明治商法(明治32年)

法典調査会 商法委員会議事要録 第110回

参考原資料

備考

  • 未校正のテキストデータです.
第百十回商法委員會議事要錄
出席員
淸浦奎吾君
鶴原定吉君
土方寧君
岸本辰雄君
田部芳君
高木豐三君
富谷鉎太郞君
河村讓三郞君
穗積陳重君
梅謙次郞君
長谷川喬君
南部甕男君
尾崎三良君
中村元嘉君
岡野敬次郞君
加藤正義君
第四百八十一條 船舶ノ一部ヲ以テ運送契約ノ目的ト爲シタル場合ニ於テ傭船者カ他ノ傭船者ト共同セスシテ發航前ニ契約ノ解除ヲ爲シタルトキハ運送賃ノ全額ヲ支拂フコトヲ要ス但船舶所有者カ他ノ運送品ヨリ得タル運送賃ハ之ヲ控除ス
發航前ト雖モ傭船者カ既ニ運送品ノ全部又ハ一部ヲ船積シタルトキハ他ノ傭船者ノ同意ヲ得ルニ非サレハ契約ノ解除ヲ爲スコトヲ得ス
前六條ノ規定ハ船舶ノ一部ヲ以テ運送契約ノ目的ト爲シタル場合ニ之ヲ準用ス
(參照)舊八九四、八九七、佛二九一、蘭四六七、獨五八七、同舊五八八、伊五六五、西六八五、葡五五三、五五四、白千八百七十九年八月二十一日法八七
岡野君曰ク本條ハ一部ノ傭船契約ノ場合ヲ規定セリ而シテ舊商法八百九十四條ハ荷積ヲ始ムルハ前運送人ハ運送賃ノ半額ヲ支拂ヒ契約ノ解除ヲ爲スコトヲ得トアリテ本條ニ於ケル全部又ハ一部ノ場合ヲ區別セスシテ運賃ノ半額ヲ支拂フトキハ之ニ契約ノ解除ヲ爲サシメタリ然レトモ之カ全部ノ場合ニ就テハ本案ハ第四百七十九條ノ規定ヲ採用スルコトトセリ何トナレハ全部ノ傭船契約ハ契約解除ノ結果トシテ航海ヲ廢止スルモ何等ノ故障ヲモ生セサルヘシ反之一部ノ場合ハ傭船者カ契約ヲ解除スルトキト雖モ猶其航海ヲ繼續セサルヲ得ス要スルニ本案ハ全部ト一部トノ場合ニ同一ノ標準ニ據ラシムルハ權衡ヲ得サルヲ以テ之カ區別ヲ設クルコトトセリ
次ニ第四百七十八條ハ傭船者カ全部ヲ船積セサルトキト雖モ船積期間ヲ經過セシトキハ船長ハ直チニ發航スルコトヲ得セシメタリ尙ホ運送賃ノ如キモ第四百七十七條第二項ノ規定ニ依リ運送賃ノ全額ヲ支拂ハシムルコトトセリ本條モ亦右ノ場合ト同一ナルヲ以テ之カ全額ヲ支拂ハシムルコトトセリ、以上ハ傭船者ノ一人ノ場合ナルモ反之共同シテ契約ノ解除ヲ爲シタルトキハ其全額ヲ支拂ヲ要セシメサルコトトセリ
第二項ハ假令發航前ト雖モ運送品ノ全部又ハ一部ヲ船積シタルトキハ他ノ傭船者ノ承諾ヲ得サレハ契約ヲ解除スルコトヲ得サラシメタリ他ナシ此場合ニ之カ解除ヲ認メンカ場合ニ依リ其傭船者ノ運送品カ船底ニ在リテ其船舶ヨリ取戾サント爲スモ他ノ運送品ノ妨害トナルコトアルヘシ加之解除ノ結果トシテ航海ヲ遲延スルコトトナルヲ以テ他ノ傭船者ノ承諾ヲ得セシムルコトトセリ第三項ハ前七條ノ場合ニ付キ準用ノ必要アルヲ以テ特ニ其規定ヲ設クルコトトセリ
岸本君曰ク本條第一項中ニ他ノ傭船者ノ關係ノミヲ規定シタルトモ此場合ニハ荷送人ノ關係ヲ設ケサレハ不權衡ナルヘシト起草者ハ岸本君ノ說ニ付キ其必要ヲ認メ逾ニ傭船者ノ下ニ「及ヒ荷送人」ノ五字ヲ加フルコトトセリ
第四百八十二條 個々ノ運送品ヲ以テ運送契約ノ目的ト爲シタルトキハ荷送人ハ船長ノ指圖ニ從ヒ遲滯ナク運送品ヲ船積スルコトヲ要ス
荷送人カ前項ノ船積ヲ怠リタルトキハ船長ハ直チニ發航ヲ爲スコトヲ得此場合ニ於テハ荷送人ハ運送賃ノ全額ヲ支拂フコトヲ要ス但船舶所有者カ他ノ運送品ヨリ得タル運送賃ハ之ヲ控除ス
(參照)舊九〇六、佛二九一、蘭四六七、獨五八八、同舊五八九、伊五六五、西六八五、羅五七五、葡五五三、五五四、白千八百七十九年八月二十一日法八七
岡野君曰ク本條第一項ハ讓ンテ字ノ如クナルヲ以テ別段說明ヲ要セス次ニ舊商法ハ之カ船積期間ニ付キテハ全部ト一部トノ場合ニハ其規定アルモ個々ノ物ニ付テハ余輩ノ調査ニ據レハナキカ如シ故ニ此場合ハ船長ノ指圖ニ依リテ之ヲ積込マサルヲ得ス若シ運送人カ將サニ發航セントスルニ當リ荷送人カ船長ノ指圖ニ從ヒテ船積ヲ怠リタルトキハ運賃ノ全額ヲ支拂ハサルヘカラス舊商法第九百六條ハ航海ヲ始ムル前ニ在リテハ賃借人ハ運送賃ノ半額ト取戾シ因リテ生スル費用トヲ支拂ヒテ之ヲ取戾スコトヲ得トアルモ運賃ノ半額ニテ可ナリトノコトハ極メテ權衡ヲ得サルヲ以テ全部ト改ムルコトトセリ
第四百八十三條 第四百八十一條第一項及ヒ第二項ノ規定ハ荷送人カ契約ノ解除ヲ爲ス場合ニ之ヲ準用ス
(參照)舊九〇六、佛二九一、二九三、蘭四六七、獨五八九、同舊五九〇、伊五六五、五六七、西六八四、六八五、羅五七五、五七七、葡五五三、五五四、白千八百七十九年八月二十一日法八七、八九
岡野君曰ク本條ハ荷送人カ契約ノ解除ヲ爲ス場合ニ第四百八十一條第一項及ヒ第二項ヲ準用スル規定ナリ舊商法第九百六條ハ賃借人カ運送賃ノ牛額ト取戾ニ因リテ生スル費用トヲ支拂ヒテ之ヲ取戾スコトヲ得トアルモ一部ノ傭船契約ト全部ノ傭船契約トノ場合ハ之ヲ區別スルノ必要アルヲ以テ第四百八十一條第一項及ヒ第二項ヲ個々ノ運送契約ノ場合ニ準用スルコトトセリ
第四百八十四條 傭船者又ハ荷送人ハ運送品ヲ船積スヘキ期間內ニ其運送ニ必要ナル書類ヲ船長ニ交付スルコトヲ要ス
(參照)舊九〇〇、佛二八二、蘭四七一、獨五九一、同舊五九二、伊五五六、羅五六六、葡五四三、白千八百七十九年八月二十一日法四一
岡野君曰ク本條ノ幾部ハ舊商法第九百條第二項ト類似セル規定ナリ
此規定ニ依レハ積込ミタル貨物ノ證書ハ荷積ヲ終ハリシ後交付スヘキモノトストアリ是運送契約ニ必要ナル書類ハ總テノ運送契約ニ付キ全部ナルト一部ナルトヲ問ハス均シク航海ヲ始メタルトキモ又航海中ニテモ其運送ニ必要ナル書類ハ交附セサルヘカラス要スルニ此場合ハ船積スヘキ期間ノ經過セサル間ハ交付スルコトヲ妨ケサルヘシ强チ荷積ヲ終ハリタル後ニ十四時內ト爲スノ必要ナカルヘシ外國ノ立法例モ獨逸和蘭陀葡萄牙等ハ皆本案ノ主義ヲ採用セリ是舊商法ニ修正ヲ加ヘタル所以ナリ
第四百八十五條 船舶ノ全部又ハ一部ヲ以テ運送契約ノ目的ト爲シタル場合ニ於テ運送品ヲ陸揚スヘキ準備カ整頓シタルトキハ船長ハ其旨ヲ荷受人ニ通知スルコトヲ要ス
運送品ヲ陸揚スヘキ期間ノ定アル場合ニ於テハ其期間ハ前項ノ通知アリタル日ノ翌日ヨリ之ヲ起算ス其期間經過ノ後運送品ヲ陸揚シタルトキハ船舶所有者ハ特約ナキトキト雖モ相當ノ報酬ヲ請求スルコトヲ得
前項ノ期間中ニハ不可抗力ニ因リテ陸揚ヲ爲スコト能ハサル日ヲ算入セス
個個ノ運送品ヲ以テ運送契約ノ目的ト爲シタルトキハ荷受人ハ船長ノ指圖ニ從ヒ遲滯ナク運送品ヲ陸揚スルコトヲ要ス
(參照)舊八八八、八八九、佛二七四、蘭四五七、四五八、四七四、四八五、四八六、獨五九二乃至六〇〇、六〇三、同舊五九三乃至六〇一、六〇四、伊五四九、西六五六、羅五五九、葡五四五、白千八百七十九年八月二十一日法八二、那千八百九十三年七月二十日法一三五乃至一三八
岡野君曰ク本條ハ舊商法八百八十八條及ヒ八百八十九條ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ既ニ述ヘタルカ如ク本案四百七十五條ニ於テ船舶ノ全部ヲ傭ヒシ場合テ船積期間ヲ定メ又一部ノ場合ニ付キ第四百八十一條第三項ニ於テ之ヲ定メ又個々ノ場合ニ付キ第四百八十二條ニテ定メタリ要スルニ船積ノ關係ニ付テハ各々場合ヲ區別シテ規定セリト雖モ本條ハ反之陸揚ノ期間ニ付キ第一項乃至第三項ニ於テ全部又ハ一部ノ場合ヲ定メ第四項ニ於テ個々ノ場合ヲ定ムルコトトセリ而シテ本條中ノ各事項ニ付テハ船積ノ場合ト略ホ同一ナルヲ以テ別段說明ヲ要セサルヘシ
長谷川君曰ク本條第一項中陸揚スヘキ準備カ整頓シタル場合ニハ船長ハ之ヲ荷受人ニ通知スルニ當リ比較上四百八十ニ條ト均シク「遲滯ナク」ノ文字ヲ入レサルハ權衡ヲ失フヘシト述ヘ起草者ハ同君ノ說ヲ正當ト認メ「船長ハ其旨ヲ」ノ下ニ「遲滯ナク」ノ四字ヲ加フルコトトセリ
第四百八十六條 荷受人カ運送品ヲ受取リタルトキハ運送契約又ハ船荷證券ノ趣旨ニ從ヒテ運送賃、附隨ノ費用、立替金及ヒ運送品ノ價格ニ應シ海損又ハ救助ノ爲メ負擔スヘキ金額ヲ支拂フ義務ヲ負フ
船舶所有者ハ前項ニ定メタル金額ノ支拂ト引換ニ非サレハ運送品ヲ引渡スコトヲ要セス
(參照)二八四、舊九〇二、九一四、蘭四八五、獨六一四、六一六、六二四、同舊六一五、六一六、六二五、英千八百九十四年八月二十五日法四九四、那千八百九十三年七月二十日法一五五
岡野君曰ク外國ノ立法例及ヒ舊商法モ本案ト其趣旨ヲ同フセリ抑運送契約ハ船積港ニ於テ船長カ船舶所有者ニ代ハリテ傭船者若クハ荷送人ニ對シ契約ヲ締結スルヲ通則トス其故ニ船舶所有者ニ付シ義務ヲ負擔スル者ハ傭船者若クハ荷送人ナリ而シテ荷受人カ船長ヨリ運送品ヲ受取リシトキハ之ト同時ニ運送契約又ハ船荷證劵ニ記載セル傭船者又ハ荷送人カ負フヘキ義務ヲ荷受人カ代ハリテ負フコトトナルヘシ佛蘭西主義ニ於テハ斯カル明文ハナキモ學覩上荷受人ト船舶所有者トノ間一ニ種ノ無名契約ノ成立スルモノトセリ此㸃ニ付テハ可否ノ論ハ兔モ角荷受人カ運送契約ノ當事者テアラサルモ船舶所有」者ニ對シ藁峩務ヲ負ハシムルコト
第二項ハ第一項ニ揭ケタル債務ノ履行ト船長カ荷受人ニ荷物ヲ引渡スヘキ行爲トハ同時ニ爲スヘキコトヲ定メタリ是古來一般ニ認メラレタル元則ナリ英國ノ慣習法モ亦之ト同一ナリ又佛蘭西及ヒ佛蘭西法系ノ諸國ニ於テハ船長ハ運送品ヲ留置スルコトヲ得ストアリ要スルニ陸揚ヲ爲シタル場合ハ留置ヲ爲スコトヲ妨ケスト雖モ船舶中ノ荷物ニ付キ陸揚前ニ留置ヲ爲スコトハ極メテ危險多キカ故ナリ此趣旨ニ付テハ次條ニ於テ說明スル所アルヘシ要スルニ說ノ可否ハ措キテ冤モ角第二項ハ金額ノ支拂ト荷物ノ引渡ハ同時ニ爲スヘキ趣旨ナリト認メラレンコトヲ望ム
長谷川君曰ク本條ノ船舶所有者ト船長トヲ區別シテ規定セルハ理由アリヤ此㸃ハ用語上衝突スルノ嫌ナキ歟ト述ヘ岡野君ハ之ニ答ヘテ曰ク船長カ荷受人ニ對シ運送品ヲ引渡スハ船舶所有者ニ代ハリテ爲スモノナルカ故ニ別段衝突スルコトハナカルヘシト述ヘ長谷川君ハ再ヒ前說ヲ主張シテ曰ク然ラハ船舶所有者ナル文字ニ代エルニ船長ヲモ包含セシムル用語ヲ用ヒラレンコトヲ望ムト述ヘシニ起草者ハ冤ニ角整理マテニ再考スルトノコトヲ約セラレタリ
第四百八十七條 荷受人カ運送品ヲ受取ルコトヲ怠リタルトキハ船長ハ之ヲ供託スルコトヲ得此場合ニ於テハ遲滯ナク其旨ヲ荷受人ニ通知スルコトヲ要ス
荷送人ヲ確知スルコト能ハサルトキ又ハ荷受人カ運送品ヲ受取ルコトヲ拒ミタルトキハ船長ハ運送品ヲ供託スルコトヲ要ス此場合ニ於テハ遲滯ナク其旨ヲ傭船者又ハ荷送人ニ通知スルコトヲ要ス
(參照)二八五乃至二八五乙、舊九一四、佛三〇六、蘭四八七、獨六〇一乃至六〇四、同舊六〇二乃至六〇五、伊五八〇、西六六五、羅五九〇、葡五六一、五八〇、白千八百七十九年八月二十一日法七九、英千八百九十四年八月二十五日法四九三、那千八百九十三年七月二十日法一五六
訂正、第二項中荷送人ヲ荷受人ト改ム
岡野君曰ク本條第一項ハ讚ンテ字ノ如クナルヲ以テ別段說明ヲ要セス次ニ第二項ニ付キ少シク說明ヲ爲サン荷受人カ運送品ヲ受取ルコトヲ拒ミタルトキハ船長ハ運送ヲ供託スルコトヲ要スト規定セルハ他ナシ運送品ヲ船中ニ於テ留置スルハ極メテ危險多キカ故ナリ加之船舶中ニ運送品ノ存在セル場合ニハ時トシテ船舶ノ未タ港內ニ到着セサルコトモアリ又此場合ニ船舶所有者カ運送品ニ付キ指揮ヲ爲シ若クハ處分セントスルモ如何トモスルコト能ハサルヘシ故ニ此㸃ニ付テハ陸上運送ノ規定ヲ適用セサルコトトセリ
加藤君曰ク本條ノ權衡上第四百五十一條ノ航海ナル文字ヲ權衡上削除シテハ如何ト協議シタルニ岡野君ハ此場合ニ第四百五十一條ノ航海ナル文字ヲ削除セシヨリハ寧ロ本條ニ航海ナル文字ヲ加ヘルヲ穩當ナリト信ス冤モ角再考フルコトトナサン
第四百八十八條 運送品ノ重量又ハ容積ヲ以テ運送賃ヲ定メタルトキハ其額ハ運送品引渡ノ當時ニ於ケル重量又ハ容積ニ依リテ之ヲ定ム
(參照)舊九一六、佛二八六、三〇九、蘭四九一、四九六、獨六二〇、同舊六二一、伊五六一、五八一、西六五八、六六四、羅五七一、五九一、葡五六二、白千八百七十九年八月二十一日法七〇、七六
岡野君曰ク舊商法九百十六條ハ本條ノ場合ニ付キ汎博ナル趣旨ヲ以テ設ケタルカ爲メ本條ニ適合スルヤ否ヤハ問題ニ屬スヘシ抑モ運送契約ハ法理上請負ノ性質ヲ有スルカ故ニ船舶所有者ハ其限度內ニ於テ之カ權利ヲ主張セサルヘカラス、若シ運送品カ減少スルコトアランカ其運送賃モ亦減少セサルヘカラス增加セル場合モ亦增加スルコトトナルヘシ英吉利、獨逸ノ立法例モ亦之ト同主義ナリ然ルニ舊商法ハ佛國ノ立法例ト均シク運送賃ノ減額ハ運送品ノ喪失、情況ノ變更又ハ其他ノ事由ノ爲メニ之カ運賃ノ減額ヲ請求スルコトヲ得スト爲シタリ又佛國系統ノ學派ノ說ニ依ルモ舊商法ト同主義ナルカ如シ畢竟如斯ナルトキハ船舶所有者ノ利益トナリ運送品ノ重量カ減少スルモ其運賃ヲ減少スルコトヲ得スシテ其全額ノ請求ヲ爲スコトヲ得ヘシ其故ニ第九百十六條ノ規定ハ本條ノ場合ヲ豫想シタルモノニアラサルヘシ要スルニ本條ハ舊商法ニ修正ヲ加ヘ其不備ヲ補フコトトセリ次ニ本條ノ解釋ニ付キ一言センニ本條ハ命令規則ニアラサルヲ以テ特別ノ契約ヲ以テ之ヲ變更スルコトヲ得ヘシ而シテ運送賃ノ割合ハ運送品積込ノ時ニ於ケル重量ニアラスシテ到達地ノ割合ヲ以テ爲スヘキモノトセリ若シ到達地ニ於テ重量若クハ容積ノ減スルトキハ其運賃モ之ヲ減シ增加スルトキハ之ヲ塘スヘキモノトス唯特約アル場合ヲ除キタルニ過キス
加藤君曰ク起草者ノ說明セラルル如クナルトキハ實際上ト反對ノ結果ヲ生スヘシ今日ノ有樣ニテハ積込後非常ノ變更ヲ生セサルハ各別ニ積荷ヲ欲スルカ如キコトナシ反之本條ノ如クナルトキハ積込後增減ヲ生セサレハ別段ノ支障ハ生セサルモ實際上例ヘハ穀類若クハ肥料ノ如キ常ニ多少ノ變更アルノ故ニ陸揚ノ際百石ノ物ハ百石ニテ行クコトハナカルヘシ要スルニ余輩ハ着港前ノ容積若クハ重量ニ依リテ運送賃ヲ定ムトノ修正案ヲ提出スヘシ
岡野君曰ク加藤君ノ如クセラルルトキハ運送品ニ如何ナル毀損アリシカ如何ナル減少カ生セシカ知ルコト能ハサルヘシ要スルニ此等ノ調査ノ船長カ爲サスシテ荷受人カ爲スニ至ルヘシ而シテ本條ノ規定ハ帆前船時代ノ歷史上ノ理由ヨリ存スルモノナリトノ議ナキニ非スト雖モ英吉利及ヒ獨逸ノ千八百九十七年ノ規定モ皆斯ノ如クナリ敢テ昔時ノ法規ハ今日使用スルコトヲ得ストノ理由モナカルヘシト述ヘ之ヲ採決セルニ加藤君ノ修正說ノ贊成者ハ少數ナリ