第三回商法整理會議事要錄
明治三十一年五月三日午前九時開議
出席員
曾根荒助君
男爵 尾崎三良君
鶴原定吉君
田部芳君
小宮三保松君
男爵 南部甕男君
岡野敬次郞君
橫田國臣君
梅謙次郞君
阿部泰藏君
三浦安君
商法整理按
第七十八條(舊第七十五條)中「一週間內」ヲ「二週間內」ト改ム
第八十五條(舊第八十二條)第一項中「一週間內」ヲ「二週間內」ト改ム
梅君ノ說明ニ曰ク右二個條ハ何レモ期間ノ修正故同時ニ議セラレタシ右ノ中第七十八條ノ「一週間」ヲ「二週間」ト改メント欲スル理由ハ原文ノ場合ハ公吿ニ關スル故一週間ニテモ可ナリ然レトモ前ノ整理會ニ於テ修正ノ爲メ財產目錄及ヒ貸借對照表ヲ作ルノ期間トナリタリシヲ以テ二週間トセサレハ短期ニ失スト信スレハナリ次ニ第八十五條ノ修正ハ玆ニ說明ノ要ナキ故之ヲ省略スト
右ハ異議ナク可決シ次ニ移リタリ
第百六十一條(舊第百五十一條)中「五分ノ一」ヲ「十分ノ一」ト改ム
梅君ノ說明ニ曰ク此修正ハ土方君ノ意見ヲ採用セシモノナリ就テハ本日缺席セラレタル加藤君ヨリ此修正按ニ對シ反對ノ旨來翰アリタレトモ余輩ハ元來會社ノ重役カ自己ノ利益ノ爲メ會社ノ不利益ナル事ヲ爲スカ如キ場合ナキニシモアラストノ恐ヲ抱ク者故本按ノ如ク「十分ノ一」云々ト改ムルコトニ決心セリト
阿部君ハ加藤君ノ說ニ贊成シ採決ニ至リシモ少數ニテ消滅セリ從テ此修正案ノ儘ニ可決シ次ニ移リタリ
第百七十三條(舊第百六十三條)第二項ハ之ヲ削除ス
梅君ノ說明ニ曰ク此修正ハ全ク第二回整理ノ當然ノ結果故別ニ述フルノ點ナシト
右ハ修正原案ニ可決シ次ニ移リタリ
第百七十八條(舊第百六十八條)第二項ヲ左ノ如ク改ム
前項ノ請求ヲ爲シタル株主ハ其株券ヲ供託シ且監査役ノ請求ニ因リ相當ノ擔保ヲ供スルコトヲ要ス
第百八十七條(舊第百七十六條)第二項ヲ左ノ如ク改ム
前項ノ請求ヲ爲シタル株主ハ其株券ヲ供託シ且取締役ノ請求ニ因リ相當ノ擔保ヲ供スルコトヲ要ス
梅君ノ說明ニ曰ク右二個條ニ於ケル擔保ノ範圍ニ付キ修正ヲ加ヘシ理由ハ曾テ議場ノ多數決ニテ斯カル場合ハ「相當ノ擔保」云々トアレハ足レリトテ原按ヨリ株券ヲ供スル云々ノ規定ヲ削除セラレタリ然ルニ此前ノ會議ニテ實業家ノ說又多數ヲ占メ卽チ「取締役ノ請求ニ因リ其株券ヲ供託シ又ハ相當ノ擔保」云々ト修正セラレタリト雖モ其後再考スルニ旣ニ第百五十四條ニ於テ「其株券ヲ供託シ且會社ノ請求ニ因リ相當ノ擔保」云々トセシコト故之ト區別スルノ理由ナキ爲メ卽チ本修正原按ノ如クセリト
又曰ク此修正ニ對シ加藤君ヨリ「且」ヲ「又ハ」ト改ムル方可ナリトノ意見ヲ通知セラレタリト
右加藤君ノ意見ニ土方君贊成シ此說ニ付キ採決セシモ消滅ニ歸シ修正原按ニ可決シ次ニ移リタリ
第二百十八條(舊第二百四條)第二項ハ之ヲ削除ス
第二百四十九條(舊第二百六十五條)ヲ左ノ如ク改ム
無限責任社員ハ何時ニテモ其選任シタル淸算人ヲ解任スルコトヲ得
前條第二項及ヒ第三項ノ規定ハ淸算人ノ解任ニ之ヲ準用ス
梅君ノ說明ニ曰ク右第一ノ修正ハ實業家ノ說ニ從ヒ新株ヲ額面以上ニ發行セル場合ニハ其額面以上ノ額ハ一度ニ拂込ストセシ故從テ此第二百十八條第二項ノ規定ハ不必要且ツ不便故之ヲ削レリ次ニ第二ナル卽チ第二百四十九條ノ修正ハ殆ント說明ノ要ナキ故質問ニ應シテ答辯セント
右ハ修正原案ニ可決シ次ニ移リタリ
第四百二十七條(舊第四百十一條)第四項ヲ左ノ如ク改ム
保險契約者カ前項ニ定メタル權利ヲ行ハスシテ死亡シタルトキハ被保險者ヲ以テ保險金ヲ受取ルヘキ者トス
梅君ノ說明ニ曰ク此修正ハ前ノ整理會ニ於テ阿部君カ縷述セラレタル意見ヲ採用シ改正ヲ加ヘタルニ外ナラスト
右ハ修正原案ニ可決シ次ニ移リタリ
第五百三十四條(舊第五百十六條)中「第四百六十一條」ノ下「第四百六十二條」ノ七字ヲ加フ
梅君ノ說明ニ曰ク此第四百六十二條ヲ加ヘタルハ敢テ實質上ノ變更ニハ非ラス最初原案ニハ舊法ト同シク小切手ニハ引受ヲ認メサリシ然ルニ今日實際小切手ノ支拂保證行ハレ居ルトノコトナレトモ抑モ小切手ノ場合ハ保證ト見ルヘキモノニアラスシテ支拂丈ケナリ故ニ寧ロ引受トスル方可ナリ之ヲ以テ本案モ亦改メテ小切手ニ引受ヲ認ムルコトヽセリ就テハ小切手ノ性質トシテ其效力一週間ニ止マルモノ故他ノ爲替引受ト區別スヘキ事情モアル故實ハ第四百六十二條ヲ準用セサリシ何トナレハ右ノ如クスレハ恰モ小切手ニハ引受ケカ大切ナルモノノ如ク見ユル憾アレハナリ由糸斯ノ如クナリシモ其後考フルニ準用セストスレハ又一方ニ於テ性質上不確ノ嫌ナキニシモアラス是斷然準用ニ決定シ此按ヲ提出スル所以ナリト
右ハ修正原按ニ可決シ次ニ移リタリ
第五百五十九條(舊第五百四十一條)第三號ヲ左ノ如ク改ム
海員名簿
議長(曾禰副總裁)曰ク本條以下ハ海商編ニ關スルモノナルカ遞信省ニ於テ本編ニ關シ意見アリトテ田遞信次官來會セラレタリ就テハ是迄ノ慣例ニ依リ列席意見ヲ述フルコトヲ許セリ敢テ議場ニ一言スト
梅君ハ此修正按ニ付キ述ヘテ曰ク「船員名簿」ヲ「海員名簿」ト改メントスル理由ハ實際名簿ニハ船長ハ署名スルニ止マレリ然レハ特ニ船長ヲ包含セシムル爲メ「船員名簿」トスルニ及ハサル故ニ本案ノ如クセリト
田遞信次官曰ク遞信省ニ於テ船舶法及ヒ海員法ヲ起按スルニ付キ商法ノ規定ト關聯スル事項之レアリテ本會ニ協議ヲ請求セシ個條十個條程アリタリ然ルニ此前以來ノ修正成行ヲ見ルニ遞信省ノ意見ヲ採用セラレタル點ハ甚少キカ如シ是レ果シテ如何ナル理由ニ基因スル乎兎モ角本日遞信省ノ意見ヲ玆ニ縷述シ而シテ本會ノ意見ヲモ確メタシ故ニ商法第五百五十九條以下ニ付キ更ニ議事ヲ開カレタシト
議長(曾禰副總裁)曰ク然レハ遞信省ノ意見ニシテ採用セラレサリシ事項ニ付キ更ニ說明セラレナハ可ナルヘシト
田遞信次官曰ク然レハ是ヨリ簡短ニ順次述フヘシ先ツ第一ハ名稱ノコトナリ遞信省ニ於テハ海員ナル名稱ヲ廣義ニ解シ船員ナル名稱ヲ狹義ニ解シ居レリ從テ船長ハ船員ニアラスシテ海員中ニ包含スルモノトセリ然ルニ此調査會ニ於テハ正反對ニ船員ナル名稱ヲ廣義ニ解シ此中ニ船長ヲモ包含セシメ居レリ是果シテ何レカ正當ナルヤト云フニ抑モ船舶ハ海上ニ在ルモノ故海ナル文字ニシテ船舶ナル文字ヨリ廣義ノモノタルコト勿論ナル以上ハ海員ナル名稱ノ廣義ニシテ船員ナル名義ノ狹義ナルハ當然ノコトナルヲ以テ此點ヨリ考フルモ遞信省ノ見解ヲ至當ナリト信ス尤モ事體名稱上ノコト故強ヒテ主張スルニハアラスト
長谷川君曰ク田君ノ意見ハ曾テ遞信參事官內田君カ主張セラレタル意見ト同一ナリ余輩固ヨリ贊成スルトコロナリト雖モ如何セン一度議場ニ於テ決定セシモノ故今改メテ議ストセハ再議ノ手續ヲ採ラサルヘカラス果シテ然リトスレハ此際ニ於テハ困難ナルヘシト
岡野君曰ク旣ニ遞信省ナル內田君ノ意見一度採用セラレサリシ以上ハ今日再ヒ議スルニ及ハサルヘシト
田遞信次官曰ク旣ニ述ヘタル如ク固ヨリ名稱ノコト故強ヒテ主張スルニハアラス故ニ之ヨリ他ノ點ニ付キ述フヘシ、第五百十九條第二項ニ「積石數二百石未滿」ノ文字ヲ加フルコトハ旣ニ本會ニ於テ採用セラレタル故可ナリト雖モ第五百二十條「且船舶國籍證書ニ」ノ文字ハ之ヲ削ルコトヲ採用セラレサリシカ之ヲ削ラサレハ不都合ナリ何トナレハ船舶ノ登記ハ司法省ノ管轄ト爲リタル故若シ本條ノ如クセンカ其管轄兩省ニ關スル爲メ不都合ノ場合生スルト且ツハ船舶國籍證書ハ書換ヲ許ストセシ故旁船舶所有權ノ移轉ニ關シ不都合ナレハナリト
田部君曰ク遞信次官ハ船舶ノ登記ヲ司法省主管ト爲セシ如ク言ハレタルカ司法省ニ於テハ却テ之ヲ遞信省主管ト爲スヲ正當ナリト信シ居リテ今日ハ未確定ナリ余一己ノ考ヘニテハ之ヲ遞信主管ト爲スヲ正當ナリト信シ居レリ殊ニ將來ノ事ヲ追考スルモ右ノ如クスル方頗ル便利ナレハナリト
田遞信次官曰ク遞信管轄ト爲サント欲スルモ實際事情ノ許ササルヲ如何セン何トナレハ今日實際管轄官廳ハ四個所アルノミナリ今之ヲ四十個所ニ增大スルトモ船舶登記者ハ尙且不便ヲ感スヘク假リニ此不便ヲ忍フトスルモ一個所ノ新設ニ少ナクモ十萬圓ヲ必要ナリトス尤モ登記料ノ收入アルハ勿論ナルカ之レアリトスルモ國家經濟上ヨリ不利益ナルハ敢テ說明ヲ要セス加之ナラス所有權ニ關スル登記ヲ管轄官廳ノ技手ノ如キ者ニ取扱ハシムルトモ到底完全ニ行フコトヲ得サルニ於テオヤ殊ニ今司法主管トセスシテ行政官廳アル遞信省ノ主管ト爲スノ不都合ナルハ言ヲ待タサルヘシト
右ニ對シ梅君辯シテ曰ク船舶ハ元來他ノ不動產ト異ナル物故今日外國ニ於テモ之ヲ行政官廳ノ主管ト爲シ居ル例ナキニ非ラス故ニ必スシモ田君ノ言ノ如シトハ論定スヘカラス固ヨリ裁判所ニ於テ登記スヘキモノトセハ司法主管ノ方可ナリト雖モ又一方ヨリ考フレハ却テ管海官廳ノ方便利ナル點ナキニシモアラス例ヘハ噸數計算ノ如キ是レナリ殊ニ又二十噸以上ノ船舶ハ中以上ノ港ナラテハ着カサル故從テ登記所ノ如キモ其數意外ニ多カラスシテ可ナルヘシ且又今日ニ於テハ實際便法トシテ或個所ニ登記所ヲ設ケ之ヲ設クルコト能ハサル個所ハ現在ノ登記所ニテ暫ラク取扱ハシムルモ可ナリ余輩將來ノコトヲ考フルニ寧ロ遞信主管ト爲スヲ優レリト信ス要スルニ商法ハ之ヲ改ムルニ及ハス從來ノ儘ニテ可ナリト
田遞信次官曰ク元來所有權移轉ノ條件ニ國籍証書ヲ入レンカ此證書ハ書換ユルコトアル故其間ノ場合ニ困難ヲ感スルコトアルヘシ何レニシテモ所有權移轉ノ事項ハ司法主管ノ登記所ニ於テ取扱フ方可ナリト
右ノ問題ハ未定ノ儘トシテ次ニ移レリ
田遞信次官曰ク次ハ第五百三十九條中「他人ヲ選任シテ自己ノ職務ヲ行ハシムルコトヲ得」ノ規定ハ修正セサレハ不可ナリ何トナレハ斯カル場合ハ船長カ指揮スルコト能ハサルトキハ海員法ノ規定ニ從ヒ其者カ順次其職務ヲ行フコトニ定メアル故ニ直チニ他人ヲ選任スルコトヲ得ルトスルハ不都合ナレハナリ故ニ「法令ニ別段ノ定アル場合ヲ除ク外」云々ト修正セラレタシト
梅君曰ク此點ハ強ヒテ反對スルニアラスト
右ノ問題ハ未決ノ儘トシテ次ニ移レリ
田遞信次官曰ク次ハ第五百四十一條ニ付キ意見アリト
議長(曾禰副總裁)曰ク遞信次官ヨリ順次述ヘラレ居ルカ何レモ未定ノ儘進行セリ然ルニ今各問題ニ付キ一々討議センカ時間之ヲ許サス故ニ之ヨリ休憩シ遞信次官ト本會起草委員ト更ニ協議ヲ遂ケタル上ニテ更ニ開會セント
右ニテ休憩トナレリ
議長(曾禰副總裁)曰ク先刻協議ノ結果ニ付キ更ニ議事ヲ開クト
梅君曰ク先刻來遞信省ノ諸君ト協議ヲ爲セシカ或點ハ遞信省ニテ到底卽決スル能ハスト言ヘルアリ又或點ハ可ナリト言ヘルアリ要スルニ商法黑字ノ第五百三十九條及ヒ黑字第五百四十一條ノ二個條ニ修正ヲ加フルコトニ決シテ協議整ヒタリ卽チ右ノ第五百三十九條ニハ「法令ニ別段ノ定アル場合ヲ除ク外」ノ文字ヲ加ヘ又右五百四十一條ニハ「前項第三號乃至第五號ニ揭ケタル書類ハ外國ニ航行セサル船舶ニ限リ命令ヲ以テ之ヲ備フルコトヲ要セサルモノト定ムルコトヲ得」トノ二項ヲ設クルコト是ナリ然レトモ文章ハ一任セラレタリト
右ハ異議ナク可決シ次ニ移リタリ
第五百七十八條(舊第五百六十條)第一項第二號ヲ左ノ如ク改ム
海員カ著シク其職務ヲ怠リ又ハ其職務ニ關シ之ニ重大ナル過失アリタルトキ
梅君ノ說明ニ曰ク此修正ヲ加ヘタルハ加藤君カ曾テ述ヘラレタル意見ヲ採用セシモノニシテ此修正ニ對シテハ遞信省ノ意見モ同一ナリト
右ハ修正原案ニ可決セリ
議長(曾禰副總裁)曰ク以上ニテ遞信省トノ協議問題モ決定セリ唯第五百二十條ハ兎モ角未定トシ更ニ遞信省ト協議ノ上ニテ決定スヘシト