明治商法(明治32年)

法典調査会 商法整理会議事要録 第1回

参考原資料

備考

商法整理會第一回議事要錄
出席員
淸浦奎吾君
土方寧君
村田保君
阿部泰藏君
田部芳君
高木豐三君
穗積八束君
橫田國臣君
富谷鉎太郞君
河村讓三郞君
寺尾亨君
都筑馨六君
穗積陳重君
梅謙次郞君
長谷川喬君
金子堅太郞君
尾崎三良君
三浦安君
岡野敬次郞君
議長ハ開會ニ先チ宣吿シテ曰ク最早帝國議會開會ニ接迫シ本案議事ハ頗ル急速ヲ要スヘキカ故ニ其實質ニ關係ナキ部分ハ專ラ起草委員ニ一任シ實質變更ノ部分ノミヲ玆ニ提出シテ討議スヘキヲ以テ諸君願クハ贅論ニ涉ラス着々議了アランコトヲト
商整理案
第一條ヲ左ノ如ク改ム
商事ニ關シ本法ニ規定ナキモノニ付テハ商慣習法ヲ適用シ商慣習法ナキトキハ民法ヲ適用ス
梅君曰ク第一案ニハ「慣習法」ト規定セシモ議論アリテ遂ニ改マリタリ然リト雖モ右ハ歐西諸國ニ在リテモ議論ノ末現今ハ略ホ學說立法例共ニ一ニ決セントスルニ際シ獨リ我邦ノミ議論ノ餘地ヲ與フルハ敢テ本員等ノ採ラサル所ナリ玆ニ於テ再ヒ之ヲ「商慣習法」ト改メタリ勿論「法」ノ字ヲ用ヰサルトモ解釋上ハ必ス「商慣習法」ト謂フト同一ナルヘシト雖モ一方ハ「法」ノ文字之レ無キカ爲メ「法」ニアラストモ解シ得サルニアラス是徒ニ論爭ヲ招クノ基ナルヲ以テ寧ロ之ヲ明言シテ問題ヲ決シ置クノ勝レルニ若カス尙ホ「適用ス」トハ民法ニ對シ「從フ」ト謂フニ優ルヲ以テナリト
異議ナク次條ニ移ル
第二十六條(舊第二十五條)第一項ヲ左ノ如ク改ム
商人ハ十年間其商事帳簿及ヒ其營業ニ關スル信書ヲ保存スルコトヲ要ス
舊第二十九條ハ之ヲ削除ス
第百二十三條(舊第百十三條)ノ次ニ左ノ一條ヲ加フ
第百二十四條 株式引受人カ前條ノ拂込ヲ爲ササルトキハ發起人ハ一定ノ期間內ニ之ヲ爲スヘキ旨及ヒ其期間內ニ之ヲ爲ササルトキハ其權利ヲ失フコトアルヘキ旨ヲ通知スルコトヲ要ス但其期間ハ二週間ヲ下ルコトヲ得ス
發起人カ前項ノ通知ヲ爲シタルモ株式引受人カ拂込ヲ爲サヽルトキハ發起人ハ其者カ引受ケタル株式ニ付キ更ニ株主ヲ募集スルコトヲ得
前二項ノ規定ハ株式引受人ニ對スル損害賠償ノ請求ヲ妨ケス
第百四十一條(舊第百二十七條)ヲ左ノ如ク改ム
記名株式ノ讓渡ハ讓受人ノ氏名、住所ヲ本店又ハ支店ノ株主名簿ニ記載シ且其氏名ヲ株券ニ記載スルニ非サレハ之ヲ以テ會社其他ノ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
梅君曰ク第二十六條ハ其第一案ニ於テハ同シク信書ヲ保存スヘキ旨ヲ規定シタリト雖モ當時ハ之カ保存ノ義務ヲ負擔セシムルハ頗ル酷ニ失スヘシトテ削除セラレタリ然ルニ整理會ノ意見ハ之ニ反シテ商業發達上漸々之カ必要ヲ感スヘシトテ遂ニ再ヒ之ヲ規定スルニ至リシナリ從來ハ商業帳簿ニ付テモ法律上必ス之ヲ作成スヘシ之ヲ保存スヘシ又適法ニスヘシト謂ヘハ多少慣習ヲ改ムルニ似タリト雖モ止ムヲ得スト云フニ在リタリ果シテ然ラハ信書ニ付テモ何ソ逕庭アランヤ次ニ第二十九條ハ番頭ニ關スル規定ナリト雖モ整理會ノ意見ハ番頭ニ付テハ特ニ規定スルノ必要ナシト謂フニ在リ蓋シ支配人ハ番頭、手代ト異ニシテ全權ヲ有スルモノナリ且之ニ付テハ登記アルヲ以テ徒ラニ之ニ制限ヲ附スルモ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得サルモノナリ然ルニ番頭ト手代トハ殆ント同一ニシテ唯手代ニ比シ幾分其權限廣シト雖モ其重大ナル權限ハ之ヲ除キアリ又主人モ自由ニ之ヲ制限スルコトヲ得ヘシ手代ト雖モ主人カ之ニ業務ノ一部ヲ任スルモノナルカ故ニ其一部ニ付テハ亦番頭ト等シク全權ヲ有スルモノナリ之ヲ要スルニ性質上毫モ番頭、手代ヲ區別シテ規定スルノ必要ヲ見ス是整理會ニ於テ本條ヲ削除シタル所以ナリ次ニ第百二十四條ヲ加ヘタルハ議事ノ際注意ノ到ラサリシモノニシテ株式會社ヲ發起スルニ當リ其株式ヲ引受ケタル者カ直チニ其拂込ヲ終ラサルトキ旣ニ充分ノ目的アリテ且成立スルニ垂ントセルモノモ少數ノ株式引受人ノ拂込終ラサルカ爲メ折角ノ發起モ水泡ニ歸セントスルハ單ニ小量ノ賠償ヲ得ルヲ以テ足レリトスルニ足ラサルナリ是本條ノ如キ規定ヲ要スル所以ニシテ唯タ設立前ナルヲ以テ株式引受人カ一旦引受ケタル株式ニ付キ其權利ヲ失ヒタル株式ニ付テハ更ラニ株主ヲ募集スヘキモノナリ次ニ第百四十一條ハ株式ノ讓渡ニ付キ其讓受人ノ氏名、住所ヲ單ニ株主名簿ニ記載スルノミニテハ株券ト名簿トニ付キ頗ル疑惑ヲ生スルノ恐アリ故ニ株券ニモ氏名、住所ヲ記載スヘキモノナリ蓋シ右ハ議事ノ際ニモ幾分實見無キニアラサリシモノナルヲ以テ整理會ニ於テモ斯クハ修正セリト
異議ナク次條ニ移ル
第百七十三條(舊第百五十八條)ヲ左ノ如ク改ム
監査役ハ取締役又ハ支配人ヲ兼ヌルコトヲ得ス但取締役中缺員アルトキハ取締役及ヒ監査役ノ協議ヲ以テ監査役中ヨリ一時取締役ノ職務ヲ行フヘキ者ヲ定ムルコトヲ得
前項但書ノ規定ニ依リテ取締役ノ職務ヲ行フ監査役ハ第百八十一條第一項ノ規定ニ從ヒ株主總會ノ承認ヲ得ルマテハ監査役ノ職務ヲ行フコトヲ得ス
第百八十四條(舊第百七十八條)ノ次ニ左ノ一條ヲ加フ
第百八十五條 會社ノ目的タル事業ノ性質ニ依リ第百三十三條第一項ニ定メタル登記ヲ爲シタル後二年以上開業ヲ爲スコト能ハサルモノト認ムルトキハ會社ハ定款ヲ以テ開業ヲ爲スニ至ルマテ一定ノ利息ヲ株主ニ配當スヘキコトヲ定ムルコトヲ得
前項ニ揭ケタル定款ノ規定ニ付テハ其登記前ニ裁判所ノ認可ヲ得ルコトヲ要ス
第百九十五條(舊第百六十三條)及ヒ第百九十六條(舊第百六十四條)ヲ左ノ如ク改ム
第百九十五條 定款ハ株主總會ノ決議ニ依リテノミ之ヲ變更スルコトヲ得
第百九十六條 定款變更ノ決議ハ總株主ノ半數以上ニシテ資本ノ半額以上ニ當タル株主出席シ其議決權ノ過半數ヲ以テ之ヲ爲ス
前項ニ定メタル員數ノ株主カ出席セサルトキハ出席シタル株主ノ議決權ノ過半數ヲ以テ假決議ヲ爲スコトヲ得此場合ニ於テハ其假決議ノ趣旨ヲ株主ニ通知シ且無記名式ノ株券ヲ有スル者ニ對シテハ之ヲ公吿シテ更ニ一ケ月ヲ下ラサル期間內ニ第二回ノ株主總會ヲ招集スルコトヲ要ス
第二回ノ株主總會ニ於テハ出席シタル株主ノ議決權ノ過半數ヲ以テ假決議ノ認否ヲ決ス
前二項ノ規定ハ會社ノ目的タル事業ヲ變更スル場合ニハ之ヲ適用セス
梅君曰ク第百七十三條ハ其第一項但書及ヒ第二項ヲ削除セラレタルモノナリト雖モ斯クテハ元來取締役ハ三人以上タルヘキヲ以テ其一人死亡セハ殘者ハ最早之ヲ取締役ト謂フコトヲ得サルヘシ(學者モ然カ云フ)然ラハ臨時總會ヲ開カハ可ナリト謂フ者アリト雖モ是又二週間ノ期間ヲ要スルノミナラス普通ノ社員ハ之ヲ招集スルコト能ハス故ニ是等ヲ調和センカ爲メ先ツ一時取締役ト監査役トノ協議ヲ以テ監査役中ヨリ之ヲ選任スルコトトセリ第二項ハ一旦監査役ヲ取締役トシテ使用スル以上ハ從來監督者ノ地位ニアリシ者カ反テ監督ヲ受クヘキ地位ニ來ルヘキヲ以テ第一項ノ結果當然ナリ次ニ第百八十五條ハ實際ノ要ヲ鑑ミタル規定ニシテ元來此規定ハ徃々不都合ヲ來スノ恐無キニアラスト雖モ一方ニ於テハ運河、鐵道等大工業ヲ目的トスル會社ニ付テハ必要ヲ感スルコトアリ蓋シ斯ノ如キ大事業ヲ目的トスル會社カ二年以上モ設立ニ至ラサルニ當リ其間配當ヲ爲ササルハ極メテ不都合ナリ勿論理論上ハ奇怪ナリト雖モ生存ノ必用上元本中ヨリ利息ヲ支拂フナリ此事タル外國ニ於テモ屢々必用ヲ感シ旣ニ佛國ノ如キ法文ニ規定ナシト雖モ裁判例ヲ以テ之ヲ許セリ學者モ亦之ヲ正當ト論ススエス運河事業ノ如キハ適切ノ一例タリ是本條ヲ附加シタル所以ナリ次ニ第百九十五條及ヒ第百九十六條ハ僅カニ第百九十五條但書ヲ削リ第百九十六條ニ第三項ヲ加ヘタルニ過キス他ハ文字ノ修正ニ過キス蓋シ會社カ其種類ヲ變更スルコトハ可ナリ頻繁ナリト謂フヘシ然ルニ此場合ニ逐一手續ヲ要スルハ頗ル不便ナルカ故ニ先ツ定款ノ變更ヲ以テ足ルヘシ又或ル決議ニ因リテハ會社ノ組織ヲ變更シ或ハ會社カ他ノ會社ト合併スルモ可ナリ果シテ然ラハ此場合ニモ一々解散シテ後再ヒ之ヲ設立スルカ如キハ其煩雜思フヘキナリ去リ乍ラ單ニ定款變更ノミヲ以テ足ルハ餘リ容易ニ失スルヲ以テ此場合ノ定款變更ハ必ス出席者ノ過半數ヲ以テ決スヘキモノトセリト
本條ハ異議ナク次ニ移ル
第二百四十六條(舊第二百二十七條)及ヒ第二百四十七條(舊第二百二十八條)ヲ左ノ如ク改ム
第二百四十六條 發起人、會社ノ業務ヲ執行スル社員、取締役、外國會社ノ代表者又ハ淸算人ハ左ノ場合ニ於テハ五圓以上五百圓以下ノ過料ニ處セラル
 一 本編ニ定メタル登記ヲ爲スコトヲ怠リタルトキ
 二 本編ニ定メタル公吿若クハ通知ヲ怠リ又ハ不正ノ公吿若クハ通知ヲ爲シタルトキ
 三 本編ノ規定ニ依リ閱覽ヲ許スヘキ書類ヲ正當ノ理由ナクシテ閱覽セシメサリシトキ
 四 本編ノ規定ニ依ル調査ヲ妨ケタルトキ
 五 第四十四條ノ規ニ違反シテ開業ノ準備ニ着手シタルトキ
 六 第百二十一條第二項及ヒ第二百二十四條第二項ノ規定ニ反シ株式申込證ヲ作ラス、之ニ記載スヘキ事項ヲ記載セス又ハ不正ノ記載ヲ爲シタルトキ
 七 第百三十八條又ハ第二百三條第二項ノ規定ニ違反シテ株券ヲ發行シタルトキ
 八 株券又ハ債券ニ記載スヘキ事項ヲ記載セス又ハ不正ノ記載ヲ爲シタルトキ
 九 定款、株主名簿、社債原簿、創立總會竝ニ株主總會ノ決議錄、財產目錄、貸借對照表、事業報吿書、損益計算書及ヒ準備金竝ニ利益又ハ利息ノ配當ニ關スル議案ヲ本店若クハ支店ニ備ヘ置カス、之ニ記載スヘキ事項ヲ記載セス又ハ之ニ不正ノ記載ヲ爲シタルトキ
 十 第百六十四條第一項ノ規定ニ反シテ株主總會ヲ招集セサルトキ
第二百四十七條 會社ノ業務ヲ執行スル社員、取締役、外國會社ノ代表者、監査役又ハ淸算人ハ左ノ場合ニ於テハ十圓以上千圓以下ノ過料ニ處セラル
 一 官廳又ハ株主總會ニ對シ不實ノ申立ヲ爲シ又ハ事實ヲ隱蔽シタルトキ
 二 第七十五條乃至第七十七條ノ規定ニ違反シテ合併、資本ノ減少又ハ組織ノ變更ヲ爲シタルトキ
 三 檢査役ノ調査ヲ妨ケタルトキ
 四 第百四十二條第一項ノ規定ニ反シ株式ヲ取得シ若クハ質權ノ目的トシテ之ヲ受ケ又ハ同條第二項ノ規定ニ違反シテ之ヲ消却シタルトキ
 五 第百四十六條第一項ノ規定ニ違反シテ株券ヲ無記名式ト爲シタルトキ
 六 第百六十四條第二項又ハ民法第八十一條ノ規定ニ反シ破產宣吿ノ請求ヲ爲スコトヲ怠リタルトキ
 七 第百八十三條ノ規定ニ反シ準備金ヲ積立テス又ハ第百八十四條若クハ第百八十五條ノ規定ニ違反シテ配當ヲ爲シタルトキ
 八 第百八十九條ノ規定ニ違反シテ社債ヲ募集シタルトキ
 九 民法第七十九條ノ期間內ニ或債權者ニ辨濟ヲ爲シ又ハ第二百十六條ノ規定ニ違反シテ會社財產ヲ株主ニ分配シタルトキ
 十 第二百四十五條ノ規定ニ依ル裁判所ノ命令ニ違反シタルトキ
梅君曰ク二个條共過料ノ最高額ヲ增加シタルモノナリ蓋シ重大ナル事件ヲ取扱フニ付キ其惡意者ニ對スル制裁僅小ナルハ何等ノ効モ無シ須ラク罰ノ制裁ヲ大ナラシムヘキナリ其他新タニ加ヘタル事項ハ旣ニ存スル規定ニ對シ罰ノ制裁ヲ脫漏シタルモノニシテ第二百四十六條第三號ヲ加ヘタル所以ハ元來株式會社ノ內部ハ一見瞭然タルヘキモノナラサルヘカラス故ニ汎ク書類ノ閱覽ヲ許スヘキ義務ヲ負擔セシムルハ株式會社ノ性質上當然ノコトナリ果シテ然ラハ之カ閱覽ヲ爲サシメサルトキハ之ニ對シテ相當ノ制裁ナカルヘカラス又第四號ハ更ラニ一步ヲ進メタル理由ニ出テタルモノニシテ例ヘハ監督役ナル者ハ其職務上充分ノ調査ヲ遂ケサルヘカラス然ルニ調査上書類ヲ閱覽セントスルニ妨害スル如キ者ニ對シテモ亦制裁アルヘキヤ固ヨリ當然ナリ次ニ第九號ハ舊第七號ヲ改メタルモノニシテ創立總會竝ニ利息ノ配當ニ付テモ亦議決ヲ要スルモノナルヲ以テ之ヲ加ヘ尙ホ是等ニ記載スヘキ事項ヲ記載セサルトキト雖モ制裁アルヘキコト當然ニシテ定款ハ之ヲ記載セサレハ成立セサルモノナリト雖モ會社ハ之カ爲メ無效ト爲ルカ如キハ不可ナリ故ニ「之ニ記載スヘキ事項ヲ記載セス」ヲ加ヘタリ次ニ第二百四十七條ハ唯タ第十號ヲ加ヘタルノミ蓋シ第二百四十五條ハ外國會社カ日本ニ於テ公ノ秩序ヲ害スルトキハ其閉鎖ヲ命ス而シテ此閉鎖ハ強制シ得ヘキモノナリト雖モ閉鎖ノ命令アリタルニモ拘ハラス尙ホ暫時タリトモ營業ヲ繼續スルカ如キコトアルハ不都合ナルヲ以テ之ニモ制裁ヲ加ヘタルモノナリト
本條ハ異議ナク次ニ移ル
第二百四十八條(舊第二條)及ヒ第二百四十九條(舊第三條)ヲ左ノ如ク改ム
第二百四十八條 左ニ揭ケタル行爲ハ之ヲ商行爲トス
 一 利益ヲ得テ讓渡ス意思ヲ以テスル動產、不動產若クハ有價證券ノ有償取得又ハ其取得シタルモノヽ讓渡ヲ目的トスル行爲
 二 他人ヨリ取得スヘキ動產又ハ有價證券ノ供給契約及ヒ其履行ノ爲メニスル有償取得ヲ目的トスル行爲
 三 取引所ニ於テスル取引
 四 手形其他ノ商業證券ニ關スル行爲
第二百四十九條 左ニ揭ケタル行爲ハ營業トシテ之ヲ爲ストキハ之ヲ商行爲トス
 一 賃貸スル意思ヲ以テスル動產若クハ不動產ノ有償取得若クハ賃借又ハ其取得若クハ賃借シタルモノノ賃貸ヲ目的トスル行爲
 二 他人ノ爲メニスル製造又ハ加工ニ關スル行爲
 三 電氣又ハ瓦斯ノ供給ニ關スル行爲
 四 運送ニ關スル行爲
 五 作業又ハ勞務ノ請負
 六 出版、印刷又ハ寫眞ニ關スル行爲
 七 客ノ來集ヲ目的トスル場屋ニ關スル行爲
 八 貸金、兩替其他ノ銀行取引
 九 保險
 十 寄託ノ引受
 十一 仲立又ハ取次ニ關スル行爲
 十二 商行爲ノ代理ノ引受
前項ノ規定ハ專ラ賃金ヲ得ル目的ヲ以テ物ヲ製造シ又ハ勞務ニ服スル者ニハ之ヲ適用セス
梅君曰ク第二百四十八條ハ其第五號ハ舊第四條アルヲ以テ之ヲ削除セリ第二百四十九條ハ其第二號ニ「他人ノ爲メニスル」ヲ加ヘタルノミ原文ノ如キハ廣義ニ失シ些細ナルモノ迄モ包含スルハ酷ナリ次ニ第三號及ヒ第六號ノ「寫眞」ハ今日最モ行ハルヽ事業ナレハ是等ニ付テモ規定ナキハ不可ナリ尙ホ第七號ハ原文ノ意義狹キニ失セルヲ以テ之ヲ廣義トセシノミ次ニ第二項ハ例外ノ場合ニシテ右ハ他項ニ付テモ適用アルヘシト雖モ最モ本項ニ適用多キヲ以テ玆ニ規定セルナリ次ニ原第七號ハ之ヲ削除セリ其理由ハ海商ニ於テモ特ニ之ヲ商行爲トスルノ必要ヲ見ス是等ハ自ラ賣買製造等ノ中ニ包含スヘク又船員ノ雇人ノ如キモ勞務ノ受負中ニ入ルヘキヲ以テナリ尙ホ原第八號ハ「貸金、兩替其他ノ」ヲ加ヘ一層其意義ヲ明瞭ナラシメタリ次ニ第十一號ノ「問屋取引」ハ之ヲ削除セリ其理由ハ問屋取引モ亦取引ニ過キス故ニ取次ト共ニ問屋取引ヲ置クハ徒ニ疑ヲ惹起スルニ過キサレハナリト
本條ハ異議ナク次條ニ移ル
第三百十七條(舊第二百八十二條)ノ次ニ左ノ一條ヲ加フ
第三百十八條 貨物引換證ヲ作成シタルトキハ運送人ト荷受人トノ間ニ於テハ運送ニ關スル事項ハ貨物引換證ノ定ムル所ニ依ル
第三百四十四條(舊第三百八條)ノ次ニ左ノ一條ヲ加フ
第三百四十五條 預證券及ヒ質入證券ヲ作成シタルトキハ倉庫營業者ト所持人トノ間ニ於テハ寄託ニ關スル事項ハ其證券ノ定ムル所ニ依ル
舊第三百四十六條ハ之ヲ削除ス
第五百十九條(舊第四百七十六條)ヲ左ノ如ク改ム
船舶所有者ハ特別法ノ定ムル所ニ從ヒ登記ヲ爲シ且船舶國籍證書ヲ請受クルコトヲ要ス
前項ノ規定ハ總噸數二十噸未滿ノ船舶ニハ之ヲ適用セス
第五百三十一條(舊第四百八十八條)ヲ左ノ如ク改ム
船舶共有者ノ持分ノ移轉又ハ其國籍喪失ニ因リテ船舶カ日本ノ國籍ヲ喪失スヘキトキハ他ノ共有者ハ相當代價ヲ以テ其持分ヲ買取リ又ハ其競賣ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得
前項ノ規定ハ社員ノ持分ノ移轉其他ノ事由ニ因リ會社其他ノ法人ノ所有ニ屬スル船舶カ日本ノ國籍ヲ喪失スヘキ場合ニ之ヲ準用ス
梅君曰ク第三百十八條ヲ加ヘタル理由ハ元來貨物引換證ナルモノハ運送人ヨリ荷送人ニ對シテ發行スル證券ニシテ之ヲ以テスルニ非サレハ貨物ヲ受取ルコト能ハサルナリ從テ此証券ハ流通シ得ヘキモノナルカ故ニ彼ノ手形船荷証券ト性質相類スルモノナリ玆ヲ以テ証書ニハ記載ナキモ契約ノ意思ハ然リトカ或ハ記載アルモ契約ノ意ハ然ラスト云フカ如キハ不可ナリ是本條ノ必要アル所以ナリ次ニ第三百四十五條ヲ加ヘタルハ全ク前條ト同一ノ理由ニ出テ其必要一層大ナリ次ニ第三百四十六條ヲ削除シタルハ元來民法ニ於テモ亦商法ニ在リテモ證據ニハ必ス書面ヲ要ストノ規定ハ全ク之レ無シ手形ノ如キモ書面ヲ要スルモ是ハ證據トシテ要スルニアラス尙ホ其他遺言ノ如キニ至リテモ同一ナリ然ルニ獨リ保險ニ付テノミ此規定ヲ存スルハ頗ル體裁ヲ得ス實際上之レ無ケレハ不便ナルヲ以テ必ス之ヲ作成スルナランモ法律ヲ以テ規定スルノ必要ナシ次ニ第五百十九條ハ遞信省ト協議ノ上原文「登記証書」ヲ「船舶國籍証書」ト改メタルモノニシテ原文ノ儘ニテハ登記証書ノ他ニ尙ホ船舶國籍証書ヲ與フルモノト爲ルヘシト雖モコハ頗ル煩雜ナルカ故ニ一枚ノ證券ヲ以テ二葉ヲ兼ヌルノ便ヲ採レリ尙ホ第二項ニ「二十噸」トハ遞信省ノ意見ヲ容レタルモノニシテ又「總噸數」トハ登簿噸數ト總噸數トハ實際附合セサルコトアリ且今日ノ有樣ハ總噸數ニ重キヲ置クトナリ而シテ原文ニ所謂噸數トハ則チ登簿噸數ニ外ナラサルナリ次ニ第五百三十一條ハ船舶國籍法ノ脫稿ヲ俟ツヘシトテ假定ニ附シ置キタリト雖モ旣ニ國籍法ノ案成リ而シテ之ニ依レハ合名會社ニ在リテハ總社員カ日本人ニ非サレハ日本ノ國旗ヲ揭クルヲ得ス又株式會社ニ在リテハ取締役ノ總員其他ノ法人ニ在リテハ理事總員カ日本人ニ非サレハ日本ノ國旗ヲ揭クルコトヲ得スト謂フニアリ然ルニ原案ニ依レハ只株主ノミ變更セルモ船舶ノ國旗ヲ變更セサルナリ之ト同時ニ原案ハ法人ノ所有ニ屬スル船舶ニ關シテハ何等ヲモ規定セス故ニ本條ハ之ヲ加ヘタリ尙ホ取締役總員カ日本人タルヘキニ若シ其一人カ國籍ヲ變更シタルトキハ此會社ノ船舶ハ最早日本ノ國旗ヲ揭クルコトヲ得サルモノトシ且株式ノ移轉ヲ停メタリト
內田君ハ「海員」ナル名ハ未定ノ有樣ニアリタリ蓋シ本案ニハ海員中ニ船員ヲ含メ而シテ海員中ニハ船長ヲ除ケリ然レトモ現行法令ニハ海員中ニ船長ヲモ含マシムルカ故ニ可成本案モ之ト用例ヲ同一ニスヘシト主張シ贊成アリ之ヲ起立ニ問ヒシモ小數ニテ消滅シ本案玆ニ可決ヲ吿ケタリ