ハ理財、商業、工作ノ会社ニ於ケル株敷又コトハ股分ハ仮令其起作ニ関スル不動産ノ其会社ニ属スル時ト雖トモ法律ノ定メニ依リ動産タリ○其株敷又ハ股分ハ其会社ノ存続スル間ハ各社員ノミニ関シテ動産ト看做ス可シ 国若クハ人民ニ対スル無期又ハ畢生間ノ年金収受権ハ亦法律ノ定メニ依リ動産タリ 第五百三十条 (千八百四年三月廿一日決定同月三十一日宣令)凡ソ不動産売買ノ代金トシテ無期ニ設定シタル年金収受権又ハ不動産ノ有償又ハ無償ノ名義ニ於ケル譲渡ノ条件トシテ無期ニ設定シタル年金収受権ハ其本質上ヨリシテ買戻スコトヲ得可キモノトス 然トモ債主ハ其買戻ノ約款及ヒ条件ヲ規定スルコトヲ許サルルモノトス 又其債主ハ決シテ三十年ニ過クルコトヲ得サル特定ノ期限ノ後ニ非サレハ年金収受権ノ償還ヲ受クルコトナカル可キ旨ヲ約権スルコトヲモ許サルルモノトス但シ之ニ反シタル総テノ約権ハ無効ノモノタリ 第五百三十一条 小船、渡舟、船舶、船ニ在ル風車、水車、浴場及ヒ総テ一般ニ杙ニ附着セス及ヒ家屋ノ一部ヲ為ササル工作場ハ動産タリ然レトモ此等ノ物品中或者ノ差押ハ其重要ノモノタルカ為メ訴訟法ニ明記スル如ク特別ノ法式ニ服従セシムルコトヲ得可シ 第五百三十二条 建築物ヲ毀チタルヨリ得タル材料及ヒ新タナル建築物ヲ造ル為メニ集メタル材料ハ職工ノ其造築ノ為メニ之ヲ用フル迄ハ動産タリ 第五百三十三条 「ミュウブル」動産ノ義ト云ヘル語ハ他ノ添辞又ハ指定ノ辞ナク法律ノ成規又ハ各人ノ処分ニ唯一語之ヲ用ヒタル時ハ金円、宝石、能働ノ負債、書籍、賞牌、学問、芸術及ヒ工技ノ器具、身体ノ布類、馬、車、兵器、穀物、酒類、枯草及ヒ其他ノ飲食品ヲ包含セス又商業ノ目的タル諸件ヲモ亦包含セス 第五百三十四条 「ミュウブル、ミュウブラン」ト云ヘル語ハ毛氈、臥牀、椅子、鏡、自鳴鐘、卓子、磁器及ヒ其他此性質ノ物品ノ如ク房室ノ使用及ヒ装飾ノ用ニ供シタル動産ノミヲ包含ス 房室ノ動産ノ一部タル画額及ヒ立像ハ亦「ミュウブル、ミュウブラン」ノ中ニ包含ス然レトモ展画ノ房室又ハ特別ノ房室内ニアル画額ノ聚集ハ之ヲ包含セス 又磁器モ之ニ同シク房室ノ装飾ノ一部タルモノノミヲ「ミュウブル、ミュウブラン」ノ名称中ニ包含スルモノトス 第五百三十五条 「ビアン、ミュウブル」及ヒ「モビリエー」或ハ「エッフェー、モビリエー」ト云ヘル語ハ前ニ定メタル規則ニ従ヒ動産ト看做サルル諸件ヲ総ヘテ一般ニ包含スルモノトス 動産ノ備ハリタル家屋ノ売払又ハ贈与ハ「ミュウブル、ミュウブラン」ノミヲ包舎スルモノトス 第五百三十六条 一箇ノ家屋内ニ在ル諸件ト共ニ其家屋ノ売払又ハ贈与ハ金円ヲ包含セス又其証券ヲ其家屋内ニ蔵メタル能働ノ負債及ヒ其他ノ権利ヲ包含セス但シ其他ノ「エッフェー、モビリエー」ハ皆之ヲ包含スルモノトス 第三章 財産ト之ヲ占有スル者トノ関係 第五百三十七条 各人民ハ法律ニ依リ定メタル改様ニ従ヒ己レニ属スル財産ノ自由ノ処分権ヲ有スルモノトス 各人民ニ属セサル財産ハ其財産ニ特別ノモノタル法式ト規則トニ従テ之ヲ管理ス可ク又之ニ従フニ非サレハ其所有権ヲ移転スルコトヲ得ス 第五百三十八条 国ノ負任タル道路、巷径、市街、舟ヲ通シ又ハ筏ヲ通ス可キ河川、海岸、海ノ汀渚、港口、海港、碇泊場及ヒ総テ一般ニ私シノ所有ト為ス可カラサル仏蘭西領地ノ各部分ハ公領ノ附属ナリト見做ス可シ 第五百三十九条 占領スル者ナク且ツ所有主ナキ財産及ヒ相続人ナクシテ死去シタル者ノ財産又ハ其財産相続ノ放棄セラレタル財産ハ総テ公領ニ属スルモノトス 第五百四十条 城塞及ヒ堡砦ノ門、壁、壕、塁ハ亦公領ノ一部トス 第五百四十一条 最早城塞タラサル要塞中ノ地所、堡砦及ヒ塁ハ亦右ト同一ナリトス但シ此等ノ諸件ハ有効ニ其所有権ヲ移転シタルコトナキ時又ハ国ニ対シテ其所有権ノ期満効ヲ得タルコトナキ時ハ国ニ属スルモノトス 第五百四十二条 邑ノ財産トハ一邑又ハ数邑ノ住民カ其所有権又ハ其生産物ニ付キ獲得権利ヲ有スル財産ヲ云フ 第五百四十三条 人ハ財産ニ付キ所有ノ権利ヲ有スルコトアリ又ハ単一ナル収益ノ権利ヲ有スルコトアリ又ハ称言ス可キ地務ノミヲ有スルコトアリ 第二巻 所有権(千八百四年一月二十七日決定二月六日宣令) 第五百四十四条 所有権トハ法律又ハ規則ニ依リ禁止セラレタル用方ヲ為ササルニ於テハ最モ完全ナル方法ニテ物件ヲ収益シ及ヒ処分スルノ権利ヲ云フ 第五百四十五条 何人ニ限ラス公同便益ノ為メニシテ且ツ預メ正当ノ賠償ヲ得ルニ非サレハ其所有権ヲ譲渡スニ強制セラルルコトナカル可シ 第五百四十六条 動産ト不動産トヲ問ハス一箇ノ物ノ所有権ハ其物ヨリ生スル諸件及ヒ天然若クハ人工ニ依リ其物ニ附添シテ附合スル諸件ニ付キ権利ヲ附与スルモノトス 其権利ヲ名ケテ附添ノ権利ト云フ 第一章 物ヨリ生スル諸件ニ付テノ附添ノ権利 第五百四十七条 土地ノ天然上又ハ人工上ノ果実 民法上ノ果実 増殖シタル獣類 此等ノ諸件ハ附添ノ権利ニ依リ所有者ニ属スルモノトス 第五百四十八条 物ヨリ生シタル果実ハ第三ノ人ノ為シタル耕作、労働、種子ノ費用ヲ償還スルノ負任アルニ非サレハ所有者ニ属セス 第五百四十九条 単一ナル占有者ハ善意ニテ占有スル場合ニ非サレハ其果実ヲ己レノ所得ト為ス可カラス之ニ反シタル場合ニ於テハ其物ヲ取戻サント求ムル所有者ニ其物ト共ニ生産物ヲ返ス可シ 第五百五十条 占有者ハ其瑕瑾ヲ知ラサル所有権移転ノ権原ニ拠リ所有者トシテ占有シタル時ハ善意ナリトス 其占有者ハ其瑕瑾ヲ知リタル時ヨリ善意ナルコトヲ止息スルモノトス 第二章 物ニ附合シ及ヒ合同スル諸件ニ付テノ附添ノ権利 第五百五十一条 凡ソ物ニ附合シ及ヒ合同スル諸件ハ以下ニ定ムル所ノ規則ニ従ヒ所有者ニ属ス 第一節 不動産物ニ関スル附添ノ権利 第五百五十二条 地所ノ所有権ハ其地上及ヒ地下ノ所有権ヲ惹起ス 其所有者ハ地役即チ地務ノ巻ニ定ムル例外ヲ除クノ外其地上ニ自己ノ相当ト思考スル総テノ植附及ヒ造営ヲ為スコトヲ得可シ 其所有者ハ砿坑ニ関スル法律規則及ヒ警察ノ法律規則ヨリ生スル改様ヲ除クノ外其地下ニ自己ノ相当ト思考スル総テノ造営及ヒ窖穴ヲ造リ且ツ其窖穴ヨリ生スルコトアル可キ総テノ生産物ヲ掘取ルコトヲ得可シ 第五百五十三条 地上又ハ地中ニ於ケル総テノ造営、植附及ヒ工事ハ反対ノ証アルニ非サレハ其所有者自己ノ費用ヲ以テ之ヲ為シ其所有者ニ属スルモノト思量ス可シ但シ第三ノ人ノ他人ノ建造物ノ下ニ在ル地窖若クハ其建造物ノ総テ其他ノ部分ニ付キ期満効ニ依リ既ニ獲得シ又ハ後ニ獲得スルコトアル可キ所有権ト相触ルルコトナカル可シ 第五百五十四条 地所ノ所有者己ニ属セサル材料ヲ以テ造営、植附及ヒ工事ヲ為シタル時ハ其材料ノ価額ヲ弁済セサルヲ得ス又別段ノ道理アル時ハ損害賠償ノ言渡ヲ受ケシムルコトヲ得可シ然トモ其材料ノ所有者ハ之ヲ搬取スルノ権利ナシ 第五百五十五条 第三ノ人ノ自己ノ材料ヲ以テ植附、造営及ヒ工事ヲ為シタル時ハ土地ノ所有者之ヲ留置キ又ハ其第三ノ人ヲシテ強テ之ヲ搬取セシムルノ権利アリ 若シ土地ノ所有者其植附及ヒ造営ノ廃毀ヲ求ムル時ハ之ヲ為シタル者ノ費用ヲ以テ其廃毀ヲ為サシム可ク其者ノ為メニ賠償ヲ為スニ及ハス又然ノミナラス別段ノ道理アル時ハ土地ノ所有者ノ受ケタル損害ノ為メ賠償ヲ為ス可キノ言渡ヲ右ノ者ニ受ケシムルコトヲ得可シ 若シ土地ノ所有者其植附及ヒ造営ヲ保存セント欲スル時ハ其土地ノ受クルコトヲ得タル多少ノ価額増加ニ関セス其材料ノ価額ト其工価トヲ償還ス可キモノトス○然レトモ土地ノ所有権ヲ褫奪セラレタルト雖トモ其善意ノ為メ果実ノ返還ヲ言渡サレサル第三ノ人ニ於テ其植附、造営及ヒ工事ヲ為シタル時ハ土地ノ所有者其工事、植附及ヒ造営ノ廃毀ヲ求ムルコトヲ得ス然レトモ其所有者ハ其材料ノ価額ト工価トヲ償還シ又ハ地価ノ増加シタル額ニ等シキ金額ヲ償還スルコト自由ナリトス 第五百五十六条 河川ノ傍側ノ土地ニ次第ニ知覚スルヲ得スシテ生シタル寄洲及ヒ干潟ハ之ヲ名ケテ漸積地ト云フ 漸積地ハ河川ノ舟ヲ通シ又ハ筏ヲ通スルト否トヲ問ハス其傍側地ノ所有者ニ利益ス但シ其河川ノ舟筏ヲ通ス可キ場合ニ於テハ規則ニ従ヒ沿岸ノ小径又ハ牽舟路ヲ残ス可キノ負任アルモノトス 第五百五十七条 流水ノ知覚スルヲ得スシテ彼岸ヲ侵シ此岸ヲ退キテ生シタル汀渚ハ亦右ト同一ナリトス依テ其乾凅セシ岸ノ所有者ハ其漸積地ヲ利益ス可ク其対岸ノ地ノ所有者ハ其失ヒシ地所ノ所有ヲ得ント求ムルコトヲ得ス 海ノ汀渚ニ付テハ右ノ権利存在セス 第五百五十八条 漸積地ハ湖池ニ付テハ存在セサルモノトス但シ其湖池ノ所有者ハ仮令水量ノ減シタル時ト雖トモ其満水ノ時ニ水ノ覆フ所ノ地所ヲ常ニ保存ス 右ノ裏面ニ於テ池ノ所有者ハ其水ノ異常ノ漲溢ニ於テ覆フタル傍側ノ土地ニ付キ何等ノ権利ヲモ獲得セサルモノトス 第五百五十九条 舟ヲ通ス可キト否トヲ問ハス若シ河川ノ急遽ノ力ニ依リ其傍側ノ土地ノ広大ニシテ且ツ認知スルヲ得可キ一部分ヲ裁割シテ之ヲ下流ノ土地又ハ対岸ニ移去シタル時ハ其裁割セラレタル部分ノ所有者ハ自己ノ所有権ヲ得ント求ムルコトヲ得可シ然トモ其所有者ハ一年内ニ其訟求ヲ為ス可ク其期限ノ後ハ最早之ヲ為スコトヲ許サス但シ其裁割セラレシ地ノ附合シタル土地ノ所有者ノ未タ其裁割セラレシ地ノ占有ヲ得サル時ハ格別ナリトス 第五百六十条 舟ヲ通シ又ハ筏ヲ通ス可キ河川ノ床中ニ生シタル島嶼及ヒ寄洲ハ国ニ属ス但シ之ニ反シタル権原又ハ期満効アル時ハ格別ナリトス 第五百六十一条 舟ヲ通セス及ヒ筏ヲ通セサル川中ニ生シタル島及ヒ寄洲ハ其島ノ生シタル傍側ノ土地ノ所有者ニ属ス若シ其島ノ一方ノミニ偏リテ生セサル時ハ其川ノ中央ニ画シタリト思做ス所ノ線ヲ以テ分界ト為シ其両岸ノ土地ノ所有者ニ属ス 第五百六十二条 若シ河川ノ新タニ支流ヲ生シテ河側所有者ノ土地ヲ裁断シ之ヲ囲繞シテ島ト為シタル時ハ仮令其島ノ舟ヲ通シ又ハ筏ヲ通ス可キ河川中ニ生シタル時ト雖トモ其所有者ハ其土地ノ所有権ヲ保存ス 第五百六十三条 舟ヲ通シ又ハ筏ヲ通スルト否トヲ問ハス河川ノ其旧床ヲ棄テ新タナル路ヲ造ル時ハ新タニ河水ノ浸入シタル土地ノ所有者数名ハ各其失ヒシ地所ノ割合ニ依リ其棄テラレタル旧床ヲ賠償ノ名義ヲ以テ収取ス可シ 第五百六十四条 従来棲息シタルヨリ更ニ他ノ鳩舎、兎舎、池沼ニ移棲シタル鳩、兎、魚ハ詐欺又ハ詭計ヲ以テ誘導シタル時ノ外ハ此等ノ物品ノ所有者ニ属スルモノトス 第二節 動産物ニ関スル附添ノ権利 第五百六十五条 附添ノ権利ハ所有主二人ニ属スル二箇ノ動産物ヲ目的ト為ス時ハ全ク天然ナル公平ノ原則ニ従フ可シ 以下ノ規則ハ予見セサル場合ニ於テ特別ノ景況ニ従ヒ裁判官ヲ決定セシムル為メノ例規ニ用立ツ可シ 第五百六十六条 相異ナレル所有主ニ属スル二箇ノ物ノ相附合シテ一箇ノ全体ヲ為スト雖トモ之ヲ離分シテ猶各全存スルヲ得可キ時ハ其主タル部分ヲ為ス物ノ所有主ハ他ノ所有主ニ其附合セシメラレタル物ノ価額ヲ弁済スルノ負任ヲ以テ其全体ヲ所有ト為ス可シ 第五百六十七条 使用、装飾、補成ノ為メノミニ他物ヲ附合セシメタル物ヲ主タル部分ト看做ス可シ 第五百六十八条 然トモ附合セシメラレタル物ノ価カ主タル物ヨリモ大ニ貴クシテ且ツ其附合セシメラレタル物ヲ其所有者ニ知ラシメスシテ用ヒタル時ハ仮令其連合シタル主品ニ若干ノ毀害ヲ生セシムルコトアル可シト雖モ従品ノ所有者之ヲ離分シテ己レニ還サシム可キノ訟求ヲ為スコトヲ得可シ 第五百六十九条 若シ附合シテ一箇ノ全体ヲ為シタル二箇ノ物ノ中一方ヲ他ノ一方ノ附従ト看做スコトヲ得サル時ハ価ノ最モ貴キ物ヲ以テ主品ト看做ス可ク又其価ノ概子相等シキ時ハ形ノ最モ大ナル物ヲ以テ主品ト看做ス可シ 第五百七十条 若シ工作者又ハ如何ナル人タリトモ己レニ属セサル物料ヲ用ヒテ新ナル種類ノ物ヲ造リタル時ハ其物料ノ原始ノ形ヲ復スルコトヲ得可キト否トヲ問ハス其物料ノ所有者タリシ者ハ工価ヲ償還シテ其造リタル物ヲ己レノ所有ト為サント求ムルノ権利アリ 第五百七十一条 若シ然トモ工価ノ額ノ重大ニシテ其用ヒタル物料ノ価額ニ甚タ超過シタル時ハ其工作ヲ以テ主タル部分ト看做シ職工ヨリ其物料ノ所有者ニ之レカ代金ヲ償還シテ其製作シタル物ヲ引留ムルノ権利アリ 第五百七十二条 若シ人ノ一部分ハ己レニ属スル物料ト一部分ハ己レニ属セサル物料トヲ用ヒテ新タナル種類ノ物ヲ造リ其二箇ノ物料中何レノ一方モ全ク毀滅スルコトナシト雖トモ之ヲ離分スル時ハ必ス不便ヲ生ス可キニ於テハ所有者二人ニテ其新タナル種類ノ物ヲ共有ス可シ但シ其中一人ハ己レニ属スル物料ノ割合ヲ以テ之ヲ所有シ他ノ一人ハ己レニ属スル物料ト其工価トノ割合ヲ以テ之ヲ所有ス可キモノトス 第五百七十三条 相異ナリタル所有者ニ属スル数個ノ物料ノ渾同ニ依テ一個ノ物ヲ造リ其数箇ノ物料中何レノモノヲモ主品ト看做スコトヲ得サル時其数箇ノ物料ヲ離分スルヲ得可キニ於テハ其所有者中ニテ己レニ属スル物料ノ渾同セシメラレタルヲ知ラサル者ヨリ之ヲ分別セント求ムルコトヲ得可シ 若シ其物料ヲ離分スル時ハ最早必ス不便ヲ生ス可キニ於テハ其所有者数人ハ各自ニ属スル物料ノ分量、品質、価額ノ割合ヲ以テ共同シテ之レカ所有権ヲ獲得ス 第五百七十四条 若シ所有者中ノ一人ニ属スル物料カ其分量及ヒ代価ニ於テ其他ノ物料ニ甚タ超過シタル時ハ此場合ニ於テハ其価額ノ貴キ物料ノ所有者ハ他ノ所有者ニ其物料ノ価額ヲ償還シテ其渾同ニ依リ生シタル物ヲ己レノ所有ト為サント求ムルコトヲ得可シ 第五百七十五条 数箇ノ物料ヲ以テ造リタル物ヲ其物料ノ所有者数人ノ間ニ共同ノモノト為ス時ハ共同ノ利益ニ於テ其不分物ノ糶売ヲ為ササルヲ得ス 第五百七十六条 自カラ知ラスシテ他種ノ物ヲ造ル為メニ自己ノ物料ヲ用ヒラレタル所有者ノ其物ノ所有権ヲ得ント求ムルコトヲ得可キ総テノ場合ニ於テハ其所有者自己ノ物料ト同性、同量、同重、同尺、同格ノモノノ返還ヲ得ント求メ又ハ其価額ノ返還ヲ得ント求ムルコト自由ナリトス 第五百七十七条 他人ニ属スル物料ヲ之ニ知ラシメスシテ用ヒタル者ハ損害ヲ生セシメタルニ於テハ亦其損害ヲ賠償ス可キノ言渡ヲ受ケシムルコトヲ得可シ但シ別段ノ場合ニ於テハ異常ノ方法ヲ以テ起訴ヲ為スト相触ルルコトナカル可シ 第三巻 使用収益権、使用権、及ヒ住居権(千八百四年一月三十日決定二月九日宣令) 第一章 使用収益権 第五百七十八条 使用収益権トハ他人カ所有権ヲ有スル物ノ本質ヲ保存スルノ負任ヲ以テ其所有者自身ノ如クニ其物ニ付キ収益スルノ権利ヲ云フ 第五百七十九条 使用収益権ハ法律ニ依リ之ヲ設定シ又ハ人意ニ依リ之ヲ設定ス 第五百八十条 使用収益権ハ或ハ単一ニ之ヲ設定シ或ハ特定ノ日ニ之ヲ設定シ或ハ未必条件ヲ附シテ之ヲ設定スルコトヲ得可シ 第五百八十一条 使用収益権ハ動産又ハ不動産ノ各種ニ付キ之ヲ設定スルコトヲ得可シ 第一節 使用収益者ノ権利 第五百八十二条 使用収益者ハ其使用収益権ヲ有スル物件ヨリ生スルコトアル可キ天然上若クハ人工上若クハ民法上ノ果実ノ各種ニ付キ収益スルノ権利アリ 第五百八十三条 天然上ノ果実トハ土地ノ自然ノ生産物タル果実ヲ云フ○獣類ノ生産物及ヒ増殖シタル獣類モ亦天然上ノ果実ナリトス 土地ノ人工上ノ果実トハ人ノ耕作ニ依テ得ル所ノ果実ヲ云フ 第五百八十四条 民法上ノ果実トハ家屋ノ貸賃、償還ヲ要求スルコトヲ得可キ金額ノ利息及ヒ年金ノ賦額ヲ云フ 土地ノ貸賃モ亦民法上ノ果実ノ種類中ニアルモノトス 第五百八十五条 使用収益権ノ開始スル時ニ当リ枝又ハ根ニ依テ地上ニ附着スル天然上及ヒ人工上ノ果実ハ使用収益者ニ属スルモノトス 使用収益権ノ終ル時ニ当リ右ト同一ノ景状ニ在ル所ノ天然上及ヒ人工上ノ果実ハ所有者ニ属スルモノトス而シテ双方共ニ其耕作及ヒ種子ノ為メ互ニ償ヲ為スニ及ハス然レトモ又使用収益権ノ初メ又ハ其終リニ於テ分果耕作人ノ存在スル時ハ其分果耕作人ノ獲得スルヲ得可キ果実ノ一部分ト相牴触スルコトナカル可シ 第五百八十六条 民法上ノ果実ハ日毎ニ獲得スルモノト看做シ使用収益権ノ継続スル時間ニ准シテ其使用収益者ニ属スルモノトス○此規則ハ家屋ノ貸賃及ヒ其他ノ民法上ノ果実ニ適用ス可キカ如ク土地ノ貸賃ニモ適用ス可キモノトス 第五百八十七条 若シ使用収益権中ニ金銀、穀物、飲料ノ如ク消耗セスシテ用フルコトヲ得サル物ヲ包含シタル時ハ使用収益者之ヲ用フルノ権利アリ然レトモ其使用収益権ノ終ニ至リテ之ト同量、同質、同価ノ者又ハ其評定ノ価額ヲ返還ス可キノ負任アリトス 第五百八十八条 畢生間ノ年金収受権ノ使用収益権ハ亦其使用収益権ノ継続スル時間使用収益者ニ何モノヲモ返還スルニ及ハスシテ其賦額ヲ収取スルノ権利ヲ附与ス 第五百八十九条 若シ使用収益権中ニ布類及ヒ「ミュウブル、ミュウブラン」ノ如ク直ニ消耗スルコトナク其使用ニ依リ漸ニ損敗スル物ヲ包含シタル時ハ使用収益者ハ其定メタル用方ニ之ヲ用フルノ権利アリテ其使用収益権ノ終リニ至リ其詐欺又ハ其過失ニ依テ損敗セサル現在ノ景状ノ侭ニテ之ヲ還スコトヲ得可シ 第五百九十条 若シ使用収益権中ニ小樹林ヲ包含シタル時ハ使用収益者ハ其所有者ノ定メタル採伐ノ順序又ハ其常久ノ習慣ニ従ヒ其採伐ス可キ樹木ノ順序及ヒ分量ヲ遵守ス可シ然レトモ使用収益者ノ其収益ノ間ニ為ササリシ小樹若クハ貯存樹若クハ大樹ノ通常ノ採伐ノ為メ使用収益者又ハ其相続人ノ為メニ賠償ヲ為スコトナシ 培樹場ヲ破損セスシテ其場中ヨリ移搬スルヲ得可キ樹木ハ使用収益者ノ其移搬シタル樹木ニ換ヘテ他ノ樹木ヲ植ル為メ其地ノ習慣ニ従フ可キノ負任アルニ非サレハ亦使用収益権ノ一部分ヲ為ササルモノトス 第五百九十一条 使用収益者ハ地所ノ特定ノ一部分ニ於テ時期ヲ定メテ其採伐ヲ為スト其地ノ全面ニ於テ区別ナク定数ノ樹木ヲ採伐スルトヲ問ハス常ニ必ス旧所有者ノ時期ト習慣トニ従フニ於テハ亦其採伐ノ順序ヲ定メタル大樹林ノ樹木ノ一部分ヲ利益ス 第五百九十二条 総テ其他ノ場合ニ於テハ使用収益者ハ大樹林ノ樹木ニ触ルルコトヲ得ス唯其担任シタル修繕ヲ為ス為メ偶然ノ事故ニ依テ倒仆シ又ハ摧折シタル樹木ヲ用フルコトノミヲ得可ク又然ノミナラス使用収益者ハ若シ必要ナルニ於テハ右ノ目的ノ為メ其樹木ヲ伐倒スコトヲ得可シト雖トモ所有者ニ対シテ其必要ナルコトヲ証明セシムルノ負任アルモノトス 第五百九十三条 使用収益者ハ森林中ニ於テ葡萄ノ為メノ架木ヲ採取スルコトヲ得可ク又樹木ニ付キ毎年又ハ時々ノ生産物ヲ採取スルコトヲ得可シ但シ其諸件ニ付テハ土地ノ習慣又ハ所有者ノ慣例ニ従フヘキモノトス 第五百九十四条 枯タル菓樹又然ノミナラス偶然ノ事故ニ依テ倒仆シ又ハ摧折シタル菓樹ハ使用収益者ノ之ニ代ヘテ他ノ菓樹ヲ植ユルノ負任ヲ以テ其使用収益者ニ属スルモノトス 第五百九十五条 使用収益者ハ其権利ヲ己レ自カラ収益シ又ハ他人ニ賃貸シ又ハ然ノミナラス売払ヒ又ハ無償ノ名義ヲ以テ譲渡スコトヲ得可シ○若シ其権利ヲ賃貸スル時ハ其賃貸契約ヲ更新セサル可カラサル時期ト其賃貸契約ノ継続ス可キ時間ニ付テハ婚姻ノ契約及ヒ夫婦相互ノ権利ノ巻ニ於テ婦ノ財産ニ関シテ夫ノ為メニ定メタル規則ニ従ハサルヲ得ス 第五百九十六条 使用収益者ハ土地ノ漸積ニ依リ其使用収益権ヲ有スル物件ニ生シタル増加ヲ収益ス 第五百九十七条 使用収益者ハ地役ノ権利、通行ノ権利及ヒ一般ニ所有者ノ収益スルヲ得可キ総テノ権利ヲ収益シ且ツ之ヲ其所有者自身ノ如クニ収益ス 第五百九十八条 使用収益者ハ其使用収益権開始ノ時ニ当リ開取中ノモノタル金砿及ヒ石砿ヲ亦所有者ト同一ノ方法ヲ以テ収益ス然レトモ准許ヲ得スシテ為スコトヲ得サル開取ニ関スル時ハ使用収益者ハ国王(共和国大統領)ノ許ヲ得タル後ニ非サレハ之ヲ収益スルコトヲ得ス 使用収益者ハ未タ穿開セサル金砿及ヒ石砿ニ付キ何等ノ権利ヲモ有セス又未タ開取ヲ始メサル泥炭坑ニ付キ何等ノ権利ヲモ有セス又使用収益権ノ継続スル時間ニ発見スルコトアル可キ埋蔵財貨ニ付キ何等ノ権利ヲモ有セス 第五百九十九条 所有者ハ自己ノ所為ニ依リ又ハ如何ナル方法ヲ問ハス使用収益者ノ権利ヲ害スルコトヲ得ス 使用収益者ハ自己ノ方ニ於テモ其為シタリト称言スル所ノ改良ノ為メ物ノ価額ノ増加シタル時ト雖トモ使用収益権ノ止息スル時ニ至リ其改良ノ為メニ毫モ賠償ヲ得ント求ムルコトヲ得ス 然レトモ使用収益者又ハ其相続人ハ場所ヲ其原始ノ景状ニ復スルノ負任ヲ以テ其備ヘ置カシメタル鏡、画額及ヒ其他ノ装飾物ヲ移搬スルコトヲ得可シ 第二節 使用収益者ノ義務 第六百条 使用収益者ハ物ヲ其現在ノ景状ニ於テ受取ル可シ然レトモ所有者ノ面前ニ於テ又ハ法ニ適シテ之ヲ招喚シタル上ニテ其使用収益権ヲ受クル動産ノ目録及ヒ不動産ノ景状書ヲ作ラシメタル後ニ非サレハ収益ニ入ルコトヲ得ス 第六百一条 使用収益者ハ使用収益権設定ノ証書ヲ以テ免許セラレタルニ非サレハ良家父ニ於テ収益スルノ保証人ヲ立ツ可シ然レトモ其子ノ財産ニ付キ法律上ノ使用収益権ヲ有スル父母又ハ使用収益権ヲ貯存シタル売主又ハ贈与者ハ保証人ヲ立ツルニ及ハス 第六百二条 若シ使用収益者ノ保証人ヲ見出ササル時ハ不動産ヲ賃貸シ又ハ之ヲ第三ノ人ニ附託ス可シ 使用収益権中ニ包含シタル金額ハ之ヲ益用ス可シ 飲食品ハ之ヲ売リテ其代金ヲ亦同シク益用ス可シ 此場合ニ於テハ其金額ノ利息及ヒ貸賃ハ使用収益者ニ属スルモノトス 第六百三条 使用収益者ノ方ニ於テ保証人ヲ立テサル時ハ所有者其使用ニ依テ損敗スル動産ノ代金ヲ飲食品ノ代金ノ如クニ益用スル為メ其動産ヲ売ル可キ旨ヲ要求スルコトヲ得可シ然ル時ハ使用収益者其使用収益権ノ継続スル間其利息ヲ収益ス然レトモ使用収益者ハ其単一ナル誓約上ノ保証ニ依リ自己ノ使用ノ為メニ必要ナル動産ノ一部ヲ己レニ委附セラレンコトヲ訟求スルヲ得可ク而シテ裁判官ハ景況ニ従ヒ之ヲ命令スルコトヲ得可シ但シ使用収益者ハ其使用収益権ノ消滅ニ至リ右ノ動産ヲ還ス可キノ負任アリトス 第六百四条 保証人ヲ立ツルノ遅延ハ使用収益者ニ其権利ヲ有スルコトヲ得可キ果実ヲ失ハシムルコトナク其果実ハ使用収益権開始ノ時ヨリ其使用収益者ニ属ス可キモノトス 第六百五条 使用収益者ハ補理ノ修繕ノミヲ担任ス可シ 大修繕ハ所有者ノ負任タリ但シ使用収益権開始ノ後補理ノ修繕ヲ為ササルニ依リ其大修繕ヲ為ス可キニ至リシ時ハ格別ニシテ此場合ニ於テハ使用収益者其大修繕ヲモ亦担任ス可キモノトス 第六百六条 大修繕トハ大墻壁及ヒ天井ノ修繕、梁椽及ヒ屋蓋全部ノ改造並ニ堤防、支持壁、繞囲ノ全部ノ改造ヲ云フ 総テ其他ノ修繕ハ補理ノ修繕ナリトス 第六百七条 所有者ニ於テモ又使用収益者ニ於テモ朽廃シテ崩潰シタルモノ又ハ意外ノ事故ニ依リ破壊シタルモノヲ再建スルニ及ハス 第六百八条 使用収益者ハ其収益ノ間ハ租税及ヒ其他習慣上ニ於テ果実ノ負任ナリト看做ス所ノ諸件ノ如キ総テ其不動産ノ毎年ノ負任ヲ担任ス可シ 第六百九条 使用収益権ノ継続スル間ニ所有物ニ課セラルルコトアル可キ負任ニ関シテハ使用収益者及ヒ所有者ハ左ノ如ク之ヲ分担ス 所有者ハ之ヲ弁済ス可キノ義務アリテ使用収益者ハ利息ヲ其所有者ニ計算セサルヲ得ス 若シ使用収益者ノ之ヲ立替ヘタル時ハ使用収益権ノ終ニ至リ元金ヲ取戻スコトヲ得 第六百十条 遺嘱者ヨリ畢生間ノ年金収受権又ハ養料ヲ遺嘱ト為シタル時ハ使用収益権ノ全括ノ受遺嘱者ハ其遺嘱物ノ全部ヲ弁償セサルヲ得ス又使用収益権ノ全括ノ名義ニ於ケル受遺嘱者ハ其収益ニ准シテ其遺嘱物ヲ弁償セサルヲ得ス但シ此等ノ者ノ方ニ毫モ取戻ヲ為スコトヲ得サルモノトス 第六百十一条 特定ノ名義ニ於ケル使用収益者ハ其不動産ヲ書入質ト為シタル負債ヲ担任セス若シ其者ノ右ノ負債ヲ弁済スルニ強ラレタル時ハ所有者ニ対シテ償還ヲ訟求スルコトヲ得但シ生存中ノ贈与及ヒ遺嘱ノ巻第千二十条ニ記スル所ハ格別ナリトス 第六百十二条 全括ノ使用収益者又ハ全括ノ名義ニ於ケル使用収益者ハ所有者ト共ニ左ノ如ク負債ノ弁済ヲ分担セサル可カラス 使用収益権ヲ受クル不動産ノ価額ヲ見積リ然ル後其価額ニ准シテ負債ノ分担ヲ定ム 若シ使用収益者其不動産ノ分担セサル可カラサル金額ヲ立替ユルコトヲ欲シタル時ハ其使用収益権ノ終ニ至リ毫モ利息ヲ附セスシテ其元金ヲ使用収益者ニ返還ス可シ 若シ使用収益者ノ其立替ヲ為スコトヲ欲セサル時ハ所有者ハ其金額ヲ弁済シ使用収益者ヲシテ其使用収益権ノ継続スル間ノ利息ヲ己レニ算計セシメ又ハ使用収益権ヲ受クル財産ノ一部分ヲ其恰モ相当レル額ニ充ツル迄売払ハシムルコト自由ナリトス 第六百十三条 使用収益者ハ収益ニ関スル訴訟ノ費用及ヒ其他右ノ訴訟ニ依リ言渡サルルコトアル可キ金額ノミヲ担任ス可シ 第六百十四条 若シ使用収益権ノ継続スル間ニ第三ノ人カ其不動産ニ付キ或ル侵奪ヲ行ヒ又ハ其他ノ方法ニテ所有者ノ権利ニ妨害ヲ行フ時ハ使用収益者ヨリ其由ヲ所有者ニ告知ス可シ若シ其告知ヲ為ササル時ハ使用収益者己レ自カラ行ヒタル損壊ニ付キ責ニ任ス可キカ如ク其所有者ノ為メニ生スルコトアル可キ総テノ損害ノ責ニ任ス可キモノトス 第六百十五条 若シ一頭ノ獣ノミニ付キ使用収益権ヲ設定シタル時使用収益者ノ過失ニアラスシテ其獣ノ斃レタルニ於テハ其使用収益者ハ他ノ獣ヲ還スニ及ハス又其評定ノ価額ヲ弁済スルニ及ハス 第六百十六条 若シ使用収益権ヲ設定シタル獣群ノ使用収益者ノ過失ニアラス偶然ノ事故ニ依リ又ハ病ニ依テ全ク斃レタル時ハ使用収益者ハ所有者ニ対シテ唯其皮又ハ皮ノ価額ヲ算計ス可キノミトス 若シ其獣群ノ全ク斃レタルニ非サル時ハ使用収益者其増殖シタル獣ノ数ニ充ツル迄其斃レタル獣数ヲ代補ス可シ 第三節 使用収益権ノ終ル方法 第六百十七条 使用収益権ハ左ノ諸件ニ依テ消滅ス 使用収益者ノ死去及ヒ准死 使用収益権ヲ附与シタル時間ノ終ル事 使用収益者及ヒ所有者タル二箇ノ分限ヲ一人ニテ併合シ即チ合同スル事 三十年間其権利ヲ使用セサル事 使用収益権ヲ設定シタル物ノ全ク滅尽スル事 第六百十八条 使用収益権ハ使用収益者ノ其不動産ニ損壊ヲ行ヒ若クハ補理ヲ為サスシテ其不動産ヲ損敗セシメ以テ其収益ヲ妄用シタルニ依リ亦止息スルコトアル可シ 使用収益者ノ債主ハ自己ノ権利ノ保存ノ為メ争訟ニ参加スルコトヲ得可ク又其債主ハ使用収益者ノ行ヒタル損壊ノ補償及ヒ将来ノ為メノ担保ヲ為サント供陳スルコトヲ得可シ 裁判官ハ景況重劇ノ度ニ従ヒ或ハ其使用収益権ノ完全ノ消滅ヲ宣告シ或ハ所有者ヨリ使用収益者又ハ其受権人ニ其使用収益権ノ止息ス可キ時ニ至ル迄毎年特定ノ金額ヲ弁済スルノ負任アルニ非サレハ所有者ノ其使用収益権ヲ負ヒタル物品ノ収益ヲ回復スルコトヲ命令セサルヲ得可シ 第六百十九条 各人民ニ附与シタルモノニ非サル使用収益権ハ三十年ノミ継続スルモノトス 第六百二十条 第三ノ人カ特定ノ年齢ニ達スルニ至ル迄附与シタル使用収益権ハ仮令其第三ノ人ノ特定ノ年齢ニ至ラサル前ニ死去セシ時ト雖トモ其時期ニ至ル迄継続スルモノトス 第六百二十一条 使用収益権ヲ受クル物ノ売払ハ其使用収益者ノ権利ニ於テ毫モ変更ヲ為スコトナク使用収益者ハ継続シテ其使用収益権ニ付キ収益ス可シ但シ使用収益者ノ明確ニ其使用収益権ヲ放棄シタル時ハ格別ナリトス 第六百二十二条 使用収益者ノ債主ハ自己ノ損害ニ於テ其使用収益者ノ為シタル放棄ヲ取消サシムルコトヲ得可シ 第六百二十三条 若シ使用収益権ヲ受クル物ノ一部分ノミノ滅尽シタル時ハ其残ル所ノモノニ付キ使用収益権ヲ保存スルモノトス 第六百二十四条 若シ建造物ノミニ付キ使用収益権ヲ設定シ而シテ其建造物ノ火災又ハ其他ノ偶然ノ事故ニ依リ滅尽シ又ハ其朽廃シテ崩壊シタル時ハ使用収益者ハ其地所及ヒ材料ニ付キ収益スルノ権利ヲ有セス 若シ建造物ノ添ヒタル土地ニ付キ使用収益権ヲ設定シタル時ハ使用収益者ハ其地所及ヒ材料ニ付キ収益ス可シ 第二章 使用権及ヒ住居権 第六百二十五条 使用ノ権利及ヒ住居ノ権利ハ使用収益権ト同一ノ方法ヲ以テ之ヲ設定シ及ヒ之ヲ失フモノトス 第六百二十六条 人ハ使用収益権ノ場合ニ於ケル如ク予メ保証人ヲ立ツルコトナク且ツ景状書及ヒ目録ヲ作ルコトナクシテ使用権及ヒ住居権ニ依リ収益スルコトヲ得ス 第六百二十七条 使用権者及ヒ住居権者ハ良家父ニ於テ収益セサルヲ得ス 第六百二十八条 使用ノ権利及ヒ住居ノ権利ハ之ヲ設定シタル権原ニ依テ之ヲ規定ス可ク且ツ其権原ノ所定ニ従テ之レカ広狭ヲ定ム可シ 第六百二十九条 若シ其権原ニ此等ノ権利ノ広狭ヲ明示セサル時ハ以下ノ如ク之ヲ規定ス可シ 第六百三十条 土地ノ果実ノ使用権ヲ有スル者ハ自己ノ需要ト其家族ノ需要トノ為メニ必要ナルモノノ外其果実ヲ得ント要求スルコトヲ得ス 其使用権ヲ有スル者ハ使用権許与ノ後ニ挙ケタル子ノ需要ノ為メト雖モ其果実ヲ得ント要求スルコトヲ得可シ 第六百三十一条 使用権者ハ其権利ヲ他人ニ譲渡シ又ハ賃貸スルコトヲ得ス 第六百三十二条 家屋ニ於ケル住居ノ権利ヲ有スル者ハ其権利ヲ附与セラレタル時期ニ於テハ未タ結婚セサリシ時ト雖トモ其家族ト共ニ右ノ家屋ニ居住スルコトヲ得可シ 第六百三十三条 住居ノ権利ハ其権利ヲ許与セラレタル者及ヒ其家族ノ住居ノ為メニ必要ナル所ノモノニ限ルモノトス 第六百三十四条 住居ノ権利ハ之ヲ譲渡シ又ハ賃貸スルコトヲ得ス 第六百三十五条 若シ使用権者ノ其土地ノ総テノ果実ヲ吸収シ又ハ家屋ノ全部ニ占居スル時ハ使用権者ハ使用収益者ノ如クニ耕作ノ費用、補理ノ修繕及ヒ租税ノ弁済ヲ負担ス可シ 若シ其使用権者ノ果実ノ一部分ノミヲ収取シ又ハ家屋ノ一部分ノミニ占居スル時ハ其収益スル所ノモノノ割合ヲ以テ分担スルモノトス 第六百三十六条 森林ノ使用権ハ特別ノ法律ヲ以テ之ヲ規定ス 第四巻 地役即チ地務(千八百四年一月三十一日決定二月十日宣令) 第六百三十七条 地役トハ他ノ所有者ニ属スル不動産ノ使用及ヒ便益ノ為メ一箇ノ不動産ニ課セラレタル負任ヲ伝フ 第六百三十八条 地役ハ一ノ不動産ノ他ノ不動産ニ対スル優等ヲ設定セス 第六百三十九条 地役ハ或ハ土地ノ天然ノ位置ヨリ生シ或ハ法律ニ依リ課セラレタル義務ヨリ生シ或ハ所有者ノ間ノ合意ヨリ生ス 第一章 土地ノ位置ヨリ生スル地役 第六百四十条 低キ土地ハ更ニ高キ土地ニ対シ其土地ヨリ人力ノ助ニ依ラスシテ自然ニ流下スル水ヲ受クルコトヲ負担ス 低キ土地ノ所有者ハ其流下ヲ防止スル所ノ堤防ヲ築クコトヲ得ス 高キ土地ノ所有者ハ低キ土地ノ地役ヲ重劇ナラシムル所ノ諸件ヲ為スコトヲ得ス 第六百四十一条 自己ノ土地内ニ水源ヲ有スル者ハ自己ノ随意ニ之ヲ用フルコトヲ得但シ低キ土地ノ所有者カ権原又ハ期満効ニ依リ獲得スルコトヲ得タル権利ト相触ルルコトナカル可シ 第六百四十二条 此場合ニ於テ期満効ハ低キ土地ノ所有者カ自己ノ所有地内ニ水ノ降下流通ヲ容易ナラシムル為メニ設ケタル外見ノ工事ヲ為シ終リタル時ヨリ起算シテ三十年間ノ間断ナキ収益ニ依ルニ非サレハ之ヲ獲得スルコトヲ得ス 第六百四十三条 水源ノ所有者ハ邑、村又ハ小村ノ人民ニ必要ナル水ヲ給スル時ハ其水路ヲ変スルコトヲ得ス然レトモ若シ其人民ニ於テ其水ノ使用権ヲ獲得シ又ハ其期満効ヲ得タルコトナキ時ハ所有者賠償ヲ得ント求ムルコトヲ得可シ但シ其賠償ハ鑑定人之ヲ規定ス可キモノトス 第六百四十四条 財産ノ区別ノ巻第五百三十八条ニ依リ公領ノ附属ナリト定メラレタルモノニ非サル流水ノ傍側ニアル土地ノ所有者ハ其所有地ノ潅水ノ為メ流水ノ通路ニ於テ之ヲ用フルコトヲ得可シ 其流水ノ通過スル土地ノ所有者ハ然ノミナラス自己ノ土地内ニテ其流過スル所ノ間ノ場所ニ於テ之ヲ用フルコトヲ得可シ然レトモ其土地内ヨリ流出スル所ニ於テハ之ヲ其当然ノ流路ニ復ス可キノ負任アルモノトス 第六百四十五条 若シ其水ノ有益ナル可キ所有者数人ノ間ニ争訟ノ起ル時ハ裁判所ニ於テ其裁判ヲ宣告スルニ付キ農業ノ利益ヲ所有権ニ対スル崇敬ト相調和セサルヲ得ス而シテ又如何ナル場合ニ於テモ水路及ヒ水ノ使用ニ付テノ特別ナル地方ノ規則ヲ遵守セサルヲ得サルモノトス 第六百四十六条 各所有者ハ其相接スル所有地ノ立界ヲ為スコトニ隣人ヲ強ユルコトヲ得可シ○其立界ハ共同ノ費用ヲ以テ之ヲ為スモノトス 第六百四十七条 各所有者ハ第六百八十二条ニ記シタル例外ヲ除クノ外自己ノ土地ヲ繞囲スルコトヲ得可シ 第六百四十八条 繞囲ヲ為サント欲スル所有者ハ其一邑又ハ数邑ノ人民共同牧畜場ヨリ取去リタル地所ノ割合ヲ以テ其共同牧畜ニ於ケル自己ノ権利ヲ失フモノトス 第二章 法律ニ依リ設定シタル地役 第六百四十九条 法律ニ依リ設定シタル地役ハ公同ノ便益又ハ邑ノ便益又ハ各人民ノ便益ヲ以テ目的トス 第六百五十条 公同ノ便益又ハ邑ノ便益ノ為メニ設定シタル地役ハ舟ヲ通シ又ハ筏ヲ通ス可キ河川ノ傍側ニ於ケル沿岸ノ小径並ニ公同又ハ各邑ノ道路及ヒ其他ノ工事ノ造営又ハ修繕ヲ以テ目的トス 地役ノ此種類ニ関スル諸件ハ特別ノ法律又ハ規則ヲ以テ之ヲ定ム 第六百五十一条 法律ハ各所有者ヲシテ総テノ合意ニ係ハラス相互ニ対シテ種々ノ義務ヲ負担セシム 第六百五十二条 其義務ノ一部分ハ田野警察ノ法律ヲ以テ之ヲ規定ス 其他ノ一部分ハ両属ノ墻壁及ヒ溝渠、対墻ヲ設ク可キ場合、隣人ノ所有地ニ対スル観望、屋蓋ノ雨樋、通行ノ権利ニ関スルモノトス 第一節 両属ノ墻壁及ヒ溝渠 第六百五十三条 都府及ヒ田舎ニ於テ低キ家屋ノ高キ家屋ト依着スル尽頭ノ所ニ至ル迄建造物ノ間ノ分界又ハ中庭及ヒ園庭ノ間ノ分界ニ用立チ及ヒ然ノミナラス田野ニ於ケル繞囲地ノ間ノ分界ニ用立ツ総テノ墻壁ハ反対ノ証券又ハ記標アルニ非サレハ両属ノモノト思量セラル可シ 第六百五十四条 若シ墻壁ノ頂カ其一方ノ側面ハ鉛直ニシテ他ノ一方ハ斜面ヲ顕ハス時ハ両属ニアラサルノ記標アリトス 又墻壁ヲ造ル時ニ附シタル墻簷又ハ石ノ雨搭及ヒ墻簷受ケ石ノ一方ノミニアル時ハ又右ノ記標アリトス 此場合ニ於テハ其墻壁ハ雨樋又ハ墻簷ノ受ケ石及ヒ石ノ雨搭ノアル一方ノ所有者ノミニ属スルモノト看做ス可シ 第六百五十五条 両属墻壁ノ修繕及ヒ改造ハ其墻壁ニ付キ権利ヲ有スル各人ノ負任トス但シ其各人ノ権利ニ比准ス可シ 第六百五十六条 然レトモ両属墻壁ノ各共同所有者ハ其両属ノ権利ヲ放棄スルニ依リ修繕及ヒ改造ヲ分担スルヲ免カルルコトヲ得可シ但シ之レカ為メニハ其両属墻壁ノ右ノ所有者ニ属スル所ノ建造物ヲ支持セサルコトヲ必要トス 第六百五十七条 各共同所有者ハ其両属墻壁ニ傍フテ造築ヲ為サシメ及ヒ其厚サノ全部中五十四「ミルリメートル」ニ(「プース」)ヲ除キテ之ニ棟材又ハ梁柱ヲ入レシムルコトヲ得可シ但シ其隣人ノ亦自カラ右ト同一ノ場所ニ棟材ヲ据ヘ付ケ又ハ其場所ニ傍フテ煖炉ヲ設ケント欲スル場合ニ於テハ其墻壁ノ央ニ至ル迄其棟材ヲ削取ラシムルノ権利ト相触ルルコトナカル可シ 第六百五十八条 各共同所有者ハ両属墻壁ヲ増高セシムルコトヲ得可シ然レトモ其共同所有者ハ其増高ノ費額、共同繞囲ノ高サ以上ノ補理ノ修繕及ヒ右ノ外其増高ノ割合ヲ以テ其価額ニ准シタル負載ノ賠償ヲ己レ一人ニテ弁済セサル可カラス 第六百五十九条 若シ両属墻壁ノ其増高ニ堪ユルコト能ハサル時ハ之ヲ増高セント欲スル者ハ自己ノ費用ヲ以テ其墻壁ヲ全ク改造セシメサル可カラス而シテ又其厚サノ増分ハ自己ノ方ヨリ之ヲ取ラサル可カラス 第六百六十条 増高ヲ分担セサリシ隣人ハ其増高ニ付テノ費額ノ一半ト其厚サヲ増シタル時ハ厚サノ増分ノ為メニ給シタル地所ノ一半ノ価額トヲ弁済スルニ依リ其増高ノ部分ノ両属権ヲ獲得スルコトヲ得可シ 第六百六十一条 一箇ノ墻壁ニ接スル土地ノ各所有者ハ其墻壁ノ所有主ニ其価額ノ一半又ハ其両属ト為サント欲スル部分ノ価額ノ一半ト其墻壁ヲ造リタル地所ノ価額ノ一半トヲ償還スルニ依リ亦其墻壁ノ全部又ハ一部ヲ両属ノモノト為スノ権能ヲ有スルモノトス 第六百六十二条 比隣者ノ中一方ハ他ノ一方ノ承諾ヲ得ルコトナク若シ又他ノ一方ノ否拒スルニ於テハ新タナル工事ノ他ノ一方ノ権利ヲ害セサルニ必要ナル方法ヲ鑑定人ヲシテ規定セシメタルコトナクシテ両属墻壁ノ体中ニ穴ヲ穿チ又ハ一箇ノ工作物ヲ之ニ附着シ又ハ支持セシムルコトヲ得ス 第六百六十三条 都府及ヒ郭外ノ地ニ於テハ各人其隣人ヲシテ其都府及ヒ郭外ニアル家屋、中庭及ヒ園庭ノ分界ヲ為ス繞囲ノ造営及ヒ修繕ヲ分担セシムルニ強ユルコトヲ得可シ但シ其繞囲ノ高サハ特別ノ規則又ハ常久ニシテ衆人ノ認知スル習慣ニ従ヒ之ヲ定ム可ク若シ其習慣及ヒ規則ノアラサル時ハ将来造営シ又ハ改造ス可キ比隣者ノ間ノ分界ノ墻壁ハ総テ人口五万以上ノ都府ニ於テハ墻簷ヲ包含シテ少クトモ三十二「デシメートル」(十「ピエー」)ノ高サヲ有シ又其他ノ都府ニ於テハ二十六「デシメートル」(八「ピエー」)ノ高サヲ有セサル可カラス 第六百六十四条 家屋ノ数箇ノ層階ノ相異ナレル所有者ニ属スル時若シ所有権ノ証券ニ其修繕及ヒ改造ノ仕方ヲ規定セサルニ於テハ左ノ如ク其修繕及ヒ改造ヲ為ササルヲ得ス 大ナル墻壁及ヒ屋蓋ハ各所有者ニ属スル所ノ層階ノ価額ニ准シテ其各所有者ノ負任タリ 各層階ノ所有者ハ其踏歩スル所ノ踏板ヲ造ル可シ 第一層ノ所有者ハ其第一層ニ登ル梯子ヲ造リ第二層ノ所有者ハ第一層ニ登ル梯子ヨリシテ第二層ニ登ル梯子ヲ造リ其他ノ層階ノ所有者ハ皆之ニ倣フ可シ 第六百六十五条 両属ノ墻壁又ハ一箇ノ家屋ヲ改造シタル時ハ其能働及ヒ所働ノ地役ハ其新タナル墻壁又ハ新タナル家屋ニ対シテ継続スルモノトス然レトモ其地役ヲ重劇ナラシムルコトヲ得ス且ツ期満効ヲ獲得スル前ニ其改造ヲ為スコトヲ必要トス 第六百六十六条 (千八百八十一年八月二十日ノ法律ヲ以テ左ノ如ク更改ス)総テ不動産ノ分界ヲ為ス繞囲ハ両属ノモノト看做ス可シ但シ繞囲ノ景状ニアル不動産ノ唯一箇ノミタル時又ハ反対ノ権原、期満効又ハ記標アル時ハ格別ナリトス 溝渠ニ付テハ土手又ハ堀リ出シタル泥土ノ其溝渠ノ一方ノミニアル時ハ両属ニ非サルノ記標アリトス 溝渠ハ其堀出シタル泥土ノアル一方ノ者ノミニ属スルト看做ス可シ 第六百六十七条 (千八百八十一年八月二十日ノ法律ヲ以テ左ノ如ク更改ス)両属ノ墻壁ハ共同ノ費用ヲ以テ之ヲ補理セサル可カラス然レトモ隣人ハ其両属権ヲ放棄スルニ依リ右ノ義務ヲ免カルルコトヲ得可シ 若シ其溝渠ノ通常、水ノ流出ニ用立ツ時ハ右ノ権能止息スルモノトス 第六百六十八条 (千八百八十一年八月二十日ノ法律ヲ以テ左ノ如ク更改ス)両属ノモノニ非サル溝渠又ハ籬墻ニ接スル不動産ヲ所有スル所ノ隣人ハ其溝渠又ハ籬墻ノ所有者ヲシテ其両属権ヲ己レニ譲渡サシムルニ強ユルコトヲ得ス 両属ノ籬墻ノ共同所有者ハ自己ノ所有地ノ境界ニ至ル迄之ヲ廃滅スルコトヲ得可シ但シ其者ハ右ノ境界ニ一箇ノ墻壁ヲ造ル可キノ負任アリトス 同上ノ規則ハ繞囲ノミニ用立ツ所ノ両属溝渠ノ共同所有者ニ適用ス可キモノトス 第六百六十九条 (千八百八十一年八月二十日ノ法律ヲ以テ左ノ如ク更改ス)籬墻ノ両属ノ継続スル間ハ其生産物ハ一半ツツ各所有者ニ属スルモノトス 第六百七十条 (千八百八十一年八月二十日ノ法律ヲ以テ左ノ如ク更改ス)両属ノ籬墻中ニアル樹木ハ其籬墻ノ如クニ両属ノモノタリ○二箇ノ不動産ノ分界線ニ植ヘタル樹木ハ亦両属ノモノト看做ス可シ○若シ其樹木ノ枯レタル時又ハ之ヲ伐リ或ハ抜キタル時ハ一半ツツ其樹木ヲ分ツ可シ○果実ハ其自然ニ落チタルト故ラニ之ヲ落シタルト之ヲ摘採シタルトヲ問ハス共同ノ費用ヲ以テ之ヲ収取シ而シテ亦一半ツツ之ヲ分ツ可シ 各所有者ハ両属ノ樹木ヲ抜キ取ラント要求スルノ権利アリ 第六百七十一条 (千八百八十一年八月二十日ノ法律ヲ以テ左ノ如ク更改ス)現ニ存在スル特別ノ規則又ハ常久ニシテ衆人ノ認知スル習慣ニ依リ定メタル距離若シ又其規則及ヒ習慣ノアラサル時ハ二「メートル」ノ高サニ超ユル植附ニ付テハ二箇ノ不動産ノ分界線ヨリ二「メートル」ノ距離又其他ノ植附ニ付テハ半「メートル」ノ距離ニ非サレハ隣地ノ境界ニ接近シテ樹木、小樹、矮樹ヲ植ユルコトヲ許サス 各種ノ樹木、小樹、矮樹ハ何等ノ距離ヲモ遵守スルニ及ハスシテ分界墻壁ノ双方ニ樹架トシテ植ユルコトヲ得可シ然レトモ其墻壁ノ頂ニ超ユルコトヲ得サルモノトス 若シ墻壁ノ両属ノモノニ非サル時ハ其所有者ノミニ於テ右ノ墻壁ニ自己ノ樹架ヲ支持セシムルノ権利アルモノトス 第六百七十二条 (千八百八十一年八月二十日ノ法律ヲ以テ左ノ如ク更改ス)隣人ハ法律上ノ距離ヨリ更ニ少ナキ距離ニ植エタル樹木、小樹、矮樹ヲ抜キ又ハ前条ニ定メタル高サニ減ス可キコトヲ要求スルヲ得可シ但シ権原、家父ノ用方又ハ三十年ノ期満効アル時ハ格別ナリトス 若シ其樹木ノ枯レ又ハ之ヲ伐リ或ハ抜キタル時ハ隣人ハ法律上ノ距離ヲ遵守スルニ非サレハ之ニ代ヘテ更ニ他ノ樹木ヲ植ユルコトヲ得ス 第六百七十三条 (千八百八十一年八月二十日ノ法律ヲ以テ左ノ如ク更改ス)隣人ノ樹枝ノ侵出シタル土地ノ所有者ハ隣人ニ之ヲ伐ルヲ強ユルコトヲ得可シ○其枝ヨリ自然ニ落ツル所ノ果実ハ右ノ所有者ニ属スルモノトス 若シ根ノ自己ノ土地内ニ侵出シタル時ハ自カラ之ヲ伐ルノ権利アリ 根ヲ伐リ又ハ枝ヲ伐ラシムルノ権利ハ期満効ヲ得可カラサルモノトス 第二節 或ル造営ノ為メニ必要ナル距離及ヒ中間ノ工事 第六百七十四条 両属タルト否トヲ問ハス一箇ノ墻壁ニ接近シテ井又ハ糞坑ヲ堀ラシムル者 其墻壁ニ接シテ煖炉又ハ火焼所、鋳造所、竃、炉ヲ造ラント欲スル者 其墻壁ニ倚セ獣欄ヲ設ケント欲スル者 又ハ其墻壁ニ傍フテ塩庫又ハ腐蝕物ノ貯場ヲ造設セント欲スル者 此等ノ者ハ其隣人ニ害スルヲ防ク為メ右ノ諸件ニ付テノ特別ノ規則及ヒ習慣ニ定メタル距離ヲ存シ又ハ之ト同一ノ規則及ヒ習慣ニ定メタル工事ヲ為ス可キノ義務アルモノトス 第三節 隣人ノ所有地ニ対スル観望 第六百七十五条 比隣者ノ中一方ハ其方法ノ如何ヲ問ハス仮令開閉セサル玻璃板ヲ用フルト雖モ他ノ一方ノ承諾ヲ得スシテ両属ノ墻壁ニ一箇ノ窓又ハ穴口ヲ作ルコトヲ得ス 第六百七十六条 直チニ他人ノ不動産ニ接シタル両属ニ非サル墻壁ノ所有者ハ其墻壁ニ鉄ノ格子及ヒ開閉セサル玻璃板ヲ用フル明リ窓又ハ窓ヲ作ルコトヲ得可シ 其窓ニハ明キ間ノ多クトモ一「デシメートル」(三「プウス」八「リーヌ」許)タル鉄ノ格子ト開閉セサル玻璃板ノ框トヲ具ヘサルヲ得ス 第六百七十七条 其窓又ハ明リ窓ハ平間ニ於テハ其光明ヲ通セント欲スル房室ノ踏板又ハ地台ノ上二十六「デシメートル」(八「ピエー」)ニ非サレハ之ヲ設クルコトヲ得ス又其上ノ層階ニ於テハ踏板ノ上十九「デシメートル」(六「ピエー」)ニ非サレハ之ヲ設クルコトヲ得ス 第六百七十八条 墻壁ト隣人ノ不動産トノ間ニ十九「デシメートル」(六「ピエー」)ノ距離アルニ非サレハ其隣人ノ不動産ニ繞囲アルト繞囲アラサルトヲ問ハス其墻壁ニ直視ノ観望窓又ハ望視ノ窓ヲ作ルコトヲ得ス又ハ隣人ノ不動産ニ対スル露台或ハ其他此類ノ突出シタル物ヲ作ルコトヲ得ス 第六百七十九条 六「デシメートル」(二「ピエー」)ノ距離アルニ非サレハ同上ノ不動産ニ対スル横視又ハ斜視ノ観望窓ヲ作ルコトヲ得ス 第六百八十条 前二条ニ記シタル距離ハ穴口ヲ作ル所ノ墻壁ノ外部ノ側面ヨリ二箇ノ所有地ノ分界線ニ至ル迄ニ之ヲ計算シ又露台或ハ其他此類ノ突出シタル物アル時ハ其外部ノ線ヨリ二箇ノ所有地ノ分界線ニ至ル迄ニ之ヲ計算ス可キモノトス 第四節 屋蓋ノ雨樋 第六百八十一条 各所有者ハ雨水ヲ自己ノ地所内又ハ公路ニ流下セシムル方法ニテ屋蓋ヲ設ケサル可カラス其各所有者ハ隣人ノ土地ニ雨水ヲ流入ラシムルコトヲ得ス 第五節 通行ノ権利 第六百八十二条 (千八百八十一年八月二十日ノ法律ヲ以テ左ノ如ク更改ス)環繞セラレテ公路ニ一箇ノ出口モアラサル土地ノ所有者又ハ其所有地ノ農業若クハ工業上ノ収益ノ為メニ不充分ナル一箇ノ出口ノミヲ有スル土地ノ所有者ハ其生セシムルコトアル可キ損害ニ比准シタル賠償ノ負任ヲ以テ其隣人ノ土地ニ通行ヲ得ント求ムルコトヲ得可シ 第六百八十三条 (千八百八十一年八月二十日ノ法律ヲ以テ左ノ如ク更改ス)其通行路ハ原則ニ於テハ其環繞セラレタル土地ヨリ公路ニ至ル迄其通路ノ最モ短キ方ニ於テ之ヲ取ラサルヲ得ス 然レトモ通行路ハ其通行ヲ受クル土地ノ所有者ニ損害ノ最モ少ナキ場所ニ之ヲ定メサルヲ得ス 第六百八十四条 (千八百八十一年八月二十日ノ法律ヲ以テ左ノ如ク更改ス)若シ売買、交換、分派又ハ総テ其他ノ契約ニ依レル土地ノ分割ヨリ環繞地ヲ生シタル時ハ此等ノ所為ノ目的ヲ為シタル地所ノミニ付キ通行ヲ得ント求ムルコトヲ得可シ 然レトモ其分割シタル土地ニ充分ナル通行路ヲ設クルコトヲ得サル場合ニ於テハ第六百八十二条ヲ適用ス可キモノトス 第六百八十五条 (千八百八十一年八月二十日ノ法律ヲ以テ左ノ如ク更改ス)環繞ノ原由ノ為メノ通行地役ノ設ケ場所及ヒ其執行ノ仕方ハ三十年間ノ継続シタル使用ニ依テ之ヲ定ム 第六百八十二条ニ定メタル場合ニ於ケル賠償ノ訴ハ期満効ヲ得可キモノトス而シテ其賠償ノ訴ヲ最早受理ス可カラサル時ト雖トモ通行ハ之ヲ継続スルコトヲ得可シ 第三章 人ノ所為ニ依リ設定シタル地役 第一節 財産ニ付キ設定スルコトヲ得可キ地役ノ種々ノ種類 第六百八十六条 所有者ハ其所有物ニ付キ又ハ其所有物ノ為メ其好ム所ノ地役ヲ設定スルコトヲ許サルルモノトス然レトモ其設定シタル役務ハ人ニ之ヲ課シ又ハ人ノ為メニ之ヲ課セス唯不動産ニ之ヲ課シ及ヒ不動産ノ為メニ之ヲ課スルコトヲ必要トシ其他又其役務ハ毫モ公ケノ秩序ニ反スルコトナキヲ必要トス 斯クノ如クニ設定シタル地役ノ使用及ヒ広狭ハ之ヲ設立スル所ノ権原ヲ以テ之ヲ規定シ若シ其権原ノアラサル時ハ以下ノ規則ヲ以テ之ヲ規定ス 第六百八十七条 地役ハ或ハ建造物ノ使用ノ為メニ之ヲ設定シ或ハ土地ノ使用ノ為メニ之ヲ設定ス 第一種ノ地役ハ之ヲ要求ス可キ建造物ノ都府ニアルト田舎ニアルトヲ問ハス之ヲ名ケテ市中ノモノト云フ 第二種ノ地役ハ之ヲ名ケテ田野ノモノト云フ 第六百八十八条 地役ハ或ハ継続、或ハ不継続トス 継続ノ地役トハ其使用カ人ノ現在ノ所為ヲ必要トセスシテ引続キ又ハ引続クコトヲ得ル所ノモノヲ云フ、水ノ導引、雨樋、観望及ヒ其他此種類ノモノ是レナリ 不継続ノ地役トハ之ヲ執行スル為メニ人ノ現在ノ所為ヲ必要トスル所ノモノヲ云フ通行ノ権利、汲水ノ権利、牧畜ノ権利及ヒ其他此類ノモノ是レナリ 第六百八十九条 地役ハ外見又ハ不外見トス 外見ノ地役トハ門、窓、引水管ノ如キ外部ノ工事ニ依テ知ルルモノヲ云フ 不外見ノ地役トハ其存在ノ外部ノ標示ナキモノヲ云フ例ヘハ土地ニ造築スルノ禁又ハ定マリタル高サニ非サレハ造築ス可カラサルノ禁ノ如キ是レナリ 第二節 地役ヲ設定スル方法 第六百九十条 継続且ツ外見ノ地役ハ権原又ハ三十年間ノ占有ニ依テ獲得スルモノトス 第六百九十一条 継続ニシテ不外見ノ地役及ヒ不継続ニシテ外見又ハ不外見ノ地役ハ権原ニ依ルニ非サレハ之ヲ設定スルコトヲ得ス 記臆ス可カラサル占有ト雖トモ右ノ地役ヲ設定スルニ足ラサルモノトス然レトモ占有ヲ以テ此性質ノ地役ヲ獲得スルコトヲ得可キ地方ニ於テ右ノ方法ニ依リ既ニ獲得シタル地役ヲ今日ニ至リテ取消サント求ムルコトヲ得ス 第六百九十二条 家父ノ用方ハ継続且ツ外見ノ地役ニ関シテハ権原ニ等シキ効力アリトス 第六百九十三条 現在分割シタル二箇ノ不動産カ同一ノ所有者ニ属シ且ツ其所有者カ其地役ヲ生スル景状ニ物件ヲ為シタルノ証アル時ニ非サレハ家父ノ用方アラサルモノトス 第六百九十四条 二箇ノ不動産ノ間ニ地役ノ外見ノ標示ノ存在スルアリテ其所有者契約上ニ地役ニ関スル合意ヲ毫モ定ムルコトナクシテ其不動産中ノ一箇ヲ処分シタル時ハ其地役ハ所有権ヲ移転シタル不動産ノ為メ又ハ其不動産ニ対シ能働又ハ所働ニ継続シテ存在スルモノトス 第六百九十五条 地役設立ノ権原ハ期満効ニ依リ獲得スルコトヲ得サルモノニ関シテハ服務スル不動産ノ所有者ヨリ出テタル地役認定ノ権原ニ非サレハ之ニ代換スルコトヲ得ス 第六百九十六条 地役ヲ設定シタル時ハ之ヲ使用スルニ必要ナル諸件ヲ附与シタルモノト看做ス可シ 故ニ他人ノ井泉ニ於テ水ヲ汲ムノ地役ハ已ムヲ得スシテ通行ノ権利ヲ惹起ス 第三節 地役ヲ要求ス可キ不動産所有者ノ権利 第六百九十七条 地役ヲ要求ス可キ者ハ其地役ヲ使用シ及ヒ之ヲ保存スルニ必要ナル総テノ工事ヲ為スノ権利アリ 第六百九十八条 其工事ハ右ノ者ノ費用ニテ為ス可ク服従シタル不動産ノ所有者ノ費用ニテ為スモノニ非ス但シ其地役設定ノ権原ニ反対ヲ示シタル時ハ格別ナリトス 第六百九十九条 服従シタル不動産ノ所有者カ権原ニ依リ地役ノ使用又ハ保存ノ為メニ必要ナル工事ヲ自己ノ費用ニテ為スコトヲ負任セラレタル場合ニ於テモ其服従シタル不動産ヲ其地役ヲ要求ス可キ不動産ノ所有者ニ委付スルニ依リ常ニ其負任ヲ免カルルコトヲ得可シ 第七百条 若シ地役設定ノ利益ヲ受クル不動産ヲ分割シタル時ハ其各箇ノ部分ノ為メニ地役ヲ要求ス可キモノトス然レトモ服従シタル不動産ノ景状ヲ重劇ナラシムルコトナカル可シ 故ニ例ヘハ通行ノ権利ニ関スル時ノ如キ各共同所有者ハ同一ノ場所ニ於テ其権利ヲ執行セサルヲ得ス 第七百一条 地役ヲ負ヒタル不動産ノ所有者ハ其地役ノ使用ヲ減少シ又ハ其使用ヲ更ニ不便ナラシム可キ諸件ヲ為スコトヲ得ス 故ニ其所有者ハ場所ノ景状ヲ変シ又ハ地役ノ執行ヲ其原来定メシ所ヨリ異ナリタル場所ニ移スコトヲ得ス 然レトモ其原来ノ所定カ服従シタル不動産ノ所有者ノ為メ更ニ重劇ノモノトナリ又ハ其所有者ノ有益ナル修繕ヲ為スノ妨ケトナル時ハ其所有者ヨリ他ノ不動産ノ所有者ニ其権利執行ノ為メ同シク便益ナル場所ヲ供陳スルコトヲ得可ク而シテ他ノ不動産ノ所有者ハ之ヲ否拒スルコトヲ得サルモノトス 第七百二条 地役ノ権利ヲ有スル者ハ自己ノ方ニ於テ其権原ニ従フニ非サレハ之ヲ使用スルコトヲ得ス但シ其地役ヲ負フ所ノ不動産内ニ於テモ又其地役ヲ要求ス可キ不動産内ニ於テモ其地役ヲ負フ所ノ不動産ノ景状ヲ重劇ナラシム可キ変更ヲ為スコトヲ得サルモノトス 第四節 地役ノ消滅スル方法 第七百三条 物件ノ景状カ最早地役ヲ使用スルコトヲ得サルニ至ル時ハ其地役止息ス 第七百四条 其物件カ地役ヲ使用スルコトヲ得可キ方法ニ復シタル時ハ其地役再生ス但シ第七百七条ニ記スル如ク地役ノ消滅ヲ思量セシムルニ充分ナル時間ノ既ニ経過シタル時ハ格別ナリトス 第七百五条 地役ヲ要求ス可キ不動産ト之ヲ負フ所ノ不動産ト一人ノ手ニ併合シタル時ハ総テノ地役消滅ス 第七百六条 地役ハ三十年間ノ不使用ニ依テ消滅ス 第七百七条 其三十年ハ地役ノ種々ノ種類ニ従ヒ不継続ノ地役ニ関スル時ハ之ヲ収益スルコトヲ止息セシ日ヨリ之ヲ起算シ又継続ノ地役ニ関スル時ハ其地役ニ反スル所為ヲ行ヒシ日ヨリ之ヲ起算スルモノトス 第七百八条 地役執行ノ仕方ハ地役自カラノ如ク且ツ之ト同一ノ方法ニテ期満効ヲ得ルコトヲ得可シ 第七百九条 地役設定ノ利益ヲ受クル不動産ノ不分ニテ数人ニ属スル時ハ其一人ノ収益ハ各人ニ関シテ期満効ヲ防止ス 第七百十条 若シ共同所有者中ニ幼者ノ如ク之ニ対シテ期満効ヲ経過セシムルコトヲ得サル者アル時ハ総テ其他ノ者ノ権利ヲ保存ス可シ 第三編 所有権ヲ獲得スル種々ノ方法 総則(千八百三年四月十九日決定同月二十九日宣令) 第七百十一条 財産ノ所有権ハ財産相続ニ依リ、生存中又ハ遺嘱ノ贈与ニ依リ及ヒ義務ノ効ニ依リ之ヲ獲得シ及ヒ移転スルモノトス 第七百十二条 所有権ハ亦附添又ハ合同ニ依リ及ヒ期満効ニ依リ之ヲ獲得スルモノトス 第七百十三条 所有主アラサル財産ハ国ニ属ス 第七百十四条 何人ニモ属セスシテ其使用ノ各人ニ共通ナル物アリ 其物ヲ収益スルノ方法ハ警察ノ法律ヲ以テ之ヲ規定ス 第七百十五条 狩猟シ又ハ捕魚スルノ権能ハ同シク特別ノ法律ヲ以テ之ヲ規定ス 第七百十六条 埋蔵財貨ノ所有権ハ自己ノ土地内ニ於テ之ヲ見出シタル者ニ属ス若シ他人ノ土地内ニ於テ之ヲ見出シタル時ハ其一半ハ之ヲ発見シタル者ニ属シ他ノ一半ハ土地ノ所有者ニ属ス 埋蔵財貨トハ何人タリトモ其所有権ヲ証明スルコトヲ得スシテ且ツ純然タル偶事ノ効ニ依リ発見シタル所ノ隠蔵シ又ハ埋没シタル総テノ物ヲ云フ 第七百十七条 性質ノ如何ヲ問ハス海ニ投入レタル品物及ヒ海ヨリ打上ケタル物品ニ付テノ権利並ニ海岸ニ生スル草木ニ付テノ権利ハ亦特別ノ法律ヲ以テ之ヲ規定ス 所有主ノ出テ来ラサル遺失物ニ付テモ亦之ニ同シ 第一巻 財産相続(千八百三年四月十九日決定同月廿九日宣令) 第一章 財産相続ノ開始及ヒ相続人ノ収握 第七百十八条 財産相続ハ死去ニ依リ及ヒ准死ニ依テ開始ス 第七百十九条 財産相続ハ民権ノ享有及ヒ剥奪ノ巻第二章第二節ノ成規ニ従ヒ准死ヲ受ケタル時ヨリ其准死ニ依テ開始スルモノトス(本条ハ准死ヲ廃シタル千八百五十四年五月三十一日ノ法律ヲ以テ削除ス) 第七百二十条 若シ各自相互ノ財産相続ニ招喚セラレタル数人ノ同一ノ事故ニテ死亡シ其中何レノ者ノ先ニ死亡セシヤヲ認定スルコトヲ得サル時ハ実事ノ景況ニ依テ其生残ノ思量ヲ定ム可ク若シ実事ノ景況ノアラサル時ハ年齢又ハ性ノ力ニ依テ之ヲ定ム可シ 第七百二十一条 若シ相共ニ死亡セシ者ノ十五歳以下ナル時ハ最年長者ヲ以テ生残リタルモノト思量スヘシ 若シ相共ニ死亡セシ者ノ皆六十歳以上ナル時ハ最年少者ヲ生残リタルモノト思量ス可シ 若シ或ル者ハ十五歳以下ニシテ他ノ者ハ六十歳以上ナル時ハ十五歳以下ノ者ヲ生残リタルモノト思量ス可シ 第七百二十二条 若シ相共ニ死亡セシ者ノ満十五歳以上六十歳以下ナル時ハ其年齢ノ相均シク又ハ其存在スル差ノ一年ニ過キサルニ於テハ常ニ男ヲ以テ生残リタルモノト思量ス可シ 若シ相共ニ死亡セシ者ノ同性ナル時ハ天然ノ順序ニ於テ財産相続ヲ開始セシムル所ノ生残ノ思量ヲ許ササルヲ得ス故ニ年少者ハ年長者ヨリ後ニ生残リタルモノト思量ス可シ 第七百二十三条 法律ハ適法ノ相続人ノ間ニ於テ相続スルノ順序ヲ規定ス若シ適法ノ相続人アラサル時ハ其財産ハ私生子ニ移リ次キニ生残リタル配偶者ニ移ルモノトス若シ又生残リタル配偶者アラサル時ハ国ニ移ルモノトス 第七百二十四条 適法ノ相続人ハ遺留財産ノ総テノ負任ヲ弁済スルノ義務ヲ以テ死者ノ財産、権利及ヒ訴権ヲ当然収握スルモノトス又私生子、生残リタル配偶者及ヒ国ハ定マリタル法式ヲ以テ裁判上ニテ其占有ヲ己レニ得セシメサル可カラス 第二章 相続スルニ必要ナル分限 第七百二十五条 相続スルニハ必ス其財産相続開始ノ時ニ於テ生存スルヲ要トス 故ニ左ノ各人ハ相続スルコト能ハス 第一 未タ懐胎セラレサル者 第二 生存ス可ク生レサル子 第三 准死トナリタル者(本項ハ准死ヲ廃シタル千八百五十四年五月三十一日ノ法律ヲ以テ削除ス) 第七百二十六条 (千八百十九年七月十四日ノ法律ヲ以テ削除ス)外国人ハ民権ノ享有及ヒ剥奪ノ巻第十一条ノ成規ニ従ヒ仏蘭西人ノ其外国人ノ本国ニ於テ財産ヲ占有スル其血属親ニ相続スル所ノ場合ト方法トニ非サレハ自己ノ血属親ノ外国人タルト仏蘭西人タルトヲ問ハス其血属親ノ王国(共和国)領地内ニ於テ占有スル所ノ財産ヲ相続スルコトヲ許サス 第七百二十七条 左ノ各人ハ相続スルノ無資格タリ而シテ其無資格者トシテ之ヲ財産相続ヨリ斥除ス可シ 第一 死者ヲ殺シ又ハ殺サント謀試シタルカ為メ刑ヲ言渡サレタル者 第二 死者ニ対シ誣告ナリト裁定セラレタル死刑ニ該レル犯罪告訴ヲ為シタル者 第三 死者ノ殺害ヲ知リテ之ヲ裁判上ニ告発セサリシ成年ノ相続人 第七百二十八条 殺害人ノ尊属親及ヒ卑属親又ハ其同級ノ姻属親又ハ其夫或ハ婦又ハ其兄弟姉妹又ハ其伯叔父母又ハ其姪男姪女ニハ告発ヲ為ササリシコトヲ以テ之ニ対抗スルコトヲ得ス 第七百二十九条 無資格ノ原由ノ為メニ財産相続ヲ斥除セラレタル相続人ハ財産相続開始ノ時ヨリ以来其収益シタル総テノ果実及ヒ入額ヲ還ス可キモノトス 第七百三十条 無資格者ノ子ノ自己ノ権利ニ依リ代相続ノ助ケナクシテ財産相続ニ来ル時ハ其父ノ過失ノ為メニ斥除セラルルコトナシ然レトモ其父ハ如何ナル場合ニ於テモ法律上ニテ子ノ財産ニ付キ父母ニ附与スルコトノ使用収益権ヲ右相続ノ財産ニ付キ得ント求ムルコトヲ得ス 第三章 財産相続ノ種々ノ順序 第一節 総則 第七百三十一条 財産相続ハ以下ニ定メタル順序ヲ以テ及ヒ以下ニ定メタル規則ニ従ヒ死者ノ子及ヒ卑属親並ニ其尊属親及ヒ傍系親ニ附与ス可シ 第七百三十二条 法律ハ財産相続ヲ規定スルニ付テハ財産ノ性質ヲモ又其因由ヲモ考察セス 第七百三十三条 総テ尊属親又ハ傍系親ニ属ス可キ財産相続ハ之ヲ二箇ノ平等ノ部分ニ分チ其一部分ハ父方系ノ血属親ニ属シ他ノ一部分ハ母方系ノ血属親ニ属ス可シ 母方又ハ父方ノ血属親ハ父母ヲ同ウスル血属親ノ為メニ斥除セラルルコトナシ然レトモ其母方又ハ父方ノ血属親ハ第七百五十二条ニ記スル所ノ外自己ノ系中ノミニ於テ参加ス可キモノトス○父母ヲ同ウスル血属親ハ両系ニ於テ参加ス可シ 両系中ノ一方ニ尊属親モ傍系親モアラサル時ニ非サレハ一系ヨリ他系ヘノ移伝ヲ為ササルモノトス 第七百三十四条 父方系ト母方系トノ間ニ此第一ノ分割ヲ為シタル上ハ最早其数箇ノ支系ノ間ニ分割ヲ為スコトナシ而シテ其各系ニ移伝シタル一半ハ最近級ノ相続人一名又ハ数名ニ属ス可シ但シ以下ニ記スル如ク代相続ノ場合ハ格別ナリトス 第七百三十五条 血縁ノ親疎ハ代ノ数ヲ以テ之ヲ定メ其各箇ノ代ヲ名ケテ一級ト云フ 第七百三十六条 級ノ相連ナリタルモノハ系ヲ為シ一ノ者カ他ノ者ヨリ降下スル数人ノ間ニ級ノ相連ナリタルモノヲ名ケテ直系ト云ヒ又一ノ者カ他ノ者ヨリ降下セスシテ共同ノ所出者ヨリ降下スル数人ノ間ニ級ノ相連ナリタルモノヲ名ケテ傍系ト云フ 直系ヲ分テ卑属ノ直系及ヒ尊属ノ直系トス 卑属ノ直系トハ首者ヲ其己レヨリ降下スル者ト連接セシムル系ヲ云ヒ尊属ノ直系トハ人ヲ其尊属ノ者ト連接セシムル系ヲ云フ 第七百三十七条 直系ニ於テハ各人ノ間ニアル代ノ数ニ准シテ級ノ数ヲ算ス故ニ子ハ父ニ対シテハ第一級トシ孫ハ第二級トス又其裏面ヨリ言ヘハ父及ヒ祖父ヨリ子及ヒ孫ニ対シテ亦之ニ同シ 第七百三十八条 傍系ニ於テハ血属親中ノ一人ヨリ共同ノ所出者ニ至リ其所出者ヲ包含セスシテ更ニ其所出者ヨリ他ノ血属親ニ至ル迄ノ代ノ数ニ准シテ其級ヲ算ス 故ニ兄弟ハ第二級トシ伯叔父ト姪男トハ第三級トシ従兄弟ハ第四級トス其余ハ皆之ニ倣フ 第二節 代相続 第七百三十九条 代相続トハ法律上ノ一箇ノ仮設ニシテ其効ハ代人ヲ被代人ノ地位ト級ト権利トニ入ラシムルニ在リトス 第七百四十条 卑属ノ直系ニ於テハ限リナク代相続ヲ為スモノトス 死者ノ子カ其以前ニ死去セシ子ノ卑属親ト抗競スル時ト死者ノ総テノ子ノ其死者ヨリ前ニ死去シテ其子ノ卑属親ノ互ニ其級ヲ同ウシ又ハ其級ヲ同ウセサル時トヲ問ハス総テノ場合ニ於テ代相続ヲ許ルスモノトス 第七百四十一条 代相続ハ尊属親ノ利益ニ於テ之ヲ為ス可カラス両系中ノ各箇ニ於ケル最近級ノ者ハ常ニ最遠級ノ者ヲ斥除ス 第七百四十二条 傍系ニ於テハ死者ノ兄弟姉妹ノ子及ヒ卑属親カ其伯叔父母ト抗競シテ其財産相続ニ来ル時ト死者ノ兄弟姉妹ノ皆其以前ニ死去シテ同級又ハ不同級ニ於ケル其卑属親ニ財産相続ヲ移伝スル時トヲ問ハス其死者ノ兄弟姉妹ノ子及ヒ卑属親ノ利益ニ於テ代相続ヲ許ルスモノトス 第七百四十三条 代相続ヲ許ルス所ノ総テノ場合ニ於テハ幹族毎ニ分派ヲ為スモノトス若シ同一ノ幹族ニ数箇ノ支族ヲ生シタル時ハ其各箇ノ支族ニ於ケル幹族毎ニ更ニ細分ヲ為シ而シテ同一ノ支族中ノ各員ハ其間ニ於テ各自ニ分派スルモノトス 第七百四十四条 生存スル人ニ代相続スルモノニ非ス死去シ又ハ准死トナリシ人ノミニ代相続スルモノトス 某人ノ財産相続ヲ放棄シタルト雖モ其某人ニ代相続スルコトヲ得可シ 第三節 卑属親ニ附与シタル財産相続 第七百四十五条 子又ハ其卑属親ハ性ノ差別ナク又出生先後ノ差別ナク又仮令相異ナレル婚姻ヨリ生レタルト雖モ其父母、祖父母又ハ其他ノ尊属親ニ相続ス 子又ハ其卑属親ハ総テ皆第一級ニ在リテ且ツ自己ノ権利ヲ以テ招喚セラレタル時ハ各自ニ平等ノ部分ヲ相続シ又子又ハ其卑属親ノ総テ皆代相続ヲ為シ或ハ其中ノ幾人カ代相続ヲ為ス時ハ幹族毎ニ相続ス 第四節 尊属親ニ附与シタル財産相続 第七百四十六条 若シ死者ノ卑属親、兄弟姉妹及ヒ兄弟姉妹ノ卑属親ヲ遺留セサル時ハ其遺留財産ヲ父方系ノ尊属親ト母方系ノ尊属親トノ間ニ一半ツツ分ツ可シ 最近級ニ在ル所ノ尊属親ハ総テ其他ノ者ヲ斥除シテ自己ノ系ニ属スル所ノ一半ヲ収取ス 同級ノ尊属親ハ各自ニ相続スルモノトス 第七百四十七条 尊属親ヨリ其子又ハ卑属親ニ贈与シタル物ノ其子又ハ卑属親ノ其卑属親ナクシテ死去シタル時原品ノ侭ニテ其遺留財産中ニ存在スルニ於テハ其尊属親総テ其他ノ各人ヲ斥除シテ其贈与シタル物ヲ相続ス 若シ右ノ物品ノ所有権ヲ移転シタル時ハ尊属親其物品ニ付キ要求スルコトヲ得可キ代金ヲ収取ス○尊属親ハ受贈者ノ有スルコトアル可キ取戻ノ訴権ヲモ亦相続ス 第七百四十八条 卑属親ナクシテ死去シタル者ノ父母ノ生残リタル時若シ其死者ノ兄弟姉妹又ハ兄弟姉妹ノ卑属親ヲ遺留シタルニ於テハ其遺留財産ヲ平等ナル二箇ノ部分ニ分チテ其一半ノミヲ父母ニ附与ス可シ但シ父母ハ其一半ヲ互ニ平等ニ分派スルモノトス 他ノ一半ハ本章第五節ニ明記シタル如ク兄弟姉妹又ハ其卑属親ニ属スルモノトス 第七百四十九条 卑属親ナクシテ死去シタル者ノ兄弟姉妹又ハ兄弟姉妹ノ卑属親ヲ遺留シタル場合ニ於テ若シ其父又ハ母ノ既ニ死去セシ時ハ前条ニ従ヒ其父又ハ母ニ移伝ス可キ一部分ヲ本章第五節ニ明記シタル如ク兄弟姉妹又ハ其代人ニ附与スル所ノ一半ニ併合ス 第五節 傍系ノ財産相続 第七百五十条 卑属親ナクシテ死去シタル者ノ父母ノ既ニ死去セシ場合ニ於テハ其兄弟姉妹又ハ兄弟姉妹ノ卑属親ハ尊属親及ヒ其他ノ傍系親ヲ斥除シテ財産相続ニ招喚セラルルモノトス 其兄弟姉妹又ハ兄弟姉妹ノ卑属親ハ本章第二節ニ規定シタル如ク或ハ自己ノ権利ヲ以テ相続シ或ハ代相続ニ依テ相続ス 第七百五十一条 卑属親ナクシテ死去シタル者ノ父母ノ生残リタル時ハ其兄弟姉妹又ハ兄弟姉妹ノ代人ハ遺留財産ノ一半ノミヲ収取スルコトニ招喚セラルルモノトス○若シ父又ハ母ノ一方ノミノ生残リタル時ハ兄弟姉妹又ハ兄弟姉妹ノ代人ハ其四分三ヲ収取スルコトニ招喚セラルルモノトス 第七百五十二条 前条ノ文面ニ依リ兄弟又ハ姉妹ニ移伝シタル一半又ハ四分三ノ分派ハ其兄弟姉妹ノ皆其父母ヲ同ウスルモノタル時ハ互ニ平等ノ部分ニテ之ヲ為シ若シ其父又ハ母ヲ異ニスルモノタル時ハ死者ノ父方ト母方トノ両系ノ間ニ一半ツツ之ヲ分チ同父母ノ者ハ両系ニ於テ参加シ母方又ハ父方ノ者ハ各々自己ノ系ノミニ於テ参加ス可シ若シ一方ニノミ兄弟又ハ姉妹ノアル時ハ其兄弟又ハ姉妹ハ総テ他系ノ其他ノ血属親ヲ斥除シテ全部ヲ相続ス 第七百五十三条 兄弟姉妹又ハ兄弟姉妹ノ卑属親アラス及ヒ両系中ノ一方ニ尊属親ノアラサル時ハ遺留財産ノ一半ヲ生残リタル尊属親ニ附与シ他ノ一半ハ他系ノ最近級ノ血属親ニ附与ス可シ 若シ同級ノ傍系親ノ間ニ抗競アル時ハ其傍系親ハ各自ニ分派ス 第七百五十四条 前条ノ場合ニ於テハ生残リタル父又ハ母ハ其所有権ニ於テ相続セサル財産ノ三分一ノ使用収益権ヲ有スルモノトス 第七百五十五条 第十二級以外ノ血属親ハ相続セス 一系ニ於テ相続ス可キ級ニ於ケル血属親ノアラサル時ハ他系ノ血属親ハ全部ニ付キ相続ス 第四章 不規則ノ財産相続 第一節 父又ハ母ノ財産ニ付テノ私生子ノ権利及ヒ卑属親ナクシテ死去シタル私生子ノ財産相続 第七百五十六条 私生子ハ相続人ニアラス依テ法律ハ私生子ノ法ニ適シテ認定セラレタル時ニ非サレハ其死去シタル父又ハ母ノ財産ニ付キ私生子ニ権利ヲ附与セス○法律ハ私生子ノ父又ハ母ノ血属親ノ財産ニ付キ私生子ニ一箇ノ権利ヲモ附与セス 第七百五十七条 死去シタル父又ハ母ノ財産ニ付テノ私生子ノ権利ハ左ノ如ク之ヲ規定ス 若シ父又ハ母カ適法ノ卑属親ヲ遺留シタル時ハ右ノ権利ハ私生子ノ若シ適法ノモノタルニ於テハ其得タル可キ相続部分ノ三分一タリ又父又ハ母カ卑属親ヲ遺留セスシテ尊属親又ハ兄弟或ハ姉妹ヲ遺留シタル時ハ其一半タリ又父又ハ母カ卑属親ヲモ尊属親ヲモ並ニ兄弟ヲモ姉妹ヲモ遺留セサル時ハ其四分三タリ 第七百五十八条 私生子ノ父又ハ母カ相続ス可キ級ニ於ケル血属親ヲ遺留セサル時ハ私生子其財産ノ全部ニ付キ権利ヲ有スルモノトス 第七百五十九条 私生子ノ既ニ死去シタル場合ニ於テハ其子又ハ卑属親ハ前数条ニ定メタル権利ヲ得ント要求スルコトヲ得可シ 第七百六十条 私生子又ハ其卑属親ハ財産相続ノ開始シタル父又ハ母ヨリ収受セシモノニシテ本巻第六章第二節ニ定メタル規則ニ従ヒ返還ヲ為ス可キ諸件ヲ其己レニ得ント称言スルノ権利アルモノニ充テ用フ可キモノトス 第七百六十一条 若シ私生子又ハ其卑属親カ其父又ハ母ノ生存中ニ前数条ニ依リ己レノ得可キモノノ一半ヲ収受シ而シテ其父又ハ母ノ方ニ於テ私生子ノ所得ヲ其附与シタル部分ニ減セントスルノ意思タル旨ヲ明カニ申述シ置キタル時ハ私生子又ハ其卑属親ヨリ総テ要求ヲ為スコトヲ禁ス 其部分カ私生子ノ所得ト為ス可キモノノ一半以下タル場合ニ於テハ私生子ハ其一半ヲ補完スルニ必要ナル追加ノミヲ得ント求ムルコトヲ得可キモノトス 第七百六十二条 第七百五十七条及ヒ第七百五十八条ノ成規ハ奸通又ハ乱倫ノ子ニ適用ス可カラサルモノトス 法律ハ奸通又ハ乱倫ノ子ニ養料ノミヲ給与ス 第七百六十三条 其養料ハ父又ハ母ノ資産ト適法ノ相続人ノ員数及ヒ分限トニ従ヒ之ヲ規定ス可シ 第七百六十四条 若シ奸通又ハ乱倫ノ子ノ父又ハ母ノ其子ニ工芸ヲ学ハシメタル時又ハ父母中ノ一方ヨリ其生存中ニ其子ニ養料ヲ確保シタル時ハ其子ハ父又ハ母ノ遺留財産ニ対シテ毫モ要求ヲ起スコトヲ得ス 第七百六十五条 卑属親ナクシテ死去シタル私生子ノ遺留財産ハ之ヲ認定シタル父又ハ母ニ移伝ス可シ若シ父母双方共ニ私生子ヲ認定シタル時ハ其双方ニ一半ツツ之ヲ移伝ス可シ 第七百六十六条 私生子ノ父母ノ既ニ死去シタル場合ニ於テ其私生子ノ父母ヨリ収受セシ財産ノ原品ノ侭ニテ遺留財産中ニ存在スル時ハ其財産ハ適法ノ兄弟又ハ姉妹ニ移ルモノトシ又其取戻ノ訴権ノ存在スル時ハ其訴権又ハ其財産ノ所有権ヲ移転シテ其代金ヲ未タ受取ラサル時ハ其代金モ亦同シク適法ノ兄弟及ヒ姉妹ニ戻ルモノトス○総テ其他ノ財産ハ私生ノ兄弟及ヒ姉妹又ハ其兄弟姉妹ノ卑属親ニ移ルモノトス 第二節 生残リタル配偶者及ヒ国ノ権利 第七百六十七条 若シ死者ノ相続ス可キ級ニ於ケル血属親ヲモ又私生子ヲモ遺留セサル時ハ其遺留財産ハ後ニ生残ル所ノ離婚セラレサル配偶者ニ属ス 第七百六十八条 後ニ生残ル配偶者アラサル時ハ其遺留財産ヲ国ニ獲得ス可シ 第七百六十九条 遺留財産ニ付キ権利ヲ称言スル生残リタル配偶者及ヒ国領財産管理局ハ目録ノ利益ヲ以テ財産相続ヲ受諾スル為メニ定メタル法式ヲ以テ封印ヲ附セシメ及ヒ目録ヲ作ラシム可シ 第七百七十条 生残リタル配偶者及ヒ国領財産管理局ハ財産相続ノ開始シタル地ヲ管轄スル始審裁判所ニ占有ノ送致ヲ訟求セサルヲ得ス○其裁判所ハ常例ノ法式ヲ以テ三次ノ公告及ヒ貼附ヲ為シ及ヒ検事ノ申立ヲ聴キタル後ニ非サレハ右ノ訟求ニ付キ裁定スルコトヲ得ス 第七百七十一条 生残リタル配偶者ハ右ノ外動産ノ益用ヲ為シ又ハ三年ノ時間ニ死者ノ相続人ノ出テ来ル場合ニ於テハ其動産ノ返還ヲ確保スルニ充分ナル保証人ヲ立ツ可シ但シ右ノ期限ヲ過クル時ハ其保証人ノ義務ヲ免除ス可キモノトス 第七百七十二条 生残リタル配偶者又ハ国領財産管理局ノ其各自ノ為メニ定メラレタル法式ヲ履行セサル場合ニ於テ若シ相続人ノ出テ来ル時ハ其相続人ニ対シテ損害賠償ヲ言渡サルルコトアル可シ 第七百七十三条 第七百六十九条、第七百七十条、第七百七十一条、第七百七十二条ノ成規ハ血属親ノアラサル時ニ於テ招喚セラレタル私生子ニ通シ用フ可キモノトス 第五章 財産相続ノ受諾及ヒ棄却 第一節 受諾 第七百七十四条 財産相続ハ単純ニ之ヲ受諾シ又ハ目録ノ利益ヲ以テ之ヲ受諾スルコトヲ得可シ 第七百七十五条 何人ニ限ラス己レノ受ク可キモノトナリタル財産相続ヲ受諾スルニ及ハス 第七百七十六条 婚姻シタル婦ハ婚姻ノ巻第六章ノ成規ニ従ヒ其夫又ハ裁判所ノ許可ヲ受クルニ非サレハ財産相続ヲ有効ニ受諾スルコトヲ得ス 幼者及ヒ治産禁ヲ受ケタル者ノ受ク可キ財産相続ハ幼年、後見及ヒ後見ノ免脱ノ巻ノ成規ニ従フニ非サレハ有効ニ之ヲ受諾スルコトヲ得ス 第七百七十七条 受諾ノ効ハ財産相続開始ノ日ニ遡及スルモノトス 第七百七十八条 受諾ハ明諾又ハ黙諾タルコトヲ得可シ但シ公正ノ証書又ハ私シノ証書ニ於テ相続人タルノ名義又ハ分限ヲ取リタル時ハ明諾ナリトシ又相続人必ス其受諾スルノ意思アルヲ推測ス可クシテ其相続人タルノ分限ニ非サレハ為ス可キノ権利ナキ一箇ノ所為ヲ行ヒタル時ハ黙諾ナリトス 第七百七十九条 純然保存ノ為メノ所為、監視ノ所為及ヒ仮リノ管理ノ所為ハ遺産受諾ノ所為ナリトセス但シ其所為ニ於テ相続人タルノ名義又ハ分限ヲ取リタル時ハ格別ナリトス 第七百八十条 共同相続人中ノ一人ヨリ外人若クハ其共同相続人ノ全員若クハ其中ノ或者ニ自己ノ相続権利ヲ贈与シ、売渡シ又ハ転移シタル時ハ其一人ノ方ニ於テ財産相続ノ受諾ヲ惹起ス 又第一ニ相続人中ノ一人ヨリ自己ノ共同相続人中ノ一人又ハ数人ノ利益ニ於テ仮令無償タリトモ放棄ヲ為シタル時ハ亦右ニ同シ 又第二ニ相続人中ノ一人ヨリ差別ナク其共同相続人全員ノ利益ニ於テ放棄ヲ為シタルト雖モ若シ其放棄ノ代金ヲ収受シタル時ハ亦右ニ同シ 第七百八十一条 若シ財産相続ヲ受ク可キ者ノ之ヲ棄却スルコトナク又ハ之ヲ明諾或ハ黙諾シタルコトナクシテ死去セシ時ハ其者ノ相続人其者ノ権利ニ依テ之ヲ受諾シ又ハ之ヲ棄却スルコトヲ得可シ 第七百八十二条 若シ右ノ相続人数名ノ其財産相続ヲ受諾シ又ハ之ヲ棄却スルニ付キ相協議セサル時ハ目録ノ利益ヲ以テ之ヲ受諾セサル可カラス 第七百八十三条 成年者ハ人ヨリ己レニ対シテ行ヒタル詐欺ニ依リ財産相続ノ受諾ヲ為シタル場合ニ非サレハ其明黙ノ受諾ヲ取消サント求ムルコトヲ得ス又成年者ハ受諾ノ時ニ知レサリシ遺嘱書ノ発見ニ依リ遺留財産ノ吸収セラレ又ハ一半以上減少シタル場合ノミノ外ハ決シテ損失ヲ口実トシテ要求スルコトヲ得ス 第二節 財産相続ノ放棄 第七百八十四条 財産相続ノ放棄ハ之ヲ思量ス可カラス其放棄ハ財産相続ノ開始シタル郡ノ始審裁判所ノ書記局ニ於テ特ニ設ケタル特別ノ簿冊ニ記載スルニ非サレハ最早之ヲ為スコトヲ得サルモノトス 第七百八十五条 放棄シタル相続人ハ嘗テ相続人タラサリシモノト看做ス可シ 第七百八十六条 放棄者ノ分ケ前ハ其共同相続人ノ分ケ前ニ添加ス可シ若シ其放棄者ノ唯一人ノミタル時ハ次キノ級ニ其放棄者ノ分ケ前ヲ移伝ス可シ 第七百八十七条 放棄シタル相続人ノ代相続ニ依テ相続ヲ為ス可カラス若シ放棄者カ其級ニ於ケル唯一人ノ相続人タル時又ハ其共同相続人全員ノ放棄スル時ハ其子ハ自己ノ権利ヲ以テ来リ各自ニ相続スルモノトス 第七百八十八条 若シ相続人ノ債主カ其相続人ノ放棄ニ依リ自己ノ権利ニ損害ヲ被ムル時ハ其債主自己ノ負債者ニ代ハリテ其負債者ノ権利ニ依リ財産相続ヲ受諾スルコトヲ裁判上ニテ許可セシムルコトヲ得可シ 此場合ニ於テハ債主ノ利益ニ於テ且ツ其債権ノ額ノミニ充ツル迄ノ外其放棄ヲ取消スコトナシ但シ其放棄シタル相続人ノ利益ニ於テ其放棄ヲ取消ササルモノトス 第七百八十九条 財産相続ヲ受諾シ又ハ棄却スルノ権能ハ不動産権利ノ最モ長キ期満効ノ為メニ必要ナル時間ノ経過ニ依リ期満効ヲ得ルモノトス 第七百九十条 受諾スル権利ノ期満効カ其放棄セシ相続人ニ対シテ獲得セラレサル間ハ他ノ相続人ノ既ニ其財産相続ヲ受諾セサル時ニ於テ右ノ相続人ハ猶其財産相続ヲ受諾スルノ権能ヲ有スルモノトス然レトモ期満効ニ依リ若クハ相続人ノ虧缺シタル財産相続ノ管財人ト有効ニ為シタル所為ニ依リ其遺留財産ニ付キ第三ノ人ノ獲得スルコトアル可キ権利ト相触ルルコトナカル可シ 第七百九十一条 婚姻ノ契約ニ依ルト雖モ生存スル人ノ財産相続ヲ放棄スルコトヲ得ス又其財産相続ニ付キ有スルコトアル可キ未定ノ権利ヲ移転スルコトヲ得ス 第七百九十二条 遺留財産中ノ品物ヲ窃取シ又ハ隠匿シタル相続人ハ財産相続ヲ放棄スルノ権能ヲ失ヒ其相続人ハ窃取シ又ハ隠匿シタル物品ニ付キ毫モ分前ヲ得ント称言スルコトヲ得スシテ其放棄ニ拘ハラス単純ナル相続人タル可シ 第三節 目録ノ利益、其効及ヒ目録ノ利益アル相続人ノ義務 第七百九十三条 相続人目録ノ利益ヲ以テスルニ非サレハ相続人タルノ分限ヲ取ラサルコトヲ欲スル旨ノ申述ハ財産相続ノ開始シタル郡ノ民事始審裁判所ノ書記局ニ之ヲ為ササル可カラス但シ其申述ハ放棄ノ証書ヲ記載スルノ用ニ供シタル簿冊ニ之ヲ記入セサルヲ得サルモノトス 第七百九十四条 右ノ申述ハ其前又ハ其後ニ訴訟法ニ規定シタル法式ニ従ヒ且ツ以下ニ定ムル所ノ期限内ニ遺留財産ノ誠実正確ナル目録ヲ作リタルニ非サレハ其効ナシトス 第七百九十五条 相続人ハ財産相続開始ノ日ヨリ起算シテ目録ヲ作ル為メ三月ノ猶予ヲ有スルモノトス 相続人ハ右ノ外其受諾又ハ其放棄ヲ熟考スル為メ四十日ノ猶予ヲ有スルモノトス但シ其四十日ノ猶予ハ目録ヲ作ル為メニ附与シタル三月ノ猶予ノ終リシ日ヨリ経過スルコトヲ始メ又三月ニ至ラサル前ニ目録ヲ終了シタル時ハ其目録終成ノ日ヨリ経過スルコトヲ始ムルモノトス 第七百九十六条 若シ然レトモ遺留財産中ニ損敗シ易ク又ハ保存スルニ費用ヲ要スル物品ノ存在スル時ハ相続人其相続ヲ為シ得可キ者タルノ分限ニ依リ裁判所ヲシテ右品物ノ売払ニ取掛ルコトヲ許可セシムルヲ得可シ但シ之レカ為メ其相続人ノ方ニ於テ受諾シタリト推定スルコトヲ得サルモノトス 其売払ハ訴訟法ニ規定シタル貼附及ヒ公告ノ後公ケノ役員ニ於テ之ヲ為ササル可カラス 第七百九十七条 目録ヲ作リ及ヒ熟考ヲ為ス為メノ猶予ノ期限ノ間ハ相続人ニ分限ヲ取ルヲ強ユルコトヲ得ス又其相続人ニ対シテ裁判言渡ヲ受ケシムルコトヲ得ス若シ其相続人ノ右期限ノ終ル時又ハ其前ニ放棄スル時ハ其時期ニ至ル迄其相続人ノ適法ニ為シタル費用ハ遺留財産ノ負任タリ 第七百九十八条 前ニ記シタル猶予期限ノ終リシ後相続人己レニ起訴ヲ受クル場合ニ於テハ更ニ新タナル猶予期限ヲ訟求スルコトヲ得可シ但シ其争訟ヲ掌轄スル裁判所ニ於テハ景況ニ従ヒ其新タナル猶予期限ヲ附与シ又ハ之ヲ否拒スルモノトス 第七百九十九条 前条ノ場合ニ於ケル起訴ノ費用ハ相続人死去ノ事ヲ知ラサル旨ヲ証明シ又ハ財産所在地ノ理由ニ依リ若クハ発生シタル争訟ノ理由ニ依リ猶予ノ不充分ナル旨ヲ証明スル時ハ遺留財産ノ負任タル可ク又右ノ旨ヲ証明セサル時ハ其費用ハ相続人一身ノ負任タリ 第八百条 然レトモ相続人ハ第七百九十五条ニ依リ附与セラレタル猶予期限ノ終リシ後又然ノミナラス第七百九十八条ニ従ヒ裁判官ヨリ附与セラレタル猶予期限ノ終リシ後ト雖トモ猶目録ヲ作リテ目録ノ利益ヲ受クル相続人トナルノ権能ヲ保存スルモノトス但シ其相続人ノ他ニ相続人タルノ所為ヲ行ヒ又ハ単純ナル相続人タルノ分限ヲ以テ其相続人ニ言渡シタル所ノ裁定事件ノ力ヲ得タル裁判ノ其相続人ニ対シテ存在スル時ハ格別ナリトス 第八百一条 隠匿ノ罪アリ又ハ故意ヲ以テ且ツ悪意ニテ遺留財産ノ品物ヲ目録中ニ包含セシメサル相続人ハ目録ノ利益ヲ失フモノトス 第八百二条 目録ノ利益ノ効ハ其相続人ニ左ノ利益ヲ附与スルニ在リトス 第一 其相続人ノ収取シタル財産ノ価額ニ充ツル迄ノ外遺留財産ノ負債ノ弁済ヲ担任セス又然ノミナラス総テノ遺留財産ヲ債主及ヒ受遺嘱者ニ委棄スルニ依リ負債弁済ノ責ヲ免カルルヲ得ル事 第二 自己ノ一身上ノ財産ヲ遺留財産ト混同セス且ツ遺留財産ニ対シ自己ノ債権ノ弁済ヲ得ント求ムルノ権利ヲ保存スル事 第八百三条 目録ノ利益ヲ受クル相続人ハ遺留財産ヲ管理スルノ任アリテ且ツ債主及ヒ受遺嘱者ニ其管理ノ計算ヲ為ササルヲ得ス 右ノ相続人ハ其計算書ヲ差出スコトニ付キ遅滞ニ付セラレタル後其義務ヲ履行セサル時ニ非サレハ自己ノ一身上ノ財産ニ付キ強制セラルルコトナカル可シ 其計算書清完ノ後ハ右ノ相続人ハ其残額負債者タル金額ノミニ充ツル迄ノ外自己ノ一身上ノ財産ニ付キ強制セラルルコトナカル可シ 第八百四条 右ノ相続人ハ其任セラレタル管理ニ於ケル重劇ノ過失ノミヲ担任ス可キモノトス 第八百五条 右ノ相続人ハ常例ノ貼附及ヒ公告ノ後公ケノ役員ノ紹介ヲ以テ糶売ニ為スニ非サレハ遺留財産中ノ動産ヲ売払フコトヲ得ス 若シ右ノ相続人其動産ヲ原品ノ侭ニテ差出ス時ハ自己ノ懈怠ニ依テ生セシメタル減価又ハ損壊ノミヲ担任ス可キモノトス 第八百六条 右ノ相続人ハ訴訟法ニ定メタル法式ニ依ルニ非サレハ不動産ヲ売ルコトヲ得ス但シ其相続人ハ申出テタル書入質権アル債主ニ其不動産ノ代金ヲ委付ス可キモノトス 第八百七条 右ノ相続人ハ債主又ハ其他ノ関係人ヨリ要求ヲ受クル時ハ目録中ニ包含シタル動産ノ価額ト不動産ノ代金中ニテ書入質権アル債主ニ委付セサル部分トノ良好ニシテ且ツ資力アル保証人ヲ立ツ可キモノトス 若シ其保証人ヲ立テサル時ハ動産ヲ売払ヒテ其代金ト不動産ノ代金ノ委付セサル部分トヲ遺留財産ノ負任ノ弁償ニ用フル為メ之ヲ附託ス可シ 第八百八条 若シ払渡ヲ差止ムル債主アル時ハ目録ノ利益ヲ受クル相続人ハ裁判官ノ規定シタル順序及ヒ方法ニ従フニ非サレハ弁済スルコトヲ得ス 若シ払渡ヲ差止ムル債主アラサル時ハ右ノ相続人ハ債主及ヒ受遺嘱者ノ申出テ次第之ニ弁済スルモノトス 第八百九条 払渡ヲ差止メサル債主カ計算書ノ清完及ヒ残額弁済ノ後ニ至リテ申出ツル時ハ受遺嘱者ノミニ対シテ償還ノ訟求権ヲ執行スルコトヲ得可キモノトス 右ノ中何レノ場合ニ於テモ其償還ノ訟求権ハ計算書ノ清完及ヒ残額弁済ノ日ヨリ起算シ三年ノ経過ヲ以テ期満効ヲ得ルモノトス 第八百十条 封印ヲ附シタル時ハ其封印ノ費用並ニ目録及ヒ計算書ノ費用ハ遺留財産ノ負任タリ 第四節 相続人ノ虧缺シタル財産相続 第八百十一条 若シ目録ヲ作リ及ヒ熟考スル為メノ猶予期限ノ終リシ後財産相続ヲ要求スル者ノ出テ来ラス又ハ人ノ知ル所ノ相続人アラス又ハ人ノ知ル所ノ相続人ノ其財産相続ヲ放棄シタル時ハ其財産相続ハ相続人ノ虧缺シタルモノト看做ス可シ 第八百十二条 其財産相続ノ開始シタル郡ノ始審裁判所ハ関係人ノ訟求ニ依リ又ハ検事ノ求ニ依リ管財人ヲ任ス可シ 第八百十三条 相続人ノ虧缺シタル財産相続ノ管財人ハ先ツ目録ヲ以テ其遺留財産ノ景状ヲ証明セシム可シ又其管財人ハ遺留財産ノ権利ヲ執行シ及ヒ之ヲ訟求シ又遺留財産ニ対シテ為ス所ノ訟求ニ答弁シ又遺留財産中ニアル金円及ヒ売払ヒタル動産又ハ不動産ノ代価ヨリ得タル金額ヲ権利保存ノ為メ間税局収税員ノ金庫ニ払入レシムルノ負任ト計算ヲ受ク可キ者ニ其計算ヲ為スノ負任トヲ以テ管理スルモノトス 第八百十四条 目録ノ利益ヲ受クル相続人ノ方ニ於テ作ル可キ目録ノ法式管理ノ方法及ヒ其計算ニ関スル本章第三節ノ成規ハ右ノ外相続人ノ虧缺シタル財産相続ノ管財人ニ通シ用フ可キモノトス 第六章 分派及ヒ返還 第一節 分派ノ訴権及ヒ其法式 第八百十五条 何人ニ限ラス不分ニ留マリ在ルコトニ之ヲ強制スルヲ得ス分派ハ反対ノ禁止及ヒ合意ニ拘ハラス常ニ之ヲ要求スルコトヲ得可シ 然レトモ制限セラレタル時間分派ヲ停止スルコトヲ合意スルヲ得可シ但シ其合意ハ五年以上羈勒スルモノタルコトヲ得スト雖トモ之ヲ更新スルコトヲ得可シ 第八百十六条 共同相続人中一人カ遺留財産中ノ一部分ヲ別ニ収益シタル時ト雖モ分派ヲ求ムルコトヲ得可シ但シ分派ノ所為アリタル時又ハ期満効ヲ獲得スルニ充分ナル占有アリタル時ハ格別ナリトス 第八百十七条 分派ノ訴権ハ幼年又ハ治産禁ヲ受ケタル共同相続人ニ関シテハ特ニ親属会議ヨリ許可セラレタル其後見人ヨリ之ヲ執行スルコトヲ得可シ 失踪ノ共同相続人ニ関シテハ右ノ訴権ハ占有ヲ得タル血属親ニ属スルモノトス 第八百十八条 夫ハ婦ノ受ク可キ動産物又ハ不動産物ニシテ共通財産中ニ加入スル所ノモノノ分派ヲ婦ノ助成ナクシテ要求スルコトヲ得可シ又共通財産中ニ加入セサル物品ニ関シテハ夫ハ婦ノ助成ナクシテ其分派ヲ要求スルコトヲ得ス唯夫ハ婦ノ財産ヲ収益スルノ権利ヲ有スルニ於テハ仮リノ分派ヲ求ムルコトヲ得可キノミトス 婦ノ共同相続人ハ夫及ヒ婦ヲ相手取ルニ非サレハ確定ノ分派ヲ要求スルコトヲ得ス 第八百十九条 若シ相続人ノ総テ皆其場ニ在リテ且ツ成年ナル時ハ遺留財産中ノ品物ニ封印ヲ附スルコトヲ必要トセス其分派ハ関係各人ノ相当ナリト思考スル所ノ法式及ヒ所為ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得可シ 若シ相続人ノ総テ皆其場ニ在ルニアラス又ハ其相続人中ニ幼者又ハ治産禁ヲ受クル者アル時ハ相続人ノ請求ニ依リ若クハ始審裁判所検事ノ求メニ依リ若クハ財産相続ノ開始シタル地ヲ管轄スル治安裁判官ノ職権ヲ以テ極メテ短キ期限内ニ封印ヲ附セサルヲ得ス 第八百二十条 債主ハ亦執行証券ニ拠リ又ハ裁判官ノ許ニ拠リ封印ヲ附スルコトヲ請求スルヲ得可シ 第八百二十一条 若シ封印ヲ附シタル時ハ各債主仮令執行証券ヲモ又裁判官ノ許ヲモ有セスト雖モ之ニ付キ故障ノ申立ヲ為スコトヲ得可シ 封印ノ除去及ヒ目録ノ作為ニ付テノ法式ハ訴訟法ニ之ヲ規定ス 第八百二十二条 分派ノ訴及ヒ其所為ノ進行間ニ起ル所ノ争訟ハ財産相続開始ノ地ノ裁判所ニ之ヲ申告ス可シ 不分物ノ糶売ハ右ノ裁判所ニ於テ之ヲ為シ又共同分派人ノ間ニ於ケル区分財産ノ担保ニ関スル訟求及ヒ分派廃棄ノ訟求ハ右ノ裁判所ニ之ヲ申告セサルヲ得ス 第八百二十三条 若シ共同相続人中ノ一人カ分派ヲ承諾スルコトヲ否拒スル時若クハ分派ヲ為スノ仕方ニ付キ若クハ分派ヲ終了スルノ方法ニ付キ争訟ノ起ル時ハ裁判所ニ於テ簡略事件ニ於ケルカ如ク其裁判ヲ宣告シ又別段ノ要アル時ハ其ノ分派ノ所為ノ為メ裁判官中ノ一名ヲ委任シ其裁判官ヨリ報告ノ上裁判所ニ於テ右ノ争訟ヲ裁決ス可キモノトス 第八百二十四条 不動産ノ評価ハ関係各人ノ撰ミタル鑑定人之ヲ為シ又関係各人ノ否拒ニ於テハ職権上ニテ撰任シタル鑑定人之ヲ為ス可シ 鑑定人ノ調書ニハ評価ノ基本ヲ表示セサル可カラス又其調書ニハ其評価シタル物品ヲ都合ヨク分派スルコトヲ得可キヤ又如何ナル方法ニテ分派スルコトヲ得可キヤヲ指示セサル可カラス又分割ノ場合ニ於テハ其物品ヨリ組成スルヲ得可キ各箇ノ分ケ前及ヒ其各箇ノ分ケ前ノ価額ヲ定メサル可カラス 第八百二十五条 動産ノ評価ハ適法ノ目録ニ於テ其代価ノ評定ヲ為ササルニ於テハ此事ニ付キ知識アル者正当ノ代価ニテ増額ヲ要スルコトナク之ヲ為ササル可カラス 第八百二十六条 各共同相続人ハ自己ノ分ケ前ヲ遺留財産中ノ動産及ヒ不動産ノ原品ノ侭ニテ得ント求ムルコトヲ得可シ然レトモ若シ差押ヲ為シ又ハ金額払渡ヲ差止ムル債主アル時又ハ共同相続人中ノ過半カ遺留財産ノ負債及ヒ負任ヲ弁償スル為メ売払ヲ必要ナリト思考スル時ハ通常ノ法式ヲ以テ動産ヲ公ケニ売払フ可シ 第八百二十七条 若シ不動産ヲ都合ヨク分派スルコトヲ得サル時ハ裁判所ニ於テ不分物ノ糶売ヲ以テ其売払ヲ為ササルヲ得ス 然レトモ関係各人カ皆成年者タル時ハ其協同シテ撰ミタル公証人ノ面前ニ於テ不分物ノ糶売ヲ為スコトヲ承諾スルヲ得可シ 第八百二十八条 動産及ヒ不動産ヲ評価シ及ヒ之ヲ売払フ可キ時ハ其評価及ヒ売払ヲ為シタル後委員裁判官ハ関係各人ヲ其協議シタル公証人ノ面前ニ移送シ若シ関係各人ノ其撰定ニ付キ協同セサル時ハ職権上ニテ任シタル公証人ノ面前ニ移送ス 其役員ノ面前ニ於テ共同分派人ノ相互ニ負担スルコトアル可キ計算、総合部ノ組成、区分財産ノ組立及ヒ共同分派人ノ各員ニ為ス可キ供給ニ取掛ルモノトス 第八百二十九条 各共同相続人ハ以下ニ定ムル所ノ規則ニ従ヒ其己レニ受ケシ贈与物及ヒ其己レニ債ヲ負ヒタル金額ヲ右ノ合部中ニ返還ス 第八百三十条 若シ原物ノ侭返還ヲ為ササル時ハ其返還ヲ受ク可キ共同相続人ハ遺留財産ノ合部中ニ就キ之ニ等シキ部分ヲ先収ス 其先収ハ原物ノ侭ニテ返還セサル物品ト成ル可キ丈同性、同質、同格ノ物品ニテ之ヲ為スモノトス 第八百三十一条 其先収ノ後合部中ニ残ル所ノ諸件ニ付キ共同分派ヲ為ス相続人ノ数ニ均シク又ハ共同分派ヲ為ス幹族ノ数ニ均シキ平等ノ区分財産ノ組立ニ取掛ル可シ 第八百三十二条 区分財産ノ組成及ヒ組立ニ於テハ成ル可キ丈不動産ヲ細分シ及ヒ其収益ヲ分ツコトヲ避ケサル可カラス而シテ其各箇ノ区分財産中ニハ勉メテ同性、同価ノ動産、不動産、権利又ハ債権ヲ同量ニ入ラシムルヲ良トス 第八百三十三条 原品ニ於ケル区分財産ノ不平等ハ年金収受権若クハ金円ニ於ケル補足ヲ以テ之ヲ補償ス 第八百三十四条 共同相続人ノ協議ノ上其中ノ一人ヲ撰定シ而シテ其撰定ヲ受ケタル者ノ其委任ヲ受諾シタル時ハ共同相続人中ノ一人ニ於テ区分財産ヲ作ル可ク之ニ反シタル場合ニ於テハ委員裁判官ノ指定メタル鑑定人ニ於テ区分財産ヲ作ル可シ 其区分財産ハ其後之ヲ抽籤ス可シ 第八百三十五条 区分財産ノ抽籤ニ取掛ル前ニ各共同分派人ヨリ其組成ニ対シテ要求ヲ申立ツルコトヲ許サルルモノトス 第八百三十六条 分派ス可キ合部ノ分割ノ為メニ設定シタル規則ハ共同分派ヲ為ス幹族ノ間ニ為ス所ノ細分ニ付キ亦同シク之ヲ遵守ス可シ 第八百三十七条 若シ公証人ノ面前ニ移送セラレタル行為ニ於テ争訟ノ起リタル時ハ公証人其争論及ヒ関係人各自ノ申立ノ調書ヲ作リテ其関係人ヲ分派ノ為メニ任セラレタル委員ノ面前ニ移送ス可シ而シテ其他ハ訴訟法ニ定メタル法式ニ従ヒ処分ス可キモノトス 第八百三十八条 若シ共同相続人ノ総テ皆其場ニ在ルニアラス又ハ其共同相続人中ニ治産禁ヲ受ケタル者又ハ後見免脱ヲ得タルト雖モ幼者ノアル時ハ第八百十九条以下ヨリ前条ニ至ル迄ノ各条ニ定メタル規則ニ従ヒ裁判上ニテ分派ヲ為ササルヲ得ス○若シ分派ニ於テ互ニ反対ノ利益アル幼者数人アル時ハ其数人ニ各々特別格段ナル後見人一名ヲ附セサルヲ得ス 第八百三十九条 若シ前条ノ場合ニ於テ不分物ノ糶売ヲ為ス可キ時ハ幼者ノ財産ノ所有権移転ノ為メニ定メタル法式ヲ以テ裁判上ニテ為スニ非サレハ其不分物ノ糶売ヲ為スコトヲ得ス○其不分物ノ糶売ニハ常ニ外人ヲ容受ス可シ 第八百四十条 親族会議ノ許可ヲ受ケタル後見人若クハ管財人ノ輔佐ヲ受ケタル後見免脱ノ幼者カ前ニ定メタル規則ニ従ヒ為シタル分派若クハ失踪者又ハ不在者ノ名前ヲ以テ前ニ定メタル規則ニ従ヒ為シタル分派ハ確定ノモノトス若シ又前ニ定メタル規則ヲ遵守セサル時ハ其分派ハ仮リノモノタルニ過キス 第八百四十一条 凡ソ死者ノ血属親ト雖トモ其相続ヲ為シ得可カラサル者カ共同相続人中ノ一人ヨリ其財産相続ノ権利ヲ譲受ケタル時ハ共同相続人ノ全員若クハ其中ノ唯一員ヨリ右ノ者ニ其譲受ノ代価ヲ償還スルニ依リ之ヲ分派ヨリ排除スルコトヲ得可シ 第八百四十二条 分派ノ後ハ共同分派人ノ各員ニ其収受ス可キモノトナリタル物品ニ特別ノモノタル証券ヲ交付セサルヲ得ス 分割シタル所有権ノ証券ハ其中ノ最大ノ部分ヲ得タル者之ヲ保存シ置ク可シ但シ其者ハ共同分派人中ニテ之ニ関係アル者ヨリ求ヲ受クル時ハ右ノ証券ヲ以テ其者ヲ助ク可キノ負任アリトス 遺産ノ全部ニ共通ノモノタル証券ハ相続人全員ニ於テ其受託者ナリト撰定シタル者ニ交付ス可シ但シ其者ハ求ヲ受ケ次第右ノ証券ヲ以テ共同分派人ヲ助ク可キノ負任アリトス 若シ其撰定ニ付キ争論アル時ハ裁判官之ヲ規定ス可シ 第二節 返還 第八百四十三条 凡ソ財産相続ニ来ル各相続人ハ目録ノ利益ヲ受クル者ト雖モ直接又ハ間接ニ生存中ノ贈与ニ依リ死者ヨリ収受シタル諸件ヲ其共同相続人ニ返還セサルヲ得ス其相続人ハ其贈与物ヲ引留ムルコトヲ得ス又死者ヨリ己レニ為シタル遺嘱物ヲ得ント求ムルコトヲ得ス但シ其贈与物及ヒ遺嘱物ヲ其相続人ニ明カニ先取ヲ以テ且ツ其分ケ前外ニ為シ又ハ返還ノ免除ヲ以テ之ヲ為シタル時ハ格別ナリトス 第八百四十四条 先取ヲ以テ又ハ返還ノ免除ヲ以テ贈与物及ヒ遺嘱物ヲ為シタル場合ト雖モ分派ニ来ル相続人ハ処分スルコトヲ得可キ定分ノ額ニ充ツル迄ノ外之ヲ引留ムルコトヲ得ス其過分ハ之ヲ返還ス可シ 第八百四十五条 然レトモ財産相続ヲ放棄スル相続人ハ処分スルコトヲ得可キ定分ノ額ニ充ツル迄生存中ノ贈与物ヲ引留ムルコトヲ得又ハ己レニ為サレタル遺嘱物ヲ得ント求ムルコトヲ得可シ 第八百四十六条 贈与ノ時ニ於テハ思量ノ相続人タラスシテ財産相続開始ノ日ニ於テ相続ヲ為シ得可キモノトナリタル受贈者ハ亦同ク返還ヲ為ス可シ但シ贈与者ノ其返還ヲ免除シタル時ハ格別ナリトス 第八百四十七条 財産相続開始ノ時期ニ於テ相続ヲ為シ得可キ者ノ子ニ為シタル贈与物及ヒ遺嘱物ハ常ニ返還ノ免除ヲ以テ為シタルモノト看做ス可シ 其贈与者ノ財産相続ニ来ル父ハ右ノ贈与物及ヒ遺嘱物ヲ返還スルニ及ハス 第八百四十八条 右ニ同シク自己ノ権利ニ依テ贈与者ノ財産相続ニ来ル子ハ仮令其父ノ財産相続ヲ受諾シタル時ト雖モ其父ニ為サレタル贈与物ヲ返還スルニ及ハス然レトモ其子ニ於テ代相続ヲ為ス時ハ仮令其父ノ財産相続ヲ棄却シタル場合ト雖モ其父ニ贈与セラレタルモノヲ返還セサルヲ得ス 第八百四十九条 夫婦中ニテ相続ヲ為シ得可キ一方ノ者ノ配偶者ニ為シタル贈与物及ヒ遺嘱物ハ返還ノ免除ヲ以テ為シタルモノト看做ス可シ 若シ夫婦双方ニ合同シテ贈与物及ヒ遺嘱物ヲ為シタル時其中ノ一方ノミノ相続ヲ為シ得可キ者タルニ於テハ其者右贈与物及ヒ遺嘱物ノ一半ヲ返還ス又夫婦中ニテ相続ヲ為シ得可キ一方ノ者ニ贈与物ヲ為シタル時ハ其者右ノ贈与物ヲ全ク返還ス 第八百五十条 返還ハ贈与者ノ遺留財産ノミニ之ヲ為スモノトス 第八百五十一条 共同相続人中一人ノ定業ノ為メ又ハ其負債弁済ノ為メニ用ヒタルモノハ之ヲ返還ス可シ 第八百五十二条 給養、保育、教訓ノ費用、工作修業ノ費用、装具ノ通常ノ費用、婚姻及ヒ習慣ノ餽贈ノ費用ハ之ヲ返還セシム可カラス 第八百五十三条 相続人カ死者ト為セシ合意ヨリ収得スルヲ得タル利益ハ亦右ト同一ナリトス但シ右ノ合意ヲ為セシ時其合意カ間接ノ利得ヲ授ケタル場合ハ格別ナリトス 第八百五十四条 右ニ同シク死者ト其相続人中ノ一人トノ間ニ詐欺ナク為シタル結社ノ条件ヲ公正ノ証書ヲ以テ規定シタル時ハ其結社ノ為メ返還ヲ為スニ及ハス 第八百五十五条 意外ノ事故ニ依リ且ツ受贈者ノ過失ニ非スシテ滅尽シタル不動産ハ返還ヲ為スニ及ハス 第八百五十六条 返還ヲ為ス可キ物ノ果実及ヒ利息ハ財産相続開始ノ日ヨリ起算スルニ非サレハ之ヲ負担セス 第八百五十七条 返還ハ共同相続人ヨリ其共同相続人ノミニ対シテ之ヲ負担ス可ク受遺嘱者又ハ遺留財産ノ債主ニ対シテ之ヲ負担セス 第八百五十八条 返還ハ原品ノ侭ニテ之ヲ為シ又ハ減取ノ方法ヲ以テ之ヲ為スモノトス 第八百五十九条 受贈者ノ其贈与セラレタル不動産ノ所有権ヲ移転セス而シテ遺留財産中ニ他ノ共同相続人ノ為メ概子平等ノ区分財産ヲ組成スルヲ得可キ右不動産ト同性、同価、同格ノ不動産アラサル時ハ不動産ニ関シ原品ノ侭ニテ返還ヲ要求スルコトヲ得可シ 第八百六十条 若シ受贈者ノ財産相続開始ノ前ニ其不動産ノ所有権ヲ移転シタル時ハ減取ノ方法ヲ以テスルニ非サレハ返還ヲ為ササルモノトス但シ其開始ノ時期ニ於ケル不動産ノ価額ヲ負担ス可シ 第八百六十一条 如何ナル場合ニ於テモ受贈者ノ其物ヲ改良シタル入費ハ分派ノ時ニ於テ其価額ノ増加シタル所ニ従ヒ之ヲ其受贈者ニ計算セサルヲ得ス 第八百六十二条 右ニ同シク受贈者ノ其物ヲ保存スル為メニ為シタル必要ノ入費ハ仮令其入費ノ為メニ其物ヲ改良セスト雖モ之ヲ其受贈者ニ計算セサルヲ得ス 第八百六十三条 受贈者ハ己レノ方ニ於テ自己ノ所為ニ依リ又ハ自己ノ過失及ヒ懈怠ニ依リ不動産ノ価額ヲ減少シタル毀損及ヒ損壊ヲ計算セサルヲ得ス 第八百六十四条 受贈者ヨリ不動産ノ所有権ヲ移転シタル場合ニ於テハ其獲得者ノ為シタル改良又ハ毀損ヲ前三条ニ従ヒ充用セサルヲ得ス 第八百六十五条 原品ノ侭ニテ返還ヲ為ス時ハ受贈者ノ設ケタル総テノ負任ヲ免除シテ其財産ヲ遺留財産ノ合部ニ併合ス可シ然レトモ書入質権ヲ有スル債主ハ自己ノ権利ノ詐害ニ於テ返還ヲ為スニ付キ故障ヲ申述スル為メ分派ニ参渉スルコトヲ得可シ 第八百六十六条 返還ノ免除ヲ以テ相続ヲ為シ得可キ者ニ為シタル不動産ノ贈与カ処分スルコトヲ得可キ定分ニ過クル時若シ都合ヨク其過分ノ削除ヲ為シ得可キニ於テハ原品ノ侭ニテ其過分ノ返還ヲ為ス可シ 之ニ反シタル場合ニ於テ若シ其過分カ不動産ノ価額ノ一半以上タル時ハ受贈者右ノ不動産ヲ全ク返還セサル可カラス但シ其受贈者ハ処分スルコトヲ得可キ定分ノ価額ヲ合部中ヨリ先収スルコトヲ得可シ若シ又処分スルコトヲ得可キ定分カ其不動産ノ価額ノ一半ニ過クル時ハ受贈者其不動産ヲ全ク留メ置クコトヲ得可シ但シ其受贈者ハ減取ヲ為シ及ヒ金額ニ依リ又ハ其他ノ方法ニ依リ其共同相続人ニ補償ヲ為ス可キ者トス 第八百六十七条 不動産ヲ原品ノ侭ニテ返還スル共同相続人ハ入費又ハ改良ノ為メ己レニ受ク可キ所ノ金額ノ現実ノ償還ヲ受クルニ至ル迄ハ其不動産ノ占有ヲ留メ置クコトヲ得可シ 第八百六十八条 動産ノ返還ハ減取ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ為ス可カラス○其返還ハ贈与ノ証書ニ添ヘタル評価目録ニ従ヒ又其目録ノアラサル時ハ鑑定人ノ為シタル正当ノ代価ニテ増額ヲ要スルコトナキ評価ニ従ヒ其贈与ノ時ニ於ケル動産ノ価額ニ準拠シテ之ヲ為ス可キモノトス 第八百六十九条 贈与シタル金円ノ返還ハ遺留財産ノ金円中ニ於テ減取ノ方法ヲ以テ之ヲ為ス可キモノトス 其不充分ナル場合ニ於テハ受贈者ハ其恰モ相当レル額ニ充ツル迄遺留財産中ノ動産ヲ委棄スルニ依リ又動産ノアラサル時ハ其不動産ヲ委棄スルニ依リ金円ヲ返還スルヲ免カルルコトヲ得可シ 第三節 負債ノ弁済 第八百七十条 共同相続人ハ各々其収受スル所ノモノノ割合ヲ以テ遺留財産ノ負債及ヒ負任ノ弁済ヲ相互ニ分担スルモノトス 第八百七十一条 全括ノ名義ニ於ケル受遺嘱者ハ其利得ノ割合ヲ以テ相続人ト共ニ分担ス然レトモ特定ノ受遺嘱者ハ負債及ヒ負任ヲ担任セス但シ遺嘱シタル不動産ニ付テノ書入質ノ訴権ハ格別ナリトス 第八百七十二条 若シ遺留財産中ノ不動産カ特別ノ書入質ニ依リ年金収受権ヲ負ハシメラレタル時ハ共同相続人各員ハ区分財産ノ組成ニ取掛ル前二年分収受権ヲ償還シテ其不動産ヲ自由ニ為サント要求スルコトヲ得可シ○若シ共同相続人カ遺留財産ヲ其現在ノ景状ノ侭ニテ分派スル時ハ其負任アル不動産ヲ其他ノ不動産ト同一ノ割合ニ評価セサル可カラスシテ其代金全部ノ中ヨリ年金収受権ノ元資ノ減算ヲ為ス可シ而シテ自己ノ区分財産中ニ右不動産ノ入リタル相続人ハ唯一人ニテ年金ノ役務ヲ負任シ且ツ其共同相続人ニ之ヲ担保セサルヲ得ス 第八百七十三条 相続人ハ対人権上ニテハ其分頭ノ分ケ前及ヒ部分ニ付キ又書入質上ニテハ全部ニ付キ遺留財産ノ負債及ヒ負任ヲ担任ス可シ但シ其共同相続人若クハ全括ノ受遺嘱者カ其負債及ヒ負任ニ於テ分担セサル可カラサル分ケ前ノ為メ右ノ相続人ヨリ其共同相続人若クハ全括ノ受遺嘱者ニ対スル償還ノ訟求ハ格別ナリトス 第八百七十四条 遺嘱シタル不動産ノ負ヒタル負債ヲ弁償セシ特定ノ受遺嘱者ハ相続人及ヒ全括ノ名義ニ於ケル承産人ニ対シテ債主ノ権利ニ代替スルモノトス 第八百七十五条 書入質ノ効ニ依リ共通負債中ニ於ケル自己ノ分ケ前以上ノ弁済シタル共同相続人又ハ全括ノ名義ニ於ケル承産人ハ仮令自カラ債主ノ権利ニ代替シタル場合ト雖モ他ノ共同相続人又ハ全括ノ名義ニ於ケル承産人各員ノ其対人権上ニテ負担セサル可カラサル分ケ前ノミノ為メニ非サレハ他ノ共同相続人又ハ全括ノ名義ニ於ケル承産人ニ対シテ償還ノ訟求ヲ為ス可カラサルモノトス然レトモ目録ノ利益ノ効ニ依リ総テ其他ノ債主ノ如クニ自己ノ一身上ノ債権ノ弁済ヲ得ント求ムルノ権能ヲ保存シタル共同相続人ノ権利ト相触ルルコトナカル可シ 第八百七十六条 共同相続人又ハ全括ノ名義ニ於ケル承産人中一人ノ無資力ナル場合ニ於テハ書入質負債中ニ於ケル其一人ノ分ケ前ヲ割合ヲ以テ総テ其他ノ各人ニ分配ス可シ 第八百七十七条 死者ニ対スル執行証券ハ亦同シク相続人自身ニ対シテ執行ス可キモノトス然レトモ債主ハ相続人自身又ハ其住所ニ右ノ証券ヲ送達シタルヨリ八日ノ後ニ非サレハ其証券ノ執行ヲ求ムルコトヲ得ス 第八百七十八条 其債主ハ如何ナル場合ニ於テモ総テノ債主ニ対シテ死者ノ家産ト相続人ノ家産トノ離分ヲ得ント求ムルコトヲ得可シ 第八百七十九条 然レトモ相続人ヲ負債者ナリト認諾シタルニ依リ死者ニ対スル債権ニ於テ更改ノアリタル時ハ最早右ノ権利ヲ執行スルコトヲ得ス 第八百八十条 其権利ハ動産ニ関シテハ三年ノ経過ヲ以テ期満効ヲ得ルモノトス 不動産ニ関シテハ其不動産ノ相続人ノ手元ニ存在スル間ハ訴権ヲ執行スルコトヲ得可シ 第八百八十一条 相続人ノ債主ハ遺留財産ノ債主ニ対シテ家産ノ離分ヲ求ムルコトヲ許サス 第八百八十二条 共同分派人ノ債主ハ自己ノ権利ノ詐害ニ於テ分派ヲ為スヲ防ク為メ自己ノ面前外ニテ其分派ヲ為スニ付キ故障ヲ申述スルコトヲ得可クシテ自己ノ費用ニテ之ニ参渉スルノ権利アリ然レトモ其債主ハ既ニ成就シタル分派ヲ取消サント求ムルコトヲ得ス但シ其債主ノ在ラサル所ニ於テ其為セシ故障ニ拘ハラスシテ分派ニ取掛リタル時ハ格別ナリトス 第四節 分派ノ効及ヒ区分財産ノ担保 第八百八十三条 各共同相続人ハ其区分財産中ニ包含シタル総テノ品物又ハ不分物ノ糶売ニ依リ自己ノ収受スルモノトナリタル総テノ品物ヲ己レ一人ニテ直チニ相続シ而シテ遺留財産中ノ其他ノ品物ノ所有権ヲ決シテ有セサリシモノト看做ス可シ 第八百八十四条 共同相続人ハ分派以前ノ原由ヨリ生スル所ノ妨害及ヒ褫奪ノミニ付キ各自相互ニ担保人タリ 若シ其受ケタル褫奪ノ種類ヲ分派ノ所為ノ特別ニシテ且ツ明白ナル約款ニ依リ取除ケタル時ハ其担保ナシトス又共同相続人ノ自己ノ過失ニ依リ褫奪ヲ受ケタル時ハ担保止息スルモノトス 第八百八十五条 共同相続人ノ各員ハ其共同相続人ノ褫奪ノ為メニ受ケタル損失ヲ自己ノ相続シタル分ケ前ノ割合ヲ以テ対人権上ニテ賠償ス可キノ義務アルモノトス 若シ共同相続人中一人ノ無資力ナル時ハ其一人ノ担任ス可キ部分ヲ被担保者ト資力アル各共同相続人トノ間ニ平等ニ分配セサルヲ得ス 第八百八十六条 年金収受権ノ負債者ノ資力アル事ノ担保ハ分派ノ後五年内ニ非サレハ之ヲ執行スルコトヲ得ス○分派ヲ成就セシ後ニ至リテ無資力トナリタル時ハ其負債者ノ無資力ノ為メニ担保ヲ為スコトナシ 第五節 分派ノ事項ニ於ケル廃棄 第八百八十七条 分派ハ暴行又ハ詐欺ノ原由ノ為メニ之ヲ廃棄スルコトヲ得可シ 若シ共同相続人中ノ一人カ自己ノ損害ニ於テ四分一以上ノ損失ヲ証スル時ハ亦廃棄ヲ為スコトヲ得可シ○遺留財産中一箇ノ物品ノ単一ナル遺失ハ廃棄ノ訴権ヲ開始スルコトナク唯分派ノ所為ノ追補ノミヲ開始スルモノトス 第八百八十八条 共同相続人ノ間ニ不分ヲ止息セシムルヲ以テ目的ト為ス総テノ所為ハ仮令売買、交換、和解ノ名称ヲ附シ又ハ其他如何ナル方法ニ名称ヲ附シタリト雖モ其所為ニ対シテ廃棄ノ訴ヲ為スコトヲ許ルスモノトス 然レトモ分派又ハ之ニ代ハル可キ所為ノ後ハ最初ノ所為ヨリ生セシ現実ノ争論ニ付キ為シタル和解ニ対シテ最早廃棄ノ訴ヲ為スコトヲ許サス但シ此事ニ付キ訴訟ノ始マラサリシ時ト雖モ亦之ニ同シ 第八百八十九条 共同相続人中ノ一人ニ他ノ共同相続人数名又ハ其中ノ一名ヨリ其一人ノ危険ニテ詐害ナク為シタル相続、権利ノ売渡ニ対シテハ右ノ訴ヲ為スコトヲ許サス 第八百九十条 損失アリシヤ否ヲ裁定スル為メニハ物品ヲ分派ノ時期ニ於ケル其価額ニ従ヒ評価スルモノトス 第八百九十一条 廃棄ノ訟求ニ於ケル被告人ハ原告人ニ金円若クハ原品ヲ以テ其相続スル部分ノ追補ヲ渡サント供陳シ且ツ之ヲ給与スルニ依リ其訟求ノ進行ヲ停メテ新タナル分派ヲ防止スルコトヲ得可シ 第八百九十二条 共同相続人ニ於テ詐欺ノ発見又ハ暴行ノ止息ノ後ニ自己ノ区分財産ノ全部又ハ一部ノ所有権ヲ移転シタル時ハ其共同相続人ハ最早詐欺又ハ暴行ノ為メニ廃棄ノ訴ヲ起スコトヲ許サス 第二巻 生存中ノ贈与及ヒ遺嘱(千八百三年五月三日決定同月十三日宣令) 第一章 総則 第八百九十三条 何人ニ限ラス以下ニ設定シタル法式ニ於テ生存中ノ贈与又ハ遺嘱ヲ為スニ非サレハ無償ノ名義ヲ以テ自己ノ財産ヲ処分スルコトヲ得ス 第八百九十四条 生存中ノ贈与トハ贈与者其受諾ヲ為ス受贈者ノ為メニ其贈与物ヲ即時ニ且ツ廃止ス可カラサル方法ニテ手放ス所ノ所為ヲ云フ 第八百九十五条 、遺嘱トハ遺嘱者其最早生存セサル時ノ為メ自己ノ財産ノ全部又ハ一部ヲ処分スル所ノ所為ヲ云ヒ其所為ハ遺嘱者之ヲ廃止スルコトヲ得可キモノトス 第八百九十六条 贈与転付ハ之ヲ禁ス 凡ソ受贈者、設定セラレタル相続人又ハ受遺嘱者ニ保存シテ第三ノ人ニ転付スルコトヲ任スル所ノ処分ハ其受贈者、設定セラレタル相続人又ハ受遺嘱者ニ関シテモ無効タル可シ 然レトモ国王ヨリ皇族又ハ家長ノ為メニ設ケタル世襲尊号ニ添フ所ノ贈与物ヲ組成スル自由ナル財産ハ千八百六年三月三十日ノ勅書及ヒ同年八月十四日ノ元老院決定書ヲ以テ規定シタル如ク之ヲ世襲シテ移転スルコトヲ得可シ 第八百九十七条 本巻第六章ニ於テ父母及ヒ兄弟姉妹ニ許シタル処分ハ前条ノ初メノ二項ノ例外ナリトス 第八百九十八条 受贈者、設定セラレタル相続人又ハ受遺嘱者ノ其贈与物、遺産又ハ遺嘱物ヲ収取セサル場合ニ於テハ第三ノ人ヲシテ其贈与物、遺産又ハ遺嘱物ヲ収取セシムルニ招喚スル所ノ処分ハ贈与転付ト看做ス可カラスシテ有効ノモノタル可シ 第八百九十九条 使用収益権ヲ一人ニ与ヘ虚所有権ヲ他人ニ与フル所ノ生存中又ハ遺嘱ノ処分ハ亦右ト同一ナリトス 第九百条 総テ生存中又ハ遺嘱ノ処分ニ於テハ為シ能ハサル条件及ヒ法律又ハ風儀ヲ害スル条件ハ之ヲ記セサルモノト看做ス可シ 第二章 生存中ノ贈与ニ依リ又ハ遺嘱ニ依テ処分シ又ハ収受スルノ能力 第九百一条 生存中ノ贈与又ハ遺嘱ヲ為スニハ精神ノ健康ナルヲ必要トス 第九百二条 法律ニ於テ無能力ナリト定メタル者ノ外何人ニ限ラス生存中ノ贈与ニ依リ若クハ遺嘱ニ依テ処分シ及ヒ収受スルコトヲ得可シ 第九百三条 十六歳以下ノ幼者ハ本巻第九章ニ規定シタル所ノモノノ外如何ナル方法ニテモ処分スルコトヲ得ス 第九百四条 十六歳ノ齢ニ達シタル幼者ハ遺嘱ニ依ルニ非サレハ処分スルコトヲ得ス且ツ法律ニ於テ成年者ニ処分スルコトヲ許ルス所ノ財産ノ一半ノミニ充ツル迄ノ外処分スルコトヲ得ス 第九百五条 婚姻シタル婦ハ婚姻ノ巻第二百十七条及ヒ第二百十九条ニ定メタル所ニ従ヒ其夫ノ補助又ハ特別ノ承諾ナク又ハ裁判所ヨリ許可セラルルコトナクシテ生存中ノ贈与ヲ為スコトヲ得ス 其婦ハ遺嘱ニ依テ処分スル為メニハ夫ノ承諾ヲモ又裁判所ノ許可ヲモ要セス 第九百六条 生存中ノ贈与ヲ収受シ能フニハ其贈与ノ時ニ於テ懐胎セラレタルヲ以テ足レリトス 遺嘱ニ依リ収受シ能フニハ遺嘱者ノ死去ノ時期ニ於テ懐胎セラレタルヲ以テ足レリトス 然レトモ贈与又ハ遺嘱ハ其子ノ生存ス可ク生レタル時ニ非サレハ其効ヲ有セス 第九百七条 幼者ハ仮令十六歳ノ齢ニ達シタリト雖モ遺嘱ニ依ルモ其後見人ノ利益ニ於テ処分スルコトヲ得ス 成年トナリタル幼者ハ予メ後見ノ確定ノ計算書ヲ差出シテ之ヲ清完シタルニ非レハ生存中ノ贈与ニ依ルモ若クハ遺嘱ニ依ルモ其後見人タリシ者ノ利益ニ於テ処分スルコトヲ得ス 前二箇ノ場合ニ於テ幼者ノ後見人タリ又ハ其後見人タリシ其尊属親ハ例外ナリトス 第九百八条 私生子ハ財産相続ノ巻ニ於テ己レニ附与セラレタル所ノモノノ外生存中ノ贈与ニ依リ又ハ遺嘱ニ依リ何物ヲモ収受スルコトヲ得ス 第九百九条 人ノ疾病間之ヲ療治シタル内科又ハ外科ノ医学士、医学得業生及ヒ製薬者ハ其人ノ其病ノ為メニ死去セシ時ハ其病中病者ヨリ為シタル生存中又ハ遺嘱ノ処分ニ依リ利益スルコトヲ得ス 第一ニ処分者ノ資産ト其為サレタル勤労トニ准シ特定ノ名義ニ於テ為シタル報酬ノ処分ハ右ノ例外トス 第二ニ第四級ニ至ル迄ノ血縁ノ場合ニ於ケル全括ノ処分ハ亦右ノ例外トス然レトモ之レカ為メニハ死者ニ直系ノ相続人アラサルヲ必要トス但シ其処分ノ利益ヲ受クル者カ己レ自カラ其直系ノ相続人ノ員中ニアル時ハ此限ニアラス 法教師ニ付テモ右ト同一ノ規則ヲ遵守ス可シ 第九百十条 病院、邑内ノ貧民又ハ公同資益ノ設立場ノ利益ニ於ケル生存中又ハ遺嘱ノ処分ハ皇帝ノ告令ニ依リ許可セラレタルニ非サレハ其効ヲ有セス 第九百十一条 無能力者ノ利益ニ於ケル総テノ処分ハ有償契約ノ体裁ニテ之ヲ仮作スルト介入者ノ名前ヲ以テ之ヲ為ストヲ問ハス無効タル可シ 無能力者ノ父母、子、卑属親、配偶者ハ介入者ト看做ス可シ 第九百十二条 (千八百十九年七月十四日ノ法律ヲ以テ廃止ス)何人ニ限ラス外国人ヨリ仏蘭西人ノ利益ニ於テ処分スルコトヲ得可キ場合ニアラサレハ外国人ノ利益ニ於テ処分スルコトヲ得ス 第三章 処分スルコトヲ得可キ財産定分及ヒ減殺 第一節 処分スルコトヲ得可キ財産定分 第九百十三条 生存中ノ所為ニ依リ若クハ遺嘱ニ依レル贈与ハ其処分者ノ死去ノ時ニ適法ノ子一人ノミヲ遺留スル時ハ其処分者ノ財産ノ一半ニ過クルコトヲ得ス又其子二人ヲ遺留スル時ハ三分一ニ過クルコトヲ得ス又其子三人又ハ更ニ多数ヲ遺留スル時ハ四分一ニ過クルコトヲ得ス 第九百十四条 其級ノ如何ヲ問ハス卑属親ハ前条ニ於テ子ト云ヘル名称中ニ包含シタルモノトス然レトモ卑属親ハ処分者ノ財産相続ニ於テ其代ハル所ノ子ノ数ノミニ之ヲ算計ス可シ 第九百十五条 若シ死者ニ子ナクシテ父方系及ヒ母方系ノ各自ニ尊属親一名又ハ数名ヲ遺留スル時ハ生存中ノ所為ニ依リ又ハ遺嘱ニ依レル贈与ハ其財産ノ一半ニ過クルコトヲ得ス又一系ノミニ尊属親ヲ遺留スル時ハ四分三ニ過クルコトヲ得ス 斯クノ如クニ尊属親ノ利益ニ於テ貯存シタル財産ハ法律カ其尊属親ヲ相続ニ招喚スル所ノ順序ヲ以テ尊属親之ヲ収取ス可ク又傍系親ト抗競シテ分派ヲ為スニ依リ其貯存財産ト定メラレタル財産ノ定分ヲ其尊属親ニ得セシメサル総テノ場合ニ於テハ尊属親ノミ其貯存財産ヲ得ルノ権利アリトス 第九百十六条 尊属親及ヒ卑属親ノアラサルニ於テハ生存中ノ所為ニ依リ又ハ遺嘱ノ所為ニ依レル贈与ハ財産ノ全部ヲ尽クスコトヲ得可シ 第九百十七条 使用収益権又ハ畢生間ノ年金収受権ヲ生存中ノ所為ニ依リ又ハ遺嘱ニ依テ処分シ而シテ其使用収益権又ハ畢生間ノ年金収受権ノ価額カ処分スルコトヲ得可キ定分ニ過クルニ於テハ法律上ニテ貯存ノ利益ヲ受クル所ノ相続人ハ右ノ処分ヲ執行シ又ハ処分スルコトヲ得可キ定分ノ所有権ヲ委棄スルコト自由ナリトス 第九百十八条 畢生間ノ年金収受権ノ負任ヲ以テ若クハ元資滅却ノ法ヲ以テ又ハ使用収益権ノ貯存ヲ以テ直系ニ於ケル相続ヲ為シ得可キ者ノ中一人ニ移転シタル財産ノ完全ノ所有権ニ於ケル価額ハ処分スルコトヲ得可キ定分ニ之ヲ充テ用フ可ク若シ余額アル時ハ財産合部中ニ之ヲ返還ス可シ○其充用及ヒ返還ハ更ニ他ノ直系ニ於ケル相続ヲ為シ得可キ者ノ中ニテ其所有権ノ移転ヲ承諾シタル者ヨリ之ヲ求ムルコトヲ得ス又如何ナル場合ニ於テモ傍系ニ於ケル相続ヲ為シ得可キ者ヨリ之ヲ求ムルコトヲ得ス 第九百十九条 処分スルコトヲ得可キ定分ハ生存中ノ所為ニ依リ若クハ遺嘱ニ依リ贈与者ノ子又ハ其他ノ相続ヲ為シ得可キ者ニ其全部又ハ一部ヲ贈与スルコトヲ得可シ而シテ財産相続ニ来ル所ノ其受贈者又ハ受遺嘱者ハ之ヲ返還スルニ及ハス但シ之カ為メニハ明カニ先取ノ名義ヲ以テ又ハ分ケ前ノ外ニ於テ其処分ヲ為シタルコトヲ必要トス 贈与物又ハ遺嘱物ノ先取ノ名義タリ又ハ分ケ前外ノモノタルノ申述ハ其処分ヲ記スル所ノ証書ヲ以テ之ヲ為シ若クハ其後ニ至リ生存中ノ処分又ハ遺嘱ノ処分ノ法式ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得可シ 第二節 贈与及ヒ遺嘱ノ減殺 第九百二十条 処分スルコトヲ得可キ定分ニ過キタル生存中若クハ死去ノ原由ニ依レル処分ハ財産相続開始ノ時ニ於テ之ヲ其定分ニ減殺ス可キモノトス 第九百二十一条 生存中ノ処分ノ減殺ハ法律上ニテ貯存ノ利益ヲ受クル者又ハ其相続人或ハ受権人ニ非サレハ之ヲ求ムルコトヲ得ス但シ受贈者、受遺嘱者及ヒ死者ノ債主ハ其減殺ヲ求ムルコトヲ得ス又其減殺ニ依リ利益スルコトヲ得サルモノトス 第九百二十二条 減殺ハ贈与者又ハ遺嘱者ノ死去ノ時ニ当リテ存在スル総テノ財産ノ合部ヲ作リテ之ヲ定ムルモノトス○生存中ノ贈与ニ依テ処分シタル財産ハ贈与ノ時期ニ於ケル其景状ト贈与者ノ死去ノ時ニ於ケル其価額トニ従ヒ仮設ヲ以テ其合部中ニ之ヲ併合ス○其総テノ財産中ヨリ負債ヲ引去リタル後其財産ニ就キ贈与者ノ遺留スル相続人ノ分限ニ准シテ其贈与者ノ処分スルコトヲ得可キ定分ノ如何ヲ算定ス 第九百二十三条 遺嘱ノ処分中ニ包含シタル総テノ財産ノ価額ヲ尽クシタル後ニ非サレハ決シテ生存中ノ贈与ヲ減殺ス可カラス而シテ若シ其減殺ヲ為ス可キ時ハ最後ノ贈与ヨリ始メ次第ニ後ノ贈与ヨリ前ノ贈与ニ遡リテ之ヲ為ス可シ 第九百二十四条 若シ減殺ス可キ生存中ノ贈与ヲ相続ヲ為シ得可キ者ノ中一人ニ為シタル時ハ其一人ハ処分スルコトヲ得サル財産中ニテ相続人トシテ己レニ属ス可キ部分ノ価額ヲ其贈与財産中ニテ留置クコトヲ得可シ但シ之レカ為メニハ其二箇ノ財産ノ同一ノ性質タルコトヲ必要トス 第九百二十五条 若シ生存中ノ贈与ノ価額カ処分スルコトヲ得可キ定分ニ過キ又ハ之ニ等シキ時ハ総テ遺嘱ノ処分ハ無効タル可シ 第九百二十六条 若シ遺嘱ノ処分カ処分スルコト得可キ定分ニ過キ若クハ生存中ノ贈与ノ価額ヲ引去リタル後ニ残ル所ノ其定分中ノ部分ニ過クル時ハ全括ノ遺嘱物ト特定ノ遺嘱物トノ間ニ毫モ差別ナク其割合ヲ以テ減殺ヲ為ス可キモノトス 第九百二十七条 然レトモ遺嘱者カ云々ノ遺嘱物ヲ他ノ遺嘱物ヨリモ撰取シテ弁償セント欲スル旨ヲ明カニ申述シタル総テノ場合ニ於テハ其撰取ヲ為ス可ク而シテ其目的タル遺嘱物ハ其他ノ遺嘱物ノ価額ヲ以テ法律上ノ貯存財産ニ充ツルヲ得サル時ニ非サレハ之ヲ減殺ス可カラス 第九百二十八条 減殺ノ訟求ヲ一年内ニ為シタル時ハ贈与者ノ死去ノ日ヨリ起算シテ受贈者ヨリ処分スルコトヲ得可キ定分ニ過キタルモノノ果実ヲ返ス可ク若シ然ラサル時ハ訟求ノ日ヨリ起算シテ其果実ヲ返ス可シ 第九百二十九条 減殺ノ効ニ依リ取戻ス可キ不動産ハ受贈者ノ設ケタル負債又ハ書入質ノ負任ナク之ヲ受戻ス可キモノトス 第九百三十条 減殺ノ訴権又ハ所有権取戻ノ訴権ハ贈与中ノ一部分ニ在リテ受贈者ヨリ所有権ヲ移転シタル不動産ノ第三ノ保有者ニ対シ相続人ヨリ之ヲ執行スルコトヲ得可シ但シ其訴権ヲ執行スル方法及ヒ順序ハ受贈者自身ニ対スルト相同シク且ツ予メ其受贈者ノ財産ノ索討ヲ為ス可キモノトス○右ノ訴権ハ最モ新シキモノヨリ始メ所有権移転ノ日附ノ順序ニ従テ之ヲ執行セサル可カラス 第四章 生存中ノ贈与 第一節 生存中ノ贈与ノ法式 第九百三十一条 総テ生存中ノ贈与ノ証書ハ契約ノ通常ノ法式ヲ以テ公証人ノ面前ニ於テ之ヲ作リ而シテ其細字ノ正本ヲ存シ置ク可シ若シ然ラサル時ハ無効ナリトス 第九百三十二条 生存中ノ贈与ハ特ニ明言シテ之ヲ受諾シタル日ヨリ後ニ非サレハ贈与者ヲ結束スルコトナク且ツ一箇ノ効ヲモ生セサルモノトス 受諾ハ贈与者ノ生存中ニ於テ贈与以後ノ公正ノ証書ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得可ク而シテ其証書ノ細字ノ正本ヲ存シ置ク可シ然レトモ此場合ニ於テハ其受諾ヲ証明スル証書ヲ贈与者ニ送達シタル日ヨリ後ニ非サレハ贈与者ニ関シテ其贈与ノ効アラサルモノトス 第九百三十三条 受贈者ノ成年者タル時ハ己レ自カラ其受諾ヲ為シ又ハ其贈与ヲ受諾スルノ権力又ハ既ニ為シ或ハ後ニ為スコトアル可キ各箇ノ贈与ヲ受諾スル一般ノ権力ヲ附与シタル其代理委任状ヲ所持スル代理人受贈者ノ名前ヲ以テ其受諾ヲ為ササル可カラス 其代理委任状ハ公証人ノ面前ニ於テ之ヲ作ラサルヲ得ス而シテ又其副本ヲ贈与証書ノ細字ノ正本又ハ別ニ作リタル受諾証書ノ細字ノ正本ニ添ヘ置カサルヲ得ス 第九百三十四条 婚姻シタル婦ハ婚姻ノ巻第二百十七条及ヒ第二百十九条ニ定メタル所ニ従ヒ夫ノ承諾ヲ得又夫ノ否拒スル場合ニ於テハ裁判所ノ許可ヲ受クルニ非サレハ贈与ヲ受諾スルコトヲ得ス 第九百三十五条 後見ヲ免脱セラレサル幼者又ハ治産禁ヲ受ケタル者ニ為ス所ノ贈与ハ其後見人幼年、後見及ヒ後見ノ免脱ノ巻第四百六十三条ニ従ヒ之ヲ受諾セサルヲ得ス 後見ヲ免脱セラレタル幼者ハ其管財人ノ補助ヲ以テ受諾スルコトヲ得可シ 然レトモ後見ヲ免脱セラレタル幼者又ハ後見ヲ免脱セラレサル幼者ノ父母又ハ父母ノ生存中ト雖トモ其他ノ尊属親ハ幼者ノ後見人又ハ管財人タラサルニ拘ハラス其幼者ノ為メニ受諾スルコトヲ得可シ 第九百三十六条 文字ヲ書クコトヲ知ル所ノ聾唖者ハ己レ自カラ受諾シ又ハ代理人ヲ以テ受諾スルコトヲ得可シ 若シ聾唖者ノ文字ヲ書クコトヲ知ラサル時ハ幼年、後見及ヒ後見ノ免脱ノ巻ニ定メタル規則ニ従ヒ特ニ任シタル管財人ヲシテ其受諾ヲ為サシメサルヲ得ス 第九百三十七条 病院、邑内ノ貧民又ハ公同資益ノ設立場ノ利益ニ於テ為シタル贈与ハ其邑又ハ設立場ノ管理人法ニ適シテ許可セラレタル後之ヲ受諾ス可シ 第九百三十八条 法ニ適シテ受諾シタル贈与ハ双方ノ承諾ノミヲ以テ完全ノモノトシ其贈与シタル物品ノ所有権ハ別ニ引渡ヲ要スルコトナク受贈者ニ転移ス可シ 第九百三十九条 書入質ト為シ得可キ財産ヲ贈与シタル時ハ其贈与及ヒ受諾ヲ記シタル証書ノ登記並ニ別ノ証書ヲ以テ為セシ受諾ノ通知ヲ記シタル証書ノ登記ヲ其財産所在ノ郡ノ書入質役署ニ於テ為ササルヲ得ス 第九百四十条 若シ財産カ婦ニ贈与セラレタル時ハ夫ノ求メニ依リ其登記ヲ為ス可ク若シ夫ノ其法式ヲ履行セサル時ハ婦ハ許可ヲ受ケスシテ其法式ヲ行ハシムルコトヲ得可シ 若シ幼者、治産禁ヲ受ケタル者又ハ公同ノ設立場ニ贈与ヲ為シタル時ハ後見人、管財人又ハ管理人ノ求メニ依リ其登記ヲ為ス可シ 第九百四十一条 登記ノ欠缺ハ関係ヲ有スル各人ヨリ之ヲ以テ対抗スルコトヲ得可シ然レトモ登記ヲ為サシムルコトヲ任セラレタル者又ハ其受権人及ヒ贈与者ハ此例外ナリトス 第九百四十二条 幼者、治産禁ヲ受ケタル者、婚姻シタル婦ハ贈与ノ受諾又ハ登記ノ欠缺ニ対シテ回復ス可カラサルモノトス但シ別段ノ道理アル時ハ右ノ各人ヨリ其後見人又ハ夫ニ対シテ償還ノ訟求ヲ為スハ格別タレトモ仮令其後見人及ヒ夫ノ無資力タル場合ト雖モ回復ヲ為スコトヲ得サルモノトス 第九百四十三条 生存中ノ贈与ハ贈与者ノ現在ノ財産ノミヲ包含ス可シ若シ其贈与中ニ将来ノ財産ヲ包含シタル時ハ其財産ニ付テハ贈与ヲ無効ナリトス 第九百四十四条 執行カ贈与者ノ意ノミニ関スル条件ヲ以テ為シタル生存中ノ贈与ハ総テ無効ナリトス 第九百四十五条 贈与ノ時期ニ於テ存在シ又ハ贈与ノ証書若クハ之ニ添ヘサル可カラサル目録中ニ明示シタルモノヨリ更ニ他ノ負債又ハ負任ヲ弁償スルノ条件ヲ以テ生存中ノ贈与ヲ為シタル時ハ其贈与ハ亦同シク無効ナリトス 第九百四十六条 贈与者カ其贈与中ニ包含シタル品物又ハ其贈与シタル財産中ニ就キ特定ノ金額ヲ処分スルノ自由ヲ己レニ貯存シタル場合ニ於テ若シ之ヲ処分セスシテ死去スル時ハ其品物又ハ金額ハ如何ナル反対ノ約款及ヒ約権アルニ拘ハラス贈与者ノ相続人ニ属ス可シ 第九百四十七条 前四条ハ本巻第八章及ヒ第九章ニ記スル所ノ贈与ニ適用セサルモノトス 第九百四十八条 総テ動産ノ贈与ノ証書ハ其贈与者及ヒ受贈者又ハ受贈者ノ為メニ受諾スル者ノ署名シタル評価目録ヲ其贈与証書ノ細字ノ正本ニ添ヘタル品物ノミニ関スルニ非サレハ有効ナリトセス 第九百四十九条 贈与者ハ其贈与シタル動産又ハ不動産ノ収益又ハ使用収益権ヲ自己ノ利益ニ於テ貯存シ又ハ他人ノ利益ニ於テ処分スルコトヲ許サルルモノトス 第九百五十条 使用収益権ヲ貯存シテ動産ノ贈与ヲ為シタル時ハ受贈者其使用収益権ノ終リニ至リ原品ノ侭ニテ存在スル所ノ贈与品物ヲ其現在ノ景状ニテ収受ス可ク又受贈者ハ存在セサル物品ニ付テハ評価目録ニ於テ其物品ニ附シタル価額ニ充ツル迄贈与者又ハ其相続人ニ対シテ訴権ヲ有スルモノトス 第九百五十一条 贈与者ハ、受贈者ノミノ己レヨリ前ニ死去スル場合ノ為メ若クハ受贈者及ヒ其卑属親ノ己レヨリ前ニ死去スル場合ノ為メ其贈与シタル物品還帰ノ権利ヲ約権スルコトヲ得可シ 其権利ハ贈与者一人ノミノ利益ノ為メニ非サレハ之ヲ約権スルコトヲ得ス 第九百五十二条 其還帰ノ権利ノ効ハ贈与シタル財産ノ総テノ所有権移転ヲ解除シ且ツ総テノ負任及ヒ書入質ヲ免カレシメテ其財産ヲ贈与者ニ還帰セシムルニアリトス然レトモ受贈者タル配偶者ノ他ノ財産ノ足ラサル時ハ嫁資及ヒ婚姻合意ノ書入質ハ格別ナリトス但シ右等ノ権利及ヒ書入質ヲ生セシメタル其同一ノ婚姻契約ニ依リ其贈与ヲ右ノ配偶者ニ為シタル場合ノミニ限ル可シ 第二節 生存中ノ贈与ヲ廃止ス可カラサル規則ノ例外 第九百五十三条 生存中ノ贈与ハ之ヲ為スニ付キ定メタル条件不執行ノ原由又ハ忘恩ノ原由及ヒ子ヲ挙ケタルノ原由ノ為メニ非サレハ之ヲ廃止スルコトヲ得ス 第九百五十四条 条件不執行ノ原由ノ為メ廃止ノ場合ニ於テハ受贈者ノ権利ニ依レル一切ノ負任及ヒ書入質ヲ免カレシメテ其財産ヲ贈与者ノ手元ニ戻ラシム可シ而シテ贈与者ハ其贈与シタル不動産ノ第三ノ保有者ニ対シ其受贈者自身ニ対シテ有スル所ノ総テノ権利ヲ有スルモノトス 第九百五十五条 生存中ノ贈与ハ左ニ記スル所ノ場合ニ非サレハ忘恩ノ原由ノ為メニ之ヲ廃止スルコトヲ得ス 第一 受贈者カ贈与者ノ生命ニ対シ害ヲ為シタル時 第二 受贈者カ贈与者ニ対シ苛虐、犯罪又ハ至重ノ凌辱ヲ加ヘタル時 第三 受贈者カ贈与者ニ養料ヲ否拒スル時 第九百五十六条 条件不執行ノ原由ノ為メ又ハ忘恩ノ原由ノ為メノ廃止ハ決シテ当然之ヲ為ス可カラス 第九百五十七条 忘恩ノ原由ノ為メ廃止ノ訟求ハ贈与者ヨリ受贈者ニ帰シタル犯罪ノ日ヨリ起算シテ一年内又ハ贈与者ノ其犯罪ヲ知リ得タル日ヨリ起算シテ一年内ニ之ヲ為ササルヲ得ス 其廃止ハ贈与者ヨリ受贈者ノ相続人ニ対シテ之ヲ訟求スルコトヲ得ス又贈与者ノ相続人ヨリ受贈者ニ対シテ之ヲ訟求スルコトヲ得ス但シ此最後ニ記シタル場合ニ於テ既ニ贈与者ヨリ訴ヲ起シ又ハ贈与者ノ其犯罪ヨリ一年内ニ死去セシ時ハ格別ナリトス 第九百五十八条 忘恩ノ原由ノ為メノ廃止ハ受贈者ノ為シタル所有権移転ヲ害ス可カラス又受贈者ノ其贈与ノ物品ニ負ハシメタル書入質及ヒ其他ノ対物権上ノ負任ヲ害ス可カラス但シ之レカ為メニハ第九百三十九条ニ定メタル登記ノ端ニ廃止ノ訟求書ノ抜書ヲ記入セシ以前ニ右ノ諸件ヲ為シタルコトヲ必要トス 廃止ノ場合ニ於テハ受贈者其所有権ヲ移転シタル物品ノ其訟求ノ時ニ於ケル価額ヲ返還シ又其果実ヲ右訟求ノ日ヨリ起算シテ返還ス可キノ言渡ヲ受ク可シ 第九百五十九条 婚姻ノ為メノ贈与ハ忘恩ノ原由ノ為メニ廃止ス可カラサルモノトス 第九百六十条 凡ソ贈与ノ時ニ於テ現ニ生存スル子又ハ卑属親アラサル者ノ為シタル生存中ノ贈与ハ其贈与ノ価額ノ如何ヲ問ハス又如何ナル名義ヲ以テ之ヲ為シタルヲ問ハス又其贈与ノ相互ノモノ又ハ報酬ノモノタルヲ問ハス又然ノミナラス尊属親ヨリ夫婦タル者ニ為シ若クハ夫婦ノ中ノ一方ヨリ他ノ一方ニ為スモノヲ除クノ外ハ婚姻ノ為メニ為セシモノタルヲ問ハス贈与者ノ死後ニ生ルルモノト雖モ其適法子ヲ挙ケタルニ依リ又ハ其贈与ノ後ニ生レタル私生子ヲ後ノ婚姻ヲ以テ適法子ト為シタルニ依リ当然廃止セラルルモノトス 第九百六十一条 贈与ヲ為ス男又ハ贈与ヲ為ス女ノ子カ其贈与ノ時ニ於テ懐胎セラレタル時ト雖モ其廃止ヲ為ス可キモノトス 第九百六十二条 受贈者ノ其贈与セラレタル財産ノ占有ヲ得而シテ贈与者ノ子ヲ挙ケタル後ニ其贈与者受贈者ヲシテ猶其占有ヲ存続セシメタル時ト雖モ亦同シク其贈与ハ廃止セラルルモノトス然レトモ受贈者ハ子ノ生レタル事又ハ後ノ婚姻ヲ以テ適法子ト為シタル事ヲ送達状又ハ其他ノ法式ニ適ヒタル証書ヲ以テ通知セラレタル日ヨリ後ニ非サレハ如何ナル性質ノモノタルヲ問ハス其収取シタル果実ヲ返還スルニ及ハス但シ其贈与シタル財産ヲ取戻ス為メノ訟求ヲ右通知ノ後ニ為シタル時ト雖トモ亦之ニ同シ 第九百六十三条 当然廃止セラレシ贈与中ニ包含セラレタル財産ハ仮令補助ノ為メト雖トモ受贈者ノ婦ノ嫁資返還、其婦ノ財産取戻又ハ其他ノ婚姻ノ合意ニ之ヲ抵当ト為シ置クコトヲ得スシテ受贈者ノ権利ニ依レル総テノ負任及ヒ書入質ヲ免カレシメテ之ヲ贈与者ノ家産中ニ戻ラシム可シ但シ受贈者ノ婚姻ノ為メニ其贈与ヲ為シテ之ヲ其婚姻ノ契約書中ニ記入シ且ツ贈与者ノ其贈与ニ依リ右婚姻契約ノ執行ニ付キ保証人トナリテ己レニ義務ヲ負ヒタル時ト雖トモ亦右ノ如クタル可シ 第九百六十四条 斯クノ如クニ廃止セシ贈与ハ贈与者ノ子ノ死去ニ依ルモ又ハ如何ナル固定ノ証書ニ依ルモ再生シ又ハ再ヒ其効ヲ有スルコトヲ得ス但シ其出産ノ為メニ贈与ヲ廃止セシ子ノ死去ノ前後ヲ問ハス贈与者ヨリ同一ノ財産ヲ同一ノ受贈者ニ贈与セント欲スル時ハ新タナル処分ニ依ルニ非サレハ其贈与ヲ為スコトヲ得サルモノトス 第九百六十五条 凡ソ贈与者ニ於テ子ヲ挙クルニ依レル贈与ノ廃止ヲ放棄スル約款又ハ合意ハ無効ノモノト看做ス可クシテ何等ノ効ヲモ生スルコトヲ得ス 第九百六十六条 受贈者、其相続人又ハ受権人又ハ贈与セラレタル財産ノ其他ノ保有者ハ三十年ノ占有ノ後ニ非サレハ子ヲ挙ケタルカ為メニ廃止セラレシ贈与ヲ益用センカ為メ期満効ヲ以テ対抗スルコトヲ得ス而シテ其三十年ノ時間ハ仮令死後ニ生ルルモノト雖トモ贈与者ノ末子ノ生レシ日ヨリ後ニ非サレハ経過スルコトヲ始ムルヲ得サルモノトス但シ法規ニ拠レル期満効ノ中断ト相触ルルコトナカル可シ 第五章 遺嘱ノ処分 第一節 遺嘱ノ法式ニ付テノ総規 第九百六十七条 何人ニ限ラス相続人設定ノ名義若クハ遺嘱贈与ノ名義若クハ自己ノ意ヲ表示スルニ適当ナル総テ其他ノ名称ヲ以テ遺嘱ニ依リ処分スルコトヲ得可シ 第九百六十八条 二人又ハ数人ニ於テ第三ノ人ノ利益ノ為メニスルト互易相互ノ処分ノ名義ヲ以テスルトヲ問ハス同一ノ証書ヲ以テ遺嘱ヲ為スコトヲ得ス 第九百六十九条 遺嘱ハ自筆ノモノタルコトヲ得又ハ公ケノ証書ヲ以テ為スコトヲ得又ハ秘密ノ法式ヲ以テスルコトヲ得可シ 第九百七十条 自筆ノ遺嘱書ハ遺嘱者ノ其全文及ヒ日附ヲ手記シ且ツ署名タルニ非サレハ有効ノモノトセス但シ自筆ノ遺嘱書ハ別ニ其他ノ法式ニ服従セサルモノトス 第九百七十一条 公ケノ証書ニ依レル遺嘱書トハ証人二名ノ面前ニ於テ公証人二名ノ記シ又ハ証人四名ノ面前ニ於テ公証人一名ノ記シタルモノヲ云フ 第九百七十二条 公証人二名ノ遺嘱書ヲ記スル時ハ遺嘱者其公証人二名ニ遺嘱ヲ口授シ公証人中ノ一名其口授セラレタル如ク之ヲ筆記セサルヲ得ス 若シ公証人ノ唯一名ノミタル時ハ遺嘱者右ニ同シク遺嘱ヲ口授シ其公証人之ヲ筆記セサルヲ得ス 右二箇中何レノ場合ニ於テモ証人ノ面前ニ於テ其遺嘱書ヲ遺嘱者ニ読聞カセサルヲ得ス 右ノ諸件ハ明カニ之ヲ記載ス可キモノトス 第九百七十三条 其遺嘱書ハ遺嘱者之ニ署名セサルヲ得ス若シ遺嘱者ノ署名スルコトヲ知ラス又ハ署名スルコト能ハサル旨ヲ申述スル時ハ其申述並ニ其署名スルヲ妨クル原由ヲ明カニ其証書中ニ記載ス可シ 第九百七十四条 其遺嘱書ハ証人之ニ署名セサルヲ得ス然レトモ田舎ニ於テ公証人二名ノ其遺嘱書ヲ記シタル時ハ証人二名中一名ノ署名スルヲ以テ足レリトシ又公証人一名ノ其遺嘱書ヲ記シタル時ハ証人四名中二名ノ署名スルヲ以テ足レリトス 第九百七十五条 名義ノ如何ヲ問ハス受遺嘱者又ハ第四級ニ至ル迄ノ其血属親又ハ姻属親又ハ其証書ヲ記シタル公証人ノ書記ハ公ケノ証書ニ依レル遺嘱ノ証人ト為スコトヲ得ス 第九百七十六条 遺嘱者秘密即チ隠密ノ遺嘱ヲ為サント欲スル時ハ己レ自カラ其処分ヲ書記シタルト他人ヲシテ之ヲ書記セシメタルトヲ問ハス其処分ノ書面ニ署名ス可キモノトス○其処分ノ書面ヲ記シタル紙又封袋ノ用紙アル時ハ其用紙ヲ封シテ印ヲ押ス可シ○遺嘱者ハ其紙ヲ右ノ如クニ封シテ印ヲ押シタル上之ヲ公証人ト証人少クトモ六名トニ差出シ又ハ此等ノ者ノ面前ニ於テ其紙ヲ封シテ印ヲ押サシム可シ而シテ遺嘱者ハ其紙ニ記シタル所ハ自己ノ書記シ及ヒ署名シタル遺嘱書タル旨又ハ他人ノ書記シテ自己ノ署名シタル遺嘱書タル旨ヲ申述シ公証人ハ右ノ紙上又ハ封袋ノ用紙ニ其上ハ書ヲ記シ公証人、遺嘱者及ヒ証人一同其上ハ書ニ署名ス可キモノトス○右ニ記シタル諸件ハ其他ノ所為ニ移ルコトナク相継テ之ヲ為ス可シ而シテ若シ遺嘱者ノ其遺嘱書ニ署名シタル後ニ生シタル差支ニ依リ上ハ書ニ署名スルコト能ハサル場合ニ於テハ其旨ニ付キ為シタル申述ヲ記載ス可シ但シ此場合ニ於テハ証人ノ員数ヲ増スヲ要セス 第九百七十七条 若シ遺嘱者ノ其処分ノ書面ヲ書記セシメタル時署名スルコトヲ知ラス又ハ署名スルコト能ハサル時ハ前条ニ記シタル員数ノ外更ニ証人一名ヲ上ハ書ニ招喚シ其証人ハ他ノ証人ト共ニ其上ハ書ニ署名ス可シ但シ其証人ヲ招喚シタル原由ヲ其上ハ書ニ記載ス可キモノトス 第九百七十八条 文字ヲ読ムコトヲ知ラス又ハ文字ヲ読ムコト能ハサル者ハ秘密遺嘱ノ法式ヲ以テ処分ヲ為スコトヲ得ス 第九百七十九条 遺嘱者ノ言語ヲ発スルコト能ハスシテ文字ヲ書スルコトヲ得ル場合ニ於テハ秘密ノ遺嘱ヲ為スコトヲ得可シ然レトモ之レカ為メニハ遺嘱者其遺嘱書ノ全文及ヒ日附ヲ手記シ且ツ之ニ署名シテ公証人ト証人トニ差出シ其差出シタル紙面ハ自己ノ遺嘱書タル旨ヲ公証人及ヒ証人ノ面前ニ於テ上ハ書ノ上部ニ記スルノ負任アリトス但シ公証人ハ然ル後ニ其上ハ書ヲ記シ且ツ公証人ト証人トノ面前ニ於テ遺嘱者ノ右ノ語ヲ記シタル旨ヲ其上ハ書中ニ記載ス可ク且ツ其余ノ事ニ付テハ第九百七十六条ニ定メタル諸件ヲ遵守ス可シ 第九百八十条 遺嘱ニ立会フ為メニ招喚セラレタル証人ハ民権ヲ享有スル国王ノ臣民(共和国民)ニシテ成年ノ男タラサル可カラス 第二節 或ル遺嘱ノ法式ニ付テノ別段ノ規則 第九百八十一条 軍人及ヒ軍中ニ於テ使用セラルル者ノ遺嘱書ハ如何ナル国ニ於ケルヲ問ハス歩兵大隊長又ハ騎兵大隊長又ハ総テ其他ノ上級士官、証人二名ノ面前ニ於テ之ヲ記シ又ハ軍務委員二名又ハ一名、証人二名ノ面前ニ於テ之ヲ記スルコト得可シ 第九百八十二条 其遺嘱書ハ亦其遺嘱者ノ病ニ罹リ又ハ創傷ヲ被ムリタルニ於テハ軍,医長、病院ノ警察ヲ任セラレタル司令官ノ補助ヲ受ケテ之ヲ記スルコトヲ得可シ 第九百八十三条 前数条ノ成期ハ仏蘭西領地外ニ於テ遠征中ニアリ又ハ営中或ハ衛戍ニアル者又ハ敵ノ俘虜トナリタル者ノ為メニ非サレハ施行ス可カラサルモノニシテ内地ニ於テ営中又ハ衛戍ニアル者ハ右ノ成規ニ依テ利益ヲ受クルコトヲ得ス但シ其者ノ合囲地内ニ在リ又ハ戦争ノ為メニ出入ノ道ヲ鎖サレテ内外往来ノ断ヘタル城砦及ヒ其他ノ地ニ在ル時ハ格別ナリトス 第九百八十四条 前ニ定メタル法式ヲ以テ作リタル遺嘱書ハ遺嘱者ノ通常ノ法式ヲ用フルノ自由アル地ニ帰来リシ時ヨリ六月ノ後ニ至リテハ無効タル可シ 第九百八十五条 時疫又ハ其他ノ伝染病ノ為メニ内外ノ往来ノ全ク断ヘタル地ニ於テ作ル所ノ遺嘱書ハ証人二名ノ立会ニテ治安裁判官ノ面前又ハ其邑ノ邑官一名ノ面前ニ於テ之ヲ作ルコトヲ得可シ 第九百八十六条 右ノ成規ハ其病ニ罹リタル者ニ付テモ又現ニ病ニ罹ラスト雖トモ其病ノ伝染シタル地内ニ在ル所ニ者ニ付テモ之ヲ施行ス可キモノトス 第九百八十七条 前二条ニ記シタル遺嘱書ハ其遺嘱者所在ノ地ノ再ヒ外地ト往来ヲ為シ得可キニ至リシ時ヨリ六月ノ後又ハ其遺嘱者ノ往来ノ截断セラレサル地ニ移リシ時ヨリ六月ノ後ニ至リテハ無効トナル可シ 第九百八十八条 旅行中海上ニテ作ル所ノ遺嘱書ハ左ノ如ク之ヲ記スルコトヲ得可シ 国王(共和国)ノ艦及ヒ其他ノ船ニ於テハ其船ヲ司令スル士官若シ其士官ノアラサル時ハ役務ノ順序ニ於テ之ニ代ル者カ庶務ノ役員又ハ其職務ヲ行フ者ト共ニ其遺嘱書ヲ記スルコトヲ得可シ 商船ニ於テハ其船ノ書役又ハ其職務ヲ行フ者カ船長、船頭又ハ指令者ト共ニ其遺嘱書ヲ記スルコトヲ得可シ若シ此等ノ者ノアラサル時ハ之ニ代ハル可キ者其遺嘱書ヲ記スルコトヲ得可シ 如何ナル場合ニ於テモ右ノ遺嘱書ハ証人二名ノ面前ニ於テ之ヲ記セサル可カラス 第九百八十九条 国王(共和国)ノ船ニ於テハ船長又ハ庶務ノ役員ノ遺嘱書又商船ニ於テハ船長、船頭、指令者又ハ書役ノ遺嘱書ハ役務ノ順序ニ於テ其次席タル者之ヲ記スルコトヲ得可シ但シ其余ノ事ニ付テハ前条ノ成規ニ従フ可キモノトス 第九百九十条 如何ナル場合ニ於テモ前二条ニ記シタル遺嘱書ノ正本二通ヲ作ル可シ 第九百九十一条 若シ其船ノ仏蘭西領事ノ駐剳スル外国ノ港ニ着スル時ハ遺嘱書ヲ記シタル者其正本中ノ一通ヲ封シ又ハ封印シテ之ヲ領事ニ差出シ領事ハ之ヲ海軍卿ニ送呈シ海軍卿ハ遺嘱者住所ノ地ノ治安裁判所ノ書記局ニ之ヲ蔵メシム可シ 第九百九十二条 其船ノ仏蘭西ニ帰着シタル時ハ其艤装ノ港ニ着シタルト艤装ノ港ヨリ更ニ他ノ港ニ着シタルトヲ問ハス其遺嘱書ノ正本二通ヲ共ニ同シク封シ及ヒ封印シ若シ又前条ニ従ヒ旅行中ニ其一通ヲ差出セシ時ハ残ル所ノ一通ヲ海軍兵士徴募役署ニ納メ其役署ノ官吏ハ遅延ナク之ヲ海軍卿ニ送呈シ海軍卿ハ同条ニ記シタル如ク其蔵メ方ヲ命令ス可シ 第九百九十三条 其船ノ乗組人姓名簿中其遺嘱者ノ姓名ヲ記シタル端ニ遺嘱書ノ正本ヲ領事若クハ海軍兵士徴募役署ニ差出シタル旨ヲ記載ス可シ 第九百九十四条 遺嘱ヲ為ス時ニ当リテ其船ノ仏蘭西ノ公ケノ役員ノ在留スル外国ノ地若クハ仏蘭西管轄ノ地ニ着シタルニ於テハ旅行中ニ遺嘱ヲ為シタルト雖トモ海上ニテ之ヲ為シタルモノト看做ス可カラス此場合ニ於テハ仏蘭西ニテ定メタル法式ニ従ヒ又ハ其遺嘱ヲ為シタル国ニ於テ用フル所ノ法式ニ従ヒ作リタルニ非サレハ其遺嘱書ヲ有効ノモノトセス 第九百九十五条 前ノ成規ハ乗組人ノ一部分ヲ為ササル通常ノ旅客ノ為シタル遺嘱ニモ通シ用フ可キモノトス 第九百九十六条 第九百八十八条ニ定メタル法式ヲ以テ海上ニテ作リタル遺嘱書ハ其遺嘱者ノ海上ニテ死去シ又ハ通常ノ法式ヲ以テ改作スルコトヲ得可キ地ニ上陸シタル後三月内ニ死去シタル時ニ非サレハ有効ノモノトセス 第九百九十七条 海上ニテ為シタル遺嘱ハ其船ノ役員ノ利益ニ於ケル如何ナル処分ヲモ包含スルコトヲ得ス但シ其役員カ遺嘱者ノ血属親タル時ハ格別ナリトス 第九百九十八条 本節中ノ前数条ニ記シタル遺嘱書ハ遺嘱者及ヒ之ヲ記シタル各人ニ於テ署名ス可シ 若シ遺嘱者ノ署名スルコトヲ知ラス又ハ署名スルコト能ハサル旨ヲ申述スル時ハ其申述ト署名スルヲ妨クル原由トヲ記載ス可シ 証人二名ノ立会ヲ必要トスル場合ニ於テハ少クトモ其中ノ一名遺嘱書ニ署名シ而シテ他ノ一名ノ署名セサル原由ヲ記載ス可シ 第九百九十九条 外国ニ在ル仏蘭西人ハ第九百七十条ニ定メタル如ク私シノ署名証書ニ依リ又ハ証書ヲ記スル地ニ於テ用フル所ノ法式ニ従ヒ公正ノ証書ニ依リ其遺嘱ノ処分ヲ為スコトヲ得可シ 第一千条 外国ニ於テ作リタル遺嘱書ハ遺嘱者ノ猶一箇ノ住所ヲ保存シタル時ハ其住所ノ役署ニ於テ簿冊ニ記録シ然ラサレハ人ノ知リタル仏蘭西国内ノ其最後ノ住所ノ役署ニ於テ簿冊ニ記録シタル後ニ非サレハ仏蘭西ニ在ル財産ニ付キ之ヲ執行スルコトヲ得ス而シテ又其遺嘱書中ニ仏蘭西ニ在ル不動産ノ処分ヲ包含シタル場合ニ於テハ右ノ外更ニ其不動産所在地ノ役署ニ於テ其遺嘱書ヲ簿冊ニ記録セサルヲ得ス但シ之レカ為メ二倍ノ税額ヲ要求スルコトヲ得サルモノトス 第千一条 本節及ヒ前節ノ成規ニ依リ各種ノ遺嘱ニ付キ定メタル法式ハ必ス之ヲ遵守セサルヲ得ス若シ然ラサル時ハ其効ナカル可シ 第三節 相続人ノ設定及ヒ一般ニ遺嘱贈与 第千二条 遺嘱ノ処分ハ或ハ全括ノモノアリ或ハ全括ノ名義ニ於ケルモノアリ或ハ特定ノ名義ニ於ケルモノアリ 其処分中ノ各箇ハ相続人設定ノ名称ヲ以テ之ヲ為シタルト遺嘱贈与ノ名称ヲ以テ之ヲ為シタルトヲ問ハス全括ノ遺嘱贈与、全括ノ名義ニ於ケル遺嘱贈与及ヒ特定ノ遺嘱贈与ノ為メ以下ニ定メタル規則ニ従ヒ其効ヲ生ス可シ 第四節 全括ノ遺嘱贈与 第千三条 全括ノ遺嘱贈与トハ遺嘱者其死去ノ時ニ於テ遺留ス可キ財産ノ全部ヲ一人又ハ数人ニ贈与スル所ノ遺嘱ノ処分ヲ云フ 第千四条 遺嘱者ノ死去ノ時ニ当リ法律上ニテ其財産ノ定分ヲ貯存セラルル相続人アル時ハ其相続人ハ遺嘱者ノ死去ニ依リ当然其遺留財産ノ全部ヲ収握シ全括ノ受遺嘱者ハ其遺嘱中ニ包含シタル財産ノ引渡ヲ其相続人ニ求ム可キモノトス 第千五条 然レトモ其同一ノ場合ニ於テ遺嘱者死去ノ時期ヨリ一年内ニ引渡ノ求ヲ為シタル時ハ全括ノ受遺嘱者右死去ノ日ヨリ起算シテ其遺嘱中ニ包含シタル財産ノ収益ヲ有ス可ク然ラサレハ其収益ハ裁判所ニ訟求ヲ為シタル日又ハ引渡ヲ随意ニ承諾シタル日ヨリ後ニ非サレハ始マラサルモノトス 第千六条 遺嘱者ノ死去ノ時ニ当リ法律上ニテ其財産ノ定分ヲ貯存セラルル相続人アラサル時ハ全括ノ受遺嘱者ハ引渡ヲ求ムルニ及ハスシテ遺嘱者ノ死去ニ依リ当然収握ヲ得可キモノトス 第千七条 総テ自筆ノ遺嘱書ハ之ヲ執行ニ附スル前ニ財産相続ノ開始シタル郡ノ始審裁判所長ニ之ヲ差出ス可シ○其遺嘱書ニ封印シタル時ハ之ヲ開封ス可シ○其裁判所長ハ遺嘱書ノ差出、其開封及ヒ其景状ノ調書ヲ作リテ自己ノ委任シタル公証人ノ手元ニ其遺嘱書ヲ附託ス可キ旨ヲ命令ス可シ 若シ其遺嘱書ノ秘密ノ法式ヲ用ヒタル者ナル時ハ其差出、開封、記載、附託ヲ右ト同一ノ方法ニテ為ス可キモノトス然レトモ其開封ハ上ハ書ニ署名シタル公証人及ヒ証人中ニテ其地ニ在ル者ノ面前又ハ其者ヲ招喚シタル上ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス 第千八条 第千六条ノ場合ニ於テ若シ遺嘱書ノ自筆ノモノ又ハ秘密ノモノタル時ハ全括ノ受遺嘱者ハ請求書ノ末ニ記シタル裁判所長ノ命令ニ依リ占有ヲ受ク可シ但シ其請求書ニハ附託ノ証書ヲ添ユ可キモノトス 第千九条 法律上ニテ財産ノ定分ヲ貯存セラルル相続人ト抗競スル所ノ全括ノ受遺嘱者ハ対人権上ニテハ自己ノ分ケ前及ヒ部分ニ付キ又書入質上ニテハ全部ニ付キ遺嘱者ノ遺留財産ノ負債及ヒ負任ヲ担任ス可シ又其全括ノ受遺嘱者ハ第九百二十六条及ヒ第九百二十七条ニ説明シタル如ク減殺ノ場合ノ外ハ総テノ遺嘱贈与ヲ弁償ス可キモノトス 第五節 全括ノ名義ニ於ケル遺嘱贈与 第千十条 全括ノ名義ニ於ケル遺嘱贈与トハ法律カ遺嘱者ニ処分スルコトヲ許ルス財産ノ一分例ヘハ財産ノ一半、三分一ノ如キモノ又ハ其不動産ノ全部又ハ其動産ノ全部又ハ其不動産全部或ハ其動産全部ノ特定ノ部分ヲ遺嘱スル所ノ遺嘱贈与ヲ云フ 総テ其他ノ遺嘱贈与ハ特定ノ名義ニ於ケル処分ノミヲ為スモノトス 第千十一条 全括ノ名義ニ於ケル受遺嘱者ハ法律上ニテ財産ノ定分ヲ貯存セラルル相続人ニ引渡ヲ求ム可ク又其相続人アラサル時ハ全括ノ受遺嘱者ニ引渡ヲ求ム可ク又全括ノ受遺嘱者アラサル時ハ財産相続ノ巻ニ定メタル順序ヲ以テ招喚セラレタル相続人ニ引渡ヲ求ム可キモノトス 第千十二条 全括ノ名義ニ於ケル受遺嘱者ハ全括ノ受遺嘱者ノ如ク対人権上ニテハ自己ノ分ケ前及ヒ部分ニ付キ又書入質上ニテハ全部ニ付キ遺嘱者ノ遺留財産ノ負債及ヒ負任ヲ担任ス可シ 第千十三条 若シ遺嘱者カ其処分スルコトヲ得可キ定分ノ一部分ノミヲ処分シ而シテ全括ノ名義ヲ以テ其処分ヲ為シタル時ハ其受遺嘱者ハ当然ノ相続人ト分担シテ特定ノ遺嘱贈与ヲ弁償ス可キモノトス 第六節 特定ノ遺嘱贈与 第千十四条 総テ単純ノ遺嘱贈与ハ遺嘱者死去ノ日ヨリ受遺嘱者ニ其遺嘱セラレタル物ニ付テノ権利ヲ附与スルモノトス但シ其権利ハ受遺嘱者ノ相続人又ハ受権人ニ移スコトヲ得可シ 然レトモ特定ノ受遺嘱者ハ第千十一条ニ定メタル順序ニ従ヒ為シタル其引渡請求ノ日又ハ其引渡ヲ随意ニ承諾シタル日ヨリ後ニ非サレハ其遺嘱セラレタル物ノ占有ヲ己レニ得ルコトヲ得ス又其果実又ハ利息ヲ得ント称言スルコヲ得ス 第千十五条 遺嘱セラレタル物ノ利息又ハ果実ハ左ノ場合ニ於テハ受遺嘱者裁判所ニ訟求ヲ為スコトナクシテ死去ノ日ヨリ其受遺嘱者ノ利益ニ於テ発生ス可キモノトス 第一 遺嘱者此事ニ付キ遺嘱書中ニ明カニ自己ノ意ヲ申述シタル時 第二 養料ノ名義ヲ以テ畢生間ノ年金収受権又ハ定期払渡金ヲ遺嘱シタル時 第千十六条 引渡ノ請求ノ費用ハ遺留財産ノ負任タル可シ然レトモ之レカ為メニ法律上ノ貯存財産ノ減殺ヲ生シムルコトヲ得ス 簿冊登記税ハ受遺嘱者ニ於テ之ヲ担任ス可シ 但シ遺嘱書ニ右ニ異ナリタル定メ方ヲ為シタル時ハ格別ナリトス 各箇ノ遺嘱贈与ハ別々ニ簿冊ニ登記スルコトヲ得ヘシ但シ其簿冊登記ハ受遺嘱者又ハ其受権人ヨリ更ニ他ノ者ニ利益スルコトヲ得ス 第千十七条 遺嘱者ノ相続人又ハ其他ノ遺嘱贈与ノ負債者ハ各々其遺留財産中ニ於テ利益スル所ノ分ケ前及ヒ部分ノ割合ヲ以テ対人権上ニテ其遺嘱贈与ヲ弁償ス可キモノトス 右ノ各人ハ其保有者タル所ノ遺留財産中ノ不動産ノ価額ニ充ツル迄書入質上ニテ全部ニ付キ其遺嘱贈与ヲ弁償ス可キモノトス 第千十八条 遺嘱セラレタル物ハ贈与者死去ノ日ニ於ケル現在ノ景状ニ於テ其必要ナル附属物ト共ニ之ヲ引渡ス可シ 第千十九条 若シ不動産ノ所有権ヲ遺嘱シタル者カ其後獲得ニ依テ其不動産ヲ増加シタル時ハ其獲得ハ仮令相連接シタルモノト雖トモ更ニ新ナル処分アルニ非サレハ其遺嘱贈与ノ一部分ヲ為スモノト看做ス可カラス 遺嘱シタル不動産ニ付キ為シタル装飾物又ハ新ナル築造物又ハ遺嘱者ノ其囲繞ヲ拡メタル囲ヒ地ニ付テハ右ト異ナルモノトス 第千二十条 若シ遺嘱ノ前又ハ其後ニ其遺嘱シタル物ヲ遺留財産ノ負債ノ為メ又ハ然ノミナラス第三ノ人ノ負債ノ為メニ書入質ト為シタル時又ハ其物ニ使用収益権ヲ負ハシメタル時ハ其遺嘱贈与ヲ弁償セサル可カラサル者ニ於テ其物ノ負任ヲ免除セシムルニ及ハス但シ其者カ遺嘱者ノ明示シタル意思ニ依リ其物ノ負任ヲ免除セシム可キコトヲ任セラレタル時ハ格別ナリトス 第千二十一条 若シ遺嘱者ニ於テ他人ノ物ヲ遺嘱シタル時ハ遺嘱者カ其物ノ己レニ属セサルコトヲ知リタルト否トヲ問ハス其遺嘱贈与ハ無効タル可シ 第千二十二条 若シ不特定ノ物ヲ遺嘱贈与ト為シタル時ハ相続人ヨリ最良ノ品質ノモノヲ附与ス可キノ義務ナク又最悪ノ品質ノモノヲ渡サント供陳スルコトヲ得ス 第千二十三条 債主ニ為シタル遺嘱贈与ハ其債権ノ相殺ニ於テ為シタルモノト看做ス可カラス又雇人ニ為シタル遺嘱贈与ハ其雇賃ノ相殺ニ於テ為シタルモノト看做ス可カラス 第千二十四条 特定ノ名義ニ於ケル受遺嘱者ハ遺留財産ノ負債ヲ担任セス但シ前ニ記シタル如ク遺嘱贈与ノ減殺及ヒ債主ノ書入質上ノ訴権ト相触ルルコトナカル可シ 第七節 遺嘱執行者 第千二十五条 遺嘱者ハ遺嘱執行者一名又ハ数名ヲ任スルコトヲ得可シ 第千二十六条 遺嘱者ハ其動産全部又ハ其一部ノミノ収握ヲ遺嘱執行者ニ附与スルコトヲ得可シ然レトモ其収握ハ遺嘱者ノ死去ヨリ起算シテ一年有一日以上継続スルコトヲ得ス 若シ其収握ヲ遺嘱執行者ニ附与セサル時ハ遺嘱執行者ヨリ之レヲ得ント要求スルコトヲ得ス 第千二十七条 相続人ハ動産ノ遺嘱贈与ヲ弁済スル為メニ充分ナル金額ヲ遺嘱執行者ニ渡サント供陳シ又ハ其弁済ヲ証明スルニ依リ収握ヲ止メシムルコトヲ得可シ 第千二十八条 己レニ義務ヲ負フコト能ハサル者ハ遺嘱執行者タルコトヲ得ス 第千二十九条 婚姻シタル婦ハ其夫ノ承諾ヲ得スシテ遺嘱ノ執行ヲ受諾スルコトヲ得ス 若シ其婦ノ婚姻ノ契約ニ依リ若クハ裁判ニ依リ財産ヲ離分シタル時ハ婚姻ノ巻第二百十七条及ヒ第二百十九条ニ定メタル所ニ従ヒ其夫ノ承諾ヲ得又夫ノ否拒スルニ於テハ裁判所ノ許可ヲ得タル上ニテ遺嘱ノ執行ヲ受諾スルコトヲ得可シ 第千三十条 幼者ハ仮令其後見人又ハ管財人ノ許可ヲ得ルト雖トモ遺嘱執行者タルコトヲ得ス 第千三十一条 遺嘱執行者ハ若シ幼年又ハ治産禁ヲ受ケ又ハ失踪シタル相続人アル時ハ封印ヲ附セシム可シ 遺嘱執行者ハ思量ノ相続人ノ面前ニ於テ又ハ其相続人ヲ法ニ適シテ招喚シタル上ニテ遺留財産ノ目録ヲ作ラシム可シ 遺嘱執行者ハ遺嘱贈与ヲ弁償スル為メニ充分ナル金額ノアラサルニ於テハ動産ノ売払ヲ求ム可シ 遺嘱執行者ハ遺嘱ヲ執行ス可キコトヲ監視シ若シ其執行ニ付キ争ヒアル場合ニ於テハ遺嘱ノ有効ナルコトヲ維持スル為メニ参加スルヲ得可シ 遺嘱執行者ハ遺嘱者ノ死去セシ時ヨリ一年ノ終リニ至リ其管理ノ計算ヲ為ササルヲ得ス 第千三十二条 遺嘱執行者ノ権力ハ其相続人ニ移ラサルモノトス 第千三十三条 若シ受諾シタル遺嘱執行者ノ数名アル時ハ其中ノ一名ハ他ノ者ノ不在ニ於テ事ヲ行フコトヲ得可シ又其数名ハ己レニ委託セラレタル動産ノ計算ニ付キ連帯シテ責ニ任ス可キモノトス但シ遺嘱者ニ於テ其数名ノ職務ヲ分チ而シテ其各人ノ己レニ附与セラレタル職務内ニ止マリタル時ハ格別ナリトス 第千三十四条 封印ヲ附スル事、目録、計算ノ為メ遺嘱執行者ノ為シタル費用及ヒ遺嘱執行者ノ職務ニ関スル其他ノ費用ハ遺留財産ノ負任タル可シ 第八節 遺嘱ノ廃止及ヒ其無効 第千三十五条 遺嘱書ハ後ノ遺嘱書ニ依リ又ハ変意ノ申述ヲ記シタル公証人ノ面前ニ於ケル証書ニ依ルニ非サレハ其全部又ハ一部ヲ廃止スルコトヲ得ス 第千三十六条 明カナル方法ニテ前ノ遺嘱書ヲ廃止セサル後ノ遺嘱書ハ前ノ遺嘱書中ニテ新ナル所定ト並ヒ行フ可カラサル所定又ハ新ナル所定ニ反スル所ノ所定ノミヲ取消スモノトス 第千三十七条 新タナル証書カ設定セラレタル相続人又ハ受遺嘱者ノ無能力ニ依リ又ハ此等ノ者ノ収取スルコトノ否拒ニ依リ執行セラレサル時ト雖モ後ノ遺嘱書ヲ以テ為シタル廃止ハ総テ其効ヲ有スルモノトス 第千三十八条 凡ソ遺嘱者ノ其遺嘱シタル物ノ全部又ハ一部ニ付キ為シタル所有権ノ移転ハ仮令買戻ノ権能ヲ附シタル売渡ニ依リ又ハ交換ニ依レルモノト雖トモ其所有権ヲ移転シタル諸件ニ付テハ遺嘱贈与ノ廃止ヲ惹起ス但シ後ノ所有権移転ノ無効ニシテ其物品カ遺嘱者ノ手元ニ戻リタル時ト雖トモ亦同シ 第千三十九条 凡ソ遺嘱ノ処分ハ若シ之ヲ受ク可キ者ノ其遺嘱者ヨリ後ニ生存セサルニ於テハ無効タル可シ 第千四十条 凡ソ不定ノ事故ニ関スル未必条件ヲ以テ遺嘱ノ処分ヲ為シ而シテ遺嘱者ノ意思ニ於テハ其事故ノ生シ又ハ生セサル時ニ非サレハ其遺嘱ノ処分ヲ執行ス可カラサル如キモノタル場合ニ於テ若シ其未必条件ノ成就セサル前ニ設定セラレタル相続人又ハ受遺嘱者ノ死去スル時ハ其遺嘱ノ処分ハ無効タル可シ 第千四十一条 遺嘱者ノ意思ニ於テハ其処分ノ執行ヲ停止スルノミノモノタル未必条件ハ設定セラレタル相続人又ハ受遺嘱者ニ於テ自己ノ相続人ニ移転スルヲ得可キ一箇ノ獲得権利ヲ有スルノ妨ケトナラサルモノトス 第千四十二条 若シ遺嘱シタル物ノ其遺嘱者ノ生存中ニ全ク滅尽シタル時ハ其遺嘱贈与ハ無効タル可シ 相続人カ其遺嘱シタル物ヲ引渡スコトニ付キ遅滞ニ附セラレタル時ト雖モ其相続人ノ所為及ヒ過失ナクシテ其物ノ滅尽シ而シテ其物ノ受遺嘱者ノ手元ニ在ルモ亦同シク滅尽セサルヲ得サル場合ニ於テハ遺嘱者ノ死去ノ後ニ至リ其物ノ滅尽セシ時ト雖モ亦右ト同一タル可シ 第千四十三条 若シ設定セラレタル相続人又ハ受遺嘱者ノ其遺嘱ノ処分ヲ棄却シ又ハ之ヲ収取スルコト能ハサル時ハ其遺嘱ノ処分ハ無効タル可シ 第千四十四条 遺嘱贈与ヲ合同シテ数人ニ為シタル場合ニ於テハ受遺嘱者ノ利益ニ於テ増加ヲ為ス可キモノトス 一箇同一ノ処分ヲ以テ遺嘱贈与ヲ為シ且ツ遺嘱者其遺嘱シタル物ニ於ケル各共同受遺嘱者ノ分ケ前ヲ指定メサル時ハ合同シテ遺嘱贈与ヲ為シタルモノト看做ス可シ 第千四十五条 損壊セスシテ分ツコトヲ得サル物ヲ同一ノ証書ヲ以テ数人ニ贈与シタル時ハ仮令別々ニ贈与シタル場合ト雖モ亦其遺嘱贈与ヲ合同シテ為シタルモノト看做ス可シ 第千四十六条 第九百五十四条及ヒ第九百五十五条ノ第一及ヒ第二ノ成規ニ従ヒ生存中ノ贈与ノ廃止ノ訟求ヲ許可スル所ノ同一ノ原由ハ遺嘱処分ノ廃止ノ訟求ノ為メニモ亦之ヲ許ルスモノトス 第千四十七条 若シ遺嘱者ノ生前ノ名声ニ対シテ為シタル至重ノ凌辱ニ基キテ其訟求ヲ為ス時ハ其犯罪ノ日ヨリ起算シテ一年内ニ其訟求ヲ起ササル可カラス 第六章 贈与者又ハ遺嘱者ノ孫又ハ其兄弟姉妹ノ子ノ利益ニ於テ許サレタル処分 第千四十八条 父母ニ於テ処分スルノ権能ヲ有スル財産ハ生存中ノ所為又ハ遺嘱ノ所為ニ依リ其全部又ハ一部ヲ其子一人又ハ数人ニ贈与シ而シテ其受贈者ノ生ミ及ヒ生ムコトアル可キ第一級ノミニ於ケル子ニ其財産ヲ転付スルノ負任ヲ附スルコトヲ得可シ 第千四十九条 法律ニ依リ遺留財産中ニ貯存セサル財産ノ全部又ハ一部ヲ死者ヨリ其兄弟姉妹一人又ハ数人ノ利益ニ於テ生存中ノ所為又ハ遺嘱ノ所為ニ依リ処分シ而シテ其受贈者タル兄弟姉妹ノ生ミ又ハ生ムコトアル可キ第一級ノミニ於ケル子ニ其財産ヲ転付スルノ負任ヲ附シタル時、子ナクシテ死去セシ場合ニ於テハ其処分ハ有効ノモノトス 第千五十条 前二条ニ依リ許サレタル処分ハ年齢又ハ性ニ依レル取除又ハ撰取ナク其負任者ノ生ミ又ハ生ムコトアル可キ子全員ノ利益ニ於テ転付ノ負任ヲ附シタル時ニ非サレハ有効ノモノトセス 第千五十一条 若シ前ニ記シタル場合ニ於テ自己ノ子ノ利益ニ於ケル転付ノ負任者カ第一級ノ子ト以前死去セシ子ノ卑属親トヲ遺留シテ死去スル時ハ以前死去セシ子ノ卑属親ハ代相続ニ依リ其以前死去セシ子ノ部分ヲ収取ス可シ 第千五十二条 若シ転付ノ負任ナク生存中ノ所為ニ依リ財産ノ贈与ヲ受ケタル子又ハ兄弟姉妹カ其贈与シタル財産ニ右ノ負任アル可キノ条件ヲ以テ生存中ノ所為又ハ遺嘱ノ所為ニ依リ為シタル新ナル贈与ヲ受諾シタル時ハ其贈与ヲ受ケタル子又ハ兄弟姉妹ハ最早自己ノ利益ニ於テ為サレタル二箇ノ処分ヲ分チテ初度ノ処分ヲ己レニ保タンカ為メ再度ノ処分ヲ放棄スルコトヲ許サス但シ再度ノ処分中ニ包含セラレタル財産ヲ転付セント供陳スル時ト雖モ亦同シ 第千五十三条 被招喚者ノ権利ハ其原由ノ如何ヲ問ハス転付ノ負任アル子又ハ兄弟姉妹ノ収益ノ止息スル時期ニ於テ開始ス可シ但シ被招喚者ノ利益ニ於ケル其収益ノ時期ニ先シタル放棄ハ其放棄以前ノ負任者ノ債主ニ損害ヲ被ラシムルコトヲ得ス 第千五十四条 負任者ノ婦ハ嫁資金額ノ元資ノ為メニ非サレハ自由ナル財産ノ不足ナル場合ニ於テ其転付ス可キ財産ニ付キ補助ノ訟求権ヲ有スルコトヲ得ス但シ其補助ノ訟求権ヲ有スルハ遺嘱者ノ明カニ其旨ヲ定メ置キタル場合ノミニ限ルモノトス 第千五十五条 前数条ニ依リ許可セラレタル処分ヲ為ス者ハ其同一ノ証書ニ依リ又ハ其後ノ公正法式ニ於ケル証書ニ依リ右処分ノ執行ヲ委任セラレタル後見人ヲ任スルコトヲ得可シ但シ其後見人ハ幼年、後見及ヒ後見ノ免脱ノ巻第二章第六節ニ記シタル原由中ノ一箇ノ為メニ非サレハ其職任ヲ免カルルコトヲ得サルモノトス 第千五十六条 其後見人ノアラサル時ハ贈与者又ハ遺嘱者ノ死去ノ日又ハ其死去ノ後ニ至リテ其処分ヲ記シタル証書ヲ知リシ日ヨリ起算シテ一月内ニ負任者ノ求メニ依リ又其負任者ノ幼年ナル時ハ其後見人ノ求メニ依リ右ノ後見人ヲ任ス可シ 第千五十七条 前条ヲ履行セサル負任者ハ右処分ノ利益ヲ失フ可シ而シテ此場合ニ於テハ被招喚者ノ成年者タルニ於テハ其求メニ依リ若クハ其者ノ幼者又ハ治産禁ヲ受クル者タルニ於テハ其後見人又ハ管財人ノ求メニ依リ若クハ成年者タルト幼者又ハ治産禁ヲ受クル者タルトヲ問ハス被招喚者ノ各血属親ノ求メニ依リ又ハ然ノミナラス財産相続ノ開始シタル地ノ始審裁判所ニ於ケル検事ノ求メニ依リ職権上ニテ其被招喚者ノ利益ノ為メ権利ヲ開始シタルモノト宣告スルコトヲ得可シ 第千五十八条 転付ノ負任ヲ以テ処分シタル者ノ死去ノ後ハ通常ノ法式ヲ以テ其者ノ遺留財産ヲ組成スル所ノ総テノ財産及ヒ品物ノ目録ヲ作ル可シ但シ特定ノ遺嘱贈与ノミニ関スル場合ハ格別ナリトス○其目録ニハ「ミュウブル」及ヒ「エツフエー、モビリエー」ノ正当ナル価ニ於ケル評定ヲ記載ス可シ 第千五十九条 其目録ハ転付ノ負任者ノ請求ニ依リ執行ノ為メニ任セラレタル後見人ノ面前ニ於テ財産相続ノ巻ニ定メタル期限内ニ之ヲ作ル可シ○其費用ハ右処分内ニ包含シタル財産中ヨリ之ヲ取ル可シ 第千六十条 若シ前ニ記シタル期限内ニ負任者ノ請求ニ依リ目録ヲ作ラサル時ハ執行ノ為メニ任セラレタル後見人ノ求メニ依リ負任者又ハ其後見人ノ面前ニ於テ次キノ一月内ニ之ヲ作ル可シ 第千六十一条 若シ前二条ヲ履行セサル時ハ第千五十七条ニ指定メタル各人ノ求メニ依リ負任者又ハ其後見人ト執行ノ為メニ任セラレタル後見人トヲ招喚シタル上ニテ右ノ目録ヲ作ル可シ 第千六十二条 転付ノ負任者ハ貼附及ヒ糶売ニ依リ其処分中ニ包含シタル総テノ動産及ヒ品物ヲ売払ハシム可シ然レトモ後ノ二条ニ記スル所ノモノハ格別ナリトス 第千六十三条 原品ノ侭ニテ保存ス可キ明白ノ条件ヲ以テ其処分中ニ包含セシメラレタル「ミュウブル、ミュウブラン」及ヒ其他ノ動産物ハ転付ノ時ニ於ケル現在ノ景状ニ於テ之ヲ転付ス可シ 第千六十四条 土地ノ利益ヲ得セシムルニ用フル所ノ家畜及ヒ器具ハ其土地ノ生存中ノ贈与又ハ遺嘱ノ贈与中ニ包含シタルモノト看做ス可シ而シテ負任者ハ転付ノ時ニ於テ之ニ等シキ価額ヲ転付スル為メ唯其家畜及ヒ器具ヲ評定シ及ヒ評価セシム可キノミトス 第千六十五条 負任者ハ目録終成ノ日ヨリ起算シテ六月ノ期限内ニ現存ノ金額ト売払ヒタル動産及ヒ品物ノ代価ヨリ得タル金額ト能働ノ債権ニ依リ収受シタル金額トノ益用ヲ為ス可シ 右ノ期限ハ別段ノ道理アルニ於テハ之ヲ延ハスコトヲ得可シ 第千六十六条 負任者ハ取戻シタル能働ノ債権及ヒ年金収受権ノ償還ヨリ得タル金額ヲモ亦同シク益用ス可キモノトス但シ其益用ハ負任者ノ其金額ヲ収受シタル後遅クトモ三月内ニ之ヲ為ス可シ 第千六十七条 処分ノ本主ニ於テ右ノ益用ヲ為ササル可カラサル品物ノ性質ヲ指定メタル時ハ其本主ノ定メタル所ニ従ヒ右ノ益用ヲ為ス可ク若シ然ラサル時ハ不動産ニ於テシ又ハ不動産ニ付テノ先取特権ヲ以テスルニ非ラサレハ右ノ益用ヲ為スコトヲ得ス 第千六十八条 前数条ニ定メタル益用ハ執行ノ為メニ任セラレタル後見人ノ面前ニ於テ其求メニ依リ之ヲ為ス可シ 第千六十九条 転付ノ負任アル生存中ノ所為又ハ遺嘱ノ所為ニ依レル処分ハ其負任者ノ求メニ依リ若クハ執行ノ為メニ任セラレタル後見人ノ求メニ依リ之ヲ公ケニ為ス可シ但シ不動産ニ付テハ其所在地ノ書入質役署ノ簿冊ニ於ケル証書ノ登記ニ依リ又不動産ニ付テノ先取特権ヲ以テ其班位ヲ定メタル金額ニ付テハ其先取特権ノ抵当ト為シタル財産ニ関スル記入ニ依リ之ヲ公ケニ為ス可キモノトス 第千七十条 其処分ヲ記シタル証書ノ登記ノ欠缺ハ債主及ヒ第三ノ獲得者ヨリ幼者又ハ治産禁ヲ受ケタル者ニ対スルモ之ヲ以テ対抗スルコトヲ得可シ但シ負任者ニ対シ及ヒ執行ノ為メノ後見人ニ対シテ償還ノ訟求ヲ為スコトヲ得可ク而シテ其負任者及ヒ後見人ノ無資力ナル時ト雖トモ幼者及ヒ治産禁ヲ受ケタル者ハ其登記ノ欠缺ニ対シテ回復スルコトヲ得サルモノトス 第千七十一条 登記ノ欠缺ハ債主又ハ第三ノ獲得者カ登記ヨリ更ニ他ノ方法ヲ以テ其処分ヲ知リ得タル事ニ依リ補足セラルルコトヲ得ス又蓋蔽セラレタルモノト看做スコトヲ得ス 第千七十二条 受贈者、受遺嘱者又然ノミナラス処分ヲ為シタル者ノ適法ノ相続人並ニ此等ノ各人ヨリ贈与ヲ受クル者、遺嘱ヲ受クル者又ハ其相続人ハ如何ナル場合ニ於テモ被招喚者ニ対シ登記又ハ記入ノ欠缺ヲ以テ対抗スルコトヲ得ス 第千七十三条 執行ノ為メニ任セラレタル後見人若シ各箇ノ事項ニ於テ財産ヲ証明スル為メ、動産売払ノ為メ、金額益用ノ為メ、登記及ヒ記入ノ為メ前ニ定メタル規則ニ従ハサル時及ヒ一般ニ転付ノ負任ヲ善良誠実ニ尽クシ行フ為メニ必要ナル総テノ手続ヲ為サザル時ハ己レ自カラ其責ニ任ス可キモノトス 第千七十四条 若シ負任者カ幼者ナル時ハ其後見人ノ無資力ナル場合ト雖トモ本章中ノ各条ニ依リ其後見人ノ為メニ定メタル規則ノ不執行ニ対シテ回復スルコトヲ得ス 第七章 父母又ハ其他ノ尊属親ヨリ其卑属親ノ間ニ為ス所ノ分派 第千七十五条 父母及ヒ其他ノ尊属親ハ其子及ヒ卑属親ノ間ニ其財産ノ配分及ヒ分派ヲ為スコトヲ得可シ 第千七十六条 其分派ハ生存中ノ贈与及ヒ遺嘱ノ為メニ定メタル法式、条件及ヒ規則ヲ以テ生存中ノ所為又ハ遺嘱ノ所為ニ依リ之ヲ為スコトヲ得可シ 生存中ノ所為ニ依リ為シタル分派ハ現在ノ財産ニアラサレハ目的ト為スコトヲ得ス 第千七十七条 若シ尊属親ノ其死去ノ日ニ遺留スル所ノ総テノ財産ヲ分派中ニ包含セサル時ハ其財産中ニテ分派中ニ包含セサルモノヲ法律ニ従ヒ分派ス可シ 第千七十八条 若シ死去ノ時期ニ於テ生存スル総テノ子ト以前死去セシ子ノ卑属親トノ間ニ分派ヲ為ササル時ハ其分派ヲ全ク無効ノモノトス○其分派ニ付キ毫モ分ケ前ヲ収受セサリシ子又ハ卑属親若クハ然ノミナラス分派ヲ受ケシ子又ハ卑属親ヨリ法律上ノ法式ヲ以テ更ニ再ヒ其分派ヲ為サント求ムルコトヲ得可シ 第千七十九条 尊属親ノ為シタル分派ハ四分一以上ノ損失ヲ原由トシテ之ヲ取消サント求ムルコトヲ得可シ又其分派及ヒ先取ヲ定メテ為シタル処分ニ依リ共同分派ヲ受クル者ノ中一人カ法律上ニ許ルサレタル所ヨリ更ニ大ナル利益ヲ得ルニ至ル可キ場合ニ於テハ亦其分派ヲ取消サント求ムルコトヲ得可シ 第千八十条 前条ニ記シタル原由中一箇ノ為メ尊属親ノ為シタル分派ヲ取消サント求ムル子ハ評価ノ費用ノ立替ヲ為ササルヲ得ス而シテ若シ其訟求ノ非理ナル時ハ到底其費用ト其争訟ノ費額トヲ負担ス可シ 第八章 婚姻ノ契約ニ依リ夫婦及ヒ其婚姻ヨリ生ル可キ子ニ為ス所ノ贈与 第千八十一条 凡ソ現在ノ財産ノ生存中ノ贈与ハ婚姻ノ契約ニ依リ夫婦又ハ其一方ニ為シタルモノト雖トモ此名義ニテ為ス所ノ贈与ノ為メニ定メタル一般ノ規則ニ服従ス可シ 其贈与ハ本巻第六章ニ表示シタル場合ニ非サレハ生ル可キ子ノ利益ニ於テ之ヲ為スコトヲ得ス 第千八十二条 夫婦ノ父母、其他ノ尊属親、傍系ノ血属親及ヒ然ノミナラス外人ト雖モ婚姻ノ契約ニ依リ其死去ノ日ニ遺留ス可キ財産ノ全部又ハ一部ヲ其夫婦ノ利益ト若シ其贈与者ノ受贈者タル夫婦中ノ一方ヨリ後ニ生残ル場合ニ於テハ其婚姻ヨリ生ル可キ子ノ利益トニ於テ処分スルコトヲ得可シ 斯クノ如キ贈与ハ仮令夫婦双方又ハ一方ノ利益ノミニ於テ之ヲ為シタル時ト雖トモ前ニ記シタル贈与者生残ノ場合ニ於テハ常ニ必ス其婚姻ヨリ生ル可キ子及ヒ卑属親ノ利益ニ於テ之ヲナシタルモノト思量ス可シ 第千八十三条 前条ニ載セタル法式ヲ以テ為シタル贈与ハ其贈与者報酬ノ名義ヲ用ヒ又ハ其他ノ方法ニテ些少ノ金額ヲ処分スルノ外其贈与中ニ包含シタル物品ヲ最早無償ノ名義ニテ処分スルヲ得サルノ義意ノミニ於テハ廃止ス可カラサルモノトス 第千八十四条 婚姻ノ契約ニ依レル贈与ハ現在及ヒ将来ノ財産ノ全部又ハ一部ヲ相併合シテ為スコトヲ得可ク而シテ其贈与ノ日ニ於テ存在スル贈与者ノ負債及ヒ負任ノ目録ヲ其証書ニ添ユ可キノ負任アルモノトス但シ此場合ニ於テハ受贈者其贈与者ノ死去ノ時ニ至リ現在ノ財産ヲ保チテ贈与者ノ其余ノ財産ヲ放棄スルコト自由タル可シ 第千八十五条 若シ前条ニ記シタル目録ヲ現在及ヒ将来ノ財産ノ贈与ヲ記スル証書ニ添ヘサル時ハ受贈者全ク其贈与ヲ受諾シ又ハ之ヲ棄却ス可キノ義務アルモノトス○其受諾ノ場合ニ於テハ受贈者ハ贈与者ノ死去ノ日ニ存在スル所ノ財産ノミヲ得ント請求スルコトヲ得可ク而シテ其受贈者ハ遺留財産ノ総テノ負債及ヒ負任ノ弁済ニ服従ス可キモノトス 第千八十六条 婚姻ノ契約ニ依リ夫婦及ヒ其婚姻ヨリ生ル可キ子ノ利益ニ於テ為ス所ノ贈与ハ如何ナル人ノ其贈与ヲ為スヲ問ハス贈与者ノ遺留財産ノ総テノ負債及ヒ負任ヲ差別ナク弁済スルノ条件ヲ定メ又ハ其執行ノ贈与者ノ意ニ関スル所ノ其他ノ条件ヲ定メテ亦之ヲ為スコトヲ得可ク然ル時ハ受贈者其贈与ヲ放棄スルヲ欲セサルニ於テハ此等ノ条件ヲ履行ス可キモノトス而シテ又贈与者婚姻ノ契約ニ依リ自己ノ現在ノ財産ノ贈与中ニ包含シタル品物又ハ右同一ノ財産中ヨリ取ル可キ特定ノ金額ヲ処分スルノ自由ヲ己レニ貯存シタル場合ニ於テ若シ贈与者ノ其品物又ハ金額ヲ処分セスシテ死去スル時ハ其品物又ハ金額ハ贈与中ニ包含シタルモノト看做シテ受贈者又ハ其相続人ニ属ス可シ 第千八十七条 婚姻ノ契約ニ依リ為シタル贈与ハ受諾ノ欠缺ヲ口実トシテ之ヲ取消サント求ムルコトヲ得ス又無効ナリト宣告スルコトヲ得ス 第千八十八条 婚姻ノ利益ニ於テ為シタル総テノ贈与ハ若シ其婚姻ヲ為ササルニ於テハ無効タル可シ 第千八十九条 前第千八十二条、第千八十四条、第千八十六条ノ文面ニ依リ夫婦中ノ一方ニ為シタル贈与ハ若シ贈与者カ其受贈者タル夫又ハ婦及ヒ其卑属親ヨリ後ニ生残リタルニ於テハ無効トナル可シ 第千九十条 婚姻ノ契約ニ依リ夫婦ニ為シタル総テノ贈与ハ其贈与者ノ財産相続開始ノ時ニ至リ法律上ニテ其贈与者ニ処分スルコトヲ許ルス所ノ部分ニ減殺ス可キモノトス 第九章 婚姻ノ契約ニ依リ若クハ結婚中ニ於ケル夫婦間ノ処分 第千九十一条 夫婦ハ以下ニ記スル所ノ改様ニ従ヒ其適当ナリト思考スル如キ贈与ヲ婚姻ノ契約ヲ以テ相互ニ為シ又ハ其中ノ一方ヨリ他ノ一方ニ為スコトヲ得可シ 第千九十二条 総テ婚姻ノ契約ニ依リ夫婦ノ間ニ為シタル現在ノ財産ノ生存中ノ贈与ハ受贈者ノ生残ノ条件ヲ明確ニ表示セサル時ハ其条件ヲ以テ為シタルモノト看做ス可カラス而シテ其贈与ハ此類ノ贈与ノ為メ前ニ定メタル総テノ規則及ヒ法式ニ服従スヘキモノトス 第千九十三条 婚姻ノ契約ニ依リ夫婦ノ間ニ為シタル将来ノ財産又ハ現在及ヒ将来ノ財産ノ贈与ハ単一ノモノタルト相互ノモノタルトヲ問ハス第三ノ人ヨリ夫婦ニ為ス所ノ此類ノ贈与ニ関シテ前章ニ定メタル規則ニ服従ス可シ但シ受贈者タル夫婦中一方ノ者ノ若シ其贈与者タル者一方ノ者ヨリ先キニ死去スル場合ニ於テ其贈与物ヲ右ノ婚姻ヨリ生レタル子ニ移転ス可カラサルハ格別ナリトス 第千九十四条 夫婦中一方ノ者ハ子及ヒ卑属親ヲ遺留セサル場合ノ為メ其外人ノ利益ニ於テ処分スルコトヲ得可キ諸件ノ所有権ト其外、法律上ニテ相続人ノ損害ニ於テ処分スルコトヲ禁止スル部分全部ノ使用収益権トヲ婚姻ノ契約ニ依リ若クハ結婚中ニ他ノ一方ノ者ノ利益ニ於テ処分スルコトヲ得可シ 又贈与者タル夫婦中一方ノ者カ子又ハ卑属親ヲ遺留スル場合ノ為メ其一方ノ者ヨリ其財産全部ノ四分一ノ所有権ト他ノ四分一ノ使用収益権トヲ他ノ一方ノ者ニ贈与シ又ハ財産全部ノ一半ノ使用収益権ノミヲ他ノ一方ノ者ニ贈与スルコトヲ得可シ 第千九十五条 幼者ハ其婚姻ヲ有効ノモノト為ス為メニ其承諾ヲ必要トスル各人ノ承諾及ヒ補助ヲ得ルニ非サレハ単一ナル贈与ニ依ルト相互ノ贈与ニ依ルトヲ問ハス婚姻ノ契約ニ依リ其配偶者ニ贈与スルコトヲ得ス而シテ幼者ハ其承諾ヲ得タル上ハ法律上ニテ成年者ニ其配偶者ニ贈与スルコトヲ許ルス所ノ諸件ヲ贈与スルコトヲ得可シ 第千九十六条 凡ソ結婚中ニ夫婦ノ間ニ於テ為ス所ノ贈与ハ仮令生存中ノモノタルノ名称ヲ附シタルト雖モ常ニ廃止スルコトヲ得可キモノトス 其廃止ハ婦其夫ヨリ許可セラルルコトナク又裁判所ヨリ許可セラルルコトナクシテ之ヲ為スコトヲ得可シ 右ノ贈与ハ子ヲ挙ケタルニ依リ廃止ス可カラス 第千九十七条 夫婦ハ生存中ノ所為ニ依ルト遺嘱ニ依ルトヲ問ハス結婚中ハ一箇同一ノ証書ニ依テ互易相互ノ贈与ヲ為スコトヲ得ス 第千九十八条 前婚ノ子アリテ第二次ノ婚姻又ハ後ノ婚姻ヲ契約スル所ノ男又ハ女ハ其再婚ノ配偶者ニ最モ少量ヲ収取スル適法子ノ分ケ前ニ非サレハ贈与スルコトヲ得ス又如何ナル場合ニ於テモ其贈与ハ財産ノ四分一ニ過クルコトヲ得ス 第千九十九条 夫婦ハ前ノ成規ニ依テ許サレタル所ノモノノ外、間接ニ相互ニ贈与スルコトヲ得ス 総テ仮作シタル贈与又ハ介入者ニ為シタル贈与ハ無効タル可シ 第千百条 夫婦中一方ノ者ヨリ他ノ一方ノ者ノ他婚ノ子数名又ハ一名ニ為シタル贈与及ヒ贈与ノ日ニ於テ他ノ一方ノ者カ其思量ノ相続人タル血属親ニ贈与者ヨリ為シタル贈与ハ仮令他ノ一方ノ者カ其受贈者タル自己ノ血属親ヨリ後ニ生残ラサル時ト雖トモ介入者ニ為シタルモノト看做ス可シ 第三巻 契約即チ一般ニ合意上ノ義務(千八百四年二月七日決定同月十七日宣令) 第一章 前加成規 第千百一条 契約トハ一人又ハ数人カ他ノ一人又ハ数人ニ対シテ或物ノ所有権ヲ移シ又ハ或事ヲ為シ又ハ或事ヲ為ササルノ義務ヲ己レニ負フ所ノ合意ヲ云フ 第千百二条 契約者カ其一方ヨリ他ノ一方ニ対シテ相互ニ己レニ義務ヲ負フ時ハ其契約ハ両繋即チ双務ノモノタリ 第千百三条 一人又ハ数人カ他ノ一人又ハ数人ニ対シテ義務ヲ負ヒ而シテ他ノ一人又ハ数人ノ方ニ於テ約務ノアラサル時ハ其契約ハ双務ノモノタリ 第千百四条 契約者ノ各自カ人ヨリ己レニ所有権ヲ移ス所ノモノ又ハ人ヨリ己レノ為メニ為ス所ノモノノ同値ナリト看做サレタル一箇ノ物ノ所有権ヲ移シ又ハ一箇ノ事ヲ為ス可キノ約務ヲ己レニ負フ時ハ其契約ハ互易ノモノタリ 若シ其同値カ不定ノ事故ニ従ヒ契約者各自ノ為メ利得又ハ損失ノ命運ニ於テ成立ツ時ハ其契約ハ偶然ノモノタリ 第千百五条 恩恵ノ契約トハ契約者中ノ一方ヨリ他ノ一方ニ純粋ニ無償ノモノタル一箇ノ利益ヲ得セシムル所ノ契約ヲ云フ 第千百六条 有償ノ名義ニ於ケル契約トハ契約者ノ各自ヲシテ或物ノ所有権ヲ移シ又ハ或事ヲ為スニ服従セシムル所ノ契約ヲ云フ 第千百七条 契約ハ其固有ノ名称ヲ有スルト其固有ノ名称ヲ有セサルトヲ問ハス本巻ノ目的タル一般ノ規則ニ服従スルモノトス 或ル契約ニ特別ナル規則ハ其各自ニ関スル巻中ニ之ヲ定メ而シテ商業上ノ約定ニ特別ナル規則ハ商業ニ関スル法律ニ依テ之ヲ定ム 第二章 合意ノ有効ノ為メニ緊要ナル条件 第千百八条 合意ノ有効ノ為メニハ左ノ四箇ノ条件ヲ緊要トス 義務ヲ己レニ負フ者ノ承諾 其者ノ契約スルノ能力 約務ノ主料ヲ為ス所ノ特定ノ目的 義務ニ於ケル合法ノ原由 第一節 承諾 第千百九条 若シ錯誤ニ依テノミ承諾ヲ与ヘ又ハ暴行ニ依テ承諾ヲ逼取リ又ハ詐欺ニ依テ承諾ヲ欺取リタル時ハ有効ノ承諾ナシ 第千百十条 若シ錯誤カ合意ノ目的タル物ノ本質自カラノ上ニ存スル時ニ非サレハ錯誤ハ合意無効ノ原由タラス 錯誤カ其共ニ契約スルノ意思アル人ノ上ノミニ存スル時ハ錯誤ヲ以テ無効ノ原由トセス但シ其人ノ考察カ合意ノ主タル原由タル時ハ格別ナリトス 第千百十一条 義務ヲ契約シタル者ニ対シテ行ヒタル暴行ハ仮令其合意ニ依テ利益ヲ得可キ者ヨリ更ニ他ノ第三ノ人ニ於テ之ヲ行ヒタル時ト雖モ無効ノ原由タリ 第千百十二条 暴行カ事理ヲ弁知ス可キ人ニ感触ヲ起サシム可キ性質ノモノニシテ且ツ其人ヲシテ其身体又ハ其家産ニ著大ニシテ且ツ現在ノ害悪ヲ被ムル可キ畏惧ノ意ヲ生セシムルヲ得可キ時ハ暴行アリトス 此事項ニ付テハ人ノ年齢、性及ヒ情況ニ注意スヘシ 第千百十三条 暴行ハ契約者ニ対シテ之ヲ行ヒタル時ノミナラス契約者ノ夫又ハ婦又ハ其卑属親又ハ其尊属親ニ対シテ之ヲ行ヒタル時ト雖モ亦契約無効ノ原由タリ 第千百十四条 暴行ヲ行ヒタルコトナク父母又ハ其他ノ尊属親ニ対スル尊敬ノ畏惧ノミニテハ契約ヲ取消スニ足ラサルモノトス 第千百十五条 若シ暴行ノ止ミタル後ニ明認若クハ黙認ヲ以テ其契約ヲ認可シ若クハ法律上ニ定メタル回復ノ時間ヲ経過セシムルニ依リ其契約ヲ認可シタル時ハ最早暴行ノ原由ノ為メ其契約ヲ取消サント求ムルコトヲ得ス 第千百十六条 契約者中ノ一方ニ於テ行ヒシ術策カ若シ其術策ナカリセハ他ノ一方ニ於テ契約セサル可キコトノ明白ナルカ如キモノタル時ハ詐欺ハ合意無効ノ原由タリ 詐欺ハ思量ス可キモノニ非ス必ス之ヲ証セサルヲ得ス 第千百十七条 錯誤、暴行又ハ詐欺ニ依リ契約シタル合意ハ当然無効ノモノニ非ス唯本巻第五章第七節ニ説明スル所ノ場合ト方法トニ於テ無効ニ於ケル訴権即チ廃棄ニ於ケル訴権ヲ生セシムルノミトス 第千百十八条 損失ハ同節ニ於テ説明ス可キカ如ク特定ノ契約ニ於テ又ハ特定ノ人ニ関スルニ非サレハ合意ニ瑕瑾ヲ附セス 第千百十九条 人ハ概シテ自己ノ為メニ非サレハ自己ノ名ヲ以テ約務ヲ己レニ負フコトヲ得ス又約権スルコトヲ得ス 第千百二十条 然レトモ人ハ第三ノ人ノ所為ヲ約務シテ其第三ノ人ノ為メニ請合フコトヲ得可シ但シ其第三ノ人カ若シ右ノ約務ヲ履行スルコトヲ否拒スル時ハ其請合ヲ為シタル者又ハ認可セシムルコトヲ約務シタル者ニ対シ賠償ヲ求ムルコトヲ得可キモノトス 第千百二十一条 第三ノ人ノ利益ニ於テ約権スル事カ人ノ己レノ為メニ為ス所ノ約権又ハ人ノ他人ニ為ス所ノ贈与ノ条件タル時ハ亦第三ノ人ノ利益ニ於テ約権スルコトヲ得可シ○其約権ヲ為シタル者ハ其第三ノ人ノ之レニ依テ利益セント欲スル旨ヲ申述シタル時ハ最早其約権ヲ廃止スルコトヲ得ス 第千百二十二条 人ハ自己ノ為メト自己ノ相続人及ヒ受権人トノ為メニ約権シタルモノト看做ス可シ但シ其反対ヲ明示シ又ハ合意ノ性質ヨリ其反対ノ生スル時ハ格別ナリトス 第二節 契約者ノ能力 第千百二十三条 何人ニ限ラス法律ニ依リ無能力ナリト定メラレタルニ非サレハ契約スルコトヲ得可シ 第千百二十四条 契約スルノ無能力者ハ左ノ如シ 幼者 治産禁ヲ受ケタル者 法律上ニ明示シタル場合ニ於テハ婚姻シタル婦 及ヒ一般ニ法律上ニテ特定ノ契約ヲ禁示セラレタル各人 第千百二十五条 幼者、治産禁ヲ受ケタル者及ヒ婚姻シタル婦ハ法律上ニ定メタル場合ニ非サレハ無能力ノ原由ノ為メ其約務ヲ取消サント求ムルコトヲ得ス 約務ヲ己レニ負フノ能力アル者ハ其相共ニ契約シタル幼者、治産禁ヲ受ケタル者又ハ婚姻シタル婦ノ無能力ヲ以テ之ニ対抗スルコトヲ得ス 第三節 契約ノ目的及ヒ主料 第千百二十六条 凡ソ契約ハ一方ヨリ所有権ヲ移スノ義務ヲ己レニ負ヒタル一箇ノ物又ハ一方ニ於テ為シ或ハ為ササルノ義務ヲ己レニ負ヒタル一箇ノ事ヲ以テ其目的トス 第千百二十七条 物ノ単一ナル使用又ハ単一ナル占有ハ其物自カラノ如ク契約ノ目的タルコトヲ得可シ 第千百二十八条 各人ノ処分内ニ在ル物ニ非サレハ合意ノ目的タルコトヲ得ス 第千百二十九条 義務ハ少クトモ其種別ニ付キ定マリタル物ヲ目的ト為スコトヲ必要トス 物ノ量額ハ之ヲ定ムルコトヲ得可キニ於テハ不定ナルコトヲ得可シ 第千百三十条 将来ノ事物ハ義務ノ目的タルコトヲ得可シ 然レトモ財産相続ヲ為サシムル者ノ承諾アリト雖トモ開始セサル財産相続ヲ放棄スルコトヲ得ス又欺クノ如キ財産相続ニ付キ如何ナル約権ヲモ為スコトヲ得ス 第四節 原由 第千百三十一条 原由ナキ義務又ハ虚偽ノ原由又ハ不合法ノ原由ニ依ル義務ハ如何ナル効ヲモ有スルコトヲ得ス 第千百三十二条 合意ノ原由ヲ明示セスト雖トモ其合意ハ矢張有効ノモノトス 第千百三十三条 原由ハ法律上ニ之ヲ禁シタル時又ハ善良ノ風儀或ハ公ケノ秩序ニ反シタル時ハ不合法ノモノトス 第三章 義務ノ効 第一節 総則 第千百三十四条 法ニ適シテ為シタル合意ハ之ヲ為シタル者ニ付テハ法律ニ代ハルモノトス 其合意ハ之ヲ為シタル者ノ相互ノ承諾ニ依リ又ハ法律ノ許可スル原由ノ為メニ非サレハ之ヲ廃止スルコトヲ得ス 其合意ハ善意ニテ執行セサル可カラス 第千百三十五条 合意ハ其中ニ明示シタルモノニ付キ義務ヲ負ハシムルノミナラス公義、習慣又ハ法律カ義務ノ性質ニ従ヒ其義務ニ附スル所ノ総テノ効果ニ付テモ亦義務ヲ負ハシム 第二節 所有権ヲ移スノ義務 第千百三十六条 所有権ヲ移スノ義務ハ其物ヲ引渡シ及ヒ其引渡シ迄之ヲ保存スルノ義務ヲ惹起ス但シ其義務ニ背ク時ハ債主ニ対シテ損害ノ賠償ヲ為ス可シ 第千百三十七条 合意カ双方中一方ノ利益ノミヲ以テ目的ト為スト双方共同ノ利益ヲ以テ目的ト為ストヲ問ハス物ノ保存ヲ監視スルノ義務ハ之ヲ任セラレタル者ヲシテ其保存ニ付キ良家父ノ総テノ注意ヲ加フルコトニ服従セシム 其義務ハ或ル契約ニ関シテ広狭ノ差異アリ但シ此事ニ付テノ其契約ノ効ハ之ニ関スル所ノ巻中ニ於テ之ヲ説明ス 第千百三十八条 物ヲ引渡スノ義務ハ契約者ノ承諾ノミヲ以テ完全ノモノトス 其義務ハ債主ヲシテ所有者タラシメ且ツ其物ノ引渡ヲ為サスト雖トモ之ヲ引渡ササルヲ得サルニ至リシ時ヨリ其物ヲ債主ノ危険ニ附スルモノトス但シ負債者ノ其物ヲ引渡スコトヲ遅滞シタル時ハ格別ニシテ此場合ニ於テハ其物ハ負債者ノ危険ニ留マルモノトス 第千百三十九条 負債者ハ催促状又ハ之ト同効アル其他ノ証書ニ依リ若クハ其合意ニ証書ヲ要セスシテ期限ノ満ツルコトノミニ依リ義務者ニ遅滞ノ責アル可キ旨ヲ定ムル時ハ其合意ノ効ニ依リ遅滞ニ附セラルルモノトス 第千百四十条 不動産ノ所有権ヲ移シ又ハ之ヲ引渡ス義務ノ効ハ売買ノ巻並ニ先取特権及ヒ書入質ノ巻ニ之ヲ規定ス 第千百四十一条 相続テ二人ニ所有権ヲ移シ又ハ引渡スノ義務ヲ己レニ負ヒタル物カ純粋ニ動産タル時ハ右二人中ニテ其物ノ現実ノ占有ヲ得タル者ハ仮令其権原ノ日附ノ後レタル時ト雖モ撰取セラレテ其物ノ所有者タル可シ然レトモ之レカ為メニハ其占有ノ善意ノモノタルコトヲ必要トス 第三節 為シ又ハ為ササルノ義務 第千百四十二条 凡ソ為シ又ハ為ササルノ義務ハ負債者ノ方ニ於ケル不執行ノ場合ニ於テハ損害ノ賠償ニ変スルモノトス 第千百四十三条 然レトモ債主ハ約務ニ違ヒテ為シタルモノヲ滅却ス可キコトヲ求ムルノ権利アリテ且ツ其債主ハ負債者ノ費ヲ以テ之ヲ滅却スルノ許可ヲ受クルコトヲ得可シ但シ別段ノ道理アルニ於テハ損害ノ賠償ト相触ルルコトナカル可シ 第千百四十四条 債主ハ亦不執行ノ場合ニ於テハ負債者ノ費ヲ以テ己レ自カラ義務ヲ執行セシムルノ許可ヲ受クルコトヲ得可シ 第千百四十五条 若シ義務カ為ササルモノタル時ハ其義務ニ違フ者ハ其違背ノ実事ノミニ依リ損害ノ賠償ヲ負担ス可シ 第四節 義務ノ不執行ヨリ生スル損害ノ賠償 第千百四十六条 損害ノ賠償ハ負債者カ其義務ヲ履行スルコトヲ遅滞シタル時ニ非サレハ之ヲ負担セサルモノトス然レトモ若シ負債者ノ其所有権ヲ移スノ義務ヲ己レニ負ヒタル物又ハ其為スノ義務ヲ己レニ負ヒタル事カ其負債者ノ経過セシメタル特定ノ期限内ニ非サレハ所有権ヲ移スコトヲ得ス又ハ為スコトヲ得サルモノタル時ハ格別ナリトス 第千百四十七条 負債者ハ仮令己レノ方ニ毫モ悪意ノアラサル時ト雖トモ義務ノ不執行ノ為メ若クハ執行ニ於ケル遅延ノ為メニ損害ヲ生セシメタル時ハ其損害賠償ノ弁済ヲ言渡サル可シ但シ其不執行カ己レニ帰スルコトヲ得サル外部ノ原由ヨリ生シタル旨ヲ証明シタル時ハ格別ナリトス 第千百四十八条 抗拒ス可カラサルカ又ハ意外ノ事故ノ効果ニ依リ負債者ノ其義務ヲ負ヒタル所ノ物ノ所有権ヲ移スコトヲ妨ケラレ又ハ其義務ヲ負ヒタル所ノ事ヲ為スコトヲ妨ケラレ又ハ其禁止セラレタル所ノ事ヲ為シタル時ハ毫モ損害賠償ヲ為スニ及ハス 第千百四十九条 債主ニ対シテ負担シタル損害賠償ハ概シテ債主ノ受ケタル損失ト其失ヒタル利得トニ在リトス但シ以下ノ例外及ヒ改様ハ格別ナリトス 第千百五十条 義務ヲ執行セサルコトノ負債者ノ詐欺ニ依ルニ非サル時ハ負債者其契約ノ時ニ予見シ又ハ予見スルコトヲ得可キ損害ノ賠償ノミヲ担任ス可シ 第千百五十一条 合意ノ不執行カ負債者ノ詐欺ヨリ生スル場合ト雖トモ其損害ノ賠償ハ債主ノ受ケタル損失ト其失ヒタル利得トニ関シテハ合意不執行ノ直接切実ノ効果タル所ノモノノミヲ包含ス可シ 第千百五十二条 若シ合意ニ之ヲ執行スルコトヲ缺ク者ヨリ損害賠償ノ名義ヲ以テ特定ノ金額ヲ弁済ス可キ旨ヲ定メタル時ハ他ノ一方ニ更ニ多量ノ金額又ハ更ニ少量ノ金額ヲ附与スルコトヲ得ス 第千百五十三条 特定ノ金額ヲ弁済スル事ノミニ限ル所ノ義務ニ於テハ其執行ニ於ケル遅延ヨリ生スル損害ノ賠償ハ法律ニ依リ定メタル利息ヲ言渡スコトノミニ在リトス但シ商業及ヒ保証ニ特別ナル規則ハ此限ニアラス 右ノ損害賠償ハ債主ヨリ如何ナル損失ヲモ証明スルニ及ハスシテ之ヲ負担ス可キモノトス 其損害賠償ハ訟求ノ日ヨリ後ニ非サレハ之ヲ負担セサルモノトス但シ法律上ニ当然之ヲ生セシムル場合ハ格別ナリトス 第千百五十四条 元金ノ払期限ニ至リシ利息ハ或ハ裁判上ノ訟求ニ依リ或ハ特別ノ合意ニ依リ利息ヲ生スルコトヲ得可シ但シ之レカ為メニハ其訟求ニ於ケルト合意ニ於ケルトヲ問ハス少クトモ満一年間負担シタル利息ニ関スルコトヲ必要トス 第千百五十五条 然レトモ土地ノ貸賃、家屋ノ貸賃、無期又ハ畢生間ノ年金ノ賦額ノ如キ払期限ニ至リシ入額ハ其訟求ノ日又ハ合意ノ日ヨリ利息ヲ生スルモノトス 右ト同一ノ規則ハ果実ノ返還及ヒ負債者ノ弁償ノ為メ第三ノ人ヨリ債主ニ弁済シタル利息ニ適用ス可キモノトス 第五節 合意ノ解釈 第千百五十六条 合意ニ於テハ其語辞ノ字義ニ拘ハルヨリ寧ロ契約者ノ共同ノ意思如何ヲ索求セサル可カラス 第千百五十七条 若シ一箇ノ約款カ二様ノ義意ニ解セラル可キ時ハ之ヲシテ何等ノ効ヲモ生セシメサル義意ニ解スルヨリ寧ロ幾許ノ効ヲ有スルコトヲ得可キ義意ニ之ヲ解セサル可カラス 第千百五十八条 二様ノ義意ニ解セラル可キ語辞ハ契約ノ主料ニ最モ適合スル所ノ義意ニ取ラサル可カラス 第千百五十九条 義意ノ瞹昧ナルモノハ其契約ヲ為シタル地方ニ於ケル習慣ニ依テ之ヲ解釈ス可シ 第千百六十条 契約ニ於テ習慣ノモノタル約款ヲ之ニ明示セスト雖モ其契約ニ於テ之ヲ補填セサル可カラス 第千百六十一条 合意中ノ総テノ約款ハ証書ノ全部ヨリ生スル所ノ義意ヲ其各箇ニ附シテ相互ニ解釈ス可シ 第千百六十二条 疑アルニ於テハ合意ハ約権シタル者ノ損失トナリ義務ヲ契約シタル者ノ利益トナル様之ヲ解釈ス可シ 第千百六十三条 合意ニ用ヒタル語辞ノ如何ニ泛博ナリト雖モ其合意ハ双方ノ者ノ契約スルヲ欲シタリト見ユル所ノ事物ノミヲ包含スルモノトス 第千百六十四条 若シ契約ニ於テ義務ノ説明ノ為メ一箇ノ場合ヲ明示シタル時ハ之レカ為メ其明示セサル場合ニ当然及ホスヘキ約務ノ限界ヲ縮ムルヲ欲シタリト看做ス可カラス 第六節 第三ノ人ニ関スル合意ノ効 第千百六十五条 合意ハ契約書ノ間ニ非サレハ効ヲ有セス又合意ハ第三ノ人ヲ害セス而シテ又第千百二十一条ニ定メタル場合ニ非サレハ第三ノ人ニ益セス 第千百六十六条 然レトモ債主ハ其負債者ノ総テノ権利及ヒ訴権ヲ執行スルコトヲ得可シ但シ専ラ其一身ニ附添シタルモノハ格別ナリトス 第千百六十七条 債主ハ亦自己ノ権利ノ詐害ニ於テ其負債者ノ行ヒタル所為ヲ自己ノ一身上ノ名ヲ以テ取消サント求ムルコトヲ得可シ 然レトモ債主ハ財産相続ノ巻並ニ婚姻ノ契約及ヒ夫婦相互ノ権利ノ巻ニ表示シタル自己ノ権利ニ関シテハ其各巻ニ定メタル所ノ規則ニ従ハサルヲ得ス 第四章 義務ノ種々ノ種類 第一節 未必条件ノ義務 第一款 一般ニ未必条件及ヒ其種々ノ種類 第千百六十八条 一箇ノ事故ノ生スルニ至ル迄義務ヲ停止シ若クハ事故ノ生シ又ハ生セサルニ従ヒ義務ヲ取消シ以テ其義務ヲ将来ノ不定ナル事故ニ関セシムル時ハ其義務ハ未必条件ノモノタリ 第千百六十九条 偶生ノ未必条件トハ偶然ノ事ニ関シテ毫モ債主ノ力ニモ又負債者ノ力ニモ依ラサルモノヲ云フ 第千百七十条 人力ニ関スル未必条件トハ契約者中ノ一方又ハ他ノ一方ノ力ニ依テ生セシメ又ハ防止スルヲ得可キ一箇ノ事故ニ合意ノ執行ヲ関セシムルモノヲ云フ 第千百七十一条 混合ノ未必条件トハ契約者中一方ノ意ト第三ノ人ノ意トニ共ニ関スルモノヲ云フ 第千百七十二条 凡ソ為シ能ハサル事又ハ善良ノ風儀ヲ害スル事又ハ法律上ニ禁シタル事ノ未必条件ハ無効ニシテ之ニ関スル所ノ合意ヲ無効タラシム 第千百七十三条 為シ能ハサル事ヲ為ササルノ未必条件ハ其未必条件ヲ以テ契約シタル義務ヲ無効タラシメス 第千百七十四条 凡ソ義務ハ其義務ヲ己レニ負フ者ノ方ニ於ケル人力ニ関スル未必条件ヲ以テ契約シタル時ハ無効ナリトス 第千百七十五条 総テノ未必条件ハ契約者ノ欲望希図シタリト推測スルヲ得可キ方法ニ完成セサル可カラス 第千百七十六条 若シ一箇ノ事故ノ特定ノ時期内ニ生ス可キ未必条件ヲ以テ義務ヲ契約シタル時ハ其事故ノ生スルコトナクシテ右時期ノ経過シタルニ於テハ其未必条件ハ虧缺シタルモノト看做ス可シ○若シ時期ノ定メアラサル時ハ其未必条件ハ何時ニテモ完成スルコトヲ得可ク而シテ其未必条件ハ右事故ノ生セサルコトノ正確トナリタル時ニ非サレハ虧缺シタルモノト看做ス可カラス 第千百七十七条 若シ一箇ノ事故ノ特定ノ時期内ニ生セサル可キ未必条件ヲ以テ義務ヲ契約シタル時ハ其事故ノ生スルコトナクシテ右時期ノ経過シタルニ於テハ其未必条件ハ完成シタルモノトス又其期限ノ前ニ其事故ノ生セサルコトノ正確トナリタル時ハ亦同シク其未必条件ハ完成シタルモノトス可シ若シ又其時期ノ定メアラサル時ハ其事故ノ生セサルコトノ正確トナリタル時ニ非サレハ其未必条件ハ完成シタルモノトセス 第千百七十八条 未必条件ヲ以テ義務ヲ負ヒタル負債者ノ其未必条件ノ完成ヲ妨ケタル時ハ其未必条件ハ完成シタリト看做ス可シ 第千百七十九条 完成シタル未必条件ハ其約務ヲ契約シタル日ニ於ケル既往ニ及ホス効ヲ有スルモノトス○若シ債主カ其未必条件ノ完成スル前ニ死去シタル時ハ其権利ハ其相続人ニ移ルモノトス 第千百八十条 債主ハ未必条件ノ完成セサル前ニ自己ノ権利ヲ保存スル総テノ所為ヲ執行スルコトヲ得可シ 第二款 停止ノ未必条件 第千百八十一条 停止ノ未必条件ヲ以テ契約シタル義務トハ将来ノ不定ナル事故又ハ現ニ生シタリト雖モ契約者ノ未タ知ラサル事故ニ関スル所ノモノヲ云フ 第一ノ場合ニ於テハ其事故ノ後ニ非サレハ義務ヲ執行スルコトヲ得ス 第二ノ場合ニ於テハ義務ヲ約定シタル日ヨリ其義務ノ効アルモノトス 第千百八十二条 停止ノ未必条件ヲ以テ義務ヲ契約シタル時ハ其合意ノ主料ヲ為ス物ハ負債者ノ危険ニ留マリ而シテ負債者ハ未必条件ノ生シタル場合ニ非サレハ其物ヲ引渡ス可キノ義務ナシトス 若シ負債者ノ過失ナクシテ其物ノ全ク滅尽シタル時ハ其義務消滅ス 若シ負債者ノ過失ナクシテ其物ノ損壊シタル時ハ債主ハ或ハ其義務ヲ解除シ或ハ価ヲ減スルコトナク其現在ノ景状ニ於テ其物ヲ要求スルコト自由ナリトス 若シ負債者ノ過失ニ依リ其物ノ損壊シタル時ハ債主ハ損害ノ賠償ヲ得テ或ハ其義務ヲ解除シ或ハ其現在ノ景状ニ於テ其物ヲ要求スルノ権利アリ 第三款 解除ノ未必条件 第千百八十三条 解除ノ未必条件トハ其条件ノ完成スル時ハ義務ノ廃止ヲ為シ而シテ其義務ノ存在セサリシ時ト同一ノ景状ニ事物ヲ復セシムル所ノモノヲ云フ 解除ノ未必条件ハ義務ノ執行ヲ停止セス唯其未必条件ニ定メタル事故ノ生スル場合ニ於テハ債主ヲシテ其収受セシ所ノモノヲ返還ス可キノ義務ヲ負ハシムルモノトス 第千百八十四条 両繋ノ契約ニ於テハ双方ノ者ノ中一方ノ其約務ヲ履行セサル場合ノ為メ常ニ必ス解除ノ未必条件ヲ暗ニ含蓄シタルモノトス 此場合ニ於テハ当然契約ヲ解除セス○其約務ノ執行ヲ得サル一方ノ者ハ合意執行ノ為シ得可キニ於テハ他ノ一方ノ者ニ合意ノ執行ヲ強ヒ又ハ損害ノ賠償ヲ得テ其合意ノ解除ヲ訟求スルコト自由ナリトス 其解除ハ裁判所ニ之ヲ訟求セサルヲ得ス而シテ其景況ニ従ヒ被告人ニ猶予ヲ附与スルコトヲ得可シ 第二節 有期ノ義務 第千百八十五条 期限ハ約務ヲ停止セス唯其執行ヲ遅延セシムル事ニ付キ未必条件ト相異レリ 第千百八十六条 期限ニ至ルニ非サレハ補償スルヲ要セサルモノハ其期限ノ満ツル前ニ之ヲ要求スルコトヲ得ス然レトモ予メ弁済シタルモノハ之ヲ取戻スコトヲ得ス 第千百八十七条 期限ハ常ニ必ス負債者ノ利益ニ於テ約権シタルモノト思量ス可シ但シ約権又ハ景況ニ依リ債主ノ利益ノ為メニ亦其期限ヲ合意シタルコトヲ推知スルヲ得可キ時ハ格別ナリトス 第千百八十八条 負債者ノ家資分散ヲ為シタル時又ハ契約ニ依リ其債主ニ附与シタル所ノ抵保ヲ自己ノ所為ニ依テ減少シタル時ハ其負債者ハ最早期限ノ利益ヲ請求スルコトヲ得ス 第三節 数中択一ノ義務 第千百八十九条 数中択一ノ義務アル負債者ハ其義務中ニ包含シタル二物中ノ一ヲ引渡スニ依リ釈免セラルルモノトス 第千百九十条 其撰択ハ負債者ニ属スルモノトス但シ其撰択ヲ明カニ債主ニ附与シタル時ハ格別ナリトス 第千百九十一条 負債者ハ其約務シタル二物中ノ一ヲ引渡スニ依リ釈免ヲ受クルコトヲ得可シ然レトモ負債者ハ其一物ノ一部分ト他ノ一物ノ一部分トヲ受取ルコトヲ債主ニ強ユルコトヲ得ス 第千百九十二条 若シ約務セラレタル二物中ノ一カ義務ノ主位タルコトヲ得サル時ハ仮令数中択一ノ方法ヲ以テ契約シタルト雖トモ其義務ハ単純ノモノタリ 第千百九十三条 若シ約務シタル物ノ一カ滅尽シテ最早之ヲ引渡スコトヲ得サル時ハ仮令負債者ノ過失ニ依ルト雖モ数中択一ノ義務ハ単純ノモノトナル可シ○其物ノ代金ヲ其物ニ代ヘテ渡サント供陳スルコトヲ得ス 若シ二物共ニ滅尽シ而シテ其中ノ一ニ関シテ負債者ニ過失アル時ハ負債者ハ後ニ滅尽シタルモノノ代金ヲ弁済セサルヲ得ス 第千百九十四条 若シ前条ニ定メタル場合ニ於テ合意ニ依リ債主ニ撰択ヲ附与シタル時 或ハ其一物ノミノ滅尽シ而シテ負債者ニ過失アラサル時ハ債主残ル所ノモノヲ収受セサルヲ得ス若シ又負債者ニ過失アル時ハ債主残ル所ノ物ヲ求メ又ハ滅尽シタルモノノ代金ヲ求ムルコトヲ得可シ 或ハ其二物共ニ滅尽シ而シテ負債者ノ其二物ニ関シテ過失アル時又ハ然ノミナラス其中ノ一物ノミニ関シテ過失アル時ト雖トモ債主ハ自己ノ撰択ニ従ヒ何レニテモ其中一箇ノ代金ヲ求ムルコトヲ得可シ 第千百九十五条 若シ負債者ニ過失ナク且ツ遅滞ノ責アラサル前ニ二物ノ共ニ滅尽シタル時ハ第千三百二条ニ従ヒ其義務消滅ス 第千百九十六条 右ト同一ノ原則ハ数中択一ノ義務中ニ包含シタル物ノ二箇ヨリ更ニ多キ場合ニモ適用スルモノトス 第四節 連帯ノ義務 第一款 債主ノ間ノ連帯 第千百九十七条 若シ権原カ債主中ノ各人ニ債権全部ノ弁済ヲ求ムルノ権利ヲ明カニ附与シ且ツ債主中ノ一人ニ為シタル弁済ニ依リ負債者ヲ釈免スル時ハ仮令其義務ノ利益ヲ債主数人ノ間ニ分派シ及ヒ分割ス可キ時ト雖トモ債主数人ノ間ニ連帯ノ義務アリトス 第千百九十八条 負債者カ連帯債主中一人ノ義務執行ノ要求ニ依リ通報セラレサル間ハ何レニテモ連帯債主中ノ一人ニ弁済スルコト自由ナリトス 然レトモ連帯債主中ノ一人ノミヨリ為シタル釈放ハ其債主ノ分ケ前ノミニ非サレハ負債者ヲ釈免セス 第千百九十九条 凡ソ連帯債主中ノ一人ニ関シテ期満効ヲ中断スル所為ハ其他ノ債主ニ利益スルモノトス 第二款 負債者ノ方ニ於ケル連帯 第千二百条 負債者各人ヲ事物ノ全部ニ付キ強制スルコトヲ得可ク而シテ其中一人ノ為シタル弁済カ他ノ者ヲ債主ニ対シテ釈免ス可キ方法ヲ以テ其負債者数人カ同一ノ事物ニ付キ義務ヲ負ヒタル時ハ負債者ノ方ニ於ケル連帯アリトス 第千二百一条 仮令負債者中ノ一人カ他ノ者ト異ナリタル方法ニテ同一ノ事物ヲ弁済スルノ義務ヲ負ヒタルト雖トモ其義務ハ連帯ノモノタルコトヲ得可シ例ヘハ一人ハ未必条件ヲ以テ義務ヲ負フノミニシテ他ノ者ノ約務ハ単純ノモノタリ又ハ一人カ他ノ者ニ附与セラレサル期限ヲ得タル時ノ如シ 第千二百二条 連帯ハ思量ス可キモノニ非ス明カニ之ヲ約権シタルコトヲ必要トス 右ノ規則ハ法律ノ成規ニ拠リ当然連帯ノアル可キ場合ニ非サレハ止息セサルモノトス 第千二百三条 連帯シテ契約シタル義務ノ債主ハ負債者中ニテ其撰択スルヲ欲シタル者ニ向ヒ要求スルコトヲ得可シ但シ其要求ヲ受ケタル者ハ分割ノ利益ヲ以テ債主ニ対抗スルコトヲ得サルモノトス 第千二百四条 負債者中ノ一人ニ対シテ為シタル義務執行ノ要求ハ債主ノ他ノ負債者ニ対シテ之ニ同シキ要求ヲ執行スルノ妨ケトナラサルモノトス 第千二百五条 若シ引渡ス可キ物カ連帯負債者中一人又ハ数人ノ過失ニ依テ滅尽シ又ハ其遅滞ノ責アル間ニ滅尽シタル時ハ他ノ共同負債者ハ其物ノ代金ヲ弁済スルノ義務ヲ免除セラレサルモノトス然レトモ他ノ共同負債者ハ損害ノ賠償ヲ担任スルコトナシ 債主ハ其過失ニ依テ物ヲ滅尽セシメタル負債者及ヒ遅滞ノ責アル負債者ノミニ対シテ損害ノ賠償ヲ取戻スコトヲ得可シ 第千二百六条 連帯負債者中ノ一人ニ対シテ為シタル義務執行ノ要求ハ総テノ負債者ニ関シテ期満効ヲ中断スルモノトス 第千二百七条 連帯負債者中ノ一人ニ対シテ為シタル利息ノ訟求ハ総テノ負債者ニ関シテ利息ヲ生セシム 第千二百八条 債主ヨリ義務執行ノ要求ヲ受ケタル連帯ノ共同負債者ハ其義務ノ性質ヨリ生スル所ノ総テノ抗弁ノ憑拠及ヒ自己ノ一身上ノモノタル総テノ抗弁ノ憑拠並ニ総テノ共同負債者ニ共通ノモノタル抗弁ノ憑拠ヲ以テ対抗スルコトヲ得可シ 其連帯ノ共同負債者ハ純粋ニ他ノ共同負債者中或人ノ一身上ノモノタル抗弁ノ憑拠ヲ以テ対抗スルコトヲ得ス 第千二百九条 若シ負債者中ノ一人カ債主ノ唯一ノ相続人トナル時又ハ債主カ負債者中一人ノ唯一ノ相続人トナル時ハ義務ノ混同ハ右ノ負債者又ハ債主ノ分ケ前及ヒ部分ノミニ付キ其連帯ノ債権ヲ消滅セシムルモノトス 第千二百十条 共同負債者中ノ一人ニ関シテ負債ノ分割ヲ承諾シタル債主ハ他ノ負債者ニ対シテハ其連帯ノ訴権ヲ保存ス然レトモ債主ヨリ其連帯ヲ免除シタル負債者ノ分ケ前ヲ減ス可キモノトス 第千二百十一条 債主カ其受取証書ニ連帯ノ事又ハ一般ニ自己ノ権利ヲ貯存セスシテ負債者中一人ノ分ケ前ヲ分割シテ収受シタル時ハ右ノ負債者ニ関スルノ外連帯ヲ放棄シタルモノトセス 債主カ負債者ヨリ其担任ス可キ部分ニ等シキ金額ヲ収受シタル時若シ其受取証書ニ其負債者ノ分ケ前ナリト記載セサルニ於テハ其負債者ノ連帯ヲ釈放シタリト看做ス可カラス 共同負債者中ノ一人ニ対シテ其分ケ前ニ付キ単一ノ訟求ヲ為シタル時ノ如キモ若シ其一人ノ右ノ訟求ヲ認諾セス又ハ弁償ノ裁判言渡アラサルニ於テハ亦右ト同一ナリトス 第千二百十二条 負債ノ年金賦額又ハ利息ニ於ケル共同負債者中一人ノ部分ヲ分割シテ且ツ貯存ナク収受シタル債主ハ払期限ニ至リシ年金賦額又ハ利息ノミニ付キ連帯ヲ失ヒ払期限ニ至ラサル年金賦額又ハ利息ニ付テモ又其元金ニ付テモ連帯ヲ失ハサルモノトス但シ其分割シタル弁済カ引続テ十年間継続シタル時ハ格別ナリトス 第千二百十三条 債主ニ対シ連帯シテ契約シタル義務ハ負債者ノ間ニ於テハ当然分割シ其負債者ハ各自ノ間ニ於テハ各々自己ノ分ケ前及ヒ部分ナラテハ担任セサルモノトス 第千二百十四条 連帯負債ヲ全ク弁済シタル其負債ノ共同負債者ハ他ノ共同負債者ニ対シテ其各自ノ分ケ前及ヒ部分ナラテハ取戻スコトヲ得ス 若シ他ノ共同負債者中ニ無資力ノ者アル時ハ其無資力ヨリ生スル所ノ損失ヲ資力アル其他ノ共同負債者全員ト弁済ヲ為セシ共同負債者トノ間ニ分担ヲ以テ配当ス可シ 第千二百十五条 債主カ負債者中ノ一人ニ対シテ連帯ノ訴権ヲ放棄シタル場合ニ於テ若シ他ノ共同負債者中一人又ハ数人ノ無資力トナル時ハ其無資力者ノ部分ヲ負債者全員ノ間ニ分担ヲ以テ配当ス可ク又然ノミナラス既ニ債主ヨリ連帯ヲ免除セラレタル負債者ノ間ニモ亦分担ヲ以テ配当ス可シ 第千二百十六条 若シ連帯シテ負債ヲ契約シタル事件カ其連帯ノ共同義務者中一人ノミニ関係シタル時ハ其一人ハ他ノ共同負債者ニ対シテ総テノ負債ヲ担任ス可シ而シテ他ノ共同負債者ハ右ノ一人トノ関係ニ於テハ其保証人ト看做サル可キノミトス 第五節 可分ノ義務及ヒ不可分ノ義務 第千二百十七条 義務ノ目的タル物カ其引渡ニ於テ物料上ト智心上トヲ問ハス之ヲ分ツコトヲ得又ハ之ヲ分ツコトヲ得ス或ハ義務ノ目的タル所為カ其執行ニ於テ物料上ト智心上トヲ問ハス之ヲ分ツコトヲ得又ハ之ヲ分ツコトヲ得サルニ従ヒ其義務ハ可分ノモノタリ又ハ不可分ノモノタリ 第千二百十八条 仮令義務ノ目的タル物又ハ所為カ其性質ニ於テ可分ノモノタル時ト雖モ若シ其義務ニ於テ之ヲ考察シタル所ノ関係ニ依リ其一部分ノ執行ヲ為スコトヲ得サルニ於テハ其義務ハ不可分ノモノタリ 第千二百十九条 約権セラレタル連帯ハ義務ニ不可分タルノ性質ヲ附与セス 第一款 可分義務ノ効 第千二百二十条 分ツコトヲ得可キ義務ハ債主ト負債者トノ間ニ於テハ其義務ノ不可分ノモノタル如クニ之ヲ執行セサルヲ得ス○其可分ノモノタル事ハ其債主及ヒ負債者ノ相続人ノミニ関シテ適用ヲ為ス可ク而シテ其債主ノ相続人ハ債主ノ代人トシテ収握シタル分ケ前ノ為メノミニ非サレハ負債ヲ訟求スルコトヲ得ス又其負債者ノ相続人ハ負債者ノ代人トシテ担任シタル分ケ前ノ為メノミニ非サレハ其負債ヲ弁済スルニ及ハサルモノトス 第千二百二十一条 前条ニ定メタル原則ハ左ノ場合ニ於テハ負債者ノ相続人ニ関シテ取除ヲ受クルモノトス 第一 負債カ書入質ノモノタル場合 第二 負債カ特定物ニ関スルモノタル時 第三 債主ノ撰択ニ任カスル物ノ数中択一ノ負債ニ関シ而シテ其物ノ中一箇ノ不可分ノモノタル時 第四 相続人中ノ一人カ権原ニ依テ唯独リ義務ノ執行ヲ任セラレタル時 第五 約務ノ性質ニ依リ若クハ其約務ノ目的タル事物ニ依リ若クハ契約ニ於テ希図シタル所ノ主眼ニ依リ契約者ノ意思ニ於テハ其負債ヲ一部分弁償シ得可キモノニ非サルコトヲ推知シ得可キ時 右初メノ三箇ノ場合ニ於テハ引渡ス可キ物ヲ占有シ又ハ負債ノ為メ書入質ト為シタル不動産ヲ占有スル相続人ハ其引渡ス可キ物又ハ書入質ト為シタル不動産ニ付キ全部ノ為メニ義務執行ノ要求ヲ受クルコトアル可ク而シテ其相続人ハ自己ノ共同相続人ニ対シテ償還ノ訟求ヲ為スコトヲ得可キモノトス○第四ノ場合ニ於テハ唯独リ負債ヲ任セラレタル相続人又第五ノ場合ニ於テハ各相続人亦全部ノ為メニ義務執行ノ要求ヲ受クルコトアル可ク而シテ其相続人ハ自己ノ共同相続人ニ対シテ償還ノ訟求ヲ為スコトヲ得可キモノトス 第二款 不可分義務ノ効 第千二百二十二条 不可分ノ負債ヲ合同シテ契約シタル各人ハ仮令連帯シテ義務ヲ契約セサル時ト雖モ其負債ノ全部ヲ担任ス可シ 第千二百二十三条 此類ノ義務ヲ契約シタル者ノ相続人ニ関シテモ亦右ト同シ 第千二百二十四条 債主ノ各相続人ハ不可分義務ノ執行ヲ全部ニ付キ要求スルコトヲ得可シ 其各相続人ハ己レ一人ニテ負債ノ全部ノ釈放ヲ為スコトヲ得ス又己レ一人ニテ其物ニ代ヘ之レカ代金ヲ収受スルコトヲ得ス○若シ其相続人中一名カ己レ一人ニテ負債ヲ釈放シ又ハ其物ノ代金ヲ収受シタル時ハ其共同相続人ハ釈放ヲ為シ又ハ代金ヲ収受セシ共同相続人ノ部分ヲ計算スルニ非サレハ其不可分ノ物ヲ求ムルコトヲ得ス 第千二百二十五条 負債者ノ相続人其義務ノ全部ニ付キ裁判所ニ呼出サレタル時ハ其共同相続人ヲ訴訟ニ参セシムル為メ猶予ヲ求ムルコトヲ得可シ但シ其負債カ其裁判所ニ呼出サレタル相続人ニ非サレハ弁償スルコトヲ得サル性質ノモノタル時ハ格別ニシテ然ル時ハ其相続人一人ニ其負債ノ弁償ヲ言渡スコトヲ得可ク而シテ其相続人ハ自己ノ共同相続人ニ対シテ賠償ヲ訟求スルコトヲ得可キモノトス 第六節 罰款ヲ附シタル義務 第千二百二十六条 罰款トハ一個ノ人ニ於テ合意ノ執行ヲ確保スル為メ其不執行ノ場合ニ於テ己レニ或ル事物ヲ約務スル所ノ約款ヲ云フ 第千二百二十七条 主タル義務ノ無効ハ罰款ノ無効ヲ引起スモノトス罰款ノ無効ハ主タル義務ノ無効ヲ引起サス 第千二百二十八条 債主ハ遅滞ノ責アル負債者ニ対シテ其約権シタル罰款ヲ求ムルニ代ヘ主タル義務ノ執行ヲ要求スルコトヲ得可シ 第千二百二十九条 罰款ハ主タル義務ノ不執行ヨリ債主ノ受クル所ノ損害ノ補償ナリトス 債主ハ同時ニ主タル義務ト罰款トヲ求ムルコトヲ得ス但シ単一ナル遅延ノ為メニ罰款ヲ約権シタル時ハ格別ナリトス 第千二百三十条 原始ノ義務ニ之ヲ完成セサルヲ得サル期限ヲ包含シタルト包含セサルトヲ問ハス物ヲ引渡シ若クハ収受シ若クハ事ヲ為スノ義務ヲ己レニ負ヒタル者ニ遅滞ノ責アル時ニ非サレハ罰款ヲ受ケサルモノトス 第千二百三十一条 主タル義務ヲ一部分執行シタル時ハ裁判官ヨリ罰款ヲ減軽スルコトヲ得可シ 第千二百三十二条 若シ罰款ヲ附シテ契約シタル原始ノ義務カ不可分ノ物ニ関スル時ハ負債者ノ相続人中一人ノ違背ニ依テ其罰款ヲ受ク可シ而シテ其罰款ハ右ノ違背ヲ為シタル者ニ対シテハ其全部ニ付キ之ヲ求ムルコトヲ得可ク又共同相続人各員ニ対シテハ其分ケ前及ヒ部分ニ付キ之ヲ求メ又書入質上ニテハ全部ニ付キ之ヲ求ムルコトヲ得可シ但シ其共同相続人ハ罰款ヲ受クルニ至ラシメタル者ニ対シテ償還ノ訟求ヲ為スコトヲ得可キモノトス 第千二百三十三条 若シ罰款ヲ附シテ契約シタル原始ノ義務カ可分ノモノタル時ハ負債者ノ相続人中ニテ其義務ニ違背シタル者ノ其主タル義務中ニ於テ担任ス可キ分ケ前ノミノ為メニ非サレハ其者ヲシテ罰款ヲ受ケシム可カラス但シ其義務ヲ執行シタル者ニ対シテハ訴権ヲ有セサルモノトス 右ノ規則ハ若シ一部分弁債ヲ為スコトヲ得ストスルノ意思ヲ以テ罰款ヲ附添シタル時共同相続人中ノ一人カ其義務ノ執行ヲ全部ニ付キ妨ケタルニ於テハ取除ヲ受クルモノトス○此場合ニ於テハ其一人ニ対シテハ罰款ノ全部ヲ要求シ又其他ノ共同相続人ニ対シテハ其各自ノ部分ノミニ付キ罰款ヲ要求スルコトヲ得可シ但シ他ノ共同相続人ハ償還ノ訟求ヲ為スコトヲ得可キモノトス 第五章 義務ノ消滅 第千二百三十四条 義務ハ左ノ諸件ニ依テ消滅ス 弁済 更改 任意ノ釈放 相殺 混同 物ノ滅尽 無効又ハ廃棄 解除ノ未必条件ノ効但シ解除ノ未必条件ハ前章ニ於テ説明シタリ 期満効但シ期満効ハ別巻ノ目的ヲ為スモノトス 第一節 弁済 第一款 一般ニ弁済 第千二百三十五条 凡ソ弁済ハ一箇ノ負債ヲ推測セシム但シ負担スルコトナクシテ弁済シタルモノハ取戻ヲ為スコトヲ得可シ 任意ニテ弁償シタル自然ノ義務ニ関シテハ取戻ヲ許サス 第千二百三十六条 義務ハ共同義務者又ハ保証人ノ如ク総テ之ニ関係アル各人ヨリ弁償スルコトヲ得可シ 義務ニ関係ナキ第三ノ人カ負債者ノ名ヲ以テ其弁償ノ為メニ事ヲ行ヒ又ハ其第三ノ人カ自己ノ名ヲ以テ事ヲ行フ時ハ債主ノ権利ニ代替セサルニ於テハ義務ニ関係ナキ第三ノ人ト雖モ其義務ヲ弁償スルコトヲ得可シ 第千二百三十七条 為スノ義務ハ債主カ其負債者ノ自カラ其義務ヲ履行スルニ付キ利益ヲ有スル時ハ第三ノ人ニ於テ債主ノ意望ニ反シテ之ヲ弁償スルコトヲ得ス 第千二百三十八条 有効ニ弁済スルニハ其弁済ノ為メニ附与シタル物ノ所有者ニシテ且ツ其物ノ所有権ヲ移転スルノ能力アルヲ必要トス 然レトモ金額又ハ使用ニ依テ消耗スル其他ノ物ノ弁済ハ仮令其所有者ニ非サル者又ハ其所有権ヲ移転スルノ能力ナキ者ヨリ其弁済ヲ為シタルト雖モ善意ヲ以テ之ヲ消耗シタル債主ニ対シテ之ヲ取戻スコトヲ得ス 第千二百三十九条 弁済ハ債主又ハ債主ヨリ権力ヲ受ケタル者又ハ裁判上或ハ法律上ニテ債主ノ為メニ収受スルヲ許サレタル者ニ之ヲ為ササルヲ得ス 債主ノ為メニ収受スルノ権力ヲ有セサル者ニ為シタル弁済ハ若シ債主ノ之ヲ認可シ又ハ之レニ依テ利益シタル時ハ有効ナリトス 第千二百四十条 債権ヲ占有スル者ニ善意ヲ以テ為シタル弁済ハ仮令其占有者ノ後ニ之ヲ褫奪セラルコトアリト雖モ有効ナリトス 第千二百四十一条 債主ニ為シタル弁済ハ若シ其債主ノ之ヲ収受スルノ能力ナキ時ハ有効ナリトセス但シ負債者ニ於テ其弁済シタル物カ債主ノ利益トナリタル旨ヲ証スル時ハ格別ナリトス 第千二百四十二条 差押又ハ故障ノ害ニ於テ負債者ヨリ債主ニ為シタル弁済ハ其差押ヲ為シ又ハ故障ヲ為シタル債主ニ関シテハ有効ナリトセス其差押ヲ為シ又ハ故障ヲ為シタル債主ハ自己ノ権利ニ従ヒ更ニ再ヒ弁済ヲ為スコトヲ負債者ニ強ユルコトヲ得可シ但シ此場合ノミニ於テハ負債者ヨリ債主ニ対シテ償還ノ訟求ヲ為スコトヲ得可キモノトス 第千二百四十三条 仮令渡サント供陳シタル物ノ価額カ債主ノ受ク可キ物ト相等シク又然ノミナラス更ニ大ナル時ト雖モ債主ハ己レニ受ク可キ物ヨリ更ニ他ノ物ヲ収受スルヲ強ラルルコトナカル可シ 第千二百四十四条 負債者ハ仮令可分ノモノト雖モ負債ノ弁済ヲ一部分収受スルコトヲ債主ニ強ユルヲ得ス 然レトモ裁判官ハ負債者ノ景状ヲ考察シ且ツ大ナル謹慎ヲ以テ其権力ヲ用フルニ於テハ弁済ノ為メ適宜ノ猶予ヲ附与シ而シテ諸事ヲ其景状ノ侭ニ為シ置キテ義務要求ノ執行ヲ延ハサシムルコトヲ得可シ 第千二百四十五条 特定ニシテ定マリタル物体ノ負債者ハ物ノ引渡ノ時ニ於ケル其現在ノ景状ニ於テ之ヲ交付スルニ依リ釈免セラルルモノトス但シ之レカ為メニハ其物ニ生シタル損壊ノ自己ノ所為又ハ過失ヨリ来ラス又ハ其負債者ニ於テ其責ニ任ス可キ人ノ所為又ハ過失ヨリ来ラス又其損壊ノ前ニ負債者ニ遅滞ノ責ナキコトヲ必要トス 第千二百四十六条 若シ負債カ種別ノミノ定マリタル物ニ関スル時ハ負債者ハ釈免セラルル為メニ最良種ノモノノ所有権ヲ移スニ及ハス然レトモ最悪種ノモノヲ渡サント供陳スルコトヲ得ス 第千二百四十七条 弁済ハ合意ニ依リ指定メラレタル場所ニ於テ之ヲ執行セサル可カラス○若シ其場所ヲ指定メサル時ハ弁済ハ特定ニシテ定マリタル物体ニ関スル時ハ義務ノ時ニ於テ其目的タル物ノ在リシ場所ニ於テ之ヲ為ササル可カラス 右二箇ノ場合ノ外ハ負債者ノ住所ニ於テ弁済ヲ為ササル可カラス 第千二百四十八条 弁済ノ費用ハ負債者ノ負任ナリトス 第二款 代替ヲ以テスル弁済 第千二百四十九条 債主ニ弁済スル第三ノ人ノ利益ニ於テ其債主ノ権利ニ於ケル代替ハ合意上ノモノアリ又ハ法律上ノモノアリ 第千二百五十条 其代替ハ左ノ場合ニ於テハ合意上ノモノトス 第一 債主カ第三ノ人ヨリ其弁済ヲ受ケテ負債者ニ対スル自己ノ権利、訴権、先取特権又ハ書入質ニ於テ其第三ノ人ヲ代替セシムル時但シ此代替ハ明白ニシテ且ツ弁済ト同時ニ之ヲ為ササル可カラス 第二 負債者カ自己ノ負債ヲ弁済スル為メ金額ヲ借受ケ而シテ債主ノ権利ニ於テ其貸主ヲ代替セシムル時○此代替ヲ有効ノモノタラシムルニハ金額借受ノ証書及ヒ受取証書ヲ公証人ノ面前ニ於テ作リ且ツ其借受証書ニ右ノ金額ハ弁済ヲ為ス為メニ之ヲ借受ケタルコトヲ明記シ又受取証書ニハ是レカ為メ新タナル債主ヨリ給与シタル金額ヲ以テ弁済ヲ為シタルコトヲ明記シタルコトヲ必要トス○此代替ハ債主ノ意ノ協合ナクシテ成ルモノトス 第千二百五十一条 左ノ各人ノ利益ニ於テハ当然代替ヲ為スモノトス 第一 己レ自カラ債主ニシテ其先取特権又ハ書入質ノ為メ己レニ優レル他ノ債主ニ弁済シタル者ノ利益ニ於テ 第二 不動産ノ獲得者ニシテ其不動産ヲ書入質ニ取リシ債主ノ弁済ニ其獲得ノ代金ヲ用ヒタル者ノ利益ニ於テ 第三 他人ト共ニ又ハ他人ノ為メニ負債ノ弁済ヲ担任シテ之ヲ弁償スルニ付キ利益ヲ有シタル者ノ利益ニ於テ 第四 自己ノ金額ヲ以テ遺留財産ノ負債ヲ弁済シタル目録ノ利益ヲ受クル相続人ノ利益ニ於テ 第千二百五十二条 前数条ニ定メタル代替ハ負債者ト保証人トニ対シテ之ヲ為スモノトス但シ其代替ハ債主ノ唯一部分ノミ弁済ヲ得タル時ハ其債主ニ害スルコトヲ得ス此場合ニ於テ其債主ハ一部分ノ弁済ノミヲ己レニ為シタル者ニ優リテ其要求ス可キモノノ残余ノ為メ自己ノ権利ヲ執行スルコトヲ得可シ 第三款 弁済ノ充用 第千二百五十三条 数箇ノ負債アル負債者ハ其弁済スル時ニ於テ如何ナル負債ヲ弁済セント欲スルヤヲ申述スルノ権利アリ 第千二百五十四条 利息ヲ生シ又ハ年金賦額ヲ生スル負債アル負債者ハ債主ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ其為シタル弁済ヲ年金又ハ利息ヨリ先キニ元金ニ充用スルコトヲ得ス又元金ト利息トニ付キ為シタル弁済ト雖モ其全部ニ非サルモノハ先ツ利息ニ充用ス可シ 第千二百五十五条 若シ数箇ノ負債アル負債者カ債主ノ其収受シタルモノヲ特ニ其負債中ノ一箇ニ充用シタル受取証書ヲ受諾シタル時ハ其負債者ハ最早之ト異ナリタル負債ニ付テノ充用ヲ求ムルコトヲ得ス但シ債主ノ方ニ於テ詐欺又ハ奸意アル時ハ格別ナリトス 第千二百五十六条 若シ受取証書ニ毫モ充用ノ事ヲ記載セサル時ハ其同シク期限ニ至リタル負債中ニテ負債者ノ当時之ヲ弁償スルニ付キ最多ノ利益ヲ有スルモノニ其弁済ヲ充用セサルヲ得ス若シ然ラサル時ハ仮令期限ニ至ラサル負債ヨリ更ニ軽緩ナルモノト雖モ既ニ期限ニ至リタル負債ニ其弁済ヲ充用セサルヲ得ス 若シ数箇ノ負債カ同一ノ性質ノモノタル時ハ最旧ノモノニ充用ヲ為ス可ク又諸事ノ相同シキ時ハ比准シテ充用ヲ為ス可シ 第四款 弁済ノ供陳及ヒ附託 第千二百五十七条 若シ債主カ其弁済ヲ収受スルコトヲ否拒スル時ハ負債者ヨリ債主ニ現実ノ供陳ヲ為シ而シテ債主ノ之ヲ受諾スルコトヲ否拒スルニ於テハ其供陳シタル金額又ハ物件ヲ附託スルコトヲ得可シ 現実ノ供陳ハ後ニ附託ヲ為スニ於テハ負債者ヲ釈免ス可ク其現実ノ供陳ヲ有効ニ為シタル時ハ負債者ニ関シテハ弁済ニ代ハルモノトス而シテ斯クノ如クニ附託シタル物ハ債主ノ危険ニ留マル可シ 第千二百五十八条 現実ノ供陳ヲシテ有効ノモノタラシムルニハ左ノ諸件ヲ必要トス 第一 収受スルノ能力ヲ有スル債主又ハ其債主ノ為メニ収受スルノ権力ヲ有スル者ニ現実ノ供陳ヲ為ス事 第二 弁済スルノ能力アル者ヨリ現実ノ供陳ヲ為ス事 第三 要求スルヲ得可キ金額、負担シタル年金、賦額又ハ利息、算定シタル費用高ノ全部及ヒ算定セサル費用高ノ為メノ一箇ノ金額ニ付キ現実ノ供陳ヲ為ス事但シ其算定セサル費用高ノ為メノ一箇ノ金額ハ之ヲ補完ス可キモノトス 第四 債主ノ利益ニ於テ期限ヲ約権シタル時ハ其期限ニ至リタル事 第五 負債ヲ契約シタルニ付テノ未必条件ノ生シタル事 第六 弁済ノ為メニ合意シタル場所ニ於テ供陳ヲ為ス事又其弁済ノ場所ニ付キ特別ノ合意アラサル時ハ債主自身ニ其供陳ヲ為シ又ハ其債主ノ住所又ハ合意執行ノ為メニ撰定シタル住所ニ於テ其供陳ヲ為ス事 第七 此類ノ所為ノ為メノ資格ヲ有スル裁判所附役員ヨリ供陳ヲ為ス事 第千二百五十九条 附託ノ有効ナル為メニハ裁判官ノ之ヲ許可シタルコトヲ必要トセス左ノ諸件ヲ以テ足レリトス 第一 其附託ヲ為ス前ニ其供陳シタル物ヲ附託ス可キ日時及ヒ場所ヲ指示スル催促状ヲ債主ニ送達スル事 第二 負債者カ附託物ヲ収受スル為メ法律上ニ指示シタル預リ所ニ其供陳シタル物ヲ其附託ノ日ニ至ル迄ノ利息ト共ニ交付シテ其物ヲ手放ス事 第三 裁判所附役員ニ於テ其供陳シタル種品ノ性質、債主ノ之ヲ収受スルノ否拒又ハ債主ノ出席セサル事及ヒ其附託ノ調書ヲ作ル事 第四 債主ノ方ニ於テ出席セサル場合ニ於テハ附託ノ調書ヲ其附託物ヲ引取ル可キノ催促状ト共ニ其債主ニ送達スル事 第千二百六十条 現実ノ供陳及ヒ附託ノ有効ノモノタル時ハ其費用ハ債主ノ負任ナリトス 第千二百六十一条 債主ノ其附託物ヲ受諾セサル間ハ負債者之ヲ引取ルコトヲ得可シ而シテ負債者ノ之ヲ引取リタル時ハ其共同負債者又ハ其保証人ハ釈免セラレサルモノトス 第千二百六十二条 負債者カ其供陳及ヒ附託ヲ適当有効ノモノナリト宣告スル裁定事件ノ力ヲ得シ裁判ヲ得タル時ハ最早債主ノ承諾アリト雖モ其共同負債者又ハ其保証人ノ損害ニ於テ其附託物ヲ引取ルコトヲ得ス 第千二百六十三条 裁定事件ノ力ヲ獲得シタル裁判ニ依リ附託ヲ有効ノモノナリト宣告セラレシ後ニ負債者ノ其附託物ヲ引取ルコトヲ承諾シタル債主ハ自己ノ債権ノ弁済ノ為メ最早其債権ニ附添シタル先取特権又ハ書入質権ヲ執行スルコトヲ得ス又其債主ハ附託物ヲ引取ルコトヲ承諾シタル証書ニ書入質権ヲ惹起セシムル為メニ必要ナル法式ヲ具ヘシメタル日ヨリ後ニ非サレハ最早書入質権ヲ有セサルモノトス 第千二百六十四条 若シ負担シタル物カ其所在ノ場所ニ於テ引渡ササル可カラサル特定物タル時ハ負債者ハ債主自身又ハ其住所又ハ合意執行ノ為メニ撰定シタル住所ニ送達シタル証書ニ依リ債主ニ其物ヲ移搬スルノ催促ヲ為ササルヲ得ス○其催促ヲ為シタル上ニテ若シ債主ノ其物ヲ移搬セス而シテ負債者ニ其物ヲ置キタル場所ノ需要アル時ハ負債者ハ或ル其他ノ場所ニ其物ヲ附託スルノ許ヲ裁判所ヨリ受クルコトヲ得可シ 第五款 財産ノ譲給 第千二百六十五条 財産ノ譲給トハ負債者ノ其負債ヲ弁済スルコト能ハサル時総テノ自己ノ財産ヲ其債主ニ委付スルコトヲ云フ 第千二百六十六条 財産ノ譲給ハ任意ノモノアリ又ハ裁判上ノモノアリ 第千二百六十七条 任意ノ財産譲給トハ債主ノ任意ニ受諾スルモノニシテ債主ト負債者トノ間ニ為シタル契約ノ約権自カラヨリ生スル所ノ効ノ外更ニ効ヲ有セサルモノヲ云フ 第千二百六十八条 裁判上ノ譲給トハ不幸ニシテ且ツ善意ナル負債者ヲシテ其身体ノ自由ヲ有セシムル為メ凡ソ如何ナル反対ノ約権アルニ拘ハラス裁判上ニテ其総テノ自己ノ財産ヲ其債主ニ委付スルコトヲ許ルシ以テ法律上ヨリ其負債者ニ附与スル所ノ利益ヲ云フ 第千二百六十九条 裁判上ノ譲給ハ債主ニ所有権ヲ授与スルモノニ非ス唯自己ノ利益ニ於テ其財産ヲ売ラシメ及ヒ其売払ニ至ル迄之レカ入額ヲ収取スルノ権利ヲ債主ニ附与スルノミトス 第千二百七十条 債主ハ法律上ニ取除ケタル場合ニ非サレハ裁判上ノ譲給ヲ否拒スルコトヲ得ス 裁判上ノ譲給ハ拘留ノ免除ヲ為スモノトス 右ノ外裁判上ノ譲給ハ委付シタル財産ノ価額ニ充ツル迄ノ外負債者ヲ釈免セス而シテ其委付シタル財産ノ不足ナル場合ニ於テ若シ負債者ノ更ニ他ノ財産ヲ得ルコトアル時ハ負債者ハ完全ノ弁済ニ至ル迄之ヲ委付ス可キノ義務アリ 第二節 更改 第千二百七十一条 更改ハ左ニ記スル三箇ノ方法ニテ成ルモノトス 第一 負債者ノ其債主ニ対シテ新タナル負債ヲ契約シ其新タナル負債ノ旧キ負債ニ代ハリテ旧キ負債ノ消滅スル時 第二 新タナル負債者ノ旧キ負債者ニ代ハリテ其旧キ負債者ノ債主ヨリ免除セラルル時 第三 新タナル約務ノ効ニ依リ新タナル債主ノ旧キ債主ニ代ハリテ負債者ノ其旧キ債主ニ対シ免除セラルル時 第千二百七十二条 更改ハ契約スルノ能力アル各人ノ間ニ非サレハ成ルコトヲ得ス 第千二百七十三条 更改ハ思量ス可キモノニ非ス之ヲ為スノ意ヲ其証書ニ依テ明瞭ニ推知シ得ルヲ必要トス 第千二百七十四条 新タナル負債者ノ代ハレルニ依ル更改ハ初メノ負債者ノ協合ナクシテ成ルコトヲ得可シ 第千二百七十五条 負債者ヨリ債主ニ対シテ義務ヲ己レニ負フ所ノ他ノ負債者ヲ其債主ニ附与スル所ノ代任ハ若シ債主ニ於テ其代任ヲ為シタル自己ノ負債者ヲ免除セント欲スル旨ヲ明カニ申述セサル時ハ更改ヲ為ササルモノトス 第千二百七十六条 代任ヲ為シタル負債者ヲ免除シタル債主ハ若シ其代任ヲ受ケタル者ノ無資力トナリタル時ハ其負債者ニ対シテ償還ノ訟求ヲ為スコトヲ得ス但シ証書ニ其明カナル財存ヲ包含シ又ハ代任ヲ受ケタル者ノ其代任ノ時ニ当リ既ニ開始シタル家資分散ニ在リ又ハ破産ニ落入リタル時ハ格別ナリトス 第千二百七十七条 負債者ヨリ己レニ代ハリテ弁済セサル可カラサル人ヲ単一ニ指示シタルノミニテハ更改ヲ為ササルモノトス 債主ヨリ己レノ為メニ収受セサル可カラサル人ヲ単一ニ指示シタルノミニテハ亦右ニ同シ 第千二百七十八条 旧キ債権ノ先取特権及ヒ書入質権ハ之ニ代ハリタル債権ニ移ラサルモノトス但シ債主ノ明カニ其先取特権及ヒ書入質権ヲ貯存シタル時ハ格別ナリトス 第千二百七十九条 新タナル負債者ノ代ハルニ依リ更改ノ成リタル時ハ債権ノ原始ノ先取特権及ヒ書入質権ハ新タナル負債者ノ財産ニ移ルコトヲ得ス 第千二百八十条 債主ト連帯負債者中一人トノ間ニ更改ノ成リタル時ハ旧キ債権ノ先取特権及ヒ書入質権ハ新タナル負債ヲ契約シタル者ノ財産ノミニ付キ之ヲ貯存スルコトヲ得可シ 第千二百八十一条 債主ト連帯負債者中一人トノ間ニ為シタル更改ニ依リ共同負債者ハ釈免セラルルモノトス 主タル負債者ニ関シテ為シタル更改ハ保証人ヲ釈免ス 然レトモ若シ債主カ右第一ノ場合ニ於テ共同負債者ノ附合ヲ要求シ又第二ノ場合ニ於テ保証人ノ附合ヲ要求シタル時其共同負債者又ハ保証人ノ其新タナル整定ニ附合スルヲ否拒シタルニ於テハ旧キ債権存続スルモノトス 第三節 負債ノ釈放 第千二百八十二条 債主ヨリ負債者ニ私シノ署名アル証券ノ正本ヲ任意ヲ以テ交付シタル時ハ釈免ノ証トス 第千二百八十三条 証券ノ大字ノ副本ヲ任意ヲ以テ交付シタル時ハ負債ノ釈放又ハ其弁済ヲ思量セシム但シ反対ノ証ト相触ルルコトナカル可シ 第千二百八十四条 連帯負債者中ノ一人ニ私シノ署名アル証券ノ正本又ハ証券ノ大字ノ副本ヲ交付シタル時ハ其共同負債者ノ利益ニ於テ亦同一ノ効ヲ生セシム 第千二百八十五条 連帯ノ共同負債者中一人ノ利益ニ於ケル合意上ノ釈放即チ免除ハ総テ他ノ連帯ノ共同負債者ヲ釈免ス但シ債主カ他ノ連帯ノ共同負債者ニ対シテ自己ノ権利ヲ明カニ貯存シタル時ハ格別ナリトス 此最後ノ場合ニ於テハ債主ハ其釈放ヲ為シタル者ノ分ケ前ヲ引去ルニ非サレハ最早負債ヲ取戻スコトヲ得ス 第千二百八十六条 質入ニ於テ附与セラレタル物ノ交付ハ負債ノ釈放ヲ思量セシムルニ足ラサルモノトス 第千二百八十七条 主タル負債者ニ附与シタル合意上ノ釈放即チ免除ハ保証人ヲ釈免ス 保証人ニ附与シタル合意上ノ釈放即チ免除ハ主タル負債者ヲ釈免セス 保証人中ノ一人ニ附与シタル合意上ノ釈放即チ免除ハ他ノ保証人ヲ釈免セス 第千二百八十八条 債主カ保証ノ免除ノ為メニ保証人中ノ一人ヨリ収受シタル所ノモノハ負債ニ充用シテ主タル負債者及ヒ他ノ保証人ノ免除ニ向ハシメサル可カラス 第四節 相殺 第千二百八十九条 若シ二人ノ相互ニ負債者トナル時ハ其二人ノ間ニ相殺ノ成ルアリテ以下ニ明記スル所ノ方法ト場合トニ於テ二箇ノ負債ヲ消滅セシム 第千二百九十条 相殺ハ負債者ノ知ラサル時ト雖モ法律ノ力ノミニ依リ当然成ルモノトス但シ二箇ノ負債ハ其相共ニ存在シタル時ニ於テ其各自ノ量額ノ相当レル高ニ充ツル迄相互ニ消滅ス 第千二百九十一条 相殺ハ共ニ同シク金額又ハ同種ノ代換ス可キ物ノ特定ノ分量ヲ目的ト為シ且ツ共ニ同シク確実ニシテ償還ヲ要求スルヲ得可キ二箇ノ負債ノ間ニ非サレハ成ラサルモノトス 争ヒナクシテ且ツ時価表ニ依リ其代価ヲ規定セラレタル穀類又ハ飲食品ノ供給ハ確実ニシテ償還ヲ要求スルヲ得可キ金額ト相殺スルコトヲ得可シ 第千二百九十二条 特恩ノ期限ハ相殺ノ障碍タラス 第千二百九十三条 相殺ハ負債中ノ一方又ハ他ノ一方ノ原由ノ如何ヲ問ハスシテ成ルモノトス但シ左ノ場合ハ格別ナリトス 第一 所有者ノ不正ニ奪取セラレタル物ノ取戻ノ訟求 第二 附託物及ヒ使用貸与物ノ取戻ノ訟求 第三 差押ユ可カラスト申述セラレタル養料ヲ以テ原由ト為ス負債 第千二百九十四条 保証人ハ債主ノ其主タル負債者ニ対シテ負担スル所ノモノノ相殺ヲ以テ対抗スルコトヲ得可シ 然レトモ主タル負債者ハ債主ノ其保証人ニ対シテ負担スル所ノモノノ相殺ヲ以テ対抗スルコトヲ得ス 右ニ同シク連帯負債者ハ債主ノ其共同負債者ニ対シテ負担スル所ノモノノ相殺ヲ以テ対抗スルコトヲ得ス 第千二百九十五条 債主ノ其権利ヲ第三ノ人ニ譲渡シタル時単純ニ其譲渡ヲ受諾シタル負債者ハ其受諾ノ前ニ於テハ譲渡人ニ対抗スルコトヲ得タル可キ相殺ヲ最早其譲受人ニ対抗スルコトヲ得ス 負債者ノ受諾シタルコトナク唯負債者ニ通報シタル譲渡ニ関シテハ其譲渡ハ右通知以後ノ債権ノ相殺ノミヲ防止スルモノトス 第千二百九十六条 若シ二箇ノ負債カ同一ノ場所ニ於テ弁済ス可キモノニ非サル時ハ移送ノ費用ヲ算計スルニ非サレハ其相殺ヲ以テ対抗スルコトヲ得ス 第千二百九十七条 同人ニ於テ負担シタル相殺ス可キ数箇ノ負債アル時ハ其相殺ニ付キ第千二百五十六条ニ於テ充用ノ為メニ定メタル規則ニ従フ可シ 第千二百九十八条 相殺ハ第三ノ人ノ獲得シタル権利ノ害ニ於テ之ヲ為ス可カラス○故ニ負債者タル者カ第三ノ人ヨリ自己ノ手元ニ為シタル払渡差押ノ後ニ債主トナリタル時ハ其差押人ノ害ニ於テ相殺ヲ以テ対抗スルコトヲ得ス 第千二百九十九条 相殺ニ依テ当然消滅セシ負債ヲ弁済シタル者ハ其相殺ヲ以テ対抗セサリシ債権ヲ執行スル為メ最早第三ノ人ノ害ニ於テ其債権ニ附添シタル先取特権又ハ書入質権ヲ益用スルコトヲ得ス但シ其者ニ於テ自己ノ負債ヲ相殺セサル可カラサル債権ヲ知ラサリシ正当ノ原由アル時ハ格別ナリトス 第五節 混同 第千三百条 若シ債主タル分限及ヒ負債者タル分限ノ同一ノ人ニ併合シタル時ハ二箇ノ債権ヲ消滅セシムル権利ノ混同アリトス 第千三百一条 主タル負債者ノ身ニ於テ成レル混同ハ其保証人ニ利益ス 保証人ノ身ニ於テ成レル混同ハ主タル義務ノ消滅ヲ引起サス 債主ノ身ニ於テ成レル混同ハ其債主ノ負債者タリシ部分ノミニ非サレハ其連帯ノ共同負債者ニ利益セス 第六節 負担シタル物ノ滅尽 第千三百二条 若シ義務ノ目的タリシ特定ニシテ定マリタル物ノ滅尽シ又ハ各人ノ処分外ニ附セラレ又ハ全ク其存在ヲ知ル可カラサル方法ニ遺失シタル時負債者ノ過失ナク且ツ負債者ニ遅滞ノ責アラサル前ニ其物ノ滅尽シ又ハ之ヲ遺失シタルニ於テハ義務消滅スルモノトス 負債者ニ遅滞ノ責アル時ト雖モ若シ其負債者ノ意外ノ事故ヲ負任スルコトナク而シテ其物ヲ仮令債主ニ引渡シタルモ債主ノ方ニ於テモ亦同シク滅尽シタル可キ場合ニ於テハ義務消滅スルモノトス 負債者ハ其申述スル所ノ意外ノ事故ヲ証ス可キモノトス 盗マレタル者ノ滅尽シ又ハ之ヲ遺失シタル方法ノ如何ヲ問ハス其滅尽ハ之ヲ窃取シタル者ヲシテ其代金ノ返還ヲ免カレシメサルモノトス 第千三百三条 負債者ノ過失ナクシテ物ノ滅尽シ又ハ各人ノ処分外ニ附セラレ又ハ之ヲ遺失シタル時若シ其物ニ関シテ或ル賠償ノ権利又ハ訴権アルニ於テハ負債者ヨリ之ヲ其債主ニ譲渡ス可キモノトス 第七節 合意ノ無効又ハ廃棄ニ於ケル訴権 第千三百四条 凡ソ合意ノ無効又ハ廃棄ニ於ケル訴権ヲ特別ノ法律ヲ以テ更ニ少ナキ時間ニ限ラサル総テノ場合ニ於テハ其訴権ハ十年間継続スルモノトス 其時間ハ暴行ノ場合ニ於テハ其止ミシ日ノミヨリ起算シ錯誤又ハ詐欺ノ場合ニ於テハ之ヲ発見セシ日ノミヨリ起算シ又許可セラレサル婚姻シタル婦ノ行ヒタル所為ニ付テハ婚姻解分ノ日ノミヨリ起算ス 其時間ハ治産禁ヲ受ケタル者ノ行ヒタル所為ニ関シテハ治産禁ヲ解除シタル日ノミヨリ起算シ又幼者ノ行ヒタル所為ニ関シテハ其成年ニ至リシ日ノミヨリ起算ス 第千三百五条 単一ナル損失ハ後見ヲ免脱セラレサル幼者ノ利益ニ於テハ各種ノ合意ニ対シテ廃棄ノ原由タル可ク又後見ヲ免脱セラレタル幼者ノ利益ニ於テハ幼年、後見及ヒ後見ノ免脱ノ巻ニ定メタル如ク其能力ノ限界ニ超過スル総テノ合意ニ対シテ廃棄ノ原由タル可シ 第千三百六条 若シ損失カ偶然ニシテ予見ス可カラサル事故ノミヨリ生シタル時ハ幼者ハ損失ヲ原由トシテ回復スルコトヲ得サルモノトス 第千三百七条 幼者ヨリ為シタル成年タルコトノ単一ナル申述ハ其回復ノ障碍トナラサルモノトス 第千三百八条 商人、銀行者又ハ工作者タル幼者ハ其商業又ハ技芸ノ為メニ負ヒタル約務ニ対シテ回復スルコトヲ得サルモノトス 第千三百九条 幼者ハ其婚姻ヲ有効ノモノト為スニ付キ其許諾ヲ必要トスル所ノ者ノ許諾及ヒ補助ヲ以テ其婚姻ノ契約書ニ載スル合意ヲ為シタル時ハ其合意ニ対シテ回復スルコトヲ得サルモノトス 第千三百十条 幼者ハ其犯罪又ハ准犯罪ヨリ生シタル義務ニ対シテ回復スルコトヲ得サルモノトス 第千三百十一条 幼者ノ幼年ノ際ニ署名シタル約務カ其法式上ニ於テ無効ノモノタルト又ハ唯回復ノミヲ受ク可キモノタルトヲ問ハス其成年ニ至リテ之ヲ認可シタル時ハ最早其約務ヲ取消サント求ムルコトヲ許サス 第千三百十二条 幼者、治産禁ヲ受ケタル者又ハ婚姻シタル婦ノ此等ノ分限ニ依リ其約務ニ対シテ回復スルコトヲ許サレタル時ハ其約務ノ為メニ幼年、治産禁又ハ結婚ノ間ニ弁済セシモノノ償還ヲ其幼者、治産禁ヲ受ケタル者又ハ結婚シタル婦ニ対シテ要求スルコトヲ得ス但シ其弁済セシモノノ此等ノ者ノ利益トナリタルノ証アル時ハ格別ナリトス 第千三百十三条 成年者ハ此法典ニ特ニ明示シタル場合ト条件トニ従フニ非サレハ損失ノ原由ノ為メニ回復ス可カラサルモノトス 第千三百十四条 不動産ノ所有権移転ノ為メ若クハ遺留財産ノ分派ニ付キ幼者又ハ治産禁ヲ受ケタル者ニ関シテ必要ト為シタル法式ヲ履行シタル時ハ此等ノ者ハ右ノ所為ニ関シテハ其成年トナリタル後又ハ治産禁ヲ受ケシ前ニ之ヲ行ヒシモノト看做サル可シ 第六章 義務ノ証及ヒ弁済ノ証 第千三百十五条 義務ノ執行ヲ求ムル者ハ之ヲ証セサルヲ得ス 右ノ裏面ヨリ言ヘハ釈免セラレタリト称言スル者ハ其弁済又ハ自己ノ義務ノ消滅ヲ生セシメタル実事ヲ証明セサルヲ得ス 第千三百十六条 書面ノ証、証人ノ証、思量、一方ノ者ノ自認及ヒ誓ニ関スル規則ハ以下ノ数節ニ之ヲ説明ス 第一節 書面ノ証 第一款 公正ノ証券 第千三百十七条 公正ノ証書トハ其証書ヲ記シタル地ニ於テ之ヲ作為スルノ権利アル公ケノ役員ノ其必要ナル法式ヲ以テ作リタルモノヲ云フ 第千三百十八条 役員ノ管轄違ヒ又ハ無能力ニ依リ又ハ法式ノ欠缺ニ依リ公正ノモノタラサル証書ハ双方ノ者ノ署名シタル時ハ私書ニ等シキ効アリトス 第千三百十九条 公正ノ証書ハ契約者及ヒ其相続人又ハ受権人ノ間ニ於テハ其包含スル所ノ合意ノ完全ナル証憑ヲ為スモノトス 然レトモ主タル偽造ニ於ケル告訴ノ場合ニ於テハ重罪裁判所ニ移スニ依リ其偽造ヲ申告セラレタル証書ノ執行ヲ停止ス可シ又附帯ニ為シタル偽造ノ訴ノ場合ニ於テハ裁判所ハ景況ニ従ヒ証書ノ執行ヲ仮リニ停止スルコトヲ得可シ 第千三百二十条 証書ハ公正ノモノタルト私ノ署名ノモノタルトヲ問ハス附従ノ記載タル語辞ノミヲ以テ明示シタル所ノモノニ付テモ双方ノ者ノ間ニ於テハ証憑ヲ為スモノトス但シ之レカ為メニハ其附従ノ記載カ主要ノ記載ニ直接ノ関係ヲ有スルコトヲ必要トス○主要ノ記載ニ関係ナキ附従ノ記載ハ証拠ノ端緒ノミニ用立ツコトヲ得可シ 第千三百二十一条 反対証書ハ契約者ノ間ニ非サレハ其効ヲ有スルコトヲ得ス但シ其反対証書ハ第三ノ人ニ対シテハ効ヲ有セサルモノトス 第二款 私シノ署名証書 第千三百二十二条 私シノ署名証書ハ之ヲ以テ対抗セラレタル者ノ承認シ又ハ法ニ適シテ承認シタリト為サレタル時ハ之ニ署名シタル者並ニ其相続人及ヒ受権人ノ間ニ於テハ公正ノ証書ニ同シキ証憑ト為ス可シ 第千三百二十三条 私シノ署名証書ヲ以テ対抗セラレタル者ハ明確ニ自己ノ手書又ハ自己ノ署名ヲ自認シ又ハ非斥ス可キノ義務アルモノトス 其者ノ相続人又ハ受権人ハ其先人ノ手書又ハ署名ヲ知ラサル旨ヲ申述スルヲ以テ充分ナリトスルコトヲ得可シ 第千三百二十四条 一方ノ者ノ自己ノ手書又ハ署名ヲ非斥スル場合及ヒ其相続人又ハ受権人ノ其手書又ハ署名ヲ知ラサル旨ヲ申述スル場合ニ於テハ裁判上ニテ其験真ヲ命ス可シ 第千三百二十五条 両繋ノ合意ヲ包含シタル私シノ署名証書ハ異別ノ利害ヲ有スル者ノ員数ニ准シテ其正本数個ヲ作リタルニ非サレハ有効ナリトセス 同一ノ利害ヲ有スル各人ノ為メニハ正本一個ヲ以テ足レリトス 各個ノ正本ニハ其作リタル正本ノ数ヲ記載セサルヲ得ス 然レトモ其正本ヲ二個三個等ニ作リタルコトノ記載ノ欠缺ハ其証書中ニ載セタル合意ヲ自己ノ方ニ於テ執行シタル者ヨリ之ヲ以テ対抗スルコトヲ得ス 第千三百二十六条 一方ノミヨリ他ノ一方ニ対シテ金額又ハ評価ス可キ物ヲ弁済スルノ約務ヲ己レニ負フ所ノ私シノ署名ノ証票又ハ約務書ハ之ニ署名スル者ニ於テ其全部ヲ手書セサル可カラス又ハ然ラサルモ其署名ノ外ニ金額又ハ物ノ分量ヲ尽ク文字ニテ記載シタル認メ済又ハ認可ノ語ヲ手書シタルコトヲ必要トス 商人、工作者、農夫、葡萄ノ栽丁、雇工、雇人ヨリ其証書ノ発出シタル場合ハ右ノ例外ナリトス 第千三百二十七条 証書ノ本文中ニ明示シタル金額カ認メ済ノ所ニ明示シタル金額ト異ナリタル時ハ其証書並ニ認メ済ノ語ヲ義務ヲ負ヒタル者ニ於テ全ク手書シタル時ト雖モ其義務ハ少ナキ金額ノミノモノト思量ス可シ但シ何レノ方ニ錯誤アルヤノ証アル時ハ格別ナリトス 第千三百二十八条 私シノ署名証書ハ之ヲ簿冊ニ記録シタル日又ハ之ニ署名シタル者又ハ其者ノ中一人ノ死去セシ日又ハ封印或ハ目録ノ調書ノ如キ公ケノ役員ノ作リタル証書中ニ其本旨ヲ証明シタル日ヨリ後ニ非サレハ第三ノ人ニ対シテ日附ヲ有セサルモノトス 第千三百二十九条 商人ノ簿冊ハ商人ニ非サル者ニ対シテ其簿冊ニ載スル所ノ供給ノ証ヲ為ササルモノトス但シ誓ニ関シテ後ニ記スル所ノモノハ格別ナリトス 第千三百三十条 商人ノ帳簿ハ其商人ノ損失トナル証トス可シ然レトモ其帳簿ニ依リ利益ヲ得ント欲スル者ハ之ニ記シタル諸件中ニテ自己ノ称言ニ反シタルモノヲ分割スルコトヲ得ス 第千三百三十一条 家内ノ簿冊及ヒ書類ハ之ヲ書記シタル者ノ利益トナル証券ヲ為サス○其簿冊及ヒ書類ハ(第一ニ)収受シタル弁済ヲ明確ニ表示シタル総テノ場合(第二ニ)其簿冊及ヒ書類ニ表示シタル義務ニ依リ利益ヲ受クル者ノ為メ証券ノ欠缺ヲ補ハンカ為メニ覚書ヲ為シタル旨ヲ明カニ記載シアル時ニ於テハ之ヲ書記シタル者ノ損失トナル証憑ヲ為スモノトス 第千三百三十二条 債主カ常ニ自己ノ占有ニアリタル証券ノ末又ハ其端又ハ其裏面ニ附記シタル文詞ハ負債者ノ釈免ヲ証明スル為メノモノタル時ハ仮令債主ノ之ニ署名セス又日附ヲ記セスト雖モ証憑ヲ為スモノトス 債主カ一個ノ証券ノ副本又ハ受取証書ノ副本ノ裏面又ハ其端又ハ其末ニ附記シタル文詞ハ其副本ノ負債者ノ手元ニ在ルニ於テハ亦右ト同一ナリトス 第三款 符木 第千三百三十三条 摸形ト相符合シタル符木ハ其零売ニテ為シ又ハ収受スル所ノ供給ヲ斯クノ如クニシテ証明スルノ習慣アル各人ノ間ニ於テハ証憑ヲ為スモノトス 第四款 証券ノ写 第千三百三十四条 写ハ証券正本ノ存在スル時ハ其証券ニ記載シタル所ノモノノミノ証憑ヲ為スモノトス但シ何時ニテモ其証券ヲ出シ示ス可キ旨ヲ要求スルコトヲ得可シ 第千三百三十五条 若シ証券正本ノ最早存在セサル時ハ写ハ以下ノ差別ニ従ヒ証憑ヲ為スモノトス 第一 大字ノ副本即チ第一ノ副本ハ正本ト同一ノ証憑ヲ為スモノトス又双方ノ者ノ面前ニ於テ又ハ法ヲ適シテ之ヲ招喚シタル上裁判官ノ威力ニ依リ作リタル写又ハ双方ノ者ノ面前ニ於テ其相互ノ承諾ヲ以テ作リタル写ハ亦右ト同一ナリトス 第二 裁判官ノ威力ナク又ハ双方ノ者ノ承諾ナクシテ大字ノ副本即チ第一ノ副本ヲ渡シタル後ニ嘗テ其証書ヲ作リタル公証人又ハ其承継人中ノ一人又ハ公ケノ役員タルノ分限ヲ以テ細字ノ正本ノ受託者タル者カ其証書ノ細字ノ正本ニ拠テ作リタル写ハ正本遺失ノ場合ニ於テハ其旧キモノタル時ハ証憑ヲ為スコトヲ得可シ 右ノ写ハ三十年以上ヲ経タル時ハ旧キモノト看做ス可シ 其写ノ三十年ニ足ラサル時ハ書面ニ依レル証拠ノ端緒ノミニ用立ツコトヲ得可キモノトス 第三 若シ証書ノ細字ノ正本ニ拠テ作リタル写カ嘗テ其証書ヲ作リタル公証人又ハ其承継人中ノ一人又ハ公ケノ役員タルノ分限ヲ以テ細字ノ正本ノ受託者タル者ノ作リシモノニ非サル時ハ其写ハ如何ニ旧キモノト雖トモ書面ニ依レル証拠ノ端緒ノミニ用立ツコトヲ得可キモノトス 第四 写ノ写ハ景況ニ従ヒ単一ナル参照件ト看做スコトヲ得可シ 第千三百三十六条 公ケノ簿冊上ニ於ケル証書ノ登記ハ書面ニ依レル証拠ノ端緒ノミニ用立ツコトヲ得可シ而シテ之レカ為メニモ左ノ諸件ヲ必要トス 第一 其証書ヲ作リタリト思ハルル一年間ノ公証人ノ総テノ細字ノ正本ヲ失ヒタルノ正確ナル事又ハ右証書ノ細字ノ正本ヲ特別ナル偶然ノ事故ニ依テ失ヒタル旨ヲ証スル事 第二 其証書ヲ同一ノ日附ニ於テ作リタル旨ヲ証明スル公証人ノ適規ノ見出シ帳ノ存在スル事 右二箇ノ景況ノ相合シタルニ依リ証人ニ依レル証ヲ許ス可キ時其証書ノ証人タリシ者ノ猶生存スルニ於テハ其申述ヲ聴クコトヲ必要トス 第五款 承認ノ証書及ヒ固定ノ証書 第千三百三十七条 承認ノ証書ハ原始ノ証券ヲ出シ示スコトヲ免カレシメサルモノトス但シ其原始ノ証券ノ要旨ヲ特ニ承認ノ証書ニ記載シタル時ハ格別ナリトス 承認ノ証書ニ記スル所ノ中ニテ原始ノ証券ヨリ更ニ余分ノモノ又ハ更ニ異ナリタルモノハ毫モ其効ナシトス 然レトモ相符合シタル承認ノ証書数箇アリテ皆占有ヲ以テ維持セラレ而シテ其中一箇ノ日時ノ三十年ニ及ヒタル時ハ債主其原始ノ証券ヲ出シ示スコトヲ免カルルヲ得可シ 第千三百三十八条 法律上ニテ無効又ハ廃棄ノ訴ヲ許ス所ノ義務ヲ固定シ又ハ認可スル証書ハ其義務ノ本旨ト廃棄ノ訴ノ縁由ノ記載ト其訴ノ基礎タル瑕瑾ヲ補正スルノ意思トヲ其証書ニ見出ス時ニ非サレハ有効ナリトセス 固定又ハ認可ノ証書ノアラサルニ於テハ有効ニ義務ヲ固定シ又ハ認可スルコトヲ得可キ時期ノ後ニ至リ任意ニ其義務ヲ執行シタルコトヲ以テ足レリトス 法律上ニ定メタル法式ト時期トニ於ケル固定、認可又ハ任意ノ執行ハ其所為ニ向ヒ対抗スルコトヲ得可キ憑拠及ヒ抗弁ノ憑拠ノ放棄ヲ惹起ス然レトモ第三ノ人ノ権利ヲ害スルコトナカル可シ 第千三百三十九条 贈与者ハ如何ナル固定ノ証書ニ依ルモ生存中ノ贈与ノ瑕瑾ヲ補正スルコトヲ得ス但シ其生存中ノ贈与ハ法式上ニ於テ無効ノモノタル時ハ法律上ノ法式ヲ以テ之ヲ改メ為スコトヲ必要トス 第千三百四十条 贈与者ノ死去ノ後ニ至リ其相続人又ハ受権人ニ於テ其贈与ヲ固定シ又ハ認可シ又ハ任意ニ執行シタル時ハ此等ノ者ニ於テ法式ノ瑕瑾若クハ総テ其他ノ抗弁ノ憑拠ヲ以テ対抗スルコトノ放棄ヲ惹起ス 第二節 証人ノ証 第千三百四十一条 凡ソ百五十「フランク」ノ金額又ハ価額ニ過キタル総テノ事物ニ付テハ仮令任意ノ附託ノ為メト雖モ公証人ノ面前ニ於ケル証書又ハ私シノ署名証書ヲ作ラサル可カラス又百五十「フランク」ヨリ少ナキ金額又ハ価額ニ関スル時ト雖モ証書ニ記載シタル所ニ反スル事及ヒ証書ニ記載シタル所ヨリ以外ノ事ニ付キ証人ニ依レル証ヲ許サス又其証書ノ前或ハ其証書ノ時或ハ其証書ノ後ニ言説シタリト述フル所ノ事ニ付テモ亦証人ニ依レル証ヲ許サス 右ノ諸件ハ商業ニ関スル法律ニ定メタル所ノモノト相触ルルコトナカル可シ 第千三百四十二条 前ニ記シタル規則ハ訴カ元金ノ訟求ノ外更ニ利息ノ訟求ヲ包含シ而シテ其利息ヲ元金ニ併合スル時ハ百五十「フランク」ノ金額ニ過クル所ノ場合ニモ適用ス可キモノトス 第千三百四十三条 百五十「フランク」ニ過クル訟求ヲ為シタル者ハ仮令其原始ノ訟求ヲ減少スルト雖モ最早証人ノ証ヲ許ス可カラサルモノトス 第千三百四十四条 百五十「フランク」ヨリ少ナキ金額ト雖モ其金額ハ書面ニ依テ証セラレサル更ニ巨額ナル債権ノ残額タリ又ハ其一部分ヲ為スモノナリト申述セラレタル時ハ右金額ノ訟求ニ付キ証人ノ証ヲ許スコトヲ得ス 第千三百四十五条 若シ同一ノ訴訟ニ於テ一方ノ者ヨリ書面ニ依レル証拠ノアラサル数箇ノ訟求ヲ為シ而シテ其数箇ノ訟求ヲ共ニ相合シテ百五十「フランク」ノ金額ニ過クル時ハ仮令其一方ノ者ニ於テ其数箇ノ債権ハ相異ナリタル原由ヨリ生シ且ツ相異ナリタル時期ニ於テ成立シタル旨ヲ述フルト雖モ証人ニ依レル証ヲ許スコトヲ得ス但シ此等ノ権利カ財産相続、贈与又ハ其他ノ方法ニテ相異ナレル人ヨリ発生シタル時ハ格別ナリトス 第千三百四十六条 書面ニ依テ全ク証明セラレサル総テノ訟求ハ其名義ノ如何ヲ問ハス同一ノ呼出状ニ依テ之ヲ為ス可ク其後ニ於テハ書面ニ依レル証ノアラサル其他ノ訟求ハ之ヲ受理ス可カラス 第千三百四十七条 前ニ記シタル規則ハ書面ニ依レル証拠ノ端緒ノ存在スル時ハ取除ヲ受クルモノトス 訟求ヲ受ケタル者又ハ其者ニ於テ代理スル所ノ者ヨリ発出シタルモノニシテ其申立テラレタル事柄ヲ事実ラシク為ス所ノ総テノ書面ニ依レル証書ハ之ヲ名ケテ書面ニ依レル証担ノ端緒ト云フ 第千三百四十八条 前ニ記シタル規則ハ債主カ己レニ対シテ負ヒタル義務ノ書面ノ証ヲ得ルコト能ハサル度毎ニ亦取除ヲ受クルモノトス 此第二ノ取除ハ左ノ諸件ニ適用ス可キモノトス 第一 准契約及ヒ犯罪又ハ准犯罪ヨリ生スル所ノ義務 第二 火災、崩壊、騒乱、破船ノ場合ニ於テ為シタル已ムヲ得サル附託及ヒ旅舎ニ宿泊スル時旅客ノ為シタル附託但シ総テ其人ノ分限ト実事ノ景況トニ従フ可キモノトス 第三 書面ニ依レル証書ヲ作ルコト能ハサル所ノ予見セラレサル偶然ノ事故ノ場合ニ於テ負ヒタル義務 第四 予見セラレス且ツ抗拒ス可カラサル力ヨリ生シタル意外ノ事故ニ依リ債主カ自己ノ書面ノ証ニ用立チタル証券ヲ失ヒシ場合 第三節 思量 第千三百四十九条 思量トハ法律又ハ裁判官カ一箇ノ知レタル実事ヨリ一箇ノ知レサル実事ニ推シ及ホス所ノ結果ヲ云フ 第一款 法律ニ依リ定メタル思量 第千三百五十条 法律上ノ思量トハ別段ノ法律ニ依リ或ル所為又ハ或ル実事ニ附スル所ノ思量ヲ云フ此クノ如キモノハ左ノ諸件ナリトス 第一 其性質ノミニ従ヒ法律ノ成規ノ詐害ニ於テ為シタルモノト思量シテ法律カ無効ナリト公言スル所ノ所為 第二 所有権又ハ釈免カ或ル定マリタル景況ヨリ生スル旨ヲ法律カ公言スル所ノ場合 第三 法律カ裁定事件ニ附与スル所ノ威力 第四 法律カ一方ノ者ノ自認又ハ其誓ニ附スル所ノ力 第千三百五十一条 裁定事件ノ威力ハ其裁判ノ目的ヲ為ス所ノモノニ関スルニ非サレハ存在セサルモノトス○之レカ為メニハ訟求シタル事物ノ同一ニシテ又其訟求ノ同一ノ原由ニ基キ且ツ其訟求ノ同一ノ者ノ間ニ起リテ其同一ノ者ヨリ及ヒ其同一ノ者ニ対シ同一ノ分限ヲ以テ其訟求ヲ為シタルコトヲ必要トス 第千三百五十二条 法律上ノ思量ハ之レカ為メニ利益ヲ受クル者ヲシテ総テノ証ヲ免カレシム 若シ法律カ法律上ノ思量ニ基キテ或ル所為ヲ取消シ又ハ裁判所ニ於ケル訴権ヲ否拒シタル時ハ其法律上ノ思量ニ対シテ如何ナル証ヲモ許サス但シ法律カ之ニ反スル証ヲ貯存シタル時並ニ誓及ヒ裁判上ノ自認ニ付キ記スル所ノモノハ格別ナリトス 第二款 法律ニ依リ定メタルモノニ非サル思量 第千三百五十三条 法律ニ依リ定メタルモノニ非サル思量ハ裁判官ノ知識ト思慮トニ委附スルモノニシテ裁判官ハ重要着実ニシテ相符合スル思量ニ非サレハ之ヲ許ス可カラス且ツ法律カ証人ノ証ヲ許ス所ノ場合ノミニ非サレハ其思量ヲ許ス可カラス但シ詐害又ハ詐欺ヲ原由トシテ所為ヲ取消サント求メタル時ハ格別ナリトス 第四節 一方ノ者ノ自認 第千三百五十四条 一方ノ者ニ向ヒ対抗セラルル所ノ自認ハ或ハ裁判外ノモノアリ或ハ裁判上ノモノアリ 第千三百五十五条 純粋ニ口上ノモノタル裁判外ノ自認ノ申立ハ証人ノ証ヲ許ス可カラサル所ノ訟求ニ関スル度毎ニ無益ナリトス 第千三百五十六条 裁判上ノ自認トハ一方ノ者又ハ其特別ナル代理人ノ裁判所ニ於テ為ス所ノ申述ヲ云フ 其自認ハ之ヲ為シタル者ニ対シテ完全ナル証憑ヲ為スモノトス 其自認ハ之ヲ為シタル者ニ対シナ分割スルコトヲ得ス 其自認ハ之ヲ廃止スルコトヲ得ス但シ事実上ノ錯誤ニ依リ之ヲ為シタル旨ヲ証スル時ハ格別ナリトス○其自認ハ法律上ノ錯誤ヲ口実トシテ之ヲ廃止スルコトヲ得ス 第五節 誓 第千三百五十七条 裁判上ノ誓ハ左ノ二種トス 第一 訴訟ノ裁判ヲ其誓ニ関セシムル為メ一方ヨリ他ノ一方ニ求ムル所ノ誓但シ此誓ヲ名ケテ決審ノモノト云フ 第二 裁判官ヨリ其職権上ニテ双方中ノ一方又ハ他ノ一方ニ求ムル所ノ誓 第一款 決審ノ誓 第千三百五十八条 決審ノ誓ハ如何ナル種類ノ争訟ニ付テモ之ヲ求ムルコトヲ得可シ 第千三百五十九条 決審ノ誓ハ之ヲ求メラルル所ノ一方ノ一身上ノ実事ニ関スルニ非サレハ之ヲ求ムルコトヲ得ス 第千三百六十条 決審ノ誓ハ訴訟中何時タリトモ之ヲ求ムルコトヲ得可ク且ツ其誓ノ求メヲ起サシムル訟求又ハ抗弁ニ付キ其証拠ノ端緒ノ毫モ存在セサル時ト雖モ亦之ヲ求ムルコトヲ得可シ 第千三百六十一条 若シ誓ヲ求メラレタル者ノ其誓ヲ為スコトヲ否拒シ又ハ其相手方ニ誓ヲ反シ求ムルコトヲ承諾セサル時又ハ誓ヲ反シ求メラレタル相手方ノ其誓ヲ為スコトヲ否拒スル時ハ其訟求又ハ其抗弁ニ於テ敗訴トナラサルヲ得ス 第千三百六十二条 若シ誓ノ目的タル実事カ双方ニ関スルモノニ非スシテ唯其誓ヲ求メラレタル一方ノ為メ純粋ニ一身上ノモノタル時ハ誓ヲ反シ求ムルコトヲ得ス 第千三百六十三条 求メラレ又ハ反シ求メラレタル誓ヲ為シタル時ハ相手方ニ於テ其誓ノ虚偽タルコトヲ証スルヲ許サス 第千三百六十四条 誓ヲ求メ又ハ反シ求メタル一方ノ者ハ相手方ノ其誓ヲ為サント欲スル旨ヲ申述シタル時ハ最早翻辞スルコトヲ得ス 第千三百六十五条 誓ハ之ヲ求メタル者ノ利益トナリ又ハ其損失トナリ並ニ其者ノ相続人及ヒ受権人ノ利益トナリ又ハ其損失トナルノ外証拠ヲ為ササルモノトス 然レトモ連帯債主中ノ一人ヨリ負債者ニ求メタル誓ハ其債主ノ分ケ前ノミノ外負債者ヲ釈免セサルモノトス 主タル負債者ニ求メタル誓ハ亦同シク保証人ヲ釈免ス 連帯負債者中ノ一人ニ求メタル誓ハ共同負債者ニ利益ス 保証人ニ求メタル誓ハ主タル負債者ニ利益ス 右二箇ノ最後ニ記シタル場合ニ於テ連帯ノ共同負債者又ハ保証人ノ誓ハ其負債ニ関シテ之ヲ求メ其連帯又ハ保証ノ実事ニ関シテ之ヲ求メサル時ニ非サレハ他ノ共同負債者又ハ主タル負債者ニ利益セサルモノトス 第二款 職権上ニテ求メタル誓 第千三百六十六条 裁判官ハ或ハ訴訟ノ裁決ヲ誓ニ関セシムル為メ或ハ唯其言渡ノ額ヲ定ムルノミノ為メ双方中ノ一方ニ誓ヲ求ムルコトヲ得可シ 第千三百六十七条 裁判官ハ左ニ記スル二箇ノ要件アルニ非サレハ訟求ニ付テモ又ハ之ニ反スル抗弁ニ付テモ其職権上ニテ誓ヲ求ムルコトヲ得ス 第一 訟求又ハ抗弁ノ完全ニ証明セラレタルニ非サル時 第二 訟求又ハ抗弁ノ証ノ全ク缺ケタルニ非サル時 右二箇ノ場合ノ外ハ裁判官単純ニ其訟求ヲ裁可シ又ハ之ヲ棄却セサルヲ得ス 第千三百六十八条 裁判官ヨリ其職権上ニテ双方中ノ一方ニ求メタル誓ハ其一方ヨリ他ノ一方ニ反シ求ルコトヲ得ス 第千三百六十九条 訟求シタル物ノ価額ニ付テノ誓ハ別ニ他ノ方法ヲ以テ其価額ヲ証明スルコト能ハサル時ニ非サレハ裁判官ヨリ原告人ニ之ヲ求ムルコトヲ得ス 裁判官ハ此場合ニ於テモ原告人ノ其誓ニ依テ信セラル可キ金額ノ程度ヲ定メサル可カラス 第四巻 合意ナクシテ生スル所ノ義務(千八百四年二月九日決定同月十九日宣令) 第千三百七十条 或ル義務ハ義務ヲ負フ者ノ方ニ於テモ又其者ヲシテ己レニ対シテ義務ヲ負ハシムル者ノ方ニ於テモ毫モ合意ノアルコトナクシテ発生ス 其義務中ノ或者ハ法律ノ威力ノミヨリ生シ其他ノ者ハ義務ヲ負フ者ノ一身上ノ所為ヨリ生ス 右第一ニ記シタル者ハ比隣所有者ノ間ノ義務又ハ己レニ附与セラレタル職務ヲ否拒スルコトヲ得サル後見人及ヒ其他ノ管理人ノ義務ノ如ク不任意ニ生スル所ノ義務ナリ 義務ヲ負フ者ノ一身上ノ所為ヨリ生スル所ノ義務ハ或ハ准契約ヨリ生シ或ハ犯罪又ハ准犯罪ヨリ生スルモノニシテ此等ノ義務ハ本巻ノ主料ヲ為スモノトス 第一章 准契約 第千三百七十一条 准契約ハ純粋ニ人ノ任意ノ所為ニシテ其所為ヨリシテ第三ノ人ニ対シテ或ル義務ヲ生セシメ又時アリテハ双方相互ノ義務ヲ生セシム 第千三百七十二条 若シ人ノ任意ニ他人ノ事務ヲ管理スル時ハ所有者ノ其管理ヲ知ルト之ヲ知ラサルトヲ問ハス管理ヲ為ス者ハ所有者ノ自カラ其管理ヲ設備スルノ景状タルニ至ル迄其為シ始メタル管理ヲ継続シ且ツ之ヲ成就ス可キ黙認ノ義務ヲ負フモノトス又其管理ヲ為ス者ハ其同一事務ノ附属諸件ヲモ亦同シク負任セサルヲ得ス 其管理ヲ為ス者ハ所有者ヨリ附与セラレタル明白ナル代理委任ヨリ生ス可キ総テノ義務ニ服従スルモノトス 第千三百七十三条 仮令其事務ノ成就セサル前ニ所有主ノ死去スルコトアリト雖トモ管理ヲ為ス者ハ相続人ノ其幹理ヲ為シ得ルニ至ル迄其管理ヲ継続スルノ義務アリ 第千三百七十四条 管理ヲ為ス者ハ事務ノ管理ニ付キ良家父ノ総テノ注意ヲ加フ可キモノトス 然レトモ其者ヲシテ事務ヲ負任スルニ至ラシメタル景況ニ依リ裁判官其管理者ノ過失又ハ懈怠ヨリ生スル損害ノ賠償ヲ減軽スルコトヲ許サルルモノトス 第千三百七十五条 自己ノ事務ヲ善良ニ管理セラレタル所有主ハ管理者ノ其所有主ノ名前ニテ負ヒタル義務ヲ履行シ又管理者ノ引受ケタル総テ一身上ノ義務ニ付キ其管理者ニ賠償シ且ツ管理者ノ為シタル総テ有益又ハ必要ナル費額ヲ其管理者ニ償還セサルヲ得ス 第千三百七十六条 己レニ受ク可カラサルモノヲ錯誤ニ依リ又ハ故意ヲ以テ収受シタル者ハ其不当ニ渡シタル者ニ之ヲ返還スルノ義務ヲ負フモノトス 第千三百七十七条 若シ錯誤ニ依リ負債者ナリト信思スル者ノ一箇ノ負債ヲ弁償シタル時ハ債主ニ対シテ取戻ノ権利ヲ有スルモノトス 然レトモ債主カ其弁済ノ為メニ自己ノ証券ヲ滅却シタル場合ニ於テハ右ノ権利ハ止息ス但シ其弁済シタル者ヨリ真ノ負債者ニ対シテ償還ノ訟求ヲ為スコトヲ得可シ 第千三百七十八条 若シ其収受シタル者ノ方ニ於テ悪意アル時ハ其元金ト弁済ノ日ヨリ後ノ利息又ハ果実トヲ返還ス可キモノトス 第千三百七十九条 其不当ニ収受シタル物カ有形ノ不動産又ハ動産タル時ハ之ヲ収受シタル者其物ノ存在スルニ於テハ原品ノ侭ニテ之ヲ返還シ又自己ノ過失ニ依リ其物ノ滅尽シ又ハ損壊シタルニ於テハ之レカ価額ヲ返還スルノ義務アリトス又其物ヲ収受シタル者ノ悪意ヲ以テ之ヲ収受シタル時ハ意外ノ事故ニ依レル其滅尽ト雖トモ亦之ヲ担保ス可シ 第千三百八十条 若シ善意ヲ以テ収受シタル者ノ其物ヲ売リタル時ハ其売払ノ代金ノミヲ返還ス可シ 第千三百八十一条 其物ヲ返還セラレタル者ハ悪意ノ占有者ニ対スルト雖トモ其物ノ保存ノ為メニ為シタル総テ必要及ヒ有益ナル費額ヲ計算セサルヲ得ス 第二章 犯罪及ヒ准犯罪 第千三百八十二条 凡ソ何事ニ限ラス人ノ所為ニシテ他人ニ損害ヲ生セシムルモノハ自己ノ過失ニ依リ其損害ヲ起サシメタル者ヲシテ之ヲ補償スルノ義務ヲ負ハシム 第千三百八十三条 各人ハ自己ノ所為ニ依テ生セシメタル損害ノミナラス自己ノ懈怠又ハ疎忽ニ依テ生セシメタル損害ニ付テモ亦其責ニ任スヘキモノトス 第千三百八十四条 人ハ自己ノ所為ニ依テ生セシメタル損害ノミナラス自己ノ担当セサル可カラサル各人又ハ自己ノ監守スル物ノ所為ニ依テ生セシメタル損害ニ付テモ亦其責ニ任ス可キモノトス 父又夫ノ死去ノ後ニ於テハ母ハ己レト同居スル其幼年ノ子ノ生セシメタル損害ノ責ニ任ス可キモノトス 雇主及ヒ任用者ハ其雇人及ヒ被任用者カ其使用セラレタル職務ニ於テ生セシメタル損害ノ責ニ任ス可キモノトス 教師及ヒ工作者ハ其生徒及ヒ工作受業者カ己レノ監視ヲ受クル時間ニ生セシメタル損害ノ責ニ任ス可キモノトス 父母教師及ヒ工作者ハ其責任ヲ生セシメタル所為ヲ防止スルコト能ハサリシ旨ヲ証スルニ非サレハ右ニ記シタル責任アルモノトス 第千三百八十五条 獣類ノ所有者又ハ獣類ヲ使用スル者ハ之ヲ使用スル間ニ於テハ自カラ其獣類ヲ監守シタルト其徘徊シ又ハ逃逸シタルトヲ問ハス其獣類ノ生セシメタル損害ノ責ニ任ス可キモノトス 第千三百八十六条 建造物ノ所有者ハ其補理ヲ為ササルニ依リ又ハ其造築ノ瑕瑾ニ依リ建造物ノ崩壊ノ生シタル時ハ其崩壊ニ依リ生セシメタル損害ノ責ニ任ス可キモノトス 第五巻 婚姻ノ契約及ヒ夫婦相互ノ権利(千八百四年二月十日決定同月二十日宣令) 第一章 総則 第千三百八十七条 法律ハ別段ナル合意ノ欠缺スル時ニ非サレハ財産ニ関シテ婚姻ノ結社ヲ管理セス但シ夫婦ハ善良ノ風儀ヲ害セス且ツ加之以下ノ改様ニ従フニ於テハ其適当ナリト思考スル如クニ別段ナル合意ヲ為スコトヲ得可シ 第千三百八十八条 夫婦ハ婦及ヒ子ノ身体上ニ付テノ夫ノ威権ヨリ生スル権利又ハ主長トシテ夫ニ属スル所ノ権利ニ違背スルコトヲ得ス又父ノ威権ノ巻及幼年、後見及ヒ後見ノ免脱ノ巻ニ依リ夫婦中ノ生残ル者ニ附与セラレタル権利ニ違背スルコトヲ得ス又此法典ノ禁止ノ成規ニ違背スルコトヲ得ス 第千三百八十九条 夫婦ハ其子又ハ卑属親ノ財産相続ニ付キ自己ニ関スルト其子相互ノ間ニ関スルトヲ問ハス財産相続ノ法律上ノ順序ヲ変更スルヲ以テ目的ト為ス所ノ如何ナル合意又ハ放棄ヲモ為スコトヲ得ス但シ此法典ニ定メタル法式ト場合トニ従ヒ為スコトヲ得可キ生存中ノ贈与又ハ遺嘱ノ贈与ト相触ルルコトナカル可シ 第千三百九十条 夫婦ハ往時仏蘭西領地ノ各部ヲ管理シ此法典ヲ以テ廃止シタル地方ノ慣例、法律又ハ制規中ノ一ニ依リ其結合ヲ規定ス可キ旨ヲ最早泛博ニ約権スルコトヲ得ス 第千三百九十一条 然レトモ夫婦ハ或ハ財産共通ノ制ヲ以テ或ハ嫁資ノ制ヲ以テ結婚セント欲スル旨ヲ泛博ニ申述スルコトヲ得可シ 其第一ノ場合ニ於テ而シテ財産共通ノ制ニ於テハ夫婦及ヒ其相続人ノ権利ヲ本巻第二章ノ成規ヲ以テ規定ス可シ 其第二ノ場合ニ於テ而シテ嫁資ノ制ニ於テハ右各人ノ権利ヲ第三章ノ成規ヲ以テ規定ス可シ 然レトモ若シ婚姻ヲ行ヒタル証書ニ夫婦ノ契約ナクシテ結婚シタル旨ヲ記載シタル時ハ婦ハ第三ノ人ニ関シテハ普通法ノ文面ニ循ヒ契約スルノ能力アルモノト看做ス可シ但シ婦ノ約務ヲ包含スル所ノ証書中ニ其婦ノ婚姻ノ契約ヲ為シタル旨ヲ申述シタル時ハ格別ナリトス(本項ハ千八百五十年七月十日ノ法律ヲ以テ追加ス) 第千三百九十二条 婦ノ自カラ財産ヲ嫁資ニ設定シ又ハ婦ノ為メニ財産ヲ嫁資ニ設定スルコトノ単一ナル約権ハ其財産ヲシテ嫁資ノ制ニ服従セシムルニ足ラサルモノトス但シ婚姻ノ契約書中ニ此事ニ関シテ明白ナル申述アル時ハ格別ナリトス 夫婦ノ共通財産ナクシテ結婚シ又ハ財産ヲ離分シタル旨ノ単一ナル申述ハ又嫁資ノ制ニ服従セシムルニ足ラサルモノトス 第千三百九十三条 財産共通ノ制ニ違ヒ又ハ之ヲ改様スル別段ノ約権アラサル時ハ第二章ノ第一部ニ定メタル規則ヲ以テ仏蘭西ノ普通法ヲ為スモノトス 第千三百九十四条 総テ婚姻ノ合意ハ其婚姻ノ前ニ公証人ノ面前ニ於ケル証書ヲ以テ証明ス可シ 公証人ハ双方ノ者ニ千三百九十一条ノ末項ト本条ノ末項トヲ読ミ聞カス可シ○其読ミ聞カセタル事ハ之ヲ契約書ニ記載ス可ク若シ然ラサル時ハ違背シタル公証人ニ対シテ十「フランク」ノ罰金ヲ言渡ス可シ 公証人ハ其契約書ニ署名スル時ニ当リ自己ノ姓名、居住地及ヒ夫婦トナラントスル双方ノ者ノ姓名、分限、居所並ニ其契約書ノ日附ヲ表示スル所ノ自由ニシテ且ツ費用ナキ紙ニ記シタル保証書ヲ双方ノ者ニ渡ス可シ○其保証書ニハ婚姻ヲ行フ前ニ之ヲ身分取扱役ニ差出ササル可カラサル旨ヲ指示ス可シ(第二項三項ハ千八百五十年七月十日ノ法律ヲ以テ追加ス) 第千三百九十五条 婚姻ノ合意ハ婚姻ヲ行ヒタル後ニ至リ毫モ変更ヲ受クルコトヲ得ス 第千三百九十六条 婚姻ヲ行フ前ニ婚姻ノ合意ニ為シタル変更ハ婚姻ノ契約書ト同一ノ法式ニテ作リタル証書ヲ以テ之ヲ証明セサルヲ得ス 右ノ外凡ソ如何ナル変更又ハ反対証書ト雖モ婚姻ノ契約ニ参加シタル各人ノ立会及ヒ其同時ノ承諾アリタルニ非サレハ有効ナリトセス 第千三百九十七条 総テノ変更及ヒ反対証書ハ前条ニ定メタル法式ヲ具ヘタルモノト雖モ婚姻契約書ノ細字ノ正本ノ末ニ之ヲ記載シタルニ非サレハ第三ノ人ニ関シテ無効タル可シ而シテ公証人ハ其変更又ハ反対証書ヲ其末ニ登記セスシテ婚姻契約書ノ大字ノ副本ヲモ又其他ノ副本ヲモ渡スコトヲ得ス若シ違背スル時ハ関係人ニ損害ノ賠償ヲ為ス可ク又別段ノ道理アル時ハ更ニ重キ懲罰ヲ受ク可シ 第千三百九十八条 婚姻ヲ契約スルノ能力アル幼者ハ其契約ニ付キ為スコトヲ得可キ総テノ合意ヲ承諾スルノ能力アルモノトス而シテ幼者ノ其契約ニ於テ為シタル合意及ヒ贈与ハ幼者カ其契約ヲ為スニ於テ婚姻ヲ有効ノモノトスル為メニ其許諾ヲ得ルノ必要ナル各人ノ補助ヲ受ケタルニ於テハ有効ノモノトス 第二章 財産共通ノ制 第千三百九十九条 財産共通ハ法律上ノモノタルト合意上ノモノタルトヲ問ハス身分取扱役ノ面前ニ於テ契約シタル婚姻ノ日ヨリ始マルモノトシ其他ノ時期ニ始マル可キ旨ヲ約権スルコトヲ得ス 第一 部法律上ノ財産共通 第千四百条 財産共通ノ制ヲ以テ結婚スル旨ノ単一ナル申述ニ依テ設定シ又ハ契約ノアラサルニ於テ設定スル所ノ財産共通ハ以下六節ニ説明シタル規則ニ服従ス可シ 第一節 能働及ヒ所働ニテ共通財産ヲ組成スル所ノ諸件 第一款 共通財産ノ能働件 第千四百一条 共通財産ハ能働ニテハ左ノ諸件ヨリ組成スルモノトス 第一 夫婦ノ其婚姻ヲ行フ日ニ占有スル所ノ総テノ動産並ニ結婚中財産相続又ハ然ノミナラス贈与ノ名義ニテ夫婦ノ受ケタル総テノ動産但シ贈与者ニ於テ之ニ反スル旨ヲ明示シタル時ハ格別ナリトス 第二 婚姻ヲ行フ時ニ夫婦ニ属シタル財産ヨリ生シ又ハ名義ノ如何ヲ問ハス結婚中ニ夫婦ノ受ケタル財産ヨリ生シ而シテ結婚中ニ受取期限ニ至リ又ハ収取シタル総テ各種ノ果実、入額、利息、年金ノ賦額 第三 結婚中ニ獲得シタル総テノ不動産 第千四百二条 総テノ不動産ハ共通財産ノ獲得物ト看做ス可シ但シ夫婦中一方ノ者カ結婚以前ニ其不動産ノ所有権又ハ法律上ノ占有ヲ有シ又ハ其結婚ノ後ニ財産相続又ハ贈与ノ名義ニテ其不動産ヲ受ケタルノ証アル時ハ格別ナリトス 第千四百三条 採伐ス可キ樹木及ヒ石砿、金砿ノ産物ハ使用収益権、使用権及ヒ住居権ノ巻ニ説明シタル規則ニ従ヒ使用収益物トシテ看做サルル所ノ諸件ニ付テハ共通財産中ニ加フ可キモノトス 若シ右ノ規則ニ従ヒ財産共通ノ間ニ為スコトヲ得可キ樹木ノ採伐ヲ為ササリシ時ハ夫婦中ニテ其不動産ノ所有者ニ非サル一方ノ者又ハ其相続人ニ之レカ補償ヲ為ス可キモノトス 若シ結婚中ニ石砿及ヒ金砿ヲ穿開シタル時ハ夫婦中ニテ補償即チ賠償ヲ受クルコトヲ得可キ一方ノ者ニ補償即チ賠償ヲ為スニ非サレハ其石砿及ヒ金砿ノ産物ヲ共通財産中ニ加フ可カラサルモノトス 第千四百四条 婚姻ヲ行フ日ニ夫婦ノ占有スル所ノ不動産又ハ結婚中ニ財産相続ノ名義ニテ夫婦ノ受ケタル不動産ハ共通財産中ニ入ラサルモノトス 然レトモ若シ夫婦中一方ノ者カ財産共通ノ約権ヲ包含スル婚姻契約ノ後ニシテ未タ其婚姻ヲ行ハサル前ニ不動産ヲ獲得シタル時ハ其間ニ獲得シタル不動産ハ共通財産中ニ入ル可キモノトス但シ婚姻ノ或ル約款ヲ執行シテ其獲得ヲ為シタル時ハ格別ニシテ此場合ニ於テハ合意ニ従ヒ其獲得ヲ規定ス可シ 第千四百五条 結婚中ニ夫婦中一方ノ者ノミニ為シタル不動産ノ贈与ハ共通財産中ニ加ハラスシテ受贈者ノミニ属スルモノトス但シ其贈与ニ其贈与シタル物ノ共通財産ニ属ス可キ旨ヲ明カニ定メタル時ハ格別ナリトス 第千四百六条 父母又ハ其他ノ尊属親カ夫婦中一方ノ者ニ対シテ負担スル所ノモノヲ履行スル為メ若クハ外人ニ対スル贈与者ノ負債ヲ弁済スルノ負任ヲ以テ夫婦中一方ノ者ニ委附シ又ハ譲与シタル不動産ハ共通財産中ニ入ラサルモノトス但シ補償即チ賠償ヲ為ス可シ 第千四百七条 夫婦中一方ノ者ニ属スル不動産ニ対シ交換ノ名義ニテ結婚中ニ獲得シタル不動産ハ共通財産中ニ入ラスシテ其所有権ヲ移転シタル所ノモノニ代替スルモノトス但シ補足金アル時ハ補償ヲ為ス可シ 第千四百八条 夫婦中一方ノ者カ不分共通ノ所有者タリシ不動産ノ一部分ヲ不分物糶売ノ名義ニ依リ又ハ其他ノ方法ニテ結婚中ニ為シタル獲得ハ共同獲得物ヲ為ササルモノトス但シ其獲得ノ為メ共通財産ヨリ供給シタル金額ハ共通財産ニ之ヲ償フ可シ 若シ夫カ唯一人ニテ自己ノ名前ヲ用ヒ不分共通ニテ婦ニ属シタル不動産ノ一部又ハ全部ノ獲得者又ハ落札買入人トナリタル場合ニ於テハ婦ハ財産共通解分ノ時ニ至リテ其物ヲ共通財産ニ委附シ又ハ獲得ノ代価ヲ共通財産ニ償還シテ其不動産ヲ取戻スコト自由タル可シ但シ共通財産ニ委附シタル時ハ共通財産ハ其代価中ニテ婦ニ属スル部分ニ付キ婦ニ対シテ負債者トナルモノトス 第二款 共通財産ノ所働件及ヒ之レヨリシテ共通財産ニ対シ生スル所ノ訴権 第千四百九条 共通財産ハ所働ニテハ左ノ諸件ヨリ組成スルモノトス 第一 夫婦ノ其婚姻ヲ行フノ日ニ負ヒタル総テ動産上ノ負債又ハ結婚中ニ夫婦ノ受ケシ遺留財産ノ負任タル総テ動産上ノ負債但シ夫婦中ノ一方又ハ他ノ一方ノ者ノ専有ノ不動産ニ関スル負債ニ付テハ補償ヲ為ス可キモノトス 第二 財産共通ノ間ニ夫ノ契約シ又ハ夫ノ承諾ヲ以テ婦ノ契約シタル負債ノ元金並ニ年金賦額又ハ利息但シ補償ヲ為ス可キ場合ニ於テハ之ヲ為ス可キモノトス 第三 夫婦ノ一身上ノモノタル所働上ノ年金収受権ノ賦額又ハ負債ノ利息ノミ 第四 共通財産中ニ入ラサル不動産ノ使用収益権ニ係ル修繕 第五 夫婦ノ養料、子ノ教訓保育料及ヒ其他総テ結婚中ノ負任 第千四百十条 結婚前ニ婦ノ契約シタル動産上ノ負債ハ其結婚前ノ公正ノ証書ヨリ生シ又ハ簿冊登記ニ依リ若クハ証書ノ署名者一人又ハ数人ノ死去ニ依リ右時期ノ前ニ正確ナル日附ヲ受ケタル証書ヨリ生スル時ニ非サレハ共通財産ニ於テ之ヲ担任セサルモノトス 婦ノ債主ハ結婚前ニ正確ナル日附ヲ有セサル証書ニ拠リ婦ノ一身上ノ不動産ノ虚所有権ノヨヲ以テ婦ニ対シ其弁済ヲ要求スルコトヲ得可シ 婦ノ為メニ右ノ性質ノ負債ヲ弁済シタリルト称言スル夫ハ其婦ニ対シテモ又其相続人ニ対シテモ之レカ補償ヲ求ムルコトヲ得ス 第千四百十一条 結婚中ニ夫婦ノ受ケタル純粋ニ動産ノモノタル遺留財産ノ負債ハ全ク共通財産ノ負任タリ 第千四百十二条 結婚中ニ夫婦中一方ノ者ノ受ケタル純粋ニ不動産ノモノタル遺留財産ノ負債ハ共通財産ノ負任タラス但シ債主ハ其遺留財産中ノ不動産ヲ以テ其弁済ヲ要求スルノ権利ヲ有スルモノトス 然レトモ夫ノ其遺留財産ヲ受ケタル時ハ遺留財産ノ債主ハ夫ノ総テノ専有財産ヲ以テ又然ノミナラス共通財産中ノ財産ヲ以テ其弁済ヲ要求スルコトヲ得可シ但シ此第二ニ記シタル場合ニ於テハ婦又ハ其相続人ニ補償ヲ為スヘキモノトス 第千四百十三条 若シ婦カ純粋ニ不動産ノモノタル遺留財産ヲ受ケ而シテ婦ノ其夫ノ承諾ヲ以テ其遺留財産ヲ受諾シタル時ハ遺留財産ノ債主ハ婦ノ一身上ノ総テノ財産ヲ以テ其弁済ヲ要求スルコトヲ得可シ然レトモ若シ婦カ夫ノ否拒ニ於テ裁判所ノ許可ヲ受ケシノミニテ遺留財産ヲ受諾シタル時ハ債主ハ遺留財産ノ不動産ノ不足ナル場合ニ於テ婦ノ其他ノ一身上ノ財産ノ虚所有権ノミヲ以テ償還ヲ訟求スルコトヲ得可キモノトス 第千四百十四条 若シ夫婦中一方ノ者ノ受ケタル遺留財産カ一部分ハ動産ニシテ一部分ハ不動産タル時ハ其遺留財産ノ負ヒタル負債ハ不動産ノ価額ニ比較シタル其動産ノ価額ニ准シ右負債中ニ於テ動産ノ分担ス可キ部分ノ額ニ充ツル迄ノ外共通財産ノ負任タラサルモノトス 其分担ス可キ部分ハ若シ其遺留財産カ夫ノ一身ニ関係スル時ハ自己ノ権利ヨリシテ作ラシメサルヲ得サル目録ニ従ヒ之ヲ規定シ又婦ノ受ケタル遺留財産ニ関スル時ハ其婦ノ行為ヲ指揮シ及ヒ許可スルモノトシテ作ラシメサルヲ得サル目録ニ従ヒ之ヲ規定ス 第千四百十五条 目録ノ欠缺シ而シテ其欠缺ノ為メ婦ニ損害ヲ被ラシムル総テノ場合ニ於テハ婦又ハ其相続人ハ財産共通解分ノ時ニ至リ其当然ノ補償ヲ要求スルコトヲ得可ク又然ノミナラス家内ノ証券及ヒ書類並ニ証人ニ依リ又已ムヲ得サルニ於テハ普通ノ評判ニ依リ目録ナキ動産ノ組成及ヒ価額ヲ証スルコトヲ得可シ 夫ハ決シテ右ノ証ヲ立ツルコトヲ許サス 第千四百十六条 第千四百十四条ノ成規ハ一部分ハ動産ニシテ一部分ハ不動産タル遺留財産ノ債主カ夫ノ其遺留財産ヲ受ケタルト婦ノ其夫ノ承諾ヲ以テ遺留財産ヲ受諾シタル時之ヲ受ケタルトヲ問ハス共通財産中ノ財産ヲ以テ其弁済ヲ要求スルノ障碍ヲ為ササルモノトス但シ此場合ニ於テハ相互ノ補償ヲ為ス可シ 若シ婦ノ裁判所ノ許可ヲ受ケシノミニテ遺留財産ヲ受諾シ然ルニ予メ目録ヲ作ラスシテ其動産ノ共通財産ノ動産中ニ混同シタル時ハ亦右ト同一ナリトス 第千四百十七条 若シ婦カ夫ノ否拒ニ於テ裁判所ノ許可ヲ受ケシノミニテ遺留財産ヲ受諾シ而シテ其目録アル時ハ債主ハ其遺留財産中ノ動産ト不動産トノミヲ以テ其弁済ヲ要求シ若シ其不足ナル場合ニ於テハ婦ノ其他ノ一身上ノ財産ノ虚所有権ノミヲ以テ其弁済ヲ要求スルコトヲ得可シ 第千四百十八条 第千四百十一条以下ニ定メタル規則ハ財産相続ヨリ生シタル負債ノ如クニ贈与ニ附属シタル負債ヲ管理スルモノトス 第千四百十九条 債主ハ婦ノ其夫ノ承諾ヲ以テ契約シタル負債ニ付テハ総テノ共通財産ト夫又ハ婦ノ財産トヲ以テ其弁済ヲ要求スルコトヲ得可シ但シ共通財産ニ其補償ヲ為シ又ハ夫ニ其賠償ヲ為ス可キモノトス 第千四百二十条 夫ノ一般ノ代理又ハ特別ノ代理ノミニ拠テ婦ノ契約シタル総テノ負債ハ共通財産ノ負任タリ而シテ債主ハ婦ニ対シテモ又婦ノ一身上ノ財産ヲ以テモ其弁済ヲ要求スルコトヲ得ス 第二節 共通財産ノ管理及ヒ婚姻ノ結社ニ関シテ夫婦中ノ一方又ハ他ノ一方ノ所為ノ効 第千四百二十一条 夫ハ唯一人ニテ共通財産中ノ財産ヲ管理ス 夫ハ婦ノ助成ナクシテ其財産ヲ売払ヒ、所有権ヲ移転シ及ヒ書入質ト為スコトヲ得可シ 第千四百二十二条 夫ハ共通ノ子ノ定業ノ為メノ外、無償ノ名義ニテ共通財産中ノ不動産ノ生存中ノ処分ヲ為スコトヲ得ス又動産ノ全括又ハ其一箇ノ量額ノ生存中ノ処分ヲ為スコトヲ得ス 然レトモ夫ハ無償及ヒ特定ノ名義ヲ以テ各人ノ利益ニ於テ動産ヲ処分スルコトヲ得可シ但シ之レカ為メニハ其使用収益権ヲ己レニ貯存セサルコトヲ必要トス 第千四百二十三条 夫ノ為ス所ノ遺嘱ノ贈与ハ共通財産中ニ於ケル夫ノ分ケ前ニ過クルコトヲ得ス 若シ夫ノ右ノ法式ヲ以テ共通財産中ノ一箇ノ品物ヲ贈与シタル時ハ其受贈者ハ右ノ品物カ分派ノ成リ行ニ依リ夫ノ相続人ノ区分財産中ニ加ハリタル時ニ非サレハ原品ノ侭ニテ之ヲ要求スルコトヲ得ス若シ其品物カ其相続人ノ区分財産中ニ加ハラサル時ハ受遺嘱者ハ共通財産中ニ於ケル夫ノ相続人ノ分ケ前ト夫ノ一身上ノ財産トニ付キ其贈与セラレタル品物ノ価額全部ノ補償ヲ受ク可キモノトス 第千四百二十四条 准死ヲ惹起セサル重罪ノ為メニ夫ノ受ケタル罰金ハ共通財産中ノ財産ヲ以テ之ヲ要求スルコトヲ得可シ但シ婦ニ其補償ヲ為ス可キモノトス又婦ノ受ケタル罰金ハ財産共通ノ継続スル間ハ其一身上ノ財産ノ虚所有権ノミニ付キ之ヲ執行スルコトヲ得可シ 第千四百二十五条 准死ヲ惹起スル重罪ノ為メ夫婦中ノ一方ニ対シテ宣告シタル言渡ハ共通財産中ニ於ケル其者ノ分ケ前及ヒ其者ノ一身上ノ財産ノミニ及ホス可キモノトス 第千四百二十六条 夫ノ承諾ナクシテ婦ノ行ヒタル所為ハ仮令裁判所ノ許可ヲ受ケタルモノト雖モ共通財産中ノ財産ヲ結束セサルモノトス但シ婦カ公ケノ商人トシテ其商業上ノ所為ノ為メニ契約シタル時ハ格別ナリトス 第千四百二十七条 婦ハ其夫ヲ獄舎ヨリ出テシムル為メ又ハ夫ノ失踪ノ場合ニ於テ其子ノ定業ノ為メト雖モ裁判所ヨリ許可セラレタル後ニ非サレハ己レニ事務ヲ負フコトヲ得ス又共通財産中ノ財産ヲ結束スルコトヲ得ス 第千四百二十八条 夫ハ婦ノ総テノ一身上ノ財産ノ管理ヲ有スルモノトス 夫ハ婦ニ属スル所ノ総テノ動産上及ヒ占有上ノ訴権ヲ唯一人ニテ執行スルコトヲ得可シ 夫ハ婦ノ承諾ナクシテ其婦ノ一身上ノ不動産ノ所有権ヲ移転スルコトヲ得ス 夫ハ保存ノ所為ノ欠缺ニ依リ生シタル其婦ノ一身上ノ財産ノ総テノ損敗ニ付キ其責ニ任ス可キモノトス 第千四百二十九条 夫ノ唯一人ニテ九年ニ過クル時間其婦ノ財産ニ付キ為シタル賃貸ハ財産共通解分ノ場合ニ於テ若シ契約者ノ其第一次ノ九年ノ期限中ニ在ル時ハ其期限若シクハ第二次ノ期限ニ付キ猶経過シ残ル所ノ時間ノ外、婦又ハ其相続人ニ対シテ羈勒ノ力アラサルモノトス而シテ又其後ノ期限ニ付テモ之ニ倣フ可シ依テ其土地賃借人ハ其在ル所ノ九年ノ期限間ノ収益ヲ完了スルノ権利ノミヲ有スルモノトス 第千四百三十条 夫ノ一人ニテ田野財産ニ関シテハ現時ノ賃貸ノ終ルヨリ三年以上前又家屋ニ関シテハ右ノ時期ヨリ二年以上前ニ其婦ノ財産ニ付キ為シ又ハ更新シタル九年以下ノ賃貸ハ財産共通解分ノ前ニ其執行ノ始マリタル時ニ非サレハ効ナキモノトス 第千四百三十一条 共通財産ノ事務ノ為メ又ハ夫ノ事務ノ為メ其夫ト連帯シテ義務ヲ己レニ負ヒタル婦ハ夫ニ関シテハ保証人ノミトシテ義務ヲ己レニ負ヒシモノト看做サル可シ依テ婦ハ其契約シタル義務ニ付キ賠償ヲ受ケシメサル可カラス 第千四百三十二条 婦ノ其一身上ノ不動産ニ付キ為シタル売払ヲ連帯シテ担保シ又ハ其他ノ方法ヲ以テ担保スル所ノ夫ハ若シ其妨害セラルルニ於テハ右ニ同シク共通財産中ニ於ケル婦ノ分ケ前ニ付キ若クハ婦ノ一身上ノ財産ニ付キ婦ニ対シテ償還ノ訟求ヲ為シ得可キモノトス 第千四百三十三条 若シ夫婦中一方ノ者ニ属スル不動産ヲ売リタル時又ハ夫婦中一方ノ者ノ専有タル不動産ニ対シテ負担スル所ノ地務ヲ金額ヲ以テ買戻シタル者アル時共通財産中ニ其代金ヲ払ヒ入レ而シテ全ク其再用ヲ為ササルニ於テハ夫婦中ニテ其売リタル不動産若クハ其買戻サレタル地務ノ所有者タリシ一方ノ者ノ利益ニ於テ右ノ代金ヲ共通財産中ヨリ先収ス可キモノトス 第千四百三十四条 一箇ノ獲得ノ時ニ当リ夫カ嘗テ自己ノ一身上ノモノタリシ不動産ノ所有権移転ヨリ得タル金額ヲ以テ自己ノ再用ニ供スル為メ其獲得ヲ為セシ旨ヲ申述シタル度毎ニ夫ニ関シテハ其再用ヲ為シタルモノト看做ス可シ 第千四百三十五条 婦ノ売リタル不動産ヨリ得タル金額ヲ以テ婦ノ再用ニ供スル為メ獲得ヲ為シタル旨ヲ夫ヨリ申述シタリト雖モ其申述ハ婦ノ明確ニ其再用ヲ受諾シタル時ニ非サレハ充分ナリトセス但シ婦ノ之ヲ受諾セサル時ハ婦ニ於テ財産共通解分ノ時ニ至リ単ニ其売リタル不動産ノ代金ノ補償ヲ受クルノ権利アルノミトス 第千四百三十六条 夫ニ属スル不動産ノ代金ノ補償ハ共通財産ノ合部ノミニ付キ之ヲ執行シ又婦ニ属スル不動産ノ代金ノ補償ハ共通財産中ノ財産ノ不足ナル場合ニ於テハ夫ノ一身上ノ財産ニ付キ之ヲ執行ス○如何ナル場合ニ於テモ其所有権ヲ移転シタル不動産ノ価額ニ関シテ如何ナル申立ヲ為スニ拘ハラス其補償ハ売払ノ基本ニ拠ルニ非サレハ之ヲ為ス可カラス 第千四百三十七条 夫婦中一方ノ者ノ専有タル不動産ノ代金或ハ其代金ノ一部分又ハ地務ノ買戻ノ如ク其一方ノ者ノ一身上ノ負債又ハ負任ヲ弁償スル為メ若クハ其一方ノ者ノ一身上ノ財産ノ取戻保存又ハ改良ノ為メ共通財産中ヨリ一箇ノ金額ヲ取リ用ヒタル度毎ニ及ヒ総テ一般ニ夫婦中方ノ者カ共通財産中ノ財産ヨリ一身上ノ利益ヲ得タル度毎ニ其一方ノ者ハ之レカ補償ヲ為ス可キモノトス 第千四百三十八条 若シ父母ニ於テ其分担セント欲スル所ノ部分ヲ明示セスシテ相共同シテ共通ノ子ニ嫁資ヲ与ヘタル時ハ共通財産中ノ品物ヲ以テ其嫁資ヲ供給シ或ハ約束シタルト夫婦中一方ノ者ノ一身上ノ財産ヲ以テ嫁資ヲ供給シ或ハ約束シタルトヲ問ハス父母ハ各々一半ツツ嫁資ヲ与ヘタルモノト看做ス可シ 右第二ノ場合ニ於テハ夫婦中ニテ自己ノ一身上ノ不動産又ハ品物ヲ嫁資ニ設定セラレタル一方ノ者ハ贈与ノ時ニ於ケル其贈与シタル品物ノ価額ニ准シテ右嫁資ノ一半ニ付テノ賠償ノ訴権ヲ他ノ一方ノ者ノ財産ニ付キ有スルモノトス 第千四百三十九条 夫一人ヨリ共通財産中ノ品物ヲ以テ共通ノ子ニ設定シタル嫁資ハ共通財産ノ負任タリ而シテ婦ノ共通財産ヲ受諾シタル場合ニ於テハ婦ハ右嫁資ノ一半ヲ担任セサルヲ得ス但シ夫カ其嫁資ヲ全ク己レニ負任シ又ハ一半ヨリ更ニ多キ部分ヲ己レニ担任ス可キ旨ヲ明カニ申述シタル時ハ格別ナリトス 第千四百四十条 嫁資ノ担保ハ之ヲ設定シタル各人ニ於テ負担ス可シ而シテ嫁資ノ利息ハ仮令弁済ノ為メノ期限アル時ト雖モ結婚ノ日ヨリ生スルモノトス但シ之ニ反シタル約権アル時ハ格別ナリトス 第三節 財産共通ノ解分及ヒ其効果中ノ或者 第千四百四十一条 財産共通ハ左ノ諸件ニ依テ解分ス 第一 死去 第二 准死 第三 離婚 第四 分居 第五 財産ノ離分 第千四百四十二条 夫婦中一方ノ者ノ死去又ハ准死ノ後ニ於ケル目録ノ欠缺ハ財産共通ヲ継続スルノ原由タラス但シ関係各人ハ共通ノ財産及ヒ品物ノ組成ニ関シテ訴ヲ起スコトヲ得可ク而シテ其性質ノ証ハ証券並ニ普通ノ評判ニ依テ之ヲ為スコトヲ得可キモノトス 若シ幼年ノ子アル時ハ目録ノ欠缺ハ右ノ外夫婦中ノ生残ル者ニ其入額ノ収益ヲ失ハシメ而シテ目録ヲ作ルコトヲ其者ニ強サリシ代後見人ハ幼者ノ利益ノ為メニ宣告セラルルコトアル可キ総テノ言渡ヲ其者ト相連帯シテ担任ス可シ 第千四百四十三条 財産ノ離分ハ婦ノ嫁資ノ危険ニ附セラレ而シテ夫ノ事業ノ錯乱シタルカ為メ夫ノ財産ヲ以テ婦ノ権利及ヒ取戻ノ権利ヲ履行セシムルニ足ラサルノ恐レアル時ニ於テ婦ヨリ裁判所ニ之ヲ要求スルコトヲ得可キノミトス 凡ソ任意ノ離分ハ無効ノモノタリ 第千四百四十四条 財産ノ離分ハ夫ノ財産ノ額ニ充ツル迄公正ノ証書ニ依テ成就シタル婦ノ権利及ヒ取戻権利ノ現実ノ弁済ニ依リ之ヲ執行シ又ハ少クトモ裁判ノ後十五日内ニ始メテ其後中断セサル義務執行ノ訟求ニ依リ之ヲ執行シタルニ非サル時ハ仮令裁判所ヨリ宣告シタルト雖トモ無効ノモノタリ 第千四百四十五条 凡ソ財産ノ離分ハ其執行ノ前ニ始審裁判所ノ重立チタル庁堂ニ特ニ設ケアル帖上ニ貼附ヲ為シテ之ヲ公ケニ為ササル可カラス且ツ右ノ外若シ夫ノ商人、銀行者、商賈タル時ハ其住所ノ地ノ商事裁判所ノ重立チタル庁堂ニ特ニ設ケアル帖上ニ貼附ヲ為シテ之ヲ公ケニ為ササル可カラス若シ然ラサル時ハ其執行ノ効ナカル可シ 財産ノ離分ヲ宣告スル所ノ裁判ハ其効ニ関シテハ訟求ノ日ニ遡及スルモノトス 第千四百四十六条 婦ノ一身上ノ債主ハ婦ノ承諾ナクシテ財産ノ離分ヲ求ムルコトヲ得ス 然レトモ夫ノ家資分散又ハ破産ノ場合ニ於テハ婦ノ一身上ノ債主ハ其債権ノ額ニ充ツル迄其負債者タル婦ノ権利ヲ執行スルコトヲ得可シ 第千四百四十七条 夫ノ債主ハ自己ノ権利ノ詐害ニ於テ宣告セラレ又然ノミナラス執行セラレタル財産ノ離分ニ対シテ上訴スルコトヲ得可ク又然ノミナラス離分ヲ争フ為メ其離分ノ訟求ニ付テノ訴訟ニ参加スルコトヲ得可シ 第千四百四十八条 財産ノ離分ヲ得タル婦ハ自己ノ資産ト夫ノ資産トニ比准シテ家事ノ費用ト共通ノ子ノ教訓ノ費用トヲ分担セサルヲ得ス 若シ夫ニ何等ノモノモ存セサル時ハ婦ニ於テ全ク此等ノ費用ヲ負担セサルヲ得ス 第千四百四十九条 居ト財産トヲ離分シ若クハ財産ノミヲ離分シタル婦ハ其財産ノ自由ナル管理ヲ取戻スモノトス 其婦ハ自己ノ動産ヲ処分シ及ヒ其所有権ヲ移転スルコトヲ得可シ 其婦ハ夫ノ承諾ナク又夫ノ否拒ニ於テハ裁判所ノ許可ヲ受クルコトナクシテ自己ノ不動産ノ所有権ヲ移転スルコトヲ得ス 第千四百五十条 夫ハ離分シタル婦カ裁判所ノ許可ヲ受ケテ所有権ヲ移転セシ不動産ノ代金ノ益用又ハ再用ノ欠缺ニ付キ其担保者タラサルモノトス但シ夫ノ其契約ヲ助成シ又ハ夫ノ其金額ヲ収受シ又ハ其金額ノ夫ノ利益トナリタルノ証アル時ハ格別ナリトス 若シ夫ノ立会ニテ且ツ其承諾ヲ以テ右ノ売払ヲ為シタル時ハ夫ハ其益用又ハ再用ノ欠缺ノ担保者タリ但シ夫ハ其益用ノ有益ナルコトニ付テハ之レカ担保者タラサルモノトス 第千四百五十一条 居ト財産トノ離分若クハ財産ノミノ離分ニ依リ解分シタル財産共通ハ双方ノ承諾ヲ以テ之ヲ復スルコトヲ得可シ 其財産共通ハ公証人ノ面前ニ於テ作リタル証書ニ依ルニ非サレハ之ヲ復スルコトヲ得ス但シ其証書ノ細字ノ正本ヲ存シ置キ而シテ其副本ヲ第千四百四十五条ノ法式ヲ以テ貼附セサル可カラス 此場合ニ於テハ其復シタル財産共通ハ結婚ノ日以来ノ其効ヲ取戻シ事物ヲ其離分アラサリシ時ト同一ノ景状ニ復セシム可シ然レトモ其間ニ於テ第千四百四十九条ニ従ヒ婦ノ行ヒタルコトアル可キ所為ノ執行ト相触ルルコトナカル可シ 夫婦ノ以前財産共通ヲ規定セシモノト異ナリタル条件ヲ以テ其財産共通ヲ復セントスル総テノ合意ハ無効ノモノタリ 第千四百五十二条 離婚ニ依リ又ハ居ト財産トノ離分若クハ財産ノミノ離分ニ依リ為シタル財産共通ノ解分ハ婦ノ生残リノ権利ヲ開始セサルモノトス然レトモ婦ハ其夫ノ死去又ハ准死ノ時ニ於テ右ノ権利ヲ執行スルノ権能ヲ保存ス 第四節 共通財産ノ受諾及ヒ共通財産ニ付キ為スコトヲ得可キ放棄並ニ之ニ関スル条件 第千四百五十三条 財産共通解分ノ後、婦又ハ其相続人及ヒ受権人ハ其共通財産ヲ受諾シ又ハ之ヲ放棄スルノ権能ヲ有スルモノトス但シ之ニ反シタル総テノ合意ハ無効ノモノタリ 第千四百五十四条 共通財産中ノ財産ニ干渉シタル婦ハ其共通財産ヲ放棄スルコトヲ得ス 純粋ニ管理上又ハ保存上ノ所為ハ干渉ヲ惹起セサルモノトス 第千四百五十五条 一箇ノ証書ニ於テ共通者タルノ分限ヲ取リタル成年ノ婦ハ目録ヲ作ラサル前ニ其分限ヲ取リタル時ト雖モ最早其分限ヲ放棄スルコトヲ得ス又其分限ニ対シテ回復スルコトヲ得ス但シ夫ノ相続人ノ方ニ詐欺アル時ハ格別ナリトス 第千四百五十六条 共通財産ヲ放棄スルノ権能ヲ保存セント欲スル生残リタル婦ハ夫ノ死去ノ日ヨリ三月内ニ夫ノ相続人ト相対シ又ハ法ニ適シテ其相続人ヲ招喚シタル上共通財産中ノ総テノ財産ノ誠実正確ナル目録ヲ作ラシメサルヲ得ス 其目録ハ其終成ノ時ニ当リ之ヲ作リシ公ケノ役員ノ面前ニ於テ婦其真実真正ナル旨ヲ確言セサルヲ得ス 第千四百五十七条 其婦ハ夫ノ死去ノ後三月ト四十日内ニ夫ノ住処ヲ有セシ郡ノ始審裁判所ノ書記局ニ其放棄ヲ為ササルヲ得ス但シ其証書ハ財産相続ノ放棄ヲ受クル為メニ設ケタル簿冊ニ之ヲ記入セサルヲ得サルモノトス 第千四百五十八条 寡婦ハ景況ニ従ヒ其放棄ノ為メ前条ニ定メタル期限ノ猶予ヲ始審裁判所ニ訟求スルコトヲ得可シ但シ其猶予ハ別段ノ道理アル時ハ夫ノ相続人ト相対シ又ハ法ニ適シテ其相続人ヲ招喚シタル上之ヲ宣告ス可シ 第千四百五十九条 前ニ定メタル期限内ニ放棄ヲ為ササリシ寡婦ハ干渉スルコトナク而シテ目録ヲ作リタルニ於テハ放棄スルノ権能ヲ失ハサルモノトス唯其寡婦ハ放棄スルニ至ル迄ハ共通者トシテ訴ヲ受クルコトアル可ク而シテ其放棄ニ至ル迄己レニ対シテ為サレタル費用ヲ負担ス可キモノトス 其寡婦ハ三月ニ至ラサル前ニ目録ヲ終成シタル時ハ其目録ノ終成ヨリ四十日ノ経過セシ後ニ亦訴ヲ受クルコトアル可シ 第千四百六十条 共通財産中ノ或ル品物ヲ窃取シ又ハ隠匿シタル寡婦ハ其放棄ニ拘ハラス共通者ナリト宣告セラル可シ又其寡婦ノ相続人ニ関シテモ之ト同一ナリトス 第千四百六十一条 若シ寡婦ノ目録ヲ作ラス又ハ之ヲ完了セスシテ三月ノ経過セサル前ニ死去シタル時ハ其相続人ハ目録ヲ作リ又ハ之ヲ完了スル為メ寡婦ノ死去ヨリ起算シテ更ニ新タナル三月ノ期限ト其目録終成ノ後熟考スル為メノ四十日ノ期限トヲ有ス可シ 若シ寡婦ノ其目録ヲ完了セシ上ニテ死去シタル時ハ其相続人ハ熟考ヲ為ス為メニ其死去ヨリ起算シテ更ニ新タナル四十日ノ期限又有ス可シ 其相続人ハ右ノ外、前ニ定メタル法式ヲ以テ共通財産ヲ放棄スルコトヲ得可ク而シテ第千四百五十八条及ヒ第千四百五十九条ハ其相続人ニ適用ス可キモノトス 第千四百六十二条 第千四百五十六条以下ノ成規ハ准死者ノ婦ニ其准死ノ始マリタル時ヨリ之ヲ適用ス可キモノトス 第千四百六十三条 離婚セラレ又ハ分居セラレタル婦ノ其離婚又ハ分居ノ確定ノ宣告アリシ後三月ト四十日内ニ共通財産ヲ受諾セサル時ハ之ヲ放棄シタルモノト看做ス可シ但シ其婦ノ猶期限内ニ在リテ夫ト相対シ又ハ法ニ適シテ夫ヲ招喚シタル上裁判上ニテ其猶予ヲ得タル時ハ格別ナリトス 第千四百六十四条 婦ノ債主ハ自己ノ債権ノ詐害ニ於テ婦又ハ其相続人ノ為シタル放棄ヲ取消サント求メ而シテ此等ノ者ノ権利ニ依リ共通財産ヲ受諾スルコトヲ得可シ 第千四百六十五条 寡婦ハ其受諾スルト放棄スルトヲ問ハズ目録ヲ作リ及ヒ熟考スル為メニ附与セラレタル三月ト四十日ノ間ハ自己ノ飲食料及ヒ其雇人ノ飲食料ヲ現存スル所ノ貯品中ヨリ取リ用ヒ若シ其欠缺ニ於テハ共通財産合部ノ計算ニ於ケル金額借入ニ依リ右ノ飲食料ヲ取リ用フルノ権利アリ但シ其飲食料ハ節約シテ之ヲ用フ可キノ負任アリトス 寡婦ハ右ノ期限間共通財産ニ附属スル家屋又ハ夫ノ相続人ニ属スル家屋内ニ為シタル住居ノ為メニ毫モ其借賃ヲ負担スルコトナシ又財産共通解分ノ時期ニ於テ夫婦ノ住居セシ家屋カ借賃ノ名義ヲ以テ之ヲ借受ケシモノタル時ハ婦ハ同上ノ期限間ハ右ノ借賃ノ弁済ヲ分担セスシテ財産合部中ヨリ其借賃ヲ取リ用フ可キモノトス 第千四百六十六条 婦ノ死去ニ依リ財産共通ノ解分シタル場合ニ於テハ婦ノ相続人ハ法律上ニテ生残リタル婦ノ為メニ定メタル所ノ期限ト法式トニ於テ共通財産ヲ放棄スルコトヲ得可シ 第五節 受諾ノ後共通財産ノ分派 第千四百六十七条 婦又ハ其相続人ノ共通財産ヲ受諾シタル後ハ以下ニ定メタル方法ヲ以テ其能働件ヲ分派シ及ヒ其所働件ヲ負担ス可シ 第一款 能働件ノ分派 第千四百六十八条 夫婦又ハ其相続人ハ本章第一部第二節ニ於テ前ニ定メタル規則ニ従ヒ補償又ハ賠償ノ名義ヲ以テ共通財産ニ対シテ債ヲ負ヒタル所ノ諸件ヲ其現存スル財産ノ合部中ニ返還ス 第千四百六十九条 夫婦中ノ各自又ハ其相続人ハ夫婦中ノ各自カ他婚ノ子ニ嫁資ヲ与フル為メ又ハ共通ノ子ニ己レ一身上ニテ嫁資ヲ与フル為メ共通財産中ヨリ引キ出シタル金額又ハ共通財産中ヨリ取リ用ヒタル財産ノ価額ヲ亦同シク返還ス 第千四百七十条 夫婦中ノ各自又ハ其相続人ハ財産ノ合部中ヨリ左ノ諸件ヲ先収ス 第一 共通財産中ニ入ラサル自己ノ一身上ノ財産カ原品ノ侭ニテ存在スル時ハ其財産又ハ再用ノ為メニ獲得シタル財産 第二 財産共通ノ間ニ所有権ヲ移転シ而シテ其再用ヲ為ササリシ自己ノ不動産ノ代価 第三 共通財産ヨリ己レニ対シテ負担シタル賠償 第千四百七十一条 婦ノ先収ハ夫ノ先収ノ前ニ之ヲ執行スルモノトス 其先収ハ最早原品ノ侭ニテ存在セサル所ノ財産ニ付テハ先ツ共通財産中ノ金円ニ付キ之ヲ執行シ次キニ共通財産中ノ動産ニ付キ之ヲ執行シ尚ホ補助ノ為メ共通財産中ノ不動産ニ付キ之ヲ執行スルモノトス但シ此最後ノ場合ニ於テハ婦及ヒ其相続人ニ不動産ノ撰択権ヲ附与ス可シ 第千四百七十二条 夫ハ共通財産中ノ財産ノミニ付キ其取戻ノ権利ヲ執行スルコトヲ得可シ 婦及ヒ其相続人ハ共通財産ノ不足ナル場合ニ於テハ夫ノ一身上ノ財産ニ付キ其取戻ノ権利ヲ執行ス 第千四百七十三条 共通財産ヨリ夫婦ニ対シテ負担シタル再用及ヒ補償並ニ夫婦ヨリ共通財産ニ対シテ負担シタル補償及ヒ賠償ハ財産共通解分ノ日ヨリ当然利息ヲ惹起ス 第千四百七十四条 夫婦双方ノ総テノ先収ヲ合部中ニ付キ執行シタル後ハ其残余ヲ夫婦又ハ之ニ代ハル者ノ間ニ一半ツツ分派ス 第千四百七十五条 若シ婦ノ相続人数名ノ互ニ其意見ヲ異ニシテ其中ノ或者ハ共通財産ヲ受諾シ他ノ者ハ之ヲ放棄シタル時ハ其受諾シタル者ハ婦ノ区分ニ入リタル財産中ニ於テ自己ノ分頭ニシテ且ツ相続スル部分ナラテハ収取スルコトヲ得ス 其残余ハ夫ニ於テ之ヲ保存シ而シテ夫ハ其放棄シタル相続人ニ対シテ婦カ放棄ノ場合ニ於テ執行スルコトヲ得可キ権利ヲ負任ス可シ然レトモ放棄者ノ相続スル分頭ノ部分ノ額ノミニ充ル迄之ヲ負任ス可キモノトス 第千四百七十六条 右ノ外共通財産ノ分派ハ其法式、不動産ノ不分物糶売ヲ為ス可キ時ハ其糶売、分派ノ効、分派ヨリ生スル担保及ヒ補足金ニ関スル所ノ諸件ニ付テハ共同相続人ノ間ニ於ケル分派ニ付キ財産相続ノ巻ニ定メタル総テノ規則ニ服従ス可シ 第千四百七十七条 夫婦中ニテ共通財産中ノ或ル品物ヲ窃取シ又ハ隠匿シタル者ハ右ノ品物ニ於ケル自己ノ部分ヲ剥奪セラルルモノトス 第千四百七十八条 成就シタル分派ノ後若シ夫婦中一方ノ者ノ財産ノ代金ヲ他ノ一方ノ者ノ一身上ノ負債ヲ弁済スルニ用ヒタル時ノ如ク又ハ総テ其他ノ原由ノ為メ其一方ノ者カ他ノ一方ノ者ノ一身上ノ債主タル時ハ其一方ノ者ハ共通財産中ニテ他ノ一方ノ者ノ受ケタル分ケ前ニ付キ又ハ他ノ一方ノ者ノ一身上ノ財産ニ付キ自己ノ債権ヲ執行ス 第千四百七十九条 夫婦ノ一方カ他ノ一方ニ対シテ執行ス可キ一身上ノ債権ハ裁判所ニ於ケル訟求ノ日ヨリ後ニ非サレハ利息ヲ生セス 第千四百八十条 夫婦中ノ一方ヨリ他ノ一方ニ為スコトアリタル贈与ハ共通財産中ニ於ケル贈与者ノ分ケ前及ヒ其贈与者ノ一身上ノ財産ノミニ付キ之ヲ執行ス 第千四百八十一条 婦ノ喪服ハ既ニ死去セシ夫ノ相続人ノ費用タル可シ 其喪服ノ価額ハ夫ノ家産ニ准シテ之ヲ規定ス可シ 共通財産ヲ放棄シタル婦ニ付テモ亦右ト同一ノモノヲ担任ス可シ 第二款 共通財産ノ所働件及ヒ負債ノ分担 第千四百八十二条 共通財産ノ負債ハ一半ツツ夫婦中ノ各自又ハ其相続人ノ負任タリ但シ封印、目録、動産売払、算定、不分物糶売及ヒ分派ノ費用ハ其負債ノ一部分ヲ為スモノトス 第千四百八十三条 婦ハ夫ニ対スルト債主ニ対スルトヲ問ハス其利得ノ価ニ充ツル迄ノ外共通財産ノ負債ヲ担任セス但シ之レカ為メニハ善良誠実ナル目録ノ存在シ且ツ右ノ目録中ニ包含シタルモノト分派ニ依リ自己ノ受ケタル所ノモノトヲ計算スルコトヲ必要トス 第千四百八十四条 夫ハ己レノ契約シタル共通財産ノ負債ヲ其全部ニ付キ担任ス可シ但シ夫ハ右負債ノ一半ニ付キ婦又ハ其相続人ニ対シテ償還ヲ訟求スルコトヲ得可キモノトス 第千四百八十五条 夫ハ婦ノ一身上ノモノニシテ共通財産ノ負任中ニ加ハリタル負債ニ付テハ其一半ノミヲ担任ス可シ 第千四百八十六条 婦ハ自己ノ権利上ヨリ生シテ共通財産中ニ入リタル負債ノ全部ニ付キ訴ヲ受クルコトアル可シ但シ婦ハ右負債ノ一半ノ為メ夫又ハ其相続人ニ対シテ償還ヲ訟求スルコトヲ得可キモノトス 第千四百八十七条 婦ハ共通財産ノ負債ノ為メ一身上ニ義務ヲ負ヒタル時ト雖トモ其負債ノ一半ノミニ付キ訴ヲ受ク可シ但シ其義務ノ連帯ノモノタル時ハ格別ナリトス 第千四百八十八条 共通財産ノ負債ヲ自己ノ一半以上弁済シタル婦ハ其過分ノ為メ債主ニ対シテ取戻ノ権利ヲ有セサルモノトス但シ受取証書ニ其婦ノ弁済シタルモノハ自己ノ一半タル旨ヲ明示シタル時ハ格別ナリトス 第千四百八十九条 夫婦中一方ノ者ノ其分派ニ依テ受ケタル不動産ニ付キ執行セラレタル書入質ノ効ニ依リ共通財産ノ負債ノ全部ニ付キ訴ヲ受ケタル時ハ其負債ノ一半ノ為メ他ノ一方ノ者又ハ其相続人ニ対シテ当然償還ヲ訟求スルコトヲ得可キモノトス 第千四百九十条 前ノ成規ハ分派ニ依リ共同分派人中ノ一方又ハ他ノ一方ヲシテ負債ノ一半ヨリ更ニ他ノ量額ヲ弁済シ又然ノミナラス全ク之ヲ弁償スルノ負任ヲ受ケシムルノ障碍ヲ為ササルモノトス 若シ共同分派人中ノ一人カ其己レニ担任シタル部分以外ノ共通財産ノ負債ヲ弁済シタル度毎ニ其過分ニ弁済シタル者ヨリ他ノ一方ノ者ニ対シテ償還ヲ訟求スルコトヲ得可キモノトス 第千四百九十一条 夫又ハ婦ニ関シテ前ニ記シタル諸件ハ其一方ノ者又ハ他ノ一方ノ者ノ相続人ニ関シテ適用ス可ク而シテ其相続人ハ其代ハル所ノ夫婦中一方ノ者ト同一ノ権利ヲ執行シ且ツ之ト同一ノ訴ニ服従ス可シ 第六節 共通財産ノ放棄及ヒ其効 第千四百九十二条 放棄シタル婦ハ共通財産中ノ財産ニ付キ各種ノ権利ヲ失ヒ又然ノミナラス自己ノ権利上ヨリ共通財産中ニ入リタル動産ニ付テモ各種ノ権利ヲ失フモノトス 其婦ハ唯自己ノ使用ニ於ケル布類及ヒ衣服ノミヲ引取ルモノトス 第千四百九十三条 放棄シタル婦ハ左ノ諸件ヲ取戻スノ権利アリ 第一 自己ニ属スル不動産ノ原品ノ侭ニテ存在スル時ハ其不動産又ハ再用ノ為メ獲得シタル不動産 第二 婦ノ不動産ノ所有権ヲ移転シテ前ニ記シタル如ク其代金ノ再用ヲ為シ及ヒ受諾セサル時ハ其代金 第三 共通財産ヨリ婦ニ対シテ負担スルコトアル可キ総テノ賠償 第千四百九十四条 放棄シタル婦ハ夫ニ対スルト債主ニ対スルトヲ問ハス総テ共通財産ノ負債ノ分担ヲ免除セラルルモノトス○然レトモ其放棄シタル婦ノ其夫ト相合同シテ義務ヲ負ヒタル時又ハ共通財産ノ負債トナリタル負債カ原来其婦ノ権利ヨリ生出セシ時ハ債主ニ対シテ之ヲ担任ス可シ但シ其婦ハ夫又ハ其相続人ニ対シテ償還ヲ訟求スルコトヲ得可キモノトス 第千四百九十五条 放棄シタル婦ハ共通財産中ノ財産ト夫ノ一身上ノ財産トニ付キ前ニ詳記シタル総テノ訴権及ヒ取戻ノ権利ヲ執行スルコトヲ得可シ 其婦ノ相続人モ亦同シク右ノ権利ヲ執行スルコトヲ得可シ但シ布類及ヒ衣服ノ先収並ニ目録ヲ作リ及ヒ熟考スル為メニ附与セラレタル期限間ノ住居及ヒ飲食料ニ関スルモノハ格別ニシテ此等ノ権利ハ純粋ニ生残リタル婦ノ一身上ノモノトス 夫婦中ノ一方又ハ其双方共ニ前婚ノ子アル時ニ於ケル法律上ノ財産共通ニ関スル成規 第千四百九十六条 前ニ記シタル諸件ハ夫婦中ノ一方又ハ其双方共ニ前婚ノ子アル時ト雖トモ之ヲ遵守ス可シ 然レトモ若シ動産及ヒ負債ノ混同カ生存中ノ贈与及ヒ遺嘱ノ巻第千九十八条ニ許可セラレタル所ニ超ヘタル得益ヲ夫婦中一方ノ者ノ利益ニ於テ為ス時ハ他ノ一方ノ者ノ前婚ノ子ハ其減削ノ訴権ヲ有スルモノトス 第二部 合意上ノ財産共通並ニ法律上ノ財産共通ヲ改様シ又然ノミナラス之ヲ除斥スルコトヲ得可キ合意 第千四百九十七条 夫婦ハ第千三百八十七条、第千三百八十八条、第千三百八十九条及ヒ第千八百九十条ニ反セサル各種ノ合意ニ依リ法律上ノ財産共通ヲ改様スルコトヲ得可シ 其重立チタル改様ハ下ニ記スル方法中一ノ者又ハ他ノ者ヲ約権スルニ依リ生スル所ノモノトス 第一 共通財産ニ獲得物ノミヲ包含ス可キ事 第二 現在又ハ将来ノ動産ハ共通財産中ニ入ラサル事又ハ一部分ナラテハ共通財産中ニ入ラサル事 第三 動産ト為スコトノ方法ニ依リ現在又ハ将来ノ不動産ノ全部又ハ一部ヲ共通財産中ニ包含ス可キ事 第四 夫婦ノ別々ニ其結婚以前ノ負債ヲ弁済ス可キ事 第五 放棄ノ場合ニ於テハ婦ノ其持参物ヲ負債ヲ免カレテ取戻スヲ得可キ事 第六 生残ル者ニ於テ先取ヲ有ス可キ事 第七 夫婦ノ互ニ不平等ナル分ケ前ヲ有ス可キ事 第八 夫婦ノ間ニ全括ノ名義ニ於ケル財産共通ノアル可キ事 第一節 獲得物ニ減セラレタル共通財産 第千四百九十八条 若シ夫婦ノ間ニ獲得物ノ財産共通ノミノアル可キ旨ヲ約権シタル時ハ其各自ノ現在及ヒ将来ノ負債並ニ其相互ノ現在及ヒ将来ノ動産ヲ共通財産中ヨリ除斥シタリト看做サル可シ 此場合ニ於テハ夫婦各自ニ於テ法ニ適シテ証明セラレタル自己ノ持参物ヲ先収シタル後夫婦ノ結婚中ニ相合シテ為シ又ハ別々ニ為シタル獲得物ニシテ其共同ノ勉業ト夫婦ノ財産ノ果実及ヒ入額ニ付キ為シタレ節約トヨリ生出シタルモノノミニ其分派ヲ限ル可キモノトス 第千四百九十九条 若シ結婚ノ時ニ存在シ又ハ其後ニ受ケタル動産ヲ目録又ハ法式ニ適ヒタル景状書ヲ以テ証明セサル時ハ之ヲ獲得物ト看做ス可シ 第二節 動産ノ全部又ハ一部ヲ共通財産ヨリ除斥スルノ約款 第千五百条 夫婦ハ其現在及ヒ将来ノ動産全部ヲ其共通財産ヨリ除斥スルコトヲ得可シ 若シ夫婦ニ於テ定マリタル金額又ハ価額ニ充ツル迄相互ニ其動産ヲ共通財産中ニ加フ可キ旨ヲ約権シタル時ハ此事ノミニ依リ其余ノモノヲ己レニ貯存シタリト看做サル可シ 第千五百一条 右ノ約款ハ夫婦ヲシテ共通財産ニ対シ其共通財産中ニ加ヘント約務シタル金額ノ負債者トナラシメ且ツ之ヲシテ其持参ヲ証明スルノ義務ヲ負ハシム 第千五百二条 其持参ハ夫ニ付テハ婚姻ノ契約書ニ其動産ハ云々ノ価額タル旨ノ申述ヲ記載シタルニ依リ充分ニ証明セラレタルモノトス 其持参ハ婦ニ付テハ夫ヨリ婦ニ附与シタル受取証書又ハ婦ニ嫁資ヲ与ヘタル者ニ附与シタル受取証書ニ依リ充分ニ証明セラレタルモノトス 第千五百三条 夫婦各自ハ結婚ノ時ニ持参シタル動産又ハ其後ニ受ケタル動産カ其共通財産中ニ加フ可キ旨ヲ定メシ額ニ過キタルモノノ価額ヲ財産共通解分ノ時ニ於テ取戻シ及ヒ先収スルノ権利アリ 第千五百四条 結婚中ニ夫婦各自ノ受ケタル動産ハ目録ヲ以テ之ヲ証明セサルヲ得ス 夫ノ受ケタル動産ノ目録ノ欠缺又ハ負債ヲ引去リタル其動産ノ組成及ヒ価額ヲ証明スルニ適当ナル証券ノ欠缺ニ於テハ夫ハ其動産ノ取戻ノ権利ヲ執行スルコトヲ得ス 若シ目録ノ欠缺カ婦ノ受ケタル動産ニ係ル時ハ婦又ハ其相続人ハ証券ニ依リ若クハ証人ニ依リ若クハ然ノミナラス普通ノ評判ニ依リ其動産ノ価額ヲ証スルコトヲ許サルルモノトス 第三節 動産ト為スコトノ約款 第千五百五条 若シ夫婦双方又ハ其中ノ一方カ其現在又ハ将来ノ不動産ノ全部又ハ一部ヲ共通財産中ニ入ラシムル時ハ此約款ヲ名ケテ動産ト為ス事ト云フ 第千五百六条 動産ト為ス事ハ特定ノモノタリ又ハ不特定ノモノタルコトヲ得可シ 若シ夫婦ニ於テ云々ノ不動産ノ全部又ハ云々ノ不動産ヲ特定ノ金額ニ充ツル迄動産ト為シテ共通財産中ニ加フ可キ旨ヲ申述シタル時ハ之ヲ特定ノモノトス 若シ夫婦ニ於テ特定ノ金額ニ充ツル迄自己ノ不動産ヲ共通財産中ニ持参ス可キ旨ヲ単一ニ申述シタル時ハ之ヲ不特定ノモノトス 第千五百七条 特定ノモノタル動産ト為ス事ノ効ハ之ヲ受ケタル一箇又ハ数箇ノ不動産ヲ動産自カラノ如クニ共通財産中ノ財産ト為スニ在リトス 若シ婦ノ一箇又ハ数箇ノ不動産ヲ全ク動産ト為シタル時ハ夫ニ於テ共通財産中ノ其他ノ品物ノ如クニ之ヲ処分シ且ツ全ク其所有権ヲ移転スルコトヲ得可シ 若シ其不動産ヲ特定ノ金額ノミニ付キ動産ト為シタル時ハ夫ハ其婦ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ之レカ所有権ヲ移転スルコトヲ得ス然レトモ夫ハ其動産ト為シタル部分ノ額ノミニ充ツル迄ハ婦ノ承諾ナクシテ之ヲ書入質ト為スコトヲ得可シ 第千五百八条 不特定ノモノタル動産ト為ス事ハ共通財産ヲシテ之ヲ受ケタル不動産ノ所有者トナラシムルコトナク其効ハ夫婦中ニテ之ヲ承諾セシ一方ノ者ヲシテ財産共通解分ノ時ニ至リ己レノ約務シタル金額ニ充ツル迄自己ノ不動産中ノ或者ヲ財産合部中ニ包含スルノ義務ヲ負ハシムルノミニ止マルモノトス 夫ハ前条ニ於ケル如ク不特定ノモノタル動産ト為スノ約款ヲ設ケタル不動産ノ全部又ハ一部ヲ婦ノ承諾ナクシテ所有権ヲ移転スルコトヲ得ス然レトモ夫ハ其動産ト為シタル額ニ充ツル迄其不動産ヲ書入質ト為スコトヲ得可シ 第千五百九条 夫婦中ニテ其不動産ヲ動産ト為シタル一方ノ者ハ分派ノ時ニ至リ其不動産ノ当時ノ代価ヲ以テ之ヲ自己ノ分ケ前中ニ先算シテ其不動産ヲ留置クノ権能ヲ有シ又其者ノ相続人モ之ト同一ノ権利ヲ有スルモノトス 第四節 負債離分ノ約款 第千五百十条 夫婦ニ於テ其一身上ノ負債ヲ別々ニ弁済ス可キ旨ヲ約権スル所ノ約款ハ財産共通解分ノ時ニ至リ夫婦中ニテ其負債者タリシ一方ノ者ノ義務免除ノ為メ共通財産ヨリ弁償シタリト証明セラレタル負債ニ付キ相互ニ補償ヲ為ス可キノ義務ヲ負ハシム 右ノ義務ハ目録ノアルト否トヲ問ハス相同シカル可シ然レトモ若シ夫婦ノ持参シタル動産ヲ目録又ハ結婚前ノ公正ノ景状書ニ依テ証明セサル時ハ夫婦中ノ一方又ハ他ノ一方ノ債主ハ其要求セラレタル差別ニ毫モ拘ハラスシテ其目録ヲ作ラサル動産並ニ共通財産中ノ総テ其他ノ財産ニ付キ其弁済ヲ訟求スルコトヲ得可シ 財産共通ノ間ニ夫婦ノ受ケタル動産ヲ右ニ同シク目録又ハ公正ノ景状書ニ依テ証明セサル時ハ債主ハ其動産ニ付キ右ト同一ノ権利ヲ有スルモノトス 第千五百十一条 若シ夫婦ノ特定ノ金額又ハ特定物ヲ共通財産中ニ持参シタル時ハ此クノ如キ持参ハ其持参物カ結婚前ノ負債ヲ負ハサルノ黙認ノ合意ヲ為シタルモノトス而シテ其約務シタル持参物ヲ減少スル所ノ総テノ負債ハ夫婦中ニテ其負債者タル一方ノ者ヨリ他ノ一方ノ者ニ之ヲ補償セサルヲ得ス 第千五百十二条 負債離分ノ約款ハ結婚ノ後ニ生シタル利息及ヒ年金ヲ共通財産ノ負任ト為スノ妨ケトナルコトナシ 第千五百十三条 若シ共通財産カ契約ニ依リ結婚前ノ総テノ負債ヲ免カレタリト申述セラレタル夫婦中一方ノ者ノ負債ノ為メニ訴ヲ受クル時ハ其配偶者ハ共通財産中ニテ負債者タル一方ノ者ノ受クル所ノ分ケ前若クハ其一方ノ者ノ一身上ノ財産ヲ以テ収取ス可キ賠償ヲ得ルノ権利ヲ有スルモノトス而シテ其不足ノ場合ニ於テハ右一方ノ者ノ負債ヲ免カレタリト申述セシ父母、尊属親又ハ後見人ニ対シ担保ノ方法ヲ以テ右ノ賠償ヲ訟求スルコトヲ得可シ 若シ其負債カ婦ノ権利ニ由来シタル時ハ財産共通ノ間ト雖モ夫ヨリ右ノ担保ヲ執行スルコトヲ得可シ但シ此場合ニ於テハ財産共通解分ノ後ニ至リ婦又ハ其相続人ヨリ担保者ニ償還ヲ為ササルヲ得サルモノトス 第五節 婦ノ其持参物ヲ負債ヲ免カレテ取戻スコトヲ得セシムル為メ其婦ニ附与シタル権能 第千五百十四条 婦ハ共通財産ヲ放棄スル場合ニ於テ結婚ノ時若クハ其後ニ持参シタル所ノモノノ全部又ハ一部ヲ取戻ス可キコトヲ約権スルヲ得可シ然レトモ其約権ハ明確ニ表示セラレタル物件ノ外ニ之ヲ及ホスコトヲ得ス又指定セラレタル者ヨリ更ニ他ノ各人ノ利益ニ於テ之ヲ及ホスコトヲ得ス 故ニ婦ノ結婚ノ時ニ持参シタル動産ヲ取戻ス可キノ権能ハ結婚中ニ受ケタル動産ニ及ハス 故ニ又婦ニ附与セラレタル権能ハ其子ニ及ハス又婦及ヒ其子ニ附与セラレタル権能ハ尊属又ハ傍系ノ相続人ニ及ハス 如何ナル場合ニ於テモ持参物ハ共通財産ヨリ弁償シタル婦ノ一身上ノ負債ヲ引去ルニ非サレハ之ヲ取戻スコトヲ得ス 第六節 合意上ノ先取 第千五百十五条 夫婦中ノ生残ル者ニ於テ総テ分派ノ前ニ特定ノ金額又ハ動産ノ特定ノ分量ヲ原品ノ侭ニテ先収スルコトヲ許可セラルル所ノ約款ハ生残リタル婦ノ共通財産ヲ受諾スル時ニ非サレハ其婦ノ利益ニ於テ其先収ノ権利ヲ附与セス但シ婚姻ノ契約ニ仮令放棄スルト雖モ右ノ権利ヲ婦ニ貯存シタル時ハ格別ナリトス 右貯存ノ場合ノ外ハ其先取ハ分派ス可キ財産合部ノミニ付キ之ヲ執行ス可ク既ニ死去セシ配偶者ノ一身上ノ財産ニ付キ之ヲ執行ス可カラス 第千五百十六条 先取ハ贈与ノ法式ニ従フタル一箇ノ得益ナリト看做ス可カラス一箇ノ婚姻ノ合意ナリト看做ス可シ 第千五百十七条 死去又ハ准死ハ先取ヲ開始ス 第千五百十八条 若シ離婚ニ依リ又ハ分居ニ依テ財産共通ノ解分シタル時ハ先取物ノ現在ノ引渡ヲ為スコトナシ然レトモ夫婦中ニテ離婚若クハ分居ヲ得タル一方ノ者ハ生残ノ場合ニ於テハ自己ノ先取ノ権利ヲ保存スルモノトス○若シ其者カ婦タル時ハ先取ヲ組成スル金額又ハ物件ヲ常ニ必ス仮リニ夫ニ保存シ置ク可シ但シ保証人ヲ立ツ可キノ負任アリトス 第千五百十九条 共通財産ノ債主ハ常ニ先取物中ニ包含シタル物品ヲ売ラシムルノ権利ヲ有ス但シ第千五百十五条ニ従ヒ夫婦中ノ一方ヨリ償還ヲ訴求スルコトヲ得可キモノトス 第七節 夫婦各自ニ共通財産中ニ於ケル不平等ノ分ケ前ヲ附与スル所ノ約款 第千五百二十条 夫婦ハ其中ノ生残ル者又ハ其相続人ニ共通財産中ニ於テ其一半ヨリ更ニ少ナキ分ケ前ノミヲ附与スルニ依リ若クハ其一方ノ者又ハ其相続人ニ総テ共通財産ニ付テノ権利ノ為メ特定ノ金額ノミヲ附与スルニ依リ若クハ共通財産ノ全部カ特定ノ場合ニ於テハ夫婦中ノ生残ル者又ハ其中ノ一方ノ者ノミニ属ス可キ旨ヲ約権スルニ依リ法律上ニ定メタル平等ノ分派ニ違フコトヲ得可シ 第千五百二十一条 若シ夫婦中一方ノ者又ハ其相続人カ共通財産ノ三分一又ハ四分一ノ如キ其特定ノ分ケ前ナラテハ得可カラサル旨ヲ約権シタル時ハ斯クノ如クニ減セラレタル一方ノ者又ハ其相続人ハ能働件中ニ於テ其収取スル所ノ分ケ前ニ比准スルニ非サレハ共通財産ノ負債ヲ負担セサルモノトス 若シ其合意カ夫婦中ニテ斯クノ如クニ減セラレタル一方ノ者又ハ其相続人ニ更ニ多分ノ負債ヲ担任スルヲ強ヒ又ハ其合意カ右負債中ニテ其一方ノ者又ハ其相続人ノ能働件中ヨリ収取スル所ノ分ケ前ニ等シキ分ケ前ヲ負担スルコトヲ免除スル時ハ其合意ハ無効ノモノタリ 第千五百二十二条 若シ夫婦中一方ノ者又ハ其相続人カ総テ共通財産ニ付テノ権利ノ為メ特定ノ金額ナラテハ得ント称言スルコトヲ得サル旨ヲ約権シタル時ハ其約款ハ共通財産ノ善悪ニ拘ハラス又共通財産ノ右ノ金額ヲ弁償スルニ足ルト否トヲ問ハス他ノ一方ノ者又ハ其相続人ニ其合意シタル金額ヲ弁済スルノ義務ヲ負ハシムル所ノ一箇ノ請負ナリトス 第千五百二十三条 若シ其約款カ夫婦中一方ノ者ノ相続人ノミニ関シテ請負ヲ設定シタル時ハ其一方ノ者ハ自己ノ生残リタル場合ニ於テハ法律上ノ一半ノ分派ヲ得ルノ権利アリトス 第千五百二十四条 第千五百二十条ニ表示シタル約款ニ拠リ共通財産ノ全部ヲ留メ置ク所ノ夫又ハ其相続人ハ共通財産ノ総テノ負債ヲ弁償ス可キノ義務アリトス 債主ハ此場合テ於テハ婦ニ対シテモ又其相続人ニ対シテモ一箇ノ訴権ヲ有セサルモノトス 若シ生残リタル婦ニ於テ合意シタル金額ヲ弁済スルニ依リ夫ノ相続人ニ対シテ共通財産ノ全部ヲ留メ置クノ権利ヲ有スル時ハ其婦ハ夫ノ相続人ニ右ノ金額ヲ弁済シテ総テノ負債ヲ担任シ又ハ共通財産ヲ放棄シテ其財産及ヒ負任ヲ夫ノ相続人ニ委付スルコト自由ナリトス 第千五百二十五条 夫婦ハ共通財産ノ全部カ其生残ル者又ハ其中ノ一方ノ者ノミニ属ス可キ旨ヲ約権スルコトヲ許サルルモノトス但シ他ノ一方ノ者ノ相続人ハ其先人ノ権利ヨリシテ共通財産ニ加ハリタル持参物及ヒ元金ノ取戻ヲ為スコトヲ得可シ 此約権ハ本案ニ付テモ又ハ法式ニ付テモ贈与ニ関スル規則ニ従フタル一箇ノ得益ナリト看做ス可カラス唯単一ニ婚姻ノ合意ニシテ且ツ社員間ノ合意ナリト看做ス可シ 第八節 全括ノ名義ニ於ケル財産共通 第千五百二十六条 夫婦ハ其婚姻ノ契約ニ依リ現在ト将来トノ動産並ニ不動産ノ全括ノ財産共通又ハ総テ其現在ノ財産ノミノ全括ノ財産共通又ハ総テ其将来ノ財産ノミノ全括ノ財産共通ヲ設定スルコトヲ得可シ 前八節ニ共通ノ成規 第千五百二十七条 前八節ニ記シタル処ハ合意上ノ財産共通ニ付ニ為スコトヲ得可キ約権ヲ其各節ニ明記シタル成規ニ制限セス 夫婦ハ第千三百八十七条ニ記シタル如ク総テ其他ノ合意ヲ為スコトヲ得可シ但シ第千三百八十八条第千三百八十九条第千三百九十条ニ記シタル改様ニ従ハサルヲ得ス 然レトモ前婚ノ子アル場合ニ於テハ夫婦中一方ノ者ニ生存中ノ贈与及ヒ遺嘱ノ巻第千九十八条ニ規定セラレタル部分以外ヲ附与スルニ至ル可キノ効アル総テノ合意ハ凡ソ右ノ部分ニ過キタル諸件ニ付テハ其効ナカル可シ然レトモ共同ノ労力及ヒ夫婦双方ノ各自ノ入額ノ仮令相等シカラスト雖トモ其各自ノ入額ニ付キ為シタル節約ヨリ生スル所ノ単一ナル利益ハ前婚ノ子ノ損害ニ於テ為シタル得益ナリト看做ス可カラス 第千五百二十八条 合意上ノ財産共通ハ契約ニ依リ暗黙又ハ明白ニ法律上ノ財産共通ニ違フタルコトナキ総テノ場合ニ付テハ法律上財産共通ノ規則ニ服従ス可キモノトス 第九節 財産共通ヲ除斥スル合意 第千五百二十九条 若シ夫婦カ嫁資ノ制ニ服従スルコトナク共通財産ナクシテ結婚シ又ハ財産ヲ離分シタル旨ヲ申述スル時ハ其約権ノ効ハ以下ノ如ク之ヲ規定ス 第一款 夫婦ノ共通財産ナクシテ結婚スル旨ヲ定ムル約款 第千五百三十条 夫婦ノ共通財産ナクシテ結婚スル旨ヲ定ムル約款ハ婦ニ自己ノ財産ヲ管理スルノ権利ヲ附与セス又其財産ノ果実ヲ収取スルノ権利ヲ附与セス此等ノ果実ハ結婚中ノ負任ヲ維持スル為メ夫ニ持参シタルモノト看做ス可シ 第千五百三十一条 夫ハ婦ノ動産及ヒ不動産ノ管理ヲ保存シ依テ又婦ノ嫁資トシテ持参シタル総テノ動産又ハ結婚中ニ婦ノ受ケタル総テノ動産ヲ収取スルノ権利ヲ保存ス但シ夫ハ婚姻解分ノ後又ハ裁判所ヨリ宣告セラレタル財産離分ノ後ニ至リテ之レカ返還ヲ為為サルヲ得サルモノトス 第千五百三十二条 若シ婦ノ嫁資トシテ持参シタル動産又ハ結婚中ニ婦ノ受ケタル動産中ニ消耗スルコトナクシテ使用スルコトヲ得サル物アル時ハ婚姻ノ契約書ニ之レカ評価目録ヲ添ヘ又ハ其之ヲ受クル時ニ於テ之レカ目録ヲ作ラサル可カラス而シテ夫ハ其評価ニ従ヒ之レカ代金ヲ返ササルヲ得ス 第千五百三十三条 夫ハ使用収益権ノ総テノ負任ヲ担任ス可シ 第千五百三十四条 本款ニ表示シタル約款ハ婦ノ毎年自己ノ受取証書ノミヲ以テ己レノ保育及ヒ己レノ一身上ノ需要ノ為メ其入額ノ特定ノ一部分ヲ収受ス可キ旨ヲ合意スルノ障碍ヲ為ササルモノトス 第千五百三十五条 本款ノ場合ニ於テ嫁資ニ設定セラレタル不動産ハ所有権ヲ移転ス可カラサルモノニ非ス 然レトモ其不動産ハ夫ノ承諾ナクシテ其所有権ヲ移転スルコトヲ得ス又夫ノ否拒ニ於テハ裁判所ノ許可ナクシテ其所有権ヲ移転スルコトヲ得ス 第二款 財産離分ノ約款 第千五百三十六条 若シ夫婦ノ其婚姻ノ契約ニ依リ財産ヲ離分ス可キ旨ヲ約権シタル時ハ婦ハ自己ノ動産及ヒ不動産ノ完全ノ管理ト自己ノ入額ノ自由ナル収益トヲ保存ス 第千五百三十七条 夫婦各自ハ其契約書ニ包含シタル合意ニ従ヒ結婚中ノ負任ヲ分担ス而シテ若シ此事ニ関シテ合意ノ存在セサル時ハ婦ハ自己ノ入額ノ三分一ニ充ツル迄右ノ負任ヲ分担ス 第千五百三十八条 如何ナル場合ニ於テモ又如何ナル約権ノ為メナリトモ婦ハ其夫ノ特別ノ承諾ナクシテ自己ノ不動産ノ所有権ヲ移転スルコトヲ得ス又夫ノ否拒ニ於テハ裁判所ノ許可ヲ受クルコトナクシテ自己ノ不動産ノ所有権ヲ移転スルコトヲ得ス 凡ソ婚姻ノ契約ニ依リ若クハ其後ニ婦ニ其不動産ノ所有権ヲ移転スルノ一般ノ許可ヲ附与シタルト雖トモ其許可ハ無効ノモノタリ 第千五百三十九条 若シ離分シタル婦ノ其自己ノ財産ノ収益ヲ夫ニ委付シタル時ハ夫ハ其婦ヨリ受クルコトアル可キ訟求ノ上若クハ婚姻ノ解分ニ至リ現ニ存在スル果実ヲ差出スコトノミヲ担任ス可ク而シテ夫ハ当時ニ至ル迄消耗シタル果実ヲ計算スルニ及ハス 第三章 嫁資ノ制 第千五百四十条 嫁資トハ此制ニ於テモ第二章ノ制ニ於ケルカ如ク婚姻中ノ負任ヲ負担スル為メ婦ノ其夫ニ持参スル所ノ財産ヲ云フ 第千五百四十一条 凡ソ婦ノ己レニ設定スル諸件又ハ婚姻ノ契約ニ依リ婦ニ贈与セラレタル諸件ハ嫁資タルモノトス但シ之ニ反シタル約権アル時ハ格別ナリトス 第一節 嫁資ノ設定 第千五百四十二条 嫁資ノ設定ハ婦ノ現在及ヒ将来ノ財産ノ全部又ハ其現在ノ財産ノミノ全部又ハ其現在及ヒ将来ノ財産ノ一部又ハ然ノミナラス一箇ノ物品ニ及ホスコトヲ得可シ 汎博ノ語ヲ以テスル婦ノ財産全部ノ設定ハ将来ノ財産ヲ包含セス 第千五百四十三条 嫁資ハ結婚中ニ之ヲ設定スルコトヲ得ス又然ノミナラス之ヲ増加スルコトヲ得ス 第千五百四十四条 若シ父母ノ其各自ノ分ケ前ヲ区別スルコトナク合同シテ嫁資ヲ設定シタル時ハ其嫁資ハ平等ノ部分ヲ以テ設定シタルモノト看做ス可シ 若シ父母ノ権利ノ為メ父一人ノミヨリ嫁資ヲ設定シタル時ハ母ハ仮令其契約ニ立会ヒタルト雖モ結束セラルルコトナクシテ其嫁資ハ全ク父ノ負任タル可シ 第千五百四十五条 若シ父母中ノ生残ル者ニ於テ其部分ヲ定ムルコトナク父母ノ財産ニ付キ嫁資ヲ設定シタル時ハ其嫁資ハ既ニ死去セシ配偶者ノ財産中ニ於ケル将来ノ夫婦中一方ノ権利ニ付キ先ツ之ヲ収取シ而シテ其余分ヲ設定者ノ財産ニ付キ収取ス可シ 第千五百四十六条 父母ヨリ嫁資ヲ与ヘラレタル女カ仮令其父母ニ於テ収益スル自己ノ専有ノ財産ヲ有スル時ト雖モ其嫁資ハ設定者ノ財産ニ付キ之ヲ収取ス可シ但シ之ニ反シタル約権アル時ハ格別ナリトス 第千五百四十七条 嫁資ヲ設定シタル者ハ其設定シタル物品ノ担保ヲ担任スルモノトス 第千五百四十八条 仮令弁済ノ為メノ期限ヲ定メタル時ト雖モ其嫁資ノ利息ハ之ヲ約務シタル者ニ対シテ其結婚ノ日ヨリ当然発生スルモノトス但シ之ニ反シタル約権アル時ハ格別ナリトス 第二節 嫁資ノ財産ニ付テノ夫ノ権利及ヒ嫁資ノ不動産ノ所有権ヲ移転ス可カラサル事 第千五百四十九条 夫ハ結婚中一人ニテ嫁資ノ財産ノ管理ヲ有スルモノトス 夫ハ一人ニテ嫁資財産ノ負債者及保有者ニ対シテ訴ヲ為シ、其果実及ヒ利息ヲ収取シ並ニ其元金ノ償還ヲ収受スルノ権利アリ 然レトモ婚姻ノ契約ニ依リ婦ハ毎年自己ノ受取証書ノミヲ以テ己レノ保育及ヒ己レノ一身上ノ需要ノ為メ其入額ノ一部分ヲ収受ス可キ旨ヲ合意スルコトヲ得可シ 第千五百五十条 夫ハ嫁資ノ収受ノ為メ保証人ヲ立ツルニ及ハス但シ婚姻ノ契約ニ依リ保証人ヲ立ツルコトニ服従セシメラレタル時ハ格別ナリトス 第千五百五十一条 若シ契約書ニ其価ヲ記載シタル動産ヲ以テ嫁資ト為シ又ハ嫁資ノ一部分ト為シ而シテ其評価ヲ以テ売払ヲ為シタルモノトセサル旨ヲ申述スルコトナキ時ハ夫ハ之レカ所有者トナリ而シテ其動産ニ附与シタル代価ノミノ負債者タルモノトス 第千五百五十二条 嫁資ニ設定シタル不動産ニ附与シタル評価ハ夫ニ之レカ所有権ヲ転移セス但シ其転移ノ旨ヲ明カニ申述シタル時ハ格別ナリトス 第千五百五十三条 嫁資ノ金額ヲ以テ獲得シタル不動産ハ嫁資タルモノニ非ス但シ其益用ノ条件ヲ婚姻ノ契約ヲ以テ約権シタル時ハ格別ナリトス 金円ニ於テ設定シタル嫁資ノ弁済ニ於テ附与シタル不動産ニ付テモ亦右ニ同シ 第千五百五十四条 嫁資ニ設定シタル不動産ハ結婚中夫ニ於テモ又ハ婦ニ於テモ又ハ夫婦双方相合同スルモ其所有権ヲ移転シ又ハ書入質ト為スコトヲ得ス但シ以下ニ記スル所ノ例外ハ格別ナリトス 第千五百五十五条 婦ハ夫ノ許可ヲ受ケタル上又夫ノ否拒ニ於テハ裁判所ノ許可ヲ受ケタル上其前婚ノ子ノ定業ノ為メ自己ノ嫁資ノ財産ヲ贈与スルコトヲ得可シ然レトモ若シ婦ノ裁判所ノ許可ヲ受ケシノミナル時ハ婦ハ其収益ヲ夫ニ貯存セサルヲ得ス 第千五百五十六条 婦ハ亦夫ノ許可ヲ受ケタル上ニテ其共通ノ子ノ定業ノ為メ自己ノ嫁資ノ財産ヲ贈与スルコトヲ得可シ 第千五百五十七条 嫁資ノ不動産ハ婚姻ノ契約ニ依リ其所有権移転ヲ許サレタル時ハ之レカ所有権ヲ移転スルコトヲ得可シ 第千五百五十八条 嫁資ノ不動産ハ左ノ場合ニ於テハ亦裁判所ノ許ヲ受ケタル上三次ノ貼附ノ後糶売ヲ以テ之レカ所有権ヲ移転スルコトヲ得可シ 夫又ハ婦ヲ獄舎ヨリ出テシムル為メ 婚姻ノ巻第二百三条第二百五条第二百六条ニ定メタル場合ニ於テ家族ニ養料ヲ給与スル為メ 婦ノ負債又ハ嫁資ヲ設定シタル者ノ負債ヲ弁済スル為メ但シ此等ノ負債カ婚姻ノ契約以前ノ正確ナル日附ヲ有スル時 嫁資ノ不動産ノ保存ノ為メニ缺ク可カラサル大修繕ヲ為ス為メ 其不動産ヲ第三ノ人ト不分ニテ共有シ而シテ之ヲ分派ス可カラスト認定セラレタル時 総テ此等ノ場合ニ於テハ認定セラレタル需要以上ノ其売払代金ノ余分ハ嫁資タルモノト為シ置キ而シテ斯クノ如キモノトシテ婦ノ利益ニ於テ其益用ヲ為ス可シ 第千五百五十九条 嫁資ノ不動産ハ婦ノ承諾ヲ得タル上ニテ少クトモ五分ノ四ニ付キ之ト同価額ノ他ノ不動産ニ対シテ交換スルコトヲ得可シ但シ其交換ノ有益ナルコトヲ証明シ且ツ裁判所ノ許可ヲ受ケ而シテ裁判所ヨリ職権ヲ以テ任シタル鑑定人ノ為セシ評価ニ従フコトヲ必要トス 此場合ニ於テハ交換ニ於テ収受シタル不動産ハ嫁資ノモノタル可ク又代金ノ余分アルニ於テハ其余分モ亦嫁資ノモノタル可ク而シテ其余分ハ斯クノ如キモノトシテ婦ノ利益ニ於テ其益用ヲ為ス可シ 第千五百六十条 前ニ説明シタル例外ノ場合ノ外若シ婦又ハ夫又ハ双方相合同シテ嫁資ノ不動産ノ所有権ヲ移転シタル時ハ婦又ハ其相続人ハ婚姻解分ノ後其所有権ノ移転ヲ廃止セシムルコトヲ得可ク而シテ其結婚中ハ婦又ハ其相続人ニ如何ナル期満効ヲ以テモ対抗スルコトヲ得ス但シ婦ハ財産離分ノ後モ之ト同一ノ権利ヲ有スルモノトス 夫自身モ亦結婚中右所有権ノ移転ヲ廃止セシムルコトヲ得可シ然レトモ其売リタル財産ノ嫁資ノモノタリシ旨ヲ契約ニ於テ申述セサル時ハ買主ニ対シテ損害ノ賠償ヲ負担ス可キモノトス 第千五百六十一条 婚姻ノ契約ニ依リ所有権ヲ移転スルヲ得可シト申述セラレサル嫁資ノ不動産ハ結婚中ハ期満効ヲ得可カラサルモノトス但シ期満効ノ其以前ヨリ始マリタル時ハ格別ナリトス 然レトモ其不動産ハ期満効ノ始マリタル時期ノ如何ヲ問ハス財産離分ノ後ハ期満効ヲ得可キモノトナル可シ 第千五百六十二条 夫ハ嫁資ノ財産ニ関シテハ使用収益者ノ総テノ義務ヲ担任ス可シ 夫ハ自己ノ懈怠ニ依リ獲得セラレタル総テノ期満効及ヒ発生セシメタル総テノ損壊ニ付キ其責ニ任ス可キモノトス 第千五百六十三条 若シ嫁資ノ危険ニ附セラレタル時ハ婦ヨリ第千四百四十三条以下ニ記シタル如ク財産ノ離分ヲ訴フルコトヲ得可シ 第三節 嫁資ノ返還 第千五百六十四条 若シ嫁資カ不動産ヨリ成ル時 又ハ婚姻ノ契約書ニ評価セサル動産又ハ評価ハ婦ニ其所有権ヲ失ハシメサル旨ノ申述ヲ以テ価ヲ記シタル動産ヨリ成ル時 此等ノ場合ニ於テハ夫又ハ其相続人ニ婚姻解分ノ後猶予ナク其嫁資ヲ返還スルヲ強ユルコトヲ得可シ 第千五百六十五条 若シ嫁資カ金額ヨリ成ル時 又ハ評価ハ夫ヲ所有者ト為ササル旨ノ申述ナクシテ契約書ニ其価ヲ記シタル動産ヨリ成ル時 此等ノ場合ニ於テハ解分ヨリ一年ノ後ニ非サレハ嫁資ノ返還ヲ要求スルコトヲ得ス 第千五百六十六条 若シ婦ニ於テ所有権ヲ保存シタル動産カ夫ノ過失ニ依ラス其使用ニ依テ損敗シタル時ハ夫ハ後ニ存スル所ノモノノミヲ其現在ノ景状ニ於テ返還ス可シ 然レトモ婦ハ如何ナル場合ニ於テモ自己ノ現在ノ使用ノ為メニ布類及ヒ衣服ヲ取戻スコトヲ得可シ但シ其布類及ヒ衣服ヲ原来評価シテ設定シタル時ハ其価額ヲ先算ス可キモノトス 第千五百六十七条 若シ嫁資中ニ債権又ハ年金収受権ノ設定ヲ包含シ而シテ其債権又ハ年金収受権設定カ夫ノ懈怠ニ依ルニ非スシテ消滅シ又ハ減削ヲ受ケタル時ハ夫ハ之ヲ負担セスシテ其契約書ヲ返還スルニ依リ責ヲ免カル可キモノトス 第千五百六十八条 若シ使用収益権ヲ嫁資ニ設定シタル時ハ夫又ハ其相続人ハ婚姻解分ノ時ニ至リ其使用収益ノ権利ヲ返還ス可キノ義務アルノミニシテ結婚中ニ収受ス可キモノトナリタル果実ハ之ヲ返還ス可キノ義務ナシ 第千五百六十九条 若シ嫁資ノ弁済ノ為メニ定メタル期限ノ終リシヨリ十年間婚姻ノ継続シタル時ハ婦又ハ其相続人ハ夫ノ其嫁資ヲ収受セシ旨ヲ証スルニ及ハスシテ婚姻解分ノ後夫ニ対シテ之ヲ取戻スコトヲ得可シ但シ夫ニ於テ其嫁資ノ弁済ヲ己レニ得ル為メニ無益ニ為シタル手続ヲ証明スル時ハ格別ナリトス 第千五百七十条 若シ婦ノ死去ニ依リ婚姻ノ解分シタル時ハ返還ス可キ嫁資ノ利息及ヒ果実ハ解分ノ日ヨリ婦ノ相続人ノ利益ニ於テ当然発生ス 若シ夫ノ死去ニ依リ婚姻ノ解分シタル時ハ婦ハ其喪ニ居ル一年間ノ嫁資ノ利息ヲ要求シ又ハ右ノ時間夫ノ遺留財産ノ費ニテ己レニ養料ヲ給与セシムルコト自由ナリトス然レトモ右二箇ノ場合ニ於テ其一年間ノ住居ト喪服トハ夫ノ遺留財産中ヨリ婦ニ之ヲ給与セサルヲ得ス而シテ婦ニ弁済ス可キ利息ニ充用ス可カラサルモノトス 第千五百七十一条 婚姻ノ解分ニ至リ嫁資ノ不動産ノ果実ヲ最後ノ一年間婚姻ノ継続シタル時間ニ比准シテ夫ト婦トノ間又ハ其相続人ノ間ニ分派ス可シ 其一年ハ婚姻ヲ行ヒシ日ヨリ始マルモノトス 第千五百七十二条 婦及ヒ其相続人ハ嫁資ノ取戻ノ為メ書入質ニ於テ自己ヨリ以前ノ債主ニ優レル先取特権ヲ有セサルモノトス 第千五百七十三条 若シ父ノ其女ニ嫁資ヲ設定シタル時夫ノ既ニ無資力ニシテ且ツ技芸ヲモ職業ヲモ有セサル時ハ女ハ其嫁資ノ償還ヲ己レニ得ンカ為メ其夫ノ遺留財産ニ対シテ有スル所ノ訴権ノミヲ父ノ遺留財産ニ返還ス可キモノトス 然レトモ若シ夫ノ結婚ノ後ニ無資力トナリタル時 又ハ己レノ為メ財産ニ代ハル可キ工技又ハ職業ヲ有シタル時 此等ノ場合ニ於テハ嫁資ノ損失ハ婦ノミニ帰スルモノトス 第四節 嫁資外ノ財産 第千五百七十四条 嫁資ニ設定シタルモノニ非サル婦ノ総テノ財産ハ嫁資外ノモノトス 第千五百七十五条 若シ婦ノ総テノ財産ノ嫁資外ノモノニシテ而シテ契約中ニ婦ニ結婚中ノ負任ノ一部分ヲ負担セシムル為メノ合意アラサル時ハ婦ハ自己ノ入額ノ三分一ニ充ツル迄其負任ヲ分担ス 第千五百七十六条 婦ハ其嫁資外ノ財産ノ管理及ヒ収益ヲ有ス 然レトモ婦ハ夫ノ許可ナク又夫ノ否拒ニ於テハ裁判所ノ許ナクシテ右財産ノ所有権ヲ移転スルコトヲ得ス又右財産ノ為メ裁判ニ現出スルコトヲ得ス 第千五百七十七条 若シ婦ヨリ夫ニ其嫁資外ノ財産ヲ管理スル為メノ委任ヲ与ヘ而シテ其果実ヲ己レニ計算セシムルノ負任ヲ定メタル時ハ夫ハ総テノ代理者ノ如クニ婦ニ対シテ責ニ任ス可キモノトス 第千五百七十八条 若シ夫カ代理委任ナク又然レトモ婦ヨリ故障ヲ受クルコトナク其婦ノ嫁資外ノ財産ヲ収益シタル時ハ夫ハ婚姻ノ解分ニ至リ又ハ婦ヨリ請求ヲ受ケ次第現ニ存在スル果実ヲ差出スコトノミヲ担任ス可ク而シテ夫ハ当時ニ至ル迄消耗シタル果実ヲ計算スルニ及ハス 第千五百七十九条 若シ夫カ婦ノ証明セラレタル故障ニ拘ハラス嫁資ノ財産ヲ収益シタル時ハ夫ハ現ニ存在スル果実ト消耗シタル果実トヲ総テ婦ニ対シテ計算ス可キモノトス 第千五百八十条 嫁資外ノ財産ヲ収益スル夫ハ使用収益者ノ総テノ義務ヲ担任スルモノトス 特別ノ成規 第千五百八十一条 夫婦ハ嫁資ノ制ニ服従スルト雖モ獲得物ノ会社ヲ約権スルコトヲ得可シ而シテ其会社ノ効ハ第千四百九十八条及ヒ第千四百九十九条ニ記シタル如ク之ヲ規定ス 第六巻 売買(千八百四年三月六日決定同月十六日宣令) 第一章 売買ノ性質及ヒ法式 第千五百八十二条 売買トハ一方ノ者ニ於テハ一箇ノ物ヲ引渡スノ義務ヲ己レニ負ヒ他ノ一方ノ者ニ於テハ之ヲ弁済スルノ義務ヲ己レニ負フ所ノ合意ヲ云フ 売買ハ公正ノ証書又ハ私シノ署名証書ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得可シ 第千五百八十三条 物ト代価トヲ合意シタル時ハ仮令未タ其物ヲ引渡サス又其代価ヲ弁済セスト雖トモ売買ハ双方ノ者ノ間ニ於テハ完全ニシテ所有権ハ売主ニ対シテ当然買主ニ獲得セラルルモノトス 第千五百八十四条 売買ハ単純ニ之ヲ為シ又ハ停止若クハ解除ノ未必条件ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得可シ 売買ハ亦二箇又ハ数箇ノ撰択ス可キ物ヲ以テ目的ト為スコトヲ得可シ 如何ナル場合ニ於テモ売買ノ効ハ合意ノ一般ノ原則ヲ以テ之ヲ規定ス 第千五百八十五条 消耗品ヲ一団ニシテ売ラス重量、数額又ハ度量ヲ以テ売リタル時ハ其売リタル物カ之ヲ秤権シ、算計シ、度量スルニ至ル迄ハ売主ノ危険ニ在ルノ義意ニ於テハ其売買ハ完全ナリトセス然レトモ買主ハ其引渡ヲ求メ又ハ約務不執行ノ場合ニ於テ損害アル時ハ其損害ノ賠償ヲ求ムルコトヲ得可シ 第千五百八十六条 若シ之ニ反シテ消耗品ヲ一団ニシテ売リタル時ハ仮令未タ其消耗品ヲ秤権シ算、計シ又ハ度量セスト雖トモ其売買ハ完全ナリトス 第千五百八十七条 酒、油及ヒ其他ノ物ニシテ其買入ヲ為ス前ニ試嘗スルノ習慣アルモノニ関シテハ買主ノ之ヲ試嘗シテ承認セサル間ハ売買ナシトス 第千五百八十八条 試験ヲ以テ為ス所ノ売買ハ常ニ必ス停止ノ未必条件ヲ以テ為シタルモノト思量ス可シ 第千五百八十九条 双方ノ者ニ於テ物ト代価トニ付キ相互ノ承諾アル時ハ売買ノ約束ヲ以テ売買ニ等シキ効力アリトス 第千五百九十条 若シ手附ヲ以テ売買スルノ約束ヲ為シタル時ハ契約者各自ハ左ノ如クニシテ之ヲ棄止スルコトヲ得可キモノトス 手附ヲ与ヘタル者ハ之ヲ損失スル事 手附ヲ収受シタル者ハ其倍額ヲ返還スル事 第千五百九十一条 売買ノ代価ハ双方ノ者ニ於テ之ヲ定メ及ヒ指示ササル可カラス 第千五百九十二条 然レトモ其代価ハ第三ノ人ノ裁断ニ任カスコトヲ得可シ但シ第三ノ人ニ於テ其評価ヲ為スコトヲ欲セス又ハ之ヲ為スコト能ハサル時ハ売買ナシトス 第千五百九十三条 証書ノ費用及ヒ其他売買ニ附属スル費用ハ買主ノ負任タリ 第二章 買フコト又ハ売ルコトヲ得ル人 第千五百九十四条 凡ソ法律ニ於テ売買ヲ禁止セサル所ノ各人ハ買フコト又ハ売ルコトヲ得可シ 第千五百九十五条 売買ノ契約ハ左ノ三箇ノ場合ニ非サレハ夫婦ノ間ニ為スコトヲ得ス 第一 夫婦中一方ノ者カ己レト裁判上ニテ離分シタル他ノ一方ノ者ニ其権利ノ弁済ニ於テ財産ヲ譲渡ス場合 第二 夫ヨリ己レト離分セサルモノト雖トモ其婦ニ為ス所ノ譲渡カ其婦ノ所有権ヲ移転シタル不動産又ハ其婦ニ属スル金額ノ再用ノ如キ正当ノ原由ヲ有スル場合但シ其不動産又ハ金額カ共通財産中ニ加ハラサル時ニ限ル 第三 財産共通ノ除斥アル時婦ヨリ其夫ニ嫁資トシテ約束シタル金額ノ弁済ニ於テ婦ヨリ其夫ニ財産ヲ譲渡ス場合 但シ右三箇ノ場合ニ於テ若シ間接ノ得益アル時ハ契約者ノ相続人ノ権利ヲ害ス可カラサルモノトス 第千五百九十六条 左ノ各人ハ己レ自身ニテモ又ハ介入者ヲ以テスルモ左ノ財産ノ落札買入人トナルコトヲ得ス若シ之ヲ買入レタル時ハ其買入ハ無効ナリトス 後見人ハ其後見ヲ為ス者ノ財産 代理者ハ其売ルコトヲ委任セラレタル財産 管理人ハ自己ノ管照ニ委託セラレタル邑又ハ公同設立場ノ財産 公ケノ役員ハ自己ノ紹介ヲ以テ其売払ヲ為ス国ノ財産 第千五百九十七条 裁判官、其補官、検察官ノ職務ヲ行フ官吏、裁判所書記、使吏、代書人、好為弁護人及ヒ公証人ハ其職務ヲ執行スル地ヲ管轄スル裁判所ノ所轄タル訴訟又ハ争訟アル権利及ヒ訴権ノ譲受人トナルコトヲ得ス若シ之ヲ譲受ケタル時ハ其譲受ハ無効タル可ク且ツ費額及ヒ損害ノ賠償ヲ担任ス可シ 第三章 売ルコトヲ得可キ物 第千五百九十八条 凡ソ各人ノ所分内ニ在ル所ノモノハ特別ノ法律ニ其所有権ノ移転ヲ禁セサル時ハ之ヲ売ルコトヲ得可シ 第千五百九十九条 他人ノ物ノ売払ハ無効タリ但シ他人ノ物ノ売払ハ買主カ其物ノ他人ニ属スルコトヲ知ラサル時ハ損害賠償ヲ生セシムルコトヲ得可シ 第千六百条 生存スル人ノ財産相続ハ仮令其人ノ承諾アリト雖トモ之ヲ売ルコトヲ得ス 第千六百一条 若シ売払ノ時ニ当リ其売リタル物ノ全ク滅尽セシ時ハ其売払ハ無効タル可シ 若シ其物ノ一部分ノミノ滅尽セシ時ハ獲得者ニ於テ其売買ヲ放棄シ又ハ全部ニ比較シタル価ノ見積ニ依リ代価ヲ定メシメテ其保存セラレタル部分ヲ求ムルコト自由ナリトス 第四章 売主ノ義務 第一節 総則 第千六百二条 売主ハ其己レニ義務ヲ負フ所ノモノヲ明カニ説明ス可キモノトス 総テ不分明又ハ義意ノ瞹昧ナル合意ハ売主ノ損失トナル様之ヲ解釈ス 第千六百三条 売主ニ重要ノ義務二箇アリ其売リタル物ヲ引渡スノ義務及ヒ之ヲ担保スルノ義務是レナリ 第二節 引渡 第千六百四条 引渡トハ売リタル物ヲ買主ノ威権及ヒ占有ニ移ス事ヲ云フ 第千六百五条 不動産ヲ引渡スノ義務ハ建造物ニ関シテハ売主ヨリ其鑰ヲ渡シタル時又ハ売主ヨリ所有権ノ証券ヲ渡シタル時ハ売主ノ方ニ於テ之ヲ履行シタルモノトス 第千六百六条 動産ノ引渡ハ左ノ方法ニ依テ成ルモノトス 現実ノ引渡ニ依リ 又ハ其動産ヲ入レタル建造物ノ鑰ヲ渡ス事ニ依リ 又ハ売買ノ時ニ当リテ其動産ノ運送ヲ為スコトヲ得ス又ハ買主カ他ノ名義ヲ以テ既ニ其動産ヲ自己ノ権力内ニ有シタル時ハ双方ノ者ノ承諾ノミニ依リ 第千六百七条 無形ナル権利ノ引渡ハ証券ヲ渡スコトニ依リ又ハ獲得者カ売主ノ承諾ヲ以テ為シタル其権利ノ使用ニ依リ之ヲ為スモノトス 第千六百八条 引渡ノ費用ハ売主ノ負任タリ又移送ノ費用ハ買主ノ負任タリ但シ之ニ反シタル約権アル時ハ格別ナリトス 第千六百九条 引渡ハ売買ノ時ニ当リ其目的タル物ノ在リタル場所ニ於テ之ヲ為ササルヲ得ス但シ之ニ異ナリタル合意アル時ハ格別ナリトス 第千六百十条 若シ売主カ双方ノ者ノ間ニ合意シタル時期ニ於テ引渡ヲ為スコトヲ缺キ而シテ其遅延カ売主ノ所為ノミヨリ生シタル時ハ獲得者ハ自己ノ撰択ニ従ヒ売買ノ解除ヲ求メ又ハ其占有ヲ得ント求ムルコトヲ得可シ 第千六百十一条 如何ナル場合ニ於テモ合意セラレタル期限ニ於テ引渡ノアラサルニ依リ獲得者ノ為メニ損害ヲ生シタル時ハ売主ニ其損害ノ賠償ヲ言渡ササルヲ得ス 第千六百十二条 買主ノ其物ノ代金ヲ弁済セス且ツ売主ヨリ其弁済ノ為メノ猶予ヲ買主ニ附与セサル時ハ売主其物ヲ引渡スコトヲ担任セス 第千六百十三条 売主ヨリ其弁済ノ為メノ猶予ヲ附与シタル時ト雖モ若シ其売買ノ後ニ買主ノ家資分散ヲ為シ又ハ破産ノ景状トナリテ売主ノ其代金ヲ損失ス可キ差迫リタル危難ニ在ルニ於テハ売主ハ亦引渡ノ義務ヲ負ハス但シ買主ヨリ期限ニ至リテ弁済スル為メノ保証人ヲ売主ニ対シテ立テタル時ハ格別ナリトス 第千六百十四条 物ハ売買ノ時ニ於ケル其現在ノ景状ニ於テ之ヲ引渡ササルヲ得ス 其日ヨリ後ハ総テノ果実ハ獲得者ニ属スルモノトス 第千六百十五条 物ヲ引渡スノ義務ハ其物ノ附属物及ヒ其物ノ永久ノ使用ニ供セラレタル諸件ヲ包含ス 第千六百十六条 売主ハ契約ニ載セタル如キ面積ヲ引渡スコトヲ担任スルモノトス但シ以下ニ明示スル所ノ改様ニ従ハサルヲ得ス 第千六百十七条 若シ若干ノ度量ニ付キ価幾許タルノ割合ヲ以テ面積ヲ指示シテ不動産ノ売買ヲ為シタル時ハ売主ハ若シ獲得者ヨリ要求スル時ハ其契約ニ指示シタル分量ヲ獲得者ニ引渡ス可キノ義務アリトス 若シ売主ノ其事ヲ為ス能ハス又ハ獲得者ノ之ヲ要求セサル時ハ売主ハ之ニ比准シタル代価ノ減少ヲ受ク可キノ義務アリトス 第千六百十八条 若シ之ニ反シテ前条ノ場合ニ於テ契約ニ明示シタルモノヨリ更ニ大ナル面積アル時其過分カ申述セラレタル面積以上二十分一タルニ於テハ獲得者ハ其代価ノ追補ヲ供給シ又ハ契約ヲ取消スコト自由ナリトス 第千六百十九条 総テ其他ノ場合ニ於テハ 特定シテ制限アル物体ノ売買ヲ為シタルト 異別ニシテ離分セラレタル不動産ヲ以テ売買ノ目的ト為シタルト 度量ヲ以テ売買ヲ始メ又ハ売買シタル物品ノ指定ヲ以テ売買ヲ始メ然ル後ニ度量ヲ為シタルトヲ問ハス 其度量ノ明示ハ現実ノ度量ト契約ニ明示シタル度量トノ差異カ其売買シタル物品全部ノ価額ニ釣合ハセテ其多キコト又ハ少キコトノ二十分一タル時ニ非サレハ度量ノ過分ノ為メ売主ノ利益ニ於テ毫モ代価ノ追補ヲ生セシム可カラス又度量ノ不足ノ為メ獲得者ノ利益ニ於テ毫モ代価ノ減少ヲ生セシム可カラス但シ之ニ反シタル約権アル時ハ格別ナリトス 第千六百二十条 前条ニ従ヒ度量ノ過分ノ為メニ代価ノ増加ヲ為ス可キ場合ニ於テハ獲得者ハ其契約ヲ取消シ又ハ代価ノ追補ヲ供給スルコト自由ナリトス而シテ獲得者ノ不動産ヲ保チタル時ハ其代価ノ追補ヲ供給スルニ付キ之レカ利息ヲ加フ可キモノトス 第千六百二十一条 獲得者カ契約ヲ取消スノ権利ヲ有スル総テノ場合ニ於テハ売主ハ既ニ其代金ヲ収受シタル時ハ其代金ノ外右契約ノ費用ヲ獲得者ニ返還ス可キモノトス 第千六百二十二条 売主ノ方ニ於ケル代価追補ノ訴及ヒ獲得者ノ方ニ於ケル代価減少ノ訴又ハ契約取消ノ訴ハ契約ノ日ヨリ起算シテ一年内ニ之ヲ起ササルヲ得ス若シ然ラサレハ其訴ヲ為スノ権利ヲ失フ可シ 第千六百二十三条 若シ同一ノ契約ニ依リ一箇同一ノ代価ヲ以テ二箇ノ不動産ヲ売リ其各箇ノ度量ヲ指示シタル時其中一箇ノ面積ハ少ナク他ノ一箇ノ面積ハ多キニ於テハ其相当レル額ニ充ツル迄相殺ヲ為シ而シテ代価追補ノ訴若クハ代価減少ノ訴ハ前ニ定メタル規則ニ従フニ非サレハ之ヲ為ス可カラサルモノトス 第千六百二十四条 引渡以前ニ於ケル其売リタル物ノ滅尽又ハ損壊ハ売主又ハ獲得者中何レノ負担セサル可カラサルモノト為ス可キヤノ問題ハ契約即チ一般ニ合意上ノ義務ノ巻ニ定メタル規則ニ従ヒ之ヲ裁定ス可シ 第三節 担保 第千六百二十五条 売主ヨリ獲得者ニ対シテ負担スル所ノ担保ニハ二箇ノ目的アリテ其第一ハ売リタル物ノ静安ナル占有其第二ハ其物ノ隠レタル瑕疵即チ売買ヲ解除スルヲ得セシムル瑕瑾是レナリ 第一款 褫奪ノ場合ニ於ケル担保 第千六百二十六条 仮令売買ノ時ニ於テ担保ノ事ニ付キ毫モ約権ヲ為ササリシ時ト雖モ売主ハ獲得者カ其買ヒタル物品ノ全部又ハ一部ニ於テ受クル所ノ褫奪又ハ其物品ニ付キ称言セラレタルモノニシテ売買ノ時ニ申述セサリシ負任ニ付キ当然獲得者ニ担保スルノ義務アリトス 第千六百二十七条 双方ノ者ハ別段ノ合意ヲ以テ其当然ノ義務ヲ増加シ又ハ其効ヲ減少スルコトヲ得可ク又然ノミナラス双方ノ者ハ売主ノ毫モ担保ニ服従セサル旨ヲ合意スルコトヲ得可シ 第千六百二十八条 仮令売主ノ毫モ担保ニ服従セサル旨ヲ定メタル時ト雖モ売主ハ自己ノ一身上ノ所為ヨリ生スル所ノ担保ヲ担任ス可シ但シ之ニ反シタル総テノ合意ハ無効ノモノタリ 第千六百二十九条 右ニ同シキ無担保ノ約権ノ場合ニ於テ売主ハ褫奪ノ場合ニ於テハ代金ノ返還ヲ担任スルモノトス但シ獲得者カ其売買ノ時ニ当リ褫奪ノ危難ヲ知リ又ハ獲得者カ自己ノ危険及ヒ危害ニテ買入レタル時ハ格別ナリトス 第千六百三十条 若シ担保ヲ約務シタル時又ハ此事項ニ付キ何事ヲモ約権セサル時若シ獲得者ノ褫奪セラルルニ於テハ獲得者ハ売主ニ対シテ左ノ諸件ヲ訟求スルノ権利アリトス 第一 代金ノ返還 第二 褫奪スル所ノ所有者ニ果実ヲ返スコトヲ強ラレタル時ハ果実ノ返還 第三 買主ノ担保ニ於ケル訟求ニ付キ為シタル費用及ヒ原始ノ原告人ノ為シタル費用 第四 損害ノ賠償並ニ契約ノ費用及ヒ其正当ノ入費 第千六百三十一条 若シ褫奪ノ時ニ当リ其売リタル物カ買主ノ懈怠ニ依リ若クハ抗拒ス可カラサル力アル偶然ノ事故ニ依リ価額ノ減少シ又ハ著ルク損壊シタル時ハ売主ハ矢張代金ノ全額ヲ返還ス可キモノトス 第千六百三十二条 然レトモ若シ獲得者カ己レノ為シタル毀害ニ依テ利益ヲ得タル時ハ売主ハ代金中ニテ其利益ニ等シキ金額ヲ引留ムルノ権利アリ 第千六百三十三条 若シ売リタル物カ獲得者ノ所為ニ拘ハラサルモ其褫奪ノ時期ニ於テ代価ノ増加シタル時ハ売主ハ其売買代価以上ノ価額ヲ獲得者ニ弁済ス可キモノトス 第千六百三十四条 売主ハ獲得者ノ其売リタル物ニ為シタル総テ有益ノ修繕又ハ改良ヲ自カラ其獲得者ニ償還シ又ハ褫奪スル所ノ者ヲシテ獲得者ニ償還セシム可キモノトス 第千六百三十五条 若シ売主ノ悪意ニテ他人ノ物ヲ売リタル時ハ獲得者ノ其物ニ為シタル総テノ費額ヲ仮令奢侈又ハ歓娯ノモノト雖モ其獲得者ニ償還スルノ義務アリ 第千六百三十六条 若シ獲得者ノ其物ノ一部分ノミヲ褫奪セラレ而シテ其一部分ハ之ヲ全部ニ対比スルニ頗ル緊要ノモノニシテ獲得者カ其褫奪セラレタル一部分ナカリセハ買入レサル可キニ於テハ獲得者其売買ヲ取消サシムルコトヲ得可シ 第千六百三十七条 若シ売リタル物ノ一部分ノ褫奪ノ場合ニ於テ其売買ヲ取消サザル時ハ其売リタル物ノ価額ノ増加シタルト減少シタルトヲ問ハス獲得者ノ褫奪セラレタル一部分ノ価額ヲ其褫奪ノ時期ニ於ケル評価ニ従ヒ獲得者ニ償還ス可ク売買ノ全価ニ比准シテ之ヲ獲得者ニ償還ス可カラス 第千六百三十八条 若シ売リタル不動産ノ不外見ノ地役ヲ負ヒタルニ其地役アル旨ノ申述ヲ為スコトナク而シテ其地役ノ頗ル重要ニシテ若シ獲得者ノ之ヲ知リシナラハ買入レサル可シト思量スルヲ得可キニ於テハ獲得者其契約ノ取消ヲ求ムルコトヲ得可シ但シ其獲得者ノ賠償ヲ以テ満足スルヲ欲スル時ハ格別ナリトス 第千六百三十九条 売買ノ不執行ヨリ獲得者ノ為メニ生シタル損害ノ賠償ニ付キ発生スルヲ得可キ其他ノ問題ハ契約即チ一般ニ合意上ノ義務ノ巻ニ定メタル一般ノ規則ニ従ヒ之ヲ決定セサルヲ得ス 第千六百四十条 獲得者ノ其売主ヲ招喚セスシテ終審ノ裁判ニ依テ敗訴トナリ又ハ最早控訴ヲ許サレサル裁判ニ依テ敗訴ナリタル時若シ売主ニ於テ其訟求ヲ棄却セシムルニ充分ナル憑拠ノ存在セシ旨ヲ証スルニ於テハ褫奪ノ原由ニ依レル担保ハ止息スルモノトス 第二款 売リタル物ノ瑕疵ノ担保 第千六百四十一条 売主ハ其売リタル物ヲ供スル所ノ使用ニ不適当ナラシムル其物ノ隠レタル瑕疵又ハ頗ル其物ノ使用ヲ減少スルカ為メ若シ買主ノ之ヲ知リシナラハ其物ヲ獲得セス又ハ更ニ少ナキ代金ナラテハ附与セサル可キ所ノ其物ノ隠レタル瑕疵ノ為メニ担保ヲ担任ス可シ 第千六百四十二条 売主ハ外見ノモノニシテ買主ノ己レ自カラ覚知スルコトヲ得可キ瑕瑾ヲ担任セス 第千六百四十三条 売主ハ己レ自カラ隠レタル瑕瑾ヲ知ラサル時ト雖モ其瑕瑾ヲ担任ス可シ但シ此場合ニ於テ売主ニ毫モ担保ノ義務ナカル可キ旨ヲ約権シタル時ハ格別ナリトス 第千六百四十四条 第千六百四十一条及ヒ第千六百四十三条ノ場合ニ於テ買主ハ其物ヲ返シテ之レカ代金ヲ己レニ返還セシメ又ハ其物ヲ保チテ鑑定人ノ裁断シタル如キ其代金ノ一部分ヲ己レニ返サシムルコト自由ナリトス 第千六百四十五条 若シ売主カ其物ノ瑕瑾ヲ知リタルニ於テハ其収受シタル代金ノ返還ノ外買主ニ対シ総テ損害賠償ヲ担任ス可シ 第千六百四十六条 若シ売主カ其物ノ瑕瑾ヲ知ラサルニ於テハ代金ノ返還及ヒ売買ニ依リ惹起シタル費用ヲ獲得者ニ償還スル事ノミヲ担任ス可シ 第千六百四十七条 若シ瑕瑾アル物カ其品質ノ悪シキニ依リ滅尽シタル時ハ其損失ハ売主ニ在リトス但シ売主ハ買主ニ対シテ代金ノ返還及ヒ前二条ニ説明シタル其他ノ損害賠償ヲ担任ス可シ 然レトモ意外ノ事故ニ依リ生シタル損失ハ買主ノ計算タル可シ 第千六百四十八条 売買ヲ解除スルヲ得セシムル瑕瑾ヨリ生スル所ノ訴ハ其瑕瑾ノ性質ト其売買ヲ為シタル土地ノ習慣トニ従ヒ短キ期限内ニ獲得者ヨリ之ヲ起ササルヲ得ス 第千六百四十九条 其訴ハ裁判所ノ威力ニ依リ為シタル売買ニ於テハ之ヲ為ス可カラス 第五章 買主ノ義務 第千六百五十条 買主ノ主タル義務ハ其売買ニ依リ規定シタル日ト場所トニ於テ代金ヲ弁済スルニ在リトス 第千六百五十一条 若シ売買ノ時ニ当リ右ニ関シテ何事ヲモ規定セサリシ時ハ買主ハ其引渡ヲ為ササル可カラサル場所ト時トニ於テ弁済セサルヲ得ス 第千六百五十二条 買主ハ左ニ記スル三箇ノ場合ニ於テハ元金ノ弁済ニ至ル迄其売買代金ノ利息ヲ負担ス可シ 売買ノ時ニ於テ右ノ如クニ合意シタル時 其売リテ引渡シタル物ヨリ果実又ハ其他ノ入額ヲ生スル時 買主ノ其弁済ヲ為スコトヲ催促セラレタル時 右最後ノ場合ニ於テハ催促以後ナラテハ利息ヲ生セサルモノトス 第千六百五十三条 若シ買主カ書入質ノ訴ニ依リ若クハ所有権取戻ノ訴ニ依リ妨害セラレ又ハ妨害セラルルヲ恐ル可キ正当ノ事由アル時ハ売主ノ其妨害ヲ止息セシムルニ至ル迄買主ハ其代金ノ弁済ヲ停止スルコトヲ得可シ但シ売主カ保証人ヲ立ツルコトヲ欲シ又ハ妨害ニ拘ハラス買主ノ弁済ス可キ旨ヲ約権シタル時ハ格別ナリトス 第千六百五十四条 若シ買主ノ代金ヲ弁済セサル時ハ売主ハ其売買ノ解除ヲ求ムルコトヲ得可シ 第千六百五十五条 不動産ノ売主若シ其物ト代金トヲ失フノ危難アル時ハ其不動産売買ノ解除ヲ直チニ宣告ス可シ 若シ其危難ノ存在セサル時ハ裁判官其景況ニ従ヒ多少長キ猶予ヲ獲得者ニ附与スルコトヲ得可シ 獲得者ノ弁済スルコトナクシテ其猶予ヲ経過セシメタル時ハ売買ノ解除ヲ宣告ス可シ 第千六百五十六条 若シ合意シタル期限ニ於テ代金ヲ弁済セサル時ハ当然其売買ヲ解除ス可キ旨ヲ不動産売買ノ時ニ当リ約権シタル時ト雖トモ獲得者ハ催促状ニ依リ遅滞ニ附セラレサル間ハ其期限ノ経過セシ後ニ至リ弁済スルコトヲ得可シ然レトモ其催促状ノ後ニ至リテハ裁判官ヨリ獲得者ニ猶予ヲ附与スルコトヲ得ス 第千六百五十七条 飲食品及ヒ動産ノ売買ノ事項ニ於テハ其引取ノ為メニ合意シタル期限ノ経過セシ後当然且ツ催促状ナクシテ売主ノ利益ニ於テ売買ノ解除ヲ為ス可シ 第六章 売買ノ無効及ヒ解除 第千六百五十八条 既ニ本巻ニ説明シタル無効又ハ解除ノ原由及ヒ総テノ合意ニ共通ノモノタル無効又ハ解除ノ原由ニ拘ハラス売買ノ契約ハ買戻ノ権能ノ執行ニ依リ及ヒ代価ノ過廉ナル事ニ依リ之ヲ解除スルコトヲ得可シ 第一節 買戻ノ権能 第千六百五十九条 買戻即チ買還ノ権能トハ売主其主タル代金ノ返還ト第千六百七十三条ニ記シタル償還トニ依リ其売リタル物ヲ取戻スコトヲ己レニ貯存スル所ノ合意ヲ云フ 第千六百六十条 買戻ノ権能ハ五年ニ過クル期限ヲ以テ之ヲ約権スルコトヲ得ス 若シ其権能ヲ五年ヨリ長キ期限ヲ以テ約権シタル時ハ其期限ニ之ヲ短縮ス可シ 第千六百六十一条 其定メタル期限ハ厳重ノモノニシテ裁判官ヨリ之ヲ延ハスコトヲ得ス 第千六百六十二条 売主ノ其定メタル期限内ニ買還ノ訴権ヲ執行セサル時ハ獲得者ハ廃止ス可カラサル所有者タル可シ 第千六百六十三条 其期限ハ凡ソ各人ニ対シテ経過シ仮令幼者ニ対スルト雖モ亦経過スルモノトス但シ別段ノ道理アル時ハ其当然ノ者ニ対シテ償還ノ訟求ヲ為スコトヲ得可シ 第千六百六十四条 買戻ノ合意ニ於ケル売主ハ第二ノ獲得者ニ対シテ自己ノ訴権ヲ執行スルコトヲ得可シ但シ其第二ノ契約ニ買還ノ権能ヲ申述セサル時ト雖モ亦之ニ同シ 第千六百六十五条 買戻ノ合意ニ於ケル獲得者ハ自己ノ売主ノ総テノ権利ヲ執行シ而シテ其真正ノ所有主ト其売リタル物ニ付キ権利又ハ書入質ヲ称言スル所ノ者トニ対シテ期満効ヲ得ルコトヲ得可シ 第千六百六十六条 其獲得者ハ自己ノ売主ノ債主ニ索討ノ利益ヲ以テ対抗スルコトヲ得可シ 第千六百六十七条 若シ不動産ノ不分共通ノ一部分ノ買還ノ合意ニ於ケル獲得者カ己レニ対シテ求メラレタル不分物糶売ノ上ニテ其全部ノ落札買入人トナリタル時ハ其獲得者ハ若シ其売主ニ於テ右ノ合意ヲ用ヒント欲スルニ於テハ全部ヲ引取ルコトヲ売主ニ強ユルヲ得可シ 第千六百六十八条 若シ数人カ其互ニ共有スル不動産ヲ相合同シテ唯一箇ノ契約ヲ以テ売リタル時ハ其各人ハ其不動産ニ付キ自己ノ有セシ分ケ前ノ為メナラテハ買還ノ訴権ヲ執行スルコトヲ得ス 第千六百六十九条 唯一人ニテ不動産ヲ売リタル者カ相続人数名ヲ遺留シタル時ハ亦右ニ同シ 其共同相続人ノ各自ハ自己ノ其遺留財産中ニ於テ収取スル所ノ分ケ前ノ為メナラテハ買戻ノ権能ヲ用フルコトヲ得ス 第千六百七十条 然レトモ前二条ノ場合ニ於テ獲得者ハ共同売主ノ全員又ハ共同相続人ノ全員ヲシテ其不動産全部ノ取戻ニ付キ互ニ相協議セシムル為メ其共同売主ノ全員又ハ共同相続人ノ全員ヲ訴訟ニ参セシムルコトヲ要求スルヲ得可シ而シテ若シ其共同売主又ハ共同相続人ノ相協議セサル時ハ獲得者ハ其訟求ヲ免脱セラル可シ 第千六百七十一条 若シ数人ニ属スル不動産ノ売買カ相合同シ且ツ其不動産ノ全部ニ付キ為サレタルニ非スシテ各人カ其不動産ニ付キ有セシ分ケ前ノミヲ売リタル時ハ其数人ハ己レニ属セシ部分ニ付キ別々ニ買還ノ訴権ヲ執行スルコトヲ得可シ 而シテ又獲得者ハ右ノ方法ヲ以テ買還ノ訴権ヲ執行スル者ニ全部ヲ引取ルコトヲ強ユルヲ得ス 第千六百七十二条 若シ獲得者ノ相続人数名ヲ遺留シタル時其各人ノ分ケ前ノ猶不分ノモノタル場合ト其売リタル物ヲ右数名ノ間ニ分派シタル場合トニ於テハ其各自ノ分ケ前ノ為メナラテハ其各人ニ対シテ買還ノ訴権ヲ執行スルコトヲ得ス 然レトモ若シ遺産ノ分派ヲ為シテ其売リタル物カ相続人中一人ノ区分財産中ニ入リタル時ハ買還ノ訴ヲ全部ニ付キ其一人ニ対シテ起スコトヲ得可シ 第千六百七十三条 買戻ノ合意ヲ用フル所ノ売主ハ主タル代金ノミナラス其売買ノ費用及ヒ正当ノ入費、已ムヲ得サル修繕及ヒ不動産ノ価額ヲ増加セシメタル修繕ニ付テハ其増加ノ額ニ充ツル迄ヲ償還セサルヲ得ス○其売主ハ総テ此等ノ義務ヲ満足セシメタル後ニ非サレハ占有ニ入ルコトヲ得ス 売主カ買戻ノ合意ノ効ニ依リ其不動産ヲ取戻ス時ハ獲得者ノ之ニ負ハシメタル総テノ負任及ヒ書入質ヲ免カレテ之ヲ取戻スモノトス但シ其売主ハ獲得者ノ詐害ナク為シタル賃貸ヲ執行ス可シ 第二節 損失ノ原由ニ依レル売買ノ廃棄 第千六百七十四条 若シ売主カ不動産ノ代価ニ於テ十二分ノ七以上損失ヲ受ケタル時ハ仮令其契約ニ於テ売買ノ廃棄ヲ訟求スルノ権能ヲ明カニ放棄シ且ツ其剰余ノ価額ヲ贈与スル旨ヲ申述シタル時ト雖モ売主其売買ノ廃棄ヲ訟求スルノ権利アリ 第千六百七十五条 十二分ノ七以上ノ損失アリタルヤヲ知ル為メニハ不動産ヲ売買ノ時ニ於ケル其景状ト其価額トニ従ヒ評価スルコトヲ必要トス 第千六百七十六条 其訟求ハ売買ノ日ヨリ起算シテ二年ヲ経過セシ後ニ於テハ最早受理ス可カラサルモノトス 其期限ハ結婚シタル婦ニ対シ及ヒ失踪者、治産禁ヲ受ケタル者並ニ売主タル成年者ノ権利ニ依レル幼者ニ対シテ経過スルモノトス 其期限ハ買戻ノ合意ノ為メニ約権シタル時期ノ間ト雖モ亦経過スルモノニシテ之ヲ停止ス可カラス 第千六百七十七条 損失ノ証ハ裁判ニ依ルニ非サレハ之ヲ許スコトヲ得ス且ツ其明言シタル事柄カ損失ヲ思量セシムル為メニ充分実ラシク及ヒ充分重要ナル場合ノミニ非サレハ之ヲ許スコトヲ得ス 第千六百七十八条 右ノ証ハ鑑定人三名ノ報告ニ依ルニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス但シ其鑑定人三名ハ共通ノ調書唯一通ノミヲ作リ而シテ投言ノ多数ニ依リ唯一箇ノ意見ノミヲ作為ス可キモノトス 第千六百七十九条 若シ其意見ノ相異ナリタル時ハ調書ニ之レカ理由ヲ記載ス可シ但シ各個ノ鑑定人ハ如何ナル意見ノモノタルヤヲ知ラシムルコトヲ許サス 第千六百八十条 鑑定人三名ハ職権上ニテ之ニ選任ス可シ但シ双方ノ者カ相合同シテ其三名共ニ之ヲ選任スルコトヲ協議シタル時ハ格別ナリトス 第千六百八十一条 廃棄ノ訴ヲ許ス所ノ場合ニ於テハ獲得者ハ其弁済シタル代金ヲ取戻シテ物ヲ返還シ又ハ全価ノ十分一ヲ引去リテ正当ナル代価ノ追補ヲ弁済スルニ依リ不動産ヲ保ツコト自由ナリトス 第三ノ占有者ハ右ト同一ノ権利ヲ有ス但シ其第三ノ占有者ハ自己ノ売主ニ対シテ担保ノ権利ヲ有スルモノトス 第千六百八十二条 若シ獲得者カ前条ニ規定シタル追補ヲ供給シテ其物ヲ保ツコトヲ撰取シタル時ハ廃棄ノ訟求ノ日ヨリ其追補金ノ利息ヲ負担ス可シ 若シ獲得者カ其物ヲ返還シテ代金ヲ収受スルコトヲ撰取シタル時ハ訟求ノ日ヨリ果実ヲ返還スルモノトス 其獲得者ノ弁済シタル代金ノ利息ハ右ト同一ノ訟求ノ日ヨリ亦其獲得者ニ計算ス可ク又其獲得者ノ毫モ果実ヲ収取セサル時ハ弁済ノ日ヨリ之ヲ其獲得者ニ計算ス可シ 第千六百八十三条 損失ノ為メノ廃棄ハ買主ノ為メニ之ヲ為ス可カラス 第千六百八十四条 損失ノ為メノ廃棄ハ法律ニ従ヒ裁判所ノ威力ニ非サレハ為スコトヲ得サル総テノ売買ニ於テハ之ヲ為ス可カラス 第千六百八十五条 数人ノ合同シ又ハ別々ニ売リタル場合ノ為メ及ヒ売主又ハ買主カ相続人数名ヲ遺留シタル場合ノ為メ前節ニ説明シタル規則ハ廃棄ノ訴権執行ノ為メニモ亦同シク之ヲ遵守ス可シ 第七章 不分物ノ糶売 第千六百八十六条 若シ数人共通ノ物ヲ都合ヨク且ツ損壊ナク分派スルコトヲ得サル時 又ハ共通財産ノ協議上ニテ為シタル分派ニ於テ共同分派人ノ誰アリテ収取スルコトヲ得ス又ハ収取スルコトヲ欲セサルモノアル時ハ 其売払ヲ糶売ニテ為シ而シテ其代金ヲ共同所有者ノ間ニ分派ス可シ 第千六百八十七条 共同所有者各員ハ外人ヲ其不分物ノ糶売ニ招喚スルヲ求ムルコトヲ得可シ而シテ又其共同所有者中一人ノ幼者タル時ハ必ス外人ヲ招喚ス可シ 第千六百八十八条 不分物ノ糶売ニ付キ遵守ス可キ執行ノ仕方及ヒ法式ハ財産相続ノ巻及ヒ訴訟法ニ之ヲ説明ス 第八章 債権及ヒ其他ノ無形ノ権利ノ転移 第千六百八十九条 第三ノ人ニ対スル債権又ハ権利又ハ訴権ノ転移ニ於テハ其引渡ハ譲渡人ト譲受人トノ間ニ於テハ証券ノ交付ニ依テ成ルモノトス 第千六百九十条 譲受人ハ負債者ニ為シタル転移ノ通報ニ依ルニ非サレハ第三ノ人ニ対シテ収握セサルモノトス 然レトモ譲受人ハ公正ノ証書ニ於テ負債者ノ為シタル転移ノ受諾ニ依リ亦同シク収握スルコトヲ得可シ 第千六百九十一条 若シ譲渡人又ハ譲受人ノ其転移ヲ負債者ニ通報スル前ニ負債者ヨリ譲渡人ニ弁済シタル時ハ負債者ハ有効ニ釈免セラル可シ 第千六百九十二条 債権ノ売渡又ハ譲渡ハ保証、先取特権及ヒ書入質ノ如キ其権ノ附属件ヲ包含ス 第千六百九十三条 債権又ハ其他ノ無形ノ権利ヲ売ル者ハ仮令担保ナクシテ其転移ヲ為シタル時ト雖モ其転移ノ時ニ於ケル右ノ債権又ハ其他ノ無形ノ権利ノ存在ヲ担保セサルヲ得ス 第千六百九十四条 債権又ハ其他ノ無形ノ権利ヲ売ル者ハ負債者ニ資力アルコトヲ担当スルノ約務ヲ為シタル時ニ非サレハ負債者ニ資力アルコトヲ担当セサルモノトス且ツ己レノ其債権ヨリ得タル所ノ代金ノ額ノミニ充ツル迄ノ外負債者ニ資力アルコトヲ担当セサルモノトス 第千六百九十五条 債権又ハ其他ノ無形ノ権利ヲ売ル者ノ其負債者ニ資力アルコトノ担保ヲ約務シタル時ハ其約務ハ現在ノ資力アル事ノミニ之ヲ解ス可ク将来ノ時ニ之ヲ及ホス可カラス但シ譲渡人カ将来ノ時ニ之ヲ及ホス可キ旨ヲ明カニ約権シタル時ハ格別ナリトス 第千六百九十六条 遺産ノ物品ヲ詳細ニ定ムルコトナクシテ遺産ヲ売ル者ハ自己ノ相続人タルノ分限ノミヲ担保ス可キモノトス 第千六百九十七条 若シ遺産ヲ売ル者カ既ニ其遺産ニ属スル或ル不動産ノ果実ヲ利得シ又ハ其遺産ニ属スル或ル債権ノ金額ヲ収受シ又ハ遺留財産中ノ或ル品物ヲ売リタル時ハ此等ノモノヲ獲得者ニ償還ス可シ但シ其者カ売買ノ時ニ当リテ明白ニ此等ノモノヲ貯存シタル時ハ格別ナリトス 第千六百九十八条 獲得者ハ己レノ方ニ於テ売主カ遺留財産ノ負債及ヒ負任ノ為メニ弁済シタルモノヲ其売主ニ償還セサルヲ得ス且ツ其売主カ債主タリシ所ノ諸件ヲ其売主ニ補償セサルヲ得ス但シ之ニ反シタル約権アル時ハ格別ナリトス 第千六百九十九条 己レニ対シテ争訟アル権利ヲ譲渡サレタル者ハ其譲渡ノ現実ノ代金ト其費用及ヒ正当ノ入費並ニ譲受人ノ己レニ為サレタル譲渡ノ代金ヲ弁済シタル日ヨリ以来ノ利息トヲ其譲受人ニ償還スルニ依リ譲受人ニ対シテ其責ヲ免カルルコトヲ得可シ 第千七百条 権利ノ本案ニ付キ訴訟及ヒ争訟アル時ヨリシテ其事物ヲ争訟アルモノト看做ス可シ 第千七百一条 第千六百九十九条ニ載セタル成規ハ左ノ場合ニ於テハ止息スルモノトス 第一 譲渡サレタル権利ノ共同相続人又ハ共同所有者ニ其譲渡ヲ為シタル場合 第二 債主ニ対シテ負担スル所ノモノノ弁済ニ於テ債主ニ其譲渡ヲ為シタル時 第三 争訟アル権利ヲ受クル不動産ノ占有者ニ其譲渡ヲ為シタル時 第七巻 交換(千八百四年三月七日決定同月十七日宣令) 第千七百二条 交換トハ双方ノ者ノ相互ニ一箇ノ物ニ代ヘテ他ノ物ノ所有権ヲ移ス所ノ契約ヲ云フ 第千七百三条 交換ハ売買ト同一ノ方法ニテ承諾ノミヲ以テ成ルモノトス 第千七百四条 若シ共同交換者中ノ一人カ交換ヲ以テ自己ニ所有権ヲ移サレタル物ヲ既ニ収受シ而シテ其後ニ至リ他ノ契約者ノ其物ノ所有者ニ非サルコトヲ証スル時ハ其一人ハ反対交換ニ於テ自己ノ約務シタル物ヲ引渡スヲ強ラルルコトナカル可ク唯其収受セシ物ヲ返還スルコトノミヲ強ラル可キモノトス 第千七百五条 共同交換者ノ其交換ニ於テ収受セシ物ヲ褫奪セラレタル時ハ損害賠償ヲ得ント求メ又ハ自己ノ物ヲ取戻スコト自由ナリトス 第千七百六条 損失ノ原由ノ為メノ廃棄ハ交換ノ契約ニ於テハ為ス可カラサルモノトス 第千七百七条 売買ノ契約ノ為メニ定メタル総テ其他ノ規則ハ右ノ外交換ニモ適用ス可キモノトス 第八巻 賃貸ノ契約(千八百四年三月七日決定同月十七日宣令) 第一章 総則 第千七百八条 賃貸ノ契約ニ左ノ二種アリ 物ノ賃貸 労力ノ賃貸 第千七百九条 物ノ賃貸トハ契約者中一方ノ者カ他ノ一方ノ者ニ於テ其者ニ弁済スルノ義務ヲ己レニ負ヒタル特定ノ代価ヲ以テ他ノ一方ノ者ニ特定ノ時間一箇ノ物ヲ収益セシムルノ義務ヲ己レニ負フ所ノ契約ヲ云フ 第千七百十条 労力ノ賃貸トハ契約者中一方ノ者カ其双方ノ間ニ合意シタル代価ヲ以テ他ノ一方ノ者ノ為メニ或事ヲ為スコトヲ己レニ約務スル所ノ契約ヲ云フ 第千七百十一条 此二種ノ賃貸ヲ更ニ細分シテ左ニ記スル別ノ数種トス 家屋及ヒ動産ノ賃貸即チ家作ノ賃貸ト名クルモノ 田野不動産ノ賃貸即チ土地ノ賃貸ト名クルモノ 労動又ハ役務ノ賃貸即チ賃雇ト名クルモノ 獣類ノ利益ヲ其所有者ト所有者ヨリ之ヲ委託セラレタル者トノ間ニ分派スル獣類ノ賃貸即チ獣借契約ト名クルモノ 定メタル代価ヲ以テ一箇ノ工事ノ起作ノ為メニ為ス所ノ工作契約、工事契約、又ハ請負契約ハ其工事ヲ為サシムル者ヨリ物料ヲ供給スル時ハ亦賃貸ナリトス 右ノ中後ニ記シタル三種ハ別段ノ規則アルモノトス 第千七百十二条 国ノ財産、邑ノ財産及ヒ公同設立場ノ財産ノ賃貸ハ別段ノ規則ニ服従スルモノトス 第二章 物ノ賃貸 第千七百十三条 人ハ各種ノ動産又ハ不動産ヲ賃貸スルコトヲ得可シ 第一節 家屋及ヒ田野財産ノ賃貸ニ共通ノ規則 第千七百十四条 人ハ書面ニ依リ又ハ口上ヲ以テ賃貸スルコトヲ得可シ 第千七百十五条 若シ書面ナクシテ為シタル賃貸カ未タ毫モ執行ヲ受クルコトナク而シテ契約者中一方ノ者カ其賃貸ヲ為サスト述フル時ハ仮令其代価ノ如何ニ些少タリトモ又手附金ヲ附与シタリト申立ツル時ト雖モ証人ニ依レル証ヲ許スコトヲ得ス 其賃貸ヲ為サスト述フル者ニ唯誓ヲ求ムルコトヲ得可キノミトス 第千七百十六条 執行ノ既ニ始マリタル口上ノ賃貸ノ代価ニ付キ争ヒアリテ而シテ其受取証書ノ存在セサル時ハ所有者ノ誓ヲ以テ其代価ノ信憑ト為ス可シ但シ家屋賃借人カ鑑定人ニ依レル評価ヲ求ムルコトヲ欲シタル時ハ格別ニシテ此場合ニ於テハ若シ其評価ノ額カ家屋賃借人ノ申述シタル代価ニ過クル時ハ其賃借人ニ於テ評価ノ費用ヲ負任ス可キモノトス 第千七百十七条 賃借人ハ転貸シ又然ノミナラス自己ノ賃借ヲ他人ニ譲渡スノ権利アリ但シ其権能ヲ賃借人ニ禁止シタル時ハ格別ナリトス 其権能ハ全部又ハ一部ニ付キ之ヲ禁止スルコトヲ得可シ 右ノ約款ハ常ニ必ス厳重ノモノトス 第千七百十八条 結婚シタル婦ノ財産ノ賃貸ニ関シテ婚姻ノ契約及ヒ夫婦相互ノ権利ノ巻ニ記シタル各条ハ幼者ノ財産ノ賃貸ニ適用ス可キモノトス 第千七百十九条 賃貸人ハ毫モ別段ノ約権ヲ要スルコトナク其契約ノ性質ニ依リ左ノ諸件ヲ為ス可キノ義務アリトス 第一 賃貸シタル物ヲ賃借人ニ引渡ス事 第二 其物ヲ賃貸シタルノ目的タル使用ニ用立ツ可キ景状ニ於テ之ヲ保持スル事 第三 賃貸ノ継続間賃借人ヲシテ静安ニ其物ヲ収益セシムル事 第千七百二十条 賃貸人ハ各種ノ修繕ノ良好ナル景状ニ於テ其物ヲ引渡ス可キモノトス 賃貸人ハ賃貸ノ継続間必要トナルコトアル可キ総テノ修繕ヲ其物ニ付キ為ササルヲ得ス但シ賃借人負担ノ修繕ハ格別ナリトス 第千七百二十一条 賃貸人ハ賃貸ノ時ニ当リテ其賃貸シタル物ノ使用ヲ妨クル総テノ瑕瑾又ハ瑕疵ヲ知ラサリシ時ト雖モ其総テノ瑕瑾又ハ瑕疵ニ付キ賃借人ニ対シテ担保ヲ負担ス可シ 若シ其瑕瑾又ハ瑕疵ヨリシテ賃借人ノ為メニ或ル損失ノ生シタル時ハ賃貸人之ヲ賠償ス可キモノトス 第千七百二十二条 若シ賃貸ノ継続間ニ其賃貸シタル物ノ意外ノ事故ニ依リ全部毀滅シタル時ハ当然其賃貸ヲ取消ス可シ若シ其物ノ一部分ノミ毀滅シタル時ハ賃借人ハ景況ニ従ヒ或ハ代価ノ減少ヲ求メ或ハ然ノミナラス賃貸ノ取消ヲ求ムルコトヲ得可シ○右ノ中何レノ場合ニ於テモ毫モ損害賠償ヲ為スニ及ハス 第千七百二十三条 賃貸人ハ賃貸ノ継続間其賃貸シタル物ノ形状ヲ変更スルコトヲ得ス 第千七百二十四条 若シ賃貸ノ間ニ其賃貸シタル物ニ付キ至急ヲ要スルカ為メ其賃貸ノ終リ迄延ハスコトヲ得サル修繕ノ需要アル時ハ賃借人ハ仮令其修繕ノ為メニ如何ナル不便ヲ被ムリ且ツ其修繕ヲ為ス間其賃借シタル物ノ一部分ヲ用フルコト能ハサルニ至ルト雖モ其修繕ヲ耐忍セサルヲ得ス 然レトモ若シ其修繕カ四十日以上継続スル時ハ其時間ト賃借人ノ用フルコト能ハサルニ至リシ賃借物ノ一部分トニ比准シテ賃貸ノ代価ヲ減ス可シ 若シ其修繕カ賃借人及ヒ其家族ノ住居ニ必要ナル所ノモノヲ居住ス可カラサルニ至ラシムルカ如キ性質ノモノタル時ハ賃借人其賃貸ヲ取消サシムルコトヲ得可シ 第千七百二十五条 賃貸人ハ第三ノ人カ其賃貸シタル物ニ付キ別段毫モ権利ヲ称言スルコトナク暴行ニ依テ賃借人ノ収益ニ為シタル妨害ニ付テハ賃借人ニ対シテ之ヲ担保スルニ及ハス但シ賃借人ハ自己ノ一身ノ名前ヲ以テ其第三ノ人ヲ訴フルコトヲ得可キモノトス 第千七百二十六条 若シ之ニ反シテ家屋ノ賃借人又ハ土地ノ賃借人カ其不動産ノ所有権ニ関スル訴ニ依リ自己ノ収益ニ於テ妨害セラレタル時ハ此等ノ賃借人ハ家屋ノ賃借又ハ土地ノ賃借ノ代価ニ付キ之ニ比准シタル減少ヲ得ルノ権利アリトス但シ之レカ為メニハ其妨害及ヒ障碍ヲ所有者ニ告知シタルコトヲ必要トス 第千七百二十七条 若シ暴行ヲ為シタル者カ其賃借物ニ付キ或ル権利ヲ有スルモノト称言スル時又ハ賃借人カ其賃借物ノ全部又ハ一部ノ放棄ヲ言渡サルル為メ又ハ或ル地役ノ執行ヲ耐忍ス可キノ言渡ヲ受クル為メ己レ自カラ裁判所ニ呼出サレタル時ハ其賃借人ハ賃貸人ヲ担保ノ為メニ招喚セサルヲ得ス而シテ若シ其賃借人カ要求スル時ハ己レニ占有ヲ為サシムル所ノ賃貸人ヲ指名スルニ依リ其賃借人ヲシテ訴訟ヲ免カレシメサルヲ得ス 第千七百二十八条 賃借人ハ左ニ記スル二箇ノ重要ナル義務ヲ担任スルモノトス 第一 良家父ニ於テ及ヒ賃借契約ニ依リ其賃借物ニ附与セラレタル用方ニ従ヒ又合意ノ欠缺ニ於テハ景況ニ拠リ思量セラレタル用方ニ従ヒ其物ヲ使用スル事 第二 合意シタル時期ニ於テ賃貸ノ代価ヲ弁済スル事 第千七百二十九条 若シ賃借人カ賃借物ヲ其定メラレタル使用ヨリ更ニ他ノ使用ニ供シ又ハ賃貸人ノ為メニ損害ノ生スルコトアル可キ使用ニ供スル時ハ賃貸人ハ景況ニ従ヒ其賃貸ヲ取消サシムルコトヲ得可シ 第千七百三十条 若シ賃貸人ト賃借人トノ間ニ於テ場所ノ景状書ヲ作リタル時ハ賃借人ハ其景状書ニ従ヒ其賃借物ヲ収受シタルカ如クニテ其物ヲ返ササルヲ得ス但シ朽廃ニ依リ又ハ杭拒ス可カラサル力ニ依リ滅尽シ又ハ毀損シタル所ノモノハ格別ナリトス 第千七百三十一条 若シ場所ノ景状書ヲ作ラサル時ハ賃借人ハ賃借人負担ノ修繕ノ良好ナル景状ニテ之ヲ収受シタルモノト思量セラレ而シテ其如クニテ之ヲ返ササルヲ得ス但シ之ニ反スル証アル時ハ格別ナリトス 第千七百三十二条 賃借人ハ自己ノ収益ノ間ニ生シタル毀損又ハ滅尽ノ実ニ任スルモノトス但シ其毀損又ハ滅尽ノ自己ノ過失ニ依ラスシテ生シタルコトヲ証スル時ハ格別ナリトス 第千七百三十三条 賃借人ハ火災ノ責ニ任スルモノトス但シ左ノ諸件ヲ証スル時ハ格別ナリトス 意外ノ事故又ハ抗拒ス可カラサル力ニ依リ又ハ築造ノ瑕瑾ニ依リ火災ノ生シタル事 近隣ノ家屋ヨリ火ノ延及シタル事 第千七百三十四条 若シ家屋賃借人ノ数名アル時ハ皆連帯シテ火災ノ責ニ任ス可キモノトス 但シ其数名ノ賃借人カ其中一人ノ住居ニ於テ火災ノ始マリタルコトヲ証スル時ハ格別ニシテ此場合ニ於テハ其一人ノミ火災ノ責ヲ担任ス可シ 又其数名中ノ或者カ自己ノ住居ニ於テ火災ノ始マル可キコトナカリシ旨ヲ証スル時ハ格別ニシテ此場合ニ於テハ其或者ハ火災ノ責ヲ担任セサルモノトス 第千七百三十五条 賃借人ハ自己ノ家内ノ各人又ハ自己ノ転借人ノ所為ニ依リ生シタル毀損及ヒ滅尽ヲ担任ス可シ 第千七百三十六条 若シ書面ナクシテ賃貸ヲ為シタル時ハ双方中一方ノ者ハ土地ノ習慣ニ定メタル期限ヲ遵守スルニ非サレハ他ノ一方ノ者ニ解約ノ告知ヲ附与スルコトヲ得ス 第千七百三十七条 若シ書面ヲ以テ賃貸ヲ為シタル時ハ解約ノ告知ヲ附与スルノ必要ナルコトナク其定メタル期限ノ終ニ至リ其賃貸ハ当然止息スルモノトス 第千七百三十八条 若シ書面アル賃貸ノ終ニ至リ賃借人ノ猶其占有ヲ継続シ且ツ其占有ヲ保存セシメラルル時ハ更ニ新タナル賃貸ノ成ルモノトス而シテ其新タナル賃貸ノ効ハ書面ナクシテ為シタル賃貸ニ関スル条ニ依テ之ヲ規定ス 第千七百三十九条 若シ解約告知書ヲ送達シタル時ハ賃借人ハ仮令其収益ヲ継続シタルト雖モ黙諾再賃貸ヲ申立ツルコトヲ得ス 第千七百四十条 前二条ノ場合ニ於テ賃借ノ為メニ附与シタル保証ハ延期ヨリ生スル所ノ義務ニ拡及セサルモノトス 第千七百四十一条 賃貸ノ契約ハ其賃貸シタル物ノ滅尽ニ依リ並ニ賃貸人及ヒ賃借人各自ノ其約務ヲ履行スルコトノ欠缺ニ依リ解除スルモノトス 第千七百四十二条 賃貸ノ契約ハ賃貸人ノ死去ニ依リテモ又賃借人ノ死去ニ依リテモ解除セサルモノトス 第千七百四十三条 若シ賃貸人ノ其賃貸シタル物ヲ売リタル時ハ獲得者ハ公正ノ賃貸契約書又ハ日附ノ正確ナル賃貸契約書ヲ有スル所ノ土地賃借人又ハ家屋賃借人ヲ辞却スルコトヲ得ス但シ賃貸ノ契約ニ依リ賃貸人ノ其権利ヲ貯存シタル時ハ格別ナリトス 第千七百四十四条 若シ賃貸ノ時ニ当リテ売買ノ場合ニ於テハ獲得者其土地賃借人又ハ家屋賃借人ヲ辞却スルコトヲ得可キ旨ヲ合意シ而シテ其損害賠償ノ事ニ付キ毫モ約権ヲ為ササル時ハ賃貸人ハ以下ノ方法ヲ以テ土地賃借人又ハ家屋賃借人ニ賠償ス可キモノトス 第千七百四十五条 家屋房室又ハ店舗ニ関スル時ハ賃貸人ハ土地ノ習慣ニ従ヒ解約ノ告知ト退去トノ間ニ於テ附与セラルル所ノ時間ノ賃貸ノ代価ニ等シキ金額ヲ損害賠償ノ名義ヲ以テ其褫奪セラレタル家屋賃借人ニ弁済スルモノトス 第千七百四十六条 田野財産ニ関スル時ハ賃貸人ヨリ土地賃借人ニ弁済セサル可カラサル賠償ハ其残余ノ時間全部ノ賃貸代価ノ三分一トス 第千七百四十七条 製造所、工作場又ハ巨額ノ立替金ヲ要スル所ノ其他ノ設立場ニ関スル時ハ鑑定人ヲシテ其賠償ヲ規定セシム可シ 第千七百四十八条 売買ノ場合ニ於テハ土地賃借人又ハ家屋賃借人ヲ辞却スル為メ賃貸契約ニ依リ貯存シタル権能ヲ用ヒント欲スル所ノ獲得者ハ右ノ外土地ノ習慣ニ於テ解約告知ノ為メニ定メタル時期ニ予メ家屋賃借人ニ通報ス可キモノトス 其獲得者ハ亦少クトモ一年前ニ田野財産ノ賃借人ニ通報セサル可カラス 第千七百四十九条 土地賃借人又ハ家屋賃借人ハ賃貸人ヨリ前ニ説明シタル損害賠償ヲ弁済セラレ若シ賃貸人ノ其損害賠償ヲ為ササルニ於テハ新タナル獲得者ヨリ其損害賠償ヲ弁済セラレタルニ非サレハ辞却セラルルコトナカル可シ 第千七百五十条 若シ賃貸ヲ公正ノ証書ヲ以テ為サス又ハ其賃貸ノ正確ナル日附ヲ有セサル時ハ獲得者ハ毫モ損害賠償ヲ担任セス 第千七百五十一条 買戻ノ合意ニ於ケル獲得者ハ其買還ノ為メニ定メタル期限ノ終リタルニ依リ動カス可カラサル所有者トナルニ至ル迄ハ賃借人ヲ辞却スルノ権能ヲ用フルコトヲ得ス 第二節 家屋ノ賃貸ニ特別ナル規則 第千七百五十二条 家屋ニ充分ナル動産ヲ具備セサル家屋ノ賃借人ハ之ヲ辞却スルコトヲ得可シ但シ其賃借人カ家屋ノ借賃ヲ担当スルコト能フ可キ抵保ヲ附与シタル時ハ格別ナリトス 第千七百五十三条 家屋ノ転借人ハ差押ノ時ニ当リテ其負債者タルコトアル可キ転借賃ノ額ニ充ツル迄ノ外所有者ニ対シテ担任セサルモノトス而シテ其転借人ハ時期ニ先ンシテ為シタル弁済ヲ以テ対抗スルコトヲ得ス 自己ノ賃貸ニ定メタル約権ニ拠リ若クハ土地ノ習慣ニ依リ家屋転借人ノ為シタル弁済ハ時期ニ先ンシテ為シタルモノト看做ス可カラス 第千七百五十四条 家屋賃借人負担ノ修繕即チ反封ノ約款アルニ非サレハ其賃借人ノ負担ス可キ細少ナル補理ノ修繕ハ土地ノ習慣上ニテ斯クノ如キモノトシテ指定メタル修繕及ヒ就中左ノ諸件ニ為ス可キ修繕ナリトス 暖炉ノ火焼所、暖炉ノ背面ノ板、暖炉ノ周囲ノ装具及ヒ暖炉上部ノ板 房室及ヒ其他住居ノ場所ノ壁ノ下端ヨリ一「メートル」ノ高サニ至ル迄ノ塗飾 房室ノ敷磚、敷石但シ其中或者ノミノ破損シタル時ニ限ル 窓窓ノ玻璃版但シ霰又ハ家屋賃借人ノ担任セサル其他ノ異常ナル偶然ノ事故及ヒ抗拒ス可カラサル力アル偶然ノ事故ニ依リ破損シタル時ハ格別ナリトス 門戸、窓消ノ戸、舗店ノ仕切板又ハ其外部ノ戸、蝶鉸、閂、鎖鑰 第千七百五十五条 若シ朽廃又ハ抗拒ス可カラサル力ノミニ依リ家屋賃借人負担ノモノト看做サレタル修繕ヲ為ス可キニ至リシ時ハ其修繕ハ毫モ家屋賃借人ノ負任タラサルモノトス 第千七百五十六条 井及ヒ糞坑ヲ浚フコトハ賃貸人ノ負任タリ但シ之ニ反シタル約款アル時ハ格別ナリトス 第千七百五十七条 家屋ノ全部、一棟ノ房室ノ全部、舗店又ハ総テ其他ノ房室ニ具フル為メニ供給シタル動産ノ賃貸ハ土地ノ習慣ニ従ヒ家屋、一棟ノ房室、舗店又ハ其他ノ房室ノ賃貸ノ通常ノ継続間之ヲ為シタルモノト看做ス可シ 第千七百五十八条 動産ノ備ハリタル房室ノ賃貸ハ一年何程ト定メテ之ヲ為シタル時ハ一年毎ニ為シタルモノト看做ス可シ 一月何程ト定メテ之ヲ為シタル時ハ一月毎ニ為シタルモノト看做ス可シ 一日何程ト定メテ之ヲ為シタル時ハ一日毎ニ為シタルモノト看做ス可シ 若シ一年又ハ一月又ハ一日ニ何程ト定メテ賃貸ヲ為シタルノ証アラサル時ハ其賃貸ハ土地ノ習慣ニ従ヒ之ヲ為シタルモノト看做ス可シ 第千七百五十九条 若シ家屋又ハ房室ノ賃借人カ書面ニ依レル賃借ノ終リシ後賃貸人ノ方ヨリ故障ヲ受クルコトナクシテ其収益ヲ継続スル時ハ土地ノ習慣ニ定メタル期限間以前ト同一ノ条件ヲ以テ之ニ占居スルモノト看做ス可シ而シテ其賃借人ハ土地ノ習慣ニ定メタル期限ニ従ヒ附与シタル解約告知ノ後ニ非サレハ最早其家屋又ハ房室ヲ退去スルコトヲ得ス又之ヲ其家屋又ハ房室ヨリ辞却スルコトヲ得ス 第千七百六十条 家屋賃借人ノ過失ニ依レル賃借取消ノ場合ニ於テハ其賃借人ハ再賃貸ノ為メニ必要ナル時間賃借ノ代価ヲ弁済スルコトヲ担任ス可シ但シ妄用ヨリ生スルコトアル可キ損害ノ賠償ト相触ルルコトナカル可シ 第千七百六十一条 賃貸人ハ仮令己レ自カラ其賃貸シタル家屋ニ占居セント欲スル旨ヲ申述スルト雖モ其賃貸ヲ解除スルコトヲ得ス但シ之ニ反シタル合意アル時ハ格別ナリトス 第千七百六十二条 若シ賃貸ノ契約ニ於テ賃貸人ノ其家屋ニ占居スル為メニ来リ得可キ旨ヲ合意シタル時ハ其賃貸人ハ土地ノ習慣ニ依リ定メタル時期ニ於テ予メ解約告知書ヲ送達スルコトヲ担任ス可シ 第三節 土地ノ賃貸ニ特別ナル規則 第千七百六十三条 賃貸人ト果実ヲ分派スルノ条件ヲ以テ耕作スル者ハ転貸スルコトヲ得ス又譲渡スコトヲ得ス但シ賃貸ノ契約ニ依リ明カニ右ノ権能ヲ附与セラレタル時ハ格別ナリトス 第千七百六十四条 違背ノ場合ニ於テハ所有者ハ収益ヲ復スルノ権利ヲ有シ而シテ賃借人ハ賃借ノ不執行ヨリ生スル損害賠償ヲ言渡サル可シ 第千七百六十五条 若シ土地ノ賃貸ニ於テ其土地ノ現実ニ有スル所ノ面積ヨリモ更ニ小ナル面積又ハ更ニ大ナル面積ヲ其土地ニ附与シタル時ハ売買ノ巻ニ明示シタル場合ト規則トニ従フニ非サレハ其土地賃借人ノ為メニ代価ノ増加又ハ減少ヲ為ス可ラサルモノトス 第千七百六十六条 若シ田野不動産ノ賃借人カ其収益ノ為メニ必要ナル家畜及ヒ器具ヲ其田野不動産ニ備ヘス又ハ其耕作ヲ放棄シ又ハ良家父ニ於テ耕作セス又ハ其賃借シタル物ヲ其定メラレタル使用ヨリ更ニ他ノ使用ニ供シ又ハ総テ一般ニ其賃借人カ賃借ノ約款ヲ執行セス而シテ之レカ為メ賃貸人ニ損害ヲ生セシメタル時ハ賃貸人ハ景況ニ従ヒ其賃貸ヲ取消サシムルコトヲ得可シ 賃借人ノ所為ヨリ生シタル取消ノ場合ニ於テハ其賃借人ハ第千七百六十四条ニ記シタル如ク損害ノ賠償ヲ担任ス可シ 第千七百六十七条 田野財産ノ各賃借人ハ賃借ノ契約ニ従ヒ其特ニ定メアル場所ニ収獲物ヲ貯蔵ス可キモノトス 第千七百六十八条 田野財産ノ賃借人ハ其土地ニ行フコトアル侵奪ヲ所有者ニ通知ス可ク若シ然ラサル時ハ総テ費額及ヒ損害ノ賠償ヲ負担ス可シ 其通知ハ土地ノ距離ニ従ヒ裁判所ヘノ呼出ノ場合ニ於テ規定セラレタル期限ト同一ノ期限内ニ之ヲ附与セサル可カラス 第千七百六十九条 若シ数年間賃貸ヲ為シ而シテ其賃貸ノ継続間意外ノ事故ニ依リ収獲物ノ全部又ハ少クトモ其一半ヲ失ヒタル時ハ土地賃借人ハ其賃借代価ノ釈放ヲ求ムルコトヲ得可シ但シ賃借人カ其以前ノ収獲物ニ依テ賠償セラレタル時ハ格別ナリトス 若シ其賃借人カ賠償セラレサル時ハ賃貸ノ終リニ至ラサレハ釈放ノ評価ヲ為スコトヲ得ス但シ其賃貸ノ終ニ至リテハ収益シタル各年間ノ相殺ヲ為ス可キモノトス 然レトモ裁判官ハ賃借人ノ受ケタル損失ニ准シ賃借人ヲシテ代価ノ一部分ヲ弁済スルコトヲ仮リニ免カレシムルコトヲ得可シ 第千七百七十条 若シ其賃貸ノ唯一年間ノミニシテ而シテ其損失カ果実ノ全部又ハ少クトモ一半タル時ハ賃借人ハ其賃借代価ノ之ニ比准シタル一部分ヲ免除セラル可シ 若シ其損失カ一半ヨリ少ナキ時ハ賃借人毫モ釈放ヲ得ント称言スルコトヲ得ス 第千七百七十一条 果実ヲ地ヨリ離分シタル後ニ其果実ノ損失ヲ生シタル時ハ土地ノ賃借人釈放ヲ受クルコトヲ得ス但シ其賃借ノ契約ニ所有者ニ品物ヲ以テ収獲物ノ一部分ヲ附与スル旨ヲ定メタル時ハ格別ニシテ此場合ニ於テハ賃借人ヨリ所有者ノ受ク可キ収獲物ノ一部分ヲ其所有者ニ渡スコトヲ遅滞シタルニ非サレハ所有者ニ於テ自己ノ損失ノ分ケ前ヲ負担セサルヲ得ス 賃貸ノ契約ヲ為シタル時期ニ当リ損害ノ原由ノ存在シテ之ヲ覚知シタルニ於テハ土地ノ賃借人亦同シク釈放ヲ求ムルコトヲ得ス 第千七百七十二条 賃借人ハ明カナル約権ニ依リ意外ノ事故ヲ負任セシムルコトヲ得可シ 第千七百七十三条 右ノ約権ハ霰、雷火、凍冴、不熟ノ如キ通常ナル意外ノ事故ノミニ及フモノト解ス可シ 其約権ハ戦乱ノ剽掠又ハ洪水ノ如ク其国ノ通常受クルモノニ非サル異常ナル意外ノ事故ニ及ハサルモノト解ス可シ但シ賃借人ノ総テ先見セラレ又ハ先見セラレサル意外ノ事故ヲ負任シタル時ハ格別ナリトス 第千七百七十四条 田野不動産ノ書面ナキ賃貸ハ賃借人カ其賃借シタル不動産ノ総テノ果実ヲ収取スル為メニ必要ナル時間之ヲ為シタルモノト看做ス可シ 故ニ牧地、葡萄園及ヒ其他総テ一年間ニ全ク其果実ヲ収取スル土地ノ賃貸ハ一年間之ヲ為シタルモノト看做ス可シ 耕作ス可キ地ノ賃貸ハ循環耕種又ハ四季耕種ニ其地ヲ分チタル時ハ其循環耕種ノ数ニ准スル若干年間之ヲ為シタルモノト看做ス可シ 第千七百七十五条 田野不動産ノ賃貸ハ仮令書面ナクシテ之ヲ為シタリト雖トモ前条ニ従ヒ之ヲ為シタリト看做ス可キ時間ノ終ニ至リ当然止息スルモノトス 第千七百七十六条 若シ書面アル田野賃貸ノ終ニ至リ賃借人ノ猶其占有ヲ継続シ且ツ其占有ヲ保存セシメラルル時ハ更ニ新タナル賃貸ノ成ルモノトス而シテ其新ナル賃貸ノ効ハ第千七百七十四条ニ依テ之ヲ規定ス 第千七百七十七条 退去スル土地賃借人ハ耕作ニ於テ自己ニ継替スル所ノ者ニ翌年ノ事業ノ為メニ適当ノ房舎及ヒ其他ノ便益物ヲ遺存セサル可カラス又其裏面ニ於テ入リ来ル所ノ土地賃借人ハ退去スル所ノ賃借人ニ秣芻ノ収拾及ヒ為シ残シタル収獲ノ為メニ適当ノ房舎及ヒ其他ノ便益物ヲ得セシメサル可カラス 右ノ中何レノ場合ニ於テモ土地ノ習慣ニ循ハサルヲ得ス 第千七百七十八条 退去スル土地賃借人ハ其収益ニ入リシ時ニ於テ藁及ヒ肥料ヲ収受シタルニ於テハ亦本年ノ藁及ヒ肥料ヲ遺存セサルヲ得ス又其土地貸借人ノ嘗テ藁及ヒ肥料ヲ収受セサリシ時ト雖トモ所有者ハ評価ニ従ヒ之ヲ留置クコトヲ得可シ 第三章 労力及ヒ勉労ノ賃貸 第千七百七十九条 労力及ヒ勉労ノ賃貸ノ重要ナル種類三箇アリ 第一 或人ノ役務ノ為メニ雇入レラルル労働者ノ賃貸 第二 人又ハ商品ノ運送ヲ引受クル水陸運送人ノ賃貸 第三 工作契約又ハ工事契約ニ依レル工事起作人ノ賃貸 第一節 雇人及ヒ職工ノ賃貸 第千七百八十条 何人ニ限ラス制限アル時間又ハ定マリタル起作ノ為メニ非サレハ自己ノ役務ヲ約束スルコトヲ得ス 第千七百八十一条 (千八百六十八年八月二日ノ法律ヲ以テ削除ス)雇主ハ左ノ諸件ニ付テハ其確言ニ依リ信拠セラルルモノトス 雇賃ノ量額 満期トナリタル一年間ノ給料ノ弁済 本年分ノ為メニ附与シタル内金 第二節 水陸運送人 第千七百八十二条 水陸運送人ハ己レニ委託セラレタル物ノ監守及ヒ保存ニ付テハ附託及ヒ争訟アル物ノ附託ノ巻ニ記スル所ノ旅店主ト同一ノ義務ニ服従スルモノトス 第千七百八十三条 水陸運送人ハ既ニ其船又ハ車ノ内ニ収受シタル所ノモノノミナラス其船又ハ車ニ載スル為メニ港又ハ貨物貯蔵場ニ於テ己レニ交付セラレタル所ノモノヲモ担任ス 第千七百八十四条 水陸運送人ハ己レニ委託セラレタル物ノ滅尽及ヒ損壊ヲ担任ス可キモノトス但シ其物ノ意外ノ事故又ハ抗拒ス可カラサル力ニ依リ滅尽シ及ヒ損壊シタル旨ヲ証スル時ハ格別ナリトス 第千七百八十五条 水陸ニ依レル公同車輌ノ起作人及ヒ公同運輸ノ起作人ハ其引受クル所ノ金円、物品及ヒ包袋ノ薄冊ヲ設ケサル可カラス 第千七百八十六条 公同ノ車輌及ヒ運輸ノ起作人及ヒ掌理者並ニ船舶ノ首長ハ右ノ外其各人ト其他ノ国士トノ間ニ於テハ法律ヲ為ス所ノ特別ノ規則ニ服従ス可キモノトス 第三節 工作契約及ヒ工事契約 第千七百八十七条 若シ或人ニ一箇ノ工事ヲ為スコトヲ任シタル時ハ其者ノ唯自己ノ労働又ハ勉労ノミヲ供給シ又ハ物料ヲモ亦供給ス可キ旨ヲ合意スルコトヲ得可シ 第千七百八十八条 若シ職工カ物料ヲ供給スル場合ニ於テ物ヲ引渡ス前ニ如何ナル方法タルヲ問ハス其物ノ滅尽シタル時ハ其損失ハ職工ニアリトス但シ嘱託主カ其物ヲ収受スルコトヲ遅滞シタル時ハ格別ナリトス 第千七百八十九条 職工カ唯自己ノ労働又ハ自己ノ勉労ノミヲ供給スル場合ニ於テ若シ其物ノ滅尽シタル時ハ職工ハ自己ノ過失ナラテハ担任セス 第千七百九十条 若シ前条ノ場合ニ於テ工作物ヲ収受セサル前ニ嘱託主ノ之ヲ検査スルヲ遅滞スルコトナクシテ其物ノ滅尽シタル時ハ仮令職工ノ方ニ毫モ過失ナキ時ト雖モ職工ハ其給料ヲ得ント求ムルコトヲ得ス但シ其物カ物料ノ瑕瑾ニ依テ滅尽シタル時ハ格別ナリトス 第千七百九十一条 若シ数箇ニ分チ又ハ度量ヲ以テスル工事ニ関スル時ハ各箇ノ部分毎ニ其検査ヲ為スコトヲ得可シ而シテ嘱託主ヨリ其為シタル工事ニ比准シテ職工ニ弁済スル時ハ其弁済シタル総テノ部分ニ付テハ検査ヲ為シタリト看做ス可シ 第千七百九十二条 若シ請負ヲ以テ建造シタル建築物カ其建造ノ瑕瑾ニ依リ又ハ然ノミナラス地所ノ瑕瑾ニ依リ全部又ハ一部ノ滅尽シタル時ハ其建築者及ヒ起作人ハ十年間其責ニ任ス可キモノトス 第千七百九十三条 若シ建築者又ハ起作人カ地所ノ所有者ト共ニ決定合意シタル註文書ニ従ヒ建造物ノ請負ヲ以テスル建造ヲ引受ケタル時ハ其建築者又ハ起作人ハ工価又ハ材料ノ価ノ増加シタルヲ口実ト為シ又ハ右ノ註文書ニ為シタル変更又ハ増加ヲ口実ト為シテ其代価ノ増加ヲ求ムルコトヲ得ス但シ書面ヲ以テ其変更又ハ増加ヲ許可シ且ツ所有者ト其代価ヲ合意シタル時ハ格別ナリトス 第千七百九十四条 嘱託主ハ仮令工事ノ既ニ始マリタル時ト雖モ起作人ニ其総テノ費額ト其総テノ労働ト起作人ノ其起作ニ於テ得益スルコトヲ得タル可キ諸件トヲ償フニ依リ自己ノ意ノミヲ以テ其請員ノ契約ヲ取消スコトヲ得可シ 第千七百九十五条 労力賃貸ノ契約ハ職工、建築者又ハ起作人ノ死去ニ依リ解分スルモノトス 第千七百九十六条 然レトモ所有者ハ其労働又ハ材料カ自己ノ為メニ有益タルコトヲ得可キ時ノミニ於テハ合意ニ依リ定メタル代価ニ比准シテ其職工、建築者又ハ起作人ノ遺留財産ニ其為シタル労力ノ価額及ヒ其准備シタル材料ノ価額ヲ弁済スルコトヲ担任ス可シ 第千七百九十七条 起作人ハ其使用スル各人ノ所為ヲ担当ス 第千七百九十八条 起作ヲ以テ為ス所ノ建造物又ハ其他ノ工作物ノ建造ニ使用セラレタル泥工、匠工及ヒ其他ノ職工ハ其訴ヲ起ス時ニ当リ其工事ヲ為サシムル者カ起作人ニ対シテ負債者タル所ノモノノ額ニ充ツル迄ノ外其工事ヲ為サシムル者ニ対シテ訴権ヲ有セサルモノトス 第千七百九十九条 直接ニ請負ノ契約ヲ為ス所ノ泥工、匠工、鎖工及ヒ其他ノ職工ハ本節ニ定メタル規則ニ従フ可キモノトス但シ此等ノ各人ハ其約定スル所ノ部分ニ於テハ起作人タリ 第四章 獣借契約 第一節 総則 第千八百条 獣借契約トハ双方ノ間ニ合意シタル条件ニ従ヒ家畜ノ元資ヲ監守シテ之ヲ畜養シ及ヒ之ヲ管照スル為メ其一方ヨリ他ノ一方ニ其家畜ノ元資ヲ附与スル所ノ契約ヲ云フ 第千八百一条 獣借契約ハ之ヲ分テ数種トス 単一ナル即チ通常ノ獣借契約 折半ノ獣借契約 土地賃借人又ハ分果耕作人ニ附与シタル獣借契約 又不適当ニ獣借契約ト名クル所ノ第四種ノ契約アリ 第千八百二条 増殖スルコトヲ得可ク又ハ農業或ハ商業ノ為メニ利益トナルコトヲ得可キ各種ノ獣類ヲ獣借契約ニテ附与スルコトヲ得可シ 第千八百三条 別段ナル合意ノ欠缺ニ於テハ右等ノ契約ヲ以下ノ原則ヲ以テ規定ス 第二節 単一ナル獣借契約 第千八百四条 単一ナル獣借契約トハ賃借人カ増殖シタル獣ノ一半ヲ利益シ而シテ又其損失ノ一半ヲ負担ス可キノ条件ヲ以テ家畜ヲ監守シ之ヲ畜養シ及ヒ之ヲ管照スル為メ一方ノ者ヨリ他ノ一方ノ者ニ家畜ヲ附与スル所ノ契約ヲ云フ 第千八百五条 賃貸契約ニ於テ家畜ニ附シタル評価ハ之レカ所有権ヲ賃借人ニ転移セス其評価ハ賃貸ノ終ニ於テ存在スルコトアル可キ損失又ハ利益ヲ定ムル事ノ外更ニ其他ノ目的ヲ有セサルモノトス 第千八百六条 賃借人ハ其家畜ノ保存ニ付テハ良家父ノ注意ヲ負担スルモノトス 第千八百七条 意外ノ事故アル前ニ賃借人ノ方ニ或ル過失アリテ其過失ナカリセハ滅尽ヲ生セサル可キ時ノ外ハ賃借人ハ意外ノ事故ヲ担任セス 第千八百八条 争ヒアル場合ニ於テハ賃借人ハ意外ノ事故ヲ証シ又賃貸人ハ賃借人ニ帰スル所ノ過失ヲ証ス可キモノトス 第千八百九条 意外ノ事故ニ依リ免除セラレタル賃借人ハ常ニ必ス獣類ノ皮ヲ計算ス可キモノトス 第千八百十条 若シ賃借人ノ過失ナクシテ家畜ノ全ク滅尽シタル時ハ其損失ハ賃貸人ニアリトス 若シ其一部分ノミノ滅尽シタル時ハ原来ノ評価ノ代価ト獣借契約ノ終ニ於ケル其評価ノ代価トニ従ヒ共同シテ其損失ヲ負担ス可シ 第千八百十一条 何人ニ限ラス左ノ諸件ヲ約権スルコトヲ得ス 賃借人ノ過失ナク意外ノ事故ニ依リ滅尽ノ生シタル時ト雖モ賃借人ニ於テ其家畜ノ全キ滅尽ヲ負担スル事 賃借人カ其損失ニ於テ利益ニ於ケルヨリモ更ニ大ナル分ケ前ヲ負担スル事 賃貸人カ賃貸ノ終ニ至リ其供給セシ家畜ヨリモ幾許カ更ニ多数ヲ先収スル事 総テ此類ノ合意ハ無効ノモノタリ 賃借人ハ其獣借ヲ以テ附与セラレタル獣類ノ乳汁、糞料及ヒ労働ヲ己レ一人ニテ利益ス 獣毛及ヒ増殖シタル獣ハ之ヲ分派ス 第千八百十二条 賃借人ハ賃貸人ノ承諾ナクシテ其元資タル獣群若クハ増殖シタル獣群中ノ一頭ノ獣ヲモ処分スルコトヲ得ス又賃貸人モ賃借人ノ承諾ナクシテ之ヲ処分スルコトヲ得ス 第千八百十三条 若シ他人ノ土地賃借人ニ家畜ヲ附与シタル時ハ其土地賃借人ニ土地ヲ貸ス所ノ所有者ニ其旨ヲ通報セサルヲ得ス若シ然ラサル時ハ其所有者ハ其土地賃借人カ己レニ対シテ負担スル所ノモノノ為メニ其家畜ヲ差押ヘテ之ヲ売ラシムルコトヲ得可シ 第千八百十四条 賃借人ハ賃貸人ニ告知スルコトナクシテ獣毛ヲ剪取スルコトヲ得ス 第千八百十五条 獣借契約ノ継続スル時間ニ付キ合意ニ依テ其時期ヲ定メサル時ハ三年間之ヲ為シタリト看做ス可シ 第千八百十六条 若シ賃借人ノ其義務ヲ履行セサル時ハ賃貸人更ニ早ク獣借契約ノ解除ヲ求ムルコトヲ得可シ 第千八百十七条 賃貸ノ終ニ至リ又ハ其解除ノ時ニ当リ家畜ノ更ニ新タナル評価ヲ為ス可シ 賃貸人ハ初メノ評価ノ額ニ充ツル迄各種ノ獣ヲ先収スルコトヲ得可シ而シテ其剰余ハ之ヲ分派ス 若シ初メノ評価ニ充ツルニ足ル可キ獣ノ存在セサル時ハ賃貸人其残存スル所ノモノヲ収取シ而シテ双方ノ者ハ其損失ヲ分担ス可シ 第三節 折半ノ獣借契約 第千八百十八条 折半ノ獣借契約トハ契約者各自ヨリ家畜ノ一半ヲ供給シ而シテ其利益ニ付キ又ハ其損失ニ付キ之ヲ共通スル一箇ノ会社ヲ云フ 第千八百十九条 獣類ノ乳汁、糞料及ヒ労働ハ単一ナル獣借契約ニ於ケル如ク賃借人唯一人ニテ之ヲ利益ス 賃貸人ハ獣毛及ヒ増殖シタル獣ノ一半ノミニ付キ権利ヲ有スルモノトス総テ右ニ反シタル合意ハ無効ノモノタリ但シ賃貸人カ分果貸地ノ所有者ニシテ賃借人カ其土地ノ賃借人又ハ其分果耕作人タル時ハ格別ナリトス 第千八百二十条 右ノ外総テ単一ナル獣借契約ノ規則ハ折半ノ獣借契約ニ適用スルモノトス 第四節 所有者ヨリ其土地賃借人又ハ分果耕作人ニ附与シタル獣借契約 第一款 土地賃借人ニ附与シタル獣借契約 第千八百二十一条 此獣借ハ(亦之ヲ名ケテ「シエテル、ド、フエール」ト云フ)賃借ノ終ニ至リ土地賃借人カ其収受セシ家畜ノ評価シタル代価ニ等シキ価額ノ家畜ヲ遺存ス可キノ負任ヲ以テ分果貸地ノ所有者ヨリ其貸地ヲ賃貸ニ附スル所ノモノナリ 第千八百二十二条 土地賃借人ニ附与シタル家畜ノ評価ハ土地賃借人ニ其所有権ヲ移転スルモノニ非ス然レトモ其家畜ヲ土地賃借人ノ危険ニ附スルモノトス 第千八百二十三条 総テノ利益ハ其賃借ノ継続スル間ハ土地賃借人ニ属ス但シ之ニ反シタル合意アル時ハ格別ナリトス 第千八百二十四条 土地賃借人ニ附与シタル獣借ニ於テハ糞料ハ賃借人ノ一身上ノ利益中ニアラサルモノニシテ其分果貸地ニ属スルモノトス但シ其糞料ハ分果貸地ノ収益ノミニ之ヲ用ヒサルヲ得ス 第千八百二十五条 損失ハ仮令全部ニシテ且ツ意外ノ事故ニ依ルモノト雖モ土地賃借人ニ於テ全ク之ヲ負担ス可シ但シ之ニ反シタル合意アル時ハ格別ナリトス 第千八百二十六条 賃借ノ終ニ至リ土地賃借人ハ家畜ノ原来ノ評価額ヲ弁済シテ其家畜ヲ引留ムルコトヲ得ス其土地賃借人ハ己レノ収受セシモノニ同シキ価額ノ家畜ヲ遺存セサルヲ得ス 若シ不足アル時ハ土地賃借人之ヲ弁済セサルヲ得ス而シテ土地賃借人ニ属スルモノハ剰余ノミトス 第二款 分果耕作人ニ附与シタル獣借契約 第千八百二十七条 若シ分果耕作人ノ過失ナクシテ家畜ノ全ク滅尽シタル時ハ其損失ハ賃貸人ニアリトス 第千八百二十八条 分果耕作人ハ自己ノ分ケ前タル羊毛ヲ其通常ノ価額以下ノ代価ヲ以テ賃貸人ニ委付ス可キ旨ヲ約権スルコトヲ得可シ 又賃貸人ハ利益ノ更ニ大ナル分ケ前ヲ受ク可キ旨ヲ約権スルコトヲ得可シ 又賃貸人ハ乳汁ノ一半ヲ受ク可キ旨ヲ約権スルコトヲ得可シ 然レトモ分果耕作人ニ於テ総テノ損失ヲ担任ス可キ旨ヲ約権スルコトヲ得ス 第千八百二十九条 此獣借ハ分果貸地ノ賃借ト共ニ終ルモノトス 第千八百三十条 此獣借ハ右ノ外総テ単一ナル獣借契約ノ規則ニ服従スルモノトス 第五節 不適当ニ獣借契約ト名クル契約 第千八百三十一条 若シ一頭又ハ数頭ノ牝牛ヲ畜養セシムル為メニ之ヲ附与シタル時ハ賃貸人其所有権ヲ保存シ而シテ賃貸人ハ唯其牝牛ノ産ミタル犢ノ利益ヲ受クルノミトス 第九巻 会社ノ契約(千八百四年三月八日決定同月十八日宣令) 第一章 総則 第千八百三十二条 会社トハ二人又ハ数人カ或ル事物ヨリ生スルコトアル可キ利益ヲ分派スルノ主眼ヲ以テ其或ル事物ヲ共通ニ附スルコトヲ合意スル所ノ契約ヲ云フ 第千八百三十三条 総テノ会社ハ合法ノ目的ヲ有シ而シテ結約者共同ノ資益ノ為メニ之ヲ契約セサル可カラス 各社員ハ其会社ニ或ハ金円或ハ其他ノ財産或ハ自己ノ勉労ヲ持参セサル可カラス 第千八百三十四条 総テ会社ハ若シ其目的ノ百五十「フランク」以上ノ価額タル時ハ書面ヲ以テ証明セサルヲ得ス 仮令百五十「フランク」以下ノ金額又ハ価額ニ関スル時ト雖モ会社ノ証書ニ記載シタル所ニ反スル事及ヒ其証書ニ記載シタル所ヨリ以外ノ事ニ付証人ノ証ヲ許サス又其証書ノ前或ハ其証書ノ時或ハ其証書ノ後ニ言説シタリト述フル所ノ事ニ付テモ亦証人ノ証ヲ許サス 第二章 会社ノ種々ノ種類 第千八百三十五条 会社ハ全括ノモノアリ又ハ特定ノモノアリ 第一節 全括会社 第千八百三十六条 全括会社ヲ分テ二種トス一ハ総テノ現在ノ財産ノ会社又一ハ得益ノ全括会社是レナリ 第千八百三十七条 総テノ現在ノ財産ノ会社トハ結約者カ其現在占有スル総テノ動産及ヒ不動産ト其動産及ヒ不動産ヨリ得ルコトアル可キ利益トヲ共通ニ附スル所ノ会社ヲ云フ 結約者ハ亦総テ其他ノ種類ノ得益ヲ会社ニ包含スルコトヲ得可シ然レトモ財産相続、贈与又ハ遺嘱ニ依リ其結約者ノ得ルコトアル可キ財産ハ収益ノ為メノミニ非サレハ其会社ニ入ラサルモノトス而シテ此等ノ財産ノ所有権ヲ会社ニ入ラシムルヲ以テ旨趣トスル総テノ約権ハ之ヲ禁止ス但シ夫婦ノ間ニ於テ且ツ夫婦ニ関シテ規定シタル所ニ従フ時ハ格別ナリトス 第千八百三十八条 得益ノ全括会社ハ結約者カ如何ナル名義タルヲ問ハス其会社ノ継続スル間ニ自己ノ勉労ニ依リ獲得スル所ノ諸件ヲ包含ス又各社員ノ其契約ノ時ニ於テ占有スル所ノ動産モ亦其会社ニ包含ス然レトモ其各社員ノ一身上ノ不動産ハ収益ノ為メノミニ非サレハ其会社ニ入ラサルモノトス 第千八百三十九条 全括会社ノ単一ナル合意ヲ其他ノ説明ナクシテ為シタル時ハ得益ノ全括会社ノミヲ惹起スルモノトス 第千八百四十条 如何ナル全括会社ト雖モ各自相互ニ附与シ又ハ収受スルノ能力アリテ且ツ他人ノ損害ニ於テ己レヲ利スルコトヲ禁セラレサル各人ノ間ニ非サレハ之ヲ設クルコトヲ得ス 第二節 特定会社 第千八百四十一条 特定会社トハ或ル定マリタル物又ハ其物ノ使用又ハ其物ヨリ収取スル果実ノミニ適用スル所ノ会社ヲ云フ 第千八百四十二条 数人カ指定メタル一箇ノ起作ノ為メ若クハ或ル工技又ハ職業ノ執行ノ為メニ結社スル所ノ契約ハ亦特定会社ナリトス 第三章 社員ノ間ニ於ケル及ヒ第三ノ人ニ関スル社員ノ約務 第一節 社員ノ間ニ於ケル社員ノ約務 第千八百四十三条 会社ハ其契約ノ時ヨリ直チニ始マルモノトス但シ契約ニ其他ノ時期ヲ指定メタル時ハ格別ナリトス 第千八百四十四条 若シ会社ノ継続スル時間ニ付キ合意アラサル時ハ第千八百六十九条ニ載セタル改様ヲ以テ社員ノ生存中之ヲ契約シタリト看做ス可シ又其継続時間ノ限リアル一箇ノ事業ニ関スル時ハ其事業ノ継続セサル可カラサル時間中之ヲ契約シタリト看做ス可シ 第千八百四十五条 各社員ハ其会社ニ持参スルコトヲ約務シタル所ノ諸件ニ付キ其会社ニ対シテ負債者タリ 若シ其持参物カ特定物ニシテ会社ノ之ヲ褫奪セラルル時ハ其社員ノ会社ニ対シテ之レカ担保者タルコト猶ホ売主ノ其買主ニ対シテ担保者タルカ如シ 第千八百四十六条 一箇ノ金額ヲ会社ニ持参セサル可カラサル社員ノ其事ヲ為ササル時ハ其金額ヲ弁済セサル可カラサル日ヨリ起算シテ訟求ヲ受クルコトナク当然右金額ノ利息ノ負債者トナルモノトス 社員ノ其会社ノ金庫ヨリ取リ出シタル金額ニ関シテモ右社員ノ自己ノ私シノ利益ノ為メニ其金額ヲ会社ノ金庫ヨリ引出セシ日ヨリ起算シテ右ト同一ナリトス 右ノ諸件ハ別段ノ道理アル時ハ更ニ多量ノ損害賠償ト相触ルルコトナカル可シ 第千八百四十七条 会社ニ自己ノ勉労ヲ持参スルコトニ服従シタル社員ハ其会社ノ目的タル作業ノ種類ニ依テ為シタル総テノ得益ヲ其会社ニ計算セサルヲ得ス 第千八百四十八条 若シ社員中ノ一人カ其私シノ計算ノ為メ一箇ノ人ニ対シテ償還ヲ要求スルヲ得可キ金額ノ債主ニシテ而シテ其一個ノ人カ会社ニ対シテ等シク償還ヲ要求セラル可キ金額ヲ負担シタル時ハ仮令其社員中ノ一人カ其受取証書ニ依リ其負債者ヨリ収受シタルモノヲ自己ノ私シノ債権ニ全ク充用ヲ為ス旨ヲ定メタル時ト雖トモ其負債者ヨリ収受シタルモノノ充用ハ二箇ノ債権ノ割合ヲ以テ会社ノ債権ト其社員ノ債権トニ付キ之ヲ為ササルヲ得ス然レモ若シ其社員カ其受取証書ニ会社ノ債権ニ付キ全ク充用ヲ為ス可キ旨ヲ明記シタル時ハ其約権ヲ執行ス可キモノトス 第千八百四十九条 社員中ノ一人カ共通債権中ノ自己ノ分ケ前ノ全部ヲ収受シ然ル後其負債者ノ無資力トナリタル時ハ仮令其社員ハ特ニ自己ノ分ケ前ノ為メニ受取証書ヲ附与シタル時ト雖モ其収受セシ所ノモノヲ共通ノ財産合部ニ返還ス可キモノトス 第千八百五十条 各社員ハ自己ノ過失ニ依テ会社ニ被ラシメタル損害ヲ会社ニ対シテ担任スルモノトス但シ其損害ト自己ノ勉労ニ依リ其他ノ事業ニ於テ会社ニ得セシメタル利益トヲ相殺スルコトヲ得ス 第千八百五十一条 若シ収益ノミヲ会社ニ附シタル物カ使用ニ依テ消耗セサル特定ニシテ且ツ定マリタル物体ナル時ハ其物ハ所有者タル社員ノ危険ニアルモノトス 若シ其物ノ消耗シ又ハ其物ヲ保チ置クニ依テ損壊シ又ハ其物ヲ売ルコトニ定メ又ハ目録ニ載セタル評価ニ拠リ其物ヲ会社ニ附シタル時ハ其物ハ会社ノ危険ニアリトス 若シ其物ヲ評価シタル時ハ社員ハ其評価ノ額ノミヲ取戻スコトヲ得可シ 第千八百五十二条 社員ハ会社ノ為メニ払ヒ出シタル所ノ金額ニ付キ会社ニ対シテ訴権ヲ有スルノミナラス会社ノ事業ノ為メニ善意ヲ以テ契約シタル義務及ヒ其管理ヨリ離分ス可カラサル危険ニ付テモ亦会社ニ対シテ訴権ヲ有スルモノトス 第千八百五十三条 若シ会社ノ証書ニ利益又ハ損失ニ於ケル各社員ノ分ケ前ヲ定メサル時ハ其各社員ノ分ケ前ハ会社ノ資本中ニ於ケル其各社員ノ持参物ニ比准ス可キモノトス 自己ノ勉労ノミヲ持参シタル者ニ関シテハ利益又ハ損失ニ於ケル其者ノ分ケ前ハ最モ少量ノ持参ヲ為シタル社員ニ等シキ持参アルカ如クニ之ヲ規定ス可シ 第千八百五十四条 若シ社員カ分ケ前ノ規定ニ付キ其社員中ノ一人又ハ第三ノ人ノ裁定ニ任カス可キ旨ヲ合意シタル時ハ其規定ハ公正ニ反シタルコトノ明白ナル時ニ非サレハ之ヲ取消サント求ムルコトヲ得ス 損失ヲ被リタリト称言スル者ノ其規定ヲ知リシヨリ三月以上経過シタル時又ハ其者ノ方ニ於テ其規定ヲ執行シ始メタル時ハ右ノ事項ニ付キ訟求ヲ許サス 第千八百五十五条 社員中ノ一名ニ利益ノ全部ヲ附与スル所ノ合意ハ無効ノモノタリ 社員中ノ一人又ハ数人ヨリ会社ノ資本中ニ加ヘタル金額又ハ物品ヲシテ総テ損失ノ分担ヲ免カレシムル約権ハ亦右ニ同シ 第千八百五十六条 会社契約ノ特別ノ約款ニ依リ管理ヲ任セラレタル社員ハ他ノ社員ノ故障申立ニ拘ハラス自己ノ管理ニ属スル総テノ所為ヲ行フコトヲ得可シ但シ之レカ為メニハ詐害ナキコトヲ必要トス 其権力ハ会社ノ継続スル間ハ正当ノ原由ナクシテ之ヲ廃止スルコトヲ得ス然レトモ会社契約以後ノ証書ニ依テノミ其権力ヲ附与シタル時ハ単一ナル代理委任ノ如クニ之ヲ廃止スルヲ得可キモノトス 第千八百五十七条 若シ社員数人ニ管理ヲ委任シ而シテ其職務ヲ定ムルコトナク又ハ其中ノ一人ハ他ノ者ナクシテ事ヲ行フコトヲ得サル旨ヲ明示スルコトナキ時ハ右ノ数人ハ各自別々ニ其管理ノ総テノ所為ヲ行フコトヲ得可シ 第千八百五十八条 若シ管理人中ノ一人カ他ノ者ナクシテハ何事ヲモ行フコトヲ得サル旨ヲ約権シタル時ハ其中ノ一人ハ更ニ新タナル合意ノアルニ非サレハ他ノ者ノ不在ニ於テ事ヲ行フコトヲ得ス但シ他ノ者カ現ニ管理ノ所為ニ参加スルコト能ハサル時ト雖モ亦之ニ同シ 第千八百五十九条 管理ノ仕方ニ付キ特別ノ約権アラサル時ハ以下ノ規則ニ従フ可シ 第一 社員ハ其一人カ他人ノ為メニ管理スルノ権力ヲ相互ニ附与シタリト看做ス可シ○其各人ノ為ス所ノモノハ他ノ社員ノ承諾ヲ得スシテ他ノ社員ノ分ケ前ノ為メニモ有効ノモノトス但シ他ノ社員又ハ其中ノ一人ハ行為ヲ完成スル前ニ其行為ニ付キ故障ヲ申立ツルノ権利アリ 第二 各社員ハ会社ニ属スル物ヲ用フルコトヲ得可シ但シ之レカ為メニハ習慣ニ依テ定マリタル其用方ニ於テ之ヲ用ヒ且ツ会社ノ資益ノ害トナリ又ハ他ノ社員ノ自己ノ権利ニ従ヒ之ヲ用フルヲ妨クル方法ニテ之ヲ用ヒサルコトヲ必要トス 第三 各社員ハ他ノ社員ヲシテ会社ノ物ノ保存ノ為メニ必要ナル費用ヲ己レト共ニ為スコトヲ強ユルノ権利ヲ有ス 第四 社員中ノ一人ハ他ノ社員ノ承諾スル時ニ非サレハ仮令会社ノ為メニ有益ナル旨ヲ主持スルト雖モ会社ニ属スル不動産ニ付キ更改ヲ為スコトヲ得ス 第千八百六十条 管理人ニ非サル社員ハ会社ニ属スル所ノ物ヲ仮令動産タリトモ所有権ヲ移転シ又ハ抵当ト為スコトヲ得ス 第千八百六十一条 各社員ハ会社ニ於テ自己ノ有スル分ケ前ニ関シテハ他ノ社員ノ承諾ナクシテ第三ノ人ヲ自己ノ組合人ト為スコトヲ得可シ然レトモ各社員ハ会社ノ管理ヲ為ス時ト雖モ他ノ社員ノ承諾ナクシテ第三ノ人ヲ会社ノ社員ト為スコトヲ得ス 第二節 第三ノ人ニ関スル社員ノ約務 第千八百六十二条 商業会社ヲ除クノ外其他ノ会社ニ於テハ社員ハ会社ノ負債ヲ連帯シテ担任セス而シテ又社員中ノ一人ハ他ノ社員ヨリ其権力ヲ附与セラレタルニ非サレハ他ノ社員ニ義務ヲ負ハシムルコトヲ得ス 第千八百六十三条 社員ハ其契約シタル債主ニ対シテハ各々平等ナル金額及ヒ分ケ前ニ付キ担任ス可ク仮令会社ニ於ケル其社員中一人ノ分ケ前カ更ニ少量ノモノタル時ト雖モ亦之ニ同シ但シ其証書ニ其社員中一人ノ義務ヲ右少量ナル分ケ前ノ割合ニ特ニ限制シタル時ハ格別ナリトス 第千八百六十四条 会社ノ計算ノ為メニ義務ヲ契約シタル旨ノ約権ハ其契約ヲ為シタル社員ノミヲ結束シ其他ノ社員ヲ結束セス但シ他ノ社員ヨリ其社員ニ権力ヲ附与シ又ハ其事物カ会社ノ利益トナリタル時ハ格別ナリトス 第四章 会社ノ終ル種々ノ方法 第千八百六十五条 会社ハ左ノ諸件ニ依テ終ルモノトス 第一 会社ヲ契約シタル時間ノ経過シタル事 第二 物ノ消滅又ハ事業ノ落成 第三 社員中或者ノ死去 第四 社員中一人ノ准死、治産禁又ハ破産 第五 一人又ハ数人ノ最早会社中ニ在ラサルコトヲ明言シタル意欲 第千八百六十六条 時期ノ制限アル会社ノ延期ハ会社ノ契約ト同一ノ法式ヲ具ヘタル書面ニ依ルニ非サレハ之ヲ証スルコトヲ得ス 第千八百六十七条 若シ社員中ノ一人カ一箇ノ物ノ所有権ヲ共通ニ附スルコトヲ約務シタル時ハ其共通ニ附スル事ヲ為ス前ニ生シタル滅尽ハ総テノ社員ニ関シテ会社ノ解分ヲ為スモノトス 物ノ収益権ノミヲ共通ニ附シ而シテ其所有権ハ社員ノ手裏ニ存シタル時ニ於テハ如何ナル場合ニ於テモ其物ノ滅尽ニ依リ其会社ハ亦同シク解分スルモノトス 然レトモ其所有権ヲ既ニ会社ニ持参シタル物ノ滅尽ニ依テハ其会社ハ解ケサルモノトス 第千八百六十八条 若シ社員中一人ノ死去ノ場合ニ於テハ其相続人ト共ニ会社ヲ継続シ又ハ唯生残ル所ノ社員ノミノ間ニ於テ会社ヲ継続ス可キ旨ヲ約権シタル時ハ其所定ニ従フ可シ但シ右第二ノ場合ニ於テハ死者ノ相続人ハ其死去ノ時ニ於ケル右会社ノ景状ニ准シテ会社ノ分派ヲ受ク可キノ権利ヲ有スルノミニシテ其後ノ権利ハ其相続人ノ相続セシ社員ノ死去以前ニ為シタル所ノモノノ已ムヲ得サル効果タル時ニ非サレハ死者ノ相続人其後ノ権利ニ参加セサルモノトス 第千八百六十九条 結約者中一人ノ意欲ニ依レル会社ノ解分ハ其継続ノ制限ナキ会社ノミニ適用ス可キモノニシテ而シテ総テノ社員ニ通知シタル放棄ニ依テ成ルモノトス但シ之レカ為メニハ其放棄ノ善意ニシテ且ツ機会ニ適セサル時期ニ之ヲ為ササルコトヲ必要トス 第千八百七十条 若シ一社員カ諸社員ノ共同シテ得ント欲スル所ノ利益ヲ己レ一人ノ所得ト為ス為メニ放棄シタル時ハ其放棄ハ善意ナラサルモノトス 事物ノ最早完全ナラスシテ会社ノ解分ヲ延ハスコトノ其会社ノ為メニ緊要ナル時ハ機会ニ適セサル時期ニ放棄ヲ為スモノトス 第千八百七十一条 有期会社ノ解分ハ其正当ノ理由アル時例ヘハ他ノ社員カ其約務ヲ缺キタル時又ハ其痼疾ニ罹リタルカ為メ会社ノ事務ヲ行フコト能ハサルニ至リタル時又ハ其他此類ノ場合ノ如キ時ニ非サレハ其合意シタル時期ニ至ラサル前ニ社員中ノ一人ヨリ之ヲ求ムルコトヲ得ス但シ此類ノ場合ノ正当ナル事及ヒ其重要ナル事ハ裁判官ノ裁断ニ任カスモノトス 第千八百七十二条 遺留財産ノ分派、分派ノ法式及ヒ其分派ヨリシテ共同相続人ノ間ニ生スル所ノ義務ニ関スル規則ハ社員ノ間ニ於ケル分派ニ適用スルモノトス 商業会社ニ関スル成規 第千八百七十三条 本巻ノ成規ハ商業ノ法律及ヒ習慣ニ反スルコトナキ黙ニ非サレハ商業会社ニ適用セサルモノトス 第十巻 貸借(千八百四年三月九日決定同月十九日宣令) 第千八百七十四条 貸借ニ二種アリ 滅却セスシテ用フルコトヲ得ル物ノ貸借 人ノ為ス所ノ使用ニ依テ消耗スル物ノ貸借 右第一種ヲ名ケテ使用ノ為メノ貸借又ハ使用貸借ト云フ 右第二種ヲ名ケテ消耗貸借又ハ単ニ貸借ト云フ 第一章 使用ノ為メノ貸借即チ使用貸借 第一節 使用ノ為メノ貸借ノ性質 第千八百七十五条 使用ノ為メノ貸借即チ使用貸借トハ借主ノ其物ヲ用ヒシ後ニ之ヲ返ス可キノ負任ヲ以テ双方中ノ一方ヨリ使用ノ為メ他ノ一方ニ一箇ノ物ヲ引渡ス所ノ契約ヲ云フ 第千八百七十六条 此賃借ハ本質上ヨリ無償ノモノトス 第千八百七十七条 貸主ハ其貸シタル物ノ所有者タルモノトス 第千八百七十八条 凡ソ各人ノ処分内ニ在リテ且ツ使用ニ依テ消耗セサル諸件ハ此合意ノ目的タルコトヲ得可シ 第千八百七十九条 使用貸借ニ依テ生スル所ノ約務ハ貸主ノ相続人及ヒ借主ノ相続人ニ移ルモノトス 然レトモ若シ借主ノ考察ニ於テ其一身ノミニ貸シタル時ハ其借主ノ相続人ハ借受ケタル物ヲ収益スルコトヲ継続スルヲ得ス 第二節 借主ノ約務 第千八百八十条 借主ハ其借リタル物ノ監守及ヒ保存ニ付キ良家父ニ於テ注意ス可キモノトス○借主ハ其性質ニ依リ又ハ合意ニ依リ定マリタル使用ニ非サレハ之ヲ用フルコトヲ得ス若シ之ニ反キテ損害アル時ハ其損害ノ賠償ヲ為ス可シ 第千八百八十一条 若シ借主カ其物ヲ他ノ使用ニ用ヒ又ハ其用フ可キ時間ヨリモ更ニ長キ時間之ヲ用ヒタル時ハ仮令意外ノ事故ニ依リ生シタルモノト雖モ其滅尽ヲ担任ス可シ 第千八百八十二条 若シ借主カ自己ノ物ヲ用ヒシナラハ其借リタル物ヲ担保スルコトヲ得タル可キ意外ノ事故ニ依リ其借リタル物ノ滅尽シタル時又ハ借主カ二箇ノ中一箇ナラテハ保存スルコトヲ得サルニ於テ自己ノ物ヲ撰取シタル時ハ借主他ノ物ノ滅尽ヲ担任ス可シ 第千八百八十三条 若シ物ヲ貸スニ当リテ之ヲ評価シタル時ハ仮令意外ノ事故ニ依テ生シタルモノト雖モ其滅尽ハ借主ニ於テ之ヲ担任ス可シ但シ之ニ反シタル合意アル時ハ格別ナリトス 第千八百八十四条 若シ借主ノ方ニ於テ毫モ過失ナク其物ヲ借受クルノ主眼タル使用ノ効ノミニ依テ其物ノ損壊シタル時ハ借主其損壊ヲ担任セス 第千八百八十五条 借主ハ貸主カ己レニ対シテ負担スル所ノモノノ相殺ニ依リ其物ヲ留置クコトヲ得ス 第千八百八十六条 若シ其物ヲ用フル為メニ借主ノ若干ノ費額ヲ為シタル時ハ借主其費額ヲ取戻スコトヲ得ス 第千八百八十七条 若シ数人共同シテ同一ノ物ヲ借リタル時ハ其数人ハ相連帯シテ貸主ニ対シ責ニ任ス可キモノトス 第三節 使用ノ為メニ貸ス者ノ約務 第千八百八十八条 貸主ハ合意シタル期限ノ後ニ非サレハ其貸シタル物ヲ取戻スコトヲ得ス又合意ノアラサルニ於テハ其物ヲ借受クルノ主眼タル使用ニ之ヲ用ヒタル後ニ非サレハ其貸シタル物ヲ取戻スコトヲ得ス 第千八百八十九条 然レトモ若シ右ノ期限ノ間又ハ借主ノ需要ノ止ム前ニ貸主ノ為メ其物ノ切迫ニシテ且ツ先見セラレサル需要ノ起リタル時ハ裁判官其景況ニ従ヒ貸主ニ其物ヲ返スコトヲ借主ニ強ユルコトヲ得可シ 第千八百九十条 若シ貸借ノ継続間借主カ其物ノ保存ノ為メ異常、必要ニシテ且ツ貸主ニ通知スルコトヲ得サル程ニ至急ヲ要スル若干ノ費額ヲ為ササルヲ得サリシ時ハ貸主ヨリ其費額ヲ借主ニ償還ス可キモノトス 第千八百九十一条 若シ貸シタル物カ之ヲ用フル者ニ損害ヲ被ムラシムルコトアル可キ如キ瑕疵アル時貸主ノ其瑕疵ヲ知リ而シテ之ヲ借主ニ告知セサルニ於テハ貸主其責ニ任ス可キモノトス 第二章 消耗貸借即チ単一ナル貸借 第一節 消耗貸借ノ性質 第千八百九十二条 消耗貸借トハ双方中ノ一方ヨリ他ノ一方ニ使用ニ依テ消耗スル物ノ若干ノ分量ヲ引渡シ而シテ他ノ一方ニ於テ之ト同種同質ノモノノ同一ノ分量ヲ一方ノ者ニ返ス可キノ負任アル契約ヲ云フ 第千八百九十三条 借主ハ此契約ノ効ニ依リ其借リタル物ノ所有者トナリ而シテ其物ノ滅尽スル方法ノ如何ヲ問ハス借主其滅尽ヲ負担ス可シ 第千八百九十四条 何人ニ限ラス仮令同種ノモノタリト雖モ各自相異ナル物例ヘハ獣類ノ如キ物ヲ消耗貸借ノ名義ヲ以テ附与スルコトヲ得ス斯ル場合ニ於テハ其貸借ハ使用ノ為メノ貸借ナリトス 第千八百九十五条 金円ノ貸借ヨリ生スル所ノ義務ハ常ニ必ス其契約ニ表示シタル算数上ノ金額ノミノモノトス 弁済ノ時期ノ前ニ貨幣ノ価格ニ増減アリト雖モ負債者ハ其借リタル算数上ノ金額ヲ返ササル可カラス而シテ弁済ノ時ニ於テ通用スル貨幣ヲ以テ右ノ金額ニ非サレハ返ス可カラサルモノトス 第千八百九十六条 若シ地金ヲ以テ賃借ヲ為シタル時ハ前条ニ載セタル規則ヲ用フ可カラス 第千八百九十七条 若シ貸借シタル物カ地金又ハ飲食品ナル時ハ其代価ノ増減ノ如何ヲ問ハス負債者ハ常ニ必ス同量同質ノモノヲ返ササル可カラス而シテ其同量同質ノモノニ非サレハ返ス可カラサルモノトス 第二節 貸主ノ義務 第千八百九十八条 消耗貸借ニ於テハ貸主ハ使用ノ為メノ貸借ニ付キ第千八百九十一条ニ定メタル責任ヲ負担スルモノトス 第千八百九十九条 貸主ハ合意セラレタル期限ノ前ニ其貸シタル物ヲ取戻サント求ムルコトヲ得ス 第千九百条 返還ノ為メニ期限ヲ定メサル時ハ裁判官其景況ニ従ヒ借主ニ猶予ヲ附与スルコトヲ得可シ 第千九百一条 若シ借主カ弁済シ得ル時ニ弁済ス可ク又ハ借主カ弁済ノ資力ヲ有スル時ニ弁済ス可キコトノミヲ合意シタル時ハ裁判官其景況ニ従ヒ弁済ノ期限ヲ借主ニ定ム可シ 第三節 借主ノ約務 第千九百二条 借主ハ其借リタル物ヲ同量及ヒ同質ニ於テ且ツ合意セラレタル期限ニ至リテ返ス可キモノトス 第千九百三条 若シ借主ノ之ヲ履行スルコト能ハサル時ハ合意ニ従ヒ其物ヲ返ササル可カラサル時ト場所トニ於ケル其価額ヲ弁済ス可キモノトス 若シ其時ト場所トヲ規定セサル時ハ借受ヲ為シタル時ト場所トノ代価ヲ以テ其弁済ヲ為ス可シ 第千九百四条 若シ借主ノ其合意セラレタル時期ニ於テ其借リタル物又ハ其価額ヲ返ササル時ハ借主ハ裁判所ニ於ケル訟求ノ日ヨリ之レカ利息ヲ負担スルモノトス 第三章 利息アル貸借 第千九百五条 金円若クハ飲食品又ハ其他ノ動産ノ単一ナル貸借ノ為メニ利息ヲ約権スルコトヲ許可ス 第千九百六条 約権セラレサリシ利息ヲ弁済シタル借主ハ之ヲ取戻スコトヲ得ス又之ヲ元金ニ充用スルコトヲ得ス 第千九百七条 利息ハ法律上又ハ合意上ノモノトス○法律上ノ利息ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム○合意上ノ利息ハ法律ニ禁止セサル度毎ニ法律上ノ利息ニ過クルコトヲ得可シ 合意上ノ利息ノ割合ハ書面ヲ以テ之ヲ定メサルヲ得ス 第千九百八条 利息ノ貯存ナクシテ附与シタル元金ノ受取証書ハ其利息ノ弁済ヲ思量セシメ而シテ其釈免ヲ為スモノトス 第千九百九条 貸主ノ要求スルコトヲ自カラ禁止スル所ノ元資ニ依リ利息ヲ約権スルコトヲ得可シ 此場合ニ於テハ其貸借ヲ名ケテ年金収受権ノ設定ト云フ 第千九百十条 其年金収受権ハ二箇ノ方法即チ無期又ハ畢生間ニ於テ之ヲ設定スルコトヲ得可シ 第千九百十一条 無期ニ於テ設定シタル年金収受権ハ其本質上ヨリシテ買戻スコトヲ得可キモノトス 双方ノ者ハ唯十年ニ過クルコトヲ得サル期限ノ前又ハ双方ノ者ノ定メタル予先ノ期限ニ於テ債主ニ告知スルコトナクシテ其買戻ヲ為ス可カラサル旨ヲ合意スルコトヲ得可シ 第千九百十二条 無期ニ於テ設定シタル年金収受権ノ負債者ハ左ノ場合ニ於テハ之ニ買戻ヲ強ユルコトヲ得可シ 第一 其負債者ノ二年間自己ノ義務ヲ履行スルコトヲ止メタル時 第二 其負債者ノ契約ニ依リ約務シタル抵保ヲ貸主ニ供給スルコトヲ缺キタル時 第千九百十三条 無期ニ於テ設定シタル年金収受権ノ元資ハ負債者ノ家資分散又ハ破産ノ場合ニ於テハ亦要求スルヲ得可キモノトナル可シ 第千九百十四条 畢生間ノ年金収受権ニ関スル規則ハ偶然ノ契約ノ巻ニ之ヲ設定ス 第十一巻 附託及ヒ争訟アル物ノ附託(千八百四年三月十四日決定同月二十四日宣令) 第一章 一般ニ附託及ヒ其種々ノ種類 第千九百十五条 一般ニ附託トハ人カ他人ノ物ヲ監守シ及ヒ原品ノ侭ニテ之ヲ返還スルノ負任ヲ以テ其物ヲ収受スル所ノ所為ヲ云フ 第千九百十六条 附託ニ二種アリ一ハ真ニ所謂附託又一ハ争訟アル物ノ附託是レナリ 第二章 真ニ所謂附託 第一節 附託契約ノ性質及ヒ本質 第千九百十七条 真ニ所謂附託ハ本質上ヨリシテ無償ノ契約タリ 第千九百十八条 其附託ハ動産ニ非サレハ目的ト為スコトヲ得ス 第千九百十九条 其附託ハ附託シタル物ノ現実又ハ仮定ノ引渡ニ依ルニ非サレハ完全ナリトセス 受託者カ人ヨリ附託ノ名義ニテ委付スルコトヲ承諾スル所ノ物ヲ既ニ或ル他ノ名義ニテ保有シタル時ハ仮定ノ引渡ヲ以テ足レリトス 第千九百二十条 附託ハ任意ノモノアリ又ハ已ムヲ得サルモノアリ 第二節 任意ノ附託 第千九百二十一条 任意ノ附託ハ附託ヲ為ス人ト之ヲ受クル人トノ相互ノ承諾ニ依テ成ルモノトス 第千九百二十二条 任意ノ附託ハ正規ニ於テハ其附託シタル物ノ所有者ニ依リ又ハ其所有者ノ明認又ハ黙認ノ承諾ニ依ルニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス 第千九百二十三条 任意ノ附託ハ書面ヲ以テ之ヲ証セサルヲ得ス○百五十「フランク」ニ過キタル価額ニ付テハ之レカ証人ノ証ヲ許サス 第千九百二十四条 百五十「フランク」以上ノ附託カ書面ニ依テ証セラレサル時ハ受託者ナリトシテ言掛ラレタル者ハ附託ノ事実ニ付テモ若クハ附託ノ目的タル物ニ付テモ若シクハ其返還ノ事実ニ付テモ自己ノ申述ニ依テ信憑セラルルモノトス 第千九百二十五条 任意ノ附託ハ契約スルノ能力アル各人ノ間ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス 然レトモ若シ契約スルノ能力アル者カ其能力ナキ者ヨリ為ス所ノ附託ヲ受諾シタル時ハ其者ハ真ノ受託者ノ総テノ義務ヲ担任ス可シ但シ其者ハ附託ヲ為ス者ノ後見人又ハ管理人ヨリ訴ラルルコトアル可シ 第千九百二十六条 若シ能力アル者ヨリ能力ナキ者ニ附託ヲ為シタル時ハ其附託ヲ為シタル者ハ其附託シタル物カ受託者ノ手裏ニ存在スル間ハ其物ノ所有権取戻ニ於ケル訴権又ハ受託者ノ利益トナリタルモノノ額ニ充ツル迄償還ニ於ケル訴権ノミヲ有スルモノトス 第三節 受託者ノ義務 第千九百二十七条 受託者ハ其附託セラレタル物ノ監守ニ於テ自己ニ属スル物ノ監守ニ付キ其加フル所ニ同シキ注意ヲ加ヘサル可カラス 第千九百二十八条 前条ノ成規ハ左ノ場合ニ於テハ更ニ厳重ニ之ヲ適用セサル可カラス 第一 受託者ノ自身ヨリ其附託ヲ受ケント供陳シタル時 第二 受託者ノ其受託物ノ監守ノ為メニ給料ヲ約権シタル時 第三 受託者ノ資益ノ為メノミニ附託ヲ為シタル時 第四 受託者カ各種ノ過失ヲ担当ス可キ旨ヲ明カニ合意シタル時 第千九百二十九条 受託者ハ如何ナル場合ニ於テモ抗拒ス可カラサル力アル偶然ノ事故ヲ担任セス但シ受託者ノ其附託セラレタル物ヲ返還スルコトニ付キ遅滞ニ附セラレタル時ハ格別ナリトス 第千九百三十条 受託者ハ附託者ノ明カナル又ハ思量セラレタル許ナクシテ其附託セラレタル物ヲ用フルコトヲ得ス 第千九百三十一条 受託者ハ其附託セラレタル物ノ鎖閉シタル箱匱中ニ在リ又ハ封印ヲ為シタル封袋ノ中ニ在リテ之ヲ委託セラレタル時ハ其物ノ如何ナルモノタルヤヲ知ラント求ム可カラス 第千九百三十二条 受託者ハ収受シタル其物ヲ其原物ニテ返ササル可カラス 故ニ金円ノ附託ハ其価額ノ増シタル場合ト減シタル場合トヲ問ハス其附託ヲ為シタルト同一ノ種類ヲ以テ之ヲ返ササル可カラス 第千九百三十三条 受託者ハ附託セラレタル物ヲ其返還ノ時ニ於ケル現在ノ景状ニ於テ返ス可キノミトス○受託者ノ所為ニ依テ生シタルモノニ非サル損壊ハ附託者ノ負任ナリトス 第千九百三十四条 抗拒ス可カラサル力ニ依テ物ヲ奪取セラレ而シテ之ニ代ヘテ代金又ハ或物ヲ収受シタル受託者ハ其交換ニ於テ収受シタル所ノモノヲ返還セサル可カラス 第千九百三十五条 受託者ノ相続人其受託ノコトヲ知ラサル物ヲ善意ヲ以テ売リタル時ハ其収受シタル代金ヲ返スコトノミヲ担任シ又其代金ヲ領収セサルニ於テハ買主ニ対スル自己ノ訴権ヲ譲渡スコトノミヲ担任ス可シ 第千九百三十六条 若シ附託セラレタル物ノ果実ヲ生シテ受託者ノ之ヲ収取シタル時ハ受託者之ヲ返還ス可キノ義務アリ○受託者ハ其附託セラレタル金円ノ返還ヲ為スコトニ付キ遅滞ニ附セラレタル日ヨリ後ニ非サレハ毫モ其金円ノ利息ヲ負担セス 第千九百三十七条 受託者ハ其附託物ヲ己レニ附託シタル者又ハ自己ノ名前ヲ以テ附託ヲ為サシメタル者又ハ其附託物ヲ収受スル為メニ指示セラレタル者ノミニ其附託物ヲ返還ス可シ 第千九百三十八条 受託者ハ附託ヲ為ス者ニ対シ其附託物ノ所有者タルノ証ヲ要求スルコトヲ得ス 然レトモ若シ受託者カ其附託物ノ盗品ニシテ之レカ真ノ所有者ノ誰タルヤヲ発見シタル時ハ自己ニ為サレタル附託ノ事ヲ其真ノ所有者ニ通知シ並ニ定マリタル充分ナル期限内ニ其附託物ヲ取返ス可キ旨ヲ其真ノ所有者ニ催促セサル可カラス○若シ其通知ヲ受ケタル者カ其附託物ヲ取返スコトヲ怠リタル時ハ受託者ハ附託ヲ為セシ者ニ其附託物ヲ引渡スニ依リ有効ニ義務ヲ免除セラルルモノトス 第千九百三十九条 附託ヲ為シタル者ノ死去又ハ准死ノ場合ニ於テハ附託物ヲ其者ノ相続人ノミニ返ス可シ 若シ其相続人数人アル時ハ其各自ノ分ケ前及ヒ部分ニ付キ之ヲ其各相続人ニ返ササル可カラス 若シ其附託物カ不可分ノ物タル時ハ相続人数人ハ之ヲ収受スル為メ相互ニ協議セサル可カラス 第千九百四十条 若シ附託ヲ為シタル者ノ身分ノ変シタル時例ヘハ附託ヲ為セシ時ニ当リ自由ノモノタリシ婦女ノ其後結婚シテ夫ノ威権ニ従フ可キモノトナリ又ハ附託ヲ為セシ成年者ノ治産禁ヲ受ケタル時ノ如キ総テ此等ノ場合及ヒ其他之ト同一ノ性質ノモノタル場合ニ於テハ其附託者ノ権利及ヒ財産ノ管理ヲ為ス者ノミニ其附託物ヲ返還ス可シ 第千九百四十一条 若シ後見人、夫又ハ管理人ヨリ此等ノ分限中ノ一箇ヲ以テ附託ヲ為シ而シテ此等ノ者ノ管財又ハ管理ノ終リタル時ハ其後見人、夫又ハ管理人ノ代理セシ其本人ノミニ其附託物ヲ返還ス可シ 第千九百四十二条 若シ附託ノ契約ニ其返還ヲ為ササル可カラサル場所ヲ指定メタル時ハ受託者附託物ヲ其場所ニ移送ス可キモノトス○若シ運送ノ費用アル時ハ其費用ハ附託者ノ負任タリ 第千九百四十三条 若シ契約ニ其返還ノ場所ヲ指定メサル時ハ附託ヲ為シタル其場所ニ於テ返還ヲ為ササル可カラス 第千九百四十四条 仮令契約ニ返還ノ為メニ特定ノ期限ヲ定メタル時ト雖トモ附託者ノ要求ニ従ヒ直チニ其附託物ヲ附託者ニ返ササル可カラス但シ受託者ノ手元ニ於テ其附託物ノ返還及ヒ移送ニ付テノ差押即チ差止ノ存在シタル時ハ格別ナリトス 第千九百四十五条 不誠実ナル受託者ハ譲給ノ利益ヲ許サレサルモノトス 第千九百四十六条 若シ受託者カ己レ自カラ其附託セラレタル物ノ所有者タルコトヲ発見シテ且ツ之ヲ証スル時ハ受託者ノ総テノ義務止息スルモノトス 第四節 附託ヲ為ス者義務 第千九百四十七条 附託ヲ為ス者ハ其附託シタル物ノ保存ノ為メニ受託者ノ為シタル費額ヲ受託者ニ償還シ且ツ附託ノ為メ受託者ニ被ラシメタル総テノ損失ヲ受託者ニ賠償ス可キモノトス 第千九百四十八条 受託者ハ附託ノ為メ己レニ補償ヲ受ク可キモノノ全部ノ弁済ヲ得ルニ至ル迄ハ其附託物ヲ留置クコトヲ得可シ 第五節 已ムヲ得サル附託 第千九百四十九条 已ムヲ得サル附託トハ火災、崩潰、掠奪、破船ノ如キ或ル偶然ノ事故又ハ其他ノ予見セラレサル事故ニ依リ強制セラレタル附託ヲ云フ 第千九百五十条 已ムヲ得サル附託ニ付テハ仮令百五十「フランク」以上ノ価額ニ関スル時ト雖モ証人ニ依レル証ヲ許スコトヲ得可シ 第千九百五十一条 右ノ外止ムヲ得サル附託ハ前ニ表示シタル総テノ規則ヲ以テ管理セラルルモノトス 第千九百五十二条 旅店主又ハ旅舎主ハ其家ニ宿泊スル旅客ノ持来リタル品物ニ付テハ其受託者トシテ責ニ任ス可キモノトス但シ此類ノ品物ノ附託ハ已ムヲ得サル附託ト看做ササルヲ得ス 第千九百五十三条 旅店主又ハ旅舎主ハ旅舎ノ雇人及ヒ召使人ノ盗取ヲ為シ又ハ損害ヲ加ヘタルト若クハ其旅舎ニ出入スル外人ノ盗取ヲ為シ又ハ損害ヲ加ヘタルトヲ問ハス旅客ノ品物ノ盗取又ハ損害ノ責ニ任ス可キモノトス 第千九百五十四条 旅店主又ハ旅舎主ハ兵器ヲ携ヘタルカ又ハ其他ノ抗拒ス可カラサルカヲ以テ為シタル盗取ニ付テハ其責ニ任セサルモノトス 第三章 争訟アル物ノ附託 第一節 争訟アル物ノ附託ノ種々ノ種類 第千九百五十五条 争訟アル物ノ附託ハ合意上ノモノアリ又ハ裁判上ノモノアリ 第二節 争訟アル物ノ合意上ノ附託 第千九百五十六条 争訟アル物ノ合意上ノ附託トハ一人又ハ数人ヨリ一箇ノ争訟アル物ヲ第三ノ人ノ手裏ニ附託スル事ヲ云ヒ而シテ其第三ノ人ハ争訟ノ終リシ後其物ヲ得可シト裁判セラレタル者ニ之ヲ返ス可キノ義務ヲ己レニ負フモノトス 第千九百五十七条 争訟アル物ノ附託ハ無償ノモノタラサルコトヲ得可シ 第千九百五十八条 争訟アル物ノ附託カ無償ノモノタル時ハ真ニ所謂附託ノ規則ニ服従スルモノトス但シ以下ニ表示スル所ノ差異ハ格別ナリトス 第千九百五十九条 争訟アル物ノ附託ハ動産ノミナラス不動産ヲモ亦其目的ト為スコトヲ得可シ 第千九百六十条 争訟アル物ノ附託ヲ任セラレタル受託者ハ其争訟ノ終ラサル前ハ関係各人ノ承諾ニ依リ又ハ正当ナリト裁判セラレタル原由ノ為メニ非サレハ其義務ヲ免除セラルルコトヲ得ス 第三節 争訟アル物ノ裁判上ノ附託 第千九百六十一条 裁判所ハ左ノ諸件ノ附託ヲ命スルコトヲ得可シ 第一 負債者ニ付キ差押ヘタル動産 第二 二人又ハ数人ノ間ニ於テ所有権又ハ占有ノ争訟アル不動産又ハ動産 第三 負債者ノ自己ノ釈免ノ為メニ渡サント供陳スル所ノ物 第千九百六十二条 裁判上監守人ノ設定ハ差押人ト監守人トノ間ニ於テ相互ノ義務ヲ生セシム○監守人ハ其差押ヘタル品物ノ保存ニ付キ良家父ノ注意ヲ加ヘサル可カラス 監守人ハ売払ノ為メ差押人ノ義務免除ニ於テ其品物ヲ差出シ若シクハ差押解除ノ場合ニ於テハ執行ヲ受ケタル者ニ其品物ヲ差出ササル可カラス 差押人ノ義務ハ法律上ニ定メタル給料ヲ監守人ニ弁済スルニ在リトス 第千九百六十三条 争訟アル物ノ裁判上ノ附託ハ関係各人ノ間ニ合意シタル者ニ之ヲ附与シ若クハ裁判官ヨリ職権ヲ以テ撰任シタル者ニ之ヲ附与ス可シ 右ノ中何レノ場合ニ於テモ其物ヲ委託セラレタル者ハ争訟アル物ノ合意上ノ附託カ惹起スル所ノ総テノ義務ニ服従ス可シ 第十二巻 偶然ノ契約(千八百四年三月十日決定同月二十日宣令) 第千九百六十四条 偶然ノ契約トハ総テノ契約者ノ為メ若クハ其中ノ一人又ハ数人ノ為メノ得益及ヒ損失ニ付テノ効カ不定ノ事故ニ関スル所ノ相互ノ合意ヲ云フ 斯クノ如キモノハ左ノ諸件ナリトス 保険契約 航海ノ危険ニ於ケル貸借 遊戯及ヒ賭博 畢生間ノ年金収受権ノ契約 右ノ中初メノ二箇ハ海上法律ヲ以テ之ヲ管理ス 第一章 遊戯及ヒ賭博 第千九百六十五条 法律ハ遊戯ノ負債ノ為メ又ハ賭博ノ弁済ノ為メニ毫モ訴権ヲ附与セス 第千九百六十六条 兵器ノ取扱ニ練熟セシムル為メノ遊戯、競走、競馬、競車、打毬及ヒ其他之ト同性質ノ遊戯ニシテ身体ヲ軽捷壮健ナラシムルモノハ前ニ記シタル成規ノ例外ナリトス 然レトモ裁判所ハ其金額ノ過当ナリト思ハルル時ハ其訟求ヲ棄却スルコトヲ得可シ 第千九百六十七条 如何ナル場合ニ於テモ負者ハ自己ノ任意ニ弁済シタル所ノモノヲ取戻スコトヲ得ス但シ勝者ノ方ニ詐欺、詭策、詐欺取財アル時ハ格別ナリトス 第二章 畢生間ノ年金収受権ノ契約 第一節 其契約ノ有効ノモノタルニ必要ナル条件 第千九百六十八条 畢生間ノ年金収受権ハ一箇ノ金額ニ拠リ又ハ評価ス可キ一箇ノ動産ノ為メ又ハ一箇ノ不動産ノ為メ有償ノ名義ニテ之ヲ設定スルコトヲ得可シ 第千九百六十九条 畢生間ノ年金収受権ハ生存中ノ贈与ニ依リ又ハ遺嘱ニ依リ純粋ニ無償ノ名義ニテ亦之ヲ設定スルコトヲ得可シ○然ル時ハ其年金収受権ハ法律上ニ必要ナリト為ス法式ヲ具ヘサル可カラス 第千九百七十条 前条ノ場合ニ於テ若シ畢生間ノ年金収受権カ処分スルコトヲ許サレタル所ノモノニ過クル時ハ之ヲ減殺ス可シ又其年金収受権カ収受スルノ能力ナキ者ノ利益ニ於テアル時ハ無効ノモノタリ 第千九百七十一条 畢生間ノ年金収受権ハ代金ヲ供給シタル者ノ生存中之ヲ設定スルコトヲ得若クハ其年金収受権ヲ収益スルノ権利ヲ毫モ有セサル第三ノ人ノ生存中之ヲ設定スルコトヲ得可シ 第千九百七十二条 畢生間ノ年金収受権ハ一人又ハ数人ノ生存中之ヲ設定スルコトヲ得可シ 第千九百七十三条 畢生間ノ年金収受権ハ仮令他人ヨリ其代金ヲ供給シタル時ト雖モ第三ノ人ノ利益ニ於テ之ヲ設定スルコトヲ得可シ 此最後ノ場合ニ於テハ其畢生間ノ年金収受権ハ仮令恩恵ノ性質ヲ有スルト雖モ贈与ノ為メニ必要ナリト為ス法式ニ服従セサルモノトス但シ第千九百七十条ニ表示シタル減殺及ヒ無効ノ場合ハ格別ナリトス 第千九百七十四条 凡ソ契約ノ日ニ既ニ死去セシ者ノ生存中創設シタル畢生間ノ年金収受権ノ契約ハ毫モ其効ヲ生セサルモノトス 第千九百七十五条 病ニ罹リタル者ノ生存中其年金収受権ヲ創設スルノ契約ヲ為シ而シテ其者ノ其契約ノ日附ヨリ二十日内ニ其病ノ為メニ死去シタル時ハ其契約ハ亦右ト同一ナリトス 第千九百七十六条 畢生間ノ年金収受権ハ契約者ノ定ムルコトノ随意ナル割合ヲ以テ之ヲ設定スルコトヲ得可シ 第二節 契約者ノ間ニ於ケル其契約ノ効 第千九百七十七条 代金ニ拠リ自己ノ利益ニ於テ畢生間ノ年金収受権ヲ設定セラレタル者ハ若シ其設定者ヨリ契約執行ノ為メニ約権シタル抵保ヲ己レニ附与セサル時ハ其契約ノ取消ヲ訟求スルコトヲ得可シ 第千九百七十八条 年金賦額弁済ノ欠缺ノミニテハ其年金収受権設定ノ利益ヲ受クル者ハ元資ノ償還ヲ訟求シ又ハ自己ヨリ所有権ヲ移転セシ不動産ヲ取戻スコトヲ許サレスシテ其者ハ自己ノ負債者ノ財産ヲ差押ヘテ之ヲ売払ハシメ且ツ其売払ニ依リ得タル金額ニ就キ年金賦額支弁ノ為メニ充分ナル金額ノ使用ヲ命令セシメ又ハ承諾セシムルノ権利ノミヲ有スルモノトス 第千九百七十九条 設定者ハ元資ヲ償還セント供陳シ且ツ既ニ弁済セシ年金賦額ノ取戻ヲ放棄シテ年金ノ弁済ヲ免カルルコトヲ得ス其設定者ハ年金収受権ヲ設定スルニ付キ其生存ヲ標準ト為シタル一人又ハ数人ノ生存間ノ如何ナルヲ問ハス又年金支弁ノ如何ニ重劇トナルコトアルヲ問ハス其一人又ハ数人ノ生存中年金ヲ支弁スルコトヲ担任ス可シ 第千九百八十条 畢生間ノ年金ハ其所有者ノ生存シタル日数ノ割合ノミヲ以テ其所有者ニ於テ之ヲ獲得スルモノトス 然レトモ其年金ヲ前払ニ為ス可キ旨ヲ合意シタル時ハ弁済ス可キ各期ハ其弁済ヲ為ス可キニ至リシ日ヨリ之ヲ獲得スルモノトス 第千九百八十一条 畢生間ノ年金収受権ハ無償ノ名義ニテ之ヲ設定シタル時ニ非サレハ差押ユ可カラサル旨ヲ約権スルコトヲ得ス 第千九百八十二条 畢生間ノ年金収受権ハ其所有者ノ准死ニ依テ消滅セス其生存中ハ之レカ弁済ヲ継続セサルヲ得ス(本条ハ准死ヲ廃セシ以来無用ノモノタリ) 第千九百八十三条 畢生間ノ年金収受権ノ所有者ハ自己ノ生存スル事又ハ其年金収受権ヲ設定スルニ付キ其生存ヲ標準ト為シタル者ノ生存スル事ヲ証明スルニ非サレハ年金賦額ヲ求ムルコトヲ得ス 第十三巻 代理(千八百四年三月十日決定同月二十日宣令) 第一章 代理ノ性質及ヒ法式 第千九百八十四条 代理即チ名代トハ一人ヨリ他人ニ委任者ノ為メ且ツ委任者ノ名前ヲ以テ或事ヲ為スノ権力ヲ附与スル所ノ所為ヲ云フ 其契約ハ代理者ノ受諾ニ依ルニ非サレハ成ラサルモノトス 第千九百八十五条 代理ハ公ケノ証書ニ依リ又ハ私シノ署名証書ニ依リ又ハ然ノミナラス書状ニ依リ之ヲ附与スルコトヲ得可シ○代理ハ亦口上ニテ之ヲ附与スルコトヲ得可シ然レトモ証人ノ証ハ契約即チ一般ニ合意上ノ義務ノ巻ニ従フニ非サレハ之ヲ許サス 代理ノ受諾ハ黙認ノミニシテ代理者ノ其代理ニ附与シタル執行ヨリ生スルコトヲ得可シ 第千九百八十六条 代理ハ無償ノモノタリ但シ之ニ反シタル合意アル時ハ格別ナリトス 第千九百八十七条 代理ハ特別ニシテ一箇ノ事件又ハ特定ノ事件ノミニ関スルモノアリ又ハ一般ニシテ委任者ノ総テノ事件ニ関スルモノアリ 第千九百八十八条 汎博ナル語辞ヲ用ヒタル代理ハ管理ノ所為ノミヲ包含スルモノトス 若シ所有権ヲ移転スルコト又ハ書入質ト為スコト又ハ或ル其他ノ所有権ノ所為ニ関スル時ハ代理ハ明示ノモノタラサルヲ得ス 第千九百八十九条 代理者ハ其代理委任状ニ載セタル所ノモノノ外何事ヲモ為スコトヲ得ス故ニ和解スルノ権力ハ裁断人ノ裁断ニ任カスノ権力ヲ包含セサルモノトス 第千九百九十条 婦及ヒ後見ヲ免脱セラレタル幼者ハ代理者トシテ撰ムコトヲ得可シ然レトモ委任者ハ幼年ノ代理者ニ対シテハ幼者ノ義務ニ関スル総則ニ従フニ非サレハ訴権ヲ有セサルモノトス又夫ノ許可ナクシテ代理ヲ受諾シタル結婚シタル婦ニ対シテハ婚姻ノ契約及ヒ夫婦相互ノ権利ノ巻ニ定メタル規則ニ従フニ非サレハ訴権ヲ有セサルモノトス 第二章 代理者ノ義務 第千九百九十一条 代理者ハ其代理ヲ委任セラルル間ハ之ヲ履行ス可ク而シテ其不執行ヨリ生スルコトアル可キ損害ヲ賠償スルノ責ニ任スルモノトス 代理者ハ若シ遅滞ニ於テ危険アル時ハ委任者ノ死去ニ当リテ始メタル事件ヲ成就スルコトヲ右ニ同シク担任ス可シ 第千九百九十二条 代理者ハ其管理ニ於テ行フ所ノ詐欺ノミナラス其過失ニ付テモ亦其責ニ任スルモノトス 然レトモ過失ニ関スル責任ハ給料ヲ収受スル者ヨリモ代理ノ無償ナル者ニハ更ニ軽緩ニ適用ス可シ 第千九百九十三条 総テノ代理者ハ其管理ノ計算ヲ為シ且ツ其名代委任ニ拠テ収受シタル諸件ヲ委任者ニ交付ス可キモノトス但シ代理者ノ収受セシモノカ委任者ノ受ク可キモノニ非サル時ト雖モ亦之ニ同シ 第千九百九十四条 代理者ハ左ノ場合ニ於テハ管理ニ付キ己レニ代ハラシメタル者ノ責ニ任ス可シ 第一 代理者カ或人ヲシテ己レニ代ハラシムルノ権力ヲ受ケサル時 第二 人ヲ指定セスシテ其権力ヲ代理者ニ附与シ而シテ代理者ノ撰ミタル者カ顕然其任ニ堪ヘス又ハ無資力ナル時 如何ナル場合ニ於テモ委任者ハ代理者ノ己レニ代ハラシメタル者ニ対シテ直接ニ訟求スルコトヲ得可シ 第千九百九十五条 同一ノ証書ヲ以テ設定シタル代理者数人アル時ハ其連帯ノ旨ヲ明示シタルニ非サレハ其数人ノ間ニ連帯アラサルモノトス 第千九百九十六条 代理者ハ自己ノ使用ニ供シタル金額ノ利息ヲ其使用ノ日ヨリ起算シテ負担スルモノトス又其残額負債者タル金額ノ利息ヲ其遅滞ニ附セラレシ日ヨリ起算シテ負担スルモノトス 第千九百九十七条 代理者カ其代理者タルノ分限ヲ以テ契約シタル者ニ自己ノ権力ヲ充分ニ告知シタル時ハ其権力外ニ於テ為シタル所ノモノノ為メ毫モ担保ヲ担任セサルモノトス但シ代理者ノ己レ自カラ其担保ニ服従シタル時ハ格別ナリトス 第三章 委任者ノ義務 第千九百九十八条 委任者ハ其代理者ニ附与シタル権力ニ従ヒ其代理者ノ契約シタル約務ヲ執行スルコトヲ担任ス可シ 其権力外ニ於テ為シタルモノハ委任者ノ明認又ハ黙認ヲ以テ之ヲ認可シタル時ニ非サレハ委任者之ヲ担任セス 第千九百九十九条 委任者ハ代理者カ其代理ノ執行ノ為メニ為シタル立替及ヒ費用ヲ代理者ニ償還シ且ツ代理者ニ給料ヲ約務シタル時ハ其給料ヲ弁済セサル可カラス 若シ代理者ニ帰ス可キ如何ナル過失モアラサル時ハ仮令其事務ノ成就セサル場合ト雖モ委任者ハ右ノ償還及ヒ弁済ヲ為スコトヲ免カルルヲ得ス又其費用及ヒ立替ノ更ニ少ナキコトヲ得可キ旨ヲ口実トシテ其費用及ヒ立替ノ額ヲ減セシムルコトヲ得ス 第二千条 委任者ハ亦代理者ニ帰ス可キ疎忽ナクシテ代理者ノ其管理ニ由リ受ケタル損失ヲ代理者ニ賠償セサルヲ得ス 第二千一条 代理者ノ為シタル立替金ノ利息ハ証明セラレタル其立替ノ日ヨリ起算シテ委任者ヨリ之ヲ代理者ニ補償ス可シ 第二千二条 共同ノ事務ノ為メ数人ヨリ代理者ヲ設定シタル時ハ其各人ハ代理者ニ対シ相連帯シテ代理ノ総テノ効ヲ担任ス可シ 第四章 代理ノ終ル種々ノ方法 第二千三条 代理ハ左ノ諸件ニ依テ終ルモノトス 代理者ノ廃止 代理者ノ其代理ヲ放棄スル事 委任者若クハ代理者ノ死去、准死、治産禁又ハ破産 第二千四条 委任者ハ其随意ニ名代委任ヲ廃止スルコトヲ得而シテ別段ノ道理アル時ハ其名代委任ヲ記シタル私シノ署名証書又ハ其名代委任ノ証書ヲ細字ノ正本ナクシテ渡シタル時ハ其証書ノ正本若クハ其細字ノ正本ヲ保存シタル時ハ其副本ヲ己レニ還付スルコトヲ代理者ニ強ユルコトヲ得可シ 第二千五条 代理者ノミニ通知シタル廃止ハ其廃止ヲ知ラスシテ約定シタル第三ノ人ニ之ヲ対抗スルコトヲ得ス但シ委任者ハ其代理者ニ対シテ償還ヲ訟求スルコトヲ得可キモノトス 第二千六条 同一ノ事務ニ付キ更ニ新タナル代理者ヲ設定シタル時ハ其設定ノ旨ヲ初メノ代理者ニ通知シタル日ヨリ起算シテ其初メノ代理者ヲ廃止シタルノ効力アルモノトス 第二千七条 代理者ハ委任者ニ自己ノ放棄ヲ通知シテ其代理ヲ放棄スルコトヲ得可シ 然レトモ若シ其放棄ノ為メ委任者ニ損害ヲ被ムラシムル時ハ委任者ハ代理者ヨリ其賠償ヲ受ク可シ但シ代理者ノ著大ナル損害ヲ己レ自カラ受クルニ非サレハ其代理ヲ継続スルコト能ハサル時ハ格別ナリトス 第二千八条 若シ代理者カ委任者ノ死去又ハ其代理ヲ止息セシムル其他ノ原由中ノ一ヲ知ラサル時ハ之ヲ知ラスシテ為シタル所ノモノハ有効ナリトス 第二千九条 前ノ場合ニ於テハ代理者ノ約務ハ善意ナル第三ノ人ニ関シテ之ヲ執行ス可シ 第二千十条 代理者死去ノ場合ニ於テハ其相続人ヨリ其旨ヲ委任者ニ通報シ而シテ其相続人ハ待ツ間ニ景況カ委任者ノ資益ノ為メニ必要トスル所ノモノヲ設備セサル可カラス 第十四巻 保証(千八百四年二月十四日決定同月二十四日宣令) 第一章 保証ノ性質及ヒ限界 第二千十一条 一箇ノ義務ノ保証人タル者ハ若シ負債者カ自カラ義務ヲ履行セサル時ハ其義務ヲ履行スルコトヲ債主ニ対シテ負担スルモノトス 第二千十二条 保証ハ有効ノ義務ニ関スルニ非サレハ存在スルコトヲ得ス 然レトモ仮令一箇ノ義務カ純粋ニ義務者ノ一身上ノモノタル抗弁ノ憑拠ニ依テ取消スコトヲ得可キ時例ヘハ幼年ノ場合ニ於ケルカ如キ時ト雖モ其義務ヲ保証スルコトヲ得可シ 第二千十三条 保証ハ負債者ノ負担スル所ノモノニ過クルコトヲ得ス又更ニ重劇ナル条件ヲ以テ之ヲ契約スルコトヨ得ス 保証ハ負債ノ一部分ノミノ為メニ之ヲ契約シ及ヒ更ニ軽緩ナル条件ヲ以テ之ヲ契約スルコトヲ得可シ 負債ニ過クル所ノ保証又ハ更ニ重劇ナル条件ヲ以テ契約シタル保証ハ無効ナリトセス唯之ヲ其主タル義務ノ程度ニ減ス可キモノトス 第二千十四条 主タル負債者ノ差図ナク又然ノミナラス主タル負債者ノ知ラサルニ於テ保証人トナルコトヲ得可シ 又主タル負債者ノ保証人トナルノミナラス之ヲ保証シタル者ノ保証人トナルコトヲモ得可シ 第二千十五条 保証ハ思量ス可キモノニ非ス其明白ナルコトヲ必要トス而シテ又保証ヲ契約シタル制限以外ニ之ヲ拡及スルコトヲ得ス 第二千十六条 主タル義務ノ無限ノ保証ハ其負債ノ総テノ附属件ニ拡及シ又然ノミナラス最初ノ訟求ノ費用及ヒ其訟求ヲ保証人ニ通知セシ以後ノ総テ費用ニ拡及スルモノトス 第二千十七条 保証人ノ約務ハ其相続人ニ移ルモノトス但シ其約務カ保証人ノ拘留ヲ受ケサルヲ得サル如キモノタル時ニ於テ其拘留ハ格別ナリトス 第二千十八条 保証人ヲ立ツ可キノ義務ヲ負ヒタル負債者ハ契約スルノ能力ヲ有シ且ツ其義務ノ目的ヲ担当スルニ充分ナル財産ヲ有シ而シテ其保証人ヲ立テサルヲ得サル地ノ控訴裁判所ノ管轄内ニ住所ヲ有スル所ノ保証人ヲ立テサルヲ得ス 第二千十九条 保証人ノ資力ハ其不動産ノ所有物ノミニ拠テ之ヲ量定メルモノトス但シ商業ノ事項ニ関スル時又ハ負債ノ些少ナル時ハ格別ナリトス 争訟アル不動産又ハ所在地ノ遠隔ナルカ為メ其索討ノ至難タル可キ不動産ハ之ヲ算計セス 第二千二十条 若シ債主ノ其任意ニ容受シ又ハ裁判上ニテ容受シタル保証人カ其後ニ至リ無資力トナル時ハ更ニ他ノ保証人ヲ立テサルヲ得ス 右ノ規則ハ債主カ某人ヲ保証人トシテ要求シタル合意ニ拠リ保証人ヲ立テタル場合ノミニ於テハ取除ヲ受クルモノトス 第二章 保証ノ効 第一節 債主ト保証人トノ間ニ於ケル保証ノ効 第二千二十一条 保証人ハ負債者ノ弁済ヲ缺ク時ニ非サレハ債主ニ対シテ之ニ弁済スルノ義務ヲ負ハサルモノニシテ其負債者ハ予メ自己ノ財産ニ付キ索討セラレサルヲ得ス但シ保証人ノ索討ノ利益ヲ放棄シ又ハ負債者ト相連帯シテ義務ヲ己レニ負ヒタル時ハ格別ニシテ此場合ニ於テハ保証人ノ約務ノ効ハ連帯負債ノ為メニ定メタル原則ヲ以テ之ヲ規定ス 第二千二十二条 債主ハ保証人ニ対シテ起シタル最初ノ訟求ニ於テ保証人ヨリ索討スルコトヲ求ムル時ニ非サレハ主タル負債者ヲ索討スルニ及ハス 第二千二十三条 索討ヲ求ムル保証人ハ主タル負債者ノ財産ヲ債主ニ指示シ且ツ索討ヲ為スニ充分ナル金額ヲ立替ヘサルヲ得ス 其保証人ハ弁済ヲ為ササル可カラサル地ノ控訴裁判所ノ管轄外ニ在ル主タル負債者ノ財産ヲ指示ス可カラス又争訟アル財産ヲ指示ス可カラス又其負債ニ書入質ト為シタルモノニシテ最早負債者ノ占有ニアラサル財産ヲ指示ス可カラス 第二千二十四条 保証人カ前条ニ依リ許可セラレタル財産ノ指示ヲ為シ且ツ索討ノ為メニ充分ナル金額ヲ供給シタル度毎ニ債主ハ其指示セラレタル財産ノ額ニ充ツル迄保証人ニ対シテハ訟求ノ欠缺ニ依リ生シタル主タル負債者ノ無資力ノ責ニ任ス可キモノトス 第二千二十五条 若シ数人カ同一ノ負債ノ為メ同一ノ負債者ノ保証人トナリタル時ハ其数人ハ各々総テノ負債ニ付キ義務ヲ負フモノトス 第二千二十六条 然レトモ其各人ハ分割ノ利益ヲ放棄シタルニ非サレハ債主ノ予メ其訴権ヲ分割シテ之ヲ各保証人ノ分ケ前及ヒ部分ニ減ス可キ旨ヲ要求スルコトヲ得可シ 若シ保証人ノ一人カ分割ヲ宣告セシメタル時ニ当リテ其中ニ無資力者アル時ハ右ノ保証人ハ其無資力ヲ比准シテ担任ス可シ然レトモ右ノ保証人ハ分割ノ後ニシタル無資力ノ為メニハ最早訟求ヲ受クルコトナカル可シ 第二千二十七条 若シ債主カ己レ自カラ其任意ニテ自己ノ訴権ヲ分割シタル時ハ仮令斯クノ如クニ其分割ヲ承諾シタル時ヨリ前ニ無資力ナル保証人アリシ場合ト雖モ其分割ヲ取消サント求ムルコトヲ得ス 第二節 負債者ト保証人トノ間ニ於ケル保証ノ効 第二千二十八条 弁済シタル保証人ハ主タル負債者ノ知リテ其保証ヲ為シタルト主タル負債者ノ知ラスシテ其保証ヲ為シタルトヲ問ハス其主タル負債者ニ対シテ償還訟求ノ権利ヲ有スルモノトス 其償還訟求ノ権利ハ主額ト利息及ヒ費用トノ為メニ存在スルモノトス然レトモ保証人ハ自己ニ対シテ起サレタル訟求ヲ主タル負債者ニ通報セシ後ニ己レノ為シタル費用ノ為メノミニ非サレハ償還訟求ノ権利ヲ有セス 保証人ハ別段ノ道理アル時ハ亦損害賠償ノ為メニ償還訟求ノ権利ヲ有スルモノトス 第二千二十九条 負債ヲ弁済シタル保証人ハ債主カ負債者ニ対シテ有セシ所ノ総テノ権利ニ代替ス 第二千三十条 同一ノ負債ニ付キ主タル連帯負債者数人アル時ハ総テ其数人ヲ保証シタル保証人ハ自己ノ弁済セシモノノ全額取戻ノ為メノ訟求ノ権利ヲ其各人ニ対シテ有スルモノトス 第二千三十一条 初メ弁済シタル保証人カ自己ノ為シタル弁済ヲ主タル負債者ニ告知セサル時ハ後ニ弁済シタル主タル負債者ニ対シテ償還訟求ノ権利ヲ有セス但シ保証人ヨリ債主ニ対シテ取戻ノ訴権ヲ行フハ格別ナリトス 若シ保証人カ訟求ヲ受クルコトナク且ツ主タル負債者ニ告知スルコトナクシテ弁済シ而シテ其弁済ノ時ニ当リ其負債者カ負債ヲ消滅シタリト宣告セシムル為メノ憑拠ヲ有シタル場合ニ於テハ保証人ハ主タル負債者ニ対シテ償還訟求ノ権利ヲ有セス但シ保証人ヨリ債主ニ対シテ取戻ノ訴権ヲ行フハ格別ナリトス 第二千三十二条 保証人ハ左ノ場合ニ於テハ弁済セサル前ト雖トモ負債者ヨリ賠償セラルル為メ負債者ニ対シテ訟求スルコトヲ得可シ 第一 保証人カ弁済ノ為メ裁判所ニ訟求セラレタル時 第二 負債者カ家資分散ヲ為シ又ハ破産シタル時 第三 負債者カ特定ノ時間ニ保証人ニ其義務ノ免除ヲ為ス可キノ義務ヲ己レニ負ヒタル時 第四 負債ヲ契約シタル期限ノ満期ニ至リシニ依リ其負債カ償還ヲ要求スルヲ得可キモノトナリタル時 第五 主タル義務カ其満期トナル可キ定マリタル期限ヲ有セサルニ於テハ十年ヲ経過シタル時但シ後見ノ如キ主タル義務カ定マリタル時期ヨリ前ニ消滅スルコトヲ得可キ性質ノモノタラサル時ハ格別ナリトス 第三節 共同保証人ノ間ニ於ケル保証ノ効 第二千三十三条 若シ数人カ同一ノ負債ノ為メ同一ノ負債者ヲ保証シタル時ハ其負債ヲ弁償シタル保証人ハ他ノ保証人ニ対シ其各自ノ分ケ前及ヒ部分ニ付キ償還訟求ノ権利ヲ有スルモノトス 然レトモ其保証人カ前条ニ表示シタル場合中ノ一箇ニ於テ弁済シタル時ニ非サレハ其償還訟求ノ権利ハ存在セサルモノトス 第三章 保証ノ消滅 第二千三十四条 保証ヨリ生スル所ノ義務ハ其他ノ義務ト同一ノ原由ニ依テ消滅ス 第二千三十五条 主タル負債者及ヒ其保証人中ノ一方カ他ノ一方ノ相続人トナル時其双方ノ身ノ上ニ於テ成ル所ノ混同ハ保証人ノ保証人トナリタル者ニ対スル債主ノ訴権ヲ消滅セシメス 第二千三十六条 保証人ハ主タル負債者ニ属シ而シテ其負債ニ附着シタル総テノ抗弁ノ憑拠ヲ以テ債主ニ対抗スルコトヲ得可シ 然レトモ保証人ハ純粋ニ負債者ノ一身上ノモノタル抗弁ノ憑拠ヲ以テ対抗スルコトヲ得ス 第二千三十七条 債主ノ権利、書入質権及ヒ先取特権ニ於ケル代替カ最早其債主ノ所為ニ依リ保証人ノ利益ニ於テ成ルコトヲ得サルニ至ル時ハ保証人ハ其義務ヲ免除セラルルモノトス 第二千三十八条 債主カ主タル負債ノ弁済ノ為メ如何ナルモノタリトモ一箇ノ不動産又ハ一箇ノ品物ニ付キ為シタル任意ノ受諾ハ仮令債主カ其不動産又ハ品物ヲ褫奪セラルルコトアリト雖モ保証人ノ義務ヲ免除スルモノトス 第二千三十九条 債主ヨリ主タル負債者ニ附与シタル期限ノ単一ナル延引ハ保証人ノ義務ヲ免除セス但シ此場合ニ於テ保証人ハ負債者ニ弁済ヲ強ユル為メ其負債者ニ対シテ訟求スルコトヲ得可シ 第四章 法律上ノ保証人及ヒ裁判上ノ保証人 第二千四十条 一個ノ人カ法律ニ依リ又ハ裁判言渡ニ依リ保証人ヲ立ツ可キノ義務ヲ負ハシメラルル時ハ其立テント供陳スル所ノ保証人ハ第二千十八条及ヒ第二千十九条ニ定メタル条件ヲ具備セサル可カラス 裁判上ノ保証人ニ関スル時ハ其保証人ハ右ノ外拘留ヲ受ク可キモノタラサル可カラス 第二千四十一条 保証人ヲ見出スコトヲ得サル者ハ之ニ代ヘテ充分ナル質入ニ於ケル動産質ヲ附与スルコトヲ許サルルモノトス 第二千四十二条 裁判上ノ保証人ハ主タル負債者ノ索討ヲ求ムルコトヲ得ス 第二千四十三条 単一ニ裁判上ノ保証人ヲ保証シタル者ハ主タル負債者及ヒ保証人ノ索討ヲ求ムルコトヲ得ス 第十五巻 和解(千八百四年三月二十日決定同月三十日宣令) 第二千四十四条 和解トハ双方ノ者カ既ニ生シタル争訟ヲ終了シ又ハ将サニ生セントスル争訟ヲ予防スル所ノ契約ヲ云フ 其契約ハ書面ヲ以テ証明セサルヲ得ス 第二千四十五条 和解スル為メニハ其和解中ニ包含シタル物品ヲ処分スルノ能力ヲ有スルコトヲ必要トス 後見人ハ幼年、後見及ヒ後見ノ免脱ノ巻第四百六十七条ニ従フニ非サレハ幼者又ハ治産禁ヲ受クル者ノ為メニ和解スルコトヲ得ス又後見人ハ同巻第四百七十二条ニ従フニ非サレハ後見ノ計算ニ付キ成年トナリタル幼者ト和解スルコトヲ得ス 邑及ヒ公同設立場ハ国王ノ明カナル許可ヲ受クルニ非サレハ和解スルコトヲ得ス 第二千四十六条 人ハ犯罪ヨリ生スル所ノ民事上ノ資益ニ付キ和解スルコトヲ得可シ 和解ハ検察官ノ起訴ヲ防止セス 第二千四十七条 人ハ和解ヲ執行スルコトヲ缺ク者ニ対スル罰款ノ約権ヲ和解ニ附加スルコトヲ得可シ 第二千四十八条 和解ハ其目的ニ於テ制限ス可キモノトス故ニ和解ヲ以テ為シタル総テノ権利、訴権及ヒ称言ノ放棄ハ其和解ノ原由タル争ヒニ関スル所ノモノノミニ及フモノト解ス可シ 第二千四十九条 和解ハ双方ノ者カ特別又ハ泛博ナル語辞ヲ以テ其意志ヲ表示シタルト其明示シタルモノノ已ムヲ得サル効果ニ依テ其意思ヲ認定ス可キトヲ問ハス其和解中ニ包含シタル争ヒノミヲ規定スルモノトス 第二千五十条 若シ自己ノ身ニ有スル所ノ一箇ノ権利ニ付キ和解シタル者カ後ニ他人ノ身ヨリ之ト同様ナル一箇ノ権利ヲ獲得シタル時ハ其者ハ新タニ獲得シタル権利ニ付テハ以前ノ和解ニ依テ結束セラレサルモノトス 第二千五十一条 関係人中一人ノ為シタル和解ハ他ノ関係人ヲ結束セス而シテ又他ノ関係人ヨリ其和解ヲ以テ対抗スルコトヲ得ス 第二千五十二条 和解ハ双方ノ者ノ間ニ於テハ終審ニ於ケル裁定事件ノ威力ヲ有スルモノトス 和解ハ法律上ノ錯誤ノ原由ノ為メニ之ヲ取消サント求ムルコトヲ得ス又損失ノ原由ノ為メニ之ヲ取消サント求ムルコトヲ得ス 第二千五十三条 然レトモ若シ人ニ於テ錯誤アリ又ハ争訟ノ目的ニ付キ錯誤アル時ハ和解ヲ廃棄スルコトヲ得可シ 詐欺又ハ暴行アル総テノ場合ニ於テハ和解ヲ廃棄スルコトヲ得可シ 第二千五十四条 若シ無効ナル権原ノ執行ニ付キ和解ヲ為シタル時ハ亦同シク其和解ニ対スル廃棄ノ訴権ヲ生セシム但シ双方ノ者カ其無効ノ事ニ付キ明カニ約定シタル時ハ格別ナリトス 第二千五十五条 後ニ偽造ナリト認定セラレタル証拠物ニ拠テ為シタル和解ハ全ク無効ノモノタリ 第二千五十六条 双方ノ者又ハ一方ノ者ノ知ラサリシ裁定事件ノ力ヲ得タル裁判ニ依リ終了シタル訴訟ニ付テノ和解ハ無効ノモノタリ 若シ双方ノ者ノ知ラサル裁判カ控訴ヲ受ク可キモノタル時ハ其和解ハ有効タル可シ 第二千五十七条 若シ双方ノ者カ其相互ノ間ニ生スルコトアル可キ総テノ争ニ付キ泛博ニ和解シタル時ハ当時双方ノ者ノ知ラサル証券ヲ其後ニ至リ発見スルト雖モ之ヲ以テ廃棄ノ原由ト為サス但シ双方中一方ノ者ノ所為ニ依リ其証券ヲ留メ置キタル時ハ格別ナリトス 然レトモ若シ和解カ新タニ発見シタル証券ニ依リ双方ノ中一方ノ者ニ毫モ権利ナキ旨ヲ証明セラレタル一箇ノ目的ノミヲ有シタル時ハ其和解ハ無効タル可シ 第二千五十八条 和解ニ於ケル算計ノ錯誤ハ之ヲ補正セサル可カラス 第十六巻 民事ニ於ケル拘留(千八百四年二月十三日決定同月二十三日宣令、千八百六十七年七月二十二日ノ法律ヲ以テ廃ス) 第二千五十九条 拘留ハ民事ニ於テハ仮冒售売ノ為メニ之ヲ為スモノトス左ノ場合ニ於テハ仮冒售売アリトス 人其所有者ニ非サルコトヲ知リタル不動産ヲ売リ又ハ之ヲ書入質ト為シタル時 書入質ト為シタル財産ヲ自由ノモノナリト陳ヘ又ハ其財産ノ負任シタル書入質ヨリモ更ニ少量ノ書入質ヲ申述シタル時 第二千六十条 拘留ハ左ノ諸件ニ付テハ又同シク之ヲ為スモノトス 第一 已ムヲ得サル附託ノ為メ 第二 占有回復ノ訴ノ場合ニ於テハ所有者ノ暴行ニ依テ奪ハレタル不動産ノ裁判所ヨリ命セラレタル放棄ノ為メ並ニ不当ノ占有ノ間ニ収取シタル果実ノ返還ノ為メ及ヒ所有者ニ裁可セラレタル損害賠償ノ弁済ノ為メ 第三 特ニ設置セラレタル公員ノ手裏ニ附託セシ金額取戻ノ為メ 第四 争訟アル物ノ受託者、委員及ヒ其他ノ監守人ニ附託シタル物ノ差出ノ為メ 第五 裁判上ノ保証人ニ対シ及ヒ拘留ヲ受ク可キ者ノ保証人カ拘留ニ服従シタル時ハ其保証人ニ対シテ 第六 総テ公ケノ役員カ其細字ノ正本ヲ差出ス可キ旨ヲ命セラレタル時ハ其差出ノ為メ公ケノ役員ニ対シテ 第七 公証人、代書人及ヒ使吏ノ其職務ニ依リ己レニ委託セラレタル証券ノ返還ノ為メ及ヒ其依頼人ノ為メニ収受シタル金額ノ返還ノ為メ其公証人、代書人及ヒ使吏ニ対シテ 第二千六十一条 所有回復ノ訴ニ付キ為シタルモノニシテ裁定事件ノ力ヲ得タル裁判ニ依リ一箇ノ不動産ヲ手放ス可キノ言渡ヲ受ケ而シテ之ニ従フコトヲ否拒シタル者ハ第二次ノ裁判ニ依リ第一次ノ裁判書ヲ其本人又ハ其住所ニ送達セシ時ヨリ十五日ノ後ニ之ヲ拘留スルコトヲ得可シ 若シ其不動産又ハ遺産カ其言渡ヲ受ケタル者ノ住所ヨリ五「ミリアメートル」以上隔タリタル時ハ十五日ノ期限ニ五「ミリアメートル」毎ニ一日ヲ加フ可シ 第二千六十二条 若シ拘留ノ事ヲ賃貸ノ証書ニ明確ニ約権セサル時ハ田野財産ノ借賃ノ弁済ノ為メ土地賃借人ニ対シテ拘留ヲ命スルコトヲ得ス 然レトモ土地賃借人及ヒ分果耕作人ハ自己ニ委託セラレタル賃借家畜、種子及ヒ農業ノ器具ヲ其賃借ノ終リニ至リテ差出ササル時ハ之ヲ拘留スルコトヲ得可シ但シ其土地賃借人及ヒ分果耕作人カ右物品ノ不足ハ自己ノ所為ヨリ生シタルニ非サル旨ヲ証明スル時ハ格別ナリトス 第二千六十三条 前数条ニ定メタル場合又ハ将来明確ノ法律ヲ以テ定ムルコトアル可キ場合ノ外ハ総テノ裁判官ニ拘留ヲ宣告スルコトヲ禁シ又総テノ公証人及ヒ裁判所書記ニ拘留ヲ約権スル証書ヲ作ルコトヲ禁シ又仮令此類ノ証書ヲ外国ニ於テ作リタル時ト雖トモ総テノ仏蘭西人ニ其証書ヲ承諾スルコトヲ禁ス若シ之ニ背ク時ハ無効、費額及ヒ損害賠償ノ罰款ヲ受ク可シ 第二千六十四条 前ニ表示シタル場合ニ於テモ幼者ニ対シテハ拘留ヲ宣告スルコトヲ得ス 第二千六十五条 拘留ハ三百「フランク」以下ノ金額ノ為メニハ之ヲ宣告スルコトヲ得ス 第二千六十六条 拘留ハ仮冒售売ノ場合ニ非サレハ七十歳ノ者及ヒ婦女ニ対シテ之ヲ宣告スルコトヲ得ス 七十歳ノ者ニ附与シタル裨益ヲ享クルニハ第七十年ニ掛リタルヲ以テ足レリトス 結婚ノ間ニ於テ仮冒售売ノ原由ノ為メノ拘留ハ結婚シタル婦カ財産ヲ離分シタル時又ハ其婦カ自由ナル管理ヲ己レニ貯存シタル財産ヲ有スル時ニ於テ此等ノ財産ニ関スル所ノ約務ノ為メニ非サレハ結婚シタル婦ニ対シテ之ヲ為ス可カラス 財産ヲ共通シ而シテ其夫ト合同又ハ連帯シテ己レニ義務ヲ負ヒタル婦ハ其契約ノ為メニ仮冒售売者ナリト看做スコトヲ得ス 第二千六十七条 法律ニ依リ拘留ヲ許可シタル場合ト雖モ裁判ニ拠ルニ非サレハ拘留ヲ適用スルコトヲ得ス 第二千六十八条 控訴ハ保証人ヲ立テ仮リニ執行ス可キ裁判ニ依リ宣告セラレタル拘留ヲ停止セス 第二千六十九条 拘留ノ執行ハ財産ニ付テノ起訴及ヒ執行ヲ防止セス又之ヲ停止セス 第二千七十条 商事ニ於テ拘留ヲ許可スル所ノ特別ノ法律ニ違フコトナカル可ク又懲治警察ノ法律ニ違フコトナカル可ク又公金ノ管理ニ関スル法律ニ違フコトナカル可シ 第十七巻 質入(千八百四年三月十六日決定同月二十六日宣令) 第二千七十一条 質入トハ負債者カ負債ノ抵保ノ為メ一箇ノ物ヲ其債主ニ交付スル所ノ契約ヲ云フ 第二千七十二条 動産ノ質入ハ之ヲ名ケテ動産質ト云フ 不動産ノ質入ハ之ヲ名ケテ不動産質ト云フ 第一章 動産質 第二千七十三条 動産質ハ先取特権ニ依リ及ヒ他ノ債主ニ対スル撰取ニ依リ其目的タル物ニ付キ弁済ヲ得ルノ権利ヲ債主ニ附与ス 第二千七十四条 其先取特権ハ負担シタル金額ノ申述並ニ質トシテ交付シタル物ノ種類及ヒ性質ヲ包含シ又ハ其物ノ品質、重量、度量ノ附加シタル目録ヲ包含シ且ツ法ニ適シテ簿冊ニ記録シタル公ケノ証書又ハ私シノ署名証書アル時ニ非サレハ存在セサルモノトス 然レトモ百五十「フランク」ノ価額ニ過キタル事項ニ非サレハ証書ノ作為及ヒ其簿冊ノ記録ヲ必要トセス 第二千七十五条 前条ニ表示シタル先取特権ハ右ニ同シク簿冊ニ記録シ且ツ質トシテ附与シタル債権ノ負債者ニ送達シタル公ケノ証書又ハ私シノ署名証書ニ依ルニ非サレハ動産ノ債権ノ如キ無形ノ動産ニ付キ之ヲ設定セサルモノトス 第二千七十六条 如何ナル場合ニ於テモ質物カ債主又ハ双方ノ間ニ合意シタル第三ノ人ノ占有ニ附セラレ且ツ其占有ニ存続シタル時ニ非サレハ先取特権ハ其質物ニ付キ存在セサルモノトス 第二千七十七条 質物ハ負債者ノ為メニ第三ノ人ヨリ之ヲ附与スルコトヲ得可シ 第二千七十八条 債主ハ弁済ノ欠缺ニ於テ質物ヲ処分スルコトヲ得ス但シ債主ハ其質物ヲ鑑定人ノ為シタル評価ニ従ヒ其相当レル額ニ充ツル迄自己ノ弁済ニ供ス可キ旨又ハ之ヲ糶売ヲ以テ売払フ可キ旨ヲ裁判上ニテ命セシムルコトヲ得可キモノトス 前ニ記シタル法式ナクシテ債主ニ質物ヲ其所有ニ帰スルコトヲ許可シ又ハ之ヲ処分スルコトヲ許可スル総テノ約款ハ無効ノモノタリ 第二千七十九条 負債者ノ所有権ヲ収奪ス可キ時ハ其所有権収奪ニ至ル迄ハ負債者其質物ノ所有者ニシテ其質物ハ債主ノ手裏ニ於テ其先取特権ヲ保スル所ノ附託物ノミナリトス 第二千八十条 債主ハ契約即チ一般ニ合意上ノ義務ノ巻ニ定メタル規則ニ従ヒ自己ノ懈怠ニ依リ生セシメタル質物ノ滅尽又ハ損壊ノ責ニ任スルモノトス 負債者ハ自己ノ方ニ於テ債主カ質物保存ノ為メニ為シタル有益及ヒ必要ナル費額ヲ債主ニ計算セサルヲ得ス 第二千八十一条 質物トシテ附与シタル債権ニ関シ而シテ其債権ノ利息ヲ生スル時ハ債主ハ其利息ヲ自己ノ補償ヲ受ク可キ利息ニ充用ス 若シ其抵保ノ為メ債権ヲ質物トシテ附与シタル其負債カ利息ヲ生セサル時ハ其負債ノ元金ニ付キ充用ヲ為ス可シ 第二千八十二条 負債者ハ其抵保ノ為メニ質物ヲ附与シタル負債ヲ元金ト利息及ヒ費用トニ於テ全ク弁済シタル後ニ非サレハ其質物ノ返還ヲ求ムルコトヲ得ス但シ質物ノ保有者カ之ヲ妄用シタル時ハ格別ナリトス 若シ同一ノ負債者ノ方ニ於テ同一ノ債主ニ対シテ其質入ヲ為セシ後ニ契約シタル更ニ他ノ負債ノ存在シ而シテ其負債カ第一ノ負債ヲ弁済スル前ニ償還ヲ要求スルヲ得可キモノトナリタル時ハ仮令第二ノ負債ノ弁済ニ其質物ヲ供スル為メノ約権ナキ時ト雖モ債主ハ其二箇ノ負債ヲ全ク弁済セラレサル前ニ其質物ヲ手放スニ及ハス 第二千八十三条 負債者ノ相続人又ハ債主ノ相続人ノ間ニ於テ負債ノ可分ノモノタルコトニ拘ハラス質物ハ不可分ノモノトス 負債者ノ相続人ニシテ其負債ノ自己ノ部分ヲ弁済シタル者ハ其負債ヲ全ク弁償セサル間ハ質物ニ於ケル自己ノ部分ノ返還ヲ求ムルコトヲ得ス 右ノ裏面ヨリ言ヘハ債主ノ相続人ニシテ其負債ノ自己ノ部分ヲ収受シタル者ハ自己ノ共同相続人中ニテ弁済ヲ受ケサル者ノ損害ニ於テ其質物ヲ還付スルコトヲ得ス 第二千八十四条 前ノ成規ハ商業ノ事項並ニ許可ヲ受ケタル典舗ニ適用ス可カラサルモノトス但シ商業ノ事項及ヒ許可ヲ受ケタル典舗ニ付テハ之ニ関スル所ノ法律及ヒ規則ニ従フヘシ 第二章 不動産質 第二千八十五条 不動産質ハ書面ニ依ルニ非サレハ設定セサルモノトス 債主ハ此契約ニ依リ不動産ノ果実ヲ収取スルノ権能ノミヲ獲得シ而シテ其債権ノ利息ヲ受ク可キ時ハ毎年右ノ果実ヲ其利息ニ充用シ然ル後之ヲ其債権ノ元金ニ充用スルノ負任アリトス 第二千八十六条 債主ハ其質トシテ保有スル所ノ不動産ノ租税及ヒ毎年ノ負任ヲ弁済スルコトヲ担任ス可シ但シ之ニ異ナリタル合意アル時ハ格別ナリトス 債主ハ亦同シク其不動産ノ補理並ニ其有益及ヒ必要ナル修繕ヲ供備セサル可カラス若シ然ラサル時ハ損害賠償ノ罰款ヲ受ク可シ但シ其種々ノ諸件ニ関スル総テノ費額ハ果実中ヨリ先収ス可キモノトス 第二千八十七条 負債者ハ負債ヲ全ク弁償セサル前ハ其質トシテ交付シタル不動産ノ収益ヲ求ムルコトヲ得ス 然レトモ前条ニ明示シタル義務ノ免除ヲ得ント欲スル債主ハ何時ニ限ラス負債者ニ其不動産ノ収益ヲ取戻スコトヲ強ユルヲ得可シ但シ債主ノ其権利ヲ放棄シタル時ハ格別ナリトス 第二千八十八条 債主ハ合意シタル期限ニ於ケル弁済ノ欠缺ノミヲ以テ不動産ノ所有者トナラサルモノトス而シテ総テ之ニ反シタル約款ハ無効ノモノタリ但シ此場合ニ於テハ債主ハ法律上ノ方法ヲ以テ其負債者ノ所有権収奪ヲ訟求スルコトヲ得可シ 第二千八十九条 若シ双方ノ者カ果実ヲ全ク利息ト相殺シ又ハ特定ノ額ニ充ツル迄利息ト相殺ス可キ旨ヲ約権シタル時ハ其合意ハ総テ法律ニ依テ禁止セサル其他ノ合意ノ如ク之ヲ執行ス可キモノトス 第二千九十条 第二千七十七条及ヒ第二千八十三条ノ成規ハ動産質ノ如クニ不動産質ニモ適用スルモノトス 第二千九十一条 本章ニ於テ制定シタル所ノ諸件ハ不動産質ノ名義ニテ交付シタル不動産ニ付キ第三ノ人ノ有スルコトアル可キ権利ヲ害ス可カラス 若シ右ノ名義ニ於テ供備セラレタル債主カ其他ニ右ノ不動産ニ付キ法ニ適シテ設定シ及ヒ保存シタル先取特権又ハ書入質ヲ有スル時ハ自己ノ順序ニ於テ総テ其他ノ債主ノ如クニ此等ノ権利ヲ執行ス 第十八巻 先取特権及ヒ書入質(千八百四年三月十九日決定同月二十九日宣令) 第一章 総則 第二千九十二条 何人ニ限ラス対人権上ニテ己レニ義務ヲ負ヒタル者ハ其現在及ヒ将来ノ総テノ動産及ヒ不動産ヲ以テ其義務ヲ履行スルコトヲ担任ス可シ 第二千九十三条 負債者ノ財産ハ其債主数人ノ共同ノ抵保物ニシテ之レカ代金ヲ其債主数名ノ間ニ其債額ニ比准シテ分配ス可シ但シ其債主数人ノ間ニ撰取ノ適法ノ原由アル時ハ格別ナリトス 第二千九十四条 其撰取ノ適法ノ原由ハ先取特権及ヒ書入質タリ 第二章 先取特権 第二千九十五条 先取特権トハ債権ノ性質ニ拠リ一ノ債主カ仮令書入質権アルモノト雖モ他ノ債主ニ対シテ撰取セラルルノ権利ヲ云フ 第二千九十六条 先取特権アル債主数名ノ間ニ於テハ其先取特権ノ種々ノ性質ニ依リ撰取ヲ規定ス 第二千九十七条 同一ノ班位ニ在ル所ノ先取特権アル債主数名ハ抗競ヲ以テ弁済セラル可シ 第二千九十八条 国王ノ(公ケノ)金庫ノ権利ニ依レル先取特権及ヒ其先取特権ヲ執行スル順序ハ之ニ関スル所ノ法律ヲ以テ規定ス 然レトモ国王ノ(公ケノ)金庫ハ其以前ニ第三ノ人ノ獲得シタル権利ノ損害ニ於テ先取特権ヲ得ルコトヲ得ス 第二千九十九条 先取特権ハ動産ニ付キ存在シ又ハ不動産ニ付キ存在スルコトヲ得可シ 第一節 動産ニ付テノ先取特権 第二千百条 先取特権ハ一般ノモノアリ又ハ或ル動産ニ付キ特定ノモノアリ 第一款 動産ニ付テノ一般ノ先取特権 第二千百一条 動産一般ニ付テノ先取特権アル債権ハ以下ニ明示スルモノニシテ左ノ順序ヲ以テ之ヲ執行ス 第一 裁判上ノ費用 第二 埋葬ノ費用 第三 最後ノ病ノ諸費用但シ其費用ノ補償ヲ受ク可キ各人ノ間ニ於テハ抗競ヲ以テスルモノトス 第四 雇人ノ給料但シ既ニ既ニ経過シタル年ノ分ト本年分ノ中ニテ既ニ受ク可キモノトナリタル一部分トニ付キ 第五 負債者及ヒ其家族ニ為シタル日用品ノ供給即チ最後ノ六月間麺包商、屠者及ヒ其他ノ者ノ如キ零売商ヨリ為シタルモノ並ニ最後ノ一年間学塾ノ主長及ヒ卸売商ヨリ為シタルモノ 第二款 或ル動産ニ付テノ先取特権 第二千百二条 或ル動産ニ付テノ先取特権アル債権ハ左ノ如シ 第一 家屋ノ貸賃及ヒ土地ノ貸賃ハ本年収獲ノ果実ニ付キ及ヒ其賃貸シタル家屋又ハ土地ニ具備シタル諸件ノ代金並ニ土地ノ収益ニ用フル所ノ諸件ノ代金ニ付キ先取特権ヲ有ス即チ其賃貸証書ノ公正ノモノタル時又ハ私シノ署名証書ニシテ正確ナル日附ヲ有スル時ハ既ニ収受期限ニ至リタル総テノ貸賃ノ為メ及ヒ将サニ収受スルニ至ル可キ総テノ貸賃ノ為メニ右ノ先取特権ヲ有スルモノトス而シテ此二箇ノ場合ニ於テハ他ノ債主ハ賃貸ノ残期ノ間其家屋又ハ土地ヲ再賃貸シテ其家屋ノ貸賃又ハ土地ノ貸賃ヲ以テ自己ノ利益ト為スノ権利ヲ有ス然レトモ未タ所有者ニ補償セサル諸件ハ之ヲ其所有者ニ弁済ス可キノ負任アリトス 若シ公正ノ賃貸証書ノ缺ケタル時又ハ賃貸証書ノ私シノ署名証書ニシテ正確ナル日附ヲ有セサル時ハ本年ノ終リシ時ヨリ起算シテ一年間ノ貸賃ノ為メニ右ノ先取特権ヲ有スルモノトス 右ト同一ノ先取特権ハ賃借人負担ノ修繕ノ為メ及ヒ賃貸ノ執行ニ関スル諸件ノ為メニ存在スルモノトス 然レトモ種子ノ為メ又ハ本年ノ収獲ノ費用ノ為メニ補償ス可キ金額ハ所有者ニ対スル撰取ヲ以テ其収獲物ノ代金ニ付キ弁済ヲ受ク可ク又器具ノ為メニ補償ス可キ金額ハ所有者ニ対スル撰取ヲ以テ其器具ノ代金ニ付キ弁済ヲ受ク可シ 所有者ハ自己ノ家屋又ハ土地ニ具備シタル動産ヲ其承諾ナクシテ搬運シタル時ハ之ヲ差押ユルコトヲ得可ク而シテ其所有者ハ土地ニ具備シタル動産ニ関スル時ハ四十日ノ期限内ニ其取戻ノ訴ヲ為シ又家屋ニ具備シタル動産ニ関スル時ハ十五日ノ期限内ニ其取戻ノ訴ヲ為スニ於テハ其動産ニ付キ自己ノ先取特権ヲ保存スルモノトス 第二 債権ハ債主ノ収握シタル質入動産ニ付キ先取特権ヲ有ス 第三 物ヲ保存スル為メニ為シタル費用 第四 未タ弁済セサル動産ノ代金但シ負債者ノ有期ニテ買入レタルト無期ニテ買入レタルトヲ問ハス負債者ノ猶其動産ヲ占有スル時ニ限ル 若シ無期ニテ其売買ヲ為シタル時ハ売主ハ其動産カ買主ノ占有ニ於テ存在スル間ハ其動産ヲ取戻サント訴ヘ且ツ其転売ヲ防止スルコトヲモ得可シ但シ之レカ為メニハ其引渡ノ時ヨリ八日内ニ其取戻ノ訴ヲ為シ且ツ其動産カ其引渡ヲ為セシ時ト同一ノ景状ニ於テ存在スルコトヲ必要トス 然レトモ売主ノ先取特権ハ家屋又ハ土地ノ所有者ノ先取特権ノ後ニ非サレハ之ヲ執行セサルモノトス但シ所有者カ自己ノ家屋又ハ土地ニ具備シタル動産及ヒ其他ノ物品ノ其賃借人ニ属セサル旨ヲ知リタルノ証アル時ハ格別ナリトス 所有権取戻ニ関スル商業ノ法律及ヒ習慣ハ毫モ之ヲ更改スルコトナシ 第五 旅店主ノ供給ハ其旅店ニ運送シタル旅客ノ品物ニ付キ先取特権ヲ有ス 第六 運送ノ費用及ヒ之ニ附属シタル費額ハ其運送シタル物ニ付キ先取特権ヲ有ス 第七 公ケノ職員ノ其職務ノ執行ニ於テ行ヒタル擅権及ヒ涜職ヨリ生スル債権ハ其保証金ノ元資及ヒ其元資ヨリ収受ス可キニ至リタル利息ニ付キ先取特権ヲ有ス 第二節 不動産ニ付テノ先取特権 第二千百三条 不動産ニ付テノ先取特権アル債主ハ左ノ如シ 第一 売主ハ代金ノ弁済ノ為メ其売リタル不動産ニ付キ先取特権ヲ有ス 若シ引続キタル数回ノ売買アリテ其代金ノ全部又ハ一部ヲ未タ弁済セサル時ハ第一次ノ売主ハ第二次ノ売主ニ対シテ撰取セラレ第二次ノ売主ハ第三次ノ売主ニ対シテ撰取セラル可ク其余ハ皆之レニ倣フ可シ 第二 不動産獲得ノ為メノ金額ヲ供給シタル者但シ借受ノ証書ニ依リ其金額ヲ右ノ使用ニ供シタル旨ヲ公正ニ証明シ且ツ売主ノ受取証書ニ依リ其弁済ハ借受ケタル金額ヲ以テ之ヲ為シタル旨ヲ公正ニ証明シタルコトヲ必要トス 第三 共同相続人数名ハ其数名ノ間ニ為シタル分派及ヒ補足金又ハ区分財産補足ノ担保ノ為メ遺留財産中ノ不動産ニ付キ先取特権ヲ有ス 第四 建造物、溝渠又ハ其他各種ノ工業物ヲ造設シ、改造シ又ハ修繕スルニ用ヒラレタル建築者、起作人、泥工及ヒ其他ノ職工但シ其建造物所在ノ地ヲ管轄スル始審裁判所ヨリ職権ヲ以テ撰任シタル鑑定人ヲシテ其所有者ノ作為スルノ企アリト申述スル工業物ニ関シテ場所ノ景状ヲ証明スル為メ予メ一箇ノ調書ヲ作ラシメ而シテ其工業物完成ノ時ヨリ多クトモ六月内ニ右ニ同シク職権ヲ以テ撰任シタル鑑定人ヲシテ其工業物ヲ収受セシメタルコトヲ必要トス 然レトモ先取特権ノ金額ハ第二ノ調書ヲ以テ証明シタル価額ニ過クルコトヲ得ス而シテ又其金額ハ不動産ノ所有権移転ノ時期ニ存在スルモノニシテ其不動産ニ為シタル工事ヨリ生スル所ノ増価ニ減スルモノトス 第五 職工ニ弁済シ又ハ之ニ償還スル為メ金額ヲ貸シタル者ハ右ト同一ノ先取特権ヲ享有ス但シ不動産獲得ノ為メニ金額ヲ貸シタル者ニ付キ前ニ記シタル如ク其使用ヲ借受ノ証書ト職工ノ受取証書トニ依テ公正ニ証明シタルコトヲ必要トス 第三節 動産ト不動産トニ及フ所ノ先取特権 第二千百四条 動産ト不動産トニ及フ所ノ先取特権ハ第二千百一条ニ表示シタルモノナリ 第二千百五条 若シ動産ノ欠缺ニ依リ前条ニ表示シタル先取特権アル債主カ不動産ニ付キ先取特権ヲ有スル債主ト抗競シテ一箇ノ不動産ノ代金ニ付キ弁済ヲ受クル為メニ現出スル時ハ其弁済ハ左ノ順序ヲ以テ之ヲ為スモノトス 第一 第二千百一条ニ表示シタル裁判上ノ費用及ヒ其他ノモノ 第二 第二千百三条ニ指定シタル債権 第四節 先取特権ヲ保存スル方法 第二千百六条 債主ノ間ニ於テハ先取特権ハ法律ニ依リ定メタル方法ヲ以テ書入質保存人ノ簿冊上ニ於ケル記入ニ依リ之ヲ公ケニ為シタル時ニ非サレハ不動産ニ関シテ効ヲ生セス且ツ其記入ノ日附ヨリ起算スルニ非サレハ不動産ニ関シテ効ヲ生セス但シ以下ニ記スル所ノ例外ノミハ格別ナリトス 第二千百七条 第二千百一条ニ表示シタル債権ハ記入ノ法式ノ例外ナリトス 第二千百八条 先取特権アル売主ハ獲得者ニ所有権ヲ移転シ且ツ其代金ノ全部又ハ一部ノ補償ヲ未タ己レニ受ケサル旨ヲ証明スル証券ノ登記ニ依リ其先取特権ヲ保存ス而シテ之レカ為メニハ獲得者ノ為シタル其契約書ノ登記ハ売主ノ為メ及ヒ弁済シタル金額ヲ獲得者ニ供給シ而シテ同一ノ契約ニ依リ売主ノ権利ニ代替シタル貸主ノ為メニハ記入ニ等シキ効力アリトス然レトモ書入質保存人ハ所有権移転ノ証書ヨリ生スル所ノ債権ヲ売主ノ利益ノ為メ及ヒ貸主ノ利益ノ為メ其職権ヲ以テ自己ノ簿冊ニ記入ス可ク若シ然ラサル時ハ第三ノ人ニ対シテ総テ損害賠償ノ罰款ヲ受ク可シ但シ其売主及ヒ貸主ハ売買契約書ノ登記アラサル時ハ代金中ニテ未タ己レニ補償ヲ受ケサルモノノ記入ヲ得ル為メ亦其売買契約書ノ登記ヲ為サシムルコトヲ得可キモノトス 第二千百九条 共同相続人又ハ共同分派人ハ分派ノ所為又ハ不分物糶売ニ依レル落札買入ノ日ヨリ六十日内ニ自己ノ求メニ於テ為シタル記入ニ依リ補足金及ヒ区分財産ノ補足ノ為メ又ハ不分物糶売ノ代金ノ為メ各箇ノ区分財産ニ付キ又ハ糶売シタル財産ニ付キ自己ノ先取特権ヲ保存ス但シ右ノ時間ニ於テハ補足金ノ負任ヲ受ケタル財産又ハ不分物糶売ニ依リ落札ニテ買入レタル財産ニ付キ其補足金又ハ代金ノ債主ノ損害ニ於テ如何ナル書入質ヲモ設クルコトヲ得ス 第二千百十条 建造物、溝渠又ハ其他ノ工業物ヲ造設シ、改造シ又ハ修繕スルニ用ヒラレタル建築者、起作人、泥工及ヒ其他ノ職工並ニ此等ノ各人ニ弁済シ及ヒ償還スル為メ其使用ノ証明セラレタル金額ヲ貸シタル者ハ第一ニ場所ノ景状ヲ証明スル調書ト第二ニ収受ノ調書トノ二箇ノ記入ヲ為スニ依リ其第一ノ調書記入ノ日附ニ於テ自己ノ先取特権ヲ保存ス 第二千百十一条 財産相続ノ巻第八百七十八条ニ従ヒ死者ノ家産ノ離分ヲ求ムル所ノ債主及ヒ受遺嘱者ハ財産相続開始ノ時ヨリ起算シテ六月内ニ遺留財産中ノ各箇ノ不動産ニ付キ為シタル記入ニ依リ死者ノ相続人又ハ代人ノ債主ニ関シテ其不動産ニ付キ自己ノ先取特権ヲ保存ス 右期限ノ終ラサル前ハ死者ノ相続人又ハ代人ヨリ右ノ債主又ハ受遺嘱者ノ損害ニ於テ右ノ財産ニ付キ有効ニ如何ナル書入質ヲモ設クルコトヲ得ス 第二千百十二条 右ニ記シタル先取特権アル種々ノ債権ノ譲受人ハ皆其譲渡人ニ代ハリテ之ト同一ノ権利ヲ執行ス 第二千百十三条 凡ソ記入ノ法式ニ服従シタル先取特権アル債権ニシテ其先取特権ヲ保存スル為メ前ニ定メタル条件ヲ履行セサルモノハ其之ヲ履行セスト雖モ書入質権アルモノタルコトヲ止息セス然レトモ其書入質ハ以下ニ説明スル如クニ其為ササル可カラサル記入ノ時期ヨリ後ナラテハ第三ノ人ニ関シテ日附ヲ有セサルモノトス 第三章 書入質 第二千百十四条 書入質トハ一箇ノ義務ノ弁償ニ供シタル不動産ニ付テノ一箇ノ対物権ヲ云フ 書入質ハ其性質ヨリシテ不可分ノモノニシテ弁償ニ供シタル総テノ不動産ニ付キ並ニ其不動産ノ各箇ニ付キ及ヒ其各部分ニ付キ完全ニ存在スルモノトス 書入質ハ其不動産ノ如何ナル人ノ手裏ニ移ルヲ問ハス之ニ追及スルモノトス 第二千百十五条 書入質ハ法律ニ依リ許可セラレタル場合ト法式トニ従フニ非サレハ存在セサルモノトス 第二千百十六条 書入質ハ或ハ法律上ノモノアリ或ハ裁判上ノモノアリ或ハ合意上ノモノアリ 第二千百十七条 法律上ノ書入質トハ法律ヨリ生スル所ノモノナリ 裁判上ノ書入質トハ裁判又ハ裁判上ノ所為ヨリ生スル所ノモノナリ 合意上ノ書入質トハ合意ニ関シ並ニ証書及ヒ契約ノ外部ノ法式ニ関スル所ノモノナリ 第二千百十八条 書入質ト為スコトヲ得可キモノハ左ノ諸件ノミトス 第一 各人ノ処分内ニ在ル不動産及ヒ不動産ト看做サレタル其附属件 第二 使用収益権ノ継続スル時間右同一ノ財産及ヒ附属件ノ使用収益権 第二千百十九条 動産ハ書入質ニ依リ追及ヲ有セサルモノトス 第二千百二十条 海ノ船舶ニ関スル海上法律ノ成規ハ此法典ヲ以テ毫モ改正スルコトナシ 第一節 法律上ノ書入質 第二千百二十一条 法律上ノ書入質ヲ附与セラレタル権利及ヒ債権ハ左ノ如シ 夫ノ財産ニ付キ結婚シタル婦ノ権利及ヒ債権 後見人ノ財産ニ付キ幼者及ヒ治産禁ヲ受ケタル者ノ権利及ヒ債権 収受役及ヒ会計ヲ為ス管理者ノ財産ニ付キ国、邑及ヒ公同設立場ノ権利及ヒ債権 第二千百二十二条 法律上ノ書入質ヲ有スル債主ハ以下ニ明示スル所ノ改様ニ従ヒ自己ノ負債者ニ属スル所ノ総テノ不動産ニ付キ及ヒ以後其負債者ニ属スルコトアル可キ不動産ニ付キ自己ノ権利ヲ執行スルコトヲ得可シ 第二節 裁判上ノ書入質 第二千百二十三条 裁判上ノ書入質ハ確定ノモノタルト仮リノモノタルトヲ問ハス対審裁判若クハ缺席裁判ヲ得タル者ノ利益ニ於テ其裁判ヨリ生ス○裁判上ノ書入質ハ亦私シノ署名ノ義務証書ニ附シタル姓名手署ニ付キ裁判ヲ以テ為シタル認定又ハ験真ヨリ生ス 裁判上ノ書入質ハ亦以下ニ明示スル所ノ改様ニ従ヒ負債者ノ現在ノ不動産及ヒ其獲得スルコトアル可キ不動産ニ付キ執行スルコトヲ得可シ 裁断人ノ裁決書ハ其執行ノ裁判上ノ命令ヲ附シタル時ニ非サレハ書入質ヲ惹起セス 書入質ハ外国ニ於テ為シタル裁判カ仏蘭西ノ裁判所ニ於テ執行ス可キモノト宣告セラレタル時ニ非サレハ其外国ニ於テ為シタル裁判ヨリ亦生スルコトヲ得ス但シ国政上ノ法律又ハ外国条約中ニ存在スルコトアル可キ反対ノ成規ト相触ルルコトナカル可シ 第三節 合意上ノ書入質 第二千百二十四条 合意上ノ書入質ハ其書入質ニ服従セシムル不動産ノ所有権ヲ移転スルノ能力ヲ有スル所ノ者ニ非サレハ之ヲ承諾スルコトヲ得ス 第二千百二十五条 不動産ニ付キ一箇ノ未必条件ニ依リ停止セラレタル権利又ハ特定ノ場合ニ於テ解除セラル可キ権利又ハ廃棄ヲ受ク可キ権利ナラテハ有セサル者ハ之ト同一ノ未必条件又ハ之ト同一ノ廃棄ニ服従シタル書入質ナラテハ承諾スルコトヲ得ス 第二千百二十六条 幼者、治産禁ワ受ケタル者ノ財産及ヒ失踪者ノ財産ハ仮リニ之レカ占有ヲ附与シタルノミノ間ハ法律ニ定メタル原由及ヒ法式ニ従ヒ又ハ裁判ニ拠ルニ非サレハ書入質ト為スコトヲ得ス 第二千百二十七条 合意上ノ書入質ハ公証人二名ノ面前又ハ公証人一名ト証人二名トノ面前ニ於テ公正ノ法式ヲ以テ作リタル証書ニ依ルニ非サレハ之ヲ承諾スルコトヲ得ス 第二千百二十八条 外国ニ於テ為シタル契約ハ仏蘭西ニ於ケル財産ニ付キ書入質ヲ附与スルコトヲ得ス但シ国政上ノ法律又ハ外国条約ニ此原則ニ反シタル成規アル時ハ格別ナリトス 第二千百二十九条 債権ヲ設定スル公正ノ証券若クハ其後ノ公正ノ証書ニ於テ負債者カ其債権ノ書入質ヲ承諾スル所ノ現在其負債者ニ属スル不動産各箇ノ性質及ヒ所在地ヲ特別ニ申述スル所ノ書入質ニ非サレハ有効ナル合意上ノ書入質ナシトス○総テ負債者ノ現在ノ財産各箇ハ指定シテ之ヲ書入質ニ服従セシムルコトヲ得可シ 将来ノ財産ハ書入質ト為スコトヲ得ス 第二千百三十条 然レトモ若シ負債者ノ現在ノ自由ナル財産カ債権ノ抵保ニ不充分ナル時ハ負債者ハ其不充分ナル旨ヲ明言シテ以後己レノ獲得ス可キ財産各箇ハ其之ヲ獲得スルニ随ヒ右ノ抵保ニ供ス可キ旨ヲ承諾スルコトヲ得可シ 第二千百三十一条 右ニ同シク若シ書入質ニ服従シタル現在ノ一箇又ハ数箇ノ不動産カ滅尽シ又ハ損壊ヲ受ケ債主ノ抵保ノ為メニ不充分トナリタル時ハ債主ハ即時ニ自己ノ償還ヲ訟求シ又ハ書入質ノ追補ヲ得ルコトヲ得可シ 第二千百三十二条 合意上ノ書入質ハ之ヲ承諾スルノ原由タル金額ノ正確ニシテ且ツ証書ニ依リ之ヲ定メタル時ニ非サレハ有効ナリトセス若シ其義務ヨリ生スル債権カ其存在ニ付キ未必条件ニ関スルモノタリ又ハ其価額ニ於テ不定ノモノタル時ハ債主ハ自己ノ明白ニ申述シタル評価ノ価額ニ充ツル迄ノ外以下ニ記スル所ノ記入ヲ求ムルコトヲ得ス但シ其評価ノ価額ハ別段ノ道理アル時ハ負債者之ヲ減少セシムルノ権利アリトス 第二千百三十三条 獲得シタル書入質ハ其書入質ト為シタル不動産ニ生シタル総テノ改良ニ拡及スルモノトス 第四節 数箇ノ書入質ノ間ニ於ケル班位 第二千百三十四条 債主ノ間ニ於テハ書入質ハ法律上ノモノタルト裁判上ノモノタルト合意上ノモノタルトヲ問ハス法律ニ依リ定メタル法式及ヒ方法ヲ以テ保存人ノ簿冊上ニ債主ノ為シタル記入ノ日ノミヨリ班位ヲ有スルモノトス但シ後条ニ載スル例外ハ格別ナリトス 第二千百三十五条 書入質ハ総テ記入ニ関セス左ノ各人ノ利益ニ於テ存在スルモノトス 第一 幼者及ヒ治産禁ヲ受ケタル者ノ利益ニ於テハ後見人ノ管理ノ為メ其後見人ニ属スル不動産ニ付キ後見受諾ノ日ヨリ存在ス 第二 婦ノ利益ニ於テハ其嫁資及ヒ婚姻ノ合意ノ為メ其夫ノ不動産ニ付キ婚姻ノ日ヨリ起算シテ存在ス 婦ハ結婚中ニ己レノ受ケタル財産相続又ハ己レニ為サレタル贈与ヨリ来ル所ノ嫁資ノ金額ノ為メニハ其財産相続開始ノ日又ハ贈与ノ其効ヲ得タル日ヨリ起算スルニ非サレハ書入質ヲ有セサルモノトス 婦ハ其夫ト共ニ契約シタル負債ノ賠償ノ為メ及ヒ所有権ヲ移転シタル自己ノ専有財産ノ再用ノ為メニハ其義務又ハ売買ノ日ヨリ起算スルニ非サレハ書入質ヲ有セサルモノトス 如何ナル場合ニ於テモ本条ノ成規ハ本巻ノ公布ノ前ニ第三ノ人ノ獲得シタル権利ヲ害スルコトヲ得ス 第二千百三十六条 然レトモ夫及ヒ後見人ハ自己ノ財産ノ負任シタル書入質ヲ公ケニ為スコトヲ担任シ而シテ之レカ為メ己レニ属スル不動産及ヒ以後己レニ属スルコトアル可キ不動産ニ付キ特ニ設ケアル役署ニ己レ自カラ毫モ遅延ナク記入ヲ求ムルコトヲ担任ス可シ 若シ本条ニ依リ命セラレタル記入ヲ求メ及ヒ之ヲ為サシムルコトヲ缺キテ自己ノ不動産ハ婦及ヒ幼者ノ法律上ノ書入質ニ供セラレタル旨ヲ明カニ申述スルコトナク其不動産ニ付キ先取特権又ハ書入質ヲ承諾シ又ハ之ヲ取ラシメタル夫及ヒ後見人ハ仮冒售売者ト看做サレ而シテ此クノ如キモノトシテ拘留ヲ受ク可シ 第二千百三十七条 代後見人ハ自己ノ一身上ノ責任ト総テノ損害賠償ノ罰款トヲ以テ後見人ノ管理ノ為メ其後見人ノ財産ニ付キ遅延ナク記入ヲ為スヲ監視シ又然ノミナラス右ノ記入ヲ為サシムルコトヲ担任ス可シ 第二千百三十八条 若シ夫、後見人、代後見人ノ前数条ニ依リ命セラレタル記入ヲ為サシムルコトナキニ於テハ夫及ヒ後見人ノ住所又ハ財産所在地ノ始審裁判所ニ於ケル検事ヨリ其記入ヲ求ム可シ 第二千百三十九条 夫若クハ婦ノ血属親及ヒ幼者ノ血属親又血属親ノ欠缺ニ於テハ其朋友ヨリ右ノ記入ヲ求ムルコトヲ得可シ又其記入ハ婦及ヒ幼者ヨリモ之ヲ求ムルコトヲ得可シ 第二千百四十条 若シ婚姻ノ契約ニ依リ成年ノ夫婦カ夫ノ一箇ノ不動産又ハ其特定ノ数箇ノ不動産ノミニ付キ記入ヲ為ス可キ旨ヲ合意シタル時ハ其記入ノ為メニ指示セラレサル不動産ハ婦ノ嫁資ノ為メ並ニ其取戻ノ権利及ヒ婚姻ノ合意ノ為メノ書入質ヲ免除セラレ及ヒ釈免セラルルモノトス○毫モ記入ヲ為ササル旨ヲ合意スルコトヲ得ス 第二千百四十一条 後見人ノ不動産ニ付テモ若シ親族会議ニ於ケル血属親カ其特定ノ不動産ノミニ付キ記入ヲ為ス可キ意見ノモノタル時ハ亦右ト同一タル可シ 第二千百四十二条 前二条ノ場合ニ於テ夫、後見人及ヒ代後見人ハ指示セラレタル不動産ノミニ付キ記入ヲ求ムルコトヲ担任ス可シ 第二千百四十三条 若シ後見人撰任ノ証書ニ依リ書入質ヲ制限セサル時ハ其後見人ハ自己ノ不動産ニ付テノ一般ノ書入質カ其管理ノ為メニ充分ナル抵保ニ顕然超過スル場合ニ於テハ其書入質ヲ幼者ノ利益ニ於テ完全ナル担保ヲ為スニ充分ナル不動産ニ制限セント訟求スルコトヲ得可シ 其訟求ハ代後見人ニ対シテ之ヲ為シ而シテ其訟求ニ付テハ予メ親族会議ノ意見ヲ問ハサル可カラス 第二千百四十四条 右ニ同シク夫ハ其婦ノ承諾ヲ得且ツ親族会ニ於テ集会シタル婦ノ最近ノ血属親四名ノ意見ヲ問ヒタル後嫁資、取戻ノ権利及ヒ婚姻ノ合意ノ為メ総テ自己ノ不動産ニ付テノ一般ノ書入質ヲ其婦ノ権利ノ完全ナル保存ノ為メニ充分ナル不動産ニ制限セント訟求スルコトヲ得可シ 第二千百四十五条 夫及ヒ後見人ノ訟求ニ付テノ裁判ハ検事ノ意見ヲ聴キタル後検事ト対審ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ為ス可カラス 裁判所ヨリ特定ノ不動産ニ書入質ヲ減少ス可キ旨ヲ宣告シタル場合ニ於テハ総テ其他ノ不動産ニ付キ為シタル記入ハ之ヲ塗抹ス可シ 第四章 先取特権及ヒ書入質ノ記入ノ仕方 第二千百四十六条 記入ハ先取特権又ハ書入質ニ服従シタル財産所在ノ郡ニ於ケル書入質保存役署ニ於テ之ヲ為スモノトス○其記入ハ家資分散開始ノ前ニ行ヒタル所為カ無効ナリト公言セラルル期限内ニ之ヲ為シタル時ハ毫モ其効ヲ生セス 若シ遺留財産ノ債主中ノ一名カ財産相続開始ノ後ノミニ記入ヲ為シ而シテ其財産相続ヲ目録ノ利益ノミヲ以テ受諾シタル場合ニ於テハ遺留財産ノ債主ノ間ニ於テモ亦右ト同一ナリトス 第二千百四十七条 同日ニ記入シタル総テノ債主ハ保存人ノ朝ノ記入ト夕ノ記入トノ間ノ差別ヲ標示シタル時ニ於テ其朝ノ記入ト夕ノ記入トノ間ノ差別ナク同一ノ日附ノ書入質ヲ抗競シテ執行スルモノトス 第二千百四十八条 記入ヲ為ス為メニハ先取特権又ハ書入質ヲ発生セシムル所ノ裁判書又ハ証書ノ細字正本ヲ保存セサル其正本又ハ其公正ノ副本ヲ債主自身ヨリ書入質保存人ニ差出シ若クハ第三ノ人ヨリ之ヲ差出サシム 債主ハ印税アル紙ニ記シタル明細書二通ヲ之ニ添ユ可ク而シテ其一通ハ証券ノ副本ニ之ヲ記載スルコトヲ得可シ但シ其明細書ニハ左ノ諸件ヲ記ス可キモノトス 第一 債主ノ姓名、住所及ヒ一箇ノ職業アラハ其職業並ニ右役署管轄地内ノ或地ニ於ケル其債主ノ住所ノ撰定 第二 負債者ノ姓名、住所及ヒ職業ノ知レタル時ハ其職業又ハ保存人ノ如何ナル場合ニ於テモ書入質ヲ負任シタル者ヲ認可シ及ヒ差別スルコトヲ得可キ如キ其各個特別ノ指定 第三 証券ノ日附及ヒ性質 第四 証券ニ明示シタル債権元金ノ額又ハ年金収受権及ヒ供給ニ付キ又ハ未定ノ権利、未必条件ニ関スル権利、不定ノ権利ニ付キ見積ヲ命シタル場合ニ於テハ其記入者ノ見積リタル債権元金ノ額並ニ其元金ノ附属件ノ額及ヒ償還ヲ要求スルヲ得可キ時期 第五 記入者ノ自己ノ先取特権又ハ書入質ヲ保存セント欲スル財産ノ種類及ヒ所在地ノ指示 右最後ノ成規ハ法律上又ハ裁判上ノ書入質ノ場合ニ於テハ必要ナリトセス但シ合意ノ欠缺ニ於テハ此等ノ書入質ノ為メ唯一箇ノ記入ヲ以テ右役署ノ管轄地内ニ在ル総テノ不動産ニ及ホスモノトス 第二千百四十九条 死去シタル人ノ財産ニ付キ為ス可キ記入ハ前条ノ第二ニ記シタル如キ死去ノ単一ナル指定ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得可シ 第二千百五十条 保存人ハ明細書ニ記載シタル諸件ヲ自己ノ簿冊ニ記シ且ツ証券又ハ証券ノ副本ト明細書一通トヲ請求者ニ交付シ但シ保存人ハ其明細書ノ末ニ右記入ヲ為シタル旨ヲ保証スルモノトス 第二千百五十一条 利息又ハ年金賦額ヲ生スル元金ノ為メニ記入セラレタル債主ハ唯二年分ト本年分トニ付テハ其元金ニ於ケルト同一ナル書入質ノ班位ニ其順序ヲ定メラルルノ権利アリトス但シ第一次ノ記入ニ依リ保存セラレタルモノヨリ更ニ他ノ年金賦額ノ為メニ為ス可キ特別ノ記入ト相触ルルコトナカル可クシテ其特別ノ記入ハ其日附ヨリ起算シテ書入質ヲ生セシムルモノトス 第二千百五十二条 記入ヲ求メタル者並ニ其代人又ハ公正証書ニ依レル譲受人ハ書入質ノ簿冊上ニ於テ己レノ撰定シタル住所ヲ変更スルコトヲ得可シ但シ同一ノ管轄地内ニ於テ更ニ他ノ住所ヲ撰ミテ之ヲ指示スルノ負任アリトス 第二千百五十三条 会計役ノ財産ニ付テノ国、邑及ヒ公同設立場ノ純粋ニ法律上ノモノタル書入質ノ権利、後見人ニ付テノ幼者又ハ治産禁ヲ受ケタル者ノ其権利、配偶者ニ付テノ結婚シタル婦ノ其権利ハ左ノ諸件ノミヲ記シタル明細書二通ヲ差出シタル上ニテ之ヲ記入ス可シ 第一 債主ノ姓名、職業及ヒ其現実ノ住所並ニ管轄地内ニ於テ債主ノ撰定シ又ハ債主ノ為メニ撰定シタル住所 第二 負債者ノ姓名、職業、住所又ハ詳明ナル指定 第三 保存ス可キ権利ノ性質及ヒ定マリタル目的ニ付テハ其権利ノ価額但シ未必条件ニ関シ又ハ未定或ハ不定ナルモノニ付テハ其価額ヲ定ムルニ及ハス 第二千百五十四条 記入ハ其日附ノ日ヨリ起算シテ十年間書入質及ヒ先取特権ヲ保存ス而シテ若シ其期限ノ終ラサル前ニ右ノ記入ヲ更新セサル時ハ其効止息スルモノトス 第二千百五十五条 記入ノ費用ハ反対ノ約権アルニ非サレハ負債者ノ負任タル可ク而シテ記入者其立替ヲ為ス可シ但シ法律上ノ書入質ニ関シテハ格別ニシテ其記入ニ付テハ保存人ヨリ負債者ニ対シテ償還ノ訟求ヲ為ス可キモノトス○売主ヨリ求ムルコトアル可キ登記ノ費用ハ獲得者ノ負任タリ 第二千百五十六条 記入ノ為メ債主ニ対シテ為スコトヲ得可キ訴ハ其債主自身ニ送達シタル呼出状又ハ簿冊上ニ撰定シタル住所中最後ノ住所ニ送達シタル呼出状ニ依リ該管裁判所ニ於テ之ヲ起ス可シ但シ債主ノ死去若クハ債主ノ其住所ヲ撰定シタル家屋ノ者ノ死去ニ拘ハラス右ノ如クナリトス 第五章 記入ノ塗抹及ヒ減殺 第二千百五十七条 記入ハ之ニ関係アリテ且ツ其能力アル各人ノ承諾ヲ以テ之ヲ塗抹シ又ハ終審ノ裁判或ハ裁定事件ノ力ヲ得タル裁判ニ拠リ之ヲ塗抹ス 第二千百五十八条 右二箇中何レノ場合ニ於テモ塗抹ヲ求ムル者ハ承諾ヲ記載シタル公正証書ノ副本又ハ裁判書ノ副本ヲ保存人ノ役署ニ納ム可シ 第二千百五十九条 承諾セラレサル塗抹ハ記入ヲ為シタル地ヲ管轄スル裁判所ニ訟求スルモノトス但シ未定又ハ不定ノ裁判言渡ノ抵保ノ為メニ其記入ヲ為シ而シテ其裁判言渡ノ執行又ハ算定ニ付キ負債者ト自称ノ債主トカ他ノ裁判所ニ於テ訴訟ヲ為シ又ハ他ノ裁判所ノ裁判ヲ受ケサルヲ得サル時ハ格別ニシテ此場合ニ於テハ塗抹ノ訟求ヲ其裁判所ニ申告シ又ハ其裁判所ニ送致セサル可カラス 然レトモ争訟ノ場合ニ於テハ債主及ヒ負債者ノ指定メタル一箇ノ裁判所ニ其訟求ヲ申告スル為メ債主及ヒ負債者ノ為シタル合意ハ其両者ノ間ニ於テハ執行ヲ受ク可キモノトス 第二千百六十条 若シ法律ニモ又権原ニモ基クコトナクシテ記入ヲ為シタル時又ハ不規則ナル若クハ消滅シ或ハ弁済シタル権原ニ拠リ記入ヲ為シタル時又ハ先取特権或ハ書入質ノ権利カ法律上ノ方法ニ依リ抹殺セラレタル時ハ裁判所ヨリ塗抹ヲ命セサルヲ得ス 第二千百六十一条 法律ニ従ヒ合意セラレタル制限ナク負債者ノ現在ノ財産又ハ将来ノ財産ニ付キ記入ヲ為ス可キノ権利ヲ有スル債主ノ為シタル記入カ債権ノ抵保ニ必要ナルヨリモ更ニ多分ノ数箇ノ財産ニ及ホシタル度毎ニ記入ノ減殺ニ於ケル訴権又ハ相当ノ割合ニ超過スル所ノモノニ付キ一部分ノ塗抹ニ於ケル訴権カ負債者ノ為メニ開始セラルルモノトス○此訴ニ付テハ第二千百五十九条ニ定メタル裁判管轄ノ規則ニ従フ可シ 本条ノ成規ハ合意上ノ書入質ニ適用セサルモノトス 第二千百六十二条 数箇ノ財産中ノ一箇又ハ其中或者ノ価額カ自由ナル不動産ニ於テ元金及ヒ法律上ノ附属件ニ於ケル債権ノ額ニ三分一以上超過スル時ハ其ノ数箇ノ財産ニ及ホス所ノ記入ハ過当ノモノト看做ス可シ 第二千百六十三条 性質ヨリシテ未必条件ニ関シ又ハ未定或ハ不定ノモノタル債権ノ抵保ノ為メニ設定ス可キ書入質ニ関シテ合意ヲ以テ其債権ヲ規定セサル時債主ノ為シタル見積ニ従ヒ其債権ニ付キ為シタル記入ハ亦過当ノモノトシテ減殺スルコトヲ得可シ 第二千百六十四条 右ノ場合ニ於テ過当ナル事ハ裁判官其景況ト時運ノ推測ト実事ノ思量トニ従ヒ債主ノ実ラシキ権利ヲ負債者ニ保存ス可キ当然ナル信憑ノ資益ト相調和セシムル方法ニ之ヲ裁定ス可シ但シ事実ノ成行ニ依リ其不定ノ債権ヲ更ニ多量ノ金額ニ登ラシメタル時ハ其日附ノ日ヨリ書入質ヲ以テ為ス可キ新タナル記入ト相触ルルコトナカル可シ 第二千百六十五条 債権ノ価額ニ三分一ヲ加ヘタル高ト相比較ス可キ不動産ノ価額ハ損敗ヲ受クルコトナカル可キ不動産ニ付テハ其所在ノ各邑ニ於テ地税ノ納税人姓名表ノ元帳又ハ其姓名表ニ拠レル各自負担ノ税額ト不動産ノ入額トノ間ニ存在スル所ノ割合ニ従ヒ右ノ元帳ニ依リ公示セラレタル入額又ハ右ノ各自負担ノ税額ニ依リ指示セラレタル入額ノ価額ノ十五倍ヲ以テ之ヲ定メ又損敗ヲ受ク可キ不動産ニ付テハ右ノ価額ノ十倍ヲ以テ之ヲ定ム○然レトモ裁判官ハ右ノ外疑ハシカラサル賃貸証書及ヒ以前接近シタル時期ニ於テ作ルコトアリタル評価ノ調書並ニ其他此類ノ証書ヨリ生スルコトアル可キ明示ヲ以テ己レノ資助ト為シ而シテ此種々ノ参照件ノ成果ノ間ノ中数ニ右ノ入額ヲ見積ルコトヲ得可シ 第六章 第三ノ保有者ニ対スル先取特権及ヒ書入質ノ効 第二千百六十六条 一箇ノ不動産ニ付キ記入シタル先取特権又ハ書入質ヲ有スル債主ハ其債権又ハ記入ノ順序ニ従テ班位ヲ定メラレ及ヒ弁済セラルル為メ其不動産ノ如何ナル人ノ手裏ニ移ルヲ問ハス之ニ追及スルモノトス 第二千百六十七条 若シ第三ノ保有者カ自己ノ所有権ヲ滌除スル為メ以下ニ記スル所ノ法式ヲ履行セサル時ハ其第三ノ保有者ハ記入ノ効ノミニ依リ保有者トシテ総テ書入質ノ負債ニ羈勒セラレ而シテ原来ノ負債者ニ附与セラレタル期限及ヒ猶予ヲ享有スルモノトス 第二千百六十八条 第三ノ保有者ハ右ト同一ノ場合ニ於テハ其如何ナル金額ニ登ルコトアルヲ問ハス償還ヲ要求スルヲ得可キ総テノ利息及ヒ元金ヲ弁済シ又ハ何等ノ貯存モナク其書入質トナリタル不動産ヲ放棄ス可キモノトス 第二千百六十九条 若シ第三ノ保有者カ右義務中ノ一箇ヲ完全ニ履行セサル時ハ書入質権アル各債主ハ原来ノ負債者ニ弁済ノ督促ヲ為シ且ツ第三ノ保有者ニ償還ヲ要求スルヲ得可キ負債ヲ弁済シ又ハ不動産ヲ放棄スルノ催促ヲ為シタルヨリ三十日ノ後ニ第三ノ保有者ニ対シテ其書入質トナリタル不動産ヲ売ラシムルノ権利ヲ有スルモノトス 第二千百七十条 然レトモ対人権上ニテ其負債ニ羈勒セラレサル第三ノ保有者ハ同一ノ負債ニ書入質ト為シタル他ノ不動産ニシテ主タル義務者一名又ハ数名ノ占有ニ於テ存在スルモノアル時ハ己レニ移転セラレタル書入質トナリタル不動産ノ売払ニ付キ故障ヲ申立テ而シテ保証ノ巻ニ規定セラレタル法式ニ従ヒ其予先ノ索討ヲ求ムルコトヲ得可シ但シ其索討ノ間ハ書入質ト為シタル不動産ノ売払ヲ延ハス可キモノトス 第二千百七十一条 索討ノ抗弁ノ憑拠ヲ以テ先取特権アル債主又ハ不動産ニ付キ特別ノ書入質ヲ有スル債主ニ対抗スルコトヲ得ス 第二千百七十二条 書入質ニ依レル放棄ニ関シテハ凡ソ対人権上ニテ負債ニ羈勒セラレス而シテ所有権ヲ移転スルノ能力アル第三ノ保有者ヨリ之ヲ為スコトヲ得可シ 第二千百七十三条 第三ノ保有者カ義務ヲ認定シ又ハ第三ノ保有者タルノ分限ノミニ於テ裁判言渡ヲ受ケタル後ト雖モ亦放棄ヲ為スコトヲ得可シ而シテ其放棄ヲ為スト雖モ糶売落札ニ至ル迄ハ第三ノ保有者カ総テノ負債及ヒ費用ヲ弁済シテ不動産ヲ取戻シ得ルノ差支トナルコトナカル可シ 第二千百七十四条 書入質ニ依レル放棄ハ財産所在地ノ裁判所ノ書記局ニ之ヲ為スモノトス而シテ其裁判所ヨリ放棄ノ証書ヲ附与ス可シ 関係人中最モ先キニ手続ヲ為ス者ノ請願ニ依リ其放棄シタル不動産ニ付キ管財人ヲ設置シ而シテ其不動産ノ売払ハ其管財人ニ対シ所有権収奪ノ為メニ定メタル法式ヲ以テ之ヲ訟求ス可シ 第二千百七十五条 書入質権アリ又ハ先取特権アル債主ノ損害ニ於テ第三ノ保有者ノ所為又ハ懈怠ヨリ生スル所ノ損壊ハ其第三ノ保有者ニ対シテ賠償ノ訴権ヲ生セシム然レトモ第三ノ保有者ハ改良ヨリ生シタル増価ノ額ニ充ツル迄ノ外自己ノ入費及ヒ改良費ヲ取戻スコトヲ得ス 第二千百七十六条 書入質ト為シタル不動産ノ果実ハ第三ノ保有者カ弁済ヲ為シ又ハ放棄スルノ催促ヲ受ケタル日ヨリ起算スルニ非サレハ其第三ノ保有者ヨリ之ヲ補償スルニ及ハス若シ又一旦始マリタル起訴ヲ三年間打棄テタル時ハ新タニ為シタル催促ヨリ起算スルニ非サレハ其第三ノ保有者ヨリ之ヲ補償スルニ及ハス 第二千百七十七条 第三ノ保有者カ其占有ノ前ニ不動産ニ付キ有セシ所ノ地役及ヒ対物権ハ其放棄ノ後又ハ其者ニ対シテ為シタル糶売落札ノ後ニ再生スルモノトス 其第三ノ保有者ノ一身上ノ債主ハ以前ノ所有者ニ対シテ記入シタル総テノ債主ノ後ニ於テ其放棄セラレ又ハ糶売落札トナリタル財産ニ付キ其班位ニ於テ自己ノ書入質権ヲ執行ス 第二千百七十八条 書入質ノ負債ヲ弁済シ又ハ書入質ト為シタル不動産ヲ放棄シ又ハ其不動産ノ所有権収奪ヲ受ケタル第三ノ保有者ハ主タル負債者ニ対シテ当然ナル担保ニ於ケル訟求権ヲ有スルモノトス 第二千百七十九条 代金ヲ弁済シテ自己ノ所有権ヲ滌除セント欲スル第三ノ保有者ハ本巻第八章ニ定メタル法式ヲ遵守ス可キモノトス 第七章 先取特権及ヒ書入質ノ消滅 第二千百八十条 先取特権及ヒ書入質ハ左ノ諸件ニ依テ消滅ス 第一 主タル義務ノ消滅 第二 債主ノ其書入質ヲ放棄スル事 第三 第三ノ保有者カ其己レニ獲得シタル財産ヲ滌除スル為メニ定メラレタル法式及ヒ条件ヲ履行スル事 第四 期満効 其期満効ハ負債者ノ手裏ニアル所ノ財産ニ関シテハ書入質又ハ先取特権ヲ附与スル訴権ノ期満効ノ為メニ定メタル時間ニ依リ負債者ニ於テ之ヲ獲得スルモノトス 其期満効ハ第三ノ保有者ノ手裏ニアル所ノ財産ニ関シテハ其第三ノ保有者ノ利益ニ於ケル所有権ノ期満効ノ為メニ規定セラレタル時間ニ依リ第三ノ保有者ニ於テ之ヲ獲得スルモノトス又期満効カ一箇ノ証券ヲ推測セシムル場合ニ於テハ其期満効ハ右ノ証券ヲ保存人ノ簿冊ニ登記シタル日ノミヨリ経過スルコトヲ始ムルモノトス 債主ノ為シタル記入ハ負債者又ハ第三ノ保有者ノ利益ニ於テ法律上ニ定メタル期満効ノ経過ヲ中断セス 第八章 所有権ヨリ先取特権及ヒ書入質ヲ滌除スル仕方 第二千百八十一条 第三ノ保有者カ先取特権及ヒ書入質ヲ滌除セント欲スル不動産又ハ不動産ニ係ル対物権ノ所有権ヲ移転スル契約書ハ其財産所在ノ地ヨ管轄スル書入質保存人其全文ヲ登記ス可シ 其登記ハ特ニ設ケアル簿冊上ニ之ヲ為ス可ク而シテ保存人ハ請求者ニ其認定証書ヲ附与ス可キモノトス 第二千百八十二条 保存人ノ簿冊上ニ於ケル所有権移転ノ証券ノ単一ナル登記ハ不動産ニ付キ設定シタル書入質及ヒ先取特権ヲ滌除セス 売主ハ其売リタル物ニ付キ己レ自カラ有セシ所ノ所有権及ヒ権利ナラテハ獲得者ニ移転セス而シテ其売主ハ自己ノ負任セシ所ニ同シキ先取特権及ヒ書入質ノ附添シタル侭ニテ其所有権及ヒ権利ヲ移転スルモノトス 第二千百八十三条 若シ新タナル所有者カ本巻第六章ニ依リ許可セラレタル起訴ノ効ニ対シテ己レヲ担保セント欲スル時ハ其起訴ノ前若クハ己レニ為サレタル最初ノ催促ヨリ起算シテ遅クトモ一月内ニ各債主ニ宛テ其記入ニ於テ各債主ノ撰定シタル住所ニ左ノ諸件ヲ送達ス可シ 第一 証書ノ日附及ヒ性質、売主又ハ贈与者ノ姓及ヒ其詳明ナル指定、売リ又ハ贈与シタル物ノ本質及ヒ所在地ノミヲ記載シ若シ又一団ヲ為シタル財産ニ関スル時ハ其財産及ヒ其所在各郡ノ概括ノ名称、其代金及ヒ売払代金ノ一部分タル負任又ハ其物ノ代金ヲ見積リタルニ於テハ其見積代金ノミヲ記載シタル其新所有者ノ証券ノ抜書 第二 売買証書ノ登記ノ抜書 第三 三箇ノ縦線ニ分チタル表但シ其中第一ノ縦線ニハ書入質ノ日附及ヒ記入ノ日附ヲ記載シ第二ノ縦線ニハ各債主ノ姓ヲ記載シ第三ノ縦線ニハ記入シタル各債権ノ額ヲ記載ス可シ 第二千百八十四条 獲得者又ハ受贈者ハ償還ヲ要求スルヲ得可キ負債ト償還ヲ要求スルヲ得サル負債トノ差別ナク書入質ノ負債及ヒ負任ヲ右代金ノ額ノミニ充ツル迄直チニ弁償セント欲スル旨ヲ右ト同一ノ証書ヲ以テ申述ス可シ 第二千百八十五条 新タナル所有者カ定期内ニ右ノ送達ヲ為シタル時ハ其証券ヲ記入セラレタル総テノ債主ハ其不動産ヲ公ケノ糶売及ヒ落札ニ附スルコトヲ請求スルヲ得可シ但シ之レカ為メニ左ノ諸件ヲ為ス可キノ負任アリトス 第一 右ノ請求書ヲ新タナル所有者ノ求メニ依テ為シタル送達ヨリ遅クトモ四十日内ニ其新タナル所有者ニ送附ス可キ事但シ請求ヲ為ス各債主ノ撰定シタル住所ト其現実ノ住所トノ間ニ於ケル五「ミリアメートル」ノ距離毎ニ二日ノ猶予ヲ右四十日ノ期限ニ附加ス可キモノトス 第二 其請求書ニ請求者カ契約ニ於テ約権シタル代価又ハ新タナル所有者ノ申述シタル代価ニ十分一ヲ加ヘタル高ニ其代価ヲ増シ又ハ増サシムルノ約務ヲ記載ス可キ事 第三 右ト同一ノ送附ヲ右ト同一ノ期限内ニ主タル負債者タル以前ノ所有者ニ為ス可キ事 第四 其送達書ノ正本及ヒ写ニ右ノ請求ヲ為ス債主ノ署名ス可キ事又ハ其特別ノ代理人ヲシテ署名セシム可キ事但シ此場合ニ於テハ其代理人ハ自己ノ代理委任状ノ写ヲ附与ス可キモノトス 第五 右ノ請求ヲ為ス債主ハ代価及ヒ負任ノ額ニ充ツル迄保証人ヲ立テント供陳ス可キ事 右ノ諸件ハ無効ノ罰款ヲ以テ之ヲ定ムルモノトス 第二千百八十六条 若シ債主ヨリ其定マリタル期限ト法式トニ従ヒ糶売ニ附スル事ヲ請求セサルニ於テハ其不動産ノ価額ハ契約ニ於テ約権シタル代価又ハ新タナル所有者ノ申述シタル代価ニ確然定メラレタルモノト為シ依テ其新タナル所有者ハ右ノ代金ヲ収受ス可キ順序ニ在ル各債主ニ之ヲ弁済スルニ依リ又ハ之ヲ附託スルニ依リ総テ先取特権及ヒ書入質ヲ釈免セラルルモノトス 第二千百八十七条 糶売ヲ以テスル再売ノ場合ニ於テハ之ヲ請求シタル債主若クハ新タナル所有者ノ求メニ依リ強逼ノ所有権収奪ノ為メニ設定シタル法式ニ従ヒ其再売ヲ為ス可シ 其訟求者ハ契約ニ於テ約権シ又ハ申述シタル代価ト債主ノ之ヲ増シ又ハ増サシムルノ義務ヲ己レニ負ヒタル附加ノ金額トヲ貼附書中ニ表示ス可シ 第二千百八十八条 糶売落札人ハ其落札代金ノ外ニ占有ヲ失ハシメラレタル獲得者又ハ受贈者ニ其契約ノ費用及ヒ正当ノ入費ト保存人ノ薄冊上ニ於ケル登記ノ費用ト書類送達ノ費用ト再売ヲ為スニ至ル為メニ其獲得者又ハ受贈者ノ為シタル費用トヲ其獲得者又ハ受贈者ニ返還ス可キモノトス 第二千百八十九条 獲得者又ハ受贈者カ最後ノ糶買人トナリテ其糶売ニ附セラレタル不動産ヲ保存スル時ハ糶売落札ノ裁判書ヲ登記セシムルニ及ハス 第二千百九十条 糶売ニ附スルコトヲ請求シタル債主ノ其糶売ノ手続ヲ止メ而シテ其債主ヨリ約務ノ金額ヲ弁済スル時ト雖モ総テ其他ノ書入質権アル各債主ノ明白ナル承諾アルニ非サレハ公ケノ糶売ヲ防止スルコトヲ得ス 第二千百九十一条 獲得者ニシテ糶売落札人トナリタル者ハ自己ノ権原ニ依リ約権セラレタル代金ニ超過スル所ノモノノ償還ノ為メ及ヒ各箇ノ弁済ノ日ヨリ起算シテ其超過額ノ利息ノ為メ売主ニ対シテ当然ナル訟求権ヲ有スルモノトス 第二千百九十二条 新タナル所有者ノ権原カ不動産ト動産トヲ包含シ又ハ或モノハ書入質ト為サレ他ノモノハ書入質ト為サレサル数箇ノ不動産ヲ包含シタル場合ニ於テハ其数箇ノ不動産カ保存人ノ役署ノ同一ノ管轄地内ニ在ルト相異ナリタル管轄地内ニ在ルトヲ問ハス又一箇同一ノ代価ヲ以テ所有権ヲ移転シタルト互ニ異ナリタル別々ノ代価ヲ以テ所有権ヲ移転シタルトヲ問ハス又同一ノ収益ニ服従シタルト否トヲ問ハス特別ニシテ且ツ別々ノ記入ヲ受ケタル各箇ノ不動産ノ代価ハ別段ノ理由アルニ於テハ権原ニ明示シタル所ノ総代価ニ比較シタル価ノ見積ニ依リ新タナル所有者ノ送達書中ニ之ヲ申述ス可シ 糶売ヲ求ムル債主ハ如何ナル場合ニ於テモ動産ニ付キ其約務ヲ拡及スルコトヲ強ラルルコトナカル可ク又自己ノ債権ニ書入質ト為シタルモノニシテ同一ノ管轄地内ニ在ル所ノモノヨリ更ニ他ノ不動産ニ付キ其約務ヲ拡及スルコトヲ強ラルルコトナカル可シ但シ新タナル所有者ハ其獲得シタル物品ノ分割若クハ収益ノ分割ヨリ受クル所ノ損害賠償ノ為メ自己ノ先人ニ対シテ償還ノ訟求ヲ為スコトヲ得可キモノトス 第九章 夫及ヒ後見人ノ財産ニ付キ記入ノ存在セサル時書入質ヲ滌除スル仕方 第二千百九十三条 夫又ハ後見人ニ属スル不動産ノ獲得者ハ後見人ノ管理ノ為メ又ハ婦ノ嫁資、取戻ノ権利及ヒ婚姻ノ合意ノ為メ其不動産ニ付キ記入ノ存在セサル時ハ自己ノ獲得シタル財産ニ付キ存在スル所ノ書入質ヲ滌除スルコトヲ得可シ 第二千百九十四条 之レカ為メ其不動産ノ獲得者ハ所有権ヲ移転スル契約書ノ適法ニ校正シタル写ヲ財産所在地ノ民事裁判所ノ書記局ニ納メ且ツ婦又ハ代後見人ト右裁判所ノ検事トニ送附シタル証書ニ依リ其契約書ノ写ヲ納メシ旨ヲ保証ス可シ○右契約書ノ日附ト契約者ノ姓名、職業、住所ト財産ノ性質及ヒ其所在地ノ指定ト売買ノ代価及ヒ其他ノ負任トヲ記載シタル其契約書ノ抜書ヲ二月間右裁判所ノ聴訟席ニ貼附シ置ク可シ而シテ其時間ニ於テハ婦、夫、後見人、代後見人、幼者、治産禁ヲ受ケタル者、血属親又ハ朋友及ヒ検事ハ別段ノ理由アルニ於テハ其所有権ヲ移転シタル不動産ニ付テノ記入ヲ書入質保存人ノ役署ニ請求シ且ツ其記入ヲ為サシムルコトヲ得可クシテ其記入ハ婚姻契約ノ日又ハ後見人ノ管理ヲ始メシ日ニ之ヲ為シタルト同一ノ効ヲ有スルモノトス但シ夫及ヒ後見人カ其婚姻又ハ後見ノ為メ其不動産ノ既ニ書入質ヲ負任シタル旨ヲ第三ノ人ニ申述セスシテ其第三ノ人ノ利益ニ於テ承諾シタル書入質ノ為メ前ニ記シタル如ク其夫及ヒ後見人ニ対シテ為スコトヲ得可キ訟求ト相触ルルコトナカル可シ 第二千百九十五条 若シ契約書ノ展示ヨリ二月内ニ其売リタル不動産ニ付キ婦、幼者又ハ治産禁ヲ受ケタル者ノ権利ニ依レル記入ヲ為ササル時ハ其不動産ハ婦ノ嫁資、取戻ノ権利及ヒ婚姻ノ合意ノ為メ又ハ後見人ノ管理ノ為メ毫モ負任ナクシテ獲得者ニ移転スルモノトス但シ別段ノ理由アル時ハ夫及ヒ後見人ニ対シテ償還ノ訟求ヲ為スコトヲ得可シ 若シ右ノ婦、幼者又ハ治産禁ヲ受ケタル者ノ権利ニ依テ記入ヲ為シ而シテ其以前ノ債主ノ存在シテ代金ノ全部又ハ一部ヲ吸収スル時ハ獲得者ハ有益ノ順序ニ置カレタル債主ニ自己ヨリ弁済シタル代金又ハ代金ノ一部ヲ釈免セラレ而シテ婦、幼者又ハ治産禁ヲ受ケタル者ノ権利ニ依レル記入ハ或ハ全ク之ヲ塗抹シ或ハ其相当レル額ニ充ツル迄之ヲ塗抹ス可シ 若シ婦、幼者又ハ治産禁ヲ受ケタル者ノ権利ニ依レル記入カ最旧ノモノタル時ハ獲得者ハ其記入ノ損害ニ於テ毫モ代金ノ弁済ヲ為スコトヲ得ス其記入ハ前ニ記シタル如ク常ニ必ス婚姻契約ノ日附又ハ後見人ノ管理ヲ始メタル日附ヲ有スルモノトス而シテ此場合ニ於テハ有益ノ順序ニ来ラサル他ノ債主ノ記入ハ之ヲ塗抹ス可シ 第十章 簿冊ノ公示及ヒ保存人ノ責任 第二千百九十六条 書入質保存人ハ其簿冊上ニ登記シタル証書ノ写及ヒ現存スル記入ノ写又ハ一箇ノ記入モ存在セサル旨ノ保証書ヲ得ント請求スル各人ニ之ヲ交付スルコトヲ担任ス可シ 第二千百九十七条 書入質保存人ハ左ノ諸件ヨリ生シタル損害ノ責ニ任ス可キモノトス 第一 其簿冊上ニ所有権移転ノ証書ノ登記及ヒ自己ノ役署ニ於テ請求セラレタル記入ヲ遺脱シタル事 第二 其保証書中ニ現ニ存在スル記入ノ一箇又ハ数箇ヲ記載セサル事但シ此最後ニ記シタル場合ニ於テ其錯誤カ書入質保存人ニ帰スルコトヲ得サル不充分ナル指定ニ由来シタル時ハ格別ナリトス 第二千百九十八条 保存人ノ一箇ノ不動産ニ関シテ其保証書中ニ其記入シタル負任ノ一箇又ハ数箇ヲ遺脱シタル時新タナル占有者カ自己ノ証券ノ登記ノ後ニ其保証書ヲ請求シタルニ於テハ其不動産ハ保存人ノ責任ヲ貯存シテ新タナル占有者ノ手裏ニ於テ其負任ヲ免カレタルモノトス然レトモ獲得者カ其代金ヲ弁済セサル間又ハ債主ノ間ニ為サレタル順序カ認可セラレサル間ハ債主ノ其己レニ属スル順序ニ従ヒ班位ヲ定メシムルノ権利ト相触ルルコトナカル可シ 第二千百九十九条 如何ナル場合ニ於テモ保存人ハ所有権移転ノ証書ノ登記及ヒ書入質権利ノ記入ヲ否拒シ又ハ遅延スルコトヲ得ス又請求セラレタル保証書ノ交付ヲ否拒シ又ハ遅延スルコトヲ得ス若シ之ニ違フ時ハ関係人ニ対シテ損害賠償ノ責ニ任ス可シ但シ之レカ為メニハ請求者ノ求メニ依リ治安裁判官若クハ裁判所ノ聴訟席掛リ使吏若クハ其他ノ使吏又ハ証人二名ノ補助ヲ受ケタル公証人ハ直チニ其否拒又ハ遅延ノ調書ヲ作ル可キモノトス 第二千二百条 (千八百七十五年一月五日ノ法律ヲ以テ左ノ如ク更改ス)然レトモ保存人ハ登記セラルル為メニ差出シタル所有権移転ノ証書及ヒ不動産差押ノ証書及ヒ記入セラルル為メニ差出シタル明細書並ニ記載セラルル為メニ差出シタル代替又ハ日附ノ先キナル旨ノ証書、証書ノ副本又ハ抜書ト登記シタル証書ノ解除、無効又ハ廃棄ヲ宣告スル裁判書トヲ受取リタル旨ヲ毎日番号ノ順序ヲ以テ記入スル所ノ一箇ノ簿冊ヲ設ク可キモノトス 保存人ハ登記シ又ハ記入シ又ハ記載ス可キ各箇ノ証書又ハ各箇ノ明細書毎ニ其受取ノ旨ヲ記入シタル簿冊ノ番号ヲ覚知セシムル印税アル紙ニ記シタル認定証書ヲ請求者ニ附与ス可ク而シテ保存人ハ其己レニ受取リタル日附又ハ順序ニ於ケルニ非サレハ所有権移転ノ証書及ヒ不動産差押ノ証書ヲ登記スルコトヲ得ス又明細書ヲ記入スルコトヲ得ス又代替又ハ日附ノ先キナル旨ノ証書ト特設ノ簿冊ニ登記シタル証書ノ解除、無効又ハ廃棄ヲ宣告スル裁判書トヲ記載スルコトヲ得ス 本条ニ定メタル簿冊ハ其二通ヲ設ケ而シテ其中ノ一通ハ之レカ終成ノ後三十日内ニ保存人ノ居住スル郡ヨリ更ニ他ノ郡ノ民事裁判所ノ書記局ニ無費ニテ之ヲ納ム可シ 書類差出ノ簿冊一通ヲ其書記局ニ納ム可キ裁判所ハ保存役署ノ所在地ヲ管轄スル控訴裁判所長ノ命令ヲ以テ之ヲ指定ム可シ但シ其命令ハ検事長ノ求ニ依テ之ヲ為ス可キモノトス 第二千二百一条 総テ保存人ノ簿冊ハ印税アル紙ニテ作リ且ツ保存役署設置ノ地ヲ管轄スル裁判所ノ裁判官中一名其初メト終トニ於テ各頁毎ニ番号ヲ附シ及ヒ花押ヲ為ス可シ○其簿冊ハ証書類登記税ノ簿冊ノ如クニ毎日之ニ終結ノ旨ヲ記ス可シ 第二千二百二条 保存人ハ自己ノ職務ノ執行ニ於テハ本章ノ総テノ成規ニ従フ可ク若シ之ニ違フ時ハ初犯ニ付テハ二百「フランク」ヨリ一千「フランク」ニ至ル迄ノ罰金ヲ言渡サレ又再犯ニ付テハ罷職ヲ言渡サル可シ但シ関係人ノ為メノ損害賠償ト相触ルルコトナカル可ク而シテ其損害賠償ハ罰金ヨリ前ニ弁済ス可キモノトス 第二千二百三条 書類差出ノ記載、記入及ヒ登記ハ毫モ空白ナク又行間ノ書入ナク相連接シテ之ヲ簿冊上ニ為ス可ク若シ之ニ違フ時ハ其保存人ニ対シテ一千「フランク」ヨリ二千「フランク」ニ至ル迄ノ罰金ト関係人ノ為メノ損害賠償トヲ言渡ス可シ但シ其損害賠償ハ亦罰金ヨリ前ニ弁済ス可キモノトス 第十九巻 強逼ノ所有権収奪及ヒ債主ノ間ニ於ケル順序(千八百四年三月十九日決定同月二十九日宣令) 第一章 強逼ノ所有権収奪 第二千二百四条 債主ハ第一ニハ自己ノ負債者ニ所有権ニ於テ属スル不動産及ヒ不動産ト看做サレタル其附属件第二ニハ右ト同性質ノ財産ニ付キ負債者ニ属スル使用収益権ノ所有権収奪ヲ訟求スルコトヲ得可シ 第二千二百五条 然レトモ遺留財産中ノ不動産ニ於ケル共同相続人ノ不分ノ分ケ前ハ其一身上ノ債主カ適当ナリト思考スル時ニ於テ訟求スルコトヲ得可キ分派又ハ不分物糶売又ハ財産相続ノ巻第八百八十二条ニ従ヒ其一身上ノ債主カ関渉スルノ権利アル分派又ハ不分物糶売ノ前ニ其一身上ノ債主ニ於テ之ヲ売払ニ附スルコトヲ得ス 第二千二百六条 仮令後見ヲ免脱セラレタル者ト雖モ幼者又ハ治産禁ヲ受ケタル者ノ不動産ハ動産ノ索討ノ前ニ之ヲ売払ニ附スルコトヲ得ス 第二千二百七条 若シ負債カ成年者ト幼者又ハ治産禁ヲ受ケタル者トニ共通ノモノタル時ハ其成年者ト幼者又ハ治産禁ヲ受ケタル者トノ間ニ不分共通ニテ占有スル不動産ノ所有権収奪ノ前ニ動産ノ索討ヲ必要トセス又成年者ニ対シ或ハ治産禁ヲ受クル前ニ訟求ヲ始メタル場合ニ於テモ不動産ノ所有権収奪ノ前ニ動産ノ索討ヲ必要トセス 第二千二百八条 共通財産ノ一部分ヲ為ス不動産ノ所有権収奪ハ仮令婦ノ其負債ニ羈勒セラレタル時ト雖トモ負債者タル夫ノミニ対シテ之ヲ訟求スルモノトス 婦ノ不動産ニシテ共通財産中ニ入ラサルモノノ所有権収奪ハ夫ト婦トニ対シテ之ヲ訟求スルモノトス但シ婦ハ若シ夫ノ己レト共ニ訴訟ヲ為スコトヲ否拒スル時又ハ夫ノ幼者タル時ハ裁判所ヨリ其許可ヲ受クルコトヲ得可シ 夫婦共ニ幼年ナル場合又ハ婦ノミノ幼年ナル場合ニ於テ若シ其成年ナル夫カ婦ト共ニ訴訟ヲ為スコトヲ否拒スル時ハ裁判所ヨリ其婦ノ為メニ後見人ヲ撰任シ而シテ其後見人ニ対シテ訟求ヲ執行ス可キモノトス 第二千二百九条 債主ハ己レニ書入質ト為サレタル財産ノ不足ナル場合ニ非サレハ己レニ書入質ト為サレサル不動産ノ売払ヲ訟求スルコトヲ得ス 第二千二百十条 相異ナリタル各郡ニ在ル財産ノ強売ハ逐次ニ非サレハ之ヲ訟求スルコトヲ得ス但シ其財産カ一箇同一ノ収益地ノ一部分ヲ為ス時ハ格別ナリトス 其強売ハ右収益地中ノ首地ヲ管轄スル裁判所ニ於テ之ヲ行フ可ク又其首地ノアラサル時ハ其財産中ニテ納税人姓名表ノ元帳ニ従ヒ最多量ノ入額ヲ生出スル所ノ一部分ヲ管轄スル裁判所ニ於テ之ヲ行フ可シ 第二千二百十一条 若シ債主ニ書入質ト為シタル財産及ヒ書入質ト為ササル財産カ一箇同一ノ収益地ノ一部分ヲ為シ又ハ数郡ニ在ル財産カ一箇同一ノ収益地ノ一部分ヲ為ス時ハ負債者ノ求メニ依リ右各財産ノ売払ヲ相合シテ訟求ス可シ而シテ若シ別段ノ理由アル時ハ糶売落札ノ代金中ニテ其全部ニ比較シタル価額ノ見積ヲ為スモノトス 第二千二百十二条 若シ負債者カ公正ノ賃貸証書ニ依リ自己ノ不動産ノ一年間ノ純粋ニシテ且ツ自由ナル入額カ元金、利息及ヒ費用ニ於テ負債ヲ弁済スルニ足ル可キ旨ヲ証明シ而シテ其代任ヲ債主ニ為サント供陳スル時ハ裁判官ヨリ其訟求ヲ停止スルコトヲ得可シ但シ其弁済ニ付キ或ル故障又ハ障碍ノ生スルコトアル時ハ其訟求ヲ再起スルコトヲ得可キモノトス 第二千二百十三条 不動産ノ強売ハ特定ニシテ且ツ確実ナル負債ニ付キ公正ニシテ且ツ執行ス可キ証券ニ拠ルニ非サレハ之ヲ訟求スルコトヲ得ス○若シ其負債カ確実ナラサル品種ノモノタル時ハ其訟求ハ有効ナリト雖トモ糶売落札ハ算定ノ後ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス 第二千二百十四条 執行ス可キ証券ノ譲受人ハ其転移ノ通報ヲ負債者ニ為シタル後ニ非サレハ所有権収奪ヲ訟求スルコトヲ得ス 第二千二百十五条 其訟求ハ仮リノ裁判又ハ控訴ニ関セス仮リニ執行ス可キ確定ノ裁判ニ拠テ之ヲ為スコトヲ得可シ然レトモ糶売落札ハ終審ノ確定裁判又ハ裁定事件ノ力ヲ得タル確定裁判ノ後ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス 其訟求ハ缺席裁判ニ拠リテハ故障申述ノ期限間之ヲ執行スルコトヲ得ス 第二千二百十六条 其訟求ハ債主ノ其補償ヲ受ク可キ所ノモノヨリ更ニ多量ノ金額ノ為メニ之ヲ始メタルコトヲ口実トシテ之ヲ取消スコトヲ得ス 第二千二百十七条 凡ソ不動産ノ所有権収奪ニ於ケル訟求ニ付テハ予メ債主ノ請求及ヒ請願ニ依リ使吏ノ紹介ヲ以テ負債者自身又ハ其住所ニ弁済スルノ督促ヲ為ササルヲ得ス 其督促ノ法式及ヒ所有権収奪ニ付テノ訟求ノ法式ハ訴訟ノ法律ヲ以テ之ヲ規定ス 第二章 債主ノ間ニ於ケル順序及ヒ代金ノ分配 第二千二百十八条 債主ノ順序及ヒ不動産代金ノ分配並ニ之ヲ行フノ方法ハ訴訟ノ法律ヲ以テ之ヲ規定ス 第二十巻 期満効(千八百四年三月十五日決定同月二十五日宣令) 第一章 総則 第二千二百十九条 期満効トハ若干ノ時間ノ経過ニ依リ及ヒ法律ニ定メタル条件ニ従ヒ獲得シ又ハ釈免ヲ得ルノ方法ヲ云フ 第二千二百二十条 人ハ予メ期満効ヲ放棄スルコトヲ得ス獲得シタル期満効ハ之ヲ放棄スルコトヲ得可シ 第二千二百二十一条 期満効ノ放棄ハ明認又ハ黙認ナリトス但シ黙認ノ放棄ハ獲得シタル権利ノ放棄ヲ推測セシムル所ノ所為ヨリ生ス 第二千二百二十二条 所有権ヲ移転スルコト能ハサル者ハ獲得シタル期満効ヲ放棄スルコトヲ得ス 第二千二百二十三条 裁判官ハ期満効ヨリ生スル憑拠ヲ其職権上ヨリ補足スルコトヲ得ス 第二千二百二十四条 期満効ハ訴訟中何時タリトモ之ヲ以テ対抗スルコトヲ得可ク又然ノミナラス控訴裁判所ニ於テモ之ヲ以テ対抗スルコトヲ得可シ但シ期満効ノ憑拠ヲ以テ対抗セサリシ者カ其景況ニ依リ之ヲ放棄シタリト思量セサルヲ得サル時ハ格別ナリトス 第二千二百二十五条 債主又ハ其他総テ期満効ヲ獲得スルニ付キ資益ヲ有スル各人ハ仮令負債者又ハ所有者ノ期満効ヲ放棄スル時ト雖モ其期満効ヲ以テ対抗スルコトヲ得可シ 第二千二百二十六条 各人ノ処分内ニ在ラサル物ノ所有権ニ付キ期満効ヲ得ルコトヲ得ス 第二千二百二十七条 国、公同設立場及ヒ各邑ハ各人民ト同一ノ期満効ニ服従シ而シテ又各人民ニ同シク之ヲ以テ対抗スルコトヲ得可シ 第二章 占有 第二千二百二十八条 占有トハ我輩ノ己レ自カラ保チ又ハ我輩ノ名前ヲ以テ他人ヲシテ保タシムル一箇ノ物ノ保有又ハ我輩ノ己レ自カラ執行シ又ハ我輩ノ名前ヲ以テ他人ヲシテ執行セシムル一箇ノ権利ノ収益ヲ云フ 第二千二百二十九条 期満効ヲ得ル為メニハ引続キテ間断ナク、静安、公明ニシテ疑ハシカラス且ツ所有者ノ名義ニ於ケル占有ヲ必要トス 第二千二百三十条 人ハ常ニ己レノ為メニ且ツ所有者ノ名義ニテ占有スルモノト思量セラル可シ但シ他人ノ為メニ占有スルコトヲ始メタルノ証アル時ハ格別ナリトス 第二千二百三十一条 若シ人カ他人ノ為メニ占有スルコトヲ始メタル時ハ常ニ之ト同一ノ名義ニテ占有スルモノト思量セラル可シ但シ之ニ反シタル証アル時ハ格別ナリトス 第二千二百三十二条 純粋ナル権能ノ所為及ヒ単一ナル寛容ノ所為ハ占有ヲモ又期満効ヲモ創設スルコトヲ得ス 第二千二百三十三条 暴行ノ所為ハ亦期満効ヲ生シ得可キ占有ヲ創設スルコトヲ得ス 有益ナル占有ハ暴行ノ止ミタル時ナラテハ始マラサルモノトス 第二千二百三十四条 以前占有シタルノ証アル現在ノ占有者ハ其間ノ時ニ於テモ占有シタリト思量セラルルモノトス但シ之ニ反シタル証アル時ハ格別ナリトス 第二千二百三十五条 期満効ヲ完成スル為メニハ人ノ其先人ニ承継シタル方法ノ全括ノ名義又ハ特定ノ名義タルト若クハ無償ノ名義又ハ有償ノ名義タルトヲ問ハス自己ノ占有ニ其先人ノ占有ヲ併合スルコトヲ得可シ 第三章 期満効ヲ防止スル原由 第二千二百三十六条 他人ノ為メニ占有スル者ハ如何ナル時間ノ経過ニ依ルモ決シテ期満効ヲ得サルモノトス 故ニ土地賃借人、受託者、使用収益者及ヒ其他総テ所有者ノ為メニ其所有者ノ物ヲ保有スル各人ハ其物ニ付キ期満効ヲ得ルコトヲ得ス 第二千二百三十七条 前条ニ指定シタル名義中ノ或モノヲ以テ物ヲ保ツ各人ノ相続人ハ亦期満効ヲ得ルコトヲ得ス 第二千二百三十八条 然レトモ第二千二百三十六条及ヒ第二千二百三十七条ニ表示シタル各人ハ第三ノ人ヨリ来レル原由ニ依リ若クハ其各人カ所有者ノ権利ニ対抗シタル抗争ニ依リ若シ其占有ノ権原ノ変換シタル時ハ期満効ヲ得ルコトヲ得可シ 第二千二百三十九条 土地賃借人、受託者及ヒ其他ノ他人ノ為メニスル保有者ヨリ所有権移転ノ権原ヲ以テ物ヲ移転セラレタル者ハ其物ニ付キ期満効ヲ得ルコトヲ得可シ 第二千二百四十条 人ハ己レ自カラ其占有ノ原由及ヒ主義ヲ変更スルコトヲ得サルノ義意ニ於テハ自己ノ権原ニ対シテ期満効ヲ得ルコトヲ得ス 第二千二百四十一条 人ハ其負ヒタル義務ノ釈免ニ付キ期満効ヲ得ルノ義意ニ於テハ自己ノ権原ニ対シテ期満効ヲ得ルコトヲ得可シ 第四章 期満効ノ経過ヲ中断シ又ハ停止スル原由 第一節 期満効ヲ中断スル原由 第二千二百四十二条 期満効ハ自然ニ又ハ民法上ニテ之ヲ中断スルコヲ得可シ 第二千二百四十三条 占有者カ一年以上ノ時間、以前ノ所有者ニ依リ若クハ然ノミナラス第三ノ人ニ依リ其物ノ収益ヲ奪ハレタル時ハ自然ノ中断アリトス 第二千二百四十四条 期満効ヲ得ルヲ防止セント欲スル其人ニ通報シタル裁判所ヘノ呼出、弁済ノ督促又ハ差押ハ民法上ノ中断ヲ為スモノトス 第二千二百四十五条 治安役署ニ於ケル勧解ノ為メノ呼出ハ其後ニ至リ法律上ノ期限内ニ裁判所ヘノ呼出ヲ為シタル時ハ其勧解ノ為メノ呼出ノ日附ノ日ヨリ期満効ヲ中断ス 第二千二百四十六条 裁判所ヘノ呼出ハ仮令管轄違ヒノ裁判官ノ面前ニ為シタルモノト雖モ期満効ヲ中断ス 第二千二百四十七条 若シ呼出状カ法式ノ欠缺ノ為メニ無効ナル時 若シ原告人カ其訟求ヲ止メタル時 若シ原告人カ訴訟ヲ消滅セシメタル時 若シ原告人ノ訟求カ棄却セラレタル時 此等ノ場合ニ於テハ中断ハ無効ナリト看做サル可シ 第二千二百四十八条 期満効ハ負債者又ハ占有者カ某人即チ之ニ対シテ期満効ヲ得ントスル其人ノ権利ヲ認定スルニ依リ中断セラルルモノトス 第二千二百四十九条 前数条ニ従ヒ連帯義務者中ノ一人ニ為シタル権利認定ノ要求又ハ其一人ノ為シタル権利ノ認定ハ総テ其他ノ連帯義務者ニ対シ又然ノミナラス其相続人ニ対シテ期満効ヲ中断ス 連帯義務者ノ相続人中ノ一人ニ為シタル権利認定ノ要求又ハ其一人ノ為シタル権利ノ認定ハ仮令其債権カ書入質ノモノタル時ト雖モ他ノ共同相続人ニ関シテ期満効ヲ中断セス但シ其義務カ不可分ノモノタル時ハ格別ナリトス 右権利認定ノ要求又ハ権利ノ認定ハ他ノ共同負債者ニ関シテハ右相続人ノ担任シタル分ケ前ノミニ付キ期満効ヲ中断スルモノトス 他ノ共同負債者ニ関シテ全部ニ付キ期満効ヲ中断スル為メニハ死去セシ負債者ノ総テノ相続人ニ為シタル権利認定ノ要求又ハ其総テノ相続人ノ為シタル権利ノ認定ヲ必要トス 第二千二百五十条 主タル負債者ニ為シタル権利認定ノ要求又ハ主タル負債者ノ為シタル権利ノ認定ハ保証人ニ対シテ期満効ヲ中断ス 第二節 期満効ノ経過ヲ停止スル原由 第二千二百五十一条 期満効ハ法律ニ定メタル或ル例外中ニ在ルモノヲ除クノ外ハ総テ各人ニ対シテ経過スルモノトス 第二千二百五十二条 期満効ハ第二千二百七十八条ニ記シタル所ノモノ及ヒ法律ニ定メタル其他ノ場合ヲ除クノ外幼者及ヒ治産禁ヲ受ケタル者ニ対シテ経過セス 第二千二百五十三条 期満効ハ夫婦ノ間ニ於テ経過セス 第二千二百五十四条 期満効ハ仮令結婚シタル婦カ婚姻ノ契約ニ依リ又ハ裁判上ニテ離分セサル時ト雖モ其夫ノ管理ヲ有スル所ノ財産ニ関シテハ結婚シタル婦ニ対シテ経過スルモノトス但シ其婦ヨリ夫ニ対シテ償還ヲ訟求スルコトヲ得可シ 第二千二百五十五条 然レトモ期満効ハ婚姻ノ契約及ヒ夫婦相互ノ権利ノ巻第千五百六十一条ニ依リ嫁資ノ制ニ従ヒ設定シタル不動産ノ所有権移転ニ関シテハ結婚中経過セサルモノトス 第二千二百五十六条 期満効ハ左ノ場合ニ於テハ亦結婚中停止ス可キモノトス 第一 婦ノ訴権カ共通財産ノ受諾又ハ放棄ニ付キ撰択ヲ為シタル後ニ非サレハ執行スルコトヲ得サル場合 第二 夫カ婦ノ承諾ナクシテ其婦ノ専有財産ヲ売払ヒ其売払ノ担保人タル場合及ヒ其他総テ婦ノ訴カ夫ニ対シテ反射ス可キ場合 第二千二百五十七条 期満効ハ未必条件ニ関スル所ノ債権ニ関シテハ其未必条件ノ生スルニ至ル迄経過セス又担保ニ於ケル訴権ニ関シテハ褫奪ノアルニ至ル迄経過セス又日ヲ定メタル債権ニ関シテハ其日ニ至ル迄経過セス 第二千二百五十八条 期満効ハ目録ノ利益ヲ受クル相続人カ遺留財産ニ対シテ有スル所ノ債権ニ関シテハ其相続人ニ対シテ経過セス 期満効ハ仮令管財人ヲ設備セサルモノト雖モ相続人ノ虧缺シタル遺留財産ニ対シテ経過ス 第二千二百五十九条 期満効ハ目録ヲ作ル為メノ三月間ト熟考スル為メノ四十日間トニ於テモ経過スルモノトス 第五章 期満効ヲ得ル為メニ必要ナル時間 第一節 総則 第二千二百六十条 期満効ハ日ヲ以テ之ヲ算シ時ヲ以テ之ヲ算セス 第二千二百六十一条 期満効ハ期限ノ最後ノ日ノ完成シタル時ニ於テ之ヲ獲得スルモノトス 第二節 三十年ノ期満効 第二千二百六十二条 総テノ訴権ハ対物権ノモノト対人権ノモノトヲ問ハス三十年ヲ以テ期満効ヲ得ルモノトス但シ其期満効ヲ申立ツル者ハ一箇ノ証券ヲ差出スコトニ覇勒セラルルコトナク又悪意ヨリ推及シタル抗弁ノ憑拠ヲ以テ其者ニ対抗スルコトヲ得ス 第二千二百六十三条 年金収受権ノ負債者ハ最後ノ証券ノ日附ヲリ二十八年ノ後ニ至リ其債主又ハ承権人ニ自己ノ費用ヲ以テ新タナル証券ヲ供備スルヲ強ヒラルルコトアル可シ 第二千二百六十四条 本巻ニ記載シタルモノヨリ更ニ他ノ諸件ニ関スル期満効ノ規則ハ各其関係ノ巻中ニ之ヲ説明ス 第三節 十年及ヒ二十年ニ依レル期満効 第二千二百六十五条 善意ニシテ且ツ正当ナル権原ニ依リ不動産ヲ獲得シタル者ハ其真ノ所有者カ右不動産所在ノ地ヲ管轄スル控訴裁判所ノ管轄地内ニ住スル時ハ十年ヲ以テ其所有権ノ期満効ヲ得又真ノ所有者カ右管轄地外ニ住所ヲ有スル時ハ二十年ヲ以テ其所有権ノ期満効ヲ得ルモノトス 第二千二百六十六条 若シ真ノ所有者カ相異ナリタル時期ニ於テ右管轄地ノ内ト外トニ於テ其住所ヲ有シタル時ハ期満効ヲ完成スル為メ所在ノ十年ニ不足スル年数ニ其所在ノ十年ヲ完成スル為メ右不足年数ニ倍スル不在ノ年数ヲ加フルコトヲ必要トス 第二千二百六十七条 法式ノ欠缺ノ為メニ無効ナル権原ハ十年及ヒ二十年ノ期満効ノ基本ニ用立ツコトヲ得ス 第二千二百六十八条 善意ハ常ニ思量セラレ而シテ悪意アリト申立ツル者ニ之ヲ証セサルヲ得ス 第二千二百六十九条 獲得ノ時ニ当リテ善意ノ存在シタルヲ以テ足レリトス 第二千二百七十条 十年ノ後ニ至リ、建築者及ヒ起作人ハ其造作シ又ハ指揮シタル大工事ノ担保ヲ免除セラルルモノトス 第四節 特別ナル或ル期満効 第二千二百七十一条 学問及ヒ芸術ノ教師及ヒ教員カ毎月為ス所ノ授業ノ為メ其教師及ヒ教員ノ訴権 旅舎主及ヒ飲食店主カ供給シタル宿泊及ヒ飲食料ノ為メ其旅舎主及ヒ飲食店主ノ訴権 職工及ヒ労働者カ日雇賃、品物ノ供給及ヒ給料ノ弁済ヲ得ル為メ其職工及ヒ労働者ノ訴権 此等ノ訴権ハ六月ヲ以テ期満効ヲ得ルモノトス 第二千二百七十二条 内科医師、外科医師及ヒ製薬者ノ診察手術及ヒ薬品ノ為メ其医師及ヒ製薬者ノ訴権 使吏ノ送達シタル証書及ヒ其執行シタル代理委任ノ為メ其使吏ノ訴権 商人ヨリ商人タラサル各人民ニ売リタル商品ノ為メ其商人ノ訴権 学塾ノ主長カ其生徒ノ賄料ヲ得ル為メ其主長ノ訴権及ヒ其他ノ授業師カ其工作授業料ヲ得ル為メ其授業師ノ訴権 一年毎ニ雇ハルル雇人カ給料ノ弁済ヲ得ル為メ其雇人ノ訴権 此等ノ訴権ハ一年ヲ以テ期満効ヲ得ルモノトス 第二千二百七十三条 代書人ノ費用及ヒ給料ノ弁済ヲ得ル為メ其代書人ノ訴権ハ訴訟ノ裁判又ハ双方ノ調和又ハ其代書人ノ廃止ヨリ起算シ二年ヲ以テ期満効ヲ得ルモノトス○未タ終了セサル訴訟ニ付テハ其代書人ハ五年以上ニ遡ボル所ノ其費用及ヒ給料ノ為メニ訟求ヲ為スコトヲ得ス 第二千二百七十四条 前ニ記シタル数箇ノ場合ニ於テハ仮令供給、交付、役務及ヒ労働ノ継続スル時ト雖モ期満効ハ存在スルモノトス 期満効ハ決定シタル計算書、私シノ義務認定証書、公正ノ義務認定証書又ハ消滅セサル裁判所ヘノ呼出状アル時ニ非サレハ経過スルコトヲ止メサルモノトス 第二千二百七十五条 然レトモ右ノ期満効ヲ以テ対抗セラレタル者ハ実ニ其物ヲ弁済シタルヤ否ヲ知ルノ問題ニ付キ其期満効ヲ以テ対抗スル者ニ誓ヲ求ムルコトヲ得可シ 寡婦及ヒ相続人ヲシテ其物ヲ未タ補償セサルコトヲ知ラサル旨ヲ申述セシムル為メ其寡婦及ヒ相続人ニ誓ヲ求ムルコトヲ得可ク又相続人ノ幼者タル時ハ其後見人ニ誓ヲ求ムルコトヲ得可シ 第二千二百七十六条 裁判官及ヒ代書人ハ訴訟ノ裁判ヨリ五年ノ後ニ至リ証拠物ノ責任ヲ免カルルモノトス 使吏ハ其任セラレタル代理ノ執行又ハ証書ノ送達ヨリ二年ノ後ニ至リ亦同シク其証拠物ノ責任ヲ免カルルモノトス 第二千二百七十七条 無期及ヒ畢生間ノ年金ノ賦額 養料ノ賦額 家屋ノ貸賃及ヒ田野財産ノ貸賃 貸金ノ利息及ヒ一般ニ毎年弁済シ又ハ更ニ短キ定期ニ於テ弁済ス可キ諸件 此等ノ諸件ハ五年ヲ以テ期満効ヲ得ルモノトス 第二千二百七十八条 本節中ノ各条ニ記スル所ノ期満効ハ幼者及ヒ治産禁ヲ受ケタル者ニ対シテ経過スルモノトス但シ幼者及ヒ治産禁ヲ受ケタル者ハ其後見人ニ対シテ償還ノ訟求ヲ為スコトヲ得可シ 第二千二百七十九条 動産ノ事ニ於テハ占有ハ権原ニ等シキ効力アリトス 然レトモ物ヲ遺失シ又ハ盗取セラレタル者ハ其遺失又ハ盗取ノ日ヨリ起算シテ三年間ハ其物ヲ現ニ所持スル者ニ対シテ之レカ所有権ヲ取戻サント訟求スルコトヲ得可シ但シ其所持スル者ハ己レニ其物ヲ得セシメタル者ニ対シテ償還ヲ訟求スルコトヲ得可シ 第二千二百八十条 若シ盗取セラレ又ハ遺失シタル物ノ現在ノ占有者カ市会又ハ市場ニ於テ之ヲ買ヒ又ハ公売ニ於テ之ヲ買ヒ又ハ其類ノ物ヲ売ル商人ヨリ之ヲ買ヒタル時ハ原来ノ所有者ハ其占有者ニ其之ヲ買入レタル代金ヲ償還スルニ非サレハ己レニ其物ヲ返サシムルコトヲ得ス 第二千二百八十一条 本巻公布ノ時期ニ於テ始マリタル期満効ハ旧法律ニ従ヒ之ヲ規定ス可シ 然レトモ当時始マリタル期満効ニシテ旧法律ニ従ヘハ右ト同一ノ時期ヨリ起算シテ猶三十年以上ヲ必要トスルモノハ其三十年ノ経過ヲ以テ完成ス可シ