第百拾貮回商法委員會議事要錄
明治三十年十月二十三日午後第三時三十分開會
出席員
淸浦奎吾君
鶴原定吉君
土方寧君
岸本辰雄君
田部芳君
高木豐三君
富谷鉎太郞君
河村讓三郞君
井上正一君
奧田義人君
穗積陳重君
梅謙次郞君
元田肇君
長谷川喬君
男爵南部甕男君
男爵尾崎三良君
三浦安君
岡野敬次郞君
加藤正義君
內田嘉吉君
第二款 船荷證券
第五百四十六條 船長ハ傭船者又ハ荷送人ノ請求ニ因リ運送品ノ船積後遲滯ナク一通又ハ數通ノ船荷證券ヲ交付スルコトヲ要ス
(參照)舊八九九、九〇〇、佛二八二、蘭五〇九、五一〇、獨六四二、同舊六四四、伊五五六、西七〇六、七〇七、羅五六五、五六六、葡五三八、白千八百七十九年八月二十一日法四一、那千八百九十三年七月二十日法一三二、一三三
岡野君ノ說明ニ曰ク舊法典船荷證劵ノ主意ハろいすれるノ說明ニ依レハ船荷證劵ニ記載セル事項ト雖モ反證ヲ許スヘキモノナリトテ其第九百一條ニ於テモ之ヲ明言セリ本案ニ於テモ若シ證劵ニ其委任ノ幾分ヲ免カルヘキコトヲ記載セサルトキハ之カ責任ヲ負フヘキモノニシテ各國立法例ニ在リテモ亦此主義アリ然リト雖モ果シテ幾何ノ程度迄右義務ノ免除ニ付キ記載シ得ヘキモノナルヤ是頗フル困難ナル問題タリ本案ハ或ハ後日ニ至リ是等ニ關スル議案ヲ提出スルコトモアラント信ス抑モ船荷證劵ヲ發行スヘキ場合ハ船舶ノ全部又ハ一部ヲ以テ運送契約ノ目的ト爲シタル場合及ヒ個々ノ運送品ヲ以テ契約ノ目的ト爲シタル場合ニモ請求ニ因リ發行スヘキモノトス故ニ船舶ノ全部又ハ一部ヲ以テ運送契約ノ目的ノ爲シタル場合ハ本案第四百七十二條ニ因リ契約書ヲ請求シ徇ホ其上船荷證劵ヲ請求シ得ルモノナリ之ニ反シテ個々ノ運送品ヲ以テ契約ノ目的ト爲シタル場合ニ在リテハ右ノ適用之レ無キヲ以テ船荷證劵カ卽チ證明ノ具ト爲ルヘキモノトス而シテ本案ハ船舶ノ全部タルト一部タルト將タ個々ノ運送品タルトヲ問ハス等シク船荷證劵ヲ發行スヘキモノナルヲ以テ傭船者ヲ記入シタリ元來船荷證劵ノ性質タル苟モ此證劵ヲ有スル者ニハ必ス運送品ヲ引渡スヘキ義務アルモノニシテ常ニ物品ヲ船積シタル後ニ非サレハ此證劵ヲ發行スルコト能ハサルモノナリ舊法第九百條ニハ「ニ十四時間內」云々ノ規定アリト雖モ時間ニ制限ヲ附スルハ頗フル不便ニシテ或ハ速ニ運送品ノ入用ヲ減スル場合モ之レ有ルヘク實際ノ狀況ニ因リテ異ナルヘキモノナルカ故ニ本案ニ於テハ之ヲ「遲滯ナク」トシ其弊ヲ避ケタリ尙ホ船荷證劵ノ數々之ヲ定メス舊法ト同一主義ニ出テ卽チ請求ニ應シテ幾通ヲモ發行シ得ルモノトセリト
本條ニ付キ別段異議ナク直チニ次條ニ移ル
第五百四十七條 船舶所有者ハ船長以外ノ者ニ船長ニ代ハリテ船荷證券ヲ交付スルコトヲ委任スルコトヲ得
(參照)獨六四二、四項、同舊六四四、英千八百五十五年八月十四日船荷證劵法三、那千八百九十三年七月二十日法一三二、
田部君ノ說明ニ曰ク舊法與ニ在リテハ船荷證劵ハ船長カ之ヲ發行スヘキモノトセリト雖モ場合ニ因リ大ナル運送營業ニ於テハ或ハ船長ノミ之ヲ發行スルハ不便ナルカ爲メ其他ノ者ニ之ヲ委任スルノ便アルヘシト本條ヲ規定セリト
土方君曰ク本條ニ所謂船長外ノ者トハ蓋シ多クハ廻漕店ナルヘシ果シテ然ラハ其未タ船積アリシヤ否ヤヲ知ラスシテ船荷證劵ヲ發行スル場合モアラン從テ大ヒナル不都合ヲ生スヘシト
右ニ付キ田部君ハ第五百四十六條ニ因リ必ス船積後ニ發行スヘキモノナルヲ以テ若シ未タ船積無キニ之カ發行ヲ爲シタルトキハ以下第五百五十一條ノ適用アルヘシト辯シ岡野君ハ之ニ反對シ未タ船積無キニ發シタル證劵ハ未タ船荷證劵ト謂フヲ得ス從テ第五百五十一條ノ適用之レ無シト述ヘ梅君ハ田部君ト同主意ヲ以テ辯明ヲ爲シテ曰ク假令未タ船積ナキニ船荷證劵ヲ發行シタリト雖モ其讓受人ニ在リテハ必ス船積アリタルモノト信スヘシ若シ此場合ニ會社ヨリ未タ船積ナシト謂フヲ以テ抗辯トセハ其不都合不便ヤ果シテ如何ンヤ果シテ然ラハ其未タ船積セサル場合ハ既ニ其一部ヲ船積シタルト又全ク船積ヲ爲ササル場合トヲ區別スルノ要ナシ且此證劵タルヤ證明ノ具タルヘキカ故ニ必スシモ斯クアルヘキモノナシト
次ニ穗積陳陣重君ハ本條ニ「モ」ノ字ヲ加ヘ「船長外ノ者ニモ」トセサレハ文意通セスト云々梅君ハ若シ「モ」ヲ加フルトキハ裏面ヨリ之ヲ見ルトキハ「船長ニモ」ト謂フコトヲ得ヘク斯クテハ主意ニ反スルノ嫌ヒアリ船長ハ常ニ之ヲ發行スヘキモノナリト辯シ次ニ加藤君ハ船荷證劵ニ付キ今日ノ實例ナリトテ陳述シテ曰ク今日ハ受取證書カ船荷證劵ト爲リ居レリ本來ハ受取證書ヲ交付シタル後更ニ船荷證劵ヲ發行スヘキモノナリト雖モ今日ハ然ラス又船荷證劵ノ發行權ハ常ニ船長ニ在リト雖モ發航ニ當リテハ船長ハ之ヲ發行スルノ間隙ナシ故ニ船主ハ常ニ豫メ其代理人ヲ定メ多クハ代理者ニ於テ之ヲ爲スヘシ故ニ本案敢テ不都合ナシト
右土方穗積兩君ノ說ニ付キ別段贊成者ナク本案玆ニ可決シ直チニ次條ニ移レリ
第五百四十八條 船荷證券ニハ左ノ事項ヲ記載シ船長又ハ之ニ代ハル者署名スルコトヲ要ス
一 船舶ノ名稱及ヒ國籍
二 船長カ船荷證券ヲ作成セサルトキハ船長ノ氏名
三 運送品ノ種類、重量若クハ容積、荷造ノ種類、個數及ヒ記號
四 傭船者又ハ荷送人ノ氏名又ハ商號
五 荷受人ノ氏名若クハ商號又ハ船荷證券ノ所持人ニ運送品ヲ引渡スヘキコト
六 船積港
七 到達港但航海中傭船者又ハ荷送人カ到達港ヲ指定スヘキトキハ其之ヲ指定スヘキ港
八 運送賃
九 數通ノ船荷證券ヲ作成シタルトキハ其員數
十 船荷證券ノ作成地及ヒ其作成ノ年月日
(參照)舊八九九、佛二八一、蘭五〇七、五〇八、獨六四三、六四四、同舊六四五、六四六、伊五五五、西七〇六、七〇七、羅五六五、葡五三八、白千八百七十九年八月二十一日法四〇、那千八百九十三年七月二十日法一三二、一三四
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ船荷證劵ニ記載スヘキ事項ヲ規定シタルモノニシテ大體ハ舊法第八百九十九條ト同一ナリト雖モ其之ヲ變更シタル㸃ハ前條ニ於テ既ニ船長以外ノ者ニモ船荷證劵發行權ヲ認メタルヲ以テ從テ之ヲ署名者モ亦然ラサルヲ得ス本條第一號ハ卽チ之カ規定ニシテ第二號モ右ト同一ノ結果ニシテ船荷證劵ハ獨リ船長ノミナラス其他ノ者モ之ヲ發行シ得ヘキカ故ニ若シ船長外ノ者カ之ヲ發行シタルトキハ此場合ニ限リ船長ノ氏名ヲ記載スヘキコトハ船荷證劵ノ發行權ハ常ニ船長ニ在ルヲ以テ本則トスル所以ヨリ生スル結果タリ第四號及ヒ第五號ニ氏名ノ外商號ヲ加ヘタルハ從來本案ノ主義タル文例ニ依レルノミ而シテ第五號宋文「又ハ」以下ハ之ヲ以テ暗ニ船荷證劵ハ無記名式ニテモ發行シ得ルコトヲ明カニシタルモノニシテ此㸃ハ舊法第八百九十九條末文ニモ明言セリ尙ホ第七號末文ハ舊法ト異ナル所ニシテ舊法第四號ニハ「荷積港及ヒ到達地」トシ常ニ之ヲ一定セリ蓋シ場合ニ因リ或ハ積荷ノ際豫定シタル場所ヲ途中ニテ變更スルノ便宜ナル場合モアリ或ハ途中急ニ場所ヲ變セストモ始メヨリ場所ヲ定メサルヲ以テ便トスル場合モアルヘシ故ニ之ヲ加ヘタリ又舊法第二項ノ前說ハ既ニ本案第五百四十六條ニ於テ規定シ其後段ハ尙ホ後日案ヲ提出スヘシト
元田君ヨリ本條第七號ニ「但航海中」トアルカ故ニ文意通セス宜シク之ヲ改ムヘシト云ヒ起草者之ヲ容レ途ニ「但航海中」ヲ「但發航後」ト改ムヘシト述ヘ本條ハ玆ニ可決シ直チニ次條ニ移レリ
第五百四十九條 傭船者又ハ荷送人ハ船長ノ請求ニ因リ船荷證券ノ謄本ニ署名シテ之ヲ船長ニ交付スルコトヲ要ス
(參照)舊八九九、二項、佛二八二、蘭五〇九、獨六四二、三項、同舊六四四、三項、伊五五六、西七〇七、羅五六六、葡五三八、白千八百七十九年八月二十一日法四一、那千八百九十三年七月二十日法一三三
田部君ノ說明ニ曰ク船長ト雖モ船荷證劵ニ記載セル事項ニ付キ之カ證明ノ具タル書類ヲ必要トスト雖モ舊法ノ如ク敢テ船荷證劵其物ヲ備ヘ置クノ必要ナシ何トナレハ船長ハ常ニ義務者ノ側ニ位スル者ナルカ故ニ雙務契約ニ於ケルカ如ク當事者雙方ニ正本ヲ備フルノ要ナシ船長ハ前述ノ如ク多クハ義務者タル地位ニ在ルヲ以テ其謄本ヲ備フルヲ以テ足レリト
本條ニ付テハ別ニ異議ナク次條ニ移ル
第五百五十條 船荷證券ハ其記名式ナルトキト雖モ裏書ニ依リテ之ヲ讓渡スコトヲ得但裏書ヲ禁スル旨ヲ記載シタルトキハ此限ニ在ラス
(參照)舊三六九、三九四、八九九、三項、蘭五〇八、獨三六三、同舊三〇二、伊五五五、三項、西七〇八、羅五六五、那千八百九十三年七月二十日法一三四
田部君ノ說明ニ曰ク舊法ニ在リテモ船荷證劵ハ其記名式無記名式タルト將タ指圖式タルトヲ問ハス等シク之ヲ發行シ得ヘシト雖モ性質上當然然リト謂フノ意明カナラス去リ乍ラ之ハ性質上當然裏書シテ讓渡スコトヲ得ヘキモノナルヲ以テ本案ニ於テハ本條ヲ以テ之ヲ明言セリト
次ニ土方君ハ記名式ノモノハ讓渡スコトヲ禁スヘシト主張セルモ贊成者ナク直チニ次條ニ移レリ
第五百五十一條 船舶所有者ト荷受人トノ間ニ於テハ運送ニ關スル事項ハ船荷證券ノ定ムル所ニ依ル
(參照)舊四〇一、九〇一、佛二八三、蘭五一二、獨六五一、同舊六五三、伊五五八、西七〇九、七一〇、羅五六八、葡五四〇、白千八百七十九年八月二十一日法四二、英千八百五十五年八月十四日船荷證劵法三、那千八百九十三年七月二十日法一四四
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ頗フル重要ナル個條ニシテ船荷證劵ハ之ヲ流通ノ用ニ供シ此證劵ニ記載セル事項ヲ信用シテ賣買等ヲ爲スモノナリ故ニ此證劵ニ揭クルコトハ最モ信用ヲ置クヘキモノナラサルヘカラス運送賃ノ如キニ至リテモ主トシテ此證劵ニ依リテ之ヲ請求スヘク運送品トテモ專ラ證劵面ノ通リ之ヲ引渡スヘキモノトス又此證劵ニ責任ノ制限ヲ附記シタルトキハ其效力如何ノ問題ヲ生スヘキヲ以テ後日是等ニ關スル案ヲ提出スヘシト
次ニ岸本君竝ニ加藤君ヨリ舊法典ノ如ク保險者トノ關係モ必要アルヲ以テ須ラク規定スヘシト述ヘ田部君及ヒ梅君ハ右ハ佛國ニ於テモ疑問ト爲リ居ルモノニシテ今之ヲ玆ニ規定スルハ果シテ當ヲ得ルヤ否ヤ疑ハシ恐ラクハ斯ノ如キコトハ普通ノ證據方法ヲ以テ足ラン最モ海損及ヒ海上保險ノ部ニ於テハ或ハ規定スルノ必要アラント雖モ爰ニ法律上明カニ其關係ヲ記載スルコトヲ要セスト述ヘ異議ナク次條ニ移ル
第五百五十二條 運送品ハ船荷證券ト引換ニ非サレハ之ヲ引渡スコトヲ要セス
船長ハ所持人ヲシテ船荷證券ニ受取ノ旨ヲ記載セシメ且之ニ署名セシムルコトヲ得
(參照)舊九〇二、佛二八五、獨六五〇、同舊六五二、西七一八、羅五三九、白千八百七十九年八月二十一日法四四、那千八百九十三年七月二十日法一三九
田部君ノ說明ニ曰ク既ニ船荷證劵ヲ發行シナカラ全ク之ヲ受ケスシテ物品ヲ引渡スハ頗ル危險ナリ又數通ヲ發行シタル場合ニ於テハ其一通ヲ受取ラハ物品ヲ引渡スヘキ主義ナルヲ以テ亦斯ノ如クナラサルヲ得ス而シテ獨リ此船荷證劵ノ引渡シタルヲ以テハ未タ完全ナリト謂フヲ得ス尙ホ物品受取ノ旨ヲ記載シ之ニ署名ヲ爲スニ非サレハ以テ定レリトスルコトヲ得ス是本條第二項アル所以ナリト
本條モ別段ニ異論ナク直チニ次條ニ移レリ
第五百五十三條 到達港ニ於テハ船長ハ數通ノ船荷證券中ノ一通ノ所持人カ運送品ノ引渡ヲ請求シタルトキト雖モ其引渡ヲ爲スコトヲ要ス
(參照)舊九〇二、獨六四五、同舊六四七、伊五五七、西七一一、七一六、西五六七、葡五三九、白千八百七十九年八月二十一日法四四、那千八百九十三年七月二十日法一三九
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ船長ト船荷證劵所持人トノ間ノ關係ヲ定メ以下ニ條ニ在リテハ證劵ノ所持人間ノ關係ヲ規定シタルモノナリ證劵ノ所持人カニ人以上アル場合ニ於テ是等カ同時ニ物品引渡ヲ請求シタル場合ニハ宜シク之ヲ此托スヘキモノトス而シテ此義ハ前條ニ依リ既ニ物品ノ一部ハ之ヲ引渡シ其殘部ニ付キ數人同時ニ請求シ來リタル場合ニモ本條ヲ適用スヘキモノナリ要スルニ本條ハ其未タ物品ヲ引渡ササル前ニ於テ數人同時ニ請求シ來リタル場合ノ規定ナリ
加藤君ヨリ本條ノ「所持人ニ通知」云々トアリ而シテ此「所持人」トハ其請求ヲ爲シタル所持人ノシテ指スヤノ質問ヲ起シ起草者ハ然リト答ヘ土方君ハ不明ナルヲ以テ一考スヘシト云ヒ起草者之ヲ諾シ本條ハ可決シテ次條ニ移ル
第五百五十五條 二人以上ノ船荷證券所持人アル場合ニ於テ其一人カ他ノ所持人ニ先チテ船長ヨリ運送品ノ引渡ヲ受ケタルトキハ他ノ所持人ノ船荷證券ハ其効力ヲ失フ
(參照)舊三七九、蘭五一六乃至五一八、獨六四八、同舊六五〇、伊五五七、西七一六、羅五六七、葡五三九、白千八百七十九年八月二十一日法四四、那千八百九十三年七月二十日法一四〇
田部君ノ說明ニ曰ク船荷證劵ヲ流通ノ用ニ供スル以上ハ其所持人ノ一人カ請求シタルトキハ有效ナルコト既ニ述ヘタルカ如シ然ル以上ハ其他ノモノハ其效力ヲ失フト爲ス方便利ナリトテ斯クハ規定セリト
本條ニ付テハ別段修正說ヲモ出テス次條ニ移ル
第五百五十六條 二人以上ノ船荷證券所持人アル場合ニ於テ船長カ未タ運送品ノ引渡ヲ爲ササルトキハ前所持人カ最モ先ニ發送シ又ハ引渡シタル證券ヲ所持スル者ハ他ノ所持人ニ先チテ其權利ヲ行フコトヲ得
(參照)蘭五一六乃至五一八、獨六四九、同舊六五一、伊五五七、西七一六、羅五六七、葡五三九、白千八百七十九年八月二十一日法四四、那千八百九十三年七月二十日法一六五
田部君ノ說明ニ曰ク前條ノ場合ハ既ニ運途品ヲ引渡シタル場合ノ規定ナリト雖モ本條ハ之ニ反シテ未タ運送品ヲ何人ニモ引渡ササル場合ニシテ此場合ニ於ケル所持人間ノ關係如何ヲ定メタルモノナリ蓋シ之所持人カ既ニ他人ニ一通ノ船荷證劵ヲ讓渡シ最早權利ナキニ更ニ之ヲ他人ニ讓渡ストキハ權利ナキモノヲ讓渡シタルモノナルカ故ニ無效タリ本條ハ此主意ヨリ生シタルモノニシテ「前所持人力最モ先ニ發送シ又ハ」云々トハ種々ノ場合ヲ包含シ卽チ前所持人カ或ハ裏書其他ノ方法ヲ以テ他人ニ讓渡シタル場合ヲモ含ミ其發送ノ前後ニ因リテ標準ヲ定ムルモノナリ故ニ「最モ先ニ發送」云々トシ發送主義トシ其到着ノ如何ハ之ヲ問ハサルナリ蓋シ此場合ハ或ハ所有權ヲ讓渡ス場合モアリ又ハ質權ラ設定スル場合モアルヘシト
土方君曰ク既ニ第五百五十四條及ヒ第五百五十五條アルニ尙ホ本條アルハ抑モ何カ故ナルカ其主意ヲ解セス且「權利ヲ行フコトヲ得」トハ蓋シ如何ナル意味ナリヤ又何カ故ニ引渡前タルコトヲ要スルヤ頗ル解釋ニ窮スト
田部君ハ「權利ヲ行フコトヲ得」トハ他ノ者ヨリモ優リタル權利アリト謂フノ意ニ過キスシテ要ハ本條ハ數人ノ所持人アル場合ニ於テ果シテ其何レカ最モ正當ノ所持人ナルヤヲ定ムルノ標準ヲ規定シタルモノナリ尙ホ引渡後ニアリテハ漑ニ其一人一一引渡サハ他ノ者ノ有スル證劵ハ其效力ヲ失ナウモノナルコトハ前條ニ依リテ明白ナリ之ニ反シテ引渡前ニ於テハ數通ノ證劵各別ニ獨立シテ效力ヲ有スルモノナルカ故ニ其何レノ所持人カ最モ正當ナリヤヲ定ムルノ要アリ是レ本條アル所以ナリト辯明シ岸本君ハ「權利ヲ行フコトヲ得」トアルヲ以テ船長ニ對シテ權利ヲ行フコトヲ得ルカノ如ク見ユ故ニ寧ロ其「優リタル」ト云フ意ヲ明白ニ揭クヘシト述ヘ起草者ニ於テ尙ホ一考スヘキ旨ヲ答ヘ次ニ長谷川君ハ本條ノ「前所持人」ノ文字不明ナリトテ引例シテ曰ク玆ニ甲者アリ一通ノ證劵ヲ乙者ニ引渡シタル後ニ於テ他ノ一通ヲ尙ホ丙者ニ引渡シタリトセヨ然ルニ丙者ハ更ニ之ヲ丁者ニ引渡シ其後乙者モ亦更ニ戊者ニ引渡シタリ此場合ニ於テハ「前所持人」トハ乙者ヲ指スヤ將タ丙者ヲ指スヤ前段ノ例ニ於テハ乙者カ前所持人ナルコト更ニ疑ヲ容レスト雖モ後段ノ例ニ於テハ之ニ反シテ丙者カ其前所持人タルカ如シ爰ニ於テ「前所持人」トハ乙者ナルヤ將タ丙者ナリヤ頗ル疑ハシ故ニ其意味ノ在ル所ヲ明白ニ揭クヘシト
右ニ付キ起草者ハ尙ホ一考スヘシト述ヘ次條ニ移レリ
第五百五十七條 到達港外ニ於テハ船長ハ其作成シタル總テノ船荷證券ノ返還ヲ受クルニ非サレハ運送品ヲ引渡スコトヲ得ス
(參照)蘭五一一、獨六五九、六六〇、同舊六六一、六六二、西七一二、英千八百五十五年八月十四日船荷證劵法一、那千八百九十三年七月二十日法一四一
田部君ノ說明ニ曰ク到達港ニ在リテハ一通ノ證劵ノ所持人ニ對シテモ船長ハ運送品ヲ引渡スヘキ義務アルコトハ既ニ前條ニ於テ說明シタル所ナリ然レトモ之ニ反シテ其未タ到達港ニ至ラサル間ニ於テ運送品ノ引渡ヲ請求セラレタル場合ニ於テハ單ニ證劵ノ一通ヲ受取リタルノミヲ以テ物品ヲ引渡スハ頗フル危險ナリト謂ハサルヘカラス玆ヲ以テ本條ニ至リテハ其全體ヲ受取ルニアラサレハ運送品ヲ引渡スコトヲ得サルモノトセリト
穗積君ハ權衡上本條ヲ第五百五十三條ノ次ニ置クヘシト言ヒ起草者ハ尙ホ一考スヘシト答ヘ他ニ異論ナク直チニ次條ニ移レリ
第五百五十八條 船荷證券ノ所持人カ其證券ヲ喪失シタル場合ニ於テ到達港ノ裁判所ニ公示催吿ノ申立ヲ爲シタルトキハ船長ヲシテ運送品ヲ供託セシメ又ハ相當ノ擔保ヲ供シテ其引渡ヲ爲サシムルコトヲ得
(參照)舊四〇三、那千八百九十三年七月二十日法一六七
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ舊法ニ之レ無キ規定ニシテ船荷證劵カ喪失シタル場合ニ於テハ公示催吿ヲ爲シタルモ其之カ無效トナル迄ハ運送品ヲ受取ルコトヲ得ストセハ頗ル不便ナルヘキカ故ニ爲替手形ノ第四百二十條ニ於ケルカ如ク之ヲ供託シ又ハ擔保ヲ供セハ之ヲ受取ルコトヲ得ルモノトセハ便利ナリトテ斯ノ如ク規定シタリト
本條ニ付テハ別段異議ヲ唱フル者ナク直チニ可決シ散會ヲ吿ケタリ
于時午後第六時三十分