明治商法(明治32年)

商法修正案参考書

参考原資料

備考

商法

第一編 總則
(理由)本編ハ旣成商法中總則及ヒ第一編商ノ通則中第一章乃至第五章並ニ第八章第二節ノ一部ニ該當シ各種ノ商行爲及ヒ商人ニ通シテ適用スヘキ規定ヲ揭ク
旣成商法ハ總則ニ於テ本編第一章ニ該當スル規定ヲ揭ケ第一編商ノ通則ニ關スル規定ヲ十二章ニ分チ其第一章ニ商業及ヒ商人第二章ニ商業登記簿第三章ニ商號第四章ニ商業帳簿第五章ニ代務人及ヒ商業使用人第八章第二節ニ代辯人ヲ規定スト雖モ本案ニ於テハ本編ヲ分テ七章ト爲シ第一章ニ法例第二章ニ商人第三章ニ商業登記簿第四章ニ商號第五章ニ商業帳簿第六章ニ商業使用人第七章ニ代理商ヲ規定セリ
旣成商法ノ總則ヲ本編中ニ包含セシメタル理由ハ旣ニ述ヘタル所ニシテ殊ニ之ヲ第一章ト爲シ法例ト題シタルハ一方ニ於テハ本編ニ題スルニ總則ノ名ヲ以テシタルカ故ニ其中ノ一章トシテ更ニ總則ヲ置クコト體裁上不可ナルカ爲メナルコト他方ニ於テハ法例ナル語ハ法律ノ適用ナル意義ヲ有シ能ク該章ノ規定シタル所ヲ包含スルニ足ルカ爲メナルトニ因ルモノニシテ現行刑法ノ例ニ倣ヒタルニ外ナラス
本編第二章ハ旣成商法第一編第一章ニ該當スルモノニシテ旣成商法ハ之ニ應シテ商事及ヒ商人ト曰フト雖モ是レ第三條ニ於テ商事ノ何タルヲ定メタルニ依ルノミ本案ノ如ク該條ヲ削除シ商事ノ何タルヤハ之ヲ本章中ニ規定セサル以上ハ本章ノ表題ヲモ修正スルノ必要アリ而シテ旣成商法第一編第一章ノ下ニ於テ商事ニ次テ規定セラレタルモノハ第四條以下ノ商取引ナリト雖モ普通ニ取引ト稱スルハ契約ヲ指シ單意行爲ヲ包含セサル用例ナリ然ルニ商取引中ニハ契約ノミナラス單意行爲ヲモ包含セシムルノ精神ナルコトハ旣成商法ノ解釋上明瞭ナルヲ以テ本案ハ之ニ代ユルニ商行爲ナル語ヲ以テセリ而シテ第三編ヲ商行爲ト題シテ商行爲ノ通則及ヒ各種ヲ規定スルニ因リ第三章中ヨリ商行爲ニ關スル規定ヲ除去シテ之ニ讓ルコトトシ從テ第二章ノ章題ヲ商人ト改メタリ
本編第三章ハ現行商法第一編第二章ニ該當スルモノニシテ商業登記簿ヲ規定シ本編第四章ハ旣成商法第一編第三章ニ該當スルモノニシテ商號ヲ規定シ本編第五章ハ現行商法第一編第四章ニ該當スルモノニシテ商業帳簿ヲ規定シ其配列方法及ヒ章名ハ旣成商法ト異ナル所ナシ然ルニ本編六章ハ旣成商法第一編第五章ニ該當スルモノニシテ旣成商法ハ之ニ題スルニ代務人及ヒ商業使用人ナル名稱ヲ以テスト雖モ從來ノ慣習上支配人番頭及ヒ手代ト稱スルモノアリテ代務人ト稱スルモノナク從テ代務人ニ關スル規定ヲ適用スルニハ主トシテ支配人番頭手代等ノ職務如何ヲ參考スルノ外ナシト雖モ從來ノ慣習上此等ノ者ノ職務權限ハ區々ニシテ一定スル所ナシ故ニ代務人ナル名稱ノ下ニ此等ノ者ニ對スル規定ヲ設クルハ適用ノ困難ヲ生シ却テ本章ノ規定ヲ設ケテ此等ノ者ノ職務權限ヲ明カニスルノ趣旨フ埋沒スルノ嫌ナキ能ハス故ニ本案ハ旣成商法ノ代務人ナル用語カ其眞相ヲ發揚スルノ點ニ於テ大ニ採ルヘキ所アルヲ認ムルニモ拘ハラス支配人番頭手代等慣習上ノ用語ヲ存シ商業使用人ナル名稱ヲ以テ此等ヲ包括セシメ且其職務權限ヲ明カニスルコトヲ務メタル所以ナリ但シ商業使用人ト謂ヘハ代理權ヲ有セサル小僧若イ者等ヲモ包括スルコト勿論ナリ
本編第七章ハ旣成商法第一編第八章第二節ニ該當スルモノニシテ旣成商法ニ於テ商事ニ付キ他人ノ代理ヲ爲スヲ營業トスル商人ヲ代辨人ト稱シ之ヲ分ツテ常囑ノ代辨人ト常囑ニニアラサル代辨人ト爲シ仲立人仲買人運送取扱人運送人ト共ニ規定シテ一章ヲ成スト雖モ本案ニ於テハ其一定ノ商人ノ營業機關タルト否トヲ區別シテ規定スルノ寧ロ適當ナルヲ認メ一定ノ商人ノ營業機關タル者換言スレハ使用人ニ非スシテ一定ノ商人ノ爲メニ其營業ノ部類ニ屬スル商行爲ノ代理又ハ媒介ヲ爲ス者ハ之ヲ代理商ト稱シテ本編ノ末尾卽チ第七章ニ規定セリ蓋シ代理商カ商行爲ノ代理又ハ媒介ヲ爲スハ本人タル一定ノ商人トノ間ニ取結ヒタル契約ニ因ルモノナルヲ以テ之ヲ第三編契約中ニ規定スルハ全然不當ナルニアラスト雖モ其一定ノ商人ノ爲メニスルコト及ヒ之ヲ代表シテ商行爲ヲ爲スコトハ酷タ支配人番頭ト類似スル所アリ是レ本案カ之ヲ第一編總則中第六章商業使用人ノ次ニ規定シタル所以ナリ
第一章 法例
(理由)本章ハ旣成商法總則ニ該當スルモノニシテ商事ニ關スル法規ノ適用ノ方法ヲ規定ス
旣成商法總則ニ於テハ本案第一條ノ規定ノ外第二條ノアルアリ蓋シ該條ノ規定ハ甚タ明瞭ヲ缺キ解釋上疑アリト雖モ草案者ノ說明ニ依リ之ヲ察スルニ商法ト特別法令トノ關係ヲ定メ旣ニ發布シタル特別ノ法令ノ效力ハ商法ニ因リテ妨ケラルルコトナキ旨ヲ示サントシタルモノナルカ如シ果シテ然リトセハ明文上大ニ缺點アリト謂ハサルヘカラス卽チ該條ハ特種ノ商事又ハ商人ノ爲メニ發布シタル法律命令及ヒ規則云々ト曰フモ一般ノ商事又ハ商人ノ爲メニ特ニ發布シタル法令モ亦該條ノ適用以外ニ立タシムルノ理由ナク且法律及ヒ命令ト規則トハ之ヲ區別スヘキ標準ナシ加之ナラス該條ハ此等特別法令ノ效力ヲ商法ニ因リテ妨ケラルルコトナキ旨ヲ定メ毫モ例外ヲ認メスト雖トモ一方ニ於テハ特種ノ商事ノ爲メニ發布シタル法令ニシテ商法實施ノ日ヨリ廢止ニ歸スルコト明治十五年太政官布吿第五十七號爲替手形約束手形條例ノ如キモノアリ他方ニ於テハ此等例外ノ場合ヲ悉ク該條中ニ網羅スルコトハ至難ノ問題ニ屬ス要スルニ斯ノ如キ事項ハ所謂經過法ノ規定ニ屬シ施行法中ニ之ヲ揭クヘキモノナルヲ以テ本案ハ之ヲ削除シ全ク施行法ニ讓リタリ
第一條
(理由)本條ハ旣成商法第一條ニ該當ス抑モ旣成商法第一條ニ所謂商慣習ナルモノハ單ニ事實タル慣習ヲ包含スルモノナルカ將タ又タ法規タルノ效力ヲ有スル慣習卽チ慣習法ヲ指スニ過キサルカハ學者間ニ議論ノ存スル所ナルヲ以テ本案ハ立法ノ手段ニ依リテ之ヲ決定シ商慣習法ト曰ヒ以テ解釋上ノ疑義ヲ排除セリ而シテ本條ハ旣成商法第一條ト同シク本法及ヒ特別法令ニ規定ナキ場合ニ適用スヘキ規定ナレトモ此場合ニ商慣習法ト民法ト併存スルトキハ其何レニ依ルヘキカ旣成商法ハ之ヲ明言セス卽チ旣成商法ハ商慣習法及ヒ民法ノ成規ヲ適用スト曰フト雖モ此二者兩立スルコトヲ得ヘクンハ卽チ可ナリ若シ兩立スヘカラサルトキハ商慣習法ニ從フヘキカ將タ又民法ヲ適用スヘキカ旣成商法ニ於テハ之ヲ裁決スル規定ヲ存セス翻テ商慣習法及ヒ民法ノ本體ヲ考フルニ商慣習法ナルモノハ商業社會ニ於ケル實際ノ必要ニ基キ發生シ商業ノ狀態ニ伴フテ變遷スルモノナルニ民法ハ之ニ反シテ一般私法上ノ法律關係ヲ目的トシテ制定セラレ商事ニ關スル法律關係ノ特質ノ如キハ其着眼セサルモノトス故ニ商事ニ關スル法律關係ヲ定ムルニ當リテハ先商慣習法ニ從ヒ商慣習法ナキトキニ限リ民法ヲ適用スト規定スルコト啻ニ實際ノ必要ニ投合スルノミナラス民法ヲ制定シタル趣旨ニモ亦適合スルモノト謂フヘシ是レ本條ノ如ク修正ヲ加ヘタル所以ナリ
第二條
(理由)本條ハ旣成商法第十七條ニ該當ス旣成商法ハ會社カ商業ヲ營ム場合ニ本法ノ規定ヲ遵守スルコトヲ要スル旨ヲ規定スト雖モ商業ヲ營ム會社ハ卽チ本案第二編ニ規定セル會社ニシテ本法ノ規定ニ從フヘキハ勿論ナリ又會社ニアラサル私法人カ商行爲ヲ爲シ若クハ商業ヲ營ム場合ニ於テモ亦本法ノ規定ヲ適用スヘキヤ勿論ナルヲ以テ本案ハ何レモ之ヲ揭ケス獨リ公法人カ商行爲ヲ爲ス場合ニ付テハ本法ノ規定ヲ適用スヘキヤ否ヤ疑ヲ容ルルノ餘地ナキニアラサルヲ以テ本條ハ旣成商法ニ倣ヒ法令ニ別段ノ定メナキ限リハ本法ノ規定ヲ之ニ適用スヘキコトヲ明カニセリ
第三條
(理由)本條ハ旣成商法第十六條ニ該當ス而シテ旣成商法第十六條但書ニ於テハ此規定ニ對スル例外ヲ設ケ商人ノ身分ニ關スル規定又ハ反對ノ注意ヲ表シタル規定ハ此限リニ在ラスト定メタレトモ當然ノコトニシテ別ニ明文ヲ要セス故ニ本案ハ之ヲ削除セリ
第二章
(理由)本章ハ旣成商法第一編第一章ニ該當スルモノトス旣成商法ハ該章ヲ商事及ヒ商人ト題シ第三條ヨリ第十七條ニ至ルマテ十五箇條ノ規定ヲ設クト雖モ本案ハ旣ニ述ヘタル理由ニ基キ之カ章名ヲ商人ト修正シ且旣成商法ノ規定ヲ削除シタルモノ尠シトセス旣成商法第三條ハ商事ノ何タルヤヲ決定セスシテ商取引其他本法ニ規定シタル事項ヲ謂フト曰ヘリ蓋シ商行爲カ商事ノ主要ナル一種ニシテ本法ニ規定スル其他ノ事項モ亦商事タルコト當然ナリ然リト雖モ本法ニ規定セサル事項ニシテ商事タルモノナキヤ否ヤハ學說ノ分カルルトコロナルノミナラス將來他ノ法律ヲ以テ新ナル商事ヲ定ムルコトナキヲ必セサルヲ以テ旣成商法第三條ノ規定ハ此點ニ付キ盡ササル所アリト謂ハサルヘカラス故ニ本案ハ之ヲ削除シテ商事ノ何タルヤヲ學說ノ決スル所ニ放任シタリ
旣成商法第四條乃至第八條ノ規定ハ之ヲ第三編商行爲ノ總則ニ讓リテ本章中ヨリ除去シタルコト前ニ述ヘタル如シ
旣成商法第十條第一項ハ一般ニ商行爲ヲ爲スノ能力ヲ規定スト雖モ民法ノ行爲能力ニ關スル規定ニ從フヲ以テ足レリトシ本法ニ特別ノ規定ヲ設クルノ必要ナシ又同條第二項本文モ民法親族編ニ規定スヘキ所ニシテ本法ニ揭クルノ必要ナキヲ以テ本案ハ何レモ之ヲ削除シ唯タ第二項但書ハ之ヲ修正シテ本案第九條第一項ト爲シタリ
旣成商法第十條第一項及ヒ第二項後段ハ民法第四條乃至第六條並ニ親族編ノ規定ト重複若クハ牴觸シ第十二條第一項及ヒ第十三條第一項ハ民法第十四條乃至第十八條ノ規定ト重複若クハ牴觸ス又第十二條第二項ハ本案第四條ノ規定ニ徵スレハ自ラ明瞭ニシテ特別ノ規定ヲ必要トセス又第十四條第二項ハ同一商事會社ノ無限責任社員ト爲ルニ因リテ間接ニ夫婦財產ヲ變更スルノ途ヲ杜絕スルカ爲メナルヘシト雖モ直接ニ夫婦財產制其モノヲ變更セサル以上ハ契約ニ依リテ他方ノ爲メニ一方ノ財產ヲ處分シ以テ間接ニ夫婦財產制ニ變更ヲ及ホスコトアルモ敢テ禁スル所ニアラス況ンヤ同一商事會社ノ無限責任社員ト爲ルニ於テオヤ蓋シ此規定ハ會社ヲ法人ト爲ササル古代法制ノ遺物ニシテ會社ハ法人ナリト明言スルコト本案ノ如クナルニ於テハ到底採用スヘキモノニアラス旣成商法第十五條ノ如キハ一方ニ於テハ旣ニ民法第九十條ノ存スルアリ他方ニ於テハ其商業ヲ禁止シタル法令ヲ解釋シテ之ヲ決定スルヲ以テ足レリト爲スカ故ニ本案ハ亦之ヲ削除シタリ
以上ノ理由ニ基キ本案ハ旣成商法第一編第一章中第十一條乃至第十四條中第十一條第二項前段ノ外悉ク之ヲ削除シタル所以ナリ
第四條
(理由)本條ハ旣成商法第九條第一項ト略ホ其意義ヲ同フス唯タ「自己ノ名ヲ以テ」ノ七字ヲ加ヘタルハ聊カ旣成商法ノ規定ヲ變更シタル如キ觀アレトモ其精神ニ至テハ毫モ異ル所ナシ卽チ旣成商法第十二條第二項ノ如キハ自己ノ名ヲ以テ商行爲ヲ爲スヲ業トスルニアラサレハ商人ニアラストノ精神ヲ間接ニ表示スルモノニシテ全ク本條ト同一ノ主義ニ出テタルコト疑ナシ又旣成商法第九條第二項ハ商業ヲ營ムト看做ササル營業ノ種類ヲ列擧スト雖トモ本案ニ於テ第二條第三條及ヒ本條ノ規定ヲ以テ旣ニ疑點ヲ存スル餘地ナシト爲シ之ヲ削除シタリ
第五條
(理由)本條ハ旣成商法第十一條ニ該當修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ旣成商法ハ商業ヲ營ム未成年者ニ關シテ細密ノ規定ヲ設クト雖モ未成年者カ商業ヲ營ム場合ニ付テハ旣ニ民法第六條ノ規定アルノミナラス其他親族編中ニ規定スヘキモノナルヲ以テ本案ニハ單ニ商業ヲ營ム許可ヲ得タル未成年者ハ登記ヲ爲スコトヲ要スル旨ヲ規定スルニ止メ其他ハ之ヲ削除セリ
又無能力者ノ一タル未成年者カ法定代理人ノ許可ヲ得テ商業ヲ營ムニ付キテモ亦登記ヲ爲スヲ必要トスルニ於テハ無能力者ノ一タル妻カ夫ノ許可ヲ得テ商業ヲ營ムニ付テモ亦登記ヲ必要トスルハ當然ナリ是レ本案カ旣成商法中ニ何等ノ規定ナキニモ拘ハラス之カ規定ヲ加ヘタル所以ナリ
本條後段ニ規定セル會社ノ無限責任社員ノ登記ニ關シテハ旣成商法中何等ノ規定ヲ見ス抑モ會社ハ法人ニシテ會社ノ營業ハ社員ノ營業ニアラスト雖モ無限責任社員ナルモノハ原則トシテハ會社ヲ代表シ其業務ノ執行ニ任シ而シテ常ニ會社ノ債務ニ付キ無限ノ責任ヲ負擔スルヲ以テ名義ノ外ハ殆ント商人ト異ナルトコロナシ是レ本案カ未成年者及ヒ妻カ會社ノ無限責任社員ト爲ル場合ニモ亦本條前段ノ登記ヲ爲スヲ要スト規定シタル所以ナリ
第六條
(理由)本條ハ旣成商法中ニ存セサル所ナリ然レトモ一種又ハ數種ノ營業ヲ許サレタル未成年者ハ其營業ニ關シテハ成年者ト同一ノ能力ヲ有スルモノト爲シ又一種又ハ數種ノ營業ヲ許サレタル妻ハ其營業ニ關シテハ獨立人ト同一ノ能力ヲ有スルモノト爲ス以上ハ會社ノ無限責任社員ト爲ルコトヲ許サレタル未成年者又ハ妻モ亦其會社ノ業務擔當ニ關シテハ之ヲ能力者ト看做スコト正當ナリ(新民法第六條第一項及ヒ第十五條)是レ第十一議會ニ提出シタル草案ニ於テ本條ニ該當スヘキ規定ヲ存セサリシニモ拘ハラス本案ニ於テ新ニ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第七條
(理由)本條第一項ハ旣成商法第十條第二項ノ但書ニ修正ヲ加ヘタルモノニシテ本條第二項ハ旣成商法中ニ存セサリシトコロナルヲ本案ニ於テ新ニ加ヘタリ
本條第一項前段ニ規定セル如ク後見人カ被後見人ノ爲メニ商業ヲ營ムトキハ登記ヲ爲スヲ要スルコト本案ト旣成商法トノ間ニ異ナルトコロナシ然ルニ會社ノ無限責任社員ハ前條ノ理由中ニモ說明シタル如ク特別ノ關係ヲ有スルモノナルヲ以テ後見人カ被後見人ヲシテ此位地ニ立タシムル場合ハ後見人カ被後見人ノ爲メニ商業ヲ營ム場合ニ同シク登記ヲ爲スノ必要アリ是レ新タニ本條第一項後段ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
本條第二項ハ旣成商法中ニ存セサル所ニシテ後見人ノ代理權ニ加ヘタル制限ノ效力如何ヲ定メ此制限ヲ以テ惡意ノ第三者ニ對抗スルコトヲ得スト善意ノ第三者ニ對抗スルコトヲ得スト爲スモノニシテ一方ニ於テ善意ノ第三者ヲ保護シ以テ第三者ト後見人トノ取引ヲ容易ナラシメ他方ニ於テ惡意ノ第三者ニ對抗スルコトヲ得セシメ以テ未成年者ノ保護ヲ全フスルニ足ルモノナリ
第八條
(理由)本條ハ旣成商法第七條ニ該當シ所謂小商人ニ關スル規定ナリ卽チ旣成商法ハ同條ニ列擧セル行爲ヲ以テ商取引ト看做サルルノ結果其行爲ヲ營業トスル者ニモ亦商法ノ規定ヲ適用セサルコトヲ解セシムル精神ナレトモ此等ノ行爲ヲ商行爲ト看做ササル理由ニ乏シク且之ヲ營業トスル者ニ對シテ商業登記、商號、商業帳簿、代務人、使用人等ニ關スル規定以外ノ商法ノ規定ヲ適用スルモ敢テ不便ヲ感セシムルコトナシ故ニ本案ハ獨、匈、其他ノ立法例ニ倣ヒテ之ヲ改メ此等ノ行爲ハ商行爲トシテ本法ノ規定ヲ適用スルモ之ヲ營業トスル者ニハ商人ニ關スル本法ノ規定ヲ適用セサルモノト爲シタリ而シテ小商人ノ何タルヤニ付テハ本條中其二三ヲ例示セリト雖モ之ノミニ依リテハ到底其範圍ヲ明カニスルコト能ハサルヲ以テ一方ニ於テハ更ニ特別法ノ制定ト相俟テ以テ其範圍ヲ確定シ他方ニ於テハ裁判例ヲ以テ之ヲ補充スルコトトナルヘシ故ニ本條ハ其他小商人云云ト曰ヒ以テ後日其範圍ヲ確定スルノ餘地ヲ存シタリ
第三章 商業登記
(理由)本章ハ現行商法第一編第二章ニ該當シ商業登記ヲ規定セルモノナリ
第九條
(理由)本條ハ現行商法第十八條第一項及ヒ第二十條ニ該當シ登記スヘキ事項ハ當事者ノ請求ニ因リテ之ヲ登記スルコト及ヒ其登記ヲ爲スヘキ登記簿ノ所在等ヲ規定シタリ現行商法第十八條第一項ハ登記スヘキ事項ヲ列擧スト雖モ如何ナル事項ヲ登記スヘキヤハ商法法典中之ニ關係アル各條ニ於テ規定スヘキモノナルカ故ニ本條ニ於テハ槪括的ニ本法ノ規定ニ依リ登記スヘキ事項ト曰フヲ以テ足レリトス又現行商法ハ當事者ノ營業所又ハ住所ノ裁判所ニ備ヘタル商業登記簿ニ登記スヘキモノト規定スト雖モ營業所ハ商人營業ノ本據ナレハ其所在地ノ裁判所ニ於テ登記ヲ爲スコト正當ナリ故ニ本條ハ單ニ營業所ノ裁判所ニ備ヘタル商業登記簿ニ登記スヘキモノト爲シタリ其他現行商法第二十條ハ登記請求ノ方式及ヒ登記ヲ爲スヘキ期間等ヲ規定スト雖モ本案ハ此等手續ニ關スル細目ヲ特別法令ニ讓リ茲ニ之ヲ揭ケス
一旦登記ヲ爲シタル商人カ其營業所ヲ他ノ裁判所ノ管轄內ニ移轉スルトキハ更ニ其地ノ裁判所ニ備ヘタル商業登記簿ニ登記ヲ爲スコトヲ要シ又同一裁判所ノ管轄內ニ移轉スルトキハ第十五條ノ規定ニ依リ旣ニ登記シタル事項ノ變更トシテ其變更ノ登記ヲ請求スルコトヲ要スルハ勿論ナルヲ以テ本案ハ現行商法第十八條第二項ヲ削除セリ
第十條
(理由)本條ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ蓋シ本店ノ所在地ニ於テ登記スヘキ事項ニシテ支店ノ所在地ニ於テ之ヲ登記スルコトヲ要セサルモノナシト謂フコトヲ得スト雖モ本店ノ所在地ニ於テ登記スヘキ事項ハ支店ノ所在地ニ於テモ亦之ヲ登記スルコトヲ要スルモノ多シ果シテ然ラハ商業登記ニ關スル總則ニ於テ一般ニ本店ノ所在地ニ於テ登記スヘキ事項ハ支店ノ所在地ニ於テモ亦之ヲ登記スルコトヲ要スル旨ヲ定メ本法ニ別段ノ定アルトキノミヲ例外トスルコト立法上頗ル便宜アリ是レ本案カ獨逸新商法ニ倣ヒ新ニ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第十一條
(理由)本條ハ現行商法第十九條第一項前段ニ該當スルモノニシテ後段公吿ノ方法ニ關スル細則及ヒ同條第二項手數料ノ規定ハ之ヲ特別法令ニ讓レリ而シテ本條ニ於テハ單ニ裁判所ハ遲滯ナク之ヲ公吿スルコトヲ要スルモノト爲シ其期間ヲ一定セサル所以ハ地方ノ狀況ニ依リ大ニ事情ヲ異ニスル所アルヘク若シ强テ之ヲ一定セハ却テ不便ナルヘキヲ以テナリ
第十二條
(理由)本條ハ現行商法第二十二條ニ多少ノ修正ヲ加ヘ登記ノ效果ヲ規定シタルモノナリ抑モ現行商法ハ登記シタル事項ヲ以テ過失ナキ善意ノ第三者ニ對抗スルコトヲ得スト規定シ登記ニ附スルニ適當ナル相對的效力ヲ以テシタルノ一點ニ於テハ立法上利害ノ調和ニ巧ナルカ如シト雖モ登記後無期限ニ此ノ如キ微弱ナル效力ヲ認ムルハ登記シタル當事者ノ利害ヲ顧ミサルノ失アリト謂フヘシ今翻テ他方ヨリ觀察スレハ公吿ハ第三者ヲシテ登記シタル事項ヲ知悉セシムルカ爲メ之ヲ爲スモノニシテ實際上第三者カ登記シタル事項ヲ知悉スルハ其公吿ニ依ルコト多キニ居ル故ニ現行商法ノ如ク公吿ハ單ニ第三者ヲシテ登記シタル事項ヲ知悉セシムル方法ニ止メ公吿其モノヨリ法律上何等ノ效果ヲモ生セスト認ムルハ妥當ヲ缺ク規定ト謂ハサルヘカラス本案ハ此缺點ヲ補フカ爲メ登記後公吿前ハ登記シタル事項ヲ以テ惡意ノ第三者又ハ過失アル善意ノ第三者ニ對抗スルコトヲ得ルモ過失ナキ善意ノ第三者ニ對抗スルコトヲ得スト爲シ之ニ反シテ公吿後ハ惡意ノ第三者ハ勿論善意ノ第三者ニモ亦對抗スルコトヲ得ルモノト爲ス本條前段ノ規定卽チ是ナリ
登記シタル事項ヲ公吿シタル後ハ過失ノ有無ヲ問ハス之ヲ以テ善意ノ第三者ニモ對抗シ得ヘシト雖モ此ノ如キ效力ヲ絕對的ニ認ムトキハ事實上不當ノ結果ヲ生スルナキヲ保セス故ニ第三者カ正當ノ事由ニ因リ之ヲ知ラサリシトキハ假令公吿後ト雖モ當事者ハ之ニ對抗スルコトヲ得スト規定シ以テ登記ノ一般ノ效力ニ除外例ヲ存スルノ已ムヲ得サルモノアリ本條後段ノ規定卽チ是ナリ
其他現行商法第二十二條ハ登記シタル事項ハ公ニシテ且裁判所ノ認知シタルモノトスト規定シタレトモ登記シタル事項ハ本案第十二條及ヒ第十四條ニ規定スルカ如キ方法ヲ以テ公ニセラルルハ勿論裁判所ノ認知云云ハ訴訟上ノ問題ニ屬シ茲ニ揭クルノ必要ナキヲ以テ本案ハ之ヲ削除セリ又現行商法第二十二條ハ他ノ方法ニ因リ登記シタル事項ヲ知得シタル者ニ對シテハ登記ノ前後ヲ問ハス其效用ヲ致サシムルモノト爲スト雖モ是レ登記ノ效力ニ關スル問題ニアラス故ニ茲ニ規定スルハ其所ヲ失ス又其但書ハ法律關係カ登記ニ因リテ始メテ生スヘキ場合アルコトヲ豫想シテ規定セラレタルモノナレトモ本案中此ノ如キ場合ヲ規定スルコト少ナク場合將來此ノ如キ場合ヲ認ムルコト多シトスルモ尙ホ本章ニ於テ之ヲ豫吿スルノ必要ナシ故ニ本案ハ之ヲ削除セリ
第十三條
(理由)本條ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ抑モ本店及ヒ支店ノ所在地ニ於テ登記スヘキ事項ヲ本店ノ所在地ニ於テノミ登記シタルニモ拘ハラス支店ノ所在地ニ於テ登記ヲ爲ササルコトアリ又本店及ヒ他ノ支店ノ所在地ニ於テハ登記ヲ爲シタルニモ拘ハラス或支店ノ所在地ニ於テ登記ヲ爲ササルコトアリ此等ノ場合ニ於テ未タ全ク登記スヘキ事項ヲ登記シ終ラサルモノトシテ前條ノ規定ヲ適用シ旣ニ登記ヲ爲シタル本店又ハ支店ノ所在地ナルト未タ登記ヲ爲ササル支店ノ所在地ナルトヲ區別セサルハ勿論不當ナリ然ラハ此登記ヲ怠ルモ何等ノ制裁ナク他ノ營業所ノ登記アルカ爲メニ善意ノ第三者ニモ對抗スルコトヲ得セシムルトセンカ是レ亦等シク不當ト謂ハサルヘカラス故ニ此等ノ場合ニ於テハ登記スヘキ事項ヲ登記セサリシ制裁トシテ登記スヘキ事項ヲ登記セサリシ他ノ支店ニ於テ爲シタル取引ニ付テノミ前條ノ規定ヲ適用スルノ已ムヲ得サルモノアリ是レ本案カ新ニ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第十四條
(理由)本條モ亦現行商法中ニ存セサル所ナリ抑モ登記シタル事項ハ裁判所ニ於テ之ヲ公吿スヘキモノナリト雖モ時トシテハ當該官吏ノ故意又ハ過失等ニ因リテ登記ト牴觸スル公吿ヲ爲スコトナキニ非ス此場合ニ於テ登記ヲ爲シタル效果ハ登記ニ依リテ之ヲ定ムヘキカ將タ又公吿ニ依リテ之ヲ定ムヘキカ蓋シ公吿ハ素ト第三者ヲシテ容易ニ登記シタル事項ヲ知ルコトヲ得セシムルカ爲メニ設ケタルモノナルヲ以テ第三者ヲ保護スルカ爲メニハ專ラ公吿ニ依ラシメサルヘカラサルカ如シ然リト雖モ登記ハ本ナリ公吿ハ末ナリ故ニ其輕重ニヨリ觀察スルトキハ勿論登記ニ依ラサルヘカラス況ンヤ第三者ハ或ハ登記簿ヲ閱覽シ或ハ其謄本ノ交付ヲ以テ登記ト公吿ト相牴觸スルコトナキヤ否ヤヲ知ルノ途アルモ當事者ハ登記ト公吿トノ間ニ牴觸ヲ生スルノ途ヲ杜絕スルノ方法ナシ是レ多數ノ立法例ニ在テハ登記ト公吿ト相牴觸スル場合ヲ規定スルモノナキニモ拘ハラス本案ハ新ニ本條ノ規定ヲ設ケ此場合ニ其登記ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得ルモノト規定シタル所以ナリ
第十五條
(理由)本條ハ現行商法中ニ存セサル規定ナリ現行商法第二十二條ハ裁判所ニ於テ登記若クハ其變更又ハ取消ヲ拒ミタルトキハ當事者ヨリ其命令ニ對シテ卽時抗吿ヲ爲スコトヲ得ル旨ヲ規定スト雖モ是レ手續ニ屬シ特別法令中ニ規定スヘク本章ニ揭クヘキモノニアラサルヲ以テ本案ハ之ヲ削除セリ然レトモ登記シタル事項ニ變更ヲ生シ又ハ其事項カ消滅シタルトキハ速ニ其變更又ハ消滅ノ登記ヲ爲サシムルハ必要ニシテ之ヲ爲サシムルニハ當事者ヲシテ之カ登記ヲ請求スルノ義務ヲ負擔セシメサルヘカラス然ルニ現行商法ハ之ヲ本章ニ規定スルコトナク商法法典中各關係ノ條文ニ於テ規定スト雖モ啻ニ煩雜ニ失シ脫漏ノ恐アルヲ以テ本案ハ包括的ニ之ヲ本條ニ規定セリ
第四章 商號
(理由)本章ハ旣成商法第一編第三章ニ該當スルモノニシテ各商人カ其營業上自己ヲ表示スル爲メ用ユル名稱卽チ商號ヲ規定ス現行商法ハ會社ノ商號ニ限リ之ヲ社名ト稱スト雖モ各個ノ商人及ヒ會社ヲ通シテ商法上同一ノ用語ヲ採用スルコト最モ其當ヲ得タルモノナルカ故ニ旣成商法ニ倣ヒテ共ニ之ヲ商號ト稱セリ
抑モ商法中ニ商號ニ關スル規定ヲ設クルノ可否ニ付テハ我國ニ於テ頗ル議論アリテ或ハ之ヲ以テ目下ノ急務ニアラスト爲スノミナラス旣成商法ノ規定ノ如キモノヲ實施スルニ至ラハ商人ノ德義心ヲ破壞シ却テ目的外ノ結果ヲ生スルノ懸念アリ從テ全然之ヲ削除シ商慣習ニ一任スヘシト爲ス者アレトモ之カ規定ヲ商法中ニ設クルモ必スシモ論者ノ憂慮スルカ如キ不正當ノ結果ヲ生スルモノニアラス旣ニ法典調査會ニ於テモ之カ規定ヲ商法中ニ置クノ可否ヲ全國各地ノ商業會議所ニ諮問シタルニ其多數ハ之ヲ商法中ニ置クコト必要ナリト答申シタルヲ以テ本案モ亦旣成商法ト等シク本章ヲ設クルコトト定メタリ
旣成商法第一編第三章トシテ揭ケラレタル規定中本案ニ於テ削除シタルモノ尠シトセス卽チ第二十三條前段ハ當然ニシテ法文ヲ俟タス之ニ反シテ同條後段ハ無用ノ制限ヲ加フル規定ナルヲ以テ等シク之ヲ削除シタリ
次ニ第二十七條モ亦當然ニシテ明文ヲ俟タス第二十八條第一項ノ如キ制限ハ之ヲ存スルノ利益ナク同條第二項ニ規定スルカ如キ推定ハ我國ノ慣習ト背馳スルトコロアリテ實際上不都合ヲ生スルヲ以テ何レモ之ヲ削除シ從テ其結果トシテ同條第二項但書及ヒ第三項モ亦當然削除スルコトトナレリ
第十六條
(理由)本條ハ旣成商法第二十四條ニ該當ス而シテ旣成商法ニ於テハ商號ニハ從來屋號ト稱シ來リタルモノヲ以テスルヲ通例トシ營業者ノ氏又ハ氏名ヲ以テスルモ妨ケナシト規定シタケレトモ本法ハ之ヲ改メ必スシモ屋號ヲ以テスルヲ通例トセス其氏、氏名、其他ノ名稱ヲ以テ等シク商號ト爲スコトヲ得ルモノトセリ故ニ其規定ノ外見上ハ大ニ異ナル所アルモ其包含スル法規ニ至リテハ殆ント差異アルトコロナシ
第十七條
(理由)本條ハ會社ノ商號ニ關スル規定ニシテ現行商法第七十五條第七十六條第百三十九條及ヒ第百七十三條ヲ包含的ニ規定シ之ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ蓋シ現行商法カ會社ノ商號ニ關スル規定ヲ各種ノ商事會社ノ部ニ揭ケタリシハ全ク理由ナキニアラサレトモ本案ハ便宜上之ヲ一括シ新タニ規定セラレタル株式合資會社ヲモ包含シテ本章中ニ揭クルコトト定メ以テ本條ヲ設ケタリ而シテ合資會社ハ其商號ニ合資會社ノ文字ヲ附シ株式會社モ其商號ニ株式會社ノ文字ヲ附スルコトヲ要スルハ現行商法ト異ナル所ナシト雖モ合名會社ノ商號ニ付テハ聊カ異ナル所アリ現行商法ハ合名會社ノ商號ニ付キ會社ノ二字ヲ附スルヲ以テ足レリトシ必スシモ合名ノ二字ヲ加フルコトヲ要セスト爲シタレトモ合名會社ノ四字ヲ附セシムルコト一方ニハ會社ノ種類ヲ明カニシ他方ニハ商事會社以外ニ存スル會社ナル名稱ト容易ニ區別セシムル便アリ現行商法施行條例第八條ニモ旣設合名會社ハ合名會社ノ四字ヲ附スヘキモノト爲シタレハ實際ハ現行商法ニ從ヒテ會社ノ二字ノミヲ附シタルモノノ數ニ比シ現行商法施行條例ニ從ヒテ合名會社ノ四字ヲ附シタルモノノ數頗ル多キヲ以テ本法ニ於テ合名會社ノ四字ヲ商號中ニ加フヘキモノト爲スト雖モ甚シキ不便ヲ生スルコトナカルヘシ是レ本案カ其他ノ會社ト同樣ニ合名會社ノ四字ヲ附スヘキモノト改メタル所以ナリ
第十八條
(理由)旣成商法ニ於テハ本條ニ該當スル規定ナク唯現行商法施行條例第二條ニ於テ本條ト同一ノ規定ヲ揭ケタリト雖モ此規定ハ從來ノ會社ノミニ限ラス將來ノ會社ニモ亦適用スルノ必要アリ所謂經過法ノ性質ヲ有セサルヲ以テ寧ロ之ヲ本法中ニ定ムルヲ以テ適當トス是レ本案カ現行商法施行法第二條ニ多少ノ修正ヲ加ヘテ本條ヲ設ケタル所以ナリ
第十九條
(理由)本條ハ旣成商法中ニ明文ヲ存セサル所ナリ卽チ旣成商法第二十五條第一項ニ於テハ商號ノ登記ヲ請ハント欲スル者ハ其登記ヲ受クルコトヲ得ルモノト爲シ同第二十六條ニ於テハ登記シタル商號ハ同一營業ニ付キ一地域(旣成商法施行條例第一條第一項ニ依レハ各市町村ノ一區域ヲ請ヒ市町村制ヲ行ハサル地方ニ在テハ從來ノ宿驛町村等ノ一區域ヲ請フ)內ニ於テ他人之ヲ用ユルコトヲ得サルモノト爲ス故ニ其趣旨ニ至リテハ本條ト異ナルコトナキモ明文ヲ以テ之ヲ規定シ以テ疑議ヲ生スルナカラシムルニ如カス是レ本案カ新タニ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二十條
(理由)本條ハ旣成商法第二十五條第二十六條及ヒ第三十條ニ揭ケラレタル商號ノ登記及ヒ其效果ニ關スル規定ヲ包括シテ之ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ卽チ旣成商法第二十五條第一項ニ於テハ商號ノ登記ヲ受クルコトヲ得ルニ止マリ必スシモ之ヲ登記スルヲ要セサルコトヲ規定シ本案モ亦之ヲ採用セリ
又旣成商法第二十六條及ヒ第三十條ハ商號ヲ登記シタルトキハ同一營業ニ付キ一地域內ニ於テ其專用ノ權利ヲ取得シ本法施行前ヨリ有スル商號ヲ從前ノ營業ニ付キ用ユルノ外ハ他人ニ於テ之ヲ用ユルコトヲ得ス若シ之ヲ用ユル者アルトキハ被害者ハ其使用ヲ差止メ及ヒ損害賠償ヲ請求スルコトヲ得ルモノト爲スト雖モ單ニ同一ノ商號ヲ用ユルコトヲ禁シ且之ヲ用ユル者ニ對シテ使用ヲ差止メ及ヒ損害賠償ヲ請求スルコトヲ得セシムルノミニテハ未タ以テ不正ノ競爭ノ目的ノ爲メ類似ノ商號ヲ使用スルコトヲ禁スルニ足ラス故ニ本案ハ之ヲ改メ本條第一項ノ規定ヲ設ケタリ然レトモ若シ單ニ第一項ノ規定ヲ設クルニ止マリ他ニ別段ノ規定ヲ存セサルカ爲メ第一項ニ依リ使用ノ差止若クハ損害ノ賠償ヲ請求スル者ニ其商號ヲ使用スル者ノ不正ノ競爭ノ目的ニ出テタルコトヲ證明スルノ責任ヲ負擔セシムルトセハ被害者ハ之ヲ證明スルノ困難ナルカ爲メ遂ニ十分ノ救濟ヲ得ルコト能ハサルニ至ルヘシ本案ハ此等ノ諸點ヲ攻究シタルノ結果同一ノ市町村內ニ於テ同一ノ營業ノ爲メニ他人ノ登記シタル商號ヲ使用スル者ハ先ツ不正ノ競爭ノ目的ヲ以テ之ヲ使用スルモノト推定シ若シ使用者カ其不正ノ競爭ノ目的ニ出テタルモノニアラサルコトヲ主張スルトキハ其旨ヲ證明スルノ責任ヲ負擔セシム本條第二項卽チ是レナリ
第二十一條
(理由)本條ハ旣成商法中ニ存セサル所ナリ抑モ商號ハ之ヲ讓渡スコトヲ得ルハ勿論ニシテ若シ之ヲ讓渡シタルトキハ一方ニ於テハ當事者間ニ其效果ヲ生シ他方ニ於テハ第三者ニ對シテ其效果ヲ生スヘシ此ノ如ク商號ノ讓渡ハ二個ノ方面ニ向テ效果ヲ生スルヲ以テ本案ハ次條ニ於テ當事者間ニ於ケル效果ヲ定ムルコトトシ本條ニ於テハ先ツ第三者ニ對スル效果ヲ定メ登記ヲ爲スニ非サレハ商號ノ讓渡ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得サルモノト爲シタリ
第二十二條
(理由)本條ハ旣成商法第二十九條ニ該當スルモノナリ旣成商法ハ商號ト共ニ營業ヲ讓渡シタル場合ニ於テ讓渡人カ同一ノ營業ヲ爲ササル旨ノ特約ヲ爲シタルトキハ其特約ハ一地域內(現行商法施行條例第一條ニ依レハ市町村又市町村制ヲ行ハサル地方ニ在テハ從來ノ宿驛町村等ノ一區域內)及十年ヲ超ヘサル期間內ニ於テノミ其效力ヲ有スル者ト爲スト雖モ其地域ハ狹隘ニ失シ其期間ハ短少ニ失スルヲ以テ本條第二項ハ之ヲ擴張シ同一府縣ノ地域內及三十年ヲ超ヘサル期間內ト規定セリ又商號ト共ニ營業ヲ讓渡シタル場合ニ於テ當事者カ別段ノ意思ヲ表示セス換言スレハ讓渡人カ同一ノ營業ヲ爲サストノ特約ヲ取結ハサルトキト雖モ或範圍內ニ於テハ讓渡人ヲシテ同一ノ營業ヲ爲ササル義務ヲ負擔セシムルハ當事者ノ正當ノ希望ニ適合シ且不正ノ競爭ヲ制止シテ以テ讓受人ヲ保護スル爲メニ必要ナリ故ニ本案ハ旣成商法其他多數ノ立法例ニ於テ此場合ニ處スヘキ規定ヲ欠缺スルニモ拘ラス新ニ本條第一項ノ規定ヲ設ケタリ唯タ第二項ハ特約ヲ以テ定メ得ヘキ最大範圍ニ關スルモノニシテ第一項ト其性質ヲ異ニスルニ依リ之ヲ特約ナキ場合ニ援用スヘキモノニアラス故ニ第二項ハ同府縣三十年ヲ超ヘサル範圍內ニ限ルモ第一項ハ同市町村二十年ヲ超ヘサル範圍內ニ限レリ
此ノ如ク本條第一項及ヒ第二項ハ商號及營業ノ讓受人ノ利益ヲ保護スト雖モ未タ盡ササル所ナキニアラス例ヘハ僅々數町ヲ隔ツル他府縣市町村ニ在テ不正ノ競爭ヲ爲サントスル讓渡人ヲ如何トモスルコト能ハサルナリ是レ本案カ更ニ第三項ヲ設ケタル所以ナリ
第二十三條
(理由)本條ハ旣成商法中ニ存セサル所ナリト雖モ單ニ營業ノミヲ讓渡ス場合ハ實際上屢々見ル所ニシテ之カ爲メニ生スル弊害モ亦少ナシトセス故ニ前條ノ規定ヲ準用シテ不正ノ競爭ノ目的ヲ以テ從前ノ商號ヲ用ヒ同一ノ營業ヲ開始スル者ニ制裁ヲ加フルコト極メテ必要ナリ是レ本案カ新ニ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二十四條
(理由)本條ハ旣成商法中ニ存セサル所ナリ抑モ商號ノ登記ヲ爲シタル者カ其商號ヲ廢止シ又ハ之ヲ變更シタル場合ニ於テハ遲滯ナク其廢止又ハ變更ノ登記ヲ爲スコトヲ要スルハ本案第十五條ニ於テ旣ニ規定スル所ナリト雖モ當事者ハ時トシテ此登記ヲ爲スコトヲ怠ルナキヲ保セス然ルニ登記シタル商號ハ同市町村內ニ於テ同一ノ營業ノ爲メニ他人カ之ヲ使用スルコトヲ得サルモノナルヲ以テ其廢止又ハ變更ノ登記ノ有無遲速ハ第三者ノ利害ニ關スルコト大ナリ故ニ當事者カ其廢止又ハ變更ノ登記ヲ爲ササルトキハ利害關係人ヲシテ其商號ノ登記ノ抹消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得セシムルノ已ムヲ得サルモノアリ是レ本案カ新ニ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第五章 商業帳簿
(理由)本章ハ現行商法第一編第四章ニ該當シ商業帳簿ヲ規定スルモノナリ而シテ其規定ノ實質ヨリ觀察スレハ著大ナル修正ヲ加ヘタルニアラスト雖モ規定ノ外形ヨリ之ヲ觀察スレハ變更セラレタル點尠シトセス卽チ現行商法第三十五條乃至第三十八條ハ民事訴訟法若クハ其他ノ法令中ニ規定スヘキモノナルヲ以テ本案ハ之ヲ規定セス又第三十九條乃至第四十一條ハ商業帳簿ノ證據力ヲ規定スト雖モ是レ亦本案中ニ揭クヘキモノニアラサルノミナラス民事訴訟法ニ於テ旣ニ自由採證主義ヲ採ル以上ハ之ヲ存スルノ必要ナク從テ本案ハ此等ノ規定ヲ削除セリ
第二十五條
(理由)本條ハ現行商法第三十一條ノ字句ヲ修正シタルモノニシテ其實質ニ至リテハ殆ント異ナル所ナシ現行商法ハ月々其家事費用及ヒ商業費用ノ總額ヲ記入スト規定シ日々ノ費用額ヲ記載スルノ外尙ホ每月ノ總額ヲモ記載スルコトヲ要スルヤノ疑アリ又現行商法ニ於テハ小賣ハ現金賣ト掛賣トノ區別ナク日々ノ賣上總額ヲ記入スルヲ以テ足レリトセシモ掛賣ト現金賣トハ大ニ其性質ヲ異ニシ掛賣ナルモノハ單ニ代價ヲ請求スルノ債權ヲ生スルノミニシテ現ニ金錢ヲ取得セサルヲ以テ後日ニ至ルマテ相手方トノ間ニ法律關係ヲ繼續スルモノナリ本條第二項ヲ以テ此等ノ諸點ニ修正ヲ加ヘタル所以ナリ
第二十六條
(理由)本條ハ現行商法第三十二條ニ該當シ之レニ修正ヲ加ヘタルモノナリ現行商法ハ財產目錄及ヒ貸借對照表ヲ作ルヘキ時期ヲ開業ノ時及ヒ每年初メノ三ケ月內ト爲ス而シテ開業ノ時ニ於テ財產目錄及ヒ貸借對照表ヲ作ルハ當然ナレトモ營業ノ種類如何ヲ問ハス慣習ノ定則如何ヲ顧ミス每年初ノ三ケ月內ニ必ス之ヲ作成シ記入スヘシト限定スルハ其當ヲ得タルモノニアラサルヘシ故ニ本案ハ各商人ヲシテ任意ニ一定ノ時期ヲ定メシメ每年其時期ニ之ヲ作成セシムルコトト規定セリ而シテ此規定ニ依レハ合資會社及ヒ株式會社ト其他ノ商人トニ依リテ規定ヲ異ニスヘキ理由ナキヲ以テ本案ハ此點ニ付キテモ亦現行商法ノ規定ヲ改メタリ又現行商法ハ財產目錄ニ記入スヘキ事項ヲ動產不動產ニ限ルト雖モ是レ狹隘ニ失シ物權以外ノ財產權ヲ除外スルノ結果トナル故ニ本案ハ債權債務其他ノ一切ノ財產ヲ記入スヘキモノト改メタリ又現行商法ハ各商人カ財產目錄及ヒ貸借對照表ヲ特ニ設ケタル帳簿ニ記載スヘキモノト定ムルノミナラス商人ハ之ニ署名スルノ責アルモノト規定セリ是レ商人ノ責任ヲ明カニスルカ爲メニ外ナラサルヘシト雖モ自カラ責任ヲ負フ以上ハ假令他人ヲシテ之ヲ作成セシムルコトアルモ當該商人ヲシテ更ニ之ニ署名セシムルノ必要ナシ故ニ本案ハ此規定ヲ削除セリ又現行商法ハ財產目錄及ヒ貸借對照表共ニ之ニ記載スル各種ノ財產ニ其當時ノ價格ヲ附スヘキモノト規定スレトモ貸借對照表ハ財產目錄ノ摘要ヲ揭載シ財產ノ狀況ヲ一目瞭然ナラシムルモノニシテ各個ノ財產ノ價格ヲ附スル餘地ナキノミナラス歐米ニ行ハルル貸借對照表ニ各種財產ノ明細價格ヲ附セルモノナシ故ニ本案ハ現行法ノ規定ヲ修正シ財產目錄調製ノ當時ニ於ケル價格ヲ附シ貸借對照表ニハ價格ヲ附スルコトヲ要セサルモノト爲シタリ其他現行商法第三十二條第二項後段ノ規定ノ如キハ當事者ノ推測ヲ以テ事實ヲ左右スルノ弊ニ陷イリ易ク之ニ依リテ帳簿ノ整頓ハ得テ期スヘカラス故ニ之ヲ削除シタリ
第二十七條
(理由)每年一回利益ノ配當ヲ爲ス會社ニ在リテハ前條ノ規定ニ從ヒ每年一回一定ノ時期ニ於テ財產目錄及ヒ貸借對照表ヲ作ラシムルヲ以テ足レリトスルモ每年二回以上利益ノ配當ヲ爲ス會社ニアリテハ特別ノ規定ヲ設クルヲ要ス而シテ現行商法第三十三條ハ每年二回利益ノ配當ヲ爲スト三回以上利益ノ配當ヲ爲ストヲ問ハス半個年每ニ財產目錄及ヒ貸借對照表ヲ作ルヘキコトヲ規定スレトモ每年二回以上利益ノ配當ヲ爲ス會社ニアリテハ其配當每ニ之ヲ作ラシメ以テ損益ノ計算ト帳簿ノ整理トノ聯絡ヲ致サシムルノ必要アリ故ニ本條ハ此點ニ付キ現行商法ノ規定ニ修正ヲ加ヘタリ
第二十八條
(理由)本條第一項ハ現行商法第三十四條前段ノ規定ニ該當スルモノニシテ商業帳簿ト必要ノ程度ヲ同シクスル營業上ノ信書ヲ加ヘタルノ外ハ字句ノ修正ニ止マリ別ニ說明ヲ要セス但其後段ノ規定ハ當然言フヲ俟タサル所ナルヲ以テ本案ハ之ヲ削除セリ
本條第二項ハ現行商法中ニ存セサル所ナリト雖モ保存期限ノ起算點ヲ定ムルノ如何ニ依リテ當事者及ヒ第三者ノ權利義務ニ影響ヲ及ホスコト尠少ニアラサルヲ以テ本案ハ新ニ之ヲ設ケ帳簿ノ閉鎖ノ時ヨリ之ヲ起算スヘキモノト規定セリ蓋シ帳簿ハ之ヲ閉鎖スル時ヨリ初メテ保存ノ時期ニ移ルモノト謂フモ不可ナケレハナリ
第六章 商業使用人
(理由)本章ハ旣成商法第一編第五章代務人及ヒ商業使用人ニ該當スルモノナリ旣成商法ニ於テハ主人ト此等ノ者若クハ第三者トノ關係ヲモ詳細ニ規定スト雖モ民法中代理、雇傭及ヒ委任ニ關スル規定及ヒ代理ニ關スル本案ノ規定ニ依ルヘキモノ多ク本章中ニ之カ規定ヲ設クルヲ必要トセス故ニ本案ハ現行商法中民法及ヒ本案中ノ他ノ規定ト重複シ若クハ牴觸スル第四十三條第四十四條第四十六條第四十八條第四十九條第五十二條第五十三條第五十五條第五十六條第五十七條第五十九條第六十條第六十一條乃至第六十五條ヲ削除シ其他ノ規定ヲ修正シテ本章ノ規定ヲ設ケタリ
第二十九條
(理由)本條ハ旣成商法第四十二條第一項ノ規定ニ字句ノ修正ヲ加ヘタルモノナリ
第三十條
(理由)本條ハ旣成商法第四十五條及ヒ第四十七條ノ規定ニ該當シ之ニ多少ノ修正ヲ加ヘタルモノナリ本條第一項及ヒ第三項ノ規定ハ旣成商法第四十五條ニ字句ノ修正ヲ加ヘタルニ過キス從テ說明スルノ必要ナシ茲ニ少シク說明ヲ要スルハ本條第二項ノ規定ナリ抑モ旣成商法第四十七條本文ニ於テハ代務人カ代務權ノ全部若クハ一分ヲ他ニ轉付スルコトヲ得サル旨ヲ規定スト雖モ代務權ノ轉付トハ如何ナル意義ヲ有スルモノナルカ頗ル不明ナリ卽チ代理權ヲ他人ニ移轉スルノ謂ナルカ將タ又復代理ヲ委任スルノ謂ナルカ明瞭ナラス若シ其眞意前者ニアリトセハ之ヲ爲シ得サルコト當然ニシテ別ニ法典ニ於テ之ヲ明言スルコトヲ要セス從テ此規定ハ全ク無要ナリト謂フヘシ若シ又其眞意後者ニアリトセハ復代理ニ關スル民法ノ規定ニ從ハシムルヲ以テ足レリトシ旣ニ民法ニ於テ復代理ヲ許スニモ拘ハラス商法ニ於テ支配人ニ限リ特ニ之ヲ許ササルハ毫モ其理由ナシ之ヲ要スルニ何レノ點ヨリ觀察スルモ現行商法第四十七條ノ本文ハ削除スルヲ至當トス然ルニ同條但書ハ之ヲ存スルノ必要アリ然レトモ代務人ハ商業使用人ヲ置ク權ヲ有スル旨ノミヲ規定シ解任ニ付キ何等ノ規定ヲ設ケサルヲ以テ選任ノ權限ヲ有スルモ解任ノ權限ナキモノト解セラルル恐アリ又本案ニ於テハ旣成商法ニ所謂代務人ヲ支配人ト爲シ旣成商法ニ所謂商業使用人ノ中ニ就キ別ニ番頭及ヒ手代ナルモノヲ認メタルヲ以テ支配人ハ旣成商法ニ所謂商業使用人ニ該當スル番頭、手代其他ノ使用人ヲ選任又ハ解任スルコトヲ得ルト規定セサルヘカラス是レ本案カ現行商法第四十七條本文ヲ削除シ且其但書ノ商業使用人ヲ番頭手代其他ノ使用人ト改メ選任ノ外解任ヲモ加ヘ字句ヲ修正シテ以テ本條第二項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第三十一條
(理由)本條ハ旣成商法第四十二條第二項ノ規定ニ字句ノ修正ヲ加ヘタルモノナリ
第三十二條
(理由)本條ハ旣成商法第五十條ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ支配人ハ主人ニ代ハリテ其營業ニ關スル一切ノ行爲ヲ爲ス權限ヲ有ス從テ若シ支配人カ自己又ハ第三者ノ爲メニ商行爲ヲ爲シ若クハ會社ノ無限責任社員ト爲ルコトアラハ到底主人ト支配人トノ間ニ利害關係ノ相衝突スルコトヲ免レサルヘシ故ニ此衝突ヲ防クカ爲メニハ支配人カ自己又ハ第三者ノ爲メニ商行爲ヲ爲シ若クハ會社ノ無限責任社員ト爲ルコトヲ禁シ唯タ主人ノ許諾アル場合ニ限リ之ヲ許スコト必要ニシテ且至當ナリ但旣成商法第五十條ニ於テハ主人ノ許諾アル場合ニ付キ何等ノ規定ヲ設ケスト雖モ主人ノ許諾アル場合ニモ尙ホ之ヲ禁スルノ理由ナク且明文ヲ以テ之ヲ決定セサルトキハ其間ニ疑議ヲ生スルヲ免レサルヘシ故ニ本案ハ主人ノ許諾アル場合ハ例外ニ屬スル旨ヲ明言シ且旣成商法ノ字句ヲ修正シテ本條第一項ノ規定ヲ設ケタリ
支配人ニシテ若シ第一項ノ規定ニ反シ主人ノ許諾ナクシテ自己又ハ第三者ノ爲メニ商行爲ヲ爲シタル場合ニ於テハ主人ハ之ニ對シテ損害賠償ヲ請求シ得ヘキハ勿論ニシテ旣成商法第五十條ノ如ク明文ヲ以テ之ヲ規定スルコトヲ要セス又此場合ニ於テハ主人カ之ヲ理由トシテ其支配人ヲ解任スルコトヲ得ルヤ否ヤハ民法ノ規定ニ從フヘキ旣成商法第五十條ノ如ク特ニ本案ニ於テ之ヲ規定スルノ必要ナシ故ニ此二點ニ關シテハ本案ハ旣成商法第五十條ノ規定ヲ採用セス然レトモ此場合ニ主人カ支配人ノ爲シタル商行爲ヲ以テ自己ノ爲メニ之ヲ爲シタルモノト看做スコトヲ得ルハ明文ヲ以テ之ヲ規定スル必要アリ故ニ本案ハ旣成商法ノ字句ヲ修正シテ以テ本條第二項ノ規定ヲ設ケ支配人カ自己ノ爲メニ商行爲ヲ爲シタル場合ニ限リ主人ヲシテ之ヲ以テ自己ノ爲メニ爲シタルモノト看做スコトヲ得セシメタリ然レトモ主人カ此權利ヲ有スルカ爲メ支配人ト第三者トノ間ニ成立セル法律關係ヲシテ長ク不確定ノ狀況ニアラシムルハ經濟上決シテ得策ニアラサルヲ以テ旣成商法カ此權利ヲ行使スヘキ期間ヲ定メサルニモ拘ハラス本案ハ新ニ第三項ヲ設ケテ其期間ヲ限定セリ
第三十三條
(理由)本條及ヒ次條ハ現行商法第五十一條ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ從來ノ慣習ニ依レハ支配人ハ其本店又ハ支店ニ於テ其商業ヲ營マシムルカ爲メニ選任セラルルモノニシテ其權限甚タ廣シ之ニ反シテ手代ト稱スルモノハ其權限狹ク卽チ其營業ニ關スル或種類又ハ特定ノ事項ヲ處セシムル爲メ選任セラレ其委任ヲ受ケタル事項ニ關シテノミ代理權限ヲ有スルモノト推定セラル而シテ番頭ナルモノノ權限ハ各地各店相同シキコト能ハサレトモ以上兩者ノ中間ニ在ルカ如シ更ニ支配人番頭手代以外ノ使用人卽チ所謂若イ者、小僧等ト稱セラルルモノニ至リテハ主人ヨリ特ニ委任ヲ受クルニ非サレハ代理權ヲ有セサルヲ常トス旣成商法ニ於テハ代務人及ヒ商業使用人ノ二種類ヲ認メタレトモ本案ハ旣ニ第二十九條ニ於テ說明シタルカ如ク從來ノ慣習ニ倣ヒ旣成商法ノ代務人ヲ支配人ト爲シタルヲ以テ本條及ヒ次條ニ於テモ亦從來ノ慣習ニ倣ヒ旣成商法ノ商業使用人ヲ分テ番頭及ヒ手代ト支配人、番頭、手代以外ノ使用人トノ二種類ト爲シ代理權限ヲ有スルモノト推定スルト否トヲ標準トシテ之ヲ區別シ前者ヲ本條ニ規定シ後者ヲ次條及ヒ第三十五條ニ規定シタリ而シテ番頭及ヒ手代ト支配人ト異ナル所ハ前者ハ主人ノ營業ニ關スル或種類又ハ特定ノ事項ヲ處理セシムルカ爲メニ選任セラレ後者ハ主人ノ本店又ハ支店ニ於テ其商業上一切ノ行爲ヲ行ハシムルカ爲メニ選任セラルルモノナルコト前ニ述フルカ如クナルヲ以テ本案ハ支配人ニ關スル第二十九條ノ規定ニ對シテ本條第一項ノ規定ヲ設ケタリ
抑モ或事項ヲ處理スルコトノ委託ヲ受ケタル者ト雖モ苟クモ代理權ヲ授與セラルルニ非サレハ委任者ニ代ハリ其名ヲ以テ行爲ヲ爲スノ權利ヲ有セス然ルニ番頭又ハ手代ニ關シテモ尙ホ此原則ニ依リ代理權ヲ授與セラルルニ非サレハ主人ニ代ハリ其名ヲ以テ委任ヲ受ケタル事項ニ關スル一切ノ行爲ヲ爲スノ權限ナキモノトセハ實際上頗ル不便タルヲ免レス故ニ旣成商法第五十一條ニ於テハ商業使用人ハ特別ノ委任ヲ受ケスト雖モ其職務ノ範圍內ニ屬スル行爲ニ付キ當然代理權ヲ有スルモノト爲シタリ殊ニ我國從來ノ慣習ニ依ルモ番頭又ハ手代ハ其委任ヲ受ケタル事項ニ關シ代理權ヲ有スルモノトスルコト通例ナルヲ以テ本案ハ一方ニ於テハ商業使用人ニ關スル旣成商法ノ規定ヲ採用シ他方ニ於テハ番頭又ハ手代ニ關スル從來ノ慣習ヲ斟酌シ本條第二項ノ規定ヲ設ケ番頭又ハ手代ハ其委任ヲ受ケタル事項ニ關シ一切ノ行爲ヲ爲ス權限ヲ有スルモノト推定セリ蓋シ之ヲ以テ一應ノ推定ニ止メ主人カ反對ノ意思ヲ表示シテ以テ番頭又ハ手代ニ此權限ナキモノトスルコトヲ得セシメタル所以ハ他ナシ此規定ヲ設ケタル立法上ノ理由主トシテ取引上ノ便宜ヲ圖ルニアリテ必ス之ヲ强行スルカ如キ絕對的ノ必要ヲ存セサレハナリ
第三十四條
(理由)本條ニ規定スルモノハ慣習上所謂若イ者小僧等ト稱スルモノニシテ此等ノ者ハ主人ヨリ特ニ委任ヲ受クルニ非サレハ主人ニ代リテ法律行爲ヲ爲スコトヲ得サルヲ原則トス是レ支配人番頭及ヒ手代ト異ナル所ナルヲ以テ本案ハ第二十九條及ヒ第三十三條ニ對シテ本條ノ規定ヲ設ケ此旨ヲ明カニセリ
第三十五條
(理由)本案ハ旣成商法第五十八條乃至第六十五條ノ規定ニ該當スルモノナリ旣成商法ニ於テハ此雇傭關係ニ關シ詳細ノ規定ヲ設ケタリト雖モ旣ニ民法第六百二十四條乃至第六百三十一條ニ於テ雇傭ニ關スル規定ヲ設ケタル以上ハ主人ト支配人番頭手代其他ノ使用人トノ間ニ存スル雇傭關係ニ付テモ亦此民法ノ規定ヲ適用スルヲ當然トス是レ本條ノ如ク修正ヲ加ヘタル所以ナリ
第七章 代理商
(理由)本章ハ旣成商法第一編第八章第二節ニ該當ス旣成商法ニ於テハ商事ニ於テ他人ノ代理ヲ爲スヲ營業トスル商人ヲ代辨人ト謂ヒ之ヲ分テ常囑ノ代辨人ト然ラサルモノト爲スト雖モ本案ハ之ト異ナリ其一定ノ商人ノ營業機關タルノ點ヨリ觀察シ使用人ニ非スシテ一定ノ商人ノ爲メニ其營業ノ部類ニ屬スル商行爲ノ代理若クハ媒介ヲ爲ス者ニ限リ之ヲ代理商ト稱シタリ從テ法典中ノ位置ヨリ觀察スルモ仲立、運送取扱、運送等ト共ニ第三編商行爲中ニ之カ規定ヲ設クルコト能ハス而シテ其商人タルノ點ヨリ之ヲ觀レハ使用人ト異ナル所アルハ勿論ナルモ其性質ハ却テ使用人ト類似スル所アリテ現ニ伊太利、羅馬尼商法ノ如キハ支配人番頭ニ關スル規定ヲ代理商ニモ適用セリ故ニ本案ハ第一編總則中商業使用人ニ關スル規定ノ次卽チ本章ニ之ヲ規定スルコトト爲シタリ
旣成商法第一編第八章第二節中本案ニ採用セサリシ規定頗ル多シ第四百九條乃至第四百十七條ノ九箇條卽チ是レナリ蓋シ旣成商法代辨人ノ規定ハ一方ニ於テ新民法第一編第四章第三節代理及ヒ第三編第二章第十節委任ノ規定ニ依リテ其大部分ノ不要トナリタルト他方ニ於テ代理商ノ意義ヲ限定シタル結果トシテ多少其趣ヲ異ニスルニ至リタルトニ基因スルモノトス
第三十六條
(理由)本條ハ旣成商法第四百六條及ヒ第四百八條ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ前ニ述ヘタルカ如ク旣成商法ハ代辨人ニ付キ常囑ノモノト然ラサルモノトヲ分ツト雖モ一定ノ商人ノ爲メニ平常其營業ノ部類ニ屬スル商行爲ノ代理又ハ媒介ヲ爲スニアラスシテ臨時ニ商行爲ノ代理又ハ媒介ヲ爲スモノハ本章ノ規定スルトコロニアラス從テ本條ハ一定ノ商人ノ爲メニ云々ト曰ヒテ以テ其趣旨ヲ明カニセリ又本人ト代理商トノ間ノ關係ハ主人ト使用人トノ間ノ關係ト異ナル所アルヲ以テ本條ハ使用人ニ非ラスシテ云々ト曰ヒ以テ其趣旨ヲ明カニセリ又代理商ハ必スシモ商行爲ノ代理ヲ爲スモノニ限ルノ理由ナキヲ以テ本條ハ商行爲ノ媒介ノミヲ爲スモ尙ホ之ヲ代理商中ニ包含セシメタリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第三十七條
(理由)本條ハ旣成商法中ニ存セサル所ナリ抑モ民法第六百四十五條ノ規定ニ依レハ受任者ハ委任者ノ請求アルトキハ何時ニテモ委任事務處理ノ狀況ヲ報吿シ又委任終了ノ後ハ遲滯ナク其顚末ヲ報吿スルコトヲ要ス然ルニ代理商ト本人トノ間ニ存スル委任ハ個々ノ商行爲ノ代理又ハ媒介ヲ目的トスルモノニ非スシモ或種類ノ商行爲ノ代理又ハ媒介ヲ包括的ニ委託スルモノナルヲ通例トスルカ故ニ委任終了ノ後代理商ヨリ委任事務處理ノ顚末ヲ本人ニ報吿スヘキモノトセハ假令代理商カ個々ノ商行爲ノ代理又ハ媒介ヲ爲スモ一々之ニ報吿スルコトヲ要セサルヘク從テ本人ハ代理商カ代理又ハ媒介ヲ爲シタルコトヲ知ルノ途ナカルヘシ之ニ反シテ本人ヨリ代理商ニ對シテ又ハ媒介ヲ爲シタル每ニ其旨ヲ報吿スヘキコトヲ豫メ請求シ置ケトスレハ代理商ハ代理又ハ媒介ヲ爲シタル每ニ本人ニ其旨ヲ通知スルコトヲ要シ之ニ依リテ本人ハ代理商又ハ媒介ヲ爲シタルコトヲ知ルヲ得ヘシト雖モ迅速且簡易ヲ重ンスル商業上ニ於テハ本人カ此ノ如キ請求ヲ爲サンコト敢テ期スヘカラス此兩者何レニ歸スルモ民法第六百四十五條ノ規定ヲ本人代理商間ノ關係ニ適用スルトキハ到底不便ヲ生スルヲ免レサルヘシ故ニ寧ロ代理商カ本人ノ爲メニ代理又ハ媒介ヲ爲シタルトキハ本人ヨリ豫メ請求アリタルト否トヲ問ハス遲滯ナク代理商ヨリ其旨ヲ本人ニ通知スルコトヲ要スルモノト爲スニ如カス是レ本案カ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第三十八條
(理由)旣成商法ニ於テハ代辨人中ニ常囑ノモノト然ラサルモノトヲ包含セシメシヲ以テ代辨人ハ自己ノ計算ヲ以テ商業其他ノ職業ヲ行フコトヲ得又何人ノ代理ヲモ引受クルコトヲ得ルモノト規定セラレタリト雖モ(旣成商法第四百七條)本案ノ如ク代理商ノ意義ヲ限定シ支配人ト相類似セシムルニ於テハ旣成商法ト同一ノ主義ヲ採ルコトヲ得ス從テ支配人ノ如ク本人ノ許諾アルニアラサレハ自己又ハ第三者ノ爲メニ商行爲ヲ爲シ若クハ會社ノ無限責任社員ト爲ルコトヲ得サルモノト爲シ若シ自己ノ爲メニ商行爲ヲ爲シタルトキハ本人ハ之ヲ以テ自己ノ爲メニ爲シタルモノト看做スコトヲ得セシムルノ必要アリ然リト雖モ獨立セル商人タル代理商ニ對シ自己又ハ第三者ノ爲メニ一切ノ商行爲ヲ爲スコトヲ禁シ若クハ一切ノ會社ノ無限責任社員ト爲ルコトヲ禁スルトキハ或ハ其生活ニ支障ヲ來スノミナラス本人ノ營業ノ部類ニ屬セル商行爲若クハ本人ノ營業ト同種ノ營業ノ營業ヲ目的トセサル會社ニ付テハ假令本人ノ許諾ヲ得スシテ之ヲ行ヒ若クハ之ニ入社スト雖モ利害關係ノ衝突ヲ生スルコトナカルヘシ是レ本條第一項ニ於テ單ニ商行爲云々ト謂ハスシテ本人ノ營業部類ニ屬ス云々ヲ加ヘ且單ニ會社云々ト謂ハスシテ同種ノ營業ヲ目的トスル云々ヲ加ヘテ規定シタル所以ナリ
若シ代理商カ本條ノ規定ニ反スルトキハ本人ハ之ヲ理由トシテ或ハ契約ヲ解除シ或ハ損害賠償ヲ求ムルコトヲ得ヘキハ當然ニシテ特別ノ規定ヲ要セス然レトモ代理商カ本條第一項ノ規定ニ反シテ自己ノ爲メニ商行爲ヲ爲シタルトキハ本人ヲシテ之ヲ本人ノ爲メニ爲シタルモノト看做スコトヲ得セシメ以テ本人ノ利益ヲ保護シ且本人カ此權利ヲ行使スヘキ期間ヲ定メテ法律關係ヲ速カニ確定セシムルコト適當ナリ是レ本案カ第三十二條第二項及ヒ第三項ノ規定ヲ準用シタル所以ナリ
第三十九條
(理由)本條ハ旣成商法中ニ存セサリシ規定ナリ抑モ民法ノ規定ニ依レハ買主ハ物品販賣ノ委託ヲ受ケタル代理人ニ對シテ賣買ノ目的物ノ瑕疵又ハ其數量ノ不足其他賣買ノ履行ニ關スル通知ヲ爲スコトヲ得ルヤ否ヤハ本人ト受任者トノ間ニ成立スル委任契約ノ內容ニ基ツキ決定スヘキ事實問題ニ屬スト雖モ代理商ニモ尙ホ此規定ヲ適用スルトキハ取引上ノ不便尠ナカラサルヲ以テ本條ノ規定ヲ設ケ代理商ニ對シテ爲シタル此等ノ通知ハ本人ニ對シテ當然有效ナルモノト爲シタリ
第四十條
(理由)本條ハ旣成商法第四百八條ニ該當ス抑モ本案ハ一定ノ商人ノ爲メニ平常其營業部類ニ屬スル商行爲ノ代理又ハ媒介ヲ爲ス者ヲ代理商ト爲シタルヲ以テ旣成商法第四百八條ノ如ク個々ノ商行爲ノ爲メ本人ト代理商トノ間ニ契約ヲ取結フコトナカルヘシ然リト雖モ一種類又ハ數種類ノ商行爲ノ爲メ又有期ト無期ト若クハ明示ト默示トヲ問ハス之ヲ取結フコトヲ得ヘキハ當然ニシテ之カ爲メ特ニ明文ヲ設クルヲ必要トセス故ニ本案ハ旣成商法第四百八條前段ノ規定ヲ削除セリ而シテ同條ハ當事者カ契約ノ期間ヲ定メサリシ場合ハ勿論假令之ヲ定メタル場合ト雖モ各當事者ニ於テ何時ニテモ其契約ヲ解除スルコトヲ得ルモノト爲シ民法第六百五十一條モ亦委任ニ關シ之ト同一ノ主義ヲ採ルト雖モ契約ノ期間ヲ定メタル場合ニハ各當事者ヲシテ何時ニテモ之ヲ解除スルコトヲ得セシムヘキモノニアラス又假令契約ノ期間ヲ定メサル場合ト雖モ解除ヲ爲スニハ相當ノ期間前ノ豫吿ヲ爲サシムルコト當事者双方ヲ保護スル爲メ極メテ必要ナリ故ニ本案ハ旣成商法ノ規定及ヒ委任ニ關スル新民法ノ規定ヲ採用セスシテ本條第一項ヲ以テ當事者カ契約ノ期間ヲ定メサル場合ニ限リ各當事者ハ何時ニテモ二ケ月前ニ豫吿ヲ爲シテ其契約ヲ解除スルコトヲ得ルモノト規定シタリ而シテ當事者カ契約ノ期間ヲ定メタルト否トヲ問ハス已ムコトヲ得サル事由アルトキハ豫吿ヲ爲サスシテ直チニ解除ヲ爲スコトヲ得セシムルハ至當ナルヲ以テ第二項ノ規定ヲ設ケ此場合ニハ豫吿ヲ要セス何時ニテモ契約ノ解除ヲ爲スコトヲ得ルモノト爲シタリ
第四十一條
(理由)本條ハ旣成商法第四百十八條前段ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ旣成商法ニ於テハ自己ノ受取ルヘキ手數料前貸金立替金費用及ヒ利息云云ト一々本人ノ爲メニ代理又ハ媒介ヲ爲シタルニ因リテ生シタル債權ノ種類ヲ列擧スト雖モ槪括的ニ之ヲ規定スルコト遺漏ノ恐レナク且簡明ノ益アルヲ以テ本案ハ之ヲ改メタリ而シテ旣成商法第三百八十七條及ヒ第三百八十八條ハ留置權ニ關スル一般ノ通則ヲ規定スト雖モ該條ノ規定ニ在テハ原則トシテ其債權ト關係ナクシテ本人ノ爲メ第三者ヨリ受取リタル物ノ上ニ之ヲ行フコトヲ得サルコト民法第二百九十五條以下ノ規定ト同シ是レ頗ル實際上ノ不便ヲ生スヘキヲ以テ本案ハ亦之ヲ改メタリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二編 會社
(理由)本編ハ現行商法第一編第六章中第五節共算商業組合ヲ除キ其他ノ規定ニ該當シ會社ニ關スル規定ヲ揭ク
現行商法ハ第一編第六章ヲ分テ五節ト爲シ第一節ニ合名會社第二節ニ合資會社第三節ニ株式會社第四節ニ罰則第五節ニ共算商業組合ヲ規定シ其他以上各節ノ前別ニ商事會社總則ナルモノヲ置クト雖モ本案ハ會社ヲ以テ一編ト爲シ之ヲ七章ニ分チ第一章ニ總則第二章ニ合名會社第三章ニ合資會社第四章ニ株式會社第五章ニ株式合資會社第六章ニ外國會社第七章ニ罰則ヲ規定ス
現行商法ニ於テハ商事會社總則ト題シテ本編第一章ニ該當スル規定ヲ揭ケ而シテ之ヲ以テ一節ト爲スコトナク各節ノ前ニ置ケリ此分類法ハ現行商法第一編第十二章ニ於テモ亦採ル所ナリト雖モ其他ノ規定例ヘハ第一編第六章第三節第一款第八章第一節第十一章第一節等ニ於テ總則ヲ以テ第一節若クハ第一款ト爲シタルニ對シ其間權衡ヲ失スルヲ免レス故ニ本案ハ之ヲ修正シ總則ヲ第一章トセリ又現行商法ニ於テハ商事會社及ヒ共算商業組合ヲ合セテ一章ト爲シ節ヲ分テ各種ノ商事會社及ヒ共算商業組合ヲ規定セルヲ以テ其總則ニハ特ニ商事會社ノ數字ヲ冠シテ商事會社ノミニ關スル規定ナルコトヲ明ニスルノ必要アリタレトモ本案ニ於テハ組合ニ關スル規定ノ一部ヲ削リ其他ハ之ヲ第三編商行爲中ニ移シタルヲ以テ特ニ商事會社總則ト題スルノ必要ヲ存セス故ニ之ヲ改メタリ現行商法ニ於テハ本案第五章株式合資會社ニ該當スヘキ規定ヲ存セサルノミナラス我國從來ノ法令中ニ於テモ亦未タ株式合資會社ニ關スル規定ヲ存セス抑モ株式合資會社トハ獨逸商法ニ於ケルKommandit Gesellschaft auf Aktien Oder Aktien-Kommandit Gesellschaft.ニ該當シ佛蘭西商法ニ於ケルSociété en commandit par actions.ニ該當ス本案ハ此種ノ會社ニ關スル規定ヲ設クルノ必要ヲ認メテ新ニ第五章ヲ設ケタレトモ其法理上ノ性質論ニ至テハ之ヲ學者ノ解釋ニ一任シタリ蓋シ合資會社ノ社員カ或場合ニ感スル不便ハ其持分ヲ融通スルノ困難ニシテ株式會社ノ株主カ或場合ニ感スル不便ハ會社ヲ代表シ其業務ヲ執行スルノ任ニ當ル者カ會社ト休戚ヲ共ニスルノ決心不十分ナルニアリ故ニ一方ニ於テ充分ニ信用スヘキ實際家アリ他方ニ於テ自カラ營業ノ局ニ當ルコトヲ好マサル數多ノ資本家アル場合ニ前者ヲシテ無限ノ責任ヲ負擔シテ以テ營業ノ局ニ當ラシメ後者ハ單ニ資本ヲ供出シ且其供出セル資本ヲ株式ト化シ以テ融通ニ便ナラシムルハ株式會社及ヒ合資會社ノ外ニ之ヲ求メサルヘカラス而シテ株式合資會社ハ有限責任社員ト無限責任社員トヨリ成リ其有限責任社員ハ其持分ヲ株式ニ分チ容易ニ之ヲ融通スルヲ得ルコト恰モ株式會社ノ株主ニ同ク又其無限責任社員ハ連帶無限ノ責任ヲ以テ會社ヲ代表シ其業務ヲ執行スルノ任ニ當ルコト恰モ株式會社ノ取締役ト合資會社ノ業務擔當社員トノ兩資格ヲ兼ヌルニ似タリ是レ株式合資會社カ實際上必要ナル所以ニシテ本案カ新ニ之ヲ規定シタル立法ノ趣旨モ之ニ外ナラス或ハ株式合資會社ハ我國ニ未タ嘗テ存セサリシ會社ナレハ其利害得失ヲ疑ヒ新タニ之カ規定ヲ設クルコトヲ躊躇スル者アルヘシト雖モ我國會社ノ發達ノ初期ニ當リテ現行商法中會社ニ關スル規定ヲ實施セラレタルニ依リ商事會社トシテ成立ヲ認ムルハ合名會社及ヒ株式會社ノ三種類ニ限リ其他ノ種類ニ屬スル會社ニ至リテハ全ク之カ成立ヲ認メサリシ故ニ株式合資會社ナルモノノ發達ヲ見サルハ當然ナリ決シテ我國ノ現狀ニ適應セサルカ爲メニ非サルナリ加之ナラス假令本案中ニ株式合資會社ニ關スル規定ヲ設クト雖モ必スシモ之ニ從テ會社ヲ組織セサルヘカラサルモノニアラサルコト勿論ナレハ之ヲ規定スルハ其發達ヲ奬勵シ實際ニ便利ヲ與フルモ決シテ禍源ニ爲ナルノ恐レナシ是レ本案カ斷然株式合資會社ノ規定ヲ設クルコトト爲シタル所以ナリ
現行商法ニ於テハ本案第六章外國會社ニ該當スル規定ヲ存セス然ルニ國際交通ノ日ニ頻繁ナル結果外國會社ニシテ我國ニ於テ或ハ支店ヲ設ケ商業ヲ營ミ其他ノ行爲ヲ爲スコトアルヘク或ハ我國ニ於テ本店ヲ設ケ又ハ商業ヲ營ム會社ニシテ外國ニ於テ設立セラルルモノアルヘク或ハ我國ニ於テ外國會社ノ株式ヲ發行シ又其株式若シクハ社債ヲ讓渡スルコトアルヘク或ハ外國會社ノ我國ニ於クル代表者カ公ノ秩序又ハ善良ノ風俗ニ反スル行爲ヲ爲スコトアルヘシ此等ノ場合ニ於テ全ク本編ノ規定ニ從フコトヲ要セストセハ啻ニ我國ノ公安秩序ヲ害スルコトアルノミナラス第一章乃至第五章ノ規定ヲ當然適用セラルヘキ內國會社ニ比シテ遙ニ優等ノ地位ヲ與ヘ其間大ニ權衡ヲ失スルヲ免カレス是レ本案カ外國人ニ關スル民法ノ規定ヲ斟酌シ匈牙利、スペイン、伊太利、羅馬尼、葡萄牙其他ノ外國立法例ニ倣ヒ且之ヲ擴張シテ一般ノ會社ニ及ホシ本編第六章トシテ外國會社ニ關スル規定ヲ揭ケタル所以ナリ
現行商法ニ於テハ第四節トシテ罰則ヲ規定セリト雖モ本案ニ於テハ新ニ總則株式合資會社及ヒ外國會社ヲ各一章ト爲シタル結果第七章トシテ罰則ヲ規定ス
現行商法第一編第六章第五節ニ於テハ共算商業組合ト題シテ當座組合、共分組合及ヒ匿名組合ヲ規定セリ此配列法ハ外國立法例上往々存スル所ナリト雖モ本案ハ之ヲ排斥シ第三編商行爲中ニ匿名組合ヲ規定シ當座組合及ヒ共分組合ニ關スル規定ハ全ク之ヲ削除セリ蓋シ會社ヲ以テ法人ニアラスト爲ストキハ會社ト共ニ組合ヲ規定スルコト必スシモ失當ニアラス然レトモ旣案本案ノ如ク會社ヲ以テ法人ト爲ス以上ハ法人タル會社ト共ニ契約關係タル組合ヲ規定スルハ其當ヲ得タルモノニアラス況ンヤ現行商法第二百六十五條ハ當然言フヲ俟タサル所又第二百六十六條及ヒ第二百六十七條中連帶ニ關シテハ本案第二百七十三條代理ニ關シテハ本案第二百六十六條ノ存スルアリ其他本案ニ規定ナキ所ハ代理及ヒ組合ニ關スル民法ノ規定ニ從フヲ以テ足レリトスルニ於テヲヤ是レ本案カ現行商法第一編第六章第五節ノ一部ヲ第三編ニ加ヘ其他ハ之ヲ削除シタル所以ナリ
第一章 總則
(理由)本章ハ現行商法第一編第六章商事會社總則ニ該當シ各種ノ會社ニ通シテ適用スヘキ規定ヲ揭ク
現行商法第六十七條第一項ニ於テハ法律ニ背キ又ハ禁止セラレタル事業ヲ目的トスル會社ハ初ヨリ無效タルコトヲ規定スト雖モ公ノ秩序又ハ善良ノ風俗ニ反スル事項ヲ目的トスル法律行爲ノ無效ナルコト及ヒ公ノ秩序ニ關スル法令ニ異ナリタル意思表示ノ無效ナルコトハ民法第九十條及ヒ第九十一條ノ規定ニ依リ明瞭ナルヲ以テ此場合ニハ民法ノ規定ヲ適用シ其會社ノ設立行爲ヲ無效トスルヲ以テ足レリトシ敢テ會社ニ付キ特別ノ規定ヲ設クルノ必要アルヲ見ス故ニ本案ハ之ヲ削除セリ
現行商法第六十八條ノ如キハ當然言フヲ俟タサルトコロニシテ此規定ナシト雖モ法律命令ニ依リ官廳ノ許可ヲ受クヘキ營業ヲ爲サントスル會社ハ其許可ヲ得ルヲ要スルハ當然ニシテ何人モ之ヲ要セスト解スルコトナカルヘシ又株式會社ニ付テハ之ニ關スル規定ヲ遵守スルヲ要スルハ勿論ニシテ何人モ之ニ對シテ疑ヲ容ルルコトナカルヘク株式會社ノミニ付キ之ヲ明言スルハ却テ他ノ會社ト權衡ヲ失シ之カ爲メ疑ヲ生スルヲ免カレス推フニ現行商法ニ於テ株式會社ハ政府ノ免許ヲ得ルニ非サレハ之ヲ設立スルコトヲ得ストセルヲ以テ(第百五十六條)第六十八條第二項ハ同條第一項ニ依リ營業ノ許可ヲ得ルノ外此設立免許ノ規定ヲ遵守スルコトヲ要スル旨ヲ指示スルニアリシナルヘシト雖モ是レ素ト當然ナルノミナラス本案ニ於テハ株式會社ノ設立免許ノ制度ヲ廢止セシヲ以テ此點ヨリ觀察スルモ尙ホ此ノ如キ規定ヲ設クルノ必要ナシ故ニ本案ハ全ク該條ノ規定ヲ削除セリ
本案ニ於テハ會社ハ定款ヲ作リ商號及ヒ營業地ヲ記載スルコトヲ要スルノミナラス商號本店及ヒ支店ハ之ヲ登記スルコトヲ要ストセルヲ以テ(第四十九條第五十條第五十一條第百五條第百二十條第百四十一條第二百三十七條及ヒ第二百四十二條)會社ハ當然商號及ヒ一定ノ營業所ヲ設クヘク現行商法第七十條ノ如ク總則ニ於テ會社カ社名ヲ設ケ定マリタル營業所ヲ設クルコトヲ要スト規定スルノ必要ナシ又社印ニ付テハ法律ヲ以テ之ヲ命スルコトナシト雖モ各會社ハ必ス之ヲ調製スルヲ我國從來ノ慣習ナリトス而シテ將來モ亦然ルヘキヲ以テ實際上ハ社印ヲ必要トスルコトアルヘキモ法律中ニ之ヲ規定スルノ必要アルヲ見ス加之ナラス會社ト取引ヲ爲ス者ハ決シテ社印ノミニ信ヲ置クモノニアラサルヲ以テ現行商法第七十一條ニ規定セルカ如キ手續ヲ踐行セシムルノ必要ナシ故ニ本案ニ於テハ右兩條ノ規定ヲ削除セリ
現行商法第七十二條ハ會社ニ對シ或場合ニ其社名及ヒ社印ヲ用ユヘキコトヲ訓示スルニ止マリ之ニ違背スルトキハ其行爲ヲ無效ト爲シ其他制裁ヲ加フルニアラサルノミナラス此規定ナシト雖モ同條ニ規定セルカ如キ場合ニ於テハ實際上會社ハ其商號及ヒ社印ヲ用ユヘク從テ此規定ハ之ヲ法律中ニ揭クルノ必要ナカルヘシ故ニ本案ハ全ク之ヲ削除セリ
第四十二條
(理由)本條ハ現行商法第六十六條ノ規定ヲ修正シテ以テ本案ニ所謂會社ノ何タルコトヲ明カニス抑モ本案ニ所謂會社ハ商行爲ヲ業トスルモノノミヲ指示スルコト素ヨリ言フヲ俟タサルトコロナルカ如シト雖モ其他ニ商行爲ヲ業トセサル會社アリトセハ其會社ト本案ニ所謂會社トノ關係如何ニ付テハ疑ヲ生スルノ恐アリ是レ本案ハ特ニ商行爲ヲ業トスル云々ト曰ヒ以テ一方ニ於テハ他ノ法令ニ依リ商行爲ヲ業トセサル會社ヲ設立シ得ヘキコトヲ示シ他方ニ於テハ其會社ハ本案ニ規定セル會社中ニ包含スルモノニアラサルコトヲ明カニシタル所以ナリ
第四十三條
(理由)本條ハ現行商法中ニ存セサルトコロナリ抑モ商行爲ヲ業トスル會社ハ合名會社合資會社株式會社及ヒ株式合資會社ニシテ此四種ニ限リ之ヲ設立スルコトヲ得其他ノ種類ニ屬スルモノハ之ヲ設立スルコトヲ得スト規定スルハ會社ニ關スル法律關係ヲ整頓シ社員株主及ヒ第三者ノ利益ヲ保護シ併セテ之ニ對シ行政監督ヲ加フル上ニ於テ極メテ必要ナル所ナリ現行商法ニ於テハ明文ヲ以テ此旨ヲ規定スルコトナシト雖モ解釋上同一ノ決定ヲ下スヲ得ヘク其他商法典ヲ設クル諸國ニ於テモ亦此制限ヲ認ムルモノナルコト疑ヲ容レス是レ本案ニ於テ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第四十四條
(理由)本條第一項ハ現行商法第七十三條ノ規定ヲ修正シタルモノナリ現行商法第七十三條ニ於テハ會社ノ法人ナルコトヲ明言セスシテ單ニ會社ハ獨立ノ財產ヲ所有シ獨立シテ權利ヲ得義務ヲ負ヒ訴訟ニ付キ原吿又ハ被吿ト爲ルコトヲ得ル旨ヲ規定セリ從テ其解釋ニ付キ學者間ニ異說ナキ能ハス而シテ會社カ法人タルト否トハ法律ノ適用上非常ナル差異ヲ生スヘシ故ニ本案ハ現行商法ノ規定ヲ改メ本條第一項ニ於テ會社ノ法人ナルコトヲ規定シタリ
又本條第二項ハ現行商法ニ存セサル所ナリト雖モ民法第五十條ニ於テハ法人ニ付キ之ト同樣ノ規定ヲ存ス抑モ會社ノ裁判籍ニ付テハ民事訴訟法第十四條ニ特別ノ規定アルヲ以テ之ヲ定ムルカ爲メニ本案ニ於テ特ニ會社ノ住所ヲ規定スルノ必要ナキハ勿論ナリト雖モ各種ノ場合ニ通シテ適用センカ爲メ本章中ニ會社ノ住所ヲ規定スルコト極メテ必要ナリ例ヘハ民法第四百八十四條又ハ本案第二百七十七條ニ依リ會社ノ住所ニ於テ辨濟ヲ爲スヘキ場合ニハ住所ノ何レニアルヤヲ決定スルコト必要ナルカ如シ是レ本案第二項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第四十五條
(理由)本條ハ現行商法第六十九條ノ規定ヲ修正シタルモノナリ現行商法ニ於テハ登記及ヒ公吿ヲ受クルニ非サレハ會社ノ設立ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得スト爲シタルモ本案ニ於テハ登記ヲ爲シタルトキハ假令公吿ヲ爲ス前ト雖トモ會社ノ設立ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得ルモノト爲ス蓋シ會社ノ設立ヲ以テ第三者ニ對抗シ得ルノ時期ヲ定ムルハ第三者カ其設立ヲ知リタルト否トヲ標準トスルモノニアラサルカ故ニ公吿ヲ以テ其時期ト爲ササルヘカラサルノ理由ナキノミナラス民法ニ於テモ法人ノ設立ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得ル時期ヲ定ムルニハ登記ヲ以テ標準ト爲シ又不動產ニ關スル物權ノ得喪及ヒ移轉ヲ以テ第三者ニ對抗シ得ルノ時期ヲ定ムルニモ登記ヲ以テ其標準トセリ(民法第四十五條第二項及ヒ第百七十七條)然ラハ會社ノ設立ニ付テモ亦登記ヲ標準トシテ第三者ニ對抗シ得ルノ時期ヲ定ムルコト至當ナリ是レ本案カ登記ノ有無ノミヲ標準トシ公吿ノ有無ヲ問ハサル所以ナリ又現行商法ニ於テハ會社ノ設立ハ適當ナル登記公吿ヲ受クルニ非サレハ第三者ニ對シ會社タル效ナシト規定スルニ止マリ本店及ヒ支店アルトキハ本店及ヒ支店ノ所在地ニ於テ登記ヲ爲スニ非サレハ第三者ニ對シ會社タル效ナキヤ將タ又本店ノ所在地ニ於テ登記ヲ爲スヲ以テ足レリトスルヤ明瞭ナラス故ニ本案ハ明文ヲ以テ之ヲ決定セリ
第四十六條
(理由)本條ハ現行商法第八十一條ノ規定ヲ修正シタルモノナリ現行商法ニ於テハ合名會社ニ付キ本條ニ該當スル規定ヲ設ケ合資會社及ヒ株式會社ニ付テモ亦之ヲ適用スヘキモノトセリ(現行商法第百三十七條及ヒ第百七十條ト雖モ此ノ如キハ法典ノ規定ヲシテ煩雜ナラシムルニ過キサルヲ以テ本案ハ之ヲ總則中ニ規定シ各種ノ會社ニ通シテ適用スヘキモノトセリ又現行商法ハ單ニ事業ニ着手スルコトヲ得スト曰フト雖モ登記前ニ問題ト爲ルハ會社ノ目的タル事業自身ニアラスシテ多クハ其準備行爲ナリ故ニ本案ハ之ヲ改メテ開業ノ準備ニ着手スルコトヲ得スト爲セリ又現行商法ハ單ニ登記ト曰ヒタルカ故ニ本店及ヒ支店アル場合ニ於テハ本店ノ所在地ニ於テ爲スヘキ登記ノミヲ指スモノナルカ將タ又支店ノ所在地ニ於テ爲スヘキ登記ヲモ指スモノナルヤ疑アルヲ免カレス若シ其意義後者ニアリ卽チ本店ノ所在地ニ於テ登記ヲ受クルニアラサレハ事業ニ着手スルコトヲ得サルモノトセハ不便甚タシキモノアリ故ニ本案ハ前者ヲ採リ本店ノ所在地ニ於テ登記ヲ爲スヲ以テ足レリトシ明文ヲ以テ之ヲ規定セリ又現行法ニ於テハ本條ノ規定ニ違フトキハ裁判所ノ命令ヲ以テ其事業ヲ差止ムヘキコトヲ規定セリト雖モ裁判所ハ容易ニ自カラ之ヲ認知スルノ途ナキノミナラス假令裁判所カ之ヲ認知シ其事業ヲ差止ムルノ命令ヲ發スルモ尙ホ其命令ヲ遵奉セサルトキハ之ニ對シ命令違反ノ制裁ナシ寧ロ始メヨリ第二百三十三條第三號(現行商法第二百五十六條第二號)ノ過料ニ處スルノ可ナルニ如カス故ニ本案ハ現行商法第八十一條後段ノ規定ヲ削除セリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第四十七條
(理由)本條ハ現行商法第八十二條ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ蓋シ現行商法ニ於テハ本條ニ該當スル第八十二條ヲ合名會社ノ設立ニ關スル規定中ニ揭ケ合資會社及ヒ株式會社ニモ亦之ヲ適用スヘキモノトナセリ(現行商法第百三十七條及ヒ第百七十條)ト雖モ旣ニ前條ニ付キ述ヘタル理由ニ依リ本案ハ之ヲ總則中ニ加ヘタリ又本案カ現行商法ノ事業ニ着手云々ヲ改メテ開業ト爲シタルハ前條ノ修正ト對シテ字句ノ修正ニ過キス又現行商法ハ登記ヲ爲シタル後六ケ月內ニ事業ニ着手セサル制裁トシテ其登記及ヒ公吿ヲ無效ト爲スモ更ニ登記ノ申請ヲ爲スニ於テハ再ヒ第三者ニ對抗スルコトヲ得ルニ至ルヘシ故ニ寧ロ之ヲ理由トシテ裁判所ヨリ會社ノ解散ヲ命スルコトヲ得セシムルコト極メテ必要ナリ故ニ本案ハ此現行商法ノ規定ヲ改メ裁判所ハ檢事ノ請求ニ因リ又ハ職權ヲ以テ會社ノ解散ヲ命スルコトヲ得ルモノトセリ
然ルニ會社ノ目的タル事業ノ種類如何ニ依リテハ往々六ケ月內ニ開業スルコト能ハサルコトアルヘク此場合ニ期間ヲ伸長セシムルハ實際上必要ナルヘシ故ニ本案ハ新ニ但書ヲ加ヘ正當ノ事由アルトキニ限リ裁判所ハ會社ノ該求ニ因リテ此期間ヲ伸長スルコトヲ得ルモノト爲シ以テ實際ノ必要ニ應セシメタリ現行商法ニ於テ單ニ登記トアリタルヲ本店ノ所在地ニ於テ登記云々ト改メタルハ前條ニ說明シタルト同一ノ理由ニ出ツルヲ以テ茲ニ說明ヲ略ス
第四十八條
(理由)本條ハ現行商法第六十七條第二項前段ノ規定ニ該當ス而シテ其後段ヲ削除セル所以ハ卽時抗吿ヲ爲スコトヲ得ルヤ否ヤハ事手續ニ屬シ實體法タル本案中ニ規定スヘキモノニアラサルカ爲メニシテ其他ハ字句ノ修正ニ過キス
第二章 合名會社
(理由)本章ハ現行商法第一編第六章第一節ニ該當シ合名會社ニ關スル規定ヲ揭ク現行商法ハ該節ヲ六款ニ分チ第一款ニ會社ノ設立第二款ニ會社契約ノ變更第三款ニ社員間ノ權利義務第四款ニ第三者ニ對スル社員ノ權利義務第五款ニ社員ノ退社第六款ニ會社ノ解散ヲ規定スト雖モ本案ハ本章ヲ六節ニ分チ第一節ニ設立第二節ニ會社ノ內部ノ關係第三節ニ會社ノ外部ノ關係第四節ニ社員ノ退社第五節ニ解散第六節ニ淸算ヲ規定セリ
現行商法第一編第六章第一節第一款ニ於テハ會社ノ設立ト題シ合名會社ノ設立ニ關スル規定ヲ揭クト雖モ本案ハ之ニ該當スル第一節ニ於テ單ニ設立ト題シ「會社ノ」ノ三字ヲ削除シタリ是レ第二章合名會社ノ一節ナル以上ハ會社殊ニ合名會社ノ設立ヲ規定セルモノナルコトヲ當然言フヲ俟タサル所ナレハナリ
現行商法第一編第六章第一節第二款ハ會社契約ノ變更ト題シ會社契約卽チ本案ニ所謂定款ノ變更ニ關スル規定ヲ揭クト雖モ本案ニ於テ之ニ相當スル一節ヲ設ケス蓋シ現行商法第八十三條ハ素ヨリ必要ノ規定ナリト雖モ本案ハ旣ニ第五十八條ノ規定中ニ其趣旨ヲ包含セシメタルヲ以テ之ヲ削除シ又現行商法第八十四條ハ其規定明瞭ヲ缺キ若シ其意會社契約ハ書面契約ナルヲ以テ(現行商法第七十七條第一項)之ヲ變更スルニハ亦書面ヲ以テスルコトヲ要シ假令默示ニテ之ヲ變更スルモ社員間ニ其效ナシトスルニアリトセハ本案ノ主義ト相反スルヲ免レス卽チ本案ニ於テハ會社ハ定款ヲ作ルニ因リテ成立スルモノト爲シタリト雖モ總社員ノ承諾ニ依リテ其定款ヲ變更スルニハ必スシモ書面ヲ作ルコトヲ要セス其他ノ明示方法ハ勿論默示ニテモ之ヲ爲スコトヲ得ルモノト爲シタレハナリ之ニ反シテ默示ニ依リテ成ル變更ハ第三者ニ對シ其效ナキコトヲ示スニアリトセハ本案第五十三條ニ依リ其變更ノ登記ヲ爲スコトヲ要シ其登記ヲ爲スマテハ之ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得サルカ故ニ第三者ハ默示ニ依リテ成ル變更ノ爲メ損害ヲ受クルコトナク從テ第三者ヲ保護スル爲メ此ノ如キ規定ヲ存スルノ理由アルコトナシ之ヲ要スルニ同條ハ到底無用ノ規定タルコトヲ免レス故ニ本案ハ全ク之ヲ削除セリ此ノ如ク現行商法第一編第六章第一節第二款ニ包含スル規定ヲ全ク削除シ且其他ニ定款ノ變更ニ付キ別ニ規定ヲ設クルノ必要ナキ以上ハ現行商法ノ如ク定款ノ變更ノ爲メ特ニ一章ヲ設クルノ必要ナシ是レ本案カ定款ノ變更ニ關スル一章ヲ設ケサル所以ナリ現行商法ニ於テハ其第一編第六章第一節第三款ニ題スル社員間ノ權利義務ナル名稱ヲ以テセリト雖モ其規定スル所ハ獨リ社員相互間ニ於ケル權利義務ニ止マラス社員及ヒ會社間ノ權利義務ヲモ規定セリ卽チ現行商法第九十二條第九十五條第百一條第百四條及ヒ第百六條等ノ如キ是レナリ況ンヤ會社ヲ以テ法人ト爲シタル以上ハ社員相互間ニ生スル法律關係ヨリハ會社及ヒ社員間ニ生スル法律關係ヲ主トスヘキニ於テヲヤ故ニ本案ハ現行商法ニ所謂社員間ノ權利義務ヲ改メテ會社ノ內部ノ關係ト爲シ社員相互間及ヒ會社社員間ノ法律關係ヲ包含セシメ本章第二節トシテ之ヲ規定スルコトトシタリ
現行商法ニ於テハ其第一編第一章第一節第四款ニ題スルニ第三者ニ對スル社員ノ權利義務ナル名稱ヲ以テスト雖モ其規定スル所ハ實際第三者ト會社トノ間ニ生スル法律關係ニ及フコト現行商法第百八條第百十二條等ノ如キモノアリ殊ニ本案ノ如ク會社ヲ以テ法人ト認ムル以上ハ第三者ト會社トノ間ニ生スル法律關係ヲ主トスヘキコト至當ナリ況ンヤ第三者ト社員トノ間ニ法律關係ヲ生スルコト變例ナルニモ拘ハラス却テ後者ノミヲ規定シ前者ニ及ハサルハ權衡ヲ得タルモノニアラス旣ニ此ノ如キ理由アリ而シテ會社ノ外部ノ關係ナル語ハ能ク此二者ヲ包含セシムルニ足ルカ故ニ同款ニ該當スル本章第三節ニ於テハ題スルニ會社ノ外部ノ關係ナル語ヲ以テシ之ヲ第二節ト相對セシメタリ
現行商法第一編第六章第一節第五款ニ於テハ社員ノ退社ヲ規定セリ是レ本章第四節ニ該當スルモノニシテ別ニ變更ヲ加ヘタル所ナキヲ以テ說明ヲ要セス
現行商法第一編第六章第一節第六款ハ會社ノ解散ト題シテ解散及ヒ淸算ヲ規定スト雖モ解散ニ關スル規定ト淸算ニ關スル規定トハ之ヲ分離スルコト啻ニ便宜ナルノミナラス株式會社ニ關スル規定ノ分類方法ト一致シ其間能ク權衡ヲ得ルヲ以テ之ヲ二節ニ分チ第五節ニ解散第六節ニ淸算ヲ規定セリ而シテ此二節ハ何レモ第二章合名會社ノ一節ナル以上ハ單ニ解散若クハ淸算ト曰フモ合名會社ノ解散若クハ淸算ヲ指スモノナルコト明カナルヲ以テ本案ハ第一節ト同シク「會社ノ」三字ヲ削除シタリ
第一節 設立
(理由)本節ハ現行商法第一編第六章第一節第一款會社ノ設立ニ該當シ合名會社ノ設立ヲ規定ス現行商法第七十四條ニ於テハ合名會社ノ定義ヲ揭ケタリ蓋シ定義ヲ示スコトハ之ヲ學說ニ放任シ法典ニ於テハ唯規定ノ全體ニ依リテ其性質ヲ明カニスルコトヲ得ルヲ以テ足レリトスルノミナラス其揭クヘキ定義タルヤ往々不完全ニシテ却テ種々ノ疑惑ヲ招クヲ以テ本案ハ之ヲ削除セリ
又現行商法第七十五條ニ於テハ合名會社ノ商號ニ關スル規定ヲ揭クト雖モ合名會社ノ商號ニ付テハ第一編總則第三章商號ニ關スル一般ノ規定ニ從フヲ以テ足レリトスルヲ以テ本案ハ之ヲ削除シタリ又現行商法第七十六條ハ商號ニ關スル規定トシテハ本節中ニ之ヲ揭クルノ必要ナク又若シ社員タルカ如キ外觀ヲ有スル者ノ第三者ニ對スル關係ヲ定ムルニアリトセハ會社ノ外部ノ關係トシテ本章第三節中ニ之ヲ規定スヘキモノニシテ旣ニ本案第六十五條ノ存スルアリ何レノ點ヨリ觀察スルモ之ヲ本節ヨリ除外スルコト至當ナルカ故ニ本案ハ之ヲ削除シタリ又現行商法第八十一條及ヒ第八十二條ニ於テハ會社ノ事業ニ着手スル期限ニ付キ規定ヲ揭クト雖モ本案ハ之ヲ第一章總則中ニ規定シタルコト前ニ說明セルトコロナリ
第四十九條
(理由)本條ハ現行商法第七十七條第一項前段ノ規定ニ該當ス而シテ書面契約トアリシヲ改メテ定款ト爲シタルハ新民法第一編第二章法人ノ規定ニ倣ヒタル結果ニシテ字句ノ修正ニ過キス
第五十條
(理由)本條ハ現行商法第七十七條第一項後段及ヒ第七十九條ノ一部ニ該當ス現行商法第七十七條第一項ニ於テハ合名會社ヲ設立スルニハ書面契約ニ因ルヘキコトノミヲ規定スレトモ其契約中ニ定ムヘキ事項ヲ規定セス唯タ第七十九條ニ於ケル登記公吿スヘキ事項ニ依リ間接ニ定款事項ノ何タルヤヲ推測シ得ルニ過キス之ニ反シテ本案ニ於テハ先ツ本條ニ合名會社ノ定款ニ記載スヘキ事項ヲ規定シテ以テ會社ノ基礎ヲ確實ナラシメ次條ニ登記スヘキ事項ヲ規定シテ以テ會社ノ活動ヲ公ケニスルノ途ヲ定メタリ抑モ現行商法ニ於テハ單ニ合名會社ヲ設立スルニハ書面契約ニノミ因ルヘキコトヲ定ムルニ止マルカ故ニ其契約中ニハ如何ナル事項ヲ定ムルモ或ハ之ヲ定メサルモ一ニ當事者ノ任意ニアルカ如シト雖モ素ヨリ其契約ニ必要ナル事項ヲ定ムルコトヲ要スルノ意ナルヤ勿論ニシテ結局本條ノ規定ハ現行商法ト大ニ異ル所ナカルヘシ唯タ異ナル所ハ本案ニ於テハ本條ニ定メタル事項ヲ定款ニ記載スルコトハ當事者間ニ於テ合名會社ヲ設立スル爲メ必要ナルニ止マラスシテ第三者ニ對シ之ニ依リ會社カ成立セルコトヲ示スカ爲メニモ必要ナルコト是ナリ(第四十九條)
定款ニ記載スヘキ事項トシテ規定セラレタルモノニシテ茲ニ說明ヲ要スルハ第五號ナリ抑モ社員ノ出資ハ會社ノ資本ト爲リ會社ハ之ヲ利用シテ事業ヲ營ムモノナレハ其多數ハ會社ノ利害ニ密接ノ關係アルノミナラス利益ノ配當ヲ爲シ又會社解散ノ場合ニ殘餘財產ヲ分配スルニ付キテモ皆之ヲ標準トスルヲ通例トシ加之ナラス各社員カ會社ニ對スル義務ノ限度モ出資ニ止マルモノトス故ニ其出資ノ種類及ヒ價格又ハ評價ノ標準ハ之ヲ定款ニ記載シ明確ナラシムルコト最モ必要ナルカ爲メナリ現行商法カ社員出資ノ種類及ヒ其價格又ハ評價ノ標準ヲ登記スヘキ事項中ニモ加ヘサリシハ他ナシ合名會社ノ社員ハ會社ノ債權者ニ對シテ連帶無限ノ責任ヲ負フカ故ニ社員ノ出資卽チ會社ノ資本ノ多寡ハ債權者ノ利害ニ關係ナシトスルニアルヘシ然レトモ會社ヲ以テ法人ナリトスル以上ハ會社ノ債權者カ會社ニ對シテ其權利ヲ行フト社員ニ對シテ其權利ヲ行フトハ方法及ヒ效力ヲ異ニシ從テ社員ノ出資卽チ會社ノ資本ノ多寡ハ會社債權者ノ利害ニモ亦關係ナシト云フコトヲ得サルヘシ故ニ本案ハ法人ニ關スル民法第三十七條第四號及ヒ株式會社ニ關スル本案第百二十二條第三號及ヒ第四號ノ規定ヲ斟酌シ合名會社ニ付テモ亦社員ノ出資ノ種類及ヒ價格又ハ評價ノ標準ヲ定款ニ記載スヘキモノトセリ
第五十一條
(理由)本條第一項ハ現行商法第七十八條及ヒ第七十九條ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法第七十八條ニ於テハ會社設立ノ日ヲ以テ登記ヲ爲スヘキ期間ノ起算點ト爲スト雖モ設立ノ日ノ何レニアルカハ現行商法ノ規定セサル所ナリ然ルニ本案ニ於テハ第四十九條ニ於テ會社ハ定款ノ作成ニ因リテ成立スルモノト爲シタルヲ以テ其成立ノ日卽チ定款ヲ作リタル日ヨリ登記ヲ爲スヘキ期間ヲ起算スルコト正當ナリ故ニ本案ハ現行商法第七十八條ノ「設立後」ヲ改メテ「定款ヲ作リタル日ヨリ」ト爲シタリ又現行商法第七十九條ニ於テハ「登記及ヒ公吿スヘキ事項」云々ト規定スト雖モ旣ニ本條ニ於テ登記スヘキ事項ヲ定メ且其事項ニシテ登記セラルルトキハ本案第十一條ノ規定ニ依リ裁判所ハ必ス其事項ヲ公吿スヘク卽チ登記スヘキ事項トシテ列擧シタルモノハ同時ニ公吿スヘキ事項ナルコト解釋上毫モ疑ヲ容レス故ニ本案ハ此現行商法ノ規定ヲ改メ單ニ本條ニ列擧シタル事項ヲ登記スルコトヲ要スル旨ノミヲ明言シ公吿ニ付テハ何等ノ規定ヲ設ケス又本案第十七條ノ規定ニ依レハ合名會社ノ商號ニハ必ス合名會社ノ文字ヲ附スルコトヲ要シ且其商號ハ本條第二號ノ規定ニ依リ之ヲ登記スルコトヲ要スルヲ以テ之ニ依リテ其會社ノ合名會社ナルコトヲ知ルヲ得ヘク別ニ之ヲ登記セシムルノ必要ナシ推フニ現行商法ニ於テハ合名會社ノ社名ニハ會社ノ二字ヲ附スルヲ以テ足レリトスルカ故ニ商號ノ外合名會社ナルコトヲモ登記セシムルノ必要ナキニシモアラサリシカ本案ニ於テハ商號ニ關スル規定ヲ修正シタル結果此必要全ク存セサルニ至リタリ故ニ現行商法第七十九條第一號ヲ削除セリ又現行商法第七十九條第六號ノ「存立時期」ニ「解散ノ事由」ヲ附加セルハ會社ノ消滅スル原因トシテ世人ニ知ラシムルノ必要ハ其期限ヲ以テ定メラルト將又條件ヲ以テ定メラルルトニ依リテ差異ナキカ爲メナリ又本條第五號ノ規定ハ現行商法中ニ存セサルトコロナリ蓋シ出資ノ多寡ハ會社債權者ノ利害ニ關係アリ延テ會社ノ信用ヲ消長スルニ足ルカ故ニ前條ニ於テモ之ヲ定款ニ記載セシムルコトト規定シタルト同シク本條ニ於テモ亦社員ノ出資ノ種類及ヒ金錢其他ノ財產ヲ目的トスル出資ノ價格ヲ登記スヘキモノト爲セリ又本條第六號ハ現行商法第七十九條第七號ノ文字ヲ修正シタルモノニシテ本案カ會社ノ內部ノ關係ト外部ノ關係トヲ區別シタル結果ニ外ナラス本條第二項ノ規定ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ蓋シ會社設立ノ後支店ヲ設ケタルトキ若クハ其本店又ハ支店ヲ移轉シタルトキモ亦本條第一項ニ規定セル事項ノ登記ヲ受ケシムヘキコトハ本條第一項ト同一ノ理由ニ依ル然ルニ現行商法第七十八條カ此場合ヲ規定セサルハ登記シタル事項ノ變更トシテ同第八十條ノ規定ニ依ラシムルノ精神ナルヘシト雖モ疑議ナキ能ハス是レ本案カ新ニ本條第二項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
本條第三項ノ規定モ亦現行商法中ニ存セサルトコロニシテ前項ノ規定ト相俟テ圓滿ナル適用ヲ見ルモノナリ卽チ會社設立後支店ヲ設ケタルトキハ其支店ノ所在地ニ於テハ會社設立ノ登記ト同一ノ登記ヲ爲シ本店及ヒ他ノ支店ニ於テハ單ニ其支店ヲ設ケタル旨ヲ登記スヘキコト前項ノ規定セルトコロニシテ此原則ニ從フトキハ旣ニ本店若クハ支店ノ存スル同一區域內(同一登記所ノ管轄區域內)ニ更ニ支店ヲ設クルトキト雖モ當該登記所ニ於テ設立登記ト同一ノ登記ヲ爲ササルヘカラサルコトトナル是レ同一登記所ノ登記簿ニ同一會社ノ二個ノ表示ヲ存スルコトト爲リ登記簿ノ整理上非難スヘキノミナラス登記當事者タル會社ヲシテ煩雜ナル手續ヲ履マシメ比較的ニ高價ノ手數料ヲ費サシムルコトトナルヘシ是レ本條第三項カ此場合ニ限リ本店及ヒ各支店設立セラレタルコトヲ登記スルハ足レリト規定シタル所以ナリ
第五十二條
(理由)本條ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ蓋シ現行商法ニ於テハ株式會社ニ付テノミ本條ニ該當スル規定ヲ設ケ合名會社及ヒ合資會社ニ付テハ之ヲ欠缺スト雖モ此ノ如キ區別ヲ存スヘキ理由ナキヲ以テ本案ハ其株式會社ニ關スル第二百十條第二項ニ字句ノ修正ヲ加ヘ且其登記ヲ爲スヘキ期間ヲ定メ之ヲ本條ニ規定シ以テ第十五條ノ變則トシテ一般ノ會社ニ準用スヘキモノト爲シタリ
第五十三條
(理由)本條ハ現行商法第八十條ノ規定ニ該當ス而シテ登記シタル事項ニ變更ヲ生スル事由ニハ或ハ總社員ノ承諾ニ出ツルコトアルヘク或ハ總社員ノ承諾ニ出テサルコトアルヘシ現行商法ハ之ヲ併記セリト雖モ其必要ナキヲ以テ本案ハ之ヲ改メテ單ニ「登記事項中ニ變更ヲ生シ云々」ト爲シ以テ其規定ヲ簡單ナラシメタリ其他ハ字句ノ修正ニ過キス
第二節 會社ノ內部ノ關係
(理由)本節ハ現行商法第一編第六章第一節第三款社員間ノ權利義務ニ該當スルモノニシテ社員相互間及ヒ會社社員間ノ法律關係ヲ規定ス
本案第五十四條ニ於テハ會社ノ內部ノ關係ニ付キ定款又ハ本法ニ別段ノ定メナキトキハ組合ニ關スル民法ノ規定ヲ準用スヘキモノト爲シタルヲ以テ現行商法ノ規定中組合ニ關スル民法ノ規定ト重複セルモノハ之ヲ削除シタリ則チ現行商法第八十七條ハ民法第六百七十條ト重複シ第九十條ハ民法第六百七十三條ト重複シ第九十二條ハ民法第六百七十一條及ヒ第六百四十五條ト重複シ第百一條ハ民法第六百七十一條及ヒ第六百五十條ト重複シ第百二條ハ民法第六百七十一條及ヒ第六百四十八條ト重複シ第百三條ハ民法第六百七十一條第六百四十六條及ヒ第六百四十七條ト重複シ第百五條ハ民法第六百七十四條ト重複セルヲ以テ本案ハ何レモ之ヲ削除シタリ
又現行商法第八十九條ハ全ク理由ナキ不當ノ規定ナルヲ以テ之ヲ削除シ現行商法第九十六條乃至第九十八條及ヒ第百七十條モ當然言フヲ俟タサル所ナルヲ以テ之ヲ削除セリ又現行商法第九十三條ハ社員ノ差入レタル出資ハ會社ノ財產目錄ニ記入スルニ因リテ會社ノ所有ト爲ルヘキコトヲ推定スルニ出テタルモノナルヘシト雖モ民法上權利ヲ移轉スルニハ或ハ登記或ハ物ノ引渡或ハ物ノ指定或ハ證書ノ裏書等ニ因ルコトアルノミナラス單ニ當事者ノ意思表示ノミニ因リテ其效力ヲ生スルコト通例ナルヲ以テ茲ニ其移轉ノ時期ヲ推定スルハ起テ疑惑ヲ生スル種子タルヲ免レサルヲ以テ之ヲ削除セリ又現行商法第百條ハ解釋上疑議アリテ學說紛々タリト雖モ推フニ此規定ノ適用トシテ共算商業組合ニ關スル規定ニ依リ社員及ヒ其持分ニ加入シタル他人間ノ關係ヲ定ムルハ單ニ利益ノ分配方法ニ止マルヘク之ヲ以テ直チニ共算商業組合ヲ爲スモノトスルノ趣旨ニアラサルヘシ果シテ然リトセハ是レ當事者ノ契約ヲ以テ定ムヘキ所ニシテ法律ニ規定スルノ必要ナシ若シ之ニ反シ社員及ヒ其持分ニ加入シタル他人間ニ於テ必ス共算商業組合ヲ爲スヲ要ストノ旨趣ニ在リトセハ到底不當ノ規定タルヲ免カレサルヘシ故ニ本案ハ亦之ヲ削除シタリ
又現行商法第九十四條第九十五條第百四條及ヒ第百六條ニ於テハ社員ノ除名ニ關スル規定ヲ揭クト雖モ此規定タルヤ會社ノ內部ノ關係トシテ之ヲ規定スルヨリモ寧ロ社員ノ退社ニ關スル規定中ニ之ヲ揭クルヲ以テ其當ヲ得タルモノトス故ニ本案ハ之ヲ第四節社員ノ退社ニ關スル規定中ニ讓リタリ
第五十四條
(理由)本條ハ現行商法第八十五條ノ規定ヲ修正シタルモノナリ抑モ現行商法ニ於テハ「社員間ノ權利義務」云々ト曰フト雖モ旣ニ會社ヲ以テ法人ト認ムル以上ハ會社ト社員トノ間ニモ亦權利義務ヲ生スヘク從テ現行商法ノ用語ハ狹隘ニ失ス況ンヤ本案ニ於テハ旣ニ述ヘタルカ如ク本節ノ表題ヲ會社ノ內部ノ關係ト爲シ以テ二者ヲ包含セシメタルニ於テオヤ是レ本條ニ於テモ亦會社ノ內部ノ關係ト改メタル所以ナリ又現行商法ハ「會社契約」云々ト曰フト雖モ本案ハ一般ニ之ヲ定款ト改メタルヲ以テ本條ニ於テモ亦之ニ倣ヒ定款ト改メタリ又會社ノ內部ノ關係ニ付キ定款又ハ本法ニ別段ノ定アルトキハ之ニ依リ其關係ヲ定ムヘキハ勿論ニシテ現行商法ノ如ク之ヲ明言スルハ起テ無用ノ感ナキニアラス而シテ定款及ヒ本法ニ別段ノ定メナキトキハ組合ニ關スル民法ノ規定ヲ準用スルコト極メテ適用ナリ是レ本條ニ於テ現行商法ニ比ヒ更ニ一步ヲ進メ定款又ハ本法ニ別段ノ定メナキトキハ組合ニ關スル民法ノ規定ヲ準用スヘキコトヲ定メ同時ニ其裏面ヨリ定款又ハ本法ニ別段ノ定メアルトキハ之ニ從フヘキコトヲ明カニセル所以ナリ
第五十五條
(理由)本案第五十四條ニ於テハ會社ノ內部ノ關係ニ付キ定款又ハ本法ニ別段ノ定メナキトキハ組合ニ關スル民法ノ規定ヲ準用スヘキコトヲ規定シタルカ故ニ民法第五百五十九條ニ依リ組合ニ準用スヘキ民法第五百六十九條ノ規定ハ合名會社ノ社員カ債權ヲ以テ出資ノ目的ト爲シタル場合ニモ亦之ヲ準用スヘク從テ債務者カ辨濟期ニ辨濟ヲ爲サスト雖モ其債權ヲ以テ出資ノ目的ト爲シタル社員ハ單ニ擔保ノ責ニ任スルニ止マリ債權以外ノ財產ヲ以テ出資ノ目的ト爲シタル社員ニ比スレバ其責任ノ輕重ニ關シテ權衡ヲ失スル所アルヲ免レス是レ本案カ新ニ本條ノ規定ヲ設ケ且一方ニ於テハ規定ヲ簡明ナラシメ他方ニ於テハ金錢ヲ以テ出資ノ目的ト爲シタル場合ト權衡ヲ得セシムルカ爲メ金錢ヲ目的トスル出資ヲ爲スコトヲ怠リタル場合ニ關スル民法第六百六十九條ノ規定ヲ此場合ニ準用シタル所以ナリ
第五十六條
(理由)本條ハ現行商法第八十八條ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ蓋シ現行商法ニ於テハ會社ノ業務ヲ行フ權利義務ノ外會社ノ利益ヲ保衞スル權利義務ヲ認ムト雖モ會社ノ利益ヲ保衞スルハ其業務ノ執行ニ依ルヲ以テ當然業務執行中ニ包含スヘク別ニ之ヲ揭クルノ必要アルヲ見ス又現行商法ニ於テハ各社員ノ權利義務同等ナル旨ヲ明言スト雖モ各社員カ權利ヲ有シ義務ヲ負フコトヲ規定シ之ヲ制限セサルトキハ其權利義務ハ同等ノモノト解スヘキハ勿論ナリ故ニ本案ハ現行商法中「及ヒ其利益ヲ保衞スル」ノ文字及ヒ「同等ノ」ノ文字ヲ削除シ一般ノ用例ニ倣ヒテ會社契約ヲ定款ト改メ其他ノ字句ヲ修正シテ本條ノ規定ヲ設ケタリ
第五十七條
(理由)本條ハ現行商法第九十一條ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法第九十一條ニ於テハ業務擔當ノ任アル各社員ハ代務ノ委任又ハ解任ヲ爲シ得ルモノト規定セリ是レ極端ニ失スルモノタルヲ免レス然リト雖モ支配人ノ選任及ヒ解任ニ付テハ總社員ノ同意ヲ要ストスレハ社員一人ノ不同意ナルカ爲メ適任ノ人ヲ支配人ニ選任シ若クハ不適任ノ人ヲ解任スルコトヲ得サルニ至ル是レ亦至當ノ規定ニアラス故ニ本案ハ社員ノ過半數ヲ以テ支配人ノ選任及ヒ解任ヲ決スヘキモノト爲シタルノミナラス尙ホ定款ニ於テ例外ヲ設クルヲ妨ケスシテ實際上ノ必要ニ應スルニ足ルノ餘地ヲ存シタリ
第五十八條
(理由)本條ハ現行商法第八十三條及ヒ第八十六條ノ規定ヲ合併シ之ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法第八十三條ニ依レハ會社契約ノ變更ニハ總社員ノ承諾ヲ要スルヲ以テ結局本條ト其趣旨ヲ同クスト雖モ行文甚タ穩當ヲ缺クモノアルヲ以テ本案ニ於テハ其字句ヲ修正シ又現行商法第八十六條ニ於テハ會社ノ目的ニ反セサルモ之ニ異ナル業務及ヒ事項ニ付テハ業務擔當ノ任アル總社員ノ承諾ヲ要スルニ止マルト雖モ會社ノ目的ノ範圍ニ屬セサル行爲ヲ爲スハ定款ノ變更ト類似スルニモ拘ハラス一ハ總社員ノ承諾ヲ要シ一ハ業務擔當ノ任アル總社員ノ承諾アルヲ以テ足レリトスルハ兩者ノ間權衡ヲ失スルヲ免レサルカ故ニ本案ハ會社ノ目的ノ範圍ニ屬セサル行爲ヲ爲スニハ凡テ定款ノ變更ト等シク總社員ノ承諾アルコトヲ要スルモノト爲ス是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第五十九條
(理由)本條ハ現行商法第九十九條ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ蓋シ他人カ新ニ合名會社ニ加入スル場合ニ於テハ總社員ノ同意ヲ要スルコト當然言フヲ俟タサル所ナリト雖モ社員ノ持分ヲ讓受クルニ因リテ新ニ合名會社ニ加入スヘキ場合ニハ明文ヲ以テ之ヲ規定スルコト必要ナリ卽チ社員カ他ノ社員ノ承諾ヲ得スシテ其持分ノ全部又ハ一部ヲ他人ニ讓渡シタルトキハ其持分ヲ讓渡シタル社員及ヒ讓受人間ニ於テハ其讓受ノ有效ナルコト勿論ナリト雖モ其他ノ社員ノ承諾ヲ得サル限リハ其讓渡ヲ以テ會社ニ對抗スルコトヲ得サルモノトスルコト正當ナリ而シテ社員ノ持分ナルモノハ一種ノ債權トモ稱スヘキモノナルヲ以テ其讓渡ニ付キ第三者ニ對スル效力ヲ規定スル必要ヲ見ス是レ本案カ「及ヒ第三者」ノ五字ヲ削除シタル所以ナリ其他ハ字句ノ修正ニ過キス
第六十條
(理由)本條ハ現行商法第百四條ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノニシテ其大體ニ於テハ現行商法ト異ナル所ナシ唯タ現行商法第百四條ニ於テハ社員ハ會社ノ商部類ニ屬スル取引ニ與カルコトヲ得サル旨ヲ規定スト雖モ果シテ如何ナル事項ヲ指スカ明瞭ナラス若シ之ヲ廣汎ニ解釋セハ實際上甚タ不便ヲ生スヘク若シ之ヲ狹隘ニ解釋セハ殆ント無要ノ規定タルニ至ルヘキヲ以テ本案ハ之ヲ削除シタリ又現行商法第百四條ニ於テハ同種ノ營業ヲ目的トスル他ノ會社ノ無限責任社員ト爲ルコトヲ得ルヤ否ヤハ明文ヲ以テ之ヲ決定セス蓋シ之ヲ以テ會社ノ商部類ニ屬スル取引ニ與カルモノト爲シ之ヲ禁スルノ趣旨ナルヘシト雖モ到底明瞭ヲ缺クモノタルヲ免レス故ニ本案ハ新ニ此場合ニ付キ規定ヲ設ケタリ又現行商法第百四條ニ於テハ社員カ此規定ニ背キタル社員ヲ除名シ得ルコトヲモ規定セリト雖モ本案ニ於テハ第四節社員ノ退社中ニ之ヲ規定スルコトトナシタリ又現行商法ハ總社員ノ承諾ヲ得タル場合ヲ例外ト爲スト雖モ商行爲ヲ爲シ又ハ他ノ會社ノ無限責任社員ト爲ラントスル者カ自己ニ對シテ自己ノ行爲ヲ承諾スルハ承諾ノ觀念ト相反スルヲ免カレス故ニ本案ハ之ヲ他ノ社員ノ承諾ト改メタリ又本條第二項ハ大體現行商法ト同一ナリト雖モ唯タ現行商法ニ於テハ會社ハ其社員ヲ除名スルカ或ハ社員ノ商行爲ヲ會社ノ爲メニ爲シタルモノト看做スカ二者必ス其一ヲ選擇セサルヘカラサリシヲ本案ニ於テハ必スシモ二者其一ヲ選擇スルノ必要ナク社員ノ商行爲ヲ會社ノ爲メニ爲シタルモノト看做シ且其社員ヲ除名スルコトヲ得ヘキモノト爲ス又現行商法ニ於テハ社員カ第三者ノ爲メニ商行爲ヲ爲シタル場合ニモ尙ホ會社ハ之ヲ以テ自己ノ爲メニ爲シタルモノト看做スコトヲ得ルモノト爲スト雖モ本案ハ旣ニ第三十二條ト同一ノ理由ニ依リ此場合ニハ會社カ其商行爲ヲ自己ノ爲メニ爲シタルモノト看做スコトヲ許サス又現行商法ニ於テハ會社カ社員ノ商行爲ヲ自己ニ引受クルコトヲ請求スヘキ期間ヲ定メスト雖モ之ヲ定ムルコト素ヨリ必要ナルヲ以テ本案ハ第三十二條第三項ノ如ク會社カ其商行爲ヲ知リタル時ヨリ二週間內ニ之ヲ引受クヘキモノト爲ス其他ハ何レモ字句ノ修正ニ過キス
第三節 會社ノ外部ノ關係
(理由)本節ハ現行商法第一編第六章第一節第四款ノ規定ニ該當スルモノニシテ第三者ト會社トノ間ニ於ケル法律關係及ヒ第三者ト社員トノ間ニ於ケル法律關係ヲ規定ス
現行商法第百八條ニ所謂「業務擔當ノ任アル社員」云々ノ規定ハ會社ノ內部ノ關係ト外部ノ關係トヲ混同シタルモノナルノミナラス會社ヲ代表スヘキ社員ノ行爲カ會社ニ對シテ如何ナル效力ヲ生スヘキカハ代理ニ關スル民法及ヒ本案ノ規定殊ニ民法第九十九條及ヒ第百條並ニ本案第二百六十六條ノ規定ヲ適用スルヲ以テ足レリ現行商法ノ如ク特別ノ規定ヲ要セス故ニ本案ハ之ヲ削除シタリ現行商法第百十條モ亦會社ノ內部ノ關係タル業務ノ執行ト會社ノ外部ノ關係タル代表トヲ混同シタルモノナルノミナラス假令同條ニ所謂業務擔當ハ代表ヲ指スモノトスルモ定款、總社員ノ承諾又ハ法律ノ規定ニ依リ會社ヲ代表スヘキ各社員ハ第三者ニ對シ會社ヲ代表スルヲ以テ第三者カ會社ニ對シテ債務ノ履行ヲ請求スルニハ會社ヲ代表スヘキ各社員ニ對シテ之ヲ爲スヘキコト勿論ナリ加之ナラス現行商法第百十條ノ規定ニ依レハ宛カモ會社ノ業務ヲ執行スヘキ各社員カ會社ノ債務ヲ履行スルニハ自己ノ財產ヲ以テスヘキモノトスルカ如シ若シ果シテ現行商法ノ眞意茲ニ在リ爲メニ同條ノ規定ヲ設ケタルモノトセハ會社ヲ以テ法人ト認メ會社ノ財產及ヒ債務ト社員ノ財產及ヒ債務トヲ區別シタル趣旨ヲ埋沒スルノミナラス本案第六十三條ニ該當スル現行商法第百十二條ノ規定ト相牴觸スト謂ハサルヘカラス若シ又會社財產ヲ以テ會社ノ債務ヲ履行スルノ意ナリトセハ此規定ハ結局現行商法第百八條ト異ナラサルヘシ何レノ解釋ヲ採ルモ現行商法第百十條ハ到底不必要ノ規定タルヲ免レサルヲ以テ本案ハ之ヲ削除シ第六十二條ニ其趣旨ヲ包含セシメタリ
現行商法第百十四條ニ於テハ會社ノ商業使用人又ハ代務人カ其給料ノ全部又ハ一分ヲ一定又ハ不定ノ利益配當ニ因リテ受クルモ之ヲ以テ會社ノ業務施行ニ與カリ又ハ事實社員タルノ權利義務ヲ有スルモノト同視スヘカラサルコトヲ規定スト雖モ是レ當然言フヲ俟タサル所ナリ故ニ本案ハ之ヲ削除シタリ
現行商法第百十六條乃至第百十八條ハ會社ヲ以テ法人ト認ムルノ結果ニシテ社員ニ對スル債權者若クハ債務者ハ會社ノ債權者若クハ債務者ニアラサルカ爲メニ外ナラス蓋シ會社ヲ以テ法人ト爲ササルトキハ此ノ如キ規定ヲ設クルノ必要存スルコトアルヘシト雖モ旣ニ本案ノ如ク第四十四條第一項ニ於テ會社ノ法人ナルコトヲ定ムル以上ハ此規定ハ當然言フヲ俟タサル所ナリ故ニ本案ハ全ク之ヲ削除シタリ
第六十一條
(理由)現行商法ニ於テハ第三者ニ對スル社員ノ權利義務トシテ明文ヲ以テ本條ニ該當スル規定ヲ揭ケス然レトモ現行商法第八十八條及ヒ第百八條ノ規定ニ依ルトキハ結局規定ノ方法ヲ異ニスルニ止マリ其主義ニ至リテハ本條ト略ホ同一ナルカ如シ唯タ現行商法ニ於テハ會社ノ內部ノ關係タル業務ノ執行ト外部ノ關係タル代表トヲ混同シタリト雖モ此二者ハ之ヲ區別スルコト至當ナリ故ニ本案ハ前節ニ於テ第五十六條ノ規定ヲ設ケ會社ノ業務執行ノコトヲ定メ本節ニ於テハ本條ノ規定ヲ設ケ會社ノ代表ノコトヲ定メ以テ二者ノ區別ヲ明カニス是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第六十二條
(理由)本條第一項ハ現行商法第百九條ノ規定ヲ修正シタルモノナリ抑モ現行商法第百九條ニ於テハ業務擔當ノ任アル社員カ會社ノ權利ヲ主張シ又ハ之ヲ處分スルコトヲ得ル旨ヲ規定スト雖モ此權限ハ各社員ニ存スルカ將タ又業務擔當ノ任アル總社員共同シテ之ヲ行フヘキカ明瞭ナラサルノミナラス會社ヲ代表スヘキ社員カ會社ニ代ハリテ第三者ニ對シ爲スコトヲ得ヘキ行爲ハ獨リ會社ノ權利ヲ主張シ若クハ之ヲ處分スルノミニ止マラス現行商法モ亦其他ノ行爲ヲ爲スコトヲ許スハ其第百八條ノ規定ニ依リ疑ヲ容レサルカ如シ然ルニ第百九條ニ於テ會社ノ權利ヲ主張シ若クハ之ヲ處分スルコトノミニ付キ明文ヲ揭クルニ止マルハ狹隘ニ失ス故ニ本案ハ大ニ之ヲ修正シ本條第一項ノ規定ヲ設ケ以テ現行商法第百九條ニ代フルノミナラス同時ニ現行商法第百十條ノ趣旨ヲモ包含セシメタリ
又本條第二項ハ一方ニ於テハ現行商法第百十一條ノ規定ヲ採用シ他方ニ於テハ新ニ規定ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法第百十一條ニ於テハ業務擔當ノ任アル社員ノ代理權ニ加ヘタル制限ハ第三者ニ對シ其效ナキコトヲ規定シ第三者ノ善意惡意ヲ區別セスト雖モ合資會社ノ業務擔當社員及ヒ株式會社ノ取締役ニ關スル現行商法第百四十四條及ヒ第百八十六條ノ規定後見人ニ關スル本案第七條第二項ノ規定及ヒ民法中法人ノ理事ニ關スル第五十四條ノ規定等ニ比ヒ其權衡ヲ失スルノミナラス惡意ノ第三者ヲモ保護スルノ必要ナシ故ニ本案ハ第三者ノ善意ナルト惡意ナルトニ依リ區別ヲ立テ代理權ニ加ヘタル制限ノ效力ヲ定メタリ又會社ヲ代表スヘキ社員其他ノ代理人カ其職務ヲ行フニ付キ他人ニ加ヘタル損害ヲ賠償スルノ責任ヲ會社ニ負擔セシムルニハ特ニ明文ヲ以テ之ヲ規定スルコトヲ必要トス然ルニ現行商法ニ於テハ此明文ヲ欠缺スルカ故ニ本案ハ新ニ之ヲ規定シタリ是レ本條第三項ヲ設ケタル所以ナリ
第六十三條
(理由)本條ハ現行商法第百十二條ノ規定ニ該當シ唯タ其字句ヲ修正シタルニ過キス
第六十四條
(理由)本條ハ現行商法第百十五條ノ規定ニ該當スルモノナリ現行商法第百十五條ニ於テハ新タニ入社スル社員ハ契約上他ノ定メナキトキハ其入社前ニ生シタル會社ノ義務ニ付テモ責任ヲ負フヘキコトヲ規定シタリ從テ同條ハ第三者ト社員トノ間ニ於ケル法律關係ヲ定メタルモノナルニモ拘ハラス入社ノ契約ニ依リ新ニ入社シタル社員ノ第三者ニ對スル責任ニ付キ別段ノ定メヲ爲シ此規定ノ適用ヲ左右スルコトヲ得ルカ如シ是レ甚タ不當ナリト謂ハサルヘカラス故ニ本案ハ別段ノ定メヲ以テ新ニ入社シタル社員ノ第三者ニ對スル責任ヲ左右スルコトヲ許ササルモノト爲シ現行商法第百十五條中「契約上他ノ定ナキトキ」云云ヲ削除シ其他ノ字句ヲ修正シテ以テ本條ノ規定ヲ設ケタリ
第六十五條
(理由)本條ハ現行商法第百十三條ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ現行商法第百十三條ニ於テハ第三者カ社員ニ非サル者ニ自己ヲ社員ナリト信セシムルヘキ行爲アリタル場合ヲ一々列擧シタルト雖モ是レ却テ煩雜ニ失シ凡テノ場合ヲ盡ク包含セサルノ恐レアリ故ニ本案ハ之ヲ改メテ第三者カ社員ニ非サル者ヲ社員ナリト信スヘキ正當ノ理由アルトキト爲シ一方ニ於テハ主觀的ニ第三者カ社員ニ非サル者ヲ社員ナリト信セシ場合ニ限リテ本條ノ規定ヲ適用スヘキモノト爲シ他方ニ於テハ一々場合ヲ列擧スルノ錯雜ヲ避ケ大ニ其規定ヲ簡單明瞭ナラシメ併セテ闕漏ナキコトヲ期シタリ
第六十六條
(理由)本條ハ現行商法第百十九條ノ規定ニ宇句ノ修正ヲ加ヘタルモノニシテ其異ナル所ハ現行商法第百十九條ニ於テハ會社ノ債權者カ社員ノ持分ノ減少ニ對シテ異議ヲ述フルコトヲ得ル方面ヨリ之ヲ規定シ本案ニ於テハ社員ノ出資ノ減少ヲ以テ會社ノ債權者ニ對抗スルコトヲ得サル方面ヨリ之ヲ規定スルニアリトス
第六十七條
(理由)本條ハ現行商法中ニ存セサル所ニシテ唯タ合資會社ニ關スル規定トシテ其第一編第六章第二節中第百五十三條ニ於テ本條ニ該當スル規定アルノミ蓋シ現行商法ノ如ク合名會社ノ各社員ノ出資ヲ登記セサルトキハ第三者ハ會社ノ資本ノ若干ナルヤヲ知ルニ由ナカルヘク會社ト取引ヲ爲スニ當リテモ亦會社ノ資本若クハ財產ノ多少ニ付キ毫モ重キヲ惜カス單ニ各社員ノ一身上ノ信用如何ニ着目スヘシ從テ會社カ損失ヲ塡補セスシテ利益ヲ配當スルコトアルモ敢テ事ニ害ナカルヘシ然ルニ本案ニ於テハ合名會社モ亦合資會社ト同シク各社員ノ出資ヲ登記シ第三者ヲシテ會社資本ノ種類及ヒ其額ヲ知ラシムルヲ以テ第三者カ會社ト取引ヲ爲スニ當リテハ素ヨリ社員其人ニ信用ヲ惜クヘシト雖モ會社資本ノ種類及ヒ其額ニ着眼スルコトヲ亦免カルヘカラス勢ヒナリ從テ若シ本條ノ規定ナキトキハ會社カ損失ヲ塡補セスシテ其利益ヲ各社員ニ配當シ以テ會社ノ財產ヲ減少スルモ會社ノ債權者ハ之ヲ默視スルノ外ナラン此ノ如キハ會社ノ債權者ヲ適當ニ保護スル所以ニアラサルナリ故ニ損失ノ塡補前ニ利益ノ配當ヲ爲スコトヲ禁スル規定ハ獨リ合資會社ニ固有ノモノト爲スヘカラス合名會社ニ付テモ亦此規定ヲ揭クルノ必要アリ是レ本案カ現行商法第百五十三條ノ字句ヲ修正シテ合名會社ニ關スル規定ト爲シ之ヲ合資會社ニ準用スルコトトシテ本條ニ揭ケタル所以ナリ
第四節 社員ノ退社
(理由)本節ハ現行商法第一編第六章第一節第五款ニ該當スルモノニシテ卽チ社員ノ退社ヲ規定ス現行商法第百二十二條ニ於テハ退社アリタル七日內ニ退社ノ登記ヲ爲スコトヲ要スル旨ヲ規定スト雖モ本案第五十一條乃至第五十三條ノ規定アル以上ハ全ク無用ノ規定ナリ故ニ本案ハ之ヲ削除シタリ唯タ現行商法ニ於テハ退社ノ理由ヲ附シテ登記ヲ爲スコトヲ要スル旨ヲ規定シ此規定ハ本案中ニ存セサル所ナリト雖モ事手續法ニ屬スルカ故ニ本案ハ之ヲ登記ニ關スル特別法令ニ讓リ本節中ニ之ヲ規定セス
現行商法第百二十三條ハ其規定ノ性質會社ノ內部ノ關係ニ屬スルヲ以テ之ヲ退社ニ關スル規定中ニ揭クルコト不當ナリ故ニ本條ハ之ヲ削除シ第二節第五十四條ノ規定ニ從ヒ民法第六百八十一條ヲ準用スヘキモノト爲シタリ
現行商法第百二十四條第一項モ亦會社ノ內部ノ關係ニ屬スルノミナラス本案第五十四條ノ規定ニ依リ民法第六百八十一條第二項ヲ準用スルノ結果トシテ不必要ノ規定ト爲リタルヲ以テ之ヲ削除シ又其第二項ハ本案第七十一條ニ反對ノ規定ヲ設ケタリ
第六十八條
(理由)本條ハ現行商法第百二十條ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法第百二十條第一項ニ於テハ「會社契約カ無期又ハ終身ナルトキ」云云ト規定スト雖モ本案ニ於テハ一般ニ會社契約ヲ定款ト改メタルノミナラス單ニ終身ト曰フトキハ何人ノ終身ヲ指スカ明カナラス又會社契約ノモノカ無期又ハ終身ナリトスルハ穩當ヲ缺クカ故ニ本案ハ之ヲ改メテ「定款ヲ以テ會社ノ存立時期ヲ定メサリシトキ又ハ或會社員ノ終身間會社ノ存續スヘキコトヲ定メタルトキ」ト爲シタリ又現行商法第二百二十條第一項ニ於テハ此場合ニ社員カ總社員ノ承諾ヲ要セスシテ任意ニ退社スルコトヲ得ル旨ヲ明言セスト雖モ旣ニ各社員ハ退社ヲ爲スコトヲ得ルモノト爲シ之ニ制限ヲ附セサル以上ハ當然總社員ノ承諾ヲ要セサルモノト解セラルルヘシ故ニ本案ハ現行商法第百二十條第一項中「其承諾ヲ要セスシテ任意ニ」云々ヲ削除シタリ又現行商法會社ノ存立時期ヲ定メタル場合ニ於テ已ムコトヲ得サル理由アルトキハ何時ニテモ退社ヲ爲スコトヲ得ル旨ヲ規定セサルハ一ノ缺點タルヲ免レス然レトモ此場合ニ於テハ何時ニテモ退社ヲ爲スコトヲ得セシムルハ素ヨリ當然ナルヲ以テ本案ハ本條第二項ニ之ヲ規定シタリ
第六十九條
(理由)本條ハ現行商法第百二十一條ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法第百二十一條ニ於テハ定款ニ定メタル事由ノ發生又ハ總社員ノ同意ニ因リテ社員ノ退社スヘキコトヲ規定セス蓋シ此等ハ當然言フヲ俟タサル所ナリト爲スモノナルヘシト雖モ他ノ事由ヲ規定シ此二事由ヲ脫漏スルハ不備タルヲ免カレス又現行商法第百二十一條第二號但書ニ於テハ會社契約又ハ總社員ノ承諾ニ依リ相續人其他ノ承繼人カ死亡シタル社員ノ地位ニ代ハルヘキハ死亡ヲ以テ社員カ退社スヘキ事由ト爲ササル旨ヲ規定シ第四號但書ニ於テモ亦特約アルトキハ社員カ能力ヲ喪失スルモ之ヲ以テ其社員カ退社スヘキ事由ト爲ササル旨ヲ規定スト雖モ是レ當然言フヲ俟タサル所ナリ故ニ本案ハ全ク現行商法第百二十一條第二號及ヒ第四號ノ但書ヲ削除シ且組合員ノ脫退ニ關スル民法第六百七十九條ノ例ニ倣ヒテ現行商法ニ於ケル各號規定ノ順序ヲ變更シ民法及ヒ本案ニ於ケル一般ノ例ニ從ヒテ現行商法第百二十一條第三號ノ「又ハ家資分散」ノ文字ヲ削除シ同條第四號ノ「能力ノ喪失」ヲ「禁治產」ト改メ且定款ニ定メタル事由發生及ヒ總社員ノ同意ノ二者ヲ加ヘタリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第七十條
(理由)本條ハ現行商法第一編第六章第一節第五款社員ノ退社ニ關スル規定中ニ存セサル所ナリト雖モ其實質ニ至リテハ現行商法ノ規定ト殆ト異ル所ナシ卽チ現行商法ニ於テハ除名ニ關スル規定ハ第一編第六章第一節第三款社員間ノ權利義務ニ關スル規定中ニ散在セシヲ以テ本案ハ旣ニ本章第二節ニ於テ述ヘタル理由ニ基キ悉ク之ヲ併合シテ本條ノ規定ト爲シ其他ノ退社事由ト共ニ之ヲ本節ニ揭ケ且一方ニ於テハ組合員ノ除名ニ關スル民法第六百八十一條ノ例ニ倣ヒテ本文ノ規定ヲ設ケ他方ニ於テハ現行商法ノ規定ニ基キ民法ニ所謂正當ノ事由ヲ分類シ第一號以下ニ之ヲ揭ケタリ
第七十一條
(理由)本條ハ現行商法第百二十四條第二項ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法第百二十四條ニ依レハ勞力ノ出資又ハ其他退社ト共ニ終止スル出資ニ付テハ特約アルニ非サレハ之ニ對スル報償ヲ爲スノ義務ナシト規定スト雖モ信用又ハ勞務ヲ目的トスル出資其他退社ト共ニ終止スル出資ヲ爲シタル社員モ亦他ノ社員ト同シク持分ヲ有シ從テ其會社ノ一部ニ付キ權利ヲ有ス然ルニ退社ノ場合ニ於テハ會社ノ財產ニ付キ何等ノ權利ナシトスルハ不當ナリ現行商法第七十四條ニ於テハ合名會社ノ社員カ出資ト爲シ得ヘキモノヲ金錢有價物又ハ勞力ニ限リ信用ハ出資ト爲スコトヲ得サルモノト爲シ從テ信用ヲ出資ト爲シタル退社員ニ對スル持分ノ拂戾ヲ規定スルノ必要ナカリシト雖モ合名會社ニ付テハ實際ノ必要上信用モ亦出資ト爲スコトヲ得セシメサルヘカラス故ニ本案ハ出資ノ目的ト爲シ得ヘキモノノ何タルヤヲ定メテ其種類ヲ制限セサルノミナラス本條ニ於テハ「勞務又ハ信用ヲ以テ出資ノ目的ト爲シタルトキト雖モ」云々ト規定シ以テ勞務若クハ信用モ亦出資ト爲シ得ヘク此場合ニハ定款ニ別段ノ定メナキ限リハ退社ニ當リ其持分ヲ拂戾スヘキモノナルコトヲ明カニシ同時ニ財產ヲ以テ出資ノ目的ト爲シタル場合ニモ當然本條ノ規定ヲ適用スヘキコトヲ示シタリ
第七十二條
(理由)本條ハ現行商法第七十六條但書ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法第七十六條ニ於テハ社員ノ退社シタル後ト雖モ從前ノ社名ヲ續用スルコトヲ得但退社員ノ氏ヲ社名中ニ續用セントスルトキハ本人ノ承諾ヲ受クルコトヲ要スト規定セリ然レトモ社員ノ退社シタルカ爲メ從前ノ商號ヲ續用スルコトヲ妨ケサルハ勿論ナルヲ以テ本案ハ同條本文ヲ削除シ其會社ノ商號中ニ退社員ノ氏ヲ用ヰタル場合ノミヲ規定シ退社員ノ氏名ヲ用ヰタル場合ニ及ハサルハ狹隘ニ失スルヲ以テ本案ハ之ヲ補ヒ又此等ノ場合ニ於テ其商號ヲ續用スルニハ積極的ニ退社員ノ承諾ヲ受クルコトヲ要ストスルヨリモ起テ退社員ヲシテ其氏又ハ氏名ノ使用ヲ止ムヘキコトヲ請求スルコトヲ得セシメ若シ之ヲ請求セサルトキハ其使用ヲ承諾シタルモノト認ムルコト頗ル便宜ナリ是レ本案カ本條ノ如ク修正シタル所以ナリ
第七十三條
(理由)本條ハ現行商法第百二十五條ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ現行商法第百二十五條第一項ニ依レハ退社員ハ其退社前ニ生シタル會社ノ債務ニ付キ責任ヲ負フモノト爲スト雖モ退社後退社ノ登記前ニ生シタル會社ノ債務ヲ包含セシメサルハ狹隘ニ失スルモノタルヲ免レス又現行商法第百二十五條第一項ニ於テハ退社員ハ其全財產ヲ以テ責任ヲ負フコトヲ定ムト雖モ是レ當然言フヲ俟タサル所ナリ又現行商法第百二十五條第二項ニ於テハ第三者ヲシテ己ノ地位ニ代ハラシメタル社員ニ付テモ亦退社員ノ責任ニ關スル規定ヲ適用スヘキモノト爲ス然レトモ退社員ト他ノ社員ノ承諾ヲ得テ其持分ノ全部ヲ他人ニ讓渡シ之ヲシテ己レノ地位ニ代ハラシメタル社員トハ其間差異アリ從テ退社員ノ責任ニ關スル規定ヲ適用スト曰ハンヨリモ寧ロ之ヲ準用スト曰フノ適當ナルニ如カス是レ本案ハ本條ノ如ク修正ヲ加ヘタル所以ナリ
第五節 解散
(理由)本節ハ現行商法第一編第六第一節第六款ニ該當スルモノニシテ合名會社ノ解散ニ關スル規定ヲ揭ク
又現行商法第百二十九條ノ一部及ヒ第百三十條乃至第百三十五條ハ會社ノ精算ニ關スル規定ニシテ株式會社ニ付テハ現行商法モ亦款ヲ分テ解散及ヒ淸算ヲ規定スルニモ拘ハラス合名會社ニ付テノミ解散ト題スル一款中ニ淸算ニ關スル規定ヲモ揭クルハ前後權衡ヲ得サルモノタルヲ免レス故ニ本案ハ此等ノ規定ヲ本節中ヨリ除去シ次節ニ之ヲ揭ケタリ
第七十四條
(理由)本條ハ現行商法第百二十六條ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ本條第一號ハ現行商法第百二十六條第一號及ヒ第二號ニ該當スルモノニシテ存立時期ノ滿了ハ定款ニ定メタル解散事由ノ發生ノ一例ニ過キサルヲ以テ本案ハ法人ノ解散ニ關スル民法第六十八條第一項第一號ノ例ニ倣ヒ二者ヲ併セテ之ヲ規定セリ
會社ノ目的タル事業ノ成功シタル場合ニ於テ會社ノ解散スヘキコトハ現行商法カ明文ヲ以テ規定セサル所ナリト雖モ之ニ因リテ會社ノ解散スヘキコト當然ナリ故ニ本案ハ法人ノ解散ニ關スル民法第六十八條第一項第二號及ヒ組合ノ解散ニ關スル民法第六百八十二條ノ例ニ倣ヒテ本條第二號ニ之ヲ規定シタリ又會社ノ目的タル事業ヲ成功スルコト能ハサルニ至リタル場合ニ於テハ現行商法第二十七條ノ規定ニ依リ裁判所ノ命令ヲ以テ會社ヲ解散セシムルト雖モ本案ハ成ルヘク裁判上ノ手續ニ依ラサルノ主義ヲ採リタルノミナラス法人ノ解散ニ關スル民法第六十八條第一項第一號及ヒ組合ノ解散ニ關スル民法第六百八十二條ニ於テモ亦目的タル事業ノ成功ノ不能ヲ以テ直チニ法人又ハ組合解散ノ事由ト爲ス故ニ本條第二號ハ現行商法ノ規定ヲ修正シ事業成功ノ不能ヲ以テ會社ノ解散事由ト爲シタリ
本條第三號ハ現行商法第百二十六條第三號ノ規定ニ相當スルモノニシテ唯タ現行商法ハ「承諾」ナル文字ヲ用ユト雖モ民法及ヒ本案ニ於テハ承諾ナル文字ハ申込ニ對シテ之ヲ用ユルノ例ナルカ故ニ本案ハ之ヲ「同意」ト改メタルニ過キス
本條第四號ニ該當スル規定ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ是レ現行商法ニ於テハ會社ノ合併ナルモノヲ認メサルカ爲メニ外ナラス我國ニ於テハ明治二十九年法律第八十五號ヲ以テ銀行合併法ヲ制定セリト雖モ其他ノ會社ニ付テモ亦合併法ヲ規定シ之ヲ許スノ必要アリ若シ會社ノ合併ニ關スル規定ナキトキハ一旦合併ヲ行ハントスル兩會社ヲ解散シテ更ニ一ノ會社ヲ設立シ若クハ合併ヲ行ハントスル會社中其一會社ヲ解散シ其社員タリシモノヲシテ別ニ他ノ會社ニ加入セシメ以テ合併ノ實ヲ擧クルノ外ナシ是レ今日我國ノ株式會社ニ付キ實際上屢々行ハルル所ニシテ已ムヲ得サルノ處置ナリト雖モ甚タ不便ナリト謂ハサルヘカラス故ニ本案ハ第六十五條以下ニ於テ會社ノ合併ニ關スル規定ヲ揭ケ本號ニ於テ之ヲ以テ會社ノ解散事由ノ一ト爲シタリ
本條第五號ノ規定ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ殊ニ法人ニ關スル民法第六十八條第二項第二號ノ規定ニ依レハ民法ハ社團法人ニ付キ本案ト異ナリタル主義ヲ採リ社員カ悉ク缺亡スルニアラサレハ社團法人ハ解散セサルモノト爲ス是レ公益ニ關スル社團法人ヲシテ成ルヘク其目的ヲ達セシメンコトヲ希圖シタル便宜的規定ナリト雖モ營利ヲ目的トスル會社ニ付テハ此ノ如キ特別ノ規定ヲ設クルノ必要ナク一般ノ原則ニ復歸シ商事會社ハ其性質上必ス二人以上ノ社員アルコトヲ必要トスルカ故ニ社員カ一人ト爲リタルトキハ會社ハ當然解散スルモノト爲スコト至當ナリ是レ本號ノ規定アル所以ナリ
本條第六號ハ現行商法第百二十六條第四號ノ規定ニ該當シ法人ニ關スル民法第六十八條第一項第三號ニ於テモ破產ニ因リテ法人ノ解散スルコトハ亦其認ムル所ナルヲ以テ本號ハ會社ニ付キ之ヲ規定シタリ
本條第七號ハ現行商法第百二十六條第五號ノ規定ニ該當スト雖モ其規定ノ實質ニ至リテハ大ニ異ル所アリ卽チ現行商法上裁判所ノ命令ニ因リテ會社ノ解散スル場合ハ本案第四十八條ニ該當スル現行商法第六十七條第二項ノ場合ノミナラス會社カ其目的ヲ達スルコト能ハス又ハ其地位ヲ維持スルコト能ハサル場合ニ於テモ亦現行商法第百二十七條ノ規定ニ依リ裁判所ノ命令ヲ以テ會社ヲ解散セシムルコトヲ得ルモノト爲スト雖モ本案ハ會社カ其目的ヲ達スルコト能ハス卽チ目的タル事業成功ノ不能ナル場合ハ之ヲ本條第三號ニ規定シ又會社カ其地位ヲ維持スルコト能ハサルカ如キハ卽チ已ムコトヲ得サル事由ノ一ナルカ故ニ其他ノ場合ト併合シ本案第八十三條ニ之ヲ規定セリ故ニ此點ヨリ觀察スレハ本案ハ現行商法ニ比シ本號ノ規定ヲ適用スヘキ區域ヲ減縮スルト共ニ他方ニ於テ之ヲ擴張シタルモノナリ然レトモ本案第四十七條ニ於テハ現行商法第八十二條ノ規定ヲ修正シタルノ結果トシテ新ニ裁判所ノ命令ニ因リテ會社ノ解散スル場合ヲ加ヘ卽チ結局本號ノ規定ヲ適用スヘキ區域ハ擴張シタルモノト謂フヘシ
第七十五條
(理由)本條ハ現行商法第百二十八條ニ字句ノ修正ヲ加ヘタルニ過キス
第七十六條
(理由)本條ハ現行商法第百二十九條ノ規定ノ一部ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ現行商法第百二十九條ニ於テハ會社カ解散スルトキハ淸算人ヲ選任シ解散ノ原由及ヒ年月日ヲ登記スルト共ニ淸算人ノ氏名住所ヲモ亦登記スヘキモノト爲スト雖モ解散ノ登記ト淸算ノ登記トハ其性質ヲ異ニスルノミナラス解散アルモ之ニ伴ヒ必ス淸算ヲ爲スモノニアラス卽チ解散スルモ淸算ヲ爲ササル場合アルヲ以テ本案ハ淸算人ノ選任及ヒ淸算ノ登記ニ關スル規定ヲ次節ニ讓リ解散ノ登記ノミヲ本條ニ規定セリ而シテ合併ニ因ル解散ノ場合ヲ除外シタルハ此場合ニ付テハ本案第八十一條ニ特別ノ規定アリ又破產ニ因ル解散ノ場合ヲ除外シタルハ現行商法第百二十九條及ヒ法人ニ關スル民法第七十七條ト同一ノ旨趣ニ出テタルモノニ外ナラス又現行商法第百二十九條ニ於テハ解散ノ原由及ヒ年月日ノ登記ヲ受クヘキ旨ヲ規定スト雖モ此等ノ細則ハ之ヲ手續法ニ規定スルコト適當ナルヲ以テ本案ハ單ニ會社ノ解散ニ當テハ之カ登記ヲ爲スコトヲ要スル旨ノミヲ規定スルニ止メタリ
第七十七條
(理由)會社ノ合併ナルモノハ三個ノ效果ヲ生ス卽チ合併ニ因リテ設立シタル會社ニ付テハ會社成立ノ事由タリ又合併ニ因リテ消滅シタル會社ニ付テハ會社解散ノ事由タリ又合併後尙ホ存留スル會社ニ付テハ資本又ハ社員ヲ增加シ結局定款ヲ改正スル事由タリ而シテ社員ノ同意ニ因リ會社ヲ解散セントスル場合ニ於テハ本案第六十九條第二號ノ規定ニ依リ總社員ノ同意ヲ要スル以上ハ社員ノ同意ニ因リテ行ヒ且會社ノ解散ヲ來スヘキ合併ニ付テモ亦總社員ノ一致ヲ以テ之ヲ爲スコトヲ要スヘク又定款ヲ變更スルニハ本案第五十八條ノ規定ニ依リ總社員ノ承諾アルコトヲ要スル以上ハ結局定款ノ變更ト爲ルヘキ會社ノ合併ニ付テモ亦總社員ノ承諾ヲ要スヘシ此ノ如ク何レノ點ヨリ之ヲ觀察スルモ會社ヲ合併スルニ當リテハ總社員ノ一致ヲ要ス是レ本條ノ規定アル所以ナリ
第七十八條
(理由)本案ニ於テハ實際上會社ヲ合併スルノ必要ナルヲ認メテ之ヲ許セシコト旣ニ說明シタルカ如シト雖モ會社ノ合併ハ素ヨリ社員ノ便宜ヲ圖リテ之ヲ許セシモノナルヲ以テ其合併ノ結果トシテ會社ノ債權者ノ權利ヲ害セシムヘカラサルハ勿論ナリ故ニ之ヲ保護スル爲メ特別ノ規定ヲ設ケサルヘカラスト雖モ亦反對ノ極端ニ馳セ債權者ヲ重ンスルノ餘非常ニ煩雜ナル手續ヲ定ムルトキハ之カ爲メ實際上ノ便宜ニ基キテ規定シタル會社ノ合併モ遂ニ殆ント行ハレサルニ至ルヘシ之ヲ以テ本案ハ二者ノ利益ヲ折衷シ一方ニ於テハ其手續ヲ簡易ナラシメ以テ會社ノ合併ヲ行フニ便ナラシメ他方ニ於テハ債權者ニ合併ニ對スル異議ヲ述フルノ權利及ヒ機會ヲ與ヘ自カラ其權利ヲ完フセシム是レ本條以下三條ノ規定アル所以ナリトス而シテ本條ハ先ツ合併セントスル會社ノ爲スヘキ手續ヲ定メタルモノニシテ法人ノ淸算ニ關スル民法第七十九條第一項第三項及ヒ株式會社ノ淸算ニ關スル現行商法第二百四十三條等ノ規定ヲ斟酌シテ設ケタルモノニ外ナラス
第七十九條
(理由)本條ハ前條ニ付キ說明シタル趣旨ニ基キ會社ノ債權者カ會社ノ合併ニ對シ承諾ヲ爲サス且異議ヲ述ヘサル效果及ヒ異議ヲ述ヘタル效果ヲ規定ス抑モ會社カ前條ノ規定ニ從ヒ公吿ヲ爲シ且知レタル債權者ニハ各別ニ催吿ヲ爲シタル場合ニ債權者カ之ニ對シテ明カニ承認ヲ爲シタルトキハ會社ノ合併ヲ爲スニ妨ケナキハ勿論合併ヲ以テ其債權者ニ對抗スルコトヲ得ヘシ然ルニ債權者カ公吿中ニ定メタル期間內ニ異議ヲ述ヘサルモ亦明カニ承認ヲ爲ササルトキハ異議ヲ述フヘキ機會アルニモ拘ハラス之ヲ述ヘサルモノナルヲ以テ異議ナキモノ卽チ承認ヲ爲シタルモノト看做スコト多數ノ場合ニ於ケル當事者ノ意思ニ適合スヘク且會社及ヒ債權者ノ爲メ最モ便宜ナリ故ニ本案ハ本條第一項ノ規定ヲ設ケテ其旨ヲ明カニシタリ又債權者カ會社ノ合併ニ對シテ異議ヲ述ヘタル場合ニ於テ會社カ合併ヲ行ハントセハ其異議ヲ述ヘタル債權者ニ辨濟ヲ爲シ又ハ其辨濟ノ目的物ヲ供託シ又ハ之ニ相當ノ擔保ヲ供シテ其權利ヲ安全ナラシムルコトヲ要シ若シ之ヲ爲サスシテ合併シタルトキハ之ヲ以テ其抗議ヲ述ヘタル債權者ニ對抗スルコトヲ得サルモノトスルハ至當ナリ此ノ如クセハ一方ニ於テハ十分ニ債權者ノ權利ヲ保護スルニ足ルノミナラス他方ニ於テハ會社ノ合併ヲ行フニ便宜ナコト尠シトセス是レ本案カ本條第二項及ヒ第三項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第八十條
(理由)本案第七十八條第二項ニ於テハ合併ヲ爲サントスル會社ハ債權者ニ異議アラハ一定ノ期間內ニ之ヲ述フヘキ旨ヲ公吿シ且知レタル債權者ニハ各別ニ其旨ヲ催吿スヘキコトヲ規定シ以テ債權者ニ異議ヲ述フルノ權利及ヒ機會ヲ與ヘ債權者ヲ保護スト雖モ若シ合併ヲ爲サントスル會社カ此手續ヲ履行セスシテ直チニ合併ヲ爲シタルトキハ之カ爲メ全然其合併ヲ無效トスルハ甚タ苛酷ニ失ス殊ニ合併ヲ爲サントスル會社中一會社ハ此手續ヲ履行シ合併ヲ行ヒタルニモ拘ハラス他ノ會社カ此手續ヲ履行セサリシカ爲メ一旦行ヒタル合併ヲモ無效トスルニ至リテハ甚タ不當タルヲ免レス然リト雖モ之カ爲メ此手續ヲ履行セスシテ行ヒタル合併ヲ以テ有效ト爲シ卽チ公吿ヲ爲ササルモ其合併ヲ以テ總テノ債權者ニ對抗スルコトヲ得ルモノト爲シ又催吿ヲ爲ササルモ其合併ヲ以テ催吿ヲ受ケサリシ債權者ニ對抗スルコトヲ得ルモノト爲ストキハ法律カ債權者ヲ保護スル爲メニ設ケタル第七十八條第二項ノ規定ハ全ク空文タルニ終ルヘシ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第八十一條
(理由)旣ニ第七十七條ニ付キ說明シタルカ如ク會社ノ合併ハ合併後存續スル會社ヨリ之ヲ觀レハ定款ノ變更卽チ登記シタル事項ノ變更ナリ合併ニ因リテ消滅シタル會社ヨリ之ヲ觀レハ會社ノ解散ナリ合併ニ因リテ設立セラレタル會社ヨリ之ヲ觀レハ會社ノ設立ナリ故ニ合併後存續スル會社ニ付テハ變更ノ登記ヲ爲シ合併ニ因リテ消滅シタル會社ニ付テハ解散ノ登記ヲ爲シ合併ニ因リテ設立シタル會社ニ付テハ設立ノ登記ヲ爲スコト必要ナリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第八十二條
(理由)本案ハ會社合併ノ效果ヲ定ム卽チ合併後存續セル會社ハ合併ニ因リテ其從來有セシ權利義務ニ變更ヲ來ササルノミナラス合併ニ因リテ消滅シタル他ノ會社ノ權利義務ヲモ承繼スヘク又合併ニ因リテ設立シタル會社ハ合併ニ因リテ消滅シタル凡テノ會社ノ權利義務ヲ承繼スヘシ是レ實ニ會社合併ノ重要ナル目的ナルカ故ニ本案ニ於テハ特ニ本文ヲ以テ之ヲ規定シタリ
第八十三條
(理由)本條ハ現行商法第百二十七條ノ規定ノ一部ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法第百二十七條第一項ニ於テハ「會社カ其地位ヲ維持スルコト能ハサル場合」云々ト曰フト雖モ本案ハ組合ノ解散ニ關スル民法第六百八十三條ノ文例ニ倣ヒ之ヲ改メテ「已ムコトヲ得サル事由」ト爲シ且各社員ト曰フトキ一人又ハ數人ノ社員ヲ指示スルニアルコト明瞭ナルヲ以テ現行商法ニ所謂一人又ハ數人ノ社員ヲ改メテ「各社員」ト爲シ又會社カ裁判所ノ命令ニ因リテ解散スルコトハ旣ニ本案第七十四條第七號ニ於テ規定スル所ナルヲ以テ組合ノ解散ニ關スル民法第六百八十三條ノ文例ニ倣ヒ單ニ各社員ハ會社ノ解散ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得ル旨ヲ明言スルニ止メ又現行商法第百二十七條第二項ニ於テハ除名ノ申立ハ其他ノ總社員ヨリ之ヲ爲スヘキモノト爲ストスト雖モ事體ノ輕重ヨリ謂フトキハ會社ノ解散スラ各社員ヨリ之ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ許ス以上ハ之ヨリ輕易ナル社員ノ除名ノ如キハ當然各社員ヨリ之ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ許ササルヘカラス故ニ本案ハ除名ヲ請求スルニハ他ノ社員ノ一致アルコトヲ必要トセス又現行商法第百二十七條第二項ニ於テハ除名ノ申立ニ付キ相當ノ理由ヲ附スヘキコトヲ規定スルモ解散ノ請求及ヒ除名ノ請求ハ何レモ相當ノ理由アルコトヲ要スルハ勿論ナルカ故ニ本案ハ別ニ相當ノ理由ヲ附スヘキコトヲ規定セス是レ本條ノ如ク修正シタル所以ナリ其他現行商法第百二十七條第三項ニ於テハ解散又ハ除名ノ申立ニ對スル裁判所ノ命令ニ對シテハ卽時抗吿ヲ爲シ得ヘキコトヲ規定スルモ事手續ニ屬スルヲ以テ本案ハ之ヲ削除シタリ
第六節 淸算
(理由)本節ハ現行商法第一編第六章第一節第六款ノ一部ニ該當シ合名會社ノ淸算ニ關スル規定ヲ揭ク現行商法ニ於テハ之ヲ會社ノ解散ニ關スル規定中ニ揭クト雖モ淸算ハ必スシモ解散ニ伴フモノニアラサルノミナラス甚タ重要ナルモノナルヲ以テ本案ハ節ヲ分テ二者ヲ規定シ卽チ本節ニ淸算ヲ規定シタルコト旣ニ本章ノ始メニ於テ述ヘタル所ナリ
第八十四條
(理由)本條ハ現行商法中ニ明文ヲ存セサル所ナリト雖モ其精神ハ之ヲ認ムルニアリシコトハ現行商法第百三十條等ノ規定ニ徵シテ疑ヲ容レス然レトモ明文ヲ以テ之ヲ規定スルコト必要ナルハ勿論ナルヲ以テ本案ハ法人ニ關スル民法第七十三條ノ規定ニ倣ヒ本條ノ規定ヲ設ク唯タ民法ニ於テハ其淸算ヲ結了スルマテニ限ルヘキコトヲ明言スルモ是レ當然言フヲ俟タサル所ナルヲ以テ本案ハ之ヲ省キタリ
第八十五條
(理由)本條ハ現行商法中ニ存セラル所ナリ抑モ會社カ解散シタル場合ニ於テハ淸算ヲ爲シ其殘餘財產ヲ社員ニ分配スルコト通例ナリト雖モ時トシテハ淸算ノ手續ニ依ラスシテ會社財產ヲ處分スルノ必要ナキニ非ス例ヘハ他ノ會社ヲシテ解散シタル會社ノ權利義務ヲ引受ケシメントスルカ如キ是レナリ故ニ本案ハ定款又ハ總社員ノ同意ヲ以テ會社財產ノ處分方法ヲ定ムルコトヲ許シ同時ニ會社ノ債權者ヲ保護スル爲メ合併ノ場合ト同シク財產目錄及ヒ貸借對照表ヲ作ラシメ其他合併ニ關スル第七十八條第二項第七十九條及ヒ第八十條ノ規定ヲ準用スルコトト定メタリ
第八十六條
(理由)本條ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ抑モ定款又ハ總社員ノ同意ヲ以テ會社財產ノ處分方法ヲ定メサルトキハ如何ナル方法ニ從ヒテ其財產ヲ處分スヘキカ會社カ破產ニ因リテ解散シタル場合ニ於テハ破產法ノ規定ニ從ヒ破產管財人カ淸算ヲ爲スヘク又會社カ合併ニ因リテ解散シタル場合ニ於テハ前節ノ規定ニ從ヒ合併ニ因リ設立シタル會社又ハ合併後存續スル會社カ解散シタル會社ノ權利義務ヲ承繼スヘク從テ之ヲ本節ニ規定スルノ必要ナシ是レ本案カ其他ノ場合ノ爲メ以下十三條ノ規定ヲ設ケ且本條ニ於テ此規定ニ從ヒ淸算ヲ爲スコトヲ要スル旨ヲ明言シタル所以ナリ
第八十七條
(理由)本條ハ現行商法第百二十九條ノ規定ノ一部ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法第百二十九條ニ於テハ會社解散スルトキハ社員ノ多數決ヲ以テ淸算人一人又ハ數人ヲ任シ之ヲシテ淸算ヲ爲サシムヘキモノト爲スト雖モ實際上却テ總社員共同ニテ淸算ヲ爲ス場合アルコトヲ認ムルノ必要アリ故ニ本案ハ組合ノ淸算ニ關スル民法第六百八十五條第一項ノ規定ニ倣ヒ淸算ハ總社員又ハ其選任シタル者ニ於テ之ヲ爲スヘキモノト爲シタリ又現行商法第百二十九條ニ於テハ淸算人ハ總社員ノ多數決ヲ以テ之ヲ選任スヘキモノト爲スト雖モ組合ノ淸算人ノ選任ニ關スル民法第六百八十五條第二項ノ規定及ヒ會社ノ支配人ノ選任又ハ解任ニ關スル本案ノ規定ニ對シテ其權衡ヲ得タルモノニアラス故ニ本案ハ現行商法第百二十九條ノ規定ヲ改メ淸算人ノ選任ハ社員ノ過半數ヲ以テ之ヲ決スヘキモノト爲シタリ而シテ本條第三項ハ現行商法中ニ存セサル所ナリト雖モ之ヲ規定スルコト素ヨリ必要ナルヲ以テ本案ハ新ニ之ヲ加ヘタリ
第八十八條
(理由)前條ノ規定ニ依リ淸算人タルモノヲ定ムルハ本則ナリト雖モ或場合ニ於テハ之ニ依ルヲ得サルコトアリ又之ニ依ルヲ不便トスルコトアリ是レ本條及ヒ次條ノ規定ヲ設ケ特別ノ處分ヲ施ス所以ナリ抑モ他ノ社員カ退社シタル結果トシテ殘ル所ノ社員僅カニ一人ト爲リ之カ爲メ會社カ解散シタル場合ニ於テハ其一人ノ社員ノミニシテ淸算ヲ爲サシメ若クハ之ヲシテ淸算人ヲ選任セシメ一方ニ於テハ退社員他方ニ於テハ會社債權者ノ利害ニ關スル重大ノ事項ヲ獨斷セシムルコトハ啻ニ弊害多キノミナラス決シテ公平ヲ得タルモノニアラサルヲ以テ此場合ニハ之ヲ放任スルコトヲ得ス卽チ之ニ干涉シテ退社員及ヒ債權者ノ利益ヲ保護スルノ必要アリ是レ本條カ此場合ニハ裁判所ニ於テ淸算人ヲ選任スヘキモノト爲シタル所以ナリ
第八十九條
(理由)本案第四十七條第四十八條及ヒ第八十三條ノ規定ニ依リ檢事又ハ各社員ノ請求ニ因リ又ハ裁判所ノ職權ヲ以テ會社ノ解散ヲ命シタル場合ニ於テ其淸算ヲ爲ササルトキハ一方ニ於テハ社員及ヒ債權者ノ利害ニ關シ他方ニ於テハ公益ニ關スルカ故ニ利害關係人又ハ檢事ノ請求ニ因リ裁判所ニ於テ淸算人ヲ選任シ其者ヲシテ淸算ヲ爲サシムルノ必要アリ是レ本案カ新ニ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第九十條
(理由)本條ハ現行商法第百二十九條ノ規定ノ一部ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ會社カ解散シタルトキハ淸算人カ會社ヲ代表スルニ至ルヘキヲ以テ淸算人ノ氏名住所ヲ第三者ニ知ラシムルコト必要ナリ故ニ本條ニ於テハ現行商法第百二十九條ノ規定ニ倣ヒ淸算人ノ氏名住所ヲ登記スルコトヲ要スト爲ス然レトモ是レ獨リ社員又ハ裁判所カ淸算人ヲ選任シ之ヲシテ淸算ヲ爲サシムル場合ニ付キ規定シタルモノニシテ若シ總社員共同ニテ淸算ヲ爲ス場合ニ於テハ其氏名住所ハ旣ニ之ヲ登記シアルヘキヲ以テ會社カ解散シタル場合ニ於テ更ニ登記ヲ爲スコトヲ要セサルノミナラス選任シタル淸算人ノ氏名住所ヲ登記セサル限リハ總社員共同ニテ淸算ヲ爲スモノナルコト明カナルヲ以テ共同ニテ淸算ヲ爲ス總社員ヲモ登記スルノ必要ナシ是レ本條ノ規定アル所以ナリ
第九十一條
(理由)本條第一項ハ現行商法第百三十條前段ノ規定ニ該當スルモノニシテ法人ノ淸算人ニ關スル民法第七十八條第一項ノ文例ニ倣ヒ之ヲ修正シタリ
本條第二項ハ現行商法第百三十條末段ノ規定ニ該當スルモノニシテ法人ノ淸算人ニ關スル民法第七十八條第二項ノ文例ニ倣ヒ之ヲ修正シタリ本條第三項ハ現行商法中ニ存セサル所ナリト雖モ必要アルヲ以テ本案ハ新ニ之ヲ設ケタリ
其他現行商法第百三十條ニ於テハ淸算人ハ淸算ノ目的ヲ超エテ營業ヲ保續シ又ハ新ニ取引ヲ爲スコトヲ得サル旨ヲ規定スト雖モ本案第八十四條ノ規定ニ依リ會社解散ノ後ハ淸算ノ目的ノ範圍內ニ於テノミ尙ホ存續スルモノト看做サルルモ淸算ノ目的ノ範圍外ニ於テハ會社カ尙ホ存續スルモノト看做スヘカラサルヤ勿論ナリ從テ其淸算ノ目的ノ範圍外ニ於テハ淸算人ハ會社ノ爲メ之ニ代リテ何等ノ行爲ヲ爲スコトヲ得サルハ當然云フヲ待タサル所ナリ故ニ本案ハ此現行商法ノ規定ヲ削除シタリ
第九十二條
(理由)本條ハ現行商法中ニ存セサル所ナリト雖モ旣ニ株式會社ニ付キ現行商法第二百四十六條ノ如ク本條ニ該當スル規定ヲ設クル以上ハ合名會社及ヒ合資會社ニ付テモ亦之ヲ規定スルコト必要ナリ是レ本案カ新ニ本條ノ規定ヲ設ケ之ヲ合資會社ニモ準用スルコトト定メタル所以ナリ
第九十三條
(理由)本條ニ該當スル規定ハ現行商法中ニ存セサル所ナリト雖モ淸算人數人アル場合ニ於テハ如何ナル方法ニ依リ淸算ニ關スル一切ノ行爲ヲ決スヘキカ又如何ナル方法ニ依リ淸算ニ關スル行爲ニ付キ會社ヲ代表スヘキカヲ定ムルノ必要アリ故ニ本案ハ第一ノ問題ニ付テハ組合ノ淸算人ニ關スル民法第六百八十六條其他二三ノ立法例ニ倣ヒ淸算人ハ其過半數ヲ以テ淸算ニ關スル一切ノ行爲ヲ決スヘキモノト定メタリ然レトモ是レ全ク會社ノ內部ノ關係ニ止マリ外部ニ對シ何人カ會社ヲ代表スヘキカヲ決シタルモノニアラス而シテ此場合ニ於テ若シ淸算人ノ各自カ第三者ニ對シテ會社ヲ代表スルコトヲ得サルモノトセハ啻ニ淸算人カ其職務ヲ執行スルニ極メテ不便ナルノミナラス第三者ニ在テモ亦不便ヲ感セシメ且ツ會社ヲ代表スヘキ社員ニ關スル第六十一條ノ規定ト權衡ヲ得サルモノアリ殊ニ他方ヨリ之ヲ觀察スルモ淸算ニ關スル行爲ハ淸算人ノ過半數ヲ以テ之ヲ決セシムル以上ハ各淸算人ヲシテ其過半數ヲ以テ決スル所ニ從ヒ第三者ニ對シテ會社ヲ代表シテ淸算ニ關スル行爲ヲ行ハシムルコト適當ナリ故ニ本條ハ第二ノ問題ニ付テハ本條但書ノ規定ヲ設ケ第三者ニ對シテハ淸算人ノ各自カ會社ヲ代表スヘキモノト爲シタリ
第九十四條
(理由)本條ハ現行商法第百三十一條前段ノ規定ニ該當スルモノナリ抑モ現行商法第百三十一條ニ於テハ社員ハ淸算人ノ代理權ニ制限ヲ加フルコトヲ得サルモノト爲スト雖モ會社ヲ代表スヘキ社員ノ代理權ニ加ヘタル制限ノ效力ニ關スル現行商法第百十一條ノ規定ニ對シ其權衡ヲ得サルノミナラス民法第五十四條ニ於テハ法人ノ理事ニ關シ本案第七條第二項ニ於テハ商業ヲ營ム後見人ニ關シ本案第三十條第三項ニ於テハ支配人ニ關シ本案第六十二條第二項ニ於テハ會社ヲ代表スヘキ社員ニ關シ何レモ其代理權ニ制限ヲ加フルコトヲ許シ唯タ其制限ヲ以テ善意ノ第三者ニ對抗スルコトヲ得サルモノト爲シ而シテ此主義ハ一方ニ於テハ被代理者ヲ保護シ他方ニ於テハ第三者ヲ保護スルニ足リ毫モ不都合ナキヲ以テ本案ハ淸算人ニ付テモ亦之ニ倣ヒ現行商法第百三十一條前段ヲ修正シテ本條ノ規定ヲ設ケタリ
第九十五條
(理由)本條ニ該當スル規定ハ現行商法中ニ存セサル處ナリト雖モ會員ニ於テ淸算人ヲ監督スルカ爲メニハ其就職ノ當時ニ於ケル會社財產ノ現況ヲ知ルノ必要アルハ勿論場合ニ依リ淸算ヲ結了スルマテ長年月ヲ要スルコトアルヨリシテ淸算中ニモ亦其淸算ノ狀況ヲ知ルノ必要アリ是レ本案カ新ニ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第九十六條
(理由)本條ハ現行商法第百三十二條及ヒ第百三十三條ノ一部ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法第二百四十九條第一項ニ於テハ株式會社ノ淸算人ハ會社ノ債務ヲ辨濟シタル後ニ非ラサレハ會社財產ヲ株主ニ分配スルコトヲ得スト規定スレトモ同第百三十二條及ヒ第百三十三條ニ依レハ合名會社ノ淸算人ハ會社ノ債務ヲ辨濟スル以前ト雖モ會社財產ヲ社員ニ分配スコトヲ得ルモノト規定セリ此ノ如ク二者規定ヲ異ニスルハ毫モ其理由ナク會社ノ債務ヲ辨濟スル前ニ會社財產ヲ社員ニ分配スルコトヲ許スハ會社ノ債權者ノ權利ヲ害スルノ恐アルハ一ナリ是レ本案カ本條ノ如ク修正ヲ加ヘタル所以ナリ
第九十七條
(理由)本條ハ現行商法第百三十一條後段ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法第百三十一條及ヒ法人ニ關スル民法第七十六條ノ規定ニ依レハ重要ナル事由アルトキハ裁判所ノ命令ヲ以テ淸算人ヲ解任スルコトヲ得ルモノト爲シ之ニ反シテ組合ニ關スル民法第六百八十七條ノ規定ニ依レハ淸算人ヲ解任スルニハ一方ニ於テハ正當ノ理由アルトキニ限リ他方ニ於テハ裁判所ノ命令ニ依ラス組合員ノ一致ヲ以テ之ヲ爲スヘキモノト爲スト雖モ社員カ選任シタル淸算人ハ其選任ト同一ノ方法ニ依リ之ヲ選任スルコトヲ得セシムルノ正當ナルト同時ニ重要ナル事由アルトキハ裁判所モ亦利害關係人ノ請求ニ因リ淸算人ヲ解任スルコトヲ得ルモノトスルコト必要ナリ而シテ現行商法第百三十一條ノ規定ニ依レハ此裁判所ノ命令ハ社員ノ申立ニ因リテ之ヲ爲スヘキモノト爲スト雖モ之ヲ社員ノ申立ノミニ限ルハ狹隘ニ失ス之ニ反シテ法人ニ關スル民法第七十六條ノ規定ニ依レハ裁判所ハ利害關係人若クハ檢事ノ請求ニ因リ又ハ裁判所ノ職權ヲ以テ此命令ヲ爲スヘキモノトナスト雖モ合名會社ニ付テハ檢事ノ請求ヲ許スノ必要ナキハ勿論裁判所ノ職權ヲ以テ淸算人ヲ解任スルコトヲ得セシムルノ必要ナシ故ニ本條ハ利害關係人ノミニ此請求ヲ爲スコトヲ得セシム是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ其他現行商法第百三十一條但書ニ於テハ淸算人ノ解任ニ關スル裁判所ノ命令ニ對シ卽時抗吿ヲ爲シ得ヘキ旨ヲ規定スト雖モ事手續ニ屬シ本法中ニ規定スヘキ性質ノモノニアラサルヲ以テ本案ハ之ヲ削除シタリ
第九十八條
(理由)本條ニ該當スル規定ハ現行商法中ニ存セサル所ナリト雖モ旣ニ本案第九十條ノ規定ニ依リ淸算人ノ氏名住所ヲ登記スル以上ハ其淸算人ノ解任又ハ變更ハ登記シタル事項ノ變更又ハ消滅ニ外ナラサルヲ以テ速ニ之ヲ登記セシムルコト必要ナリ是レ本案カ新ニ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第九十九條
(理由)本條第一項ハ現行商法第百三十二條ノ規定ノ一部ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法第百三十二條ニ於テハ淸算人カ委任事務ヲ履行シタル後社員ニ計算ヲ報吿スヘキモノト爲ス是レ總社員共同ニテ淸算ヲ爲ス場合ヲ認メサルカ爲メナリ然ルニ本案ニ於テハ總社員共同ニテ淸算ヲ爲ス場合アルコトヲ認メタルヲ以テ此規定ハ狹隘ニ失ス故ニ本案ハ之ヲ改メ「淸算人ノ任務カ終了シタルトキ」ト爲シタリ又現行商法ニ於テハ淸算人ハ計算ヲ報吿スルニ止マルト雖モ株式會社ノ淸算ニ關シテハ現行商法第二百四十八條モ亦計算書ニ付キ總會ノ認定ヲ求ムヘキモノト爲シ二者權衡ヲ得サル所アリ故ニ本案ハ各社員ノ承認ヲ求ムルコトヲ要スルモノト爲シタリ又現行商法ニ於テハ淸算人カ淸算ヲ爲スヘキ期間ヲ定メスト雖モ之ヲ定ムルコト必要ナルヲ以テ本案ハ新ニ「遲滯ナク」云々ノ文字ヲ加ヘタリ是レ本條第一項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
此ノ如ク淸算人ハ計算ニ付キ各社員ノ承認ヲ求ムヘキモノト爲シタルヲ以テ若シ各社員カ明カニ承認ヲ爲ササルモ亦之ニ對シテ異議ヲモ述ヘサルトキハ之ヲ如何スヘキカ蓋シ此場合ニ於テ何時マテモ淸算ヲ結了セシメサルトキハ一方ニ於テハ淸算人ノ責任ヲシテ愈々重大ナラシメ苛酷ニ失スルノ結果アリ他方ニ於テハ後日ニ至リ錯雜ナル爭論ヲ生スルノ弊害アリ故ニ此場合ニハ會社ノ合併ニ關スル本案ノ規定ニ準シ一ケ月內ニ各社員カ異議ヲ述ヘサリシトキハ之ヲ承認シタルモノト看做スコト至當ナリ然レトモ是レ淸算人ニ不正ノ行爲ナキ場合ニ付テノミ謂フヘキ所ニシテ若シ淸算人ニ不正ノ行爲アルトキハ各社員カ一ケ月內ニ異議ヲ述ヘサリシ事實ノミニ因リテ其不正ノ行爲ヲモ承認シ之ニ關スル淸算人ノ責任ヲ免レシメタルモノト看做スコトヲ得ス卽チ一般ノ規定ニ從ヒテ淸算人ヲシテ必ス其責任ヲ負ハシムルコト至當ナリ是レ本條第二項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第百條
(理由)本條ニ該當スル規定ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ蓋シ本案第八十四條ノ規定ニ依ルトキハ淸算ノ目的ノ範圍內ニ於テハ解散後ト雖モ會社ハ尙ホ存續スルモノト看做シ法人タル資格ヲ有セシム故ニ淸算ニシテ結了シタルトキハ當然其法人タル資格消滅シ淸算人ハ會社ニ代ハリテ何等ノ行爲ヲモ爲スコトヲ得サルニ至ルヘキヲ以テ一方ニ於テハ登記簿解散及ヒ淸算人ノ登記ノミ殘存スルノ不都合ヲ避ケ他方ニ於テハ第三者ヲ保護スルタメ淸算人ヲシテ淸算結了ノ登記ヲ爲サシムルコト必要ナリ是レ本條ノ規定アル所以ナリ
第百一條
(理由)會社カ未タ事業ニ着手セサル前其設立カ取消サレタルトキハ淸算ヲ爲スノ必要ナシト雖モ旣ニ事業ニ着手シタル後其設立カ取消サレタルトキハ淸算ヲ爲スコト必要ナリ而シテ此場合ニ於テハ素ヨリ會社ナルモノナク又社員ナルモノナキヲ以テ當然會社ノ淸算ニ關スル規定ヲ適用スルコトヲ得スト雖モ解散ノ場合ニ準シ淸算ヲ爲サシムルコト極メテ便宜ナリ故ニ現行商法其他多數ノ立法例ニ於テハ之ニ關スル規定ヲ存セサルニモ拘ハラス本案ニ於テハ新ニ本條ノ規定ヲ設ケタリ而シテ此場合ニハ會社ナク又社員ナキカ故ニ第八十七條ノ規定ニ依ルコトヲ得サルハ勿論ナルヲ以テ本條ハ第八十八條ノ規定ヲ準用シ利害關係人ノ請求ニ因リ裁判所ヲシテ淸算人ヲ選任セシムルモノトス
第百二條
(理由)本條ハ現行商法第百三十四條ノ規定ニ該當スルモノニシテ唯タ新ニ營業ニ關スル信書保存期間ノ起算點及ヒ保存者ヲ定ムル方法ニ關スル規定ヲ加ヘタルニ過キス
第百三條
(理由)本條ハ現行商法第百三十五條ニ一大修正ヲ加ヘタルモノナリ卽チ現行商法ニ於テハ本條ノ規定ヲ以テ時效ノ規定ト爲セトモ中斷等ノ爲メニ此責任ヲ永ク存セシムルハ不可ナリ故ニ本案ハ之ヲ時效トセス期間ノ經過ト共ニ絕對的ニ責任ヲ消滅セシムルコトト改メタリ又期間ノ起算點ハ會社解散ノ時トアリシヲ會社ノ本店ノ所在地ニ於テ解散ノ登記ヲ爲シタル時ト改メ五年未滿ノ時效期間ヲ定メタルトキヲ除外シアリシヲ削除シタル外變更ナシ蓋シ本店ノ所在地ニ於テ解散ノ登記ヲ爲シタル時ヲ以テ期間ノ起算點ト爲シタル所以ハ假令解散ノ事由發生スルモ第三者ハ其解散ノ登記アルマテ之ヲ知ルコトヲ得サルカ爲メニシテ又五年未滿ノ時效期間ヲ定メタル場合ヲ除外スル規定ヲ削除シタル理由ハ此場合ニ本條ノ適用ヲ除外スル理由ナキカ爲ナリ
第三章 合資會社
(理由)本節ハ現行商法第一編第六章第二節ニ該當スルモノニシテ合資會社ニ關スル規定ヲ揭ク現行商法ニ於テハ合資會社ニ付スルニ幾分カ株式會社ニ類似ノ性質ヲ以テシ全ク有限責任社員ノミヲ以テ組織セラレタル合資會社ヲモ認メタリト雖モ之レ各國多數ノ立法例ノ認メサル所ナルヲ以テ本案ハ之ヲ改メ合資會社ハ必ス有限責任社員ト無限責任社員トヲ以テ組織スヘキモノト爲ス其結果トシテ現行商法ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノ多シト雖モ便宜上各條ノ下ニ於テ之ヲ說明スルコトトシ左ニ現行商法ノ規定ヲ削除シタル所以テ述フヘシ
現行商法第百四十一條ニ於テハ業務擔當社員ヲ選任又ハ解任スル方法ヲ定ムト雖モ本案第百九條第一項ニテハ無限責任社員中或者ノミニ會社ノ業務ヲ執行セシムルコトハ必ス之ヲ定款ニ記載スヘク若シ此定メナキトキハ各無限責任社員ハ當然會社ノ業務ヲ執行スヘキモノト爲スカ故ニ會社ノ業ヲ執行スヘキ社員ヲ選任スルニハ總社員ノ承諾アルコトヲ要スルハ勿論之ヲ解任スルハ卽チ定款ノ變更ナルヲ以テ總社員ノ承諾アルコトヲ要スルハ當然ナリ何レニスルモ到底無用ノ規定ナルカ故ニ本案ハ之ヲ削除シタリ
現行商法第百四十六條及ヒ第百四十七條ノ規定ハ有限責任社員ト雖モ業務ヲ擔當シ會社ヲ代表スルコトヲ得セシメタル結果ニシテ旣ニ本案第百十五條ノ如ク有限責任社員カ會社ノ業務ヲ執行シ又ハ會社ヲ代表スルコトヲ許ササル以上ハ之ヲ存スルノ必要ナシ故ニ本案ハ全ク之ヲ削除シタリ
現行商法第百四十八條乃至第百五十三條ニ於テハ總會ニ關スル規定ヲ揭ケタリト雖モ本案ニ於テハ合名會社ニ在テ總社員ノ承諾ヲ要スヘキ事項ハ合資會社ニ在テモ亦タ總社員ノ承諾ヲ要スルモノト爲シ現行商法ノ如ク總社員四分ノ三以上ノ多數決ヲ以テスルトキハ合名會社ニ在テハ總社員ノ承諾ヲ要スヘキ事項ヲモ決スルコトヲ許サス故ニ法律上別ニ總會ナルモノヲ認ムルノ必要ナシ從テ現行商法中總會ニ關スル規定ハ全ク之ヲ削除シタリ
其他現行商法第百五十三條ノ規定モ亦本案第六十七條及ヒ第百五條ノ適用ニ依リ明瞭ナルヲ以テ本案ハ之ヲ削除シタリ
第百四條
(理由)本案ハ現行商法第百三十六條ノ規定ニ該當スルモノニシテ之ニ依リテ合資會社ノ性質ヲ示シ其他ノ會社ト異ナル所ヲ明カニスルモノトス蓋シ現行商法第百三十六條ニ於テハ別段ノ契約ナキトキハ合資會社ノ社員ハ其責任ヲ出資ノミニ限ルコトト爲シ有限責任社員及ヒ無限責任社員トヲ以テ合資會社ヲ組織スルモノノ外有限責任社員ノミヲ以テモ亦合資會社ヲ組織スルコトヲ許セリ然リト雖モ合資會社ナルモノハ一方ニ於テハ株式會社ノ長所ヲ採リ或社員ヲシテ出資ヲ爲スモ其責任ハ出資ニ止ラシムルコトヲ得セシメ他方ニ於テハ合名會社ノ長所ヲ採リ或社員ヲシテ連帶無限ノ責任ヲ負ハシメ以テ其會社ニ信用ヲ得セシムルカ爲メニ設ケタル制度ノミナラス實際上一人モ無限責任社員ナキトキハ十分會社ヲシテ信用ヲ得セシムルコト難カルヘシ故ニ各國立法例皆合資會社ハ有限責任社員ト無限責任社員トヲ以テ組織スヘキモノト爲ス殊ニ現行商法ノ如キハ一方ニ於テハ合資會社ハ有限責任社員ノミヲ以テ組織スルコトヲ得ル旨ヲ認ムルモ他方ニ於テハ合資會社ニハ必ス業務擔當社員アルコトヲ要シ其業務擔當社員ハ業務執行中ニ生シタル會社ノ義務ニ付キ連帶無限ノ責任ヲ負フモノト爲ス(現行商法第百四十六條)故ニ現行商法ニ依レハ有限責任社員ノミヲ以テ組織セラレタル合資會社モ結局有限責任社員ト無限責任社員トヲ以テ組織セラレタルモノト其責ヲ同フスルニ於テオヤ是レ合資會社ノ組織ニ付キ本案カ現行商法ノ主義ヲ改メタル所以ナリ
第百五條
(理由)合資會社ハ有限責任社員及ヒ無限責任社員ヲ以テ組織スルニ反シ合名會社ノ社員ハ盡ク無限責任ヲ負フノ差異アリト雖モ之カ爲メ合名會社ト異ナル規定ヲ設クルノ必要ナキヲ通例トス故ニ本章ニ於テハ唯タ合資會社ニノミ特別ナル規定ヲ揭ケ其他ハ凡テ合名會社ニ關スル前章ノ規定ヲ準用スルコト現行商法ノ如クスルヲ以テ甚タ便宜ナリトス是レ本案カ現行商法第百三十七條ノ字句ヲ修正シテ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第百六條
(理由)現行商法ノ規定ニ依レハ合資會社モ亦合名會社ト同シク書面契約ニ因リテノミ之ヲ設立スルコトヲ得ルモノトナシ其書面ニハ總社員連署スヘキコトヲ規定スルニ止マリ(現行商法第百三十七條及ヒ第七十七條第一項)之ニ記載スヘキ事項ヲ定メスト雖モ本條ハ會社契約ヲ改メテ定款ト爲シ且定款ニ記載スルコトヲ要スル事項ヲ定メタルコトハ旣ニ合名會社ニ付キ說明シタルカ如シ而シテ合名會社ノ各社員ハ皆無限ノ責任ヲ負フカ故ニ其定款中ニハ社員ノ責任ノ有限又ハ無限ナルコトヲ揭クルノ必要ナシト雖モ合資會社ニ於テハ有限責任社員ト無限責任社員トアルヲ以テ如何ナル社員カ有限責任ヲ負ヒ如何ナル社員カ無限責任ヲ負フヘキカヲ定款中ニ記載スルノ必要アリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第百七條
(理由)本條ハ現行商法第百三十八條ノ規定ニ該當スルモノナリ抑モ現行商法第百三十八條第四號ニ於テハ無限責任社員アルトキニ限リ其氏名ヲ登記スヘキモノト爲スト雖モ是レ合資會社ノ社員ノ責任ハ有限ナルヲ本則トシ無限責任ヲ負フヲ於テ例外ト爲シタルノ結果ニシテ本案ノ如ク合資會社ハ必ス有限責任社員ト無限責任社員トヲ以テ組織セシムルノ主義ヲ採ル以上ハ之ヲ修正スルノ必要アルヤ勿論ナリ是レ本案カ現行商法ノ規定ヲ修正シテ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第百八條
(理由)本條ハ現行商法第百三十六條ノ一部ニ該當スルモノナリ抑モ合資會社ノ無限責任社員ハ金錢其他ノ財產ハ勿論勞務又ハ信用ヲ以テ出資ノ目的ト爲スコトヲ合名會社ノ社員ト同一ナリト雖モ有限責任社員ノ出資ニ付テハ之ヲ制限セサルヘカラサル理由アリ卽チ有限責任社員ナルモノハ毫モ會社ノ業務ノ執行ニ干與セス單ニ出資ノミヲ爲シテ損益ヲ分擔シ且其會社債權者ニ對スル責任モ出資ニ止マルヲ以テ其出資ノ目的トスルコトヲ得ルモノハ財產ニ限リ勞務又ハ信用ハ之ヲ出資ノ目的ト爲スヲ得サルモノトスルコト正當ナリ是レ本案カ現行商法第百三十六條ノ規定ヲ修正シテ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第百九條
(理由)本條ハ現行商法第百四十二條第百四十三條第二項第百四十六條及ヒ第百四十七條等ノ規定ヲ槪括シテ之ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法第百四十二條ニ於テハ會社契約ニ依リ業務擔當社員ハ一定ノ無限責任社員ノミヲ以テ之ニ充ツルコトヲ得ルモノト爲シ會社契約ニ依リ一定ノ無限責任社員ノミヲ以テ業務擔當社員ニ充テタルトキハ其無限責任社員ハ會社ノ內部ノ關係ニ於テハ會社ノ業務ヲ執行スルノ權利ヲ有シ義務ヲ負フモ其他ノ社員ハ會社ノ業務執行ニ干與スルコトヲ得サルモノトス(現行商法第百三十七條第八十七條第百六條)然レトモ是レ會社契約ニ別段ノ定メアルトキニ限ルモノニシテ若シ此定メナキトキハ現行商法第百四十一條ノ規定ニ依リ總社員四分ノ三以上ノ多數決ヲ以テ業務擔當社員ヲ選任スヘク其選任セラルヘキ者ハ必スシモ無限責任社員タルコトヲ要セス從テ有限責任社員ニ於テモ亦會社ノ業務ヲ執行スルコトヲ得ヘク唯タ其業務ヲ執行スルノ任ニ當リタルトキハ其業務執行中ニ生シタル會社ノ義務ニ付キ退社後二年間連帶無限ノ責任ヲ負フニ過キサルモノトス(現行商法第百四十六條及ヒ第百四十七條)是レ現行商法ニ於テハ合資會社ニハ必スシモ無限責任社員アルコトヲ要セス有限責任社員ノミヲ以テ組織シタル合資會社ノ成立ヲ認メタルノ結果ナリト雖モ本案ハ旣ニ反對ノ主義ヲ採リ合資會社ハ必ス有限責任社員及ヒ無限責任社員ヲ以テ組織セシムル以上ハ此合名會社ノ制度ヲ設ケタル趣旨ニ基キ有限責任社員ハ單ニ出資ノミヲ爲シ會社ノ業務ヲ執行スルコトヲ得サルモ無限責任社員ハ通例會社ノ業務ヲ執行スルノ任ニ當ルヘキモノトスルコト必要ナリ故ニ本案ハ此精神ニ基キ現行商法ニ修正ヲ加ヘテ本條以下ノ規定ヲ設ケタリ此ノ如ク無限責任社員ハ合名會社ノ社員ト同シク會社ノ業務ヲ執行スルノ權利ヲ有シ義務ヲ負フヘキモノナリト雖モ規定ニ別段ノ定メアルトキハ之ニ從フヘク其別段ノ定メヲモ無效トスルノ理由ナキノミナラス(民法第九十一條)合名會社ニ付テモ旣ニ本案第五十六條ニ於テ此ノ如キ定款ノ定ヲ有效トセル以上ハ合資會社ニ付テモ亦同一ノ主義ヲ採リ其別段ノ定ニ從ハシムルコト正當ナリ而シテ定款ノ別段ノ定又ハ法律ノ規定ニ依リ業務ヲ執行スヘキ無限責任社員數人アルトキハ其一致ヲ以テ業務執行ヲ決スヘキカ又各自ニ之ヲ決スヘキカ現行商法第百四十三條第二項ノ規定ニ依レハ會社契約又ハ會社ノ決議ノ定ムル所ニ依ルヘキモノト爲スト雖モ是レ此規定ヲ設クルノ必要ヲ忘却シタルモノニシテ會社契約卽チ會社ニ別段ノ定アル場合ニ於テハ之ニ從フヘキハ勿論ナリ法律ニ規定スヘキ所ハ唯タ定款ニ之ヲ定メサルトキハ如何ニスヘキヤニアリ然ルニ現行商法第百四十三條第二項ハ此點ニ關シテ何等ノ決定ヲ與ヘサルハ大ナル缺點タルヲ免カレス故ニ本案ハ法人ノ理事ニ關スル民法第五十二條第二項組合ノ業務ヲ執行スル者ニ關スル民法第六百七十條組合ノ淸算人ニ關スル第六百八十六條及ヒ會社ノ淸算人ニ關スル本案ノ規定等ノ例ニ準シ過半數ノ決スル所ニ依ルヘキモノト爲シタリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第百十條
(理由)本條ハ現行商法第百三十七條及ヒ第九十一條ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法ニ於テハ業務擔當ノ任アル各社員ニ代務ノ委任又ハ解任ヲ爲ス權利ヲ與フ(現行商法第九十一條及ヒ第百三十七條)ト雖モ此規定ノ採ルヘカラサルコトハ旣ニ述ヘタル所ナリ而シテ本案ニ於テハ合名會社ニ付キ社員ノ過半數ヲ以テ支配人ノ選任及ヒ解任ヲ決スヘキモノト爲スト雖モ合名會社ハ無限責任社員ノミヲ以テ組織スルニ反シ合資會社ハ無限責任社員及ヒ有限責任社員ヲ以テ組織シ二者其性質ヲ異ニスルカ故ニ此合名會社ニ關スル規定ヲ合資會社ニ準用スルヲ以テ足レリトセス是レ本條ニ於テ合名會社ニ關スル例ニ準シ無限責任社員ノ過半數ヲ以テ支配人ノ選任及ヒ解任ヲ決スヘキモノト定メタル所以ナリ
第百十一條
(理由)本條ニ該當スル規定ハ現行商法ニ存セサル所ナリ卽チ現行商法ニ於テハ業務執行ニ干與スルコトヲ得サル社員カ會社ノ財產及ヒ業務執行ニ對シテ監督ヲ加フルノ方法ヲ定メス唯タ現行商法第百五十一條ノ規定ニ依リ通常總會ニ於テ貸借對照表及ヒ事業並ニ其成果ノ報吿書ヲ檢査認定スルノ結果此目的ノ幾分ヲ達スルコトヲ得ルニ過キスト雖モ株式會社ニ付キ株主總會ニ於テ選任シタル監査役カ會社ノ業務執行ニ干與セスシテ會社ノ財產及ヒ取締役ノ業務執行ヲ監督スルノ權ヲ有シ又匿名組合ニ付キ匿名組合員ノ監督權ヲ認ムルト等シク合資會社ノ業務執行ニ干與スルコトヲ得サル有限責任社員ニモ亦監督權ヲ與フルコト必要ナリ然リト雖モ一方ニ於テハ有限責任社員モ亦出資ヲ爲シ會社ノ社員タル以上ハ會社ノ營業ヲ妨害シ若クハ其秘密ヲ曝露スヘカラサルハ勿論ナルヲ以テ其監督權ノ行使ニ關シテハ幾分ノ制限ヲ加フルノ必要アリ他方ニ於テハ有限責任社員カ其權利ヲ行使シタルノミニテハ未タ充分事實ノ眞相ヲ明カニスルコトヲ得サル場合アルヘキヲ以テ此場合ニハ國家ノ公力ヲ以テ之ニ干涉スルノ必要アリ是レ本案カ株式會社ニ關スル規定及ヒ匿名組合ニ關スル規定其他ノ立法例ニ準シテ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第百十二條
(理由)本條ハ現行商法第百四十五條前段ノ字句ヲ修正シタルモノニ過キス其他現行商法第百四十五條後段ニ於テハ持分讓渡ノ效果トシテ讓受人カ讓渡人ノ權利義務ヲ襲承スル旨ヲ規定スト雖モ是レ素ヨリ當然言フヲ俟タサル所ナルヲ以テ本案ハ之ヲ削除シタリ
第百十三條
(理由)本條ハ現行商法第百四十條ノ規定ト其趣旨ヲ同フシ本案第六十條第一項ニ於テ現行商法第百四條ノ規定ニ修正ヲ加ヘタル結果トシテ本條ニモ亦修正ヲ加ヘタルニ過キス
第百十四條
(理由)本條ハ現行商法第百四十三條第一項ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ有限責任社員ハ出資ヲ爲スニ止マリ會社ヲ代表スルヲ得サルコトハ合資會社ノ制度ヲ設ケタル本旨ナルヲ以テ本案ハ會社ヲ代表スヘキ社員ハ必ス無限責任社員ナルコトヲ必要トセリ蓋シ現行商法ニ於テモ亦會社ヲ代表スルコトヲ得ルモノハ業務擔當社員ニ限リ業務擔當社員ハ會社契約ニ依リ一定ノ無限責任社員ヲ以テ之ニ充ツルコトヲ得ルノミナラス假令有限責任社員カ業務ヲ執行スルノ任ニ當ルトキト雖モ其業務執行中ニ生シタル會社ノ義務ニ付キ當時連帶無限責任ヲ負フ(現行商法第百四十二條第百四十三條第一項及ヒ第百四十六條)カ故ニ其實ニ於テハ本案ト大差ナシトス而シテ此ノ如ク無限責任社員ノミ會社ヲ代表スル權利ヲ有スト雖モ若シ定款又ハ總社員ノ一致ヲ以テ特ニ會社ヲ代表スヘキ無限責任社員ヲ定ムルトキハ之ニ從ハサルヘカラサルヤ勿論ナリトス而シテ會社ヲ代表スヘキ無限責任社員數人アルトキハ其各無限責任社員ニ於テ會社ヲ代表スルコトヲ得ルカ將タ又其無限責任社員共同ニアラサレハ會社ヲ代表スルコトヲ得サルカヲ決定スルノ必要アリ現行商法第百四十三條第二項ハ規定ニ依レハ會社契約又ハ會社ノ決議ヲ以テ之ヲ定ムヘキモノト爲スカ如シト雖モ若シ之ヲ定メサルトキハ如何スヘキカヲ決定セサルノ缺點アルノミナラス一方ニ於テハ合名會社ニ關スル規定トノ間ニ權衡ヲ得セシメ他方ニ於テ第三者ト會社トノ間ノ取引ヲ便ナラシムルカ爲メニハ各無限責任社員ニ於テ會社ヲ代表スヘキモノトスルコト極メテ必要ナリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
其他現行商法第百四十三條第一項ニ於テハ會社ヲ代表スヘキ社員ノ代理權ノ範圍ヲ規定シ又其第百四十四條ニ於テハ會社ヲ代表スヘキ社員ノ代理權ニ加ヘタル制限ノ效力ヲ規定スト雖モ本案ニ於テハ合名會社ニ關スル規定ヲ準用スルヲ以テ合資會社ニ付キ特別ノ規定ヲ設クルコトヲ要セスト認メ之ヲ削除シタリ
第百十五條
(理由)現行商法ニ於テハ本條ニ該當スル規定ナク唯タ會社契約ニ於テ一定ノ無限責任社員ノミヲ以テ業務擔當社員ニ充ツヘキコトヲ定メタル場合ニ於テノミ略ホ本條ト同一ノ結果ヲ生シ有限責任社員ハ會社ヲ代表シ又ハ其業務施行ニ干與スルヲ得サルコトアルニ過キス(現行商法第百四十二條及ヒ第百四十三條)是レ現行商法カ本案ト主義ヲ異ニスルノ結果ニシテ旣ニ其主義ヲ改メタル以上ハ有限責任社員ニ關スル規定ニ付テモ亦之ニ應スル修正ヲ加ヘサルヘカラス是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第百十六條
(理由)本條ニ該當スル規定ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ抑モ有限責任社員ニ於テ自己ヲ無限責任社員ナリト信セシムヘキ行爲アリタルトキハ其有限責任社員ハ善意ノ第三者ニ對シテ無限責任社員ト同一ノ責任ヲ負フヘキモノトスルコト正當ナルノミナラス此場合ニ於テ其有限責任社員ヲシテ無限責任社員ト同一ノ責任ヲ負ハシムルハ社員ニ非サル者ニ於テ自己ヲ社員ナリト信セシムヘキ行爲アリタルトキ之ヲシテ社員ト同一ノ責任ヲ負ハシムル規定ニ對シテモ亦其權衡ヲ得タルモノナリ然レトモ有限責任社員ヲシテ此責任ヲ負ハシムルニハ特別ノ規定アルコトヲ必要トス是レ本案カ新ニ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第百十七條
(理由)本條モ亦現行商法中ニ存セサル規定ナリ抑モ有限責任社員ハ無限責任社員ト異ナリ單ニ出資ヲ爲シ利益ノ配當ヲ受クルニ止マリ會社ノ業務ヲ執行シ又ハ之ヲ代表スルコトヲ得サルモノナルヲ以テ其社員カ假令死亡スルモ之ニ因リテ退社セシムルノ必要ナク又禁治產ノ宣吿ヲ受クルモ之ニ因リテ退社セシムルノ必要ナシ然レトモ若シ別段ノ規定ナキトキハ合名會社ニ關スル規定ハ當然合資會社ノ有限責任社員ニモ準用セラレ却テ以上述フル所ト反對ノ結果ヲ來スヘキヲ以テ本案ハ新ニ本條ノ規定ヲ設ケ有限責任社員ニシテ死亡シタルトキハ其相續人ハ當然之ニ代リテ社員ト爲リ又禁治產ノ宣吿ヲ受クルモ之ニ因リテ退社セサルモノト爲シタリ
第百十八條
(理由)本條モ亦現行商法中ニ存セサルナリ抑モ現行商法ニ於テハ合資會社ト有限責任社員ノミヲ以テ之ヲ組織シ得ヘキコトヲ認ムルカ故ニ本條ノ如キ規定ヲ要セスト雖モ本案ニ於テハ合資會社ハ必ス有限責任社員ヲ以テ組織スヘキモノト爲スカ故ニ無限責任社員又ハ有限責任社員ノ全員カ退社シ殘存スル社員カ有限責任社員又ハ無限責任社員ノミトナリタルトキハ會社ハ當然解散スヘキモノトス然レトモ有限責任社員ノ全員カ退社シタル場合ニ於テ殘存スル無限責任社員カ其會社ヲ合名會社トシテ繼續スルコトニ一致シタルトキハ啻ニ之ヲ禁スヘキ理由ナキノミナラス之ヲ許スコト却テ便宜ナリトス是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第四章 株式會社
(理由)本章ハ現行商法第一編第六章第三節ニ該當スルモノナリ現行商法ハ該節ヲ分チテ十三款ト爲シ第一款ニ總則第二款ニ會社ノ發起及ヒ設立第三款ニ會社ノ社名及ヒ株主名簿第四款ニ株式第五款ニ取締役及ヒ監査役第六款ニ株主總會第七款ニ定款ノ變更第八款ニ株金ノ拂込第九款ニ會社ノ義務第十款ニ會社ノ檢査第十一款ニ取締役及ヒ監査役ニ對スル訴訟第十二款ニ會社ノ解散第十三款ニ會社ノ淸算ヲ規定シタリト雖モ本案ハ之ニ削除分合ヲ加ヘ本章ヲ分テ八節ト爲シ第一節ニ設立第二節ニ株式第三節ニ會社ノ機關第四節ニ會社ノ計算第五節ニ社債第六節ニ定款ノ變更第七節ニ解散第八節ニ淸算ヲ規定シタリ
現行商法ニ於テハ第一款ヲ總則トナシ第百五十四條乃至第百五十六條ノ三條ヲ設ケタリ而シテ其第百五十四條ニ於テハ株式會社ノ定義ヲ揭ケ會社ノ資本ヲ株式ニ分チ其義務ニ對シテ會社財產ノミ責任ヲ負フモノヲ株式會社ト爲ス旨ヲ規定スト雖モ本案ニ於テハ法典中ニ定義ヲ揭クルノ不可ナルヲ認メ前二章ニ於テモ合名會社及ヒ合資會社ニ關スル現行商法ノ定義ヲ削除セル以上ハ株式會社ニ付テノミ現行商法ノ定義ヲ存スルノ理由ナシ故ニ現行商法第百五十四條ハ之ヲ削除シ株式ニ關スル一節卽チ第二節中ニ於テ其趣旨ヲ採用シ之ヲ規定スルコト正當ナリ又其第百五十五條ニ於テハ其目的カ商業ヲ營ムコトニアラサル株式會社モ亦株式會社ニ關スル商法ノ規定ニ從フヘキ旨ヲ規定スト雖モ此規定ハ一方ニ於テハ廣漠ニ失シ他方ニ於テハ狹隘ニ過クルノ缺點アリ卽チ「其目的カ商業ヲ營ムニアラサルモ」云々ナル語ハ營利ヲ目的トスルモノト營利ヲ目的トセサルモノトヲ包含スルモ株式會社ニ關スル規定ニ從ハシムルハ營利ヲ目的トスルモノノミニ限ルヘク現行商法カ之ヲ營利ヲ目的トセサルモノニモ及ホシタルハ極メテ不當ナルヲ免レス又此規定ハ株式會社ノ外合名會社合資會社及ヒ株式合資會社ニ付テモ亦必要ナルニモ拘ラス現行商法カ獨リ之ヲ株式會社ノミニ限リタルハ未タ盡ササル所アリト謂ハサルヘカラス此ノ如ク現行商法第百五十五條ノ規定ハ其實質ニ於テ非難スヘキ所アルノミナラス新民法第三十五條ニ於テ營利ヲ目的トスル社團ハ商事會社設立ノ條件ニ從ヒ之ヲ法人ト爲スコトヲ得ヘク此社團法人ニハ總テ商事會社ニ關スル規定ヲ準用スヘキコトヲ規定シタルヲ以テ更ニ本案ニ於テ類似若クハ同一ノ規定ヲ揭クルノ必要アルコトナシ故ニ現行商法第百五十五條ハ全ク之ヲ削除スルコト正當ナリ又現行商法第百五十六條ニ於テハ株式會社ハ七人以上ヲ以テシ且政府ノ免許ヲ得ルニアラサレハ之ヲ設立スルコトヲ得サル旨ヲ規定スト雖モ株式會社ヲ設立スルニハ政府ノ免許ヲ受ルコトヲ要ストスルハ不當ナリ(此理由ハ便宜上第一節ニ於テ之ヲ說明スヘシ)加之ナラス該條ハ會社ノ設立ニ關スル規定ニシテ旣ニ設立ニ關スル一節若クハ一款ヲ設クル以上ハ該節款中ニ揭クヘク總則中ニ揭クヘキモノニアラス以上ノ理由アルヲ以テ本案ハ現行商法第一編第六章第三款第一款中其第百五十四條ヲ第二節株式中ニ又其第百五十六條ノ一部ヲ第一節設立中ニ規定スルニ止メ其他ノ規定ハ悉ク之ヲ削除シ總則ノ爲メ特ニ一節ヲ設ケス
現行商法ニ於テハ第一款ヲ總則ト爲セシヲ以テ會社ノ發起及ヒ設立ニ關スル規定ヲ第二款トセリト雖モ本條ハ總則ヲ削除シタルノミナラス會社ノ發起ニ關スル規定ヲモ削除シタルヲ以テ第一節トシテ設立ニ關スル規定ヲ揭ケタリ
現行商法ニ於テハ第三款ヲ會社ノ社名及ヒ株主名簿ト爲シ第百七十三條ニ社名ニ關スル規定第百七十四條ニ株主名簿ニ關スル規定ヲ揭クト雖モ本案ハ一方ニ於テハ第百七十三條ノ規定ノ一部ヲ第一編第四章商號中ニ規定シ且第百七十三條ノ他ノ一部卽チ株式會社ノ社名ニハ株主ノ氏ヲ用ユルコトヲ得ストノ規定ハ株式會社ヲ無名會社ト稱シ合名會社ト相對セシメタル沿革ニ基クモノニシテ今日ニ於テ毫モ採ルニ足ルヘキ理由ナキノミナラス假令全ク之ト反對ノ主義ヲ採リ株主ノ氏ヲ商號ニ用ユルコトヲ得セシムルモ株式會社ノ商號ニハ必ス株式會社ノ文字ヲ附シアルヲ以テ之ニ依リ其會社ノ種類ヲ知ルコトヲ得ヘク從テ之カ爲メ實際上何等ノ弊害ヲ生セサルヘキカ故ニ本案ハ此規定ヲ削除シ他方ニ於テハ第百七十四條ハ之ヲ第三節第二款取締役ニ關スル規定中ニ加ヘタリ從テ現行商法ノ如ク商號及ヒ株主名簿ニ關シ特ニ一節ヲ設クルコトナシ
現行商法ニ於テハ第四款ヲ株式ト題スト雖モ未タ株式ニ關スル規定ヲ悉ク包括セサル所アルヲ以テ本案ハ現行商法中株式ニ關スル他ノ規定卽チ第八款株金ノ拂込ヲ併合シテ第二節株式ノ一節ト爲シタリ
現行商法ニ於テハ第五款ニ取締役及ヒ監査役ヲ規定シ第六款ニ株主總會ヲ規定スト雖モ何レモ會社ノ機關ニ外ナラサルヲ以テ本案ハ之ヲ併合シテ第三節ト爲シ會社ノ機關ト題シタリ
現行商法ハ第七款ニ於テ定款ノ變更ニ關スル規定ヲ揭ケタリ此規定ハ勿論必要ニシテ且特ニ一節ヲ設クルコト適當ナルヲ以テ本案ハ第六節トシテ之ヲ規定シタリ
現行商法ハ第九款ニ於テ會社ノ義務ヲ規定シ第十款ニ於テ會社ノ檢査ヲ規定セリト雖モ其規定スル所多クハ會社ノ計算ニ關スルモノナルヲ以テ本案ハ之ヲ合併シテ會社ノ計算ト題シ第四節トシテ之ヲ規定シタリ
現行商法ハ第十一款ニ於テ取締役及ヒ監査役ニ對スル訴訟ニ關スル規定ヲ揭ケタリ此規定ノ必要ナルヤ勿論ナリト雖モ之レカ爲メニ一節ヲ設クルノ必要ナキヲ以テ本案ハ之ヲ分チ第三節第二款取締役及ヒ第三款監査役ニ關スル規定中ニ加ヘタリ
現行商法ニ於テ社債ニ關スル規定ハ唯タ定款ノ變更ニ關スル一款中ニ存スルニ止マリ詳細ノ規定ハ明治二十三年法律第六十號ヲ以テ之ヲ定メタリ抑モ明治二十六年改正以前ノ舊商法ニ於テハ會社ノ資本增加ノ方法ノ一トシテ社債ノ募集ヲ規定セリト雖モ社債ト會社ノ資本トハ法律上何等ノ關係アルモノニアラス卽チ社債ナルモノハ會社ヲシテ消費貸借上ノ債務ヲ負擔セシメ一時會社ノ運轉資本ヲ增加スルニ止マリ新株式ノ募集ノ如ク會社ノ基礎タル資本ヲ增加スルモノニアラス從テ社債權者ハ利益ノ配當ヲ受ケ又株主總會ニ參與シテ其議決ニ加ハリ又會社ノ取締役トナルノ權利ナク又社債ノ償還ハ資本減少ノ規定ニ從フコトヲ要セサル等新株發行ニ比スレハ種々ノ差異アリ故ニ現行商法ハ第二百六條第一項ニ資本ノ增減ヲ規定シ同條第二項ニ債券ノ發行ヲ規定シ以テ二者ノ間區別ノ存スルコトヲ示セリ是レ至當ノ立法ナルヲ以テ本案モ亦之ヲ採用ス唯タ現行商法ニ於テ之ヲ定款ノ變更ト題スル一款中ニ規定シ且債券ノ記名ナルヘキコト及ヒ其金額ヲ定ムルニ止メ其他ハ特別法卽チ明治二十三年八月八日法律第六十號ヲ以テ之ヲ定メタリシハ本案ノ採ラサル所ナリ蓋シ社債ノ募集ニ關スル事項ヲ定款中ニ記載シタル場合ニ於テ之ヲ變更スルハ卽チ定款ノ變更ナリト雖モ其他ノ場合ニ於テハ社債ノ募集ハ必スシモ定款ニ影響ヲ及ホスモノニアラス何ントナレハ現行商法ニ依ルモ本案ニ依ルモ社債ノ募集ニ關スル事項ハ定款ニ記載スルコトヲ要スルモノニアラサレハナリ又株式ニ關スル規定ハ之ヲ獨立ノ節款ト爲シ現行商法及ヒ本案中ニ規定シナカラ社債ニ關スル規定ヲ特別法ト爲スハ權衡ヲ得サル所アルヲ免カレス而シテ社債ニ關シテ特ニ一節ヲ設ケタル立法例極メテ乏シク僅カニ伊太利、羅馬尼、葡萄牙等數國ノ商法アルノミナリト雖モ一方ニ於テハ社債ニ關スル規定ヲ定款ノ變更ト題スル款又ハ節中ニ揭クルコト不當ナリ他方ニ於テハ株式ノ爲メニ特ニ獨立ノ一款又ハ一節ヲ設クル以上ハ之ニ對スル權衡上社債ヲ以テ獨立ノ一款又ハ一節ト爲シ特別法卽チ明治二十三年法律第六十號ノ規定ヲ悉ク包含セシムルコト至當ナリ故ニ本案ハ第五節トシテ社債ニ關スル規定ヲ揭ケタリ
現行商法ニ於テハ第十二款ニ會社ノ解散又第十三款ニ會社ノ淸算ヲ規定セルヲ以テ本案モ亦之ニ倣ヒ第七節ニ解散第八節ニ淸算ヲ規定シタリ唯タ解散若クハ淸算ノ文字ニ「會社ノ」ノ三字ヲ冠セサリシハ其會社殊ニ株式會社ノ解散又ハ淸算ヲ示スモノナルコト當然言フヲ俟サル所ナルカ爲メニ外ナラス
第一節 設立
(理由)本節ハ現行商法第一編第六章第三節第一款ノ一部卽チ第百五十六條及ヒ第二款ニ該當シ株式會社ノ設立ニ關スル規定ヲ揭クルモノトス
現行商法ニ於テハ第百五十六條ヲ第一編第六章第三節第一款卽チ株式會社ノ總則中ニ揭ケタリ然ルニ本案ハ之ヲ以テ設立ニ關スル規定ト爲シ本節中ニ揭ケタルコトハ旣ニ述ヘタル所ナリ然レトモ本案ハ現行商法第百五十六條ノ全部ヲ採用セサルモノニアラス其一部卽チ設立ニ必要ナル人數ニ關スル前段ノ規定ヲ採用スルニ止マリ其他ノ部分卽チ設立ノ免許ニ關スル後段ノ規定ハ全ク之ヲ削除シ以テ株式會社ヲ設立スルニハ特ニ政府ノ免許ヲ受クルコトヲ要セサルモノト爲シタリ
抑モ株式會社ノ設立免許ノ制度ヲ廢シ自由ニ之ヲ設立スルコトヲ得セシムルノ正當ナル理由數多アリ第一現行商法及ヒ本案ニ於テ法人タル會社ハ獨リ株式會社ノミニ限ラス合名會社合資會社等モ亦法人タリ又現行商法及ヒ本案ニ於テ有限責任社員ヲ以テ組織セラルル會社ハ獨リ株式會社ノミニ限ラス合資會社ニモ亦有限責任社員アリ然ルニ株式會社ノミニ付キ設立免許ヲ要シ合名會社合資會社等ニ付テハ自由ニ設立スルコトヲ許スハ其間權衡ヲ得タルモノニアラス第二株式會社ニ付テハ各國皆一時ハ設立免許ノ制度ヲ設ケタリシモ次第ニ其有害無益ナルヲ認メ英吉利、佛蘭西、獨逸、白耳義、匈牙利、伊太利、瑞西、西班牙、葡萄牙等皆此制度ヲ廢シ今尙ホ之ヲ存スルハ澳太利、荷蘭、羅馬尼、及ヒ我國等ニ過キス此ノ如ク設立免許ノ制度ヲ廢止スルコトハ各國法制沿革上一般ノ傾向ナル以上ハ我國モ亦之ニ倣フコト相當ナリ第三現今我國ノ實業家ニ於テハ設立免許ノ制度ヲ不必要ノモノト爲シ其廢止ヲ希望スル請願ハ各地商業會議所ヨリ內閣司法省衆議院ニ呈出セラレタルヨリ視レハ實際ニ於テモ設立免許ノ制度ハ有害無用ノモノナルコト明カナリ第四株式會社發生ノ初期ニ於テハ之ニ關スル智識經驗ニ富ムハ實業家ニアラスシテ却テ政府ノ官吏ニアリ從テ株式會社ノ正當ナル發達ヲ奬勵スルカ爲メ其設立ニ政府ノ免許ヲ必要トセリト雖モ今日ニ於テハ株式會社ニ關スル智識經驗ハ決シテ政府ノ官吏ノ專有ニアラス從テ株式會社ノ設立ニハ政府ノ免許ヲ要セサルモノト爲スコト正當ナリ第五設立免許ノ制度ヲ設ケタル結果トシテ株式會社ヲ設立スルニハ種々ノ手續ヲ履ミ多數ノ月日ヲ要ス從テ商業上ノ機會ヲ失シ當初甚タ有望ノ會社ナリシモ愈々設立セラルゝニ及ンテハ全ク無益ニ歸スルコトアリ此弊害ヲ救濟スルカ爲メニハ自由ニ設立ヲ許スコト必要ナリトス株式會社ハ法律ノ規定ニ從ヒ自由ニ之ヲ設立スルコトヲ得ヘク政府ノ免許ヲ受クルコトヲ要セスト爲スノ正當ナルハ以上述フルカ如クナルヲ以テ現行商法ニ於ケル設立免許ノ制度ヲ廢止シ從テ其第百五十六條後段第百六十六條第百六十八條第一項ノ一部同條第二項第八號及ヒ第百七十條前段等ノ規定ヲ削除シタルノミナラス第百六十七條第一項ノ如キモ亦之ニ修正ヲ加ヘタリ
現行商法ノ如ク株式會社ニ付キ發起ト設立トヲ區別スル以上ハ其他ノ會社ニ付テモ亦之ヲ區別スルコト正當ナルヘシ然ルニ各國立法例上未タ其他ノ會社ニ付キ發起ト設立トヲ區別シタルモノナク我現行商法亦同シ果シテ然ラハ獨リ株式會社ニ付テノミ發起ト設立トヲ區別スルハ其理由ナシト謂ハサルヘカラス蓋シ現行商法ニ於テハ發起ヲ以テ設立ニ必要ナル準備行爲トナシ而カモ之ヲ設立ト區別シタルカ故ニ定款ノ作成ノ如キモ發起人ハ唯タ假定款ヲ作成スルニ止マリ定款ヲ確定スルハ所謂創業總會ニアリシト雖モ他ノ會社ニ關スル規定ニ對シテ權衡ヲ失ス卽チ他ノ會社ノ設立者ハ定款ヲ作ルコトヲ得ルニモ拘ラス株式會社ヲ設立スル發起人ハ定款ヲ作ルコトヲ得ス假定款ノミヲ作ルコトヲ得ルモノトスルハ不當ナリ假令發起人カ株式ノ總數ヲ引受ケスシテ株主ヲ募集スル場合ニ於テハ聊カ他ノ會社ヲ設立スル場合ト事情ヲ異ニスルコトアルモ發起人カ株式ノ總數ヲ引受クル場合ニ於テハ毫モ他ノ會社ヲ設立スル場合ト異ナル所ナシ從テ法律上二者ヲ同樣ニ取扱フコトハ頗ル正當ナリト謂ハサルヘカラス是レ本案カ現行商法ニ所謂發起ヲ以テ設立ニ包含セシメ發起人ハ他ノ會社ノ設立者ト同シク定款ヲ作成スルモ唯タ株式會社ニ特別ナル必要アルカ爲メ之ヲ變更スルノ權ヲ創立總會ニ與フルニ過キサルモノト爲ス所以ナリ此修正ノ結果トシテ現行商法ノ各條ニ幾多ノ修正ヲ加フル必要ヲ生シタルノミナラス現行商法第百五十七條第一項ノ如キハ同第百五十六條ト重複シテ全ク無用ニ歸シ又發起ノ認可ニ關スル現行商法第百五十九條ノ如キモ亦無用ノ規定ト爲リ從テ之ヲ削除スルニ至レリ
現行商法第百五十七條第二項及ヒ第百五十八條ニ於テハ目論見書ニ關スル規定ヲ設ケ發起人ハ一定ノ事項ヲ具備スル目論見書ヲ作成スルコトヲ要スルモノト爲スト雖モ其目論見書ニ記載スヘキ事項中資本使用ノ槪算ナル一項ヲ除クノ外ハ悉ク本案ニ於テ定款ニ記載スヘキモノト爲シタル事項ニ外ナラス蓋シ現行商法ニ於テハ定款ニ記載スヘキ事項ヲ定メサリシカ故ニ定款ノ外別ニ一定ノ事項ヲ記載シタル目論見書ヲ作ルノ必要アリタリト雖モ本案ノ如ク旣ニ定款ニ記載スヘキ事項ヲ定メ現行商法カ目論見書ニ記載スヘキモノト爲シタル事項ハ之ヲ定款ニ記載セシムル以上ハ單ニ資本使用ノ槪算ヲ記載セシムルカ爲メ別ニ目論見書ヲ作ルヘキモノトナス必要ナカルヘシ殊ニ資本使用ノ槪算ナルモノハ單ニ發起人ノ見込ヲ示スニ止マリ會社設立シ資本ヲ集メタル後必ス其槪算ノ如ク資本ヲ使用セサルヘカラサルモノニアラス又實際上ニ於テハ必ス此槪算ニ依ラシムル能ハサル事情アリ此ノ如ク不確定ナルモノハ有ルノ却テ無キニ如カス故ニ本案ハ現行商法ノ目論見書ニ關スル制度ヲ廢シ發起人カ目論見書ヲ作リ之ニ或事項ヲ記載スルヲ禁セスト雖モ之ヲ作ルト否ト又如何ナル事項ヲ記載スルトセサルトハ全ク之ヲ各人ノ自由ニ一任シ同時ニ假令之ヲ作ルモ法律上何等ノ效力ヲ有セサルモノト爲ス此修正ノ結果トシテ本案ハ現行商法第百五十八條ヲ削除シ且其他第百五十七條第二項第百五十九條第百六十條第百六十六條第一項及ヒ第百六十八條第一項等ノ中目論見書ニ關スル規定ハ凡テ之ヲ削除シタリ
現行商法第百五十九條ニ於テハ發起人ハ目論見書及ヒ假定款ヲ主務省ニ差出シ發起ノ認可ヲ請フコトヲ要スルモノト爲スト雖モ此規定ハ發起ト設立トヲ區別シ且設立ニハ政府ノ免許ヲ要スルモノトナシタル結果ニシテ本案ノ如ク發起ヲ設立中ニ包含セシメ且設立ニ付テモ政府ノ免許ヲ要セスト爲ストキハ發起ノ認可ナルモノヲ認ムヘキ所以ナシ政ニ本案ハ現行商法第百五十九條ヲ削除シタルノミナラス其他第百六十條第百六十六條第三號第百六十八條第一項等ノ中發起ノ認可ニ關スル規定モ亦之ヲ削除シタリ
第百十九條
(理由)本條ハ現行商法第百五十六條前段及ヒ第百五十七條第一項ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法ニ於テハ發起ト設立トヲ區別セルヲ以テ發起ハ四人以上設立ハ七人以上ヲ以テスヘキモノト爲シタリ(現行商法第百五十六條前段及ヒ第百五十七條第一項)然ルニ本案ニ於テハ發起ヲ以テ其設立ノ準備タル點ヨリ設立中ニ包含スルモノト爲シ現行商法ノ如ク二者ヲ區別セス從テ二者必要ナル人員ノ最低數ヲ異ニスルコト現行商法ノ如クナルコト能ハス故ニ本條ハ佛蘭西英吉利其他ノ立法例ニ倣ヒ株式會社ハ七人以上ノ發起人アルニアラサレハ之ヲ設立スルコトヲ得サルモノト規定シタリ
第百二十條
(理由)本條ハ現行商法第百五十七條ノ一部及ヒ第百五十八條ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ蓋シ現行商法カ發起人ノ作ルヘキ定款ヲ假定款ト稱シタルハ創業總會ニ於テ始メテ定款ヲ確定スヘク發起ノ認可ナキニモ拘ラス定款ヲ作ルヘキモノトスルハ不都合ナリト爲シタル結果ナリ從テ本案ノ如ク發起人ニ於テ株主ヲ募集セス自ラ株式ノ總數ヲ引受ケ創立總會ヲ開カスシテ會社ヲ設立シ得ヘキコトヲ認メ假令株主ヲ募集シタルカ爲メ創立總會ヲ開クモ其總會カ設立ノ廢止ヲ決議スルニ非サレハ唯タ定款ヲ變更スルコトヲ得ルニ止マルモノト爲シ且發起ノ認可ノ制度ヲ廢止セル以上ハ現行商法ノ如ク發起人ニ於テ假定款ヲ作ルヘキモノト爲スノ必要ナカルヘシ加之ナラス合名會社合資會社ニ於テハ之ヲ設立スル者ヲシテ定款ヲ作ラシメ爾後之ニ加入スル者ハ皆設立者ノ定メタル定款ニ依準セシム從テ之ニ對スル權衡上ニ於テモ亦株式會社ノ發起人ヲシテ定款ヲ作ラシメ爾後其會社ニ加入スル者卽チ株式引受人ヲシテ皆此定款ニ依準セシムルコト必要ナリ是レ本案カ發起人ハ定款ヲ作ルヘキモノトナシタル所以ナリ
本條第一號第二號及ヒ第六號ノ規定ハ合名會社及ヒ合資會社ニ關スル本案第五十條第一號第二號及ヒ第四號ノ規定ト同一ナリ又合名會社及ヒ合資會社ニ關スル本案第五十條第三號ニ「社員ノ氏名住所」トアリタルヲ本條第八號ニ於テ「發起人ノ氏名住所」ト爲シタルハ合名會社及ヒ合資會社ニアリテハ社員カ定款ヲ作ルニ反シ株式會社ニアリテハ發起人カ定款ヲ作ルノ結果ニシテ之ヲ作ル者ノ氏名住所ノ記載ヲ必要トスルニ至リテハ全ク同一ナリトス此等ノ各號ハ卽チ現行商法第百五十八條第一號乃至第三號及ヒ第六號前段ノ規定ニ該當スルモノナリトス
本條第三號ハ現行商法第百五十八條第四號前段ノ規定ニ該當スルモノニシテ合名會社ニ存セサル所ナリ是レ合名會社ハ出資ニ因リテ資本ヲ組成シ其總額ヲ定ムルモ株式會社ハ資本ノ總額ニ基キ株式ノ總數及ヒ一株ノ金額ヲ定ムルカ爲メニ過キス
本條第四號ハ現行商法第百五十八條第四號後段ノ規定ニ該當スルモノニシテ之ヲ定款ニ揭クルノ必要アルヤ勿論ナリトス
本條第五號ハ本案第百六十九條ノ規定ヲ設ケタル結果ニシテ現行商法第百八十七條前段ニ於テモ亦認ムル所ナリ
本條第七號ニ該當スル規定ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ唯タ現行商法第百九十九條ニ於テハ株主總會又ハ創業總會ノ招集ハ定款ニ定メタル方法ニ從ヒ之ヲ爲スヘキモノト爲シタルヲ以テ定款ニ依リ總會ヲ招集スルニハ一定ノ方法ニ依リ公吿ヲ爲スヘキモノト定ムルコトナキニ非サリシノミ抑モ株式會社ハ本案ノ規定又ハ定款ノ定メニ依リ公吿ヲ爲スヲ要スルコトアリ然レトモ其公吿ヲ爲ス方法ニ至リテハ本案ノ規定セサル所ニシテ若シ强イテ之ヲ規定セハ或場合ニハ煩雜ニ過キ或場合ニハ簡略ニ失スルヲ免レス之ニ反シテ各場合ニ於テ適宜ノ方法ニ依リ公吿ヲ爲スヘキモノト爲シ之ニ關シテ何等ノ拘束ヲ加ヘサルトキハ利害關係人ハ如何ナル方法ニ依リテ公吿セラルルヤヲ豫メ知ルコトヲ得サルカ爲メ平常公吿ノ有無ニ注意スルニ由ナカルヘシ故ニ一方ニ於テハ各場合ノ事情ニ應シ適宜ニ公吿ヲ爲ス方法ヲ採擇スルノ餘地ヲ存シ他方ニ於テハ公吿ヲ爲ス者カ任意ニ之ヲ取捨スルノ弊害ヲ避ケ且十分公吿ノ目的ヲ達セシムル爲メ本案ハ第七號ニ於テ會社カ公吿ヲ爲ス方法ハ必ス定款ニ記載スルコトヲ要スト定メタリ
其他現行商法第百五十七條第二項ニ於テハ發起人ノ各自カ假定款ニ署名捺印スヘキ旨ヲ規定スト雖モ本案カ合名會社ニ付キ現行商法第七十七條第一項後段ノ規定ヲ修正シ定款ニ作成者ノ捺印ヲ要セスト爲シタルト同シク株式會社ノ定款ニモ亦作成者卽チ發起人ノ捺印ヲ要セスト爲シタリ又現行商法第百五十七條第三項ニ於テ定款ハ本法ノ規定ニ牴觸スルコトヲ得サル旨ヲ規定スルモ定款ハ公ノ秩序ニ關スル本法ノ規定ニ違反スルコトヲ得サルハ當然言フヲ俟タサル所ナリ若シ又公ノ秩序ニ關セサル規定ニ付テハ新民法第九十一條ノ規定ニ依リ定款ニ於テ之カ反對ノ定ヲ爲スコトヲ得ヘキニモ拘ラス此現行商法ノ規定ハ株式會社ニ付キ特ニ例外ヲ設ケ公ノ秩序ニ關セサル規定ニ反對ノ定ヲ爲スコトヲ許ササルニアリトセハ毫モ理由ナキ不當ノ規定タリ何レニスルモ此規定ハ採ルニ足ラサルモノナルヲ以テ本案ハ之ヲ削除シタリ
第百二十一條
(理由)本條ニ該當スル規定ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ抑モ前條ニ於テ列擧シタル各事項ハ必ス之ヲ定款ニ記載スルコトヲ要スル以上ハ若シ發起人カ其事項ヲ定款ニ記載スルニ當リテ或事項ヲ脫漏シタルトキハ其定款ハ無效ト成リ會社成立セサルコト勿論ナリ是レ前條ノ規定ヨリ當然生スル論結ナリ然レトモ前條第五號乃至第七號ニ揭ケタル事項ノ如キハ假令發起人ニ於テ之ヲ定款ニ記載セスト雖モ後日之ヲ補足スルトキハ其定款ヲ無效トスルノ必要ナシ故ニ本案ハ法人ニ關スル新民法第四十條ノ例ニ倣ヒ此等ノ事項ノ爲メ例外ヲ設ケ若シ發起人カ之ヲ定款ニ記載セサリシトキハ創立總會又ハ株主總會ニ於テ之ヲ補足スルコトヲ得ルモノト爲シタリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第百二十二條
(理由)本條モ亦現行商法第百五十七條及ヒ第百五十八條ノ規定ノ一部ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ現行商法第百五十八條第七號ニ於テハ存立時期ヲ定メタルトキハ其時期ヲ目論見書ニ記載スヘキモノトセリ蓋シ會社ノ存立時期又ハ解散事由ハ必スシモ之ヲ定ムルモノニアラス亦之ヲ定ムルコトヲ必要トセスト雖モ若シ之ヲ定メタルトキハ定款ニ記載セシムルコト必要ナリ是レ本條第一號ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
現行商法ニ於テハ必ス額面ノ價額ヲ以テ株式ヲ發行スヘキモノト爲シタリト雖モ其不可ナルコト勿論ニシテ卽チ額面以上ノ價額ヲ以テ之ヲ發行スルコトヲ得セシムルコトハ實際上必要ナリ故ニ本案ハ此主義ヲ採リ本條第二號ニ於テ額面以上ニテ株式ヲ發行スヘキトキハ其旨ヲ定款ニ記載スルコトヲ要スルモノト爲シタリ
本條第三號モ亦現行商法中ニ存セサル所ナリ抑モ發起人カ特別ノ利益ヲ受クルコトハ實際上屢々行ハレ且最モ弊害ノ存スル所ナルヲ以テ其弊害ヲ杜絕スルノ方法ヲ講スルコト最モ必要ナリ故ニ本案ニ於テハ本條第三號ノ規定ヲ設ケ之ヲ定款ニ記載スヘキモノト爲シタリ
本條第四號モ亦現行商法中ニ存セサル所ナリ抑モ金錢以外ノ財產ヲ以テ目的トスル出資ニ對シ株式ヲ與フルコトハ實際上必要ナリト雖モ弊害ノ存スルモノアリ卽チ出資ニ比シ過分ノ株式ヲ與フルトキハ他ノ株主ノ利益ヲ害スルノミナラス資本ト其實額トノ間ニ差異ヲ生シ債權者ノ利益ヲモ害スルニ至ルヘキヲ以テ本案ニ於テハ特ニ本條第四號ノ規定ヲ設ケ以テ其弊害ヲ防カンコトヲ期シタリ
本條第五號モ亦現行商法中ニ存セサル所ナリ抑モ會社ノ設立セラレタル後其設立費用ヲ會社ノ負擔ニ歸セシメ又ハ發起人カ其功勞ニ對シテ會社ヨリ報酬ヲ受クヘキ場合ニ付テモ亦本條第三號及ヒ第五號ニ付キ述ヘタルト同一ノ理由ニ依リ其額ヲ豫メ定款ニ記載セシムルコト必要ナリ是レ本條第五號ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第百二十三條
(理由)本條及ヒ次條ニ該當スル規定ハ現行商法中ニ存セサル所ナリト雖モ本案ハ設立ノ手續ヲ二種ニ分チ發起人カ株式ノ總數ヲ引受ケタル場合ト之ヲ引受ケサル場合ト爲シ前者ヲ本條及ヒ次條ニ規定シタリ抑モ株式會社ハ通例其資本額大ナルヲ以テ廣ク株主ヲ募集シ發起人ニ於テ其總數ヲ引受ケサルコト通例ナリト雖モ發起人ノ數多ク且資力ニ富ム場合若クハ會社資本ノ額僅少ナル場合ノ如キハ發起人ニ於テ其株式ノ總數ヲ引受クルコト却テ便宜ナルコトアリ而シテ此場合ニ於テハ株主ヲ募集スル場合ノ如ク創立總會ヲ開カサルヲ以テ創立總會ノ終結ヲ標準トシテ會社成立ノ時期ヲ定ムルコトヲ得サルト共ニ定款ノ作成ト同時ニ必ス株式總數ノ引受アルモノニアラサレハ定款ノ作成ヲ標準トシテ會社成立ノ時期ヲ定ムルコトヲ得ス故ニ本條前段ハ發起人カ株式ノ總數ヲ引受ケタルトキハ之ニ因リテ會社成立スルモノト爲シタリ又此場合ニ於テハ創立總會ナキヲ以テ創立總會ヲ開クノ前ニ第一回ノ株金拂込ヲ爲サシムルコトヲ得サルハ勿論創立總會ニ於テ取締役及ヒ監査役ヲ選任スルコトヲ得サルヘシ故ニ本條後段ニ於テハ發起人カ株式ノ總數ヲ引受ケ會社成立シタルトキハ第一回ノ株金拂込ヲ爲シ且發起人ノ議決權ノ過半數決ヲ以テ取締役及ヒ監査役ヲ選任スヘキコトヲ規定シタリ殊ニ此場合ニハ會社ハ旣ニ成立セルモノナルヲ以テ速ニ第一回ノ株金拂込及ヒ取締役監査役ノ選任ヲ爲サシムルノ必要アルカ故ニ本案ハ遲滯ナク之ヲ爲スコトヲ要スル旨ヲモ明言シタリ又本案カ第一回ノ拂込ハ少クトモ株金ノ四分ノ一ヲ下ラサルコトヲ要ストセルハ現行商法其他多數ノ各國立法例ニ倣ヒタルモノニシテ株式會社監督ノ方法トシテハ最モ適切ナルモノナルカ故ニ之ヲ採用シタリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第百二十四條
(理由)本條ニ該當スル規定ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ抑モ發起人カ株式ノ總數ヲ引受ケタル場合ニ於テハ之ヲ監督スヘキ創立總會ナク從テ若シ何等ノ監督方法ヲ定メサルトキハ一方ニ於テハ定款作成ノ權利ヲ濫用シ殊ニ本案第百二十二條第三號乃至第五號ノ事項ニ付キ不當ノ規定ヲ設ケ他方ニ於テハ未タ第一回ノ拂込ヲ爲サゝル株式ヲ存セシメ以テ不當ノ利益ヲ貪リ會社ノ債權者ノ利益ヲ害スルノ恐レアリ故ニ此場合ニ對シテハ特別ノ監督方法ヲ定ムルコト必要ナリ是レ本條ノ規定ヲ設ケ發起人ヨリ遲滯ナク檢査役ノ選任ヲ裁判所ニ請求シ裁判所ノ選任シタル檢査役ヲシテ調査ヲ爲サシメ其報吿ニ依リ裁判所ハ創立總會ニ代ハリテ相當ノ處分ヲ爲スヘキモノト爲シタル所以ナリ
第百二十五條
(理由)本條ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ抑モ本條以下ニ於テハ發起人カ株式ノ總數ヲ引受ケスシテ株主ヲ募集スル場合ヲ規定シ就中本條ニ於テハ此場合ニ發起人ハ株主ヲ募集スルコトヲ要スル旨ヲ定ム蓋シ會社カ成立スルニハ株式總數ノ引受アルコトヲ要スルカ故ニ發起人カ引受ケタル株式ヲ除キ其他ノ株式ニ付テハ株主ヲ募集シ株式總數ノ引受アリタルコトノ要件ヲ充スノ必要アルヤ勿論ナリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
其他現行商法第百六十條ニ於テハ發起ノ認可ヲ得タル後ニ非サレハ株主ヲ募集スルコトヲ得サル旨及ヒ株主ヲ募集スルニハ目論見書ヲ公吿シ且其公吿ニハ發起ノ認可ヲ得タル旨並ニ其認可ノ年月日ト各株式申込人ニ假定款ヲ展閱セシムル旨トヲ附記スヘキコトヲ定ムト雖モ本案ハ發起ノ認可及ヒ目論見書ノ制度ヲ廢止シタルヲ以テ之ニ關スル規定ヲ削除スヘキハ勿論株主募集ノ公吿ニハ如何ナル事項ヲ揭クヘキヤハ發起人ニ一任スヘク株式申込人ヲ保護スル爲メニハ次條ノ規定ヲ設クルヲ以テ十分ナリトス其他株式申込人ヲシテ定款ヲ展閱セシムカ如キハ別ニ之ヲ公吿セサルモ發起人ハ之ヲ拒マサルコト勿論ナリ故ニ本案ハ現行商法第百六十條ノ規定ヲ削除シタリ
第百二十六條
(理由)本條ハ現行商法第百六十一條ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法第百六十條ニ於テハ株主ヲ募集スルニハ目論見書ヲ公吿スヘキモノト爲シ且其第百五十八條ニ於テ目論見書ニ記載スヘキ事項ヲ定メ又現行商法第百六十條ノ結果トシテ各株式申込人ニハ假定款ヲ展閱セシムヘキモノト爲シ以テ株式申込人カ其申込ヲ爲スノ際必要ナル事項ヲ知リテ詐欺ニ罹ルコトナカラシメンコトヲ期シタリ從テ株式ノ申込ヲ爲スニハ其引受クル株數ヲ株式申込簿又ハ陳述書ニ記載シ之ニ署名捺印スルノ外何等ノ要件ヲモ定メス(現行商法第百六十一條)ト雖モ本案ハ株主募集ノ公吿ヨリモ株式申込ニ重キヲ措キ公吿ヲ爲スト否ト又如何ナル事項ヲ公吿スルトハ全ク之ヲ發起人ニ放任シ本條ニ於テ株式申込ニ關スル詳細ノ規定ヲ設ケ以テ成ルヘク株式申込人ヲシテ其會社ニ關スル重要ノ事項殊ニ株式申込人ノ權利義務ヲ知ラシメンコトヲ期シタリ而シテ現行商法第百六十一條ニ於テハ株式申込ヲ爲ス方法トシテ二樣ノ方式ヲ定メ株式申込簿ニ其引受クル株數ヲ記載シテ之ヲ爲スモノト陳述書ノ送付ヲ以テ之ヲ爲スモノトニ分チタリト雖モ却テ混雜ヲ生ス寧ロ隔地者モ非隔地者モ同一ノ方式ニ依ラシメ而カモ株式申込證ヲ編綴シテ一ノ帳簿ト爲スト否トハ便宜ニ任スノ劃一ナルニ如カス故ニ本條第一項ニ於テハ株式申込人カ株式ノ申込ヲ爲スニハ株式申込證ト稱スル一定ノ用紙二通ニ其引受クヘキ株式ノ數ヲ記載シ之ニ署名スヘキモノト爲シ且本條第二項ニ於テハ株式申込證ヲ劃一ナラシメ併セテ株式申込ヲ容易ナラシメンカ爲メ發起人ニ於テ之ヲ作ルヘキモノト爲シ同時ニ株式申込人ヲシテ會社ニ關スル事項ヲ知ラシムル爲メ必ス第一號乃至第五號ニ揭ケタル事項ヲ之ニ記載スルコトヲ要スルモノト爲シタリ
其他現行商法第百六十一條第二項ノ如キハ代理ニ關スル規定ニ從フヲ以テ足レリトス故ニ本案ハ之ヲ削除シタリ
第百二十七條
(理由)本條ハ現行商法第百六十二條ノ規定ニ字句ノ修正ヲ加ヘタルニ過キス唯タ現行商法ニ於テハ會社設立スルニ至レハ拂込ヲ爲ス義務ヲ負フモノト爲シ恰カモ會社ノ成立前ニハ拂込ヲ爲ス義務ナキモノノ如シト雖モ會社ノ成立前ニ第一回ノ拂込ヲ爲スコトヲ要スルハ本案第百二十九條ノ規定スル所ナリ故ニ會社設立スルニ至レル場合ノミニ限ルハ狹隘ニ失ス是レ本條ノ如ク修正ヲ加ヘタル所以ナリ
第百二十八條
(理由)現行商法ニ於テハ本條第一項ニ該當スル規定ヲ存セス是レ株式ハ必ス其券面額ヲ以テ發行スヘキモノト爲シタルノ結果ナリト雖モ券面額以上ノ價額ヲ以テ之ヲ發行セシムルモ毫モ弊害ヲ生スルモノニアラス故ニ本案ハ之ヲ許セルコトハ旣ニ述ヘタル所ナリ然レトモ券面額以下ノ價額ヲ以テ株式ヲ發行スルコトヲ許ストキハ定款ニ定メタル資本ノ總額ト實額トノ間ニ差異ヲ生シ會社ノ債權者ヲ詐害スルニ至ルヘキヲ以テ本案ハ現行商法ト同シク之ヲ許スコトナシ唯タ明文ヲ存セサルトキハ疑ヲ生スルヲ免カレサルノミ是レ本條第一項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
本條第二項ハ現行商法第百六十七條第二項ノ一部ニ字句ノ修正ヲ加ヘタルモノニ過キサルヲ以テ別ニ說明ヲ要セス
第百二十九條
(理由)本條第一項ハ現行商法第百六十七條ノ規定ノ一部ニ修正ヲ加ヘタルモノニシテ又本條第二項ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ抑モ現行商法第百六十七條ノ規定ニ依レハ創業總會終リ設立ノ免許ヲ得發起人ヨリ取締役ニ事務ノ引渡ヲ爲シタル後取締役ヨリ株金四分ノ一以上ノ拂込ヲ爲サシムルヘキモノト爲シ其拂込ヲ爲スト爲ササルトハ直チニ會社ノ成立ニ關係ナク唯タ之ヲ爲ササルトキハ設立ノ登記ヲ受クルコトヲ得ス若シ設立ノ免許ヲ受ケタル後一ケ年內ニ登記ヲ受ケサルトキハ設立免許ノ效力ヲ失フモノト爲スト雖モ此ノ如キ規定ハ創立總會ニ於テ引受又ハ株金ノ四分ノ一ノ拂込ナキ株式ノ有無ヲ調査シ以テ發起人ヲシテ十分ノ責任ヲ負ハシムルニ足ラス發起人ヲシテ十分責任ヲ負ハシムルニハ本案ノ如ク株式總數ノ引受アリタル後創立總會ヲ招集スル前ニ第一回ノ拂込ヲ爲サシムルコト最モ適切ナルハ殆ント疑ヲ容レサル所ナリ其他額面以上ノ價額ヲ以テ株式ヲ發行シタルトキハ其額面ヲ超ユル金額ハ第一回ノ株金拂込ト同時ニ之ヲ拂込マシムルコト亦必要ナリトス是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第百三十條
(理由)本條ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ抑モ前條ノ拂込ハ會社ノ成立前ニ於テ之ヲ爲スモノナルヲ以テ若シ其拂込ヲ爲ササルトキハ發起人ハ如何ニ之ヲ處分スヘキカ現行商法ニ於テハ此處分方法ヲ規定セサリシ爲メ實際上爭ヲ生シ現今未決問題ニ屬ス(岩越鐵道株式會社ノ例)是レ本案カ新ニ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ニシテ規定ノ實質ニ至テハ別ニ說明ヲ要セサルトコロナリ
第百三十一條
(理由)本條第一項ハ現行商法第百六十三條前段ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法ニ於テハ本案ニ所謂創立總會ヲ創業總會ト稱スト雖モ創業總會ナル語ハ大ニ其眞相ヲ誤ルノミナラス本案ノ如ク其總會ノ終結ニ因リテ會社成立スルモノトスル以上ハ寧ロ創立總會ト稱スルノ適切ナルニ如カス又發起人ヨリ創立總會ヲ招集スヘキ期間ハ現行商法ノ規定セサル所ナリト雖モ其遲速ハ會社成立ニ關スルノミナラス株式引受人ノ利害ニ影響スルコト尠少ナラサルモ而カモ之カ爲メ一定ノ期間ヲ定ムルハ實際上不便ナルヲ以テ本案ハ唯タ遲滯ナク之ヲ招集スヘキモノト爲シタリ
本條第二項ハ現行商法第百六十四條第二項ノ規定ヲ修正シタルモノナリ抑モ現行商法ニ於テハ創業總會ハ發起人ノ作リタル假定款ヲ確定シテ定款ト爲スモノトセルヲ以テ第百六十四條第二項ノ外別ニ第百六十三條後段ノ規定ヲ設クルコトヲ必要トセリト雖モ本案ハ發起人ニ於テ定款ヲ作ルヘキモノト爲シタルヲ以テ現行商法第百六十三條後段ノ規定ヲ存スルノ必要ナキノミナラス株主總會ニ於テ如何ニ重要ナル事項ヲ決スルニモ總株主ノ半數以上ニシテ資本ノ半額以上ニ當タル株主出席シ其議決權ノ過半數ヲ以テスルカ故ニ創立總會ニ於テモ亦之ト同一ノ方法ニ依ラシムルコト正當ナリ是レ現行商法第百六十三條後段ヲ削除スルト共ニ同第百六十四條第二項ヲ修正シテ本條第二項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
本條第三項ハ現行商法中ニ存セサル規定ナリ抑モ創立總會招集ノ方法、決議ノ方法及ヒ決議ノ無效等ニ關シテハ現行商法ニ於テ何等ノ規定ヲ設クルコトナシト雖モ株主總會ニ關スル規定ヲ準用スルコト便宜且適切ナルヲ以テ本案ハ新ニ本條第三項ノ規定ヲ設ケ株主總會ニ關スル規定ヲ創立總會ニ準用スヘキモノト爲シタリ
第百三十二條
(理由)本條ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ抑モ創立總會ニ參與スヘキ株式引受人ハ會社ノ創立ニ關スル事項ヲ熟知スルモノニ非ス故ニ創立總會ヲシテ十分其職務ヲ行ハシムルニハ發起人ヲシテ會社ノ創立ニ關スル事項ヲ創立總會ニ報吿セシムルニ如クハナシ是レ本案カ新ニ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第百三十三條
(理由)本條ハ現行商法第百六十五條ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ創立總會終結スルトキハ之ニ因リ法人タル會社成立スルヲ以テ之ヲ代表シ其業務ヲ執行スヘキ取締役ヲ要スルノミナラス之ヲ監督スヘキ監査役モ亦之ヲ必要トス殊ニ次條第一項ニ揭クル事項ニ付テハ取締役及ヒ監査役ヲシテ調査ヲ爲サシメ其報吿ニ依リ創立總會ハ相當ノ處分ヲ爲スヘキモノナルヲ以テ本案ハ現行商法第百六十五條ノ字句ヲ修正シテ本條ノ規定ヲ設ケ殊ニ取締役及ヒ監査役ノ選任ハ創立總會ニ於テ第一着ニ爲スヘキ事項ナルコトヲ明カニシタリ
第百三十四條
(理由)本條ハ現行商法中ニ存セサル所ニシテ以下三條ト相俟テ發起人ヲ監督シ不當ノ利益ヲ貪ルコトナクシテ其責任ヲ盡サシメ其他會社設立ノ際生スヘキ種々ノ弊害ヲ杜絕シ以テ會社ノ基礎ヲ確實ナラシムルモノトス
抑モ發起人ハ株式總數ノ引受アルニ非サレハ株式引受人ヲシテ各株ニ付キ第百二十九條ノ拂込ヲ爲サシメ創立總會ヲ招集スルコトヲ得サルモノナルニモ拘ハラス速ニ會社ヲ成立セシメント欲スルノ極未タ株式總數ノ引受ナキニ其引受アリタルカ如ク假裝シ株式引受人ヲシテ第百二十九條ノ拂込ヲ爲サシメ創立總會ヲ招集スルコトナキニアラス又發起人ハ各株ニ付キ第百二十九條ノ拂込アルニ非サレハ創立總會ヲ開クコトヲ得サルニモ拘ハラス亦同樣ノ事情存スルカ爲メ未タ第百二十九條ノ拂込ヲ爲ササルモノアルニモ拘ハラス旣ニ各株ニ付キ第百二十九條ノ拂込アリタルカ如ク假裝シテ創立總會ヲ招集スルコトナキニアラス故ニ創立總會ニ於テ此ノ如キ不法ノ事項ノ有無ヲ調査シ相當ノ處分ヲ施サシムルコト必要ナリ又本案第百二十二條第三號乃至第五號ニ揭ケタル事項ヲ定ムルハ發起人ノ隨意ニアリテ法律上何等ノ制限ナキヲ以テ發起人ニシテ不正ノ利益ヲ貪ラントセハ適當ノ定ヲ爲シ之ヲ定款及ヒ株式申込證ニ記載シテ容易ニ其目的ヲ達スルコトヲ得ヘシ假令發起人ニ不正ノ利益ヲ貪ルノ意思ナシトスルモ後日事情ノ變更アルカ爲メ曩キニ相當ナリト認メタルモノモ亦事實上不當トナルコトナキニアラス故ニ此等ノ事項ハ創立總會ニ於テ其當否ヲ調査シ其不當ト認ムルモノハ之ヲ變更スルヲ得セシムルコト必要ナリ此ノ如ク創立總會ニ於テハ本條第一項ニ揭ケタル事項ヲ調査スルコト必要ナリト雖モ其總會ニ參與スルモノハ通例多人數ニシテ此ノ如キ細密ナル事項ヲ調査スルニ適セス之ヲ調査セシムルニハ別ニ其人ヲ求メサルヘカラス是レ本條ノ規定アル所以ナリ
第百三十五條
(理由)本條ハ現行商法第百六十四條第一項ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法第百六十四條第一項ニ於テハ創業總會ハ創業ノ爲メ發起人ノ爲シタル契約及ヒ出費ノ認否ヲ議定シ又有價物ノ出資ヲ差入レテ株式ヲ受クヘキ者アルトキハ其價格ヲ議定スヘキモノト爲シ發起人カ受クヘキ特別ノ利益及ヒ報酬ノ認否ニ及ハサルノミナラス金錢以外ノ財產ヲ以テ出資ノ目的ト爲シタル者ニ對シテ株式ヲ與フル場合ニ其財產ノ價格ヲ不當ト認メ之ヲ變更シ從テ其者ニ對シテ與フル株式ノ數ヲモ減少シタルトキノ結果ヲ規定セス故ニ其變更ノ爲メニ不利益ヲ蒙ムル者ハ其株式ノ引受ヲ拒絕スルコトヲ得ルカ又ハ創業總會ノ決議ニ服從セサルヘカラサルカ若クハ約定セル出資ニ代フルニ金錢ヲ以テスルコトヲ得ルカハ疑議ノ存スルトコロナルヘシ故ニ本案ハ現行商法第百六十四條第一項ノ規定ニ修正ヲ加ヘ本條ノ規定ヲ設ケテ以テ會社ノ利害ト株式引受人ノ利害トヲ調和セシメタリ
第百三十六條
(理由)本條ハ現行商法中ニ存セサル所ナリト雖モ引受ナキ株式又ハ第百二十九條ノ拂込ノ未濟ナル株式アルニモ拘ハラス創立總會ヲ開キタルノ故ヲ以テ直チニ其創立總會ヲ法律ニ反スルモノト爲シ之ヲ無效トスルハ實際上不便ナルノミナラス株式引受人ヲシテ大ナル損害ヲ蒙ラシムルコトアルヲ免カレス故ニ本案ハ引受ナキ株式又ハ第百二十九條ノ拂込ノ未濟ナル株式アルトキハ發起人ニ於テ當然其株式ヲ引受ケ又ハ其拂込ヲ爲ス事ヲ要スルモノト爲シタリ株式ノ申込カ取消サレタルカ爲メ引受ナカリシモノト爲リタル株式アリタルトキ亦同シ唯タ株式ノ申込カ取消サレタルトキハ發起人カ其取消ノ事由アルコトヲ知ラサル場合多カルヘシ從テ之ヲシテ其株式ヲ引受クルノ義務ヲ負ハシムルコト苛酷ニ失スルカ如シト雖モ一方ニ於テハ本案第百四十二條ノ規定アリ他方ニ於テハ民法第二十條ノ規定アリ以テ發起人ノ負擔ヲ輕減スルカ故ニ株式申込ノ取消サレタル場合ニ發起人ヲシテ其株式ヲ引受クルノ義務ヲ負ハシムルコト必スシモ不當ニ非ス是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第百三十七條
(理由)本條モ亦現行商法中ニ存セサル所ナリ抑モ前條ノ規定ニ依リ發起人ヲシテ引受ナキ株式ヲ引受ケ又ハ拂込ノ未濟ナル株式ノ拂込ヲ爲サシムルモ之カ爲メニ發起人ニ對スル損害賠償ノ請求ヲ妨ケサルハ勿論ナレトモ疑ヲ生スルノ恐レアルヲ以テ本案ハ特ニ本條ノ規定ヲ設ケ其旨ヲ明カニシタリ
第百三十八條
(理由)本條モ亦現行商法中ニ存セサル所ナリ抑モ現行商法第百六十三條ハ創業總會ニ於テハ少クトモ總申込人ノ半數ニシテ總株金ノ半額以上ニ當ル申込人ノ承認ヲ經テ定款ヲ確定スヘキモノト爲スカ故ニ歸着スル所本條ト大差ナシト雖モ本案ニ在テハ定款ハ創立總會ノ承認ヲ俟タス當初ヨリ確定セルモノト爲スカ故ニ特ニ創立總會ニ於テハ定款ノ變更又ハ設立ノ廢止ノ決議ヲモ爲スコトヲ得ル旨ヲ明言スルノ必要アリ是レ本案カ新ニ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第百三十九條
(理由)本條モ亦現行商法中ニ存セサル所ナリ抑モ現行商法第百五十六條及ヒ第百六十六條ニ依レハ株式會社ノ設立ニハ政府ノ免許ヲ受クルコトヲ要スト雖モ本案ニ於テハ之ヲ廢止シタルコト旣ニ述ヘタルカ如シ故ニ現行商法ニ依レハ政府ノ免許ヲ以テ會社成立ノ時期ト爲スカ如ク解セラルルニモ拘ハラス本案ニ於テハ之ニ依ルコトヲ得ス而シテ本案第百二十三條ハ發起人カ株式ノ總數ヲ引受ケタルトキハ其引受アリタルトキヲ以テ會社成立ノ時期ト爲スト雖モ發起人カ株式ノ總數ヲ引受ケスシテ株主ヲ募集シタル場合ニハ直チニ之ニ依ルコトヲ得サルハ勿論ナリ蓋シ創立總會ハ株式總數ノ引受及ヒ第百二十九條ノ拂込アリテ會社資本ニ缺クル所ナキヤ否ヤヲ調査シ會社ヲ代表シテ其業務ヲ執行スヘキ取締役及ヒ監督ノ位置ニ立ツヘキ監査役ヲ選任スルモノナルカ故ニ其總會ノ終結ヲ以テ會社成立ノ時期ト爲スコト最モ穩當ナリト謂ハサルヘカラス是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第百四十條
(理由)本條モ亦現行商法中ニ存セサル所ナリ抑モ株式引受人カ第百二十九條ノ拂込ヲ爲シタルニモ拘ハラス或ハ他ノ株式引受人カ拂込ヲ終ハラサル爲メ又ハ其他ノ事由ノ爲メ創立總會ノ招集ヲ遷延スルコトハ實際上屢々存スル所ニシテ株式引受人ニ甚タ迷惑ヲ被ラシムルノミナラス此遷延ハ發起人カ不正ヲ營ムノ手段ニ供セラルルコト多シ是レ本案カ新ニ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第百四十一條
(理由)本條第一項ハ現行商法第百六十八條ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法ニ於テハ各株ニ付キ第一回ノ拂込アリタル後目論見書定款株式申込簿及ヒ設立免許書ヲ添ヘテ登記ヲ受クヘキモノト爲スト雖モ本案第百二十四條ニ定メタル調査終了後又ハ創立總會終結後登記ヲ受クヘキモノトセハ別ニ明文ナシト雖モ各株ニ付キ第百二十九條ノ拂込アリタル後ニ非サレハ登記ヲ爲スコトヲ得サルハ當然ナリ又本案ニ於テハ目論見書ノ作成及ヒ設立ノ免許ニ關スル現行商法ノ規定ヲ削除シタルヲ以テ設立ノ登記ヲ受クルニ當リテ目論見書及ヒ設立ノ免許書ヲ添ユルコトヲ得サルハ勿論定款株式申込證ヲ添ユルハ事手續ニ屬スルヲ以テ是レ亦茲ニ規定スルノ必要ナカルヘシ而シテ本案ハ合名會社ニ付キ定款ヲ作リタル日卽チ會社成立ノ日ヨリ二週間內ニ登記スルコトヲ要スト爲スヲ以テ株式會社ニ付テモ亦會社成立ノ日卽チ發起人カ株式ノ總數ヲ引受ケタル日又ハ創立總會終結ノ日ヨリ二週間內ニ登記スルコトヲ要ストスルハ其權衡ヲ得タルカ如ク本條モ亦發起人カ株式ノ總數ヲ引受ケサル場合ニ於テハ創立總會終結ノ日ヨリ二週間內ニ登記スルコトヲ要スト雖モ發起人カ株式ノ總數ヲ引受ケタル場合ニ於テハ之ニ依ルコトナシ是レ此場合ニ於テハ全然事情ヲ異ニシ假令株式總數ノ引受アリ會社成立スルモ未タ第一回ノ株金拂込及ヒ取締役監査役ノ選任ナキノミナラス第百二十四條ニ定メタル調査處分ヲ終ラサルヲ以テ其調査終了前ニ本條ノ登記ヲ爲サシムルトキハ發起人カ株式ノ總數ヲ引受ケサル場合ト權衡ヲ失スルノミナラス實際上不都合ナリトス故ニ此場合ニ限リテ第百二十四條ニ定メタル調査終了ノ日ヲ以テ其他ノ場合ニ於ケル會社成立ノ日ニ代エタリ又現行商法ハ一方ニ於テ株式會社ナルコトト設立免許及ヒ開業ノ年月日トヲ登記スヘキモノト爲シ他方ニ於テハ監査役ノ氏名住所ヲ登記スルコトヲ要セサルモノト爲スト雖モ株式會社ノ商號ニハ株式會社ナル文字ヲ附スルヲ以テ之ヲ登記スルニ因リテ株式會社ナルコト明ナルヘク又設立免許ヲ廢スル以上ハ其年月日ヲ登記スルニ由ナク又開業ノ年月日ヲ登記スルヨリモ寧ロ設立ノ年月日ヲ登記スルコト必要ナルヘク又取締役ノ氏名住所ヲ登記セシムル以上ハ監査役ノ氏名住所モ亦之ヲ登記セシムルコト至當ニシテ且必要ナリ故ニ本案ハ新ニ監査役ノ氏名住所ヲ登記スヘキ事項中ニ加フルト共ニ設立免許及ヒ開業ノ年月日ヲ設立ノ年月日ト改メ株式會社ナルコトノ一事ハ之ヲ登記スヘキ事項中ヨリ削除シタリ其他本條第一項ノ各號ニ揭ケタル登記事項ハ何レモ現行商法ノ字句ヲ修正シ又ハ他ノ修正ニ伴ヒ必要ナル修正ヲ加ヘタルモノニ過キサルヲ以テ別ニ說明ヲ要セス
又本條第二項ハ現行商法第百六十九條及ヒ第二百十條ニ修正ヲ加ヘタルモノニシテ合名會社ニ關スル本案第五十一條第二項第三項第五十二條及ヒ第五十三條ト其理由ヲ同フスルヲ以テ是レ亦茲ニ說明ヲ要セス
其他現行商法第百六十八條第三項ハ事手續ニ屬スルヲ以テ本案ハ之ヲ削除シ又現行商法第百六十九條前段ハ本案ノ如ク設立免許ヲ廢止セル以上ハ全ク其必要ナキヲ以テ本案ハ之ヲ削除シ又同條後段ノ一部ハ第一章總則中ニ於テ旣ニ規定スル所ナレハ亦之ヲ本節ヨリ除外シタリ
第百四十二條
(理由)本條ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ抑モ株式ノ申込ハ一ノ法律行爲ナルヲ以テ詐欺又ハ强迫ニ因リ爲シタル株式ノ申込ハ民法ノ規定ニ從ヒ之ヲ取消スコトヲ得ルハ勿論ナリ本案モ亦此ノ如キ場合アルコトヲ豫想シ第百三十六條ニ於テ株式ノ申込カ取消サレタルトキハ發起人ヲシテ連帶シテ其株式ヲ引受クルノ義務ヲ負ハシムト雖モ會社カ前條第一項ノ規定ニ從ヒ本店ノ所在地ニ於テ登記ヲ爲シタル後ニモ尙ホ株式引受人ヲシテ詐欺又ハ强迫ヲ理由トシ其株式ノ申込ヲ取消スコトヲ得セシメ發起人ノ負擔ヲシテ其重キヲ加ヘシムルハ甚タ不當ナルノミナラス法人タル會社ノ設立ヲ永ク不確定ノ狀態ニ在ラシムルノ不便アリ是レ本案カ新ニ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二節 株式
(理由)本節ハ現行商法第一編第六章第三節第四款株式及ヒ第八款株金ノ拂込ニ該當シ株式ニ關スル規定ヲ揭ク蓋シ現行商法ハ之ヲ二款ニ分テ規定スト雖モ兩者ノ間實質上相離ルヘカラサル關係ヲ有スルノミナラス株金ノ拂込ハ株式ニ關スル事項ニ外ナラサルヲ以テ株式ノ一款ノ外別ニ株金ノ拂込ナル一款ヲ設ケテ之ヲ獨立セシムルノ必要ナシ故ニ本案ハ旣ニ述ヘタルカ如ク二者ヲ併合シテ本節ヲ設ケタリ
第百四十三條
(理由)本條ハ現行商法第百五十四條及ヒ第百七十五條ノ一部ヲ合併シテ其字句ヲ修正シタルモノナリ卽チ現行商法第百七十五條ニ於テハ株式ハ會社資本ヲ分チタルモノナルコトヲ示シ第百五十四條ニ於テハ會社ノ資本ヲ株式ニ分チタルモノヲ株式會社ト爲スコトヲ示スト雖モ本案ハ一方ニ於テハ旣ニ述ヘタルカ如ク別ニ株式會社ノ定義ヲ設ケサルノ主義ヲ採リ他方ニ於テハ合名會社ニ關スル本案第六十三條合資會社ニ關スル本案第百四條及ヒ株式合資會社ニ關スル本案第二百三十五條等ノ規定ニ對シテ株式會社ノ特質ヲ示スノ必要ナルコトヲ認メ本條ノ規定ヲ設ケ以テ其趣旨ヲ明カニシタリ
第百四十四條
(理由)抑モ現行商法第百五十四條ニ於テハ會社ノ義務ニ對シテ會社財產ノミ責任ヲ負フ旨ヲ規定スト雖モ旣ニ會社ノ法人ナルコトヲ認メ會社ハ各株主ヲ離レテ別ニ一個ノ人格ヲ有スルモノトスル以上ハ其債務ニ對シテハ會社カ自己ノ財產ヲ以テ責任ヲ負フヘク別段ノ規定ナキ限リハ各株主ハ他人タル會社ノ債務ニ對シテ責任ヲ負フコトナキハ當然ナリ故ニ本條第一項ハ敢テ此ノ如キ自明ノ事項ヲ揭クルコトヲ爲サス株主ノ責任ハ其引受ケ又ハ讓受ケタル株式ノ金額ヲ以テ限度ト爲スコトヲ規定シ其以外ニ何等ノ責任ヲ負フコトナキモノトシテ間接ニ會社ノ債權者ニ對シテ責任ナキコトヲモ明カニシタリ
本條第二項ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ抑モ株金ノ拂込モ亦會社ト株主間ニ於ケル債務關係ナル以上ハ株主ハ其拂込ノ義務ト會社ニ對スル債權ト相殺スルコトニ因リテ拂込ノ義務ヲ免カレルコトヲ得ヘシ然レトモ是レ會社ノ資本ト實額トヲ一致セシメ其基礎ヲ確實ナラシムル所以ニ非ス況ンヤ株金ノ拂込ニ付キ相殺ヲ以テ會社ニ對抗スルコトヲ得ルモノトセハ會社カ拂込滯納處分ヲ行フニ當リ尠カラサル錯雜ヲ來スノ恐アルニ於テオヤ故ニ本案ハ新ニ本條第二項ノ規定ヲ設ケ株主ハ株金ノ拂込ニ付キ相殺ヲ以テ會社ニ對抗スルコトヲ得サルモノト爲シタリ
第百四十五條
(理由)本條ハ現行商法第百七十五條ノ一部ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法第百七十五條ニ於テ「各株式ノ金額ハ會社資本ヲ一定平等ニ分チタルモノニシテ」云々ト云ヘルハ各株式ノ金額ノ均一ナルコトヲ要シ不均一ナルコトヲ許ササルノ趣旨ニ外ナラサルヲ以テ本案ハ其字句ヲ修正シテ本條第一項ニ之ヲ規定シタリ又現行商法第百七十五條ニ於テハ株式ノ金額ハ二十圓ヲ下ルコトヲ得サルヲ通例トシ資本十萬圓以上ナルトキハ特ニ五十圓ヲ下ルコトヲ得サルモノト爲スト雖モ素ト此規定ヲ設ケタル趣旨ハ僅少ナル金額ヲ拂込ミタル株式ヲ發行流通セシムルハ國家經濟上不得策ナルヲ以テ之ヲ禁スルニアリ從テ會社ノ資本ノ大小ニ依リテ區別ヲ設クルノ理由ナシ故ニ本案ハ現行商法ノ主義ヲ變更シ本條第二項及ヒ第三項ニ於テ一時ニ全額ヲ拂込ムト否トニ依リ區別ヲ立テ株金ノ全額ヲ一時ニ拂込ムヘキ場合ニ限リ株式ノ金額ヲ二十圓ト爲スコトヲ得ルモ其他ノ場合ニ於テハ凡テ株式ノ金額ハ五十圓ヲ下ルコトヲ得サルモノト爲シタリ
第百四十六條
(理由)本條ハ現行商法第百七十七條ニ修正ヲ加ヘタルモノニシテ株式ハ會社資本ヲ分割シタル部分ノ單位ナリトノ主義ヨリ來ル當然ノ結果ニ外ナラス抑モ株式ハ會社資本ヲ分割シタル部分ノ單位ナルカ故ニ其株式二個以上ヲ併合シテ一個ノ株式ト爲スコトヲ得サルハ勿論一個ノ株式ヲ分割シテ二個以上ノ株式ト爲スコトヲ得ス現行商法第百七十七條ニ於テハ此二者ヲ併セテ規定スト雖モ前者ノ如キハ當然言フヲ俟タサル所ナルヲ以テ本案ハ之ヲ削除シ後者ノミヲ本條ニ規定シタリ
第百四十七條
(理由)本條ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ蓋シ株式ヲ數人ノ共有トスルコトヲ許ストキハ其共有ノ株式ハ想像的ニ分割セラルルモ此想像的分割ハ現行商法第百七十七條ニ所謂分割ナル語ニ包含スルヤ將タ又之ヲ包含セス卽チ同條ニ所謂分割トハ現實的分割ノミヲ指スヤ解釋上疑アリ而シテ若シ同條ノ分割中ニハ想像的分割ヲ包含セス卽チ株式ノ數人共有ヲ許スモノトセハ株主總會ニ於ケル議決權ノ數ヲ計算シ利益ヲ配當シ又解散ノ際殘餘財產ヲ分配スルニ當リテ錯雜ヲ來スノミナラス其他各般ノ場合ニ於テ種々ノ不都合ヲ生スルヲ免レス然レトモ全ク共有ヲ禁スルトキハ亦不都合ヲ生シ殊ニ法律ノ規定ニ依リテ或株式カ當然數人ノ共有ニ歸スヘキ場合ノ如キハ其法律ノ規定ノミニ依レハ數人ノ共有ニ歸スヘキ株式ナルニモ拘ハラス他ノ法律カ其共有ヲ禁スル爲メニ其株式ハ遂ニ歸スル所ナキニ至ルコトナキヲ保セス故ニ株式ハ之ヲ共有ト爲スコトヲ許スモ一方ニ於テハ共有者ヲシテ株主ノ權利ヲ行フヘキ者一人ヲ定メシメ他方ニ於テハ共有者ハ其株式ニ對スル持分ノ多少ニ拘ハラス會社ニ對シテ連帶シテ株金ノ拂込ヲ爲スノ義務ヲ負ハシムルトキハ能ク兩極端ヨリ生スル不都合ヲ避ケ甚タ便宜ナルヘシ是レ本案カ新ニ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第百四十八條
(理由)本條第一項ハ現行商法第百七十九條ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法第百七十九條ニ於テハ登記前ニ假株券及ヒ本株券ヲ發行スルコトヲ得サル旨ヲ規定スト雖モ本案ニ於テハ假株券ナルモノヲ廢シタルノ結果トシテ之ヲ削除シ又現行商法第百七十九條ハ單ニ「登記前」云々ト曰ヒ其登記トハ設立ノ登記ノミヲ指スヤ否ヤ又本店ノ所在地ニ於ケル登記ノミヲ指スカ將タ又支店ノ所在地ニ於ケル登記ヲモ包含スルカヲ明カニセサルヲ以テ本案ハ其登記ハ本案第百四十一條第一項ニ定メタルモノヲ指シ且本店ノ所在地ニ於ケル登記ノミヲ指スコトヲ示シタリ其他ハ字句ノ修正ニ過キス
又本條第二項ハ現行商法中ニ存セサル所ナリト雖モ登記前ニ株券ヲ發行シタル結果ヲ定ムルコト必要ナリ而シテ此株券ハ法律ノ規定ニ反シテ發行シタルモノナルヲ以テ法律上無效ナルヘク且此株券ヲ發行シタル者ハ損害賠償ノ責ニ任スヘキコト當然ナリ是レ本條第二項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第百四十九條
(理由)本條ハ現行商法第百七十六條及ヒ第百七十八條ニ修正ヲ加ヘタルモノニシテ株券ニ記載スヘキ要件ヲ定ム
現行商法第百七十六條ニ於テハ株券ニ金額、發行ノ年月日、番號、社名、社印、取締役ノ氏名、及ヒ株主ノ氏名ヲ載スヘキモノトナス蓋シ社印及ヒ取締役ノ印ノ如キハ實際上各會社ニ於テ必ス之ヲ株券ニ押捺スヘシト雖モ本案ハ一般ニ捺印ヲ以テ要件ト爲スノ制度ヲ廢止シタルカ故ニ之ヲ削除シ又發行ノ年月日ハ必ス之ヲ株券ニ記載セシムルノ必要ナキカ故ニ本案ハ之ヲ削除シテ各會社ノ適宜ニ放任シ又現行商法ニ於テハ無記名式ノ株券ヲ發行スルコトヲ許ササルカ故ニ株主ノ氏名ヲ株券ニ記載スルコトヲ要スト爲スト雖モ本案ニ於テハ無記名式ノ株券ヲ發行スルコトヲ許スカ故ニ株主ノ氏名ヲ以テ株券ニ記載スルコトヲ要スル事項ト爲サス又設立ノ登記卽チ本案第百四十一條第一項ノ規定ニ從ヒ本店ノ所在地ニ於テ爲シタル登記ノ年月日ハ現行商法カ株券ニ記載スルコトヲ要スル事項中ニ加ヘサル所ナリト雖モ此登記ノ年月日ヲ記載セシムルハ前條ノ規定ニ從ヒテ發行シタル株券ナルヤ否ヤヲ明カニスル爲メ必要ナルカ故ニ本案ハ新ニ之ヲ加ヘ第一項第二號ニ揭ケ又現行商法ハ一株ノ金額ノミヲ株券ニ記載スルコトヲ要スルモノト爲シ資本ノ總額ヲ以テ株券ニ記載スルコトヲ要スル事項中ニ加ヘスト雖モ資本ノ總額モ亦各株式ト會社資本トノ比例ヲ明カニシ各株主ノ會社ニ對スル權利ノ範圍ヲ示ス爲メニハ之ヲ株券ニ記載セシムルコト必要ナルカ故ニ本案ハ之ヲ株券ニ記載スルコトヲ要スルモノト爲シ第一項第三號ニ之ヲ揭ケ又現行商法ハ取締役ノ氏名ヲ株券ニ記載セシムト雖モ取締役ハ株券ニ署名セシムルコト必要ナルヲ以テ第一項本文ニ其旨ヲ規定シタリ是レ本條第一項ノ規定アル所以ナリ
又現行商法第百七十八條ニ於テハ株金全額拂込以前ハ假株券ヲ發行シ全額完納ノ後ニ至リ本株券ヲ發行スヘキモノト爲スト雖モ一方ニ於テハ各株ニ付キ拂込ミタル株金額ヲ登記セシメ他方ニ於テハ拂込アル每ニ其金額ヲ株券ニ記載セシムル以上ハ以テ拂込金額ノ多少ヲ知ルコトヲ得ヘク從テ假株券ト本株券トノ區別ヲ立テ全額拂込濟ト否トヲ別ツノ必要ナキノミナラス假株券本株券ヲ區別スルハ徒ラニ會社及ヒ株主ヲシテ無用ノ手數ト費用トヲ費サシムルモノナルカ故ニ本案ハ之ヲ廢シ代フルニ本條第二項ノ規定ヲ以テシ一時ニ株金ノ全額ヲ拂込マシメサル場合ニ於テハ拂込アル每ニ其金額ヲ株券ニ記載スヘキモノト爲シタリ
其他現行商法第百七十六條ニ於テハ株式ハ一株每ニ株券一通ヲ作ルヘキモノト爲シ唯タ定款ニ別段ノ定アル場合ニ限リ一株每ニ株券一通ヲ作ラスシテ數株ヲ合シ一通ノ株券ヲ作ルコトヲ許シタリト雖モ數株ヲ合シテ一通ノ株券ヲ作ルコトヲ許スハ定款ニ別段ノ定メアル場合ニノミ之ヲ制限スルノ理由ナカルヘク此制限ナキ以上ハ如何ナル場合ニ於テモ數株ヲ合シテ一通ノ株券ヲ作ルコトヲ得ヘキカ故ニ現行商法ノ如ク之カ爲メ別ニ明文ヲ揭クルノ必要ナシ故ニ本案ハ此點ニ關スル現行商法ノ規定ヲ削除シタリ
第百五十條
(理由)本條但書ノ規定ハ現行商法第百八十條ニ修正ヲ加ヘタルモノナリト雖モ其他ノ規定ハ現行商法中ニ何等ノ明文ヲ存セサル所ナリ抑モ株式ハ會社ノ承諾ナクシテ自由ニ之ヲ讓渡スコトヲ得ルヲ以テ其本來ノ性質ト爲ス然レトモ法律中ニ何等ノ明文ナキトキハ幾分カ疑アルヲ免レサルカ故ニ本案ハ明文ヲ以テ之ヲ規定シタリ此ノ如ク株式ハ自由ニ之ヲ讓渡スコトヲ得ヘシト雖モ定款ニ別段ノ規定ヲ設ケテ或ハ株式ヲ讓渡スニハ會社ノ承諾ヲ要スト爲シ或ハ全ク株式ノ讓渡ヲ禁スル等各種ノ制限ヲ附スルコトヲ禁スルノ理由ナキハ勿論之ヲ許スノ必要アルカ故ニ本案ハ定款ニ別段ノ定ナキトキニ限リ會社ノ承諾ナクシテ株券ヲ他人ニ讓渡スコトヲ得ルモノト爲シ定款ニ別段ノ定アル場合ヲ例外ト爲シタリ又現行商法第百八十條ハ登記前ニ於ル株式ノ讓渡ヲ無效ト爲スト雖モ其登記トハ如何ナル登記ヲ指スヤ又讓渡ノ豫約ヲモ無效トスルニアルヤ明瞭ヲ缺クヲ以テ本案ハ之ヲ決定シタリ是レ本條ノ規定アル所以ナリ
第百五十一條
(理由)本條ハ現行商法第百八十一條ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法ニ於テハ株券ヲ無記名式ト爲スコトヲ許ササリシモ本案ハ新ニ無記名株式ヲ認メ而シテ本條ノ手續ニ依ルヘキモノハ記名株式ニ限ルコト勿論ナルカ故ニ本案ハ現行商法第百八十一條ニ所謂「株式ノ讓渡」云云ヲ「記名株式ノ讓渡」云云ト改メタリ又現行商法ニ於テハ株主名簿ニ讓受人ノ氏名ヲ記載スルコトヲ要スト爲スニ止マリ其住所ヲ記載スルコトヲ以テ株式ノ讓渡ニ關スル要件ト爲サスト雖モ讓受人ノ住所ハ株金拂込ノ催吿、株主總會ノ招集等ノ爲メ會社ニ於テ之ヲ知ルコト必要ナルヲ以テ本案ハ現行商法ノ規定ニ修正ヲ加ヘ株主名簿ニ讓受人ノ住所ヲ記載スルコトヲ以テ記名株式讓渡ノ要件ト爲シタリ又現行商法第百八十一條ニ於テハ株式ノ讓渡ニ關スル要件欠缺ノ結果ヲ規定シテ會社ニ對シテ讓渡ノ效ナキモノトスレトモ之ヲ會社ニ限ルハ狹隘ニ失スルノミナラス會社ニ對シテ其效ナシト曰ヘルハ一般ノ文例ニ反スルカ故ニ本案ハ之ヲ改メ讓渡ニ關スル要件ヲ欠缺スルトキハ其讓渡ヲ以テ會社其他ノ第三者ニ對抗スルコトヲ得サルモノト爲シタリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第百五十二條
(理由)本條第一項ハ現行商法第二百十七條本文ニ修正ヲ加ヘタルモノニシテ又本條第二項ハ現行商法第二百十六條第一項ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ現行商法ハ此等ノ規定ヲ會社ノ義務ト題スル一款中ニ揭ケタリト雖モ何レモ株式ニ關スル規定ニ外ナラサルヲ以テ本案ハ之ヲ本節中ニ揭ケタリ抑モ現行商法第二百十七條ニ於テハ會社ハ自己ノ株券ヲ取得シ又ハ之ヲ質ニ取ルコトヲ得サル旨ヲ規定スト雖モ取得ノ目的タリ若クハ質權ノ目的タルヘキモノハ株券ニアラスシテ株式ナルカ故ニ本案ハ同條ニ所謂「株券」ヲ「株式」ト改メタリ又同條ニ於テハ債務ノ辨償ノ爲メ若クハ其他ノ事由ニ因リテ會社ニ交付セラレ若クハ移屬シタル場合ニ限リ會社ハ自己ノ株券ヲ取得スルコトヲ得ルモノト爲スト雖モ此ノ如キ例外ヲ認ムルノ必要ナキカ故ニ本案ハ之ヲ削除シタリ又現行商法第二百十六條第一項ニ於テハ絕對的ニ株金ノ拂戾ヲ禁スルカ如シト雖モ資本減少ノ規定ニ從ヒテ株式ヲ消却シ依テ資本ヲ減少スルノ適法ナルコトハ勿論ナルノミナラス株主ニ分配スヘキ利益ヲ以テ株式ヲ消却スルカ如キモ亦之ヲ禁スルノ理由ナキノミナラス實際上之ヲ許スハ便宜且必要ナリトス然レトモ亦無制限ニ之ヲ許ストキハ消却ヲ受クル株主ノ利益ヲ害スルノ恐アルヲ以テ定款中ニ定メタル場合ニ限ルコト必要ナリ故ニ本案ハ現行商法第二百十六條第一項ノ規定ヲ修正シテ本條第二項ヲ設ケ資本減少ノ規定ニ從フカ又ハ定款ノ定ムル所ニ從ヒ株主ニ分配スヘキ利益ヲ以テスルカニアラサレハ會社ハ株式ヲ消却シ卽チ株金ヲ株主ニ拂戾スコトヲ得サルモノト爲シタリ
其他現行商法第二百十六條第二項ニ於テハ不法ニ株金ヲ拂戾シタル結果ヲ規定スト雖モ是レ資本ノ減少ニ關スル規定ニ從フヲ以テ足レリ別ニ規定ヲ設クルノ必要ナキカ故ニ本案ハ之ヲ削除シタリ
第百五十三條
(理由)本條ハ現行商法第二百十二條及ヒ第二百十四條ノ一部ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法第二百十二條ニ於テハ株金拂込ノ期節及ヒ方法ハ定款ヲ以テ之ヲ定ムヘキモノト爲スト雖モ此等ノ事項ハ必スシモ定款ニ記載スルコトヲ必要トセス其他ノ方法ニ依リ之ヲ定メシムルコト毫モ不可ナキノミナラス事業ノ緩急其他種々ノ事情存スルカ爲メ到底豫メ之ヲ定メテ定款ニ記載スルヲ得サルコトアリ故ニ本案ハ此現行商法ノ規定ヲ削除シタリ又現行商法第二百十二條ニ於テハ株金ノ拂込ハ之ヲ各株主ニ催吿スルコトヲ要スルヤ否ヤヲ規定セスト雖モ之ヲ要スルコト勿論ニシテ現行商法ノ精神モ亦之ニ外ナラサルヘキカ故ニ本案ハ明文ヲ以テ之ヲ規定シタリ又現行商法第二百十二條ニ於テハ株金拂込ノ催吿ハ各株主ニ對スル通知ニ因リテ之ヲ爲スヘキモノトスルカ如シト雖モ一方ニ於テハ催吿ノ方法ヲ通知ノミニ限ルノ理由ナク他方ニ於テハ必ス各株主ニ對スル通知ヲ以テ催吿ヲ爲サシムルノ必要ナキカ故ニ本案ハ催吿ノ方法ヲ制限セス實際上適宜ニ處理スルノ餘地ヲ存シタリ又現行商法第二百十二條ニ於テ催吿ヲ爲スニ當リ拂込ヲ爲ササル爲メ株主カ蒙ルヘキ損失ヲ指示スヘキ旨ヲ規定スト雖モ本案ハ實際上ノ狀態ヲ斟酌シ催吿ヲ爲シタル後拂込ヲ爲スヘキ旨ノ通知ト共ニ拂込ヲ爲ササル結果ヲ通知セシム其他ハ現行商法ノ字句ヲ修正シタルニ過キサルヲ以テ茲ニ之ヲ說明スルノ必要ナシトス
第百五十四條
(理由)本條ハ現行商法第百八十二條第二百十四條ノ一部及ヒ第二百十五條ニ修正ヲ加ヘタルモノニシテ株主カ株金ノ拂込ヲ爲ササルトキノ處分ヲ規定ス
抑モ現行商法ニ於テハ拂込ヲ爲ササル株主カ其權利ヲ失フコトヲ規定セスト雖モ會社カ前條ニ定メタル手續ヲ踐ミタルモ尙ホ拂込ヲ爲ササル株主ヲシテ當然其權利ヲ失ハシムルコト必要ナルヲ以テ本案ハ特ニ本條第一項ノ規定ヲ設ケタリ
又現行商法第百八十二條ニ於テハ株金半額拂込前ノ株式ノ讓渡人ニ限リ其株金未納額ノ擔保義務ヲ負フモノト爲スト雖モ此ノ如キ寬大ナル規定ハ株主ト會社トノ間ニ存スル利害ノ關係ヲシテ薄弱ナラシメ會社ノ資本ヲシテ有名無實タラシメ株式ノ投機的取引ヲ奬勵スヘキカ故ニ本案ハ多數ノ立法例ニ倣ヒ株金全額拂込前ニ爲シタル株式讓渡人ヲシテ盡ク擔保義務ヲ負ハシメタリ又現行商法ニ於テハ株式讓渡人ハ如何ナル時期ニ於テ此擔保義務ヲ履行スヘキカヲ規定セスト雖モ株式ノ競賣ヲ爲ス前先ツ此擔保義務ヲ履行セシメ已ムコトヲ得サル場合ニアラサレハ株式ノ競賣ヲ爲サシメサルコト實際上便宜ナリ而シテ株式ノ讓渡人ニシテ其請求ニ應シ滯納金額ヲ拂込ミタル場合ニ其以後ノ各讓受人殊ニ從前ノ株主ヨリ賠償ヲ得ルニハ時日及ヒ費用ヲ要スルノミナラス實際上賠償義務者無資力ニシテ到底賠償ヲ受クルヲ得サルコト多シ故ニ滯納金額ノ拂込ヲ爲シタル讓渡人ニ對シ本條第一項ニ依リ株主カ其權利ヲ失ヒタル株式ヲ與フルコト最モ適當ナリ是レ本條第二項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
又會社カ本條第二項ニ定メタル催吿ヲ爲スモ尙ホ其拂込ヲ受ケサルトキハ最後ノ處分トシテ其株式ヲ競賣シ得タル金額ヲ以テ滯納金額ニ充ツルハ蓋シ已ムヲ得サル所ナリ而シテ此競賣ノ結果得タル金額ヲ以テ滯納金額ニ充テ尙ホ不足ヲ生スル場合アルヘク此場合ニ從前ノ株主又ハ其株式ノ讓渡人ハ滯納金額ヲ拂込ムノ義務ヲ免ルヘキ理由ナキカ故ニ現行商法ノ如ク競賣ニ依リテ得タル金額ヲ以テ滯納金額ニ充テ尙ホ不足アルトキハ其不足額ノ辨濟ヲ從前ノ株主ニ請求スルコトヲ得セシムヘキノミナラス若シ從前ノ株主カ二週間內ニ其不足額ヲ辨濟セサルトキハ各讓渡人ニ對シテ不足額ノ辨濟ヲ請求スルヲ得セシムルコト相當ナリ是レ本案カ本條第三項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
又現行商法第百八十二條及ヒ第二百十五條第二項ノ規定ニ依レハ會社カ定款ヲ以テ定メタル違約金ハ從前ノ株主ニ對シテノミ之ヲ請求スルコトヲ得ルカ將タ又讓渡人ニ對シテモ之ヲ請求スルヲ得ルカ明瞭ナラサル所アリト雖モ讓渡人ニ對シテモ之ヲ請求スルヲ得セシムルコト至當ニシテ且實際上必要ナリ又前項ノ規定ハ會社カ損害賠償ノ請求ヲ爲スコトヲ妨クルモノニ非サルコト勿論ナリ故ニ本案ハ現行商法ノ規定ニ修正ヲ加ヘ本條第四項ノ規定ヲ設ケテ以上ノ趣旨ヲ明カニシタリ
第百五十五條
(理由)本條ハ現行商法第百八十二條ノ一部ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ卽チ現行商法第百八十二條ニ於テハ株式ノ讓渡アリタル日ヲ以テ此期間ノ起算點ト爲スト雖モ此規定ハ現行商法第百八十一條ニ該當スル本案第百五十一條ノ規定ニ對シ權衡ヲ失スルヲ免カレス故ニ本案ハ讓渡ヲ株主名簿ニ記載シタル日ヲ以テ此期間ノ起算點ト爲シタリ其他ハ字句ノ修正ニ過キス
第百五十六條
(理由)本條第一項ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ抑モ現行商法第百七十四條第百七十六條及ヒ第百八十一條ノ規定ニ依レハ株主ノ氏名ヲ株券及ヒ株主名簿ニ記載スヘキモノト爲スカ故ニ無記名式ノ株券ヲ發行スルコトヲ許ササルハ疑ヲ容レス然リト雖モ株式會社ノ性質ヨリ觀察シ又實際上ヨリ之ヲ觀察スルモ或制限ノ下ニ無記名式ノ株券ヲ發行スルコトヲ許スハ正當且必要ナルカ故ニ本案ハ新ニ本條第一項ノ規定ヲ設ケ株金全額ノ拂込アリタル後株主ハ其株券ヲ無記名式ト爲スコトヲ請求スルコトヲ得ルモノト爲シタリ
又株主ハ本條第一項ノ規定ニ依リ其株券ヲ無記名式ト爲スコトヲ請求スルト否トノ自由ヲ有スル以上ハ其請求ニ因リテ一旦無記名式ト爲シタル株券モ再ヒ之ヲ記名式ト爲スコトヲ得セシムルハ當然ニシテ且實際上甚タ必要ナリ故ニ本案ハ新ニ本條第二項ノ規定ヲ設ケ株主ハ何時ニテモ其無記名式ノ株券ヲ記名式ト爲スコトヲ請求スルコトヲ得ルモノト爲シタリ
第三節 會社ノ機關
(理由)現行商法ニ於テハ第一編第六章第三節第五款ニ取締役及ヒ監査役ヲ規定シ同節第六款ニ株主總會ヲ規定スト雖モ本案ハ旣ニ述ヘタル理由ニ依リ會社ノ關ナル表題ノ下ニ併セテ之ヲ本節ニ規定シタリ而シテ株式會社ノ株主總會ハ會社ノ機關中最高ノ位地ヲ占メ取締役又ハ監査役ノ如キモ亦株主總會ニ於テ之ヲ選任又ハ解任スルモノナルヲ以テ本案ハ先ツ第一款ニ株主總會ヲ規定ス又現行商法ハ取締役及ヒ監査役ヲ併セテ一款ト爲スト雖モ此二者ハ其性質職務大ニ異ナル所アルノミナラス株主總會ヲ以テ一款ト爲スニ對シテ其權衡ヲ失スルカ故ニ本案ハ款ヲ分テ之ヲ規定シタリ而シテ取締役ハ會社ヲ代表シテ其業務ヲ執行スルノ任ニ當リ監査役ハ唯タ之ヲ監督スルニ止マルノミナラス其重要ノ程度ニ付テモ素ヨリ別アルヲ以テ本案ハ第二款ニ取締役ヲ規定シ第三款ニ監査役ヲ規定シタリ
第一款 株主總會
(理由)本款ハ現行商法第一編第六章第三編第三節第六款ニ該當シ株主總會ニ關スル規定ヲ揭ク
現行商法第二百三條ニ於テハ定款ノ變更又ハ任意ノ解散ヲ爲ス場合ニ於ケル株主總會決議ノ方法ヲ規定スト雖モ本案ハ之ヲ二百九條及ヒ第二百二十二條ニ讓リ本款中ヨリ之ヲ除外シタリ
第百五十七條
(理由)本條ハ現行商法第百九十九條第一項ノ規定ニ該當スルモノナリ抑モ現行商法第百九十九條第一項ニ於テハ會日前ニ招集ヲ爲スヘキモノト爲スト雖モ本案ハ明治二十六年改正前ノ舊商法ニ倣ヒ會日ヨリ二週間前ニ招集ノ通知ヲ發スヘキモノト爲シ又現行商法ニ於テハ總會ノ招集ハ定款ニ定メタル方法ニ從ヒ之ヲ爲スヘキモノト爲スト雖モ定款ニ定ムル所アルトキハ之ニ從フヘキハ勿論定款ニ何等ノ定ナキ場合ニ處スル爲メ本條第一項ニ於テハ總會ヲ招集スルニハ各株主ニ其通知ヲ發シテ之ヲ爲スヘキモノトセリ又現行商法第百九十九條第一項ニ於テハ總會招集ノ際其會議ノ目的及ヒ事項ヲ示スヘキモノト爲スト雖モ本條第二項ハ總會ノ目的及總會ニ於テ決議スヘキ事項ト改メ其意義ノ明瞭ナランコトヲ期シタリ又現行商法ハ無記名式ノ株券ヲ發行スルコトヲ許ササルヲ以テ之ヲ發行シタル場合ニ處スヘキ規定ヲ存セサルハ當然ナリト雖モ本案ハ無記名式ノ株券ノ發行ヲ許シタルヲ以テ新ニ本條第三項ノ規定ヲ設ケタリ
其他現行商法第百九十八條ニ於テハ總會ハ取締役監査役又ハ其他本法ニ依リテ招集ノ權ヲ有スル者之ヲ招集スヘキ旨ヲ規定スト雖モ是レ各本條ニ於テ定ムヘキ所ナルヲ以テ本案ハ之ヲ削除シ又本條第一項ノ規定ハ創立總會ニモ準用セラルヘキコトハ設立ニ關スル本案ノ規定ニ依リ明瞭ナルヲ以テ現行商法第百九十九條第二項モ亦無要ノ規定ナリ故ニ本案ニハ之ヲ削除シタリ
第百五十八條
(理由)本條ハ現行商法第二百條第一項前段ノ規定ニ該當スルモノナリ卽チ現行商法第二百條第一項前段ニ於テハ每年少ナクトモ一回定款ニ定メタル時ニ於テ通常總會ヲ開クヘキモノト爲スモ每年二回以上利益ノ配當ヲナス會社ニ在リテハ每配當期ニ總會ヲ招集セシムルコト便宜且必要ナリ故ニ本案ハ每年一回一定ノ時期ニ總會ヲ招集スルヲ通則トシ年二回以上利益ノ配當ヲ爲ス會社ニ限リテ每配當期ニ總會ヲ招集スヘキモノト爲シタリ又現行商法第百九十八條ニ於テ一般ニ總會招集ノ權ヲ有スル者ヲ列擧スルニ止マリ通常總會ニ付テハ何人カ之ヲ招集スヘキカヲ規定セスト雖モ之ヲ規定スルハ極メテ必要ナルヲ以テ本案ハ取締役カ本條ノ總會ヲ招集スルコトヲ要スルモノト爲シタリ其他現行商法ニ於テハ本條ノ總會ヲ通常總會ト稱スト雖モ之ヲ定時總會ト稱スルコト適切ナルノミナラス且臨時總會ナル名稱ニ對シテモ亦權衡ヲ得タルモノトス故ニ本案ハ之ヲ定時總會ト改メタリ
第百五十九條
(理由)本條第一項ハ現行商法第二百條第一項後段及ヒ同條第二項ノ規定ニ該當スルモノナリ抑モ現行商法ニ於テハ取締役ヨリ定時總會ニ提出スヘキ書類ヲ一々列擧スルモ本案ハ之ヲ會社ノ計算ニ關スルノ規定ニ讓リ茲ニハ單ニ定時總會ニ於テハ取締役カ提出シタル書類及ヒ監査役ノ意見書ヲ調査シ且利益ノ配當ヲ決議スヘキモノト爲シタリ又本條第二項ハ現行商法中ニ存セサル所ナリト雖モ實際上必要ナルヲ以テ本案ハ新ニ之ヲ加ヘタリ
第百六十條
(理由)本條ハ現行商法第二百一條前段ノ字句ヲ修正シタルモノナリ唯タ現行商法ニ於テハ取締役カ臨時總會ヲ招集スヘキコトヲ規定セスト雖モ其精神ニ至リテハ本案ト同一ナルコト殆ント疑ヲ容レサルヲ以テ本案ハ之ヲ明カニシ又何時ニテモ臨時總會ヲ招集シ得ルコトハ勿論ナルヲ以テ本案ハ現行商法ノ「何時ニテモ」ノ一項ヲ削除シ又臨時總會ハ臨時ノ事項ヲ議スル爲メ之ヲ招集スルニ限ラス單ニ或ル事項ヲ報吿スル爲メナルコト本案第百七十四條第一項ニ規定セル臨時總會ノ如キモノアリ從テ臨時ノ事項ヲ議スル爲メ云々ト規定セルハ狹隘ニ失ス故ニ本案ハ單ニ必要アル每ニ臨時總會ヲ招集スヘキモノト爲シタリ
第百六十一條
(理由)本條ハ現行商法第二百一條後段ノ規定ニ該當スルモノナリ抑モ現行商法ハ株主ヨリ總會招集ノ請求アリタルトキハ其理由ノ有無當否ヲ問ハス取締役ハ必ス之ヲ招集スルコトヲ要ス若シ取締役ニ於テ之ヲ招集セサルトキハ其職務ヲ盡ササルモノトシテ責任ヲ負ハシムト雖モ株主ヨリ毫モ理由ナキ請求ヲ爲スニモ拘ハラス尙ホ總會ヲ招集セシムルハ無用ナルノミナラス理由ナキ請求ニ應セサル取締役ニ對シテ職務曠廢ノ責任ヲ負ハシメ甚タシキニ至リテハ之ヲ處罰スルカ如キハ實ニ不當ナリト謂ハサルヘカラス是レ本案カ本條ノ如ク修正シタル所以ナリ
第百六十二條
(理由)本條第一項ハ現行商法第二百二條ノ規定ニ該當スルモノナリ抑モ現行商法第二百二條ニ於テハ本法ニ別段ノ定メナキ場合ニ於テハ少ナクトモ資本ノ四分ノ一ニ當タル株主ノ出席アルニアラサレハ決議ヲ爲スコトヲ得サルモノト爲スト雖重要ナル事項ニ付テハ特別ノ規定アルカ故ニ本條ノ規定ヲ以テ此場合ニ備フルノ必要ナキノミナラス殊ニ此ノ如キ規定ハ輕易ナル事件ニ付テハ甚タ不都合ナルヲ以テ本案ハ出席株主ノ數ニ關スル現行商法ノ制限ヲ削除シタリ
本條第二項ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ是レ現行商法ニ於テハ無記名式ノ株券ヲ認メサルカ爲メナリト雖モ本案ハ現行商法ニ反シ無記名式ノ株券ヲ認ムルヲ以テ此場合ニ處スル爲メ特別ノ規定ヲ設クルノ必要アリ是レ本條第二項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
本條第三項モ亦現行商法中ニ存セサル所ナリト雖モ解釋上之ト同一ニ決スヘキヤ否ヤ爭アリテ之ヲ決定スルコトハ實際上必要ナルカ故ニ本案ハ新ニ之ヲ加ヘタリ
本條第四項ノ規定モ亦現行商法中ニ存セサル所ナリト雖モ決議ニ付キ利害ノ關係ヲ有スル者ヲシテ議決權ヲ行フコトヲ得セシムルハ素ヨリ不當ナルカ故ニ本案ハ法人ニ關スル新民法第六十六條ノ例ニ倣ヒテ新ニ之ヲ規定シタリ
第百六十三條
(理由)本條ハ現行商法第二百四條ノ字句ヲ修正シタルモノナリ唯タ現行商法第二百四條前段ニ於テハ株主ノ議決權ハ一株每ニ一個タルヲ通例トストアルカ故ニ一株ニ付キ一個ノ議決權ヲ與ヘスシテ數株每ニ一個ノ議決權ヲ與ヘ其株數ヲ有セサル者ニハ何等ノ議決權ナキモノトスルコトヲモ許スカ如シト雖モ是レ用語ノ其當ヲ得サルカ爲メニシテ其精神トスル所ニ至リテハ本案ト異ナルコトナカルヘシ故ニ本案ニ於テハ各株主ハ一株ニ付キ一個ノ議決權ヲ有スルモノト爲シ定款ヲ以テ之ヲ左右スルコトヲ許サス唯タ十一株以上ヲ有スル株主ノ議決權ニ限リ定款ヲ以テ之ヲ制限スルコトヲ得ル旨ヲ但書ニ規定シタリ
第百六十四條
(理由)本條ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ抑モ總會招集ノ手續又ハ其決議ノ方法カ法令ニ違反スルコトヲ得サルハ勿論定款ニ違反スルコトヲ得ス若シ之ニ違反スルトキハ其決議ノ無效ナルコト當然ナリ故ニ本案ハ此場合ニ裁判所ハ株主ノ請求ニ因リ其決議ノ無效ヲ宣吿スルコトヲ得ルモノト爲ス然レトモ株主ヲシテ何時ニテモ此無效宣吿ノ請求ヲ爲スコトヲ得セシムルトキハ會社ノ事務ヲ澁滯セシメ其秩序ヲ紊亂スルノ恐アリ故ニ本案ハ決議ノ日ヨリ一ケ月內ニ此請求ヲ爲スコトヲ要スルモノト爲シタリ又決議ノ無效ヲ請求スル者ハ株主ナラサルヘカラサルコト勿論ナリト雖モ記名株式ハ會社ノ承諾ナクシテ之ヲ讓渡スコトヲ得ヘキヲ通例トシ無記名株式ハ株券ノ交付ノミニ因リテ之ヲ讓渡スコトヲ得ルカ故ニ一方ニ於テハ決議無效ノ請求ヲナシナカラ他方ニ於テ株式ヲ讓渡スコトアルヘク是レ甚タ不都合ナリト謂ハサルヘカラス而シテ之ヲ讓渡スコトヲ得サラシムルニハ其株券ヲ供託セシムルコト最モ適當ナリ殊ニ無記名株式ヲ有スルニ因リテ株主タル者ニ至リテハ其株券ヲ供託セシムルニアラサレハ果シテ眞ニ其株主ナルヤ否ヤヲモ確ムルノ途ナシ故ニ本案ハ取締役又ハ監査役ニ非サル株主ニシテ決議無效ノ請求ヲ爲シタルトキハ必ス其株券ヲ供託スルコトヲ要スルモノト爲シタリ又惡意ヲ以テ決議無效ノ請求ヲ爲シタル株主ハ相當ノ責任ヲ負フヘキコト勿論ナルヲ以テ會社ノ請求ニ因リ決議無效ノ請求ヲ爲シタル株主ヲシテ相當ノ擔保ヲ供セシムルコト必要ナリ故ニ本案ハ決議無效ノ請求ヲ爲シタル株主ハ取締役及ヒ監査役ヲ除クノ外會社ノ請求ニ因リ相當ノ擔保ヲ供スヘキモノト爲シタリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二款 取締役
(理由)本款ハ現行商法第一編第六章第三節第五款ノ一部ニ該當シ取締役ニ關スル規定ヲ揭ク現行商法第百八十九條ニ於テハ取締役ノ責任ヲ規定スト雖モ取締役カ會社ノ債務ニ對スル責任ハ其他ノ株主ト同シク其引受ケ又ハ讓受ケタル株式ノ金額ヲ限度トシテ責任ヲ負ヒ取締役タルカ爲メ特別ノ責任ヲ負ハサルコトハ當然言フヲ俟タサル所ナルカ故ニ同條前段ハ無要ノ規定タルヲ免カレス又同條後段ニ於テハ定款又ハ總會ノ決議ヲ以テ取締役ノ在任中ニ生シタル義務ニ付キ其取締役カ連帶無限ノ責任ヲ負フヘキ旨ヲ豫メ定ムルコトヲ得ルモノト爲スト雖モ此規定ハ株式合資會社ヲ認メサル現行商法ニ限リ必要ナルモノニシテ卽チ之ニ依リテ株式會社ノ取締役ヲシテ殆ント株式合資會社ノ無限責任社員ト同一ノ位地ニ立タシムルコトヲ許シタルモノナリ然ルニ本案ニ於テハ株式合資會社ヲ認メタルヲ以テ此規定ヲ設クヘキ必要存セサルノミナラス强ヒテ之ヲ存セシムルハ取締役ヲシテ過度ノ責任ヲ負擔セシムルモノタルヲ免カレサルカ故ニ本案ハ全ク現行商法第百八十九條ノ規定ヲ削除シタリ又現行商法第百九十條ノ規定ノ如キハ本案第百四十一條ノ適用ニ依リ當然言フヲ俟タサル所ナルヲ以テ本案ハ亦之ヲ削除シタリ
第百六十五條
(理由)本條ハ現行商法第百八十五條第一項ノ一部ニ該當シ其字句ヲ修正シタルモノニ過キス
第百六十六條
(理由)本條ハ現行商法第百八十五條第一項ノ一部ヲ採用シタルモノニシテ別ニ說明ヲ要セス
第百六十七條
(理由)本條モ亦現行商法第百八十五條第一項ノ一部ヲ採用シタルモノニシテ亦別ニ說明ヲ要セス
第百六十八條
(理由)本條ハ現行商法第百九十七條ニ該當スルモノナリ抑モ任期前ニ解任セラレタル取締役ハ其解任ニ因リテ生シタル損害ノ賠償ヲ會社ニ請求スルコトヲ得ルヤ否ヤニ付テハ現行商法ハ其請求ヲ許サゝルモノト爲シタリ是レ此場合ニ於テ會社ニ損害賠償ノ責任ヲ負ハシムルトキハ株主ハ其解任セラレタル取締役カ會社ニ對シ損害賠償ヲ請求スルコトアルヲ恐レテ其實旣ニ信任ノ缺乏スルニモ拘ハラス忍ヒテ之ヲ解任セサルニ至ルヲ慮リタルモノナルヘシト雖モ實際上僅々タル損害賠償ヲ請求セラルルコトヲ恐レテ信任缺乏セル取締役ヲ解任セス之ニ會社ノ興廢存亡ヲ來スヘキ重大ノ任務ヲ託スルモノナカルヘシ況ンヤ前條ニ於テ取締役ノ任期ヲ三ケ年內ニ制限セル以上ハ其損害賠償額モ亦多額ニ上ルコト到底ナカルヘキニ於テヲヤ故ニ本案ハ斷然現行商法ニ反對ノ主義ヲ採リタリ然レトモ是レ素ヨリ任期ノ定メアル場合ニ限ルヘキ所ニシテ若シ任期ノ定メナキトキハ何時解任セラルルモ其豫メ期待スヘキ所ナリ從テ之カ爲メ損害ヲ蒙フルモ其賠償ヲ請求スルコトヲ得サルハ勿論ナリトス是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第百六十九條
(理由)本條ハ現行商法第百八十七條後段ニ該當スルモノナリ抑モ現行商法ニ於テハ取締役ノ在任中其株券ニ封印シテ之ヲ會社ニ預リ置クヘキモノト規定シタリト雖モ單ニ封印シタル株券ヲ會社ニ預リ置クトキハ尙ホ取締役カ自ラ之ヲ預リ置クト殆ント等シカルヘシ卽チ會社ノ業務ヲ執行シ其財產ヲ管理スルハ取締役ナレハ表面上ニ於テハ會社ニ預リ置クモノナルモ實際ニ於テハ取締役カ預リ置クモノニ外ナラス從テ此規定ハ實際上何等ノ效果ナカルヘシ故ニ本案ハ定款ニ定メタル員數ノ株券ヲ監査役ニ供託セシメ取締役ニ對シテ監督ノ位地ニ立ツ所ノ監査役カ之ヲ保管スヘキモノト爲シ以テ實際上此規定ノ效果ヲ收メンコトヲ期シタリ
第百七十條
(理由)本條前段ハ現行商法第百八十六條ノ一部ニ修正ヲ加ヘタルモノナルモ之ニ反シテ本條後段ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ抑モ現行商法第百八十六條及ヒ第百四十三條第二項ノ規定ニ依レハ取締役カ業務ヲ執行スルニハ各別ニ之ヲ爲スコトヲ得ルヤ又數人若クハ總員共同ニ非サレハ之ヲ爲スコトヲ得サルヤハ定款又ハ株主總會ノ決議ヲ以テ之ヲ定ムヘキモノト爲スト雖モ定款又ハ株主總會ノ決議ヲ以テ之ヲ定メタル場合ニ於テハ其定款又ハ株主總會ノ決議ニ從フヘキコト勿論ニシテ法律ニ規定スルコトヲ要スルハ定款又ハ株主總會ノ決議ヲ以テ之ヲ定メタル場合ニ外ナラス然ルニ現行商法ノ如キハ此場合ニ處スヘキ規定ヲ欠缺シタリ是レ一ノ闕典タルヲ免カレス故ニ本案ハ其他ノ會社及ヒ民法ノ法人並ニ組合等ノ例ニ倣ヒ本條前段ノ規定ヲ設ケタリ又現行商法ニ於テハ支配人ノ選任及ヒ解任ヲ決スル方法ヲ定メスト雖モ株式會社ノ支配人ヲ選任シ及ヒ之ヲ解任スルニハ取締役ノ過半數ヲ以テ之ヲ決セシムルコト適當ナリ故ニ本條後段ニ於テ新ニ之ヲ規定シタリ
其他現行商法第百八十五條第二項ニ於テハ取締役ハ其同役中ヨリ主トシテ業務ヲ取扱フヘキ專務取締役ヲ置クコトヲ得ル旨ヲ規定シ且之ヲ置クモ其專務取締役ハ他ノ取締役ト同一ノ責任ヲ負フニ止マリ特別ノ責任ヲ負ハサル旨ヲ定ム是レ從來國立銀行其他ノ會社ニ於テ頭取ナルモノヲ置キタル慣例ヲ重ンシ之ヲ認メタルモノナリト雖モ當然言フヲ俟タサル所ナルヲ以テ本案ハ之ヲ削除シタリ
第百七十一條
(理由)本條ハ現行商法第百八十六條ノ一部ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法第百八十六條ニ於テハ合資會社ニ關スル現行商法第百四十三條及ヒ第百四十四條ノ規定ヲ株式會社ニ準用スト雖モ本案ハ合名會社ニ關スル第六十二條ノ規定ヲ株式會社ニ準用シ且本案第六十一條及ヒ第百十七條ト同一ノ理由ニ基キ取締役ハ各自會社ヲ代表スヘキモノト爲シタリ
第百七十二條
(理由)本條ハ現行商法第二百二十二條及ヒ明治二十三年法律第六十號第五條第七條等ノ一部ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法第二百二十二條ニ於テハ會社カ其本店及ヒ各支店ニ備ヘ置クヘキ書類ヲ列擧シ會社ハ其書類ヲ本店及ヒ各支店ニ備ヘ置クノ義務アルモノト爲スト雖モ本案ハ取締役ノ職務トシテ之ヲ觀察スルノ外會社ノ計算ニ關スル書類ニ付テハ之ヲ第五節會社ノ計算中第百九十一條ノ規定ニ讓リ目論見書、設立免許書ノ如キハ本案ノ認メサル所ナルヲ之ヲ削除シ又現行商法ニ於テハ創立總會ノ決議錄ヲ備ヘ置クコトヲ規定セサルヲ以テ本案ハ新ニ之ヲ加ヘ又現行商法ハ株主名簿ヲ本店及ヒ支店ニ備ヘ置クヘキモノト爲スト雖モ本案ハ實際上ノ便宜ヲ斟酌シ社債原簿ト共ニ之ヲ本店ニ備ヘ置クヲ以テ足レリトセリ是レ本案カ本條第一項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ又現行商法第二百二十二條ニ於テハ本店及ヒ支店ニ備ヘ置キタル株主名簿定款及ヒ株主總會ノ決議錄ノ展閱ヲ許スコトヲ以テ會社ノ義務ト爲シ義務ノ方面ヨリ觀察シテ規定ヲ設ケタリト雖モ本案ハ閱覽ヲ求ムル者ノ方面ヨリ立言シテ取締役ノ職務中ニ規定シタルノミナラス明治二十三年法律第六十號第七條ニ規定セル社債原簿竝ニ現行商法中ニ規定ヲ存セサル創立總會ノ決議錄ヲモ加ヘ本條第二項ノ規定ヲ設ケタリ
第百七十三條
(理由)本條ハ現行商法第百七十四條ノ一部ニ該當ス抑モ現行商法ニ於テハ株主名簿ニ一定ノ事項ヲ記載スルヲ以テ會社ノ義務ト爲スト雖モ旣ニ前條ニ付キ述ヘタルカ如ク本案ハ之ヲ以テ取締役カ其職務上負フ所ノ義務トナシタリ又現行商法ニ於テハ各株式ニ付キ株金ヲ拂込ミタル年月日ヲ株主名簿ニ記載スヘキ旨ノ規定ヲ欠缺スト雖モ之ヲ株主名簿ニ記載セシムルコト必要ナルヲ以テ本案ハ新ニ之ヲ株主名簿ニ記載スヘキ事項中ニ加ヘタリ又現行商法ニ於テハ全ク無記名式ノ株券ヲ認メスト雖モ本案ハ旣ニ其發行ヲ許セシヲ以テ之ヲ發行シタルトキハ其數、番號及ヒ發行ノ年月日ヲ株主名簿ニ記載セシムルコト必要ナルカ故ニ本案ハ新ニ其旨ヲ規定シ又現行商法第百七十四條第四號ニ於テハ讓渡ノ年月日ヲモ亦株主名簿ニ記載スヘキモノト爲スト雖モ讓渡ト取得トハ常ニ相伴ヒ從テ取得ノ年月日ヲ株主名簿ニ記載セシムル以上ハ其外別ニ讓渡ノ年月日ヲ記載セシムルノ必要ナキカ故ニ本案ハ之ヲ削除シタリ是レ本案カ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第百七十四條
(理由)本條第一項ハ現行商法中ニ存セサル所ナリト雖モ會社ノ事業上損失ヲ招キ其資本ノ半額ヲ失ヒタルトキハ取締役ハ其職務上ノ義務トシテ遲滯ナク株主總會ヲ招集シ其旨ヲ報吿シ善後策ヲ講セシムルコト必要ナルヲ以テ本案ハ新ニ此規定ヲ設ケタリ
本條第二項モ亦現行商法中ニ存セサル所ナリト雖モ會社財產ヲ以テ會社ノ債務ヲ完濟スルコト能ハサルニ至リタル場合ニハ取締役ヲシテ直チニ破產宣吿ノ請求ヲ爲サシメ破產手續ニ依リ淸算ヲ爲サシムルコト必要ナリ是レ本案カ法人ノ理事又ハ淸算人ニ關スル新民法第七十條第二項及ヒ第八十一條第一項及ヒ會社ノ淸算人ニ關スル本案第九十一條第三項第百五條第二百三十四條第二百三十六條竝ニ現行商法第二百五十三條第一項等ノ例ニ倣ヒ新ニ本條第二項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第百七十五條
(理由)本條ハ現行商法中ニ存セサル所ナリト雖モ取締役ハ會社ヲ代表スルノ全權ヲ有シ其業務ヲ執行スルノ權利ヲ有シ且義務ヲ負フヲ以テ若シ自己又ハ第三者ノ爲メニ會社ノ營業ノ部類ニ屬スル商行爲ヲ爲シ又ハ同種ノ營業ヲ目的トスル他ノ會社ノ無限責任社員ト爲ルコトヲ得ルモノトセハ會社ノ利害ト相衝突スルヲ免カレサルヘシ故ニ本案ハ取締役ニ付テモ亦合名會社ノ社員及ヒ合資會社株式合資會社ノ無限責任社員ト等シク株主總會ノ認許アルニ非サレハ自己又ハ第三者ノ爲メニ會社ノ營業ノ部類ニ屬スル商行爲ヲ爲シ又ハ同種ノ營業ヲ目的トスル他ノ會社ノ無限責任社員ト爲ルコトヲ得サルモノト爲ス又取締役カ株主總會ノ認許ヲ得スシテ自己ノ爲メニ會社ノ營業ノ部類ニ屬スル商行爲ヲ爲シタルトキ一方ニ於テハ會社ヲシテ之ヲ自己ノ爲メニ爲シタルモノト看做シ其商行爲ヲ會社ノ計算ニ引受クルコトヲ得モシメ以テ法律ニ違犯シタル取締役ヲシテ其得タル利益ヲ自己ニ收ムルカ如キ不都合ナカラシムル必要アリ他方ニ於テハ會社カ此權利ヲ行使スルコトヲ得ヘキ期間ヲ制限シ以テ法律關係ヲ速ニ確定セシムル必要アリ故ニ本案ハ合名會社ノ社員ニ關スル本案第六十條第二項ト同シク支配人ニ關スル本案第三十二條第二項及ヒ第三項ノ規定ハ株式會社ノ取締役ニモ亦之ヲ準用スヘキモノト爲ス是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第百七十六條
(理由)本條モ亦現行商法中ニ存セサル所ナリ抑モ取締役カ會社ト取引ヲ爲スコトヲ得ルヤ否ヤニ付テハ立法例及ヒ學說上數主義ニ分レ或ハ之ヲ禁止スルモノアリ或ハ制限ヲ付シテ之ヲ許スモノアリ或ハ此場合ニハ裁判所ノ選任シタル特別代理人ヲシテ會社ヲ代表セシメ以テ取締役ト取引ヲ爲スコトヲ得セシムルモノアリ蓋シ此場合ニモ尙ホ取締役カ會社ト取引ヲ爲スコトヲ許スハ極端ニ失スルノミナラス利害相反スルノ極種々ノ弊害起リ易シ此弊害多キハ卽チ絕對的ニ取締役カ會社ト取引ヲ爲スコトヲ禁止スル法制及ヒ學說ニ依テ起リタル理由ナリト雖モ絕對的禁止ハ實際上不便ナルノミナラス取締役數人アル場合ニハ其一人會社ヲ代表シ他ノ取締役ト取引ヲ爲スコト必スシモ弊害アルモノニアラス之ニ反シテ此場合ニハ裁判所ニ於テ一々特別代理人ヲ選任シ之ヲシテ會社ヲ代表セシメ取締役ト取引ヲ爲サシムルモノトスルトキハ能ク利害ノ衝突ヲ避ケ會社ノ利益ヲ保護スルコトヲ得ヘシト雖モ事煩雜ニ失シ民法上ノ法人ニ於テハ格別株式會社ニ付テハ到底之ニ依ルコトヲ得ス是レ本案ニ於テ取締役カ會社ト取引ヲ爲スニハ監査役ノ承認ヲ得ルコトヲ要スルモノト爲シタル所以ナリ
第百七十七條
(理由)本條第一項ハ現行商法第百八十八條ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法第百八十八條ニ於テハ取締役カ其職分上ノ責務ヲ盡スコト及ヒ定款竝ニ會社ノ決議ヲ遵守スルコトニ付キ會社ニ對シテ自己ニ其責任ヲ負フコトヲ規定スト雖モ其所謂會社ノ決議トハ何ヲ指スカ明瞭ナラサルノミナラス取締役カ會社ニ對シテ職務上ノ義務ヲ盡シ定款竝ニ株主總會ノ決議ヲ遵守スルノ責任アルハ當然言フヲ俟タサル所ナリ從テ別ニ明文ヲ以テ之ヲ規定スルノ必要アルヲ見ス此ノ如ク取締役ハ法令又ハ定款ニ反スル行爲ヲ爲スコトヲ得ス若シ之ヲ爲シタルトキハ會社ニ對シテハ勿論第三者ニ對シテモ亦自ラ損害賠償ノ責ニ任セサルヘカラサルコト當然言フヲ俟タサル所ナリト雖モ取締役カ法令又ハ定款ニ反スル行爲ヲ爲シタルハ株主總會ノ決議ニ依リタル場合ニ於テモ尙ホ第三者ニ對シテ損害賠償ノ責ニ任セサルヘカラサルヤ否ヤハ疑ノ存スル所ナリ是レ本案カ本條第一項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
本條第二項ハ現行商法中ニ存セサル所ナリト雖モ取締役カ株主總會ニ於テ異議ヲ述ヘ且監査役ニ其旨ヲ通知シタル場合ニモ尙ホ前項ノ規定ニ依リ第三者ニ對シテ損害賠償ノ責ニ任セシムヘキ理由ナシ是レ本案カ本條第二項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第百七十八條
(理由)本條第一項ハ現行商法第二百二十八條及ヒ第二百二十九條ノ一部ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法第二百二十八條ニ於テハ總會ハ取締役ニ對シテ訴訟ヲ爲スコトヲ得ル旨ヲ規定スト雖モ此場合ニ於テハ何人カ其訴訟ノ原吿タルカニ付キ疑アリ又現行商法第二百二十九條ニ於テハ會社資本ノ少ナクトモ二十分ノ一ニ當ル株主ハ取締役ニ對シテ訴訟ヲ爲スコトヲ得ル旨ヲ規定スト雖モ此場合ニ於テモ亦何人カ其訴訟ノ原吿タルカニ付キ疑アルノミナラス僅ニ資本ノ二十分ノ一ニ當ルカ如キ少數ノ株主ヲシテ之ヲ爲スコトヲ得セシメ且株主總會カ取締役ニ對スル訴ノ提起ヲ否決シタルト否トヲ問ハサルハ實際上弊害尠少ナラス又本案ノ如ク株主總會カ取締役ニ對スル訴ノ提起ヲ決議シタルトキ又ハ株主總會カ訴訟ノ提起ヲ否決シタル場合ニ資本ノ十分ノ一以上ニ當ル株主ノ請求アルトキハ會社ハ其名ヲ以テ取締役ニ對シテ訴ヲ提起スヘキモノト爲スニ於テハ其規定ヲシテ實際ニ行ハレシムルカ爲メ會社カ訴ヲ提起スヘキ期間ヲ一定スルコト必要ナリ是レ本條第一項ノ如ク修正ヲ加ヘタル所以ナリ
本條第二項ノ規定ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ抑モ本案ニ於テハ資本ノ十分ノ一以上ニ當ル株主ハ株主總會ニ於テ取締役ニ對スル訴ノ提起ヲ否決シタル場合ニ限リ取締役ニ對スル訴ノ提起ヲ監査役ニ請求スルコトヲ得ルモノト爲シタルカ故ニ會社ハ其請求ヲ爲シタル株主ヲシテ其株券ヲ供託セシムル必要アルノミナラス若シ會社カ敗訴シタルトキハ會社ハ取締役ニ對シテ自ラ損害賠償ノ責任ヲ負擔シ而シテ訴ノ提起ヲ請求シタル株主ハ會社ニ對シテ損害賠償ノ責任ヲ負擔セサルヘカラス從テ取締役ニ對スル訴ノ提起ヲ請求シタル株主ヲシテ他日其責任ヲ盡サシムルカ爲メ監査役ハ豫メ其株主ニ對シテ相當ノ擔保ヲ供スヘキコトヲ請求スルコトヲ得ルモノト規定スルノ必要アリ是レ本條第二項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
本條第三項ノ規定モ亦現行商法中ニ存セサル所ナリ抑モ本案ニ於テハ資本ノ十分ノ一以上ニ當タル株主ヨリ取締役ニ對スル訴ヲ提起スヘキコトヲ監査役ニ請求シ此請求アリタルトキハ會社ヨリ其名ヲ以テ訴ヲ提起スヘキモノト爲シタルカ故ニ假令會社カ敗訴スルモ相手方タル取締役ニ對シテ損害賠償ノ責ニ任スルハ原吿タル會社ナリト雖モ會社カ訴訟ヲ提起シタルハ素ト株主ノ請求ニ因ルモノナルヲ以テ株主ハ訴訟ニ敗訴シタル會社カ受ケタル損害ヲ賠償スルノ責ニ任スヘキコト勿論ナリ是レ本條第三項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
現行商法第二百二十九條ニ於テハ各株主カ自己ノ名ヲ用ヒ又ハ參加人ト爲リ裁判所ニ於テ其權利ヲ保衞スルコトヲ得ル旨ヲ定ムト雖モ資本ノ十分一以上ニ當ル株主ハ會社ヲシテ取締役ニ對シ訴ヲ提起セシムルコトナク自ラ取締役ニ對シテ訴ヲ提起スルコトヲ得ルハ勿論假令株主ノ請求ニ因リ會社カ取締役ニ對シテ訴ヲ提起シタルトキト雖モ其請求ヲ爲シタル株主ハ訴訟ノ勝敗ニ付キ利害ノ關係ヲ有スルヲ以テ從參加人トシテ原吿タル會社ニ附隨シ之ヲ補助スルコトヲ得ヘキコト當然言フヲ俟タサル所ナリ(民訴五三條以下)是レ本案カ現行商法第二百二十九條但書ノ規定ヲ削除シタル所以ナリ
第百七十九條
(理由)本條ハ現行商法第百九十六條ニ該當スルモノニシテ一般ノ通則ニ從フトキハ取締役ハ特約ナキ限リハ報酬ヲ受クヘキモノニアラスト雖モ本案ニ於テハ之ニ反對ノ主義ヲ採ルノ可ナルヲ認メ唯タ其額ハ取締役ノ定ムル所ニ任スヘカラサルコト勿論ナルヲ以テ定款ノ定ムル所ニ依リ若シ定款ニ定メサルトキハ株主總會ノ決議ニ依リテ之ヲ定ムヘキモノト爲ス是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第三款 監査役
(理由)本款ハ現行商法第一編第六章第三節第五款ニ該當スルモノニシテ監査役ニ關スル規定ヲ揭ク蓋シ現行商法ニ於テハ監査役ニ關スル規定ハ取締役ニ關スル規定ト共ニ一款ヲ爲スト雖モ本案ハ旣ニ述ヘタルカ如ク款ヲ分テ別ニ之ヲ規定スルコトト爲シ卽チ本款ニ監査役ヲ規定シタリ
第百八十條
(理由)本條ハ現行商法第百九十一條ノ一部ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ卽チ現行商法ニ於テハ監査役ノ任期ハ二ケ年ヲ超ユルコトヲ得サルモノト爲スト雖モ同一ノ監査役ヲシテ長ク其任ニ當ラシムルハ實際上其弊害尠カラサルノミナラス總會ハ少クトモ每年一回招集セラルルヲ以テ監査役ノ任期ヲ一ケ年トスルモ差支ナシ是レ本案カ本條ノ如ク修正ヲ加ヘタル所以ナリ
第百八十一條
(理由)本條ハ現行商法第百九十二條第一號及ヒ第百九十三條ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ監査役ハ會社ノ財產及ヒ取締役ノ業務執行ヲ監査スルノ職務ヲ有スルモノナルヲ以テ之ニ伴フノ職權ヲ與ヘ以テ其職務ヲ行フコトヲ得セシムルコト必要ナリ故ニ監査役ハ何時ニテモ自カラ會社ノ業務及ヒ會社財產ノ狀況ヲ調査スルコトヲ得ルノミナラス取締役ニ對シテ何時ニテモ事業ノ報吿ヲ求ムルコトヲ得ルモノト爲スコト正當ナリ唯タ現行商法第百九十二條第一號ニ規定セル業務執行ノ監視ノ如キハ本條ニ所謂會社ノ業務ノ狀況ヲ調査スルコトノ範圍內ニ屬シ同第百九十三條ニ規定セル會社ノ金匣ノ檢査ノ如キハ本條ニ所謂會社財產ノ狀況ヲ調査スルコトノ範圍內ニ屬スルニ過キサルヲ以テ本案ハ何レモ之ヲ削除シ又現行商法第百九十三條ニ於テハ會社ノ帳簿及ヒ其他ノ書類ヲ展閱スルコトヲ得ル旨ヲ揭クト雖モ是レ監査役ノ調査ニ關スル職權ヨリ當然流出スヘキ所ナルヲ以テ本案ハ亦此規定ヲモ削除シ法人ノ監事ニ關スル新民法第五十九條ノ文例ヲ斟酌シテ現行商法ノ字句ヲ修正シ本條ノ規定ヲ設ケタリ
第百八十二條
(理由)本條前段ハ現行商法第百九十二條第三號ニ修正ヲ加ヘタルモノニシテ卽チ現行商法ニ於テハ此總會ヲ招集スヘキ場合ヲ監査役カ會社ノ爲メニ必要又ハ有益ト認メタルトキト爲スト雖モ此ノ如キ制限ヲ附スルノ必要ナク單ニ監査役カ株主總會ヲ招集スル必要アリト認メタルトキトスルコト適當ナルヲ以テ本案ハ之ヲ改メタリ之ニ反シテ本條後段ニ該當スル規定ハ現行商法中ニ存セサル所ナリト雖モ此規定ヲ設ケ本條前段ノ規定ニ依リ監査役カ招集シタル株主總會ヲシテ檢査役ヲ選任スルコトヲ得セシメ其選任シタル檢査役ニハ會社ノ業務及ヒ會社財產ノ狀況ヲ調査スルノ職權ヲ與フルコト必要ナルヲ以テ本案ハ新ニ之ヲ規定シタリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第百八十三條
(理由)本條ハ現行商法第百九十二條第二號ニ該當スルモノナリ抑モ現行商法ニ於テハ監査役ノ調査スヘキ書類ヲ列擧スト雖モ列擧ハ脫漏ノ虞アルノミナラス各本條ノ規定ニ依リテ如何ナル書類ハ監査役カ調査シテ株主總會ニ其意見ヲ報吿スヘキモノナルカヲ定ムルコト相當ナルヲ以テ本案ハ單ニ取締役カ株主總會ニ提出スヘキ書類ト爲シタリ其他ハ字句ノ修正ニ過キス
其他現行商法第百九十四條ハ監査役中ニ於テ意見ノ分カレタルトキハ其各自ノ意見ヲ株主總會ニ提出スヘキ旨ヲ規定スト雖モ苟クモ反對ノ規定ナキ限リハ是レ當然言フヲ俟タサル所ナルヲ以テ本案ハ之ヲ削除シタリ
第百八十四條
(理由)本條ハ現行商法中ニ存セサル所ナリト雖モ監査役ヲシテ獨立不偏ノ位地ニ立チ取締役ノ執行シタル會社ノ業務及ヒ其管理セル會社財產ヲ公平且正實ニ監査セシムルカ爲メニハ其取締役若クハ支配人ヲ兼ヌルコトヲ禁スルノ必要アリ然レトモ取締役中ニ缺員アルトキハ株主總會カ其補缺員ヲ選任スルマテ之カ爲メ會社ノ業務執行ヲ停止スルコトヲ得サルハ勿論定員ニ滿サタル取締役ヲシテ依然其職務ヲ行フコトヲ得セシムルモ亦不當ナリ故ニ此場合ニ於テハ一定ノ制限ノ下ニ監査役ヲシテ一時取締役ノ職務ヲ行ハシムルコト亦已ムヲ得サル所ナリトス是レ本案カ新ニ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第百八十五條
(理由)本條第一項ハ現行商法第二百二十八條ノ一部ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法二百二十八條ニ於テハ總會ハ監査役ヲ以テ取締役ニ對シテ訴訟ヲ爲スコトヲ得ルモノト爲スト雖モ何人カ其訴訟ノ原吿タルヤヲ明言セサルカ爲メ監査役ハ自カラ原吿トシテ訴訟ヲ爲スモノナルカ將タ又代理人トシテ訴訟ヲ爲スモノナルカ若シ代理人トシテ訴訟ヲ爲スモノトセハ何人ヲ代表スルモノナルカ明瞭ナラサル所アリ又現行商法第二百二十八條ニ於テハ會社ヨリ取締役ニ對スル訴訟ノミヲ規定シ取締役カ會社ニ對シテ提起シタル訴訟ニ付キ何人カ會社ヲ代表スヘキカヲ規定セスト雖モ此場合ニ若シ其取締役ヲシテ會社ヲ代表セシムルトキハ利害ノ衝突ヲ免レス又現行商法第二百二十八條ニ於テハ總會ハ監査役又ハ特ニ選定シタル代人ヲ以テ取締役又ハ監査役ニ對シテ訴訟ヲ爲スコトヲ得ト規定シタルヲ以テ總會カ特ニ選定シタル代人カ會社ヲ代表スルハ監査役ニ對スル訴訟ノミニ限ルカ將タ又取締役ニ對スル訴訟ニモ及フヘキカ疑アルノミナラス監査役ト總會カ特ニ選定シタル代人トアルトキハ總會カ特ニ選定シタル代人カ當然會社ヲ代表スヘキモノナルカモ亦明瞭ヲ缺ク所カラ加之ナラス此規定ハ總會ノ決議ニ因リ會社ヨリ取締役ニ對シテ提起シタル訴訟ノミニ其適用ヲ制限シ株主ノ請求ニ因リ會社ヨリ取締役ニ對シテ提起シタル訴訟ニシテ請求者カ特ニ代表者ヲ指定セサル場合ニ及ホササルハ狹隘ニ失ス卽チ現行商法第二百二十八條ニ於テ規定スル所ハ獨リ株主總會ノ決議ニ因リ會社カ取締役ニ對シテ訴ヲ提起スル場合ニ限ラルルト雖モ本條ハ第百七十八條ニ於テ現行商法ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルノ結果會社カ取締役ニ對シ訴ヲ提起スル場合ハ株主總會ノ決議ニ因ルノ外尙ホ資本ノ十分ノ一以上ニ當タル株主ノ請求ニ因ルコトアリ從テ本條第一項ノ規定ハ當然此等ノ場合ニモ適用セラルヘキモノト爲リタリ是レ本條第一項ノ如ク修正ヲ加ヘタル所以ナリ
又本條第二項ハ現行商法第二百二十九條ノ一部ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法第二百二十九條ニ於テハ會社資本ノ少ナクトモ二十分ノ一ニ當ル株主ハ其特ニ選定シタル代人ヲ以テ取締役ニ對シ訴訟ヲ爲スコトヲ得ルモノト爲スト雖モ其代人ハ個々ノ株主ヲ代表スルモノナリヤ否ヤ明瞭ナラス故ニ本案第百七十八條ニ於テハ資本ノ十分ノ一以上ニ當タル株主ヨリ監査役ニ對シテ訴ノ提起ヲ請求シ其監査役ハ會社ヲ代表シテ取締役ニ對スル訴ヲ提起スヘキモノト爲シタル結果株主總會ノ決議ニ因リ會社ヨリ訴ヲ提起スル場合ト同シク當然本條第一項ノ規定ヲ適用セラルルモノナルコト旣ニ述ヘタルカ如シ然レトモ其請求ヲ爲シタル株主ハ若シ會社ニシテ敗訴スルトキハ本案第百七十八條第三項ノ規定ニ依リ會社ニ對シテ損害賠償ノ責ニ任セサルヘカラス從テ訴訟ノ勝敗ニ付キ利害ノ關係ヲ有ス而シテ訴訟ノ勝敗ハ訴訟行爲ヲ爲ス者ノ行動如何ニ因ルコト多キヲ以テ其請求ヲ爲シタル株主カ監査役ヲシテ其訴訟ノ局ニ當ラシムルコトヲ欲セサルトキハ他ニ會社ヲ代表シテ訴訟ヲ爲スヘキ者ヲ指定シ之ヲシテ會社ヲ代表スルヲ得セシムコト必要ナリ故ニ本案ハ一方ニ於テハ現行商法第二百二十九條ヲ斟酌シ他方ニ於テハ株主ヲシテ十分其目的ヲ達セシメンコトヲ期シ資本ノ十分ノ一以上ニ當タル株主カ取締役ニ對スル訴ノ提起ヲ監査役ニ請求シタルトキハ特ニ代表者ヲ指定シ其代表者ヲシテ取締役ニ對スル會社ノ訴訟ニ付キ會社ヲ代表スルノ任ニ當ラシムルコトヲ得ヘキモノト爲ス是レ本條第二項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第百八十六條
(理由)本條ハ現行商法第百九十五條ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法第百九十五條ニ於テハ監査役カ同法第百九十二條卽チ本案第百八十一條乃至第百八十三條ニ揭ケタル責務ヲ缺キタル場合ニ限リ責任ヲ負フヘキ旨ヲ規定スト雖モ此ノ如ク其場合ヲ列擧スルトキハ其列擧以外ノ場合ヲ悉ク除外シ其結果何等ノ理由ナクシテ監査役カ任務ヲ懈怠シタル效果ニ區別ヲ立ツルノ弊アルヲ以テ本條ハ汎ク監査役カ其任務ヲ怠リタルトキハ責任ヲ負フヘキモノト爲ス又現行商法第百九十五條ニ於テハ監査役カ會社ニ對スル損害賠償ノ責任ノミヲ揭クト雖モ其任務ヲ怠リタルニ因リ第三者ニ損害ヲ生シタルトキハ之ヲ賠償スルノ責任アルコト勿論ニシテ之ヲ規定セサルハ一ノ缺點ナルヲ以テ本案ハ新ニ第三者ニ對スル損害賠償ノ責任ヲモ加ヘタリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第百八十七條
(理由)本條ハ現行商法第二百二十八條及ヒ第二百二十九條ノ一部ニ修正ヲ加ヘタルモノニシテ本案第百七十八條及ヒ第百八十五條ニ於テ取締役ニ對スル訴訟ニ付キ現行商法ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルト同一ノ理由ニ基ツクモノナリ唯タ本案第百八十五條ノ如ク株主總會又ハ訴ノ提起ヲ請求シタル株主カ特ニ代表者ヲ指定セサル場合ニ於テ當然會社ヲ代表スヘキ者ヲ規定セサルハ監査役ニ對スル訴訟ニ付テハ株式會社ノ法定代理人タル取締役カ當然會社ヲ代表スヘキヲ以テナリ其他ハ第百七十八條ニ付キ說明シタルトコロト同一ナルヲ以テ茲ニ贅セス
第百八十八條
(理由)本條ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ抑モ取締役ノ代理權ハ新民法第百十一條ノ規定ニ依リ該條ニ規定セル事由發生スルトキハ當然終了スヘク從テ本案中ニ特別ノ規定ヲ設クルノ必要ナシト雖モ監査役ハ特別ノ場合ヲ除クノ外代理權ヲ有セス從テ破產又ハ禁治產ノ宣吿ヲ受クルモ當然其任務ヲ終了スルコトナカルヘシ蓋シ監査役ニシテ破產スルトキハ或行爲能力ヲ失ヒ又ハ之ヲ制限セラルルノミナラス資力ナキカ爲メ前條ニ定メタル責任モ十分之ヲ盡サシムルコトヲ得ス從テ其職務ノ踐行ニ關スル擔保ヲ缺クニ至ルヘシ又監査役ニシテ禁治產者ト爲ルトキハ心神喪失ノ常況ニアルヲ以テ通例自カラ職務ヲ行フコトヲ得サルヘシ然ルニ株主總會カ監査役ヲ選任スルニ當リテハ其一身ニ重キヲ措クモノナルヲ以テ破產者ノ如キ信用ニ乏シキ者ヲシテ依然監査役ノ任ニ當ラシメ又ハ自カラ職務ヲ行フノ能力ナキ禁治產者ヲシテ引續キ監査役ノ任ニ當ラシメ後見人ヲシテ其事ヲ攝行セシムルハ不當ナリト謂ハサルヘカラス故ニ本案ハ新ニ本條ノ規定ヲ設ケ監査役ハ破產又ハ禁治產ニ因リテ當然退任スルモノト爲シタリ
第百八十九條
(理由)本條ハ現行商法第百九十一條ノ一部第百九十六條及ヒ第百九十七條ニ修正ヲ加ヘタルモノニシテ本案第百六十五條第百六十八條及ヒ第百七十九條ニ於テ旣ニ其理由ヲ說明シタリ唯タ茲ニ一言スヘキハ監査役ノ員數是レナリ卽チ現行商法第百九十一條ニ於テハ監査役ハ二人以上ナルコトヲ要シ明治二十六年改正前ノ舊商法ニ於テハ三人以上ナルコトヲ要シ外國立法例ニ於テモ亦三人以上五人以下ト定ムルモノアリト雖モ此等ハ株主總會ニ放任シ其定ムル所ニ從ハシムヘク法律ニ於テ强ヒテ之ヲ一定スルノ必要ナキヲ以テ本案ハ之ヲ削除シタリ
第四節 會社ノ計算
(理由)本節ハ現行商法第一編第六章第三節第九款ニ該當スルモノニシテ會社ノ計算ニ關スル規定ヲ揭ク現行商法ニ於テハ之ニ題スルニ會社ノ義務ナル名稱ヲ以テスト雖モ其規定スル事項ハ專ラ會社ノ計算ニ關スルモノナルヲ以テ本案ハ「アルゲンチン」商法ニ倣ヒテ本節ヲ會社ノ計算ト題シタリ現行商法第二百十六條ハ會社カ株金ヲ拂戾スコトヲ得サル旨及ヒ拂戾シタル結果ヲ規定スト雖モ法律ノ規定ニ依ルニアラサレハ株金ヲ拂戾スコトヲ得サルニ反シテ法律ノ規定ニ依ル以上ハ株金ヲ拂戾スコトヲ得セシムルコト正當ナリ而シテ同條ノ意義若シ法律ノ規定ニ依ルニアラサレハ株金ヲ拂戾スコトヲ禁スルニアリトセハ當然言フヲ俟タサル無要ノ規定ナリ又若シ法律ノ規定ニ依リテ爲ス所ノ株金拂戾ヲモ禁スルニアリトセハ不當ノ規定タリ何レニスルモ無要若クハ不當ノ規定ニシテ之ヲ存スルノ必要ナキヲ以テ本案ハ之ヲ削除シタリ又現行商法第二百十七條ハ本案カ旣ニ株式ニ關スル一節中ニ揭ケタル所ナルヲ以テ茲ニ再ヒ規定スルノ必要ナシ故ニ本案ハ之ヲ削除シタリ又現行商法第二百二十三條ハ本案第百七十二條及ヒ第百九十一條ニ該當スル現行商法第二百二十二條ニ定メタル閱覽ノ停止ヲ規定スト雖モ之ヲ存スルノ必要ナキヲ以テ本案ハ之ヲ削除シタリ
第百九十條
(理由)本條ハ現行商法第百九十二條第二號及ヒ第二百十八條ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法第二百十八條ニ於テハ會社ハ少ナクトモ每年一回計算ヲ閉鎖シ計算書財產目錄貸借對照表事業報吿書利息又ハ配當金ノ分配案ヲ作リ監査役ノ檢査ヲ受クヘキモノト爲シ同第百九十二條第二號ニ於テハ此等ノ書類ヲ檢査スルコトヲ以テ監査役ノ職分ト爲スト雖モ取締役ハ每年一回一定ノ時期ニ於テ殊ニ年二回以上利益ノ配當ヲ爲ストキハ每配當期ニ定時總會ヲ招集シ其總會ニ此等ノ書類ヲ提出スルコトヲ要スルヲ以テ此等ノ書類ハ每年一回以上之ヲ作ルコトヲ要シ之ヲ作ル每ニ計算ヲ閉鎖スヘキコト勿論ナリ故ニ本案ハ現行商法第二百十八條前段ヲ削除シタリ又現行商法第二百十八條ニ於テハ單ニ計算書ト曰フト雖モ其損益ノ計算書ヲ指スモノナルコト疑ヲ容レサルヲ以テ本案ハ之ヲ改メテ損益計算書ト爲シタリ又現行商法第二百十八條ニ於テハ利息又ハ配當金ノ分配案ヲ規定スルニ止マルト雖モ準備金ハ會社ノ基礎ニ關スルモノナルヲ以テ之ニ關スル議案ヲモ加フルコト必要ナリ又現行商法ニ於テハ監査役ノ調査ヲ經ヘキ書類ハ如何ナル手續ニ依リ監査役ニ提出スヘキカヲ規定セスト雖モ之ヲ定ムルコト亦必要ナリ是レ本條ノ如ク修正シタル所以ナリ
第百九十一條
(理由)本條ハ主トシテ現行商法第二百二十二條ノ一部ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法第二百二十二條ニ於テハ其列擧シタル書類ヲ備ヘ置クコトヲ以テ會社ノ義務ト爲スト雖モ本案ハ之ヲ以テ取締役ノ職務ト爲シ又現行商法第二百二十二條ニ於テハ抵當若クハ不動產質ノ債權者ノ名簿ヲ備ヘ置クヘキモノト爲スト雖モ適當ナル財產目錄ヲ備ヘ置カシムル以上ハ特ニ此名簿ヲ備ヘ置カシムル必要ナキヲ以テ本案ハ之ヲ削除シ又現行商法第二百二十二條ニ於テハ監査役ノ報吿書ヲ備ヘ置クヘキコトヲ規定セスト雖モ此報吿書ハ其他ノ書類ト共ニ之ヲ備ヘ置カシムルコト必要ナルヲ以テ本案ハ新ニ之ヲ加ヘ又現行商法ハ一方ニ於テハ此等ノ書類ヲ本店及ヒ支店ニ備ヘ置クヘキモノト爲シ他方ニ於テハ何時ヨリ之ヲ備置クヘキカヲ規定セスト雖モ本案ハ少クトモ定時總會ノ會日前ニ之ヲ本店ニ備ヘ置クヘキモノト爲ス又現行商法第二百二十二條ニ於テハ會社ノ方面ヨリ立言シ會社ハ株主及ヒ會社ノ債權者ノ求ニ應シ展閱ヲ許ス義務アルコトヲ規定スト雖モ寧ロ閱覽ヲ求ムル者ノ方面ヨリ立言スルノ適切且明瞭ナルニ如カサルヲ以テ本案ハ株主及ヒ會社ノ債權者ハ閱覽ヲ求ムルコトヲ得ルモノト爲シ一方ニ於テハ閱覽ヲ求ムルハ株主及ヒ會社ノ債權者ノ權利ナルコトヲ明カニシ他方ニ於テハ閱覽ヲ許スハ會社ノ義務ナルコトヲ示シタリ其他ハ字句ノ修正ニ過キス
第百九十二條
(理由)本條第一項ハ現行商法第二百條ニ該當スルモノナリ抑モ現行商法第二百條第一項ハ株主總會ニ於テハ此等ノ書類ヲ株主ニ示シテ其決議ヲ爲スト規定スルニ止マリ其書類ハ何人ヨリ株主總會ニ之ヲ提出スヘキカ又株主總會ニ於テハ如何ナル決議ヲ爲スヘキカニ及ハサリシハ一ノ缺點タルヲ免レス是レ本條第一款ノ如ク修正ヲ加ヘタル所以ナリ
本條第二項ハ現行商法第二百十八條後段ニ該當スルモノナリ抑モ現行商法第二百十八條ニ於テハ會社ハ株主總會ノ認定ヲ得タル後財產目錄及ヒ貸借對照表ヲ公吿シ且其公吿ニハ取締役及ヒ監査役ノ氏名ヲ載スヘキモノト爲スト雖モ本案ハ之ヲ以テ取締役ノ職務ト爲シ又財產目錄ハ浩瀚ニ亙リ之ヲ公吿スヘキモノトスルハ苛酷ニ失スルヲ以テ單ニ貸借對照表ノミヲ公吿スルヲ以テ足レリトシ又取締役ヨリ公吿ヲ爲ス以上ハ其氏名ヲ公吿中ニ記載スルハ勿論ニシテ又監査役ノ氏名ニ至リテハ必スシモ公吿中ニ記載セシムルノ必要ナキヲ以テ前者ハ明文ニ揭クルコトヲ止メ後者ハ之ヲ削除シタリ是レ本條第二項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第百九十三條
(理由)本條ハ現行商法中ニ存セサル所ナリト雖モ株主總會ニ於テ前條第一項ノ承認ヲ爲シタルトキハ其承認ノ效果如何ヲ定ムルコトハ甚タ必要ナリ蓋シ株主總會ニ於テ前條第一項ノ承認ヲ爲スモ尙ホ取締役及ヒ監査役ハ會社ニ對スル責任ヲ免ルルコトヲ得サルモノトセハ取締役及ヒ監査役ノ責任ヲシテ過度ニ重大ナラシメ到底其堪ヘ得ル所ニアラサルト共ニ株主總會ノ承認アルトキハ取締役及ヒ監査役ハ全ク其責任ヲ免ルルモノトセハ不正ノ行爲ヲ爲シタル取締役又ハ監査役ノ責任ヲシテ過度ニ輕カラシムルノ弊アリ故ニ本案ハ一方ニ於テハ承認ノ效果トシテ會社ニ對スル取締役及ヒ監査役ノ責任ヲ解除シタルモノト看做スヲ原則ト定メ他方ニ於テハ取締役又ハ監査役ニ不正ノ行爲アリタルトキハ此效果ヲ生セサルコトト爲シタリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第百九十四條
(理由)本條第一項ハ現行商法第二百十九條第二項ニ該當シ單ニ其字句ヲ修正シタルニ過キス之ニ反シテ本條第二項ハ本案ニ於テ額面ヲ超ユル價額ヲ以テスル株式發行ヲ認メタル結果トシテ規定シタルモノナレハ株式額面以上ノ發行ト共ニ現行商法中ニ其規定ヲ存セサリシモノトス抑モ額面以上ノ價額ヲ以テ株式ヲ發行セル場合ニ會社カ其差額ヲ得タルハ決シテ其營業上ノ利益ニアラサルヲ以テ之ヲ株主ニ配當スルノ必要ナク若シ此配當ヲ是認スルニ於テハ却テ株式ノ投機的取引ヲ奬勵シ其弊害ヲシテ一層甚タシカラシムヘシ故ニ此差額ヲ擧テ全ク準備金中ニ組入レシムルコト必要ナリ然レトモ此場合ト雖モ亦準備金ノ總額資本ノ四分ノ一ニ達スルヲ以テ足レリトス卽チ準備金ノ總額カ資本ノ四分ノ一ニ達スルトキハ株式ノ額面以上ノ發行ニ因リテ得タル差額ハ之ヲ準備金ニ組入ルルト將タ又之ヲ株主ニ配當スルトハ之ヲ會社ニ一任スルコト正當ナリトス是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第百九十五條
(理由)本條ハ現行商法第二百十九條第一項及ヒ第二百二十條ヲ合併シテ多少ノ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法第二百十九條第一項ニ於テハ「利息又ハ配當金」云々ト規定シ二者ヲ區別スト雖モ本案ハ利息ノ配當ニ關スル規定ヲ次條ニ讓リ本條ニハ單ニ利益ノ配當ノミヲ規定シタリ又現行商法第二百十九條第一項ニ於テハ「損失ニ因リテ減シタル資本ヲ塡補シ」云々ト規定スト雖モ結局損失ヲ塡補スルノ謂ニ外ナラサルヲ以テ本案ハ之ヲ改メ單ニ「損失ヲ塡補シ」云々ト爲シタリ又現行商法第二百二十條ニ於テハ現行商法第二百十八條及ヒ第二百十九條卽チ本案百九十二條第百九十四條第一項及ヒ本案第一項ニ該當スル規定ニ反シテ配當ヲ爲シタルトキハ會社又ハ其債權者ハ株主ニ對シテ直接ニ之ヲ取戾サント求ムルコトヲ得ルモノト爲スト雖モ疑義ナキ能ハス何トナレハ其配當ニ至ルマテノ手續カ法律ノ規定及ヒ會社ノ定款ニ適合スルニ於テハ假令損失ヲ塡補セサル場合若クハ法定ノ準備金ヲ控除セサル場合ト雖モ尙ホ其配當ハ配當トシテ效力ヲ生スヘシ之ニ反シテ配當ニ至ルマテノ手續カ法律ノ規定若クハ會社ノ定款ニ背反スルニ於テハ如何ナル場合タルヲ問ハス其配當ハ配當トシテ效力ヲ生セサルヘシ故ニ現行商法第二百二十條カ「前二條ノ規定ニ依ラスシテ拂出シタル利息又ハ配當金」云々ト謂ヘルハ廣キニ過クヘシ假リニ之ヲ前者ノ場合卽チ配當カ一應配當トシテ效力ヲ生スル場合ニ限ルト解スルモ尙ホ理論ノ貫徹セサルトコロナキ能ハス何トナレハ會社又ハ其債權者カ直接ニ之ヲ取戾サント求ムルコトヲ得トハ一方ニ於テハ會社ノ機關全體ノ誤謬若クハ詐欺アルニモ拘ハラス會社ニ取戾ヲ請求スル權利ヲ與フルノ必要ナカルヘク他方ニ於テハ會社ノ債權者ハ其配當金額ヲ以テ直ニ辨濟ニ充ツルニアラスシテ其配當金額ヲ一旦會社財產中ニ復歸セシメ以テ自己ノ債權ノ確保ヲ計ルニアリ從テ會社ノ債權者カ直接ニ株主ニ向テ其給付ヲ請求スルモノニアラサレハナリ故ニ本案ハ本條第一項ノ規定ニ反シテ爲シタル配當ハ會社ノ債權者ノミ之ヲ返還セシムルコトヲ得ルモノト爲ス其他現行商法第二百二十條ハ「直接ニ」云云ノ語ヲ存スト雖モ債權者ノ代位ハ新民法第四百二十三條ニ依リテ定マルヲ以テ茲ニ規定スル所ハ會社ノ債權者ヨリ直接ニ株主ニ請求スルモノナルコト勿論ナレハ特ニ「直接ニ」云々ノ語ヲ必要トセス是レ本條ノ如ク規定シタル所以ナリ
第百九十六條
(理由)本條ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ抑モ會社ハ損失ヲ塡補シ且法定ノ準備金ヲ控除シタル後ニ非サレハ利益ノ配當ヲ爲スコトヲ得ス從テ假令定款ヲ以テスルモ損益ノ如何ニ拘ハラス必ス一定ノ利息ヲ株主ニ配當スヘキ旨ヲ定ムルコトヲ得ス然レトモ絕對的ニ此原則ヲ固守スルトキハ容易ニ開業ニ至ラサル事業ヲ目的トスル會社ノ如キハ之ヲ設立セントスルモ其株式ヲ引受クル者ナカルヘシ何ントナレハ開業前ニ利益ヲ得テ株主ニ配當スルコトヲ得サルカ故ニ株主ハ株金ヲ拂込ミナカラ之ニ對スル利息ヲモ得サレハナリ故ニ容易ニ開業ニ至ラサル性質ノ事業ヲ目的トスル會社ニ限リ定款ヲ以テ開業ヲ爲スニ至ルマテ一定ノ利息ヲ株主ニ配當スヘキコトヲ定ムルヲ得セシムルコト實際上甚タ必要ナリトス唯タ此利息配當ハ幾多ノ弊害ヲ生スルノ恐アルヲ以テ之ヲ登記セシムルノミナラス登記前ニ裁判所ノ認可ヲ受ケシメ且其利率ハ法定利率ヲ超ユルコトヲ得サルモノト爲スコトモ亦必要ナリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第百九十七條
(理由)本條ハ現行商法第二百二十一條ノ規定ニ該當スルモノニシテ本案カ新ニ優先株ヲ認メタルノ結果一方ニ於テハ現行商法ニ所謂「平等ニ」云々ヲ削除シ他方ニ於テハ但書ヲ設ケタルノ外字句ヲ修正シタルニ過キス
第百九十八條
(理由)本條第一項ハ現行商法第二百二十四條ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ現行商法ニ於テハ檢査ヲ命スヘキ裁判所ヲ會社營業所ノ所在地ヲ管轄スル裁判所ト爲スト雖モ本案ハ何レノ地ノ裁判所カ檢査役ヲ選任スヘキカハ之ヲ手續法ニ讓ルヲ以テ相當ト認メタルカ故ニ現行商法ニ會社營業所ノ裁判所トアリタルヲ改メテ單ニ裁判所ト爲シタリ又現行商法ニ於テハ總株金ノ少クトモ五分ノ一ニ當ル株主ヨリ申立アルコトヲ要スルモノト爲スト雖モ株主ノ請求ヲ容ルルト否トハ裁判所ノ意見ニアリ從テ少數株主ノ請求ヲ許スモ實際之ヲ濫用スルノ恐尠キノミナラス假令之ヲ濫用スル者アリトスルモ之ト同時ニ他方ニ於テハ少數株主ノ權利ヲ伸張スルノ利益アリ以テ十分弊害ヲ償フニ足ルヘシ況ンヤ請求ノ果シテ相當ノ理由アルト否トハ請求スル株主ノ多數ナルト少數ナルトニ依ルモノニアラサルニ於テオヤ然レトモ之カ爲メ直チニ反對ノ極端ニ馳セ如何ニ少數ノ株主ナリトモ尙ホ本條第一項ノ請求ヲ爲スコトヲ許ストキハ容易ニ請求ヲ爲シ得ルノ極屢々無要ノ請求ヲ爲スモノアリテ裁判所ノ事務ヲ繁雜ナラシムルノ恐ナキニアラス從テ少數ノ株主カ其權利ヲ伸張シ得ヘキ限リハ相當ノ制限ヲ附スルコトモ必要ナリ故ニ本案ハ現行商法ニ所謂總株金ノ少ナクトモ五分一ニ當ル株主ノ申立ヲ改メテ資本ノ十分ノ一以上ニ當タル株主ノ請求ト爲シタリ又現行商法ニ於テハ裁判所ハ一人又ハ數人ノ官吏ニ檢査ヲ命スルモノト爲スト雖モ會社ノ業務及ヒ會社財產ノ狀況ヲ調査スルニ當リテハ間々特別ノ才能智識ヲ要スルコトアリ官吏カ必スシモ其任ニ適スルモノニアラス苟モ公力ヲ以テ調査ヲ爲スノ職權ヲ與フル以上ハ官吏ニ限ルノ必要ナク官吏ニアラサル者ト雖モ其任ニ適スル以上ハ之ヲシテ調査ノ任ニ當ラシムルコト至當ナリ故ニ本案ハ單ニ裁判所ハ檢査役ヲ選任スルモノト爲シタリ其他ハ字句ノ修正ニ過キス
本條第二項前段ハ現行商法第二百二十六條第一項ノ字句ヲ修正シ一層其主意ヲ明瞭ナラシメタルニ過キス之ニ反シテ同項後段ノ規定ハ現行商法中ニ存セサル所ナリト雖モ調査ノ結果意外ノ事實ヲ發見シ從テ株主總會ノ反省ヲ求メ其善後策ヲ施サシムルコト必要ナル場合ナキニアラス然ルニ此場合ニ裁判所ハ尙ホ之ヲ袖手傍觀シ取締役監査役又ハ株主カ株主總會ヲ招集スルヲ俟タサルヘカラサルモノトスルハ株主及ヒ會社ノ債權者ノ利益ヲ保護スル所以ニアラサルハ勿論甚シキニ至リテハ公益ニ關スルコトアルヘシ故ニ裁判所ハ監査役ニ命シ株主總會ヲ招集セシムルコトヲ得ルモノトスルコト甚タ必要ナリ是本案カ新ニ本條第二項後段ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
其他現行商法第二百二十五條ニ於テハ檢査官吏ノ職權ヲ規定スト雖モ裁判所カ檢査役ヲ選任スルハ素ヨリ會社ノ業務及ヒ會社財產ノ狀況ヲ調査スル爲メナルヲ以テ其檢査役ハ會社ノ業務及ヒ會社財產ノ狀況ヲ調査スル爲メ必要ナル一切ノ行爲ヲ爲スノ職權ヲ有シ若シ取締役又ハ監査役ニシテ此職權ノ行使ヲ妨害シタルトキハ之ヲ過料ニ處シ以テ檢査役ノ職權行使ヲ保護ス從テ現行商法第二百二十五條カ檢査官吏ノ權利トシテ列擧シタルモノ卽チ會社ノ金匣財產現在高帳簿及ヒ總テノ書類ヲ檢査スル權利竝ニ取締役及ヒ其他ノ役員ニ說明ヲ求ムル權利ノ如キハ當然檢査役ノ職權中ニ包含スヘク別ニ明文ヲ設クルノ必要ナシ故ニ本案ハ之ヲ削除シタリ又現行商法第二百二十六條第二項ニ於テハ檢査官吏カ作リタル調書ノ謄本ニ關スル規定ヲ揭クト雖モ檢査役ノ報吿書ノ謄本ニ關スル規定ノ如キハ手續法中ニ揭クルコト正當ナリ故ニ本案ハ亦之ヲ削除シタリ又現行商法第二百二十七條ニ於テハ主務省ハ何時ニテモ其職權ヲ以テ地方長官又ハ其他ノ官吏ニ命シ會社ノ業務及ヒ會社財產ノ狀況ヲ檢査セシムルコトヲ得ルモノト爲スト雖モ公益上ヨリ會社ヲ監督スルカ爲メニハ裁判所ノ命ニ依リテ行フ本條ノ調査手續ヲ以テ足レリ別ニ行政官廳ヲシテ檢査ヲ爲サシムルノ必要ナキノミナラス行政官廳ニ此檢査ヲ許ストキハ屢々之ヲ濫用シ會社事業ニ無要ノ干涉ヲ爲スノ弊害アリ況ンヤ此現行商法ノ規定ハ會社ノ發起竝ニ設立ニ政府ノ免許ヲ必要トシタルト同一ノ趣旨ニ出テ本案ハ旣ニ此免許ノ制度ヲ全ク廢止シタルニ於テオヤ故ニ本案ハ亦之ヲ削除シ行政官廳ノ職權ヲ以テスル檢査ヲ廢止シタリ
第五節 社債
(理由)本節ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ蓋シ現行商法中社債ニ關スル規定トシテハ唯タ第二百六條第二項アルノミ故ニ本案ハ該項ノ規定及ヒ社債ニ關スル特別法卽チ明治二十三年八月八日法律第六十號ヲ修正シテ本節ノ規定ヲ設ケタリ
第百九十九條
(理由)本條ハ現行商法第二百六條第二項ノ解釋上ヨリ存シタリシ法律ヲ示シタルニ過キス抑モ現行商法ニ於テハ資本ノ增加ト社債ノ募集トヲ混同セルニアラサルカノ疑ヲ容ルル餘地アリ假令混同ナシトスルモ社債ノ募集ヲ定款變更ノ一款中ニ規定セルヲ以テ考フレハ之ヲ定款變更ノ一種ト看做シタルハ明カナルヘシ故ニ現行商法第二百三條及ヒ第百六十四條ヲ適用シテ本條ト同一ノ結果ヲ生ス而シテ本案カ之ヲ採用セルハ他ナシ社債ヲ募集シテ之ヲ營業上ニ使用スルカ如キハ頗ル重大ノ事項ニシテ一方ニ於テハ會社營業ノ方針ニ關係シ他方ニ於テハ各株主ノ受クル利益ノ配當ニ影響スヘケレハナリ
第二百條
(理由)本條ハ現行商法中ニ存セサリシトコロニシテ明治二十三年八月八日法律第六十號第二條ヲ採用シ之ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ卽チ同條ノ規定ニ依レハ社債ノ發行額ハ拂込ミタル株金額ヲ超過スルコトヲ得ストアリテ會社ニ損失ナク從テ現存財產カ拂込ミタル株金額以上ナル場合ニ付テハ充分ナレトモ現存財產カ拂込ミタル株金額ニ充タサル場合ニ付テハ未タ充分ナラサルトコロアリ蓋シ會社カ社債ヲ募集シテ廣ク債權者ヲ求ムルニ當リテハ公安上ヨリ其債權ノ擔保ヲ確實ナラシムルカ爲メ相當ノ取締ヲ要シ之カ爲メニ同上ノ如キ規定ヲ設ケタルモノナレハ假令拂込ミタル株金額ハ如何ニ多キモ損失ノ爲メニ現存財產カ減少シタル場合ニハ社債ニ對スル擔保モ亦減少シタルモノト謂ハサルヘカラス故ニ現存財產カ拂込ミタル株金額ヨリ少額ナル場合ニ於テハ現存財產ノ額以上ニ社債ヲ募集スルコトヲ許ササルコトト爲シタリ而シテ此現存財產ノ額ヲ知ルニハ社債ヲ募集スル每ニ會社ノ計算ヲ閉鎖シ財產目錄及ヒ貸借對照表ヲ作成セシムルコト最モ精確ナルモ是レ甚タ煩ハシキニ過クルノ嫌アルヲ以テ本案ハ會社ノ現存財產ノ狀態ヲ知ルニ付テハ比較的ニ最モ確實ナル最終ノ貸借對照表ニ依ルコトト爲シタリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二百一條
(理由)本條ハ現行商法第二百六條第二項ノ一部ニ該當スルモノナリ抑モ現行商法ニ於テハ債券ノ金額ニ付キ株式ノ金額ニ關スル第百七十五條ノ規定ヲ適用シ二十圓ヲ下ルコトヲ得ス又其資本十萬圓以上ナルトキハ五十圓ヲ下ルコトヲ得スト爲スト雖モ本案ハ株式ニ付キ資本ノ多寡ニ依リテ金額ニ區別ヲ設ケサルト同シク社債ニ付テモ亦資本ノ多寡ニ依リテ金額ニ區別ヲ設ケス然ルニ株式ニ關スル本案ノ規定ニ依ルトキハ一時ニ其全額ヲ拂込ムヘキ場合ニハ二十圓ヲ下ルコトヲ得サルモノト爲シ而シテ本節ノ規定ニ依ルトキハ社債ノ拂込ハ必ス一時ニ之ヲ爲スヘキモノナルカ故ニ現行商法カ二十圓ヲ下ルコトヲ得スト規定シタルモノヲ其儘一般ノ社債ニ付キ採用スルコト敢テ不當ニアラサルヘシ是レ本條ノ如ク修正ヲ加ヘタル所以ナリ
第二百二條
(理由)本條ハ現行商法及ヒ明治二十三年八月八日法律第六十號中ニ存セサリシトコロニシテ或者ハ現行商法第二百二十一條ヲ援引シテ拂込金額ニ應シテ平等ニ償還スヘシト論スレトモ正當ノ解釋ニアラス故ニ本案ハ此缺點ヲ補充シテ拂込金額ヲ超エテ償還スヘキコトヲ約スル場合ニハ其償還金額カ必ス同一ナルヲ要スト定メタリ是レ濫リニ各債券ニ付キ償還金額ヲ異ニスルコトヲ許スニ於テハ富籤ニ類スル賭事ヲ公行スルコトト爲リ公安ヲ害スル恐アルカ爲メナリトス
第二百三條
(理由)本條ハ現行商法中ニハ勿論明治二十三年八月八日法律第六十號及ヒ明治二十六年七月七日農商務省令第十二號(株式會社ノ債券ニ關スル細則)中ニモ存セサル所ニシテ明治二十三年法律第六十號第四條及ヒ第五條ニ依レハ債券中ニ此等類似ノ事項ヲ記載スヘキモノト定メラレ明治二十六年農商務省令第十二號第一條及ヒ第二條ニ依レハ債券發行ノ認許申請書中ニ此等類似ノ事項ヲ記載スヘキモノト定メラレタルニ過キス然レトモ社會公衆ヲ保護スル點ヨリ考フレハ唯タ之ヲ債券面ニ記載スルノミヲ以テ足レリトセス是レ本案カ新ニ本條ノ規定ヲ設ケテ會社ノ資本竝ニ財產ノ槪略及ヒ社債募集ノ重要ナル條件等ヲ公吿スルノ義務ヲ取締役ニ負擔セシメタル所以ナリ
第二百四條
(理由)本條モ亦現行商法其他附屬法令中ニ存セサルトコロナリ抑モ會社カ社債ヲ募集スルハ金錢ノ必要ニ迫ルカ爲メナレハ目下必要ノ金額ヲ募集スレハ足レリ後日必要ノ場合ニハ更ニ又其必要ノ金額ヲ募集スヘシ唯タ募集ニ要スル僅少ノ費用ヲ省カンカ爲メ豫メ將來必要ヲ生スヘキ金額ヲモ募集スルカ如キハ何等ノ利益ナキノミナラス往々種々ノ弊害ヲ伴フコトアルヘシ況ンヤ社債ノ募集ニ應シタル者ト雖モ將來支拂能力ヲ減シ若クハ之ヲ失フコトアルヘク讓受人ト雖モ亦同樣ナルヘシ從テ拂込ヲ後日ニ延期スルトキハ會社ハ其拂込ヲ受クルコトヲ得サルノ恐アリ殊ニ本案ノ如ク無記名社債ノ發行ヲ許シタルモノニ在テハ其全額ヲ一時ニ拂込マシムルコト必要ナリトス故ニ本案ハ社債ノ募集カ完了シタルトキハ取締役ハ各社債ニ付キ其全額ヲ拂込マシムルコトヲ要スルモノト爲ス而シテ社債全額ノ拂込アリタルトキハ會社ノ財產上ノ狀態ニ一大變更ヲ生シ從來會社ノ債權者タリシ者ハ勿論苟クモ會社ト法律關係ヲ生セント欲スル者ニ對シテモ重大ノ關係ヲ及ホス故ニ本案ハ全額ノ拂込ヲ受ケタル日ヨリ二週間內ニ本店及ヒ支店ノ所在地ニ於テ(一)社債ノ總額(二)社債ノ總數及ヒ其金額(三)社債ノ利率(四)社債償還ノ方法及ヒ期限ヲ登記スヘキモノト爲ス是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二百五條
(理由)本條ハ明治二十三年八月八日法律第六十號第四條ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ同條ニ依レハ債券ハ一通每ニ其金額ヲ記載スヘキモノト爲スト雖モ各社債ニ付キ必ス債券一通ヲ作ラシムルノ必要ナク且各社債ニ付キ必ス債券一通ヲ要スル旨ノ規定ナキ以上ハ數社債ヲ合シテ債券一通ヲ作ルコトヲ得ヘク此場合ニハ債券一通每ニ其金額ヲ記載セシムルモ各社債ノ金額ヲ明ニスルニ足ラサルヘシ故ニ本案ハ社債ノ總額社債ノ總數及ヒ其金額ヲ債券ニ記載スルコトヲ要スルモノト爲ス同條第三號ニ依レハ社債償還ノ方法ヲ債券ニ記載スヘキコトヲ規定セスト雖モ社債償還ノ方法ハ其期限ト等シク社債權者ノ利害ニ關スルヲ以テ之ヲ債券ニ記載セシムルコト必要ナリ故ニ本案ハ社債償還ノ方法ヲモ債券ニ記載スルコトヲ要スルモノト爲ス其他同條ニ依レハ利子ノ支拂時期及ヒ債券發行ノ年月日ヲモ債券ニ記載スルコトヲ要スルモノト爲スト雖モ之ヲ債券ニ記載セサリシ故ヲ以テ其債券ヲ無效ト爲スハ苛酷ニ失スルカ故ニ本案ハ之ヲ削除シ又同條ニ依レハ債券ニハ社印及ヒ取締役ノ印ヲ押捺スルコトヲ要スルモノト爲スト雖モ本案ニ於テハ一般ニ社印及ヒ取締役ノ印ニ關スル現行商法ノ制度ヲ廢止シタルヲ以テ債券ニモ社印及ヒ取締役ノ印ヲ押捺スルコトヲ要セサルモノト爲ス又同條ニ依レハ債券ニハ債權者ノ氏名ヲ記載スルコトヲ要スルモノト爲ス是レ現行商法第二百六條第二項ニ於テ會社カ發行シ得ヘキ債券ヲ記名ノモノニ限リタル結果ナリト雖モ我國現今ノ實際ニ於テ無記名式ノ證券ノ發行セラルルモノ尠カラサルモ之カ爲メ何等ノ弊害ナク從テ將來無記名式ノ債券ヲ發行スルコトヲ許スモ亦何等ノ弊害ナキノミナラス却テ大ニ便利ヲ與フルコトアルヘキハ察スルニ餘リアリ故ニ本案ハ無記名式ノ債券ヲ認メ債券ニハ債權者ノ氏名ヲ記載スルコトヲ要セサルモノト爲シタリ又同條ニ依レハ會社ノ營業所、株金總額及ヒ拂込額、會社開業ノ年月日、存立時期ヲ定メタルトキハ其時期ヲ債券ニ記載スルコトヲ要スルモノト爲スト雖モ此等ノ事項ハ之ヲ記載セシムルノ必要ナキカ故ニ本案ハ之ヲ削除シタリ又同條ニ依レハ認許ヲ受ケタルコトヲ債券ニ記載スルコトヲ要スルモノト爲スト雖モ本案ハ此認許ノ制度ヲ廢シ債券ヲ發行スルニハ主務省ノ認許ヲ受クルコトヲ要セサルモノト爲ス從テ認許ヲ受ケタルコトハ之ヲ債券ニ記載スルコトヲ要セス是レ本條ノ如ク修正ヲ加ヘタル所以ナリ
第二百六條
(理由)本條ハ明治二十三年八月八日法律第六十號第六條ニ該當ス抑モ明治二十三年法律第六十號第六條ニ依レハ單ニ債券ノ讓渡ト曰フト雖モ本案ニ於テハ記名社債アリ無記名社債アリ而シテ同條ノ規定ニ依ラシムルハ記名社債ノミナルヲ以テ之ヲ改メ記名社債ニ限ルコトヲ示スノ必要アリ又同條ニ依レハ取得者ノ住所ヲ社債原簿ニ記載スルコトヲ要セスト雖モ記名株式ノ讓渡ニ關スル本案ノ規定ト權衡ヲ得セシムルカ爲メ記名社債ノ讓渡ニ付テモ亦讓受人ノ住所ヲ社債原簿ニ記載スルコトヲ要スルモノト爲スコト正當ナリ又同條ニ依レハ法定ノ手續ヲ踐マサル社債ノ讓渡ハ會社ニ對シ其效ナキ旨ヲ規定スルニ止マルト雖モ記名株式ノ讓渡ニ關スル例ニ準シ法定ノ手續ヲ踐マサル記名社債ノ讓渡ヲ以テ會社其他ノ第三者ニ對抗スルコトヲ得サルモノト爲スコト正當ナリ是レ本條ノ如ク修正ヲ加ヘタル所以ナリ
第二百七條
(理由)本條ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ是レ現行商法ニ於テハ債券ハ必ス記名式ニ限リ無記名式ト爲スコトヲ許ササルカ爲メナリト雖モ本案ハ新ニ無記名式ノ債券ノ發行ヲ許シタルヲ以テ社債權者ニ何時ニテモ其記名式ノ債券ヲ無記名式ト爲シ又無記名式ノ債券ヲ記名式ト爲スコトヲ請求スルコトヲ得セシムルノ必要アリ是レ本案カ新ニ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第六節 定款ノ變更
(理由)本節ハ現行商法第一編第六章第三節第七款ニ該當スルモノニシテ定款ノ變更ニ關スル規定ヲ揭ク蓋シ定款ハ株式會社ニ取リ極メテ重要ノモノナルヲ以テ本案ハ現行商法其他ノ各國立法例ニ倣ヒ其變更ニ付キ特ニ一節ヲ設ケテ之ヲ規定スルコトト爲シタリ現行商法第二百十條ニ於テハ變更及ヒ移轉ノ登記ニ關スル規定ヲ揭クト雖モ是レ本案第十五條第五十二條第五十三條及ヒ第百四十一條ノ規定ニ依リ當然言フヲ俟タサル所ナルヲ以テ本案ハ之ヲ削除シタリ
現行商法第二百十一條ニ於テハ定款ノ變更ヲ主務省ニ屆出ツヘキモノト爲スト雖モ旣ニ設立免許ノ制度ヲ廢止スル以上ハ定款ノ變更モ亦之ヲ屆出ツルコトヲ要セサルヤ勿論ナリ故ニ本案ハ亦之ヲ削除シタリ
第二百八條
(理由)本條ハ現行商法第二百五條ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ株主總會ハ會社ノ最高機關ナルヲ以テ其決議ニ依リ定款ヲ變更シ得ルコトハ勿論ナリ從テ明文ヲ以テ之ヲ規定スルノ必要ナキカ如シト雖モ定款ナルモノハ發起人株式引受人ノ同意ニ成リ其設立後ニ株主ト爲リタル者モ亦之ヲ認メタルモノト看做スヘク從テ何等ノ規定ナキトキハ總株主ノ同意アルニアラサレハ之ヲ變更スルコトヲ得サルカノ疑アリ故ニ本案ハ現行商法第二百五條ニ倣ヒテ之ヲ明カニシタリ又現行商法第二百五條ニ於テハ其列擧以外ノ方法ニ依リ定款ヲ變更スルコトヲ得サルヤ否ヤヲ明言セスト雖モ苟モ法律ニ定款變更ノ方法ヲ規定スル以上ハ其規定セサル方法ニ依リ定款ヲ變更スルコトヲ禁セサルヘカラス故ニ本案ハ特ニ「株主總會ノ決議ニ依リテノミ」云々ト曰ヒ以テ其趣旨ヲ明ニシタリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
其他現行商法第二百五條ニ於テハ會社ハ定款ニ定アルトキハ定款ヲ變更スルコトヲ得ル旨ヲモ規定スト雖モ其意義如何ニ付テハ疑アリ若シ定款ニ於テ場合ヲ豫定シ其場合ニハ當然定款ヲ變更シタルモノトスルニアリトセハ是レ定款ノ規定ニ對シ一方ニ於テハ或規定カ其效力ヲ失フヘキ時期ヲ定メ他方ニ於テハ他ノ規定カ其效力ヲ生スヘキ時期ヲ定メタルモノニシテ之ヲ爲シ得ヘキコト當然ナリ又若シ定款ニ於テ豫定シタル場合ニハ株主總會ノ決議ニ依リ定款ヲ變更スルニアリトセハ株主總會ノ決議ニ依リ定款ヲ變更シ得ルコトハ是レ亦當然ナリ又若シ定款ニ豫定シタル場合ニハ株主總會ノ決議ニ依ラスシテ取締役又ハ監査役其他ノ者ヲシテ定款ヲ變更スルコトヲ得セシムルニアリトセハ株式會社ニ取リテ最モ重要ナル定款ヲ輕視スルモノニシテ實際上危險ナリ何レニスルモ無要若クハ不當ノ規定タルヲ免カレサルカ故ニ本案ハ之ヲ削除シタリ又現行商法第二百五條ニ於テハ定款變更ノ結果法律ノ規定ニ違背スルコトヲ得サル旨ヲ定ムト雖モ是レ素ヨリ當然言フヲ俟タサル所ナルヲ以テ本案ハ之ヲ削除シタリ又現行商法第二百五條ニ於テハ定款變更ノ結果政府ヨリ免許ニ附シタル條件ニ違背スルコトヲ得サルモノト爲スト雖モ本案ニ於テハ設立免許ノ制度ヲ廢止シタルヲ以テ此規定モ亦無要ニ屬ス故ニ之ヲ削除シタリ
第二百九條
(理由)本條第一項ハ現行商法第二百三條第一項ノ一部ニ該當スルモノニシテ現行商法ハ任意ノ解散ノ決議ニ關スル規定ト共ニ株主總會ニ關スル一款中ニ之ヲ揭ケタリト雖モ斯ノ如キ特別ノ規定ハ各其關係ノ個所ニ揭クルコト却テ便宜且明瞭ナルヲ以テ本案ハ解散ニ關スル規定ヲ解散ノ一節中ニ讓リ其定款ノ變更ニ關スルモノノ字句ヲ修正シテ之ヲ本條第一項ニ規定シタリ
本條第二項及ヒ第三項ハ現行商法第二百三條第二項ノ一部ニ該當ス抑モ現行商法第二百三條第二項ニ於テハ定款ノ變更ヲ決議スルニ必要ナル員數ノ株主カ出席セサル場合ニ處スヘキ便宜方法ヲ規定スト雖モ未タ盡ササル所アリ卽チ現行商法ニ於テハ如何ナル方法ニ依リテ假決議ヲ爲スヘキカ又如何ナル期間內ニ第二回ノ總會ヲ招集スルコトヲ要スルカヲ定メサルノミナラス無記名株券ヲ認メサリシヲ以テ之ヲ發行シタル場合ニ關スル規定ヲ缺ク卽チ此場合ニハ一々株主ニ通知ヲ發スルコトヲ得サルカ故ニ公吿ヲ以テ之ニ代ユルノ必要アリ又現行商法ニ於テハ第二回ノ株主總會ヲ招集スルニ當リテハ第二回ノ總會ニ於テ出席シタル株主ノ多數ヲ以テ第一回ノ總會ノ決議ヲ認可シタルトキハ之ヲ有效トスヘキ旨ヲモ各株主ニ通知スルコトヲ要スト爲スト雖モ此ノ如キ通知ヲ爲スノ必要ナキノミナラス出席シタル株主ノ議決權ノ過半數ヲ以テ認否ヲ決セシメスシテ單ニ其多數ヲ以テ之ヲ決セシムルコト不當ナリ是レ本條第二項及ヒ第三項ノ如ク修正ヲ加ヘタル所以ナリ
本條第四項ハ現行商法中ニ存セサル所ナリト雖モ定款ヲ變更シ從テ會社ノ目的タル事業ヲ變更スル場合ニ於テハ事體重大ナルヲ以テ必ス本條第一項ノ規定ニ從ハシムヘク本條第二項及ヒ第三項ノ規定ノ如ク簡易ナル手續ニ依リ之ヲ決セシムルコト不當ナリ是レ本案カ新ニ本條第四項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二百十條
(理由)本條ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ抑モ會社ノ資本ハ株金全額ノ拂込アリタル後ニアラサレハ之ヲ增加スルコトヲ得サルヤ否ヤハ現行商法ノ規定セサル所ナリト雖モ別段明文ナキ限リハ旣ニ株金全額ノ拂込アリタルト否トヲ問ハス資本ヲ增加スルコトヲ得ルモノト謂ハサルヘカラス然レトモ會社カ資本ヲ增加スルハ事業ニ必要ナル資金ヲ得ンカ爲メナレハ拂込ノ未濟ナル株金額ヲ拂込マシムルコトニ因リテ事業ニ必要ナル資金ヲ得ルノ途アルニモ拘ラス之ヲ爲サスシテ資本ヲ增加スルコトヲ得セシムルハ無要ナリ殊ニ會社ノ資本多額ニ過クルトキハ却テ之カ爲メ會社ノ基礎ヲ危クスルコトアリ資本ノ增加ハ必要ナルコト勿論ナルモ亦屢々之ヲ濫用スルコトアリテ却テ種々ノ弊害ヲ存スルモノナレハ容易ニ之ヲ行ハシムヘキモノニアラス是レ本案カ新ニ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二百十一條
(理由)本條モ亦現行商法中ニ存セサル所ナリ抑モ現行商法第二百二十一條ニ於テハ利息又ハ配當金ノ分配ハ各株ニ付キ拂込ミタル金額ニ應シ總株主ノ間ニ平等ニ之ヲ爲スト規定シ同第二百四十九條第一項ニ於テハ淸算人ハ會社ノ債務ヲ濟了シタル殘餘ノ財產ヲ各株主ニ其所有株數ニ應シ金錢ヲ以テ平等ニ分配スト規定シ毫モ之ニ對シテ例外ヲ設ケサルカ故ニ此規定ハ利益ノ配當又ハ錢餘財產ノ分配ニ當リ或株式ヲ有スル者ハ他ノ株式ヲ有スル者ニ比シ優等ノ權利ヲ有スルコトヲ許サス卽チ所謂優先株ヲ認メサルモノト解セラル假令或ハ此規定ヲ以テ優先株主ハ其優先株主相互ノ間ニ於テ普通株主ハ其普通株主相互ノ間ニ於テ同等ノ權利ヲ有スヘキモノト爲スニ止マリ優先株主ト普通株主トノ間ニ權利ノ優劣アルヲ妨ケサルモノト解スルノ正當ナルコトヲ主張スル者ナキニアラス殊ニ起草者ロエスレル氏ノ說明ニ依ルモ亦優先株ヲ禁スルノ趣旨ニアラサルカ如シト雖モ該條ニ所謂「平等ニ」云々ノ一句ハ到底此說ヲ容ルルノ餘地ナシ現行商法ノ解釋トシテハ優先株ヲ認ムヘカラサルコト此ノ如シト雖モ翻テ立法上ヨリ之ヲ觀察スルトキハ優先株ノ發行ハ或制限ノ下ニ之ヲ許ササルヘカラサルコトハ殆ト疑ヲ容レサル所ナリ唯タ濫リニ之ヲ發行セシムルノ不可ナルノミ卽チ實際上優先株ヲ發行スルノ必要アルハ設立ノ際ニアラスシテ資本ヲ增加スル爲メ新株ヲ發行スル場合ニアルカ故ニ此場合ノミニ限ラサルヘカラス又優先株ヲ發行スルコトハ事體重大ナルヲ以テ之ヲ定款ニ記載セシムルコト亦必要ナリトス是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二百十二條
(理由)本條ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ抑モ現行商法ニ於テハ優先株ヲ認ムルヤ否ヤ疑アリ而シテ多數ノ解釋者ハ之ヲ認メサルモノト爲スト雖モ本案ハ優先株ヲ認ムルヲ以テ優先株主ノ權利ヲ安全ナラシメ公平ニ之ヲ保護スルカ爲メニハ特別ノ規定ヲ設ケ株主總會ノ外優先株主ノ總會ナルモノヲ認メ定款ノ變更ニシテ優先株主ニ損害ヲ及ホスヘキトキハ株主總會ノ決議ノ外別ニ優先株主ノ總會ノ決議アルコトヲ要スルモノト爲スコトヲ要ス而シテ此優先株主ノ總會ニ加ハルコトヲ得ヘキ者ハ優先株主ニ限リ通常ノ株主ハ之ニ加ハルコトヲ得サルカ如キ特別ナル性質アリト雖モ其大體ニ於テハ株主總會ト異ラサルヲ以テ株主總會ニ關スル規定ハ亦之ヲ優先株主ノ總會ニ準用スヘキモノト爲スコト便宜ナリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二百十三條
(理由)本條ハ現行商法中ニ存セサル所ナリト雖モ旣ニ設立ノ場合ニ本條ニ該當スヘキ規定ヲ設クル以上ハ資本ヲ增加シタル場合ニモ亦之ヲ規定スルノ必要アルコト勿論ナリ是レ本案カ設立ノ場合ニ關スル本案第百三十一條第一項及ヒ第百三十二條ノ例ニ準シ新ニ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二百十四條
(理由)本條モ亦現行商法中ニ存セサル所ナリ抑モ設立ノ場合ニ於テハ創立總會カ選任シタル取締役及ヒ監査役ヲシテ調査報吿ヲ爲サシメ唯タ其者カ發起人タリシ場合ニ限リ總會ハ特ニ選任シタル檢査役ヲシテ之ニ代ハリ調査報吿ヲ爲サシムルコトヲ得ルモノト爲スト雖モ增資ノ場合ニ於テハ大ニ之ト事情ヲ異ニシ卽チ取締役ハ新株發行ノ局ニ當リ發起人ト殆ント同一ノ地位ニアルノミナラス設立後ハ取締役ト監査役ト全然其職權ヲ區別シ株主總會ノ議ニ附スヘキ事項ヲ調査シ其結果ヲ報吿スルヲ以テ監査役ノ任務ト爲スニモ拘ハラス增資ノ場合ニ限リ取締役ニモ亦此任務ヲ負ハシムルハ二者職權ノ區別ヲ破壞スルモノタルヲ免レス何レノ點ヨリ觀察スルモ取締役ヲシテ調査報吿ヲ爲サシムルコト不當ナルヲ以テ本條第一項ハ獨リ監査役ノミニ限リ調査報吿ノ任ニ當ルヘキモノト爲シタリ而シテ監査役ハ如何ナル場合ニ於テモ自己ノ職務ト取締役ノ職務トヲ兼行フコトナキヲ以テ設立ノ場合ノ如ク監査役ニ代ハリテ調査報吿ヲ爲サシムヘキ檢査役ヲ選任スルノ必要ナシト雖モ本案第百五十九條第二項ニ準シ監査役ノ調査報吿ノ外別ニ調査報吿ヲ爲サシムル爲メ株主總會ヲシテ特ニ檢査役ヲ選任スルコトヲ得セシムノ必要アリ故ニ本條第二項ニ於テハ株主總會ハ此檢査役ヲ選任スルコトヲ得ルモノト爲シタリ又設立ノ場合ニ於テハ本案第百二十二條第三號及ヒ第五號ニ揭ケタル事項ヲモ調査スヘキモノト爲スト雖モ此等ノ事項ハ設立ノ場合ノミニ限リ存スルモノニシテ增資ノ場合ニ存スルモノニアラス從テ之ヲ調査セシムルノ必要ナシ故ニ本條ハ此等ノ事項ヲ揭ケス其他ハ設立ノ場合ニ關スル本案第百三十四條ト其趣旨ヲ異ニスル所ナキヲ以テ茲ニ再ヒ說明スルノ必要ナシ
第二百十五條
(理由)本條モ亦現行商法中ニ存セサル所ナリト雖モ旣ニ設立ノ場合ニ付キ第百三十五條ノ規定ヲ設クル以上ハ資本增加ノ場合ニ付テモ亦之ニ該當スヘキ規定ヲ設クルコト必要ナリ唯タ設立ノ場合ニ於テハ第百二十二條第三號及ヒ第五號ニ揭ケタル事項ヲモ變更スルコトヲ得セシムルモ資本增加ノ場合ニハ此等ノ事項存セサルコト旣ニ前條ニ於テ述ヘタル如クナルヲ以テ本條ニ之ヲ規定セサルノミ是レ本案カ新ニ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二百十六條
(理由)本條モ亦現行商法中ニ存セサル所ナリト雖モ旣ニ設立ノ場合ニ付キ第百三十六條ノ規定ヲ設クル以上ハ資本增加ノ場合ニ付テモ亦之ニ該當スヘキ規定ヲ設クルコト必要ナリ是レ本案カ新ニ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二百十七條
(理由)本案第一項ハ現行商法第二百十條第一項ノ一部ニ該當スルモノトス抑モ現行商法第二百十條第一項ニ於テハ資本增加ニ付テモ亦變更ノ登記ニ關スル一般ノ規定ヲ適用スルニ止マリ別段ノ規定ヲ設ケスト雖モ本案ハ特ニ之ヲ規定スルノ必要ナルコトヲ認メ設立ノ登記ニ關スル本案第百四十一條第一項ノ規定ヲ斟酌シテ本條第一項ノ規定ヲ設ケタリ
本條第二項ハ現行商法第百七十九條及ヒ第百八十條ノ一部ニ該當スルモノナリ抑モ現行商法第百七十九條ニ於テハ登記前ニ株券ヲ發行スルコトヲ禁シ又同第百八十條ニ於テハ登記前ニ爲シタル株式ノ讓渡ヲ無效ト爲シ其新株券若クハ新株式ナルト否トニ依リテ區別ヲ立テサルヲ以テ此規定ハ新株券及ヒ新株式ニモ亦適用スヘキモノト解セラルルモ其登記ナル語ハ單ニ設立ノ登記ノミヲ指スカ將タ又資本增加ノ登記ヲモ包含シ卽チ設立ノ際發行スル株券及ヒ株式ニ付テハ設立ノ登記ヲ指シ增資ノ際發行スル新株券及ヒ新株式ニ付テハ資本增加ノ登記ヲ指スモノト解スヘキカ疑アリ而シテ立法上ヨリ之ヲ觀察スルトキハ後者ヲ探ルヘキコト勿論ナルヲ以テ本案ハ資本增加ノ際發行スル新株券及ヒ新株式ニ付テハ本條第二項ノ規定ヲ設ケ以テ之ヲ明カニシタリ
第二百十八條
(理由)本條第一項ハ現行商法中ニ存セサル所ナリト雖モ旣ニ本案第百四十九條第二號ノ如ク第百四十一條第一項ノ規定ニ從ヒ本店ノ所在地ニ於テ爲シタル登記ノ年月日ヲ株券ニ記載セシムル以上ハ前條第一項ノ規定ニ從ヒ本店ノ所在地ニ於テ爲シタル登記ノ年月日ヲ新株券ニ記載セシムルコトモ亦必要ナリ是レ本案カ新ニ本條第一項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
本條第二項モ亦現行商法中ニ存セサル所ナリ是レ現行商法カ優先株ノ發行ヲ許ササルカ爲メナリト雖モ本案ノ如ク優先株ノ發行ヲ許ス以上ハ其優先株主ノ權利ヲ株券ニ記載セシムル必要アルハ勿論ナリ是レ本案カ新ニ本條第二項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二百十九條
(理由)本條ハ新株ニ特別ナル規定ニ非スシテ設立ノ際發行スル株式及ヒ株券ニ關スル規定ト同一ナルカ爲メ之ヲ準用シ以テ法文ヲ簡單ナラシムルモノニ外ナラス
第二百二十條
(理由)本條第一項ハ現行商法第二百六條第一項後段ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法第二百六條第一項後段ニ於テハ資本ノ減少ハ株券ノ金額又ハ株數ヲ減シテ之ヲ爲スヘキモノト爲シタレトモ若シ此規定ハ單ニ資本ヲ減少スル方法ヲ例示シタルニ過キサルモノトセハ無要ノ規定ナリト謂ハサルヘカラス之ニ反シテ若シ此規定ニシテ資本ヲ減少スル方法ヲ制限シ其列擧以外ノ方法ニ依ルコトヲ許ササルモノトセハ不當ノ規定タルヲ免レサルヘシ蓋シ資本ヲ減少スルニハ數多ノ方法アリ或ハ未タ株金ノ全額ヲ拂込マサル場合ニ於テ其拂込ミタル額マテニ資本ヲ減少スルコトアリ或ハ會社カ事業ニ因リ損失ヲ受ケタル場合ニ於テ其減少シタル額マテニ資本ヲ減少スルコトアリ或ハ會社資本ヲ以テ各株主ニ株金ノ幾分ヲ拂戾シ若シクハ株式ヲ買入レテ資本ヲ減少スルコトアリ其他各種ノ方法ニ依リテ之ヲ行フコトヲ得ヘキカ故ニ株主總會ニ於テ資本減少ノ決議ヲ爲ストキハ之ト同時ニ其減少ノ方法ヲモ決議セシムルコト必要ナリ是レ本案カ現行商法第二百六條第一項後段ノ規定ニ修正ヲ加ヘ本條第一項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ本條第二項ハ現行商法第二百七條乃至第二百九條ノ規定ニ該當スルモノナリ抑モ現行商法第二百七條乃至第二百九條ニ於テハ資本減少ノ手續ニ關シテ特別ノ規定ヲ設クト雖モ資本ノ減少ハ會社ノ合併ト等シク重要ナル事項ナルノミナラス會社ノ債權者ノ利益ヲ保護スル爲メ特別ノ規定ヲ設クルノ必要アルコト二者全ク異ナル所ナキヲ以テ二者同一ノ規定ニ依ラシムルコト適當ナリ是レ本條第二項ニ於テ會社ノ合併ニ關スル規定ヲ資本減少ノ場合ニ準用スヘキモノト爲シタル所以ナリ
其他現行商法第二百六條第一項但書ニ於テハ資本ハ其全額ノ四分ノ一未滿ニ減スルコトヲ得サルモノト爲シタリ是レ同第二百三十條第四號ニ於テ資本ノ四分一未滿ニ減シタルコトヲ以テ會社解散ノ事由ト爲シタルト同一ノ趣旨ニ出ツルモノナリト雖モ本案ニ於テハ解散ノ場合ニ付キ現行商法第二百三十條第四號ノ規定ヲ削除シ資本ノ四分ノ一未滿ニ減シタルコトヲ以テ會社解散ノ事由ト爲ササルコト後ニ述フルカ如クナルヲ以テ本條ニ於テモ亦資本ヲ減少シ得ヘキ程度ニ付キ制限ヲ設クルノ必要ナシ是レ本案カ現行商法第二百六條第一項但書ノ規定ヲ削除シタル所以ナリ
第七節 解散
(理由)本節ハ現行商法第一編第六章第三節第十二款ニ該當スルモノニシテ解散ニ關スル規定ヲ揭ク抑モ會社ノ解散ハ法人ノ消滅ナリ故ニ解散ニ關スル規定ハ法人タル會社ノ消滅後其財產ノ處分卽チ淸算ニ關スル規定ト明確ニ區別セラレサルヘカラス然ルニ現行商法ハ合名會社ニ付テハ全ク之ヲ區別セサルノミナラス株式會社ニ付テノミ僅ニ之ヲ區別シ款ヲ分テ規定スト雖モ尙ホ解散ニ關スル一款中ニ淸算ニ關スル規定ヲ揭クルノ失當ナキニアラス本案ハ此區別ヲ嚴守シ現行商法第一編第六章第三節第十二款中淸算ニ關スル規定ニシテ必要ナルモノハ之ヲ次節ニ讓リ其必要ナラサルモノハ悉ク之ヲ削除シタリ
第二百二十一條
(理由)本條ハ現行商法第二百三十條ニ該當ス而シテ之ニ加ヘタル修正ハ現行商法第二百三十條第四號ヲ削除シタル外ハ合名會社ノ解散ニ關シ本案第七十四條ニ於テ現行商法第百二十六條ニ加ヘタル修正ト同一ノ趣旨ニ出ルモノトス抑モ現行商法第二百三十條第四號ニ於テハ資本カ四分ノ一未滿ニ減シタル場合ニ會社ノ解散スヘキコトヲ定メタリ此規定タルヤ全ク根據ナキニ非スト雖モ設立又ハ資本增加ノ登記ヲ爲ス前ニ拂込ムヘキ金額ハ立法上之ヲ一定スルノ必要アルカ爲メニ已ムコトヲ得ス株金ノ四分ノ一以上ト爲シタルモノニシテ別ニ一定ノ計算ニ基キタルモノニアラス從テ凡テノ場合ニ適用シテ更ニ支障ヲ生セスト明言スルコト能ハサルモノトス故ニ財產上ノ基礎ヨリ會社ノ解散ノ事由ヲ定ムルニ當リテハ此ノ如キ比較的ニ不精確ナル標準ニ依ルコト不可ナリ況ンヤ會社カ其財產ヲ以テ債務ヲ完濟スルコト能ハサルニ至リタルトキハ取締役ハ直チニ破產宣吿ノ請求ヲ爲スコトヲ要シ此請求アリタルトキハ破產法ノ規定ニ從ヒテ破產手續ヲ開始スルコトト爲リ而シテ破產ハ解散事由ノ一ナルヲ以テ此場合ニハ資本ノ四分ノ一以下ニ減少スルヲ俟タスシテ當然解散スルニ於テオヤ是レ本案カ現行商法第二百三十條第四號ノ規定ヲ採用セサリシ所以ナリトス
第二百二十二條
(理由)本條ハ現行商法第二百三條ノ旨趣ヲ採用セルモノニシテ合併ノ決議ヲモ包含セシメタル所以ハ會社ノ合併ヲ行ヒタル結果或ハ會社ノ解散ヲ來シ或ハ資本ノ增加ト同一ノ效果ヲ生スルヲ以テ合併ノ決議モ亦任意ノ解散及ヒ定款ノ變更ノ決議ト同樣ナル決議方法ニ依リ鄭重ナル手續ヲ經テ之ヲ爲サシムルヲ以テ至當ト認メタルカ爲メニ外ナラス
第二百二十三條
(理由)本條ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ蓋シ現行商法ニ於テハ會社ノ合併ヲ認メサルヲ以テ本條ニ該當スル規定ナキハ素ヨリ當然ナリト雖モ本案ハ旣ニ會社ノ合併ヲ許シタルヲ以テ其合併ニ際シテ株主ノ變更ヨリ生スル不便ト弊害トヲ防止センカ爲メ會社ヲシテ株主總會ノ會日前一定ノ期間內及ヒ其開會中記名株ノ讓渡ヲ停止スルコトヲ得セシメ且株主總會ニ於テ合併ノ決議ヲ爲シタル日ヨリ第八十一條ノ規定ニ從ヒ本店ノ所在地ニ於テ登記ヲ爲スマテ株主ハ其記名株ヲ讓渡スコトヲ得サルモノトスル必要アリ但無記名株ハ其讓渡ノ容易ナルト何時讓渡サレタルヤヲ後日ニ決定スルノ困難ナルトニ依リ本條ノ適用以外ニ立タシムルノ已ムヲ得サルモノアリ是レ本案カ記名株ニ關シテノミ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二百二十四條
(理由)本條ハ現行商法第二百三十四條ノ一部ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ同條ノ規定ニ依レハ此外尙ホ解散ノ登記及ヒ主務省ヘノ屆出ヲモ要スルモノト爲シタリト雖モ解散ノ登記ニ付テハ次條ヲ以テ合名會社ニ關スル規定ヲ準用スルニ依リ特ニ之ヲ規定スルノ必要ナク又主務省ヘノ屆出ハ株式會社ノ設立免許ニ關スル現行商法ノ制度ヲ廢止シタルノ結果トシテ當然其必要ヲ見サルコトト爲レリ又現行商法ニ於テハ無記名式ノ株券ヲ發行シタル場合ヲ規定セス是レ無記名式ノ株券ヲ認メサルカ爲メナリト雖モ本案ハ旣ニ述ヘタルカ如ク此株券ノ發行ヲ許セシヲ以テ從ヲ其場合ニ處スヘキ規定ヲ設クルコト必要ナリ是レ本條ノ如ク修正ヲ加ヘタル所以ナリ
第二百二十五條
(理由)本條ノ規定中第七十六條ノ準用ハ現行商法第二百三十四條ノ一部ニ該當シ其他ノ五ケ條ノ準用ハ株式會社ノ合併ニ關スルノ規定ニシテ合名會社ニ付キ合併ニ關スル規定ヲ新設シタルト其理由ヲ同フスルヲ以テ茲ニ之ヲ略スヘシ
第八節 淸算
(理由)本節ハ現行商法第一編第六章第三節第十三款ニ該當シ淸算ニ關スル規定ヲ揭ク蓋シ會社ニシテ解散スルトキハ淸算ヲ爲スコト通例ナルモ必ス常ニ淸算ヲ爲スモノニアラス故ニ現行商法モ款ヲ分テ二者ヲ規定シ本案亦之ニ倣ヒタリ然リト雖モ現行商法ニ於テハ前節ニ述ヘタルカ如ク二者ヲ區別スルコト精確ナラス爲メニ淸算ニ關スル規定ヲ解散ノ一款中ニ規定シタルモノアリタリト雖モ本案ハ之ヲ改メタルコト旣ニ前節ノ冒頭ニ於テ述ヘタル所ナリ
第二百二十六條
(理由)本條第一項ハ現行商法第二百三十二條第二項ニ該當スルモノトス卽チ現行商法第二百三十二條ノ規定ニ依レハ會社ノ解散ノ場合ニ於テハ裁判所ノ命令ニ因ル解散ノ場合ヲ除クノ外取締役ハ株主總會ヲ招集シテ解散ノ決議ヲ取ルコトヲ要シ其株主總會ニ於テハ破產ニ因ル解散ノ場合ヲ除クノ外一人又ハ數人ノ淸算人ヲ選定スヘキモノト爲スト雖モ株主總會ヲ招集スルニハ尠カラサル時日ヲ要シ從テ解散事由ノ發生ト淸算人ノ選任トノ間ニハ少クトモ二週間以上ヲ距ツルコトヲ免レス然ルニ會社ニシテ解散シタルトキハ速ニ淸算人ノ任ニ當ルヘキ者ヲ定メ之ヲシテ就職セシムルコト極メテ必要ナルヲ以テ本案ハ解散シタル法人ノ淸算人ニ關スル新民法第七十四條ノ例ニ倣ヒ會社解散シタルトキハ取締役ハ當然其淸算人ト爲ルモノト爲シタリ然レトモ會社カ破產ニ因リテ解散シタル場合ニハ破產法ニ從ヒテ破產管財人カ會社ノ殘務ヲ終了シ債權ヲ取立テ債務ヲ辨濟シ殘餘財產ヲ分配スヘク此場合ニ全ク淸算人ヲ要セサルハ現行商法第二百三十二條第二項法人ニ關スル新民法第七十四條及ヒ合名會社ニ關スル本案第八十六條ノ認ムル所ナルヲ以テ本案ハ此場合ヲ除外シ又會社カ合併ニ因リテ解散シタル掲合ニハ其權利義務ハ合併後存留スル會社又ハ合併ニ因リテ設立セラレタル會社ニ於テ之ヲ承繼スヘク別ニ淸算ヲ爲スノ必要ナク從テ淸算人ヲ要セサルヲ以テ現行商法中ニハ全ク合併ノ場合ニ關スル規定ナキニモ拘ハラス本案ハ合名會社ニ關スル本案第八十六條ノ例ニ準シ此場合ヲ除外シ又假令淸算ヲ爲スノ必要アリ從テ淸算人ヲ要スル場合ト雖モ定款ニ別段ノ定アルトキハ其定款ニ從ハサルヘカラサルコトハ勿論ナルノミナラス株主總會ニ於テ取締役ニ非サル者ヲ淸算人ニ選任シタルトキハ其株主總會カ取締役ヲシテ淸算人タラシムルヲ欲セサルモノナルコトハ明瞭ナリ從テ株主總會ニ重キヲ措キ此場合ニハ取締役ハ淸算人ト爲ルノ限リニアラスト謂ハサルヘカラス故ニ本案ハ法人ニ關スル新民法第七十四條但書ノ例ニ準シ此等ノ場合ニハ取締役ハ當然淸算人ト爲ルモノニアラスト爲シタリ其他株主總會ニ於テ選任スル淸算人ノ一人又ハ數人ナルコトヲ得ルハ現行商法第二百三十二條第二項ノ規定スル所ナルモ素ヨリ當然ニ屬シ別ニ明文ヲ要セス是レ本條第一項ノ如ク修正ヲ加ヘタル所以ナリ
本條第二項ハ現行商法第二百三十三條ニ該當スルモノナリ抑モ現行商法第二百三十二條第二項ニ於テハ株主總會ニ於テ淸算人ヲ選定スヘキモノト爲シタル結果トシテ總會カ此撰定ヲ爲ササル場合ノミヲ豫想シ同第二百三十三條ニ於テ此場合ニ裁判所ハ債權者若クハ株主ノ申立ニ因リ又ハ職權ニ依リ其命令ヲ以テ淸算人ヲ任スルコトヲ得ルモノト爲シタリト雖モ本案ニ於テハ株主總會カ淸算人ヲ選任スルノミニ限ラス取締役カ當然淸算人ト爲ルカ如キコトアルヲ以テ裁判所カ淸算人ヲ選任スヘキ場合ヲ總會カ淸算人ヲ選任セサルトキノミニ限ルハ狹隘ニ失ス又成ルヘク裁判所ヲシテ無要ノ干涉ヲ加フルコトナカラシムルカ爲メ裁判所カ淸算人ヲ選任スル場合ニモ亦檢事ノ請求ニ因リ若クハ自カラ職權ヲ以テ之ヲ爲スコトヲ許ササルハ正當ナルヘシ又淸算人ノ選任ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得ヘキ者卽チ會社ノ債權者及ヒ株主ハ利害關係人ニ外ナラサルカ故ニ利害關係人ノ一語ヲ以テ之ヲ包括セシムルコト簡明ナリ是レ本案カ法人ノ淸算人ニ關スル新民法第七十五條ノ例ヲ斟酌シ本條第二項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二百二十七條
(理由)本條ハ現行商法第二百四十三條ヲ補充スルニ過キス抑モ現行商法第二百四十三條ノ全部ハ新民法第七十九條ノ規定ト同シク而シテ本案第二百三十四條ハ新民法第七十九條ノ規定ヲ株式會社ニ準用スヘキコトヲ規定シタルヲ以テ別ニ現行商法第二百四十三條ニ相當スル規定ヲ設クルヲ要セス然ルニ合名會社ノ淸算ニ關スル本案第九十五條ノ規定ノ如キ規定ハ株式會社ニ付テモ亦必要ナルヤ否ヤハ考案ヲ要スヘシ卽チ合名會社ニアリテハ社員ノ數極メテ少數ニシテ且連帶無限ノ責任ヲ有スルヲ以テ各社員ハ自ラ淸算事務ニ注意スヘク從テ淸算人ヨリ財產目錄及ヒ貸借對照表ヲ各社員ニ交付シ且其請求ニ因リ每月淸算ノ狀況ヲ報吿スルコト容易ニシテ且利益アリ之ニ反シテ株式會社ニアリテハ株主ノ數極メテ多數ナルヲ通例トシ且各株主ノ責任ハ其引受ケ又ハ讓受ケタル株式ノ金額ヲ限度トスルニ止マルヲ以テ各株主個々ニハ淸算事務ニ注意スルコト篤カラス從テ財產目錄及ヒ貸借對照表ヲ各株主ニ交付スルコト極メテ困難ニ屬スルト同時ニ其實益尠ナク殊ニ每月淸算ノ狀況ヲ報吿スルカ如キニ至リテハ到底其煩ニ堪ヘサルヘシ故ニ本案ハ本條第一項ヲ以テ財產目錄及ヒ貸借對照表ニ副ユルニ監査役ノ意見書ヲ以テシ之ヲ株主總會ニ提出シテ其承認ヲ求ムルコトヲ要スト定メタリ旣ニ此ノ如キ規定ヲ存スル以上ハ其書類ノ當否ヲ調査セシムル爲メ總會ニ於テ特ニ檢査役ヲ選任スルコトヲ得セシメ又總會カ承認ヲ與ヘタルトキハ淸算人ヨリ之ヲ公吿スルコトヲ必要トスヘキハ當然ナリ是レ本條第二項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二百二十八條
(理由)本條ハ現行商法第二百四十條ノ一部ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法ニ依レハ株式會社ニモ亦合名會社ニ關スル第百三十一條ノ規定ヲ適用シテ淸算人ノ解任ハ必ス裁判所ノ命令ヲ以テスヘキモノト爲ス然レトモ取締役ハ株主總會ノ決議ヲ以テ解任スルコトヲ得ルニモ拘ハラス淸算人ニ付テ此ノ如キ規定ヲ設クルハ前後相應セサルノ憾ナキ能ハス何トナレハ會社解散以前ニ取締役カ有スル代理權ハ恰モ解散後淸算人カ淸算ノ目的ノ範圍內ニ於テ有スル代理權ニ該當スレハナリ又現行商法ニ於テハ裁判所ヨリ淸算人ヲ解任スル命令ハ株主ノ申立ニ因ルノ外之ヲ發セサルモノト爲スカ故ニ一方ニ於テハ單ニ一人ノ株主カ重要ト信スル事由ニ付テモ裁判所ヲ煩ハス恐アリ勿論裁判所ハ公正ノ判斷ヲ下スヘケレトモ此ノ如キ申立ノ爲メニ淸算人ノ信用ヲ減シ無益ノ爭議ヲ惹起スル恐ナキ能ハス他方ニ於テハ淸算人ヲ監督スル任務ヲ有スル監査役カ淸算人ノ不當ナル處分ヲ發見シ若クハ淸算人ノ不適任ナルコトヲ認ムルニモ拘ハラス自カラ進ンテ裁判所ニ淸算人ノ解任ヲ請求スルコト能ハサルノ缺點アリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二百二十九條
(理由)本條ハ現行商法第二百四十九條ニ該當ス抑モ現行商法ニ於テハ「會社ノ債務ヲ濟了シタル殘餘ノ財產」トアレトモ會社財產ノ分配ハ會社ノ債務ヲ辨濟シタル後ナルコトヲ要スルヲ以テ茲ニハ單ニ「殘餘財產」ト曰フヲ以テ足レリトス又現行商法ニハ「各株主ニ其所有株數ニ應シテ平等ニ分配ス」トアレトモ株金拂込額ニ差異アルトキハ解釋上疑義ヲ生スル恐アリ故ニ本案ハ拂込ミタル株金額ニ應シテ之ヲ分配スルコトヲ要スル旨ヲ明言セリ此外新ニ本條但書ヲ加ヘタルハ本案カ優先株ヲ認メタル當然ノ結果ニシテ又現行商法ノ如ク金錢ヲ以テ分配スヘキコトヲ明言セサルハ一方ニ於テ通常金錢ヲ以テ分配スルモノナルコトヲ豫想スルト同時ニ他方ニ於テ定款中之ニ反對ナル規定ヲ爲スコトヲ是認シタレハナリ
第二百三十條
(理由)本條ハ現行商法第二百四十八條及ヒ第二百五十條ニ該當スルモノニシテ其旨趣ハ合名會社ノ淸算ニ關スル本案第九十九條ノ規定ト異ナルトコロナク唯タ社員ヨリ成ル合名會社ト株主ヨリ成ル株式會社トノ間ニ當然異ニスヘキ點アルコト本案第二百二十七條ト第九十五條トノ間ニ差異ヲ存スルカ如シ而シテ本案カ新ニ本條第二項ヲ加ヘタルハ本案第二百二十七條ニ第二項ヲ加ヘタルト同一理由ニ基ク但第百九十二條第二項ノ規定ヲ適用セサルハ決算報吿書ヲ公吿セシムルノ必要ナキカ爲メニシテ第百九十三條ノ規定ヲ準用シタルハ現行商法第二百五十條前段ノ字句ヲ修正スルト同時ニ淸算人ニ不正ノ行爲アリタル場合ヲ除外スルカ爲メニ外ナラス
其他現行商法第二百五十條後段ニ於テハ株主總會カ卸任ヲ許ササル場合ニ裁判所ハ淸算人ノ申立ニ因リ之ヲ許スコトヲ得ル旨ヲ規定スト雖モ本案ハ之ヲ削除シタリ蓋シ株主總會ニ於テ淸算人ノ決算報吿ヲ承認セサルトキハ別段ノ規定ナシト雖モ淸算人ノ行爲ノ當否ヲ爭ヒ若シ淸算人ノ行爲ヲ適當ナリトセハ淸算人ハ何等ノ責任ヲ負フコトナカルヘク之ニ反シ淸算人ノ行爲ヲ不適當ナリトセハ淸算人ハ其責ニ任セサルヘカラス此ノ如ク結局裁判所ノ裁判ニ依リ是非曲直ヲ決スル以上ハ必ス淸算人ヨリ申立アルコトヲ必要トセサルト共ニ略式手續ニ依リ裁判所ノ命令ヲ以テ之ヲ許否シ其命令ニ對シテ卽時抗吿ヲ許スハ事體ノ輕重ヲ顚倒スルモノナリ是レ本案カ現行商法第二百五十條後段ノ規定ヲ削除シタル所以ナリ
第二百三十一條
(理由)本條ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ抑モ株主總會招集ノ手續又ハ其決議ノ方法カ法令又ハ定款ニ違反スルトキハ株主ハ決議ノ日ヨリ一ケ月內ニ其決議無效ノ宣吿ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得ヘシト雖モ株主ハ必ス此請求ヲ爲スコトヲ要セス從テ何人モ決議ノ日ヨリ一个月內ニ其決議無效ノ宣吿ヲ裁判所ニ請求セサルトキハ裁判所ハ遂ニ無效ノ宣吿ヲ爲スコトヲ得サルニ至ルヘシ而シテ淸算ノ場合ニハ會社カ全ク消滅スル時期ニ際スルヲ以テ株主ヨリノ請求ヲ俟ツコト能ハサル事情モアルヘシ故ニ此場合ニハ株主ヨリ裁判所ヘ請求ヲ爲シタルト否トニ拘ハラス淸算人ヨリ裁判所ニ決議無效ノ宣吿ヲ請求セシムルコト必要ナリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二百三十二條
(理由)本條モ亦現行商法中ニ存セサル所ニシテ合名會社ニ關スル本案第百一條ト同一ノ旨趣ニ基キ新ニ之ヲ設ケタルモノトス抑モ株式會社ヲ設立シ旣ニ事業ニ着手シタル後ニ至リテモ尙ホ其設立ノ無效ナルコトヲ發見スル場合ナキニアラス此設立ノ無效ナルコトハ或ハ取消ニ因ルコトアリ或ハ取消ヲ俟タスシテ當然無效ナルコトアルモ會社ヲシテ當初ヨリ成立セサリシモノタラシムルニ至リテハ毫モ異ナル所ナシ會社ニシテ旣ニ成立セサリシモノトセハ其事業ニ着手シタルニ因リテ生シタル殘務ヲ結了シ債權ヲ取立テ債務ヲ辨濟シ殘餘財產ヲ分配スルニ當リテハ本節ノ手續ニ依ルヘキモノニアラサルコト當然ナリ然レトモ事業ニ着手シタル以上ハ多少ノ殘務ヲ存スヘク又債權ヲ有シ債務ヲ負フヘク又財產ヲ有スヘシ此等ノ債權債務ノ效力又ハ財產ノ所屬ハ之ヲ別問題ト爲スモ尙鄭重ナル手續ニ依リ淸算ヲ爲スノ必要アルコトハ解散ノ場合ト異ナルコトナシ故ニ此場合ニハ解散ノ場合ニ準シテ淸算ヲ爲サシムルコトヲ要ス其他此場合ニ於テハ會社成立セサリシモノナルヲ以テ素ヨリ取締役ナク株主總會ナク從テ第二百二十六條第一項ニ依リ淸算人タルヘキモノナキヲ以テ裁判所ハ利害關係人ノ請求ニ因リ淸算人ヲ選任スヘキモノトスルコト相當ナリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二百三十三條
(理由)本條ハ現行商法第二百五十四條ニ該當シ其旨趣ハ合名會社ニ關スル本案第百二條ノ規定ト異ナルトコロナシ唯タ合名會社ニ付テハ帳簿及ヒ書類ノ保存者ヲ定ムルニハ社員ノ過半數ヲ以テスヘキモノト爲スモ本條ニ於テハ淸算人其他ノ利害關係人ノ請求ニ因リ裁判所之ヲ選任スヘキモノト爲ス蓋シ帳簿及ヒ書類ノ保存ヲ必要ナリト規定スル以上ハ其保存者ノ何人ナルヤヲ定ムル必要ヲ生シ之ヲ定ムルニハ或ハ當然淸算人ニ保存義務ヲ負擔セシムルカ或ハ株主總會ヲシテ保存者ヲ選任セシムルカ或ハ裁判所又ハ公吏ヲシテ保存セシムルカ或ハ裁判所ヲシテ保存者ヲ選任セシムルカノ數者中其一ヲ撰擇セサルヘカラス本案ハ裁判所選任ノ主義ヲ採用セリ然レトモ利害關係人カ何等ノ請求ヲモ爲ササルニ裁判所カ必ス之ヲ選任スルコトヲ要スト規定スルハ干涉ニ過クルノ嫌アルヲ以テ本條ハ淸算人其他ノ利害關係人ヨリ請求スルヲ俟テ裁判所ハ保存者ヲ選任スヘキモノト定メタリ
第二百三十四條
(理由)本條ハ株式會社ノ淸算ニ付キ特別ナル規定ニアラスシテ或ハ合名會社及ヒ合資會社ニ付キ設ケタル規定ト同一ナルカ或ハ法人ニ關スル新民法ノ規定ト同一ナルカノ理由ニ依リ此等ノ規定ヲ準用シテ以テ本案ヲ簡單ナラシムル爲メニ設ケタルモノニ外ナラス
第五章 株式合資會社
(理由)本章ハ現行商法中ニ存セサル所ニシテ株式合資會社ニ關スル規定ヲ揭ク而シテ本案カ新ニ之ヲ認メ且本章ニ之ヲ規定シタル所以ハ旣ニ本編ノ冒頭ニ於テ之ヲ說明シタリ
第二百三十五條
(理由)本條ハ合資會社ニ對シテ本案第百四條ヲ設ケタルト同一ノ理由ニ依リ設ケタル規定ニシテ株式合資會社ノ基礎ヲ明確ニス更ニ之ヲ詳言スレハ株式合資會社ハ一方ニ於テハ無限ノ責任ヲ負擔シテ會社ヲ代表シ其業務ノ執行ヲ主トル社員ト他方ニ於テハ其引受ケ又ハ讓受ケタル出資以上ニ責任ヲ負擔セス且會社ノ業務執行ニ參與シ之ヲ代表セサル株主トノ結合ヨリ生スルモノナルコトヲ決定シ他ノ會社ト異ナル所ヲ示スモノナリ
第二百三十六條
(理由)本條ハ株式合資會社ノ規定ヲ簡單ナラシムルカ爲メニ一方ニ於テ合資會社ノ規定ヲ準用スヘキ事項ヲ定メ他方ニ於テ株式會社ノ規定ヲ準用スヘキ限度ヲ定メタリ蓋シ株式合資會社ニ關スル規定ハ株式會社及ヒ合資會社ニ關スル規定ノ準用ニ依リテ之ヲ簡單ナラシムルト同時ニ株式合資會社ノ法律上ノ性質ヲ明言セス之ヲ解釋ニ一任セント欲セハ勢ヒ本案ト同一ノ主義ヲ採用セサルヘカラス何トナレハ株式會社ニ關スル規定ハ頗ル複雜ニシテ單ニ株式若クハ株主ニ關スル規定ト謂フモ其範圍ヲ知リ難ク之ニ反シテ合資會社ニ關スル規定ハ比較的ニ簡單ニシテ無限責任社員ニ關スル規定ト謂ヘハ其準用ヲ誤ルノ恐ナカルヘシ是レ本條カ第一項トシテ(一)無限責任社員ノ相互間ノ關係(二)無限責任社員ト株主及ヒ第三者トノ關係及ヒ(三)無限責任社員ノ退社ニ付テハ合資會社ニ關スル規定ヲ準用スト規定シ第二項トシテ右ノ外本章ニ別段ノ定アル場合ヲ除ク外ハ株式會社ニ關スル規定ヲ準用スト規定シタル所以ニシテ株式合資會社ノ規定ニ從フヲ以テ原則トスルカ爲メ其法律上ノ性質ハ株式會社ナリト決定シタルノ意ニアラサルナリ
第二百三十七條
(理由)本條以下第二百四十二條ニ至ルマテノ六條ハ株式合資會社ノ設立ニ關スル規定ニシテ本條ハ其發起ノ中心ト爲ルヘキモノ及ヒ定款事項ニ關スル規定ヲ揭ク抑モ株式合資會社ノ經濟上ノ性質ハ技能ト資本トヲ和合セシムルニ在リ而シテ其資本ハ廣ク之ヲ募集スレハ得難キニアラスト雖モ技能ニ至テハ決シテ得易キモノニアラス況ンヤ技能ニ加フルニ信用ヲ以テスヘキ株式合資會社ノ無限責任社員ノ如キハ募集シテ之ヲ得ヘキ性質ヲ有スルモノニアラサルニ於テオヤ故ニ無限責任社員ハ盡ク之ヲ發起人ト爲スコト必要ナリ又株式合資會社ノ定款事項ニ付キ無限責任社員ノ點ヨリ考フレハ合名會社及ヒ合資會社ノ規定ヲ準用スルコト當然ニシテ株主ノ點ヨリ考フレハ株式會社ノ規定ヲ準用スルコト當然ナリ此二面ノ準用或ハ互ニ一致スルトコロアリ或ハ互ニ制限スルトコロアリ例ヘハ目的商號本店及ヒ支店ノ所在地ノ如キハ兩者ニ共通タルヘキモノナリ然ルニ社員ノ氏名住所、社員ノ出資ノ種類及ヒ價格又ハ評價ノ標準ハ株式會社ノ定款ニ記載スルヲ必要トセサレトモ株式合資會社ニアリテハ合名合資兩會社ト同シク定款中ニ之ヲ記載セサルヘカラス之ニ反シテ資本ノ總額、株式ノ總數及ヒ一株ノ金額會社カ公吿ヲ爲ス方法、ハ合名合資兩會社ノ定款ニ記載スルコトヲ要セサレトモ株式合資會社ニ在テハ株式會社ト同シク定款中ニ之ヲ記載セサルヘカラス唯タ株式會社ノ定款事項中取締役カ有スヘキ株式ノ數ハ株式會社ノ取締役ニ該當スル株式合資會社ノ無限責任社員カ必スシモ株式ヲ有スルヲ要セサルニ依リテ株式合資會社ノ定款事項ト爲スコト能ハサルノミ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二百三十八條
(理由)本條ハ一方ニ於テ株式合資會社ノ設立ニ關スル主義ヲ確定シ他方ニ於テ株式申込證ニ記載スヘキ事項ヲ決定セリ抑モ株式會社ノ設立方法ニ關シテハ發起人カ株式ノ總數ヲ引受クルト發起人カ株式ノ總數ヲ引受ケスシテ株主ヲ募集スルトノ二主義アリテ本案ハ二者共ニ之ヲ許シタリ然ルニ株式合資會社ニ付テハ第一ノ方法卽チ無限責任社員カ株式ノ總數ヲ引受ケテ會社ヲ設立スルコトハ株式合資會社ノ組織ト牴觸スルヲ以テ到底之ヲ採用スルコト能ハサルモノトス是レ本條第一項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
本條第二項ハ株式會社ニ關スル本案第百二十六條第二項ノ規定ヲ取捨シ且株式合資會社ニ特別ナル事項ヲ加ヘタルニ過キス卽チ其記載事項ノ多數ハ株式會社ノ株式申込證ニ記載スヘキ事項ト共通ナリ唯タ前條ノ規定ニ依リ定款ニ取締役ノ有スヘキ株式ノ數ヲ記載セサル結果トシテ取締役ノ有スヘキ株式ノ數ハ之ヲ株式申込證ニ記載スルコトヲ要セス又株式會社ニ在テハ發起人カ株式ヲ引受ケタルトキハ其總數ヲ株式申込證ニ記載スルコトヲ要スト雖モ株式合資會社ニ在リテハ各無限責任社員カ引受ケタル株式ノ數ヲモ株式申込證ニ記載セシムルコト必要ナルヲ以テ本案ハ殊ニ本條第二項第二號ニ之ヲ規定シタルヲ異ナレリトス
第二百三十九條
(理由)本條第一項ハ株式會社ニ關スル本案第百三十三條ノ規定ト同一ノ趣旨ニ出ツ唯タ株式會社ニ在リテハ取締役カ會社ヲ代表シ其業務ヲ執行スルヲ以テ創立總會ニ於テ之ヲ選任スルノ必要アリト雖モ株式合資會社ニ在リテハ無限責任社員カ當然會社ヲ代表シ其業務ヲ執行スヘキモノナレハ創立總會ニ於テハ監査役ノミヲ選任スルヲ以テ足レリトシ取締役ヲ選任スルノ必要ナシ是レ二者ノ間差異ヲ存スル所以ナリ
本條第二項ハ株式會社ノ監査役ニ關スル本案第百八十四條第一項本文ト其趣旨ヲ同フスルモノトス卽チ株式會社ニ在リテハ取締役ハ會社ヲ代表シテ其業務ヲ執行スヘキモノナルヲ以テ之ニ對シテ監督ノ位地ニ立ツヘキ監査役ト相兼ヌルコトヲ禁シ株式合資會社ニ在テハ無限責任社員ハ會社ヲ代表シ其業務ヲ執行スヘキモノナルヲ以テ之ニ對シテ監督ノ位地ニ立ツヘキ監査役タルコトヲ禁ス唯タ株式合資會社ノ無限責任社員ニ在テハ會社ヲ代表シ其業務ヲ執行スルヲ得サル者アリ此者ニ對シテハ監査役タルコトヲ許スモ不可ナキカ如シ然レトモ等シク無限責任社員タル以上ハ假令會社ヲ代表シ其業務ヲ執行セサルモ尙ホ他ノ無限責任社員ト利害關係ヲ共ニシ之ニ對シテ監督ノ位地ニ立タシムルコト不都合ナリ況ンヤ株式合資會社ニ於テハ株主總會ノ決議ト無限責任社員ノ一致トヲ以テ事ヲ行ヒ株主總會ト無限責任社員ノ全體トハ互ニ相對立シ而シテ監査役ハ無限責任社員ヲシテ株主總會ノ決議ヲ執行セシムル責ニ任スルモノナルニ於テオヤ故ニ株式合資會社ノ監査役タルニハ無限責任社員ニアラサルコトヲ要スルモノトスルコト正當ナリ是レ本條第二項ニ於テ汎ク無限責任社員ハ監査役ト爲ルコトヲ得スト規定シタル所以ナリ
第二百四十條
(理由)株式合資會社ニ在テハ株主總會ト無限責任社員ノ全體ト互ニ相對立シ株主總會ノ決議ト無限責任社員ノ一致トニ依リ以テ合資會社ニ在テハ總社員ノ一致ヲ要スル事項ヲ行フカ故ニ無限責任社員ニシテ假令株式ヲ有スルトキト雖モ株主總會ニ於テ議決ノ數ニ加ハルコトヲ得サラシムルコト正當ナリ若シ之ヲ許ストキハ無限責任社員ハ一方ニ於テハ無限責任社員ノ資格ヲ以テ一致ヲ表シ他方ニ於テハ株主ノ資格ヲ以テ贊成ヲ表スルコトト爲ルノミナラス無限責任社員カ株式ノ大部分ヲ有スル場合ニハ株主總會ノ決議ハ無限責任社員ニ依リテ左右セラレ株主總會ト無限責任社員ノ全體トヲ互ニ相對立セシメタル趣旨ニ反スルヲ免レサルヘシ此ノ如ク株主總會ヲシテ無限責任社員ヲ離レテ別ニ獨立ノ位地ニ立タシムルコト必要ナリト雖モ無限責任社員ハ素ヨリ會社ニ對シテ重大ノ利害關係ヲ有シ共有スル意見ハ間々會社ニ適切ナルモノアリ從テ株主總會ニ於テ之ヲ述ヘシムルハ毫モ不都合ナキノミナラス株主總會ノ決議如何ハ直チニ自己ニ痛痒ヲ及ホスヲ以テ其意見ヲ述フルコトヲ得セシムルノ必要アリ又株主總會ハ無限責任社員ヲ離レテ獨立ノ位地ヲ有シ之ヲシテ議決ノ數ニ加ハラシメサル結果トシテ無限責任社員ノ資格ニ於テ爲シタル出資ハ勿論假令株主トシテ爲シタル出資卽チ株式モ亦株主總會ニ於ケル議決權ノ數ヲ定ムルニ當リテ之ヲ計算ニ加ヘサルコト正當ナリ而シテ株主總會ハ會社成立以後ニ於テノミ存スルモノニシテ會社成立以前ニ於テ之ニ該當スヘキモノハ卽チ創立總會ナリトス從テ株主總會ニ付キ上ニ述ヘタル所ト同一ノ理由ニ依リ無限責任社員ハ創立總會ニ出席シテ意見ヲ述フルコトヲ得ルモ議決ノ數ニ加ハルコトヲ得ス從テ其引受ケタル株式其他ノ出資ハ議決權ノ數ヲ計算スルニ當リテ之ヲ算入スルコトヲ得サルモノト爲ササルヘカラス是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二百四十一條
(理由)株式會社ニ在テハ創立總會ニ於テ取締役及ヒ監査役ヲ選任シ之ヲシテ第百三十四條第一項ニ揭クル事項ヲ調査シ創立總會ニ報吿セシムト雖モ株式合資會社ニ在テハ創立總會ニ於テ監査役ヲ選任スルニ止マルカ故ニ之ヲシテ第百三十四條第一項ニ揭ケタル事項ヲ調査シ創立總會ニ報吿セシムルコト至當ナリ蓋シ株式合資會社ニ在テハ株式會社ノ取締役ニ該當スヘキ無限責任社員アリト雖モ此無限責任社員ハ必ス發起人タルカ故ニ之ヲシテ調査報吿ノ任ニ當ラシムルハ自己ノ利益ニ反スル行爲ヲ强ヒ難キヲ人ニ責ムルモノナルノミナラス假令自己ノ利益ヲ顧ミス誠實ニ調査報吿ヲナスモ株式引受人ハ其間ニ疑似ヲ抱クヲ免レス是レ本條カ無限責任社員ヲシテ全然調査報吿ノ任ニ當ラシメサル所以ナリ但無限責任社員カ創立總會ニ出席シテ意見ヲ述フルコトハ前條第一項ノ許ス所ナルヲ以テ自カラ進ンテ第百三十四條第一項ニ揭ケタル事項ヲ調査シ其結果ニ關シテ意見ヲ述フルハ固ヨリ妨ケナシトス又株式會社ニハ無限責任社員ナキヲ以テ無限責任社員ノ株金以外ノ出資ニ關スル事項ヲ調査報吿セシムル必要ナキハ勿論ナリト雖モ株式合資會社ニハ無限責任社員ノ株金以外ノ出資アリ從テ金錢以外ノ財產ヲ目的トスル出資ヲ爲シ株式ヲ受クヘキ場合ニ其出資ニ關スル事項ヲ調査報吿セシムルト同シク無限責任社員ノ株金以外ノ出資ニ關スル事項モ又之ヲ調査報吿セシムル必要アリ是レ本條カ株式會社ニ關スル規定ヲ採用スルノ外第二百三十七條第四號ニ揭ケタル事項モ亦調査報吿スヘキ事項中ニ加ヘタル所以ナリ
第二百四十二條
(理由)本條ハ一方ニ於テハ合資會社ニ關スル本案第五十一條第一項及ヒ第百七條ノ規定ニ該當シ他方ニ於テハ株式會社ニ關スル本案第百四十一條第一項ノ規定ニ該當ス抑モ登記ヲ爲スヘキ期間ノ起算點ニ付キ本案ハ會社成立ノ日ト爲スヲ通例トシ唯タ特別ノ理由存スルカ爲メ株式會社ノ發起人カ株式ノ總數ヲ引受ケタル場合ヲ例外ト爲ス而シテ株式合資會社ニ付テモ亦一方ニ於テ第二百三十六條第二項ノ規定ニ依リ第百三十九條ノ規定ヲ準用スルノ結果創立總會ノ終結ニ因リ會社ノ成立スルアリ他方ニ於テ發起人カ株式ノ總數ヲ引受クルコトヲ許ササルカ故ニ凡テノ場合ニ通シ會社成立ノ日卽チ創立總會終結ノ日ヨリ二週間內ニ登記ヲ爲スヘキモノト定ム又株主ノ氏名住所ヲモ登記スルコトヲ要セサルハ株式會社ト同一ノ理由ニ出テ又社員ノ責任ノ限度ヲ登記スルコトヲ要セサルハ氏名住所ヲ登記シタル無限責任社員ハ連帶無限ノ責任ヲ負ヒ氏名住所ヲ登記セサル株主ハ其引受ケ又ハ讓受ケタル株式ノ金額ニ限リ責任ヲ負フコト當然言フヲ俟タサル所ナルヲ以テナリ又無限責任社員ノ出資中株金ニ付テハ無限責任社員ノ出資トシテ之ヲ登記スルヲ要セサルハ株金ハ別ニ其總額ヲ登記スルヲ以テナリ又取締役ノ氏名住所ヲ登記スルヲ要セサルハ株式合資會社ニハ取締役ナキカ爲メナリ以上述ヘタル所ノ外ハ總テ本案第五十一條第一項第百七條及ヒ第百四十一條第一項ト同一ナルヲ以テ茲ニ說明ヲ要セス
第二百四十三條
(理由)株式合資會社ヲ代表スヘキ無限責任社員ハ株式會社ニ於ケル取締役ニ該當スルヲ以テ會社ヲ代表スヘキ無限責任社員ニハ株式會社ノ取締役ニ關スル規定ヲ準用スルコト至當ナリ然レトモ株式合資會社ニアリテハ定款又ハ無限責任社員ノ一致及ヒ株主總會ノ決議ヲ以テ特ニ會社ヲ代表スヘキ無限責任社員ヲ定メサル以上ハ各無限責任社員ハ當然會社ヲ代表シ株主總會ニ於テ之ヲ選任又ハ解任スルコトヲ得サルハ勿論人數及ヒ任期ヲ制限スルノ必要ナシ殊ニ株式會社ニ關スル第百二十條第五號ニ該當スル規定ナキ以上ハ株券ヲ監査役ニ供託スルコトヲ要セス又本案第二百三十六條第一項ノ規定ニ依リ第六十條ノ規定ヲ無限責任社員ニ準用スル以上ハ別ニ本案第百七十五條ノ規定ヲ準用スルノ必要ナシ又株式會社ノ株主ハ取締役タルノ故ヲ以テ他ノ株主ヨリ多額ノ利益配當ヲ受クルコトヲ得ス從テ取締役ニ報酬ヲ與フルノ必要アルモ株式合資會社ニ在リテハ利益ヲ無限責任社員及ヒ株主ニ分配スルニ必スシモ出資ノ額ノミヲ標準トスルコトヲ要セス一ニ定款又ハ無限責任社員ノ一致及ヒ株主總會ノ決議ニ依リテ定メタル方法ニ從ヒテ之ヲ爲シ此利益配當ノ方法ヲ定ムルニ當リテハ無限責任社員カ會社ヲ代表シ其業務ヲ執行スルコトヲモ斟酌スヘキヲ以テ利益配當ノ外會社ヲ代表スヘキ無限責任社員ニ必ス報酬ヲ與フルノ必要ナシ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二百四十四條
(理由)本案ノ規定ニ依レハ合資會社ノ定款ノ變更其他會社ノ目的ノ範圍ニ屬セサル行爲ヲ爲シ又特ニ會社ヲ代表スヘキ無限責任社員ヲ定メ又會社ノ合併又ハ解散ヲ爲シ又會社財產處分ノ方法ヲ定ムルカ如キ場合ニ於テ無限責任社員及ヒ有限責任社員ノ一致アルコトヲ要ス從テ第二百三十六條第一項ノ規定ニ依リ合資會社ニ關スル規定ヲ株式合資會社ニ準用スルノ結果トシテ株式合資會社ニ付キ此等ノ事項ヲ爲スニモ亦無限責任社員及ヒ株主ノ一致アルコトヲ要スト謂ハサルヘカラス而シテ無限責任社員ハ其人員少數ニシテ一致ヲ得ルコト容易ナルヲ通例トシ且一方ニ重大ナル責任ヲ負ハシメテ他方ニハ其承諾ナクシテ此等ノ事ヲ決行スルハ素ヨリ不當ナルカ故ニ無限責任社員ノ一致アルコトヲ要ストスル毫モ不可ナルコトナシ然ルニ株主ハ其人員多數ニシテ一致ヲ得ルコト容易ナラサルヲ通例トスルカ故ニ株式會社ニ關スル株主總會ノ制度ニ倣ヒ多數決ヲ以テ此等ノ事項ヲモ決行スルコトヲ得セシムルノ必要アリ是レ本條第一項カ一方ニ於テハ株主總會ヲ設ケ其多數決ニ依リテ事ヲ決スヘキモノト爲シ他方ニ於テハ株主總會ノ決議ノ外無限責任社員ノ一致アルコトヲ要スト爲シタル所以ナリ
右ノ如ク無限責任社員ノ一致及ヒ株主總會ノ決議ニ依リ合資會社ニ於テ總社員ノ一致ヲ要スル事項ヲ決行スルコトヲ得ルモノトセハ事何レモ重要ナルヲ以テ株主總會決議ノ方法ハ必ス鄭重ナラサルヘカラス是レ本條第二項ノ規定ヲ設ケ定款ノ變更ノ場合ト同一ノ方法ニ依ラシムル所以ナリ
第二百四十五條
(理由)株式合資會社ニ在テハ株主總會ノ決議ノミニテハ直チニ會社ヲ代表スヘキ無限責任社員ヲ覊束スルコトヲ得ス無限責任社員ノ一致又ハ多數決アルヲ俟テ始メテ會社ヲ代表スヘキ無限責任社員ニ效力ヲ及ホシ之ヲシテ其決議實行ノ責ニ任セシムルニ止マル故ニ株式合資會社ニ在テハ會社ヲ代表スヘキ無限責任社員ノ外別ニ之ヲシテ株主總會ノ決議ヲ實行セシムル責ニ任スヘキ者ヲ定ムルノ必要アリ而シテ株式合資會社ノ監査役ハ株主總會又ハ創立總會ニ於テ選任又ハ解任スルモノナルヲ以テ之ヲシテ其任ニ當ラシムルコト最モ適當ナリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二百四十六條
(理由)本條ハ一方ニ於テハ合資會社ニ關スル本案第七十四條第百五條及ヒ第百十八條ノ規定ニ該當シ他方ニ於テハ株式會社ニ關スル本案第二百二十一條ノ規定ニ該當ス然レトモ合資會社又ハ株式會社ト株式合資會社トハ素ヨリ其性質ニ於テ相異ナル所アルヲ以テ全然同一ノ規定ニ從フコトヲ得ス卽チ株式會社ニ在テハ株主ハ常ニ七人以上アルコトヲ要スルノ結果七人以下ニ減シタルトキハ當然解散スト雖モ株式合資會社ニ在テハ無限責任社員及ヒ株主各一人以上アルヲ以テ足レリトスルコト尙ホ合資會社カ無限責任社員及ヒ有限責任社員各一人以上アルヲ以テ足レリトスルカ如シ故ニ株式會社ノ如ク株主カ七人以下ニ減少シタルノミニ因リテ解散セス然レトモ無限責任社員ノ全員カ退社シ若クハ無限責任社員カ悉ク株式ヲ取得シ之カ爲メ無限責任社員ニ非サル者ニシテ株式ヲ有スル者ナキニ至ルトキハ假令殘存スル無限責任社員若クハ株主カ二人以上ナリト雖モ尙ホ會社ハ解散スヘキモノトス又合資會社ニ在テハ已ムコトヲ得サル事由ナルトキハ各社員ノ請求ニ依リ裁判所ヨリ會社ノ解散命令ヲスルコトヲ得ルモノト爲スモ株式合資會社ニ在テハ此ノ如キ請求ヲ許スノ必要ナキノミナラス之ヲ許ストキハ却テ株式會社ニ關スル規定ト權衡ヲ失スルヲ免レス是レ本案カ株式合資會社ハ合資會社ト同一ノ事由ニ因リテ解散スルモノト爲シ同時ニ但書ヲ設ケテ之ヲ制限シタル所以ナリ
第二百四十七條
(理由)株式合資會社ハ株主ノ外無限責任社員ヨリ組織セラルルノ點ニ於テ株式會社ト同シカラサルモ若シ無限責任社員ヲ除クトキハ株式會社ト異ナル所ナシ故ニ無限責任社員カ全ク退社シ株主ノミ殘存スルトキハ株式會社トシテ會社ヲ繼續スルコトヲ得セシムルモ不都合ナカルヘシ況ンヤ此場合ニ一旦會社ヲ解散セシメ淸算ヲ爲シ更ニ株式會社設立ノ手續ヲ行ハサルヘカラサルモノトセハ其煩雜不便名狀スヘカラサルモノアルニ於テオヤ故ニ合資會社ニ關スル第百十八條ノ例ニ準シ此場合ニ株主ハ株主會社トシテ會社ヲ繼續スルコトヲ得セシム然レトモ此場合ニ株主總會ハ株式會社トシテ會社ヲ繼續スル旨ノミヲ決議スルヲ以テ足レリトセス繼續ヲ決議スルト共ニ株式會社ノ組織ニ必要ナル事項ヲモ亦之ヲ決議スルコトヲ要スヘク又此等ノ決議ハ事體重大ナルヲ以テ本案第百六十二條第一項ニ定メタル方法ニ依ラシムルコトヲ得ス定款ノ變更等ト同シク第二百九條ニ定メタル方法ニ依ラシムルコトヲ要ス是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二百四十八條
(理由)本條第一項乃至第三項ハ一方ニ於テハ合資會社ニ關スル本案第八十七條及ヒ第百五條ノ規定ニ該當シ他方ニ於テハ株式會社ニ關スル本案第二百二十六條第一項ノ規定ニ該當ス抑モ合資會社カ解散シタルトキハ合併破產又ハ裁判所ノ命令ニ因リテ解散シタル場合ヲ除ク外總社員共同ニテ又ハ其過半數ニ依リテ選任シタル者カ淸算ヲ爲スヘク之ニ反シテ株式會社カ解散シタルトキハ合併破產又ハ裁判所ノ命令ニ因リテ解散シタル場合ヲ除ク外取締役カ淸算人ト爲ルヲ通例トシ定款ニ別段ノ定アルカ又ハ株主總會ニ於テ他人ヲ選任シタルトキハ之ニ從フモノトス而シテ前者卽チ合資會社ニ關スル規定ハ直ニ之ヲ株式合資會社ノ無限責任社員ニ準用シ無限責任社員ハ其全員又ハ其選任シタル者ニ於テ淸算ニ參與スヘク且無限責任社員カ淸算人ヲ選任スルトキハ其過半數ヲ以テ之ヲ決スヘク又社員死亡シ其相續人數人アルトキハ選任ヲ行フヘキ者一人ヲ定ムヘキモノトスルコトヲ得ヘシト雖モ後者卽チ株式會社ニ關スル規定ハ直ニ之ヲ株式合資會社ノ株主ニ準用スルコトヲ得ス何トナレハ株式合資會社ニハ會社ヲ代表スヘキ無限責任社員アルニ止マリ取締役ナケレハナリ然レトモ之カ爲メ裁判所ニ於テ淸算人ヲ選任スヘキモノトスル亦不可ナルヲ以テ本案ハ株主總會ニ於テ淸算人ヲ選任スヘキモノト爲ス是レ本條第一項乃至第三項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ其他淸算人タルヘキ者ニ關シ定款ニ別段ノ定アルトキハ之ニ從フヘキハ勿論ナルヲ以テ本條第一項但書ハ之ヲ明言シタリ
本條第四項ハ株式合資會社ニ特別ナル規定ナリ卽チ無限責任社員ト株主トハ利害ヲ異ニスルコト多ク從テ其利害ノ衝突ヲ避クルカ爲メ株主總會ニ於テ選任スル淸算人ヲシテ無限責任社員ノ全員若クハ其相續人又ハ其選任スル者ト同數ナラシムルコトヲ要ス況ンヤ無限責任社員ト株主トハ各對等ノ位地ニ立チ其一方ノミニ重キヲ措クコトヲ得サルモノナルニ於テオヤ是レ本條第四項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二百四十九條
(理由)無限責任社員ノ選任シタル淸算人ハ之ヲ選任シタルト同一ノ方法ニ依ルトキハ何時ニテモ之ヲ解任スルコトヲ得セシムルコト正當ナリ是レ本案カ他ノ會社ノ淸算人ニ關スル本案第九十七條第一項及ヒ第二百二十八條第一項ノ例ニ準シ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二百五十條
(理由)淸算人ハ就職ノ後遲滯ナク會社財產ノ現況ヲ調査シ財產目錄及ヒ貸借對照表ヲ作リ監査役ノ報吿書ト共ニ之ヲ株主總會ニ提出シテ其承認ヲ求ムルコトヲ要シ又淸算事務カ終ハリタルトキハ遲滯ナク決算報吿書ヲ作リ之ヲ株主總會ニ提出シテ其承認ヲ求ムルコトヲ要スルハ本案第二百三十六條第二項ノ規定ニ依リ株式會社ニ關スル規定ヲ準用スルノ結果トシテ當然言フヲ俟タサル所ナリト雖モ淸算人ハ此等ニ定メタル計算ニ付キ單ニ株主總會ノ承認ヲ得ルヲ以テ足レリトセス其外無限責任社員全員ノ承認ヲ得ルコトヲ要ス是レ株式合資會社ニアリテハ無限責任社員ノ一致及ヒ株主總會ノ決議ニ依リテ事ヲ行フヘキコトヲ規定セル本案第二百四十四條ト其旨趣ヲ等フスルモノニシテ同時ニ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二百五十一條
(理由)一般ニ會社ノ組織ヲ變更シテ他ノ種類ノ會社ト爲スコトヲ許スヘシトノ議ナキニアラスト雖モ之ヲ行フコト困難ニシテ實際上ニモ亦其必要アルヲ見ス故ニ本案ハ會社組織ノ變更ヲ許ササルヲ通例ト爲スト雖モ株式合資會社ニ付テハ其組織ヲ變更シテ株式會社ト爲スヲ許スハ啻ニ困難ナラサルノミナラス將來實際上必要ナリト認ムルヲ以テ本案ハ一二ノ外國立法例ニ倣ヒ之ヲ許スコトトセリ而シテ組織變更タルヤ事體頗ル重大ナルヲ以テ合資會社ニ關スル第七十四條第三號第七十七條第百五條第百十八條第一項但書ノ規定並ニ本章第二百四十七條ノ例ニ準シ第二百四十四條ノ規定ニ從フテ組織變更ヲ爲スヘキモノトスルコト至當ナリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二百五十二條
(理由)前條ノ規定ニ依リ株式合資會社ノ組織ヲ變更シテ株式會社ト爲ス場合ニ於テハ株主總會ヲ開キ直チニ株式會社ノ組織ニ必要ナル事項ヲ決議スルコトヲ要ス蓋シ一旦株式合資會社ノ組織ヲ變更シテ株式會社ト爲スコトニ決定シタルトキハ之ト同時ニ株式會社トシテ活動スルコトヲ要シ之カ爲メニハ速ニ株式會社ノ組織ニ必要ナル事項ヲ決議スルコトヲ要ス是レ本條前段ノ規定アル所以ナリ又株式合資會社ノ組織ヲ變更シテ株式會社ト爲スコトニ決スルトキハ之ト同時ニ無限責任社員ハ其引受クヘキ株式ノ數ニ應シ從來株式合資會社ノ株主タリシ者ト共ニ新組織ノ會社旣チ株式會社ノ株式引受人タルノ位地ニ立ツヲ以テ本條前段ノ規定ニ依リテ開ク所ノ株主總會ニ參與シ議決權ヲ行フコトヲ得ルハ當然ナリ是レ本條後段ノ規定アル所以ナリ
第二百五十三條
(理由)株式合資會社ノ組織ヲ變更シテ株式會社ト爲ストキハ之カ爲メ會社資本及ヒ財產ノ額ニ變更ヲ加フル場合アルノミナラス從來會社ノ債務ニ對シ連帶シテ辨濟ノ責ニ任シタル無限責任社員ハ其引受ケタル株式ノ金額ノミヲ限リ責任ヲ負フニ至リ從テ會社ノ債權者ニ利害ノ關係ヲ及ホスコト會社ノ合併又ハ資本ノ減少ノ場合ト異ナル所ナシ故ニ特別ノ規定ヲ設ケテ會社ノ債權者ヲ保護スルコトヲ要ス是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二百五十四條
(理由)株式合資會社ノ組織ヲ變更シテ株式會社ト爲ストキハ一方ニ於テハ前條ノ規定ニ依リ會社ノ債權者ノ承認ヲ受ケ若クハ異議ヲ述ヘタル債權者ニ辨濟又ハ供託ヲ爲シ又ハ相當ノ擔保ヲ供スルコトヲ要シ他方ニ於テハ本店及ヒ支店ノ所在地ニ於テ速ニ組織變更ノ登記ヲ爲スコトヲ要スヘシ故ニ本條ハ此二者ノ關係ヲ定メ卽チ會社ハ組織變更ニ付キ債權者ノ承認ヲ得又ハ本案第七十九條第二項ニ定メタル義務ヲ履行シタル後二週間內ニ其本店及ヒ支店ノ所在地ニ於テ組織變更ノ登記ヲ爲シ卽チ株式合資會社ニ付テハ解散ノ登記ヲ爲シ株式會社ニ付テハ設立ノ登記ヲ爲スコトヲ要スルモノト爲シタリ
第六章 外國會社
(理由)本章ハ外國會社詳言スレハ外國ノ商事會社ニ關スル規定ヲ揭クルモノニシテ現行商法中ニ存セサル所ナリ而シテ本案カ新ニ之ヲ設ケタル理由ニ至リテハ旣ニ本編ノ冒頭ニ於テ之ヲ說明シタリ
本章ノ規定ヲ設クルニ當リテ先ツ決定セサルヘカラサルハ如何ナル主義ニ依リテ外國會社ニ關スル規定ヲ設クヘキカニアリ此點ニ關シテハ二個ノ極端ナル主義ヲ想像スルコトヲ得ヘシ卽チ一ハ外國會社ハ全ク內國會社ト同一ノ規定ニ從フコトヲ要スト爲スモノニシテ他ハ外國會社ハ基本國法ニ從フヘク內國會社ニ關スル規定ニ從フコトヲ要セスト爲スモノ是レナリ第一ノ主義ハ全ク外國會社ノ成立ヲ認メサルト殆ント異ナル所ナク外國人ノ人格ヲ認メサリシ時代ニ於テハ格別外國人ハ內國人ト同シク私權ヲ享有シ得ルヲ以テ原則ト爲シ或制限ノ下ニ於テハ外國法人ノ成立ヲモ認ムル今日ニ於テハ採ルニ足ラサルコト當然ナリ之ニ反シテ第二ノ主義ハ放任ニ失シ內國會社ニ對シテ詳細ノ規定ヲ設ケテ嚴ニ之ヲ監督スルニ對シテ權衡ヲ得タルモノニアラス是レ本案カ此極端ナル二主義ヲ折衷シ或制限ノ下ニ於テ內國會社ニ關スル規定ヲ外國會社ニモ適用スヘキモノト爲シタル所以ナリ
第二百五十五條
(理由)本條第一項ハ外國會社カ日本ニ支店ヲ設ケタルトキ爲スヘキ登記及ヒ抗吿ニ關スル規定ヲ揭ク抑モ本案第一編第三章及ヒ本編第二章乃至第五章ノ規定ニ依レハ內國會社ハ其本店及ヒ支店ノ所在地ニ於テ一定ノ事項ヲ登記シ且其登記シタル事項ハ裁判所ヨリ之ヲ公吿スルコトヲ要スルモノナルヲ以テ日本ニ支店ヲ設ケタル外國會社モ亦其支店ノ所在地ニ於テ內國會社ト同シク登記及ヒ公吿ヲ爲サシムルコトヲ要スルハ勿論ナリ然レトモ一方ニ於テハ登記及ヒ公吿ニ關スル規定就中登記及ヒ公吿スヘキ事項ハ會社ノ種類ニ依リテ異ナル所アルヲ以テ各種ノ會社ニ付キ一々特別ノ規定ヲ設クルノ必要アリ他方ニ於テハ外國ニ於テ認メラレタル種類ノ會社ニシテ本編第二章乃至第五章ニ定メタル種類ノ何レニモ該當セサルモノアリ故ニ前四章ニ定メタル種類ニ該當スル外國會社ニ付テハ前四章ノ規定ニ依リテ登記及ヒ公吿スヘキ事項ヲ定メ其他之ニ關スル規定ヲ適用スルコトヲ得ヘシト雖モ其他ノ外國會社ニ付テハ直チニ前四章ノ規定ニ依ルコトヲ得ス結局此場合ニハ日本ニ成立スル會社中最モ之ニ類似セルモノヲ標準トシテ登記及ヒ公吿スヘキ事項ヲ定メ且其他之ニ關スル規定ヲ適用スルノ外ナカルヘシ是レ本條第一項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
本條第二項ハ日本ニ支店ヲ設ケタル外國會社ノ日本ニ於ケル代表者ヲ規定ス抑モ日本ニ支店ヲ設ケタル外國會社ハ其本國法ニ從ヒ本國ニ於テ代表者ヲ有スヘシト雖モ日本ニ設ケタル支店ニ於テ行フ商業ニ付テモ一々本國ニ於ケル代表者ニ依ラサルヘカラサルモノトセハ實際上甚タ不都合ナリ故ニ本條第二項ハ日本ニ支店ヲ設ケタル外國會社ハ必ス其日本ニ於ケル代表者ヲ定メ本條第一項ニ依リテ爲スヘキ登記中ニ其氏名住所ヲ揭クルコトヲ要スルモノト爲シタリ
本條第三項ハ外國會社ノ日本ニ於ケル代表者ノ代理權限及ヒ代表者カ其職務ヲ行フニ付キ他人ニ加ヘタル損害ニ關スル會社ノ責任ヲ規定ス卽チ此等ノ事項ニ付テハ會社ヲ代表スヘキ社員又ハ取締役ト同一視スルコト正當ナルヲ以テ本條第三項ハ合名會社ヲ代表スヘキ社員ニ關スル第六十二條ノ規定ヲ外國會社ノ日本ニ於ケル代表者ニ準用スヘキモノト爲シタリ
第二百五十六條
(理由)本條ハ前條ニ定メタル登記ヲ爲スヘキ期間ノ起算點ヲ規定ス抑モ登記ヲ爲スヘキ事項カ外國ニ於テ生シタル時ヨリ其登記ノ期間ヲ起算スルコト不當ニシテ卽チ此場合ニハ其通知ノ到達シタル時ヲ起算點ト爲スコト必要ナルヘシ是レ本案カ外國法人ニ關スル新民法第四十九條第一項但書ノ例ニ準シ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二百五十七條
(理由)本條ハ日本ニ始メテ支店ヲ設ケタル外國會社カ登記ヲ爲ササル結果ヲ定ム卽チ外國會社カ始メテ日本ニ支店ヲ設ケタルトキハ其支商ノ所在地ニ於テ登記ヲ爲スマテハ他人ニ對シテ法人タルコトヲ主張スルコトヲ得ス換言スレハ他人ハ其法人ノ成立ヲ否認スルコトヲ得ルモノトスルハ正當ナルヘシ之レ外國法人ニ關スル新民法第四十九條第二項ノ例ニ準シ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二百五十八條
(理由)外國ニ於テ設立スル會社ニシテ日本ニ本店ヲ設ケ又ハ日本ニ於テ商業ヲ營ムヲ以テ主タル目的トスルモノハ之ヲ內國會社トシテ當然本編第一章乃至第五章ノ規定ヲ適用スヘキカ將タ又外國會社トシテ外國會社ニ關スル規定ヲ適用スヘキカ疑ノ存スル所ナリ蓋シ此種ノ會社ハ事實上ニ於テハ內國會社ト毫モ異ナル所ナキノミナラス若シ內國ニ於テ設立スル會社ト同一ノ規定ニ從フコトヲ要セストセハ我國法律ノ適用ヲ避クルカ爲メ故ニ外國ニ於テ此種ノ會社ヲ設立スル者ヲ生スヘキコト必然ナリ是レ本條ノ規定ヲ設ケ此ノ如キ會社ハ日本ニ於テ設立スル會社ト同一ノ規定ニ從フコトヲ要スルモノト爲シタル所以ナリ
第二百五十九條
(理由)本條ハ旣ニ本章ノ冒頭ニ於テ述ヘタル理由ニ基キ必要ナル程度ニ於テ內國會社ニ關スル規定ヲ外國會社ニ準用スヘキコトヲ定メ同時ニ此場合ニ於テハ始メテ日本ニ設ケタル支店ヲ以テ本店ト看做スヘキコトヲ定メタルモノニ外ナラス卽チ株式若クハ社債ノ信用ヲ鞏固ナラシメ其流通ヲ容易且安全ナラシメ監督ヲ加フルノ必要アルコトハ其內國會社ナルト將タ又外國會社ナルトニ依リテ異ナルコトナシ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二百六十條
(理由)本條ハ本案第四十八條ト同一ノ趣旨ニ出ツ唯タ此場合ニ於テハ本店ハ外國ニ在リ從テ其本店ノ所在地ヲ管轄スル外國裁判所ハ其會社ノ解散ヲ命スルコトヲ得ルモ我國ニ於ケル支店ノ所在地ヲ管轄スル裁判所ハ會社ノ住所卽チ本店ニ對シテ土地ノ管轄ヲ有セサルヲ以テ其會社ノ解散ヲ命スルコトヲ得ス唯タ其支店ヲ閉鎖セシムルノ外ナシ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第七章 罰則
(理由)本條ハ現行商法第一編第六章第四節ニ該當スルモノニシテ本編中公ノ秩序ニ關スル規定ニ違反シタル者ニ對シ科スヘキ制裁ヲ規定ス
現行商法第二百六十二條及ヒ第二百六十三條ニ於テハ刑法上ノ刑罰卽チ罰金重禁錮ニ處スヘキ場合ヲ揭クト雖モ刑法上ノ刑罰ニ處スルノ必要アラハ之ヲ刑法中ニ揭クヘシ本編ニ於テ罰則トシテ之ヲ規定スルハ其當ヲ得タルモノニアラサルヲ以テ本案ハ之ニ關スル現行商法第二百六十二條乃至第二百六十四條ノ規定ヲ削除シタリ
又現行商法第二百六十一條ニ於テハ過料ニ處スル手續ヲ定ムト雖モ是レ亦手續ニ關スル特別法中ニ之ヲ定ムルヲ至當ト認ムルヲ以テ本案ハ之ヲ削除シタリ
第二百六十一條
(理由)本條ハ現行商法第二百五十六條第二百五十七條第二百五十八條第一項第四號第二百五十九條第一號第二百六十二條第二號及明治二十三年八月法律第六十號第八條等ニ修正ヲ加ヘタルモノニシテ其發起人及ヒ監査役ヲ加ヘタルハ發起人又ハ監査役ト雖モ本條ニ規定セル處分ヲ受クヘキ場合アルカ爲メニシテ又外國會社ノ代表者ヲ加ヘタルハ新ニ第六章ニ於テ外國會社ノ規定ヲ揭ケタル結果ナリ又株式會社ノ淸算人ニ限ラサルハ其他ノ會社ノ淸算人モ又本條ニ規定セル處分ヲ受クヘキ場合アルカ爲メナリトス其他現行商法ニ於テハ或場合ニハ過料ニ處シ或場合ニハ刑法上ノ罰則ニ處スルノミナラス其過料ノ最高限及ヒ最低限甚タ錯雜ニシテ且範圍狹隘ニ失スルカ故ニ本案ハ悉ク之ヲ過料ニ處スルノミナラス其最高限及ヒ最低限ヲ擴張一定シ以テ適宜ニ處理スルノ餘地ヲ存シ且各個ノ場合ニ通シテ之ヲ適用スルコトヲ得セシム又現行商法ニ於テハ未タ過料ニ處スヘキ場合ヲ揭ケ盡ササル所アルヲ以テ本案ハ新ニ之ヲ加フ是レ本條ノ如ク修正シタル所以ナリ
第二百六十二條
(理由)本條ハ現行商法第二百五十八條乃至第二百六十條第二百六十二條第一項第一號及ヒ第二項等ノ規定ニ該當スルモノニシテ修正ノ理由ハ前條ニ付キ述ベタル所ト異ナルコトナシ故ニ茲ニ重ネテ說明ヲ爲サス
第三編 商行爲
(理由)本編ハ旣成商法第一編第一章中第四條乃至第八條ノ規定同第六章第五節ノ規定及ヒ第七章乃至十一章ノ規定ニ該當シ商行爲ノ總則乃ヒ各種ノ商行爲ヲ規定ス旣成商法ハ商事契約ノ爲メ第二百七十四條乃至第六百九十八條卽チ合計四百二十五條ノ規定ヲ設ケタレトモ新民法ノ規定ト重複スルモノアリ調和セサルモノアリ此等ハ之ヲ本編ニ揭クルコト能ハサルヲ以テ本案ハ悉ク此等ノ規定ヲ削除シ爲メニ大ニ本編ノ規定ヲ簡明ナラシメタリ
旣成商法ニ於テハ契約ニ關スル規定ハ之ヲ五章ニ分チ卽チ第一編第七章ニ商事契約ノ總則第八章ニ代辨人仲立人仲買人運送取扱人及ヒ運送人第九章ニ賣買第十章ニ信用第十一章ニ保險ヲ規定スト雖モ本案ハ契約ヨリハ廣キ範圍ヲ有スル商行爲ナル編名ノ下ニ獨立ノ一編ヲ組織シタルノミナラス旣成商法ニ比スレハ一層精密ニ且理論的ニ章節款ヲ分類配列シ之ヲ分テ第一章總則第二章賣買第三章交互計算第四章匿名組合第五章仲立營業第六章問屋營業第七章運送取扱營業第八章運送營業第九章寄託第十章保險ノ十章ト爲シタリ
第一章ハ旣成商法第一編第七章中第八節交互計算ヲ除キ其他ノ規定ニ加フルニ旣成商法第一編第一章中第四條乃至第八條ヲ以テセルモノナリ旣成商法ハ各種ノ商事契約ニ關スル第一編第八章以下ノ規定ノ前卽チ第一編第七章ヲ以テ各種ノ商事契約ニ共通ナル規定ヲ揭ケ之ヲ商事契約ト題スト雖モ其第八章以下ノ規定モ亦同シク商事契約ナレバ之ニ對シテ特ニ第七章ノミヲ商事契約ト稱スルハ決シテ正鵠ヲ得タルモノニアラス況ンヤ本編ヲ題シテ商行爲ト曰フニ於テオヤ是レ本案カ旣成商法第一編第七章商事契約ヲ改メテ總則ト爲シ本編第一章ニ於テ之ヲ揭ケタル所以ナリ
第二章ハ旣成商法第一編第九章ニ該當ス而シテ賣買ハ商事契約中最モ重要ナルモノナルヲ以テ本案ハ之ヲ總則ノ次卽チ第二章ト爲シタリ
第三章ハ旣成商法第一編第七章第八節ニ該當ス旣成商法ニ於テハ交互計算ヲ以テ別ニ獨立ノ一章ト爲サス第一編第七章商事契約中ノ一節ト爲スト雖モ本案ハ一方ニ於テハ旣成商法第一編第七章ニ該當スル本編第一章中ニ包含スヘキ規定ノ範圍ヲ縮少シタルノ結果交互計算ヲ總則中ニ包含セシムルコトヲ得サルニ至リ他方ニ於テハ交互計算ハ商法上ノ債務關係ヲ整理シ其實際ニ重要アルコト他ノ種類ノ商行爲例ヘハ賣買、匿名組合等ニ對比スヘキモノアルヲ以テ之ヲ獨立ノ一章ト爲シ總則及ヒ賣買ノ次ニ第三章トシテ之ヲ規定シタリ
第四章ハ現行商法第一編第六章第五節共算商業組合ノ一部ニ該當スルモノナリ現行商法ニ於テハ共算商業組合ハ商事會社ト併セテ共ニ一章ヲ組織シタリト雖モ此二者ハ性質上大ニ異ナル所アリ到底之ヲ同編中ニ網羅スルコト能ハサルヲ以テ本案ハ旣ニ述ヘタルカ如ク第二編ニ會社ヲ規定シ而シテ共算商業組合中當座組合及ヒ共分組合ニ關スル規定ハ之ヲ組合ニ關スル民法ノ規定ニ讓リ匿名組合ニ關スル規定ノミヲ本編第四章ニ揭クルコトト爲シタリ
現行商法第一編第八章ハ之ヲ八節ニ分チ第一節ニ總則第二節ニ代辨人第三節ニ仲立人第四節ニ取引所仲立人第五節ニ仲買人第六節ニ運送取扱人第七節ニ運送人第八節ニ旅客運送ヲ規定スト雖モ本案ニ於テハ旣成商法ニ所謂代辨人中常囑ノ代辨人ハ之ヲ代理商ト稱シテ第一編第七章ニ規定シ常囑ニアラサル代辨人ハ代理ニ關スル本案及ヒ民法ノ規定ニ從フテ以テ足レリトシ又取引所ニ關スル事項ニ付キ取引所法ナル特別法ヲ設クル以上ハ取引所仲立人モ亦該法ノ規定ニ讓リ唯タ該法ニ規定ナキモノニ付テノミ一般ノ仲立人ニ關スル本案ノ規定ニ從フヲ以テ足レリトス故ニ本案ハ全ク此等ノ規定ヲ削除シタリ又我國從來ノ慣習上ニ於テハ旣成商法ニ所謂仲買人ヲ問屋ト稱スルヲ以テ本案ハ之ヲ問屋ト改メタリ又旅客運送ハ運送ノ一種ナルニモ關ハラス旣成商法カ節ヲ分テ二者ヲ規定シ卽チ第八節ニ旅客運送ヲ規定スルカ如キハ論理的ノ分類アラサルヲ以テ本案ハ之ヲ併合シ物品運送及ヒ旅客運送ハ各運送ノ一種ナルコトヲ明カニシタリ加之ナラス旣成商法ハ第一編第八章ニ題シテ代辨人仲立人仲買人運送取扱人及ヒ運送人ト曰ヒ商人ノ方面ヨリ觀察シテ規定ヲ設ケタリト雖モ本案ニ於テハ本編ニ題スルニ商行爲ナル名稱ヲ以テシタルノ結果各種ノ商行爲ノ方面ヨリ觀察シテ規定ヲ設ケタリ從テ其表題モ亦仲立契約、問屋契約、運送取扱契約、運送契約、寄託契約ト曰フコト至當ナルカ如シト雖モ此等ノ行爲ハ本案第二百六十四條ノ規定ニ依リ營業トシテ之ヲ爲スカ又第二百六十五條ニ依リ商人カ其營業ノ爲メニスルニアラサレハ商行爲トナラサル特質ヲ有スルノミナラス本編第五章以下ノ規定ハ之ヲ營業トスル者ノミニ對シテ適用スヘキモノナルカ故ニ本案ハ何々營業ト題シテ其意ヲ表シ第五章ニ仲立營業第六章ニ問屋營業第五章ニ運送取扱營業第八章ニ運送營業ヲ規定シタリ
其他現行商法第一編第八章第一節總則卽チ第四百五條ニ於テハ代辨(主トシテ本案ニ所謂代理商ニ該當ス)仲立、仲買(本案ニ所謂問屋ニ該當ス)及ヒ運送取扱ニ對シテ第一編第七章第六節ニ揭ケタル規定ヲ適用スヘキコトヲ定メ而シテ其第一編第七章第六節ニ於テハ代理ト題シテ各種ノ商事代理ニ共通ナル規定ヲ揭クト雖モ其一部ハ民法ノ規定ト重複スル不必要ノモノナルヲ以テ本案ハ之ヲ削除シ唯タ民法ノ規定ニ對シテ本案ニ例外ヲ設ケ若クハ民法ノ規定以外ニ於テ本案ニ別段ノ規定ヲ設クルコトヲ要スル部分ハ之ヲ修正シテ第一章總則中ニ規定セリ
現行商法第一編第十章ハ信用ト題シ之ヲ三節ニ分チ其第一節ニ消費貸借第二節ニ信用約束第三節ニ寄託ヲ規定スト雖モ本案ハ前ノ二者ニ付テハ民法ノ規定ニ從フヲ以テ足レリトスルカ故ニ之ヲ削除シ後者卽チ寄託ハ第九章トシテ之ヲ規定シ殊ニ其一種タル倉庫營業ニ關シテ新ニ詳細ナル規定ヲ設ケタリ
旣成商法第一編第十一章ハ保險ヲ規定セリ本案ハ之ニ修正ヲ加ヘテ本編第十章ニ之ヲ規定シタリ
以下各章ノ理由ヲ說明スルニ當テ旣成商法ノ規定ニシテ本案ノ採用セサリシモノニ關シ說明ヲ下スコト少シ是レ他ナシ本編ノ規定ノ大多數ハ契約ノ通則ナルヲ以テ新民法ノ編纂ニ因リ民法第三編債權第二章契約ノ規定中ニ包含セラレタルモノ頗ル多ク又契約以外ノ規定ト雖モ旣成商法編纂ノ主義ニ基ツキ民法ヲ豫想セスシテ設ケタルモノナレハ新民法ノ編纂ニ因リ當然之ニ讓ルヘキモノ亦尠シトセス而シテ此等削除ノ理由ヲ遂一說明スルハ徒ラニ同一ノ說明ヲ反覆スルニ過キサルヲ以テ已ムヲ得サル必要アルニアラサルヨリハ之ヲ略スルノ方針ヲ採リタルカ爲メニ外ナラス
第一章 總則
(理由)本章ハ旣成商法第一編第一章中第四條乃至第八條及ヒ同第七章中第八節ヲ除キ其他ノ規定ニ該當スルモノニシテ各種ノ商行爲ニ共通スヘキ規定ヲ揭ク抑モ旣成商法ヲ編纂スルニ當リテハ民法ニ先チテ之ヲ施行スルノ計畫ナリシカ故ニ民法ニ揭クヘキ事項ヲモ尙ホ商法ニ揭ケ民法ニ先チ單ニ商法ノミヲ施行スルコトヲ得ヘカラシメタリ之カ爲メ其第一編第七章商事契約ノ如キモ亦民法中ニ揭クヘキ規定ヲ包含スルコト甚タ多ク卽チ該章ハ之ヲ十一節ニ分チ第一節商事契約ノ種類第二節ニ契約ノ取結第三節ニ契約ノ履行第四節ニ價額賠償損害賠償及ヒ割引第五節ニ違約金第六節ニ代理第七節ニ時效第八節ニ交互計算第九節ニ質權第十節ニ留置權第十一節ニ指圖證券及ヒ無記名證券ヲ規定セリ然ルニ今日ニ於テハ旣ニ新民法ノ一部ノ成ルアリ殘部モ亦草案トシテ編纂ヲ竣リタリ從テ民法ト重複スル規定ハ之ヲ削除スルコト正當ナリ卽チ本案ニ於テハ單ニ一般ノ商行爲ニ特別ナル規定ノミヲ揭クルヲ以テ足レリトス是レ實ニ本案カ大ニ旣成商法ノ規定ヲ削除シ以テ本章ヲシテ簡明ナラシメ且更ニ之ヲ數節ニ分類スルノ必要ナキニ至ラシメタル所以ナリ
第二百六十三條
(理由)本條乃至第二百六十五條ハ商行爲卽チ旣成商法ニ所謂商取引ノ何タルヤヲ規定スルモノニシテ旣成商法第四條乃至第六條及ヒ第八條ニ該當ス而シテ本條ハ主トシテ旣成商法第四條及ヒ第八條ニ該當シ絕對商行爲ノ何タルヤヲ規定ス而シテ本條ニ列擧セル各種ノ行爲ニ付テハ個々ノ說明ヲ要セサレトモ茲ニ說明ヲ要スルハ本條第一號及ヒ次條第一號中ニ包含セラレタル不動產ニ關スル行爲是レナリ抑モ封建制度ノ行ハレテ以來不動產ハ社會ノ主要ナル階級タル武士ノ本據トナリ從テ封建制度ノ基礎ヲ成セリ加之ナラス不動產ノ轉換ナル觀念ハ之ヲ動產ノ轉換ナル觀念ト比シテ甚シキ徑庭アルヲ以テ不動產カ永ク商業ノ目的物タラサリシハ決シテ怪シムニ足ラサルナリ然ルニ封建制度ノ廢滅ニ歸シテヨリ土地ハ亦武士ノ本據ニアラス且不動產登記ノ發達ニ伴フテ不動產上ニ存スル權利ノ轉換モ確實トナリ從テ不動產ハ漸々商業ノ目的物タルニ至レリ實ニ近世ニ至リテ編纂セラレタル商法ハ不動產ニ關スル商行爲ヲ認ムルモノ多シ故ニ本案ハ之ヲ沿革ニ徵シ之ヲ我國ノ現況ニ照シテ不動產ト雖モ敢テ商行爲ノ目的以外ニ驅逐スヘキモノニアラサルヲ決定シ本條第一號及ヒ次條第一號中不動產ノ取得、讓渡、賃借、及ヒ賃貸等ヲ包含セシメタルモノトス
第二百六十四條
(理由)本條ハ旣成商法第四條ノ一部第五條及ヒ第七條ノ一部ニ該當シ營業トスルニ依テ初メテ商行爲タル行爲卽チ所謂相對商行爲ノ何タルヤヲ規定スルモノナリ而シテ本條ニ列擧セル各種ノ行爲ニ付テハ茲ニ說明ヲ要セス唯タ本文但書ノ規定ト旣成商法第七條トノ差異ニ付テハ特ニ說明スルノ必要アリ抑モ旣成商法第七條ニ於テハ商取引ト看做ササル行爲ヲ列擧スト雖モ其第一號ニ揭ケラレタルモノハ貨物ノ轉換ナル觀念ト背馳スルヲ以テ明文ヲ設ケテ之ヲ除外スルノ必要ナシ之ニ反シテ第二號及ヒ第三號ニ揭ケタルモノニ至テハ明文ヲ以テ始メテ商行爲中ニ包含セラレサルモノナルコトヲ知リ得ヘシ是レ本條但書ノ規定アル所以ナリトス
第二百六十五條
(理由)本條ハ旣成商法第六條ニ該當シ所謂附屬商行爲ノ何タルヤヲ規定スルモノナリ抑モ旣成商法ニ於テハ商人カ其營業上取結ヒタル取引云々ト云フト雖モ如何ナル行爲カ果シテ營業上行ヒタルモノナルヤハ疑問ニ屬ス又商人カ他ノ商人若クハ作業人ト取結ヒタル取引云々ト曰ヒ商人若クハ作業人ニアラサル者ト取結ヒタル取引ヲ包含セシメサリシハ頗ル狹隘ニ過ク又反對ノ證ナキトキハ之ヲ商取引ト看做シタレトモ其反證ナルモノハ果シテ如何ナル事實ノ證明ナルヤ詳カナラス故ニ本案ニ於テハ商人ノ行爲ハ反對ノ證ナキ限リハ其營業ノ爲メニスルモノト推定シ而シテ其營業ノ爲メニスル行爲ハ之ヲ商行爲ト決定シ以テ前者ハ反對ノ證明ヲ許スモ後者ハ證明ヲ許ササルコトヲ明カニセリ從テ商人ノ行爲カ商行爲タルト否トハ其營業ノ爲メニナスモノナリヤ否ヤニ因リテ定マリ營業ノ爲メニスルモノナリヤ否ヤハ之ヲ爭フコトヲ得ルモノトス
第二百六十六條
(理由)本條ハ旣成商法第三百四十二條ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ新民法第百條ノ規定ニ依レハ代理人カ本人ノ爲メニスルコトヲ示サスシテ爲シタル意思表示ハ直接ニ本人ニ對シテ其效力ヲ生セサルヲ以テ原則ト爲シ唯タ相手方カ其本人ノ爲メニスルコトヲ知リ又知ルコトヲ得ヘカリシトキニ限リ直接ニ本人ニ對シテ其效力ヲ生スト雖モ若シ商行爲ノ代理ニモ此規定ヲ適用スルトキハ極メテ不便ナルヲ免カレス故ニ本案ハ旣成商法ニ倣ヒ特ニ新民法ト反對ノ主義ヲ採リ商行爲ノ代理人カ假令本人ノ爲メニスルコトヲ示ササルトキト雖モ其行爲ハ當然本人ニ對シテ其效力ヲ生スヘク相手方ノ知不知ヲ問ハサルコトヲ規定シタリ其他本條但書ノ規定ハ旣成商法中ニ存セサル所ナリト雖モ其本人ノ爲メニスルモノナルコトヲ知ラサリシ相手方ヲシテ必ス本人ニ對シテノミ請求ヲ爲スヘキモノトセハ之カ爲メ非常ノ損失ヲ受ケ結局商行爲ノ實行ヲ阻害スヘキヲ以テ本案ハ二三ノ外國立法例ニ倣ヒ本人ノ爲メニスルモノナルコトヲ知ラサリシ相手方ハ代理人ニ對シテモ亦履行ノ請求ヲ爲スコトヲ得ルモノト爲シタリ然レトモ相手方ニシテ其本人ノ爲メニスルモノナルコトヲ知リタル場合ニ於テハ此ノ如キ權利ヲ與フルノ必要ナキコト勿論ナリトス是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二百六十七條
(理由)本條ハ旣成商法第四百五十九條ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ旣成商法ニ於テハ仲買人卽チ本案ニ所謂問屋ノミニ付キ本條ニ該當スヘキ規定ヲ設クト雖モ之ヲ擴張シテ一般商行爲ノ委任ニ及ホスコト正當ナルヲ以テ本案ハ之ヲ擴張シ第一章總則中ニ之ヲ規定スルコトト爲シタリ而シテ旣成商法ニ於テハ事情避クヘカラサルコトト委任者ノ爲メ更ニ大ナル損害ヲ防止シタルコトトヲ以テ委任ヲ受ケサル行爲ヲ爲スコトヲ得ヘキ要件ト爲スト雖モ狹隘ニ失スルカ故ニ本案ハ受任者ハ委任ノ本旨ニ反セサル範圍內ニ於テ委任ヲ受ケサル行爲ヲ爲スコトヲ得ヘク必スシモ事情避クヘカラサルコトヲ要セス又委任者ノ爲メ更ニ大ナル損害ヲ防止シタルヨトヲ要セサルモノト爲ス其他ハ字句ノ修正ニ過キス
第二百六十八條
(理由)本條ハ旣成商法第三百四十六條ノ一部ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ新民法第百十一條ニ依レハ代理權ハ本人ノ死亡ニ因リテ消滅スト雖モ商行爲ニ付テハ本人ノ死亡ニ因リ委任ニ因ル代理權ノ消滅セサルモノト爲スコト便宜ナルヲ以テ本條ニ之ヲ規定シタリ
其他旣成商法第三百四十六條ニ於テハ代理人ノ死亡ニ付キ本條ト同一ノ主義ヲ採ルト雖モ代理人ノ死亡スルトキハ本人カ代理人ニ對シテ有シタリシ信用モ亦消滅スヘキヲ以テ此場合ニハ寧ロ新民法第百十一條ノ通則ニ從ヒ代理權消滅スルモノト爲シ本案ニ例外的規定ヲ設ケサルコト正當ナリ故ニ本案ハ此點ニ關シ旣成商法ノ規定ヲ削除シタリ
第二百六十九條
(理由)本條ハ旣成商法第二百九十三條ノ規定ノ一部ニ該當ス抑モ新民法ニ於テハ本條ニ相當スル規定ヲ存セスト雖モ對話者間ニ於テ承諾ノ期間ヲ定メスシテ申込ヲ爲シタル場合ニ若シ法律ニ特別ノ規定ナク又當事者カ別段ノ意思ヲ表示セサル限リハ或ハ申込者カ其申込ヲ取消シ(新民法第五百二十七條)或ハ相手方カ其申込ヲ拒絕スルマテ申込ノ效力ヲ存續シ相手方カ一定ノ期間內ニ承諾ヲ爲ササルニ因リテ當然申込ノ效力ヲ失フコトナカルヘク一般民法上ノ契約ニ付テハ之カ爲メ敢テ不便ヲ感スルコトナカルヘシ況ンヤ之ニ關スル反對ノ慣習アリ且當事者カ之ニ依ル意思ヲ有セルモノト認ムヘキトキハ當然其慣習ニ從フモノトスルニ於テオヤ(新民法第九十二條)然ルニ商事契約ニ付テハ取引ノ迅速ヲ貴ヒ機先ヲ重ンシ到底此ノ如キ緩慢ナル手續ニ依ルコトヲ得サルヲ以テ特ニ例外ヲ設ケ相手方カ一定ノ期間內ニ承諾ヲ爲ササルトキハ假令別段ノ慣習ナク又當事者カ別段ノ意思ヲ表示セサルモ申込ハ當然其效力ヲ失フモノト爲スコト必要ナリ是レ本案カ旣成商法第二百九十三條ヲ修正シテ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ而シテ本條ノ場合ニ於テ相手方カ承諾ヲ爲スヘキ期間ニ付テハ旣成商法第二百九十三條ハ卽時ト定メ其他二三ノ法制ニ於テモ直チニ之ヲ爲スヘキモノト爲ス此ノ如ク相手方ハ卽時又ハ直チニ承諾ヲ爲スヘキモノト爲スハ當事者ノ意思ニ適合シ實際上ノ必要ニ應スルニ足ルヘキヲ以テ本案ハ之ヲ採用シタリ又旣成商法第二百九十三條ニ於テハ相手方カ卽時ニ承諾ヲ爲ササルトキハ之ヲ拒絕シタルモノト看做シ從テ申込ノ效力ヲ失フコトヲ示スト雖モ直チニ承諾ヲ爲ササルノ事實ヲ以テ申込ヲ拒絕シタルモノト看做スヘキカ否カハ法律ニ規定スルノ必要ナシ唯タ之ニ因リテ申込カ其效力ヲ失フコトヲ明カニスレハ足レリ故ニ本案ハ旣成商法ノ規定ヲ改メテ申込ハ其效力ヲ失フモノト爲シタリ
第二百七十條
(理由)本條第一項ハ旣成商法第二百九十三條ノ一部及ヒ第二百九十五條ニ該當スル規定ナリ抑モ承諾ノ期間ヲ定メスシテ隔地者ニ申込ヲ爲シタル場合ニ於テ申込者カ承諾ノ通知ヲ受クルニ相當ナル期間ヲ經過シタル後ハ其申込ヲ取消シ效力ヲ失ハシムルコトヲ得ヘシ(新民法第五百二十四條)ト雖モ當事者カ別段ノ意思ヲ表示セサル限リハ其申込ヲ受ケタル者カ相當ノ期間內ニ承諾ノ通知ヲ發セサル事實ノミニ因リ申込ハ當然其效力ヲ失フヘキモノニアラサルノミナラス假令申込者カ相當ノ期間ヲ經過シタル後申込ヲ取消ス旨ノ通知ヲ發スルモ其通知ノ相手方ニ到達スル以前相手方カ旣ニ承諾ノ通知ヲ發シタルトキハ契約成立シ其申込ノ取消ハ何等ノ效ナカルヘシ(新民法第五百二十六條第一項及ヒ第五百二十七條)是レ迅速機先ヲ貴重スル商事契約ニ付キ適當ノ規定ニアラサルナリ故ニ本案ハ前條ニ於テ對話者間ノ契約ニ付キ民法ノ規定ニ對シ例外ヲ設ケタルト等シク隔地者間ノ契約ニ付テモ亦民法ノ規定ニ對スル例外ヲ定ムルノ必要ナルヲ認メ本條第一項ノ規定ヲ設ケタリ而シテ本條第一項ノ場合ニ於テ相手方カ承諾ヲ爲ストキ期間ニ付テ旣成商法第二百九十三條ハ卽時ニ之ヲ爲スヘキモノト爲シ第二百九十五條ハ申込(提供)ヲ受取リタル翌日(但其日カ一般ノ休日ナルトキハ更ニ其翌日ニ於テスルコトヲ得)正午マテニ承諾ノ通知ヲ發シタルトキハ卽時ニ承諾ヲ爲シタルモノト看做ス旨ヲ規定スト雖モ此ノ如ク法律ヲ以テ時間ヲ一定スルハ或場合ニハ長キニ失シ或場合ニハ短キニ過クルノ弊アルヲ免カレサルヲ以テ本案ハ新民法第五百二十四條ニ倣ヒ相當ノ期間ヲ以テ承諾ノ期間ト定メ如何ナル期間ヲ以テ相當ト認ムヘキカハ之ヲ事實上ノ問題ト爲シ各場合ニ應シテ之ヲ決定スヘキモノト爲シタリ又承諾ノ期間(卽チ相當ノ期間)ヲ計算スヘキ標準ニ付テハ新民法ハ承諾ノ通知カ申込者ニ到達シタルヲ以テ承諾ノ期間若クハ申込者カ其申込ヲ取消スコトヲ得サル時期ヲ算定スルノ標準ト爲ス(新民法第五百二十一條第二項及ヒ第五百二十四條)ト雖モ申込者カ定メタル承諾ノ期間ニ關スル新民法第五百二十一條第二項ノ規定ノ如キハ當事者ノ意思ヲ推定シ申込者ヲ保護スルノ必要ニ出テタルモノニシテ全ク承諾ノ期間ヲ定メスシテ爲シタル商事契約取結ノ申込ニ付テハ此ノ如キ推定ヲ下スコトヲ得ス且申込者ハ全ク承諾ノ期間ヲ定メサルモノナルヲ以テ亦之ヲ保護スヘキ理由ナシ加之ナラス之カ爲メ取引ノ安全ヲ害シ通知ノ延着若クハ不着ノ場合ニハ一旦成立シタル契約ヲ成立セサリシモノトスルノ不都合アルヲ免レス(新民法第五百二十五條第一項)故ニ本案ハ旣成商法ニ倣ヒ法律カ定ムル期間內ニ承諾ノ通知ヲ發スルヲ以テ足レリト爲ス又旣成商法ニ於テハ普通ノ送達方法ヲ以テ承諾ノ通知ヲ發スルコトヲ必要ト爲スカ如シト雖モ此ノ如キ制限ヲ設クヘキ理由ナキヲ以テ本案ハ之ヲ削除シタリ又旣成商法ハ申込ヲ受ケタル者カ相當ノ期間內ニ承諾ノ通知ヲ發セサルトキハ申込ヲ拒絕シタルモノト看做シ間接ニ申込カ其效力ヲ失フコトヲ示スニ止マルト雖モ前條ト同シク寧ロ直チニ申込カ其效力ヲ失フヘキ旨ヲ定ムルノ簡明ナルニ如カス故ニ本案ハ相手方カ相當ノ期間內ニ承諾ノ通知ヲ發セサルトキハ申込ハ其效力ヲ失フヘキモノト定メタリ
本條第二項ハ旣成商法中ニ存セサル規定ナリ抑モ本條第一項ニ於テハ新民法第五百二十一條第二項ト反對ノ主義ヲ採リタルコト右ニ述フルカ如クナルヲ以テ從テ新民法第五百二十二條ニ相當スル規定ヲ設クルノ必要アルヲ見サルヤ勿論ナリト雖モ旣ニ民法ニ於テ承諾ノ期間ヲ定メテ申込ヲ爲シタル場合ニ遲延シタル承諾ハ申込者ニ於テ之ヲ新ナル申込ト看做スコトヲ得セシムル以上ハ(新民法第五百二十三條)本條第一項ノ場合ニ於テモ亦申込者ヲシテ遲延シタル承諾ヲ新ナル申込ト看做スコトヲ得セシムルコト必要ナルヘシ是レ本案カ新ニ本條第二項ノ規定ヲ設ケ民法第四百二十三條ノ規定ハ本條第一項ノ場合ニモ之ヲ準用スヘキコトヲ定メタル所以ナリ
第二百七十一條
(理由)本條ハ旣成商法第二百八十一條第二百八十二條及ヒ第二百九十四條ノ規定ニ該當スルモノニシテ商人カ申込ニ對シテ承諾ノ通知ヲ發セサルモ尙ホ之ヲ承諾シタルモノト看做サルヘキ場合ヲ規定ス抑モ申込者ハ其申込ニ依リテ相手方ヲ拘束スルコトヲ得サルカ故ニ相手方ハ假令諾否ノ通知ヲ發スヘキ旨ヲ附言シタル申込ヲ受クルモ之ニ對シテ諾否ヲ表スルノ義務ナク從テ單ニ申込ヲ拒絕セサル事實ノミニ因リ申込ヲ承諾シタルモノト爲スコトヲ得ス假令申込者カ申込ヲ爲スニ當リテ相手方カ拒絕ノ意思ヲ表示セサル限リハ之ヲ承諾シタルモノト看做スヘキコトヲ豫吿シタル場合ト雖モ亦同一ナルハ民法上ノ原則ニシテ此原則ハ商事契約ニ付テモ亦當然適用セラルヘシ然レトモ商人カ其平常取引ヲ爲ス者卽チ所謂得意先ヨリ營業ノ部類ニ屬スル契約ノ申込ヲ受ケタル場合ニ於テハ一般普通ノ場合ト其事情ヲ異ニシ得意先ニ對スル各商人ノ信用上及ヒ一般ノ慣例上其商人ハ必ス申込ニ對シテ諾否ノ回答ヲ發スヘキモノト爲ス是レ取引ヲ迅速簡易ナラシムルカ爲メ最モ必要ニシテ法律ヲ以テ特ニ各商人ニ此義務ヲ負ハシムルモ敢テ干涉ニ失スルコトナカルヘシ故ニ本條前段ハ此義務ヲ認メタリ而シテ此規定ニ從ヒ申込ヲ受ケタル商人カ諾否ノ通知ヲ發スヘキ期間ニ付テハ種々ノ標準ヲ立ツルコトヲ得ヘク殊ニ旣成商法第二百九十四條ニ於テハ卽時又ハ許與セラレタル期間ト爲シタリト雖モ申込者カ期間ヲ指定シタル場合ニ於テハ之ニ從フヘキコト勿論ニシテ(新民法第九十一條)法律ヲ以テ決定ヲ要スルハ唯タ申込者カ其期間ヲ一定セサル場合ニ外ナラス而シテ此場合ニ付テ旣成商法ニ於テハ卽時ト曰ヒ(卽時ノ何タルヤニ付テハ旣成商法第二百九十五條ニ於テ規定アリ卽チ申込ヲ受取リタル翌日正午若シ其日カ一般ノ休日ナルトキハ更ニ其翌日正午マテニ承諾ノ通知ヲ發シタルトキハ卽時ニ之ヲ爲シタルモノト看做スヘキ旨ヲ定ムト雖モ此規定ハ申込ヲ承諾スル場合ニ關シ申込ノ拒絕ニ關スル第二百九十四條ノ場合ニモ亦之ヲ適用スヘキヤ否ヤニ付テハ解釋上疑アリ)以テ時間ノ上ヨリ之ヲ決定セント試ミタレトモ商人ノ便否ヲ全ク度外視セル嫌アリ故ニ本案ハ遲滯ナク通知ヲ發スルコトヲ要スト曰ヒテ以テ當事者雙方ノ利害ヲ調和セシメタリ又若シ相手方カ申込者ニ對シテ遲滯ナク諾否ノ通知ヲ發シタルトキハ之ニ依リテ契約ノ成否ヲ定ムヘシト雖モ若シ之ヲ發スルコトヲ怠リタルトキハ如何ナル結果ヲ生スヘキカ此場合ニ於テ相手方ハ必スシモ承諾ヲ爲スノ意思ヲ有スルモノニアラサルヲ以テ契約ハ之ヲ成立セサルモノト爲シ申込者ヲシテ其諾否ノ通知ヲ受ケサルカ爲メ被リタル損害ノ賠償ヲ相手方ニ請求スルヲ得セシムルコト論理上或ハ正當ナルヘシト雖モ損害賠償ノ請求ハ費用時日ヲ徒費シ好結果ヲ奏スルコト難キヲ以テ寧ロ此場合ニ諾否ノ通知ヲ發スルコトヲ怠リタル相手方ハ其申込ヲ承諾シタルモノト看做シ契約ヲ成立セシムルノ便宜ニシテ申込者ニモ十分ノ滿足ヲ與フルコトヲ得ヘキニ如カス況ンヤ相手方ノ意思ヨリ觀察スルモ此規定ハ多數ノ場合ニ於テハ之ニ適合スルニ於テオヤ是レ本條後段ニ於テ申込ヲ受ケタル者カ遲滯ナク諾否ノ通知ヲ發スルコトヲ怠リタルトキハ其申込ヲ承諾シタルモノト看做スヘキ旨ヲ規定セル所以ナリ
第二百七十二條
(理由)本條ハ旣成商法第三百條ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ商人カ其營業ノ部類ニ屬スル契約ノ申込ヲ受クルト共ニ物品ヲ受取ルコトハ實際上最モ頻繁ニ行ハルル所ニシテ假令其申込ヲ拒絕スト雖モ自己ノ費用ヲ以テ其物品ヲ保存スルコトハ各商人ノ信用上必ス爲ス所ナリ而シテ法律ヲ以テ一般ニ此義務ヲ認ムルハ取引ヲ安全ナラシムルカ爲メ最モ必要ナルカ故ニ本條ノ規定ヲ設ケタリ然レトモ之カ爲メ申込ヲ受ケタル商人ヲシテ絕對的ニ保管ノ義務ヲ負ハシムルカ如キハ苛酷ニ失シ各商人ヲ保護スルニ足ラサルヲ以テ但書ノ規定ヲ設ケテ之ヲ制限シタリ其他本條モ亦前條ト等シク商人カ其營業ノ部類ニ屬スル契約ノ申込ヲ受ケタル場合ヲ規定セルモノナリト雖モ前條ハ其商人カ平常取引ヲ爲ス者卽チ得意先ヨリ申込ヲ受ケタル場合ノミニ限リ本條ハ申込者カ得意先ナルト否トヲ問ハス從テ其適用スヘキ範圍ニ廣狹アルヲ以テ各別ニ之ヲ規定シタリ
第二百七十三條
(理由)本條ハ旣成商法第二百八十七條及ヒ第二百八十八條ニ該當スル規定ニシテ民法債權編中多數當事者ニ關スル規定ニ對シ例外ヲ爲スモノナリ抑モ數人カ其一人又ハ全員ノ爲ニ商行爲タルヘキ行爲ニ因リ債務ヲ負擔シタル場合ニ於テ若シ新民法ノ規定ニ從フトキハ別段ノ意思表示ナキ限リハ各自平等ノ割合ヲ以テ之ヲ負擔スルニ止マルト雖モ(新民法第五百二十七條)商取引ヲ安全ナラシメ當事者ニ便宜ヲ與フルノ必要上商行爲ニ付テハ此主義ヲ貫徹スルコトヲ得ス故ニ本案ハ旣成商法ニ倣ヒ本條第一項ヲ以テ之ニ反對ノ原則ヲ採用シタリ
又或者カ他人ノ債務ヲ保證シタル場合ニ於テ若シ新民法ノ規定ニ從フトキハ連帶負擔ノ特約ナキ限リハ債權者ハ先ツ主タル債務者ニ履行ヲ求メタル後初メテ保證人ニ履行ヲ請求スルコトヲ得ヘシ(新民法第四百五十二條乃至第四百五十四條)然ルニ債務カ主タル債務者ノ商行爲ニ因リテ生シタルトキ又ハ保證カ商行爲ナルトキハ主タル債務者及ヒ保證人カ同一ノ行爲ヲ以テ債務ヲ負擔シタルト各別ノ行爲ヲ以テ債務ヲ負擔シタルトヲ問ハス其債務ハ各自連帶ニテ之ヲ負擔スヘキモノトスルノ必要アルコトハ各國立法例及ヒ旣成商法ノ共ニ認ムル所ニシテ商取引ヲ安全ナラシメ當事者ニ便利ヲ與フルモノナリ故ニ本條第二項ハ此主義ニ基キ民法ノ規定ニ對スル例外ヲ設ケタリ而シテ本案ハ以上ノ規定ヲ設クルト雖モ此規定タルヤ公ノ秩序ニ關スルモノニアラサルヲ以テ反對ノ特約ヲ爲スヲ妨ケサルハ勿論ナリ從テ旣成商法ニ所謂反對ヲ明示シタルニアラサレハ云々ノ規定ヲ削除セルハ其當然言フヲ俟タサル所ナルト殊ニ明示ニ限リ默示ノ特約ヲ認メサルノ理由ナキトノ爲メニ外ナラス(新民法第九十一條)
其他旣成商法ニ於テハ債權者數人アル場合ヲモ規定スト雖モ此場合ニハ其債權者間ニ當然連帶ノ存スルコトヲ認ムル理由ナク民法ニ於テモ債權者間ノ連帶ニ關スル規定ヲ設ケサリシヲ以テ本案ハ之ヲ削除シタリ
第二百七十四條
(理由)本條ハ旣成商法中ニ明文ヲ存セサル所ナリ抑モ新民法ノ規定ニ從フトキハ他人ノ爲メ或行爲ヲ爲スモ特約アルニアラサレハ其報酬ヲ請求スルコトヲ得サルコト多シ(新民法第六百四十八條第一項、第六百五十六條、及ヒ第六百六十五條)ト雖モ商人カ其營業ノ範圍內ニ於テ他人ノ爲メ或行爲ヲ爲シタル場合ニ於テハ此原則ヲ適用スルコト能ハサルヘシ何トナレハ啻ニ當事者ノ意思ニ反スルコトアルノミナラス取引ノ圓滑ニ行ハルルヲ妨害スヘケレハナリ而シテ多クノ場合ニ於テハ相當ノ報酬ヲ授受スヘキ默約アルモノト解釋シ得ラレサルニアラサルヘシト雖モ必スシモ然リト謂フコトヲ得サルノミナラス之ヲ事實上ノ問題ニ放任スヘキニアラス故ニ本案ハ新タニ本條ノ規定ヲ設ケ特約ナシト雖モ相當ノ報酬ヲ請求スルコトヲ得ルヲ以テ原則ト爲シタリ
第二百七十五條
(理由)本條ハ旣成商法第三百三十三條及ヒ第五百九十二條ノ規定ニ該當ス抑モ新民法ノ規定ニ依レハ金錢ノ消費貸借ニ付キ利息ヲ授受スルハ特約アルトキニ限ル若シ特約ナキトキハ借主ハ利息ヲ支拂フコトヲ要セスト雖モ商人間ニ於テ爲シタル金錢ノ消費貸借ニ付テハ多數ノ場合ニ於ケル當事者ノ意思解釋上ヨリスルモ亦便宜上ヨリスルモ之ト反對ノ主義ヲ採ルコト極メテ必要ナリ又商人カ其營業ノ範圍內ニ於テ他人ノ爲メニ金錢ノ立替ヲ爲シタルトキモ亦新民法第四百十九條ノ通則ニ依ラス同第六百五十條第一項ト等シク當然支出ノ日以後ノ利息ヲ請求スルコトヲ得セシムルノ必要アリ是レ本案カ旣成商法ニ倣ヒ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ其他旣成商法ニ於テハ立替ノ場合ニハ法定利率ニ依ルヘク又消費貸借ノ場合ニハ取引ノ性質ニ依リテ定マリタル慣習上ノ利率ニ依ルヘキモノト爲スト雖モ此利息ニ關シテ慣習ヲ存シ且當事者カ之ニ依ル意思ヲ有セルモノト認ムヘキトキニ其慣習ニ從フテ利息ヲ定ムルハ當然ニシテ其他ニ此ノ如キ差異ヲ設クル理由トシテ見ルヘキモノナシ(新民法第九十二條)故ニ本案ハ何レノ場合ニモ當然法定利息ヲ請求スルコトヲ得ルモノト爲シタリ又旣成商法ニ於テハ消費貸借ニ付キ一方ニ於テハ明示ノ契約アル場合ヲ除外スルト同時ニ他方ニ於テハ金錢ニアラサル物ノ消費貸借ニモ本條ノ適用ヲ及ホスト雖モ反對ノ特約ヲ以テ本條第一項ノ適用ヲ免カルルコトヲ得ルハ勿論(新民法第九十一條)其反對ノ特約ヲ明示ノ契約ニ限ルヘキ理由ナシ又金錢ニアラサル物ハ之ヲ融通シテ利益ヲ得ルノ難易金錢ニ比シ大ニ異ナル所アリ到底同一ノ規定ニ從ハシムルコトヲ得サルカ故ニ本條ハ一方ニ於テハ反對ノ特約アル場合ヲ規定セス他方ニ於テハ本條第一項ノ適用ヲ金錢ノ消費貸借ノミニ限リタリ
第二百七十六條
(理由)本條ハ旣成商法第三百三十四條ニ該當シ商行爲ニ因リテ生シタル債務ニ關スル法定利率ヲ定ム抑モ民法上ノ法定利率ハ普通一般ノ場合ヲ觀察シテ之ヲ定メタルモノナルヲ以テ營利ヲ主眼トスル商行爲ニ關シテハ適切ナラサル所アリ從テ特ニ商行爲ニ因リテ生シタル債務ニ關スル法定利率ヲ定ムルノ必要アルハ明カナリ然ルニ之ヲ定ムルニ當リテ民法上ノ法定利率ト如何ナル比例ヲ保ツヘキヤハ頗ル問題ナレトモ本案ハ多數ノ立法例ニ倣ヒ年一分ヲ高ムルヲ以テ適當ト認メ法典調査會ノ諮問ニ對スル各地商業會議所ノ答申モ亦之ニ符合セリ是レ本案カ商行爲ニ因リテ生シタル債務ニ關スル法定利率ヲ民法上ノ法定利率(新民法第四百四條)ヨリ高メテ年六分ト定メタル所以ナリ
第二百七十七條
(理由)本條ハ旣成商法第三百十七條ニ修正ヲ加ヘタルモノニシテ商行爲ニ因リテ生シタル債務ノ辨濟ヲ爲スヘキ場所ヲ規定ス抑モ債務ノ辨濟ヲ爲スヘキ場所ニ付テハ新民法第四百八十四條ニ於テ各種債務ニ通スル總則ヲ揭クト雖モ商行爲ニ依リテ生シタル債務ニ付テハ二個ノ方面ニ於テ特ニ例外ヲ設クルノ必要アリ卽チ其一ツハ特定物ノ引渡ニ付テハ其債權發生ノ常時物ノ存在セシ場所ニ於テ之ヲ履行スヘキモ特定物ノ引渡ニ關セサル履行ハ債權者ノ現時ニ營業所ニ於テ之ヲ爲シ若シ其營業所ナキトキハ其住所ニ於テ之ヲ爲サシムルノ必要アリ卽チ住所ノ外別ニ營業所ヲ設ケ營業ニ關スル取引ハ營業所ニ於テ專ラ之ヲ爲スコトハ殊ニ各商業ニ普通ノ狀態ナルニモ拘ハラス法律上住所ニ於テ履行ヲ爲スヘキモノトセハ大ニ實際ト齟齬スルヲ免レス是レ本案カ旣成商法第三百十七條ニ倣ヒテ本條第一項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ其二ハ指圖債權及ヒ無記名債權ハ證券ノ裏書交付若クハ單一ナル交付ノミニ因リテ自由ニ讓渡スコトヲ得從テ此債務ノ辨濟ヲ債權者ノ營業所又ハ住所ニ於テ爲サシムルコト能ハサルヲ以テ債務者ノ現時ノ營業所又營業所ナキトキハ其住所ニ於テ辨濟ヲ爲サシムルノ必要アリ是レ本案カ旣成商法中ニ存セサル本條第二項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二百七十八條
(理由)本條ハ旣成商法ニ存セサル所ナリ抑モ新民法第四百十二條ノ規定ニ依レハ債務ノ履行ニ付キ確定期限アルトキハ債務者ハ其期限ノ到來シタル時ヨリ遲滯ノ責ニ任シ之ニ反シテ不確定期限アルトキハ債務者ハ其期限ノ到來シタルコトヲ知リタル時ヨリ遲滯ノ責ニ任スヘキモノトス而シテ此規定ハ本案中ニ別段ノ規定ナキ限リハ指圖債權及ヒ無記名債權ニモ亦適用スヘキモノナリト雖モ指圖債權及ヒ無記名債權ニ付テハ特ニ此規定ニ依ルヘカラサル理由アリ卽チ此等ノ債權ニ在テハ債務者ハ自ラ進ンテ履行ヲ爲スコト頗ル困難ニシテ結局債權者カ其證券ヲ呈示シテ履行ノ請求ヲ爲スヲ俟ツ外ニ途ナシ故ニ假令履行期限カ到來シ若クハ其到來シタルコトヲ知ルモ所持人ヨリ證券ヲ呈示シテ履行ヲ請求スル時マテ遲滯ノ責ニ任セサルモノト規定スルコト至當ナリトス是レ本案カ新タニ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二百七十九條
(理由)本條モ亦旣成商法中ニ存セサル所ナリ抑モ證券中ニ債權者ヲ指名スルト共ニ所持人ニ辨濟スヘキ旨ヲ附記シタル債權ノ性質ニ付テハ疑アリト雖モ新民法第四百七十一條ニ於テハ之ヲ指圖債權ト同一視シタリ本案ハ更ニ辨濟ノ場所及ヒ債務者ノ遲滯ニ關シテモ亦之ヲ指圖債權及ヒ無記名債權ト同一視スルコトノ適當ナルヲ認メ以テ本條ノ規定ヲ設ケタリ
第二百八十條
(理由)本條ハ旣成商法第四百三條現行商法第七百十一條、第七百六十二條第二項ノ一部及ヒ第七百六十六條等ニ該當スルモノナリ抑モ旣成商法四百三條ニ於テハ盜取セラレ又ハ紛失シ若クハ滅失シタル指圖證券ハ裏書讓渡アリタルト否トヲ問ハス民事訴訟法ニ從ヒテ權利者之ヲ無效トスル手續ヲ爲スコトヲ得ト規定シ現行商法第七百十一條ニ於テハ之ヲ手形及ヒ小切手ニ適用スヘキコトヲ規定スト雖モ手形(小切手ヲモ包含ス)ハ金錢ノ給付ヲ目的トスル證券ノ一ナルヲ以テ別ニ之ヲ揭クルノ必要ナク又「權利者」トハ證券ノ所持人ヲ指スニ外ナラサルヲ以テ本案ハ之ヲ「所持人」ト改メタリ又證券ノ複本ヲ作成シタル場合ナルト否ト又裏書讓渡アリタルト否トヲ問ハサルコト當然言ヲ俟タサル所ナルヲ以テ本案ハ別ニ之ヲ明言セス單ニ「其證券ヲ」云々ト規定セリ又盜取紛失若クハ滅失ハ何モ喪失ニ外ナラサルヲ以テ本案ハ旣成商法ノ如ク一々之ヲ列擧セス單ニ喪失ノ語ヲ以テ之ヲ槪括セリ又民事訴訟法ニ從ヒテ喪失シタル證券ヲ無效トスル手續ヲ爲スコトハ卽チ公示催吿ノ申立ヲ爲スノ謂ナルヲ以テ本案ハ「公示催吿ノ申立ヲ爲シ」云々ト改メタリ又現行商法第七百六十六條ニ於テハ喪失シタル手形ニ付キ公示催吿ノ申立ヲ爲シ而シテ自己ノ所有權ヲ疏明シ且裁判所ノ命令ヲ得タル者ハ判決確定前ニ擔保ヲ供シテ手形金額ノ支拂ヲ求メ又ハ擔保ヲ供セスシテ手形金額ヲ供託セシムルコトヲ得ト規定スレトモ之ヲ手形以外ノ指圖證券ニ及ホササルノ缺點アルノミナラス證券ノ趣旨ニ從ヒテ履行ヲ爲ストキハ所持人ヲシテ相當ノ擔保ヲ供セシメ所持人カ擔保ヲ供セサルトキハ目的物ヲ供託スルニ過キサル以上ハ其履行又ハ供託ヲ求ムル者ヲシテ必スシモ證券ニ付キ權利ヲ有スルコトヲ疏明セシメサルヘカラサルノ必要ナシ況ンヤ裁判所ノ命令ヲ以テスルカ如キハ徒ニ無用ノ干涉ヲ爲スモノナルニ於テオヤ故ニ本案ハ「自己ノ所有權ヲ疏明シ且裁判所ノ命令ヲ得」云々ノ規定ヲ削除シ其他ノ字句ヲ修正シテ之ヲ一般ノ指圖證券ニ及ホシタリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二百八十一條
(理由)本條ハ旣成商法第三百九十六條ノ一部及ヒ第三百九十八條ノ規定ニ一大修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ旣成商法ニ於テハ第三百九十四條乃至第四百二條ニ於テハ指圖證券ノ裏書ノ方法及ヒ效力ヲ規定スレトモ旣ニ民法債權編中ニ指圖債權ノ讓渡ノ方法及ヒ效力ニ關シテ規定スルトコロアルヲ以テ更ニ重複シテ之ヲ商法中ニ規定スルヲ要セス唯タ民法ト雖モ細密ノ點ニ至ルマテ規定ヲ設クルモノニアラス且所謂商業證券ナルモノハ指圖式多ク從テ商法上之カ作用ヲ一定シ民法ノ規定ヲ補ハサルニ於テハ指圖證券ノ融通ノ效用ヲ著シク滅殺スル恐アリ卽チ民法ニ於テハ指圖債權ノ讓渡ハ其證書ニ讓渡ノ裏書ヲ爲シテ之ヲ讓受人ニ交付スルニ非サレハ之ヲ以テ債務者其他ノ第三者ニ對抗スルコトヲ得スト規定スレトモ(民法第四百六十九條)其裏書トハ果シテ如何ナルコトヲ指シ二個以上ノ裏書アル場合ニハ其關係如何等ノ問題ヲ決定セス又惡意又ハ重大ノ過失ナクシテ證券ヲ取得シタル者ハ其證券ノ返還ニ應セサルヘカラサルヤ否ヤモ亦等シク民法ノ指示セサルトコロナリ而シテ本案第四編手形ノ規定トシテ恰モ此場合ニ準用スヘキモノヲ存スルヲ以テ本條ハ之ヲ準用スルコトト爲シタリ但此等ノ規定ヲ本編中ニ設ケ之ヲ手形編ニ準用スルヲ以テ或ハ法規ノ順位ノ宜キヲ得タルモノトスレトモ本案ハ手形編ノ統一ヲ重シ且諸外國ノ立法例ニ鑑ミ此ノ如ク規定シタリ
第二百八十二條
(理由)本條ハ旣成商法第三百十二條ニ該當シ商行爲ニ因リテ生シタル債務ノ履行ヲ爲スヘキ時間ヲ規定ス而シテ旣成商法ニ於テハ「特別ノ情況アルトキノ外云々」ト規定スレトモ如何ナル事情ヲ以テ特別ノ事情ト認ムヘキカヲ全然事實問題ニ放任スルハ本條ノ規定ノ效力ヲ微弱ナラシムル所以ナリ故ニ本案ハ之ヲ削除セリ又旣成商法ニ於テハ單ニ慣習上ノ取引時間ニ付テノミ規定スレトモ法令ニ依リテ定メラレタル取引時間ニ付テモ亦勿論本條ヲ適用スヘク別ニ明文ナキモ此ノ如キ解釋ノ歸着スヘキモ疑義ヲ生スルコトナカラシメンカ爲メ本案ハ之ヲ明言セリ其他ハ字句ノ修正ニ過キス
第二百八十三條
(理由)本條ハ留置權ニ關スル規定ニシテ旣成商法第三百八十七條ニ該當シ且之ニ一大修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ新民法ニ依ルモ將タ又旣成商法ニ依ルモ債權者カ其辨濟ヲ受クルマテ自己ノ占有ニ歸シタル債權者ノ所有物ヲ留置スルニハ其債權カ留置スヘキ物ニ關シテ生シタルモノナルコトヲ要ス故ニ商人間ニ於テ其双方ノ爲メ商行爲タル行爲ニ因リテ生シタル債權ニモ亦此條件ヲ具備スヘキモノト爲サハ他ノ商行爲ニ因リテ債權者ノ占有ニ歸シタル債務者ノ所有物ハ一切留置スルコト能ハサルニ至ルヘシ是レ商行爲ニ因リテ生シタル債權ヲ確實ナラシムル所以ニアラサルト共ニ結局當事者双方ニ對シテ實際上不便ナルヲ免カレス殊ニ其債權カ商業上最モ迅速ニ運轉セラルヘキ商品ニ關スルモノナル場合ニ於テ其最モ甚シキヲ見ル是レ本條ノ如ク修正ヲ加ヘタル所以ナリ
第二百八十四條
(理由)本條ハ旣成商法第三百四十九條ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ旣成商法ニ於テハ商事債權ノ爲メ特ニ時效期間ヲ定メテ之ヲ六个年ト爲シ且其起算點ヲモ定メタリト雖モ本案ハ商行爲ニ因リテ生シタル債權ノ時效期間ヲ五个年ト爲スヲ相當ト認メ且起算點ニ關スル規定ハ之ヲ民法ニ讓リタリ又旣成商法ハ法律上之ヨリ短キ時效期間ヲ定メタルトキヲ例外ト爲シ本法ニ別段ノ定アル場合ト他ノ法令ニ別段ノ定アル場合トヲ區別セスト雖モ之ヲ區別スルコト正當ナルヲ以テ本案ハ之ヲ區別シタリ
第二章 賣買
(理由)本章ハ商行爲タル賣買ヲ規定セルモノニシテ旣成商法第一編第九章ニ該當シ新民法第三編第二章第三節ニ對シテ例外ヲ爲ス旣成商法ハ該章ヲ四節ニ分チ第一節ニ賣買契約第二節ニ供給契約第三節ニ競賣第四節ニ取戾權ヲ規定セリト雖モ第四節取戾權ノ適用ハ實際上支拂停止ノ場合ニ起ルモノナルカ故ニ之ヲ破產法ノ規定ニ讓リ又第二節供給契約及ヒ第三節競賣ハ賣買ノ一種トシテ特別ノ規定ヲ設クルノ必要ナキヲ以テ何レモ之ヲ削除シ第一節賣買契約ノ規定中民法ト重複スルモノヲ省キ實際上商法ニ於テ特別ノ規定ヲ設クルヲ要スルモノヲ本章ニ規定シタリ
第二百八十五條
(理由)本條ハ旣成商法第三百九十二條ニ該當シ賣主ノ供託又ハ競賣ヲ爲スノ權利ヲ規定ス抑モ買主カ其目的物ヲ受取ルコトヲ拒ミタルトキハ賣主ハ買主ノ爲メニ其目的物ヲ供託シテ債務ヲ免カルルコトヲ得ヘク又其物カ供託ニ適セサルトキ若クハ滅失若クハ毀損ノ虞アルカ或ハ過分ノ保存費用ヲ要スルトキハ賣主ハ裁判所ノ許可ヲ得テ其物ヲ競賣シ代價ヲ供託スルコトヲ得ルハ民法ノ規定スル所ナリ(新民法第四百九十四條及ヒ第四百九十七條)然レトモ商人間ノ賣買ニモ尙ホ此規定ヲ適用シ競賣ヲ爲スニハ一々裁判所ノ許可ヲ得サルヘカラストセハ或ハ之カ爲メ賣却ノ時機ヲ失シ非常ノ損失ヲ來スコトナキヲ保セス故ニ相當ノ期間ヲ定メテ催吿ヲ爲シタル後ハ裁判所ノ許可ヲ得スシテ之ヲ競賣スルコトヲ得セシメ又損敗シ易キ物ニ至リテハ催吿ヲ爲サスシテ直チニ競賣ヲ爲スコトヲ得セシムルノ必要アリ是レ本案カ各國立法例及ヒ旣成商法ニ倣ヒ本條第一項及ヒ第二項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ而シテ賣主カ此規定ニ從ヒ競賣ヲ爲シタルトキハ其代價ヲ供託スルコトヲ要スルハ新民法第四百九十七條ト其理由ヲ同フシ賣主カ未タ代金ノ全部若クハ一部ヲ受取ラサリシトキハ競賣代價ノ中ヨリ之ヲ控除スルコトヲ得ルハ新民法第三百二十二條第三百二十八條第三百三條及ヒ第三百四條等ノ適用ニシテ本條第三項ノ規定ハ唯タ其趣旨ヲ明ニセルニ外ナラス但供託若クハ競賣ヲ爲スコトハ買主ノ利害ニ關スルコト鮮カラサルヲ以テ賣主ヲシテ遲滯ナク買主ニ其旨ヲ通知セシムルノ必要アリ故ニ本案ハ本條第一項但書ヲ以テ其旨ヲ規定シタリ
第二百八十六條
(理由)本條ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ抑モ契約ノ性質又ハ當事者ノ意思表示ニ依リ一定ノ日時又ハ一定ノ期間內ニ履行ヲ爲スニ非サレハ契約ヲ爲シタル目的ヲ達スルコト能ハサル場合ニ於テ當事者ノ一方カ履行ヲ爲サスシテ其時期ヲ經過シタルトキハ相手方ハ直チニ其契約ノ解除ヲ爲スコトヲ得ルハ新民法第五百四十二條ノ規定スル所ナリト雖モ解除ヲ爲スニハ相手方ニ對シテ其意思ヲ表示スルコトヲ要スルノ煩雜アルノミナラス(新民法第五百四十條)同第五百四十七條ニ依リ解除權消滅スル場合ノ外何時ニテモ其解除權ヲ行使スルコトヲ得ヘク假令同條ニ依リ解除權ヲ消滅セシメントスルモ尙ホ催吿ヲ爲シ相當期間ノ經過ヲ俟ツノ必要アリ然ルニ商事タル賣買ニ於テハ簡易迅速ヲ主トスルヲ以テ此ノ如キ手續ニ依ルコトヲ得サルノミナラス商品相場ノ變動極メテ頻繁ナルヲ以テ永ク法律關係ヲ不確定ノ位地ニ置クハ一方ニ不當ノ利益ヲ與ヘ他方ニ意外ノ損失ヲ蒙ラシムルコトアルヲ免カレス故ニ此場合ニハ相手方カ直チニ履行ヲ請求スルニ非サレハ當然契約ヲ解除シタルモノト看做スコト啻ニ當事者ノ意思ニ適合スルノミナラス實際上極メテ便宜ナリ是レ本案カ新タニ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二百八十七條
(理由)本條ハ旣成商法第五百四十四條ニ該當ス抑モ新民法ノ規定ニ依レハ買主ハ其目的物ヲ受取ルモ直チニ之ヲ檢査スルノ義務ナク又假令瑕疵アリ若クハ數量ノ不足アルモ直チニ之ヲ賣主ニ通知スルコトヲ要セス契約ノ時若クハ其事實ヲ知リタル時ヨリ一年內ニ契約ヲ解除シ又ハ代金ノ減額若クハ損害轄償ヲ請求スルコトヲ得ヘシ(新民法第五百六十五條第五百六十四條第五百七十條第五百六十六條)然レトモ若シ之ヲ商人間ノ賣買ニ適用セントスレハ賣買ノ效力ヲシテ永ク浮動ノ狀態ニ在ラシメ取引ノ安全ヲ妨クルノ恐アリ是レ本條第一項ニ於テ商人間ノ賣買ニ限リ目的物ヲ受取リタル買主ハ遲滯ナク之ヲ檢査シ瑕疵又ハ數量ノ不足ヲ發見シタルトキハ直チニ其旨ヲ賣主ニ通知スルニ非サレハ其瑕疵又ハ不足ヲ理由トシテ契約ヲ解除シ又ハ代金ノ減額若クハ損害賠償ヲ請求スルコトヲ得ス又直チニ發見スルコト能ハサル瑕疵ヲ受取後六个月內ニ發見シタルトキモ亦同一ナル旨ヲ規定シタル所以ナリ
前述ノ如ク本條ハ賣買ノ效力ヲ永ク浮動ノ狀態ニ在ラシメサルコトヲ勉メタレトモ敢テ不當ナル賣主ヲモ保護セントスルノ主意ニアラス故ニ第二項ヲ設ケテ惡意ノ賣主ニ對シテハ前項ノ適用ヲ見ルコトナク買主ハ何等ノ通知ヲ要セスシテ契約ノ時若クハ事實ヲ知リタル時ヨリ一个年內ニ新民法第五百六十五條及ヒ第五百七十條ニ定メタル權利ヲ行使スルコトヲ得ルモノト規定セリ
第二百八十八條
(理由)本條ハ旣成商法第五百四十九條及ヒ第五百五十條ニ修正ヲ加ヘタルモノニシテ買主ノ義務ヲ規定ス而シテ本條第一項及ヒ第二項ノ規定ハ旣成商法其他ノ立法例ト大同小異ナリト雖モ賣主及ヒ買主ノ營業所又ハ住所カ同一市町村內ニ在ル場合ニハ賣主自カラ之ヲ保管處分スルコト極メテ容易ナルヲ以テ買主ニ保管競賣ノ義務ヲ負ハシムルノ必要ナシ是レ本案カ新タニ本條第三項ノ規定ヲ設ケ此場合ニハ前二項ノ規定ヲ適用セサルモノト爲シタル所以ナリ
其他旣成商法第五百四十九條第二項ハ當然言フヲ俟タサル所ニシテ又買主カ旣ニ代價ヲ支拂ヒタル場合ニ於テ之ヲ競賣スルコトヲ得ヘシトスル同第五百五十條ノ規定ハ新民法第三百三條第三百二十二條第三百二十八條第三百四十一條及ヒ第三百八十七條ノ適用ニ過キサルヲ以テ本案ハ何レモ之ヲ削除シタリ
第二百八十九條
(理由)本條ハ旣成商法中ニ存セサル所ナリト雖モ本條ノ場合ニモ引渡シタル物品若クハ超過額ヲ保管シ若クハ其競賣代價ヲ保管スル等ノ義務ヲ買主ニ負ハシムルノ必要ナルハ前條ノ場合ト更ニ異ナル所ナシ是レ本案カ獨逸新商法ニ倣ヒ新ニ之ヲ規定シタル所以ナリ
第三章 交互計算
(理由)本章ハ旣成商法第一編第七章第八節交互計算ニ該當スルモノナリ旣成商法ニ於テハ之ヲ商事契約ノ一節ト爲シ賣買、運送、保險等ト同等ノ位置ニ置カサリシト雖モ本案ハ本編ノ冒頭ニ於テ述ヘタル理由ニ依リ之ヲ以テ獨立ノ一章ト爲シタリ
第二百九十條
(理由)本條ハ旣成商法第三百五十三條第三百五十四條第三百五十八條及ヒ第三百五十九條等ヲ槪括的ニ規定シ之ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ卽チ旣成商法第三百五十三條ニ於テハ相互ノ間ニ絕エス債權及ヒ債務カ生スル所ノ平常ノ取引關係ヲ有スル者ハ期間ヲ定メテ互ニ差引計算ヲ爲シ其債權及ヒ債務ヲ消却スルコトヲ得ル旨ヲ規定スト雖モ交互計算ヲ爲シ得ヘキコトハ當然ニシテ明文ヲ要セサルカ故ニ之ヲ削除シ本條ニハ唯タ商人間又ハ商人ト商人ニ非サル者トノ間ニ平常取引ヲ爲ス場合ニ於テ一定ノ期間內ノ取引ヨリ生スル債權債務ノ總額ニ付キ相殺ヲ爲シ云々ト規定シ以テ本案ニ所謂交互計算ハ平常取引ヲ爲ス商人ト商人又ハ商人ニ非サル者トノ間ニ於テスルニ非サレハ之ヲ爲スコトヲ得サルコト及ヒ一定ノ期間內ノ取引ヨリ生スル債權債務ノ總額ニ付キ相殺ヲ爲シ之ヲ消滅セシムルニアルコトヲ明カニシタリ又旣成商法第三百五十四條前段ニ於テハ交互計算ノ關係ハ契約ニ因リテノミ生スルコトヲ得ヘキ旨ヲ規定スト雖モ是カ爲メ特ニ一條ヲ設クルノ必要ナキカ故ニ本案ハ單ニ本條ニ於テ其旨ヲ明カニスルニ止メタリ此ノ如ク交互計算ハ單ニ計算ノ方法ニアラス法律上特別ノ效力ヲ有スル契約ナルカ故ニ當事者ノ意思ニ基キ交互計算ニ類以スル計算方法ニ依ルモ之ヲ以テ交互計算ト看做スコトナシ從テ同條後段ノ規定ヲ要セス又旣成商法第三百五十三條ニ於テハ「債權債務ヲ消却シ」云々ト規定シ恰モ個々ノ債權債務ニ付キ相殺ヲ爲スヘキカ如シト雖モ是レ交互計算ノ性質ニ反スルヲ以テ本條ハ總額ニ付キ相殺ヲ爲スヘキモノト爲シタリ而シテ相殺ヲ爲スヘキ債權債務ハ個々ニ之ヲ主張スルコトヲ得ス唯タ差引殘額ノ支拂ヲ受クヘキ權利義務アルニ止マルコトハ旣成商法第三百五十八條及ヒ第三百五十九條ノ規定スル所ナリト雖モ本條ハ「其殘額ノ支拂ヲ爲スヘキコトヲ約シ」云々ノ規定ニ之ヲ包含セシメタリ是レ本條ノ如ク修正シタル所以ナリ
第二百九十一條
(理由)本條ハ旣成商法中ニ存セサル所ナリ抑モ別段ノ契約ナキ限リハ當事者間ノ取引ヨリ生シ而シテ相殺スルコトヲ得ル債權債務ハ皆之ヲ交互計算ニ組入ルヘキモノナルコトハ交互計算ノ性質ニ依リテ當然之ヲ知ルコトヲ得ヘク別ニ規定ヲ要セサル所ナルヲ以テ本案ハ旣成商法第三百六十一條ノ規定ヲ削除シタリ然レトモ手形其他ノ商業證券ヨリ生シタル債權債務ヲ交互計算ニ組入レタル場合ニ其證券ノ債務者カ辨濟ヲ爲ササリシ場合ニ付テハ特別ノ規定ヲ設クルコト必要ナリ何トナレハ此場合ニ若シ特別ノ規定ナキトキハ其商業證券ヨリ生シタル債權債務ト雖モ交互計算ヨリ除去スルコトヲ得ス而シテ更ニ證券ノ債務者カ辨濟ヲ爲ササルトキト雖モ代金支拂ノ債務ハ之ヲ消滅セシムルコト能ハサルノ不便アリ加之ナラス證券ノ債務者カ辨濟ヲ爲ササル爲メニ生シタル償還請求等ノ債權モ亦之ヲ交互計算中ニ組入レサルヘカラサルコトトナリ商業證券ノ如ク短期時效ニ罹ル債權ニ在テハ不便鮮ナシトセス故ニ本案ハ新ニ本條ノ規定ヲ設ケ此場合ニ當事者ハ其旣ニ組入レタル債務ヲ交互計算ヨリ除去スルコトヲ得ルモノト爲シタリ
第二百九十二條
(理由)本條ハ旣成商法第三百五十五條ニ該當シ之ニ一大修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ旣成商法ニ於テハ「差引計算ノ期間」ト曰フト雖モ交互計算ノ繼續スヘキ期間ヲ指示セルモノニアラサルヤノ疑アリ而シテ交互計算ハ之ヲ解除セサル限リ永續スヘキモノニシテ六个月若クハ一个年ヲ經過スルニ因リテ當然終了スヘキモノニアラス假令其交互計算ノ文字ヲ用ヒスシテ差引計算ナル文字ヲ用ヒタルハ相殺ヲ爲スヘキ期間ヲ指示スルノ意ナリト解シ得ラルルトスルモ到底不明瞭タルノ譏ヲ免カレス故ニ本案ハ之ヲ「相殺ヲ爲スヘキ期間」ト改メタリ又旣成商法ニ於テハ相殺ヲ爲スヘキ期間ヲ一个年ト爲スト雖モ我國ニ於テ實際上最モ多ク交互計算ヲ行フ所ノ會社ハ槪ネ六个月每ニ利益ノ配當ヲ爲スカ故ニ若シ之ヲ一个年トセハ極メテ不便ナルノミナラス信用ハ永ク繼續シテ行ハルルヲ保チ難キヲ以テ之ヲ六个月トスルコト相當ナルヘシ況ンヤ當事者カ之ヲ以テ長キニ失シ若クハ短キニ過クルモノトスルトキハ契約ニ因リテ之ヲ伸縮スルコトヲ得ルニ於テオヤ故ニ本案ハ之ヲ六个月ト改メタリ又旣成商法ニ於テハ契約ヲ以テ法定ノ期間ヨリ短キ期間ヲ定メタル場合ノミヲ認メ之ヲ延長スルコトヲ許ササルカ如シト雖モ是レ故ナクシテ濫リニ當事者ノ契約自由ヲ制限スル不當ノ規定ナルヲ以テ本案ハ當事者間ニ別段ノ契約アルトキハ之ニ從フヘキモノト爲ス(新民法第九十一條)是レ本條ノ如ク修正ヲ加ヘタル所以ナリ
第二百九十三條
(理由)本條ハ旣成商法第三百五十六條第三百五十七條及ヒ第三百五十九條等ノ必要ナル部分ニ修正ヲ加ヘテ槪括的ニ規定シタルモノナリ抑モ當事者カ債權債務ノ各項目ヲ記載シタル計算書ヲ承認シタルトキハ其殘額ニ付キ新ナル債務關係ヲ生シ債權者ハ唯タ其殘額ノ請求ヲ爲スコトヲ得ルニ止マリ債務者モ亦其殘額ヲ支拂フヲ以テ足レリトス然ルニ此場合ニ於テモ尙ホ當事者ハ其各項目ニ付キ異議ヲ述ヘ交互計算ニ組入レタル債權債務ノ成立ヲ爭フコトヲ得ルモノトセハ交互計算ハ極メテ不確定ノモノト爲リ安ンシテ之ヲ行フコトヲ得サルヘシ故ニ本條ハ旣成商法ニ倣ヒ此場合ニハ各項目ニ付キ異議ヲ述フルコトヲ得サルモノト爲シタリ唯タ錯誤若クハ脫漏アリタル場合ニ於テハ各項目ニ付キ異議ヲ述フルコトヲ得ヘキハ素ヨリ當然ナルヲ以テ但書ニ於テ其旨ヲ明カニシタリ其他旣成商法第三百五十六條ニ於テハ交互計算ヲ實行スル方法ヲ規定シ同第三百五十七條ニ於テハ計算ヲ默認シタル場合ヲ規定スト雖モ交互計算ヲ實行スル方法ノ如キハ之ヲ實際ニ放任シ便宜ニ從フヘク又計算ヲ默認シタルモノト看做スヘキヤ否ハ事實上ノ問題ニシテ之ヲ法文中ニ定ムルヲ要セサルヲ以テ本案ハ何レモ之ヲ削除シタリ
第二百九十四條
(理由)本條ハ旣成商法第三百六十三條及ヒ第三百六十四條ニ修正ヲ加ヘ槪括的ニ規定シタルモノナリ抑モ相殺ニ因リテ生シタル殘額ニ付キテハ當事者間ニ利息ヲ附スヘキ契約ナシト雖モ債權者ヲシテ計算閉鎖ノ日以後ノ法定利息ヲ請求スルコトヲ得セシムルコト至當ナルヲ以テ本條第一項ニ其旨ヲ規定シタリ旣成商法第三百六十四條ハ差引殘額ニ付キ計算期間ノ末日ヲ滿期日ト看做スヘキ旨ヲ規定スト雖モ本案ニ於テハ第二百九十條及ヒ本條第一項ノ規定ヲ適用スルヲ以テ足レリトス又殘額ヲ支拂フヘキカ將タ又債權トシテ次ノ期間ニ於ケル計算ニ組入ルヘキカハ契約ニ依リテ定ムヘキモノニシテ旣成商法第三百六十條ノ規定ハ全ク其必要ナシ故ニ本案ハ何レモ之ヲ削除シタリ又旣成商法第三百六十三條ニ於テハ計算ノ各項目ニ付キ之ヲ計算ニ組入レタル日ヨリ當然利息ヲ附スヘキモノト爲スト雖モ本案ハ當事者間ニ契約ナク且第二百七十五條ノ適用ヲ受ケサル債務ニ付テ當然利息ヲ附スヘキモノト規定スルノ必要ヲ見ス故ニ之ヲ削除シタリ然ルニ本條第一項ノ體裁上ヨリ考フレハ計算閉鎖前ニ在テハ各項目ニ付キ一切利息ヲ附スルコトヲ得サルカ如ク解セラルル嫌アルヲ以テ本條第二項ノ規定ヲ設ケテ其然ラサルコトヲ明カニシタリ
第二百九十五條
(理由)本條ハ旣成商法第三百六十六條ニ該當ス抑モ交互計算ハ當事者相互間ノ信用ニ基クモノナルヲ以テ若シ相互間ニ信用ヲ維持スルコト能ハサルニ至ルトキハ各當事者ヲシテ何時ニテモ之ヲ解除スルコトヲ得セシムルノ必要アリ故ニ本條前段ハ旣成商法第三百六十六條ニ倣ヒ各當事者ハ何時ニテモ交互計算ノ解除ヲ爲スコトヲ得ルモノト爲ス而シテ此場合ニ於テハ直チニ計算ヲ閉鎖シテ殘額ノ支拂ヲ求ムルコトヲ得ルコト勿論ナルヲ以テ本條後段ハ其趣旨ヲ明カニシタリ
旣成商法第三百六十六條ニ於テハ當事者一方ノ死亡又ハ破產ニ因リ交互計算ハ當然解除セラルルモノト爲スト雖モ本案ハ之ヲ採用セス是レ何時ニテモ交互計算ヲ解除スルコトヲ得ル以上ハ死亡又ハ破產ニ因リテ交互計算ハ當然解除セラルルモノトスルカ如キ干涉的規定ヲ要セサレハナリ
第四章 匿名組合
(理由)本章ハ現行商法第一編第六章第五節ノ一部ニ該當シ匿名組合ニ關スル規定ヲ揭クルモノトス抑モ現行商法ニ於テハ其第一編第六章ニ題スルニ商事會社及ヒ共算商業組合ナル名稱ヲ以テシ其第五節ニ於テ共算商業組合ヲ規定スト雖モ法人タル會社ト契約關係タル組合トヲ同編ノ下ニ規定スルハ編纂上其當ヲ得タルモノニアラサルコト前ニ述ヘタルカ如シ故ニ本案ハ第二編ニ法人タル會社ヲ規定シ本編ニ組合ヲ規定シタリ
現行商法ニ於テハ共算商業組合ト曰フト雖モ其組合中ニハ一時ノ商行爲ヲ爲スモノ換言スレハ商業ヲ營マサルモノヲ包含ス(現行商法第二百六十六條第二百六十七條及ヒ第九條第一項後段)故ニ之ヲ共算商業組合ト稱スルハ名實ノ一致ヲ缺クモノト謂フヘシ殊ニ現行商法ハ共算商業組合ヲ當座組合、共分組合及ヒ匿名組合ノ三種ニ分ツト雖モ本案ニ於テハ當座組合及ヒ共分組合ナルモノヲ規定スルノ必要ナシト認メ唯タ匿名組合ノミヲ認メタルカ故ニ本章ニ題スルニ匿名組合ナル名稱ヲ以テシタリ左ニ本案カ當座組合及ヒ共分組合ヲ規定スルノ必要ナシト認メタル所以ヲ列擧スヘシ抑モ現行商法第二百六十六條ニ於テ當座組合ヲ規定セル所以ノモノハ當座組合ナル契約ヲ以テ商事ト爲シ商法ノ規定ヲ適用スルコト及ヒ組合員ハ或場合ニ於テ第三者ニ對シテ連帶債務ヲ負擔スルコトノ二點ニアリト雖モ當事者双方カ商人ナル場合ニ於テハ組合契約ノ商行爲タルハ勿論一方ノミカ商人ナル場合ニ於テモ商行爲ニ關スル本法ノ規定ヲ雙方ニ適用スヘキヲ以テ當然現行商法ト同一ノ結果ヲ生シ之カ爲メ特ニ組合契約ノ商行爲ナルコトヲ明言スルノ必要ナシ(本案第三條及ヒ第二百六十五條)及之ニ反シテ當事者双方トモニ商人ニアラサル場合ニ於テモ其組合カ本案第三百六十三條ニ揭クル行爲ノ一ヲ目的トスルトキハ其行爲ニ對シテハ本法ノ規定ヲ適用スルコト勿論ナリ現行商法ハ其組合契約ヲ以テ商事契約ト爲シ之ニ對シテモ亦本法ノ規定ヲ適用スヘキモノト爲スト雖モ本案ハ此ノ如ク本法ノ適用區域ヲ擴張スルノ必要アルコトヲ認メス又總組合員ニ於テ若クハ共同代理人ヲ以テ若クハ或組合員カ他ノ組合員ノ代理人トシテ商行爲ヲ爲シタル場合ニ於テハ連帶ニ關スル本案第二百七十三條ノ規定及ヒ代理ニ關スル民法竝ニ本案ノ規定ニ依リテ各組合員ハ當然連帶債務ヲ負擔スヘシ之ニ反シテ或組合員カ自己ノ名ノミヲ以テ商行爲ヲ爲シタル場合ニ於テハ委任若クハ事務管理ニ關スル規定ニ從ヒ其組合員ト他ノ組合員トノ間ニ或法律關係ヲ生スルハ格別全ク其行爲ニ參與セサリシ組合員ヲシテ第三者ニ對シ連帶債務ヲ負ハシムヘキ理由ナシ之ヲ要スルニ現行商法第二百六十六條ヲ削除スルモ殆ント同一ノ結果ヲ生シ偶々同一ノ結果ヲ生セサルモノハ之ヲ生セシメサルコト却テ立法上正當ナルヲ以テ本案ハ全ク之ヲ削除シタリ
又現行商法第二百六十七條ニ於テハ共分組合ヲ規定スト雖モ當座組合ニ關シテ前ニ述ヘタル所ト同一ノ理由ニ依リ之ヲ削除スルモ差支ナク又他ノ組合員ノミニテ商行爲ヲ爲スニ止マリ自カラ又ハ代理人ヲ以テ其行爲ニ參與セサル組合員ニ付テハ當然連帶債務ヲ負擔セシメサルヲ以テ現行商法ノ如ク先訴ノ抗辯ヲ認ムルノ必要ナシ故ニ本案ハ全ク之ヲ削除シタリ
以上述ヘタルカ如キ理由アルヲ以テ本案ハ當座組合及ヒ共分組合ニ關スル現行商法ノ規定ヲ削除シタリト雖モ唯タ法典上特別ノ規定ヲ設ケサルニ止マリ之ヲ否認スルニアラサルヲ以テ現ニ成立セルモノヲ認ムルハ勿論將來ト雖モ有效ニ此等ノ組合契約ヲ取結フコトヲ妨ケサルモノトス
第二百九十六條
(理由)本條ハ現行商法第二百六十八條ニ該當スルモノニシテ匿名組合ノ何タルヤヲ規定ス抑モ現行商法ニ於テハ當事者ノ一方カ他方ノ一時ノ商行爲ノ爲メニ出資ヲ爲シ其商行爲ヨリ生スル損益ヲ分配スヘキモノヲモ匿名組合ニ包含セシメタリ蓋シ此種ノ組合ハ廣義ニ於ケル當座組合中ニ包含スヘシト雖モ明治二十六年改正前ノ舊商法及ヒ現行商法ニ於ケル當座組合ハ當事者双方トモニ業務ニ與カルモノノミヲ指示スルニ止マルヲ以テ若シ明治二十六年改正前ノ舊商法ノ如ク單ニ商業ヲ營ム爲メニスル匿名組合ノミヲ認ムルトキハ一時ノ商行爲ノ爲メニスル匿名組合ニ關スル規定ヲ缺ク是レ他ノ當座組合及ヒ共分組合等ニ比シ其權衡ヲ得タルモノニアラサルヲ以テ現行商法ハ之ヲ匿名組合中ニ加ヘタリ然ルニ本案ニ於テハ旣ニ當座組合及ヒ共分組合ノ規定ヲ削除シタルノミナラス一時ノ商行爲ノ爲メニスル匿名組合ニアリテハ商業ノ爲メニスル匿名組合ノ如ク營業者及ヒ匿名組合員ノ共同營業ニアラサルハ勿論商號モナク又利益ノ配當前ニ損失ヲ塡補セシムル必要ナク又存續期間ヲ規定スルヲ要セス其他特別ノ規定ヲ要セサルヲ以テ本案ハ之ヲ削除シタリ然レトモ全ク之ヲ否認スルニアラサルヲ以テ此種ノ組合契約モ亦法律上其效力ヲ有スルコト勿論ニシテ唯タ本章ノ規定ヲ之ニ適用セサルノミ
其他現行商法第二百六十八條ニ於テハ出資、業務執行、商號及ヒ匿名組合員ノ第三者ニ對スル責任ヲモ規定スト雖モ本案ハ之ヲ第二百九十七條第二百九十八條及ヒ第三百一條ニ讓リ本條ニ之ヲ揭ケサルコトト爲シタリ其他ハ何レモ字句ノ修正ニ過キサルヲ以テ茲ニ說明スルノ必要ナシトス
第二百九十七條
(理由)本條ハ現行商法第二百六十八條第一項ノ一部ニ該當ス抑モ民法ニ於ケル組合ハ互ニ出資ヲ爲シテ共同ノ事業ヲ營ムヲ以テ目的トシ從テ各組合員ノ出資ハ當然組合員ノ共有ニ屬シ又各組合員ハ自カラ又ハ第三者若クハ他ノ組合員ヲ代理人トシテ業務ヲ執行スルカ故ニ其行爲ニ因リテ第三者ニ對シ直接ニ權利ヲ得義務ヲ負フ(新民法第六百六十七條第六百六十八條第六百七十條乃至第六百七十二條及ヒ第六百七十五條)ト雖モ本案ニ於ケル匿名組合ハ當事者ノ一方カ商業ヲ營ミ他方ハ其營業ノ爲メニ出資ヲ爲シ其營業ヨリ生スル利益ノ分配ヲ受クルニ止マルヲ以テ營業者ハ必スシモ營業ノ爲メニ出資ヲ爲スコトヲ要セス假令出資ヲ爲スモ之ヲ匿名組合員ノ所有若クハ匿名組合員及ヒ營業者ノ共有ニ屬セシムヘキ理由ナク又匿名組合員カ營業ノ爲メニ爲シタル出資モ亦營業者及ヒ匿名組合員ノ共有ト爲ルノ理由ナキコト同一ナルカ故ニ一方ニ於テハ營業者ノ出資ニ付テハ規定ヲ設クルノ必要ナキト同時ニ他方ニ於テハ匿名組合員ノ出資ハ營業者ノ財產ニ屬スヘキ旨ヲ定ムルノ必要アリ何ントナレハ特別ノ規定ナキ以上ハ營業者ノ出資ハ其財產ニ屬スヘキコト當然ナルモ匿名組合員ノ出資ハ當然營業者ノ財產ニ歸スト云フコトヲ得サレハナリ(本案第二百九十六條)又匿名組合員ハ自カラ業務ヲ執行シ若クハ營業者ヲ代表スルコトヲ得サルハ勿論營業者モ自己ノ名ノミヲ以テ業務ヲ執行シ匿名組合員ヲモ代表シテ業務ヲ執行スルモノニアラサルヲ以テ其營業者ノ行爲ヨリ生スル權利義務ハ全ク營業者一身ニ歸シ匿名組合員ハ營業者ノ行爲ニ依リ第三者ニ對シテ權利ヲ得義務ヲ負フコトナシトス是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
其他現行商法第二百六十八條ニ於テハ匿名組合員ノ第三者ニ對スル義務ニ付キ唯一ノ例外ヲ認メ出資未濟ノ場合ニ於テ其ノ出資ノ額ニ滿ツルマテヲ限リ義務ヲ負フモノト爲スト雖モ此ノ如キ例外ヲ存スルノ必要ナキヲ以テ本案ハ之ヲ削除シタリ
第二百九十八條
(理由)本條ハ現行商法第二百六十八條第一項ノ一部ヲ修正シタルモノニシテ前條第二項ニ對シテ例外的規定ヲ爲ス現行商法ニ於テハ匿名組合員カ營業者ノ商號ニ自己ヲ表示スル名稱ヲ用ヰサルコトヲ以テ匿名組合ノ性質ト爲スト雖モ假令匿名組合員ノ氏、氏名又ハ其他ノ商號ヲ營業者ノ商號トシテ表示スルモ其營業ニシテ單ニ營業者ノ營業タルニ止マリ匿名組合員トノ共同營業ニアラサル限リハ匿名組合タルヲ失ハサルコト至當ナリ故ニ本案ハ現行商法ノ如ク之ヲ以テ匿名組合ノ性質ト爲サスシテ單ニ匿名組合員カ其氏、氏名又ハ商號ヲ營業者ノ商號トシテ表示シタル結果ヲ規定セリ抑モ匿名組合員ニシテ其氏又ハ氏名ヲ商號中ニ用ヰ又ハ其商號ヲ營業者ノ商號トシテ用ユルコトヲ許諾シタルトキハ第三者ヲシテ自己ノ營業若クハ自己ト營業者トノ共同營業ナリト誤信セシムヘキ弊アルヲ以テ其使用以後ニ生シタル債務ニ付テハ營業者ト連帶シテ其責ニ任セサルヘカラサルコト尙ホ合資會社ノ有限責任社員カ自己ヲ無限責任社員ナリト信セシムヘキ行爲アリタルトキハ善意ノ第三者ニ對シテ無限責任社員ト同一ノ責任ヲ負フト同一ナリ(本案第百十六條)然レトモ營業者カ匿名組合員ノ許諾ヲ經スシテ其氏又ハ氏名ヲ自己ノ商號中ニ加ヘ又ハ其商號ヲ自己ノ商號トシテ用ヰルモ匿名組合員ヲシテ第三者ニ對スル責任ヲ負ハシムヘキ理由ナキヲ以テ匿名組合員ノ許諾アリタルトキニ限ルコト正當ナリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二百九十九條
(理由)本條ハ現行商法第二百七十條前段ニ該當スルモノニシテ唯タ字句ノ修正ニ止マリ會社ニ關スル本案第六十七條第一項及ヒ第百九十五條第一項ノ規定ト其趣旨ヲ同フス其他現行商法第二百七十條後段ニ於テハ匿名員ハ受取期限ニ至リテ未タ受取ラサル利益又ハ旣ニ受取リタル利益ヲ以テ其後ニ生シタル損失ヲ補充スル義務ナシト規定スト雖モ是レ當然言フヲ俟タサル所ナルヲ以テ本案ハ之ヲ削除シタリ又現行商法第二百六十九條ニ於テハ匿名組合ノ損益共分ノ割合ハ明約アルニ非サレハ營業資本總額ニ對スル出資額ノ比例ヲ以テ之ヲ量定スト規定スト雖モ是レ別ニ明文ヲ要セス新民法第六百七十四條ノ規定ヲ適用スルヲ以テ足レリトスルカ故ニ本案ハ之ヲ削除シタリ
第三百條
(理由)本條ハ現行商法第二百七十一條ノ前段ニ該當シ組合契約ノ解除ヲ規定ス抑モ現行商法ハ一方ニ於テハ組合ノ存續期間ヲ定メサリシトキニ限リ契約ノ解除ヲ許シ他方ニ於テハ其事業年度ノ終リナルト否トヲ問ハサルモノトス然レトモ或當事者ノ終身間組合ノ存續スヘキコトヲ定メタル場合ハ存續期間ヲ定メサリシ場合ト之ヲ同一視スルコト從來各國立法例カ會社並ニ組合ニ關シテ認ムル處ニシテ新民法第六百七十八條第一項及ヒ本案第六十八條第一項モ亦同一ノ主義ヲ採リタリ然ラハ獨リ匿名組合ニ關シテノミ反對ノ主義ヲ採ルヘキ理由ナキヲ以テ本條第一項ハ新ニ此場合ヲモ加ヘタリ又組合契約ノ解除ハ事業年度ノ終リニ限ルヘキコトハ從來ノ立法例ニ於テ會社ノ退社若クハ解散又ハ組合ノ脫退若クハ解散ハ事業年度ノ終リ又ハ會社若クハ組合ノ爲メ不利ナラサル時期ニ限リシト同一ノ趣旨ニ出テ殊ニ組合ニ關シテ新民法第六百七十八條第一項ハ組合ノ爲メ不利ナラサル時期ナルコトヲ必要トシ會社ニ關シテ本案第六十八條第一項ハ事業年度ノ終リナルコトヲ必要トセシヲ以テ本條第一項モ之ニ倣ヒテ制限ヲ加ヘ事業年度ノ終ニ於テスルコトヲ要スト爲シタリ又現行商法ニ於テハ已ムコトヲ得サル事由アル場合ヲ規定セスト雖モ此場合ニハ組合ノ存續期間ヲ定メタルト否トヲ問ハス事業年度ノ終ナルト否ト若クハ組合ノ爲メ不利ナル時期ナルト否トヲ論セス何時ニテモ組合契約ヲ解除スルコトヲ許スハ實際上必要ナルノミナラス之ト同一ノ主義ハ各國ノ立法例及ヒ新民法第六百七十八條第二項及ヒ本案第六十四條第二項ニ於テ組合ノ脫退若クハ解散又ハ會社ノ退社若クハ解散ニ付キ等シク認ムル所ナルヲ以テ本條第二項ハ新ニ此場合ヲ規定シタリ
第三百一條
(理由)本條ハ現行商法第二百七十一條ノ後段ニ該當シ組合契約終了ノ事由ヲ規定ス抑モ現行商法ニハ組合ノ目的タル事業ノ成功又ハ其成功ノ不能ヲ以テ組合契約ノ終了ノ事由ト爲サスト雖モ目的タル事業カ旣ニ成功スルニ於テハ更ニ繼續スヘキ事業ナク之ニ反シテ目的タル事業ノ成功ノ不能トナリタル場合ニハ組合契約ヲ存續セシムル根據ヲ失フモノトス是レ本案カ新民法第六百八十二條ト同一ノ旨趣ニ從ヒ各種ノ會社ニ付テ之ヲ解散ノ事由中ニ加ヘタルト同一理由ニ因リ匿名組合ニ付テモ本條第一號ヲ設ケタル所以ナリ又現行商法ニ於テハ營業者ノ禁治產ヲ以テ組合契約終了ノ事由ト爲サスト雖モ匿名組合ハ營業者其人ニ對スル信用ヲ以テ成リ其信用ハ後見人ニ及ハサルヲ以テ之ヲ組合契約終了ノ事由ト爲スコト必要ナリ故ニ本條第二號ハ新ニ之ヲ揭ケタリ又現行商法ニ於テハ「破產」及ヒ「家資分散」ノ二者ヲ列記スルモ民法及ヒ本案修正ノ一般方針ニ從ヒ本條ニ於テモ亦「家資分散」ノ四字ヲ削除シタリ又現行商法ニ於テハ匿名組合員ノ破產ヲ以テ組合契約終了ノ事由ト爲サスト雖モ之ニ因リテ當然組合契約ヲ終了セシムルノ必要アルハ殆ント說明ヲ要セサル所ナルヲ以テ本條第三號ハ新民法第六百七十九條第二號及ヒ本案第六十九條第四號等ト同一ノ趣旨ニ基キ此事由ヲ揭ケタリ又現行商法ニ於テハ營業者ノ營業ノ廢止ヲ以テ組合契約終了ノ事由ト爲スト雖モ營業者ハ前條ノ規定ニ依リ組合契約ヲ解除スルノ外任意ニ其營業ヲ廢止スルコトヲ許スヘカラサルハ勿論ニシテ若シ之ヲ許ストセハ匿名組合員ニ非常ノ損害ヲ蒙ラシムルコトトナルヘシ故ニ本案ハ之ヲ削除シタリ
第三百二條
(理由)本條ハ現行商法第二百七十二條ニ該當シ之ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ組合契約カ終了シタルトキハ營業者ハ當然匿名組合員ニ其出資ノ價額ヲ返還スルコトヲ要スルコト新民法ニ於ケル組合及ヒ本案ニ於ケル合名會社ト異ナル所ニシテ其理由ハ民法上ノ組合ニアリテハ出資ハ總組合員ノ共有ニ屬シ又合名會社ニアリテハ出資ハ會社ナル法人ノ財產ニ歸スヘキヲ以テ解散ノ場合ニモ亦其總財產ヲ各員ニ分配スルヲ以テ足レリトス之ニ反シテ匿名組合ニアリテハ出資ハ全ク營業者ノ財產ニ歸シ共有ト爲ラサルヲ以テ組合契約終了スルモ營業者ト匿名組合員トノ間ニ財產ノ分配ヲ行フノ必要ナク單ニ營業者ヲシテ匿名組合員ノ出資ノ價額ヲ返還スルノ義務ヲ負ハシムヘキモノナレハナリ又出資カ損失ニ因リテ減少シタルトキハ其殘額ノミヲ返還スルヲ以テ足レリトシ其減少額ヲモ返還スルノ必要ナキコトハ勿論ニシテ現行商法カ「匿名員ノ負擔ニ歸スヘキ損失ヲ引去リタル後」云々ト規定シタルハ此趣旨ニ外ナラス然レトモ匿名組合カ必スシモ此損失ニ終ルモノニ限ラサルヲ以テ寧ロ反對ノ方面ヨリ之ヲ規定スルノ簡明ナルニ如カス是レ本條ノ如ク規定セラレタル所以ナリ
其他現行商法ハ組合契約解除ノ場合ニ付テノミ本條ノ規定ヲ適用スト雖モ其他ノ事由ニ因ル組合契約終了ノ場合ニモ亦本條ノ規定ニ從ハシムルノ必要アルヲ以テ本案ハ「組合契約カ終了シタルトキ」云々ト規定シ此等ノ場合ヲ悉ク包含セシメタリ其他ハ字句ノ修正ニ過キス
第三百三條
(理由)本條ハ現行商法第二百六十八條ノ一部及ヒ第二百七十三條ニ修正ヲ加ヘタルモノニシテ卽チ合資會社ノ有限責任社員ノ出資ニ關スル本案第百八條ノ規定ヲ準用シテ匿名組合員ノ出資ノ種類ヲ制限シタルハ該條ト同一ノ趣旨ニ出テ又合資會社ノ有限責任社員ノ權利ニ關スル本案第百十一條ノ規定ヲ準用シタルハ現行商法第二百七十三條ト其精神ヲ同フシ又合資會社ノ有限責任社員ノ義務ニ關スル本案百十五條ノ規定ヲ準用シタルハ現行商法第二百六十八條第一項ト同一ノ關係ヲ保タシメンカ爲メニ外ナラス
其他現行商法第二百六十八條第二項ニ於テハ代務人又ハ商業使用人ト爲リテ用務ヲ辨スルハ業務施行ニ與カルモノト看做ササル旨ヲ規定スト雖モ是レ當然ニシテ別ニ規定ヲ俟タサル所ナルヲ以テ本案ハ之ヲ削除シタリ
第五章 仲立營業
(理由)本章ハ主トシテ旣成商法第一編第八章第三節仲立人ニ該當シ仲立營業ニ關スル規定ヲ揭クルモノナリト雖モ同章第五節仲買人ノ規定ヲ參酌シテ修正ヲ加ヘタルモノモ亦尠シトセス旣成商法ニ於テハ仲立人ハ一定ノ資格ヲ具備シ官ノ認可ヲ受ケ且保證金ヲ納ムヘキモノト爲スト雖モ本案ハ原則トシテ仲立營業ヲ全ク自由營業ト爲シタリ蓋シ外國ノ立法例ニ於テモ取引所仲立人ニ付テハ旣成商法ノ主義ヲ採ルモノアリ然レトモ一般ノ仲立人ニ付テハ之ヲ自由營業トスルノ傾向アリ從テ嘗テ之ヲ官選ニシ又ハ登記ヲ要スト爲セシ法制ニ於テモ後ニ至リテハ之ヲ自由營業ト認ムルニ至レルモノ多シ殊ニ我國ニ於テハ本案ニ所謂仲立營業ナルモノ未タ發達セス從テ仲立人ニ相當スル商人極メテ尠キノミナラス比較的ニ仲立營業ノ發達シタル外國ニ於テモ亦保險仲立人、商品船舶仲立人、運送仲立人、公債證書手形其他有價證券賣買仲立人、冒險貸借仲立人、金錢貸借仲立人等ノ數種アルニ止マリ而シテ個々ノ仲立營業ニ對シ僅々二三ノ外ハ特ニ取締規定ヲ設ケサルモ之カ爲メ何等ノ弊害ナキカ如シ況ンヤ本案ハ行政上ノ取締規定ハ一切之ヲ除外スルノ方針ヲ採用スルニ於テオヤ此等ノ理由ニ基ツキ本案ハ旣成商法第四百十九條ノ一部第四百二十條乃至第四百二十八條第四百二十九條第二項第四百三十條第四百三十一條第四百四十一條及ヒ第四百四十三條等ノ規定ヲ全ク削除シタリ
第三百四條
(理由)本條ハ旣成商法第四百十九條ノ一部ニ該當シ仲立人ノ何タルカヲ規定スルモノナリ抑モ旣成商法ハ仲立人ハ官ノ認可ヲ受クヘキモノニシテ取引所ナキ地ニ於テハ商品、有價證券、貨幣及ヒ爲替ノ相場ヲ定メ之ヲ公ニスル專權ヲ有シ其行爲ハ總テ公ノ信用アルモノト爲スト雖モ本案ハ前ニ述ヘタルカ如ク仲立營業ヲ以テ自由營業トスルノ主義ヲ採リタルカ故ニ之ヲ行フニハ官ノ認可ヲ受クルヲ要セサルハ勿論ナルヲ以テ本案ハ之ヲ削除シタリ又仲立人カ相場ヲ定メ之ヲ公ニスル專權ヲ有スルコト及ヒ其行爲カ公ノ信用ヲ有スルコト等ハ官ノ認可ヲ受クルノ結果ニ過キサルヲ以テ本案ノ如ク仲立營業ノ認可ヲ廢セシ以上ハ之ヲ認ムヘキモノニアラサルコト當然ナリ故ニ本案ハ全ク之ヲ削除シタリ又旣成商法第四百十九條ニ於テハ仲立人ノ商人ナルコトヲ規定スト雖モ本案第二百六十四條ニ於テハ仲立取引ヲ以テ商行爲ト爲シ且本案第四條ニ於テハ自己ノ名ヲ以テ商行爲ヲ業トスルモノヲ商人ト爲ス以上ハ仲立人ノ商人ナルコト當然言フヲ俟タサル所ナルヲ以テ本案ハ之ヲ削除シタリ其他ハ字句ノ修正ニ過キス
第三百五條
(理由)本條ハ旣成商法中ニ存セサルトコロニシテ其第四百十九條第四百二十九條第一項及ヒ第四百三十五條等ヨリ間接ニ流出スヘキ原則ニ變更ヲ加ヘタルモノナリ抑モ仲立人ハ商行爲ニ付キ必スシモ當事者双方若クハ一方ヲ代表スルモノニアラス單ニ商行爲ノ取結ヲ容易ナラシメ後日ノ紛爭ヲ豫防スル爲メ之ヲ媒介スルモノナレハ當然當事者雙方ヲ代表スル權限ヲ有スルモノニアラサルハ勿論其行爲ニ付キ當事者ノ爲メニ支拂其他ノ給付ヲ受クル權限ヲ有スルモノニアラサルナリ而シテ特別ノ規定ナキトキハ仲立人ハ媒介スヘキ行爲ニ付キ當事者雙方ヲ代表スル權限ヲ有スルモノニアラサルコト媒介ナル語ニ依リテ示シ得テ餘リアリト雖モ其行爲ニ付キ當事者ノ爲メニ支拂其他ノ給付ヲ受クルコトハ媒介ニ附屬スル行爲トシテ當然仲立人其權限ヲ有スヘキヤ否ヤ疑ヲ容ルルノ餘地ナキニシモアラス故ニ本條ハ其實ヲ明カニシタリ但本條ノ規定ハ普通ノ狀態ヲ豫想シテ設ケタルモノニシテ仲立人ニ存セサルヘカラサル要件ヲ定メタルモノニアラス從テ當事者間ノ別段ノ意思表示ニ因リ若クハ慣習ニ因リテ仲立人ニ代表權限存スルコトヲ認メタルトキト雖モ本條ノ規定ヲ適用シテ其意思表示若クハ慣習ヲ無效ニ歸セシムルノ必要ナシ是レ本條ニ但書ヲ設ケタル所以ナリ
第三百六條
(理由)本條ハ旣成商法第四百三十三條後段ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ仲立人カ其媒介シタル行爲ニ付キ受取リタル見本ハ後日取引ノ目的物ニ付キ當事者間ニ生スル爭議ヲ決定スルニ缺クヘカラサルモノナリ故ニ本案ハ旣成商法ニ倣ヒ仲立人ヲシテ之ヲ保管スルノ義務ヲ負ハシメタリ然ルニ旣成商法ニ於テハ見本ト雛形トヲ區別スト雖モ廣義ニ於テハ見本中ニ雛形ヲ包含スヘキヲ以テ本案ハ單ニ之ヲ見本ト改メタリ又旣成商法ニ於テハ受取リタル見本ニハ相當ノ記號ヲ附スヘキコトヲ規定スト雖モ他ノ見本ト混同セサルカ爲メ相當ノ處置ヲ爲スヘキコトハ本條ノ規定ヨリ當然生スヘキ結果ニシテ之カ爲メ別ニ明文ヲ要セス而シテ之カ爲メニハ必スシモ相當ノ記號ヲ附スルコトヲ要スト限ルヘキ理由ナキヲ以テ本案ハ之ヲ削除シタリ
又旣成商法第四百三十三條前段ニ於テハ仲立人自ラ商品ノ存在、品位及ヒ買主ノ支拂資力等ヲ確認スヘシト規定スレトモ是レ他人間ノ取引ヲ媒介スルニ付キ用フヘキ相當ノ注意中ニ包含セラルヘキ事項ニシテ且仲立營業ニ關スル慣習及ヒ仲立人ト當事者トノ間ノ契約ニ依リテモ充分之ヲ明確ニスルヲ常トス是レ本案カ之ヲ削除シタル所以ナリ
第三百七條
(理由)本條ハ旣成商法第四百四十條ノ旨趣ニ基キ新ニ設ケタルモノニシテ仲立人ノ媒介シタル行爲ヲ明確ナラシメ當事者間ノ爭議ヲ豫防スル爲メ極メテ必要ナリ抑モ旣成商法第四百四十條第一項ニ於テハ取引ヲ取結ヒタル仲立人ハ其行爲ノ要旨ヲ日々日記帳ニ記入シ且自ラ其記入ヲ日々閉鎖シ遲クトモ其翌日中ニ日記帳中關係アル部分ノ謄本ニ署名捺印シテ之ヲ各當事者ニ交付スヘキモノト爲スト雖モ本案ハ日記帳ノ謄本ヲ當事者雙方ヘ交付スルノ義務ヲ仲立人ニ負擔セシムルノ過酷ナルヲ認メ之ヲ次條ノ規定ニ依リ各當事者ノ請求アルトキニ限リテ之ヲ交付スヘキモノト爲シ一般ノ場合ニハ行爲成立後當然各當事者ニ交付スヘキ書面ハ各當事者ノ氏名、又ハ商號行爲ノ年月日及ヒ其要領ノミヲ記載シタル簡單ナル書面ニシテ仲立人カ之ニ署名スレハ足レリト爲シタリ而シテ仲立人カ之ヲ當事者ニ交付スヘキ期間ニ付テハ旣成商法ハ遲クトモ翌日マテニ之ヲ爲スヘキモノト爲スト雖モ是レ或場合ニハ急速ニ失シ或場合ニハ緩慢ニ失スルヲ免カレサルヲ以テ本案ハ遲滯ナク之ヲ爲スヘキモノト爲シ以テ實際上ノ必要ニ適應セシメタリ又旣成商法ハ各當事者ヲシテ其相手方ト如何ナル程度マテ眞ニ意思ノ合致セルヤヲ知得セシムルノ手段ヲ缺キ當事者ノ各自其相手方ニ對シテハ凡テ仲立人ニ一任シ專ラ仲立人ノ言語ト書面トヲ信用セシムルノ旨義ヲ採用セリ本案ハ之ニ反シテ當事者ノ利害ヲ慮リ本條第二項ヲ設ケ前項ニ定メタル書面ヲ利用シ之ヲ以テ當事者間ニ意思ノ合致ノ程度ヲ檢査スルノ具ト爲ス卽チ當事者ヲシテ各自其受取リタル書面ニ署名ヲ爲サシメタル後仲立人之ヲ其相手方ニ交付スルコトヲ要スル旨ヲ規定シタリ蓋シ當事者カ直チニ行爲ヲ履行スル場合ニ於テハ此ノ如キ手續ヲ必要トセサルヲ以テ本案ハ之ヲ直チニ履行ヲ爲ササルヘキ場合ニ限リタリ而シテ本條第三項ハ旣成商法第四百四十條第二項ニ修正ヲ加ヘタルモノニシテ其修正ノ點ハ本案カ第一項ヲ以テ旣成商法ニ修正ヲ加ヘ且本條第二項ヲ新設シタル當然ノ結果ニ外ナラス
第三百八條
(理由)本條ハ現行商法第四百四十條ニ該當シ之ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ本案ハ商業帳簿ニ記載スヘキ個々ノ事項ヲ列擧セス唯タ日々ノ取引其他財產ニ影響ヲ及ホスヘキ一切ノ事項ヲ記載スヘキモノト爲ス(本案第二十五條)ト雖モ仲立人ニ付テハ必ス前條第一項ニ定メタル事項卽チ其媒介シタル行爲ノ各當事者ノ氏名又ハ商號其行爲ノ年月日及ヒ其行爲ノ要領ヲ一々記載セシムルコト仲立營業ノ性質上已ムヲ得サルモノトス是レ本案カ旣成商法第四百四十條第一項ニ倣ヒ本條第一項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ其他旣成商法ニ於テハ之カ爲メ特ニ日記帳ヲ設ケ且日々之ニ一定ノ事項ヲ記入シ且自ラ其記入ヲ閉鎖シテ署名捺印スヘキモノト爲スト雖モ本案ハ必要ナル記載事項ヲ法定セルヲ以テ滿足シ此ノ如ク詳細ノ規定ヲ設クルノ必要ナキモノト認メ之ヲ削除シタリ又本案ニ於テハ旣成商法ノ如ク仲立人ヨリ當然其帳簿ノ謄本ヲ各當事者ニ交付スルモノニアラスト雖モ帳簿ノ記入如何ハ當事者ニ於テ之ヲ知ルコト必要ナル場合アリ殊ニ之ヲ以テ證明ノ材料ニ供セントスルカ如キ場合ニ於テハ最モ然リト爲ス故ニ本案ハ新ニ本條第二項ノ規定ヲ設ケタリ
第三百九條
(理由)本條ハ旣成商法第四百三十二條ノ規定ノ旨趣ニ基ツキ新ニ設ケタル規定ナリ抑モ仲立人ハ當事者ノ意思ニ從フノ義務アル結果トシテ若シ當事者カ其氏名若クハ商號ヲ相手方ニ示ササルヘキ旨ヲ之ニ命シタルトキハ此命令ニ從フコトヲ要ス然リト雖モ第三百七條第一項及ヒ前條第一項ニ於テハ旣ニ書面又ハ帳簿ニハ各當事者ノ氏名又ハ商號ヲ記載スルコトヲ要スト爲シ而シテ第三百七條第二項ニ於テハ仲立人ハ其書面ヲ各當事者ニ交付スルヲ要スト規定シ前條第二項ニ於テハ各當事者ハ何時ニテモ其謄本ノ交付ヲ仲立人ニ請求スルコトヲ得ルモノト爲スカ故ニ若シ何等ノ規定ナキトキハ書面又ハ謄本ヲ交付スル場合ニ仲立人ハ當事者ノ命令アルニモ拘ハラス匿名當事者ノ氏名又ハ商號ヲ秘スルコトヲ要セサルモノト解セラルル恐レアリ是レ匿名當事者ヲ保護スル所以ニアラス且何等ノ實益ヲモ存セサルヲ以テ本案ハ新ニ本條ヲ設ケタル所以ナリ
第三百十條
(理由)本條ハ旣成商法第四百三十九條ニ該當シ之ニ字句ノ修正ヲ加ヘタルニ過キス
第三百十一條
(理由)本條ハ旣成商法第四百四十二條ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ旣成商法第四百四十二條第一項ニ於テハ別段ノ定例又ハ慣習アル場合ノ外取引結了ノ後ニアラサレハ仲立人ハ手數料ヲ受クルコトヲ得サルモノト爲スト雖モ一方ニ於テ取引ノ結了ナル語ハ徒ラニ疑議ヲ生スルノ源トナリ他方ニ於テ旣ニ本案第三百七條ニ依レハ仲立人ニ於テ其媒介確定シタル行爲ヲ當事者双方ニ對シ明確ナラシムル義務アルコトヲ認ムル以上ハ仲立人カ其手續ヲ終ハリタルトキヲ分界トシテ報酬請求權ノ行使ヲ決スルコト正當ナリ又仲立人ノ媒介ニ依リテ行爲成立スルトキハ之ニ因リテ利益ヲ受クルモノハ當事者雙方ナルヲ以テ旣成商法第四百四十二條第三項ノ如ク之ヲ當事者雙方ニ平分負擔セシムルコトモ亦正當ナリ而シテ旣成商法第四百四十二條第二項及ヒ第四項ノ規定ハ別ニ明文ヲ必要トセサルヲ以テ之ヲ削除シタリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第六章 問屋營業
(理由)本章ハ旣成商法第一編第八章第五節ニ該當シ問屋營業ニ關スル規定ヲ揭クルモノトス抑モ旣成商法ニ於テハ此營業者ヲ仲買人ト稱スト雖モ從來ノ慣習若クハ取引所法ニ於テ仲買人ト稱スル者ハ寧ロ本案ニ於ケル仲立人ヲ指示シ又單ニ仲買ト稱スルトキハ自己ノ名ヲ以テ自己ノ計算ニ於テ問屋ヨリ物品ヲ買受ケ之ヲ需要者ニ販賣シ又ハ各生產者ヨリ物品ヲ買受ケ之ヲ問屋ニ販賣スル特種ノ營業者ヲ指シ旣成商法ノ所謂仲買人ハ之ヲ問屋ト稱スルコト却テ適實ナルヲ以テ本案ハ之ヲ問屋ト改メタリ
第三百十二條
(理由)本條ハ旣成商法第四百五十六條ニ該當ス抑モ旣成商法第四百五十六條ニ於テハ特ニ「契約ニ從ヒ」云々ト揭クト雖モ當然言フヲ俟タサル所ナルヲ以テ本案ハ之ヲ削除シ又自己ノ名ヲ以テスルコトハ所謂問屋代理ト普通ノ代理ト異ナル所ナルヲ以テ本案ハ旣成商法第四百五十六條ニ倣ヒ「自己ノ名ヲ以テ」云々ト規定セリ又問屋ハ代理商トハ異ニシテ一定ノ商人ノ爲メニノミ營業ヲ行フ者ニアラサルヲ以テ本案ハ單ニ「他人ノ爲メニ」云々ト規定セリ又從來ノ慣習上問屋トハ物品ノ販賣又ハ買入ヲ爲スヲ業トスル者ヲ指スヲ常トシ其他ノ行爲ヲ爲スコトヲ業トスル者ヲ包含セシメサルヲ通例トスルノミナラス立法上ヨリ論スルモ物品ノ販賣又ハ買入ヲ爲スヲ業トスル者ノミヲ目シテ規定ヲ設ケ其他ノ行爲ヲ業トスル者ニハ之ヲ準用スト定ムルコト甚タ便宜ナルヲ以テ本案ハ旣成商法第四百五十六條ニ所謂「商業ヲ營ム」云々ヲ改メテ「物品ノ販賣又ハ買入ヲ爲スヲ業トス」云々ト爲セリ又問屋ノ商人ナルコトハ本案第二百六十四條及ヒ第四條ノ規定ニ依リ明瞭ナルヲ以テ本案ハ旣成商法第四百五十六條ノ如ク特ニ其商人ナルコトヲ規定セス其他ハ字句ノ修正ニ過キス
第三百十三條
(理由)本條ハ旣成商法第四百五條第四百五十七條第四百五十八條及ヒ第四百七十五條ノ規定ヲ槪括シテ之ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ問屋ハ他人ノ爲メニ物品ノ販賣又ハ買入ニ關スル行爲ヲ爲スモ之ヲ爲スニハ自己ノ名ヲ以テスルコト前條ニ於テ規定スル所ナリ從テ行爲ノ相手方ニ對シテハ問屋ハ自ラ權利ヲ得義務ヲ負フヘキコト當然ナリト謂ハサルヘカラス然リト雖モ是レ問屋ト相手方トノ關係ニ止マリ問屋ト委託者トノ間ニ於ケル關係ニ付テハ販賣若クハ買入ノ委託ニ基ツク一種ノ委任契約上ノ關係ヲ存スルコト疑ナシ故ニ本章ニ規定セルモノノ外代理及ヒ委任ニ關スル規定ヲ準用シテ其法律關係ヲ決定スヘキハ勿論ナリトス是レ本條ノ規定ヲ設ケテ以上ノ趣旨ヲ明カニシタル所以ナリ
第三百十四條
(理由)本條ハ旣成商法第四百六十六條ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ問屋カ委託者ノ爲メ爲シタル行爲ニ付キ相手方カ其債務ヲ履行セサル場合ニ於テ問屋ハ委託者ニ對シ自ラ其履行ヲ爲ス責ニ任セサルヘカラサルヤ否ヤニ付テハ立法例區々ニシテ代理及ヒ委託ニ關スル規定ニ從フトキハ問屋ハ此責ニ任スルコトヲ要セサルハ勿論ナリトス然レトモ我國ノ慣習上ニ於テハ問屋ヲシテ此責任ヲ負ハシムルヲ以テ通例トナスノミナラス問屋ニ依ル取引ヲシテ確實ナラシメ問屋ヲシテ十分委託者ノ利益ヲ圖ルコトニ注意セシムルカ爲メニハ此責任ヲ負ハシムルコト極メテ必要ナリ故ニ旣成商法第四百六十六條ニ於テハ仲買人カ委託者ノ爲メニ爲シタル行爲ニ關シテ過失アルトキ又ハ別段ニ義務ヲ負擔シタルトキニ限リ第三者カ仲買人ニ對シテ責ニ任スヘキ限度ニ於テ仲買人モ亦委託者ニ對シ第三者ノ支拂資力ニ付キ其責ニ任スルモノト爲シ一種ノ折衷的規定ヲ設ケタリ然レトモ過失アル場合ハ委任事務ノ處理ニ付キ缺點アルノ故ヲ以テ當然其責ニ任スヘク特約ヲ以テ義務ヲ負擔シタル場合ノ如キモ亦當然其責ニ任スヘケレハ旣成商法ノ折衷主義ハ更ニ規定ノ實益存セサルナリ本案ハ之ヨリ一步ヲ進メ問屋カ委託者ノ爲メニ爲シタル行爲ニ付キ相手方カ其債務ヲ履行セサル場合ニ於テハ問屋ヲシテ自ラ其履行ヲ爲ス責ニ任セシメ以テ委託ノ效果ヲ確固ナラシメタリ但別段ノ意思表示又ハ慣習アル場合ヲ除外シタルハ別ニ說明ヲ要セサルヘシ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第三百十五條
(理由)本條ハ旣成商法第四百六十條ノ規定ニ該當ス抑モ物品ノ販賣又ハ買入ノ委託ヲ受ケタル問屋カ若シ委託者ノ指定シタル金額ヨリ高價ニテ販賣ヲ爲シ又ハ廉價ニテ買入ヲ爲シタルトキハ其差額ヲ自己ノ利益ニ歸スルコトヲ得サルハ當然言フヲ俟タサル所ナリト雖モ若シ廉價ニテ販賣ヲ爲シ又ハ高價ニテ買入ヲ爲シタルトキハ其販賣又ハ買入ハ委託者ニ對シテ如何ナル效力ヲ有スルヤ旣成商法第四百六十條ニ於テハ此問題ヲ決定シ假令其差額ヲ負擔スルモ委託者ニ對シテ委任踰越ノ責ヲ免カルルコトヲ得サルモノト爲ス而シテ民法一般ノ規定ニ從ヘハ當然此ノ如ク論斷セサルヘカラスト雖モ問屋ニ於テ其差額ヲ負擔スルトキハ委託者ニ對シテ效力ヲ生セシムルモ之カ爲メ委託者ノ利益ヲ害スルコトナク且我國慣習モ亦問屋カ差額ヲ負擔スルトキハ之ヲ有效トスルニアルモノノ如シ故ニ本案ハ問屋カ自ラ差額ヲ負擔スルトキハ其販賣又ハ買入ハ委託者ニ對シテ有效ナルモノト爲ス是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第三百十六條
(理由)本條ハ旣成商法第四百七十條及ヒ第四百七十一條ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ旣成商法第四百七十條ニ於テハ仲買人ハ自己ノ計算ヲ以テ自ラ買主賣主其他ノ者ト爲リ其受ケタル委託ヲ施行スルコトヲ得ルモノト爲シ而シテ委託者カ反對ノ意思ヲ明示シタル場合ヲ除外シタリト雖モ委託者カ反對ノ意思ヲ表示シタルトキハ其意思表示ハ當然有效ニシテ從テ問屋ハ自己ノ計算ヲ以テ委託セラレタル行爲ヲ引受ケ自ラ買主又ハ賣主ト爲ルコトヲ得サルハ新民法第九十一條ノ規定ニ依リ疑ナシ加之ナラス問屋カ自カラ買主又ハ賣主ト爲ルコトヲ禁スル委託者ノ意思表示ハ必スシモ明示ニ限ルヘキ理由ナク又問屋カ自己ノ計算ヲ以テ委託セラレタル行爲ヲ引受ケ自カラ買主又ハ賣主トナルコトヲ得ルハ其物品カ取引所ノ相場アルモノニ限ラサレハ委託者ノ利益ヲ害スル恐レアリ又旣成商法第四百七十一條ニ於テハ其買主又ハ賣主トナリタルコトノ通知ヲ發シタルトキニ於テ委任ヲ施行シタルモノト看做スト雖モ此規定ハ賣買代價ヲ定ムル爲メニ必要ナルモノニ過キサルヲ以テ單ニ其當時ニ於ケル取引所ノ相場ニ依リテ賣買代價ヲ定ムヘキモノトスルヲ以テ足ル如何ナル時期ニ委託ヲ施行シタルモノト看做スヘキカ換言スレハ何時賣買ノ成立シタルカヲ決定スルノ必要ナシ又問屋カ自カラ買主若クハ賣主ト爲リタル場合ニ於テハ委託者トノ間ニ問屋關係ヲ生セスシテ賣買關係ヲ生スヘク從テ何等ノ規定ナキニ於テハ問屋ハ委託者ニ報酬ヲ請求スルコトヲ得スト解セラルヘシ故ニ旣成商法第四百七十條ニ於テハ此場合ニ處スル爲メ自己ノ計算ヲ以テ其受ケタル委託ヲ施行スルモ委託者ニ對スル權利義務ニ變更ヲ來スコトナキ旨ヲ定ムト雖モ汎漠ニ失シ寧ロ直ニ問屋ニ報酬ヲ請求スルノ權利アルコトヲ認ムルヲ以テ可ナリトス以上ノ理由ニ基ツキ旣成商法ニ修正ヲ加ヘ以テ本條ヲ設ケタル所以ナリ
第三百十七條
(理由)本條ハ旣成商法中ニ存セサル所ナリ抑モ物品買入ノ委託ヲ受ケタル問屋カ其買入タル物品ヲ委託者ニ引渡サントスルモ委託者カ其受取ヲ拒ムコトハ實際上往々存スル所ニシテ問屋ハ何時マテモ之ヲ保管セサルヘカラストセハ之カ爲メ甚タ困難ヲ來スヘク而シテ代理及ヒ委任ノ關係ニ依リ其物品ノ權利ハ旣ニ委託者ニ移轉セルヲ常トシ問屋ハ隨意ノ處分ヲ爲スコト能ハサルヘシ故ニ本案ハ新ニ本條ノ規定ヲ設ケ商人間ノ賣買ニ於テ買主カ其目的物ヲ受取ルコトヲ拒ミタル場合ニ關スル本案第二百八十五條ノ規定ヲ此場合ニモ亦準用スヘキモノト爲シタリ
第三百十八條
(理由)本條ハ旣成商法第四百六十二條ノ一部及ヒ第四百七十六條ノ規定ヲ槪括シテ之ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ委託者ハ問屋カ旣ニ其委託ヲ實行シ物品ノ販賣又ハ買入ヲ爲シタルヤ否ヤヲ知ルノ必要アルコトハ尙ホ代理商ノ場合ニ於ケルト異ナル所ナシ而シテ代理商ニ付テハ本案第三十七條ニ於テ本人ノ爲メ代理又ハ媒介ヲ爲シメルトキハ遲滯ナク其旨ヲ本人ニ通知スルコトヲ要ストノ規定アルカ故ニ問屋ニ付テモ亦本人ノ爲メ販賣又ハ買入ヲ爲シタルトキハ遲滯ナク其旨ヲ本人ニ通知スルコトヲ要スルモノト爲スコト至當ナリ旣成商法第四百六十二條ニ於テハ取引施行ノ前後ヲ問ハス常ニ遲滯ナク必要ノ報知ヲ爲スヘキモノト定ムト雖モ委託施行前ニアリテハ委託者ヨリ請求アリタルトキニ限リ報吿ヲ爲サシムルヲ以テ足ル從テ此點ニ關シテハ委任ニ關スル新民法第六百四十五條前段ノ規定ヲ準用シ本章ニ於テ特別ノ規定ヲ設クルノ必要ナシ又旣成商法第四百七十六條ニ於テハ留置權ヲ以テ擔保セラルヘキ債權ヲ一々列擧スト雖モ徒ニ法典ノ規定ヲ煩雜ナラシムルノミナラス列擧ハ脫漏ノ恐ナキニアラサルヲ以テ代理商ニ關スル本案第四十一條ヲ準用シ其結果委託者ノ爲メ販賣又ハ買入ヲ爲シタルニ因リテ生シタル債權ナル限リハ問屋ハ委託者ノ爲メニ占有スル物ヲ留置スルコトヲ得レハ規定ノ目的ヲ達スヘシ是レ本案カ旣成商法ノ規定ヲ修正シ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第三百十九條
(理由)本條ハ旣成商法第四百五十六條ノ一部ニ該當ス抑モ本案第三百十二條ニ於テハ物品ノ販賣又ハ買入ニアラサル行爲ヲ爲スヲ業トスル者ヲ問屋中ニ包含セシメサリシト雖モ自己ノ名ヲ以テ他人ノ爲メニ販賣又ハ買入ニアラサル行爲ヲ爲スヲ業トスル者モ亦自己ノ名ヲ以テ他人ノ爲メニ或行爲ヲ爲スニ至リテハ全ク問屋ト同一ニシテ唯其目的タル行爲ノ性質上多少ノ變態ヲ見ルニ過キス故ニ本條ハ此等ノ者ニモ問屋ニ關スル前六條ノ規定ヲ準用スヘキモノト爲シタリ
第七章 運送取扱營業
(理由)本章ハ旣成商法第一編第八章第六節ニ該當シ運送取扱營業ニ關スル規定ヲ揭ク旣成商法ニ於テハ運送取扱人ト題スト雖モ本案ハ前數章ト同一ノ理由ニ依リ本章モ亦之ヲ運送取扱營業ト改メタリ
我國ニ於テハ本案ニ所謂運送取扱人ニ對シテ種々ノ名稱ヲ附シ運送取扱店、運送元扱店、運送扱店、回漕店等ト稱シ甚シキニ至リテハ運送店、運送人ト名附クルモノアリト雖モ運送店又ハ運送人ト稱スルカ如キハ運送人ト運送取扱人トノ區別ヲ埋沒スルモノニシテ到底採用スヘキモノニアラサルト同時ニ慣用ノ名稱中取扱ナル文字ヲ用ヒルノ例最モ多キヲ以テ本案ハ旣成商法ニ倣ヒ運送取扱人及ヒ運送取扱營業ナル用語ヲ採用シタリ
第三百二十條
(理由)本條第一項ハ旣成商法第四百八十一條第一項ヲ修正シタルモノニシテ運送取扱人カ取次ヲ爲スハ契約ニ從ヒテ爲スモノナルコト、他人ノ計算ヲ以テスルモノナルコト、物品ナル語中ニハ當然商品ヲ包含スルコト等ハ當然言フヲ俟タサル所ナルノミナラス運送取扱人カ取次ヲ爲スハ他人ノ爲メニスルモノナルコト本條第一項ノ規定ニ依リ明カニシテ運送取扱人ノ商人ナルコトハ本案第四條及ヒ第二百六十四條ノ規定ニ依リ明カナルヲ以テ本案ハ之ヲ削除シ又運送取扱人ノ何タルヤヲ說明スルニ「取扱」ノ文字ヲ以テスルハ精確ヲ缺クヲ以テ本案ハ之ヲ「取次」ト改メタリ其他ハ單ニ字句ノ修正ニ過キサレハ茲ニ說明ヲ要セス
又本條第二項ハ旣成商法第四百八十二條ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ運送取扱人ノ性質ニ關シテハ各國立法例區々ナリト雖モ旣成商法ノ如キハ運送取扱人ハ取次ヲ爲スト共ニ自カラ運送ヲ爲スモノト認メタリ然ルニ交通ノ發達ト共ニ漸次運送取扱營業ト運送營業トノ分離ヲ來シ二者ヲ兼ヌル者減少スルノ傾向アリ從テ立法上單ニ取次ノ方面ノミヨリシテ運送取扱人ヲ觀察シ問屋ト同一ノ責任ヲ負ハシメ卽チ運送人ヨリ一層其責任ヲ輕減スルヲ適當トス是レ本條第二項ニ於テ旣成商法第四百八十二條中無用ノ文字ヲ削除シ且以上述ヘタル理由ニ基ク修正ヲ加ヘタル所以ナリ
其他旣成商法第四百八十一條第二項ニ於テハ運送取扱人ハ其營業ノ外他ノ商行爲ヲモ爲スコトヲ得ル旨ヲ定ムト雖モ是レ當然謂フヲ俟タサル所ナルヲ以テ本案ハ之ヲ削除シタリ
第三百二十一條
(理由)本條ハ旣成商法第四百八十二條及ヒ第四百八十三條等ニ該當シ運送取扱人カ運送上負フヘキ責任ノ範圍及ヒ擧證ノ責任ヲ定ム旣成商法ニ於テハ場合ヲ分チ第四百八十二條ノ場合ニ運送取扱人ハ仲買人及ヒ運送人ト同一ノ責任ヲ負ヒ第四百八十三條ノ場合ニ運送人ノ責任ヲ負フヘキモノト爲シタレトモ一方ニ於テ二者ノ責任ニ差異アル場合ニ之カ適用上困難ヲ生スルト同時ニ他方ニ於テ本案ハ運送取扱營業ヲ以テ問屋營業ノ變體ト認メタル主義ト牴觸ス而シテ運送取扱人ノ責任問題ヲ生スルハ運送品ノ滅失毀損又ハ延著ノ場合ニ外ナラサルヲ以テ本案ハ問屋ノ責任ト運送取扱ノ本質トヲ斟酌シテ以テ本條ノ規定ヲ設ケ旣成商法第四百八十二條及ヒ第四百八十三條ニ代ハラシメタリ
第三百二十二條
(理由)本條ハ旣成商法第四百九十條ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ旣成商法ニ於テハ運送取扱人ノ債權ハ運送品ヲ到達地ニ於テ引渡ス際始メテ之ヲ主張スルコトヲ得ト規定スレトモ本案ノ如ク運送營業ト運送取扱營業トヲ判然區別スル主義ニ於テハ此ノ如ク規定スルコト能ハス之ヲ問屋ノ場合ト比較スルニ運送取扱人ニ在テハ運送人ニ運送品ヲ引渡シタルトキヲ以テ委任執行ノ終リタルモノト看做シ其時ヨリ報酬ヲ請求スルコトヲ得ルヲ至當トス是レ本條第一項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
本條第二項ハ旣成商法第四百八十九條第一項第三號ト同一ノ旨趣ニ基キ規定シタルモノニシテ各地慣習上ノ手數料ヲ除外セルハ本案第一條及ヒ民法第九十一條ヲ以テ足ルト認メタル結果ニ過キス
第三百二十三條
(理由)本條ハ旣成商法第四百八十九條ノ第二項ニ該當ス抑モ旣成商法第四百八十九條第一項ニ於テハ運送取扱人カ請求シ得ヘキ債權ノ種類ヲ列擧シ同第四百九十條ニ於テ之ヲ主張シ得ヘキ時期ヲ規定スト雖モ是レ委任ニ關スル民法ノ規定、問屋ニ關スル本案ノ規定、當事者間ノ契約及ヒ慣習等ニ依リテ定ムヘキ所ナルヲ以テ本案ハ之ヲ削除シ同第四百八十九條第二項ニ倣ヒテ留置權ニ關スル規定ヲ設ケタリ蓋シ本案中留置權ニ關スル通則ニ依レハ留置權ニ依リテ擔保セラルル債權ト留置權ノ目的物トノ間ニ何等ノ關係ヲ存スルコトヲ要セサルノミナラス(本案第二百八十三條)運送取扱人ニ準用スヘキ問屋ニ關スル規定ニ從フモ亦運送ノ取次ヲ爲シタルニ因リテ生シタル凡テノ債權ニ付キ荷送人ノ爲メニ受取リタル運送品ノ上ニ留置權ヲ有スルニ至ルヘシ(本案第三百十八條及ヒ第四十一條)然リト雖モ此ノ如キ作用ノ廣大ナル留置權ヲ運送取扱人ニ與フルハ決シテ荷受人ノ保護ヲ全フスル所以ニアラサルヲ以テ本條ハ運送取扱人カ運送品ノ上ニ有スル留置權ヲ以テ擔保セラルヘキ債權ノ範圍ヲ限定シタリ
第三百二十四條
(理由)本條ハ旣成商法第四百九十條ニ該當シ之ニ修正ヲ加ヘタルモノトス抑モ數人相次テ運送ノ取次ヲ爲スコトハ實際上尤モ多ク行ハルル所ニシテ其場合ニハ各運送取扱人間ニ交互計算ノ契約ヲ取結ヒ後ノ運送取扱人ハ前ノ運送取扱人ノ爲メニ之ニ代ハリテ其權利ヲ行使シ或ハ其權利行使前先ツ前ノ運送取扱人ニ辨濟ヲ爲スヲ通例トス然ルニ前ノ運送取扱人ト後ノ運送取扱人トノ間ニ別段ノ契約ナキトキハ後ノ運送取扱人ハ特約ナシト雖モ前ノ運送取扱人ニ代ハリテ其債權ヲ行使スルノ義務アリトセサレハ極メテ不便ニシテ到底數人相次テ取次ヲ爲スコト能ハス故ニ本條第一項ハ當然此義務アルモノト爲セリ又後ノ運送取扱人カ前ノ運送取扱人ニ辨濟ヲ爲シタルトキハ民法上ノ代位訴權ノ規定ヲ待タス當然前ノ運送取扱人ノ權利ヲ取得セシムルハ煩雜ナル手數ヲ省ク利益アリテ弊害ナシ故ニ本條第二項ノ規定ヲ設ケタリ
第三百二十五條
(理由)本條ハ旣成商法第四百八十九條ノ一部ト其旨趣ヲ同シクシ前條ト同一ノ理由ニ依リテ之ヲ設ケタリ抑モ運送取扱人カ運送人ニ辨濟ヲ爲シタル場合ニ於テモ亦前條第二項ト同シク辨濟ヲ爲シタル運送取扱人ヲシテ當然其運送人ノ權利ヲ取得セシムルコト利益アリテ弊害ナシ是レ本案カ新ニ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第三百二十六條
(理由)本條ハ旣成商法中ニ明文ヲ存セサレトモ第四百八十二條及ヒ第四百八十三條ヨリ間接ニ同一ノ旨趣ヲ推知スルコトヲ得ルモノナリ抑モ旣成商法ニ於テハ運送取扱人ヲシテ運送人ト同一ノ責任ヲ負ハシメタルヲ以テ運送取扱人カ自カラ運送ヲ爲ス場合ニハ運送人ト同一ノ權利義務ヲ有スルコト當然言フヲ俟タサル所ナリ故ニ本條ニ相當スル規定ヲ存セス然ルニ本案ハ之ト反對ノ主義ヲ採リ運送取扱人ハ自カラ運送ヲ爲ササルヲ通例トシ從テ問屋ト同一ノ責任ヲ負ハシメタルヲ以テ特ニ本案第三百十六條ニ於テ物品ノ販賣又ハ買入ノ委託ヲ受ケタル問屋カ自ラ買主又ハ賣主ト爲ルコトヲ得ル旨ヲ明言スルト同シク運送取扱人カ自ラ運送ヲ爲スコトヲ得ル旨ヲ規定スルノ必要アリトス而シテ之ヲ爲シタル場合ニ於テハ運送取扱人ハ本章ノ規定ニ從ヒ運送取扱人トシテ有スル權利義務ノ外運送人ト同一ノ權利義務ヲ有スヘク又別段ノ契約ヲ以テ運送取扱人自ラ運送ヲ爲スコトヲ得サル旨ヲ定メタルトキハ之ヲ爲スコトヲ得サルヘキハ至當ナリトス是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第三百二十七條
(理由)本條ハ旣成商法第四百八十二條及ヒ第五百十六條ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ而シテ運送取扱人ニ惡意アリタル場合ニハ此規定ヲ適用スヘキ理由ナキヲ以テ本條ハ此場合ヲ除外シ普通ノ時效期間ニ從ハシム其他ハ字句ノ修正ニ過キス
第三百二十八條
(理由)本條ハ旣成商法中ニ存セサルトコロナリ抑モ運送取扱人ノ委託者又ハ荷受人ニ對シテ有スル債權中重要ナルモノハ運送取扱ノ報酬ニシテ運送取扱人ノ責任ハ其報酬ノ因テ以テ生スヘキヤ運送品ノ運命ニ關スルモノナリ而シテ其責任ハ荷受人カ運送品ヲ受取リタル日若クハ引渡アルヘカリシ日ヨリ一年ヲ經過シタルトキハ時效ニ因リテ消滅スヘキコト前條ニ規定セラレタルカ如シ然ルニ運送取扱人ノ權利ハ本條第二百八十四條ノ規定ニ從ヒ消滅セストスレハ運送取扱人ノ責任消滅スルニモ拘ハラス其權利ノミ依然トシテ存在スルノ結果ヲ生スヘシ蓋シ此ノ如キ結果ハ其當ヲ得タルモノニアラサルノミナラス運送取扱人ノ責任コソ却テ其權利ヨリ後ニ消滅スルヲ正當トス是レ本案ハ本條ヲ以テ其旨趣ニ基キ運送取扱人ノ權利ハ一年ヲ經過シタルトキハ消滅スト規定シタル所以ナリ
第三百二十九條
(理由)本條ハ旣成商法中ニ存セサル所ナリ抑モ旣成商法ニ於テハ運送取扱人ヲシテ運送人ト同一ノ責任ヲ負ハシメタルヲ以テ本條ノ如キ規定ヲ要セサルハ勿論ナリト雖モ本案ハ之ト反對ノ主義ヲ採リタルヲ以テ運送人ニ關スル規定ハ當然之ヲ運送取扱人ニ準用スルコトヲ得ス而シテ運送取扱營業ニ付テモ亦運送營業ニ關スル本案第三百三十七條及ヒ第三百四十二條ト同一ノ規定ヲ設クルコト必要ナルヲ以テ本條ノ規定ヲ設ケ之ヲ準用スヘキモノト爲シタリ
第八章 運送營業
(理由)本章ハ旣成商法第一編第八章第七節及ヒ第八節ノ規定ニ該當シ運送營業ニ關スル規定ヲ揭ク旣成商法ハ物品ノ運送ト旅客ノ運送トヲ區別シ物品ノ運送ヲ業トスル者ヲ運送人ト稱シテ第七節ニ規定シ旅客運送ハ之ヲ第八節ニ規定ス而シテ外國立法例ニ於テモ亦之ト同樣ナル編纂法ヲ採ルモノナキニアラスト雖モ不論理タルヲ免レス故ニ本案ハ二者ヲ同一章中ニ規定シ仲立人、仲買人等ヲ改メテ仲立營業、問屋營業等ト爲シタルト同一ノ理由ニ依リ之ヲ運送營業ト題シタリ
第三百三十條
(理由)本條ハ旣成商法第四百九十三條第一項ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ卽チ旣成商法ハ陸上又ハ國內水上ニ於テ運送ヲ爲ス者ノミヲ運送人ト稱シ旣成商法施行條例第三十條ニ於テハ國內水上トハ川湖港灣ヲ謂フモノト規定シ國外水上卽チ海上ニ運送ヲ爲ス者ハ海商法ノ規定ニ從ハシムト雖モ寧ロ直チニ陸上又ハ湖川港灣ニ於テ運送ヲ爲ス者ト謂フノ簡明ナルニ如カス又旣成商法ハ商品其他ノ物品ノ運送ヲ爲ス者ノミヲ運送人ト稱スト雖モ單ニ物品ト謂フトキハ當然商品ヲモ包含スヘキニモ拘ハラス之ヲ區別セシハ無用ナリ又旅客ノ運送ヲ爲ス者ヲ除外セシハ毫モ其理由ナシ又旣成商法ハ運送人ノ商人ナルコトヲ明言スルモ本案ニ於テハ第四條及ヒ第二百六十四條ノ規定ニ依リ運送人ノ商人ナルコト明瞭ニシテ毫モ疑ヲ容レサルヲ以テ之ヲ必要トセス是レ本條ノ如ク修正ヲ加ヘタル所以ナリ
右ノ如ク本案ニ於テハ運送營業中ニ物品運送ト旅客運送トヲ包含セシメ同一章中ニ規定シタリト雖モ二者全ク同一ノ規定ニ從ハシムルコト能ハサルヲ以テ便宜上本章ヲ二節ニ分チ各別ニ之ヲ規定シタリ
第一節 物品運送
(理由)本節ハ旣成商法第一編第八章第七節ニ該當シ物品運送營業ニ關スル規定ヲ揭クルモノトス
第三百三十一條
(理由)旣成商法第四百八十四條ニ於テハ運送取扱人ハ運送狀ヲ發行スヘキモノト爲シ此規定ハ同第五百七條ニ依リテ運送人ニモ亦之ヲ準用スヘキモノナリト雖モ我國現今ノ慣習ニ依レハ荷送人ヨリ運送人ニ對シテ送狀ト稱スル書面ヲ交付シ運送人ヨリ荷送人ニ對シテハ受取證書若クハ貨物引換證ヲ交付スルニ止マルヲ以テ本案ハ此慣習ニ從ヒ荷送人ヨリ發行スルモノヲ運送狀ト稱シ本條ニ之ヲ規定シ運送人ヨリ發行スルモノヲ貨物引換證ト稱シ次條ニ之ヲ規定シタリ而シテ現今ノ慣習ニ依レハ荷送人ハ必ス送狀ヲ附スルモノニアラス小荷物ニ付テハ之ヲ附セサルコト通例ナルヲ以テ本條第一項ハ必ス運送狀ノ發行ヲ要スルモノト爲サス運送人ノ請求ニ因リテ荷送人ヨリ之ヲ交付スヘキモノト爲シ且第二項ハ運送狀ニ記載スルコトヲ要スル事項ヲ列擧シ後日ノ爭議ニ備フルカ爲メ荷送人之ニ署スヘキ旨ヲ規定シタリ
第三百三十二條
(理由)前條ニ於テ旣ニ述ヘタルカ如ク本案ハ現今ノ慣習ニ從ヒ運送人ヨリ發行スル書面ヲ貨物引換證ト稱スト雖モ此證書ハ必ス常ニ之ヲ發行スルモノニアラス卽チ荷送人カ之ヲ必要トスルトキニ限リ之ヲ發行スルモノナルヲ以テ本條第一項ハ荷送人ハ其交付ヲ運送人ニ請求スルコトヲ得ルモノト爲シ其請求アルトキハ之ヲ交付スヘク若シ其請求ナキトキハ之ヲ交付スルコトヲ要セサルコトヲ示シタリ
第三百三十三條
(理由)本條ハ旣成商法中ニ存セサル所ナリト雖モ貨物引換證ヲ作リタルトキハ之ト引換ニ非サレハ運送品ノ引渡ヲ請求スルコトヲ得ス又貨物引換證ノ裏書讓渡ハ物權的ノ效力ヲ生スル以上ハ運送人ト所持人トノ間ニ於ケル運送ニ關スル事項ハ悉ク貨物引換證ノ定ムル所ニ依ラシムルコト正當ナリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第三百三十四條
(理由)本條ハ旣成商法中ニ存セサルトコロナリ抑モ運送人ノ發行スル貨物引換證ナルモノハ倉庫營業者ノ發行スル預證券及ヒ海上運送ニ於テ船長ノ發行スル船荷證券ト相類似スル所アリ其裏書ニ因リ單ニ債權ノ讓渡ノ效力ノミヲ生スルニ於テハ未タ以テ荷受人ノ權利ヲ保護スルニ足ラサルノミナラス其流通ヲ妨ケ荷送人ノ目的トスルトコロニモ反スヘシ故ニ寧ロ其裏書ハ物權的ノ效力ヲ生スヘキモノトナシ從テ被裏書人ハ之ニ因リ運送品ヲ讓受ケタルモノトナスニ如カサルヘシ是レ本案カ本條ヲ初トシテ第三百六十四條第六百二十六條等ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第三百三十五條
(理由)本條ハ旣成商法第五百九條ノ一部ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ本條第一項ニ規定セル不可抗力ニ因リテ運送品ノ滅失セル場合ノ規定ハ請負ノ一種タル運送ノ性質ヨリ來ルモノニシテ其前段ハ民法第五百三十七條及ヒ民法第六百三十三條ヲ準用スルノ結果トシテ當然ナル規定ナリ之ニ反シテ其後段ハ旣ニ反對給付ヲ受ケタル場合ナルヲ以テ明文ヲ待テ始メテ然ルヲ得ルモノトス蓋シ前段ノ規定ハ民法ノ解釋上當然ナルモ後段ノ規定ノ必要ナルカ爲メ之ヲノミ規定スルニ於テハ或ハ誤解ヲ生スル恐アルニ依リ前段ヲ加ヘタル所以ナリ
本條第二項ハ運送品ノ性質若クハ瑕疵又ハ荷送人ノ過失ニ因リテ其滅失ヲ來シタル場合ニシテ運送人ニ過失ナク又已ムヲ得ストシテ損害ニ甘ンスヘキ天災等ノ事由アルニアラス全ク荷送人ノ負擔スヘキ損害ナルヲ以テ運送人ハ其運送ノ爲メニ供出セル勞務費用等ノ對價トシテ運送賃ヲ得ヘキハ當然ナリ故ニ本條ハ旣成商法第五百九條後段ノ規定ヲ採用シ以テ本條ヲ設ケタリ
第三百三十六條
(理由)本條ハ旣成商法第四百九十三條第二項及ヒ第五百四條ニ該當シ而シテ運送取扱營業ニ關スル本案第三百二十一條ト同一ノ理由ニ基ツキ規定セラレタルモノナリ
第三百三十七條
(理由)本條ハ旣成商法第五百條ニ該當ス抑モ旣成商法ハ高價品ノ種類ヲ詳細ニ例示スト雖モ必要ナキヲ以テ本案ハ之ヲ削除シ又旣成商法ハ其實價ニ從ヒ損害賠償ヲ請求スルニハ荷送人ニ於テ運送人カ適當ニ廣吿シタル特別運送表ニ依リテ高額ノ運送賃ヲ承諾シタルコトヲ要スト爲スモ荷送人カ運送ヲ委託スルニ當リ若シ種類及ヒ價額ヲ明吿スルトキハ運送人ハ高額ノ運送賃ヲ受クルニアラサレハ之ヲ引受ケサルヲ通例トシ若シ荷送人ノ明吿アルニモ拘ハラス普通ノ運送賃ニテ運送ヲ引受ケタルトキハ其高額ノ運送賃ヲ約セサルノ故ヲ以テ運送人ノ責任ヲ輕減スヘキ理由ナキカ故ニ本案ハ此要件ヲ削除シタリ而シテ此ノ如ク高價品ニ付テハ運送委託ノ際其種類及ヒ價額ヲ明吿スルコトヲ以テ滅失又ハ毀損ニ因リテ生シタル損害賠償ヲ求ムル要件ト爲スハ各國立法例ノ認ムル所ナルカ故ニ本案モ亦旣成商法ニ修正ヲ加ヘテ本條ノ規定ヲ設ケタリ
第三百三十八條
(理由)本條ハ旣成商法第五百五條ニ該當ス抑モ數人相次テ運送ヲ爲ス場合ニ於テ各運送人ヲシテ連帶ニテ本案第三百三十六條ニ規定セル運送品ノ滅失毀損又ハ延著ヨリ生スル責任ヲ負ハシムヘキヤ否ヤニ付テハ立法上議論ナキニアラス卽チ一方ニ於テ運送人ヲシテ連帶責任ヲ負ハシムルトキハ其負擔ヲ重大ナラシメ苛酷ニ失スルノ恐ナキニアラスト雖モ他方ニ於テハ荷送人及ヒ荷受人ノ權利ヲ安全ナラシムルノ利益アリ殊ニ連帶責任ヲ認メサルトキハ荷送人及ヒ荷受人ノ運送人ニ對スル權利ハ唯タ虛名ニ止マリ其實ナキニ至ルヘシ故ニ本案ハ旣成商法第五百五條ニ倣ヒ本條ノ規定ヲ設ケタリ
第三百三十九條
(理由)本條ハ旣成商法第四百九十五條乃至第四百九十八條ニ該當スルモノニシテ主トシテ運送品カ滅失毀損又ハ延著シタル場合ニ於ケル損害賠償ノ責任ヲ規定ス蓋シ此場合ニ於ケル損害賠償額ハ到達地ノ價額ニ依リテ之ヲ定ムヘキコトハ旣成商法其他ノ立法例ノ槪ネ一致スル所ニシテ本案モ亦之ヲ認ムト雖モ如何ナル時ニ於ケル價額ニ依ルヘキカニ付テハ爭議アリ旣成商法ハ損害賠償ノ責任發生後ニ有セシ最高ノ價額若クハ責任發生當時ノ價額ニ依ルヘキモノト爲スト雖モ引渡アリタル日ノ價額ニ依ラシムルコト正當ナルヲ以テ本案ハ之ヲ改メタリ然レトモ全部滅失シタルトキハ引渡アルコトナク又延著ノ場合ニ引渡アリタル日ヲ標準トスルハ不當ナルヲ以テ此等ノ場合ニハ引渡アルヘカリシ日ノ價格ニ依ルヘキモノトス又運送品ノ滅失又ハ毀損ノ爲メ運送賃其他ノ費用ヲ支拂フコトヲ要セサル場合ニ於テハ法律ノ規定ニ從ヒ定メタル賠償額ヨリ之ヲ控除スヘキヤ否ヤハ旣成商法ノ定メサル所ナリト雖モ之ヲ控除セサルトキハ運送人ヲシテ過重ノ負擔ニ任セシメ相手方ニ不當ノ利益ヲ得セシムルニ至ルヘキヲ以テ本案ハ之ヲ控除スヘキ旨ヲ定メタリ而シテ此ノ如ク運送人ノ責任ヲ輕減スルハ之ヲ保護スル所以ニ外ナラサルヲ以テ其惡意又ハ重大ナル過失アル場合ハ本條ノ責任ヲ負フヲ以テ足レリトセス卽チ此場合ニハ次條ノ規定ニ從フコトヲ要スルモノトス
第三百四十條
(理由)本條ハ旣成商法第五百三條ニ該當ス抑モ前條ハ惡意若クハ重大ノ過失アル運送人ニ適用スヘカラサルコトハ旣ニ述ヘタル所ニシテ此場合ニハ其滅失又ハ毀損ニ因リテ生シタル損害カ前條ニ定メタル賠償額ニ越ユルトキト雖モ其損害ノ全部ヲ賠償スヘキハ當然ナリ是レ本案カ旣成商法第五百三條ヲ修正シテ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第三百四十一條
(理由)本條ハ旣成商法第五百八條及ヒ第五百十一條ニ該當ス抑モ運送人ト運送ノ約ヲ取結ヒ之ニ運送ヲ委託スル者ハ荷送人ナルヲ以テ荷送人ハ運送人ニ對シテ運送ノ中止運送品ノ返還其他ノ處分ヲ請求スルコトヲ得ルハ素ヨリ當然ナリ然リト雖モ荷送人ヲシテ荷受人カ其引渡ヲ受クルマテ何時ニテモ之ヲ行フコトヲ得セシムルハ徒ラニ荷送人荷受人間ノ爭論ニ運送人ヲ投入スルノ恐アルヲ以テ以上ノ權利ハ運送品カ到達地ニ達シタル後荷受人カ其引渡ヲ請求シタルトキハ當然消滅セシムルヲ至當トス而シテ荷送人カ此權利ヲ行使シテ運送ヲ中止セシメ若クハ運送品ヲ返還セシメ其他運送品ヲ處分スルモ之カ爲メ運送人ハ其旣ニ爲シタル運送ノ割合ニ應スル運送賃及ヒ立替金ノ請求權ヲ失フノ理由ナキハ勿論其處分ニ因リテ生シタル費用ハ荷送人ノ行爲ニ基因スルモノナルヲ以テ此等ノモノノ辨濟ヲ荷送人ニ請求スルコトヲ得ヘシ是レ本案カ旣成商法第五百八條及ヒ第五百十一條ヲ修正シテ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第三百四十二條
(理由)本條第一項ハ旣成商法第五百十三條ノ字句ヲ修正シタルモノニシテ別ニ說明ヲ要セス又本條第二項ハ旣成商法中ニ存セサル所ナリト雖モ荷受人カ運送人ヲ受取リタルトキハ運送人ニ對シテ運送賃其他ノ費用ヲ支拂フコトヲ默諾シタルモノト看做スコトヲ得ルノミナラス一方ニ於テハ本條第一項ニ依リ荷受人ヲシテ運送人ニ對シテ運送契約ニ因リテ生シタル荷送人ノ權利ヲ行使スルコトヲ得セシメ他方ニ於テハ本案第三百四十八條ノ規定ニ依リ運送人ヲシテ運送賃其他本案第三百二十三條ニ揭ケタル債權ノ辨濟ヲ受クルマテ運送品ヲ留置スルコトヲ得セシムル以上ハ運送品ヲ受取リタル荷受人ヲシテ當然運送賃其他ノ費用ヲ支拂フノ義務ヲ負ハシムルモ決シテ不當ニアラス是レ本案カ新ニ本條第二項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第三百四十三條
(理由)本條ハ旣成商法中ニ存セサル所ナリト雖モ旣ニ荷送人ハ運送人貨物引換證ノ交付ヲ請求スルコトヲ得ルモノト爲ス以上ハ其請求ニ因リ運送人カ貨物引換證ヲ作リタル場合ニ其證券ト引換ニ非サレハ運送品ヲ引渡スコトヲ要セサルハ勿論ナリ卽チ貨物引換證ト引換ニ運送品ヲ引渡スヘキモノトスルハ貨物引換證ヲ作リタル趣旨ニ適合スルモノト謂フヘシ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第三百四十四條
(理由)本條ハ旣成商法第五百十四條ノ一部ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ運送品カ到達地ニ達シタル後運送人ヨリ之ヲ荷受人ニ引渡サント欲スルモ其人ヲ確知スルコト能ハサルトキハ何時マテモ之ヲ保管スルノ義務ヲ運送人ニ負ハシムルノ不可ナルハ勿論ナルヲ以テ此場合ニハ或ハ運送品ヲ供託シ或ハ相當ノ期間ヲ定メテ運送品ノ處分ニ付キ指圖ヲ爲スヘキ旨ヲ荷送人ニ催吿シ荷送人カ其催吿ニ因リテ指圖ヲ爲シタルトキハ之ニ從ヒ處分ヲ爲シ又運送人カ定メタル期間內ニ指圖ヲ爲ササルトキハ之ヲ競賣スルコトヲ得セシメサルヘカラス旣成商法ニ於テハ運送人ハ運送品ヲ公ノ倉庫ニ寄託シ又ハ裁判所ノ命令ニ依リテ他人ニ之ヲ寄託スヘキモノト爲スモ如何ナル者ニ供託スヘキカヲ定ムルノ必要アルトキハ特別法ヲ以テ之ヲ定ムヘク本條ハ唯タ供託ヲ爲シ得ヘキコトヲ認ムルヲ以テ足レリトス
本條第二項ハ旣成商法ト更ニ異ナルトコロナシ而シテ旣成商法ニ依レハ競賣ヲ爲スニ先チ之ヲ契約ノ相手方卽チ荷送人ニ通知スヘキ旨ヲ規定スルノミニシテ寄託又ハ競賣ヲ爲シ終リタル場合ニ之ヲ荷送人ニ通知スヘキヤ否ヤニ付テハ何等ノ規定ヲ設ケス然レトモ運送品ノ供託又ハ競賣ハ荷送人ノ利害ニ關スルコト尠少ナラサルヲ以テ運送人ヲシテ遲滯ナク其旨ル荷送人ニ通知セシムルコト至當ナリ是レ本案ニ於テ旣成商法第五百十四條ノ一部ノ修正ニ本條第三項ノ規定ヲ加ヘタル所以ナリ
第三百四十五條
(理由)本條ハ旣成商法第五百十四條ノ一部ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ運送品ノ引渡ニ關シ爭アリ運送人カ之ヲ荷受人ニ引渡スコトヲ得サル場合ニ於テハ其引渡ニ關スル爭カ荷送人荷受人運送人其他何人ノ間ニ存スルヲ問ハス其結局マテ運送人ニ於テ之ヲ保管スルノ義務ヲ負ハシムルハ苛酷ニ失ス故ニ此場合ニハ前條ノ規定ヲ準用シ運送人ヲシテ或ハ其運送品ヲ供託シ或ハ催吿ヲ爲シタル後之ヲ競賣スルコトヲ得セシムル必要アリ唯タ此場合ニ於テハ運送人ハ荷受人ヲ確知スルコトヲ得ヘキヲ以テ競賣ノ前豫メ荷受人ニ對シ相當ノ期間ヲ定メテ運送品ノ受取ヲ催吿シ其期間經過ノ後更ニ荷送人ニ對シテ催吿ヲ爲サシムルコト手續上至當ナリ蓋シ前條ノ旨趣ニ從フモ供託又ハ競賣ノ後ノ通知ヲ荷送人ニ限リタルハ荷受ヲ確人知セサル場合ナルヲ以テナリ本條ニ在テハ之ニ反シテ荷受人ノ確知セラレタル場合ナルヲ以テ之ニ對シテモ亦其通知ヲ發スヘキハ勿論ナリトス是レ本案カ旣成商法第五百十四條ノ一部分ヲ修正シテ本條ノ規定ヲ設ケ前條ノ規定ヲ準用シタル所以ナリ
第三百四十六條
(理由)本條ハ旣成商法中ニ存セサル所ナリ抑モ運送人カ前二條ノ規定ニ從ヒ運送品ノ競賣ヲ爲スニハ先ツ催吿ヲ爲スコトヲ要スト雖モ其物品ニシテ毀損シ易キモノナルトキハ到底之ヲ爲スノ途ナク强テ之ヲ爲サシムルハ却テ荷送人及ヒ荷受人ノ利益ヲ害スルモノナルヲ以テ此物品ニ限リ例外ヲ認ムルノ必要アリ又競賣ヲ爲シタルトキハ其代價ヲ受取ルヘキ者ノ確定スルマテ之ヲ供託セシムルハ之ヲ受取ルヘキ者ノ利益ヲ保護スル爲メ極メテ必要ナリトス但シ運送人カ未タ運送賃其他ノ費用ノ全部又ハ一部ヲ受取ラサリシトキハ其代價中ヨリ之ヲ扣除スルコトヲ得セシムルモ亦便宜上必要ナリトス是レ本條ヲ以テ第二百八十五條第二項及ヒ第三項ヲ準用シタル所以ナリ
第三百四十七條
(理由)本條ハ旣成商法第五百十五條ニ該當シ之ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ旣成商法ニ於テハ荷受人カ留保ヲ爲サスシテ運送品ヲ受取リ且之ニ對スル支拂ヲ爲シタルトキハ絕對的ニ運送人ニ對スル請求權ヲ喪失スルモノト規定スレトモ是レ運送人ニ惡意ナキ場合ニ付キ謂フヘキ所ニシテ若シ此ニ惡意アリタル場合ニハ啻ニ速ニ其責任ヲ消滅セシメテ之ヲ保護スヘキ理由ナキノミナラス却テ其惡意ニ對スル制裁トシテ普通ノ規定ニ從ハシムルノ必要アリ又假令運送人ニ惡意ナキ場合ト雖モ荷受人カ運送品ヲ受取ルノ際直チニ發見スルコト能ハサル毀損又ハ一部滅失アリタルトキハ其運送品ヲ受取ルノ際留保ヲ爲スコト事實上能ハサルヘク事實上ノ不能ヲ以テ荷受人ノ利益ヲ滅殺スルハ苛酷ニシテ運送人ノ保護ニ偏スト謂ハサルヘカラス故ニ留保ヲ爲サスシテ運送品ヲ受取リ且運送賃其他ノ費用ヲ支拂ヒタルノ故ヲ以テ徹頭徹尾運送契約ノ完全ナル履行ノアリタルコトヲ認メタルモノト看做スコトヲ得サルヘク從テ以上ノ場合ヲ除外スルノ必要アルモノトス但シ以上ノ場合ニ於テハ運送人ノ責任ヲ全ク消滅セシムルコト不當ナリト雖モ運送人ニ惡意ナキ場合ノ外ハ成ルヘク速ニ其責任ヲ消滅セシムルコトハ一方ニ於テハ運送人ノ重大ナル責任ヲ輕減シテ以テ之ヲ保護シ他方ニ於テハ事實判定ノ困難ヲ避ケテ以テ爭訟ヲ減スル爲メ必要ナリ而シテ荷受人ニ對シテハ運送品ニ直チニ發見スルコト能ハサル毀損又ハ一部滅失ナキヤ否ヤヲ檢スルノ期間ヲ與フルヲ以テ足レリトスルカ故ニ引渡アリタル日ヨリ相當期間ヲ經過スルニ因リテ運送人ノ責任ヲ消滅セシムルコトモ亦至當ナリ是レ本案ニ於テ新ニ第一項但書及ヒ第二項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第三百四十八條
(理由)本條ハ旣成商法第五百七條第四百八十九條第四百九十條及ヒ第五百十六條ヲ修正シタルモノニシテ之ヲ設ケタル理由ハ運送取扱營業ニ關スル第三百二十三條第三百二十四條第三百二十七條及ヒ第三百二十八條ニ付キ旣ニ述ヘタル所ト同一ナリトス
第二節 旅客運送
(理由)本節ハ旣成商法第一編第八章第八節ニ該當シ陸上又ハ湖川港灣ニ於ケル旅客運送營業ヲ規定ス
第三百四十九條
(理由)本條ハ旣成商法第五百十七條乃至第五百十九條ニ該當ス而シテ本條第一項ハ運送取扱營業ニ關スル本案第三百二十一條及ヒ物品運送ニ關スル本案第三百三十六條ト其理由ヲ同フス唯旣成商法第五百十七條ハ運送人ニ於テ至重ノ注意ヲ怠ラサリシコトヲ證明スルニアラサレハ損害賠償ノ責任ヲ免ルルコトヲ得サルモノト爲スト雖モ物品運送ト異ナリ旅客ノ運送ニ付テハ事人命ニ關スルヲ以テ相當ノ注意ノ程度自カラ異ナルヘキコト當然言フヲ俟タサル所ナルヲ以テ本條ハ之ヲ削除シタリ又旣成商法第五百十八條及ヒ第五百十九條ハ詳細ニ損害賠償額ヲ定ムル方法ヲ規定スト雖モ錯雜ニ失シ無要ノモノアルヲ以テ本條第二項ハ此兩條ヲ合併シ其字句ヲ修正シタリ
第三百五十條
(理由)本條第一項ハ旣成商法第五百二十條ニ該當ス抑モ旅客運送人ハ運送ノ爲メ旅客ヨリ引渡ヲ受ケタル手荷物ニ付テハ之カ爲メ運送賃ヲ受クル場合ハ勿論之ヲ請求セサル場合ト雖モ物品ノ運送人ト同一ノ責任ヲ負ハシムヘキコト素ヨリ當然ニシテ旣成商法ノ如キハ其適用ヲ示シ高價品ニアリテハ其性質及ヒ價額ヲ明吿スルコトヲ要スト爲スト雖モ旣ニ物品運送人ト同一ノ責任ヲ負フモノト爲ス以上ハ其責任ノ有無ヲ定ム可キ本案第三百三十七條ノ規定ハ當然手荷物ニモ適用セラルヘキヲ以テ本案ハ之ヲ削除シ唯タ第一項ノ規定ヲ設ケタリ
又本條第二項ハ旣成商法第五百二十二條ニ該當スルモノニシテ旣成商法ハ別段ノ委託ナキトキハ旅行ノ終リニ於テ之ヲ旅客ニ交付スヘキコトヲ規定スルモ是レ當然言フヲ俟タサル所ナルヲ以テ本案ハ之ヲ削除シタリ又旣成商法ハ旅行ノ終リヨリ三日ヲ經ルモ旅客ニ交付スルコトヲ得サルトキハ運送人カ旅客ノ危險及ヒ計算ニ於テ之ヲ處分スルコトヲ許スモ短期ニ失スルヲ以テ本案ハ手荷物カ到達地ニ達シタル日ヨリ一週間ハ運送人ニ於テ之ヲ保管スヘク若シ此期間內ニ旅客カ引渡ヲ請求セサルトキハ本案第二百八十五條ノ規定ニ從ヒ供託又ハ競賣ヲ爲スコトヲ得ルモノト爲シタリ但シ旅客ノ住所又ハ居所ノ知レサルトキハ同條ノ規定セル催吿又ハ通知ヲ爲スコト困難ニシテ强ヒテ之ヲ爲サシメントスレハ公吿ニ依ラサルヘカラスト雖モ公吿ハ費用ト手數トヲ要シ而シテ其效果ハ比較的ニ微少ナリ殊ニ通常僅少ノ價格ヲ有スル手荷物ノ代價ヲ以テハ到底其費用ヲ償フニ足ラサルヘキヲ以テ本案ハ此場合ニ限リ催吿又ハ通知ヲ要セサルモノト爲シタリ
第三百五十一條
(理由)本條ハ旣成商法第五百二十一條ニ該當ス抑モ旅客運送人カ運送ノ爲メ旅客ヨリ引渡ヲ受ケサル手荷物ニ付テハ物品運送人ト同一ノ責任ヲ負フノ理由ナシト雖モ其滅失又ハ毀損ニシテ運送人又ハ其使用人ノ過失ニ出ツルモノハ假令旅客自カラ之ヲ携帶セル場合ニ於テモ運送人ハ其責任ヲ免ル可キ理由ナシ是レ本條ヲ設ケタル所以ナリ
第九章 寄託
(理由)本章ハ旣成商法第一編第十章第三節ニ該當スト雖モ新民法第三編第二章第十一節寄託ニ關スル規定ト重複スルモノアルヲ以テ本案ハ之ヲ削除シ本法ニ於テ特別ノ規定ヲ要スルモノノミヲ二節ニ分チ第一節ニ寄託ニ關スル一般ノ規定ヲ揭ケ之ヲ總則ト名附ケ第二節ニ倉庫營業ニ關スル特別ノ規定ヲ揭ケタリ
第一節 總則
(理由)本節ハ旣成商法第一編第十章第三節ニ該當スルコト旣ニ述ヘタルトコロナリ而シテ本節中ニ採用セサリシ規定頗ル多シト雖モ要スルニ之ヲ民法ノ原則ニ讓リタルニ外ナラス
第三百五十二條
(理由)本條ハ旣成商法第六百七條及第六百八條ニ該當ス抑モ新民法第四百條ノ規定ニ依レハ受託者カ報酬ヲ受クル場合ニハ善良ナル管理者ノ注意ヲ爲スコトヲ要シ報酬ヲ受ケサル場合ニ付テハ新民法第六百五十九條ノ規定ニ依リ自己ノ財產ニ於ケルト同一ノ注意ヲ爲スコトヲ要ス然ルニ商人カ其營業ノ範圍內ニ於テ寄託ヲ受ケタル場合ニモ此民法上ノ主義ヲ貫徹シ報酬ヲ受ケサルトキハ單ニ自己ノ財產ニ於ケルト同一ノ注意ヲ爲スヲ以テ足レリトスルハ實際上ノ必要ニ適應セサルモノアルヲ以テ本條ハ此場合ニ付キ旣成商法第六百八條ノ規定ヲ採用シ善良ナル管理者ノ注意ヲ爲スコトヲ要スルモノト爲シタリ
第三百五十三條
(理由)本條ハ旣成商法第六百九條ノ一部ニ該當ス抑モ旣成商法第六百九條ニ於テハ旅店飮食店浴場其他公衆ノ來集スヘキ場屋ノ主人ハ客カ其場屋中ニ携帶シタル物ノ滅失又ハ毀損ニ付キ責任ヲ負フモノト爲スト雖モ苛酷ニ失スルノミナラス從來ノ慣習上ハ殆ント全ク其責任ヲ認メサルニモ拘ハラス之ヲ一變シテ重大ナル責任ヲ負ハシムルハ過激ノ變更タルヲ以テ本案ハ客ヨリ主人ニ寄託シタル物ト特ニ寄託ヲ爲サスシテ單ニ場屋中ニ携帶シタル物トヲ區別スルト同時ニ普通ノ物品ト高價品トヲ區別シ高價品ニ付テハ次條ニ之ヲ規定シ其他ノ物品ヲ本條ニ規定シタリ而シテ本條第一項ニ於テ主人カ客ヨリ寄託ヲ受ケタル物ノ滅失又ハ毀損ニ付テハ其不可抗力ニ因ルコトヲ證明スルニアラサレハ損害賠償ノ責ヲ免カルルコトヲ得サルモノト爲シタルハ運送取扱營業ニ關スル本案第三百二十一條及ヒ運送營業ニ關スル本案第三百三十六條及ヒ第三百四十九條ト同一ノ旨趣ニ出テ又本條第二項ニ於テ客カ特ニ主人ニ寄託セサルモ場屋中ニ携帶シタル物ノ滅失又ハ毀損ニ付テハ主人ニ責任ナキヲ通則トシ滅失又ハ毀損カ主人又ハ其使用人ノ不注意ニ因リテ生シタルトキニ限リ主人ヲシテ損害賠償ノ責ニ任セシムルハ旅客運送ニ關スル第三百五十條ト同一ノ旨趣ニ出テタルモノトス又場屋ノ主人カ客ノ携帶品ニ付キ責任ヲ負ハサル旨ヲ吿示シタルトキニ其責任ヲ免カルルコトヲ得ルヤ否ヤハ實際上屢々起リタル問題ナリト雖モ若シ之ヲ許ストキハ實際上以上定メタル主人ノ責任ノ規定ヲシテ無要ノ空文タラシムルニ至ルヲ以テ本案ハ本條第三項ノ規定ヲ設ケ主人ハ之カ爲メ責任ヲ免カルルコトヲ得サルモノト爲シタリ
第三百五十四條
(理由)本條ハ旣成商法第六百九條末段ノ字句ヲ修正シタルモノニシテ運送取扱營業ニ關スル本案第三百二十九條運送營業ニ關スル本案第三百三十七條ト同一ノ旨趣ニ出テタルモノナレハ茲ニ說明スルノ必要ナシトス
第三百五十五條
(理由)本條ハ旣成商法中ニ存セサル所ナリト雖モ之ヲ規定スルノ必要アルハ尙ホ運送取扱營業ニ關スル本案三百二十七條及ヒ運送營業ニ關スル本案第三百四十八條ト同一ナリトス是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二節 倉庫營業
(理由)旣成商法其他多數ノ商法々典ニ於テハ本節ニ相當スル規定ヲ欠缺スト雖モ之ヲ設クルコトハ實際上極メテ必要ナリ故ニ近世ニ至リテ之ニ關スル法規ヲ制定スルノ漸ク多キヲ加ヘ就中佛蘭西、白耳義、巴丁、ジユネーブ、英吉利、露西亞、澳太利等ハ之カ爲メ特別法ヲ制定シ伊太利、匈牙利、獨逸等ハ商法中ニ之ヲ規定セリ、我國ニ於テモ現今ハ此種ノ營業者未タ多カラスト雖モ漸次發達增加スルノ傾向アル以テ本案ハ新ニ本節ヲ設ケタリ
第三百五十六條
(理由)本條ハ倉庫營業者ノ何タルヤヲ決定シタルモノナリ抑モ外國法制ニ於テハ或ハ一定ノ保證金ヲ納メシメ或ハ營業ノ許可ヲ受ケシメ或ハ其他ノ制限ヲ加フルモノナキニアラスト雖モ此ノ如キ制限ヲ設クヘキ理由ナク寧ロ之ヲ各人ノ營業ノ自由ニ放任スルコト至當ナルヲ以テ本案ハ原則トシテ此等ノ制限ヲ設ケサルコトトナセリ
第三百五十七條
(理由)寄託者ハ倉庫營業者ニ對シテ如何ナル證券ノ交付ヲ請求スルコトヲ得ルヤニ付テハ各國立法例二主義ニ分レ英吉利、荷蘭、澳太利、西班牙等ノ諸國ニ於テハ寄託證券ノ交付ノミヲ請求スルコトヲ得ルモノト爲シ佛蘭西、伊太利、白耳義等ノ諸國ニ於テハ預證券及ヒ質入證券ノ交付ヲ請求スルコトヲ得ルモノト爲ス而シテ我國從來ノ慣習ニ依レハ單ニ寄託證券ノミヲ發行スルカ如シト雖モ一方ニ於テ寄託物ヲ質入シ他方ニ於テ其後之ヲ讓渡スカ如キ場合ニ在テハ預證券及ヒ質入證券ノ並ヒ存スルコト實際上便宜甚タ多ク而カモ之カ爲メ倉庫營業者ニ不利益ヲ感セシムルコト尠ナカルヘキヲ以テ本案ハ後者ニ倣ヒ本條ヲ以テ寄託者ハ預證券及ヒ質入證券ノ交付ヲ請求スルコトヲ得ルモノト定メ而シテ二者ノ作用如何ハ次條以下ニ之ヲ規定セリ
第三百五十八條
(理由)本條ハ寄託物ノ預證券及ヒ質入證券ノ要件ヲ定ムルモノニシテ此預證券ハ後ニ規定スルカ如ク裏書ヲ以テ讓渡又ハ質入ヲ爲スコトヲ得ルノミナラス寄託者及ヒ其承繼人ハ之ニ依ルニ非サレハ寄託物ヲ處分スルコトヲ得サルヲ以テ本案ニ於テ其要件ヲ定メ其流通ヲ容易且確實ナラシムルノ必要アリ是レ本條ニ於テ其要件ヲ定ムル所以ナリ而シテ旣成商法第六百二十一條ニ於テ受託物ノ受取證書ハ寄託者ノ名ヲ以テモ指圖式ニテモ無記名式ニテモ之ヲ發行スルコトヲ得且反對ノ明記ナキトキハ裏書讓渡ヲ爲スコトヲ得ル旨ヲ規定スト雖モ無記名式ノ預證券ハ現今慣習上行ハレサル所ニシテ且現今之ヲ認ムヘキ立法上ノ必要存セサルヲ以テ本條第二號ハ預證券及ヒ質入證券トモニ記名式ニ限リ而シテ其性質上當然裏書ヲ以テ之ヲ讓渡若クハ質入スルヲ得ヘキモノト規定セリ(第三百六十三條)其他ノ要件ニ付テハ別ニ說明スルノ必要ナシ
第三百五十九條
(理由)倉庫營業者カ寄託者ノ請求ニ因リ預證券及ヒ質入證券ヲ交付シタルトキハ其帳簿ニ本條第一號及ヒ第二號ニ揭ケタル事項其他ヲ記載セシムルコトハ紛失其他ノ事由ニ因リ寄託者カ其證券ノ再交付ヲ求ムル場合ニ必要ナルヲ以テ本條ハ寄託者ニ對スル倉庫營業者ノ義務トシテ之ヲ爲スヘキモノト規定シタリ
第三百六十條
(理由)預證券及ヒ質入證券ノ所持人ハ寄託中寄託物ヲ分割シ其各部分ニ付キ兩者ヲ求ムルノ必要ハ實際上屢々存スル所ナルヲ以テ本案ハ此場合ニ處スルタメ本條第一項ノ規定ヲ設ケタリ蓋シ此規定ナキトキハ倉庫營業者ハ必スシモ所持人ノ請求ニ應スルヲ要セサルヲ以テ寄託者ノ不利益ト爲ルヘケレハナリ然レトモ是レ一ニ所持人ノ便宜ノ爲メニスルモノナルヲ以テ其費用ハ所持人ニ於テ之ヲ負擔スヘキコト是亦當然ナリ故ニ本條第二項ヲ設ケ其負擔者ヲ定メタリ
第三百六十一條
(理由)預證券及ヒ質入證券ヲ作リタル場合ニ倉庫營業者ト所持人トノ間ニ於ケル寄託關係ハ其證券ノ定ムル所ニ依ルコト尙ホ貨物引換證ヲ作リタル場合ニ運送人ト所持人トノ間ニ於ケル運送關係ハ其貨物引換證ノ定ムル所ニ依ルカ如クナルヘキハ勿論ナリ是レ本案カ運送ニ關スル第三百三十三條ノ例ニ準シ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第三百六十二條
(理由)倉庫營業者ハ寄託者ノ請求ニ因リ受寄物ノ預證券及ヒ質入證券ヲ交付スヘキモノトスル以上ハ其證券ノ效力ヲ確實ナラシメ且證券ノ權利者ト寄託物ノ權利者トヲ異ニスルヨリ生スル困難ヲ排除スルカ爲メ寄託者又ハ其承繼人ハ其證券ヲ以テスルニ非サレハ寄託物ニ付キ一切ノ處分ヲ爲スコトヲ得サルモノト定ムルノ必要アリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第三百六十三條
(理由)本條ハ預證券及ヒ質入證券ノ流通ヲ自在ナラシムル爲メニ設ケタル規定ナリ抑モ寄託者カ一タヒ物品ヲ倉庫ニ寄託スルニ於テハ一方ニ於テ之カ保管上注意ヲ免カルルト雖モ他方ニ於テ其轉換ニ幾分ノ不便ヲ來ス恐アリ而シテ此不便ヲ出來得ル限リ排除スルハ獨リ寄託者ノ利益ヲ保護スルカ爲メノミナラス倉庫營業者ノ利益トナリ間接ニ倉庫營業ノ發達ヲ促カスヘシ而シテ其手段ノ一トシテ預證券及ヒ質入證券ニ流通性ヲ附與シ假令指圖式ニテ發行セラレサルトキト雖モ裏書ニ依リテ之ヲ讓渡シ又ハ質入スルコトヲ得セシムルハ極メテ必要ナルヘシ是レ本條第一項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ而シテ旣ニ二者各別ニ發行スル以上ハ各別ニ之ヲ讓渡シ得ヘキコト勿論ナリト雖モ預證券ノ所持人カ未タ質入ヲ爲ササル間ニ二者ヲ各別ニ讓渡スコトヲ得セシムルノ必要ナキノミナラス之ヲ許スニ於テハ之ニ因リテ法律關係ヲ錯雜ナラシムル恐アルヲ以テ本條第二項ヲ設ケテ之ヲ制限シタリ
第三百六十四條
(理由)倉庫營業者カ寄託者ノ請求ニ因リ受寄物ノ預證券ヲ交付シタル場合ニ其物ニ關スル處分ハ證券ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ爲スコトヲ得ス且其物ノ返還ハ證券ト引換ニ非サレハ之ヲ請求スルコトヲ得サルモノトスル以上ハ其證券裏書ニ讓渡ヲ物權的ノ效力ヲ生セシムルコト正當ナリ是レ本案カ旣ニ運送ニ關シ第三百三十四條ヲ設ケタルト同一ノ理由ニ基キ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第三百六十五條
(理由)預證券又ハ質入證券ヲ發行シタルトキハ寄託者又ハ其承繼人ハ其證券ヲ以テスルニアラサレハ寄託物ニ付キ一切ノ處分ヲ爲スコトヲ得サルヲ以テ若シ其證券カ滅失シタルトキハ更ニ其證券ノ交付ヲ受クルニアラサレハ寄託物ヲ處分スルコトヲ得サルヘシ然リト雖モ此場合ニ直チニ其證券ヲ交付スルノ義務ヲ倉庫營業者ニ負ハシムルトキハ場合ニ依リテハ同一ノ寄託物ニ付キ二個以上ノ證券流通スルコトトナリテ倉庫營業者ハ二重三重ニ受寄物引渡ノ請求ヲ受クルコトアルニ至ルヘシ而シテ民事訴訟法ニ所謂公示催吿手續ヲ經テ除權判決確定シタル後ニ新證券ヲ發行スルトキハ倉庫營業者ニ取リテ此ノ如キ危險ナシト雖モ之カ爲メニ少ナカラサル時日ヲ要シ其間ハ寄託物ニ付キ何等ノ處分ヲ爲スコトヲモ得サラシムルハ寄託者又ハ其承繼人ニ對シテ苛酷ナルノミナラス經濟上策ノ宜シキヲ得タルモノニアラス故ニ本條ハ一方ニ於テハ證券ノ所持人ヨリ相當ノ擔保ヲ供セシメテ倉庫營業者ノ危險ヲ豫防シ他方ニ於テハ直チニ證券ノ交付ヲ求ムルコトヲ得セシメテ所持人ノ便宜ヲ圖リタリ但シ此場合ニハ倉庫營業者ヲシテ其旨ヲ帳簿中ニ記載セシムルコト後日ノ證據ヲ存スル爲メ必要アルヲ以テ本條ノ後段ヲ加ヘタル所以ナリ
第三百六十六條
(理由)旣ニ述ヘタル如ク本案第三百六十二條第一項ニ於テハ質入證券ハ裏書ニ依リテ質入スルコトヲ得ルモノトナシタルヲ以テ本條第一項ハ其裏書ノ要件ヲ定メタリ蓋シ質入裏書セラレタル質入證券ノ所持人ハ更ニ裏書ニ依リテ其證券ヲ讓渡シ得ヘキヲ以テ其所持人ノ權利ノ範圍ヲ定ムル爲メ債權額、其利息及ヒ辨濟期ヲ記載セシムルコト必要ナルヲ以テナリ而シテ此質入證券ノ被裏書人タル債權者ハ單ニ其質入證券ヲ有スルニ止マリ預證券ハ勿論寄託物ト雖モ未タ占有スル者ニアラサルヲ以テ此裏書ノミニ依リ其質權ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得ルモノトセハ預證券ノ所持人ハ質權ノ效力ノ及フ所ヲ知ラサルカ爲メ意外ノ損失ヲ當フルノ虞アルノミナラス質入證券ノ所持人ニシテ現出セサルトキハ預證券ノ所持人ハ永久寄託物ノ返還ヲ請求スルコトヲ得サルヘシ殊ニ預證券ノ有スル價額ハ質入證券ニ依リテ擔保セラルル債權額ト反比例ヲ爲スモノナルニ其債權額ノ多少ヲ確知スルコトヲ得サルトキハ預證券ノ價格ヲモ確定スルコトヲ得ス從テ預證券ノ流通ヲ妨害スルノ結果ヲ生ス然ルニ若シ之ニ反シ質入裏書セラレタル質入證券ノ所持人ハ其權利ヲ以テ全ク預證券ノ所持人ニ對抗スルコトヲ得サルモノトスルトキハ預證券ノ所持人ヲ保護スルニ餘リアリト雖モ預證券ノ外質入證券ヲ設ケタル目的ヲ達スルコトヲ得ス故ニ本案ハ質權ヲ以テ第三者ニ對抗スル要件ニ關スル新民法第三百五十二條第三百六十四條乃至第三百六十六條ニ代フルニ本條第二項ヲ以テシ第一ノ質權者カ債權額其利息及ヒ辨濟期ヲ預證券ニ記載シテ之ニ署名スルニアラサレハ其質權ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得サルモノト爲シタリ
第三百六十七條
(理由)預證券ノ所持人カ質入證券ニ裏書シ之ヲ質入シタル場合ニ於テ預證券ノ所持人ハ質入證券ノ所持人ニ對シ辨濟ヲ爲シタル後ニアラサレハ寄託物ノ返還ヲ請求スルコトヲ得ストセハ質入證券ノ所持人カ知レサルカ又ハ假令之ヲ知ルモ債權ノ辨濟期未タ到來セサル場合ニ於テハ寄託物ノ返還ヲ請求スルコトヲ得サルカ爲メ寄託物ノ融通ヲ妨ケ啻ニ預證券ノ所持人ノ爲メ不便ナルノミナラス經濟上亦得策ニアラス殊ニ質入證券モ亦裏書ニ依リ自由ニ之ヲ讓渡スルコトヲ得ルモノナルヲ以テ假令預證券ノ所持人ハ前條第二項ノ規定ニ依リ第一ノ質權者ノ誰タルコトヲ知ルヲ得ルモ其後ニ之ヲ讓受ケタル者ノ誰タルヤヲ知ルヲ得サルコト通例ナレハ此場合ニ處スヘキ便宜ノ方法ヲ定ムルコト極メテ必要ナリ然レトモ之カ爲メ無條件ニテ預證券ノ所持人ハ寄託物ノ返還ヲ請求シ得ルモノトセハ啻ニ質入證券ノ所持人ノ權利ヲ害スルノミナラス殆ント質入證券ヲ設ケタル旨趣ヲ失フヘシ故ニ一方ニ於テハ質入證券ノ所持人ノ權利ヲ完カラシメ他方ニ於テハ預證券ノ所持人ノ利益ヲ保護セサルヘカラス而シテ預證券ニハ必ス債權額、其利息及ヒ辨濟期ヲ記載スルヲ以テ預證券ノ所持人及ヒ倉庫營業者ハ質入證券ナシト雖モ之ニ依リテ擔保セラルル債權額、其利息及ヒ辨濟期ヲ知ルコトヲ得ヘシ從テ預證券ノ所持人カ寄託物ノ返還ヲ請求スルニ當リテハ債權ノ辨濟期ノ如何ニ拘ハラス其債權ノ金額及ヒ辨濟期マテノ利息ヲ供託セシメ質入證券ノ所持人ノ請求ニ依リ其證券ト引換ニ支拂ハシムルコト最モ便宜ニシテ且少シモ各當事者ノ利益ヲ害スル所ナシ又預證券ニ債權額、其利息及ヒ辨濟期ヲ記載セサルカ爲メ預證券ノ所持人及ヒ倉庫營業者カ之ヲ知ラサル場合ニ於テハ質入證券ノ所持人ハ前條第二項ノ規定ニ依リ質權ヲ以テ預證券ノ所持人及ヒ倉庫營業者ニ對抗スルコトヲ得サルカ故ニ此場合ニ供託ヲ爲ササレハトテ預證券ノ所持人又ハ倉庫營業者ヲシテ質入證券ノ所持人ニ對シテ何等ノ責任ヲ負ハシムルノ必要ナシトス是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第三百六十八條
(理由)質入證券ニ質入裏書ヲ爲シタル質債務者若クハ預證券ノ所持人等カ其債務ノ辨濟期マテニ債權額及ヒ其利息ヲ支拂ヒ又ハ供託シタルトキハ質入證券ノ所持人ハ其寄託物ニ依リテ自己ノ債權ノ滿足ヲ得ルノ必要ナキハ勿論ナリト雖モ之ニ反シテ辨濟期ニ至リ尙ホ支拂ヲ受ケサルトキハ其物品ヲ競賣シ其代金ヲ以テ辨濟ヲ得ルノ必要アリ而シテ質入證券ニ質入裏書ヲ爲シタルモノ卽チ質債務者ノ誰タルヤハ質入證券ニ依リテ之ヲ知ルコトヲ得ヘク而シテ質入證券ノ所持人モ亦此者ニ對シテ支拂ヲ請求スルコト通例ナリト雖モ質入證券ノ所持人ト預證券ノ所持人トハ互ニ相知ラサルコト多ク從テ預證券ノ所持人ニ支拂ヲ請求シ若クハ預證券ノ所持人カ支拂ヲ爲スコト困難ニシテ預證券ノ所持人ハ質入證券ノ所持人ヨリ質債務者ニ對シ支拂若クハ競賣ノ請求アリタルコトヲ知ラサルヲ通例トス然ルニ預證券ノ所持人カ不知不識ノ間ニ質入證券ノ所持人ヲシテ質債務者ニ支拂ヲ請求シ若シ支拂ヲ得サルトキハ競賣ヲ請求シ其結果預證券ノ所持人ノ權利ヲ失ハシムルコトヲ得セシムルハ決シテ正當ニアラス故ニ本條ハ一方ニ於テハ質入證券ノ所持人カ辨濟期ニ至リ支拂ヲ受ケサルトキハ爲替手形ニ關スル規定ニ從ヒ拒絕證書ヲ作成スヘキモノト爲シ以テ支拂ヲ受ケサル事實ヲ確認セシメ他方ニ於テハ次條ノ規定ヲ設ケテ拒絕證書ト競賣トノ間ノ期間ヲ定メ以テ預證券ノ所持人ヲシテ支拂ノ機會ヲ得セシメタリ
第三百六十九條
(理由)本條ハ前條ノ理由中ニ述ヘタル如ク質入證券ノ所持人ノ利害ト預證券ノ所持人ノ利害ノ調和ヲ計リタルモノニシテ本案カ拒絕證書ノ作成ト物品ノ競賣トノ間少クトモ一週間ノ日時ヲ存スルニ於テハ此目的ヲ達スルモノト認メタルニ由ルモノトス
第三百七十條
(理由)本條ハ前條ノ規則ニ從ヒ競賣ヲ爲シタルニ因リテ得タル代金ノ處分方法ヲ定ム蓋シ競賣スルニ關スル費用、受寄物ニ課スヘキ租稅、保管料、其他保管ニ關スル費用及ヒ立替金等ノ中或モノハ民法ノ規定ニ依リ競賣代金ニ付キ先取特權ヲ有スルノミナラス假令民法ノ規定ニ從ヘハ先取特權ヲ有セサルモノト雖モ本案ハ之ニ先取特權ヲ與フヘキモノト認メ本條ハ第一項ヲ以テ此等ヲ競賣代金ヨリ扣除シ其殘額ヲ質入證券ト引換ニテ其所持人ニ支拂フヘキモノト爲ス然レトモ質入證券ノ所持人モ亦其債權額、利息及ヒ拒絕證書作成ノ費用等ヲ受クルノ權利ヲ有スルニ止マルヲ以テ此等ヲ前述ノ殘額ヨリ扣除シ尙ホ殘餘アルトキハ預證券ノ所持人ニ歸セシムヘキモノナルヤ勿論ナルヲ以テ本條第二項ハ其殘額アルトキハ預證券ト引換ニ其所持人ニ支拂フヘキモノト爲シタリ
第三百七十一條
(理由)質入裏書ヲ爲シタル質入證券ヲ擔保トスル場合ニ於テハ質債權者ハ債務者其人ヨリモ寧ロ質入證券ニ記載シタル寄託物ニ重キヲ置クモノナルヲ以テ競賣代金ニ依リ十分ナル支拂ヲ受ケサルコト稀ナリト雖モ一部ノ滅失又ハ價格ノ下落等ニ因リ十分ナル支拂ヲ受ケサルコトナキニアラス此場合ニ於テハ質入證券ノ所持人ハ全ク其權利ヲ失フモノニアラス卽チ其質入證券ノ裏書讓渡人殊ニ質入證券ニ記載シタル債務者ニ對シテ未タ支拂ヲ受ケサル部分ノ辨濟ヲ請求スルコトヲ得ヘキコト次條ニ規定スルトコロナリ而シテ之ヲ爲スニハ質入證券ニ依ルコト必要ナルヲ以テ競賣代金ト引換ニ質入證券ヲ倉庫營業者ニ返還セシムルコトヲ得ス然レトモ從來ノ態樣ヲ存スル質入證券ヲ其儘所持人ニ保有セシムルトキハ其所持人ノ有スル權利ノ範圍ヲ明カニスルコトヲ得サルヘク從テ質入證券ノ讓渡人又ハ債務者ハ過分ノ支拂ヲ爲スコトアルヲ免カレサルヘシ故ニ競賣代金ニ依リ支拂ヲ受ケタル額ヲ明カニスルト同時ニ讓渡人及ヒ所持人間ノ權利義務ヲ明確ナラシムル爲メ手形ノ一部支拂ノ場合ト對照シテ本條ノ規定ヲ設ケタルナリ
第三百七十二條
(理由)質入裏書セラレタル質入證券ノ所持人ハ通例寄託物ニ重キヲ措キ之ニ依リテ辨濟ヲ受クルノ目的ナルコト前條理由中ニ述ヘタルカ如シ故ニ本案ハ本條ヲ以テ質入證券ノ所持人ハ先ツ寄託物ニ付キ辨濟ヲ受クヘキモノト規定セリ然リト雖モ一部ノ滅失又ハ價格ノ下落等ノ原因ノ爲メ寄託物ノミニ依リテ十分ノ辨濟ヲ得ルコト能ハサル場合アルコトモ亦前條ノ理由中ニ述ヘタル如クナルヲ以テ此場合ニハ恰モ手形ノ償還請求ノ如ク其不足額ノ支拂ヲ債務者其他ノ裏書人ニ對シテ請求スルコトヲ得セシムルノ必要アリ是レ本條ノ規定アル所以ナリ
第三百七十三條
(理由)質入證券ノ所持人ハ寄託物ノ競賣代金ニ依リテ辨濟ヲ受ケ尙ホ不足アルトキハ債務者其他ノ裏書人ニ對シテ其不足額ノ支拂ヲ請求スルコトヲ得ヘシト雖モ此裏書人ノ責任ハ頗ル重大ナルヲ以テ永ク裏書人ヲシテ此狀態ニアラシムルハ不可ナルノミナラス苟クモ質入證券ノ所持人ニ怠慢アルニ於テハ此責任ヲ免カレシメサルヘカラス而シテ質入證券ノ所持人カ辨濟期ニ至リ支拂ヲ受ケサルニモ拘ハラス拒絕證書ヲ作成セサルカ又拒絕證書ヲ作成スルモ二週間內ニ競賣ヲ請求セス換言スレハ此請求ヲ爲シ得ヘキ時ヨリ二週間ヲ經ルモ請求ヲ爲ササルカ如キハ怠慢ニシテ之ヲ以テ裏書人ニ對シテ有スル請求權ヲ抛棄シタルモノト看做スコトヲ得ヘシ是レ本條ヲ設ケ此場合ニハ裏書人ニ對スル請求權ヲ失フモノト規定シタル所以ナリ
第三百七十四條
(理由)質入證券ノ所持人ハ前條ノ規定ニ從ハサルトキト雖モ債務者ニ對シ不足額ヲ請求シ得ルハ勿論前條ノ規定ニ從フトキハ其他ノ裏書人ニ對シテモ亦不足額ヲ請求スルコトヲ得ヘシ然リト雖モ此債務者其他ノ裏書人ノ責任ハ頗ル重大ナルヲ以テ普通ノ時效ニ從フニアラサレハ之ヲ免カルルコトヲ得サルモノトスルハ苛酷ニ失ス是レ本條ニ於テ短期時效ヲ定メタル所以ナリ
第三百七十五條
(理由)倉庫營業者ニ寄託スル物品ハ通例商品ニシテ預證券ノ裏書讓渡ニ依リ之ヲ轉輾スルコトヲ得ルモノナルヲ以テ寄託中寄託者又ハ預證券ノ所持人ヲシテ何時ニテモ物品ヲ點檢シ又ハ其見本ヲ摘出スルコトヲ得セシムルノ必要アルノミナラス寄託者又ハ預證券ノ所持人ハ卽チ寄託物ニ對スル權利者ナレハ何時ニテモ其物品ノ保存ニ必要ナル行爲ヲ爲スコトヲ得セシメサルヘカラス又質入證券ノ所持人卽チ質債權者ハ寄託物ニ依リテ自己ノ債權ヲ擔保セラルルモノナルヲ以テ此ニモ亦何時ニテモ其物品ヲ點檢スルコトヲ得セシムルノ必要アリ然リト雖モ之カ爲メ倉庫營業者ニ大ナル煩勞ヲ來サシムヘカラサルハ勿論ナルヲ以テ何レノ場合ニ於テモ倉庫營業者ノ營業時間內ニ限ラサルヘカラス是レ本條ノ規定アル所以ナリ
第三百七十六條
(理由)倉庫營業者カ物品ノ滅失又ハ毀損ヨリ生スル損害賠償ノ責任ヲ免カルルニハ保管ニ關スル注意ヲ怠ラサリシコトヲ證明セシムルハ寄託者又ハ預證券若クハ質入證券ノ所持人ヲ保護スル爲メ必要ナルノミナラス營業寄託ノ性質上當然ナルヲ以テ本案ハ運送取扱營業ニ關スル第三百二十一條運送營業ニ關スル第三百三十六條第三百四十九條及ヒ一般ノ寄託ニ關スル第三百五十三條等ヲ斟酌シテ本條ノ規定ヲ設ケタリ
第三百七十七條
(理由)民法ニ於テハ受寄者ハ寄託物返還ノ後ニアラサレハ報酬ノ支拂ヲ請求スルコトヲ得サル旨ヲ規定スルニ止マリ寄託物ノ一部分ヲ返還スル場合ニ付キ何等ノ規定ヲ設ケサルノミナラス寄託物ヲ保管スルニ付キ費用ヲ要スルトキハ其前拂ヲ請求スルコトヲ得ルモノト爲ス(新民法第六百六十五條、第六百四十八條及ヒ第六百四十九條)ト雖モ倉庫營業者ニ付テハ物品出庫ノ時ニ非ラサレハ報酬及ヒ立替金其他物品ニ關スル費用ノ支拂ヲ請求スルコトヲ得サルモノト爲スノ必要アリ殊ニ出庫前保管ノ半途ニ於テ之ヲ請求スルコトヲ得ルモノトスルモ倉庫營業者ハ何人カ現ニ預證券ヲ所持スルヤヲ知ルコトヲ得サルヲ以テ結局寄託物ヲ競賣シ之レニ依リテ支拂ヲ受クルニ至ルコト多カルヘク此ノ如キハ預證券及ヒ質入證券ノ流通ヲ安全ニスル所以ニアラサルヘシ故ニ本條ハ出庫ノ時ニアラサレハ之カ支拂ヲ請求シ得サルコトト定ム然レトモ物品ノ一部出庫ノ場合ニ於テハ其割合ニ應シテ支拂ヲ請求スルコトヲ得セシムルハ毫モ弊害ナキノミナラス却テ便利ナルヲ以テ本條但書ハ其旨ヲ明カニシタリ
第三百七十八條
(理由)當事者カ寄託物返還ノ時期ヲ定メタルトキハ受寄者ハ已ムコトヲ得サル事由アルニ非サレハ其期限前ニ返還ヲ爲スコトヲ得サルハ新民法第六百六十三條第二項ノ規定スル所ニシテ之ヲ倉庫營業ニ適用シテ毫モ弊害ナク從テ本案ニ於テ特別ノ規定ヲ設クルコトヲ要セス之ニ反シテ當事者カ寄託物返還ノ時期ヲ定メサリシ場合ニ新民法第六百六十三條第一項ヲ適用スルニ於テ倉庫營業者ハ何時ニテモ寄託物ヲ返還スルコトヲ得ルコトトナルヘク寄託者其他ノ相手方ニ取リテハ極メテ不利益ニシテ巨額ナル商品ニ付テハ殊ニ其甚タシキモノアリ而シテ倉庫營業者ハ素ヨリ寄託ヲ受クルヲ業トスル者ナルカ故ニ或期間必ス之ヲ保管スヘキモノト爲スモ之カ爲メ大ナル困難ニ陷ヰルコトナキノミナラス何時ニテモ返還ヲ請求セラルゝニ比シテ非常ナル便宜アリト謂フヘシ幸ニ我國從來ノ慣習上六ケ月ヲ以テ倉庫寄託ノ一期ト爲スアリ獨逸新商法草案等モ亦之ト符合スルヲ以テ本條ハ物品入庫ノ日ヨリ六ケ月ヲ經過シタル後ニアラサレハ倉庫營業者ハ其返還ヲ爲スコトヲ得サル旨ヲ定メタリ此ノ如ク倉庫營業者ニ當然一定ノ期間內保管ヲ爲ス義務ヲ負ハシムルモ寄託物返還ノ時期ヲ定メタル場合ニ付キ新民法第六百六十三條第二項ニ於テ受寄者ニ已ムコトヲ得サル事由アル場合ヲ例外ト爲シタル如ク本條ノ場合ニ於テモ倉庫營業者ニ已ムコトヲ得サル事由アル場合ヲ例外ト爲シ何時ニテモ返還ヲ爲スコトヲ得セシムルノ必要アルヲ以テ本條ハ但書ヲ設ケ此旨ヲ明カニセリ
第三百七十九條
(理由)倉庫營業者カ寄託者ノ請求ニ因リ寄託物ノ預證券及ヒ質入證券ヲ交付シタル場合ニ其證券ト引換ニ非サレハ寄託物ヲ返還スルコトヲ要セサルハ勿論ナリ是運送ニ關スル第三百四十三條ノ例ニ準シ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第三百八十條
(理由)保管ノ期間滿了シ若クハ民法及ヒ前條ノ規定ニ依リ寄託物ヲ返還シ得ヘキ場合ニ寄託者又ハ預證券ノ所持人カ物品ヲ受取ルコトヲ拒ミ若クハ之ヲ受取ルコト能ハサルトキ倉庫營業者カ民法ノ規定ニ從ヒ提供及ヒ供託ヲ爲シテ寄託物返還ノ義務ヲ免カル(新民法第四百九十二條乃至第四百九十七條)ルニアラサルヨリハ何時マテモ寄託物ヲ保管セサルヘカラストセハ之カ爲メ倉庫營業者ハ少ナカラサル不利益ヲ蒙ルヘシ故ニ此場合ニ倉庫營業者ノ利益ヲ保護シ且ツ便宜ヲ主トスル規定ヲ設クルノ必要アリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第三百八十一條
(理由)倉庫營業ニ付テモ亦運送營業ニ關シ第三百四十七條ノ理由中ニ說明シタルト同一ノ理由ニ基キ寄託者カ留保ヲ爲サスシテ寄託物ヲ受取リタルトキハ倉庫營業者ノ責任ヲ免カレシムル方法ヲ設クル必要アリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第三百八十二條
(理由)倉庫營業ニ付テモ亦運送取扱營業ニ關スル第三百二十七條及ヒ運送營業ニ關スル第三百四十八條ト同一ノ理由ニ依リ寄託物ノ滅失又ハ毀損ヨリ生スル倉庫營業者ノ責任ニ付キ其營業者ノ惡意ナキ場合ニ限リ特ニ短期時效ヲ定ムルノ必要アリ是レ本條ノ規定アル所以ナリ唯タ運送取扱營業又ハ運送營業ニ在テハ運送品ノ引渡ヲ以テ限界ト爲ス故ニ引渡ノ日又ハ引渡アルヘカリシ日ヨリ時效ノ期間ヲ起算スト雖モ倉庫營業ノ場合ニ寄託物ノ返還ハ出庫ニ依リ完了スルヲ以テ其日ヨリ時效ノ期間ヲ起算ス又全部滅失ノトキハ出庫ナキヲ以テ別ニ其起算點ヲ定ムルノ必要アリ而シテ寄託物ニ付キ權利ヲ有スル者カ其滅失アリタルコトヲ知ルハ通例倉庫營業者ノ通知ニ依ルモノナルヲ以テ倉庫營業者カ預證券ノ所持人ニ對シ其滅失ノ通知ヲ發シタル日ヨリ時效ノ期間ヲ起算ス然レトモ倉庫營業者ハ必スシモ預證券ノ所持人ヲ知ルモノニアラス所持人ニシテ若シ深ク注意ヲ用ユルトキハ自己ノ氏名、住所又ハ營業所等ヲ倉庫營業者ニ通知シ倉庫營業者ヲシテ所持人ヲ知ルコトヲ得セシムヘキモ所持人カ此通知ヲ爲スハ其義務ニアラス從テ倉庫營業者カ所持人ニ通知ヲ爲ス能ハサルコトアリ此場合ニハ寄託者ニ對シ其滅失ノ通知ヲ發シタル日ヨリ時效ノ期間ヲ起算スルコトト規定スルノ已ムヲ得サルモノアリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第十章 保險
(理由)本章ハ旣成商法第一編第十一章ニ該當スルモノニシテ旣成商法ハ之ヲ六節ニ分チ第一節ニ總則第二節ニ火災及ヒ震災ノ保險第三節ニ土地ノ產物ノ保險第四節ニ運送保險第五節ニ生命保險病傷保險及ヒ年金保險第六節ニ保險營業ノ公行ヲ規定シ別ニ第二編海商中第八章ニ於テ海上保險ヲ規定セリ蓋シ海上保險ヲ第五編海商中ニ規定スルニ付テハ本案モ亦旣成商法ト同一ナリト雖モ其他ニ付テハ大ニ異ナル所アリ卽チ其主要ナル差異ヲ擧クレハ本案ニ於テハ本章ヲ分テ損害保險及ヒ生命保險ノ二節ト爲シタルコト是レナリ抑モ旣成商法ニ於テハ生命保險ノ意義ヲ狹隘ニシ生存保險年金保險等ヲ除外スト雖モ本案ニ於テハ生命保險ヲ廣義ニ解シ苟モ報酬ヲ受ケ人ノ生死ニ關シテ金額ヲ支拂フヘキコトヲ約スル契約ハ悉ク生命保險ニ包含スルモノトナシ從テ此等ノ保險ヲ包括シテ損害保險ト相對峙スル區別ト爲スコトヲ得ヘキニ至リタリ而シテ生命保險ト損害保險トハ其性質ヲ異ニシテ二者ニ同一ノ規定ヲ適用スルコト能ハサルモノ多キヲ以テ旣成商法ノ如ク第一節總則ニ揭ケタル規定ヲ損害保險及ヒ生命保險ニ通シテ適用スヘキモノト爲スハ其當ヲ得タルモノニアラス況ヤ生命保險ハ他ノ保險ト同シク純然タル保險ノ一種ニ屬スルヤ否ヤハ學說上爭アル所ナルヲ以テ本案ハ進ンテ此學說上ノ爭議ヲ裁決スルノ冒險ヲ斷行セスシテ之ヲ學說ノ將來ニ一任シ唯タ本章ニ於テハ性質ノ異ナル二種ノ保險ヲ個々ニ規定スルノ便宜ニシテ且正當ナルヲ確信ス是レ本章ノ規定セラレタル方針ナリ但旣成商法第一編第十一章第六節ハ保險營業ノ公行ト題シ保險營業ニ對スル取締法規ヲ揭クト雖モ本案ハ之ヲ特別法令ニ讓リ茲ニ規定セス
第一節 損害保險
(理由)本節ハ旣成商法第一編第十一章第一節乃至第四節ニ該當スルモノニシテ火災保險、運送保險等損害ノ塡補ヲ以テ目的トスル各種ノ保險ニ關スル規定ヲ包含スルモノトス
第一款 總則
(理由)本款ハ旣成商法第一編第十一章第一節ニ該當シ各種ノ損害保險ニ共通スル規定ヲ揭クルモノトス而シテ此規定ハ便宜上或範圍內ニ於テハ生命保險ニモ亦準用セラルヘキモノトス(本案第四百三十條)
第三百八十三條
(理由)本條ハ旣成商法第六百二十五條及ヒ第六百二十六條ニ修正ヲ加ヘタルモノニシテ損害保險ノ意義ヲ規定ス抑モ旣成商法ハ「不測又ハ不確定ノ事故」ト曰ヒ發生及ヒ不發生ノ確カナラサルモノヲ不測ノ事故ト爲シ發生スヘキコトハ確カナルモ如何ナル時期ニ發生スヘキカノ確カナラサルモノヲ不確定ノ事故ト爲スト雖モ是レ唯タ觀察ノ方法ヲ異ニスルニ止マリ保險期間中ノ危險ニ付テ之ヲ觀レハ何レモ發生及ヒ不發生ノ確カナラサルモノナルヲ以テ本案ハ之ヲ「偶然ナル事故」ト改メ且其人爲ニ出ツルト否トヲ問ハサルモノナルコトヲ明カニシタリ又旣成商法ハ損害ノ原因タル偶然ノ事故ノ一定セラルルコトヲ要スル旨ヲ規定セスト雖モ火災保險カ火災ヨリ生スル損害ノミニ限ラレ運送保險カ運送中ノ危險ヨリ生スル損害ノミニ限ラルルカ如ク偶然ノ事故ノ一定セラルルコト必要ナルヲ以テ本案ハ新ニ其事故ノ一定ナルコトヲ要スル旨ヲ明言シタリ又旣成商法ハ「或物ニ關シ或時間ニ生スルコトアルヘキ喪失又ハ損害」ト曰フト雖モ損害保險ハ必スシモ物ニ關シテ生スルコトアルヘキ損害ノミニ限ルヘキ理由ナク又物ノ喪失モ一ノ損害ニ外ナラサルヲ以テ二者ヲ併記スルノ必要ナク又或時間ヲ定ムルコトハ外國立法例ニ於テモ末タ之ヲ損害保險ノ要件トスルモノナキノミナラス理論上之ヲ以テ要件トスルノ必要ナキカ故ニ本案ハ之ヲ單ニ「損害」ト改メ其損害ヲ塡補スルコトヲ約スルヲ以テ損害保險ノ要件ト爲ス是レ多クノ場合ニ於テハ損害保險ノ目的ハ旣成商法ノ如ク損害ヲ賠償スルニアリト雖モ必シモ賠償ヲ爲スモノニアラス其他ノ方法ニ依リテ損害ヲ塡補スルモノアレハナリ又被保險者ニ與フヘキ報酬ハ旣成商法ニ於テ之ヲ保險料ト稱シ實際上ニ於テモ保險料トシテ金錢ヲ支拂フヲ通例ト爲スト雖モ必シモ之ヲ保險料ト稱スルコトヲ要セサルヲ以テ本案ハ「其報酬ヲ與フルコトヲ約シ」云々ト改メタリ是レ本條ノ如ク修正ヲ加ヘタル所以ナリ
其他旣成商法第六百二十六條第一項ハ保險スルコトヲ得ヘキ危險卽チ所謂損害ヲ生スルコトアルヘキ偶然ナル事故ノ種類ヲ列擧スト雖モ單ニ例示ニ止マリ其他ノ危險ニ對スル保險ハ之カ爲メニ妨ケラルルコトナキモノトスルヲ以テ殆ント法典中ニ之ヲ揭クルノ必要ナク又立法上保險スルコトヲ得ヘキ事故ヲ限定スヘキ理由ナキヲ以テ本案ハ之ヲ削除シタリ又同條第二項ノ規定ハ之ヲ第五編第五章ニ讓リ(第六百五十條第二項)又同條第三項ノ規定ハ啻ニ當然ナルノミナラス其「保險料支拂期間」云々ト曰ヘルハ却テ疑ヲ生スルノ恐レナキニアラサルヲ以テ本案ハ亦之ヲ削除シタリ
第三百八十四條
(理由)本條ハ旣成商法第六百二十七條第一項ノ一部ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ前條ニ付キ述ヘタルカ如ク損害保險契約ハ偶然ナル一定ノ事故ニ因リテ生スルコトアルヘキ損害ヲ塡補スルコトヲ約スルモノナルヲ以テ被保險者ニハ偶然ナル一定ノ事故ニ因リテ失フコトアルヘキ利益ノ存在スルコトヲ必要トス若シ利益ニシテ存在セサルトキハ假令偶然ナル一定ノ事故發生スルモ之ニ因リテ毫モ利益ヲ失フコトナキヲ以テ保險ノ要件ヲ欠缺ス又利益ヲ有シ且其利益ヲ失フコトアルヘキ場合ニ於テモ利益ヲ失フコトト偶然ナル事故ト毫モ因果ノ關係ヲ有セサルトキハ是レ亦利益存在スルモ偶然ナル一定ノ事故ニ因リテ失フコトアルヘキ利益ニアラサルヲ以テ保險ノ要件ヲ欠缺ス此等ハ前條ノ規定ヨリ當然生スヘキ結果ナルヲ以テ別ニ明文ヲ設クルノ必要ナシト雖モ前條ニ所謂損害卽チ反對ノ方面ヨリ之ヲ曰ヘハ利益ノ意義如何ニ至リテハ之ヲ規定スルノ必要アリ抑モ利益ニハ金錢ニ見積ルコトヲ得ルモノアリ金錢ニ見積ルコトヲ得サルモノアリ新民法第三百九十九條ニ於テハ債權ハ金錢ニ見積ルコトヲ得サルモノヲ以テ其目的ト爲スコトヲ得ルモノト爲シ今日各國法制一般ノ傾向ハ金錢ニ見積ルコトヲ得サル利益ヲモ保護スルニアリト雖モ損害保險ニ付テハ特ニ金錢ニ見積ルコトヲ得ヘキ利益ノミニ限ルノ必要アリ是レ本案カ旣成商法第六百二十七條第一項ヲ修正シテ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
其他旣成商法第六百二十七條第一項ニ於テハ保險ノ目的ト爲スコトヲ得ル利益ノ種類ヲ一々列擧スト雖モ錯雜ニ失シ之ヲ擧示スルノ必要ナク又同項ハ財產上ノ利益ニシテ之ニ關スル危險ノ發生ニ因リ被保險者ニ直接ニ損害ヲ加フヘキモノハ保險ニ付スルコトヲ得ル利益ナルコトヲ規定スト雖モ利益ト偶然ノ事故トノ間ニハ一定ノ關係ヲ有スルコトノ必要ナルハ前ニ述フルカ如クナルヲ以テ茲ニ規定スルノ必要ナク又同條第二項ニ所謂博奕、賭事、富講其他意外ノ事ニ因ル僥倖ノ利益中其或モノハ公ノ秩序又ハ善良ノ風俗ニ反スルノ故ヲ以テ之ヲ保險ニ付スルコトヲ得サルヘシ(新民法第九十條)ト雖モ適法ノ事ニ因ル利益ナルトキハ其僥倖ノ程度ニ因リ金錢ニ見積ルコトヲ得ヘク從テ保險ノ目的ト爲スコトヲ得ヘシ是レ亦當然言フヲ俟タサル所ナリトス故ニ本案ハ此等ノ規定ヲ削除シタリ
第三百八十五條
(理由)本條ハ旣成商法第六百三十一條ニ字句ノ修正ヲ加ヘタルニ過キス卽チ一方ニ於テハ所謂超過保險換言スレハ保險契約ノ目的ノ價額ニ超過シテ保險金額ヲ定ムルモ其效力ナキコトヲ定メ他方ニ於テハ若シ目的ノ價額ニ超過シテ保險金額ヲ定ムルトキハ之カ爲メニ契約ノ全部カ其效力ヲ失フモノニアラス單ニ超過ノ部分ノミニ限リテ其效力ヲ失フヘキコトヲ定メタルモノナリ而シテ旣成商法ニ於テ「被保險物ノ利益額」ト謂ヘル物ハ物ニ關スル保險ノミ適用セラレ債權ノ保險ノ如キモノニ適用スルコト能ハサルモノト解釋セラルル恐アルヲ以テ本案ハ之ヲ改メ「保險契約ノ目的ノ價額」ト爲シタリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第三百八十六條
(理由)本條第一項ハ旣成商法第六百三十七條ノ一部及ヒ第六百三十八條第一項ノ一部ヲ併合シ之ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ旣成商法第六百三十七條ニ於テハ一人カ同一ノ物及ヒ同一ノ利益ニ關シ時ヲ同クシ又ハ時ヲ異ニシテ二人以上ノ保險者ヨリ各別ニ保險ヲ受クルトキハ其重複保險ヲ各保險者ニ通知シテ其承諾ヲ得ルコトヲ要ス之ニ違フトキハ各保險者ハ其契約ヲ解除スルコトヲ得ト規定シ第六百三十八條第一項ニ於テハ重複保險ノ場合ニ在テハ被保險者ハ別段ノ契約ヲ爲ササルトキハ保險者ノ孰レニ對シテモ賠償ヲ求ムルコトヲ得其保險者ハ賠償ヲ爲シタル後保險ノ割合ニ應シテ其賠償ノ割賦金ヲ他ノ保險者ニ請求スルコトヲ得但他ノ保險カ無效ナルトキ又ハ期間ノ滿了若クハ其他ノ理由ニ因リテ終リシトキハ此限ニ在ラスト規定ス然レトモ同一ノ目的ニ付キ數個ノ保險契約ヲ爲スモ其各保險金額ヲ合シテ保險價額ヲ超過セサル限リハ此規定ヲ適用スルノ必要ナカルヘシ之ニ反シテ其各保險金額ヲ合シテ保險價額ヲ超過スル場合ニハ超過保險ニ關スル本案第三百八十五條卽チ旣成商法第六百三十一條ノ規定ヲ適用シ其超過シタル部分ニ付テノミ保險契約ヲ無效ト爲スヘキモノトス而シテ此場合ニハ數個ノ保險契約アルヲ以テ何レノ契約カ如何ナル程度ニ於テ無效トナルヤヲ定ムルコト必要ナリ旣成商法ハ之ヲ定ムルニ當リ數個ノ保險契約カ同時ニ取結ハレタル場合ト數個ノ保險契約カ時ヲ異ニシテ取結ハレタル場合トヲ區別セスト雖モ之ヲ區別スルコト正當ナリ故ニ本案ハ本條ニ前ノ場合ヲ規定シ次條ニ後ノ場合ヲ規定シタリ
本條第一項ハ同時ニ數個ノ保險契約ヲ爲シタル場合ニ各保險者ノ負擔部分ヲ定ムル方法ヲ規定シタルモノトス蓋シ此場合ニハ數個ノ保險契約ハ同時ニ取結ハレ何レヲ先ニスルコトヲモ得サルヲ以テ各保險者カ定メタル保險金額ノ割合ニ依リテ其各自ノ負擔部分ヲ定ム換言スレハ超過保險トシテ無效トナルヘキ部分ハ各自ノ保險金額ニ比例シテ之ヲ分配スルノ外ナシ旣成商法モ亦之ト同一ノ主義ヲ採ルト雖モ此負擔部分ヲ定ムルハ保險者相互間ノ關係ニ止マルモノト爲シ被保險者ニ對シテハ各保險者ハ自己ノ負擔部分ニ拘ハラス保險金額マテヲ限リ責任ヲ負フヘキモノト爲ス然レトモ是レ旣成商法カ重複保險ヲ各保險者ニ通知シテ其承諾ヲ得ルコトヲ要スト爲シタル結果ニシテ本案ノ如ク各保險契約ヲ以テ獨立スルモノト看做シ唯タ保險金額ノ總額上ヨリ制限ヲ附シ各保險金額ヲ遞減セシムル以上ハ之ニ依ルコトヲ得ス卽チ保險金額ノ割合ニ依リテ定マルヘキ各保險者ノ負擔部分ハ被保險者ニ對スル保險者ノ義務ノ限度ヲ定ムルモノト爲ササルヘカラス是レ本條第一項ノ如ク修正ヲ加ヘタル所以ナリ
本條第二項ハ旣成商法中ニ存セサル所ナリ然レトモ旣ニ本條第一項ニ付キ述ヘタルカ如ク同時ニ數個ノ保險契約ヲ爲シタル場合ト相次テ數個ノ保險契約ヲ爲シタル場合トハ適用スヘキ規定ヲ異ニシ而シテ實際上數個ノ保險契約ハ必スシモ分秒ヲ同クシテ之ヲ爲スモノニアラス故ニ相當ノ時間ヲ劃シテ同時ニ數個ノ保險契約ヲ爲シタルモノナルカ將タ又時ヲ異ニシテ數個ノ保險契約ヲ爲シタルモノナルカヲ區別スルノ必要アリ是レ本案カ新ニ本條第二項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第三百八十七條
(理由)本條ハ旣成商法第六百三十七條ノ一部及ヒ第六百三十八條第一項ノ一部ニ該當スルモノニシテ前條ノ下ニ說明シタルカ如ク相次テ數個ノ保險契約ヲ爲シタル場合ニ各保險者ノ負擔部分ヲ定ムル方法ヲ規定ス抑モ旣成商法ニ於テハ此場合ニモ亦同時ニ數個ノ保險契約ヲ爲シタル場合ト同シク被保險者ハ別段ノ契約ナキ限リハ各保險者ニ對シテ賠償ヲ請求スルコトヲ得ルモノト爲シ而シテ各保險者間ニ在テハ保險金額ノ割合ニ依リ其賠償金額ヲ分擔スヘキモノト爲スト雖モ負擔部分ヲ定ムルコトヲ以テ各保險者相互間ノ關係ヲ定ムルモノト爲シ卽チ被保險者ニ對シテ效力ヲ及ホササルモノト爲シタルコトノ不當ナルノミナラス同時ニ數個ノ保險契約ヲ爲シタル場合ト異ナリ時ノ先後ヲ標準トシテ各保險者ノ負擔部分ヲ定ムルコトヲ得ヘキニ之ニ依ラサルコト亦不當ナリ蓋シ一ノ保險契約ヲ爲シタル後更ニ同一ノ目的ニ付キ保險契約ヲ取結ヒ其保險金額ト前ノ保險契約ノ保險金額トヲ合シテ保險價額ニ超過スルニ至リタル故ヲ以テ直チニ前ニ爲シタル保險契約ノ效力ニ影響ヲ及ホシ其契約ニ因ル保險者ノ負擔部分ヲ減少スルハ決シテ穩當ヲ得タルモノニアラサルナリ是レ本條ノ如ク修正ヲ加ヘタル所以ナリ
第三百八十八條
(理由)本條ハ旣成商法中ニ存セサル所ナリ抑モ本案第三百八十五條乃至第三百八十七條ニ於テハ同一ノ目的ニ付キ同一ノ危險ニ對シ同一ノ保險期間ヲ以テ目的ノ價額ニ超過スル保險金額ト爲ルヘキ一個若クハ數個ノ保險契約ヲ取結フトキハ其超過セル部分ニ限リ無效ナルコトヲ規定シタリ本條ハ外觀上之ニ例外ヲ爲スカ如シト雖モ其精神ヨリ考フレハ決シテ例外ヲ爲スモノニアラス卽チ本條第一號ハ後ノ保險者ト契約スルニ當テ之ニ依リテ損害ノ塡補ヲ受クルヤ否ヤヲ前ノ保險者ヨリ損害ノ塡補ヲ受クヘキ權利ヲ後ノ保險者ニ讓渡スヤ否ヤノ條件ニ繫ラシメタル場合ニシテ第二號ハ後ノ保險ニ依リテ塡補ヲ受クルヤ否ヤヲ前ノ保險者ヨリ損害ノ塡補ヲ受クヘキ權利ヲ抛棄スルヤ否ヤノ條件ニ繫ラシメタル場合ニ外ナラス又第三號ハ後ノ保險者ヨリ損害ノ塡補ヲ受クルヤ否ヤヲ前ノ保險者カ損害ヲ塡補スルヤ否ヤノ條件ニ繫ラシムルモノナリ之ヲ要スルニ以上三個ノ場合ニ在テハ被保險者ハ保險價額ニ超過シテ損害ノ塡補ヲ受クルコトナク卽チ保險者ノ一人ヨリ損害ノ塡補ヲ受クルニ於テハ更ニ他ノ保險者ヨリ塡補ヲ受クルコトナシ從テ更ニ保險契約ヲ爲スコトヲ許スコト正當ナルノミナラス實際上ニ於テモ亦甚タ便宜ナリトス是レ本案カ新ニ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第三百八十九條
(理由)本條ハ旣成商法第六百三十八條第二項ニ該當ス抑モ本案第三百八十六條及ヒ第三百八十七條ノ規定ニ依レハ各保險者ノ負擔部分ハ保險者ノ數ト各自ノ保險金額及ヒ保險契約ヲ取結ヒタル時ノ前後トニ依リテ決定セラルルモノナリ故ニ保險者ノ一人ニ對スル被保險者ノ權利ノ抛棄ハ其他ノ保險者ニ如何ナル效果ヲ生スルモノナルヤヲ決定スル必要アリ是レ本案カ旣成商法ニ倣ヒ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第三百九十條
(理由)本條ハ旣成商法第六百三十九條ニ該當シ之ニ字句ノ修正ヲ加ヘタルニ過キス
第三百九十一條
(理由)本條ハ旣成商法第六百五十七條ノ一部ニ該當シ保險價額ト保險金額及ヒ保險料トノ權衡ヲ得セシムル爲メニ設ケタル規定ナリ抑モ損害保險ニ在テ保險者カ負擔スル保險金額ハ保險價額ヲ以テ標準ト爲シ又保險契約者カ負擔スル保險料ハ保險金額フ以テ標準ト爲スモノナレハ保險期間中ニ保險價額カ著シク減少シタルトキハ保險契約者ヲシテ保險者ニ對シ保險金額及ヒ保險料ノ減少ヲ請求スルコトヲ得セシメサルヘカラス若シ此場合ニ於テ保險契約者ハ保險金額及ヒ保險料ノ減少ヲ請求スルコトヲ得ス最初契約ヲ以テ定メタル保險料卽チ保險價額ニ超過スル保險金額ニ基キテ定メタル額ノ保險料ヲ支拂ハサルヲ得サルモノトセハ其超過部分ニ對スル保險料ニ付テハ保險者ヲシテ不當ノ利益ヲ得セシムルモノニ外ナラサルヘシ是レ本條ニ於テ保險價額カ保險期間中著シク減少シタルトキハ保險契約者ハ保險者ニ對シ保險金額及ヒ保險料ノ減額ヲ請求スルコトヲ得ルモノト規定シタル所以ナリ然レトモ單ニ保險料ノ減額ヲ請求スルコトヲ得ルモノトスルトキハ保險價額ノ著シク減少シタル以後ノ保險料ノ減額ヲ請求スルコトヲ得ルモノナルカ將タ又單ニ將來ノ保險料ノミノ減額ヲ請求スルコトヲ得ルモノナルカ頗ル疑問ニ屬ス旣成商法第六百五十七條ニ於テハ現保險料支拂期間ノ爲メニ旣ニ支拂ヒタル保險料ヲ危險減少ノ割合ニ應シテ被保險者ニ償還スルコトヲ要スト規定スト雖モ現保險料支拂期間ナル用語ハ術語ニ偏シ且數多ノ意義ヲ有スルノミナラス保險料減額ノ效力ヲ旣往ニ遡ラシムルコト不當ナリ是レ本案カ本條但書ニ於テ保險料ノ減額ハ將來ニ向テノミ其效力ヲ生スト規定シタル所以ナリ
第三百九十二條
(理由)本條第一項ハ旣成商法第六百三十條ニ該當シ本條第二項及ヒ次條ト相俟テ損害價額ヲ決定シ從テ保險者ヨリ給付スヘキ塡補額ヲ決定スル方法ヲモ規定スルモノナリ抑モ旣成商法ニ於テハ第六百三十條ヲ以テ被保險物ノ價額ヲ決定スル方法ヲ規定シ以テ間接ニ損害價額ヲ決定スルノ方法ヲ規定シタレトモ文意明瞭ヲ缺キ了解シ易カラス之ニ加フルニ其規定ノ實質ハ損害保險中動產ノ火災保險ニ付テハ適當ナレトモ其他ノ損害保險ニ付テハ然ラス卽チ被保險物ノ修繕又ハ新調ト謂ヒ若クハ商品ナルトキハ市場代價ト謂ヘルハ物品ノ內部ノ毀損ノ場合ヲ包含セス且農產物保險ノ如キ家屋ノ火災保險ノ如キモノニ對シテ更ニ適用ヲ見サルナリ故ニ總則中ノ規定トシテハ本條ノ如ク損害ノ生シタル地ニ於ケル損害當時ノ價額ニ從フヘキモノト規定スルノ外ニ其術ナキモノトス是レ本條第一項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
本條第二項ハ旣成商法中ニ存セサルトコロナレトモ保險ナルモノカ損害ノ塡補ヲ以テ本體トナス以上ハ損害ノ計算ノ費用ヲモ保險者ニ於テ負擔スヘキハ至當ナリ又保險者モ豫メ之ヲ計算中ニ入ルルニ於テハ其受クヘキ保險料ト其負擔スル塡補額トノ比例ヲ失フノ虞ナキモノトス是レ本案カ新ニ本條第二項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第三百九十三條
(理由)本條ハ旣成商法第六百三十二條ニ該當シ之ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ旣成商法第六百三十二條ニ於テ所謂被保險物ノ價額トハ保險金額ヲ指スニアラスシテ保險價額ヲ指スモノナリ而シテ保險價額ハ保險金額ノ如ク必ス契約上之ヲ定ムヘキモノニアラス然レトモ一タヒ之ヲ定メタルトキハ其價額ト塡補額トハ相當ノ關係ヲ有セシメサルヘカラス故ニ本案ハ其價額ノ著シク過當ナルコトヲ證明スルニアラサレハ保險者ハ全ク其價額ニ從テ塡補ヲ爲ササルヘカラスト定メタリ
其他旣成商法第六百三十二條ニ於テハ著シク價額ノ過當ナル場合ノ外ニ尙ホ强暴又ハ詐欺ノ場合ヲモ揭ケタレトモ新民法第九十六條ノ存スルヲ以テ更ニ其必要ヲ見ス故ニ本案ハ之ヲ削除シタリ
第三百九十四條
(理由)本條ハ旣成商法第六百五十二條ニ該當シ之ニ字句ノ修正ヲ加ヘタルニ過キス
第三百九十五條
(理由)本條ハ旣成商法第六百三十五條ニ該當シ之ニ字句ノ修正ヲ加ヘタルニ過キス唯タ旣成商法第六百三十五條ニ於テハ被保險者カ任意ニ加ヘ若クハ加ヘシメタル喪失又ハ損害ノミヲ揭ケタリ而シテ其所謂被保險者中ニハ被保險者タラサル保險契約者換言スレハ第三者ノ利益ノ爲メニ保險契約ヲ取結フ者竝ニ保險金額ヲ受取ルヘキ第三者ヲ包含スルモノト解シ難シ然ルニ保險契約者ハ契約ノ當事者ニシテ而カモ被保險物ヲ占有シ若クハ管理スル場合尠ナカラス又保險金額ヲ受取ルヘキ者ハ其利害關係殆ント保險契約者及ヒ被保險者ト異ナラス故ニ被保險者ト同シク此規定中ニ包含セラルヘキモノトシテ之ヲ加ヘタリ又旣成商法第六百三十五條ニ於テ「已ムコトヲ得スシテ任意ニ加ヘ若クハ加ヘシメタル」云々ト曰ヘルヲ改メテ「故意若クハ重大ナル過失ニ因リテ生シタル」云云ト爲シタルハ一方ニ於テ重大ノ過失ヲ附加シ他方ニ於テ他人ヲシテ加ヘシメタル場合ヲ除外シタルモノニ外ナラス而シテ前者ヲ附加シタル理由ハ保險契約者被保險者若クハ保險金額ヲ受取ルヘキ者カ相當ノ注意ヲ爲ササルニ因リテ生シタル損害ヲモ尙ホ塡補スヘキモノトスレハ危險ノ測度上違算ヲ生セシメ從テ保險制度ノ基礎ヲ危カラシムル恐アレハナリ又後者ヲ除外シタル理由ハ保險契約者被保險者若クハ保險金額ヲ受取ルヘキ者カ他人ヲシテ加ヘシメタル喪失若クハ損害ハ保險契約者被保險者若クハ保險金額ヲ受取ルヘキ者カ故意ニ加ヘタル喪失若クハ損害ト看做サルヘキヲ以テ別ニ規定スルノ必要ヲ見サレハナリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第三百九十六條
(理由)本條ハ旣成商法第六百三十六條ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ保險契約ナルモノハ本案第三百八十三條ニ規定シタル如ク偶然ナル一定ノ事故ニ因リテ生スルコトアルヘキ損害ヲ塡補スルコトヲ以テ本旨トスルモノナレハ旣ニ發生シタル事故若クハ發生スヘキコトノ確定シタル事故ハ保險契約上ノ危險ト稱スヘカラス然ルニ契約ノ當時ニ在テ保險者被保險者及ヒ保險契約者カ旣ニ生シタル事故ヲ知ラサルコトアルヘシ此場合ニハ保險者被保險者及ヒ保險契約者ノ心上ヨリ論スレハ偶然ナル事故ト異ナルコトナク又保險者ニ於テ此事故ヲ以テ偶然ナル事故ト同一ニ取扱フト雖モ敢テ危險ノ測度ニ違算ヲ生スヘキ所以ナシ之ニ加フルニ火災保險ノ如ク個々ノ被保險物ヲ詳細ニ檢査スヘキモノニ在テハ問題ヲ生スルコトナシト雖モ船舶保險、運送保險ノ如ク檢査ヲ必要トセサルモノニ在テハ往々問題ヲ生スルコトアルヘシ故ニ本案ハ保險契約ノ當時保險者、保險契約者又ハ被保險者カ事故ノ發生セサルヘキコト又ハ旣ニ發生シタルコトヲ知レル場合ニ限リテ其契約ヲ無效ト爲シ之ニ反シテ當事者双方及ヒ被保險者カ事故ノ發生セサルヘキコト又ハ旣ニ發生シタルコトヲ知ラサル場合ニハ其契約ヲ有效ト爲シ以テ本案第三百八十三條ノ規定ニ例外ヲ爲スモノト爲シタリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
其他旣成商法第六百三十六條但書ニ於テハ旣ニ危險ノ生シタルモ有效タルヘキ旨ヲ明示シテ契約ヲ取結ヒタルトキハ此限ニ在ラスト規定シタレトモ本條ノ如キハ反對ノ契約ヲ排除スルカ如キ公益上ノ規定ニアラサルコト明カナルヲ以テ本案ハ之ヲ削除シタリ
第三百九十七條
(理由)本條ハ旣成商法第六百五十三條ニ修正ヲ加ヘタルモノニシテ保險契約ニ特殊ナル一種ノ義務(或ハ之ヲ吿知義務ト曰ヒ若クハ之ヲ開陳責任ト曰フ)ヲ規定ス抑モ保險契約ナルモノハ偶然ニシテ且一定ノ危險ヨリ生スル損害ノ塡補ヲ以テ目的ト爲スモノナレハ契約當事者間ニ其危險タルヘキ事實ヲ決定セサルヘカラス換言スレハ保險者ニ於テ充分ニ其危險ヲ測度シ得ルニアラサレハ契約ヲ取結ハサルヘシ然ルニ危險ノ客體タル被保險利益ニ付テハ到底充分ナル智識ヲ有スルモノニアラス從テ危險ニ影響スル重要ナル事實ニ關シ保險契約者ノ智識ヲ保險者ニ移スヘキコト保險契約上極メテ必要ナリ是レ旣成商法第六百五十三條ノ規定アル所以ナリトス然ルニ同條ニ依レハ第一被保險者ト保險契約者トヲ混同シ第二虛僞ノ陳述又ハ情況ノ默秘ヲ惡意又ハ重大ナル過失ノ場合ニ限ラサリシハ頗ル穩當ヲ缺ク何トナレハ被保險者ハ或ハ全ク契約取結ニ參與セサル場合モアルヘク或ハ全ク參與スルコト能ハサル場合モアルヘシ又善意ニテ虛僞ノ陳述ヲ爲シ若クハ情況ヲ默秘スル場合ハ非常ニ頻繁ニシテ若シ之ヲ理由トシテ保險者ヨリ契約ヲ解除スルコトヲ得セシムルトキハ多數ノ保險契約ハ被保險者ヨリ塡補ヲ請求スルニ際シ悉ク保險者ヨリ解除サルルニ至ラン況ンヤ保險者ヨリ保險契約者ニ向テ申込證書ヲ送附シ其中ニ陳述スヘキ事項ヲ定ムルヲ以テ保險事業ニ熟達セサル保險契約者ハ一ニ之ニ準據スヘク從テ虛僞ノ陳述虛僞ノ默秘ヲ生スル傾向頗ル多シ故ニ本案ハ旣成商法第六百五十三條但書ノ規定ヲ削除シ且虛僞ノ陳述又ハ情況ノ默秘カ保險契約ヲ無效ト爲スヘキ效果ヲ生スルニハ保險契約者ニ惡意又ハ重大ナル過失アルコトヲ要スルモノト爲シタリ
本條但書ハ旣成商法中ニ存セサリシ所ニシテ保險者カ契約ノ當時旣ニ其事實ヲ知リ又ハ知ルコトヲ得ヘカリシトキハ保險者ハ危險ノ測度ヲ誤ルコトナカルヘク假令之ヲ誤マルコトアリトスルモ其過失ニ出テタルモノナルヘシ從テ契約ヲ無效トスル必要ナキヲ以テ本案ハ新ニ本條但書ノ規定ヲ設ケ其旨ヲ明カニシタリ
第三百九十八條
(理由)本條ハ旣成商法第六百五十七條ノ一部ニ該當ス抑モ旣成商法第六百五十七條ハ一方ニ於テ被保險者ノ過失ナクシテ無效ナル場合ト任意ニ契約ノ解カルル場合トヲ區別セスシテ等シク保險料ノ全部若クハ一部ノ返還ヲ爲スヘキ旨ヲ定メ他方ニ於テハ全部ノ返還ヲ危險カ未タ被保險者ニ對シテ生スヘキ狀態ニ至ラサル場合ニ限リ一部ノ返還ヲ重複保險、超過保險、被保險利益ノ減少及ヒ其他ノ事由ニ因リテ無效又ハ取消ヲ生シタル場合ト定メタリ然ルニ本案ハ新民法第百二十一條ト相俟テ適用セラルルノ結果トシテ契約取消ノ場合ニ付テハ別ニ明文ヲ設クルコトヲ要セス故ニ本條ニ於テハ單ニ「契約ノ無效ナルトキハ」云々ト規定シタリ又本案カ保險料ノ一部返還ト全部返還トヲ無效ノ原因ニ依リテ區別セス單ニ保險契約ノ全部無效ト一部無效トニ依リテ區別シタルハ蓋シ列擧ニ脫漏アルコトヲ慮リタルニ外ナラス例ヘハ契約當事者ノ定メヲ以テ無效ノ原因ヲ定メタル場合若クハ公安秩序ニ反スルカ爲メニ無效トナル場合ヲモ包括セシメサルハ旣成商法ノ缺點ニシテ此ノ如キコトヲ列擧スレハ却テ法文ノ體裁ヲ失スルノ恐アレハナリ又旣成商法第六百五十七條ニ「現保險料支拂期間ノ爲メ旣ニ支拂ヒタル保險料ヲ危險減少ノ割合ニ應シ」云々トアリシヲ改メテ單ニ「保險料ノ全部又ハ一部ノ返還」云々ト爲シタルハ保險料返還ノ割合ハ一方ニ於テ保險ノ種類ヲ異ニスルニ依リテ數理上大差アリ他方ニ於テ慣習若クハ特約ヲ以テ之ヲ定ムルモノ多キヲ以テナリ終リニ本案カ旣成商法第六百五十七條但書ヲ削除シタルハ新民法第九十二條ノ適用ヲ以テ足ルカ爲メニ外ナラス是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第三百九十九條
(理由)本條ハ旣成商法第六百五十五條及ヒ第六百五十七條ト多少ノ關係ヲ有スルモノナレトモ本案ト旣成商法トハ全ク其主義ヲ異ニセリ卽チ旣成商法ニ於テハ被保險者カ保險料支拂期間二回以上ノ保險料ヲ前拂シタル場合ニ危險ノ減少スルコトアレハ危險減少ノ割合ニ應シテ保險料ヲ分割シ保險者ヨリ被保險者ニ償還スルコトヲ要スト規定シタリ本案ハ被保險者カ一タヒ危險ニ遭遇スヘキ位置ニ立ツコトアレハ其後危險ニ變更アルモ保險者ニ對シテ保險料ノ減少ヲ求ムルコトヲ得サルヲ以テ原則ト定メ單ニ本條ニ規定シタル場合ヲ以テ唯一ノ例外ト爲シタリ蓋シ保險營業ノ發達スルニ從ヒ各種ノ危險ヲ區別分類シテ其程度ヲ測定スルコト愈精確ト爲ルハ當然ニシテ苟クモ此區別分類ニ從ヒ程度ノ測定セラルルニ於テハ被保險者若クハ保險契約者ハ各種ノ危險ヲ包括シ始テ終保險料ヲ支拂ハサルヘカラサルノ理由ナシ是レ本條ニ於テ特別ノ危險ヲ斟酌シテ保險料ノ額ヲ定メタル場合ニ保險期間中其危險カ消滅シタルトキハ保險契約者ハ將來ニ向テ保險料ノ減額ヲ求ムルコトヲ得ト規定シタル所以ナリ
第四百條
(理由)本條ハ旣成商法第六百二十八條ノ一部ニ該當ス而シテ本條第一項後段ノ規定ハ旣成商法ノ表面ニ存セサリシ所ナリシ所ナレトモ保險契約者ハ契約當事者ニシテ被保險者ハ新民法第五百三十七條ニ依リ損害ノ塡補ヲ受ク可キ債權ヲ取得スルニ過キサレハ旣成商法モ亦同一ニ解釋スヘキモノトス其他ハ宇句ノ修正ニ過キス
第四百一條
(理由)本條ハ旣成商法第六百二十八條ノ一部ニ該當シ之ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ保險契約ハ他人ノ爲メニモ之ヲ爲スコトヲ得ルハ前條ノ規定ニ依リテ明カナリ然ルニ商行爲ノ代理人ハ假令本人ノ爲メニスルコトヲ示ササルトキト雖モ其行爲ハ本人ニ對シテ其效力ヲ生スルヲ以テ保險者ハ果シテ何人ノ被保險者ナルヤヲ知ルコト能ハサルニモ拘ハラス被保險者ハ權利ヲ得ルコトトナルヘシ此結果ハ保險契約者カ委任ヲ受ケテ他人ノ爲メニ契約ヲ爲ス場合ニ付テハ弊害ナシト雖モ委任ヲ受ケスシテ契約ヲ爲ス場合ニハ所謂賭博保險ヲ行フ手段ト爲ルヘキ恐アリ故ニ本案ハ一方ニ於テハ委任ヲ受ケスシテ他人ノ爲メニ契約ヲ爲ス場合ニハ其旨ヲ保險者ニ通知セサレハ保險契約ヲ無效トシ他方ニ於テハ保險者ニ此旨ヲ吿ケタルトキハ其保險契約者カ商行爲ノ代理人タルト否トヲ問ハス被保險者ハ當然其契約ノ利益ヲ享受スルコトト定ム是レ本條ヲ規定シタル所以ナリ
第四百二條
(理由)本條第一項ハ旣成商法第六百四十二條ノ一部ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ本案ハ保險契約ノ擧證方法ヲ保險證券其他附屬書類ニ限ラスシテ廣ク書面ヲ以テスルコトヲ得ルモノト爲シタルカ故ニ契約取結ヒノ後卽時ニ保險證券ヲ作成シ被保險者ニ之ヲ交付スルヲ以テ保險者ノ義務ナリト規定スルノ必要ナシ然レトモ保險證券ナルモノハ證明ノ具トシテ尤モ便利ナルノミナラス古來ノ慣習ニ依リ保險者ハ之ヲ發行シ來リタルモノナレハ保險契約者ヨリ之カ交付ヲ請求スルニ當リテ保險者ハ必ス之ニ應スヘキモノト規定スル必要アリ而シテ何等ノ明文ナキニ於テハ此ノ如キ結果ヲ生スルコト能ハス故ニ本條第一項ノ規定ヲ設ケ以テ旣成商法第六百四十二條ニ代ヘタリ
本條第二項ハ旣成商法第六百四十六條ニ字句ノ修正ヲ加ヘタルニ過キス卽チ第一號「保險ノ目的」ト曰フハ旣成商法第六百四十六條第二號「被保險物ノ充分精密ナル記載」ニ該當シ第二號「保險者ノ負擔シタル危險」ト曰フハ舊第五號「保險シタル危險」ニ該當シ第三號「保險價額ヲ定メタルトキハ其價額」ト曰ヘルハ舊第二號中ニ包含セラルルモノナルヘク第四號「保險金額」ト曰フハ舊第三號ニ該當シ第五號「保險料及ヒ其支拂方法」ト曰フハ舊第四號「保險料ノ額」トアリシヲ補ヒタルニ過キス第六號「保險期間ヲ定メタルトキハ其始期及ヒ終期」ト曰フハ舊第一號ニ該當シ第七號「保險契約者ノ氏名又ハ商號」ト曰フハ舊第六號ノ前半ニ該當シ第八號「保險契約ノ年月日」ト曰ヘルハ一方ニ於テ舊(第六百四十六條)本文中ノ「年月日」ナル語カ保險證券發行ノ年月日ヲ指スニアラサルカノ疑アルト同時ニ他方ニ於テ舊第一號中ノ「保險ノ初日」ナル語カ必スシモ契約ノ年月日ト同一ナラサルヲ以テ本號ヲ以テ其缺點ヲ補ヒタルニ過キス第九號「保險證券作成ノ地及ヒ其作成ノ年月日」ト曰ヘルハ舊本文中ノ「年月日」ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ此ノ如ク本條第二項ハ實質ニ於テ旣成商法第六百四十六條ト大體上同一ナリ而シテ本案カ第一號ヨリ第九號ニ至ル順序ヲ旣成商法ト同一ニセサリシハ保險契約ノ要素ヲ先キニシ偶素ヲ後ニシ比較的ニ重要ナルモノヲ先ニシ比較的ニ重要ナラサルモノヲ後ニスル配列法ニ依レルノミ是レ本條第二項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
其他旣成商法中代人及ヒ捺印ノ四字ヲ削リタルハ前者ニ付テハ明文ヲ要セスシテ同一ノ解釋ニ歸着スルコトヲ得ヘク後者ニ付テハ本案ノ大體ノ主義トシテ署名ト捺印トヲ並立セシムルノ徒ラニ煩雜ヲ來スニ過キスト認ムレハナリ
第四百三條
(理由)本條ハ旣成商法第六百四十條ニ該當シ之ニ一大修正ヲ加ヘタルモノナリ旣成商法ニ於テハ被保險物ノ讓渡アルトキハ保險契約ニ因リテ生シタル權利モ亦讓受人ニ移轉スルヲ以テ原則ト定メ之ニ三個ノ例外ヲ置ケリ讓渡人カ利益ヲ留置キタル場合、第六百五十四條ノ場合及ヒ保險者カ轉付ニ付キ承諾ヲ與フル權利ヲ明示シテ留保シタル場合卽チ是レナリ抑モ債權ハ之ヲ讓渡スコトヲ得ルモノニシテ民法ニ於テモ指名債權、指圖債權、指名持參人拂債權及ヒ無記名債權ノ四者ニ付キ各其讓渡ノ方法ヲ規定セリ(新民法第四百六十六條乃至第四百七十三條)然レトモ債權者ニ讓渡ノ意思ナキニ移轉ノ效果ヲ生スルハ勿論異常ノ事ニ屬ス而シテ保險契約ノ目的ノ讓渡アル場合ニハ讓渡人ハ通常被保險利益ヲ失ヒ讓渡人之ヲ有スルニ至ルヘク保險ノ效用ハ被保險利益ヲ確保スルニ在ルヲ以テ保險契約ノ目的ノ讓渡ハ之ト同時ニ保險契約上ノ權利ノ移轉ヲ伴フヘキヲ多數ノ場合ト看做スモ敢テ不可ナルヘシ蓋シ讓渡人及ヒ讓受人ノ意思ハ此點ニ付キ合致スルコト多ケレハナリ然レトモ讓渡人ニ於テ保險契約上ノ權利ヲ移轉スルノ意思ナク讓渡ノ契約ノ內容ニ於テモ亦其移轉ノ旨趣ヲ存セサルニモ拘ハラス當然移轉スルモノト規定スルノ必要アルコトナシ故ニ本案ハ旣成商法ト異ナリ保險契約ノ目的ヲ讓渡シタルモノト之ヲ讓受ケタル者トノ關係及ヒ此二者ト保險者トノ關係ヲ區別シ前者ニ付テハ本條ヲ以テ保險契約上ノ權利ヲ讓渡シタルモノト推定シ後者ニ付テハ民法ノ規定ニ依テ讓渡ノ效力ヲ生スヘキモノト爲シタリ從テ旣成商法第六百四十條第一項但書タル三個ノ例外ハ之ヲ規定スルノ必要ヲ失ヒタリ
又保險ノ目的ノ讓渡カ著シク危險ヲ變更又ハ增加セシメタルトキハ前項ノ推定ヲ爲スノ理由ヲ缺キ第四百九條及ヒ第四百十條ノ規定ト比シテ保險契約ハ其效力ヲ失フコトト規定スルヲ正當トス之ニ反シテ危險ニ何等ノ變更又ハ增加ナキトキハ必スシモ其讓渡ヲ保險者ニ通知スヘキモノト規定スルノ必要ナク保險契約上ノ債權カ指名債權ナルトキハ保險證券ニ於ケル被保險者ノ氏名ヲ書替フルカ如キハ之ヲ實際ニ放任シ規定ヲ設ケサルヲ可トス是レ本案カ一方ニ於テハ新ニ本條第二項ノ規定ヲ設ケ他方ニ於テハ旣成商法第六百四十條第二項ノ規定ヲ削除シタル所以ナリ
第四百四條
(理由)本條ハ旣成商法第六百五十六條ニ該當ス旣成商法ニ於テハ保險契約者カ旣ニ保險料ノ全部ヲ支拂ヒタル場合ヲ除外セス從テ此場合ニモ亦保險者ハ保險契約者ヲシテ相當ノ擔保ヲ供セシメ又ハ契約ノ解除ヲ爲スコトヲ得ルカ如シト雖モ保險料ノ全部ヲ支拂ヒタル以上ハ保險契約者ハ保險者ニ對シ未タ履行ヲ終ハラサル債務ヲ負フコトナク從テ之ヲシテ相當ノ擔保ヲ供セシメ又ハ保險者ヲシテ契約ヲ解除スルコトヲ得セシムルノ必要ナシ是レ本案カ字句ノ修正ト共ニ新ニ此場合ヲ例外ト爲ス旨ヲ明示シ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第四百五條
(理由)本條ハ旣成商法中ニ存セサルトコロナリ抑モ本案第四百條及ヒ前條ノ規定ニ依レハ保險契約者ハ保險料支拂ノ義務ヲ負擔スルヲ以テ其破產ノ宣吿ヲ受ケタル爲メ保險者ハ契約ノ解除ヲ爲スコトヲ得ヘシ而シテ被保險者ハ自己ノ利益ヲ喪失スルモ法律上之ヲ如何トモスルコト能ハストスルハ正當ニアラサルノミナラス寧ロ保險者ノ利益ヲ害セサル程度ニ於テ之カ利益ヲ保護セサルヘカラサルモノトス是レ本案カ新ニ本條ヲ設ケ被保險者カ其權利ヲ抛棄セサル限リハ保險者ハ之ニ對シテ保險料ヲ請求スルコトヲ得ヘク而シテ被保險者ハ保險契約ヨリ生シタル利益ヲ失フコトナシト規定シタル所以ナリ
第四百六條
(理由)本條モ亦旣成商法中ニ存セサルトコロナレトモ未タ保險者カ其負擔スヘキ危險ヲ負擔スルニ至ラス換言スレハ其責任ノ始マルニ至ラサル場合ニ在テハ假令保險契約者カ契約ヲ解除スルモ保險者ハ計算上及ヒ事實上共ニ何等ノ損害ヲ蒙ムラサルモノトス故ニ本案ハ本條ヲ以テ此場合ニ保險契約者ノ解除權ヲ認メタリ
第四百七條
(理由)本條ハ旣成商法第六百五十五條及ヒ第六百五十七條ノ一部ニ該當ス抑モ旣成商法ニ於テハ單ニ保險ノ目的ノ全部ニ付キ保險者ノ負擔ニ歸スヘキ危險カ生セサルニ至リタルヲ規定スルニ止マリ目的ノ一部ニ付キ危險カ生セサルニ至リタル場合ヲ規定セスト雖モ之ヲ區別スヘキ理由ニ乏シ故ニ本案ハ此二ツノ場合ヲ併セテ本條ニ規定シ保險者ハ前者ニ在テハ保險料ノ全部ヲ返還シ後者ニ在テハ保險料ノ一部ヲ返還スルヲ要スト規定シタリ但旣成商法ハ危險カ生セサルニ至リタル原因ヲ區別セスト雖モ保險契約者若クハ被保險者ノ意思ニ基ツキ危險ヲ生セサルニ至ラシメタルニ於テハ特約ナキ限リハ保險料ノ返還ヲ要セサルヘシ是レ本條中「保險契約者又ハ被保險者ノ行爲ニ因ラスシテ」云々ト加ヘタル所以ナリトス
第四百八條
(理由)本條ハ旣成商法第六百五十七條但書ニ該當シ前二條ヲ設ケタル結果トシテ當然規定スル必要ヲ生シタルモノナリ抑モ保險者ノ責任ノ始マル前ニ於テ危險カ生セサルニ至リ若クハ保險契約者カ契約ヲ解除シタルトキハ保險者ヨリ保險料ヲ返還スヘキハ當然ナレトモ契約取結ノ爲メニ費シタル手數料其他ヲ盡ク保險者ノ負擔トスルハ其當ヲ得タルモノニアラス然ラハ旣成商法ノ如ク慣習上保險者カ受ク可キモノヲ控除スト規定センカ慣習ノ依ルヘキモノナキヲ如何セン之ヲ事實ニ一任シ一切ノ費用ヲ控除スト規定センカ爲メ紛議ヲ生スルノ恐アルヲ如何セン故ニ本案ハ返還ス可キ保險料ノ半額ニ相當スル金額ヲ保險者ヨリ請求スルコトヲ得セシムルコトト爲シ本條ノ規定ヲ設ケタリ
第四百九條
(理由)本條ハ旣成商法第六百五十四條ノ一部ニ該當シ之ニ多少ノ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ旣成商法ニ於テハ危險ノ變更及ヒ增加ノ場合ト保險料ノ不支拂トヲ同條ニ規定シタレトモ二者ノ間ニ性質上類似スル點ナキノミナラス新民法第五百四十一條ヲ適用スルノ結果トシテ保險料ノ支拂ヲ受ケサル保險者ハ双務契約ノ當事者ノ一方トシテ相當ノ期間ヲ定メ其支拂ヲ請求シ若シ其期間內ニ履行ナキトキハ契約ヲ解除スルコトヲ得ヘシ況ンヤ實際ノ狀況ヲ察スルニ當事者ノ定メニ依リテ保險料支拂ノ時期及ヒ方法ハ區々ニ分レ且保險料支拂ノ時期ニ付テハ契約上若クハ慣習上ノ猶豫期間ナルモノアリ故ニ保險料不支拂ニ因リテ生スル法律上ノ效果ニ付テハ本案中ニ規定セスシテ全然之ヲ保險營業ノ規則ニ一任シ若シ萬一此規則ヲ設ケサルモノアルトキハ民法ノ通則ニ從フコト敢テ不可ナルニアラス之ニ反シテ危險ノ變更及ヒ增加ノ場合ニ關シテハ本案中ニ之カ規定ヲ設クル必要アリ旣成商法ニ於テハ引受ケタル危險ノ增加シ若クハ變更スル場合ノミヲ揭ケ其增加若クハ變更ノ程度ヲ明言セサルヲ以テ如何ニ少許ノ增加若クハ變更ト雖モ契約ノ效力ヲ失ハシムルコトトナルノミナラス精確ニ之ヲ論スレハ危險ハ時々刻々ニ少許ノ增加若クハ變更ヲ生スルモノナルカ故ニ若シ之ヲ理由トシテ契約ノ效力ヲ失ハシムルコトヲ得ルモノトセハ恐クハ凡テノ保險契約ハ其效力ヲ失フニ至ルヘシ故ニ之ヲ純理上ヨリ論スレハ次ノ兩極端ノ學說ヲ生スヘシ曰ク一タヒ保險契約ヲ取結ヒタル以上ハ其後危險ニ變更增加ヲ生スト雖モ保險者ハ塡補ノ責任アリト爲スモノ曰ク危險ハ保險ノ效力ヲ左右スル條件ナレハ此條件ニ變更增加ヲ生スレハ保險契約ハ直チニ其效力ヲ失フト爲スモノ是レナリ本案ハ以上ノ兩極端ヲ折衷シテ危險カ著シク變更シ若クハ增加シタルトキニ限リテ保險者ハ契約ノ解除ヲ爲スコトヲ得ヘク此解除ニ因リ保險契約ハ將來ニ向テノミ其效力ヲ失フヘキモノト爲シタリ其他旣成商法ニ「被保險物ニ付キ情況ノ變更カ生シタル爲メ」ト曰ヘルハ危險ノ變更增加ノ原因ヲ示スノ意ナレトモ語弊アリ又「孰レノ場合ニ於テモ保險者其契約ヲ繼續スルトキハ此限ニ在ラス」ト曰ヘルハ保險者カ危險ノ增加若クハ變更ヲ知リタル後契約ヲ承認スル場合ヲ指スモノニシテ本案ニ於テハ解除權ノ抛棄ト認ムヘキモノナルヘシ本案カ前者ヲ削リ後者ヲ改メタルハ字句ノ修正ニ外ナラス是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第四百十條
(理由)本條ハ旣成商法中ニ存セサル所ニシテ本案第三百九十七條及ヒ次條ト相俟テ所謂吿知義務ヲ規定スルモノナリ抑モ旣成商法第六百五十四條ニ於テハ保險期間中危險カ著シク變更又ハ增加シタルトキハ保險者ハ當然其契約ニ羈束セラルルコトナキモノト爲シタリ故ニ本條ニ該當スル規定ヲ設クルノ必要ナカリシト雖モ本案ニ於テハ此場合ニ保險者カ契約ヲ解除スルニ非サレハ當然契約ノ效力ヲ失フコトナキモノト爲シ旣ニ前條ニ其旨ヲ規定シタリ故ニ一方ニ於テハ保險者ヲシテ危險ノ著シク變更又ハ增加シタルコト換言スレハ契約ヲ解除シ得ヘキ事由ノ發生シタルコトヲ知ルヲ得セシメ他方ニ於テハ速ニ契約ノ效力ヲ確定セシムルノ必要アリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
保險者ニ常ニ危險ノ變更又ハ增加スルコトナキヤ否ニ注意スト雖モ之ヲ知ルコト甚タ難ク容易ニ之ヲ知ルコトヲ得ル位地ニ在ル者ハ保險契約者及ヒ被保險者ナリ故ニ保險者ヲシテ前條ノ解除權ヲ行使シ其利益ヲ全フスルコトヲ得セシムルカ爲メニハ危險ノ著シク變更又ハ增加シタルコトヲ知リタル保險契約者又ハ被保險者ヲシテ遲滯ナク其旨ヲ保險者ニ通知セシムルコト必要ナリ而シテ此通知ハ保險者カ前條ノ解除權ヲ行フニ必要ナルニモ拘ハラス保險契約者又ハ被保險者カ之ヲ爲スコトヲ怠リ爲メニ保險者ヲシテ前條ノ解除權ヲ行使スルコト能ハサラシメタルトキハ一面保險者ノ利益ヲ保護シ他面保險契約者又ハ被保險者カ義務違反ノ制裁トシテ宛カモ保險者カ危險ノ變更又ハ增加ノ時直チニ之ヲ知リテ前條ノ解除權ヲ行使シタルト同一ノ效果ヲ生スルコトヲ得セシムルコト亦必要ナリ卽チ保險契約者又ハ被保險者カ危險ノ變更又ハ增加シタルコトヲ知リテ之ヲ保險者ニ通知スルコトヲ怠リタルトキハ保險者ヲシテ危險ノ變更又ハ增加ノ時ヨリ保險契約カ其效力ヲ失ヒタルモノト看做スコトヲ得セシメサルヘカラス是レ本條第一項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
保險契約者又ハ被保險者カ本條第一項ノ規定ニ依リ危險ノ變更又ハ增加シタルコトヲ保險者ニ通知シタルニ因リ又ハ其他ノ事由ニ依リ保險者カ危險ノ變更又ハ增加ヲ知リタルニモ拘ハラス遲滯ナク前項ノ解除權ヲ行使セサルトキハ之ヲ抛棄シテ契約ヲ承認シタルモノト看做スコト相當ナリ殊ニ久シク解除權ヲ存セシムルトキハ保險契約ノ效力ヲ不確實ナラシムルノ虞アルヲ以テ速ニ之ヲ消滅セシムルコト必要ナリ是レ本條第二項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第四百十一條
(理由)本條ハ旣成商法第六百五十一條ノ一部ニ該當シ本案第三百九十七條及ヒ前條ト相俟テ吿知義務ヲ規定スルモノナルコト旣ニ述ヘタルカ如シ抑モ旣成商法第六百五十一條ニ於テハ被保險者ハ危險ノ旣ニ生シタル後ハ保險者又ハ其代人ニ其危險及ヒ喪失若クハ損害竝ニ其大小ヲ通知スル義務ヲ負ヒ其義務背反ニ因リテ生シタル損害ニ付キ保險者又ハ其代人ニ對シテ責任ヲ負フト規定シタリト雖モ被保險者ノミニ限リ保險契約者ニ及ハサルハ狹隘ニ失シ保險者ノ負擔シタル危險ノ發生ニ因リテ損害カ生シタルコトヲ知ルト否トヲ問ハスシテ被保險者ニ通知義務ヲ負ハシメ之ヲ知リタル場合ノミニ限ラサルハ廣漠ニ過ク又此通知ハ之ヲ受クル權限ヲ有スル保險者ノ代理人ニ對シテ之ヲ爲スコトヲ得ヘキハ當然ナルニ保險者ノ外別ニ其代人ヲ揭ケ且通知ヲ怠リタルトキハ保險者ニ對シテ損害賠償ノ責ニ任スヘキコト當然ナルニ其旨ヲ規定シタルハ無要タルヲ免レス故ニ本案ハ一方ニ於テハ被保險者ノ外別ニ保險契約者ヲ加ヘ他方ニ於テハ保險契約者又ハ被保險者カ損害ノ生シタルコトヲ知リタルトキニ限リタルノミナラス「又ハ其代人」ノ文字及ヒ「其義務背反ニ因リテ生シタル損害ニ付キ保險者又ハ其代人ニ對シテ責任ヲ負フ」ノ文字ヲ削除シタリ其他ハ字句ノ修正ニ過キス
第四百十二條
(理由)本條ハ旣成商法中ニ存セサルトコロナリ抑モ損害保險ハ被保險者ノ蒙ムル損害ヲ塡補スルヲ以テ旨趣トスルモノニシテ被保險者ノ蒙ムル損害トハ特定ノ危險カ被保險利益ヲ犯スニ因リテ生スルモノナリ然ルニ保險期間內ニ於テ其被保險利益カ相次テ生シタル二個ノ事實ノ爲メニ消失シ而シテ其前者ハ保險契約上特定セル危險ニシテ之カ爲メ被保險利益ノ一部ヲ消失シ其後者ハ保險契約トハ何等ノ關係ナキ事實ニシテ之カ爲メ被保險利益ハ全ク消失スルニ至リタリト假想スヘシ此場合ヲ其終局ヨリ觀察スレハ被保險利益ハ前ノ危險ニ遭遇シタルト否トヲ問ハス到底被保險者ノ有スルコト能ハサリシモノナルヘシ是ニ於テカ保險者ハ前者ニ因リテ消失シタル部分ト雖モ之ヲ塡補スルヲ要セスト論スル者アリ保險期間內ノ危險ヲ包括的ニ觀察スル者モ亦之ト同一ノ論決ヲ下スナルヘシ本案ハ此種ノ解釋ヲ試ムルノ餘地ヲ存セサラシムルカ爲メ本條ヲ設ケテ此場合ニ保險者ハ尙ホ其損害ヲ塡補スル責ニ任スヘキ旨ヲ規定シタリ
第四百十三條
(理由)本條第一項ハ旣成商法第六百五十一條ノ一部第六百二十六條第三項及ヒ第六百三十四條ノ一部ニ該當スルモノトス抑モ旣成商法第六百五十一條ニ於テハ被保險者ハ危險ノ生スルニ當リ成ル可ク其防止ニ盡力スル義務ヲ負ヒ其義務背反ニ因リテ生シタル損害ニ付キ保險者又ハ其代人ニ對シテ責任ヲ負フモノト爲スト雖モ防止義務ヲ盡ササルニ因リテ生シタル損害ニ付キ責任ヲ負フヘキコトハ當然言フヲ俟タサル所ニシテ無要ノ規定タルヲ免レス故ニ本案ハ之ヲ削除シ其他ノ字句ニ修正ヲ加ヘテ本條第一項本文ト爲シタリ又旣成商法第六百二十六條第二項後段ニ於テハ保險者ハ如何ナル事情アルモ被保險額ヲ超エテ賠償ヲ爲スコトヲ要セスト規定シ又第六百三十四條第一項ニ於テハ辨濟スヘキ賠償額ハ物ノ保險ニ在テハ被保險者カ危險ノ發生ニ因リテ直接又ハ間接ニ被ムリタル損害ヲ以テ限トスト規定シ同條第二項ニ於テハ間接ノ損害中ニハ現ニ生シ又ハ生セントスル危險ノ已ムヲ得サル防止ニ因リテ生シタル別段ノ費用及ヒ損害ヲモ包含スルモノトスト規定シタルカ故ニ假令被保險者カ損害ヲ防止スル爲メニ必要又ハ有益ナリシ費用ト雖モ其費用ト塡補額トカ保險金額ヲ超過スルトキハ保險者ヲシテ其超過額ヲ負擔セシムルコトヲ得サルノミナラス假令保險金額ヲ超過セサルモ已ムヲ得サル防止ノ費用ニ限リテ保險者ニ負擔セシムルコトヲ得ルニ過キス然レトモ此ノ如キハ決シテ被保險者ヲシテ專ラ損害ノ防止ニ力ヲ用ヒシムル所以ニアラス卽チ損害ヲ防止スル爲メ必要又ハ有益ナリシ費用ハ假令塡補額ト合シテ保險金額ヲ超過スルトキト雖モ保險者ヲシテ之ヲ負擔セシムルコト必要ナリ是レ本條第一項但書ヲ設ケタル所以ナリ
本條第二項ハ旣成商法中ニ存セサル所ナリ抑モ保險價額ノ一部ヲ保險ニ附シタル場合ニ於テハ被保險者カ損害ヲ防止スル爲メニ必要又ハ有益ナリシ費用ヲ擧ケテ保險者ノ負擔ニ歸セシムルコト不當ナリ故ニ相當ノ割合ヲ定メテ保險者ト被保險者トニ分擔セシメサルヘカラス而シテ之ヲ定ムルニ當リテハ別段ノ契約ナキ限リハ保險者ヲシテ保險金額ノ保險價額ニ對スル割合ニ應シテ此費用ヲ負擔セシメ其他ハ被保險者ヲシテ之ヲ負擔セシムルコト最モ其當ヲ得タルモノトス是レ本條第二項ノ規定ヲ設ケ第三百九十條ノ規定ヲ防止費用ニ準用シタル所以ナリ
第四百十四條
(理由)本條ハ旣成商法中ニ存セサルトコロナリ抑モ保險ナルモノハ損害ノ塡補ヲ以テ旨趣トスルモノナルヲ以テ此旨趣ヲ貫徹セント欲セハ假令目的ノ全部カ滅失シタル場合ト雖モ保險ノ目的カ危險ノ發生前ニ有シタル價額ト其目的ニ付キ危險發生後被保險者カ有スル利益ノ價額トヲ精密ニ比較シテ其差額ヲ塡補スヘキモノトス然レトモ此ノ如キハ徒ラニ其計算ノ費用ト時日トヲ空啻シ保險ノ效用ヲ滅殺スルノ結果ヲ生スヘシ是レ啻ニ被保險者ニ不利益ナルノミナラス保險者ノ利益ニモアラサルヘシ是レ本案カ旣成商法第六百二十八條ト同一ノ旨趣ニ基ツキ新タニ本條ヲ設ケ保險者カ保險金額ノ全部ヲ支拂ヒタルトキハ被保險者カ其目的ニ付キ有スル權利ヲ取得スルコトト定メ同一ノ理由ニ依リ一部保險ノ場合ニハ保險金額ト保險價額トノ割合ヲ以テ其權利ヲ取得スルコトト定メタル所以ナリ
第四百十五條
(理由)本條ハ旣成商法第六百五十八條第一項ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ旣成商法ニ於テハ保險者ハ被保險者ニ被保險額ヲ支拂ヒタルトキ云々ト規定シ保險者カ被保險者ニ對シ其負擔額ノ全部ヲ支拂ヒタルト將タ又一部ヲ支拂ヒタルトヲ區別セスト雖モ負擔額ノ全部ヲ支拂ヒタルト一部ヲ支拂ヒタルトニ依リテ規定ヲ異ニスルノ必要アリ卽チ一部ヲ支拂ヒタル場合ニ於テハ保險者ノ權利ニ制限ヲ附シ保險者ハ保險契約者又ハ被保險者ノ權利ヲ害セサル範圍內ニ於テノミ自己ノ權利ヲ行フコトヲ得ルモノトスルコト正當ナリ又旣成商法ハ被保險者カ第三者ニ對シテ有セル權利ニ付テノミ規定ヲ設ケ保險契約者カ第三者ニ對シテ有セル權利ニ及ハスト雖モ此二者ニ付キ區別ヲ設クヘキ理由ナシ是レ本案カ本條ノ如ク修正ヲ加ヘタル所以ナリ
第四百十六條
(理由)本條ハ旣成商法中ニ存セサル所ナリト雖モ或營業者ニ對スル債權債務ニ付テハ特ニ短期時效ヲ定ムル例アルノミナラス今日現ニ行ハルル保險者ノ營業規則ニ依ルモ保險金額ノ支拂ヲ請求シ得ヘキ期間ヲ定ムルモノ甚タ多シ是レ本條ノ規定ヲ設ケ保險金額支拂ノ義務及ヒ保險料支拂ノ義務ニ付キ短期時效ヲ定メタル所以ナリ
第四百十七條
(理由)本條ハ相互保險ニ關スル規定ニシテ旣成商法第六百五十九條ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ相互保險ノ法律上ノ性質ニ付テハ學說一致セス或ハ之ヲ目スルニ保險契約ト組合契約トノ混合ヲ以テシ或ハ之ヲ目スルニ純然タル組合契約ヲ以テス然レトモ最モ公平ナル見解ニ從ヘハ當事者各員ハ其提出スル金錢ヨリ論スレハ保險者ノ位置ニ立チ損害塡補ノ請求ヲ爲スヨリ論スレハ被保險者ノ位置ニ立ツヘキ一種ノ無名契約ナリ換言スレハ當事者各員カ保險者及ヒ被保險者タルノ資格ヲ一身ニ集合スル契約ナリ而シテ其利益ヲ以テ目的トスルモノニアラサルカ爲メ商行爲ノ一ニ算入セラルルコトナク從テ特別ノ規定ナキ限リハ本節ノ規定ヲ適用スルコト能ハサルヘシ然ルニ相互保險ト雖モ保險者トシテノ權利及ヒ義務被保險者トシテノ權利及ヒ義務ハ商行爲ノ一タル保險契約ト異ナラサルモノ多シ例ヘハ被保險利益ノ意義、保險金額、保險價額、損害塡補額、戰爭ノ危險、開陳ノ責任、目的ノ讓渡、當事者一方ノ破產其他ニ關スル規定ノ如シ故ニ本條ハ原則トシテ本節ノ全規定ヲ相互保險ニモ準用スト定メタリト雖モ本節ノ規定中ニハ相互保險ニ準用スルコト能ハサルモノナキニアラス例ヘハ保險證券ノ作成ノ如キ是レナリ而シテ如何ナル條項カ果シテ相互保險ニ準用スヘカラサルモノナルヤ否ヤヲ判別スルコト頗ル困難ナルヲ以テ適用ノ細微ノ點ニ亙リテ硏究スルハ之ヲ學說ニ一任シ法典ニ於テハ槪括的ノ規定ヲ設クルヲ以テ足レリトス是レ本條ニ但書ヲ設ケ相互保險ノ性質上ヨリ立論シテ準用スヘカラスト決定セラルヘキモノヲ除外シタル所以ナリ
第二款 火災保險
(理由)本款ハ旣成商法第一編第十一章第二節ニ該當シ火災保險ニ關スル特別ノ規定ヲ揭ク旣成商法ニ於テハ火災及ヒ震災ノ保險ト題シタレトモ震災ノ保險ノ爲メニ特ニ設ケラレタル規定トシテハ第六百六十六條ノ存スルアルノミ而シテ震災保險ナルモノハ現今我國ニ行ハルルモノニアラサルト同時ニ其危險ノ性質上將來ト雖モ我國ノ如キ地震國ニ行ハルヘキモノナルヤ否ヤ學說ノ一定シタルモノアルナシ故ニ本案ハ特ニ震災保險ニ關スル規定ヲ設ケス從テ本款ハ單ニ火災保險トノミ題シタリ
旣成商法第一編第十一章第二節中本案ニ於テ全ク削除シタル規定ハ第六百六十一條乃至第六百六十四條ナリ卽チ第六百六十一條ヲ削除シタル所以ハ其第一項カ行政警察上ノ目的ヲ以テ規定セラレタルト其目的アルニモ拘ハラス請求ヲ爲スト否トヲ保險者ノ意思ニ一任シタルヲ以テ更ニ規定ノ目的ヲ達スルコト能ハサルト以上三個ノ理由ニ基ク次ニ第六百六十二條ヲ削除シタル所以ハ其第一項カ慣習及ヒ保險規則ニ一任スヘク假令茲ニ此種ノ規定ヲ設クルト雖モ勿論反對ノ契約ヲ除却スルカ如キ公益的規定ニアラサルコト又第二項中ニ列擧セラレタル現貨、寶玉、證書、有價證券及ヒ稿本其他普通價額ヲ有セサル物ノ多數ハ現今我國ニ於ケル火災保險會社ノ保險規則中ニ除外セラルルコト以上二個ノ理由ニ基ク次ニ第六百六十三條ヲ削除シタル所以ハ其前段ニ付テハ場所ノ移轉ノ爲メ危險ニ著シキ變更若クハ增加ヲ來シタルトキハ本案第四百九條ニ依リテ保險契約ノ效力ヲ失フヘキヲ以テ其規定ノ必要ナク又其移轉ニ際シ被保險者ノ故意又ハ重大ナル過失ニ因リ損害ヲ生スルトキハ本案第三百九十五條ニ依リテ保險者ヨリ之ヲ塡補セサルヲ以テ是レ又其規定ノ必要ナク其後段ニ付テハ前段ヲ削除スルノ結果トシテ不用ニ屬スレハナリ次ニ第六百六十四條ヲ削除シタル所以ハ本案第三百九十五條ニ依リテ同一ノ結果ヲ見ルヘキヲ以テナリ
第四百十八條
(理由)本條ハ旣成商法第六百六十六條ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ旣成商法ニ於テハ雷電ノ危險火藥若クハ機關ノ破裂ノ危險其他ノ危險ヲ列擧シ此等ノ危險ニ因リテ同時ニ火災カ起リタルト否トヲ問ハス之ヲ火災ノ危險ト同視シ從テ保險者ハ其損害ヲ塡補スヘキコトト規定セリ是レ一方ニ於テハ列擧セラレタル危險ニ脫漏アルヲ免レス他方ニ於テハ火災保險ニ於ケル危險ノ範圍ヲシテ原則上火災以外ニ擴張セシムルノ弊害アリ故ニ本案ハ之ヲ改メ火災ノ原因ノ如何ヲ問ハス苟クモ火災ニ因リテ生シタル損害ハ保險者之ヲ塡補スルコトヲ要ストノ原則ヲ揭ケタリ而シテ本條ハ當事者カ特約ヲ以テ火災以外ノ原因ヨリ生スル損害ヲモ塡補セントスルヲ妨ケサルト同時ニ第三百九十四條及ヒ第三百九十五條ノ適用ヲ妨ケサルコト旣成商法ト其旨趣ヲ同クス然レトモ明文ナキニ於テハ第三百九十四條及ヒ第三百九十五條ヲ適用セサルカ如ク解釋セラルル恐アリ是レ特ニ但書ヲ設ケタル所以ナリトス
第四百十九條
(理由)本條ハ旣成商法第六百六十五條ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ旣成商法ニ於テハ消防若クハ救濟ノ處分又ハ竊盜其他類似ノ事由ニ因リテ被保險者ニ加ヘタル損害云々ト規定シ外國ノ立法例モ亦竊盜ヲ包含スルモノト然ラサルモノトノ二主義ヲ存スレトモ本案ハ旣成商法ノ如ク規定スルニ於テハ保險者ノ責任重大ニ過キルヲ慮リ竊盜其他類似ノ事由ヲ削除シ火災保險ニ於テ賠償スヘキ損害ノ範圍ヲ火災ニ際シテ當然免ルヘカラサルモノ卽チ消防又ハ避難ニ必要ナル處分ニ因リ保險ノ目的ニ付キ生シタル損害ニ制限シタリ其他ハ字句ノ修正ニ過キス
第四百二十條
(理由)本條ハ旣成商法中ニ存セサル所ナリ蓋シ現今ノ實際ニ於テハ賃借人其他他人ノ物ヲ保管スル者カ火災ニ關シ所有者ニ對シ責任ヲ負ヒ損害ヲ賠償シタルノ例尠シト雖モ將來此責任問題ヲ發生シ從テ賃借人其他ノ保管者カ所有者ニ對シテ支拂フヘキ損害賠償ノ爲メ其物ヲ火災保險ニ附スルニ至ルヘシ此場合ニ於テ火災ニ因リテ損害ヲ生シタルトキハ賃借人其他ノ保管者ヨリ保險者ニ對シテ其損害ノ塡補ヲ請求スルコトヲ得セシムルヨリモ却テ所有者ヲシテ保險者ニ對シ直接ニ其損害ノ塡補ヲ請求スルコトヲ得セシムルコト損害塡補ノ目的ヲ達スルニ便利ナルヘシ是レ特ニ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第四百二十一條
(理由)本條モ亦旣成商法中ニ存セサリシ所ニシテ第四百二條第二項ト相俟テ火災保險證券ニ記載スヘキ必要事項ヲ確定シタリ抑モ旣成商法ニテハ保險ノ總則中第六百四十六條ヲ以テ一般ノ保險證券ニ記載スヘキ必要事項ヲ法定スルニモ拘ハラス各部保險ノ規定中之ヲ補充スヘキ規定トシテハ單ニ運送保險ニ關スル第六百七十六條アルノミ本案ハ之ニ反シテ各部保險ノ規定中ニ悉ク此種ノ規定ヲ設ケタリ
本條第一號ハ建物ノ火災保險第二號ハ動產ノ火災保險ニ於テ危險ニ重大ナル影響ヲ及ホスヘキ事實ナリ卽チ建物ノ構造用方及ヒ其所在ノ場所ノ如何ハ其建物ニ及ホスヘキ火災危險ノ程度ヲ著シク上下セシムルハ勿論其建物內ニ貯藏セル動產ニ及ホスヘキ危險ノ程度ヲモ著シク上下セシムルモノナリ是レ此等ノ事項ヲ以テ火災保險證券ニ記載スルコトヲ要スル事項ノ一ニ加ヘタル所以ナリ
第三款 運送保險
(理由)本款ハ旣成商法第一編第十一章第四節ニ該當シ運送保險ニ關スル特別ノ規定ヲ揭ク旣成商法ハ運送保險ニ關シテ七條ヲ設ケ詳細ニ之ヲ規定シタレトモ要スルニ運送保險ノ特質ヨリ流出スル規定ニアラスシテ總則ノ適用ヲ規定スルモノ多シ卽チ同第六百七十一條ハ同第六百二十七條及ヒ第六百二十八條ノ適用ヲ示シタルニ過キサルヲ以テ本案ハ之ヲ第三百八十三條及ヒ第四百條ノ解釋ニ讓リ同第六百七十三條モ亦條文中ニ明言セル如ク同第六百四十條ノ適用ヲ示シタルニ過キサルヲ以テ本案ハ全然之ヲ第四百三條ニ讓リタリ其他同第六百七十四條ノ規定ノ如キニ至テハ之ヲ存スルハ徒ラニ蛇足ヲ加フルニ外ナラス故ニ本案ハ何レモ之ヲ削除シ運送保險ノ特質ヨリ流出スル規定ノミヲ本款ニ規定シ第一款總則及ヒ本款ノ規定ヲ併セテ之ヲ設ケタル趣旨ニ適セシメタリ
第四百二十二條
(理由)本條ハ旣成商法第六百七十二條ニ字句ノ修正ヲ加ヘタルニ過キス
第四百二十三條
(理由)本條第一項ハ旣成商法第六百七十五條ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ旣成商法第六百七十五條前段ニ於テハ契約ヲ以テ保險價額ヲ定メサル場合ニハ最初ノ代價及ヒ其附帶ノ費用ヲ標準トシテ之ヲ定ムヘキモノト爲シタリ而シテ其「最初ノ代價」ナル用語ハ極メテ漠然タレトモ運送品ヲ購買シタル代價ヲ指スモノノ如シ果シテ然ラハ其購買後相場ノ高低アリタルカ爲メ實際ノ價額ト相一致セサルコト明カナルモノヲ以テ保險價額トスルモノニシテ其不當ナルコト勿論ナリ又旣成商法第六百七十五條後段ニ於テハ最初ノ代價ヲ知ルコト能ハサルトキハ積込ノ時及ヒ地ニ於ケル普通價額若クハ市場價額ニ諸稅、保險費用、積込費用及ヒ被保險者ノ負擔ニ歸スル運送費用ヲ合算シタルモノヲ標準トシテ保險價額ヲ定ムヘキモノト爲ス而シテ此標準タルヤ槪シテ其當ヲ得タルモノニシテ最初ノ代價ヲ標準トスルノ不當ナルコト前ニ述フルカ如クナル以上ハ之ヲ一般ノ場合ニ及ホスコト必要ナリ是レ本案カ旣成商法第六百七十五條前段ヲ削除シ同條後段ニ修正ヲ加ヘテ本條第一項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
本條第二項ハ旣成商法中ニ存セサル所ナリ抑モ旣成商法第六百七十一條ニ於テハ運送中ニ在ル物ハ其物ノ到達地ニ安着スルコトニ付キ利益ヲ有スル各人ヨリ之ヲ保險ニ付スルコトヲ得ト規定シタルヲ以テ運送品カ正當ノ時期ニ於テ無事ニ到達スレハ受クヘカリシ利益モ亦之ヲ保險價額中ニ算入スルコトヲ得ルカ如シト雖モ保險價額ヲ定ムル標準ヲ規定シタル旣成商法第六百七十五條ニ於テハ此利益ニ付キ一言ノ及フモノナシ是レ不完全ノ規定ナリト謂ハサルヘカラス而シテ運送品ノ到達ニ因リテ得ヘキ利益ヲ保險價額ニ算入スルコトヲ得セシムルノ實際上甚タ必要ナルコト勿論ナリト雖モ特約アルニ非サレハ之ヲ算入セサルコトモ亦至當ナリ是レ本案カ本條第二項ニ於テ運送品ノ到達ニ因リテ得ヘキ利益ハ特約アルトキニ限リ之ヲ保險價額中ニ算入スト規定シタル所以ナリ
第四百二十四條
(理由)本條ハ旣成商法第六百七十六條第一項ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ卽チ第一旣成商法ニ於テハ運送ノ方法、運送具ノ種類、運送ノ線路トアリタルヲ改メテ運送ノ道筋及ヒ方法ト爲シタルハ字句ノ修正ニ過キス第二旣成商法ニ於テ運送取扱人及ヒ運送人ノ氏名トアリタルヲ改メテ單ニ運送人ノ氏名又ハ商號ト爲シタルハ旣成商法ニ所謂運送取扱人ノ責任ハ運送人ノ責任ト同一ナリシヲ本案ニ於テ各別トナシタルニ依ル第三旣成商法ニ於テハ發送地幷ニ到達地トアリタルヲ運送品ノ受取又ハ引渡ノ場所ト改メタルハ旣成商法第六百七十二條第二項ニ該當スル本案第四百二十二條ヲ以テ保險者カ危險ヲ負擔スル時期ヲ貨物受取ノ時ヨリ引渡ノ時マテト定メタルカ爲メナリ第四運送期間ノ定アルトキハ之ヲ證券中ニ揭クヘキコトハ旣成商法ト同シ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第四百二十五條
(理由)本條ハ旣成商法第六百七十六條第二項ニ該當シ之ニ字句ノ修正ヲ加ヘタルニ過キス
第二節 生命保險
(理由)本節ハ旣成商法第一編第十一章第五節ニ該當シ生命保險ニ關スル規定ヲ揭ク旣ニ本案第一節損害保險ノ說明ニ於テモ述ヘタル如ク本案ハ旣成商法ノ主義ニ反シテ保險ヲ分テ損害保險及ヒ生命保險ノ二節ト爲シ而シテ其生命保險中ニハ死亡保險、生存保險及ヒ生命年金ノ三者ヲ包含セシム而シテ病傷保險ヲ除外セルハ勿論之ヲ禁示スルノ意思アルニアラス現今我國ニ之ヲ行フモノ殆ント絕無ナレハ暫ク之カ規定ヲ設クルヲ止メテ實際保險ノ原則ト當事者間ノ特約トニ讓リタリ
旣成商法第一編第十一章第五節ノ規定中本案ニ於テ全ク削除シタルモノハ第六百八十四條及ヒ第六百八十八條ノ二條トス卽チ第六百八十四條ヲ削除シタルハ本節第四百三十條ニ於テ前節第三百九十七條第四百九條及ヒ第四百十條ノ規定ハ生命保險ニモ亦之ヲ準用スルヲ以テ更ニ其本節ニ於テ之ヲ規定スルノ必要ナキカ爲メナリ又第六百八十八條ヲ削除シタルハ同條第一項ハ之ヲ保險ノ實際及ヒ慣習ニ一任シ第二項ハ之ヲ新民法第五百四十一條ニ讓リタルカ爲メニ外ナラス
第四百二十六條
(理由)本條ハ旣成商法第六百七十七條第六百八十五條及ヒ第六百八十六條ノ規定ニ該當スルモノナリ抑モ旣成商法第六百七十七條ニ於テハ人ノ生命ハ之ヲ保險ニ附スルコトヲ得ト規定シ同第六百八十五條ニ於テハ死亡ノ時ノ外尙ホ契約ニ依リ或年齡若クハ期限ニ至リタル時ヲ以テ被保險額支拂ノ時ト爲スコトヲ得又被保險額ノ支拂ニ換ヘテ年金ノ支拂ヲ約定スルコトヲ得ト規定シ同第六百八十六條ニ於テハ年金保險ハ被保險者ニ又ハ其死亡ノ後ハ其保險ニ與カリタル人ニ終身間又ハ或期間ノ滿了ニ至ルマテ年金ヲ支拂フ義務ヲ負フ契約タリト規定スト雖モ何レモ當事者ノ一方カ相手方又ハ第三者ノ生死ニ關シ一定ノ金額ヲ支拂フヘキコトヲ約スルモノニ外ナラサルヲ以テ本案ハ生命保險契約ナル用語ノ下ニ悉ク之ヲ包含セシメタリ而シテ其一定ノ金額ハ死亡又ハ病傷又ハ或年齡ニ對シタル時又ハ其他ノ時期ニ於テ一時ニ又ハ定期例ヘハ每年又ハ每月ニ之ヲ支拂フヘキモノトスルヲ得ル事當然言フヲ俟タサル所ナリ又旣成商法ニ於テハ保險ノ總則ヲ設ケタル結果トシテ第六百二十五條ノ如キモ亦生命保險ニ適用シ從テ第六百七十七條第六百八十五條及ヒ第六百八十六條ニ於テハ當事者ノ一方カ一定ノ金額ヲ支拂フヘキコトヲ約シ相手方カ之ニ報酬ヲ與フルコトヲ約スルヲ要スル旨ヲ明言セサリシモノナリト雖モ本案ニ於テハ旣ニ述ヘタルカ如ク損害保險ト生命保險トヲ區別シ旣成商法第六百二十五條ニ該當スヘキ本案第三百八十三條ハ當然生命保險ニ適用セサルヲ以テ本條ニハ特ニ當事者ノ一方カ一定ノ金額ヲ支拂フコトヲ約シ相手方カ之ニ報酬ヲ與フルコトヲ約スルヲ要スル旨ヲ規定スルノ必要アリ是レ本條ノ如ク修正ヲ加ヘタル所以ナリ
第四百二十七條
(理由)本條ハ旣成商法第六百七十八條乃至六百八十一條ヲ包括シ之ニ修正ヲ加ヘタルモノニシテ其修正ノ理由ヲ述フルニ先チ用語ニ付キ一言スヘキコトアリ抑モ旣成商法ニ於テハ被保險者ナル語ヲ用ヒテ或ハ本案ニ所謂保險契約者ヲ指シ或ハ被保險者ヲ指示スト雖モ是レ用語ノ統一ヲ缺キ法文ノ意義ヲ頗ル曖昧ナラシムルヲ以テ本案ハ之ヲ改メテ保險契約ノ相手方ヲ保險契約者ト稱シ保險ニ付セラルル身體ヲ有スル者ヲ被保險者ト稱シ保險契約者被保險者若クハ契約ニ依リ保險金額ヲ受取ルヘキ權利ヲ有スル第三者ヲ保險金額ヲ受取ルヘキ者ト稱シタリ
本條第一項ハ旣成商法第六百七十八條ニ該當ス然レトモ旣成商法ニ在テハ他人ノ生命ニ付キ財產上ノ利益ヲ有スルモノハ其他人ノ生命ヲ保險ニ附スルコトヲ得ト曰フト雖モ一方ニ於テハ生命保險中尤モ多數ヲ占ムルモノハ自己ノ生死若クハ近親ノ生死ニ關シ契約スルモノニシテ財產上ノ利益ヲ有スルニヨリテ契約スルモノニアラス他方ニ於テハ苟クモ財產上ノ利益ヲ有スル者ハ他人ノ生死ニ關シテ契約スルコトヲ得ルモノトセハ所謂保險詐欺ナルモノノ頻繁ニ行ハルル弊アルハ必セリ故ニ本案ハ本條第一項ニ於テ生命保險契約ニ因リテ保險金額ヲ受取ルコトヲ得ル者ハ被保險者其相續人又ハ親族ニ限ルト規定シタリ
旣ニ前項ニ規定シタル如ク保險金額ヲ受取ルヘキ者ハ被保險者其相續人又ハ親族ニ限ル然レトモ旣ニ生シタル權利ハ債權讓渡ニ關スル規定ニ從テ何人ニモ之ヲ讓渡スルコトヲ得ルモノトスレハ本條第一項ノ規定ノ精神ヲ埋沒スルモノト謂フヘシ是レ本條第二項ヲ以テ保險契約ニ因リテ生シタル權利ヲ讓受クルコトヲ得ルハ被保險者ノ親族ニ限ルト規定シタル所以ナリ但前項ニ於テハ相續人ヲ加ヘ第二項ニ於テ單ニ親族ト云ヘルハ相續人ナルモノハ被相續人ノ死亡スルマテハ確定セサルモノナルヲ以テ第一項ニハ保險契約上被保險者ノ相續人トノミ揭ケテ之ヲ保險金額ノ受取人ト定ムルコトヲ得ル旨ヲ規定ス之ニ反シテ保險契約上ノ權利ノ讓渡ハ特定セル人ニ對シテ爲ササルヘカラス從テ不確定ナル相續人ニ對スル讓渡ナルモノナキヲ以テ第二項ニ之ヲ揭ケサリシニ外ナラス
本條第三項及ヒ第四項ハ旣成商法第六百八十條第二項ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ旣成商法ニ於テハ被保險者ノ死亡ニ依リ保險金額ヲ支拂フニ至リタル場合ニ於テ保險金額ヲ受取ルヘキ者ノ欠缺ニ處スル方法ヲ規定シタリト雖モ被保險者ノ死亡ニ先チテ保險金額ヲ受取ルヘキ者カ死亡シタルトキ又ハ被保險者ト保險金額ヲ受取ルヘキ者トノ親族關係カ止ミタルトキハ保險契約者ヲシテ更ニ保險金額ヲ受取ルヘキ者ヲ定ムルコトヲ得セシメ又保險契約者カ若シ保險契約ヲ繼續シテ被保險者ノ親族ニ保險金額ヲ受取ルヘキ權利ヲ與フルコトヲ欲セサルトキハ保險契約者ヲシテ被保險者ノ爲メニ積立テタル金額ノ拂戾ヲ保險者ニ請求スルコトヲ得セシメ保險契約者カ以上述ヘタル二個ノ權利ヲ行ハスシテ死亡シタルトキ始メテ被保險者ヲ以テ保險金額ヲ受取ルヘキ者ト爲シ旣成商法ト同一ノ結果ヲ生セシムルコト正當ナリ是レ本案カ本條第三項及ヒ第四項ノ如ク修正ヲ加ヘタル所以ナリ
之ヲ要スルニ本條ニ於テハ被保險者ト保險金額ヲ受取ルヘキ者トノ關係ヲ規定シ以テ生命ヲ賭シテ金錢ヲ爭フノ弊ヲ豫防スルト同時ニ他方ニ於テ親族關係ヲ有セサル者ト雖モ第三者ヲ以テ保險金額ヲ受取ルヘキ者ト定メ其當該第三者ノ親族ヲ被保險者トシテ保險契約ヲ取結フコトヲ得ル旨ヲ規定シタルニ過キサルナリ
第四百二十八條
(理由)本條ハ旣成商法中ニ存セサリシ規定ニシテ火災保險ニ關スル本案第四百二十一條及ヒ運送保險ニ關スル本案第四百二十四條ニ對シテ新ニ設ケタル所ナリ卽チ生命保險證券ニハ損害保險ノ總則第四百二條第二項ニ揭ケタル事項ヲ記載スルコトヲ要スルハ勿論ナリト雖モ此外生命保險ニ特殊ナル二三ノ事項ヲ揭クルノ必要アリ本案ハ之ヲ列擧シテ(一)保險契約ノ種類(二)被保險者ノ氏名(三)保險金額ヲ受取ルヘキ者ヲ定メタルトキハ其者ノ氏名及ヒ其者ト被保險者ノ親族關係ノ三者トス而シテ保險契約ノ種類ヲ記載スルコトヲ要スルハ旣ニ述ヘタル如ク生命保險ニハ生存ニ關スルモノアリ死亡ニ關スルモノアリ又年金ノ方法ニヨルモノアリ從テ其種類モ區々ニシテ火災保險運送保險ト謂ヘルカ如ク單純ナルコト能ハサレハナリ又被保險者及ヒ保險金額ヲ受取ルヘキモノノ氏名ヲ記載スルコトヲ要スルハ生命保險ニ於ケル被保險者ハ損害保險ノ被保險者ノ如ク必スシモ被保險利益ヲ有シ從テ損害ノ塡補ヲ受クルモノニアラサルヲ以テナリ又被保險者ト保險金額ヲ受取ルヘキ者トノ親族關係ヲ記載スルコトヲ要スルハ生命保險ニ在テハ前條ノ規定ノ結果トシテ被保險者ト保險金額ヲ受取ルヘキ者トノ間ニ親族關係ノ存在スルコトヲ要スルモノト爲シタレハナリ
第四百二十九條
(理由)本條第一項ハ旣成商法第六百八十二條ニ該當ス抑モ旣成商法第六百八十二條ニ於テハ保險ハ左ノ場合ニ於テハ無效トス云云ト規定スト雖モ廣漠ニ失スルノ嫌アリ故ニ本案ハ之ヲ左ノ場合ニ於テハ保險者ハ保險金額ヲ支拂フ責ニ任セスト改メタリ又旣成商法第六百八十二條第一號ニ於テハ保險シタル死亡又ハ病傷カ保險契約取結ノ際旣ニ生シタルトキ但保險申込人カ其事ヲ知ラサルトキハ此限ニ在ラスト規定スト雖モ本案第四百三十條第一項ニ於テハ損害保險ニ關スル本案第三百九十六條ノ規定ヲ生命保險ニモ亦準用スヘキモノト定メタルカ爲メ旣成商法ト同一ノ結果ヲ生スルコトトナル故ニ之ヲ削除シタリ又旣成商法第六百八十二條第二號前段ニ於テハ生命若クハ健康ヲ保險ニ付シ又ハ付セシメタル者カ契約上負擔シタル義務ニ違反シタルトキト規定スト雖モ保險契約者カ其義務ニ違反シタルトキハ保險者ハ契約ヲ解除シテ損害賠償ヲ請求スルコトヲ得ヘク別ニ之カ爲メ當然其保險金額支拂ノ責任ヲ免レシムルノ必要ナキノミナラス其他ノ場合ニ於テハ第四百三十條ヲ以テ損害保險ニ關スル規定ヲ生命保險ニモ準用スヘキモノト定メタルカ爲メ旣成商法ト殆ント同一ノ結果ヲ生スヘシ被保險者カ其義務ニ違反シタルトキ亦同シ故ニ本案ハ之ヲ削除シタリ又旣成商法第六百八十二條第二號後段ニ於テハ生命若クハ健康ヲ保險ニ附シ又ハ付セラレタル者カ放蕩粗暴其他故意ノ所爲ニ因リテ生命ヲ短縮シ若クハ健康ヲ毀損シタルトキト規定シ同條第三號ニ於テハ死亡若クハ病傷カ重罪若クハ輕罪ニ付テノ有罪判決ノ執行ニ因リ若クハ其執行中ニ生シ又ハ重罪若クハ輕罪ヲ犯シタル直接ノ結果トシテ生シ又ハ決鬪其他故意ノ所爲ニ因リテ生シタルトキト規定スト雖モ廣汎ニ過クルモノアルヲ以テ本案ハ其一部ヲ削除シ其他ノ部分ニ字句ノ修正ヲ加ヘ本條第一項第一號ト爲シタリ又本條第一項第二號ハ旣成商法中ニ存セサル所ニシテ唯タ或場合ニ於テハ第六百八十二條第二號ノ規定ニ依リ之ト同一ノ結果ヲ生スルコトアリシニ過キスト雖モ保險金額ヲ受取ルヘキ者カ故意ニテ被保險者ヲ死ニ致シタルカ如キ場合ニハ一般ニ保險者ヲシテ其者ニ對シテ保險金額支拂ノ責任ヲ免レシムルコト正當ナリ故ニ本案ハ新ニ本條第一項第二號ノ規定ヲ設ケタリ
本條第二項ハ旣成商法第六百八十三條ニ該當ス抑モ旣成商法第六百八十三條ニ於テハ保險無效ノ場合ニハ被保險者ノ爲メ旣ニ積立テタル貯金ノ半額ヲ被保險者ニ償還スルヲ以テ原則ト爲シ被保險者カ詐欺若クハ惡意ニ因リテ自ラ無效ニ至ラシメタルトキハ此償還ヲ爲スコトヲ要セサルモノト爲スト雖モ是レ生命保險ニ於ケル積立金額ノ計算ヲ誤解セルモノニシテ採用スヘキモノニアラサルノミナラス「被保險者カ詐欺若クハ惡意ニ因リテ自ラ無效ニ至ラシメタルトキ」ト曰ヘルハ漠然ニ失ス故ニ本案ハ之ヲ改メ本條第一項第一號ニ揭ケタル場合ニ限リ保險者ハ被保險者ノ爲メニ積立テタル金額ヲ拂戾スコトヲ要スルモノト爲シタリ是レ本條第二項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第四百三十條
(理由)本條ハ旣成商法中ニ存セサリシ所ナルモ旣成商法ノ精神ト大差ナク寧ロ旣成商法ニ制限ヲ加ヘタルモノト謂フヘシ卽チ旣成商法ニ於テハ保險ノ總則卽チ第六百二十五條乃至第六百五十九條ハ總テ生命保險ニ適用セラルヘキモノナルニ本案ハ損害保險ト生命保險トヲ區別シタル結果トシテ當然損害保險ニ關スル規定ヲ適用スルコトナシ故ニ損害保險ノ規定ニシテ苟クモ生命保險ノ性質ニ反セサルモノハ本案第一項ヲ以テ盡ク之ヲ生命保險ニ準用シタリ然ルニ第三百九十四條第四百四條第四百六條第四百九條及ヒ第四百十條ヲ準用スルニヨリ保險者ハ保險金額ヲ支拂フノ義務ナシト雖モ生命保險ノ性質上全ク何等ノ拂戾ヲモナササルハ不當ノ利得ヲ受クルニ外ナラス何トナレハ生命保險ハ損害保險ト異ナリテ臆數的計画ニ基ツク貯金ノ性質ヲ有スレハナリ是レ本條第二項ヲ設ケタル所以ナリ
第四編 手形
(理由)本編ハ現行商法第一編第十二章手形及ヒ小切手ニ該當シ手形ニ關スル規定ヲ揭ク現行商法ニ於テハ之ヲ以テ第一編商ノ通則中ノ一章ト爲シ且手形トハ爲替手形及ヒ約束手形ヲ指シ小切手ヲ包含セサルモノト認メ該章ニ題スルニ手形及ヒ小切手ノ名稱ヲ以テスト雖モ本案ニ於テハ手形ナル用語ヲ以テ小切手ヲモ包含セシムルノ主義ヲ採リ且旣成商法ニ於ケル商ノ通則ナル一編ヲ分テ數編ト爲シタル結果トシテ手形ノ爲メ特ニ本編ヲ設クルニ至リタルヲ以テ本編ハ單ニ之ヲ手形ト題シタリ
現行商法ニ於テハ第一編第十二章ヲ三節ニ分チ第一節ニ爲替手形、第二節ニ約束手形第三節ニ小切手ヲ規定シ以上各節ノ外別ニ總則ナルモノヲ設ケ之ヲ第一節ノ前ニ列スト雖トモ本案ハ手形ヲ以テ獨立ノ一編ト爲シタルノ結果現行商法ニ所謂節ヲ改メテ章ト爲シタルノミナラス現行商法第一編第六章第三節第一款並ニ旣成商法第一編第八章第一節及ヒ第十一章第一節ニ於テハ總則ヲ以テ節款ニ列シタルニモ拘ハラス現行商法第一編第十二章ニ於テハ總則ヲ以テ節以外ニ置キタルハ理由ナキニ區別ヲ立テタルモノタルヲ免レサルヲ以テ本案ハ之ヲ改メ第一章ヲ總則第二章ヲ爲替手形第三章ヲ約束手形第四章ヲ小切手ト爲シタリ
第一章 總則
(理由)本節ハ主トシテ現行商法第一編第十二章總則ニ該當シ各種ノ手形ニ共通スヘキ規定ヲ揭ク現行商法第六百九十九條第一項ニ於テハ手形ノ定義ヲ揭クト雖モ定義ヲ法典ニ揭クルハ本案ノ採ラサル所ナルノミナラス手形ニ一定ノ金額ヲ支拂ハルヘキ旨卽チ支拂ノ委託又ハ約束ヲ記載スヘキコト及ヒ手形ノ指圖式又ハ無記名式ナルヘキコトハ他ノ規定ニ依リ明瞭ナルノミナラス手形ノ信用證券ナルコトハ手形ニ關スル規定ノ解釋ヨリ當然生スヘキ論決ニシテ法典ニ之ヲ明言スルヲ要セサル所ナリ又同條第二項ニ於テハ手形ニ條件ヲ附スルコトヲ得サル旨ヲ規定スト雖モ是レ支拂ノ委託又ハ約束ノ單純ナルコトヲ要スル規定ノ結果トシテ當然言フヲ俟タサル所ナリ故ニ本案ハ皆之ヲ削除シタリ
現行商法第七百條ノ規定ハ爲替義務ト曰ヒ恰モ爲替手形上ノ義務ノミヲ指示スルカ如クナラシメタル缺點アルノミナラス手形ニ關スル行爲ハ商行爲ニシテ且本編ニ別段ノ規定ナキ以上ハ商行爲ヲ爲スコトヲ得ル者ハ凡テ手形上ノ義務ヲ負フコトヲ得ルハ勿論ナルヲ以テ本案ハ之ヲ削除シタリ
現行商法第七百二條ノ規定ハ手形法ノミ施行シ未タ民法ノ施行セラレサル時代ニ於テハ其必要ナルコト論ヲ俟タスト雖モ本案ヲ施行スヘキ當時ニ至テハ一方ニ新民法第九十三條ノ存スルアリ他方ニ本案第四百三十二條ノ設ケラルルアリ從テ此規定ヲ必要トセス故ニ本案ハ之ヲ削除シタリ
現行商法第七百九條ハ法例ノ規定スル所ニ讓リ又同第七百十一條ハ一方ニ於テ當然本案第二百八十條ノ規定ノ適用ヲ受ケ他方ニ於テ手續法ノ規定スル所ニ讓ルコト相當ナルヲ以テ本案ハ何レモ之ヲ削除シタリ
現行商法第七百十三條ハ一覽拂又ハ一覽後定期拂ノ手形ニ付キ時效期間ノ起算點ヲ定ムト雖モ本案ニ於テハ第四百四十八條第四百六十三條第四百六十四條第五百二十四條乃至第五百二十六條第五百二十九條第五百三十條及ヒ第五百三十四條等ノ適用ニ依リ之ヲ定ムルコトヲ得ヘキヲ以テ此規定ヲ要セス故ニ之ヲ削除シタリ
又現行商法第七百十五條第一項ハ手形ニ署名シタル者ヲシテ連帶責任ヲ負ハシムト雖モ此規定ハ一方ニ於テハ手形ニ署名シタル者ハ凡テ連帶責任ヲ負フト誤解セラルルノ恐アリ他方ニ於テハ假令文言ニ從ヒテ連帶責任ヲ負フノ謂ナリトスルモ此規定ノ適用ヲ受クル場合極メテ尠シ殊ニ手形當事者ノ一人ニ對スル行爲カ其他ノ人ニ及ホス效力並ニ保證ノ效力等ハ各本條ニ於テ規定ヲ設クル以上ハ此規定ノ必要益減少セリ況ンヤ本案ハ第四百三十二條ヲ以テ手形ニ署名シタル者ハ其手形ノ文言ニ從ヒテ責任ヲ負フト規定スルニ於テオヤ故ニ本案ハ斷然該項ノ規定ヲ削除セリ其他同條第二項ノ如キハ明文上廣漠ニ失スルノミナラス事訴訟ニ關スルヲ以テ是レ亦本案ニ規定スヘキモノニアラス故ニ該項モ亦之ヲ削除シタリ
其他現行商法第七百四條ニ付テハ本案ハ特ニ一節ヲ設ケ卽チ第十一節ニ於テ之ヲ規定スヘキヲ以テ本節ヨリ之ヲ削除シタリ
第四百三十一條
(理由)本案ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ抑モ現行商法ニ於テハ手形ハ爲替手形及ヒ約束手形ノ二種ニ限リ小切手ヲ包含セサルモノト爲シタルカ如クナルハ旣ニ述ヘタル所ナリ然ルニ本案ハ之ト反對ノ主義ヲ採リ手形中ニ小切手ヲ包含セシムルカ故ニ其旨ヲ明言シ現行商法ト異ナル所アルヲ示スノ必要アリトス加之ナラス本案ニ於テ所謂手形トハ爲替手形約束手形及ヒ小切手ノ三種ニ限ルヤ否ヤハ本章並ニ手形ニ關スル一般ノ規定ノ適用區域ヲ明確ニスルカ爲メニモ亦必要ナリトス是レ本案カ會社ニ關スル第四十二條第四十三條及ヒ商行爲ニ關スル第二百六十三條乃至第二百六十五條等ノ例ニ準シ新ニ本案ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第四百三十二條
(理由)本條ハ現行商法第七百五條ニ該當スルモノナリ抑モ現行商法第七百五條ニ於テハ手形ハ其文言ニ因リテ直接ニ義務ヲ負ハシムル旨ヲ規定シタリト雖モ其義務ヲ負フモノノ何人ナルカヲ明カニセサルノ失アルノミナラス義務ノ內容ヲ定ムル所ノ手形ノ文言其モノカ義務ノ原因タルカ如キ觀アリ殊ニ「直接ニ」ノ三字ヲ加ヘタルハ其何故タルヤヲ解スルニ苦シム故ニ本案ハ「手形ニ署名シタル者ハ」云々ト曰ヒテ第一ノ缺點ヲ補ヒ「文言ニ依リテ」トアリタルヲ「文言ニ從ヒテ」ト改メテ第二ノ批難ヲ免カレ「直接ニ」ノ三字ヲ省キテ第三ノ不明ヲ避ケタリ其他ハ以上修正ノ結果トシテ當然加ヘサルヘカラサルモノノ外「義務」ヲ「責任」ト改メタルカ如キ文字ノ修正アルニ過キサルヲ以テ別ニ說明ヲ要セス其他現行商法ニ於テハ第七百五條ニ但書ヲ設ケ右ニ述ヘタル原則ニ制限ヲ設クト雖モ其第一ノ場合卽チ法律ニ依リテ例外ト爲スヘキモノハ事素ヨリ當然ニ屬シ茲ニ規定スルノ必要ナク又其第二ノ場合卽チ商慣習ニ依リテ例外ト爲スヘキモノハ今日マテ我國ニ存セサル所ニシテ又將來ニ於テモ此ノ如キ慣習ヲ認メ手形ノ效力ヲ不確實ナラシムルノ必要ナク更ニ進ンテ各國ノ慣習上一般ニ例外ト爲ス場合ノ如キハ本案之ヲ揭ケ餘蘊ナキヲ以テ何レノ點ヨリ觀察スルモ第二ノ場合ヲ揭クルハ無用失當ナルヲ免カレス故ニ本案ハ亦之ヲ削除シタリ
第四百三十三條
(理由)本條ハ現行商法第七百三條ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法ニ於テハ他人ノ爲メニ手形ニ署名シタル者カ自己ニ責任ヲ負フ場合ヲ規定スト雖モ本案ニ於テハ其反對卽チ自己ノ爲メニ他人カ署名シタル手形ニ對シ自己ニ責任ヲ負フ場合ヲ規定シタリ抑モ手形ニ署名シタル者ハ其手形ノ文言ニ從ヒテ責任ヲ負フコトハ前條ノ規定スル所ニシテ代理人カ其本人ノ爲メニスルコトヲ記載セスシテ手形ニ署名シタル場合ニモ亦此原則ヲ適用シ代理人カ特別ノ狀態ニアルコト卽チ本人ノ爲メニスルコトヲ記載セサル限リハ特ニ普通ノ狀態ニアルコト卽チ自己ノ爲メニスルコトヲ記載セサルモ當然自己ノ爲メニシタルモノトシ代理人ヲシテ自カラ手形上ノ責任ヲ負ハシムルコト正當ナリ現行商法ハ明文ヲ以テ此旨ヲ規定スト雖モ是レ一般原則ノ適用ニシテ(新民法第百條)本編中特ニ此場合ヲ例外トスルコトヲ定メサル限リハ一般ノ原則ニ從フヘク更ニ明文ヲ以テ之ヲ規定スルノ必要ナシ然ルニ本案二百六十三條第四號ノ規定ニ依リ手形ノ振出、裏書、引受、保證、其他手形ニ關スル行爲ハ凡テ商行爲ニ屬シ而シテ商行爲ノ代理人カ本人ノ爲メニスルコトヲ示ササルトキト雖モ其行爲ハ本人ニ對シテ直接ニ其效力ヲ生スルコトハ本案第二百六十六條及ヒ之ニ該當スヘキ旣成商法第三百四十二條ノ規定スル所ナリ故ニ手形ニ付テモ亦此規定ヲ適用シ代理人カ本人ノ爲メニスルコトヲ記載セスシテ署名シタル手形ニ因リ本人ハ手形上ノ責任ヲ負フモノトスヘキヤ否ヤハ聊カ疑ノ生スル所ニシテ且現行商法ノ明文ヲ存セサル所ナリ蓋シ手形上ノ責任ハ專ラ手形ノ文言ニ從ヒテ之ヲ定ムヘキコトハ前條ノ規定スル所ナレハ手形ノ效力ヲ明確ナラシムル爲メ此問題ニ對シテハ消極的ノ決定ヲ與ヘ卽チ本案第二百六十六條ニ對スル例外的規定ヲ設クルコト正當ナリ是レ本案ニ於テ現行商法ノ規定ニ修正ヲ加ヘ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
其他現行商法第七百三條ニ於テハ他人ヨリ特ニ委任ヲ受クルコトナクシテ他人ノ爲メニ手形ニ署名シタル場合ヲモ規定スト雖モ此場合ニ於ケル署名者ノ責任ハ一般ノ原則ニ依リテ之ヲ定ムルヲ以テ足レリトスルカ故ニ本案ハ之ヲ削除シタリ
第四百三十四條
(理由)本條第一項ハ現行商法中ニ明文ヲ存セサル所ナリ抑モ現行商法第七百八條第一項ニ依レハ僞造又ハ變造ノ手形モ亦手形トシテ其效力ヲ有シ本案第四百三十二條及ヒ之ニ該當スル現行商法第七百五條ニ依レハ手形ニ署名シタルモノハ其手形ノ文言ニ從ヒテ責任ヲ負フ故ニ僞造又ハ變造シタル手形ニ署名シタル者モ亦其僞造又ハ變造シタル手形ノ文言ニ從ヒテ責任ヲ負フヘキコト正當ナリ是レ本條第一項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
又現行商法第七百八條第一項第二段ニ於テハ「僞造變造ニ因リテ義務ヲ生スルコトナシ但一旦生シタル義務ハ變更セサルモノトス」ト規定スト雖モ是レ極メテ誤解ヲ招キ易キ法文ナルノミナラス假令明文ヲ以テ之ヲ規定セサルモ自己ノ署名ヲ僞造セラレタルモノハ他人ノ僞造ノ爲メニ手形上ノ責任ヲ負フコトナク又變造以前手形ニ署名シタル者ノ手形上ノ責任ハ變造アリタルカ爲メ變更ヲ受クルコトナキハ勿論ナルヲ以テ本案ハ全ク之ヲ削除シタリ此ノ如ク變造以前ニ手形ニ署名シタル者ハ眞正ノ手形ノ文言ニ從ヒテ其責任ヲ負ヒ其後變造アリタル爲メ毫モ其責任ニ輕重ヲ及ホササルヲ以テ變造手形ニ署名シタル者ノ責任ヲ定ムルニハ其變造以前ニ署名シタルモノナルカ將タ又變造以後ニ署名シタルモノナルカヲ決スルノ必要アリ此事實上ノ問題ハ之ヲ決スルコト極メテ容易ナル場合ナキニアラスト雖モ最モ多ク其例ヲ見ル所ノ手形金額ヲ變造シタル場合ノ如キハ引受人參加引受人裏書人保證人等ハ變造ノ前ニ署名シタルカ其後ニ署名シタルカ之ヲ決スルコト甚タ困難ナリ而シテ他方ヨリ觀察スルトキハ署名者ハ多ク變造手形ノ文言ニ從ヒテ責任ヲ負フヨリハ寧ロ眞正手形ノ文言ニ從ヒテ責任ヲ負フヲ以テ其利益ナリトスルカ故ニ本條第二項ハ此署名者ニ利益ナル推定ヲ設ケ變造以前ニ署名シタルモノト推定セリ但此推定ニ對シテハ反對ノ證明ヲ許スヘキヤ勿論ナリトス
本條第三項ハ現行商法第七百八條第二項ノ字句ヲ修正シ且重大ナル過失ニ因リテ僞造又ハ變造ノ手形ヲ取得シタル者ヲ加ヘ竝ニ僞造者又ハ變造者及ヒ惡意又ハ重大ナル過失ニ因リテ其手形ヲ取得シタル者ノ權利如何ヲ決定シタリ蓋シ現行商法ハ僞造變造ノ手形タル情ヲ知リテ之ヲ取得シタル者卽チ惡意ノ取得者ノミヲ揭クト雖モ僞造變造ノ手形タル情ヲ知ラスシテ之ヲ取得シタルモ之ヲ知ラサリシハ其重大ナル過失ニ因ル場合ニハ惡意ノ取得者ト同一視スルコト至當ナリ又現行商法ニ於テハ僞造變造ニ付テノ異議ヲ起スコトヲ得ル旨ノミヲ規定シ其起シタル異議ノ效果ヲ決定セサルヲ以テ其異議ハ果シテ如何ナル效果ヲ生スルヤ疑ナキニアラス寧ロ直ニ僞造者又ハ變造者及ヒ惡意又ハ重大ナル過失ニ因リテ其手形ヲ取得シタル者ハ手形上ノ權利ヲ有セサルモノトスルニ如カス是レ本條第三項ノ如ク修正シタル所以ナリ
第四百三十五條
(理由)本條ハ現行商法第七百一條ノ規定ヲ修正シ其旨趣ヲ一層明瞭ナラシメタルニ過キス卽チ現行商法ニ於テハ單ニ無能力者ノ署名アルモ之カ爲メ其他ノ署名ノ效力ヲ妨ケサルコトヲ規定シタルカ故ニ若シ其無能力者カ爲替手形ニ因リテ生シタル債務ヲ取消シタルトキハ他ノ手形上ノ權利義務ニ及ホス影響ノ如何ニ付キ聊カ疑ヲ容ルルノ餘地ナキニアラス惟フニ現行商法ハ此場合ニモ尙ホ他ノ手形上ノ權利義務ニ影響ヲ及ホサストスルニアルヘシト雖モ明文ヲ以テ之ヲ決定スルコト相當ナリ是レ本案カ本條ノ如ク修正ヲ加ヘタル所以ナリ
第四百三十六條
(理由)本條ハ現行商法第七百六條及ヒ第七百七條ノ規定ニ該當スルモノナリ抑モ現行商法第七百六條ニ於テハ法律上ノ要件ト共ニ違法ノ事項ヲ揭ケタル手形ヲ無效ト爲シ又同第七百七條ニ於テハ手形上ノ重要ナラサル附記ハ法律上ノ要件ニ適スル手形ノ文言ノ效力ヲ妨クルコト無ク又爲替上ノ義務ヲ生セシムルコトナシト規定スト雖モ前者ニ付テハ違法ノ事項ヲ揭ケタルノ故ヲ以テ法律上ノ要件ヲ具備スル手形ヲ無效ト爲スノ理由ナシ或ハ之ヲ例解シテ一定ノ金額又ハ數額ヲ一定セル不特定物又ハ特定物ヲ給付スヘキ旨ヲ記載シタル場合ニ於テハ其手形ハ一定ノ金額ヲ記載シ法律上ノ要件ヲ具備スルモ尙ホ之ヲ無效トスルニアリト曰フト雖モ是レ一定ノ金額ヲ記載シタルモノニアラス卽チ一定ノ金額又ハ一定ノ物ヲ記載シタルモノニシテ法律上ノ要件ヲ欠缺シ當然無效タルヘキモノナリ又後者ニ付テハ手形上ノ重要ナル附記ト重要ナラサル附記トハ何ニ依リテ之ヲ區別スヘキカ到底其標準ヲ明確ニスルコトヲ得ス現行商法ノ規定ハ立法上ヨリ觀察スルトキハ此ノ如ク頗ル缺點アルノミナラス本案ノ如ク手形ニ記載スルコトヲ得ル事項ヲ各本條中ニ悉ク列擧シ且其手形上ノ效力ヲ定ムル以上ハ本編ニ規定ナキ事項ハ之ヲ手形ニ記載スルモ手形上ノ效力ヲ生セス從テ本編ノ規定ニ從ヒ記載シタル事項ノ效力ヲ妨ケサルモノトスルコト至當ナリ是レ本案カ本條ノ如ク修正シタル所以ナリ但本編ニ規定ナキ事項ヲ手形ニ記載シタルトキハ全然何等ノ效力ナキモノニアラス唯タ本法ニ從ヒ手形上ノ效力ヲ生セサルニ止マリ民法及ヒ本法中他ノ規定ニ依ル效力ヲ有スルヤ勿論ニシテ之カ爲メ本條ハ特ニ「手形上ノ效力」云云ト曰ヒ以テ其意ヲ致シタリ
其他現行商法第七百六條ニ於テハ法律上ノ要件ヲ揭ケサル手形ハ無效ナルコトヲ規定スト雖モ素ヨリ當然言フヲ俟タサル所ナルヲ以テ本案ハ之ヲ削除シタリ又同條ハ手形ノ文言カ互ニ牴觸スル場合ヲ二ニ分チ其牴觸ヲ法律ノ許セル方法ヲ以テ取除クコトヲ得ルトキハ手形ヲ有效トスルモ然ラサレハ之ヲ無效ト爲ス旨ヲ規定スト雖モ前者ハ當然言フヲ俟タサル所ニシテ後者ニ付テハ互ニ牴觸セル文言中其一方ニ重キヲ措キ他方ヲ無效トスヘキカ將タ又何レモ軒輊スル所ナシトシテ互ニ牴觸セル文言ヲ無效トシ若シ其文言カ手形ニ記載スルコトヲ要スル事項ナルトキハ手形ヲモ無效トシ若シ必スシモ手形ニ記載スルコトヲ要セサル事項ナルトキハ手形ヲ有效トシ唯タ其文言ノミヲ無效トスヘキカ全ク各場合ニ付キ決定スヘキ事實上ノ問題ナルヲ以テ法典中ニ之ヲ揭クルヲ要セス故ニ本案ハ亦此規定ヲモ削除シタリ
第四百三十七條
(理由)本條ハ現行商法カ明文ヲ以テ規定セサル所ナリト雖モ本案ニ於テハ手形上ノ權利義務ヲ以テ私法上普通ノ法律關係ニ對シテ特別ノ位地ヲ有セシメ手形債務者カ手形上ノ請求ヲ爲ス者ニ對抗スルコトヲ得ヘキ事由ノ如キハ本編之ヲ揭ケ盡シテ亦餘蘊ナシ故ニ本編ニ規定ナキ事由ヲ以テ手形上ノ請求ヲ爲ス者ニ對抗スルコトヲ得セシムルノ必要ナカルヘシ況ンヤ債務者カ手形上ノ請求ヲ爲スモノニ對抗スルコトヲ得ヘキ事由ヲ制限シ本編ニ規定シタルモノニ止マラシムルコトハ手形上ノ權利ヲ安全ナラシメ其流通ヲ容易ニスルコト尟少ナラサルニ於テオヤ然レトモ是レ手形上ノ請求ヲ爲ス者ニアラサル者ト債務者トノ間ニ生シタル事由換言スレハ手形上ノ請求ヲ爲ス者ニ關係ナキ事由ニ限リ手形上ノ請求ヲ爲ス者ト債務者トノ間ニ生シタル事由ニ至リテハ假令本編ニ規定ナキモ尙ホ之ヲ主張スルコトヲ得セシムルハ極メテ正當ナリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第四百三十八條
(理由)本條ハ現行商法第七百十條ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法ハ手形ノ占有者ノ方面ヨリ觀察立言シタリト雖モ一方ニ於テハ但書卽チ占有ノ原因消滅シタル場合ヲ例外ト爲スノ必要ヲ生シ他方ニ於テハ法文ノ體裁上頗ル不可ナルモノアルヲ以テ本案ハ返還請求者ヨリ觀察立言シ手形ノ取得者ニ對シテ其手形ノ返還ヲ請求スルコトヲ得サル場合ヲ示シ且現行商法ノ但書ヲ削除シタリ又現行商法カ「正當ナル方法ニ因リ」云々ノ九字ヲ加ヘタルハ手形上ノ權利ヲ取得スヘキ性質ノ法律行爲ニ因リテ手形ヲ取得シタル場合卽チ所謂正權原ニ基クコトヲ必要トスルニアルヘシト雖モ是レ當然「取得シ」云々ノ語ニ包含シ別ニ明言ヲ要セス唯タ現行商法ハ「手形ノ占有者ニシテ之ヲ取得シタル者」云々ト曰ヒ其取得ハ恰カモ占有ノ取得ヲ指スカ如キ觀アリシヲ以テ「正當ノ方法ニ依リ」ノ九字ヲ加ヘ單ニ占有ノ取得ノミヲ指スニアラサルコトヲ示サントシタリシノミ故ニ本案ハ之ヲ削除シタリ又本案ニ所謂「惡意又ハ重大ノ過失ナクシテ」云々ハ現行商法ノ「甚タシキ怠慢ニ出テスシテ」云々ヲ裏面ヨリ換言シ他ノ法條ノ用語ト一致セシメタルニ止マリ現行商法ノ如ク代金ノ返還ヲ請求スルコトヲ得サル旨ヲ明言セサルハ當然言フヲ俟タサル所ト爲スカ爲メナリ從テ其意義ニ於テハ別ニ異ナル所ナシ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第四百三十九條
(理由)本條ハ現行商法第七百九十一條乃至第七百九十三條及ヒ第七百九十六條ノ規定ニ該當ス現行商法ハ第一編第十二章第一節第九款中ニ於テ拒絕證書作成ニ關スル規定トシテ本條ニ該當スル規定ヲ揭ケ第七百九十六條ニ依リ之ヲ引受又ハ支拂ノ爲メニスル呈示、爲替手形數通ノ要求、其他手形ニ關スル規定ニ從ヒ或人ノ方ニテ爲スヘキ行爲ニモ之ヲ適用シタリト雖モ體裁ノ宜シキヲ得タルモノニアラサルノミナラス總則ヲ設ケタルノ旨趣ニ徵スルトキハ之ヲ總則中ニ加フルコト卽チ至當ナルヲ以テ本案ハ之ヲ改メタリ又現行商法第七百九十六條ニ於テハ「本章ノ規定ニ從ヒ或人ノ方ニテ爲スヘキ行爲」云々ト曰フト雖モ甚タ漠然ニ失スルノ觀アルヲ以テ本案ハ手形上ノ權利ノ行使又ハ保全ニ付キ利害關係人ニ對シテ爲スヘキ行爲ト改メタリ而シテ斯ク修正スル以上ハ手形ノ複本ヲ要求スル行爲ハ當然其中ニ包含スヘキヲ以テ本案ハ現行商法第七百九十六條ノ如ク別ニ之ヲ明言セス又現行商法第七百九十一條第一項ニ於テハ營業所ナキトキハ住居ニ於テスヘキモノト爲スト雖モ法典一般ノ文例トシテ住所又ハ居所ナル語ヲ用ヰ住居ナル語ヲ用ヰルカ故ニ本案ハ營業所ナキトキハ住所又ハ居所ニ於テ之ヲ爲スヘキモノト改メタリ又現行商法第七百九十一條第一項但書ニ於テハ其者ノ不在ナルトキ又ハ臨席ヲ肯セス若クハ來入ヲ拒ムトキト雖モ亦營業所、住所又ハ居所ニ於テスヘキコトヲ明言シタルモ當然言フヲ俟タサル所ナルヲ以テ本案ハ之ヲ削除シタリ又現行商法第七百九十一條第二項ニ於テハ已ムコトヲ得サル場合ニハ裁判所又ハ公證人役場ニ於テスヘキモノト爲シ同第七百九十二條ニ於テハ營業、住所又ハ居所知レサルトキハ其問合ヲ爲シタル官署內ニ於テスヘキモノト爲スト雖モ實際上營業所、住所又ハ居所ノ知レサル場合ヲ除クノ外營業所、住所及ヒ居所ニアラサル場所ニ於テスルノ已ムヲ得サル場合ナカルヘク且官署ニ問合ヲ爲スモ尙ホ營業所、住所又ハ居所ノ知レサル場合ニハ其問合ヲ爲シタル官署內ニ於テセシムルノ必要ナク卽チ該當公證人又ハ執達吏ノ役場ニ於テスルコトヲ得セシメ毫モ不可ナカル可シ是レ本案カ現行商法ノ規定ニ修正ヲ加ヘ本條ヲ設ケタル所以ナリ
第四百四十條
(理由)本條ノ前段ハ現行商法第七百十二條第一項前段ノ規定ニ該當シ唯タ其字句ニ修正ヲ加ヘタルニ過キス
又本條ノ後段ハ現行商法第七百十二條第一項後段ニ該當シ時效ノ期間及ヒ其起算點ヲ修正シタリ卽チ現行商法ニ於テハ償還請求權モ亦引受人ニ對スル債權ト同シク時效ノ期間ヲ三年ト爲スト雖モ引受人ニ對スル債權ト償還請求權トハ性質上異ナル所アリ從テ二者時效ノ期間ヲ同フスルハ正當ニアラス故ニ本案ハ償還請求權ノ時效期間ヲ六ケ月ニ短縮セリ又現行商法ニ於テハ償還請求ノ通知ヲ爲シタル日ヨリ時效期間ヲ起算スト雖モ所持人カ償還請求權ヲ行フコトヲ得ヘキハ請求ノ通知ヲ爲シタル日ニアラスシテ拒絕證書作成ノ日ナリ從テ此場合ニハ拒絕證書作成ノ日ヨリ時效期間ヲ起算スルコト正當ナリ之ニ反シテ裏書人ハ所持人ヨリ其請求ヲ受ケ償還ヲ爲スニアラサレハ振出人其他ノ前者ニ對シ償還請求ヲ爲スコトヲ得ス從テ此場合ニハ償還ヲ爲シタル日ヨリ時效期間ヲ起算スルコト正當ナリ故ニ本案ハ此起算點ニ關シ現行商法ノ規定ヲ修正シタリ
其他現行商法第七百十二條第二項ノ規定アリト雖モ時效ニ關スル民法ノ規定ニ從フヲ以テ足レリトス故ニ本案ハ之ヲ削除シタリ
第四百四十一條
(理由)本條ハ現行商法第七百十四條ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ手形法ハ嚴格ナル手續ヲ定メ短期ノ時效ヲ設クルヲ以テ若シ其手續ノ欠缺スルカ又ハ時效期間ヲ經過スルニ於テハ所持人ハ手形ヨリ生シタル債權ヲ失フヘシ是レ手形ノ效力ヲ明確ナラシメ其流通ヲ容易ナラシムルカ爲メ必要ナリト雖モ或場合ニ於テハ所持人ニ對シテ苛酷ニ失スルコトアルヲ免レヌ故ニ各國立法例槪ネ本條ニ關スル規定ヲ設ケ聊カ手形法規ノ嚴格ヲ融和シタリ本條モ亦之ニ倣ヒタルニ外ナラス而シテ現行商法ハ爲替資金ニ關スル規定ヲ揭クルヲ以テ爲替資金ニ因リテ受ケタル利益ノ制限ニ於テノミ償還ヲ請求スル權利ヲ認ムト雖モ本案ハ所謂爲替資金ヲ以テ民法上ノ事項ト爲シ之ヲ手形法中ニ揭ケサルヲ以テ償還ノ範圍ヲ定ムヘキ利益ハ爲替資金ニ因リテ受ケタルモノニ限ルノ必要ナシ又所持人ハ引受ヲ爲サゝル支拂人ニ對シテ何等ノ權利ヲモ有セストスルハ本案ノ主義ナルヲ以テ本條ノ場合ニ於テモ亦引受ヲ爲シタル支拂人卽チ引受人ニ對スルニアラサレハ償還ヲ請求スルコトヲ得サルヤ勿論ナリ又裏書人カ其權利ヲ得ルニ當リテハ相當ノ反對給付ヲ爲スコト通例ナルニモ拘ハラス之ヲ措テ現行商法ノ如ク裏書人ノ受ケタル利益ノ限度ニ於テ償還ヲ請求スルコトヲ得セシムルハ不當ナリ又「法律ニ規定シタル行爲ヲ怠リ」云々ト曰フコト現行商法ノ如クナルニ於テハ法律ニ定メタル手續ヲ欠缺シタルハ所持人ノ懈怠ニ出テサリシコトヲ證明シテ手形上ノ債權ヲ保存スルコトヲ得ルカ如ク解セラルルノ恐アリト雖モ所持人ニ懈怠ノ有無ヲ問ハサルコト立法上正當ニシテ現行商法ノ眞意モ亦之ニ外ナラサルヘシ又手形カ盜取セラレ又ハ紛失シ若クハ滅失シタル場合ニモ亦本條ニ依ルヘキコト當然言フヲ俟タサル所ニシテ現行商法ノ如ク之ヲ明言スルハ却テ無用ニ屬ス以上列擧スル所ハ卽チ本案カ現行商法ノ規定ニ修正ヲ加ヘタル所以ナリトス
第二章 爲替手形
本章ハ現行商法第一編第十二章第一節ニ該當シ爲替手形ニ關スル規定ヲ揭ク而シテ現行商法ニ於テハ第一編第十二章第一節ヲ分テ十一款ト爲シ第一款ニ振出第二款ニ裏書第三款ニ引受第四款ニ榮譽引受第五款ニ保證第六款ニ支拂第七款ニ榮譽支拂第八款ニ償還請求第九款ニ拒證書作成第十款ニ戾爲替手形第十一款ニ資金ヲ規定スト雖モ本案ハ本章ヲ分テ十節ト爲シ第一節ニ振出第二節ニ裏書第三節ニ引受第四節ニ擔保ノ請求第五節ニ支拂第六節ニ償還ノ請求第七節ニ保證第八節ニ參加第九節ニ拒絕證書第十節ニ爲替手形ノ複本及ヒ謄本ヲ規定シタリ抑モ現行商法第一編第十二章第一節第三款ニ於テハ引受ト題スル一款中ニ於テ引受ニ關スル規定ト共ニ引受拒絕ノ結果タル擔保ノ請求ニ關スル規定ヲモ揭ケタリト雖モ是レ款ヲ分テ支拂拒絕ノ結果タル償還ノ請求ト支拂トヲ規定シタル現行商法第一編第十二章第一節第六款及ヒ第八款ニ比シ其權衡ヲ得タルモノニアラサルナリ故ニ本案ニ於テハ引受拒絕ノ結果タル擔保ノ請求ニ關スル規定ヲ引受ノ一節中ヨリ除外シテ之ヲ獨立ノ一節ト爲シ其引受拒絕ノ結果トシテ引受ト密接ノ關係ヲ有スルコト恰モ支拂ト償還ノ請求トニ於ケルカ如クナルヲ以テ支拂ノ次ニ償還ノ請求ヲ規定スルト同シク引受ノ次ニ擔保ノ請求ヲ規定シタリ
又現行商法ニ於テハ振出、裏書、引受、榮譽引受等ノ次、支拂、榮譽支拂、償還ノ請求等ノ前ニ保證ニ關スル規定ヲ揭クト雖モ本案ニ於テハ振出、裏書、引受、擔保ノ請求、支拂、償還ノ請求、等ノ次、參加ノ前ニ保證ニ關スル規定ヲ揭クルヲ以テ配列ノ宜シキヲ得タルモノト認メ其順序ヲ變更シタリ是レ一方ニ於テハ振出、裏書、引受、支拂等ニ付テモ保證ニ關スル規定ノ適用アリ從テ引受ニ關スル規定ト支拂ニ關スル規定トノ間ニ保證ヲ規定スルノ理由ナク他方ニ於テハ保證モ參加モ爲替手形ニ通常存セサル事項ナリト雖モ其適用ノ範圍ニ至リテハ參加ヨリモ寧ロ保證ヲ以テ廣シト爲ス從テ參加ノ前ニ保證ヲ規定スヘキ理由アルカ爲メニ外ナラス
又現行商法ニ於テハ本案ニ所謂參加引受卽チ榮譽引受ハ引受ノ次ニ又本案ニ所謂參加支拂卽チ榮譽支拂ハ支拂ノ次ニ之ヲ規定スト雖モ引受人又ハ支拂人ニ非サル者カ引受又ハ支拂ニ干與スルコト及ヒ引受又ハ支拂ノ如ク爲替手形ニ通例存スヘキ事項ニ非スシテ其存スルハ却テ特別ノ狀態ナルコトニ至リテハ榮譽引受及ヒ榮譽支拂ノ二者酷タ相類似スルモノアリ且榮譽引受又ハ榮譽支拂ト稱シ振出人其他ノ者ノ榮譽ノ爲メニ引受又ハ支拂ヲ爲スモノトスルハ多數ノ場合ニ於ケル事實ニ適合スヘシト雖モ法理上正確ノ觀察ニアラス故ニ本案ハ一方ニ於テ榮譽引受又ハ榮譽支拂ノ文字ニ代ユルニ參加引受又ハ參加支拂ノ文字ヲ以テシ汎ク參加引受及ヒ參加支拂ヲ包含セシムルニハ參加ナル名稱ヲ以テシ他方ニ於テハ引受、支拂、保證等ノ次ニ第九節トシテ之ヲ規定シタリ
又本案第十節爲替手形ノ複本及ヒ謄本ニ付テハ現行商法中特ニ之ニ相當スヘキ一款ヲ缺キ唯タ第一編第十二章總則及ヒ同章第一節第六款中之ニ關スル規定ヲ存スルニ止マルト雖モ本案ニ於テハ別ニ一節ヲ設ケテ之ヲ規定スルノ適當ナルヲ認メ卽チ第十節トシテ之ヲ規定シタリ
又現行商法第一編第十二章第一節第十款ニ於テハ特ニ一款ヲ置キ戾爲替手形ヲ規定スト雖モ所謂戾爲替手形ノ振出ハ償還請求ノ一方法タルニ過キサルヲ以テ償還ノ請求ニ關スル規定中ニ之ヲ揭クルコト至當ナリ是レ本案カ戾爲替手形ニ關スル規定ノ爲メ別ニ一節ヲ設ケサリシ所以ナリ
又現行商法第一編第十二章第一節第十一款ハ資金ト題シテ所謂爲替資金ニ關スル規定ヲ揭クト雖モ本案ハ爲替資金義務者ト權利者トノ間ノ法律關係ヲ手形上ノ關係中ニ包含セシメサルヲ以テ適當ト認メ之ヲ削除シタリ
第一節 振出
(理由)本節ハ現行商法第一編第十二章第一節第一款ニ該當シ爲替手形ノ振出ニ關スル規定ヲ揭ク
第四百四十二條
(理由)本條ハ現行商法第七百十六條ノ規定ニ該當スルモノニシテ爲替手形ノ要件ヲ定ム現行商法ニ於テハ爲替手形ニハ左ノ諸件ヲ記載スルコトヲ要スト爲シ其第五號ニ「振出人ノ署名捺印」ヲ揭クト雖モ振出人ノ署名捺印ヲ以テ爲替手形ニ記載スルコトヲ要スル事項ノ一ト爲スハ法文ノ體裁ニ於テ不可ナルノミナラス他ノ規定ニ對シテ其權衡ヲ得タルモノニアラス殊ニ本案ニ於テハ一般ニ捺印ニ關スル制度ヲ廢止シタルカ故ニ本條ニ於テモ亦振出人ノ捺印ヲ削除スルト共ニ振出人ノ署名ヲ爲替手形ニ記載スルコトヲ要スル事項中ヨリ除外シ爲替手形ニハ本條第一號乃至第八號ノ事項ヲ記載シ振出人署名スルコトヲ要スト爲シタリ
本條第一號ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ唯タ明治二十六年改正前ノ舊商法ニ於テハ爲替手形ト引換ニテ支拂ヲ爲スヘキ旨ヲ記載スルコトヲ要スト爲シタル結果其爲替手形ナル文字ヲ記載スルコトヲ要スルモノト解セラレシノミ然レトモ爲替手形ナルコトヲ示スヘキ文字ヲ記載セシムルハ爲替手形ト其他ノ手形ト區別スル爲メ必要ナルノミナラス手形ト其他ノ證券トノ區別ヲ明瞭ナラシムル爲メニモ亦必要ナリ是レ本案カ新ニ本條第一號ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
本條第二號ニ「一定ノ金額」ト曰ヘルハ現行商法第七百十六條第二號ニ所謂「爲替金額」ニ該當シ而シテ「文辭ヲ以テ記載スヘシ」トノ同號但書ヲ削除シタルハ外國ニ於テハ文字ト數字トノ區別アリ從テ此規定ノ適用ヲ見ルモ我國ニ於テハ文字ト數字トノ區別ナク從テ規定ヲ適用スヘキ場合ナシ若シ强ヰテ之ヲ適用セントセハ其所謂文辭トハ壹貳參等多額ノ文字ヲ指スモノト解釋スルノ外ナシト雖モ此ノ如キハ到底實際ニ行ハルヘキ所ニアラサレハナリ又本案カ新ニ金額ノ上ニ「一定ノ」ノ三字ヲ加ヘタルハ現行商法第六百九十九條第一項ニ所謂「或金額」云々ノ趣旨ヲ採用シ一層之ヲ明瞭ナラシメタルモノニシテ金額ヲ一定セサルモノノ爲替手形ニアラサルコトヲ示サンカ爲メナリ
本條第三號ハ現行商法第七百十六條第三號ニ該當シ又本條第四號ハ現行商法第七百十六條第二號ノ一部ニ該當シ氏名ニ代ヘテ其商號ヲ記載スルコトヲ得セシメタルハ商號ハ商人カ自己ヲ表示スル爲メ用ユル名稱ナルカ爲メニ外ナラス其他現行商法第七百十六條第二號前段ニ於テハ受取人ノ氏名又ハ其指圖セラレタル人若クハ所持人ニ支拂フヘキ旨ヲ記載スルコトヲ要スト爲スト雖モ本案ハ其「指圖セラレタル人」云々ハ之ヲ削除シ「所持人」云云ハ之ヲ第四百四十六條ノ規定ニ讓リタリ蓋シ本案第四百五十二條ノ規定ニ依リテ手形ハ假令記名式ナルモ尙ホ當然指圖式證券ト同一ノ方法ニ從ヒ之ヲ輾轉スルコトヲ得ヘキヲ以テ前者ハ其必要ナク又本案第四百四十六條ノ規定ニ依リ無記名式ト爲スコトヲ得ル以上ハ受取人ノ氏名又ハ其商號ニ代ヘ單ニ所持人トスルコトヲ得ヘク從テ後者モ亦茲ニ規定スルノ必要ナキヲ以テナリ
本條第五號ハ現行商法第六百九十九條第二項及ヒ第七百十六條第四號ノ一部ヲ修正シタルモノニシテ「支拂ノ委託」ヲ記載スルコトニ依リテ約束手形ト區別シ「單純ナル」ノ四字ヲ冠セシメテ一方ニハ條件ヲ附スルコトヲ禁シ他方ニハ所持人ニ或義務ヲ負ハシムルコトヲ得サル旨ヲ明カニシタリ本條第六號ハ現行商法第七百十六條第一號ノ一部ニ該當シ又本條第七號及ヒ第八號ハ現行商法第七百十六條第四號後段ニ該當ス唯タ滿期日ノ上ニ「一定ノ」ノ三字ヲ加ヘタルハ本條第二號ト同一ノ旨趣ニ出テ滿期日ヲ一定セサルトキハ爲替手形タルノ效ナキコトヲ示シタルモノニシテ現行商法ノ眞意ヲ發揚シタルニ過キス
其他現行商法第七百十六條第一號ハ「振出ノ場所」ヲ爲替手形ニ記載スルコトヲ要スルモノト爲シ蓋シ振出ノ場所ヲ記載スルハ手形ノ效力殊ニ涉外的效力ヲ定ムル爲メ必要ナリト雖モ之ヲ記載セサル場合ニ於テ其他ノ要件ヲ具備シタル爲替手形ヲ無效ト爲スヘキ必要ナシ是レ本案カ之ヲ削除シタル所以ナリ
第四百四十三條
(理由)本條ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ抑モ外國ノ實際ニ於テハ爲替手形ニ金額ヲ記載スルニ當リテ文字ヲ以テスルノ外別ニ數字ヲ以テ之ヲ複記シ不正ノ改删ヲ防クコトハ古來ヨリ行ハルル所ニシテ或ハ法律ニ依リ或ハ慣習ニ依リ複記ヲ必要トシ而シテ文字ヲ以テ記載シタル金額ト數字ヲ以テ記載シタル金額ト相違スルトキハ前者ニ依リ文字ヲ以テ記載シタル金額互ニ相違シ又ハ數字ヲ以テ記載シタル金額互ニ相違スルトキハ其中最モ少キ額ニ依ルヘキモノト爲スヲ通例トス然ルニ我國ニ於テハ文字ト數字トノ別ナク從テ此ノ如キ例ヲ存セスト雖モ近來文字ヲ以テスル外略字又ハ亞剌比亞數字ヲ以テ金額ヲ複記スル者漸次增加セリ一方ニ於テハ旣ニ此ノ如キ慣例アリ他方ニ於テハ文字ヲ以テ金額ヲ複記スル者ナキニアラサルヲ以テ爲替手形ニ記載シタル金額ノ一致セサル場合ニ處スルノ方法ヲ明文ヲ以テ定ムルノ必要アリ是レ新ニ本條ヲ設ケテ爲替手形ニ記載シタル金額カ互ニ相違スルトキハ主タル部分ニ記載シタル金額ニ依ルヘキモノト爲シ而シテ何レヲ以テ主タル部分ト爲シ何レヲ以テ從タル部分ト爲スヘキカハ之ヲ事實上ノ認定ニ一任シタル所以ナリ
第四百四十四條
(理由)本條ハ現行商法第七百十七條ノ字句ヲ修正シタルニ過キス
第四百四十五條
(理由)本條ハ現行商法中ニ明文ヲ存セサル所ナリ蓋シ現行商法ノ如ク爲替手形ニ記載スルニ因リテ手形上ノ效力ヲ生スヘキ事項ヲ悉ク法典中ニ列擧セサルノ主義ヲ採ルトキハ本條ニ相當スル規定ナシト雖モ大ナル不都合ナシ之ニ反シテ本案第四百三十六條ノ如キ規定ヲ揭クルトキハ本條ノ規定ヲ設クルコト必要ナリ若シ之ヲ設ケサルトキハ假令爲替手形ニ豫備支拂人ノ記載アルモ其記載ハ手形上ノ效力ヲ生セサルニ至ルヘシ是レ本條ヲ設ケタル所以ナリ
第四百四十六條
(理由)本條ハ現行商法第七百十八條ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ無記名式ノ爲替手形ハ流通容易ニシテ極メテ便宜ナリト雖モ之ニ伴フテ諸種ノ弊害ナキニアラス故ニ全然無記名式ヲ許ササルノ不可ナルハ素ヨリ論ヲ俟タスト雖モ一定ノ金額以上ノ爲替手形ニ限リ無記名式ト爲スコトヲ許スハ正當ニシテ且必要ナリ現行商法ハ此金額ヲ定メテ二十五圓ト爲スト雖モ本案ハ今日ノ經濟社會ニ於テハ之ヲ三十圓ト爲スヲ認ム是レ本條ノ如ク修正シタル所以ナリ
第四百四十七條
(理由)本條ハ現行商法第七百十九條ノ字句ヲ修正シタルニ過キス
第四百四十八條
(理由)本條モ亦現行商法第七百二十條ノ字句ヲ修正シタルニ過キス
第四百四十九條
(理由)本條ハ現行商法中ニ明文ヲ存セサル所ナリ抑モ現行商法第八百十三條ノ如ク約束手形ニ若シ支拂地ヲ記載セサルトキハ當然振出ノ場所ニ於テ其支拂ヲ爲スヘク之レカ爲メニ手形ヲ無效ト爲ササル以上ハ爲替手形ニ付テモ亦支拂地ヲ記載セサルトキハ當然支拂人ノ住所地ニ於テ其支拂ヲ爲スヘク之カ爲メ手形ヲ無效トセサルコト至當ナリ然ルニ現行商法第七百十六條第四號ニ於テハ爲替手形ニ支拂地ヲ記載スルコトヲ要シ若シ之ヲ記載セサルトキハ其手形ハ手形タルノ效力ナキモノトスルハ啻ニ權衡ヲ失スルノミナラス實際上極メテ不便ナリ是レ本案カ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ其他現行商法第七百二十一條前段ニ於テハ振出人ハ支拂人ノ住所地又ハ其他ノ地ヲ支拂地トシテ爲替手形ニ記載スルコトヲ得ル旨ヲ定ムト雖モ別ニ制限ヲ設ケサル以上ハ何レノ地ヲ支拂地トシテ記載スルモ妨ケナキハ素ヨリ言フヲ俟タサル所ナルヲ以テ本案ハ之ヲ削除シタリ
第四百五十條
(理由)本條ハ現行商法第七百二十一條後段ノ一部ニ該當スルモノナリ現行商法ニ於テハ本案ニ所謂支拂擔當者ヲ他所拂人ト稱スト雖モ本案ハ支拂擔當者ト稱スルヲ以テ適切ナリト認メ之ヲ改メタリ其他ハ字句ノ修正ニ過キス
第四百五十一條
(理由)本條ハ現行商法中ニ明文ヲ存セサル所ナリ蓋シ現行商法ニ於テハ本案第四百三十六條ニ該當スル規定ナキヲ以テ本條ニ該當スル規定ナシト雖モ實際上格別ノ不便ナキヲ得タリ然ルニ本案ハ旣ニ第四百三十六條ノ規定ヲ設ケタルヲ以テ若シ本條ノ規定ナキトキハ假令振出人カ支拂地ニ於ケル支拂ノ場所ヲ爲替手形ニ記載スルモ其記載ハ手形上ノ效力ヲ生セサルヘシ然ルニ實際上支拂ノ場所ヲ記載スルノ必要ハ屢々見ル所ニシテ之ニ手形上ノ效力ヲ認メサルトキハ極メテ不便ナリトス是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第二節 裏書
(理由)本節ハ現行商法第一編第十二章第一節第二款ニ該當シ裏書ニ關スル規定ヲ揭ク現行商法第七百二十四條ニ於テハ裏書ニハ其日ヨリ前ノ日附ヲ爲スコトヲ禁シ之ニ違フトキハ僞造變造ノ刑ニ處スト雖モ旣ニ裏書人ノ署名ノミヲ以テ爲ス裏書ヲ有效トスル以上ハ此規定ノ適用ヲ免カルルコト極メテ容易ニシテ實際上ニ於テハ却テ此禁ヲ解クノ必要アルノミナラス假令此規定ヲ必要ナリトスルモ宜シク刑法中ニ揭クヘキモノナルカ故ニ本案ハ之ヲ削除シタリ
又現行商法第七百二十七條ニ於テハ支拂ノ爲メニスル呈示及ヒ拒絕證書ノ作成ヲ事情ニ因リテ正當ノ時期內ニ爲スコトヲ得サル爲替手形ノ裏書讓渡ハ滿期後ノ裏書讓渡ニ同シキ旨ヲ規定シ卽チ被裏書人ハ裏書人ノ權利ノミヲ取得シ且裏書人ハ被裏書人又ハ其他ノ後者ニ對シテ手形上ノ償還義務ナキモノト爲スト雖モ本案ハ第四百五十九條ニ於テ此ノ如キ效力ヲ生スル裏書讓渡ハ支拂拒絕證書作成ノ期間ヲ經過シタル後ニ爲シタル裏書ノミニ限リタルヲ以テ此現行商法ノ規定ヲ必要トセス故ニ之ヲ削除シタリ
第四百五十二條
(理由)本條ハ現行商法第七百二十二條ニ該當ス現行商法ハ「受取人及ヒ其後ノ各所持人」ト曰ヒ爲替手形ニ受取人トシテ其氏名又ハ商號ヲ記載シタル者ト其他ノ所持人トヲ區別シタリト雖モ本案ハ單ニ「所持人」ナル語ヲ以テ之ヲ包含セシメ又現行商法ハ「轉付」ト曰フト雖モ新民法及ヒ本案ノ用例ニ依リテ之ヲ「讓渡」ト改メ又現行商法ハ「若シ其手形ニ反對ヲ明記セサルトキ」ト曰フト雖モ何人カ此明記ヲ爲スコトヲ得ルヤ疑アルヲ以テ本案ハ但書ニ於テ之ヲ明カニシタリ其他現行商法ニ於テハ第七百二十五條ノ規定ニ依リ以テ間接ニ無記名式ノ手形ハ引渡ノミニ依リテ之ヲ讓渡スコトヲ得ルコトヲ明カニスト雖モ第七百二十二條ノ規定ノミニ依レハ無記名式ノ手形モ亦裏書ニ依リ讓渡スヘキモノナルカヲ疑ハシム故ニ本案ハ新ニ「爲替手形ハ其記名式ナルトキト雖モ」ノ數字ヲ加ヘ無記名式ノ手形ニハ本條ヲ適用セサルコトヲ示シ他方ニ於テハ指圖式ノ手形ハ勿論記名式ノ手形ニモ亦本條ヲ適用スヘキコトヲ明カニシタリ
第四百五十三條
(理由)本條ハ現行商法中ニ明文ヲ存セサル所ナリ抑モ本案第四百四十四條並ニ之ニ該當スル現行商法第七百十七條ノ規定ニ依レハ振出人ハ自己ヲ受取人ト定メ裏書ニ依リテ之ヲ讓渡スコトヲ得ヘシ然ラハ振出人カ裏書ニ依リテ爲替手形ヲ讓受ケタル場合ニ於テモ亦裏書ニ依リテ之ヲ讓渡スコトヲ得セシムルコト至當ナリ若シ前者ヲ許シ後者ヲ許ササランカ其權衡ヲ失スルハ勿論實際上不便タルヲ免カレス又引受人カ裏書ニ依リテ爲替手形ヲ讓受ケタルトキト雖モ亦振出人カ爲替手形ヲ讓受ケタル場合ト同シク更ニ裏書ニ依リテ之ヲ讓渡スコトヲ得セシムルハ便宜且正當ナリトス其他一旦裏書ニ依リテ爲替手形ヲ讓渡シタル裏書人ハ再ヒ裏書ニ依リテ其手形ヲ讓受クルヲ得ルコトハ素ヨリ當然言フヲ俟タサル所ニシテ更ニ裏書ニ依リテ其手形ヲ讓渡スヲ得セシムルノ正當且必要ナルコトモ亦勿論ナリトス或ハ此等ハ法律ニ明文ナシト雖モ當然爲スコトヲ得ルモノナリト論スル者ナキアラスト雖モ混同ニ關スル民法ノ規定ヲ適用スルトキハ其間多少疑ヲ容ルルノ餘地アルカ故ニ寧ロ明文ヲ以テ之ヲ定ムルヲ可トス是レ本條ノ規定アル所以ナリ
第四百五十四條
(理由)本條第一項ハ現行商法第七百二十三條前段ノ規定ヲ修正シタルモノナリ抑モ現行商法第七百四條第二項ニ於テハ所持人カ手形ノ謄本ヲ作ルコトヲ得ル旨ヲ定ムト雖モ其謄本ニ爲シタル裏書ノ效力ヲ定メス殊ニ補箋ニ至リテハ之ニ爲シタル裏書ノ效力ヲ定メサルノミナラス全ク之ニ關スル規定ヲ設ケサルヲ以テ之ヲ許スヤ否ヤモ疑アリ故ニ本案ハ「爲替手形、其謄本又ハ補箋」云々ト曰ヒ爲替手形ノ謄本又ハ補箋ニ爲シタル裏書ハ爲替手形ニ爲シタル裏書ト同一ノ效力ヲ有スル旨ヲ示シタリ又現行商法ハ「裏書讓渡人」又ハ「裏書讓受人」ト稱スト雖モ此語ハ讓渡ノ爲メニスル裏書ニ適スルニ止マリ質入又ハ取立ノ代理委任ノ爲メニスル裏書ニ不適當ナリ而シテ本條第一項ノ規定ハ此等ノ裏書ニモ適用スルコト必要ナルヲ以テ本案ハ「裏書人」又ハ「被裏書人」ト改メ「讓渡」ノ二字ヲ加フルコトヲ避ケタリ又現行商法ハ單ニ「裏書讓受人ノ氏名」ト曰フヲ以テ裏書ニ被裏書人ノ商號ヲ記載スルコトヲ得サルノ觀アリ蓋シ之ヲ精密ニ論スルトキハ氏名ノ中ニ商號ヲ包含スルモノト解シ得ラレサルニアラサルハ尙ホ現行商法第七百十七條ト同一ナリト雖モ到底疑惑ノ種子タルヲ免カレサルヲ以テ本案ハ「氏名」ノ外ニ「又ハ商號」ノ四字ヲ加ヘタリ又現行商法ハ裏書ノ場所ヲ記載スルコトヲ要スト爲スモ之ヲ裏書ノ要件ト爲スノ理由ナキヲ以テ本案ハ之ヲ削除シタリ其他現行商法ノ規定ハ各法條ト文例ノ一致ヲ缺クヲ以テ本案ハ一般ノ文例ニ倣ヒテ字句及ヒ順序ヲ改メタリ是レ本條第一項ノ如ク修正シタル所以ナリ本條第二項ハ現行商法第七百二十三條後段及ヒ第七百二十五條ノ一部ヲ併合シテ一項ト爲シタルモノニシテ體裁及ヒ字句ノ修正アルノ外其意義ニ至リテハ別ニ變更ナシ故ニ茲ニ說明セス
第四百五十五條
(理由)本條ハ現行商法中ニ明文ナキ所ナリト雖モ本案第四百三十六條ヲ設ケタル結果トシテ本條ヲ規定スルノ必要ヲ生シタルハ旣ニ本案第四百四十五條ニ付キ說明シタル所ト同一ナルカ故ニ茲ニ說明ヲ要セス
第四百五十六條
(理由)本條モ亦現行商法中ニ規定セサル所ナリト雖モ裏書人カ裏書ヲ爲スニ當タリテ手形上ノ責任ヲ負ハサル旨ヲ附記スルコトヲ得セシメ其效力ヲ認ムルハ實際上必要ナリトス是レ本案カ二三ノ外國立法例ニ倣ヒ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第四百五十七條
(理由)本條ハ現行商法第七百三十三條ノ規定ヲ修正シタルモノナリ抑モ現行商法ノ規定ニ依レハ爾後裏書ヲ禁スル旨ヲ附記シテ爲シタル裏書カ法律上ノ效力ヲ有スル旨ヲ示シタルモノナルヤ將タ又爾後裏書ヲ禁スル旨ヲ附記シテ爲シタル裏書ニ依リ爲替手形ヲ讓受ケタル者又ハ其後ノ所持人カ法律上有效ニ裏書ヲ爲スコトヲ得ル旨ヲ示シタルモノナルヤ疑ヲ容ルルノ餘地アリ而シテ若シ前ノ見解ニ從ハハ被裏書人ハ裏書禁止ノ附記アルカ爲メ更ニ裏書ヲ爲スコトヲ得サルヤ否ヤノ問題ヲ生ス故ニ本案ハ此等ノ疑問ヲ杜絕スル爲メ第四百五十二條但書ニ依リ間接ニ裏書人カ爾後裏書ヲ禁スル旨ヲ附記スルモ被裏書人ハ更ニ裏書ヲ爲シ得ヘキコトヲ示シ本條ニ於テ一層之ヲ明確ニセリ而シテ此場合ニ於テ裏書人ノ禁止ニ反シ被裏書人及ヒ其他ノ者カ更ニ裏書ヲ爲シタルトキハ其裏書ニ依リ其手形ヲ讓受ケタル者カ裏書ヲ禁止シタル前者ニ對シテ手形上ノ權利ヲ有セサルコト素ヨリ當然ナリト雖モ被裏書人ヨリ直接前者タル當該裏書人ニ對シテハ手形上ノ權利ヲ有セサル理由ナシ然ルニ現行商法第七百三十三條但書ハ恰カモ裏書人ハ被裏書人ノ後者ノミナラス被裏書人ニ對シテモ手形上ノ責任ヲ負ハサルカ如キ規定ヲ設ケタルヲ以テ本案ハ之ヲ修正シタリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリトス
第四百五十八條
(理由)本條ハ現行商法中ニ明文ヲ存セサル所ナリ抑モ裏書ハ裏書人ノ署名ノミヲ以テ之ヲ爲スコトヲ得ヘク此場合ニ於テハ爾後其爲替手形ハ引渡ノミニ依リテ之ヲ讓渡スコトヲ得ルコト尙ホ無記名式ノ爲替手形ノ如ク從テ甚タ便利ナリト雖モ所持人ニ盜難、紛失等ノ危險ナキニアラス從テ所持人カ裏書ニ自己ノ氏名ヲ記載シ裏書ニ依ルニアラサレハ之ヲ讓渡スコトヲ得サルモノトスルノ必要アリ然ルニ裏書ハ所持人自ラ之ヲ爲シタルモノニアラサルヲ以テ之ニ自己ノ氏名ヲ記載シ自己ヲ以テ被裏書人ト爲スハ法律ニ特別ノ規定ナキ限リハ之ヲ爲スコトヲ得サルヘシ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第四百五十九條
(理由)本條ハ現行商法第七百二十八條ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法ニ於テハ「滿期後ノ爲替手形ノ裏書讓渡」云々ト曰ヒ滿期日以後ニ爲シタル裏書ハ其旣ニ支拂拒絕證書作成ノ期間ヲ經過シタル後ナルト否トヲ問ハス悉ク同條ヲ適用スト雖モ未タ支拂拒絕證書作成ノ期間ヲ經過セサル前ナルトキハ被裏書人ハ其期間內ニ支拂拒絕證書ヲ作成シテ振出人及ヒ其後者ニ對スル手形上ノ權利ヲ保存スルコトヲ得ヘキコト滿期日以前ノ裏書ト異ナル所ナキカ故ニ之ヲ支拂拒絕證書作成ノ期間經過後ノ裏書ト同一視スルハ不當ト謂ハサルヘカラス是レ本案カ「支拂拒絕證書作成ノ期間經過ノ後所持人カ裏書ヲ爲シタルトキ」云々ト改メタル所以ナリ又現行商法ハ「裏書讓渡人ノ權利及ヒ義務ノミヲ裏書讓受人ニ轉付スルモノトス」ト曰フト雖モ所持人ハ前者又ハ引受人等ニ對シテ權利ヲ有スレトモ義務ヲ負フコトナシ從テ裏書人ノ義務ヲモ被裏書人ニ移轉スル場合アルコトナシ現行商法カ義務ヲモ移轉スルカ如ク規定シタルハ其何タルヲ解スルニ苦シム故ニ本案ハ「被裏書人ハ裏書人ノ有セシ權利ノミヲ取得ス」ト改メタリ又此場合ニ於テ被裏書人ニ對スル裏書人ノ責任如何ニ付キ現行商法第七百二十八條後段ハ冗長ナル規定ヲ設クト雖モ要スルニ手形上ノ責任ヲ負ハサルニアルヲ以テ本案ハ直チニ之ヲ明言シタリ是レ本條ノ如ク規定シタル所以ナリトス
其他現行商法第七百二十六條前段ハ本條ノ規定アル以上ハ當然言フヲ俟タサル所ナルヲ以テ本案ハ之ヲ削除シタリ
第四百六十條
(理由)本條ハ現行商法第七百二十六條後段及ヒ第七百二十九條乃至第七百三十一條ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法ハ「代理若クハ擔保ノ爲メ裏書讓渡ヲ爲スコトヲ得」ト曰フト雖モ代理若クハ擔保ナル語ハ頗ル廣漠ニ失スルヲ以テ本條ハ爲替手形ノ質入ヲ爲シ又ハ其取立ノ代理ヲ委任スル爲メ裏書ヲ爲スコトヲ得ル旨ヲ明カニシタリ又現行商法ハ裏書ノ目的ヲ記載セサル場合ニ於ケル裏書ノ效力ヲ規定シ以テ間接ニ裏書ノ目的ヲ附記スルコトヲ要スル旨ヲ示スト雖モ是レ本末ヲ誤リタルモノニシテ裏書ノ目的ヲ附記スルコトヲ要スル以上ハ之ヲ附記セサル裏書ハ通常ノ裏書ト看做スヘク從テ第三者ニ對シテハ讓渡ノ效力ヲ生スルコト勿論ナルカ故ニ本案ハ單ニ裏書ノ目的ヲ附記スルコトヲ要スル旨ヲ示スニ止メタリ又現行商法ハ此場合ニ於テ被裏書人カ裏書人ト同一ノ權利義務ヲ行フ旨ヲ記載スト雖モ是レ代理及ヒ委任又ハ質ニ關スル規定ニ依リテ定ムヘク本條ニ之ヲ規定スルコトヲ要セス其他被裏書人カ讓渡ノ爲メニスル裏書ヲ爲スコトヲ得ルヤ否ヤモ亦同一ナリトス唯タ疑ノ存スルハ被裏書人ハ同一ノ目的ヲ以テ更ニ裏書ヲ爲スコトヲ得ルヤ否ヤニ在リ現行商法ニ於テハ之ニ關シ明文ヲ存セスト雖モ取立ノ代理ノ委任ヲ受ケタル被裏書人ニ更ニ裏書ヲ爲シテ取立ノ代理ヲ委任スルコトヲ得セシメ質權ヲ得タル被裏書人ニ更ニ裏書ヲ爲シテ其手形ヲ質入スルコトヲ得セシムルコト實際上必要ニシテ且弊害ナキヲ以テ本案ハ之ヲ許シタリ是レ本條ヲ設ケタル所以ナリ
第四百六十一條
(理由)本條ハ現行商法第七百三十二條ノ規定ニ該當ス卽チ現行商法ハ讓渡ノ爲メニスル裏書ニ付テノミ本條ヲ適用スルカ如ク規定シタリト雖モ手形ノ質入又ハ取立ノ代理委任ノ爲メニスル裏書ニ付テモ亦本條ヲ適用スル必要アルカ故ニ本案ハ現行商法ノ「讓渡」ナル文字ヲ削除シタリ又裏書人ノ署名ノミヲ以テ裏書ヲ爲シタルトキハ次ノ裏書人ニ於テ自己ヲ被裏書人トシテ記載スルニ非サレハ裏書ノ連續ヲ缺クニ至ルヘク從テ所持人ハ其權利ヲ行フコトヲ得サルカ如シト雖モ此場合ニ於テハ次ノ裏書人ヲ被裏書人トシテ記載セサルモ尙ホ其裏書ニ因リテ手形ヲ取得シタルモノト看做シ裏書カ連續スルト同一視スルコト正當ニシテ且便利ナリ然レトモ明文ナキ以上ハ當然此ノ如ク論決スルコト難キヲ以テ本案ハ新ニ此點ヲ規定シタリ是レ本條ノ如ク修正シタル所以ナリ
第三節 引受
(理由)本節ハ現行商法第一編第十二章第一節第三款ニ該當シ爲替手形ノ引受ニ關スル規定ヲ揭ク現行商法ニ於テハ引受ノ爲メニスル呈示及ヒ引受ノ方式、效力等ニ關スル規定ノ外第七百三十九條乃至第七百四十二條ニ於テ擔保ノ請求ニ關スル規定ヲ揭クト雖モ本案ハ凡テ之ヲ次節ニ讓リタリ
第四百六十二條
(理由)本條ハ現行商法第七百三十四條第一項前段ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ現行商法ニ於テモ本案ト同シク爲替手形ノ所持人ハ何時ニテモ支拂人ニ手形ヲ呈示シテ其引受ヲ求ムルコトヲ得ト爲スト雖モ其手形ニ別段ノ記載アルトキヲ以テ例外ト爲ス抑モ現行商法カ此例外ヲ認メタル所以ヲ案スルニ振出人カ支拂人ニ爲替資金ヲ供スルニハ多少ノ時日ヲ要シ爲替資金ヲ受取ラサル前ニ引受ヲ求メラレタル支拂人ハ引受ヲ拒絕スルコト通例ナルヲ以テ振出人ハ一定ノ時日ヲ定メ一方ニ於テハ其時日前ニ爲替資金ヲ支拂人ニ交付シ他方ニ於テハ其時日前ニ手形ヲ呈示シテ引受ヲ求ムルコトヲ禁シ引受ノ拒絕ノ爲メニ擔保ノ請求ヲ受クルコトナカラシムル實際上ノ必要ニ出テタルモノナルヘシ此理由タルヤ全然根據ナキニアラスト雖モ振出人カ定メタル期間內ハ手形ヲ呈示シテ引受ヲ求ムルコトヲ得サラシムルハ手形ノ流通上安全ヲ害スルノミナラス之カ爲メ却テ空手形ノ弊害ヲ增加スルモノアルヘシ故ニ本案ハ此例外ヲ削除スルト同時ニ現行商法ノ字句ヲ修正シテ本條ノ規定ヲ設ケタリ
其他現行商法第七百三十四條第一項後段ハ支拂人カ引受ヲ爲ササルトキハ拒證書ヲ作ルコトヲ得ル旨ヲ規定スト雖モ別段ノ規定ナキ限リハ所持人ハ何時ニテモ引受拒絕證書ヲ作成スルコトヲ得ヘク卽チ擔保ノ請求ヲ爲サント欲スルトキハ之ヲ作成スヘク擔保ノ請求ヲ爲スコトヲ欲セサルトキハ之ヲ作成スルヲ要セサルコト本案第四百七十一條以下ノ規定ニ徵シテ明瞭ナルヲ以テ本案ハ全ク之ヲ削除シタリ
第四百六十三條
(理由)本條ハ現行商法第七百三十五條第一項ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ一覽後定期拂ノ爲替手形ハ呈示アルニアラサレハ滿期日到來セス從テ時效ノ期間ハ決シテ其進行ヲ始ムルコトナシ此ノ如キハ前者ノ保護ヲ完フスル所以ニアラサルナリ之ヲ以テ各國法制皆此爲替手形ノ所持人ハ一定ノ期間內ニ於テ支拂人ニ手形ヲ呈示シテ其引受ヲ求ムルコトヲ要スルモノト爲シ現行商法亦之カ規定ヲ設クト雖モ其呈示期間ニ付テハ或ハ現行商法及ヒ獨逸爲替條例等ノ如ク日附後二年トスルモノアリ或ハ八月若クハ六月トスルモノアリ結局立法者カ各適當ト認ムル所ヲ標準トシテ之ヲ定ムルモノナレハ其一ニ歸セサルハ當然ナリト雖モ交通ノ便利日々ニ增進セル今日ニ於テ之ヲ二年トスルハ長キニ失スルノ感ナキ能ハス故ニ本案ハ之ヲ一年ニ短縮シ本案第一項ノ規定ヲ設ケタリ其他振出人ハ法定ノ期間ヨリ短キ呈示期間ヲ定ムルコトヲ得ヘク此場合ニ於テ所持人ハ其期間內ニ手形ヲ呈示シテ引受ヲ求ムルコトヲ要スルハ各國法制殊ニ現行商法ノ認ムル所ナルヲ以テ本案モ亦本條第一項但書ニ於テ之ヲ規定シタリ又所持人カ此呈示ヲ爲ササリシトキハ振出人及ヒ裏書人讓渡ニ對スル償還請求權ヲ失フコトハ現行商法ニ規定スル所ナレトモ本案ハ所持人カ此呈示ヲ爲ササル場合ノミナラス拒絕證書ニ依リ此呈示ヲ爲シタルコトヲ證明セサルトキモ亦此效果ヲ生セシメ又振出人及ヒ裏書讓渡人ヲ前者ナル名稱ノ下ニ總稱スルコト相當ナルノミナラス償還請求權ト曰フトキハ一方ニ於テハ本案第四百四十一條ニ依リ有スル償還請求權ヲモ包含スルニ至リ廣汎ニ失シ他方ニ於テハ所持人ノ前者ニ對スル手形上ノ權利ハ償還請求權ノ外擔保請求權アルニモ拘ハラス之ヲ除外スルニ至リ狹隘ニ過クルヲ以テ寧ロ手形上ノ權利ト稱スルノ適切明瞭ナルニ如カスト認メ此三點ヲ改メ同時ニ字句ヲ修正シテ本條第二項ノ規定ヲ設ケタリ
第四百六十四條
(理由)本條ハ現行商法第七百三十五條第二項ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法第七百三十五條第二項ニ於テハ「支拂人カ方式ニ依レル引受ヲ拒ミ若クハ引受ノ日附ヲナスコトヲ拒ムトキ」云々ト曰ヘルヲ以テ一方ニ於テハ全然引受ヲ拒絕シタル場合ヲ包含セサルニアラサルカノ疑アレトモ全ク引受ヲ拒絕シタル場合ニ於テハ本條ノ規定ヲ適用スルコト至當ナリ他方ニ於テハ單ニ「引受ヲ爲サス」ト曰フトキハ方式ニ依レル引受ヲ拒ミタル場合ヲモ當然包含スヘシ故ニ本案ハ「支拂人カ其引受ヲ爲サス又ハ引受ノ日附ヲ爲替手形ニ記載セサリシトキ」云々ト改メタリ又現行商法第七百三十五條第二項但書ニ於テハ呈示期間ノ末日ノ翌日マテニ拒證書ヲ作ラサルトキハ擔保ヲ求ムルコトヲ得サルモノト規定シタリ此規定ニ依レハ拒絕證書ハ呈示期間ノ末日ノ翌日マテニ之ヲ作ルヲ以テ足ルカ如シ然ルニ同項本文ニ於テハ拒證書作成ノ日ヲ以テ呈示ノ日ト看做シ若シ拒證書ヲ作ラサルトキハ呈示期間ノ末日ヲ以テ呈示ノ日ト看做スヘキ旨ヲ規定シタリ此規定ニ依レハ拒證書ハ遲クトモ呈示期間ノ末日マテニ之ヲ作ルコトヲ要スルニ似タリ是レ現行商法ノ解釋上一ノ疑問ナリト雖モ立法上ノ問題トシテハ呈示期間內ニ拒絕證書ヲ作ラシムルコト正當ナリ故ニ本案ハ「呈示期間內ニ拒絕證書ヲ作ラシムルコトヲ要ス」ト定メタリ又現行商法第七百三十五條第二項ニ於テハ所持人カ呈示期間ノ翌日マテニ拒證書ヲ作成セシメサリシトキハ振出人及ヒ裏書讓渡人ニ對シテ擔保ヲ求ムルコトヲ得サルモノト爲スト雖モ本案ハ前ニ述ヘタルカ如ク拒絕證書ハ呈示期間內ニ之ヲ作ラシムルコトヲ要スト爲シ且「振出人及ヒ裏書讓渡人」ハ「前者」ト改ムルヲ適當ト認メ之ヲ修正シタルノミナラス前條第二項ノ規定ト權衡ヲ得セシムルカ爲メ拒絕證書ヲ作ラシメサリシ所持人ハ前者ニ對スル手形上ノ權利ヲ失フモノト爲シタリ蓋シ前條第二項ノ規定ニ依レハ拒絕證書ニ依リ呈示期間ニ呈示ヲ爲シタルコトヲ證明セサリシ所持人ハ前者ニ對スル一切ノ手形上ノ權利ヲ失フモノト爲スニモ拘ハラス若シ本條ニ於テ拒絕證書ヲ作ラシメサル所持人ハ擔保請求權ヲ失フニ過キスト爲ストキハ所持人ノ方面ヨリ觀察スレハ寔ニ正當ナルヘシト雖モ前者ヨリ之ヲ觀察スルトキハ此ノ如キ差異ヲ設クヘキ所以ナシ又現行商法ハ所持人カ拒證書ヲ作成セシメサリシトキハ支拂人カ引受ヲ拒ミタル場合ナルト又引受ノ日附ヲ手形ニ記載スルコトヲ拒ミタル場合ナルトヲ問ハス拒絕證書作成ノ日ヲ以テ呈示ノ日ト看做スト雖モ拒絕證書ヲ作ラシメサリシ所持人ハ前者ニ對スル手形上ノ權利ヲ失フノミナラス支拂人カ引受ヲ爲ササルトキハ支拂人ニ對シテモ亦何等ノ權利ヲ有セス從テ此ノ場合ニハ呈示期間ノ末日ヲ以テ呈示ノ日ト看做スノ必要ナシ之ニ反シテ支拂人カ引受ヲ爲シタルモ其日附ヲ手形ニ記載セサリシトキハ所持人ハ假令拒絕證書ヲ作ラシメサルモ尙ホ其引受ノ文言ニ從ヒテ支拂ヲ請求スルコトヲ得ヘク從テ前者ニ對シテハ呈示ノ日ヲ定ムルノ必要ナシト雖モ引受人ニ對シテハ呈示期間ノ末日ヲ以テ呈示ノ日ト看做スノ必要アリ故ニ本案ハ第三項ノ適用ヲ單ニ引受人カ引受ノ日附ヲ記載セサリシ場合ニ限リタリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第四百六十五條
(理由)本條ハ現行商法第七百三十七條前段ノ字句ヲ修正シ之ヲ二項ニ分チタルモノニシテ別ニ說明ヲ要セス
其他現行商法第七百三十七條後段ニ於テハ本條ノ方式ニ依ラサル引受ノ效力ニ付キ爲替資金ニ關スル第八百五條ノ規定ニ從フ旨ヲ定ムト雖モ本案ニ於テハ爲替資金ニ關スル規定ヲ削除シタル結果トシテ右ノ規定ヲ存スルノ必要ナキニ至タルヲ以テ亦之ヲ削除シタリ
第四百六十六條
(理由)本條ハ現行商法第七百三十八條ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ卽チ現行商法ニ於テハ支拂人カ手形金額ノ一部ニ付キ有效ナル引受ヲ爲スコトヲ得ルヤ否ヤヲ決定セスシテ單ニ此場合ニハ其他ノ部分ニ付テハ引受ヲ拒ミタルモノト看做スコトヲ規定スト雖モ明文ヲ以テ規定ヲ要スルモノハ前ノ問題ニアリ卽チ手形金額ノ一部ノ引受ニシテ有效ナリトセハ其引受ヲ爲ササル他ノ部分ニ付テハ引受ヲ拒ミタルモノナルコト當然言フヲ俟タサル所ナリ故ニ本案ハ本條第一項ニ於テ支拂人ハ手形金額ノ一部ニ付キ引受ヲ爲スコトヲ得ル旨ヲ規定シタリ又現行商法ニ於テハ卽日ニ引受ヲ爲ササルトキハ所持人ハ之ヲ拒ミタルモノト看做スコトヲ得ル旨ヲ規定スト雖モ本案ニ於テハ支拂人ハ卽時ニ引受ヲ爲スコトヲ要シ若シ卽時ニ之ヲ爲ササルトキハ所持人ハ之ヲ以テ引受ヲ拒絕シタルモノトシテ拒絕證書ヲ作成セシムルコトヲ得ルハ當然言フヲ俟タサル所ナリトシ此現行商法ノ規定ヲ削除シタリ又現行商法ハ「條件又ハ其他ノ制限ヲ以テ引受ヲ爲シタルトキ」云々ト曰フト雖モ要スルニ單純ナル引受ヲ爲ササリシトキヲ指スニ外ナラサルヲ以テ本案ハ之ヲ改メタリ又現行商法ハ支拂人カ單純ナル引受ヲ爲ササリシトキハ其引受ヲ拒絕シタルモノト看做スト否トヲ所持人ニ一任スト雖モ引受ヲ拒絕シタルモノト看做シテ拒絕證書ヲ作成スルト否トハ振出人其他ノ前者ノ利害ニ關スルコト大ナルヲ以テ本案ハ之ヲ所持人ニ一任セス當然其引受ヲ拒絕シタルモノト看做シタリ是レ本案カ現行商法ノ規定ヲ修正シタル所以ナリ
第四百六十七條
(理由)本條ハ現行商法第七百三十六條前段ノ規定ヲ修正シタルモノナリ卽チ現行商法ハ支拂人カ爲替資金ヲ受取リタルト否トヲ問ハサル旨ヲ規定スト雖モ是レ當然言フヲ俟タサル所ナルヲ以テ本案ハ之ヲ削除シ又現行商法ノ如ク所持人ノ語ヲ加フルトキハ支拂人ハ引受ヲ爲シタル當時ノ所持人ニ對シテノミ本條ノ義務ヲ負フニアラサルナキカノ疑アルヲ以テ本案ハ亦之ヲ削除シ單ニ支拂人ハ引受ニ因リ支拂ノ義務ヲ負フ旨ヲ明カニスルニ止メ其何人ニ對スルカヲ示スコトナシ又現行商法ノ如ク單ニ「爲替金額」ト曰フトキハ手形金額ノ一部ニ付キ引受ヲ爲シタル場合ニ適用スルコトヲ得サルヲ以テ本案ハ之ヲ「其引受ケタル金額」ト改メタリ是レ本條ノ規定アル所以ナリ
其他現行商法第七百三十六條後段ニ於テハ「所持人ニ引受ノ旨ヲ記シタル爲替手形ヲ還付シタル後ハ强暴又ハ詐欺ノ場合ヲ除ク外之ヲ取消スコトヲ得ス」ト規定スト雖モ引受ハ支拂人カ其旨ヲ記載シテ署名シ又ハ單ニ署名スルノミニ依リテ成立スルヤ將タ又支拂人カ之ヲ所持人ニ還付シタルトキニ成立スルヤ換言スレハ引受カ其效力ヲ生スル時期如何ノ問題ハ意思表示ノ效力ニ關スル民法ノ規定ト手形學說トニ依リテ定マル所ニ一任スルヲ以テ足レリトシ又引受ヲ取消スコトヲ得ル場合モ意思表示ニ關スル民法ノ通則ニ從フヲ以テ足レリトスルカ故ニ本案ハ全ク之ヲ削除シタリ
第四百六十八條
(理由)本條ハ現行商法中ニ明文ヲ存セサル所ナリ抑モ引受人ハ滿期日ニ於テ其引受ケタル金額ヲ支拂フノ義務ヲ負フコトハ前條ノ規定スル所ニシテ假令滿期日ニ至リ其引受ケタル金額ノ支拂ヲ爲ササリシトキト雖モ所持人ハ尙ホ之ニ對シテ其支拂ヲ求ムルコトヲ得ヘク引受人ハ之ヲ免カルルコトヲ得サルモノトス而シテ此場合ニ引受人ハ前條ノ規定ニ從ヒ其引受ケタル金額ヲ支拂フノ義務アルコト素ヨリ當然ナリト雖モ別段ノ規定ナキ限リハ滿期日ノ翌日以後ノ法定利息、拒絕證書作成ノ手數料其他ノ費用ヲ支拂フノ義務ナカルヘシ然レトモ此等ノ利息、費用ハ引受人カ濫リニ支拂ヲ拒ミタル結果ナルヲ以テ引受人ヲシテ之ヲ支拂フノ義務ヲ負ハシムルコト正當ナリ是レ本條ニ於テ滿期日ニ至リ其引受ケタル手形金額ノ支拂ヲ爲ササリシ引受人カ所持人ニ對シテ拂フヘキ金額ハ第四百八十九條ノ規定ニ依リテ之ヲ定メシムル所以ナリ又本章第六節ノ規定ニ從ヒ所持人又ハ裏書人ノ請求ニ因リ前者カ償還ヲ爲シタルトキハ其償還ヲ爲シタル振出人又ハ裏書人ハ代位ニ依リテ引受人ニ對シテ支拂ヲ請求スルノ權利ヲ取得スヘシ此場合ニ於テ引受人ハ償還ヲ爲シタル裏書人又ハ振出人ニ對シ唯タ其引受ケタル金額ノミヲ支拂フ義務アルモノトセハ償還ヲ爲シタル者ハ一方ニ於テハ手形金額ノ外利息、費用等ヲ支拂ヒ且爲替相場ノ差額ヲ負擔シ他方ニ於テハ引受タル手形金額ノ支拂ヲ受クルニ止マリ從テ二者ノ差引殘額ヲ自カラ負擔セサルヘカラサルニ至ラン然ルニ此差額ナルモノハ引受人カ其義務ヲ履行セサル結果ナルヲ以テ宜シク之ヲ引受人ニ負擔セシムヘク償還ヲ爲シタル裏書人又ハ振出人ノ負擔ト爲スヘキモノニアラサルナリ是レ本條カ引受人カ爲替手形ノ支拂ヲ爲ササリシ場合ニ於テ引受人ニ對スル所持人ノ權利ヲ擴張スルト共ニ償還ヲ爲シタル裏書人又ハ振出人カ引受人ニ對シテ有スル權利ノ範圍ヲ擴張シ第四百八十九條ノ規定ニ依リテ定マリタル金額ノ支拂ヲ求ムルコトヲ得ルモノト爲シタル所以ナリ
第四百六十九條
(理由)本條第一項ハ現行商法第七百二十一條ノ一部ニ該當スルモノナリ抑モ支拂人ノ住所地ト異ナル地ニ於テ支拂フヘキ爲替手形ハ現行商法之ヲ他所拂爲替手形ト稱シ其手形ニハ支拂ノ爲メ他人卽チ他所拂人ヲ明記スルコトヲ得ルモノト爲スト雖モ之ヲ記載スルコトヲ得ヘキ者ハ單ニ振出人ノミナルカ將タ又支拂人ニ於テモ之ヲ記載スルコトヲ得ルカヲ決定セス然レトモ之ヲ決定スルハ實際上極メテ必要ナルヲ以テ本案ハ現行商法ノ他所拂人ナル語ヲ改メテ支拂擔當者ト稱スルト共ニ第四百五十條ニ於テ振出人ハ爲替手形ノ振出ニ當タリ支拂擔當者ヲ記載スルコトヲ得ルモノト爲シ本條第一項ニ於テ振出人カ手形ニ支拂擔當者ヲ記載セサリシトキハ支拂人ハ其引受ヲ爲スニ當リテ之ヲ記載スルコトヲ得ルモノト爲ス蓋シ此規定ナキニモ拘ハラス支拂人カ引受ヲ爲スニ當リテ支拂擔當者ヲ記載セハ單純ナル引受ニアラスト爲シ第四百六十六條第二項ノ規定ニ依リ引受ヲ拒絕シタルモノト看做サルルコトヲ免カレサルヘシ是レ本案カ特ニ明文ヲ以テ之ヲ規定シタル所以ナリ其他振出人カ手形ニ支拂擔當者ヲ記載セス支拂人モ亦之ヲ記載セサルトキハ支拂人ハ支拂地ニ於テ自カラ支拂ヲ爲ス責ニ任スルハ勿論ニシテ此點ニ關スル本條第一項ノ規定ハ現行商法ト異ナル所ナキヲ以テ茲ニ說明ヲ要セス
本條第二項ハ現行商法第七百三十四條第二項ノ規定ニ該當ス卽チ本條ニ該當スル規定ハ現行商法及ヒ明治二十六年改正以前ノ舊商法ニモ亦存スル所ナリト雖モ皆其適用ノ範圍ヲ異ニシ明治二十六年改正以前ノ舊商法ハ支拂地カ支拂人ノ住所地ト異ナル爲替手形卽チ他所拂爲替手形ニ付テノミ之ヲ適用スヘキモノト爲シ現行商法ニ於テハ支拂地カ支拂人ノ住所地ト異ナル場合ナルト否トヲ問ハス一切ノ爲替手形ニ付キ之ヲ適用スト雖モ本案ハ啻ニ明治二十六年改正以前ノ舊商法ノ如ク他所拂爲替手形ニ限リ適用スル主義ヲ復活セシメタルノミナラス尙ホ一ノ制限ヲ設ケ振出人カ手形ニ支拂擔當者ヲ記載セサリシ場合ニ限リタリ抑モ一覽後定期拂ノ爲替手形ハ之ヲ支拂人ニ呈示スルニアラサレハ滿期日到來セサルヲ以テ其性質上必ス引受ノ爲メ之ヲ支拂人ニ呈示セサルヘカラス又一覽拂ノ爲替手形ハ呈示ノ日ヲ以テ滿期日ト爲スカ故ニ支拂ノ爲メニ呈示ヲ爲スノ外引受ノ爲メニ呈示ヲ爲スハ其性質上不能ナリト雖モ其他ノ爲替手形卽チ確定セル日又ハ日附後確定セル時期ヲ經過シタル日ヲ以テ滿期日ト爲ス爲替手形ニアリテハ引受ノ爲メ之ヲ呈示スルト否ト又何時之ヲ示ストハ一ニ所持人ノ任意ニ存シ振出人ノ之ヲ制限スルコトヲ得サルモノナリ卽チ振出人ニ於テ引受ノ爲メニ其手形ヲ支拂人ニ呈示スヘキ旨ヲ記載スルモ其記載ハ手形上ノ效力ヲ生セス然ルニ支拂地ト支拂人ノ住所地ト異ナリ且振出人カ手形ニ支拂擔當者ヲ記載セサリシトキニ於テハ所持人ヲシテ其手形ヲ支拂人ニ呈示シ支拂擔當者ヲ定ムルノ手續ヲ爲サシムルコト必要ナル場合アリ此場合ニモ尙ホ前述ノ通則ニ依遵シ毫モ例外ヲ認メサルトキハ極メテ不便ナルカ故ニ本案ハ此場合ニ限リ第四百六十二條ニ對スル例外トシテ振出人カ手形ニ其引受ヲ求ムル爲メ之ヲ呈示スヘキ旨ヲ記載スルコトヲ得ルモノト爲シタリ其他支拂人ノ住所地ニ於テ支拂ヲ爲スヘキ場合ハ勿論支拂地ト支拂人ノ住所地ト異ナルモ振出人カ手形ニ支拂擔當者ヲ記載シタル場合ニアリテハ此ノ如キ例外的規定ニ依ルノ必要ナキヲ以テ本案ハ此場合ニ一般ノ通則ニ從ハシム是レ本案カ本條第二項ノ如ク適用ノ範圍ヲ制限シタル所以ナリ又現行商法ハ此場合ニ於テ振出人ハ手形ニ其引受ヲ求ムル爲メ之ヲ呈示スヘキ旨ヲ記載スルノ外若シ之ヲ呈示セサルトキハ償還請求權ヲ失フヘキ旨ヲモ記載スヘキモノト爲スト雖モ呈示ヲ爲ササル效果ハ法律ニ定ムル所ナルヲ以テ之ヲ手形ニ記載セシムルノ必要ナキノミナラス所持人カ呈示ヲ爲ササルニ因リテ失フヘキモノヲ償還請求權ト爲スハ一方ニ於テ手形上ノ權利以外ニ所持人カ有スル權利卽チ第四百四十一條ニ依リ有スル償還請求權ヲ包含スルニ至リ廣汎ニ失シ他方ニ於テ所持人カ振出人其他ノ前者ニ對シテ有スル手形上ノ權利ヲ悉ク包含セサルノ恐アリ故ニ本案ハ手形ニ所持人カ呈示ヲ爲ササル效果ヲ記載スルコトヲ要セサルモノト爲シ且呈示ヲ爲ササルトキハ當然前者ニ對スル手形上ノ權利ヲ失フヘキモノト爲シ又現行商法ハ支拂人カ引受ヲ爲ササルトキハ其翌日拒證書ヲ作ルヘシト規定スト雖モ此場合ニ於テハ必シモ引受ヲ拒絕シタル翌日拒絕證書ヲ作成セシムルノ必要ナク滿期日前ニ引受拒絕證書ヲ作成セシメ之ニ依リテ滿期日前ニ呈示ヲ爲シタルコトヲ證明スレハ足ルト同時ニ現行商法ノ如ク引受ノ爲メ呈示ヲ爲シタルトキハ假令拒絕證書ヲ作成セシメサルモ單ニ擔保ヲ請求スルコトヲ得サルニ止マリ償還請求權ヲ失ハサルモノトスルハ拒絕證書ヲ作成セシムルノ趣旨ト相反スルヲ免カレス卽チ呈示ヲ爲シタルコトヲ證明スルハ必ス拒絕證書ニ依ラシメ以テ事ヲ確實ニスルノ必要アリ故ニ本案ハ拒絕證書ヲ作成セシムヘキ時期ニ關スル現行商法ノ規定ヲ削除シ所持人カ假令呈示ヲ爲スモ拒絕證書ニ依リ其呈示ヲ爲シタルコトヲ證明セサルトキハ全ク呈示ヲ爲ササリシ場合ト同シク振出人其他ノ前者二對スル手形上ノ權利ヲ失フモノト爲シタリ是レ本條第二項ノ如ク修正シタル所以ナリ
第四百七十條
(理由)本條ハ現行商法中ニ明文ヲ存セサル所ナリ抑モ支拂人カ引受ヲ爲スニ當タリテ其支拂地ニ於ケル支拂ノ場所ヲ記載シ其場所ニ於テノミ支拂ヲ爲スヘキモノトスルハ引受ニ一ノ制限ヲ附スルモノナルヲ以テ若シ本條ノ規定ナキトキハ本案第四百六十六條第二項ニ依リ其引受ヲ拒絕シタルモノト看做サルヘシ然ルニ支拂地ニ於ケル支拂ノ場所ヲ定メ其場所ニ於テノミ支拂ヲ爲スヘキモノトスルハ支拂ヲ爲ス者ニモ支拂ヲ受クル者ニモ便宜ナルノミナラス旣ニ本案第四百五十一條ニ於テ振出人カ爲替手形ニ其支拂地ニ於ケル支拂ノ場所ヲ記載スルコトヲ得セシムル以上ハ權衡上支拂人ニモ亦其引受ヲ爲スニ當タリテ爲替手形ニ其支拂地ニ於ケル支拂ノ場所ヲ記載スルコトヲ得セシメサルヘカラス是レ本條ノ規定アル所以ナリ
第四節 擔保ノ請求
(理由)本節ハ現行商法第一編第十二章第一節第三款ノ一部ニ該當シ擔保ノ請求ニ關スル規定ヲ揭ク現行商法ニ於テハ引受ト題スル一部ニ於テ擔保ノ請求ヲモ規定スト雖モ本案ハ引受ト擔保ノ請求トハ節ヲ分テ之ヲ規定スルコト相當ナリト認メ引受ヲ前節ニ擔保ノ請求ヲ本節ニ規定シタリ
第四百七十一條
(理由)本條ハ現行商法第七百三十九條ノ一部ニ該當ス抑モ爲替手形ノ所持人カ引受ノ爲メ之ヲ支拂人ニ呈示シタルニ支拂人ニ於テ其引受ヲ爲ササリシトキハ所持人ハ前者ニ對シテ如何ナル權利ヲ有スルカ之ニ付テハ各國立法例二派ニ分レ或ハ償還ヲモ請求スルコトヲ得ルモノト爲シ或ハ擔保ノミヲ請求スルコトヲ得ルモノト爲ス前者ハ英米法律ノ採ル所ニシテ大ニ手形ヲ確實ナラシメ其流通ヲ容易ニスルノ益アルニ似タリト雖モ償還ヲ請求シテ直チニ償還ヲ受クヘキ見込アル場合ハ卽チ振出人其他ノ前者ニ十分信用アル場合ニシテ其信用ニ依リ引受ヲ拒マレタル手形ト雖モ流通容易ナルヘシ之ニ反シテ引受ヲ拒マレタル手形ノ流通困難ナル場合ハ前者ニ信用ナク假令之ニ償還ヲ請求スルモ之ヲ受クルコト難シ從テ償還ノ請求ヲ許スモ之カ爲メ所持人ニ益スルコト甚タ尠シ加之ナラス所持人ハ滿期日ニ手形金額ヲ得ルニアリテ其以前ニ之ヲ得セシムルノ必要ナシ故ニ本案ハ多數ノ立法例殊ニ現行商法ニ倣ヒテ後者ヲ採リ所持人ハ前者ニ對シテ相當ノ擔保ノミヲ請求スルコトヲ得ルモノト爲シタリ而シテ明治二十六年改正前ノ舊商法ニ於テハ擔保ノ請求ヲ爲シ得ヘキ場合ヲ一々列擧シ支拂人カ引受ノ全部又ハ一部ヲ拒ミタルトキ又ハ方式ニ從ヒテ引受ヲ爲サス又ハ引受ヲ拒ミタリト看做スヘキトキ等ナリト曰フト雖モ列擧ハ脫漏ノ恐レアルノミナラス他ノ規定ニ依リ之ヲ知悉スルニ難カラサル以上ハ槪括的ニ之ヲ示スノ勝レルニ如カス故ニ現行商法ハ之ヲ改メタリト雖モ單ニ爲替金額及ヒ費用ニ付キ擔保ヲ求ムルコトヲ得ルモノト爲シ支拂人カ其手形金額ノ全部ニ付キ引受ヲ爲ササリシト將タ又一部ニ付キ引受ヲ爲シタリシトヲ區別セサルヲ以テ却テ後者ニ付テハ該條ヲ適用セサルカ或ハ之ヲ適用スルモ支拂人カ引受ケタル手形金額ノ一部ニ付テモ亦擔保ヲ請求スルコトヲ得セシメタルニアラサルヤノ疑ヲ生スルニ至レリ是レ本案カ本條第一項ニ於テ支拂人カ爲替手形ノ引受ヲ爲ササリシトキト曰ヒ以テ支拂人カ引受ヲ拒絕シタル場合引受ヲ拒絕シタルモノト看做スヘキ場合及ヒ一覽後定期拂ノ爲替手形ニ引受ノ日附ヲ記載スルコトヲ拒ミタル場合等ヲ悉ク包含セシムルト共ニ本條第二項ニ於テ支拂人カ手形金額ノ一部ニ付キ引受ヲ爲シタル場合ヲ規定シ此場合ニハ其殘額及ヒ費用ニ付キ擔保ヲ請求スルコトヲ得ルモ支拂人カ引受ヲ爲シタル手形金額ノ一部ニ付テハ擔保ヲ請求スルコトヲ得サル旨ヲ明カニシタル所以ナリ其他現行商法ニ於テハ拒證書ノ費用並ニ戾爲替ノ費用ニ付キ擔保ヲ求ムルコトヲ得ル旨ヲ定ムト雖モ之レ亦一々列擧スルニ及ハス單ニ費用ニ付キ擔保ヲ求ムルコトヲ得ト爲スヲ以テ足レリトス故ニ本案ハ之ヲ費用ト改メタリ其他ハ字句ノ修正ニ過キサルヲ以テ茲ニ說明ヲ要セス
第四百七十二條
(理由)本條モ亦現行商法第七百三十九條ノ一部ニ該當ス抑モ明治二十六年改正前ノ舊商法ニアリテハ第七百三十四條ニ於テ支拂人カ引受ヲ爲ササルトキハ所持人ハ其翌日拒證書ヲ作成スルコトヲ要スルモノトセシヲ以テ第七百三十九條ニ於テモ所持人ハ拒證書ノ作成ヲ遲延ナク振出人又ハ裏書讓渡人ニ通知スヘク此通知ヲナシタルトキハ擔保ヲ請求スルコトヲ得ルモノトセリ然ルニ現行商法ニ於テハ第七百三十四條ヲ改正シ支拂人カ引受ヲ爲ササルモ所持人ハ必スシモ拒證書ヲ作成スルコトヲ要セストシナカラ之ニ相應スル改正ヲ第七百三十九條ニ加ヘサリシハ聊カ失當タルヲ免カレス故ニ本案ハ反對ノ方面ヨリ觀察シ爲替手形ノ所持人カ擔保ノ請求ヲ爲サント欲スルトキハ引受拒絕證書ヲ作成セシメ且擔保ヲ供セシメント欲スル者ニ對シ遲滯ナク擔保請求ノ通知ヲ發スルコトヲ要スト規定シ一方ニ於テハ擔保請求ヲ爲ササル所持人ハ法律ニ別段ノ規定アル場合ノ外引受拒絕證書ヲ作成スルコトヲ要セスト爲シ他方ニ於テハ擔保ノ請求ヲ爲サントスル所持人ハ引受拒絕證書ヲ作成スルコトヲ要スル旨ヲ示シタリ其他ハ何レモ字句ノ修正ニ過キス
第四百七十三條
(理由)本條モ亦現行商法第七百三十九條ノ一部ニ該當スルモノニシテ前二條ニ於テ現行商法第七百三十九條ニ修正ヲ加ヘタルト同一ノ理由ニ基キ修正ヲ加ヘタルニ過キス
第四百七十四條
(理由)本條モ亦現行商法第七百三十九條ノ一部及ヒ第七百四十條ノ規定ニ該當ス抑モ現行商法第七百三十九條第二項但書ニ於テハ擔保ノ請求ヲ受ケタル者ハ拒證書ノ交付ヲ受クルニアラサレハ擔保ヲ供スルコトヲ要セサルモノト爲ス此規定タルヤ極メテ正當ナリト雖モ其擔保ヲ供スヘキ期間ヲ定メサリシハ一ノ缺點タルヲ免レス故ニ本案ハ前三條ノ規定ニ依リ擔保ノ請求ヲ受ケタル者ハ遲滯ナク引受拒絕證書ト引換ニテ相當ノ擔保ヲ供スルコトヲ要スト規定シタリ又現行商法第七百四十條ハ擔保ノ請求ヲ受ケタル者ハ擔保ヲ供スルニ換ヘテ爲替金額及ヒ拒絕證書ノ費用並ニ戾爲替ノ費用ヲ卽時ニ所持人ニ支拂ヒ又ハ卽時ニ供託所ニ寄託スルコトヲ得ルモノト爲スト雖モ擔保ニ換ヘテ卽時ニ所持人ニ其金額ヲ仕拂フコトヲ得セシムルハ手形ニ記載セラレタル滿期日ヲ無視スルモノニシテ所持人ノ爲メ却テ不便ナル場合アリ佛法ニ於ケルカ如ク擔保ノ種類ヲ保證ノミニ制限スルトキハ擔保ノ請求ヲ受ケタル者ハ其金額ヲ有スルニモ拘ハラス保證人ヲ立ツルコト能ハサル場合ナキニアラス從テ此規定ヲ必要トスルコトアルヘシト雖モ現行商法並ニ本案ノ如ク供スヘキ擔保ノ種類ニ付キ毫モ制限ヲ設ケサルノミナラス擔保ニ代ヘテ相當ノ金額ヲ供託スルコトヲ許ス以上ハ此規定ヲ存スルコト不當ナリ故ニ本案ハ之ヲ削除シ本條但書ニ於テ擔保ノ請求ヲ受ケタル者ハ擔保ニ代ヘテ相當ノ金額ヲ供託スルコトヲ得ルモノト爲シタリ是レ本條ノ規定アル所以ナリ其他現行商法第七百四十二條ノ規定ハ本案ニ於テ同第七百四十條ノ一部ヲ削除シタル結果トシテ無要ト爲リタルヲ以テ本案ハ亦之ヲ削除シタリ
第四百七十五條
(理由)本條ハ現行商法第七百三十九條第三項ノ規定ニ該當ス抑モ現行商法ニ於テハ當事者ノ一人カ受ケタル擔保ハ其後者總員ノ爲メニモ效力アル旨ヲ規定スト雖モ當事者ノ一人カ供シタル擔保ハ其後者總員ニ對シテ效力アル旨ヲ規定セサルヲ以テ若シ擔保ヲ受ケタル者ノ後者ヨリ擔保ノ請求ヲ受クルトキハ再ヒ之ヲ供スルヲ要セサルニモ拘ハラス擔保ヲ受ケタル者ノ前者ヨリ擔保ノ請求ヲ受クルトキハ再ヒ擔保ヲ供セサルヘカラサルカ如キ缺點アルノミナラス前條但書ニ該當スル現行商法第七百四十條ノ規定ニ依リ擔保ニ代ヘテ供託ヲ爲ス場合アルコトヲ看過シタルノ不備アリ又現行商法ニ於テハ當事者ノ一人カ爲シタル通知ハ其後者總員ノ爲メニモ效力アル旨ヲ規定スト雖モ通知ヲ受クル者ニ對シテハ通知ヲ爲シタル者ノ後者總員ノ爲メニシタルモノト爲ルニモ拘ハラス通知ヲ受クル者ト通知ヲ爲シタル者トノ中間ニアル者ノ爲メニシタルモノト爲サス從テ此等ノ者ハ更ニ一々前者ニ對シテ通知ヲ爲ササルヘカラサルカ如キ不便アリ是レ本案カ現行商法ニ修正ヲ加ヘ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第四百七十六條
(理由)本條ハ現行商法第七百四十一條ノ規定ニ該當スルモノトス卽チ現行商法ハ「擔保又ハ寄託ハ之ヲ還付スルコトヲ要ス」ト規定スト雖モ「擔保ヲ還付ス」ト曰ヘルハ未タ盡ササル所アルヲ以テ本案ハ「供シタル擔保ハ其效力ヲ失ヒ」ト改メ又供託所ニ寄託シタルモノハ供託所ヨリ之ヲ還付スヘキモノナルヲ以テ「寄託ヲ還付ス」ト曰フハ充分當ラサル所アリ故ニ本案ハ反對ノ方面ヨリ立言シ「供託シタル金額ハ之ヲ取戾スコトヲ得」ト改メタリ
又現行商法ハ「後ニ至リ爲替手形ノ引受アリタルトキ」ト曰フト雖モ其引受ハ單純ナラサルヘカラサルコト勿論ナルヲ以テ本條第一號ハ之ヲ「後日ニ至リ爲替手形ノ單純ナル引受アリタルトキ」ト改ム
又現行商法ハ「爲替金額ノ支拂アリタルトキ」ト曰フト雖モ本案第四百七十一條及ヒ第四百七十三條ノ規定ニ從ヒ手形金額ノ外費用ニ付テモ供セラレタル擔保又ハ爲シタル供託ナル以上ハ單ニ手形金額ノ支拂アリタルノミヲ以テ足レリトセス之ト共ニ費用ノ支拂アリタルコトヲ要スルヤ勿論ナリ故ニ本條第二號ハ「手形金額及ヒ費用ノ支拂アリタルトキ」ト改ム
又現行商法ハ單ニ「償還金額ノ支拂アリタルトキ」ト曰フト雖モ擔保ヲ供シ若クハ供託ヲ爲シタル者又ハ其前者カ償還ヲ爲シタル場合ハ格別其後者カ償還ヲ爲シタル場合ニハ其擔保又ハ供託ハ前條ノ規定ニ依リ其償還ヲ爲シタル後者ノ爲メニモ亦效力ヲ有スルヲ以テ本條ヲ適用スルコトヲ得サルコト勿論ナリ故ニ本條第三號ハ之ヲ前ノ場合ニ限リタリ
又現行商法ハ「所持人カ時效若クハ懈怠ニ因リテ爲替手形上ノ權利ヲ失ヒタルトキ」ト曰フト雖モ所持人カ手形上ノ權利ヲ失ヒタル場合ニ限局スルハ狹隘ニ失スルヲ以テ「所持人」云々ノ語ヲ削除シ且第三百九十一條ニ於テ說明シタルカ如キ理由アルヲ以テ「懈怠」ヲ「手續ノ欠缺」ト改メ字句ヲ修正シテ本條第四號ト爲シタリ
又本條第五號ハ現行商法中ニ明文ヲ存セサル所ナリト雖モ現行商法ノ如ク擔保ヲ供シ又ハ供託ヲ爲シタル者ハ償還ヲ爲スカ又ハ償還ヲ爲ササルモ時效ニ因リテ手形上ノ權利ノ消滅スルヲ俟タサルヘカラストセハ所持人又ハ後者カ償還ノ請求ヲ爲ササルカ爲メ甚タシキ不利ヲ被フルヘキノミナラス擔保又ハ供託ヲ受ケタル後者カ滿期日後一个年ヲ經ルモ償還ヲ請求セサルカ如キハ其供セラレタル擔保又ハ供託シタル金額ニ對シテ有スル權利ヲ抛棄シタルモノト看做スモ決シテ不當ニアラサルヲ以テ本案ハ獨逸手形條例其他ノ立法例ニ倣ヒ新ニ本條第五號ノ規定ヲ設ケタリ
第四百七十七條
(理由)本條ハ現行商法第七百七十九條ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ卽チ現行商法ニ於テハ引受人カ破產ノ宣吿ヲ受ケタル場合又ハ家資分散ノ宣吿ヲ受ケタル場合其他資力ノ確ナラサルニ至リタル場合ニ於テ爲替支拂ノ爲メ十分ナル擔保ヲ供セサルトキハ所持人ハ滿期日前ニ償還請求ヲ爲スコトヲ得ルモノト爲スト雖モ支拂人カ引受ヲ爲ササルトキハ所持人ハ振出人其他ノ前者ニ對シテ擔保ノ請求ヲ爲スコトヲ得サルヲ通例トス況ンヤ滿期日前ニ償還ノ請求ヲ爲スニ於テオヤ通例之ヲ爲スコトヲ得サルハ勿論ナリ然ルニ支拂人カ引受ヲ爲シ且滿期日未タ到來セサルニモ拘ハラス所持人ヨリ振出人其他ノ前者ニ對シテ償還又ハ擔保ヲ請求スルコトヲ得ルモノト爲シ以上ノ原則ニ對スル例外ヲ設クルニハ必スヤ已ムコトヲ得サル場合ニ限リ且必要ノ程度ヲ超越スヘカラス若シ然ラサルニ尙ホ例外ヲ認ムルコトアラハ其規定タルヤ不正不當ノモノト謂ハサルヘカラス現行商法カ該條ノ適用ヲ廣ク資力ノ確カナラサル場合ニ及ホシ豫備支拂人ノ引受ノ有無ヲ問ハス且償還ヲ請求スルコトヲ得ルモノト爲スカ如キハ何レモ此類タルヲ免カレス卽チ資力ノ確カナラサル場合トハ一ノ事實問題ナルヲ以テ法律ノ解釋及ヒ事實ノ認定上寬嚴如何ニ依リ異ナル所アルヲ免カレサルノミナラス單ニ資力ノ確カナラサルノミニ因リテ該條ニ依ラシムルトキハ容易ニ償還請求ヲ爲スコトヲ得振出人其他ノ前者ヲシテ負擔ノ重キニ苦マシムルモノアルヘシ又爲替手形ニ豫備支拂人ノ記載アルニモ拘ハラス其引受ヲ求メスシテ直チニ償還請求ヲ爲スコトヲ得セシムルハ啻ニ爲替手形ニ豫備支拂人ヲ記載シタル趣旨ヲ沒却スルノミナラス若シ豫備支拂人ノ引受アルトキハ引受人破產スルモ手形ノ支拂ヲ受クヘキコト槪ネ確實ニシテ流通上差支ナカルヘシ然ルニ之ヲ求メスシテ直チニ償還ヲ請求スルコトヲ得セシムルハ早計ニ失ス又引受人カ破產ノ宣吿ヲ受ケタルトキハ假令手形ノ引受アリ且滿期日到來スルモ支拂ヲ受クルコト槪ネ難ク之カ爲メ手形ノ安全ヲ害シ流通ヲ阻害スルコト支拂ヲ拒マレタル場合ト相伯仲スルニモ拘ハラス一方ニハ單ニ擔保ノ請求ヲ許シ他方ニハ償還ヲ請求スルコトヲ許スハ權衡ヲ失スルノミナラス此場合ニハ前者ヲシテ相當ノ擔保ヲ供セシムルトキハ之ニ因リテ能ク手形ノ安全ヲ回復シ容易ナラシムルニ至ルヘク償還ヲ請求スルコトヲ得セシムルノ必要ナシ其他本案ニ於テハ破產ト家資分散トハ之ヲ併合シテ單ニ破產ト稱スルノ豫定ナルヲ以テ引受人カ家資分散ノ宣吿ヲ受ケタル場合モ亦之ヲ揭クルコトヲ要セス是レ本條ノ如ク修正ヲ加ヘ且現行商法ニ於テハ償還ノ請求ニ關スル第一編第十二章第一節第八款中ニ之ヲ揭ケタルニモ拘ハラス本案ニ於テハ擔保ノ請求ニ關スル本節中ニ之ヲ規定シタル所以ナリ
第四百七十八條
(理由)本條ハ現行商法中ニ明文ヲ存セサル所ナリ蓋シ現行商法ニ於テハ前條ノ場合ニ償還ヲ請求スルコトヲ得ルモノトセシヲ以テ本條ニ該當スル規定ヲ設クルノ必要ナシト謂モ本案ニ於テハ之ヲ改メ前條ノ場合ニハ擔保ヲ請求スルコトヲ得ルモノト爲シタルコト旣ニ述ヘタルカ如クナルヲ以テ第四百七十六條ノ規定ニ對シテ本條ノ規定ヲ設クルノ必要アリ而シテ前條ノ規定ニ依リテ擔保ヲ請求スルコトヲ得ルハ引受人カ相當ノ擔保ヲ供セス且爲替手形ニ豫備支拂人ヲ記載セサルカ又ハ之ヲ記載スルモ其豫備支拂人カ單純ナル引受ヲ爲ササル場合ニ限ルヲ以テ若シ擔保ヲ請求シタル豫備支拂人カ單純ナル引受ヲ爲スカ又ハ引受人カ相當ノ擔保ヲ供シタルトキハ擔保ヲ請求シタル理由存セサルニ至ルヘシ故ニ此場合ニハ供シタル擔保ハ其效力ヲ失ヒ又供託シタル金額ハ之ヲ取戾スコトヲ得ルヤ當然ナリ又第四百七十六條ニ規定シタル原因ノ存スル場合ニ於テモ亦前條ノ規定ニ依リ供シタル擔保ハ其效力ヲ失ヒ又供託シタル金額ハ之ヲ取戾スコトヲ得ヘキハ勿論ナリト雖モ獨リ同條第一號ニ規定シタル原因ハ此場合ニ生スルコトナシ何トナレハ前條ノ規定ニ依リ擔保ヲ請求スルハ支拂人カ單純ナル引受ヲ爲シタル場合ナレハ其後ニ至リ再ヒ引受ヲ爲スコトナキヲ以テナリ故ニ此場合ノミヲ除外シ其他ノ規定ハ茲ニ援用スルコトトセリ其他ハ第四百七十六條ト同一ノ理由ニ出テタルモノニシテ茲ニ說明ノ必要ナシトス
第五節 支拂
(理由)本節ハ現行商法第一編第十二章第一節第六款ニ該當シ爲替手形ノ支拂ニ關スル規定ヲ揭ク
第四百七十九條
(理由)本條ハ現行商法第七百五十七條ニ該當スル規定ナリ現行商法ハ一覽拂爲替手形ハ呈示ノ日ニ滿期ト爲ル旨ヲ規定スト雖モ是レ本案第四百四十八條ノ規定ヨリ解釋上當然生シ來ルヘキ論決ニシテ別ニ明文ヲ以テ之ヲ規定スルノ必要アルヲ見ス故ニ本案ハ之ヲ削除シタリ又現行商法ハ所持人カ支拂ヲ求ムル爲メ手形ヲ支拂人ニ呈示スヘキ期間ヲ日附後二个年ト爲スト雖モ本案ハ第四百六十三條第一項ニ於テ一覽後定期拂ノ爲替手形ニ付キ現行商法第七百三十五條ノ二个年トアルヲ一个年ニ改メタルト同一ノ理由ニ依リ本條ノ場合モ亦一个年ト改メタリ又現行商法ハ「若シ正當ノ時期ニ呈示ヲ爲ササルトキ」云々ト曰フト雖モ本案ハ第四百六十三條第二項ニ關シテ述ヘタル所ト同一ノ理由ニ基ツキ卽チ呈示ヲ爲シタルモ拒絕證書ヲ作成セシメ之ニ依リテ呈示ヲ爲シタルコトヲ證明セサル場合ヲ包含セシムル爲メ「所持人カ拒絕證書ニ依リ前項ニ定メタル呈示ヲ爲シタルコトヲ證明セサルトキ」云々ト改メタリ其他ハ字句ノ修正ニ過キス
第四百八十條
(理由)本條ハ現行商法第七百六十一條第一項ニ該當スル規定ナリ抑モ手形上ノ債權ハ手形ト共ニ發生シ手形ト共ニ消滅シ生滅一ニ手形ニ伴フモノナルヲ以テ支拂ヲ爲スニ當リテハ手形ト引換ニアラサレハ之ヲ爲スコトヲ要セサルヤ勿論ナリ而シテ支拂ヲ爲ス者ハ支拂ヲ受クル者ヲシテ爲替手形ニ其支拂ヲ受ケタル旨ヲ記載セシメ且之ニ署名セシムルコトヲ得ルモノトス是レ支拂ヲ爲シタルカ爲メ其手形ヲ得タルコト及ヒ何人ヨリ之ヲ得タルコトヲ明カニスルヲ得セシムルカ爲メニシテ若シ此規定ナキトキハ支拂人ハ支拂ニ當タリ其權利トシテ支拂ヲ受クル者ニ對シ爲替手形ニ其支拂ヲ受ケタル旨ヲ記載シテ之ニ署名スヘキコトヲ求ムルコトヲ得ス若シ强テ之ヲ求メンカ支拂ヲ拒絕シタルモノト看做サルルヲ免カレサルヘシ現行商法ニ於テモ之ト同樣ノ規定ヲ設クト雖モ受取證トハ如何ナル事項ヲ記載スヘキカ又支拂ヲ受クル者ノ署名又ハ署名捺印ヲ要スルヤ否ヤ明瞭ナラサルノミナラス「支拂ハ受取證ヲ記シタル爲替手形ノ交付ト引換ニアラサレハ之ヲ受クルコトヲ得ス」ト曰フトキハ支拂ヲ爲ス者ノ意思如何ヲ問ハス受取證ヲ記シタル爲替手形ト引換ニ爲シタル支拂ニアラサレハ之ヲ無效ト爲ササルヘカラス是レ支拂ヲ爲ス者ニ頗ル不便ナル所ニシテ支拂ヲ爲ス者カ受取證ヲ必要トセサルモ尙ホ之ヲ要ストスルカ如キハ最モ理由ナキ所ナリ是レ本案カ之ヲ分テ二項ト爲シテ區別ヲ立テ且各項トモニ多少ノ修正ヲ加ヘタル所以ナリ
第四百八十一條
(理由)本條ハ現行商法第七百六十一條第二項ニ該當スル規定ナリ卽チ現行商法ニ於テハ「債權者」又ハ「債務者」ナル語ヲ用フト雖モ其果シテ何人ヲ指スカ明瞭ナラサル所アルノミナラス此ノ如キ語ヲ用ヒスシテ事足ルヘキカ故ニ本案ハ之ヲ廢止シタリ又現行商法ニ於テハ「一分ノ支拂ヲ拒ムコトヲ得ス」ト規定スルヲ以テ其意義ニ至リテハ本條第一項ト異ナル所ナカルヘシ然レトモ單ニ「一分ノ支拂ヲ拒ムコトヲ得ス」ト曰フトキハ全ク引受ヲ爲ササリシ場合卽チ手形金額ヲ支拂フノ義務ナキ場合又手形金額ノ一部ニ付キ引受ヲ爲シ其引受ケタル金額ヲ支拂フ場合等ニ限リテ適用スヘク手形金額ノ全部ニ付キ引受ヲ爲シタル場合ハ却テ之ヲ除外スルニアラサルカノ疑アルヲ免カレス故ニ本條第一項ハ「手形金額ノ全部ニ付キ引受アリタルトキト雖モ」云々ト規定シ凡テノ場合ヲ包含セシム又手形金額一部ノ支拂アリタル場合ニ於テ之ヲ受ケタル所持人ハ爲替手形ニ其旨ヲ記載スルコトヲ必要トシ以テ一部ノ支拂アリタル爲替手形ナルコトヲ明カニスルハ本案現行商法トモニ異ナル所ナシト雖モ此外支拂ヲ爲シタル者ヲシテ其支拂ヲ爲シタル旨ヲ證明スルコトヲ得セシムル爲メ所持人ノ爲スヘキ手續ニ付テハ本案ハ現行商法ト大差アリ卽チ現行商法ニ於テハ支拂ニ付テノ別段ノ受取證ヲ交付スヘキモノト爲スト雖モ其受取證ニハ如何ナル事項ヲ記載スヘキカ並ニ署名捺印スヘキカ單ニ署名又ハ捺印ノミヲ以テ足レリトスルカ將タ又全ク署名捺印ヲ要セサルカ疑アルノミナラス到底受取證ノミニテハ其支拂ヒタル爲替手形ノ全貌ヲ窺知スルニ足ラサルカ故ニ本案ハ本條第二項ニ於テ一部受取ノ旨ヲ記載シタル爲替手形ノ謄本ヲ交付スヘキモノト爲シタリ
第四百八十二條
(理由)本條ハ現行商法第七百五十八條ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ卽チ現行商法ハ「債權者カ爲替金額ヲ滿期日ニ受取ラサルトキ」云々ト曰フト雖モ手形ノ支拂ハ引受人ヨリ進ンテ之ヲ爲スヘキモノニアラス所持人ヨリ支拂ノ場所ニ於テ支拂人ニ支拂ノ請求ヲ爲シタル場合ニ始メテ支拂フヘキモノナリ從テ滿期日ニ手形金額ヲ受取ラサルトキト曰ハンヨリ寧ロ爲替手形ノ支拂ノ請求ナキトキハト改ムルニ如カス是レ本案カ「爲替手形ノ支拂ノ請求ナキトキ」云々ト改メタル所以ナリ又現行商法ハ滿期日ヲ經過スルトキハ直チニ供託ヲ爲スコトヲ得ルモノト爲スト雖モ引受人ハ其引受ケタル金額ヲ支拂フノ義務アリテ支拂人カ必スシモ支拂ヲ爲スノ義務ナキト同シカラス從テ所持人カ引受人ニ信用ヲ措キ滿期日ニ支拂ヲ請求セスシテ振出人其他ノ前者ニ對スル償還請求權ヲ失ヒタル後引受人ニ對シテ支拂ヲ請求スルヲ以テ足レリトスルコトアリ故ニ引受人ハ此所持人ノ信任ニ對シテ少クトモ支拂拒絕證書作成ノ期間內ハ自カラ手形金額ヲ保管シ支拂ノ請求アルヲ俟ツコト正當ナリ故ニ本條ハ「支拂拒絕證書作成ノ期間經過ノ後」云々ト改メタリ又現行商法ハ手形金額ノ供託ニ因リテ引受人ハ其債務ヲ免カルルヤ否ヤヲ明言セスト雖モ其債務ヲ免カレシムルコト素ヨリ當然ナルヲ以テ本條ハ其旨ヲ規定シタリ
其他現行商法ハ供託ハ債權者ノ危險及ヒ費用ニテ之ヲ爲スヘキモノト爲スト雖モ供託シタル金額ノ所有權ハ供託ト共ニ爲替手形ノ所持人ニ移轉シ之ニ關スル危險及ヒ費用ハ所有者タル爲替手形ノ所持人ノ負擔タルヘキコト勿論ナリ又現行商法ハ供託ヲ爲シタル場合ニ於テ支拂人ハ甚タシキ怠慢ニ付テノミ責任ヲ負フト爲ス蓋シ此規定ハ銀行等ニ於テ供託金額ヲ保管セシムル法制ニ於テハ素ヨリ必要ナリト雖モ我國現今ノ制度ノ如ク國庫ニ於テ供託金額ヲ保管セシムルトキハ毫モ其必要アルヲ見ス是レ本案カ此二者ヲ削除シタル所以ナリ
第六節 償還ノ請求
(理由)本節ハ現行商法第一編第十二章第一節第八款ニ該當シ償還ノ請求ニ關スル規定ヲ揭ク
第四百八十三條
(理由)本條ハ現行商法第七百七十五條ノ一部ニ該當スルモノニシテ擔保ノ請求ニ關スル本案第四百七十一條ノ規定ト相對ス現行商法第七百七十五條ニ於テハ「支拂人カ滿期日ニ爲替手形ノ支拂ヲ爲ササルトキ」云々ト規定スト雖モ支拂人ハ滿期日ニアラサレハ支拂ヲ爲スノ義務ナク從テ滿期日以前ニ支拂ヲ爲ササル理由トシテ償還ノ請求ヲ爲シ得サルコト勿論ナリ最モ現行商法第七百七十九條ニ於テハ之ニ對スル唯一ノ例外トシテ引受人カ資力ノ確ナラサルニ至リ且支拂ノ爲メ十分ナル擔保ヲ供セサル場合ニ限リ滿期日前ニ償還ヲ請求スルコトヲ許スモ本案ハ此場合ニ於テハ單ニ擔保ノ請求ノミヲ許スニ過キサルコト旣ニ第四百七十七條ニ於テ規定スル所ナルヲ以テ此例外ニ對スル原則トシテ「滿期日ニ」云々ノ文字ヲ揭クルノ必要ナシ故ニ之ヲ削除シタリ又現行商法第七百七十五條ニ於テハ償還ヲ請求シ得ヘキ金額ヲ定ムト雖モ本案ハ之ヲ第四百八十八條及ヒ第四百八十九條等ニ讓リタリ其他ハ字句ノ修正ニ過キス
第四百八十四條
(理由)本條第一項ハ現行商法第七百六十七條前段第七百七十六條及ヒ第七百八十一條ノ一部ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法第七百七十六條前段ニ於テハ「所持人ハ爲替手形ヲ滿期日ニ支拂ノ爲メ呈示スヘシ」云々ト規定スト雖モ所持人カ滿期日ニ支拂ヲ求ムル爲メ爲替手形ヲ支拂人ニ呈示スルコトヲ要スルハ償還ノ請求ヲ爲ス要件ニシテ償還ノ請求ヲ爲ササル所持人ハ支拂ノ爲メニスル呈示ヲ爲スコトヲ要セサルハ勿論ナリ現行商法カ此制限ヲ加ヘサルハ廣汎ニ失スルノミナラス滿期日ニ非サレハ支拂ノ爲メ呈示スヘキモノニアラサルコト當然ナルニモ拘ハラス特ニ「滿期日ニ」ノ四字ヲ加ヘタルハ無要ノ規定ト謂ハサルヘカラス故ニ本條第一項前段ニ於テハ「所持人カ前條ノ請求ヲ爲サント欲スルトキハ支拂ヲ求ムル爲メ爲替手形ヲ支拂人ニ呈示シ」云々ト規定シタリ又現行商法第七百六十七條ニ於テハ支拂人カ正當ノ理由ナクシテ滿期日ニ爲替金額ノ支拂又ハ寄託ヲ拒ムトキハ所持人ハ其次ノ業日ニ拒證書ヲ作ルコトヲ要スル旨ヲ規定シ第七百七十六條ニ於テモ亦「若シ支拂ヲ爲ササルトキハ滿期日ノ次ノ業日ニ支拂拒證書ヲ作ルヘシ但第七百六十一條第二項ニ揭ケタル一分ノ支拂ノ場合ニ於テモ亦同シ」ト規定シ結局同一ノ意義ヲ有スルニ過キサル規定ヲ二ケ所ニ分チ之ヲ支拂ニ關スル一款及ヒ償還請求ニ關スル一款中ニ揭ケ互ニ相重複スル不都合アルノミナラス滿期日ニ手形金額ノ支拂ナキトキニ非サレハ支拂拒絕證書ヲ作成セシムヘカラサルモ滿期日ニ支拂ナキトキハ如何ナル場合ヲ問ハス支拂拒絕證書ヲ作成セシムルコトヲ得ヘク又手形金額ノ一部ニ付キ支拂アリタルトキハ其支拂ナキ部分ニ付キ支拂拒絕證書ヲ作成セシムルヲ得ヘキコト勿論ニシテ此旨ヲ明示シタルハ無要ノ規定ト謂ハサルヘカラス殊ニ支拂拒絕證書ヲ作成セシムルコトヲ得ヘキ時期ヲ滿期日ノ次ノ業日ノミニ限リタルハ狹隘ニ失ス卽チ滿期日ニ支拂ヲ拒絕セラレタルトキハ卽日支拂拒絕證書ヲ作成セシムルコトヲ得セシムヘキノミナラス滿期日後二日內ニモ亦之ヲ作成セシムルコトヲ得セシムルハ正當ナルヘシ故ニ本條第一項ニ於テハ若シ手形金額ノ支拂ナキトキハ滿期日又ハ其後ノ二日內ニ支拂拒絕證書ヲ作ラシムルコトヲ要スルモノト爲シタリ又現行商法第七百六十七條ニ於テハ所持人カ償還請求ヲ爲サント欲スル者ニ拒證書ノ作成ヲ通知スルコトヲ要スト規定シ第七百八十一條ニ於テモ亦償還請求ヲ爲ス者ハ第七百三十九條ノ規定ニ依リテ引受拒證書作成ノ通知ヲ爲シタルニモ拘ハラス尙ホ其償還請求ヲ爲サント欲スル前者ニ書面ヲ以テ其請求及ヒ支拂拒證書作成ノ通知ヲ爲スコトヲ要ス其通知ハ所持人ニ在テハ拒證書ヲ作リタル日ノ翌日之ヲ爲スヘシト規定スト雖モ同一事項ヲ二ケ所ニ規定スルノ必要ナキノミナラス償還ヲ請求スルニハ必ス支拂拒絕證書ヲ作成セシムルコトヲ要スルヲ以テ償還請求ノ通知ヲ爲サシムル以上ハ別ニ支拂拒絕證書作成ノ通知ヲ爲サシムルノ必要ナシ故ニ本條第一項ハ單ニ償還ヲ爲サシメント欲スル者ニ對シ拒絕證書作成ノ翌日マテニ償還請求ノ通知ヲ發スルコトヲ要スルモノト爲シタリ是レ本條第一項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
本條第二項ハ現行商法中ニ明文ヲ存セサル所ナリト雖モ之ト同一ニ解釋スヘキコトハ現行商法第七百七十六條第七百七十八條及ヒ第七百八十一條等ノ規定ニ徵シテ疑ヲ容レサルヲ以テ本案ハ新ニ明文ヲ以テ之ヲ規定シタリ
第四百八十五條
(理由)本條ハ現行商法第七百八十條後段及ヒ第七百八十一條ノ一部ニ該當スルモノニシテ一層其趣旨ヲ明瞭ニシ且行文ヲ簡單ナラシメタルニ過キス
第四百八十六條
(理由)本條第一項ハ現行商法第七百六十七條後段及ヒ第七百八十三條ノ規定ニ該當スルモノナリ抑モ現行商法第七百六十七條後段ニ於テハ所持人ハ爲替手形ニ明記アルニ因リテ拒證書作成ノ義務ヲ免ルルコトヲ得ト規定シ何人ニ對シテ拒證書作成ノ義務ヲ免ルヘキカヲ明瞭ニセサリシカ爲メ解釋上聊カ疑ナキ能ハサル所アリ卽チ此規定ノ意義ニシテ若シ前者中一人カ支拂拒絕證書作成ノ義務ヲ免除シタルトキハ其總員ニ對シテ此義務ヲ免ルルモノトスルニアリトセハ此規定ハ不當ナルヘク又若シ支拂拒絕證書作成ノ義務ヲ免除シタル者ノミニ對シテノミ此義務ヲ免ルルモノトセハ其免除ヲ爲替手形ニ明記シタル場合ノミニ限ルノ必要ナカルヘシ何レニスルモ其當ヲ得タルモノニアラサルヘシ又現行商法第七百八十三條ニ於テハ拒證書作成ノ義務免除ニ因リテ拒證書作成ノ權利及ヒ償還請求權ハ消滅セスト規定スト雖モ拒絕證書作成ノ義務ヲ免除セラレタル者ニ對シテ所持人ハ尙ホ之ヲ作成スルノ權利ヲ有スルコトハ第四百八十四條及ヒ本條第二項ノ規定ノ解釋トシテモ作成義務免除ノ性質ヨリ推論シテモ當然言フヲ俟タサルトコロナリ又「拒絕證書作成ノ義務免除ニ因リテ償還請求權カ消滅セス」ト曰ヘルハ字句甚タ穩當ヲ缺クモノアルモ結局所持人カ支拂拒絕證書ヲ作成セシメサルトキハ前條第二項ノ規定ニ從ヒ振出人其他ノ前者ニ對スル手形上ノ權利ヲ失フモ其作成ヲ免除セシ者ニ對シテハ手形上ノ權利ヲ失フコトナキノ意ニ外ナラサルヘシ是レ本案カ現行商法ニ削除修正ヲ加ヘ本條第一項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
本條第二項ハ現行商法第七百八十三條ノ一部ニ該當シ一層其趣旨ヲ明瞭ニシタルニ過キス卽チ現行商法第七百八十三條ニ於テハ「拒證書作成ノ義務免除ニ因リテ拒證書作成ノ權利及ヒ償還請求權ハ消滅セス」云々ト規定シ以テ間接ニ本條第二項ト其趣旨ヲ同フスルコトヲ示スト雖モ寧ロ明文ヲ以テ之ヲ規定スルノ可ナルニ如カス是レ本案カ本條第二項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第四百八十七條
(理由)本條第一項ハ現行商法第七百七十八條ノ一部ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ現行商法第七百七十八條ニ於テハ引受人ニ對シテ爲替權利ヲ保全スルニハ滿期日ニ於ケル呈示及ヒ拒證書ノ作成ヲ要セサル旨ヲモ規定スト雖モ是レ當然言フヲ俟タサル所ナルヲ以テ本案ハ之ヲ削除シ其他ノ規定ノ字句ヲ修正シテ一層其趣旨ヲ明カニシ以テ本條第一項ノ規定ヲ設ケタリ
本條第二項ハ現行商法中ニ明文ヲ以テ規定セサル所ナリト雖モ現行商法第七百七十八條カ先ツ引受人ニ對シテ爲替權利ヲ保全スルニハ滿期日ニ於ケル呈示及ヒ拒證書ノ作成ヲ要セスト規定シ次ニ然レトモ他所拂爲替手形ハ他所拂人若シ他所拂人ノ記載ナキトキハ支拂人ニ其爲替手形ヲ支拂フヘキ地ニ於テ支拂ノ爲メ之ヲ呈示スヘシ若シ支拂ヲ爲ササルトキハ同地ニ於テ拒證書ヲ作ル可シト規定シタルヨリ之ヲ觀レハ他所拂爲替手形ノ所持人カ若シ此等ノ手續ヲ爲ササリシトキハ引受人ニ對シテモ手形上ノ權利ヲ失フモノトセルコト殆ント疑ヲ容レス然レトモ爲替手形ニ支拂擔當者ノ記載ナキ場合ニ於テモ尙ホ此效果ヲ生セシムルコトハ不當ナルヲ以テ本案ハ一方ニ於テハ之ヲ爲替手形ニ支拂擔當者ノ記載アル場合ニ限リ他方ニ於テハ明文ヲ以テ之ヲ規定スルコトト爲シ本條第二項ノ規定ヲ設ケタリ
第四百八十八條
(理由)本條第一項ハ現行商法第七百七十五條ノ一部及ヒ第七百八十六條ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法第七百七十五條ニ於テハ所持人ハ爲替金額及ヒ其利息幷ニ不拂ニ因リテ生シタル一切ノ費用ニ付キ償還請求權ヲ有スルモノナルコトヲ規定シ第七百八十六條ニ於テハ(一)爲替金額及ヒ滿期ノ翌日ヨリ起算シタル年百分ノ十ノ利息(二)拒證書ノ費用其他必要ナル立替金(三)戾爲替ヲ振出シタルトキハ其費用ニ付キ償還ヲ請求スルコトヲ得ル旨ヲ規定スト雖モ手形金額ニ付キ償還ノ請求ヲ爲スコトヲ得ルハ支拂アラサリシ部分ニ限リ支拂アリタル部分ニ付テハ之ヲ爲スコトヲ得サルハ勿論ナルヲ以テ本條第一項第一號ハ之ヲ「支拂アラサリシ手形金額」ニ制限シ又本案第二百七十六條ニ於テ商行爲ニ因リテ生シタル債務ニ關スルニ法定利率ヲ定ムル以上ハ償還金額ヲ定ムルニ當リテモ亦之ニ依ルコト正當ナルヲ以テ本條第一項第一號ハ「滿期日ノ以後ノ法定利息」ト爲シ又拒證書ノ費用其他必要ナル立替金、戾爲替ノ費用等ト一々之ヲ列擧スルハ煩雜ニシテ且脫漏ノ虞アルヲ以テ本條第一項第二號ハ單ニ「拒絕證書作成ノ手數料其他ノ費用」ト改メ以テ一切ノ費用ヲ槪括シタリ是レ本條第一項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
本條第二項ハ現行商法第八百條第一項ノ規定ニ該當スルモノナリ抑モ償還ハ所持人ヲシテ滿期日ニ手形金額ノ支拂ヲ受ケタルト同一ノ位地ニ立タシムルコトヲ目的トスルモノナレハ支拂地ト償還ヲ爲スヘキ者ノ住所地ト異ナルトキハ支拂地ヨリ償還ヲ爲スヘキ者ノ住所地ニ宛テ振出シタル一覽拂ノ爲替手形ノ相場ニ依リテ償還金額ヲ計算スルコト正當ナリ現行商法第八百條第一項ニ於テハ戾爲替手形ノ費用ノ額ハ仲買人手數料、仲立人手數料、郵便稅、印紙稅及ヒ支拂地ヨリ償還義務者ノ住所ニ宛テ振出シタル一覽拂爲替手形ノ相場ニ因リテ定マルモノト爲シ戾爲替手形ヲ振出シタルトキニ限リ此等ノ金額ノ償還ヲ請求スルコトヲ得セシムルモ若シ戾爲替手形ヲ振出ササルトキハ爲替相場ノ高低ヲ以テ計算中ニ加フルコトナシ殊ニ現行商法第八百條第一項ノ規定ニ依レハ支拂地ヨリ償還ノ請求ヲ受クル者ノ住所地ニ宛テタル一覽拂ノ爲替手形ノ相場カ額面以下ニアルトキハ其差額ヲ戾爲替ノ費用トシテ償還金額ニ算入スルモ若シ額面以上ニアルトキハ其差額ハ之ヲ償還金額ヨリ控除スヘキ規定ナキヲ以テ結局所持人ノ利得ニ歸セシメサルヘカラサルヘシ是レ決シテ公平ヲ得タルモノニ非サルナリ故ニ本案ハ所持人カ戾爲替手形ヨリ振出スト否ト又爲替相場カ額面以下ニアルト額面以上ニアルトヲ問ハス償還金額ハ支拂地ヨリ償還ノ請求ヲ受クル者ノ住所地ニ宛テ振出シタル一覽拂ノ爲替手形ノ相場ニ依リテ之ヲ計算スヘキモノト爲シタリ然レトモ償還ノ請求ヲ受クル者ノ住所地ト支拂地トノ關係如何ニ依リテ必スシモ支拂地ヨリ償還ノ請求ヲ受クル者ノ住所地ニ宛テタル一覽拂ノ爲替手形ノ相場アルモノニアラス若シ此相場ナキトキハ比較的ニ最モ正確ナリト認メラルヘキ標準ニ依リ卽チ償還ノ請求ヲ受クル者ノ住所地ニ最モ近キ土地ニ宛テ振出シタル一覽拂爲替手形ノ相場ニ依リテ償還金額ヲ計算スルノ外ナシトス是レ本條第二項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第四百八十九條
(理由)本條第一項ハ現行商法第七百八十條後段及ヒ第七百八十六條ノ規定ニ該當スルモノナリ抑モ現行商法第七百八十條後段ニ於テハ償還請求ヲ受ケタル裏書讓渡人ハ其前者ニ對シテ償還請求ヲ爲スコトヲ得ルモノト爲シ第七百八十六條ニ於テ償還ヲ請求シ得ヘキ金額ヲ定ムト雖モ爲替金額ノミニ付キ利息ヲ請求スルコトヲ得ルニ止マリ支拂ヒタル利息其他ノ費用ニ對シ支拂ノ日以後ニ於ケル利息ヲ請求スルコトヲ得セシメサルハ不當ナリ又本案第二百七十六條ニ於テ商行爲ニ因リテ生シタル債務ニ關スル法定利率ヲ定ムル以上ハ此場合ニモ亦法定利率ニ依ラシムルコト正當ナリ又此現行商法ノ規定ニ依レハ償還ノ請求ヲ受ケタル裏書人カ支出シタル費用ハ之カ償還ヲ請求スルコトヲ得ルヤ否ヤ明瞭ナラサル所アリト雖モ立法上之カ償還ヲ請求スルコトヲ得セシムルノ正當ナルハ勿論ナリトス是レ本條第一項ノ如ク修正ヲ加ヘタル所以ナリ本條第二項ハ現行商法第七百八十六條第三號及ヒ第八百條第一項ノ規定ニ該當スルモノニシテ之ヲ設ケタル理由ハ前條第二項ト全ク同一ナリトス
其他現行商法第八百條第二項ニ於テハ右ノ相場ハ戾爲替手形ヲ遞次振出ス場合ト雖モ本爲替手形ノ支拂地ヨリ振出地ニ宛テタル一覽拂爲替手形ノ相場ヲ超ユルコトヲ得サルモノト爲シ振出人ノ償還義務ニ制限ヲ加フト雖モ償還ノ目的ハ所持人ヲシテ支拂ヲ受ケタルト同一ノ位地ニ立タシメ又ハ裏書人ヲシテ償還ヲ爲ササリシト同一ノ位地ニ立タシムルニアル以上ハ單ニ振出人ノ負擔ノ過重ナルヲ理由トシテ之ヲ制限スヘカラス況ンヤ本案ノ規定ニ從ヘハ振出地ニ宛テタル一覽拂ノ爲替手形ノ相場カ其額面以上ニアルトキハ其差額ハ振出人ノ利得ニ歸スヘキニ於テオヤ是レ本案カ現行商法第八百條第二項ノ制限ヲ廢止シタル所以ナリ
第四百九十條
(理由)本條ハ現行商法第七百九十九條及ヒ第八百二條ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法第七百九十九條ニ於テハ所持人ハ償還金額ニ付各償還義務者ニ對シテ戾爲替手形ヲ振出スコトヲ得ト規定シ第八百二條ニ於テハ戾爲替手形ヲ支拂ヒタル者ハ其前者中ノ一人ニ宛テ更ニ戾爲替手形ヲ振出スコトヲ得ト規定シタリト雖モ元來戾爲替手形ナルモノハ償還ノ請求ヲ爲ス爲メ振出人其他ノ前者ヲ支拂人トシテ振出ス爲替手形ニシテ此點ヲ除クトキハ通常ノ爲替手形ト異ナル所ナシ從テ學說上戾爲替手形ナル名稱ヲ附スルハ格別法典ニ於テ此ノ如キ名稱ヲ用ユルノ必要ナク單ニ償還請求ヲ爲ス爲メニ前者ヲ支拂人トシテ振出スモノナルコトヲ明カニスルヲ以テ足レリトス又現行商法ニ於テハ「戾爲替手形ヲ支拂ヒタル者ハ」云々ト曰ヒ戾爲替手形ノ支拂ニ依ラスシテ償還ヲ爲シタル裏書人ヲ除外スト雖モ如何ナル方法ニ依ルヲ問ハス償還ヲ爲シタル裏書人ニハ凡テ所持人ト同シク之ヲ振出スコトヲ得セシムルコト正當ナリ是レ本條ノ如ク修正ヲ加ヘタル所以ナリ
第四百九十一條
(理由)本條ハ現行商法第七百九十九條第八百條及ヒ第八百二條等ニ包含スルヲ趣旨ヲ明言シタルニ過キス卽チ本案第四百八十八條第二項及ヒ第四百八十九條第二項ノ規定ニ依リ所持人ヨリ前者ニ對スル償還金額ハ支拂地ヨリ償還ノ請求ヲ受クル者ノ住所地ニ宛テ振出シタル一覽拂ノ爲替手形ノ相場ニ依リテ之ヲ計算シ裏書人ヨリ前者ニ對スル償還金額ハ裏書人ノ住所地ヨリ償還ノ請求ヲ受クル者ノ住所地ニ宛テ振出シタル一覽拂ノ爲替手形ノ相場ニ依リテ之ヲ計算スル以上ハ前條ノ規定ニ依リ償還ノ請求ヲ爲ス爲メ振出ス爲替手形モ亦所持人ヨリ振出ストキハ支拂地、裏書人ヨリ振出ストキハ其住所地ヲ振出地ト定メ償還ノ請求ヲ受クル者ノ住所地ヲ支拂地ト定メタル一覽拂ノモノナルコトヲ要スルハ當然ナリ若シ然ラスンハ計算ニ齟齬ヲ生スルヲ免カレス現行商法ハ明文ヲ以テ之ヲ規定セス唯タ僅ニ第七百九十九條第八百條及ヒ第八百二條等ノ規定ニ依リテ其同一ノ趣旨ナルコトヲ示シタリト雖モ寧ロ明文ヲ以テ之ヲ規定スルニ如カス是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第四百九十二條
(理由)本條ハ現行商法第七百八十八條第七百八十九條及ヒ第八百一條ノ規定ヲ併合シ之ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法第七百八十八條ニ於テハ償還義務者ハ爲替手形、拒證書及ヒ受取證ヲ記シタル償還計算書ノ交付ヲ受クルニ非サレハ支拂ヲ爲ス義務ナシト規定シ同第七百八十九條ニ於テモ亦爲替義務者ハ償還金額ノ支拂ト引換ニテ受取證ヲ記シタル爲替手形及ヒ支拂證書ノ交付ヲ所持人ニ求ムル權利アリト規定スト雖モ此規定ハ互ニ重複スル部分アルノミナラス償還ヲ受クル者ヲシテ償還計算書ニ受取證ヲ記載セシムル以上ハ別ニ爲替手形ニ受取證ヲ記載セシムルノ必要ナシ又單ニ「受取證ヲ記シ」云々ト曰フトキハ受取ノ旨ヲ記載スルニ止マリ署名スルコトヲ要セサルカ將タ又署名スルコトヲモ要スルカ明瞭ヲ缺クヲ免レス又現行商法第八百一條ニ於テハ戾爲替手形ニハ拒マレタル爲替手形、拒證書及ヒ償還計算書ヲ添フ可シト規定スト雖モ所謂戾爲替手形ナルモノハ本案第四百九十條ニ規定シタルカ如ク償還ノ請求ヲ爲スカ爲メニ振出スモノニシテ償還ハ本條第一項ノ規定ニ依リ爲替手形、支拂拒絕證書及ヒ償還計算書ト引換ニ非サレハ之ヲ受クルコトヲ得ス故ニ本案第四百九十條ニ規定シタル爲替手形卽チ所謂戾爲替手形ニハ支拂ヲ拒マレタル爲替手形、支拂拒證書及ヒ償還計算書ヲ添フヘキコト當然ナリ是レ本條ノ如ク修正ヲ加ヘタル所以ナリ
第四百九十三條
(理由)本條ハ現行商法第七百八十一條但書ニ該當ス抑モ現行商法第七百八十一條但書ニ於テハ裏書讓渡人ノ通知ハ其後者ノ爲メニモ效力アリト規定スト雖モ裏書人ノ一人カ其前者ニ對シテ發シタル通知ハ其通知ヲ受クル者ト通知ヲ爲シタル者トノ中間ニアル者ノ爲メニハ亦效力ヲ有スルコト至當ナリ然ルニ現行商法ハ此點ニ關スル規定ヲ脫漏シタリ是レ本案カ擔保ノ請求ニ關スル第四百七十五條第二項ノ例ニ準シテ本條ノ規定ヲ設ケ且之ヲ簡單ナラシムルカ爲メ第四百七十五條第二項ノ規定ハ償還ノ請求ニモ亦之ヲ準用スヘキモノト爲シタル所以ナリ
第七節 保證
(理由)本節ハ現行商法第一編第十二章第一節第五款ニ該當シ保證ニ關スル規定ヲ揭ク抑モ現行商法第七百五十二條ニ於テハ保證ノ義務ヲ負擔スルニハ別ニ書面上ノ陳述ヲ以テスルコトヲ得ヘキモノト爲ス是レ保證ハ一方ニ於テ手形上ノ債務ヲ確保シ其流通ヲ容易ナラシムルノ效力アリト雖モ他方ニ於テ手形ニ保證ヲ爲シアルハ主タル債務者ノ資力確カナラサルコトヲ推測セシムルニ足ルモノアリテ却テ其信用ヲ失墜スルカ爲メニ外ナラサルヘシ然レトモ手形ニ保證ヲ爲スニハ必スシモ其旨ヲ記載スルコトヲ要スルモノニアラス卽チ保證人ハ其手形ニ裏書ヲ爲シ主タル債務者ニ對シテハ保證人タルモ其他ノ手形當事者ニ對シテハ眞正ノ裏書人ト同一ノ責任ヲ負ヒ以テ其手形ノ信用ヲ增進スルコトヲ得ヘシ此方法ニシテ存スル以上ハ現行商法第七百五十二條ハ之ヲ存スルノ必要ナキヲ以テ本案ハ之ヲ削除シタリ
又現行商法第七百五十三條ニ於テハ爲替保證ノ義務ハ明示ノ契約ヲ以テ之ヲ制限スルコトヲ得然レトモ其制限ハ契約ヲ爲シタル當事者間ニノミ效力アリト規定スト雖モ保證債務ヲ制限スル契約ノ當事者以外ノ者ニ對シテ效力ナキコトハ當然言フヲ俟タサル所ナルノミナラス當事者間ニ於テ效力ヲ有セシムルニハ必スシモ明示ノ契約ニ限ルヘキ理由ナシ故ニ本案ハ之ヲ削除シタリ
第四百九十四條
(理由)本條ハ現行商法第七百五十一條ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ現行商法ニ於テハ「爲替手形ニ於テ爲替債務者ノ署名ニ自己ノ署名ヲ添フル第三者」云々ト曰ヒ保證ハ爲替手形ニ於ケル主タル債務者ノ署名ニ副署スルコトニ依リテ之ヲ爲スヘキモノト爲スト雖モ此規定ハ一方ニ於テハ狹隘ニ失シ他方ニ於テハ汎漠ニ過ク卽チ爲替手形ノ謄本又ハ補箋ハ爲替手形ニ代ハルヘキモノ又ハ其一部ト同視セラルヘキモノナルニモ拘ハラス之ヲ包含セシメサリシハ狹隘ニ失シ單ニ主タル債務者ノ署名ニ副署スルコトノミニ依リテ保證ヲ爲シタルモノトスルトキハ實際上往々主タル債務者ナルカ將タ又保證人ナルカヲ區別スルコト能ハサルヘク此點ニ於テハ汎漠ニ過ク故ニ本案ハ之ヲ改メテ「爲替手形ヨリ生シタル債務ヲ保證スル爲メ爲替手形、其謄本又ハ補箋ニ署名シタル者」云々ト爲シタリ又現行商法ニ於テハ連帶シテ債務ヲ負フ旨ノミヲ規定シ主タル債務カ無效ナル場合ニ於ケル保證ノ效力ヲ規定セス然ルニ一方ニ於テハ本案第二百六十三條第四號及ヒ第二百七十三條第二項ノ規定ニ依リ手形債務ノ保證人ハ主タル債務者ト連帶責任ヲ負フヘキコト當然言フヲ俟タサル所ニ屬シ他方ニ於テハ主タル債務カ無效ナルトキト雖モ保證人ハ主タル債務者ト同一ノ責任ヲ負ハサルヘカラサルヤ否ヤ疑アリ故ニ本案ハ之ヲ改メテ爲替手形ヨリ生シタル債務カ無效ナルトキト雖モ主タル債務者ト同一ノ責任ヲ負フモノト爲シタリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第四百九十五條
(理由)本條ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ抑モ爲替手形ヨリ生シタル債務ヲ保證シタルコト分明ナルモ何人ノ負フ所ノ債務ヲ保證シタルモノナルカ分明ナラサルコトアリ是レ手形中ニ署名シタル債務者ハ振出人、裏書人、引受人、參加引受人等數多アルカ爲メ實際上屢々生スル問題ニシテ此保證ヲ無效ト爲スニ非サルヨリハ其何人ノ爲メニ爲シタルモノト看做ヘキカハ法律ノ明文ヲ以テ之ヲ決定スルコトヲ要シ而シテ此ノ如キ保證ト雖モ成ルヘク之ヲ有效ニ解釋スルハ當事者ノ意思ヲ重ンシ且手形ノ信用ヲ增進スル爲メ必要ナルヲ以テ本案ハ新ニ本條ノ規定ヲ設ケ何人ノ爲メ保證ヲ爲シタルカ分明ナラサルトキハ其保證ハ引受人ノ爲メニ之ヲ爲シタルモノト看做シ若シ未タ引受アラサリシトキハ振出人ノ爲メニ之ヲ爲シタルモノト看做シタリ
第四百九十六條
(理由)本條モ亦現行商法中ニ存セサル所ナリ抑モ保證債務ヲ履行シタル保證人ハ如何ナル權利ヲ有スルカニ付テハ保證債務及ヒ代位辨濟ニ關スル民法ノ規定ヲ適用スルヲ以テ足レリトセス本案ニ特別ノ規定ヲ設クルコト實際上甚タ必要ナリ而シテ此場合ニ其保證人ヲシテ所持人カ主タル債務者ニ對シテ有シタル權利及ヒ主タル債務者カ其前者ニ對シテ有スヘキ權利ヲ當然取得セシムルコトハ保證人ニ甚タ便宜ヲ與フルノミナラス之カ爲メ毫モ主タル債務者及ヒ其前者ノ負擔ニ重キヲ加フルコトナシ是レ本案カ新ニ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第八節 參加
(理由)本節ハ現行商法第一編第十二章第一節第四款及ヒ第七款ニ該當スルモノニシテ參加卽チ參加引受及ヒ參加支拂ニ關スル規定ヲ揭ク
現行商法ニ於テハ參加ニ該當スヘキ榮譽引受及ヒ榮譽支拂ヲ各別款ニ規定シタリト雖モ本案ハ旣ニ本章ノ冒頭ニ於テ述ヘタルカ如ク之ヲ參加ト題スル一節中ニ包含セシメタリ然レトモ參加引受ト參加支拂トハ素ヨリ其性質效力ヲ異ニスルヲ以テ本案ハ本節ヲ二款ニ分チ第一款ニ參加引受、第二款ニ參加支拂ヲ規定シタリ
第一款 參加引受
(理由)本款ハ現行商法第一編第十二章第一節第四款ニ該當スルモノニシテ參加引受ニ關スル規定ヲ揭ク現行商法ハ此參加引受ヲ榮譽引受ト稱スト雖モ穩當ヲ缺クヲ以テ本案ハ之ヲ參加引受ト改メタルコト旣ニ本章ノ冒頭ニ於テ述ヘタル所ナリ
第四百九十七條
(理由)本條第一項ハ現行商法第七百四十三條ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法ニ於テハ所持人ハ豫備支拂人ニ爲替手形ノ引受ヲ求ムヘキ旨ノミヲ規定シ其引受ヲ求メサリシ效果ニ及ハスト雖モ其趣旨トスル所ハ本案ハ同シク卽チ支拂地ニ於ケル豫備支拂人アルニモ拘ハラス之ニ引受ヲ求メサル所持人ヲシテ振出人其他ノ前者ニ對シ擔保ヲ請求スルコトヲ得サラシムルニアルハ殆ント疑ヲ容レス故ニ本案ハ明文ヲ以テ此旨ヲ規定シタリ其他ハ字句ノ修正ニ過キス
本條第二項ハ本款ニ該當スル現行商法第一編第十二章第一節第四款中ニ明文ヲ存セサル所ナリト雖モ豫備支拂人ニ引受ヲ求メタルモ其引受ヲ爲ササリシコトハ拒絕證書ニ依リテ之ヲ證明セシムルコト必要ナリ是レ本案カ新ニ本條第二項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第四百九十八條
(理由)本條ハ現行商法第七百四十四條ニ該當ス抑モ現行商法第七百四十四條ニ於テハ豫備支拂人ニ非サル者卽チ支拂人又ハ第三者カ振出人又ハ裏書人ノ爲メニ參加引受ヲ爲スコトヲ得ル旨及ヒ所持人ハ此ノ如キ參加引受ヲ許諾スルノ義務ナキ旨ヲ規定スト雖モ前者ハ當然言ヲ俟タサル所ナルヲ以テ本案ハ之ヲ削除シ後者ハ其字句ニ修正ヲ加ヘ本條ニ之ヲ規定シタリ
第四百九十九條
(理由)本條ハ現行商法第七百四十五條前段ノ規定ニ該當ス抑モ現行商法第七百四十五條ニ於テハ二人以上ノ參加人アルトキハ最モ多數ノ義務者ノ榮譽ノ爲メニ引受ヲ爲ス者ヲ以テ榮譽引受人トスト規定スト雖モ豫備支拂人ニ非サル者ノ參加引受ハ所持人ニ於テ之ヲ拒ムコトヲ得ルハ前條及ヒ之ニ該當スル現行商法第七百四十四條後段ノ認ムル所ナルニモ拘ハラス二人以上ノ參加引受人アルトキハ最モ多數ノ者ノ爲メニ爲ス參加引受ヲ拒ムコトヲ得サルカ如ク規定セルハ不當ナリ殊ニ參加引受人ノ何人ナルカハ所持人ニ大ナル利害關係ヲ及ホシ若シ資力ニ乏シキ者ナルトキハ假令參加引受ヲ爲スモ之ヨリ支拂ヲ受クルコトヲ得サルヘシ然ルニ最モ多數ノ者ノ爲メニスル參加引受ハ所持人ニ於テ之ヲ拒絕スルコトヲ得サルモノト爲シ其擔保請求權ヲ失ハシムルハ決シテ之ヲ保護シ間接ニ手形ノ信用ヲ增進シ其流通ヲ容易ナラシムル所以ノ途ニアラス是レ本案カ參加引受ヲ爲サントスル者數人アルトキハ所持人ハ其選擇ニ從ヒ其中一人ヲシテ引受ヲ爲サシムルコトヲ得ルモノト爲シタル所以ナリ
第五百條
(理由)本條第一項ハ現行商法第七百四十八條ノ一部ニ該當ス卽チ同條ニ於テハ榮譽引受ハ參加人爲替手形ニ之ヲ記載シテ署名捺印スルコトヲ要スル旨ヲ規定スト雖モ本案ハ一般ニ捺印ヲ以テ要件ト爲シタル現行商法ノ制度ヲ廢止シタルカ故ニ之ヲ削除シ其他ノ字句ニ修正ヲ加ヘ本條第一項ニ之ヲ規定シタリ
本條第二項ハ現行商法第七百四十五條後段ノ規定ニ該當シ唯タ其字句ニ修正ヲ加ヘタルニ過キス
第五百一條
(理由)本條第一項ハ現行商法第七百四十八條後段及ヒ第七百四十九條ノ一部ニ該當ス卽チ現行商法第七百四十八條ニ於テハ「榮譽引受ハ參加人爲替手形ニ之ヲ記載シテ署名捺印シ且拒證書若クハ其附箋ニ之ヲ記載スルコトヲ要ス」ト規定シ恰カモ參加引受人カ自ラ參加引受ヲ爲シタル旨ヲ引受拒絕證書ニ記載スルコトヲ要スルニ似タリ然レトモ參加引受アリタル旨ヲ引受拒絕證書ニ記載スルハ參加引受人ニアラス所持人ニアラスシテ其拒絕證書ヲ作リタル公證人又ハ執達吏ナルコト本案第五百十一條及ヒ第五百十二條第七號及ヒ之ニ該當スル現行商法第七百九十條及ヒ第七百九十五條第一項第五號ノ明カニ規定スル所ナリ故ニ本案ハ此點ニ關スル現行商法ノ規定ヲシテ一層明瞭ナラシメンカ爲メ其第七百四十八條ヲ二分シ一部ハ之ヲ前條第一項ニ規定シ他ノ一部ハ之ヲ本條第一項ニ規定シ且所持人ノ方面ヨリ立言シテ所持人ハ引受拒絕證書ニ參加引受アリタル旨ヲ記載セシムルコトヲ要スルモノト爲シタリ其他ハ字句ノ修正ニ過キス
本條第二項ハ現行商法第七百四十九條ノ一部ニ該當ス現行商法第七百四十九條ニ於テハ參加人ハ遲クトモ拒證書作成ノ翌日受榮譽者ニ榮譽引受ヲ爲シタル旨ヲ通知シテ拒證書ヲ送付スルコトヲ要ス若シ此事ヲ怠ルトキハ此ニ因リテ生スル損害ニ付キ責任ヲ負フト規定スト雖モ本案第五百十二條第七號及ヒ之ニ該當スル現行商法第七百九十五條第一項第五號ノ規定ニ依リテ引受拒絕證書ニハ必ス何人カ何人ノ爲メニ參加引受ヲ爲シタルカヲ記載スルコトヲ要シ其引受拒絕證書ノ送付ヲ受クルコトニ因リテ被參加人ハ自己ノ爲メニ參加引受アリタル旨ヲ知ルヲ得ヘシ從テ別ニ參加引受人ヨリ被參加人ニ對シ參加引受ヲ爲シタル旨ヲ通知セシムルノ必要ナシ又參加引受ハ必スシモ引受拒絕證書ヲ作リタル翌日マテニ之ヲ爲スコトヲ要セサルヲ以テ拒絕證書作成ノ翌日マテニ拒絕證書ヲ被參加人ニ送付スルコトヲ要ストスルハ或場合ニハ急迫ニ過キ或場合ニハ不能ニ屬ス故ニ唯タ遲滯ナク拒絕證書ヲ被參加人ニ送付スルヲ以テ足レリトセサルヘカラス又參加引受人カ遲滯ナク引受拒絕證書ヲ被參加人ニ送付セサルトキハ之ニ因リテ生スル損害ヲ賠償スルノ責ニ任スヘキコト當然ニシテ別ニ明文ヲ要セス是レ本條第二項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第五百二條
(理由)本條ハ現行商法第七百四十七條ノ規定ニ該當スルモノナリ抑モ現行商法第七百四十七條ニ於テハ「榮譽引受ハ支拂人カ支拂ヲ爲ササルトキニ於テ參加人ニ滿期後爲替金額ヲ支拂フ義務ヲ負ハシム」ト規定スト雖モ何人ニ對シテ此義務ヲ負擔スルカヲ明カニセサルノミナラス支拂義務ヲ手形金額ノミニ限リタルハ狹隘ニ失ス故ニ本案ハ被參加人ノ後者ニ對シテ此義務ヲ負ヒ且此義務ノ範圍ハ支拂アラサリシ手形金額ノミニ止マラス費用ニモ亦及フモノト爲シタリ又現行商法ニ於テハ別段ノ規定ナキカ故ニ參加引受人ノ義務ハ本案第四百四十條ニ該當スル現行商法第七百十二條ノ規定ニ依ルニ非サレハ時效ニ因リテ之ヲ免ルルコトヲ得サルニ似タリト雖モ參加引受人ハ一方ニ於テハ所持人ニ對シテ支拂ヲ爲シ他方ニ於テハ被參加人及ヒ其前者ニ對スル所持人ノ權利ヲ取得シ償還ヲ請求セントスル者ナリ(本案第五百十條及ヒ現行商法第七百七十一條)而シテ償還ヲ請求スルニハ一定ノ期間內ニ支拂拒絕證書ヲ作成セシメ且償還ヲ爲サシメント欲スル者ニ對シテ一定ノ期間內ニ其通知ヲ發スルコトヲ要シ若シ之ヲ爲ササルトキハ振出人其他ノ前者ニ對スル手形上ノ權利ヲ失ヒ償還ヲ請求スルコトヲ得ス(本案第四百八十四條及ヒ現行商法第七百六十七條第七百七十六條第七百八十一條)然ルニ滿期日後數多ノ日時ヲ經テ旣ニ此等ノ手續ヲ履踐スルコトヲ得サルニモ拘ハラス尙ホ參加引受人ハ支拂ノ義務アルモノトセハ參加引受人ハ所持人ニ對シテ支拂ヲ爲シナカラ振出人其他ノ前者ニ對シテ償還ヲ請求スルコトヲ得ス唯タ僅ニ支拂人ノ引受アル場合ニ限リ之ニ對シテ支拂ヲ請求スルコトヲ得ルニ過キサルニ至ルヘシ此ノ如キハ參加引受人ニ對シテ甚タ酷ニ失スルノミナラス其參加引受ヲ爲シタル素志ニアラサルナリ現行商法ニ於テモ亦聊カ此點ニ付キ省ル所アリ其第七百六十九條ニ豫備支拂人其他ノ參加人ノ引受ヲ記シタル爲替手形ハ拒證書作成ノ後直チニ榮譽引受人ニ支拂ノ爲メ之ヲ呈示ス可シト規定シタリト雖モ支拂ヲ求ムル爲メ手形ヲ參加引受人ニ呈示セサリシ效果ヲ規定セサル缺點アリ故ニ本案ハ第五百五條第一項ニ爲替手形ノ所持人カ支拂拒絕證書ヲ作成セシメタル場合ニ於テ其手形ノ支拂地ニ於ケル參加引受人アルトキハ所持人ハ滿期日又ハ其後二日內ニ參加引受人ニ手形ヲ呈示シテ其支拂ヲ求ムルコトヲ要スルモノト爲シ之ニ對シテ本條但書ニ所持人カ滿期日又ハ其後二日內ニ支拂ヲ求ムル爲メ手形ヲ參加引受人ニ呈示セサルトキハ參加引受人ハ其義務ヲ免ルルコトヲ定メタリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第五百三條
(理由)本條ハ現行商法第七百四十六條及ヒ第七百五十條ノ一部ニ該當スルモノナリ抑モ現行商法第七百五十條後段ニ於テハ所持人ハ第七百四十四條ニ依リテ榮譽引受ヲ許諾セサルトキニ非サレハ擔保ヲ求ムル權利ヲ有セサル旨ヲ規定スト雖モ本案第四百九十八條ノ規定ニ依リ所持人カ參加引受ヲ拒ミタルトキハ所持人ヲシテ擔保ヲ請求スル權利ヲ失ハシメサルコト當然ニシテ別ニ明文ヲ設クルノ必要ナシ又現行商法第七百四十六條ニ於テハ豫備支拂人ノ引受其他所持人カ許諾シタル參加人ノ引受ハ受榮譽者及ヒ其後者ニ擔保ヲ供スル義務ヲ免カレシムト規定シ以テ間接ニ被參加人ノ後者カ參加引受ニ因リ擔保ヲ請求スル權利ヲ失フコトヲ示スト雖モ所持人ニ關スル規定ト併合スルカ爲メニハ被參加人ノ後者ノ方面ヨリ立言スルコト必要ナルヘシ是レ本條ノ如ク修正ヲ加ヘタル所以ナリ
第五百四條
(理由)本條ハ現行商法第七百五十條前段ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法ニ於テハ受榮譽者及ヒ其前者ハ擔保ヲ求ムル權利ヲ有スルコトヲ規定スト雖モ被參加人以前ノ裏書人ハ參加引受ニ因リテ前者ニ對シ擔保ヲ請求スル權利ヲ失ハサルコト當然言フヲ俟タサル所ナリ唯タ被參加人カ前者ニ對シテ擔保ノ請求ヲ爲スコトヲ得ルカ及ヒ之ヲ爲ス場合ニハ何レノ規定ニ依ルヘキカ之ヲ規定スルノ必要アルノミ是レ本條ノ如ク修正ヲ加ヘタル所以ナリ
第二款 參加支拂
(理由)本款ハ現行商法第一編第十二章第一節第七款ニ該當スルモノニシテ參加支拂ニ關スル規定ヲ揭ク現行商法ニ於テハ此參加支拂ヲ稱シテ榮譽支拂ト曰フト雖モ榮譽支拂ナル語ハ穩當ナラサル所アルヲ以テ前款ニ於テ榮譽引受ヲ參加引受ト改メタルト同シク本款ニ於テモ亦參加支拂ト改ム是レ旣ニ本章ノ冒頭ニ於テ述ヘタル所ナリ
第五百五條
(理由)本條第一項ハ現行商法第七百六十九條ニ該當スルモノナリ抑モ現行商法第七百六十九條ニ於テハ豫備支拂人其他ノ參加人ノ引受ヲ記シタル爲替手形ハ拒證書作成ノ後直チニ榮譽引受人ニ支拂ノ爲メ之ヲ呈示スヘシト規定シタリ然レトモ振出人又ハ裏書人カ爲替手形ニ記載シタル豫備支拂人ニシテ未タ參加引受ヲ爲ササルモノアルニモ拘ハラス所持人カ之ニ爲替手形ヲ呈示シテ其支拂ヲ求ムルコトヲ爲サスシテ直チニ前者ニ對シテ償還ノ請求ヲ爲スコトヲ得セシムルハ法律カ振出人又ハ裏書人ヲシテ爲替手形ニ豫備支拂人ヲ記載スルコトヲ得セシメタル趣旨ニ悖戾シ參加引受ニ關スル本案ノ規定ニ對シ亦其權衡ヲ得タルモノニアラス若シ或論者ノ唱導スルカ如ク未タ引受ヲ爲ササル豫備支拂人ハ必スシモ爲替手形ノ支拂ヲ爲ス義務ナキヲ以テ假令所持人カ之ニ爲替手形ヲ呈示シテ其支拂ヲ求ムルモ豫備支拂人カ之ヲ支拂フコトヲ期スヘカラス此ノ如ク支拂ヲ受クルヲ得ルコト確カナラサルニ尙ホ之ニ爲替手形ヲ呈示シテ其支拂ヲ求ムル義務ヲ所持人ニ負ハシムルコト不當ナリト謂ハハ豫備支拂人ハ必スシモ爲替手形ノ引受ヲ爲スノ義務ナク從テ所持人ヨリ引受ヲ求メラルルニ當リ果シテ引受ヲ爲スヤ否ヤモ確カナラサルカ故ニ之ニ爲替手形ヲ呈示シテ其引受ヲ求ムル義務ヲ所持人ニ負ハシムルコトモ亦不當ナリト謂ハサルヘカラス然ルニ本案第四百九十七條及ヒ之ニ該當スル現行商法第七百四十三條ハ豫備支拂人ニ爲替手形ヲ呈示シテ其引受ヲ求ムル義務ヲ所持人ニ負ハシメ若シ此手續ヲ爲ササルトキハ前者ニ對シテ擔保ヲ請求スルコトヲ得セシメサルニアラスヤ故ニ未タ引受ヲ爲ササル豫備支拂人ニ支拂ノ義務ナキヲ理由トシテ之ニ爲替手形ヲ呈示シテ其支拂ヲ求ムル義務ヲ所持人ニ負ハシメサルハ不當ナリ又現行商法ニ於テハ所持人ハ拒證書作成ノ後直チニ爲替手形ヲ呈示シテ支拂ヲ求ムヘシト規定シタリト雖モ「直チニ」ナル語ハ一定ノ意義ヲ有セス解釋ノ寬嚴如何ニ依リ或ハ長ク或ハ短クスルコトヲ得却テ其期間ヲ一定スルニ如カス是レ本條第一項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
本條第二項ハ現行商法第七百七十條第一項ノ一部ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ現行商法ニ於テハ榮譽支拂若クハ其拒絕又ハ其提供ハ何レノ場合ニ於テモ之ヲ支拂拒證書又ハ其附箋ニ記載スヘシト規定スト雖モ本案ハ參加支拂アリタル場合ヲ第五百九條ニ讓リ本條第一項後段ニ於テハ此場合ニ於テ其者カ支拂ヲ爲ササルトキハ所持人ハ其旨ヲ支拂拒絕證書ニ記載セシムルコトヲ要スト規定シタリ
本條第三項ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ卽チ現行商法第七百七十四條ニ於テハ所持人カ參加引受ヲ受クルコトヲ拒ミタル效果ヲ規定スト雖モ支拂ヲ求ムル爲メ爲替手形ヲ參加引受人又ハ豫備支拂人ニ呈示セス又其後者カ支拂ヲ爲ササル場合ニ其旨ヲ支拂拒絕證書ニ記載セシメサリシ效果ヲ規定セス而シテ此等ノ場合ニハ所持人ヲシテ豫備支拂人ノ指定者又ハ被參加人及ヒ其後者ニ對スル手形上ノ權利ヲ失ハシムルコト正當ナルカ故ニ本案ハ新ニ本條第三項ヲ設ケ之ヲ規定シタリ
第五百六條
(理由)本條前段ハ現行商法第七百六十八條ニ該當シ本條後段ハ現行商法第七百七十四條ニ該當ス抑モ現行商法第七百六十八條ニ於テハ拒マレタル爲替手形ハ振出人又ハ裏書讓渡人ノ榮譽ノ爲メ榮譽引受人、支拂人又ハ第三者之ヲ支拂フコトヲ得ト規定スト雖モ參加支拂ヲ受クヘキ所持人ノ方面ヨリ立言スルノ適切ナルニ如カサルノミナラス榮譽引受人、支拂人又ハ第三者ヲ擧ケテ特ニ豫備支拂人ヲ揭ケサルハ不都合ナリ假令豫備支拂人ナル語ヲ存セサルモ當然第三者ナル語ニ包含スヘク從テ實際上ニハ毫モ支障ナカルヘシト雖モ到底體裁ノ宜シキヲ得タルモノニアラス故ニ本案ハ之ヲ改メテ爲替手形ノ所持人ハ豫備支拂人又ハ參加引受人ニ非サル者ノ參加支拂ト雖モ之ヲ拒ムコトヲ得サルモノト爲シタリ其他ハ字句ノ修正ニ過キス
第五百七條
(理由)本條ハ現行商法第七百七十三條ニ該當シ其字句ニ修正ヲ加ヘタルニ過キサルヲ以テ別ニ說明ヲ要セス
第五百八條
(理由)本條ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ抑モ豫備支拂人カ被參加人ヲ指定セスシテ參加支拂ヲ爲シタルトキハ其支拂ハ豫備支拂人ヲ指定シタル者ノ爲メニ爲シタルモノト看做スヘク又參加引受人カ被參加人(支拂ニ關スル被參加人)ヲ指定セスシテ參加支拂ヲ爲シタルトキハ其支拂ハ被參加人(引受ニ關スル被參加人)ノ爲メニ爲シタルモノト看做スヘキコト勿論ナリ之ニ反シテ豫備支拂人又ハ參加引受人ニ非サル者カ被參加人ヲ指定セスシテ參加支拂ヲ爲シタルトキハ其支拂ハ何人ノ爲メニ爲シタルモノト看做スヘキカ疑アリ是レ參加引受ニ關スル本案第五百條第二項ノ例ニ準シ新ニ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第五百九條
(理由)本條ハ現行商法第七百七十條第一項ノ一部及ヒ同條第二項ニ該當ス抑モ現行商法第七百七十條第二項ニ於テハ拒證書ハ爲替手形ト共ニ拒證書費用ノ辨償ヲ受ケタル上之ヲ榮譽支拂人ニ交付スト規定スト雖モ所持人ハ費用ノ外手形金額ノ支拂ト引換ニ非サレハ支拂拒絕證書及ヒ爲替手形ヲ參加支拂人ニ交付スルコトヲ要セサルハ勿論ナリ又現行商法第七百七十條第一項ニ於テハ榮譽支拂若クハ其拒絕又ハ其提供ハ何レノ場合ニ於テモ之ヲ支拂拒證書又ハ其附箋ニ記載ス可シト規定スト雖モ其一部ハ旣ニ本案第五百五條第二項ニ規定スル所ナルノミナラス支拂拒絕證書ヲ作成スル公證人又ハ執達吏ニ於テ其拒絕證書ニ參加支拂アリタル旨ヲ記載スヘキコトモ亦本案第五百十一條第五百十二條第七號及ヒ之ニ該當スル現行商法第七百九十條第七百九十五條第一項第五號ニ規定スル所ナリ從テ此等ノ事項ハ再ヒ茲ニ規定スルノ必要ナシ唯タ茲ニ規定スルノ必要アルハ公證人又ハ執達吏ヲシテ支拂拒絕證書ニ參加支拂アリタル旨ヲ記載セシムルハ所持人カ參加支拂人ニ對スル義務ナルコトノ一事ノミ是レ本條ノ如ク修正ヲ加ヘタル所以ナリ
第五百十條
(理由)本條ハ現行商法第七百七十一條及ヒ第七百七十二條ノ規定ニ該當ス抑モ參加支拂人カ支拂ヲ爲スハ被參加人ヲシテ其後者ヨリ償還ノ請求ヲ受ケサラシムルカ爲メナリ故ニ假令參加支拂人ハ所持人ノ權利ヲ取得ストスルモ被參加人ノ後者ニ對スル所持人ノ權利ハ之ヲ除外セサルヘカラス現行商法ニ於テモ亦此理ヲ認メ其第七百七十一條ニ榮譽引受人ハ引受人、振出人及ヒ裏書讓渡人ニ對シテ所持人ノ權利ヲ承繼スト規定シ又第七百七十二條ニ榮譽支拂ハ受榮譽者ノ後者總員ヲシテ責ヲ免レシムト規定スト雖モ是レ第七百七十一條ニ於テ汎ク參加支拂人ハ裏書人ニ對スル所持人ノ權利ヲ取得スルモノト爲シタルカ爲メ第七百七十二條ヲ設ケテ之ヲ制限スルノ已ムヲ得サルニ至リタルモノナリ寧ロ直チニ參加支拂人ハ引受人、被參加人及ヒ其前者ニ對スル所持人ノ權利ヲ取得スト規定シ以テ被參加人ノ後者ニ對スル所持人ノ權利ハ參加支拂人ノ取得スヘキ限リニ在ラサルコトヲ示スノ適切且明瞭ナルニ如カス又參加支拂人カ其取得シタル所持人ノ權利ヲ引受人、被參加人及ヒ其前者ニ對シテ行使スルニハ所持人ト同一ノ義務ヲ履行スルコトヲ要スルハ當然言フヲ俟タサル所ニシテ現行商法第七百七十一條但書カ明文ヲ以テ之ヲ規定シタルハ無用ニ屬ス是レ本條ノ如ク修正ヲ加ヘタル所以ナリ
第九節 拒絕證書
(理由)本節ハ現行商法第一編第十二章第一節第九款ニ該當スルモノニシテ拒絕證書ニ關スル規定ヲ揭ク
第五百十一條
(理由)本條ハ現行商法第七百九十條前段ノ規定ニ該當スルモノニシテ其字句ニ修正ヲ加ヘタルニ過キス卽チ現行商法第七百九十條前段ニ於テハ拒證書ハ裁判所ノ役員又ハ公證人之ヲ作ルモノトスト規定スト雖モ其裁判所ノ役員トハ執達吏ヲ指スモノナルコト現行商法施行條例第二十七條ノ規定スル所ナルヲ以テ本案ハ執達吏ニ於テ拒絕證書ヲ作成スヘキモノナルコトヲ明カニシタリ又拒絕證書ハ公證人又ハ執達吏職權ヲ以テ之ヲ作成スヘキモノニアラスシテ爲替手形ノ所持人ノ請求ニ因リテ之ヲ作成スヘキモノナルコトハ現行商法カ明文ヲ以テ規定サセル所ナリ然レトモ其趣旨ニ至リテハ之ニ外ナラサルコト其第七百三十九條第一項及ヒ第七百六十七條等ノ規定ニ徵シ殆ント疑ヲ容レサル所ナルヲ以テ本案ハ明文ヲ以テ之ヲ規定シタリ
其他現行商法第七百九十條後段ニ於テハ若シ其他ニ此等ノ人ナキトキハ被拒者ニ於テ證人二人ノ立會ヲ以テ之ヲ作ル可シ但其證人ハ成年ノ男子タルコトヲ要スト規定スト雖トモ今日ニ於テハ我國司法制度大ニ完備シ各區裁判所管轄區域內ニハ多キハ十數名少キハ數名ノ公證人アリ假令僻遠ノ地ニシテ未タ公證人ナキ場合ト雖モ各區裁判所ニハ必ス一名若クハ數名ノ執達吏若クハ其職務ヲ行フヘキ吏員(裁判所書記、執達吏ノ職務執行ノ委任又ハ命令ヲ受ケタル者)アルヲ以テ公證人及ヒ執達吏ノ全ク存セサル場合殆ント絕無ナリ從テ實際上ニ於テハ現行商法第七百九十條後段ノ規定ヲ必要トセス是レ本案カ此規定ヲ削除シタル所以ナリ
第五百十二條
(理由)本條ハ現行商法第七百九十五條ノ規定ニ該當スルモノナリ抑モ現行商法第七百九十五條第一項ニ於テハ拒證書ニハ左ノ諸件ヲ記載スルコトヲ要スト爲シ其第六號ニ於テ臨席總員ノ署名、捺印ヲ揭ケタリト雖モ署名捺印ヲ以テ記載事項中ニ列スルコト一般ノ文例ニ反スルノミナラス捺印ニ關スル現行商法ノ制度ハ本案ノ全ク採用セサル所ナリ又公證人又ハ執達吏カ拒絕證書ニ署名スル以上ハ其他ノ者ノ署名ヲ俟タスシテ其證書ノ效力ヲ認ムルコト相當ナリ是レ本案カ拒絕證書ニハ左ノ事項ヲ記載シ公證人又ハ執達吏署名スルコトヲ要スト規定シタル所以ナリ
現行商法第七百九十五條第一項第一號ニ於テハ爲替手形ノ全文ヲ拒絕證書ニ記載スヘキモノト爲スト雖モ爲替手形ノ謄本ハ爲替手形ノ原本ニ代ハルヘキモノニシテ又爲替手形ノ補箋ハ爲替手形ノ一部ト看做スヘキモノナリ從テ此等ニ記載シタル事項ヲモ亦拒絕證書ニ記載セシムルノ必要アルコト勿論ナリ又同號但書ニ於テハ最後ノ裏書ニ至ルマテ遺漏ナク記載スヘシト規定スト雖モ爲替手形、其謄本及ヒ補箋ニ記載シタル最後ノ事項ハ必スシモ裏書ニアラス從テ「最後ノ裏書」云々ト曰ヘルハ適切ヲ缺クノミナラス爲替手形、其謄本及ヒ補箋ニ記載シタル事項ハ遺漏ナク之ヲ拒絕證書ニ記載スヘキコト當然言フヲ俟タサル所ナリ是レ本條第一號ノ如ク修正ヲ加ヘタル所以ナリ
現行商法第七百九十五條第六號ニ於テハ臨席總員カ拒證書ニ署名スヘキモノト爲シタルカ故ニ別ニ拒絕者及ヒ被拒絕者ノ何人ナルカヲ拒絕證書中ニ記載セシムル必要ナカリシト雖モ本案ハ旣ニ述ヘタルカ如ク拒絕證書ニハ公證人又ハ執達吏ノ外臨席總員之ニ署名スルコトヲ要セサルモノト爲シタル故ニ拒絕證書中ニ拒絕者及ヒ被拒絕者ノ何人ナルカヲ記載セシムルノ必要アリ而シテ之ヲ記載スルニ當リテハ必スシモ氏名ヲ用ユルコトヲ要セス商號ヲ以テスルコトヲ許スハ實際上甚タ便宜ナリ是レ本條第二號ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
現行商法第七百九十五條第一項第二號ニ於テハ拒絕者ノ臨席又ハ不在ヲ拒證書ニ記載スヘキモノト爲スト雖モ拒絕者ノ臨席ヲ必要トセサル以上ハ其臨席ト不在トハ拒絕證書ノ效力ニ關係ナキカ故ニ之ヲ記載セシムルノ必要ナシ故ニ本案ハ之ヲ削際シタリ
現行商法第七百九十五條第一項第三號ニ於テハ引受、支拂、又ハ擔保ノ要求及ヒ拒絕並ニ拒絕ノ理由ヲ拒證書ニ記載スヘキモノト爲スト雖モ一方ニ於テハ拒絕者カ請求ニ應セサリシ理由ヲ記載セシムルノ必要ナク他方ニ於テハ拒絕者ニ面會スルコト能ハサリシトキハ其理由ヲ記載セシムルノ必要アリ是レ本案第三號ノ如ク修正ヲ加ヘタル所以ナリ
現行商法第七百九十五條第一項第四號ニ於テハ要求及ヒ拒絕ノ日竝ニ場所ヲ拒證書ニ記載スヘキモノト爲スト雖モ一方ニ於テハ拒絕ノ日竝ニ場所ヲ記載セシムルノ必要ナク他方ニ於テハ請求ヲ爲スコト能ハサリシ場合ニハ其土地及ヒ年月日ヲ記載セシムルノ必要アリ是レ本案第四號ノ如ク修正ヲ加ヘタル所以ナリ
現行商法ニ於テハ拒絕者ノ營業所、住所又ハ居所カ知レサル爲メ其他ノ官署又ハ公署ニ問合ヲ爲シタルトキト雖モ其旨ヲ拒絕證書ニ記載スルコトヲ要スルノ明文ナシ然レトモ之ヲ拒絕證書ニ記載セシムルコトハ素ヨリ必要ナルヲ以テ本案ハ新ニ本條第五號ノ規定ヲ設ケ之ヲ記載スルコトヲ要スルモノト爲シタリ
現行商法第百九十五條第一項第五號ニ於テハ榮譽引受又ハ榮譽支拂アルトキハ單ニ其旨ヲ記載スヘキモノト爲シ詳細ニ其事項ヲ指定セスト雖モ參加ノ種類、參加人及ヒ被參加人ノ氏名又ハ商號ヲ記載セシムルコト必要ナリ是レ本條第七號ノ如ク修正ヲ加ヘタル所以ナリ
現行商法第七百九十五條第一項第六號ニ於テハ拒證書作成ノ年月日、場所ヲ記載スヘキモノト爲シ又同項第七號ニ於テハ法定ノ場所外ニ於テ之ヲ作成シタルトキハ拒絕者ノ承諾アリタルコトヲ記載スヘキモノト爲スト雖モ法定ノ場所外ニ於テ作リタル場合ノ外ハ作成ノ場所ヲ要件トスルノ必要ナシ而シテ實際ニ於テハ別段ノ規定ナキモ拒絕證書作成ノ場所及ヒ年月日ヲ記載スヘキヲ以テ本案ハ前者ヲ削除シ後者ヲ本條第六號ニ規定シタリ
其他現行商法第七百九十五條第二項ニ於テハ「若シ拒絕者カ署名、捺印スルコト欲セス署名、捺印スルコト能ハサルトキハ其旨ヲ證書ニ明記スヘシ」ト規定スト雖モ是レ拒絕證書ニ拒絕者ノ署名、捺印ヲ要スト爲シタル結果ニシテ本案ハ拒絕證書ニ拒絕者ノ署名、捺印ヲ要セスト爲シタルカ故ニ此規定モ亦無要ニ歸シ從テ之ヲ削除シタリ
第五百十三條
(理由)本條ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ抑モ爲替手形ノ所持人ハ支拂人又ハ引受人ニ對シテ引受、擔保又ハ支拂ヲ請求シ若シ支拂人又ハ引受人カ其請求ニ應セサルトキハ更ニ豫備支拂人又ハ參加引受人ニ對シテ引受、擔保又ハ支拂ヲ請求スルコトヲ要シ豫備支拂人又ハ參加引受人カ尙ホ其請求ヲ拒ミタルトキハ拒絕證書ヲ作成セシメ前者ニ對シテ擔保又ハ償還ヲ請求スルコトヲ得ヘキモノトス此ノ如ク引受、擔保又ハ支拂ノ請求ハ數人ニ對シテ之ヲ爲スコトアルニ一々拒絕證書ヲ作ラサルヘカラストスルハ甚タ不便ナリ故ニ本案ハ新ニ本條ノ規定ヲ設ケ數人ニ對シテ手形上ノ請求ヲ爲スヘキトキハ其請求ニ付キ一通ノ拒絕證書ヲ作成スルヲ以テ足ルモノト爲シタリ
第五百十四條
(理由)本條第一項ハ現行商法第七百九十八條第一項前段ノ規定ニ該當スルモノナリ抑モ公證人又ハ執達吏カ拒絕證書ヲ作成シタルトキハ其原本ヲ被拒絕者ニ交付スヘキモノナルヲ以テ其證書ノ全文ヲ帳簿ニ記載シ原本カ滅失シタル場合ニ備ヘシムルコト必要ナリ唯タ現行商法ニ於テハ日々之ヲ記載スヘキモノト爲スモ「日々」トスルハ或場合ニハ緩慢ニ失シ或場合ニハ急迫ニ過ク故ニ本案ハ之ヲ削除シ其他ノ字句ニ修正ヲ加ヘ本案第一項ノ規定ヲ設ケタリ本條第二項ハ現行商法第七百九十八條第一項後段ノ規定ニ該當スルモノナリ抑モ現行商法ニ於テハ公證人又ハ執達吏ハ被拒絕者ノ求ニ因リ同一ノ拒證書數通ヲ作成シテ之ヲ交付スヘキモノト爲スト雖モ被拒絕者ヲシテ數通ノ拒絕證書ヲ保有セシムルハ危險ナルノミナラス償還又ハ擔保ヲ請求スルニハ被請求者ニ一々拒絕證書ヲ交付スルコトヲ要セス單ニ之ヲ作成シタル旨ヲ通知スルノミヲ以テ足レリ而シテ償還又ハ擔保ハ拒絕證書ノ交付ト引換ニ非サレハ之ヲ受クルコトヲ得サルモ同一人ニシテ償還又ハ擔保ヲ受クルハ一度ニ止マル從テ何レノ點ヨリ觀察スルモ二通以上ノ拒絕證書ヲ要スヘキ場合ナシ故ニ本案ハ拒絕證書ハ一通ノ外之ヲ交付セサルヲ以テ原則ト爲シ唯タ一旦交付シタル拒絕證書カ滅失シタル場合ニ限リ其原本ト同一ノ效力ヲ有スヘキ謄本ノ交付ヲ請求スルコトヲ得ルモノト爲ス又現行商法ニ於テハ數通ノ拒證書ノ交付ヲ請求スルコトヲ得ル者ヲ被拒絕者ニ限ルト雖モ拒絕證書カ滅失シタルトキ其原本ト同一ノ效力ヲ有スヘキ謄本ノ交付ヲ請求スルノ必要アル者ハ獨リ被拒絕者ニ限ラス卽チ裏書人カ擔保ヲ供シ又ハ償還ヲ爲シ若クハ參加人ヲ引受ヲ爲シ又ハ支拂ヲ爲シテ被拒絕者若クハ其他ノ者ヨリ拒絕證書ノ交付ヲ受ケタル後之ヲ滅失セシムルコトアリ此等ノ場合ニ於テ更ニ振出人其他ノ前者ニ對シテ擔保又ハ償還ヲ請求シ之ヲ受クルニハ拒絕證書ヲ要シ從テ更ニ公證人又ハ執達吏ニ原本ト同一ノ效力ヲ有スル謄本ノ交付ヲ請求スルノ必要アリ故ニ廣ク利害關係人ヲシテ謄本ノ交付ヲ請求スルヲ得セシメサルヘカラス是レ本條第二項ノ如ク修正ヲ加ヘタル所以ナリ
其他現行商法第七百九十八條第二項ニ於テハ拒絕證書作成ノ費用ハ被拒絕者之ヲ立替フルコトヲ要スト規定スト雖モ公證人又ハ執達吏ニ拒絕證書ノ作成ヲ請求スルハ被拒絕者ナルヲ以テ其公證人又ハ執達吏ノ手數料旅費其他ノ立替金ハ請求者タル被拒絕者之ヲ支拂フコトヲ要シ其支拂フタル費用ハ前者、引受人又ハ參加人、等ヨリ償還ヲ受クルコトヲ得ルハ勿論ナリ故ニ本案ハ此規定ヲ削除シタリ
第十節 爲替手形ノ複本及ヒ謄本
(理由)本節ハ爲替手形ノ複本及ヒ謄本ニ關スル規定ヲ揭ク現行商法ニ於テハ別ニ本節ニ該當スヘキ一節ヲ存セス爲替手形ノ複本ハ之ヲ組手形ト稱シ之ニ關スル規定ハ第一編第十二章總則及ヒ第一節第六款支拂等ノ中ニ散在シタリ又爲替手形ノ謄本ニ關スル規定ハ僅ニ第一編第十二章總則中ニ一項アルニ過キサリシト雖モ本案ハ之ヲ收拾補充シテ獨立ノ一節ヲ設ケタルコト旣ニ本章ノ冒頭ニ於テ述ヘタル所ナリ
第五百十五條
(理由)本條第一項ハ現行商法第七百四條第一項ニ該當ス卽チ現行商法第七百四條第一項ニ於テハ「番號ヲ記シタル同文ノ手形數通」云々ト規定シ複本ノ各通ニハ番號ヲ附スヘキモノト爲スト雖トモ振出人カ複本ヲ作成スルニ當リテハ當然各通ニ其複本ナルコトヲ示スヘク若シ之ヲ示ササルトキハ次條ノ規定ヲ適用スヘキヲ以テ特ニ此ノ如キ規定ヲ要セス故ニ本案ハ之ヲ削除シタリ其他ハ字句ノ修正ヲ加ヘタルニ過キス
本條第二項ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ卽チ現行商法第七百四條第一項ノ規定ニ依レハ受取人以外ノ所持人カ振出人ニ對シテ複本ノ交付ヲ請求スルニハ其前者ヲ經由スヘキモノト爲スカ故ニ振出人カ作成シタル複本ノ各通ニハ各裏書人ニ於テ一々裏書ヲ爲スコトヲ要スルノ趣旨ナルカ如シ然レトモ明文ヲ以テ之ヲ規定セサルトキハ疑ヲ生スル恐ナキニアラス是レ新ニ本條第二項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第五百十六條
(理由)本條ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ卽チ現行商法第七百四條第一項ノ規定ニ依レハ爲替手形ノ複本ノ各通ニハ番號ヲ附スルコトヲ要スト雖モ若シ番號ヲ附セサル複本ヲ作成シタルトキハ其效力如何ハ現行商法ノ規定セサル所ナリ然ルニ手形ノ性質上其權利義務ヲ定ムルニ當リテハ專ラ其記載スル所ヲ標準トセサルヘカラサルコト手形ニ關スル法規ヲ一貫スル主義ナリ從テ爲替手形ノ複本ニ其複本タルコトヲ示サス卽チ其各通カ獨立ノ手形ト同一ノ外形ヲ有スルトキハ假令其實複本ナルモ尙ホ其各通ヲシテ獨立ノ爲替手形ト同一ノ效力ヲ有セシムルコト至當ナリ若シ然ラスンハ到底手形上ノ權利ヲ確實ナラシメ人々ヲシテ安ンシテ之ヲ流通セシムルコトヲ得サルヘシ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第五百十七條
(理由)本條第一項ハ現行商法第七百六十二條第一項ノ一部ニ該當スルモノナリ抑モ爲替手形ノ複本ヲ作成シタル場合ニ於テハ其各通カ唯一ノ爲替手形ヲ代表スルヲ以テ其一通ニ對シテ支拂アリタルトキハ其他ノ各通ハ當然效力ヲ失フヘシ現行商法第七百六十二條第一項本文ハ畢竟此趣旨ヲ規定シタルモノニシテ本條第一項本文モ亦其意義ヲ異ニスル所ナシ然レトモ引受アリタルトキハ之ニ因リテ引受人ハ其引受ケタル金額ヲ支拂フノ義務ヲ負擔スルヲ以テ假令複本中他ノ各通ニ對シテ支拂ヲ爲スモ之カ爲メ引受アル複本ノ效力ヲ失フコトナキハ當然ナリ故ニ本案ハ現行商法第七百六十二條第一項但書ノ一部ニ倣ヒ而カモ其字句ヲ修正シテ一層簡明ナラシメ本條第一項但書ニ之ヲ規定シタリ
本條第二項ハ現行商法第七百六十二條第一項但書ノ一部及ヒ第七百六十三條ノ一部ニ該當ス抑モ現行商法第七百六十二條第一項但書ニ於テハ裏書アル一通ヲ所有者トシテ占有スル第三者ノ權利ハ他ノ一通ニ對スル支拂ニ因リ消滅セサルモノト爲スト雖モ何人ニ對スル第三者ノ權利ヲ指スカ之ヲ制限セサルヲ以テ或場合ニハ廣汎ニ失スルノ恐ナキ能ハス卽チ二人以上ニ各別ニ數通ノ爲替手形ノ裏書ヲ爲シタル者ノミヲシテ支拂ノ時ニ於テ返還アラサリシ各通ニ付キ手形上ノ責任ヲ負ハシムルコト正當ナルモ自己以後ノ裏書人カ二人以上ニ各別ニ裏書ヲ爲シタルノ故ヲ以テ其者ヲシテ支拂ノ時ニ返還アラサリシ各通ニ付キ手形上ノ責任ヲ負ハシムルコト不當ナリ又現行商法第七百六十三條ニ於テハ引受ヲ記シタル爲替手形數通アル場合ニ在テハ之ヲ合シテ引渡サルゝトキハ擔保ヲ供セシメタル上ニ非サレハ引受人ハ支拂ヲ爲ス義務ナシト規定スト雖モ若シ其一通ニ對シテ支拂ヲ爲シタルトキハ其返還アラサリシ各通ニ付キ引受人ハ如何ナル責任ヲ負フカヲ規定セサルノミナラス元來複本ヲ作成シタル爲替手形ニ引受ヲ爲スニ當リテハ其一通ノミニ引受ヲ爲スヘキモノニシテ各通ニ引受ヲ爲スヘキモノニアラス故ニ數通ノ爲替手形ニ引受ヲ爲シタル者ノ責任ノ方面ヨリ立言シ此者ハ支拂ノ時ニ返還アラサリシ各通ニ付キ手形上ノ責任ヲ免ルルコトヲ得サルモノトスルコト正當ナリ是レ本條第二項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
其他現行商法第七百六十二條第二項ニ於テハ第七百十條及ヒ第七百十一條ノ規定ハ複本ヲ作成シタル爲替手形ノ各通ニ付キ之ヲ適用スヘキモノト爲スト雖モ其現行商法第七百十一條ハ本案之ヲ削除シタルノミナラス現行商法第七百十條ニ該當スル本案第四百三十八條ハ複本ヲ作成シタル爲替手形ノ各通ニ之ヲ準用スヘキコト當然言フヲ俟タサル所ナルヲ以テ本案ハ之ヲ削除シタリ又現行商法第七百六十三條ニ於テハ引受人ハ複本中引受ヲ爲ササル者ニ對シテハ擔保ヲ供セシメタル上ニ非サレハ支拂ヲ爲ス義務ナキモノト爲スト雖モ引受ヲ爲ササルモノニ在テハ支拂ヲ爲ス義務ナキコトハ本案第四百六十七條ノ規定ノ解釋ヨリ當然生スヘキ論決ナリ從テ此ノ如キ規定ヲ設クルハ啻ニ無要ナルノミナラス却テ疑ヲ招クノ恐アルカ故ニ本案ハ之ヲ削除シタリ
第五百十八條
(理由)本條ハ現行商法中ニ存セサル所ナリト雖モ苟モ爲替手形ノ複本ニ關スル制度ヲ設クル以上ハ本條ニ該當スヘキ規定ヲ設クルコト必要ナリ抑モ爲替手形ノ複本ヲ作成スルノ目的二アリ卽チ一方ニ於テハ複本中一通又ハ數通カ滅失粉失スルモ尙ホ他ニ殘存スルモノアリ之ニ依リテ所持人ハ其權利ヲ全フスルコトヲ得ヘク複本ハ此滅失、粉失ノ危險ニ備フルモノトス他方ニ於テハ所持人ハ必ス支拂地ニアルモノニアラス若シ遠隔ノ地ニアル場合ニ於テハ引受ヲ求ムル爲メ爲替手形ヲ發送スルモ其引受アル手形ノ返還ヲ受クルマテ其間多數ノ日時ヲ費スヘシ故ニ複本中一通ハ引受ヲ求ムル爲メ支拂人又ハ豫備支拂人ニ送付シ他ノ一通又ハ數通ハ裏書ヲ爲シテ之ヲ讓渡スコトヲ得セシムル必要アリ而シテ後者ノ場合ニ於テ複本相互間ニ聯絡ヲ保タシメサルヘカラサルヲ以テ本條第一項ヲ設ケ被裏書人若クハ其後者カ旣ニ送付セラレタル複本ノ返還ヲ受ケテ引受ノ有無ヲ確知スルノ必要アルト同時ニ其返還ナキ場合ニ擔保又ハ償還ノ請求ヲ爲スニ付テモ引受又ハ支拂ニ關スル手續ヲ履ミタル後ナラサルヘカラサルヲ以テ本條第二項ノ規定ヲ設ケタリ
第五百十九條
(理由)本條第一項ハ現行商法第七百四條第二項ニ該當スルモノニシテ字句ニ修正ヲ加ヘタルニ過キス
本條第二項ハ現行商法中ニ規定セサル所ナリト雖モ旣ニ本案第四百五十四條及ヒ第四百九十四條ノ如ク爲替手形ノ謄本ニ裏書又ハ保證ヲ爲スコトヲ許ス以上ハ謄本ノミニ記載シタル事項ト原本ニ記載シタル事項トハ之ヲ區別セシムルコト必要ナリ是レ本案カ新ニ本條第二項ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第五百二十條
(理由)本條ハ現行商法中ニ存セサル所ナリト雖モ元來爲替手形ノ所持人カ謄本ヲ作成スル目的ハ主トシテ一方ニ於テハ引受ヲ求ムル爲メ原本ヲ送付シ他方ニ於テハ謄本ニ裏書ヲ爲シテ之ヲ讓渡スニ在リ此目的ヲ達セシメンカ爲メニハ爲替手形ノ引受ヲ求ムル爲メ原本ヲ送付シタル所持人ヲシテ謄本ニ原本ノ送付先ヲ記載セシメ此送付先ヲ記載シタル謄本ノ所持人ヲシテ原本ヲ受取リタル者ニ對シ其返還ヲ請求スルコトヲ得セシムルノ必要アリ是レ複本ニ關スル本案第五百十八條ノ例ニ準シ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第五百二十一條
(理由)本條モ亦現行商法中ニ存セサル所ナリト雖モ旣ニ前條ノ規定ヲ設クル以上ハ其結果トシテ亦本條ヲ設クルノ必要アルコト勿論ナリ卽チ原本ノ送付先ヲ記載シアル謄本ノ所持人カ引受ヲ求ムル爲メ送付シタル原本ヲ受取リタル者ニ對シテ其返還ヲ請求スルモ其者カ之ヲ返還セサル場合ニ於テハ謄本ノ所持人カ拒絕證書ニ依リ其事實ヲ證明シタルトキニ限リ謄本ニ署名シタル者ニ對シテノミ擔保又ハ償還ノ請求ヲ爲スコトヲ得セシムルハ正當ナリ蓋シ謄本ニ署名セサル者ニ至リテハ假令原本ニ署名アリ且謄本中ニ之ヲ謄寫シアルモ謄本ハ素ト所持人カ隨意ニ作成スルモノナレハ原本ト同一ノ效力ヲ有セシムヘキモノニアラス故ニ此者ニ對シテハ如何ナル場合ト雖モ謄本ニ依リテ擔保又ハ償還ヲ請求スルコトヲ得セシムルハ不當ナリ之ニ反シテ謄本ニ署名シタル者ハ其謄本カ原本ニ代ハルヘキモノナルコトヲ認メタルモノナルヲ以テ其者ニ對シテハ場合ヲ限リ謄本ヲシテ原本ト同一ノ效力ヲ有セシメ之ノミニ依リテ擔保又ハ償還ヲ請求スルコトヲ得セシムルハ正當ナリトス又複本ノ場合ニハ引受ヲ求ムル爲メ返付シタル一通ノ返還ヲ受ケサルモ尙ホ他ノ一通又ハ數通ヲ以テ引受又ハ支拂ヲ受クルノ餘地アリ從テ之ヲ受クルコト能ハサリシコトヲ拒絕證書ニ依リテ證明スルニ非サレハ他ノ一通又ハ數通ヲ以テ擔保又ハ償還ヲ請求スルコトヲ許サス之ニ反シテ謄本ノ場合ニハ原本ヲ以テスルニアラサレハ引受又ハ支拂ヲ受クルコトヲ得ス從テ謄本ヲ以テ引受又ハ支拂ヲ受クルコト能ハサリシコトヲ拒絕證書ニ依リテ證明スルコトヲ要セサルモノトス是レ複本ニ關スル本案第五百十八條第二項後段ノ規定ヲ斟酌シテ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第三章 約束手形
(理由)本章ハ現行商法第一編第十二章第二節ニ該當シ約束手形ニ關スル規定ヲ揭ク
第五百二十二條
(理由)本條ハ現行商法第八百十一條ノ規定ニ該當スルモノニシテ約束手形ノ要件ヲ定ム而シテ本案カ現行商法第八百十一條第二號但書、第三號中「其差圖セラレタル人若クハ所持人」第五號中「振出人ノ捺印」ヲ削除シ新ニ本條第一號及ヒ第三號中「受取人ノ商號」ヲ加ヘ現行商法第八百十一條第二號「支拂金額」ヲ「一定ノ金額」ト改メ第三號中「支拂フヘキ旨」ヲ「單純ナル支拂ノ約束」ト改メ其他字句ニ修正ヲ加ヘタル理由ハ本案第四百四十二條ニ於テ爲替手形ニ關スル現行商法第七百十六條ノ規定ヲ增減修正シタルト同一ノ理由ニ出テ是レ旣ニ述ヘタル所ナルヲ以テ茲ニ重ネテ說明ヲ要セス
第五百二十三條
(理由)本條ハ現行商法第八百十三條ノ規定ニ該當スルモノニシテ唯タ字句ニ修正ヲ加ヘタルニ過キス
第五百二十四條
(理由)本條ハ現行商法第八百十四條第二項後段ノ一部ニ該當ス卽チ現行商法ニ於テハ一覽後定期拂ノ約束手形ニ付キ一覽後定期拂ノ爲替手形ニ關スル第七百三十五條ノ規定ヲ適用スト雖モ約束手形ト爲替手形トハ其間大ニ性質ヲ異ニシ卽チ約束手形ハ呈示ヲ受ケタル旨及ヒ其日附ヲ記載セシムル爲メ振出人ニ之ヲ呈示シ爲替手形ハ引受ヲ爲サシムル爲メ支拂人ニ之ヲ呈示ス又呈示ニ關スル規定ニ從ハサリシ制裁トシテ爲替手形ノ所持人ハ振出人其他ノ前者ニ對スル手形上ノ權利ヲ失フモ約束手形ノ所持人ハ振出人以外ノ前者ニ對スル手形上ノ權利ヲ失フニ止マル此ノ如ク二者ノ間大ナル差異アルヲ以テ爲替手形ニ關スル本案第四百六十三條及ヒ第四百六十四條ノ規定ヲ約束手形ニ準用スルハ却テ疑ヲ招クノ恐レアリ是レ本案カ一覽後定期拂ノ爲替手形ニ關スル本案第四百六十三條及ヒ第四百六十四條ノ例ニ準シ爲替手形ト約束手形トノ間ニ存スル性質上ノ差異ヲ斟酌シテ及ヒ次條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ其他本條ノ規定ニ依リテ現行商法ニ修正ヲ加ヘタル理由ハ本案第四百六十三條ノ下ニ於テ旣ニ述ヘタル所ト同一ナルヲ以テ茲ニ重ネテ說明ヲ要セス
第五百二十五條
(理由)本條ハ現行商法第八百十四條第二項ノ一部ニ該當スルモノナリ蓋シ現行商法ニ於テハ爲替手形ニ關スル第七百三十五條ノ規定ヲ約束手形ニ適用シタリト雖モ本案ニ於テハ爲替手形ニ關スル規定ニ準シ約束手形トノ間ニ存スル性質上ノ差異ヲ斟酌シテ前條及ヒ本條ヲ設ケタルコト旣ニ前條ノ下ニ於テ述ヘタルカ如シ而シテ本條ハ一覽後定期拂ノ爲替手形ニ關スル本案第四百六十四條ノ規定ニ該當スルモノニシテ本條ノ規定ニ依リ現行商法ニ修正ヲ加ヘタル理由ハ本案第四百六十四條ノ下ニ於テ旣ニ述ヘタル所ト同一ナルヲ以テ亦茲ニ重ネテ說明ヲ要セス
第五百二十六條
(理由)本條ハ現行商法第八百十五條ニ該當スルモノナリ抑モ現行商法第八百十五條ニ於テハ佛法ニ倣ヒ別段ノ規定ナク且約束手形ノ性質ニ牴觸セサル限リハ爲替手形ニ關スル規定ヲ約束手形ニ適用スヘキモノト爲スト雖モ爲替手形ニ關スル規定中如何ナル規定ハ之ヲ約束手形ニ適用シ如何ナル規定ハ之ヲ約束手形ニ適用スルコトヲ得サルカ或場合ニハ甚タ疑ヲ生スルヲ免レス寧ロ其準用スヘキ規定ヲ一々列擧指示スルノ適切明瞭ナルニ如カス是レ本案カ爲替手形ニ關スル規定中約束手形ニ準用スヘキモノヲ一々列擧シタル所以ナリ
第四章 小切手
(理由)本章ハ現行商法第一編第十二章第三節ニ該當スルモノニシテ小切手ニ關スル規定ヲ揭ク
第五百二十七條
(理由)本條ハ現行商法第八百十六條及ヒ第八百十七條ニ該當スルモノニシテ小切手ノ要件ヲ定ム抑モ現行商法第八百十六條ニ於テハ小切手ノ證券ナルコトヲ規定スルモ是レ當然言フヲ俟タサル所ナルヲ以テ之ヲ削除シ又第八百十七條ニ於テハ小切手ニハ振出人署名、捺印スヘシト規定スルモ本案ハ一般ニ捺印ニ關スル制度ヲ廢止シタルヲ以テ捺印ヲ削除シ爲替手形ニ關スル本案第四百四十二條及ヒ約束手形ニ關スル本案第五百二十二條ノ例ニ倣ヒ小切手ニハ左ノ事項ヲ記載シ振出人署名スルコトヲ要スト規定シタリ本條第一號ハ現行商法中ニ存セサリシ所ナリ蓋シ現行商法ニ於テハ小切手ノ支拂人ヲ銀行ニ限リタルヲ以テ支拂人ノ銀行ナルコト一覽拂ナルコト等ニ依リテ小切手ナルコトヲ知ルヲ得ヘク必スシモ其小切手タルコトヲ示スヘキ文字ヲ記載セシムルヲ要セサルモ本案ニ於テハ小切手ノ支拂人ヲ銀行ニ限ラサリシヲ以テ小切手ト爲替手形ト區別スルカ爲メ小切手ニハ特ニ其小切手タルコトヲ示スヘキ文字ヲ記載セシムルノ必要アリ是レ新ニ本條第一號ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
本條第二號ハ現行商法第八百十六條ニ所謂「或ル金額」ニ該當シ爲替手形ニ關スル本案第四百四十二條第二號及ヒ約束手形ニ關スル本案第五百二十二條第二號ノ例ニ倣ヒ之ヲ「一定ノ金額」ト改メタルニ過キス
本條第三號ハ現行商法第八百十六條ニ所謂「其銀行」云々ニ該當スルモノナリ抑モ現行商法第八百十六條ハ一方ニ於テハ支拂人ハ銀行ナルコトヲ要スルモノト爲シ他方ニ於テハ振出人カ支拂人ニ對シテ寄託其他ノ方法ニ依リ繼續スル信用ヲ有スルコトヲ要スルモノト爲ス然レトモ小切手ヲ振出スニハ其振出人ト支拂人トノ間ニ豫メ契約アルコトヲ要ス假令寄託其他ノ方法ニ依リ繼續スル信用ヲ有スルモ契約ナクシテ振出シタル小切手ハ支拂人ニ於テ之ヲ支拂フノ義務ナシ此ノ如ク小切手ヲ振出スニハ契約アルコトヲ要スル以上ハ支拂人ノ銀行ニ限ルヤ否ヤ又如何ナル方法ニ依リテ信用ヲ有スルコトヲ要スルヤ否ヤハ契約ニ因リテ定マルヘシ法典中ニ之ヲ規定スルコトヲ要セス是レ本條第三號カ爲替手形ニ關スル本案第四百四十二條第三號ノ例ニ準シ單ニ支拂人ノ氏名又ハ商號ヲ小切手ニ記載スルコトヲ要スルモノト爲シタル所以ナリ
本條第四號ハ現行商法第八百十六條ニ所謂「記名セラレタル人又ハ指圖セラレタル人若クハ所持人ニ支拂ハシム」云々ニ該當シ其字句ヲ修正シ且爲替手形ニ關スル本案第四百四十二條第四號及ヒ約束手形ニ關スル本案第五百二十二條第三號ノ例ニ準シ受取人ノ氏名ノ外之ニ代ユルニ其商號ヲ以テスルコトヲ許シタルニ過キス本條第五號ハ現行商法第八百十六條ニ所謂「支拂ハシム」云々ノ規定ニ該當スルモノニシテ特ニ「單純ナル」ノ四字ヲ加ヘタルハ爲替手形ニ關スル本案第四百四十二條第五號及ヒ約束手形ニ關スル本案第五百二十二條第四號ノ例ニ倣ヒ現行商法第六百九十九條第二項ノ「手形ニハ條件ヲ附スルコトヲ得ス」トノ規定ヲ敷衍シタルモノニ外ナラス
本條第六號ハ現行商法第八百十七條中「小切手ニハ年月日ヲ記シ」云々ノ規定ニ該當スルモノニシテ之ヲ必要トスル所以ハ爲替手形ニ關スル本案第四百四十二條第六號及ヒ約束手形ニ關スル本案第五百二十二條第五號ト異ナル所ナシ
本條第七號ハ現行商法中ニ存セサル所ナリト雖モ本案ハ爲替手形ニ關スル本案第四百四十二條第八號ノ例ニ準シ新ニ之ヲ加ヘタリ其他現行商法第八百十七條ニ於テハ「銀行ト明示又ハ默示ニテ約定シタル振出ノ方式ハ之ヲ遵守スルコトヲ要ス」ト規定スト雖モ當然言フヲ俟タサル所ナルヲ以テ本案ハ之ヲ削除シタリ
第五百二十八條
(理由)本條ハ現行商法中ニ存セサル所ナリ抑モ本案第四百四十四條ノ規定ニ依レハ爲替手形ノ振出人ハ自己ヲ受取人又ハ支拂人ト定ムルコトヲ得ルモノト爲スト雖モ全ク此規定ヲ小切手ニ準用シ卽チ小切手ノ振出人ハ自己ヲ受取人又ハ支拂人ト定ムルコトヲ得ルモノト爲ストキハ振出人カ支拂人ヲ兼ヌルニ至ルヘシ此ノ如キハ甚タ不都合ナリト謂ハサルヘカラス是レ本案カ第五百三十四條ニ於テハ爲替手形ニ關スル第四百四十四條ノ規定ヲ小切手ニ準用スルコトナク本條ニ於テ其規定ノ一部ノミヲ採用シタル所以ナリ
第五百二十九條
(理由)本條ハ現行商法第八百十六條ノ一部ニ及ヒ第八百十七條ノ一部ニ該當ス抑モ小切手ハ當然一覽拂ノモノニシテ若シ一覽拂以外ノモノナルトキハ無效ナリ是レ各國多數ノ立法例ノ認ムル所ナリ唯タ伊太利、羅馬尼及ヒ葡萄牙等ニ於テハ一覽拂小切手ノ外一覽後定期(十日以內)拂ノ小切手ヲ認ムト雖モ本案ハ一覽拂ノモノニ限ルヲ以テ至當ト爲シ現行商法第八百十六條中ニ所謂「呈示ヲ受ケ次第」及ヒ第八百十七條中「小切手ハ一覽拂トスルニ非サレハ之ヲ振出スコトヲ得ス」トノ規定ニ修正ヲ加ヘ小切手ハ其一覽拂ナルコトヲ記載スルト否トヲ問ハス當然一覽拂ノモノト爲シタリ
第五百三十條
(理由)本條第一項ハ現行商法第八百十九條第二項ニ該當スルモノナリ抑モ小切手ノ所持人カ支拂人ニ對シ其小切手ヲ呈示シテ支拂ヲ求ムヘキ期間ニ付テハ各國立法例一ナラス或ハ相當ノ期間ト爲シ或ハ振出地ト支拂地トノ異同ニ依リテ期間ヲ定メ或ハ之ヲ區別セス凡テノ場合ニ通シテ期間ヲ一定ス就中第一ノ主義ハ英國法律ノ採ル所ナリト雖モ如何ナル期間ヲ以テ相當ト認ムヘキカハ全ク事實問題ニシテ人ニ依リテ判斷ヲ異ニスルヲ免レス故ニ此主義ハ各場合ノ情況ニ應スルノ餘地アリ實際上極メテ適切ナルモノアルニモ拘ハラス之ヲ採ルコトヲ得ス又第二ノ主義ハ現行商法ノ採ル所ナリト雖モ振出地ト支拂地ト同一ナルカ故ニ必スシモ速ニ支拂ヲ求ムルコトヲ得ルモノニアラサルト共ニ振出地ト支拂地ト異ナルカ故ニ必スシモ速ニ支拂ヲ求ムルコトヲ得サルモノニアラス是レ本案カ小切手ノ本質ニ尤モ適合スル第三ノ主義ヲ採リ振出地ト支拂地トノ異同ヲ問ハス小切手ノ所持人ハ其日附ヨリ一週間內ニ小切手ヲ呈示シテ其支拂ヲ求ムルコトヲ要スト爲シタル所以ナリ本條第二項ハ現行商法中ニ明文ヲ存セサル所ナリト雖モ法定ノ期間內ニ小切手ヲ呈示シテ其支拂ヲ求メサリシ所持人ハ裏書人ニ對シテ償還請求權ヲ失フコト各國立法例ノ認ムル所ニシテ素ヨリ當然ナリ唯タ之ト共ニ振出人ニ對シテモ亦償還請求權ヲ失フヘキヤ否ヤニ付テハ二主義ニ分レ佛蘭西、瑞西、伊太利、西班牙、葡萄牙、白耳義等ハ此場合ニ振出人ハ償還義務ヲ免レサルモ資金カ支拂人ノ行爲ニ因リテ滅失シ其他法定ノ期間ニ呈示セサリシ爲メ振出人カ損害ヲ受ケタルトキハ其限度ニ於テノミ償還義務ヲ免ルルコトヲ得ルモノト爲スト雖モ理論上此場合ニ振出人ヲシテ償還義務ヲ免レシメ唯タ之ニ因リ受ケタル利益ノ限度ニ於テノミ償還義務ヲ負ハシムルコト正當ナリ故ニ本案ハ獨逸帝國銀行小切手法案ニ倣ヒテ本條第二項ノ規定ヲ設ケタリ
第五百三十一條
(理由)本條ハ現行商法第八百十九條第一項ノ一部ニ該當スルモノナリ抑モ現行商法第八百十九條第一項ニ於テハ小切手ニハ拒證書ヲモ要スルコトナシト規定スト雖モ支拂拒絕證書ナクシテ償還ヲ請求スルコトヲ得セシムルハ甚タ不當ニシテ且爲替手形及ヒ約束手形ニ關スル規定ニ對シ其權衡ヲ得タルモノニアラス現ニ佛蘭西、白耳義、瑞西、葡萄牙、羅馬尼其他多數ノ立法例ニ於テハ小切手ニモ亦他ノ手形ト同シク支拂拒絕證書ヲ要スルモノト爲シ本案亦之ニ倣ヒ第五百三十四條ニ於テ爲替手形ニ關スル規定ヲ小切手ニ準用シタリ然レトモ小切手ハ簡便ヲ主トシ從テ一々公證人又ハ執達吏ヲシテ支拂拒絕證書ヲ作成セシムヘキモノトスルコト能ハサル事情アリ是レ本條カ支拂人ヲシテ支拂拒絕ノ旨及ヒ其年月日ヲ小切手ニ記載シ且之ニ署名セシムルヲ以テ支拂拒絕證書ノ作成ニ代ユルコトヲ得ルモノト爲シタル所以ナリ
第五百三十二條
(理由)本條ハ現行商法第八百二十一條ニ該當ス抑モ現行商法第八百二十一條ニ於テハ振出人又ハ所持人ハ小切手ニ橫線ヲ附シ其橫線內ニ特ニ銀行ノミニ支拂フ可キ旨ヲ記載スルコトヲ得ト規定スト雖モ實際上平行線內ニ記載スルハ「銀行」又ハ之ト同一ノ意義ヲ有スル文字若クハ「特定セル銀行ノ商號」ニ止マリ之ノミニ支拂フヘキ旨ヲモ記載スルモノニアラサルノミナラス單ニ「銀行」又ハ之ト同一ノ意義ヲ有スル文字ノミヲ記載シタルト「特定セル銀行ノ商號」ヲ記載シタルトヲ區別シテ其效力ヲ定メサルノ不備アリ故ニ本案ハ之ヲ修正シ項ヲ分テ規定ヲ設ケタリ
第五百三十三條
(理由)本條ハ現行商法第八百二十三條第一項ノ一部ニ該當ス現行商法第八百二十三條第一項ニ於テハ數多ノ場合ヲ揭ケ振出人ノミナラス或場合ニハ裏書人、支拂人、所持人等ヲモ過料ニ處スヘキモノト爲スト雖モ小切手ノ信用ヲ維持スルカ爲メニハ資金ナク又ハ信用ヲ得スシテ小切手ヲ振出シ若クハ虛僞ノ日附ヲ小切手ニ記載シタル振出人ヲ過料ニ處スルノミヲ以テ足レリトス又現行商法第八百二十三條第一項ニ於テハ過料ノ金額ヲ小切手金額ノ百分ノ十ト爲スモ此ノ如ク割合ヲ一定スルトキハ或場合ニハ重キニ失シ或場合ニハ輕キニ過クルコトアルヲ免レス故ニ本案ハ之ヲ改メ五圓以上五百圓以下ト一定シタリ是レ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
其他現行商法第八百二十三條第一項ニ於テハ若シ刑法上ノ刑ニ處ス可キ行爲アルトキハ併セテ其刑ニ處スト規定スト雖モ是レ當然言フヲ俟タサル所ナリ又同條第二項ニ於テハ過料ニ處スル手續ヲ規定スト雖モ是レ手續法中ニ揭クヘク本案中ニ加フヘキモノニアラサルナリ故ニ本案ハ何レモ之ヲ削除シタリ
第五百三十四條
(理由)本條ハ現行商法中ニ明文ヲ存セサル所ナリ卽チ現行商法ニ於テハ爲替手形ニ關スル規定ヲ小切手ニ準用スルコトヲ得ルヤ否ヤ疑アリト雖モ或制限ヲ附シテ之ヲ準用スルコト至當ニシテ且便宜ナリ是レ約束手形ニ關スル本案第五百二十六條ノ例ニ準シ新ニ本條ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ
第五編 海商
第一章 船舶及ヒ船舶所有者
(理由)旣成商法ハ第一章ヲ船舶、第二章ヲ船舶所有者トシ第二章ヲ更ニ細別シテ第一節船舶所有權ノ取得及ヒ移轉第二節船舶所有者ノ權利及ヒ義務トナセリ然ルニ本案カ右兩章ヲ合シテ一章トナシ之ヲ規定セル所以ノモノハ旣成商法ニ於テ第一章船舶ト題シテ規定セル個條ハ第八百二十四條乃至第八百三十三條卽チ十個條ノ多キヲ占ムト雖モ本案ニ於テハ該規定中第八百二十五條第二項ヲ除クノ外ハ皆行政法若クハ手續法ニ屬スルモノト爲シ之ヲ他ノ法令ニ讓リ商法中ニ規定スル必要ナキモノトシテ之ヲ删除セルカ故ニ船舶ノミニ關スル規定ハ僅ニ一二個條ニ止リ從テ別ニ一章トシテ揭クルノ必要ナク且ツ船舶ニ關スル規定ト船舶所有者ニ關スル規定トハ密接ノ關係アレハナリ
第五百三十五條
(理由)本條ハ本法ノ適用ヲ受クル船舶ノ範圍ヲ定メタリ旣成商法第八百二十四條ハ主トシテ船籍ヲ定メ併セテ商法ノ適用ヲ受クル船舶ノ範圍ヲ定メ其範圍ハ獨リ商船ノミナラス其他ノ海船モ亦包含スルモノト爲シタリ然レトモ本案ニ於テハ船籍ニ付テハ全ク之ヲ他ノ特別法ノ規定ニ讓リ獨リ商法ノ適用ヲ受クル船舶ノ範圍ニ付テノミ其規定ヲ設ケタリ卽チ其範圍ニ付テハ本案ハ固ト主トシテ商行爲ノミニ關スル規定ヲ設クルヲ以テ商法全體ニ通スル立法ノ主義ト爲セルカ故ニ船舶ニ付テモ本法ノ適用ヲ受クルハ獨リ營利ノ目的ヲ以テ航行スルモノニ限ルコトトシ營利以外ノ目的ヲ以テ航行スル船舶例ヘハ學術硏究、國土發見又ハ娛遊ノ爲メ航行スル船舶等ニハ本法ノ適用ヲ受ケシメサルモノト爲シタリ而シテ營利ヲ以テ目的トスル船舶ニ在リテモ河川、港灣ヲ航行スル船舶ニ關シテハ運送ヲ爲スヲ以テ業トスル點ニ付テハ第三編第八章ノ規定アルヲ以テ足レリトシ本法ノ適用ヲ受クルハ獨リ航海ノ用ニ供スル船舶ニ限ルモノト爲シタリ而シテ湖川、港灣ノ範圍ハ他ノ特別法令ノ規定ニ依リテ定ルヘキカ故ニ航海ノ範圍モ亦自ラ定ルニ至ルヘキノミ
第二項ハ旣成商法第八百二十五條ノ第二項ヲ襲ヒタルモノニシテ唯字句ニ付多少ノ修正ヲ爲シタルニ止マレリ故ニ敢テ說明ヲ加ヘス立法ノ理由ハ蓋シ此等ノ小船ニマテ本編ノ規定ヲ適用スルノ必要ヲ認メサルニ因ルナリ
第五百三十六條
(理由)本條ハ旣成商法第八百三十八條ニ修正ヲ加ヘタルモノニシテ民法第八十七條第一項ノ一ノ適用ニ過キス蓋シ旣成商法ハ船舶ノ屬具ヲ規定スルニ當タリ列擧主義ヲ取リタリト雖モ列擧主義ハ往々ニシテ脫漏ヲ生スルノ虞ナキニ非ス故ニ寧ロ本件ノ如ク槪括的ニ之ヲ規定スルニ若カス殊ニ我日本ノ實際ニ於テモ名稱ノ如何ニ拘ハラス屬具目錄ニ相當スルモノハ船內ニハ多クハ皆之ヲ備具シ其中ニ記載スル事項ノ正否如何ニ依リ大ニ船舶ノ價格ニ影響ヲ及ホスト云フ故ニ船舶所有者カ該目錄中ニ誤謬アル記載ヲ爲スカ如キコトハ蓋シ尠ナカルヘシ仍テ之ヲ屬具目錄ト改メタリ而シテ今後船長ノ義務トシテ屬具目錄ハ船內ニ必ス備ヘ付ケサルヘカラサルコトハ後ニ本篇第五百五十九條第一項ノ規定スル所ナリ
又從物ト推定スト規定セル所以ハ屬具目錄ニ記載セシ物亦必スシモ船舶所有者ノ所有ニ非スシテ或ハ他人ノ物ヲ以テ之カ用ヲ充タシ居ルコト無キヲ保セサレハナリ
第五百三十七條
(理由)旣成商法ハ第八百二十五條第一項ニ於テ總テ日本船舶ハ管海官廳ヨリ船籍證書ヲ受ケタル後船籍港ヲ管轄スル裁判所ニ於テ船舶登記簿ニ登記ヲ受クヘキ旨ヲ規定シ其次條卽チ第八百二十六條ニ於テ船舶登記事項ヲ詳細ニ規定セリ然レトモ本案ニ於テハ船舶國籍證書竝ニ船舶登記證書ノ二者ノ必要ヲ認メス獨リ船舶國籍證書ノミニテ足レリトセリ蓋シ旣成商法カ二者ヲ併セテ必要トセル所以ハ一ハ行政監督ノ爲メニシ一ハ私權ノ證明ノ爲メニスル主意ナルヘシト雖モ本案ニ於テハ船舶ノ登記ハ不動產ノ登記ト異リ船舶ニ付テ特別知識アル管轄官廳ノ官吏ヲシテ之ヲ掌ラシムルヲ以テ便宜頗ル多キモノトセルカ故ニ右二證書ノ一ヲ以テ二者ノ目的ヲ併セ達シ得ヘシト信シタルナリ故ニ船舶登記證書ニ付テハ敢テ之ヲ規定セス從テ船舶國籍證書ノミニ付テ言ヘハ最モ其完備スルコトヲ必要トシ本法ニ於テ登記事項ヲ列擧セハ或ハ脫漏スル事項ナキヲ保シ難ク從テ實際ノ需用ニ適セサルニ至ルコトアルモ知ルヘカラス仍テ次條ニ於テ船舶讓渡ノ登記ハ特別法ノ定ムル所ニ一任スルト均シク船舶所有ノ登記ハ總テ之ヲ特別法ノ定ムル所ニ讓リ以テ能ク實際ノ需用ニ適セシムヘキコトヲ計リタルモノトス第二項ニ於テ總噸數二十噸未滿又ハ積石數二百石未滿ノ船舶ニハ其登記ヲ必要トセスト爲セル點ハ卽チ旣成商法第八百二十五條第一項ヲ襲ヒタルモノニシテ總噸數二十噸ハ之ヲ積量ニ換算セハ略ホ十五噸ニ相當スルカ故ニ他ノ法令ト一致セシムル爲メニ其字句ヲ修正シ又日本形船ノ積石數二百石ハ西洋形船ノ總噸數二十噸ニ相當スルカ故ニ日本形船ニ付テモ併セテ之ヲ明言セルナリ
第五百三十八條
(理由)旣成商法第八百三十四條ニハ商船其他ノ海船ハ動產トス但本法ニ例外ヲ定メタル場合ハ此限ニ在ラストアリ斯ル規定ハ佛、伊ノ商法ニモ之アリ佛、伊商法カ之ヲ設ケタル所以ハ主トシテ左ノ沿革上ノ理由ニ基ケリ卽チ一ハ船舶ハ其價貴キカ故ニ之ヲ不動產ト同一視スル傾向アリ仍テ之ヲ避ケンカ爲メニシ一ハ但書ニ依リ之ヲ抵當トナストキハ不動產ト類似ノ規定ニ由ラシメンカ爲メナリ然レトモ船舶カ動產タルコトハ民法ノ規定ニ依リ明瞭ナルノミナラス船舶ヲ抵當ト爲スコトヲ得又其抵當ハ或條件ニ從ヘハ之ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得ルコト等ノ規定ハ船舶債權者ニ關スル章下ニ於テ之ヲ設クルカ故ニ沿革上ノ理由ニ基ケル此ノ如キ規定ヲ特ニ存セシムル必要ナキモノトシテ之ヲ删除セリ
旣成商法第八百三十五條第一項ニ於テハ船舶構造ノ契約及ヒ賣買其他ノ權利行爲ニ依リテ船舶ノ全部若クハ股分ヲ取得スル契約ハ特ニ作レル契約證書ヲ以テ必ス之ヲ取結フヘキ旨ヲ規定シ證書作成ヲ以テ契約成立ノ一要件ト爲セリト雖モ本案ニ於テハ商事契約ノ成立要件トシテ形式ヲ要セサルコトヲ以テ通則ト爲セルカ故ニ旣成商法ノ如ク書面作成ヲ契約成立ノ要件トスルコトハ之ヲ廢セリ殊ニ外國法中船舶ノ讓渡ニ書面ヲ要ストノ規定ノ存セルモノニ在リテモ學者ハ之ヲ以テ契約成立ノ要件ト爲サスシテ單ニ證據ノ爲メニノミ之カ作成ヲ要スト解釋スル者多キカ如シ但第三者ニ對抗スルコトヲ得ル爲メニハ之カ登記ヲ爲シ且ツ船舶國籍證書ニ記入セサルヘカラス此規定ノ主意ニ至リテハ略ホ民法第百七十七條及ヒ第百七十八條ト同一ナリ
旣成商法第八百三十五條第二項ニハ相續、結婚其他此類ノ事由ニ依ル船舶所有權ノ移轉ハ公正ノ證書ヲ以テ之ヲ證スルコトヲ要ストアリ然レトモ此類ノ事由ニ依ル所有權ノ移轉アラハ登記ヲ更正セサルヘカラス而シテ其登記方法ハ特別法ニテ之ヲ定メ移轉ノ事由ヲ證スルニ書面ヲ要スルト否トノ如キハ專ラ特別法ニ依リテ規定セラルヘキカ故ニ本條ハ又之ニ付キテ規定セス
旣成商法第八百三十六條ハ船舶ノ賣却ニ關スル規定ニシテ之ニ對スル船長ノ權限ニ關スル部分ハ之ヲ船長ノ章下ニ規定スルヲ適當トシ其他賣却ニハ所有者ノ明示ノ委任アルコトヲ要スル規定ノ如キハ證據ノ問題ナルカ故ニ之ヲ删除セリ
又旣成商法第八百三十七條ノ規定ハ民法ノ規定ヨリ明瞭ナルカ故ニ此規定ヲ存スル必要ナキモノトシテ之ヲ删除セリ
又同第八百四十條ノ規定ハ船舶債權者ノ部ニ之ヲ規定スルヲ可ナリトシテ之ヲ其章下ニ移セリ
第五百三十九條
(理由)本條ハ旣成商法第八百三十九條ト其主意ニ於テ異ナルコトナシ本條モ旣成商法モ共ニ讓渡人ト讓受人トノ關係ヲ定メタルモノナリ讓渡人カ第三者ニ對スル關係例ヘハ讓渡人カ全財產ヲ以テ第三者ニ責任ヲ負フヘキ場合ノ如キハ本條アルカ爲メニ影響ヲ受ケサルナリ外國法中或ハ讓渡ノ日ヲ以テ限界トシ其前後ニ依リ損益ノ歸屬者ヲ定ムルコトノ立法例ナキニ非スト雖モ航海中ノ損益ハ前後不同ニシテ時間ノ割合ヲ以テ妄リニ之ヲ分割スヘカラス若シ偶然ノ期日ニ依リテ其前後ヲ劃シ以テ損益ノ歸屬者ヲ定ムルニ於テハ利益ヲ多ク取得スル者ト少ク取得スル者トヲ生シ甚シキハ一方ニハ利益ノミヲ取得スル者ヲ生シ他方ニハ損失ノミヲ負擔スル者ヲ生シ不公平ノ結果ヲ生スルコト無キヲ保シ難シ是レ特約ナキ場合ニハ當事者ノ意思ニ反スル事多カルヘシ仍テ當事者ノ意思ヲ推測シ讓渡ノ日ノ前後ヲ問ハス航海ヨリ生セル損益ハ總テ讓受人ニ歸屬ストナシタルナリ
而シテ本條ハ唯航海ヨリ生スル損益ト云フカ故ニ船舶自體ノ毀損ヨリ生スル損害ニ至リテハ何人カ之ヲ負擔スヘキヤハ讓渡ノ日ノ前後ニ依リ之ヲ區別シ民法ノ適用ニヨリ明瞭ナルヘク固ヨリ本條ノ適用ノ範圍外ナリ
第五百四十條
(理由)本條ハ旣成商法第八百五十九條ニ該當シ規定ノ主意ニ於テモ大體ハ異ナルコトナシ唯旣成商法カ船舶債權者ノ章下ニ規定セルモノヲ本案カ之ヲ移シテ本章ノ下ニ入レタル所以ハ本條ハ船舶債權者ニ關スル規定ト云ハンヨリモ寧ロ船舶ノ特權ヲ定メタルモノナリト云フヲ優レリト信スレハナリ本條規定ノ理由ハ旣ニ發航ノ準備ヲ爲セル船舶カ航海ヲ始ムルコトヲ得ルト否トハ傭船者、荷送人又ハ旅客等ノ利害ニ大關係アルヲ以テ專ラ船舶債權者ノ爲メニ其航海ノ利益ヲ犧牲ニセサルカ爲メナリ然レトモ發航ヲ爲ス爲メニ生シタル債務ニ付テハ之カ債權者ハ發航ノ準備以前ニ債務履行ノ請求ヲ爲スヘキコトヲ怠リタルニ非ス且ツ此債權アリテ始メテ發航ノ準備モ成リタルモノナルカ故ニ該債權ハ所謂擔保ノ原因ヲナシタルモノナリ從テ船舶ハ該債務ノ履行ノ擔保トナラサルヲ得サルナリ
第五百四十一條
(理由)本條ハ旣成商法第八百四十二條ニ對スル修正ニシテ船舶所有者船長其他ノ船員ノ行爲ニ對スル責任ノ範圍ヲ定ム今左ニ其修正ノ點ヲ列擧セン
一、夫レ船舶所有者ノ船員ノ行爲ニ對スル責任ノ範圍ヲ制限スルコトハ從來旣ニ一般ニ認メラレタル所ナリト雖モ之ヲ制限スル理由ニ至リテハ未タ一定スル所ナシ要スルニ其理由ハ主トシテ左ノ二點ニ存スルモノノ如シ(一)曰ク船長カ一旦航海ヲ開始スルトキハ船舶所有者ハ其行爲ニ付殆ント之ヲ監視スルコトヲ得スト(二)曰ク航海ノ便宜ト安全トヲ計ラシムル爲メニ船長ノ權限ヲシテ非常ニ廣大ナラシメタリ然ルニ船舶所有者カ全財產ヲ以テ無限ノ責任ヲ負ハサルヘカラストスルトキハ大ニ航海業ノ發達ヲ害スル虞アレハナリト而シテ之ヲ制限スル方法ニ付テ立法例ハ大別セハ左ノ三種アルカ如シ
第一、獨主義 特定ノ原因ヨリ生セル債權ニ付テハ債權者ハ船舶所有者ノ船舶、運送賃ノ如キ所謂海產ニ付テノミ執行スルコトヲ得他ノ財產ニ付テハ之ヲ執行スルコトヲ得ス
第二、佛主義 船舶所有者ハ全財產ヲ以テ責任ヲ負フ然レトモ特定ノ原因ヨリ生シタル債權ニ付テハ船舶、運送賃ノ如キ所謂海產ヲ委付シテ總テ責任ヲ免ルルコトヲ得
第三、英主義 船舶ノ噸數ノ割合ニ應シテ船舶所有者ノ責任ヲ定ム
右ノ三主義中孰レカ最モ是ナリトスヘキカ英主義ノ如ク噸數ニ比例シテ其責任ノ度ヲ定ムルニ於テハ船舶ノ價格ノ異ナルニ從ヒ或ハ船舶ノ種類ノ異ナルニ從ヒ例ヘハ汽船ト帆船トノ如キハ其間ニ逕庭ヲ設ケ詳細ナル規定ヲ立テサルトキハ不公平ト謂ハサルコトヲ得ス故ニ英主義ハ容易ニ之ヲ採用スヘカラサルナリ而シテ獨ノ執行主義ト佛ノ委付主義トニ付テ之ヲ觀ルニ旣ニ船舶所有者ノ責任ヲ制限シ全財產ヲ以テ責任ヲ負ハスシテ可ナリトセル以上ハ船舶所有者ニ委付權ヲ與ヘテ可ナリ必スシモ債權者ヲシテ船舶運送賃等ニ對シテ執行セシメサルヘカラサル理由ナキナリ是レ本案カ佛主義ヲ採用セシ主タル理由ナリ而シテ獨主義ハ獨國ノミニ行ハレ英主義ハ英國ノミニ行ハル獨リ佛主義ハ佛國以外ノ諸國ニモ亦廣ク行ハレ將來益々擴張シテ行ハルル傾向アリ是レ本案カ佛主義ヲ採用セル附隨ノ理由タリ
二、旣成商法第八百四十二條ニハ船長及ヒ海員ノ職ヲ施行スル行爲トアリテ職務施行トハ其解釋ノ寬嚴ニ依リ包含サルル事項ノ範圍ヲ異ニスヘシト雖モ船舶所有者カ船長ニ特別ノ委任ヲ爲シテ爲サシメタル場合又ハ船舶所有者カ自ラ契約シテ唯其執行ノミカ船長ノ職權ニ存スル場合又ハ船舶所有者ニ過失アル場合ノ如キハ船舶所有者ノ責任ヲ制限スル前述ノ理由ニ鑑ミルモ船舶所有者ハ全財產ヲ以テ責任ヲ負ハサルヘカラサルコトハ固ヨリ明白ナル所ナリ佛商法ノ如キハ斯ル場合ニ於テ固ヨリ委付ヲ許サス是頗ル理由アル規定ト云フヘシ仍テ本條ニ於テハ職務ノ施行ト云フカ如キ漠然タル言葉ヲ用ユルコトヲ避ケテ「船長カ其法定ノ權限內ニ於テ爲セル行爲又ハ船長其他ノ船員カ其職務ヲ行フニ當タリ他人ニ加ヘタル損害」ト言ヒテ船舶所有者カ委付ヲ爲スコトヲ得ル債權ノ範圍ヲ明ニ定メタリ
三、又責任ノ程度ニ至リテハ旣成商法第八百四十二條ニ於テハ船舶及ヒ運送賃ニ限リタリト雖モ船舶所有者カ救援若クハ救助ヲ爲シテ生シタル報酬ノ請求權ノ如キ又ハ共同海損ニ依リテ生シタル損害賠償ノ請求權ノ如キハ尙ホ海產ニ屬シ船舶所有者カ之ヲ以テモ尙ホ責任ヲ負擔スヘキハ固ヨリ當然ニシテ外國ノ立法例中旣成商法ノ如ク責任ノ程度ヲ船舶及ヒ運送賃ニ限リタルモノニ在リテモ學者或ハ前述ノ請求權等ハ其中ニ包含サルルコトヲ主張スル者ナキニ非ス殊ニ千八百八十八年ノブリユツセルニ於ル國際會議ニ於テモ斯ノ如ク定マレルカ故ニ本條ハ卽チ之ニ倣ヒタルナリ而シテ委付ヲ爲シ得ル運送賃ノ範圍ハ委付ヲ爲シテ責任ヲ免ルルコトヲ得ル債務ノ生シタル航海ニ因リテ獲得シ又ハ獲得スヘキ運送賃ニ限ルモノニシテ其以外ノ航海ニ依リテ獲得セラレタル運送賃ニ及ハサルコトハ「航海ノ終リニ於テ」ナル字句ノ存スルニ依リテ明白ナリ
四、旣成商法第八百四十二條ハ船長カ同時ニ船舶所有者ナルトキ又ハ股分所有者ナルトキニ付テ特別規定ヲ設ケ他ノ一般ノ場合ニ於ケル船舶所有者ノ責任ト其程度ヲ異ナラシメタリ斯ル立法例ハ外國ニ必スシモ之レ無キニアラスト雖モ學者ノ一般ニ非難スル處ナリ蓋シ船長カ同時ニ船舶所有者タル場合ニ全財產ヲ以テ責任ヲ負ハサルヘカラサルニ至リテハ船長ハ安心シテ航海ニ關スル處置ヲ行フコトヲ得スシテ或ハ弊害ヲ生スルコト無キヲ保シ難ク從テ航海業ノ進步ヲ害スルニ至ルモ知ルヘカラス故ニ佛國ニテハ千八百八十五年ノ法律ヲ以テ此區別ヲ廢セリ卽チ本案モ亦之ニ倣ヘルナリ
五、第二項ハ畢竟船員ヲ保護スル爲メノ恩惠的ノ規定ナリ
第五百四十二條
(理由)旣ニ前條ニ於テ船舶所有者ノ責任ノ程度ヲ制限シ其責任ノ程度ハ所謂海產ニ限ルモノトシ之ニ委付權ヲ認メタル以上ハ其責任ノ範圍內ニ於テハ船舶所有者ハ十分ノ責任ヲ負フヘキハ固ヨリ當然ト云フヘシ然ルニ債權者ノ同意ヲ經スシテ新ニ航海ヲ爲サシメ得ルトキハ船舶ハ益々朽敗シ所謂海產ノ範圍ハ減少シテ委付ヲ許シタル主意ニ背戾スルニ至ルヘシ是レ卽チ本條ノ設アル所以ナリ
第五百四十三條
(理由)本條ハ旣成商法八百四十五條ト其主意ニ於テ毫モ異ナル所ナシ共有者數人アル場合ニ於テ船舶ノ利用ニ關スル事項ヲ如何ニ決スルカハ契約ニテ自由ニ之ヲ定ムルコトヲ得ヘシ然レトモ若シ其特約ナキ場合ハ如何ニ決スルカハ卽チ本條以下ノ定メント欲スル所ナリ外國ニ於テハ船舶股分ノ數ヲ制限スルモノアリ例ヘハ英國ニテハ之ヲ六十四ニ限リ佛國ニテハ慣習上之ヲ二十四ニ限レリ然レトモ股分ノ數ヲ制限スル必要ナキノミナラス航海ノ如キ危險多キ事業ニ在リテハ却テ其危險ヲ多人數ニ分擔セシムル必要アリ故ニ本案ニ於テハ旣成商法ト均シク股分ノ數ヲ制限セサルナリ唯旣成商法第八百四十五條ニハ船舶ニ關スル總テノ事項ヲ議決權ノ過半數ヲ以テ決定セシメントシタルハ過半數ヲ以テ決定スル事項ノ範圍廣キニ失セリ佛國ハ過半數ヲ以テ決定スル事項ハ共同ノ利益ニ關スルコトノミニ之ヲ制限シ獨國ハ過半數ニテ決定セシムル事項ト共有者ノ一致ヲ要スル事項トヲ區別シテ之ヲ規定セリ故ニ本案ニ於テモ之カ區別ヲ立テ船舶ノ利用ニ關スル事項ニ限リ過半數ヲ以テ決シ得ルコトトシタルナリ而シテ本條ノ文例ハ主トシテ民法第二百五十二條ニ倣ヘリ
旣成商法第八百四十三條ハ船長ノ撰任ニ付規定セリ是亦船舶ノ利用ニ關スルカ故ニ他ニ別段ノ定メナキトキハ本條ニ依リ過半數ニテ決スルコトヲ得ヘシ然レトモ若シ船長カ同時ニ共有者ナルトキハ其意ニ反シテ妄リニ其職ヲ止メシムルコトヲ得サルコト之レ有ルヘシ故ニ之ニ關シテハ尙ホ船長ノ章下ニ於テ特別ノ規定ヲ設クヘシ仍テ本條ニハ特ニ之ニ付テ規定セス
第五百四十四條
(理由)前條ニ於テ船舶ノ利用ニ關スル事項ハ各共有者ノ持分ノ價格ニ從ヒ其過半數ヲ以テ之ヲ決スト爲シタル以上ハ利用ニ關スル費用支出ノ點ニ於テモ亦持分ノ價格ニ從フヲ以テ至當ト認メタルナリ而シテ本條ハ共有者間內部ノ關係ヲ定メタルモノニシテ第五百四十六條ハ卽チ共有者ノ第三者ニ對スル外部ノ關係ヲ定メタルモノナリ
第五百四十五條
(理由)本條ハ旣成商法第八百四十五條第三項ニ該當スル規定ナリ新ニ航海ヲ爲スコト又ハ船舶ノ大修繕ヲ爲スコトノ如キハ同シク第五百四十三條ニ所謂船舶ノ利用ニ關スル事項ナルカ故ニ若シ他ニ別段ノ規定ナキトキハ此等ノ事項ニ對スル決議ハ當然第五百四十三條ノ適用ヲ受ケ少數者ハ多數者ノ意見ニ屈從セサルヘカラサルニ至ラン然レトモ新ニ航海ヲ爲スコト又ハ船舶ノ大修繕ヲ爲スコトノ如キ重大ナル事項ニ對シテ少數者ハ多數者ト意見ヲ異ニスルモ尙ホ其決議ニ屈從セサルヘカラストセハ少數者ニ對シテ極メテ酷ナルモノト云フヘシ仍テ本條ハ少數者保護ノ爲メニ第五百四十三條ニ對スル例外ヲ設ケタルナリ而シテ本案カ旣成商法ト異ナル所ハ委付ニ換ヘテ買取ヲ爲スヘキコトヲ請求スルコトヲ得ト爲シタル點ニ在リ
第二項ハ旣成商法ノ足ラサル處ヲ補ヒ詳細ナル規定ヲ設ケタルニ過キス而シテ若シ本項ニ所謂通知ヲ爲スコトヲ怠リタルトキハ少數者ハ第一項ノ權利ヲ抛棄セシモノト看做サレ多數者ノ意見ニ拘束セラルルコトト爲ルヘキナリ
第五百四十六條
(理由)本條ニ直接ニ該當セル規定ハ旣成商法ニハ之レアルヲ見ス商行爲ニ付數人カ共同シテ債務ヲ負擔セル場合ニ於テ別段ノ意思表示ナキトキハ其債務ハ各自連帶ニテ之ヲ負擔スルコトハ商行爲一般ノ通則ナリ(本案二百七十三條)然ルニ船舶ノ利用ニ付テ生シタル債務ニ關シテ尙ホ通則ヲ適用シ船舶共有者ハ各自連帶ニテ其債務ヲ負擔スルニ於テハ危險分擔ノ主義ニ反シ從テ航海業ノ進步ヲ害スルノ虞アリ因テ持分ノ價格ニ應シ債務辨濟ノ責アリトナシ通則ニ對スル例外規定ヲ設ケタルナリ
第五百四十七條
(理由)民法ニハ損益分配ノ時期ニ關スル規定ナシ本條ハ卽チ分配ノ時期ト共ニ分配ノ割合ヲ定メタルナリ而シテ本條ハ公益規定ニ非サルカ故ニ特約アレハ其特約ニ依ルヘキコトハ固ヨリ言ヲ俟タス
第五百四十八條
(理由)本條ハ旣成商法第八百四十七條ニ該當ス夫レ船舶ヲ共有スルニ當リ單ニ民法ノ共有ニ關スル規定ノミニ準據スヘキ場合ニ在リテハ船舶共有者ハ其規定ニ依リ自己ノ持分ヲ自由ニ他人ニ讓渡スコトヲ得ヘシ然レトモ船舶共有者間ニハ船舶ノ使用ニ關シテ組合關係ノ存スルコト多カルヘシ此場合ニ在リテ持分ノ處分ニ關シテ單ニ民法ノ組合ニ關スル規定ノミニ一任スルトキハ持分ハ自由ニ他人ニ讓渡スコトヲ得サルナリ然レトモ是レ危險分擔ノ主義ニ反シ其結果航海業ノ進步ヲ害スルニ至ルヘシ是レ本條ニ於テ民法ニ對スル特別ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ而シテ但書ノ設ケアル所以ハ若シ然ラスンハ船舶管理人ハ妄リニ其職ヲ解クニ至ルノ結果ヲ生スレハナリ
第五百四十九條
(理由)本條第一項ハ全ク旣成商法第八百四十一條ノ規定ヲ襲ヒ船舶カ二人以上ノ共有ニ屬スル場合ニハ船舶管理人ヲ置クコトヲ必要トナセリ而シテ船舶管理人ノ撰任モ亦一個ノ船舶ノ利用ニ關スル事項ナルカ故ニ第五百四十三條ノ適用ヲ受ケ議決權ノ過半數ニ依リ決セラルヘキナリ然レトモ船舶管理人ハ次條ニ示スカ如ク其權限廣闊ニシテ且ツ第五百四十三條ノ適用ニノミ一任セハ或ハ一人ニシテ議決權ノ過半數ヲ有スル場合ヲ生シテ專斷ニ陷ルノ弊ナキヲ保シ難キカ故ニ本條第二項ハ卽チ第五百四十三條ニ對スル例外規定トシテ之ヲ設ケタルナリ
第三項ヲ設ケタル理由ハ船舶管理人ハ支配人ト同シク其權限頗ル廣シ而シテ第三十一條ニ於テ支配人ノ撰任及代理權ノ消滅ハ登記ヲ爲スト爲セルカ故ニ船舶管理人ニ付テモ亦其撰任及代理權ノ消滅ノ登記ヲ爲サシムルヲ以テ適當ト認メタルナリ
第五百五十條
(理由)本條ニ該當スル規定ハ旣成商法ニハ之レアルヲ見ス然レトモ旣ニ前條ニ於テ船舶共有者ハ必ス船舶管理人ヲ置クコトヲ要ストナセルカ故ニ其法定權限ヲ規定セハ恰カモ支配人等ノ法定權限ヲ規定セルト一般ニシテ商業上便利頗ル多カルヘシ是レ本條ヲ附加スル所以ナリ而シテ其權限トシテハ本條第一項第一號ヨリ第五號マテニ列擧セル事項ハ船舶共有者ニ重大ナル關係アルカ故ニ之ヲ除キ其他ノ船舶ノ利用ニ關スル一切ノ裁判上又ハ裁判外ノ行爲ヲナシ得ルモノトシタルナリ
第一項中特ニ說明ヲ要スル點ハ第一號ニ所謂船舶ノ賃貸ノ意義是ナリ茲ニ所謂賃貸トハ民法ニ所謂賃貸ト同意義ニシテ船舶ノ使用ニ必要ナル準備例ヘハ船舶ノ艤裝、海員ノ雇入等ハ之ヲ賃借人ニ於テ爲ス所タリ然ルニ旣成商法カ第八百八十七條乃至第八百九十八條ニ於テ規定セル船舶賃貸借契約トハ船舶ノ全部又ハ一部ニ賃借人ノ荷物ヲ船積ミスルニ止マリ船舶ノ艤裝、海員ノ雇入等航海ニ必要ナル準備ハ船舶所有者カ之ヲ行フモノニシテ其契約ノ性質タル運送ト云フ仕事ノ結果ヲ以テ目的トスルカ故ニ本條ニ於テハ之ヲ以テ運送契約ノ一種ト爲シ賃貸借契約トハ稱セサルナリ
第二項ハ第一項ニ於テ管理人ノ法定權限ヲ定メタル以上ハ善意ノ第三者保護ノ爲メニ自ラ之ヲ加フルノ必要アルニ至レルナリ
第五百五十一條
(理由)船舶管理人ハ前條ニ示セルカ如ク船舶ノ利用ニ關シテハ廣大ナル權限アルカ故ニ本條ノ義務ヲ負ハシムルヲ以テ至當ト認メタルナリ
第五百五十二條
(理由)本條ハ旣成商法第八百四十八條ニ該當ス持分ノ移轉ニ依リ船舶カ日本船タル資格ヲ失セハ日本船ノ航海業ニ影響ヲ來スハ必セリ仍テ公益上ノ必要ヨリ他ノ共有者ニ其持分ヲ買取リ又ハ其競賣ヲ裁判所ニ請求スル權ヲ與ヘタルナリ
第二項ハ旣成商法第八百四十八條第二項ト其主意ヲ同フス唯本案ニ於テハ船舶ノ國籍資格ハ總テ他ノ特別法ノ規定ニ讓リタルカ故ニ畢竟特別法ノ定リ方如何ニ依リ本條ノ主意モ亦判明セラルヘキナリ
第五百五十三條
(理由)船舶ハ往々ニシテ之ヲ不動產ト同一ニ取扱フノ必要アルコトハ明白ナル事實ニシテ之ヲ沿革ニ徵スレハ殊ニ然リトス故ニ旣成商法ノ如キハ第八百三十四條ニ於テ殊更ニ商船其他ノ海船ハ之ヲ動產トスト明言シ船舶カ常ニ不動產ト同一視セラルルノ弊ヲ避ケントシ同條但書ニ於テ本法ニ例外ヲ定メタルモノハ此限ニ在ラストシ以テ不動產ト同一視セラルル場合アルコトヲ豫想セリ卽チ船舶ヲ賃貸借ニ附セシトキノ如キハ之ヲ不動產ト同一視スヘキ場合ノ一タリ而シテ民法第百七十七條ニ依レハ不動產ニ關スル物權ノ得喪及ヒ變更ハ登記ヲ爲シテ始メテ第三者ニ對抗シ得ルモノト爲シタルカ故ニ船舶ノ賃貸借ニ付テモ之カ登記ヲ爲サハ爾後其船舶ニ付キ物權ヲ取得シタル者ニ對シテモ其效力ヲ生スルモノト爲シタルナリ
第五百五十四條
(理由)船舶ノ賃借人カ營利ノ目的ヲ以テ其船舶ヲ航海ノ用ニ供シ汎ク第三者ト運送契約ヲ締結セシ場合ニ於テ其運送契約ノ當事者ハ船舶所有者ニ非スシテ船舶ノ賃借人タルコト論ヲ俟タス然ルニ本篇第三章以下ノ規定ハ船舶所有者カ運送契約ノ當事者タル場合ノミヲ眼中ニ置キ船舶所有者ト傭船者又ハ荷送人トノ關係ヲ規定セリ然レトモ之ト同一ノ關係ハ船舶ノ賃借人カ運送契約ノ當事者タル場合ニ於テ船舶賃借人カ第三者ニ對シ船舶所有者ト同一ノ權利義務ヲ有スルニ非スンハ遂ニ運送契約ノ目的ヲ達スルコト能ハサルナリ是レ本條第一項ノ規定アル所以ナリ
又賃借人カ營利ノ目的ヲ以テ船舶ヲ航海ノ用ニ供シ之ニ對シテ許多ノ債權者ヲ生シ又許多ノ先取特權者ヲ生スルコトアルヘシ此場合ニ當タリ船舶賃借人ハ船舶ノ所有者ニ非ルカ爲メニ先取特權者カ船舶ニ對シテ其權利ヲ行使スルコトヲ得スンハ遂ニ法律カ特ニ或種ノ債權者ヲ保護スル爲メニ先取特權ヲ與ヘタル目的ヲ達スルコトヲ得サルヘシ從テ其結果カ航海業ノ進步ヲ妨害スルコトアルモ知ルヘカラス蓋シ船舶所有者ハ之カ爲メニ大ニ迷惑ヲ被ムルコトアルヘシト雖モ旣ニ船舶ヲ賃貸シ營利ノ爲メニ之ヲ航海ノ用ニ供スルコトヲ許諾シタル以上ハ其結果種々ノ先取特權者ヲ生シ之カ權利ノ行使ヲ對向セラルルコトアルハ當初旣ニ甘諾セル所ナリト謂ハサルコトヲ得ス是レ獨逸商法ニ倣ヒ本條第二項本文ノ設アル所以ナリ然レトモ若シ其先取特權者ニシテ賃借人ノ船舶ノ利用カ賃貸借契約ニ背反スルモノタルコトヲ知ル以上ハ船舶所有者ニ對シテ其權利ヲ行使スルコトヲ得サルモ損害ヲ生スルモノト云フコトヲ得ス是レ但書ヲ附シタル所以ナリ
第二章 船員
(理由)本章ハ旣成商法ニハ船長及ヒ海員ト題シタリト雖モ獨逸法ニ倣ヒ寧ロ兩者ヲ合シテ一名稱ト爲スノ便宜多キヲ認メ之ヲ船員ト題シタリ
旣成商法第八百六十五條、第八百六十七條、第八百六十八條及第八百七十條ハ私法上ノ權利義務ノ關係ニ全ク牽連シ居ラサルニ非スト雖モ主トシテ船員ノ取締ニ關シ行政法ノ規定ニ讓ルコトヲ正當ト信シタルカ故ニ本案ニ於テハ之ヲ削除セリ
又旣成商法第八百七十四條ハ其理由ハ異ナレリト雖モ之ヲ置クノ必要ナキモノトシテ之ヲ削除セリ蓋シ本條適用ノ必要アル場合ノ如キハ損害賠償ノ一般規定ヲ以テ足レリトシタルナリ
第一節 船長
第五百五十五條
(理由)本條ハ旣成商法第八百六十條及第八百六十一條ニ對スル修正ナリ右兩條ハ其意義漠然タリト雖モロエスレル氏ノ草案說明書ニ由テ之ヲ見レハ第八百六十一條第二項ニ所謂特別ナル職務上ノ義務トハ法律ニ規定アル場合ヲ云ヘルモノノ如シ然レトモ船長カ責任アル場合ハ獨リ法律ニ規定アル職務ノミニ限ルヘカラス或ハ慣習ニ依リ或ハ行政上ノ規定ニ依リ船長ノ職務ニ屬シ其結果私法上ニ影響ヲ及ホス事項モ亦之レアルヘシ仍テ本條第一項ハ廣ク職務ヲ行フニ付責任アル旨ヲ規定セルナリ
第二項ハ第一項ノ結果ト云フモ可ナリ船長ハ時トシテハ船舶所有者ノ差圖ヲ受ケテ職務ヲ行フコトナキニ非ス此場合ト雖モ船長ハ尙ホ自己ノ信スル所ニ從ヒ其職務ヲ執行スルコトヲ得ヘキカ故ニ船舶所有者以外ノ利害關係人ニ損害ヲ及シタルトキハ賠償ノ責任ヲ免ルルコトヲ得スト爲シタルナリ
第五百五十六條
(理由)本條ハ旣成商法ニハ存セサル規定ナリト雖モ海員カ其職務ヲ行フニ付他人ニ損害ヲ加ヘタル場合ニ於テ船長ノ責任如何ハ外國ニ於テモ疑問ヲ生シ又必スシモ前條所定ノ責任中ニ包含ストモ斷言スヘカラサルカ故ニ重要ナル事項ニ付後日ノ疑ヲ生セサラシメンカ爲メニ特ニ本條ヲ設ケタルナリ
第五百五十七條
(理由)本條モ亦旣成商法ニハ存セサル規定ナリ然レトモ必要アリト認メテ之ヲ附加セリ蓋シ船長ノ撰任ハ船舶所有者ニ於テ之ヲ爲スヲ本則トス然レトモ船舶カ遠隔ノ地ニ在ル場合ノ如キ船舶所有者ニ於テ自ラ撰任ヲ爲スコト能ハス又現在ノ船長モ亦疾病其他ノ事故ニ依リ已ムコトヲ得スシテ自ラ船舶ノ指揮ヲ爲スコト能ハサル場合コレアラン此等ノ場合ニ在リテハ船長ハ法令ノ規定ニ從ヒ自己ニ代テ其職務ヲ行フ資格アル者又ハ其他ノ人ヲ撰任シテ自己ニ代リ職務ヲ行ハシムルコトヲ得ト爲シタルナリ然レトモ船長カ已ムコトヲ得スシテ自ラ職務ヲ行フコトヲ得サルニ當タリ代人ノ監督ニ至ルマテ其責任ヲ負ハサルヘカラストセハ酷ニ失スルノ嫌アルカ故ニ獨リ撰任ニ付テノミ責任アリト爲セリ而シテ本條カ民法第百四條及第百五條ト重複セサル所以ハ船長ノ職務ハ啻ニ法律行爲ノ代理ノミナラス亦雇傭契約ヨリ生セル義務履行ノ行爲多キヲ占メ雇傭ニ付テハ民法第六百二十五條第二項ノ規定アルカ故ニ之ニ對シテ特別規定ヲ必要トシタルカ故ナリ又撰任セラレタル船長ノ責任ハ民法百七條第二項ニ依リ本法第五百五十五條以下ノ責任ヲ負フハ言ヲ俟タス
第五百五十八條
(理由)本條ハ旣成商法第八百六十二條ニ對スル修正ニシテ其主意ハ毫モ異ナルコトナシ唯字句ヲ改メテ槪括的ニ之ヲ規定シタルノ差アルノミ
第五百五十九條
(理由)本條ハ旣成商法第八百六十四條ニ對スル修正ナリ同條ニハ船籍證書、及ヒ船舶登記證書ノ二者ヲ要スル旨ヲ規定セリト雖モ本條ハ船舶國籍證書ノミニテ足レリトセルカ故ニ船舶登記證書ハ之ヲ具備スルノ必要ナキモノトセリ又屬具目錄ニ付テハ旣成商法ニハ規定ナシト雖モ本案ニ於テハ旣ニ第五百三十六條ニ於テ屬具目錄ノ名稱ヲ用ヒ船舶ニハ屬具目錄ノ具備之アルヘキコトヲ豫想シタルカ故ニ本條ニ於テ船長ノ義務トシテ之ヲ備フヘキコトヲ規定セルナリ
又第三號以下ハ旣成商法ト同一ナリ但第七號ニ付テハ旣成商法ニハ稅關ノ納稅受取證書トアルモ是レ狹キニ失スルカ故ニ之ヲ廣クセンカ爲メニ交付シタル書類ト改メタリ而シテ第三號乃至第五號ニ揭ケタル書類ハ外國ニ航行セサル船舶ニ付テハ必スシモ其必要ヲ感セサルカ故ニ之ヲ具フルコトヲ要セサル場合ヲ定ムルノ自由ヲ命令ニ與ヘ以テ實際ノ便宜ニ應セシムルモノト爲シタリ
第五百六十條
(理由)本條ハ旣成商法第八百六十六條ノ前段ニ對スル修正ナリ同條ニハ船長ハ「航海ノ始ヨリ終ニ至ルマテ」船中ニ在ルコトヲ要スト規定セリト雖モ荷物ノ船積及旅客ノ乘込ノ仕方如何ハ大ニ航海ノ安否ニ關スルカ故ニ船長ハ其際ト雖モ尙ホ船中ニ在ラサルヘカラス又荷物ノ陸揚及ヒ旅客ノ上陸ニ付テモ船長ハ亦之ヲ監視スルノ要アリ仍テ本條ノ如ク之ヲ修正セリ又已ムコトヲ得サル場合ニ付テ旣成商法ニハ例外ヲ設ケサリシト雖モ是レ船長ニ對シテ非常ニ酷ニ失スルカ故ニ本條ニ於テハ此場合ハ之ヲ除外セリ而シテ此場合ニ船長カ船外ニ出ルニ當タリ他人ヲ置キテ其職務ニ當ラシメサルヘカラサルコトノ如キハ船長ノ職務取締ニ關スル特別法ノ規定ニ依リテ定メラルヘキナリ
第五百六十一條
(理由)本條ハ旣成商法第八百六十六條ノ末段ニ對スル修正ナリ唯文字ニ付テ多少ノ修正ヲ加ヘタルノミニシテ主意ハ異ナル所ナシ本條ニ於テ「航海ノ準備終リタルトキハ」ノ字句ヲ加ヘタル所以ハ其準備終ラスンハ航海ノ途ニ上リ能ハサレハナリ又旣成商法ニハ「迂路ヲ取ラスシテ」トアリタルモ本條ニ於テ之ヲ除去シタル所以ハ船長カ妄リニ豫定線路ヲ變更スヘカラサルコトハ迂路ノ取リタルト否トニ關セサレハナリ
第五百六十二條
(理由)本條ハ旣成商法ニ存セサル規定ナリ然レトモ積荷ノ利害關係人ハ多クハ積荷ト共ニ船中ニ在ルコトナシ此時ニ當リテ船長カ積荷ニ對シテ何等ノ處分權ヲ有セスンハ積荷ノ利害關係人ノ利益ヲ害スルコト多カルヘシ是レ本條第一項ニ於テ船長ニ廣キ範圍ニ於テ責任ヲ負ハシメタルト同時ニ權限ヲ與ヘタルナリ
第二項ハ第五百四十一條ト略ホ其文例及ヒ理由ヲ同フセリ第一項ニ於テ船長ニ廣キ範圍ニ於ケル權限ヲ與ヘタル以上ハ其行爲ニ依リ積荷ニ付テ債權ヲ生シタルニ當タリ積荷ノ利害關係人カ其積荷以外ノ陸上ノ財產ヲ以テ責任ヲ負ハサルヘカラサルニ於テハ積荷ノ利害關係人ニ對シテ酷ナリト云フヘシ仍テ之ニ積荷ノ委付權ヲ與ヘ唯其過失アルトキハ無限ノ責任ヲ負フヘキモノトナセリ
第五百六十三條
(理由)本條ハ船長カ船籍港內ニ居ル場合ト船籍港外ニ居ル場合トニ依リテ之ヲ區別シ其權限ヲ槪括的ニ規定セリ其一部ハ旣ニ旣成商法第八百六十三條ニ存スル所ナリ凡ソ船長ノ權限ヲ規定スルニ付テハ其主義種々アリ佛法系ノ商法ニ於テハ船舶所有者ノ所在ノ地ト否トニ依リテ之ヲ區別シ其所在ノ地ニ在リテハ船長ハ其承諾ナクンハ總テ行爲ヲ爲スノ權限ナキモノトス然レトモ船舶所有者ノ所在ノ地ハ其住所ト異ナリ常ニ變動シ易ク且ツ第三者ハ之ヲ知ルコト頗ル難シ故ニ船舶所有者ノ所在ノ地タルト否トニ依リテ船長ノ權限ヲ區別スルハ不可ナリト云フヘシ又英法ニ在リテハ行爲ノ種類ニ依リテ之ヲ區別シ或通常ノ行爲ハ船長ハ船舶所有者ト同所ニ居ルト否トヲ問ハス其承諾ナクシテ之ヲ行フコトヲ得ルモノトシ或重要ナル行爲ハ必ス其承諾ヲ要スルモノト爲セリ然レトモ此主義ハ場合ニ依リ行爲ノ種類ヲ區別スルコト難ク又重要ナル行爲ニ付テモ必ス船舶所有者ノ承諾ヲ得サルヘカラストセハ不便ニ堪ヘサルコト多カルヘシ然ルニ船籍港ハ一定シテ容易ニ變動セス第三者モ亦能ク之ヲ知ルコトヲ得ヘク船舶所有者カ會社タル場合ニ於テハ船籍港ニハ多クハ本店又ハ支店ヲ有スヘキニ依リ船籍港外ニ於ケル行爲ト船籍港內ニ於ケル行爲トニ依リ之ヲ區別スルハ頗ル理由アルモノト謂フヘシ是レ本條ニ於テ此主義ヲ採用セル所以ナリ但航海ノ爲メニ必要ナル海員ノ雇入及雇止ニ付テハ船籍港內ニ於ケル船長ニ其權限ヲ委ネ置クヲ以テ便宜頗ル多シトス是レ第二項ノ但書アル所以ナリ
第五百六十四條
(理由)本條ハ前條ヲ設ケタルノ結果第三者ヲ保護センカ爲メニ之ヲ設クルノ必要アルニ至レルナリ
第五百六十五條
(理由)本條ハ旣成商法第八百七十二條ニ該當シ二者殆ント同一ナリ前諸條ニ於テ船長ノ權限ハ廣ク之ヲ定メタリト雖モ尙ホ本條第一項列記ノ行爲ヲ爲スコトヲ得スンハ遂ニ航海ノ目的ヲ達スルコト能ハサルコト之アルヘシ仍テ第一項ハ此等ノ權限ヲ與フルト同時ニ又之ヲ行フコトヲ得ル場合ヲ制限シタリ第一項列記事項中第一號及ヒ第三號ハ旣成商法ニモ之ヲ存シタリト雖モ第二號ハ之ヲ認メス然レトモ本案ハ第五百五十條ニ於テ旣ニ借財ヲ爲スコトノ必要ヲ認メタルカ故ニ又茲ニ之ヲ附加スルノ必要アルニ至レリ而シテ第三號ニ但書ヲ設ケタル所以ハ第五百六十二條第一項ニ於テ積荷ノ處分ニ付船長ニ廣キ權限ヲ與ヘタルノ結果トシテ本條第一項トノ調和ヲ計ルノ必要アリタルカ故ナリ又旣成商法第八百七十二條ニハ「豫シメ役員ト評議ヲ爲シ且ツ管海官廳ノ許可ヲ得タル後」始メテ本條第一項列記ノ行爲ヲ爲シ得ルコトヲ規定セリト雖モ是レ寧ロ行爲ノ形式若クハ手續ニ涉ル規定ナルカ故ニ此點ハ本條之ヲ删除セリ
第二項ハ積荷ヲ質入又ハ賣却シタル場合ニ於ケル損害賠償額ヲ如何ニ定ムルカニ關シテ規定ヲ設ケタルモノニシテ旣成商法ト略ホ同一ナリ唯但書ヲ附加セルノ差アルノミ
第五百六十六條
(理由)本條ハ旣成商法ニハ存セサル規定ナリ然レトモ必要アリト認メテ之ヲ附加セリ蓋シ船長カ船舶所有者ノ特別ノ委任ヲ受ケテ爲シタル行爲ニ付テハ船舶所有者ハ無限ノ責任ヲ負ハサルヘカラスト雖モ其委任ナクシテ船舶所有者ノ爲メニ費用ヲ出シ又ハ債務ヲ負擔シタルトキハ船舶所有者ノ責任ヲ制限スルノ必要アルハ猶ホ第五百四十一條ヲ設ケタルト同一ナリ是レ同條ト權衡ヲ得ンカ爲メニ茲ニ同條所定ノ委付權ヲ行フコトヲ得ルモノト爲シタル所以ナリ
第五百六十七條
(理由)本條ハ旣成商法第八百三十六條ノ後段ニ對スル修正ナリ同條ニ在リテハ避クヘカラサル必要アリタルトキハ官ノ證認ヲ經テ船舶ヲ競賣スルコトヲ得ル旨ヲ規定セリト雖モ避クヘカラサル必要トハ果シテ如何ナル場合ヲ云フヤハ疑ハシキ場合少シトセス仍テ本案ニ於テハ本條ニ於テ船舶カ修繕スルコト能ハサルニ至リタルトキハ船長ハ管海官廳ノ認可ヲ得テ之ヲ競賣スルコトヲ得ル一般ノ權限ヲ與ヘ次條ニ於テ船舶カ修繕スルコト能ハサルニ至リタルモノト看做ス場合ヲ例示セリ
第五百六十八條
(理由)本條ハ卽チ本案ニ所謂船舶カ修繕スルコト能ハサルニ至リタル場合ヲ例示セルナリ蓋シ前條ヲ始メ以下諸條ニ於テ「船舶カ修繕スルコト能ハサルニ至リタルトキ」ノ文字ヲ用ヒタリト雖モ果シテ如何ナル場合ヲ指稱スルヤハ疑問ニ屬シ單ニ事實問題ノミニ之ヲ一任スルハ後日ノ紛爭ヲ釀スノ基タルヲ免レス仍テ本條ニ於テ獨逸商法ニ倣ヒ法律上修繕スルコト能ハサルモノト看做ス場合ヲ例示シ此等ノ場合ニ於テハ事實上果シテ修繕スルコト能ハサルヤ否ヤヲ問ハス當然修繕スルコト能ハサルモノト爲スナリ又第一項第二號ニ所謂船舶ノ價額トハ理論上ハ船舶カ毀損前ニ有セシ價格タルコト固ヨリ論ナシ然レトモ實際上ニ於テハ船舶カ航海中毀損セシ場合ニ於テハ其毀損前ノ價額ナルモノハ容易ニ算定スルコトヲ得サルカ故ニ固ト本條全體ノ規定ノ精神ニシテ爭ヲ後日ニ絕ツノ主義ニ基ク以上ハ此點ニ付テモ實際ノ便宜ヲ計リ航海中毀損シタル場合ニ於テハ發航ノ時ニ於ル價額ニ由ラシムルコトト爲セリ
第五百六十九條
(理由)本條ハ旣成商法第八百七十一條ニ該當ス同條ハ唯食料ニ付テノミ規定ヲ設ケタリト雖モ航海ノ爲メ必要ナルトキハ獨リ食料ノミニ限ラス總テノ積荷ニ付テ同一ノ行爲ヲナスコトヲ得サルヘカラス故ニ本條ハ廣ク積荷ニ付テ之ヲ規定セリ而シテ其積荷ニ對スル損害賠償ノ額ハ如何ニ之ヲ定ムヘキカハ恰モ第五百六十四條第二項ノ場合ト同一ナルカ故ニ茲ニ之ヲ準用セリ
第五百七十條
(理由)本條ハ旣成商法第八百七十三條ニ該當ス蓋シ船長ハ船舶所有者ノ代理人トシテ航海ニ關スル事務ヲ處理スルモノナルカ故ニ其重要ナル事項ニ付船舶所有者ニ遲滯ナク之ヲ報吿スルノ義務ヲ負ハシムルハ蓋シ至當ノ事ト謂フヘシ而シテ船舶所有者ハ之ニ依リテ其事務ノ狀況ヲ知リ啻ニ心ヲ安ンスルノミナラス又適當ノ指揮命令ヲ與フヘキ場合少ナシトセサレハナリ又航海ニ關スル計算ノ報吿ニ付テモ同一理由ニ基キ航海終レハ遲滯ナク其報吿ヲナスヘク又船舶所有者ノ請求アレハ何時ニテモ其報吿ヲ爲ササルヘカラス旣成商法第八百七十三條ニ於テハ航海ヲ始ムル時ニモ尙ホ其報吿ヲ爲スコトヲ要スト爲セリト雖モ本案ニ於テハ第五百六十三條ニ定ムル如ク船籍港ニ於テハ船長ハ航海ノ爲メニ必要ナル裁判上又ハ裁判外ノ行爲ヲナス權限ヲ有セサルヲ常トスルカ故ニ航海ノ始メニ於テハ報吿ノ義務ナキモノトナシタルナリ
第五百七十一條
(理由)本條ハ旣成商法第八百四十三條及第八百四十四條ニ對スル修正ナリ蓋シ船長ハ船舶ノ處理ニ付テ廣大ナル權限ヲ有スルモノナルカ故ニ船舶所有者ニ最モ信任セラレタルモノナラサルヘカラス故ニ船舶所有者ハ期限ノ定メアルト否トヲ問ハス何時ニテモ船長ヲ解任シ得ルモノト爲セリ然レトモ之カ爲メニ船長ニ損害ヲ生スルニ於テハ之ヲ賠償セシムルハ至當ノ事タリ
第二項ハ當事者意思解釋ノ規定ナリ凡ソ船長カ船舶共有者ト爲レル所以ハ自ラ船長ヲ兼ヌルカ故ナリ若シ其意ニ反シテ船長ノ任ヲ解カルルニ於テハ船舶ノ共有者タラサルノ意思アル場合多カルヘシ是レ此場合ニ於テ他ノ共有者ニ對シテ自己ノ持分ヲ買取ルヘキコトヲ請求スルコトヲ得セシメタル所以ナリ第三項ノ規定ハ旣成商法ニハ之アルヲ見スト雖モ船長カ其意ニ反シテ解任サレ前項ノ權利ヲ行ハントスル場合ニ於テハ遲滯ナク他ノ共有者又ハ船舶管理人ニ其旨ヲ通知スルコトハ極メテ必要ナリ若シ然ラスンハ其權利ヲ抛棄セシモノト見ルヲ妥當ト信スレハナリ
第五百七十二條
(理由)船長ノ船舶所有者ニ對スル債權トハ主トシテ給料ヲ稱スルモノニシテ其性質タルヤ長ク其請求ヲ爲サス又ハ其辨濟ヲ怠ルヘキモノニアラス從テ之カ辨濟ヲ爲スモ其受取證ヲ長ク保存スルモノニ非ス故ニ之ニ付テハ特別ノ短期時效ヲ設クルノ必要アリ而シテ旣成商法ニ在リテハ特ニ時效ニ付キ一章ヲ設ケ各種ノ時效ヲ一括シテ之ヲ規定セリト雖モ本案ニ在リテハ特種ノ事項ニ付各其章下ニ於テ時效ノ規定ヲ設クルコトト爲セルカ故ニ茲ニ本條ヲ加フルノ必要アリタルナリ
第二節 海員
(理由)旣成商法ノ海員ト題セル節下ニ規定セル個條中本案カ之ヲ删除セルモノヲ述フレハ第八百七十五條ハ海員ノ雇入及雇止ニ關スル登記ノ規定ニシテ是レ特別法ニ於テ規定セラルヘシト信スルカ故ニ茲ニ之ヲ揭ケス又第八百七十六條第一項ニ所謂海員雇入ノ條件ノ如キハ契約ニ依リ定マルヘク又之ヲ證明スルニ書面ヲ必要トスヘキヤ否ヤハ特別法ニヨリテ定マルヘシ又同條第二項ニ所謂非常ノ服務ノ如キモ特別法ニテ定メラルヘシ仍テ之ヲ删除セリ又第八百八十五條ハ海員ニ付テノ規定ヲ船長ニ適用スル旨ヲ定メタリト雖モ本案ニ於テハ本節ノ規定ヲ以テ之ヲ船長ニ適用スルノ必要ナシト認ムルカ故ニ亦之ヲ删除セリ
第五百七十三條
(理由)海員雇入ノ手續ハ他ノ特別法ノ規定ヲ俟チテ始メテ明瞭トナルヘシ而シテ若シ其手續終了シタルトキハ海員ハ船長ノ指定シタル時期ニ於テ船舶ニ乘込ムヘキコトハ固ヨリ當然ノ事ト云フヘシ又第二項ハ旣成商法第八百八十四條ニ對スル修正ニシテ同條第二項ニ於テハ海員遁走シタルトキハ地方官廳ニ依賴シ强制シテ復役セシムルコトヲ得ル旨ヲ規定セリト雖モ是レ寧ロ手續法ニ屬スルカ故ニ本案ニテハ之ヲ特別法ノ規定ニ讓リ私法上ノ制裁トシテハ損害賠償ニ一任スルコトト爲セリ
第五百七十四條
(理由)本條ハ旣成商法ニハ存セサル規定ナリ然レトモ海員ノ給料ハ比較的ニ少額ニシテ食料ハ其中ニ包含セサルヲ通例トシ又實際ノ慣習ニ於テモ多クハ皆然ルカ故ニ特約ナキ場合若クハ慣習ノ明瞭ナラサル場合ニ於ケル紛爭ノ種ヲ杜絕センカ爲メニ之ヲ加入セリ
第五百七十五條
(理由)本條第一項ハ旣成商法第八百十二條ト略ホ同一ニシテ本條ハ唯之ヲ詳細ニ規定セルノ差アルノミ本條規定ノ理由ハ畢竟海員保護ノ目的ニ出テタリ而シテ三ケ月ヲ以テ療養ノ費用ヲ給與スル期間ノ最長限ト爲シタル所以ハ旣成商法ニ倣ヒタルモノニシテ之ヲ以テ略ホ其目的ヲ達シ得ヘキモノト信シタルカ故ナリ
第二項ハ旣成商法ニハ存セサル規定ナリト雖モ旣ニ第一項ヲ設ケタル上ハ之ニ依リテ保護セラレタル海員ハ其休役中ノ期間ニ對スル給料モ尙ホ之ヲ請求スルコトヲ得ルヤ否ヤノ疑アリ故ニ服役シタル期間ニ對スル給料ノミヲ請求スルコトヲ得ル旨ヲ規定セルナリ然レトモ其疾病傷痍ニシテ若シ職務ヲ行フニ因リテ發生セルモノタラハ特ニ之ヲ區別シテ保護スルノ必要アリ仍テ此場合ニ於テハ休役セル期間ニ對スル給料モ尙ホ之ヲ請求スルコトヲ得ルモノト爲セリ
第五百七十六條
(理由)本條ハ旣成商法第八百七十九條ニ該當シ其主意ニ於テハ殆ント同一ナリ唯同條ニ於テハ航海ノ延長シタルトキト云ヒテ延長ノ意義ニ付多少ノ疑ヲ生スルノ虞アルカ故ニ本條ニ於テハ日數ノ延長ト里數ノ延長ト二者共ニ包含スル旨ヲ明ニセリ但不可抗力ニ因リテ里數延長シタル場合ハ之カ爲メニ日數カ未タ延長セサル以上ハ給料ノ增加ヲ請求スルコトヲ得スト爲セル所以ハ不可抗力ノ場合ニ於テハ海員ハ一層奮勵スルヲ以テ其當然ノ職務トスレハナリ
本條但書ノ規定ハ旣成商法ニハ存セサル所ナリト雖モ旣ニ航海ノ延長ニ付規定ヲ設ケタル上ハ短縮ニ付規定ヲ設クルハ權衡ヲ得タルモノト謂フヘク又其短縮セル場合ニ於テ給料ノ全額ヲ與フル所以ノモノハ海員等カ與リ知ラサル原因ニ依リ航海カ短縮シ之カ爲メニ給料ヲ減少セラルルニ於テハ彼等カ當初契約ヲ爲シタル意思ニ背戾スルコト多ケレハナリ
第五百七十七條
(理由)本條ハ旣成商法第八百八十三條ニ對スル修正ナリ海員死亡スレハ雇入契約ハ終了シ從テ其以後ノ給料ヲ與フルノ必要ナシ是レ卽チ本案ハ獨リ死亡ノ日マテノ給料ノミヲ支拂フコトヲ要スト爲セル所以ナリ第二項ニ所謂葬式費用ニ付テハ旣成商法ニハ獨リ海上又ハ外國ニ於テ葬式ヲ行フ場合ニ於テノミ其費用ヲ船舶所有者カ負擔スル旨ヲ規定スト雖モ若シ海員カ其職務ヲ行フコトカ原因トナリテ死亡シタルモノナルトキハ其葬式ハ海上又ハ外國ニ於テ之ヲ行フト否トヲ問ハス其費用ハ船舶所有者ヲシテ之ヲ負擔セシムヘキナリ然ラスンハ能ク海員保護ノ目的ヲ達スルコトヲ得サルナリ是レ此修正アル所以ナリ
第五百七十八條
(理由)本條ハ旣成商法第八百七十七條第二項ニ對スル修正ナリ同條第二項ニ在リテハ禁令其他ノ處分ニ依リテ航海ヲ廢止シ停止シ又ハ短縮シタルトキノミヲ以テ雇止ノ正當ナル理由ト看做ス旨ヲ規定セリト雖モ此以外ニ於テモ尙ホ雇止ノ正當ナル理由ハ多ク之レ有リ又果シテ正當ナル理由ナリヤ否ヤ疑ハシキ場合モ亦多キカ故ニ本條ハ其場合ヲ列擧シテ此以外ニハ雇止ノ正當ナル理由ナルモノ存セサルコトヲ示シ以テ後日ノ爭ヲ絕ツコトト爲セリ
第二項及第三項ハ第一項ニテ列擧セル場合ノ中海員ヲ特ニ保護スル必要アル場合ト否トヲ區別セルナリ卽チ總テノ場合ニ於テ服役シタル期間ニ對スル給料ハ之ヲ請求スルコトヲ得ヘシト雖モ雇止ノ日マテ給料及ヒ雇入港マテノ送還ヲ請求スルコトヲ得ルハ獨リ第四號及ヒ第五號ノ場合ニ限ルモノトセリ蓋シ此等ノ場合ニ於テハ海員ハ一ノ尤ムヘキ事情ナク却テ之ヲ憐レムヘキ事情有テ存スレハナリ唯第四號ノ場合ニ於テモ自己ノ過失ニヨリ疾病ニ罹リ又ハ傷痍ヲ受ケタル者ノ如キハ特ニ之ヲ保護スル必要ナキカ故ニ獨リ服役シタル期間ニ對スル給料ノミヲ與フルコトトセリ而シテ本案カ發航港マテノ送還ト爲サスシテ之ヲ雇入港マテノ送還ト爲セル所以ハ海員ノ雇入及雇止ハ特別法ノ規定ニ依リ登記ヲ必要トスヘク從テ何レノ地ニ於テモ之ヲ雇入ルルコトハ之ナカルヘシ故ニ雇入港マテ送還スルモ實際上船舶所有者ニ取リテ不便少カルヘシ又雇入港マテ送還スレハ海員ヲ最モ其原狀ニ復シタルモノト云フコトヲ得ヘキカ故ニ之ヲ其雇入港マテ送還スルハ最モ理論ニ適シタルモノト謂フヲ得ヘケレハナリ
第五百七十九條
(理由)本條ハ旣成商法第八百七十七條第一項及第八百七十八條ニ對スル修正ナリ本條ハ海員カ正當ナル理由ナクシテ雇止メセラレタル場合ニ於ケル損害賠償ノ額ヲ定ムル特別規定ヲ置キタルナリ蓋シ民法ノ一般規定ノミニ一任セハ不確實ナル標準ニ依リ之ヲ定メサルヘカラサルカ故ナリ而シテ其損害賠償ニ付旣成商法ハ服役シタル期間ニ對スル給料ノ外一ケ月分ノ給料ヲ請求スルコトヲ得ルヲ以テ足レリト爲セリト雖モ本案ニ於テハ若シ雇入港外ニ於テ雇止メセラレタルトキノ如キハ是レ尙ホ不十分ナリトシテ雇入港マテ歸港スルニ必要ナル期間ニ對スル給料及ヒ雇入港マテノ送還ヲ請求スルコトヲ得ルモノト爲セリ蓋シ其給料及送還ノ費用ハ理由ナキ雇止メニ基ク損害ト謂フコトヲ得レハナリ
第五百八十條
(理由)本條ニ該當スル規定ハ旣成商法ニ之レアルヲ見スト雖モ旣ニ前前條ニ於テ船長カ海員ノ雇止ヲ爲スコトヲ得ヘキ正當ナル事由ヲ列擧セシ以上ハ之ト相對シテ海員カ雇止ヲ請求スルコトヲ得ル正當ナル事由ヲ列擧スルハ一ハ以テ規定ノ體裁ヲ完フシ一ハ以テ爭ヲ後日ニ絕ツルモノト謂フコトヲ得ヘシ而シテ本條第一項中第一號ハ當事者ノ意思ヲ推測シテ之ヲ揭ケタルモノニシテ第二號ハ前前條第一項第四號ノ場合ヲ以テ船長カ海員ヲ雇止メ得ル正當ナル事由ノ一トセル以上ハ之ト權衡ヲ得ンカ爲メニ之ヲ茲ニ揭ケタルナリ又第三號ノ場合ニ於テ雇止ヲ請求シ得ルハ固ヨリ至當ノ事ト謂フヘシ
第二項ハ第一項ヨリ生スル結果ニシテ海員保護ノ爲メ必要トナスナリ
第五百八十一條
(理由)本條ニ該當セル規定ハ旣成商法ニハ存セスト雖モ必要アリト認メテ之ヲ加入セリ蓋シ海員雇入契約ハ舊船舶所有者ト海員トノ關係ナリ故ニ法文ニ何等ノ反對規定ナキトキハ航海中船舶ノ所有者カ變更シタル場合ニ於テ海員ト新所有者トノ間ニハ何等ノ契約關係存在セサルカ故ニ海員ハ新所有者ノ爲メニ航海ノ職務ニ服從スルコトヲ要セス從テ航海ハ中途ニシテ廢絕セサルヘカラサルノ危運ニ遭遇スヘシ是レ特ニ本條ヲ設ケ法律ノ力ニ因リ海員ヲシテ舊所有者ニ對スルト同一ニ新所有者ニ對シテ雇傭契約ノ關係ニ立タシメ之ニ依リテ生スル權利義務ヲ有セシメタリ
第五百八十二條
(理由)本條規定ノ理由ハ猶ホ民法ニ於テ雇傭契約ニ付其最長期間ヲ定メタルト同一ノ精神ニ基ク蓋シ雇傭ノ期間長キニ失スルトキハ當事者ノ自由ヲ束縛シ人ノ品位上及ヒ經濟上ノ理由ニ依リ公益ニ害アリト謂フヘシ殊ニ船長ト海員トノ關係ハ普通ノ雇傭契約當事者間ノ關係ヨリモ行政法上ノ特別規定ニ依リ一層命令服從ノ關係ニ立ツコト多シ是レ特ニ海員ノ雇入期間ニ付最長期間ノ制限ヲ嚴ニスル必要アル所以ナリ
第五百八十三條
(理由)雇入期間ノ定メナキトキハ如何ナル場合ニ於テ雇止ノ請求ヲ爲シ得ルカハ多クハ特約アリテ之ヲ定ムヘシト雖モ若シ其特約ナキトキハ航海カ全部又ハ一部終了シ船舶カ安全ニ碇泊シ且ツ荷物ノ陸揚及ヒ旅客ノ上陸全ク終リタル後始メテ雇止ヲ請求スルコトヲ得トナスニ非レハ前前條ノ規定ノ理由ト同シク航海ハ中途ニシテ廢絕スルノ不幸ニ陷ラサルヲ得サレハナリ是レ本條ノ設アル所以ナリ
第五百八十四條
(理由)本條ハ旣成商法第八百八十條ニ對スル修正ナリ本條第一項ニ列擧セル事由ノ生スルトキハ船舶ハ航海ノ用ニ充ツルコト能ハサルハ言ヲ俟タス若シ然リトセハ速ニ其航海ヨリ生スル結果ヲ落着セシムルコト緊要ナリ然ルニ此場合ニモ尙ホ雇止ノ意思表示ヲ爲サスンハ其契約ハ依然トシテ繼續スヘシ故ニ此等ノ場合ニハ意思表示ヲ爲サスシテ該契約ハ當然終了スルモノトナシタルナリ
第五百八十五條
(理由)前諸條ニ於テ海員ニ雇入港マテノ送還ヲ請求スル權利ヲ與ヘ此場合ニ於テ送還ニ代ヘテ其費用ヲ請求スルコトヲ得セシムレハ船舶所有者ニハ損スル所ナクシテ海員ノ爲メニハ一層便益ヲ與フルコト多カルヘシ仍テ本條ノ權利ヲ與ヘタリ而シテ本條ニ所謂費用ノ中ニハ雇入港ニ至ルマテノ間ニ消費スヘキ食料ノ費用ヲモ包含スルコト勿論ナリ
第五百八十六條
(理由)本條ハ第五百七十二條ノ規定卽チ船長ノ船舶所有者ニ對スル債權ニ對スル時效ノ規定ヲ以テ船員ノ船舶所有者ニ對スル債權ニ準用シタルモノニシテ其規定ノ理由ニ依リテモ全ク第五百七十二條ト同一ナリ
第三章 運送
(理由)本章ハ旣成商法第二編第五章ニ該當ス陸上運送ニ付テ物品運送ト旅客運送トヲ區別セルカ故ニ海上運送ニ付テモ亦此ノ如ク之ヲ區別セリ旣成商法モ同章第四節ニ於テ旅客運送ヲ規定セリ外國法ニテモ陸上運送ニ付テ特ニ旅客運送ノ規定ヲ設ケサルモノニ在リテモ海上運送ニ付テハ固ヨリ精粗ノ區別ハ之アリト雖モ物品運送ト旅客運送トニ區別スルヲ例トセリ仍テ本案ハ其例ニ倣ヘリ
第一節 物品運送
(理由)旣成商法ハ第五章ヲ運送契約其第一節ヲ船舶賃貸借契約ト題セリ茲ニ所謂船舶賃貸借契約トハ是レ本案ニ所謂船舶ノ全部又ハ一部ヲ以テ運送契約ノ目的トスル傭船契約ニ相當シ航海ノ準備等ハ船舶所有者カ之ヲ爲スモノタリ故ニ民法ニ所謂賃貸借トハ之ヲ異ニセリ又旣成商法ノ模範トセル佛商法ニ在リテモ船舶ノ賃貸借契約ト佛民法ニ所謂賃貸借トハ之ヲ異ニセリ固ト船舶賃貸借契約ノ性質タルヤ一種ノ請負契約ニシテ他ノ運送契約ト毫モ異ルコトナシ若シ然リトセハ同一ノ文字ニシテ民法商法異ナリタル意義ニ用ユルハ其當ヲ得サルカ故ニ船舶賃貸借契約ナル名稱ハ之ヲ禁止セリ
第一款 總則
(理由)總則ヲ設ケタル所以ハ第二款ニ於テ船荷證券ニ關スル特別規定ヲ設ケンカ爲メニシテ船荷證券ヲ作成スルハ運送契約成立ノ後ナリ故ニ之ヲ第二款ニ置ケリ
旣成商法カ第一節船舶賃貸借契約第二節船荷證書第三節運送賃トシテ之ヲ規定セルモノノ中第二節ハ姑ク之ヲ措キ第一節ハ主トシテ船舶ノ全部又ハ一部ヲ以テ運送契約ノ目的トセル場合ニシテ第三節ハ主トシテ個々ノ物品ヲ以テ運送契約ノ目的トセル場合ノ規定ナリ然レトモ第一節中ノ規定ニシテ個々ノ物品ヲ運送契約ノ目的トセル場合ニ適用スヘキモノアリ又第三節中ノ規定ニシテ船舶ノ全部又ハ一部ヲ以テ運送契約ノ目的トセル場合ニ適用スヘキモノアリ例ヘハ第八百九十一條ノ如キハ賃貸借契約ノミノ規定ニ非ス個々ノ物品運送契約ニモ之ヲ適用セサルヘカラス又第九百五條ノ如キハ之ヲ賃貸借契約ニ適用セサルヘカラサルコトハ法文ニ依リテ明ナリ又第九百七條ノ如キモ個々ノ物品運送契約ニノミ限リテ適用スヘキモノニ非ス故ニ旣成商法ノ節目ノ區別ハ其當ヲ得タルモノト云フコトヲ得ス仍テ本案ハ全ク之ヲ改メタリ
今修正ノ點ヲ槪言スレハ左ノ如シ
一、船舶ノ全部又ハ一部ヲ運送契約ノ目的トセル場合ト個々ノ物品ヲ運送契約ノ目的トセル場合トニ適用スル規定ノ區別ヲ明瞭ニセリ
二、旣成商法ニテハ陸上運送ノ規定ヲ何程マテ海上運送ニ適用スヘキヤ其範圍明カナラス仍テ本案ハ第六百十六條ニ於テ陸上運送ニ關スル規定ニシテ海上運送ニ準用スル規定ノ範圍ヲ明瞭ニセリ
三、旣成商法ノ第一節及ヒ第三節中ニ於テ共同海損ニ關スル規定散在セリト雖モ同一性質ニ關スル事項ハ之ヲ一括シテ規定スルノ可ナルヲ信シ之ヲ海損ノ章下ニ移セリ尙ホ旣成商法ヨリ删除セル規定ニ付キ其删除ノ理由ヲ略言スレハ左ノ如シ
第八百八十七條第二項ハ船長カ運送品ヲ妄リニ他ノ船舶ニ積換ユヘカラサルコトヲ規定セリ然レトモ此事タル運送契約ノ性質ヨリ自ラ明瞭ニシテ又積換ヲ要スル場合ハ第五百六十二條第一項ニ依リ船長カ航海中最モ利害關係人ノ利益ニ適スヘキ方法ニテ積荷ノ處分ヲ爲スヲ要スルニ依リ明瞭ナリ故ニ之ヲ删除セリ又第八百九十五條ハ當然ノ規定ニシテ言ヲ俟タス故ニ之ヲ删除セリ
第八百九十七條ハ運送契約ノ解除アリタル場合ニ付テノ規定ヨリ自ラ明瞭ナルカ故ニ之ヲ删除セリ
第九百三條ハ槪シテ之ヲ船荷證券ノ規定ニ讓リ本款ノ中ニハ之ヲ規定セス
第九百四條ハ古キ思想ニ基キ佛法系ノ商法ニハ往々此規定ヲ設クト雖モ契約ノ主意ヨリ自ラ明ナルヘク殊ニ船荷證券ニテ定メラルヘシ從テ法律上ニテ現實ノ積量ト明吿シタル積量トノ差ニ付定限ヲ設クルノ必要ナシ故ニ之ヲ删除セリ
第九百十條及ヒ第九百十二條ノ末段ニ所謂共擔辨濟ノ規定ハ之ヲ海損ノ章下ニ移セリ
第九百十七條ノ規定ノ主意ハ本案之ヲ採ラス本案ハ陸上運送ニ付旣ニ旣成商法第四百九十六條ノ規定ノ主意ヲ採ラスシテ之ヲ删除セリ故ニ同一理由ニ基キ海上運送ニ付テモ亦本條ヲ删除セルナリ
第五百八十七條
(理由)本條ハ旣成商法第八百八十七條第一項ニ該當ス同條ニテハ船舶賃貸借契約ハ書面ニ作リテ當事者各自ニ其一通ヲ所持スルコトヲ要スル旨ヲ規定シタリト雖モ本案ニテハ商事契約ニハ形式ヲ要セサルヲ以テ本則トシタルカ故ニ傭船契約證書ヲ作成セシムルト否トハ當事者ノ請求ニ一任シタリ又傭船契約證書ヲ作成シタル場合ニモ尙ホ荷物ノ融通ノ爲メニ船荷證券ヲ作成セシムルト否トハ是亦當事者ノ請求ニ一任シタリ而シテ傭船契約證書中ニハ如何ナル事項ヲ記載スヘキヤハ佛伊等ノ立法例ノ如ク或ハ之ヲ法定セルモノ無キニ非スト雖モ寧ロ慣習若クハ當事者ノ契約ニ一任スルヲ以テ實際ノ便宜ニ適スルヲ得ヘシト爲シ本案ニ於テハ之ヲ揭ケサルナリ
第五百八十八條
(理由)本條ハ旣成商法第九百八條ノ一部ニ對スル修正ナリ同條ハ運送賃ト題セル節下ニ在ル規定ナリ故ニ之ヲ本案ニ所謂傭船契約ニ適用シ得ルヤ否ヤハ疑アリ仍テ本案ニ在リテハ本條ヲ此處ニ規定シテ傭船契約又ハ個々ノ物品ノ運送契約ノ場合ニモ共ニ適用スルモノト爲セリ而シテ其擔保スル範圍ハ獨リ船體ノミナラス乘組員其他總テノ艤裝等皆之ヲ包含スルナリ尙ホ擔保ノ結果トシ旣成商法カ明言スルカ如ク損害ノ生セシトキハ之ヲ賠償セサルヘカラサルコトハ固ヨリ言ヲ俟タス
第五百八十九條
(理由)本條ハ旣成商法第九百一條ノ末項ニ該當ス旣成商法ハ同條ヲ以テ船荷證券中ノ約款トシテ記載セル事項ニ關スル規定ナリトシテ之ヲ船荷證券ト題セル節下ニ規定セリト雖モ本節ニ於テハ船荷證券ハ各運送契約ニ付必スシモ之ヲ發行スルコトヲ要セス唯荷物ノ融通ノ爲メニ之ヲ發行スルト否トハ當事者ノ自由ニ放任シタリ然ルニ右第九百一條末項規定ノ事項ノ如キハ必スシモ船荷證券ヲ發行セシ場合ニノミ起ルヘキ問題ニ非スシテ總テノ運送契約ニ通シテ起リ得ヘキ問題ナリ仍テ物品運送ノ總則中ニ之ヲ規定シ旅客運送ニ之ヲ準用スルコトト爲セリ
夫レ船舶所有者カ運送契約ヲ結ヒ當然負擔スル所ノ責任ヲ何程マテ免ルルコトヲ約スルコトヲ得ルヤ又其特約ハ何程マテ有效ナルヤハ頗ル難問ニ屬スル所ナリ世間普通ニ行ハルル所ノ船荷證券中ニハ船舶所有者ハ全ク荷物ノ損害賠償ノ責ニ任セスト云フカ如キ極メテ廣汎ナル範圍ニ於テ免責ノ特約ヲ爲スモノナキニ非スト雖モ此ノ如クンハ荷送人ハ安心シテ荷物ヲ運送人ニ委託スルコトヲ得ス爲メニ運送營業ハ商業ヲ容易ナラシメ鞏固ナラシムル所謂補助的商行爲ノ任務ヲ完フスルコトヲ得スシテ其結果商業ノ衰頽ヲ來スヲ免レス殊ニ海上運送業ノ如キハ資力ニ富メル大會社ニ於テ之ヲ營ムヲ例トシ事業上ニ於テ專業タルノ觀ナキニ非ス故ニ千八百八十八年ノブリユツセルニ於ケル萬國商法會議ニ於テモ此ノ點ニ關シテ問題ヲ生シ遂ニ本條ニ列擧スル所ノ如キ事項ニ付テハ船舶所有者ハ特約アルトキト雖モ其責任ヲ免ルルコトヲ得ストノ議決ヲ爲シ各國ノ商法ニ於テ此主義ヲ採用スヘキコトヲ勸吿セリ本條ハ卽チ略ホ該議決ノ主意ヲ採用シタルモノナリ
第五百九十條
(理由)本條ハ旣成商法第九百七條ニ對スル修正ニシテ之カ主意ニ至リテハ異ナル所ナシ修正ノ點ヲ擧クレハ
一、本條ハ冒頭ニ於テ「法令ニ違反シ」ノ一句ヲ入レタリ例セハ戰時禁制品又ハ輸出禁止品ヲ船積シ又ハ關稅規則ニ違反シテ運送品ヲ船積スル如キ場合ニシテ是レ皆不法行爲ト云フヲ得ヘキカ故ニ之ニ對スル船長ノ權限ハ契約ニ依ラスシテ運送品ヲ船積セシ場合ト同列ニ置キテ可ナルヲ信スレハナリ
二、旣成商法ニハ「船長ノ承諾ヲ得ス又ハ虛僞ノ明吿ヲ爲シテ」ノ句アリト雖モ船積港內ニ在リテハ船舶所有者カ契約ヲ締結スルヲ常トスルカ故ニ該句ノ意義ヲモ包含セシムル爲メニ槪括的ニ「契約ニ依ラスシテ」ト改メタリ
三、第二項ヲ加ヘタル所以ハ船長ニ前項ノ權限ヲ與ヘタルノ結果トシテ他ニ損害ヲ生スルコトアルモ之カ賠償ヲ請求スルコト能ハサルノ觀ナキニ非ス故ニ特ニ本項ヲ置キテ船舶所有者其他ノ利害關係人カ不法行爲ノ一般通則ニ依リ損害賠償ノ請求ヲ爲スコトヲ妨ケサル旨ヲ明ニセルナリ
第五百九十一條
(理由)本條以下第五百九十七條ニ至ルマテノ七ケ條ハ船舶ノ全部ヲ以テ傭船契約ノ目的ト爲シタル場合ニ關スル規定ナリ其理由ハ第五百九十八條末項ニ於テ前七條ノ規定ハ船舶ノ一部ヲ以テ運送契約ノ目的ト爲シタル場合ニ之ヲ準用ストアルニ依リテ明ナリ而シテ第五百九十八條ハ船舶ノ一部ヲ以テ運送契約ノ目的ト爲シタル場合ニ關スル規定ニシテ第五百九十九條及ヒ第六百條ノ二ケ條ハ個々ノ運送品ヲ以テ運送契約ノ目的ト爲セル場合ニ關スル規定ナリ
本條ハ旣成商法第八百八十八條及第八百八十九條ノ二ケ條ニ對スル修正ナリ船舶ノ全部ヲ以テ傭船契約ノ目的トセル場合ニ於テ其船積期間ハ或ハ契約ニ依リ或ハ慣習ニ依リ定マルヘシ而シテ其普通ノ船積期間ハ旣成商法ニテハ之ヲ碇泊期間ト云ヒ此期間ハ傭船者ノ爲メニ設クル所ニシテ特別ノ報酬ヲ拂フコトヲ要セサルナリ然レトモ此期間內ニ船積ヲ終フルコト能ハスシテ爲メニ契約又ハ慣習ニ依リ其期間ヲ延長スルコトアリ是レ旣成商法ニ所謂超過碇泊期間ナリ蓋シ碇泊期間又ハ超過碇泊期間ノ區別ハ諸國ノ立法例若クハ學者ノ著書中ニ見ユト雖モ是レ多クハ契約又ハ慣習ニ依リ定マレリ從テ法律ニ依テ之ヲ定ムル必要ナシ慣習ノ存スルニ當タリ尙ホ之ヲ法律ニテ定ムルトキハ或ハ實際ニ適セサル場合ヲ生スヘク又旣成商法ノ如ク「慣習ニ依リテ之ヲ定ム」トセハ特ニ之ヲ規定スルノ必要ナシ且ツ本案ハ大要ニ涉リ必須ト認ムル規定ノミヲ設クルヲ以テ立法ノ主義トシタルカ故ニ此等ノ期間ニ付規定ヲ設クルコトハ之ヲ避ケタリ今本條ニテ修正セル重要ナル點ヲ列擧セハ左ノ如シ
一、第一項及第二項ノ前段ハ契約又ハ慣習ニ依リ船積期間ノ定マル場合ニ於テ其期間ノ起算點ヲ定メタルナリ
二、第二項ノ後段ニ於テ船積期間經過ノ後ニ運送品ヲ船積シタルトキハ特約ナキトキト雖モ相當ノ報酬ヲ請求スルコトヲ得ト爲セルハ商行爲ノ性質上之ヲ以テ當然トスレハナリ
三、旣成商法第八百八十九條ハ一般ノ休日ヲ以テ碇泊期間又ハ超過期間中ニ算入セスト規定セリト雖モ是レ多クハ慣習ニ依リテ定マルヘク又外國ノ立法例、例ヘハ英法ノ如キハ一般ノ休日ヲ以テ期間ニ算入シ我國ノ慣習ニ於テモ之ヲ以テ期間ニ算入スルヲ例トシ東京又ハ大阪商業會議所ノ意見モ亦同一ニ歸シタルカ故ニ第三項ニ於テ單ニ不可抗力ニ依リテ船積スルコト能ハサル日ノミヲ期間ニ算入セサルコトト爲セリ
四、旣成商法第八百八十八條及ヒ第八百八十九條ニ所謂碇泊期間又ハ超過碇泊期間ノミナラス荷卸期間ヲモ包含シ船積及ヒ荷卸ノ兩期間ヲ合セテ規定シタリト雖モ陸揚期間ニ付テハ本案ハ之ヲ第六百二條ノ規定ニ讓リ本條ニ於テ之ヲ規定セス
第五百九十二條
(理由)本條ハ旣成商法ニ存セサル規定ナリト雖モ獨逸法ニ倣ヒ必要ヲ認メテ之ヲ加ヘタリ傭船者ハ自ラ荷物ノ船積ヲ爲サスシテ或ハ運送品ノ賣主又ハ代理人若クハ支店ヲシテ船積ヲ爲サシムルコトハ往々之アルヘシ此場合ニ於テ船長カ其船積ヲ爲スヘキ人ヲ知ラス又ハ其者カ船積スルコトヲ拒ミタルトキハ船長ハ直チニ其旨ヲ傭船者ニ通知スヘキナリ蓋シ傭船者ハ其通知ニ依リ直ニ自ラ船積ヲ爲シ又ハ他人ヲシテ船積セシムルコトヲ得レハナリ而シテ若シ其船積期間內ニ船積ヲ爲ササルトキハ第五百九十五條末項ニ依リ契約ノ解除ヲ爲シタルコトトナルナリ
第五百九十三條
(理由)本條ハ次條ト共ニ旣成商法第八百九十六條ニ該當シ大體ニ於テ二者異ナル所ナシ唯本案ハ分チテ之ヲ二個條ト爲セルノミ而シテ本條ノ場合ニ於テ傭船者ヲシテ運送賃ノ全額ヲ支拂ハシムル點ニ付テハ旣成商法第九百五條ニ採レルナリ蓋シ船舶全部ノ傭船者ハ自己ノ便宜ヲ計リ契約ヲ以テ定メタル運送品ノ全部ヲ船積スルコトノ權利ヲ抛棄シ一部ノ船積ノミニテ發航ノ請求ヲ爲シ得ルコトハ固ヨリ論ナキ所ナリ然レトモ其抛棄ハ相手方ノ權利ヲ害セサルコトヲ要ス仍テ運送賃ノ全額ノ外運送品ノ全部ヲ船積セサルニ依リテ生シタル費用例ヘハ「バラスト」ヲ入レル費用又ハ運送品ノ積換ノ費用等ヲ支拂ヒ且ツ後日航海中若シ共同海損ヲ生セハ其分擔額ヲ定ムルニ當リ傭船者カ契約セル運送品ノ全部ヲ船積セサルトキハ傭船者ノ負擔額ハ割合ニ減少シ船舶所有者ノ負擔額ハ割合ニ增加シ船舶所有者カ爲メニ損害ヲ被ムルノ虞ナシトセス仍テ船舶所有者ノ請求アルトキハ傭船者ヲシテ相當ノ擔保ヲ供セシムルコトト爲セリ
第五百九十四條
(理由)本條ハ前條ト共ニ旣成商法第八百四十六條ニ該當スルコトハ旣ニ之ヲ述ヘタリ從テ規定ノ理由ニ至リテモ本條ノ末段ト前條第二項トハ殆ント同一ナリ本條ニ所謂船積期間トハ適用上ハ或ハ旣成商法ニ所謂碇泊期間ノミノコトアルヘク又ハ超過碇泊期間ヲ包含スルコトアルヘシ而シテ本條ハ固ヨリ第五百九十五條及ヒ第五百九十七條ノ規定ノ適用ヲ妨ケサルナリ何トナレハ此等ノ二個條ハ傭船者ニ權利ヲ認メタルモノナレハナリ
第五百九十五條
(理由)本條ハ旣成商法第八百九十四條ヲ修正シ尙ホ其足ラサル所ヲ補ヘリ本條ハ固ト傭船者ニ解除權ヲ與ヘタル規定ニシテ若シ本條ノ規定ナクンハ傭船者ハ啻ニ解除權ヲ有セサルノミナラス違約ノ場合ニハ民法ノ一般ノ損害賠償ノ額ヲ定ムル標準ニ依リテ船舶所有者ニ對シテ其損害ヲ賠償セサルヘカラス然レトモ其算定ハ多クハ不確實ナルコトヲ免レス且ツ傭船者カ傭船契約ヲ爲ス所以ノモノハ多クハ商機ニ乘センカ爲メニシテ旣ニ商機ヲ失スルモ尙ホ其契約履行ヲ進メサルヘカラサルニ於テハ傭船者ニ取リテハ非常ニ不利益タルヲ免レス仍テ商業ノ自由ヲ保護スル爲メニ傭船者ニ解除權ヲ與ヘ之ト同時ニ船舶所有者ニ對スル損害賠償ノ額ヲ定メタルナリ今旣成商法ニ對スル修正ノ點ヲ說明スレハ左ノ如シ
本案ハ船舶全部ヲ傭フタル場合ニ發航ノ前後ニ依リテ之ヲ區別シタリ旣成商法ハ第八百九十四條ニ於テ荷積ヲ始ムル前後ニ依リテ之ヲ區別セリ蓋シ佛法主義ヲ採レルナリ然レトモ旣成商法ハ第九百六條ニ於テ個々ノ運送品ノ場合ニ於テハ船積ニ着手シテモ發航前ニ在リテハ運送賃ノ半額ヲ支拂ヒテ解除ヲ爲シ得ル旨ヲ規定シ全部傭船ノ場合ト個々ノ運送品ノ場合トニ付權衡ヲ失スルモノノ如シ寧ロ個々ノ運送品ノ場合ニハ船積後ハ妄リニ解除ヲ許サス全部傭船ノ場合ニハ船積後發航前ハ常ニ之ヲ許ストシ個々ノ運送品ノ場合ト全部傭船ノ場合ト其地位ヲ轉換セハ理由アル規定ト云フヲ得ヘシ故ニ本案ニ於テハ此主義ヲ取リ全部傭船者ノ解除ニ付テハ發航ノ前後ニ依リテ之ヲ區別セリ
第一項ハ總テ發航前ニ於テ傭船者カ解除スル場合ノ一般通則ニシテ第二項ハ往復航海ヲ爲スヘキ場合ニ其歸航ノ發航前又ハ他港ヨリ船積港ニ航行スヘキ場合ニ其船積港ヲ發スル前ニ於テ傭船者カ解除セントスル場合ニ於ケル特別規定ナリ故ニ往復航海ヲ爲スヘキ場合ニモ又ハ他港ヨリ船積港ニ航行スヘキ場合ニ於テモ最初ノ發航ニ際シ解除セントスルモノハ總テ第一項ノ通則ニ由ルコト勿論ナリトス而シテ第二項ノ場合ニ運送賃ノ三分ノ二ヲ支拂フコトヲ要スト爲セルハ是レ獨逸法ニ倣ヘルモノニシテ多クハ之ヲ以テ其公平ヲ得ヘシト信シタルカ故ナリ
第三項ハ旣成商法第八百九十四條ノ末段ニ該當シ全ク運送品ヲ船積セサル場合ヲ見タルナリ
第五百九十六條
(理由)前條第一項ニ依リテ解除スル者ハ運送賃ノ半額、第二項ニ依リテ解除スル者ハ運送賃ノ三分ノ二ヲ拂フコトヲ要ストナセリト雖モ是レ唯船舶所有者カ豫期セル運送賃ヲ得ル能ハサリシ爲メニ生シタル損害ヲ賠償センカ爲メナリ故ニ傭船者ハ之ヲ支拂ヒタリトスルモ尙ホ前條第一項但書以外ノ附隨ノ費用例ヘハ關稅ノ費用其他立替金等ハ之ヲ支拂フ責ニ任スルハ當然ト云フヘシ又前條第二項ノ場合ニ於テハ旣ニ若干ノ航海ヲ爲シタル後ニ於テ解除スルモノナルカ故ニ解除ヲ爲ス前ニ當リ共同海損、救援又ハ救助ノ必要ヲ生シ運送品ノ價格ニ應シ其損害及費用ヲ負擔セサルヘカラサルモノアルヘシ是レ亦傭船者カ支拂フヘキハ當然ト云フヘシ是レ本條ノ規定アル所以ナリ
第五百九十七條
(理由)本條ハ旣成商法第九百六條ノ末段ニ該當シ傭船者カ發航後ニ於テ解除ヲ爲ス場合ニ關スル規定ナリ而シテ此場合ニ於テ解除ヲ許ス理由ニ至リテハ前前條ニ於テ發航前ニ於テ解除ヲ許スト全ク同一ノ主意ニ基ク但損害賠償ノ點ニ至リテ前前條ト大ニ其額ヲ異ニスル所以ハ蓋シ發航後ナルカ故ニ自ラ之ヲ異ニセサルヘカラサル理由アルニ依ルナリ而シテ本條カ公益規定ニ非ルコトハ前前條ト毫モ異ナル所ナシ
第五百九十八條
(理由)本條ハ旣成商法第八百九十四條ニ對スル修正ナリ同條ニ所謂賃借人トハ船舶全部ノ傭船者ト一部ノ傭船者トノ二者ヲ包含スト雖モ本條ハ獨リ一部ノ傭船者ノミニ關スル規定ナリ
本條第一項ハ發航前ニシテ且ツ運送品ノ船積前ノ場合ニ主トシテ適用スヘキ規定ニシテ旣成商法第八百九十四條前段ノ場合ニ符合スルモノナリ旣成商法ハ全部傭船ノ場合ト一部傭船ノ場合トニ區別ヲ設ケス解除ノ際ハ何レモ運送賃ノ半額ヲ支拂フモノト爲セリト雖モ本案ニテハ全部傭船ノ場合一部傭船ノ場合トハ之ヲ區別シ全部傭船ノ場合ハ第五百九十五條ニテ發航前ニ於テハ運送賃ノ半額ヲ支拂フテ解除ヲ爲シ得ルモノトシ一部傭船ノ場合ニハ運送賃ノ全額ヲ支拂フテ解除ヲ爲シ得ルモノト爲セリ蓋シ此區別ヲ爲セル所以ハ前者ニ在リテハ傭船者カ解除セハ船舶所有者ハ其航海ヲ廢止スルコトヲ得ルモ後者ニ在リテハ之ヲ廢スルコトヲ得サレハナリ然レトモ若シ一部ノ傭船者及ヒ荷送人カ總テ共同シテ解除ヲ請求スル場合ニ於テハ全部傭船者カ解除ヲ請求セシ場合ト同一ニシテ船舶所有者ハ其航海ヲ廢止スルコトヲ得ルカ故ニ本條第三項ニ依リ第五百九十五條第一項カ準用セラレ運送賃ノ半額ヲ支拂フテ解除シ得ルコトトナルナリ
第二項ハ發航前ニシテ且ツ運送品ノ船積アリタル場合ニ關スル規定ナリ此場合ニ於テ若シ全部傭船ノ場合ノ如ク常ニ契約ノ解除ヲ許セハ荷物ノ積換等ノ必要ヲ生シ航海ヲ遲延スルコトアルヲ免レス是レ此場合ニ於テ他ノ傭船者及荷送人ノ同意ヲ得テ始メテ解除ヲ爲スコトヲ得ルモノト爲シタル所以ナリ而シテ若シ其同意ヲ以テ自己ノ運送品ノミニ付テ解除ヲ爲スコトヲ得ルモ他ノ傭船者又ハ荷送人モ亦共同シテ解除ヲ爲スニ非スンハ前條ノ適用ニ依リ運送賃ノ全額ヲ支拂ハサルヘカラサルコト言ヲ俟タス
第三項ハ前七條卽チ全部傭船者ニ關スル規定ヲ一部傭船者ニ準用スル旨ヲ規定セルナリ而シテ第五百九十三條第一項若クハ第五百九十五條第一項ノ準用アル場合ハ發航ヲ請求シ若クハ解除ヲ請求スル傭船者以外ノ傭船者及ヒ荷送人カ總テ其請求ニ付テ共同スルコトヲ要スルコトハ本條第一項カ他ノ傭船者及荷送人カ共同セスシテ解除ヲ請求スル場合ヲ見テ規定ヲ立テタルニ依リテ明ナリ
第五百九十九條
(理由)本條竝ニ次條ハ個々ノ運送品ヲ以テ運送契約ノ目的ト爲セル場合ニ關スル規定ナリ第一項ニ付テハ個々ノ運送品ノ船積期間ハ契約又ハ其他ノ事情ニ依リ明瞭ト爲ルヘク旣成商法ニ所謂碇泊期間若クハ超過碇泊期間ノコトハ獨リ全部ノ傭船又ハ一部ノ傭船ニ付テノミ云フヘキコトニシテ個々ノ物品ノ運送契約ニ付テハコレナカルヘキヲ信スルカ故ニ之ニ關シテ何等ノ規定ヲ設クルコトナク唯荷送人ハ船長ノ指圖ニ從ヒ遲滯ナク運送品ヲ船積スルコトヲ要スル旨ヲ明言セルノミ
第二項ノ場合ニ於テ荷送人ハ運送賃ノ全額ヲ支拂フコトヲ要スト爲セル所以ハ此場合ニ於テ船長ハ航海ヲ廢止スルコトヲ得サルノミナラス全部傭船ノ場合ニ於テスラ第五百九十四條ニ於テ運送賃ノ全額ヲ仕拂ハサルヘカラサルモノト爲シタレハナリ
第六百條
(理由)旣成商法ハ第九百六條ニ於テ荷送人カ發航前ニ契約ノ解除ヲ爲ス場合ニ運送賃ノ半額ト取戾ニ依テ生スル費用トヲ支拂フヲ以テ足レリトセリト雖モ本案ニ於テハ第五百九十八條第一項ニテ一部傭船ノ場合ニ於テスラ他ノ傭船者及ヒ荷送人ト共同セスシテ契約ノ解除ヲナストキハ運送賃ノ全額ヲ支拂ハサルヘカラスト爲シタルカ故ニ之ヲ以テ荷送人カ契約ノ解除ヲ爲ス場合ニ準用スルヲ以テ權衡ヲ得ヘシト認メタルナリ又發航前ト雖モ旣ニ運送品ノ全部又ハ一部ヲ船積シタルトキニ於テ一部ノ傭船者カ解除ヲ請求セントセハ他ノ傭船者及ヒ荷送人ノ同意ヲ得サルヘカラサルコトノ理由モ亦荷送人カ解除ヲ請求スル場合ニ均シク存在スルカ故ニ第五百九十八條第二項モ亦荷送人カ解除ヲ爲ス場合ニ之ヲ準用スルハ至當ト云フヘシ
又荷送人カ解除ヲ請求スルニ當タリ總テ他ノ傭船者又ハ荷送人ト共同シテ之ヲ爲ストキハ恰モ全部ノ傭船者カ解除ヲ請求シ又ハ一部ノ傭船者カ他ノ傭船者又ハ荷送人ト共同シテ解除ヲ請求スルト其效果殆ント同一ナリ是レ第五百九十八條第三項モ亦荷送人カ契約ノ解除ヲ爲ス場合ニ準用シテ可ナル所以ナリ
第六百一條
(理由)本條ハ略ホ旣成商法第九百條第二項ト相類ス同條ニ依レハ積込ミタル荷物ニ付テノ關稅受取證書及ヒ關稅明細書ハ二十四時間ニ賃借人之ヲ船長ニ交付スルコトヲ要スト規定セリト雖モ運送ニ必要ナル書類ハ獨リ右ノ二書ニ限ルモノニ非ス又旣成商法ニ所謂船舶賃貸借ノ場合ニ於テノミ必要ナルニ非ス總テノ運送契約卽チ全部又ハ一部ノ傭船ノ場合及ヒ個々ノ運送品ノ運送契約ノ場合ニ於テモ必要ナリ又之ヲ交付スルハ必スシモ二十四時間內タルコトヲ要セス船積期間內ニ之ヲ交附スレハ足レリ何トナレハ船長ハ船積期間ヲ過キテ始メテ發航ヲ爲スコトヲ得レハナリ外國ニ於テモ獨逸和蘭ノ如キハ則チ此主義ニシテ本條ハ之ニ倣ヘルナリ
第六百二條
(理由)本條ハ運送品ノ陸揚期間ニ關スル規定ニシテ旣成商法第八百八十八條及第八百八十九條ニ對スル修正ナリ船積期間ニ付テハ本案ハ第五百九十一條ニ於テ全部傭船ノ場合ヲ規定シ之ヲ第五百九十八條第三項ニ於テ一部ノ傭船ノ場合ニ準用シ第五百九十九條第一項ニ於テ個々ノ運送品ノ運送契約ノ場合ヲ規定セリ旣成商法ハ前記ノ二個條ニ於テ船積期間ト陸揚期間トニ付テ合セテ之ヲ規定セリト雖モ本案ニ於テハ規定ノ適用ノ範圍ヲ明瞭ニセンコトヲ立案ノ主義ト爲スカ故ニ船積ト陸揚トニ區別シテ規定ヲ設ケタルノミ故ニ本條修正ノ理由ニ至テハ船積期間ニ關スル前記ノ諸條ト殆ント異ナル所ナシ寧ロ第五百九十一條及第五百九十九條第一項ヲ以テ運送品ノ陸揚ニ之ヲ準用ストセハ法文簡ヲ得ヘキカ如シト雖モ或ハ疑ヲ生スルノ虞ナキニ非ルカ故ニ特ニ本條ヲ置キテ陸揚期間ニ關スル規定ヲ明瞭ニ爲セリ
第六百三條
(理由)運送契約ノ當事者ハ一方ニ船舶所有者(船長之ヲ代理スルモ)ニシテ一方ハ荷送人又ハ傭船者ナリ故ニ船舶所有者ニ對シテ契約上ノ責任ヲ負フ者ハ荷送人又ハ傭船者ナルコト明ナリ然レトモ荷受人モ亦荷送人ト運送人トノ間ニ成リタル契約ニ因リ運送品ノ引渡ヲ請求スルコトヲ得ヘキモノナルカ故ニ各當事者間ノ公平ヲ保タントセハ荷受人カ運送品ヲ受取リタルトキハ本條第一項所定ノ義務ヲ負ハシメサルヘカラス之ニ付テハ諸國ノ立法例モ之ヲ認メ旣成商法ノ主意モ亦茲ニ在ルモノノ如シ佛法ノ如キハ此ノ如キ明文ナキモ學者ハ此場合ニ於テ荷受人ト船舶所有者トノ間ニ一種ノ無名契約成立スルモノナリト云ヒテ之ヲ說明セリ要スルニ本條第一項ノ如キ規定ハ學者ノ一般ニ是認スル所ナリ
第二項モ亦古ヘヨリ是認サルル所ニシテ英ノ慣習法ノ如キハ卽チ然リトス唯佛法系ノ商法ニ在リテハ船長ハ運送品ヲ留置スルコトヲ得ストノ規定アリト雖モ是レ海上ハ陸上ヨリモ危險多キカ故ニ船內ニ留置スヘカラサルノ意ニシテ敢テ本條第二項ヲ非認スルモノニアラス
第六百四條
(理由)本條第一項ノ場合ニ於テ船長カ供託ヲ爲スコトヲ得ルハ勿論ナリ唯第二項ノ場合ニ於テ船長ハ必ス運送品ヲ供託スルコトヲ要スト爲セル所以ハ海上ハ陸上ト異リ運送品ヲ船中ニ留メ置クハ危險ノ虞アレハナリ又此等ノ場合ニ於テ船長カ積荷ノ競賣ヲ爲スコトヲ得ルノ權限アル場合ハ第五百六十二條第一項ニ於テ之ヲ與ヘラレタリ
本條ノ場合ハ固ト陸上運送ニモ起リ得ル所ナリト雖モ海上ハ陸上ト異リ荷受人ハ遠隔ノ地ニアルコト多カルヘク又他船カ一般ノ所在地ヘ航行シ來ラサルコトモ之アルヘク從テ荷受人ノ指揮ヲ待ツコト能ハサル場合多カルヘシ仍テ船長ノ處分ヲシテ容易ニ爲スコトヲ得セシメタリ是レ陸上運送ノ規定ヲ海上運送ニ準用セサル所以ナリ
第六百五條
(理由)運送契約ノ性質タルヤ一種ノ請負契約ニ外ナラス請負契約ニ於テハ當事者ノ一方ハ仕事ノ結果ニ對シテ報酬ヲ與フルコトヲ約スル者ナリ故ニ本條ノ場合ニ於テ發航ノ當時ノ重量又ハ容積ニ依ラスシテ運送品引渡ノ當時ニ於ケル重量又ハ容積ニ依リテ運送賃ヲ定ムトナセルハ至當ナリト云フヘシ是レ英國ノ慣習ト同一ニシテ獨法モ亦然ル所ナリ唯佛法系ノ國ニ於テハ旣成商法第九百十六條ノ如キ明文ヲ存シ稍々本條ヲ非認スルカ如ク見ユト雖モ必スシモ運送契約カ請負契約タルノ性質ヲ打破スルモノト云フコトヲ得ス仍テ本案ニ於テハ原則トシテハ本條ノ主義ヲ採リ當事者カ特約ヲ以テ反對ノ契約ヲ締結スルコトハ固ヨリ之ヲ妨ケサルナリ
第六百六條
(理由)本條ハ期間ヲ以テ運送賃ヲ定メタル場合ニ於テ其期間ノ始期ト終期トヲ定メタルモノナリ始期ニ付テハ旣成商法第八百九十條ハ發航ノ日ヨリ之ヲ起算スト爲セリ外國多數ノ立法例佛、伊、蘭、西、白、英等亦然リト雖モ若シ陸揚ノ終了ノ日ヲ以テ終期ト爲ストキハ始期ニ付テモ船積着手ノ日ヨリ起算スルモノトナササレハ終期トノ權衡ヲ得タリト云フコトヲ得ス何トナレハ船舶所有者ハ陸揚終了ノ日マテ他ニ船舶ヲ使用スヘカラサルト均シク船積着手ノ日ヨリハ他用ニ之ヲ充ツルコトヲ得サレハナリ而シテ終期ニ付テハ旣成商法ニハ明文ナク佛、蘭、西等ノ商法モ亦然リト雖モ獨、伊、葡ノ如ク明文ノ存スル國ハ總テ陸揚終了ノ日タルコトニ一定シ佛ノ如キモ解釋上ハ旣ニ此ノ如ク定マレリ
始期及終期ヲ以テ旣ニ本條本文ノ如ク之ヲ定ムルトキハ第五百九十一條第二項及第六百二條第二項ノ場合ニ於テハ傭船者又ハ荷送人ハ船積期間又ハ陸揚期間經過後ノ日數ニ對スル報酬ト運送賃トヲ二重ニ支拂ハサルヘカラサルノ不都合アルヘシ是レ本條但書ノ末段ニ於テ之ヲ除外シタル所以ナリ又本條但書ノ前段ノ設ケアル所以ハ茲ニ明言スル如キ場合ニ遭遇スルモ未タ第六百十條若クハ第六百十一條ニ云フ所ノ事由ニ到ラサルトキハ契約ハ當然終了セス又ハ解除スルコトヲ得スシテ契約ハ依然繼續シ此等ノ期間ニ對スルモ運送賃ハ尙ホ之ヲ支拂ハサルヘカラス是レ不可抗力ニ依ル損失ヲ獨リ傭船者又ハ荷送人ニ負ハシムル結果ヲ生シ傭船者又ハ荷送人ニ對シテ酷ニ失スルノ嫌アルカ故ナリ
第六百七條
(理由)本條第一項ハ旣成商法第九百十四條ニ於テ暗ニ認ムル所ノ主義ナリ卽チ同條ニテハ「運送品ヲ賣却スルモ仍ホ之ヲ得ルコト能ハサルトキハ」ト明言シ暗ニ船長ニ運送品ノ競賣ヲ爲スノ權アルコトヲ認ムルモノノ如シト雖モ多數ノ立法例ハ表面ヨリ競賣ノ權ヲ認メ又之ヲ競賣スルニ付テハ裁判所ノ許可ヲ要スルモノト爲スカ故ニ本案ハ卽チ之ニ倣フテ表面ヨリ競賣權ヲ認メタリ
第二項ハ旣成商法第九百十五條ト略ホ同一ニシテ外國ノ立法例モ大約之ニ類似ノ規定ヲ採用セリ船長カ船舶所有者ノ代理人トシテ運送賃ノ擔保トシテ着港後尙ホ運送品ヲ船內ニ留置スルハ危險ナルノミナラス又之ヲ陸揚スルモ倉庫內ニ留置スルカ如キハ不便ニ堪ヘス故ニ運送賃ノ支拂ナキモ運送品ハ之ヲ引渡スコトヲ得ヘキモノトシ而シテ引渡シタル後モ尙ホ一定ノ期間內ハ船舶所有者ハ權利ハ運送品ニ對シテ之ヲ行使スルコトヲ得ヘキモノトセハ各當事者ニ於テ共ニ便宜ヲ得ヘキモノトス是レ本項ノ規定アル所以ナリ唯引渡後船舶所有者カ其權利ヲ行使シ得ル期間ノ長短ニ付テハ外國ノ立法例區々タリト雖モ之ヲ長キニ失セハ物ノ占有ハ第三者ニ移リ畢竟其效ナキカ故ニ旣成商法ニ倣ヒ之ヲ二週間ト爲セリ又二週間以內タリトモ占有カ第三者ニ移リタル以後ハ船舶所有者カ其權利ヲ行使スルコトヲ得サル所以ハ第三者ヲ保護スルノ已ムヲ得サルニ依ルナリ
第六百八條
(理由)本條規定ノ主意ハ旣成商法第九百十四條ノ暗ニ認ムル所ナリ蓋シ同條ハ船舶所有者カ荷物ノ競賣權ヲ行使シタル場合ニ關スル規定ニシテ本條ハ船舶所有者カ其權利ヲ行使セサル場合ニ關スル規定ナリ固ト運送賃ハ荷受人カ之ヲ支拂フコトヲ通則トスルカ故ニ船舶所有者カ自己ノ權利ヲ行使スルコトヲ怠ラサリシトキハ過失ナキモノニシテ傭船者又ハ荷送人ニ對シテ運送賃ノ不足額ヲ請求スルハ其當ヲ得タリト雖モ若シ船舶所有者カ自己ノ權利ヲ行使セサルトキハ過失アルモノニシテ傭船者又ハ荷送人ニ對シテ運送賃ヲ請求セントスルハ不當ト云フヘシ然レトモ傭船者又ハ荷送人ニ於テ運送契約ノ結果トシテ受ケタル利益ノ存スルトキハ其限度ニ於テ償還ヲ爲スコトヲ要スルハ公平ヲ保ツカ爲メニ必要ト爲スナリ
第六百九條
(理由)船舶ノ全部又ハ一部ヲ運送契約ノ目的ト爲シタル場合ニ於テハ傭船者カ必スシモ自己ノ運送品ノミヲ船積スルモノニ非ス更ニ第三者ト運送契約ヲ爲シテ荷物ノ運送ヲ請負フコトアルヘシ此場合ニ於テモ傭船者ハ船長ノ任免ヲ爲スコトヲ得ス船長ハ依然トシテ船舶所有者ノ代理人トシテ其職務ヲ行フヘシ故ニ其職務ニ屬スル範圍內ニ於テハ船舶所有者ノミ其責任ヲ負擔シ傭船者カ其責ニ任セサル旨ヲ明ニセリ而シテ但書ヲ附セシ所以ハ唯解釋上ノ疑ヲ杜絕センカ爲メノミ
第六百十條
(理由)本條以下三ケ條ハ船舶全部ノ傭船契約ニ適用セラルル規定ニシテ本條ハ該契約カ當然終了スル場合ヲ規定セリ蓋シ第一項列記ノ事由ノ生スルトキハ航海ノ目的ハ當然之ヲ達スルコトヲ得サルカ故ニ發航ノ前後ヲ問ハス其適用アリ而シテ第二項ハ獨リ發航後ノ場合ニノミ其適用アリ卽チ第一項第一號ニ云フ所ノ事由ハ總テ船舶ニ關スルモノニシテ此事由生シテ契約ハ當然終了スルモ仕事ノ結果ヲ生スルコト之アルヘキカ故ニ其結果ノ割合ニ應シテ運送賃ヲ支拂フコトヲ要スト爲セルハ請負契約當然ノ結果ト謂フヘシ然レトモ船舶カ此等ノ事由ニ遭遇スルトキハ之ニ船積シタル運送品ノ價格ヲ損セサルコト極メテ稀ナリ而カモ尙ホ運送ノ割合ニ應シテ常ニ運送賃ヲ拂ハサルヘカラサルニ於テハ傭船者ニ對シテ酷ナリト謂フヘシ仍テ運送品ノ價格ヲ超ヘサル限度ニ於テ運送賃ヲ支拂フモノト爲セリ而シテ第一項第二號ノ場合ニ於テハ全ク運送賃ヲ支拂フコトヲ要セサルハ明ナリ
第六百十一條
(理由)本條ハ船舶全部ノ傭船契約ノ各當事者カ契約ヲ解除スルコトヲ得ル場合ヲ規定セリ本條第一項ニ所謂航海又ハ運送カ法令ニ反スルニ至リタルトキ其他不可抗力ニ依リテ契約ヲ爲シタル目的ヲ達スルコト能ハサルニ至リタルトキトハ旣成商法第八百九十一條第一項ニ所謂到達地トノ貿易及ヒ交通ノ禁止セラレタルトキ又ハ同第八百九十二條ニ所謂到達港カ封港又ハ其他ノ處分ニ依リテ閉鎖セラレタルトキ又ハ同第八百九十三條ニ所謂不可抗力ニ依リテ航海ノ起始又ハ繼續カ妨ケラレタルトキノ如キ場合ヲ云ヒ其事由ニシテ繼續スルトキハ契約ヲ解除スルコトヲ得ルナリ而シテ果テ契約ヲ爲シタル目的ヲ達スルコト能ハサルニ至リタルヤ否ヤハ全ク事實問題ニ一任シ爭ノ生セル場合ニ於テハ判官ノ認定スル所ニ一任シタリ第二項ノ規定ハ前條第二項ト其主意ヲ同フシ運送契約ハ請負ニシテ仕事ノ結果ニ對シテ報酬ヲ與フルモノナリト云フ原則ヨリ來リタル結果ナリ
第六百十二條
(理由)本條ハ前條並ニ前前條ト同シク船舶全部ノ傭船者ニ適用スヘキ規定ナリ若シ前前條第一項第二號及前條第一項ニ定メタル事由カ全部傭船者ノ運送品ノ一部ニ付生シタル場合ニ於テハ傭船者ノ利益ヲ保護スル爲メニ之ニ多少ノ自由ヲ與ヘタルナリ蓋シ全部傭船ノ場合ニ於テハ他ニ傭船者又ハ荷送人存在セサルカ故ニ獨リ船舶所有者ノミノ負擔ヲ重カラシメサル範圍內ニ於テ之ヲ爲スナラハ其運送品ニ代ヘテ他ノ運送品ヲ船積スルコトヲ得セシメテ可ナレハナリ而シテ傭船者ハ此場合ニ於テモ亦第五百九十五條第一項ノ規定ニ從ヒ解除ヲ爲スコトヲ得ルハ勿論ナリトス
傭船者保護ノ爲メニ旣ニ第一項ノ權利ヲ與ヘタル以上ハ傭船者ハ其權利ヲ行使スルニ付テハ遲滯ナク舊運送品ヲ陸揚シテ新運送品ノ船積ヲ爲スコトヲ要スルハ當然ナリトス然ラスンハ航海ハ遲延シ船舶所有者ハ爲メニ損失ヲ被ムルニ至レハナリ若シ其陸揚又ハ船積ヲ怠リタル場合ニ於テ運送賃ノ全額ヲ支拂フコトヲ要スル所以ハ契約ノ當然ノ結果ナリ
第六百十三條
(理由)本條第一項ハ船舶全部ノ傭船契約カ當然終了シ又ハ解除セラルルコトヲ得ル場合ノ規定ヲ船舶一部ノ傭船契約又ハ個々物品ノ運送契約ニ準用シタルモノニシテ規定ノ理由ニ至テモ亦船舶全部傭船ノ場合ト同一ナリトス
全部傭船ノ場合ニ於テハ傭船者ノ運送品ヲ總テ船積スルモノナルカ故ニ本條第二項ノ場合ニ於テ他ノ運送品ヲ以テ船積スルコトノ自由ヲ與ヘテ可ナルコトハ前條第二項ノ規定スル所ナリト雖モ一部傭船ノ場合又ハ個々ノ物品ノ運送契約ノ場合ニ於テハ尙ホ他ノ傭船者又ハ荷送人ノ在ルアリ故ニ全部ノ傭船者ト同一ノ保護ヲ與ヘハ他ノ傭船者又ハ荷送人ノ權利ヲ害スルコトアルモ知ルヘカラス是レ此保護ヲ與ヘサル所以ナリ仍テ運送賃ノ全額ヲ拂フテ解除ヲ爲スコトヲ得ルノ權利ヲ與ヘタルノミ
第六百十四條
(理由)本條ハ旣成商法第九百十二條ニ該當シ船舶所有者カ運送賃ノ全部ヲ請求スルコトヲ得ル場合ヲ列擧セルナリ
第一號及第二號ノ場合ニ於テハ船長ハ航海ノ必要ノ爲メニ已ムコトヲ得スシテ積荷ヲ質入若クハ賣却シ又ハ航海ノ用ニ供シタルモノナルカ故ニ船長ニ於テハ毫モ過失ナシ而シテ其積荷ニ對スル損害賠償ノ額ハ積荷カ到達スヘカリシ時ニ於ル到達地ノ價格ニ依リテ之ヲ定ムルカ故ニ傭船者又ハ荷送人カ全額ノ運送賃ヲ支拂フモ爲メニ損失ヲ被ムルコトナキナリ
第三號共同海損ノ場合モ亦同一ニシテ船舶所有者ハ毫モ過失ナシ從テ共同海損ノ結果獨リ船舶所有者ノミ運送賃ヲ損失セサルヘカラサルノ理ナケレハナリ
第六百十五條
(理由)本條ハ船舶所有者ノ傭船者荷送人又ハ荷受人ニ對スル債權ニ付短期時效ヲ設ケタルニ過キス故ニ敢テ說明ヲ加ヘス
第六百十六條
(理由)本條列記ノ條項ニ付テハ陸上運送ト海上運送ト之ヲ區別スルノ必要ナキモノトシテ茲ニ之ヲ準用セルナリ從テ規定ノ理由ニ至リテモ陸上運送ノ場合ト同一ナリ唯準用ノ疑ハシキ點ノミニ付テ之ヲ述フレハ第三百二十七條ハ運送人ニ關スル直接ノ規定ニ非ス運送取扱人ニ關スル規定ナリ第三百四十八條ニ於テ之ヲ運送人ニ準用セリ故ニ第三百四十八條ヲ以テ海上運送ニ準用セハ其當ヲ得ヘシト雖モ第三百四十八條ニハ尙ホ他ノ個條ヲ包含シ直ニ之ヲ準用スルコトヲ得サルカ故ニ其本ニ遡リ第三百二十七條ヲ準用セルナリ而シテ此點ニ付テハ外國ノ立法例中陸上ト海上トニ付或ハ主義ヲ異ニスルモノナキニ非スト雖モ本案ニ於テハ其區別ヲ採ラサリキ
第三百三十五條第一項ハ運送契約ノ性質ハ請負契約ナリト云フヨリ生スル當然ノ規定ニシテ同第二項モ亦契約當事者一方ノ過失ヲ以テ相手方ノ權利ヲ害スヘカラスト云フ當然ノ規定ニシテ陸上運送ト海上運送トニ付少シモ擇フ所ナキカ故ニ茲ニ之ヲ準用セルナリ
第三百三十六條ノ準用ニ付テ說明スレハ外國ノ立法例中本則トシテハ船舶所有者ハ絕對的ニ運送品ノ滅失、毀損又ハ延着ニ付テ責任アリトシ唯例外トシテ不可抗力荷造ノ不完全又ハ荷送人ノ過失等アル場合ニハ責任ナシト規定スルモノナキニ非スト雖モ本案ニ於テハ獨逸ノ新商法ニ倣ヒ船舶所有者カ若シ其責任ヲ免カレントセハ注意ヲ怠ラサリシコトノ證明ヲ擧ケサルヘカラサルノ主義ヲ採レリ而シテ實際ニ於テハ不可抗力、荷造ノ不完全又ハ荷送人ノ過失等ヲ證明スルニ至ルヘキナリ
第三百三十七條乃至第三百四十條ノ規定ヲ準用スルニ付テハ幾ント異議ナキ所ナリ
第三百四十七條ニ付テハ外國ノ二三ノ立法例ニハ運送品カ陸揚港ニ到着セシトキニ當タリ之カ檢査ニ關シ詳細ナル規定ヲ設クルモノアリト雖モ本案ハ又海上運送ニ付之ヲ區別スル必要ナシトシテ直ニ之ヲ準用セリ
第二款 船荷證券
第六百十七條
(理由)一、船荷證券ヲ發行スル場合ニ付テハ船舶全部又ハ一部ノ傭船契約ノ場合タルト個々ノ運送品ヲ運送契約ノ目的トセル場合タルトヲ問ハス傭船者又ハ荷送人ノ請求ニ依リ之ヲ發行スヘキコトノ主義ヲ取レリ然レトモ其請求ナクンハ必スシモ常ニ發行スルコトヲ要セサルナリ蓋シ船荷證券ハ主トシテ積荷ノ融通ノ目的ノ爲メニ發行スルモノナレハナリ而シテ船舶ノ全部又ハ一部ノ傭船契約ノ場合ニ於テハ第五百八十七條ニ於テ各當事者ハ相手方ニ對シテ運送契約書ノ交付ヲ請求スルコトヲ得ルモノトナセルカ故ニ此場合ニ於テハ運送契約書ト船荷證券ト二者ヲ合テ有シ得ヘキコトハ勿論ニシテ船荷證券ノ發行ハ運送契約書ノ發行アリタルト否トヲ問ハサルナリ
二、船長ハ陸揚港ニ於テ船荷證券ノ所持者ニ對シテ運送品ヲ引渡ササルヘカラサルモノナルカ故ニ船荷證券ハ運送品ノ船積後之ヲ發行スルコトヲ要ス而シテ其發行ノ時間ハ旣成商法第九百條ニ於テハ船積後二十四時間內ニ之ヲナスコトヲ要ストナセリト雖モ或ハ二十四時間ヨリ短カキ時間內ニ於テ發行スルコトヲ望ムモノアルヘク又或ハ許多ノ荷物ノ船積アリシ場合ノ如キ二十四時間內ニ發行スルコト能ハサル場合モアルヘシ故ニ其發行ヲ二十四時間ニ限ルトスルハ不便多カルヘシ故ニ本條ニ於テハ之ヲ「遲滯ナク」ト修正セリ
三、船荷證券發行ノ數ニ付テハ外國ノ立法例中佛主義ノ如キハ四通以上ヲ發行ストナセリト雖モ本案ハ毫モ之ヲ制限セス旣成商法モ亦第八百九十九條第二項ニ於テ「幾通ニテモ之ヲ發行スヘシ」ト爲セリ唯傭船者又ハ荷送人ノ請求ニ從フヘキノミ
第六百十八條
(理由)旣成商法第八百九十四條第一項ニ依レハ船荷證券ハ船長カ發スルモノト爲セリト雖モ船舶所有者カ委任ヲ爲ストキハ船長以外ノ者ニテモ之ヲ發行スルコトヲ得スンハ大會社ノ如キ許多ノ運送契約ヲ一時ニ締結スルモノニ在リテハ不便ニ堪ヘサルヘシ是レ本條ヲ設ケタル所以ナリ而シテ船長以外ノ者ニ委任アリタリトスルモ船長カ船荷證券ヲ發行スルノ權ハ依然トシテ存在スヘク船長以外ノ者カ之ヲ發行スルニ付テモ亦前條ノ規定ニ從ヒテ之ヲ爲スコトハ勿論ナリトス
第六百十九條
(理由)本條ハ船荷證券ニ記載スヘキ事項ヲ規定セルモノニシテ旣成商法第八百九十九條カ之ニ付テ定ムル所ト大體ニ於テ異ナル所ナシ唯其異ナル主ナル點ヲ列擧スレハ左ノ如シ
一、本案ニ於テハ前條ニ於テ船長以外ノ者ニ船荷證券發行ノ權ヲ與ヘタルカ故ニ船長以外ノ者カ船荷證券ニ署名スル場合アルナリ從テ此場合ニ於テハ船長ノ氏名ヲ船荷證券ニ記載スヘキ一要件ト爲スノ必要アルナリ
二、第五號ノ末段卽チ「船荷證券ノ所持人ニ運送品ヲ引渡スコト」トハ之ヲ以テ暗ニ無記名式ヲ以テ船荷證券ヲ發行スルコトヲ得ルノ意ヲ示シタルモノニシテ旣成商法第八百九十九條ノ末項ニ所謂船荷證書ハ指圖式又ハ無記名式ニテ之ヲ發スルコトヲ得トノ主意ヲ採リタルモノナリ且ツ本案ニ於テハ第六百二十六條ノ規定ニ依リ船荷證券ハ法定ノ指圖證券ト爲レルカ故ニ裏書禁止ノ旨ヲ記載シタルニ非スンハ常ニ之ヲ裏書讓渡スコトヲ得ルナリ
三、第七號ニ但書ヲ加ヘタリ本號ニ該當スル旣成商法第八百九十九條ノ第四號ニハ「船積港及ヒ到達港」トアリト雖モ本案ニ於テハ船積港ハ別ニ之ヲ第六號トナシ到達港トハ獨リ船舶ニ付テノミ之ヲ用ヒ荷物ニ付テハ陸揚港ト云フカ故ニ本號ニハ之ヲ陸揚港ト改メ且ツ其陸揚港タルヤ當初ヨリ之ヲ確定セスシテ發航後傭船者又ハ荷送人ヲシテ之ヲ指定セシムル方商業上利便多キコトアルヘシ故ニ發航後ノ指定ヲ許シ本號但書ヲ附シタリ
四、旣成商法第八百九十九條ノ第二項前段ノ事ハ旣ニ第六百十七條ニ於テ之ヲ規定セリ又後段ノ事ハ次條ニ於テ之ヲ規定スヘキカ故ニ本條ニ於テ之ヲ揭ケス
第六百二十條
(理由)本條ハ旣成商法第八百九十九條第二項末段ノ一部ニ該當セリ同條ニ依レハ謄本ニ非スシテ船荷證券ノ一通ニ賃借人カ署名捺印シテ船長ニ交附スルコトトナセリト雖モ船荷證券ハ固ト船長又ハ之ニ代ル者カ發行スルモノタリ故ニ自ラ發行セシモノノ交附ヲ又自ラ受ケンヨリモ寧ロ謄本ニテ足レルカ故ニ船長又ハ之ニ代ル者ノ請求ニ依リ之ヲ謄本ノ交附ヲ爲スコトヲ要スルモノト爲セリ
第六百二十一條
(理由)本條以下三個條ハ船長ト船荷證券所持人間ノ關係ヲ規定セリ數通ノ船荷證券ヲ發行シタル場合ニ於テハ其各通ノ單獨ノ船荷證券ノ用ヲ爲スモノナリ故ニ陸揚港ニ於テハ一通ノ所持人カ運送品ノ引渡ヲ請求スレハ船長ハ之ニ引渡ヲ爲スコトハ當然ナリ而シテ之ニ付テハ其證券面ノ上ニ於テ一通ニ付テ引渡ヲ爲セハ他通ハ無效タルヘシトノ旨ヲ記載セント否トヲ問ハサルナリ
第六百二十二條
(理由)本條ハ旣成商法ニハ存セサル規定ナリ然レトモ旣ニ前條ニ於テ陸揚港內ニ於ケル運送品引渡ニ關シテ規定ヲ設ケタル以上ハ陸揚港外ニ於ル引渡ニ關シテ規定ヲ設クルハ啻ニ其規定ノ體裁ヲ完フスルノミナラス前條ヲ設ケタルノ結果トシテ若シ陸揚港外ニ於テ運送品ノ引渡ヲ爲シ船長カ作成セル總テノ船荷證券ノ返還ヲ得スシテ尙ホ他ニ船荷證券ノ存スルアラハ其所持人ヨリハ陸揚港ニ於テ再ヒ運送品ノ引渡ヲ請求セラルルノ危險ナクンハアラス是レ本條ノ設アル所以ナリ
第六百二十三條
(理由)二人以上ノ船荷證券所持人カ未タ他ノ船荷證券所持人ニ運送品ノ引渡無キ前ニ於テ時ノ前後ヲ問ハス其引渡ヲ請求シタルトキハ船長ハ孰レノ所持人カ果シテ正當ナル荷受人ナルヤ之ヲ知ルコトヲ得ス然レトモ之カ爲メニ引渡ノ期ヲ延引シ其間空シク運送品ヲ保管シ船舶所有者ハ損害ヲ被ムラサルヘカラサルノ理由無キニ依リ船長ハ遲滯ナク運送品ヲ供託シテ引渡ノ請求ヲ爲シタル各所持人ニ其旨ノ通知ヲ發スルコトヲ要スルモノト爲セリ又第六百二十一條ノ規定ニ依リ運送品ノ一部ヲ引渡シタル後他ノ所持人カ運送品ノ引渡ヲ請求シタル場合ニ於テ其殘部ニ付テモ亦右ト同一ノ理由ノ存スルカ故ニ之ヲ供託シテ後引渡ノ請求ヲ爲シタル各所持人ニ之カ通知ヲ發スルコトヲ要スルモノト爲セリ
第六百二十四條
(理由)本條及次條ハ二人以上ノ船荷證券所持人間ノ關係ヲ規定セリ船荷證券ヲ流通ノ用ニ供スル以上ハ一通ノ所持人カ第六百二十一條ノ規定ニ依リテ請求ヲ爲シ運送品ノ引渡ヲ受ケハ其引渡タルヤ有效ニシテ物上ノ權利ハ其者ニ移ルヘシ之カ爲メニ他ノ所持人ノ船荷證券ハ其效力ヲ失フト爲スハ實際上便利ニシテ又已ムコトヲ得サル所以ナリ
第六百二十五條
(理由)本條ハ船長カ未タ孰レノ船荷證券ノ所持人ヘモ運送品ヲ引渡ササル場合ニ於テ船荷證券所持人間ノ關係ヲ定メタルモノナリ蓋シ本條規定ノ基ク所ハ原所持人カ旣ニ他人ニ一通ノ船荷證券ヲ讓渡シ自己ニ權利ヲ有セサルニ當リ復タ之ヲ他人ニ讓渡ストキハ其讓渡ハ法律上無效ナリトノ主意ニ在ルナリ而シテ本條ハ單ニ原所持人カ讓渡ヲ爲セル場合ノミナラス其他質權ヲ設定セル場合ノ如キモ總テ之ヲ包含セシムル爲メニ之ヲ槪括的ニ規定セリ
第六百二十六條
(理由)一、第三百三十三條ヲ船荷證券ニ準用セハ恰モ旣成商法第九百一條ニ該當ス船荷證券發行ノ主タル目的ハ流通ニ存シ之カ記載ノ事項ヲ信用シ賣買其他ノ取引ヲ爲スナリ故ニ運送ニ關スル事項例ヘハ運送賃又ハ運送品等ニ付船舶所有者ト荷受人間ノ關係ハ一ニ船荷證券ノ定ムル所ニ依ラサルヘカラス然ラスンハ船荷證券ハ竟ニ能ク其發行ノ目的ヲ達スルコト能ハサルナリ旣成商法第九百一條第一項ニハ保險者ニ對スル船荷證券ノ效力ヲ規定セリト雖モ當事者間ノ私署證書カ第三者ニ對シテ完全ナル效力ヲ生スルコトハ理論上其當ヲ得ス且ツ同條規定ノ事項ハ證據法ノ一般ノ原則ヨリ明瞭ナルカ故ニ本條ニテハ此點ニ關シテ規定ヲ設ケス然リト雖モ船荷證券ニ記載スル所船舶所有者ト荷受人間ニ在リテモ必スシモ悉ク有效ナリト云フヘカラス卽チ公益ノ理由ニ依リ契約ノ自由ヲ制限スルコトアルハ旣ニ第五百八十九條ニ於テ之ヲ規定セル所ナリ
二、船荷證券ノ裏書讓渡カ物權的ノ效力ヲ生スルコトハ外國ノ法律ニ於テモ一般ニ認メラルル所ニシテ殆ント異論無キ所ナリ船荷證券ヲ發行スル主タル目的ハ流通ニ在リト云フモ卽チ之カ爲ナリ是レ第三百三十四條ノ規定ヲ準用シタル所以ナリ蓋シ規定ノ目的ヨリ言ヘハ船荷證券ノ場合ニ本則ヲ置キ之ヲ貨物ノ引換證ノ場合若クハ預證券ノ場合ニ準用スルヲ以テ妥當トナスト雖モ規定ノ順序ヨリ云ヘハ貨物引換證ニ關スル規定ハ最モ先キニ顯ハルルカ故ニ貨物引換證ノ場合ニ本則ヲ置キ之ヲ船荷證券ノ場合ニモ準用セサルヘカラサルノ已ムコトヲ得サルニ至レルナリ
三、旣成商法第八百九十九條第三項ニ依レハ船荷證券ハ記名式ニテモ指圖式ニテモ又ハ無記名式ニテモ發行シ得ルモノト爲シ未タ法定ノ指圖證券トハナササリシト雖モ船荷證券ヲ發行スル主タル目的ハ流通ニ在ルカ故ニ之ヲ以テ法定ノ指圖證券ト爲スヲ以テ今日ノ商業ノ進步ニ最モ適シタルモノト爲スナリ然レトモ商品以外ノ運送品ヲ以テ船荷證券ノ目的トスル場合ノ如キ固ヨリ當事者カ裏書禁止ヲ爲スコトハ之ヲ妨ケサルナリ是レ第四百五十二條ヲ準用セル所以ナリ
四、前述セル如ク本案ニ於テハ船荷證券ハ法定ノ指圖證券ト爲シ其讓渡ハ物權的ノ效力ヲ生スルモノトナセルカ故ニ一度運送品ハ之ヲ引渡シタルコトアルモ之ト引換ニ船荷證券ヲ取戾スニ非スンハ再度運送品引渡ノ請求ヲ受クルノ危險アリ是レ本則トシテ第四百八十條第一項ノ準用アル所以ナリ然レトモ船荷證券ヲ數通發行セシトキニ於ケル運送品ノ引渡ニ付テハ旣ニ先キニ之ニ關スル特別規定ヲ設ケタリ又船荷證券ヲ取戾スコトアルモ果シテ運送品ヲ引渡シタルヤ否ヤハ疑ハシキコトナキヲ得ス故ニ後日ノ證據ノ爲メニ運送品受取ノ旨ヲ記載シ且ツ之ヲ署名セシムルコトハ最モ必要ナリトス是レ同條第二項ノ準用アル所以ナリ
第二節 旅客運送
(理由)本節ハ旣成商法ノ旅客運送ト題セル節ニ該當ス今其下ニ存スル規定中本案ニ於テ削除セシモノ一二個條アリ其削除ノ理由ヲ略述スレハ左ノ如シ
旣成商法第九百十九條ハ其規定ノ性質タル專ラ行政上ノ取締ニ關スルカ故ニ之ヲ行政法ニ讓レリ又同第九百二十九條第一項ハ船長カ妄リニ船舶ヲ去ルコトヲ得サル點ニ付テハ旣ニ第五百四十二條ニ於テ之ヲ規定シ他ノ部分ニ付テハ又之ヲ行政法ノ規定ニ讓レリ而シテ第二項ハ旅客ノ埋葬費ニ關スル規定ニシテ其前段ノ事項ハ民法ノ一般規定ニ依リ明瞭ニシテ後段ノ事項ハ又行政法ニテ定メラルヘキヲ信スルカ故ニ之ヲ削除セリ
第六百二十七條
(理由)本條ハ旣成商法第九百十八條ト幾ント同一ナリトス而シテ本條ノ裏面ヨリ無記名式ノ乘船切符ハ自由ニ他人ニ讓渡スコトヲ得ル旨ヲ示セリ
第六百二十八條
(理由)本條ハ旣成商法第九百二十五條ノ前段ニ該當シ規定ノ主義ニ至テモ亦全ク同一ナリトス蓋シ反對ノ特約又ハ慣習アルニ非スンハ航海中ノ食料ハ運送賃ノ中ニ包含セラルルモノトシ運送賃ノ獲得者ハ乃チ食料ヲ負擔スルモノト爲スヲ以テ今日ノ實際ニ適スルト信シタルナリ
第六百二十九條
(理由)本條ハ旣成商法第九百二十七條ニ該當シ規定ノ主意ニ至テモ亦全ク同一ナリ蓋シ實際ニ於テハ上中下ノ切符ノ等級ニ依リ船中ニ携帶スルコトヲ得ル手荷物ノ數量若クハ容積ニ制限アルヘシ然レトモ携帶スルコトヲ得ル手荷物ニ付テハ其運送賃ハ旣ニ旅客ノ運送賃中ニ包含スルモノトシ特約ナクンハ別ニ請求スルコトヲ得スト爲スヲ以テ今日ノ實際ニ適スト信シタルナリ
第六百三十條
(理由)本條モ亦旣成商法第九百二十一條ト全ク其規定ノ主意ヲ同フス蓋シ旅客カ契約ヲ締結スル所以ハ一定ノ時間內ニ一定ノ地ニ到達センコトヲ欲スレハナリ然ルニ一旅客カ發航ノ際又ハ寄港ノ際ニ於テ乘船期間內ニ船舶ニ乘込マサルカ爲メニ航海ヲ遲延セサルヘカラサルニ於テハ他ノ旅客ハ非常ノ迷惑ヲ被ムルヘシ故ニ船長ハ乘船期間後ハ發航ヲ爲シ又ハ航海ヲ繼續スルコトヲ得ルモノト爲シ且ツ過失アル旅客ヲシテ運送賃ノ全額ヲ支拂ハシムルコトトナセリ
第六百三十一條
(理由)旣成商法第九百二十二條及ヒ第九百二十三條ノ二個條ニ於テハ解除ノ請求ニ付キ其事由ヲ區別セリト雖モ解除請求ノ事由ニ付キ之ヲ區別スルコトハ頗ル難事ニ屬スルカ故ニ本條ニ於テハ全ク其事由ヲ區別セス唯發航ノ前後ニ依リテ之ヲ區別シ運送賃ノ支拂額ニ差異ヲ生セシメタリ而シテ發航前ノ解除ニツキ運送賃ノ半額ヲ支拂フヲ以テ足レリト爲セル所以ハ船舶所有者ハ其旅客ノ爲メニ固ヨリ種々ノ準備ヲ爲スヘシト雖モ發航前ニ於テハ尙ホ他ニ旅客ヲ求メテ之ニ乘込マシムルノ餘裕アルヘキカ故ニ之ニ依リテ其損害ヲ償フコトヲ得ヘシト信シタルカ故ナリ
第六百三十二條
(理由)本條ハ旅客カ一身ニ關スル不可抗力ニ因リテ航海ヲ爲スコト能ハサルニ至リタルトキ船舶所有者ニ對スル損害賠償ノ額ヲ定メタルナリ而シテ其額ニ付前條ノ場合ト本條ノ場合トニ於テ等差ヲ附シタル所以ハ本條ノ場合ニ於テハ縱令一身ニ關スル原因ナリトハ云ヘ不可抗力ニ因リテ航海ヲ爲スコト能ハサルニ至リタルカ故ナリ而シテ第一項ハ發航前ノ場合ヲ規定シ第二項ハ發航後ノ場合ヲ規定セリ而シテ第二項ノ場合ニ於テハ船舶所有者カ運送賃ヲ請求スルコトヲ得ルハ常ニ其四分ノ一ヲ下ラシメサルカ爲メニ其撰擇ニ從ヒ運送賃ノ四分ノ一又ハ運送ノ割合ニ應シテ之カ請求ヲ爲スコトヲ得ルモノト爲セリ旣成商法第九百二十三條第三號ノ末段ニ於テハ運送賃ヲ支拂ヒタルト否トニヨリ權利ノ消長アリト雖モ是レ全ク理由無キ所ナルカ故ニ本條ハ之ヲ採用セス
第六百三十三條
(理由)本條ノ規定ハ固ヨリ當然ニシテ殆ンド說明ヲ要セスト雖モ唯本條所定ノ事項ハ契約ノ眞ノ履行ニアラサルカ故ニ特ニ之ヲ明言スルノ必要アリタルノミ
第六百三十四條
(理由)本條ハ旣成商法第九百二十二條及第九百二十三條ニ對スル修正ナリ第五百八十四條第一項ニ揭ケタル事由トハ皆船舶ニ關スルモノニシテ此等ノ事由ノ生スルトキハ船舶ハ航海ノ用ニ供スルコトヲ得スシテ物品運送ノ場合ニモ契約ハ當然終了シ若シ其事由カ航海中ニ生シタルトキハ仕事ノ結果タル運送ノ割合ニ應シテ運送賃ヲ支拂フコトヲ要スト爲セルカ故ニ同一ノ理由ニ基キ旅客運送ノ場合ニモ亦タ之ヲ規定セルナリ
第六百三十五條
(理由)本條ハ旣成商法第九百二十八條ニ該當シ規定ノ主意ニ至テモ亦同一ナリ唯字句ニツキ少シク修正ヲ爲シタルノミ
第六百三十六條
(理由)第三百四十九條第三百五十條第一項及第三百五十一條ハ陸上ノ旅客運送ニ關スル規定ニシテ又第五百八十八條第五百八十九條第六百十一條及第六百十五條ハ海上ノ物品運送ニ關スル規定ナリ孰レモ海上ノ旅客運送ニ付之ヲ區別スルノ理由ナキカ故ニ茲ニ之ヲ準用セリ
又第五百九十條及第六百十四條ノ兩條ハ海上ノ物品運送ニ關スル規定ニシテ海上運送ニ於ケル旅客ノ手荷物ニ付キ之ヲ區別スルノ理由ナキカ故ニ之ヲ準用セリ
第六百三十七條
(理由)本條ニ該當スル規定ハ旣成商法ニハ存セサル所ナリ然レトモ移民又ハ出稼人ノ如キ多人數ヲ運送スル爲メニ船舶ヲ傭フ場合ニ於テハ傭船者ト旅客トノ關係及船舶所有者ト旅客トノ關係ノ二者ヲ生スヘシ而シテ傭船者ト旅客トノ關係ハ單ニ旅客運送契約ニ過キサルカ故ニ本節ノ規定ノ適用アルヲ以テ足ルト雖モ船舶所有者ト傭船者トノ關係ハ物品運送ヲ目的トシテ傭船スル場合ト殆ント異ル所ナキカ故ニ前節第一款ノ規定ヲ茲ニ準用セルナリ
第四章 海損
(理由)本章ハ旣成商法第二編第六章ニ該當ス同章ニハ第九百四十條及第九百四十一條ニ於テ學者ノ所謂單獨海損並ニ小海損ヲ規定セリ然レトモ單獨海損ニ付テハ或ハ船舶又ハ荷物カ滅失、毀損スレハ船舶所有者又ハ荷物ノ所有者カ損失ヲ被ムルヘク或ハ船舶又ハ荷物ニ瑕疵アリテ爲メニ船舶荷物若クハ他ノ荷物ヲ害スルコトアレハ船舶所有者又ハ荷物ノ所有者其損害ヲ償ハサルヘカラスシテ民法ノ不法行爲ノ原則又ハ契約法ノ原則ニヨリ明白ナルカ故ニ特ニ之ニ關シテ規定ヲ設クルノ必要ナシ又小海損トハ例ヘハ旣成商法第九百四十一條ニ謂フ所ノ諸費用ノ類ニシテ是レ皆航海ノ費用ナルカ故ニ運送契約ノ當然ノ結果トシテ船舶所有者カ負擔セサルヘカラサルコトハ最モ明白ナリ故ニ之ニ付テ特ニ規定ヲ設クルノ必要ナキナリ仍テ本案ニ於テハ唯學者ノ所謂共同海損ニ付テノミ規定ヲ設ケタリ但本章最末ノ二個條ハ共同海損ノ規定ニ非スト雖モ特ニ其必要ヲ認メテ之ヲ附加セリ
又旣成商法第九百四十三條ハ海難ノ際ニ於ケル救助費又ハ助力費ニ關シ規定ノ實質ハ固ヨリ不必要ニ非スト雖モ救援、救助ノコトハ獨リ此一個條ノミヲ以テ足レリトナスヘカラス他ノ行政法ノ規定ト相待チテ行ハルヘキモノナルカ故ニ茲ニ之ヲ略シ他ノ法令ニ讓ルコトト爲セリ又同第九百四十四條並ニ第九百四十五條ハ外國ノ立法例ニ於テモ之ヲ海損ノ規定中ニ納メタリト雖モ是レ元ト保險ニ關スル規定ナルカ故ニ之ヲ保險ノ章下ニ規定スルヲ以テ妥當ナリト信シ之ヲ同章下ニ移セリ
第六百三十八條
(理由)本條並ニ次條ハ主トシテ旣成商法第九百三十條乃至第九百三十三條ノ四ケ條ニ該當シ共同海損ノ定義並ニ負擔者ヲ定メタルモノナリ
一、本條ハ共同海損ニ三要素ヲ必要トスルコトヲ定ム曰ク船長ノ故意ノ行爲曰ク共同ノ危險ヲ免レシムル爲メナルコト曰ク其行爲ノ結果トシテ船舶又ハ積荷ノ全部又ハ一部ヲ保存シ得タルコト是ナリ此三要素ヲ必要トスルコトハ旣成商法モ略ホ同一ナリ然レトモ外國ノ立法例若クハ學者中「共同ノ危險ヲ免レシムル爲メ」ト云フ要素ニ代ユルニ「共同ノ利益ノ爲メ」ナル要素ヲ以テスルモノアリ是亦多少ノ理由ナキニ非スト雖モ共同ノ利益ノ爲メニ船舶又ハ積荷ニ對シテ船長ノ故意ノ處分ヲ許ストキハ二個ノ弊害ヲ生スルノ虞アリ一ハ船長ハ左程ニ危險ナラサルニ際シ港ニ疾ク入ルノ利益ノ爲メニ積荷ヲ抛棄スルコト容易ナルヘキコトニシテ一ハ共同ノ危險ナレハ其範圍狹キカ故ニ後日ニ至ルモ容易ニ之ヲ知ルコトヲ得ヘシト雖モ共同ノ利益ハ之ヲ斷定スルコト難ク後日ニ爭ヲ生スルコト多カルヘキコト是ナリ故ニ本條ハ此主義ヲ取ラス又英法ノ如キハ故意ノ行爲ト船舶又ハ積荷ノ保存トニ付必スシモ因果ノ關係アルコトヲ要セスト爲シ事實ノ認定ニハ大ニ簡便ヲ得タリト雖モ固ト共同海損負擔ノ法理タル不當利得ノ原則ヨリ胚胎シ故意ノ行爲ト船舶又ハ積荷ノ保存トノ間因果ノ關係アリテ始メテ此原則ヲ適用シ得ヘキモノナルカ故ニ英法ノ主義ハ理論ニ適ハス故ニ本條ハ大陸法並ニ旣成商法ノ採ル所ニ倣ヒ英法ノ主義ヲ採ラス又故意ノ行爲ト保存トニ付因果ノ關係アルコトヲ要スト爲ス主義ノ中ニ在リテモ獨商法又ハ旣成商法ノ如キハ船舶ト積荷トカ二者共ニ全部若クハ一部必ス保存セラルルコトヲ必要トスト爲セリト雖モ是レ共同ノ文字ニ拘泥シタル弊ニシテ船舶ノミ保存セラレタルト積荷ノミ保存セラレタルト將タ二者共ニ保存セラレタルト毫モ選フ所ナキカ故ニ本條ハ又此主義ヲ採ラサリキ
二、旣成商法ニハ共同海損ノ各場合ヲ列擧セリ外國ノ立法例ニモ之ヲ列擧セルモノ多シ然レトモ之ヲ列擧スルコトハ啻ニ容易ノ業ニアラサルノミナラス妄リニ外國ノ立法例ニ模倣シテ之ヲ規定セハ或ハ脫漏ヲ生シ或ハ實際ニ適セサルニ至ルコトナキヲ保シ難シ旣成商法ノ如キハ卽チ其弊ニ陷ルモノノ如シ是レ本案ニ於テハ此例ニ倣ハサリシ所以ナリ
三、旣成商法第九百三十一條ニ云フ所ハ共同海損ヲ行フニ就テノ絕對ノ條件タルナラハ實際ニ行ハレス唯同條カ明言スル如ク「成ル可ク」之カ條件ヲ充スコトヲ要スルモノタラハ之ヲ規定スルノ必要ナシ故ニ本案ハ之ヲ削除セリ又同第九百三十四條ハ其規定ノ實質ハ必要ナル所ナリト雖モ共同海損ノ計算ニ付テハ唯此一個條ノミヲ以テ足ルモノニアラサルカ故ニ之ヲ他ノ特別法ニ讓レリ
第六百三十九條
(理由)一、船舶、積荷及運送賃ノ利害關係人カ共同海損ヲ分擔スル割合ヲ定ムルニ就テハ三主義アリ曰ク船舶又ハ積荷ノ價額ト運送賃トノ割合ニ應シテ之ヲ定ム但シ運送賃ニ付テハ航海ノ費用ヲ除去スルコトヲ要ス曰ク船舶ノ價格ノ半額又ハ積荷ノ價格ト運送賃ノ半額トノ割合ニ應シテ之ヲ定ム曰ク船舶又ハ積荷ノ價格ト運送賃ト半額トノ割合ニ應シテ之ヲ定ムト是ナリ第一ノ主義ハ理論ニハ最モ適スト雖モ航海ノ實費ヲ算定スルコト頗ル難キカ故ニ本條ニハ之ヲ採ラス又第二ノ主義ハ佛法並ニ旣成商法ノ採用セシ所ナリト雖モ是レ最モ理論ニ適ハス何トナレハ船舶所有者ノ負擔ノ割合ヲ到達港ニ於ケル船舶ノ價額ノ半額トナセルハ毫モ其理由ヲ見出スコトヲ得サレハナリ蓋シ佛國ノ千六百八十一年ノ勅令ニ於テハ發航港ニ於ケル船舶ノ價格ノ半額ニ依ルモノト爲シ航海ノ終リニ於テ其價格半減スルモノト見タルハ其計算頗ル粗雜ナリト雖モ稍理由アリ然ルニ佛ノ現行法並ニ旣成商法カ漫リニ之ヲ襲ヒ到達港ニ於ケル船舶ノ價格ノ半額ニ依ルモノト爲セルカ故ニ全ク理由ナキ規定ニ化シタルモノト云フヘキナリ然ルニ第三ノ主義ハ航海ノ費用ヲ運送賃ノ半額ト看做シ運送賃ノ半額ト船舶並ニ積荷ノ價格トノ割合ニ應シテ負擔額ヲ定ムルト爲セルカ故ニ實際ニ便ニシテ又理論ニ適ヘリ仍テ本條ニ於テハ之ヲ採用セリ
二、本條ニ於テ共同海損タル損害ヲ受ケタル者モ亦該海損ヲ分擔セサルヘカラスト爲シタル規定ノ主意ハ旣成商法ノ認ムル所ナルヤ否ヤハ法文上ハ漠然タリ理由書ニ依レハ之ヲ認メサルカ如シ羅馬法モ亦然リ然レトモ羅馬法ノ主義ノ不可ナルコトハ學者ノ一般ニ認ムル所ナリ蓋シ共同海損タル損害ヲ受ケタル者カ自ラ亦海損ヲ負擔セサルヘカラサル所以ハ若シ他ノ利害關係人ノミニ之ヲ負擔セシムレハ自己ノ船舶又ハ積荷ヲ海損ニ供シタル者ハ共同ノ危險ニ際シ損失ヲ被ルノ虞ナクシテ却テ利益ヲ取得スルノ實アレハナリ但其負擔ノ割合ニ付テハ佛主義ト獨主義トノ二主義アリ佛主義ハ船舶ニ付テハ到達ノ地及ヒ時ニ於ケル價格、積荷ニ付テハ陸揚ノ地及ヒ時ニ於ケル價格ノ割合ニ應シテ之ヲ負擔セシメ獨主義ハ卽チ本條採ル所ノ如ク共同海損タル實際ノ損害額ニヨリ之ヲ負擔セシム蓋シ佛主義ハ船舶又ハ積荷カ到達港又ハ陸揚港ニ到着スヘキコトヲ豫想シ之ニ依リテ價格ヲ算定スト雖モ果シテ到着スルヤ否ヤハ之ヲ必期スルコトヲ得スシテ畢竟架空ノ計算タルヲ免レス且ツ此主義ヲ採ルトスルモ積荷ニ付テハ其價格中ヨリ喪失ノ爲メニ支出スルコトヲ要セサル費用及ヒ支拂フコトヲ要セサル運送賃ヲ控除スルノ必要アルナリ故ニ佛主義ハ缺點アルヲ免ス反之獨主義ハ事實ニ表ハレタル損害ノ割合ニ應シテ海損ヲ分擔セシムルモノニシテ其損害タルヤ船舶又ハ積荷ヲ保存スルコトヲ得タル原因ナルカ故ニ獨リ理論ニ適スルノミナラス又實際ノ算定ニ便ナリ故ニ本案ニ於テハ此主義ヲ採用セリ
第六百四十條
(理由)本條ハ前條ニ定メタル海損ノ分擔額ヲ定ムルニ付船舶及ヒ積荷ノ價格ハ如何ニ之ヲ定ムヘキヤヲ規定セリ卽チ積荷ハ必スシモ到達港ニ於テ陸揚スルモノニアラサルカ故ニ船舶ノ價格ト積荷ノ價格トニ付分チテ之ヲ規定セリ旣成商法第九百三十二條モ亦略ホ之ヲ規定セリト雖モ本案ノ如キ但書ヲ設ケサリシハ蓋シ缺點ナリト云フヘシ凡ソ積荷ノ陸揚ノ地及時ニ於ケル價格タルヤ通常ハ其原價、船積ノ費用、運送賃、陸揚ノ費用、關稅其他ノ雜費及經濟上ノ相當ノ利益等ニヨリ構成セラルルモノナリ故ニ若シ危險ノ爲メニ喪失セハ運送賃又ハ陸揚ノ費用ハ之ヲ支拂フコトヲ要セサルモノナリ然ルニ積荷ニ付其支出スルコトヲ要セサル費用又ハ支拂フコトヲ要セサル運送賃ヲモ尙ホ合算シテ成レル陸揚ノ地及時ニ於ケル價格ニヨリテ積荷所有者ノ分擔額ヲ定ムルトキハ積荷ノ所有者ハ海損ニ依リテ利得ヲナセル程度ヲ超ヘテ海損ヲ負擔セサルヘカラサルニ至リ不公平ナル結果ヲ生スルコトヲ免レス是レ外國ノ立法例ニ倣ヒ本條但書ヲ設ケタル所以ナリ
第六百四十一條
(理由)本條ハ旣成商法ニハ明カニ定メラレサル規定ナリト雖モ共同海損ノ負擔額ハ學者ノ所謂海產ヲ限度トナスコトハ學說ノ一致スル所ナリ卽チ本條ハ其主意ヲ明ニセルナリ唯外國ノ立法例中物カ海損ヲ負擔スルカ如ク規定スルモノアリト雖モ物カ負擔スルニアラスシテ人カ負擔スルモノナルコトハ最モ明ナル所ナルカ故ニ本條ハ其例ニ倣ハスシテ人カ負擔スヘキ旨ヲ明ニセリ
第六百四十二條
(理由)本條ハ旣成商法第九百三十五條ニ該當シ主意モ亦同一ナリ唯修正セル點ハ船員ノ所持品及ヒ旅客ノ旅荷物ヲ改メテ單ニ衣類ト爲セルコト是ナリ蓋シ是ヲ改メタル所以ハ所持品又ハ旅荷物中ニモ高價ノ物品ヲ包含シ高價ノ物品ニシテ海損ヲ負擔セサルニ至ルノ虞アレハナリ
第六百四十三條
(理由)本條ハ旣成商法第九百三十六條第二項及ヒ第三項ト同一ニシテ唯字句ノ修正ヲ爲シタルノミ規定ノ主意ハ諸國ノ立法例並ニ國際會議ノ決議等ノ皆認ムル所ニシテ殊ニ第二項ニ至テハ諸國ノ慣習ノ皆能ク一致スル所ナリ
第六百四十四條
(理由)本條第一項ハ旣成商法第九百三十六條第一項ニ該當ス唯同條ニハ本條ノ但書ヲ見サルナリ然レトモ但書ヲ必要トスル所以ハ固ト陸揚地ニ於ケル積荷ノ價格ハ通常ハ其原價、運送賃、陸揚費關稅其他ノ雜費及ヒ經濟上ノ相當ノ利益等ニヨリテ構成セラルルモノナリ故ニ滅失又ハ毀損ノ爲メ支拂フコトヲ要セサル一切ノ費用ヲ控除セス總テ之ヲ海損額トシテ賠償ヲ受ケハ實際ノ損害額以上ノ賠償ヲ受クルニ至ルヘケレハナリ但運送賃ハ海損ノ場合ニ於テモ常ニ支拂フコトヲ要スト爲セルカ故ニ之ヲ控除スルコトヲ要セサルナリ
第二項ハ旣成商法ニハ見サル所ナリト雖モ積荷カ若シ高價品タル場合ニ於テ其種類及ヒ價格ヲ船長ニ明吿セスシテ之ヲ船積シ船長カ之ヲ海損ノ用ニ供シタルトキニ當リ之カ價額ヲ賠償セサルヘカラサルニ於テハ船舶所有者又ハ他ノ利害關係人ニ對シテ酷ナリト云フヘシ何トナレハ若シ之ヲ明吿シタルトキハ船長ハ之ヲ處分スルニ當リ斟酌ヲ爲スコトヲ得レハナリ仍テ本項ニ於テ陸上ノ高價品ノ運送ニ關スル第三百三十七條ノ規定ヲ準用セリ
第六百四十五條
(理由)本條ハ旣成商法第九百三十六條第一項ノ末段ト略ホ同一ナリ唯其足ラサル所ヲ補ヒシノミ規定ノ理由ハ一言ニシテ之ヲ盡セハ詐欺ノ制裁ナリト謂フヘシ
第六百四十六條
(理由)本條ハ旣成商法第九百三十九條ト略ホ同一ナリ然レトモ同條ハ唯投貨ニ付テノミ之ヲ規定セリ獨逸商法ノ如キハ特別ノ理由ノ存スルアリテ船舶ノ一部若クハ屬具ヲ海損ニ供シタルハ之ヲ共同海損トナサスト雖モ本案ニ於テハ決シテ其主義ヲ採ラス共同海損ノ爲メニハ船舶ノ全部若クハ一部又ハ屬具ヲ處分スルコト之アルヘキカ故ニ廣ク船舶又ハ其屬具ニ付テモ之ヲ規定スルノ必要アリタルナリ
第六百四十七條
(理由)本條ハ旣成商法第九百四十二條ニ該當シ船舶ノ衝突ニ由ル損害ノ負擔ニ關スル規定ナリ衝突カ不可抗力ニ基クトキハ船舶所有者カ各自其船舶ニ受ケタル損害ヲ負擔スヘク又衝突カ孰レカ一方ノ過失ニ出テシトキハ其過失者カ損害ヲ總テ負擔スヘク又過失カ双方ニアリテ其輕重ヲ判定シ得ヘキトキハ其輕重ニ依リ双方カ損害ヲ負擔スヘキコトハ民法ノ不法行爲ノ原則ヨリ明ナリ唯過失カ双方ニ在リテ其輕重ヲ判定スルコト能ハサル場合ハ商法中ニ特別規定ヲ置ク必要アルナリ而シテ衝突ニ由ル損害ヲ一個ノモノト見ルトキハ過失者カ之ヲ分擔スルニ當リ其過失ノ輕重分明ナラサルトキハ其過失ヲ同等ナリト看做シ其損害ヲ平分シテ負擔スヘキコトハ純理上之ヲ最モ至當ト爲スナリ是レ旣成商法第九百四十二條第二項ニ所謂公平ナル酌量ニ從ヒテ割賦ヲ爲スト云フヲ改メテ之ヲ本條ノ如ク規定セル所以ナリ
又旣成商法ハ同條ニ於テ損害ヲ生セル理由カ不可抗力ニ出テシヤ將タ過失ニ出テシヤ判定シ得ヘカラサル場合ニ付公平ナル酌量ニ從ヒ損害ノ割賦ヲ爲スト規定セリト雖モ損害ノ事由カ孰レニ原因スルヤ知ルヘカラサルトキニ當リ酌量ニ從ヒ損害ノ割賦ヲ爲スコトハ極メテ漠然タリト謂フヘシ又此場合ニ於テ平分シテ損害ヲ負擔スヘシトナサハ事實ノ探究ヲ粗ニシ弊害ヲ生スルコトヲ免レス故ニ此場合ハ全ク事實問題ニ一任スルコトトナシ獨蘭等ノ例ニ倣ヒ之ニ付テ寧ロ規定ヲ設ケサルコトト爲セリ
第六百四十八條
(理由)時效ノ期間ヲ一年ト爲セル點ハ旣成商法第九百七十六條ニ採リタルナリ但共同海損ニ付テハ其計算ノ手續ハ別法特ニ於テ詳細ニ規定セラルヘシト雖モ其計算ハ之ヲ終了スルニハ多少ノ時間ヲ要スヘク殊ニ長キ航海ノ終リニ於テ計算ヲ爲ス場合ノ如キ航海中ニ一年ノ期間ヲ經過スルコトアルモ知ルヘカラス故ニ計算終了ノ時ヨリ時效ノ期間ヲ起算スルモノト爲セリ
第六百四十九條
(理由)本條ハ旣成商法第九百十條ト全ク其主意ヲ同クス故ニ敢テ說明ヲ加ヘス
第五章 保險
(理由)本章ハ旣成商法第二編第八章ニ該當ス同章ハ之ヲ三節ニ分チ第一節保險契約ノ取結第二節保險者及ヒ被保險者ノ權利義務第三節委棄ト題セリト雖モ此三節中ノ規定ハ互ニ相牽聯スルノミナラス本案第三編第十章第一節第一款ノ規定ハ本章ニ別段ノ定メナクンハ海上保險契約ニ之ヲ適用スルカ故ニ其以外ノ規定ヲ以テ旣成商法ノ如ク節目ヲ分チテ之ヲ規定スルコト頗ル困難ナリ仍テ本案ニ於テハ之カ節目カ分タス
次ニ旣成商法ノ規定中之ヲ削除セル主ナル規定ニ付一括シテ其削除ノ理由ヲ說明スレハ左ノ如シ
第九百五十七條及第九百五十九條第二項ハ之ヲ削除セリ蓋シ戰爭及其他ノ國ノ處分ニ出ル危險ヨリ生シタル損害ト雖モ本案ニ於テハ保險者カ之ヲ負擔シタルモノトナシタレハナリ第九百五十七條第二項ハ特ニ不可ナル規定ナリ何トナレハ發航ヨリ戰爭其他ノ處分ニ因ル危險ノ發生スルニ至ルマテノ間ハ旣ニ契約ニ定メタル危險ヲ生シ之ニ對スル保險料ハ之ヲ支拂ハサルヘカラサレハナリ
旣成商法第九百六十一條ハ本案第四百十五條ノ規定ニ依リ間接ニ明瞭ナルカ故ニ之ヲ削除セリ
旣成商法第九百六十三條ヲ削除セル所以ハ同條ハ保險價額ノ問題ニ關シ運送賃ハ總額ヲ保險シ得ルモノニシテ本案ハ特ニ之ヲ規定シ置クノ必要ナシト信シタルカ故ナリ又旣成商法第九百六十四條ハ獨リ海上保險ニ付テノミ必要ニアラス陸上運送ニ付テモ亦必要ナル所ナリ規定ノ實質ニ至テハ多クハ契約又ハ慣習ニ依テ定メラレヘク又海上保險ノ發達スルニ至レハ其定ムル所ハ適用ヲ見サルヘキカ故ニ茲ニ之ヲ規定セス
又旣成商法第九百四十四條ハ海損ノ章下ニ規定セリト雖モ是レ保險ニ關スル規定ナルカ故ニ之ヲ本章ノ下ニ移セリ而シテ旣成商法第九百四十五條ハ之ヲ削除セリ蓋シ共同海損ノ責ニ任セサル旨ヲ保險證券ニ記載スルカ如キハ今日外國ニ於テ殆ント其例ヲ見サル所ニシテ同條ノ如キハ今日大ニ學者ノ非難スル所ナレハナリ
第六百五十條
(理由)本條ハ主トシテ旣成商法第九百五十三條ニ該當ス同條ハ被保險利益ヲ例示セリト雖モ本條ハ航海ニ關スル事故ニ由リテ生スルコトアルヘキ損害ト云ヒテ最モ廣汎ニ之ヲ規定シ同條例示ノ場合ノ如キハ總テ之ヲ包含スルコトト爲セリ蓋シ古代ニ在リテハ保險ハ危險ニ因リテ損害ニ遭遇セサル以前ノ位置ニ恢復セシムルヲ以テ其主義ト爲シタルカ故ニ例ヘハ運送賃又ハ希望利益ノ如キハ之ヲ保險ニ附スルコトヲ得スト明言スルノ必要アリタリ例ヘハ千八百八十五年以前ノ佛國ノ法律ノ如キ是ナリ然ルニ今日ニ在リテハ海上保險契約ハ航海ヲ終リシナラハ之アリシナラント察セラルル位置ニ恢復セシムルヲ以テ目的ト爲スヲ通說トス仍テ本案ニ於テハ其主義ヲ採リ運送賃ノ如キ將タ希望ノ利益ノ如キ皆被保險利益タルコトヲ得ルモノト爲セリ
旣成商法第九百五十三條第三項ハ之ヲ削除セリ蓋シ同項ノ意モ給料及ヒ報酬ハ船舶所有者カ之ヲ保險ニ付スルコトヲ得サルニアラス船長又ハ其他ノ船員カ保險スルコトヲ得サルノ意ナリ而シテ其規定ノ理由ハ船員ハ遭難ノ際ニ於テ畢生ノ力ヲ盡ササルヘカラサルニ若シ給料ヲ保險ニ附シテ保險金ヲ受領スルコトヲ得ハ其盡力ニ熱心ノ度ヲ滅殺スヘキカ故ナリ然レトモ船員ノ給料ニ付テハ海產ノミナラス陸產ニ付テモ其責ヲ負ヒ船舶カ不可抗力ニ依リテ沈沒スルモ將タ之ヲ保險者ニ委付スルコトアルモ雇傭契約終了ニ至ルマテハ之ヲ支拂フモノト爲セルカ故ニ遭難ノ際ニ於ケル盡力ニ付キ熱心ノ度ヲ滅殺スルコトハ蓋シ之レナカルヘシ是レ同項ヲ削除シタル所以ナリ
第六百五十一條
(理由)本條ハ旣成商法第九百五十九條ニ該當ス旣成商法ハ保險者カ如何ナル原因ヨリ生セル損害ハ之ヲ負擔セサルヤ其範圍不明ナリト雖モ本案ニ在リテハ特ニ明記セリ卽チ第六百四十六條ノ如キ是ナリ故ニ特ニ明記シテ例外ト爲セルモノノ外ハ本條ニ依リ一切ノ損害ヲ負擔スヘキナリ例ヘハ旣成商法第九百五十九條ニ列擧セル損害ノ如キ又ハ戰爭其他總テ國ノ處分ヨリ生スル損害ノ如キ又ハ船長ノ惡行ヨリ生スル損害ノ如キ皆是ナリ
第六百五十二條
(理由)本條ハ之ヲ海損ノ章下ニ規定セスシテ保險者ノ責任ニ付キ之ヲ規定スルヲ以テ其例多シトス故ニ本案モ亦其方法ヲ採レリ荷物又ハ船舶ニ付キ共同海損ノ爲メニ船長ノ故意ニ依リ直接ニ損害ヲ生シタルトキハ保險者ハ其損害ヲ塡補セサルヘカラサルハ勿論ナリト雖モ他ノ荷物又ハ船舶カ直接ノ損害ヲ受ケテ被保險者ノ荷物又ハ船舶ハ唯海損ヲ分擔スルニ過キサル場合ノ如キハ果シテ前條中ニ包含セラルルヤ疑ナキ能ハス是レ本條ハ設ケタル所以ナリ而シテ但書ハ保險價格ノ一部ヲ保險ニ付シタル場合ニ於ケル保險者ノ塡補額ヲ如何ニ定ムヘキヤヲ規定セルナリ
第六百五十三條
(理由)本條ハ旣成商法第九百五十四條ニ該當シ修正セシ所二點アリ第一點ハ危險ノ始マル時ト云フヲ改メテ保險者ノ責任カ始マル時ト爲セシコト是ナリ蓋シ危險ノ始マルトキハ卽チ保險者ノ責任ノ始マルヲ通例ト爲スト雖モ亦然ラサルコト之アルヘキカ故ニ寧ロ右ノ如ク改ムルヲ以テ理論ニ適セリト信スレハナリ而シテ本條採ル所ノ主義ハ保險ノ總則卽チ第三百九十二條ニ採ル所ノ主義トハ之ヲ異ニセリト雖モ海上保險ニ付テハ船舶カ損害ニ遭遇セスシテ到達セハ得ラルヘキ價額ナルモノハ想像價ニ過キスシテ能ク實際ノ價ヲ知ルコト難シ故ニ寧ロ爭ノ種ヲ杜絕スル爲メニ保險者ノ責任ノ始マル時ノ價額ヲ以テ保險價額ト爲シタルナリ
第二點ハ危險ノ始マル地ト云フコトヲ削除シタルコト是ナリ蓋シ船舶ハ荷物ト異ナリ賣却スルコトヲ目的トセスシテ之ヲ使用シテ運送賃ヲ取得スルコトヲ目的トス故ニ常ニ保險者ノ責任ノ始マル地ニ於ケル價額ニ依ルトセハ不公平ナルコトナキヲ保セス仍テ天下ノ公價ニ依リテ之ヲ定ムルコトトナセリ
第六百五十四條
(理由)船舶ノ保險ニ付テ保險價額ヲ定ムル標準旣ニ前條ニテ規定セル以上ハ積荷ノ保險ニ付テモ亦保險價額ヲ定ムル標準ヲ設クルコトハ至當ナリトス而シテ之ヲ定ムルニ付テ外國ノ立法例中二樣ノ標準ヲ定ムルカ如キ例無キニアラス是レ爭ヒヲ絕ツ爲メニ設クル規定ニシテ却テ疑ノ種ヲ蒔クニ均シキカ故ニ本案ハ之ヲ採ラスシテ一定ノ標準ヲ定メタルナリ卽チ積荷ニ付テハ果シテ損失ヲ被ムラスシテ到達港ニ達スルコトヲ得ルヤ否ヤモ未定ニ屬シ又到達スルトスルモ其時ノ價額ハ何程ナリヤ是レ亦未定ニ屬ス故ニ到底陸揚ノ地及ヒ時ニ於ケル價格ニ依ルコトヲ得ス仍テ便宜規定トシテ船積ノ地及ヒ時ニ於ケル價額ニ依ルモノトセリ而シテ關稅ノ如キ又ハ保險契約ヲ結フニ付仲立人ヲ用ヒ之ニ支拂ヒタル報酬ノ如キモ保險ニ關スル費用中ニ包含セラルルコトハ文字ノ明ニ示ス所ナリ
第六百五十五條
(理由)本法ハ陸上ノ運送保險ニ關スル第四百二十三條第二項ト其規定ノ主意ヲ同フス抑モ利益ヲ保險ニ附シ得ルコトハ今日一般ニ認メラルル所ニシテ本案ニ於テハ被保險價格ヲ列擧スルノ主義ヲ採ラサリシト雖モ利益カ一ノ被保險價格タリ得ルコトハ本條ノ明カニ認ムル所ナリ而シテ利益ハ不定ノモノナルカ故ニ荷物又ハ船舶ノ如ク保險價格ヲ定ムニ付テ一定ノ標準ヲ設クルコト難シトス然レトモ實際上ニ於テハ利益ノ保險ニ付テハ保險價額ハ保險金額ト同一ナルヲ通例トス仍テ本條ニ於テ之カ推定ヲ設ケタルナリ而シテ反對證據ノ出ルトキハ第三百八十五條ノ適用ヲ受クルコト之レアルヘク若又反對ノ證據出ルコトナクシテ本條ノ適用ヲ受クルコトコレアルモ本條ハ固ト契約上保險金額ヲ以テ保險價額トシタルモノト推定スルモノナルカ故ニ又第三百九十三條ノ適用ヲ受クルコト之アルヘキハ勿論ナリ
第六百五十六條
(理由)本條ハ旣成商法第九百五十五條ニ該當シ規定ノ主意モ亦異ナルコトナシ唯本條ハ場合ヲ別チテ之ヲ詳細ニ規定セルノミ又旣成商法ノ但書ヲ削除セシ所以ハ固ヨリ言ヲ俟タサルコトト信シタルカ故ナリ
第六百五十七條
(理由)本條ニ該當スル規定ハ旣成商法ニ存セサル所ナリト雖モ旣ニ前條ニ於テ船舶ヲ保險ニ付シタル場合ニ付テ保險者ノ責任ノ始期及ヒ終期ヲ規定シタル以上ハ荷物又ハ荷物ノ到達ニ由リテ得ヘキ利益若クハ報酬ヲ保險ニ付シタル場合ニ付テ之ヲ規定スルハ固ヨリ衡平ヲ得タリト云フヘシ而シテ此場合ニ於テ保險者ノ責任ノ始期及ヒ終期ヲ定ムルニ付テハ前條ノ場合ト同シク外國ノ立法例區區タリト雖モ理論上ヨリ言ヘハ荷物ニ對スル海上ノ危險ハ陸地ヲ離レタル時ヲ以テ始マリ其陸揚カ終了シタル時ヲ以テ終ルコトハ爭フヘカラサル事實ナルカ故ニ保險者ノ責任モ亦之ニ伴隨スルモノトナスハ頗ル至當ノ事ト云フヘシ而シテ第二項ハ船長又ハ船舶所有者等ノ過失ノ爲メニ陸揚カ遲延セラレ其遲延セシ期間內モ尙ホ保險者ハ責任ヲ負ハサルヘカラサルハ不當ノ甚シキモノナルカ故ニ茲ニ之ヲ加ヘタルナリ
第六百五十八條
(理由)本條ハ海上保險證券ノ記載事項ニ付キ規定ヲ設ケタルナリ本案ニ於テハ第四百二條第二項ニ於テ保險證券記載事項ノ總則ヲ規定シ第四百二十一條ニ於テ火災保險ニ付テ特別規定ヲ設ケ又第四百二十四條ニ於テ陸上ノ運送保險ニ付テ特別規定ヲ設ケタリ從ツテ海上保險ニ付テモ亦茲ニ特別規定ヲ設クルハ蓋シ權衡ヲ得タリト云フヘシ外國法中殊ニ佛法ノ如キ保險ノ總則ノ設ナキモノハ保險證券記載事項ニ關シ海上保險ニ付テ却テ詳ニ之ヲ規定セリ又保險ノ總則ノ設アルモノハ海上保險ニ付テハ特別規定ヲ設クルノミ本案ハ卽チ此主義ヲ採レリ而シテ記載事項ノ事質ニ付テハ外國多數ノ立法例ニ倣ヒ保險契約ニ影響スルコト重大ナルモノノミヲ揭クルコトトナセリ
第六百五十九條
(理由)旣成商法第九百五十九條ハ航海、航路及ヒ船舶ノ變更アリシ場合ニ付キ保險者ノ責任ヲ槪括的ニ規定シタリト雖モ往往ニシテ疑ヲ生スルノ嫌ヒアルカ故ニ本案ニ於テハ本條以下四個條ニ於テ之ヲ分チテ規定セリ而シテ本條ハ卽チ航海ノ變更ニ關セリ第一項ハ保險者ノ責任ノ始マル前ノ場合ニシテ航海變更ノ原因如何ヲ問ハサルナリ第二項ハ保險者ノ責任カ始マリタル後ノ場合ニシテ航海變更ノ原因ヲ區別シ保險者ノ責任ノ繼續スル場合ト否トヲ定メタリ蓋シ保險者ノ責任ノ始マル前ニ在リテハ船舶ハ發航港ニ在ルカ故ニ縱令航海ノ變更ハ不可抗力ニ因リタリトスルモ保險者ノ義務ヲ繼續セシムルノ必要ナキナリ然レトモ保險者ノ責任ノ始マリタル後航海ノ變更アルトキハ其船舶ハ到達港以外ノ港ヘ航行セサルヘカラサルノ必要アルヘキカ故ニ若シ其航海變更ノ原因ニシテ保險契約者又ハ被保險者ノ責ニ歸スヘカラサル事由ニ依リタルトキハ保險者ノ責任ハ依然繼續ストナスヘキナリ
第三項ハ航海變更ノ決心ヲ爲シ之カ實行ニ着手シタル場合ニシテ未タ保險シタル航路ヲ離レサルトキト雖モ旣ニ危險ノ生スル基礎ニ變動アリテ危險ノ性質ヲ變更セリト云フコトヲ得ヘキカ故ニ保險者ハ其責任ヲ免ルト爲スハ至當ト云フヘシ且ツ此點ニ付テハ英獨ノ立法例並ニ佛國學者ノ說モ皆一致スル所ニシテ殆ント學者ノ定論タリ仍テ茲ニ之ヲ採用セリ
第六百六十條
(理由)本條ハ主トシテ航路ノ變更ニ關セリ蓋シ保險者ハ時又ハ路ヲ基礎トシテ保險料ノ割合ヲ定ムルモノナルカ故ニ妄リニ航海ヲ遲延シ航路ヲ變更セシトキノ如キハ爾後ノ事故ヨリ生シタル損害ニ付キ責任ヲ負ハスト爲スハ當然ノ事ト謂フヘシ然レトモ航路ノ變更ハ航海ノ變更ト異ナリ多少ハ常ニ起ルモノト見ルハ至當ナルカ故ニ之ニ因リテ著シク危險ヲ變更若クハ增加セシトキノミニ限リ保險者ハ責任ヲ免ルルコトトナセリ又其變更若クハ增加アリトスルモ爾後ノ事故ノ發生ニ影響ヲ及ホササリシトキ又ハ保險者ノ負擔ニ歸スヘキ不可抗力若クハ正當ノ理由ニ因リテ生シタルトキハ保險者尙ホ責任アリト爲セル所以ハ是亦航路ノ變更ヲ航海ノ變更ヨリモ輕ク視タル結果ニシテ若シ此場合ニ保險者責任ナシトセハ被保險者ニ對シテ酷ナル結果ヲ生スレハナリ
第六百六十一條
(理由)本條ハ船長ノ變更ニ關セリ蓋シ保險契約ハ船體ニ重キヲ置クモノニ非ス故ニ船長ノ變更ハ契約ノ效力ニ影響ヲ及ホサストナスハ諸國ノ立法例ノ能ク一致スル所ナリ本條モ亦其主意ニ基ク
第六百六十二條
(理由)本條ハ船舶ノ變更ニ關セリ蓋シ積荷ヲ保險ニ付シタル場合ニ於テ其積荷ノ危險ノ程度ハ船舶ノ階級ニ依リテ異ナレリ故ニ船舶ノ變更アリタル場合ニハ保險者其責任ヲ免ルト爲スハ至當ト云フヘシ然レトモ其變更ニシテ保險契約者又ハ被保險者ノ責ニ歸スヘカラサル事由ニ依リタルモノナルトキハ契約當然ノ效力トシテ保險者ノ責任ハ依然繼續スルモノトナスハ是亦至當ト云フヘシ
第六百六十三條
(理由)本條第一項ノ設アル所以ハ保險者ハ孰レノ船舶ニ其保險シタル荷物ヲ船積シタルヤ否ヤヲ知ルコトハ頗ル必要ニシテ或ハ同一船舶ニ自己ノ保險シタル荷物ノ積量夥多ナルトキハ一朝危難ニ遭遇セシ場合ノ損害多キヲ慮リ再保險ニ付スルノ必要アルコトモアルヘク或ハ一人ノ荷物ヲ數船ニ分チ船積セシ場合ノ如キ單ニ其荷物ノ記號若クハ番號等ノミニテハ之ヲ識別スルコトヲ得サルコトアレハナリ而シテ第二項ハ畢竟保險契約者又ハ被保險者ヲシテ第一項ノ義務ヲ盡サシムルタメノ制裁規定ニ外ナラス
第六百六十四條
(理由)本條ハ旣成商法第九百四十一條並ニ第九百六十條ニ對スル修正ニシテ保險者ノ負擔セサル損害又ハ費用ヲ列擧セルモノナリ蓋シ本條ヲ設クル必要アル所以ハ本案第六百五十一條ニ於テ保險者ハ保險ノ目的ニ付キ航海ニ關スル事故ニ依リテ生シタル一切ノ損害ヲ塡補スト規定シタルカ故ニ若シ塡補セサル損害又ハ費用アルナラハ之ヲ明示スルノ必要アレハナリ而シテ本條第一號ハ第三百九十五條ト全ク規定ノ主意ヲ同フス唯重復シテ茲ニ之ヲ揭ケサルヘカラサルニ至リタル所以ハ同シク第六百五十一條ニ於テ槪括的ノ規定ヲ設ケタルカ故ナリ第二號ヲ加ヘタル所以ハ船舶カ安全ニ航海ヲ爲スニ必要ナル準備ヲ爲シ又ハ必要ナル書類ヲ備フルコトハ船舶所有者カ擔保スル所ナルカ故ニ若シ之ヲ缺キテ損害ヲ生スルコトアルモ保險者カ之ヲ塡補セサルコトハ勿論ナレハナリ第三號ニ付テハ殆ント說明ヲ要セス第四號列記ノ費用ハ學者ノ所謂小海損ナルモノニシテ旣成商法ニハ第九百四十一條ニ於テ海損ノ章下ニ之ヲ規定セリト雖モ小海損ハ固ト海損ニアラス航海ノ費用ニ過キサルカ故ニ船舶所有者カ負擔スルコトハ最モ明白ナリ仍テ船舶所有者ト傭船者又ハ荷送人ノ關係ニ付テハ之ヲ規定セスシテ唯稍疑アル保險者ト船舶所有者間ノ關係ニ付テノミ茲ニ之ヲ規定セルナリ
第六百六十五條
(理由)本條ハ旣成商法第九百四十四條ニ該當ス同條ニハ共同海損ト單獨海損トノ二個ノ場合ニ付キ共ニ之ヲ規定セリト雖モ本條ハ獨リ單獨海損ニ付テノミ規定セリ蓋シ單獨海損ニ付キ本條ヲ設クル必要アル同一ノ理由ハ以テ共同海損ノ場合ニ之ヲ規定スヘカラサル理由トナレハナリ純理ヨリ云フトキハ凡ソ保險者ノ負擔スヘキ損害又ハ費用ハ如何ナル少額ト雖モ保險者ハ之ヲ支拂フノ責任アルコト論ナキ所ナリト雖モ極メテ僅少ナル損害又ハ費用マテモ之ヲ支拂ハサルヘカラサルニ於テハ之カ計算ニ關スル費用ハ却テ其塡補スヘキ額ノ上ニ出テ當事者双方ニ取リテ損失多カルヘク延ヒテ公益ニ害アルモノト云フヘシ是レ本條ノ設ケアル所以ナリ然ルニ共同海損ノ場合ニ在リテハ常ニ海損ノ額ヲ計算スルコトノ必要アルカ故ニ此場合ニ付テハ之ヲ規定スル必要アラサルナリ而シテ第一項ニ於テ旣成商法カ塡補スルコトヲ要セサル割合ヲ被保險價額ノ百分ノ一以下トナシタルヲ本條第一項ニ於テハ之ヲ改メテ百分ノ二ヲ超ヘサルトキトナシタルハ英佛獨ノ諸國ニ實際用ヒラルル保險證券ヲ見ルニ其割合ハ荷物ノ種類ニ依リテ異ナレリト雖モ多クハ百分ノ二ニテ適當ナリト認メタルカ故ニ茲ニ之ヲ採用セルナリ第二項ニ云フ所ノモノハ旣成商法ニ之ヲ見ス又理論上ハ固ヨリ疑ナキ所ナリト雖モ旣ニ第一項ヲ設ケタル以上ハ或ハ疑ヒヲ生セサルコトナキヲ保セス現ニ佛國ニ於テハ學者間ニ議論ヲ生シ獨商法ニハ本項ノ設ケアリ又海上保險ニ關スル國際會議ノ決議モ亦然リ故ニ之ヲ規定セリ又第三項ハ當事者カ契約ヲ以テ保險者ノ負擔セサル損害又ハ費用ノ割合ヲ定メタル場合ニモ同一ノ疑ヲ生スヘキニ依リ之ヲ規定シタルモノニシテ第四項ハ當事者ノ意思推測ノ規定タリ
第六百六十六條
(理由)本條ハ英ノ慣習法、獨商法又ハ英國千八百九十四年ノ海上保險法案等ニ倣ヒテ規定シタルモノナリ本案第三百九十二條ニ於テハ保險者カ塡補スヘキ損害ノ額ハ損害カ生シタル地ニ於ケル其時ノ價額ニ依リテ之ヲ定ムト規定セリト雖モ海上保險ニ付テハ然ルコトヲ得スシテ爭ノ種ヲ絕ツタメニ積荷ノ保險價額ニ付テハ特ニ之ヲ第六百五十四條ニ於テ規定セリ然レトモ海上保險ニアリテハ危害ニ遭遇セサリシナラハ有スヘカリシ價額ニ依リテ損害ノ額ヲ定メシメントスルハ頗ル至當ナルカ故ニ其目的ヲ達スルト同時ニ又實際ノ計算ノ便宜ヲ得セシムル爲メニ積荷カ毀損シナカラモ尙ホ到達シタル場合ニ於テハ其損害ノ保險價額ニ對スル割合ヲ定ムルニ付テハ毀損シタル狀況ニ於ケル價額ノ毀損セサル狀況ニ於テ有スヘカリシ價額ニ對スル割合ニ依リテ之ヲ定ムルモノトシタルナリ
第六百六十七條
(理由)本條ハ前條ノ說明的ノ規定ニシテ前條ト其主意ヲ同フスルモノナリ蓋シ航海ノ途中ニ於テ荷物ヲ賣却セシ場合ノ如キハ其賣却代價タルヤ普通ノ代價ヨリモ低廉ナルヲ常トス而シテ其低廉ナル所以ハ卽チ不可抗力ニ由リテ賣却シタル結果ナリトス從テ其損害ハ保險者ノ負擔スヘキコト勿論ナリトス而シテ第二項ニ所謂「支拂ハサルトキ」トハ故意又ハ無資力ニテ支拂ハサル場合ヲ共ニ包含スルコトハ文字ノ上ニ於テ明瞭ナリ
第六百六十八條
(理由)本條以下七個條ノ規定ハ旣成商法ノ第三節委棄ト題セル規定ノ部分ニ該當セリ本案ハ保險ノ章下ノ規定ヲ節目ニ分タサルカ故ニ茲ニ之ヲ插入セルナリ今本條ノ理由ヲ述フルニ先チテ旣成商法ノ該節下ニ規定セル個條ニシテ本案カ之ヲ削除セルモノ少カラサルカ故ニ一括シテ其削除ノ理由ヲ述フヘシ
旣成商法第九百六十七條ハ船舶カ座礁又ハ膠沙ニ罹リタル場合ニ於テ之ヲ引卸シ修繕ヲ加ヘテ航海ヲ繼續セシムルコトヲ得ヘキトキ保險者カ之ニ要スル費用ノ前貸ヲ爲シタルト否トニ依リテ委付ヲ爲スコトヲ得ルト否トヲ決セリト雖モ本案ニ於テハ本條第三號ニテ船舶カ修繕スルコト能ハサルニ至リタルトキハ常ニ委付スルコトヲ得ルノ主義ヲ採リタルカ故ニ前貸ノ有無ヲ以テ委付ノ條件トナササルナリ又船舶ヲ保險ニ附シタル場合ニ於テ座礁、膠沙ノ爲メニ生シタル費用及ヒ海損ハ保險者カ負擔スヘキコトハ當然ナリ仍テ同條ハ之ヲ削除セリ
旣成商法第九百六十八條ニ所謂船長カ積荷ヲ他ノ船舶ヲ以テ到達港ニ送達スルコトヲ得ル場合ニハ積荷ノ全部滅失ニ恰當スル委付ヲ爲スコトヲ得サルハ固ヨリ當然ノ事タルカ故ニ茲ニ之ヲ明言スルノ必要ナキモノトシテ同條モ亦之ヲ削除セリ
旣成商法第九百七十一條ハ詐欺ノ委付申込ヲ爲シタルトキハ保險契約上ノ權利ヲ失フ旨ヲ規定セリト雖モ詐欺ノ申込ヲ爲シタルカ爲メニ保險契約上ノ債權ヲ全部無效ナラシムルハ酷ナリ唯其申込ノミ無效ナラシムレハ足レリ仍テ同條モ亦之ヲ削除セリ
旣成商法第九百七十三條ニハ委付申込ノ後ト雖モ被保險者ハ被保險物ニ付キ種々ノ注意ヲ爲スノ義務アリトナセリト雖モ本案ニ於テハ被保險者ニ對スル權利ハ委付後直チニ保險者ニ歸シ保險者ハ之ニ對シテ總テノ注意ヲ爲スコトヲ得ルカ故ニ同條ヲ置クノ必要ナキモノトシテ之ヲ削除セリ
旣成商法第九百七十五條ハ一旦申込ミタル委棄ノ效力ハ後日ニ至リ船舶ノ救助又ハ歸航ニ依リテ變スルコト無シト規定セリ然レトモ本案ニ於テハ委付ノ效力ハ被保險者ノ意思表示ト共ニ直チニ決定シ被保險物ニ對スル權利ハ委付後直チニ保險者ニ歸スルモノトセルカ故ニ同條ノ如キハ當然言フヲ俟タサル規定ナルカ故ニ之ヲ削除セリ
次キニ本條ノ理由ヲ述フヘシ本條ハ旣成商法第九百六十五條ニ該當ス其修正ノ重ナル點ヲ列擧スレハ
一、同條第二項第一號中ニハ船舶カ破碎シ又ハ使用ニ堪ヘサルトキヲ以テ委付スルコトヲ得ル場合ニ算ヘタリト雖モ其破碎セル程度及使用ニ堪ヘサル程度ノ如何ヲ示ササルカ故ニ或ハ紛爭ヲ生スルコトナキ能ハス仍テ本條ハ槪括的ニ船舶カ修繕スルコト能ハサルニ至リタルトキト云ヒテ其中ニ是等ノ場合ヲ包含セシメタリ
二、又同條第二項第三號ハ之ヲ削除セリ抑モ委付ヲ許ス所以ハ其損害カ全部ノ滅失ノ場合ニ讓ラサルカ故ナリ然ルニ價額四分ノ三ノ滅失ハ全部滅失ニアラス又果シテ四分ノ三ノ滅失タルヤ否ヤ之ヲ計算スルコトモ亦頗ル難シ畢竟便宜ノ爲メニ委付ヲ許シタル精神ニ反ク故ニ之ヲ削除セリ
第六百六十九條
(理由)本條ハ旣成商法第九百六十六條ニ該當ス第六百五十條第二號ニ所謂船舶ノ行方カ知レサルトキハ恰モ人ノ失踪セル場合ト同シク何程ノ期間ヲ經過スレハ然カ云フコトヲ得ヘキヤ之ヲ定ムル必要アリ旣成商法ハ沿岸航海タルト否トニ依リ其期間ヲ異ニセリ又外國ニ於テハ場合ニ依リ細カニ其期間ヲ區別セルモノ之レアリト雖モ今日ニ於テハ世界各地ノ通信ヲ速カニスルコトヲ得ルカ故ニ六ケ月間ニ船舶ノ存否不分明ニテ經過スレハ旣ニ行方カ知レサルモノトシテ不可ナル所ナシトシテ場合ニ依リ之ヲ區別セス一般ニ之ヲ規定セリ第二項ハ保險期間ノ定メアル場合ニ於ケル疑ヲ決シタル規定ナリ此場合ニ於テ前項ノ期間內ニ保險期間カ經過スルモ委付ハ固ヨリ之ヲ許ス然レトモ保險期間內ニ生セサル滅失ハ保險者固ヨリ之ヲ賠償スルノ責任ナキカ故ニ保險期間內ニ船舶カ滅失セサリシコトノ證明ヲ擧ケタルトキハ其委付ハ無效トセルナリ
第六百七十條
(理由)前前條第三號ノ場合ニ於テ船長カ遲滯ナク他ノ船舶ヲ以テ積荷ノ運送ヲ繼續セハ被保險者ハ毫モ損害ヲ蒙ムルコトナシ然ルニ前前條第三號ノミヲ置キテ之ニ對スル例外規定ヲ設ケサルトキハ積荷ノ價額ノ下落セシトキノ如キハ委付セハ却テ利益ヲ取得スヘキカ故ニ右ノ場合ニ於テモ被保險者ハ委付ヲナスニ至ルモ知ルヘカラス是レ本條ノ設ケアル所以ナリ
第六百七十一條
(理由)本條ハ旣成商法第九百六十九條ニ該當ス夫レ委付ヲ爲シ得ル場合ニ於テ果シテ委付ヲ爲スカ又ハ單ニ損害ノ塡補ヲ請求スルニ止ルカ其關係久シク未定ニ存スルトキハ當事者ノ迷惑ハ少カラサルヘシ仍テ茲ニ委付ヲ爲スヘキ期間ヲ定メタルナリ而シテ旣成商法ノ該期間六ケ月ハ長キニ失スルカ故ニ之ヲ三ケ月ニ改メタリ又旣成商法ニハ委付ノ理由タル事實ノ發生ヲ保險者ニ通知スヘシト規定セリト雖モ此點ニ付テハ本案ハ第四百十一條ノ規定ヲ適用スルカ故ニ之ヲ以テ足レリトシ敢テ再ヒ其旨ヲ規定セス
委付ノ通知ヲ發スヘキ期間ノ起算點ハ又之ヲ規定スルノ必要アリ故ニ本條第二項ノ設アリ唯再保險ノ場合ニ付テハ旣成商法ハ之ヲ規定セサリシト雖モ是亦之ヲ規定スルノ必要アリ仍テ第三項ヲ加ヘタリ又本條ハ單ニ委付ヲ爲スヘキ期間ヲ定メタルニ過キス從テ本條ノ期間ヲ怠ルモ保險契約ヨリ生セル他ノ權利義務ニ影響ナキハ當然ナリ故ニ本條ニ該當スル旣成商法ノ第二項ハ言フヲ俟タサル所ナリトシテ之ヲ削除セリ
第六百七十二條
(理由)本條ハ旣成商法第九百六十五條第三項ニ對スル修正ナリ委付ハ被保險者ノ利益ノ爲メニ或一定ノ條件具備シタル場合ニ之ヲ爲サシムルモノニシテ一旦爲シタル委付ノ效力ハ直チニ確定シ後日又之ヲ變更スヘカラス故ニ旣成商法ノ如ク委付ハ之ヲ取消スコトヲ得スト書スルノ必要ナシ第一項ニ所謂委付ハ單純ナルコトヲ要ストハ條件付又ハ期限付ニテ委付スルコトヲ許ササルノ意ナリ若シ然ラサルニ於テハ委付ヲ許シタル主意ニ反ケハナリ
第六百七十三條
(理由)本條ハ第二百九十三條等ト其規定ノ精神ヲ同フシ畢竟委付ノ效力ヲシテ速カニ確定セシムル爲メノ便宜規定ニ外ナラス唯詐僞又ハ强迫ニ因リテ委付ノ承認アリタル場合ノ如キハ後日之ヲ證明シテ以テ承認ノ無效ヲ主張スルコトノ如キハ固ヨリ之ヲ妨ケサルナリ
第六百七十四條
(理由)本條ハ旣成商法第九百七十二條ニ該當ス同條第一項ニハ委棄シタル物ニ付テノ被保險者ノ權利ハ其委棄ノ承諾又ハ有效ナリトノ判決ニ依リテ保險者ニ移ルトナセリト雖モ本案ニ於テハ委付ハ單獨行爲ニシテ保險者ノ承諾ナクトモ直チニ效力アルモノトセリ又判決ハ委付カ效力アルヤ否ヤヲ定ムルモノニシテ判決ニ依リテ委付アルニアラス故ニ委付ニ依リテ被保險者ノ權利ハ當然保險者ニ移ルモノトセリ而シテ權利ノ移轉アリタリトスルモ之ニ關スル證書ナクンハ其權利ヲ行使スルコトヲ得サルカ故ニ被保險者ハ保險者ニ其證書ヲ交付スルコトヲ要ストナセリ
旣成商法ノ第二項ヲ削除セル所以ハ船舶又ハ荷物ヲ保險ニ附スルニ付テハ契約ノ當時ニ其價額ノ見積リヲナスヘキカ故ニ委付ニ付テ特ニ之ヲ明言スルノ必要ナキモノト認メタルカ故ナリ
第六百七十五條
(理由)本條及次條ハ旣成商法第九百七十條ニ該當ス委付ヲ許スニ付テハ保險者保護ノ爲メニ本條第一項ノ義務ヲ負ハシムルコトハ固ヨリ當然ノコトト云フヘシ而シテ第二項ハ第一項ニ對スル制裁ニシテ第三項ハ前二項ノ主意ヲ貫徹スル爲メニ之ヲ設ケタルナリ
第六百七十六條
(理由)委付ノ條件具備スルヤ否ヤハ被保險者自ラ之ヲ證明スヘキナリ然レトモ委付カ果シテ正當ナリヤ否ヤハ保險者モ亦之ヲ調査スルノ必要アリ故ニ本條第二項ノ設ケアリ而シテ旣成商法ハ第九百七十條ニ於テ委付アリタル後保險金額ノ支拂アルヘキ時期ヲ規定シタリト雖モ是レ各場合ニ於テ異ルヘク容易ニ之ヲ定ムルコトヲ得ス故ニ本案ハ其期間ニ付キ規定セス然レトモ本條第二項ハ間接ニ其期間ヲ定メ委付アリタル後妄リニ保險金額ノ支拂ヲ延引スヘカラサルモノトセリ
第六章 船舶債權者
(理由)本章ハ旣成商法第二篇第三章ニ該當ス同章ニハ普通ノ債權者ノ船舶ニ對スル請求權ニ付テモ亦之ヲ規定セリト雖モ本案ニアリテハ諸國ノ新立法例ニ倣ヒ獨リ船舶ノ上ニ物上擔保ヲ有スル先取特權者ト抵當權者トノミニ付テ之ヲ規定セリ而シテ民法ト其用語ヲ一ニシタルカ故ニ本章ニ特別規定ナキモノハ直ニ民法ノ規定カ適用セラルルナリ
旣成商法ノ船舶債權者ニ關スル規定中削除セシモノ尠ナカラス今一括シテ左ニ其削除ノ理由ヲ述フヘシ
第八百四十條ノ前段ハ單ニ船舶債權者ニ追及權アルコトヲ認メタルニ過キス然ルニ先取特權又ハ抵當權ニ追及權アルコトハ民法ノ規定ノ上ニ於テ最モ明瞭ナリ故ニ特ニ之ヲ規定スルコトヲ要セス又同條ノ後段ハ民法第三百四條及ヒ第三百七十二條ノ規定ヲ以テ足レリトスルカ故ニ之ヲ削除セリ
第八百五十六條ハ擔保ノ實行方法ニ付之ヲ規定セリト雖モ之ニ關シテハ民法ニ於テモ規定セサリシ蓋シ特別法ニ讓ル精神ナリシナリ仍テ本案ニ於テモ亦之ヲ削除セリ
第八百五十八條第一項ハ先取特權ニ付テハ民法第三百四條抵當權ニ付テハ民法第三百七十二條ノ規定ニテ明瞭ナルカ故ニ之ヲ削除セリ又同條第二項ハ海上保險契約ノ被保險利益ニ關スル規定ニシテ本案第六百五十條ノ槪括的規定中ニ包含サルルカ故ニ之ヲ削除セリ
第六百七十七條
(理由)本條ハ旣成商法第八百四十九條第一項ニ該當ス先ツ旣成商法ヲ修正シタル大體ノ點ニ付キテ之ヲ述ヘン
一、旣成商法ニハ先取特權ナル文字ヲ用ヒス故ニ如何ナル權利ナルヤ不明ナリ殊ニ同一ニ列擧セル債權中或ハ抵當權アリ或ハ普通ノ債權アルヲ見レハ悉ク先取特權ナリト謂フコト能ハサルモノノ如シ然レトモ外國ノ立法例並ニ學者ノ解釋モ多クハ之ヲ先取特權ナリト云ヒ殊ニ先取特權ナリト明言スルトキハ民法ノ該權ニ關スル規定ハ當然適用サレ頗ル立法上ノ便益アリ仍テ先取特權ヲ有スト明言セリ
二、本條ニ列擧セル債權ノ種類ハ旣成商法ト大ニ之ヲ異ニセリ旣成商法ハ一般ニ最後ノ航海ヨリ生セル債權ヲ列擧セリ然レトモ本案ニテハ航海ノ前後ヲ問ハス航海ヨリ生シタル債權ニ付キ先取特權ヲ與フヘキ理由アルモノニハ皆之ヲ與ヘタリ唯其權利ノ順位ニ至リテハ後ノ航海ヨリ生シタルモノヲ前キノ航海ヨリ生シタルモノニ先タシムルコトハ旣成商法ト異ルコトナシ
次キニ修正ノ細目ニ付キ之ヲ述ヘン
一、本案ハ諸稅ヲ後ニシ保存費ヲ先キニセリ蓋シ本條第二號ニ所謂保存費ハ最後ノ港ニ於テ生シタル債權ナルカ故ニ政府又ハ他ノ公共團體ヨリ取リ立ツル諸稅ヨリモ必要ニシテ保存費ヲ投シタレハコソ諸稅モ亦取リ立ツルコトヲ得ヘケレハナリ
二、旣成商法第五號ト第六號トノ順位ヲ顚倒シテ本條ノ第六號及第七號トナセリ蓋シ本條第六號ノ債權モ亦一種ノ保存費ニシテ之レ無クンハ船長等ノ債權モ亦之カ履行ヲ受クルコトヲ得サレハナリ
三、本條ノ第八號ハ旣成商法ノ第七號ニ該當ス同號ニ所謂修繕費ハ卽チ保存費ナル故ニ之ヲ移シテ本條ノ第二號中ニ包含セシメ又同號但書ハ規定ノ場所妥當ナラス故ニ之ヲ移シテ本案第六百八十一條第二項トナシ燃料ハ食料ト同視セサルヘカラサルカ故ニ之ヲ茲ニ加ヘタリ
四、旣成商法ノ第八號ハ之ヲ削除セリ蓋シ此等ノ債權ニ付テ先取特權ヲ與フルコトモ亦多少ノ理由ナキニアラスト雖モ此等ノ債權カ擔保ノ原因ヲナスヤ間接ナリ例ヘハ其債權ノ目的カ金錢ナレハ之ヲ利用シテ生セル結果ニシテ始メテ擔保ノ原因ヲナセハナリ殊ニ同號ノ末段ノ債權ニ付テハ債權者ト債務者ト通謀シテ往往詐僞ヲ生スルノ虞アレハナリ
五、旣成商法ノ第九號ハ又之ヲ削除セリ蓋シ特種ノ債權者ニ先取特權ヲ與ヘテ之ヲ保護スル所以ヘ之レ無クンハ以テ航海業ヲ奬勵スルコト能ハスト信シタルカ故ナリ然ルニ保險料ハ稀ニ存スルモノニシテ之カ徵收ヲ怠リシ債權者ニ却テ過失アリト云フコトヲ得ヘク從テ之カ債權者ヲ特ニ保護スル必要ナケレハナリ
六、旣成商法ノ第十號及第十一號ノ債權ハ本案ニテ共ニ船舶所有者ニ船舶運送賃等ヲ委付シテ其責ヲ免ルルコトヲ許シタル債權ニシテ之ヲ區別スル必要ナキカ故ニ合シテ之ヲ本案第九號ニ包含セシメタリ
七、旣成商法ノ第十二號ハ之ヲ移シテ本案ノ抵當權ノ規定トナシ又其第十三號ハ之ニ包含サルル債權ノ範圍啻ニ廣キニ失スルノミナラス本條ノ第八號ノ債權ノ如キモ第六百八十一條第二項ニヨリ船舶ノ發航ニ因リテ消滅スルカ故ニ之レト權衡ヲ得ル爲メニハ先取特權ヲ與フルノ必要ナキモノトシテ之ヲ削除セリ
第六百七十八條
(理由)本條ハ旣成商法第八百五十條ニ該當シ規定ノ主意モ亦同一ナリ唯旣成商法ハ主トシテ最後ノ航海ノ運送賃ニ付キテ規定セリト雖モ本案ハ先取特權ヲ生シタル航海ニ於ケル運送賃ト云ヒテ航海ノ前後ヲ問ハス一般ニ之ヲ規定セリ蓋シ前條ニ於テ旣ニ其主義ヲ取リタレハナリ
第六百七十九條
(理由)本條ハ先取特權ノ順位ヲ定メタルモノニシテ本條第一項及第二項ノ本文ハ旣成商法第八百四十九條ト異ルコトナシ唯文字ノ修正アルハ民法ノ文例ヲ襲ヒタルカ故ナリ唯右兩項ノ但書ニ付テハ旣成商法ハ第九百三十七條ニテ海損ノミニ付テ規定セリト雖モ必スシモ海損ノミノ問題ニアラスシテ第六百七十七條第四號乃至第六號トセリ而シテ此等ノ債權者間ニアリテ後ニ生シタルモノ前ニ生シタルモノニ先ツ所以ハ先取特權ヲ與フルノ精神上固ヨリ然ラサルヘカラサル所以ナリ
第三項ヲ加ヘタル所以ハ本案ハ第六百七十七條ニ於テ獨リ最後ノ航海ヨリ生セル債權者ノミナラス總テノ航海ヨリ生セル債權者ニ付テ一般ニ之ヲ規定シタルカ故ニ自ラ之ヲ設ケサルヘカラサルニ至リタレハナリ
第六百八十條
(理由)本條ハ先取特權ノ追及權ニ關スル規定ニシテ旣成商法第八百五十一條ニ該當ス同條ハ船舶カ讓渡人ノ債權者ノ異議ヲ受クルコト無ク取得者ノ名義及計算ニテ船籍港ヨリ新ニ航海ヲ爲シ且ツ其發航以來少クトモ六十日ヲ經過シタル後消滅スト規定シ外國ニ於テモ例ヘハ佛法系ノ如キハ細目ハ異レリト雖モ此主義ヲ採ルモノ尠ナカラス然レトモ此主義ニアリテハ先取特權ノ消滅速キニ過キ沿岸航海等ヲ除クノ外ハ多クハ該權ヲ與ヘタル目的ヲ達スルコト能ハス仍テ本案ハ此主義ヲ採ラス然レトモ又先取特權ハ登記ナキカ故ニ何程ノ巨額ノ債權ノ存スルヤ容易ニ之ヲ知ルコトヲ得サルトキハ船舶融通ノ途ヲ杜絕スルモノト謂ハサルヘカラス仍テ本條ハ讓受人ヲシテ先取特權者ニ其債權ノ申出ヲ一定ノ期間內ニ爲サシムル旨ヲ公吿セシメ債權者カ若シ其期間內ニ債權ノ申出ヲ爲ササルトキハ先取特權ハ消滅スルモノトナセリ而シテ其期間ハ長キニ失スレハ讓受人ニ不利ニシテ短キニ失スレハ先取特權者ニ不利ナリ然ルニ一ケ月ヲ下ラサル期間ハ略ホ其當ヲ得ヘシト認メタルナリ
第六百八十一條
(理由)旣成商法第八百五十一條並ニ本案ノ前條ハ先取特權ノ追及權ノ消滅ニ關スル規定ナリ然レトモ此以外ニ於テモ尙ホ先取特權カ永ク存在スルトキハ或ハ抵當權ハ迷惑ヲ被ルコトアルヘク殊ニ本案ニテハ航海ノ前後ヲ問ハス總テ航海ヨリ生セル債權ニモ先取特權ヲ與ヘタルカ故ニ其債權ノ發生古キモノ尠カラス然ルニ之ヲシテ永年存在セシムルハ宜シカラス又旣成商法ハ第九百七十六條ニテ極メテ短期ノ時效ニ因リテ債權其者ヲ消滅セシメ之ト共ニ先取特權ヲ消滅セシムルノ主意ナリト雖モ先取特權ニヨリテ擔保セラルル債權ヲシテ此ノ如キ短期時效ニ罹ラシムルハ不當ニシテ先取特權ハ消滅スルモ債權ハ尙ホ永ク存セシムルヘキナリ從テ先取特權ノミニ關シテ一般ニ消滅時效ノ期間ヲ設クルハ必要ト謂フヘシ是レ本條第一項ノ設アル所以ナリ第二項ハ旣成商法第八百四十九條第一項第七號但書ヲ襲ヒタルモノナリ故ニ敢テ說明ヲ加ヘス
第六百八十二條
(理由)本條以下ハ船舶ノ抵當權ニ關スル規定ナリ旣成商法ニモ亦船舶ノ抵當權ヲ認メタリト雖モ本案ト旣成商法ト異ル所ハ旣成商法ハ抵當權カ當然運送賃ニモ及フモノトナセリト雖モ法律カ附與スル先取特權ナレハイサ知ラス當事者カ契約シテ生セシムル抵當權ニアリテハ運送賃マテモ包含スルモノト豫想スルコトハ殆ント之レ無カルヘシ殊ニ其額モ亦少ナキモノナルカ故ニ之ヲ包含セサルモノトセリ外國ノ例ニ於テモ亦多クハ然リトス
旣成商法ハ抵當權ニ關シテハ第八百五十二條乃至第八百五十五條ニテ詳細ナル規定ヲ設ケタリト雖モ是レ主トシテ手續法ニ關スルカ故ニ之ヲ削除セリ此以外ニハ抵當權ノ順位ハ登記ノ順序ニ從フ旨ノ規定並ニ民法第三百四條ニ相當スル第八百五十八條ノ規定アルノミ然レトモ不動產ノ抵當權類似ノ規定ハ總テ必要ニシテ外國ニテハ多クハ皆之ニ關シテ詳細ナル規定アリ仍テ本條第三項ヲ設ケテ右ノ必要ニ應スルコトトナセリ
第六百八十三條
(理由)本條ハ旣成商法及外國ノ立法例殆ント皆同一轍ニ出ル規定ナリ唯和蘭ニテハ賣買ノ先取特權ヲ廣ク認メ之ヲ登記シテ其登記ノ順序ニ依ラシムルモノトナセリト雖モ本案ハ賣買ノ先取特權ハ第六百七十七條第八號ニテ之ヲ狹ク認メ第六百八十一條第二項ニテ早ク消滅スルモノトセルカ故ニ敢テ他ノ先取特權ト區別スルノ必要ナキモノト信シタルナリ
第六百八十四條
(理由)本案ニテハ旣ニ船舶抵當權ヲ認メタリ故ニ最早質權ハ之ヲ認ル實際ノ必要ナキモノトセリ蓋シ船舶ハ運轉航行ヲ以テ其目的トス從テ質權ヲ認メタル國ニアリテモ實際ニ於テ質權ヲ生セシムル場合極メテ少シ殊ニ質權ヲ法律ニ認ムルニ於テハ之ニ關シテ尙ホ詳細ナル規定ヲ必要トシ實際ニ適用ナキ無用ノ法文ヲ多ク設ケサルヘカラサル立法上ノ不利アリ仍テ本案ニテハ質權ハ之ヲ認メサルコトトナセリ
第六百八十五條
(理由)本條ハ旣成商法第八百五十七條第一項ト殆ント同一ナリトス故ニ敢テ說明ヲ加ヘス又同條第二項ハ船舶登記法ノ規定ニ讓リテ茲ニ之ヲ設ケス