第百十三回商法委員會議事要錄
明治三十年十月二十五日午後三時二十五分開議
出席員
淸浦奎吾君
土方寧君
田部芳君
高木豐三君
穗積八束君
富谷鉎太郞君
河村讓三郞君
奧田義人君
井上正一君
梅謙次郞君
重岡薰五郞君
長谷川喬君
男爵南部甕男君
男爵尾崎三良君
三浦安君
中村元嘉君
岡野敬次郞君
加藤正義君
內田嘉吉君
第二節 旅客運送
第五百五十九條 記名ノ乘船切符ハ之ヲ他人ニ讓渡スコトヲ得ス
(參照)舊九一八、蘭五二三、獨六六四、同舊六六五、西六九五、白千八百七十九年八月二十一日法一二〇
田部君曰ク舊商法第四節旅客運送中本節ニ揭ケサル條項ニ付キ之カ理由ヲ述ン舊商法第九百十九條ハ旅客ハ船中ノ秩序ニ係ル船長ノ指圈ニ服從セサルヘカラストアリテ此等ハ各國ノ立法例ニナキニアラスト雖モ要スルニ取締ニ關スル規定ナルヲ以テ特別法ニ讓ルコトトセリ次ニ第九百二十六條第一項ニ船長ハ旅客ノ安全、健康ニ注意シ必要ノ食物藥劑及ヒ救助具ノ供用ニ耐フル景狀ニテ船中ニ備フルコトヲ要ス若シ災害ノ生シタルトキハ船長ハ第一ニ旅客ヲ救助スル義務アリ且ツ如何ナル情況アルモ此救助ヲ實行シタル後ニ非サレハ船舶ヲ去ルコトヲ得スト在ルモ以上ノ責任ニ關スルコトハ本案第二章第一節中ニ其規定アリ又取締ニ關スル規定中ニモ船長ノ責任トシテ此場合ヲ定ムルナラント信ス其故ニ右第一項ハ全然削除スルコトトセリ同第二項ハ旅客埋葬ノ規定ナリ船中ニ於テ死亡シタル旅客ノ埋葬ハ相續人ノ費用若シ已ムヲ得サレハ船舶ノ費用ヲ以テ慣習ニ從ヒ船長之ヲ爲ス義務アリトセシモ右已ムヲ得サルトノコトハ或ハ死亡セル旅客ノ費用ニ付キ實際ナキ場合ヲ看タルモノナル歟兔ニ角葬式ノ費用ハ民法上本人ノ財產ヲ以テ支拂ヒ若シ相續人ノアルトキハ相續人之ヲ爲スヘキモノトセリ加之扶養ノ義務ニ付キ明文ヲ以テ之ヲ規定セリ且此等ハ衞生上ノ取締アリ之ヲ定ムルコトトナラン要スルニ此場合ハ本節ニ規定スルノ必要ナシト信ス
次ニ本條ノ規定ハ舊商法第九百十八條ト同一ナリ而シテ右乘船切符ニ付テハ實際上郵船會社ノ如キ記名ノ場合ハ之ヲ讓渡スコトヲ得スト爲シ無記名ノ場合ハ自由ニ讓渡スコトヲ得セシメタリ要スルニ本案モ以上ノ趣旨ヲ以テ規定セリ
第五百六十條 旅客ノ航海中ノ食料ハ船舶所有者ノ負擔トス
(參照)舊九二〇、蘭五三〇、伊五八八、西七〇二、羅五九八、葡五七三、白千八百七十九年八月二十一日法一二一
田部君曰ク本條ハ舊商法九百ニ十七條ト元則上同一ナリ旅客カ船舶中ニ携帶シ得ル荷物ノ運賃ハ之ヲ旅客ノ運送賃ノ中ニ包含スルモノト爲シ特ニ旅客ヨリ運送賃ヲ請求セサルコトトセリ
第五百六十二條 旅客カ發航前又ハ航海ノ途中ニ於テ乘船期間內ニ船舶ニ乘込マサルトキハ船長ハ發航ヲ爲シ又ハ航海ヲ繼續スルコトヲ得此場合ニ於テハ旅客ハ運送賃ノ全額ヲ支拂フコトヲ要ス
(參照)舊九二一、蘭五二二、獨六六六、同舊六六七、伊五八三、五八四、西六九四、羅五九三、五九四、葡五六四、五六五、白千八百七十九年八月二十一日法一二七
田部君曰ク本條ハ舊商法九百ニ十一條ト同一ナリ而シテ通常船舶カ航海ヲ爲スニ當リテハ或時限マテニ發航シ或時期ニ到着スヘシトノコトハ旅客ハ之ヲ豫期シテ乘船スルカ故ニ亦其意思ヲ以テ契約シタルモノナリト推定セサルヲ得ス其故ニ乘船ノ時期ニ後レ若クハ停船中上陸セシカ如キ旅客アルモ船舶ハ其發航又ハ停泊ノ時ヲ經過スルトキハ右旅客ノ乘船ヲ待タスシテ出帆スルコトヲ得ヘキモノトセリ
第五百六十三條 發航前ニ於テハ旅客ハ運送賃ノ半額ヲ支拂ヒテ契約ノ解除ヲ爲スコトヲ得
發航後ニ於テハ旅客ハ運送賃ノ全額ヲ支拂フニ非サレハ契約ノ解除ヲ爲スコトヲ得ス
(參照)舊九二二、九二三、獨六六七、同舊六六八、伊五八三、五八四、羅五九三、五九四、葡五六四、五六五、白千八百七十九年八月二十一日一二八、一三一、那千八百九十三年七月三十日法一六九
田部君曰ク旅客カ發航前ニ當リ航海ヲ爲スコト能ハサル場合ヲ區別スルトキハ單一ニ身上ノ都合ヲ以テ航海セサルコトアリ又疾病其他ノ理由ヲ以テ航海セサルコトアリテ其已ムヲ得サルトキハ少シク他ノ場合ト區別スルヲ穩當トスルノ感アルモ實際上ノ區別ニ至リテハ旅客カ航海ヲ爲ササル場合ハ如何ナル原因ニ基キシモノナルカトノコトニ付キ利害ノ關係上之カ區別ヲ爲シ得サルコト極メテ多カルヘシ要スルニ本案ハ此場合ニ付キ原因ノ如何ヲ問ハス發航前ナルトキハ運賃ノ牛額ヲ支拂ヒテ契約ノ解除ヲ爲スコトヲ得ヘキモノトセリ乍併發航前ナルカ故ニ食料其他ノ準備アリシヲ以テ半額一=アハ少ナカラントノ非難モアルヘシト雖モ此場合ハ發航後全額ヲ支拂フヘシトノ利害多キ場合ト差引計算ヲ爲シ之カ補ヒヲ爲スコトヲ得ヘシ次ニ死亡ノ場合ニ付キ一言センニ舊商法九百ニ十三條三號末項ニ於テ死亡シタル旅客ノ相續人ハ運送賃ヲ支拂フコトヲ要セス然レトモ既ニ支拂ヒタル場合ト未タ支怫ハサル場合トヲ區別シ既ニ支拂ヒタルトキハ運賃ヲ取返スコトヲ得スト爲シ未タ支拂ハサルトキハ之ヲ支拂フコトヲ要セストセシモ本案ハ新ナル區別ハ理由ナキモノト爲シ其區別ヲ設ケス運賃ノ半額ヲ請求スルコトヲ得セシメタリ
加藤君曰ク第五百六十四條ノ如クナルトキハ五百六十五條トハ權衡ヲ得サルニ至ルヘシ六十五條ハ航海カ法令ニ反スルニ至リタルトキ又ハ不可抗力ニ因リテ目的ヲ達スルコト能ハサルトキニシテ發航後ハ其割合ト爲リ其發航前ハ解除セラルルコトトナリ本案ノ場合ハ發航後ハ全額トナリ其前ハ半額トナルカ故ニ權衡ヲ失スルモノト言フヘシ其故ニ之カ標準ヲ改メ本案第一項ハ四分ノ一トナシ第二項ハ割合ヲ以テ爲スコトノ修正案ヲ提出スヘシ
田部君曰ク第五百六十三條乃至第五百六十五條ハ各關係ヲ異ニシ六十三條及ヒ六十四條ハ一身ニ關スル場合ナリ反之六十五條ハ契約當事者ノ一身上ニハ關係ヲ有セサルヘシ故ニ本案ノ關係上五百六十五條ト比較スルコトヲ得サルヘシト述ヘ引續キ此標準ニ付キ討議ヲ爲セシモ之ヲ採決セシニ多數ニテ加藤君ノ修正說ニ改ムルコトニ決セリ
第五百六十五條 航海カ法令ニ反スルニ至リタルトキ其他不可抗力ニ因リテ契約ヲ爲シタル目的ヲ達スルコト能ハサルニ至リタルトキハ各當事者ハ契約ノ解除ヲ爲スコトヲ得
前項ノ事由カ發航後ニ生シタル場合ニ於テ契約ノ解除ヲ爲シタルトキハ旅客ハ運送ノ割合ニ應シテ運送賃ヲ支拂フコトヲ要ス
(參照)舊九二二、九二三、蘭五二五、獨六六九、六七〇、同舊六七〇、六七一、伊五八三、五八四、五八七、西六九七、六九八、羅五九三、五九四、五九七、葡五六四、五六五、白千八百七十九年八月二十一日法一三〇、那千八百九十三年七月二十日法一七〇
田部君曰ク本條ハ戰爭ノ始マリタルカ如キ場合ニ法令ニ違反シタル航海ヲ爲シ又ハ不可抗力ニ因リシ場合ニ各當事者カ契約ノ解除ヲ爲ス場合ナリ大體ハ物品運送契約ノ四百九十三條ニ類似セル規定ナリ要スルニ是等ハ當然ノ理由ト認メ契約ノ解除ヲ許スコトトセリ次ニ本條第一項ニ定メタル原因カ發航後途中ニテ生シタルトキハ旅客ヲシテ其割合ニ應シテ運賃ヲ拂ハシムルコトトセリ
長谷川君曰ク第四百九十三條第二項ニハ航海中ニ生シタルトアリテ本條第二項ト文例ヲ異ニスルカ如シ其理由如何
田部君曰ク發航後ト爲ササルトキハ海ノ中ト云フカ如キ感ヲ生スレハナリ冤ニ角其㸃ハ整理迄ニ考フルコトト爲サン
穗積八束君曰ク航海カ不可抗力ニ因ル場合ハ其意義ヲ明瞭ニ爲ス爲メ文章ヲ改メラレタシ何トナレハ單ニ航海カト云フトキハ船ニテ往クト解セラレ聰業婦若クハ徵收セラレシ兵士ヲ外國航海ニ乘船セシムルト讀ミ得ルノ弊アリ然ルトキハ今後ノ裁判官カ以上ノ趣旨ニ解スルノ虞ナシトセスト非難シ起草者ハ斯カル意義ニ解スルヲ得ストハ信スレトモ是亦整理マテニ考フルコトト爲サン
第五百六十六條 航海中船舶ヲ修繕スヘキトキハ旅客ハ運送賃ノ全額ヲ支拂ヒテ契約ノ解除ヲ爲スコトヲ得
船舶所有者ハ船舶ノ修繕中旅客ニ相當ノ住居及ヒ食料ヲ供スルコトヲ要ス但旅客ノ權利ヲ害セサル範圍內ニ於テ他ノ船舶ヲ以テ到達港マテ旅客ヲ運送スルコトヲ提供シタルトキハ此限ニ在ラス
(參照)舊九二三乃至九二五、蘭五二六、獨六七一、同舊六七二、伊五八七、西六九八、羅五九七、葡五七二、白千八百七十九年八月二十一日法一三三
田部君曰ク本條ハ船舶ヲ修繕スヘキ場合ヲ揭ケタリ舊商法九百ニ十四條第一項ハ要スルニ航海ヲ爲シ能ハサルコトヲ規定シタレトモ本案ハ發航前ノコトハ規定セスシテ單ニ發航後ニ付テノミ規定セリ而シテ船舶カ途中ニ於テ修繕スルノ必要ヲ生シタルトキハ旅客ハ其修繕ノ終ルヲ待ツカ若クハ運賃ノ全額ヲ支拂ヒテ契約ノ解除ヲ爲スカ何レニテモ選擇セシムルコトトセリ次ニ運送賃ノ契約ニ付テハ第五百六十條ノ規定ハ當然包含スルコトトナリ船舶所有者ノ都合上更ニ荷物ノ積換ヲ爲ス場合アルカ故ニ此場合ニハ本案ハ相當ノ住居及ヒ食料ヲ供サシムルコトトセリ次ニ船舶所有者ハ修繕ノ爲メ數多ノ日子ヲ費シ旅客ニ不便ヲ與フルコト多キヲ以テ之ヲ目的地マテ送ルニハ他ノ船舶ヲ以テ爲スコトヲ提供スルコトヲ得セシメタリ此場合ニハ第二項但書ヲ以テ前述ノ義務ハ負ハシメサルコトトセリ
第五百六十七條 旅客運送契約ハ第五百十六條ニ揭ケタル事由ニ因リテ終了ス若シ其事由カ航海中ニ生シタルトキハ旅客ハ運送ノ割合ニ應シテ運送賃ヲ支拂フコトヲ要ス
(參照)舊九二二、九二三、蘭五二五、獨六六八、六七〇、同舊六六九、六七一、伊五八三、五八四、西六九七、六九八、羅五九三、五九四、葡五六四、五六五、白千八百七十九年八月二十一日法一三二、那千八百九十三年七月二十日法一七〇
田部君曰ク本條ハ舊商法九百ニ十ニ條及ヒ九百ニ十三條ニ修正ヲ加ヘタリ第五百十六條ニ於テ既ニ述ヘタルカ如ク船舶カ沈沒セルトキ或ハ捕獲セラレタルカ如キ事由アルトキハ旅客運送ヲ爲スコトヲ得ス故ニ本條ハ此事由ニ因リテ終了スルモノトセリ而シテ若シ此事由カ途中ニテ生シタルトキハ其割合ニ應シテ運送賃ヲ支拂ハシムルコトトセリ他ナシ終了原因ノ發生マテ船舶カ運送ヲ爲シタレハナリ
第五百六十八條 旅客カ死亡シタルトキハ船長ハ最モ其相續人ノ利益ニ適スヘキ方法ニ依リテ其船中ニ在ル手荷物ノ處分ヲ爲スコトヲ要ス
(參照)舊九二八、蘭五三一、獨六七五、同舊六七六、西七〇五、白千八百七十九年八月二十一日法一二五
田部君曰ク本條ハ舊商法九百ニ十八條ニ在ル事項ト趣旨ハ同一ナルヲ以テ別段說明ノ必要ナシ
本條ハ原案ニ可決シ猶ホ引續キ第五百六十九條ニ移リシモ右五百六十九條及ヒ五百七十條ハ重大ナル條項ナルヲ以テ熟考ン餘地ヲ與ヘラレタシト加藤君ヨリ建議アリテ議長ハ其說ヲ採用シ次回ニ讓ラレタリ
午後六時四十分閉會