第百七回商法委員會議事要錄
明治三十年十月四日午後三時二十五分開議
出席員
淸浦奎吾君
鶴原定吉君
土方寧君
阿部泰藏君
田部芳君
高木豐三君
橫田國臣君
富谷鉎太郞君
梅謙次郞君
河村讓三郞君
井上正一君
都筑馨六君
穗積陳重君
重岡薰五郞君
元田肇君
長谷川喬君
磯部四郞君
尾崎三良君
三浦安君
中村元嘉君
岡野敬次郞君
加藤正義君
內田嘉吉君
第二節 海員
第四百六十條 海員ハ其雇入ノ手續カ終ハリタルトキハ船長ノ指定シタル時ニ於テ船舶ニ乘込ムコトヲ要ス
海員ハ船長ノ許可ヲ得ルニ非サレハ服役中其乘込ミタル船舶ヲ去ルコトヲ得ス
(參照)舊八八四、蘭四〇〇、四〇一、獨千八百七十二年十二月二十七日法二八、三〇、那千八百九十三年七月二十日法七四、七五
田部君曰ク第二節ヲ海員ト改メシカ此名義ハ他日改ムルヤモ知レス舊商法第二節中八百七十五條ニ海員ノ雇入ニ付テノ規定アリ然レトモ孰レ特別法ニ於テ海員ノ雇入レニ關スルコトヲ揭クル故本案ニハ揭ケサルコトトセリ次ニ第八百七十六條一項ニ於テ海員雇入ノ條件ヲ定メシモ是契約ヲ以テ定ムルモノニシテ孰レニ依リ證明スルモ此等ハ特別法ヲ以テ定ムルカ故ニ此處ニ置カサルコトトセリ第二項ハ海員ノ職務ハ各場合ニ依リテ定マルカ故ニ報酬ノコトモ定メサルコトトセリ或ハ第八百八十一條ニ定メタル事項ハ別ニ規定ヲ設クルヤモ知レス又第八百八十五條ニ於テ船員ノ規定ハ船長ニモ適用ストアルモ本案ニ於テハ海員ノ規定ヲ適用スヘキ場合ヲ見出スヲ得ス故ニ八百八十五條ハ揭ケサルコトトセリ
次ニ本案四百六十條ニ定メタルコトハ別段說明ヲ要セサルトモ玆ニ少シク說明スヘキコトアリ卽チ船長カ指定ヲ爲シタルトキ海員カ乘込ヲ爲シタルモ若シ其指定ニ反シテ其船舶ヲ脫シタルトキハ其者ヲシテ再ヒ其船舶ニ積戾スノ規定ヲ要ス乍併是行政警察ノカヲ以テ爲スヘキコトニシテ行政上ノ特別規定ニ讓ルコトトシ以テ本案ニハ揭ケサルコトトセリ
磯部君曰ク本案ハ雙方ヲ契約ヲ以テ爲スヘキモノニシテ故ラニ商法ニ規定スヘキ必要ナシ故ニ本條削除ノ案ヲ提出スヘシト之ヲ採決セシニ少數ナリ
第四百六十一條 海員ノ服役中ノ食料ハ船舶所有者ノ負擔トス
(參照)蘭四〇三、獨千八百七十二年十二月二十七日法四三、六五、伊五四三、羅五五三、葡五三五、那千八百九十三年七月二十日法四五、八六
田部君曰ク本條ノ規定ハ舊商法中ニナシ實際上特別ノ契約ナキトキ本條ノ適用ヲ必要トスルモノナリ海員ニハ其種類種々アルモ給料ハ極メテ僅少ナルカ故ニ食料ノ如キ船舶所有者カ負擔スルヲ至當トス故ニ此事項ヲ明瞭ニスルノ必要アリ而シテ航海ヲ爲スニハ十分ノ食料アリヤ否ヤハ船長ノ調査ヲ要ス若シ此準備ヲ爲ササレハ制裁アリ外國ノ立法例ニハ食料上減スルコトヲ得ヘキ細密ナル規定アレトモ必要ナキモノト爲シ單ニ大體ノコトヲ規定セリ
第四百六十二條 海員カ服役中自己ノ過失ニ因ラスシテ疾病ニ罹リ又ハ傷痍ヲ受ケタルトキハ船舶所有者ハ三个月ヲ超エサル期間內ノ治療及ヒ看護ノ費用ヲ負擔ス
前項ノ場合ニ於テ海員ハ服役中ノ給料ヲ請求スルコトヲ得
(參照)舊八八二、佛二六二乃至二六四、蘭四二三乃至四二八、獨千八百七十二年十二月二十七日法四八乃至五〇、伊五三七、五三八、西六四四、羅五四七、五四八、葡五二九、五三〇、白千八百七十九年八月二十一日法五七乃至五九、英千八百九十四年八月二十五日法二〇七、那千八百九十三年七月二十日法九〇
訂正本條第二項ハ四百六十六條ト文字カ揃ハヌ爲メ「服役中」ノ下「ニ對スル期間」ノ六字ヲ加フ
田部君曰ク本條ハ舊商法八百八十ニ條ニ對スル修正ナリ而シテ本案四百六十ニ條ト八百八十ニ條トハ大體上變ラス唯八百八十ニ條ニ比スレハ本案ハ幾分力詳細ナル規定ヲ設ケタリ舊商法ノ前段ハ過失ニ因ラサル場合ハ但書ニ依ラサレハ知ルコトヲ得サルモ本案ハ之ヲ改メ海員カ服役中自己ノ過失ニ因ラスシテ疾病ニ罹リ云々トシ此過失ノ有無ヲ明瞭ニセリ
第二項ハ舊商法中疾病ニ罹リ又ハ傷痍ヲ受ケタル場合ニ給料ノ規定カ明瞭ナラサル故此關係ヲ明瞭ニセリ而シテ何日間ハ治療又ハ看護ヲ要スヘキカハ實際問題ニシテ不明ナルモ此等ノ㸃ハ海員ヲ厚ク待遇スルコトトシ船舶所有者ヲ薄ク爲スコトトセリ此他ノ關係ニ付テハ本法其他ノ行政上ノ規定ニ依リ補フコトトセリ他ナシ船員ニ付キ本條ノ規定以外ニ幾分力保護ヲ加フヘキコトハ立法上必要ナリト信スレハナリ
加藤君曰ク職務ヲ行フノ際疾病其他傷痍ヲ受ケシトキ保護ヲ加フルノ途少カルヘシ船舶所有者ハ爲シ得ラルル丈ケハ海員ニ保護ヲ與ヘサルヘカラス例ヘハ服役中感冒ヲ受ケシカ如キモ本案ノ適用アルカ如ク見ユヘシ此規定ノ儘ナレハ其他ノ者ヨリ給料ヲ與フルコトハ幾分力區別ヲ付ケ厚ク保護スル道ヲ設ケサルヘカラス余輩ハ此趣旨ヲ以テ本案ヲ修正セラレンコトヲ請フ要スルニ職務ヲ行フニ當リテハ特別ナル保護ヲ與ヘラレンコトヲ請フ
田部君曰ク加藤君ノ說ハ最モナルモ職務ヲ行フニ當リ傷痍ヲ被リシカ如キ場合ハ證明ヲ爲シ得ルコトハ困難ナラサルモ時トシテハ病氣ノ種類ニ依リ發生ノ原因ヲ區別スルコトハ困難ナリ斯カル不明ノ場合ハ本條中ニ規定スルコトヲ得ス以上加藤君ノ說ヲ採決セシニ多數ナリ依テ起草者ハ文字ノ㸃ニ付テハ再考スルコトニ決セリ
第四百六十三條 一航海ニ付キ給料ヲ定メタル場合ニ於テ航海カ延長シタルトキハ海員ハ其割合ニ應シテ給料ノ增加ヲ請求スルコトヲ得但航海カ短縮シタルトキト雖モ給料ノ全額ヲ請求スルコトヲ得
(參照)舊八七九、佛二五五、二五六、蘭四一五、伊五三二、五三三、羅五四二、五四三、葡五二六、白千八百七十九年八月二十一日法五一、五二、英千八百九十四年八月二十五日法一三三、那千八百九十三年七月二十日法九四
田部君曰ク本條ハ舊商法八百七十九條ニ對スル規定ナリ本案ハ八百七十九條ト其趣旨ヲ同一ニセリ航海ヲ延長シタル場合ハ增給ヲ請求スルコトヲ得ルカ故ニ之ト同時ニ航海ヲ短縮シタル場合モアルカ故ニ本案ハ此事項ヲ新タニ加フルコトトセリ
第四百六十四條 海員カ服役中死亡シタルトキハ船舶所有者ハ死亡ノ日マテノ給料ヲ支拂フコトヲ要ス
海員カ其職務ヲ行フニ當タリ死亡シタルトキハ其葬式ノ費用ハ船舶所有者ノ負擔トス
(參照)舊八八三、佛二六五、蘭四二九、四三一、獨千八百七十二年十二月二十七日法五一、伊五三九、西六四五、羅五四九、葡五三一、白千八百七十九年八月二十一日法六〇、那千八百九十三年七月二十日法九三
田部君曰ク本條ハ舊商法八百八十三條ニ當ル規定ナリ既ニ前條ニ規定セル如ク海員カ員傷スルトキハ之ヲ救助スルカ爲メ相當ノ方法ヲ設ケタリ之ト同時ニ死亡スルトキハ死亡マテノ給料ハ本案四百六十九條ノ關係ヨリ縱令死亡セル際服役セサルモ幾分ノ恩與ニ與カラシムルコトトセリ加之職務ヲ行フニ當リ死亡スルトキハ葬式ノ費用ヲモ員捆セシムルコトトセリ
第四百六十五條 左ノ場合ニ於テハ船長ハ海員ヲ雇止ムルコトヲ得
一 發航前海員カ其職務ニ不適任ナルコトヲ認メタルトキ
二 海員カ著シク其職務ヲ怠リタルトキ
三 海員カ禁錮以上ノ刑ニ處セラレタルトキ
四 海員カ自己ノ過失ニ因リテ疾病ニ罹リ又ハ傷痍ヲ受ケ其職務ニ堪ヘサルニ至リタルトキ
五 戰爭其他不可抗力ニ因リテ發航ヲ爲シ又ハ航海ヲ繼續スルコト能ハサルニ至リタルトキ
前項ノ場合ニ於テ海員ハ其雇止ノ日マテノ給料ヲ請求シ尙ホ第五號ノ場合ニ於テハ發航港マテノ送還ヲ請求スルコトヲ得
(參照)舊八七七、二項、十二年二月吿九號西洋形船海員雇入雇止規則六、佛二五三、二五四、蘭四一三、四一四、四三七、四四〇、獨千八百七十二年十二月二十七日法五七、五八、伊五三〇、五三一、西六三七、六四〇、六四一、羅五四〇、五四一、葡五二五、白千八百七十九年八月二十一日法四九、五〇、英千八百九十四年八月二十五日法一五八、一六〇、那千八百九十三年七月二十日法八九
田部君曰ク本條ハ舊商法八百七十七條ニ對スル修正ナリ舊商法八百七十七條第二項ハ禁令其他國ノ處分ニ因リ航海ヲ廢止シ停止シ又ハ短縮シタルハ雇止ノ十分ナル理由ト看做ストシ此他ニ雇止トナルヘキ場合ヲ示ササルカ故ニ舊商法中規定セル事項以外ニ其場合ヲ定ムルノ必要アリ是本案ニ於テ修正ヲ加ヘタル所以ナリ第一項ハ雇止ノ正當ニ爲シ得ル場合ト爲シ得サル場合トヲ分チ以テ保護スヘキ㸃ト保護セサル㸃トヲ區別セリ第二項ハ不可抗力ニ因ルモノヲシテ特別ノ保護ヲ加フル場合ニシテ發航港岬、テ送還セシムルコ上トセリ
加藤君曰ク本條ノ儘ニテハ實際上差支ヲ生スヘシ卽第四號ノ場合ニ自己ノ過失ニ因ラスシテ疾病ニ罹リ又ハ傷痍ヲ受ケ其職務ニ堪ヘサルニ至リタル場合ヲ設ケス然レトモ斯カル場合ハ非常ナル支障ヲ生スヘシ一人ニテモニ人ニテモ疾病其他傷痍ニ罹リシ者アルトキハ乘組員ノ組織ヲ爲スコトヲ得ス卽百人アルヘキ者ノ上ニ尙ホ又其人ヲ置クコトヲ得ス斯カル場合ニハ船長ヨリ雇止ヲ爲ササルヘカラス其故ニ第四號ニ於ケル雇止ノミニテハ非常ナル差支ヲ生スヘシ畢竟第二項ノ過失ニ因ラスシテ雇止ノ日云々ト第五號ノ場合トハ拜セテ再考アランコトヲ望ム且又第四號ノ自己ノ過失ニ因リテノ文字ヲ削除スルトノ案ヲ提出スヘシ
梅君曰ク加藤君ノ說ハ至當ナルヲ以テ同意ヲ表スヘシト述ヘ途ニ加藤君ノ說ニ可決シ文章ハ再考スルコトトナレリ
第四百六十六條 海員カ正當ナル理由ナクシテ雇止メラレタルトキハ服役シタル期間ニ對スル給料ノ外一个月分ノ給料ヲ請求スルコトヲ得若シ發航港外ニ於テ雇止メラレタルトキハ發航港マテ歸港スルニ必要ナル期間ニ對スル給料及ヒ發航港マテノ送還ヲ請求スルコトヲ得
(參照)舊八七七、八七八、十二年二月吿九號西洋形船海員雇入雇止規則五、佛二五二、二七〇、蘭四一一、四一二、四三八、四三九、獨千八百七十二年十二月二十七日法五九、伊五二九、五四二、西六三八、羅五三九、五五二、葡五二二、五二三、五三四、白千八百七十九年八月二十一日法四八、六二、那千八百九十三年七月二十日法九二
田部君曰ク本條ハ舊商法八百七十七條ニ對スル修正ナリ舊商法ノ規定ハ十分ナル理由ナクシテ雇止セラレタル海員ハ既ニ受取ルヘキニ至リタル給料ノ外尙ホ其雇止ノ爲メニ失ヒタル給料ノ牛額ヲ損害賠償トシテ受クル權利アリ然レトモ其一ケ月ノ給料ヲ超ユルコトヲ得ストセリ此規定上給料分配ノ方法ハ困難ナリト謂ハサルヲ得ス如何ナル場合ニテモ一ケ月分ノ外給料ヲ與ヘスト然レトモ一ケ月ト定ムルトキハ極メテ僅少ナルモノト云フヘシ本案ハ之ニ反シ孰レノ場合ニモ服役中ノ給料ノ外一ケ月ハ給與シ若シ發航港外ニ於テ雇止ラレタルトキハ發航港ヨリ歸港スルニ必要ナル期間ニ封スル給料ヲ受クルコトヲ得ヘキコトトセリ
午後六時五十分閉會