明治商法(明治32年)

法典調査会 商法委員会議事要録 第98回

参考原資料

備考

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第九十八回商法委員會議事要錄
出席員
淸浦奎吾君
鶴原定吉君
土方寧君
田部芳君
穗積八束君
富谷鉎太郞君
河村讓三郞君
井上正一君
穗積陳重君
梅謙次郞君
重岡薰五郞君
南部甕男君
尾崎三良君
中村元嘉君
岡野敬次郞君
商修正原案
第三百二十八條ノ次ニ左ノ一條ヲ加フ
第三百二十八條甲 火災保險證券ニハ第三百十九條第二項ニ揭ケタル事項ノ外左ノ事項ヲ記載スルコトヲ要ス
一 保險ニ付シタル建物ノ所在地、構造及ヒ用方
二 動產ヲ保險ニ付シタルトキハ之ヲ貯藏セル建物ノ所在地、構造及ヒ用方
(參照)蘭二八七、葡四四二、亞五二九
田部君ノ說明ニ曰ク曾テ火災保險ニ關スル條項ヲ起草スルニ當リテ此保險證劵ナルモノハ之ヲ營業規則ニ讓リテ可ナリト信シタリキ然ルニ其後生命保險ニ關スル條項ヲ起草スルニ當リ右ノ保險證劵ハ本法中ニ規定スヘキ必要ヲ覺知シ既ニ生命保險ニハ之ヲ設ケタリ然ラハ則チ權衡上此火災保險ニモ必要ナルヤ言ヲ俟タサルヘシト信ス次ニ本條第一號及ヒ第二號ノ規定ハ法律上必要事項ヲ列記セシモノニ外ナラス尤モ此事項ノ外ニ營業上必要ナル事項ヲ定ムルコトハ敢テ之ヲ禁止スルノ精神ニアラスト
右ハ修正原案ニ可決シ次ニ移リタリ
第三百三十條ノ次ニ左ノ一條ヲ加フ
第三百三十條甲 運送保險證券ニハ第三百十九條第二項ニ揭ケタル事項ノ外左ノ事項ヲ記載スルコトヲ要ス
一 運送ノ道筋及ヒ方法
二 運送人ノ氏名
三 運送人カ運送品ヲ受取リタル場所及ヒ其引渡ヲ爲スヘキ場所
四 運送期間ノ定アルトキハ其期間
五 航行中寄港スヘキトキハ其場所
(參照)舊六七六、蘭六八六、西四三三、葡四五一、亞一二五一
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ既ニ述ヘタル理由ニ基キ之ヲ設ケタルモノナリ現行法ハ其第六百七十六條ニ於テ運送保險證劵ニ關スル規定ヲ設ケタリシヲ以テ本條ハ右ノ規定ニ修正ヲ加ヘタルニ外ナラス先ツ第一ニ第一號中ニ「通節」ナル文字ヲ加ヘタルハ其如何ニ因リテ危險ノ程度ヲ異ニスレハナリ現行法ニハ「運送具ノ種類」ナル文字アリト雖モ本條第一號ノ「方法」中ニ包含スヘキモノト信シ本案ニハ之ヲ削除シタリ又現行法ニハ「運送人反テ運送取扱人ノ氏名」ト之アレ共本案ニ於テハ右ニ者ノ間ニ責任ノ程度ヲ區別セシヲ以テ運送取扱人ハ玆ニ記載スルノ必要ナキヨリ第二號中ニ之ヲ揭ケサルモノトセリ而テ本條第三號ノ規定ハ第三百三十條ノ規定ヨリ自ラ然ラサル可ラサルヲ以テ現行法カ改メタイ第四號ト第五號トニ至テハ別ニ說明ノ必要非サルヘシト
富谷君ハ此運送保險證劵ハ海上保險ニモ適用スルカ若シ然リトスレハ稍規定ヲ改ムヘキ必要アルヘシト質シ田部君ハ然ラス瀨戶內ハ問題ナリト雖モ海上ニハ適用セサル考ニテ海商法ハ殆ト眼中ニ置カスシテ規定シタリト答ヘ富谷君ハ然ラハ第五號ノ「港」ナル文字ハ穩當ナラサルヲ以テ之ヲ改ムヘシト注意シ田部君ハ湖水又ハ東京灣ノ如キハ港ナル稱呼ナキニシモ非サレハ强テ改ムルノ必要ナカルヘシト抗辯シタリ
穗積陳重君ハ現行法ニ所謂「立寄地」ナル文字ヲ本條中ニ記載スヘシト主張シ田部言ハ湖川港ニ關シテハ右ノ必要ナカルヘシト反駁セラレタリ
穗積陳重君ハ本條第五號削除ヲ主張シテ曰ク本條ノ規定ハ固ヨリ海商法ニハ適用セサルトノコトナリ然レハ第二號ヲ以テ充分ナリト考フル故第五號ハ之ヲ削除スヘシト
田部君辯シテ曰ク此第五號ノ規定ハ外國ニ於テモ多數ノ認ムルトコロニシテ實際必要ナキニシモアラサル可ケレト削除ニハ反對ナリト然レトモ右ノ削除說ニハ贊成者アリテ採決スルニ至リタリ而シテ其結果消滅ニ歸シ修正原案ニ可決シ次ニ移リタリ
第三百三十八條ヲ左ノ如ク改ム
爲替手形ニ署名シタル者ハ其手形ノ文言ニ從ヒテ責任ヲ負フ
岡野君ノ說明ニ曰ク曾テ第三百三十八條ヲ議スルニ當リ同條中ニ「連帶」ナル文字アルニ付キ種々ノ批難アリテ再考ヲ約セシヲ以テ玆ニ此修正案ヲ提出シタル所以ナリ蓋シ當時ノ批難タルヤ所謂連帶ナル文字ハ民法ノ連帶ノ同文字ナリト雖モ其意義ニ至テハ異ナル爲メ誤解ヲ來ス嫌アリトノコトナリキ右ニ付キ其後熟考シタル上ニテ卽チ本修正案ノ如ク「其手形ノ文言ニ從ヒキ」云々ト改メタリ是固ヨリ漠然タル文字ナルヲ以テ或ハ批難ヲ受クヘキカノ恐ナキニアラスト雖モ後ニ規定シタル各條項ニ因リ其精神ノ存スル所ヲ知ルコト難キニアラサレハ之ヲ以テ可決セラレタリト
土方君ハ本條ノ規定ヲ批難シテ曰ク起草者ハ「其手形ノ文言ニ從ヒテ責任ヲ負フ」ト云ヘル如キ漠然タル規定ヲ設ケ而シテ實際振出人、引受人、裏書人等責任ノ異ナル所ノ後ノ各條項ニテ自ラ明カナリト云フト雖モ若シ然リトスレハ本條ハ殆ト空文ニ屬スルヲ以テ寧ロ之ヲ削除スル方可ナルヘシト
梅君辯シテ曰ク若シ土方君ノ所見ニ從ヒ本條ヲ委シク規定センカ後ノ條項ト矛看スルヲ如何セン本條ハ止ムヲ得ス汎博ニ規定シ單ニ手形上ノ責任ハ手形上ノ文言ニ從テ之ヲ負フヘキコトヲ明示シタルニ外ナラス故ニ以テ假リニ文章修正スルニ至ルトモ其主意ニ至ツテハ之ヲ存セラレタシト
本條ハ以上ノ外質問及ヒ之ニ對スル答辯アリタレトモ要スルニ修正案ニ可決シ次ニ移リタリ
第三百三十八條ノ次ニ左ノ一條ヲ加フ
第三百三十八條甲 代理人カ本人ノ爲メニスルコトヲ記載セスシテ爲替手形ニ署名シタルトキハ本人ハ手形上ノ責任ヲ負フコトナシ
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ハ現行商法第七百三條ノ後半ニ該當スルモノナリ既ニ本案ニ於テ採用シタル第二百五十五條ナル代理ノ總則ニ關ス規定ニ因レハ「商行爲ノ代理人力本人ノ爲メニスルコトヲ示ササルトキト雖モ其行爲ハ本人ニ對シテ其效力ヲ生ス」云々トアルヲ以テ若シ手形ニ關シ何等ノ規定ヲモ設ケサルトキハ右ノ規定ニ據リ本人ハ代理人ノ行爲ニ付キ責任ヲ負フヘシト雖モ凡ソ手形ハ其手形ノ文言ニ從ヒ責任ヲ負フヘキモノナルヲ以テ代理人ノ場合ニ於テモ假令眞實代理權ハ之レアリトスルモ之ヲ爲替手形ニ記載セサルトキハ自己カ署名者トシテ責任ヲ負フヘキコトハ亦止ムヲ得サルモノナリ是レ本條ヲ設ケタル所以ナリト
右ハ修正原案ニ可決シ次ニ移リタリ
第三百三十九條ヲ左ノ如ク改ム
僞造又ハ變造シタル爲替手形ト雖モ手形トシテ其效力ヲ有ス但僞造者又ハ變造者及ヒ惡意又ハ重大ナル過失ニ因リテ其手形ヲ取得シタル者ハ手形上ノ權利ヲ有セス
無能力者カ爲替手形ニ因リテ生シタル債務ヲ取消シタルトキト雖モ他ノ手形上ノ權利義務ニ影響ヲ及ホサス
梅君ノ說明ニ曰ク此第三百三十九條ハ曾テ議事ノ際批難ヲ受ケ再考ヲ約シタリシヲ以テ玆ニ本修正案ヲ提出シタリ其批難ノ㸃ハ舊原案ニハ署名ノ效力云云トアリシカ單ニ署名ノトノミアリテハ僞造變造以外ノ場合ニ於テ不分明ノ嫌アリトノ理由ト又一ツハ舊原案ニ於テハ惡意又ハ重大ナル過失ニ因リテ其手形ヲ取得シタル者ノ責任如何ニ付キ不分明ナリトノ理由ナリキ故ヲ以テ以上ノ理由ヲ法文ニ明示スル爲メ本案ノ如ク起草シタリ次ニ第二項ハ其大體ハ現行法ト同一ニシテ要スルニ疑義ヲ避ケンカ爲メニ外ナラスト
土方君ハ本條第一項但書以下ヲ本文トシ而シテ其本文ノ但書トセハ可ナラント主張シ梅君ノ否寧ロ普通ニ相反スル事項ヲ先キニ規定スル原案ノ主張優レリト答辯セラレ逐ニ修正原案ニ可決シテ次ニ移リタリ
第三百四十條ノ次ニ左ノ四條ヲ加フ
第三百四十條甲 本章ニ規定ナキ事項ハ之ヲ爲替手形ニ記載スルモ手形上ノ效力ヲ生セス
爲替手形ニ記載シタル事項ヲ抹消シタルトキハ其事項ハ之ヲ記載セサリシモノト看做ス
岡野君ノ說明ニ曰ク本條第一項ハ讀ンテ字ノ如キヲ以テ別ニ說明スルノ必要ナカルヘシ槪言スレハ手形上三記載スヘキ事項ハ總テ列擧シタリシヲ以テ本項ノ如ク規定スルトモ不可ナルコトナカルヘシ先ツ本案ニ認メシ手形上ノ效力ヲ生スヘキ事項ハ第一、裏書禁止ノ文言第二、豫備支拂人ノ記載第三、他所拂手形第四、支拂ヲ爲スヘキ場所第五、拒絕證書ノ作成第六、裏書人カ裏書ヲ爲スニ當リ自己カ裏書ヲ爲スモ擔保ノ責任ナキコトヲ記載スルコト第七、停止ノコト是ナリ是等ノ各事項ハ本章ノ各條項中ニ揭ケタリ殊ニ以上ノ外ト雖モ尙ホ各條項ヨリ自ラ分明ナルヘキヲ以テ脫漏ノ恐ナカルヘシ次ニ第二項ハ最モ廣ク各場合ニ關シテ規定シタルモノニシテ此規定ノ適用上ヨリ言ヘハ例ヘハ裏書人カ裏書ヲ爲スニ當リ爾後手形上ノ責任ヲ負ハサル爲メ裏書ヲ禁スル旨ヲ附記セシニ當リ其附記ヲ抹消スルトカ又或ハ振出人カ手形ヲ振出スニ當リ手形ニ或條件ヲ記載セシモノヲ抹消ストノ如キ場合是ナリ之ヲ要スルニ權利者カ抹消スル權利アリテ抹消スル場合ニ於ケル規定ナリト
右ハ修正原案ニ可決シテ次ニ移リタリ
第三百四十條乙 爲替手形ノ債務者ハ本章ニ規定ナキ事由ヲ以テ手形上ノ請求ヲ爲ス者ニ對抗スルコトヲ得ス但直接ニ之ニ對抗スルコトヲ得ヘキ事由ハ此限ニ在ラス
岡野君曰ク本條ハ明白ノ事項ナルヲ以テ別ニ說明ノ必要ナシト
右ハ異議ナク修正原案ニ可決シテ次ニ移リタリ
第三百四十條丙 何人ト雖モ惡意又ハ重大ナル過失ナクシテ爲替手形ヲ取得シタル者ニ對シ其手形ノ返還ヲ請求スルコトヲ得ス
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ハ要スルニ爲替手形ヲ取得スルニ當リ惡意又ハ重大ナル過失ナキモノハ完全ニ其手形ヲ取得シタルモノト看做スヲ以テ假令手形ノ所持人カ紛失セシトノ理由ヲ以テ返還ヲ請求スルモ敢テ其請求ニ應スルニ及ハストノ精神ヲ明示シタルニ外ナラス外國ニ於テハ或ハ之ヲ法文ニ明示スルモノアリ或ハ理論上當然ノコトトシテ法文ニ明示セサルモノアリト雖モ本案ハ寧ロ右第一ノ主義ニ從ヒタルモノナリト
本條ハ修正原案ニ可決シ次ニ移リタリ
第三百四十條丁 爲替手形ノ引受又ハ支拂ヲ求ムル爲メニスル呈示、拒絕證書ノ作成其他手形上ノ權利ノ行使及ヒ保全ニ付キ利害關係人ニ對シテ爲スヘキ行爲ハ其營業所若シ營業所ナキトキハ其住所又ハ居所ニ於テ之ヲ爲スコトヲ要ス但其者ノ承諾アルトキハ他ノ場所ニ於テ之ヲ爲スコトヲ妨ケス
利害關係人ノ營業所、住所又ハ居所カ知レサルトキハ拒絕證書ヲ作成スヘキ公證人又ハ執達吏ハ其地ノ官署又ハ公署ニ間合ヲ爲スコトヲ要ス若シ間合ヲ爲スモ營業所、住所又ハ居所カ知レサルトキハ其役場ニ於テ拒絕證書ヲ作成スルコトヲ得
(參照)舊七〇九、七五五、七九一乃至七九三、七九六、佛一七三、蘭一八〇、獨手形法九一、匈手形法一〇二、瑞八一八、伊三〇四、西五〇五、羅三二七、葡三二六、白千八百七十七年七月十日法二、英千八百八十二年八月十八日法四五、五一、千八百八十五年アンヴェール萬國商法會議決議法案六、三五
田部君ノ說明ニ曰ク現行商法ハ拒絕證書ニ關シ其第三百九十三條以下ニ規定ヲ設ケ而シテ第七百三十九條ニ至リ拒絕證書ニ關スル第七百九十一條乃至第七百九十四條ノ規定ハ引受又ハ支拂ノ爲メニスル呈示、爲替手形數通ノ要求其他本章ノ規定ニ從ヒ或人ノ方ニテ爲ス可キ行爲ニモ之ヲ適用ストノ規定ヲ設ケタリト雖モ其場所ノ穩カナラサルコトハ曾テ本議場ニ於テ余輩カ述ヘタル如キヲ以テ本案ニ於テハ本條ヲ以テ之ヲ總則中ニ編入シタリ次ニ又本案ニ於テ現行法ノ規定ヲ改メタルトコロハ本條ノ法文ヲ一讀スルトキハ自ラ明ラカナルヲ以テ玆三說明セスト
河村君ハ本條第二項ノ「其地」トアル「其」ナル文字ハ何レヲ指シタルモノナルヤヲ質問シ田部君ハ答ヘテ曰ク「其」ナル文字ハ漠然タル嫌アルコトハ之ヲ自認スト雖モ如何セン好當ノ文字ナキハ其意味ニ至テハ「アルヘキ地」トノ義ナリト
本條ハ修正原案ニ可決シ次ニ移リタリ
第三百四十一條ヲ左ノ如ク改ム
爲替手形ノ引受人ニ對スル債權ハ滿期日ヨリ三年ヲ經過シタルトキハ時效ニ因リテ消滅ス
所持人ノ振出人其他ノ前者ニ對スル償還請求權ハ支拂拒絕證書作成ノ日ヨリ裏書人ノ振出人其他ノ前者ニ對スル償還請求權ハ償還ヲ爲シタル日ヨリ六个月ヲ經過シタルトキ亦同シ
梅君ノ說明ニ曰ク此修正案ハ全ク議場ノ決議ニ基キ玆ニ提出シタルモノナリト
右ハ修正原案ニ可決シ次ニ移リタリ
第三百四十二條中「懈怠」ヲ「欠缺」ト改ム
梅君ノ說明ニ曰ク此文字ノ修正ハ其議事ノ當時富谷君ヨリ注意ヲ受ケ穩當ナラサルコトヲ發見シタルヲ以テ玆ニ修正案ヲ提出シタルニ外ナラスト
右ハ修正原案ニ可決シ散會ヲ吿ケタリ