仏蘭西法律書 民法 初訳本
参考原資料
- 仏蘭西法律書 民法 , 第1分冊 , 箕作麟祥 , 明治三年七月 [NDLデジタルコレクション]
- 仏蘭西法律書 民法 , 第2分冊 , 箕作麟祥 , 明治三年七月 [NDLデジタルコレクション]
- 仏蘭西法律書 民法 , 第3分冊 , 箕作麟祥 , 明治三年七月 [NDLデジタルコレクション]
- 仏蘭西法律書 民法 , 第4分冊 , 箕作麟祥 , 明治三年七月 [NDLデジタルコレクション]
- 仏蘭西法律書 民法 , 第5分冊 , 箕作麟祥 , 明治三年七月 [NDLデジタルコレクション]
- 仏蘭西法律書 民法 , 第6分冊 , 箕作麟祥 , 明治三年七月 [NDLデジタルコレクション]
- 仏蘭西法律書 民法 , 第7分冊 , 箕作麟祥 , 明治三年七月 [NDLデジタルコレクション]
- 仏蘭西法律書 民法 , 第8分冊 , 箕作麟祥 , 明治三年七月 [NDLデジタルコレクション]
- 仏蘭西法律書 民法 , 第9分冊 , 箕作麟祥 , 明治三年七月 [NDLデジタルコレクション]
- 仏蘭西法律書 民法 , 第10分冊 , 箕作麟祥 , 明治三年七月 [NDLデジタルコレクション]
- 仏蘭西法律書 民法 , 第11分冊 , 箕作麟祥 , 明治三年七月 [NDLデジタルコレクション]
- 仏蘭西法律書 民法 , 第12分冊 , 箕作麟祥 , 明治三年七月 [NDLデジタルコレクション]
- 仏蘭西法律書 民法 , 第13分冊 , 箕作麟祥 , 明治三年七月 [NDLデジタルコレクション]
- 仏蘭西法律書 民法 , 第14分冊 , 箕作麟祥 , 明治三年七月 [NDLデジタルコレクション]
- 仏蘭西法律書 民法 , 第15分冊 , 箕作麟祥 , 明治三年七月 [NDLデジタルコレクション]
- 仏蘭西法律書 民法 , 第16分冊 , 箕作麟祥 , 明治三年七月 [NDLデジタルコレクション]
他言語・別版など
前加篇 凡テ法律ヲ布告スル事、法律ヨリ生スル事、法律ヲ用フル事〔千八百三年第三月五日決定同月十五日布告〕
第一条 法律ハ皇帝ヨリ為シタル布告ニ因リ仏蘭西全国ニ於テ之ヲ行フ可シ
法律ハ其布告ヲ知ルコトヲ得タル時ヨリ国中ノ各所ニ於テ之ヲ行フ可シ
皇帝ヨリ為シタル布告ヲ皇帝ノ在ス所ノ「デパルトマン」(仏蘭西ノ地ヲ区分シタル一部ノ名ニシテ「アルロンヂスマン」数箇ヲ併セタルモノヲ云フ)ニ於テハ其布告ノ翌日之ヲ知ルコトト看做シ他ノ「デパルトマン」ニ於テハ其布告ヲ為シタル都府ト各「デパルトマン」ノ首府トノ間ノ路程ニ従ヒ一日ニ十「ミリヤメートル」(「ミリヤメートル」ハ一万「メートル」ヲ云ヒ大凡我カ二里半一町ニ当ル)〔大抵古ノ二十「リーウ」〕ノ距離ヲ以テ其日数ヲ累子シ翌日ニ之ヲ知ルコトト看做ス可シ
第二条 法律ハ将来ノ事ヲ定ルノミニシテ之ヲ既往ニ施行ス可カラス
第三条 取締ノ法律及ヒ国中安寧ノ事ニ管スル法律ハ仏蘭西領地内ニ居住スル者皆之ヲ循守ス可シ
不動産(土地家屋等ノ搬運ス可カラザル物ヲ云フ)ハ外国人ノ所有スル物ト雖モ仏蘭西ノ法ヲ以テ之ヲ支配ス可シ
人ノ分限及ヒ身位ニ管シタル法律ハ外国ニ居住スル者ヲ問ハス各仏蘭西人ヲ支配ス可シ
第四条 法律ノ不備、法律ノ不委、法律ノ所缺ヲ以テ口実ト為シ裁判ヲ為スコトヲ肯セサル裁判役ハ漫ニ裁判ヲ為サザルノ罪アリト為シ訴訟ヲ受ク可シ
第五条 裁判役ハ己レニ告白セシ訴訟ニ付キ一般ノ規則ヲ定ム可キ方法ヲ以テ其裁判ヲ言渡ス可カラス
第六条 私ニ為シタル契約ヲ以テ公ケノ安寧及ヒ風儀等ニ管スル法律ヲ犯ス可カラス
第一篇 人事
第一巻 民権ヲ受ル事、民権ヲ奪フ事〔千八百三年第三月八日決定同月十八日布告〕
第一章 民権ヲ受ル事
第七条 民権ヲ行フハ国民【シトワイヤン】(国ノ戸籍ニ入リテ民権及ヒ政権ヲ行フコトヲ得可キ人民ヲ云)タルノ分限ト相管スルコト無シ但シ国民【シトワイヤン】タルノ分限ハ建国ノ法ニ因テノミ之ヲ得且之ヲ有ス可キモノナリ
第八条 各仏蘭西人ハ民権ヲ受ク可シ
第九条 仏蘭西ニ於テ生レシ外国人ノ子ハ丁年(二十一歳ノ齢ヲ云)ニ至リシ其翌年仏蘭西人タルノ分限ヲ得ント求ムルコトヲ得可シ但シ其求ムル所ヲ得ント欲スルニハ其者ノ仏蘭西ニ居住スル時ハ仏蘭西ニ其住所ヲ定ム可キノ意タルコトヲ陳述シ又外国ニ居住スル時ハ仏蘭西ニ其住所ヲ定ム可キノ証書ヲ出シテ其時ヨリ一年内ニ仏蘭西ニ住所ヲ定ムルコトヲ必要ナリトス
第十条 外国ニ於テ生レタル仏蘭西人ノ子ハ仏蘭西人ナリ
仏蘭西人タルノ分限ヲ失ヒシ仏蘭西人ノ外国ニ於テ生ミタル子ト雖モ前条ニ記載シタル式ヲ行フニ於テハ何レノ時ヲ論セズ仏蘭西人タルノ分限ヲ復スルコトヲ得可シ
第十一条 外国人ハ其本国ト仏蘭西ト結ビタル条約ニ因リ其国ニ於テ仏蘭西人ノ受ケ又ハ受ク可キ所ニ等シキ民権ヲ仏蘭西ニ於テ受ク可シ
第十二条 仏蘭西人ニ嫁シタル外国ノ女ハ其夫ノ分限ニ従フ可シ
第十三条 皇帝ノ允許ヲ受ケ仏蘭西ニ其住所ヲ定ムルコトヲ得タル外国人ハ仏蘭西ニ居住スル時間諸般ノ民権ヲ受ク可シ
第十四条 外国人ノ仏蘭西ニ居住セザル者ト雖モ仏蘭西ニ於テ仏蘭西人ト結ヒタル契約ヲ行ハシム可キ為メ之ヲ仏蘭西ノ裁判所ニ呼出スコトヲ得可ク且其外国人ノ外国ニ於テ仏蘭西人ト結ヒタル契約ヲ行ハシム可キ為メ亦之ヲ仏蘭西ノ裁判所ニ呼出スコトヲ得可シ
第十五条 仏蘭西人ノ外国ニ於テ外国人ト結ヒタル契約ナリト雖トモ其契約ノ事ニ付キ其仏蘭西人ヲ仏蘭西ノ裁判所ニ呼出スコトヲ得可シ
第十六条 商業ニ管シタル事ノ外何事ヲ論セス仏蘭西ノ裁判所ニ訴ヲ為ス外国人ハ其訴訟ノ費用ヲ出シ及ビ償額ヲ納ム可キ保証ヲ立ツ可シ但シ其外国人ノ若シ仏蘭西ニ於テ其納メ方ヲ証スルニ足ル可キ不動産ヲ所有ト為ス時ハ格別ナリトス
第二章 民権ヲ奪フ事
第一款 仏蘭西人タルノ分限ヲ失フニ因リ民権ヲ奪フ事
第十七条 仏蘭西人タルノ分限ハ左ニ記列スル諸件ニ因テ之ヲ失フ
第一 外国ノ戸籍ニ入ル事
第二 皇帝ノ允許ナク外国政府ヨリ官職ヲ受ル事
第三 帰国スルノ意ナク外国ニ居住ヲ定ムル事
但シ商業ノ為メ外国ニ居住スル者ハ帰国スル意ナクシテ外国ニ居住セシ者ト看做可カラス
第十八条 仏蘭西人タルノ分限ヲ失ヒシ仏蘭西人皇帝ノ允許ヲ得テ仏蘭西ニ帰リ且仏蘭西ニ居住スルノ意ト仏蘭西ノ法ニ背キタル官位封爵ヲ放棄スルノ意トヲ陳述スルニ於テハ何レノ時ト雖モ仏蘭西人タルノ分限ヲ復スルコトヲ得可シ
第十九条 外国人ニ稼シタル仏蘭西ノ女ハ其夫ノ分限ニ従フ可シ
若シ其女ノ寡婦トナリタル時既ニ仏蘭西ニ居住シ或ハ仏蘭西ニ居住ヲ定ム可キコトヲ陳述シテ皇帝ノ允許ヲ受ケ仏蘭西ニ帰リシ時ハ仏蘭西人タルノ分限ヲ復ス可シ
第二十条 第十条第十八条第十九条ニ記載シタル場合ニ於テ仏蘭西人タルノ分限ヲ復ス可キ者ハ其数条ニ於テ必要ト為コトヲ定タル規則ヲ行フニ非レハ仏蘭西人タル分限ノ利益ヲ得コト能ハズ且其規則ヲ行ヒシ時ノ後ニ於テ其受タル所ノ権ノミヲ行フコトヲ得可シ
第二十一条 皇帝ノ允許ヲ得ズシテ外国政府ノ兵籍ニ入リ又ハ外国ノ兵社ニ加リシ仏蘭西人ハ仏蘭西人タルノ分限ヲ失フ可シ
此仏蘭西人ハ皇帝ノ允許ヲ得ルノ外仏蘭西ニ帰ルコトヲ得可カラス且外国人ノ仏蘭西人トナルニ付キ必要ト為シタル規則ヲ行フニ非ザレハ仏蘭西人タルノ分限ヲ復スルコト能ハス但シ此条ニ記スル所ト国ニ叛キ兵器ヲ弄シ又ハ弄セントセシ仏蘭西人ヲ刑法ニ於テ罰ス可キ規則ト相抵触スルコトナカル可シ
第二款 裁判所ニ於テ刑ヲ言渡シタルニ因リ民権ヲ奪フ事
第二十二条 裁判所ニ於テ第二十五条ニ記載スル所ノ民権ニ参加ス可カラザルニ至ル可キ刑ノ言渡ヲ受シ時ハ准死(仏語ニ「モールシビール」ト云ヒ其人未タ死セスト雖モ法律上ニ於テ既ニ死タル者ト看做セシヲ云フ)ト為ス可シ(准死ハ千八百五十四年第五月三十一日ノ法ヲ以テ廃ス)
第二十三条 死刑ノ言渡ヲ受ケシヨリ准死ヲ生ス可シ
第二十四条 其他無期ノ施体(刑法ニ詳ナリ)ノ刑ハ法律ヲ以テ別段ニ定メタル時ノ外准死ヲ生ス可カラズ
第二十五条 准死ノ言渡ヲ受ケシ者ハ其言渡シニ因リ己レニ属スル物ヲ所有スルノ権ヲ失ヒ且遺嘱ナク死タル者ト同一ノ方法ヲ用ヒ其者ノ所有物ヲ襲有ス可キ者ハ其遺物相続ヲ為ス可シ○其者ハ人ノ遺物相続ヲ為スコトヲ得可カラス又准死ノ言渡ノ後ニ己レノ所得ト為シタル財産ヲ遺物相続ヲ為サシム可キノ名義ヲ以テ人ニ伝ヘ与フルコトヲ得ス○其者ハ自己ノ所有スル財産ノ全部又ハ一部ヲ生存中ノ贈遺及ヒ遺嘱ノ贈遺トシテ人ニ与フルコトヲ得ス又養料ノ為メノ外ハ生存中ノ贈遺及ヒ遺嘱ノ贈遺ノ名義ヲ以テ人ヨリ財産ヲ受クルコトヲ得ス○其者ハ幼者ノ後見人ノ任ヲ受ケ又ハ後見ノ職務ニ管シタル所為ニ参加スルコトヲ得ス○其者ハ照法ノ証又ハ公正ノ証ニ付キ其証人トナリ又ハ裁判所ニ証ヲ告ルコトヲ得ス○其者ハ訴訟ヲ上告ス可キ裁判所ニ於テ此者ノ為メ別段ニ任シタル「キュラトール」(自己ノ財産ヲ支配スルコト能ハザル者ニ代リテ其財産ヲ支配スル者ヲ云フ)ノ紹介ニ因リ且其姓名ヲ用フルニ非サレハ原告又ハ被告トナリテ裁判所ニ出ルコトヲ得ス○其者ハ民法ニ管シタル事ノ生ス可キ婚姻ノ契約ヲ為ス可カラズ○其者ノ以前ニ結ヒタル婚姻ハ総テ民法ニ管シタル事ニ付キ其婚姻ヲ解キタルト看做ス可シ○其者ノ配偶者及ヒ遺物相続人ハ其者ノ死去シタル時ニ於テ得可キ所ノ権ト訴ヲ為スノ権トヲ行フコトヲ得可シ
第二十六条 原告人ト被告人トノ面前ニ於テ刑ヲ言渡シタル時ハ其言渡ヲ受ケタル者ヲ其刑ニ行ヒシ日又ハ其罪案ノ摘撮書ヲ街衢ニ榜示シタル日ヨリ後ニ非サレバ准死ヲ生ス可カラズ
第二十七条 裁判所ニ出席ス可キノ命ヲ受ケ出席ヲ為サズ又ハ逃亡シタルニ付キ刑ノ言渡ヲ受ケタル者アル時ハ其者ノ罪案ノ摘撮書ヲ街衢ニ榜示シタル日ヨリ五年ノ後ニ非サレバ准死ヲ生ス可カラス但シ其五年ノ時間ハ其刑ノ言渡ヲ受ケタル者裁判所ニ出席スルコトヲ得可シ
第二十八条 裁判所ニ出席ス可キノ命ヲ受ケ出席ヲ為サズ又ハ逃亡シタルニ付キ刑ノ言渡ヲ受ケタル者ハ其罪案ノ摘撮書ヲ街衢ニ榜示シタル日ヨリ五年ノ時間又ハ自カラ裁判所ニ出ル迄ノ時間又ハ其五年内ニ於テ捕獲ヲ受ル迄ノ時間民権ヲ行フ可キノ権ヲ奪ハル可ク且他人ニテ其者ノ財産ヲ支配シ及ビ其者ノ権ヲ行フ事ハ失踪者(此篇第四巻ニ詳ナリ)ト同一タル可シ
第二十九条 裁判所ニ出席ス可キノ命ヲ受ケ出席ヲ為サス又ハ逃亡シタルニ付キ刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ其罪案ノ摘撮書ヲ街衢ニ榜示セシ日ヨリ五年内ニ自己ノ意ヲ以テ裁判所ニ出テタル時又ハ其五年内ニ捕獲ヲ受ケテ禁錮セラレタル時ハ前ニ言渡シタル刑ヲ全ク廃棄シ其刑ヲ受ケシ者己レニ属スル財産ヲ所有スルノ権ヲ復シ新タニ復タ裁判ヲ受ク可シ若シ其裁判ニ因リ猶以前ニ等シキ准死ヲ生ス可キ刑ノ言渡ヲ受ケ又ハ其他ノ准死ヲ生ス可キ刑ノ言渡ヲ受ケシ時ハ其新ナル裁判ヲ行ヒシ日ヨリ准死ヲ生ズ可シ
第三十条 若シ裁判所ニ出席ス可キノ命ヲ受ケ出席ヲ為サズ又ハ逃亡シタルニ付キ刑ノ言渡ヲ受ケタル者五年ノ後ニ至リ裁判所ニ出テ又ハ捕獲ヲ受ケ新タナル裁判ニ因リ其罪ノ赦宥ヲ得又ハ准死ヲ生スルニ至ラザル刑ノ言渡ヲ受ケシ時ハ其裁判所ニ出タル日ヨリ以来全ク其民権ヲ復ス可シ然トモ其五年ノ期限ノ終リシ時ヨリ裁判所ニ出タル日ニ至ル迄ノ時間ニ准死ヨリ生シタル諸件ハ前ニ言渡シタル裁判ニ循ヒ之ヲ保ツ可シ
第三十一条 若シ裁判所ニ出席ス可キノ命ヲ受ケ出席ヲ為サズ又ハ逃亡シタルニ付キ刑ノ言渡ヲ受ケシ者五年ノ宥免ノ期限内ニ裁判所ニ出ルコトナク又ハ捕獲ヲ受ルコトナク死シタル時ハ全ク其権ヲ有シタル侭ヲ以テ死シタル者ト為シ其裁判所ニ出席セザルニ付キ言渡ヲ受ケシ刑ハ全ク之ヲ廃棄ス可シ但シ此規則ト其刑ノ言渡ヲ受ケシ者ニ償ヲ求ム可キ者ヨリ其死者ノ遺物相続人ニ対シ訴訟法ニ定メタル法式ニ循ヒ訴訟ヲ為ス可キ事ト相抵触スルコトナカル可シ
第三十二条 何レノ場合ニ於テモ裁判所ヨリ刑ノ言渡ヲ受ケタル後定期ノ時間ニ其刑ニ処セラルルコトナキ時ハ其刑ヲ免ルルニ至ルト雖モ其者ハ唯其刑ヲ免ルルコトヲ得ルノミニヨリ民権ヲ復スルコトヲ得可カラス
第三十三条 裁判所ヨリ刑ノ言渡ヲ受ケシ者ノ准死ヲ受ケタル後ニ所得ト為シタル物ヲ其者ノ死シタル日ニ尚ホ所有シタル時ハ其者ノ人ニ遺物相続ヲ為サシム可キノ権ナキヲ以テ其物ヲ官ニ没収ス可シ
然トモ皇帝ハ其刑ヲ受ケタル者ノ寡婦又ハ其児又ハ其血属等ノ為メ仁恤ノ処置ヲ為スコトヲ得可シ
第二巻 民生ノ証書(此証書ハ此巻ノ第二章第三章第四章ノ出産婚姻死去等ノ身上ニ管スル諸件ヲ第四十条ニ記載スル所ノ簿冊ニ記シタルモノヲ云ヒ其簿冊ノ外別ニ証書アルニ非サルナリ〔千八百三年第三月十一日決定同月廿一日布告〕
第一章 総規則
第三十四条 民生ノ証書ニハ官吏ノ其証ノ陳述ヲ受ケタル年月日時ト其書ニ記ス可キ人ノ姓名、職業、住所トヲ記ス可シ
第三十五条 民生ノ官吏ハ其証書中ニ出席ヲ為シタル者ノ陳述シタル所ノ外何事ヲ論セス註解又ハ説明ノ為メ記載スルコトヲ得可カラス
第三十六条 本人ノ自カラ出席スルニ及ハサル場合ニ於テハ別段ノ公正ノ証書ヲ以テ任シタル名代人ヲ出スコトヲ得可シ
第三十七条 民生ノ証書ノ証人ハ本人ノ血属又ハ其他ノ者タルヲ問ハス二十一歳以上ノ男ノミヲ用フ可シ但シ其証人ハ本人ノ択ム所ニ従フ可シ
第三十八条 民生ノ官吏ハ其証書ヲ出席ヲ為シタル者及ヒ証人ニ読ミ聞カス可シ
又其証書ニ其書ヲ読ミ聞セタル式ヲ行ヒシコトヲ記載ス可シ
第三十九条 此証書ニハ民生ノ官吏ト出席ヲ為シタル者及ヒ証人トニテ其姓名ヲ手署ス可シ又其出席ヲ為シタル者及ヒ証人ノ其姓名ヲ手署スルコト能ハサル時ハ其旨ヲ記載ス可シ
第四十条 民生ノ証書ハ各「コムミユーン」(仏蘭西ノ地ヲ区分シタル小一部分ノ名)ニ於テ副本ヲ添ヘタル一冊又ハ数冊ノ簿冊ニ記ス可シ
第四十一条 其簿冊ハ下等裁判所ノ上席人又ハ其上席人ニ代ル可キ裁判役其初葉ト冊尾トニ記号ヲ附シ且各葉ニ其姓名ノ手署ニ代用スル横線ヲ画ス可シ
第四十二条 民生ノ証書ハ其簿冊ニ空行ナク相連接シテ之ヲ記ルシ且塗抹及ヒ端書ノ符号モ本文ト同シク之ヲ承諾シテ其姓名ヲ手署ス可シ又其書中ニ略語ヲ用フ可ラス且其年月日時ハ数字ヲ用ヒ記ス可ラス
第四十三条 民生ノ官吏ハ歳終ニ至ル毎ニ其簿冊ヲ修整シテ一月内ニ其一冊ヲ「コムミユーン」ノ書房中ニ蔵メ又一冊ヲ下等裁判所ノ書記局ニ蔵ム可シ
第四十四条 名代人ヲ任スル証書及ヒ其他民生ノ証書ニ添ヘ置ク可キ書類ハ之ヲ出シタル人ト民生ノ官吏トニテ其姓名ヲ手署スルニ代用スル横線ヲ画シタル後民生ノ証書ノ簿冊ノ一冊ト共ニ之ヲ下等裁判所ノ書記局ニ蔵ム可シ
第四十五条 何人ヲ論セス民生ノ証書ヲ記シタル簿冊ヲ管守スル者ヨリ其簿冊ノ抄出書ヲ得ルコト能フ可シ但シ此抄出書ノ其簿冊ト異ナリタルコトナク且ツ下等裁判所ノ上席人又ハ其上席人ニ代ル可キ裁判役ノ確的ナリト為シタルモノハ贋造タルコトヲ訴フルノ書ヲ出ス迄之ヲ真正ナリト為ス可シ
第四十六条 其簿冊ノ未タアラサル時又ハ亡失セシ時ハ其本人ヨリ証書又ハ証人ヲ以テ其由ヲ証スルコトヲ得可シ但シ此場合ニ於テハ死シタル父母ノ記シタル簿冊及ヒ書面又ハ証人ヲ以テ婚姻、出産、死去ヲ証スルコトヲ得可シ
第四十七条 仏蘭西人又ハ外国人ノ外国ニ於テ記シタル民生ノ証書ヲ其国ニ於テ用フル所ノ体裁ニ循ヒ記シタル時ハ之ヲ真正ノモノト為ス可シ
第四十八条 外国ニ在ル仏蘭西人ノ民生ノ証ハ仏蘭西ノ弁理公使又ハ岡士【コンシユル】ノ仏蘭西ノ法ニ循ヒ其陳述ヲ受ケ之ヲ記シタル時法ニ適シタルモノト為ス可シ
第四十九条 民生ノ証ヲ其以前ニ記シタル他ノ民生ノ証書ノ端ニ登記ス可キ時ハ其本人等ノ願ヲ以テ民生ノ官吏ハ其現今用フル所ノ簿冊又ハ既ニ「コムミユーン」ノ書房中ニ蔵メシ簿冊ニ之ヲ登記シ又下等裁判所ノ書記官ハ既ニ其書記局ニ蔵メシ簿冊ニ之ヲ登記ス可シ但シ下等裁判所ノ書記局ニ蔵メシ簿冊ニ其登記ヲ為サシム可キカ為メ民生ノ官吏ヨリ其裁判所ニ出ツ可キ「プロキュリウル、アンペリアル」(法ノ施行国ノ安寧等ノ事ヲ監察スル為メ政府ヨリ任シタル裁判所ノ官吏ヲ云フ)ニ三日内ニ其報告ヲ為シ其「プロキュリウル、アンペリアル」ハ二箇ノ簿冊ニ互ニ同一ノ方法ヲ以テ登記ス可キコトヲ監察ス可シ
第五十条 前数条ニ記載スル所ノ官吏等ノ其規則ニ背ク事アル時ハ下等裁判所ヘノ訴訟ヲ受ケ百「フランク」(一「フランク」ハ大凡我十二匁ニ当ル)ニ過サル罰金ノ言渡ヲ受ク可シ
第五十一条 簿冊ヲ管守スル官吏ハ其簿冊中ニ更改シタルコトアル時訴訟法ニ循ヒ其責ニ任ス可シ但シ他ニ其更改ヲ為ス者アリテ其官吏ヨリ其者ニ対シ償ヲ求ム可キ道理アル時ハ其償ヲ求ムルコトヲ得可シ
第五十二条 民生ノ証書ヲ更改スル事及ヒ其証書ヲ贋造スル事又ハ其証書ヲ零紙【ハカミ】ニ記シ及ヒ其証書ヲ記ス可キ簿冊ニ非サルモノニ記ルシタル事アル時ハ其官吏ヨリ本人ニ対シ其償ヲ出ス可シ但シ此規則ト刑法ニ記載スル所ノ罰ト相抵触スルコトナカル可シ
第五十三条 下等裁判所ニ出ツ可キ「プロキュリウル、アンペリアル」ハ簿冊ヲ其裁判所ノ書記局ニ蔵ムル時其簿冊ヲ検視シ其検視シタル事ヲ簡易ニ調書ニ記シ且民生ノ官吏ノ規則ニ背キタル事又ハ罪犯ノアル時ハ其旨ヲ陳述シテ其官吏ニ罰金ヲ言渡ス可キ事ヲ求ム可シ
第五十四条 何レノ場合ニ於テモ下等裁判所ニ於テ民生ノ証書ノ事ヲ審判シタル時其本人等ノ其言渡ニ服セサルニ於テハ其裁判所ノ審判ヲ更ニ上等裁判所ニ訴出ルコトヲ得可シ
第二章 出産ノ証書
第五十五条 出産ノ陳述ハ出産ノ時ヨリ三日内ニ之ヲ其地ノ民生ノ官吏ニ為シ且其官吏ニ其生レタル子ヲ示ス可シ
第五十六条 出産ハ父ヨリ其陳述ヲ為ス可シ若シ父ノアラサル時ハ内科外科ノ医師、産婆下等医師(医院学士【ドクトール】ノ級ニ登ラザル者)又ハ其他出産ノ時立会ヲ為シタル者ヨリ之ヲ陳述ス可シ若シ母ノ其住所外ニ於テ出産シタル時ハ其出産ヲ為シタル所ノ者ヨリ陳述ス可シ
出産ノ証書ハ二人ノ証人ノ面前ニ於テ直チニ之ヲ記ス可シ
第五十七条 出産ノ証書ニハ出産ノ日刻、場所、其子ノ男女、其子ニ命ス可キ名及ヒ其父母ト証人トノ姓名職業住所ヲ記ス可シ
第五十八条 棄児ヲ見出シタル者ハ其児並ニ其児ト同ジク見出シタル衣服及ヒ其他ノ品物等ヲ民生ノ官吏ニ引渡シ且其児ヲ見出シタル時ノ景況ト其場所ノ景状トヲ陳述ス可シ
此等ノ事ヲ詳カニ調書ニ記ルシ且其調書ニハ思度【ナシハカル】シタル其児ノ年次、其児ノ男女、其児ニ命ス可キ姓名、其児ヲ引渡シタル民生ノ官署等ヲ記ルシ之ヲ簿冊ニ登記ス可シ
第五十九条 航海中ニ出産シタル時ハ父ノ在ルニ於テハ其父ト其船ノ士官中ヨリ撰ミタル二員ノ証人若シ士官ノアラザル時ハ乗組人ノ中ヨリ撰ミタル二員ノ証人トノ面前ニ於テ二十四時間ニ出産ノ証書ヲ記ス可シ此証書ハ皇帝ニ属スル船ニ於テハ海軍ノ俗務ヲ掌ル士官之ヲ記シ又「アルマチュール」(政府ノ許ヲ受ケ船ヲ艤送スル人)又ハ商賈ニ属スル船ニ於テハ其船長又ハ指揮者之ヲ記ス可シ○其証書ハ乗組人ノ姓名簿ノ冊尾ニ之ヲ記ス可シ
第六十条 此事ヲ為スノ後歇船【フナヤスミ】、泊船【フナトマリ】等ノ為メ始テ卸碇シタル港又ハ船具ヲ取収ムルニ非ザル原由ニ因リ始テ卸碇シタル港ニ於テ海軍ノ俗務ヲ掌ル士官又ハ船長指揮者ハ乗組人ノ姓名簿ニ己レノ記シタル出産ノ証書ノ公正ノ副本二通ヲ仏蘭西ノ港ニ於テハ海軍兵士召募ノ官署ニ納メ外国ノ港ニ於テハ仏蘭西岡士ニ出ス可シ
此副本ノ一通ハ之ヲ海軍兵士召募ノ官署又ハ岡士館ノ書記局ニ蔵メ置キ他ノ一通ハ之ヲ海軍事務執政ニ送呈ス可シ又其執政ハ其副本ノ写書ヲ記シテ自カラ之ヲ証セシ後ニ之ヲ出産セシ子ノ父ノ住所ノ民生ノ官吏ニ送達シ若シ其父ノ住所ノ分明ナラサル時ハ其母ノ住所ノ民生ノ官吏ニ送達ス可シ但シ其官吏ハ其写書ヲ直チニ民生ノ証書ノ簿冊ニ登記ス可シ
第六十一条 又船具ヲ取収ム可キ港ニ着セシ時ハ其乗組人ノ姓名簿ヲ海軍兵士召募ノ官署ニ納メ其官署ノ官吏ハ其出産ノ証書ノ副本一通ヲ記シ其姓名ヲ手署シテ之ヲ其子ノ父ノ住所ノ民生ノ官吏ニ送達シ若シ其父ノ住所ノ分明ナラサル時ハ其母ノ住所ノ民生ノ官吏ニ送達ス可シ但シ其官吏ハ其副本ヲ直チニ民生ノ証書ノ簿冊ニ登記スヘシ
第六十二条 子ヲ認【ミトムル】ノ証書ハ之ヲ其日ニ民生ノ証書ノ簿冊ニ記ルシ又其子ノ出産ノ証書アル時ハ其証書ノ端ニ其旨ヲ記ス可シ
第三章 婚姻ノ証書
第六十三条 民生ノ官吏ハ婚姻ヲ行ハシムル前ニ其「コムミユーン」ノ官庁ノ門前ニ二次公告書ヲ出シ示ス可シ但シ其公告ハ初メノ公告ヨリ後ノ公告ニ至ルマテ其時間八日ヲ隔テ其一ハ必ス日曜日ニ之ヲ為ス可シ又此公告書及ヒ其公告ヲ為シタルニ付キ記シタル証書ニハ夫婦トナル可キ者ノ姓名、職業、住所及ヒ丁年タル事、幼年タル事ト其父母ノ姓名、職業、住所トヲ記ス可ク且其証書ハ其公告ヲ為シタル日時及ヒ場所ニ至ル迄ヲ記シテ別ニ設ケタル簿冊ニ記ス可シ但シ其簿冊ハ第四十一条ニ記載スル所ニ均シク記号ヲ附シ横線ヲ画シテ歳終ニ至ル毎ニ「アルロンヂスマン」(仏蘭西ノ地ヲ区分シタル一部ノ名ニシテ「コムミューン」数箇ヲ併セタルモノヲ云フ)ノ裁判所(此裁判所ハ第四十三条ニ記スル所ノ下等裁判所ト同一ナル可シ)ノ書記局ニ蔵ム可シ
第六十四条 初メニ公告ヲ為シタル日ヨリ復ヒ公告ヲ為スニ至ル迄ノ其八日ノ時間ハ其公告ノ証書ノ摘撮書ヲ「コムミユーン」ノ官庁ノ門ニ貼附シ置ク可シ○婚姻ハ後に公告ヲ為シタル日ヨリ三日ヲ過サル前ニ之ヲ行フ可カラス
第六十五条 若シ後ノ公告ヲ為シタル日ヨリ三日ノ期限ノ終リシ後一年内ニ婚姻ヲ行ハサル時ハ前条ニ記載シタル法式ヲ以テ更ニ公告ヲ為ササル前ニ婚姻ヲ行フ可カラス
第六十六条 婚姻ノ故障ヲ述フル証書ノ正本及ヒ副本ハ其故障ヲ述フル者又ハ別段ノ公正ノ書ヲ以テ任ヲ受ケタル名代人其姓名ヲ手署シ其正本及ヒ副本ヲ若シ名代人ヲ任シタル時ハ名代人ヲ任スル書ノ副本ト共ニ婚姻ヲ結バント為ス者又ハ其住所ト民生ノ官吏トニ送リ届ケ其官吏ハ其正本ニ検印ヲ為ス可シ
第六十七条 民生ノ官吏ハ遅延ナク公告書ノ簿冊ニ婚姻ノ故障ヲ述ヘタルコトヲ簡易ニ登記ス可シ又其官吏ハ婚姻ノ故障ヲ述ヘタルコトヲ裁判所ニ於テ止メシメタル言渡書ノ副本又ハ其故障ヲ述ヘタル者ノ自カラ之ヲ止メタル証書ノ副本ヲ受取リ此副本ヲ婚姻ノ故障ヲ述ヘタルコトヲ記シタル書ノ端ニ登記ス可シ
第六十八条 婚姻ノ故障ヲ述ヘタルコトアル時民生ノ官吏ハ其故障ヲ述ヘタル者ノ其事ヲ自カラ止メタル証書又ハ裁判所ヨリ之ヲ止メシメタル言渡書ヲ受取ラサル前ニ其者ヲシテ婚姻ヲ行ハシム可カラス若シ其官吏ノ此規則ニ背ク時ハ三百「フランク」ノ罰金及ヒ総テ婚姻ノ故障ヲ述ヘタル者ノ為メ生シタル損失ノ償ヲ出ス可キノ言渡ヲ受ク可シ
第六十九条 婚姻ノ故障ヲ述ヘタルコトナキ時ハ其由ヲ婚姻ノ証書ニ記ス可シ若シ又数箇ノ「コムミユーン」ニ於テ婚姻ノ公告ヲ為シタル時ハ各「コムミユーン」ノ民生ノ官吏ヨリ婚姻ノ故障ヲ述ヘタルコトナキコトヲ証ス可キ為メ渡シタル証書ヲ婚姻ヲ行ント為ス者ヨリ婚姻ヲ行フ可キ「コムミユーン」ノ官吏ニ出ス可シ
第七十条 民生ノ官吏ハ婚姻ヲ為ス可キ者ヲシテ其出産ノ証書ヲ出サシム可シ若シ婚姻ヲ為ス可キ者其出産ノ証書ヲ得ルコト能ハサル時ハ其出産ノ地又ハ其住所ノ最下等裁判所ノ裁判役ヨリ渡シタル「ノトリヱテー」(証書無キ時証人ヲ用ヒ官吏ノ面前ニ於テ陳述セシ証ヲ云フ)ノ証書ヲ出シ其出産ノ証書ニ代フルコトヲ得可シ
第七十一条 「ノトリヱテー」ノ証書ニハ男又ハ女タル事及ヒ血属又ハ血属ナラサル事ヲ問ハス証人七人ヲ用ヒ其証人ノ陳述スル所ト婚姻ヲ行フ可キ者ノ姓名、職業、住所及ビ知ルコトヲ得可キ時ハ其父母ノ姓名職業、住所且婚姻ヲ行フ可キ者ノ出産ノ地及ヒ知ルヲ得可キニ於テハ其出産ノ時ト出産ノ証書ヲ出スコト能ハサルノ原由トニ至ル迄ヲ記載ス可シ○其証人ハ最下等裁判所ノ裁判役ト共ニ其「ノトリヱテー」ノ証書ニ其姓名ヲ手署ス可シ若シ其証人ニ姓名ヲ手署スルコト能ハズ或ハ姓名ヲ手署スルコトヲ知ラザル者アル時ハ其事由ヲ記載ス可シ
第七十二条 「ノトリヱテー」ノ証書ハ婚姻ヲ行フ可キ地ノ下等裁判所ニ之ヲ出ス可シ○其裁判所ニ於テ「プロキュリユルアンペリアル」ノ陳述スル所ヲ聴問セシ後其証人ノ陳述スル所ト出産ノ証書ヲ出スコト能ハサルノ原由トヲ的当ナリト為ス時ハ其「ノトリヱテー」ノ証書ヲ確的ノ書ト為シ又不的当ナリト為ス時ハ之ヲ確的ノ書ト為スコトヲ肯セサル可シ
第七十三条 父母又ハ祖父母ノ婚姻ノ許諾ヲ為ス公正ノ証書又父母及ヒ祖父母ノ在ザル時ハ親族ニテ其許諾ヲ為ス公正ノ証書ニハ婚姻ヲ為ス可キ者ノ姓名、職業、住所及ヒ其証書ニ管スル者ノ姓名、職業、住所ト其倫序トニ至ル迄ヲ記載ス可シ
第七十四条 婚姻ハ之ヲ為ス可キ者ノ中其一人ノ住居スル「コムミユーン」ニ於テ為ス可シ○婚姻ノ事ニ付テノ其住所ハ一箇ノ「コムミユーン」ニ六月間以上絶ヘス住居ヲ為スヲ以テ之ヲ定ム可シ
第七十五条 〔千八百五十年第七月十日如左訂ス〕公告ヲ為シタル時ヨリ三日ノ期限ノ終リシ後婚姻ヲ為ス可キ者ノ互ニ定メタル日ニ至リ民生ノ官吏ハ其「コムミユーン」ノ官庁ニ於テ婚姻ヲ為ス可キ者ノ血属ト血属ナラサルトヲ問ハス四人ノ証人ノ面前ニ於テ婚姻ヲ為ス可キ者ノ分限及ヒ婚姻ノ礼式等ニ管スル前文ニ記載スル所ノ証書類ト此篇第五巻(婚姻ノ事)第六章(夫婦ノ権義)トヲ婚姻ヲ為ス可キ双方ノ者ニ読ミ聞ス可シ○又民生ノ官吏ハ婚姻ヲ為ス可キ者ニ既ニ婚姻ノ契約書ヲ記シタルヤ否ヤヲ問ヒ糾シ又婚姻ノ許諾ヲ為シタル者ノ出席シタル時ハ其者ニモ亦其事ヲ問ヒ糾シ若シ此等ノ者其契約書ヲ記シタリト答フル時ハ其官吏其契約書ノ日附及ヒ其契約書ヲ受取リタル「ノテイル」(証書ノ類ニ官スル吏)ノ姓名、住所ヲ問ヒ糾ス可シ○又民生ノ官吏ハ婚姻ヲ為ス可キ双方ノ者ノ互ニ夫婦トナル可キコトヲ欲スルノ陳述ヲ相次テ之ヲ受ケ且法律ニ循ヒ婚姻ヲ行フタルコトノ言渡ヲ為シテ直チニ其事ヲ婚姻ノ証書ニ記ス可シ
第七十六条 〔千八百五十年第七月十日如左訂ス〕婚姻ノ証書ニハ左ノ諸件ヲ記ス可シ
第一 夫婦ノ姓名、職業、年齢、出産ノ地、住所
第二 夫婦ノ丁年ナル事又ハ幼年ナル事
第三 父母ノ姓名、職業、住所
第四 父母祖父母ノ許諾及ヒ親族ノ許諾ノ必要ナル時ハ其許諾
第五 父母ノ婚姻ヲ許諾スルコトヲ乞フノ証書アル時ハ其証書
第六 各地ノ住所ニ於テ為シタル公告
第七 婚姻ノ故障ヲ述ヘタルコトアル時ハ其事由及ヒ婚姻ノ故障ヲ止メタル事又ハ婚姻ノ故障ヲ述タルコト無キ事
第八 婚姻ヲ為ス可キ者ノ互ニ夫婦トナル可キコトヲ欲シタルコトノ陳述及ヒ官吏ヨリ婚姻ヲ行フ可キコトヲ言渡シタル事
第九 証人ノ姓名、年齢、職業、住所並ニ其証人ハ婚姻ヲ為ス可キ者ノ血属又ハ姻属ニテ且本宗又ハ外族タルコト及ヒ何ノ倫序ナルヤノ陳述
第十 前条ニ記載セシ問ヒ糾シニ付キ既ニ婚姻ノ契約書ヲ記シタルヤ又ハ未タ記ササルヤヲ陳述セシ事及ヒ其契約書ノアル時ハ其契約書ノ日附並ニ其契約書ヲ受取リシ「ノテイル」ノ姓名、住所
此等ノ諸件ヲ記サザル民生ノ官吏ハ第五十条ニ記載シタル罰金ノ言渡ヲ受ク可シ
前文ニ記スル所ノ陳述ノ完全セス又ハ陳述ニ錯誤アル時其事ニ付キ婚姻ノ証書ヲ改ム可キコトハ第九十九条ニ記載スル所ニ循ヒ婚姻ニ管シタル者ノ権ニ阻害ナク「プロキュリユル、アルペリアル」ヨリ之ヲ求ムルコトヲ得可シ
第四章 死去ノ証書
第七十七条 埋葬ハ費用ナク民生ノ官吏ヨリ渡シタル免状ヲ得ルノ外之ヲ為スコト能ハス又其官吏ハ死去ヲ検ス可キ為メ死者ノ所ニ至ル可ク且死去ノ後二十四時ヲ経ルニ非ザレバ其免状ヲ渡ス可カラス但シ取締ノ規則ニ於テ定メタル場合ハ格別ナリトス
第七十八条 死去ノ証書ハ証人二員ノ陳述スル所ニ従ヒ民生ノ官吏之ヲ記ス可シ○其二員ノ証人ハ最近ノ血属又ハ近隣ノ者ヲ得ルニ於テハ之ヲ用ヒ若シ又住所外ニ於テ死去シタル時ハ其一人ハ死去シタル家ノ者又一人ハ死者ノ血属或ハ其他ノ人ヲ用フ可シ
第七十九条 死去ノ証書ニハ死者ノ姓名、年齢、職業、住所及ヒ死者ノ現ニ婚姻ヲ結ヒタル者又ハ既ニ鰥寡トナリシ者タル時ハ其夫又ハ婦ノ姓名ト陳述者ノ姓名、年齢、職業、住所及ヒ其陳述者ノ死者ノ血属ナル時ハ其倫序トヲ記ス可ク且此証書ニ死者ノ父母ノ姓名、職業、住所ト其死者ノ出産ノ地トヲ知ルコトヲ得ルニ於テハ亦之ヲ記ス可シ
第八十条 兵病院及ヒ尋常病院又ハ其他公ケノ建造物等ニ於テ死去シタル者アル時ハ其家屋ノ主者、支配人、所有者ヨリ二十四時間ニ其事ヲ民生ノ官吏ニ報告シ其官吏ハ死去ヲ検ス可キ為メ其家屋ニ至リ己レノ聴得タル其陳述ノ詞ト己レノ検査シタル所ノ条件トニ従ヒ前条ニ記載シタル所ノ如ク死去ノ証書ヲ記ス可シ
其病院及ヒ公ケノ建造物ニ於テハ其陳述及ヒ検査ノ諸件ヲ登記ス可キ簿冊ヲ設ケ置ク可シ
其民生ノ官吏ハ死者ノ最終ノ住所ノ民生ノ官吏ニ其死去ノ証書ヲ送達シ其官吏ハ此証書ヲ民生ノ証書ノ簿冊ニ登記ス可シ
第八十一条 非命死ノ徴アル時又ハ非命死タルコトヲ思察ス可キ模様アル時ハ取締ノ官吏内科外科ノ医師ノ助ケヲ受ケ死骸ノ形状及ヒ之レニ管シタル模様ト死者ノ姓名、年齢、職業、出産ノ地、住所等ヲ務メテ検査シタル諸事トヲ調書ニ記シタル後ニ非レバ埋葬ヲ為ス可カラス
第八十二条 其取締ノ官吏ハ其人ノ死シタル地ノ民生ノ官吏ニ直チニ其調書ニ記シタル諸件ヲ報告シ民生ノ官吏ハ此調書ニ従テ死去ノ証書ヲ記ス可シ
其民生ノ官吏死者ノ住所ヲ知得タル時ハ其住所ノ民生ノ官吏ニ死去ノ証書ノ副本一通ヲ送達ス可シ但シ其民生ノ官吏ハ其副本ヲ民生ノ証書ノ簿冊ニ登記ス可シ
第八十三条 罪人ヲ死刑ニ処セシ時ハ其時ヨリ二十四時間ニ刑法裁判所ノ書記官ヨリ死刑ヲ行ヒシ地ノ民生ノ官吏ニ第七十九条ニ記載セシ所ノ諸件ヲ検査シタル書ヲ送達シ其地ノ民生ノ官吏ハ其書ニ従テ死去ノ証書ヲ記ス可シ
第八十四条 獄舎、徒刑場等ノ内ニ於テ死シタル時ハ其門監又ハ獄監ヨリ直チニ民生ノ官吏ニ死去ノ事ヲ報告ス可シ其民生ノ官吏ハ第八十条ニ記載セシ所ノ如ク其死去ノ所ニ至リテ死去ノ証書ヲ記ス可シ
第八十五条 非命死ヲ為シ又ハ獄舎、徒刑場等ノ内ニ於テ死去シ及ヒ死刑ニ処セラレシ者アル時ハ此等ノ事ヲ簿冊ニ記サズ唯第七十九条ニ記載シタル法式ヲ以テ死去ノ証書ヲ記ス可シ
第八十六条 航海中ニ死去シタル時ハ其船ノ士官ノ中ニテ証人二員ヲ撰ミ若シ士官ノアラサル時ハ乗組人ノ中ニテ証人二員ヲ撰ヒ其証人ノ面前ニ於テ二十四時間ニ死去ノ証書ヲ記ス可シ但シ此証書ハ皇帝ニ属スル船ニ於テハ海軍ノ俗務ヲ掌ル士官之ヲ記ルシ商賈又ハ「アルマチュール」ニ属スル船ニ於テハ其船長又ハ指揮者之ヲ記ス可シ○其証書ハ乗組人ノ姓名簿ノ冊尾ニ之ヲ記ス可シ
第八十七条 此事ヲ為セシ後歇船、泊船等ノ為メ始メテ卸碇セシ港又ハ船具ヲ取収ム可キニ非サル原由ニ因リ始メテ卸碇シタル港ニ於テ其海軍ノ俗務ヲ掌ル士官又ハ船長、指揮者ハ第六十条ニ記載スル所ニ循ヒ其証書ノ副本二通ヲ納ム可シ
船具ヲ取収ム可キ港ニ着セシ時ハ其乗組人ノ姓名簿ヲ海軍兵士召募ノ官署ニ納メ其官署ノ官吏ハ死去ノ証書ノ副本一通ヲ記ルシ其姓名ヲ手署シテ死者ノ住所ノ民生ノ官吏ニ送達ス可シ但シ其官吏ハ其副本ヲ直チニ民生ノ証書ノ簿冊ニ登記ス可シ
第五章 仏蘭西国外ニ在ル兵士ノ民生ノ証書
第八十八条 兵士又ハ軍中ニテ使用スル者ニ付キ仏蘭西国外ニ於テ記ス可キ民生ノ証書ハ前数条ニ記載セシ法式ヲ以テ之ヲ記ス可シト雖トモ亦後ノ数条ニ記載スル所ノ格別ノ規則ニ循フ可シ
第八十九条 一箇又ハ数箇ノ「バタイヨン」隊(歩兵大隊ノ名)又ハ「ヱスカドロン」隊(騎兵大隊ノ名)ノ兵隊ノ「カルチヱーメイトル」(兵隊中ノ雑務ヲ掌ル官吏)及ヒ其他ノ兵隊ノ指揮官ハ民生ノ官吏ノ職務ヲ行フ可シ但シ兵隊ヲ指揮セサル士官及ヒ軍中ニテ使用スル者ノ民生ノ証書ニ付テハ一軍又ハ其一部ニ属スル閲兵ノ監察官ニテ民生ノ官吏ノ職務ヲ行フ可シ
第九十条 各兵隊ニ於テハ其隊中ノ者ノ民生ノ証書ヲ記ス可キ簿冊一冊ヲ設ケ置キ又一軍及ヒ其一部ノ「ヱタマジョル」(将帥ニ従行シテ其指令スル所ノ事務ヲ行フ可キ土官ノ伍)ニ於テハ兵隊ヲ指揮セサル士官及ヒ軍中ニテ使用スル者ノ民生ノ証書ヲ記ス可キ簿冊一冊ヲ設ケ置ク可シ但シ此簿冊ハ兵隊及ヒ「ヱタマジョル」ノ他ノ簿冊ト同一ノ法ヲ以テ之ヲ蔵メ置キ軍兵ノ帰国シタル時之ヲ兵局ノ書房ニ納ム可シ
第九十一条 其簿冊ハ各兵隊ニ於テハ其指揮ヲ為ス士官記号ヲ附シ及ヒ姓名ノ手署ニ代用スル横線ヲ画シ「ヱタマジョル」ニ於テハ其伍長記号ヲ附シ及ヒ横線ヲ画ス可シ
第九十二条 軍中ニ於テノ出産ノ陳述ハ出産ノ日ヨリ十日内ニ之ヲ為ス可シ
第九十三条 民生ノ証書ノ簿冊ヲ管守スル任ヲ受ケタル士官ハ其簿冊ニ出産ノ証ヲ記セシ時ヨリ十日内ニ其摘撮書ヲ生産シタル子ノ父ノ最終ノ住所ノ民生ノ官吏ニ送達ス可ク若シ其父ノ分明ナラザル時ハ其母ノ最終ノ住所ノ民生ノ官吏ニ送達ス可シ
第九十四条 兵士及ヒ軍中ニテ使用スル者ノ婚姻ハ其最終ノ住所ニ於テ公告ス可ク且其公告ハ婚姻ヲ行フ可キ時ヨリ廿五日前ニ兵隊中ノ者ニ付テハ其隊ノ毎日ノ命令書中ニ登記シ兵隊ヲ指揮セサル士官及ヒ軍中ニテ使用スル者ニ付テハ一軍又ハ其一部ノ毎日ノ命令書中ニ登記ス可シ
第九十五条 民生ノ証書ノ簿冊ヲ管守スル士官ハ婚姻ノ証書ヲ簿冊ニ記シタル後直チニ其副本一通ヲ夫婦ノ最終ノ住所ノ民生ノ官吏ニ送達ス可シ
第九十六条 死去ノ証書ハ各兵隊ニ付テハ「カルチヱーメイトル」証人三員ノ証ヲ得テ之ヲ記ス可ク又兵隊ヲ指揮セザル士官及ヒ軍中ニテ使用スル者ニ付テハ一軍ノ閲兵ノ監察官証人三員ノ証ヲ得テ之ヲ記ス可シ但シ其証書ノ摘撮書ハ十日内ニ死者ノ最終ノ住所ノ民生ノ官吏ニ送達ス可シ
第九十七条 搬運ス可キ兵病院又ハ搬運ス可カラザル兵病院ニ於テ死去シタル時ハ其病院ノ支配人死去ノ証書ヲ記シ之ヲ死者ノ兵隊ノ「カルチヱーメイトル」又ハ一軍或ハ其一部ノ閲兵ノ監察官ニ送リ此等ノ士官ヨリ其証書ノ副本一通ヲ死者ノ最終ノ住所ノ民生ノ官吏ニ送達ス可シ
第九十八条 前ノ数条ニ記載シタル死者ノ住所ノ民生ノ官吏ハ兵隊ヨリ民生ノ証書ノ副本ヲ受取リシ時直チニ之ヲ民生ノ証書ノ簿冊ニ登記ス可シ
第六章 民生ノ証書ヲ改ル事
第九十九条 民生ノ証書ヲ改ム可キノ願ヲ為ス者アル時ハ其管轄ノ裁判所ニ於テ「プロキリウル、アンペリアル」ノ陳述スル所ヲ聴問シ其更改ノ言渡ヲ為ス可シ但シ此裁判所ノ言渡ニ服セザル者ハ更ニ上等裁判所ニ訴出スコトヲ得可シ○其民生ノ証書ニ管シタル数人ノ者ヲ呼出ス可キノ理アル時ハ之ヲ呼出ス可シ
第百条 何レノ時ト雖トモ民生ノ証書ニ管シタル者ノ中之ヲ改ルコトヲ願ハス又ハ之ヲ改ムルニ付キ呼出ヲ受ケサル者アル時ハ基書ヲ改ムルノ言渡ヲ強テ其者ニ対シ行フコトヲ得可カラス
第百一条 民生ノ証書ヲ改ム可キ言渡書ハ民生ノ官吏之ヲ受取リタル後直チニ民生ノ証書ノ簿冊ニ登記シ且之ヲ登記シタルコトヲ其改メタル民生ノ証書ノ端ニ記ス可シ
第三巻 住所〔千八百三年第三月十四日決定同月廿五日布告〕
第百二条 民権ヲ行フ事ニ付テノ各仏蘭西人ノ住所トハ其首タル住居ノ地ヲ云フ
第百三条 是迄ノ住所外ノ地ニ現ニ居住ヲ為シ且其地ニ首タル住居ヲ定メントスルノ意アル時ハ移住シタルト為ス可シ
第百四条 此意アルコトヲ証スルニハ其去ラントスル「コムミユーン」ノ官吏ト其移ラントスル「コムミユーン」ノ官吏トニ特ニ其陳述ヲ為ス可シ
第百五条 其陳述ナキ時ハ其時ノ模様ヲ以テ此意アルノ証アリト為ス可シ
第百六条 定期ノ時間其職ニ在ル公務ノ任又ハ事罷ムノ後其職ヲ廃ス可キ公務ノ任ヲ受ケシ者ハ別段其住所ヲ移ス可キノ意ヲ陳述スルコトナキ時其元来ノ住所ヲ有ス可シ
第百七条 終身ノ公務ノ任ヲ受ケシ者ハ其住所ヲ其職務ヲ行フ可キ場所ニ直チニ移シタルト為ス可シ
第百八条 婚姻シタル婦ハ其夫ノ住所ヲ以テ己レノ住所ト為ス可シ○未タ後見ヲ免レサル幼者ハ其父母又ハ後見人ノ住所ヲ以テ己レノ住所ト為ス可シ○治産ノ禁ヲ受ケシ丁年ノ者ハ其後見人ノ住所ヲ以テ己レノ住所ト為ス可シ
第百九条 平常他人ノ家ニ於テ使用ヲ受ケ又ハ工作ヲナス丁年ノ者ハ其使用ヲ為ス者又ハ工作ヲ為サシムル者ト居所ヲ同フスル時其使用スル者又ハ工作ヲ為サシムル者ノ住所ヲ以テ己レノ住所ト為ス可シ
第百十条 遺物相続ヲ為ス可キ場所ハ住所ニ因テ定ム可シ
第百十一条 一個ノ証書ニ記載セシ約定ヲ行フニ付キ其契約ヲ結ヒタル双方ノ者又ハ一方ノ者ノ其証書上ニ現今所在ノ住所外ニ於テ更ニ他ノ住所ヲ択ム可キコトヲ記シタル時ハ其証書ニ付テノ呼出状ハ其特ニ択ミタル住所ニ達シ且其証書ニ付テノ訴訟モ亦其住所ノ地ノ裁判所ニ於テ為スヲ得可シ
第四巻 失踪(行方ノ知レザルコトヲ云フ)〔千八百三年第三月十五日決定同月二十五日布告〕
第一章 失踪ヲ思度【ヲシハカル】スル事
第百十二条 失踪ノ思度ヲ受ケタル者名代人ヲ任セサル時其遺留シタル財産ノ全部又ハ一部ヲ支配ス可キ用意ヲ為スノ必要ナルニ於テハ其失踪ノ思度ヲ受ケシ者ニ管シタル者ノ願ヲ以テ下等裁判所ヨリ其用意ヲ為ス可キコトヲ言渡ス可シ
第百十三条 其裁判所ニ於テハ失踪ノ思度ヲ受ケシ者ニ管シタル者ノ中最初ニ訴出シタル者ノ願ニ応シ其思度ヲ受ケシ者ニ管シタル財産ノ目録、諸件ノ算計、遺物ノ分配、会計ノ完清ノ諸事ニ付キ其思度ヲ受ケタル者ニ代ハル可キ「ノテイル」ヲ任ス可シ
第百十四条 「ミニステールピュブリック」(「プロキュリウルアンペリアル」及ヒ「プロキュリウルゼ子ラル」等ノ如キ訴訟ヲ監察スル官員ヲ総括シテ云フ)ハ失踪ノ思度ヲ受タル者ノ権利ヲ別段ニ監守ス可ク且其思度ヲ受シ者ニ管シタル訴訟アル時ハ裁判役必ス此官吏ノ説ヲ聴問ス可シ
第二章 失踪ヲ公告スル事
第百十五条 人其住所又ハ寄居スル場所ニ現出スルコトナク且四年以来其消息ヲ得サル時ハ其失踪者ニ管シタル者ヨリ下等裁判所ニ其失踪ノ公告ヲ為可キコトヲ訴出スコトヲ得可シ
第百十六条 裁判所ニ於テハ其受取リタル証書及ヒ書付類ヲ取調ヘタル後失踪ヲ証ス可キ為メ失踪者ノ住所ノ「アルロンヂスマン」ニ於テ「プロキュリウルアムペリアル」立会ノ上其吟味ヲ為ス可キコトヲ言渡ス可シ若シ其住所外ニ寄居スル場所アル時ハ其場所ノ「アルロンヂスマン」ニ於テモ亦「プロキュリウルアムペリアル」立会ノ上其吟味ヲ為ス可キコトヲ言渡ス可シ
第百十七条 又裁判所ニテ失踪公告ノ訴出アルニ付キ其公告ノ言渡ヲ為スニハ其失踪ノ縁由及ヒ失踪ノ思度ヲ受ケタル者ノ消息ヲ得ルノ妨トナル可キ原由ニモ亦注意ヲ為ス可シ
第百十八条 「プロキュリウルアンペリアル」ハ吟味ノ言渡書及ヒ公告ノ言渡書ヲ受取リタル毎ニ直チニ之ヲ裁判執政ニ送呈シ其執政ハ此言渡書ヲ公告ス可シ
第百十九条 失踪公告ノ言渡書ハ失踪吟味ノ言渡書ヲ渡シタル時ヨリ一年ノ後ニ非サレハ之ヲ渡ス可カラス
第三章 失踪ヨリ生スル諸件
第一款 失踪者ノ其失踪セシ時所有シタル財産ニ付キ失踪ヨリ生スル諸件
第百二十条 失踪者其財産ヲ支配セシム可キ為メ名代人ヲ任シタルコトナキニ於テハ其失踪ノ時又ハ其最終ノ消息ヲ得タル時ノ其最親ノ遺物相続人等失踪者ノ失踪セシ時又ハ最終ノ消息ヲ得タル時所有シタル財産ヲ失踪公告ノ言渡書ニ依リ仮リニ己レノ所有ト為スノ許ヲ受クルコトヲ得可シ但シ其相続人ハ其財産ヲ正実ニ支配ス可キ保証ヲ立ツルコトヲ必要ナリトス
第百二十一条 失踪者名代人ヲ任シタル時ハ其失踪ノ時又ハ其最終ノ消息ヲ得タル時ヨリ全周十年ノ後ニ非レハ其最親ノ遺物相続人等其失踪ノ公告ヲ得ルコト及ヒ其失踪者ノ財産ヲ仮ニ己ノ所有ト為スコトヲ訴出ス可カラス
第百二十二条 其十年ノ時間ニ名代人ヲ任シタル期限ノ終リシ時モ亦前条ニ記載スル所ト同一ナリ但シ此場合ニ於テハ失踪者ノ財産ヲ支配セシム可キ為メ此巻ノ第一章ニ記載シタル如ク其処置ヲ為ス可シ
第百二十三条 失踪者ノ最親ノ遺物相続人其財産ヲ仮ニ所有ト為スコトヲ得タル時其失踪者ノ遺嘱書アルニ於テハ失踪者ニ管シタル者又ハ其地ノ裁判所ノ「プロキュリウルアンペリアル」ノ求メニ因リ其遺嘱書ヲ開封シ失踪者ノ生存中ノ贈遺、遺嘱ノ贈遺ヲ受ク可キ者及ヒ其他失踪者ノ死後ニ其財産ヲ得可キノ権アル者仮ニ其権ヲ行フコトヲ得可シ但シ此事ニ付テハ保証ヲ立ツ可シ
第百二十四条 財産ヲ共通シタル失踪者ノ配偶者失踪公告ノ言渡ノ後猶ホ其財産ノ共通ヲ継続セント欲スル時ハ其失踪者ノ財産ヲ遺物相続人ノ仮ニ所有トナス事及ヒ其失踪者ノ死シタル後ニ其財産ヲ得可キ権アル者ノ仮ニ其権ヲ行フ事ヲ拒ミ配偶者自カラ其失踪者ノ財産ヲ支配スル特権ヲ得又ハ保ツコトヲ得可シ○又其配偶者其財産ノ共通ヲ仮ニ解除セント求ムル時、其財産ヲ取戻スノ権、其法律上ニ於テ得ル所ノ権、其契約シテ得タル所ノ権(此三権ハ第三篇第五巻ニ詳ナリ)ヲ行フコトヲ得可シ但シ失踪者ノ現出シタル時還与ス可キ財産ニ付テハ保証ヲ立ツ可シ
婦ハ其失踪セシ夫ト財産ノ共通ヲ継続ス可キコトヲ求メタル後ト雖トモ復タ其財産ノ継続ヲ廃スルノ権ヲ保ツ可シ
第百二十五条 失踪者ノ財産ヲ仮ニ所有ト為スコトヲ得タル者ハ唯其財産ノ附托(第三篇第十一巻ニ詳ナリ)ヲ受クルノミニシテ其者ハ失踪者ノ財産ヲ支配スルノ権ヲ有シ失踪者ノ現出スル時又ハ其消息ヲ得ルコトアル時失踪者ニ其失踪中ノ財産ヲ支配シタル算計ヲ為ス可シ
第百二十六条 失踪者ノ財産ヲ仮ニ所有ト為スコトヲ得タル者又ハ失踪者ト財産ノ共通ヲ継続セント求メタル其配偶者ハ下等裁判所ノ「プロキュリウルアンペリアル」ノ面前又ハ其官吏ノ択ミタル最下等裁判所ノ裁判役ノ面前ニ於テ其失踪者ノ動産(金銀衣服家什等ノ搬運ス可キ物ヲ云)及ヒ証書類ノ目録ヲ記サシム可シ
其動産ノ全部又ハ一部ヲ売払フ可キノ道理アル時ハ裁判所ニ於テ其売払ヲ言渡ス可シ其売払ヲ為タル時ハ其売払ニ付キ得タル所ノ金額ヲ失踪者ノ利益トナル可キ法ニ用フ可シ又失踪者ノ為メニ得タル入額モ亦同一ノ方法ニ処置ス可シ
失踪者ノ財産ヲ仮ニ所有ト為スコトヲ得タル者ハ裁判所ヨリ任シタル評価人ヲシテ其失踪者ノ不動産ヲ検視セシメ其模様ヲ証シタル書ヲ記サシムルコトヲ自己ノ安堵ノ為メ求ムルコトヲ得可シ○此評価人ノ記シタル書面ハ「プロキュリウルアンペリアル」ノ面前ニ於テ之ヲ確的ノモノト定ム可シ但シ其評価ノ費用ハ失踪者ノ財産中ヨリ取リ用フ可シ
第百二十七条 失踪者ノ財産ヲ仮ニ所有ト為スコトヲ得タル者又ハ法律上ニ於テ支配スルコトヲ得タル者其失踪者失踪ノ時ヨリ全周十五年内ニ再ヒ現出スルニ於テハ其所得ト為シタル入額ノ五分ノ一ヲ失踪者ニ還シ十五年後ニ現出スルニ於テハ十分ノ一ヲ還ス可シ
三十年間失踪ノ後ハ其失踪者ノ財産ノ入額ノ全数ヲ其財産ヲ仮ニ所有トナス者又ハ法律上ニ於テ支配スルコトヲ得タル者ノ所得ト為ス可シ
第百二十八条 失踪者ノ財産ヲ仮ニ所有ト為ス者ハ其失踪者ノ不動産ヲ人ニ給与シ又ハ売払ヒ又ハ「イポテーク」(土地家屋等ノ書入質ヲ云フ但シ第三篇第十八巻ニ詳ナリ)ト為スコトヲ得可カラス
第百二十九条 失踪者ノ財産ヲ其遺物相続人ノ仮ニ所有ト為スコトヲ得タル時ヨリ三十年間其失踪者ノ現出セサル時又ハ財産ヲ共通シタル失踪者ノ配偶者其財産ヲ支配シタル時ヨリ三十年間其失踪者ノ現出セサル時又ハ其失踪者ノ生レシ時ヨリ全周百年ヲ経タル後其失踪者ノ現出セサル時ハ裁判所ヨリ其保証ノ免除ヲ言渡シ其失踪者ノ財産ヲ得可キ権アル者ハ下等裁判所ニ其財産分派ノ事ヲ訴出シ其財産ヲ真ノ所有ト為スノ言渡ヲ受クルコトヲ得可シ
第百三十条 失踪者ノ死去セシ証アル時ハ其時ノ最親ノ遺物相続人ノ為メ其時ヨリ遺物相続ノコトヲ行ヒ始ム可シ但シ其失踪者ノ財産ヲ仮ニ所有ト為シタル者ハ第百二十七条ニ記載スル所ニ循ヒ其者ノ所得ト為ス可キ利益ヲ除クノ外其財産ヲ其最親ノ遺物相続人ニ引渡ス可シ
第百三十一条 失踪者ノ再ヒ現出シタル時又ハ其財産ヲ仮ニ所有ト為ス時間ニ其失踪者生存ノ証アル時ハ嘗テ為タル失踪公告ノ言渡ヨリ生シタル諸件ヲ取消ス可シ但シ此規則ト失踪者ノ財産ヲ支配ス可キ為メ此巻第一章ニ記載セシ如ク財産ヲ保全スルノ処置ヲ為タル時ハ其処置ト相抵触スルコトナカル可シ
第百三十二条 若シ失踪者ノ再ヒ現出シタル時又ハ其生存ノ証アル時ハ縦令ヒ其財産ヲ真ノ所有ト為タル者アリシ後ト雖トモ其失踪者己レノ財産ヲ其時ノ侭ヲ以テ取戻スコトヲ得可ク且既ニ売払ヒシ財産ノ金額又ハ其金額ヲ用ヒテ得タル財産モ亦取戻スコトヲ得可シ
第百三十三条 又失踪者ノ子及ヒ宗系(高曽祖父母ヨリ元曽孫ニ至ル迄ノ類ヲ云)ノ卑属ノ親(子、孫、元孫、曽孫等ノ類ヲ云フ)ノ現出スル時ハ其失踪者ノ財産ヲ真ノ所有ト為シタル者アル時ヨリ三十年間ニ前条ニ記載セシ所ノ如ク其卑属ノ親ヨリ其財産取戻シノ訟ヲ為シ得可シ
第百三十四条 失踪公告ノ言渡ヲ為シタル後ハ其失踪者ニ対シ訴ヲ為ス可キ権アル者ヨリ其失踪者ノ財産ヲ仮ニ所有ト為スコトヲ得タル者又ハ法律上ニ於テ其財産ヲ支配スルコトヲ得タル者ニ対シ其訴ヲ為ス可シ
第二款 失踪者ニ属スル事アル可キ権ニ付キ失踪ヨリ生スル諸件
第百三十五条 生存ノ分明ナラサル者ニ属ス可キ権ヲ己レニ得ント訴フル者ハ生存ノ分明ナラサル者嘗テ其権ノ生シタル時ニ現ニ生存セシノ証ヲ立ツ可シ但シ之ヲ証セサル間ハ其訴フル所ヲ允許セサルノ言渡ヲ受ク可シ
第百三十六条 生存ノ分明ナラサル者ノ得可キ遺物相続ノコトアル時ハ其者ト相与ニ遺物相続ヲ為ス可キ権アル者又ハ其生存ノ知レサル者ニ代リテ遺物相続ヲ為ス可キ者ニ全ク其遺物相続ヲ為サシム可シ
第百三十七条 前二条ノ規則ト失踪若又ハ其名代人又ハ代任者ハ己レニ属ス可キ遺物相続ノ権及ヒ其他ノ権ノ「プレスクリプション」(久ヲ歴テ他人ノ物ヲ己レノ所有ト為シ又ハ己レノ義務ヲ免ルルコトヲ云フ但シ第三篇第二十巻ニ詳ナリ)ノ期限ニ至ラサル時間此等ノ権ヲ得ント訴出スコトヲ得可キ規則ト相抵触スルコトナカル可シ
第百三十八条 失踪者ノ得可キ遺物ノ相続ヲ為シタル者ハ其失踪者ノ再ヒ現出スルコトナキ時間又ハ失踪者ノ権ニ代リ前条ニ記載シタル訴訟ヲ為ス者ナキ時間ニ其正実ニ得タル利益ヲ己レノ所得ト為スコトヲ得可シ
第三款 婚姻ノ事ニ付キ失踪ヨリ生スル事
第百三十九条 失踪者ノ配偶者再婚ノ契約ヲ結ヒタル時ハ其失踪者自カラ其再婚ノ取消ヲ訴ヘ又ハ自己ノ生存ノ証書ヲ与ヘタル名代人ヲシテ之ヲ訴ヘシムルコトヲ得可シ
第百四十条 若シ失踪者ノ遺物相続ヲ為スコトヲ得可キ血属ナキ時ハ其配偶者ヨリ其財産ヲ仮ニ所有ト為スコトヲ得ント訴ルコトヲ得可シ
第四章 父ノ失踪ノ時其幼年ノ子ヲ管督スル事
第百四十一条 若シ夫婦ノ間ニ挙ケタル幼年ノ子ヲ遺留シテ其父失踪シタル時ハ其母其子ノ管督ヲ為シ其子ノ教育及ヒ其財産ヲ支配スルコトニ付キ父ノ権ヲ行フ可シ
第百四十二条 父ノ失踪ノ時母ノ既ニ死去シ又ハ父ノ失踪ヲ公告スル前ニ母ノ死去セシ時ハ父ノ失踪ノ時ヨリ六月ノ後ニ至リ親族ノ会議ニ因リ其子ノ管督ヲ其最親ノ尊属ノ親ノアラザル時ハ之ヲ仮ノ後見人ニ任ス可シ
第百四十三条 失踪ノ夫又ハ婦ノ前婚ニテ挙ケタル幼年ノ子ヲ遺留シタル時モ亦前条ト同一ナリ
第五巻 婚姻ノ事〔千八百三年第三月十七日決定同月廿七日布告〕
第一章 婚姻ノ契約ヲ為スニ必要ナル諸件
第百四十四条 満十八歳ニ至ラサル男及ヒ満十五歳ニ至ラサル女ハ婚姻ノ契約ヲ為ス可カラス
第百四十五条 然トモ至重ノ道理アル時ハ皇帝ヨリ未タ其齢ニ至ラサル者ヲシテ婚姻ノ契約ヲ為サシムルノ許ヲ為スコトヲ得可シ
第百四十六条 夫婦トナル可キ双方ノ者ノ承諾アラサル時ハ婚姻シタルト為ス可カラス
第百四十七条 前婚ヲ解カサル以前ニ再婚ノ契約ヲ為ス可カラス
第百四十八条 満二十五歳ニ至ラサル男及ヒ満二十一歳ニ至ラサル女ハ其父母ノ許諾ヲ得スシテ婚姻ノ契約ヲ為ス可カラス若シ其父母互ニ異議アル時ハ父ノ許諾ノミヲ以テ足レリトス
第百四十九条 父母ノ中既ニ死去スル者アル時或ハ生存スト雖トモ其意ヲ表スルコト能ハサル者アル時ハ他ノ一方ノ者ノ許諾ヲ以テ足レリトス
第百五十条 若シ父母共ニ既ニ死去シタル時又ハ其意ヲ表スルコト能ハザル時ハ祖父母之ニ代ル可シ又本宗外族ヲ問ハス其祖父ト祀母ト互ニ異議アル時ハ各其祖父ノ許諾ヲ以テ足レリトス
若シ本宗ノ祖父母ト外族ノ祖父母ト互ニ異議アル時ハ其異議アル事ノミヲ以テ即チ許諾シタルト看做ス可シ
第百五十一条 子ハ第百四十八条ニ記載セシ所ノ齢ニ至ルト雖トモ婚姻ノ契約ヲ為ス以前ニ父母ノ許諾ヲ請フノ証書ヲ以テ其許シヲ請フ可シ若シ父母ノ既ニ死去シタル時又ハ其意ヲ表スルコト能ハザル時ハ其祖父母ノ許シヲ請フ可シ
〔第百五十二条第百五十三条第百五十四条第百五十五条第百五十六条第百五十七条ハ千八百四年第三月十二日決定同月二十二日布告ス〕
第百五十二条 第百四十八条ニ定メタル齢ニ至リシ後男ハ三十歳ニ至ル迄女ハ二十五歳ニ至ル迄ノ時間前条ニ記載スル所ノ父母ノ許諾ヲ請フノ証書ヲ出シ其許シヲ得サル時ハ其後月ヲ逐テ更ニ二次其証書ヲ出シ後ノ証書ヲ出セシ時ヨリ一月後ニ至リ婚姻ヲ行フコトヲ得可シ
第百五十三条 三十歳ノ齢ニ至リシ後ハ一次父母ノ許諾ヲ請フノ証書ヲ出シ其許シヲ得スト雖モ一月後ニ至リ婚姻ヲ行フコトヲ得可シ
第百五十四条 父母ノ許諾ヲ請フノ証書ハ「ノテイル」二員ヨリ又ハ「ノテイル」一員ト証人二員トヨリ第百五十一条ニ記載シタル尊属(高曽祖父母、祖父母、父母ヲ云)ノ親一人又ハ数人ニ送達ス可シ
但シ此事ニ付キ記ス可キ調書ニハ其尊属ノ親ノ答ヲモ亦記入ス可シ
第百五十五条 若シ婚姻ノ許諾ヲ請フノ証書ヲ出ス可キ尊属ノ親ノ失踪ノ時ハ其失踪公告ノ言渡書ヲ出シ又其言渡書ノアラサル時ハ失踪吟味ノ言渡書ヲ出シテ婚姻ヲ行フコトヲ得可シ若シ又其吟味ノ言渡書ノアラサル時ハ尊属ノ親ノ最終ノ住所ノ地ノ最下等裁判所ノ裁判役ヨリ渡シタル「ノトリエテー」ノ証書ヲ出シ婚姻ヲ行フ事ヲ得可シ
○其「ノトリエテー」ノ証書ニハ其裁判役職務ヲ以テ呼出シタル証人四員ノ述フル所ヲ記ス可シ
第百五十六条 満二十五歳ニ至ラサル男又ハ満二十一歳ニ至ラサル女ノ契約シタル婚姻ニ付キ其父母又ハ祖父母ノ許諾又ハ親族ノ許諾ヲ得ルノ必要ナル時其許諾セシコトヲ婚姻ノ証書ニ記サスシテ其婚姻ヲ行ハシメタル民生ノ官吏ハ此婚姻ニ管セシ者ノ訴ニ因リ又ハ其婚姻ヲ行フタル地ノ下等裁判所ノ「プロキュリウルアムペリアル」ノ求メニ因リ第百九十二条ニ記載シタル罰金ノ言渡ヲ受ケ且六月ヨリ少ナカラサル時間禁錮ノ刑ニ処セラル可シ
第百五十七条 父母ノ許諾ヲ請フノ証書ノ必要ナル時其書ナクシテ婚姻ヲ行ハシメシ民生ノ官吏ハ同上ノ罰金ノ言渡ヲ受ケ且一月ヨリ少ナカラサル時間禁錮ノ刑ニ処セラル可シ
第百五十八条 第百四十八条第百四十九条ニ記載シタル規則及ヒ父母ノ許諾ヲ請フノ証書ノコトニ付キ第百五十一条第百五十二条第百五十三条第百五十四条第百五十五条ニ記載シタル規則ハ私生ノ子(未タ配婚セスシテ生ミタル子及ヒ奸通乱倫ニ因テ生タル子ヲ云フ)ヲ法ニ循ヒ我子ナリト認メタル者ニモ亦適当シテ用フ可シ
第百五十九条 私生ノ子ノ未タ子ナリト認メラレサル者又ハ既ニ認メラレタル後父母ヲ亡ヒシ者又ハ其父母ノ其意ヲ表スルコト能ハサル者ハ満二十一歳ニ至ラサル以前其者ノ為メ任シタル別段ノ後見人ノ許諾ヲ得スシテ婚姻ヲ契約ス可カラス
第百六十条 満二十一歳ニ至ラサル男女其父母及ヒ祖父母ノ共ニアラサル時又ハ共ニ其意ヲ表スルコト能ハザル時ハ其親族会議ノ許諾ヲ得スシテ婚姻ヲ契約ス可カラズ
第百六十一条 宗系ノ親ニ於テハ法ニ適シタル卑属及ヒ尊属ノ親又ハ法ニ適セサル卑属及ヒ尊属ノ親ヲ論セス其間ニ互ニ婚姻ヲ為シ又ハ宗系ノ姻属ノ親ノ間ニ互ニ婚姻ヲ為スコトヲ禁ズ
第百六十二条 傍系(伯叔父母及ヒ兄弟姉妹ノ類ヲ云)ノ親ニ於テハ法ニ適シタル兄弟姉妹ト法ニ適セサル兄弟姉妹トヲ論セズ其間ニ互ニ婚姻ヲ為シ又ハ同級(兄弟ト姉妹ト姪男ト姪女トノ類ヲ云)ノ姻属ノ親ノ間ニ互ニ婚姻ヲ為スコトヲ禁ス
第百六十三条 又伯叔父ト姪女ト伯叔母ト姪男ト互ニ婚姻ヲ為スコトヲ禁ス
第百六十四条 〔千八百三十二年第四月十六日如此換フ〕然トモ至重ノ道理アル時ハ第百六十二条ニ記載シタル同級ノ姻属ノ親互ニ婚姻ヲ為スノ禁及ヒ第百六十三条ニ記載シタル伯叔父ト姪女ト伯叔母ト姪男ト互ニ婚姻ヲ為スノ禁ヲ皇帝ヨリ除去スルコトヲ得可シ
第二章 婚姻ヲ行フニ付テノ法式
第百六十五条 婚姻ハ夫婦トナル可キ者ノ中其一人ノ居住スル地ノ民生ノ官吏ノ面前ニ於テ公ケニ之ヲ行フ可シ
第百六十六条 第六十三条(民生ノ証書ノ巻)ニ記載シタル二次ノ公告ハ夫婦トナル可キ者ノ住所ノ「コンミユーン」ノ官庁ニ於テ之ヲ為ス可シ
第百六十七条 若シ又現今所在ノ住所ニ居ルコト六月ニ満タサル時ハ其地ニ移住セシ前最終ノ住所ノ「コムミユーン」ノ官庁ニ於テモ亦其公告ヲ為ス可シ
第百六十八条 婚姻ヲ為ス可キ双方ノ者又ハ一方ノ者婚姻ノ事ニ付キ人ノ指令ヲ受ク可キ時ハ其指令ヲ為ス者ノ住所ノ地ノ「コムミユーン」ノ官庁ニ於テモ亦其公告ヲ為ス可シ
第百六十九条 至重ノ道理アル時ハ皇帝又ハ皇帝ノ特ニ任シタル官吏ヨリ後ノ公告ヲ廃スルコトヲ得可シ
第百七十条 外国ニ於テ仏蘭西人等ノ互ニ契約シタル婚姻又ハ仏蘭西人ト外国人ト互ニ契約シタル婚姻ハ其国ニ於テ用フル所ノ法式ヲ以テ之ヲ行ヒ且預メ第六十三条(民生ノ証書ノ巻)ニ記シタル公告ヲ為シ其仏蘭西人前章ニ記シタル規則ニ違背スルコトナキ時ハ其婚姻ヲ法ニ適シタルモノト為ス可シ
第百七十一条 仏蘭西人ハ仏蘭西領地内ニ帰リ来リシ時ヨリ三月内ニ外国ニ於テ為シタル婚姻ノ証書ヲ其居住スル地ノ婚姻ノ証書ノ簿冊ニ登記セシム可シ
第三章 婚姻ノ故障ヲ述フル事
第百七十二条 婚姻ノ故障ヲ述フルノ権ハ婚姻ヲ為ス可キ者ノ中一方ノ配偶者ニ属ス可シ
第百七十三条 又父若シ父ナキ時ハ母又父母共ニナキ時ハ祖父母ヨリ其子及ビ卑属ノ親ノ齢二十五歳以上ナル時ト雖トモ其婚姻ノ故障ヲ述フルコトヲ得可シ
第百七十四条 尊属ノ親ナキ時ハ丁年ノ兄弟、姉妹、伯叔父母、従兄弟、従姉妹左ノ二箇ノ場合ノ外婚姻ノ故障ヲ述フ可カラス
第一 第百六十条ニ於テ必要ナリト定メタル親族会議ノ許諾ヲ得ザル時
第二 婚姻ヲ結バントスル者ノ狂癲ナルヲ以テ其婚姻ノ故障ヲ述フル時但シ其故障ヲ述フル者ハ婚姻ヲ結ハントスル者ヲシテ治産ノ禁ヲ受ケシムル訴ヲ為シ裁判所ニテ定メタル期限内ニ其言渡ヲ得ルノ手続ヲ為スニ非レハ裁判所ニ於テ其故障ヲ述ヘタルコトヲ聴ルス可カラス又其故障ヲ述フルト雖トモ裁判所ニ於テハ全ク之ヲ止メシムルノ言渡ヲ為スコトヲ得可シ
第百七十五条 前条ニ記載シタル二箇ノ場合ニ於テ「キユラトール」又ハ後見人ノ其職務ヲ行フ間ハ其集会ヲ為サシメタル親族会議ノ許諾ヲ得タルニ非レハ婚姻ノ故障ヲ述フルコトヲ得ス
第百七十六条 婚姻ノ故障ヲ述フルノ証書ニハ之ヲ述フルノ権ヲ生ス可キ倫序身位ト婚姻ヲ行フ可キ地ニ住所ヲ択ミタルコトヲ記ス可シ又尊属ノ親ヨリ故障ヲ述ヘタル時ノ外ハ亦其趣意ヲ記ス可シ若シ此規則ニ背ク時ハ其故障ヲ述フル証書ヲ取消シ且ツ其証書ニ姓名ヲ手署シタル官吏ハ暫時其職ヲ罷ラル可シ
第百七十七条 下等裁判所ニ於テハ婚姻ノ故障ヲ止ムルノ訴アル時之ヲ十日内ニ審判ス可シ
第百七十八条 若シ下等裁判所ノ審判ニ服セスシテ更ニ上等裁判所ニ訴出シタル時ハ上等裁判所ニ於テ其時ヨリ十日内ニ其故障ヲ止ムルニ付テノ審判ヲ為ス可シ
第百七十九条 若シ裁判所ニ於テ婚姻ノ故障ヲ述ヘタルコトヲ聴ササル時ハ之ヲ述ヘタル者尊属ノ親ヲ除クノ外損失ヲ償フ可キ言渡ヲ受ク可シ
第四章 婚姻取消ノ訴
第百八十条 夫婦双方又ハ其一方ノ適意ノ承諾ナクシテ契約シタル婚姻ハ其双方又ハ適意ノ承諾ヲ為サザル其一方ニ非レハ婚姻取消ヲ訴フ可カラス
若シ人ヲ錯誤シテ婚姻シタル時ハ夫婦中其錯誤ヲ受ケ婚姻シタル者ニ非サレハ婚姻取消ヲ訴フ可カラス
第百八十一条 前条ニ記載スル所ノ場合ト雖トモ夫婦全ク其自由ヲ得又ハ其錯誤ヲ知リタル時ヨリ六月間絶エス同居シタル時ハ婚姻取消ヲ訴フ可カラス
第百八十二条 父母及ヒ其他尊属ノ親ノ許諾又ハ親族会議ノ許諾ノ必要ナル時其許諾ヲ得スシテ契約シタル婚姻ハ其許諾ヲ為ス可キ者又ハ夫婦中ニテ其許諾ヲ要スル者ニ非レハ其婚姻ノ取消ヲ訴フ可カラス
第百八十三条 婚姻ノ許諾ヲ為ス可キ者若シ明許又ハ黙許ヲ以テ其許諾ヲ為シタル時又ハ其婚姻ヲ為スコトヲ知リタル後其取消ノ訴ヲ為スコトナク一年ノ時間ヲ過経シタル時ハ夫婦又ハ婚姻ノ許諾ヲ為シタル者ヨリ其婚姻取消ノ訴ヲ為ス可カラス又夫婦中一方ノ者自カラ婚姻ノ承諾ヲ為スコトヲ得可キ齢ニ至リシ時ヨリ一年ノ時間其婚姻取消ノ訴ヲ為スコトナキ時ハ亦其訴ヲ為ス可カラス
第百八十四条 第百四十四条第百四十七条第百六十一条第百六十二条第百六十三条ニ記載シタル規則ニ背キテ契約シタル婚姻ハ夫婦又ハ婚姻ノコトニ管スル者或ハ「ミニステール、ピュブリック」ヨリ其取消ノ訴ヲ為スコトヲ得可シ
第百八十五条 然トモ婚姻ヲ行フニ必要ト為ス可キ齢ニ未タ至ラサル夫婦又ハ其一方ノ契約シタル婚姻ハ其双方又ハ一方ノ其齢ニ至リシヨリ後六月ヲ経タル時又ハ婦ノ未タ其齢ニ至ラスト雖トモ姻婚ヲ行ヒシ日ヨリ六月ヲ経タル前ニ既ニ懐胎シタル時ハ其取消ヲ訴フ可カラス
第百八十六条 前条ニ記載シタル場合ニ於テ結ヒタル婚姻ヲ許諾シタル父母又ハ其他尊属ノ親及ヒ親族ハ其取消ヲ訴フ可カラス
第百八十七条 第百八十四条ニ記載スル所ニ循ヒ婚姻ニ管スル者ヨリ其婚姻取消ノ訴ヲ為スコトヲ得可キ場合ト雖トモ傍系ノ親又ハ前婚ノ子ハ其婚姻取消ニ付キ現ニ管係アル時ニ非レハ夫婦ノ共ニ生存スル時間其婚姻取消ヲ訴フ可カラス
第百八十八条 夫又ハ婦其配偶者ノ別ニ婚姻ヲ結ヒタルニ因リ害ヲ蒙リシ時ハ其配偶者ノ生存中ニ於テモ其婚姻ノ取消ヲ訴フルコトヲ得可シ
第百八十九条 又再婚シタル夫又ハ婦前婚ノ既ニ取消トナリタルコトヲ述ル時ハ裁判所ニ於テ其前婚ノ既ニ取消トナリタルヤ否ヤヲ先ニ審判ス可シ
第百九十条 「プロキュリウル、アンペリアル」ハ第百八十四条ニ記載シタル場合ニ於テ夫婦ノ共ニ生存スル間ニ其婚姻ヲ取消シ其夫婦ヲシテ離別セシム可キノ言渡ヲ得ント訴フ可シ但シ第百八十五条ニ記載スル所ハ格別ナリトス
第百九十一条 公ケニ契約シタルコトナキ婚姻又ハ相当ノ官吏ノ面前ニ於テ行ハサル婚姻ハ夫婦自身又ハ父母及ヒ其他尊属ノ親又ハ婚姻取消ニ付キ現ニ管係アル者又ハ「ミニステール、ピュブリック」ヨリ其婚姻取消ノ訴ヲ為スコトヲ得可シ
第百九十二条 若シ婚姻ヲ為スニ預メ二次ノ公告ヲ為ササル時又ハ法ニ於テ許シタル免除ヲ為サル時又ハ公告ト婚姻ヲ行フトノ間ノ定期ニ背キタル時ハ「プロキュリウル、アムペリアル」ヨリ其婚姻ヲ許可セシ官吏ニ三百「フランク」ニ過キサル罰金ノ言渡ヲ受ケシメ且婚姻ヲ行ヒシ者又ハ其者ヲ指令スル者ニ其家産ニ准シタル罰金ノ言渡ヲ受ケシム可シ
第百九十三条 第百六十五条ニ記載シタル規則ニ背キタルコトアル時裁判所ニ於テ婚姻取消ノ言渡ヲ為スニ及ハサルノ審判アリト雖トモ前条ニ記シタル者ハ其記スル所ノ罰ヲ受ク可シ
第百九十四条 何レノ人ヲ論セス民生ノ証書ノ簿冊ニ記ルシタル婚姻ノ証書ノ抄出書ヲ出サザル時ハ夫婦ノ名義ト婚姻ニ因テ生ス可キ民法ニ管シタル諸件トヲ求ム可カラス但シ第四十六条(民生ノ証書ノ巻)ニ記載シタル場合ハ格別ナリトス
第百九十五条 現ニ夫婦タルノ景状アリト雖トモ夫婦ナリト述フル者ハ民生ノ官吏ノ面前ニ於テ婚姻ヲ行フタル証書ノ抄出書ヲ出サザルコトヲ得ス
第百九十六条 現ニ夫婦タルノ景状アリテ民生ノ官吏ノ面前ニ於テ婚姻ヲ行フタル証書ノ抄出書ヲ出シタル時ハ其夫又ハ婦ヨリ其証書ノ取消ヲ訴ルコトヲ得ス
第百九十七条 然トモ第百九十四条第百九十五条ニ記載シタル場合ニ於テ公ケニ夫婦ノ景状アル者其生ミタル子アリテ共ニ死去シタル時其子ハ其死者ノ子タルノ景状アリテ其出産ノ証書ニモ之ニ反シタルコトナキニ於テハ其婚姻ヲ行フタル証書ヲ出サザルコトノミヲ以テ口実トナシ其子ノ嫡出ニ非サルコトヲ述フ可カラス
第百九十八条 若シ犯罪ノ訴訟ニ因リ正シク婚姻ヲ行ヒシ証ノ顕ハルル時ハ其裁判ノ言渡ヲ民生ノ証書ノ簿冊ニ記スルコトヲ以テ其夫婦及ヒ其婚姻ニ因リ生レシ子ニ付キ其婚姻ヲ行ヒシ日ヨリ総テ民法ニ管シタル諸件ヲ得セシム可シ
第百九十九条 夫婦タル可キ双方又ハ一方ノ者官吏ノ奸情ヲ知ラスシテ死去シタル時ハ其婚姻ヲ法ニ適シタルモノト為スニ管シタル者及ヒ「プロキュリウル、アムペリアル」ヨリ其官吏ノ罪犯ヲ訴出スコトヲ得可シ
第二百条 其奸情ヲ知リタル時其官吏既ニ死去シタル時ハ其婚姻ニ管スル者ノ訴訟ニ従ヒ其面前ニ於テ「プロキュリウル、アムペリアル」ヨリ其官吏ノ遺物相続人ニ対シ償ヲ求ムルノ訴ヲ為ス可シ
第二百一条 婚姻ヲ取消スノ言渡アリト雖トモ正意ヲ以テ其婚姻ヲ結ヒタル時ハ夫婦及ヒ其子ニ付キ其婚姻ヨリ民法ニ管スル諸件ヲ生ス可シ
第二百二条 夫婦中一方ノ者ノミ正意ヲ以テ婚姻ヲ結ヒシ時ハ其者及ヒ其婚姻ニ因テ生レシ子ノ為メノミニ付キ其婚姻ヨリ民法ニ管スル諸件ヲ生ス可シ
第五章 婚姻ヨリ生スル義務
第二百三条 夫婦ハ婚姻ヲ行ヒシコトニ因リ相共ニ其子ヲ養育スルノ義務アリトス
第二百四条 子ハ婚姻ヲ為シテ産業ヲ定ムル事及ヒ其他ノ事ニテ産業ヲ定ムル事ニ付キ其父母ニ対シ訴ヲ為スノ権ナシ
第二百五条 子ハ父母及ヒ其他ノ尊属ノ親ノ窮乏ナル時之ヲ養フ可シ
第二百六条 又婿及ヒ婦ハ前条ニ記シタル場合ニ於テ其舅姑ヲ養フ可シ然トモ姑ノ再婚シタル時又ハ婿及ヒ婦ノ配偶者及ヒ其子ノ共ニ死去シタル時ハ其義務ナシトス
第二百七条 前条ニ記シタル義務ハ舅姑ノ婿婦ニ於ケルモ亦同一ナリトス
第二百八条 養料ハ之レヲ得ントスル者ノ要スル所ト給スル者ノ家産トノ割合ヲ以テ与フ可シ
第二百九条 若シ養料ヲ給与スル者既ニ之ヲ与フルコト能ハサルニ至リシ時又ハ養料ヲ受ル者其全部又ハ一部ヲ受クルコトヲ要セサルニ至リシ時ハ全ク其養料ヲ給スルコトヲ止メ或ハ之ヲ減スルノ訴ヲ為スコトヲ得可シ
第二百十条 養料ヲ給ス可キ人之ヲ給スルコト能ハサルノ証ヲ立ル時ハ裁判所ニ於テ其原由ヲ吟味シタル後養料ヲ受ク可キ者ヲ其住所ニ引取リ之ヲ養フ可キノ言渡ヲ為スコトヲ得可シ
第二百十一条 又父母養料ヲ給ス可キ子ヲ己ノ住所ニ引取リテ養育ス可キコトヲ述フル時ハ裁判所ニ於テ其養料ヲ給スルニ及ハサルコトヲ言渡ス可シ
第六章 夫婦ノ権利及ヒ義務
第二百十二条 夫婦ハ互ニ貞実ニシテ相扶持ス可シ
第二百十三条 夫ハ其婦ヲ保護シ婦ハ其夫ニ聴順ス可シ
第二百十四条 婦ハ其夫ト同居シ且夫ノ居住ヲ為サント欲スル地ニ随行ス可シ又夫ハ其婦ヲ引取リ己ノ家産ト分限トニ応シ生計ノ為メ要用ノ諸件ヲ給ス可シ
第二百十五条 婦ハ公ケノ商賈ナル時又ハ夫ト財産ヲ共通セサル時又ハ夫ト財産ヲ分チタル後ト雖トモ其夫ノ許諾ヲ得ルニ非サレハ裁判所ニ出テ訴訟ヲ為スコトヲ得ス
第二百十六条 婦ノ重罪犯又ハ軽罪犯ニ因リ訴訟ヲ受ケタル時ハ其夫ノ許諾ヲ得スシテ裁判所ニ出ルコトヲ得可シ
第二百十七条 婦ハ夫ト財産ヲ共通セス又ハ財産ヲ分チタルト雖トモ其夫ト共ニ証書ヲ記シ又ハ書ヲ以テ夫ノ許諾ヲ得ルニ非レハ人ニ物ヲ給与シ又ハ売払ヒ又ハ「イポテーク」ト為シ又ハ費用ノ有無ヲ問ハス己レノ所得ト為スコトヲ得ス
第二百十八条 若シ夫其婦ノ訴訟ヲ為スコトヲ許諾セサル時ハ裁判役ヨリ其許ヲ為スコトヲ得可シ
第二百十九条 若シ夫其婦ノ証書ヲ記スルコトヲ許諾セサル時ハ其婦其夫ヲ相与ニ居住スル住所ヲ管轄スル下等裁判所ニ直チニ呼出サシム可シ但シ裁判所ニ於テハ裁判役会議ノ室ニ其夫ヲ呼出シ其述フル所ヲ聴キタル後又ハ之ヲ呼出シテ猶出席セサル時其允許ヲ為シ又ハ為ササルコト自由ナリトス
第二百二十条 婦ノ公ケノ商賈ナル時ハ其商業ニ管スルコトニ付キ其夫ノ許諾ヲ要セス自カラ契約ヲ為スコトヲ得可シ但シ此場合ニ於テ夫婦互ニ其財産ヲ共通シタル時ハ其夫モ亦其契約ノ義務ヲ負フ可シ
婦ハ其夫ノ商品ノ零売【コウリ】ヲ為スノミニテハ公ケノ商賈ナリト謂フ可カラス別ニ自カラ商業ヲ為ス時ノミ之ヲ公ケノ商賈ナリト謂フ可シ
第二百二十一条 若シ夫裁判所ニ出席ス可キノ命ヲ受ケ出席ヲ為サス又ハ逃亡シタルニ付キ刑ノ言渡ヲ受ケシ時ト雖トモ施体又ハ加辱(刑法ニ詳ナリ)ノ刑ノ言渡ヲ受ケシ時ハ其婦ノ丁年又ハ幼年ナルヲ問ハス夫ノ罰ヲ受ル時間ハ裁判役ヨリノ允許ヲ得スシテ訴訟及ヒ契約ヲ為スコトヲ得可カラス但シ裁判所ニ於テハ其夫ヲ呼出シ又ハ其述フル所ヲ聴糾スコトナクシテ其允許ヲ与フルコトヲ得可シ
第二百二十二条 若シ夫治産ノ禁ヲ受ケタル時又ハ失踪ノ時ハ裁判役其原由ヲ聴糾シタル後其婦ニ訴訟又ハ契約ヲ為スコトヲ允許ス可シ
第二百二十三条 夫ヨリ婚姻ノ契約書ニテ其婦ニ訴訟又ハ契約ヲ為ス可キ一般ノ許ヲ与ヘタリト雖トモ婦ハ己レノ財産ヲ支配スルコトノミノ外其許ヲ用フ可カラス
第二百二十四条 夫ノ丁年ニ至ラサル時ハ其婦訴訟及ヒ契約ヲ為スニ必ス裁判役ノ允許ヲ必要トス
第二百二十五条 允許ヲ得サルヲ以テ契約ヲ取消ス可キコトハ婦又ハ夫又ハ其遺物相続人ニ非レハ之ヲ述フルコトヲ得ス
第二百二十六条 婦ハ其夫ノ許諾ヲ得スシテ遺嘱ヲ為スコトヲ得可シ
第七章 婚姻ヲ解ク事
第二百二十七条 婚姻ヲ解クノ原由ハ左ノ数件ニアリ
第一 夫又ハ婦ノ死去スル事
第二 法律ニ循ヒ離婚ヲ言渡シタル事
第三 夫又ハ婦准死ニ至ル可キノ言渡ヲ受ケ其言渡ノ確定シタル事
第八章 再婚
第二百二十八条 婦ハ前婚ヲ解シヨリ十月ノ後ニ非サレハ再婚ノ契約ヲ為ス可カラス
第六巻 離婚〔千八百三年第三月二十一日決定同月三十一日布告千八百十六年第五月八日廃ス〕
第一章 離婚ノ原由
第二百二十九条 夫ハ其婦ノ奸通ヲ以テ原由ト為シ離婚ヲ訴フルコトヲ得可シ
第二百三十条 婦ハ其夫ノ其家ニ女ヲ畜ヒ置キシ時其奸通ヲ以テ原由ト為シ離婚ヲ訴フルコトヲ得可シ
第二百三十一条 夫婦中一方ノ者過慾、苛虐又ハ至重ノ害ヲ受ケタルコトヲ以テ原由ト為シ離婚ヲ訴フルコトヲ得可シ
第二百三十二条 夫婦中一方ノ者加辱ノ刑ヲ言渡サレシ時ハ其言渡ヲ以テ原由ト為シ離婚ヲ訴フルコトヲ得可シ
第二百三十三条 夫婦法律上ニ定メタル方法ヲ以テ互ニ相承諾シ離婚ヲ求ムル旨ヲ固執シテ述ヘ且法律上ニ定メタル規則ヲ循守セシ時ハ其互ニ夫婦タルニ耐ヘスシテ離婚ヲ為ス可キ確的ノ原由アル十分ノ証ト為ス可シ
第二章 定リシ原由アル離婚ノ事
第一款 定リシ原由アル離婚ノ規則
第二百三十四条 定リシ原由アル離婚ヲ訴フルニ至ラシメシ事情又ハ罪科ノ如何ナルヲ問ハス離婚ハ総テ夫婦ノ住所ヲ管轄スル下等裁判所ニ訴フ可シ
第二百三十五条 若シ離婚ヲ訴フル夫又ハ婦ノ述ヘタル事情ニ因リ「ミニステールピュブリック」ヨリ刑法ニ管シタル訴訟ヲ為スコトアル時ハ上等刑法裁判所ノ言渡アルニ至ル迄離婚ノ訴訟ヲ中止シ其言渡アリシ後ニ再ヒ離婚ノ訴訟ヲ始ルコトヲ得可シ但シ被告ノ夫又ハ婦ハ刑法裁判所ノ言渡ノ如何ナルヲ問ハス其言渡ヲ以テ原告ノ夫又ハ婦ノ訴訟ヲ為スニ付キ故障ヲ述フ可カラス
第二百三十六条 離婚ヲ訴フル書ニハ其事情ヲ詳細ニ記ス可シ但シ其書ハ離婚ヲ訴フルニ要用ナル証書アル時ハ其証書ノ副本ト共ニ離婚ヲ訴フル夫又ハ婦自カラ裁判所ノ上席人又ハ其上席人ニ代ル可キ裁判役ニ出ス可シ若シ其夫又ハ婦ノ病ニ罹リ此事ヲ為スコト能ハサル時ハ裁判役其者ノ願書ト内科外科ノ医官二名又ハ下等医師二名ノ証書トヲ受取リタル後離婚ヲ訴フル者ノ住所ニ至リ其訴ヲ聴ク可シ
第二百三十七条 裁判役ハ離婚ヲ訴フル者ノ述フル所ヲ聴キ相当ノ問糾ヲ為シ裁判後離婚ヲ訴フル書及ヒ証書類ニ姓名ノ手署ニ代用スル横線ヲ画シ此等ノ書類ヲ受取リシ調書ヲ記ス可ク且此調書ニハ裁判役及ヒ離婚ヲ訴フル者其姓名ヲ手署ス可シ但シ離婚ヲ訴フル者其姓名ヲ手署スルコトヲ知ラス又ハ手署スルコト能ハサル時ハ其旨ヲ附記ス可シ
第二百三十八条 裁判役ハ其調書ノ紙尾ニ記シ定メタル日刻ニ原告被告双方ノ者自身ニテ己レノ面前ニ出席ス可キコトヲ言渡ス可シ且之カ為メ裁判役自カラ其言渡書ノ写ヲ被告ノ夫又ハ婦ニ送達ス可キコトヲモ言渡ス可シ
第二百三十九条 裁判役ハ預定セシ日ニ至リ夫婦共ニ出席スル時ハ其双方ノ者ニ対シ又離婚ヲ訴フル者ノミ出席スル時ハ其者ノミニ対シ和解ヲ為ス可キコトヲ喩示ス可シ若シ和解ヲ為サシムルコトヲ得サル時ハ其旨ヲ調書ニ記シ離婚ヲ訴フル書及ヒ証書類ヲ「ミニステールピュブリック」ニ送達シテ其訴訟ヲ裁判所ノ審判ニ任ス可キコトヲ言渡ス可シ
第二百四十条 此時ヨリ三日内ニ裁判所ニ於テハ其上席人又ハ其上席人ニ代ル可キ裁判役ノ啓告ノ旨ト「ミニステールピュブリック」ノ述ブル所ノ旨トニ従ヒ原告人ニ被告人ヲ裁判所ニ呼出ス可キノ允許ヲ与ヘ又ハ暫ク之ヲ猶予ス可シ但シ其猶予ノ時間ハ二十日ヲ過ク可カラス
第二百四十一条 原告人ハ裁判所ノ允許ヲ得タルニ因リ尋常ノ法式ニ循ヒ法律ニ於テ定メタル定期内ニ被告人自カラ内吟味ニ出席ヲ為ス可キ為メ裁判所ヨリ之ヲ呼出サシム可シ且其呼出書ト共ニ離婚ヲ訴フル書及ヒ証書類ノ写ヲモ亦被告人ニ送達セシム可シ
第二百四十二条 法律ニ於テ定メタル定期ノ終リシ時被告人ノ出席ヲ為スト否トヲ問ハス原告人ハ一人ニテ出席ヲ為シ又ハ代言人ト共ニ出席ヲ為シ其訴ノ趣意ヲ自カラ述ヘ又ハ代言人ヲシテ述ヘシム可シ又原告人ハ証書類ヲ出シ其証人ノ姓名ヲ述フ可シ
第二百四十三条 被告人自カラ出席ヲ為シ又ハ名代人ヲ出席セシメシ時ハ原告人ノ訴ノ趣意及ヒ証書類並ニ原告人ヨリ姓名ヲ述ヘタル証人ノ事ニ付キ自カラ己レノ意ヲ述ヘ又ハ名代人ヲシテ之ヲ述ベシムルコトヲ得可シ又被告人ハ自己ノ方ニ於テ出席セシメント欲スル証人ノ姓名ヲ述フ可シ但シ原告人ハ被告人ヨリ姓名ヲ述ヘタル証人ノ事ニ付キ己レノ意ヲ述フルコトヲ得可シ
第二百四十四条 裁判役ハ原告被告ノ出席シタル事及ヒ其述ヘタル所並ニ其自陳シタル所ヲ調書ニ記シ其調書ヲ双方ニ読聞セシ後双方ヲシテ其調書ニ姓名ヲ手署セシム可シ但シ其調書ニハ双方共ニ姓名ヲ手署シタル事又ハ姓名ヲ手署スルコト能ハス或ハ手署スルコトヲ欲セサル旨ヲ述ヘタルコトヲ附記ス可シ
第二百四十五条 裁判所ニ於テハ原告被告ノ双方ニ公ケノ吟味ニ出席ス可キコトヲ言渡シテ其日刻ヲ定メ且内吟味ニ管シタル書類ヲ「ミニステールピュブリック」ニ送達ス可キコトヲ言渡シテ掛リ裁判役ヲ任ス可シ若シ被告人ノ出席セサル時ハ裁判所ノ言渡ニテ定メタル期限内ニ原告人ヨリ其言渡書ヲ被告人ニ送達セシム可シ
第二百四十六条 預定セシ日刻ニ至リ裁判所ニテ掛リ裁判役ヨリノ啓告ニ従ヒ且「ミニステールピュブリック」ノ述フル所ヲ聴キタル後被告人他故ヲ述ヘ其訴訟ヲ拒ムコトアルニ於テハ先ツ其拒ム所ヲ裁判ス可シ若シ其拒ム所道理アル時ハ離婚ノ訴ヲ為スヲ許サズ若シ其拒ム所道理ナク又ハ他故ヲ述ヘテ其訴訟ヲ拒ムコトナキ時ハ離婚ノ訴ヲ為スコトヲ允許ス可シ
第二百四十七条 離婚ノ訴ヲ為スヲ允許セシ後直チニ裁判所ニテ掛リ裁判役ノ啓告ニ従ヒ且ツ「ミニステールピュブリック」ノ述ル所ヲ聴キタル後訴訟ノ原案ノ裁判ヲ為シ始メ其訴フル所裁判ヲ做シ得可キ模様トナリタル時ハ其裁判ヲ為シ然ラザル時ハ裁判所ヨリ原告人ニ其述フル所ヲ証人ヲ以テ証ス可キコトヲ許シ又被告人ニモ同一ノ許ヲ為ス可シ
第二百四十八条 訴訟中何レノ時ニ於テモ双方ノ者裁判役ノ啓告ノ後「ミニステールピュブリック」ノ其説ヲ述フル前ニ始メハ他故ヲ以テ訴訟ヲ拒ムコトニ付キ後ハ訴訟ノ原案ニ付キ各其論弁ヲ為シ又ハ代言人ヲシテ之ヲ論弁セシム可シ但シ原告人自カラ出席スルニ非レハ其代言人ヲ出スコトヲ許ス可カラス
第二百四十九条 裁判所ニテ証人ノ吟味ヲ為ス可キ言渡ヲ為シタル後裁判所ノ書記官ハ直チニ調書ノ中ニテ双方ヨリ出サント欲スル証人ノ姓名ヲ記セシ部ヲ読上ク可シ○裁判所ノ上席人ハ双方ノ者ニ此時猶他ノ証人ノ姓名ヲ述ルコトヲ得可シト雖トモ後ニ至リテハ之ヲ許ササル旨ヲ言聞ス可シ
第二百五十条 其後直チニ双方ヨリ互ニ相忌避スル証人ニ付キ故障ヲ述ヘ裁判所ニ於テハ「ミニステールピュブリック」ノ述フル所ヲ聴キシ後其故障ノ可否ヲ裁判ス可シ
第二百五十一条 原告被告双方ノ者ハ其子及ヒ卑属ノ親ヲ除クノ外其他ノ親族ニ付キ其親族タルヲ以テ証人ト為スノ故障ヲ述フ可カラス又双方ノ婢僕ニ付テモ其婢僕タルヲ以テ証人ト為スノ故障ヲ述フ可カラス裁判所ニ於テハ親族及ヒ婢僕ノ証ヲ聴ルス可シ
第二百五十二条 証人ヲ以テ証ス可キコトヲ允許スル言渡書ニハ吟味ヲ為ントスル証人ノ姓名ヲ記シ且双方ヨリ其証人ヲ出席セシム可キ日刻ヲ定ム可シ
第二百五十三条 証人ハ「ミニステールピュブリック」及ヒ原告被告並ニ其代言人又ハ其朋友ノ面前ニ於テ内吟味ヲ受ケ其証ヲ述フ可シ但シ其代言人又ハ朋友ノ員ハ三人ニ過ク可カラス
第二百五十四条 原告被告ハ其相当ト思量スル所ヲ自カラ証人ニ心付ケ且問糾シ又ハ代言人ヲシテ之ヲ為サシム可シ但シ証人ノ其証ヲ述フル時間ハ辞ヲ参フルコトヲ得ス
第二百五十五条 裁判所ニ於テハ証人ノ述フル所及ヒ其証人ニ原告被告ヨリ心付ケ且問糾セシ所ヲ調書ニ記シ其調書ヲ双方ノ者ト証人トニ読聞セシ後皆其姓名ヲ手署セシム可シ又此等ノ者其姓名ヲ手署シタル時ハ其旨ヲ附記シ若シ姓名ヲ手署スルコト能ハス或ハ姓名ヲ手署スルヲ欲セサルコトヲ述フル時ハ亦其旨ヲモ附記ス可シ
第二百五十六条 双方ノ証人ノ吟味ヲ為シ終リシ後又は被告人ヨリ証人ヲ出サスシテ原告人ノ証人ノミノ吟味ヲ為シ終リシ後裁判所ヨリ其双方ノ者ニ公ケノ吟味ニ出席ス可キコトヲ言渡シテ其日刻ヲ定メ且内吟味ニ管シタル書類ヲ「ミニステールピュブリック」ニ送達ス可キコトヲ言渡シテ掛リ裁判役ヲ任ス可シ○其言渡書ハ原告人ノ求メニテ其書中ニ記シタル定期内ニ被告人ニ送達ス可シ
第二百五十七条 決定ノ裁判ヲナス為メ定メタル日ニ於テ掛リ裁判役ヨリ裁判所ニ其啓告ヲ為シタル後原告被告双方ノ者ハ其相当ト思量スル所ヲ自カラ述ヘ又ハ代言人ヲシテ之ヲ述ヘシメ其後「ミニステールピュブリック」其説ヲ述フ可シ
第二百五十八条 決定ノ裁判ハ公ケニ言渡ス可ク且原告人離婚ノ許シノ言渡ヲ得タル時ハ民生ノ官吏ノ面前ニ至リ離婚ヲ言渡サシムルノ允許ヲ得可シ
第二百五十九条 過慾、苛虐又ハ至重ノ害ヲ受ルニ因リ離婚ヲ訴フル時ハ其訴フル所ニ確証アリト雖トモ裁判役直チニ離婚ヲ允許ス可カラス○此場合ニ於テハ裁判ヲ為ス前ニ婦ニ其夫ト居ヲ分チテ其婦ノ意ニ従ヒ其夫ヲ容接スルニ及ハサルコトヲ允許シ且婦ノ其生計ヲ為スニ足ル可キ入額ヲ有セサル時ハ夫ノ家産ニ准セシ養料ヲ其婦ニ給ス可キコトヲ言渡ス可シ
第二百六十条 此ノ如ク一年ノ時間ヲ経過セシ後双方猶協和セサル時原告人ハ法律ニ於テ定メシ定期中ニ被告人ヲ裁判所ニ呼出サシメ離婚ノ言渡ヲ得可シ
第二百六十一条 若シ夫又ハ婦ノ加辱ノ刑ノ言渡ヲ受ケシニ因リ一方ノ者ヨリ離婚ヲ訴フル時ハ刑法裁判所ノ言渡書ノ真正ノ写ト此言渡書ヲ法律ニ循ヒ更改ス可カラサル旨ヲ記シタル刑法裁判所ノ証書トヲ下等裁判所ニ出スノミノ法式ヲ以テ足レリトス
第二百六十二条 離婚ノ事ニ付キ下等裁判所ヨリ訴訟ヲ允許スルノ言渡ヲ受ケ又ハ離婚ノ言渡ヲ受ルト雖トモ尚此等ノ言渡ニ服セスシテ更ニ上等裁判所ニ訴ヘ出ス時ハ其上等裁判所ニ於テ之ヲ至急ノ事トシテ吟味シ其裁判ヲ為ス可シ
第二百六十三条 下等裁判所ヨリ上等裁判所ニ訴出スコトハ下等裁判所ニ双方ノ者出席ヲ為シタルト一方ノ者ノミ出席ヲ為シタルトヲ問ハス其裁判言渡書ヲ送達シタル日ヨリ三月内ニ非サレハ之ヲ為ス可カラス○又上等裁判所ノ裁判言渡ニ服セスシテ「クウルドカッサシヲン」(他ノ裁判所ニテ言渡シタル裁判ヲ廃スル為メニ設ケタル裁判所)ニ訴出ル定期モ其言渡書ヲ送達シタル日ヨリ三月内ニ之ヲ為ス可シ此「クウルドカッサション」ニ訴出シタル時間ハ上等裁判所ノ言渡ノ執行ヒヲ中止ス可シ
第二百六十四条 下等裁判所又ハ上等裁判所ニ於テ離婚ノ言渡ヲ得タル夫又ハ婦ハ二月内ニ民生ノ官吏ノ面前ニ至リ其官吏ヲシテ離婚ヲ言渡サシメサルヲ得ス但シ此時ハ被告人モ相当ノ法式ヲ以テ呼出ヲ受ク可シ
第二百六十五条 此二月ノ期限ハ下等裁判所ノ言渡ニ付テハ上等裁判所ニ訴出ス可キ定期ノ終リシ時ヨリ之ヲ算ヘ又上等裁判所ニ訴出シタル時被告人ノ出席ヲ為スコトナク言渡セシ裁判ニ付テハ其裁判執行ヒノ故障ヲ述フルコトヲ得可キ期限ノ終リシ時ヨリ之ヲ算ヘ又上等裁判所ニ於テ双方出席ノ上言渡シタル裁判ニ付テハ「クウルドカッサシヲン」ニ訴出ス可キ期限ノ終リシ時ヨリ之ヲ算フ可シ
第二百六十六条 原告人ノ被告人ヲ民生ノ官吏ノ面前ニ呼出サシムルコトナク前条ニ記セシ二月ノ期限ヲ経過シタル時ハ裁判言渡ノ資益ヲ失ヒ更ニ新ナル原由アルニ非サレハ再ヒ離婚ヲ訴フルコトヲ得ス但シ新ナル原由アリテ再ヒ離婚ヲ訴出シタル時ハ己ノ資益ノ為メ以前ノ原由ヲ述フルコトヲ得可シ
第二款 定リタル原由ノ為メノ離婚ニ付キ仮リノ処置
第二百六十七条 離婚ノ訴訟中子ヲ仮リニ管督スルコトハ離婚ノ原告タルト被告タルトヲ問ハス其父之ヲ為ス可シ但シ子ノ利益ノ為メ母又ハ親族或ハ「ミニステールピュブリック」ノ訴ニ因リ裁判所ヨリ別段其処置ヲ言渡シタル時ハ格別ナリトス
第二百六十八条 婦ハ離婚ノ原告又ハ被告タルヲ問ハス其訴訟ノ時間夫ノ住所ヲ去リ夫ノ家産ニ准シタル養料ヲ得ント訴フルコトヲ得可シ○裁判所ヨリ婦ノ居住ス可キ家屋ヲ指示シ且夫其婦ニ養料ヲ給ス可キ時ハ其額ヲ定ム可シ
第二百六十九条 婦裁判所ヨリ指示シタル家屋ニ居住スルノ証ヲ立ツ可キ求メヲ受ケシ時ハ其証ヲ立ツ可シ若シ其証ヲ立テサル時ハ夫其養料ヲ給ス可キコトヲ拒ミ且其婦原告タル時ハ其訴ヲ継続ス可カラサルノ言渡ヲ受ク可シ
第二百七十条 夫ト財産ヲ共通シタル婦ハ離婚ノ原告被告タルヲ問ハス第二百三十八条ニ記載シタル言渡ノ日ヨリ後其訴訟ヲ為ス時間何レノ時ト雖トモ其権ヲ保護ス可キ為メ共通ノ動産ニ封印ヲ為スヲ訴フルコトヲ得可シ但シ其動産ノ評価ヲ為シテ其目録ヲ記シ且夫ヨリ其目録ニ記シタル動産ヲ引渡シ又ハ其価額ヲ払フノ証ヲ立ツルニ非サレハ其封印ヲ除去ス可カラス
第二百七十一条 第二百三十八条ニ記シタル言渡ノ日ヨリ後夫婦共通ノ財産ヲ以テ償フ可キノ約定ニテ夫ノ負フタル義務又ハ其言渡ノ後夫婦共通ノ不動産ヲ夫ヨリ売払フ可キ契約ハ其婦ノ権ヲ害ス可キ為メナシタルノ証アル時之ヲ取消ス可キコトヲ言渡ス可シ
第三款 定リシ原由ノ為メノ離婚ノ訴ヲ他故ヲ述ヘ拒ム事
第二百七十二条 離婚ノ訴訟ヲ為スノ権ハ其訴訟ヲ起サシメタル事故アリシ後又ハ離婚ノ訴訟ヲ既ニ為シ始メタル後夫婦互ニ和解ヲ為スニ因リ消散ス可シ
第二百七十三条 前条ノ場合ニ於テハ原告人其訴訟ヲ為ス可カラサルノ言渡ヲ受ク可シ然トモ和解ノ後更ニ離婚ヲ訴フルノ原由アル時ハ其訴訟ヲ為シ且己レノ資益ノ為メ以前ノ原由ヲ述フルコトヲ得可シ
第二百七十四条 其訴訟ノ原告人ヨリ和解ヲ為シタルコトナキ旨ヲ述ル時ハ被告人此章ノ第一款ニ記シタル法式ニ循ヒ書面又ハ証人ヲ以テ和解ヲ為タルノ証ヲ立ツ可シ
第三章 双方ノ承諾ニテ離婚ヲ為ス事
第二百七十五条 夫ノ二十五歳以下ナル時及ヒ婦ノ二十一歳以下ナル時ハ其双方ノ承諾ニテ離婚ヲ為スコトヲ許ス可カラス
第二百七十六条 二年間婚姻ヲ結ヒシ後ニ非サレハ双方ノ承諾ニテ離婚ヲ為スコトヲ許ス可カラス
第二百七十七条 既ニ二十年間婚姻ヲ結ヒタル後又ハ婦ノ既ニ四十五歳以上ノ齢ニ至リシ時ハ双方ノ承諾ニテ離婚ヲ為スコトヲ得ス
第二百七十八条 第百五十条(婚姻ノ巻)ニ定メシ規則ニ均シク父母又ハ現存ノ尊属ノ親ノ許可ヲ受ルニ非サレハ夫婦双方ノ承諾ノミヲ以テ離婚ヲ為ス可カラス
第二百七十九条 双方ノ承諾ニテ離婚ヲ為ント欲スル夫婦ハ先ツ双方ノ動産及ヒ不動産ノ目録ヲ記シ且其評価ヲ為シテ双方ノ権ヲ定ム可シ但シ其権ヲ定メタル後ト雖トモ双方ノ承諾ヲ以テ之ヲ更改スルコト自由ナリトス
第二百八十条 又左ノ三件ニ付テハ双方ノ契約スル所ヲ証書ニ記ス可シ
第一 其婚姻ニ因テ生レシ子ハ訴訟ノ時間又ハ離婚ノ言渡ヲ受シ後何レノ方ニテ引受ク可キヤ
第二 訴訟ノ時間婦ハ何レノ家屋ニ至リテ居住ス可キヤ
第三 若シ婦其生計ヲ為スニ十分ナル入額ヲ有セサル時ハ訴訟ノ時間夫ヨリ其婦ニ幾許ノ金額ヲ給ス可キヤ
第二百八十一条 夫婦相与ニ自カラ其住所ヲ管轄スル下等裁判所ノ上席人又ハ其上席人ニ代ル可キ裁判役ノ面前ニ至リ其伴行シタル「ノテイル」二員ノ立会ニテ離婚ヲ欲スルノ意ヲ述フ可シ
第二百八十二条 裁判役ハ「ノテイル」二員ノ立会ニテ其相当ト思量スル所ヲ夫婦ニ喩示シ其後又之ヲ其各人ニ喩示シ且離婚ヨリ生スル諸件ニ付テノ此巻ノ第四章ヲ読聞セ離婚ノ後如何ナル処置ニ至ル可キヤヲ言聞ス可シ
第二百八十三条 夫婦猶固執シテ離婚ヲ欲スル時ハ裁判役双方承諾ノ上ニテ離婚ヲ訴ヘタル旨ヲ証書ニ記シ之ヲ其双方ノ者ニ渡ス可シ但シ双方ノ者ヨリ第二百七十九条及ヒ第二百八十条ニ記シタル証書ノ外更ニ左ノ証書ヲ出シテ直チニ之ヲ「ノテイル」ニ附托ス可シ
第一 夫婦ノ出産ノ証書及ヒ婚姻ノ証書
第二 夫婦ノ間ニ生レシ子ノ出産ノ証書及ヒ死去ノ証書
第三 父母又ハ現存ノ尊属ノ親其知ル所ノ原由ニ付キ某ト婚姻シタル己レノ男又ハ女或ハ己レノ孫男又ハ孫女ノ離婚ヲ訴フルコトヲ許諾セシ旨ヲ記シタル公正ノ証書○但シ夫婦ノ父母祖父母ハ其死去ノ証書ヲ出ス迄之ヲ生存スル者ト看做ス可シ
第二百八十四条 「ノテイル」二人ハ前条ニ記シタル諸件ヲ詳細ニ調書ニ記シ其正本ト之ニ附加ス可キ証書類トヲ其二人中ノ先ニ任ヲ得タル者受寄ス可シ但シ其調書ニハ婦其夫ト議定シタル家屋ニ二十四時間ニ移居シ且離婚ヲ言渡スニ至ル迄ハ其移居シタル場所ニ居住ス可キ告知ヲモ附記ス可シ
第二百八十五条 双方互ニ離婚ヲ欲スルノ意ヲ述フル事ハ初メニ述ヘタル時ト同一ノ式ヲ用ヒ其時ヨリ第四月第七月第十月ノ初メノ半月間ニ之ヲ為シ毎次双方ヨリ其父母又ハ現存スル尊属ノ親ノ離婚ヲ許諾スルノ意ヲ変更セサル事以前ト均シキ旨ヲ公正ノ書ヲ以テ証ス可シ然トモ其他ノ証書ハ再ヒ之ヲ出スニ及ハス
第二百八十六条 初メテ互ニ離婚ヲ欲スルノ意ヲ述ヘタル日ヨリ全周一年ニ至リシ後十五日内ニ夫婦各其住所ノ「アルロンヂスマン」中ノ望族ニシテ五十歳以上ノ朋友二人ヲ伴行シ裁判所ノ上席人又ハ其上席人ニ代ル可キ裁判役ノ面前ニ相与ニ出席シ双方離婚ノ承諾ヲ記シタル調書四通ト其書ニ附加ス可キ証書類トヲ其官吏ニ渡シ且一方ノ者及ヒ四人ノ朋友ノ面前ニ於テ互ニ自カラ其官吏ニ離婚ノ允許ヲ求ム可シ
第二百八十七条 裁判役及ヒ四人ノ立会人ヨリ夫婦ヲ喩示シタル後双方猶固執シテ離婚ヲ要スル時ハ其離婚ヲ求ムル事及ヒ証書類ヲ渡シタル事ヲ記ルシタル証書ヲ裁判役ヨリ夫婦ニ渡ス可シ且裁判所ノ書記官ハ其旨ヲ調書ニ記シテ夫婦及ヒ其伴行シタル四人ノ者及ヒ裁判役書記官皆之ニ其姓名ヲ手署ス可シ若シ夫婦其姓名ヲ手署スルコトヲ知ラス又ハ手署スル能ハサルコトヲ述フル時ハ亦其旨ヲモ記ス可シ
第二百八十八条 裁判役ハ「ミニステールピュブリック」ヨリ書ヲ以テ求ムル所ニ従ヒ裁判役会議ノ室ニテ其離婚ノ事ヲ審判ス可キ旨ノ言渡ヲ調書ノ紙尾ニ記ス可シ但シ此事ノ為メ裁判所ノ書記官ヨリ其証書類ヲ「ミニステールピュブリック」ニ送達シ置ク可シ
第二百八十九条 「ミニステールピュブリック」証書中ニ双方互ニ初メテ離婚ヲ欲スルノ意ヲ述ヘタル時夫ハ二十五歳以上ノ齢婦ハ二十一歳以上ノ齢タルノ証ヲ検知シ又ハ其時二年以前ニ婚姻ヲ結ヒシ事又ハ婚姻ヲ結ヒシ時ヨリ二十年以上ニ至ラサル事又ハ婦ノ四十五歳以下ノ齢ナル事ヲ検知シ又ハ此章ニ記スル所ノ規則法式ニ循ヒ就中父母又ハ父母ノ死去セシ時ハ其他ノ現存スル尊属ノ親ノ許諾ニ因リ一年間ニ四次双方ノ承諾ヲ以テ離婚ヲ求メシ旨ヲ述ヘタル事ヲ検知シタル時ハ法律ニ於テ允許スト云フコトヲ述ヘ然ラサレハ法律ニ於テ允許セスト云フコトヲ述フ可シ
第二百九十条 裁判所ニテ掛リ裁判役ヨリ啓告ヲ得シ後ハ前条ニ記スル所ノ外更ニ他ノ事ヲ証スルニ及バス○裁判所ノ意ニテ双方共ニ法律上ニ定メタル法式ヲ行フタルト思察スル時ハ離婚ヲ允許シ且双方共ニ民生ノ官吏ノ面前ニ至リテ其官吏ヨリ離婚ノ言渡ヲ受クルコトヲ許ス可シ又然ラサル時ハ裁判所ヨリ離婚ヲ允許セサル旨ヲ言渡シ且其裁判ノ趣意ヲ言聞ス可シ
第二百九十一条 下等裁判所ノ離婚ヲ允許セサル言渡ニ服セス更ニ上等裁判所ニ訴出サント為スニハ下等裁判所ニ於テ言渡ヲ為タル日ヨリ後十日ヨリ二十日ニ至ル迄ノ時間ニ双方ヨリ各一通ノ願書ヲ出ス可シ
第二百九十二条 上等裁判所ニ訴出ル願書ノ副本ハ双方ヨリ下等裁判所ノ「ミニステールピュブリック」ニ送達シ且双方ノ者交々相送達ス可シ
第二百九十三条 下等裁判所ノ「ミニステールピュブリック」ハ上等裁判所ニ再次訴出シタル願書ノ副本ノ送達ヲ得タル日ヨリ十日内ニ下等裁判所ノ言渡書ノ副本及ヒ其言渡ヲ為スニ用ヒタル証書類ヲ上等裁判所ノ「プロキュリウルゼ子ラール(「プロキュリウルアムペリアル」ノ長官ヲ云フ)ニ送達ス可シ○「プロキュリウルゼ子ラール」ハ其証書類ヲ受取リシ時ヨリ十日内ニ書面ヲ以テ其求ムル所ヲ述ヘ上等裁判所ノ上席人又ハ其上席人ニ代ル可キ裁判役ヨリ上等裁判所ノ裁判役会議ノ室ニ其啓告ヲ為シ上等裁判所ニテ「プロキュリウルゼ子ラール」ノ求メヲ記シタル書ヲ受取シ時ヨリ十日内ニ決定ノ裁判ヲ言渡ス可シ
第二百九十四条 離婚ヲ允許セシ上等裁判所ノ言渡ヨリ二十日内ニ双方ノ者相与ニ自カラ民生ノ官吏ノ面前ニ至リ離婚ノ言渡ヲ受ク可シ若シ此定期ヲ過ル時ハ其離婚ノ言渡ヲ取消シタルト看做ス可シ
第四章 離婚ヨリ生スル諸件
第二百九十五条 何レノ原由タルヲ問ハス離婚シタル夫婦ハ互ニ復タ婚姻ヲ為ス可カラス
第二百九十六条 定リタル原由ニ因リ離婚ノ言渡アル時ハ離婚ヲ受タル婦其言渡ヲ受シ時ヨリ十月ノ後ニ非サレハ再婚ス可カラス
第二百九十七条 双方ノ承諾ニ因リ離婚シタル時ハ双方共ニ其言渡ヲ受ケシ時ヨリ三年ノ後ニ非レハ再婚ス可カラス
第二百九十八条 奸通ヲ為タルニ付キ裁判所ヨリ離婚ヲ言渡シタル時ハ奸通ヲ為タル夫又ハ婦其奸婦奸夫ト婚姻ヲ為ス可カラズ且奸通ヲ為タル婦ハ「ミニステールピュブリック」ノ求メニテ離婚ノ言渡ト共ニ三月ヨリ少カラス二年ヨリ多カラサル時間懲治場ニ禁錮スルノ言渡ヲ受ク可シ
第二百九十九条 双方ノ承諾ヲ以テ離婚セシ時ノ外ハ離婚ノ原由ノ如何ナルヲ問ハス離婚ヲ受ケシ被告ノ夫又ハ婦ハ婚姻ノ契約ニ因リ原告タル配偶者ヨリ嘗テ得タル利益ヲ失ヒ又ハ婚姻ヲ契約セシ後得タル利益ヲ失フ可シ
第三百条 離婚ヲ得タル原告ノ夫又ハ婦ハ被告ノ婦又ハ夫ヨリ嘗テ与ヘタル利益ヲ保有ス可シ但シ其利益ハ原告被告互ニ之ヲ与フ可キノ契約アリト雖トモ原告ノミ之ヲ得可シ
第三百一条 夫婦互ニ利益ヲ与ヘタルコトナキ時又ハ利益ヲ与フルノ契約アリト雖トモ其利益ノミニテハ離婚ヲ得タル原告ノ夫又ハ婦ノ生計ヲ為スニ十分ナラサル時ハ裁判所ヨリ被告ノ婦又ハ夫ノ所有物中ニテ原告ノ夫又ハ婦ニ養料ヲ給ス可キコトヲ言渡ス可シ但シ其養料ハ被告人ノ入額ノ三分ノ一ニ過ク可カラズ○其養料ハ給与スルニ及ハサルニ至リシ時之ヲ廃ス可シ
第三百二条 子ハ離婚ヲ得タル原告ノ夫又ハ婦ニテ養フ可シ但シ裁判所ニ於テ親族又ハ「ミニステールピュブリック」ノ求メニ因リ其子ノ利益ノ為メ皆之ヲ被告ノ夫又ハ婦又ハ他人ニ托シ或ハ其中ノ者ヲ此等ノ者ニ托ス可キコトヲ言渡シタル時ハ格別ナリトス
第三百三条 何レノ人ニ子ヲ托シタルヲ問ハス父母ハ各其子ノ教育ヲ管督スルノ権ヲ保チ且ツ其家産ニ准シテ其教育ノ資助ヲ為ス可シ
第三百四条 裁判所ヨリ離婚ヲ允許セシニ因リ婚姻ヲ解キタルト雖トモ其婚姻ニ因テ生レシ子ハ法律上ニテ父母ノ婚姻ノ契約ヨリ得可キ利益ヲ失フコトナカル可シ但シ其子権利ヲ得ントスルニハ父母ノ離婚ヲ為ササル時其子ノ之ヲ得可キト同一ノ方法ニ循ヒ且同一ノ景状アルコトヲ必要トス
第三百五条 夫婦双方ノ承諾ニテ離婚ヲ為シタル時ハ其双方ノ財産ノ半ヲ所有スルノ権ヲ初テ離婚ヲ欲スルノ意ヲ述ヘタル日ヨリ其婚姻ニ因テ生レシ子ニ移ス可シ然トモ其子ノ丁年ニ至ラサル時間其子ニ属ス可キ財産ノ入額ハ父母之ヲ所得ト為シ其分限及ヒ家産ニ准シテ其子ヲ教育スルコトヲ任ス可シ
但シ此規則ト父母ノ婚姻ノ契約ニ因リ其子ニ属ス可キ他ノ利益ト相属ルルコトナカル可シ
第五章 夫婦居ヲ分ツ事(夫婦離婚ヲ為スニ非スシテ唯其居ヲ分ツヲ云)
第三百六条 定リシ原由ノ為メ離婚ヲ訴フ可キ道理アル時ハ夫婦其居ヲ分ツ可キノ訴ヲ為スコト自由ナリトス
第三百七条 夫婦ノ居ヲ分タント為スノ訴ハ民法ニ管シタル他ノ訴訟ト同一ノ方法ヲ用ヒ之ヲ述ヘ且之ヲ吟味シテ其裁判ヲ為ス可シ但シ其居ヲ分ツ事ハ夫婦双方ノ承諾ノミヲ以テ為ス可カラス
第三百八条 婦奸通ヲ為シタルニ付キ夫ト居ヲ分ツ可キ言渡ヲ受ケシ時ハ「ミニステールピュブリック」ノ求メニ因リ其言渡ト共ニ三月ヨリ少ナカラス二年ヨリ多カラサル時間懲治場ニ禁錮スル刑ノ言渡ヲ受ク可シ
第三百九条 夫其婦ヲ再ヒ引取ル可キコトヲ承諾スルニ於テハ其居ヲ分ツ可キ言渡ノ取消ヲ願フコトヲ得可シ
第三百十条 婦ノ奸通ヲ除クノ外其他ノ原由ニ付キ居ヲ分ツ可キコトヲ言渡セシ時ハ三年ノ後ニ至リ被告人ヨリ裁判所ニ離婚ヲ訴フルコトヲ得可シ但シ其時裁判所ニテ原告人ヲ呼出シタル上原告人直チニ居ヲ分ツ言渡ノ取消ヲ願フコトヲ承諾セサルニ於テハ離婚ヲ許ス可シ
第三百十一条 夫婦ノ居ヲ分ツ時ハ必ス亦其財産ヲ分ツ可シ
第七巻 父タル事及ヒ子タル事〔千八百三年第三月二十三日決定第四月二日布告〕
第一章 婚姻ヲ結ヒタル間ニ生レシ子ヲ子ト為ス事
第三百十二条 婚姻ヲ結ヒタル間ニ懐胎セシ子ハ其夫ヲ以テ父トス
然トモ其子ノ生レシ前三百日ヨリ百八十日ニ至ル迄ノ時間ニ夫其家ニ在ラス又ハ事故アリテ其婦ト同室スルコトヲ得サルノ証アル時ハ其夫其子ヲ以テ我子ニ非スト為スコトヲ得可シ
第三百十三条 夫ハ己ノ身体ノ虚弱ナルコトヲ述テ其子ヲ我子ニ非スト為ス可カラス又婦ノ奸通ヲ原由ト為シ其子ヲ我子ニ非スト為ス可カラス但シ婦其子ノ出産ヲ夫ニ掩蔽セシ時ハ夫其子ノ父ニ非サルコトヲ証ス可キ諸件ヲ述フルコトヲ得可シ
〔千八百五十年第十二月六日左ノ如ク追加ス〕夫婦ノ居ヲ分ツ可キ事ヲ裁判所ヨリ言渡シタル時又ハ其言渡ヲ得ンコトヲ訴ヘ未タ之ヲ得サル時ト雖トモ訴訟法第八百七十八条ニ記スル所ニ循ヒ裁判所ノ上席人ノ言渡ヲ為シタル時ヨリ三百日ノ後ニ生レシ子又ハ裁判所ニテ其訴ヲ允許セサルコトヲ決定シ及ヒ夫婦ノ和解ヲ為シタル後百八十日ニ至ラサル時間ニ生レシ子ハ夫我子ニ非スト為スコトヲ得可シ然トモ其事実ニ於テ夫婦既ニ和解シタル時ハ夫其子ヲ以テ我子ニ非スト為スノ訟ヲ允許ス可カラス
第三百十四条 婚姻ヲ結ヒシ日ヨリ百八十日ニ至ラサル時間ニ生レシ子ハ左ノ場合ニ於テ夫我子ニ非スト為スコトヲ得ス
第一 夫婚姻ヲ為ス以前ニ婦ノ懐胎セシコトヲ知リタル時
第二 夫其子ノ出産ノ証書ヲ記スル立会ヲ為シ且其出産ノ証書ニ姓名ヲ手署シ又ハ姓名ヲ手署スルコトヲ知ラサルノ陳述ヲ官吏ノ記シタル時
第三 其子ノ生存シ能ハザル時
第三百十五条 婚姻ヲ解キシ時ヨリ三百日後ニ生レシ子ハ夫我子ニ非ザルノ訴ヲ為スコトヲ得可シ
第三百十六条 夫其子ヲ我子ニ非スト為スノ訴ヲ為シ得可キ場合ニ於テ夫其子ノ出産ノ地ニ在ル時ハ出産ノ時ヨリ一月内ニ之レヲ訴ヘ出ス可シ
若シ夫其子ノ出産シタル地ニ在ラサル時ハ其帰来ノ時ヨリ二月間ニ其訴ヲ為ス可シ
若シ婦其子ノ生レシコトヲ夫ニ掩蔽セシ時ハ夫其事ヲ知リタル時ヨリ二月間ニ其訴ヲ為ス可シ
第三百十七条 若シ夫其子ヲ我子ニ非スト為スコトヲ訴ヘ得可キ定期内ニ其訴ヲ為サスシテ死去セシ時ハ其子其死者ノ財産ヲ所有ト為シタル時又ハ遺物相続人等其死者ノ財産ヲ所有スルニ付キ其子ノ故障ヲ述シ時ヨリ二月内ニ其遺物相続人等其子ノ嫡出ニ非サルコトヲ訴ヘ出スコトヲ得可シ
第三百十八条 夫又ハ其遺物相続人等其子ヲ子ト為サザル証書ヲ記シタリト雖トモ裁判所外ニテ之レヲ記シタル時ハ其時ヨリ一月内ニ其子ノ別段ノ後見人ニ対シ其母ノ面前ニテ訴訟ヲ為サザルニ於テハ其証書ヲ全ク記ササルト同一ニ看做ス可シ
第二章 嫡出ノ子ノ子タル証
第三百十九条 嫡出ノ子ノ子タル事ハ民生ノ証書ノ簿冊ニ記シタル出産ノ証書ニ因テ之ヲ証ス
第三百二十条 此証書ナシト雖トモ嫡出ノ子タルノ景状ヲ数年間現ニ有スルコトアル時ハ嫡出ノ子ナリト為スニ足ルノ証アリトス
第三百二十一条 子ト其子ノ所属ナリト言做シタル家族トノ間ニ互ニ親子タル可キノ関係ヲ証ス可キ数件ノ具ハル時ハ嫡出ノ子タルノ景状ヲ有スルモノト看做ス可シ但シ其数件中ニ於テ至重ナルモノハ
子其父ナリト言做タル者ノ姓ヲ常ニ帯用スル事
父其子ナリト言フ者ヲ現ニ我子ト為シテ取扱ヒ且其教育、産業等ノ管督ヲ為ス事
他人常ニ其子ヲ嫡出ノ子ナリト見做シタル事
其親族モ亦之ヲ嫡出ノ子ナリト見做シタル事
第三百二十二条 何レノ人ト雖トモ出産ノ証書ニ従ヒ現ニ有スル所ノ景状ニ反シタル景状アリト自カラ述ルコトヲ得ス
又出産ノ証書ニ従ヒ現ニ有スル所ノ景状ハ人ヨリ争フ可カラス
第三百二十三条 出産ノ証書ナク且多年ノ間子タルノ景状ヲ有スルコトナキ時又ハ姓名ヲ誤リ或ハ分明ナラサル父母ノ生ミタルモノト為シテ其子ノ出産ノ証書ヲ記ルシタル時ハ証人ヲ以テ子タルノ証ヲ立ツルコトヲ得可シ
然トモ書面ニ拠リ其証ノ端緒アル時又ハ其景状ヲ思度スルニ其証ヲ立ルヲ許スニ足ル可キ事アル時ニ非サレハ証人ニ因リ其証ヲ立ルコトヲ許ス可カラス
第三百二十四条 其証ノ端緒ハ家券又ハ父母ノ私ノ簿冊及ヒ書類又ハ訴訟ニ管シタル者ノ公私ノ証書又ハ既ニ死去シタルト雖モ若シ生存スル時ハ其訴訟ニ管ス可キ者ノ公私ノ証書等ニ因テ之ヲ得可シ
第三百二十五条 之ニ反スルノ証ハ子ナリト言フ者其母ト言做シタル者ノ子ニ非サル事又ハ母ニ付テノ確証アリト雖トモ其母ノ夫ノ子ニ非サルコトヲ証スルニ足ル可キ諸件ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得可シ
第三百二十六条 子タルノ景状ニ付テノ訴訟ヲ裁判スルコトハ民法裁判所ノミノ管轄ニアリトス
第三百二十七条 出産ノ証書ヲ贋造又ハ滅尽シタル罪ニ付テノ訴訟ハ子タルノ景状ニ付キ起リシ訴訟ノ裁判確定ノ後ニ非レハ之ヲ為スコトヲ得ス
第三百二十八条 子其父母ノ子ナリト述ル訴訟ヲ為スニ付テハ定期ナシトス
第三百二十九条 子未タ子タルノ訴訟ヲ為サスシテ死去シタルニ於テハ其子ノ未タ幼年ニテ死シタル時又ハ丁年ニ至リシ時ヨリ五年内ニ死シタル時ノ外其遺物相続人ヨリ其訴訟ヲ為スコトヲ得可カラス
第三百三十条 若シ子其父母ノ子タルノ訴訟ヲ為シ其訴訟ノ未タ審判ヲ得サル前ニ死去シタル時ハ其子ノ遺物相続人其訴訟ヲ継続シテ為スコトヲ得可シ但シ其子既ニ其訴訟ヲ止ムルコトヲ陳述シ又ハ最終ニ其訴訟ヲ為シタル時ヨリ三年ノ時間ヲ其訴訟ヲ為サスシテ経過セシ後ニ死去シタル時ハ其遺物相続人其訴訟ヲ継続シテ為ス可カラス
第三章 私生ノ子
第一款 私生ノ子ヲ嫡出ノ子ト為ス事
第三百三十一条 私生ノ子ハ乱倫奸通ニ因リ生レシ者ヲ除クノ外其父母後ニ婚姻ヲ結フ前ニ之ヲ我子ナリト認メ為シ或ハ婚姻ノ証書ヲ以テ之ヲ我子ナリト認メ為シタル時其父母ノ婚姻ヲ結ヒタルニ因リ嫡出ノ子ト為スコトヲ得可シ
第三百三十二条 私生ノ子卑属ノ親ヲ遺留シテ死去シタル時ト雖トモ其死去ノ後ニ至リ亦之レヲ嫡出ノ子ト認メ為スコトヲ得可シ但シ此場合ニ於テハ其死去セシ子ノ卑属ノ親ノ為メ権利ヲ生ス可シ
第三百三十三条 私生ノ子其父母後ニ婚姻ヲ結ヒシニ因リ嫡出ノ子タルコトヲ得タル時ハ其父母ノ婚姻ヲ結ヒシ後ニ生レタルト同一ノ権利ヲ有ス可シ
第二款 私生ノ子ヲ我子ナリト認ムル事
第三百三十四条 私生ノ子ヲ其出産ノ証書ヲ以テ我子ナリト認ルコトナキ時ハ別ニ公正ノ証書ヲ以テ我子ト認ルコトヲ得可シ
第三百三十五条 乱倫及ヒ奸通ニ因リ生レシ子ハ我子ナリト認ルコトヲ得ス
第三百三十六条 母ノ陳述及ヒ承諾ナク父ノミニテ私生ノ子ヲ我子ナリト認メタル時ハ其父ノミニ付キ其関係アリトス可シ
第三百三十七条 夫又ハ婦其配偶者ト婚姻ヲ為シタル以前ニ其配偶者ニ非サル男又ハ女ニ因リ挙ケシ私生ノ子ヲ其婚姻ノ後我子ナリト認メタルト雖トモ其配偶者又ハ其婚姻ニ因リ生レシ子ノ権利ヲ害スルコトナカル可シ然トモ其婚姻ヲ解キシ後其婚姻ニ因テ生レシ子ノ生存スルコトナキ時ハ前項ノ私生ノ子ノ為メ権利ヲ生ス可シ
第三百三十八条 私生ノ子ハ父母ノ子ナリト認メラレタルト雖トモ嫡出ノ子ノ権利ヲ求ムルコトヲ得可カラス但シ私生ノ子ノ権利ハ遺物相続ノ巻ニ之ヲ記ス
第三百三十九条 父又ハ母ノ私生ノ子ヲ我子ナリト認ルコト及ヒ私生ノ子ヨリ其事ヲ求ムルコトハ之ニ管係アル者ヨリ故障ヲ述ルコトヲ得可シ
第三百四十条 私生ノ子人ヲ指シテ我父ナリト訴ヘ出ル事ハ之ヲ禁ス○然トモ母ノ強誘セラレタルト孕妊シタルト其時日ノ相近接シタル時ハ之ニ管係アル者ノ訴ニ因リ強誘者ヲ以テ其子ノ父ト為スコトヲ得可シ
第三百四十一条 私生ノ子人ヲ指シテ我母ナリト訴ルコトハ之ヲ許ス
人ヲ指シテ我母ナリト訴ル私生ノ子ハ其母ノ生ミシ子ト同人ナルノ証ヲ立ツ可シ但シ此事ニ付テハ書面ニ拠リ其証ノ端緒アル時ノ外証人ヲ以テ之ヲ証スルコトヲ得可カラス
第三百四十二条 第三百三十五条ニ循ヒ私生ノ子ヲ我子ナリト認ムルコト能ハザル場合ニ於テハ其子人ヲ指シテ父又ハ母ナリト訴ルコトヲ得可カラス
第八巻 養子ノ事及ヒ「チュテール、ヲヒシュズ」(自カラ好テ他人ノ子ヲ仮ニ養ヒ其後見ヲ為ス事)ノ事〔千八百三年第三月二十三日決定第四月二日布告〕
第一章 養子ノ事
第一款 養子ヲ為ス事及ヒ養子ヲ為ス事ヨリ生スル諸件
第三百四十三条 男女ヲ問ハス其齢五十歳以上ニシテ子又ハ嫡出ノ卑属ノ親ナク且養子トナル可キ者ヨリ十五歳以上ノ年長ナル者ニ非レハ養子ヲ為スコトヲ得ス
第三百四十四条 一人ニシテ親トナル可キ夫婦ノ外二人以上ノ養子トナル可カラス
第三百六十六条ニ記シタル場合ノ外夫又ハ婦ハ其配偶者ノ承諾ヲ得ルニ非レバ養子ヲ為スコトヲ得ス
第三百四十五条 養子トナル可キ者ハ幼年ノ時六年以上ノ時間絶ヘズ養親トナル可キ者ヨリ資助照管ヲ受ケ又ハ戦闘及ヒ水火ノ厄災ノ時養親トナル可キ者ノ性命ヲ救ヒシ事アルヲ必要トス但シ戦闘及ヒ水火ノ厄災ノ時養親トナル可キ者ノ性命ヲ救ヒシ者ヲ養子ト為スニハ養親トナル可キ者丁年ニシテ子及ヒ嫡出ノ卑属ノ親ナク且養子ト為ル可キ者ヨリ高年ニシテ配偶者アル時ハ其配偶者具養子ヲ為スヲ承諾シタルコトヲ以テ足レリトス
第三百四十六条 何レノ場合ニ於テモ養子トナル可キ者未タ丁年ニ至ラサル時ハ養子トナルコトヲ得ス○若シ養子トナル可キ者ノ父母共ニ生存シ又ハ父母ノ中一人生存シテ己レノ齢未タ満二十五歳ニ至ラサル時ハ其者ヨリ其父母又ハ父母中ノ生存スル者ニ養子トナル可キコトノ許諾ヲ乞フ可シ又二十五歳以上ノ者ナル時ハ父母ノ誨喩ヲ得可キコトヲ求ム可シ
第三百四十七条 養子トナリタル者ハ己レノ姓ニ養親ノ姓ヲ帯用ス可シ
第三百四十八条 養子トナリタル者ハ猶其実家ノ指揮ヲ受ケ且実家ニ於ケル諸般ノ権利ヲ保ツ可シ但シ左ノ者等ハ互ニ婚姻ヲ結フコトヲ禁ス
養親ト養子トノ間及ヒ養親ト養子ノ卑属ノ親トノ間並ニ養子ト養親ノ卑属ノ親トノ間
養子トナリシ者等ノ間
養子ト養親ノ養子ヲ為シタル後産ミタル子トノ間
養子ト養親ノ配偶者トノ間及ヒ養親ト養子ノ配偶者トノ間
第三百四十九条 法律ニ定メタル場合ニ於テ子タル者其父母ニ養料ヲ給ス可ク又父母ヨリ其子ニ養料ヲ給ス可キ天成ノ義務ハ養親ト養子トノ間ニ於テモ亦互ニ之ヲ行フ可シトス
第三百五十条 養子ハ養親ノ親族ノ遺物相続ヲ為スノ権ナシ然トモ養親ノ遺物相続ヲ為スニ於テハ猶其実子タルト同一ノ権ヲ有ス可ク且養子トナリシ後ニ養親ノ実子ヲ挙ケタル時ト雖トモ亦其遺物相続ヲ為スノ故障ナシトス
第三百五十一条 若シ養子ノ嫡出ノ卑属ノ親ナク死去セシ時曽テ養親ヨリ養子ニ与ヘタル物又ハ養子ノ養親ヨリ遺物相続トシテ得タル物其侭現存スル時ハ養親又ハ其卑属ノ親之ヲ取返ス可キノ権アリ但シ此権ト他人ノ得タル権ト相触ルルコトナク且ツ養親又ハ其卑属ノ親此権ヲ行フニ付テハ其取返シタル財産ノ割合ヲ以テ其養子ノ負債ヲ償フ可シ
前ニ記シタル物件ノ外養子ノ有シタル財産ハ其死去ノ時其実家ノ父母及ヒ親族ニ属ス可シ又其実家ノ父母及ヒ親族ハ前ニ記シタル物件ニ付テモ養親ノ卑属ノ親ニ非サル遺物相続人ヨリ先ニ之レヲ得可キノ権アリ
第三百五十二条 若シ養親ノ生存中ニ養子ノ死去シ其後其養子ノ遺留セシ子及ヒ卑属ノ親モ亦子孫ナク死去シタル時ハ其養親前条ニ記セシ如ク曽テ養子ニ与ヘタル物件ヲ取返ス可シ然トモ此権ハ養親ノ一身ノミニ有スルモノニシテ其遺物相続人ハ卑属ノ親ト雖トモ其権ヲ譲リ受ク可カラス
第二款 養子ヲ為スノ法式
第三百五十三条 養子ヲ為サントスル者及ヒ養子トナラントスル者ハ相共ニ養子ヲ為サントスル者ノ住所ノ最下等裁判所ノ裁判役ノ面前ニ至リ双方互ニ養子ノ事ヲ承諾スルノ証書ヲ記ス可シ
第三百五十四条 此証書ノ副本ハ其時ヨリ十日内ニ先ニ願出タル者ヨリ養子ヲ為ス者ノ住所ヲ管轄スル下等裁判所ノ「プロキュリウル、アンペリアル」ニ出シ其裁判所ノ許可ヲ得可キ求メヲ為ス可シ
第三百五十五条 裁判役ハ会議ノ室ニ集会シ相当ノ問糾ヲ為シタル後養子ノ事ニ付キ法律ニテ定メシ規則ニ循ヒシヤ又養子ヲ為ントスル者ニ悪名ナキヤヲ取調ブ可シ
第三百五十六条 裁判役ハ「プロキュリウル、アンペリアル」ノ述フル所ヲ聴キ別ニ裁判ノ式ヲ用ヒス且別ニ其主意ヲ言フコトナク唯養子ヲ允許ス又ハ養子ヲ允許セスト言渡ス可シ
第三百五十七条 下等裁判所ノ言渡ヨリ一月内ニ先ニ訴出タル者ヨリ其言渡書ヲ上等裁判所ニ出ス可シ但シ上等裁判所ニ於テハ下等裁判所ト同一ノ方法ヲ似テ裁判ヲ為シ其趣意ヲ言フコトナク唯々下等裁判所ノ言渡ヲ可トス又ハ下等裁判所ノ言渡ヲ改ムト言渡シ次テ之レニ因リ養子ヲ允許ス又ハ養子ヲ允許セスト言渡ス可シ
第三百五十八条 上等裁判所ニテ養子ヲ為ス可キコトヲ允許スル言渡ハ衆人ノ面前ニ於テ之ヲ為シ裁判所ニテ相当ト思量スル場所ニ其言渡書ノ写ノ相当ノ数ヲ貼附ス可シ
第三百五十九条 其言渡ノ時ヨリ三月内ニ養子トナリタル者又ハ養子ヲ為シタル者ノ願ニテ養子ヲ為シタル者ノ住所ノ民生ノ証書ノ簿冊ニ養子ノ事ヲ記載ス可シ
此記載ヲ為スニハ上等裁判所ノ言渡書ノ法ニ適シタル写ヲ点視スルコトヲ必要トス但シ三月ノ定期内ニ其記載ヲ願フコトナキ時ハ養子ノ事ヲ允許シタル言渡ヲ取消ス可シ
第三百六十条 若シ養子ヲ為サントスル者養子ノ契約ヲ為ス可キノ意ヲ表シタル証書ヲ最下等裁判所ノ裁判役ノ面前ニテ記ルシ之ヲ下等裁判所ニ出セシ後下等裁判所ニテ未タ決定ノ言渡ヲ為サル前養子ヲ為サントスル者死去シタル時ハ猶ホ其事ノ審判ヲ為シ允許ス可キノ道理アル時ハ之ヲ允許ス可シ若シ養子ヲ為サントスル者ノ遺物相続人等養子ヲ為ス可キコトヲ許ス可カラスト思量スル時ハ「プロキュリウル、アンペリアル」ニ其養子ヲ為ス事ヲ拒止スルノ書類ヲ渡シ且其意ヲ述ルコトヲ得可シ
第二章 「チュテール、ヲヒシュウズ」ノ事
第三百六十一条 五十歳以上ニシテ子及ヒ嫡出ノ卑属ノ親ナキ者幼者ヲ法律上ノ名義ニテ己レニ依附セシメント欲スル時ハ其幼者ノ父母又ハ父母中ノ生存スル者或ハ父母共ニナキ時ハ其親族ノ会議又ハ其幼者ニ分明ナル親族アラサル時ハ其幼者ノ住スル孤院ノ支配人又ハ其住地ノ官吏ノ許諾ヲ得テ其子ノ「チュトウルヲヒシュウ」(自カラ好テ人ノ子ヲ養ヒ其子ノ後見ヲナス人)トナルコトヲ得可シ
第三百六十二条 夫又ハ婦ハ其配偶者ノ承諾ヲ得スシテ「チュトウル、ヲヒシュウ」トナルコトヲ得ス
第三百六十三条 幼者ノ住所ノ最下等裁判所ノ裁判役ハ「チュテール、ヲヒシュウズ」ニ管シタル請求及ヒ承諾等ヲ調書ニ記ス可シ
第三百六十四条 「チュテール、ヲヒシュウズ」ヲ受クル者ハ十五歳以下ノ幼者ニ限ル可シ
此「チュテール、ヲヒシュウズ」ヲ為ス時ハ其幼者ノ養育ヲ為シ且生計ヲ為スノ道ヲ得セシムルコト当然ナリトス但シ此規則ト別段ノ契約ト相触ルルコトナカル可シ
第三百六十五条 其幼者財産ヲ所有シ且以前後見ヲ受ケシ者タル時ハ其財産支配ノ事及ヒ其身ヲ指揮スルノ権ヲ其「チュトウル、ヲヒシュウ」ニ移ス可シ然トモ此「チュトウル、ヲヒシュウ」ハ其幼者ヲ養育スルノ費用ヲ其幼者ノ入額中ヨリ用フ可カラス
第三百六十六条 若シ「チュトウル、ヲヒシュウ」幼者ヲ養育シ始メタル時ヨリ全周五年ノ後ニ至リ其幼者ノ未タ丁年ニ至ラサル中自カラ死ス可キコトヲ先知シ遺嘱書ヲ以テ其幼者ヲ養子ト為サントスル時其「チュトウル、ヲヒシュウ」ニ嫡出ノ子ナキニ於テハ其遺嘱書ニ循ヒ之ヲ養子ト為スコトヲ得可シ
第三百六十七条 「チュトウル、ヲヒシュウ」ノ幼者ヲ養育シ始メタル時ヨリ五年ニ至ルト至ラサルトヲ問ハス其幼者ヲ養子ト為サントスルコトナク死去セシ時ハ幼者ニ其幼年ノ時間生計ヲ為ス可キ物件又ハ金額ヲ与フ可シ但シ其与フ可キ金額又ハ財産ノ種類ニ付キ曽テ契約ヲ為シ定メシコトナキ時ハ其死者ノ代人ト其幼者ノ代人ト熟議シテ之ヲ定ム可シ若シ熟議セスシテ訴訟ヲ為シタル時ハ裁判所ヨリ之ヲ定ム可シ
第三百六十八条 幼者ノ丁年ニ至リシ時其「チュトウル、ヲヒシュウ」之ヲ養子ト為サント欲シ其幼者承諾シタル時ハ前章ニ定メタル法式ニ循ヒ之ヲ養子ト為ス可シ但シ養子ト為シタル事ヨリ生ス可キ諸件モ亦前章ニ記スル所ト同一ナリトス
第三百六十九条 幼者丁年ニ至リシ時ヨリ三月内ニ養子トナル可キコトヲ「チュトウル、ヲヒシュウ」ニ求メタルト雖トモ其求ムル所ヲ得ルコトナク且其幼者生計ヲ為ス可キノ道ナキ時ハ其「チュトウル、ヲヒシュウ」其幼者ニ生計ノ道ヲ得セシムルコト能ハサルニ因リ幼者ニ償ヲ為ス可キノ言渡ヲ受ク可シ
其償ハ幼者ヲシテ生計ヲ得セシムルニ足ル可キ資助ヲ与フルニアリトス但シ此償ト曽テ此ノ如キ場合ヲ先知シテ為シタル所ノ契約ト相触ルルコトナカル可シ
第三百七十条 幼者ノ財産ヲ支配スルノ権ヲ有シタル「チュトウル、ヲヒシュウ」ハ常ニ其使費ヲ算計ス可シ
第九巻 親ノ権〔千八百三年第三月二十四日決定第四月三日布告〕
第三百七十一条 子タル者ハ其年次ヲ問ハス父母ヲ尊敬ス可シ
第三百七十二条 子ハ丁年ニ至ル迄又ハ後見ヲ免ルルニ至ル迄父母ノ権ニ従フ可シ
第三百七十三条 父母ノ婚姻ヲ結フ時間ハ父ノミ其権ヲ行フ可シ
第三百七十四条 子ハ満十八歳ニ至ルノ後義勇兵ノ召募ニ加ハル為メノ外父ノ許可ヲ得スシテ其親ノ家ヲ去ル可カラス
第三百七十五条 父其子ノ行状ニ付キ至重ナル戻意ノ事アル時ハ其子ヲ懲治スルニ左ノ方法ヲ用フ可シ
第三百七十六条 若シ子ノ未タ十六歳ニ至ラサル時ハ其父一月ニ過ザル時間其子ヲ禁錮セシムルコトヲ得可シ但シ之ガ為メ下等裁裁判ノ上席人ハ父ノ求メニ従ヒ必ス其子ヲ捕捉スル命令書ヲ渡ス可シ
第三百七十七条 十六歳ノ齢ニ至リシ時ヨリ丁年ニ至リ又ハ後見ヲ免ルルニ至ル迄ノ時間ハ父ヨリ其子ヲ六月ニ過サル時間禁錮スルノ願ヲ為スコトヲ得可シ但シ此事ノ為メ父ヨリ前条ニ記シタル裁判所ノ上席人ニ其願ヲ為シ其上席人ハ「プロキュリウル、アンペリアル」ト商議シタル後其子ヲ捕捉スルノ命令書ヲ渡シ又ハ之ヲ渡スコトヲ允許セサルコト自由ナリトス又其上席人ハ其捕捉ノ命ヲ下シタル時ト雖トモ父ヨリ願フタル禁錮ノ期日ヲ減スルコトヲ得可シ
第三百七十八条 何レノ場合ニ於テモ捕捉ノ命令書ノ外ハ書類及ヒ裁判ノ法式ヲ用フルコトナカル可シ但シ捕捉ノ命令書ニハ其捕捉ヲ為スノ縁由ヲ記スルコトナカル可シ
父ハ其子ヲ禁錮スル時間ノ費用ヲ償ヒ且相当ノ養品ヲ給ス可キ証書ヲ記シ之ニ姓名ヲ手署ス可シ
第三百七十九条 父ハ己レノ定メタル禁錮ノ時間又ハ裁判所ニ願フタル禁錮ノ時間ヲ減スルコトヲ得可シ○若シ其子禁錮ヲ免レシ後再ヒ不良ノ所行ヲ為ス時ハ前ノ数条ニ記スル所ノ如ク再ヒ禁錮ヲ言渡ス可シ
第三百八十条 父ノ再婚ヲ結ヒタル時ハ前婚ノ子十六歳以下ノ齢ト雖トモ之ヲ禁錮セシムルニ付キ第三百七十七条ニ記スル所ニ循フ可シ
第三百八十一条 夫ノ死去シテ再婚セザル婦其子ヲ禁錮セシメント為スニハ夫ノ最親ノ親族二員ノ承諾ヲ得且第三百七十七条ニ記スル所ニ循ヒ願出スコトヲ必要トス
第三百八十二条 子其身ニ属スル財産ヲ所有シ又ハ自カラ職業ヲ行フ時ハ十六歳以下ノ者ト雖トモ之ヲ禁錮セシムルニ第三百七十七条ニ記スル所ノ規則ニ循フ可シ
禁錮ヲ受ケシ子ハ上等裁判所ノ「プロキュリウル、ゼ子ラル」ニ禁錮ノ赦宥ヲ請フノ書ヲ出スコトヲ得可シ其時「プロキュリウル、ゼ子ラル」ハ下等裁判所ノ「プロキュリウル、アンペリアル」ヲシテ其情実ヲ告ケシメ己レノ説ヲ上等裁判所ノ上席人ニ告知ス可シ其上席人ハ父ニ其子ノ禁錮ヲ止メシムルノ意ナキヤヲ問糾セシ後諸般ノ証件ヲ得タル上ニテ下等裁判所ノ上席人ノ言渡ヲ廃棄シ又ハ更改スルコトヲ得可シ
第三百八十三条 第三百七十六条第三百七十七条第三百七十八条第三百七十九条ニ記スル所ハ法ニ循ヒ私生ヲ嫡出ト為シタル子ノ父母ニモ亦適当シテ用フ可シ
第三百八十四条 夫婦ノ婚姻ヲ結ヒタル間ハ夫又婚姻ヲ解キタル後ハ夫婦中ノ後ニ生存スル者ニテ其子ノ満十八歳ニ至ル迄又ハ十八歳以下ニテ其子ノ後見ヲ免ルルニ至ル迄ノ時間其子ノ財産ノ入額ヲ得ルノ権アリ
第三百八十五条 此ノ如ク子ノ財産ノ入額ヲ得ル者ハ左ノ諸件ヲ担当【ヒキウケ】ス可シ
第一 総テ人ノ財産ノ入額ヲ得ル者ノ為ス可キ義務(第六百条以下ニ詳ナリ)
第二 子ノ家産ニ準シテ教育ヲ為ス事
第三 子ノ負債ノ余額ヲ償フ事及ヒ負債ノ息銀ヲ償フ事
第四 子ノ最後ノ疾病中ノ費用及ヒ埋葬ノ費用ヲ償フ事
第三百八十六条 離婚ヲ受ケタル夫又ハ婦ハ子ノ財産ノ入額ヲ得可カラス又婦ノ再婚ヲ為タル時モ亦之ヲ得可カラス
第三百八十七条 子ノ父母ニ管係ナク自己ノ職業ニ因リ得タル財産又ハ父母ノ入額ヲ得可カラサル契約ヲ以テ他人ノ其子ニ附与シ又ハ遺留シタル財産ハ父母其入額ヲ得可カラス
第十巻 幼年ノ事、後見ノ事、後見ヲ免ルル事〔千八百三年第三月二十六日決定第四月五日布告〕
第一章 幼年ノ事
第三百八十八条 男女ヲ論セズ未タ満二十一歳ニ至ラサル者ヲ幼者トス
第二章 後見ノ事
第一款 父母ノ後見
第三百八十九条 婚姻ヲ結ヒタル間ハ夫其幼年ノ子ノ財産ヲ支配ス可シ
子ノ財産中ニテ父其入額ヲ所得ト為ササル物ニ付テハ其入額及ヒ其所有ノ権ヲ其子ニ属スルモノトシ又父其入額ヲ所得ト為ス可キ物ニ付テハ其所有ノ権ノミヲ其子ニ属スルモノトス
第三百九十条 夫婦中ニテ死去シ又ハ准死ヲ受ル者アツテ婚姻ヲ解シ後ハ他ノ一方ノ者後見ヲ免レサル幼年ノ子ノ後見ヲ為スノ権アリ
第三百九十一条 然トモ父ヨリ後ニ生存ス可キ母其子ノ後見ヲ為スニ付キ父其輔佐人ヲ任シタル時ハ其母其輔佐人ノ説ヲ得スシテ後見ニ管シタル証書ヲ記ス可カラス
若シ父ヨリ其輔佐人ノ管渉ス可キ証書ノ種類ヲ特ニ定メタル時ハ後見ヲ為ス母其他ノ証書ヲ記スルニ付キ其輔佐人ノ説ヲ得ルニ及ハズ
第三百九十二条 其輔佐人ヲ任スルニハ左ノ二箇ノ方法中ノ一ヲ用フ可シ
第一 遺嘱ノ証書ヲ以テ為ス事
第二 書記官立会ノ上最下等裁判所ノ裁判役ノ面前又ハ「ノテイル」数人ノ面前ニ於テ陳述スル事
第三百九十三条 若シ夫ノ死去セシ時其婦懐胎シタルニ於テハ親族ノ会議ニテ其未タ出産セザル子ノ「キュラトウル」ヲ任ス可シ子ノ出産シタル後ハ其母後見人トナリ「キュラトール」後見人ノ監察者トナルノ権アリ
第三百九十四条 母ハ必ス後見ノ任ヲ受ルヲ承諾スルニ及ハス然トモ特ニ後見人ヲ撰任セシムルニ至ル迄ハ後見ノ諸務ヲ行フ可シ
第三百九十五条 後見ヲ為ス母再婚セント欲スル時ハ婚姻ノ証書ヲ記スル前親族ノ会議ヲ為サシメ其会議ニテ後見ノ職ヲ日後猶其母ニ任ス可キヤ否ヲ定ム可シ
若シ親族ノ会議ヲ為サシメサル時ハ其母後見ヲ為スノ権ヲ失フ可シ又再婚ノ夫ハ其婦不相当ニ後見ヲ行フタルヨリ生セシ諸件ニ付キ婦ト相連帯シテ責ニ任ス可シ
第三百九十六条 母ヨリ相当ニ親族ノ会議ヲ為サシメ其会議ニテ日後猶其母ニ後見ヲ為スコトヲ任シタル時ハ必ス其再婚ノ夫ヲ其後見ノ副職ニ任ス可シ但シ其夫ハ婦ノ婚姻ノ後行フタル後見ノ諸事ニ付キ相連帯シテ責ニ任ス可シ
第二款 父母ヨリ任ジタル後見
第三百九十七条 親族タルト否トヲ問ハス後見人ヲ撰ムノ権ハ父母ノ中後ニ死去スル者ニ属ス可シ
第三百九十八条 此権ヲ行フニ付テハ第三百九十二条ニ記スル所ノ法式ニ循ヒ且此後ニ記スル所ノ格別ノ規則ヲ守ル可シ
第三百九十九条 母再婚ヲ為シ前婚ノ子ノ後見ノ任ヲ受ケザル時ハ其母其子ノ後見人ヲ撰ム可カラス
第四百条 母再婚ヲ為シテ前婚ノ子ノ後見ノ任ヲ受ケ其死去セントスル時其子ノ後見人ヲ撰ミタルト雖トモ親族会議ニテ之ヲ承諾シタルニ非レハ其撰任ヲ確定スルコトヲ得ス
第四百一条 父又ハ母ヨリ撰任ヲ得タル後見人ハ必ス其職ニ任スルコトヲ承諾スルニ及ハス但シ其人父母ヨリ別ニ撰任ヲ得スト雖トモ親族ノ会議ヨリ其撰任ヲ得可キ者タル時ハ格別ナリトス
第三款 尊属ノ親ニテ後見ヲ為ス事
第四百二条 父母ノ中後ニ死去セシ者ヨリ幼者ノ後見人ヲ撰ミシコトナキ時ハ其幼者ノ本宗ノ祖父其後見ヲ為スノ権アリ又本宗ノ祖父ナキ時ハ其外族ノ祖父其後見ヲ為スノ権アリ又祖父ナキ時ハ曽祖父ニ其権アリトス但シ同級ノ尊属ノ親ノ中ニ於テハ本宗ノ親外族ノ親ヨリ先ニ後見人トナルノ権アリ
第四百三条 幼者ノ本宗ノ祖父及ヒ外族ノ祖父ノ共ニアルコトナク本宗ノ曽祖父二人アリテ互ニ後見ノ職ヲ争フ時ハ其二人中ニテ幼者ノ父ノ本宗ノ祖父其後見ノ任ヲ受ク可シ
第四百四条 又外族ノ曽祖父二人ノ間ニ互ニ後見ヲ争フコトアル時ハ親族ノ会議ニテ其二人中ノ一人ヲ後見ノ職ニ任ス可シ
第四款 親族ノ会議ニテ任シタル後見
第四百五条 幼年ニシテ未タ後見ヲ免レサル子父母及ヒ父母ヨリ任シタル後見人ナク又尊属ノ男ノ親ナク且前ニ記シタル後見人ノ撰任ヲ受ケタル者後ニ記スル所(第四百二十七条第四百四十二条ヲ云フ)ノ如ク後見ノ職ニ任スルコト能ハス又ハ後見ノ職ヲ相当ニ辞シタル時ハ親族ノ会議ニテ其子ノ後見人ヲ任ス可シ
第四百六条 親族ノ会議ハ幼者ノ親族又ハ幼者ノ債主又ハ其他幼者ニ管係アル者ノ求メニ従ヒ又ハ幼者ノ住所ノ最下等裁判所ノ裁判役ヨリ其職務ヲ以テ求ムル所ニ従ヒ之ヲ集会ス可シ○何レノ人ト雖トモ後見人ヲ任ス可キ原由ヲ其裁判役ニ述ルコトヲ得可シ
第四百七条 親族ノ会議ハ裁判役ヲ除クノ外幼者ノ住所ノ「コムミユーン」ノ内又ハ其住所ヨリ二「ミリヤメートル」ノ距離内ニ在ル血属又ハ姻属ノ親六員ヨリ成ル可シ但シ其六員ノ中半ハ本宗ノ親ニシテ半ハ外族ノ親タル可ク且其親族ハ本宗外族共ニ親近ノ順序ニ従フ可シ
同級ノ親ニ於テハ血属ノ親姻属ノ親ヨリ先ニ其撰任ヲ受ケ又同級ノ血属中ニ於テハ高年ノ親若年ノ親ヨリ先ニ其撰任ヲ受ク可シ
第四百八条 幼者ト父母ヲ同スル兄弟及ヒ姉妹ノ夫ハ前条ニ記シタル定員ニ循フニ及ハズ但シ此等ノ者ノ数六人以上ナル時ハ幼者ノ尊属ノ親ノ寡婦及ヒ後見ノ職ヲ相当ニ辞シタル尊属ノ親ト共ニ親族ノ会議ヲ為シ他ノ親族ヲシテ参セシムルニ及ハズ
若シ其父母ヲ同スル兄弟及ヒ姉妹ノ夫ノ員六人ニ充サル時ハ其他ノ親族ヲ以テ其缺ヲ補ヒ親族ノ会議ヲ為サシム可シ
第四百九条 本宗及ヒ外族ノ血属又ハ姻属ノ親幼者ノ住所ノ地又ハ第四百七条ニ記シタル距離内ニ在ル者ノ数定員ニ充サル時ハ最下等裁判所ノ裁判役ヨリ更ニ隔遠ノ地ニ居住スル血属又ハ姻属ノ親又ハ幼者ノ住所ノ「コンミウン」内ニテ幼者ノ父母ト平生親交シタル者ヲ親族会議ニ参セシメ其缺ヲ補ハシム可シ
第四百十条 幼者ノ住所ノ地ニ在ル血属又ハ姻属ノ親ノ数定員ニ充ル時ト雖トモ最下等裁判所ノ裁判役ハ其血属又ハ姻属ノ親ヨリ更ニ近親ノ血属及ヒ姻属ノ親又ハ同級ノ血属及ヒ姻属ノ親ノ更ニ隔遠ノ地ニ居住スル者ヲシテ親族会議ニ参セシムルコトヲ得可シ但シ此場合ニ於テハ幼者ノ住所ノ地ニ在ル親族ニテ親族会議ノ中ニ加ハル可キ者ノ数ヲ減シ前ニ定メタル親族会議ノ定員ニ過ルコトナカラシム可シ
第四百十一条 親族会議ニ出席ス可キ期限ハ最下等裁判所ノ裁判役之ヲ定ム可シ但シ其会議ニ参ス可キ親族等皆幼者ノ住所ノ「コムミウン」内ニ居住シ又ハ二「ミリヤメートル」ノ距離内ニ居住スル時ハ呼出書ヲ送達シタル日ト其会議ヲ為サント定メタル日トノ間ニ必ス三日ヨリ少カラサル時間ヲ隔ツ可シ
又親族会議ニ参ス可キ者ノ中其距離外ニ居住スル者アル時ハ三「ミリヤメートル」毎ニ一日ヲ増ス可シ
第四百十二条 此ノ如ク招集ヲ受ケタル血属及ヒ姻属ノ親又ハ朋友ハ自カラ会議ニ出席シ又ハ特ニ任シタル名代人ヲ出ス可シ
一人ニテ数人ノ名代人トナルコトヲ得ス
第四百十三条 血属及ヒ姻属ノ親又ハ朋友ノ親族会議ニ出席ス可キ招集ヲ受ケシ時正シキ弁解ノ理ナクシテ出席セサル時ハ最下等裁判所ノ裁判役ヨリ五十「フランク」ニ過ザル罰金ノ言渡ヲ受ク可シ但シ其言渡ニ服セスト雖トモ更ニ上等裁判所ニ訴出ス可カラズ
第四百十四条 若シ親族会議ヲ為ス可キ定期ニ至リ正シキ弁解ノ理アリテ出席セサル者アル時其者ノ来ルヲ待ツ事又ハ之ニ代テ他人ヲ任スル事ノ至当ナルニ於テハ総テ幼者ノ利益ノ為メ必要ナル事アル時ノ如ク最下等裁判所ノ裁判役其親族会議ノ集会ヲ日ヲ定メテ延期セシメ又ハ日ヲ定ムルコトナク延期セシムルコトヲ得可シ
第四百十五条 最下等裁判所ノ裁判役ヨリ親族会議ヲ為ス可キ場所ヲ別段ニ撰マサル時ハ当然其裁判役ノ家ニテ其会議ヲ為ス可シ○其会議ニ参ス可キ人員四分ノ三以上出席ヲ為ササレハ集会シテ決議ヲ為ス事ヲ得ス
第四百十六条 其裁判役ハ親族会議ノ上席人ニシテ其会議ニ加ハリ可否ヲ述ルコトヲ得可ク且議員ノ決議ヲ為ス時可トスル者ノ数ト否トスル者ノ数ト相均シキ時ハ其裁判役ノ説ニ循ヒ之ヲ定ム可シ
第四百十七条 若シ仏蘭西国内ニ居住スル幼者仏蘭西ノ蕃属地ニ財産ヲ所有シ又ハ仏蘭西ノ蕃属地ニ居住スル幼者仏蘭西国内ニ財産ヲ所有スル時ハ此等ノ財産ノ支配ノ為メ特ニ「プロチュトウル」(真ノ後見ノ任ヲ受スシテ幼者ノ財産ヲ支配スル者ヲ云)ヲ任ス可シ
此場合ニ於テハ後見人ト「プロチュトウル」トハ互ニ相管スルコトナク且一方ノ行ヒシ事ニ付キ他ノ一方ノ者其責ニ任スルコトナシ
第四百十八条 後見人面ニ後見ノ職務ノ任ヲ受ケシ時ハ其任ヲ受ケシ日ヨリ其職務ヲ行フ可シ若シ然ラサル時ハ後見ノ職ヲ任シタル告知アリシ日ヨリ其職務ヲ行フ可シ
第四百十九条 後見ノ職ハ後見人ノ一身ノミニ付キ任スル所ノモノトシ之ヲ其相続人ニ移ス可カラス○然トモ其相続人ハ後見人ノ生存中ニ行ヒシ諸事ニ付キ其責ニ任ス可ク且其相続人丁年ナル時ハ新タニ後見人ヲ任スルニ至ル迄ノ時間仮ニ後見ノ事務ヲ行フ可シ
第五款 後見人ノ監察者
第四百二十条 如何ナル後見人アル時ト雖トモ親族会議ニテ其監察者ヲ任ス可シ
其職務ハ後見人ノ利益ト幼者ノ利益ト相触ルルコトアル時幼者ノ利益ノ為メ其処置ヲ為スニアリトス
第四百二十一条 此章ノ第一款第二款第三款ニ記シタル所ノ者後見ノ任ヲ受ケタル時ハ其職務ヲ行ヒ始ムル前ニ第四款ニ記ルシタル如ク親族会議ヲ為サシメ其監察者ヲ任セシム可シ
後見人此法式ニ循ハスシテ其職務ヲ行ヒ始メシ時ハ幼者ノ親族又ハ幼者ノ債主又ハ其他幼者ニ管係アル者ノ求メニ従ヒ又ハ最下等裁判所ノ裁判役ノ職務ヲ以テ親族会議ヲ為サシメ若シ其後見人ニ不正ノ意アル時ハ其会議ニテ後見ノ職ヲ退カシム可シ但シ此規則ト幼者ニ償フ可キ償額ト相触ルルコトナカル可シ
第四百二十二条 前条ニ記シタル以外ノ者後見ノ職ニ任シタル時ハ之ト同時ニ其監察者ヲ任ス可シ
第四百二十三条 如何ナル場合ニ於テモ後見人ハ其監察者ヲ任スルニ辞ヲ参フルコト能ハス但シ後見人ノ監察者トナル可キ者ハ幼者ト父母ヲ同スル兄弟中ヨリ之ヲ撰ミタル時ノ外本宗及ヒ外族中ニテ後見人ノ所属ニ非サル族中ノ者ヲ撰ム可シ
第四百二十四条 後見人ノ監察者ハ後見ノ職ノ空位トナリ又ハ後見人ノ失踪セシ時其侭直チニ後見人トナル可キノ権ナシ但シ此場合ニ於テハ其監察者新タニ後見人ヲ任セシム可キ処置ヲ為ス可シ若シ此規則ニ背キテ幼者ノ為メ損害アル時ハ其償ヲ出ス可キノ言渡ヲ受ク可シ
第四百二十五条 後見人ノ監察者ノ職務ハ後見人ノ職務ト同時ニ終ル可シ
第四百二十六条 此章ノ第六款第七款ノ規則ハ後見人ノ監察者ニモ亦適当シテ用フ可シ然トモ後見人ハ其監察者ヲ退任セシムルノ処置ヲ為ス可カラス又監察者ヲ退任セシムルカ為メ集会シタル親族会議ノ中ニ辞ヲ参フ可カラス
第六款 後見ノ職ヲ辞シ得可キ原由
第四百二十七条 左ノ数人ハ後見ノ職ヲ辞スルコトヲ得可シ
千八百四年第五月十八日ノ法律ノ第三章第五章第六章第八章第九章第十章第十一章ニ記スル所ノ人(皇族、陸軍総督、海軍総督、参議員、集議上院下院ノ議員等ヲ云フ)
「クウルドカツサシヲン」ノ上席人及ヒ裁判役並ニ其裁判所ノ「プロキュリウル、ゼ子ラル」及ヒ「アボカーゼ子ラル」(「ミニステールピュブリック」中ノ官吏)「プレヘー」(「デパルトマン」ノ管轄官)
幼者ノ住所ノ「デパルトマン」外ノ地ニテ公務ヲ行フ者
第四百二十八条 現ニ服役ニ充ツル兵士及ヒ仏蘭西国外ニテ皇帝ヨリ任シタル職務ヲ行フ者モ亦後見ノ職ヲ辞スルコトヲ得可シ
第四百二十九条 若シ皇帝ヨリ職務ノ任ヲ受ケタル公正ノ証ナキニ因リ争論ノ生スル時ハ後見ノ職ニ任スルコトヲ辞セント欲スル者其所属官局ノ執政ヨリ渡シタル証書ヲ出サザレバ後見ノ職ヲ辞スル許シノ言渡ヲ得可カラス
第四百三十条 前数条ニ記シタル者後見ノ任ヲ受ルコトヲ辞シ得可キ公務ニ任シタル後ニ後見ノ職ニ任スルコトヲ承諾シタル時ハ後ニ其公務ヲ述ヘテ後見ノ職ヲ辞スルコトヲ得ス
第四百三十一条 後見ノ任ヲ受ケ其職ヲ行ヒシ後公務ニ任シタル者其後見ノ職ヲ保有スルコトヲ欲セサル時ハ其公務ニ任シタル日ヨリ一月内ニ親族会議ヲ為サシメ他ノ後見人ヲ撰マシム可シ
其者公務ノ任ノ満チタル後自カラ再ヒ後見ノ職ニ任スルコトヲ求メ又ハ其者ニ代リ後ニ後見人トナリシ者其職ヲ退ク可キコトヲ求メタル時ハ親族会議ニテ前ノ後見人ヲ其職ニ復サシムルコトヲ得可シ
第四百三十二条 幼者ノ血属又ハ姻属ノ親ニ非サル者ハ其幼者ノ住所ヨリ四「ミリヤメートル」ノ距離内ニ後見ノ職ヲ行ヒ得可キ血属及ヒ姻属ノ親ノアラサル時ノ外強テ之ヲ後見ノ職ニ任スルコトヲ得可カラス
第四百三十三条 満六十五歳以上ノ者ハ後見ノ職ニ任スルコトヲ辞シ得可シ○既ニ後見ノ職ニ任シタル者ハ七十歳ニ至リシ時其後見ノ職ヲ退クコトヲ得可シ
第四百三十四条 重疾ニ罹ルノ確証アル者ハ後見ノ職ニ任スルコトヲ辞シ得可シ
又既ニ後見ノ職ニ任シタル後重疾ニ罹ル時ハ其職ヲ退クコトヲ得可シ
第四百三十五条 如何ナル人ト雖トモ二箇ノ後見ノ職ニ任シタル時ハ更ニ他ノ後見ノ任ヲ辞スルコトヲ得可シ
夫及ヒ父タル者既ニ一箇ノ後見ノ職ニ任シタル時ハ更ニ他ノ後見ノ任ヲ受ルニ及バス但シ己レノ子ノ後見ニ付テハ格別ナリトス
第四百三十六条 五人ノ嫡出ノ子アル者ハ其子ノ後見ノ外更ニ他ノ後見ノ職ニ任スルコトヲ辞シ得可シ
皇帝ノ兵籍ニ入リ服役ニ充チテ死シタル子ハ此五人ノ子ノ数中ニ算入スルコトヲ得可シ其他ノ死シタル子ハ現ニ生存スル孫ヲ遺留シタルニ非サレハ五人ノ数中ニ算入ス可カラス
第四百三十七条 後見ノ職ヲ行フ時間ニ子ノ出産スルコトアリト雖トモ之ヲ述ベテ後見ノ職ヲ退クコトヲ得ス
第四百三十八条 後見ノ任ヲ受クル者之ヲ任スル親族会議ノ席ニ在ル時ハ其席ニ於テ直チニ其職ヲ辞スルコトヲ述ベ其会議ニテ其評議ヲ為ス可シ若シ其席ニ於テ辞スルコトナキ時ハ共後ニ至リ辞スルコトヲ許サス
第四百三十九条 後見ノ任ヲ受クル者之ヲ任スル親族会議ノ席ニ在ラサル時ハ其職ヲ辞スルコトヲ評議セシム可キ為メ特ニ親族会議ヲ為サシム可シ
其処置ハ其職ニ任スル告知ヲ得タル時ヨリ三日内ニ之ヲ為ス可シ但シ幼者ノ住所ノ地ニ居住セサル者ノ為メニハ其住所ト幼者ノ住所トノ間其路程三「ミリヤメートル」毎ニ一日ヲ増ス可シ○此等ノ期限ヲ過ル時ハ其辞職ノ求メヲ許サス
第四百四十条 親族会議ニテ後見人ノ辞職ヲ肯セサル時ハ後見人裁判所ニ訴出テ其辞職ノ求メノ允許ヲ請フ可シ然トモ其訴訟ノ時間ハ仮ニ後見ノ職ヲ行フ可シ
第四百四十一条 裁判所ニテ後見ノ職ヲ辞スルコトヲ允許シタル時ハ其辞職ヲ肯セサル者訴訟ノ費用ヲ償フ可キノ言渡ヲ受ク可シ若シ裁判所ニテ其辞職ヲ允許セサル時ハ原告人訴訟ノ費用ヲ償フ可キノ言渡ヲ受ク可シ
第七款 後見ノ職ニ任スルコト能サル事、後見ノ職ニ参セシメサル事、後見ノ職ヲ退カシムル事
第四百四十二条 左ノ数人ハ後見人又ハ親族会議ノ員中ニ加ハルコトヲ得ス
第一 父母ヲ除ク外ノ幼者
第二 治産ノ禁ヲ受ケシ者
第三 母及ヒ尊属ノ親ニ非サル女
第四 幼者ノ身分、幼者ノ家産又ハ幼者ノ財産ノ多量ニ付キ自カラ幼者ニ対シ訴訟ヲ為ス者及ヒ其父母幼者ニ対シ同上ノ訴訟ヲ為ス者
第四百四十三条 施体又ハ加辱ノ刑ニ処セラレシ者ハ後見ノ職ニ任スルコトヲ得ス○既ニ後見ノ職ニ任シタル者此等ノ刑ニ処セラレシ時ハ後見ノ職ヲ退ケラル可シ
第四百四十四条 第一 聞ヘアル不行跡ノ人
第二 後見ノ職ヲ行フニ不適当又ハ不信実ノ処置ヲ為シタル証アル者
此等ノ者ハ後見ノ職ニ任スルコト能ハス又既ニ後見ノ職ニ任セシ者ハ其職ヲ退ケラル可シ
第四百四十五条 後見ノ職ニ任スルコト能ハス或ハ後見ノ職ヲ退ケラレタル者ハ親族会議ノ員中ニ加ハルコトヲ得ス
第四百四十六条 後見人ヲ退職セシメントスル時ハ後見人ノ監察者ノ求メニ応シ又ハ最下等裁判所ノ裁判役ヨリ公務ヲ以テ集会セシメタル親族会議ニテ之ヲ言渡ス可シ
其裁判役幼者ノ従兄弟又ハ更ニ近親ノ血属又ハ姻族ノ親一人又ハ数人ヨリ親族会議ヲ集会セシム可キノ求メヲ受ケタル時ハ之ヲ為サシメサルヲ得ス
第四百四十七条 親族ノ会議ニテ後見人トナル可キ者ヲ其職ニ任セサルコト又ハ既ニ任シタル後見人ヲ退職セシムルコトヲ言渡ス書ニハ其言渡ヲ為スノ道理ヲ記ス可シ但シ後見人ノ述ル所ヲ聴キタル後又ハ後見人ヲ呼出シテ猶出席セサル後ニ非レハ其言渡ヲ為ス可カラス
第四百四十八条 後見人親族会議ノ言渡ニ循フタル時ハ其旨ヲ其言渡書ニ附記シ新タニ任シタル後見人直チニ其職務ヲ行ヒ始ルコトヲ得可シ
若シ後見人親族会議ノ言渡ニ循ハサル時ハ後見人ノ監察者親族会議ノ言渡ノ允許ヲ得ンコトヲ下等裁判所ニ訴出ス可シ
但シ其裁判所ノ言渡ニ服セサル者ハ更ニ上等裁判所ニ訴出ルコトヲ得可シ
又後見人トナル可キ者其職ニ任スルコト能ハス又ハ其職ヲ退ケラレシ時ハ其職ヲ得ントスルニ付キ後見人ノ監察者ヲ裁判所ニ呼出スコトヲ得可シ
第四百四十九条 親族ノ会議ヲ為サシメント求メタル血属又ハ姻族ノ親ハ前条ニ記スル所ノ訴訟ニ参スルコトヲ得可シ但シ此訴訟ハ至急ノ吟味ノ法式ヲ以テ之ヲ吟味シ及ヒ裁判ス可シ
第八款 後見人ノ職務
第四百五十条 後見人ハ幼者ノ身体ヲ監察シ且民法ニ管スル諸件ニ付キ幼者ニ代ル可シ後見人ハ懇切ニ幼者ノ財産ヲ支配シ且其支配ノ不良ナルニ付キ幼者ノ為メ生シタル損害ヲ担当ス可シ
後見人ハ幼者ノ財産ヲ買入ルルコトヲ得ス又親族会議ヨリ後見人ノ監察者ヲシテ其後見人ニ別段ノ許ヲ与ヘシム可キコトヲ任シタル時ニ非レハ幼者ノ財産ヲ期限ヲ定メ借入ルルコトヲ得ス又幼者ニ対シ債ヲ討スルノ権又ハ幼者ニ対シ訴訟ヲ為スノ権アル者ヨリ其権ヲ譲リ受ルコトヲ得ス
第四百五十一条 幼者ノ財産ニ封印アル時ハ後見人其任ヲ受ケタルコトヲ相当ノ式ヲ以テ知リ得タル日ヨリ十日内ニ其封印ヲ除去ス可キコトヲ求メ直チニ「ノテイル」ヲシテ其監察者ノ面前ニテ幼者ノ財産ノ目録ヲ記サシム可シ
又幼者ヨリ後見人ニ償フ可キ物件アル時ハ後見人「ノテイル」ノ問糾ニ答ヘテ其幼者ヨリ得可キ物件アル旨ヲ述ベ之ヲ幼者ノ財産ノ目録中ニ記入セシメ且之ヲ記入シタル旨ヲ調書ニ記ス可シ若シ後見人此事ヲ為ササル時ハ幼者ヨリ償ヲ得ルコトヲ得ス
第四百五十二条 後見人ハ幼者ノ財産ノ目録ヲ記シ終リシ時ヨリ一月内ニ官吏ヲシテ其監察者ノ面前ニテ幼者ノ動産ヲ糶売ヲ以テ売払ハシム可ク且其糶売ヲ為スニハ公告又ハ貼附ヲ為シ其由ヲ調書ニ記ス可シ但シ親族会議ニテ品物ノ侭保チ置ク可キコトヲ欲スル財産ハ之ヲ売払フ可カラス
第四百五十三条 父母法律ニ循ヒ幼者ノ財産ノ入額ヲ所得ト為シ且之ヲ品物ノ侭ニテ後ニ幼者ニ渡サント欲スル時ハ之ヲ売払フニ及ハス
此場合ニ於テハ父母己レノ費用ヲ以テ評価人ニ幼者ノ財産ノ真価ヲ算定セシム可シ但シ其評価人ハ後見人ノ監察者ヨリ任スル所ニシテ最下等裁判所ノ裁判役ノ面前ニテ誓ヲ述フ可シ○父母後ニ品物ノ侭ヲ以テ幼者ニ渡スコトヲ得サル動産ハ其価額ヲ幼者ニ渡ス可シ
第四百五十四条 父母ノ後見ヲ除クノ外総テ後見ノ職ヲ行ヒ始メントスル時親族会議ニテ後見人ノ支配スル財産ノ多寡ニ准シ算計書ヲ以テ幼者ノ毎歳ノ費用及ヒ財産支配ノ費用ノ額ヲ定ム可シ
又其算計書ニ後見人其支配ヲ為スニ付キ給料ヲ与フ可キ輔佐人一員又ハ数員ノ助ケヲ得可キヤ否ヤヲ定ム可シ但シ其輔佐人ノ処置ノ不良ナルコトアル時ハ後見人其責ニ任ス可シ
第四百五十五条 親族ノ会議ニテ幼者ノ入額其費用ノ額ヨリ多キコト幾許ニ至ル時ハ後見人其金額ヲ幼者ノ資益トナル可キ方法ニ用フ可キヤヲ定ム可シ但シ幼者ノ為メニ其金額ヲ用フルハ六月内ニ之ヲ為ス可シ若シ此定期間ニ之ヲ為サル時ハ後見人其金額ニ付キ幼者ニ相当ノ息銀ヲ払フ可シ
第四百五十六条 若シ後見人幼者ノ金額幾許ニ至ル時ハ之ヲ幼者ノ資益ノ為メ用フ可キヤヲ親族会議ニテ定メシメタルコトナキ時其後見人前条ニ記シタル定期ニ至リ猶之ヲ用ヒサルニ於テハ金額ノ多少ヲ論セス幼者ノ為メ用ヒサル其総額ノ息銀ヲ幼者ニ払フ可シ
第四百五十七条 後見人ハ父母ト雖トモ親族会議ノ許諾ヲ得ルニ非レハ幼者ノ為メニ金額ヲ借受ケ又ハ幼者ノ不動産ヲ他人ニ給与シ又ハ売払ヒ又ハ「イポテーク」ト為スコトヲ得ス
其許諾ハ極メテ切要ナル事又ハ明白ナル利益アルニ非レハ之ヲ為ス可カラス
幼者ノ為メニ金額ヲ借受ケント為スニハ後見人ヨリ簡略ナル算計書ヲ出シ幼者ノ金額動産入額ノ不足ナルコトヲ証シタルニ非レハ親族会議ニテ其許諾ヲ為ス可カラス
何レノ場合ト雖トモ親族会議ニテ如何ナル不動産ヲ先ニ売払フ可キヤヲ指示シ且之ヲ売払フニ付キ有益ナリト思量セシ諸件モ亦指示ス可シ
第四百五十八条 此事ニ付キ親族会議ニテ為シタル決定ハ後見人ヨリ下等裁判所ニ願ヒ其允許ヲ得タル後ニ非サレハ之ヲ執行フ可カラス但シ下等裁判所ニ於テハ裁判役会議ノ室ニテ「プロキュリウル、アンペリアル」ノ述ル所ヲ聴キシ後其裁判ヲ為ス可シ
第四百五十九条 其不動産ノ糶売ヲ為スニハ其「カントン」(「アルロンヂシスマン」ヲ分チタル一部分ノ地)中ノ常例ノ場所ニテ相継テ三次ノ日曜日ニ糶売ノ書ヲ貼附セシ後下等裁判所ノ裁判役又ハ特ニ任ヲ受ケタル「ノテイル」後見人ノ監察者ノ面前ニテ之ヲ為ス可シ
其貼附書ノ各通ハ之ヲ貼附シタル「コンミユーン」ノ「メール」(「コンミユーン」ヲ支配スル者)検印ヲ為シテ証ス可シ
第四百六十条 幼者ト不動産ヲ共通シテ所有スル者ノ願ニ因リ其不動産ヲ糶売ニ為ス可キノ言渡ヲ為シタル時ハ幼者ノ財産売払ニ付キ第四百五十七条及ヒ第四百五十八条ニ記シタル法式ヲ用フルニ及ハス
此場合ニ於テハ唯前条ニ記スル所ノ体裁ニ循ヒ其糶売ヲ為スコトノミヲ必用トス但シ此糶売ニハ必ス外人ヲ参セシム可シ
第四百六十一条 後見人ハ親族会議ノ許諾ヲ得ルニ非サレハ幼者ノ為メ其遺物相続ヲ為スコトヲ承諾シ又ハ之ヲ拒ムコトヲ得ス○後見人幼者ノ為メ其遺物相続ヲ為スコトヲ承諾シタル時ハ其遺物ノ目録ヲ記シ其遺物ノ価額ニ至ル迄ノ外負債及ヒ費用ヲ償ハサルノ約定ヲ以テ幼者ノ為メ之ヲ引受ク可シ
第四百六十二条 後見人幼者ノ為メ其遺物相続ヲ為スコトヲ拒ミシ後他ニ其遺物ヲ引受ル者ナキ時ハ後見人更ニ親族会議ノ許諾ヲ得テ幼者ノ為メ其遺物ヲ引受ルコト又ハ幼者丁年ニ至リテ自カラ之ヲ引受ルコトヲ得可シ但シ此場合ニ於テハ其遺物ヲ引受ケタル時ノ景状ヲ以テ其財産ヲ受取ル可ク其以前法ニ適シテ為タル財産売払ノ契約又ハ其他ノ契約ニ付キ訴訟ヲ為ス可カラス
第四百六十三条 後見人ハ親族会議ノ許諾ヲ得ルニ非レハ人ヨリ幼者ニ与フル贈物ヲ幼者ノ為メ受ク可カラス
幼者ノ受ケタル贈物ハ丁年者ノ受ケタル贈物ト均シク看做ス可シ
第四百六十四条 後見人ハ親族会議ノ許諾ヲ得ルニ非レハ幼者ノ不動産ニ管シタル権ニ付キ訴訟ヲ為ス可ラス又其権ニ付キ他人ヨリ要スル所ヲ承諾ス可カラス
第四百六十五条 後見人幼者ノ他人ト共通スル財産ヲ分派セントスルニハ必ス親族会議ノ許諾ヲ要ム可シ然トモ他人ヨリ其幼者ト共通スル財産ヲ分タント要ムル時後見人其答ヲ為スニハ親族会議ノ許諾ヲ必要トセス
第四百六十六条 前条ニ記シタル財産分派ニ付キ後見人幼者ヲシテ丁年者ニ均シキ権ヲ得セシメントスルニハ遺物相続ヲ為ス地ノ下等裁判所ヨリ任シタル評価人ヲシテ其財産ヲ評価セシメタル後裁判所ニテ其分派ヲ為ス可シ
評価人ハ其裁判所ノ上席人又ハ之ニ代ル可キ裁判役ノ面前ニテ正実ニ其職ヲ行フ可キノ誓詞ヲ述ヘ其後遺物ノ不動産ヲ区分シテ其区分シタル地ヲ裁判役又ハ裁判役ヨリ任シタル「ノテイル」ノ面前ニテ鬮引ニ為シ此等ノ官吏其地ヲ引渡ス可シ
此方法ヲ用ヒスシテ為シタル分派ハ仮ノ処置ナリト看做ス可シ
第四百六十七条 後見人ハ親族会議ノ許諾ヲ得且下等裁判所ノ「プロキュリウルアンペリアル」ノ撰ミタル法律家三員ノ訓告ヲ得ルニ非サレハ幼者ニ代リテ和解ヲ為ス可カラス(第三篇第十五巻ニ詳ナリ)
又其和解ハ下等裁判所ニテ「プロキュリウルアンペリアル」ノ述ル所ヲ聴キシ後之ヲ允許シタルニ非サレハ其効ナカル可シ
第四百六十八条 後見人幼者ノ行状ニ付キ至重ナル戻意ノ事アル時ハ之ヲ親族会議ニ述ヘ其許諾ヲ得タル上此篇第九巻(親ノ権)ニ定メタル規則ニ循ヒ幼者ヲ禁錮セント訴ルコトヲ得可シ
第九款 後見人ノ算計ノ事
第四百六十九条 後見人ハ何者タルヲ問ハス其職ノ終リシ時其執行ヒタル諸件ニ付テノ算計ヲ為ス可シ
第四百七十条 父母ヲ除クノ外総テノ後見人ハ其職ヲ行フ時間ト雖トモ親族ノ会議ニテ特ニ預定シタル期限ニ其行ヒシ諸件ニ付テノ算計書ヲ後見人ノ監察者ニ渡ス可シ然トモ後見人ハ毎歳其算計書ヲ一通以上出スニ及ハス○此書ハ印税ナキ紙ニ記シ且之ヲ渡スニ裁判ノ式ヲ用フルコトナク又費用ヲ要スルコトナシ
第四百七十一条 後見人ノ最終ノ算計書ハ幼者ノ丁年ニ至リ又ハ後見ヲ免ルルニ至リシ時幼者ノ費用ヲ以テ之ヲ記ス可シ但シ其費用ハ後見人之ヲ前払ニ為ス可シ
此算計書ニ記シタル費用中確証アリテ幼者ノ利益トナル可キモノハ後見人ニ償フ可シ
第四百七十二条 後見人ト幼者ノ丁年ニ至リシ者トノ間ニ約定ヲ為シタルト雖トモ其約定ヲ為ス以前ニ詳細ナル後見人ノ算計書及ヒ証書類ヲ其幼者ニ渡シ且其約定ヲ為スヨリ少クトモ十日前ニ幼者ノ其算計書及ヒ証書類ヲ受取リタル証書アルニ非レハ其約定ノ効ナカル可シ
第四百七十三条 若シ後見人ノ算計書ノ事ニ付キ争ノ生スル時ハ他ノ民法ニ管スル争論ノ如ク之ヲ訴ヘ裁判ヲ受ク可シ
第四百七十四条 後見人ヨリ未タ幼者ニ償ザル残額アル時ハ別ニ裁判所ニ訴出サスシテ算計書終成ノ時ヨリ其息銀ヲ払ハシム可シ幼者ヨリ後見人ニ償フ可キ残額ハ算計書終成ノ後其残額ヲ償フ可キコトヲ訴出セシ時ヨリ其息銀ヲ払フ可シ
第四百七十五条 後見ノ諸事ニ付キ幼者ヨリ後見人ニ対シ訴訟ヲ為スコトヲ得可キ期限ハ幼者ノ丁年ニ至リシ時ヨリ十年ナリトス
第三章 幼者ノ後見ヲ免ルル事
第四百七十六条 幼者ハ婚姻ヲ為スニ因リ其後見ヲ免ル可シ
第四百七十七条 幼者ハ婚姻ヲ為サスト雖トモ満十五歳ノ齢ニ至リシ時ハ其父又父ナキニ於テハ其母ヨリ後見ヲ免ル可キノ許シヲ受ルコトヲ得可シ
此ノ如ク幼者ヲシテ後見ヲ免レシメント為スニハ父又ハ母ヨリ最下等裁判所ノ書記官ノ立会ニテ其裁判所ノ裁判役ニ其旨ヲ述ヘ其裁判役之ヲ聞届クルコトノミヲ以テ足レリトス
第四百七十八条 父母ナキ幼者満十八歳ノ齢ニ至リシ時親族会議ニテ相当ト思量スルニ於テハ後見ヲ免ルルコトヲ得可シ
此場合ニ於テハ親族会議ニテ幼者ノ後見ヲ免ルルコトヲ許可スルノ決定書ヲ記シ且最下等裁判所ノ裁判役親族会議ノ上席人タルニ付キ其決定書中ニ幼者ハ其後見ヲ免ルト云ヘル語ヲ書キ加フルヲ以テ其幼者後見ヲ免ルルコトヲ得可シ
第四百七十九条 前条ニ記スル所ノ場合ニ於テ後見人幼者ノ後見ヲ免ル可キコトヲ求ムルコトナク幼者ノ従兄弟又ハ更ニ近キ血属及ヒ姻属ノ親一人又ハ数人幼者ノ後見ヲ免カルルコトヲ相当ト思量スル時ハ此等ノ者ヨリ此事ヲ議セシムル為メ親族会議ヲ為サシム可キコトヲ最下等裁判所ノ裁判役ニ求ルコトヲ得可シ但シ其裁判役ハ此求ヲ允許セサルヲ得ス
第四百八十条 後見人ノ算計書ハ親族会議ニテ任シタル「キュラトウル」ノ立会ニテ後見ヲ免レタル幼者ニ之ヲ渡ス可シ
第四百八十一条 後見ヲ免レシ幼者ハ家屋及ヒ土地ヲ九年ニ過キサル時間貸渡スノ証書ヲ記シ又ハ其家屋土地等ノ入額ヲ受取リテ其受取書ヲ与ヘ其他総テ財産ヲ支配スルノミノ事ヲ為シ得可シ但シ其幼者此等ノ証書ヲ記シタル後之ヲ取消サント訴出スヲ得可キ場合ハ丁年者ト同一ナル可シ
第四百八十二条 幼者ハ後見ヲ免ルルト雖トモ其「キュラトール」ノ立会ナクシテ不動産ニ管シタル訴訟ヲ為シ及ヒ不動産ニ付キ他人ノ訴訟ノ被告トナリ又ハ人ニ貸シタル金額ヲ受取リテ其受取書ヲ与フルコトヲ為ス可カラス但シ其幼者人ヨリ金額ヲ受取リタル時ハ「キュラトール」其用方ヲ監察ス可シ
第四百八十三条 幼者ハ後見ヲ免ルルト雖トモ金額ヲ借受ケントスルニハ親族会議ニテ之ヲ許可スルノ決定ヲ得且下等裁判所ニテ「プロキュリウルアンペリアル」ノ説ヲ聴キシ後其親族会議ノ決定ヲ允許スルコトヲ必要トス
第四百八十四条 幼者ハ後見ヲ免ルルト雖トモ未タ後見ヲ免レサル幼者ノ為メ定メタル所ノ法式ヲ守ラスシテ其不動産ヲ売払ヒ又ハ人ニ給与ス可カラス又其財産支配ノ為メノミノ外証書ヲ記ス可カラス
又人ヨリ物ヲ買入レ又ハ其他ノ事ニ付キ此幼者義務ヲ負タル時其額ノ多キニ過ルニ於テハ之ヲ減ス可シ但シ此事ニ付テハ裁判所ニテ幼者ノ家産及ヒ幼者ト契約シタル者ノ正邪並ニ幼者ノ費用ノ有益又ハ無益ヲ考察シテ其裁判ヲ為ス可シ
第四百八十五条 後見ヲ免レシ幼者他人ヨリ負フタル義務ヲ前条ニ記スル如ク減ス可キノ言渡ヲ受ケタル時ハ後見ヲ免レシ益ヲ失フコトアル可シ但シ後見ヲ免レタル益ヲ取消サントスルニハ以前後見ヲ免レタル時ト同一ノ法式ニ循フ可シ
第四百八十六条 後見ヲ免レシ益ヲ失フタル幼者ハ其日ヨリ再ヒ後見ヲ受ケ丁年ニ至ル迄ノ時間常ニ後見人ノ照管ヲ受ク可シ
第四百八十七条 後見ヲ免レシ幼者商業ヲ為ス時ハ其商業ニ管シタル事ニ付キ之ヲ丁年者ト同視ス可シ
第十一巻 丁年ノ事、治産ノ禁ノ事、裁判所ヨリ任スル補佐人ノ事〔千八百三年第三月廿九日決定第四月八日布告〕
第一章 丁年ノ事
第四百八十八条 満二十一歳ヲ以テ丁年トス○此齢ニ至ル者ハ婚姻ノ巻ニ記シタル制禁ヲ除クノ外総テ民法ニ管シタル生理ノ所為ヲ行フコトヲ得可シ
第二章 治産ノ禁ノ事
第四百八十九条 常ニ白痴、癲疾(精神錯乱シテ安静ナルモノヲ云)狂疾(精神錯乱シテ躁動スルモノヲ云)ノ景状アル丁年ノ者ハ間々平常ニ復スル事アリト雖トモ治産ノ禁ヲ受ク可シ
第四百九十条 親族中ニ於テハ互ニ治産ノ禁ヲ受ケシムルノ訴訟ヲ為スコトヲ得可シ又夫婦モ互ニ其訴ヲ為スコトヲ得可シ
第四百九十一条 狂疾ノ場合ニ於テ夫又ハ婦或ハ親族ヨリ狂者ヲシテ治産ノ禁ヲ受ケシム可キコトヲ訴出ササル時ハ「プロキュリウルアンペリアル」ヨリ之ヲ訴フ可ク又白痴、癲疾ノ場合ニ於テハ此官吏ヨリ配偶者又ハ分明ナル親族ノアラサル者ニ対シ此治産ノ禁ヲ受ケシム可キノ訴ヲ為スコトヲ得可シ
第四百九十二条 治産ノ禁ヲ受ケシムルノ訴ハ下等裁判所ニ於テ之ヲ為ス可シ
第四百九十三条 白痴、癲疾、狂疾ノ諸事ハ詳ニ之ヲ書面ニ記ス可シ○治産ノ禁ヲ受ケシム可キコトヲ訴出シタル者ハ証人及ヒ証書ヲ出ス可シ
第四百九十四条 裁判所ヨリ此篇ノ第十巻(幼年後見等ノ事)第二章第四款(親族ノ会議)ニ定メタル所ノ法ニ循ヒ集会ヲ為シタル親族会議ニテ治産ノ禁ノ訴ヲ受ケシ者ノ景状ニ付キ其意ヲ述フ可キコトヲ言渡ス可シ
第四百九十五条 治産ノ禁ヲ受ケシム可キノ訴訟ヲ為シタル者ハ親族会議ノ列ニ加ハル可ラス然トモ其訴訟ヲ為シタル者之ヲ受ケシ者ノ配偶者又ハ其子ナル時ハ親族会議ノ列ニ加ハルコトヲ得可ク唯其決議ノ時ニ辞ヲ参フ可カラス
第四百九十六条 裁判所ニテ親族会議ノ説ヲ聴タル後裁判役会議ノ室ニ於テ被告人ヲ問糾ス可シ若シ被告人其室ニ出席ヲ為スコトヲ得サル時ハ裁判役一員書記官ト倶ニ其家ニ至リ之ヲ問糾ス可シ但シ何レノ場合ニ於テモ「プロキュリウル、アンペリアル」ハ問糾ノ場所ニ立会フ可シ
第四百九十七条 一度問糾ヲ為シタル後裁判所ニ於テ必要ナリト思量スル時ハ被告人ノ身体及ヒ財産ヲ監察ス可キ仮ノ支配人ヲ任ス可シ
第四百九十八条 治産ノ禁ノ訴訟ニ付テノ裁判ハ原告被告ノ双方ヲ呼出タル上又ハ一方ノ者呼出ヲ受ケテ猶出席セサル上公ケニ吟味ヲ為シテ之ヲ言渡ス可シ
第四百九十九条 治産ノ禁ヲ受ケシム可キノ訴訟ヲ裁判所ニテ允許セサル時ト雖トモ裁判所ヨリ其時ノ景状ニ随ヒ日後被告人ハ裁判所ノ言渡ニ因リ任シタル補佐人ノ立会アルニ非レハ訴訟ヲ為シ又ハ和解ヲ為シ又ハ金額ヲ借受ケ又ハ之ヲ受取リテ其受取書ヲ与ヘ又ハ自己ノ不動産ヲ売払ヒ及ヒ附与シ又ハ「イポテーク」トナス等ノ事ヲ為ス可カラサル旨ヲ言渡スコトヲ得可シ
第五百条 下等裁判所ノ言渡ニ服セスシテ更ニ上等ノ裁判所ニ訴出スコトアル時上等裁判所ニテ必要ナリト思量スルニ於テハ其治産ノ禁ノ訴訟ヲ受ケシ者ヲ再ヒ問糾シ又ハ特ニ任タル裁判役ヲシテ其問糾ヲ為サシム可シ
第五百一条 治産ノ禁ヲ受ケシムル言渡書又ハ其補佐人ヲ任スル言渡書ハ原告人ノ求メニ応シ十日間ニ之ヲ写シ取リ其写ヲ被告人ニ送達シ且之ヲ懸帖【カケフタ】ニ記ス可シ但シ其懸帖ハ裁判ノ室及ヒ其裁判所管轄内ニ在ル「ノテイル」ノ役所ニ懸ク可シ
第五百二条 治産ノ禁ヲ受ケシムル言渡又ハ補佐人ヲ任スルノ言渡ハ之ヲ為シタル日ヨリ執行フ可シ○其言渡ノ後ニ治産ノ禁ヲ受ケシ者ノ記シタル証書又ハ補佐人ノ立会ナクシテ記シタル証書ハ皆廃物ナリトス
第五百三条 治産ノ禁ヲ受クル以前ニ記シタル証書ハ之ヲ記シタル時既ニ治産ノ禁ヲ受ク可キノ原由アルコト明白ナルニ於テハ亦之ヲ廃物ト為スコトヲ得可シ
第五百四条 人ノ死セサル中ニ治産ノ禁ノ言渡ヲ受ケ又ハ其禁ヲ受ク可キノ訴訟ヲ受ケタル時ニ非レハ其者ノ記シタル証書ヲ其死後ニ至リ精神錯乱ヲ言述ベ廃物ト為サント訴ルコトヲ得ス但シ其証書上ニ精神錯乱ノ証ノ分明ナル時ハ格別ナリトス
第五百五条 下等裁判所ヨリ治産ノ禁ヲ受ケシムルコトヲ言渡シタル裁判ニ付キ定期内ニ更ニ上等裁判所ニ訴ヘ出スコトナキ時又ハ更ニ上等裁判所ニ訴ヘ出スト雖トモ其裁判所ニテ下等裁判所ノ言渡ヲ可ナリト為タル時ハ此篇ノ第十巻(幼年後見等ノ事)ニ記スル所ノ規則ニ循ヒ治産ノ禁ヲ受ケシ者ノ為メ後見人及ヒ後見人ノ監察者ヲ任ス可シ○以前任シタル仮ノ支配人ハ其職ヲ退ク可シ但シ其支配人後見ノ職ニ任セサル時ハ後見人ニ算計ヲ為ス可シ
第五百六条 夫ハ別ニ願出ルニ及ハスシテ治産ノ禁ヲ受ケタル婦ノ後見人タル可キノ権アリ
第五百七条 婦ハ其夫ノ後見ノ職ニ任スルコトヲ得可シ○此場合ニ於テハ親族会議ニテ後見ノ職ヲ行フニ付テノ規則及ヒ約定ヲ立ツ可シ但シ其婦親族会議ノ決定不正ナリト思量スル時ハ之ヲ裁判所ニ訴出スコトヲ得可シ
第五百八条 治産ノ禁ヲ受ケシ者ノ配偶者及ヒ尊属卑属ノ親ヲ除クノ外ハ何人ヲ論セス其後見ノ職ヲ十年以上ノ時間行フニ及ハストス但シ十年ヲ過ル時ハ其後見人代職ノ者ヲ撰ム可キコトヲ請ヒ退職ヲ為スコトヲ得可シ
第五百九条 治産ノ禁ヲ受ケシ者ハ其身体及ヒ財産ニ付キ幼者ニ均シクシテ幼者ノ後見ノ法則ハ亦之ヲ治産ノ禁ヲ受ケシ者ノ後見ニ適当シテ用フ可シ
第五百十条 治産ノ禁ヲ受ケシ者ノ入額ハ其養生ノ方ヲ厚クシ且其疾ヲ速ニ平愈セシムルノ用ニ供ス可シ○其病症ト其家産トニ従ヒ親族会議ニテ其者ヲ其家ニテ療養セシメ又ハ養生所或ハ貧院ニ送ル可キコトヲ定ム可シ
第五百十一条 治産ノ禁ヲ受ケシ者ノ子婚姻ヲナスコトアル時ハ嫁資ノ事及ヒ子ノ相続ス可キ父ノ遺物ノ一部ヲ預メ受取ル事並ニ其他婚姻契約ノ諸件ヲ親族会議ニテ定ム可シ但シ其定ムル所ハ裁判所ニテ「プロキュリウル、アンペリアル」ノ説ヲ聴タル後之ヲ允許シタルノ言渡ヲ得ルコトヲ必要トス
第五百十二条 治産ノ禁ヲ受ケシメタル原由ノ終リシ時ハ其禁モ亦終ル可シ但シ其禁ヲ免スノ言渡ハ以前其禁ヲ受ケシメタル時ト同一ノ法式ヲ行フタル後ニ非レバ之ヲ為ス可カラス又其禁ヲ受ケシ者ハ其禁ヲ免スノ言渡ヲ得タル後ニ非レハ己レノ権ヲ行フコトヲ得ス
第三章 裁判所ヨリ命シタル補佐人ノ事
第五百十三条 浪費【ムダツカヒ】ヲ為ス者ハ裁判所ヨリ任シタル補佐人ノ立会ナクシテ訴訟ヲ為シ又ハ和解ヲ為シ又ハ金額ヲ借受ケ又ハ之ヲ受取リテ其受取書ヲ与ヘ或ハ自己ノ不動産ヲ附与シ又ハ売払ヒ及ヒ「イポテーク」トナス等ノ事ヲ為ス可カラス
第五百十四条 浪費ヲ為ス者補佐人ノ立会ナクシテ事ヲ行フ可カラサルノ禁ハ精神錯乱ノ者ニ治産ノ禁ヲ受ケシム可キコトヲ訴フルノ権アル者ヨリ之ヲ訴出スコトヲ得可シ又其訴ヲ吟味シ且裁判スルノ方法モ治産ノ禁ノ訴ト同一ナリ
又此禁ヲ免スニ付テモ治産ノ禁ヲ免スト同一ノ法式ニ循フ可シ
第五百十五条 治産ノ禁ノ言渡及ヒ補佐人ヲ任スルノ言渡ハ下等裁判所ニ訴出シタル時ニ於テモ又ハ更ニ上等ノ裁判所ニ訴出シタル時ニ於テモ皆「ミニステール、ピュブリック」ノ説ヲ聴タル上ニ非レバ之ヲ為ス可カラス
第二篇 財産及ヒ財産所有ノ種類
第一巻 財産ノ区別〔千八百四年第一月二十五日決定第二月四日布告〕
第五百十六条 財産ハ皆不動産又ハ動産ノ中ニアリトス
第一章 不動産
第五百十七条 財産ハ其性質ニ因テ不動産タルモノアリ又ハ其用法ニ因テ不動産タル物アリ及ヒ権利ノ中ニ其目的ニ因テ不動産ト看做スモノアリ
第五百十八条 土地及ヒ建造物ハ其性質ニ因テ不動産トス
第五百十九条 杙ニ附着シテ建造物ノ一部ヲ為ス風車及ヒ水車ハ亦其性質ニ因テ不動産トス
第五百二十条 根ヲ有シテ地上ニ生シタル収納物及ヒ未タ摘取セサル樹果モ亦同上ノ不動産トス
収納物ヲ刈取シ及ヒ樹果ヲ摘取シタル時ハ未タ他所ニ搬運セスト雖トモ之ヲ動産トス若シ収納物ノ一部ヲ刈取シタル時ハ其一部ノミヲ動産トス
第五百二十一条 森林ノ所有者期限ヲ定メ伐出サントスル小樹及ヒ大木ハ其既ニ伐リ倒シタル物ノミヲ動産トス
第五百二十二条 借価ヲ出シテ土地ヲ借受ル者又ハ収納物ノ一部ヲ出シテ土地ヲ借受ル者ニ其土地ノ所有者ヨリ其地ヲ耕ス可キ為メ貸与ヘタル獣類ハ其貸価ノ有無ヲ問ハス契約ニ循ヒ其獣類ヲ其地ニ留メ置ク間之ヲ不動産トス
土地ノ所有者ヨリ同上ニ非サル者ニ獣類ヲ貸与ヘタル時ハ其獣類ヲ動産ナリトス
第五百二十三条 家屋及ヒ其他ノ不動産ニ水ヲ潅導スル水管ハ其不動産所属ノ一部ニシテ亦之ヲ不動産トス
第五百二十四条 土地ノ所有者其地ヲ耕シ或ハ其地ニテ用フ可キカ為メ其土地ニ備ヘタル物ハ其用法ニ因テ不動産トス故ニ
土地ヲ耕スニ用フル獣類
農業ノ器具
土地ヲ借リテ之ヲ耕シ借価又ハ其収納物ノ一部ヲ出ス者ニ与ヘタル種子類
鳩舎中ニアル鳩
兎舎中ニアル兎
蜜蜂ノ巣
池沼中ノ魚
搾メ木、釜、蒸溜ノ器具・桶樽ノ類
鋳造ノ器具、紙ノ製造及ヒ其他ノ製造ノ器具
藁及ヒ糞料【コヤシ】
此等ノ品物ハ其所有者土地ヲ耕シ又ハ其土地ニテ用フ可キカ為メ備ヘタル時其用法ニ因テ不動産トス
如何ナル動産ト雖トモ其所有者永ク之ヲ離分セサル方ヲ用ヒ不動産ニ附着シタル時ハ亦用法ニ因テ不動産トス
第五百二十五条 粘及ヒ石灰【シツクヒ】ヲ以テ動産ヲ不動産ニ附着シ又ハ其動産ヲ離分スル時ハ其動産又ハ不動産ノ一部ヲ必ス毀壊シ又ハ損害ス可キ方ヲ以テ附着シタルニ於テハ其動産ノ所有者永ク之ヲ離分セシメサル方ヲ用ヒ不動産ニ附着シタルモノト看做ス可シ
房室ノ玻璃版ノ格【ワク】ヲ其屋財ト連合シタル時ハ永ク之ヲ離分セシメサル方ヲ用ヒ備ヘタルモノト看做ス可シ但シ画額及ヒ其他ノ装飾ノ具モ亦此ノ如シ
立像ハ之ヲ移動スルニ其屋財ヲ毀壊シ又ハ損害スルコトナシト雖トモ特ニ之ヲ入置ク為メ壁ニ作タル凹所ニ在ル時ハ之ヲ不動産トス
第五百二十六条 不動産ノ入額ヲ得ルノ権
土地ノ義務ヲ得ルノ権
不動産ヲ取戻サントスル訴訟ヲ為スノ権
此等ノ権利ハ其目的ニ因テ之ヲ不動産ト看做ス可シ
第二章 動産
第五百二十七条 財産ハ其性質ニ因テ動産ト為ス物アリ又ハ法律ニテ定メタル所ニ因リ動産ト為ス物アリ
第五百二十八条 鳥類獣類ノ如ク自カラ運行ヲ為ス可キト無生物ノ如ク他力ニ因テ運行ヲ為ス可キトヲ問ハス此地ヨリ彼地ニ搬運スルコトヲ得可キ物ハ其性質ニ因テ動産トス
第五百二十九条 人ヨリ金額又ハ動産ヲ得可キ契約及ヒ之ヲ得可キ訴訟ヲ為スノ権又ハ銭糧、貿易、工作ノ会社ニ加ハリタル股分【ワケマイ】及ヒ利益ハ其会社ニテ其興作ニ管シタル不動産ヲ所有シタルト雖トモ法律ニ於テ定メタル所ニ因リ之ヲ動産ト看做ス可シ但シ其股分及ヒ利益ハ其会社ノ存続スル時間ノミ会社中ノ各人ニ付テ之ヲ動産ト看做ス可シ官府及ヒ平民ヨリ得可キ無期ノ年金(第三篇第十巻第三章ニ詳ナリ)及ヒ畢生ノ年金ハ法律ニテ定メタル所ニ因リ之ヲ動産ナリトス
第五百三十条 〔千八百四年第三月廿一日決定同月三十一日布告〕不動産ヲ買入レシ償ノ為メ与フ可キ無期ノ年金又ハ不動産ノ附与ヲ得タルニ代ヘテ出ス可キ無期ノ年金ハ之ヲ出ス可キ者ヨリ其元金ヲ皆済スルコトヲ得可シ
然トモ其年金ヲ得可キ者ハ元金算還ノ契約ノ箇条ヲ定ムルコトヲ得可シ
其年金ヲ得可キ者ハ三十年ヨリ多カラサル期限ノ後ニ非サレハ其元金ノ算還ヲ許ササルノ契約ヲ為スコトヲ得可シ但シ此定期ニ背キタル契約ハ之ヲ取消ス可シ
第五百三十一条 小艇、渡舟、船舶、船ニ在ル風車及ヒ水車、浴舟其他杙ニ附着シテ家屋ノ一部ヲ為スニ非サル諸般ノ器具類ハ之ヲ動産トス然レトモ此等ノ物件ハ重大ノモノタルニ因リ訴訟法ニ記スル所ノ如ク債主別段ノ法式ヲ行フテ之ヲ抵償【カタニトル】ス可シ
第五百三十二条 建造物ヲ毀チテ得タル物件及ヒ新ニ建造物ヲ営理ス可キ為メ集メタル物件ハ営理ノ為メ工丁ノ未タ用ヒサル間之ヲ動産トス
第五百三十三条 「ミュウブル」(動産ノ意ニテ其義ノ狭キヲ云フ)ト云ヘル語ハ添辞ヲ用ヒス之ヲ法律又ハ人事ニ付キ用フル時金銀、宝石、貸額、書籍、賞牌、学芸及ヒ製造ノ器具、亜麻【リン子ン】布、馬、車、兵器、穀類、葡萄酒、枯草其他人獣ノ飲食料ヲ指シ言フコトナク亦商売ノ品物ヲモ指シ言フコトナシ
第五百三十四条 「ミュウブル、ミュウブラン」(房室ニ備フル家具ヲ云フ)ト云ヘル語ハ毛氈、臥牀、椅子、鏡、自鳴鐘、卓子、陶器及ヒ房室ニテ使用スル此類ノ物及ヒ装飾ト為ス物ノミヲ云フ
房室ノ家具ノ一部タル画額及ヒ立像ハ「ミュウブル、ミュウブラン」ノ中ニ算計ス可シ然レトモ展画ノ房室又ハ其他ノ房室内ニ集メタル画額ハ其中ニ算入セス
又陶器ノ類モ房室ノ装飾ノ一部タル物ノミヲ「ミュウブル、ミュウブラン」ノ中ニ算入ス
第五百三十五条 「ビヤンミュウブル」(動産ノ意ニテ其義ノ広キヲ云フ)及ヒ「モビリエール」(同上ノ意)或ハ「エッフヱーモビリヱール」(同上ノ意)ト云ヘル語ハ前数条(第五百廿七条以下ヲ云フ)ニ記スル所ニ循ヒ動産ト為ス可キ物ヲ総括シテ云フ
動産ノ備ハリシ家屋ヲ売払ヒ又ハ贈与スト謂フ時ハ「ミュウブル、ミュウブラン」ノミヲ包子言フトス
第五百三十六条 家屋ヲ其内ニ在ル諸品物ト共ニ売払ヒ又ハ贈与スト謂フト雖トモ金額又ハ其屋内ニアル貸額ノ証券及其他ノ権利ヲ得可キ証券ヲ算入スルコトナシ但シ其他ノ「ヱッフヱー、モビリヱール」ハ皆之ヲ算入ス
第三章 財産ト之ヲ所有スル者トノ管係
第五百三十七条 何レノ人ト雖トモ法律ニテ定メタル規則ヲ循守スル時ハ己レニ属スル所ノ財産ヲ自由ニ為スコトヲ得可シ
一人ニ属セサル財産ハ其財産ノミニ付キ用フ可キ規則ニ循ヒ之ヲ支配シ及ヒ売払フ可シ
第五百三十八条 政府ニテ管轄スル所ノ道路、巷径、市街、舟楫ヲ通ス可キ河川、海浜、海潮ノ進退ニ因リ出没スル洲汀、港口、碇泊場及ヒ其他私ノ所有ト為ス可カラサル仏蘭西領地ノ部分ハ公領ノ所属ナリト看做ス可シ
第五百三十九条 所有者ナキ財産及ヒ遺物相続人ナキ財産又ハ相続人ノ皆放棄シタル財産ハ公領ニ附属スルモノトス
第五百四十条 城砦ノ門、壁、壕【ホリ】、垜【ドテ】等ハ亦公領ノ一部トス
第五百四十一条 既ニ戦闘ノ用ニ供セサル城砦中ノ地及ヒ壁、壕、垜ハ亦公領トス但シ官ヨリ之ヲ売払ヒ又ハ官ヨリ其所有者ニ対シ定期ノ時間訴訟ヲ為ササル時ハ格別ナリトス
第五百四十二条 「コンミユーン」ノ財産トハ一箇又ハ数箇ノ「コンミユーン」ノ住民相共ニ之ヲ所有ト為シ及ヒ其産物ヲ所得ト為ス可キ財産ヲ云フ
第五百四十三条 人財産ニ付キ其所有ノ権ヲ有スルアリ又其入額ヲ所得トスルノ権ヲ有スルアリ又土地ノ義務ノミヲ得可キノ権ヲ有スルアリ
第二巻 所有ノ権〔千八百四年第一月二十七日決定第二月六日布告〕
第五百四十四条 財産所有ノ権トハ法律規則ニ禁止スル方法ニテ財産ヲ用フルノ外十分自己ノ意ニ適シタル方法ヲ用ヒ財産ノ益ヲ得及ヒ財産ヲ取扱フノ権ヲ云フ
第五百四十五条 公ケノ利益ノ為メトシテ預メ相当ノ償ヲ得タルニ非レハ何人ヲ問ハス強テ其所有物ヲ奪ハルルコトナカル可シ
第五百四十六条 動産不動産ヲ問ハス財産所有ノ権アル時ハ天然又ハ人工ニ因テ其財産ヨリ生スル物及ヒ其財産ニ附加スル物モ亦所有スルノ権アリ
是ヲ名ケテ主ニ因テ従ヲ併スノ権ト云
第一章 財産ヨリ生スル物ニ付キ主ニ因テ従ヲ併スノ権
第五百四十七条 天然又ハ人工ニ因リ地ヨリ生スル利益
法律上ニテ財産ヨリ得可キ利益(土地家屋ノ貸額、金銀ノ利息等ノ類ヲ云フ)
蕃殖シタル獣類
此等ノ物ハ主ニ因リ従ヲ併スノ権ヲ以テ其財産ノ所有者ニ属ス可シ
第五百四十八条 財産ヨリシテ生シタル益ハ其所有者他人ノ為シタル労動、耕耘、種子ノ費用ヲ償ハサレハ己レノ所有ト為ス可ラス
第五百四十九条 財産ヲ寄有スル者ハ信義ヲ以テ之ヲ有シタル時ノミ其財産ノ利益ヲ己ノ所得ト為スコトヲ得可シ若シ信義ナク之ヲ有シタル時ハ其財産ト共ニ其財産ヨリ生シタル利益ヲ其真ノ所有者ノ要メニ応シ還与ス可シ
第五百五十条 人ヨリ財産ノ譲リ渡ヲ得シ証券ノ不正ナルヲ知ラスシテ其財産ヲ譲リ受ケ之ヲ己レノ有ト為シタル時ハ信義ヲ以テ之ヲ寄有セシモノト為ス可シ
其証券ノ不正ナルコトヲ知リタル後猶ホ之ヲ有スル時ハ信義ナク寄有シタルモノト為ス可シ
第二章 財産ニ附加シ且合同スル物ニ付キ主ニ因テ従ヲ併スノ権
第五百五十一条 財産ニ附加シ且合同シタル物ハ如何ナル種類タルヲ問ハス次ニ記載スル所ノ規則ニ循ヒ其財産ノ所有者ニ属ス可シ
第一款 不動産ニ付キ主ニ因テ従ヲ併スノ権
第五百五十二条 土地ヲ所有ト為ス時ハ自【オ】カラ其地ノ上下ヲ所有ト為スノ権ヲ生ス
其地ノ所有者ハ此篇ノ第四巻(土地ノ義務)ニ記スル所ヲ除クノ外其地上ニ自己ノ欲スル所ノ種植、造営ヲ為スコトヲ得可シ
又其所有者ハ砿坑ノ規則及ヒ取締ノ規則ニ定メタル所ヲ除クノ外其地下ニ己レノ欲スル所ノ造営及ヒ窖穴等ヲ造リ且其窖穴ヨリ生ス可キ物ヲ掘取ルコトヲ得可シ
第五百五十三条 地上又ハ地下ニ在ル諸般ノ造営、種植及ヒ窖穴ハ別段ノ証アル時ノ外其地ノ所有者自己ノ費用ヲ以テ之ヲ為シテ其者ニ属スルモノト看做ス可シ但シ他人其地ノ建造物ノ下ニ在ル地窖又ハ其建造物ノ一部ヲ定期ノ時間所有シタル時ハ其者終ニ之ヲ所有ト為スノ権アリ
第五百五十四条 土地ノ所有者己レニ属セサル品物ヲ用ヒ造営、種植及ヒ土功ヲ為タル時ハ其品物ノ価ヲ払フ可ク且別段ノ道理アル時ハ其償金ヲ出ス可キノ言渡ヲ受ク可シ然トモ其品物ノ所有者ハ其品物ヲ転移スルノ権ナシ
第五百五十五条 土地ノ所有者ニ非サル人信義ニ依ラスシテ其地ヲ所有シ己レノ品物ヲ以テ種植、造営及ヒ土功ヲ為シタル時ハ其土地ノ真ノ所有者其種植、造営及ヒ土功ヲ己レニ保有シ又ハ此諸般ノ工作ヲ為タル者ヲシテ強テ之ヲ転移セシムルノ権アリ
土地ノ真ノ所有者其種植、造営、土功ヲ廃毀セシメントスル時ハ其者償ヲ出スニ及ハス其種植、造営、土功ヲ為シタル者ヲシテ其費用ヲ以テ之ヲ廃毀セシメ且別段ノ道理アル時ハ其種植、造営、土功ヲ為シタル者其土地ノ所有者ノ受ケタル損失ノ償ヲ出ス可キノ言渡ヲ受ク可シ
若シ土地ノ真ノ所有者此種植、造営、土功ヲ己レニ保有セント欲スル時ハ其種植、造営、土功ニ因リ地価ノ幾許ヲ増シタルヲ問ハス唯其種植、造営、土功ヲ為スニ用ヒタル品物ノ価及ヒ其工作ノ費用ノ償ノミヲ出ス可シ
土地ヲ有スルノ権ヲ失フト雖トモ信義ヲ以テ之ヲ寄有セシニ因リ其地ヨリ生シタル利益ヲ失ハサル者此種植、造営、土功ヲ為シタル時ハ其土地ノ真ノ所有者其種植、造営、土功ヲ廃毀セシムルコトヲ得ス但シ其者ハ其種植、造営、土功ヲ為タル者ニ其用ヒタル品物ノ価及ヒ工作ノ費用ヲ償ヒ又ハ其種植、造営、土功ニ因リ地価ノ増シタル額ヲ償フコト自由ナリトス
第五百五十六条 河川ノ傍側ニ知覚スルヲ得スシテ次第ニ増成セシ地ヲ名ケテ漸積ノ地ト云フ
漸積ノ地ハ河川ノ舟楫ノ通スルト否トヲ問ハス其傍側ニ在ル土地ヲ所有スル者ニ属ス可シ但シ舟楫ヲ通ス可キ河川ノ傍側ニ於テハ規則ニ循ヒ沿岸ノ小径又ハ舟艇ノ牽路【ヒキフ子ミチ】ヲ余シ置ク可シ
第五百五十七条 流水ノ知覚セサル中ニ此岸ヲ侵シテ彼岸ヲ退キ乾凅セシ地ヲ遺シ留ムル時ハ亦前条ニ記スル所ニ均シク其乾凅セシ地ヲ其傍側ノ地ノ所有者ニ属ス可シ但シ其対岸ノ地ノ所有者ハ其失ヒシ地ヲ取還ス可キノ求メヲ為スコトヲ得ス
海水ノ退キテ遺シ留メタル乾凅ノ地ニ付テハ此権ナシトス
第五百五十八条 湖池ニ付テハ漸積ノ地ヲ有スルコトナシトス但シ湖池ノ所有者ハ水量ノ減シタル時ト雖トモ其満チタル時覆フ可キ地ヲ常ニ所有ス可シ
又沼池ノ所有者ハ其水ノ異常ニ匯流スル時覆フタル傍側ノ地ヲ所有スルノ権ナシ
第五百五十九条 若シ河川ノ舟楫ヲ通スルト否トヲ問ハス若シ遽ニ漲流シテ其傍側ノ地ノ分明ニ知リ得可キ広大ノ一部ヲ裁割シ之ヲ下流又ハ対岸ノ地ニ移去シタル時ハ其裁割ヲ得シ地ノ所有者猶ホ其移去シタル地ヲ所有セント要ムルコトヲ得可シ然トモ其要メハ一年間ニ為ス可クシテ此定期ノ後ハ裁割セシ地ヲ其連合シタル土地ノ所有者未タ己レノ所有ト為ササル時ノ外之ヲ為スコトヲ許サス
第五百六十条 舟楫ヲ通ス可キ河川中ニ生シタル島嶼洲渚ハ官ニ属ス可シ但シ別段ノ証券アルニ付キ又ハ定期ノ時間之ヲ有シタル者アリテ終ニ其所有ノ権ヲ得タル時ハ格別ナリトス
第五百六十一条 舟楫ヲ通ス可カラサル河川中ニ生シタル島嶼洲渚ハ其生シタル河側ノ土地ノ所有者ニ属ス可シ若シ其島嶼洲渚河側ノ一方ニ偏ラサル時ハ其河川ノ中央ヲ画スル線ヲ分チ之ヲ両岸ノ地ノ所有者ニ属ス可シ
第五百六十二条 若シ河川ノ新タニ支流ヲ生シ河側ノ地ヲ裁割シテ之ヲ環繞シ島ト為シタル時ハ其島舟楫ヲ通ス可キ河川中ニ生シタル時ト雖トモ猶ホ其地ノ所有者ニ属ス可シ
第五百六十三条 舟楫ヲ通スルト否トヲ問ハス河川其故道ヲ去テ新決ノ道ヲ為ス時ハ新タニ河水ノ侵入セシ地ノ所有者其償ノ為メ各々其失ヒシ地ノ割合ヲ以テ故道ノ地ヲ所有ス可シ
第五百六十四条 鳩兎魚ノ従来棲息シタルニ非サル鳩舎兎舎池沼ニ移棲セシ時ハ詐計ヲ以テ誘導シタルノ外之ヲ其移棲セシ鳩舎兎舎池沼ノ所有者ニ属ス可シ
第二款 動産ニ付キ主ニ因テ従ヲ併スノ権
第五百六十五条 所有者二人ニ属シタル二箇ノ動産ニ管スル主ニ因テ従ヲ併スノ権ハ全ク天然公平ノ道ニ順フ可シ然レトモ次ノ規則ハ其時ノ景状ニ従ヒ裁判役ノ考案ノ為メ之ヲ用フ可シ
第五百六十六条 所有者ノ異レル二箇ノ品物互ニ連合シテ一物ヲ為スト雖トモ之ヲ離分シテ猶各々全存ヲ得可キ時ハ其主品ノ所有者附品ノ所有者ニ価ヲ償ヒ其全部ヲ所有ト為スコトヲ得可シ
第五百六十七条 使用、装飾、補成ノ為メ他物ヲ附添シタル元品ヲ主品トス
第五百六十八条 然トモ附品ノ価主品ノ価ヨリ大ニ貴クシテ且其附品ノ所有者之ヲ附添シタルコトヲ知ラサリシ時ハ其連合セシ主品ヲ差々毀損スルコトアリト雖トモ附品ノ所有者之ヲ離分シ己レニ還サシム可キノ要メヲ為スコトヲ得可シ
第五百六十九条 若シ連合シテ全部ヲ為シタル二箇ノ品物中ニ何レヲ主品ト為シ何レヲ附品ト為ス可キコトノ分明ナラサル時ハ価ノ貴キ物ヲ以テ主品ト看做シ又其価ノ概子均シキ時ハ形ノ大ナル物ヲ以テ其主品ト看做ス可シ
第五百七十条 若シ工丁及ヒ其他ノ人己レニ属セサル品物ヲ用ヒ新ナル物ヲ造リシ時ハ其品物ノ旧ニ復スルヲ得可キト否トヲ問ハス其品物ノ所有者工価ヲ償ヒ之ヲ己レノ所有ト為スヲ要ムルノ権アリ
第五百七十一条 然トモ工価ノ額許多ニシテ其用タル品物ノ価ヨリモ更ニ貴キ時ハ其工価ヲ以テ主ト為シ工丁ヨリ其品物ノ所有者ニ其品物ノ価額ヲ償ヒ新造ノ品物ヲ以テ己レノ所有ト為スノ権アリ
第五百七十二条 己レニ属スル品物ト己レニ属セサル品物トヲ併用シテ新ナル品物ヲ造リ其二箇ノ品物全ク其本質ヲ失フコトナシト雖トモ分離スル時ハ必ス之ヲ損ス可キニ於テハ其所有者二人ニテ共ニ其新造ノ品物ヲ所有ス可シ但シ其一人ハ己レニ属スル品物ノミニ付テノ権ヲ有シ又一人ハ己レニ属スル品物ト其工価トニ付テノ権ヲ有ス可シ
第五百七十三条 数人ノ所有者ニ属スル数箇ノ品物ヲ連合シテ一箇ノ品物ヲ造リ其数箇ノ品物中ニ主品ト看做ス可キ物ナクシテ離分スルヲ得可キ時ハ其数人中ニテ己レニ属スル品物ノ連合シタルヲ知ラサル者ヨリ之ヲ離分セント要ムルコトヲ得可シ
若シ其品物ヲ離分シテ之ヲ損ス可キ時ハ其数人ノ所有中各人ニ属シタル品物ノ性質、分量、価額ノ割合ヲ以テ其新造ノ品物ヲ共同シテ所有ス可シ
第五百七十四条 然レトモ数人ノ所有者中ノ一人ニ属スル品物ノ分量及ヒ価額他ノ所有者ニ属スル品物ニ数倍シタル時ハ其品物ヲ所有スル者他ノ品物ノ所有者ニ其価額ヲ償ヒ其連合シテ造リタル品物ヲ己レノ所有トセント要ムルコトヲ得可シ
第五百七十五条 数箇ノ品物ヲ以テ新ニ造リタル物ヲ其所有者数人ニテ相共ニ所有ト為ス時ハ其数人ノ利益ノ為メ之ヲ糶売ト為ス可シ
第五百七十六条 品物ノ所有者知ルコトナク他人其品物ヲ用ヒテ他種ノ品物ヲ造リシニ因リ其所有者其新ナル品物ヲ所有セント要ムルコトヲ得可キ時ハ其旧物ト同種、同形、同量、同尺、同質ノ物ヲ取戻サントスルコト又ハ其価額ヲ取戻サントスルコトヲ訴フルヲ得可シ
第五百七十七条 新ニ品物ヲ製造スルニ他人ニ属スル品物ヲ其所有者ニ知ラシメスシテ用ヒタル者其所有者ニ其償ヲ払フ可キノ道理アル時ハ之ヲ払フ可キノ言渡ヲ受ク可シ但シ其他別段ノ道理アル時ハ其品物ノ所有者犯罪ノ訴訟ヲ為スコトヲ得可シ
第三巻 入額ヲ所得ト為スノ権、「ユザージュ」(他人ニ属スル財産ヨリ生スル利益中ニテ己レニ必用ノ部分ヲ所得ト為ス一身ノミニ属スル権)ノ権、「アビタシヲン」(他人ニ属スル家屋ニ住ス可キ権)ノ権〔千八百四年第一月三十日決定第二月九日布告〕
第一章 入額ヲ所得ト為スノ権
第五百七十八条 入額ヲ所得ト為スノ権トハ他人ノ所有スル物件ヲ保存シテ所有者ニ等シク其物件ノ入額ヲ得可キノ権ヲ云フ
第五百七十九条 入額ヲ所得ト為スノ権ハ法律ニ因テ之ヲ生スルコトアリ又ハ各人ノ意ニ因テ之ヲ生スルコトアリ
第五百八十条 入額ヲ所得ト為スノ権ハ或ハ別段ノ約定ナク或ハ期限ヲ定メ或ハ別段ノ約定ヲ為シテ之ヲ生ス可シ
第五百八十一条 同上ノ権ハ動産及ヒ不動産ノ各種ニ付テ生ス可シ
第一款 入額ヲ所得ト為ス者ノ権
第五百八十二条 入額ヲ所得ト為ス者ハ其物件ヨリ生ス可キ天然ノ利益、人工ノ利益、法律上ノ利益ヲ得ルノ権アリ
第五百八十三条 天然ノ利益トハ土地ヨリ自然ニ生スル利益ヲ云フ○獣類ヨリ生スル物件及ヒ増殖シタル獣類モ亦天然ノ利益ナリトス
土地ノ人工ノ利益トハ土地ニ植付ヲ為シテ得タル所ノ利益ヲ云フ
第五百八十四条 法律上ノ利益トハ家屋ノ貸価、貸額ノ息銀、年金ノ額ヲ云フ
土地ノ貸価モ亦法律上ノ利益中ニ算入ス可シ
第五百八十五条 入額所得ノ権ヲ得タル時艸木ノ枝根ニ附著セシ天然及ヒ人工ノ利益トナル可キ物ハ其権ヲ得タル者ニ属ス可シ又其権ノ終リシ時其枝根ニ附著シタル天然及ヒ人工ノ利益トナル可キ物ハ土地ノ所有者ニ属ス可シ但シ双方ノ者ハ其労動及ヒ種子ニ付キ互ニ償ヲ得ント要ム可カラス又入額所得ノ権ヲ得タル時及ヒ其権ノ終リシ時其土地ノ収納物ノ一部ヲ得可キ借主アル時ハ其借主其枝根ニ附著セシ物ノ一部ヲ得可キ権ノ差支トナルコトナカル可シ
第五百八十六条 法律上ノ利益ハ日毎ニ之ヲ得ルモノナリト看做シ入額ヲ所得ト為ス者其権ヲ有スル時間ニ准シ其利益ヲ得可シ○此規則ハ家屋ノ貸価土地ノ貸価及ヒ其他ノ法律上ノ利益ニモ亦適当シテ用フ可シ
第五百八十七条 入額ヲ所得ト為ス可キ物件中ニ金額、穀物、飲料ノ如ク之ヲ用フル時ハ必ス耗尽ス可キ物アル時ハ其権ヲ得タル者之ヲ用フルコトヲ得可シト雖トモ其権ノ終リニ至リテ其耗尽シタル物ト同量、同質、同価ノ物又ハ其評価シタル金額ヲ償還ス可シ
第五百八十八条 畢生間ノ年金ヲ得可キ元金ニ付キ入額所得ノ権ヲ得タル者ハ其権ノ終リニ至ル迄其年金ヲ全ク己レノ所得トス可シ
第五百八十九条 入額ヲ所得ト為ス可キ物件中ニ麻布類及ヒ「ミュウブル、ミュウブラン」ノ如ク直ニ耗尽スルコトナシト雖トモ使用スルニ因リ漸ニ損敗ス可キ物アル時ハ其権ヲ得タル者其品物ノ当然ノ用法ニ用フルコトヲ得可ク且其権ノ終リニ至リ其時ノ侭ヲ以テ之ヲ還スコトヲ得可シ但シ悪意又ハ過失ニ因テ之ヲ損敗シタル時ハ格別ナリトス
第五百九十条 土地ノ利益ヲ所得ト為ス可キ物件中ニ時々伐出ス可キ小樹アル時ハ其入額ヲ得可キ者其所有者ノ定メタル方法及ヒ習慣ニ従ヒ其伐出ス可キ樹木ノ順序及ヒ分量ヲ定ム可シ但シ入額ヲ得可キ者其権ヲ有スル時間時々伐出ス可キ小樹又ハ船舶製造ノ為メ特ニ残シタル小樹ヲ其権ノ終リニ於テ伐出スコトナキ時ト雖トモ其者及ヒ其遺物相続人ニ其所有者ヨリ償還ヲ為スニ及ハサル可シ
土地ノ入額ヲ得可キ者培樹場ヲ損傷セスシテ其場中ヨリ移搬スルコトヲ得可キ小樹ヲ己ニ得ントスルニハ必ス其移搬シタル樹ニ換ヘ他樹ヲ植ルコトニ付キ其地ノ習慣ニ従フ可シ
第五百九十一条 又土地ノ所有者期限ヲ定メ伐出サントシタル大木ハ定リシ地ノ一部ニ生シタルモノヲ伐ル可キト其地ノ全部ニ於テ樹木ノ区別ヲ為サス其定数ヲ伐出ス可キトヲ問ハス土地ノ入額ヲ得可キ者其所有者ノ定メタル期限ト其習慣トニ従フテ常ニ之ヲ己レノ所得ト為スコトヲ得可シ
第五百九十二条 其他ノ大木ハ土地ノ入額ヲ得ル者之ヲ己レノ所得ト為ス可カラス唯其者ノ為ス可キ修復ノ為メ意外ノ事ニ因テ倒臥シ或ハ摧折シタル大木ヲ用フルコトヲ得可シ但シ修復ノ為メ必用ナル時ハ故サラニ其樹木ヲ伐倒スコトヲモ為シ得可シト雖トモ其者ハ土地ノ所有者ニ其必用ナルノ証ヲ立テサルヲ得ス
第五百九十三条 土地ノ入額ヲ所得ト為ス者ハ森林中ニテ葡萄架ニ用フ可キ木ヲ取用シ及ヒ樹木ヨリ歳々又ハ時々生スル物ヲ採収スルコトヲ得可シ但シ此等ノ諸件ヲ為スニ付テハ其地ノ習慣及ヒ所有者ノ定則ニ循フ可シ
第五百九十四条 菓樹ノ乾枯シ又ハ意外ノ事ニ因テ倒臥シ及ヒ摧折シタル時ハ土地ノ入額ヲ得ル者之ニ代ヘテ他ノ菓樹ヲ植ヘ其乾枯又ハ倒折セシ菓樹ヲ己レノ所有ト為スコトヲ得可シ
第五百九十五条 入額ヲ所得ト為ス者ハ其権ヲ自カラ保有シ又ハ償ヲ得テ他人ニ貸与ヘ又ハ其権ヲ売払ヒ又ハ償ヲ得スシテ他人ニ譲リ与フルコトヲ為シ得可シ○若シ其権ヲ償ヲ得テ他人ニ貸与フル時ハ其約定ヲ結ヒ直ス可キ期限及ヒ約定ノ存続ス可キ時間ニ付キ第三篇第五巻(婚姻ノ契約及ヒ夫婦双方ノ権)ニ記スル所ノ如ク夫其婦ノ財産ヲ取扱フコトニ付キ定メタル規則ニ循フ可シ
第五百九十六条 土地ノ入額ヲ所得ト為ス者ハ土地ノ漸積(第五百五十六条ニ詳ナリ)ニ因リ増殖シタル部分ノ入額ヲモ亦所得ト為ス可シ
第五百九十七条 土地ノ入額ヲ所得ト為ス者ハ人ニ土地ノ義務ヲ行ハシム可キノ権、土地通行ノ権及ヒ其他所有者ノ得可キ権ヲ得可シ但シ其権ヲ得ルノ方法モ亦所有者ニ均シトス
第五百九十八条 又土地ノ入額ヲ所有ト為ス者ハ其権ヲ得タル時穿開シタル金属ノ砿及ヒ石砿ヲ所有者ニ均シク己レノ益ト為スコトヲ得可シ然トモ政府ノ免許ヲ得ルニ非レハ穿開ス可カラサル金属ノ砿及ヒ石砿ニ付テハ皇帝ノ允許ヲ得シ後ノ外之ヲ己レノ益ト為スコトヲ得ス
其者ノ権ヲ得タル時尚ホ未タ穿開セサル金属ノ砿及ヒ石砿又ハ未タ掘出ササル泥炭ノ地又ハ其権ヲ有スル時間ニ見出ス可キ財貨ハ己レノ益ト為スノ権ナシ
第五百九十九条 所有者ハ自己ノ所為ニ因リ又ハ其他何レノ方法ヲ用フルヲ論セス入額ヲ得可キ者ノ権利ヲ害ス可カラス
入額ヲ得可キ者ハ其権ヲ有スル時間物件ヲ良好ニ為シ其価増加シタルト雖トモ其権ノ終リシ時其償ヲ求ム可カラス
然トモ入額ヲ得可キ者及ヒ其遺物相続人ハ其備ヘ置キタル鏡、画額及ヒ其他ノ装飾物ヲ移転スルコトヲ得可シ但シ此諸品ヲ備ヘ置キタル場所ハ之ヲ其以前ノ形状ニ復ス可シ
第二款 入額ヲ所得ト為ス者ノ義務
第六百条 入額ヲ所得ト為ス者ハ物件ヲ其景状ノ侭ニテ受取ル可シ然トモ其所有者ノ面前又ハ其面前ニ非スト雖トモ法律ニ循ヒ其所有者ヲ呼出シタル後動産ノ目録及ヒ不動産ノ模様書ヲ記セサレハ其入額ヲ所得ト為スコトヲ得ス
第六百一条 入額ヲ所得ト為ス者ハ其権ヲ得ルノ証書ニ因リ別段免許ヲ得タルニ非レハ其物件ヲ毀損セサルノ保証ヲ立ツ可シ然トモ父母法律ニ循ヒ其子ノ財産ノ入額ヲ所得ト為ス時又ハ物件ノ所有者後ニ其入額ヲ得可キノ約束ヲ以テ之ヲ売リ又ハ贈リタル時ハ格別ナリトス
第六百二条 入額ヲ所得ト為ス者其保証ヲ立ルコト能ハサル時ハ其不動産ヲ他人ニ貸与ヘ又ハ他人ニ附托シ又ハ其金額ハ息銀ヲ得可キ為メ之ヲ使用シ又其商品ハ之ヲ売払ヒ其売払ニ因リ得タル所ノ金額モ亦息銀ヲ得可キ為メ使用ス可シ
此等ノ金額ノ息銀及ヒ不動産ノ貸価ハ入額ヲ所得ト為ス者ニ属ス可シ
第六百三条 入額ヲ所得ト為ス者其保証ヲ立ルコトナキ時ハ其所有者動産中ニテ使用スルニ因リ損敗ス可キ物件ヲ売払ヒ其売払ニ因リ得タル所ノ金額ヲ商品ノ金額ニ均シク息銀ヲ得可キ為メ使用スルコトヲ得可シ但シ此場合ニ於テハ入額ヲ得可キ者其権ヲ有スル時間其金額ノ息銀ヲ得可シ○然トモ入額ヲ得可キ者自カラ誓ヲ為シテ証ヲ立テ己ノ用フルニ必要ナル動産ノ一部ヲ残シ置ク可キコトヲ求メ裁判役其時ノ景状ニ従ヒ之ヲ允許スルコトヲ得可シ但シ入額ヲ得可キ者ハ其権ノ終ニ至リ其物件ヲ還ス可シ
第六百四条 入額ヲ所得ト為ス者其保証ヲ立ツルコトヲ遅延スト雖トモ其者入額ヲ得可キノ権ヲ得タルヨリ以来得可キ所ノ利益ヲ失フコトナシ
第六百五条 家屋ノ入額ヲ所得ト為ス者ハ其小補理【テイレ】ノミヲ為ス可シ
修復ハ所有者ニテ之ヲ為ス可シ但シ入額ヲ得可キ者其権ヲ得タル後必要ナル小補理ヲ為スニ怠リ家屋ノ損壊シタル時ハ入額ヲ得可キ者其修復ヲ為ス可シ
第六百六条 修復トハ墻壁及ヒ天井ヲ修理シ梁椽及ヒ屋蓋【ヤ子】ノ全部ヲ改造スル事並ニ壕堤、繞囲、家屋ヲ支持スル壁ノ全部ヲ改造スル事
其他ノ修理ハ皆小補理ナリトス
第六百七条 歳月ヲ経タルニ因リ自【ヲ】カラ崩潰シタル建造物及ヒ意外ノ事ニ因リ損敗シタル建造物ハ其所有者及ヒ其入額ヲ得可キ者共ニ之ヲ改造スルニ及ハス
第六百八条 土地ノ入額ヲ所得ト為ス者之ヲ得ル時間ハ其税銀ヲ納メ其他定例ニ因リ其入額中ヨリ償フ可キ毎歳ノ費用ヲ払フ可シ
第六百九条 財産ノ入額ヲ所得ト為ス時間ニ其財産所有ノ権ニ付キ官ニ出ス可キ金額ハ其所有者ト其入額ヲ所得ト為ス者トニテ左ノ如ク之ヲ出ス可シ
所有者ハ其金額ヲ払ヒ入額ヲ所得ト為ス者ハ其息銀ヲ所有者ニ算計ス可シ
若シ入額ヲ所得ト為ス者其金額ヲ出シタル時ハ其入額所得ノ権ノ終リシ時其母銀ヲ取還ス可シ
第六百十条 遺嘱ヲ為ス者ヨリ人ニ畢生間ノ年金又ハ養料ヲ贈遺トシテ与ヘタル時ハ其遺物ノ入額ノ全部ヲ得可キノ権ヲ相続シタル者其年金又ハ養料ノ全額ヲ償フ可シ又其遺物ノ入額ノ一部ヲ得可キノ権ヲ相続シタル者ハ其入額ノ割合ヲ以テ其年金又ハ養料ヲ償フ可シ但シ此等ノ者ハ遺物所有ノ権ヲ相続シタル者ヨリ其金額ヲ償還セシムルコトヲ得ス
第六百十一条 遺嘱者ノ不動産中ニテ別段定メタル一物ノミノ入額所得ノ権ヲ相続シタル者ハ其不動産ノ全部ヲ質物ト為タル債ヲ償フニ及ハス若シ其者巳ムコトヲ得スシテ其債ヲ償フタル時ハ其不動産所有ノ権ヲ相続シタル者ヨリ之ヲ取還ス可シ但シ第千二十条ニ記載スル所ハ格別ナリトス
第六百十二条 遺嘱者ノ財産入額ノ全部ヲ得可キノ権ヲ相続シタル者又ハ其一部ノミヲ得可キノ権ヲ相続シタル者ト其財産所有ノ権ヲ相続シタル者ト共ニ遺物ニ属シタル負債ヲ償フ可キ方法左ノ如シ
同上ノ者ハ先ツ入額ヲ得可キ不動産ノ価ヲ算計シ其割合ヲ以テ各々担当ス可キ負債ノ額ヲ定ム可シ
又不動産ノ入額所得ノ権ヲ相続シタル者其不動産ノ割合ヲ以テ償フ可キ負債ノ額ヲ払フ時ハ其入額所得ノ権ノ終リニ至リ息銀ヲ得ルコトナク其母銀ノ償還ヲ得可シ
若シ又其入額所得ノ権ヲ相続シタル者其不動産ニ付テノ負債ヲ払フコトヲ承諾セサル時ハ其不動産所有ノ権ヲ相続シタル者其負債ノ額ヲ払ヒ入額ヲ得ル者ヲシテ其権ヲ有スル時間其息銀ヲ算計セシメ又ハ其不動産ニ属シタル負債ノ額ニ至ル迄其不動産ノ一部ヲ売払フ事ヲ為シ得可シ
第六百十三条 財産ノ入額ヲ所得ト為ス者ハ其入額ヲ得ルニ管係シタル訴訟ノ費用ト其訴訟ニ因リ言渡サル可キ償金トヲ己レニ担当ス可シ
第六百十四条 不動産ノ入額ヲ所得ト為ス時間ニ他人其不動産ノ一部ヲ掠奪シ又ハ其他ノ方法ヲ以テ所有者ノ権利ヲ害スル時ハ其入額ヲ得ル者ヨリ其由ヲ其所有者ニ報知ス可シ若シ其事ヲ報知セスシテ其所有者ノ為メ損害ノ生シタル時ハ其入額ヲ得ル者之ヲ償フ可キコト猶ホ其者ノ自カラ其所有者ニ損害ヲ加ヘタル時ト同一ナリ
第六百十五条 一頭ノ獣ニ付キ入額所得ノ権ヲ得タル後其者ノ過失ニ非スシテ其獣ノ死セシ時ハ其者ヨリ其獣ニ代ヘ他ノ獣ヲ還与シ又ハ其価ヲ償フニ及ハス
第六百十六条 数頭ノ獣類ニ付キ入額所得ノ権ヲ得タル後其者ノ過失ニ非スシテ意外ノ事又ハ疾病ニ因リ其獣ノ尽ク死スル時ハ其者ヨリ其所有者ニ其皮又ハ皮ノ価ヲ還与スルコトノミヲ必要トス
若シ其数頭ノ獣類ノ中一部ノ死シタル時ハ入額ヲ得可キ者此迄其獣類ノ増殖シタル数ニ至ル迄其死シタル獣類ノ数ヲ補フ可シ
第三款 入額ヲ所得ト為ス権ノ終ル方法
第六百十七条 入額所得ノ権ハ左ノ方法ニテ終ル可シ
入額ヲ所得ト為ス者ノ死去スル事、准死トナル事、及ヒ入額ヲ所得ト為ス可キコトヲ許セシ期限ノ終ル事
入額ヲ所得ト為スノ権ト所有ノ権トヲ一人ニテ併セタル事
入額ヲ得可キノ権ヲ三十年間行ハサル事
入額ヲ得可キ財産ノ全ク滅尽スル事
第六百十八条 又入額ヲ所得ト為ス者其不動産ヲ毀壊シタル事及ヒ修理ヲ加ヘスシテ其不動産ヲ損敗セシメタル事ニ因リ其権ヲ行フニ付テノ過失アル時ハ其権終ル可シ
入額ヲ所得ト為ス者ノ債主ハ其者ト所有者トノ間ニ起ルコトアル可キ訴訟ニ管渉シテ己レノ権利ヲ保全ス可キ為メ入額ヲ得可キ者ノ行ヒシ毀壊ヲ修繕セント述ヘ且以後其者ノ保証者トナル可キコトヲ訴フルヲ得可シ但シ裁判役ハ其時ノ景状ニ従ヒ其入額ヲ得可キノ権ノ全ク終ル可キコトヲ言渡シ或ハ入額ヲ得可キ者及ヒ其債主ニ其権ノ終リニ至ル迄其所有者ヨリ毎歳定数ノ金額ヲ償フ可キノ約定ヲ為シテ其財産ノ入額ヲ其所有者ニ属ス可キコトヲ言渡ス可シ
第六百十九条 一人ニ与ヘサル入額所得ノ権(「コムミューン」、病院、学校等ニ与ヘタル権ヲ云フ)ハ其期限三十年ヨリ多カラサル可シ
第六百二十条 甲ノ定リシ齢ニ至ル迄乙ニ与ヘシ入額所得ノ権ハ甲ノ定リシ齢ニ至ラスシテ死去シタル時ト雖トモ預メ定メタル期限ニ至ル迄継続ス可シ
第六百二十一条 入額ヲ得可キ者アル財産ヲ其所有者ノ売払ヒタル時ト雖トモ其入額ヲ得可キ者ノ権ニ変更アルコトナシ但シ其者別段其権ヲ放棄スルコトヲ述ヘタル時ハ格別ナリトス
第六百二十二条 入額ヲ所得ト為ス者其権ヲ放棄シテ債主ノ損害トナル可キ時ハ債主其者ノ其権ヲ放棄スル証書ヲ取消ト為スコトヲ得可シ
第六百二十三条 入額ヲ所得ト為ス可キ財産ノ一部ノ滅尽シタル時ハ猶其存在セル一部ニ付キ入額ヲ得可キノ権ヲ保有ス可シ
第六百二十四条 若シ家屋ノミニ付キ入額ヲ得可キノ約アリテ其家屋火災及ヒ其他意外ノ事ニ因リ滅尽シタル時又ハ歳月ヲ経タルニ因リ損壊シタル時ハ其家屋ノ地及ヒ屋財ニ付キ入額ヲ得ルノ権ナシ
又家屋土地其他一切ヲ合併シテ入額ヲ得可キノ約アル時ハ同上ノ場合ニ於テ其家屋ノ土地及ヒ屋財ノ入額ヲ得ルノ権アリ
第二章 「ユザージュ」ノ権及ヒ「アビタシヲン」ノ権
第六百二十五条 「ユザージュ」ノ権及ヒ「アビタシヲン」ノ権ハ之ヲ得及ヒ失フノ方法入額所得ノ権ト同一ナリトス
第六百二十六条 預メ保証ヲ立テ且不動産ノ模様書及ヒ動産ノ目録ヲ記スル事ナキ時ハ「ユザージュ」ノ権及ヒ「アビタシヲン」ノ権ヲ得ルコト能ハサル猶ホ入額所得ノ権ヲ得ルコト能ハサルト同一ナリトス
第六百二十七条 「ユザージュ」ノ権ヲ得ル者及ヒ「アビタシヲン」ノ権ヲ得ル者ハ其財産ヲ毀損破壊スルコトナク之ヲ用フ可シ
第六百二十八条 「ユザージュ」ノ権及ビ「アビタシヲン」ノ権ハ其権ヲ与フルノ証書ヲ以テ之ヲ定ムルモノニシテ其証書ニ記スル所ニ循ヒ其権ノ軽重ヲ定ム可シ
第六百二十九条 若シ証書ニ其権ノ軽重ヲ定ムルコトナキ時ハ左ノ如ク之ヲ定ム可シ
第六百三十条 不動産ヨリ生スル利益ニ付キ「ユザージュ」ノ権ヲ有スル者ハ自己ト家族トノ為メニ必要ナル所ノミヲ要ムルコトヲ得可シ
「ユザージュ」ノ権ヲ得タル後ニ生レタル子ノ為メ必要ナル所モ亦不動産ノ利益中ヨリ得ルコトヲ得可シ
第六百三十一条 「ユザージュ」ノ権ヲ有スル者ハ他人ニ其権ヲ譲リ与ヘ又ハ貸与フ可カラス
第六百三十二条 家屋ニ付キ「アビタシヲン」ノ権ヲ有スル者ハ其権ヲ得タル時未タ婚姻ヲ為サスト雖トモ婚姻ヲ結ヒタル後其家族ノ為メニ必要ナル部分ヲ用フルコトヲ得可シ
第六百三十三条 「アビタシヲン」ノ権ハ其権ヲ得タル者ト其家族トノ居住ノ為メ必要ナル所ノミニ限ル可シ
第六百三十四条 「アビタシヲン」ノ権ハ之ヲ他人ニ譲リ与ヘ又ハ貸与フ可カラス
第六百三十五条 「ユザージュ」及「アビタシヲン」ノ権ヲ有スル者不動産ヨリ生スル利益ノ全部ヲ己ノ所得ト為シ或ハ家屋ノ全部ヲ使用スル時ハ入額ヲ所得ト為ス者ニ均シク植附ノ費用ヲ払ヒ家屋ノ小補理ヲ為シ及ヒ税銀ヲ出ス可シ
若シ不動産ヨリ生スル利益ノ一部ノミヲ所得ト為シ或ハ家屋ノ一部ノミヲ使用スル時ハ其所得ト為シ或ハ使用シタル割合ヲ以テ其植附ノ費用ヲ払ヒ家屋ノ小補理ヲ為シ税銀ヲ出ス可シ
第六百三十六条 森林ノ「ユザージュ」ノ権ハ別段ノ法則ヲ以テ之ヲ定ム
第四巻 土地ノ義務〔千八百四年第一月三十一日決定第二月十日布告〕
第六百三十七条 土地ノ義務トハ一ノ所有者ニ属スル不動産ノ便利ノ為メ他ノ不動産ニ属スル義務ヲ云フ
第六百三十八条 土地ノ義務ニ因リ一ノ不動産他ノ不動産ニ優リタル等位ヲ得可カラス
第六百三十九条 土地ノ義務ハ或ハ其地ノ天然ノ位置ヨリ生シ或ハ法律ニテ定ムル所ヨリ生シ或ハ所有者ノ間ニ互ニ結ヒタル契約ヨリ生ス
第一章 地ノ位置ヨリ生スル義務
第六百四十条 低下ノ地ハ高阜ノ地ヨリ人工ヲ用ヒス自然ニ流下スル水ヲ受ク可キノ義務アリ
低下ノ地ノ所有者ハ此流下スル水ヲ防ク可キ為メ堤ヲ築ク可カラス
高阜ノ地ノ所有者ハ低下ノ地ノ義務ヲシテ重劇ナラシム可キ事ヲ為ス可カラス
第六百四十一条 己レノ土地内ニ水源ヲ有スル者ハ随意ニ之ヲ用フルコトヲ得可シ但シ低下ノ地ノ所有者証書ニ因リ又ハ定期ノ時間其水源ヲ用ヒタルニ因リ得タル所ノ権利アル時ハ格別ナリトス
第六百四十二条 此場合ニ於テ低下ノ地ノ所有者歳月ヲ限定シテ此権利ヲ得ントスルニハ自己ノ土地内ニ水ノ流下スルヲ容易ナラシムルコトノ明白ナル造営土功ヲ為シ終リシ時ヨリ三十年間絶セス其水源ヲ用ヒタルコトヲ必要トス
第六百四十三条 水源ノ所有者「コンミユーン」又ハ村落ノ住民ニ必要ナル水ヲ給スル時ハ其水路ヲ更改ス可カラス然トモ其住民等別段ノ契約ニ因リ其水ヲ用フルノ権ヲ得タルコトナク又ハ定期ノ時間之ヲ用ヒ終ニ其権ヲ得タルニ非サル時ハ水源ノ所有者其水ノ価ヲ得ント要ムルコトヲ得可シ但シ其価ハ評価人ノ立会ヲ以テ之ヲ定ム可シ
第六百四十四条 第五百三十八条(財産区別ノ巻)ニ公領ノ附属ト定メシモノニ非サル流水ノ傍側ニアル土地ヲ所有スル者ハ己レノ土地ヲ潤ス可キ為メ其水路ニ於テ水ヲ用フルコトヲ得可シ
其流水ノ通過スル土地ヲ所有スル者ハ其流過スル場所ニ於テ其水ヲ随意ニ用フルコトヲ得可シ然トモ其地内ヨリ流レ出ル水口ニ於テハ必ス之ヲ当然ノ水路ニ復ス可シ
第六百四十五条 若シ其水ヲ以テ資益ト為ス土地ノ所有者数人ノ間ニ訴訟ノ生スル時ハ裁判所ニテ其土地ヲ所有スル権ヲ保護ス可キ道理ト農業ノ利益トヲ斟酌シテ裁判ヲ言渡シ且何レノ場合ニ於テモ水路ノ事及ヒ水ヲ用フル事ニ付キ其各地ノ別段ナル規則ニ循フ可シ
第六百四十六条 何人ヲ問ハス土地ノ所有者ハ其近隣ノ者ヲシテ相接シタル土地ニ繞囲ヲ造ラシムルコトヲ得可シ○其繞囲ノ費用ハ双方ヨリ之ヲ償フ可シ
第六百四十七条 何人ヲ問ハス土地ノ所有者ハ第六百八十二条ニ記シタル所ヲ除クノ外其所有スル土地ニ繞囲ヲ造ルコトヲ得可シ
第六百四十八条 繞園ヲ造ラント欲スル土地ノ所有者ハ其繞囲ヲ造ル地ノ割合ヲ以テ数人ノ相互ニ用フル地ニ獣類ヲ牧畜スルノ権ヲ失フ可シ
第二章 法律ニテ定メタル土地ノ義務
第六百四十九条 法律ニテ定メタル土地ノ義務ハ国ノ資益又ハ「コンミューン」ノ資益又ハ一人ノ資益ヲ目的トスル所ナリ
第六百五十条 国ノ資益又ハ「コンミユーン」ノ資益ノ為メ定メタル土地ノ義務ハ舟楫ヲ通ス可キ河川ノ傍側ニ舟艇ノ牽路ヲ設ケ置ク事及ヒ道路ヲ造リ又ハ道路ヲ修理スル事及ヒ其外、国又ハ「コンミユーン」ニ管スル土功造営ヲ為ス事ヲ目的トス
此類ノ土地ノ義務ニ管シタル諸件ハ格別ノ法律ヲ以テ之ヲ定ム
第六百五十一条 土地ノ所有者互ニ結ヒタル契約ノ外法律ヲ以テ土地ノ所有者ノ間ニ互ニ数箇ノ義務ヲ生ス
第六百五十二条 其義務ノ一部ハ田野取締ノ規則ニ因テ之ヲ定ム
其他ノ義務ハ双方ノ所有ニ属スル分界ノ墻壁及ヒ溝渠ニ管シ又近隣ノ地ヲ望下スル事及ヒ承霤【ヤ子ノトヒ】ニ管シ又ハ土地通行ノ権ニ管ス
第一款 双方ノ所有ニ属スル分界ノ墻壁及ヒ溝渠
第六百五十三条 都会及ヒ田野ニ於テ低キ家屋ト高キ家屋ト依著スル尽頭ノ所ニ至ル迄家屋ヲ分界シタル墻壁又ハ二箇ノ内庭【ナカニハ】及ヒ園圃ノ分界ノ墻壁又ハ田野中ニ繞囲ヲ為シタル二箇ノ地ヲ分界シタル墻壁ハ之ヲ双方ノ所有ニ属スル分界ノ墻壁ト看做ス可シ但シ之ニ反シタル証書及ヒ憑拠アル時ハ格別ナリトス
第六百五十四条 若シ墻壁ノ頂ノ一方鉛直ニシテ一方斜面ナル時ハ双方ノ所有ニ属スル分界ノ墻壁ニ非サル憑拠アリトス
又墻壁ヲ造ル時施シタル墻簷又ハ搭雨【アマヨケ】及ヒ墻簷ノ受ケ木ノ一方ノミニアル時ハ亦同上ノ憑拠アリトス
此場合ニ於テ其墻壁ハ承霤、墻簷ノ受ケ木及ヒ搭雨ノアル一方ノ所有者ノミニ属シタルト看做ス可シ
第六百五十五条 双方ノ所有ニ属スル分界ノ墻壁ヲ修復シ及ヒ改造スル時ハ其墻壁ヲ有スル者各其権ノ割合ヲ以テ其費用ヲ担当ス可シ
第六百五十六条 分界ノ墻壁ヲ所有スル者ノ中一人其権ヲ放棄シタル時ハ其墻壁ヲ修復シ及ヒ改造スル事ヲ担当スルニ及ハス然レトモ其墻壁自己ニ属スル家屋ヲ支持スル時ハ格別ナリトス
第六百五十七条 分界ノ墻壁ノ所有者中一方ノ者ハ其墻壁ニ傍フテ物ヲ造作シ其厚サノ全部内五十四「ミルリメートル」(一「ミルリメートル」ハ一「メートル」ノ千分ノ一ヲ云)〔二プース〕ノ間ヲ除クノ外梁椽ヲ鑿入スルコトヲ得可シ但シ其隣人モ亦其墻壁ノ同一ノ部分ニ梁椽ヲ鑿入シ及ヒ壁ニ傍フテ奥竃【カツヘル】ヲ設ケント為ス時ハ一方ノ者ヲシテ其墻壁ノ中央迄其梁椽ヲ削穿セシム可キ権ノ差支トナルコトナカル可シ
第六百五十八条 墻壁ヲ共通シテ所有スル者ハ其分界ノ墻壁ノ高サヲ増スコトヲ得可シ然トモ之ヲ高ク為スノ費用及ヒ其増シタル部分ヲ修復スルノ費用ヲ担当シ且高サヲ増シタル割合ヲ以テ一方ノ所有者ニ償ヲ払フ可シ但シ其償ハ墻壁ノ全価ニ依テ之ヲ定ム
第六百五十九条 分界ノ墻壁ノ高サヲ増ス時若シ破壊ス可キノ恐アルニ於テハ之ヲ高ク為サントスル者自己ノ費用ヲ以テ其墻壁ノ全部ヲ改造シ且其厚サヲ増ス為メ必要ナル地ハ自己ノ地内ヨリ取用ス可シ
第六百六十条 其隣人ハ墻壁ヲ高ク為スノ助ヲ為サスト雖トモ其費用ノ半ハト其厚サヲ増ス為メ用ヒタル地価ノ半ハトヲ出ス時ハ其墻壁ヲ共通シテ所有スルコトヲ得可シ
第六百六十一条 墻壁ニ接シタル地ヲ所有スル者ハ其墻壁ノ価ノ半ハト其墻壁ノアル地価ノ半ハトヲ其所有者ニ償ヒ其全部ヲ共通シテ所有スルコトヲ得又墻壁ノ一部ノ費用ノ半ハト其一部ノアル地価ノ半ハトヲ償ヒ其一部ヲ共通シテ所有スルコトヲ得可シ
第六百六十二条 分界ノ墻壁ヲ所有スル双方ノ者ハ互ニ其隣者ノ承諾ヲ得スシテ其墻壁ニ穴ヲ穿チ及ヒ其墻壁ニ傍フテ物ヲ造作スルコトヲ得ス若シ隣者其承諾ヲ為ササル時ハ其新タニ為ス可キ造営隣者ノ権ノ害トナラサル為メ必要ナル方法ヲ鑑定人ヲシテ定メシムルコトナク之ヲ為ス可カラス
第六百六十三条 都府及ヒ廓外ヲ問ハス何人ト雖トモ其隣人ヲシテ二箇ノ家屋、内庭、園圃ヲ分界スル墻壁ノ造営及ヒ修復ニ付キ其助ヲ為サシム可シ但シ其墻壁ノ高サハ別段ナル規則又ハ永ク相伝ヘ衆庶ノ熟知シタル習慣ニ従ヒ之ヲ定ム可シ若シ其規則及ヒ習慣ノアラサル時ハ以後造営又ハ修復ヲ為ス可キ分界ノ墻壁ヲ五万以上ノ人口アル都会ニ於テハ墻簷ヲ兼テ其高サ三十二「デシメートル」(「デシメートル」ハ一「メートル」ノ十分ノ一ヲ云)〔十ビヱー〕以上ト為シ其他ノ各所ニ於テハ二十六「デシメートル」〔八ピヱー〕以上ト定ム可シ
第六百六十四条 家屋ノ数箇ノ層階ヲ所有スル者各々異ナル時其層階ヲ所有ト為ス証書ニ因リ之ヲ修復シ或ハ改造スル方法ヲ定メシ事ナキニ於テハ左ノ如ク其修復及ヒ改造ヲ為ス可シ
大ナル墻壁及ヒ屋蓋ハ各所有者其所有ノ層階ノ価ニ準シ其費用ヲ出ス可シ
各層階ノ所有者ハ其踏歩スル楼板【ニカイノユカ】ヲ造ル可シ
二階ノ所有者ハ其層階ニ登ル可キ梯子ヲ造リ三階ノ所有者ハ二階ニ登ル可キ梯子ニ連接シテ其層階ニ登ル可キ梯子ヲ造リ他ノ層階ノ所有者ハ皆之ニ倣フ可シ
第六百六十五条 家屋及ヒ双方ノ所有ニ属スル分界ノ墻壁ヲ改造スル時ハ其新造ノ墻壁又ハ家屋ニ付キ之ヲ為シタル一方ノ者他ノ一方ノ者ニ対シ己レノ権利ト己レノ義務トヲ以前ニ均シク継続シ之ヲシテ以前ヨリ更ニ重劇ナラシム可カラス然トモ其義務ノ終リタル期限後ニ其改造ヲ為シタル時ハ格別ナリトス
第六百六十六条 二箇ノ土地ノ中間ニアル溝渠ハ双方ノ所有ニ属スル分界ノ溝渠ナリト看做ス可シ但シ之ニ反シタル証書又ハ憑拠アル時ハ格別ナリトス
第六百六十七条 溝渠ノ一側ノミニ堤アル時又ハ之ヲ穿チテ濬ヒ上タル土ヲ堆積シタル時ハ双方ノ所有ニ属スル分界ノ溝渠ニ非ルノ憑拠アリトス
第六百六十八条 此溝渠ハ其濬ヒ上ケシ土ヲ堆積スル一側ノ所有者ノミニ属スルト看做ス可シ
第六百六十九条 双方ノ所有ニ属スル分界ノ溝渠ハ其所有者双方ノ費用ヲ以テ之ヲ修理ス可シ
第六百七十条 二箇ノ土地ヲ分界スル植籬【イケカキ】ハ之ヲ双方ノ所有ニ属スル分界ノ植籬ト看做ス可シ但シ其二箇ノ土地中ノ一箇ノミニ繞囲ヲ為シタル時又ハ其植籬一方ノ所有者ノミニ属スル証書アル時及ヒ定期ノ時間一方ノ所有者ノミニテ之ヲ用ヒタル時ハ格別ナリトス
第六百七十一条 現今定マリシ別段ノ規則及ヒ永ク相伝ヘテ衆庶ノ熟知セシ習慣ニ因リ定リタル距離ニ非サレハ大木ヲ植ユ可カラス又其規則及ヒ習慣ノアラサル時ハ大木ニ付テハ二箇ノ土地ノ経界ノ線ヨリ二「メートル」ノ距離其他ノ樹木及ヒ植籬ニ付テハ半「メートル」ノ距離内ニ其樹木ヲ植ヘ又ハ植籬ヲ設ル事ヲ為ス可カラス
第六百七十二条 前条ニ記載スル所ヨリ更ニ少キ距離ニ植タル樹木及ヒ植籬ハ隣人ヨリ之ヲ抜去ル可キノ要メヲ為スコトヲ得可シ隣人ノ樹枝己レノ土地内ニ侵出シタル時ハ隣人ヲシテ之ヲ伐ラシムルコトヲ得可シ若シ隣人ノ樹根己レノ土地内ニ侵出シタル時ハ自カラ之ヲ伐ルノ権アリ
第六百七十三条 双方ノ所有ニ属スル分界ノ植籬中ニ在ル樹木ハ其植籬ニ等シク双方ノ所有者ニ属シ其所有者中何レノ者ト雖トモ之ヲ伐ルヲ要ムルノ権アリ
第二款 造営、土功ヲ為スニ必要ナル距離及ヒ二箇ノ家屋ノ中間ニ為ス可キ造営ノ事
第六百七十四条 双方ノ所有ニ属スルト否トヲ問ハス分界ノ墻壁ニ傍フテ井又ハ厠瓶【コエツボ】ヲ掘ル者
其墻壁ニ傍フテ奥竃、竃、鋳造所、炉ヲ造ラントスル者
其墻壁ニ傍フテ獣欄ヲ造ラントスル者
其墻壁ニ傍フテ塩庫及ヒ物ヲ腐蝕ス可キ品物ノ貯場ヲ造ラントスル者
此等ノ者ハ其隣人ニ害ヲ為スヲ避ルカ為メ別段ノ規則及ヒ習慣ニテ定メタル距離ヲ余シ又ハ其規則及ヒ習慣ニ因リ定メタル如ク二箇ノ家屋ノ中間ニ造営土功ヲ為ス可シ
第三款 隣地ヲ望下スル事
第六百七十五条 土地ノ所有者ハ何レノ方法タルヲ問ハス隣人ノ許諾ヲ得スシテ双方ニ属スル分界ノ墻壁ニ窓及ヒ穴ヲ穿ツ可カラス但シ其窓ハ開閉セサル玻璃板ヲ用ヒタルモノト雖トモ又之レヲ造ルコトヲ許サス
第六百七十六条 一方ノミニ属スル分界ノ墻壁ヲ所有スル者ハ其墻壁ニ開閉セサル玻璃板ヲ用ヒシ鉄格アル窓ヲ造ルコトヲ得可シ其鉄格ノ間ハ一「デシメートル」〔三プース〕八「リーン」ニ過ルコトナカル可シ
第六百七十七条 此窓ハ層階下ニ於テハ其室地台【ドダイ】ノ上二十六「デシメートル」〔八ピヱー〕ヨリ更ニ高所ニ造ル可ラス又層階ノ室ニ於テハ楼板ノ上十九「デシメートル」〔六ビヱー〕ヨリ更ニ高所ニ造ル可カラス
第六百七十八条 一方ノ墻壁ト隣地トノ距離十九「デシメートル」〔六「ピヱー」〕以上ナルニ非サレハ隣地ノ繞園ノ有無ヲ問ハス其墻壁ニ隣地ヲ直視ス可キ窓ヲ造ルコトヲ得ス又層階ノ窓前ニ縁側及ヒ其他ノ突出セシ物ヲ造ルコトヲ得ス
第六百七十九条 其距離ノ六「デシメートル」〔二ピヱー〕以上ナルニ非ザレハ隣地ヲ横ニ望下シ及ヒ斜ニ望下スル窓ヲ造ルコトヲ得ス
第六百八十条 前二条ニ記シタル距離ハ其窓ヲ穿ツ可キ墻壁ノ外面ヨリ二箇ノ地ノ分界ノ線ニ至ル迄之レヲ測リ又層階ノ窓前ノ縁側及ヒ其他ノ突出セシ物ニ付テハ其外部ノ線ヨリ之レヲ測ル可シ
第四款 承霤
第六百八十一条 不動産ノ所有者ハ己レノ土地内又ハ往還ノ道路ニ雨水ヲ流下セシム可キ方法ヲ以テ其屋蓋ヲ造ル可シ隣人ノ地内ニ雨水ヲ流下セシム可カラス
第五款 通行ノ権
第六百八十二条 自己ノ所有スル土地他人ノ土地ニ環遶セラレ往還ノ道ニ至ル可キ径路ナキ時ハ隣地ヲ通行スルノ権ヲ得ント要ムルコトヲ得可シ但シ此事ニ付キ隣地ニ生ス可キ損失ノ償ヲ出ス可シ
第六百八十三条 其径路ハ必ス隣地内ニテ自己ノ地ヨリ往還ノ道ニ至ルニ其距離ノ最モ少キ部分ニ之ヲ造ル可シ
第六百八十四条 然トモ其径路ハ隣地ノ為メニ最モ損害ノ少ナキ部分ニ之ヲ造ル可シ
第六百八十五条 第六百八十二条ニ記セシ償ヲ要ムルノ訴訟ハ之ヲ定期内ニ為サザルニ於テハ終ニ其権ヲ失フ可シ但シ其償ヲ得可キ者既ニ其訴訟ヲ為スノ権ヲ失フタル時ニ至ルト雖トモ通行ノ権ヲ得タル者ハ之ヲ失フコトナカル可シ
第三章 人ノ所為ニ因テ生スル土地ノ義務
第一款 財産ニ付キ生スル義務ノ種類
第六百八十六条 不動産ノ所有者ハ己レノ意ニ随ヒ其不動産ニ付キ義務又ハ権利ヲ生スルコトヲ得可シ但シ此義務ハ人ニ付キ之ヲ生スルコトヲ得ス土地又ハ家屋ノミニ付キ之ヲ生スルコトヲ得可シ又其義務ニ因リ公ケノ安寧ヲ害スルコトナカル可シ
此ノ如ク生シタル義務ヲ行フ方法及ヒ其権利ノ軽重ハ其義務ヲ生シタル証書ヲ以テ定ム可シ若シ其証書ナキ時ハ次ノ数条ニ記スル所川ノ規則ニ循フ可シ
第六百八十七条 此義務ハ家屋ニ付キ生スルモノアリ又ハ土地ニ付キ生スルモノアリ
家屋ニ付キ生シタル義務ハ其家屋ノ都府又ハ田野ニアルヲ問ハス之レヲ総称シテ「ユルベイン」(市中ノ義)ト云フ
土地ニ付キ生シタル義務ハ之ヲ総称シテ「リュラアル」(田野ノ義)ト云フ
第六百八十八条 此義務ニ間断ナキモノアリ又間断アルモノアリ
間断ナキ義務トハ人ノ現ニ為ス所ニ因ラスシテ連綿スル義務ヲ云フ即チ水樋、承霤、窓窓及ヒ此種類ノ物ニ付テノ義務是ナリ
間断アル義務トハ人ノ現ニ為ス所ニ因ル義務ヲ云フ即チ通行ノ義務、汲水ノ義務、牧畜ノ義務及ヒ此種類ノ義務是ナリ
第六百八十九条 土地ノ義務ニ人目ニ触ル可キモノアリ又人目ニ触レザルモノアリ
人目ニ触ル可キ義務トハ造営及ヒ土功ニ因リ其憑拠アルモノヲ云フ即チ門、窓、水樋アル時ノ義務是ナリ
人目ニ触サル義務トハ其存在スル憑拠ノ目ニ触サルモノヲ云フ即チ土地ニ造営ヲ為スノ禁又ハ定リシ高サニ非レハ造営ヲ為ス可カラサル禁ノ如シ
第二款 土地ノ義務ヲ定ムル方法
第六百九十条 間断ナク且人目ニ触ル可キ義務ハ証書ニ因リ之レヲ定メ又ハ三十年ノ期限ヲ経タルニ因リ之ヲ定ム可シ
第六百九十一条 間断ナキ人目ニ触サル義務及ヒ間断アリテ人目ニ触ル可キ義務又ハ間断アリテ人目ニ触サル義務ハ証書ニ因ラスシテ之ヲ定ム可カラス
起源ノ推知シ難キ時ヨリ此義務アリト雖トモ証書ナクシテ之ヲ定ムルコトヲ得ス然トモ定期間此類ノ義務アルニ因リ終ニ之ヲ定ムルヲ得可キ習慣アル地ニ於テハ其期限間継続シタル所ノ義務ヲ方今ニ至リ取消ス可カラス
第六百九十二条 間断ナク且ツ人目ニ触ル可キ義務ヲ定ムルニ付テハ別ニ証書ナシト雖トモ土地ノ以前ノ所有者ノ意思ヲ以テ足レリトス
第六百九十三条 現今二箇ニ分チタル土地以前一人ノ所有者ニ属シ且其所有者其土地ヲ現今ノ義務ヲ生ス可キ景状ト為シタルノ証アルニ非サレハ土地ノ所有者其義務ヲ生セシム可キノ意思アリトセス
第六百九十四条 二箇ノ士地ノ間ニ目ニ触ル可キ義務ノ証アリテ其二箇ノ地ヲ所有スル者其義務ニ管シタル契約ナク其一箇ヲ他人ニ売払フタル時ハ其売払フタル土地ノ得可キ権利及ヒ行フ可キ義務ヲ共ニ以前ノ如ク継続ス可シ
第六百九十五条 定期間得タルニ因リ終ニ定ムルコトヲ得タルニ非ル土地ノ権利ニ付キ之ヲ定メタル証書ヲ失ヒシ時ハ其義務ヲ行フ可キ地ノ所有者ノ記シタル其権利ヲ認【ミトム】ルノ書アルニ非サレハ一方ノ者其権利ヲ失フ可シ
第六百九十六条 義務ヲ生スルコトヲ定メタル時ハ一方ノ権利ノ為メ必要ナル諸件モ亦承諾シタルト看做ス可シ故ニ己レノ地内ノ噴泉ニテ他人ニ水ヲ汲マシム可キノ義務アル時ハ其通行ノ権モ亦承諾シタルト看做ス可シ
第三款 権利ヲ有シタル土地ノ所有者ノ権
第六百九十七条 土地ノ権利ヲ有スル者ハ一方ノ義務ヲ己レノ益ト為シ且之ヲ保全スルニ必要ナル造営及ヒ土功ヲ為スコトヲ得可シ
第六百九十八条 此造営及ヒ土功ハ其権利ヲ有スル者ノ費用ヲ以テ之ヲ為シ其義務ヲ行フ可キ者ノ費用ヲ以テ之ヲ為ス可カラス但シ其義務ヲ生スル証書ニ之レニ反シタル条件ヲ記シタル時ハ格別ナリトス
第六百九十九条 義務ヲ行フ可キ地ノ所有者証書ニ拠リ其義務ヲ行ヒ又ハ之ヲ保全スルニ必要ナル造営及ヒ土功ヲ為ス可キ約定アル時ト雖トモ其義務ヲ行フ可キ土地ヲ権利ヲ有スル土地ノ所有者ニ附与スル時ハ其費用ヲ出ス可キコトヲ免ルルヲ得可シ
第七百条 若シ権利ヲ有スル土地ヲ分チタル時ハ其各部ニ其権利アリトス然トモ一方ノ地ノ義務ヲシテ以前ヨリ更ニ重劇ナラシムルコトナカル可シ
故ニ通行ノ権ニ付テハ其分チタル土地ノ各部ノ所有者各々必ス同一ノ道ヲ通行ス可シ
第七百一条 義務ヲ行フ可キ地ノ所有者ハ其権利ヲ有スル者ノ利益ヲ減シ又ハ其権利ヲ行フニ不便ナラシム可キ事ヲ為ス可カラス故ニ義務ヲ行フ可キ地ノ所有者ハ土地ノ模様ヲ変易シ又ハ其行フ可キ義務ヲ従来ノ場所ヨリ他ノ場所ニ移ス可カラス
然トモ従来定マリシ場所ニテ其義務ヲ行フコト其地ノ所有者ノ為メ損害ヲ増スニ至ル可キ時又ハ其所有者其地内ニ有益ナル修復ヲ為スノ妨ケトナル時ハ義務ヲ行フ可キ者ヨリ権利ヲ有スル地ノ所有者ニ其権ヲ行フニ付キ従来ニ等シク便利ナル部分ヲ換用ス可キノ求メヲ為スコトヲ得可シ但シ此時ハ権利アル地ノ所有者其求メヲ肯セサルヲ得ス
第七百二条 土地ノ権利ヲ有スル者ハ己レノ土地ニ於テモ又ハ義務ヲ行フ可キ土地ニ於テモ義務ヲ重劇ニ為ス可キ変更ヲ為スコトヲ得ス唯々其証書ニ循テ其権ヲ行フ可シ
第四款 土地ノ義務ノ終ル方法
第七百三条 不動産ヲ用フルコト能ハサル景状ニ至リシ時ハ其義務モ亦終ル可シ
第七百四条 其不動産ヲ用フルコトヲ得可キ景状ニ復シタル時ハ其義務モ亦復ス可シ但シ第七百七条ニ記スル所ノ如ク義務ノ全ク終リシコトヲ推知スルニ足ル可キ時間ノ既ニ経過シタル時ハ格別ナリトス
第七百五条 義務ヲ行フ可キ地ト権利ヲ有スル地ト同人ノ所有トナル時ハ其義務終ル可シ
第七百六条 土地ノ義務ハ三十年間之ヲ行ハサルニ因リ終ル可シ
第七百七条 此三十年ノ期限ハ義務ノ種類ニ因テ算ヘ始ムルノ日各異ナリトス但シ間断アル義務ニ付テハ其義務ヲ行フコトヲ止メタル日ヨリ之ヲ算ヘ間断ナキ義務ニ付テハ其義務ニ反シタル事ヲ為シタル日ヨリ之ヲ算フ可シ
第七百八条 土地ノ権利ヲ行フノ方法ヲ変スル事ハ義務ニ均シク定期ニ循テ之ヲ為ス可シ
第七百九条 若シ権利ヲ有スル地ノ区別ナク数人ニ属スル時其中ノ一人其権利ヲ行ヒタルニ於テハ其他ノ者定期間之ヲ行ハスト雖トモ終ニ其権ヲ失フニ至ルコトナカル可シ
第七百十条 若シ土地ヲ区別セス共同シテ所有スル数人中ニ幼者ノ如ク定期間権利ヲ行ハスト雖トモ之ヲ失ハサル者アル時ハ其他ノ所有者モ亦其権利ヲ失フコトナカル可シ
第三篇 財産所有ノ権ヲ得ル種々ノ方法総規則〔千八百三年第四月十九日決定同月廿九日布告〕
第七百十一条 財産所有ノ権ハ遺物相続ニ因リ又ハ生存中ノ贈遺及ヒ遺嘱ノ贈遺ニ因リ又ハ契約ニ因テ之ヲ得可シ
第七百十二条 主ニ因テ従ヲ併スノ権又ハ連合ス可キ物ヲ得ルノ権及ヒ定期ノ時間己レノ用ヒタル物件ヲ所得ト為スノ権ニ因リ亦財産所有ノ権ヲ得可シ
第七百十三条 所有者ナキ財産ハ政府ニ属ス可シ
第七百十四条 一人ニ属セス衆人ノ相共ニ用フ可キ財産アリ
此財産ヲ用フルノ方法ハ国中取締ノ法ヲ以テ之ヲ定ム
第七百十五条 打魚狩猟ヲ為スノ免許モ亦格別ノ法則ヲ以テ之ヲ定ム
第七百十六条 自己ノ地内ニ於テ財貨ヲ見出シタル時ハ之ヲ見出シタル者ノ所有トス可シ若シ他人ノ地内ニ於テ之ヲ見出シタル時ハ其見出シタル者其半ハヲ所得トシ其地ノ所有者其半ハヲ所得トス可シ
見出シタル財貨トハ埋蔵シタルヲ料ラス見出シテ所有者ノ知レサル物ヲ云フ
第七百十七条 性質及ヒ種類ノ如何ナルヲ問ハス海中ニ投ケ入レシ品物及ヒ海水ノ打上ケシ品物又ハ海岸ニ生スル草類ヲ所得トスルノ権ハ亦別段ノ法則ヲ以テ之ヲ規定ス
所有者ノ出テサル拾取物モ亦之ニ均シ
第一巻 遺物相続〔千八百三年第四月十九日決定同月廿九日布告〕
第一章 遺物相続ヲ始ムル事及ヒ相続人遺物ヲ所得ト為ス事
第七百十八条 遺物相続ハ人ノ死去及ヒ准死ニ因テ之ヲ始ム可シ
第七百十九条 遺物相続ハ第一篇第一巻(民権ノ受奪)第二章第二款ノ規則ニ循ヒ准死ヲ受ケシ時ヨリ之ヲ始ム可シ
第七百二十条 若シ互ニ遺物相続ヲ為ス可キ者数人同一ノ事ニテ死去シ其中何レノ者先ニ死去シタルヤヲ知ルコトヲ得サル時ハ其時ノ景況ニ因リ思料【ヲシハカル】シテ其中ノ後ニ死去シタル者ヲ定メ又其景況ノ分明ナラサル時ハ其死者ノ年齢ト男女トノ分別ヲ以テ定ム可シ
第七百二十一条 若シ同時ニ死去シタル数人ノ者皆十五歳以下ナル時ハ其中ノ年長者ヲ以テ後ニ死去シタルト思料ス可シ
若シ同時ニ死去シタル数人ノ者皆六十歳以上ナル時ハ其中齢ノ少ナキ者ヲ以テ後ニ死去シタルト思料ス可シ
若シ同時ニ死去シタル数人中ニ十五歳以下ナル者ト六十歳以上ナル者トアル時ハ十五歳以下ノ者ヲ以テ後ニ死去シタルト思料ス可シ
第七百二十二条 若シ同時ニ死去シタル数人ノ者皆満十五歳以上六十歳以下ニシテ其齢ノ全ク均シク又ハ其齢ノ差一歳ニ過サル時ハ常ニ男ヲ以テ後ニ死去シタルト思料ス可シ
若シ其数人ノ者男又ハ女ノミナル時ハ遺物相続ヲ為ス可キ天然ノ順序ニ従テ思料ス可シ故ニ年少ノ者ヲ年長ノ者ヨリ後ニ死去シタルト思料ス可シ
第七百二十三条 当然ノ遺物相続人其遺物相続ヲ為スノ順序ハ法律ヲ以テ之ヲ規定シ若シ当然ノ遺物相続人アラサル時ハ私生ノ子遺物相続ヲ為シ又私生ノ子アラサル時ハ夫婦中ノ生存スル者之ヲ為シ夫婦中ノ生存スル者アラサル時ハ其財産ヲ官ニ徴収ス可シ
第七百二十四条 当然ノ遺物相続人ハ別ニ裁判所ニ願ハスト雖トモ遺物中ノ負債及ヒ諸費ヲ償フテ死者ノ財産及ヒ死者ノ権利ヲ所得ト為スノ権アリ然トモ私生ノ子及ヒ夫婦中ノ生存スル者遺物相続ヲ為ス時又ハ其財産ヲ官ニ徴収スル時ハ必ス定式ニ循ヒ裁判所ノ許ヲ得タル上之ヲ為スヲ必要トス
第二章 遺物相続ヲ為スニ必要ナル諸件
第七百二十五条 遺物相続ヲ為サントスル者ハ其遺物相続ヲ始ムル時現存スルコトヲ必要トス故ニ左ノ諸人ハ遺物相続ヲ為スコトヲ得ス
第一 未タ懐胎ノ徴ナキ子
第二 出産ノ後生存シ能ハサル可キ子
第三 准死ヲ受ケシ者
第七百二十六条 〔千八百十九年第七月十四日ノ法ヲ以テ廃ス〕外国人ハ其親族ノ外国人又ハ仏蘭西人タルヲ問ハス其親族ノ仏蘭西領地内ニ於テ所有スル財産ヲ相続ス可キ場合ト方法トニ付キ必ス仏蘭西人其親族ノ外国領地内ニ於テ所有スル財産ヲ相続ス可キ場合ト方法トニ循フ可シ但シ此規則ハ第十一条(民権受奪ノ巻)ニ記スル所ニ均シトス
第七百二十七条 第一 死者ヲ殺シ又ハ殺サント為シタルコトニ付キ刑ノ言渡ヲ受ケシ者
第二 死者ヲ死刑ニ処ス可キ讒訴ヲ上告シタル者
第三 死者ノ殺害セラレタルヲ知リテ其事ヲ裁判所ニ上告セサル丁年者
此等ノ者ハ遺物相続ヲ為ス可カラサルニ因リ遺物相続人ノ員中ヲ除去セラル可シ
第七百二十八条 死者ヲ殺害シタル者ノ血属ノ尊属ノ親及ヒ卑属ノ親並ニ姻属ノ同上ノ親及ヒ其配偶者、兄弟、姉妹、伯叔父母、甥、姪ハ其殺害ノ事ヲ上告セサルヲ以テ死者ノ遺物相続ヲ為スノ差支トナルコトナシ
第七百二十九条 遺物相続ヲ為スノ禁ヲ受ケタルニ因リ遺物相続人ノ員中ヨリ除去セラレタル者ハ遺物相続ヲ為シ始メタルヨリ以来其所得ト為シタル利益及ヒ入額ヲ還ス可シ
第七百三十条 遺物相続ヲ為スノ禁ヲ受ケシ者ノ子其親ニ代リ遺物相続ヲ為ス可ラス然トモ自己ノ権ニ因リ遺物相続ヲ為ス可キ時ハ其親ノ過咎ノ為メ遺物相続人ノ員中ヨリ除去セラルルコトナカル可シ但シ遺物相続ヲ為スノ禁ヲ受ケシ者ハ通常ノ法則ニテ允許セシ如ク其子ノ相続シタル財産ニ付キ其入額ヲ得可キノ権ヲ得ント要ム可カラス
第三章 遺物相続ヲ為スノ順序
第一款 総規則
第七百三十一条 遺物相続ハ後ノ数条ニ記載スル所ノ順序ト規則トニ循ヒ死者ノ子及ヒ卑属ノ親、尊属ノ親及ヒ傍系ノ親之ヲ為ス可シ
第七百三十二条 法律上ニテ遺物相続ノ規定ヲ為スニ付テハ財産ノ性質及ヒ原由ヲ問フコトナシ
第七百三十三条 尊属ノ親及ヒ傍系ノ親ノ相続ス可キ遺物ノ財産ハ之ヲ二箇ノ平等ノ部分ト為シ其一部ハ本宗ノ親ニ属シ其一部ハ外族ノ親ニ属ス
異父又ハ異母ノ兄弟ハ父母ヲ同ウスル兄弟ノ為メ遺物相続人ノ員中ヨリ除去セラルルコトナカル可シ然トモ弟七百五十二条ニ記スル所ノ外其所属ノ族ニテ得可キ所ノ遺物ノ財産中ニ於テ己レノ部分ヲ得可シ○父母ヲ同ウスル親族ハ本宗及ヒ外族ノ二族ニ於テ遺物相続ヲ為スコトヲ得可シ
本宗及ヒ外族ノ二族中其一族ニ尊属ノ親及ヒ傍系ノ親ノ全クアラサル時ノ外他ノ一族ノ親ニ全ク遺物相続ノ権ヲ移ス可カラス
第七百三十四条 死者ノ本宗ノ親ト外族ノ親トノ間ニ遺物ノ財産ヲ分チタル上ハ其支属ノ間ニ更ニ之ヲ分ツニ及ハス但シ其本宗ト外族トノ二族ニ分チタル部分ハ後ニ記スル所ノ代テ遺物相続ヲ為ス時ノ外最モ親近ノ遺物相続人一人又ハ数人ニ属ス可シ
第七百三十五条 血統ノ親疎ハ人ノ代ノ数ヲ以テ之ヲ定メ其一代ヲ名ケテ級ト云フ
第七百三十六条 数箇ノ級相連ナルヲ系ト云ヒ其経直ニシテ互ニ血統アル者ノ級相連ナルヲ宗系ト云ヒ又其経直ニ非スシテ所出ノ同シキニ因リ互ニ血統アル者ノ級相連ナルヲ傍系ト云フ
宗系ヲ分ツテ二トス其一ハ卑属ノ宗系又一ハ尊属ノ宗系ナリ
卑属ノ宗系トハ人ヲ其卑属ノ者ト相連接セシムル系ヲ云ヒ尊属ノ宗系トハ人ヲ其尊属ノ者ト相連接セシムル系ヲ云フ
第七百三十七条 宗系ニ於テハ代ノ数ニ准シテ級ノ数ヲ立ツ故ニ子ハ父ニ対シテ第一級トシ孫ハ第二級トス又之ニ反シテ言フ時ハ其親ヲ第一級トシテ其祖父ヲ第二級トス
第七百三十八条 傍系ニ於テハ此人ヨリ其所出ノ者ニ至リ其者ヨリ彼人ニ至ル代ノ数ニ准シテ級ノ数ヲ定ム
故ニ兄弟ハ第二級トシ伯叔父ト甥トハ第三級トシ従兄弟ハ第四級トス他ハ皆之ニ做フ
第二款 代テ遺物相続ヲ為ス事
第七百三十九条 代テ遺物相続ヲ為ストハ法律上ニ於テ此人ヲ以テ直チニ彼人ト同視スル為メ別段ニ設ケタル規則ニシテ其代ル者ニ死セシ本人ノ級ト権トヲ全ク移スヲ云フ
第七百四十条 卑属ノ親ハ其級ノ如何ナルヲ問ハス尊属ノ親ニ代テ遺物相続ヲ為スコトヲ得可シ喩ヘハ死者ノ子ト其死者ヨリ前ニ死シタル子ノ卑属ノ親ト共ニ遺物相続ヲ為ス可キ時又ハ死者ノ子皆死者ヨリ前ニ死去シテ其子ノ同級ノ卑属ノ親又ハ同級ナラサル卑属ノ親数人ニテ共ニ遺物相続ヲ為ス可キ時ハ卑属ノ親其尊属ノ親ニ代テ遺物相続ヲ為スヲ得可キカ如シ
第七百四十一条 尊属ノ親ハ卑属ノ親ニ代テ遺物相続ヲ為ス可カラス又本宗又ハ外族ノ親近ノ尊属ノ親ハ常ニ疎遠ノ尊属ノ親ヲ除去シテ遺物相続ヲ為ス可シ
第七百四十二条 傍系ニ於テハ死者ノ兄弟及ヒ姉妹ノ卑属ノ親其伯叔父母ト共ニ遺物相続ヲ為ス可キ時又ハ死者ノ兄弟姉妹皆死者ヨリ前ニ死シテ其兄弟姉妹ノ同級ノ卑属ノ親又ハ同級ナラサル卑属ノ親数人共ニ遺物相続ヲ為ス可キ時卑属ノ親其尊属ノ親ニ代テ遺物相続ヲ為スコトヲ得可シ
第七百四十三条 代テ遺物相続ヲ為スヲ允許シタル場合ニ於テハ遺物ノ財産ヲ族ニ因テ之ヲ分チ若シ同一ノ族ニ数箇ノ旁支アル時ハ其旁支中ノ族ニ因テ更ニ之ヲ分チ同一ノ旁支中ノ人ハ一人毎ニ之ヲ分ツ可シ
第七百四十四条 生存スル人ニ代リテ遺物相続ヲ為スコトヲ得可カラス死去シ又ハ准死ヲ受シ者ノミニ代リテ遺物相続ヲ為スコトヲ得可シ
若シ尊属ノ親死去シ卑属ノ親其遺物相続ヲ放棄シタルト雖トモ後ニ其死者更ニ尊属ノ親ノ遺物ヲ相続ス可キノ理アル時ハ其卑属ノ親其死者ニ代リテ遺物相続ヲ為スコトヲ得可シ
第三款 卑属ノ親遺物相続ヲ為ス事
第七百四十五条 子及ヒ卑属ノ親ハ男女ノ区別無ク且出生シタル順序ヲ問ハス又父母ノ異ナルヲ問ハス其父母祖父母及ヒ其他ノ尊属ノ親ノ遺物相続ヲ為ス可シ
若シ其子及ヒ卑属ノ親皆第一級ニ在テ自己ノ権ヲ以テ遺物相続ヲ為ス可キ時ハ各自ニ平等ノ部分ヲ相続ス可シ又其子及ヒ卑属ノ親皆代テ遺物相続ヲ為ス可キ時又ハ其子及ヒ卑属ノ親中ノ数人ノミ代テ遺物相続ヲ為ス可キ時ハ其族ニ因テ遺物相続ヲ為ス可シ
第四款 尊属ノ親遺物相続ヲ為ス事
第七百四十六条 死者ニ子孫、兄弟、姉妹及ヒ其兄弟、姉妹ノ卑属ノ親ナキ時ハ其死者ノ遺物ノ財産ヲ半ハニ分チ父又ハ宗系ノ尊属ノ親ト母又ハ外族ノ尊属ノ親ト之ヲ相続ス可シ
級ノ親近ナル尊属ノ親ハ自己ノ属スル族ニ於テ受ク可キ所ノ遺物ノ財産ヲ相続シ其族中ノ更ニ疎遠ナル尊属ノ親ハ其遺物ヲ相続ス可カラス
又同級ノ尊属ノ親ハ各自ニ其遺物相続ヲ為ス可シ
第七百四十七条 尊属ノ親ヨリ子又ハ卑属ノ親ニ与ヘタル物其子又ハ卑属ノ親ノ子ナクシテ死去シタル時猶以前ノ侭ニテ存スル時ハ其尊属ノ親他ノ親族ヲ除去シテ其物ヲ相続ス可シ
又其与ヘタル物ヲ既ニ売払フタル時ハ其金額ヲ相続ス可シ
又其物ヲ得タル子及ヒ卑属ノ親ヨリ他人ニ対シテ其物ヲ取還ス可キ訴訟ヲ為スノ権モ亦其尊属ノ親ニ移ス可シ
第七百四十八条 人子孫ナクシテ死去シタル時其父母猶生存シ且其死者ノ兄弟姉妹及ヒ其兄弟姉妹ノ卑属ノ親モ亦生存スルニ於テハ其死者ノ財産ヲ平等ノ二部ニ分チ其一部ハ父母之ヲ相続シ其父ト母トニテ又其一部ヲ平等ノ二部ニ分ツ可シ
其他ノ一部ハ此章ノ第五款ニ記スル如ク兄弟姉妹及ヒ其卑属ノ親之ヲ相続ス可シ
第七百四十九条 人子孫ナクシテ死去シ其父母中ノ一人亦既ニ死去シテ其兄弟姉妹及ヒ其兄弟姉妹ノ卑属ノ親アル時ハ前条ニ循ヒ父母中ノ死シタル者ニ属ス可キ財産ノ部分ヲ兄弟姉妹及ヒ其兄弟姉妹ノ卑属ノ親ニ属ス可キ財産ノ一部ト併合ス可キ事此章ノ第五款ニ記スル所ノ如クナル可シ
第五款 傍系ノ親遺物相続ヲ為ス事
第七百五十条 子孫ナクシテ死去シタル者ノ父母既ニ死去セシ時ハ其兄弟姉妹及ヒ兄弟姉妹ノ卑属ノ親ニテ尊属ノ親及ヒ他ノ傍系ノ親ヲ除去シ遺物相続ヲ為ス可シ
其兄弟姉妹ノ卑属ノ親ハ此章ノ第二款ニ記シタル如ク自己ノ権ヲ以テ遺物相続ヲ為シ又ハ代テ遺物相続ヲ為ス可シ
第七百五十一条 子孫ナク死去シタル者ノ父母猶生存スル時ハ其兄弟姉妹及ヒ兄弟姉妹ノ卑属ノ親死者ノ財産ノ半ハノミヲ相続ス可シ○若シ其父母中ノ一方ノミ生存シタル時ハ兄弟姉妹及ヒ兄弟姉妹ノ卑属ノ親死者ノ財産ノ四分ノ三ヲ相続ス可シ
第七百五十二条 前条ニ循ヒ兄弟姉妹ノ相続ス可キ死者ノ財産ノ半ハ又ハ其四分ノ三ヲ分派スル方法左ノ如シ○其兄弟姉妹皆死者ト父母ヲ同ウスル時ハ各自平等ニ其財産ヲ分チ若シ父母ヲ同ウセザル時ハ異父ノ兄弟姉妹ト異母ノ兄弟姉妹トノ双方ニ其財産ヲ平分シ其兄弟姉妹中ニテ死者ト父母ヲ同ウスル者ハ其双方ノ財産中ニテ己レノ部分ヲ相続シ異父及ヒ異母ノ兄弟姉妹ハ各其一方ノ財産中ニテ己レノ部分ヲ相続ス可シ若シ又異父ノ兄弟姉妹ノミナル時又ハ異母ノ兄弟姉妹ノミナル時ハ其一方ノ兄弟姉妹他ノ親族ヲ除キテ其財産ノ全部ヲ相続ス可シ
第七百五十三条 死者ニ兄弟姉妹及ヒ其卑属ノ親ナク且父母ノ中一方ノアラサル時又ハ父母共ニナクシテ本宗及ヒ外族中ノ一族ニ尊属ノ親ナキ時ハ父又ハ母又ハ生存スル尊属ノ親其遺物ノ半ハヲ相続シ他ノ族中ノ最親ノ傍系ノ親其半ハヲ相続ス可シ但シ同級ノ傍系ノ親数人アル時ハ其半ハヲ各自平等ニ分ツ可シ
第七百五十四条 前条ノ場合ニ於テ生存スル父母ハ自己ノ所有トシテ相続セシ物ニ非ザル財産ノ三分一ノ入額ヲ得ルノ権アリ
第七百五十五条 第十二級以外ノ親族ハ遺物相続ヲ為ス可カラス
若シ本宗及ヒ外族中ノ一族ニテ遺物相続ヲ為シ得可キ級ノ親族ナキ時ハ他族ノ親族遺物ノ全部ヲ相続ス可シ
第四章 規則外ノ遺物相続
第一款 私生ノ子父母ノ遺物相続ヲ為スノ権及ヒ子孫ナク死去シタル私生ノ子ノ遺物ヲ相続スルノ権
第七百五十六条 私生ノ子ハ当然ノ遺物相続人ニ非ル者トス故ニ親ヨリ之ヲ我子ナリト認メタル時ノ外其父母ノ遺物ヲ相続スルノ権ナシ○又私生ノ子ハ父母ノ親族ノ遺物ヲ相続スルノ権ナシ
第七百五十七条 私生ノ子父母ノ遺物ヲ相続スルノ権ハ左ノ如クタル可シ
父母ニ嫡出ノ子アル時私生ノ子ノ遺物相続ヲ為ス可キ部分ハ嫡出ノ子ノ相続ス可キ部分ノ三分ノ一タル可シ又父母ニ嫡出ノ子又ハ卑属ノ親ナクシテ尊属ノ親及ヒ兄弟姉妹アル時私生ノ子遺物ヲ相続ス可キ部分ハ其半ハタル可シ又父母ニ尊属ノ親卑属ノ親及ヒ兄弟姉妹ノ共ニアラザル時私生ノ子遺物ヲ相続ス可キ部分ハ其四分ノ三タル可シ
第七百五十八条 父母ノ遺物相続ヲ為シ得可キ級ノ親族ナキ時ハ私生ノ子其遺物ノ全部ヲ相続スルノ権アリ
第七百五十九条 私生ノ子父母ヨリ前ニ死シタル時ハ私生ノ子ノ子及ヒ其卑属ノ親前数条ニ記シタル所ノ部分ヲ相続スルノ権アリ
第七百六十条 私生ノ子及ヒ其卑属ノ親ハ以前父母ヨリ得タル贈物中ニテ此巻ノ第六章第二款ニ定メタル規則ニ循ヒ遺物相続ノ時交還ス可キ諸件ヲ己レノ得可キ部分中ヨリ差引ク可シ
第七百六十一条 私生ノ子父母ノ生存中ニ前数条ニ循ヒ其得可キ部分ノ半ハヲ受ケ其父母其私生ノ子ニ与フ可キ財産ハ既ニ其贈与シタル部分ノミニ限ル可キノ意タルコトヲ別段述ヘタル時ハ父母ノ死去スル時私生ノ子及ヒ其卑属ノ親其余ノ部分ヲ相続セント要ムルコトヲ得ス
若シ父母生存中ニ私生ノ子ニ贈与シタル財産其相続ス可キ部分ノ半ハヨリ少ナキ時ハ私生ノ子其半ハニ至ル迄ノ外更ニ其余ヲ要ムルコトヲ得ス
第七百六十二条 第七百五十七条及ヒ第七百五十八条ノ規則ハ奸通及ヒ乱倫ノ子ニ適当シテ用フ可カラス
法律上ニ於テハ此等ノ子ニ唯其養料ヲ給ス可キノミナリトス
第七百六十三条 其養料ハ父母ノ家産及ヒ相続人ノ多寡ト級ノ親疎トニ従テ之ヲ定ム可シ
第七百六十四条 父母其奸通及ヒ乱倫ノ子ニ工芸ヲ学ハシメ又ハ父母中ノ一方ニテ其生存中此等ノ子養料ヲ得可キノ道ヲ立テ置キタル時ハ此等ノ子父母ノ遺物相続ニ加ハリテ養料ヲ得ント要ムルコトヲ得ス
第七百六十五条 私生ノ子子孫ナク死去シタル時ハ其父母中之ヲ我子ナリト認メタル一方ニテ其遺物相続ヲ為シ又父母共ニ之ヲ我子ナリト認メタル時ハ父母各々其遺物ノ半ハヲ相続ス可シ
第七百六十六条 私生ノ子ノ父母既ニ死去シテ私生ノ子モ亦子孫ナク死去シタル時其曽テ父母ヨリ受ケタル財産猶以前ノ侭全存スルニ於テハ嫡出ノ兄弟姉妹其財産ヲ相続シ且私生ノ子父母ヨリ受ケタル財産ヲ他人ニ奪ハレシ事アル時ハ之ヲ取戻ス可キ訴訟ヲ為スノ権ト其私生ノ子父母ヨリ受ケタル財産ヲ他人ニ売払ヒ猶其価額ヲ受取ラサル時ハ其価額ヲ受取可キノ権ト亦之ヲ嫡出ノ兄弟姉妹ニ移ス可シ○其他ノ財産ハ私生ノ子ノ兄弟姉妹及ヒ其卑属ノ親之ヲ相続ス可シ
第二款 死者ノ配偶者ノ権及ヒ官府ノ権
第七百六十七条 若シ死者ニ遺物相続ヲ為シ得可キ級ノ親族及ヒ私生ノ子ナキ時ハ離婚シタルニ非サル配偶者其遺物相続ヲ為ス可シ
第七百六十八条 又生存スル配偶者ナキ時ハ之ヲ官ニ徴収ス
第七百六十九条 死者ノ遺物ヲ相続ス可キ配偶者及ヒ死者ノ財産ヲ徴収ス可キ土地ノ官署ハ其財産ニ封印ヲ為シ且其目録ヲ記ス可シ但シ其封印ヲ為シ及ヒ目録ヲ記スル法式ハ遺物ノ価額ニ至ル迄ノ外負債及ヒ費用ヲ償ハザルノ特権ヲ以テ遺物相続ヲ肯スル者ノ為メ定メタル所ニ循フ可シ(第七百九十三条以下ニ詳ナリ)
第七百七十条 死者ノ配偶者及ヒ土地ノ官署ハ其地ヲ管轄スル下等裁判所ニ其財産ヲ所有ト為ス可キコトヲ求ム可シ○其裁判所ニ於テハ常例ニ循ヒ三次ノ公告及ヒ三次ノ貼附ヲ為シ且「プロキュリウルアンペリアル」ノ説ヲ聴キタル後ニ非サレバ其求メヲ許ス可カラス
第七百七十一条 死者ノ配偶者ハ其相続シタル動産ヲ売払フテ其価額ヲ資益トナル可キ方法ニ用ヒ死者ノ当然ノ相続人三年内ニ出テ来ルコトアル時ハ其金額ヲ渡ス可キ為メ至当ノ保証者ヲ立ツ可シ但シ三年ノ後ハ其保証者ヲ免ス可シ
第七百七十二条 死者ノ配偶者及ヒ土地ノ官署其行フ可キ法式ヲ行ハス其財産ヲ所有トナシタル時後ニ其当然ノ相続人ノ出テ来ルコトアルニ於テハ其相続人ニ償額ヲ払フ可キコトヲ裁判所ヨリ言渡サル可シ
第七百七十三条 第七百六十九条第七百七十条第七百七十一条第七百七十二条ノ規則ハ死者ノ親族ノアラサル時其遺物ヲ相続ス可キ私生ノ子ニモ亦適当シテ用フ可シ
第五章 遺物相続ヲ肯スル事及ヒ肯セサル事
第一款 遺物相続ヲ肯スル事
第七百七十四条 遺物相続ハ別段ノ約定ナク之ヲ肯シ又ハ相続人其相続ス可キ遺物ノ価額ニ至ル迄ノ外負債及ヒ費用ヲ償ハザル特権ヲ有スル約定ヲ以テ之ヲ肯スルコトヲ得可シ
第七百七十五条 何人ト雖トモ自己ノ為ス可キ遺物相続ヲ必スシモ肯スルニ及バス
第七百七十六条 婦ハ第一篇第五巻(婚姻)第六章(夫婦ノ権利及ヒ義務)ノ規則ニ循ヒ其夫又ハ裁判所ノ允許ナクシテ当然遺物相続ヲ肯スルコトヲ得ス
幼者及ヒ治産ノ禁ヲ受ケシ者ハ第一篇第十巻(幼年後見等ノ事)ノ規則ニ循ハスシテ当然遺物相続ヲ肯スルコトヲ得ス
第七百七十七条 遺物相続人其相続ノ事ヲ肯シタル時ハ死去ノ日ヨリ以来之ヲ肯シタルノ効アリトス
第七百七十八条 遺物相続ヲ肯スルハ明許又ハ黙許ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得可シ公私ノ証書ニ遺物相続ヲ肯セシ者タルノ名目ヲ記シタル時ハ明許ナリトシ又相続人遺物相続ヲ必ス肯スルノ意タルコトヲ推知ス可キノ所行及ヒ遺物相続ヲ肯セサレハ為スコトヲ得可カラサルノ所行ヲ為シタル時ハ黙許ナリトス
第七百七十九条 死者ノ財産ヲ保全シ及ヒ之ヲ監察シ又ハ仮リニ其財産ヲ支配スルノ所行ヲ為スノミニシテ此等ノ事ニ管シタル証書ニ遺物相続ヲ肯セシ者タルノ名目ヲ記セサル時ハ此等ノ所為ヲ以テ遺物相続ヲ肯シタルノ証ト為ス可カラス
第七百八十条 遺物相続人中ノ一人其与ニ遺物相続ヲ為ス可キ者ノ全員又ハ其員中ノ者又ハ其他ノ者ニ遺物相続ヲ為ス可キ権ヲ贈与シ又ハ売渡シ又ハ移転シタル時ハ其遺物相続人遺物相続ヲ肯シタルノ証アリトス
又遺物相続人中ノ一人其与ニ遺物相続ヲ為ス可キ者ノ一人又ハ数人ノ為メ遺物相続ヲ為ス可キノ権ヲ放棄シタル時ハ其放棄ヲ為スニ付キ報謝ヲ得スト雖トモ其相続人遺物相続ヲ肯シタルノ証アリトス
若シ又相続人中ノ一人其与ニ遺物相続ヲ為ス可キ者ノ全員ノ為メ区別ナク遺物相続ヲ為ス可キ権ヲ放棄シタル時ト雖トモ其報謝ヲ受ケタルニ於テハ亦前ニ均シトス
第七百八十一条 若シ遺物相続ヲ為ス可キ者之ヲ肯セサル事ナク又明許又ハ黙許ヲ以テ之レヲ肯シタル事ナク死去シタル時ハ其者ノ遺物相続人其権ニ代リテ同上ノ遺物相続ヲ肯シ又ハ肯セザル事自由ナリトス
第七百八十二条 若シ前条ニ記シタル死者ノ遺物相続人中ニテ同上ノ遺物相続ヲ肯シ又ハ肯セサル事ヲ協議セサル時ハ遺物ノ価額ニ至ル迄ノ外負債及ヒ費用ヲ償ハザル特権ヲ有スルノ約定ヲ以テ其遺物相続ヲ肯ス可シ
第七百八十三条 丁年者明許又ハ黙許ヲ以テ既ニ遺物相続ヲ肯シタル後ニ至リ更ニ復タ之ヲ肯セサルコトヲ述ルヲ得ス但シ其者他人ノ詐偽ニ因リ其遺物相続ヲ肯シタル時ハ例外ナリトス○又其丁年者遺物相続ヲ肯シタル時自己ノ知リ得サル死者ノ遺嘱書ヲ後ニ見出シタルニ因リ其相続ス可キ財産ノ数半ハ以上減シタル時ノ外ハ己レニ損害アルヲ以テ口実ト為シ既ニ肯シタル遺物相続ヲ拒ム可カラス
第二款 遺物相続ヲ肯セサル事
第七百八十四条 遺物相続ヲ肯セサル事ハ思料ノミヲ以テ為ス可カラス但シ遺物相続ヲ肯セサル事ハ其相続ヲ為ス地ヲ管轄スル下等裁判所ノ書記局ニ別段設ケタル簿冊中ニ之ヲ記入スルコトヲ必要トス
第七百八十五条 遺物相続ヲ肯セサル相続人ハ初ヨリ遺物相続人ニ非サル者ト看做ス可シ
第七百八十六条 遺物相続ヲ肯セサル者ノ受ク可キ遺物ノ部分ハ其与ニ遺物相続ヲ為ス可キ者ニ移ス可シ若シ其遺物相続ヲ肯セサル者ト与ニ相続ヲ為ス可キ者ナキ時ハ更ニ一級疎遠ナル親族ニ移ス可シ
第七百八十七条 遺物相続ヲ肯セサル者ノ子孫ハ代リテ遺物相続ヲ為スコトヲ得ス但シ其遺物相続ヲ肯セサル者ト同級ニテ与ニ遺物相続ヲ為ス可キ者ナキ時又ハ与ニ遺物相続ヲ為ス可キ者アリト雖トモ亦皆遺物相続ヲ肯セサル時ハ其遺物相続ヲ肯セサル者ノ子孫自己ノ権ヲ以テ各自ニ其遺物相続ヲ為ス可シ
第七百八十八条 負債者遺物相続ヲ肯セサルニ因リ其債主ノ為メ損失ヲ生ス可キコトアル時ハ債主裁判所ヨリ負債者ノ権ニ代リ自カラ遺物相続ヲ肯ス可キノ允許ヲ受ルコトヲ得可シ
此場合ニ於テハ其債主ノ利益ノ為メ其貸額ニ至ル迄負債者ノ遺物相続ヲ拒ミシ事ヲ取消ス可シ但シ其負債者ノ利益ノ為メ之ヲ取消スコトナカル可シ
第七百八十九条 遺物相続ヲ肯シ又ハ肯セサルコトヲ得可キ期限ハ不動産所有ノ権ヲ訴フル事ニ付キ定メタル最モ永キ期限ニ均シトス(第二千二百六十二条ニ詳ナリ)
第七百九十条 一度遺物相続ヲ肯セサリシ者後猶之ヲ肯スルヲ得可キ定期内ニ他ノ遺物相続人ノ之ヲ肯シタルコトナキ時ハ其者更ニ其遺物相続ヲ肯スルコトヲ得可シ但シ此場合ニ於テ他ニ定期ノ時間其遺物中ノ物件ヲ有セシニ因リ終ニ之ヲ所有ト為スヲ得タル者アル時又ハ遺物相続人ナキ財産ヲ取扱ヒタル「キュラトウル」ト正シク契約ヲ結ヒシニ因リ其遺物ノ物件ヲ所得ト為シタル者アル時ハ其者ノ権ヲ害スルコトナカル可シ
第七百九十一条 婚姻ノ契約書ニ拠ルト雖トモ現存スル人ノ遺物相続ヲ為スコトヲ預メ拒ム可カラス又現存スル人ノ遺物相続ヲ為ス可キ権ハ預メ之ヲ他人ニ譲リ渡ス可カラス
第七百九十二条 遺物相続ノ財産ヲ窃ニ転移シ又ハ人ノ隠蔵スルヲ知リ告ケサル遺物相続人ハ其遺物相続ヲ為スヲ肯セサルノ権ヲ失フ可シ但シ其遺物相続人ハ自カラ其遺物相続ヲ為スコトヲ肯セスト雖トモ猶別段ノ約定ナキ遺物相続人タル可ク且ツ己レノ窃ニ移転シ又ハ人ノ隠蔵スルヲ知リ告ケサル財産ハ少シモ之ヲ相続スルコトヲ得ス
第三款 遺物相続人其相続セシ財産ノ価ニ至ル迄ノ外負債ヲ償ハサル特権、此特権ヨリ生ス可キ諸件及ヒ此特権ヲ有スル相続人ノ義務
第七百九十三条 遺物相続ヲ為ス可キ者其相続スル財産ノ価ニ至ル迄ノ外負債ヲ償ハサル特権ヲ以テ相続ヲ為サント欲スル事ハ其相続ヲ為ス地ノ下等裁判所ノ書記局ニ別段之ヲ届ケ相続ヲ肯セサルノ証ヲ記スル為メ別段設ケタル簿冊ノ中ニ其由ヲ登記ス可シ
第七百九十四条 其届ヲ為スト雖トモ其前又ハ其後ニ訴訟法ノ規則ニ循ヒ後条ニ記スル定期間ニ相続ヲ為ス可キ財産ノ詳密ニシテ且公正ナル目録ヲ記スルニ非ザレハ其効ナカル可シ
第七百九十五条 同上ノ特権ヲ以テ遺物相続ヲ為ス可キ者ハ其相続ヲ始ムル日ヨリ三月内ニ同上ノ目録ヲ記ス可シ
且其者ハ其相続ヲ肯シ又ハ肯セサルコトヲ熟考ス可キ為メ更ニ四十日ノ猶予ヲ得可シ但シ其猶予ノ期限ハ目録ヲ記スル三月ノ期限ノ終リシ日ヨリ之ヲ算ヘ若シ其目録未タ三月ニ満サル中ニ成就セシ時ハ目録ノ成就セシ日ヨリ之ヲ算ヘ可シ
第七百九十六条 若シ相続ス可キ遺物中ニ損敗ス可キ物又ハ蓄蔵スルニ多クノ費用ヲ要ス可キ物アル時ハ其相続ヲ為ス可キ者遺物相続ヲ為ス可キノ権アルニ因リ裁判所ヨリ其物件ヲ売払フ可キノ允許ヲ得可シ但シ其者此手続ヲ為スト雖トモ其遺物相続ヲ肯シタリト看做ス可カラス
其遺物ノ売払ハ訴訟法ニ定メタル貼附及ヒ公布ヲ為スノ後、官吏之ヲ為ス可シ
第七百九十七条 目録ヲ記シ及ヒ熟考ヲ為スタメノ期限間遺物相続ヲ為ス可キ者ヲシテ強テ其相続人ナリト定メシムルコトヲ得ス且遺物相続ノ訴訟ニ付キ其者ヲ相手方ト為シ裁判ヲ受ケシムルコトヲ得ス○此定期ノ終ル時又ハ其終ル可キ前ニ其者遺物相続ヲ為スコトヲ肯セサル旨ヲ届クル時ハ其時ニ至ル迄其者ノ正当ニ為シタル費用ヲ遺物ノ財産中ヨリ償フ可シ
第七百九十八条 此期限ノ終リシ後遺物相続ヲ為ス可キ者訴訟ヲ受クル時ハ更ニ延期ヲ得ント願フコトヲ得可シ但シ其訴訟ヲ管スル裁判所ニ於テハ其時ノ模様ニ従ヒ其延期ヲ許シ或ハ之ヲ許ササル可シ
第七百九十九条 前条ニ記セシ訴訟ノ場合ニ於テ遺物相続ヲ為ス可キ者死者ノ死去セシヲ知ラサル確証ヲ立シ時及ヒ其遺物ノ遠地ニアリ又ハ其遺物ニ付キ争ノ起リシニ因リ延期ノ日数足ラサルノ確証ヲ立ル時ハ其訴訟ノ費用ヲ遺物ノ財産中ヨリ償フ可シ然トモ若シ遺物相続ヲ為ス可キ者其確証ヲ立サル時ハ其者ヲシテ其訴訟ノ費用ヲ償ハシム可シ
第八百条 遺物相続ヲ為ス可キ者ハ第七百九十五条ニ記シタル期限ノ終リシ後及ヒ第七百九十八条ニ記スル所ニ循ヒ裁判役ヨリ許シタル延期ノ終リシ後ト雖トモ尚ホ目録ヲ記シ遺物ノ価ニ至ル迄ノ外負債ヲ償ハサル特権ヲ以テ相続ヲ為スコトヲ得可シ但シ其者此特権ヲ以テ相続ヲ為スニ反シタル方法ニテ相続ヲ為ス可キノ証書ヲ記シ又ハ訴訟ノ終審ノ裁判アリテ其者其特権ナキ相続人タル可キコトヲ裁判所ヨリ言渡シタル時ハ格別ナリトス
第八百一条 遺物相続ヲ為ス可キ者其遺物ヲ隠蔵シタル時或ハ故ラニ不正ノ意ヲ以テ目録中ニ遺物ヲ記セサル時ハ遺物ノ価ニ至ル迄ノ外負債ヲ償ハサル特権アル相続人タル可キノ権ヲ失フ可シ
第八百二条 同上ノ特権ヲ以テ相続ヲ為ス時ハ其相続人ノ為メ左ノ権ヲ生ス可シ
第一 己レノ相続シテ得タル遺物ノ価ニ至ル迄ノ外遺物相続ニ付キ担当ス可キ負債ヲ払ハサルノ権利及ヒ死者ニ償還ヲ要ム可キ債主又ハ死者ノ遺嘱ノ贈遺ヲ受ク可キ者ニ己レノ相続セシ遺物ヲ尽ク渡ス時ハ遺物相続ニ付キ担当ス可キ負債ヲ払フヲ免ルルノ権利
第二 其相続人自己ニ属スル財産ヲ其相続シタル財産ト混同スルコトナク且以前死者ニ貸与ヘタル金高又ハ物件ヲ遺物財産中ヨリ取戻ス可キ訴ヲ為スノ権利
第八百三条 相続シタル遺物ノ価ニ至ル迄ノ外負債ヲ償ハサル特権ヲ以テ遺物相続ヲ為シタル者ハ其相続シタル遺物ヲ支配シ且死者ノ債主及ヒ死者ノ遺属ノ贈遺ヲ受ク可キ者ニ其支配スル遺物中ヨリ償還ノ算計ヲ為ス可シ
此遺物相続人同上ノ算計ヲ為ス可キノ催促ヲ受ケ猶之ヲ為ササルニ非レハ其者ニ属スル財産中ヨリ其算計ヲ為サシムルコトヲ得ス
其算計ノ終リシ後ハ其遺物相続ニ付キ得タル物件ノ価ニ至ル迄ノ外其者ニ属スル財産ヲ出サシムルコトヲ得ス
第八百四条 同上ノ特権ヲ有スル相続人ハ其任ヲ得シ遺物支配ノ事ニ付キ重大ノ過アル時ノ外其責ニ任スルコトナカル可シ
第八百五条 同上ノ特権アル遺物相続人遺物中ノ動産ヲ売払ハントスルニハ定例ニ従ヒ貼附及ヒ公布ヲ為シタル上、官吏ノ照管ヲ以テ之ヲ糶売ニ為ス可シ
又此遺物相続人品物ノ侭其動産ヲ渡ス時ハ己レノ懈怠ニ因リ其低価ニ至リシ高ヲ担当ス可シ
第八百六条 此遺物相続人ハ訴訟法ニ定メタル法式ヲ用ヒスシテ不動産ヲ売払フ可カラス又此相続人ハ死者ノ不動産ヲ「イポテーク」トシテ取タル債主ノ要メニ従ヒ其不動産ヲ売払フテ得タル代金ヲ以テ其債主ニ償フ可シ
第八百七条 又此遺物相続人債主及ヒ其他遺物相続ニ管係アル者ノ要メヲ受ケタル時ハ目録中ニ記シタル動産ノ代金及ヒ「イポテーク」ノ権アル債主ニ渡シタル以外ノ不動産ノ代金ヲ償フニ足ル可キ保証者ヲ立ツ可シ
若シ其保証者ヲ立テサル時ハ動産ヲ売払ヒ其代金ヲ「イポテーク」ノ権アル債主ニ渡タル以外ノ不動産ノ代金ト共ニ官署ニ預ケ遺物相続ニ付キ担当ス可キ負債ノ払方ニ供ス可シ
第八百八条 債主中ニ其債ノ払方ヲ得ルニ付キ別段己レノ特権ヲ保護スルヲ訴フル者アル時ハ同上ノ遺物相続人裁判役ヨリ定メタル順序ト方法トヲ用ヒスシテ其債ヲ払フ可カラス
若シ債主中ニ別段其特権ヲ保護スルヲ訴フル者ナキ時ハ此遺物相続人債主及ヒ遺嘱ノ贈遺ヲ受ク可キ者ノ求メヲ為ス順序ニ従ヒ其償ヲ為ス可シ
第八百九条 債主中別段其特権ヲ保護スルコトヲ訴ヘサル者ハ此遺物相続人既ニ算計ヲ為シ終リ其相続シタル諸件ヲ尽ク他ノ債主ニ払ヒタル後ニ至リテ其相続人ニ貸金ノ償ヲ要ム可カラス唯遺嘱ノ贈遺ヲ受ケタル者ノミニ其要メヲ為スコトヲ得可シ
此場合ニ於テ同上ノ債主ハ此遺物相続人ノ算計ヲ為シ終リテ其相続シタル諸件ヲ尽ク他ノ債主ニ払ヒシ日ヨリ三年内ニ遺嘱ノ贈遺ヲ受ケタル者ニ対シ貸金ノ償ヲ得ルノ訴ヲ為ス可シ若シ其定期ヲ過ル時ハ其訴ヲ許サス
第八百十条 若シ遺物ニ封印ヲ為シタル時ハ其封印ヲ為スノ費用並ニ其目録及ヒ算計書ヲ記スル費用ハ遺物ノ財産中ヨリ之ヲ償フ可シ
第四款 遺物相続人ノ虧缺シタル財産
第八百十一条 目録ヲ記シ及ヒ熟考ヲナス為メノ定期ノ後ニ遺物相続ヲ求ムル者出テ来ラス又ハ人ノ知ル所ノ遺物相続人ナク又ハ遺物ヲ相続ス可キ者アリト雖トモ此等ノ者皆其相続ヲ肯セサル時ハ之ヲ遺物相続人ノ虧缺シタル財産トス可シ
第八百十二条 同上ノ遺物相続ヲ為ス地ヲ管轄スル下等裁判所ニ於テハ其遺物ニ管係アル者ノ願ニ因リ又ハ「プロキリウルアンペリアル」ノ申立ニ従ヒ其財産ノ「キュラトール」ヲ任ス可シ
第八百十三条 遺物相続人ノ虧缺セシ遺物ヲ支配スル「キュラトール」ハ先ツ目録ヲ記シテ其遺物ノ模様ヲ証明シ及ヒ遺物相続ノ事ニ管スル権利ヲ行ヒ又其権利ヲ保護ス可キ為メ訴訟ヲ為シ又人ヨリ訴訟ヲ為スコトアル時ハ被告トナリテ其答弁ヲ為シ且其遺物ノ財産ヲ支配ス可シ但シ此「キュラトール」ハ遺物中ニアル金高ト不動産動産ヲ売払ヒ得タル所ノ代金トヲ官署ニ預ケ債主ノ権ヲ損害セサル法ヲ以テ其債ヲ償フ可シ
第八百十四条 遺物ノ価ニ至ル迄ノ外負債ヲ償ハサル特権ヲ以テ相続ヲ為ス者ノ記ス可キ目録ノ体裁遺物ヲ支配スルノ方法及ヒ債主ヘノ算計ニ付キ此章ノ第三款ニ記スル所ノ規則ハ相続人ノ虧缺セシ遺物ヲ支配スル「キュラトール」ニモ亦通シテ之ヲ用フ可シ
第六章 遺物分派ノ事及ヒ死者ヨリ嘗テ受ケタル贈遺ヲ返還スル事
第一款 分派ノ訴訟及ヒ其法式
第八百十五条 如何ナル遺物相続人ト雖トモ其相続シタル遺物ヲ必スシモ他ノ相続人ト永ク共同スルニ及ハス別段其遺物ヲ分派ス可カラサルノ禁制及ヒ契約アル時ト雖トモ相続人中ノ一人ヨリ其分派ヲ訴フルコトヲ得可シ
然トモ相続人等定期ノ時間其分派ヲ為ササルノ契約ヲ結フコトヲ得可シ但シ其契約ハ五年以上継守スルニ及ハスト雖トモ其期限ニ至リ更ニ之ヲ改結スルコトヲ得可シ
第八百十六条 与ニ遺物相続ヲ為ス数人中ノ一人遺物ノ一部ヲ別ニ占有シタル時ト雖トモ他ノ相続人等其一部ヲ合シテ数人ニ分派ス可キコトヲ訴フルヲ得可シ但シ其一部ヲ別段其一人ニ属ス可キコトヲ記シタル証書アリ又ハ其一人定期ノ時間永ク之ヲ占有シタル時ハ格別ナリトス
第八百十七条 幼年ノ遺物相続人又ハ治産ノ禁ヲ受ケシ遺物相続人ノ為メ分派ヲ求ムル訴ハ其後見人別段親族会議ノ許諾ヲ得テ之ヲ為ス可シ
失踪セシ遺物相続人ノ為メ分派ヲ求ムル訴ハ失踪者ノ財産ヲ仮ニ有シタル其親族之ヲ為ス可シ
第八百十八条 婦ノ人ヨリ相続スル動産及ヒ不動産ヲ夫婦共同ノ財産中ニ加入スル時ハ夫其婦ノ承諾ヲ得スシテ其動産及ヒ不動産ノ分派ヲ他ノ遺物相続人ニ対シ訴フルコトヲ得可シ然トモ婦ノ人ヨリ相続スル動産及ヒ不動産ヲ夫婦共同ノ財産中ニ加入セサル時ハ夫其婦ノ承諾ヲ得スシテ他ノ遺物相続人ニ対シ其分派ヲ訴フ可カラス但シ夫婦共同ノ所有ト為ササル婦ノ得タル遺物ニ付キ夫其入額ヲ得ルノ権アル時ハ他ノ相続人ニ対シ仮リノ分派ヲ為サント訴フルコトヲ得可シ
又婦ト共ニ遺物相続ヲ為ス者ハ其夫婦双方ニ対シ訴ヲ為ササレハ確定ノ分派ヲ為シ得可カラス
第八百十九条 遺物相続人皆其相続ヲ為ス可キ地ニ在リ且皆丁年者ナル時ハ其遺物ニ必スシモ封印ヲ為スニ及ハス其遺物相続人等ノ随意ノ方法ニ其分派ヲ為スコトヲ得可シ若シ遺物相続人中其相続ヲ為ス可キ地ニ在サル者アル時又ハ幼者或ハ治産ノ禁ヲ受ケシ者アル時ハ相続人ノ願ニ因リ又ハ下等裁判所ノ「プロキュリウルアンペリアル」ノ申立ニ因リ又ハ遺物相続ヲ為ス地ヲ管轄スル最下等裁判所ノ裁判役ノ公務ニ因リ力メテ急速ニ遺物ノ財産ニ封印ヲ為ス可シ
第八百二十条 債主モ亦裁判言渡ノ如ク執行フ可キ旨ヲ附記シタル公正ノ証書ニ因リ又ハ裁判役ノ允許ニ因リ其遺物ノ財産ニ封印ヲ為スヲ求ムルコトヲ得可シ
第八百二十一条 債主ハ前条ニ記シタル証書又ハ裁判役ノ允許ナキ時ト雖トモ相続人等既ニ遺物ニ封印ヲ為シタル上ハ己レニ報知セスシテ封印ヲ除去ス可カラサル旨ヲ告ルコトヲ得可シ
封印ヲ除キ及ヒ目録ヲ記スルノ法式ハ訴訟法ニ之ヲ定ム
第八百二十二条 分派ヲ求ムル訴訟及ヒ分派ヲ為ス時間ニ生スル争ハ遺物相続ヲ為ス地ノ下等裁判所ニ申出ス可シ
又遺物ノ財産中ニテ分派シ難キ物ハ同上ノ裁判所ニテ之ヲ糶売ニ為ス可シ又与ニ分派ヲ為ス相続人ノ各々得可キ遺物ノ部分ヲ互ニ保証スルニ管シタル訴(第八百八十四条見合)及ヒ分派ヲ取消サントスル訴モ亦此裁判所ニ申出ス可シ
第八百二十三条 若シ与ニ遺物相続ヲ為ス者ノ中一人分派ヲ承諾セサル時又ハ分派ヲ取扱フ方法及ヒ之ヲ成就スル方法ニ付テ争ノ生スル時ハ下等裁判所ニテ急速吟味ノ法式ヲ用ヒ其訴ヲ審判シ又別段ノ道理アル時ハ分派ヲ為ス可キ為メ特ニ裁判役中ノ一人ヲ其掛リニ任シ其啓告ヲ得タル上其訴ヲ審判ス可シ
第八百二十四条 不動産ノ評価ハ分派ノ事ニ管係アル者ヨリ任シタル評価人又分派ノ事ニ管係アル者其評価人ヲ任スルコトヲ肯セサル時ハ裁判所ノ公務ヲ以テ任シタル評価人ヲシテ之ヲ為サシム可シ
評価人ノ調書ニハ其評価ノ大旨ヲ記ス可シ但シ大旨トハ評価シタル不動産ヲ分派シテ不便ナキヤ否ノ事且分派シテ不便ナキ時ハ如何ナル方法ヲ以テ分派ス可キヤノ事及ヒ幾箇ノ部分ニ分派ス可キヤノ事並ニ其各部分ノ価ハ幾許タルヤノ事ヲ定ムルヲ云フ
第八百二十五条 又動産ノ評価モ既ニ其評価書アル時ノ外別段評価人ヲシテ之ヲ為サシム可シ但シ評価人其価ヲ定ムルニハ正当ノ価ヲ以テシ別段之ニ増価ヲ為スヲ要セサル方法ヲ用フ可シ
第八百二十六条 遺物相続ヲ為ス可キ数人ハ各々其相続ス可キ動産及ヒ不動産ノ部分ヲ品物ノ侭得可キノ訴ヲ為ス事ヲ得可シ然トモ負債ノ抵償【ヒキアテ】トシテ遺物ノ財産ヲ差押フル債主アル時又ハ相続人中過半其遺物ノ負債ヲ償フ可キ為メ其財産ヲ売払フコト必要ナリト述ル時ハ其動産ヲ通常ノ法式ヲ以テ糶売ニ為ス可シ
第八百二十七条 又不動産ヲ分派スル事不便ナル時ハ其不動産ヲ裁判所ニテ糶売ニ為ス可シ
然トモ各遺物相続人皆丁年ナル時ハ其相続人協議ノ上撰任シタル「ノテイル」ノ面前ニ於テ其糶売ヲ為スコトヲ得可シ
第八百二十八条 不動産及ヒ動産ノ評価ヲ為シ且之ヲ売払フ可キ時ハ之ヲ売払ヒシ後掛リ裁判役ノ言渡ニテ各遺物相続人ヲ其協議シテ任シタル「ノテイル」ノ面前ニ至ラシメ若シ其相続人「ノテイル」ヲ任スルニ付キ協議セサル時ハ裁判所ノ公務ヲ以テ任シタル「ノテイル」ノ面前ニ至ラシム可シ
其「ノテイル」ノ面前ニ於テ各相続人其為ス可キ算計ヲ為シ分派ス可キ財産ノ合部ト各人ニ分派ス可キ部分トヲ定メ又相続人中ノ一人ヨリ他ノ相続人ニ引渡ス可キ物アル時ハ其分量ヲ定ム可シ
第八百二十九条 各遺物相続人ハ後ニ記スル所ノ規則ニ循ヒ其嘗テ死者ヨリ得タル贈物ト其死者ヨリ借リタル金高トヲ財産ノ合部中ニ返還ス可シ
第八百三十条 若シ遺物相続人中ノ一人其死者ヨリ受ケタル贈物ヲ品物ノ侭返還セサル時ハ他ノ相続人其一人ノ返還セサル財産ニ均シキ部分ヲ遺物財産ノ合部中ヨリ己レニ収取ス可シ但シ此場合ニ於テハ他ノ相続人其一人ノ返還セサル財産ト成ル可キ丈ケ同質同価ノ財産ヲ己レニ収取ス可シ
第八百三十一条 此ノ如ク財産ヲ収取シタル後遺物財産ノ合部中ニ尚ホ余リアル時ハ其余分ヲ遺物相続人ノ数ニ准シテ之ヲ分チ又ハ其族数ニ准シテ之ヲ分ツ可シ
第八百三十二条 遺物ノ財産ヲ分派スルニハ成ル可キ丈其不動産ヲ細小ニ分割スルヲ避ク可シト雖モ其分派シタル各部ニ成ル可キ丈ケ同質、同価ノ動産、及ヒ不動産ヲ入レ且ツ同種ノ権利ヲ加フ可シ
第八百三十三条 分派シタル動産又ハ不動産ノ価平等ナラサル時ハ其多分ヲ得タル者ヨリ一方ノ者ニ相当ノ年金ヲ与ヘ又ハ金額ヲ与ヘテ其不足ヲ補フ可シ
第八百三十四条 与ニ遺物相続ヲ為ス可キ数人ニテ其中ノ一人ヲ撰ンテ財産分派ヲ為サシム可キコトヲ協議シ其一人之ヲ為ス可キコトヲ承諾シタル時ハ其者自カラ分派ヲ為ス可シ若シ然ラサル時ハ掛リ裁判役ノ任シタル評価人ヲシテ其分派ヲ為サシム可シ
其分派シタル部分ハ鬮引ニ為シテ之ヲ収取ス可シ
第八百三十五条 分派シタル部分ヲ鬮引ニ為ス前各相続人其部分ノ作リ方ニ付キ故障ヲ述フルコトヲ得可シ
第八百三十六条 遺物財産ノ合部ヲ相続人等ニ分派ス可キ規則ハ数箇ノ族中ニ分チタル部分ヲ更ニ細分スルニモ亦通シテ用フ可シ
第八百三十七条 若シ「ノテイル」ノ面前ニテ行フタル分派ノ手続ニ付キ争ノ生スル時ハ「ノテイル」各遺物相続人ノ述ヘタル故障及ヒ論説ヲ調書ニ記シ其相続人ニ掛リ裁判役ノ面前ニ至ル可キ旨ヲ告ク可シ但シ其余ノ事ハ訴訟法ニ定メタル法式ニ循ヒ其争ノ裁判ヲ為ス可シ
第八百三十八条 若シ与ニ遺物相続ヲ為ス可キ数人中其場ニ在ラサル者アル時又ハ治産ノ禁ヲ受ケシ者及ヒ既ニ後見ヲ免レタルト否トヲ問ハス幼者アル時ハ第八百十九条ヨリ以下前条ニ至ル迄ノ数条ニ記載セシ規則ニ循ヒ裁判ノ手続ヲ経テ其分派ヲ為ス可シ○若シ分派ヲ為スニ付キ其権ノ互ニ相触ル可キ幼者二人以上アル時ハ其各幼者ノ為メ別段後見人ヲ任ス可シ
第八百三十九条 前条ニ記スル場合ニ於テ糶売ヲ為スコトアル時ハ必ス幼者ノ財産売払ニ付キ定メタル所ノ法式ヲ用ヒ裁判所ニ於テ之ヲ為ス可シ○其糶売ニハ必ス外人ヲ管渉セシム可シ(第四百六十条見合セ)
第八百四十条 親族会議ノ許諾ヲ得タル後見人、「キュラトール」ノ補佐ヲ受クル後見ヲ免レシ幼者、遺物相続ノ地ニ在ラサル相続人ノ名代人前数条ニ記載セシ規則ニ循ヒ行フタル分派ハ之ヲ確定ノ分派トス可シ若シ前数条ニ記セシ規則ヲ循守セス分派シタル時ハ之ヲ仮リノ分派トス可シ
第八百四十一条 死者ノ親族タルト否トヲ問ハス其遺物ヲ相続スルノ権ナキ者遺物相続人中ノ一人ヨリ其相続ノ権ヲ譲リ受ケタル時ハ他ノ遺物相続人ノ全員又ハ一人其者ニ其譲リヲ受クルニ付キ払フタル金高ヲ償ヒ其者ヲ分派中ヨリ除去スルコトヲ得可シ
第八百四十二条 分派ヲ為シタル後ハ各相続人ニ各々其所得ト為シタル財産ニ付テノ証書ヲ引渡ス可シ
二箇ニ分チタル財産ノ証書ハ其過半ヲ得ル者ニ引渡シ若シ其財産ノ少部ヲ得ル者其証書ノ必要ナルコトアル時ハ一方ノ者ヨリ之ヲ渡ス可シ
諸般ノ財産ニ通シ用フ可キ証書ハ遺物相続人等協議シテ其中一人ニ預ケ置ク可シ但シ其者ハ他ノ相続人等其証書ノ入用ナルコトアル時ハ之ヲ渡ス可シ
若シ此証書ヲ預カル可キ者ヲ撰ムニ付キ争アル時ハ裁判役之ヲ定ム可シ
第二款 返還ノ事
第八百四十三条 遺物相続人ハ特権ヲ有スル者ト雖モ嘗テ死者ヨリ生存中ノ贈遺トシテ直チニ得タル物及ヒ他人ノ介入ニ因リ得タル物ヲ遺物相続ノ時ニ至リ他ノ遺物相続人ニ返還ス可ク死者ヨリ嘗テ受ケタル生存中ノ贈物ヲ己レニ保チ置ク可カラス又死者ノ遺嘱ノ贈遺ニ因リ己レノ受ク可キ物ヲ得ント求ム可カラス但シ嘗テ死者ヨリ生存中ノ贈遺又ハ遺嘱ノ贈遺ヲ為シタル時其贈遺ヲ受ケシ者遺物相続ノ時ニ至リ之ヲ返還スルニ及ハサル旨ヲ死者明カニ定メ置キタル時ハ格別ナリトス
第八百四十四条 遺物相続人嘗テ死者ヨリ生存中ノ贈遺又ハ遺嘱ノ贈遺ヲ受ケ遺物相続ノ時ニ至リ之ヲ返還スルニ及ハサル旨ヲ死者ノ明カニ定メ置キタル時ト雖モ其相続人死者ノ随意ニ贈与スルヲ得可キ定分(随意ニ人ニ贈与スルヲ得可キ所ノ財産ノ部分ヲ云フ第九百十三条以下ニ詳ナリ)ヨリ更ニ過分ノ贈物ヲ受ケタル時ハ其過分ヲ返還ス可シ
第八百四十五条 遺物相続人其相続ヲ肯セサル時ハ嘗テ死者ヨリ受ケタル生存中ノ贈物ヲ己レニ保チ置キ又ハ遺嘱ノ贈物ヲ受取ラント求ムルコトヲ得可シ但シ其生存中ノ贈物中ニテ死者ノ随意ニ贈与スルヲ得可キ定分ニ過キタル部分ハ之ヲ減ス可シ又遺嘱ノ贈物中ニテモ亦同上ノ部分ハ之ヲ受ケ取ント要ム可カラス
第八百四十六条 嘗テ死者ヨリ贈物ヲ受ケシ時未タ其遺物相続ヲ為ス可キノ権ナキ者其遺物相続ヲ為ス時ニ至リ其相続人トナリシ時ハ其贈物ヲ返還ス可シ但シ死者其返還ヲ為スニ及ハサル旨ヲ明カニ定メ置キタル時ハ格別ナリトス
第八百四十七条 遺物相続ヲ始ル時其相続人ノ子嘗テ死者ヨリ受ケタル贈物ハ常ニ之ヲ返還スルニ及ハサルノ約ヲ以テ与ヘタルモノト看做ス可ク其相続人之ヲ返還スルニ及ハス
第八百四十八条 凡ソ人ヨリ贈物ヲ受ケシ者ノ死去シタル後其子己レノ権ヲ以テ其贈与者ノ遺物ヲ相続ス可キ時ハ其子既ニ父ノ遺物ヲ相続シタルト雖モ嘗テ其父ノ得タル贈物ヲ返還スルニ及ハス然トモ若シ其子父ノ権ニ代リ嘗テ其父ニ贈与ヲ為シタル者ノ遺物相続ヲ為ス可キ時ハ父ノ遺物相続ヲ肯セサリシ場合ト雖モ嘗テ其父ノ得タル贈物ヲ返還セサルヲ得ス
第八百四十九条 遺物相続ヲ為ス可キ者ノ配偶者ニ与ヘタル贈物ハ其相続人之ヲ返還スルニ及ハサルノ約ヲ以テ与ヘタル者ト為ス可シ
若シ贈物ヲ夫婦ニ合同シテ与ヘ其中ノ一人其贈与ヲ為シタル者ノ遺物相続ヲ為ス可キ時ハ其相続人其贈物ノ半ハヲ返還ス可シ又其贈物ヲ夫婦中ニテ遺物相続ヲ為ス可キ一方ニ与ヘタル時ハ其相続人其全部ヲ返還ス可シ
第八百五十条 贈物ノ返還ハ贈与ヲ為シタル者ノ遺物ノ財産中ニ之ヲ為ス可シ
第八百五十一条 遺物相続人ノ一人ニ産業ヲ得セシムル為メ又ハ負債ヲ償ハシムル為メ嘗テ贈遺ト為シタル財産ハ之ヲ返還ス可シ
第八百五十二条 撫養及ヒ教育ノ費用、期限ヲ定メテ修業ヲ為サシムル費用、尋常ノ衣服及ヒ身具ノ費用、婚姻ノ費用、常例ノ贈物ハ之ヲ返還スルニ及ハス
第八百五十三条 遺物相続人嘗テ死者ト結ヒタル契約ニ因リ得タル利益ハ亦之ヲ返還スルニ及ハス但シ其契約ニ因リ不当ノ利益ヲ得タル時ハ格別ナリトス
第八百五十四条 嘗テ死者ト遺物相続人中ノ一人ト不正ノ事ナク会社ヲ結ヒ其会社ヲ結ヒシ契約ヲ公正ノ証書ヲ以テ規定シタル時ハ其会社ヲ結ヒタルニ因リ得タル利益モ亦之ヲ返還スルニ及ハス
第八百五十五条 贈物ヲ得タル者ノ過失ニ非スシテ意外ノ事ニ因リ滅尽シタル不動産ハ其代物ヲ返還スルニ及ハス
第八百五十六条 返還ヲ為ス可キ財産ヨリ生シタル利益ハ遺物相続ヲ始ムル日ヨリ以来算計シテ之ヲ返還ス可シ
第八百五十七条 返還ハ一ノ遺物相続人ヨリ他ノ相続人ニ之ヲ為ス可ク遺嘱ノ贈遺ヲ受ク可キ者及ヒ死者ノ債主ニ之ヲ為ス可カラス
第八百五十八条 返還ハ品物ノ侭之ヲ為シ又ハ相続ス可キ遺物中ニテ以前得タル部分ヲ差引キ遺物相続ヲ為スノ法ヲ以テ之ヲ為ス可シ
第八百五十九条 不動産ヲ贈物トシテ得タル相続人未タ其不動産ヲ人ニ売払ヒシコトナク且遺物中ニ他ノ相続人ノ為メ概子平等ナル部分ヲ為スニ付キ其不動産ト同質、同価ノ不動産ナキ時ハ其不動産ノ侭之ヲ返還ス可シ
第八百六十条 若シ不動産ヲ贈物トシテ得タル者遺物相続ヲ始ムル前ニ其不動産ヲ売払フタル時ハ其者遺物中ヨリ以前得タル部分ヲ差引キ遺物相続ヲ為スノ法ヲ以テ其返還ヲ為ス可シ但シ返還ヲ為スニ付テノ価ハ遺物相続ヲ始ムル時ノ価ニ従テ定ム可シ
第八百六十一条 何レノ場合ト雖モ不動産ヲ贈物トシテ得タル者其不動産ヲ良好ニナス為メ費用ヲ出セシ時ハ其返還ヲ為スニ其価ノ増シタル高ヲ算計ス可シ但シ其価ノ増シタル高ヲ算計スルニハ遺物財産分派ノ時ノ価ニ従フ可シ
第八百六十二条 其贈物ヲ受ケシ者不動産ヲ別段良好ニ為スコトナシト雖モ其損壊ヲ護スルニ必要ナル費用ヲ出セシ時ハ亦其費用ヲ算計ス可シ
第八百六十三条 不動産ヲ贈物トシテ受ケシ者己レノ所為又ハ己レノ過失及ヒ懈怠ニ因リ之ヲ毀壊シ又ハ損敗シテ其価ノ減シタル時ハ其者其価ノ減シタル高ヲ算計シテ返還ス可シ
第八百六十四条 不動産ヲ贈物トシテ受ケシ者其不動産ヲ人ニ売払フタル時ハ其買主其不動産ヲ良好ニ為シ又ハ毀壊損敗シテ其価ヲ減シタル高ヲ其相続人前三条ノ如ク算計シテ其返還ヲ為ス可シ(但シ此返還ハ不動産ノ侭還スニ非スシテ差引テ相続ヲ為スノ法ヲ用フルヲ云フ)
第八百六十五条 不動産ヲ其侭返還スル時ハ之ヲ贈物トシテ得タル者ノ担当シタル「イポテーク」ノ義務ヲ滌掃シテ遺物財産ノ合部中ニ返還ス可シ但シ「イポテーク」ノ権アル債主ハ其不動産返還ニ付キ故ラニ己レノ権ヲ害スルコトヲ防ク可キ為メ其財産ノ分派ニ管渉スルコトヲ得可シ
第八百六十六条 死者ヨリ遺物相続人中ノ一人ニ不動産ヲ与ヘタル時後ニ他ノ相続人ニ之ヲ返還スルニ及ハサル旨ヲ別段定メタルト雖モ其不動産死者ノ随意ニ贈与スルヲ得可キ財産ノ定分ニ過キ其過分ヲ他ノ部分ヨリ分ツニ不便ナキ時ハ其過分ヲ返還ス可シ又其不動産ノ過分ヲ他ノ部分ヨリ分ツニ不便ナル時其過分ノ価不動産ノ全価ノ半ハニ過ルニ於テハ其贈与ヲ受ケシ者其不動産ノ全部ヲ返還シ遺物財産ノ合部中ヨリ其不動産ノ中死者ノ随意ニ贈与スルコトヲ得可キ定分ノ代金ヲ己レニ収取ス可シ○若シ其不動産ノ中死者ノ随意ニ贈与スルコトヲ得可キ定分ノ価其不動産ノ全価ノ半ハニ過ル時ハ其贈物ヲ受ケシ者其不動産ノ全部ヲ己レニ保有スルコトヲ得可シ
但シ其場合ニ於テハ其贈物ヲ得タル者其相続ス可キ遺物ノ財産中ニテ以前得タル過分ノ不動産ノ価ニ当ル可キ部分ヲ差引ク可シ又然ラサレハ其贈物ヲ得タル者ヨリ他ノ相続人ニ其過分ノ不動産ノ代金ヲ払ヒ又ハ其他ノ方法ヲ以テ其償ヲ為ス可シ
第八百六十七条 不動産ヲ其侭ニテ返還ス可キ遺物相続人ハ其不動産ヲ良好ニ為シタルニ付キ己レノ得可キ金高ヲ尽ク受取ル迄ハ其不動産ヲ占有スルコトヲ得可シ
第八百六十八条 贈物ノ動産ハ品物ノ侭返還ス可カラス必ス其贈物ヲ得タル相続人遺物ノ財産中ニテ其動産ノ価ニ当ル可キ部分ヲ差引キ相続スルノ方法ヲ以テ其返還ヲ為ス可シ○其動産ノ価ニ当ル可キ部分ヲ秤ルニハ嘗テ其動産ヲ贈与シタル証書ニ添ヘタル評価書ニ拠リ其贈与ヲ為セシ時ノ価ニ従フ可シ若シ又其評価書ノアラサル時ハ評価人ヲシテ之ヲ評価セシメタル価ニ従フ可シ但シ評価人其価ヲ定ムルニハ正当ノ価ヲ以テシ別段之レニ増価ヲ為スヲ要ス可キ方法ヲ用フ可カラス
第八百六十九条 贈物トシテ得タル金高ハ遺物ノ金高中ニテ之ヲ差引キ遺物相続ヲ為スノ法ヲ以テ返還ス可シ
若シ贈物トシテ金高ヲ得タル者遺物ノ金高中ニテ之ヲ差引キ遺物相続ヲ為スノ法ヲ以テ返還セント為スト雖モ遺物ノ金高之ニ足ラサル時ハ其返還ス可キ金高ニ当ル可キ遺物ノ動産ヲ放棄シ又其動産ノ足ラサル時ハ其遺物ノ不動産ヲ放棄シ其総金高ヲ己レニ保有スルコトヲ得可シ
第三款 遺物相続ニ付キ担当ス可キ負債ヲ払フ事
第八百七十条 遺物相続ヲ為ス数人ハ各其得ル所ノ遺物ノ割合ヲ以テ遺物相続ニ付キ担当ス可キ負債ヲ払フ可シ
第八百七十一条 遺嘱ノ贈遺ヲ為ス者ヨリ其財産中ニテ別段指定メサル一部ヲ受クル者(第千十条見合セ)ハ遺物相続人ニ等シク其所得ノ割合ヲ以テ其遺物相続ニ付キ担当ス可キ負債ヲ払フ可シ然トモ遺嘱者ノ財産中ニテ別段指定メタル品物(第千十四条見合セ)ヲ受クル者ハ此負債ヲ担当スルニ及ハス但シ其者ノ死者ヨリ得タル不動産ニ付キ「イポテーク」ノ権ヲ有スル債主アル時ハ其者自カラ其負債ヲ担当ス可シ(第八百七十四条見合セ)
第八百七十二条 死者人ニ年金ヲ払フ可キノ受合トシテ其不動産ヲ「イポテーク」ト為シタル時ハ其遺物相続ヲ為ス各人其不動産ヲ分派スル前ニ其年金ノ元金ヲ皆済シテ其不動産ノ「イポテーク」ヲ滌掃ス可キコトヲ訴フルヲ得可シ○若シ遺物相続人等其遺物中ノ不動産ノ「イポテーク」ヲ滌掃スルコトナク其侭ニテ分派シタル時ハ其「イポテーク」ノ義務ヲ負フタル不動産ヲモ亦他ノ不動産ト同一ノ割合ニ評価シ其価中ニテ其年金ノ元金ノ高ヲ差引ク可シ但シ此場合ニ於テハ其不動産ヲ己レノ部分トシテ得タル相続人ノミニテ年金ヲ払フ可ク且他ノ遺物相続人等ニ対シ其年金ノ払方ヲ自カラ任スルコトヲ保証ス可シ
第八百七十三条 遺物相続人ノ各々担当ス可キ負債ノ部分ハ其己レニ得タル遺物財産ノ割合ヲ以テ定ム可ク又不動産「イポテーク」ノ負債ハ其不動産ヲ得タル相続人尽ク之ヲ其一身ニ担当ス可シ但シ其相続人ハ他ノ相続人ニ対シ及ヒ死者ノ財産ノ全部ヲ遺嘱ノ贈物トシテ得タル者(第千三条見合)ニ対シ各其担当ス可キ負債ノ部分ヲ己レニ払ヒ還サシムルノ訴ヲ為シ得可シ
第八百七十四条 遺嘱者ノ財産中ニテ別段指定メタル不動産ヲ贈物トシテ得タル者其不動産ニ付キ担当シタル「イポテーク」ノ負債ヲ払フタル時ハ遺物相続人ニ対シ及ヒ遺嘱者ノ財産中ニテ別段指定メサル一部ヲ贈物トシテ受ケシ者ニ対シ債主ノ権ニ代リテ払還シノ訴ヲ為スコトヲ得ヘシ(第八百七十一条見合)
第八百七十五条 遺物相続人中ノ一人又ハ遺嘱者ノ財産中ニテ別段指定メサル一部ヲ贈物トシテ得タル者死者ノ不動産ノ「イポテーク」ノ負債ヲ払フニ付キ自己ノ払フ可キ部分ヨリ更ニ余分ヲ払フタル時ハ自カラ債主ノ権ニ代リ訴ヲ為スト雖モ他ノ遺物相続人及ヒ他ノ遺嘱ノ贈遺ヲ得タル者ニ対シ其各人ノ担当ス可キ部分ノミノ払ヒ還ヲ訴フルコトヲ得可シ但シ遺物財産ノ価ニ至ル迄ノ外負債ヲ償ハサル特権アル相続人ハ他ノ債主ト同一ノ方法ヲ以テ他ノ遺物相続人ニ対シ不動産ニ管シタル自己ノ貸金ヲ払ハシムルノ訴ヲ為スノ権アリ
第八百七十六条 遺物相続人中ノ一人又ハ遺嘱者ノ財産中ニテ別段指定メサル一部ヲ贈物トシテ受ケシ者ノ中一人遺物ノ不動産ノ「イポテーク」ニ付キ其担当ス可キ負債ヲ払フコト能ハサル時ハ他ノ相続人又ハ他ノ贈物ヲ受ケシ者其各得タル財産ノ割合ヲ以テ其一人ノ払フコト能ハサル負債ノ部分ヲ担当ス可シ
第八百七十七条 債主死者ノ負債ノ抵償トシテ其財産ヲ差押フル裁判言渡ノ如ク執行フ可キ証書ヲ有スル時ハ亦其遺物相続人ニ対シ其言渡ノ如ク執行フコトヲ得可シ然トモ其債主ハ其証書ヲ遺物相続人又ハ其住所ニ送達セシ日ヨリ八日ノ後ニ非サレハ其裁判言渡ノ如ク執行フノ手続ニ取掛ル可カラス
第八百七十八条 前条ニ記スル債主ハ何レノ場合ニ於テモ遺物相続人ノ債主ニ対シ死者ノ遺物ト遺物相続人ノ元来所有スル財産トヲ分別セントスルノ訴ヲ為スコトヲ得可シ
第八百七十九条 然トモ死者ノ債主遺物相続人ノ死者ニ代テ債ヲ負フ可キコトヲ承諾シ死者ノ債ヲ取消シ更改シテ相続人ノ債ト為シタル時ハ其債主前条ノ訴ヲ為スノ権ナシ(第千二百七十一条見合)
第八百八十条 死者ノ債主同上ノ訴ヲ為ス可キ期限ハ動産ニ付テハ三年ノ時間トシ又不動産ニ付テハ遺物相続人其不動産ヲ所有スル時間トス
第八百八十一条 遺物相続人ノ債主ハ死者ノ債主ニ対シ死者ノ遺物ト相続人ノ財産トヲ分別セントスルノ訴ヲ為ス可カラス
第八百八十二条 遺物相続人ノ債主ハ故ラニ己レノ権利ヲ害ス可キ分派ヲ為スヲ防ク可キ為メ自己ノ面前ニ非サレハ其分派ヲ為ス可カラサル旨ヲ其相続人ニ掛合タル上其債主自己ノ費用ヲ以テ其分派ニ管渉スルノ権アリ然トモ其相続人其債主ノ掛合ニ管セス其面前ニ非スシテ分派ヲ為シタル時ノ外既ニ成就シタル分派ニ付キ其債主故障ヲ述フ可カラス
第四款 遺物ノ財産ヲ分派シタルヨリ生スル諸件、遺物相続人分派シタル部分ヲ互ニ保証スル事
第八百八十三条 各遺物相続人ハ己レノ相続シタル財産及ヒ糶売ノ上得タル金高ヲ嘗テ遺物相続ノ始マリシ時ヨリ己レ一人ニテ相続シタルト看做シ遺物中他ノ財産ハ之ヲ所有シタルコトナシト看做ス可シ
第八百八十四条 若シ遺物相続人中ノ一人分派ヲ為ス前ニ生シタル原由ニ因リ己レノ部分タル財産所有ノ権又ハ其利益ヲ得ルノ権ニ付キ人ヨリ故障ヲ受クルコトアルニ於テハ他ノ相続人其損失ヲ償フ可キコトヲ保証ス可シ
若シ又分派ノ証書中ノ一箇条ニ遺物相続人中ノ一人其所得ト為ス部分ノ財産ニ付キ日後同上ノ故障ヲ受ルコトアリトモ他ノ相続人其損失ヲ償ハサルコトヲ別段定メ置キタル時ハ同上ノ保証ナキモノトス又遺物相続人中ノ一人自己ノ過失ニ因リ其故障ヲ受ルコトアル時ハ又其保証ノ効ナシトス
第八百八十五条 若シ遺物相続人中ノ一人其所得ト為シタル部分ノ財産ニ付キ人ヨリ故障ヲ受ケタルニ因リ損失ノ生シタル時ハ前条ニ循ヒ他ノ相続人各其所得トシタル部分ノ割合ヲ以テ其損失ヲ償フ可シ
若シ他ノ遺物相続人中ニ其損失ヲ償フコト能ハサル者アル時ハ其者ノ払フ可キ部分ヲ其損失ヲ受ケタル相続人ト其他ノ相続人トニ平等ニ割付ク可シ
第八百八十六条 相続人中ノ一人其所得ト為シタル部分ノ財産中ニ人ヨリ年金ヲ得可キノ権アリテ若シ其人年金ヲ払フコト能ハサル時ハ其損失ヲ受ケタル相続人他ノ相続人ヲシテ其損失ヲ償ハシムルノ権アリ但シ其訴ハ分派ヨリ五年内ニ他ノ相続人ニ対シ之ヲ為ス可シ○若シ既ニ分派ヲ成就シタル後年金ヲ払フ可キ者相続人中ノ一人ニ之ヲ払フコト能ハサルニ至リシ時ハ其相続人他ノ相続人ヲシテ其損失ヲ償ハシムルコトヲ得ス
第五款 遺物財産ノ分派ヲ取消ス事
第八百八十七条 一度分派ヲ為シタルト雖モ強迫及ヒ詐偽ノ所為アル時ハ之ヲ取消ト為スコトヲ得可シ
又遺物相続人中ノ一人自己ノ相続ス可キ遺物ノ部分四分一以上不足ナルノ証ヲ立ル時ハ分派ヲ取消ト為スコトヲ得可シ○若シ相続ス可キ一箇ノ遺物ヲ分派ノ時遺忘セシノミニ於テハ其分派ヲ取消スコトヲ訴フ可カラス唯分派ノ証書ニ其一箇ノ遺物ヲ追補シテ記入ス可シ
第八百八十八条 遺物相続人等ニ遺物ノ財産ヲ分ツ証書ハ分派ノ証書ノ名義ヲ用フルコトナク売払ノ契約書、交換ノ契約書、和解ノ契約書ノ名義ヲ用ヒ又ハ其他如何ナル名義ヲ用フルト雖モ前条ニ循ヒ之ヲ取消ス可キノ訴ヲ為スコトヲ得可シ
然トモ一度分派ノ証書ヲ記シタル後又ハ分派ノ証書ニ換用ス可キ証書ヲ記シタル後相続人等ノ間ニ起リタル真ノ争ヲ和解シ其争ヲ落著シテ和解ノ証書ヲ記シタル時ハ之ヲ公ケニ訴出シタルコトナシト雖モ前条ニ記セシ所ニ因テ其和解ノ契約書ヲ取消サント訴フ可カラス
第八百八十九条 遺物相続人中ノ数人又ハ一人ヨリ他ノ相続人ニ後ニ故障ノ生スルコトアリト雖モ之ヲ己レニ担当セサルノ約定ヲ以テ遺物相続ノ権ヲ詐偽ナク売与ヘシ時ハ後ニ其売払ノ契約ヲ取消ス可キノ訴ヲ為ス可カラス
第八百九十条 遺物相続人ノ損害(四分一以上ノ不足ヲ云フ)ヲ計ルニハ遺物ノ財産分派ノ時ノ価ニ従テ之ヲ算計ス可シ
第八百九十一条 分派ヲ取消ス可キ訴訟ヲ被告人ハ原告人ニ金高又ハ品物ヲ以テ其相続ス可キ部分ヲ追補スルニ因リ其訴訟ヲ止メ改メテ分派ヲ為スヲ防クコトヲ得可シ
第八百九十二条 遺物相続人其相続シタル財産ニ付キ他ノ遺物相続人ノ詐偽ヲ知発シタル後又ハ強迫ノ既ニ止ミタル後ニ其相続シタル財産ヲ売払ヒタル時ハ其詐偽又ハ強迫ヲ述テ分派ノ取消ヲ訴フ可カラス
第二巻 生存中ノ贈遺ノ証書及ヒ遺嘱ノ贈遺ノ証書〔千八百三年第五月三日決定同月十三日布告〕
第一章 総規則
第八百九十三条 凡ソ財産ハ後ニ記スル所ノ法式ニ従ヒ生存中ノ贈遺及ヒ遺嘱ノ贈遺ヲ為スノ外償ヲ得スシテ之ヲ人ニ与フルコトヲ得ス
第八百九十四条 生存中ノ贈遺ノ証書トハ贈遺ヲ為ス者其贈遺ヲ受ルコトヲ承諾スル者ノ為メ自己ノ財産ヲ即時ニ譲リ与フル証書ヲ云フ但シ此証書ハ贈遺者後ニ之ヲ廃棄スルコトヲ得ス
第八百九十五条 遺嘱ノ贈遺ノ証書トハ其贈遺ヲ為ス者其死シタル後自己ノ財産ノ全部又ハ一部ヲ人ニ与フル証書ヲ云フ但シ此証書ハ贈遺者後ニ之ヲ廃棄スルコトヲ得可シ
第八百九十六条 「シュフスチチュシヲン」(贈遺ヲ受クル者其生存中其贈物ヲ保有シ其死後ニ嘗テ其贈遺ヲ為タル者ノ定メ置キタル者ニ其財産ヲ譲リ与フ可キ契約ヲ云フ)ハ之ヲ禁止ス
生存中ノ贈遺又ハ遺嘱ノ贈遺ヲ受クル者ヲシテ其受クル所ノ財産ヲ保有セシメ其死スル時其贈遺者ノ預定シタル人ニ之ヲ譲ラシムルノ約定ハ縦令ヒ其贈遺ヲ受ル者之ヲ承諾スルト雖モ其効ナカル可シ然トモ皇帝ヨリ皇族ニ別段与ヘタル世襲ス可キ不動産ハ之ヲ負債ノ質ト為シタル時ノ外千八百六年第三月三十日ノ命令書及ヒ第四月十四日ノ命令書ヲ以テ規定シタル如ク之ヲ世襲ス可シ
第八百九十七条 此巻ノ第六章ニ父母兄弟姉妹等ノ贈遺ニ付キ別段定メタル規則ハ前条ニ記スル所ノ例外ナリトス
第八百九十八条 生存中ノ贈遺又ハ遺嘱ノ贈遺ヲ受ク可キ者若シ其贈遺ヲ受ルコトヲ承諾セス又ハ事故アリテ其贈物ヲ受ルコト能ハサルニ於テハ贈遺者ノ定メタル人ニ其贈遺ヲ為ス可キノ約定ハ「シュブスチチュシヲン」ト看做ス可カラス之ヲ法律上ニテ允許シタルモノト為ス可シ
第八百九十九条 一人ニ財産ノ入額ヲ得可キノ権ヲ与ヘ又一人ニ其財産ヲ所有スルノミノ権ヲ与フル生存中ノ贈遺及ヒ遺嘱ノ贈遺ノ約定ハ亦前条ニ記スル所ノ約定ノ如ク法律上ニテ允許シタルモノトス
第九百条 生存中ノ贈遺及ヒ遺嘱ノ贈遺ヲ為スニ付キ人ノ行ヒ能ハサル事ヲ為サシムル約定書又ハ法律及ヒ風儀ヲ害スル事ヲ為サシムル約定書ハ初メヨリ全ク之ヲ記セサルモノト看做ス可シ
第二章 生存中ノ贈遺及ヒ遺嘱ノ贈遺ヲ為シテ人ニ財産ヲ贈与シ又ハ之ヲ収受スルニ必要ナル諸件
第九百一条 生存中ノ贈遺及ヒ遺嘱ノ贈遺ヲ為スニハ精神ノ惛迷セサルコトヲ必要トス
第九百二条 法律上ニ於テ別段制禁ヲ受ケタル者ノ外何人ニ限ラス生存中ノ贈遺及ヒ遺嘱ノ贈遺ヲ為シテ人ニ財産ヲ贈与シ又ハ其贈遺ヲ収受スルヲ得可シ
第九百三条 十六歳以下ノ幼者ハ此巻ノ第九章ニ記載スル所ノ外何レノ方法ヲ論セス自己ノ財産ヲ人ニ贈与スルコトヲ得ス
第九百四条 十六歳以上ノ幼者ハ遺嘱ノ贈遺ヲ為スノ外其財産ヲ人ニ贈与スルコトヲ得ス且其遺嘱ノ贈遺ヲ以テ人ニ贈与スルコトヲ得可キ財産ハ丁年者人ニ贈与スルコトヲ得可キ財産ノ半ハノミトス
第九百五条 婚姻シタル婦ハ第二百十七条及ヒ第二百十九条(婚姻ノ巻)ニ記スル所ニ循ヒ其夫ノ立会又ハ其立会ニ非ラスト雖モ別段夫ノ許諾ヲ得又然ラサレハ裁判所ヨリノ允許ヲ得ルニ非サレハ生存中ノ贈遺トシテ財産ヲ人ニ贈与スルコトヲ得ス
然トモ婦遺嘱ノ贈遺トシテ財産ヲ人ニ贈与スルニ付テハ其夫ノ許諾及ヒ裁判所ノ允許ヲ必要トセス
第九百六条 生存中ノ贈遺ヲ受クルコトヲ得可キ為メニハ其贈遺ヲ為ス時之ヲ受クル者母ノ胞内ニアルヲ以テ足レリトス
遺嘱ノ贈遺ヲ受クルヲ得可キ為メニハ其贈遺ヲ為ス者ノ死スル時之ヲ受クル者母ノ胞内ニアルヲ以テ足レリトス
然トモ其子出産シタル上生存ス可キノ証ナキ時ハ生存中ノ贈遺及ヒ遺嘱ノ贈遺ノ効ナカル可シ
第九百七条 幼者ハ縦令ヒ十六歳以上ニ至ルト雖モ其後見人ニ生存中ノ贈遺又ハ遺嘱ノ贈遺トシテ自己ノ財産ヲ贈与スルコトヲ得ス
又幼者既ニ丁年ニ至ルト雖トモ後見人算計書ヲ其幼者ニ渡シテ其算計ヲ為シ終リタル後ニ非レハ其幼者生存中ノ贈遺及ヒ遺嘱ノ贈遺トシテ後見人ニ己レノ財産ヲ贈与スルコトヲ得ス
此二項ニ記シタル場合ニ於テ幼者ノ尊属ノ親其後見ヲ為シタル時ハ格別ナリトス
第九百八条 私生ノ子ハ此篇ノ第一巻(遺物相続ノ巻)ニ其得可キ事ヲ記シタル遺物ノ外生存中ノ贈遺及ヒ遺嘱ノ贈遺トシテ其父母ノ財産ヲ受ク可カラス
第九百九条 内科外科ノ医師、下等医師又ハ製薬者病者ヲ診察シ其病者終ニ死シタル時ハ其病ノ間其死者ヨリ医師又ハ製薬者ニ為シタル生存中ノ贈遺及ヒ遺嘱ノ贈遺ノ効ナカル可シ
然トモ其死者ノ家産ト其医師製薬者ノ労力【ホ子ヲリ】トニ准シ其死者ノ随意ニ為スコトヲ得可キ財産中別段定メタル一部ヲ酬謝ノ証トシテ贈与スル約定ハ前項ニ記スル所ノ例外ナリトス
又其死者ニ宗系ノ遺物相続人ナク其医師又ハ製薬者其死者ノ第四級ニ至ル迄ノ血属ノ親ナル時ハ其死者ノ随意ニ為スヲ得可キ財産ノ全部ト雖トモ之ヲ贈遺トシテ受クルコトヲ得可シ但シ其医師又ハ製薬者其死者ノ宗系ノ遺物相続人タル時ハ其他ニ宗系ノ相続人アリト雖トモ同上ノ贈遺ヲ受クルコトヲ得可シ
説教ノ僧ニ付テモ亦同上ノ規則ニ循フ可シ
第九百十条 貧院及ヒ「コンミユーン」ノ貧者ノ為メ又ハ衆庶ノ裨益ヲ為サントシテ設ケタル公ケノ建造物ノ為メ生存中ノ贈遺及ヒ遺嘱ノ贈遺ヲ以テ財産ヲ贈与スル約定ハ皇帝ノ命令ニテ之ヲ允許シタル上ニ非レハ其効ナカル可シ
第九百十一条 贈遺ヲ受ク可カラサル者ノ為メ財産ヲ贈与スルノ約定ハ偽テ其償ヲ収ムル契約ノ体裁ニテ為スト雖トモ又ハ介入スル者ノ名ヲ借テ為スト雖トモ其効ナカル可シ
贈遺ヲ受ク可カラサル者ノ父母、子、卑属ノ親、配偶者ハ介入者ト看做ス可シ
第九百十二条 〔千八百十九年第七月十四日ノ法ヲ以テ廃ス〕外国人仏蘭西人ノ為メ贈遺ヲ為スヲ得可キ時ノ外仏蘭西人外国人ノ為メ贈遺ヲ為ス可カラス
第三章 随意ニ贈遺ト為スヲ得可キ財産ノ定分及ヒ贈遺ト為シタル財産ヲ減スル事
第一款 贈遺ト為スヲ得可キ財産ノ定分
第九百十三条 贈遺ヲ為ス者嫡出ノ子一人ヲ遺ス時ハ自己ノ財産ノ半ハヲ生存中ノ贈遺及ヒ遺嘱ノ贈遺トシテ人ニ贈与スルコトヲ得可ク又嫡出ノ子二人ヲ遺ス時ハ其三分ノ一ヲ贈与スルコトヲ得可ク若シ又三人以上ノ嫡出ノ子ヲ遺ス時ハ其四分ノ一ヲ贈与スルコトヲ得可シ
第九百十四条 前条ニ子ト記スル者ハ級ノ如何ナルヲ問ハス卑属ノ親ヲ統ヘテ之ヲ指シ云フモノトス但シ卑属ノ親代テ遺物相続ヲ為スノミノ権ヲ有スル時ハ其卑属ノ親数人アリト雖トモ之ヲ一人ト看做シテ算フ可シ
第九百十五条 贈遺ヲ為ス者子ヲ遺サスト雖トモ本宗外族ノ両族ニ一人又ハ数人ノ尊属ノ親ヲ遺ス時ハ其財産ノ半ハノミヲ人ニ贈与スルコトヲ得可シ又本宗及ヒ外族中ノ一族ノミニ尊属ノ親ヲ遺ス時ハ其財産ノ四分ノ三ヲ贈与スルコトヲ得可シ
此ノ如ク尊属ノ親ノ為メ別段遺シ置キタル財産ハ其尊属ノ親遺物相続ヲ為ス可キ定則ノ順序ヲ以テ之ヲ相続ス可シ但シ死者ノ遺物ヲ相続スル時此尊属ノ親ノ権傍系ノ親ノ権ト相触レ其尊属ノ親ノ相続ス可キ財産ノ定数不足ナル時ハ尊属ノ親其別段遺シ置キタル財産ヲ尽ク己レノ有ト為スヲ得可シ
第九百十六条 尊属ノ親及ヒ卑属ノ親ノ共ニアラサル時ハ生存中ノ贈遺及ヒ遺嘱ノ贈遺トシテ財産ノ全部ヲ人ニ贈与スルコトヲ得可シ
第九百十七条 財産ノ入額ヲ得ルノ権又ハ畢生間ノ年金ヲ得ルノ権ヲ生存中ノ贈遺又ハ遺嘱ノ贈遺トシテ贈与シタル時ハ其遺物相続人其贈与ヲ為シタルコトヲ承諾ス可シ若シ相続人之ヲ承諾セサル時ハ死者ノ遺物中ニテ其死者ノ贈遺ト為スヲ得可キ財産ノ定分ヲ其贈遺ヲ受ケシ者ニ与ヘテ同上ノ権ヲ取還スコトヲ得可シ
第九百十八条 畢生間ノ年金ヲ受取ル可キ約束又ハ入額ヲ得可キ約束ヲ以テ嘗テ死者ヨリ遺物相続人中ノ一人ニ所有ノ権ヲ売リ渡シタル財産ノ価ハ贈遺ト為スヲ得可キ財産ノ定分中ヨリ之ヲ差引ク可シ若シ其財産ノ価贈遺ト為スヲ得可キ定分ニ過ル時ハ其余ヲ遺物ノ合部中ニ返還ス可シ○其差引及ヒ返還ハ死者同上ノ約束ニテ財産所有ノ権ヲ売リ渡スコトヲ承諾シタル他ノ遺物相続人ヨリ之ヲ訴ヘ出ス可カラス又何レノ場合ニ於テモ傍系ノ遺物相続人ヨリ之ヲ訴ヘ出ス可カラス
第九百十九条 贈遺ト為スヲ得可キ財産ノ定分ノ全部又ハ一部ハ生存中ノ贈遺又ハ遺嘱ノ贈遺トシテ其所有者己レノ子又ハ其他ノ遺物相続人ニ贈与スルコトヲ得可シ但シ其贈与ヲ為ス者後ニ其贈物ヲ遺物ノ合部中ニ返還スルニ及ハサルコトヲ別段定メ置キタル時ハ之ヲ返還スルニ及ハス
遺物相続人中ノ一人ニ財産ヲ贈与シ後ニ之ヲ遺物ノ合部中ニ返還スルニ及ハサルノ約定ハ之ヲ其贈遺ノ証書中ニ附記シ又ハ其贈遺ヲ為シタル後ニ贈遺ノ証書ニ等シキ体裁ノ証書ニ記ス可シ
第二款 贈遺ト為シタル財産ヲ減スル事
第九百二十条 生存中ノ贈物及ヒ遺嘱ノ贈物贈遺ト為スヲ得可キ定分ニ過ル時ハ遺物相続ヲ始ムル時之ヲ其定分ニ減ス可シ
第九百二十一条 法律上ニテ死者ノ財産ノ一部ヲ必ス相続ス可キ者又ハ其者ノ遺物相続人又ハ其者ノ権ニ代ル可キ者ハ生存中ノ贈物ヲ減スルノ訴ヲ為スコトヲ得可シ但シ其他ノ贈遺ヲ受ケシ者及ヒ死者ノ債主ハ之ヲ減ス可キノ訴ヲ為スヲ得ス又之ヲ減スルニ因リ己レノ利益ヲ得ルコトヲ得ス
第九百二十二条 贈遺ノ財産ヲ減スルニハ先ツ其贈遺ヲ為シタル者ノ死セシ時存在シタル諸般ノ財産ヲ総括シ嘗テ生存中ノ贈遺トシテ贈与シタル財産ヲ其贈遺ヲ為シタル時ノ模様ト其贈遺ヲ為シタル者ノ死去セシ時ノ価トニ准シテ之ヲ遺物ノ合部中ニ併合セシモノト看做シ此諸般ノ財産中ヨリ負債ヲ差引キタル上其死者ノ贈遺ト為スヲ得可キ財産ノ定数ハ幾許ナルヤヲ算計ス可シ
第九百二十三条 遺嘱ノ贈遺中ニアル諸般ノ財産ヲ減シ尽クシテ尚ホ不足ナル時ニ非レハ生存中ノ贈物ヲ減スルコトヲ得ス但シ数人ニ与ヘタル生存中ノ贈物ヲ減ス可キ時ハ其最終ノ贈物ヲ最初ニ減ス可シ若シ最終ノ贈物ヲ減シ尽クシテ尚ホ不足ナル時ハ最終ヨリ第二次ノ贈物ヲ減シ其他次第ニ前ニ為シタル贈遺ニ及ホシテ之ヲ減ス可シ
第九百二十四条 遺物相続人中ノ一人嘗テ死者ヨリ生存中ノ贈物ヲ受ケ其贈物ヲ減ス可キ時其贈物ト自カラ遺物相続人タルニ付キ相続ス可キ財産ト同一ノ種類ナルニ於テハ其贈物中ニテ自己ノ相続ス可キ財産ノ高ニ充ル迄ヲ保チ置クコトヲ得可シ
第九百二十五条 生存中ノ贈遺ノ価死者ノ贈遺ト為スヲ得可キ財産ノ定分ニ過キ又ハ之ニ等シキ時ハ総テ遺嘱ノ贈遺ノ効ナカル可シ
第九百二十六条 若シ遺嘱ノ贈遺ノ財産死者ノ贈遺ト為スヲ得可キ定分ニ過クル時又ハ其定分中ヨリ生存中ノ贈遺ヲ差引キタル部分ニ過クル時ハ死者ノ財産全部ノ遺嘱ノ贈遺ト別段指定メタル品物ノ遺嘱ノ贈遺トノ差別ナク其贈遺ノ財産ノ高ニ准シテ之ヲ減ス可シ
第九百二十七条 然トモ遺嘱ノ贈遺ヲ為ス者一ノ贈遺ノ財産ヲ他ノ贈遺ノ財産ヨリ特ニ必ス贈与セント願フコトヲ明カニ定メ置キタル時ハ其願フ所ニ従ヒ其別段ノ贈物ヲ減ス可カラス但シ他ノ贈遺ノ財産ノ全価ヲ以テ尚ホ遺物相続人ノ為メ遺シ置ク可キ財産ノ価ニ充ルニ足ラサル時ハ格別ナリトス
第九百二十八条 生存中ノ贈遺ヲ受ケシ者其贈遺者ノ死去シタルヨリ一年内ニ贈物ヲ減ス可キノ求メヲ受クル時ハ死者ノ贈遺ト為スヲ得可キ定分ニ過クル贈遺ノ財産ニ付キ其贈遺者ノ死去シタルヨリ以来得タル所ノ利益ヲ返還ス可シ若シ其一年ノ期限後ニ其求メヲ受ケタル時ハ之ヲ受ケシ日ヨリ以来得タル所ノ利益ヲ返還ス可シ
第九百二十九条 贈物ヲ減スルニ因リ嘗テ死者ヨリ贈遺トシテ与ヘタル不動産ヲ其遺物相続人ノ取戻ス時ハ其贈遺ヲ得シ者其不動産ニ付キ担当シタル負債ヲ滌掃シテ之ヲ戻ス可シ
第九百三十条 不動産ノ贈遺ヲ受ケタル者其不動産ヲ人ニ売リ渡シタル時遺物相続人其不動産中ニテ死者ノ贈遺ト為スヲ得可キ定分ニ過キタル一分ヲ己レニ取戻サントスル訴ハ其買入人ニ対シテ之ヲ為ス可シ但シ其訴ノ方法ト順序トハ其贈遺ヲ受ケタル本人等ニ対シテ為ス所ニ等シク且相続人ハ買入人ニ対シ其訴ヲ為ス前ニ先ツ贈遺ヲ受ケタル者ノ財産ヲ抵償トシテ差押ヘ之ヲ売払フテ其売払ニ因リ得タル代金尚ホ不足ナル上ニテ其訴ヲ為ス可シ○其訴訟ヲ受クル順序ハ其贈遺ヲ受ケシ者ヨリ最後ニ不動産ヲ買入レタル者ヲ以テ初トシ次第ニ前ニ買入レタル者ニ及ホス可シ
第四章 生存中ノ贈遺
第一款 生存中ノ贈遺ノ法式
第九百三十一条 生存中ノ贈遺ヲ為ス証書ハ尋常ノ契約書ノ法式ヲ用ヒ「ノテイル」ノ面前ニ於テ之ヲ記シ其正本ヲ「ノテイル」ニ渡ス可シ若シ此事ヲ為ササル時ハ其証書ノ効ナカル可シ
第九百三十二条 生存中ノ贈遺ハ其贈遺ヲ受クル者之ヲ承諾シタル旨ヲ贈遺ノ証書ニ記入セシ日ヨリ後ニ非サレハ贈遺ヲ為ス者必ス之ヲ執行フニ及ハス且其日ヨリ後ニ非サレハ其贈遺ノ効ヲ生スルコトナカル可シ
又贈遺ヲ為ス者ノ生存中ニ於テハ贈遺ヲ受クル者其贈遺ノ証書ヨリ後ニ公正ノ証書ヲ記シテ其贈遺ヲ受クルコトヲ承諾シ其証書ノ正本ヲ「ノテイル」ニ渡スコトヲ得可シ然トモ此場合ニ於テハ其承諾ヲ為ス証書ヲ贈遺者ニ示シタル日ヨリ後ニ非サレハ其者ニ対シ其効ナカル可シ
第九百三十三条 贈遺ヲ受クル者丁年者ナル時ハ自カラ其贈遺ヲ承諾シ又ハ其本人ニ代テ特ニ其一箇ノ贈遺ヲ承諾ス可キ権又ハ総テ其者ノ受ク可キ諸般ノ贈遺ヲ承諾ス可キノ権ヲ任セラレシ名代人其承諾ヲ為スヲ得可シ
此名代人ヲ任スル書ハ「ノテイル」ノ面前ニテ之ヲ記シ其写書ヲ贈遺ノ証書ノ正本ニ添ヘ置ク可シ若シ又贈遺ノ証書ト贈遺ノ承諾ヲ為ス証書ト異ナル時ハ其写書ヲ其承諾ヲ為ス証書ノ正本ニ添ヘ置ク可シ
第九百三十四条 婚姻シタル婦ハ第二百十七条及ヒ第二百十九条(婚姻ノ巻)ニ記スル所ニ循ヒ其夫ノ許諾ヲ得スシテ人ヨリ為シタル贈遺ヲ承諾スルコトヲ得ス又夫ノ許諾セサル時ハ裁判所ノ允許ヲ得スシテ其贈遺ヲ承諾スルコトヲ得ス
第九百三十五条 後見ヲ免レサル幼者及ヒ治産ノ禁ヲ受ケシ者ニ為シタル贈遺ハ第四百六十三条(幼年後見等ノ巻)ニ記スル所ニ循ヒ其後見人之ヲ承諾ス可シ
後見ヲ免レタル幼者ハ「キュラトール」ノ立会ニテ人ヨリ贈遺ヲ承諾ス可シ
総テ後見ヲ免レタルト否トヲ問ハス幼者ノ父母又父母ノ生存中ト雖モ其尊属ノ親ハ自カラ其幼者ノ後見ノ任又ハ「キュラトール」ノ任ヲ受ケタルト否トニ係ハラス幼者ノ為メニ贈遺ヲ承諾スルコトヲ得可シ
第九百三十六条 唖聾者文字ヲ書スルコトヲ知ル時ハ自カラ贈遺ヲ承諾シ又ハ名代人ヲシテ其承諾ヲ為サシムルコトヲ得可シ
若シ唖聾者文字ヲ書スルコトヲ知ラサル時ハ第一篇第十巻(幼年後見等ノ巻)ニ定メタル規則ニ循ヒ特ニ任シタル「キュラトール」ヲシテ其贈遺ノ承諾ヲ為サシム可シ
第九百三十七条 貧院又ハ「コムミユーン」ノ貧者ノ為メ又ハ衆庶ノ裨益ヲ為サントシテ設ケタル建造物ノ為メナシタル贈遺ハ其貧院又ハ「コムミユーン」又ハ建造物ノ支配人別段之ヲ承諾ス可キノ官許ヲ得タル後ニ非レハ其承諾ヲ為ス可カラス
第九百三十八条 贈遺ヲ受クル者相当ノ式ヲ以テ贈遺ヲ承諾シタル上ハ其贈遺ヲ為ス者ト之ヲ受クル者トノ意ニ因リ其贈遺ヲ為シ終リタルモノト為シ其贈遺ノ財産ヲ所有スルノ権ヲ其贈遺ヲ受ケタル者ニ移ス可ク別段ノ法式ヲ用ヒ之ヲ引渡スニ及ハス
第九百三十九条 「イポテーク」ト為スヲ得可キ財産ヲ贈遺ト為シタル時ハ其贈遺ト承諾トヲ記シタル証書又贈遺ノ証書ト承諾ノ証書ト異ナル時ハ其弐通ノ証書ヲ其財産所在ノ地ヲ管轄スル「イポテーク」ノ官署ノ簿冊ニ登記ス可シ
第九百四十条 婦前条ニ記スル財産ノ贈遺ヲ受ケタル時ハ夫其贈遺ノ証書及ヒ承諾ノ証書ヲ官署ノ簿冊ニ登記スルコトヲ求ム可シ若シ夫此式ヲ行ハサル時ハ其婦別ニ裁判所ノ允許ヲ受クルコトナクシテ其証書ヲ登記スルノ求メヲ為スコトヲ得可シ
幼者又ハ治産ノ禁ヲ受クル者又ハ衆庶ノ裨益ノ為メ設ケタル建造物其贈遺ヲ受クル時ハ其後見人「キュラトール」支配人其贈遺ノ証書及ヒ承諾ノ証書ヲ官署ノ簿冊ニ登記スルノ求メヲ為ス可シ
第九百四十一条 贈遺ノ証書及ヒ承諾ノ証書ヲ官署ノ簿冊ニ登記スルコトナキ時ハ其贈遺ノ財産ニ管係アル各人他ノ事故ニ付キ訴訟ヲ為ス時ニ当リ其登記ナキ旨ヲ申立ルコトヲ得可シ但シ其登記ノ求メヲ為ス可キ者又ハ其者ノ権ニ代ル者又ハ贈遺ヲ為ス者ハ之ヲ申立ルコトヲ得ス
第九百四十二条 幼者、治産ノ禁ヲ受ケシ者、婚姻シタル婦ハ贈遺ヲ承諾スル事及ヒ贈遺又ハ承諾ノ証書ヲ官署ノ簿冊ニ登記スル事ヲ其後見人又ハ其夫ノ怠リタル時自カラ之ヲ怠リタルニ等シキ責ニ任ス可ク唯々其後見人又ハ其夫ニ対シ損失ノ償ヲ訴フ可キ道理アル時ハ之ヲ訴フルコトヲ得可シ但シ其後見人又ハ夫ヨリ幼者又ハ治産ノ禁ヲ受ケシ者又ハ婦ニ其損失ノ償ヲ為スコト能ハサル時ト雖モ此等ノ者ハ其後見人又ハ夫ノ怠リタル責ヲ免ルルコトヲ得ス
第九百四十三条 生存中ノ贈遺ハ贈遺ヲ為ス者ノ現在所有スル財産ノミニ限ル可シ若シ其贈遺ノ契約書中ニ贈遺者日後所有ト為スコトアル可キ財産ヲ記シタルト雖モ其贈遺ノ効ナカル可シ
第九百四十四条 若シ贈遺ヲ為ス者ノミノ意ニ管スル契約ヲ以テ生存中ノ贈遺ヲ為シタル時ハ其贈遺ノ効ナカル可シ
第九百四十五条 又生存中ノ贈遺ヲ受クル者ヲシテ其贈遺ノ時現ニ在ル以外ノ負債又ハ贈遺ノ証書及ヒ其証書ニ附加ス可キ目録ニ記シタル以外ノ負債ヲ償ハシム可キノ契約ヲ以テ贈遺ヲ為タル時ハ其贈遺ノ効ナカル可シ
第九百四十六条 生存中ノ贈遺ヲ為ス者其贈遺ト為シタル財産中ノ品物又ハ贈遺ト為シタル財産中ノ定数ノ金高ヲ自己ノ意ニ随ヒ自由ニ取扱フ可キノ権ヲ特ニ保有シ其権ヲ行フコトナク死シタル時ハ其贈遺ヲ受ケタル者ノ為メ如何ナル契約アルヲ問ハス其品物又ハ其金高ヲ贈遺者ノ遺物相続人所得ト為ス可シ
第九百四十七条 前四条ハ此巻ノ第八章及ヒ第九章ニ記載スル所ノ贈遺ニ通シテ用フ可カラス
第九百四十八条 動産ノ贈遺ヲ為ス時ハ其動産ノ評価書ヲ記シ贈遺ヲ為ス者及ヒ之ヲ受クル者又ハ贈遺ヲ受クル者ノ為メ其贈遺ヲ承諾スル者之ニ姓名ヲ手署シ其評価書ヲ贈遺ノ証書ノ正本ニ添ヘ置クニ非サレハ其贈遺ノ効ナカル可シ
第九百四十九条 動産又ハ不動産ノ贈遺ヲ為ス者ハ其入額ヲ所得トスルノ権ヲ己レニ保チ置キ又ハ他人ノ為メニ保チ置クコトヲ得可シ
第九百五十条 動産ノ贈遺ヲ為ス者其動産ノ入額ヲ得可キノ権ヲ己レニ保チ置キタル時ハ贈遺ヲ受クル者贈遺ヲ為タル者ノ入額ヲ所得トスル権ノ終ル時存在スル動産ニ付テハ其時ノ形状ノ侭之ヲ受取リ又存在セサル財産ニ付テハ以前贈遺ヲ為シタル時ニ記シタル評価書ニ従ヒ其代金ヲ得可キコトヲ其贈遺者又ハ其遺物相続人ニ対シ訴フルコトヲ得可シ
第九百五十一条 若シ贈遺ヲ受クル者贈遺ヲ為ス者ヨリ先キニ死去スル時又ハ贈遺ヲ受クル者ト其卑属ノ親ト贈遺ヲ為ス者ヨリ先キニ死去スル時ハ其贈遺者贈遺ト為タル財産ヲ取戻ス可キノ契約ヲ贈遺ヲ受クル者ト共ニ為スコトヲ得可シ
此権ハ贈遺ヲ為ス者ノミノ利益ノ為メ之ヲ契約スルコトヲ得可シ
第九百五十二条 前条ノ如ク贈遺ト為シタル財産ヲ取戻ス可キノ約定アル時ハ贈遺ヲ受ケシ者ヨリ其贈遺ノ財産ヲ他人ニ売渡シタル契約ヲ廃棄シ且其財産ニ付キ担当ス可キ負債及ヒ「イポテーク」ノ負債ヲ滌掃シテ贈遺ヲ為タル者ニ之ヲ取戻スコトヲ得可シ○然トモ其贈遺ヲ受クル者ノ婚姻ノ契約書ニ此贈遺ノ旨ヲ附記セシ時後ニ其贈遺ヲ受ケタル者死去シテ其元来所有スル財産ノミニテハ其配偶者ノ嫁資ヲ償ヒ又ハ其他婚姻ノ契約ノ如ク執行フコト能ハサル時ハ嘗テ贈遺ヲ為シタル者其財産ニ付キ担当ス可キ負債ヲ滌掃シテ之ヲ取戻スコトヲ得ス
第二款 生存中ノ贈遺ノ証書ヲ発棄ス可カラサル規則外ノ諸件
第九百五十三条 生存中ノ贈遺ノ証書ハ贈遺ヲ受クル者其贈遺ヲ受クルニ付キ契約シタル諸件ヲ執行ハサル事又ハ恩義ヲ忘ルル事又ハ贈遺ヲ為ス者其贈遺ヲ為シタル後ニ子ノ出生スル事ニ因リ之ヲ廃棄スルコトヲ得可シ
第九百五十四条 贈遺ヲ受クルニ付キ契約シタル諸件ヲ執行ハサルヲ以テ贈遺ノ証書ヲ廃棄シタル時ハ贈遺ヲ受ケタル者ノ担当ス可キ負債及ヒ「イポテーク」ノ負債ヲ滌掃シテ其贈遺ヲ為タル者其財産ヲ取戻シ且其贈遺ヲ為シタル者ハ贈遺ヲ受ケタル者ニ対シテ為ス可キ所ニ等シキ訴訟ヲ贈遺ヲ受ケタル者ヨリ其贈遺ノ不動産ヲ得タル者ニ対シ為スコトヲ得可シ
第九百五十五条 生存中ノ贈遺ノ証書ハ左ノ場合ニ於テ恩義ヲ忘レタル事ニ因リ之ヲ廃棄スルコトヲ得可シ
第一 贈遺ヲ受ケシ者贈遺ヲ為シタル者ノ性命ヲ害セントシタル時
第二 贈遺ヲ受ケシ者贈遺ヲ為シタル者ニ対シ暴行罪犯又ハ至重ノ禍害ヲ為シタル時
第三 贈遺ヲ受ケシ者贈遺ヲ為シタル者ニ養料ヲ給スルヲ肯セサル時
第九百五十六条 贈遺ヲ受クルニ付キ契約シタル諸件ヲ執行ハス又ハ恩義ヲ忘レタルニ因リ生存中ノ贈遺ノ証書ヲ廃棄スル事ハ其贈遺ヲ為ス者ノ自己ノ権ノミヲ以テ之ヲ為ス可カラス必ス裁判所ニ訴ヘ出シタル上ニテ之ヲ為ス可シ
第九百五十七条 恩義ヲ忘レタルニ因リ贈遺ノ証書ヲ廃棄スルノ訴ハ贈遺ヲ為シタル者其贈遺ヲ受ケタル者ヨリ害ヲ蒙リタルト述ヘシ日ヨリ一年内又ハ贈遺ヲ為タル者其贈遺ヲ受ケタル者ノ行フタル罪犯ヲ知リ得タル日ヨリ一年内ニ之ヲ為ス可シ
其贈遺ノ証書ヲ廃棄スルノ訴ハ贈遺ヲ為シタル者ヨリ贈遺ヲ受ケタル者ノ遺物相続人ニ対シテ之ヲ為ス可カラス又贈遺ヲ為シタル者ノ遺物相続人ヨリ贈遺ヲ受ケタル者ニ対シテ之ヲ為ス可カラス但シ贈遺ヲ為シタル者其訴ヲ為シ其未タ決定セサル内ニ死去シタル時又ハ贈遺ヲ為シタル者其訴ヲ為サスト雖トモ贈遺ヲ受ケタル者ノ罪犯ヲ行フタルヨリ一年内ニ死去シタル時ハ贈遺ヲ為シタル者ノ遺物相続人ヨリ贈遺ヲ受ケタル者ニ対シテ其訴ヲ為スコトヲ得可シ
第九百五十八条 第九百三十九条ニ記シタル如ク不動産ノ贈遺ノ証書及ヒ承諾ノ証書ヲ公正ニ為ス可キカ為メ之ヲ官署ノ簿冊ニ登記シタル端ニ贈遺ヲ受ケタル者恩義ヲ忘レタルニ因リ其贈遺ノ証書ヲ廃棄セント訴フル書面ヲ附記スル前ニ其贈遺ヲ受ケタル者其贈遺ノ不動産ヲ売払ヒ又ハ其不動産ヲ「イポテーク」ト為シ又ハ其他ノ方法ニテ負債ノ質ト為シタル時ハ其贈遺ノ証書ヲ廃棄スルト雖モ其売払ヒノ契約又ハ負債ノ質ノ契約ヲ廃棄ス可カラス
此場合ニ於テ不動産贈遺ノ証書ヲ廃棄シタル時ハ其廃棄ノ訴ヲ為タル時ノ其不動産ノ価並ニ其訴ノ日ヨリ以来ノ其入額ヲ贈遺ヲ受ケタル者ヨリ贈遺ヲ為シタル者ニ償還ス可シ
第九百五十九条 婚姻ノ為メナシタル贈遺ハ恩義ヲ忘レタルヲ以テ之ヲ廃棄ス可カラス
第九百六十条 子及ヒ卑属ノ親ナキ者ノ為シタル生存中ノ贈遺ノ証書ハ其贈遺ノ財産ノ価ト其贈遺ノ名義トノ如何ナルヲ問ハス又其贈遺ヲ相互ニ為シ又ハ酬謝ノタメ之ヲ為シ又ハ婚姻ノ為メ之ヲナシタルト雖モ贈遺ヲ為シタル者ノ生存中又ハ死後ニ其嫡出ノ子ノ生レシ時又ハ其贈遺ヲ為シタル後ニ生レタル私生ノ子ヲ後ノ婚姻ニ因テ嫡出ノ子ト認メタル時ハ別ニ裁判所ニ訴ヘ出セスト雖モ其証書ヲ廃棄ス可シ但シ尊属ノ親ヨリ其卑属ノ親タル夫婦ノ者ニ為シ又ハ夫婦ノ互ニ為シタル贈遺ハ格別ナリトス
第九百六十一条 贈遺ヲ為ス時其子既ニ母ノ胎内ニアリシ時ト雖モ其子ノ出生シタルニ因リ亦前条ニ記スル所ノ如ク贈遺ノ証書ヲ廃棄ス可シ
第九百六十二条 若シ贈遺ヲ為シタル者ノ子出生シタル後贈遺ヲ受ケシ者猶其贈遺ノ財産ヲ所有シ且贈遺ヲ為シタル者之ヲ拒マサル時ト雖モ亦其贈遺ノ効ナカル可シ但シ此場合ニ於テハ贈遺ヲ受ケシ者贈遺ヲ為シタル者ノ子ノ出生シタル事又ハ私生ノ子ヲ後ノ婚姻ニ因テ嫡出ノ子ト認メタル事ノ相当ノ報告ヲ受ケタル日ヨリ後ニ其贈遺ノ財産ヨリ得タル利益ヲ還与ス可シ又贈遺ヲ為シタル者其子ノ出生シタル事又ハ私生ノ子ヲ嫡出ノ子ナリト認メタル事ヲ贈遺ヲ受ケシ者ニ報告シタル後ニ其贈遺ノ財産ヲ取戻サント訴ヘタル時モ亦其報告後ニ其財産ヨリ得タル利益ヲ還与ス可シ
第九百六十三条 廃棄シタル贈遺ノ証書中ノ財産ハ其贈遺ヲ受ケシ者其財産ニ付キ担当シタル負債及ヒ「イポテーク」ノ負債ヲ滌掃シテ之ヲ贈遺ヲ為シタル者ニ還ス可ク其贈遺ヲ受ケタル者其婦ノ嫁資ヲ還ス事又ハ婦ト共通シタル財産ノ一部ヲ其婦ニ還ス事又ハ其他婚姻ノ契約ノ如ク行フ事ノ為メニ決シテ其贈遺ノ財産ヲ用フ可カラス但シ其贈遺ヲ為シタル者贈遺ヲ受ケシ者ノ婚姻ノ為メ其財産ヲ贈与シテ其旨ヲ婚姻ノ契約書中ニ附記シ且ツ贈遺ヲ為シタル者其贈遺ノ財産ヲ以テ必ス婚姻ノ契約書ノ如ク行ハシム可キノ保証者タル時ト雖モ亦前ニ記シタル所ニ等シカル可シ
第九百六十四条 廃棄シタル贈遣ノ証書ハ其贈遣ヲ為シタル者ノ子死去スルト雖トモ又ハ贈遣ヲ為シタル者贈遣ヲ受ケシ者ニ其侭其財産ヲ与ヘ置ク可キノ証書ヲ記シタルト雖トモ再ヒ其効ヲ生スルコトナカル可シ若シ其贈遺ヲ為シタル者其廃棄シタル贈遺ノ証書中ノ財産ヲ其贈遺ヲ受ケシ者ニ是迄ノ如ク再ヒ与ヘント欲スル時ハ其出生シタル子ノ死生ニ管セス更ニ新ニ其財産ヲ贈遺スルノ証書ヲ記ス可シ
第九百六十五条 贈遺ヲ為ス者縦令ヒ子ノ出生スルコトアリトモ其贈遺ノ証書ヲ廃棄セサル可シトノ契約ハ全ク其効ナカル可シ
第九百六十六条 贈遺ヲ受ケタル者又ハ其遺物相続人又ハ其権ニ代ル者又ハ其他贈遺ノ財産ヲ占有スル者ハ其財産ヲ三十年間占有シタル後ニ非レハ贈遺ヲ為シタル者ノ子ノ出生シタルニ因リ其効ヲ失フタル贈遺ノ証書中ノ財産ヲ己レノ所有ト為サントシテ「プレスクリプション」ヲ述ブルコトヲ得ス但シ其三十年ノ期限ハ贈遺ヲ為シタル者ノ死後ニ生レシ子ト雖モ其季子ノ生レシ日ヨリ之ヲ算計シ若シ其占有者其期限間ニ其所有ノ権ニ付テノ訴訟ヲ受クル時ハ「プレスクリプション」ノ権ヲ失フ可シ
第五章 遺嘱ノ贈遺
第一款 遺嘱ノ贈遺ノ法式ニ付テノ総規則
第九百六十七条 如何ナル人ト雖モ別段相続人ヲ任スルノ名義又ハ死後ノ贈遺ノ名義又ハ其他自己ノ意ヲ表スル名義ヲ以テ遺嘱ノ贈遺ヲ為スコトヲ得可シ
第九百六十八条 二人以上ニテ他人ノ為メ贈遺ヲ為スノ名義又ハ相互ニ贈遺ヲ為スノ名義ヲ用ヒ一通ノ証書ヲ以テ遺嘱ノ贈遺ヲ為ス可カラス
第九百六十九条 遺嘱贈遺ノ証書ハ遺嘱者自筆ノ書又ハ公正ノ書又ハ秘密ノ書ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得可シ
第九百七十条 遺嘱者自筆ノ贈遺ノ証書ハ其者其全文年月並ニ自己ノ姓名ヲ手記シタルニ非レハ其効ナカル可シ但シ其他ノ法式ハ之ヲ用フルニ及ハス
第九百七十一条 公正ノ遺嘱贈遺ノ証書トハ証人二人ノ面前ニテ「ノテイル」二人之ヲ公証シ又ハ証人四人ノ面前ニテ「ノテイル」一人之ヲ公証シタル書ヲ云フ
第九百七十二条 「ノテイル」二人ニテ公正ノ遺嘱贈遺ノ証書ヲ公証シタル時ハ遺嘱者其「ノテイル」二人ニ遺嘱贈遺ノ文ヲ口授シ「ノテイル」中ノ一人其口授ノ如ク之ヲ筆記ス可シ
「ノテイル」一人ノミナル時モ亦其遺嘱者遺嘱贈遺ヲ為ス文ヲ口授シテ其「ノテイル」之ヲ筆記ス可シ
此二箇中何レノ場合ニ於テモ「ノテイル」ノ記シタル遺嘱贈遺ノ証書ヲ証人ノ面前ニテ其遺嘱者ニ読ミ聞ス可シ
此等ノ諸事ヲ行ヒシ事ハ別段其証書中ニ附記ス可シ
第九百七十三条 公正ノ遺嘱贈遺ノ証書ハ遺嘱者己レノ姓名ヲ手署ス可シ若シ遺嘱者手署スルコトヲ知ラス又ハ手署スルコト能ハサル旨ヲ述フル時ハ其述フル所ト手署スルコト能ハサルノ原由トヲ其証書中ニ附記ス可シ
第九百七十四条 公正ノ遺嘱贈遺ノ証書ハ証人其姓名ヲ手署ス可シ但シ村邑ニ於テ「ノテイル」二人其遺嘱書ヲ公証スル時ハ証人二人中ノ一人其姓名ヲ手署スルヲ以テ足レリトス又「ノテイル」一人之ヲ公証スル時ハ証人四人中ノ二人其姓名ヲ手署スルヲ以テ足レリトス
第九百七十五条 凡ソ遺嘱ノ贈遺ヲ受クル者又ハ其者ノ第四級ニ至ル迄ノ血属及ヒ姻属ノ親又ハ其書ヲ公証スル「ノテイル」ノ書記役ハ公正ノ遺嘱書ノ証人タル可カラス
第九百七十六条 遺嘱者秘密ノ遺嘱書ヲ作ラント欲スル時ハ自カラ其遺嘱書ヲ記シタルト他人ヲシテ之ヲ記セシメタルトヲ問ハス遺嘱者其遺嘱書ニ自己ノ姓名ヲ手署ス可シ○其遺嘱書ヲ記シタル紙又封紙ヲ用ヒシ時ハ其封紙ニ封ヲ為シテ印ヲ押ス可シ○遺嘱者ハ其遺嘱書ニ上ノ如ク封ヲ為シ且印ヲ押シテ「ノテイル」一人ト証人六人以上トニ之ヲ渡シタル上又ハ其「ノテイル」及ヒ証人ノ面前ニテ其遺嘱書ニ封ヲ為シ且印ヲ押シタル上其紙上ニ記スル所ハ自カラ其文ト姓名トヲ記シタル遺嘱書タルコト又ハ他人ヲシテ其文ヲ記セシメ自カラ其姓名ヲ記シタル遺嘱書タルコトヲ述フ可シ然ル時「ノテイル」ハ其申述ノ旨ヲ其紙又ハ封紙ノ表ニ記シ「ノテイル」及ヒ遺嘱者並ニ各証人皆自己ノ姓名ヲ其表書ニ手署ス可シ○此等ノ諸事ハ相継テ之ヲ為ス可ク其時間他ノ証書類ノ取扱ニ移ル可カラス若シ遺嘱者其遺嘱書ニ姓名ヲ手署セシ後差支ノ生スルコトアリテ表書ニ其姓名ヲ手署スルコト能ハサル時ハ其旨ノ申述ヲ附記ス可シ但シ此場合ニ於テ別ニ証人ノ員数ヲ増スニ及ハス
第九百七十七条 若シ又遺嘱者元来自己ノ姓名ヲ手署スルコトヲ知ラス又ハ遺嘱書ヲ他人ニ記セシメシ時其姓名ヲ手署スルコト能ハサル場合ニ於テハ表書ニ姓名ヲ手署ス可キ為メ前条ニ記シタル証人ノ定員外ニ更ニ証人一人ヲ呼出シ其証人他ノ証人ト共ニ表書ニ其姓名ヲ手署ス可シ但シ此場合ニ於テハ別段其証人ヲ呼出シタル原由ヲ表書ニ附記ス可シ
第九百七十八条 文字ヲ読ムコトヲ知ラサル者又ハ文字ヲ読ムコト能ハサル者ハ秘密ノ遺嘱書ヲ以テ遺嘱ノ贈遺ヲ為ス可カラス
第九百七十九条 遺嘱者言語ヲ発スルコト能ハスシテ文字ヲ書スルコトヲ得可キ時ハ遺嘱書ノ全文ヲ手記シ且年月及ヒ姓名ヲ手記シテ其遺嘱書ヲ「ノテイル」及ヒ証人ニ渡シ其書ハ自己ノ遺嘱書タルコトヲ「ノテイル」並ニ証人ノ面前ニテ表書ノ初ニ記シ其後「ノテイル」ハ自己ト証人トノ面前ニテ遺嘱者同上ノ事ヲ記シタル旨ヲ表書ニ記ス可シ但シ其余ノ法式ハ第九百七十六条ニ記載スル所ニ循フ可シ
第九百八十条 遺嘱書ヲ記スル時其席ニ立会フ可キ証人ハ民権ヲ受ケタル仏蘭西人ニシテ且丁年ニ至リシ男ニ限ル可シ
第二款 別段ノ遺嘱贈遺ノ法式ニ付テノ規則
第九百八十一条 兵士又ハ兵隊中ニテ使用セラルル者ノ遺嘱贈遺ノ証書ハ何レノ国ニ於テ之ヲ記スルト雖モ歩兵大隊長又ハ騎兵大隊長又ハ其他ノ上等士官証人二人ノ面前ニテ之ヲ公証シ又ハ兵隊ノ諸務ヲ管理スル官吏二人又ハ一人証人二人ノ面前ニテ之ヲ公証ス可シ
第九百八十二条 若シ又遺嘱ノ贈遺ヲ為ス者病ニ罹リ又ハ創傷ヲ被リテ兵病院ニアル時ハ病院監察ノ任ヲ受ケシ兵官ノ立会ニテ兵部医官其遺嘱書ヲ公証ス可シ
第九百八十三条 前二条ノ規則ハ仏蘭西領地外ニ発遣シタル兵隊中又ハ其領地外ノ屯営又ハ城寨中ニアル者及ヒ敵ニ虜獲セラレタル者ノ為メ設タル所ニシテ仏蘭西領地内ノ屯営及ヒ城寨中ニアル者ハ其所在ノ屯営及ヒ城寨敵兵ノ攻囲ヲ受ケ又ハ其所在ノ地戦闘ノ為メニ其門ヲ鎖閉シテ内外相通セサル時ノ外其規則ヲ用フ可カラス
第九百八十四条 第九百八十一条及ヒ第九百八十二条ニ記シタル法式ヲ用ヒ記シタル遺嘱贈遺ノ証書ハ其遺嘱者通常ノ法式ヲ以テ遺嘱ノ贈遺ヲ為スコト自由ナル地ニ帰来シタルヨリ六月ノ後ニ至ラハ其効ナカル可シ
第九百八十五条 時疫及ヒ其他伝染病ノ為メ外地ト全ク往来スルコトヲ得サル地内ニテ記スル遺嘱贈遺ノ証書ハ証人二人ノ面前ニテ最下等裁判所ノ裁判役又ハ其「コムミユーン」ノ官吏一員之ヲ公証スルヲ得可シ
第九百八十六条 此規則ハ現ニ其病ニ罹リシ者又ハ現ニ其病ニ罹ラスト雖モ其病ノ流伝シタル地ニ在ル者ノ為メ之ヲ用フルヲ得可シ
第九百八十七条 其遺嘱者所在ノ地再ヒ外地ト往来ヲ為スコト自由トナリシヨリ六月ノ後又ハ其遺嘱者自由ニ往来ヲ為スコトヲ得可キ地ニ移転シタルヨリ六月ノ後ニ至ル時ハ前二条ニ記シタル遺嘱贈遺ノ証書ノ効ナカル可シ
第九百八十八条 航海中海上ニテ記スル遺嘱贈遺ノ証書ヲ公証スル方法左ノ如シ
兵船又ハ其他ノ官船ニ於テハ其船ノ指揮官若シ指揮官在ラサル時ハ之ニ代ル可キ次官其船ノ諸務ヲ管理スル官吏又ハ之ニ代ル可キ者ト共ニ其遺嘱贈遺ノ証書ヲ公証ス可シ商船ニ於テハ其船ノ書類ヲ預カル者又ハ之ニ代ル可キ者其船ノ船長若シ船長在ラサル時ハ之ニ代ル可キ者ト共ニ其遺嘱贈遺ノ証書ヲ公証ス可シ
此条中ニ記シタル何レノ場合ニ於テモ証人二人ノ面前ニテ其遺嘱贈遺ノ証書ヲ公証スルコトヲ必要トス
第九百八十九条 兵船又ハ官船ノ指揮官及ヒ其船ノ諸務ヲ管理スル官吏ノ遺嘱贈遺ノ証書又ハ商船ノ船長及ヒ其船ノ書類ヲ預カル者ノ遺嘱贈遺ノ証書ハ其次席ノ者之ヲ公証ス可シ但シ其他ノ諸事ハ前条ノ規則ニ循ヒ之ヲ為ス可シ
第九百九十条 何レノ場合ニ於テモ前二条ニ記シタル遺嘱贈遺ノ証書ハ之ヲ弐通ニ記ス可シ
第九百九十一条 其船仏蘭西岡士【コンシユル】ノ在留スル外国ノ港ニ着スル時ハ其遺嘱贈遺ノ証書ヲ公証セシ者其証書一通ニ封ヲ為シ且印ヲ押シタル上ニテ之ヲ其岡士ニ渡シ岡士之ヲ海軍事務執政ニ送呈シ執政其遺嘱者住所ノ地ノ最下等裁判所ノ書記局ニ之ヲ蔵メシム可シ
第九百九十二条 其船ヲ艤装シタル仏蘭西ノ港又ハ之ヲ艤装シタルニ非サル仏蘭西ノ港ニ帰船シタル時ハ亦其遺嘱贈遺ノ証書二通ニ封ヲ為シ且印ヲ押シタル上若シ又前条ニ記スル所ノ如ク航海中既ニ其一通ヲ岡士ニ渡シタル時ハ他ノ一通ニ封ヲ為シ且ツ印ヲ押シタル上之ヲ海軍兵士召募ノ官署ニ納メ其官署ノ官吏直チニ之ヲ海軍事務執政ニ送呈シ其執政前条ニ記スル所ノ如ク遺嘱者住所ノ地ノ最下等裁判所ノ書記局ニ之ヲ蔵メシム可シ
第九百九十三条 其船ノ乗組人姓名簿ノ中其遺嘱者ノ姓名ヲ記シタル端ニ岡士又ハ海軍兵士召募ノ官署ニ其遺嘱贈遺ノ証書ヲ渡シタル旨ヲ附記ス可シ
第九百九十四条 航海旅行中ト雖モ仏蘭西官吏ノ在留スル外国ノ領地又ハ仏蘭西ノ領地ニ着船シタル後遺嘱贈遺ノ証書ヲ記シタルニ於テハ其贈遺ノ証書ヲ海上ニテ記シタルモノト看做ス可カラス但シ此場合ニ於テハ仏蘭西ニテ用フル所ノ法式ニ循ヒ又ハ其贈遺ノ証書ヲ記シタル国ニテ用フル所ノ法式ニ循ヒ之ヲ記セサレハ其効ナカル可シ
第九百九十五条 前数条ニ記載シタル規則ハ船ノ乗組人ニ非サル通常ノ旅客ノ記シタル遺嘱贈遺ノ証書ニモ亦通シテ用フ可シ
第九百九十六条 第九百八十八条ニ記シタル法式ヲ用ヒ海上ニテ記シタル遺嘱贈遺ノ証書ハ其遺嘱者海上ニテ死去シタル時又ハ通常ノ法式ヲ用ヒ之ヲ改記スルコトヲ得可キ地ニ上陸シタルヨリ三月内ニ死去シタル時ノ外其効ナカル可シ
第九百九十七条 海上ニテ遺嘱贈遺ノ証書ヲ記スル時ハ船ノ士官及ヒ船中ニテ職務ヲ為ス者ノ為メ其贈遺ヲ為ス可カラス但シ此等ノ者其贈遺ヲ為ス者ノ親族タル時ハ格別ナリトス
第九百九十八条 此款ノ前数条ニ記シタル遺嘱贈遺ノ証書ハ其遺嘱者ト其証書ヲ公証シタル者ト其姓名ヲ手署ス可シ
若シ遺嘱者姓名ヲ手署スル事ヲ知ラス又ハ手署スルコト能ハサル旨ヲ述フル時ハ其述フル所ト其手署スルコトヲ得サル原由トヲ附記ス可シ
証人二人ノ立会ノ必要ナル時ハ其証人二人又ハ其中ノ一人其遺嘱贈遺ノ証書ニ姓名ヲ手署ス可シ但シ姓名ヲ手署シタル証人一人ノミナル時ハ他ノ一人姓名ヲ手署セサル原由ヲ附記ス可シ
第九百九十九条 外国ニ在ル仏蘭西人ハ第九百七十条ニ記シタル如ク自筆ノ私書ヲ以テ遺嘱ノ贈遺ヲ為シ又ハ其国ニテ用フル所ノ法式ニ循ヒ記シタル公正ノ証書ヲ以テ遺嘱ノ贈遺ヲ為スコトヲ得可シ
第千条 外国ニテ遺嘱贈遺ノ証書ヲ記シタル仏蘭西人ノ住所現時仏蘭西国内ニ在ル時ハ其住所ノ官署ノ簿冊ニ其証書ヲ登記シタル後若シ又其住所現時仏蘭西国内ニアラサル時ハ人ノ通知シタル仏蘭西国内ニアル最終ノ住所ノ官署ノ簿冊ニ之ヲ登記シタル後ニ非レハ仏蘭西国内ニ在ル動産ニ付キ其証書ノ如ク執行フコトヲ得ス又其遺嘱贈遺ノ証書ニ仏蘭西国内ニアル不動産ヲ贈遺ト為スコトヲ記シタル時ハ前文ニ記スル所ノ外更ニ其不動産所在ノ地ノ官署ノ簿冊ニモ亦其証書ヲ登記スルヲ必要トス但シ斯ノ如ク其証書ヲ二箇ノ簿冊ニ登記スルト雖モ二倍ノ税銀ヲ出タスニ及ハス
第千一条 此款及ヒ前款ノ規則ニ循ヒ諸般ノ遺嘱贈遺ノ証書ヲ記ス可キ法式ハ必ス之ヲ循守ス可シ若シ之ヲ循守セサル時ハ其証書ノ効ナカル可シ
第三款 遺嘱贈遺ノ証書ノ種類
第千二条 遺嘱贈遺ノ証書ハ遺嘱者ノ財産ノ全部ニ関係シ又ハ其財産中ノ別段指定メサル一部ニ係管シ又ハ其財産中ノ別段指定メタル品物ニ管係ス
遺嘱贈遺ノ証書ハ如何ナル名義ヲ以テ之ヲ為シタルヲ問ハス遺嘱者財産ノ全部ノ贈遺、其財産中ノ別段指定メサル一部ノ贈遺、其財産中ノ別段指定メタル物品ノ贈遺ニ付キ後ニ記載スル規則ニ循ヒ其効ヲ生ス可シ
第四款 財産全部ノ遺嘱贈遺ノ証書
第千三条 財産全部ノ遺嘱贈遺ノ証書トハ遺嘱者ノ死去スル時其遺留スル財産ノ全部ヲ一人又ハ数人ニ贈与スル遺嘱ノ証書ヲ云フ
第千四条 遺嘱者死去ノ時法律上ニテ必ス其財産ノ一部ヲ得可キ相続人アル時ハ其相続人遺嘱者ノ死去ニ因リ其財産ノ全部ヲ皆自己ニ収受ス可シ但シ遺嘱者ノ財産全部ノ贈遺ヲ受ク可キ者ハ其相続人ヨリ遺嘱贈遺ノ財産ノ引渡ヲ得ント訴フ可シ
第千五条 此場合ニ於テ財産全部ノ遺嘱ノ贈遺ヲ受ク可キ者遺嘱者ノ死去セシヨリ一年内ニ相続人ヨリ其財産ノ引渡ヲ得ント訴フル時ハ遺嘱者死去ノ日ヨリ以来ノ其財産ノ利益ヲ所得ト為スコトヲ得可シ若シ然サレハ其引渡ヲ訴ヘタル日又ハ遺物相続人其財産ヲ其贈遺ヲ受ク可キ者ニ引渡スコトヲ承諾シタル日ヨリ以来ノ入額ヲ所得ト為スコトヲ得可シ
第千六条 遺嘱者ノ死去シタル時法律上ニテ必ス其財産ノ一部ヲ得可キ遺物相続人アラサル時ハ其財産全部ノ贈遺ヲ受ク可キ者遺嘱者ノ死去ニ因リ即時ニ其財産ヲ所有ト為ス可キノ権アリ
第千七条 遺嘱者自筆ノ遺嘱贈遺ノ証書ハ其書中ニ記載シタル如ク執行フ前ニ其遺物相続ヲ為ス地ヲ管轄スル下等裁判所ノ上席人ニ之ヲ差出ス可シ○此贈遺ノ証書ニ封印アラハ其上席人之ヲ開封シ且ツ其証書ヲ差出シタルコト及ヒ開封シタル事ト遺嘱贈遺ノ模様トヲ調書ニ記シ其証書ヲ裁判所上席人ノ別段定メタル「ノテール」ニ預ク可シ
又秘密ノ遺嘱贈遺ノ証書ハ之ヲ裁判所ノ上席人ニ差出シ其上席人開封ヲ為シ且其差出シタル事及ヒ開封ノ事ト遺嘱贈遺ノ模様トヲ調書ニ記シ「ノテール」ニ預クル事ハ前ニ記スル所ト同一タル可シ但シ其開封ハ其証書ノ表書ヲ記シタル「ノテール」ト姓名ヲ記シタル証人トノ面前ニ非レハ之ヲ為ス可カラス若シ又其「ノテール」又ハ証人其場ニ在サル時ハ之ヲ呼出シテ出席シタル上又ハ呼出シテ猶ホ出席セサル上ニテ開封ス可シ
第千八条 第千六条ニ記シタル場合ニ於テ遺嘱者自筆ノ遺嘱贈遺ノ証書又ハ秘密ノ証書アル時其財産全部ノ贈遺ヲ受クル者其財産ヲ己レニ収受セント欲スルニハ此等ノ証書ヲ「ノテール」ニ預ケタル旨ヲ記セシ書面ヲ添ヘテ其願書ヲ裁判所ノ上席人ニ差出シ上席人ヨリ其允許ノ言渡ヲ得タル上其言渡ノ旨ヲ願書ニ附記シ之ヲ証トシテ其財産ヲ収受スルコトヲ得可シ
第千九条 遺嘱者ノ財産全部ノ贈遺ヲ受クル者法律上ニテ必ス遺嘱者ノ財産ノ一部ヲ得可キ遺物相続人ト共ニ其財産ヲ分ツ時ハ其己レニ得タル財産ノ割合ヲ以テ遺物ニ付テノ負債ヲ担当シ又其得タル不動産「イポテーク」ノ負債ハ一身ニ之ヲ担当シ且他ニ遺嘱ノ贈遺ヲ受ク可キ者アラハ其者ニ其贈遺ノ財産ヲ渡ス可シ但シ第九百二十六条及ヒ第九百二十七条ニ記スル如ク減少ス可キ贈遺ノ財産ハ之ヲ渡スニ及ハス
第五款 財産中ノ別段指定メサル一部ノ遺嘱贈遺ノ証書
第千十条 財産中ノ別段指定メサル一部ノ遺嘱贈遺ノ証書トハ遺嘱者其財産ノ半ハ又ハ三分ノ一又ハ其不動産ノ全部又ハ其動産ノ全部又ハ其不動産或ハ動産ノ一部等ノ如ク総テ法律上ニテ贈遺ト為スコトヲ得可キ財産定分ノ一部ヲ贈遺スル証書ヲ云フ
其他ノ遺嘱贈遺ノ証書ハ皆財産中ノ別段指定メタル品物ノ贈遺ノ証書ナリトス
第千十一条 財産中ノ別段指定メタル一部ノ遺嘱贈遺ヲ受クル者ハ法律上ニテ必ス其財産ノ一部ヲ得可キ遺物相続人ニ己レノ得可キ財産ノ引渡ヲ求ム可シ若シ其相続人アラサル時ハ其財産全部ノ贈遺ヲ受クル者ニ其引渡ヲ求ム可シ若シ又其全部ノ贈遺ヲ受クル者アラサル時ハ此篇ノ第一巻(遺物相続ノ巻)ニ定メタル順序(第七百三十一条以下見合)ヲ以テ遺物相続ヲ為ス可キ者ニ其引渡ヲ求ム可シ
第千十二条 財産中ノ別段指定メサル一部ノ遺嘱贈遺ヲ受クル者ハ其全部ヲ受クル者ノ如ク其己レニ得タル財産ノ割合ヲ以テ遺物ニ付テノ負債ヲ担当シ又其得タル不動産「イポテーク」ノ負債ハ一身ニ之ヲ担当ス可シ
第千十三条 遺嘱者其財産中ノ別段指定メサル一部ノ遺嘱贈遺ノ名義ヲ以テ其贈遺ト為スコトヲ得可キ財産定分ノ一部ヲ贈与シタル時ハ其贈遺ヲ受クル者当然ノ遺物相続人ト共ニ其得タル財産ノ割合ヲ以テ遺嘱者財産中ノ別段指定メタル品物ノ贈遺ヲ受ク可キ者ニ其品物ヲ引渡スコトヲ担当ス可シ
第六款 遺嘱者財産中ノ別段指定メタル品物ノ贈遺
第千十四条 凡ソ別段ノ約束ナキ遺嘱ノ贈遺アル時ハ其贈遺ヲ受クル者遺嘱者ノ死去セシ日ヨリ其贈遺ノ財産ヲ所有スルノ権アリ但シ此権ハ贈遺ヲ受クル者ノ遺物相続人及ヒ其代権者ニ之ヲ伝フルコトヲ得可シ
然トモ遺嘱者ノ財産中ニテ別段指定メタル品物ノミノ贈遺ヲ受クル者ハ第千十一条ニ定メタル順序ニ従ヒ己レノ得可キ財産ノ引渡ヲ訴ヘタル日又ハ其財産ヲ引渡ス可キ者ノ意ヲ以テ之ヲ引渡スコトヲ承諾シタル日ヨリ後ニ非レハ其贈遺トシテ受ケタル財産又ハ権利ヲ己レニ収受スルコトヲ得ス且其財産又ハ権利ヨリ生スル利益ヲ得ント求ムルコトヲ得ス
第千十五条 然トモ左ノ場合ニ於テハ遺嘱ノ贈遺ヲ受クル者別ニ訴ヲ為サスシテ遺嘱者死去ノ日ヨリ其得可キ財産又ハ権利ヨリ生スル利益ヲ所得ト為スコトヲ得可シ
第一 遺嘱者其遺嘱書中ニ別段其意ヲ記入シタル時
第二 畢生間ノ年金ヲ得可キ権ヲ養料ノ名義ヲ以テ遺嘱ノ贈遺ト為シタル時
第千十六条 遺嘱ノ贈遺ヲ受クル者其贈遺ノ財産ノ引渡ヲ訴フル費用ハ遺物相続人ノ相続ス可キ遺物中ヨリ之ヲ差引可シ然トモ法律上ニテ必ス遺物ノ一部ヲ受ク可キ者ノ為メ遺シ置キタル財産ノ一部ヲ是レカ為メ減スルコトヲ得ス
遺嘱贈遺ノ財産引渡ヲ官署ノ簿冊ニ登記スル費用ハ其贈遺ヲ受クル者之ヲ払フ可シ然トモ遺嘱贈遺ノ証書中ニ別段ノ約定アル時ハ前項ト異ナリトス
数人ニ為シタル遺嘱ノ贈遺ハ各箇ニ之ヲ官署ノ簿冊ニ登記ス可シ但シ之ヲ登記シタルコトハ其登記ヲ為シタル贈遺ヲ受クル者及ヒ其代権者ノ為メ其効アル可ク其他ノ贈遺ヲ受クル者ノ為メ利益ヲ生スルコトナカル可シ
第千十七条 遺嘱者ノ遺物相続人又ハ其他遺嘱者財産中ノ別段指定メタル品物ノ贈遺ヲ引渡ス可キ者ハ各其得タル財産ノ割合ヲ以テ動産ノ贈物ヲ引渡スコトヲ担当ス可シ
又不動産ノ贈物ヲ引渡スニ付テハ遺物相続人又ハ其他遺嘱ノ財産ヲ引渡ス可キ者其所得ト為シタル不動産ノ価ニ至ル迄之ヲ「イポテーク」ト為シタルト看做シ其不動産引渡ヲ一身ニ担当ス可シ(第八百七十三条見合セ)
第千十八条 遺嘱贈遺ノ財産ハ遺嘱者ノ死去セシ時ノ模様ノ侭其必要ナル附従物ト共ニ之ヲ引渡ス可シ
第千十九条 不動産所有ノ権ヲ遺嘱ノ贈遺ト為ス証書ヲ記シタル者後ニ其不動産ノ大サヲ増加シタル時(囲ノ別ナルヲ云フ)ハ其増加シタル不動産以前ノ不動産ト相接シタル時ト雖トモ之ヲ其遺嘱贈遺中ノ一部ナリト看做ス可カラス但シ其増加シタル部分ヲモ亦贈与ス可キ旨ヲ記シタル贈遺ノ証書アル時ハ格別ナリトス
又遺嘱ノ贈遺ト為セシ不動産ニ添フタル装飾物又ハ新ニ為シタル造営又ハ遺嘱者新ニ囲ヒ入タル不動産ハ前項ト異ナリテ其遺嘱贈遺中ノ一部ナリト看做ス可シ
第千二十条 若シ遺嘱贈遺ノ証書ヲ記スル前又ハ其後其遺嘱者贈遺ト為ス可キ不動産ヲ自己ノ負債ノ質ト為シタル時又ハ其不動産ヲ他人ノ負債ノ質ト為シタル時又ハ他人ニ其不動産ノ入額所得ノ権ヲ与ヘタル時ハ後ニ其不動産ヲ贈遺ヲ受クル者ニ引渡ス可キ相続人又ハ其他ノ者其質ヲ受戻スニ及ハス又入額所得ノ権ヲ取戻スニ及ハス其侭之ヲ引渡スヲ得可シ但シ遺嘱者其質ノ受戻シ又ハ入額所得ノ権ノ取戻シヲ為ス可キコトヲ別段其遺嘱贈遺ノ証書ニ記シタル時ハ格別ナリトス(第八百七十四条見合セ)
第千二十一条 若シ遺嘱者他人ニ属スル財産ヲ贈遺ト為シタル時ハ其遺嘱者其財産ノ己レニ属セサルヲ知リタルト否トヲ問ハス其贈遺ノ効ナカル可シ
第千二十二条 遺嘱者其贈遺ト為ス財産ノ種類ヲ定メ其品物ヲ定メサル時ハ其遺物相続人其遺嘱ノ贈遺ヲ受クル者ニ最モ良好ノ質アル財産ヲ渡スニ及ハス又最モ鹿悪ノ質アル財産ヲ渡ス可カラス
第千二十三条 債主ニ与フル遺嘱ノ贈遺ハ負債ノ償ナリト看做ス可カラス又僕婢ニ与フル遺嘱ノ贈遺ハ俸金ノ償ナリト看做ス可カラス
第千二十四条 遺嘱者ノ財産中ニテ別段指定メタル品物ノ贈遺ヲ受クル者ハ遺嘱者ノ負債ヲ払フニ及ハス但シ其贈遺トシテ得タル不動産ニ付キ「イポテーク」ノ権アル債主ヨリ遺嘱者ノ債ヲ払フ可キノ訴ヲ受ケタル時ハ之ヲ払フ可シ(第八百七十四条見合セ)又其贈遺ヲ受ケタル者ハ前ニ(第九百二十六条)記シタル如ク其時ノ模様ニ因リ其贈遺ノ財産ヲ減セラルルコトアル可シ
第七款 遺嘱者ノ托ヲ受ケ遺嘱ノ諸事ヲ管理【トリサハク】スル者
第千二十五条 遺嘱者ハ其遺嘱ノ諸事ヲ管理スル者一人又ハ数人ヲ任スルコトヲ得可シ
第千二十六条 遺嘱者ハ其遺嘱ノ諸事ヲ管理スル者ニ己レノ動産ノ全部又ハ一部ヲ委托スル事ヲ得可シ然トモ其委托ハ其遺嘱者ノ死去セシ時ヨリ一年有一日ノ時間ニ過ク可カラス
遺嘱ノ諸事ヲ管理スル者其委托ヲ受ケサル時ハ之ヲ受ケント訴フ可カラス
第千二十七条 遺物相続人死者ノ遺嘱贈遺ノ動産ヲ贈遺ヲ受クル者ニ渡ス可キコトヲ証スル為メ十分ナル金高ヲ其管理者ニ預ケタル時又ハ既ニ自カラ其遺嘱贈遺ノ動産ヲ贈遺ヲ受クル者ニ渡シタルコトヲ証スル時ハ其管理者嘗テ遺嘱者ヨリ委托ヲ受ケシ動産ヲ遺物相続人取戻スコトヲ得可シ
第千二十八条 契約ヲ為スコト能ハサル者ハ遺嘱ノ管理者トナルコトヲ得ス
第千二十九条 婚姻シタル婦ハ其夫ノ許諾ヲ得ルニ非レハ遺嘱管理ノ任ヲ受クルコトヲ得ス
若シ婚姻ノ契約又ハ裁判所ノ言渡ニ因リ婦其夫ト財産ヲ分チタル時ハ其婦其夫ノ許諾ヲ得テ遺嘱管理ノ任ヲ受ケ又夫ノ之ヲ許諾セサル時ハ第二百十七条及ヒ第二百十九条(婚姻ノ巻)ニ記スル所ニ循ヒ裁判所ノ允許ヲ得タル上ニテ其任ヲ受クルコトヲ得可シ
第千三十条 幼者ハ後見人又ハ「キュラトール」ノ許諾ヲ得ルト雖トモ遺嘱管理ノ任ヲ受ク可カラス
第千三十一条 遺物相続人中ニ幼者及ヒ治産ノ禁ヲ受ケシ者又ハ失踪者アル時ハ遺嘱ノ管理者其遺物ノ財産ニ封印ヲ為スノ手続ヲ為ス可シ
此場合ニ於テハ其管理者幼者又ハ治産ノ禁ヲ受ケシ者又ハ失踪者ヲ除キテ遺嘱者最近ノ親族タル遺物相続人ノ面前ニテ又ハ其相続人ヲ法ニ循ヒ呼出シ猶ホ出席セサル上ニテ遺物財産ノ目録ヲ記サシムルノ手続ヲ為ス可シ
其管理者ハ遺嘱贈遺ノ契約ノ如ク執行フ為メ十分ナル金高ノアラサル時動産ヲ売払ハシムルコトヲ得可シ
其管理者ハ遺嘱ノ諸事ヲ執行フコトヲ監督シ且其諸事ヲ行フニ付キ訴訟ノ生スル時ハ其訴訟ニ管渉シ遺嘱書ノ如ク執行フ可キコトヲ論弁ス可シ
其管理者ハ遺嘱者ノ死去シタルヨリ一年ノ後ニ至リ其行フタル諸事ノ算計ヲ為ス可シ
第千三十二条 遺嘱ノ管理者ノ権ハ其遺物相続人ニ伝フルコトヲ得ス
第千三十三条 遺嘱管理ノ任ヲ受ケシ者数人アル時ハ其中ノ一人他ノ管理者ニ代リ遺嘱ノ諸事ヲ処置スルコトヲ得可ク又其数人ノ管理者ハ其委托ヲ受ケタル動産ノ用法ヲ算計スルニ付キ皆連帯シテ其責ニ任ス可シ但シ遺嘱者其管理者数人ノ職務ヲ分チ且ツ其各人己レノ任ヲ得タル職務ノミヲ行フタル時ハ格別ナリトス
第千三十四条 遺嘱ノ管理者遺嘱ノ財産ニ封印ヲ為シ其財産ノ目録ヲ記シ其行フタル諸事ノ算計書ヲ出スノ費用及ヒ其他管理者ノ職務ヲ為スニ付テノ費用ハ遺物ノ財産中ヨリ之ヲ償フ可シ
第八款 遺嘱贈遺ノ証書ヲ廃棄スル事及ヒ遺嘱贈遺ノ証書ノ効ナキ事
第千三十五条 凡ソ遺嘱贈遺ノ証書ハ其後ニ記シタル遺嘱贈遺ノ証書ニ因リ又ハ遺嘱者其意ヲ変更セシコトヲ「ノテール」ノ面前ニテ記シタル公正ノ証書ニ因リ其全部又ハ一部ヲ廃スルコトヲ得可シ
第千三十六条 後ニ記シタル遺嘱贈遺ノ証書ニ前ニ記シタル遺嘱贈遺ノ証書ヲ廃棄スルコトヲ別段記セサル時ハ前ノ証書中ニテ後ノ証書ニ記スル条件ト並行ス可カラサル事又ハ齟齬シタル事ノミヲ廃棄ス可シ
第千三十七条 後ノ遺嘱贈遺ノ証書ニ拠リテ贈遺ヲ受ク可キ者之ヲ受クルコト能ハサルニ因リ又ハ其贈遺ヲ受ク可キ者之ヲ受クルコトヲ肯セサルニ因リ後ノ遺嘱贈遺ノ証書ノ効ナキ時ト雖トモ其証書ニ従ヒ前ノ遺嘱贈遺ノ証書ヲ廃棄ス可シ
第千三十八条 遺嘱者遺嘱ノ贈遺ト為ス可キコトヲ約シタル財産ノ全部又ハ一部ヲ他人ニ売渡シタル時ハ縦令其売渡シノ時後ニ之ヲ買戻スコトヲ得可キノ約定ヲ為シタル時又ハ之ヲ売渡シテ他物ト交換シタル時ト雖トモ其売渡シタル財産ニ付テハ其遺嘱贈遺ノ証書ヲ廃棄ス可シ但シ其売払ノ契約ノ効ナクシテ売払人之ヲ己レニ取戻シタル時モ亦同一ナリトス
第千三十九条 凡ソ遺嘱贈遺ノ証書ハ其贈遺ヲ受ク可キ者遺嘱者ヨリ前ニ死シタル時ハ其効ナシトス
第千四十条 凡ソ未定ノ後事ヲ指示シタル約束ヲ以テ遺嘱贈遺ノ証書ヲ記シ且遺嘱者其後事ノ有無ニ従ヒ其贈遺ノ証書ノ如ク執行フト否トヲ決ス可キ時其贈遺ヲ受ク可キ者其後事ノ未タ生セサル以前ニ死去シタルニ於テハ其贈遺ノ証書ノ効ナカル可シ
第千四十一条 前条ノ如ク後事ニ管スル約アリト雖トモ其後事必ス生ス可キ事ニシテ遺嘱者ノ意ニテ唯々其贈遺ノ証書ノ如ク執行フコトヲ遅延スルノミナル時ハ其贈遺ヲ受ク可キ者其贈遺ノ証書ヲ承諾シタル時ヨリ直チニ其贈遺ヲ受ク可キノ権ヲ得若シ其約シタル後事ノ未タ生セサル時死去シタルニ於テハ其贈遺ヲ得ルノ権ヲ己レノ遺物相続人ニ伝フルニ妨ケナシトス
第千四十二条 遺嘱ノ贈遺ト為シタル財産其遺嘱者ノ生存中ニ全ク滅尽シタル時ハ其贈遺ノ効ナカル可シ
又遺嘱贈遺ノ財産ヲ渡ス可キ遺物相続人其贈遺ヲ受ク可キ者ニ之ヲ渡スコトヲ遅延セシ時ト雖トモ其相続人ノ所為及ヒ過失ニ非スシテ其贈遺ノ財産滅尽シ其財産縦令ヒ既ニ其贈遺ヲ受ク可キ者ノ所有トナリタルトモ亦滅尽ス可キ場合ニ於テハ其贈遺ノ効ナカル可シ
第千四十三条 遺嘱ノ贈遺ヲ受ク可キ者之ヲ受クルコトヲ肯セス又ハ之ヲ受クルコト能サル時ハ其贈遺ノ効ナカル可シ
第千四十四条 数人ニ連帯シテ遺嘱ノ贈遺ヲ為シタル時若シ其数人中其贈遺ヲ受ルコトヲ肯セス又ハ之ヲ受クルコト能ハサル者アルニ於テハ其他ノ数人其者ノ部分ヲ己レノ得可キ部分ニ加ヘテ所得ト為スコトヲ得可シ
一通ノ証書ヲ以テ遺嘱ノ贈遺ヲ為シ且其証書ニ贈遺ト為ス財産中各人ニ与フル部分ヲ指定メサル時ハ之ヲ数人ニ連帯シテ為シタル遺嘱ノ贈遺ナリトス
第千四十五条 又遺嘱者数人ニ一物ヲ贈与シ其各人ノ得可キ部分ヲ指定メタル時ト雖トモ一通ノ証書ヲ以テ其遺嘱ノ贈遺ヲ為シ且ツ其物ヲ分ツ時必ス之ヲ毀壊ス可キニ於テハ亦之ヲ数人ニ連帯シテ為シタル遺嘱ノ贈遺ト看做ス可シ
第千四十六条 第九百五十四条ト第九百五十五条ノ第一及ヒ第二トニ循ヒ生存中ノ贈遺ヲ廃棄セント訴フルヲ許ス可キ原由アル時ハ亦遺嘱ノ贈遺ヲ廃棄セント訴フルコトヲ得可シ
第千四十七条 若シ遺嘱ノ贈遺ヲ受ケタル者遺嘱者ノ生存中ノ誉望ヲ大ニ毀害シタル時ハ他人ヨリ其贈遺ヲ廃棄ス可キノ訴ヲ受ク可シ但シ其訴ハ其罪ヲ犯シタルヨリ一年内ニ之ヲ為ス可シ
第六章 生存中ノ贈遺又ハ遺嘱ノ贈遺ヲ為ス者其孫ノ為メナス所ノ約定又ハ其甥姪ノ為メナス所ノ約定
第千四十八条 父母ハ其随意ニ贈遺ト為スコトヲ得可キ財産定分ノ全部又ハ一部ヲ生存中ノ贈遺又ハ遺嘱ノ贈遺ノ証書ヲ以テ其子一人又ハ数人ニ与ヘ後ニ其贈遺ヲ受ケタル子ノ死去スル時其贈遺ノ財産ヲ其子ノ生ミタル子及ヒ生ムコトアル可キ子ニ伝フ可キノ約定ヲ為スコトヲ得可シ
第千四十九条 子ナキ者ハ其随意ニ為スコトヲ得可キ財産定分ノ全部又ハ一部ヲ生存中ノ贈遺又ハ遺嘱ノ贈遺ノ証書ヲ以テ其兄弟姉妹一人又ハ数人ニ与ヘ其兄弟姉妹ノ死去スル時其贈遺ノ財産ヲ其生ミタル子及ヒ生ムコトアル可キ子ニ伝フ可キノ約定ヲ為スコトヲ得可シ
第千五十条 前二条ニ記シタル贈遺ノ約定ハ年齢及ヒ男女ノ区別ナク贈遺ヲ受ケタル子ト贈遺ヲ受ケタル兄弟姉妹トノ生ミタル子及ヒ生ムコトアル可キ子数人ノ為メ其贈遺ノ財産ヲ伝フ可キコトヲ定ムルニ非レハ其効ナカル可シ
第千五十一条 若シ前数条ニ記シタル場合ニ於テ贈遺ヲ受ケタル子又ハ兄弟姉妹ノ死去シタル時此等ノ者ノ現存ノ子ト既ニ死去シタル子ノ卑属ノ親トアルニ於テハ子ハ自己ノ権ヲ以テ其贈遺ノ財産ヲ譲リ受ケ既ニ死去シタル子ノ卑属ノ親ハ死シタル尊属ノ親ニ代リ其贈遺ノ財産ヲ譲リ受ク可シ
第千五十二条 子及ヒ兄弟姉妹初度ノ生存中ノ贈遺ヲ受ケタル時其財産ヲ死後己レノ子ニ伝フ可キノ約定ナシト雖トモ更ニ再度生存中ノ贈遺ヲ受ケ又ハ遺嘱ノ贈遺ヲ受ケタル時初度ノ贈遺ノ財産ヲ死後己レノ子ニ伝フ可キノ約定ヲ承諾シタルニ於テハ其贈遺ヲ受ケタル者後ニ其二箇ノ贈遺ヲ分チテ其再度ノ贈遺ノ財産ヲ放棄スルト雖トモ初度ノ贈遺ノ財産ヲ己レノ随意ニ為スコトヲ得ス又再度ノ贈遺ノ財産ヲ己レノ子ニ伝フ可キ事ヲ述フルト雖トモ初度ノ贈遺ノ財産ヲ己レノ随意ニ為スコトヲ得ス
第千五十三条 己レノ子ニ伝フ可キノ約定ヲ以テ財産ノ贈遺ヲ受ケタル子又ハ兄弟姉妹其財産ヲ所有スル権ノ終リタル時ハ其権ノ終リタル原由ノ如何ナルヲ問ハス此等ノ者其子ニ其贈遺ノ財産所有ノ権ヲ移ス可シ但シ己レノ子ニ伝フ可キノ約定ヲ以テ財産ノ贈遺ヲ受ケタル者其財産所有ノ権ノ終ハラサル中預メ其子ノ為メ其贈遺ノ財産所有ノ権ヲ放棄スト雖トモ其放棄ヲ為ス前ニ自己ニ物件ヲ貸シタル債主ノ権利ヲ害スルコトナカル可シ
第千五十四条 己レノ子ニ伝フ可キノ約定ヲ以テ財産ノ贈遺ヲ受ケタル者ノ婦ハ其嫁資ヲ取戻スニ付キ其夫ノ自由ナル財産不足ナル時夫其子ニ伝フ可キ贈遺ノ財産ヲ以テ其嫁資ノ償ヲ得ント訴フルコトヲ得可シ但シ婦其訴ヲ為シ得可キ場合ハ此贈遺ヲ為シタル者其訴ヲ為シ得可キ事ヲ別段預メ定メ置キタル時ニ限ル可ク其他ノ時ハ其訴ヲ為スコトヲ得ス
第千五十五条 前数条ニ記シタル贈遺ヲ為ス者ハ其贈遺ノ証書又ハ其後ニ記スル公正ノ証書ヲ以テ其贈遺ノ約定ノ如ク執行フ可キコトヲ監察スル管照者ヲ任ス可シ但シ其管照者ハ第一篇第十巻(幼年後見等ノ事)第二章第六款ニ記載シタル原由アル時ノ外其任ヲ辞スルコトヲ得ス
第千五十六条 贈遺者此管照者ヲ任セサル時ハ己レノ子ニ伝フ可キノ約定ヲ以テ財産ノ贈遺ヲ受ケタル者若シ又其者幼年ナル時ハ其後見人贈遺者ノ死去セシ日ヨリ一月内ニ其管照者ヲ任シ又其死去ノ後ニ同上ノ贈遺ノ証書アルコトヲ知リタル時ハ其日ヨリ一日内ニ其管照者ヲ任ス可シ
第千五十七条 己レノ子ニ伝フ可キノ約定ヲ以テ財産ノ贈遺ヲ受ケタル者前条ニ記セシ如ク管照者ヲ任セサル時ハ其贈遺ヲ受ケシ権利ヲ失フ可シ但シ此場合ニ於テ其贈遺ヲ受ケシ者ノ子丁年ナル時ハ其子ノ訴ニ因リ若シ其子ノ幼年ナル時又ハ治産ノ禁ヲ受ケシ時ハ其後見人ノ訴ニ因リ又其子ノ丁年幼年又ハ治産ノ禁ヲ受ケタルヲ問ハス其子ノ親族ノ求ニ因リ又然ラサレハ遺物相続ヲ為ス地ノ下等裁判所ノ「プロキュリウル、アンペリアル」ノ申立ニ因リ其贈遺ノ財産所有ノ権ヲ其子ニ移スコトヲ得可シ
第千五十八条 前数条ニ記セシ遺嘱贈遺ヲ為シタル者ノ死去セシ後通常ノ法式ヲ以テ其遺嘱贈遺ノ財産ノ目録ヲ記ス可シ但シ其遺嘱者ノ財産中ニテ別段指定メタル品物ノ遺嘱ノ贈遺ナル時ハ其目録ヲ記スルニ及ハス○此目録ニハ「ミウブル」及ヒ「エツヘー、モビリエール」ノ正当ナル評価ヲ附記ス可シ
第千五十九条 其目録ハ贈遺ヲ受ケタル者此篇ノ第一巻(遺物相続ノ巻第七百九十五条)ニ定メタル期限内ニ其贈遺ノ約定ノ如ク執行フコトヲ監察スル管照者ノ面前ニテ之ヲ記スル手続ヲ為ス可シ但シ其目録ヲ記スルニ付テノ費用ハ其贈遺ノ財産中ヨリ之ヲ差引ク可シ
第千六十条 贈遺ヲ受ケタル者前条ニ記スル所ノ期限内ニ其目録ヲ記スル手続ヲ為ササル時ハ其翌月中ニ其贈遺ノ管照者贈遺ヲ受ケタル者ノ面前又其贈遺ヲ受ケタル者幼年ナル時ハ其後見人ノ面前ニテ其手続ヲ為ス可シ
第千六十一条 若シ贈遺ヲ受ケタル者並ニ管照者前二条ニ記シタル如ク目録ヲ記スル手続ヲ為ササル時ハ第千五十七条ニ記シタル各人其贈遺ヲ受ケタル者又其者幼年ナル時ハ其後見人ト管照者トヲ呼出シ其面前ニテ其目録ヲ記スル手続ヲ為ス可シ
第千六十二条 贈遺ヲ受ケタル者ハ次ノ二条ニ記スル所ヲ除クノ外其贈遺ノ財産中ノ「ミウブル」及ヒ「エツヘー、モビリエール」ヲ定例ノ如ク貼附ヲ為シタル上糶売ニテ売払フ可シ
第千六十三条 贈遺ノ契約書ニ品物ノ侭保存シ置ク可キコトヲ別段定メタル「ミユウブル、ミユウブラン」及ヒ其他ノ動産ハ其贈遺ヲ受ケタル者之ヲ保チ置キ後ニ之ヲ其子ニ伝フル時ニ至リ其時ノ景状ノ侭之ヲ伝フ可シ
第千六十四条 土地ヲ耕スニ入用ナル獣類及ヒ器具ハ生存中ノ贈遺又ハ遺嘱ノ贈遺ト為シタル土地中ニ包含セシ物ト看做シ己レノ子ニ伝フ可キノ約定ヲ以テ贈遺ヲ受ケタル者其獣類及ヒ器具ノ評価ヲ為シ置キ後其子ニ其評価ノ価ニ等シキ代金ヲ伝フ可シ
第千六十五条 己レノ子ニ伝フ可キノ約定ヲ以テ贈遺ヲ受ケタル者ハ目録ヲ成就シタル日ヨリ六月内ニ現ニ其贈遺中ニアル金高及ヒ「ミウブル」又ハ「エツヘー、モビリエール」ヲ売払フテ得タル所ノ金高並ニ贈遺中ニアル貸金証書ニ因リ現ニ受取リタル所ノ金高ヲ資益トナル可キ方法ニ用フ可シ
若シ格別ノ道理アル時ハ其六月ノ期限ヲ更ニ延ハスコトヲ得可シ
第千六十六条 己レノ子ニ伝フ可キノ約定ヲ以テ贈遺ヲ受ケタル者ハ其贈遺ノ後、人ヨリ取戻シタル貸金ノ証書(贈遺中ニアルモノヲ云フ)ニ因リ受取リタル所ノ金高ト年金ノ高トヲ受取リタル日ヨリ三月内ニ之ヲ資益トナル可キ方法ニ用フ可シ
第千六十七条 贈遺ヲ為ス者前二条ニ記セシ所ノ金高ヲ用フ可キノ方法ヲ定メシ時ハ其定メタル方法ニ循テ之ヲ用フ可シ若シ其方法ヲ定メサル時ハ不動産買入ノ為メ其金高ヲ用ヒ又ハ其金高ヲ人ニ貸与ヘテ其抵償【カタニトル】ノ為メ他ノ債主ヨリ先ニ其借受人ノ不動産ヲ質物トシテ得可キノ特権ヲ保有ス可シ
第千六十八条 前数条ニ記載シタル所ノ金高ヲ用フル事ハ贈遺ノ管照者ノ立合ニテ之ヲ為ス可シ
第千六十九条 贈遺ヲ受クル者ヲシテ其子ニ伝ヘシム可キノ約定ヲ以テ贈遺ヲ為シタル事ハ之ヲ受ケタル者又ハ其贈遺ノ管照者之ヲ公ケニ為ス可シ但シ不動産ニ付テハ其不動産所在ノ地ノ「イポテーク」官署ノ簿冊ニ其贈遺ノ証書ヲ登記シテ之ヲ公ケニ為シ又他ノ債主ヨリ先ニ借受人ノ不動産ヲ抵償トシテ得可キノ特権ヲ以テ人ニ貸与ヘタル金高ニ付テハ其不動産ヲ質ト為シタル旨ヲ官署ノ簿冊ニ登記シタル端ニ其特権ヲ記入シテ之ヲ公ケニ為ス可シ
第千七十条 若シ前条ノ如ク官署ノ簿冊ニ登記セサル時ハ其不動産ノ贈遺ヲ受ケタル者ノ債主又ハ其不動産ヲ買入レタル者其贈遺ヲ受ケタル者ノ子ニ対シ其登記ナキ旨ヲ訴ヘ己ノ権利ヲ保護スルコトヲ得可シ但シ其贈遺ヲ受ケタル者ノ子ハ幼者又ハ治産ノ禁ヲ受ケタル者タル時ト雖モ其登記ナキノ責ヲ己レニ引受ク可ク唯々其贈遺ヲ受ケタル父母ト贈遺ノ管照者トニ対シ其損失ノ償ヲ得ント訴フルコトヲ得可シ若シ又其父母ト管照者ト共ニ其損失ノ償ヲ為スコト能ハサル時ト雖トモ父母ノ債主又ハ其不動産買入人ノ権利ヲ害ス可キ訴ヲ為スコトヲ得ス
第千七十一条 第千六十九条ノ如ク贈遺ノ証書ヲ官署ノ簿冊ニ登記セサル時ハ其贈遺ヲ受ケタル者ノ債主又ハ贈遺ノ不動産ヲ買入レタル者其登記ヲ見タル以外ノ方法ニテ其贈遺ノ約定ヲ知リタルト雖トモ贈遺ヲ受ケタル者ノ子其責ヲ免ルルコトヲ得ス
第千七十二条 前ニ記シタル贈遺ヲ為ス者ヨリ他ノ生存中ノ贈遺又ハ遺嘱ノ贈遺ヲ受クル者並ニ其相続人及ヒ此等ノ者ヨリ更ニ又贈遺ヲ受クル者又ハ其相続人ハ第千六十九条ニ記シタル如ク官署ノ簿冊ニ登記シタルコトナキヲ申述テ前ニ記シタル贈遺ヲ受ケタル者ノ子ノ権利ヲ害ス可キ訴ヲ為ス可カラス
第千七十三条 贈遺ノ管照者動産ヲ売払フ事、金高ヲ用フル事、贈遺ノ証書ヲ官署ノ簿冊ニ登記スル事、他ノ債主ヨリ先ニ借入人ノ不動産ヲ抵償トシテ得可キ特権ヲ記入スル事ニ付キ前数条ニ定メタル規則ニ循ハサル時又贈遺ヲ受ケタル者ヲシテ贈遺ノ約定ニ違ハス其贈遺ノ財産ヲ其子ニ伝ヘシム可キ処置ヲ為ササル時ハ其贈遺ヲ受ケタル者ノ子ノ為メ生スル損失ノ償ヲ自己ニ担当ス可シ
第千七十四条 己ノ子ニ伝フ可キノ約定ヲ以テ贈遺ヲ受ケタル者縦令幼年ナル時ト雖トモ此章ノ数条ニ定メタル規則ニ循ヒ其行フ可キ諸件ヲ行ハサルニ於テハ自カラ其責ニ任ス可ク後ニ其後見人ニ対シ其償ヲ得ントスルノ訴ヲ為スコトヲ得可シ但シ其贈遺ヲ受ケタル幼者ハ後見人ヨリ其償ヲ得ルコト能ハサル時ト雖トモ己レノ責ヲ免ルルコトヲ得ス
第七章 父母又ハ其他ノ尊属ノ親其財産ヲ卑属ノ親ニ分派スル事
第千七十五条 父母又ハ其他ノ尊属ノ親ハ其子又ハ卑属ノ親ニ其財産ノ分派ヲ為スコトヲ得可シ
第千七十六条 其分派ハ生存中ノ贈遺及ヒ遺嘱ノ贈遺ノ為メ定メタル体裁ト規則トニ循ヒ生存中ノ証書又ハ遺嘱ノ証書ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得可シ
生存中ノ証書ヲ以テ為シタル分派ハ現在所有スル財産ノミヲ目的ト為ス可シ
第千七十七条 若シ尊属ノ親死去シタル時其遺留シタル財産中ニ嘗テ其分派中ニ入ラサル物件アル時ハ其物件ヲ法律定例ニ循テ分派ス可シ
第千七十八条 若シ尊属ノ親ノ死去シタル時生存スル子ト既ニ死去シタル子ノ卑属ノ親トノ全員中ニ其財産ヲ分派シタルコトナキ時ハ其分派ノ効全クナカル可シ○此場合ニ於テハ財産ノ一部ノ分派ヲ得サル子及ヒ卑属ノ親ハ勿論其分派ヲ得タル子及ヒ卑属ノ親ト雖トモ法律定例ニ循ヒ更ニ改メテ分派ヲ為サント訴フルコトヲ得可シ
第千七十九条 尊属ノ親ノ為シタル分派ニ付キ其子及ヒ卑属ノ親中ニテ其当然得可キ部分ノ四分一以上損失ヲ受クルコトアル時ハ其損失ヲ受クル子及ヒ卑属ノ親其分派ヲ廃セント訴フルコトヲ得可シ又分派ノ方法ト分派ヲ得ル者ノ中一人ニ別段余分ヲ贈与シタルコトトニ因リ分派ヲ得ル者ノ中一人法律定例ニ循ヒ当然得可キ部分ノ財産ヲ得ル時ハ他ノ分派ヲ得ル者ヨリ其分派ヲ廃セント訴フルコトヲ得可シ
第千八十条 前条ニ記シタル原由中ノ一ニ因リ尊属ノ親ノ為シタル分派ヲ廃セント訴フル子ハ財産評価ノ費用ヲ預メ出シ置ク可シ但シ其子其訴ヲ為スノ道理ナキ証アル時ハ其評価ノ費用ト裁判所ノ費用トヲ払フ可シ
第八章 婚姻ノ契約ヲ以テ夫婦又ハ其婚姻ニ因リ生ス可キ子ノ為メニナス所ノ贈遺
第千八十一条 現在所有スル財産ノ生存中ノ贈遺ハ婚姻ノ契約書ヲ以テ夫婦又ハ其中一方ニ与ヘタル時ト雖トモ通常ノ生存中ノ贈遺ニ付キ此巻ニ定メタル一般ノ規則ニ循フ可シ
此生存中ノ贈遺ハ此巻ノ第六章ニ記載シタル場合ノ外後ニ其夫婦ノ間ニ挙ルコトアル可キ子ノ為メニ之ヲ為スコトヲ得ス(第九百六条見合セ)
第千八十二条 夫婦トナラントスル者ノ父母又ハ其他ノ尊属ノ親及ヒ傍系ノ親又ハ親族ニ非サル者ト雖トモ其死去スル時ニ遺留ス可キ財産ノ全部又ハ一部ヲ婚姻ノ契約ヲ以テ其夫婦ニ贈与シ若シ其贈遺ヲ受ク可キ夫婦其贈遺ヲ為ス者ヨリ前ニ死去シタル時ハ其夫婦ノ間ニ生シタル子ニ其贈遺ノ財産ヲ贈与スルコトヲ得可シ(此条ノ場合ニ於テハ其贈遺ヲ引受クル者ハ全ク負債ヲモ引受ク可シ)此贈遺ハ夫婦又ハ其中ノ一方ノミニ為シタル時ト雖トモ前ニ記スル所ノ如ク其贈遺ヲ受ク可キ夫婦其贈遺ヲ為シタル者ヨリ前ニ死去シタル時ハ常ニ其夫婦ノ子及ヒ卑属ノ親ニ其贈遺ヲ為シタルモノト看做ス可シ
第千八十三条 前条ニ記シタル種類ノ贈遺ハ其贈遺ヲ為ス者其贈遺ノ財産中ニテ極メテ些少ノ部分ヲ除クノ外総テ其財産ヲ償ヲ得スシテ更ニ他人ニ贈与スルコトヲ得サルニ付テハ其贈遺ヲ廃ス可カラサルモノト為ス可シト雖トモ償ヲ得テ其財産ヲ更ニ他人ニ売払ヒ又ハ質物ト為ス類ノ事自由ナルニ付テハ其贈遺ヲ廃スルヲ得可キモノト為ス可シ
第千八十四条 婚姻ノ契約ヲ以テ現在所有スル財産ト後ニ所有ト為スコトアル可キ財産トヲ贈遺ト為ス時ハ其贈遺ノ証書ニ其贈遺ヲ為ス時贈遺者ノ現ニ負フタル債ヲ記セシ書面ヲ添フ可シ○此場合ニ於テハ其贈遺ヲ受クル者贈遺ヲ為ス者ノ死去セシ時ニ至リ嘗テ其贈遺ノ時贈遺者ノ現在所有セシ財産ノミヲ受ケ其贈遺者ノ後ニ所有ト為シタル財産ヲ放棄スルコトヲ得可シ
第千八十五条 前条ニ記シタル如ク贈遺ヲ為ス者ノ現在所有スル財産ト後ニ所有ト為スコトアル可キ財産トノ贈遺ヲ為シタルト雖トモ其贈遺ノ証書ニ其贈遺者ノ負債ヲ記シタル書面ヲ添ヘサル時ハ(此場合ハ猶ホ第千八十二条ニ等シキ模様アリ)其贈遺ヲ受クル者其贈遺ノ財産ヲ全ク収受シ然ラサレハ全ク之ヲ放棄ス可シ○其財産ヲ収受シタル時ハ其贈遺ヲ受クル者贈遺ヲ為ス者ノ死去スル時現存シタル財産ノミヲ得可ク且贈遺者ノ負債ヲ尽ク引受ク可シ
第千八十六条 婚姻ノ契約ヲ以テ夫婦及ヒ其間ニ生ル可キ子ニ為シタル贈遺ハ贈遺ヲ為ス者ノ何人ナルヲ問ハス贈遺ヲ受クル者ヲシテ贈遺ヲ為ス者其負債ヲ区別ナク引受ケシムル約定ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得又ハ其他贈遺ヲ為ス者随意ノ約定ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得可シ但シ其贈遺ヲ受クル者ハ其贈遺ノ財産ヲ放棄スルニ非レハ其約定ノ如ク執行フ可シ○又其現在所有スル財産ヲ贈遺ト為シ其中ノ一物又ハ定数ノ金高ヲ贈遺者後ニ己レノ欲スル所ニ随ヒ取扱フ可キノ約定ヲ婚姻ノ契約ニ定メ置キ其贈遺者其一物又ハ其金高ヲ別段其欲スル所ニ随ヒ取扱フコトナク死去シタル時ハ之ヲ贈遺ノ財産中ニ包含セシモノト看做シテ贈遺ヲ受ク可キ者又ハ其遺物相続人之ヲ所有ト為スヲ得可シ
第千八十七条 婚姻ノ契約ヲ以テ為シタル贈遺ハ之ヲ得可キ者ノ別段之ヲ承諾セシコトヲ述ヘサルヲ以テ口実ト為シ之ヲ廃棄セント訴フ可カラス
第千八十八条 婚姻ノ為メ為シタル贈遺ハ其婚姻ヲ為ササル時其効ナカル可シ
第千八十九条 第千八十二条第千八十四条第千八十六条ニ記スル所ニ循ヒ夫婦中ノ一人ニ為シタル贈遺ハ贈遺ヲ受ク可キ夫又ハ婦並ニ其卑属ノ親贈遺ヲ為シタル者ヨリ前ニ死去シタル時其効ナカル可シ
第千九十条 婚姻ノ契約ヲ以テ夫婦ニ為シタル贈遺ノ財産其贈遺者ノ随意ニ為スヲ得可キ財産ノ定分ニ過ル時ハ其贈遺ヲ為ス者ノ遺物相続ヲ始ムル時其贈遺ノ財産ヲ其定分ニ減ス可シ
第九章 婚姻ノ契約書ヲ以テ夫婦互ニ為ス所ノ贈遺及ヒ婚姻ヲ結ヒタル時間夫婦互ニ為ス所ノ贈遺
第千九十一条 夫婦ハ婚姻ノ契約書ヲ以テ其相当ト思量スル贈遺ヲ相互ニ為シ又ハ之ヲ一方ヨリ一方ニ為ス事ヲ得可シ但シ其贈遺ニ付テハ後ノ数条ニ記スル所ニ循フ可シ
第千九十二条 夫婦其現在所有スル財産ヲ婚姻ノ契約書ヲ以テ互ニ生存中ノ贈遺ト為シ又ハ一方ヨリ一方ニ生存中ノ贈遺ト為ス時ハ其贈遺ヲ受ク可キ夫又ハ婦其贈遺ヲ為ス配偶者ヨリ後ニ生存シタルニ非レハ其贈遺ノ効ナカル可キ旨ノ約定ヲ以テ為シタル贈遺ト看做ス可カラス且其贈遺ハ生存中ノ贈遺ニ付キ前ニ記シタル法則ニ循フ可シ但シ同上ノ約定ヲ以テ贈遺ヲ為ス旨ヲ別段婚姻ノ契約書ニ記シタル時ハ格別ナリトス
第千九十三条 夫又ハ婦死去ノ時遺留スルコトアル可キ財産ヲ婚姻ノ契約書ヲ以テ互ニ贈遺ト為シ(第千八十二条見合)又ハ現在所有スル財産ト後ニ所有ト為スコトアル可キ財産トヲ婚姻ノ契約書ヲ以テ互ニ贈遺ト為シ(第千八十四条見合セ)又ハ此等ノ財産ヲ一方ヨリ一方ニ贈遺ト為シタル時ハ人ヨリ夫婦ニ為ス所ノ此種類ノ贈遺(第千八十二条見合セ)ニ付キ前章ニ定メタル規則ニ循フ可シ然トモ其贈遺ノ財産ハ贈遺ヲ受ク可キ夫又ハ婦贈遺ヲ為シタル其配偶者ヨリ前ニ死シタル時ハ其婚姻ニ因リ生レタル子ニ其財産ヲ伝フ可カラス
第千九十四条 若シ夫又ハ婦其死去スル時子及ヒ卑属ノ親ヲ遺留セサルニ於テハ其随意ニ為スコトヲ得可キ財産全部ノ所有ノ権ト法律ニ循ヒ遺物相続人(尊属ノ親ヲ云フ)ノ為メ必ス遺シ置ク可キ財産ノ部分ノ入額所得ノ権トヲ己レノ配偶者ニ贈与ス可キコトヲ婚姻ノ契約書ニ記シ又ハ婚姻ヲ結フ時間ニ約束スルコトヲ得可シ
又夫或ハ婦、子及ヒ卑属ノ親ヲ遺留スルニ於テハ其配偶者ニ己レノ財産四分一ノ所有ノ権ト更ニ四分一ノ入額所得ノ権トヲ贈与シ又ハ己レノ財産ノ半ハノ入額所得ノ権ヲ贈与ス可キコトヲ約束スルヲ得可シ
第千九十五条 幼者ハ婚姻ヲ結フニ付キ其許諾ヲ得可キ者(父母等ヲ云フ)ノ允許ト立会トヲ得サレハ婚姻ノ契約書ヲ以テ夫婦ノ間ニ互ニ贈遺ヲ為シ又ハ一方ヨリ一方ニ贈遺ヲ為スコトヲ得ス但シ其允許ヲ得タル上ハ法律ニ循ヒ丁年ノ夫又ハ婦ヨリ其配偶者ニ贈与スル事ヲ許シタル諸件ヲ贈与スルコトヲ得可シ
第千九十六条 婚姻ヲ結ヒタル時間夫婦互ニ為シ又ハ一方ヨリ一方ニ為シタル贈遺ハ生存中ノ贈遺ト雖トモ常ニ之ヲ廃棄スルコトヲ得可シ
婦ハ夫ノ承諾又ハ裁判所ノ允許ヲ得スシテ其贈遺ヲ廃棄スルコトヲ得可シ
此贈遺ハ子ノ生レタルコトヲ以テ廃棄ス可カラス
第千九十七条 夫婦ハ生存中ノ贈遺タルト遺嘱ノ贈遺タルトヲ問ハス唯々一通ノ証書ヲ以テ互ニ贈遺ヲ為ス可カラス
第千九十八条 夫又ハ婦前婚ノ嫡出ノ子数人アリテ更ニ再婚ヲ結ヒシ時ハ其前婚ノ嫡出ノ子中ニテ最モ少量ノ財産ヲ得可キ者ノ部分ニ等シキ財産ノミヲ其再婚ノ配偶者ニ贈与スルコトヲ得可シ又何レノ場合ニ於テモ其再婚ノ配偶者ニ贈与スルヲ得可キ部分ハ財産ノ四分一ニ過ク可カラス
第千九十九条 夫又ハ婦ハ如何ナル方法ヲ用フルヲ問ハス前ニ記スル所ノ規則(第千九十四条及ヒ第千九十八条見合)ニ循ヒ其配偶者ニ贈与スルコトヲ得可キ財産ヨリ更ニ余分ヲ贈遺ト為スコトヲ得ス
偽テ名義ヲ替ヘ又ハ他人ノ介入ヲ以テ夫又ハ婦其配偶者ニ為シタル贈遺ハ其効ナカル可シ
第千百条 夫又ハ婦其配偶者ノ前婚ノ子ニ為シタル贈遺及ヒ夫又ハ婦其配偶者ニ遺物ヲ譲ル可キ親族ニ為シタル贈遺ハ縦令其配偶者其親族ヨリ後ニ生存セスト雖トモ之ヲ他人ノ介入ヲ以テ為シタル贈遺ト看做ス可シ
第三巻 契約及ヒ総テ契約ヨリ生スル義務〔千八百四年第二月七日決定同月十七日布告〕
第一章 前加規則
第千百一条 契約トハ一人又ハ数人ヨリ他ノ一人又ハ数人ニ対シ或物ヲ与ヘ又ハ或事ヲ為シ又ハ或事ヲ為ササルノ義務ヲ行フ可キ約束ヲ云フ
第千百二条 契約ヲ結ヒタル者ノ為メ互ニ義務ヲ生スル時ハ其契約ヲ名ケテ双務ノ契約ト云フ
第千百三条 甲ノ一人又ハ数人ヨリ乙ノ一人又ハ数人ニ対シテ義務ヲ生シ乙ノ一人又ハ数人ノ為メ義務ヲ生スル事ナキ時ハ其契約ヲ名ケテ片務ノ契約ト云フ
第千百四条 甲者ヨリ乙者ニ与ヘタル物又ハ乙者ノ為メニ為シタル事ニ換ヘテ乙者ヨリ甲者ニ或物ヲ与ヘ又ハ或事ヲ為ス可キ旨ヲ互ニ契約シタル時ハ其契約ヲ名ケテ互易ノ契約ト云フ
甲者ト乙者ト互ニ約スル所未定ノ事ニ管シテ其一方ノ為メニ利益或ハ損失アル可キ時ハ其契約ヲ名ケテ偶生ノ事ニ管スル契約ト云フ
第千百五条 恩恵ノ契約トハ甲者ヨリ乙者ニ全ク償ヲ得スシテ利益ヲ与フル契約ヲ云フ
第千百六条 要償ノ契約トハ其契約ヲ結フ一方ノ者他ノ一方ヨリ得タル所ノ償トシテ或物ヲ与ヘ又ハ或事ヲ為ス可キ義務ノ契約ヲ云フ
第千百七条 契約ハ特ニ固有ノ名義アルモノト其名義ナキモノトヲ問ハス此巻ニ記スル所ノ一般ノ規則ニ循フ可シ
或ル契約ノミニ管シタル規則ハ各々其契約ノ巻ニ之ヲ記載シ商業ノ事ノミニ管シタル規則ハ商法中ニ之ヲ記載ス
第二章 契約ヲ法ニ適シタルモノト為スニ必要ナル条件
第千百八条 契約ヲ法ニ適シタルモノト為スニハ左ノ四件ヲ必要トス
義務ヲ行フ可キ者ノ承諾
契約ヲ為ス者其契約ヲ結ヒ得可キ事
契約ノ目的タル定マリシ事物
義務ヲ生ス可キ法ニ適シタル原由
第一款 義務ヲ行フ可キ者ノ承諾
第千百九条 錯誤ヲ以テ承諾ヲ為シタル時又ハ暴行ニ因リ已ムコトヲ得ス承諾ヲ為シタル時又ハ詭欺ヲ受ケテ承諾ヲ為シタル時ハ法ニ適シタル承諾アリトセス
第千百十条 契約ヲ結フノ目的タル事物ヲ錯誤シタル時ニ非サレハ其錯誤ヲ以テ契約ヲ廃棄スルノ原由ト為ス可カラス又契約ヲ結ハント為ス人ノミヲ錯誤シタル時ハ其錯誤ヲ以テ其契約ヲ廃棄スルノ原由ト為ス可カラス但シ契約ノ主要其人ニ在ル時ハ格別ナリトス
第千百十一条 義務ヲ行フ可キコトヲ契約シタル者人ヨリ暴行ヲ受ケ已ムヲ得ス之ヲ承諾シタル時ハ其契約ヲ廃棄ス可シ但シ其暴行ヲ為シタル者其契約ニ因リ利益ヲ得ントスル者ト別人タル時ト雖トモ又同一ナリトス
第千百十二条 精神ノ静定セシ者ノ心ヲ動カシ其者ヲシテ其身体及ヒ財産ニ現ニ許多ノ禍害ヲ受ク可キ畏惧ノ念ヲ生セシメシ時ハ暴行アリトス
此事ニ付テハ其脅迫ヲ受ケタル者ノ年齢、男女、景状【アリサマ】ニ著意ス可シ
第千百十三条 現ニ契約ヲ結フ者ニ対シ暴行ヲ加ヘタルニ非スト雖トモ其配偶者又ハ其尊属及ヒ卑属ノ親ニ対シ暴行ヲ加ヘタル時ハ亦其契約ヲ廃棄ス可シ
第千百十四条 卑属ノ親尊属ノ親ヨリ現ニ暴行ヲ受クルニ非ラスシテ唯々父母及ヒ尊属ノ親ヲ畏敬スルノミノ意ニ因リ契約ヲ結ヒシ時ハ其畏敬ヲ原由トシテ契約ヲ廃棄スルコトヲ得ス
第千百十五条 暴行ニ因リ契約ヲ結ヒタル後其暴行ヲ受ケシ者之ヲ明許又ハ黙許シ又ハ法律上ニテ其契約ヲ廃棄セント訴フ可キ定期ヲ経過セシメタル時ハ其暴行ヲ以テ原由ト為シ其契約ヲ廃棄スルコトヲ得ス
第千百十六条 契約ヲ為ス者ノ中甲者乙者ニ対シ詭欺ヲ為シタルニ非サレハ乙者苟モ初メヨリ其契約ヲ結フコトナカル可キ事由ノ明白ナル時ハ其詭欺ヲ以テ契約ヲ廃棄スルノ原由ト為スヲ得可シ
詭欺ハ思料ヲ以テ定ム可カラス必ス之ヲ証ス可シ
第千百十七条 錯誤、暴行、詭欺ニ因リ結ヒタル契約ト雖トモ其侭之ヲ廃棄ス可カラス唯々此巻ノ第五章第七款ニ記載スル所ノ場合ト方法トニ循ヒ之ヲ廃棄ス可キノ訴ヲ為スコトヲ得可シ
第千百十八条 契約ヲ結ヒタル一方ノ者其契約ノ為メ損害ヲ受クル事アリト雖トモ其契約ヲ廃棄ス可カラス但シ此巻ノ第五章第七款ニ記スル所ノ契約又ハ其款ニ記スル所ノ人ニ付テハ格別ナリトス
第千百十九条 何レノ人ト雖トモ総テ自己ノ為メノ外自己ノ名義ヲ以テ契約ヲ為ス可カラス
第千百二十条 然トモ甲者ハ丙者ヨリ乙者ニ対シテ行フ可キ義務ノ保証人トナルノ契約ヲ為スコトヲ得可シ但シ丙者其義務ヲ行ハサル時ハ乙者其保証人タル甲者ニ対シ償ヲ求ムルコトヲ得可シ
第千百二十一条 甲者自カラ乙者ト結フ所ノ契約又ハ甲者ヨリ乙者ニ為ス所ノ贈遺ニ付キ丙者ノ利益トナル可キ契約ヲ為サント欲スル時ハ之ヲ為スコトヲ得可シ但シ此場合ニ於テ丙者其契約ニ因リ己レノ利益ヲ得ント欲スル旨ヲ述フル時ハ甲者其契約ヲ廃棄ス可カラス
第千百二十二条 契約ヲ為シタル者ハ自己ノ為メト其遺物相続人並ニ代権人ノ為メトニ其契約ヲ為シタルモノト看做ス可シ但シ契約書ノ文中ニ之ニ反シタル事ヲ記シタル時又ハ其契約ノ模様ニ因リ之ニ反シタル事ヲ推知ス可キ時ハ格別ナリトス
第二款 契約ヲ為ス者其契約ヲ結ヒ得可キ事
第千百二十三条 法律上ニテ特ニ契約ヲ結フ可カラサル禁アル者ノ外如何ナル人ト雖トモ契約ヲ結フコトヲ得可シ
第千百二十四条 契約ヲ結フコトヲ得サル者ハ
幼者
治産ノ禁ヲ受ケシ者
別段法律ニ定メタル場合ニ於テハ婚姻ヲ結ヒタル婦
其他総テ法律ニテ或ル契約ヲ結フ可カラサルノ禁ヲ受ケシ者
第千百二十五条 幼者、治産ノ禁ヲ受ケシ者、婚姻ヲ結ヒタル婦ハ別段法律ニテ定メタル場合ノ外自カラ契約ヲ結フコトヲ得サル旨ヲ申述ヘ其既ニ結ヒタル契約ヲ廃棄セント求ムルコトヲ得ス
自カラ契約ヲ結フコトヲ得可キ者ハ己レト契約ヲ結ヒタル幼者、治産ノ禁ヲ受ケシ者、婚姻シタル婦ノ其契約ヲ結フコトヲ得サル旨ヲ申述ヘ其既ニ結ヒタル契約ヲ廃棄セント求ムルコトヲ得ス
第三款 契約ノ目的タル定マリシ事物
第千百二十六条 契約ハ一方ヨリ一方ニ与フ可キ物又ハ一方ヨリ一方ニ対シ為ス可キ事或ハ一方ヨリ一方ニ対シ為ス可カラサル事ヲ以テ其目的トス
第千百二十七条 物件ヲ借用フル事又ハ物件ヲ寄有スル事ヲ以テ契約ノ目的ト為スヲ得可キコト猶ホ其物件ヲ以テ契約ノ目的ト為スヲ得可キカ如クナリトス
第千百二十八条 売買ヲ為スヲ得可キ物ニ非サレハ之ヲ契約ノ目的ト為ス可カラス
第千百二十九条 契約ノ目的ト為ス物ハ其種類ノ定マリタルコトヲ必要トス
契約ノ目的ト為ス物ノ分量ヲ後ニ定ムルコトヲ得可キ時ハ必シモ預メ之ヲ定ムルニ及ハス
第千百三十条 後ニ所有ト為ス可キ物ハ亦之ヲ契約ノ目的ト為スコトヲ得可シ
然トモ未タ遺物相続ヲ始メサル財産ハ縦令ヒ其財産所有者ノ承諾アリト雖トモ相続ヲ為ス可キ者預メ之ヲ放棄シ又ハ其相続ノ事ニ付キ預メ他人ト契約ヲ為ス可カラス
第四款 契約ノ原由
第千百三十一条 全ク原由ナキ契約ノ義務又ハ詐偽ノ原由及ヒ法律ニ背キタル原由アル契約ノ義務ハ其効ナカル可シ
第千百三十二条 契約ノ原由ハ別段之ヲ契約書ニ記スルコトナシト雖トモ其契約ノ効アリトス可シ
第千百三十三条 別段法律上ニテ禁シタル契約ノ原由及ヒ人民ノ風儀又ハ国ノ安寧ヲ害ス可キ契約ノ原由ハ之ヲ法ニ背キタルモノト為ス可シ
第三章 契約ノ義務ノ効
第一款 総規則
第千百三十四条 正シク結ヒタル契約ハ之ヲ結ヒシ双方ノ者ノ為メ国ノ法律ニ等シキ力アリトス
契約ハ之ヲ結ヒシ双方ノ者ノ承諾又ハ法律上ニテ允許シタル原由アルニ非サレハ之ヲ廃棄ス可カラス
双方ノ者ハ共ニ其契約ヲ正実ニ執行フ可シ
第千百三十五条 契約ヲ結ヒタル者ハ其契約書中ニ記セシ条件ヲ行フ可キノ義務アルノミニ非ラス公義、習慣、法律ニ循ヒ自然其契約ヨリ生ス可キ他ノ諸件ヲモ亦執行フ可キノ義務アリトス
第二款 物ヲ与フ可キノ義務
第千百三十六条 人ニ物ヲ与フ可キノ義務アル時ハ其物ヲ保全シテ後ニ之ヲ引渡ス可キノ義務アリトス若シ其義務ヲ行フ可キ者之ニ背ク時ハ一方ノ者ニ対シテ其損失ノ償ヲ為ス可シ
第千百三十七条 契約ヲ結ヒシ者ノ中一方ノミノ利益ヲ目的ト為スト双方ノ利益ヲ目的ト為ストヲ問ハス一方ヨリ一方ニ引渡ス可キ物ヲ保全ス可キノ義務アル時ハ其義務ヲ行フ可キ者其物ヲ毀損セサルニ力メテ注意ス可シ
其義務ハ契約ノ種類ニ因リ軽重ノ差異アリ但シ其義務ノ効ハ各種ノ契約ノ巻ニ別段之ヲ記載ス
第千百三十八条 物ヲ引渡ス可キノ義務ハ契約ヲ結ヒタル双方ノ承諾ノミヲ以テ生シタルモノトス
一方ノ者ニ其義務アル時ハ其物ヲ受取ル可キ者其所有者トナリ之ヲ渡ス可キ者尚ホ未タ其物ヲ渡サスト雖トモ既ニ渡ス可キ期限ニ至リシ後其物ノ毀壊滅尽シタル時ハ之ヲ受取ル可キ者ノ損失タリトス然レトモ之ヲ渡ス可キ者其物ヲ渡ス事ヲ怠リ其物ノ毀壊滅尽シタル時ハ之ヲ渡ス可キ者ノ損失タリトス
第千百三十九条 物ヲ引渡ス可キノ契約ヲ為シタル者之ヲ渡ス可キノ催促書ヲ受ケ又ハ其催促書ニ等シキ書面ヲ受ケ尚ホ之ヲ渡ササル時又ハ契約中ニ一方ヨリ別段其物ヲ渡ス可キノ催促書ヲ送ラスト雖トモ唯々其渡ス可キ期限ノ経過セシノミニ因リ之ヲ渡ササル者ノ怠リノ咎アル可キ事ヲ預メ定メタルニ其期限ニ至リ尚ホ之ヲ渡ササル時ハ之ヲ渡ササル者怠リノ咎アリトス
第千百四十条 不動産ヲ与ヘ及ヒ引渡ス可キ義務ノ効ハ此篇ノ第五巻(婚姻ノ契約及ヒ夫婦双方ノ権)第十八巻(「プリウィレージ」ノ権及ヒ「イポテイク」ノ権)トニ之ヲ定ム
第千百四十一条 引続テ二人ニ動産ヲ与ヘ又ハ引渡ス可キ時其二人中ノ一人現ニ其物ノ引渡ヲ得タルニ於テハ其物ヲ得可キノ権他ノ一人ノ権ヨリ後ニ生シタルト雖トモ其引渡ヲ得タル者ノ権ヲ他ノ一人ノ権ニ優レルモノトシ之ヲ其物ノ所有者ト為ス可シ但シ其者不正ノ処置ヲ以テ其引渡ヲ得タル時ハ格別ナリトス
第三款 事ヲ為ス可キノ義務及ヒ事ヲ為ス可カラサルノ義務
第千百四十二条 事ヲ為ス可キノ義務又ハ事ヲ為ス可カラサルノ義務アル者其義務ヲ行ハサル時ハ一方ノ者ニ其損失ノ償ヲ為ス可シ
第千百四十三条 又義務ヲ得可キ者ハ義務ヲ行フ可キ者ノ契約ニ背キ為シタル諸件ヲ廃棄セシム可キノ訴ヲ為スノ権アリ但シ其諸件ヲ廃棄スルコトハ其義務ヲ行フ可キ者ノ費用ヲ以テ之ヲ為ス可ク且ツ別段ノ道理アル時ハ義務ヲ行フ可キ者ヨリ義務ヲ得可キ者ニ損失ノ償ヲ為ス可シ
第千百四十四条 又義務ヲ行フ可キ者之ヲ行ハサル時ハ義務ヲ得可キ者其義務ヲ行フ可キ者ノ費用ヲ以テ他人ヲシテ其義務ヲ行ハシムルコトヲ得可シ
第千百四十五条 又事ヲ為ス可カラサルノ義務アル時ハ其義務ヲ行フ可キ者其義務ニ背キタル事ニ因リ義務ヲ得可キ者ニ損失ノ償ヲ為ス可シ
第四款 義務ヲ行ハサルヨリ生スル損失ノ償
第千百四十六条 損失ノ償ハ義務ヲ行フ可キ者其義務ヲ行フ事ヲ怠リシ時義務ヲ得可キ者ニ之ヲ為ス可シ但シ義務ヲ行フ可キ者其約定ノ期限ヲ過セシ時ト雖トモ事故アリテ其定期内ニ契約ノ如ク物ヲ与ヘ又ハ事ヲ為スコト能ハサル時ハ格別ナリトス
第千百四十七条 義務ヲ行フ可キ者縦令ヒ不正ノ意アルニ非スト雖トモ義務ヲ行ハサル時ハ其義務ヲ行ハサルニ付テノ償ヲ為シ又ハ其義務ヲ行フコトヲ遅延シタルニ付テノ償ヲ為ス可キ言渡ヲ受ク可シ但シ意外ノ事故アリテ其義務ヲ行フコト能ハサリシノ証ヲ立ル時ハ格別ナリトス
第千百四十八条 義務ヲ行フ可キ者抗拒ス可カラサル力ノ為メ強迫セラレ又ハ意外ノ事故アリテ其義務ノ如ク人ニ物ヲ与ヘ又ハ事ヲ為スノ妨ケヲ受ケ又ハ其為ス可カラサル事ヲ為シタル時ハ一方ノ者ニ其償ヲ為スニ及ハス
第千百四十九条 義務ヲ行フ可キ者ヨリ義務ヲ得可キ者ニ為ス可キ償ハ其義務ヲ得可キ者ノ受ケタル損失ト失フタル利益トヲ併合シテ算計ス可シ但シ其償ノ事ニ付テハ後ノ数条ニ記スル所ニ循フ可シ
第千百五十条 義務ヲ行フ可キ者詐偽ニ因リ其義務ニ背キタル時ノ外ハ嘗テ契約ヲ結ヒシ時既ニ預知シタル損害ノ償及ヒ預知スルコトヲ得可キ損害ノ償ノミヲ為ス可シ
第千百五十一条 義務ヲ行フ可キ者詐偽ニ因リ其義務ニ背キタル時ト雖トモ其義務ヲ得可キ者ノ受ケタル損失ト失フタル利益トノタメ為ス可キ償ヲ算計スルニハ其契約ニ背キタルニ因リ直チニ生スル所ノミニ限ル可シ
第千百五十二条 若シ義務ニ背クコトアルニ於テハ其者ヨリ一方ノ者ニ定マリシ金高ヲ其償トシテ払フ可キ事ヲ契約ヲ以テ預定シタル時ハ其義務ニ背キタル其者預定シタル金高ヨリ更ニ多量ノ償ヲ為スニ及ハス又更ニ少量ノ償ヲ為スコトヲ得ス
第千百五十三条 一方ヨリ一方ニ金高ヲ払フ可キ事ノミノ契約ヲ為シタル時其義務ヲ行フコトヲ遅延シタルニ付テノ償ハ法律上ニテ定メタル息銀ヲ払フ事ノミニ限ル可シ但シ商業又ハ保証人ニ管シタル規則ハ格別ナリトス
其義務ヲ得可キ者ハ別段損失ヲ受ケシコトヲ証スルニ及ハスシテ其償(息銀ヲ云フ)ヲ得可シ
其償ハ一方ノ者別ニ訴ヲ為サスト雖トモ他ノ一方ノ者其義務ヲ行フコトヲ遅延セシ時ヨリ当然之ヲ為ス可キコトヲ法律上ニテ特ニ定メタル場合ノ外総テ一方ノ者其償ノ訴ヲ為タル日ヨリ以来他ノ一方ノ者之ヲ為ス可シ
第千百五十四条 貸金ノ息銀ヲ払ハサル時ハ之ヲ得可キ者ノ訴ニ因リ又ハ預メ契約ヲ以テ定メタル所ニ因リ其息銀ノ息銀ヲ払フ可キノ義務アリ但シ此ノ如ク息銀ノ息銀ヲ払フ可キノ義務ヲ生スルニハ一年以上ノ息銀ヲ払ハサル時ニ限ル可シ
第千百五十五条 又土地ノ貸賃、家屋ノ貸賃、無期ノ年金、畢生間ノ年金等ノ如キ入額ノ受取期限ニ至リシ時ハ之ヲ得ント訴出シタル日又ハ別段ノ契約ヲ以テ預定シタル日ヨリ其息銀ヲ生ス可シ
人ヨリ取戻ス可キ財産ノ入額及ヒ負債者ニ代リテ其債主ニ払フタル息銀ニ付テモ亦此条ノ規則ヲ通シテ用フ可シ
第五款 契約書ヲ解釈スル事
第千百五十六条 契約書ヲ解釈スルニハ其文詞ノミニ依著スルヨリ其契約ヲ為シタル双方ノ者ノ旨趣ノ如何ナルヤヲ講究ス可シ
第千百五十七条 契約書中ノ文詞ヲ二様ノ意ニ解シ得可キ時ハ其契約ノ効ナカラシム可キ意ニ之ヲ解スルヨリ寧ロ其効ヲ生セシム可キノ意ニ之ヲ解ス可シ
第千百五十八条 二様ノ意ニ解シ得可キ文詞ハ契約ノ目的ニ最モ適シタル意ニ之ヲ解ス可シ
第千百五十九条 意味ノ疑ハシキ文詞ハ其契約ヲ結ヒタル地方ノ習慣ニ従テ之ヲ解ス可シ
第千百六十条 契約書中ニ習慣ニテ別段必要ト為ス文詞ヲ記セサル時ハ之ヲ記シタルモノト看做シテ解釈ス可シ
第千百六十一条 契約書中ノ各文詞ハ皆其全文ノ大旨ヨリ生ス可キ意ニ従ヒ互ニ相解釈ス可シ
第千百六十二条 契約ノ文意ノ疑ハシキ時ハ其義務ヲ行フ可キ者ノ利益トナル可クシテ其義務ヲ得可キ者ノ損失トナル可キ方法ニ之ヲ解釈ス可シ
第千百六十三条 契約書ノ文意ノ如何ニ博キ時ト雖トモ其契約ヲ結ヒシ双方ノ者互ニ契約シタル可シト推知スルヲ得可キ物ノミヲ包含ス可シ
第千百六十四条 契約書中ニ其義務ヲ解釈ス可キ為メ別段一箇ノ場合ヲ記シタル時ト雖トモ其契約ノ模様ニ因リ其他ノ場合ヲモ亦包含シタルコトヲ推知ス可キニ於テハ其一箇ノ場合ノミニ限リタルモノト看做ス可カラス
第六款 契約ヲ結ヒシ以外ノ者ニ付キ其契約ノ効
第千百六十五条 総テ契約ハ互ニ之ヲ結ヒタル双方ノ間ノ外其効ヲ生スルコトナシ故ニ之ヲ結ヒシ以外ノ者ノ為メ損害ヲ生スルコトナク又第千百二十一条ニ記シタル場合ノ外ハ其利益ヲモ生スルコトナカル可シ
第千百六十六条 然トモ契約ノ義務ヲ得可キ者ハ他人ニ対シ其義務ヲ行フ可キ者ノ諸般ノ権ヲ行ヒ且其者ニ代リ他人ニ対シテ訴訟ヲ為スノ権ヲ行フコトヲ得可シ但シ義務ヲ行フ可キ者ノ一身ニ限リタル権利ハ格別ナリトス
第千百六十七条 又其義務ヲ得可キ者ハ其義務ヲ行フ可キ者其権利ヲ害ス可キ為メ他人ト結ヒシ契約ヲ廃棄セントスル訴ヲ自己ノ名目ニテ為スコトヲ得可シ
然トモ其義務ヲ得可キ者ハ此篇ノ第一巻(遺物相続)ト此篇ノ第五巻(婚姻ノ契約及ヒ夫婦双方ノ権)トニ記載シタル所ノ権ニ付テハ其二箇ノ巻ニ定ムル所ノ規則ニ循フ可シ
第四章 契約ノ義務ノ種類
第一款 未必ノ条件ニ管スル契約ノ義務
第一節 総テ義務ヲ行フト行ハサルトヲ定ムル未必ノ条件及ヒ其種類
第千百六十八条 契約ノ義務ノ執行ヲ後ニ或事ノ生スルニ至ル迄停止シ又ハ其事ノ生シ或ハ生セサルニ従ヒ其義務ヲ解除スルカ如ク総テ義務ノ執行ヲ来時ノ未定ノ事件ニ管セシムル時ハ其義務ヲ未必ノ条件ニ管シタル義務ナリトス
第千百六十九条 偶生ノ未必ノ条件トハ其生スルト生セサルト全ク偶然ニシテ其義務ヲ得可キ者ノ力ニモ其義務ヲ行フ可キ者ノ力ニモ全ク管セサル事件ヲ云フ
第千百七十条 人意ニ管スル未必ノ条件トハ契約ヲ結ヒタル者ノ中其一方ノ力ニテ生セシムルト生セシメサルトヲ得可キ事件ヲ云フ
第千百七十一条 渾同ノ未必ノ条件トハ互ニ契約ヲ結ヒタル者ノ中一方ノ意ト其契約ヲ結ヒタル以外ノ者ノ意トニ管スル事件ヲ云フ
第千百七十二条 人ノ為ス能ハサル事又ハ国ノ風俗ヲ乱ス可キ事又ハ法律上ニテ禁止シタル事ヲ為ス可キ未必ノ条件ハ其効ナキカ故ニ其条件ニ管シタル契約ノ義務モ亦其効ナカル可シ
第千百七十三条 人ノ為ス能ハサル事ヲ為ササル未必ノ条件ニ管シタル契約ノ義務ハ其効ヲ生スルコトヲ得可シ
第千百七十四条 義務ヲ行フ可キ者ノ意ニ管スル未必ノ条件ニ依ル所ノ契約ノ義務ハ其効ナカル可シ
第千百七十五条 総テ未必ノ条件ハ契約ヲ結ヒシ双方ニテ希望シ且思料シタル可シト推知スルヲ得可キ方法ニ之ヲ行フ可シ
第千百七十六条 定期内ニ或事ノ生ス可キ未必ノ条件ニ管シタル義務ヲ約セシ時定期内ニ其事ノ生スルコトナキニ於テハ其条件全ク消散セシモノト看做シテ其義務ヲ取消ス可シ○若シ又同上ノ定期ナキ時ハ其事ノ生セサルコトノ確定シタル後ニ非レハ其条件ヲ消散シタルト看做ス可カラス
第千百七十七条 定期内ニ或事ノ生セサル可キ未必ノ条件ニ管シタル義務ヲ約セシ時定期内ニ其事ノ生スルコトナキニ於テハ其条件ノ如ク成リタルモノトス可シ又其定期ノ終ル前ト雖トモ其事件ノ生セサルコトノ確定シタル時ハ亦其条件ノ如ク成リタルモノトス可シ若シ又同上ノ定期ナキ時ハ其事件ノ生セサルコトノ確定シタル後ニ非レハ其条件ノ如ク成リタルト看做ス可カラス
第千百七十八条 未必ノ条件ニ管シタル義務ヲ行フ可キ者自カラ其条件ノ如ク成ル可キヲ妨ケシ時ハ猶ホ其条件ノ如ク成タルニ等シキモノト看做ス可シ
第千百七十九条 未必ノ条件ノ如ク成リシ時ハ嘗テ其契約ヲ結ヒシ日ニ遡ル迄致反ノ効アリトス○若シ義務ヲ得可キ者未必ノ条件ノ如ク成ル可キ以前ニ死去スル時ハ其遺物相続人其権ヲ承継ス可シ
第千百八十条 義務ヲ得可キ者ハ未必ノ条件ノ如ク成ル可キ以前ニ己レノ権ヲ保全ス可キ処置ヲ為スコトヲ得可シ
第二節 義務ノ執行ヲ停止スル未必ノ条件
第千百八十一条 義務ノ執行ヲ停止スル未必ノ条件ニ管スル義務トハ来時ノ未定ノ事ニ管シ又ハ既ニ生シタルト雖トモ猶未タ其契約ヲ為ス双方ノ者ノ知ラサル事ニ管スル義務ヲ云フ但シ其義務来時ノ未定ノ事ニ管シタル時ハ其事ノ生シタル後ニ非レハ其義務ヲ行フコトナシ又既ニ生シタルト雖トモ猶未タ其契約ヲ為ス双方ノ者ノ知ラサル事ニ管シタル時ハ其義務ヲ生スル契約ヲ結ヒシ日ヨリ其義務ノ効アリトス
第千百八十二条 義務ノ執行ヲ停止スル未必ノ条件ニ管スル契約ヲ為シタル時ハ其義務ヲ行フ可キ者其契約ノ目的タル物ヲ己レニ担当シ現ニ其未必ノ条件ノ如ク成リシ時ニ非レハ其物ヲ引渡スニ及ハス
若シ義務ヲ行フ可キ者ノ過失ニ非スシテ其物ノ全ク滅尽シタル時ハ其義務消散ス可シ若シ義務ヲ行フ可キ者ノ過失ニ非スシテ其物ノ卑悪トナリシ時ハ其義務ヲ得可キ者其義務ヲ解除シ又ハ其価ノ減シタル現在ノ模様ノ侭其物ヲ得可キノ求ヲ為スコト自由ナリトス
若シ義務ヲ行フ可キ者ノ過失ニ因リ其物ノ卑悪トナリシ時ハ其義務ヲ得可キ者其義務ヲ解除シ又ハ償ヲ得テ其物現在ノ模様ノ侭之ヲ得ルノ求ヲ為スコト自由ナリトス
第三節 義務ヲ解除スル未必ノ条件
第千百八十三条 義務ヲ解除スル未必ノ条件トハ其条件ノ如ク成リタル時其義務ヲ解除シ初ヨリ全ク其義務ナキト同一ノ模様ニ復ス可キ事ヲ云フ
此未必ノ条件ハ其義務ノ執行ヲ遅延スルニ非ラス其条件ノ如ク成リシ時一方ノ者嘗テ収受セシ物ヲ他ノ一方ニ還ス可シ
第千百八十四条 双務ノ契約ノ時其契約ヲ結ヒシ一方ノ者之ニ背ク時ハ毎ニ其義務ヲ解除ス可シ
此場合ニ於テハ契約ヲ結ヒシ一方ノ者其契約ニ背キタルノミニ因リ直チニ之ヲ解除ス可カラス必ス他ノ一方ノ者ヨリ其訴ヲ為ス可シ○此場合ニ於テ其義務ヲ得可キ一方ノ者其義務ヲ行フ可キ一方ノ之ヲ為シ得可キニ於テハ強テ其義務ヲ執行ハシメ又ハ償ヲ得テ其義務ヲ解除ス可キノ訴ヲ為ス事自由ナリトス
其契約ヲ解除スルコトハ之ヲ裁判所ニ訴ヘ裁判所ニテ其時ノ模様ニ従ヒ被告人ニ相当ノ猶予ノ時間ヲ許スコトヲ得可シ
第二款 執行ノ期限アル義務
第千百八十五条 執行ノ期限アル義務ハ契約ノ執行ヲ停止スルニ非ラス唯々其契約ノ執行ヲ預定ノ日ニ至ル迄延フルニ因リ未必ノ条件ニ管シタル義務ト差異アリトス
第千百八十六条 預定ノ期限ニ至リテ得可キ義務ハ其期限ニ至ル前ニ之ヲ得ント求ムルコトヲ得ス然トモ其期限ニ至ル前ニ渡シタル物ハ之ヲ取戻スコトヲ得ス
第千百八十七条 義務ノ期限ハ其義務ヲ行フ可キ者ノ為メ之ヲ約シタルト看做ス可シ但シ契約書ノ文詞又ハ其時ノ模様ニ因リ其義務ヲ得可キ者ノ為メ期限ヲ定メタルコトノ分明ナル時ハ格別ナリトス
第千百八十八条 若シ契約ノ義務ヲ行フ可キ者家資分散ヲ為シタル時又ハ其者嘗テ契約ヲ以テ義務ヲ得可キ者ニ与ヘシ保証ノ高ヲ己レノ所為ニ因テ減損シタル時ハ其期限ノ利益ヲ失フ可シ
第三款 二箇中ノ一ヲ択ムヲ得可キ義務
第千百八十九条 二箇中ノ一ヲ択ムヲ得可キ義務ヲ行フ可キ者ハ其契約ニ定メタル二物中ノ一ヲ渡スコトニ因リ其義務ノ釈放ヲ得可シ
第千百九十条 義務ヲ得可キ者其二箇ノ義務中ノ一ヲ択ム可キコトヲ別段定メタル時ノ外其義務ヲ行フ可キ者之ヲ択ムコトヲ得可シ
第千百九十一条 義務ヲ行フ可キ者ハ契約ニ定メタル二物中ノ一ヲ渡スヲ以テ其義務ノ釈放ヲ得可シト雖トモ其義務ヲ得可キ者ヲシテ此一物ノ一分ト彼一物ノ一分トヲ強テ収取セシムルコトヲ得ス
第千百九十二条 引渡ノ契約ヲ為シタル二物中ノ一箇契約ノ目的ト為ス可カラサル物タル時ハ縦令ヒ二箇中ノ一ヲ択ム可キノ契約ヲ為シタルト雖トモ其義務ヲ通常ノモノトス
第千百九十三条 引渡ノ契約ヲ為シタル二物中ノ一箇滅尽シテ之ヲ渡スコトヲ得サルニ至リシ時ハ義務ヲ行フ可キ者ノ過失ニ因ルト因ラサルトヲ問ハス二箇中ノ一ヲ択ム可キ義務通常ノ義務トナル可シ但シ此場合ニ於テハ滅尽シタル物ニ代ヘ其価ヲ引渡スコトヲ得ス
契約ヲ為シタル二物共ニ滅尽シテ其中一物ノ滅尽シタル事其義務ヲ行フ可キ者ノ過失ニ因ル時ハ其者後ニ滅尽セシ物ノ価ヲ償フ可シ
第千百九十四条 又前条ニ記シタル場合ニ於テ義務ヲ得可キ者契約ニ因リ二物中ノ一ヲ択ム可キノ権ヲ得タル時其義務ヲ行フ可キ者ノ過失ニ非ラスシテ其二物中ノ一箇滅尽シタルニ於テハ其義務ヲ得可キ者二物中ノ存在シタル物ヲ得可シ若シ其滅尽シタルコト其義務ヲ行フ可キ者ノ過失ニ因ル時ハ其義務ヲ得可キ者二物中ノ存在シタル物ヲ得ント求メ又ハ滅尽シタル物ノ価ヲ得ント求ムルコト自由ナリトス
又其二物共ニ滅尽シ其義務ヲ行フ可キ者其二物ニ付キ過失アル時又ハ其中ノ一物ノミニ付キ過失アル時ト雖トモ其義務ヲ得可キ者其二物中ニテ己レノ択ム所ノ一物ノ価ヲ得ント求ムルコトヲ得可シ
第千百九十五条 又義務ヲ行フ可キ者ノ過失ニ非ス且其者引渡ヲ怠リタルニ非スシテ其二物共ニ滅尽シタル時ハ第千三百二条ニ記スル所ニ循ヒ其義務全ク消散ス可シ
第千百九十六条 三箇以上ノ中其一ヲ択ム可キ義務ニ付テモ亦前ニ記スル所ノ規則ヲ通シテ用フ可シ
第四款 連帯シタル義務
第一節 義務ヲ得可キ者数人ノ連帯スル事
第千百九十七条 縦令ヒ義務ヲ得ルヨリ生スル利益ヲ其義務ヲ得可キ数人ノ間ニ分ツ可キ時ト雖トモ其数人中ノ各人其義務ノ全部ヲ得可キノ求メヲ為スノ権アルコトト其義務ヲ行フ可キ者其義務ヲ得可キ者ノ中一人ニ対シ其義務ノ全部ヲ行フニ因リ義務ノ釈放ヲ得可キコトトヲ契約シタル時ハ其義務ヲ得可キ者数人相連帯シテ之ヲ得可シトス
第千百九十八条 義務ヲ行フ可キ者其義務ヲ得可キ者ノ中一人ヨリ訴訟ヲ受ケタル時ノ外其義務ヲ行フ可キ者連帯シテ其義務ヲ得可キ数人中何レノ人ニ対シテ其義務ヲ行フトモ随意ナリトス
又連帯シテ義務ヲ得可キ数人中ノ一人其義務ヲ釈放シタル時ハ其義務ヲ行フ可キ者唯々其釈放セシ者ノ部分ノミヲ免シタルトス可シ
第千百九十九条 連帯シテ義務ヲ得可キ者ノ中一人義務ヲ行フ可キ者ノ「プレスクリプシヨン」ヲ中止スル処置ヲ為シタル時ハ其義務ヲ得可キ他ノ者モ亦之レカ為メ其益ヲ受ク可シ
第二節 義務ヲ行フ可キ者数人ノ連帯スル事
第千二百条 義務ヲ行フ可キ数人同一ノ義務ヲ行フ可ク又其数人中ノ各人義務ノ全部ヲ行フ可キノ訴ヲ受ク可ク且其数人中ノ一人其義務ノ全部ヲ行フニ因リ其他ノ各人義務ノ釈放ヲ得可キ時ハ其義務ヲ行フ可キ数人相連帯シタルモノトス
第千二百一条 義務ヲ行フ可キ数人皆同一ノ物ヲ渡スニ付キ其義務ヲ行フ可キ方法相異ナル時ト雖トモ之ヲ其義務ヲ行フ可キ者ノ相連帯シタルモノトス譬ハ其数人中一人ノ義務ハ通常ノモノニシテ他ノ者ノ義務ハ未必ノ条件ニ管シタル時又ハ其一人ハ義務ヲ執行フニ付テノ期限ヲ得他ノ者ハ其期限ヲ得サル時ト雖トモ其義務ヲ行フ可キ数人ヲ相連帯イシタルモノト為スカ如シ
第千二百二条 義務ヲ行フ可キ数人ノ連帯スル事ハ思料ヲ以テ之ヲ定ム可カラス別段其契約アルコトヲ必要トス
又別段其契約ナシト雖トモ法律上ニテ義務ヲ行フ可キ数人連帯ス可キコトヲ定メタル時ハ此条ノ例外ナリトス
第千二百三条 義務ヲ得可キ者ハ連帯シテ義務ヲ行フ可キ数人中自己ノ択ム所ノ者ニ其義務ノ全部ヲ行ハシム可キ求メヲ為スコトヲ得可ク其義務ヲ行フ可キ者ハ其義務ヲ分チ数人ニテ之ヲ行フ可キコトヲ述フ可カラス
第千二百四条 義務ヲ得可キ者ハ連帯シテ義務ヲ行フ可キ者ノ中一人ニ対シ訴訟ヲ為スト雖トモ亦其義務ヲ行フ可キ他ノ者ニ対シ訴訟ヲ為スノ妨ナシ
第千二百五条 連帯シテ義務ヲ行フ可キ者ノ中一人又ハ数人ノ過失ニ因リ其引渡ス可キ物ノ滅尽シ又ハ其物ヲ引渡スコトヲ怠リシ間ニ其物ノ滅尽シタル時ハ其連帯シテ義務ヲ行フ可キ他ノ者其物ノ価ヲ払フ可キ義務ヲ免ルルヲ得スト雖モ損失ノ償ハ之ヲ払フニ及ハス
其義務ヲ得可キ者ハ連帯シテ其義務ヲ行フ可キ者ノ中其物ヲ渡スコトヲ怠リシ者又ハ過失ニ因リ其物ヲ滅尽セシメタル者ノミニ対シ其損失ノ償ヲ得可キノ求メヲ為スコトヲ得可シ
第千二百六条 連帯シテ義務ヲ行フ可キ者ノ中一人訴訟ヲ受クル時ハ其義務ヲ行フ可キ他ノ者「プレスクリプション」ノ権ヲ得可カラス
第千二百七条 連帯シテ義務ヲ行フ可キ者ノ中一人息銀ヲ償フ可キノ求メヲ受クル時ハ其義務ヲ行フ可キ他ノ者ニ付テモ亦息銀ヲ償フ可キ義務ヲ生スルモノトス
第千二百八条 連帯シテ義務ヲ行フ可キ者ノ中一人義務ヲ得可キ者ヨリ訴訟ヲ受クル時ハ其義務ノ本質ヨリ生ス可キ抵拒ノ法(連帯シテ義務ヲ行フ可キ数人共同ノ抵拒ノ法)ト自己ノ一身ノミニ属スル抵拒ノ法トヲ用ヒ其訴訟ヲ拒ムコトヲ得可シ
其訴訟ヲ受ケシ者ハ連帯シテ義務ヲ行フ可キ他ノ者ノ一身ノミニ属スル抵拒ノ法ヲ用ヒ其訴訟ヲ拒ム可カラス
第千二百九条 連帯シテ義務ヲ行フ可キ者ノ中一人其義務ヲ得可キ者ノ遺物相続人トナル時又ハ其義務ヲ得可キ者連帯シテ義務ヲ行フ可キ者ノ中一人ノ遺物相続人トナル時ハ連帯シテ義務ヲ行フ可キ者ノ中其一人ノ担当ス可キ義務ノ部分渾同ノ法(第千三百条見合セ)ニ因テ消散ス可シ
第千二百十条 義務ヲ得可キ者連帯シテ之ヲ行フ可キ者ノ中一人ノ部分ヲ分ツコトヲ承諾シタルト雖トモ猶其他ノ数人ヲシテ連帯シテ義務ヲ行ハシムルノ権アリ但シ其連帯ノ釈放ヲ受ケタル者ノ部分ハ其連帯ノ義務中ヨリ取除ク可シ
第千二百十一条 義務ヲ得可キ者連帯シテ義務ヲ行フ可キ者ノ中一人ノ部分ヲ分ツテ之ヲ得其受取証書ニ其一人猶他ノ者ト連帯シテ義務ヲ行フ可キ旨ヲ別段記載セシコトナキ時ハ其一人ノミニ付キ其義務ノ連帯ヲ釈放シタルモノトス可シ
又義務ヲ得可キ者連帯シテ義務ヲ行フ可キ者ノ中一人ノ担当ス可キ部分ヲ得タル時ト雖トモ其受取証書ニ其得タル高ハ其一人ノ部分ノ為メナリト云フコトヲ別段記セサルニ於テハ其一人ノ連帯ヲ釈放シタルト為ス可カラス
義務ヲ得可キ者連帯シテ義務ヲ行フ可キ者ノ中一人ニ対シ其一人ノ部分ノミヲ得ントスル求メヲ為シタルト雖トモ其一人其求メヲ承諾セサル時又ハ裁判所ヨリ其一人ニ其部分ノミヲ行フ可キノ言渡ヲ為ササル時ハ亦前ニ記スル所ト同一ナリトス
第千二百十二条 義務ヲ得可キ者年金ノ中又ハ負債息銀ノ中ニテ連帯シテ義務ヲ行フ可キ者ノ中一人ノ部分ノミヲ分ケ之ヲ受取リ且其事ニ付キ別段契約ヲ為ササル時ハ其既ニ払ヒ期限ノ至リシ年金又ハ息銀ノミニ付キ其一人ノ連帯シタル義務ヲ釈放シタルトス可ク以後受取ル可キ年金又ハ息銀及ヒ元金ニ付テハ其一人ノ連帯シタル義務ヲ釈放シタルト為ス可カラス但シ其一人年金又ハ息銀中ノ己レノ部分ヲ十年以上継続シテ他人ト分チ払フタル時ハ格別ナリトス
第千二百十三条 連帯シテ義務ヲ行フ可キ者ノ中一人義務ヲ得可キ者ニ対シ其全部ヲ行フタル時ハ其連帯シタル数人ノ間ニ当然之ヲ分派ス可ク其数人ハ各々自己ノ部分ヲ担当ス可シ
第千二百十四条 連帯シテ義務ヲ行フ可キ者ノ中一人全ク其義務ヲ行フタル時ハ其他ノ数人ニ対シ其各箇ノ部分ヲ取戻サント求ムルコトヲ得可シ
若シ其他ノ数人中ニ己レノ部分ヲ償フコト能ハサル者アル時ハ其者己レノ部分ヲ償フコト能ハサルニ因リ生ス可キ損失ヲ其義務ヲ行フタル者ト其他ノ数人トニ其担当ス可キ義務ノ割合ニ従ヒ之ヲ分ツ可シ
第千二百十五条 義務ヲ得可キ者之ヲ行フ可キ者ノ中一人ニ対シ義務ノ連帯ヲ釈放シタル時ト雖トモ其義務ヲ行フ可キ他ノ数人中ニ己レノ義務ヲ行フコト能ハサル者アルニ於テハ其者ノ部分ヲ連帯ノ釈放ヲ受ケシ者ト其義務ヲ行フ可キ他ノ数人トニ分ツ可シ
第千二百十六条 連帯セシ義務ヲ生シタル事ノ原由其連帯セシ者ノ中一人ノミニ管シタル時ハ其一人連帯セシ他ノ数人ニ対シ其義務ノ全部ヲ担当ス可ク其連帯シタル他ノ数人ハ其一人ノ保証人ナリト看做ス可シ
第五款 分ツ可キ義務及ヒ分ツ可カラサル義務
第千二百十七条 義務ノ目的ト為ス者ヲ渡スニ付キ又ハ義務ノ目的ト為ス事ヲ行フニ付キ実地ニ管スルト想像ニ管スルトヲ問ハス其義務ヲ分ツコトヲ得可キ時ハ之ヲ分ツ可キ義務トシ其義務ヲ分ツ可カラサル時ハ之ヲ分ツ可カラサル義務トス
第千二百十八条 義務ノ目的ト為ス事物ノ性質ハ之ヲ分ツ可キモノタル時ト雖トモ其義務ヲ行フ可キ旨趣ニ因リ其一部ノミヲ行フ可カラサル時ハ其義務ヲ分ツ可カラサルモノトス
第千二百十九条 連帯シテ義務ヲ行フ可キ契約アル時ト雖トモ其義務ハ必シモ之ヲ分ツ可カラサルモノナリト為ス可カラス
第一節 分ツ可キ義務ノ効
第千二百二十条 分ツコトヲ得可キ義務ハ之ヲ得可キ者ト之ヲ行フ可キ者トノ間ニ於テハ之ヲ分ツ可カラサル義務ニ均シク執行フ可ク之ヲ分ツ可キノ効ハ其義務ヲ得可キ者ノ遺物相続人又ハ其義務ヲ行フ可キ者ノ遺物相続人ニ管ス可シ但シ其義務ヲ得可キ者ノ相続人ハ之ヲ得可キ者ノ権ニ代リテ己レノ得可キ部分ノミニ付キ其義務ヲ求ムルコトヲ得可ク又義務ヲ行フ可キ者ノ遺物相続人ハ之ヲ行フ可キ者ノ義務ニ代リテ己レノ担当ス可キ部分ノミニ付キ之ヲ行フ可シ
第千二百二十一条 左ニ記列スル場合ニ於テハ其義務ヲ行フ可キ者ノ遺物相続人前条ノ如ク其義務ヲ分チ行フ可カラス
第一 其義務不動産ノ「イポテーク」ニ管シタル時
第二 其義務預定シタル物件ニ管シタル時
第三 其義務ヲ得可キ者其目的ト為ス二箇ノ物件中ノ一箇ヲ択ムコトヲ得テ他ノ一箇ハ之ヲ分ツコトヲ得サル時
第四 遺物相続人中ノ一人証書ニ因リ義務ヲ行フ可キコトヲ己レ一人ニ担当シタル時
第五 契約ノ種類又ハ契約ノ目的ト為ス物件又ハ契約ノ旨趣ニ因リ其契約ヲ結ヒシ者ノ意其義務ノ一部ノミヲ行フニ非サル事ノ分明ナル時
第一第二第三ノ場合ニ於テハ義務ヲ得可キ者ニ渡ス可キ物件又ハ「イポテーク」ト為シタル不動産ヲ所得トシタル遺物相続人其物件又ハ不動産ノ全部ニ付キ一身ニ其訴訟ヲ受ク可ク唯々与ニ相続ヲ為ス者ニ対シ其償ヲ求ムルコトヲ得可シ○第四ノ場合ニ於テハ義務ヲ一身ニ担当シタル遺物相続人第五ノ場合ニ於テハ遺物相続人中ノ各人亦其渡ス可キ物件ノ全部ニ付キ訴訟ヲ受ク可ク唯々与ニ相続ヲ為ス者ニ対シ其償ヲ求ムルコトヲ得可シ
第二節 分ツ可カラサル義務ノ効
第千二百二十二条 分ツ可カラサル義務ヲ与ニ負フタル数人ハ縦令ヒ連帯シテ其義務ヲ契約セサル時ト雖トモ其義務ノ全部ヲ担当ス可シ
第千二百二十三条 分ツ可カラサル義務ヲ契約セシ者ノ遺物相続人ニ付テモ亦前条ト同一ナリトス
第千二百二十四条 義務ヲ得可キ者ノ各遺物相続人ハ分ツ可カラサル義務ノ全部ノ執行ヲ訴フルコトヲ得可シ
其各遺物相続人ハ一人ニテ其義務ノ全部ヲ釈放スルコトヲ得ス又一人ニテ物件ノ全部ニ代ヘ其価ヲ受取ルコトヲ得ス○若シ遺物相続人中ノ一人其義務ノ一部ヲ釈放シ又ハ物件ノ一部ニ代ヘテ其価ヲ受取リタル時ハ与ニ相続ヲ為ス者其義務ノ一部ヲ釈放シ又ハ物件ノ一部ノ価ヲ受取リタル者ノ部分ヲ差引テ其分ツ可カラサル義務ヲ得ント訴フ可シ
第千二百二十五条 義務ヲ行フ可キ者ノ遺物相続人中ノ一人其義務ノ全部ヲ行フ可キノ訴訟ヲ受ケシ時ハ其与ニ相続ヲ為ス者ヲシテ亦其義務執行ノ訴訟ニ参セシムル為メ相当ノ猶予ヲ求ムルコトヲ得可シ然トモ義務ノ全部ヲ行フ可キノ訴訟ヲ受ケシ相続人其一身ニ非レハ行フコト能ハサル義務ニ付テハ其者一身ニテ直チニ其義務ヲ行フ可キノ言渡ヲ受ク可ク唯々与ニ相続ヲ為ス者ニ対シ後ニ其償ヲ得ント訴フル事ヲ得可シ
第六款 契約ノ如ク行ハサル時ハ過代ヲ出ス可キノ約束アル義務
第千二百二十六条 過代ノ約束トハ契約ノ如ク執行フコトヲ保証ス可キ為メ若シ其契約ノ如ク行ハサル時ハ其償トシテ過代ヲ出ス可キコトヲ定メタル約束ヲ云フ
第千二百二十七条 主タル義務ノ効ナキ時ハ過代ノ約束モ亦其効ナカル可シ
過代ノ約束ノ効ナキ時ト雖トモ必スシモ主タル義務ノ効ナシトセス
第千二百二十八条 主タル義務ヲ得可キ者ハ其義務ヲ行フ可キ者ニ其義務ヲ行フ可キノ求メヲ為シ其者猶之ヲ怠リシ時預メ約束シタル過代ニ代ヘ主タル義務ヲ行ハシム可キノ訴ヲ為スコトヲ得可シ
第千二百二十九条 過代ノ約束ハ主タル義務ヲ行フ可キ者之ヲ行ハサルニ因リ其義務ヲ得可キ者ノ受ケタル損失ヲ償フ約束ナリ
義務ヲ得可キ者ハ其義務ヲ行フ可キ者之ヲ行フコトヲ遅延セシノミニ因リ其過代ヲ出サシム可キコトヲ別段預メ約束シタル時ノ外主タル義務ノ執行ト過代ヲ出ス可キ約束ノ執行トヲ共ニ得ント訴フルコトヲ得ス
第千二百三十条 主タル義務ヲ行フ可キ期限ヲ特ニ定メタルト否トヲ問ハス物ヲ渡シ又ハ之ヲ受取リ又ハ事ヲ為ス可キ者其義務ヲ行フ可キノ求メヲ受ケテ猶ホ之ヲ行ハサル時ノ外其過代ヲ出スニ及ハス
第千二百三十一条 主タル義務ノ一部ヲ行フタル時ハ裁判役其過代ノ高ヲ減スルコトヲ得可シ
第千二百三十二条 過代ノ約束ヲ以テ契約セシ主タル義務ヲ分ツ可カラサル時ハ其義務ヲ行フ可キ者ノ遺物相続人中ノ一人其義務ヲ行ハサルニ因リ其過代ヲ出ス可シ但シ其義務ニ背キタル相続人其過代ノ全部ヲ払フ可キノ訴ヲ受ケ又ハ与ニ相続ヲ為ス数人各々其過代ヲ払フ可キノ訴ヲ受ケ若シ其過代払方ノ保証トシテ不動産ヲ「イポテーク」ト為シタル時ハ其不動産ヲ所得トシタル相続人過代ノ全部ヲ払フ可キノ訴ヲ受ク可シ○此場合ニ於テハ義務ニ背キタル者ニ非サル遺物相続人ハ之ニ背キタル相続人ノ為メ己レノ出シタル過代ノ償ヲ其相続人ヨリ得ント訴フルコトヲ得可シ
第千二百三十三条 過代ノ約束ヲ以テ契約シタル主タル義務ヲ分ツ可キ時ハ其義務ヲ行フ可キ者ノ遺物相続人中ニテ其義務ヲ行ハザル者ノミ己レノ担当ス可キ過代ノ部分ヲ払フ可キノ訴ヲ受ケ其他ノ相続人ハ別ニ訴ヲ受クルコトナシ
然トモ義務ノ一部ノミヲ行フ可カラサルノ意ヲ以テ預メ過代ノ約束ヲ附加シタル時其義務ヲ行フ可キ者ノ相続人中ノ一人其義務ノ全部ノ執行ヲ妨ケタルニ於テハ前ニ記スル所ノ規則ト異ナリトス○此場合ニ於テハ其義務ノ執行ヲ妨ケタル相続人過代ノ全部ヲ出ス可キノ訴ヲ受ケ又ハ其相続人ト他ノ相続人ト各々其担当ス可キ過代ノ部分ヲ出ス可キノ訴ヲ受ケ他ノ相続人ハ義務ノ執行ヲ妨ケタル相続人ノ為メ己レノ払フタル過代ノ償ヲ其相続人ヨリ得ント訴フルコトヲ得可シ
第五章 義務ノ消散スル事
第千二百三十四条 義務ハ左ノ数件ニ因テ消散ス
義務ヲ尽クス事
義務ヲ更改スル事
義務ヲ得可キ者ノ意ヲ以テ義務ヲ釈放スル事
二箇ノ義務互ニ相殺スル事
権利ト義務ト渾同スル事
義務ノ目的タル物ノ滅尽スル事
契約ヲ廃棄スル事
義務ヲ解除ス可キ未必ノ条件ノ生スル事但シ此事ハ既ニ前章ニ於テ説明ス
定期ノ時間義務ヲ得ント要メサルニ因リ終ニ之ヲ行フニ及ハサルニ至ル事但シ此事ハ別巻ニ於テ説明ス(第二千二百十九条見合セ)
第一款 義務ヲ尽クス事
第一節 総テ義務ヲ尽クス事
第千二百三十五条 人ヨリ他ニ物件ヲ渡シタル時ハ必ス義務アリテ之ヲ為シタルモノト思料ス可シ若シ義務ナクシテ物件ヲ渡シタル時ハ之ヲ取戻スコトヲ得可シ
自己ノ意ニ随ヒ法律ニ管セサル義務ヲ尽クシテ物件ヲ人ニ渡シタル時ハ之ヲ取戻スコトヲ得ス
第千二百三十六条 義務ハ本人ニ非スト雖モ本人ト与ニ之ヲ行フ可キ者又ハ本人ノ保証人等ノ如ク総テ其義務ニ管シタル各人之ヲ尽スコトヲ得可シ
又義務ニ管セサル者ト雖モ義務ヲ行フ可キ者ニ代リ之ヲ行フ時ハ其義務ヲ尽クシタリトス可シ然トモ其義務ニ管セサル者自己ノ名義ヲ以テ其義務ヲ行ヒ其義務ヲ得可キ者ノ権ニ代リタル時ハ格別ナリトス
第千二百三十七条 或事ヲ為ス可キ義務ヲ得可キ者其義務ヲ行フ可キ者ノ自カラ之ヲ行フコトヲ欲スル時ハ其義務ニ管セサル者義務ヲ得可キ者ノ意ニ背キ本人ニ代テ之ヲ行フコトヲ得ス
第千二百三十八条 法ニ適シテ義務ヲ尽クサントスルニハ其義務ヲ尽クス者他ニ渡ス可キ物ノ所有者ニシテ且ツ其物ヲ渡ス可キノ権アルコトヲ必要トス
然トモ金高又ハ使用シテ次第ニ減損ス可キ物ヲ渡シタル時ハ縦令其所有者ニ非ラサル者又ハ其物ヲ他ニ渡ス可キノ権ナキ者之ヲ渡シタルト雖モ義務ヲ得可キ者正意ヲ以テ其物ヲ使用シ之ヲ減損セシメタルニ於テハ其所有者其物ヲ取戻サント要ムルコトヲ得ス
第千二百三十九条 義務ヲ尽クス可キ為メ物件ヲ渡スコトハ其義務ヲ得可キ者又ハ其者ノ権ニ代リタル者又ハ裁判所ノ言渡及ヒ法律ニ因リ義務ヲ得可キ者ニ代リ物件ヲ受取ル可キノ権利ヲ有スル者ニ之ヲ為ス可シ
義務ヲ得可キ者ニ代リ物件ヲ受取ル可キ権ヲ有セサル者ニ其物件ヲ渡シタル時ト雖モ其義務ヲ得可キ者其事ヲ承諾シ又ハ其者其事ニ因リ利益ヲ得タルコトアルニ於テハ其義務ヲ尽クシタリトス
第千二百四十条 義務ヲ行フ可キ者義務ヲ得可キノ権利ヲ現ニ有スル者ニ対シ正シク其義務ヲ行フタル時ハ若シ其権利ヲ有スル者後ニ其権利ヲ失フコトアリト雖モ義務ヲ行フ可キ者其義務ヲ尽クシタルモノトス
第千二百四十一条 義務ヲ行フ可キ者義務ヲ得可キ者ニ其義務ノ目的タル物件ヲ渡シタルト雖モ其義務ヲ得可キ者之ヲ受取ル可キノ権ナキ時ハ其義務ヲ尽クシタリトセス但シ義務ヲ行フ可キ者其渡シタル物件義務ヲ得可キ者ノ利益トナリシ旨ヲ証スル時ハ格別ナリトス
第千二百四十二条 甲者ノ債主乙者ヨリ甲者ニ物件ヲ渡スコトヲ差留メタル時其差留ニ背キテ乙者ヨリ甲者ニ其物件ヲ渡シタルニ於テハ乙者甲者ノ債主ニ対シテ己レノ義務ヲ尽クシタリトス可カラス甲者ノ債主ハ乙者ヲシテ再ヒ其物件ヲ己レニ渡サシムルノ訴ヲ為スコトヲ得可シ但シ此場合ニ於テハ乙者甲者ニ対シ其物件取戻ノ訴ヲ為スノ権アリ
第千二百四十三条 義務ヲ行フ可キ者其渡ス可キ物件ニ代ヘテ他ノ物件ヲ渡サントスルト雖モ其義務ヲ得可キ者必スシモ其代品ヲ受取ルニ及ハス但シ其代品ノ価本品ノ価ニ均シク又ハ更ニ多キ時ト雖モ又同一ナリトス
第千二百四十四条 縦令義務ヲ分ツ可キ時ト雖モ之ヲ行フ可キ者ハ之ヲ得可キ者ヲシテ其渡ス可キ物ノ一部分ノミヲ強テ受取ラシムルコトヲ得ス
然トモ裁判役ハ義務ヲ行フ可キ者ノ様子ヲ考ヘ其義務ノ目的タル物件渡方ニ付キ相当ノ猶予ノ期限ヲ許ルシ(義務ノ一部ヲ尽クシ他ノ一部ヲ尽クスコトヲ暫ク猶予スルヲ云フ)且ツ既ニ其事ニ付キ訴ノ起リタル時ハ暫ク其訴ヲ中止セシメ其時間ハ諸事其侭ニ差置ク可キコトヲ言渡スヲ得可シ但シ裁判役此権ヲ行フニ付キテハ極メテ注意ヲ為スコトヲ必要トス
第千二百四十五条 預メ定メ置キタル物件ヲ渡ス可キ義務アル者ハ其物件ヲ渡ス可キ時ノ模様ノ侭之ヲ渡シテ其義務ヲ尽クシタリトス可シ但シ其者自己ノ過失又ハ其物件ヲ附托シタル人ノ過失ニ因テ其物ノ毀損セシ時又ハ此等ノ者ノ過失ニ非スト雖モ義務ヲ得可キ者ヨリ之ヲ渡ス可キノ催促ヲ受ケ尚ホ之ヲ渡ササル中ニ其物ノ毀損セシ時ハ格別ナリトス
第千二百四十六条 種類ノミノ定リシ物ヲ渡ス可キ義務アル者其義務ヲ尽クサントスルニハ其種類中ノ最良ノ物ヲ渡スニ及ハス又最悪ノ物ヲ渡スコトヲ得ス
第千二百四十七条 物件ノ引渡ハ契約ヲ以テ預定セシ地ニ於テ之ヲ為ス可シ若シ其地ヲ預定セサル時其渡ス可キ物ノ預メ定マリタルニ於テハ其義務ヲ契約シタル時其物ノ在リシ地ニ於テ之ヲ為ス可シ
此二箇ノ場合ノ外ハ総テ義務ヲ行フ可キ者ノ住所ニ於テ引渡ヲ為ス可シ
第千二百四十八条 物件ヲ引渡ス費用ハ義務ヲ行フ可キ者之ヲ担当ス可シ
第二節 義務ヲ尽クス可キ者ニ代テ之ヲ尽シタル人義務ヲ得可キ者ノ権ニ代ル事
第千二百四十九条 義務ヲ行フ可キ者ニ代リ義務ヲ得可キ者ニ其義務ヲ尽クシタル時ハ其義務ヲ尽クシタル者義務ヲ得可キ者ノ権ニ代ル事ヲ得可シ但シ此事ハ契約ヨリ之ヲ生シ或ハ法律上ニテ之ヲ生ス
第千二百五十条 前条ニ記シタル事ハ左ノ二箇ノ場合ニ於テハ契約ヨリ之ヲ生ス可シ
第一 義務ヲ得可キ甲者丙者ヨリ義務ヲ得ルニ因リ義務ヲ行フ可キ乙者ヨリ之ヲ得可キ自己ノ権及ヒ乙者ニ対シテ訴訟ヲ為スノ権、乙者ニ対シ他ノ義務ヲ得可キ者ヨリ先キニ其義務ヲ得可キノ権、乙者ニ対シ不動産ヲ「イポテーク」トシテ得ルノ権ヲ丙者ニ移シタル時但シ此代権ノ事ハ丙者乙者ニ代テ義務ヲ尽クシタル時別段之ヲ契約書ニ附記シ置ク可シ
第二 義務ヲ行フ可キ乙者甲者ニ対シ其義務ヲ尽クス可キ為メ丙者ヨリ金高ヲ借受ケ丙者ヲシテ其義務ヲ得可キ甲者ノ権ニ代ラシムル時○此代権ノ事ヲ法ニ適シタルモノト為サントスルニハ乙者丙者ヨリ金高ヲ借受クル証書及ヒ甲者ニ其義務ヲ尽クシタル証書ヲ「ノテイル」ノ面前ニテ記シ其金高借受ノ証書ニ其金高ハ義務ヲ尽クス可キ為メ借受ケタル旨ヲ附記シ且甲者ニ其義務ヲ尽クシタル証書ニ別段其借入レタル金高ヲ以テ其義務ヲ尽クシタル旨ヲ附記ス可シ但シ此代権ノ事ハ別段義務ヲ得可キ者ノ承諾ナクシテ之ヲ為スコトヲ得可シ
第千二百五十一条 前ニ記シタル代権ノ事ハ左ノ四箇ノ場合ニ於テハ法律上ニテ生ス可シ
第一 乙者ヨリ義務ヲ得可キ権アル甲者「イポテーク」ノ権又ハ「プリウィレージ」ノ権ヲ有スル地ノ債主ニ乙者ニ代リテ義務ヲ尽シタル時
第二 義務ヲ行フ可キ乙者ヨリ不動産ヲ買入レタル甲者乙者ヨリ其不動産ヲ「イポテーク」トシテ得可キ債主ニ其買入代金ヲ以テ償還ヲ為シタル時
第三 甲者乙者ト共ニ義務ヲ担当シ又ハ乙者ノ為メニ義務ヲ担当シテ其義務ヲ尽シタル時
第四 遺物財産ノ価ニ至ル迄ノ外負債ヲ償ハサル特権アル相続人其遺物財産ニ付テノ負債ヲ自己ノ財産中ヨリ償フタル時
第千二百五十二条 前数条ニ循ヒ丙者乙者ニ代リテ甲者ニ対シ義務ヲ尽クシタルニ因リ甲者ノ権ニ代リタル時ハ丙者乙者ト其保証人トニ対シテ償還ヲ要ムルノ権ヲ得可シ但シ丙者乙者ニ代リ甲者ニ対シテ其義務ノ一分ノミヲ尽クシタル時ハ甲者其残リタル義務ヲ全ク乙者ヨリ得タル後ニ非レハ丙者乙者又ハ其保証人ヨリ償還ヲ得ント要ムルコトヲ得ス
第三節 数箇ノ義務中ノ一ヲ尽クスニ充テ用フル事
第千二百五十三条 一人ニ対シ数箇ノ義務ヲ負フタル者ハ其義務ヲ尽クス時ニ当リ其数箇ノ義務中何レノ義務ヲ尽クス可キヤヲ述フルノ権アリ
第千二百五十四条 息銀ヲ生スル債ヲ負フタル者其義務ノ一部ヲ尽クス時ハ先ツ息銀ヲ償フニ之ヲ充テ用ヒ然ル後主タル債ヲ償フニ充テ用フ可シ但シ之ニ反シタル償方ヲ為サントスルニハ義務ヲ得可キ者ノ承諾ヲ得ルヲ必要トス○又義務ヲ行フ可キ者主タル債ト其息銀トヲ償還スル名義ニテ義務ヲ尽クシタルト雖モ其償フタル高主タル債ト其息銀トヲ合セシ高ニ満タサル時ハ先ツ息銀ノ償ニ之ヲ充テ用ヒ然ル後主タル債ノ償ニ充テ用フ可シ
第千二百五十五条 数箇ノ義務ヲ負フ者其義務ヲ尽クシタル時之ヲ得シ者其数箇中何ノ義務ヲ尽クスニ充テ用フルヤヲ定メ其義務ヲ尽クシタル者其旨ヲ記セシ受取書ヲ得タルニ於テハ更ニ他ノ義務ヲ尽クスニ充テ用フルコトヲ得ス但シ其義務ヲ得タル者詐偽ヲ行ヒ又ハ脅迫ヲ為シタル時ハ格別ナリトス
第千二百五十六条 義務ヲ得ル者ノ受取書ニ数箇中何レノ義務ヲ尽クスニ充テ用フルヤヲ別段定メサル時ハ義務ヲ行フ者其尽クス可キ期限ニ至リシ数箇ノ義務中ニテ最モ先キニ尽サント欲スル義務ヲ尽クスニ充テ用フ可シ又其義務中ニテ未タ尽クス可キ期限ニ至ラサルモノアル時ハ如何ナル景状アリト雖トモ既ニ尽クス可キ期限ニ至リシ義務ヲ尽クスニ充テ用フ可シ○若シ又数箇ノ義務ノ種類皆等シキ時ハ其義務中ノ最旧ノモノヲ尽クスニ充テ用フ可ク又其数箇ノ義務ノ種類皆等シク且新旧ノ区別ナキ時ハ平等ニ数箇ノ義務ヲ尽クスニ充テ用フ可シ
第四節 義務ヲ行フ可キ者其義務ヲ尽クサント堤供【サシダス】スル事及ヒ其負フタル諸件ヲ官署ニ預クル事
第千二百五十七条 義務ヲ得可キ者其得可キ物件ヲ受取ルコトヲ承諾セサル時ハ義務ヲ行フ可キ者其渡ス可キ物又ハ金高ヲ其義務ヲ得可キ者ニ現ニ提供シ若シ其者猶之ヲ得ルコトヲ承諾セサル時ハ其物又ハ金高ヲ預リ役所ニ預クヘシ
義務ヲ行フ可キ者其渡ス可キ物又ハ金高ヲ既ニ提供シ其後之ヲ預リ役所ニ預ケタル時ハ其義務ノ釈放ヲ受ケ其提供及ヒ附託ノ法ニ適シタル時ハ義務ヲ尽クシタルニ均シキ効アリトス但シ義務ヲ行フ可キ者ノ役所ニ預ケタル物又ハ金高ハ義務ヲ得可キ者之ヲ己レニ引受ク可シ
第千二百五十八条 義務ヲ行フ可キ者之ヲ得可キ者ニ対シ負フタル物件又ハ金高ヲ法ニ適シテ提供スルニハ左ノ七件ヲ必用トス
第一 自カラ物件又ハ金高ヲ受取ル可キノ権ヲ有スル者又ハ其者ニ代リテ之ヲ受取ル可キノ権ヲ有スル者ニ提供ヲ為ス事
第二 義務ヲ尽クスコトヲ得可キ者ヨリ其提供ヲ為ス事
第三 義務ヲ行フ可キ者ノ渡ス可キ物件又ハ金高及ヒ其息銀且既ニ算定シタル諸費用高並ニ未タ算定セサル諸費用ノ見積高ヲ提供スル事但シ未タ算定セサル費用ノ見積高不足ナル時ハ後ニ之ヲ補足ス可シ
第四 義務ヲ得可キ者ノ為メ其義務ヲ得可キ期限ヲ約定シタル時ハ其期限ニ至リシ事
第五 嘗テ義務ヲ契約セシ時預定シタル未必ノ条件ノ現ニ生シタル事
第六 義務ヲ行フ可キ為メ預メ契約シタル地ニ於テ提供ヲ為ス事又其義務ヲ行フ可キ地ニ付キ別段契約ナキ時ハ其義務ヲ得可キ者ノ面前ニ於テ提供ヲ為シ又ハ其者ノ住所或ハ契約取行ノ為メ特ニ択ミタル住所ニ於テ提供ヲ為ス事
第七 裁判所ノ官吏(門監ヲ云)ニ託シテ其提供ヲ為ス事
第千二百五十九条 義務ヲ尽クス可キ者其渡ス可キ物件又ハ金高ヲ法ニ適シテ預リ役所ニ預ケント為スニハ別ニ裁判役ノ允許ヲ得ルニ及ハス唯左ノ四件ノミヲ以テ足レリトス
第一 其物件又ハ金高ヲ預リ役所ニ預クル前之ヲ預ク可キ日時及ヒ其場所ヲ記シタル呼出状(金高又ハ物件ヲ預クル時立会フ可キノ呼出状)ヲ其義務ヲ得可キ者ニ送達スル事
第二 義務ヲ尽クス可キ者其提供セシ物件又ハ金高ト之ヲ預クル日ニ至ル迄ノ息銀トヲ法律上ニ定メタル役所ニ預ケ自カラ之ヲ所有スルノ権ヲ放棄スル事
第三 裁判所ノ官吏ノ記シタル調書ニ義務ヲ行フ可キ者ノ提供セシ物任又ハ金高ノ種類、義務ヲ得可キ者其物件又ハ金高ヲ受取ルコトヲ承諾セサル旨、義務ヲ行フ可キ者ヨリ物件又ハ金高ヲ預クル時之ヲ得可キ者ノ立会ヲ為ササル旨、義務ヲ行フ可キ者正シク之ヲ役所ニ預ケタル旨ヲ記スル事
第四 義務ヲ得可キ者同上ノ立会ヲ為ササル時ハ義務ヲ行フ可キ者ノ提供セシ物件又ハ金高ヲ正シク役所ニ預ケタル旨ノ調書ト其物件又ハ金高ヲ引取ル可キ招書トヲ其義務ヲ得可キ者ニ送達スル事
第千二百六十条 義務ヲ行フ可キ者義務ヲ得可キ者ニ渡ス可キ物件又ハ金高ヲ提供スル事及ヒ之ヲ預リ役所ニ預クル事皆法ニ適シタル時ハ義務ヲ得可キ者其費用ヲ担当ス可シ
第千二百六十一条 義務ヲ行フ可キ者義務ヲ得可キ者ニ渡ス可キ物又ハ高金ヲ役所ニ預ケタル後義務ヲ得可キ者未タ之ヲ受取ラサル時間ハ其義務ヲ行フ可キ者之ヲ取戻スコトヲ得可シ但シ其義務ヲ行フ可キ者之ヲ取リ戻シタル時ハ其者ト連帯シテ義務ヲ行フ可キ者又ハ其保証人其義務ヲ免ルルコトヲ得ス
第千二百六十二条 義務ヲ行フ可キ者義務ヲ得可キ者ニ渡ス可キ物件ヲ提供シ且之ヲ役所ニ預クルコト法ニ適シタルノ確定ノ審判ヲ得タル時ハ縦令義務ヲ得可キ者ノ承諾アリト雖トモ其義務ヲ行フ可キ者其預ケタル物件又ハ金高ヲ取リ戻シ連帯シテ義務ヲ行フ可キ者又ハ其保証人ノ損害ヲ為スコトヲ得ス
第千二百六十三条 義務ヲ行フ可キ者其渡ス可キ物件又ハ金高ヲ役所ニ預ケ其預ケタルコト法ニ適シタル確定ノ裁判アリシ後ニ其義務ヲ得可キ者之ヲ行フ可キ者ノ其物件又ハ金高ヲ取戻ス可キコトヲ承諾シタル時ハ其義務ヲ他ノ債主ヨリ先キニ得可キノ権又ハ不動産ヲ「イポテーク」トシテ得可キノ権ヲ行フコトヲ得ス但シ其務義ヲ得可キ者其義務ヲ行フ可キ者ノ役所ニ預ケタル物件又ハ金高ヲ取戻ス事ヲ承諾セシ証書ニ更ニ改メテ「イポテーク」ノ権ヲ生ス可キ旨ヲ附記スルニ付キ相当ノ法式ヲ行ヒタル時ハ其法式ヲ為シタル日ヨリ其「イポテーク」ノ権ヲ復スルコトヲ得可シ
第千二百六十四条 義務ヲ行フ可キ者之ヲ得可キ者ニ引渡ス可キ物件預メ定リシモノニシテ且其物件所在ノ地ニテ之ヲ引渡ス可キ時ハ其義務ヲ行フ可キ者ヨリ義務ヲ得可キ者又ハ其住所又ハ契約ヲ以テ別段択ミタル住所ニ書面ヲ送リテ其物件ヲ搬運ス可キコトヲ要ム可シ○義務ヲ行フ可キ者此事ヲ要メタル後義務ヲ得可キ者猶ホ其物件ヲ搬運セサル時義務ヲ行フ可キ者ノ為メ其物件所在ノ場所ノ必要ナルコトアルニ於テハ其義務ヲ行フ可キ者其物件ヲ更ニ他ノ場所ニ預ク可キノ允許ヲ裁判所ヨリ受クルコトヲ得可シ
第五節 義務ヲ行フ可キ者其財産ヲ放棄スル事
第千二百六十五条 財産ノ放棄トハ義務ヲ行フ可キ者其義務ヲ尽クスコト能ハサル時己レノ所有スル諸般ノ財産ヲ尽ク義務ヲ得可キ者ニ任カスル事ヲ云フ
第千二百六十六条 財産ノ放棄ハ随意ノモノアリ又ハ裁判所ノ言渡ニ因テ為スモノアリ
第千二百六十七条 随意ノ財産ノ放棄トハ義務ヲ得可キ者随意ニ之ヲ承諾シ且其義務ヲ得可キ者ト之ヲ行フ可キ者トノ間ニ嘗テ結ヒ置キタル契約ヨリ生ス可キ所ノ外更ニ他ノ効ヲ生セサル放棄ヲ云フ
第千二百六十八条 裁判所ノ言渡ニ因テ為シタル財産放棄トハ正実ニシテ且不幸ナル義務ヲ行フ可キ者ヲシテ其身体ノ自由ヲ保タシムル為メ如何ナル契約アルヲ問ハス裁判所ノ言渡ニ因リ其所有スル諸般ノ財産ヲ尽ク義務ヲ得可キ者ニ任カスル放棄ヲ云フ
第千二百六十九条 裁判所ノ言渡ニ因リ財産放棄ヲ為スト雖トモ義務ヲ得可キ者之ヲ行フ可キ者ノ放棄シタル財産ヲ所有スルノ権ヲ得ルコトナク唯其財産ヲ売払フ可キノ権ト其売払ニ至ル迄ノ時間其財産ヨリ生シタル入額ヲ所得ト為スノ権トヲ得可シ
第千二百七十条 義務ヲ得可キ者ハ法則上ニテ別段定メタル場合ニ非レハ義務ヲ行フ可キ者裁判所ノ言渡ニ因リ其財産放棄ヲ為スヲ拒ムコトヲ得ス
義務ヲ行フ可キ者其財産放棄ヲ為ス時ハ禁錮ヲ受クルコトヲ免カル可シ
又義務ヲ行フ可キ者其財産ノ放棄ヲ為スト雖トモ其放棄シタル財産ノ価ニ至ル迄ノ外其義務ノ釈放ヲ得ス但シ放棄シタル財産ノ価其義務ヲ全ク尽クスニ足ラサル時義務ヲ行フ可キ者後ニ他ノ財産ヲ所得ト為スコトアルニ於テハ亦其財産ヲ放棄シテ其義務ヲ全ク尽クスニ至リ初テ其放棄ヲ止ム可シ
第二款 義務ノ更改スル事
第千二百七十一条 義務ノ更改ハ左ノ三箇ノ方法ヲ以テ之ヲ為ス可シ
第一 義務ヲ行フ可キ者義務ヲ得可キ者ニ対シ従来ノ義務ニ代ヘ更ニ新タナル義務ヲ契約シ従来ノ義務ノ消散シタル事
第二 従来義務ヲ行フ可キ者義務ヲ得可キ者ヨリ釈放ヲ受ケ新タニ義務ヲ行フ可キ者之ニ代リタル事
第三 新タニ結ヒタル契約ニ因リ新タニ義務ヲ得可キ者従来義務ヲ得可キ者ニ代リタルニ付キ其義務ヲ行フ可キ者従来義務ヲ得可キ者ヨリ其義務ノ釈放ヲ得タル時
第千二百七十二条 義務ノ更改ハ契約ヲ為スヲ得可キ数人ノ間ニ非レハ之ヲ為スコトヲ得ス
第千二百七十三条 義務ノ更改ハ思料ノミヲ以テ為ス可カラス其更改ヲ為ス可キ意アルコトヲ証書ヲ以テ分明ニ了知シ得可キヲ必要トス
第千二百七十四条 新タニ義務ヲ行フ可キ者従来義務ヲ行フ可キ者ニ代リ義務ヲ更改スルコトハ従来義務ヲ行フ可キ者ノ立会ナクシテ之ヲ為スコトヲ得可シ
第千二百七十五条 従来義務ヲ行フ可キ者自己ニ代リテ新タニ義務ヲ行フ可キ者ヲ定メシ旨ヲ義務ヲ得可キ者ニ述フルト雖トモ其義務ヲ得可キ者従来義務ヲ行フ可キ者ヲ釈放ス可キコトヲ別段述ヘタル時ニ非レハ義務ノ更改ヲ為スコトヲ得ス
第千二百七十六条 義務ヲ得可キ者従来義務ヲ行フ可キ者ヲ釈放シタル時ハ新タニ義務ヲ行フ可キ者其義務ヲ行フコト能ハサルニ至ルコトアリト雖トモ従来義務ヲ行フ可キ者ニ対シ訴訟ヲ為スコトヲ得ス但シ此場合ニ於テ従来義務ヲ行フ可キ者ニ対シ訴訟ヲ為スヲ得可キコトヲ別段証書ニ記シタル時又ハ新タニ義務ヲ行フ可キ者従来義務ヲ行フ可キ者ニ代リシ頃既ニ公ケニ家資分散ヲ為シ又ハ既ニ其頃ヨリ其家産ヲ以テ其義務ヲ全ク尽クスニ足ラサリシ時ハ格別ナリトス
第千二百七十七条 義務ヲ行フ可キ者自己ニ代リテ義務ヲ行フ可キ者ヲ指示シタルノミニテハ義務ノ更改スルコトナカル可シ
又義務ヲ得可キ者自己ニ代リテ義務ヲ得可キ者ヲ指示シタルノミニテハ義務ノ更改スルコトナカル可シ
第千二百七十八条 従来ノ義務ニ付テノ債主ノ特権又ハ「イポテーク」ノ権ハ更改シタル義務ニ之ヲ移ス可カラス但シ義務ヲ得可キ者別段其事ヲ定メ置キタル時ハ格別ナリトス
第千二百七十九条 新タニ義務ヲ行フ可キ者従来義務ヲ行フ可キ者ニ代リタル時ハ従来ノ義務ニ付テノ債主ノ特権又ハ「イポテーク」ノ権ヲ新タニ義務ヲ行フ可キ者ノ財産ニ移スコトヲ得ス
第千二百八十条 義務ヲ得可キ者ト連帯シテ義務ヲ行フ可キ数人中ノ一人ト義務ノ更改シタル時ハ従来ノ義務ニ付テノ債主ノ特権又ハ「イポテーク」ノ権ヲ新タナル義務ヲ行フ可キ一人ノ財産ノミニ移スコトヲ得可シ
第千二百八十一条 義務ヲ得可キ者ト連帯シテ義務ヲ行フ可キ数人中ノ一人ト義務ノ更改シタル時ハ連帯シテ義務ヲ行フ可キ其他ノ者其義務ノ釈放ヲ受ク可シ
義務ヲ得可キ者ト主タル義務ヲ行フ可キ者ト義務ノ更改シタル時ハ其保証人己レノ義務ノ釈放ヲ受ク可シ
然トモ義務ヲ得可キ者首項ノ場合ニ於テ連帯シテ義務ヲ行フ可キ数人皆其義務更改ノ事ヲ承諾ス可キコトヲ要メ又第二項ノ場合ニ於テ其保証人ノ之ヲ承諾ス可キコトヲ要メタル時其連帯シテ義務ヲ行フ可キ数人又ハ保証人其承諾ヲ為ササルニ於テハ従来ノ義務猶継続シタルモノト為ス可シ
第三款 義務ヲ得可キ者ノ意ヲ以テ其義務ヲ釈放スル事
第千二百八十二条 双方ノ姓名ヲ手署シタル私ノ証書ノ正本ヲ義務ヲ得可キ者ノ意ヲ以テ義務ヲ行フ可キ者ニ渡シタル時ハ其義務ヲ釈放シタルノ証アリトス
第千二百八十三条 義務ヲ得可キ者ノ意ヲ以テ公正ノ証書ノ副本(第八百二十条見合)ヲ義務ヲ行フ可キ者ニ渡シタル時ハ義務ヲ釈放シ又ハ義務ヲ尽シタルト看做ス可シ但シ之ニ反シタル証アル時ハ格別ナリトス
第千二百八十四条 義務ヲ得可キ者連帯シテ義務ヲ行フ可キ数人中ノ一人ニ私ノ証書ノ正本又ハ公ケノ証書ノ副本ヲ渡シタル時ハ連帯シタル他ノ数人ノ為メ亦其義務ヲ釈放シタリトス可シ
第千二百八十五条 義務ヲ得可キ者連帯シテ義務ヲ行フ可キ数人中ノ一人ノ為メ契約シテ其義務ヲ釈放シタル時ハ連帯シタル他ノ数人モ亦其義務ノ釈放ヲ受ク可シ但シ義務ヲ得可キ者連帯シテ義務ヲ行フ可キ数人中ノ一人ヲ釈放スト雖トモ其他ノ者ヲ釈放セサル旨ヲ別段定メシ時ハ格別ナリトス但シ此場合ニ於テハ其義務ヲ得可キ者義務ヲ行フ可キ数人中ニテ其釈放シタル一人ノ部分ヲ減シ其義務ヲ得ント要ム可シ
第千二百八十六条 質トシテ取リタル物件ヲ還シタルト雖トモ其義務ヲ釈放シタルト思料ス可カラス
第千二百八十七条 義務ヲ得可キ者主タル義務ヲ行フ可キ者ノ為メ契約シテ其義務ヲ釈放シタル時ハ其保証人モ亦釈放ヲ受ク可シ又保証人ヲ釈放スト雖トモ之ニ因リ主タル義務ヲ行フ可キ者ヲ釈放ス可カラス
又保証人中ノ一人ヲ釈放スト雖トモ他ノ保証人ヲ釈放ス可カラス
第千二百八十八条 義務ヲ得可キ者義務ノ保証人ヨリ其義務ノ釈放ヲ得可キカ為メ出シタル所ノ物件又ハ金高ヲ受取リタル時ハ之ヲ義務ノ償ノ為メ充テ用ヒタルモノト為シ主タル義務ヲ行フ可キ者並ニ他ノ保証人其保証人ノ出シタル物件又ハ金高ニ至ル迄其義務ノ釈放ヲ受ク可シ
第四款 二箇ノ義務互ニ相殺スル事
第千二百八十九条 相互ニ義務ヲ行フ可キ者二人アル時ハ後条ニ記スル場合ト方法トニ循ヒ其二箇ノ義務ヲ互ニ相殺ス可シ
第千二百九十条 互ニ義務ヲ行フ可キ双方ノ者共ニ知ルコトナシト雖トモ法律上ニテ其二箇ノ義務ヲ互ニ相殺スルコトアリ但シ此場合ニ於テハ其二箇ノ義務ノ生シタル時其高ノ相当ルニ至ル迄互ニ之ヲ相殺ス可シ
第千二百九十一条 二箇ノ義務互ニ相殺スルコトハ金高又ハ度量スルコトヲ得可キ物件ノミニ付キ之ヲ為スコトヲ得可シ但シ是カ為メ其金高又ハ度量ス可キ物件ノ高確定シ且既ニ其渡シ期限ノ至リシコトヲ必要トス又人ヨリ得可キ穀類又ハ飲食料ノ価時価目録ニ因リ定リタル時ハ既ニ渡シ時ニ至リシ金高ト互ニ相殺スルコトヲ得可シ
第千二百九十二条 裁判所ヨリ一方ノ者ニ義務ヲ行フ可キ期限ノ猶予ヲ許ルシタリト雖モ二箇ノ義務ヲ互ニ相殺スルノ妨ケトナルコトナカル可シ
第千二百九十三条 二箇ノ義務ハ其生シタル原由ノ如何ナルヲ問ハス互ニ相殺スルヲ得可シ然トモ左ノ三箇ノ場合ハ格別ナリトス
第一 一方ノ者己レニ属シタル物ヲ横ニ奪取ラレ他ノ一方ニ其物ノ取戻ヲ求ムル時
第二 一方ノ者他ノ一方ニ預ケタル物件又ハ他ノ一方ノ使用ス可キ為メ貸与ヘタル物件ノ取戻ヲ求ムル時
第三 一方ノ者他ノ一方ニ渡ス可キ養料ヲ差押フ可カラサル時(訴訟法第五百八十一条見合)
第千二百九十四条 義務ヲ行フ可キ者ノ保証人ハ義務ヲ行フ可キ者ト義務ヲ得可キ者トノ間ニ二箇ノ義務互ニ相殺シタルコトヲ述ヘ己レノ保証ノ義務ヲ免ルルノ訴ヲ為シ得可シ
然トモ義務ヲ行フ可キ者ハ義務ヲ得可キ者ヨリ保証人ニ対シテ行フ可キ義務アルコトヲ述ヘ其義務ト自己ノ義務トヲ互ニ相殺ス可キノ訴ヲ為スコトヲ得ス
又連帯シテ義務ヲ行フ可キ数人中ノ一人ハ義務ヲ得可キ者ヨリ他ノ一人ニ対シ行フ可キ義務アルコトヲ述ヘ其二箇ノ義務ヲ互ニ相殺ス可キノ訴ヲ為スコトヲ得ス
第千二百九十五条 義務ヲ行フ可キ者義務ヲ得可キ者ノ他人ニ其権ヲ移シタルコトヲ承諾シ別段二箇ノ義務互ニ相殺ス可キコトヲ定メサル時ハ縦令其承諾ヲ為ササル以前ニ従来義務ヲ得可キ者ニ対シ二箇ノ義務ヲ互ニ相殺ス可キ求メヲ為シ得可キ場合ト雖トモ既ニ其承諾ノ後ニ至リテハ其義務ヲ得可キ権ヲ譲リ受ケシ者ニ対シ二箇ノ義務ヲ互ニ相殺ス可キノ求ヲ為スコトヲ得ス
又義務ヲ得可キ者他人ニ其権ヲ譲リ義務ヲ行フ可キ者未タ之ヲ承諾セス唯其由ノ告知ヲ得タル時ハ其告知ノ後ニ生シタル義務ヲ互ニ相殺ス可キノ求ヲ為スコトヲ得ス
第千二百九十六条 二箇ノ義務ヲ同一ノ場所ニ於テ尽クス可カラサル時ハ一方ノ者運送ノ費用ヲ他ノ一方ニ償フタル上ニ非レハ二箇ノ義務ヲ互ニ相殺ス可キノ求メヲ為スコトヲ得ス
第千二百九十七条 一人ニテ尽クス可キ数箇ノ義務ヲ負ヒ之ヲ他人ヨリ得可キ一箇ノ義務ト互ニ相殺セントスルニハ第千二百五十六条ニ記シタル規則ニ循フ可シ
第千二百九十八条 二箇ノ義務ヲ互ニ相殺スルニ因リ他人ノ権ヲ害スルコトナカル可シ○故ニ義務ヲ行フ可キ甲者義務ヲ得可キ乙者ニ金高又ハ物件ヲ渡スノ差留ヲ他人ヨリ受ケシ後乙者ヨリ義務ヲ得可キノ権ヲ得タルニ於テハ其二箇ノ義務ヲ互ニ相殺シテ他人ノ権ヲ害ス可カラス
第千二百九十九条 甲者乙者ニ対シテ行フ可キ義務ヲ乙者ヨリ得可キ義務ト互ニ相殺ス可キ道理アルニ之ヲ相殺スルコトナク乙者ニ対シ自己ノ義務ヲ尽クシタル時ハ甲者乙者ヨリ其義務ヲ得ルニ付キ他人ヨリ先キニ義務ヲ得可キノ権又ハ「イポテーク」ノ権ヲ述ヘ他人ノ権利ヲ害ス可カラス但シ甲者己レノ義務ヲ相殺ス可キ乙者ヨリ得ル所ノ権利アルコトヲ知ラザルノ証アル時ハ格別ナリトス
第五款 権利ト義務ト渾同スル事
第千三百条 一人ニテ権利ト義務トヲ兼有スル時ハ其権利ト義務ト渾同シテ相殺ス可シ
第千三百一条 主タル義務ヲ行フ可キ者前条ニ記スル如ク其義務ヲ得可キ権ヲ兼有スル時ハ保証人己レノ義務ヲ免カル可シ
保証人義務ヲ得可キノ権利ヲ兼有シ又ハ義務ヲ得可キ者保証ノ義務ヲ兼有シタル時ハ主タル義務ヲシテ消散セシムルヲ得ス
連帯シテ義務ヲ行フ可キ数人中ノ一人義務ヲ得可キノ権利ヲ兼有シタル時ハ連帯シテ義務ヲ行フ可キ他ノ数人其一人ノ嘗テ担当シタル部分ノミノ釈放ヲ受クルコトヲ得可シ
第六款 引渡ス可キ物ノ滅尽スル事
第千三百二条 義務ノ目的タル確定セシ物ノ滅尽シタル時又ハ其物ヲ売買スルコト能ハサル模様ニ至リシ時又ハ其物ヲ遺失シ其現存スルヤ否ヲ知ルコト能ハサルニ至リシ時其義務ヲ行フ可キ者未タ之ヲ得可キ者ヨリ其物ヲ引渡ス可キノ求メヲ受サル中ニ義務ヲ行フ可キ者ノ過失ニ非ラスシテ此等ノ事ノ生シタルニ於テハ其義務消散ス可シ
又義務ヲ行フ可キ者之ヲ行フ可キノ求メヲ受ケシ後ト雖トモ其引渡ス可キ物意外ノ事ニ因テ滅尽セシ時其責ニ任ス可キコトヲ預定セス且縦令其物ヲ義務ヲ得可キ者ニ引渡シテ其所有ト為シタルト雖トモ亦滅尽ス可キ場合ニ於テハ其義務消散ス可シ
義務ヲ行フ可キ者ハ己レノ述ヘタル意外ノ事ヲ証ス可シ
窃取シタル物ハ其滅尽シ又ハ見失ヒタル事由ノ如何ナルヲ問ハス之ヲ窃取セシ者必ス其価高ヲ償フ可キノ責アリトス
第千三百三条 義務ヲ行フ可キ者ノ過失ニ非スシテ其引渡ス可キ物ノ滅尽シ又ハ売買ヲ為ス可カラサルニ至リシ時又ハ之ヲ遺失シタル時其物ニ付キ従来他人ニ対シ訴ヲ為ス可キノ権又ハ償ヲ得可キ権アルニ於テハ其権ヲ其義務ヲ得可キ者ニ移ス可シ
第七款 契約ヲ廃棄スル事
第千三百四条 別段ノ法律ニ因リ契約ヲ廃棄ス可キ訴ヲ為スノ期限ヲ特ニ定メタルコトナキ時ハ十年内ニ其訴ヲ為ス可シトス
契約ヲ結フニ付キ暴行脅迫ノ事アル時ハ其暴行脅迫ノ止ミタル日ヨリ其十年ノ期限ヲ算ヘ又錯誤及ヒ詐偽アル時ハ之ヲ知リタル日ヨリ其期限ヲ算ヘ又婦其夫或ハ裁判所ノ允許ヲ得ルコトナク結ヒシ契約ニ付テハ其婚姻ヲ解キシ日ヨリ其期限ヲ算フ可シ
又治産ノ禁ヲ受ケシ者ノ結ヒタル契約ニ付テハ其禁ノ免シヲ受ケシ日ヨリ其期限ヲ算ヘ幼者ノ結ヒタル契約ニ付テハ其丁年ニ至リシ日ヨリ之ヲ算フ可シ
第千三百五条 契約ノ種類ノ如何ナルヲ問ハス後見ヲ免レサル幼者ハ其契約ノ為メ損害ヲ蒙リタルニ因リ之ヲ廃棄スルコトヲ得可シ又後見ヲ免レシ幼者ハ第一篇第十巻(幼年後見等ノ巻)ニ定メタル如ク其権利ノ定限ニ過キタル契約ヲ結ヒ之カ為メ損害ヲ蒙リタルニ因リ其契約ヲ廃棄スルコトヲ得可シ
第千三百六条 幼者其結ヒタル契約ノ為メ損害ヲ蒙リタルト雖トモ其損害意外ノ事ニ管シタル時ハ之レカ為メ其契約ヲ廃棄ス可カラス
第千三百七条 幼者契約ヲ結ヒタル時其丁年ニ至リシ事ヲ述ヘタルノミニテハ其契約ヲ廃棄スルノ妨トナルコトナシ
第千三百八条 商業ヲ為シ又ハ為替座ヲ支配シ又ハ工作ヲ為ス幼者ハ其職業ノ為メ結ヒタル契約ヲ廃棄スルコトヲ得ス(第四百八十七条見合セ)
第千三百九条 幼者其婚姻ヲ法ニ適シタルモノト為スニ許諾ヲ得ルヲ必要トスル者(父母等ヲ云フ)ノ許諾ト立会トヲ以テ結ヒタル婚姻契約書ノ条件ハ之ヲ廃棄ス可カラス
第千三百十条 幼者故意ヲ以テ人ニ損害ヲ加ヘ又ハ故意ニ非スシテ人ニ損害ヲ加ヘタル時其損害ヲ償フ可キ義務ハ之ヲ廃棄ス可カラス
第千三百十一条 凡ソ人未タ丁年ニ至ラサル時結ヒタル契約書ノ体裁不当ナルニ因リ全ク其効ナキト其契約書ヲ廃棄スルノ訴ヲ為シ得可キトヲ問ハス其人丁年ニ至リテ更ニ之ヲ確定シタル時ハ之ヲ廃棄セントスルコトヲ得ス
第千三百十二条 幼者、治産ノ禁ヲ受ケシ者、婚姻ヲ結ヒタル婦其結ヒシ契約ヲ廃棄ス可キ允許ヲ受ケタル時ハ契約シタル一方ノ者ヨリ此等ノ者ニ対シ其幼年ノ時間、治産ノ禁ヲ受ケシ時間、婚姻ヲ結ヒタル時間其契約ニ因リ既ニ渡シタル物件ヲ取戻ス可キノ訴ヲ為スコトヲ得ス但シ契約シタル一方ノ者ヨリ渡シタル物件幼者、治産ノ禁ヲ受ケシ者、婚姻シタル婦ノ利益トナリタル証アル時ハ格別ナリトス
第千三百十三条 丁年者ハ別段民法ニ記シタル場合ト規則トニ拠ラサレハ其損害ヲ蒙リタルノミニ因リ契約ヲ廃棄ス可カラス(第八百八十七条及ヒ第千六百七十四条見合セ)
第千三百十四条 不動産ヲ他人ニ贈与シ又ハ売払フ事及ヒ遺物ヲ分派スル事ニ付キ幼者又ハ治産ノ禁ヲ受ケシ者ノ為メ必要ナル法式ヲ用ヒテ契約ヲ為シタル上ハ此等ノ者其契約ニ付テハ既ニ丁年ニ至リシ後又ハ治産ノ禁ヲ受クル前ニ之ヲ為シタルモノト看做ス可シ
第六章 義務ノ証及ヒ義務ヲ尽クシタルノ証
第千三百十五条 凡ソ義務ヲ得ント求ムル者ハ之ヲ証ス可シ
又既ニ義務ノ釈放ヲ得タルコトヲ述フル者ハ其義務ヲ尽クシタル事又ハ義務ノ消散シタル事ヲ証ス可シ
第千三百十六条 証書、証人、思料【ヲシハカリ】、自認【ハクジョウ】、誓詞ニ管スル規則ハ左ノ数款ニ之ヲ記載ス
第一款 証書
第一節 公正ノ証書
第千三百十七条 公正ノ証書トハ各地方ニ於テ証書ヲ記ス可キ権アル官吏(「ノテイル」等ヲ云フ)必要ナル法式ヲ用ヒ記シタル証書ヲ云フ
第千三百十八条 公正ノ証書ヲ記シタル官吏之ヲ記ス可キノ権ナク又ハ其官吏之ヲ記ス可カラサルニ因リ又ハ法式ニ背キタルニ因リ其証書ヲ公正ノモノト為ス可カラサル時其契約ヲ結ヒタル本人自己ノ姓名ヲ手署シタルニ於テハ之ヲ以テ私ノ証書ノ力アリトス
第千三百十九条 公正ノ証書ハ契約ヲ結ヒタル双方ノ者又ハ其遺物相続人及ヒ代権人等ノ間ニ於テハ之ニ記スル所ノ契約ノ確証ナリトス可シ然トモ其証書ノ贋造タルコトヲ主トシテ訴フル時(書類贋造ノ訴ヲ刑法裁判所ニ為ス時)ハ其証書ノ如ク執行フコトヲ必ス停止ス可ク又其証書ノ贋造タルコトヲ附帯ノ訟トシテ訴フル時(民法ニ管シタル訴ニ添ヘテ書類ノ贋造タルコトヲ民法裁判所ニ訴出ス時ヲ云フ訴訟法第二百十八条見合セ)ハ裁判所ニテ其時ノ模様ニ従ヒ仮リニ其証書ノ如ク執行フコトヲ停止セシムルヲ得可シ
第千三百二十条 総テ公私ヲ問ハス証書中ニ記スル諸事ハ縦令ヒ説明ノ為メノミニ記シタル条件ト雖トモ直チニ契約ノ趣意ニ管シタルモノタル時ハ其契約ヲ結ヒタル双方ノ間ニ於テ之ヲ確証ナリトス可シ○直チニ契約ノ趣意ニ管セサル説明ノ条件ハ之ヲ証拠ノ端緒ノミト為スコトヲ得可シ
第千三百二十一条 公正ノ証書ヲ取消シ又ハ変改ス可キ秘密ノ証書ハ其契約ヲ結ヒタル双方ノ間ニノミ其効ヲ生ス可ク他人ニ対シテ其効ヲ生ス可ラス
第二節 私ノ証書
第千三百二十二条 私ノ証書ヲ記シタリトノ言掛ヲ受ケシ者之ヲ真正ナリト認メタル時又ハ法律上ニテ真正ナリト認メタリト為シタル時ハ其証書ニ姓名ヲ手署シタル者又ハ其遺物相続人及ヒ代権人ノ間ニ於テ之ヲ公正ノ証書ニ等シキ確証ナリトス
第千三百二十三条 私ノ証書ヲ記シタルトノ言掛ヲ受ケシ者ハ其書ノ手記又ハ其姓名ノ手署ヲ認ムルコト又ハ認メサルコトヲ明カニ申述フ可シ
其遺物相続人又ハ代権人ハ本人ノ手記又ハ姓名ノ手署ヲ知ラサル旨ヲ申述フルコトヲ得可シ
第千三百二十四条 証書ヲ記シタルトノ言掛ヲ受ケシ者其書ノ手記又ハ其姓名ノ手署ヲ認メサルト述ヘ又ハ其遺物相続人及ヒ代権人之ヲ知ラサルト述フル時ハ裁判所ニテ其書ノ験真ヲ為ス可キ旨ヲ言渡ス可シ(訴訟法第百九十三条以下見合セ)
第千三百二十五条 双務ノ契約ヲ記シタル私ノ証書ハ各自ノ権利ヲ有スル者ノ数ニ準シ其証書ノ正本数通ヲ記シタルニ非レハ其効ナカル可シ
同一ノ権利ヲ有シタル数人ニ付テハ一通ノ正本ヲ以テ足レリトス
正本各通ニハ之ヲ幾通ニ記シタルヤヲ附記ス可シ
然トモ正本ヲ幾通ニ記シタルヤヲ附記スルコトナシト雖トモ其証書中ニ記シタル契約ノ如ク自カラ執行フタル者ハ後ニ其附記ナキヲ述ヘテ其証書ヲ取消スコトヲ得ス
第千三百二十六条 一方ヨリ一方ニ金高ヲ渡シ又ハ価ヲ定メ得可キ物件ヲ渡ス可キ事ヲ約シタル証票又ハ私ノ契約書ハ之ニ姓名ヲ手署スル者其全文ヲ手記ス可シ若シ然ラサレハ自己ノ姓名ヲ手署シタル外ニ其金高又ハ価ヲ定メ得可キ物件ノ分量ヲ数字ヲ用フルコトナク亦之ヲ手記シ且「ボン」(渡シ方ヲ約スルノ意)又ハ「アップルウベー」(承諾ノ意)ノ語モ亦必ス手記ス可シ
商賈、工作者、農夫、葡萄ノ栽丁、雇夫、家僮ノ其証書ヲ記スル時ハ格別ナリトス
第千三百二十七条 証書ノ本文中ニ記スル所ノ高ト「ボン」ト記スル所ノ高ト相異ナル時ハ其「ボン」ト記スル所ヲ書セシ者ト其本文ヲ書セシ者ト同人タリト雖トモ其二箇ノ高ノ中ニテ少キ高ヲ契約シタルト看做ス可シ但シ其二箇ノ高ノ中ニテ何レカ錯誤タルノ証アル時ハ格別ナリトス
第千三百二十八条 私ノ証書ハ之ヲ官署ノ簿冊ニ登記シタル日、之ニ姓名ヲ手署シタル一人ノ死去シタル日、財産封印ノ調書及ヒ財産目録書ノ如キ官吏ノ記シタル公ケノ証書中ニ私ノ証書ノ趣意ヲ証明シタル日ヲ以テ他人ニ対スル其証書ノ日附ト定ム可シ
第千三百二十九条 商賈ノ簿冊ハ誓ノ事ニ付キ後条(第千三百六十七条以下見合セ)ニ記スル所ヲ除クノ外商賈ニ非サル者ニ対シ其簿冊ニ記シタル物品引渡ノ証ト為ス可カラス
第千三百三十条 又商賈ノ簿冊ニ記スル所ハ其商賈ノ損トナル可キノ証ト為スコトヲ得可シ但シ其簿冊ニ因リ権利ヲ得ントスル者ハ其簿冊ニ記シタル諸件中ニテ己レノ義務ニ管シタル箇条ヲ除キ其権利ノミヲ得可キノ証ト為ス可カラス
第千三百三十一条 家内ノ簿冊又ハ書類ニ記スル所ハ之ヲ記シタル者ノ益トナル可キ証ト為ス可カラス左ノ二箇ノ場合ニ於テハ其者ノ損トナル可キ証ト為ス可シ
第一 其簿冊及ヒ書類ニ既ニ人ヨリ物件ヲ受取シ事ヲ明白ニ記スル時
第二 其簿冊及ヒ書類ヲ記シタル者自己ヨリ義務ヲ得可キ者ノ権利ノ証書ノ欠ケタルヲ補フ可キカ為メ其簿冊及ヒ書類中ニ自カラ其義務ヲ負フタルコトヲ記シタル旨ヲ別段附記シタル時
第千三百三十二条 義務ヲ得可キ者其所有シタル証書ノ正本ノ末尾又ハ欄外又ハ紙裏ニ義務ヲ行フ可キ者ヲシテ其義務ノ釈放ヲ得セシメタルコトヲ知リ得可キ文詞ヲ附記シタル時ハ義務ヲ得可キ者其姓名及ヒ日附ヲ手記セスト雖トモ其義務ノ釈放ノ証トナス可シ
又義務ヲ得可キ者契約証書ノ副本又ハ義務ヲ得タル証書ノ副本ノ末尾又ハ欄外又ハ紙裏ニ同上ノ文詞ヲ附記シタル時義務ヲ行フ可キ者其副本ヲ所有スルニ於テハ亦前ニ記スル所ニ等シトス
第三節 符木(品物ノ売買ヲ為ス時両箇ノ木片ニ記号ヲ附シ其木片両箇ヲ合セ其記号ノ相符スルヲ以テ信ト為シ之ヲ簿冊ニ代用スル物)
第千三百三十三条 符木ノ両片互ニ符合スルモノハ平常此符木ヲ信拠ト為シテ物件ヲ零売【コウリ】スル者及ヒ受取ル者ノ間ニ証ト為ス可シ
第四節 証書ノ副本
第千三百三十四条 証書ノ正本現存スル時ハ其副本ニ記スル所ノ諸件中ニテ正本ト相符合スル事ノミヲ証ト為ス可シ但シ一方ノ者ハ他ノ一方ノ者ニ其正本ヲ検視セント要ムルコトヲ得可シ
第千三百三十五条 証書ノ正本既ニ現存セサル時ハ其副本ヲ以テ証ト為スニ付キ左ノ規則ニ循フ可シ
第一 最初正本ヨリ写シタル副本又ハ契約ノ如ク執行フ可キコトヲ附記シタル副本(第千二百八十三条見合セ)ハ正本ニ等シク証ト為ス可シ又其他ノ副本ト雖トモ契約ヲ結ヒシ双方ノ者ノ面前又ハ一方ノ者ヲ呼出シテ猶出席セサル上ニテ裁判役ノ命ニ因リ之ヲ記シタル時又ハ双方ノ者ノ面前ニテ其承諾ノ上之ヲ記シタル時ハ亦正本ニ等シク之ヲ証ト為ス可シ
第二 「ノテイル」ノ最初ニ写シタル副本ヲ渡シタル後嘗テ其正本ヲ記セシ「ノテイル」又ハ之ニ代リ任ヲ得タル「ノテイル」又ハ其他其正本ヲ預カル官吏別段裁判役ノ命ナク又契約ヲ結ヒシ双方ノ者ノ承諾ナク其正本ヨリ写シタル副本ハ其経旧ノモノタル時其失ヒタル正本ニ等シク之ヲ証トシテ用フルコトヲ得可シ
其副本ヲ記シタル日ヨリ三十年以上ノ時間ヲ経タル時ハ之ヲ経旧ノモノト為ス可シ
若シ其副本ヲ記シタルヨリ三十年ニ満タサル時ハ之ヲ証拠ノ端緒ノミニ用フ可シ
第三 若シ同上ノ副本嘗ヲ其正本ヲ記セシ「ノテイル」又ハ之ニ代リ任ヲ得タル「ノテイル」又ハ其正本ヲ預カル官吏ノ記シタルモノニ非サル時ハ其副本如何ニ経旧ノモノト雖トモ之ヲ証拠ノ端緒ノミニ用フ可シ
第四 副本ヨリ写シタル副本ハ其時ノ模様ニ従ヒ参考ノ為メ之ヲ用フルコトヲ得可シ
第千三百三十六条 証書ヲ官署ノ簿冊ニ登記シタル時ハ其簿冊ニ記スル所ヲ以テ証拠ノ端緒ノミト為ス可ク且是レカ為メニモ左ノ二件ノ備ハリタルコトヲ必要トス
第一 嘗テ其証書ノ正本ヲ記シタル一年内ニ「ノテイル」ノ記シタル諸般ノ証書ノ正本ヲ尽ク失ヒタルコトノ分明ナル事又ハ意料外ノ事ニ因リ特ニ其一箇ノ証書ノ正本ヲ失ヒタルノ証アル事
第二 其証書ノ正本ヲ記セシ「ノテイル」ノ目録(一年中其記スル所ノ諸般ノ証書ノ大意ヲ番号ヲ立テ記列スル書)アリテ其目録ニ因リ其証書ノ正本ヲ記シタル日附ハ本人ノ述フル所ノ日附ト相違セサルノ証ヲ知リ得可キ事
此二箇ノ模様ノ共ニ備ハリタルニ因リ官署ノ簿冊ニ登記シタル所ヲ以テ証拠ノ端緒ト為ス可キ時嘗テ其証書ノ正本ヲ記セシ時ノ証人猶生存スルニ於テハ之ヲ呼出シテ其申述ヲ聴聞スルコトヲ必要トス
第五節 義務ヲ認ムルノ書及ヒ義務ヲ確的ニ為スノ書
第千三百三十七条 義務ヲ認ムルノ書アリト雖トモ其義務ノ証書ノ正本ヲ出ササルコトヲ得ス但シ義務ヲ認ムル書ニ其義務ノ証書ノ文詞ヲ全ク記入シタル時ハ格別ナリトス義務ヲ認ムルノ書ニ義務ノ証書ノ正本ニ記スル所ノ外更ニ余事ヲ記シ又ハ其正本ト異ナリシ事ヲ記シタルト雖トモ此等ノ事ハ其効ナシトス
然トモ義務ヲ認ムル書ノ互ニ符合シタルモノ数通アリテ義務ヲ得可キ者既ニ其書ニ従ヒ義務ノ一部ノ執行ヲ得且其中ノ一通ヲ記シタルヨリ三十年以上ノ時間ヲ経タル時ハ其義務ヲ得可キ者其義務ノ証書ノ正本ヲ出スニ及ハサルノ允許ヲ受クルコトヲ得可シ
第千三百三十八条 法律上ニテ廃棄セントスル訴ヲ為シ得可キ義務ヲ確的ニ為スノ書ハ其義務ノ要領及ヒ之ヲ廃棄セントスル訴ノ生スル原由ト其原由タル条件ヲ更改ス可キノ意トヲ記載シタルニ非サレハ其効ナカル可シ
又義務ヲ確的ニ為スノ書ナシト雖トモ法ニ適シテ義務ヲ確的ニ為スヲ得可キ期限ノ後ニ至リ(幼年ノ者丁年ニ至リシ等ヲ云フ)其義務ヲ行フ可キ者ノ随意ニテ其義務ヲ行フタル時ハ其義務ヲ確的ニ為シタルノ証アリトス
法律上ニ定メタル法式ト期限トニ循ヒ義務ヲ確的ニ為シタル時又ハ義務ヲ行フ可キ者ノ随意ニテ其義務ヲ行フタル時ハ其義務ノ証書ヲ取消サント訴フルノ権ヲ放棄シタルト看做ス可シ但シ此規則ヲ以テ其契約ニ管セサル者ノ権利ヲ害スルコトナカル可シ
第千三百三十九条 生存中ノ贈遺ノ証書ニ法式ニ背キタル事アル時ハ之ヲ確的ニ為ス可キ書ヲ記スルト雖トモ其証書ノ効ヲ生セシムルコトヲ得ス必ス法律上ニ定メタル法式ヲ用ヒ更ニ改メテ贈遺ノ証書ヲ記スルコトヲ必要トス
第千三百四十条 生存中ノ贈遺ヲ為シタル者ノ遺物相続人及ヒ代権人其贈遺ヲ為シタル者ノ死去ノ後其贈遺ノ証書ヲ確的ニ為シタル時又ハ自己ノ随意ニテ其贈遺ノ如ク執行フタル時ハ其贈遺ノ証書ノ法式ニ背キタルコトヲ述ヘ又ハ其他ノ事故ヲ申述ヘテ其証書ヲ取消サント訴フルノ権ヲ放棄シタリト看做ス可シ
第二款 証人
第千三百四十一条 人ノ随意ニテ預ケタル物ト雖トモ百五十「フランク」以上ノ金高及ヒ物件ニ付テハ証人ヲ以テ証ヲ立ツ可カラス「ノテイル」ノ面前ニテ記シタル証書(公正ノ証書ヲ云フ)又ハ姓名ヲ手署シタル私ノ証書アルコトヲ必要トス又百五十「フランク」以下ノ金高及ヒ物件ニ管シタル時ト雖トモ其証書アルニ於テハ之ニ記シタル所ト異ナリシ事又ハ之ニ記シタル所ヨリ更ニ余分ノ事ハ証人ヲ以テ証ス可カラス又其証書ヲ記スル前、其証書ヲ記スル時、其証書ヲ記セシ後ニ言説シタルト云フ所ノ事モ亦証人ヲ以テ証ス可カラス
但シ此規則ヲ以テ商法ニ定ムル所ノ規則ヲ害スルコトナカル可シ
第千三百四十二条 元金ト其息銀トヲ求ムルノ訴ヲ為ス時其息銀ト元金トヲ合算シテ百五十「フランク」ノ高ニ過クルニ於テハ亦前条ノ如クタル可シ
第千三百四十三条 百五十「フランク」以上ノ高ヲ得ント訴ヘタル者ハ後ニ其訴フル所ノ高ヲ減スルト雖トモ証人ヲ以テ其証ヲ立ツルコトヲ得ス
第千三百四十四条 百五十「フランク」以下ノ高ヲ得ント訴フル時ト雖トモ其高ハ別段証書ヲ以テ証ヲ立テサル百五十「フランク」以上ノ高ノ残リ高タルコト又ハ其一部タルコトノ言渡アルニ於テハ証人ヲ以テ其証ヲ立ルコトヲ得ス
第千三百四十五条 証書ノ備ハラサル数箇ノ金高又ハ物件ヲ得ント訴フル者アル時其数箇ノ金高又ハ物件ヲ合算シテ百五十「フランク」以上ニ至ルニ於テハ縦令ヒ其数箇ノ金高又ハ物件ヲ求ムルノ権各々相異ナリタル原由ニ出テ且其権ノ生シタル時日互ニ異ナリタルコトヲ述フルト雖トモ証人ヲ以テ其証ヲ立ルコトヲ得ス但シ其数箇ノ金高又ハ物件ヲ求ムルノ権ヲ遺物相続又ハ贈遺又ハ其他ノ方法ニテ数人ヨリ譲リ受ケタル時ハ格別ナリトス
第千三百四十六条 証書ヲ以テ証ヲ立テサル数箇ノ条件ニ付テノ訴ハ其条件ノ名義如何ナルヲ問ハス一通ノ訴状ヲ以テ之ヲ為ス可シ但シ其訴状ヲ相手方ニ送リタル後ハ証書ヲ以テ証ヲ立テサル其他ノ条件ノ訴ヲ為スト雖トモ裁判所ニテ之ヲ許サス
第千三百四十七条 証拠ノ端緒アル時ハ前数条ニ記シタル規則ト異ナリトス
被告人又ハ其名代人ノ記シタル書面アリテ原告人ノ訴フル所正実ナル可シト思料スルヲ得可キ時ハ証拠ノ端緒アリトス
第千三百四十八条 義務ヲ得可キ者己レノ契約シタル義務ノ証書ヲ得ルコト能ハサルノ情実アリシ時ハ亦前数条ニ記スル所ノ規則ト異ナリトス(証人ヲ以テ証ヲ立ルコトヲ得可キヲ云フ)
此事ハ左ノ四件ニ通シテ用フ可シ
第一 「ガジヨントラー」(別ニ契約ヲ結フ事ナク人ノ随意ニテ為シタル事ヨリ義務ヲ生シタル約束ヲ云フ此篇第四巻ニ詳ナリ)又ハ故意ヲ以テ人ニ損害ヲ加ヘタル所行或ハ故意ニ非スシテ人ニ損害ヲ加ヘタル所行ヨリ生シタル義務アル時
第二 火災、崩潰、騒乱、破船等ノ場合ニ於テ止ムヲ得ス人ニ物ヲ預ケタル時又ハ旅舎ニ宿シタル旅客其物件ヲ預ケタル時
但シ此等ノ事ハ其人ノ模様ト其時ノ景状トニ従テ定ム可シ
第三 証書ヲ記シ能ハサル意外ノ事ニ因リ契約シタル義務ヲ得可キ時
第四 義務ヲ得可キ者抗拒ス可カラサル意外ノ事ニ因リ其証書ヲ失ヒタル時
第三款 思料ノ事
第千三百四十九条 思料トハ法律上ニ定ムル所ニ因リ又ハ裁判役ノ判断ニ因リ知リ得タル事ヨリ知リ得サル事ニ推シ及シテ思料スルコトヲ云フ
第一節 法律上ニ定メタル思料ノ事
第千三百五十条 法律上ニ定メタル思料トハ別段設ケタル法ニ因リ或ル証書又ハ或ル所為ニ付キ思料ヲ為ス事ヲ云フ但シ其証書及ヒ所為ハ左ニ記スル所ノモノナリトス
第一 証書ノ旨趣ニ因リ法律ニ背キタルコトヲ思料シ其効ナキ旨ヲ法律上ニ定ムル証書
第二 法律上ニ定メタル景況アルニ因リ物件所有ノ権アル事又ハ義務ノ釈放ヲ得タルコトヲ別段法律上ニ定ムル場合
第三 既ニ終審ノ裁判ヲ経タル事ノ力
第四 一方ノ者ノ自認又ハ其誓詞ノ力
第千三百五十一条 既ニ終審ノ裁判ヲ経タル事ノ力ハ其裁判ノ旨趣タル事ノミニ付キ備ハリタルモノトス但シ此レカ為メニハ一方ノ者ノ訴フル所ノ事既ニ終審ノ裁判ヲ経タル事ト同一ニシテ其訴ヲ為スノ原由及ヒ其訴ヲ為ス者モ亦以前ニ均シク且其原告ハ以前ノ原告ニシテ其被告ハ以前ノ被告タルコトヲ必要トス
第千三百五十二条 法律上ニテ権利ヲ有スルノ思料ヲ受クル者ハ其権利ノ証ヲ立ルニ及ハス
法律上ノ思料ニ因リ証書ノ効ナキ事又ハ訴訟ヲ為スヲ許ササル事ヲ法律上ニ定メタル時ハ其思料ニ反シタル証ヲ立ルコトヲ許サス但シ其思料ニ反シタル証ヲ立ルコトヲ得可キ旨ヲ別段法律上ニ定メタル時ハ格別ナリトス又誓詞又ハ自認ニ付テノ規則ハ亦例外ナリトス
第二節 法律上ニ定メサル思料ノ事
第千三百五十三条 法律上ニ定メサル思料トハ裁判役ノ知識ト思慮トニ因リ為ス所ヲ云フ但シ裁判役ハ重故アリテ詳明符合シタル思料ニ非サレハ之ヲ為ス可カラス又証人ヲ以テ証ヲ立ルコトヲ法律上ニ許シタル場合ニ非サレハ其思料ヲ為ス可カラス尤モ詐偽ヲ原由ト為シテ証書ヲ取消サント訴フル時ハ格別ナリトス
第四款 一方ノ者ノ自認
第千三百五十四条 一方ノ者ノ自認ハ裁判所外ニテ為スモノアリ又ハ裁判所ニ於テ為スモノアリ
第千三百五十五条 一方ノ者裁判所外ニテ言詞ノミヲ以テ自認ヲ為シタルコトヲ相手方ヨリ述フルト雖トモ証人ヲ以テ証ヲ立ルコトヲ許ササル訴ニ付テハ其効ナカル可シ
第千三百五十六条 裁判所ニ於テ為シタル自認トハ一方本人又ハ其本人ヨリ特ニ証書ヲ以テ任シタル名代人裁判所ニ於テ述フル所ヲ云フ
其自認ヲ為シタル者ニ対シテハ之ヲ以テ確証ナリトス
一方ノ者其義務ノ一部ヲ行ヒ他ノ一部ヲ行ハサル旨ヲ自認シタル時ハ相手方ノ者其義務ノ一部ヲ得タルハ虚ニシテ他ノ一部ヲ得サルハ実ナルコトヲ述フ可カラス
又一方ノ者自認シタル所ハ事実ノ錯誤ニ因リ之ヲ為シタルノ証アルニ非サレハ之ヲ取消ス可カラス○法律上ノ錯誤ヲ以テ口実ト為シ自認ヲ取消スコトヲ得ス
第五款 誓ノ事
第千三百五十七条 裁判所ニ於テ為ス所ノ誓ハ二様ナリトス
第一 誓ニ拠テ訴訟ノ審判ヲ為サシムル為メ一方ノ者ヨリ相手方ニ求メタル誓但シ此誓ヲ名ケテ訴訟審判ノ誓ト云フ
第二 裁判役其職務ニ因リ一方ノ者ニ命シタル誓
第一節 訴訟審判ノ誓
第千三百五十八条 訴訟審判ノ誓ハ何レノ訴訟ニ付テモ之ヲ為ス可キノ求メヲ為スコトヲ得可シ
第千三百五十九条 相手方ノ一身ニ管シタル事ニ非サレハ一方ヨリ誓ヲ為ス可キコトヲ求ムルヲ得ス
第千三百六十条 訴訟ヲ為スニ付テノ証拠ノ端緒又ハ訴訟ヲ拒ムニ付テノ証拠ノ端緒ナキ時ト雖トモ訴訟ヲ為ス間何レノ時ヲ問ハス誓ヲ為ス可キコトヲ求ムルヲ得可シ
第千三百六十一条 誓ヲ為ス可キノ求メヲ受ケシ者其誓ヲ為スコトヲ肯セサル時又ハ其求メヲ為シタル者ニ誓ヲ反シ求メサル時ハ其訴訟ヲ為スノ権又ハ訴訟ヲ拒ムノ権ヲ失フ可シ又誓ヲ為ス可キノ求メヲ為シタル者其相手方ヨリ誓ヲ反シ為ス可キノ求ヲ受ケ之ヲ肯セサル時ハ亦此等ノ権ヲ失フ可シ
第千三百六十二条 誓ヲ為スノ旨趣双方ノ者ニ管シタル事ニ非ラスシテ唯其誓ヲ為ス可キ求メヲ受ケシ者ノ一身ノミニ管シタル時ハ其者ヨリ其求メヲ為シタル者ニ誓ヲ反シ求ムルコトヲ得ス
第千三百六十三条 一方ノ者相手方ヨリ誓ヲ為ス可キノ求メヲ受ケ之ヲ為シタル時又ハ誓ヲ反シ為ス可キノ求メヲ受ケ之ヲ為シタル時ハ相手方ノ者其誓ノ偽タルコトヲ述フルヲ得ス
第千三百六十四条 一方ノ者相手方ニ誓ヲ為ス可キ求メヲ為シ又ハ誓ヲ反シ為ス可キ求メヲ為シタル時相手方其求メヲ承諾シタルニ於テハ一方ノ者翻辞ヲ為スコトヲ得ス
第千三百六十五条 誓ハ之ヲ為ス可キコトヲ求メタル本人又ハ其遺物相続人及ヒ代権人ノミノ利益或ハ損害トナルノ証トス可シ
連帯シテ義務ヲ得可キ者ノ中一人義務ヲ行フ可キ者ニ対シ誓ヲ為ス可キノ求メヲ為シ其義務ヲ行フ可キ者誓ヲ為シタル時ハ義務ヲ行フ可キ者義務ヲ得可キ者ノ中其一人ノ部分ノミニ付キ其釈放ヲ得可シ
主タル義務ヲ行フ可キ者ニ対シ誓ヲ為ス可キノ求メヲ為シ其者其誓ヲ為シタル時ハ其保証人モ亦其釈放ヲ得可シ
連帯シテ義務ヲ行フ可キ者ノ中一人ニ対シ誓ヲ為ス可キノ求メヲ為シ其一人其誓ヲ為シタル時ハ義務ヲ行フ可キ他ノ数人ノ利益トナル可シ
保証人ニ対シ誓ヲ為ス可キノ求メヲ為シ保証人其誓ヲ為シタル時ハ主タル義務ヲ行フ可キ者ノ利益トナル可シ
此条ノ第四項第五項ノ場合ニ於テ連帯シテ義務ヲ行フ可キ者ノ中一人及ヒ保証人連帯及ヒ保証ノ事ニ付キ誓ヲ為ス可キノ求メヲ受ケ義務ノ事ニ付キ其求メヲ受ケサル時ハ其誓ヲ以テ義務ヲ行フ可キ他ノ数人及ヒ主タル義務ヲ行ラ可キ者ノ為メ利益ヲ生ス可カラス
第二節 裁判役其職務ニ因リ命シタル誓
第千三百六十六条 裁判役ハ訴訟ノ判決ヲ為スニ付テノ一証トシテ一方ノ者ニ誓ヲ為スコトヲ命シ又ハ償還ノ高ヲ定ム可キカ為メ一方ノ者ニ誓ヲ為スコトヲ命スルヲ得可シ
第千三百六十七条 裁判役左ノ二箇ノ場合ニ非レハ訴訟又ハ其抵拒ニ付キ己レノ職務ヲ以テ誓ヲ為ス可キコトヲ命スルヲ得ス
第一 訴訟又ハ其抵拒ノ証全ク備リタルニ非サル時
第二 訴訟又ハ其抵拒ノ証全ク備ハラサルニ非サル時
此二箇ノ場合ノ外ハ裁判役誓ヲ命スルコトナク其訴訟又ハ其抵拒ノ申立ヲ全ク取上ケ又ハ取上ケサル可シ
第千三百六十八条 裁判役其職務ニ因リ一方ノ者ニ誓ヲ為ス可キコトヲ命シタル時ハ其者相手方ニ対シ誓ヲ反シ求ムルヲ得ス
第千三百六十九条 一方ノ者己レニ得ント訴ヘタル物件ノ価ニ付キ誓ニ非サル方法ヲ用ヒ証ヲ立ルコト能ハサル時ノ外裁判役其者ニ対シ誓ヲ為ス可キコトヲ命スルヲ得ス
又此場合ニ於テ裁判役ハ幾許ノ高ニ至ル迄訴人ノ誓ヲ以テ信拠ト為ス可キヤヲ定ム可シ
第四巻 契約ナクシテ生スル義務〔千八百四年第二月九日決定同月十九日布告〕
第千三百七十条 義務ノ中ニ之ヲ行フ可キ者モ之ヲ得可キ者モ契約ヲ為スコトナクシテ生スルモノアリ
此義務ハ法律上ニテ生スルモノアリ又ハ一方ノ者ノ所為ニ因リ生スルモノアリ
法律上ニテ生シタル義務トハ相隣シタル土地ノ所有者ノ間ノ義務又ハ後見人又ハ支配人等総テ己レノ任セラレタル職務ヲ行ハサルヲ得サル者ノ義務ノ如ク人ノ意ニ因ラスシテ生シタル義務ヲ云フ
一方ノ者ノ所為ニ因リ生スル所ノ義務ハ「カジコントラー」ヨリ生シ又ハ故意ヲ以テ人ニ損害ヲ加ヘタル所為或ハ故意ニ非スシテ人ニ損害ヲ加ヘタル所為ヨリシテ生ス但シ此類ノ義務ハ此巻ニ之ヲ説明ス
第一章 「カジコントラー」
第千三百七十一条 「カジコントラー」トハ人ノ随意ニテ行フタル所為ニ因リ他人ニ対シテ義務ヲ生シ又時トシテハ其所為ニ因リ双方ノ間ニ互ニ義務ヲ生スル事ヲ云フ
第千三百七十二条 人自己ノ随意ヲ以テ他人ノ事務ヲ管理スル時ハ他人其管理ノ事ヲ知ルト知ラサルトヲ問ハス其管理ヲ為ス者其為シ始メタル管理ヲ継続シテ為シ他人自カラ其事務ノ管理ヲ為スヲ得可キニ至ル迄其管理ヲ成就スルノ手続ヲ為ス可キ黙許ノ義務ヲ負フタリトス又其管理ヲ為ス者ハ其管理スル事務ニ附帯シタル諸事ヲモ引受ケサルヲ得ス
此管理ヲ為ス者ハ其本人ヨリ別段名代ノ証書ヲ受ケタルニ等シキ義務ヲ行フ可シ
第千三百七十三条 若シ本人其管理ノ事務ノ終成スル前ニ死去スルコトアリト雖トモ管理ヲ為ス者ハ其死者ノ遺物相続人管理ヲ為スコトヲ得可キニ至ル迄其管理ヲ継続シテ行ハサルヲ得ス
第千三百七十四条 管理ヲ為ス者ハ之ヲ為スニ付キ極メテ懇切ニ注意スルコトヲ必要トス
然トモ其事務ノ管理ヲ為シ始メタル時ノ情実ニ因リ裁判役管理ヲ為ス者ノ過失又ハ懈怠ノ償ヲ減少スルノ言渡ヲ為スコトヲ得可シ
第千三百七十五条 自己ノ随意ニテ他人ノ事務ヲ管理スル者適宜ニ之ヲ為シタル時ハ其者本人ノ名前ニテ人ト契約シタル義務ハ本人ヨリ尽クス可シ又其管理ヲ為シタル者其管理ノ為メ自己ニ担当シテ尽クシタル義務ハ本人ヨリ之ヲ其者ニ償ヒ且其者ノ為シタル有益ノ費用又ハ己ムコトヲ得サル費用モ亦本人ヨリ之ヲ其者ニ償フ可シ
第千三百七十六条 錯誤ニ因リ又ハ故意ヲ以テ己レノ得可カラサル物ヲ受取リタル者ハ其物ヲ渡シタル者ニ之ヲ還ス可シ
第千三百七十七条 錯誤ニ因リ自カラ義務ヲ行フ可シト思ヒ其義務ヲ尽クシタル時ハ其義務ヲ得タル者ニ対シ取戻ヲ訴フルノ権アリ
然トモ其義務ヲ得タル者之ヲ得タルニ因リ其証書ヲ破棄シタル後ハ誤テ義務ヲ尽クシタル者其義務ヲ得タル者ニ対シ取戻ヲ訴フルノ権ナク唯々当然其義務ヲ行フ可キ者ニ対シテ其償ヲ得ント訴フルコトヲ得可シ
第千三百七十八条 若シ前条ノ場合ニ於テ義務ヲ得タル者不正ノ事アル時ハ其者其得タル義務ノ元高ト之ヲ得タル日ヨリ以来ノ利分トヲ還ス可シ
第千三百七十九条 不当ニ有体ノ不動産又ハ動産ヲ受取リタル者ハ其不動産又ハ動産ノ現存スルニ於テハ其品物ノ侭之ヲ還ス可ク又其者ノ過失ニ因リ其不動産又ハ動産ヲ減シ尽サシメ或ハ卑悪ニ至ラシメタルニ於テハ其価ヲ還ス可シ但シ之ヲ受取ルニ付キ不正ノ処置ヲ為シタル時ハ縦令ヒ意外ノ事ニ因リ其物ヲ失フタリト雖トモ其者其責ヲ免ルルコトヲ得ス
第千三百八十条 不正ノ意ニ非スシテ錯テ物件ヲ収受シタル者其収受セシ物ヲ売払フタル時ハ其売払ニ因リ得タル所ノ価高ノミヲ還与ス可シ
第千三百八十一条 自己ノ所有物ノ返還ヲ得タル者ハ縦令ヒ不正ニ其物ヲ所得ト為シタル者ニ対スルト雖トモ其者之ヲ保全ス可キタメ為シタル所ノ已ムヲ得サル費用及ヒ有益ノ費用ヲ尽ク償フ可シ
第二章 故意ヲ以テ人ニ損害ヲ加ヘタル所行及ヒ故意ニ非スシテ人ニ損害ヲ加ヘタル所行
第千三百八十二条 何事ニ因ラス人ニ損害ヲ加フル所行ヲ為シタル時ハ其償ヲ為ス可シ
第千三百八十三条 如何ナル人ト雖トモ自己ノ所行ニ因リ人ニ加ヘタル損害ヲ償フ可キノ義務アルノミニ非ス自己ノ懈怠又ハ疎失ニ因リ人ニ加ヘタル損害モ亦之ヲ償フ可キノ義務アリ
第千三百八十四条 自己ノ所行ニ因リ人ニ加ヘタル損害ヲ償フ可キノ義務アルノミニ非ラス自己ノ引受ク可キ者又ハ自己ノ管守スル物(獣類等ヲ云フ)ノ所為ニ因リ人ニ加ヘタル損害モ亦之ヲ償フ可キノ義務アリ
故ニ父又父ノ死去シタル後ハ母ヨリ其同居ノ幼年ノ子ノ人ニ加ヘタル損害ヲ償フ可シ家長及ヒ人ヲ使用スル者ハ其僕婢及ヒ使用ヲ受クル者ノ其任ヲ受ケタル事ニ付キ人ニ加ヘタル損害ヲ償フ可シ
授業師及ヒ工作者ハ其受業者及ヒ工作ヲ学フ者己レノ管照ヲ受クル時間ニ人ニ加ヘタル損害ヲ償フ可シ
父及ヒ母又ハ授業師及ヒ工作者ハ其子又ハ弟子ノ人ニ損害ヲ加ヘシ所行ヲ防制スルコト能ハサルノ証ヲ立ルニ非レハ上ニ記スル所ノ如ク其償ヲ為ス可キノ責ヲ免ルルヲ得ス
第千三百八十五条 獣類ノ所有者又ハ獣類ヲ用フル者ハ之ヲ用フル時間ニ其獣類ヲ管守シタルト其徘徊逃逸シタルトヲ問ハス其獣類ノ人ニ加ヘタル損害ヲ償フ可シ
第千三百八十六条 家屋ノ所有者ハ之ヲ修理スルコトヲ怠リタルニ因リ又ハ之ヲ建造スル法ノ不当ナルニ因リ其家屋ノ崩潰シテ人ニ加ヘタル損害ヲ償フ可シ
第五巻 婚姻ノ契約書及ヒ夫婦双方ノ権〔千八百四年第二月十日決定同月廿日布告〕
第一章 総規則
第千三百八十七条 夫婦トナル可キ双方ノ間ニ別段ノ契約ナキ時ノ外ハ法律ヲ以テ夫婦ノ財産支配ノ方法ヲ規定スルコトナシ但シ夫婦ハ国ノ風俗ヲ乱ルコトナク且後ノ数条(第千三百八十八条以下第千三百九十八条迄ノ数条ヲ云フ)ニ記列スル所ノ規則ニ循フ時ハ其随意ノ契約ヲ取結フコトヲ得可シ
第千三百八十八条 夫其婦及ヒ其子ノ身ノ上ヲ指令スルニ付テノ権、夫ノ家長タルニ付キ有スル所ノ権、第一篇第九巻(親ノ権)及ヒ第十巻(幼年後見等ノ事)ニ循ヒ夫婦中ノ生存スル者ニ与フル所ノ権並ニ民法ニ於テ別段定メタル所ノ規則(第千三百九十九条第千四百五十三条等見合)ハ夫婦ノ契約ヲ以テ之ニ背クコトヲ得ス
第千三百八十九条 夫婦ハ其子又ハ卑属ノ親ヨリ遺物相続ヲ為スニ付キ双方ノ間ニ其当然ノ規則ヲ変易セントシ又ハ其数人ノ子ヲシテ自己ノ遺物相続ヲ為サシムルニ付キ其数人ノ間ニ遺物相続ノ当然ノ規則ヲ変易セントスルノ契約又ハ放棄ヲ為スコトヲ得ス但シ此条ニ記スル所ハ民法ニ定メタル場合ト法式トニ循ヒ為スコトヲ得可キ生存中ノ贈遺及ヒ遺嘱ノ贈遺ノ差支トナルコトナカル可シ(第千八十一条以下数条及ヒ第千九十一条以下数条見合)
第千三百九十条 夫婦ハ往時仏蘭西国中ノ各所ニ行ハレ方今此民法ヲ以テ廃シタル各地方ノ風習及ヒ法例ニ循ヒ婚姻ノ契約ヲ為ス可キ事ヲ泛博ニ定ムルヲ得ス
第千三百九十一条 〔千八百五十年第七月十日左ノ如ク改ム〕然トモ夫婦ハ財産共通ノ法又ハ嫁資分括ノ法ヲ以テ婚姻ヲ結フ可キ事ヲ泛博ニ定ムルヲ得可シ
財産共通ノ法ヲ用フル時ハ夫婦及ヒ其相続人ノ権ヲ此巻ノ第二章ニ循ヒ定ム可シ
嫁資分括ノ法ヲ用フル時ハ夫婦及ヒ其相続人ノ権ヲ此巻ノ第三章ニ循ヒ定ム可シ然トモ婚姻ノ証書ニ夫婦契約書ナクシテ婚姻ヲ結ヒシコトヲ記載シタル時ハ其婦他人ニ対シ平常ノ法(第千三百九十三条ニ見ユ)ニ循ヒ其夫ト婚姻ノ契約ヲ結ヒタルモノト為ス可シ但シ其婦他人ト結ヒシ契約ノ証書中ニ別段婚姻ノ契約書ヲ記シタル事ヲ記載シタル時ハ此例ニ非ス
第千三百九十二条 婦自カラ其財産ヲ嫁資ト為シ又ハ他人ヨリ其財産ヲ婦ノ嫁資ト為ス可キノ約束アルノミニテ別段婚姻ノ契約書ニ其財産ヲ嫁資分括ノ法ニ処置ス可キコトヲ登記セサル時ハ其財産ヲ此法ニ処置スルコトヲ得ス又夫婦其財産ヲ共通スルコトナク婚姻ヲ為シ又ハ互ニ其財産ヲ分ツテ婚姻ヲ為ス可キコトヲ述ベタルノミニテハ亦其財産ヲ嫁資分括ノ法ニ処置スルコトヲ得ス
第千三百九十三条 夫婦其財産ニ付キ共通ノ法ニ反シタル契約ヲ結ヒシ時又ハ其法ノ例外タル契約ヲ結ヒシ時ノ外ハ通常此巻ノ第二章ノ第一則ニ記スル規則ヲ以テ仏蘭西婚姻ノ定則ナリトス
第千三百九十四条 〔千八百五十年第七月十八日左ノ如ク改ム〕総テ婚姻ノ契約書ハ婚姻ヲ結フ前ニ「ノテール」之ヲ記ス可シ
「ノテール」ハ第千三百九十一条ノ末項ト此条ノ末項トヲ夫婦トナル可キ双方ノ者ニ読ミ聞ス可シ○其読ミ聞シタル事ハ之ヲ其契約書中ニ附記ス可シ若シ之ヲ附記セサル「ノテール」ハ十「フランク」ノ罰金ヲ言渡サル可シ
「ノテール」ハ夫婦双方共ニ婚姻ノ契約書ニ姓名ヲ手署シタル時己レノ姓名、住所及ヒ双方ノ者ノ姓名、身ノ上、住所並ニ其契約書ノ日附ヲ無印税ノ紙ニ記シタル受合書ヲ双方ノ者ニ渡ス可シ○其受合書ニハ双方ノ者婚姻ヲ行フ前ニ其書ヲ民生ノ官吏ニ渡ス可キ旨ヲ附記ス可シ
第千三百九十五条 婚姻ノ契約書ハ婚姻ヲ行フタル後ニ更改ス可カラス
第千三百九十六条 婚姻ヲ行フ前ニ其契約書ノ条件ヲ更改セントスル時ハ之ヲ為スコトヲ得可シ但シ此場合ニ於テハ其契約書ト同一ノ法式ヲ用ヒ記シタル所ノ証書ヲ以テ其更改ノ旨ヲ証明ス可シ
又其更改ノ証書又ハ秘密ノ証書(婚姻ノ契約書ヲ密カニ改メントスル私ノ証書ヲ云フ)ハ婚姻ノ契約書ニ管セシ者尽ク立会ノ上同時ニ之ヲ承諾シタルニ非レハ其効ナカル可シ
第千三百九十七条 総テ婚姻ノ契約書ヲ更改スル証書又ハ秘密ノ証書ハ縦令前条ニ記セシ規則ニ循フタルモノト雖トモ之ヲ婚姻契約書ノ正本ノ末ニ附記シタルニ非サレハ其契約書ニ管セサル者ニ対シ其効ナカル可シ又「ノテール」ハ更改ノ証書又ハ秘密ノ証書ヲ婚姻契約書ノ写ノ末ニ附記セスシテ之ヲ渡ス可カラス若シ之ニ背ク時ハ之レカ為メ損失ヲ受ケシ者ニ対シテ償ヲ出シ又別段ノ道理アル時ハ更ニ重キ罰ヲ言渡サル可シ
第千三百九十八条 婚姻ノ契約ヲ結フコトヲ得可キ幼者ハ其契約書ノ箇条ヲ承諾シテ之ヲ定ムルコトヲ得可シ但シ其幼者ノ定メタル契約及ヒ贈遺ハ其幼者ノ婚姻ヲ為スコトヲ許ス可キ権アル者之ヲ承諾シタル上ニ非サレハ其効ナカル可シ
第二章 夫婦財産共通ノ法
第千三百九十九条 夫婦財産ヲ共通スルコトハ法律上ヨリ生スルト契約ヨリ生スルトヲ問ハス民生ノ官吏ノ面前ニテ婚姻ヲ結ヒシ日ヨリ之ヲ始ム可ク他ノ期日ヨリ始ムルコトヲ約ス可カラス
第一 則法律上ヨリ生シタル財産共通ノ法
第千四百条 財産共通ノ法ヲ用ヒ婚姻ヲ結フ可キコトヲ述ヘタル時又ハ別段契約ノアラサル時ハ後ノ六款ニ記スル所ノ規則ニ循ヒ其財産ヲ共通ス可シ
第一款 共通財産ノ利得及ヒ負債
第一節 共通財産ノ利得
第千四百一条 共通財産ノ利得トナル可キ物ハ左ノ如シ
第一 夫婦婚姻ヲ行フタル日ニ其所有スル動産並ニ夫婦タル時間遺物相続又ハ贈遺ノ名義ヲ以テ夫婦ノ得タル動産ノ全部但シ其贈遺ヲ為ス者特ニ其贈遺シタル財産ヲ夫婦共通ノ財産中ニ入レサルコトヲ定メ置キタル時ハ格別ナリトス
第二 婚姻ヲ行フタル時夫婦ニ属スル財産ヨリ生スル利益、入額、息銀又ハ何レノ名義タルヲ問ハス夫婦タル間ニ得タル財産ヨリ生スル利益、入額、息銀、但シ其利益、入額、息銀ハ其種類ノ如何ナルヲ問ハス夫婦タル時間ニ得ル所ノモノニ限ル可シ
第三 夫婦タル時間ニ買ヒ入レタル不動産
第千四百二条 夫婦中ノ一人婚姻ヲ結フ以前ヨリ所有ト為シ又ハ法ニ循テ占有セシ証アル不動産又ハ婚姻ヲ結ヒシ後遺物相続或ハ贈遺ノ名義ヲ以テ得タル証アル不動産ヲ除クノ外如何ナル不動産ト雖トモ共通ノ財産中ニ入ル可キモノト為ス可シ
第千四百三条 森林ヨリ伐リタル木材又ハ石砿及ヒ其他ノ砿中ヨリ堀出シタル物ノ中第二篇第三巻(入額所得等ノ権)ニ記シタル規則ニ循ヒ物件入額ノ所得ナリト為ス可キ諸件ハ皆之ヲ共通ノ財産ニ属ス可シ
此規則ニ循ヒ財産ヲ共通スル時間ニ森林ヨリ伐リ出ス可キ木材アル時之ヲ伐リ出ササルニ於テハ夫婦中ニテ其森林ヲ所有セサル一方ノ者又ハ其相続人ニ他ノ一方ヨリ相当ノ償ヲ為ス可キノ義務アリ
又夫婦タル時間ニ石砿及ヒ其他ノ砿ヲ穿開シ其堀出シタル物ヲ共通ノ財産中ニ加入シタル時ハ後ニ共通ノ財産中ヨリ一方ノ者ニ相当ノ償還ヲ為ス可シ
第千四百四条 夫婦婚姻ヲ行フタル日ニ所有シタル不動産又ハ遺物相続ノ名義ニテ夫婦タル時間ニ得タル不動産ハ共通ノ財産中ニ属セサルモノトス
然トモ夫婦中ノ一人財産共通ヲ約シタル婚姻ノ契約書ヲ記セシ後未タ婚姻ヲ行ハサル前ニ不動産ヲ買入レタル時ハ其不動産ヲ共通ノ財産中ニ属ス可シ但シ婚姻ノ契約書ノ箇条ニ循ヒ其不動産ヲ買入レタル時ハ其契約ニ循ヒ其不動産ヲ取扱フ可シ
第千四百五条 夫婦タル時間ニ人ヨリ夫婦中ノ一人ニ贈遺トシテ与ヘタル不動産ハ之ヲ共通ノ財産中ニ属ス可カラス其贈遺ヲ受ケタル夫又ハ婦ノミニ属ス可シ但シ其不動産ヲ贈遺ト為シタル者之ヲ共通ノ財産中ニ属ス可キコトヲ別段定メタル時ハ格別ナリトス
第千四百六条 父母及ヒ其他尊属ノ親夫婦中ノ一人ニ対シ負フタル義務ヲ尽クス可キ為メ又ハ父母及ヒ其他尊属ノ親他人ニ対シ負フタル義務ヲ夫婦中ノ一人ヲシテ尽クサシム可キ為メ其一人ニ贈与シタル不動産ハ之ヲ共通ノ財産中ニ属ス可カラス但シ此等ノ手続ヲ為スニ付キ共通ノ財産中ヨリ費シタル所ハ夫婦中其贈遺ヲ受ケタル一方ノ者共通ノ財産中ニ之ヲ償フ可シ
第千四百七条 夫婦中ノ一人ニ嘗テ属シタル不動産ト交換ノ名義ヲ以テ夫婦タル時間ニ其一人ノ得タル不動産ハ之ヲ共通ノ財産中ニ加フ可カラス但シ其交換ヲ為スニ付キ共通ノ財産中ヨリ費シタル所ハ夫婦中其交換ヲ為シタル一方ノ者共通ノ財産中ニ之ヲ償フ可シ
第千四百八条 夫婦中ノ一人嘗テ他人ト共同シテ所有シタル不動産ノ一部ヲ糶売ニテ買入ルル名義又ハ其他ノ名義ニテ夫婦タル時間ニ買入レタル時ハ之ヲ共通ノ財産中ニ加フ可カラス但シ其不動産買入ニ付キ共通ノ財産中ヨリ費シタル所ハ夫婦中其買入ヲ為シタル一方ノ者共通ノ財産中ニ之ヲ償フ可シ
夫其一身ノ名前ニテ其婦ノ他人ト共同シテ所有シタル不動産ノ全部又ハ一部ヲ買入レタル時ハ後ニ夫婦財産ノ共通ヲ解除スル時ニ至リ婦其不動産ヲ嘗テ共通セシ財産中ニ加ヘ置クコトヲ承諾シ又ハ其不動産買入ノ代金ヲ共通ノ財産中ニ償フテ之ヲ引取ルコト自由タル可シ但シ婦其不動産ヲ共通ノ財産中ニ加ヘ置クコトヲ承諾シタル時ハ其不動産ノ価中ニテ婦ニ属ス可キ其一部ヲ共通ノ財産中ヨリ其婦ニ償フ可シ
第二節 共通財産ノ負債及ヒ其負債ニ付キ受ク可キ訴訟
第千四百九条 共通財産ノ負債トナル可キ物ハ左ノ如シ
第一 夫婦其婚姻ヲ行フタル日ニ負フタル動産ノ債及ヒ夫婦タル時間其夫婦人ヨリ遺物相続ヲ為スニ付キ担当ス可キ動産ノ債但シ夫婦中ノ一方ノミニ属スル不動産ヲ嘗テ買入レタルニ付テノ負債ハ縦令動産タリト雖トモ後ニ其一方ノ者ヨリ共通ノ財産中ニ之ヲ償フ可シ
第二 夫婦財産ヲ共通スル時間夫ノ契約シテ負フタル債又ハ夫ノ承諾ヲ以テ其婦ノ契約シテ負フタル債ノ元金及ヒ息銀但シ夫婦中ノ一方ヨリ其債ヲ共通ノ財産中ニ償フ可キ道理アル時ハ之ヲ償フ可シ(第千四百三十七条見合セ)
第三 夫又ハ婦ノ一身ノミニ管シテ負フタル債ノ息銀
第四 共通ノ財産中ニ属セサル不動産ヲ修理スルニ付キ其入額ヲ所得ト為ス者ノ当然担当ス可キ費用
第五 夫婦ノ飲食料、其子ノ教育料及ヒ其他婚姻ノ間ノ諸費
第千四百十条 婚姻ヲ結ヒシ前ニ婦ノ負フタル動産ノ債ヲ其婚姻ヲ結ヒシ前ニ記シタル公正ノ証書ヲ以テ証シタル時又ハ其負債ノ証書公正ノモノニ非スト雖トモ之ヲ官署ノ簿冊ニ登記シ或ハ之ニ姓名ヲ手署シタル者一人又ハ数人ノ死去シタルニ因リ婚姻ヲ結フ前ニ其証書ヲ記シタル日附ノ確定シタル時ノ外総テ共通ノ財産ヲ以テ其負債ヲ担当スルニ及ハス
又婚姻ヲ結ヒシ前ニ負フタル債ノ契約証書ノ日附確定セサル時ハ其証書ニ拠リ婦ヨリ其債ノ償ヲ得ントスル者其婦ノ一身ニ属スル不動産所有ノ権ノミヲ以テ其償ニ充ント訴フルコトヲ得可シ
若シ又夫其婦ノ為メ此類ノ負債ヲ自カラ償ヒタリト述フル時ハ後ニ其婦又ハ婦ノ相続人ニ対シテ其償ヲ得ント訴フルコトヲ得ス
第千四百十一条 夫婦タル時間夫婦中ノ一方ノ者人ヨリ相続シタル動産ノ負債ハ共通ノ財産ヲ以テ尽ク之ヲ担当ス可シ
第千四百十二条 夫婦タル時間夫婦中ノ一方ノ者人ヨリ相続シタル不動産ニ付キ担当ス可キ負債ハ共通ノ財産ヲ以テ之ヲ担当スルニ及ハス唯々其債主ハ夫婦中其一方ノ相続シタル不動産所有ノ権ヲ以テ其償ニ充ント訴フルコトヲ得可シ
然トモ夫其不動産ヲ人ヨリ相続シタル時ハ其不動産ニ付テノ債主夫ノ一身ニ属スル諸般ノ財産所有ノ権並ニ其入額所得ノ権ヲ以テ其債ノ償ニ充ント訴ヘ又然ノミナラス共通ノ財産ヲ以テ其償ニ充ント訴フルコトヲ得可シ但シ共通ノ財産ヲ以テ夫ノ債ヲ償フタル時ハ夫ヨリ其婦又ハ婦ノ相続人ニ対シテ其償ヲ為ス可キノ義務アリ
第千四百十三条 婦其夫ノ承諾ヲ得テ人ヨリ不動産ヲ相続シタル時ハ其不動産ニ付テノ債主其婦ノ一身ニ属スル諸般ノ財産所有ノ権並ニ其入額所得ノ権ヲ以テ其債ノ償ニ充ント訴フルコトヲ得可シ然トモ婦其夫ノ承諾ヲ得ルコトナク裁判所ノ允許ノミヲ以テ人ヨリ不動産ヲ相続シタル時ハ其不動産ニ付テノ債主其不動産ヲ得タルノミニテ尚ホ其債ノ償ヲ得ルニ足ラサル時其婦ノ一身ニ属スル他ノ財産所有ノ権ノミヲ以テ其償ニ充ント訴フルコトヲ得可ク其入額所得ノ権ヲ以テ其償ニ充ント訴フ可カラス
第千四百十四条 夫婦中一方ノ者人ヨリ相続シタル財産ノ一部ハ動産ニシテ一部ハ不動産ナル時其相続シタル財産ニ付キ担当ス可キ負債アルニ於テハ其動産ノ価ト不動産ノ価トヲ比較シ其負債中ニテ動産ニ管シタル部分ハ之ヲ共通ノ財産ヲ以テ担当シ其余ハ其相続ヲ為シタル夫又ハ婦ノ一身ニ之ヲ担当ス可シ
此負債中ニテ動産ニ管シタル部分ハ遺物財産ノ目録ヲ以テ之ヲ定ム可シ但シ夫自カラ人ヨリ相続ヲ為ス時ハ自己ノ権利ニ因リ其目録ヲ記セシメ又其婦人ヨリ相続ヲ為ス時ハ夫其管理ヲ為シテ之ヲ記セシム可シ
第千四百十五条 目録ナキニ因リ婦ノ為メニ損害ヲ生シタル時ハ婦又ハ其相続人財産ノ共通ヲ解除スル時ニ至リ其夫ニ対シテ其損害ノ償ヲ得ント訴フルコトヲ得可ク且目録ヲ記セサル動産アリテ其価ノ幾許ナルヤヲ証ス可キ為メニハ証人又ハ家内ノ証書類又已ムヲ得サルニ於テハ人ノ通知スル評説ヲ以テ其証ト為スコトヲ得可シ
夫ニ於テハ此等ノ方法ヲ以テ其証ヲ立ルコトヲ得ス
第千四百十六条 第千四百十四条ノ規則アリト雖トモ夫ノ人ヨリ相続シタルト婦其夫ノ承諾ヲ得テ人ヨリ相続シタルトヲ問ハス其相続シタル財産ノ一部ハ動産ニシテ一部ハ不動産タル時ハ其遺物財産ニ付テノ債主夫婦共通ノ財産ヲ以テ其債ノ償ニ充ント訴フルノ差支トナルコトナカル可シ但シ此等ノ場合ニ於テハ夫又ハ婦ヨリ共通ノ財産中ニ其償ヲ為ス可キノ義務アリ
又婦裁判所ノ允許ヲ得タルノミニテ人ヨリ相続ヲ為シタル時ト雖トモ夫預シメ目録ヲ記セサルニ因リ其遺物ノ動産ト共通ノ財産中ノ動産ト相混シタルニ於テハ亦前ニ記スル所ニ等シトス
第千四百十七条 夫其婦ノ人ヨリ遺物相続ヲ為スコトヲ承諾セス其婦裁判所ノ允許ヲ得テ其遺物相続ヲ為シタル時其遺物動産ノ目録アルニ於テハ其遺物財産ニ付テノ債主其遺物ノ不動産及ヒ動産ヲ以テ其債ノ償ニ充ントスルコトヲ要メ若シ其不動産及ヒ動産ヲ以テ其償ヲ得ルニ足ラサル時ハ婦ノ一身ニ属スル他ノ財産所有ノ権ノミヲ以テ其償ニ充ント要ムルコトヲ得可シ
第千四百十八条 遺物相続ヲ為スニ因リ担当ス可キ負債ニ付キ第千四百十一条以下ノ数条ニ定メタル規則ハ贈遺ノ財産ニ付キ担当ス可キ負債ニモ亦通シテ用フ可シ
第千四百十九条 婦其夫ノ承諾ヲ得タル上ニテ人ヨリ債ヲ負フタル時ハ其債主夫又ハ婦ノ財産ト共通ノ財産トヲ以テ其債ノ償ニ充ント要ムルコトヲ得可シ但シ此場合ニ於テハ婦ヨリ共通ノ財産中ニ其償ヲ為シ且夫ニ其償ヲ為ス可シ
第千四百二十条 婦其夫ノ名代人タルノ権アリテ負フタル債ハ共通ノ財産ヲ以テ其償ニ充ツ可シ但シ其債主ハ其婦ニ対シ其一身ノ財産ヲ以テ其償ニ充テシム可キコトヲ要ム可カラス
第二款 共通ノ財産ヲ支配スル事及ヒ夫又ハ婦ノ記シタル証書ノ効
第千四百二十一条 夫ハ一人ニテ共通ノ財産ヲ支配ス可シ
夫ハ其婦ノ承諾ヲ得スシテ共通ノ財産ヲ売払ヒ又ハ「イポテーク」ト為スコトヲ得可シ
第千四百二十二条 夫ハ其婦トノ間ニ挙ケタル子ニ産業ヲ定メシムル為メノ外償ヲ得スシテ共通ノ不動産ヲ生存中ノ贈遺ト為スコトヲ得ス又償ヲ得スシテ其動産ノ全部又ハ一部ヲ生存中ノ贈遺ト為スコトヲ得ス
然トモ夫ハ如何ナル人ノ為メト雖トモ共通ノ動産中ノ別段指定メタル品物ヲ償ヲ得スシテ贈遺スルコトヲ得可シ但シ此場合ニ於テハ夫其贈与シタル動産ノ入額所得ノ権ヲ己レニ保有スルコトヲ得ス
第千四百二十三条 夫ノ為ス所ノ遺嘱ノ贈遺ハ共通ノ財産中ニテ其得可キ部分ニ過クルコトヲ得ス
夫共通ノ財産中ノ物件ヲ遺嘱ノ贈遺ト為シ人ニ贈与シタルト雖トモ後ニ共通ノ財産ヲ分派スル時ニ其贈遺ト為シタル物件夫ノ相続人ノ得タル部分中ニ入リタルニ非レハ其贈遺ヲ受クル者之ヲ品物ノ侭得ント求ムルコトヲ得ス又其贈遺ト為シタル物件夫ノ相続人ノ得タル部分中ニ入ラサル時ハ其贈遺ヲ受クル者共通ノ財産中ニテ夫ノ相続人ノ得ル所ノ部分及ヒ夫ノ一身ニ属スル財産ノ部分中ヨリ其贈遺トシテ受ク可キ物件ノ代金ヲ得可シ
第千四百二十四条 准死ニ至ラサル罪犯ノ為メ夫ノ出ス可キ罰金ハ共通ノ財産中ヨリ之ヲ償ヒ後ニ夫ヨリ其婦ニ対シテ其償ヲ為ス可シ又婦ノ出ス可キ罰金ハ夫婦互ニ其財産ヲ共通スル間其婦ノ一身ニ属スル財産所有ノ権ノミヲ以テ其償ニ充テシムルコトヲ得可シ
第千四百二十五条 准死ニ至ル可キ罪犯ノ為メ夫婦中一方ノ者刑ノ言渡ヲ受クル時ハ共通ノ財産中ニテ其者ノ得可キ部分並ニ其者ノ一身ニ属スル財産ノミヲ以テ其償ニ充ツ可シ
第千四百二十六条 夫ノ承諾ヲ得スシテ其婦ノ記シタル証書ノ契約ハ其婦公ケノ商賈ニシテ其商業ノタメ為シタル時ノ外縦令裁判所ノ允許ヲ得タルト雖トモ共通ノ財産ヲ以テ其償ニ充ツ可カラス
第千四百二十七条 婦ハ其夫ヲ獄舎中ヨリ出サシム可キ為メ又ハ夫ノ失踪ノ時其子ノ産業ヲ定メシム可キ為メト雖トモ別段裁判所ヨリノ允許ヲ得タル上ニ非サレハ共通ノ財産ヲ人ニ賃貸シ又ハ「イポテーク」ト為シ又ハ売払フコトヲ得ス
第千四百二十八条 夫ハ婦ノ一身ニ属スル財産ノ全部ヲ支配スルノ権アリ
夫ハ其婦ニ属スル動産ニ付テノ訴訟及ヒ不動産占有ノ権ニ付テノ訴訟ヲ総テ一人ニテ為スコトヲ得可シ
夫ハ其婦ノ一身ニ属スル不動産ヲ婦ノ承諾ヲ得スシテ売払ヒ又ハ贈与スルコトヲ得ス夫其婦ノ財産ヲ保全ス可キ処置ヲ為ササルニ因リ其財産ノ損壊シタル時ハ自カラ其責ニ任ス可シ
第千四百二十九条 夫一人ニテ其婦ノ不動産ヲ九年以上ノ期限間人ニ賃貸スルノ契約ヲ為シ置キ後ニ財産ノ共通ヲ解除スル時ニ至リ其最初ノ九年ノ期限ニ猶残期アルニ於テハ其婦又ハ其遺物相続人其残期ノ間ノミ其契約ヲ循守ス可シ但シ此財産貸渡ノ第二次ノ期限又ハ第三次第四次等ノ期限ニ於テモ皆之ニ倣フ可シ故ニ其不動産ノ賃借人ハ当時ノ九年ノ期限間ノミ之ヲ借受クルノ権アリトス
第千四百三十条 夫一人ニテ其婦ノ所有スル土地ヲ人ニ賃貸セシ当時ノ期限ノ終ル時ヨリ三年以上前ニ又其婦ノ所有スル家屋ヲ人ニ賃貸セシ当時ノ期限ノ終ル時ヨリ二年以上前ニ九年以下ノ期限ヲ以テ更ニ改メテ其土地又ハ家屋ヲ貸与フ可キノ契約ヲ為シタルト雖トモ財産ノ共通ヲ解除スル前ニ既ニ其賃貸ノ契約ノ如ク執行フコトヲ始メタル時ニ非サレハ其契約ノ効ナカル可シ
第千四百三十一条 共通ノ財産ノ事務ニ付キ又ハ夫ノ事務ニ付キ夫ト連帯シテ債ヲ負フタル婦ハ其夫ニ対シテ唯其債ノ保証人ナリト看做ス可シ但シ婦其債ヲ払フタル時ハ夫ヨリ其償ヲ得可キノ権アリ
第千四百三十二条 婦其一身ニ属スル不動産ヲ売払フタル時夫其婦ト連帯シ又ハ其他ノ方法ヲ以テ売払ノ保証人(第千六百二十六条見合)タル時其買入人ノ損失ヲ償フコトアルニ於テハ共通ノ財産中ニテ婦ノ得可キ部分又ハ婦ノ一身ニ属スル財産ヲ以テ其償ヲ得ント其婦ニ対シテ訴フルコトヲ得可シ
第千四百三十三条 夫婦中一方ノ者ニ属スル不動産ヲ売払ヒ又ハ夫婦中一方ノ者ニ属スル不動産ニ付キ其得可キ土地ノ義務ヲ釈放シ人ヨリ金高ヲ得テ其金高ヲ共通ノ財産中ニ加入シ其金高ヲ利益トナル可キ方法ニ再ヒ用フルコトナキ時ハ其売払フタル不動産又ハ土地ノ権利ヲ有セシ夫又ハ婦後ニ共通ノ財産中ヨリ其金高ヲ己レニ取戻ス可キノ権アリ
第千四百三十四条 夫財産ヲ買入ルル時嘗テ自己ノ一身ニ属セシ不動産ヲ売払ヒ其得タル所ノ代金ヲ利益トナル可キ方法ニ再ヒ用フ可キカ為メ其代金ヲ以テ其財産ヲ買入レシ旨ヲ述フルニ於テハ其金高ヲ利益トナル可キ方法ニ再ヒ用ヒタルト看做ス可シ
第千四百三十五条 又婦ノ不動産ヲ売払フテ得タル代金ヲ其婦ノ利益トナル可キ方法ニ再ヒ用フ可キカ為メ更ニ財産ヲ買入レタル旨ヲ夫ヨリ申述フルト雖トモ婦其財産買入ノ事ヲ明カニ承諾シタルニ非サレハ夫其金高ヲ婦ノ利益トナル可キ方法ニ再ヒ用ヒタリト為ス可カラス但シ婦其買入レノ事ヲ承諾セサル時ハ其婦財産ノ共通ヲ解除スル時ニ至リ其嘗テ売払フタル自己ノ不動産代金ノ償ヲ得ルノ権アリ
第千四百三十六条 夫ニ属スル不動産代金ノ償ハ共通財産ノ合部中ノミヨリ之ヲ得可ク又婦ニ属スル不動産代金ノ償ハ先ツ共通ノ財産中ヨリ之ヲ得又其財産ノ足ラサル時ハ夫ノ一身ニ属スル財産中ヨリ之ヲ得可シ○何レノ場合ニ於テモ夫又ハ婦売払フタル不動産ノ価ニ付キ如何ナル申述ヘヲ為スヲ問ハス其売払ノ価ニ従テ其償ヲ為ス可シ
第千四百三十七条 夫婦中一方ノ者嘗テ人ヨリ買入レタル不動産ノ全価或ハ其価ノ一部ヲ払フ為メ又ハ人ヨリ土地ノ義務ノ釈放ヲ得ル為メノ如ク総テ其一方ノ者ノ一身ニ負フタル債ヲ償フニ付キ又ハ其一方ノ者ノ一身ニ属シタル財産ヲ人ヨリ取戻シ又ハ之ヲ保全シ又ハ之ヲ良好ニ為スニ付キ共通ノ財産中ヨリ金高ヲ取用ヒタル時又ハ其他総テ夫婦中一方ノ者其一身ノミノ利益ノ為メ共通ノ財産ヲ用ヒタル時ハ其一方ノ者共通ノ財産中ニ其償ヲ為ス可シ
第千四百三十八条 夫婦連合シテ其子ニ嫁資ヲ贈与シ其贈与ス可キ部分ヲ別段各自ニ定メサル時ハ共通ノ財産ヲ以テ既ニ其嫁資ヲ贈与シ又ハ贈与ス可キノ約ヲ為シタルト其夫婦中一方ノ者ノ一身ニ属スル財産ヲ以テ既ニ其嫁資ヲ贈与シ又ハ贈与ス可キノ約ヲ為シタルトヲ問ハス夫婦各々其嫁資ノ半ハヲ贈与シタルト為ス可シ
夫婦中一方ノ者ノ一身ニ属スル財産ヲ以テ其子ニ嫁資ヲ贈与シタル時ハ自己ノ不動産又ハ動産ヲ嫁資トシテ贈与セシ一方ノ者他ノ一方ノ財産中ヨリ其嫁資ノ半ノ償ヲ得可キ訴ヲ為スノ権アリ但シ其償ヲ得ント為スニ付テハ其嫁資ヲ贈与シタル時ノ価ニ従フ可シ
第千四百三十九条 夫一人ニテ共通ノ財産ヲ其婦トノ間ニ挙ケシ子ニ嫁資トシテ贈与セント約シタル時ハ共通ノ財産ヲ以テ其嫁資ノ贈与ニ充ツ可シ此場合ニ於テ財産ノ共通ヲ解除シタル後婦其共通ノ財産ヲ受クルコトヲ肯シタル時ハ其婦其嫁資ノ半ヲ己レニ担当ス可シ但シ夫其子ニ贈与スル嫁資ノ全部又ハ其半以上ヲ己レニ担当ス可キ事ヲ別段定メ置キタル時ハ格別ナリトス
第千四百四十条 己レノ子ニ嫁資ヲ贈与ス可キ者ハ其嫁資ニ付キ他人ヨリ訴訟ノ起ルコトナキノ保証ヲ為ス可ク且其嫁資ヲ渡ス可キ期限ヲ別段定メタルト雖トモ其子ノ婚姻ヲ結フニ至リ猶之ヲ渡ササル時ハ其日ヨリ以来ノ息銀ヲ渡ス可シ但シ之ニ反シタル契約アル時ハ格別ナリトス
第三款 財産ノ共通ヲ解除スル事及ヒ其解除ヨリ生スル条件
第千四百四十一条 財産ノ共通ハ左ノ場合ニ於テ解除ス可シ
第一 死去
第二 准死
第三 離婚
第四 夫婦居ヲ分ツ事
第五 夫婦財産ヲ分ツ事
第千四百四十二条 夫婦中一方ノ者死去シ又ハ准死ヲ受ケタル後ハ共通財産ノ目録ヲ記スルコトナシト雖トモ財産ノ共通ヲ継続ス可カラス但シ其共通ノ財産ニ管係アル者ハ証書又ハ人ノ通知スル評説ヲ以テ証ト為シ共通財産中ニ云々ノ物件アリシコトヲ訴フルヲ得可シ
幼年ノ子アル時夫婦中ノ後ニ生存スル者共通財産ノ目録ヲ記セサルニ於テハ其子ノ入額ヲ所得ト為スノ権ヲ失フ可シ又其幼者ノ後見人(父母中ノ一方ノ者ヲ云フ)ノ監察者夫婦中ノ後ニ生存スル者ヲシテ其目録ヲ記セシメサル時ハ其監察者後ニ生存シタル夫又ハ婦ト連帯シテ幼者ニ償ヲ為ス可キノ言渡ヲ受ク可シ
第千四百四十三条 夫婦財産ヲ分ツ事ハ夫ノ産業ノ衰敗セシニ因リ夫ノ一身ノ財産ヲ以テ婦其嫁資ヲ取戻スニ足ラサルノ恐アル時其婦ヨリ之ヲ裁判所ニ訴出スコトヲ得可シ夫婦随意ニテ財産ヲ分チタル時ハ其効ナカル可シ
第千四百四十四条 裁判所ヨリ夫婦財産ヲ分ツ可キコトヲ言渡シタルト雖トモ夫ノ財産ヲ以テ現ニ婦ノ嫁資ヲ返還スルニ充テ且其旨ヲ公正ノ証書ニ記シタル時又ハ裁判所ノ言渡ヨリ十五日内ニ其言渡ノ如ク執行フ可キ手続ヲ為シ始メ其後継続シテ其手続ヲ為シタル時ニ非レハ其財産ヲ分チタルノ効ナカル可シ
第千四百四十五条 夫婦財産ヲ分ツ事ハ之ヲ執行フ以前下等裁判所ノ公室ニ別段設ケ置キタル県帖ニ其事ヲ記シテ之ヲ公ケニ為ス可ク且夫商賈又ハ銀舗【バンク】主タル時ハ更ニ其住所ノ商法裁判所ノ公室ニ設ケ置キタル県帖ニモ亦其事ヲ記シテ之ヲ公ケニ為ス可シ但シ此等ノ事ヲ為ササル時ハ財産ヲ分ツ事ノ効ナカル可シ
財産ヲ分ツ可キ裁判言渡ノ効ハ其事ヲ訴出シタル日ヨリ生ス可シ
第千四百四十六条 婦ノ債主ハ其婦ノ承諾ヲ得スシテ夫婦ノ財産ヲ分ツ可キ事ヲ訴ヘ出スヲ得ス
然トモ夫ノ家資分散ヲ為シタル時又ハ其産業ヲ破リタル時ハ其婦ノ債主其債ノ額ニ至ル迄其婦ニ代リテ其権利ヲ行フコトヲ得可シ
第千四百四十七条 夫其債主ノ権ヲ害センカ為メ裁判所ヨリ夫婦財産ヲ分ツ可キノ言渡ヲ得タル時又ハ既ニ其言渡ノ如ク執行ヒ始メタル時ト雖トモ債主其言渡ノ執行ヲ止メシムルコトヲ訴フルヲ得可シ又其債主ハ財産ヲ分タントスル訴訟ニ管渉シテ之ヲ争フコトヲ得可シ
第千四百四十八条 夫ト財産ヲ分ツコトヲ得タル婦ハ己レノ家産ト夫ノ家産トニ准シテ其夫婦ノ間ニ生レシ子ノ養育ノ費用ト家事ノ費用トヲ出合ス可シ
若シ夫全ク其財産ヲ有セサル時ハ其婦此等ノ費用ヲ尽ク担当ス可シ
第千四百四十九条 夫ト住居及ヒ財産ヲ分チタル婦又ハ財産ノミヲ分チタル婦ハ自カラ自由ニ其財産ヲ支配スルノ権ヲ復ス可シ○其婦ハ自己ノ動産ヲ人ニ贈与シ又ハ売払フコトヲ得可シ
其婦ハ夫ノ承諾ヲ得タル上ニ非サレハ自己ノ不動産ヲ人ニ贈与シ又ハ売払フコトヲ得ス又夫ノ其事ヲ承諾セサル時ハ裁判所ノ允許ヲ得タル上ニ非サレハ其不動産ヲ贈与シ又ハ売払フコトヲ得ス
第千四百五十条 夫ト財産ヲ分チタル婦裁判所ヨリ允許ヲ得テ自カラ売払ヒシ不動産ノ代金ヲ其利益トナル可キ方法ニ用ヒス又ハ其代金ヲ以テ更ニ他ノ不動産ヲ買入レスト雖トモ夫其責ニ任スルコトナカル可シ但シ夫其婦ノ不動産売払ノ契約ニ加ハリタル時又ハ其代金ヲ己レニ受取リ又ハ己レノ利益ト為シタルノ証アル時ハ格別ナリトス
若シ婦其夫ノ面前ニテ其承諾ヲ得タル上自己ノ不動産ヲ売払フタル時夫其代金ヲ利益トナル可キ方法ニ用ヒス又ハ更ニ他ノ不動産ヲ買入レサルニ於テハ其責ニ任ス可シ但シ其代金ヲ利益トナル可キ方法ニ用ヒタル時ハ現ニ其利益ノ生スルコトナシト雖トモ夫其責ニ任スルコトナカル可シ
第千四百五十一条 夫婦住居ト財産トヲ分チ又ハ財産ノミヲ分チタルニ因リ財産ノ共通ヲ解除シタルト雖トモ其双方ノ承諾ヲ以テ再ヒ其共通ヲ復スルコトヲ得可シ
一度解除シタル財産ノ共通ヲ復サントスルニハ「ノテール」ノ面前ニ於テ証書ヲ記シ其証書ノ正本ヲ取リ置キ且第千四百四十五条ノ法式ヲ以テ其旨ヲ県帖ニ記シテ公ケニ為ス可シ
此ノ如ク財産ノ共通ヲ復シタル時ハ婚姻ノ日ヨリ以来ノ其効ヲ再ヒ生セシメ嘗テ其財産ヲ分チシコトナキト同様ノ景状ニ為ス可シ但シ此規則ト嘗テ財産ヲ分チタル時間ニ第千四百四十九条ニ記スル所ニ循ヒ婦ノ記シタル証書ノ如ク執行フ可キ規則ト相触ルルコトナカル可シ
夫婦一度解除シタル財産ノ共通ヲ復サントスル時嘗テ其財産ヲ共通セシ時定メタル方法ト異ナリシ方法ヲ用ヒ之ヲ共通セントスルノ契約ハ其効ナカル可シ
第千四百五十二条 離婚シタル事又ハ住居ト財産トヲ分チタル事又ハ財産ノミヲ分チタル事ニ因リ其財産ノ共通ヲ解除シタル時ハ婦其夫ヨリ後ニ生存スル時得可キ権ヲ行フコトヲ得ス然トモ夫ノ死去又ハ准死ニ因リ財産ノ共通ヲ解除シタル時ハ婦同上ノ権ヲ行フコトヲ得可シ
第四款 婦共通ノ財産ヲ受クルヲ肯スル事及ヒ肯セサル事並ニ其事ニ管シタル必要ノ条件
第千四百五十三条 夫婦財産ノ共通ヲ解除シタル後婦又ハ其遺物相続人及ヒ代権人其財産ヲ受クルコトヲ肯シ又ハ之ヲ肯セサル事自由ナリトス但シ之ニ反シタル契約ハ皆其効ナカル可シ
第千四百五十四条 婦従来其夫ト共通セシ財産ノ事ニ管渉シタル時ハ其財産ヲ受クルコトヲ肯セサルヲ得ス
婦其共通セシ財産ヲ支配シ又ハ保全スルノミノ所置ヲ為シタル時ハ其財産ノ事ニ管渉シタルモノト為ス可カラス(第七百七十八条第七百七十九条見合セ)
第千四百五十五条 丁年ノ婦其記シタル証書中ニ共通ノ財産ヲ受クルコトヲ肯シタル旨ヲ記セシ時ハ其財産ノ目録ヲ記スル前ニ其証書ヲ記シタルト雖トモ其財産ヲ受クルコトヲ肯セサルコトヲ得ス但シ夫ノ遺物相続人ニ詐偽アル時ハ格別ナリトス
第千四百五十六条 夫ヨリ後ニ生存スル婦共通ノ財産ヲ受クルコトヲ肯セサルノ権利ヲ保有セントスルニハ夫ノ死去シタル日ヨリ三月内ニ夫ノ遺物相続人ノ面前ニテ又ハ其面前ニ非スト雖トモ之ヲ呼出シ猶出席セサル上ニテ共通ノ財産ノ詳明真正ナル目録ヲ記セシム可シ
其婦ハ其目録ヲ成就シタル時立会官吏(「ノテール」ヲ云フ)ノ面前ニテ之ヲ真正ノモノナリト証ス可シ
第千四百五十七条 婦ハ夫ノ死去シタルヨリ三月ト四十日内ニ夫ノ住所ヲ管轄スル下等裁判所ノ書記局ニ共通ノ財産ヲ受クルコトヲ肯セサルノ証書ヲ出ス可シ但シ其証書ハ遺物相続ヲ肯セサル旨ヲ記ス可キ為メ設ケタル簿冊ニ之ヲ登記ス可シ
第千四百五十八条 婦ハ其時ノ模様ニ従ヒ其共通ノ財産ヲ受クルコトヲ肯セサルノ証書ヲ出スニ付キ前条ニ定メタル期限ノ猶予ヲ得ント下等裁判所ニ訴フルコトヲ得可シ但シ其猶予ノ期限ヲ許スニ付キ別段ノ道理アル時ハ夫ノ遺物相続人ノ面前ニテ之ヲ言渡シ又ハ其相続人ヲ呼出シ猶出席セサル上ニテ之ヲ言渡ス可シ
第千四百五十九条 婦前条ニ記シタル定期内ニ共通ノ財産ヲ受クルコトヲ肯セサル証書ヲ出サスト雖トモ其目録ヲ記セシメ其財産ノ事ニ管渉シタルコトナキ時ハ猶其財産ヲ受クルコトヲ肯セサルノ権利アリトス然トモ之ヲ受クルコトヲ肯セサル証書ヲ出ス迄ノ時間ハ其共通ノ財産ヲ受クルコトヲ肯シタル者ナリトシテ人ヨリノ訴訟ヲ受ケ且其証書ヲ出ス迄同上ノ訴訟ヲ受タルニ付キ相手方ニ払フ可キ裁判費用ハ自己ノ財産中ヨリ償フ可シ又婦其夫ノ死去シタル日ヨリ三月ニ至ラサル内ニ目録ヲ成就シタル時ハ其時ヨリ四十日ノ期限ノ終リシ後同上ノ訴訟ヲ受ク可シ
第千四百六十条 共通ノ財産中ノ物件ヲ自カラ窃取シ又ハ其物件ヲ人ノ窃取シタルヲ隠匿セシ婦ハ其共通ノ財産ヲ受クルコトヲ肯セサル旨ヲ述フルト雖トモ猶共通ノ財産ヲ受クルコトヲ肯セシ者ナリト為ス可シ但シ婦ノ遺物相続人モ亦之ト同一ナリトス
第千四百六十一条 若シ婦共通財産ノ目録ヲ記シ又ハ之ヲ成就スルコトナク其夫ノ死去シタル日ヨリ三月ノ期限内ニ亦死去シタル時ハ其婦ノ遺物相続人目録ヲ記シ又ハ之ヲ成就ス可キ為メ婦ノ死去シタルヨリ三月ノ猶予ト目録ヲ成就セシ日ヨリ後熟思ノ為メ四十日ノ猶予トヲ得可シ
又其婦目録ヲ成就シテ直チニ死去シタル時ハ其遺物相続人熟思ノ為メ其婦死去ノ日ヨリ四十日ノ猶予ヲ得可シ
又其遺物相続人ハ前数条ニ記載シタル法式ヲ以テ共通ノ財産ヲ受クルコトヲ肯セサルヲ得可ク且第千四百五十八条及ヒ第千四百五十九条ニ記載スル所ノ規則ハ其遺物相続人ニモ亦通シテ之ヲ用フ可シ
第千四百六十二条 第千四百五十六条ヨリ以下数条ニ記スル所ノ規則ハ准死ヲ受ケタル者ノ婦ニ付キ其准死ノ時ヨリ亦通シテ之ヲ用フ可シ
第千四百六十三条 夫ト離婚シタル婦又ハ夫ト居ヲ分チタル婦其離婚又ハ分居ノ確定ノ言渡アリシ日ヨリ三月ト四十日ノ期限内ニ共通ノ財産ヲ受クルコトヲ為ササル時ハ之ヲ受クルコトヲ肯セサルモノト為ス可シ但シ其期限内ニ其夫ノ面前ニテ又ハ夫ヲ呼出シ猶出席セサル上ニテ裁判所ヨリ更ニ其期限ノ猶予ヲ得タル時ハ格別ナリトス
第千四百六十四条 婦ノ債主ハ其婦又ハ其遺物相続人己レノ権利ヲ害センカ為メ詐偽ヲ以テ共通ノ財産ヲ受クルコトヲ肯セサル事アル時其事ニ管渉シ自己ノ権ヲ以テ共通ノ財産ヲ受クルコトヲ肯スルヲ得可シ
第千四百六十五条 婦ハ共通ノ財産ヲ受クルコトヲ肯シタルト否トヲ問ハス目録ヲ記シ且熟思ヲ為ス可キ為メ其得タル三月ト四十日ノ猶予ノ期限間自己ノ飲食料及ヒ其僕婢ノ飲食料ヲ現存スル所ノ飲食料中ヨリ取用フルコトヲ得可ク若シ現存スル飲食料ノアラサル時ハ共通財産ノ合部中ヨリシテ相当ノ金高ヲ借受クルコトヲ得可シ但シ其金高ハ之ヲ節約シテ用フ可シ
又其婦ハ同上ノ期限内ニ共通ノ財産中ノ家屋又ハ夫ノ遺物相続人ニ属スル家屋ニ居住スルニ付キ其借賃ヲ払フニ及ハス又財産ノ共通ヲ解除シタル時其夫婦ノ居住セシ家屋ヲ人ヨリ借受ケ其借賃ヲ払フ可キモノタル時ハ其婦同上ノ期限間自己ノ財産ヲ以テ其借賃ヲ払フニ及ハス共通ノ財産ヲ以テ之ヲ払フコトヲ得可シ
第千四百六十六条 婦ノ死去シタルニ因リ財産ノ共通ヲ解除シタル時ハ其婦ノ遺物相続人法律上ニテ夫ヨリ後ニ生存シタル婦ノ為メ定メタル所ノ期限ト法式トニ循ヒ共通ノ財産ヲ受クルコトヲ肯セサルヲ得可シ
第五款 共通ノ財産ヲ受クルコトヲ肯シタル後其財産ヲ分派スル事
第千四百六十七条 婦又ハ其遺物相続人共通ノ財産ヲ受クルコトヲ肯シタル後左ノ方法ヲ以テ其利得トナル可キ諸件ヲ分派シ且其負債ヲ担当ス可シ
第一節 利得ヲ分派スル事
第千四百六十八条 夫婦又ハ其遺物相続人ハ此章ノ第一則第二款ニ定メタル規則ニ循ヒ共通ノ財産中ニ償フ可キ諸件ヲ当時現存スル財産ノ合部中ニ返還ス可シ
第千四百六十九条 夫婦又ハ其遺物相続人ハ前婚ノ子ニ嫁資ヲ贈与スル為メ又ハ夫婦ノ間ニ挙ケタル子ニ一人ニテ嫁資ヲ贈与スル為メ共通ノ財産中ヨリ取用ヒタル金高又ハ財産ノ代金ヲモ亦現存スル財産ノ合部中ニ返還ス可シ
第千四百七十条 夫婦又ハ其遺物相続人ハ左ノ物件ヲ財産ノ合部中ヨリ先ツ己レニ引取ルコトヲ得可シ
第一 共通ト為ササル一身ニ属スル財産又ハ其財産ヲ売払ヒ其代金ヲ以テ買入レタル財産
第二 夫婦財産ヲ共通セシ時間其一身ニ属スル不動産ヲ売払ヒ其代金ヲ以テ新タニ不動産ヲ買入レタルコトナキ時ハ其代金
第三 夫婦又ハ其遺物相続人共通ノ財産中ヨリ得可キ所ノ償(第千四百十九条第千四百三十一条等見合セ)
第千四百七十一条 婦ハ財産合部中ヨリ己レニ引取ル可キ物件ヲ夫ヨリ先ニ引取ル可シ婦ノ己レニ引取ル可キ物件品物ノ侭現存セサル時ハ先ツ共通財産中ノ金高ヲ以テ其償ヲ得次ニ共通財産中ノ動産ヲ以テ其償ヲ得若シ其動産猶其償ニ足ラサル時ハ共通財産中ノ不動産ヲ以テ其償ヲ得可シ但シ此場合ニ於テ其不動産ヲ択ムノ権ハ婦又ハ其遺物相続人ニアリトス
第千四百七十二条 夫ハ己レノ得可キ物件ヲ引取ラントスルニ付キ共通ノ財産ノミヲ引当ト為スヲ得可シ
婦又ハ其遺物相続人ハ己レノ得可キ物件ヲ引取ルニ付キ共通ノ財産ノミニテ尚ホ足ラサル時ハ夫ノ一身ニ属スル財産ヲ以テ其引当ト為スコトヲ得可シ
第千四百七十三条 共通ノ財産中ヨリ夫又ハ婦ニ返還ス可キ償又ハ夫又ハ婦ヨリ共通ノ財産中ニ返還ス可キ償ニ付テハ財産ノ共通ヲ解除シタル日ヨリ以来其息銀ヲ生ス可シ
第千四百七十四条 財産ノ合部中ヨリ夫又ハ婦ノ先ツ引取ル可キ部分ヲ尽ク引取リシ後ハ其余ノ物件ヲ夫婦又ハ其相続人等ノ間ニ平分ス可シ
第千四百七十五条 若シ婦ノ遺物相続人二人以上アリテ其意各相異ナリ其中ノ一人ハ共通ノ財産ヲ受クルコトヲ肯シ又一人ハ之ヲ受クルコトヲ肯セサル時ハ之ヲ受クルコトヲ肯シタル者婦ノ得可キ財産中ニテ自己ノ相続ス可キ部分ノミヲ収取スルコトヲ得可シ
其者ノ収取セシ以外ノ財産ハ皆之ヲ夫ニ属シ其夫ハ婦ノ相続人中ニテ共通ノ財産ヲ受クルコトヲ肯セサル者ニ対シ婦ノ自カラ之ヲ受クルコトヲ肯セサル時担当ス可キ所ニ等シキ義務ヲ担当ス可シ但シ此場合ニ於テ夫ノ担当ス可キ義務ハ婦ノ相続人中ニテ共通ノ財産ヲ受クルコトヲ肯セサル者ノ得可キ部分ノミニ管ス可シ
第千四百七十六条 夫婦共通ノ財産ヲ分派スルコトノ法式ニ管シタル諸事、不動産糶売ノ事、財産分派ヨリ生スル諸事、分派シタル諸件ヲ保証スル事、分派ヲ得可キ者ノ部分ノ平等ナラサル時之ヲ平等ニ為ス事ハ死者ノ遺物相続人等ノ間ニ財産ヲ分派スルニ付キ此篇第一巻(遺物相続)ニ定メタル規則ニ循フ可シ
第千四百七十七条 夫婦中一方ノ者共通セシ財産中ノ物件ヲ窃取シ又ハ人ノ窃取シタルヲ知リ之ヲ隠匿セシ時ハ其物件ヲ己レニ得ルノ権ヲ失フ可シ(第七百九十二条見合)
第千四百七十八条 夫婦中一方ノ者自己ノ金高ヲ以テ他ノ一方ノ一身ノ負債ヲ尽クシタルニ因リ又ハ其他ノ原由ニ因リ其一方ノ者他ノ一方ノ者ヨリ義務ヲ得可キ時ハ共通財産ノ分派ヲ成就シタル後共通ノ財産中ヨリ他ノ一方ノ者ノ得タル部分又ハ其者ノ一身ニ属スル財産ヲ以テ其義務ヲ得可キノ訴ヲ為スコトヲ得可シ
第千四百七十九条 夫婦中一方ノ者他ノ一方ノ者ヨリ得可キ所ノ義務ハ其義務ヲ得可キコトヲ裁判所ニ訴出シタル日ヨリ以来其息銀ヲ生ス可シ
第千四百八十条 夫婦中一方ノ者ヨリ他ノ一方ノ者ニ為シタル贈遺ハ共通ノ財産中ニテ其贈遺ヲ為シタル者ノ得ル所ノ部分及ヒ其者ノ一身ニ属スル財産中ヨリ之ヲ得可シ
第千四百八十一条 婦其夫ノ喪ニ居ルニ付テノ費用ハ先ニ死去シタル夫ノ遺物相続人ヨリ之ヲ出ス可シ
其費用ハ夫ノ家産ニ准シテ之ヲ定ム可シ
共通ノ財産ヲ受クルコトヲ肯セサル婦ノ為メニモ亦夫ノ相続人ヨリ同上ノ費用ヲ出ス可シ
第二節 夫婦共通ノ負債及ヒ其負債ヲ夫婦双方ニ分派スル事
第千四百八十二条 共通ノ負債ハ夫婦又ハ其双方ノ遺物相続人各々其半ヲ担当ス可シ但シ財産ノ封印、目録、動産ノ売払、其財産ノ算計、不動産ノ糶売、共通財産ノ分派等ニ付テノ費用ハ其負債ノ一部分ナリトス
第千四百八十三条 婦詳明真正ナル目録ヲ記セシメ且其目録ニ記シタル諸件ト分派ニ因リ自己ノ得ル所ノ部分タル諸件トノ精算ヲ為シタル時ハ己レノ得タル利得ニ至ル迄ノ外其夫ニ対シ又ハ債主ニ対シ共通ノ負債ヲ担当スルニ及ハス
第千四百八十四条 夫ハ己レノ契約シテ負フタル共通ノ債ノ全部ヲ担当ス可シ但シ其債ノ半ヲ其婦又ハ婦ノ遺物相続人ヨリ己レニ償還セシムルノ権アリ
第千四百八十五条 婦ノ一身ニ属セシ債共通ノ債トナリシ時ハ其夫其半ノミヲ担当ス可シ
第千四百八十六条 婦ノ一身ニ属セシ債共通ノ債トナリシ時ハ其債主ヨリ其債ノ全部ノ償還ニ付キ訴訟ヲ受ク可シ但シ其債ノ半ヲ其夫又ハ夫ノ遺物相続人ヨリ己レニ償還セシムルノ権アリ
第千四百八十七条 婦ハ共通ノ負債ヲ一身ニ担当シタル時ト雖トモ其負債ノ半ノミニ付キ訴訟ヲ受ク可シ但シ夫ト連帯シテ其債ヲ負フタル時ハ格別ナリトス
第千四百八十八条 婦共通ノ負債ノ半ハ以上ヲ償フタリト雖トモ其半ニ過キタル部分ヲ其債主ヨリ取還サントスル訴ヲ為スコトヲ得ス但シ婦其債ヲ償フタル証書ニ己レノ償フタル所ハ共通ノ債ノ半ナル事ヲ記シタル時ハ格別ナリトス
第千四百八十九条 夫婦中一方ノ者分派ニテ得タル不動産嘗テ「イポテーク」ト為シタルモノタルニ因リ其一方ノ者共通ノ負債ノ全部ニ付キ訴訟ヲ受ケタル時ハ他ノ一方ノ者又ハ其遺物相続人ニ対シ其負債ノ半ノ償還ヲ得ント訴フルコトヲ得可シ
第千四百九十条 前数条ノ規則アリト雖トモ夫婦共通財産ノ分派ノ約定ニ因リ夫婦中一方ノ者共通ノ負債ノ半ハ以上又ハ其全部ヲ償フ可キノ任ヲ受クルコトヲ得可シ
夫婦中一方ノ者共通ノ負債中ニテ其担当ス可キ部分ヨリ更ニ多分ヲ償フタル時ハ他ノ一方ノ者ニ対シ償還ノ訴ヲ為スコトヲ得可シ
第千四百九十一条 夫又ハ婦ノ事ニ付キ前数条ニ記載シタル所ハ夫又ハ婦ノ遺物相続人ニモ亦通シテ之ヲ用フ可シ但シ夫ノ遺物相続人ハ夫ト同一ノ権利ヲ行ヒ且同一ノ訴訟ヲ受ケ又婦ノ遺物相続人ハ其婦ト同一ノ権利ヲ行ヒ且同一ノ訴訟ヲ受ク可シ
第六款 共通ノ財産ヲ受クルヲ肯セサル事及ヒ之ヲ肯セサルヨリ生スル諸件
第千四百九十二条 共通ノ財産ヲ受クルコトヲ肯セサル婦ハ其財産ヲ得ルノ権ヲ失ヒ且嘗テ自カラ其共通ノ財産中ニ加入セシ動産ト雖トモ亦之ヲ得ルノ権ヲ失フ可シ
其婦ハ麻布類及ヒ衣服類ヲ自己ノ須用ノ為メニ所得ト為スコトヲ得可シ
第千四百九十三条 共通ノ財産ヲ受クルコトヲ肯セサル婦ハ左ノ諸件ヲ取戻スノ権アリ
第一 婦ニ属スル不動産其侭ニテ現存スル時ハ其不動産又其不動産ヲ既ニ売払ヒ其代金ヲ用ヒテ更ニ他ノ不動産ヲ買入レタル時ハ其不動産
第二 婦ノ不動産ヲ売払ヒ夫其代金ヲ前ニ記シタル如ク用フルコトナク又之ヲ用ヒタルト雖トモ婦其用方ヲ承諾セサル時ハ其代金
第三 共通ノ財産中ヨリ其婦ノ得可キ総テノ償
第千四百九十四条 共通ノ財産ヲ受クルコトヲ肯セサル婦ハ其夫又ハ債主ニ対シ共通ノ負債ヲ全ク担当スルニ及ハス○然トモ婦其夫ト連帯シテ負債ヲ償フ可キ契約アル時又ハ共通ノ負債元来婦ノ負シモノタル時ハ婦其債主ニ対シテ其負債ヲ担当ス可シ但シ此場合ニ於テハ婦ヨリ夫又ハ其遺物相続人ニ対シ償還ノ訴ヲ為スコトヲ得可シ
第千四百九十五条 共通ノ財産ヲ受クルコトヲ肯セサル婦ハ共通ノ財産ト夫ノ一身ノ財産トニ付キ前数条ニ記載シタル訴訟ヲ為スノ権及ヒ取戻ヲ為スノ権ヲ行フコトヲ得可シ其婦ノ遺物相続人ハ麻布類及ヒ衣服類ヲ所得ト為ス事及ヒ目録ヲ記シ且熟考ヲ為スタメ定メタル期限間借賃ヲ出サスシテ家屋ニ住スル事並ニ飲食料ヲ得ル事ヲ除クノ外其婦ト同一ノ権利ヲ行フコトヲ得可シ但シ麻布類、衣服類、家屋ノ借賃、飲食料ニ付テノ権利ハ夫ヨリ後ニ生存シタル婦ノ一身ノミニ限ル可キモノトス
○夫婦中一方ノ者又ハ双方ノ者前婚ノ子アル時法律上ノ財産共通ニ管シタル規則
第千四百九十六条 夫婦中一方ノ者又ハ双方ノ者前婚ノ子アル時ト雖トモ前数条ニ記シタル規則ニ循フ可シ
然トモ若シ動産ト負債ト渾同スルニ因リ夫婦中一方ノ者ヲシテ第千九十八条(贈遺ノ巻)ニ定メタル所ヨリ更ニ多分ノ利益ヲ得セシムルコトアル時ハ他ノ一方ノ者ノ前婚ノ子其利益ヲ減ス可キノ訴ヲ為スコトヲ得可シ
第二則 契約ヨリ生スル財産ノ共通、法律上ノ財産ノ共通ヲ更改シ又ハ除去ス可キ契約
第千四百九十七条 夫婦ハ第千三百八十七条第千三百八十八条第千三百八十九条第千三百九十条ニ記シタル所ニ背カサル契約ヲ為シテ法律上ノ財産ノ共通ヲ更改スルコトヲ得可シ
其更改ノ方法中ニテ平常最モ多ク行ルル所ノモノハ左ノ八件中ノ一ヲ契約スルニアリトス
第一 共通ノ財産ハ夫婦タル時間買入タル財産ノミヲ包含ス可キ事
第二 夫婦現在所有スル動産又ハ後来所有ス可キ動産ヲ共通ノ財産中ニ加入セサル事又ハ其動産ノ一部ノミヲ共通ノ財産中ニ加入ス可キ事
第三 不動産ヲ動産ニ等シキモノト看做シ夫婦現在所有スル不動産又ハ後来所有ス可キ不動産ノ全部又ハ一部ヲ共通ノ財産中ニ包含ス可キ事
第四 夫婦婚姻ノ前ニ負フタル債ヲ各自ニ払フ可キ事
第五 財産ノ共通ヲ解除スル時其財産ヲ受クルコトヲ肯セサル婦嘗テ其共通ノ財産中ニ加入シタル物件ヲ取戻シ共通ノ債ヲ全ク担当セサル事
第六 夫婦中ノ後ニ生存スル者其財産ノ分派ヲ為ス前ニ或ル財産又ハ金高ヲ預メ己レニ引取ル可キ事
第七 夫婦其財産ヲ分派スル時互ニ平等ナラサル部分ヲ得可キ事
第八 夫婦ノ間ニ其財産ノ全部ヲ共通ス可キ事
第一款 夫婦タル時間買入レタル財産ノミヲ共通スル事
第千四百九十八条 夫婦トナル時間買入レタル財産ノミヲ共通ス可キ契約ヲ為シタル時ハ現在後来ノ別ナク夫婦ノ負フタル債ト其双方ノ動産(買入レタル動産ヲ除ク)トヲ共通財産ノ中ヨリ除キタルト為ス可シ
此場合ニ於テハ財産ノ共通ヲ解除スル時夫婦各其共通ノ財産中ニ入レシ証アル物件ヲ預シメ己レニ引取リタル後嘗テ夫婦ノ協力シ又ハ夫婦其財産ノ入額ヲ互ニ節約シテ夫婦タル時間共ニ買入レタル財産又ハ各自ニ買入レタル財産ノミヲ分派ス可シ
第千四百九十九条 婚姻ヲ結ヒタル時既ニ存在シタル動産又ハ婚姻ヲ結ヒタル後遺物相続又ハ贈遺ニ因リ得タル動産ヲ相当ノ目録ヲ以テ証明セサル時ハ之ヲ婚姻ヲ結ヒタル時間買入タル財産ニ等シキモノト看做ス可シ
第二款 動産ノ全部又ハ一部ヲ共通ノ財産中ニ加入セサル契約
第千五百条 夫婦ハ其現在所有スル動産又ハ後来所有ス可キ動産ノ全部ヲ共通ノ財産中ニ加入セサルコトヲ得可シ
又夫婦定マリシ価ニ至ル迄其動産ヲ互ニ共通ノ財産中ニ加入セント為スコトヲ約シタル時ハ其余ノ動産ヲ己レノ所有ト為シ保チタルモノト看做ス可シ
第千五百一条 此契約アル時ハ夫又ハ婦其共通ノ財産中ニ加入セント約セシ価ノ動産又ハ金高ヲ共通ノ財産中ニ払フ可キノ義務ヲ負ヒ且其動産ヲ既ニ共通ノ財産中ニ加入シタルコトヲ証ス可シ
第千五百二条 夫ニ付テハ婚姻ノ契約書ニ其動産ハ幾許ノ価タルヤヲ記シタルヲ以テ其動産ヲ共通ノ財産中ニ加入シタルノ証アリトス
婦ニ付テハ夫ヨリ婦ニ渡シタル受取書又ハ其婦ニ嫁資ヲ贈与シタル者ニ渡シタル受取書ヲ以テ其婦ノ動産ヲ共通ノ財産中ニ加入シタルノ証アリトス
第千五百三条 夫婦婚姻ヲ結ヒシ時共通ノ財産中ニ加入シタル動産又ハ其後遺物相続又ハ贈遺ニ因リ得タル動産ノ価嘗テ共通ノ財産中ニ加入ス可シト約シタル動産ノ価ニ過キタル時ハ其財産ノ共通ヲ解除スル時分派ノ前ニ其過分ノ価ヲ預メ己レノ方ニ引取ルノ権アリ
第千五百四条 夫婦タル時間夫又ハ婦贈遺又ハ遺物相続ニ因リ得タル動産ハ目録ヲ以テ之ヲ証明ス可シ
夫贈遺又ハ遺物相続ニ因リ得タル動産ノ目録ヲ記セサル時又ハ其動産ノ現存スル事ト其債ヲ差引タル其価トヲ証明ス可キ証書ヲ記セサル時ハ其夫共通財産分派ノ前ニ其動産ヲ引取ル可カラス
又婦遺物相続又ハ贈遺ニ因リ得タル動産ノ目録ヲ記セサル時ハ其婦又ハ其相続人証書又ハ証人又ハ人ノ通知スル評説ニ因リ其動産ノ価ヲ証スルコトヲ得可シ
第三款 不動産ヲ動産ト看做ス契約
第千五百五条 夫婦又ハ夫婦中一方ノ者其現在所有スル不動産又ハ後来所有ス可キ不動産ノ全部又ハ一部ヲ共通ノ産財中ニ加入ス可キコトヲ契約シタル時ハ其契約ヲ名ケテ不動産ヲ動産ト看做ス契約ト云フ
第千五百六条 不動産ヲ動産ト看做ス事ハ或ハ定マリシモノアリ或ハ定マラサルモノアリ
夫婦別段定メタル一箇ノ不動産ノ全部又ハ別段定メタル不動産ノ或ル価ニ至ル迄ノ一部ヲ動産ト看做シテ之ヲ共通ノ財産中ニ入レント述フル時ハ不動産ヲ動産ト看做ス事ノ定マリタルモノトス
夫婦或ル価ニ至ル迄不動産ヲ共通ノ財産中ニ入ル可シト述ヘ別ニ其不動産ヲ定メタル事ナキ時ハ不動産ヲ動産ト看做ス事ノ定マラサルモノトス
第千五百七条 不動産ヲ動産ト看做ス事ノ定マリシモノタル時ハ其一箇ノ不動産又ハ数箇ノ不動産ヲ動産ニ等シク共通財産中ノ物ト為スノ効アリ
婦別ニ定メタル一箇ノ不動産又ハ数箇ノ不動産ノ全部ヲ動産ト看做シタル時ハ其夫其不動産ヲ共通ノ動産ノ如ク取扱ヒ其全部ヲ売払フコトヲ得可シ
婦別段定メタル不動産ノ或ル価ニ至ル迄ノ一部ヲ動産ト看做シタル時ハ夫其婦ノ承諾ヲ得スシテ之ヲ売払フコトヲ得ス但シ夫ハ婦ノ不動産ヲ動産ト看做シタル一部ニ至ル迄ヲ其婦ノ承諾ナクシテ「イポテーク」ト為スコトヲ得可シ
第千五百八条 不動産ヲ動産ト看做ス事ノ定マラサルモノタル時ハ其不動産所有ノ権ヲ共通ノ財産中ニ加入スルコトナク唯其事ヲ承諾シタル夫又ハ婦ヲシテ財産ノ共通ヲ解除スル時其嘗テ約シタル価ニ至ル迄自己ノ不動産ヲ財産ノ合部中ニ加入セシム可キ義務ヲ生スルモノトス
此場合ニ於テハ夫前条ニ記シタル如ク婦ノ動産ト看做シタル不動産ノ全部又ハ一部ヲ其婦ノ承諾ナク売払フコトヲ得ス然トモ夫其婦ノ動産ト看做シタル価ニ至ル迄ノ不動産ヲ「イポテーク」ト為スコトヲ得可シ
第千五百九条 不動産ヲ動産ト看做シタル夫又ハ婦ハ共通ノ財産分派ノ時其得可キ部分中ヨリ同上ノ不動産ノ当時ノ価ヲ差引キテ其不動産ヲ己レニ保有スルコトヲ得可シ但シ其遺物相続人モ亦同一ノ権アリ
第四款 夫婦其債(婚姻前ノ債ヲ云フ)ヲ各自ニ払フ可キ契約
第千五百十条 夫婦其債ヲ各自ニ払フ可キ契約アル時ハ其債ヲ負フタル夫又ハ婦ノ為メ共通ノ財産中ヨリ償フタルノ証アル諸件ヲ財産共通解除ノ時ニ至リ其夫又ハ婦ヨリ共通ノ財産中ニ算計ス可キノ義務アリ
夫又ハ婦ノ動産ノ目録ノ有無ヲ問ハス其夫又ハ婦前ニ記スル所ノ如キ義務ヲ負フ可シ但シ夫婦婚姻ヲ結ヒタル時其共通ノ財産中ニ加入シタル動産ヲ目録又ハ婚姻前ニ記シタル公正ノ証書ヲ以テ証明セサル時ハ夫又ハ婦ノ債主夫婦其動産所有ノ権ノ相異ナル旨ヲ述フルニ管セス共通ノ動産並ニ目録ヲ記セサル一方ノ動産ヲ以テ其債ノ償ニ充ツ可キノ訴ヲ為スノ権アリ
又夫又ハ婦其財産ヲ共通スル時間遺物相続又ハ贈遺ニ因リ得タル動産ノ目録又ハ公正ノ証書ヲ記セサル時ハ其債主亦前ニ記スル所ニ等シキ権ヲ有スルモノトス
第千五百十一条 夫又ハ婦別段定メタル金高又ハ物件ヲ共通ノ財産中ニ加入スル時ハ其金高又ハ物件ニ付キ婚姻前ノ債ヲ担当スルコトナキ旨ヲ約シタルモノト看做ス可シ但シ夫又ハ婦共通ノ財産中ニ加入セント約シタル金高又ハ物件ヲ自己ノ負債ノ為メ減少スルコトアル時ハ其一方ヨリ他ノ一方ニ其償ヲ為ス可シ
第千五百十二条 夫婦其債ヲ各自ニ払フ可キノ契約アリト雖トモ其婚姻ヲ結ヒシ以後ノ其債ノ息銀ヲ共通ノ財産ヲ以テ償フ可キノ差支トナルコトナカル可シ
第千五百十三条 夫婦中一方ノ者婚姻ノ契約書ニ婚姻前ノ債ヲ全ク滌掃シタル旨ヲ記シタルニ共通解除ノ時其一方ノ者ノ債主共通ノ財産ヲ以テ其債ヲ償フ可キ旨ヲ訴ヘ共通ノ財産ヲ以テ之ヲ払フタル時ハ他ノ一方ノ者其債ヲ負フタル一方ノ者ノ共通ノ財産中ヨリ得可キ部分又ハ其者ノ一身ニ属スル財産ヲ以テ其償還ヲ得可キノ権アリ若シ其債ヲ負フタル一方ノ者ノ共通ノ財産中ヨリ得可キ部分又ハ其一身ニ属スル財産ヲ以テ其償還ニ充ルニ足ラサル時ハ他ノ一方ノ者其配偶者ノ負債ナキ旨ヲ述ヘタル父母又ハ尊属ノ親又ハ後見人ヨリ同上ノ償還ヲ得ント訴フルコトヲ得可シ
又婦其債ヲ負フタル時ハ夫婦財産ヲ共通スル間ト雖トモ夫其婦ノ父母又ハ尊属ノ親又ハ後見人ヨリ同上ノ償還ヲ得ント訴フルコトヲ得可シ但シ此場合ニ於テハ後ニ夫婦財産ノ共通ヲ解除スル時婦又ハ其遺物相続人ヨリ其父母又ハ尊属ノ親又ハ後見人ニ其算還ヲ為ス可キノ義務アリトス
第五款 夫婦財産ノ共通ヲ解除スル時婦共通ノ債ヲ全ク担当スルコトナク其嘗テ共通ノ財産中ニ加入セシ財産ヲ取戻ス可キ事
第千五百十四条 婦共通ノ財産ヲ受クルコトヲ肯セサル時ハ共通ノ負債ヲ担当スルコトナク嘗テ婚姻ヲ結ヒシ時又ハ其後共通ノ財産中ニ加入シタル財産ノ全部又ハ一部ヲ取戻ス可キノ契約ヲ為スコトヲ得可シ但シ其契約ハ別段其書中ニ記シタル財産ノ外ニ之ヲ及ボシ用フルコトヲ得ス又別段其書中ニ記シタルヨリ以外ノ人ニ及ホシ用フルコトヲ得ス
故ニ婦ノ婚姻ヲ結ヒタル時共通ノ財産中ニ加入セシ動産ヲ取戻ス可キコトヲ約シタル時ハ婚姻ヲ結ヒタル後ニ其婦遺物相続又ハ贈遺ニ因リ得タル動産ニ其約ヲ及ホスコトヲ得ス
又婦其契約ニ因リ同上ノ特権ヲ得タルト雖トモ之ヲ其子ニ及ホスコトヲ得ス又婦及ヒ其子ノ為メ同上ノ特権ヲ生シタル時ト雖トモ其遺物相続人タル尊属ノ親又ハ傍系ノ親ニ之ヲ及ホスコトヲ得ス
何レノ場合ニ於テモ共通ノ財産ヲ以テ償フタル婦ノ一身ニ属スル債ヲ差引タル上ニ非サレハ其婦嘗テ共通ノ財産中ニ加入セシ諸件ヲ取戻スコトヲ得ス
第六款 夫婦中ノ後ニ生存スル者其財産ノ分派ヲ為ス前ニ或ル財産又ハ金高ヲ預メ己レニ引取ル可キ契約
第千五百十五条 夫婦中ノ後ニ生存スル者其共通ノ財産ヲ分派スル前ニ或ル金高又ハ動産ヲ預メ己レニ引取ル可キノ契約アリト雖トモ夫ヨリ後ニ生存スル婦財産ノ共通ヲ受クルコトヲ肯シタル時ニ非サレハ其婦ノ為メニ同上ノ権ヲ生スルコトナカル可シ但シ婚姻ノ契約書ニ縦令其婦共通ノ財産ヲ受クルコトヲ肯セサルト雖トモ同上ノ権ヲ有ス可キ旨ヲ別段記シタル時ハ格別ナリトス
婚姻ノ契約書ニ婦同上ノ権ヲ有ス可キ事ヲ別段記シタル時ノ外婦ハ分派ヲ為ス可キ共通財産ノ合部中ヨリ其動産又ハ金高ヲ己レニ引取ル可ク先ニ死去シタル夫ノ一身ニ属スル財産中ヨリ之ヲ引取ル可カラス
第千五百十六条 夫婦中ノ後ニ生存スル者財産ノ分派ヲ為ス前ニ金高又ハ動産ヲ預メ己レニ引取ル可キノ権ハ贈遺ノ規則ニ管シタルモノト看做ス可カラス婚姻ノ契約ニ因リ生シタルモノト看做ス可シ
第千五百十七条 夫婦中一方ノ死去又ハ准死ニ因リ他ノ一方ノ為メ同上ノ権ヲ生ス可シ
第千五百十八条 若シ離婚ニ因リ又ハ夫婦居ヲ分ツニ因リ財産ノ共通ヲ解除シタル時ハ其一方ノ者財産ノ分派ヲ為ス前ニ同上ノ権ニ因リ動産又ハ金高ヲ現ニ己レニ引取ル事ヲ得ス但シ此場合ニ於テ離婚又ハ分居ヲ得タル一方ノ者他ノ一方ノ者ヨリ後ニ生存スル時ハ同上ノ権ヲ行フコトヲ得可シ○若シ婦離婚又ハ分居ヲ得タル時ハ其婦同上ノ権ニ因リ得可キ金高又ハ財産ヲ仮リニ夫ノ所有ト為シ置キ夫ヲシテ其保証人ヲ立テシム可シ
第千五百十九条 共通財産ノ債主ハ第千五百十五条ニ記スル所ニ循ヒ夫婦中一方ノ者共通財産ノ分派ヲ為ス前ニ預メ引取ル可キ財産ヲ売払フ可キノ権アリ但シ此場合ニ於テハ其一方ノ者共通ノ財産中ヨリ償還ヲ得可キノ求ヲ為スコトヲ得可シ
第七款 夫婦共通ノ財産中ニテ互ニ均シカラサル部分ヲ得可キノ契約
第千五百二十条 夫婦ハ後ニ生存スル一方ノ者又ハ其遺物相続人ニ共通財産ノ半ヨリ少ナキ部分ヲ授ケ又ハ共通ノ財産ヲ得可キ権ニ代ヘ定マリシ金高ノミヲ授ケ又時トシテハ夫婦中ノ生存スル者又ハ夫婦中ノ特ニ定メタル一方ノミニ共通財産ノ全部ヲ授ク可キノ契約ヲ為シ法律上ニ定メタル平等ノ分派ノ方法ニ反スルコトヲ得可シ
第千五百二十一条 若シ夫婦中一方ノ者又ハ其遺物相続人共通財産中ノ三分一又ハ四分一等ノ如ク別段定マリシ一部ノミヲ得可キ契約アル時ハ其一方ノ者又ハ其遺物相続人其得タル部分ニ准シテ共通ノ債ヲ担当ス可シ
夫婦中一方ノ者又ハ其遺物相続人ヲシテ其共通ノ財産中ヨリ得可キ部分ヨリモ更ニ余分ノ債ヲ担当セシムルノ契約又ハ一方ノ者ノ得ル所ノ部分ニ当ル可キ債ヲ担当ス可キ義務ヲ釈放スルノ契約ハ其効ナカル可シ
第千五百二十二条 夫婦中一方ノ者又ハ其遺物相続人財産ノ分派ヲ得可キ権ニ代ヘ別段定マリシ金高ノミヲ得可キ契約アル時ハ他ノ一方ノ者又ハ其遺物相続人共通財産ノ利得ト負債トノ多少ヲ問ハス又其共通ノ財産ヲ以テ別段定マリシ金高ヲ与フルニ足ルト足ラサルトヲ問ハス必ス其契約シタル金高ヲ一方ノ者ニ与フ可キノ義務アリトス
第千五百二十三条 若シ夫又ハ婦ノ遺物相続人ノミニ付キ同上ノ契約アル時其夫又ハ婦其配偶者ヨリ後ニ生存スルニ於テハ法律ニ循ヒ共通財産ノ半ハノ分派ヲ得可シ
第千五百二十四条 第千五百二十条ニ記シタル所ニ因リ共通財産ノ全部ヲ保チタル夫又ハ其遺物相続人ハ共通ノ債ヲ全ク担当ス可シ
此場合ニ於テハ其債主婦又ハ其遺物相続人ニ対シ訴訟ヲ為ス可カラス
若シ夫ヨリ後ニ生存スル婦定マリシ金高ヲ夫ノ遺物相続人ニ与ヘ共通財産ノ全部ヲ己レニ保ツ可キ権ヲ有スル時ハ其婦共通ノ債ヲ己レニ担当シテ預定ノ金高ヲ夫ノ遺物相続人ニ与ヘ又ハ共通ノ財産ヲ受クルコトヲ肯セスシテ共通ノ財産ト負債トヲ其夫ノ遺物相続人ニ任カスルコト自由タル可シ
第千五百二十五条 夫婦ハ共通ノ財産ノ全部ヲ後ニ生存ス可キ一方ノ者ノミニ属ス可キノ契約ヲ為スコトヲ得可シ但シ此場合ニ於テ他ノ一方ノ者ノ遺物相続人ハ其相続ヲ為サシムル者ノ嘗テ共通ノ財産中ニ加入セシ物件及ヒ金高ヲ己レニ取戻スコトヲ得可キノ権アリ
同上ノ契約ハ其本案ニ付テモ其体裁ニ付テモ贈遺ノ契約ノ規則ニ管シタルモノト看做ス可カラス婚姻ヲ結ヒシ者ノ婚姻ノ契約ナリト看做ス可シ
第八款 夫婦ノ間ニ其財産ノ全部ヲ共通ス可キ事
第千五百二十六条 夫婦ハ其現ニ所有スルト後ニ所有ス可キトヲ問ハス総テ不動産並ニ動産ヲ全ク共通ト為シ又ハ其現ニ所有スル不動産並ニ動産ノミヲ共通ト為シ又ハ後ニ所有ト為ス可キ不動産並ニ動産ノミヲ共通ト為スコトヲ婚姻ノ契約書ヲ以テ預定スルコトヲ得可シ
○前ノ八款ニ通シテ用フ可キ規則
第千五百二十七条 夫婦其財産ヲ共通スル契約ハ必スシモ前ノ八款ニ記シタル規則ノミニ限ルコトナカル可シ
夫婦ハ第千三百八十八条第千三百八十九条第千三百九十条ニ記シタル規則ニ循フ時ハ第千三百八十七条ニ記セシ如ク前ノ八款ト異ナリタル契約ヲ為スコトヲ得可シ
然トモ夫婦中一方ノ者ニ前婚ノ子アル時他ノ一方ニ第千九十八条(贈遺ノ巻)ニ定メシ部分ニ過キタル財産ヲ贈与ス可キ契約ハ其過分ノ財産ニ付キ総テ其効ナカル可シ但シ夫婦ノ相与ニ労動シテ得タル利益又ハ夫婦ノ入額互ニ均シカラサル時ト雖トモ其入額ヲ節約シテ得タル利益ハ前婚ノ子ノ権利ヲ害ス可キモノナリト看做ス可カラス
第千五百二十八条 夫婦互ニ其財産ヲ共通スル契約書ニ法律上ニテ定メタル財産共通ノ規則ト異リタル条件ヲ別段約定シ又ハ其契約書ニ同上ノ規則ト異ナリタル条件アルコトヲ自カラ知リ得可キ時ノ外ハ総テ契約ヨリ生シタル財産共通ニ付キ法律上ニ定メタル財産共通ノ規則ヲ用フ可シ
第九款 夫婦財産ノ共通ヲ除去ス可キ契約
第千五百二十九条 夫婦嫁資分括ノ法ヲ用フルコトナク其財産ヲ共通セスシテ婚姻ヲ結ヒ又ハ財産ヲ分別シテ婚姻ヲ結フコトヲ述ヘタル時ハ其契約ノ効ヲ左ノ如ク定ム可シ
第一節 夫婦其財産ヲ共通セス婚姻ヲ結フ契約
第千五百三十条 夫婦財産ヲ共通セスシテ婚姻ヲ結フ契約アリト雖トモ婦ハ己レノ財産ヲ支配スルノ権又ハ其財産ノ利益ヲ収受スルノ権ヲ有スルコトナシ但シ其財産ノ利益ハ婚姻ノ費用ニ充ル為メ婦ヨリ夫ニ持チ来リシモノト為ス可シ
第千五百三十一条 夫ハ其婦ノ動産及ヒ不動産ヲ支配シ且其婦ノ嫁資トシテ持チ来リシ動産又ハ夫婦タル時間其婦ノ贈遺及ヒ遺物相続ニ因リ人ヨリ得タル所ノ動産ヲ己レニ収受スルノ権アリ但シ後日婚姻ヲ解ク時又ハ裁判所ヨリ夫婦ノ財産ヲ分別ス可キ言渡ヲ為シタル時ハ其動産ヲ其婦ニ還与ス可シ
第千五百三十二条 婦ノ嫁資トシテ持チ来リシ動産又ハ夫婦タル時間婦ノ贈遺又ハ遺物相続ノ名義ニテ人ヨリ得タル所ノ動産中ニ費耗セスシテ用フルコトヲ得サル物件アル時ハ夫婚姻ノ契約書ニ其物件ノ評価書ヲ添ヘ置キ又ハ其婦ノ遺物相続又ハ贈遺ニ因リ人ヨリ物件ヲ得タル時其目録ヲ記シ置キ後日夫ヨリ其評価書又ハ目録ニ記スル所ノ価ヲ其婦ニ返還ス可シ
第千五百三十三条 夫ハ総テ財産ノ入額ヲ所得ト為ス者ノ義務ヲ己レニ担当ス可シ
第千五百三十四条 此一節ニ記スル所ノ契約アリト雖トモ婦其生計及ヒ一身ノ入用ノ為メ自己ノ受取書ヲ以テ其財産ノ入額ノ一部ヲ毎歳所得ト為ス可キコトヲ契約スルノ差支トナルコトナカル可シ
第千五百三十五条 此一節ニ記スル場合ニ於テ婦ノ嫁資トナシタル不動産ハ之ヲ人ニ売払フ可カラサルモノニ非ストス
然トモ其不動産ハ婦其夫ノ承諾ナクシテ之ヲ人ニ売払フコトヲ得ス又夫其事ヲ肯セサル時ハ裁判所ノ允許ヲ得タル上ニ非サレハ之レヲ売払フコトヲ得ス
第二節 夫婦財産ヲ分別スル契約
第千五百三十六条 夫婦婚姻ノ契約書ニ其財産ヲ分別ス可キコトヲ約シタル時ハ婦其動産及ヒ不動産ヲ支配スルノ権並ニ其入額ヲ自由ニ所得ト為スノ権ヲ己レニ保ツ可シ
第千五百三十七条 夫婦ハ婚姻ノ契約書ニ記スル所ニ循ヒ各々其夫婦タル時間ノ費用ヲ分テ担当ス可シ若シ婚姻ノ契約書ニ別段其事ヲ記セサル時ハ婦自己ノ入額ノ三分ノ一ニ至ル迄其費用ヲ担当ス可シ
第千五百三十八条 何レノ場合ニ於テモ如何ナル契約アルヲ問ハス婦ハ其夫ノ許諾ヲ得スシテ其不動産ヲ人ニ売払フコトヲ得ス又夫其事ヲ肯セサル時ハ裁判所ノ允許ヲ得タル上ニ非サレハ其不動産ヲ売払フコトヲ得ス
婚姻ノ契約書ニ因リ又ハ婚姻ノ契約書ヲ記シタル後夫其婦ニ総テ其不動産ヲ随意ニ売払フ可キコトヲ許可シタルト雖トモ其許可ノ効ナカル可シ
第千五百三十九条 夫ト財産ヲ分別シタル婦其財産ノ利益ヲ所得トスルノ権ヲ其夫ニ委子タル時ハ夫其婦ヨリ別段求メヲ受タル時又ハ婚姻ヲ解キタル時現存スル利益ノミヲ其婦ニ還ス可シ其時ニ至ル迄既ニ費シタル利益ハ之ヲ算計スルニ及ハス
第三章 嫁資ヲ分括スル法
第千五百四十条 嫁資トハ第二章ニ記スル所ニ於テモ此章ニ記スル所ニ於テモ亦婦其夫婦タル時間ノ費用ニ充ツ可キ為メ夫ノ方ニ持チ来リシ財産ヲ云フ
第千五百四十一条 婦自カラ嫁資ト為シタル物件又ハ婚姻ノ契約書ニ因テ婦ノ人ヨリ贈遺トシテ得タル物件ハ別段ノ契約アル時ノ外之ヲ嫁資分括ノ法ヲ以テ処置ス可シ(第千三百九十一条見合)
第一款 財産ヲ嫁資ト為ス事
第千五百四十二条 婦ハ現ニ所有スル財産並ニ後ニ所有ト為ス可キ財産ノ全部ヲ嫁資ト為シ又ハ現ニ所有スル財産ノ全部ノミヲ嫁資ト為シ又ハ現ニ所有スル財産並ニ後ニ所有ト為ス可キ財産ノ一部ヲ嫁資ト為シ又ハ一個ノ品物ノミヲ嫁資ト為スコトヲ得可シ泛博ノ詞ヲ用ヒ婦ノ財産ヲ尽ク嫁資ト為ス可キコトヲ契約書ニ記シタル時ハ婦ノ後ニ所有ト為ス可キ財産ヲ包含スルコトナカル可シ
第千五百四十三条 夫婦タル時間ハ婦新タニ其財産ヲ嫁資ト為スコトヲ得ス又預メ嫁資ト為シタル財産ノ量ヲ増スコトヲ得ス
第千五百四十四条 父母各其女ニ嫁資トシテ与フ可キ部分ヲ定ムルコトナク相与ニ之レヲ贈与シタル時ハ双方平等ノ部分ヲ贈与シタルト為ス可シ
父一人ニテ其女ニ嫁資ヲ与フルコトヲ約シタル時ハ縦令父ト母トノ権利ヲ以テ之ヲ与フルノ名義アリト雖トモ其母ノ立会ノ有無ヲ問ハス父一人ニテ其約束ノ如ク執行フコトヲ担当ス可シ
第千五百四十五条 父母ノ中後ニ生存スル者ヨリ死者ノ財産ト自己ノ財産トヲ以テ其女ニ嫁資ヲ与フ可キコトヲ約シ死者ノ部分ト自己ノ部分トヲ別段定メタルコトナキ時ハ其女前ニ死シタル父又ハ母ノ財産中ヨリ其遺物トシテ己レノ得可キ部分ヲ先ツ嫁資トシテ所得ト為シ其余ハ嫁資ヲ与フルコトヲ約シタル父又ハ母ノ財産中ヨリ所得ト為ス可シ
第千五百四十六条 父母ヨリ嫁資ヲ得可キ女自己ニ属スル財産ヲ所有シ父母其入額ヲ所得ト為スト雖トモ父母ノ財産中ヨリ其嫁資ヲ得可シ但シ之ニ反シタル契約アル時ハ格別ナリトス
第千五百四十七条 嫁資ヲ与フル者ハ其嫁資トシテ贈与スル財産ヲ保証ス可シ
第千五百四十八条 嫁資ヲ与フ可キ期限ヲ別段定メタル時ト雖トモ其嫁資ヲ与ヘント約シタル者ハ夫婦トナル可キ者ノ婚姻ヲ結ヒシ以来其嫁資ノ財産ニ付テノ息銀ヲ払フ可シ但シ之ニ反シタル契約アル時ハ格別ナリトス
第二款 嫁資ノ動産ニ付テノ夫ノ権及ヒ嫁資ノ不動産ヲ売払フ可カラサル事
第千五百四十九条 夫婦タル時間ハ夫一人ニテ嫁資ノ財産ヲ支配スルノ権アリ
又夫ハ其婦ニ嫁資ヲ与フ可キ者又ハ其嫁資ノ財産ヲ占有スル者ニ対シテ訴訟ヲ為シ又ハ嫁資ノ財産ノ利益ヲ収受シ及ヒ嫁資ノ金高ヲ人ヨリ償還セシムルノ権アリ
然トモ婦ハ其生計及ヒ一身ノ入用ノ為メ自己ノ受取書ヲ以テ其財産ノ入額ノ一部ヲ毎歳所得ト為ス可キコトヲ婚姻ノ契約書ヲ以テ約スルヲ得可シ
第千五百五十条 夫ハ婦ヨリ嫁資ヲ受取ルニ付キ別ニ保証人ヲ立ルニ及ハス但シ婚姻ノ契約書ニ別段其保証人ヲ立ツ可キコトヲ定メタル時ハ格別ナリトス
第千五百五十一条 嫁資ノ財産ノ全部又ハ一部婚姻ノ契約書ニ其価ヲ定メタル動産ニシテ其価ヲ定ルト雖トモ之ヲ夫ニ売渡スコトナキ旨ヲ特ニ記セサル時ハ夫其所有者トナリ其代金ノミヲ婦ニ償フ可キノ義務アリトス
第千五百五十二条 嫁資ノ財産中ノ不動産ヲ評価シタルト雖トモ夫ニ其不動産所有ノ権ヲ移スコトナカル可シ但シ契約書ニ其権ヲ夫ニ移ス可キコトヲ特ニ記シタル時ハ格別ナリトス
第千五百五十三条 嫁資ノ金高ヲ以テ買入レタル不動産ハ婚姻ノ契約書ニ其金高ヲ利益トナル可キ方法ニ用フルニ付テノ条件ヲ定メタル時ノ外之ヲ嫁資ノ財産ナリトセス(自由ニ売払ヒ得可キヲ云フ後条見合セ)又嫁資ノ金高ノ償トシテ之ニ代ヘ与ヘタル不動産モ亦同一ナリトス
第千五百五十四条 嫁資ト為シタル不動産ハ夫婦タル時間夫又ハ婦各自ニ又ハ夫婦連合シテ之ヲ人ニ売払ヒ又ハ贈与シ又ハ「イポテーク」ト為スコトヲ得ス但シ後ノ数条ニ記スル所ハ格別ナリトス
第千五百五十五条 婦ハ其夫ノ許諾ヲ得タル上又其夫ノ許諾セサル時ハ裁判所ノ允許ヲ得タル上ニテ前婚ノ子ニ産業ヲ定メシムル為メ其嫁資ノ財産ヲ贈与スルコトヲ得可シ但シ夫ノ許諾ヲ得ルコトナク裁判所ノ允許ヲ以テ其嫁資ノ財産ヲ前婚ノ子ニ贈与シタル時ハ其財産入額所得ノ権ヲ其夫ニ属セシム可シ
第千五百五十六条 又婦ハ夫ノ許諾ヲ得タル上ニテ其夫婦ノ間ニ生レタル子ニ産業ヲ定メシムル為メ其嫁資ノ財産ヲ贈与スルコトヲ得可シ
第千五百五十七条 嫁資ノ不動産ヲ人ニ売払ヒ又ハ贈与スルヲ得可キ旨ヲ婚姻ノ契約書ニ記シタル時ハ其売払又ハ贈遺ヲ為スコトヲ得可シ
第千五百五十八条 又左ノ数箇ノ場合ニ於テハ嫁資ノ不動産ヲ裁判所ノ允許ヲ得タル上三次ノ貼附ヲ為シタル後之ヲ糶売ニ為スコトヲ得可シ
第一 夫又ハ婦ヲ獄舎ヨリ出テシムル為メ
第二 第二百三条第二百五条第二百六条(婚姻ノ巻)ニ定メタル場合ニ於テ親族ニ養料ヲ給与ハスル為メ
第三 婚姻ノ契約ヲ為ス以前ニ負フタル日附ノ慥ナル婦ノ債又ハ婦ニ嫁資ヲ与ヘシ者ノ債ヲ払フコトノ為メ
第四 嫁資ノ不動産ヲ保全スルニ付キ必要ナル修理ヲナス為メ
第五 嫁資ノ不動産ヲ他人ト共通シテ所有シ之ヲ分別ス可カラサルコトノ分明ナル時
此諸般ノ場合ニ於テ其不動産ヲ売払ヒ得タル金高中ニテ必要ノ高ニ過キタル部分ハ之ヲ婦ノ嫁資ノ一部ト為シ婦ノ為メニ利益トナル可キ方法ニ用フ可シ
第千五百五十九条 嫁資ノ不動産ヲ婦ノ承諾ヲ得タル上之ト同一ノ価アル他ノ不動産又ハ其価ノ五分ノ四ニ下ラサル他ノ不動産ト交換スルニハ其交換ノ利益アルコトヲ証シ且裁判所ノ允許ヲ得タル上其裁判所ノ公務ヲ以テ任シタル評価人ヲシテ其評価ヲ為サシムルコトヲ必要トス
此場合ニ於テハ交換シテ得タル不動産ヲ嫁資中ノ物トナシ又前ノ不動産ノ価後ノ不動産ノ価ニ過キタル時ハ其過キタル価高ヲモ亦嫁資中ニ加入シテ婦ノ為メニ利益トナル可キ方法ニ用フ可シ
第千五百六十条 前数条ニ記シタル格別ノ場合ノ外婦又ハ夫各自ニ又ハ夫婦連合シテ嫁資ノ不動産ヲ売払ヒタル時ハ婦又ハ其遺物相続人婚姻ヲ解キシ後其売払ノ契約ヲ取消スコトヲ得可シ但シ其不動産ヲ買入タル者ハ「プレスクリプシヨン」(此篇第二十巻ニ詳ナリ)ノ権ヲ申述ヘテ其婦又ハ其遺物相続人ノ権利ヲ害スルコトヲ得ス○又婦ハ夫ト財産ヲ分チタル時モ亦同一ノ権アリ
夫ハ嫁資ノ不動産ヲ売払フタル契約書中ニ其不動産婦ノ嫁資ニ属スルコトヲ別段記シタル時ノ外之ヲ買入タル者ノ損失ヲ償ハスシテ其売払ノ契約ヲ取消ス可カラス
第千五百六十一条 婚姻ノ契約書ヲ以テ人ニ売払フコトヲ得可キ旨ヲ別段定メタル以外ノ嫁資ノ不動産ハ縦令之ヲ寄有スル者アリト雖トモ夫婦其縁ヲ結フ時間其寄有者「プレスクリプシヨン」ノ権ヲ得ルコトヲ得ス但シ夫婦婚姻ヲ結フ前ニ寄有者ノ為メ既ニ「プレスクリプシヨン」ノ期限ノ始マリタル時ハ格別ナリトス
又夫婦財産ヲ分チタル後ハ其寄有者ノ為メ「プレスクリプシヨン」ノ期限ノ始マリタル期日ノ如何ナルヲ問ハス其寄有者其不動産ニ付キ同上ノ権ヲ得可シ
第千五百六十二条 夫ハ嫁資ノ財産ニ付キ総テ入額所得者ノ義務ヲ担当ス可シ
夫ハ其怠リニ因リ嫁資ノ財産ニ付キ人ニ「プレスクリプシヨン」ノ権ヲ得セシメ又ハ其財産ヲ卑悪ニ為シタル時ハ自カラ其責ニ任ス可シ
第千五百六十三条 婦嫁資ノ財産ヲ失フ可キノ恐アル時ハ第千四百四十三条以下数条ニ記シタル如ク夫ト財産ヲ分タントスルノ訴ヲ為スコトヲ得可シ
第三款 嫁資ヲ返還スル事
第千五百六十四条 嫁資ノ不動産ナル時又ハ婚姻ノ契約書ニ其価ヲ定メサル動産ナル時又ハ其価ヲ定ムルト雖トモ婦其所有ノ権ヲ失ハサル旨ヲ別段定メタル動産ナル時ハ婚姻ヲ解キシ後夫又ハ其遺物相続人ヨリ遅延ナク其嫁資ヲ返還ス可シ
第千五百六十五条 又嫁資ノ金高ナル時又ハ価ヲ定ムルト雖トモ婦其所有ノ権ヲ失ハサル旨ヲ別段定メタルコトナキ動産ナル時ハ夫又ハ其相続人夫婦婚姻ヲ解キシヨリ一年内ニ之ヲ返還スルニ及ハス
第千五百六十六条 婦ノ所有スル動産其夫ノ過失ニ非ラス唯夫ノ之ヲ用ヒタルノミニ因リ損敗シタル時ハ後ニ存シタル其一部ヲ其時ノ模様ノ侭返還ス可シ
然トモ何レノ場合ニ於テモ婦ハ自己ノ入用ノ為メ麻布類及ヒ衣服類ヲ己レニ取戻スコトヲ得可シ但シ婚姻ノ契約書ニ其物件ノ価ヲ定メタル時ハ婦己レニ取戻ス可キ諸件中ニテ其価ヲ減ス可シ
第千五百六十七条 婦ノ人ヨリ得可キ義務又ハ年金ヲ嫁資ト為シ夫ノ怠リニ非スシテ其義務又ハ年金ヲ全ク失フニ至リ又ハ之ヲ減損シタル時ハ夫其責ニ任スルコトナク唯其義務又ハ年金ノ契約書ヲ返還ス可シ
第千五百六十八条 財産ノ入額所得ノ権ヲ嫁資ト為シタル時ハ夫又ハ其遺物相続人婚姻ヲ解ク時ニ至リ唯其入額所得ノ権ヲ返還ス可ク夫婦タル時間得タル所ノ入額ヲ返還スルニ及ハス
第千五百六十九条 人ヨリ婦ニ嫁資ヲ与ヘント約シタル期限ノ後十年ノ間夫婦トナリタル上ニテ婚姻ヲ解キタル時ハ其婦又ハ其遺物相続人其嫁資ヲ夫ノ既ニ受取リシ旨ヲ証スルニ及ハスシテ其嫁資トナシタル財産ヲ其夫ヨリ取戻スコトフ得可シ但シ夫其嫁資ヲ得可キ為メ如何ニ力ヲ竭シタルト雖トモ終ニ之ヲ得ルコト能ハサル旨ヲ証セシ時ハ格別ナリトス
第千五百七十条 婦ノ死去ニ因リ婚姻ヲ解キシ時ハ其婦ノ遺物相続人其婚姻ヲ解キシ日以来ノ嫁資ノ息銀及ヒ利益ヲ取戻スノ権アリ
又夫ノ死去ニ因リ婚姻ヲ解キシ時ハ其婦一年ノ喪中其嫁資ノ息銀ヲ得又ハ其一年ノ時間夫ノ遺物中ヨリ養料ヲ得ル事自由ナリトス但シ此二箇中何ノ場合ニ於テモ其一年間婦ノ住居スル家屋ノ借賃ト其喪服ノ費用トハ夫ノ遺物財産中ヨリ其婦ニ之ヲ供給ス可クシテ其婦ノ得可キ嫁資ノ息銀中ヨリ之ヲ差引ク可カラス
第千五百七十一条 婚姻ヲ解キシ時ハ其最終ノ一年中ニテ其婚姻ヲ解カサリシ時間ノ長短ニ准シ嫁資ノ不動産ノ利益ヲ夫及ヒ婦又ハ其遺物相続人等ノ間ニ分ツ可シ
其一年ノ時間ハ嘗テ婚姻ヲ行フタル日ヨリ之ヲ算ス可シ
第千五百七十二条 婦及ヒ其遺物相続人ハ嫁資ヲ取戻スニ付キ自己ヨリ前ニ夫ノ不動産ヲ質ト為シ得タル債主ニ先チ夫ノ不動産ヲ己レニ得可キ「プリウィレージ」ノ権ナシ
第千五百七十三条 父其女ニ嫁資ヲ与ヘタル時其夫既ニ己レノ負債ヲ償フコト能ハス且技芸職業ナキ者タル時夫其嫁資ヲ費シタルニ於テハ婦其夫ノ遺物相続人ヨリ償ヲ得可キノ権ノミヲ父ノ遺物中ニ返還ス可シ
然トモ夫婚姻ノ後負債ヲ償フコト能ハサル者トナリ又ハ夫財産ヲ有セスト雖トモ之ニ代フ可キ技芸職業アル時ハ其嫁資ノ損失ヲ其婦自己ニ担当ス可シ
第四款 嫁資外ノ婦ノ財産
第千五百七十四条 嫁資ト為ササル婦ノ財産ハ総テ之ヲ嫁資外ノ財産ト云フ
第千五百七十五条 婦ノ財産尽ク嫁資外ノ財産ニシテ夫婦トナル時間ノ費用ノ中幾許ヲ其婦ノ担当ス可キヤヲ婚姻ノ契約書ニ別段定メタルコトナキ時ハ其婦己レノ入額ノ三分一ニ至ル迄ヲ其婚姻ノ費用トシテ出ス可シ
第千五百七十六条 婦ハ其嫁資外ノ財産ヲ支配シ且其入額ヲ所得ト為スノ権アリ
然トモ婦ハ夫ノ承諾ヲ得タル上又夫ノ承諾セサル時ハ裁判所ノ允許ヲ得タル上ニ非サレハ其財産ヲ人ニ売払ヒ又ハ贈与スルコトヲ得ス又其財産ニ付キ訴訟ノ原告又ハ被告トナルコトヲ得ス
第千五百七十七条 婦其嫁資外ノ財産ヲ己レニ代テ支配ス可キノ権ヲ其夫ニ授ケ其財産ノ利益ヲ己レニ算計セシムルコトヲ契約シタル時ハ其夫総テ其他ノ名代人(名代人ノ事ハ此篇第十三巻ヲ見ル可シ)ニ等シク其婦ニ対シ其算計ヲ為スノ義務ヲ担当ス可シ
第千五百七十八条 若シ夫別段其婦ノ名代人タル可キノ契約ナク唯其婦ノ阻拒セサルニ因リ嫁資外ノ財産ノ利益ヲ所得ト為シタル時ハ其婚姻ヲ解ク時ニ至リ又ハ婦ヨリ求メヲ受ケタル時ニ至リ現存スル利益ノミヲ還ス可ク既ニ費シタル利益ヲ算計スルニ及ハス
第千五百七十九条 又夫其婦ノ阻拒シタルニ管セス嫁資外ノ財産ノ利益ヲ所得ト為シタル時ハ其夫既ニ費シタル利益ト現存スル利益トヲ皆其婦ニ算計ス可シ
第千五百八十条 婦ノ嫁資外ノ財産ノ利益ヲ所得ト為ス夫ハ総テ入額所得者ノ義務ヲ負フ可シ
○格別ノ規則
第千五百八十一条 夫婦嫁資分括ノ法ニ循テ婚姻ヲ為スト雖トモ夫婦タル時間買入タル不動産ヲ共通ス可キノ約ヲ為スコトヲ得可シ但シ其共通ヨリ生スル諸件ハ第千四百九十八条及ヒ第千四百九十九条ニ記シタル所ニ循フ可シ
第六巻 売買〔千八百四年第三月六日決定同月十六日布告〕
第一章 売買ノ本義及ヒ法式
第千五百八十二条 売買トハ一方ヨリ物件ヲ渡シ他ノ一方ヨリ其価ヲ払フ可キノ契約ヲ云フ
売買ハ公正ノ証書ヲ以テ之ヲ為シ又ハ私ノ証書ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得可シ
第千五百八十三条 一方ヨリ未タ物件ヲ渡スコトナク且他ノ一方ヨリ其価ヲ払フコトナシト雖トモ其物件ト其価トヲ互ニ協議シタル上ハ其双方ノ間ニ於テ売買ヲ為シ了リタルモノトシ買主ハ売主ニ対シテ其物件所有ノ権ヲ得可シ
第千五百八十四条 売買ハ別段ノ約束ナク之ヲ為スコトヲ得又ハ義務ノ執行ヲ停止スル未必ノ条件(第千百八十一条見合)及ヒ義務ヲ解除スル未必ノ条件(第千百八十三条見合)ニ管スル約束ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得可シ
又売買ハ二箇又ハ二箇以上ノ物件中ニテ其一ヲ択ム可キノ約束ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得可シ
此中何レノ場合ニ於テモ売買ノ契約ノ効ハ此篇第三巻(契約ノ巻)ニ記シタル一般ノ規則ヲ以テ之ヲ定ム
第千五百八十五条 商品ヲ一纏メト為シテ売ルコトナク之ヲ度量シ又ハ之ヲ算計シテ売ラントスル時ハ之ヲ度量シ又ハ算計スルニ至ル迄ノ間売主其物件ヲ己レニ担当ス可キニ因リ其売買ヲ為シ了リタルモノト為ス可カラス但シ売主契約ノ如ク執行ハサルコトアル時ハ買主其商品ノ引渡ヲ得ント訴ヘ又別段ノ道理アルニ於テハ損失ノ償ヲ得ント訴フルコトヲ得可シ
第千五百八十六条 又商品ヲ一纏メト為シテ売リタル時ハ未タ之ヲ度量シ又ハ算計セスト雖トモ其売買ヲ為シ了リタルモノトス可シ
第千五百八十七条 葡萄酒又ハ油又ハ総テ買入ルル前ニ味ヲ試ム可キ習慣アル物品ニ付テハ買主其試ミヲ為シ承諾シタル上ニ非レハ売買ヲ為シ了リタルコトナシトス
第千五百八十八条 先ツ物品ヲ試ミタル上ニテ之ヲ買入ル可キ約束アル売買ハ義務ノ執行ヲ停止スル未必ノ条件ニ管シタル約束ヲ以テ為シタルモノト為ス可シ
第千五百八十九条 双方ノ者其売買ス可キ物品ト其価トヲ互ニ協議シタル上ハ売払ノ約束ノミニテ既ニ売買ヲ為シタルニ等シキ効アリトス
第千五百九十条 手附金ヲ出シテ売買ノ契約ヲ為シタル時其契約ヲ為シタル一方ノ者左ノ条件ヲ行フニ於テハ其契約ヲ取消スコトヲ得可シ
手附金ヲ渡シタル者ハ其手附金ヲ己レノ損失ト為ス事
手附金ヲ受取リタル者ハ其手附金ノ二倍ヲ返ス事
第千五百九十一条 売買ノ価ハ売買ヲ為ス双方ノ者之ヲ定ム可シ
第千五百九十二条 然トモ双方ノ者ハ其評価ヲ他人ノ裁断ニ任カスルコトヲ得可シ但シ此場合ニ於テ他人其評価ヲ為スコトヲ欲セス又ハ評価ヲ為スコト能ハサル時ハ売買ノ契約ナシトス可シ
第千五百九十三条 売買ノ証書ノ費用及ヒ其他売買ニ付テノ費用ハ買主之ヲ担当ス可シ
第二章 売買ヲ為シ得可キ人ノ事
第千五百九十四条 法律上ニテ別段禁止スル者ニ非サレハ如何ナル人ト雖トモ売買ヲ為スコトヲ得可シ
第千五百九十五条 売買ノ契約ハ左ノ三個ノ場合ノ外夫婦ノ間ニ為スコトヲ得ス
第一 夫婦中ノ一方裁判所ノ言渡ヲ得テ財産ヲ分チタル他ノ一方ニ対シ義務ヲ尽クス為メ財産ヲ譲リ渡ス場合
第二 夫婦財産ヲ分チタルト否トヲ問ハス夫其婦ノ不動産ヲ売払フテ得タル代金又ハ其婦ノ金高ヲ利益トナル可キ方法ニ用フル等ノ如ク総テ正当ノ原由アリテ其婦ニ自己ノ財産ヲ譲リ渡ス場合但シ其婦ノ不動産又ハ金高ヲ夫婦共通スル時ハ格別ナリトス
第三 婦其財産ヲ夫ト共通セサル時嫁資トシテ持来ル可キコトヲ約シタル金高ニ代ヘ其財産ヲ夫ニ譲リ渡ス場合
此三箇ノ場合ニ於テ夫婦窃ニ其私利ヲ計リタル時ハ其遺物相続人己レノ権利ヲ保護ス可キノ訴ヲ為スコトヲ得可シ
第千五百九十六条 後見人ハ其後見ヲ受クル者ノ財産
名代人ハ本人ニ代リテ売払フ可キノ任ヲ受ケタル財産
「コムミユーン」ノ支配人及ヒ公ケノ建造物ノ支配人ハ其支配スル「コムミユーン」ノ財産又ハ公ケノ建造物ニ属スル財産
官ニ属スル財産売払ノ任ヲ受ケタル官吏ハ其財産
此等ノ者ハ此等ノ財産ヲ自カラ買入ルルコトヲ得ス又人ノ介入ヲ以テ買入ルルコトヲ得ス縦令之ヲ買入レタルト雖トモ其効ナカル可シ
第千五百九十七条 裁判役及ヒ其代人、「ミニステールピュブリック」、裁判所ノ書記官、門監、代書師、訴訟ノ代言人、「ノテイル」等ハ其職務ヲ行フ裁判所ノ所轄タル訴訟ヲ為スノ権ヲ買受クルコトヲ得ス縦令之ヲ買受クルト雖トモ其買受ノ効ナク且相手方ニ裁判所ノ費用ト損失ノ高トヲ償フ可シ
第三章 売払フコトヲ得可キ物件
第千五百九十八条 通常売買ヲ為ス物件ハ総テ之ヲ売払フコトヲ得可シ但シ別段ノ規則ニ因リ其売払ヲ禁シタル時ハ格別ナリトス
第千五百九十九条 売主自己ノ所有ニ非サル物件ヲ売払フタル時ハ其売払ノ効ナカル可シ但シ此場合ニ於テ買主其物件売主ノ所有ニ非サルコトヲ知ラサル時ハ其売主ニ対シ損失ノ償ヲ得ント訴フルコトヲ得可シ
第千六百条 生存スル人ノ遺物相続ヲ為スノ権ハ縦令其人ノ承諾アリト雖トモ之ヲ売払フコトヲ得ス(第千百三十条見合)
第千六百一条 売払フ可キ契約ヲ為シタル物件ノ全部其売払ノ時ニ至リ滅尽シタルニ於テハ其売買契約ノ効ナカル可シ
又其物件ノ一部滅尽シタル時ハ買主全ク其売買ノ契約ヲ廃シ又ハ評価人ヲシテ其現存スル部分ノ価ヲ定メシメ之ヲ得ント求ムルコト自由ナリトス
第四章 売主ノ義務
第一款 総規則
第千六百二条 売主ハ其義務ヲ詳カニ説明ス可シ
意味ノ分明ナラス又ハ疑ハシキ契約ノ文詞ハ皆売主ノ損失トナル可キ方法ニ之ヲ解釈ス可シ
第千六百三条 売主ノ為メニ重大ナル義務二箇アリ其一ハ売払フタル物件ヲ引渡ス可キノ義務又一ハ其物件ヲ保証ス可キノ義務ナリ
第二款 引渡ノ事
第千六百四条 物件引渡トハ売払フタル物件ヲ買主ニ委附シ之ヲ其所有ニ移スヲ云フ
第千六百五条 不動産ヲ引渡ス可キ義務家屋ニ管シタル時ハ売主ヨリ買主ニ其鑰ヲ渡シタルニ因リ又土地ニ管シタル時ハ其所有ノ証書ヲ渡シタルニ因リ売主ヨリ買主ニ対シテ其義務ヲ尽クシタルト為ス可シ
第千六百六条 動産ノ引渡ハ左ノ方法ヲ以テ之ヲ為ス可シ
第一 現ニ其動産ヲ渡ス事
第二 其動産ヲ入レ置キタル家屋ノ鑰ヲ渡ス事
第三 売買ノ時其動産ヲ運送スルコト能ハス又ハ買主売買ニ非サル名義ヲ以テ既ニ其動産ヲ己レノ有ト為シタル場合ニ於テハ売主ト買主ト協議シタル事
第千六百七条 権利ノ引渡ハ証書ヲ渡ス事又ハ買主売主ノ承諾ヲ得テ其権利ヲ行フ事ニ因リ之ヲ為ス可シ
第千六百八条 引渡ニ付テノ費用ハ売主之ヲ担当ス可ク又運送ノ費用ハ買主之ヲ担当ス可シ但シ之ニ反シタル契約アル時ハ格別ナリトス
第千六百九条 引渡ハ売払ノ時其物件所在ノ場所ニテ之ヲ為ス可シ但シ之ニ反シタル契約アル時ハ格別ナリトス
第千六百十条 売主其所為ニ因リ嘗テ買主ト協議セシ期限内ニ物件ヲ引渡スコトヲ遅延シタルニ於テハ買主其売買ノ契約ヲ取消サント訴ヘ又ハ其物件ヲ己レノ所有ト為サント訴フルコト自由ナリトス
第千六百十一条 何レノ場合ニ於テモ売主買主ト嘗テ協議セシ期限内ニ其物件ヲ引渡ササルニ因リ買主ノ為メ損失ヲ生スル時ハ其売主買主ニ損失ノ償ヲ為ス可キノ言渡ヲ受ク可シ
第千六百十二条 買主売主ニ代金ヲ払フコトナク且売主ヨリ其払方ノ猶予ヲ買主ニ許シタルコトナキ時ハ売主ヨリ買主ニ其物件ヲ引渡スニ及ハス
第千六百十三条 売買ノ契約ヲ為シタル後買主家資分散ヲ為シ又ハ産業ヲ破リタルニ因リ売主其代金ヲ損失ス可キノ危急ナルニ於テハ縦令売主其代金ヲ受取ルニ付テノ猶予ヲ買主ニ許シタル時ト雖トモ売主買主ニ其物件ヲ引渡スニ及ハス但シ買主ヨリ売主ニ対シ預定ノ期限ニ至リ必ス其代金ヲ払フ可キノ保証人ヲ立テタル時ハ格別ナリトス
第千六百十四条 総テ引渡ス可キ物件ハ売買ノ契約ヲ為シタル時ノ景状ノ侭之ヲ引渡ス可シ
其契約ノ時ヨリ後ニ其物件ヨリ生スル所ノ利益ハ買主ニ属ス可シ
第千六百十五条 物件ヲ引渡ス可キ義務アル時ハ其物件ニ附従シタル物及ヒ総テ其物件ヲ永ク使用スル為メ具ヘタル諸件ヲモ亦引渡ス可シ
第千六百十六条 総テ売主ハ売買ノ契約書中ニ記載シタル物件ノ総高ヲ引渡ス可シ但シ此事ニ付テハ後ノ数条ノ規則ニ循フ可シ
第千六百十七条 不動産売買ノ契約書ニ其不動産ノ方積ト其一区ニ付キ価幾許ノ割合トヲ記シタル時買主其契約書ニ記シタル如キ方積ヲ得ント求ムルニ於テハ売主ヨリ之ヲ引渡ス可シ
若シ売主其契約書ニ記シタル如キ方積ヲ渡スコト能ハサル時又ハ買主之ヲ得ント求メサル時ハ売主其契約書ニ記シタル所ノ方積ト現ニ在ル所ノ方積トノ差ニ准シテ其価ヲ減ス可シ
第千六百十八条 若シ又前条ノ場合ニ於テ契約書ニ記セシヨリ其方積更ニ多分ニシテ其余分ノ積契約書ニ記シタル積ニ過クルコト二十分一以上ナル時ハ買主其価ノ増高ヲ与フルコト又ハ其契約ヲ取消スコト自由ナリトス
第千六百十九条 総テ其他ノ場合即チ(前二条外ノ場合ヲ云フ)
一箇ノ定マリタル不動産ノ売買ヲ契約シタル時
互ニ分別シテ且ツ離隔シタル不動産売買ノ契約ヲ為シタル時
不動産ヲ定ムル前ニ先ツ之ヲ度量シテ其売買ノ契約ヲ為シタル時又ハ先ツ其不動産ヲ定メタル上ニテ之ヲ度量シ其売買ノ契約ヲ為シタル時
此場合ニ於テハ其度量ヲ契約書ニ記シタルト雖トモ現ニ在ル所ノ不動産ノ方積契約書ニ記シタル方積ヨリ多ク又ハ少ナキコト不動産全価ノ二十分一以上ノ差異アルニ非サレハ其余分ニ付キ売主ノ為メニ其価ヲ増スコトナカル可ク又不足ニ付キ買主ノ為メニ其価ヲ減スルコトナカル可シ但シ売主ト買主ト別段ノ契約ヲ為シタル時ハ格別ナリトス
第千六百二十条 前条ニ循ヒ不動産ノ方積ノ余分ナルニ付キ価ヲ増ス可キ時ハ買主其契約書ヲ取消スコト又ハ価ノ増高ヲ与フルコト自由ナリトス但シ買主其不動産ヲ己レノ方ニ保チ置キタル時ハ価ノ増高ト共ニ其息銀ヲ払フ可シ
第千六百二十一条 買主売買ノ契約ヲ取消ス可キノ権アル場合ニ於テハ売主其受取リタル代金ト其契約ヲ為スニ付テノ費用トヲ買主ニ返ス可シ
第千六百二十二条 売主価ノ増高ヲ求ムルノ訴訟及ヒ買主価ヲ減シ又ハ契約ヲ取消スコトヲ求ムルノ訴訟ハ其契約書ヲ記シタル日ヨリ一年内ニ之ヲ為ス可ク然ラサレハ其訴訟ヲ為スノ権ヲ失フ可シ
第千六百二十三条 一通ノ契約書ニ拠リ且相合シタル価ヲ以テ二箇ノ不動産ヲ売払ヒ其二箇ノ不動産ノ度量ヲ契約書ニ記シタル時其一箇ノ不動産ノ方積ニ契約書ニ記シタル積ヨリ少ナク他ノ一箇ノ不動産ノ方積ハ契約書ニ記シタル積ヨリ多キニ於テハ其多少ノ方積匹敵スルニ至ル迄互ニ相殺ス可シ但シ其価高ヲ増シ又ハ減ス可キノ訴訟ハ前ノ数条ニ記載シタル規則ニ循テ之ヲ為ス可シ
第千六百二十四条 売払フタル物ヲ引渡ス前ニ其物ノ滅尽シ又ハ毀壊シタルノ責売主ニアル可キヤ又ハ買主ニアル可キヤヲ知ルニ付テノ規則ハ此篇第三巻(契約ノ巻)ニ記載シタル所ニ循フ可シ
第三款 売主其売払フタル物件ヲ買主ニ対シテ保証スル事
第千六百二十五条 売主ヨリ買主ニ対シテ為ス可キ保証ハ二箇ノ目的アリトス但シ其一ハ其売払フタル物件ヲ買主ノ所有スルニ付キ阻害ナキノ保証ヲ為ス事又一ハ其物件ニ知リ得ルコト能ハサル不良ノ所アラサルノ保証ヲ為ス事ナリ
第一節 買主他人ヨリ訴訟ヲ受ケ其買入レタル物件ヲ奪ハルルコトナキ旨ヲ売主ヨリ保証スル事
第千六百二十六条 売買ノ時ニ売主ノ保証ニ付キ別段契約ヲ為サスト雖トモ買主其買入レタル物件ノ全部又ハ一部ヲ他人ヨリノ訴訟ニ因リ奪ハルルコトナキ旨又ハ其物件ニ付キ売買ノ時契約書ニ記セサル負債ハ買主担当スルニ及ハサル旨ヲ売主ヨリ買主ニ対シテ保証ス可シ
第千六百二十七条 然トモ売主ト買主ト双方互ニ別段ノ契約ヲ結ヒ売主ヨリ買主ニ対シテ為ス可キ当然ノ保証ニ付キ其義務ヲ増シ又ハ其義務ヲ減ス可キコトヲ約シ又ハ売主全ク其保証ヲ為スコトナカル可キ旨ヲ約スルコトヲ得可シ
第千六百二十八条 売主買主ニ対シテ同上ノ保証ヲ為スニ及ハサルコトヲ別段約シタル時ト雖トモ売主其一身ノ所為ニ因リ生シタル諸件ニ付テノ保証ヲ為ササルヲ得ス但シ之ニ反シタル契約ハ其効ナカル可シ
第千六百二十九条 又売主同上ノ保証ヲ為スコトナカル可キ旨ヲ契約シタル時ト雖トモ買主他人ヨリ訴訟ヲ受ケ其買入レタル物件ヲ奪ハルルニ於テハ売主ヨリ買主ニ其代金ヲ返ス可シ但シ買主売買ノ契約ヲ為シタル時後ニ其物件ニ付キ他人ヨリ訴訟ヲ受ケ之ヲ奪ハル可キノ恐レアルコトヲ既ニ知リタル時又ハ物件ヲ買入タル後之ヲ失フコトアリトモ其損失ヲ総テ己レニ担当ス可キノ約束ヲ以テ買入タル時ハ格別ナリトス
第千六百三十条 売主買主ニ対シテ保証ヲ約シタル時又ハ保証ノ事ニ付キ別段契約ヲ為シタルコトナキ時後ニ買主他人ヨリ訴訟ヲ受ケ其買入タル物件ヲ奪ハレタルニ於テハ買主ヨリ売主ニ対シ左ノ諸件ヲ得ント訴フルノ権アリ
第一 代金ノ返還
第二 買主他人ヨリ訴訟ヲ受ケ其買入タル物件ト共ニ其物件ヨリ生シタル利益ヲ奪ハレタル時ハ其利益ノ償還
第三 買主他人ヨリ訴訟ヲ受ケタル時其保証人タル売主ヲ其訴訟ニ参セシムル手続ニ付テノ費用及ヒ其訴訟人ノ費用(此費用ハ買主ヨリ既ニ訴訟人ニ償フタルモノヲ云フ)
第四 売買契約書ノ費用並ニ買主ノ損失ノ償額
第千六百三十一条 買主他人ヨリ訴訟ヲ受ケ其買入タル物件ヲ奪ハレタル時ハ嘗テ買主ノ怠リニ因リ又ハ防拒ス可カラサル力アル意外ノ事ニ因リ其物件ノ価減損シ又ハ其物件大ニ毀損セシコトアリト雖トモ売主猶其価ノ総高ヲ返還ス可シ
第千六百三十二条 然トモ買主其物件ヲ毀損シタルニ因リ利益ヲ得タル時ハ売主買主ニ返還ス可キ代金中ニテ其買主ノ利益トナリタル高ヲ減シ其余ヲ返還スルコトヲ得可シ
第千六百三十三条 買主他人ヨリ訴訟ヲ受ケ其買入タル物件ヲ奪ハレタル時嘗テ買主ノ所為ニ因ルト否トヲ問ハス其物件ノ価増シタルニ於テハ売主ヨリ買主ニ其物件ノ売払代金ノ増高ヲ償還ス可シ
第千六百三十四条 買主其買入タル不動産ヲ修理シタル費用又ハ之ヲ良好ニ為シタル費用ハ売主自カラ之ヲ買主ニ償ヒ又ハ其買主ニ対シ訴訟ヲ為シテ其不動産ヲ所得トシタル者ヲシテ之ヲ買主ニ償ハシム可シ
第千六百三十五条 売主若シ不正ノ意ヲ以テ他人ノ不動産ヲ売リタル時ハ買主ノ其不動産ニ付キ為シタル総テノ費用ヲ買主ニ償還ス可シ但シ買主ノ其不動産ニ付キ歓娯ノ為メナシタル費用ト雖トモ亦之ヲ償還セサルヲ得ス
第千六百三十六条 買主他人ヨリ訴訟ヲ受ケ其買入タル物件ノ一部ヲ奪ハレ其一部ヲ全部ト比較スルニ極メテ至重ノモノニシテ其一部ヲ所有ト為スニ非サレハ初ヨリ買主ノ之ヲ買入ルルコトナカル可シト思料ス可キニ於テハ買主其売買ノ契約ヲ取消スコトヲ得可シ
第千六百三十七条 又買主他人ヨリ訴訟ヲ受ケ其買入タル不動産ノ一部ヲ奪ハレタル時売買ノ契約ヲ取消ササルニ於テハ其不動産ノ価ノ増減ニ管セス其一部ヲ奪ハレタル時ノ価ニ准シテ売主ヨリ買主ニ其一部ノ代金ヲ償フ可ク売買ノ時ノ価ニ准シテ之ヲ償フ可カラス
第千六百三十八条 売払フタル不動産ニ付キ人目ニ触レサル土地ノ義務アルニ売買ノ時売主ヨリ買主ニ之ヲ知ラシムルコトナク且其義務重劇ニシテ若シ買主其義務アルコトヲ知ラハ初ヨリ其買入ヲ為スコトナカル可シト思料ス可キ時ハ買主其売買ノ契約ヲ取消スコトヲ訴フルヲ得可シ但シ買主其契約ヲ取消サスシテ唯々其損失ノ償ヲ得ント欲スル時ハ格別ナリトス
第千六百三十九条 前数条ニ記スル所ノ外売主売買ノ契約ノ如ク執行ハサルニ因リ買主ニ対シ償ヲ出ス可キ条件ハ此篇第三巻(契約ノ巻)ニ記シタル一般ノ規則ニ循フ可シ
第千六百四十条 買主売主ヲ裁判所ニ呼出スコトナクシテ終審ノ裁判ヲ受ケ又ハ控訴スルコト能ハサル確定ノ裁判ヲ受ケ其買入レタル物件ヲ他人ニ渡ス可キ旨ヲ言渡サレタル時売主其訴訟ニ参スレハ原告人ノ申述ヲ拒ムニ足ル可キ憑拠アルコトヲ証スルニ於テハ買主其買入レタル物件ヲ他人ノ為メ奪ハルルト雖トモ売主其償還ヲ為スニ及ハス
第二節 売主其売払フタル物件ノ不良ナラサル旨ヲ保証スル事
第千六百四十一条 売主ハ其売払フタル物件ヲ其当然ノ用法ニ供スルコト能ハサラシム可キ知リ難キ不良ノ所ナキ旨又ハ買主其不良ノ所アルコトヲ知リシ時ハ其物件ヲ買入ルルコトナク又縦令之ヲ買入ルルト雖トモ少量ノ価ヲ出シタル可シト思料ス可キ不良ノ所ナキ旨ヲ買主ニ対シテ保証ス可シ
第千六百四十二条 売主ハ買主ノ自カラ知ルコトヲ得可キ不良ノ所アルニ付キ其責ニ任スルニ及ハス
第千六百四十三条 売主ハ其売払フタル物件ニ知リ難キ不良ノ所アルコトヲ自カラ知ラサル時ト雖トモ猶其責ニ任ス可シ但シ此場合ニ於テ売主其責ニ任セサルコトヲ別段契約シタル時ハ格別ナリトス
第千六百四十四条 第千六百四十一条及ヒ第千六百四十三条ノ場合ニ於テハ買主其買入タル物件ヲ売主ニ返シテ其価額ヲ己レニ取戻ス事又ハ其物件ヲ己レニ保チ置キ評価人ノ定メタル所ニ従ヒ其価額ノ一部ヲ己レニ取戻ス事自由ナリトス
第千六百四十五条 売主其売払フタル物件ノ不良ナルヲ知リ之ヲ売払フタル時ハ其受取リシ代金ヲ返シタル上猶ホ買主ニ其損失ノ償ヲ為ス可シ
第千六百四十六条 売主其売払フタル物件ノ不良ナルヲ知ラスシテ之ヲ売払フタル時ハ其代金ヲ返シ且買主ノ買入ニ付キ出シタル費用ヲ償フノミトス
第千六百四十七条 不良ナル物件其質ノ悪キニ因リ滅尽シタル時ハ売主其損失ヲ担当シテ買主ニ其代金ヲ返シ且前二条ニ記シタル償ヲ為ス可シ
然トモ同上ノ物件意外ノ事ニ因リ滅尽シタル時ハ買主其損失ヲ担当ス可シ
第千六百四十八条 売払フタル物件ニ不良ノ事アルニ因リ売買ノ契約ヲ取消サントスル訴訟ハ其不良ナル事ノ種類ト其売買ヲ為シタル地ノ習慣トニ従ヒ買主相当ノ期限内ニ之ヲ為ス可シ〔千八百三十八年第五月二十日ノ法ヲ以テ改ム〕
第千六百四十九条 前条ニ記シタル所ノ訴訟ハ裁判所ノ権ヲ以テ為シタル売払ニ付キ之ヲ為ス可カラス
第五章 買主ノ義務
第千六百五十条 買主ノ至重ノ義務ハ売買ノ契約書ニ定メタル日ト場所トニ於テ其代金ヲ沸フ可キコトナリトス
第千六百五十一条 売買ノ契約書ニ別段前条ノ事ヲ規定シタルコトナキ時ハ買主売主ヨリ其物件ノ引渡ヲ得タル時ト場所トニ於テ其代金ヲ払フ可シ
第千六百五十二条 左ノ三箇ノ場合ニ於テハ買主売主ニ価ノ母銀ヲ払フニ至ル迄其息銀ヲ出ス可シ
第一 売買ノ契約書ニ別段同上ノ事ヲ記シタル時
第二 売主其売払フタル物件ヲ引渡シタル後其物件ヨリ入額ヲ得タル時
第三 買主其代金ヲ払フコトヲ怠リタルニ因リ売主ヨリ之ヲ受取ルヘキノ催促ヲ受ケタル時
但シ此末ノ一項ニ記シタル場合ニ於テハ売主ヨリ買主ニ代金ヲ得ント催促シタル時ヨリ以来其息銀ヲ生ス可シ
第千六百五十三条 買主其買入レタル物件ニ付キ之ヲ「イポテーク」トシテ得タル者ヨリ訴訟ヲ受ケ又ハ其物件ノ正当ノ所有者ヨリ之ヲ取戻サントスル訴訟ヲ受ケタル時又ハ此等ノ訴訟ヲ受ク可シト思料ス可キ道理アル時ハ売主其訴訟ノ原因ヲ除去スルニ至ル迄買主其代金ヲ払フコトヲ遅延スルヲ得可シ但シ売主ヨリ買主ニ対シ此事ニ付キ保証人ヲ立テタル時又ハ縦令買主同上ノ訴訟ヲ受クルコトアリト雖トモ其代金ヲ払フ可キコトヲ預シメ契約シタル時ハ格別ナリトス
第千六百五十四条 若シ買主代金ヲ払ハサル時ハ売主其売買ノ契約ヲ取消サントスル訴ヲ為スコトヲ得可シ
第千六百五十五条 不動産ノ売主其不動産並ニ其代金ヲ共ニ失フ可キノ恐レアル時ハ裁判所ヨリ其売買ノ契約ヲ取消ス可キ旨ヲ即時ニ言渡ス可シ
又同上ノ恐ナキ時ハ裁判役ヨリ其時ノ模様ニ従ヒ買主ニ多少ノ猶予ヲ許スコトヲ得可シ
買主其猶予ノ期限間ニ猶其代金ヲ払フコトナキ時ハ売買ノ契約ヲ取消ス可キコトヲ言渡ス可シ
第千六百五十六条 不動産売買ノ時買主ト売主ト協議シタル期限ニ買主其代金ヲ払ハサルニ於テハ其売買ノ契約ヲ取消ス可キコトヲ別段定メ置キタルト雖トモ売主ヨリ買主ニ其代金ヲ受取ル可キ催促ヲ為ササル間ハ嘗テ協議シタル期限ノ終リシ後ニ至リ買主其代金ヲ払フコトヲ得可シ然レトモ売主ヨリ買主ニ其代金ヲ受取ラント催促シタル後ハ裁判役ヨリ其買主ニ更ニ猶予ノ期限ヲ許スコトヲ得ス
第千六百五十七条 飲食料ノ商品及ヒ「エヒヘーモビリエール」(第五百三十五条見合セ)ノ売買ヲ契約シタル時ハ其物ヲ引取ル可キ為メ協議シタル期限ノ終リシ後ニ至リ売主ヨリ買主ニ其代金ヲ受取ル可キノ催促ヲ為スコトナク其売買ノ契約ヲ取消スコトヲ得可シ
第六章 売買ノ契約ヲ廃棄スル事
第千六百五十八条 既ニ此巻ニ記載シタル売買ノ契約ヲ廃棄セシムル原由及ヒ総テ如何ナル契約ヲモ廃棄セシムル原由ノ外買戻ノ権ヲ行フ事又ハ価ノ少ナキニ過キタル事ニ因リ亦売買ノ契約ヲ廃棄スルコトヲ得可シ
第一款 買戻ノ権
第千六百五十九条 買戻ノ権トハ売主其得タル代金ヲ返シ且第千六百七十三条ニ記スル所ノ償還ヲ為シテ其売払フタル物件ヲ取戻ス可キノ契約ニ因リ生スル所ノ権ヲ云フ
第千六百六十条 買戻ノ権ハ五年以上ノ期限間之ヲ行フ可キコトヲ契約ス可カラス
若シ五年ニ過キタル期限間其権ヲ行フ可キコトヲ契約シタル時ハ之ヲ五年ノ期限ニ減ス可シ
第千六百六十一条 双方ノ定メタル期限ハ厳ニ之ヲ循守ス可ク裁判役ヨリ其期限ヲ延スコトヲ得ス
第千六百六十二条 売主預定シタル期限内ニ買戻シノ要メヲ為ササル時ハ買主其物件ノ真ノ所有者トナル可シ
第千六百六十三条 何レノ人ト雖トモ預定ノ期限内ニ買戻ノ権ヲ行フコトナキ時ハ終ニ其権ヲ失フ可シ但シ幼者ト雖トモ亦同一ニシテ唯幼者ハ其管照者(後見人等ヲ云フ)ニ対シ其償ヲ得可キノ訴ヲ為スコトヲ得可シ
第千六百六十四条 買戻ノ契約ヲ以テ物件ヲ売払フタル者ハ其買主ヨリ更ニ其物件ヲ買入タル者ニ対シ亦買戻ノ訴訟ヲ為スコトヲ得可シ但シ其買主更ニ其物件ヲ売払フ時ノ契約書ニ其買戻ノ権ヲ別段記入シタルコトナシト雖トモ亦同一ナリトス
第千六百六十五条 売主ニ買戻ノ権ヲ授クル契約ヲ為シテ物件ヲ買入タル者ハ総テ其売主ノ権利ヲ行フコトヲ得可シ但シ此買主ハ真正ノ所有者(売主トハ別人ヲ云フ)及ヒ其物件ヲ得ルノ権又ハ「イポテーク」トシテ其物件ヲ得ルノ権ヲ有スルト述フル者ニ対シ「プレスクリプシヨン」ノ権ヲ行フコトヲ得可シ
第千六百六十六条 前条ニ記スル所ノ買主売主ノ債主ヨリ其売主ノ為メニ義務ヲ行フ可キノ要メヲ受ケタル時ハ先ツ其売主ノ財産ヲ以テ其義務ヲ得ルニ充テシメ猶其不足ナル時ニ至リテ其買入レタル物件ヲ渡ス可キ旨ヲ述フルコトヲ得可シ
第千六百六十七条 売主ノ他人ト共通セシ不動産ノ一部ヲ売主ノ為メニ買戻ノ契約ヲ為シテ買入タル者他人ヨリ其不動産糶売ノ要メヲ受ケ其糶売ニテ其不動産ノ全部ヲ己レニ買入タル時売主買戻ノ権ヲ行ハントスルニ於テハ買主売主ヲシテ其全部ヲ買戻サシムルコトヲ得可シ
第千六百六十八条 数人其共通シタル不動産ヲ一通ノ契約書ヲ以テ連帯シテ売払フタル時ハ各其所有セシ部分ノミニ付キ売戻ノ権ヲ行フ可シ
第千六百六十九条 又不動産ヲ売払フタル者ノ遺物相続人数人アルトキハ亦前条ニ等シク其各相続人其遺物ノ財産中ニテ己レノ得可キ部分ノミニ付キ買戻ノ権ヲ行フコトヲ得可シ
第千六百七十条 然トモ前二条ノ場合ニ於テ買主ハ数人ノ売主又ハ遺物相続人等ニ対シ其不動産ノ全部ヲ買戻スコトヲ互ニ協議ス可キノ求メヲ為スコトヲ得可シ若シ其数人互ニ協議セサル時ハ買主其数人中ノ一人ヨリ買戻ノ訴訟ヲ受クルト雖トモ之ヲ拒ムノ権アリ
第千六百七十一条 数人ニ属シタル不動産ヲ其数人連帯シテ売ルコトナク各自ニ其所有スル部分ノミヲ売リタル時ハ其数人自己ニ属シタル部分ニ付キ各自ニ買戻ノ要メヲ為スコトヲ得可シ
此場合ニ於テ買主ハ買戻ノ要メヲ為シタル売主ヲシテ其不動産ノ全部ヲ買戻サシムルコトヲ得ス
第千六百七十二条 買主ノ遺物相続人数人アル時売主ノ為メニ買戻ノ契約ヲ為シテ買入レシ不動産ヲ未タ分派セサル場合並ニ其不動産ヲ其遺物相続人数人ニ分派シタル場合ニ於テハ売主其各相続人ニ対シ其得タル部分ノミニ付キ買戻ノ要ヲ為スコトヲ得可シ然トモ其買主ノ遺物財産ヲ分派シ其買入レシ不動産ノ全部其相続人中一人ノ所有トナリタル時ハ売主其相続人中之ヲ相続シタル者ニ対シ其全部ノ買戻ノ要メヲ為スコトヲ得可シ
第千六百七十三条 物件買戻ノ権ヲ行フ売主ハ其代金ヲ買主ニ返ス可キノミニ非ス売買ニ付テノ費用及ヒ已ムヲ得サル修理ノ費用モ亦買主ニ償ヒ且其物件ノ価ヲ貴ウスルカタメ為シタル費用ノ中現ニ其価ヲ貴ウシタル高ヲ買主ニ償フ可シ○其売主ハ総テ此等ノ義務ヲ行フタル後ニ非レハ其物件ヲ買戻スコトヲ得ス
又売主買戻ノ契約ニ従ヒ其不動産ヲ買戻ス時ハ買主ノ其不動産ニ付キ担当シタル負債ヲ全ク滌掃シテ取戻スコトヲ得可シ但シ買主ノ詐偽ナク其不動産ヲ他人ニ賃貸シタル契約ハ其買戻ヲ為シタル売主モ亦之ヲ循守ス可シ
第二款 売主ノ為メ損失アル原由ヲ以テ売買ノ契約ヲ廃棄スル事(不動産ノ売買ニ限ル可シ)
第千六百七十四条 売主其不動産ノ価ニ付キ十二分ノ七以上ノ損失ヲ受ケタル時ハ売主其売買ノ契約ヲ廃棄セント訴フルノ権アリ但シ売買ノ契約書ニ売主其取消ヲ訴フルノ権ヲ放棄セシ旨ヲ記シ且其契約書ニ定メタル価ヨリ更ニ余分ノ真価アリト雖トモ之ヲ買主ノ所得ト為ス可キ旨ヲ記シタル時ト雖トモ亦同一ナリトス
第千六百七十五条 売主ノ為メ十二分ノ七以上ノ損失アルコトヲ知ル可キ為メニハ売買ノ時ノ景状ト価トニ従ヒ其不動産ヲ評価ス可シ
第千六百七十六条 売買ノ日ヨリ二年ノ後ニ至リテハ売主ノ為メ損失アルヲ以テ売買ノ契約ヲ取消ス可キノ訴ヲ為スコトヲ許サス婚姻シタル婦、失踪者、治産ノ禁ヲ受ケタル者、丁年ノ売主ノ権ニ代レル幼者ニ付テモ亦此二年ノ時間ヲ以テ同上ノ訴ヲ為ス可キ期限ナリトス
又買戻ノ為メ契約シタル期限ノ間売主損失ニ付キ売買ノ契約ヲ取消ス可キ期限ヲ遷延スルコトヲ得ス
第千六百七十七条 売主ノ為メ損失アルノ証ヲ立ルコトヲ許スニハ別段裁判所ヨリノ言渡アル事並ニ其売主ノ述フル所ヲ以テ其損失ヲ受ケタル旨ヲ大抵真実ナリト思料ス可ク且ツ十分至重ナル事故アルコトヲ必要トス
第千六百七十八条 其証ハ評価人三員ノ申立ニ因テ之ヲ立ツ可シ但シ其評価人三員ハ相与ニ一通ノ調書ヲ記ス可ク且其三員中其一員ノ説二員ノ説ト異ナル時ハ其二員ノ説ヲ以テ全員ノ説ト定ム可シ
第千六百七十九条 其三員ノ説各自相異ナル時ハ調書ニ其説ノ互ニ相異レル趣旨ヲ記ス可シ但シ此評価人ノ説ハ云々彼評価人ノ説ハ云々タルコトヲ記スルヲ許サス
第千六百八十条 評価人三員ハ裁判所ヨリ之ヲ任ス可シ但シ売主及ヒ買主ノ双方其評価人三員ヲ任スルコトヲ協議シタル時ハ格別ナリトス
第千六百八十一条 裁判所ニテ売買ノ契約ヲ取消サントスル訴ノ如ク允許シタル時ハ買主其払フタル代金ヲ己レニ取戻シテ其物件ヲ売主ニ返ス事又ハ価ノ総高ノ十分一ヲ減シタル上ニテ正当ノ増高ヲ与ヘ其物件ヲ己レニ保有スル事自由ナリトス
買主ヨリ更ニ其物件ヲ買入タル者モ亦同上ノ権アリトス但シ其者ハ以前ノ買主ニ対シ償ヲ求ムルコトヲ得可シ
第千六百八十二条 買主前条ニ定メタル増高ヲ与ヘ其物件ヲ保有セント欲スル時ハ売主ノ其売買ノ契約ヲ取消サント訴ヘタル日ヨリ以来其増高ノ息銀ヲ払フ可シ
若シ買主其物件ヲ売主ニ返シ其代金ヲ己レニ取戻サント欲スル時ハ売主ノ其契約ヲ取消スコトヲ訴タル日ヨリ以来其物件ヨリ得タル所ノ利益ヲ売主ニ返ス可シ
又買主ノ払フタル代金ノ息銀ハ売主其契約ヲ取消サントスル訴ヲ為シタル日ヨリ之ヲ其買主ニ算計ス可シ又買主其買入タル物件ヨリ生セシ利益ヲ初メヨリ所得ト為ササル時ハ其代金ヲ売主ニ払フタル日ヨリ以来ノ息銀ヲ算計セシム可シ
第千六百八十三条 買主ノ為メニハ損失アルヲ以テ其売買ノ契約ヲ取消ス可カラス
第千六百八十四条 法律ニ循ヒ裁判所ノ命令ヲ以テ為シタル売払ニ付テハ損失アルヲ以テ其契約ヲ取消ス可カラス
第千六百八十五条 数人連帯シテ売払ヒ又ハ各自ニ売払フタル場合並ニ買主又ハ売主ノ遺物相続人数人アル場合ニ付キ前款ニ記シタル規則ハ売主ノ為メ損失アルヲ以テ其売買ノ契約ヲ取消ス事ニモ亦通シテ用フ可シ
第七章 糶売ノ事
第千六百八十六条 数人ノ共通スル物件ヲ損失ナク平当ニ分ツコトヲ得サル時又ハ数人ノ共通スル物件ヲ互ニ協議シテ分派シ其分派ヲ得可キ各人ノ皆己レノ所有ト為スコトヲ得サル物又ハ所有トスルコトヲ欲セサル物アル時ハ糶売ヲ以テ之ヲ売払ヒ其数人ニ其代金ヲ分ツ可シ
第千六百八十七条 共通シテ物件ヲ所有スル各人ハ他人ヲシテ其糶売ニ管渉セシムルコトヲ要ムルノ権アリ又其共通シテ所有スル者ノ中一人幼者ナル時ハ必ス他人ヲシテ其糶売ニ管渉セシム可シ
第千六百八十八条 糶売ヲ為スニ付テノ法式ハ此篇第一巻(遺物相続ノ巻)及ヒ訴訟法ニ之ヲ記ス
第八章 義務ヲ得可キノ権利及ヒ其他ノ権利ヲ人ニ移ス事
第千六百八十九条 義務ヲ得可キノ権又ハ訴訟ヲ為スノ権ヲ人ニ移ス時ハ之ヲ渡ス者ヨリ之ヲ譲リ受クル者ニ其証書ヲ渡シタルコトヲ以テ其権ノ引渡ヲ為シタリトス
第千六百九十条 権利ヲ譲リ受ケタル者義務ヲ行フ可キ者ニ其旨ヲ報知シタル上ハ他人ニ対シテモ亦其権利ヲ譲リ受ケタルト為ス可シ
又権利ヲ譲リ受ケタル者ハ義務ヲ行フ可キ者公正ノ証書ヲ以テ其権利ノ移リシコトヲ承諾シタルニ因リ亦他人ニ対シテ其権利ヲ譲リ受ケタルト為ス可シ
第千六百九十一条 権利ヲ譲リ渡シタル者又ハ之ヲ譲リ受ケタル者其権利ヲ移セシコトヲ義務ヲ行フ可キ者ニ報知スル前ニ其義務ヲ行フ可キ者其権利ヲ譲リ渡シタル者ニ対シ其義務ヲ尽クセシ時ハ法ニ適シテ其義務ノ釈放ヲ得タルモノトス可シ
第千六百九十二条 義務ヲ得可キノ権利ヲ売リ又ハ譲リ渡シタル時ハ保証並ニ「プリウィレージ」ノ権及ヒ「イポテーク」ノ権等ノ如ク総テ其権利ニ附帯シタル諸事ヲモ亦包含ス可シ
第千六百九十三条 義務ヲ得可キノ権利又ハ其他ノ権利ヲ売リタル者ハ其売払ノ契約ニ別段保証ヲ為スコトナシト雖トモ其売払ノ時ニ当リ其権利ノ現存スルコトヲ証ス可シ
第千六百九十四条 義務ヲ得可キノ権利又ハ其他ノ権利ヲ売リタル者ハ之ヲ買受ケシ者ニ対シ其義務ヲ行フ可キ者ノ之ヲ尽クシ得可キコトヲ保証スルニ及ハス但シ其保証ヲ為ス可キコトヲ別段約束シタル時ハ其売主己レニ得タル代金ニ充ル迄其保証ヲ為ス可シ
第千六百九十五条 義務ヲ得可キノ権利又ハ其他ノ権利ヲ売リタル者其買主ニ対シ其義務ヲ行フ可キ者ノ之ヲ尽クシ得可キノ保証ヲ為スコトヲ約シタル時ハ其義務ヲ行フ可キ者ノ当時之ヲ尽クシ得可キコトノミヲ保証シタルモノト為シ之ヲ後日ニ及ホスコトナカル可シ但シ其売主義務ヲ行フ可キ者ノ後日ニ至リ其義務ヲ尽シ得可キコトヲ買主ニ対シ保証ス可キ旨ヲ別段約シタル時ハ格別ナリトス
第千六百九十六条 遺物財産中ノ各物件ヲ記列スルコトナク遺物相続ノ権ヲ売リタル者ハ其買主ニ対シ自カラ遺物相続人タルコトノミヲ保証ス可シ
第千六百九十七条 遺物相続ノ権ヲ売リタル者既ニ其遺物財産中ノ物件ヨリ生シタル利益ヲ所得トナシタル時又ハ其遺物中ノ権利ノ一部ヲ既ニ得タル時又ハ遺物財産中ノ物件ヲ既ニ他人ニ売渡シタル時ハ遺物相続ノ権ヲ買受ケシ者ニ対シ其償ヲ為ス可シ但シ売買ノ契約書ニ此類ノ償ヲ為ササルコトヲ別段記シタル時ハ格別ナリトス
第千六百九十八条 其買主ハ売主ノ遺物相続ニ付キ担当シタル義務ヲ尽セシ費用ヲ償ヒ且其他売主ニ償フ可キ諸件ハ買主ヨリ之ヲ算計ス可シ但シ之ニ反シタル契約アル時ハ格別ナリトス
第千六百九十九条 訴訟ヲ為スノ権ヲ有スル者ヨリ他人ニ其訴訟ヲ為スノ権ヲ譲リ渡シタル時ハ其訴訟ヲ受ク可キ者其権ヲ得タル者ニ対シ其譲リ渡シヲ得ルニ付テノ代金ト其正当ノ費用ト其権ヲ得ルニ付キ代金ヲ払フタル日ヨリ以来ノ其息銀トヲ償フニ因リ其訴訟ヲ受クルコトヲ免カルルヲ得可シ
第千七百条 或事ニ管スル権利ニ付キ訴訟又ハ争論ノ起リタル時ハ其事ヲ以テ訴訟アルモノト為ス可シ
第千七百一条 左ノ三箇ノ場合ニ於テハ第千六百九十九条ニ記シタル規則ヲ用フ可ラス
第一 一箇ノ権利ヲ其売主ト共ニ人ヨリ相続シタル者ニ其権利ヲ売渡シタル時又ハ売主ト共ニ其権利ヲ共通スル者ニ其権利ヲ売渡シタル時
第二 一方ノ者ヨリ他ノ一方ノ者ニ対シテ義務ヲ尽クスニ代ヘ自己ノ権利ヲ売渡シタル時
第三 訴訟アル不動産ノ占有者(入額所得者ノ如キヲ云フ)ニ其不動産所有ノ権ヲ売渡シタル時
第七巻 交換ノ事〔千八百四年第三月七日決定同月十七日布告〕
第千七百二条 交換トハ双方ニテ互ニ物件ヲ授受スル契約ヲ云フ
第千七百三条 交換ハ売買ニ等シク双方ノ者ノ承諾ノミヲ以テ為スコトヲ得可シ
第千七百四条 互ニ交換スル者ノ中一人他ノ一人ヨリ交換ヲ為ス可キノ名義ヲ以テ物件ヲ受取リタル後他ノ一人其物件ノ所有者ニ非サルノ証アル時ハ其物件ヲ受取リタル者ヨリ交換ノ為メ他ノ一人ニ与フ可キコトヲ約シタル物件ヲ与フルニ及ハス唯其受取リタル物件ヲ返ス可シ
第千七百五条 互ニ交換スル者ノ中一人他ノ一人ヨリ受取リタル物件ヲ後ニ他人ヨリ訴訟ヲ受ケ奪ハレタル時ハ他ノ一人ヨリ其損失ノ償ヲ得又ハ己レヨリ与ヘタル物件ヲ取戻スコト自由ナリトス
第千七百六条 互ニ交換スル一方ノ者ノ為メ損失アリト雖トモ交換ノ契約ヲ取消スコトヲ得ス
第千七百七条 其他売買ノ契約ニ付キ定メタル規則ハ交換ノ契約ニモ亦通シテ之ヲ用フ可シ
第八巻 賃貸ノ契約〔千八百四年第三月七日決定同月十七日布告〕
第一章 総規則
第千七百八条 賃貸ノ契約ニ二種アリ
一ハ物件ノ賃貸
一ハ人力ノ賃貸
第千七百九条 物件ノ賃貸トハ一方ノ者他ノ一方ノ者ヨリ賃銀ヲ得テ定期ノ時間物件ヲ貸与フルノ契約ヲ云フ
第千七百十条 人力ノ賃貸トハ一方ノ者他ノ一方ノ者ト協議ノ上定メタル賃銀ヲ得テ他ノ一方ノ為メ或事ヲ為ス可キ契約ヲ云フ
第千七百十一条 此二種ノ賃貸ヲ分ツテ更ニ数種トス
第一 家屋及ヒ「ミユウブル」(第五百三十三条見合)ノ賃貸
第二 土地ノ賃貸
第三 労動【ホ子ヲリ】ノ賃貸
第四 貸主ト借主トニ利益ヲ分ツ獣類ノ賃貸
第五 双方ノ者ノ定メタル価ヲ以テ物ヲ造ル可キ請負ノ契約ヲ為シタル時其物ヲ造ルニ付キ用フル所ノ諸財ヲ其造主ヨリ備弁スルニ於テハ之ヲ賃貸ノ契約ナリトス
第三第四第五ノ賃貸ハ別段ノ規則ニ循フ可シ
第千七百十二条 官ニ属スル財産、「コムミユーン」ノ財産、公ケノ建造物ニ属スル財産ノ貸借ノ契約ハ別段ノ規則ニ循フ可シ
第二章 物件ノ賃貸
第千七百十三条 如何ナル種類タルヲ問ハス動産又ハ不動産ヲ賃貸スルコトヲ得可シ
第一款 家屋及ヒ土地ノ賃貸ノ契約ニ通シ用フ可キ規則
第千七百十四条 何人ニ限ラス書面又ハ口上ヲ以テ賃貸ヲ為スコトヲ得可シ
第千七百十五条 証書ナキ賃貸ヲ其契約ノ如ク執行ヒ始メサル中ニ貸主又ハ借主ノ一方ニテ其賃貸ノ契約ヲ為シタルコトナシト述フル時ハ其賃銀ノ如何ニ少キヲ問ハス又一方ヨリ他ノ一方ニ既ニ手附金ヲ与ヘタリト言フヲ問ハス証人ヲ以テ其契約ノ証ヲ立ツ可カラス
此場合ニ於テハ一方ノ者ヨリ其契約ヲ為シタルコトナシト述フル者ニ対シ誓ヲ為ス可キコトヲ求ムルヲ得可シ
第千七百十六条 口上ヲ以テ為シタル賃貸ヲ其契約ノ如ク既ニ執行ヒ始メタル後賃銀ニ付キ争ノ生シタル時其賃銀ノ受取書アラサルニ於テハ貸主ノ誓ヲ以テ信拠ト為ス可ク若シ借主評価人ヲシテ評価ヲ為サシメント欲スル時ハ之ヲ為サシムルコトヲ得可シ但シ其評価シタル価借主ノ述ヘタル価ニ過クル時ハ借主其評価ノ費用ヲ担当ス可シ
第千七百十七条 借主ハ己レノ賃借シタル物件ヲ更ニ他人ニ貸与ヘ又ハ其貸借ノ契約ヲ人ニ譲リ渡スコトヲ得可シ但シ貸主此等ノ事ヲ特ニ禁シタル時ハ格別ナリトス
貸主ハ貸渡シタル物件ノ全部ニ付キ同上ノ事ヲ禁シ又ハ其一部ノミニ付キ之ヲ禁スルコトヲ得可シ
同上ノ事ヲ禁スル契約ハ決シテ之ニ背クコトヲ得ス
第千七百十八条 婚姻ヲ結ヒタル婦ノ財産賃貸ノ契約ニ付キ此篇第五巻(婚姻ノ契約)ニ記シタル規則ハ幼者ノ財産賃貸ノ契約ニモ亦通シテ用フ可シ(第千四百二十九条見合)
第千七百十九条 貸主ハ別段ノ約定ナキ時ト雖トモ賃貸ノ契約ノ本義ニ因テ左ノ三件ヲ為ス可キノ義務アリ
第一 賃貸ス可キ物件ヲ借主ニ引渡ス事
第二 賃貸シタル物件ヲ其貸与ヘタル目的ニ用ヒ得可キ方法ニ修繕スル事
第三 物件ヲ賃貸シタル時間借主ノ之ヲ用フルニ阻害ナカラシムル事
第千七百二十条 貸主ハ総テ其貸与フ可キ物件ノ修理ヲ整ヘテ之ヲ引渡ス可シ
貸主ハ其物件ヲ賃貸シタル時間総テ必要ナル修理ヲ為ス可シ但シ借主ノ為ス可キ小修理ハ格別ナリトス(第千七百五十四条見合)
第千七百二十一条 貸主ハ物件賃貸ノ契約ノ時其物件ニ不良ノ事アルヲ知ルト知ラサルトヲ問ハス其不良ノ事ニ因リ借主ノ之ヲ用フルニ阻害アルニ於テハ借主ニ対シテ其責ニ任ス可シ
若シ其不良ノ事アルニ因リ借主ノ為メ損失アル時ハ貸主之ヲ償フ可シ
第千七百二十二条 物件ヲ賃貸シタル時間ニ意外ノ事ニ因リ其物件ノ全ク滅尽シタル時ハ別段訴ヘ出スニ及ハスシテ賃貸ノ契約ヲ取消ス可シ
若シ又其物件ノ一部ノミ滅尽シタル時ハ借主其時ノ景状ニ従フテ其賃銀ヲ減シ又ハ賃貸ノ契約ヲ取消サントスル訴ヲ為スコト自由ナリトス○此二箇ノ場合ニ於テハ一方ヨリ他ノ一方ニ償ヲ為スニ及ハス
第千七百二十三条 貸主ハ物件ヲ賃貸シタル時間其物ノ形状ヲ変更スルコトヲ得ス
第千七百二十四条 物件ヲ賃貸シタル時間急ニ其物件ヲ修理スルコトノ必要トナルニ至リ賃貸ノ期限ノ終ル迄其修理ヲ遅延スルヲ得サル時ハ借主ノ為メ如何ニ不便ヲ生シ且其修理ノ時間借主ヲシテ其物件ノ一部ヲ用フルコト能ハサラシムルト雖トモ借主之ヲ耐忍セサルヲ得ス
然トモ其修理ヲ為ス時間四十日以上ナル時ハ其時間ノ長短ト借主ノ賃借シタル物件中其用フルコトヲ得サル部分ノ多少トニ准シテ其代銀ヲ減ス可シ
家屋ノ修理ニ因リ借主及ヒ其家族ノ住居ニ必要ナル部分ヲ全ク住居ス可カラサルニ至ラシムル時ハ借主賃借ノ契約ヲ取消スコトヲ得可シ
第千七百二十五条 借主其賃借シタル物件ヲ用フルニ付キ他人ヨリ妨害ヲ受クルト雖トモ其妨害ヲ為ス者其物件ヲ己レニ得可キ権アリト述ヘサル時ハ貸主其事ニ付キ借主ニ対シテ其責ニ任スルニ及ハス但シ此場合ニ於テハ借主自己ノ名目ヲ以テ其妨害者ニ対シ訴訟ヲ為スノ権アリ
第千七百二十六条 若シ又賃借シタル土地又ハ家屋ノ所有ノ権ニ付キ借主他人ヨリ訴訟ヲ受ケ之ヲ用フルニ妨害ノ生シタル時借主其事ヲ貸主ニ報知シタルニ於テハ其妨害ニ准シテ賃銀ヲ減スルノ訴ヲ為スコトヲ得可シ
第千七百二十七条 若シ妨害ヲ為シタル者借主ノ借受ケタル物件ヲ己レニ得可キノ権アリト述フル時又ハ借主他人ヨリ其物件ノ全部又ハ一部ヲ放棄ス可キノ訴ヲ受ケ又ハ或ル義務ヲ行フ可キノ訴ヲ受ケ自カラ裁判所ニ呼出サレタル時ハ借主其保証人トシテ貸主ノ姓名ヲ申述ヘ之ヲ裁判所ニ呼出ス可シ但シ借主其訴訟ヲ免カレント欲スル時ハ之ヲ免カルルコトヲ得可シ
第千七百二十八条 借主ノ為メニ至重ノ義務二箇アリ
第一 其借受ケタル物件ヲ毀壊損敗セサルニ著意シテ之ヲ用ヒ且賃借ノ契約ヲ以テ定メタル用法又其契約アラサルニ於テハ其時ノ模様ニ従ヒ思料ス可キ用法ニ従フテ之ヲ用フ可キ事
第二 預定ノ期限ニ賃銀ヲ払フ可キ事
第千七百二十九条 借主其借受ケタル物件ヲ預定シタルニ非サル用法ニ用ヒ又ハ貸主ノ為メ損害ヲ生スルコトアル可キ用法ニ用フル時ハ貸主其時ノ景状ニ従ヒ賃貸ノ契約ヲ取消スコトヲ得可シ
第千七百三十条 貸主ト借主トニテ貸借ヲ為シタル家屋又ハ土地ノ模様書ヲ記シタル時ハ借主其家屋又ハ土地ヲ其模様書ノ如ク為シテ還ス可シ但シ朽廃又ハ防拒ス可カラサル力ニ因リ滅尽毀壊シタル部分ハ格別ナリトス
第千七百三十一条 又其模様書ノアラサル時ハ借主其修理ノ整フタル模様ヲ以テ受取タリト看做シ後ニ其修理ヲ整ヘテ之ヲ還ス可シ但シ之ニ反シタル証アル時ハ格別ナリトス
第千七百三十二条 借主ハ其借受ケタル時間物件ヲ滅尽毀壊シタルノ償ヲ担当ス可シ但シ自己ノ過失ニ非スシテ滅尽毀壊シタルノ証アル時ハ格別ナリトス
第千七百三十三条 借主ハ火災ノ責ニ任ス可シ但シ意外ノ事又ハ防拒ス可カラサル力ニ因リ又ハ造営ノ不良ナルニ因リ火災ノ生シタルコトヲ証シ又ハ近隣ノ家屋ヨリ其火ノ伝ハリシコトヲ証スル時ハ格別ナリトス
第千七百三十四条 借主数人アル時ハ皆連帯シテ火災ノ責ニ任ス可シ
然トモ其借主中一人ノ住所ヨリ火災ノ生シタル証アル時ハ其一人ノミ其責ニ任ス可シ又其借主中ニテ自己ノ住所ヨリ火災ノ生セサルノ証ヲ立ル者アル時ハ其者其責ニ任スルコトナカル可シ
第千七百三十五条 借主ハ自己ノ家内ノ者又ハ自己ヨリ更ニ賃借シタル者ノ所為ニ因リ生シタル所ノ滅尽毀壊ヲ己レニ担当ス可シ
第千七百三十六条 家屋及ヒ土地ノ賃貸ニ付キ其証書ノアラサル時ハ其地ノ習慣ニ因リ定マリタル猶予ノ期限ニ従ヒ貸主又ハ借主ノ一方ヨリ他ノ一方ニ退去ノコトヲ告知ス可シ
第千七百三十七条 賃貸ノ証書アル時ハ其証書ニ定メタル期限ノ終ル時ニ至リ其契約モ亦自カラ終ル可シ但シ此場合ニ於テハ一方ヨリ他ノ一方ニ別段退去ノ告知ヲ為スニ及ハス
第千七百三十八条 証書アル賃貸ノ契約ノ期限ノ終リシ後ニ借主猶退去スルコトナク且貸主ヨリ借主ニ退去ス可キコトヲ求メサル時ハ更ニ自【オ】カラ賃貸ノ契約ヲ生シタリトス可シ但シ其更ニ生シタル契約ノ効ハ証書ナキ賃貸ノ契約ニ管シタル条中ニ之ヲ定ム(第千七百三十六条見合)
第千七百三十九条 貸主ヨリ借主ニ退去ス可キノ求メヲ為シタル時ハ借主猶退去セスト雖トモ更ニ自【オ】カラ賃貸ノ契約ヲ生シタルモノト為ス可カラス
第千七百四十条 前二条ニ記シタル場合ニ於テ更ニ自【オ】カラ賃貸ノ契約ヲ生シタルト雖トモ以前ノ賃借ニ付テノ保証人ハ其義務ヲ免ル可シ
第千七百四十一条 賃貸ノ契約ハ其賃貸ヲ為シタル物件ノ滅尽シタルニ因リ又ハ借主或ハ貸主其契約ノ義務ヲ行ハサルニ因リ之ヲ取消ス可シ
第千七百四十二条 賃貸ノ契約ハ貸主又ハ借主ノ死去ニ因リ之ヲ取消ス可カラス
第千七百四十三条 貸主其賃貸シタル物件ヲ他人ニ売タル時其買主ハ公正ノ証書ヲ有スル借主又ハ賃借ヲ為シタル日ノ分明ナル証書ヲ有スル借主ヲシテ強テ退去セシムルコトヲ得ス但シ賃貸ノ証書ニ其物件ヲ売払フコトアル時買主其借主ヲシテ退去セシムルヲ得可キコトヲ別段定メ置キタル時ハ格別ナリトス
第千七百四十四条 賃貸ノ証書中ニ貸主後ニ其物件ヲ売ルコトアル時ハ其買主借主ヲシテ退去セシムルヲ得可キ旨ヲ記シ置キ貸主其借主ニ対シ為ス可キ損失ノ償ニ付キ別段ノ契約ナキ時ハ貸主ヨリ次ノ方法ヲ以テ借主ニ其償ヲ為ス可シ
第千七百四十五条 家屋、房室、舗店ヲ賃貸シタル時ハ貸主ヨリ退去ヲ為サシメタル借主ニ其土地ノ習慣ニ従ヒ退去ノ求メヲ為シタルヨリ退去ヲ為スニ至リシ時間ノ賃銀ニ均シキ金高ヲ其償トシテ払フ可シ
第千七百四十六条 又土地ヲ賃貸シタル時ハ貸主ヨリ借主ニ其賃貸ヲ約定シタル期限ノ残期ノ賃銀ノ三分一ニ均シキ金高ヲ其償トシテ払フ可シ
第千七百四十七条 又盛大ナル製造所及ヒ其他許多ノ元金ヲ費スコトヲ要スル建造物ニ管シタル時ハ評価人ヲシテ同上ノ償額ヲ定メシム可シ
第千七百四十八条 貸主其貸与ヘタル物件ヲ売払フコトアル時ハ其買主借主ヲシテ退去セシムルヲ得可キコトヲ賃貸ノ契約ニ預メ定メ置キタルニ因リ其買主借主ヲ退去セシメントスル時ハ家屋ノ借主ヲ退去セシムル前其退去ノ求メヲ為スニ付キ其地ノ習慣ニテ定リタル期限ニ其借主ニ其退去ヲ求ム可シ
又土地ノ借主ニハ其退去ヲ為サシムルヨリ少クトモ一年前ニ其退去ノ求メヲ為ス可シ
第千七百四十九条 借主ハ其貸主ヨリ前数条ニ記シタル償ヲ受ケ又其貸主ノ償ヲ出ササルニ於テハ買主ヨリ其償ヲ為シタル上ニ非サレハ退去スルニ及ハス
第千七百五十条 賃貸ノ公正ノ証書アラサル時又ハ其賃貸ノ契約ヲ為シタル日ノ分明ナラサル時ハ買主借主ニ対シテ其償ヲ出スニ及ハス
第千七百五十一条 売主ノ買戻ヲ為シ得可キ契約ヲ以テ売買ヲ為シタル時ハ買主其売主ノ買戻ヲ為シ得可キ期限ノ終リシニ因リ其確定ノ所有者トナルニ至ル迄ハ借主ヲ退去セシムルノ権ヲ行フヲ得ス
第二款 家屋ノ賃貸ニ付キ別段ノ規則
第千七百五十二条 家屋ノ借主其借受ケタル家屋内ニ相当ノ「ミュウブル」ヲ備ヘサル時ハ貸主ヨリ之ヲ退去セシムルコトヲ得可シ但シ借主其賃銀ヲ払フ可キ保証人ヲ立ル時ハ格別ナリトス
第千七百五十三条 家屋ノ借主其賃銀ヲ払ハサルニ因リ其所有者ノ為メ己レノ「ミュウブル」ヲ差押ラルル時ハ其借主ヨリ更ニ其家屋ヲ借受ケタル者其時ニ負フタル自己ノ借受賃銀ノ高ニ至ル迄其所有者ニ対シテ義務ヲ担当ス可シ但シ此場合ニ於テ借主ヨリ更ニ借受ケタル者ハ自己ノ貸主ニ前払シタル金高アルコトヲ述ヘ其所有者ニ対シテ負フタル義務ヲ免カルルコトヲ得ス
借主ヨリ更ニ借受ケタル者其地ノ習慣ニ従ヒ又ハ其借受ノ契約ニ従フテ払フタル賃銀ハ前払シタルモノト看做ス可カラス
第千七百五十四条 借主ノ担当ス可キ小補理ハ別段ノ契約アル時ノ外其地ノ習慣ニ従ヒ定マリタルモノトス可シ但シ左ノ物件ニ付キ為ス可キ補理ヲ以テ最モ重立タルモノトス
奥竃【カッヘル】ノ火室、奥竃ノ背面ノ鉄板、奥竃ノ周囲ノ装具、及ヒ其装具上ニアル板
房室及ヒ其他家屋ノ部分ノ墻壁ノ下端ヨリ一「メートル」ノ高サニ至ル迄ノ塗飾房室ノ敷磚、敷石但シ其毀損シタル部分ノ少ナキ時ノミニ限ル可シ
窓ノ玻璃板但シ霰又ハ其他意外ノ事又ハ防拒ス可カラサル力ニ因リ其玻璃板ノ毀損シタル時ハ借主其補理ヲ担当スルニ及ハス
入口ノ戸扉、亮窓【アカリマト】ノ戸扉、舗店ノ外部ヲ閉ツル板、蝶鉸【テウツガヒ】、閂、錠
第千七百五十五条 借受タル家屋ノ朽廃シタルニ因リ又ハ防止ス可カラサル力ニ因リ補理ヲ為ス可キニ至リシ時ハ借主之ヲ担当スルニ及ハス
第千七百五十六条 井ヲ浚ヒ及ヒ厠瓶【コエツボ】ヲ浄ムルコトハ別段ノ契約アル時ノ外貸主之ヲ担当ス可シ
第千七百五十七条 家屋ノ全部又ハ一部又ハ舗店及ヒ房室等ニ具フル「ミュウブル」ヲ賃貸シタル時ハ其地ノ習慣ニ従ヒ其家屋ノ全部又ハ一部又ハ舗店及ヒ房室等ノ賃貸ニ付キ定マリタル通常ノ期限間其「ミュウブル」ヲモ亦貸与ヘタルモノト看做ス可シ
第千七百五十八条 「ミュウブル」ノ備ハリタル房室ノ賃貸ニ付キ其賃銀ヲ一年幾許ト定ムル時ハ一年ノ期限ヲ以テ其契約ヲ為シタルモノト看做ス可シ
又其賃銀ヲ一月幾許ト定メタル時ハ一月ノ期限ヲ以テ契約ヲ為シタルモノト看做ス可シ
又其賃銀ヲ一日幾許ト定メタル時ハ一日ノ期限ヲ以テ其契約ヲ為シタルモノト看做ス可シ
若シ其賃銀一年又ハ一月又ハ一日幾許ナル可キヤヲ定メサル時ハ其地ノ習慣ニ従テ其契約ノ期限ヲ定メタルト看做ス可シ
第千七百五十九条 家屋又ハ房室ノ借主賃借ノ証書ニ記シタル期限ノ終リシ後猶退去セスシテ貸主之ヲ拒ムコトナキ時ハ其借主其地ノ習慣ヲ以テ定メタル期限間以前ト同一ノ約束ニテ之ヲ借受ケシモノト看做ス可シ但シ貸主ハ借主ニ対シ其地ノ習慣ヲ以テ定メタル期限ニ其退去ノ求メヲ為シタル上ニ非レハ其借主ヲ退去セシムルコトヲ得ス又借主ハ同上ノ期限ニ貸主ニ対シ退去ノ告知ヲ為シタル上ニ非レハ自カラ退去スルコトヲ得ス
第千七百六十条 借主ノ過失ニ因リ其賃貸ノ契約ヲ取消シタル時ハ借主其貸主ノ更ニ他人ニ貸与フルコトヲ得ルニ必要ナル時間ノ借賃ヲ払フ可シ但シ借主其借受ケタル家屋又ハ房室ニ害ヲ加ヘタル時ハ亦其償ヲモ出ス可シ
第千七百六十一条 貸主ハ其貸与ヘタル家屋ニ自カラ住セント欲スルコトヲ述フルト雖トモ賃貸ノ契約ヲ取消スコトヲ得ス但シ之ニ反シタル契約アル時ハ格別ナリトス
第千七百六十二条 賃貸ノ契約ニ貸主其貸与ヘタル家屋ニ自カラ住セント欲スル時ハ借主ヲシテ退去セシムルヲ得可キコトヲ定メタルニ於テハ其借主ヲシテ退去セシムル前其地ノ習慣ニテ定マリタル期限ニ其退去ノ求メヲ為ス可シ
第三款 土地ノ賃貸ニ付キ別段ノ規則
第千七百六十三条 土地ノ利益ヲ貸主ト共ニ分ツ可キノ契約ニテ耕作ヲ為ス者ハ其土地ヲ更ニ他人ニ貸与フルコトヲ得ス又其借受ノ契約ヲ他人ニ譲リ渡スコトヲ得ス但シ此等ノ事ヲ為シ得可キノ権ヲ賃貸ノ契約ヲ以テ特ニ定メタル時ハ格別ナリトス
第千七百六十四条 借主前条ノ契約ニ背ク時ハ貸主其土地ヲ取還シ且借主其契約ニ背キタルニ因リ貸主ノ為メ生シタル損失ノ償ヲ出ス可シ
第千七百六十五条 土地ノ賃貸ノ契約ニ定メタル其方積真ノ方積ヨリ更ニ少ク又ハ更ニ多キ時ハ此篇第六巻(売買)ニ記載シタル場合ト規則トニ循テ其借賃ヲ増減ス可シ(第千六百十七条以下見合セ)
第千七百六十六条 土地ノ借主其土地ヲ耕作スルニ必要ナル獣類ト器具トヲ備フルコトナキ時又ハ其耕作ヲ廃止シタル時又ハ其地ヲ耕作スル方法ノ粗略ナル時又ハ其土地ヲ契約ニ定メタル以外ノ方法ニ用ヒタル時又ハ其他総テ借主賃借ノ契約ニ背キタルニ因リ貸主ノ為メ損害ヲ生シタル時ハ貸主其時ノ景状ニ従ヒ其契約ヲ取消スコトヲ得可シ借主ノ所行不良ナルニ因リ同上ノ契約ヲ取消シタル時ハ借主第千七百六十四条ニ記シタル如ク貸主ノ受ケタル損失ヲ償フ可シ
第千七百六十七条 土地ノ借主ハ賃借ノ契約ニ定メタル場所ニ其収納物ヲ貯ヘ置ク可シ
第千七百六十八条 土地ノ借主ハ其地ヲ侵奪スル者アル時貸主ニ之ヲ告知ス可シ若シ之ヲ告知セスシテ貸主ノ為メ損失アル時ハ借主之ヲ償フ可シ
其告知ハ其土地ト貸主ノ住所トノ間ノ距離ニ従ヒ訴訟ノ相手方ヲ裁判所ニ呼出ス為メ定メタル期限(訴訟法第七十二条第七十三条見合セ)ト同一ノ期限内ニ之ヲ為ス可シ
第千七百六十九条 数年間土地ノ貸借ノ契約ヲ結ヒ其期限中ノ一年其土地ヨリ収納スル穀物ノ全部又ハ半以上ヲ意外ノ事ニ因リ失フコトアル時ハ借主其借賃ヲ減ス可キノ求メヲ為スコトヲ得可シ但シ借主其前年ノ収納ニ因リ既ニ其損失ヲ償フニ足ル可キ利益ヲ得タル時ハ格別ナリトス
前年ノ収納ニ因リ其損失ヲ償フニ足ル可キ利益ヲ得タルコトナキ時ハ同上ノ契約ノ期限ノ終リニ至リ嘗テ其期限中数年間ノ利益ト損失トヲ相殺シタル上其減ス可キ賃銀ノ高ヲ算計ス可シ
同上ノ場合ニ於テ裁判役ハ借主ノ受ケタル損失ノ割合ヲ以テ借賃ノ一部ヲ払フコトヲ仮リニ免ルスコトヲ得可シ
第千七百七十条 土地ノ貸借ノ契約ノ期限唯一年ナル時其収納ス可キ物ノ全部又ハ半以上ヲ失フコトアルニ於テハ借主其損失ノ割合ニ従ヒ其借賃ノ一部ヲ払フコトヲ免カル可シ
其損失収納ス可キ物ノ半以下ナル時ハ借主其借賃ヲ減スルコトヲ得ス
第千七百七十一条 賃借シタル土地ヨリ生スル収納物ヲ其土地ヨリ取去リタル後失フタル時ハ借主其借賃ヲ減スルコトヲ得ス
然トモ貸借ノ契約ニ其土地ヨリ生ス可キ収納物ノ一部ヲ貸主ノ所得ト為ス可キコトヲ定メ置キタル時ハ貸主其収納物ノ損失ノ一部ヲ己レニ担当ス可シ但シ借主其貸主ノ所得トス可キ部分ヲ引渡ス可キ催促ヲ受ケ猶之ヲ渡ササル時ハ借主一人ニテ其収納物ノ損失ヲ担当ス可シ
又土地ノ貸借ノ契約ヲ為シタル時借主自己ノ為メ損失ヲ生ス可キ原由アルコトヲ既ニ知リ其後ニ至リ其損失ヲ受ケタル時ハ其借賃ヲ減セント求ムルコトヲ得ス
第千七百七十二条 借主ハ別段ノ契約ニ因リ意外ノ事ニ付テノ損失モ亦一身ニ担当スル事アリ
第千七百七十三条 前条ノ契約ハ霰、雷火、凍冴、不熟等ノ如ク通常ノ意外ノ事ノミニ限ル可シ
其契約ハ兵乱、洪水等ノ如ク至希ニシテ非常ナル意外ノ事ニ及ホスコトナシ但シ借主通常ト非常トヲ問ハス総テ意外ノ事ニ付テノ損失ヲ自己ニ担当ス可キ契約ヲ為シタル時ハ格別ナリトス
第千七百七十四条 総テ証書ナキ土地貸借ノ契約ハ借主其借受ケタル土地ノ収納物ノ全部ヲ所得ト為スニ必要ナル期限間之ヲ為シタルモノト看做ス可シ
故ニ獣類ニ喂ス可キ草ヲ生セシムル地又ハ葡萄園及ヒ其他一年内ニ其収納物ヲ全ク収ムルヲ得可キ土地ノ貸借ノ契約ハ一年ノ期限間之ヲ為シタルモノト看做ス可シ
又耕作ヲ為ス可キ土地ヲ其地力ヲ休スル期限ニ従ヒ区分シタル時ハ其期限ニ准シタル年数ノ間其貸借ノ契約ヲ為シタルト看做ス可シ
第千七百七十五条 土地ノ貸借ノ契約ハ其証書ナシト雖トモ前条ニ記スル所ニ循ヒ其契約ヲ為シタルト看做ス可キ期限ノ終リニ至リ自【オ】カラ終リタルモノト為ス可シ(第千七百三十六条見合)
第千七百七十六条 証書アル土地貸借ノ契約ニ付キ期限ノ終リニ至リ借主猶其地ヲ退去スルコトナク貸主モ亦之ヲ退去セシムルコトナキ時ハ更ニ貸借ノ契約ヲ生シタルモノト為ス可シ但シ其更ニ生シタル契約ノ効ハ第千七百七十四条ニ定メタル所ト同一ナリトス(第千七百三十八条見合)
第千七百七十七条 土地ヲ退去スル借主ハ己レニ代リテ之ヲ借受ル者ニ翌年ノ作業ヲ為スニ入用ナル房舎及ヒ其他便利トナル可キ物ヲ遺シ置ク可シ又後ニ借受クル者ハ獣類ニ喂ス可キ草類ヲ収ムル為メ及ヒ遺シ置キタル収納物ヲ収ムル為メ入用ナル房舎及ヒ其他便利トナル可キ物ヲ退去スル借主ノ用ニ供セシム可シ
但シ此等ノ場合ニ於テハ其地ノ習慣ニ従フ可シ
第千七百七十八条 退去スル土地ノ借主嘗テ其土地ヲ借受ケタル時藁及ヒ糞料ヲ得タルニ於テハ亦其退去ノ時其一年間ノ藁及ヒ糞料ヲ遺シ置ク可シ又借主嘗テ此等ノ物件ヲ得サリシ時ト雖トモ貸主其評価ヲ為サシメタル上之ヲ遺シ置カシムルコトヲ得可シ
第三章 人力ノ賃貸
第千七百七十九条 人力ノ賃貸ノ種類中重ナルモノ三箇アリ
第一 使用ヲ受クル者ヲ雇フ事
第二 人ノ身体及ヒ商品ノ水陸運送ヲ為ス者ヲ雇フ事
第三 請負ノ契約ニ因リ造営、工作ヲ為ス者ヲ雇フ事
第一款 僕婢及ヒ工丁ヲ雇フ事
第千七百八十条 定マリシ期限ノ間又ハ定マリシ工業ヲ為スタメノ外、人ニ雇ハルル事ヲ得ス
第千七百八十一条 〔千八百四十年第八月二日廃ス〕雇主ノ誓フ所ニ従ヒ左ノ三件ヲ確的トス可シ
雇賃ノ分量
既ニ経過シタル一年間ノ雇賃ヲ払フタル事
本年分ノ雇賃中ニテ其一部ヲ算計シタル事
第二款 水陸ノ運送ヲ為ス者ヲ雇フ事
第千七百八十二条 水陸ノ運送ヲ為ス者ハ其附託ヲ受ケシ物ヲ管守シテ之ヲ保全スルニ付キ此篇第十一巻(附託ノ事及ヒ双方相争フ物ヲ他人ニ附託スル事)ニ記スル旅店ノ主人ニ等シキ義務ヲ負フ可シ
第千七百八十三条 水陸ノ運送ヲ為ス者ハ其舟又ハ車ノ内ニ既ニ積入レタル物ヲ己レニ担当ス可キノミニ非ス其舟又ハ車ノ内ニ積入ルル為メ港口又ハ庫中ニテ附託ヲ受ケタル物モ亦己レニ担当ス可シ
第千七百八十四条 水陸ノ運送ヲ為ス者ハ其附託ヲ受ケタル物ヲ失ヒ又ハ毀損シタル責ニ任ス可シ但シ意外ノ事又ハ防拒ス可カラサル力ニ因リ之ヲ失ヒ又ハ毀損シタル旨ヲ証スル時ハ格別ナリトス
第千七百八十五条 水陸ノ運送ヲ為ス者ハ己レノ附託ヲ受ケタル金高、荷物、包袋ヲ記ス可キ簿冊ヲ設ケ置ク可シ
第千七百八十六条 又水陸ノ運送ヲ為ス者及ヒ之ヲ指揮スル者又ハ船長ハ其者ト他人トノ間ニ於テ法律ト為ス可キ格別ノ規則ヲ循守ス可シ
第三款 請負ノ契約
第千七百八十七条 造営工作ヲ為ス可キコトヲ人ニ任スル時ハ其任ヲ受ケタル者其労力ノミヲ賃貸シ又ハ其造営工作ニ用フル材料モ亦備弁ス可キノ契約ヲ為スコトヲ得可シ
第千七百八十八条 造営工作ヲ為ス可キ者之ニ用フ可キ財料ヲモ亦備弁シタル時其財料ヲ雇主ニ引渡ス前何レノ方法ヲ論セス其財料ノ滅尽破壊シタルニ於テハ其雇工者其損失ヲ担当ス可シ但シ雇主其雇工者ヨリ其財料ヲ受取ル可キノ求メヲ受ケ猶之ヲ受取ラサリシ時ハ格別ナリトス
第千七百八十九条 造営工作ヲ為ス者其労力ノミヲ賃貸シタル場合ニ於テ其造営工作ヲ為ス財料ノ滅尽破壊シタル時ハ其雇工者其損失ヲ担当スルニ及ハス但シ雇工者己レノ過失ニ因リ其財料ヲ滅尽破壊シタル時ハ格別ナリトス
第千七百九十条 前条ノ場合ニ於テ雇主未タ造営工作シタル物ヲ検視ス可キノ求メヲ受クルコトナク且之ヲ受取ラサル内ニ其物ノ滅尽破壊シタル時ハ縦令雇工者ノ過失ニ非スト雖トモ雇工者其雇賃ヲ得ルコト能ハス但シ其造営工作ニ用ヒタル財料ノ不良ナルニ因リ其物ノ滅尽破壊シタル時ハ格別ナリトス
第千七百九十一条 造営工作ヲ区分シテ請負ヒ又ハ尺度ニ従テ請負フタル時ハ其成就シタル部分毎ニ雇主其検視ヲ為スコトヲ得可シ但シ雇主ヨリ雇工者ニ既ニ成就シタル造営工作ノ割合ヲ以テ其賃銀ヲ払フタル時ハ其払フタル部分ニ付キ既ニ検視ヲ為シタルモノト看做ス可シ
第千七百九十二条 請負ニテ造リタル建造物其造法ノ不良ナルニ因リ其全部又ハ一部ノ滅尽破壊シタル時ハ其請負人十年ノ時間其責ニ任ス可シ但シ土地ノ不良ナルニ因リ其建造物ノ滅尽破壊シタル時モ亦同一ナリトス
第千七百九十三条 建造者土地ノ所有者ト協議シタル積書ニ従ヒ請負ニテ建造ヲ為ス可キコトヲ任シタル時ハ其建造者工丁ノ労力又ハ財料ヲ増シタルヲ口実ト為シ又ハ積書ニ記シタル所ヲ変易シ或ハ増加シタルヲ口実ト為シテ其価ヲ増サント求ム可カラス但シ土地ノ所有者書面ヲ以テ其変易及ヒ増加ヲ許可シタル上ニテ双方其増価ヲ協議シタル時ハ格別ナリトス
第千七百九十四条 雇主ハ造営工作ノ既ニ始リシ後ト雖トモ請負人ニ其費用並ニ其労力及ヒ其利得トナル可キ諸件ヲ償フ時ハ其請負ノ契約ヲ取消スコト自由ナリトス
第千七百九十五条 請負ノ契約ハ請負ヲ為ス工丁又ハ建造者ノ死去ニ因リ之ヲ解除ス可シ
第千七百九十六条 然トモ請負人ノ死去ノ時既ニ成就シタル造営工作及ヒ備弁シタル財料雇主ノ利益トナルニ於テハ請負ノ契約ニ定メタル価ノ割合ヲ以テ雇主ヨリ其請負人ノ遺物相続人ニ相当ノ償ヲ為ス可シ
第千七百九十七条 請負人ハ其使用スル者ノ所為ヲ皆己ニ担当ス可シ
第千七百九十八条 圬丁【サカン】、匠丁【ダイク】又ハ総テ請負ニテ造リタル家屋及ヒ其他ノ造営工作ヲ為スニ使用ヲ受クル工丁ハ其造営工作ヲ為サシムル者ヨリ請負人ニ払フ可キ残額ニ至ル迄ノ外其造営工作ヲ為サシムル者ニ対シテ訴ヲ為スコトヲ得ス
第千七百九十九条 圬丁、匠丁、鎖工等自カラ請負ヲ為シタル時ハ此一款ニ定メタル規則ニ循フ可シ但シ此等ノ者ハ各其職業ニ付キ請負人ナリト看做ス可シ
第四章 獣類ノ貸借
第一款 総規則
第千八百条 獣類貸借ノ契約トハ貸主ト借主ト互ニ協議シタル所ニ従ヒ一方ヨリ他ノ一方ニ獣類ヲ貸与ヘ他ノ一方ニテ之ヲ管守シ且蓄養スルノ契約ヲ云フ
第千八百一条 獣類ノ貸借ニ数種アリ
獣類ノ通常ノ貸借
双方互ニ獣類ノ数ノ半ヲ出合スル貸借
土地ノ所有者其地ヲ借受クル者ト為シタル獣類ノ貸借又ハ土地ノ所有者自己ト土地ノ利益ヲ分ツ可キノ約束ニテ其地ヲ借受クル者ト為シタル獣類ノ貸借
又其外通常不当ニ獣類ノ貸借ノ契約ト称スルモノアリ
第千八百二条 農業商業ノ為メ利益トナリ又ハ増殖ス可キ獣類ハ如何ナル種類タルヲ問ハス之ヲ貸与フルコトヲ得可シ
第千八百三条 別段ノ契約ナキ時ハ次ノ規則ヲ以テ獣類ノ貸借ヲ定ム可シ
第二款 獣類ノ通常ノ貸借
第千八百四条 獣類ノ通常ノ貸借トハ増殖シタル獣類ノ半ヲ借主ノ利益ト為シ又其損失ノ半ヲ借主ノ損失ト為ス可キ約束ニテ一方ヨリ他ノ一方ニ獣類ヲ貸与ヘ其借主之ヲ管守シ且蓄養スル契約ヲ云フ
第千八百五条 獣類ノ貸借ノ契約書ニ其獣類ノ評価ヲ記スルト雖トモ其所有ノ権ヲ借主ニ移スコトナク唯其契約ノ終ニ至リ利益又ハ損失ノ幾許ナルヤヲ定ムル為メナリトス
第千八百六条 借主ハ其獣類ヲ保全スルニ付キ懇切ニ着意ス可シ
第千八百七条 借主ハ己レノ過失ニ因リ其獣類ヲ傷害シタル時ノ外意外ノ事ヲ担当スルニ及ハス
第千八百八条 借主ト貸主トノ間ニ争ノ生スル時ハ借主ハ意外ノ事アリシ旨ヲ証シ貸主ハ借主ノ過失アリシ旨ヲ証ス可シ
第千八百九条 意外ノ事ニ付キ獣類ノ死シタルニ因リ借主自己ノ義務ヲ免レタル時ハ必ス貸主ニ其獣皮ヲ返ス可シ
第千八百十条 借主ノ過失ニ非スシテ獣類ノ全数死シタル時ハ貸主其損失ヲ一身ニ担当ス可シ
又其獣類ノ一部ノ死シタル時ハ嘗テ評価シタル時ノ価ト其貸借ノ契約期限ノ終ル時評価シタル価トニ従ヒ其損失ヲ借主ト貸主トノ双方ニテ共ニ担当ス可シ
第千八百十一条 左ノ条件ハ之ヲ契約ス可カラス
借主ノ過失ニ非ラス意外ノ事ニ因リ獣類ノ全数死スルト雖トモ借主其損失ヲ一身ニ担当ス可キ事
若シ獣類ニ損失アル時ハ借主其利益ヨリ更ニ大ナル損失ノ部分ヲ担当ス可キ事
貸主貸借ノ契約期限ノ終リニ至リ其嘗テ貸与ヘタル獣類ノ数ヨリ更ニ多数ヲ得可キ事
総テ此等ノ契約ハ之ヲ結ヒタルト雖モ其効ナカル可シ
借主ハ其獣類ノ乳汁糞料及ヒ其獣力ヲ己レノ利益ト為ス可シ
又獣毛及ヒ獣仔ハ貸主ト借主トニ之ヲ分ツ可シ
第千八百十二条 借主ハ其借受ケタル獣類又ハ獣仔ヲ貸主ノ承諾ヲ得スシテ人ニ売払ヒ又ハ贈与スルコトヲ得ス貸主モ亦借主ノ承諾ヲ得スシテ之ヲ人ニ売払ヒ又ハ贈与スルコトヲ得ス
第千八百十三条 他人ノ土地ヲ借受クル者ニ獣類ヲ貸与ヘタル時ハ其土地ノ所有者ニ其旨ヲ告知ス可シ若シ其告知ヲ為ササル時ハ其土地ノ所有者其地ヲ借受クル者ノ借賃ノ償トシテ其獣類ヲ差押ヘ之ヲ売払フコトヲ得可シ
第千八百十四条 借主ハ貸主ニ告知セスシテ獣毛ヲ剪取スルコトヲ得ス
第千八百十五条 獣類ノ貸借期限ヲ定ムル契約アラサル時ハ三年ノ時間其貸借ヲ為シタルト看做ス可シ
第千八百十六条 借主其義務ヲ行ハサル時ハ三年ノ期限ニ至ラスト雖トモ貸主其貸借ヲ廃スルノ求メヲ為スコトヲ得可シ
第千八百十七条 獣類ノ貸借ノ終リシ時又ハ其契約ヲ解除シタル時更ニ其獣類ヲ評価ス可シ
貸主ハ嘗テ評価シタル価高ニ充ル迄獣類ヲ己レニ取戻シ其余ヲ借主ト貸主トニ分ツ可シ
又嘗テ評価シタル価額ニ充ツ可キ獣類ノ数不足ナル時ハ貸主其現存スル数ヲ己レニ得其損失ヲ貸主ト借主トニ分ツ可シ
第三款 双方互ニ獣類ノ数ノ半ヲ出合スル貸借
第千八百十八条 双方互ニ獣類ノ数ノ半ヲ出合スル貸借トハ双方ノ者ヨリ獣類ノ数ノ半ヲ出合セ其全数ヲ一方ニ借受ケ其利益ト損失トヲ双方ニ分ツ会社ノ契約ヲ云フ
第千八百十九条 借主ハ獣類ノ通常ノ貸借ノ時ノ如ク獣類ノ乳汁、糞料及ヒ其獣力ヲ自己ノ利益ト為ス可シ
貸主ハ獣毛ノ半ト獣仔ノ半トヲ得可シ
総テ之ニ反シタル契約ハ其効ナカル可シ但シ其獣類ノ貸主土地ノ所有者ニシテ借主其地ヲ借受ケタル者タル時又ハ其所有者ト其地ノ利益ヲ分ツ可キ約束ヲ以テ其地ヲ借受ケタル者タル時ハ格別ナリトス
第千八百二十条 其他獣類ノ通常ノ貸借契約ノ規則ハ双方互ニ獣類ノ半ヲ出合セタル貸借ニモ亦通シテ之ヲ用フ可シ
第四款 土地ノ所有者ヨリ其土地ヲ借受クル者ニ獣類ヲ貸与フル契約又ハ其所有者ト其土地ノ利益ヲ分ツ可キ約束ニテ其地ヲ借受クル者ニ獣類ヲ貸与フル契約
第一節 土地ノ所有者其土地ヲ借受クル者ニ獣類ヲ貸与フル契約
第千八百二十一条 此契約〔又之ヲ「シェプテルドフェール」ト云フ〕ハ土地ノ所有者其土地ト獣類トヲ貸与ヘ其契約ノ期限ノ終リニ至リ其借主其嘗テ借受ケタル時評価セシ価ニ均シキ獣類ヲ遺シ置ク可キ契約ナリ
第千八百二十二条 土地ノ所有者土地ヲ借受クル者ニ貸与フル獣類ヲ評価シタルト雖トモ其獣類所有ノ権ヲ借主ニ移スコトナク唯借主其獣類ヲ借受クル時間ノ損失ヲ己レニ担当ス可キ義務アリトス
第千八百二十三条 借主土地ヲ借受クル時間其獣類ヨリ得ル所ノ利益ハ皆自己ノ所得ト為ス可シ但シ之ニ反シタル契約アル時ハ格別ナリトス
第千八百二十四条 土地ヲ借受クル者ニ獣類ヲ貸与ヘタル時ハ借主其糞料ヲ自己ノ利益ト為ス可カラス之ヲ其土地ニ属シタルモノトシテ其耕作ノ為メノミニ用フ可シ
第千八百二十五条 意外ノ事ニ因リ其獣類ノ全数ヲ失フタル時ト雖トモ借主其損失ヲ己ニ担当ス可シ但シ之ニ反シタル契約アル時ハ格別ナリトス
第千八百二十六条 土地ノ賃借ノ契約期限ノ終リニ至リ借主ハ其嘗テ評価シタル獣類ノ価高ヲ貸主ニ払ヒ其獣類ヲ己レニ有シ置クコトヲ得ス嘗テ其借受ケシ獣類ニ等シキ価ノ獣類ヲ遺シ置ク可シ
若シ其獣類ノ数不足ナル時ハ借主其不足ノ部分ヲ価ヲ以テ補フ可ク若シ又余分アル時ハ其余分ヲ己レノ所得ト為スコトヲ得可シ
第二節 土地ノ所有者ト其地ノ利益ヲ分ツ可キ約束ニテ土地ヲ借受クル者ニ其所有者ヨリ獣類ヲ貸与フル契約
第千八百二十七条 土地ノ利益ヲ其所有者ト共ニ分ツ可キ約束ニテ之ヲ借受ケシ者ノ過失ニ非ラスシテ其借受ケシ獣類ノ全数死スル時ハ貸主其損失ヲ己レニ担当ス可シ
第千八百二十八条 土地ノ利益ヲ其所有者ト共ニ分ツ可キ約束ニテ之ヲ借受ケシ者其借受ケタル羊毛ノ己レニ属ス可キ部分ヲ通常ノ価ヨリ更ニ低価ニテ貸主ニ譲ル可キ事又ハ獣類ヨリ得可キ利益中ニテ貸主其借主ノ得ル所ヨリ更ニ多分ノ利益ヲ得可キ事又ハ貸主獣類ノ乳汁ノ半ヲ得可キ事ノ契約ヲ為スコトヲ得可シ
然トモ同上ノ借主獣類ノ損失ヲ全ク己レニ担当ス可キノ契約ハ之ヲ為スコトヲ許サス
第千八百二十九条 此類ノ獣類貸借ノ契約ノ期限ハ其土地ノ貸借ノ契約ノ期限ト同時ニ終ル可シ
第千八百三十条 其他此類ノ獣類貸借ノ契約ハ獣類ノ通常ノ貸借契約ノ規則ニ循フ可シ
第五款 通常不当ニ獣類ノ貸借ノ契約ト称スル契約
第千八百三十一条 一頭又ハ数頭ノ牛ヲ畜養セシムル為メ及ヒ其小屋ヲ設ケシムル為メ人ニ其牛ヲ貸与ヘタル時ハ其貸主其所有ノ権ヲ有ツ可シ但シ其貸主ハ其貸与ノ時間生レタル牛仔ノミヲ己レノ利益ト為スコトヲ得可シ
第九巻 会社ノ契約〔千八百四年第三月八日決定同月十八日布告〕
第一章 総規則
第千八百三十二条 会社ノ契約トハ二人以上ニテ互ニ物ヲ共通シ其利益ヲ分タントスル契約ヲ云フ
第千八百三十三条 会社ノ契約ハ法ニ適シタル事ヲ目的ト為ス可ク且会社中各人ノ利益ノタメ之ヲ為ス可シ
会社中ノ各人ハ金高又ハ物品又ハ労力ヲ其会社ニ供ス可シ
第千八百三十四条 会社ノ契約ノ目的ト為ス所百五十「フランク」以上ノ価ナル時ハ其契約ノ証書ヲ記ス可シ
又其目的ト為ス所百五十「フランク」以下ノ価ナル時ト雖トモ其契約書ニ記シタル所ヨリ更ニ余分ノ事又ハ其契約書ニ記シタル所ト異ナリタル事ハ証人ヲ以テ証スルヲ得ス又其契約書ヲ記シタル前又ハ其時又ハ其後ニ言説シタルト云フ所ノ事モ亦証人ヲ以テ証スルコトヲ得ス(第千三百四十一条見合)
第二章 会社ノ種類
第千八百三十五条 会社ハ之ヲ分ツテ二種トス一ハ諸般ノ財産ニ付テノ会社又一ハ別段定メタル財産ニ付テノ会社ナリ
第一款 諸般ノ財産ニ付テノ会社
第千八百三十六条 諸般ノ財産ニ付テノ会社ニ二種アリ一ハ現ニ所有スル諸般ノ財産ニ付テノ会社又一ハ諸般ノ利益ニ付テノ会社ナリ
第千八百三十七条 現ニ所有スル諸般ノ財産ニ付テノ会社トハ社中ノ者其現ニ所有スル動産及ヒ不動産ノ全部ト其動産及ヒ不動産ヨリ得可キ利益トヲ共通スル会社ヲ云フ
又此種類ノ会社ニハ同上ノ動産及ヒ不動産ヨリ得可キ以外ノ利益モ亦共通ト為スヲ得可シト雖モ社中ノ者遺物相続又ハ生存中ノ贈遺及ヒ遺嘱ノ贈遺ノ名義ニテ後ニ人ヨリ得ル所ノ財産ハ唯々其入額所得ノ権ノミヲ共通ト為スヲ得可シ但シ其遺物相続又ハ生存中ノ贈遺及ヒ遺嘱ノ贈遺ノ名義ニテ後ニ人ヨリ得ル所ノ財産所有ノ権ハ夫婦ノ間ノ契約ニ付キ前ニ(第千五百廿六条見合セ)記シタル所ヲ除クノ外総テ之ヲ共通ト為スコトヲ契約スルヲ得ス
第千八百三十八条 諸般ノ利益ニ付テノ会社トハ其会社ヲ結フ時間ニ如何ナル名義タルヲ問ハス総テ労力ニ因リ得ル所ノ諸件ヲ共通スル会社ヲ云フ但シ其会社ニ加ハリシ各人其契約ヲ結ヒシ時所有スル動産ハ亦之ヲ共通ス可シト雖トモ其不動産ニ付テハ其入額所得ノ権ノミヲ共通ス可シ
第千八百三十九条 諸般ノ財産ニ付テノ会社ノ契約ニ其会社ノ種類ヲ別段定メタルコトナキ時ハ諸般ノ利益ニ付テノ会社ノ契約ヲ結ヒタリト看做ス可シ
第千八百四十条 互ニ財産ヲ授受スルコトヲ得可カラサル者又ハ互ニ利益ヲ為シテ他人ノ害ヲ為ス可カラサルノ禁ヲ別段受ケタル者ハ諸般ノ財産ニ付テノ会社ノ契約ヲ結フコトヲ得ス
第二款 別段定メタル財産ニ付テノ会社
第千八百四十一条 別段定メタル財産ニ付テノ会社トハ財産中ノ別段定マリシ物ヲ所有スルノ権又ハ之ヲ用フルノ権又ハ其物ヨリ生ス可キ利益ヲ得ルノ権ヲ共通スル会社ヲ云フ
第千八百四十二条 別段指定メタル起作【モクロミ】ノ為メ又ハ職業ヲ行フ為メ数人相連合スル契約ハ亦之ヲ別段定メタル財産ニ付テノ会社ナリト看做ス可シ
第三章 社中各人ノ間ニ互ニ行フ可キ義務及ヒ会社外ノ人ニ対シ行フ可キ義務
第一款 社中各人ノ間ニ互ニ行フ可キ義務
第千八百四十三条 会社ハ其契約ヲ為シタル時ヲ以テ其初ト為ス可シ但シ其他ノ日時ヲ以テ其初ト為ス可キコトヲ契約書ニ定メタル時ハ格別ナリトス
第千八百四十四条 会社ヲ結フ契約書ニ其会社ノ継続ス可キ時間ヲ別段定メタルコトナキ時ハ第千八百六十九条ニ記スル所ノ外総テ社中ノ者ノ畢生間継続ス可キモノト看做ス可シ又成就ス可キ期限ノ定マリシ事務ニ管シタル会社ハ其事務ノ成就スルニ至ル迄ノ時間継続ス可キモノト看做ス可シ
第千八百四十五条 社中ノ各人ハ会社ノ共通ト為サント約シタル諸件ヲ其会社ニ引渡ス可キノ義務アリ
社中ノ一人ヨリ会社ノ共通ト為シタル物件別段定マリシ物タル時其会社正当ノ所有者ヨリ訴訟ヲ受ケ之ヲ奪ハルルニ於テハ其物ヲ会社ノ共通ト為シタル者其会社ニ対シ償ヲ為ス可キノ義務アリ但シ此事ハ売主ノ買主ニ対スル義務ニ等シキモノトス(第千六百廿五条以下見合セ)
第千八百四十六条 社中ノ者金高ヲ其会社ノ共通ト為ス可キノ約束ヲ為シ其事ヲ為ササル時ハ其者別段訴ヲ受クルコトナクシテ其金高ヲ渡ス可キ日ヨリ以来其息銀ヲ払フ可キノ義務ヲ負フ可シ
又社中ノ者其会社ノ資本【モトテ】中ヨリ取用ヒタル金高ニ付テハ之ヲ己レノ利益ノ為メ引取リタル日ヨリ以来其息銀ヲ払フ可キノ義務ヲ負フ可シ
又別段ノ道理アル時ハ社中ノ者ヨリ会社ニ対シ前項ニ記スル所ヨリモ更ニ多量ノ償ヲ為ス可シ
第千八百四十七条 会社中ニテ其労力ヲ会社ニ供スルコトヲ約シタル者ハ其労力ニ因リ得タル利益ヲ会社ニ対シテ算計ス可シ
第千八百四十八条 会社中ノ者自己ノ算計ニ付キ人ヨリ金高ヲ得可キノ権ヲ有シ会社ニ於テモ亦其人ヨリ金高ヲ得可キノ権ヲ有スル時ハ縦令会社中自己ノ算計ニ付キ其権ヲ有スル者其負債者ヨリ金高ヲ受取リ其受取書ニ其金高ノ全部ヲ自己ノ得可キ義務ヲ尽クスニ充テ用フ可キ旨ヲ記シタルト雖トモ自己ノ得可キ義務ノ高ト会社ノ得可キ義務ノ高トノ割合ヲ以テ其受取リシ金高ヲ二個ノ義務ヲ尽クスニ充テ用フ可シ
又其社中ノ者ノ受取書ニ其受取リタル金高ノ全部ヲ会社ノ得可キ義務ヲ尽クス為メ充テ用フ可キ旨ヲ記シタル時ハ其記シタル所ノ如ク執行フ可シ
第千八百四十九条 会社中ノ一人会社ノ全員ノ共通シテ得可キ義務中ニテ己レノ得可キ部分ヲ受取リタル後其負債者其他ノ部分ヲ尽クスコト能ハサルニ至リシ時ハ既ニ其義務ヲ得タル者其得タル所ハ特ニ己レノ部分ナリト云ヘル語ヲ其受取書ニ記シタルト雖トモ其受取リシ諸件ヲ会社財産ノ合部中ニ返還ス可ン
第千八百五十条 会社中ノ者ハ己レノ過失ニ因リ会社ノ為メ生シタル損失ヲ償フ可シ但シ他ノ事ニ付キ其者ノ労力ニテ会社ノ為メ生シタル利益ヲ其損失ト相殺スルコトヲ得ス
第千八百五十一条 別段定マリシ物件ノ入額所得ノ権ノミヲ会社ノ共通ト為シ其物件使用スルニ因リ耗損セサルモノタル時ハ其物件ノ所有者全ク其損失ヲ己レニ担当ス可シ若シ其物件使用スルニ因リ耗損ス可キモノタル時又ハ之ヲ保チ置クニ因リ其質ノ卑悪ニ至ル可キモノタル時又ハ其所有者之ヲ会社ノ為メニ売払ハント定メタル時又ハ目録ニ其評価シタル価ヲ記シテ之ヲ会社ノ共通ト為シタル時ハ会社ニテ其物件ノ損失ヲ担当ス可シ
其物件ヲ評価シタル時後ニ其滅尽シタルニ於テハ其所有者其評価シタル価ノミヲ取戻スコトヲ得可シ
第千八百五十二条 会社中ノ者ハ其会社ノ為メ用ヒタル自己ノ金高ニ付キ会社ヨリ其償ヲ得可キノ求メヲ為シ得可キノミニ非ス其会社ノ事務ニ付キ正実ニ負フタル義務及ヒ其会社ノ事務ヲ取扱フニ付キ已ムコトヲ得スシテ受ケタル損失モ亦会社ヨリ其償ヲ得可キノ求メヲ為スコトヲ得可シ
第千八百五十三条 会社ヲ結フ証書ニ社中各人ノ得可キ利益ト其担当ス可キ損失トニ付キ別段其割合ヲ定メタルコトナキ時ハ其各人会社ノ資本中ニ加入シタル高ニ准シテ其割合ヲ定ム可シ
労力ノミヲ会社ニ供シタル者ノ得可キ利益及ヒ損失ノ割合ハ会社ノ資本中ニ最モ少量ノ高ヲ加入シタル者ノ割合ニ均シトス
第千八百五十四条 会社中ノ各人其得可キ利益及ヒ担当ス可キ損失ノ割合ヲ定ムルコトニ付キ其社中ノ一人又ハ会社外ノ者ノ判断ニ任カス可キコトヲ協議シタル時ハ其判断ノ不正ナルコト分明ナルニ非レハ其事ニ付キ故障ヲ述フルコトヲ得ス
又会社中ノ者其判断ヲ知リタル時ヨリ既ニ三月以上ノ時間ヲ過ゴシタル後其判断ノ不正ナルヲ述ヘタル時又ハ既ニ自カラ其判断ノ如ク執行ヒ始メシ時ハ其判断ニ因リ損害ヲ蒙リタルコトヲ訴フルト雖トモ裁判所ニ於テ之ヲ取上ク可カラス
第千八百五十五条 会社中ノ一人ニ利益ノ全部ヲ与フ可キ契約ハ其効ナカル可シ
又会社中ノ一人又ハ数人ノ会社ノ資本中ニ加入シタル金高及ヒ財産ヲ以テ会社ノ損失ヲ償フニ充テ用フルコトナカラシムル契約ハ亦其効ナカル可シ
第千八百五十六条 会社中ノ一人会社ノ契約書ニ因リ特ニ其会社ノ事務ヲ支配ス可キノ任ヲ受ケタル時ハ其会社中ノ他人ヨリ故障ヲ述フルニ管セス其支配ノ事ニ付キ諸般ノ所為ヲ行フコトヲ得可シ但シ其支配人ニ詐偽アル時ハ格別ナリトス
其支配人ノ権ハ其会社ノ継続スル時間至当ノ事由ナクシテ之ヲ廃スルコトヲ得ス然トモ会社ノ契約書ヲ記シタルヨリ後ニ記シタル証書ヲ以テ其権ヲ授ケタル時ハ名代人ヲ任スル契約(此篇第十三巻見合セ)ニ等シク其権ヲ廃スルコトヲ得可シ
第千八百五十七条 会社中ノ数人其会社ノ事務ヲ支配ス可キノ任ヲ受ケ各其職務ヲ定メタルコトナキ時又ハ其数人互ニ協議シタル上ニ非レハ事ヲ処置ス可カラサル旨ヲ別段定メタルコトナキ時ハ会社ノ支配ニ管スル諸般ノ事務ヲ各自ニ執行フコトヲ得可シ
第千八百五十八条 会社ノ事務ヲ支配スル数人互ニ協議シタル上ニ非レハ事ヲ処置ス可カラサルノ契約アル時ハ其支配人中ノ一人更ニ改メテ契約ヲ為シタル後ニ非レハ他ノ支配人ノ立合ナクシテ事ヲ処置スルヲ得ス但シ他ノ支配人当時其支配ノ所為ヲ行フコト能ハサル時ト雖トモ亦同一ナリトス
第千八百五十九条 会社ノ事務ヲ支配スル方法ニ付キ別段契約シタル事ナキ時ハ左ノ規則ニ循テ之ヲ為ス可シ
第一 会社中ノ各人ハ其会社ノ事務ヲ支配スルノ権ヲ互ニ与ヘタルモノト看做ス可シ○其一人ノ所為ハ別段他人ノ承諾ヲ得スト雖トモ他人ニ対シテ其効アルモノトス可シ但シ他人ハ其一人ノ執行フ事ヲ成就スル前ニ故障ヲ述フルノ権ヲ有ス可シ
第二 会社中ノ一人ハ其会社ニ属シタル物件ヲ其預定セシ方法ニ用ヒ且之ヲ会社ノ利益ヲ阻害セサル方法ニ用フル時又ハ会社中ノ他人各其権利ニ因リ之ヲ用フ可キノ阻害トナラサル方法ニ用フル時ハ其物件ヲ自己ノ為メニ用フルコトヲ得可シ
第三 其一人ハ其会社ニ属スル物件ヲ保全スル為メ必要ナル費用ヲ他人ヨリ出合サシムルノ権アリ
第四 会社中ノ一人ハ他人ノ承諾ヲ得タル上ニ非レハ其会社ニ属スル不動産ノ模様ヲ更改スルコトヲ得ス但シ其一人其不動産ノ模様ヲ更改スルコト会社ノ為メ利益アリト述フル時ト雖トモ亦同一ナリトス
第千八百六十条 会社中ノ支配人ニ非サル者ハ其会社ニ属スル動産ト雖トモ之ヲ売払ヒ又ハ質ト為スコトヲ得ス
第千八百六十一条 会社中ノ一人自己ノ分前ニ付テハ其会社中ノ者ノ承諾ヲ得ルコトナクシテ他人ヲ己レノ組合人ト為スコトヲ得可シ然トモ其一人縦令会社ノ支配人タリト雖トモ会社中ノ者ノ承諾ヲ得スシテ他人ヲ其会社中ニ加入セシムルコトヲ得ス
第二款 会社中ノ者会社外ノ人ニ対シテ行フ可キ義務
第千八百六十二条 商業ノ為メニ非サル会社ニ於テハ其会社中ノ者連帯シテ会社ノ義務ヲ負フコトナク会社中ノ一人其会社中ノ他ノ者ヲシテ己ノ義務ヲ担当セシムルコトヲ得ス但シ会社中ノ他ノ者其一人ノ義務ヲ連帯シテ担当ス可キコトヲ特ニ定メタル時ハ格別ナリトス
第千八百六十三条 会社中ノ各人ハ其会社ノ分前ノ高ニ付キ互ニ差異アリト雖トモ其債主ニ対シテ皆同量ノ金高ヲ償フ可シ但シ其負債ノ証書ニ其会社中ニテ分前高ノ少キ者ハ債主ニ償フ可キ金高モ亦少カル可キコトヲ別段記シタル時ハ格別ナリトス
第千八百六十四条 会社中ノ者其会社ノ算計ノ為メ義務ヲ負フタル旨ヲ其義務ノ契約書ニ記シタルト雖トモ其義務ヲ契約シタル者ノミ之ヲ担当ス可ク会社中ノ他ノ者ハ之ヲ担当スルコトナカル可シ但シ会社中ノ他ノ者ヨリ其中ノ一人ニ会社ノ為メニ其義務ヲ契約ス可キ権ヲ授ケタル時又ハ其一人ノ負フタル義務会社ノ利益トナリタル時ハ格別ナリトス
第四章 会社ノ終ル可キ方法
第千八百六十五条 会社ハ左ノ方法ニ因テ終ル可シ
第一 会社ヲ結フ契約ニ定メタル期限ノ終ル事
第二 会社ノ財産全ク滅尽スル事又ハ会社ノ目的タル事業ノ終成スル事
第三 会社中ノ者ノ死去
第四 会社中ノ者ノ准死又ハ治産ノ禁ヲ受クル事又ハ家資分散ヲ為ス事
第五 会社中ノ一人又ハ数人其会社ヲ退去セント欲スル事(第千八百六十九条見合)
第千八百六十六条 期限ノ定マリシ会社ヲ其期限ノ終リシ後更ニ継続セントスルニハ初ノ会社ヲ結ヒタル契約書ト同一ノ体裁ノ証書ヲ記シテ其証ヲ立ツ可シ
第千八百六十七条 会社中ノ一人物件所有ノ権ヲ会社ノ共通ト為サント約シタル時現ニ其物件ヲ共通スル前ニ之ヲ失フコトアルニ於テハ其各人ニ付キ其会社ヲ解ク可シ
又物件ノ入額所得ノ権ノミヲ会社ノ共通ト為シ其所有ノ権会社中ノ一人ニ属シタル時其物件ヲ失フニ於テモ亦其会社ヲ解ク可シ然トモ物件所有ノ権ヲ既ニ会社ノ共通ト為シタル後ハ縦令其物件ヲ失フト雖トモ其会社ヲ解クコトナカル可シ
第千八百六十八条 会社中ノ一人死去スル時ハ生存スル者其遺物相続人ト其会社ヲ継続シ又ハ其会社中ノ生存スル者ノミニテ其会社ヲ継続ス可キコトヲ預定シタルニ於テハ其約定ニ従フ可シ但シ死者ノ遺物相続人ハ其死者死去ノ時ノ会社ノ模様ニ准シテ其会社中ヨリ分派ヲ得ルノ権ヲ有ス可シ然トモ其相続人ハ死者ノ死前ニ為シタル事ヨリ連続シテ生シタル会社ノ利益ノ外其死後ノ利益ニ参加スルコトヲ得ス
第千八百六十九条 会社中一人ノ意ニ因リ其会社ヲ解キ得可キハ無期ノ会社ノミニ限ル可キコトニシテ其一人ヨリ会社中ノ各人ニ其会社ヲ退去セントスルコトヲ告知シテ之ヲ為ス可シ但シ其会社ヲ退去セントスルコト正実ノ意ニ出テス又ハ時宜ニ適セサル時ハ其退去ヲ為スコトヲ許サス
第千八百七十条 会社中ノ数人互ニ共通シテ得ントスル利益ヲ其中ノ一人自己ノ一身ノミノ所得ト為ス可キ為メ其会社ヲ退去セント欲スル時ハ正実ノ意ニ出テサルモノトス可シ
会社ノ事業未タ完成セスシテ会社ノ為メ猶之ヲ継続スルコトノ必要ナル時其一人其会社ヲ退去セントスルニ於テハ時宜ニ適セサルモノトス可シ
第千八百七十一条 期限ノ定マリシ会社ヲ解クコトハ正当ノ事由アルニ非サレハ其期限ノ終ラサル前ニ其中ノ一人ヨリ之ヲ訴フルヲ得ス但シ其原由トハ会社中ノ他ノ者其義務ヲ行ハサル事又ハ其一人常ニ病ニ罹リ会社ノ事務ヲ為シ能ハサル事又ハ其他此類ノ事故アル事ニシテ其事由ノ是非軽重ハ裁判役ノ審判ニ任カス可シ
第千八百七十二条 遺物財産ヲ分派スルニ付テノ規則及ヒ其分派ニ付キ相続人等ノ間ニ生ス可キ義務ハ会社ヲ結ヒタル数人ノ間ニ分派ヲ為ス事ニモ亦通シテ用フ可シ
貿易会社ノ規則
第千八百七十三条 此巻ノ規則中ニテ商法及ヒ商業ノ習慣ニ反セサル条件ニ非レハ之ヲ貿易会社ニ通シテ用フ可カラス
第十巻 貸借(第八巻ノ賃貸ト混ス可カラス)〔千八百四年第三月九日決定同月十九日布告〕
第千八百七十四条 貸借ニ二種アリ
一ハ使用シテ耗尽セサル物ノ貸借
一ハ使用スルニ因リ耗尽ス可キ物ノ貸借
耗尽セサル物ノ貸借ヲ名ケテ「プレータユザージュ」又ハ「コムモダー」ト云フ
耗尽ス可キ物ノ貸借ヲ名ケテ「プレードコンソムマシヲン」ト云ヒ又略ニ「プレー」ト云フ
第一章 耗尽セサル物ノ貸借
第一款 耗尽セサル物ノ貸借ノ本義
第千八百七十五条 耗尽セサル物ノ貸借トハ貸主ヨリ借主ノ使用ノ為メ物件ヲ引渡シ借主之ヲ用ヒタル後貸主ニ還ス可キ契約ヲ云フ
第千八百七十六条 此貸借ハ賃銀ナキモノトス
第千八百七十七条 貸主ハ其貸与ヘタル物ノ所有ノ権ヲ保有ス可シ
第千八百七十八条 売買ヲ為シ得可ク且使用スルニ因リ耗尽セサル諸般ノ物件ハ此類ノ貸借ノ契約ノ目的ト為スコトヲ得可シ
第千八百七十九条 此類ノ貸借契約ノ義務ハ貸主ノ遺物相続人及ヒ借主ノ遺物相続人ニ之ヲ伝フ可シ
然トモ貸主借主ノ一身ノ為メノミニ物ヲ貸与ヘタル時ハ借主ノ遺物相続人其物ヲ用フルコトヲ得ス
第二款 借主ノ義務
第千八百八十条 借主ハ其借受ケタル物ヲ管守シ且保全スルニ付キ懇切ニ注意ス可シ
借主ハ其借受ケタル物ノ種類ニ因リ又ハ契約ニ因リ定マリタル以外ノ方法ニ其物ヲ用フルコトヲ得ス若シ借主此規則ニ背キタルニ因リ貸主ノ為メ損失ヲ生シタル時ハ其損失ヲ償フ可シ
第千八百八十一条 借主其借受ケタル物ヲ其当然ノ用法ニ非サル方法ニ使用シ又ハ其契約ニ定メタルヨリ更ニ永キ時間用ヒタル時其物ノ滅尽シタルニ於テハ縦令意外ノ事ニ因ルト雖トモ借主其責メニ任セサルヲ得ス
第千八百八十二条 借主自己ノ物件ヲ用ルニ於テハ借受ケタル物件ノ滅尽セサルヲ得可キニ之ヲ用ヒサルニ因リ其借受ケタル物件意外ノ事ニ因リ滅尽シタル時又ハ自己ノ物件ト借受タル物件トノ中其一箇ノミヲ保全シ得可キ場合ニ於テ自己ノ物件ヲ保全シ借受ケタル物件ヲ失ヒタル時ハ借主其借受ケタル物件ヲ失フタル責ニ任ス可シ
第千八百八十三条 物件ヲ貸与ヘシ時其評価ヲ為シ後ニ借主其借受ケタル物件ヲ失フコトアルニ於テハ縦令意外ノ事ニ因ルト雖トモ借主其責ニ任ス可シ但シ之ニ反シタル契約アル時ハ格別ナリトス
第千八百八十四条 借主其借受ケタル物件ヲ当然ノ用法ニ使用シ別段己レノ過失ニ非スシテ其物件ノ卑悪ニ至リシ時ハ借主其責ニ任スルニ及ハス
第千八百八十五条 借主ハ貸主ヨリ別ニ己レニ得可キ他物ノ償トシテ其借受ケタル物件ヲ保有スルヲ得ス
第千八百八十六条 借主其借受ケタル物件ヲ使用スルニ付キ費用ヲ出シタルト雖トモ貸主ニ対シ其償ヲ得ント求ムルコトヲ得ス
第千八百八十七条 数人連帯シテ一箇ノ物品ヲ借受ケタル時ハ其数人貸主ニ対シ連帯シテ義務ヲ負フ可シ
第三款 貸主ノ義務
第千八百八十八条 貸主ハ預メ契約シテ定メタル期限ノ後ニ非レハ其貸与ヘタル物ヲ取戻スコトヲ得ス又其期限ヲ定メタルコトナキ時ハ其貸与ヘタル目的ノ用法ニ借主之ヲ用ヒタル後ニ非レハ其物ヲ取戻スコトヲ得ス
第千八百八十九条 然トモ其預定セシ期限間又ハ借主其物ヲ使用スルコト猶必要ナル時間ニ意外ノ事ニ因リ貸主ノ為メ急ニ其物ヲ用フルヲ要スル事ノ起リシ時ハ裁判役其時ノ景状ニ従ヒ借主ヲシテ其物ヲ貸主ニ還サシムルコトヲ言渡スヲ得可シ
第千八百九十条 借主物件ヲ借受クル時間其物件ヲ保全スルニ付キ貸主ニ告知スルノ暇ナク急迫ニシテ且已ムヲ得サル事ニ因リ意外ノ費用ヲ出シタル時ハ貸主ヨリ借主ニ其費用ヲ償フ可シ
第千八百九十一条 貸主其貸与ヘタル物件ニ不良ノ事アルヲ知リ借主ニ其旨ヲ告知セスシテ借主ノ為メ損害ヲ生シタル時ハ貸主其損害ヲ償フ可シ
第二章 耗尽ス可キ物ノ貸借
第一款 耗尽ス可キ物ノ貸借ノ本義
第千八百九十二条 耗尽ス可キ物ノ貸借トハ貸主ヨリ借主ニ使用シテ耗尽ス可キ定量ノ物ヲ渡シ借主ヨリ其同種同質同量ノ物ヲ貸主ニ還ス可キ契約ヲ云フ
第千八百九十三条 此貸借ニ因リ借主其借受ケタル物ノ所有者トナリ若シ其物ヲ失フタル時ハ之ヲ失ヒシ方法ノ如何ナルヲ問ハス総テ借主ノ損失ト為ス可シ
第千八百九十四条 獣類ノ如ク同種類ナリト雖トモ各自相異ナル物ハ耗尽ス可キ物ノ貸借ノ名義ヲ以テ其貸借ヲ為ス可カラス其貸借ハ耗尽セサル物ノ貸借ナリトス
第千八百九十五条 金高ヲ借受ケタル者ノ義務ハ其借受ノ証書ニ記シタル所ノ高ヲ還スニアリトス
金高ヲ還ス前ニ貨幣ノ価低昂アリト雖トモ借主ハ其時通用スル貨幣ニテ其借受ケタル高ヲ還ス可シ
第千八百九十六条 貨幣ヲ造ル財料ノ貸借ニ付テハ前条ニ記シタル規則ヲ通シテ用フ可カラス
第千八百九十七条 貨幣ノ財料及ヒ商品ヲ借受ケタル時ハ其価ノ低昂ヲ問ハス借主ヨリ常ニ其借受ケタル物ト同質同量ノ物ヲ還ス可ク其他ノ物ヲ還ス可カラス
第二款 貸主ノ義務
第千八百九十八条 耗尽ス可キ物ノ貸主ハ耗尽セサル物ノ貸借ニ付キ第千八百九十一条ニ記シタル所ノ責ニ任ス可シ
第千八百九十九条 貸主ハ借主ト協議シテ定メタル期限ニ至ラサル内ニ其貸与ヘタル物ト同質同量ノ物ヲ取戻スコトヲ得ス
第千九百条 貸与ヘタル物ト同質同量ノ物ヲ取戻ス可キ期限ヲ定メタルコトナキ時ハ裁判役其時ノ景状ニ従ヒ借主ノ為メ猶予ノ期限ヲ許ルスコトヲ得可シ
第千九百一条 借主其借受ケタル物ト同質同量ノ物ヲ還スヲ得可キ時又ハ之ヲ還ス可キノ力アル時之ヲ貸主ニ還ス可キノ契約アルニ於テハ裁判役其時ノ景状ニ従ヒ其返還ノ期限ヲ定ム可シ
第三款 借主ノ義務
第千九百二条 借主ハ貸主ト協議シテ定メタル期限ニ至リ嘗テ借受ケシ物ト同質同量ノ物ヲ還ス可シ
第千九百三条 若シ借主前条ニ記シタル如ク執行フコト能ハサル時ハ契約ニ循ヒ其物ヲ還ス可キ時日ト場所トニ於テノ其価額ヲ還ス可シ
其時日ト場所トヲ定メタルコトナキ時ハ嘗テ借受ケシ時日ト場所トニ於テノ其価額ヲ還ス可シ
第千九百四条 借主預定ノ期限ニ至リ嘗テ其借受ケタル物ト同質同量ノ物又ハ其価額ヲ還ササル時ハ貸主其事ヲ裁判所ニ訴出シタル日ヨリ以来借主其息銀ヲ払フ可キノ義務ヲ負フ可シ
第三章 息銀アル貸借
第千九百五条 金高、商品又ハ其他動産(使用スルニ因リ耗尽スル物ヲ云フ)ノ貸借ニ付キ息銀ヲ出ス可キ契約ヲ為スコトヲ得可シ
第千九百六条 借主別ニ契約ヲ為サスシテ息銀ヲ払フタル時ハ之ヲ取戻スコトヲ得ス又之ヲ其元資ノ払方ニ充テ用フルコトヲ得ス
第千九百七条 息銀ハ法律上ニテ定メタルモノアリ又ハ契約ヲ以テ定メタルモノアリ
法律上ニテ定メタル息銀トハ法律ヲ以テ之ヲ定メタルモノヲ云フ○契約ヲ以テ定メタル息銀ハ別段法律上ノ禁制ナキ時法律上ニ定メタル息銀ノ割合ニ過クルコトヲ得可シ契約ヲ以テ定メタル息銀ノ割合ハ証書ヲ以テ之ヲ定ム可シ
第千九百八条 息銀ノ事ヲ別段附記セサル元資ノ受取書アル時ハ借主既ニ息銀ヲモ払フタルト思料ス可クシテ其息銀ヲ払フ可キ義務ノ釈放ヲ受ク可シ
第千九百九条 一方ノ者ヨリ他ノ一方ノ者ニ元資ヲ貸渡シ之ヲ取戻スコトナク唯其息銀ノミヲ得可キノ契約ヲ為スコトヲ得可シ
此類ノ貸借ヲ名ケテ年金ヲ設ケ定ムル事ト云フ
第千九百十条 其年金ニ二種アリ一ハ無期ノ年金又一ハ畢生間ノ年金ナリ
第千九百十一条 無期ノ年金ハ借主其元資ヲ還シ得可キモノトス
又双方ノ者別段定メタル期限ニ至ラサル前ニ借主ヨリ其元資ヲ還スコトナキ旨ヲ契約スルコトヲ得可シ但シ其期限ハ十年ニ過ク可カラス又借主後ニ其元資ヲ還サントスルニ於テ其時ヨリ幾日前ニ之ヲ告知ス可キヤヲ貸主ト協議シタル時ハ其日ニ至リ其告知ヲ為シタル上ニ非サレハ其元資ヲ還スコトヲ得ス
第千九百十二条 第一 無期ノ年金ヲ払フ可キ者二年ノ間之ヲ払ハサル時
第二 無期ノ年金ヲ払フ可キ者之ヲ得可キ者ニ対シ契約ヲ以テ定メタル如ク保証人ヲ立テサル時
此二箇ノ場合ニ於テハ無期ノ年金ヲ得可キ者之ヲ払フ可キ者ヲシテ其元資ヲ還サシムルコトヲ得可シ
第千九百十三条 無期ノ年金ヲ払フ可キ者家資分散ヲ為シ又ハ其産業衰敗シタル時ハ年金ヲ得可キ者亦其元資ヲ還サシムルコトヲ得可
第千九百十四条 畢生間ノ年金ノ規則ハ此篇第十二巻(偶生ノ事ニ管スル契約ノ巻)ニ之ヲ定ム
第十一巻 附託ノ事及ヒ双方相争フ物ヲ人ニ附託スル事〔千八百四年第三月十四日決定同月廿四日布告〕
第一章 総テ附託ノ事及ヒ附託ノ種類
第千九百十五条 附託トハ総テ一方ノ者他ノ一方ノ者ニ物件ヲ預ケ他ノ一方ノ者之ヲ管守シ後ニ之ヲ其侭ニテ還ス可キ契約ヲ云フ
第千九百十六条 附託ニ二種アリ一ハ通常ノ附託又一ハ双方相争フ物ヲ人ニ附託スル事ナリ
第二章 通常ノ附託
第一款 附託ノ契約ノ本義
第千九百十七条 通常ノ附託ハ別段償ヲ用ヒサル契約ナリトス
第千九百十八条 附託ハ動産ノミニ限ル可シ
第千九百十九条 附託ハ物件ヲ現ニ引渡ス事又ハ引渡シタリト看做ス可キ事アルニ非レハ之ヲ成就シタリトセス
附託ヲ受クル者嘗テ物件ヲ附託ニ非サル名義ヲ以テ其所有者ヨリ既ニ己レノ方ニ受取リ其所有者其侭之ヲ預ケ置カントスル時ハ其物件ヲ引渡シタリト看做ス可キ事アリトス
第千九百二十条 附託ハ随意ノモノアリ又已ムヲ得サルモノナリ
第二款 随意ノ附託
第千九百二十一条 随意ノ附託ハ附託ヲ為ス者ト附託ヲ受クル者ト双方ノ承諾ヲ以テ之レヲ為ス可シ
第千九百二十二条 随意ノ附託ハ物件ノ所有者之レヲ為シ又ハ其者ノ明許或ハ黙許ヲ以テ他人之ヲ為ス時ノ外法ニ適シタルモノナリトセス
第千九百二十三条 随意ノ附託ハ書面ヲ以テ之レヲ証ス可シ○百五十「フランク」以上ノ価ニ付テハ証人ヲ以テ附託ノ証ヲ立ルコトヲ得ス
第千九百二十四条 百五十「フランク」以上ノ物件ノ附託ニ付キ其証書ノアラサル時ハ附託ヲ受ケシ者ナリトノ言掛ヲ受ケタル者其附託ヲ受ケタルヤ否ノ事又ハ其附託ヲ受ケタル物件ノ種類又ハ其物件ヲ既ニ還シタル事等ノ諸事ニ付キ誓ヲ以テ其証ヲ立ルコトヲ得可シ
第千九百二十五条 随意ノ附託ハ契約ヲ為シ得可キ者ノ間ニノミ之ヲ為スコトヲ得可シ然トモ契約ヲ為シ得可キ者契約ヲ為シ得可カラサル者ノ為シタル附託ヲ承諾シタル時ハ其附託ヲ受ケシ者通常ノ義務ヲ負フ可クシテ其附託ヲ為シタル者ノ後見人又ハ其者ノ財産支配人ヨリ訴訟ヲ受クルコトアル可シ
第千九百二十六条 契約ヲ為シ得可キ者ヨリ契約ヲ為シ得可カラサル者ニ附託ヲ為シタル時ハ其附託シタル物件其附託ヲ受ケタル者ノ手裏ニ現存スル時間ニ非レハ其物件ヲ取戻ス可キノ訴訟ヲ為スコトヲ得ス又其附託シタル物件其附託ヲ受ケシ者ノ利益トナリシ高ニ至ル迄ノ外其価高ヲ取戻ス可キノ訴訟ヲ為スコトヲ得ス
第三款 附託ヲ受クル者ノ義務
第千九百二十七条 附託ヲ受ケタル者ハ其附託ヲ受ケタル物件ヲ管守スルニ付キ自己ノ所有スル物件ヲ管守スルニ等シキ注意ヲ為ス可シ
第千九百二十八条 第一 附託ヲ受クル者自己ノ方ヨリ其附託ヲ受ク可キコトヲ述ヘタル時
第二 附託ヲ受クル者其物件ヲ管守スルニ付キ謝金ヲ得可キノ契約ヲ為シタル時
第三 附託ヲ受クル者ノ利益ノ為メ其附託ヲ為シタル時
第四 附託ヲ受クル者如何ナル過失アリト雖トモ皆之ヲ己レニ担当ス可キコトヲ特ニ契約シタル時
此等ノ場合ニ於テハ前条ノ規則ヲ別段厳密ニ通シ用フ可シ
第千九百二十九条 物件ノ附託ヲ受ケタル者ハ如何ナル場合タルヲ問ハス抗拒ス可カラサル力アル意外ノ事ニ因リ其物件ヲ毀損滅尽セシメタル責ニ任スルニ及ハス但シ其附託ヲ受ケタル物件ヲ還ス可キノ求メヲ受ケ猶之ヲ還ササル時ハ格別ナリトス
第千九百三十条 附託ヲ受ケタル者ハ附託ヲ為シタル者ノ明許又ハ黙許ナクシテ其附託ヲ受ケタル物件ヲ使用ス可カラス
第千九百三十一条 附託ヲ受ケシ物件鎖閉シタル箱匱中ニ入リタル時又ハ封印ヲ為シタル包皮中ニ入リタル時ハ其附託ヲ受ケタル者其物件ノ何物タルヲ知リ得ント為ス可カラス
第千九百三十二条 附託ヲ受ケタル者ハ其附託ヲ受ケシ物件ヲ必ス返還ス可シ
故ニ貨幣ノ附託ヲ受ケタル者ハ其貨幣ノ価ニ低昂アルヲ問ハス其附託ヲ受ケタルト同一ノ貨幣ヲ還ス可シ
第千九百三十三条 附託ヲ受ケタル者ハ其附託ヲ受ケシ物件ヲ其還ス可キ時ノ景状ノ侭之ヲ還スコトヲ得可シ○其者ノ過失ニ非スシテ其物件ノ卑悪ニ至リシ時ハ附託ヲ為シタル者其損失ヲ己ニ担当ス可シ
第千九百三十四条 附託ヲ受ケタル者抗拒ス可カラサル力ニ因リ其附託ヲ受ケシ物件ヲ失ヒ其物件ニ代ヘテ金高又ハ其他ノ物件ヲ人ヨリ受取リタル時ハ其附託ヲ為シタル者ニ其金高又ハ其他ノ物件ヲ還ス可シ
第千九百三十五条 附託ヲ受ケタル者ノ遺物相続人其附託ノ事ヲ知ラス正実ノ意ヲ以テ其附託ヲ受ケシ物件ヲ売払フタル時ハ其得タル代金ヲ還ス可シ又其相続人未タ其代金ヲ受取ラサル時ハ買主ニ対シ訴訟ヲ為ス可キノ権ヲ附託ヲ為シタル者ニ譲ル可シ
第千九百三十六条 附託ヲ受ケシ物件ヨリ利益ヲ生シ附託ヲ受ケタル者其利益ヲ己レニ得タル時ハ之ヲ附託ヲ為シタル者ニ還ス可シ○附託ヲ受ケタル者ハ附託ヲ受ケシ金高ノ息銀ヲ払フニ及ハス但シ其金高ヲ還ス可キノ求メヲ受ケ猶之ヲ還ササル時ハ其求メヲ受ケシ日ヨリ以来ノ息銀ヲ払フ可シ
第千九百三十七条 附託ヲ受ケタル者ハ其物件ヲ附託シタル者又ハ其真ノ所有者又ハ其物件ヲ受取ル為メ附託者ノ別段定メ置キタル者ニ之ヲ還ス可シ
第千九百三十八条 附託ヲ受ケタル者ハ附託ヲ為シタル者其物件ノ所有者タルノ証ヲ必ス得ント要ムルコトヲ得ス(若シ必ス其証ヲ得ント欲セハ物件ノ附託ラ承引スル前ニ之ヲ要ム可シ)
然トモ其物件贓物ニシテ其附託ヲ受ケタル者別ニ其真ノ所有者ヲ見出シタル時ハ其附託ヲ受ケタル者真ノ所有者ニ其物件ノ附託ヲ受ケタル旨ヲ告知シ且相当ノ定期内ニ其物件ヲ引取ル可キコトヲ求ム可シ○其告知ヲ得タル者其定期内ニ其物件ノ引渡ヲ求ムルコトナキ時ハ附託ヲ受ケタル者嘗テ其附託ヲ為シタル者ニ其物件ヲ還シテ義務ノ釈放ヲ受ク可シ
第千九百三十九条 附託ヲ為シタル者ノ死去又ハ准死ノ時ハ其附託セシ物件ヲ其遺物相続人ニ還ス可シ
其相続人二人以上ナル時ハ其得可キ部分ヲ其各人ニ還ス可シ
又附託セシ物件ヲ分ツ可カラサル時ハ其相続人等互ニ協議シタル上其物件ヲ受取ル可キ者ヲ定ム可シ
第千九百四十条 嘗テ物件ヲ附託セシ者ノ身上ノ変シタル時譬ヘハ附託ヲ為セシ時未タ婚姻セサル婦其後ニ至リ婚姻ヲ結ヒタルニ因リ其夫ノ権ニ従フ可キ者トナリタル時又ハ附託ヲ為シタル者後ニ治産ノ禁ヲ受ケタル時及ヒ其他此類ノ如キ場合ニ於テハ其附託ヲ受ケシ者此等ノ者ノ財産ヲ支配シ且其権利ヲ扱フ者(夫又ハ後見人等ヲ云フ)ニ其附託セシ物件ヲ還ス可シ
第千九百四十一条 又後見人又ハ夫及ヒ其他、人ニ代テ財産ヲ支配スル者其後見人又ハ夫又ハ支配人タルノ名義ヲ以テ人ニ物件ヲ附託シタルニ於テハ此等ノ者其支配ヲ為ス可キ権ノ終リシ時其附託ヲ受ケタル者其物件ヲ其所有者(以前ノ幼者婚姻セシ婦治産ノ禁ヲ受ケシ者等ヲ云フ)ニ還ス可シ
第千九百四十二条 附託ノ契約書ニ其附託セシ物件ヲ還ス可キ地ヲ定メタル時ハ附託ヲ受ケタル者之ヲ還サントスル時其地ニ移送ス可シ但シ其移送ヲ為スニ付キ賃銭ヲ出シタル時ハ附託ヲ為シタル者之ヲ償フ可シ
第千九百四十三条 又其契約ハ其物件ヲ還ス可キ地ヲ定メサル時ハ嘗テ附託ヲ為シタル地ニテ之ヲ還ス可シ
第千九百四十四条 附託ノ契約ニ其附託セシ物件ヲ還スニ付キ定メタル猶預ノ期限アル時ト雖トモ其附託ヲ為シタル者ヨリ其物件ヲ取戻サント求ムル時ハ其附託ヲ受ケタル者直チニ之ヲ還ス可シ但シ附託ヲ為シタル者ノ債主其附託ヲ受ケタル者ニ其還方ヲ差留ル書面ヲ送リタル時ハ格別ナリトス
第千九百四十五条 附託ヲ受ケタル者ニ不正ノ所為アリテ其物件ヲ還ササル時ハ其者自己ノ財産ヲ放棄シテ禁錮ヲ免ルルノ権ナシ(第千二百六十五条及ヒ訴訟法第八百九十八条見合)
第千九百四十六条 附託ヲ受ケタル者自カラ其附託ヲ受ケシ物件ノ所有者タルコトヲ見出シテ其証ヲ立ル時ハ其附託ノ義務消散ス可シ
第四款 附託ヲ為ス者ノ義務
第千九百四十七条 附託ヲ為シタル者ハ其附託ヲ受ケタル者其物件ヲ保全スルニ付キ出シタル費用ヲ償ヒ且其附託ニ因リ附託ヲ受ケタル者ノ為メ生シタル損失ヲ償フ可シ
第千九百四十八条 附託ヲ受ケタル者其附託ニ付キ附託ヲ為シタル者ヨリ得可キ償額ノ全部ヲ受取ルニ至ル迄ハ其附託ヲ受ケシ物件ヲ己レノ方ニ留メ置クコトヲ得可シ
第五款 已ムヲ得サル附託
第千九百四十九条 已ムヲ得サル附託トハ火災、崩潰、掠奪、破船及ヒ其他預知ス可カラサル意外ノ事ニ因リ已ムヲ得スシテ人ニ物ヲ附託スルコトヲ云フ
第千九百五十条 已ムヲ得サル附託ニ付テハ縦令百五十「フランク」以上ノ価ニ管シタル時ト雖トモ証人ヲ以テ証ヲ立ルコトヲ得可シ
第千九百五十一条 其他已ムヲ得サル附託ニ付テハ前数款ノ規則ニ循フ可シ
第千九百五十二条 旅舎ノ主人ハ其家ニ宿スル旅客ノ携ヘ来リシ物件ニ付キ其附託ヲ受ケタル者ナリトシテ其物件ヲ管守ス可キ責ニ任ス可シ但シ此類ノ附託ハ已ムヲ得サルノ附託ナリト看做ス可シ
第千九百五十三条 旅舎ノ主人ハ其家ニ於テ使用スル者又ハ僕婢又ハ其他其家ニ出入スル者旅客ノ物件ヲ窃取シ又ハ其物件ニ損害ヲ加ヘタル時自カラ其責ニ任ス可シ
第千九百五十四条 旅舎ノ主人兵器ヲ携ヘタル賊ノ為メ強迫ヲ受ケ又ハ其他抗拒ス可カラサル力ノ為メ旅客ノ物件ヲ奪ハレシ時ハ其責ニ任スルコトナカル可シ
第三章 双方相争フ物ヲ人ニ附託スル事
第一款 双方相争フ物ヲ人ニ附託スル事ノ種類
第千九百五十五条 双方相争フ物ヲ人ニ附託スル事ハ契約ヲ以テ為スモノアリ又ハ裁判所ノ言渡ヲ以テ為スモノナリ
第二款 双方相争フ物ヲ互ニ契約シテ人ニ附託スル事
第千九百五十六条 双方相争フ物ヲ互ニ契約シテ人ニ附託スル事トハ一人(原書ニ一人ト記スルハ誤ナリ)又ハ数人互ニ相争フ物ヲ他人ニ附託シ其附託ヲ受ケタル者其争ノ裁判アリシ時其物ヲ得可キノ言渡ヲ得タル者ニ之ヲ還ス可キノ契約ナリ
第千九百五十七条 此類ノ附託ニ付テハ其附託ヲ受クル者其償ヲ受クルコトヲ得可シ
第千九百五十八条 此附託ニ付キ其附託ヲ受クル者償ヲ得サル時ハ後条ニ記スル所ノ諸件ヲ除クノ外総テ通常ノ附託ノ規則ニ循フ可シ
第千九百五十九条 此類ノ附託ハ動産ノミニ限ルコトナク不動産ニ付テモ亦之ヲ為スコトヲ得可シ
第千九百六十条 此類ノ附託ヲ受ケタル者ハ其争ニ管シタル各人ノ承諾ヲ得タル時又ハ裁判所ヨリ至当ナリ上言渡シタル原由アル時ノ外其争ノ裁判アル前ニ其義務ノ釈放ヲ得可カラス(附託ヲ受ケシ物件ヲ還ス可カラサルヲ云フ)
第三款 双方相争フ物ヲ裁判所ノ言渡ヲ以テ人ニ附託スル事
第千九百六十一条 裁判所ヨリ左ノ物件ヲ人ニ附託ス可キコトヲ言渡スヲ得可シ
第一 負債者其義務ヲ行ハサルニ因リ債主ノ差押ヘタル動産
第二 二人以上ノ者互ニ所有ノ権又ハ占有ノ権ヲ相争フ不動産又ハ動産
第三 負債者其義務ノ釈放ヲ得ンカ為メ債主ニ渡サント提供【サシダス】スル物件
第千九百六十二条 負債者其義務ヲ行ハサルニ因リ裁判所ノ言渡ヲ以テ其財産ヲ差押ヘ其物件ヲ他人ニ附託シタル時ハ其物件ヲ差押ヘタル債主ト其附託ヲ受クル者トノ間ニ互ニ義務ヲ生ス可シ
其附託ヲ受クル者ハ其附託ヲ受ケタル物件ヲ保全スルニ付キ懇切ニ注意ス可シ
其附託ヲ受クル者ハ債主其物件ヲ売払ハントスル時其受取書ヲ得テ之ヲ引渡シ又債主負債者ノ財産差押ヲ免ルシタル時ハ負債者ニ之ヲ引渡ス可シ
又其債主ノ義務ハ其附託ヲ受クル者ニ法律上ニ定メタル謝金ヲ与フ可キコトナリトス
第千九百六十三条 此類ノ附託ハ訴訟ニ管シタル数人ノ互ニ協議シテ定メタル者又ハ裁判役ノ特ニ定メタル者ニ之ヲ為ス可シ
此二箇中何レノ場合ニ於テモ其附託ヲ受ケタル者ハ双方相争フ物ノ契約上ノ附託ヲ受ケタル者ニ等シキ義務ヲ負フ可シ
第十ニ巻 偶生ノ事ニ管スル契約〔千八百四年第三月十日決定同月廿日布告〕
第千九百六十四条 偶生ノ事ニ管スル契約トハ其契約ニ管シタル各人又ハ其中ノ一人又ハ数人ノ利益或ハ損失ヲ未定ノ事ニ管セシムル互相ノ契約ヲ云フ(第千百四条見合)此類ノ契約ハ
海上請合及ヒ火災請合ノ契約(商法第三百三十二条以下ニ詳ナリ)
船舶又ハ積荷ヲ引当トシテ金高ヲ貸ス契約(商法第三百十一条以下ニ詳カナリ)
玩要及ヒ賭博
畢生間ノ年金(第千九百九条見合)ノ契約
前ノ二項ニ記スル所ハ商法ヲ以テ之ヲ規定ス
第一章 玩要及ヒ賭博
第千九百六十五条 玩要又ハ賭博ノ債ヲ払フニ付テハ法律上ニテ訴訟ヲ為スコトヲ許サス
第千九百六十六条 兵器ノ取扱ヲ練熟セシムル為メノ玩要、競馬、闘走、競車、打毬及ヒ其他身体ヲ軽捷壮健ナラシム可キ玩要ハ前条ニ記スル規則外ノモノトス
然トモ裁判所ニテ其玩要ニ賭ケタル金高過多ナリト思量スル時ハ其払方ヲ要ムルノ訴訟ヲ允許セサルコトヲ得可シ
第千九百六十七条 何レノ場合ニ於テモ玩要又ハ賭博ニ負ケタル者ハ自己ノ意ヲ以テ払フタル金高ヲ取戻スコトヲ得ス但シ勝ヲ得タル者ニ詐偽詭計アル時ハ格別ナリトス
第二章 畢生間ノ年金ノ契約
第一款 畢生間ノ年金ノ契約ヲ法ニ適シタルモノト為スニ必要ナル条件
第千九百六十八条 畢生間ノ年金ハ金高又ハ価ヲ算計スルコトヲ得可キ動産又ハ不動産ヲ得テ其償ノ為メ之ヲ与フルコトヲ得可シ但シ此種類ノ年金ヲ名ケテ充償ノ年金ト云フ
第千九百六十九条 又生存中ノ贈遺又ハ遺嘱ノ贈遺ニ因リ償ニ非スシテ畢生間ノ年金ヲ与フルコトヲ得可シ但シ此種類ノ年金ヲ名ケテ不充償ノ年金ト云フ○此類ノ年金ニ付テハ法律上ニ定メタル法式ヲ以テ其証書ヲ記ス可シ(第九百三十一条以下見合セ)
第千九百七十条 前条ノ場合ニ於テ其年金ノ高贈遺ト為スヲ得可キ財産ノ定分ニ過キタル時ハ之ヲ減ス可シ(第九百十七条見合セ)又贈遺ヲ受クルコト能ハサル者ノ為メ其年金ヲ贈与シタル時ハ其贈遺ノ効ナカル可シ
第千九百七十一条 畢生間ノ年金ハ元資ヲ出シタル者ノ畢生間之ヲ払ヒ又ハ元資ヲ出シタル以外ノ者ノ畢生間之ヲ払フコトヲ得可シ
第千九百七十二条 畢生間ノ年金ハ一人又ハ数人ノ畢生間之ヲ払フコトヲ得可シ
第千九百七十三条 甲ヨリ元資ヲ出シタルト雖トモ乙ニ年金ヲ払フコトヲ得可シ
此場合ニ於テハ其年金ニ贈遺ノ景状アリト雖トモ其証書ニ付キ贈遺ノ証書ノ為メ必要ナル法式ヲ用フルニ及ハス但シ其年金ノ高ヲ減スル場合又ハ年金ノ契約ノ効ナキ場合ハ第千九百七十条ニ記スル所ニ等シトス
第千九百七十四条 甲ノ畢生間乙ヨリ丙ニ年金ヲ与フ可キノ契約ヲ結ヒシ時甲既ニ死去シタルニ於テハ其契約ノ効ナカル可シ
第千九百七十五条 又乙ト丙ト年金ノ契約ヲ結ヒタル時甲既ニ病ニ罹リ其契約ノ時ヨリ二十日内ニ死シタル時ハ又前条ニ等シトス
第千九百七十六条 畢生間ノ年金ノ高ハ契約ヲ為ス双方ノ随意ニ之ヲ定ムルコトヲ得可シ
第二款 畢生間ノ年金ノ契約ヲ為ス双方ノ間ニ其契約ヨリ生スル条件
第千九百七十七条 元資ヲ出シテ畢生間ノ年金ヲ得可キ者ハ之ヲ払フ可キ者ヨリ其契約ノ如ク執行フニ付テノ保証人ヲ立テサル時其契約ヲ廃棄セント訴フルコトヲ得可シ
第千九百七十八条 定期毎ニ払フ可キ年金ノ高ヲ払フコトヲ怠リシノミニテハ其年金ヲ得可キ者ヨリ元金ノ償戻ヲ求メ又ハ動産或ハ不動産ノ取戻ヲ求ムルコトヲ得ス唯其年金ヲ払フ可キ者ノ財産ヲ差押ヘテ之ヲ売払ヒ其売払ニ因リ得タル代金中ヨリ年金ノ高ニ至ル迄ノ金高ヲ己レニ得可キノ裁判言渡ヲ得ハ年金ヲ払フ可キ者ヲシテ其旨ヲ承諾セシムルコトヲ得可シ
第千九百七十九条 年金ヲ払フ可キ者ハ其元資ヲ還サント申述ヘ且其既ニ払フタル年金ヲ取戻スコトナキ旨ヲ申述フルト雖トモ年金ヲ払フ可キノ義務ヲ免カルルコトヲ得ス但シ其者ハ年金ヲ得可キ一人又ハ数人ノ命数ノ如何ニ長キヲ問ハス且之ヲ払フコト自己ノ為メ如何ニ困難ナルヲ問ハス其一人又ハ数人ノ畢生間必ス其年金ヲ払フ可シ
第千九百八十条 畢生間ノ年金ハ之ヲ得可キ者ノ生存シタル日数ノ割合ヲ以テ之ヲ払フ可シ
然トモ其年金ヲ前払ニ為ス可キノ契約アル時ハ定期ニ至リ払フ可キ高ヲ其払方ヲ為ス可キ日ヨリ以来一方ノ所得ト為ス可シ
第千九百八十一条 不充償ノ年金ヲ除クノ外総テ年金ヲ得可キ者其債主ノ為メ其年金ノ払方差留ヲ受クルコトナカル可キ旨ヲ預メ定メ置クコトヲ得ス
第千九百八十二条 畢生間ノ年金ハ之ヲ得可キ者ノ准死ニ因リ消尽スルコトナク其生存スル時間ハ之ヲ払フ可シ
第千九百八十三条 畢生間ノ年金ヲ得ントスル甲者ハ之ヲ払フ可キ乙者ニ対シ自己ノ生存スル証ヲ立テサルヲ得ス又丙者ノ畢生間乙者ヨリ甲者ニ年金ヲ払フ可キ契約アル時ハ甲者丙者ノ生存スル証ヲ立スシテ其年金ヲ得可カラス
第十三巻 名代ノ証書〔千八百四年第三月十日決定同月廿日布告〕
第一章 名代ノ証書ノ本義及ヒ法式
第千九百八十四条 名代ノ証書トハ一人ヨリ他人ニ己レノ名義ヲ以テ事ヲ為ス可キノ権ヲ授クル証書ヲ云フ
其契約ハ名代人ノ承諾アル上ニ非サレハ之ヲ為ス可カラス
第千九百八十五条 名代人ヲ任スルコトハ公正ノ証書又ハ私ノ証書ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得又ハ書状ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得或ハ口上ヲ以テ亦之ヲ為スコトヲ得可シ然トモ口上ニテ名代人ヲ任シタル時証人ヲ以テ証ヲ立ルニ付テハ此篇第三巻(契約ノ巻)ノ規則ニ循フ可シ
名代ノ任ヲ受ケシ者之ヲ承諾シタルコトヲ別段述ヘスト雖トモ自カラ其名代ノ事務ヲ執行フタル時ハ黙許ヲ以テ承諾シタルト看做ス可シ
第千九百八十六条 名代ヲ任スルニ付テハ謝金ヲ出スニ及ハス但シ之ニ反シタル契約アル時ハ格別ナリトス
第千九百八十七条 名代ヲ任スルコトハ本人ノ特ニ定メタル一箇ノ事務又ハ数箇ノ事務ニ管シタルコトアリ又ハ総テ本人ノ諸般ノ事務ニ管シタルコトアリ
第千九百八十八条 泛博ノ意味ニ記シタル名代ノ証書ハ本人ノ財産ヲ支配シ得可キノミノ証トス可シ
本人ノ財産ヲ売払ヒ又ハ「イポテーク」ト為シ及ヒ其他財産所有ノ権ニ管シタル事務ヲ本人ニ代リ為ス可キ時ハ特ニ其旨ヲ記載ス可シ
第千九百八十九条 名代人ハ其名代ノ証書ニ記載シタルヨリ以外ノ事ヲ為ス可カラス故ニ本人ニ代テ和解ヲ為スノ権(此篇第十五巻ニ詳ナリ)ノミヲ得タルニ於テハ裁断人ヲ撰ミ其裁断ニ任カスノ権(訴訟法第千三条見合)ヲ包含スルコトナシ
第千九百九十条 婦及ヒ後見ヲ免レタル幼者ヲ名代人ニ撰ミ用フルコトヲ得可シ但シ本人其名代人タル幼者ニ対シテハ幼者ノ義務ニ管シタル一般ノ規則(第四百八十一条以下見合セ)ニ循ヒ訴訟ヲ為ス可ク又夫ノ承諾ナクシテ名代人トナリタル婦ニ対シテハ此篇第五巻(婚姻ノ契約ノ巻第千四百二十六条見合セ)ニ記シタル規則ニ循ヒ其訴訟ヲ為ス可シ
第二章 名代人ノ義務
第千九百九十一条 名代人ハ其任ヲ受ケタル時間名代ノ事務ヲ執行フ可ク若シ之ヲ行ハサルニ因リ本人ノ為メ損失ヲ生シタル時ハ之ヲ償フ可シ
本人死去ノ時名代人既ニ為シ始メタル事アリテ名代人之ヲ停止スル時ハ後ニ其事ヲ為スノ阻害トナル可キ恐アルニ於テハ名代人其事ヲ成就ス可シ
第千九百九十二条 名代人ハ己レノ為ス所ノ詐偽ノ責ニ任ス可キノミニ非ス己レノ過失ノ責ニモ亦任ス可シ
謝金ヲ受ケサル名代人己レノ過失ニ任スルノ責ハ謝金ヲ受クル名代人ヨリ更ニ軽シトス
第千九百九十三条 名代人ハ総テ己ノ行フタル所ヲ本人ニ算計シ且其本人ノ為メ受取リタル諸件ヲ本人ニ渡ス可シ但シ本人ノ得可キ権アラサル物件ヲ名代人ノ受取リタル時ト雖トモ亦同一ナリトス
第千九百九十四条 名代人己ニ代テ事ヲ為ス可キ者ヲ任スルノ権ヲ本人ヨリ受ケサル時又ハ本人ヨリ其権ヲ受クルト雖トモ本人其者ヲ撰ムコトナクシテ名代人ノ撰ミタル者極メテ其職務ニ堪ヘス又ハ家資分散ヲ為シタル時ハ名代人其己レニ代テ事ヲ為シタル者ノ為メ本人ノ受ケタル損失ノ償ヲ担当ス可シ
又同上ノ場合ニ於テハ本人ヨリ名代人其己レニ代テ事ヲ為サシムル為メ選任シタル者ニ対シ直チニ其償ヲ得ント求ムルコトヲ得可シ
第千九百九十五条 一通ノ証書ヲ以テ名代人数人ヲ任シタル時ト雖トモ其数人ハ互ニ連帯スルコトナシトス但シ其証書ニ連帯ノ旨ヲ記シタル時ハ格別ナリトス
第千九百九十六条 名代人本人ノ金高ヲ自己ノ用ニ供シタル時ハ其時ヨリ以来ノ息銀ヲ払フ可シ又本人ニ渡ス可キ金高アリテ之ヲ渡ス可キノ求メヲ受ケ猶之ヲ渡ササル時ハ其時ヨリ以来ノ息銀ヲ払フ可シ
第千九百九十七条 名代人己レト契約ヲ結ハント為ス者ニ自己ノ任ヲ受ケタル権利ノ定限ヲ明カニ告知セシ上其者名代人ノ権利外ノ事ニ付キ契約ヲ結ヒタル時ハ後ニ名代人其契約ノ如ク行フコトヲ得スト雖トモ其者名代人ヲシテ其責ニ任セシムルコトヲ得ス但シ名代人其責ニ任ス可キコトヲ別段定メ置タル時ハ格別ナリトス
第三章 本人ノ義務
第千九百九十八条 本人ハ其名代人ニ授ケタル権利ニ因リ名代人ノ他人ト契約シタル義務ヲ自カラ執行フ可シ
名代人其本人ヨリ受ケタル権利外ニ於テ為シタル事ニ付テハ本人之ヲ明許シ又ハ黙許シタル時ノ外其事ヲ担当スルニ及ハス
第千九百九十九条 名代人本人ヨリ任ヲ受ケタル事務ヲ行フニ付キ為シタル所ノ払高及ヒ費用ハ本人ヨリ之ヲ名代人ニ償フ可ク又本人ヨリ名代人ニ謝金ヲ与フ可キノ約束アル時ハ之ヲ与フ可シ
名代人ニ過失アラサル時ハ縦令名代人ノ任ヲ受ケシ事務ノ成就セサル時ト雖トモ前ニ記シタル払高ト費用トヲ本人ヨリ名代人ニ償ハサルヲ得ス又本人ハ其名代人ノ出シタル払高及ヒ費用ノ更ニ少ナキヲ得可キ旨ヲ口実ト為シ其償還ノ高ヲ減スルコトヲ得ス
第二千条 又名代人其任セラレタル事務ヲ行フニ付キ其過失ニ非スシテ損失ヲ受ケタル時ハ本人ヨリ之ヲ償フ可シ
第二千一条 名代人本人ヨリ任ヲ受ケタル事務ヲ行フニ付キ為シタル払高ノ息銀ハ其払方ヲ為シタルノ証アル日ヨリ以来本人之ヲ償フ可シ
第二千二条 一箇ノ事務ニ付キ本人数人ニテ名代人一人ヲ任シタル時ハ其本人数人ニテ其名代人ニ対シ連帯シテ義務ヲ負フ可シ
第四章 名代ノ任ノ終ル方法
第二千三条 名代ノ任ハ左ノ諸件ニ因リ終ル可シ
名代人ヲ退クル事
名代人自カラ其任ヲ退ク事
本人又ハ名代人ノ死去、准死、治産ノ禁、家資分散
第二千四条 本人ハ己レノ意ニ随ヒ其名代人ヲ退クルコトヲ得可シ但シ私ノ証書ヲ以テ其名代人ヲ任シ之ヲ名代人ニ渡シ置キタル時ハ其証書ヲ還サシメ又公正ノ証書ヲ以テ名代人ヲ任シ其証書ノ正本ヲ名代人ニ渡シ置キタル時ハ其正本ヲ還サシメ又其正本ヲ本人ノ方ニ保チ置キタル時ハ其副本ヲ還サシムルコトヲ得可シ
第二千五条 本人ヨリ名代人ニ其任ヲ退クル旨ヲ告知シタルト雖トモ他人其旨ヲ知ラスシテ名代人ト契約ヲ結ヒタル時ハ本人其契約ノ執行ヲ担当ス可シ但シ本人ハ此事ニ付キ名代人ニ対シテ訴訟ヲ為スコトヲ得可シ
第二千六条 従来ノ名代人ニ委任セシ事務ニ付キ更ニ他ノ名代人ヲ任シタル時ハ従来ノ名代人ニ其旨ヲ告知シタル日ヨリ従来ノ名代人ヲ退ケタルト看做ス可シ
第二千七条 名代人ハ其任ヲ退カント欲スルコトヲ本人ニ告知シテ其任ヲ退クコトヲ得可シ然トモ名代人其任ヲ退クニ因リ本人ノ為メニ損失ヲ生スル時ハ名代人其損失ヲ償フ可シ但シ名代人其名代ノ任ヲ継続シテ行フニ於テハ本人ノ受クル損失ヨリモ更ニ夥多ノ損失ヲ己レニ受ク可キ場合ハ格別ナリトス
第二千八条 若シ名代人本人ノ死去又ハ其他自己ノ任ノ終ル可キ原由ヲ知ラスシテ他人ト契約ヲ為シタル時ハ其契約ノ効アリトス
第二千九条 前条ノ場合ニ於テ他人正実ノ意ヲ以テ其名代人ト結ヒタル契約ハ本人ノ方ニテ之ヲ執行フ可シ
第二千十条 名代人ノ死去シタル時ハ其遺物相続人ヨリ其由ヲ本人ニ告知シ其相続人本人ヨリ其答詞ヲ得ルニ至ル迄ハ本人ノ為メ必要ナル諸事ヲ執行フ可シ
第十四巻 保証〔千八百四年第二月十四日決定同月廿四日布告〕
第一章 保証ノ本義及ヒ其定限
第二千十一条 総テ保証人ハ本人其義務ヲ行ハサル時義務ヲ得可キ者ニ対シテ其義務ヲ行フ可シ
第二千十二条 契約ノ義務ノ効ナキ時ハ亦其保証ノ効ナカル可シ
然トモ本人ノ幼者タル事等ノ如ク総テ本人ノ一身ニ管シタル原由ニ因リ其契約ノ義務ヲ取消シ得可キ時ト雖トモ其保証ノ効アリトス
第二千十三条 保証人ノ担当ス可キ義務ノ高ハ主タル義務ノ高ニ過ク可カラス又保証人ハ本人ヨリ更ニ重劇ナル義務ヲ契約ス可カラス
保証ハ主タル義務ノ一部ノミニ付キ之ヲ為スコトヲ得可ク又保証人ハ本人ヨリ更ニ軽キ義務ヲ契約スルコトヲ得可シ
主タル義務ノ高ニ過キタル保証人ノ契約又ハ保証人本人ヨリ更ニ重劇ナル義務ヲ担当ス可キ契約ハ全ク其効ナキモノトス可カラス之ヲ其主タル義務ト同一ニ為ス可シ
第二千十四条 別段本人ヨリノ頼ナクシテ其保証人トナルコトヲ得又ハ本人ノ知ルコトナクシテ其保証人トナルコトヲ得可シ
又如何ナル人ト雖トモ主タル義務ノ保証人トナル可キノミニ非ス亦保証人ノ保証人トナルコトヲ得可シ
第二千十五条 保証ノ事ハ思料ヲ以テ為ス可カラス必ス之ヲ契約書ニ記ス可シ但シ其保証ノ義務ハ其契約書ニ記シタル定限ニ過ク可カラス
第二千十六条 保証ニ付キ別段定限ヲ立テサル時ハ主タル義務ニ附帯シタル諸件及ヒ義務ヲ得可キ者先ツ其義務ヲ行フ可キ本人ニ対シ為シタル訴訟ノ費用並ニ其訴訟ヲ為セシ由ヲ保証人ニ告知シタル後ノ訴訟ノ費用ニ至ル迄皆保証人ノ担当ス可キ所ナリトス
第二千十七条 保証人ノ義務ハ其遺物相続人ニ之ヲ伝フ可シ但シ保証人其義務ヲ行ハサルニ因リ禁錮ヲ受ク可キ場合ト雖モ其相続人ハ禁錮ヲ受クルコトナカル可シ
第二千十八条 保証人ヲ立ツ可キ本人ハ契約ヲ結ヒ得可キノ権利ヲ有シ且其義務ノ保証ヲ為スニ十分ナル財産ヲ所有スル者ヲ其保証人ト為ス可シ但シ其保証人トナル可キ者ノ住所ハ其保証ノ契約ヲ為ス地ノ上等裁判所ノ管轄内ニアルコトヲ必要トス
第二千十九条 商業ノ事務ニ管シタル時又ハ義務ノ高極メテ少ナキ時ノ外保証人其義務ヲ行ヒ得可キ能力ハ其所有スル不動産ヲ以テ之ヲ計ル可シ
又保証人ノ不動産所有ノ権ニ付キ訴訟アル時又ハ不動産遠地ニ在テ義務ヲ得可キ者ヨリ之ヲ得ント求ムルニ差支アル時ハ其保証人ノ義務ヲ行ヒ得可キ能力ヲ計ルニ付キ此等ノ不動産ヲ算入ス可カラス
第二千二十条 若シ義務ヲ得可キ者自己ノ意ニ因リ又ハ裁判所ノ言渡ニ因リ義務ヲ行フ可キ者ノ立テタル保証人ヲ承諾シ後ニ其保証人己レノ義務ヲ行フコト能ハサルニ至リシ時ハ義務ヲ行フ可キ者更ニ他ノ保証人ヲ立ツ可シ
然トモ義務ヲ得可キ者ト義務ヲ行フ可キ者トノ契約ニ因リ其義務ヲ得可キ者義務ノ保証人ヲ特ニ撰ミタル時其保証人後ニ其保証ノ義務ヲ行フコト能ハサルニ至ルコトアルニ於テハ前項ノ例外ナリトス
第二章 保証ヨリ生スル条件
第一款 義務ヲ得可キ者ト保証人トノ間ニ保証ヨリ生スル条件
第二千二十一条 保証人ハ義務ヲ得可キ者ニ其義務ヲ行フ可キ本人ノ財産ヲ以テ先ツ其義務ヲ得ルニ充テシム可キコトヲ陳述シ其本人猶其義務ヲ行ハサル時ノ外自カラ義務ヲ行フニ及ハス然トモ保証人別段其権利ヲ放棄シタル時又ハ義務ヲ行フ可キ本人ト連帯シテ其義務ヲ行フ可キコトヲ契約シタル時ハ格別ナリトス但シ其義務ヲ行フ可キ本人ト保証人ト連帯シテ其義務ヲ行フ可キコトヲ契約シタル時ハ連帯シタル義務ニ付キ定メタル規則ニ循フ可シ(第千二百条見合)
第二千二十二条 義務ヲ得可キ者ヨリ保証人ニ対シ其義務ヲ得ント求メ其保証人其義務ヲ行フ可キ本人ノ財産ヲ以テ先ツ其義務ヲ得ルニ充テシム可キコトヲ陳述シタル時ノ外義務ヲ得可キ者必スシモ其義務ヲ行フ可キ本人ノ財産ヲ以テ其義務ヲ得ルニ充テ用ントスルニ及ハス
第二千二十三条 保証人義務ヲ得可キ者ニ其義務ヲ行フ可キ本人ノ財産ヲ以テ先ツ其義務ヲ得ルニ充テ用フ可キコトヲ求ムルニハ其義務ヲ得可キ者ニ其本人ノ財産ヲ指示シ且其財産ヲ以テ其義務ヲ得ルニ充テシムル手続ヲ為スニ十分ナル費用ノ金高ヲ義務ヲ得可キ者ニ預メ渡シ置ク可シ
保証人ハ其本人ノ義務ヲ尽クス可キ地ノ上等裁判所ノ管轄外ニアル財産ヲ指示ス可カラス又其裁判所ノ管轄内ニアル本人ノ財産ト雖トモ他人ヨリ之ヲ得ルノ権アルコトヲ訴出シタル財産又ハ「イポテーク」ト為シタル財産ヲ指示ス可カラス
第二千二十四条 保証人前条ノ規則ニ循ヒ其指示スコトヲ得可キ本人ノ財産ヲ指示シ且其財産ヲ以テ義務ヲ得ルニ充テシムル手続ヲ為スニ足ル可キ費用ノ金高ヲ義務ヲ得可キ者ニ渡シタル時其義務ヲ得可キ者義務ヲ行フ可キ本人ノ財産ヲ以テ其義務ヲ得ルニ充ツ可キ手続ヲ為スニ怠タリ其本人終ニ其義務ヲ行フコト能ハサルニ至ル事アルニ於テハ其保証人義務ヲ得可キ者ニ指示シタル本人ノ財産ノ高ニ至ル迄其保証ノ義務ヲ免カル可シ
第二千二十五条 一箇ノ義務ニ付キ其義務ヲ行フ可キ本人ノ為メ保証人数人アル時ハ其各保証人其義務ノ総高ヲ担当ス可シ
第二千二十六条 然トモ其各保証人ハ義務ヲ得可キ者ノ其義務ヲ各自ニ分派ス可キ求メヲ為スコトヲ得可シ但シ保証人其義務ヲ分チ行フ可キコトヲ求ムルノ権利ヲ放棄シタル時ハ格別ナリトス
保証人中ノ一人裁判所ヨリ其義務ヲ分チ行フ可キノ言渡ヲ得タル時ニ当リ其保証人中ニ其義務ヲ行フコト能ハサル者アルニ於テハ其義務ヲ分チ行フ可キノ言渡ヲ得タル保証人他ノ保証人ト共ニ其義務ヲ行フコト能ハサル者ノ部分ヲ担当ス可シ然トモ既ニ其義務ノ分派ヲ為シタル後ハ其保証人中ニ其義務ヲ行フコト能ハサルニ至リシ者アリト雖トモ他ノ保証人其者ノ部分ヲ担当スルニ及ハス
第二千二十七条 義務ヲ得可キ者自己ノ意ヲ以テ其得可キ義務ヲ分ツコトヲ承諾シタル時ハ縦令其義務ヲ得可キ者之ヲ分ツコトヲ承諾スル前ニ其義務ヲ行フコト能ハサル保証人アル時ト雖トモ其義務ヲ分チタルコトヲ取消スヲ得ス
第二款 本人ト保証人トノ間ニ保証ヨリ生スル条件
第二千二十八条 義務ヲ行フ可キ本人其保証人アルコトヲ知ルト知ラサルトヲ問ハス保証人其本人ノ為メ義務ヲ行フタル時ハ其本人ニ対シテ訴ヲ為スノ権アリ
其訴訟ハ母銀及ヒ息銀ト費用トノ償還ヲ得ンカ為メ之ヲ為ス可シ然トモ其保証人ハ義務ヲ得可キ者ヨリ訴訟ヲ受ケタル旨ヲ其本人ニ告知スルコトナクシテ出シタル費用ノ償還ヲ其本人ヨリ得ント訴フ可カラス
又保証人損失ヲ受ケタル時ハ其償ヲ求ムルノ訴訟ヲ為スコトヲ得可シ
第二千二十九条 義務ヲ行フ可キ本人ノ為メ義務ヲ行フタル保証人ハ義務ヲ得可キ者ヨリ其本人ニ対シテ行フ可キ権利ニ代ル可シ
第二千三十条 一箇ノ義務ニ付キ連帯シテ之ヲ行フ可キ本人数人アリテ其保証人一人ナル時保証人其義務ヲ行フタルニ於テハ其義務ヲ行フ可キ各本人ニ対シ其既ニ行フタル義務ノ総高ノ償還ヲ得ント訴フルコトヲ得可シ
第二千三十一条 保証人義務ヲ行フ可キ本人ニ告知セスシテ其本人ノ為メ義務ヲ行ヒ其本人後ニ重複シテ其義務ヲ行フタル時ハ其保証人ヨリ本人ニ対シテ償還ノ訴訟ヲ為スコトヲ得ス唯其義務ヲ得タル者ニ対シ取戻ノ訴訟ヲ為スコトヲ得可シ
又保証人義務ヲ得可キ者ヨリ訴訟ヲ受クルコトナク且義務ヲ行フ可キ本人ニ告知スルコトナクシテ其義務ヲ行フタル時ニ当リ其本人己レノ義務ノ既ニ消散シタル旨ヲ証シ得可キ事アルニ於テハ其保証人本人ニ対シ償還ヲ求ムルノ訴訟ヲ為ス可カラス唯義務ヲ得タル者ニ対シ取戻ノ訴訟ヲ為スコトヲ得可シ
第二千三十二条 保証人ハ其本人ノ為メ義務ヲ行ハサル前ト雖トモ左ノ場合ニ於テハ償還又ハ釈放ヲ得可キ為メ本人ニ対シテ訴訟ヲ為スコトヲ得可シ
第一 保証人義務ヲ得可キ者ヨリ義務ヲ行フ可キノ訴ヲ受ケタル時
第二 義務ヲ行フ可キ本人家資分散ヲ為シ又ハ産業ノ衰敗シタル時
第三 義務ヲ行フ可キ本人定期ノ時間ニ其保証人ニ保証ノ義務ヲ釈放ス可キノ契約ヲ為シ其期限ニ至リシ時
第四 義務ノ契約ヲ為シタル定期ノ終ルニ因リ其義務ヲ行フ可キニ至リシ時
第五 義務ヲ行フ可キ期限ヲ契約セサル時ハ其義務ノ生シタルヨリ十年ニ至リシ時但シ後見ノ職務ノ如ク定マリシ期限内ニ其義務ノ消散スルコトヲ得可キ本義アル時ハ格別ナリトス
第三款 保証人数人ノ間ニ保証ヨリ生スル条件
第二千三十三条 一箇ノ義務ニ付キ之ヲ行フ可キ本人一人ニシテ其保証人数人アル時ハ其本人ノ為メニ義務ヲ行フタル保証人他ノ保証人ニ対シ其各自ノ部分ノ償還ヲ得ントスル訴訟ヲ為スコトヲ得可シ然トモ其訴訟ハ前条ニ記シタル場合中ノ一ニ於テ其義務ヲ行フタル時ノ外之ヲ為ス可カラス
第三章 保証人ノ義務ノ消散スル事
第二千三十四条 保証ノ義務ハ其他ノ義務ト同一ノ原由ニ因リ消散ス可シ
第二千三十五条 義務ヲ行フ可キ本人其保証人ノ遺物相続人トナリ又ハ保証人其本人ノ遺物相続人トナリテ其双方ノ身分相渾同スル時ト雖トモ義務ヲ得可キ者ハ保証人ヲ更ニ保証スル者ニ対シ訴訟ヲ為スノ権ヲ失フコトナカル可シ
第二千三十六条 義務ヲ行フ可キ本人其義務ノ本義ニ因リ之ヲ行フコトヲ拒ム可キノ権アル時ハ其保証人モ亦其権ヲ以テ義務ヲ得可キ者ノ求メヲ拒ムコトヲ得可シ
然トモ義務ヲ行フ可キ本人ノ一身ノミニ其抵拒ノ権アル時ハ其保証人其権ヲ以テ義務ヲ得可キ者ノ求メヲ拒ム可カラス
第二千三十七条 義務ヲ得可キ者ノ処置ニ因リ保証人其者ノ権利、「イポテーク」ノ権、「プリウィレージ」ノ権ニ代ルコトヲ得サルニ至リシ時ハ保証人其義務ノ釈放ヲ受ク可シ
第二千三十八条 義務ヲ得可キ者其義務ヲ得ルニ充ル為メ不動産又ハ動産ヲ自己ノ意ヲ以テ受取リシ時ハ其者後ニ正当ノ所有者ヨリ訴訟ヲ受ケテ其動産又ハ不動産ヲ奪ハルルコトアリト雖トモ保証人ハ其義務ノ釈放ヲ得可シ
第二千三十九条 義務ヲ得可キ者ヨリ義務ヲ行フ可キ本人ニ其義務ヲ行フ可キ期限ノ猶予ヲ許シタルノミニテハ保証人其義務ノ釈放ヲ得可カラス但シ其保証人ハ本人ヲシテ其義務ヲ行ハシム可キ為メノ訴ヲ為スコトヲ得可シ
第四章 法律上ヨリ生スル保証及ヒ裁判言渡ヨリ生スル保証
第二千四十条 法律上又ハ裁判言渡ニ因リ保証人ヲ立ツ可キコトアル時ハ其保証人トナル者第二千十八条及ヒ第二千十九条ニ記シタル条件ノ具備シタルコトヲ必要トス
又裁判言渡ニ因リ保証人ヲ立テタル時其保証人己レノ義務ヲ行ハサルニ於テハ之ヲ禁錮スルコトヲ得可シ
第二千四十一条 保証人ヲ立テント欲シ之ヲ得サル者ハ其保証人ニ代ヘテ至当ノ動産ヲ質ト為スコトヲ得可シ
第二千四十二条 裁判言渡ニ因リ保証人ヲ立テタル時ハ其保証人自カラ其義務ヲ行フ前ニ先ツ義務ヲ行フ可キ本人ノ財産ヲ以テ其義務ヲ得ルニ充テシム可キコトヲ義務ヲ得可キ者ニ求ムルヲ得ス
第二千四十三条 裁判言渡ニ因リ立テタル保証人ヲ更ニ保証スル者ハ自カラ義務ヲ行フ前ニ先ツ義務ヲ行フ可キ本人及ヒ其保証人ノ財産ヲ以テ其義務ヲ得ルニ充テシム可キコトヲ義務ヲ得可キ者ニ求ムルヲ得ス
第十五巻 和解〔千八百四年第三月廿日決定同月三十日布告〕
第二千四十四条 和解トハ双方ノ間ニ既ニ生シタル争ヲ了シ又ハ生セントスル争ヲ預メ防ク契約ヲ云フ
此契約ハ必ス之ヲ書面ニ記ス可シ
第二千四十五条 和解ヲ為サントスルニハ其和解ニ管シタル物件ヲ己レノ随意ニ取扱フノ権ヲ有スルコトヲ必要トス
後見人ハ第四百六十七条ノ規則ニ循フニ非サレハ幼者又ハ治産ノ禁ヲ受ケタル者ノ為メニ和解ヲ為スコトヲ得ス又後見人ハ第四百七十二条ノ規則ニ循ハサレハ後見ノ算計ニ付キ幼者ノ丁年ニ至リシ者ト和解ヲ為スコトヲ得ス
「コンミユーン」及ヒ公ケノ建造物ノ支配人ハ其「コムミユーン」及ヒ建造物ニ管シタルコトニ付キ別段皇帝ヨリノ允許ヲ得タル上ニ非サレハ和解ヲ為スコトヲ得ス
第二千四十六条 罪犯ヨリ生シタル損害ノ償ヲ求ムル事ニ付テハ和解ヲ為スコトヲ得可シ
此事ニ付キ和解ヲ為スト雖トモ「ミニステールピュブリック」ヨリ其犯人ノ罪ヲ訴フルノ妨トナルコトナカル可シ
第二千四十七条 和解ノ契約ヲ為シタル双方ノ中其契約ノ如ク行ハサル者アル時ハ其者ヲシテ其償ヲ出サシム可キノ契約ヲ和解ノ契約ニ附加スルコトヲ得可シ
第二千四十八条 和解ノ契約ハ其目的ト為ス所ノ事ニ限ル可シ故ニ和解ノ契約ヲ以テ人ヨリ物ヲ得可キノ権及ヒ人ニ対シ訴訟ヲ為ス可キノ権ヲ放棄シタル時ハ其和解ヲ為スノ原由タル争ニ管シタル事ノミニ付キ此等ノ権ヲ放棄シタルト為ス可シ
第二千四十九条 和解ノ契約ハ其双方ノ者ノ詳悉又ハ泛博ニ其意ヲ表シタルト契約書ニ記シタル所ヨリ思料シテ了知シ得可キトヲ問ハス其契約ニ包含シタル所ノ争ノミヲ了ス可シ
第二千五十条 自己ノ有スル所ノ権ニ付キ和解ヲ為シタル者後ニ同一ノ権ヲ他人ヨリ得タル時ハ和解ノ契約ノ為メ後ニ得タル権ヲ執行フノ妨ヲ受クルコトナカル可シ
第二千五十一条 同一ノ事務ニ管シタル数人中ノ一人和解ヲ為シタルト雖トモ其他ノ者ハ其和解ノ契約ヲ循守スルニ及ハス又其和解ノ契約アルコトヲ申述ヘテ其義務ヲ免カレントスルコトヲ得ス
第二千五十二条 和解ノ契約ハ之ヲ結ヒタル者ノ間ニ於テハ更ニ上等裁判所ニ控訴スルコト能ハサル裁判言渡ト同一ノ力アリトス和解ノ契約ハ権利ノ錯誤又ハ損害アルヲ以テ之ヲ取消スコトヲ得ス
第二千五十三条 然トモ人ヲ錯誤シタル時又ハ争ノ主意ヲ錯誤シタル時ハ其和解ノ契約ヲ取消スコトヲ得可シ
又詐偽又ハ暴行アル時モ亦其契約ヲ取消スコトヲ得可シ
第二千五十四条 効ナキ証書ノ如ク執行フニ付キ和解ノ契約ヲ為シタル時ハ後ニ其契約ヲ取消サント訴フルコトヲ得可シ但シ双方ノ者其証書ノ効ノ有無ニ付キ別段和解ヲ為シタル時ハ格別ナリトス
第二千五十五条 証書ニ付キ和解ヲ為シタル後ニ其証書ノ贋造タルコト分明ナルニ至リシ時ハ其和解ノ効ナカル可シ
第二千五十六条 既ニ訴訟ノ確定ノ裁判アリテ之ヲ控訴スルコト能ハサルニ至リシ後双方ノ者又ハ一方ノ者其事ヲ知ラスシテ其訴訟ノ事ニ付キ和解ノ契約ヲ為シタル時ハ其契約ノ効ナカル可シ
双方又ハ一方ノ者ノ知ラサル確定ノ裁判言渡シアリト雖トモ其裁判言渡ヲ更ニ上等裁判所ニ控訴スルコトヲ得可キニ於テハ其和解ノ契約ノ効アリトス
第二千五十七条 何事ニ限ラス双方ノ者相与ニ為スコトアル可キ諸事ニ付キ和解ノ契約ヲ為シタル時ハ其契約ヲ為シタル時ニ当リ知ルコトナキ証書ヲ後ニ見出シタルト雖トモ其和解ノ契約ヲ取消スノ原由ト為ス可カラス但シ一方ノ者ノ所為ニ因リ故サラニ其証書ヲ匿シ置キタル時ハ格別ナリトス
然トモ一箇ノ事ニ付キ和解ノ契約ヲ為シタル後新タニ証書ヲ見出シ其証書ニ因リ一方ノ者其和解ノ目的タル事ニ管ス可キ権ナキコト分明トナリシ時ハ其和解ノ契約ヲ取消ス可シ
第二千五十八条 和解ノ契約ニ算計ノ錯誤アル時ハ之ヲ改ム可シ
第十六巻 禁錮(民法ノ事ニ付テノ禁錮ヲ云)〔千八百四年第二月十三日決定同月廿三日布告千八百六十七年第七月廿二日廃ス〕
第二千五十九条 「ステリヲナー」ノ咎アル時ハ民法ニ管スル事ニ付キ禁錮ヲ受ク可シ左ノ場合ニ於テハ「ステリヲナー」ノ咎アリトス
己レノ所有ニ非サルコトヲ知リタル不動産ヲ売払ヒ又ハ「イポテーク」ト為シタル時
「イポテーク」ト為シタル不動産ヲ「イポテーク」ト為ササルモノナリト述ヘタル時又ハ其不動産ヲ「イポテーク」ト為シタル高ヲ実ヨリ少ナク述ヘタル時
第二千六十条 又左ノ場合ニ於テハ禁錮ヲ受ク可シ
第一 已ムヲ得サル附託ヲ受ケ其物ヲ還ササル時
第二 不動産正当ノ所有者他人ノ暴行ニ因リ之ヲ奪ハレタルニ付キ之ヲ取戻サント裁判所ニ訴出シ其暴行ヲ為シタル者裁判所ヨリ之ヲ正当ノ所有者ニ還ス可キノ言渡ヲ受ケ猶之ヲ還ササル時又ハ暴行ヲ以テ不動産ヲ所有ト為シタル時間ニ其得タル所ノ利益ヲ其所有者ニ還ス可キノ言渡ヲ受ケ猶之ヲ還ササル時又ハ其所有者ノ受ケタル損失ヲ償フ可キノ言渡ヲ受ケ猶其償ヲ為ササル時
第三 金高ノ附託ヲ受ク可キ職務アル官吏其附託ヲ受ケタル金高ヲ還ス可クシテ猶之ヲ還ササル時
第四 双方相争フ物ノ附託ヲ受ク可キ者、「コミセイル」(古ノ官名ニシテ当時既ニ廃スルモノ)及ヒ其他物件ヲ管守ス可キ者其附託ヲ受ケタル物件ヲ渡ス可クシテ猶之ヲ渡ササル時
第五 裁判所ヨリノ言渡ニ因リ立テタル保証人及ヒ禁錮ヲ受ク可キ者ノ保証人其保証ノ義務ヲ行ハサル時
但シ禁錮ヲ受ク可キ者ノ保証人亦自カラ禁錮ヲ受ク可キコトヲ契約ヲ以テ承諾シタル時ニ限ル可シ
第六 官吏其附託ヲ受ケタル証書ノ正本ヲ出ス可キノ言渡ヲ受ケ猶之ヲ出ササル時
第七 「ノテール」、代書師、「ウィシヱー」其職務ニ付キ原告又ハ被告ヨリ附託ヲ受ケシ証書ヲ還ス可キニ之ヲ還ササル時又ハ此等ノ者原告又ハ被告ノ為メ受取シ金高ヲ渡ス可キニ之ヲ渡ササル時
第二千六十一条 正当ノ所有者ノ不動産ヲ占有セシ者既ニ控訴ス可カラサル確定ノ裁判言渡ヲ受ケ其不動産ヲ正当ノ所有者ニ渡ス可キニ猶之ヲ渡ササル時ハ其言渡書ヲ其者又ハ其住所ニ送達シタルヨリ十五日ノ後更ニ第二次ノ言渡ヲ為シテ之ヲ禁錮ス可シ
又其不動産ト之ヲ占有セシ者ノ住所トノ間ニ五「ミリヤメートル」以上ノ距離アル時ハ五「ミリヤメートル」毎ニ其十五日ノ期限ニ一日ノ猶予ヲ増ス可シ
第二千六十二条 土地ヲ賃借スル者其借受ケノ証書ニ其借賃ヲ払ハサルニ於テハ禁錮ヲ受ク可キコトヲ特ニ約シタル時ノ外土地ノ借賃ヲ払ハサルコトノ為メ禁錮ヲ言渡ス可カラス○然トモ土地ヲ賃借スル者又ハ土地ノ入額ヲ其所有者ト分ツ可キ約束ニテ之ヲ賃借スル者嘗テ附託ヲ受ケシ獣類、種子、農業ノ器具ヲ還ササル時ハ其者ヲ禁錮スルコトヲ得可シ但シ其者自己ノ過失ニ非ラスシテ此等ノ物件ヲ失フタルノ証ヲ立ル時ハ格別ナリトス
第二千六十三条 前数条ニ定メタル場合ト後日別段ノ法律ヲ以テ特ニ定ム可キ場合トノ外ハ裁判役禁錮ヲ言渡ス可カラス又「ノテール」及ヒ裁判所ノ書記官ハ禁錮ノ事ヲ契約スル証書ヲ記ス可カラス又各仏蘭西人ハ縦令外国ニ於テ禁錮ノ事ヲ載セタル証書ヲ記シタルト雖トモ其証書ヲ承諾ス可カラス若シ此規則ニ背ク者ハ其言渡書又ハ証書ヲ取消シテ其諸般ノ費用ヲ払フ可キノ言渡ヲ受ケ且之カ為メ損害ヲ受クル者ニ其償ヲ為ス可キノ言渡ヲ受ク可シ
第二千六十四条 前数条ニ記シタル場合ト雖トモ幼者ニ対シテ禁錮ヲ言渡ス可カラス
第二千六十五条 三百「フランク」以下ノ金高ニ付テハ禁錮ヲ言渡ス可カラス
第二千六十六条 七十歳以上ノ者及ヒ婦女ニ付テハ「ステリヲナー」ノ咎アル時ノ外禁錮ヲ言渡ス可カラス
七十歳以上ノ者ノ免許ヲ受ケントスルニハ其齢ヲ生年ヨリ算ヘ第七十年ニ掛リシコトヲ以テ十分ナリトス
婚姻ヲ結ヒタル婦ハ其夫ト財産ヲ分チ又ハ自由ニ支配スルコトヲ得可キ自己ノ財産ヲ有シ其自己ノ財産ニ付キ人ニ対シテ義務ヲ負フタル時ノ外夫婦タル時間「ステリヲナー」ノ咎ニ付キ禁錮ヲ言渡ス可カラス
夫ト財産ヲ共通シ其夫ト連帯シテ義務ヲ負フタル婦ハ其義務ノ契約ニ付キ「ステリヲナー」ノ咎アル者ト看做ス可カラス
第二千六十七条 法律上ニテ人ヲ禁錮スルコトヲ得可キ場合ト雖トモ裁判所ノ言渡アルニ非サレハ之ヲ禁錮ス可カラス
第二千六十八条 禁錮ヲ言渡シタル仮リノ裁判言渡ニ服セスシテ更ニ上等裁判所ニ控訴スルト雖トモ其仮リノ言渡ヲ得タル者保証人ヲ立テ其言渡ノ如ク執行ハントスル時ハ其控訴ノ為メ禁錮ヲ停止ス可カラス
第二千六十九条 禁錮ノ言渡ノ如ク執行フト雖トモ禁錮ヲ受ケシ者ノ財産ヲ抵償トシテ差押フルコトノ差支トナル可カラス又其差押ヲ停止ス可カラス
第二千七十条 此巻ニ記スル所ノ禁錮ノ法律ト商業ノ事ニ付キ禁錮ヲ為スノ法律、軽罪犯ヲ罰スルニ付テノ法律、官金ヲ支配スルニ付テノ法律ト相触ルルコトナカル可シ
第十七巻 質物ノ事〔千八百四年第三月十六日決定同月廿六日布告〕
第二千七十一条 質トハ負債者其債ヲ償フ可キノ保証トシテ其債主ニ物件ヲ渡ス契約ヲ云フ
第二千七十二条 動産ノ質ヲ名ケテ「ガージュ」ト云フ
不動産ノ質ヲ名ケテ「アンチクレーズ」ト云フ
第一章 動産ノ質
第二千七十三条 動産ノ質ヲ得タル債主ハ他ノ債主ヨリ先ニ其質トシテ得タル動産ヲ以テ貸高ノ償ヲ得可キ「プリウィレージ」ノ権ヲ有ス可シ
第二千七十四条 債主其特権ヲ得ントスルニハ質物ノ種類及ヒ性質ト貸与ヘタル金高トヲ記シタル公正ノ証書又ハ私ノ証書又ハ質物ノ性質及ヒ度量ノ書付ノ添フタル公正ノ証書又ハ私ノ証書ヲ法律ニ循ヒ官署ノ簿冊ニ登記スルコトヲ必要トス
然トモ百五十「フランク」以下ノ価アル質物ニ付テハ証書ヲ記シ且之ヲ官署ノ簿冊ニ登記スルコトヲ必要トセス
第二千七十五条 甲ヨリ乙ニ金高ヲ貸シタル証書ヲ甲ノ債主甲ニ貸シタル金高ノ質物トシテ受取リ其質物ヲ以テ他ノ債主ヨリ先ニ其貸高ノ償ヲ受ク可キ特権ヲ得ントスルニハ公正ノ証書又ハ私ノ証書ヲ記シテ之ヲ官署ノ簿冊ニ登記シ且其質トシテ受取リシ旨ヲ乙ニ告知スルコトヲ必要ナリトス
第二千七十六条 何レノ場合ニ於テモ債主質物ヲ受取リ置キ又ハ債主ト負債者ト双方ニテ択ミタル者其質物ヲ受取リ置キタルニ非サレハ債主其質物ニ付キ「プリウィレージ」ノ権ヲ得可カラス
第二千七十七条 甲ノ負債ノ保証ノ為メ乙ヨリ自己ノ動産ヲ質物トシテ甲ノ債主ニ与フルコトヲ得可シ
第二千七十八条 債主ハ負債者其債ヲ払ハサルト雖トモ直ニ其質物ヲ自己ノ随意ニ為スコトヲ得ス但シ債主ハ評価人ノ評価ニ従ヒ其貸金ノ高ニ充ル迄其質物ヲ償トシテ己レノ所有ト為シ又ハ之ヲ糶売ニテ売払フ可キノ言渡ヲ得ント裁判所ニ訴出スコトヲ得可シ
前項ニ記シタル法式ヲ行ハスシテ債主其質物ヲ自己ノ所有ト為シ又ハ随意ニ取扱フ可キノ契約ハ其効ナカル可シ
第二千七十九条 負債者其債ヲ払ハサルニ因リ債主ニ質トシテ渡シタル物件所有ノ権ヲ失フニ至ル迄ハ其物件ノ所有者ニシテ債主ハ唯其「プリウィレージ」ノ権ヲ保有スル為メ其質物ノ附託ヲ受ケシ者ナリトス
第二千八十条 債主ハ此篇第三巻(契約及ヒ総テ契約ヨリ生スル義務)ニ定メタル規則ニ循ヒ己レノ過失ニ因リ質物ヲ滅尽破壊シタルノ責ニ任ス可シ
又負債者ハ債主其質物ヲ保全スルニ付キ為シタル所ノ必要ニシテ且資益アル費用ヲ債主ニ算計ス可シ
第二千八十一条 甲ノ乙ニ貸シタル金高ノ証書ヲ自己ノ負債ノ質トシテ丙ニ与ヘ其証書ニ記シタル金高ニ付キ息銀ヲ生スル時ハ丙其息銀ヲ以テ己レノ得可キ息銀ノ償ニ充テ用フ可シ
若シ又甲ヨリ乙ニ貸シタル金高ニ付キ息銀ヲ生スルト雖トモ丙ヨリ甲ニ貸シタル金高ニ付キ息銀ヲ生スルコトナキ時ハ丙其質物トシテ得タル甲ノ証書ニ因リ得ル所ノ息銀ヲ以テ己レノ得可キ母銀ノ償ニ充テ用フ可シ
第二千八十二条 負債者ハ債主ノ其質物ヲ破壊シタル時ノ外其負債ノ母銀及ヒ息銀並ニ諸費用ノ総高ヲ払ヒシ後ニ非サレハ其質物ヲ取戻ス可キノ訴ヲ為ス可カラス
負債者其債ノ質トシテ債主ニ物件ヲ与ヘタル後其債主ニ対シ更ニ再ヒ債ヲ負フコトアリテ未タ旧債ヲ償ハサル内ニ新債ヲ償フ可キ期限ニ至リシ時ハ債主其二箇ノ負債ノ払還ヲ得ル前ニ質物ヲ還与スルニ及ハス
但シ新債ノ償ノ為メ旧債ニ付テノ質物ヲ用フ可キ契約アラサル時ト雖トモ亦同一ナリ
第二千八十三条 負債者ノ遺物相続人等ノ間ニ其債ヲ分ツコトヲ得可ク又債主ノ遺物相続人等ノ間ニ其質高ヲ分ツコトヲ得可キ時ト雖トモ質物ハ之ヲ分ツコトヲ得ス(第千二百十七条見合)
故ニ負債者ノ遺物相続人中ノ一人其負債中ニテ己レノ担当ス可キ部分ヲ払フタルト雖トモ其負債ノ総高ヲ払ハサル内ハ其質物ノ中ニテ己レノ得可キ部分ヲ取戻サント訴フ可カラス
又債主ノ遺物相続人中ノ一人其貸高中ニテ己レノ得可キ部分ヲ受取リタルト雖トモ其質物ヲ還与シテ未タ払方ヲ得サル他ノ相続人ノ損害ヲ為ス可カラス
第二千八十四条 前数条ノ規則ハ商業ノ事務又ハ官許アル典舗ニ通シテ用フ可カラス但シ此等ノ事ニ付テハ別段設ケタル法則ニ循フ可シ
第二章 不動産ノ質
第二千八十五条 不動産ノ質ハ必ス書面ヲ以テ之ヲ為ス可シ
債主ハ不動産ノ質ヲ得タルニ因リ其不動産ヨリ生スル所ノ入額ヲ収メ其貸高ニ付キ息銀ノ得可キ権アル時ハ毎歳其入額ヲ先ツ息銀ノ償ニ充テ用ヒ次ニ母銀ノ償ニ充テ用フルコトヲ得可シ
第二千八十六条 別段ノ契約アラサル時ハ債主其質トシテ得タル不動産ニ付キ出ス可キ税銀及ヒ毎歳ノ費用ヲ払フ可シ
又其債主ハ其不動産ノ為メ必要ニシテ且資益アル補理及ヒ修繕ヲ為ス可ク若シ之ヲ為ササルニ因リ負債者ノ為メ損害ヲ生シタル時ハ之ヲ償フ可シ但シ債主ノ此等ノ事ヲ為ス費用ハ其不動産ヨリ生スル入額中ヨリ取リ用フ可シ
第二千八十七条 負債者ハ其負債ノ総高ヲ払ヒシ後ニ非サレハ其質ト為シタル不動産ヲ取戻スコトヲ得ス
債主ハ前条ニ記シタル義務ヲ行フコトヲ欲セサル時(税銀費用等ヲ払フヲ云フ)負債者ヲシテ強テ其不動産ヲ取戻サシムルコトヲ得可シ但シ此事ヲ為ス可キ権ヲ特ニ放棄シタル時ハ格別ナリトス
第二千八十八条 債主ハ預定シタル期限ニ至リ貸高ノ払還ヲ得サルノミニテ直チニ其不動産ノ所有者トナルコトヲ得ス縦令之ニ反シタル契約アリト雖トモ其効ナカル可シ
然トモ債主ハ負債者ノ不動産所有ノ権ヲ奪フ可キコトヲ裁判所ニ訴フルヲ得可シ
第二千八十九条 債主ト負債者トノ双方ニテ其不動産ヨリ生スル所ノ入額ト貸高ノ息銀トヲ全ク相殺シ又ハ其一部分ヲ相殺ス可キコトヲ契約シタル時ハ其契約ヲ総テ法律上ニテ別段禁セサル他ノ契約ノ如ク執行フコトヲ得可シ
第二千九十条 第二千七十七条及ヒ第二千八十三条ノ規則ハ不動産ノ質ニモ亦通シテ用フ可シ
第二千九十一条 此章ニ記スル所ノ規則ヲ以テ質ト為シタル不動産ニ付キ他人ノ有スル特権(「イポテーク」又ハ「プリウィレージ」ノ権ヲ云フ)ヲ害スルコトナカル可シ不動産ヲ質トシテ得タル債主其不動産ニ付キ亦「プリウィレージ」ノ権又ハ「イポテーク」ノ権ヲ得タル時ハ他ノ債主ニ等シク相当ノ順序ヲ以テ此等ノ権ヲ行フ可シ
第十八巻 「プリウィレージ」ノ権(義務ヲ得可キ者他ノ義務ヲ得可キ者ニ先チテ義務ヲ得ルノ特権ヲ云フ)及ヒ「イポテーク」ノ権(債主貸高ノ引当トシテ不動産ヲ得可キ特権即チ不動産書入質ノ権)〔千八百四年第三月十九日決定同月廿九日布告〕
第一章 総規則
第二千九十二条 義務ヲ負フタル者ハ現今所有シ又ハ後ニ所有ト為スコトアル可キ総テノ動産及ヒ不動産ヲ以テ其義務ヲ尽クス可シ
第二千九十三条 義務ヲ得可キ数人ハ義務ヲ行フ可キ者ノ財産ヲ相与ニ引当ト為スモノニシテ通常其財産ノ価高ヲ其義務ヲ得可キ数人ニ各其義務ノ高ノ割合ヲ以テ分派ス可シ然トモ義務ヲ得可キ者ノ中一人ノ為メ他人ヨリ先キニ其義務ヲ得可キ正当ナル原由アル時ハ格別ナリトス
第二千九十四条 義務ヲ得可キ一人他人ヨリ先ニ義務ヲ得可キ正当ノ原由ハ「プリウィレージ」ノ権及ヒ「イポテーク」ノ権ニアリトス
第二章 「プリウィレージ」ノ権
第二千九十五条 「プリウィレージ」ノ権トハ義務ヲ得可キ一人其義務ノ種類ニ因リ他ノ義務ヲ得可キ者ノミニ非ス「イポテーク」ノ権ヲ有スル者ヨリモ先ニ其義務ヲ得可キノ権ヲ云フ
第二千九十六条 「プリウィレージ」ノ権ヲ有スル者数人アル時ハ其「プリウィレージ」ノ権ノ種類ニ因リ其義務ヲ得可キ順序ヲ定ム可シ
第二千九十七条 「プリウィレージ」ノ権ヲ有シタル数人其義務ヲ得可キ順序ノ相等シキ時ハ其得可キ義務ノ高ノ割合ヲ以テ平等ニ其義務ヲ分チ之ヲ得可シ
第二千九十八条 官ノ会計局ノ「プリウィレージ」ノ権及ヒ其権ニ因リ義務ヲ得可キ順序ハ此等ノ事ニ管シタル別段ノ法律ヲ以テ之ヲ規定ス但シ官ノ会計局ハ既ニ他人ノ得タル権利ノ阻害トナル可キ「プリウィレージ」ノ権ヲ得可カラス
第二千九十九条 「プリウィレージ」ノ権ハ義務ヲ行フ可キ者ノ動産又ハ不動産ニ付キ之ヲ行フコトヲ得可シ
第一款 動産ニ付テノ「プリウィレージ」ノ権
第二千百条 「プリウィレージ」ノ権ハ総テノ動産ニ付キ行フモノアリ又ハ別段定マリシ動産ニ付キ行フモノアリ
第一節 総テノ動産ニ付テノ「プリウィレージ」ノ権
第二千百一条 総テノ動産ニ付テノ「プリウィレージ」ノ権ヲ得可キ諸件ハ左ニ記列スル所ノモノニシテ且左ノ順序ニ従ヒ其権ヲ行フ可シ
第一 裁判所ノ費用
第二 喪礼ノ費用
第三 死去スル時ノ病ノ費用
但シ其費用ノ償ヲ得可キ者数人アル時ハ其得可キ義務ノ高ノ割合ヲ以テ平等ニ其権ヲ行フ可シ
第四 雇入ラレシ者ノ既ニ経過シタル一年間ノ雇賃及ヒ現在ノ一年間ノ雇賃ノ中既ニ受取リ期限ニ至リシ部分
第五 義務ヲ行フ可キ者及ヒ其家族ニ給シタル飲食料
但シ麺包舗【パンヤ】及ヒ屠者等ノ如キ零売【コウリ】ヲ為ス者ハ前六月間給シタル者ノ為メ其「プリウィレージ」ノ権ヲ行ヒ又私塾ノ授業師及ヒ卸売ヲ為ス商人ハ前一年間給シタル物ノ為メ其「プリウィレージ」ノ権ヲ行フ可シ
第二節 別段定マリシ動産ニ付テノ「プリウィレージ」ノ権
第二千百二条 別段定マリシ動産ニ付テノ「プリウィレージ」ノ権ハ左ノ如シ
第一 土地又ハ家屋ノ貸借ノ証書公正ノ書ナル時又ハ私書ト雖トモ日附ノ分明ナル時ハ其土地又ハ家屋ノ貸主其貸賃中ニテ既ニ受取ル可キ期限ニ至リシ部分並ニ未タ受取リ期限ニ至ラサル部分ノ償ヲ得可キ為メ其土地又ハ家屋ノ本年ノ収納ト借主ノ其家屋又ハ土地ニ具備シタル諸物件ノ価高並ニ其土地ノ耕作ニ用フル諸物件ノ価高トニ付キ「プリウィレージ」ノ権ヲ行フ可シ但シ此場合ニ於テ借主ノ債主ハ其土地又ハ家屋ノ貸借期限ノ終ニ至ル迄借主ニ代リ其土地又ハ家屋ヲ己レニ借受ケテ更ニ之ヲ他人ニ貸渡シ其貸賃ヲ以テ己レノ貸金ノ償ニ充テ用フルコトヲ得可シ然トモ其土地又ハ家屋ノ貸主ニ猶償ヒ残シタル高アル時ハ其土地又ハ家屋ヲ貸主ニ代テ己レニ借受ケタル債主ヨリ之ヲ償フ可シ
若シ又土地又ハ家屋ノ貸借ノ公正ノ証書アラサル時又ハ私書ニシテ其日附ノ分明ナラサル時ハ其貸主本年ノ終ヨリ更ニ一周年間ノ貸賃ノ償ヲ得可キ為メ前項ニ記シタル「プリウィレージ」ノ権ヲ行フヲ得可シ
又貸主借主ヲシテ家屋ノ小補理ヲ為サシメ又ハ総テ契約ノ如ク執行ハシムル為メ亦同上ノ「プリウィレージ」ノ権ヲ行フ可シ
然トモ種子ノ費用ノ償又ハ本年ノ収納費用ノ償ヲ土地ノ借主ヨリ得可キ者ハ其土地ノ貸主ヨリ先ニ収納物ノ価高ヲ以テ其償ヲ得可キ「プリウィレージ」ノ権ヲ行フコトヲ得可シ又其土地ノ借主ニ農業ノ器具ヲ賃貸シタル者ハ其土地ノ貸主ヨリ先ニ其器具ノ価高ヲ以テ其貸賃ノ償ヲ得可シ土地又ハ家屋ノ貸主ハ借主ノ其家屋又ハ土地ニ具備シタル動産ヲ己レノ承諾ナクシテ他所ニ搬運シタル時其動産ヲ差押ユルコトヲ得可シ但シ其貸主ハ借主ノ土地ニ具ヘタル動産ニ付テハ四十日ノ期限内又家屋ニ具ヘタル動産ニ付テハ十五日ノ期限内ニ其動産ヲ償トシテ得ント訴ヘタルニ於テハ其動産ニ付キ「プリウィレージ」ノ権ヲ有ス可シ(訴訟法第八百二十六条以下見合)
第二 債主其貸高ノ為メ質物ヲ得タル時ハ其質物ニ付キ「プリウィレージ」ノ権ヲ有ス可シ
第三 他人ノ品物ヲ保全スル為メ費用ヲ出シタル者ハ其品物ニ付キ「プリウィレージ」ノ権ヲ有ス可シ
第四 動産ヲ買ヒ入レタル時其価ヲ払フ可キ期限ヲ定メタルト否トヲ問ハス其買主未タ其価ヲ払ハスシテ猶其動産ヲ有スル時ハ売主其売リタル動産ニ付キ「プリウィレージ」ノ権ヲ有ス可シ
動産ヲ売払ヒ其価ヲ払フ可キ期限ヲ定メサル時其価ヲ得サル売主其動産ヲ引渡シタルヨリ八日内ニ之ヲ取戻サント訴出シ且其動産ノ模様其引渡シノ時ト異ナルコトナキニ於テハ其動産ヲ買主ノ有スル時間何レノ時ニ於テモ之ヲ取戻サント訴フルノ権ヲ有シ且買主ヨリ更ニ之ヲ他人ニ売払フコトヲ拒ムヲ得可シ
売主ノ「プリウィレージ」ノ権ヲ行フ順序ハ家屋及ヒ土地ノ貸主ノ「プリウィレージ」ノ権ノ次ニ在リトス但シ其貸主其家屋又ハ土地ニ備ハリタル動産ハ其借主ノ所有ニ非サルコトヲ知リタルノ証アル時ハ格別ナリトス
此規則ヲ以テ商人ノ売リタル物品取戻ノ訴ニ付テノ商法ノ規則ヲ改ムルコトナシ(商法第五百七十四条以下見合)
第五 旅舎ノ主人旅客ヨリ算計ヲ得ルニハ其旅客ノ旅舎ニ搬運シタル荷物ニ付キ「プリウィレージ」ノ権ヲ有ス可シ
第六 荷物ノ運送ヲ為ス者其運送ノ費用及ヒ之ニ附帯シタル費用ノ償ヲ得ルニハ其運送シタル荷物ニ付キ「プリウィレージ」ノ権ヲ有ス可シ
第七 官吏其職務ヲ行フニ付キ不正ノ所為アルニ因リ官府又ハ士民其官吏ヨリ償ヲ得ルニハ其官吏其職ニ任スルニ付キ出シタル保証高ノ母銀ト息銀トニ付キ「プリウィレージ」ノ権ヲ有ス可シ
第二款 不動産ニ付テノ「プリウィレージ」ノ権
第二千百三条 不動産ニ付テノ「プリウィレージ」ノ権ヲ有スル者ハ左ノ如シ
第一 不動産ヲ売リタル者ハ其価ヲ得ル為メ其売リタル不動産ニ付キ「プリウィレージ」ノ権ヲ有ス可シ
不動産ノ所有者数人ヨリ数箇ノ不動産ヲ買入レタル者其価ノ全部又ハ一部ヲ払ハサル時ハ最初ノ売主第二次ノ売主ヨリ先ニ償ヲ得第二次ノ売主第三次ノ売主ヨリ先ニ償ヲ得其他皆之ニ倣フ可シ
第二 不動産ヲ買入ルル為メノ金高ヲ買主ニ貸与ヘシ者其貸渡ノ証書ニ其金高ハ不動産買入ノ用ニ供スル為メ貸与ヘシモノタルコトヲ公正ニ証シ且売主ノ受取書ニ其買主ノ払フタル金高ハ其貸主ノ貸与ヘタル金高ナルコトヲ公正ニ証シタル時其貸主其不動産ニ付キ「プリウィレージ」ノ権ヲ有ス可シ
第三 遺物相続人等ハ財産平等ナル分派ヲ得可キ保証ヲ得ル為メ及ヒ其中ノ一人其得可キ部分ヨリ更ニ余分ヲ得タル時ハ其余分ヲ還サシムル保証ヲ得ル為メ遺物ノ不動産ニ付キ「プリウィレージ」ノ権ヲ有ス可シ
第四 建築者、請負人、圬丁其他家屋ヲ建造シ溝渠ヲ穿開シ及ヒ此等ノ物ヲ修理シ又ハ其他ノ造築ヲ為スタメ使用ヲ受ケタル工丁其建造修理等ヲ為ス地ノ下等裁判所ヨリ任シタル評価人ヲシテ其地ノ模様ヲ証スル調書ヲ預シメ記セシメ且其建造修理等ノ完成シタルヨリ六月内ニ裁判所ヨリ任シタル評価人ヲシテ再ヒ其建造修理シタル物ノ調書ヲ記セシムル手続ヲ為シタル時ハ其償ヲ得ル為メ其不動産ニ付キ「プリウィレージ」ノ権ヲ有ス可シ然レトモ「プリウィレージ」ノ権ヲ行フ可キ価高ハ再度ノ調書ニ記シタル価高ニ過ク可カラスシテ通常ハ造築修理等ヲ為シタルニ因リ其造築物ヲ其所有者ニ引渡ス時其地価ノ以前ヨリ更ニ増シタル高ノミニ限ル可シ
第五 又工丁ノ雇賃ヲ払フ可キ為メ其金高ヲ貸与ヘタル者モ亦前項ニ等シキ「プリウィレージ」ノ権ヲ有ス可シ但シ其権ヲ得ルニ付テハ其金高ノ貸借ノ証書ニ其金高ハ工丁ノ雇賃ニ供ス可キコトヲ公正ニ証シ且工丁ノ受取書ニ其金高ヲ以テ其雇賃ヲ得タルコトヲ公正ニ証ス可キコト此条ノ第二ニ記スル所ニ等シトス
第三款 動産ト不動産トニ及ホス可キ「プリウィレージ」ノ権
第二千百四条 動産ト不動産トニ及ホス可キ「プリウィレージ」ノ権ハ第二千百一条ニ記載シタル所ノモノトス
第二千百五条 前条ニ記シタル「プリウィレージ」ノ権ヲ有スル者其得可キ動産ナキニ因リ不動産ノ価高ヲ以テ其償ヲ得ントシ不動産ノミニ付キ「プリウィレージ」ノ権ヲ有シタル者ノ権ト相触ルルコトアル時ハ此等ノ者左ノ順序ヲ以テ其償ヲ得可シ
第一 第二千百一条ニ記載シタル裁判所ノ費用及ヒ其他ノ諸件ニ付キ「プリウィレージ」ノ権ヲ有スル者
第二 第二千百三条ニ記載シタル諸件ニ付キ「プリウィレージ」ノ権ヲ有スル者
第四款 「プリウィレージ」ノ権ヲ保ツ可キ方法
第二千百六条 義務ヲ得可キ者数人ノ間ニ於テハ不動産ニ付テノ「プリウィレージ」ノ権ヲ「イポテーク」管轄者ノ簿冊ニ法則ニ循ヒ記入シ之ヲ公ケニ為シタル日ヨリ後ニ非サレハ其効ヲ生スルコトナカル可シ但シ後条ニ記スル所ハ格別ナリトス
第二千百七条 第二千百一条ニ記シタル諸件ニ付テハ前条ニ記シタル簿冊ニ記入スルノ法式ヲ行フニ及ハス
第二千百八条 不動産ノ買主其不動産所有ノ権ヲ得タル証書ヲ「イポテーク」管轄者ノ別段ノ簿冊ニ写サシメ其価高ノ全部又ハ一部ヲ未タ渡ササル証アル時ハ其売主「プリウィレージ」ノ権ヲ保ツ可シ但シ此事ニ付キ買主其売買ノ証書ヲ其別段ノ簿冊ニ写サシメタル時ハ売主ノ為メ及ヒ買主ニ金高ヲ貸与ヘテ売主ノ権ニ代リシ者ノ為メ其「プリウィレージ」ノ権ヲ通常ノ「イポテーク」ノ簿冊ニ記入シタルト同一ノ効アリトス然トモ「イポテーク」ノ管轄者ハ不動産売買ノ契約ニ因リ生シタル「プリウィレージ」ノ権ヲ売主ノ為メ及ヒ買主ニ金高ヲ貸与ヘタル者ノ為メ自己ノ職務ヲ以テ必ス其通常ノ「イポテーク」ノ簿冊ニ記入ス可シ若シ其管轄者其記入ヲ為サスシテ他人ノ為メ損害ヲ生スルコトアル時ハ之ヲ償フ可シ又売主及ヒ買主ニ金高ヲ貸与ヘタル者ハ買主其売買ノ証書ヲ別段簿冊ニ写サシメサルニ於テハ其「プリウィレージ」ノ権ノ記入ヲ得ンカ為メ自カラ其売買ノ証書ヲ別段ノ簿冊ニ写ス可キコトヲ「イポテーク」ノ管轄者ニ求ムルコトヲ得可シ
第二千百九条 遺物相続人等ハ遺物財産平等ノ分派ヲ得可キ保証ヲ得ル為メ及ヒ其中ノ一人其得可キ部分ヨリ更ニ余分ヲ得タル時ハ其余分ヲ還サシムルノ保証ヲ得ル為メ又ハ遺物ノ不動産ヲ糶売ニ為シタル其価ヲ得ル為メ其遺物分派ノ時又ハ糶売ノ時(遺物相続人中ノ一人糶売ニテ其不動産ヲ買入レタル場合)ヨリ六十日内ニ其「プリウィレージ」ノ権ヲ「イポテーク」管轄者ノ簿冊ニ記入セシメタルニ於テハ其分派シタル遺物ノ財産又ハ糶売ト為シタル遺物ノ財産ノ価ニ付キ「プリウィレージ」ノ権ヲ保ツ可シ但シ其六十日ノ期限内ニハ其分派シタル財産又ハ糶売ト為シタル財産ヲ「イポテーク」ト為シテ「プリウィレージ」ノ権アル遺物相続人ノ損害ヲ為ス可カラス
第二千百十条 建築者、請負人、圬丁及ヒ其他家屋ヲ建造シ溝渠ヲ穿開シ及ヒ此等ノ物ノ修理ヲ為シ又ハ其他ノ造築ヲ為ス為メ使用ヲ受ケタル工丁又ハ此等ノ者ニ雇賃トシテ与フ可キ金高ヲ貸与ヘ其金高ノ用法ヲ証スルコトヲ得タル者ハ其建造修理ヲ為ス前ノ其地ノ模様ヲ証シタル調書ト其建造修理ヲ完成シタル後其造営物ヲ其所有者ニ引渡シタル時ノ調書トヲ「イポテーク」管轄者ノ簿冊ニ記入セシメタルニ因リ最初ノ調書ヲ記入シタル日ヨリ「プリウィレージ」ノ権ヲ得可シ
第二千百十一条 第八百七十八条ニ循ヒ死者ノ財産ヲ其相続人ノ財産ト分別スルコトヲ求ムル死者ノ債主及ヒ遺嘱ノ贈遺ヲ受ク可キ者ハ其遺物相続ノ始マリシ時ヨリ六月内ニ其死者ノ各不動産ニ付キ「プリウィレージ」ノ権アルコトヲ「イポテーク」管轄者ノ簿冊ニ記入セシメタルニ因リ其相続人ノ債主又ハ死者ノ代権人ノ債主ニ対シ其不動産ニ付テノ「プリウィレージ」ノ権ヲ保ツ可シ
其六月ノ期限内ニハ死者ノ遺物相続人又ハ其代権人前項ニ記シタル不動産ヲ「イポテーク」ト為シテ死者ノ債主及ヒ遺嘱贈遺ヲ受ク可キ者ノ損害ヲ為ス可カラス
第二千百十二条 前数条ニ記シタル「プリウィレージ」ノ権ヲ譲リ受ケタル者ハ之ヲ譲リタル者ニ代リテ其者ト同一ノ権ヲ行フ可シ
第二千百十三条 前数条ニ記シタル如ク「イポテーク」管轄者ノ簿冊ニ記入シテ「プリウィレージ」ノ権ヲ保ツ可キ者其法式ニ背キタル時ト雖トモ「イポテーク」ノ権ヲ保ツノ差支トナルコトナカル可シ然トモ後(第二千百三十四条以下ヲ云フ)ニ記スル所ノ如ク其「イポテーク」ノ権ヲ其管轄者ノ簿冊ニ記入シタル時ヨリ後ニ非サレハ他人ニ対シテ「イポテーク」ノ権ヲ得可カラス
第三章 「イポテーク」ノ権
第二千百十四条 「イポテーク」ノ権トハ義務ヲ行フ為メノ保証ト為シタル不動産ニ付テノ物権ヲ云フ
其権ハ分ツ可カラサルモノニシテ其各不動産及ヒ不動産ノ各部ニ付キ之ヲ行フ可シ
其権ハ其不動産如何ナル者ノ所有トナルヲ問ハス之ヲ行フコトヲ得可シ
第二千百十五条 「イポテーク」ノ権ハ法律ヲ以テ定メタル場合ト法式トニ非サレハ之ヲ得可カラス
第二千百十六条 「イポテーク」ノ権ハ法律上ニテ得ルモノアリ又ハ裁判所ノ言渡ニ因リ得ルモノアリ又ハ契約ニ因リ得ルモノアリ
第二千百十七条 法律上ニテ得ル所ノ「イポテーク」ノ権トハ法律ニ因リ生スル所ノ「イポテーク」ノ権ヲ云フ
裁判所ノ言渡ニ因リ得ル所ノ「イポテーク」ノ権トハ裁判所ノ言渡又ハ裁判所ニテ記スル証書ニ因リ生スル所ノ「イポテーク」ノ権ヲ云フ
契約ニ因リ得ル所ノ「イポテーク」ノ権トハ契約ヨリ生シ契約書及ヒ証書ノ法式ニ管スル「イポテーク」ノ権ヲ云フ
第二千百十八条 第一 売買ヲ為スコトヲ得可キ不動産及ヒ其不動産ニ附帯シテ不動産ト看做ス可キ物
第二 同上ノ不動産ノ入額所得ノ権及ヒ其入額所得ノ権ノ継続スル時間其不動産ニ附帯シテ不動産ト看做ス可キ者ノ入額所得ノ権
此等ノ物ハ「イポテーク」ト為スコトヲ得可シ
第二千百十九条 動産ハ「イポテーク」ト為ス可カラス
第二千百二十条 此法律ヲ以テ船舶ニ付テノ海上貿易ノ規則ヲ改ムルコトナシ(商法第百九十条以下見合)
第一款 法律上ニテ得ル所ノ「イポテーク」ノ権
第二千百二十一条 法律上ニテ「イポテーク」ノ権ヲ生ス可キ権利ハ左ノ如シ
第一 婚姻シタル婦其夫ノ財産ニ付テノ権利
第二 幼者及ヒ治産ノ禁ヲ受ケシ者其後見人ノ財産ニ付テノ権利
第三 官府、「コムミユーン」、公ケノ建造物、其租税官吏及ヒ会計官吏ノ財産ニ付テノ権利
第二千百二十二条 法律上ニテ得ル所ノ「イポテーク」ノ権ヲ有スル者ハ義務ヲ行フ可キ者ノ現在有スル総テノ不動産及ヒ後日其者ノ得ルコトアル可キ総テノ不動産ニ付キ其権ヲ行フコトヲ得可シ但シ後条(第二千百四十条以下ヲ云フ)ニ記スル所ハ格別ナリトス
第二款 裁判所ノ言渡ニ因リ得ル所ノ「イポテーク」ノ権
第二千百二十三条 裁判所ノ言渡ニ因リ得ル所ノ「イポテーク」ノ権ハ原告被告双方ノ面前ニ於テ裁判ヲ言渡シタルト其一方ノ者ノ抗伝シタル時裁判ヲ言渡シタルトヲ問ハス又其裁判確定ノモノタルト仮リノモノタルトヲ問ハス其裁判言渡ニ因リ之ヲ得可シ○又其権ハ義務ヲ記シタル私ノ証書ノ姓名ノ手署ヲ其義務ヲ行フ可キ者裁判所ニテ自認シタルニ因リ又ハ其姓名ノ手署ヲ験真シタルニ因リ之ヲ得可シ
其「イポテーク」ノ権ハ義務ヲ行フ可キ者ノ現在所有スル総テノ不動産及ヒ後日其得ルコトアル可キ総テノ不動産ニ付キ之ヲ行フコトヲ得可シ但シ後ニ記スル所ハ格別ナリトス(第二千百二十九条第二千百三十四条第二千百四十八条第二千百六十一条見合)判断人(訴訟法第千二十条見合)ノ決定ハ裁判所ヨリ其決定ノ如ク執行フ可キノ言渡ヲ得タル上ニ非サレハ其決定ニ因リ「イポテーク」ノ権ヲ得可カラス
又外国ノ裁判所ニテ「イポテーク」ノ権ヲ得可キ言渡ヲ為シタルト雖トモ仏蘭西ノ裁判所ニ於テ其言渡ノ如ク執行フ可キコトヲ言渡シタル上ニ非サレハ其「イポテーク」ノ権ヲ得可カラス但シ建国法又ハ外国トノ条約書ニ之ニ反シタル規則アル時ハ格別ナリトス
第三款 契約ニ因リ得ル所ノ「イポテーク」ノ権
第二千百二十四条 契約ニ因リ得ル所ノ「イポテーク」ノ権ハ自己ノ随意ニテ其不動産ヲ売払フコトヲ得可キ権アル者ニ非サレハ之ヲ其義務ヲ得可キ者ニ与フルコトヲ承諾スルヲ得ス
第二千百二十五条 不動産確定ノ所有ノ権ナク唯未必ノ偶生ノ事ニ管スル所有ノ権又ハ後ニ解除スルコトアル可キ所有ノ権又ハ後ニ廃棄セラル可キ所有ノ権ヲ有スル者ハ其不動産ヲ「イポテーク」ト為スニ付キ必ス後ニ其「イポテーク」ヲ解除スルヲ得可キ契約又ハ後ニ廃棄スルヲ得可キ契約ヲ以テ之ヲ為ス可シ
第二千百二十六条 幼者又ハ治産ノ禁ヲ受ケシ者又ハ失踪者ノ財産ヲ仮リニ有スル者ハ法律上ニテ定メタル原由ト法式トニ循ヒ又ハ裁判所ノ言渡ヲ得タル上ニ非サレハ其不動産ヲ「イポテーク」ト為ス可カラス
第二千百二十七条 契約上ノ「イポテーク」ノ権ハ「ノテール」二員ノ面前又ハ「ノテール」一員ト証人二員トノ面前ニ於テ記シタル公正ノ証書ヲ以テ之ヲ得可シ
第二千百二十八条 外国ニ於テ為シタル契約ニ因リ仏蘭西ニ在ル不動産ニ付キ「イポテーク」ノ権ヲ得可カラス但シ建国法又ハ外国トノ条約書ニ之ニ反シタル規則アル時ハ格別ナリトス
第二千百二十九条 義務ヲ約シタル公正ノ証書又ハ其後ニ記シタル公正ノ証書ニ其義務ヲ行フ可キ者ノ「イポテーク」ト為スコトヲ承諾シタル其現在所有ノ各不動産ノ種類ト其所在ノ地トヲ別段記シタルニ非サレハ契約上ノ「イポテーク」ノ効ナシトス○義務ヲ行フ可キ者ハ其現在所有スル各不動産ヲ其契約書ニ記列シテ「イポテーク」ト為スコトヲ得可シ
後日所有トナスコトアル可キ不動産ハ「イポテーク」ト為スコトヲ得ス
第二千百三十条 然トモ義務ヲ行フ可キ者ノ自由ニ為スコトヲ得可キ現在所有ノ不動産ヲ以テ其義務ノ執行ヲ保証スルニ足ラサル時ハ其不足ナル旨ヲ証書ニ記シ其後日得可キ各不動産ヲ受取ル毎ニ之ヲ「イポテーク」ト為ス可キノ契約ヲ為スコトヲ得可シ
第二千百三十一条 又義務ヲ行フ可キ者「イポテーク」ト為シタル現在所有ノ不動産ノ滅尽破壊シタルニ因リ其義務ノ執行ヲ保証スルニ足ラサルニ至リシ時ハ其義務ヲ得可キ者ヨリ直チニ其義務ヲ得ント訴ヘ又ハ「イポテーク」ノ不動産ノ増加ヲ得ント求ムルコト自由ナリトス
第二千百三十二条 契約上ノ「イポテーク」ノ権ハ之ヲ生セシメシ原由タル義務ノ高ヲ其証書ニ因リ分明ニ知リ得可キ時ニ非サレハ其効ナカル可シ若シ其義務未必ノ条件ニ管シタル時又ハ其義務ノ高ノ分明ニ定マラサル時ハ其義務ヲ得可キ者特ニ其義務ノ高ハ幾許ナル可キヤヲ見積リ其高ニ至ル迄ノ外後(第二千百四十六条以下ヲ云フ)ニ記シタル「イポテーク」ノ記入ヲ求ム可カラス但シ義務ヲ行フ可キ者ハ其義務ヲ得可キ者ノ見積リタル高ヲ減セシム可キ道理アル時之ヲ減セシムルノ権アリ
第二千百三十三条 「イポテーク」ノ権ハ其「イポテーク」ト為シタル不動産ヲ良好ニ為シタル諸件ニモ及ホス可シ
第四款 「イテポーク」ノ権ノ順序
第二千百三十四条 義務ヲ得可キ数人ノ間ニ於テハ「イポテーク」ノ権ヲ法律上ニテ得タルト裁判所ノ言渡ニ因リ得タルト契約ニ因リ得タルトヲ問ハス其義務ヲ得可キ者法式ニ循ヒ「イポテーク」管轄者ノ簿冊ニ其権ノ記入ヲ得タル日ヨリ其順序ヲ立ツ可シ但シ後条ニ記スル所ハ格別ナリトス
第二千百三十五条 左ノ諸件ニ付テハ「イポテーク」ノ権ヲ其管轄者ノ簿冊ニ記入スルニ及ハスシテ之ヲ得可シ
第一 幼者又ハ治産ノ禁ヲ受ケシ者ハ其後見人ノ支配ノ事ニ付キ其後見ノ職ワ承諾シタル日ヨリ其後見人ノ不動産ニ付キ「イポテーク」ノ権ヲ得可シ
第二 婚姻シタル婦ハ其嫁資ノ財産及ヒ婚姻契約ノ箇条ニ付キ婚姻ヲ行フタル日ヨリ其夫ノ不動産ニ付キ「イポテーク」ノ権ヲ得可シ
夫婦タル時間婦ノ人ヨリ遺物トシテ得タル嫁資ノ金高又ハ贈遺トシテ得タル嫁資ノ金高ニ付テハ其遺物相続ヲ始メタル日又ハ贈遺ヲ承諾シタル日ヨリ其夫ノ不動産ニ付キ「イポテーク」ノ権ヲ得可シ
又婦其夫ト共ニ負フタル義務ノ償ヲ得ル為メ又ハ夫其婦ノ財産ヲ売払フタル時婦其夫ヲシテ其代金ヲ自己ノ資益トナル可キ方法ニ用ヒシムル為メニハ婦其夫ト共ニ義務ヲ負フタル日又ハ夫其婦ノ財産ヲ売払フタル日ヨリ其夫ノ不動産ニ付キ「イポテーク」ノ権ヲ得可シ
何レノ場合ニ於テモ此条ノ規則ヲ以テ此巻ヲ布告セシ前ニ「イポテーク」ノ権ヲ得タル者ノ権利ヲ害スルコトナカル可シ
第二千百三十六条 夫又ハ後見人ハ己レノ不動産ヲ其婦又ハ幼者ノ為メ「イポテーク」ト為シタルコトヲ公ケニ為スタメ現在所有ノ不動産ト後日得ルコトアル可キ不動産トニ付「イポテーク」ノ権ヲ「イポテーク」管轄者ノ簿冊ニ記入スルヲ遅延ナク求ムルコトヲ必要トス
若シ夫又ハ後見人前項ニ記セシ記入ヲ求ムルコトヲ怠リ己レノ不動産ハ婦又ハ幼者ノ為メ「イポテーク」ト為セシモノタルコトヲ陳述スルコトナク他人ニ其不動産ニ付テノ「プリウィレージ」ノ権又ハ「イポテーク」ノ権ヲ与フルコトヲ承諾シ又ハ他人ノ此等ノ権ヲ得ルニ付キ故障ヲ述ヘサル時ハ「ステリヲナー」(第二千五十九条ニ詳ナリ)ノ咎アリト看做シテ禁錮セラル可シ
第二千百三十七条 後見人ノ監察者ハ後見人ノ支配ノ事ニ付キ其後見人ノ不動産ヲ幼者ノ為メ「イポテーク」ト為シタル旨ノ記入ヲ其後見人ヨリ遅延ナク求メ出ツ可キコトニ注意シ若シ後見人其求メヲ為ササルニ於テハ其監察者自カラ其記入ヲ求ム可シ但シ此等ノ事ハ後見人ノ監察者ノ必ス自【ミツ】カラ任ス可キ所ニシテ若シ之ヲ怠リシ時ハ幼者ニ対シ其損失ヲ償フ可シ
第二千百三十八条 夫、後見人、後見人ノ監察者前数条ニ記載シタル如ク「イポテーク」ノ記入ヲ求ムルコトヲ怠リシ時ハ夫及ヒ後見人ノ住所ノ下等裁判所ノ「プロキュリウルアムペリアル」又ハ不動産所在ノ地ノ下等裁判所ノ「プロキュリウルアムペリアル」ヨリ其記入ヲ求ム可シ
第二千百三十九条 又夫或ハ婦ノ親属及ヒ幼者ノ親族又親族ノアラサル時ハ其朋友ヨリ其記入ヲ求ムルコトヲ得可シ又婦或ハ幼者自カラ之ヲ求ムルコトヲ得可シ
第二千百四十条 丁年ノ夫婦其婚姻ノ契約書ニ別段定メタル夫ノ不動産ノミニ付キ「イポテーク」ノ記入ヲ求ム可キコトヲ約定シタル時ハ其他ノ夫ノ不動産ハ婦ノ嫁資ヲ還スニ付キ又ハ婦ノ財産取戻ニ付キ又ハ婚姻ノ契約ノ如ク執行フニ付テノ「イポテーク」ヲ負フタルモノト為ス可カラス然トモ夫ノ財産ノ全部ヲ「イポテーク」ト為ササルコトハ之ヲ契約ス可カラス
第二千百四十一条 又幼者ノ親族会議ニテ別段定メタル後見人ノ不動産ノミニ付キ「イポテーク」ノ記入ヲ求ム可キコトヲ決議シタル時ハ其他ノ不動産前条ニ記スル所ニ等シトス
第二千百四十二条 前二条ノ場合ニ於テ夫、後見人、後見人ノ監察者ハ其別段定メタル不動産ノミニ付キ「イポテーク」ノ記入ヲ求ム可シ
第二千百四十三条 後見人ヲ任スル証書ニ後見人ノ不動産ノ一部ノミヲ「イポテーク」ト為ス可キコトヲ別段記シタルコトナキ時其不動産ノ全部ニ付テノ「イポテーク」ニテハ後見人ノ支配ノ事ヲ保証スルニ過分ナルコト分明ナルニ於テハ其後見人幼者ノ為メ保証ヲ為スニ十分ナル不動産ノ一部ノミニ其「イポテーク」ヲ減ス可キノ訴ヲ為スコトヲ得可シ但シ後見人此訴ヲ為スニハ預シメ親族会議ノ承諾ヲ得タル上ニテ後見人ノ監察者ヲ裁判所ニ呼出ス可シ
第二千百四十四条 又夫ハ婦ノ承諾ヲ得且婦ノ最近ノ親族四人ノ会議ノ承諾ヲ得タル上ニテ其婦ノ嫁資ヲ還スニ付キ又ハ婦ノ財産取戻ニ付キ又ハ婚姻ノ契約ノ如ク執行フニ付キ「イポテーク」ト為シタル其不動産ノ全部ヲ婦ノ権ヲ保全スルニ足ル可キ一部ニ減ス可キノ訴ヲ為スコトヲ得可シ
第二千百四十五条 前二条ニ循ヒ夫及ヒ後見人ノ為シタル訴ノ裁判言渡ハ「プロキュリウルアンペリアル」ノ述フル所ヲ聴キ且其立会ヲ得タル上ニ非サレハ之ヲ為ス可カラス
裁判所ニ於テ「イポテーク」ヲ不動産ノ一部ノミニ減ス可キノ言渡ヲ為シタル時ハ其他ノ部分ニ付テノ記入ヲ塗抹ス可シ
第四章 「プリウィレージ」ノ権及ヒ「イポテーク」ノ権ヲ記入スル方法
第二千百四十六条 「プリウィレージ」又ハ「イポテーク」ノ権ハ此等ノ権ヲ負フタル不動産所在ノ地ノ「イポテーク」管轄ノ官署ノ簿冊ニ記入ス可シ○商人家資分散ヲ為ス前ニ記シタル証書ノ効ナカル可キ定期内(商法第四百四十六条以下見合)ニ其記入ヲ為シタル時ハ其効ナカル可シ
又死者ヨリ義務ヲ得可キ者ノ中一人其遺物相続ヲ為シ始メタル後ニ同上ノ権ノ記入ヲ求メ且其遺物相続人其相続シタル財産ノ価額ニ至ル迄ノ外負債ヲ償ハサルノ特権ヲ以テ其遺物相続ヲ為シタル時ハ亦前項ニ等シク記入ノ効ナシトス
第二千百四十七条 同日ニ「イポテーク」又ハ「プリウィレージ」ノ権ノ記入ヲ得タル数人ハ「イポテーク」ノ管轄者其日ノ朝ニ記入シタルト夕ニ記入シタルトノ差別ヲ為シタルニ管セス其「イポテーク」ノ権ヲ同一ノ順序ヲ以テ平等ニ行フ可シ
第二千百四十八条 義務ヲ得可キ者「プリウィレージ」又ハ「イポテーク」ノ権ノ記入ヲ得ントスルニハ「プリウィレージ」又ハ「イポテーク」ノ権ヲ生セシメタル裁判言渡書又ハ証書類ノ正本又ハ公正ノ副本ヲ自身又ハ名代人ヲ以テ「イポテーク」ノ管轄者ニ出ス可シ
又記入ヲ得ントスル者ハ同上ノ書類ニ添テ証印アル紙ニ記シタル箇条書二通ヲ出シ又ハ其箇条書一通ノミ出シ其一ヲ裁判言渡書又ハ証書類ノ副本ニ附記スルコトヲ得可シ但シ其箇条書ニハ左件ヲ記ス可シ
第一 義務ヲ得可キ者ノ姓名、住所、職業及ヒ「イポテーク」官署ノ管轄内ノ地ニ別段住所ヲ択ミタル事
第二 義務ヲ行フ可キ者ノ姓名、往所、職業又ハ「イポテーク」ノ管轄者ヲシテ義務ヲ行フ可キ者ヲ明カニ知ラシムルニ足ル可キ詳細ノ記載
第三 裁判言渡書又ハ義務ノ証書ノ日附及ヒ本義
第四 其書類中ニ記シタル義務ノ母銀ノ高又年金及ヒ未必ノ条件ニ管シタル未定ノ義務ヲ評価ス可キノ言渡アリテ其義務ヲ得可キ者之ヲ評価シタル時ハ其評価シタル義務ノ母銀ノ高並ニ其母銀ニ附帯シタル高及ヒ義務ヲ得可キ期日
第五 義務ヲ得可キ者其「プリウィレージ」ノ権又ハ「イポテーク」ノ権ヲ得ントスル不動産ノ種類及ヒ其所在ノ地
但シ最終一項ノ記載ハ法律上ニテ得ル所ノ「イポテーク」ノ権又ハ裁判言渡ニ因リ得ル所ノ「イポテーク」ノ権ニ付テハ必要ナリトセス但シ別段ノ契約アラサル時ハ此等ノ「イポテーク」ノ権ニ付キ一箇ノ記入ヲ為シタルノミニテ其「イポテーク」官署ノ管轄内ニ在ル総テノ不動産ニ其権ヲ及ホス可シ
第二千百四十九条 死者ノ不動産ニ付キ「イポテーク」又ハ「プリウィレージ」ノ権ノ記入ヲ得ントスルニハ前条第二ニ記シタル如ク死者ヲ明カニ知リ得可キ記載ヲ為スコトヲ必要トス
第二千百五十条 「イポテーク」ノ管轄者ハ箇条書ニ記シタル諸件ヲ其簿冊ニ記入シ義務ノ証書ノ正本又ハ其副本ト箇条書一通トヲ其記入ヲ求メタル者ニ還ス可シ但シ其管轄者ハ其還与スル箇条書ノ末ニ記入ヲ為シタルノ証ヲ附記ス可シ
第二千百五十一条 息銀ヲ生スル母銀ニ付キ「イポテーク」ノ権ノ記入ヲ得タル義務ヲ得可キ者ハ本年ト其後二年トノ時間其息銀ニ付キ母銀ト同一ノ順序ノ「イポテーク」ノ権ヲ得可シ但シ最初ノ記入ニ因リ「イポテーク」ノ権ヲ得タル息銀ヨリ後ノ息銀ニ付キ更ニ其記入ヲ求ムル時ハ其記入ノ日ヨリ「イポテーク」ノ権ヲ得可シ
第二千百五十二条 記入ヲ求メタル者及ヒ其名代人又ハ公正ノ証書ニ因リ其権ヲ譲リ受ケタル者ハ「イポテーク」官署ノ簿冊ニ記シタル是迄ノ住所ニ易ヘ其官署ノ管轄内ニテ更ニ他ノ住所ヲ択ミ之ヲ届出ルコトヲ得可シ
第二千百五十三条 官府「コムミユーン」、公ケノ建造物其会計官吏ノ不動産ニ付キ法律上ニテ得ル所ノ「イポテーク」ノ権又ハ幼者或ハ治産ノ禁ヲ受ケシ者或ハ婚姻シタル婦其後見人又ハ其夫ノ不動産ニ付キ法律上ニテ得ル所ノ「イポテーク」ノ権ハ左ノ諸件ノミヲ記シタル箇条書二通ヲ出シテ官署ノ簿冊ニ記入スルコトヲ求ムルヲ得可シ
第一 義務ヲ得可キ者ノ姓名、職業、現在ノ住所及ヒ其者「イポテーク」官署ノ管轄内ニテ別段自カラ択ミタル住所又ハ他人ヨリ其者ノ為メ択ミタル住所
第二 義務ヲ行フ可キ者ノ姓名、職業、住所又ハ其者ヲ明カニ知リ得可キ詳細ノ記載
第三 義務ヲ得可キ者ノ保有セントスル権利ノ種類及ヒ義務ノ高ノ定リタル時ハ其高
但シ偶生ノ条件ニ管シタル義務又ハ高ノ定マラサル義務ニ付テハ別段其高ヲ評価シテ定ムルニ及ハス
第二千百五十四条 「イポテーク」又ハ「プリウィレージ」ノ権ヲ「イポテーク」ノ官署ノ簿冊ニ記入シタル時ハ其日ヨリ十年ノ時間此等ノ権ヲ保有スルコトヲ得可シ若シ十年内ニ再ヒ其記入ヲ得サル時ハ其効終ル可シ
第二千百五十五条 「イポテーク」又ハ「プリウィレージ」ノ権ノ記入ノ費用ハ別段ノ契約アルニ非サレハ義務ヲ行フ可キ者之ヲ担当シ其義務ヲ得可キ者仮リニ之ヲ前払ニ為シ置ク可シ但シ法律上ニテ得ル所ノ「イポテーク」ノ権ヲ記入スルニ付テハ其管轄者義務ヲ行フ可キ者ヲシテ其記入ノ費用ヲ出サシムルコトヲ求ムルヲ得可シ○又不動産ノ売主其売買ノ証書ヲ「イポテーク」官署ノ簿冊ニ登記スルコトヲ求メタル時ハ買主其登記ノ費用ヲ担当ス可シ
第二千百五十六条 「イポテーク」又ハ「プリウィレージ」ノ権ノ記入ノ事ニ付キ義務ヲ得可キ者ニ対シ為ス可キ訴訟ハ其者ニ呼出シ状ヲ送達シ又ハ簿冊ニ記シタル其最終ノ住所(別段択ミタル住所ヲ云フ)ニ之ヲ送達シタル上管轄ノ裁判所ニ之ヲ為ス可シ但シ其義務ヲ得可キ者又ハ其者ノ別段択ミタル住所ノ家主死去シタル時ト雖トモ亦同一ナリトス
第五章 「イポテーク」ノ権又ハ「プリウィレージ」ノ権ノ記入ヲ塗抹スル事及ヒ減殺スル事
第二千百五十七条 「イポテーク」又ハ「プリウィレージ」ノ権ノ記入ヲ塗抹スル事ハ之ニ管係アリテ且其塗抹ヲ為スコトヲ承諾シ得可キノ権アル者ノ承諾ヲ以テ之ヲ塗抹シ又ハ終審ノ裁判言渡ニ因リ或ハ更ニ上等裁判所ニ控訴スルコトヲ得サル裁判言渡ニ因リ之ヲ塗抹ス可シ
第二千百五十八条 何レノ場合ニ於テモ「イポテーク」又ハ「プリウィレージ」ノ権ノ記入ノ塗抹ヲ願出ル者ハ一方ノ者之ヲ承諾シタル旨ヲ記シタル公正ノ証書ノ副本又ハ裁判言渡書ノ副本ヲ「イポテーク」管轄ノ官署ニ出ス可シ
第二千百五十九条 双方ノ者ノ中一方ノ承諾ナクシテ「イポテーク」又ハ「プリウィレージ」ノ権ノ塗抹ヲ得ント為スニハ其記入ヲ為シタル地ヲ管轄スル裁判所ニ願出ス可シ然トモ記入ノ地ヲ管轄セサル裁判所ニテ未必ノ条件ニ管スル裁判言渡ヲ受ケ又ハ金高ノ未定ナル裁判言渡ヲ受ケ其言渡ノ保証トシテ記入ヲ為シ置キ後ニ其裁判所ニテ其言渡ノ如ク執行フコト又ハ金高ヲ定ムルコトニ付キ債主ト負債者ト訴訟ヲ為シタル時ハ其記入ノ塗抹ヲモ亦其裁判所ニ訴ヘ出ス可ク若シ其記入ノ地ヲ管轄スル裁判所ニ其塗抹ヲ訴ヘ出スト雖トモ其裁判所ヨリ訴訟ヲ管轄スル裁判所ニ其塗抹ヲ願フ可キ旨ヲ言渡ス可シ然トモ義務ヲ得可キ者ト之ヲ行フ可キ者ト若シ塗抹ノ事ニ付キ争ノ生スルコトアラハ別段定メタル裁判所ニ訴ヘ出ス可キコトヲ契約シタル時ハ其契約ノ如ク執行フ可シ
第二千百六十条 法律ニ循ハス又ハ証書ニ拠ラスシテ「イポテーク」又ハ「プリウィレージ」ノ権ノ記入ヲ為シタル時又ハ証書アリト雖トモ法ニ適セサル証書又ハ既ニ効ヲ失ヒシ証書又ハ既ニ算計ヲ為シタル証書ニ拠テ其記入ヲ為シタル時又ハ法律ニ適シタル方法ヲ以テ「プリウィレージ」ノ権又ハ「イポテーク」ノ権ヲ既ニ滌除シタル時ハ裁判所ヨリ其記入ノ塗抹ヲ言渡ス可シ
第二千百六十一条 義務ヲ行フ可キ者ノ現在所有スル不動産ト後日所有ト為スコトアル可キ不動産トニ付キ法律上又ハ裁判言渡ニ因リ「イポテーク」ノ記入ヲ得タル時其不動産ノ全部ニテハ義務ノ保証ヲ為スニ必要ト為スヨリ更ニ過分ナルニ於テハ其義務ヲ行フ可キ者其記入シタル「イポテーク」ヲ減殺シ又ハ至当ノ部分ニ過タル一部ノ記入ヲ塗抹セント訴フルコトヲ得可シ但シ此事ニ付テハ第二千百五十九条ニ記シタル裁判所管轄ノ規則ニ循フ可シ
此条ノ規則ハ契約ニ因リ得ル所ノ「イポテーク」ノ権ニ通シテ用フ可カラス
第二千百六十二条 前条ニ記載シタル義務ヲ行フ可キ者ノ不動産全部ノ中一箇又ハ数箇ノミノ価高ニテ義務ノ母銀ト之ニ附帯シタル高トノ総高ニ過ルコト三分一以上ナル時ハ其不動産全部ニ付テノ記入ヲ過分ナリトス
第二千百六十三条 又未必ノ事ニ管シタル義務又ハ高ノ未定ナル義務アリテ其義務ノ保証トシテ不動産ヲ「イポテーク」ト為スニ付キ別段ノ契約ナキ時其義務ヲ得可キ者其義務ノ高ヲ評価シ其高ニ従テ「イポテーク」ノ記入ヲ為シタルニ於テハ其記入ヲ過分ナリトシテ減スルコトヲ得可シ
第二千百六十四条 前条ノ場合ニ於テハ裁判役其時ノ模様ト事実ノ思料トニ従ヒ義務ヲ得可キ者ノ権ト義務ヲ行フ可キ者ノ権トヲ斟酌シテ其「イポテーク」ノ記入ノ過分ナルコトヲ裁判ス可シ但シ嘗テ未必ナリシ事ノ現ニ生シタルニ因リ義務ノ高ノ更ニ増シタル時ハ更ニ其増高ニ付テノ「イポテーク」ノ記入ヲ為スコトヲ得可シ
第二千百六十五条 不動産ノ価ヲ義務ノ高並ニ之ニ三分ノ一ヲ加ヘタル高ト比較セントスルニハ左ノ方法ヲ用フ可シ○損耗ス可カラサル不動産ニ付テハ其不動産所在ノ地ニテ地税目録ニ記スル所ノ税銀ノ高ト不動産歳入ノ高トノ釣合ニ従ヒ其不動産ノ価ヲ其地税目録ニ因リ詳カニ知リ得可キ其不動産歳入ノ高ノ十五倍ト定メ又損耗ス可キ不動産ニ付テハ其価ヲ歳入ノ高ノ十倍ト定ム可シ○然トモ裁判役ハ其不動産ノ真正ナル貸借ノ証書又ハ近年記シタル評価ノ調書又ハ其他此類ノ証書ニ記スル所ヲ以テ其不動産ノ価ヲ定ムル見合ト為シ其見合ト為シタル所ヨリ得タル価高ノ中数ヲ取リ其不動産ノ歳入ヲ秤ルコトヲ得可シ
第六章 義務ヲ行フ可キ者ノ不動産ヲ所有ト為シタル者ニ付キ「プリウィレージ」又ハ「イポテーク」ノ権ヨリ生スル諸件
第二千百六十六条 義務ヲ得可キ者不動産ニ付テノ「プリウィレージ」ノ権又ハ「イポテーク」ノ権ヲ官署ノ簿冊ニ記入シタル時ハ其不動産何レノ人ノ所有トナルヲ問ハス其得可キ義務ノ順序又ハ「イポテーク」記入ノ順序ニ従テ義務ノ償ヲ得可シ
第二千百六十七条 義務ヲ行フ可キ者ノ不動産ヲ所有ト為シタル者其不動産ニ付テノ義務ヲ滌除スル為メ後(第二千百八十一条以下ヲ云フ)ニ記スル所ノ法式ヲ行ハサル時ハ其義務ヲ得可キ者ノ官署ノ簿冊ニ記入シタル「イポテーク」又ハ「プリウィレージ」ノ権ニ従ヒ其新ナル所有者其不動産ニ付テノ義務ヲ尽ク己レニ担当ス可シ但シ其新ナル所有者ハ元来義務ヲ行フ可キ者ノ得可キ所ノ期限ノ猶予ヲ受クルコトヲ得可シ
第二千百六十八条 前条ノ場合ニ於テ義務ヲ行フ可キ者ノ不動産ヲ所有ト為シタル者ハ其義務ノ高ノ幾許ナルヲ問ハス既ニ払ヒ期限ニ至リシ其母銀ト息銀トヲ償フ可シ若シ然ラサレハ其不動産ヲ全ク放棄ス可シ
第二千百六十九条 義務ヲ行フ可キ者ノ不動産ヲ所有ト為シタル者前条ニ記シタル二箇ノ処置中ノ一箇ヲ為サザル時ハ「イポテーク」ノ権アル義務ヲ得可キ者元来義務ヲ行フ可キ者ニ要決【テキレ】ノ書ヲ送リ且其不動産ヲ所有トナシタル者ニ其不動産ニ付テノ義務ヲ行ハサレハ其不動産ヲ放棄ス可キコトヲ要メタルヨリ三十日ノ後ニ至リ其義務ヲ得可キ者其不動産ヲ差押ヘテ売払フ可キノ権アリ
第二千百七十条 然トモ義務ヲ行フ可キ者ノ不動産ヲ所有ト為シタル者其義務ヲ別段一身ニ担当スルコトナキ時元来義務ヲ行フ可キ者其義務ニ付キ「イポテーク」ト為シタル他ノ不動産ヲ更ニ所有スルニ於テハ新ニ不動産ヲ所有ト為シタル者己レノ得タル不動産ノ売払ヲ拒ミ此篇第十四巻(保証)ニ記スル法式ニ循ヒ更ニ他ノ不動産ヲ以テ先ツ其義務ノ償ニ充テシム可キノ訴ヲ為スコトヲ得可シ但シ其訴ヲ為ス時間ハ其所有ト為シタル不動産ノ売払ヲ延ス可シ
第二千百七十一条 然トモ義務ヲ得可キ者義務ヲ行フ可キ者ノ不動産ニ付キ「プリウィレージ」ノ権ヲ有シタル時又ハ別段契約ヲ為シテ「イポテーク」ノ権ヲ有シタル時ハ其不動産所有ノ権ヲ得タル者前条ニ記スル如ク其義務ヲ得可キモノニ対シテ其売払ヲ拒ム可カラス
第二千百七十二条 義務ヲ行フ可キ者ノ不動産ヲ所有ト為シタル者其義務ヲ行フコトヲ一身ニ担当スルコトナキ時其者自己ノ財産ヲ随意ニ為スコトヲ得可キ権アルニ於テハ其不動産ヲ放棄シテ其義務ヲ免ルルコトヲ得可シ
第二千百七十三条 義務ヲ行フ可キ者ノ不動産ヲ所有トナシタル者ハ自カラ其義務アリト認メ又ハ裁判所ヨリ其義務ヲ行フ可キノ言渡ヲ受ケシ後ト雖トモ其不動産ヲ放棄シテ其義務ヲ免ルルコトヲ得可シ但シ其者其不動産ヲ放棄スト雖トモ之ヲ糶売ト為スニ至ル迄ハ其義務ノ高ト其義務ニ付テノ費用ノ高トヲ払ヒ其不動産ヲ取戻スノ妨トナルコトナシ
第二千百七十四条 義務ヲ行フ可キ者ノ不動産ヲ所有ト為シタル者之ヲ放棄スルコトハ其不動産所在ノ地ヲ管轄スル裁判所ノ書記局ニ届ケ其裁判所ヨリ其放棄ヲ為シタル証書ヲ与フ可シ
其不動産ニ管係アル者ノ中最初ニ手続ヲ為ス者ノ求メニ従ヒ其放棄シタル不動産ノ「キュラトール」ヲ任ス可シ但シ其不動産ニ管係アル者ハ此篇第十九巻(不動産抵償及ヒ義務ヲ得ル順序)ノ規則ニ従ヒ其「キュラトール」ニ対シテ其不動産ノ売払ヲ求ム可シ
第二千百七十五条 義務ヲ行フ可キ者ノ不動産ヲ所有ト為シタル者ノ過失又ハ所為ニ因リ其不動産ヲ卑悪ニ至ラシメ「イポテーク」ノ権又ハ「プリウィレージ」ノ権アル義務ヲ得可キ者ノ損害ヲ生シタル時ハ其義務ヲ得可キ者ヨリ其不動産ヲ所有ト為シタル者ニ対シ其損害ノ償ヲ得ント訴フルコトヲ得可シ又其不動産ヲ所有ト為シタル者其不動産ヲ良好ニ為シタル時ハ之レニ因リ其不動産ノ価ノ増加シタル高ニ至ル迄其良好ニ為シタル費用ノ高ヲ取戻スコトヲ得可シ
第二千百七十六条 義務ヲ行フ可キ者ノ不動産ヲ所有ト為シタル者ハ其不動産ニ付キ「イポテーク」ノ権アル者ヨリ其義務ノ償又ハ其不動産ノ放棄ヲ要ムルノ書ヲ受取リタル後ニ非サレハ其不動産ヨリ得ル所ノ入額ヲ其権アル者ニ渡スニ及ハス若シ又其「イポテーク」ノ権アル者其不動産ヲ所有ト為シタル者ニ対シ一度訴訟ヲ為シタルヨリ三年ノ時間其訴訟ヲ止メ為サザル時ハ其不動産ヲ所有ト為シタル者更ニ其要メノ書ヲ受取リタル日ヨリ後ニ非サレハ其入額ヲ渡スニ及ハス
第二千百七十七条 義務ヲ行フ可キ者ノ不動産ヲ所有ト為シタル者之ヲ所有ト為ス前ニ其不動産ニ付キ土地ノ義務ヲ得可キノ権ヲ有シ又ハ其他ノ権ヲ有セシ時ハ後ニ其不動産ヲ放棄シ又ハ糶売ト為シタル上ニテ此等ノ権ヲ復ス可シ
其不動産ヲ所有ト為シタル者ノ一身ヨリ義務ヲ得可キ者ハ元来義務ヲ行フ可キ者ヨリ其義務ヲ得可キ者ニ次キ其放棄シ又ハ糶売ト為シタル不動産ニ付キ各其順序ニ従テ「イポテーク」ノ権ヲ行フ可シ
第二千百七十八条 義務ヲ行フ可キ者ノ不動産ヲ所有ト為シタル者「イポテーク」ノ義務ヲ行ヒ又ハ其不動産ヲ放棄シ又ハ其不動産所有ノ権ヲ奪ハレタル時ハ元来義務ヲ行フ可キ者ニ対シ其償ヲ得ルノ訴ヲ為スノ権アリ
第二千百七十九条 義務ヲ行フ可キ者ノ不動産ヲ所有ト為シタル者其価高ヲ払ヒ其不動産ニ付テノ義務ヲ滌除セント欲スル時ハ此巻ノ第八章ニ記シタル法式ニ循フ可シ
第七章 「プリウィレージ」ノ権及ヒ「イポテーク」ノ権ノ消散スル事
第二千百八十条 「プリウィレージ」ノ権及ヒ「イポテーク」ノ権ハ左ノ諸件ニ因リ消散ス可シ
第一 主タル義務ノ消散スル事
第二 義務ヲ得可キ者「イポテーク」ノ権ヲ放棄スル事
第三 義務ヲ行フ可キ者ノ不動産所有ノ権ヲ得タル者其不動産ニ付テノ「イポテーク」又ハ「プリウィレージ」ヲ滌除スル為メ定メタル法式ヲ行フタル事
第四 「プレスクリプション」
義務ヲ行フ可キ者己レノ所有スル不動産ニ付キ「イポテーク」又ハ「プリウィレージ」ノ権ノ「プレスクリプション」ヲ得可キ期限ハ此等ノ権ヲ生セシメタル主タル権利ニ付テノ「プレスクリプション」ノ期限ト同一ナリトス(第二千二百六十二条見合)
義務ヲ行フ可キ者ノ不動産ヲ所有ト為シタル者其不動産ニ付テノ「プリウィレージ」又ハ「イポテーク」ノ権ノ「プレスクリプション」ヲ得可キ期限ハ総テ不動産ノ占有者其不動産ニ付キ所有ノ権ヲ得可キ「プレスクリプション」ノ期限ト同一ナリトス又「プレスクリプション」ヲ得ルニ付キ証書アル場合ニ於テハ其証書ヲ「イポテーク」管轄者ノ簿冊ニ登記シタル日ヨリ以来其「プレスクリプション」ヲ得ルニ付テノ期日ヲ算フ可シ(第二千二百六十五条見合)義務ヲ得可キ者其「プリウィレージ」ノ権又ハ「イポテーク」ノ権ヲ官署ノ簿冊ニ記入シタルト雖トモ義務ヲ行フ可キ者又ハ其者ノ不動産所有ノ権ヲ得タル者ノ為メ法律上ニテ定メタル「プレスクリプション」ノ既ニ経過シタル時間ヲ除棄ス可カラス
第八章 「プリウィレージ」ノ権及ヒ「イポテーク」ノ権ヲ滌除スル方法
第二千百八十一条 義務ヲ行フ可キ者ノ不動産所有ノ権ヲ得タル者其不動産ニ付テノ「プリウィレージ」及ヒ「イポテーク」ノ権ヲ滌除セント欲スル時ハ先ツ不動産所有ノ権ヲ移ス契約書ノ全文ヲ其不動産所在ノ地ノ「イポテーク」管轄者ノ簿冊ニ登記セシムル手続ヲ為ス可シ
其登記ハ特ニ設ケタル簿冊ニ之ヲ為シ且其管轄者ヨリ其登記ヲ求メタル者ニ其登記ヲ為シタルノ証書ヲ渡ス可シ
第二千百八十二条 不動産所有ノ権ヲ移ス契約書ヲ「イポテーク」ノ簿冊ニ登記シタルノミニテハ其不動産ニ付テノ「イポテーク」及ヒ「プリウィレージ」ノ権ヲ滌除スルコトヲ得ス
売主ハ買主ニ其不動産所有ノ権及ヒ其不動産ニ管シタル其他ノ権ヲ移シタルノミニテ「プリウィレージ」及ヒ「イポテーク」ノ権ハ滌除スルコトナク其侭之ヲ移シタルモノトス
第二千百八十三条 義務ヲ行フ可キ者ノ不動産所有ノ権ヲ得タル者此巻ノ第六章ニ記シタル訴訟ノ管係ヲ免レント欲スル時ハ其訴訟ヲ受クル前又ハ最初ニ要メヲ受ケシ時(第二千百六十九条見合)ヨリ三十日内ニ「イポテーク」官署ノ簿冊ノ記入ニ付キ義務ヲ得可キ者ノ別段択ミタル住所ニ左ノ書類ヲ送達ス可シ
第一 不動産所有ノ権ヲ移ス証書ノ日附及ヒ其模様、売主又ハ贈遺者ノ姓名及ヒ其人ヲ知リ得可キ詳明ナル記載、買受ケ又ハ贈遺トシテ得タル不動産ノ種質及ヒ所在ノ地、又一団ヲ為シタル不動産ニ付テハ其不動産ノ名目及ヒ其所在ノ「アルロンヂスマン」ノ名、不動産ノ価高及ヒ其売買ニ付テノ費用高、又不動産ヲ評価シタル時ハ其評価ノ高(第二千百九十二条見合)ヲ記シタル其売買ノ証書ノ摘撮書
第二 不動産所有ノ権ヲ移ス証書ヲ官署ノ簿冊ニ登記シタル其登記ノ摘撮書
第三 三列ニ区分シタル表、但シ其第一列ニハ「イポテーク」ノ日附及ヒ之ヲ官署ノ簿冊ニ記入シタル日附第二列ニハ義務ヲ得可キ者ノ姓名、第三列ニハ官署ノ簿冊ニ記入シタル義務ノ高ヲ記ス可シ
第二千百八十四条 不動産ノ買主又ハ其贈遺ヲ受クル者ハ既ニ払ヒ期限ニ至リシト否トヲ問ハス其不動産ノ価高ニ至ル迄ハ総テ「イポテーク」ノ負債及ヒ費用ヲ直チニ払ハント為スコトヲ記シタル書面ヲ前条ニ記シタル書類ニ添ヘテ送ル可シ
第二千百八十五条 義務ヲ行フ可キ者ノ不動産ヲ得タル者定期ノ時間ニ前条ニ記シタル書類ヲ義務ヲ得可キ者ニ送達シタル時ハ其義務ヲ得可キ者ノ中ニテ官署ノ簿冊ニ「イポテーク」又ハ「プリウィレージ」ノ権ノ記入ヲ得タル者其不動産ヲ糶売ニ為スノ要メヲ為スコトヲ得可シ但シ其要メヲ為スニハ左ノ諸件ヲ必要トス
第一 其要メヲ為ス書面ハ不動産ヲ得タル者ヨリ第二千百八十三条ニ記セシ書類ノ送達ヲ得タル時ヨリ四十日内ニ之ヲ其者ニ送ル可シ但シ其要メヲ為ス者ノ別段択ミタル住所ト現在ノ住所トノ間五「ミリヤメートル」ノ距離毎ニ其四十日ノ期限ニ二日ヲ増ス可シ
第二 其要メヲ為ス書面ニハ不動産売買ノ契約書ニ記シタル価又ハ不動産ヲ得タル者ノ述フル所ノ価ヨリ更ニ十分一ヲ増ス可キコトヲ保証スル旨ヲ記ス可シ
第三 第一項ニ記スル期限内ニ其不動産ノ以前ノ所有者(元来義務ヲ行フ可キ者)ニモ亦同一ノ書面ヲ送ル可シ
第四 其要メヲ為ス書面ノ正本及ヒ副本ニハ其要メヲ為ス者又ハ証書ヲ以テ任シタル其名代人己レノ姓名ヲ手署ス可シ但シ名代人ヲ任シタル時ハ其名代人其任ヲ受ケタル証書ノ副本ヲ出ス可シ
第五 其要メヲ為ス者ハ価高ト費用トノ総高ニ充ル迄ノ保証ヲ立ント述フ可シ
此等ノ諸件ヲ為サザル時ハ其要メノ効ナカル可シ
第二千百八十六条 義務ヲ得可キ者前条ニ記シタル定期内ニ法式ニ従ヒ糶売フ為スコトヲ要メサル時ハ不動産ノ価ヲ其売買ノ契約書ニ記シタル価又ハ之ヲ得タル者ノ述ヘタル価ニ定ム可シ但シ其不動産ヲ得タル者ハ義務ヲ得可キ数人ノ中ニテ其価高ヲ受取ルコトヲ得可キ順序アル者ニ其価高ヲ払ヒ又ハ之ヲ官署ニ附託スルニ因リ「プリウィレージ」又ハ「イポテーク」ノ滌除ヲ得可シ
第二千百八十七条 其不動産ヲ糶売ニ為サントスル時ハ義務ヲ得可キ数人中ニテ其糶売ノ要メヲ為シタル者又ハ其不動産所有ノ権ヲ得タル者ノ求メニ従ヒ義務ヲ行フ可キ者ノ不動産ヲ売払フコトニ付テノ法式(訴訟法第八百三十六条以下見合)ヲ以テ之ヲ糶売ニ為ス可シ
其手続ヲ為ス者ハ売買ノ契約書ニ記シタル価又ハ其不動産ヲ得タル者ノ述ヘタル価ト其十分一ヲ増シタル価トヲ貼附書ニ記ス可シ
第二千百八十八条 糶売ニテ不動産ヲ買入ル者ハ其買入ノ価高ノ外其売買ノ契約ノ費用高「イポテーク」管轄者ノ簿冊ニ登記ヲ得タル費用高(第二千百八十一条見合)書類送達ノ費用高(第二千百八十三条見合)糶売ヲ為スニ付テノ費用高ヲ以前其不動産ヲ買入レタル者又ハ贈遺トシテ之ヲ得タル者ニ償フ可シ
第二千百八十九条 以前不動産ヲ買入レタル者又ハ贈遺トシテ之ヲ得タル者糶売ノ時自【ミヅ】カラ再ヒ之ヲ買入レタル時ハ其買入レヲ許ルス言渡書ヲ「イポテーク」官署ノ簿冊ニ登記セシムルニ及ハス
第二千百九十条 義務ヲ得可キ者ノ中糶売ヲ為スコトヲ要メタル者後ニ其糶買ヲ為スコトヲ自【ミヅ】カラ止メ其保証シタル金高ヲ払フタルト雖トモ其不動産ニ付キ「トイポテーク」ノ権ヲ有スル数人ノ明ナル承諾アルニ非サレハ其糶売ヲ止ム可カラス
第二千百九十一条 以前不動産ヲ買入レタル者其糶売ノ時自【ミヅ】カラ再ビ之ヲ買入レタル時ハ以前ノ売買ノ契約書ニ記シタル価ニ増シタル其価高並ニ其増高ヲ払フタル時ヨリ以来ノ其息銀ヲ以前ノ売主ヨリ受取ル可キノ権アリ
第二千百九十二条 以前不動産ヲ得タル者ノ有スル証書(買入ノ証書又ハ贈遺ノ証書)ニ動産ト不動産トヲ混合シテ記シタル時又ハ数箇ノ不動産ヲ記シ其中ニ「イポテーク」ト為シタルモノアリ或ハ「イポテーク」ト為サザルモノアリ又ハ「イポテーク」ト為シタル不動産ノ中ニ「イポテーク」官署ノ管轄地内ニアルモノアリ或ハ他ノ管轄地ニアルモノアリ又ハ「イポテーク」ト為シタル不動産ノ中ニ相合シタル価ニテ買入レタルモノアリ或ハ価ヲ分テ買入レタルモノアリ又ハ其不動産ノ中ニ同種ノ耕作ノ法ヲ用フルモノアリ或ハ其耕作ノ法ノ相異ナルモノアル時ハ其不動産ヲ得タル者此義務ノ「イポテーク」ト為シタル不動産ノ価ハ其証書(前ニ記セシ買入又ハ贈遺ノ証書)ニ記スル全価ノ中幾許彼義務ノ「イポテーク」ト為シタル不動産ハ其全価ノ中幾許タルヤヲ見積リ其積高ヲ義務ヲ得可キ者ニ送達スル書面(第千百八十三条ノ書面)ニ記入ス可シ
義務ヲ得可キ者ノ中不動産ヲ糶売ニ為サントスル者ハ動産並ニ自己ノ「イポテーク」ノ権ノ記入ヲ得タル官署ノ管轄内ニアラザル不動産ニ付キ元価ヨリ更ニ十分一ノ価ヲ増ス可キノ保証ヲ為スニ及ハス但シ嘗テ其不動産ヲ得タル者ハ其売主又ハ之ヲ贈遺ト為シタル者ニ対シ其数箇ノ物件ヲ分ツニ付テノ損失ノ償又ハ同一ノ耕作ノ法ヲ用ヒタル不動産ヲ分ツニ付テノ損失ノ償ヲ得ント要ムルコトヲ得可シ
第九章 夫又ハ後見人ノ不動産ニ付キ「イポテーク」ノ権ノ記入アラサル時其「イポテーク」ヲ滌除スル方法
第二千百九十三条 後見人其支配ノ事ニ付キ幼者ノ為メニ己レノ不動産ヲ「イポテーク」ト為スコトヲ官署ノ簿冊ニ記入シタルコトナク又ハ夫其婦ノ家資ヲ還与シ又ハ婚姻ノ契約ノ如ク執行フニ付キ婦ノ為メニ己レノ不動産ヲ「イポテーク」ト為スコトヲ記入シタルコトナキ時ハ其後見人又ハ夫ノ不動産ヲ買入レタル者其不動産ニ付テノ「イポテーク」ヲ滌除スルコトヲ得可シ
第二千百九十四条 其不動産ヲ買入レタル者ハ其滌除ヲ得ル為メニ其売買ノ契約書ノ校正シタル副本一通ヲ其不動産所在ノ地ノ民法裁判所ノ書記局ニ納メ且婦又ハ後見人ノ監察者並ニ其裁判所ノ「プロキュリウルアンペリアル」ニ書面ヲ送達シテ其売買ノ契約書ノ副本ヲ裁判所ノ書記局ニ納メシ旨ヲ証ス可シ○其契約ヲ為シタル日附、其契約ヲ為シタル者ノ姓名、職業、住所並ニ其不動産ノ種類及ヒ所在ノ地、其不動産ノ価及ヒ其売払ニ付テノ費用ヲ記シタル契約書ノ摘撮書ヲ二月間裁判所ノ訟庭ニ貼附シ置ク可シ○其二月ノ時間ハ婦、夫、後見人、其監察者、幼者、治産ノ禁ヲ受ケシ者及ヒ此等ノ者ノ親族朋友又ハ「プロキュリウルアンペリアル」ヨリ其売払フタル不動産ニ付テノ「イポテーク」ノ権ヲ「イポテーク」管轄者ノ簿冊ニ記入スルコトヲ要ムルヲ得可ク其記入ヲ為シタル時ハ婚姻ノ契約ヲ結ビシ日又ハ後見人ノ其職務ヲ行ヒ始メタル日ニ其「イポテーク」ノ権ノ記入ヲ為シタルト同一ノ効アリトス但シ此場合ニ於テ夫又ハ後見人其不動産ハ婚姻又ハ後見ノ職ニ付キ既ニ「イポテーク」ト為シタルコトヲ陳述スルコトナク他人ニ之ヲ「イポテーク」ト為シタル時ハ其夫又ハ後見人前ニ(第二千百三十六条以下見合)記シタル如ク訴訟ヲ受ク可シ
第二千百九十五条 契約書ノ摘撮書ヲ貼附シタルヨリ二月ノ時間ニ婦、幼者、治産ノ禁ヲ受ケシ者ノ為メ不動産ニ付テノ「イポテーク」ノ権ヲ官署ノ簿冊ニ記入スルコトナキ時ハ婦ノ嫁資ヲ還与シ及ヒ婚姻ノ契約ノ如ク執行フコト又ハ後見人ノ支配ノコトニ付テノ「イポテーク」ヲ滌除シテ其不動産所有ノ権ヲ全ク其買主ニ移ス可シ但シ婦、幼者、治産ノ禁ヲ受ケシ者ヨリ夫又ハ後見人ニ対シ訴ヲ為ス可キノ理アル時ハ之ヲ為スコトヲ得可シ
二月ノ時間ニ婦、幼者、治産ノ禁ヲ受ケシ者ノ為メ「イポテーク」ノ権ノ記入ヲ為シタルト雖トモ此等ノ者ノ権ヲ生シタル以前ニ義務ヲ得可キノ権ヲ得タル者アリテ其夫又ハ後見人ノ不動産ノ価ノ全部又ハ一部ヲ得可キ時ハ其不動産ノ買主其価ノ全部又ハ一部ヲ其義務ヲ得可キ者ニ払フタルニ因リ其不動産ノ全部又ハ一部ニ付テノ「イポテーク」ノ滌除ヲ得婦、幼者、治産ノ禁ヲ受ケシ者ノタメ為シタル「イポテーク」ノ権ノ記入ヲ全ク塗抹シ又ハ其一部ヲ塗抹ス可シ
又婦、幼者、治産ノ禁ヲ受ケシ者ノ為メ其「イポテーク」ノ権ノ記入ヲ為シ嘗テ其権ヲ生シタル順序他ノ義務ヲ得可キ者ノ権ヲ生シタルニ先チタル時ハ其夫又ハ後見人ノ不動産ノ買主ヨリ其価高ヲ他ノ義務ヲ得可キ者ニ払フテ其婦、幼者、治産ノ禁ヲ受ケシ者ノタメ為シタル「イポテーク」ノ権ノ害ヲ為ス可カラス但シ其「イポテーク」ノ権ノ記入ハ前条ニ記シタル如ク婚姻ノ契約ヲ結ヒタル日又ハ後見人ノ職務ヲ行ヒ始メタル日ニ之ヲ為シタルニ等シク看做ス可シ○此場合ニ於テハ他ノ義務ヲ得可キ者ノ「イポテーク」ノ記入中ニテ其義務ノ償ヲ得可キ順序外ノモノハ之ヲ塗抹ス可シ
第十章 「イポテーク」ノ官署ノ簿冊ヲ公ニスル事及ヒ「イポテーク」管轄者ノ担当ス可キ条件
第二千百九十六条 「イポテーク」ノ管轄者ハ其簿冊ニ登記シタル証書ノ写又ハ其簿冊ニ記入シタル「プリウィレージ」ノ権又ハ「イポテーク」ノ権ノ記入ノ写又ハ其記入ナキノ請合書ヲ得ント求ムルモノアル時ハ此等ノ書類ヲ渡ス可シ
第二千百九十七条 「イポテーク」ノ管轄者ハ左ノ二件ニ因リ生シタル損失ノ償ヲ担当ス可シ
第一 其簿冊ニ不動産所有ノ権ヲ移ス証書ヲ登記ス可キノ求メヲ受ケ又ハ「イポテーク」ノ権及ヒ「プリウィレージ」ノ権ノ記入ヲ為ス可キノ求メヲ受ケテ之ヲ怠リタル時
第二 其管轄者現ニ記入シタル一箇又ハ数箇ノ「プリウィレージ」ノ権又ハ「イポテーク」ノ権アルコトヲ忘レ此等ノ権ナキノ請合書ヲ渡シタル時
但シ嘗テ記入ヲ求メシ者ノ陳述スル所不十分ナルニ因リ管轄者ニ過失ヲ帰ス可カラサル時ハ格別ナリトス
第二千百九十八条 「イポテーク」ノ管轄者不動産ニ付テノ一箇又ハ数箇ノ「プリウィレージ」ノ権及ヒ「イポテーク」ノ権アルコトヲ忘レ此等ノ権ナキノ請合書ヲ渡シタル時其不動産所有ノ権ヲ得タル者其所有ヲ得タル証書ノ登記ヲ得タル後ニ其管轄者ヨリ同上ノ請合書ヲ得タルニ於テハ其不動産ニ付テノ「プリウィレージ」ノ権及ヒ「イポテーク」ノ権ヲ負フコトナク之ヲ所有スルコトヲ得其管轄者其過失ノ責ニ任ス可シ但シ其不動産ヲ得タル者未タ其価高ヲ払ハサル時間又ハ義務ヲ得可キ数人其間ニ定メタル順序ニ付キ裁判所ノ允許ヲ得サル時間ハ其義務ヲ得可キ数人相当ノ順序ヲ以テ其不動産ノ価高ヲ受取ルコトヲ得可シ
第二千百九十九条 「イポテーク」ノ管轄者ハ不動産所有ノ権ヲ移ス証書ヲ登記スルコト、「イポテーク」ノ権ヲ記入スルコト、「イポテーク」記入ノアラサル請合書ヲ渡スコトヲ拒ミ又ハ遅延ス可カラス若シ之ヲ拒ミ又ハ遅延スル時ハ其損失ヲ受ケタル者ニ償ヲ為ス可シ但シ其損失ヲ受ケタル者其償ヲ得ントスルニハ其旨ヲ願出シ最下等裁判所ノ裁判役又ハ下等裁判所ノ訟庭掛リノ門監又ハ其他ノ門監又ハ証人二員ノ立会ヲ得タル「ノテイル」直ニ其管轄者ノ咎ノ調書ヲ記ス可シ
第二千二百条 又「イポテーク」ノ管轄者ハ別ニ簿冊ヲ設ケ置キ不動産所有ノ権ヲ移ス証書又ハ「イポテーク」ノ権及ヒ「プリウィレージ」ノ権ノ記入ヲ得ル為メノ箇条書ヲ受取リタル事ヲ毎日番号ヲ附シテ其簿冊ニ書留メ且願出テタル者ニ其差出セシ証書又ハ箇条書ヲ受取リタル旨ヲ証スル書付ヲ渡ス可シ但シ其受取書ハ証印アル紙ニ記シ之ヲ書留メタル簿冊ノ番号ヲ附記ス可シ○其管轄者ハ不動産所有ノ権ヲ移ス証書又ハ「イポテーク」ノ権及ヒ「プリウィレージ」ノ権ノ記入ヲ得ル為メノ箇条書ヲ受取リタル順序ト日附トニ従ヒ此等ノ書類ヲ簿冊(此簿冊ハ登記又ハ記入ノ為メノ簿冊ヲ云)ニ登記シ又ハ記入ス可シ
第二千二百一条 「イポテーク」管轄者ノ簿冊ハ皆証印アル紙ヲ用ヒ且其官署ノ所在ノ地ヲ管轄スル下等裁判所ノ裁判役一人其簿冊ノ初葉ヨリ冊尾ニ至ル迄記号ヲ附シ且姓名ノ手署ニ代用スル横線ヲ画ス可シ○其簿冊ハ総テ証書類ヲ記録スル簿冊ノ如ク毎日之ヲ修整スヘシ
第二千二百二条 「イポテーク」ノ管轄者ハ其職務ヲ行フニ付キ此章ニ記スル所ノ規則ヲ循守ス可シ若シ此規則ニ背ク時ハ初犯ニ付テハ二百「フランク」ヨリ少カラス千「フランク」ヨリ多カラサル罰金ノ言渡ヲ受ケ再犯ニ付テハ其職ヲ退ケラル可シ又其管轄者ノ罪ニ因リ損失ヲ受クル者アル時ハ罰金ヨリ先キニ其者ヘノ償ヲ出ス可シ
第二千二百三条 「イポテーク」ノ管轄者不動産ノ証書類ヲ受取リタルコトヲ其簿冊ニ記シ又ハ「プリウィレージ」ノ権及ヒ「イポテーク」ノ権ヲ其簿冊ニ記入シ又ハ不動産所有ノ権ヲ移シタル契約書ヲ其簿冊ニ登記スルニハ空行剰白ナク之ヲ為ス可シ若シ其管轄者此規則ニ背ク時ハ千「フランク」ヨリ少カラス二千「フランク」ヨリ多カラサル罰金ノ言渡ヲ受ケ又其罪ニ因リ損失ヲ受ケタル者アル時ハ罰金ヨリ先キニ其者ヘノ償ヲ出ス可シ
第十九巻 義務ヲ得可キ者之ヲ行フ可キ者ノ不動産ヲ抵償トシテ奪フ事及ヒ義務ヲ得可キ者ノ順序〔千八百四年第三月十九日決定同月廿九日布告〕
第一章 義務ヲ得可キ者之ヲ行フ可キ者ノ不動産ヲ抵償トシテ奪フ事
第二千二百四条 義務ヲ得可キ者ハ左ノ諸件ヲ抵償トシテ奪フ可キコトヲ裁判所ニ訴出スルヲ得可シ
第一 義務ヲ行フ可キ者ノ所有スル不動産及ヒ其不動産ニ附帯シテ不動産ナリト看做ス可キ物
第二 不動産ニ付キ義務ヲ行フ可キ者ノ有スル入額所得ノ権
第二千二百五条 然トモ遺物相続人中ノ一人其相続ス可キ不動産ヲ他ノ相続人等ト共通シテ未タ之ヲ分タサル時ハ其相続人ノ一身ヨリ義務ヲ得可キ者他ノ相続人等ヲシテ其不動産ヲ分派セシメ又ハ糶売ト為サシメタル後ニ非サレハ其不動産ヲ抵償トシテ売払フコトヲ得ス又相続人等自カラ其分派又ハ糶売ヲ為サントスル時ハ其義務ヲ得可キ者第八百八十二条ニ循ヒ之ニ干渉シテ其分派又ハ糶売ヲ為シタル後ニ非サレハ其不動産ヲ抵償トシテ売払フコトヲ得ス
第二千二百六条 既ニ後見ヲ免レタルト否トヲ問ハス幼者ヨリ義務ヲ得可キ者又ハ治産ノ禁ヲ受ケシ者ヨリ義務ヲ得可キ者ハ先ツ其動産ヲ以テ其義務ノ償ヲ得ルニ充テ用ヒ猶其不足ナル上ニ非サレハ其不動産ヲ抵償トシテ売払フコトヲ得ス
第二千二百七条 丁年者ト幼者又ハ治産ノ禁ヲ受ケシ者ト連帯シテ義務ヲ負フタル時又ハ義務ヲ得可キ者其丁年者ニ対シテ既ニ其財産ヲ抵償ト為ス可キ訴ヲ為シ始メタル時又ハ其義務ヲ得可キ者治産ノ禁ヲ受ケシ者ノ未タ之ヲ受ケサル中ニ其財産ヲ抵償ト為ス可キ訴ヲ為シ始メタル時ハ其丁年者ト幼者又ハ治産ノ禁ヲ受ケシ者ト共通スル不動産ヲ抵償トシテ売払フ前ニ先ツ其動産ヲ以テ義務ノ償ニ充テ用フルコトヲ必要トセス
第二千二百八条 夫婦ノ共通スル不動産ヲ抵償トシテ奪フコトハ婦其夫ト共ニ義務ヲ負フタル時ト雖トモ其夫ノミニ対シテ之ヲ訴フ可シ
夫婦ノ共通セサル婦ノ不動産ヲ抵償トシテ奪フコトハ夫婦双方ニ対シテ訴ヲ為ス可シ但シ夫其婦ト共ニ裁判所ニ出ルコトヲ肯セス又ハ夫ノ幼年ナル時ハ其婦裁判所ニ出ツ可キノ允許ヲ受ク可シ
又夫婦共ニ幼年ナル時又ハ婦幼年ニシテ丁年ノ夫其婦ト共ニ裁判所ニ出ルコト肯セサル時ハ裁判所ヨリ其婦ノ為メ特ニ後見人ヲ任シ義務ヲ得可キ者其後見人ニ対シテ不動産ヲ抵償ト為スノ訴ヲ為ス可シ
第二千二百九条 凡ソ義務ヲ得可キ者ハ其「イポテーク」トシテ得タル不動産ノ不足ナル時ニ非サレハ「イポテーク」ト為ササル不動産ノ売払ヲ訴フルコトヲ得ス
第二千二百十条 数箇ノ下等裁判所ノ管轄内ニアル不動産ヲ抵償トシテ奪ヒ之ヲ売払フコトハ同時ニ之ヲ訴フ可カラス先ツ其事ヲ一ノ裁判所ニ訴ヘ次ニ他ノ裁判所ニ訴フ可シ但シ其不動産相連接シテ且其耕作ノ法同一ナル時ハ格別ナリトス
其不動産相連接シテ其耕作ノ法同一ナル時ハ其不動産中首タル家屋ノアル部分ヲ管轄スル裁判所ニ其訴ヲ為シ又首タル家屋ノアラサル時ハ地税ノ目録ニ従ヒ其入額ノ最モ多キ部分ヲ管轄スル裁判所ニ其訴ヲ為ス可シ
第二千二百十一条 「イポテーク」ト為シタル不動産ト「イポテーク」ト為ササル不動産ト同一ノ裁判所管轄内ニ在リテ相連接シ且其耕作ノ法同一ナル時又ハ此等ノ不動産相異ナリタル裁判所ノ管轄ニ属スルト雖トモ相連接シテ且其耕作ノ法同一ナル時ハ義務ヲ行フ可キ者ノ求メニ従ヒ此等ノ不動産ヲ同時ニ抵償トシテ売払フコトヲ義務ヲ得可キ者ヨリ訴フ可シ但シ此場合ニ於テハ糶売ト為シタル其全部ノ価中ニテ其各部ノ価ヲ秤ル可シ
第二千二百十二条 義務ヲ行フ可キ者其不動産ヨリ一年間得ル所ノ実利【シヨウミ】ノ入額ヲ以テ義務ノ母銀、息銀並ニ其費用ヲ償フニ足ル可キコトヲ其不動産賃貸ノ公正ノ証書ヲ以テ証シ且其一年間ノ入額ヲ義務ヲ得可キ者ニ委遺セントスルコトヲ述フル時ハ裁判役其不動産ヲ抵償トシテ奪フ可キノ訴ヲ止メシムルヲ得可シ但シ其後ニ至リ其入額ヲ以テ義務ヲ得ルニ充テ用フルノ妨ケヲ生シ又ハ故障ヲ述フル者アル時ハ再ヒ其不動産ヲ抵償トシテ奪フ可キノ訴ヲ為ス可シ
第二千二百十三条 義務ノ高定リタルモノニシテ且其義務ヲ行ハサル者ノ不動産ヲ以テ其償ニ充ツ可キ旨ヲ記シタル公正ノ証書アルニ非サレハ其不動産ヲ抵償トシテ売払フコトヲ訴フ可カラス○其義務ノ高定マラサル時ハ其不動産ヲ抵償トシテ売払フノ訴ハ其効アリト雖トモ其糶売ハ其高ヲ定メタル後ニ非サレハ為スコトヲ得ス
第二千二百十四条 義務ヲ行ハサル者ノ不動産ヲ以テ其償ニ充ツ可キ旨ヲ記シタル証書ヲ譲リ受ケタル者ハ其譲リ受ケノ旨ヲ義務ヲ行フ可キ者ニ報告シタル後ニ非サレハ其不動産ヲ抵償トシテ奪フコトヲ訴フ可カラス
第二千二百十五条 其訴訟ハ控訴ニ管セス仮リニ執行フ可キ仮リノ裁判言渡又ハ確定ノ裁判言渡ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得可シ然トモ不動産ノ糶売ハ終審ノ確定ノ裁判言渡又ハ控訴スルコトヲ得サル確定ノ裁判言渡ヲ得タル後ニ非サレハ之ヲ為ス可カラス
又義務ヲ行フ可キ者ノ抗伝シテ為シタル裁判言渡ノ時ハ其者ノ故障ヲ述フルコトヲ得可キ期限内ニ同上ノ訴訟ヲ為スコトヲ得ス
第二千二百十六条 其訴訟ハ義務ヲ得可キ者ノ当然得可キ義務ノ高ヨリ更ニ多キ高ニ付キ之ヲ為シタルコトヲ口実トシテ取消ス可カラス
第二千二百十七条 義務ヲ得可キ者ハ之ヲ行フ可キ者ノ不動産ヲ抵償トシテ奪フ可キノ訴訟ヲ為ス前ニ門監ヲシテ其義務ヲ行フ可キ者又ハ其住所ニ義務ヲ行フコトヲ求ムル要決ノ書ヲ送達セシム可シ
其要決ノ書ヲ記スル法式及ヒ其訴訟ノ法式ハ訴訟法ニ之ヲ定ム(訴訟法第六百七十三条以下見合)
第二章 義務ヲ得可キ者ノ順序及ヒ不動産価高ノ分派
第二千二百十八条 不動産ノ価高ヲ得ル順序及ヒ其分派並ニ之ヲ取扱フ方法ハ訴訟法ニ之ヲ定ム(訴訟法第六百五十六条以下第六百六十一条以下第七百四十九条以下第七百七十五条以下見合)
第二十巻 「プレスクリプション」ノ権〔千八百四年第三月十五日決定同月二十五日布告〕
第一章 総規則
第二千二百十九条 「プレスクリプション」ノ権トハ法律上ニテ特ニ定メタル規則ニ循ヒ定期ノ時間ノ経過スルニ因リ物件ノ所有ヲ得又ハ義務ヲ免ルル権ヲ云フ
第二千二百二十条 如何ナル人ト雖トモ預シメ「プレスクリプション」ノ権ヲ放棄スルコトヲ得ス然トモ既ニ得タル「プレスクリプション」ノ権ハ之ヲ放棄スルコトヲ得可シ
第二千二百二十一条 「プレスクリプション」ノ権ヲ放棄スルコトハ明許又ハ黙許ヲ以テ之ヲ為ス可シ但シ黙許ノ放棄ハ「プレスクリプション」ノ権ヲ放棄シタル可シト思料スルヲ得可キ景状ニ管スルモノトス
第二千二百二十二条 人ニ物ヲ売リ又ハ与フ可キノ権ナキ者ハ既ニ得タル「プレスクリプション」ノ権ヲ放棄スルコトヲ得ス
第二千二百二十三条 「プレスクリプション」ノ権ヲ得タル者明許又ハ黙許ヲ以テ其権ヲ放棄シタル時ハ裁判役其職務ヲ以テ其権ヲ復サシムルコトヲ得ス
第二千二百二十四条 下等裁判所ニ訴出シタルト上等裁判所ニ訴出シタルトヲ問ハス訴訟ヲ為ス時間何レノ時ニ於テモ「プレスクリプション」ノ権アルコトヲ申述フルコトヲ得可シ但シ「プレスクリプション」ノ権アルコトヲ述ヘサル者其時ノ模様ニ因リ其権ヲ放棄シタルト思料ス可キ時ハ格別ナリトス
第二千二百二十五条 義務ヲ行フ可キ者又ハ物件ヲ占有シタル者「プレスクリプション」ノ権ヲ放棄スルト雖トモ其者ヨリ義務ヲ得可キ者又ハ其他「プレスクリプション」ノ権ヲ得ルニ付キ管係アル者ヨリ其権アルコトヲ申述フルヲ得可シ
第二千二百二十六条 売買ヲ為ス可カラサル物件ニ付テハ「プレスクリプション」ノ権ヲ得可カラス
第二千二百二十七条 政府、「コムミユーン」、公ケノ建造物ハ平民ニ等シク人ヨリ己レニ「プレスクリプション」ヲ負ヒ又ハ己レヨリ人ニ之ヲ負ハシムルコトヲ得可シ
第二章 物件ヲ占有スル事
第二千二百二十八条 占有トハ自カラ物件ヲ有シ或ハ権利ヲ行ヒ又ハ名代人ヲシテ物件ヲ有セシメ或ハ権利ヲ行ハシメ其物件又ハ権利ヲ己レニ保ツヲ云フ
第二千二百二十九条 「プレスクリプション」ノ権ヲ得ルニハ所有者ノ名義ヲ以テ絶ヘス公ケニ妨ナク物件ヲ占有スルコトヲ必要トス
第二千二百三十条 初メヨリ他人ノ為メ物ヲ占有シタルノ証アラサル時ハ自カラ所有者ノ名義ヲ以テ占有シタルト看做ス可シ
第二千二百三十一条 初メヨリ他人ノ為メ占有シタル時ハ常ニ其名義ヲ以テ占有シタルト看做ス可シ但シ之ニ反シタル証アル時ハ格別ナリトス
第二千二百三十二条 人ヨリ宥恕ヲ得タルノミニテハ占有ノ権ヲ得可カラス又「プレスクリプション」ノ権ヲ得可カラス
第二千二百三十三条 暴行ヲ以テ占有シタル時ハ「プレスクリプション」ノ権ヲ得可キ占有ニ非ストス
其暴行ノ止ミシ時ヨリ後ニ非サレバ其当然ノ占有ヲ得タルモノトス可カラス
第二千二百三十四条 現在ノ占有者以前占有シタルノ証ヲ立ル時ハ其間ノ時ニ於テモ亦占有シタルト看做ス可シ但シ之ニ反シタル証アル時ハ格別ナリトス
第二千二百三十五条 人ヨリ財産ヲ得タル者ハ其全部ヲ得ルノ名義又ハ其一部ヲ得ルノ名義又ハ償ヲ出ササル名義又ハ償ヲ出ス可キノ名義ニテ之ヲ得タルヲ問ハス「プレスクリプション」ノ権ヲ得ルニ付キ其財産ヲ与ヘ又ハ譲リタル者ノ占有ノ期限ヲ自己ノ占有ノ期限ニ加フルコトヲ得可シ
第三章 「プレスクリプション」ノ権ヲ得ルコト能ハサル原由
第二千二百三十六条 他人ノ為メ占有スル者ハ幾許ノ期限ヲ経ルト雖トモ「プレスクリプション」ノ権ヲ得可カラス
故ニ人ヨリ土地ヲ賃借スル者、人ヨリ物件ノ附託ヲ受ケタル者、入額ノミヲ所得ト為ス者及ヒ其他所有ニ非サル名義ヲ以テ人ノ物件ヲ占有スル者ハ「プレスクリプション」ノ権ヲ得可カラス
第二千二百三十七条 又前条ニ記スル如ク所有ニ非サル名義ヲ以テ物件ヲ占有スル者ノ遺物相続人モ亦「プレスクリプション」ノ権ヲ得可カラス
第二千二百三十八条 然トモ前二条ニ記シタル者他人ノ所為ニ因リ又ハ自カラ所有者ノ権ヲ拒ムニ因リ物件ヲ有スル名義ノ更改シタル時ハ「プレスクリプション」ノ権ヲ得可シ
第二千二百三十九条 土地ヲ賃借スル者、物件ノ附託ヲ受クル者及ヒ其他所有ノ名義ニ非スシテ物件ヲ有スル者ヨリ所有ノ権ヲ移ス名義ニテ物件ヲ得タル者ハ「プレスクリプション」ノ権ヲ得可シ
第二千二百四十条 如何ナル人ト雖トモ物件ヲ有スルニ付テノ原由ト方法トヲ自カラ更改スルコトヲ得サルニ因リ証書ニ記シタル名義ニ反シテ「プレスクリプション」ノ権ヲ得可カラス(第二千二百三十一条見合)
第二千二百四十一条 然トモ定期ノ時間訴ヲ受ケサル時ハ人其負フタル義務ノ釈放ヲ得可キニ因リ其義務ノ証書ノ名義ニ反シテ「プレスクリプション」ノ権ヲ得可シ(第千二百三十四条見合)
第四章 「プレスクリプション」ノ権ヲ得可キ期限ノ既ニ経過シタル時間ヲ除棄スル原由及ヒ其期限ノ経過ヲ一時停止スル原由
第一款 「プレスクリプション」ノ権ヲ得可キ期限ノ既ニ経過シタル時間ヲ除棄スル原由
第二千二百四十二条 「プレスクリプション」ノ権ヲ得可キ期限ノ既ニ経過シタル時間ヲ自然ニ除棄スルコトアリ又ハ法律上ニテ除棄スルコトアリ
第二千二百四十三条 物件ノ占有者其所有者又ハ其他ノ者ノ為メ一年以上ノ時間其占有ノ権ヲ奪ハレタル時ハ自然ノ除棄ナリトス
第二千二百四十四条 「プレスクリプション」ノ権ヲ得ントスル者其占有スル財産ニ付キ裁判所ニ呼出ヲ受ケ又ハ義務ヲ行フ可キ要決ノ書ヲ受ケ又ハ義務ノ償トシテ其財産ヲ差押ヘラレタル時ハ法律上ノ除棄ナリトス
第二千二百四十五条 占有者勧解ノ為メ最下等裁判所ニ呼出ヲ受ケ其後法律上ニ定メタル期限内ニ下等裁判所ニ呼出ヲ受ケタル時ハ「プレスクリプション」ノ権ヲ得可キ期限ノ既ニ経過シタル時間ヲ其勧解ノ為メ呼出ノ日ヨリ除棄ス可シ
第二千二百四十六条 占有者裁判所ニ呼出ヲ受ケタル時ハ縦令其所轄ニ非サル裁判所ニ呼出サレタルト雖トモ「プレスクリプション」ノ権ヲ得可キ期限ノ既ニ経過シタル時間ヲ除棄ス可シ
第二千二百四十七条 裁判所ヘノ呼出状法式ニ背キタルニ因リ其効ナキ時
原告人自カラ其訴ヲ止メタル時
原告人其訴訟ヲ永キ時間(訴訟法第三百九十七条見合)其侭ニ捨テ置キタル時裁判所ニテ其訴ヲ取上ケサル時
此等ノ時ニ於テハ「プレスクリプション」ノ権ヲ得可キ期限ノ既ニ経過シタル時間ヲ除棄ス可カラス
第二千二百四十八条 義務ヲ行フ可キ者又ハ財産ノ占有者其義務ヲ得可キ者又ハ所有者ノ権ヲ認メタルニ因リ「プレスクリプション」ノ権ヲ得可キ期限ノ既ニ経過シタル時間ヲ除棄ス可シ
第二千二百四十九条 前数条ニ循ヒ連帯シテ義務ヲ行フ可キ者ノ中一人訴訟ヲ受ケタル時又ハ其一人義務ヲ得可キ者ノ権ヲ認メタル時ハ他ノ義務ヲ行フ可キ者又ハ其遺物相続人ノ「プレスクリプション」ノ権ヲ得可キ期限ノ既ニ経過シタル時間ヲ除棄ス可シ(第千二百六条見合)
連帯シテ義務ヲ行フ可キ者ノ遺物相続人ノ中一人訴訟ヲ受ケタル時又ハ其一人義務ヲ得可キ者ノ権ヲ認メタル時ハ縦令其義務ニ付キ不動産ヲ「イポテーク」ト為シタル時ト雖トモ他ノ遺物相続人ノ「プレスクリプション」ノ権ヲ得可キ期限ノ既ニ経過シタル時間ヲ除棄ス可カラス但シ其義務ノ分ツ可カラサルモノタル時ハ格別ナリトス
其遺物相続人中ノ一人訴訟ヲ受ケ又ハ義務ヲ得可キ者ノ権ヲ認メタル時ハ其一人ノ負フタル義務ノ部分ノミニ付キ「プレスクリプション」ノ権ヲ得可キ期限ノ既ニ経過シタル時間ヲ除棄ス可シ
其相続人ノ全員ニ付キ「プレスクリプション」ノ権ヲ得可キ期限ノ既ニ経過シタル時間ヲ除棄セントスルニハ其各相続人ニ対シ訴訟ヲ為スコト又ハ其各相続人義務ヲ得可キ者ノ権ヲ認ムルコトヲ必要トス
第二千二百五十条 義務ヲ得可キ者義務ヲ行フ可キ本人ニ対シテ訴訟ヲ為シタル時又ハ其本人義務ヲ得可キ者ノ権ヲ認メタル時ハ其保証人ノ「プレスクリプション」ノ権ヲ得可キ期限ノ既ニ経過シタル時間ヲ除棄ス可シ
第二款 「プレスクリプション」ノ権ヲ得可キ期限ノ経過ヲ一時停止スル原由
第二千二百五十一条 「プレスクリプション」ノ権ヲ得可キ期限ノ経過ハ別段法律上ニ定メタル所ノ外何レノ人ニ対スト雖トモ之ヲ停止スルコトナカル可シ
第二千二百五十二条 幼者及ヒ治産ノ禁ヲ受ケシ者ニ対シテハ「プレスクリプション」ノ権ヲ得可キ期限ノ経過ヲ停止ス可シ但シ第二千二百七十八条ニ記スル所及ヒ其他法律上ニ別段定メタル所ハ格別ナリトス
第二千二百五十三条 又夫婦ノ間ニ於テハ「プレスクリプション」ノ権ヲ得可キ期限ノ経過ヲ停止ス可シ
第二千二百五十四条 婚姻シタル婦ニ対シテハ其婦婚姻ノ契約書ニ因リ又ハ裁判言渡ニ因リ其夫ト財産ヲ分チタルト否トヲ問ハス夫ノ支配スル財産ニ付キ「プレスクリプション」ノ権ヲ得可キ期限ノ経過ヲ停止ス可カラス但シ此場合ニ於テハ婦ヨリ其夫ニ対シ償ヲ得ント訴フルノ権アリ
第二千二百五十五条 然トモ第千五百六十一条ニ循ヒ嫁資分括ノ法ヲ以テ支配スル婦ノ財産売払ニ付テハ夫婦タル時間其婦ニ対シ「プレスクリプション」ノ権ヲ得可キ期限ノ経過ヲ停止スヘシ
第二千二百五十六条 又左ノ場合ニ於テハ夫婦タル時間其婦ニ対シテ「プレスクリプション」ノ権ヲ得可キ期限ノ経過ヲ停止ス可シ
第一 婦其財産ノ共通ヲ解除シタル後其財産ヲ受クルヲ肯スルコト又ハ肯セサルコトヲ決シタル上ニ非サレハ自カラ訴訟ヲ為スコトヲ得サル場合
第二 夫其婦ノ承諾ナクシテ婦ニ属スル財産ヲ売払ヒ其売払フタル財産ニ付テノ保証ヲ為シタル場合(第千六百二十六条以下見合)其他婦ヨリ其夫ニ対シテ訴訟ヲ為スニ至ル可キ場合
第二千二百五十七条 左ノ諸件ニ付テハ「プレスクリプション」ノ権ヲ得可キ期限ノ経過ヲ停止ス可シ
第一 未必ノ条件ニ管スル義務ニ付テハ其未必ノ条件ノ現ニ生スル時ニ至ル迄(第千百八十一条以下見合)
第二 売払フタル物件ノ保証ニ管シテ為ス可キ訴訟ニ付テハ其買主他人ヨリ其物件ヲ奪ハルル時ニ至ル迄(第千六百二十六条以下見合)
第三 預定シタル期日ニ至リ得可キ義務ニ付テハ其日ニ至ル迄
第二千二百五十八条 遺物財産ノ価高ニ至ル迄ノ外負債ヲ償ハサルノ特権アル相続人ニ対シテハ其相続人其遺物財産中ヨリ得可キ義務ニ付キ「プレスクリプション」ノ権ヲ得可キ期限ノ経過ヲ停止ス可シ
遺物相続人ノ虧缺シタル遺物財産ニ対シテハ其「キュラトール」ヲ任シタルト否トヲ問ハス「プレスクリプション」ノ権ヲ得可キ期限ノ経過ヲ停止ス可カラス
第二千二百五十九条 遺物相続人目録ヲ記スル為メノ三月ノ期限並ニ熟思ヲ為スタメノ四十日ノ期限ノ間ト雖トモ他人「プレスクリプション」ノ権ヲ得可キ期限ノ経過ヲ停止ス可カラス
第五章 「プレスクリプション」ノ権ヲ得ルニ必要ナル期限
第一款 総規則
第二千二百六十条 「プレスクリプション」ノ権ヲ得可キ期限ハ日ヲ以テ算ス可ク時ヲ以テ算ス可カラス
第二千二百六十一条 期限ノ最終ノ日ノ終リシ時ニ至リ「プレスクリプション」ノ権ヲ得可シ
第二款 三十年間ノ「プレスクリプション」
第二千二百六十二条 人権及ヒ物権ニ付テノ訴訟ハ三十年ヲ以テ「プレスクリプション」ノ権ヲ得可キ期限トス但シ其「プレスクリプション」ノ権ヲ得ントスル者ハ嘗テ其物件ヲ得タル証書ヲ出スニ及ハス又其「プレスクリプション」ヲ妨ケントスル者ハ其「プレスクリプション」ノ権ヲ得ントスル者ノ嘗テ不正ニ其物件ヲ所得ト為シタルコトヲ述フルヲ得ス
第二千二百六十三条 年金ノ証書ノ日附ヨリ二十八年ノ後ニ至リ之ヲ受取ル可キ者又ハ其代権人更ニ其新ナル証書ヲ得ント要ムル時ハ之ヲ払フ可キ者自費ニテ其新ナル証書ヲ渡ササルヲ得ス
第二千二百六十四条 此巻ニ記スル所ヨリ更ニ他ノ条件ニ付テノ「プレスクリプション」ノ規則ハ各々其条件ニ管スル巻ニ之ヲ記ス
第三款 十年ト二十年トノ「プレスクリプション」
第二千二百六十五条 詐偽ナク正シキ証書ニ因リ不動産ヲ占有シタル者ハ其所有者不動産所在ノ地ノ上等裁判所ノ管轄内ニ住スル時ハ十年ヲ以テ「プレスクリプション」ノ権ヲ得又其所有者其管轄外ニ住スル時ハ二十年ヲ以テ「プレスクリプション」ノ権ヲ得可シ
第二千二百六十六条 前条ニ記シタル不動産ノ所有者其上等裁判所ノ管轄内ト管轄外トニ住シタル時ハ其管轄内ニ居住スル時間ノ十年ニ足ラサル年数ニ其管轄外ニ居住スル年数ノ中其不足ノ年数ヲ二倍シタル数ヲ加ヘテ其占有者「プレスクリプション」ノ権ヲ得可シ
第二千二百六十七条 法式ニ背キタルニ因リ効ナキ証書ハ十年ト二十年トノ「プレスクリプション」ノ権ヲ得可キ憑拠ト為ス可カラス
第二千二百六十八条 「プレスクリプション」ノ権ヲ得ル者ハ通常正シキ名義ヲ以テ之ヲ得タリト思料ス可シ故ニ其名義不正ナリト述フル者ハ別段其証ヲ立ツ可シ
第二千二百六十九条 「プレスクリプション」ノ権ヲ得ルニハ財産ヲ占有スル者之ヲ得タル時正シキ名義アルコトヲ以テ足レリトス
第二千二百七十条 建築者及ヒ請負人ハ十年ノ後ニ至リ其嘗テ建造シ又ハ指令シタル建造物ヲ保証スルノ義務ヲ免カル可シ(第千七百九十二条以下見合)
第四款 別段ノ「プレスクリプション」
第二千二百七十一条 学芸ノ授業師其毎月授ケタル業ノ謝金ヲ得ルニ付キ為ス可キ訴訟
旅舎及ヒ飲食店ノ主人其旅賃及ヒ飲食料ヲ得ルニ付キ為ス可キ訴訟
工丁、雇夫其給料、雇料ノ償ヲ得ルニ付キ為ス可キ訴訟
此等ノ訴訟ニ付テハ六月ヲ以テ「プレスクリプション」ノ権ヲ得可キ期限トス
第二千二百七十二条 内科外科ノ医師及ヒ製薬者其訪問、診察薬品ニ付キ償ヲ得可キ訴訟
門監証書類ヲ送達シ及ヒ裁判所ノ言渡ヲ執行フタルニ付キ其謝金ヲ得可キ訴訟
商人ヨリ商人ニ非サル者ニ売払フタル商品ノ代金ヲ得可キ訴訟
義塾ノ授業師其子弟ノ飲食料ノ代金ヲ得可キ訴訟及ヒ其他ノ授業師期限ヲ定メ業ヲ授ケタル子弟ノ飲食料ヲ得可キ訴訟
一年ヲ期トシテ雇フタル僕婢其給料ヲ得可キノ訴訟
此等ノ訴訟ニ付テハ一年ヲ以テ「プレスクリプション」ノ権ヲ得可キ期限トス
第二千二百七十三条 訴訟ノ代書師其費用ト謝金トヲ得可キ訴ニ付テハ訴訟ノ裁判言渡ノ日又ハ原告被告双方ノ者和解ヲ為シタル日又ハ其代書師ヲ易ヘタル日ヨリ二年ヲ以テ「プレスクリプション」ノ権ヲ得可キ期限トス○又其訴訟ノ未タ終ラサル時ハ其代書師ノ費用ト謝金トヲ得可キ訴ニ付キ「プレスクリプション」ノ権ヲ得可キ期限ヲ五年ナリトス
第二千二百七十四条 前数条ノ場合ニ於テ絶ヘス飲食料ヲ給シ商品ヲ売リ使用ヲ受ケ造営工作ヲ為シタルト雖トモ「プレスクリプション」ノ権ヲ得ントスル者之ヲ得ルニ付テノ妨トナルコトナカル可シ
然トモ義務ヲ認ムル算計書又ハ義務ヲ行フ可キ証書或ハ公正ノ証書アル時又ハ訴訟ヲ受ケタル時ハ「プレスクリプション」ノ権ヲ得可キ期限ノ経過ヲ除棄ス可シ
第二千二百七十五条 此一款ニ記スル「プレスクリプション」ヲ負フタル者ハ其「プレスクリプション」ノ権ヲ得ントスル者現ニ代金、雇料、謝金ノ償ヲ為シタルヤ否ヲ知ルコトノ為メ其者ニ対シ誓ヲ求ムルコトヲ得可シ
又「プレスクリプション」ヲ負フタル者ハ其権ヲ得ントスル者ノ寡婦及ヒ遺物相続人又其相続人ノ幼年ナル時ハ其後見人ヲシテ既ニ代金、雇料、謝金ヲ払フタリト思ヘル旨ヲ述ヘシムル為メ此等ノ者ニ対シ誓ヲ求ムルコトヲ得可シ
第二千二百七十六条 裁判役及ヒ代書師ハ訴訟ノ裁判言渡ヨリ五年ノ後ニ至リ其管守スル証書類ヲ出ス可キノ義務ヲ免カル可シ
又門監ハ裁判所ノ言渡書ヲ執行ヒ又ハ預カリタル証書類ヲ送達シタル時ヨリ二年ノ後ニ至リ此等ノ書類ヲ出ス可キノ義務ヲ免カル可シ
第二千二百七十七条 無期ノ金及ヒ畢生間ノ年金
養料トシテ定期毎ニ払フ可キ金高
家屋及ヒ土地ノ貸賃
貸金ノ息銀及ヒ其他総テ一年毎ニ払ヒ又ハ更ニ短キ期限毎ニ払フ可キ高
此等ノ諸件ニ付テハ五年ヲ以テ「プレスクリプション」ノ権ヲ得可キ期限トス
第二千二百七十八条 此一款ノ数条ニ記シタル「プレスクリプション」ニ付テハ幼者及ヒ治産ノ禁ヲ受ケシ者ニ対スルト雖トモ其期限ノ経過ヲ停止スルコトナカル可シ但シ此等ノ者ハ其後見人ニ対シテ訴ヲ為スコトヲ得可シ
第二千二百七十九条 動産ニ付テハ現ニ之ヲ有スルヲ以テ其所有ノ権アリト看做ス可シ然トモ動産ヲ見失ヒ又ハ之ヲ盗取セラレシ者ハ之ヲ有スル者ニ対シ其日ヨリ三年ノ時間其取戻ヲ求ムルコトヲ得可シ但シ之ヲ有スル者ハ之ヲ己レニ渡シタル者ニ対シ其償ヲ得可キ訴ヲ為スコトヲ得可シ
第二千二百八十条 贓物又ハ失物ヲ現ニ有スル者市場又ハ耀売ニテ之ヲ買ヒ又ハ其品物ト同種類ノ物ヲ売ル商人ヨリ之ヲ買フタル時ハ其元来ノ所有者現在之ヲ有スル者ニ其買入レ代金ヲ償ハスシテ己レニ取戻スコトヲ得ス
第二千二百八十一条 此巻ヲ布告スル時既ニ妙マリシ「プレスクリプション」ハ以前ノ法律ニ循フ可シ
又此布告ノ時既ニ始マリシ「プレスクリプション」ト雖トモ以前ノ法律ニテ其権ヲ得ル為メ猶更ニ三十年以上ノ時間ヲ経ルコトヲ要スルモノハ其布告ヨリ後三十年ノ期限ヲ以テ其権ヲ得可キモノトス