第百八回商法委員會議事要錄
明治三十年十月八日午後三時三十分開議
出席員
淸浦奎吾君
土方寧君
田部芳君
高木豐三君
穗積八束君
橫田國臣君
富谷鉎太郞君
河村讓三郞君
都筑馨六君
穗積陳重君
梅謙次郞君
長谷川喬君
南部甕男君
尾崎三良君
三浦安君
岡野敬次郞君
加藤正義君
內田嘉吉君
第四百六十七條 左ノ場合ニ於テハ海員ハ其雇止ヲ請求スルコトヲ得
一 船舶カ日本ノ國籍ヲ喪失シタルトキ
二 自己ノ過失ニ因ラスシテ疾病ニ罹リ又ハ傷痍ヲ受ケ其職務ニ堪ヘサルニ至リタルトキ
三 船長ヨリ虐待ヲ受ケタルトキ
前項ノ場合ニ於テハ海員ハ其雇止ノ日マテノ給料及ヒ發航港マテノ送還ヲ請求スルコトヲ得
(參照)佛二六二、蘭四二三乃至四二八、四四〇、獨千八百七十二年十二月二十七日法四八乃至五〇、六一、六三、伊五三七、五四一、西六四四、六四七、羅五四七、五五一、葡五二九、五三三、白千八百七十九年八月二十一日法五七乃至五九、英千八百九十四年八月二十五日法一九九、那千八百九十三年七月二十日法八六、八八、九〇
田部君ノ說明ニ曰ク本條ニ類スル規定ハ舊商法中ニ之ヲ見スト雖モ必要ナリト認メ玆ニ之ヲ設ケタリ既ニ第四百六十五條以下ニ於テ船長ヨリ海員ヲ雇止スル場合ニ關スル規定ヲ設ケタリシカ本條ハ右ニ反シ海員自身ヨリ其雇止ヲ請求スル場合ニ付キ規定シタリ卽チ本條ニ列擧シタル第一號ノ場合ハ國際上ノ關係ヨリ重大ナリト認メ之ヲ雇止請求權ノ一條件トシタリ次ニ第二號ノ場合ハ先キニ第四百六十五條第四號ニ封スル修正說此議場ヲ通過シタル爲メ同號ノ場合ト殆ト同一ノ結果ヲ見ルニ至リタルヲ以テ船長ニシテ海員ヲ雇止セント欲セハ右第四百六十五條第四號ニ依リテ之ヲ爲スヘク又海員カ其雇止ヲ請求セント欲スルニハ此第二號ニ依リテ請求スルコトヲ得ヘキナリ從テ又本號ヲ設ケタルノ理由ハ重ネテ說明スルノ要ヲ見ス終リニ第三號ヲ設ケタル理由ハ元來海員雇入ニ關スル契約ノ船舶所有者ノ海員トノ間ニ成立スルモノト法律上見サル可ラスト雖モ實際上ハ船長ト海員トノ間ニ成立シタルカ如キ事實アルヲ以テ雇止請求權ノ一條件ト爲スモ可ナリト信シタレハナリト
穗積陳重君ハ本條第一項ニ單ニ「海員ハ其雇止ヲ請求スルコトヲ得」トアルハ船舶所有者ニ向テ請求スヘキ意義ナルカ將又船長ニ向テ請求スヘキ意義ナルカ其㸃漠然タル嫌アルヲ以テ寧ロ船長ニ向テ請求スヘキ主義ニセハ如何ト述ヘ梅君ハ寧ロ原文ノ如クスルトキハ實際船籍港ニ於テ海員ヲ雇止ノ請求ヲ爲サント欲スルトキハ船舶所有者及ヒ船長ノ何レニ向テモ之ヲ請求シ得ルヲ以テ頗ル便利ナレハ强テ改ムルニ及ハサルヘシト答ヘ穗積陳重君ハ更ニ第四百五十二條ヲ引證シテ曰ク同條ノ規定ニ因レハ船長ハ船籍港外ニ於テハ航海ノ爲メニ必要ナル一切ノ裁判上又ハ裁判外ノ行爲ヲ爲ス權限ヲ有スト雖モ船籍港ニ於テハ特ニ委任ヲ受ケサル以上ハ右ノ權限ヲ有セスシテ單ニ海員ヲ雇入ルルノ權利ヲ有スルニ過キス故ニ若シ本條ニ於テ海員ハ船長ニ向テ雇止ノ請求ヲ爲スヘキ旨ヲ規定セサル以上ハ海員ハ船籍港ニ於テハ船長ニ向テハ其雇止ノ請求ヲ爲スコト能ハサルヘシト主張シ土方君ハ船籍港外ハ勿論船籍港ト雖モ海員ノ雇止ノ請求ハ船長ニ向テ之ヲ爲スヘキ主義ニ改ムル方實際上便利ナリト述ヘ岡野君ハ若シ假リニ土方君ノ意見ニ從フトセンカ本條ヲ改メンヨリ寧ロ第四百五十二條第二項但書ヲ修正スル方可ナルヘシト答ヘ且ツ土方君ニ質問シテ曰ク本條ノ海員雇止ノ請求ハ船長ニ向テノミ之ヲ爲スヘキモノト改ムルノ精神ナルヤト土方君答ヘテ曰ク然リ假令船舶所有者ニ對シテ爲スヘキモノトスルモ實際上ハ船長ニ向テ爲ス可ケレハ右ノ如クスル方便利ナレハナリト玆ニ於テ加藤君ハ海員雇入及ヒ雇止ノ權利ハ何レモ之ヲ船長ニ有セシムル方實際ニ適合スルヲ以テ從テ本條第一項ノ場合ハ當然船長ニ向テ請求ヲ爲スヘキ主義優レリト主張シ之ニ對シテ岡野君ハ本條第一項ハ原案ノ儘トシ單ニ海員ハ其雇止ヲ請求スルコトヲ得ル旨ヲ明示スルニ止ムルトキハ其相手方ハ或ハ船舶所有者又或ハ船長タルコトアルヘク頗ル便利ナルヘシ然ルニ何ンン船長ノミニ限ルノ必要アランヤト辯シ穗積陳重君ハ第四百五十二條ノ規定ノミニテハ本條第一項ニ於テ海員カ船長ニ向テ雇止ノ請求ヲ爲シ得ルコトノ意味不分明ナルコト既ニ陳ヘタルカ如キヲ以テ寧ロ船長ニ雇入及ヒ雇止ノ權利ヲ與フルコトヲ明示スル爲メ第四百五十二條但書「雇入」ノ下ニ「雇止」ノ二字ヲ追加スヘシト述ヘ之ニ對シテ梅君ハ第四百五十二條第二項ノ本文ニハ船長ハ船籍港ニ於テハ特別ノ委任ヲ受ケタル場合ヲ除ク外ハ其前項ニ定メタル權限ヲ有セストアルトモ其但書ニ海員ヲ雇入ルルハ此限ニ在ラストアリ果シテ雇入ルルニ付キ權限ヲ有スル以上ハ從テ其雇入レタル船長ニ向テ海員カ雇止ノ請求ヲ爲スコトヲ得ヘキヤ當然ナリ故ヲ以テ右第四百五十二條ハ修正セサルニ本條ハ余輩カ解スル如ク見解ヲ下スコト難キニアラサルヘシト辯シ內田君ハ船長ノ海員雇入及ヒ雇止ニ關スル權限ハ加藤君ト同一ノ所見ヲ抱クト述ヘ且ツ曰ク假令本法ニ於テ海員ハ船長ニ向テ雇止ノ請求ヲ爲シ能ハストノ主義ナリトスルモ特別法ハ右ノ主義ヲ以テ制定セサルヘク多クハ海員ノ雇入及ヒ雇止ハ之ヲ船長ノ職務中ノ一事項ト爲スヘシ故ニ本條第一項ハ文字ノ如何ニ抅ハラス船長ニ向ツテ請求スヘキモノト解セサル可カラス又第四百五十二條ニ於テモ海員ノ雇入及ヒ雇止ハ一ニ之ヲ船長ノ權限內ニ屬セシメタルモノト解セサル可カラスト述ヘ之ニ付キ田部君答ヘテ曰ク第四百五十二條ニ於テハ船長ニ雇入及ヒ雇止ノ權限アルコトヲ認メ居レリ就テハ特別法トノ關係上ニ付テハ他日協議ノ上修正ヲ加フルニ至ルモ可ナリト玆ニ於テ議長ハ第四百五十二條ハ一旦確定法文トナリタルモ本條トノ關係上修正ヲ加フルノ必要アリトテ既ニ修正讀出テ贊成者モ之レアルヲ以テ其至當ナルヲ認メ右ノ修正說卽チ第四百五十二條第二項但書ニ「雇止」ノ二字ヲ追加スルノ說ニ付キ採決スト述ヘ之ヲ起立ニ間ヒタリシニ贊成者少數ニテ消滅ニ歸シタリ
加藤君ハ本條第二項ニハ「發航港」トアリト雖モ若シ此法文ノ如ク發航港マテ送還スヘキモノトセンカ實際海員ノ迷惑一方ナラサルヘシ何トナレハ例ヘハ橫濱ヲ發航港トシ神戶港ヲ中心トスル場合ニ海員ハ小樽ニテ雇入レタリシモノトセンカ橫濱マテ送還セラレタレハトテ實際橫濱ヨリ小樽マテ歸ラサル可カラサルヲ以テ其迷惑大ナリト云ハサル可カラス故ニ寧ロ「發航港」ナル文字ヲ「雇入地」ト修正セハ可ナルヘシト述ヘ起草者ハ其說ヲ理由アリトシ第二項ハ再考スル旨ヲ述ヘ次條ニ移リタリ
第四百六十八條 海員ハ航海中船舶ノ所有者カ變更セシトキト雖モ其雇止ヲ請求スルコトヲ得ス
(參照)蘭四四〇、獨千八百七十二年十二月二十七日法六一、六三、伊五四一、西六四七、羅五五一、葡五三三、那千八百九十三年七月二十日法八八
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ舊商法ニ類似ノ規定ヲ見スト雖モ必要ナリト認メ玆ニ之ヲ設ケタリ蓋シ海員雇入ノ契約タルヤ舊船舶所有者ト海員トノ間ニ成立シタリシモノ故此場合ニ關シテハ特ニ明文ヲ設ケサレハ疑義ヲ生スルノ恐レアレハナリト
穗積陳重君ハ本條ノ文章ヲ難シテ曰ク起草者ノ說明セラレタル如ク本條ハ契約ノ當事者變更スル場合ノ規定ナリトセンカ寧ロ其コトヲ明示セサレハ不可ナリ何トナレハ本條ニハ「其雇止ヲ請求スルコトヲ得ス」トアルヲ以テ文章ノ上ニ於テハ恰モ契約ハ舊所有者トノ間ニ繼續スト見ヘ新所有者ト海員トノ新ナル契約ト變シ而シテ海員ハ新所有者ノ雇入ト爲ルトノ意義ニハ見ヘサレハナリト
右ニ付キ岡野君辯シテ曰ク文章上ノ批難ハ一應尤モナリ然レトモ余ノ考ヘハ海員ハ實際其船舶ノ爲メニ雇入レタルモノト見ルヘキモノト云フモ殆ト可ナル位ノモノナレハ原文ノ儘ニテ誤解ヲ來タス恐ハナカルヘシト
河村君ハ本條ノ「航海中」ナル文字ヲ難シテ曰ク若シ右ノ如クセンカ後ニ「雖モ」トノ文字アルヲ以テ恰モ以前ハ勿論ト云ヘルカ如ク解セラルル恐レアリ故ニ「航海中ハ」トセハ可ナルヘシト注意シ梅君ハ文章上ノコト故再考セント答ヘ本條ノ大體ニ於ケル主義ハ原案ニ可決シ次條ニ移リタリ
第四百六十九條 雇入ノ期間ノ定ナキトキハ海員ハ特約アル場合ヲ除ク外船舶カ發航港マテ歸航シタル後ニ非サレハ其雇止ヲ請求スルコトヲ得ス
船舶カ歸航シタル後ト雖モ海員ハ積荷ノ陸揚ヲ終ハリ且船舶カ安全ニ碇泊シタル後ニ非サレハ其雇止ヲ請求スルコトヲ得ス
(參照)十二年二月吿九號西洋形船海員雇入雇止規則五、蘭四四六乃至四四九、獨千八百七十二年十二月二十七日法五四、五五、伊五二四、五四四、羅五三四、葡五一七、那千八百九十三年七月二十日法八二、八四
田部君ハ說明ニ先チ本條第二項「海員ハ」以下ノ文章ヲ「船舶ニ安全ニ碇泊シ且ツ旅客ノ上陸及ヒ積荷ノ陸揚ヲ終ハリタル後ニ非サレハ其雇止ヲ請求スルコトヲ得ス」ト訂正スル旨ヲ述ヘ次ニ說明シテ曰ク期間ヲ定メスシテ海員ヲ雇入レタルトキハ特約ナキ限リハ船舶ニ發航港マテ歸航シタル後ニ非サレハ其雇止ヲ請求スルハ不可ナルヲ以テ之ヲ得サルモノトシ又歸航シタル後ト雖モ直チニ請求スルハ不可ナルヲ以テ第二項ノ如ク規定セリト
土方君ハ本條第二項ニハ「旅客ノ上陸及ヒ積荷ノ陸揚ヲ終ハリ」云々トアルヲ以テ同項ノ「船舶力安全ニ碇泊シ」ノ文字ハ不必要ナリト難シ梅君ハ縱令旅客カ安全ニ上陸シ且ツ積荷ノ陸揚ヲ終ハリタリトモ其後チ船舶ノ安全ニ碇泊スヘキ必要ノ場合アルヲ以テ原案ノ儘ニテ可ナリト辯シ加藤君モ亦原案ノ其當ヲ得タルヲ贊助セリ
內田君ハ現行海員雇入雇止規定第三條ニ「內海回漕船ニ於テハ雇入期限ヲ六ケ月以內ト定ム然レトモ外國航海ニ於テハ六ケ月以外ニ約スルヲ得ヘシ」トアリ然ルニ本法ニハ最長期間ノ定ナキカ如シ是果シテ特別法ニ讓ル精神ナルカ將又本條ノ「特約アル場合」ナル文字ノ中ニ包含セシムル精神ナルヤト質問シ田部君ハ最長期間ハ之ヲ本法中ニ規定スルノ必要ナキモノト信シ之ニ付キ別ニ規定ヲ設ケス從テ本條ノ「特約アル場合」トノ主意ハ敢テ期間ニ關スル特約ノ場合ヲ見タルモノニアラスシテ海員カ隨意ノ所ニ於テ雇止ノ請求ヲ爲スヘキコトヲ特約シアリシ場合ニ關スルモノナリト答ヘ梅君ハ此場合ニ於テハ民法第六百二十六條ヲ適用スヘキヲ以テ其最長期間ハ五ケ年トナルヘシ故ニ右ノ五ケ年ヨリ短期ニセント欲セハ特約ヲ爲スヘキヲ以テ原案ノ儘ニテ可ナルヘシト辯シ內田君ハ既ニ述ヘタル如ク現行法ニハ雇入期間ヲ六ケ月以內ト定メ且ツ其第五條ニハ「雇止ハ雇入地ニ限リ行フヘシ故ニ雇入地以外ニ於テ滿期ニ至ルモ雇入地ニ歸着スル迄ハ雇入期限內ト看做スヘシ」トアリ尤モ以上ノ規定ハ內海ニ於ケル回漕船ニ限リ適用スヘキモノニシテ外國航海ニハ適用スヘキモノニ非ラス故ヲ以テ其期間ノ長短如何ハ暫ク期間問題トシ最長期間ニ關スル條項ヲ設ケタシ然ラサレハ民法第六百二十六條ノ適用ヲ受クル爲メ海員ニ對シ少シク酷ナル嫌アリト述ヘ土方君ハ內田君ノ主旨ヲ贊助シ最長期間ヲ本法中ニ設クルコトトシ而シテ其長短ハ起草者一ニ任ストノ修正說ヲ提出シ內田君之ニ贊成シ採決ノ結果此修正說ニ可決シ次ニ又土方君ハ雇入期間ノ定アル場合ニ若シ航海中其期間ノ滿了セシトキハ歸港迄ハ其期間繼續スルモノト看做ストノ主意ヲ以テ特一ニ項ヲ設クルノ修正說ヲ提出シ是亦贊成者アリテ採決ニ至リタルモ可決ニ至ラスシテ次條ニ移リタリ
第四百七十條 海員ノ雇入契約ハ左ノ事由ニ因リテ終了ス
一 船舶カ難破シタルコト
二 船舶カ海難ニ因リテ修繕スルコト能ハサルニ至リタルコト
三 船舶カ捕獲セラレタルコト
前項ノ場合ニ於テハ海員ハ契約終了ノ日マテノ給料及ヒ發航港マテノ送還ヲ請求スルコトヲ得
(參照)舊八八〇、十二年二月吿九號西洋形船海員雇入雇止規則六、佛二五八、獨千八百七十二年十二月二十七日法五七、伊五三五、西六四〇、六四三、羅五四五、葡五二八、白千八百七十九年八月二十一日法五四、英千八百九十四年八月二十五日法一五八、那千八百九十三年七月二十日法九一
田部君ノ說明ニ曰ク本條第一項ニ列擧シタル事項ノ生スルトキハ爲メニ船舶ハ航海ノ用ニ供スルコト能ハサルヲ以テ從テ海員ヲ要セサルニ至ルヤ自明ノ理ナリ故ニ本條ハ斯カル場合ハ契約ノ當然終了セルモノトセリ何トナレハ若シ船舶所有者ヨリ雇止ノ請求ヲ爲スヘキモノトセンカ其請求マテハ契約ノ終了セスシテ繼續スルコトトナリ頗ル不便ナレハナリト橫田君ハ第一號ノ「難破」トアルヲ「沈沒」ト改メ又第二號ヲ「船舶力航海ニ堪ヘサル」云々トノ主意ニ改ムヘシト主張シ梅君ハ之ニ對シテ第一號ハ「沈沒」ト改ムル方或ハ可ナラン然レトモ第二號ハ原文ニテ可ナリト辯シ長谷川君ハ若シ第二號ヲ原文ノ儘ニセンカ船舶カ老朽航海ニ堪ヘサル場合ヲ包含セサル爲メ不完全ナリト批難シ又土方君ハ第四百七十三條本文ノ主意ヨリ考フルモ本條第二號ハ橫田君ノ修正說穩當ナリト贊助シ田部君ハ本條ノ各號ハ契約終了ノ事由トナルヘキ事項ヲ列擧シタルモノナシハ橫田君ノ修正說ハ其當ヲ得ス何トナレハ航海ニ堪ヘサルモノハ修繕ヲ加フルトキハ其用ニ堪フルニ至ルモノナレハナリトノ理由ニテ原案ヲ維持シタリ玆ニ於テ第一號ノ「難破」ハ「沈沒」ト改ムルコトニ起草者贊成ヲ表シテ之ニ決定シ又第二號ハ起草者再考ヲ留保シ他ハ原案ニ可決シテ次條ニ移リタリ
第四百七十一條 海員ハ發航港マテノ送還ヲ請求スル權利ヲ有スル場合ニ於テ送還ニ代ヘテ其費用ヲ請求スルコトヲ得
(參照)獨千八百七十二年十二月二十七日法四八、五四、六五、那千八百九十三年七月二十日法八六、九二
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ海員ニ便宜ヲ與ヘンカ爲メニ設ケタルモノニシテ別ニ說明ヲ要セス「其費用」ノ中ニ賄料ヲ包含スルヤ勿論ナリト
右ハ原案ニ可決シ第三章ニ移リタリ
第三章 運送
第一節 物品運送
第一款 總則
第四百七十二條 船舶ノ全部又ハ一部ヲ以テ運送契約ノ目的ト爲シタルトキハ各當事者ハ相手方ニ對シ運送契約書ノ交付ヲ請求スルコトヲ得
(參照)舊八八七、佛二七三、蘭四五三乃至四五五、獨五五六、五五七、同舊五五七、五五八、伊五四七、西六五二乃至六五五、羅五五七、葡五四一、五四二、白千八百七十九年八月二十一日法六七、那千八百九十三年七月二十日法一〇九
岡野君ノ說明ニ曰ク本章ハ舊商法第五章運送契約ノ規定ニ該當ス舊商法ハ其第一節ヲ船舶賃貸借契約トシ第二節ヲ船積證書トシ第三節ヲ運送賃トシ而シテ第四節ヲ旅客運送トセリト雖モ本案ハ既ニ陸上運送ニ關シテモ物品運送ト旅客運送トニ區別セシヲ以テ本章ニ於テモ亦物品運送ト旅客運送トニ區別シ規定ヲ設ケタリ舊商法ハ既ニ陳ヘタル如ク其第一節ヲ船舶賃貸借契約ト題セリト雖モ右ハ民法ニ所謂純然タル賃貸借ニ非スシテ寧ロ形ノ異ナレル運送契約ト見ルヘキモノナルヲ以テ本案ハ此㸃ニ付キ修正ヲ加ヘタリ其他舊商法第五章中ノ編成方法ハ其各條項ノ規定ト對照スルトキハ頗ル區別判然セサル所アルヲ以テ此㸃ニ付テモ亦修正ヲ加ヘタリ要スルニ本案ニ於テ修正立案セシ大樣ヲ陳フレハ第一、船舶ノ全部、一部又ハ個々ヲ以テ運送契約ノ目的トセシ場合ニ關シテハ其區別ヲ明白ニシ第二、舊商法ハ陸上運送ノ規定ヲ海上運送ニ準用スヘキヤ否ヤニ付キ不分明ナルヲ以テ本案ハ其準用スヘキコトヲ後ノ法文ニ明示シ以テ其缺㸃ヲ補足シタリ第三、舊商法ハ共同海損ニ關シ特」ニ章ヲ設ケ本法ノ目錄ニ於テモ亦等トシク一章ヲ設クヘキコトヲ豫決セリト雖モ或ハ本章中ニ其規定ヲ設クルニ至ルヤモ知ル可カラサルコト是ナリ第四、舊商法第五章中各條項ニ關スル修正削除是ナリ其槪要ハ第八百八十七條ノ規定ハ之ヲ契約ノ主旨ニテ可ナル爲メ削除シ第八百九十五條ハ固ヨリ當然ノコト故削除第八百九十七條ハ本案ニ於テ他ノ規定ヨリ明白ナルヲ以テ此所ヨリ削除、第九百三條ハ船籍證書ニ讓ル爲メ之ヲ削除第九百四條規定ノ必要ナキ爲メ削除、第九百十條ハ海損ニ關スル規定ニ讓ル爲メ此所ヨリ削除、第九百十二條「然レトモ」以下ノ規定ハ之ヲ海損ノ規定ニ讓ル爲メ削除、第九百十七條ハ本案ニ於テ之ヲ綵用セサル爲メ削除等ナリ次ニ本節中ニ第一款ヲ設ケ總則ト題セシハ後ニ第二款船荷證劵ノ如キ規定ヲ設ケンカ爲メナリ而シテ又此第四百七十二條ハ船舶ノ全部又ハ一部ニ限リ之ヲ運送契約ノ目的ト爲セシ場合ニ關スル規定ナリ就テハ運途契約書ニ關シテハ昔時ヨリ外國ノ法律區々ト爲レリト雖モ本案ニ於テハ商事契約ノ一種ト見ルヘキモノハ方式ヲ要セサルノ主義ヲ採リタルヲ以テ此運送契約書ニ付テモ其主義ニ從ハシメンコトヲ欲シ之ヲ以テ契約成立ノ要件ト爲サスシテ當事者ヨリ其交付ノ請求ヲ爲スコトヲ得ヘキモノトシ而シテ其記載スヘキ事項ニ至テハ之ヲ慣習ニ讓リタリ之ヲ
要スルニ傭船契約ノ場合ニハ本案ヲ適用スヘク個々ノ運送品ヲ以テ運送契約ノ目的ト爲セシ場合ハ適用ヲ見サルモノナリト
右ハ原案ニ可決シ次條ニ移リタリ
第四百七十三條 船舶所有者ハ傭船者又ハ荷送人ニ對シ發航ノ當時船舶カ航海ニ堪フルコトヲ擔保ス
(參照)舊九〇八、佛二九七、蘭四七九、獨五五九、同舊五六〇、伊五七一、西六七六、羅五八一、葡五五七、白千八百七十九年八月二十一日法九五
本條ハ舊商法第九百八條ニ該當スルモノニシテ要スルニ其或部分ヲ採用シタルニ外ナラス法文ハ讀テ字ノ如キヲ以テ別ニ說明セスト本條ハ原案ニ可決シ次條ニ移シタリ
第四百七十四條 法令ニ違反シ又ハ契約ニ依ラスシテ運送品ヲ船積シタル者ハ船舶所有者其他ノ利害關係人ニ對シ之ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス
前項ノ運送品ハ船長ニ於テ何時ニテモ之ヲ陸揚シ若シ船舶又ハ積荷ニ危害ヲ及ホス虞アルトキハ之ヲ放棄スルコトヲ得但船長カ其運送ヲ繼續スルトキハ其船積ノ時及ヒ場所ニ於テ同種ノ運送品ニ付キ約シタル最高ノ運送賃ヲ請求スルコトヲ得
(參照)舊九〇七、佛二九二、蘭四七七、獨五六三、五六四、同舊五六四、五六五、伊五六六、西六八一、六八二、羅五七六、白千八百七十九年八月二十一日法八八
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ハ舊商法第九百七條ノ規定ト其精神ハ全ク同一ナリ唯聊力修正ヲ加ヘタルハ第一、本條ニハ「法令ニ違反シ」ノ文字ヲ加ヘタリ是戰時禁制品ヲ船積シタルカ如キ場合ニ適用セシメルカ爲メナリ第二、舊商法ニハ「船長ノ承認」トアルヲ本案ニハ「契約ニ依ラスシテ」ト改メタルハ固ヨリ船長ノ許可ヲ得サル場合ヲ包含セシムト雖モ其他ノ場合ヲモ包含セシメンカ爲メ其範圍ヲ擴張シタルニ外ナラス第三、ハ此場合ニ於テハ如何ナル者ニ對シテ責任ヲ負フヤヲ明白ニ指示シタルモノナリト加藤君ハ本條第二項ニ「約シタル最高ノ運送賃」トアレトモ若シ約シタルモノナキトキハ如何ト質シ岡野君ハ「約シタル」トハ「約シテアルヘキ」トノ意義如何ニ差支ナカルヘシト答ヘタリ然レトモ加藤君ハ尙ホ不完全ナリトテ右ノ數文字ヲ削除スヘキ說ヲ提出シタリシニ起草者ハ一應再考センコトヲ留保シ右ニ決シタリ
穗積陳重君ハ本條第一項ハ不必要ノ規定ナルヲ以テ寧ロ第二項ヲ改メテ第一項トシ而シテ第一項ハ但書トセハ可ナルヘシト主張シ岡野君ハ第一項ト第二項トハ固ヨリ主從ノ區別ヲ爲スヘキモノニアラス從テ第二項ヲ第一項トシ而シテ第一項ノ規定ヲ但書ト爲スノ必要アラサルヘシト雖モ兩ホ再考スルモ可ナリト答ヘ本條ハ右ノ外原案ニ可決シテ散會ヲ吿ケタリ
于時六時四十五分