第百九回商法委員會議事要錄
明治三十年十月十一日午後三時三十五分開議
出席員
土方寧君
田部芳君
高木豐三君
穗積八束君
橫田國臣君
富谷鉎太郞君
河村讓三郞君
井上正一君
穗積陳重君
梅謙次郞君
長谷川喬君
南部甕男君
尾崎三良君
三浦安君
中村元嘉君
岡野敬次郞君
加藤正義君
內田嘉吉君
第四百七十五條 船舶ノ全部ヲ以テ運送契約ノ目的ト爲シタル場合ニ於テ運送品ヲ船積スヘキ準備カ整頓シタルトキハ船舶所有者ハ其旨ヲ傭船者ニ通知スルコトヲ要ス
傭船者カ運送品ヲ船積スヘキ期間ノ定アル場合ニ於テハ其期間ハ前項ノ通知アリタル日ノ翌日ヨリ之ヲ起算ス其期間經過ノ後尙ホ運送品ヲ船積シタルトキハ船舶所有者ハ特約ナキトキト雖モ相當ノ報酬ヲ請求スルコトヲ得
前項ノ期間中ニハ不可抗力ニ因リテ船積ヲ爲スコト能ハサル日ヲ算入セス
(參照)舊八八八、八八九、佛二七四、蘭四五七、四五八、四六四、獨五六七乃至五七六、同舊五六八乃至五七七、伊五四九、西六五六、羅五五九、葡五四五、五五一、白千八百七十九年八月二十一日法八二
岡野君ノ說明ニ曰ク本條以下第四百八十二條ニ至ル迄ノ規定ハ船舶ノ全部ヲ以テ運送契約ノ目的ト爲シタル場合ニシテ本條ニ於テノミ「船舶ノ全部」ナル文字ヲ使用シタリト雖モ其以下ノ條ニ於テモ尙ホ此文字アルト同一親スヘキモノトス蓋シ之ハ逐一明揭セストモ第四百八十一條末項ニ於テ「前六條ノ規定ハ」(尤モ前六條トハ修正ノ結果前七條ト改ムヘキコトハ本日配布シタル修正原案ニ依リテ明カナリ)云々トアルヲ以テ既ニ明白ナリ又第四百八十二條及ヒ第四百八十三條ハ個々ノ運送品ヲ以テ契約ノ目的ト爲シタル規定ナリ要之本款ニ在リテハ船舶ノ全部ヲ以テ契約ノ目的トセル場合ト其一部ヲ以テ契約ノ目的トセル場合及ヒ個々ノ運送品ヲ以テ契約ノ目的ト爲シタル場合トヲ明確ニ區別シタリ而シテ本條ハ其全部ヲ擧ケテ契約ノ目的ト爲シタル場合ニシテ舊法典第八百八十八條及ヒ第八百八十九條トヲ併合シテ之ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ抑モ船舶ノ全部ニ關スル傭船契約ヲ爲シタルトキハ傭船者ハ船舶所有者ヨリ船積スヘキ準備ヲ整頓シタル旨ノ通知アリタルトキハ一定ノ期間內ニ船積スヘキモノナリ而シテ此船積スヘキ期間ハ或ハ契約ヲ以テ或ハ慣習ニテ定マリ居レリ舊法ニ於テモ此運送品ヲ船積スヘキ期間ヲ稱シテ碇泊期間ト謂ヘリ尙ホ舊法ニハ超過碇泊期間ナルモノアリ要スルニ右碇泊期間幷ニ延長シタル船積期間乃チ超過碇泊期間ハ特ニ明文ヲ設ケサルモ是等ニ付テ自ラ慣習アルヲ以テ敢テ詳細ナル規定ヲ要セス且異ナリタル慣習アルニモ抅ラス法律ヲ以テ一槪ニ之ヲ定ムルハ不理ナリ去リナカラ舊法ニ所謂超過期間ノ如キハ「慣習ヲ以テ之ヲ定ム」ト規定スルハ聊力漠然ニ失スルノミナラス法律ノ規定タル體裁ヲ得サルモノナリ本條ハ主トシテ慣習ニ任スルノ精神ナリト雖モ其重大ニシテ且商法ニ規定スルモ敢テ不可ナキモノニ付テハ之ヲ規定セリ卽チ右ニ所謂碇泊期間ハ果シテ何時ヨリ起算スヘキヤ又若シ此期間ヲ延長スルトキハ此期間ニ對シテハ契約ヲ以テ報酬ヲ拂フコトヲ約セサルトキト雖モ報酬ヲ請求スルコトヲ得ルモノナリトセリ先ツ第一ノ起算㸃ハ本條第一項及ヒ第二項ニ於テモ報酬ノ事モ第二項ノ本文ニ規定セリ第三項ハ舊法第八百八十八條ニ在リテハ一般ノ祭日、休日ハ超過期間ニハ算入セスト雖モ外國法ハ勿論我國從來ノ慣習ニ徵スルモ之ヲ算入セサルナリ尙ホ舊法與第八百八十八條及ヒ第八百八十九條ハ運送品ヲ船積スルコトノミナラス之カ陸揚ニ付テノ期間ニモ適用アリト雖モ本條ニ於テハ船積ノミニ關シテ規定シ陸揚ニ關スル規定ハ後日ニ讓レリ尙ホ終リ三訂正スヘキハ本條第二項三行目ノ「尙ホ」ハ之ヲ削除スヘシト
本條ニ付テハ異議ナク次條ニ移レリ
第四百七十六條 船長カ第三者ヨリ運送品ヲ受取ルヘキ場合ニ於テ其者ヲ確知スルコト能ハサルトキ又ハ其者カ運送品ヲ船積スルコトヲ拒ミタルトキハ船長ハ直チニ其旨ヲ傭船者ニ通知スルコトヲ要ス此場合ニ於テハ契約ヲ以テ定メタル期間內ニ限リ傭船者ニ於テ運送品ヲ船積スルコトヲ得
(參照)獨五七七、同舊五七八、伊五七三、西六七五、羅五八三
岡野君說明シテ曰ク本條ヲ說明スルニ先立チ議按ノ條數ニ付キ一言スヘシ卽チ決議案既ニ配付ト爲リ其最終ノ个條ハ第四百七十三條タリ然ルニ海法ノ最初ノ个條ハ第四百二十八條ヲ以テ始マレリ故ニ是等兩者條數ノ衝突ヲ來シ頗ル索引ニ不便ナルヘシ依テ次回ノ議案ヨリ之ヲ改メ總テ決議案ヲ基礎トシ之ヲ追ツテ其條數ヲ變更スヘシ故ニ其結果本條ハ第五百ニ十二條ト爲ルヘク從テ本日配付セシ修正原案中第四百七十九條甲ハ第五百二十六條タリ願クハ諸君モ其心シテ之カ訂正アリタシ偖本條ノ規定ハ舊法典ニ見サル所ナリト雖モ熟ラ實際ノ狀況ヲ案スルニ彼ノ傭船者タルモノハ船舶ノ存在スル港ニ於テハ常ニ自カラ船積ヲ爲スヘシト斷言スルコト能ハス時ニ或ハ賣主ヲシテ之ニ代ラシメ或ハ又代理人ヲシテ運送品ヲ船積セシムルコト無キヲ保セス既ニ獨逸國ニ於テモ本條ニ類似ノ規定アルヲ見ルモ一證ト爲スニ足ラン果シテ然ラハ第三者カ傭船者ノ指揮ニ從ヒ運送品ヲ船積スルニ當リ船長ニ於テ右第三者トハ如何ナル者ナルヤヲ確知シ能ハサル場合アラン此場合ニ於テハ船長ハ先ツ其旨ヲ傭船者ニ通知スヘキモノトス然ルトキハ傭船者ハ自身若クハ其代理人ヲ以テ船積ヲ爲シ或ハ更ニ右第三者ニ命シテ船積ヲ爲サシムルコトモアルヘシ若シ傭船者ハ自身ニ船積ヲ爲ササルノミナラス第三者ヲシテモ之ヲ爲サシメサルカ爲メ空シク船積期間ヲ經過シタルトキハ第四百七十九條第三項ノ規定ニ依リ契約ノ解除アリタルモノト看做スヲ以テ同條第一項ノ規定ニ依リ運賃ノ牛額其他費用ヲ支拂フヘキモノナリト
本條ニ付テハ毫モ異論ヲ唱フル者ナク直チニ次條ニ移レリ
第四百七十七條 傭船者ハ契約ヲ以テ定メタル運送品ノ全部ヲ船積セサルトキト雖モ船長ニ對シ發航ノ請求ヲ爲スコトヲ得
傭船者カ前項ノ請求ヲ爲シタルトキハ運送賃全額ノ外運送品ノ全部ヲ船積セサルニ因リテ生シタル費用ヲ支拂ヒ尙ホ船舶所有者ノ請求アルトキハ相當ノ擔保ヲ供スルコトヲ要ス
(參照)舊八九六、九〇五、佛二八七、二八八、蘭四六五、獨五七八、同舊五七九、伊五六三、五六四、西六七二、六八〇、羅五七三、五七四、葡五五二、五五三、白千八百七十九年八月二十一日法七二、七五
岡野君說明シテ曰ク傭船者カ商業上ノ必要ニ因リ未タ運送品ノ全部ヲ船積セサルトキト雖モ發航ヲ請求スルコトアリ蓋シ傭船者ハ船舶ノ全部ヲ傭ヒタルモノナルカ故ニ運送品ノ全部ヲ積込ムヘキ權利ヲ抛棄シテ一部ヲ積込ミテ發航スルコトヲ得ヘキハ更ニ喋々ヲ要セスシテ明カナリ然リト雖モ之ハ相手方ノ利益權利ヲ侵害セサル範圍內ニ於テノミナルヘキヲ以テ運送賃ハ無論全部ヲ支拂ハサルコトヲ得ス加之運送品ノ一部ヲ積込ムトキハ危險ノ恐アルトキハ底荷ヲ積ムヘキ場合モアルヘク又全部ヲ積込ムヘキ豫算ニテ船長カ準備シタルニ豈ニ圖ラン一部ナリシトキノ如キハ或ハ積換ヲ爲ササレハ其儘發航シ得サル場合モアラン是等ノ場合ニ在リテハ運送賃ノ外更ニ費用ヲ要スルモノナリ尙ホ運送品ノ多少ニ依リテ分擔ニ影響ヲ及ホスヘキ彼ノ共同海損ノ如キ場合ニ於テハ若シ運送品ノ一部ヲ船積シタルトキハ船舶ニ付テノ負擔比較的大ナルヲ以テ此場合ハ須ラク擔保ヲ供セシムルノ必要アリ本條ハ以上ニ付キ規定シタルナリト
加藤正義君曰ク本條ハ之ヲ第四百八十一條ニ準用シタルヲ以テ彼ノ定期航海ノ船舶ニ對シ一部ノ傭船者カ發着ヲ自由ニシ得ヘキ是言フヘカラサル不都合ヲ生スルノミナラス正ニ次條ト牴觸ヲ來スノ恐アリ故ニ本條第一項ニ但書トシテ定期船ノ發着ハ之ヲ變更シ得サル旨ヲ規定スヘシト
右ニ付キ岡野君ハ辯明スラク本條ノ規定ハ傭船者カ船舶ノ全部ヲ傭ヒタル場合ニシテ傭船者ノ運送品ノ外ニ船長ニ於テ他ノ積荷ヲ爲シ得サル場合ナリ尙ホ次條ト牴觸スト云フト雖モ次條ハ反テ加藤君ノ意ニ適スルモノニシテ期間ノ定アル場合ナルカ故ニ其期間經過セルカ爲メ船長カ發航ヲ爲スナリト
右加藤君ノ說ニ對シ贊成者ナク直チニ次條ニ移レリ
第四百七十八條 運送品ヲ船積スヘキ期間ヲ經過シタルトキハ傭船者カ其全部ヲ船積セサルトキト雖モ船長ハ直チニ發航ヲ爲スコトヲ得此場合ニ於テ傭船者ハ前條第二項ニ定メタル責任ヲ負フ
(參照)舊八九六、九〇五、佛二八八、蘭四六五、獨五七九、五八〇、同舊五八〇、五八一、伊五六四、西六八〇、羅五七四、葡五五三、白千八百七十九年八月二十一日法七五
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ハ舊法典第八百九十六條ニ該當スルモノニシテ「船積ノ期間」トハ普通外國法ニ所謂第一項ノ船積期間及ヒ特約ニ因ル第二ノ期間ヲモ包含スルモノトス尙ホ本條ハ次條乃チ第四百七十九條ノ適用ヲ妨ケサルノミナラス第四百八十條モ均シク適用アルモノトスト
本條モ別段異議ナク通過シ次條ニ移レリ
第四百七十九條 發航前ニ於テハ傭船者ハ運送賃ノ半額ヲ支拂ヒテ契約ノ解除ヲ爲スコトヲ得但既ニ運送品ノ全部又ハ一部ヲ船積シタルトキハ傭船者ハ其船積及ヒ陸揚ノ費用ヲ負擔ス
往復航海ヲ爲スヘキ場合ニ於テ傭船者カ其歸航ノ發航前ニ契約ノ解除ヲ爲シタルトキハ運送賃ノ三分ノ二ヲ支拂フコトヲ要ス他港ヨリ船積港ニ航行スヘキ場合ニ於テ傭船者カ其船積港ヲ發スル前ニ契約ノ解除ヲ爲シタルトキ亦同シ
傭船者カ運送品ヲ船積スヘキ期間內ニ其船積ヲ爲ササリシトキハ契約ノ解除ヲ爲シタルモノト看做ス
(參照)舊八九四、佛二八八、二九四、蘭四六七、獨五八〇、五八一、五八三、五八四、同舊五八一、五八二、五八四、五八五、伊五六四、五六八、西六七五、六八八、羅五七四、五七八、葡五五三、白千八百七十九年八月二十一日法七五、八二
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ノ舊法典第八百九十四條ノ修正ト尙ホ之ニ幾分追加ヲ爲シタルモノニシテ傭船者ニ於テ契約ヲ解除スル場合ナリ而シテ此解除ヲ認メサルトキハ違約ト爲リ其結果トシテ損害賠償ト爲ルヘシ蓋シ損害ヲ見積ルニ付キ最モ簡單ナル場合ヲ考フレハ船舶所有者ヨリ傭船者ニ對シ運賃ノ全部ヲ請求スルニ在リ且此場合ニ於テハ傭船者ハ運賃ノ全部ヨリモ多クノ義務ヲ負擔スルコトアルヘキモ之ヨリ少ナキ義務ヲ負擔スルコトナシ然ラハ本條ハ何故ニ契約ノ解除ヲ認メタルヤト云ハハ專ラ商業ノ自由ヲ重ンスルニ出テタルモノトス卽チ傭船者カ或計畫ヲ以テ船舶ヲ傭ヒタルニ後其目的ヲ變シタル場合ニハ契約ノ解除アリタルモノト看做スハ諸外國ノ立法例ヲ初メ我既成商法ニモ認ムル所ナリ然レトモ本案カ舊法典ニ對シ修正ヲ爲シタル㸃ハ右ノ場合ニ發航ノ前後ヲ區別シ本條ハ發航前ノ場合ヲ次條ハ發航後ノ場合ヲ規定シタルニ在リ而シテ本條ニ所謂發航前トハ總テ航海前ヲ意味スルモノニシテ其運送品ヲ積ミタルト否トヲ區別セス假令運送品ノ幾分ヲ積込ミタル場合ニモ等シク本條ノ適用アルナリ舊法ニ在リテハ船積セサル前タルコトヲ要スルカ如ク其理由トスル所ハ既ニ運送品ノ一部分タリトモ之ヲ積込マハ是レ船舶ヲ使用シタルモノニシテ其以後ハ之ヲ使用スルト否トハ傭船者ノ自由ナリ故ニ此場合ハ純然タル運賃ヲ支拂フモノナリト雖モ之ニ反シテ傭船者カ毫モ船積セサルトキハ是レ未タ船舶ヲ使用セサルモノナルカ故ニ運賃ノ半額ハ賠償トシテ之ヲ支拂フモノナリト謂フニ依リ以上ハ全ク佛法主義ナリト雖モ假令運送品ヲ積込ミタル場合ト雖モ傭船者カ總テノ費用ヲ支拂フ以上ハ何カ故ニ契約ヲ解除シ得サルヤ毫モ其理由ヲ發見スルコト能ハス殊ニ舊法第九百六條ニハ個々ノ運送品ヲ以テ契約ヲ爲シタル場合ハ假令其一部ヲ船積シタルトキト雖モ運賃ノ半額ヲ支拂フヲ以テ可ナリトセリ是レ權衡上首肯スルコト能ハサルナリ故ニ本條ハ其第一項ヲ以テ全ク船積セサルトキハ運賃牛額ヲ支拂フヘク若シ其一部若クハ全部ヲ船積シタルトキハ其船積及ヒ陸揚ノ費用ヲ負擔スヘキモノトセリ尙ホ本條第二項ノ適用アルヘキ場合ヲ擧クレハ運送契約ヲ以テ往復航海ヲ爲スコトヲ目的トシテ傭船契約ヲ結ヒタル場合ト船積ノ場所ト船舶ノ所在地トヲ異ニスル場合ニ於テ此船舶カ先ツ積荷ノ場所迄航行スル間モ之ヲ運送契約中ニ含入セシメタル場合ニシテ若シ之ヲ別個ノモノトセハ第一項ノ適用ヲ受クヘキモノナリ尙ホ本項ニ運賃ノ半額ト云ヒ又ハ三分ノニト云フノ外第四百七十九條甲ノ義務アリ第三項ハ舊法典第八百九十四條ノ「若シ」以下ニ該當スルモノニシテ此場合ハ全ク運送品ヲ積込マサル場合ナリトスト
富谷君曰ク第四百七十九條甲ハ未タ議事ニ至ラスト雖モ同條ニ「附隨ノ費用」トハ第四百七十九條第一項但書ノ場合ニ該當スルモノトセハ此但書ハ贅文タルコトヲ免カレス若シ然ラストセハ第四百七十九條第二項往復航海ノ場合ニモ此但書ノ必要アリト
岡野君答ヘテ曰ク然ラハ此但書ヲ第三項トシテ規定セハ可ナラント次ニ加藤君ハ本條第二項ニ「歸航ノ發航前ニ契約ノ解除ヲ爲シタルトキハ運送賃ノ三分ノニヲ支拂フコトヲ要ス」トアルヲ以テ歸港ニ何等ノ積荷モ無キ場合ハ傭船者ハ常ニ歸港ノ發航前ニ契約ヲ解除シテ運賃ノ三分ノニヲ支拂フヘシ何トナレハ此場合ハ傭船者大ニ利益アル所アルヲ以テナリ殊ニ個々ノ運送品ヲ以テ契約ノ目的ト爲シタル場合ノ如キハ契約解除ノ爲メ船底ノ荷物ヲ引出スカ如キ極メテ手數ヲ要スルコトアルヘキカ故ニ尤モ其不都合ヲ感スヘシト批難シ途ニ此場合ハ總テ契約ノ解除ヲ許ササルモノトシ本項ノ解除ニ關スル法文ハ之カ削除スヘシト主張シ且曰ク本項ノ「他港ヨリ」以下ハ必要アルヲ以テ之ヲ存スヘシト
岡野君之ヲ辯シテ曰ク右ノ場合ハ賠償問題タリ蓋シ損害賠償ノ標準タル極メテ不確定ナルモノナルカ故ニ本條ヲ以テ之ヲ明確ニセルモノナリ若シ加藤君ノ如キ患アラハ前以テ特約セハ敢テ不都合ヲ生スルノ恐ナシト
加藤君曰ク特約セハ敢テ議論ナシト雖モ法文ノ體裁トシテ斯ノ如ク規定スレハ頗ル其當ヲ失ス故ニ宜シク之ヲ削除スヘシト
右ニ付橫田君ヨリ折衷說トシテ本項ノ三分ノニハ少額ニ失スルカ故ニ傭船者ハ常ニ發航前ニ解除ヲ爲シテ自個ヲ利セントスルノ患ヲ生スヘケレハ之ヲ四分ノ三ト改メナハ幾分右ノ患ヲ減却スルニ足ラント述ヘ贊成者アリタルヲ以テ採決セルニ少數ニテ消滅シ本條ハ原案ニ可決シ次條ニ移ル
商修正原按
第四百七十九條甲 傭船者カ前條ノ規定ニ從ヒテ契約ノ解除ヲ爲シタルトキト雖モ附隨ノ費用及ヒ立替金ヲ支拂フ責ヲ免ルルコトヲ得ス
前條第二項ノ場合ニ於テハ傭船者ハ前項ニ揭ケタルモノノ外運送品ノ價格ニ應シ海損又ハ救助ノ爲メ負擔スヘキ金額ヲ支拂フコトヲ要ス
(參照)舊八九七、九〇二、蘭四六六、獨五八六、六一四、同舊五八七、六一五、那千八百九十三年七月二十日法一二六、一二八
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ハ前條ニ牽連セル問題ニシテ前條第一項ハ發航前ニ在リテハ假令船積シタル後タリトモ運賃ノ半額ヲ支拂ヒテ契約ノ解除ヲ爲スコトヲ得ヘシト雖モ若シ契約ヲ以テ定メタル期間ニ對スル報酬ヲ定メタル場合ニ在リテハ啻ニ運賃ノ牛額ノミヲ支拂フヲ以テ足レリトセス場合ニヨリ或ハ關稅ヲ立替フルトキモアラン然ルニ右運送賃ノ半額ノミヲ支拂ヒテ契約ノ解除ヲ爲スコトヲ許スハ頗ル不公平ト謂ハサルコトヲ得ス次ニ本條第二項ハ往復航海ノ場合ノミト考フルモ不可ナシ卽チ航海中海損等ノ生セル場合ニハ啻ニ運賃ノ三分ノニヲ支拂フノミニテハ不可ナリ海損又ハ救助ニ關シ分擔ノ責任無カルヘカラスト
右ニ付キ別段異議ナク次條ニ移レリ
第四百八十條 發航後ニ於テハ傭船者ハ運送賃ノ全額ヲ支拂フ外第 條ニ定メタル債務ヲ辨濟シ且陸揚ノ爲メニ生スヘキ損害ヲ賠償シ又ハ相當ノ擔保ヲ供スルニ非サレハ契約ノ解除ヲ爲スコトヲ得ス
(參照)舊九〇六、佛二九三、獨五八二、同舊五八三、伊五六七、西六八四、羅五七七、葡五五四、白千八百七十九年八月二十一日法八九
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ハ前回ニ於テ一言セシ如ク本日配付セラレタル議案中第四百八十六條ト對照スヘキモノニシテ卽チ運賃附隨ノ費用立替金、海損、救助ノ負擔其他陸揚ニ關シテ生シタル費用又ハ荷物ヲ陸揚シタルカ爲メ底荷ヲ積込ム場合ノ費用等ニ付キ發航後ノ場合ヲ規定シタルモノナリト
本條ニ付テモ敢テ異論ナク途ニ散會ヲ途ケタリ
于時午後第六時ニ十分