明治商法(明治32年)

法典調査会 商法委員会議事要録 第105回

参考原資料

備考

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第百五回商法委員會議事要錄
出席員
土方寧君
阿部泰藏君
田部芳君
高木豐三君
穗積八束君
富谷鉎太郞君
河村讓三郞君
井上正一君
都筑馨六君
梅謙次郞君
元田肇君
長谷川喬君
尾崎三良君
三浦安君
中村元嘉君
岡野敬次郞君
加藤正義君
內田嘉吉君
本案ノ議事ハ民法施行法第十三回ノ議事終了後繼續スルコトトセリ
第四百四十二條 船舶管理人ハ左ニ揭ケタル行爲ヲ除ク外船舶共有者ニ代ハリテ船舶ノ利用ニ關スル一切ノ裁判上又ハ裁判外ノ行爲ヲ爲ス權限ヲ有ス
一 船舶ヲ賣却シ、賃貸シ又ハ抵當ト爲スコト
二 船舶ヲ保險ニ付スルコト
三 新ニ航海ヲ爲スコト
四 船舶ノ大修繕ヲ爲スコト
五 借財ヲ爲スコト
船舶管理人ノ代理權ニ加ヘタル制限ハ之ヲ以テ善意ノ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
(參照)舊八三六、佛二三三、同千八百八十五年七月十日法三、二項、蘭三二七、三二八、一項、三三〇、三三一、三三三、三三五、獨四九三乃至四九六、同舊四六〇、乃至四六三、西五九五乃至五九八、葡四九四、白千八百七十九年八月二十一日法一〇
岡野君曰ク本條ハ舊商法ニナシ、船舶ニ付キ數人ノ共有者アリシトキハ必スシモ船舶管理人ヲ置クヘシトノコトヲ法律ハ命セサルモ其共有者ニ利害ノ關係ヲ及ホス場合ヲ除ク外數多ノ船舶管理人ヲ要セサルカ故ニ必ス之ニ代表機關トアルヘカラス而シテ其機ニ當ル者ハ船舶管理人ナラサルヘカラス要スルニ船舶ヲ處分スル權限ハ有セサレトモ之カ利用ニ關スルコトハ船舶管理人カ代表者トシテ爲スコトヲ得ヘシト規定セハ法律上大ニ便宜ヲ與フヘシ通常會社ニハ支配人ヲ置キテ通常生スヘキコトハ其支配人ノ獨斷一ニ任セハ商業上ノ取引ハ極メテ便宜ナリ是支配人ト均シク船舶管理人ノ規定ヲ設ケタル所以ナリ次ニ本條第一項ニ揭ケタル管理人ヲ制限スヘキ事項ハ五個アリ此五個ニ付テハ船舶共有者ニ大ニ利害ノ關係ヲ及ホスヲ以テ船舶管理人ニ權限ナキモノトセリ又船長ノ任免ニ付テハ外國ノ立法例ハ或ハ選定ノ權利ニ限リ其權限內ニナシト定メタルモノアリト雖モ本案ハ權限內ノ行爲トシテ其制限內ニ列擧セサルコトトセリ第一號中賃貸シト爲セシハ舊商法第八百八十七條乃至八百九十八條ノ規定ヲ以テ船舶ノ賃貸借契約トセリ然レトモ如何ナルモノカ之ニ該當スヘキカ舊商法中ノ規定ヲ見ルモ十分ニ知ルコトヲ得ス玆ニ船舶ノ賃貸トセシハ英國ノあふれーとまんニ當リ船舶ノ全部或ハ特定ノ一部ヲ限リ賃借人ノ荷ヲ積込ムノ契約ナリ此場合ハ船舶必艤裝、海員ノ雇入又ハ船舶管理人カ爲ス所ノ契約或ハ船舶ノ全部又ハ一部ノ總テノ賃借人ノ關係ニ付テハ之ヲ管理人ノ意見一ニ任シテ賃貸借契約ト稱セリ民法上ニ於テモ賃借人カ準備ノ爲メニスル行爲若クハ賃借ノ爲ニ爲ス所ノモノハ之ヲ純然タル賃貸借契約トセリ故ニ本案ハ運送契約ト賃貸借契約トハ全ク別個ノモノトセリ而シテ本案ノ豫決目錄ニ於テハ第五章運送ナル表題ヲ設ケ舊商法八百八十七條以下ニ於ケルカ如キ規定ヲ設クルノ豫想ナリト雖モ此場合ハ英國ノ運送契約ト稱スルモノト同趣旨ナルカ故ニ此場合ニ付キ船舶ノ全部若クハ「部ヲ荷主ニ供スル契約ト區別シ運送契約ハ管理人ノ權限一ニ任セシムルコトトセリ
加藤君曰ク本條第一項第一號ニ船舶ノ賣却トアリテ本文ニハ利用トアリ此等ハ賣却ト同一ニ混同シ易シト述ヘ起草者ハ賣却ナル文字ニ付キ再考スヘシトノコトヲ約セラレタリ
第四百四十三條 船舶管理人ハ特ニ帳簿ヲ備ヘ之ニ船舶ノ利用ニ關スル一切ノ事項ヲ記載スルコトヲ要ス
船舶管理人ハ每航海ノ終ニ於テ遲滯ナク其航海ニ關スル計算ノ報吿ヲ爲シテ各船舶共有者ノ承認ヲ求ムルコトヲ要ス
(參照)蘭三三七乃至三四〇、獨四九七乃至四九九、同舊四六四乃至四六六、西五九九、六〇〇、葡四九五
岡野君曰ク本條ハ船舶管理人カ前條ニ定メタル大ナル權原ヲ有シ其權原內ノ行爲ニ付キ其指揮ヲ待チテ爲ストノコトヲ規定セリ船舶管理人ノ行爲ハ數多アルモ前ニ揭ケタル五個ノ外何等ノコトヲモ爲スコトヲ得ヘキ廣キ權原ヲ有シ船舶共有者ニ對シ責任ヲ有スルコトトナルヘシ他ハ別段說明ヲ要セス
第二章 船員
第一節 船長
第四百四十四條 船長ハ其職務ヲ行フニ付キ注意ヲ怠ラサリシコトヲ證明スルニ非サレハ船舶所有者、荷送人其他ノ利害關係人ニ對シ損害賠償ノ責ヲ免ルルコトヲ得ス
船長ハ船舶所有者ノ指圖ニ從ヒタルトキト雖モ船舶所有者以外ノ者ニ對シテハ前項ニ定メタル責任ヲ免ルルコトヲ得ス
(參照)舊八六〇、八六一、佛二二一、二二二、蘭三四五、獨五一一、五一二、五一五、舊四七八、四七九、四八二、伊四九六、西六一八、六二〇、羅五〇六、葡四九六、白千八百七十九年八月二十一日法一二、二一、那千八百九十三年七月二十日法五九
田部君曰ク本章ハ表題ヲ船員トセシカ舊商法ハ船長及ヒ海員トセリ本章ハ既ニ第四百三十四條ニ於テ船長其他ノ船員トアリテ船長及ヒ海員ヲ併セテ船員ナル語ニ包含セシムルコトトセリ而シテ海員ナルモノハ船長ヲ除キタル他ノ者ヲ云フコトトセリ次ニ舊商法ノ規定ハ百六十五條ハ航海ノ用ニ供スル日誌ニ記載スヘキ事項ニシテ又八百六十七條ハ到達地ニテ報吿スヘキ規定ナリ又八百六十八條ハ避難港ニ入ル場合ノ規定ナリ第八百七十條ハ破船其他ノ船舶ヲ抛棄シタル場合ニ報吿スル規定ナリ以上ノ場合ハ私法中ニ關聯スルコトアルモ主トシテ監督ニ必要トスル規定ナリ然ラハ商法中ニ規定ヲ置カスシテ他ノ法令ニ規定スルヲ相當ナリト信シ協議ノ上他ノ規定ニ讓ルコトトセリ其他理由ハ異ルモ外國法中ニハ之ト同樣ノ規定アルモ玆ニ設クル必要ナシ縱令設クルノ必要アリト爲スモ賠償ノ問題ヲ以テ決スルコトヲ得ヘシ故ニ八百七十四條ハ全然削除スルコトトセリ
本案四百四十四條ハ舊商法八百六十條及ヒ八百六十一條トニ對スル修正ナリ而シテ八百六十條及ヒ八百六十一條トヲ對照スルニ其意義ヲ明瞭ニ解スルコトヲ得スろいすれる氏ノ說明ニ依レハ八百六十一條ハ特別ナル職務上ノ義務ト爲シタリト云フニアレトモ法律ニ義務トシテ揭ケ之ヲ區別スルハ奇異ナルモノト稱スヘキナリ而シテ本案ニ於ケル四百四十四條以下ハ船長ノ義務トアルモ是等ハ要スルニ義務ノ重要ナルモノニ過キスシテ其他ニ慣習上船長ノ爲スヘキ義務アリト雖モ行政上ノ規定ニ從ヒ其結果ヲ私法上ニ及ホスニ過キス而シテ以上ノ關係ヨリ船長ノ義務ヲ定メ以テ彼我ノ事項ヲ査定シ若シ其義務ヲ盡ササルトキハ船長ノ責任ノ有無ヲ區別シテ之ヲ定メ若シ其職務ヲ怠ルトキハ其責任ヲ負擔セシムルコトトセリ次ニ船長ノ責任ヲ負フヘキコトハ極メテ廣クシテ荷主ノミナラス其他ノ利害ノ關係ヲ有スルモノナレハ尙ホ以上ノ者ニ對シテ包括的ニ其義務ヲ負擔セサルヘカラス故ニ本案ハ船舶所有者、荷送人其他ノ利害關係ニ對シ損害賠償ノ責ヲ免カルルコトヲ得ストセリ第二項ハ第一項{ノ結果ト稱スルモ可ナリ船長ハ場合ニ依リ船舶所有者ヨリ指圖ヲ受クルモ船長ハ前項ノ義務ハ盡スヘキ者ニシテ決シテ其指圖ニ盲從スヘキモノニ非ス自己ノ適當ト思惟セルコトヲ爲サハ船舶所有者ノ責任ハ負ハサルヲ以テ第二項ノ規定ヲ設ケタリ
內田君曰ク海員雇入規則ニ於テハ這 サ、ヘ茫 ル 印船舶乘細ナルモノヲモ含ムカ故ニ海員ナル文字ハ船長其他ノ者ヲモ包含セシメン爲メ船長及ヒ海員ニ對シ船員ナル文字ヲ海員ト改ムルノ修正案ヲ提出スヘシト述ヘシモ起草者ト協議ノ上右ノ用語ハ定ムヘキコトトセリ
第四百四十五條 海員カ其職務ヲ行フニ付キ他人ニ損害ヲ加ヘタル場合ニ於テ船長ハ監督ヲ怠ラサリシコトヲ證明スルニ非サレハ損害賠償ノ責ヲ免ルルコトヲ得ス
(參照)西六一八、四號、那千八百九十三年七月二十日法五九
岡野君曰ク本案ハ海員ノ職務ヲ行フニ付キテノ規定ナリ此場合ニハ問題モ起リシコトアリシヲ以テ此規定ヲ設クルヲ相當ナリト信シ本條ヲ定メタリ
第四百四十六條 船長カ已ムコトヲ得サル事由ニ因リテ自ラ船舶ヲ指揮スルコト能ハサルトキハ他人ヲ選任シテ自己ノ職務ヲ行ハシムルコトヲ得此場合ニ於テハ船長ハ其選任ニ付キ船舶所有者ニ對シテ其責ニ任ス
(參照)蘭三五六、獨五一六、舊四八三、西六一五、那千八百九十三年七月二十日法三〇
田部君曰ク本條モ亦舊商法ニナシ而シテ船長ヲ選任スル者ハ何人カ爲スヘキモノナリヤ此場合ニ船舶所有者ノ爲スヘキモノニシテ若シ所有者カ選任シ得サル場合ニ於テハ選任ヲ爲スヘキ權限ヲ設クルノ必要アリ而シテ船長カ代理人トシテ之ヲ選任スル場合ニ於テハ幾何ノ責任ヲ負フヘキカ此場合ニハ選任ノ方法幷ニ管督ノ人ヲモ要シ其選定ヲ職務トシテ行フヘキ場合モアリ徇ホ又監督ノ責任モアルカ故ニ選任ニ付キ責任ヲ定ムルコトトセリ
第四百四十七條 船長ハ發航前船舶ノ航海ニ支障ナキヤ否ヤ其他航海ニ必要ナル準備ノ整頓セルヤ否ヤヲ監視スルコトヲ要ス
(參照)舊八六二、佛二二五、獨五一三、五一四、舊四八〇、四八一、伊五〇二、羅五一二、葡五〇五、五〇八、白千八百七十九年八月二十一日法一六、那千八百九十三年七月二十日法二六
田部君曰ク本條ハ舊商法八百六十ニ條ニ當ル規定ナリ唯體裁ヲ包括的ニ改メタルニ過キス而シテ船長カ航海ヲ爲スニハ支障ナキヤ否ヤ若シアリトセハ之ニ修繕ヲ加ヘ次ノ航海ニ船舶ノ堪ユルヤ否ヤニ注意シ且荷物ノ積立ノ方法カ適當ナリヤ船ノ安全ヲ妨クルヤ否ヤ十分ニ調査ヲ盡シ以テ其監視ノ責ヲ盡ササルトキハ責任アルコトトセリ舊商法八百六十ニ條ハ包括的ニ爲ササリシカ故ニ之ヲ改メタルニ過キス