明治商法(明治32年)

法典調査会 商法委員会議事要録 第119回

参考原資料

備考

  • 未校正のテキストデータです.
第百十九回商法委員會議事要錄
出席員
淸浦奎吾君
阿部泰藏君
田部芳君
高木豐三君
橫田國臣君
富谷鉎太郞君
河村讓三郞君
長谷川喬君
梅謙次郞君
重岡薰五郞君
南部甕男君
磯部四郞君
尾崎三良君
三浦安君
岡野敬次郞君
加藤正義君
內田嘉吉君
第五百九十九條 保險者ノ責任カ始マル前ニ於テハ保險契約者ハ契約ノ全部又ハ一部ヲ解除スルコトヲ得
(參照)舊六二六、六五七、佛三四九、蘭六三五、獨八九四、同舊八九九、伊六一四、西七八一、羅六二六、葡四三七、白千八百七十九年八月二十一日法一七七、英千八百九十四年チヤルマース氏海上保險法案四三、八三
第六百條 保險者ノ責任カ始マル前ニ於テ保險契約者又ハ被保險者ノ行爲ニ因ラスシテ保險契約ノ目的ノ全部又ハ一部ニ付キ保險者ノ負擔ニ歸スヘキ危險カ生セサルニ至リタルトキハ保險者ハ保險料ノ全部又ハ一部ノ返還ヲ爲スコトヲ要ス
(參照)舊六二六、六五七、獨八九四、同舊八九九、葡四三七、英千八百九十四年チヤルマース氏海上保險法案八三
第六百一條 前二條ノ場合ニ於テハ保險者ハ保險金額ノ二百分ノ一ニ當タル金額ヲ請求スルコトヲ得
(參照)舊六二六、六五七、佛三四九、蘭六三五、獨八九四、同舊八九九、伊六一四、西七八一、羅六二六、葡四三七、白千八百七十九年八月二十一日法一七七
岡野君曰ク右三條ハ保險契約ノ解除ニ付キ既ニ危險カ生セサルニ至リタルトキ或ハ假令保險者ハ利益ヲ受ケサルモ或ハ保險者ハ契約上ノ填補ノ責任カ生セサルトキモ或ハ保險ノ責任ノ生セサルニ至リタルトキモ孰レモ契約ノ解除ヲ許ササルヘカラス乍併一度契約ヲ締結シタルモノナルカ故ニ第六百一條ノ規定ヲ以テ保險金額ノニ百分ノ一ニ當ル金額ヲ請求スルコトヲ得ヘキモノトセリ舊商法九百五十八條ニ於テハ被保險者ハ危險ノ始マル前ニ航海ヲ止メタルトキハ被保險額ノニ百分ノ一ノ損害賠償ヲ支拂ヒテ契約ヲ解除スルコトヲ得トアリテ是主トシテ船舶ノ保險ニ關スルコトヲ定メタルモノニシテ外國ノ立法例モ多クハ之ト同コナリ然レトモ九百一條ノ場合ハ必シモ船舶ニ限ラス荷物ノ場合ニ於テモ其必要ヲ生スヘシ卽荷主ニ送ルヘキ荷物ニ付キ保險契約ヲ解除スルコトアリ現ニ荷物ニハ積込ノ計嗇ヲ爲セシモ船長カ被保險物ノ全部ヲ滅失シタルトキハ保險者ヨリニ百分ノ一ノ請求ヲ爲シ得ヘキコトハ別段差支ハ生セサルヘシ要スルニ本條ハ理論上竝ニ實際上極メテ必要ナルカ故ニ荷物ニ付キテモ右ノ規定ヲ適用セシムルコトトセリ
加藤君曰ク保險金額ノニ百分ノ一ハ各國ノ標準モ皆如斯ナリ然レトモ斯カル標準ハ高キニ失スルノ虞ナシトセス今日ノ實際上船舶ノ保險料ハ一ケ月百分ノ一ナルコトアルモ反之荷物ニ至リテハ四百分ノ一或ハ三百分ノ一ノコトモアリ而シテ保險金ノニ百分ノ一ト云フ標準ハ槪シテ保險料ト同一ナリ而シテ右ノ責任カ發生セサルニ抅ラス保險料ノ全部ヲ請求シ得ヘシトノコトハ正當ナル標準ト認メカタシ余輩ノ信スル所ニテハ保險料ノ半額ト爲スカ最モ正當ナリト信ス岡野書曰ク實際上今日ノ保險ノ額ハ知ラサレトモ外國ノ立法例ハ多クハ皆如斯ナリ而シテ理論上一度保險契約ヲ締結スルトキハ假令保險者ノ責任ハ開始セサルモ且又危險ハ生セサルモ保險者ハ保險料ノ全額ヲ支拂フヘキモノナリト昔時ハナリ居レリ然レトモ今日ノ實際カ然ラサルモノナリトセハ之ヲ改メサルヘカラスト述ヘ終ニ保險料ノ半額ヲ支拂フヘキモノト爲スノ說ニ可決セリ
修正案
第三百四十五條ノ次ニ左ノ一條ヲ加フ
第三百四十五條甲 保險契約者カ委任ヲ受ケスシテ他人ノ爲メニ契約ヲ爲シタル場合ニ於テ其旨ヲ保險者ニ告ケサルトキハ其契約ハ無效トス若シ之ヲ告ケタルトキハ被保險者ハ當然其契約ノ利益ヲ享受ス
岡野君曰ク本條竝ニ他ノ三條ハ海上保險ノ關係上一般ノ保險契約ニ於テ規定スヘキコトノ必要ヲ發見セリ而シテ第三百四十五條甲ハ保險契約者カ他人ノ爲メニ保險ヲ爲ス規定ナリ而シテ保險契約者ハ第三百四十五條第一項ノ規定ニ依リ保險者ニ對シ保險料ヲ支拂フモ乍併保險ノ目的ハ損害ヲ填補スル爲メニ爲スモノナルカ故ニ荷物ニ就テ云フトキハ之ヲ嗔補セラルル人ハ荷主ナルモ其契約ノ當時ハ何人カ荷主ナルカ知ルコトヲ得ス若シ之ヲ知ルコトヲ得ハ保險契約者ハ他人ノ爲メニ契約ヲ爲シタルモノニシテ自己ノ爲メニナシタルモノニアラサルヘシ要スルニ此趣旨ヲ本條ハ決定セリ而シテ右保險契約者カ自己ノ利益ノ爲メニ爲シタルトキハ被保險者ニ非サルカ故ニ其保險契約ハ無效ナリ若シ又他人ノ爲メニ契約ヲ爲シタルトキハ保險者ハ損害ニ付キ被保險者ノ爲メニ契約上ノ利益ヲ填補スルモノトス若シ保險者ニ保險契約者カ被保險者ヲ通知セサルトキハ前述セルカ如ク被保險者ヲ知ルコトヲ得サルヲ以テ之ヲ填補スルノ必要ヲ生セス隨テ其契約ハ無效ナルモノトス反之保險契約者カ保險者ニ他人ノ爲メニ爲スコトノ意思表示ヲ爲シタルトキハ其保險契約ハ成立スヘシ畢竟其意思ヲ表示スルト同時ニ填補ノ責任ハ發生スルモノトス若シ又第三百四十五條ニ於テ此場合ヲ認メサランカ被保險者カ利益ヲ受ケサルノ弊害ヲ生スヘシ是第三百四十五條甲ニ於テ其規定ヲ設ケタル所以ナリ
第三百四十九條ノ次ニ左ノ一條ヲ加フ
第三百四十九條甲 他人ノ爲メニ保險契約ヲ爲シタル場合ニ於テ保險契約者カ破産ノ宣告ヲ受ケタルトキハ保險者ハ被保險者ニ對シ保險料ノ支拂ヲ請求スルコトヲ得但被保險者カ其權利ヲ抛棄シタルトキハ此限ニ在ラス
岡野君曰ク本條ハ第三百四十五條竝ニ第三百四十五條甲ト牽聯セル規定ニシテ第百四十五條第一項ハ保險料支拂ノ義務ヲ保險者ニ對シ負擔スル者ハ保險契約者ナリ而シテ此場合ニハ保險契約者ハ被保險者ノ爲メニ保險契約ヲ爲シタル當然ノ結果トシテ被保險者ハ保險料支拂ノ義務ハナカルヘシ乍併實際上保險契約者カ破產ヲ爲シ保險料ヲ支拂フコトヲ得サル場合ニ被保險者カ契約上ノ利益ヲ受クルニ抅ラス保險料ヲ支拂ハサルハ保險者ノ爲メニ甚タ酷ナリト謂フヘシ是本條ニ於テ被保險者ヲシテ保險料支拂ノ義務ヲ負擔セシメタル所以ナリ乍併被保險者カ保險者ニ對シ自己ノ權利ヲ抛棄シタルトキハ支拂ノ義務ナキコトハ當然ナルヲ以テ本條但書ニ於テ其例外ヲ定ムルコトトセリ
第三百五十三條ノ次ニ左ノ一條ヲ加フ
第三百五十三條甲 保險契約ノ目的ニ付キ保險者ノ負擔スヘキ損害カ生シタルトキハ其後ニ至リ其目的カ保險者ノ負擔ニ歸セサル事故ニ因リ滅失シタルトキト雖モ保險者ハ其損害ヲ填補スル責ヲ免ルルコトヲ得ス
岡野君曰ク本條ハ保險期間中保險契約カ效力ヲ有スル間ハ危險ノ發生ニ付キ之ヲ填補スル問題ヲ生スヘシ隨テ被保險者ハ保險者ニ填補ノ請求ヲ爲スコトヲ得ヘシ然ルニ右ノ契約カ效力ヲ有スル間ニ保險者ノ責ニ歸セサル危險ノ發生ニ因リ被保險物カ全部滅失シタルカ如キ例ヘハ戰爭ノ爲メニ保險ニ付シタルニ其戰爭ノ爲メ危險カ發生シタル後再ヒ不可抗力ノ爲メニ滅失シタルトキト雖モ其原因結果ノ關係ヲ異ニスルカ爲メ保險者ハ嗔補ノ責任ナシト云フコトヲ得ヘキヲ以テ特ニ此規定ヲ以テ保險者ノ責ニ歸スヘキモノトセリ
長谷川君曰ク說明ノ如クナレハ當然言フヲ俟タサル規定ナレトモ文章上ヨリ觀察スルトキハ其損害ヲ填補スルトアルカ故ニ保險者カ負擔セサル損害マテモ其責ニ任スト云フカ如キ誤解ヲ生スヘシト述ヘ尙ホ磯部君ハ長谷川君ノ趣旨ニ因リ本條削除ノ案ヲ提出セリ
岡野君曰ク損害ト云フコトハ保險ノ目的以外ニ付テ云フコトヲ得ス卽主タル文字ハ保險者ノ負擔スヘキ損害ナル文字ニ在リテ其目的カ保險者ノ負擔ニ歸セサル事故ニ因リテ滅失シタルトノ文字ヲ加ヘタルモ長谷川君ノ如ク損害賠償ノ契約カ全部ニ付キ滅失シタルコトヲ證明スルコトヲ得ヘシト謂ヒ難シ趣旨ニ注意セスシテ法文ノ存否ヲ議スルコトハ得サルヘシト述ヘ之ヲ採決セシニ削除讀ハ少數ナリ修正案
第三百五十四條ノ次ニ左ノ一條ヲ加フ
第三百五十四條甲 保險契約ノ目的ノ全部カ滅失シタル場合ニ於テ保險者カ保險金額ノ全部ヲ支拂ヒタルトキハ被保險者カ其目的ニ付キ有セル權利ヲ取得ス但保險價額ノ一部ヲ保險ニ付シタル場合ニ於テハ保險者ノ權利ハ保險金額ノ保險價額ニ對スル割合ニ依リテ之ヲ定ム
岡野君曰ク本條ハ解釋上當然ノ規定ナルモ外國ニモ之ト同一ノ立法例アルカ故ニ加フルコトトセリ而シテ保險ノ目的物タル例ヘハ船體カ破損セラレシコトハナカリシモ船舶カ沈沒シ或ハ破壞セラレタル全部若クハ一部ノ殘存セルトキ被保險者カ保險金額ヲ得タルニモ抅ラス尙ホ沈沒セル船體若クハ其殘部ヲモ得ルト云フカ如キハ保險ノ性質ニ反スルモノナリト謂フヲ得ヘシ其故ニ本條ニ於テ保險者ハ被保險者カ其目的ニ付キ有セル權利ヲ取得スルコトトセリ以上ノ場合ハ海上保險ニ其適用最モ多ク存スルトモ必シモ海上ノ場合ニ限ラサルカ故一ニ般ノ保險ノ規定中ニ設クルコトトセリ
商修正原案
第四百八十條ヲ左ノ如ク改ム
船舶所有者ハ船長カ其法定ノ權限内ニ於テ爲シタル行爲又ハ船長其他ノ船員カ其職務ヲ行フニ付キ他人ニ加ヘタル損害ニ付テハ航海ノ終ニ於テ船舶運送賃及ヒ船舶所有者カ其船舶ニ付キ有スル損害賠償又ハ報酬ノ請求權ヲ債權者ニ委付シテ其責任ヲ免ルルコトヲ得但船舶所有者ニ過失アルトキハ此限ニ在ラス
岡野君曰ク本條ハ黑字ノ四百三十四條ニテ定マリシ事項ニシテ船舶所有者カ委付ヲ爲スコトヲ得ル規定ナリ委付ノ範圍ニ付テハ船舶ノ運送賃所有者カ衝突ニ因リテ生セシ賠償ノ權利又ハ船舶所有者カ救助ヲ爲シタルカ爲メ救助料ヲ得ル權利海損ノ分擔額請求ノ權利ヲ債權者ニ委付シテ其責任ヲ免ルルコトヲ得ヘシ然ルニ原案ハ船舶及ヒ運迭賃トアルモ以上ノ場合ハ委付ノ範圍內ニ當然包含スルコトトナルヘシ此㸃ハ千八百八十八年ぶるつせる會議ニ於テ此問題ヲ生シタルコトアリシヲ以テ終ニ以上ニ提出セルカ如キ詳細ノ文字ヲ加フルコトトセリ乍併此文字ハ加ヘサルモ明瞭ナリトノ說アレトモ疑ヲ生スルカ故ニ加フルコトトセリ要スルニ原案ニ修正ヲ加ヘタルハニ㸃ニシテ第一㸃ニ付テハ以上說明セルモノニシテ第二㸃ハ終リノ航海ノ終ニ於テ得タル運送賃及ヒ前ノ航海ニ於テ得タル運送賃ヲモ取立サルトキハ薗ホ委付スル場合アルノ故ニ本條ハ航海ノ終ニ於テノ文字ヲ加ヘ右ノ趣旨ヲ顯ハスコトトセリ序"ニ言シ置カンニ修正案ニ於テハ原案第二項ヲ削除セルカ如クナレトモ割リシモノナラサルコトヲ諒セラレヨ
第四百八十五條ノ次ニ左ノ一條ヲ加フ
第四百八十五條甲 船舶共有者間ニ組合關係アルトキト雖モ各共有者ハ他ノ共有者ノ承諾ヲ得スシテ其持分ノ全部又ハ一部ヲ他人ニ讓渡スコトヲ得
岡野君曰ク本條ハ第四百八十六條ニ於ケル議事ノ際內田君ヨリ本條ノ如キ規定ヲ設ケラレタシトノ修正說ノ提出アリシカ少數ニテ消滅セリ乍併其際余輩ハ反對ハ爲ササリシモ何故ニ贊成セサリシ哉ト云フニ余輩ト梅君ト意見ヲ異ニセシヲ以テナリ、船舶共有者間ニ組合關係ノナキ場合ニ數人カ共有者ナリシトキハ民法ノ規定ニ依リ當然持分ヲ讓渡スコトヲ得ルモ商法ノ規定上凡ク共有者カ全部若クハ一部ヲ讓渡スコトヲ得ストノ誤解ヲ生スヘシ若シ共有者間ニ於テ組合關係ノアルトキハ商法ノ組合關係ニテハ讓渡スコトヲ得サルモ民法上讓渡スコトヲ得ルトノ結果ヲ生スヘシ然レトモ實業者間ノ意見ニ依レハ共有者ノ持分ノ讓渡ハ隨意ニ爲スコトヲ得ヘキコトヲ認メラレタシトノ請求モアルカ故ニ旁々以テ本條ノ規定ヲ補フコトトセリ
第四百八十九條ノ次ニ左ノ二條ヲ加フ
第四百八十九條甲 船舶ノ賃貸借ハ之ヲ登記シタルトキハ爾後其船舶ニ付キ物權ヲ取得シタル者ニ對シテモ其效力ヲ生ス
第四百八十九條乙 船舶ノ賃借人カ營業ノ目的ニ於テ其船舶ヲ航海ノ用ニ供シタルトキハ其利用ニ關スル事項ニ付テハ第三者ニ對シ船舶所有者ト同一ノ權利義務ヲ有ス
前項ノ場合ニ於テ船舶ノ利用ニ付キ生シタル先取特權ハ船舶所有者ニ對シテモ其效力ヲ生ス但先取特權者カ其利用ノ契約ニ反スルコトヲ知リタルトキハ此限ニ在ラス
岡野君曰ク第四百八十四條甲ノ規定ハ船舶ノ賃貸借ニ付テノ規定ナリ舊商法ハ本案ニ所謂運送契約ニ對シ賃貸借ノ文字ヲ用ヰタリ乍併此等ノ文字ハ穩カナラサルカ故ニ表題ヲ運送ト改メタリ此コトニ付テハ余輩ノ厦々說明セシ所ナリ又加藤君ヨリ運送契約ト船舶ノ賃貸借トハ如何ナル差異アリ哉トノコトニ付キ余輩ハ總テ運送契約ナリト答ヘシコトモアリ而シテ假ニ船舶ノ賃貸借ヲ法律カ認ムルモノトナシ賃貸借契約ヲ爲シタルトキ賣買ノ規定ニ依リ之ヲ他人三識渡タルトキハ之カ利用ニ付キ第三者ニ對抗シ得ヘキ保護ヲ受ケサルヘカラス而シテ此場合ニ不動產ニ付キ民法第六百五條ハ不動產ノ賃貸借ハ之ヲ登記シタルトキハ爾後其不動產ニ付キ物權ヲ取得シタル者ニ對シテ其效力ヲ生ストアリ而シテ又船舶ノ賃貸借モ不動產ト同一ノ取扱ヲ爲スノ必要ヲ生スヘシ然ルニ舊商法八百三十五條ハ商船其他ノ海船ハ之ヲ動產トスト規定シ又海商ノ規定ニ付キ動產ト同一ノ取扱ヲ爲スカ故ニ第三者ニ對抗スルコトヲ得サルノ結果ヲ生スヘシ要スルニ本條ハ賃貸借ニ付キ登記セサレハ第三者ニ對抗スルコトヲ得サルヲ以テ故ラニ四百八十九條甲ノ場合ヲ設クルコトトセリ次ニ第八百八十九條乙ハ船舶ノ賃借人カ船舶ヲ航海ノ用ニ供シタルトキハ其賃借人ハ船舶所有者ニアラサルカ故ニ運迭契約上船舶傭船者ハ船舶所有者ノ有スル權利義務ヲ負擔セサルニ至ルヘシ而シテ此場合ニ賃貸借ニ適用ナキハ其當ヲ得サルカ故ニ船舶ノ賃借人カ他人ト運送契約ヲ締結シタルトキハ賃借人モ亦船舶所有者ト同一ノ權利義務ヲ有セシムルノ必要アルヲ以テ第四百八十九條乙トシテ其場合ヲ設クルコトトセリ第二項ノ規定ハ主トシテ船舶債權者ノ規定ト牽聯スル所アリ本條ハ之ヲニ種類ニ分ケ共有者ノ有スルモノ竝ニ船舶ノ上ニ抵當權ヲ有スルモノトニ區別セリ舊商法第八百四十九條第一號乃至第十一號ハ先取特權ノ場合第十ニ號ハ抵當權ノ場合ヲ規定セリ而シテ第十三號ハ普通ノ債權者ノ場合トセリ而シテ船舶所有者ニ對シテ或權利ヲ有スル者壹認メ第十三號ハ以上ノ外船舶ノ所有者又ハ賣却者ニ對スル總テノ債權ヲ認メタリ然レトモ船舶債權者中抵當權ト先取持權トハ併有スルコトヲ得ヘキモノニアラサルヘシ何トナレハ此規定ノ必要ハ賃借人カ所有者ヨリ船舶ノ賃借ヲ爲シ之ヲ航海ノ用ニ供シ其航海中忙生スヘキモノニシテ其先取特權アリト認メラルヘキ債權者カ多ク生シタルトキ本條ノ適用アルモノトス然ルニ此場合ニ抵當權ヲ認ムルトキハ其債權者カ船舶ヲ利用シタル者ニ對シ先取特權ヲ行フコトヲ得サルニ至ルヘシ要スルニ舊法ノ如クナルトキハ船舶廣權者ハ意外ノ迷惑ヲ受クルニ至ルヘシ乍併其航海ニ付テハ必要上先取特權ヲ附與シタル者ニシテ債權者ハ之ヲ目的トシテ船舶ニ債務ヲ負ハシメタルカ故ニ船舶ヲ利用スル者ニ對シテハ所有者ニ非サルカ故ニ此權利ハ設定スルコトヲ得ス隨テ又航海ヲ奬勵スルコトヲ得サルニ至ルヘシ是獨逸商法ニ倣ヒ利用ニ付キ生シタル先取特權ハ船舶所有者ニ對シ其效力ヲ生スト規定セル所以ナリ