ボワソナードプロジェ（明治23年）

再閲民法草案 財産編

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備考

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註解
第四百九十五條（五百十）權利者辮濟ヲ受ルコトヲ拒絶スルノ場合ヲ想像スルハ敢テ不眞ナル事ニ非ス即チ其最モ簡易ニシテ又最モ往々アル場合ハ權利者カ義務者ヨリ供スル辮濟ハ其拂フ可キ総体ノモノヲ含蓄セスト善意ヲ以テ主張スル場合是レナリ又權利者カ慥カナル若クハ自己ニ大利ヲ得セルムル預ケ口ヲ遷延スルコトヲ選擇シ又ハ當時權利者カ其物ヲ受取リテ之レカ占有ノ危險ヲ自身ニ負担スルコトヲ欲セサルコトモ之レアルヲ得可シ斯ノ如キ主張ハ適正ナルモノニ非ザルガ故ニ前ノ主張ヲ口實トシテ往々之ヲ隠蔽スルコトアル可シ
又義務者モ之レト全ク翻轉ノ理由ニ依リ釈放ヲ得ント欲スルコトモ有ル可シ又時トシテハ義務者釈放ヲ欲スルニ於テ一層重大ノ利益ヲ有スルコトアル可シ即チ既得權ノ失権若クハ契約ノ解除過代ノ條約又ハ損害賠償ヲ避ケンガ為メニ義務ノ釈放ヲ得ントスルコト是ナリ
斯ノ如ク辯濟ニ關スル不調ノ場合ニ於テ双方ノ中一方ノ者ガ他ノ一方ノ者ノ自儘ニ制セラレザランコトヲ適當ノコトトス
若シ斯ノ如キ紛議ノ場合ニ於テ通常ノ法式ニ依リ裁判所ヲシテ之レヲ判決セシムルヲ要ストセバ其双方ノ者及ヒ結局勝訴トナル可キ者ニモ損害ト為ル可キ時日ノ遷延ヲ生ス可シ
是ヲ以テ法律ハ急速ニシテ且ツ多費ヲ要セサル訴庭外ノ訴訟手續ヲ制定シタリ而シテ其手續上ニ付キ各一方ノ者ニ於テ
若シ各自其主張ヲ固執スル時ハ後日裁判所ハ之レガ審判ヲ為スヲ得可シ
此手續ハ甚タ區別アルニ箇所ノ所為ヲ以テ組成ス即チ提供及ヒ寄託是レナリ
法律ハ注意ヲ以テ各々此所為ノ差別アル効力ヲ指示シタリ即チ三箇ノ正條ハ提供ノコトヲ記載シ又ニ箇ノ正條ハ寄託ノコトヲ記載セリ
我草案ハ數多ノ點ニ付キ仏蘭西法典ト異ナル所アリ殊更提供ト寄託ノ充分煩雑ナル法式ヲ省キ以テ之レヲ訟庭外ノ訴訟手続ニ譲リ且ツ仏蘭西ニ於テ疑團ヲ生スル所ノ許多ノ問題ヲ裁定セリ
附言
玆ニ伊太利亜法典ヲ脱漏セリ蓋シ伊太利亜法典ハ仏蘭西法典（第千二百五十九條乃至第千二百六十六條）ニ毫モ修正ヲ加ヘズシテ殆ント其文面通リテ再出シタルモノナレバナリ
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第四百九十六條（五百十一）法律ハ本條ニ於テ目的物即チ負担シタル物ニ就キ義務ヲ四種ニ分別セリ其物トハ即チ金額、確定部（區別アリ）代用物即チ量定物及ヒ充タス可キノ所為是ナリ
第一項　金額ノ負債ニ關スルトキハ法律ハ義務者カ負債ヲ辯濟スルコトニ準備シタリト明言スルノミニテハ満足セズ尚義務者ヨリ貨幣ヲ權利者ニ提出スルトキヲ欲シタリ是即チ提供ニ實物（羅句語ニテ之ヲ[de res]ト言フ即チ物ノ義ナリ）ヲ附興スルニ至レル所以ニシテ蓋シ物品自カラノ提供アルヲ以テナリ
此場合ニ於テハ彼ノ格段合意ノアラサルトキハ義務者ノ住所ニ於テ辯濟ヲ為シ得ル所ノ通常ノ規則ニ變則アルトキヲ注目ス可シ故ニ若シ義務者辯濟ヲ以テ自己ノ義務ヲ免レント欲シ此事ヲ適法ニ權利者ニ告知スト雖モ權利者ニ於テ立会ヲ為ササレハ義務者ハ權利者ノ住所若シクハ本人ニ貨幣ヲ運ハシムルノ労ヲ取ルヲ要ス但シ之レカ為メニ要スル所ノ費用ヲ權利者ヨリ返還セシムルコトヲ得ルハ此限ニ在ラス
法律ハ權利者ノ受諾スルノ幸運ヲ増サンカ為メ乃テ貨幣ノ提出ヲ希望スルノノトス其故何ントナルニ法律ハ常ニ負債ノ消滅ヲ希望スルト又論争ヲ終ヘンガ為メニハ僅カニ請取證ヲ附興スルノミニシテ權利者ノ悪意若クハ其過度ノ要求ヲ幾分カ減少ス可キコトヲ知ラサルニ非サレハナリ
第二項　負担シタル物カ各箇ニ定マリタルモノ即チ確定物ニシテ其引渡ハ當時其物ノ存在スル場所例ヘハ合意ヲ為シタル場所若クハ此合意ニ従ヒ既ニ義務者ヨリ物品ヲ運送セシ一箇ノ他ノ場所ニ於テス可キコトヲ云フ此場合ニ於テハ義務者此場所ニテ引渡シテ為スコトニ準備シタル旨ヲ明言スルノミニシテ提供ハ成立スルモノトス故ニ義務者ニ於テハ其物品ヲ權利者ノ住所ニ持テ運ハシメ之ヲ示スヲ要セス然ルニ若シ之ヲ必要ナリトセハ權利者ヨリ損害賠償ヲ受ルト雖トモ重大ナル不都合困難ヲ生シテ大ニ義務者ノ地位ヲ悪シクスルモノト云フ可シ
第三項　玆ニハ又確定物ニ關スルト雖トモ權利者ノ住所又ハ其他未タ確定物ノ存在セサル一箇ノ場所ニテ之ヲ引渡ス可キ場合ニ關セリ
此場合ニ於テハ義務者單純ニ此場所ニ運送スルヲ以テ原則トス然レトモ義務者ハ既ニ權利者ノ之ヲ受取ヲ欲セサルトキヲ（多分權利者ハ目的物カ義務者ノ過失ニ依リ毀損セラレタリト主張スルカ故ニ）知了スルヲ以テ提供ノ為メニ物品ヲ運送シ而シテ權利者ノ之ヲ拒絶シタル場合ニハ再ヒ之ヲ持チ帰ルノ徒労ヲ為スニ至ルトキハ義務者ノ為メニ廔々大ナル弊害アル可シ
故ニ法律上義務者ニ許スニ其提供ヲ為スニ就キ其約シタル場所ニテ唯物品ヲ引渡スノ準備ヲナシタリトノ明言ヲ為サシムルニ在リ
斯ノ如キ保護ハ仏蘭西法典ニ存セサルモノニシテ我草案ニ於テモ其運送カ「多費ヲ要シ困難且ツ危險」ナルニ非サレハ義務者ニ許容セサル者トス故ニ義務者ニ於テモ此運送ヲ為スヲ適宜ナリトスルカ将タ然ラザルカヲ査定スルハ自己ノ責任ニ在ルナリ若シ義務者ヨリ運送ヲ為サス而シテ權利者ハ義務者ノ提供ヲ拒絶シナカラ物品ハ重大ナル弊害ナクシテ運送シ得タルコトヲ証明スルトキハ義務者ハ提供ノ費用ヲ負担セラルヘカラズ
第四項　仏蘭西法典ハ義務カ量定物タル場合ヲ預定セス是ヲ以テ提供ハ常ニ物件ノ提出ヲ要スルヤ否ヲ知ルノ點ニ就キ法律学者ノ意見ニモ裁判所ノ意見ニモ不調ヲ生スルニ至レリ
草案ハ此事ニ関シテハ量定物ヲ確定物ニ同視シ以テ實物ノ提出ヲ要スル問題ヲ否定ス即チ辯濟ヲ權利者ノ住所若クハ物件ノ現ニ存在スル場所ヨリ他ノ場所ニ於テ為スヘキトキニシテ且ツ運送ヲナスニ付キ重大ノ不都合無キニ非サレハ物件ヲ提出スルヲ要セスト決定セリ
第五項　尚又仏蘭西法典ハ事業ヲ執行スルノ義務ノ如キ即チ「為スノ義務」ヲ預定セス何トナレハ斯々ル場合ニ於テハ實物ノ提出ノ問題ノ提出シ得サルコト明瞭ナレハナリ
他又玆ニハ一箇ノ區別ヲ為スヲ必要トス若シ事業ニ權利者ノ参堂即チ其立会ヲ要セサルトキハ義務者ノ方ヨリ執行スルヲ要トス而シテ權利者ニ於テ義務者ノ為サント欲スル執行ニ異ナル執行又ハ契約ノ取消ヲ主張スルトキニ非サレハ義務者ヨリ權利者ニ対シテ執行ニ於ケル提供ヲ為スヲ要セス若シ之ニ反シテ事業ノ執行カ權利者ノ眞影ヲ寫シ寸尺ヲ測リテ衣服ヲ製シ或ハ權利者ノ住所内ニ於テ其監督ヲ受ケテ執行ス可キ事業ノ如キ乃チ權利者ノ参同ヲ要スルモノナルトキハ義務者ハ權利者ノ拒絶スル場合ニハ其事業ヲ為スヲ準備スト明言シ以テ權利者ニ対シ其事業ニ参同ス可キ旨ノ催促ヲ為ス可シ
玆ニハ「為サザル」ノ義務ニ關スル執行ノ提供ノ問題起ルコトナシ蓋シ此義務ニ關シテハ義務者ガ自カラ執行ヲ止ムルヲ以テ足レリトス
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第四百九十七條（五百十ニ）仏蘭西法典ハ提供ノ條件及ヒ其法式ニ就テハ細密ニ説明論究セサルベカラズト信シタリ（第千二百五十八條）
然ルニ此等ノ條件ハ既ニ曩二説明シタル辯濟ノ有効二就キ掲ケタル條件二外ナラス而シテ此等ノ條件ヲ提供二要ス可キハ當然ナリ何トナレハ「寄託ヨリ服従セララル提供ハ義務者ヲ釈放スレハナリ」（第千二百五十七條第二項）是チ以テ再ヒ此等ノ條件ヲ掲クルハ無益ナリ可キヲ以テ唯々草案ハ提供ノ為メニハ辯濟二付キ緊要トセル條件ヲ希望ス可シト云フ而己
又提供ノ外部ノ法式二就テハ訴庭外ノ手續キ二屬スルモノナレハ仏蘭西民法モ全ク之レヲ記載セス蓋シ是レ民事ノ訴訟法二於テ完全ナラシム可キモノナレハナリ（仏蘭西訴訟法第八十ニ條乃至第八百十八條）
我草案モ全ク此等ノ洋式ヲ訴訟法二譲レリ
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第四百九十八條（五百十三）本條ハ提供ノ効力ヲ規定ス
玆ニ吾人ハ基本上ト法式上ト二於テ提供ヲ「有効」ナルモノト想像スルノミナラス猶又「有益ノ時間ニナシタルモノ」ト想像セリ但シ有益ノ時間ニ為ストキハ提供ノ有効タルトキノ條件二非スト雖トモ亦義務者ノ為メニ其効力ヲ一層有益二ナスモノトス
此場合二於テ其提供ハ執行ノ遅滞ナルヨリシテ義務者二生ス可キ悪結果ヲ此者ノ為メニ防止ス
故二例ヘハ売主可定期内二代債ヲ返シテ買戻シノ機能ヲ貯存シ若クハ賃借人可幾時間前二賃借延期ノ旨ヲ告知シ且ツ其ノ将来ノ時間ノ借リ賃ヲ拂ハハ以テ賃借契約ヲ更新スルノ權利ヲ貯存シタル時二若シ其買戻シ若シクハ再賃借（賃借継続）ノ為メニ拂フ可キ金額ヲ出サスシテ定期ヲ経過セシムルトキハ其売主若クハ其借主ハ當然且ツ權利者ノ催促ナク直チニ失権ヲ受クルニ至ル可シ然ルニ「有益ノ時間」即チ定期ノ経過スル前ニ為シタル提供ハ該失権ヲ防止シテ義務者ヲ保護ス可シ
又義務者カ條件ヲ履行セサルニ就キ解除ヲ為ス可キノ約束ニ関シテモ亦之レニ同シ而シテ假令ヒ其解除ハ當然行ハルヘカラサルモノコシテ乃チ裁判所ニ之ヲ訴求シ以テ之レカ言渡ヲ受ルヲ要スル場合ニ義務者ノ居ルトキト雖トモ唯其訴訟中ニ義務者執行ノ準備ヲ為セリト明言スルノミニテハ未タ以テ充分ナリトセス尚提供ノ特別ナル法式ヲ遵守シ以テ前述ノ區別ニ依リ貨幣又ハ負担シタル物件ヲ提出セザルヘカラス而シテ若シ義務者ニ於テ裁判ニ依リ解除ヲ言渡サルルニ前該提供ヲ為シタルトキハ其解除ノ事止息ス可シ
終ワリニ義務者ハ其有益ノ時間ニ提供ヲ為ストキハ之レカ為メ遅滞ノ損害賠償トシテ約權セラレタル過代ノ條約ヲ免カル可シ
（五百十四）有効ナル提供ハ尚又權利者カ有効ニ義務者ヲ執行ノ遅滞ニ附スルコトヲ妨止ス然ルニ此有効ナル提供アルニ拘ラス權利者ヨリ義務者ヲ遅滞ニ附シタルトキハ其所為ハ義務者ニ対シテ効力無キモノトス
若シ又提供ノ前ニ附遅滞ノアリタルトキハ提供ハ其効力ヲ妨止シ即チ通用語ニ従ヒ之ヲ云ヘハ「提供ハ附遅延ヲ洗滌ス可シ」ト是ナリ
其結果タルヤ負担シタル物カ最早義務者ノ危險ニ在ラスシテ乃チ義務者ハ以来損害賠償ヲ負担スルコトニ及バズ又遅滞利息ヲ拂フノ責メアルコトナシ
此最後ノ論決ハ仏蘭西ニ於テハ第千二百五十九條第ニ項ヲ引證シテ争論スル者アリ何トナレハ該條ハ遅滞ノ利息ト代償利息トヲ區別セスシテ寄託ハ其「之レヲ為ス日迄ノ利息」ヲ含蓄スルヲ欲スルヲ以テナリ
然レトモ假令法文ニ其區別ヲ為サスト雖トモ道理上ニ於テハ此區別ヲ為スヲ命スルモノニシテ又假令仏蘭西法律ノ精神ニ之レ無キモ我草案ニ此區別ヲ記入スルヲ以テ適當ノコトトス
其故何トナレハ既ニ其有効ノ提供ヲ為ス所ノ義務者ハ決シテ延引シタル者ニ非サル以上ハ其延引ノ過代タル遅滞利息ヲ負担スル者ナリトスルハ是レ認許シ難キコトナレハナリ
或ハ又義務者ノ未タ貨幣ヲ寄託セサル間ハ義務者ハ之ヲ使用、収益シ以テ利弊ヲ獲ルモノナルカ故ニ乃チ利息拂ハサルヘカラスト駁議スル者アルモ是レ徒論ト云フ可シ何トナレハ斯ノ如キ論者ハ夫ノ遅滞ノ利息ハ代償利息ト異ナリテ即チ一箇ノ罰則ニシテ利潤ノ報償ニ非サルコトヲ遺忘シタルモノナレハナリ
又權利者ハ其提供ヲ受託シ以テ義務者ヲシテ此利潤ヲ獲ルヲ止メシメテ自己ノ為メニ之レヲ獲ルハ常ニ權利者ノ意思即チ其權内ニ在ルナリ
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第四百九十九條（五百十五）法律ハ權利者カ提供ヲ受諾セサルコトヲ想像セリ此場合ニ於テハ義務者ハ未タ其義務ヲ免カレタルニ非ス故ニ之レヲ免カルルカ為メニハ其負債シタル物件ヲ寄託シ即チ其物件カ權利者ノ處分内ニ在ル可キ状況ニテ之ヲ手放シスルコトヲ要スルナリ
手放ノ法方ハ其負担シタル物ノ性質ニ従ヒ変更ス金銭ノ負債ニ關スルトキハ義務者ハ寄託ノ為メニ設ケアル特別ノ公ケノ金庫ニ貨幣ヲ納ルヲ要ス是即チ謂ユル眞ノ「寄託」ナルモノトス
若シ負債カ代償、法律上又ハ合意上ノ利息ヲ生スルモノナレハ寄託ノ日迄ニ拂フ可キ期限ノ到着セシ総テノ利息ヲ元金ニ合セテ寄託セサル可カラス
若シ負債カ確定物又ハ量定即チ代用物ナルトキハ此等ノ物ノ寄託ヲ受ル目的ニテ特別ニ組織シタル公ケノ役所ハ亳モ之レ無キヲ以テ金額ノ負債ニ於ケルカ如ク寄託ヲ為スコトヲ得ス然レトモ義務者ニ於テハ其負担シタル物件ヲ附託ス可キ場所ノ確定ヲ裁判所ニ要求スルコトヲ得然ルトキハ裁判所ハ其物件ノ看守及ヒ保存ニ容易ナル場所及ヒ便益ヲ備ヘタル余リ遠隔セサル公ケ若クハ私ノ事務所ヲ指示スルヲ得可シ例ヘハ開港場ニ在ル税関ノ如キ是ナリ
又裁判所ノ義務者ニ対シ本人固有ノ土地若クハ倉庫ニ其物件ヲ保存スルコトヲ許可スルヲ得ヘシ
「裁判上ノ預リ人又ハ看守人ト称スル者ハ即チ訴訟ニ係ル物件保存セシムル為メ裁判所ヨリ命スル人ヲ云フナリ（仏蘭西民法第千九百六十一條）
総テ寄託又ハ之ニ代フル處分モ亦夫ノ提供ノ如ク其特別ナル法式ヲ有スルモノコシテ即チ仏蘭西法典ニハ第千二百六十條ニ之ヲ指示セリ日本草案ハ之ヲ訴訟法ニ貯存セリ
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第五百條（五百十六）今ヤ法律ハ寄託ノ効力ヲ確定スルノ一事ヲ有スル而己
法律ハ義務者ヲ釈放シ而シテ其釈放ハ義務者ノ共同義務者及ヒ其保証人ヲ利益ス可シ又義務者ニ於テ動産質又ハ書入質ヲ為シタルトキハ其財産ハ此等ノ抵保ヲ免カル可シ
蓋シ法律ハ総テ釈放ヨリ生スル此等通常ノ結果ヲ掲クルヲ必要ナリト信セサルモ其中疑團ヲ懐カシムルコトアル可キ一箇ハ之ヲ掲示セリ即チ「寄託シタル物ハ權利者ノ危險ニ附セラル、コト」是ナリ
然レトモ斯ノ如キ効力ハ既ニ提供ニ依リ生シタルモノナルカ故ニ寄託ハ此點ニ就テ亳モ此効力ニ増加スル所無キカ如ク見ユルナリ然レトモ提供ハ義務者ノ為メニ遅滞ヨリ生スル危險ニ就テノミ其任ヲ免レシムルニ過キスシテ義務者ノ方ノ総テノ過失若クハ遅滞ノ有無ニ拘ハラス合意ニ依リ義務者ノ負担スル危險ニ付テハ提供ヲ以テ該危險ノ負任ヲ解クモノニ非ス
然ルニ寄託ハ此等最後ノ危險ニ就テモ亦義務者ヲ免カレシムルモノナリ
仏蘭西法典第千二百五十七條第二項モ亦右同一ノ意義ヲ以テ之ヲ會得スルヲ要ス可シ即チ同法典ハ義務者ノ提供ニ就テハ其危險ノ責ヲ免カレシメサルモ寄託ニ就テハ之ヲ免カレシメタルナリ
（五百十七）寄託ヨリ生スル釈放ハ假令ヒ完全ノモノタリト雖モ敢テ廃棄ス可カラサルモノニ非ス是ヲ以テ權利者ニ於テ明瞭ト暗黙トヲ問ハス其寄託物ヲ引取リ以テ為ス可キ所ノ承諾ヲ為ササリシ間ハ義務者ハ其既ニ履行セシ手続ニ戻リ而シテ再ヒ其附託セシ物ヲ取返スコトヲ得ヘシ
然ルトキハ釈放ハ解除セラレテ未タ會テ存在セサリシモノト見做サレ即チ本條ニ述フル如ク釈放ハ「無効ト見做サルル」是ナリ而シテ其結果ハ共同義務者及ヒ保証人ヲシテ再ヒ其義務ヲ負担セシメ又不動産質及ヒ書入質モ亦權利者ノ為メニ再生スルモノトス
権利者ノ承諾ハ義務者ノ欲スル所ニ隋ヒ負債ヲ全ク再生セシムルコトニ妨害ヲ為スモノトス
義務者ニ於テ自己ノ為シタル提供及ヒ寄託ヲ「善良且ツ有効ナリ」ト明言スル裁判言渡ヲ受得シタルトキハ前項ト同一ノ妨害ハ此裁判言渡ヨリモ生スルナリ
若シ義務者寄託ヲ取戻スノ意思無ク且ツ後日其釈放ノ有無ニ就キ他ヨリ非難ヲ受ケサル様自カラ慥メ置カント欲スル以上ハ対審ノ上其釈放ノ有効ナル旨ノ言渡ヲ受ルカ為メ権利者ヲ裁判所ニ呼出スコトニ怠タラサルヘシ
一旦義務者ノ利益ノ為メニ言渡サレタル裁判ハ仮令ヒ攻撃ヲ受ク可カラサルモノトナルノ前ト雖トモ義務者ハ其裁判ニ繋束セラルルモノトス何トナレハ既ニ其訴訟ニ勝利ヲ得タル者ナルヲ以テ之ニ対シテ故障控訴又ハ上告ヲ為スコトヲ得サレハナリ故ニ其裁判ハ義務者ノ方ニ就テハ「既ニ裁判ヲ経タル事物ノ効力」ヲ有スルモノナリ然レトモ若シ權利者上訴ノ方法ノ一ニ據リ之ヲ攻撃シタルトキハ義務者ハ前ノ裁判ヲ尊重スルニ及ハスシテ寄託ヲ取戻スコトヲ得ヘシ
是ヲ以テ此取戻ノ機能ハ權利者ノ寄託ノ承諾ニ因ルカ又ハ有効ノ裁判ノ廃棄ス可カラサルモノトナリタルカニ因ルニ非サレハ到底奪フ事能ハサルモノトス
此終リノ場合即チ有効ノ裁判ノ廃棄ス可カラサルモノトナリタル場合ニ於テモ若シ權利者ニ於テ義務者ノ取戻ヲ承諾スルトキハ義務者ハ其寄託セシ物件ヲ引取ルコトヲ得然レトモ其引取ノ効力ハ前段ノ場合ト大ニ異ナル所アリ即チ一旦釈放シタル負債ハ再ヒ權利者ト義務者トノ間ニノミ生シテ「第三ノ人ノ損害」ニハ再生セサル是ナリ
法律上ニハ斯ク如ク「第三ノ人ノ損害云々」ト簡単ナル語ニテ此意ヲ説明シ得タルモノナラン然レトモ尚一層明瞭ナランコトヲ欲スルカ為メニ共同義務者及ヒ保証人ハ爾後釈放ヲ得テ又動産質及ヒ書入質ハ最早再生セス故ニ權利者ハ最初自己ニ屬セシ先取ノ權利ヲ他ノ權利者ニ対シテ亳モ有セスト記載シタル所以ナリ終リニ臨ンテ法律ハ權利者ノ權利者カ寄託即チ附託セラレタル金額又ハ有価物ニ故障即チ渡方差留ヲ為シ得タルコトヲ想像シ以テ其差押人ノ損害ニ於テハ義務者ヨリ引取ヲ為スヲ得スト決定セリ
（五百十八）提供及ヒ寄託ノ善良ニシテ且ツ有効ナリト裁判セラレタルトキハ此提供及ヒ寄託ニ付キ要シタル費用ハ權利者ノ負任ニ帰ス可ク又此反対ノ場合ニ於テハ義務者ノ負任タルヘキコトニ就テハ法律ハ之ヲ玆ニ陳述セス蓋シ此等ノ事ハ訴訟法ニ譲リテ乃チ該法ニ就キ此提供及ヒ寄託ノ二箇ノ法式ヨリ生スル費用ノ何タルヲ看ル可シ是レ其適当ナル地位ヲ得タルモノトス
寄託ノ有効ノ言渡ニ關スル裁判費用モ亦敢テ之レト異ナルコトナシ
此等ノ費用ニ就テハ概シテ費用ノ事項ニ定メタル一般ノ原則ノ適用ヲ為スニ外ナキモノトス