明治商法(明治32年)

法典調査会 商法委員会議事要録 第102回

参考原資料

備考

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第百二回商法委員會議事要錄
出席員
淸浦奎吾君
土方寧君
阿部泰藏君
田部芳君
高木豐三君
穗積八束君
橫田國臣君
富谷鉎太郞君
河村讓三郞君
奧田義人君
井上正一君
都筑馨六君
穗積陳重君
梅謙次郞君
長谷川喬君
南部甕男君
金子堅太郞君
磯部四郞君
尾崎三良君
三浦安君
中村元嘉君
岡野敬次郞君
加藤正義君
第五編 海商
第一章 船舶及ヒ船舶所有者
岡野君曰ク海商ニ付キ第五編ト題スルコトハ豫決問題ニテ決定セリ而シテ第一章ヲ船舶及ヒ船舶所有者トセシハ玆ニ少シク說明ヲ要スヘシ舊商法ハ海商中第一章船舶第二章船舶所有者トシ其ニ章ヲニ節ニ分チ第一節船舶所有權ノ取得及ヒ移轉第二節船舶所有者ノ權利義務トセリ而シテ本案ノ編纂目錄モ亦第一章船舶第二章船舶所有者トセリ然レトモ本案ハ之ヲ改メ第一章船舶及ヒ船舶所有者ト規定セリ他ナシ船舶ニ關スル事項ハ極メテ僅少ニシテ之ヲ船舶及ヒ船舶所有者ト改ムルモ差支ヲ生セサルヘシ舊商法ハ船舶ニ關スル規定ヲ第八百二十四條ヨリ八百三十三條中ニ揭ケタレトモ本案ハ改メテ三ケ條トセリ是船舶ノ規定ニシテ純然タル私法ニ屬スルモノト私法ニ屬セサルモノトノ區別センカ爲メナリ且又海商ニ關スル規定ニ付テハ遞信省ニ於テモ重キヲ措キタルカ爲メ既ニ海商法ノ議事ニ付セラレシトキ內田君ヨリ本會ニ出張セラレ討議セラレタリ加之本案ノ議事ニ付テハ內田君ヨリ注意アリテ私法ニ屬セサル部分ハ商法ヨリ除キ特別法ニ爲サントノ希望モアリ途ニ遞信省トモ協議ノ上途ニ舊商法中船舶ト題セル規定中第八百二十四條八百ニ十五條ノ一部八百ニ十七條八百ニ十八條八百ニ十九條ニ項八百三十條以下八百三十三條マテハ商法ニ揭ケサルコトトセリ而シテ遞信省ニ十號施行總則海上ノ部ト密接ノ關係アルカ故ニ此部類ニ關スル規定ハ一時見合セタリ
以上列擧セシ規定ハ行政法ニ屬シ若クハ手續ニ屬スルカ故ニ要スルニ商法ニハ揭ケサルコトトセシ從來ノ商法編纂ノ趣旨ハ公法ニ屬スルモノハ私法ニ揭ケス又施行ニ關スルコトハ手續法ニ讓リ又ハ百ニ十四條以下モ是亦手續法ニ讓ルコトトセリ勿論商法ニ揭ケサル規定ニシテ非常ニ重キヲ措クモノアリ必シモ重要硯セストノ趣旨ニハアラス
穗積八束君曰ク文字上ノコトナルモ船舶所有者ナル名稱ハ當然ノ用語ナルモ强チ船舶所有者ト立派ニセサルモ實質ヲ顯ハス爲メ船主ト改ムルノ修正案ヲ提出スヘシ
岡野君曰ク穗積八束君ノ說ハ至當ナルモ若シ船主ナル文字カ適切ナリト爲スト雖モ本案ハ船舶ノ共有ヲモ認ムルノ必要アルカ故ニ聊力穩當ヲ缺クニ至ラント以上穗積八束君ノ說ヲ採決セシニ少數ナリ
第四百二十八條 本法ニ於テ船舶トハ營利ノ目的ヲ以テ航海ノ用ニ供スルモノヲ謂フ
本編ノ規定ハ端舟其他櫓櫂ノミヲ以テ運轉シ又ハ主トシテ櫓櫂ヲ以テ運轉スル舟ニハ之ヲ適用セス
(參照)舊八二五、二項、二十三年十一月八日遞信省二〇號船籍規則施行細則四、民訴七一七、二項、佛千八百六十六年令一五一、獨四七四、四八四、同舊四三二、四五〇、同千八百六十七年十月二十五日法一、同千八百七十三年六月二十八日法一、同千八百七十三年十一月三日法一、西五七三、一項、英千八百九十四年八月二十五日法三
町野君曰ク本條第一項ハ第五編ト題スル海商ニ關スル規定ハ如何ナル船舶ニ適用スヘキ歟ヲ定メタリ舊商法第八百二十四條ニ於テハ日本船舶トハ如何ナル物ナリ哉トノコトヲ主トシテ定メタリ日本船舶中海商ノ規定ニ從フヘキモノハ必シモ商船ノミナラス其他海商ノ船舶トシテ廣キ適用ヲ有スルコトトナレリ然ルニ本案ハ之ヲ改メ商船ニ限ルモノトセリ卽營利ノ目的ヲ以テ航海ノ用ニ供スル船舶トセリ例ヘハ軍艦漁獵船舶水先案內船其他學問上ノ目的ノ爲メニ備フル船舶ハ玆ニ謂フ所ノ船舶ニアラサルコトトセリ何トナレハ商行爲中ニテ海中ニテ魚貝ヲ採取シ又ハ畑ニテ果實ヲ得ルカ如キハ商行爲ニ入ラサルヲ以テ本案ノ船舶中ニモ入ラサルハ當然ナリト知ルヘシ或ハ斯カル船舶ヲ以テ必要ナリトスルヤ否ヤハ之ニ關係セサルヘシ第二項ハ舊商法八百ニ十五條ニ項ト同一ナリ此事項ハ商法ニ規定アルノミナラス民事訴訟法七百十ニ條ニ項ニモ船舶ニ對スル强制執行ニハ適用セストアリ又船籍規則施行細則四條第二項ニモ此等ノ條項ハ規定ナキカ故ニ第二項ヲ設ケタリ
穗積八束君曰ク余ハ營利ナル文字ノ適用ハ極メテ廣ク設ケラレンコトヲ望ム例ヘハ海商ノ船舶ノ規定ハ漁獵ヲ爲ス船舶ニハ本案ノ儘ナレハ適用ナキモ寧ロ之カ範圍ヲ擴張シ適用セラレンコトヲ望ム要スルニ商行爲ヲ爲スノ目的ヲ以テ航海ノ用ニ供スル云々ト改メラレンコトヲ望ム
岡野君曰ク右ノ如キ修正案ハ爰當ヲ缺クノ虞アリ獨逸商法ニ於テハ獵船ヲ以テ海商ノ規定ニ從ハシムルコトトセリ然レトモ商行爲ヲ目的トセル航海ノ用ニ供スル船舶ノ外本法ニ所謂船舶ナリト謂フヲ得ス要スルニ漁獵ノ用ニ使スル船舶ノ如キハ海商ノ規定中ニ設ケルハ理論ヲ貫徹セサルモノト謂フヘシ是余輩ノ獨逸主義ニ從ハサル所以ナリ
橫田君曰ク此場合ハ一般ノ船舶ニ適用スルコトニ其主義ヲ改メラレンコトヲ望ム
梅君曰ク若シ航海ノ文字ヲ削リ國內水上ニ於ケルモ亦然リト爲サンカ運送營業ト衝突スルニ至ルヘシ加之其船舶ヲ保險ニ付スル場合ニハ運送營業ノ規定ニ依ルカ海商ノ規定ニ依ルカ殆ント其區別ナキニ至ラント述ヘ引續キ議論紛出セシ爲メ議長(淸浦君)ハ本條ヲ假議決ト爲スコトヲ宣吿シ再議ニ付シ得ヘキモノトセリ
第四百二十九條 船舶ノ屬具目錄ニ記載シタル物ハ其從物ト推定ス
(參照)舊八三八、民八七、佛三一五、三三四、同千八百八十五年七月十日法四、蘭五九三、獨四七八、同舊四四三、伊四八〇、二項、西五七六、羅四九〇、二項、葡四八五
岡野君曰ク本條ハ舊商法八百三十八條ニ當ル規定ナリ舊商法ハ船舶ノ所有權ハ云々ノモノヲ包含ストノ狹キ意義ニ爲サス乍併船ノ所有者ハ之ヲ讓渡シタルトキハ云々トノ所有權カ移轉スト云ヘルカ如キ狹義ノ規定ヲ設ケス何トナレハ若シ此場合ニ船舶ヲ抵當ニ入レ或ハ之ヲ保險ニ付スルカ如キ第八百三十八條ノ適用ナキトキハ大ニ不都合ヲ感スヘシ其故ニ本案ハ第四百二十九條ノ規定ヲ廣義ノ規定ヲ設クルコトトセリ乍併單ニ四百ニ十九條ノ規定ノミヲ以テ船舶ノ從物ト認ムヘカラス本案ノ規定及ヒ民法八十七條ノ規定ト相俟チテ其效用ヲ爲スコトヲ記憶セサルヘカラス外國ノ立法例ハ區々ニシテ從物ヲ列擧セルアリ又何等ノ規定ヲモ設ケサルアリ然ルニ本案ハ獨逸ノ新商法主義ニ倣フコトトセリ獨逸ノ舊商法ハ船舶ハ常用ニ供スル船ニ附着セシメシ物ハ船舶ノ一部ト認メタリ例ヘハ端舟ノ如キハ船舶ノ一部トセリ然リ而シテ獨逸民法ハ我民法八十一條ト同一ノ規定ヲ實施セラレタルカ故ニ其商法ハ之ト類似ノモノヲ以テ從物トセリ而シテ舊商法第八百三十八條ニ於ケル附屬物ハ民法上當然從物トナルニ至ルヘシ以上ノ理由ヲ以テ本案ニ修正ヲ加ヘタリ
磯部君曰ク屬具目錄ニ記載シタル物ハ其從物ナリト云フトキハ漠然ト船舶ヲ賣却セシトキハ如何ナル物ヲ包含ストノ推定ヲ來スカ故ニ必要ナリト稱スレトモ屬具目錄ニ記載シタルモノハ當然從物ニシテ故ラニ本案ノ適用ヲ俟タサルヘシ故ニ余輩ハ本條ヲ削除スルトノ案ヲ提出スヘシト
梅君曰ク本條ハ民法ニ對スル例外ナルヲ以テ存スルノ必要アリト述ヘ磯部君ノ削除說ヲ採決セシニ少數ナリ
第四百三十條 船舶所有者ハ船籍港ヲ管轄スル船舶登記所ニ於テ左ノ事項ヲ登記シ且登記證書ヲ請受クルコトヲ要ス
一 船舶ノ名稱及ヒ種類
二 船籍港
三 船舶ノ積量
四 船舶製造ノ場所及ヒ年月日
五 外國ノ船舶カ日本ノ船舶ト爲リタルトキハ其原因及ヒ其製造ノ場所竝ニ年月日ノ知レタルトキハ其場所竝ニ年月日
六 船舶所有者ノ國籍、氏名又ハ商號及ヒ營業所又ハ住所
七 船舶取得ノ原因及ヒ船舶カ數人ノ共有ニ屬スルトキハ其各自ノ持分
前項ノ規定ハ積量十五噸未滿ノ船舶ニハ之ヲ適用セス
(參照)舊八二五、一項、八二六、十九年八月十一日法一號登記法、二十三年十月二十九日司法省八號、二十三年十月八日勅二一九號船籍規則、二十三年十一月八日遞信省二〇號船籍規則施行細則、佛千八百六十六年令一四一乃至一五一、同千八百八十五年七月十日法、獨千八百六十七年十月二十五日法、同千八百七十三年六月二十八日法西二二、葡五二、四八六、白千八百七十三年一月二十日法、英千八百九十四年八月二十五日法一乃至九一
岡野君曰ク本條ハ舊商法八百ニ十五條一項及ヒ八百ニ十六條トヲ拜セタル規定ナリ舊商法ハ船舶登記簿ニハ左ノ諸件ヲ登記シ且年月日ヲ記スヘシトアリ然レトモ此規定ハ船舶登記簿ニハ云々ノ事項ヲ規定セサルヘカラストノ純然タル私法上ノ規定ニアラス又船舶登記簿云々ト爲ストキハ海商ノ部ニ其規定ヲ要セサルコトトナルヘシ然レトモ船舶登記簿ノ規定ヲ除ク外本條ノ規定ナカランカ船舶ノ登記ハ如何ニ爲スヘキ歟船籍ハ如何ニ爲スヘキ歟船籍ニ付キ主トシテ重キヲ置ク所ノ船舶ノ讓渡ハ如何ニ爲スヘキカ實ニ船舶ノ所有權ハ不確定タルニ至ラン畢竟此等ノ私法上ノ關係ハ主トシテ四百三十條ニ依リテ保障セラルヘキナリ次ニ如何ナル場所ニ於テ登記スヘキ歟此㸃ニ付キ遞信省ニ照會セシニ舊商法ニ於ケル船籍港ト船籍港ヲ管轄スル管廳ト相竝ヒテ存スルハ稀ニシテ單ニ九州ニ一ケ所アルニ過キス故ニ船籍港トスルトキハ皆長崎ニ行カサルヲ得ス以上斯カル場合ハ主務省ニ於テ成ルヘク出張所ヲ設ケ便宜ヲ計ルトノコトナリ要スルニ登記ニ關スル細密ナル規定ハ遞信省ノ定ムル所ノ特別法ニ依リ船籍港ヲ管轄スルコトトナルヘシ次ニ舊商法ハ船籍證書ト船舶登記簿トノニ種ヲ要ストセリ此船籍證書ハ登記セサル前ニ國籍ヲ定ムルカ爲メニ要スルモノニシテ遞信省ト協議ノ上ニ重ノ規定ヲ設クルハ穩當ナラストノ趣旨ヨリ其規定ヲ特別法ニ讓ルコトトセリ玆ニ一言スヘキハ船籍證書ニ記載スヘキ事項ハ登記簿ニ記載スヘキ事項ヨリモ多シ師猶ホ此外ニ船籍證書ニ記載スヘキ事項ハ船ノ噸數ヲ詳細ニ記載セサルヘカラス而シテ船籍證書ニ記載スヘキ事項ハ船籍規則第四條第一項ヨリ第十三項マテニ詳細ノ規定アリ然レトモ斯カル規定ハ船舶登記證書三記入セサルコトトセリ余ノ考ヲ以テセハ船舶ノ航海スヘキ用ニ供スルモノハ之カ測度ヲ定メサルヘカラス測度證書ニ記載スヘキ事項ト船舶登記證書トハ相俟チテ其效用ヲ爲スニ至ルヘシ尙ホ舊商法八百ニ十六條ト本案四百三十條トヲ比較スルニ大體上同一ナルモ舊法ハ年月日ヲ記スヘシトアルモ此等ハ登記スヘキ行政上ノ事項ニ讓ルコトトセリ又船舶登記簿ニ記載スヘキ事項中船長ノ氏名及ヒ國籍ハ規定セサルコトトセリ他ナシ是外國ニ於ケル海商ノ沿革ヨリ生セシモノニシテ例ヘハ何國ノ船舶ニ付テハ其國ニテ作成セシモノアラサルヘカラス故ニ舟主タルヘキ者ハ其國ノ臣民ナラサルヘカラスト云フカ如キ或ハ船員ハ其國ノ人民タルヲ要ス若クハ船員ノ幾部分ノ一ハ其國ノ臣民タラサルヘカラスト斯カル事項ヲ設クルモノアレトモ現今ハ主トシテ所有者ノ籍ヲ以テ定ムルヲ以テ主タル目的トセルカ故ニ船長ノ氏名國籍ハ揭ケサルコトトセリ
長谷川君曰ク特別法ノ定ムル所ニ從ヒトノ事項ヲ加フルコトトシテハ如何
岡野君曰ク重大ノ事項ノ缺クルコトアルトキハ不都合アルヲ以テ特別法云々ノ文字ヲ補フハ贊成ナリ是私法上重大ノ關係アルヲ以テナリト述ヘシモ尙ホ此規定ニ付キ次條ノ規定ヲ討議セサレハ決定シ難シトノ偏趣旨ヲ以テ次回ニ讓ルコトトセリ