第百二十一回商法委員會議事要錄
明治三十年十一月二十二日午後三時四十五分開會
出席員
淸浦奎吾君
阿部泰藏君
田部芳君
穗積八束君
富谷鉎太郞君
河村讓三郞君
井上正一君
都筑馨六君
梅謙次郞君
重岡薰五郞君
長谷川喬君
南部甕男君
尾崎三良君
三浦安君
岡野敬次郞君
加藤正義君
商修正原案
第三編ノ標題「契約」ヲ「商行爲」ト改ム
岡野君曰ク本修正ハ既ニ議場ニ於テ決セラレタル所ニシテ舊案ニ在リテハ「契約」ナル標題ヲ設ケタルカ爲メ種々不都合ナル規定ヲ生スルヲ以テ之ヲ「商行爲」ト改メタルモノトス此結果トシテ第一編第二章ノ「商行爲及ヒ商人」トハ聊カ重複ニ涉ルノ恐アルヲ以テ此商行爲ニ關スル規定ハ之ヲ第三編中ニ入レ第一編第二章ハ單ニ「商人」ノミノ規定ト爲スヲ以テ爰當ナリト思考ス然レトモ這ハ整理ニ讓リ本案ハ先ツ右表題ノミノ修正ヲ提出セリト
右ハ異議ナク次條ニ移ル
第二百二十四條中「對話者間ニ於テ」ノ下「契約ノ」ノ三字ヲ加フ
第二百二十五條中「定メスシテ」ノ下「契約ノ」ノ三字ヲ加フ
第二百二十八條第一項中「契約」ヲ「行爲」ト改ム
第二百三十一條ヲ左ノ如ク改ム
商行爲ニ關シテハ法定利率ハ年六分トス
岡野君曰ク沼第二百二十四條乃至第二百二十八條ハ第三編ノ標題ヲ改メタル當然ノ結果ニシテ第二百二十四條及ヒ第二百二十五條ハ既ニ契約ニ關スル規定ニシテ「商行爲」ニ關スル廣キ規定ニアラサルヲ以テ特ニ「契約」ノ文字ヲ加ヘタリ又第二百二十八條第一項ハ他ノ文例ニ倣フテ之ヲ改メタルニ過キス尙ホ第二百三十一條ハ暇決ノ有樣ニ在リタルモノニシテ卽チ全國商業會議所ノ意見ヲ聞クヘキ目的ヲ以テ延期セシモノナリ今ヤ其答報ニ接シタルヲ以テ之ヲ見ルニ其十中八九ハ「六分」ヲ以テ可ナリトセリ依ツテ斯クノ如ク修正セリト
異議ナク次條ニ移ル
第二百三十二條第一項ヲ左ノ如ク改ム
商行爲ニ因リテ生シタル債務ノ履行ヲ爲スヘキ場所カ其行爲ノ性質又ハ當事者ノ意思表示ニ因リテ定マラサルトキハ特定物ノ引渡ハ行爲ノ當時其物ノ存在セシ場所ニ於テ之ヲ爲シ其他ノ履行ハ債權者ノ現時ノ營業所、若シ營業所ナキトキハ其住所ニ於テ之ヲ爲スコトヲ要ス
岡野君曰ク本修正モ第三編ノ標題ヲ修正シタル結果ニシテ債務ハ果シテ契約ヨリ生スルヤ否ヤ頗ル疑ハシキニモ拘ラス「契約」ノ文字ヲ使用スルハ妥當ナラスト
異議ナク次ニ移ル
同條ノ次ニ左ノ三條ヲ加フ
第二百三十二條甲 指圖債權又ハ無記名債權ノ債務者ハ其履行ニ付キ期限ノ定アルトキト雖モ所持人カ其證券ヲ呈示シテ履行ノ請求ヲ爲シタル時ヨリ遲滯ノ責ニ任ス
前項ノ規定ハ民法第四百七十一條ニ揭ケタル債權ニ之ヲ準用ス
第二百三十二條乙 金錢其他ノ物ノ給付ヲ目的トスル指圖證券ノ所持人カ其證券ヲ喪失シタル場合ニ於テ公示催告ノ申立ヲ爲シタルトキハ債務者ヲシテ其債務ノ目的物ヲ供託セシメ又ハ相當ノ擔保ヲ供シ其證券ノ趣旨ニ從ヒテ履行ヲ爲サシムルコトヲ得
第二百三十二條丙 第三百七十七條、第三百九十三條、第三百九十七條及ヒ第四百條ノ規定ハ金錢其他ノ物ノ給付ヲ目的トスル指圖債權ニ之ヲ準用ス
岡野君曰ク右甲ノ規定ハ民法第四百十二條ト牽連スヘキ問題ニシテ或ハ之ヲ民法ノ規定ニ讓ルヲ以テ要當トスヘキモ既ニ前條ノ規定ハ民法ニ之レ無キヲ以テ本條ハ少シク重複ナルニモ拘ラス之ヲ設ケタリ蓋シ「指圖債權又ハ無記名債權」ハ民法ニ於テモ之ヲ任ムル所ナリト雖モ實際上多クハ商法ニ於テ其適當ヲ見ルカ故ニ本案ニ於テモ之ヲ規定セリ而シテ民法第四百十二條ヨリ謂ヘハ債務ノ履行ニ付キ期間ノ定アルトキハ其期間經過ノ時ヨリ遲滯ノ責任アルナリ然レトモ本條ニ所謂債權ノ所持人ハ期間到來シタルトキハ前條第二項ニ因リ所持人ヨリ債務者ニ行キ其履行ヲ請求スヘキモノナリ何トナレハ其流通セル間ハ果シテ其當時何人ヲ所持人タルヤ債務者之ヲ知ルニ由無ケレハナリ故ニ本條ノ債權ハ學者ノ所謂呈示債權ニ外ナラス尙ホ本條第二項ニ民法第四百七十一條ノ債權トハ卽チ發行ノ當時債權者ノ氏名ヲ證劵ニ記載スルモノナリ然リト雖モ純然タル指圖債權及ヒ無記名債權ニ在リテハ其氏名ヲ記載セサルモノナリ而シテ本條第一項ハ此場合ニモ準用セラルヘキモノナリ次ニ乙ノ規定ハ本案第四百二十二條及ヒ第五百五十八條ノ主意ヲ採リ玆ニ廣ク「金錢其他ノ物ノ給付」トシ第四百二十二條及ヒ第五百五十八條ハ之ヲ削除スルノ精神ナリ次ニ丙ノ規定ハ爰ニ準用セラレタル規定ハ主トシテ裏書ニ關スル規定ニシテ民法ニ在リテハ指圖債權ノ裏書ノ方法ハ法律上定マラス卽チ如何ニ裏書スヘキヤ又裏書ハ必ス連續スヘキモノナルヤハ毫モ規定セス蓋シ指圈債權ノ如キ專ラ融通ヲ目的トスルモノニ在リテハ債權者債務者共ニ心ヲ安ンシテ取引ヲ爲スヘキモノナラサルヘカラサルカ故ニ此規定ヲ準用シタリ是或ハ爲替手形ノ裏書ノ規定ヲ商行爲中ニ揭ケ此商行爲ノ規定ヲ裏書ノ規定ニ準用スルヲ以テ爰當ナラント雖モ外國立法例モ多クハ本案ノ如キ又實質ニ弊害アルヲ見サルカ故ニ斯ノ如クセリト
異議ナク次ニ移レリ
第二百三十三條ヲ左ノ如ク改ム
法令又ハ慣習ニ依リテ取引時間ノ定アルトキハ其取引時間內ニ限リ債務ノ履行ヲ爲シ又ハ其履行ノ請求ヲ爲スコトヲ得
第二百三十四條中「契約」ヲ「行爲」ト改ム
同條ノ次ニ左ノ一條ヲ加フ
第二百三十四條甲 商行爲ニ因リテ生シタル債權ハ本法ニ別段ノ定アル場合ヲ除ク外五年間之ヲ行ハサルトキハ時效ニ因リテ消滅ス但民法第百七十條、第百七十三條及ヒ第百七十四條ノ適用ヲ妨ケス
岡野君曰ク第二百三十三條ハ舊文ノ如キトキハ債務者ハ其時間內ニ履行スヘキモ債權者ハ此時間外ト雖モ請求シ得ルカ如ク頗ル不權衡ナルカ故ニ之ヲ修正セリ次ニ第二百三十四條ハ第三編標題修正ノ結果ニシテ第二百三十四條甲ハ時效ノ規定ニシテ豫決ノ際ニ在リテハ之ニ關シ果シテ幾許ノ規定ヲ要スルヤヲ知リ得サリシカ故ニ其目錄中ニハ之ヲ假設シタリ本條ハ之ニ封スル規定ニシテ抑モ此時效ノ長短ハ各國異ナリト雖モ本案ハ之ヲ五年トセリ蓋シ商行爲ノ時效ノ殆ント各所ニ規定セリト雖モ溫這.ハ短期ノモノニシテ是亦本條ニ因リテ妨ケラルルコトナシ尙ホ本條但書ノ民法第百七十條、第百七十三條及ヒ第百七十四條ハ是亦所謂短期時效ノ規定ニシテ之等モ其適用ヲ見サルハ不都合ナルヲ以テ本項ヲ以テ之ヲ明言シタルモノナリ況ンヤ民法中ニハ商行爲ヨリ生スルモノアルニ於テオヤト
異議ナク可決ス
第二百八十二條ノ次ニ左ノ一條ヲ加フ
第二百八十二條甲 裏書ニ依リテ貨物引換證ヲ讓渡シタルトキハ運送品ノ讓渡ト同一ノ效力ヲ有ス
第三百十一條ノ次ニ左ノ一條ヲ加フ
第三百十一條甲 第二百八十二條甲ノ規定ハ預證券ニ之ヲ準用ス
第四百二十二條ハ之ヲ削除ス
岡野君曰ク陸上運送ニ於ケル貨物引換證、倉庫營業ニ於ケル預證劵、海上運送ニ於ケル船荷證劵ノ裏書ハ啻ニ債權ノ效力ヲ生スルノミヲ以テハ未タ荷受人ノ權利充分ナラス從テ其流通ヲ妨クルノ恐アリ故ニ是等ノ裏書ハ物權的ノ效力ヲ生シ之ヲ讓受ケタル者ハ荷物ノ所有者ト爲ラサルヘカラス果シテ物權的ノ效力ヲ生スル以上ハ之ヲ商行爲ノ總則中ニ置クハ要當ナラス是第二百八十二條甲ヲ以テ之ヲ規定シタル所以ニシテ外國法ニ在リテモ亦然リ次ニ第三百十一條甲ハ前條ノ結果其物權的效力ヲ生スルコトヲ明言シタルニ過キス街ホ第四百二十二條ヲ削除シタルハ第二百三十二條乙ヲ設ケタル結果ニシテ既ニ第二百三十二條乙ノ說明中ニ留保セリト
異議ナク可決ス
第四百七十六條(舊第四百三十條)第一項ヲ左ノ如ク改ム
船舶所有者ハ特別法ノ定ムル所ニ從ヒ登記ヲ爲シ且登記證書ヲ請受クルコトヲ要ス
第四百七十九條(舊第四百三十三條)ヲ左ノ如ク改ム
差押及ヒ假差押ハ發航ノ準備ヲ終ハリタル船舶ニ對シテ之ヲ爲スコトヲ得ス但其船舶カ發航ヲ爲ス爲メニ生シタル債務ニ付テハ此限ニ在ラス
第四百八十條(舊第四百三十四條)ノ次ニ左ノ一條ヲ加フ
第四百八十條甲 船舶所有者カ債權者ノ同意ヲ得スシテ新ニ發航ヲ爲サシメタルトキハ前條ニ定メタル權利ヲ行使スルコトヲ得ス
岡野君曰ク第四百七十六條ヲ修正セル理由ハ既ニ登記ニ關スル事項ハ特別法ニ讓リタル結果ナリ次ニ第四百七十九條ヲ修正セル理由ハ舊文ニ依レハ例ヘハ甲港ニ於テ負債ヲ爲シテ既ニ發航ノ準備終ルトキハ債權者最早船舶ヲ差押フルコト能ハヌト雖モ右船舶カ乙港ニ到着シタル場合ニ於テハ右ノ債權者ハ此乙港ニ於テ差押ヲ爲スコトヲ得ルカ如シトノ批難アリタルヲ以テナリ尙ホ第四百八十條甲ヲ加ヘタルハ第四百八十條ニ依リ船舶ノ所有者猥リニ航海ヲ爲シ既ニ艢舶ノ價格ヲ減シタルモノヲ委付シ得ルコトアリテハ大ニ他ノ利益ヲ害スルヲ以テナリト
加藤君ハ第四百八十條ニハ「航海ノ終ニ於テ船舶ノ運送賃及ヒ船舶所有者カ其船舶ニ付キ有スル損害賠償又ハ報酬ノ請求權」トハ其航海ニ於テ生シタルモノノミノ如シ其以前ヨリ有スル債權ヲモ含マシメサルヘカラスト批難シ起草者ハ一考スヘキ旨ヲ答ヘ次條ニ移ル
第四百八十八條(舊第四百四十二條)第一項第一號ヲ左ノ如ク改ム
一 船舶ノ讓渡、委付若クハ賃貸ヲ爲シ又ハ之ヲ抵當ト爲スコト
第四百九十五條(舊第四百四十九條)ヲ左ノ如ク改ム
船長ハ已ムコトヲ得サル場合ヲ除ク外荷物ノ船積及ヒ旅客ノ乘込ノ時ヨリ荷物ノ陸揚及ヒ旅客ノ上陸ノ時マテ其指揮スル船舶ヲ去ルコトヲ得ス
第四百九十七條(舊第四百五十一條)第二項中二个所ニ於テ「積荷ノ」ノ三字ヲ削ル
梅君曰ク第四百八十八條第一項第一號ハ舊文ノ意義狹キニ失セリトノ批難ニ基キ其場合ハ頗ル稀ナルニモ拘ラス賣買ノ外代物辨濟ノ如キ其他委付及ヒ賃貸抵當ノ如キモ皆讓渡ト等シク管理人ノ權限中ニ無キモノトセリ次ニ第四百九十五條ハ舊文中ニハ荷物ニ付テノミ規定シテ旅客ニ適用ナキハ不都合ナリトノ批難ニ基キタルモノナリ次ニ第四百九十七條ノ修正ハ舊文第二項ノ「積荷」トハ其第一項ノモノト附合セストノ批一難ニ基キシモノナリト
原案可決シテ次條ニ移ル
第四百九十八條(舊第四百五十二條)第二項ヲ左ノ如ク改ム
船籍港ニ於テハ船長ハ特ニ委任ヲ受ケタル場合ヲ除ク外海員ノ雇入及ヒ雇止ノミヲ爲ス權限ヲ有ス
第五百條(舊第四百五十四條)ヲ左ノ如ク改ム
船長ハ船舶カ修繕、救援又ハ救助ノ費用其他航海ヲ繼續スルニ必要ナル費用ヲ支辨スル爲メニ非サレハ左ノ行爲ヲ爲スコトヲ得ス
一 船舶ヲ抵當ト爲スコト
二 借財ヲ爲スコト
三 積荷ノ全部又ハ一部ヲ質入又ハ賣却スルコト但第四百九十七條ノ場合ハ此限ニ在ラス
舶長カ積荷ヲ質入又ハ賣却シタル場合ニ於ケル損害賠償ノ額ハ其積荷ノ到達スヘカリシ時ニ於ケル到達地ノ價格ニ依リテ之ヲ定ム但其價格中ヨリ支出スルコトヲ要セサル費用ヲ控除スルコトヲ要ス
梅君曰ク第四百九十八條ハ舊文ニ在リテハ其第二項ニ「前項ニ定メタル」云々トアリテ卽チ第一項ノ例外ヲ示スカ如キ嫌アリ尙ホ單ニ海員ノ雇入ノミニテ之カ雇止メヲ爲スニ付テモ裁判上及ヒ裁判外ノ權限ヲ有セシメサルハ頗ル其當ヲ得ストノ批難ニ基キテ修正ヲ施シタルモノナリ次ニ第五百條ハ舊文ノ如ク單ニ「船舶修繕ノ費用」ノミハ狹キニ失スヘク救助ノ費用ヲモ包含セシムヘシトノ批難ニ基キ之ヲ修正シ尙ホ本案ニハ救助ト救援トヲ區別シタルヲ以テ本條モ之ヲ區別シタリ次ニ舊文ノ「其他航海ニ必要ナル」トハ聊カ漠然ニ決スルカ故ニ之ヲ改メテ「航海ノ催續」トセリ尙ホ本條第三號ニ但書ヲ追加シタル理由ハ既ニ第四百九十七條第一項中ニハ積荷ノ賣却ヲモ包含スルモノナルニ本條第三號ハ之ト矛盾スルノ嫌アルヲ以テ但書ヲ加ヘテ之ヲ明言セリ又本條第二項但書追加ノ理由ハ途中ニ於テ積荷ヲ賣却シタル場合ハ其到達港迄到ラサルモノナルカ故ニ從テ到達港迄ノ運賃、費用諸視等ニ尙ホ利益ヲ見積リタル價額ヲ以テ其價額ト爲スコトヲ得ス故ニ海損、保險者ノ規定ト權衡ヲ得セシメンカ爲メ但書ヲ加ヘリト
異議ナク可決ス
第五百二條(舊第四百五十六條)中「得タル後」ヲ「得テ」ト改ム
第五百三條(舊第四百五十七條)中「航海ノ爲メ」ヲ「航海ヲ繼續スル爲メ」ト改ム
第五百六條(舊第四百六十條)第二項中「服役中」ノ三字ヲ削ル
第五百八條(舊第四百六十二條)ヲ左ノ如ク改ム
海員カ服役中不行跡其他重大ナル過失ニ因ラスシテ疾病ニ罹リ又ハ傷痍ヲ受ケタルトキハ船舶所有者ハ三个月ヲ超エサル期間內ノ治療及ヒ看護ノ費用ヲ負擔ス
前項ノ場合ニ於テ海員ハ其服役シタル期間ニ對スル給料ヲ請求スルコトヲ得但其職務ヲ行フニ因リテ疾病ニ罹リ又ハ傷痍ヲ受ケタルトキハ其給料ノ全額ヲ請求スルコトヲ得
梅君曰ク第五百二條ハ民法等ノ文例ニ倣ヒタルニ過キサレハ敢テ說明ヲ要セス第五百三條ハ既ニ第五百條ニ於テ述ヘタルカ如ク「航海ノ爲メ必要ナル」トハ漠然ナルカ故ニ「航海ヲ繼續スル爲メ」トセルノミ又第五百六條ハ舊文ノ「服役中」トハ之ヲ嚴格ニ解スルトキハ「事實上其勞務ニ着手セル中」トノ意味ニシテ若シ用事無ケレハ許可ナクシテ上陸シ得ルカ如ク解シ得ルヲ以テ寧ロ之ヲ削除セリ衣ニ第五百八條ハ以前ハ「自己ノ過失」中ニハ不行跡ヲモ包含スヘシト信シタルモ熟考スルニ不行跡ハ果シテ過失ナルヤ否ヤ疑ハシキヲ以テ之ヲ加ヘ又過失トハ其大小如何ヲ論セサルヤ僅小ノ過失ヲモ包含スルハ酷ニ失スヘシ故ニ「重大」ヲ加ヘ次ニ舊文ニハ「服役中ノ給料」トアリタルモ既ニ述ヘタルカ如ク服役ナル文字要當ナラス故ニ「服役シタル期間」トセハ一層明瞭ナルヘク且第五百十二條ニモ同一ノ文字ヲ使用セルヲ以テ彼是權衡ヲ得セシメタリ次ニ但書ハ若シ之レ無キハ酷ナリトテ之ヲ加ヘタリト
加藤君ハ既ニ第五百條第二項但書アル以上ハ第五百三條ニモ同一ノ但書ヲ要スヘシト注意シ起草者ハ其詭ヲ容ル一考ニ附スヘシト可決シ次條ニ移ル
第五百九條(舊第四百六十三條)ヲ左ノ如ク改ム
一航海ニ付キ給料ヲ定メタル場合ニ於テ航海ノ日數ヲ延長シ又ハ不可抗力ニ因ラスシテ其里程ヲ延長シタルトキハ海員ハ其割合ニ應シテ給料ノ增加ヲ請求スルコトヲ得但航海ノ日數又ハ里程ヲ短縮シタルトキト雖モ給料ノ全額ヲ請求スルコトヲ得
第五百十條(舊第四百六十四條)ヲ左ノ如ク改ム
海員カ就役ノ後死亡シタルトキハ船舶所有者ハ死亡ノ日マテノ給料ヲ支拂フコトヲ要ス
海員カ其職務ヲ行フニ因リテ死亡シタルトキハ其葬式ノ費用ハ船舶所有者ノ負擔トス
梅君曰ク第五百九條ハ舊文ノ「航海ノ延長」トハ日數ヲ指スヤ將タ里數ヲ謂フヤ或ハ雙方ヲ指スヤ不明ナリトノ批難アリ依テ之ヲ考フルニ之ハ雙方ヲ含ムヲ以テ可トス最モ里程延長ノ場合ハ危險ノ爲メ止ムヲ得スシテ爲スコトアリト雖モ之カ爲メ日數ヲモ延長シタルトキハ給料ヲ增加スヘキモノナリ之ニ反シテ假令里程ヲ延長スルモ日數ニ何等ノ響況ヲモ及ホササルトキハ是航海ノ性質上當然ノコトタルヲ以テ敢テ之カ爲メ給料ヲ增加スヘキ理由ナシ爰ヲ以テ「不可抗力ニ因ラスシテ」トシタリ次ニ第五百十條ハ「服役中」ノ文字爰當ナラス斯クテハ其職務執行中ニ死亡シタル力ノ如ク解スルノ恐アリ依テ之ヲ「就役」ト改メタリ尙ホ第二項ハ原文ノ「職務ヲ行フニ當リ」トハ職務ヲ行フニ際シト云フ意味ニシテ實際其職務ニ關係無キモノヲモ包含スルニアラス故ニ其疑ヲ避ケンカ爲メ之ヲ「其職務ヲ行フニ因リテ」ト改メタリト
異議ナク可決セリ
第五百十一條(舊第四百六十五條)ヲ左ノ如ク改ム
左ノ場合ニ於テハ船長ハ海員ヲ雇止ムルコトヲ得
一 發航前海員カ其職務ニ不適任ナルコトヲ認メタルトキ
二 海員カ著シク其職務ヲ怠リタルトキ
三 海員カ禁錮以上ノ刑ニ處セラレタルトキ
四 海員カ疾病ニ罹リ又ハ傷痍ヲ受ケ其職務ニ堪ヘサルニ至リタルトキ
五 戰爭其他不可抗力ニ因リテ發航ヲ爲シ又ハ航海ヲ繼續スルコト能ハサルニ至リタルトキ
前項第一號乃至第四號ノ場合ニ於テハ海員ハ其服役シタル期間ニ對スル給料ヲ請求スルコトヲ得
第一項第五號ノ場合ニ於テハ海員ハ其雇止ノ日マテノ給料及ヒ雇入港マテノ送還ヲ請求スルコトヲ得第四號ノ場合ニ於テ海員ニ過失ナキトキ亦同シ
梅君曰ク舊文第四號中「自己ノ過失ニ因リテ」ハ議場ニ於テ削除セラレタリ故ニ第二項ノ修正ハ當然ニ生スヘキモノニシテ卽チ第四號中「自己ノ過失ニ因リテ」ヲ削除シタルカ故ニ原文第二項ノ如キトキハ自己ノ過失ノ爲メ其職務ニ堪ヘサルニ至リタルトキト雖モ雇止ノ日迄ノ給料ヲ請求シ得ルカ如キハ海員ニ對シ過分ノ利益ヲ與フルモノナリ故ニ本案ニ於テハ之ヲ改メ第一號乃至第四號」トセリ又第五號中「發航港」ヲ雇入港ト改メタルハ從來ハ海員ヲ雇入ルルニ際シテハ必スシモ海岸ニ接シテ居住ヲ構フル者ノミニアラスシテ或ハ遠ク山間ノ僻地ニ在ル者ヲ雇入ルルコト無キニアラスト信シコ發航港」ノ文字ヲ使用シタリト雖モ熟考スルニ右ニ付テハ必ス其雇入ヲ登記スヘキ港アリテ之ヲ以テ雇入港トスルカ如シ故ニ之ヲコ雇入港」ト改メタリ次ニ第三項ヲ追加シタルハ既ニ第四號中「自己ノ過失ニ因リテ」ヲ削除シタリシ結果トシテ或ハ其過失ノ有無ヲ問ハサルカ如キ感ナキ能ハサレハナリト
異議ナク可決セリ
第五百十二條(舊第四百六十六條)ヲ左ノ如ク改ム
海員カ前條ニ揭ケタル事由其他正當ノ理由ナクシテ雇止メラレタルトキハ其服役シタル期間ニ對スル給料ノ外一个月分ノ給料ヲ請求スルコトヲ得若シ雇入港外ニ於テ雇止メラレタルトキハ雇入港マテ歸航スルニ必要ナル期間ニ對スル給料及ヒ雇入港マテノ送還ヲ請求スルコトヲ得
第五百十三條(舊第四百六十七條)第二項中「發航港」ヲ「雇入港」ト改ム
梅君曰ク第五百十二條ハ單ニ「正當ノ理由ナクシテ」トハ聊カ漠然タル嫌アルヲ以テ其主トシテ正當ノ理由ト爲ルヘキモノハ前條ニアルモ故ニ「前條ニ揭ケタル事由」ヲ加ヘタルニ過キス其他前述ノ如ク「發航港」ヲ「雇入港」ト修メタルノミ次ニ第五百十三條モ同一理由ナリト
異議ナク可決セリ
第五百十四條(舊第四百六十八條)ヲ左ノ如ク改ム
航海中船舶ノ所有者カ變更シタルトキハ海員ハ新所有者ニ對シ雇傭契約ニ因リテ生シタル權利義務ヲ有ス
同條ノ次ニ左ノ一條ヲ加フ
第五百十四條甲 海員ノ雇入期間ハ一年ヲ超ユルコトヲ得ス若シ之ヨリ長キ期間ヲ以テ海員ヲ雇入レタルトキハ其期間ハ之ヲ一年ニ短縮ス
海員ノ雇入ハ之ヲ更新スルコトヲ得但其期間ハ更新ノ時ヨリ一年ヲ超ユルコトヲ得ス
梅君曰ク第五百十四條ハ原文ニ依レハ其所有者變更スルモ雇傭契約ハ依然繼續スルカ如シ是頗ル奇怪ナルコトニシテ此場合ニ舊所有者ノ權利ハ當然新所有者ニ移轉スルモノニアラス玆ヲ以テ本案ハ寧ロ之ヲ明言シタルモノナリ次ニ第五百十四條甲ハ既ニ議場ニ於テ雇入期間ノ最長期ヲ定ムヘシト決セラレタルモノニシテ其標準頗ル不定ナリト雖モ先ツ一ケ年ヲ以テ爰當ナラント信ス其他ハ民法ノ文例ニ倣ヒタル修正ニ外ナラヌト
異議ナク可決ス
第五百十五條(舊第四百六十九條)ヲ左ノ如ク改ム
雇入期間ノ定ナキトキハ海員ハ特約アル場合ヲ除ク外航海カ終了シ、船舶カ安全ニ碇泊シ且荷物ノ陸揚及ヒ旅客ノ上陸カ終ハリタル後ニ非サレハ其雇止ヲ請求スルコトヲ得ス
第五百十六條(舊第四百七十條)ヲ左ノ如ク改ム
海員ノ雇入契約ハ左ノ事由ニ因リテ終了ス
一 船舶カ沈沒シタルコト
二 船舶カ修繕スルコト能ハサルニ至リタルコト
三 船舶カ捕獲セラレタルコト
前項ノ場合ニ於テハ海員ハ契約終了ノ日マテノ給料及ヒ雇入港マテノ送還ヲ請求スルコトヲ得
第五百十七條(舊第四百七十一條)中「發航港」ヲ「雇入港」ト改ム
梅君曰ク第五百十五條第二項ハ既ニ議場ニ於テ決シタルモノニシテ敢テ說明ヲ要セス尙ホ原文第一項ノ「船舶カ發航港マテ歸港シタル後」ヲ改メテ「航海カ終了シ」トセリ是レ原文ト意味ヲ異ニスル所ニシテ原文ニ依レハ航海ノ往復ヲ各一航海トシタル場合ニハ全ク之ヲ終ラサレハ雇止ヲ請求シ得サルナリ是レ頗ル不便ニシテ先ツ歸港迄必ス同一人ヲ使用スヘキ旨ヲ最初定メタルモノトセハ不可ナシト雖モ默シテ雇入レタル場合ハ先ツ一航海ノ爲メト看做スヘキナリ雇入港カ其者ノ住所ニ接近ノ地ニアルトキハ可ナルモ若シ遠ク隔絕ノ地ニ在ルトキハ其不便極メテ大ナリ故ニ之ヲ修正セリ次ニ第五百十六條ハ第一號ハ既ニ議場ニ於テ決シ第二號ハ不完全ナリトノ批難アリ寧ロ之ヲ廣義ト爲シ「海難」ヲ削除セリ故ニ其結果トシテ原因如何ヲ問ハサルモノナリ其他ハ前述ノ如ク「發航港」ヲ「雇入港」ト爲シタルモノニシテ第五百十七條モ同一ナリト
異議ナク可決シ散會ヲ吿ケタリ
其時午後六時半