第六回商法整理委員會議事要錄
商法整理案 明治三十一年十二月六日配付
出席員
尾崎三良君
穗積陳重君
富井政章君
梅謙次郞君
田部芳君
岡野敬次郞君
高木豐三君
井上正一君
長谷川喬君
倉富勇次郞君
穗積八束君
富谷鉎太郞君
土方寧君
第四十二條「モノ」ヲ「社團」ト改ム
梅君ノ說明ニ曰ク此修正ハ單ニ文字ニ止リ意味ニ於テハ更ニ異ナルコトナシ
右ハ修正原按ニ可決シ次ニ移リタリ
第四十四條第二項但書ヲ削ル
梅君ノ說明ニ曰ク第四十四條第二項ヲ此處ヨリ削除スルトモ敢テ削除スルノ精神ニ非ラスシテ之ヲ第二百七十八條第三項トシテ第三編商行爲ニ關スル規定中ニ移サンカ爲メナリ要スルニ右ノ如ク修正スル所以ハ元來此「支店ニ於テ爲シタル取引ニ付テハ其支店ノ所在地ニ在ルモノト看做ス」トノ規定ハ會社ニノミ之ヲ適用スヘキモノニ非ラスシテ一巳人ニモ適用スヘキモノ故其適用ノ範圍ヲ擴張センカ爲メ之ヲ第三編商行爲ニ關スル規定中ニ移スヲ穩當ナリト信シタレハナリト
右ハ異議ナク修正原按ニ可決シ次ニ移リタリ
第六十條第二項ヲ改メテ左ノ二項トス
社員カ前項ノ規定ニ反シテ自己ノ爲メニ商行爲ヲ爲シタルトキハ他ノ社員ハ過半數ノ決議ニ依リ之ヲ以テ會社ノ爲メニ爲シタルモノト看做スコトヲ得
前項ニ定メタル權利ハ他ノ社員ノ一人カ其行爲ヲ知リタル時ヨリ二週間之ヲ行ハサルトキハ消滅ス行爲ノ時ヨリ一年ヲ經過シタルトキ亦同シ
梅君ノ說明ニ曰ク此第二十條第二項ヲ修正シタル所以ハ原文ニ於テハ第三十二條第二項及ヒ第三項ノ規定ハ社員カ前項ノ規定ニ違反シタル場合ニ準用云々トセリト雖モ其準用ヲ爲スカ上ニ於テ稍々不都合ヲ生スルヲ以テ寧ロ玆ニ第二項及ヒ第三項ヲ設ケ而シテ適用上ノ便ニ供シタリ卽チ修正ノ第二項ニ於テ「他ノ社員ノ過半數」トシ同第三項ニ於テ「他ノ社員ノ一人」トセシカ如キハ抑モ修正ノ主要ヲ占ムルモノナリ
梅君ハ又曰ク長谷川君ノ注意ニ依リテ第八十七條第三項及ヒ第九十七條第二項ハ之ヲ削除シ新第百二條ノ次ニ下ノ如キ一個條ヲ設ケ適用ノ範圍ヲ廣クスヘシ不然ハ第八十七條第三項ノ規定ヲ第九十七條ノ場合ノミニ準用スルハ不完全ナリ卽チ「社員カ死亡シタル場合ニ於テ其相續人數人アルトキハ淸算ニ關シテ社員ノ權利ヲ行フヘキ者一人ヲ定ムルコトヲ要ス」トノ一個條ヲ設クルコト是ナリト
梅君ハ又曰ク第九十四條ハ之ヲ改メテ第九十一條ノ第三項トシ從テ第八十六條ノ「後十四條」トアルヲ「後十三條」ト改ムト
以上ハ何レモ梅君ノ說ニ可決シ次ノ修正原按ニ移リタリ
第百一條中「第八十八條ノ規定ヲ準用ス」ヲ「裁判所ハ利害關係人ノ請求ニ因リ淸算人ヲ選任ス」ト改ム
梅君ノ說明ニ曰ク右ハ全ク文章上ノ修正ニ止マレリト
右ハ修正原按ニ可決シ次ノ修正按ニ移リタリ
第百十二條中「無限責任社員」ノ下「全員」ヲ加フ
梅君ノ說明ニ曰ク此修正ハ「全員」ノ二字ヲ加入シ法文ヲ明確セン迄ナリト
右ハ修正原按ニ可決シ次ナル修正原按ニ移リタリ
第百三十條第二項中「トキハ」ノ下「其權利ヲ失フ此場合ニ於テ」ヲ加フ
梅君ハ此修正原按ノ說明ニ先チ陳述シテ曰ク前會ニ於テ穗積陳重君ヨリ注意ヲ受ケ余輩モ之ニ贊同セシ結果トシテ第百二十六條第二號「第百二十二條」ノ下「第一號、第三號乃至第五號」ノ文字ハ之ヲ削除スト又此第百三十條第二項修正原案ニ付キ述ヘテ曰ク要スルニ此修正ハ原文ノ不完全ナル點ヲ補足シ明確ヲ期シタルニ外ナラスト右ハ何レモ可決シテ次ノ修正原按ニ移リタリ
第百三十二條ヲ左ノ如ク改ム
發起人ハ會社ノ創立ニ關スル事項ヲ創立總會ニ報吿スルコトヲ要ス
梅君ノ說明ニ曰ク此修正ハ單ニ文章上ニ止マレリト
右ハ修正原按ニ可決シ次ニ移リタリ
第百四十九條第二項中「拂込マ」ノ下「シメ」ヲ加フ
梅君ノ說明ニ曰ク此「シメ」ヲ加フルコトニセシハ曾テ一旦ヲ削除シタリシモ其考フルニ之ヲ存スル方可ナリト信シタレハナリト
長谷川君ハ第六十條ニ「他ノ社員ハ過半數」云々トアリテ第百十二條ニ「無限責任社員ノ全員」云々トアルハ文例上不明ノ點アリトテ之ヲ述ヘ梅君ハ之ニ對シテ答辯シ又穗積陳重君ハ第六十條ノ「過半數」トアルハ穩ヤカナラスト述ヘ梅君ハ其點ハ再考セント答ヘ結局主タル第百四十九條第二項中ノ修正ハ可決シ次ノ修正原按ニ移リタリ
第百六十一條第三項中「委任狀」ヲ「代理權ヲ證スル書面」ト改ム
梅君ノ說明ニ曰ク原文ニハ「委任狀」トアリシモ此場合ハ法定代理人ノ場合モ適用アル故ニ委任狀トアリテハ不完全ナリ故ニ之ヲ本修正原按ノ如ク改メタリト
右ハ修正原按ニ可決シ次ノ修正原按ニ移リタリ
第百七十五條第二項ヲ改メテ左ノ二項トス
取締役カ前項ノ規定ニ反シテ自己ノ爲メニ商行爲ヲ爲シタルトキハ株主總會ハ之ヲ以テ會社ノ爲メニ爲シタルモノト看做スコトヲ得
前項ニ定メタル權利ハ監査役ノ一人カ行爲ヲ知リタル時ヨリ二ケ月間之ヲ行ハサルトキハ消滅ス行爲ノ時ヨリ一年ヲ經過シタルトキ亦同シ
梅君ノ說明ニ曰ク此修正ハ第六十條ニ於ケル修正ト同精神ナルヲ以テ別ニ詳說セスト
右ハ修正原按ニ可決シ次ノ修正原按ニ移リタリ
第百九十四條第一項ヲ左ノ如ク改ム
會社ハ其資本ノ四分ノ一ニ達スルマテハ利益ヲ配當スル每ニ準備金トシテ其利益ノ二十分ノ一以上ヲ積立ツルコトヲ要ス
梅君曰ク右ハ文章上ノ修正ニ過キサルヲ以テ別ニ說明ノ要ナシト
右ハ修正原按ニ可決シ次ノ修正原按ニ移リタリ
第百九十六條第二項中「登記前ニ」ヲ削ル
梅君ノ說明ニ曰ク原文ノ如ク「登記前ニ」トアルトキハ恰モ登記ヲ爲ス前ノ如ク見ユ然ルニ定款ノ規定ニ付キ裁判所ノ認可ヲ得ルコトハ必スシモ登記ノ前ナラスシテ其以前ニ受ケ置クコトアル故寧ロ本修正原按ノ如クセリト
右ハ修正原按ニ可決シ次ノ修正原按ニ移リタリ
第二百十四條第二項ヲ左ノ如ク改ム
株主總會ハ前項ノ調査及ヒ報吿ヲ爲サシムル爲メ特ニ檢査役ヲ選任スルコトヲ得
梅君曰ク右ノ修正ハ文章ニ止マルモノ故別ニ說明ノ要ナシト
第二百三十二條中「第二百二十六條第二項ノ規定ヲ準用ス」ヲ「裁判所ハ利害關係人ノ請求ニ因リ請算人ヲ選任ス」ト改ム
梅君ノ說明ニ曰ク原文ハ「第二百二十六條第二項ノ規定ヲ準用ス」トアリシヲ改メテ法文ニ明記シタルマテニ止マリ規定ノ精神ニ至リテハ毫モ變更セスト
右ハ修正原按ニ可決シ次ノ修正原按ニ移リタリ
第二百六十一條第二號中「通知ヲ」ノ下「爲スコトヲ」ヲ加フ
梅君ハ右修正原按ニ關スル說明ニ先チ述ヘテ曰ク第二百四十八條第三項ハ旣ニ第八十七條第三項ノ規定ヲ削除セシ結果トシテ之ヲ削除シ從テ次條卽チ第二百四十九條第二項中「前條第二項」ノ下「及ヒ第三項」ノ文字ヲ削除ス而シテ同條ノ次ニ下ノ如キ一個條ヲ加フ「新第二百五十條第百二條ノ規定ハ株式合資會社ノ無限責任社員ニ之ヲ準用ス」ト次ニ主タル第二百六十一條第二號中ノ修正ニ付キ說明シテ曰ク此修正ヲ爲ス所以ハ原文ノ儘ニテハ第一號ノ文體ト釣合上不穩當ナルカナリト
右ハ修正原按ニ可決シ次ノ修正原按ニ移リタリ
第二百六十二條第九號ヲ第十號トシ第十號ヲ第九號トス
梅君ノ說明ニ曰ク右ハ位置ヲ顚倒セシノミ故別ニ說明ノ要ナシト
右ハ修正原按ニ可決シ次ノ修正原按ニ移リタリ
第二百七十八條(舊第二百七十七條)第三項トシテ左ノ一項ヲ加フ
支店ニ於テシタル取引ニ付テハ其支店ヲ以テ營業所ト看做ス
梅君ノ說明ニ曰ク此修正ハ第四十四條ニ關スル說明中ニ於テ說明シタルト同主意ナルヲ以テ特ニ說明スルノ要ナシト
第三百一條(舊第三百條)第一項中「事業年度」ト改ム
梅君ノ說明ニ曰ク此修正ハ此前ノ修正ニ倣ヒ之ヲ追加セシモノナリト
右ハ修正原按ニ可決シ次ノ修正原按ニ移リタリ
第三百三十四條(舊第三百三十三條)ヲ左ノ如ク改ム
貨物引換證ヲ作リタルトキハ運送ニ關スル事項ハ運送人ト所持人トノ間ニ於テハ貨物引換證ノ定ムル所ニ依ル
第三百六十二條(舊第三百六十一條)ヲ左ノ如ク改ム
預證券及ヒ質入證券ヲ作リタルトキハ寄託ニ關スル事項ハ倉庫營業者ト所持人トノ間ニ於テハ其證券ノ定ムル所ニ依ル
梅君ノ說明ニ曰ク右二個ノ修正ハ單ニ文章上ニ過キサルヲ以テ別ニ說明ノ要ナシト
右ハ異議ナク可決シ次ノ修正原案ニ移リタリ
第三百六十八條「爲替」ヲ削ル
梅君ノ說明ニ曰ク右ノ修正ヲ爲ス所以ハ全ク文章ヲ明確ニセシマテニテ規定ノ實質上ニハ異ナル廉ナシト又曰ク第三百九十七條ハ穗積陳重君ノ注意ニ依リ原文ニ「保險契約者カ保險契約ヲ爲スニ當リ」トアルヲ「保險契約ノ當時保險契約者カ」ト修正スト
右ハ何レモ可決シ次ノ修正原案ニ移リタリ
舊第四百九條及ヒ舊第四百十條ヲ改メテ左ノ二條トス
第四百十條 保險期間中保險カ保險契約者又ハ被保險者ノ責ニ歸スヘキ事由ニ因リテ著シク變更又ハ增加シタルトキハ保險者ハ其責ヲ免ル
第四百十一條 保險期間中危險カ保險契約者又ハ被保險者ノ責ニ歸スヘカラサル事由ニ因リテ著シク變更又ハ增加シタルトキハ保險ナクハ契約ノ解除ヲ爲スコトヲ得但其解除ハ將來ニ向テノミ其效力ヲ生ス
前項ノ場合ニ於テ保險契約者又ハ被保險者カ危險ノ著ルシク變更又ハ增加シタルコトヲ知リタルトキ遲滯ナク之ヲ保險者ニ通知スルコトヲ要ス若シ其通知ヲ怠リタルトキハ保險者ハ危險ノ變更又ハ增加ノ時ヨリ保險契約カ其效力ヲ失ヒタルモノト看做スコトヲ得
保險者カ前項ノ通知ヲ受ケ又ハ危險ノ變更若クハ增加ヲ知リタル後遲滯ナク契約ノ解除ヲ爲ササルトキハ其契約ヲ承認シタルモノト看做ス
梅君ノ說明ニ曰ク右ノ修正ハ今回新ニ實質ニ關スル修正ヲ加ヘタルモノ故各位ノ周到ナル討議ヲ希望スト
右ハ異議ナク可決シ次ノ修正案ニ移リタリ
第四百九十條(舊第四百八十七條)第一項中「第四百八十四條」ヲ「第四百八十七條第一項」ト改ム
梅君曰ク右ハ別ニ說明ヲ要セスト
又曰ク以上ヲ以テ商修正原按トシテ提出シタル按ハ証了セリ就テハ是ヨリ以下追加スヘキ點ニ付キ左ニ之ヲ述ヘント
一 新第五百四十五條中「新ニ」トアルヲ「更ニ」ト改ム
二 新第六百十六條第二項中「生シタルトキハ」トアルヲ「生シタルトキト雖モ」ト改ム
三 新第六百六十七條第一號中「又ハ保險者」ノ下ヲ「若クハ被保險者ノ惡意」云云ト改ム
四 新第六百七十條中「費用ヲ控除シ其殘額」トアルヲ費用ヲ控除シタルモノ」ト改ム
以上ハ何レモ起草者ノ修正ニ可決シ其他文字ノ修正ニ止マリ實質ニ及ホササルモノハ起草者ノ所見ニテ隨意ニ修補スルコトヲ得ヘキ旨ヲモ可決シ散會ヲ吿ケタリ
午後六時三十分散會